流星のロックマンIF (ヒトトセ555)
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無印編
1. 目覚め


 灼熱。最早熱という概念そのものを具現化したようなソレが、横を通り過ぎる。一瞬前に自分がいたそこは崩壊という過程すら飛ばし──消滅した。遅れて、肌を通してビリビリと轟音が伝わってくる。

 怖い。恐怖なんて言葉では表現しきれない、言わば死の概念。触れれば死ぬ、当たれば死ぬ、躱しきれなければ死ぬ。そういった恐れが身体を強ばらせる。ただ、それこそ死に直結する──故に唇を噛み切り、痛みで無理矢理思考をリセットする。

 

 考えろ、考えろ。どうすれば自分はアイツを倒せる? アイツらの力を引き出した所で、出力が足りないのは目に見えている。今まで数多くの電波体と戦って来たが、ハッキリ言って目の前の敵は規格外だ。力の桁が、存在の格が、違い過ぎる。

 

「いつまでそうして考えているつもりか、ロックマン」

「……くッ、やるしかない! ロック!」

「おうッ!」

 

 天に手を掲げる。身体を稲妻が走り、まるで最初からそこにあったかのように、力の象徴が顕現する。

 

「トライブオン! ベルセルク!」

 

 掲げた手の中に硬い感触。握ったそれを引き抜くと、閃光と共に雷を纏った剣がその姿を現した。同時に、稲妻が鈍く輝く鎧を形作り、体の奥底から凄まじい力が湧いてくる。──だが。目の前のアイツに勝てるイメージは、相変わらず浮かばない。

 

「ウオオオオオッ!!」

 

 声を上げ、突進する。振り下ろした剣は真っすぐにアイツ──アポロン・フレイムの正中線を捉え、その体を引き裂く……はずもなく。

 

「ふむ、その程度か」

「がッ」

 

 指先で剣は受け止められ、お返しとばかりに巨大な火球で吹き飛ばされる。

 今まで受けたどの攻撃よりも痛い。そして熱い。たった一撃だけで、もう腕に力が入らなくなってしまった。

 

「先の一撃は戯れだ。おいそれと尻尾を振って逃げ出すか、適わぬと知りつつ死に足掻くか。好きな方を選べ。場合によっては生き残れるかも知れぬぞ?」

 

 アポロンはボク()を見つめる。答えなんてもう、決まっていた。

 

「ロック、付き合わせてごめん」

「ハッ、なに言ってんだ。俺様が引くわけねェだろ。……スバル、お前だけなら」

「断る。ボクがロックを置いて行く訳無いよ」

「ハハッ、そりゃあいい!」

 

 遥か昔実在した、本物の戦闘民族ベルセルクの戦士ならば、互角の戦いを繰り広げられるのかもしれない。しかし生憎とここにいるのは、その遺物に頼ることしかできないちっぽけな地球人。

 

「行くよロック。君に会えて良かった」

「行くぞスバル。お前に会えて良かった」

 

 限界を超えてベルセルクの力を引き出す。鎧が罅割れ、身体が軋む。纏う稲光は更に激しさを増し、紫電へと色を変えた。

 

「死を選ぶか。それも良いだろう」

 

 剣を構え、踏み込む。

 そして────。

 

 

 

 ###

 

 

 

 

 鳥のさえずりで目が覚める。時計を見ると午前八時……設定していたアラームの時間まであと二時間は残っている。二度寝にはちょうどいい時間だ。引きこもりになってから生活リズムがどんどん崩れていってる気がするが、まぁいいだろう。母さんが起こしに来るまで今日は寝よう。

 

 そうしていつも通り布団を被り直し寝ようとした──直後。ドクンと体の奥底でナニカが蠢いた。

 

「え、なにこれ」

 

 驚いて体を起こす。胸に手を当てるも、心臓の鼓動は一定だ。心臓のドキドキじゃない。もっと別の、よく分からないナニカが首をもたげようとしているような、そんな感覚。

 

 ──ドクン、ドクン、ドクン。

 

 息が荒くなる。一定間隔で起こっていたそれは、どんどんその周期を狭めていき今やほとんど間隔が無くなっていた。なぜだか、嫌な予感がする。

 

 ──ドクンドクンドクンドクンッ!!

 

 酷い頭痛がする。何かが軋むような感覚がする。壊れてはいけない大切な何かが悲鳴を上げている。

 本能的に頭を押さえるが、ソレは止まらない。閉めている扉を無理やりこじ開けられるような、嫌な感覚。

 

「うっ……!?」

 

 突然視界に流れ出した、知らない『映像』。

 時間が止まった。違う、感覚が引き延ばされているんだ。その中で、強制的に、目をそらすことも許されず、それだけが等速で動き続ける。全てが止まった世界の中で、その『映像』だけが動いている。

 身体は動かない。なんだ、なんなんだよこれ……!?

 

「がっ、うぐぅう……! あ、あぁぁ……!」

 

 口から声が漏れる。ほとんど無限に引き延ばされた感覚のせいで、それが声かどうかも分からない。

 無限に近い苦しみの中で、その『映像』の共通点に気付く。

 

 人がいる。顔の部分だけ黒い靄で塗りつぶされた、いろんな人がいる。次から次へと場面は変わり、見たこともない誰かが、何かが沢山いる。その中で──人だけ、必ずその中心にいる。空にかけられた半透明の道の上に立ち、左手は大きな口のようになっている。輪郭は不明瞭だが、その人物だけは黒い靄は無い。青い姿で、赤のバイザーから覗くその虚な目がこちらを向き──目が、合った。刹那、ノイズと共に『映像』が切り替わる。

 

 

 ──とある引きこもりの話。

 幼い頃に父が返らぬ人となり、そのせいで人とのつながりを極端に恐れるようになった少年。毎日学校に誘いに来るクラスメートを無視し続け、望遠鏡を覗いていた。唐突にある日、巨大な電波兵器によって地球が滅んだ。

 

 ──とある臆病な少年の話。

 奇妙な相棒(宇宙人)と共に別の宇宙人と戦い続け、その果てに巨大電波兵器にあっけなく敗北した。驚いたことにブラザーなんてものを持っていた

 

 ──とある青い戦士の話。

 相棒と、ブラザーの力で一度地球を救い、そして別の危機にブラザーに裏切られた世界。後悔の最中、地球は滅んでいた。

 

 ──とある大罪人の話。

 二度地球を救い、その力を過信する余り、別の可能性を開いてしまった世界。滅んだ世界のそれらに敗北し、結果、全てを台無しにした世界。

 

 一つも見覚えは無い。身に覚えもない。なのにその青い姿の少年は、戦士は、全てボクと同じ顔をしていた。

 

「誰、なんだ。この痛みは、気持ちは、どうしてこんなに……痛いんだ」

 

 映像に伴い、その少年の体験したであろう痛みが、想いがボク自身にも流れ込んできた。何もかもを無視して異物を無理矢理ねじ込まれる感覚。体感したことの無い気持ち悪さに、思わず涙が零れた。

 

「誰だか知らないけどやめてよ……! 人の頭の中で、勝手に……っ」

 

 訳が分からない。分からないはずなのに、ボクの意思とは別に身体が勝手に情報を整理していく。まるで操り人形のようだった。終わりの見えない苦痛に耐えているとふと、唐突にそれらが収まっていく。そして──理解する。してしまう。

 

 あの戦士達は全部ボクだ。失敗まみれのこれらの物語は、全てボクの物語だ。

 

 なんだこれは。何故、どうして。疑問は尽きない。ただ理解できたのは──これらの映像は全て本物なのだろうということ。未来の、ボクの辿る末路なのだろうということ。

 そう考えると不思議と納得がいった。ストンと胸に落ちた気がする。あるいは、何か大切なモノを落としたような。

 

 頭痛が収まった。映像はもう流れない。数えるのも億劫になるくらい色んな世界を見たはずなのに、時計の針は五分と進んでいなかった。後に残ったのは気味の悪い感覚と、揉みくちゃになったベッドだけ。その感覚もどんどん薄れていく今、あの映像で疑似的に体験したものは全てボク自身の記憶として頭と身体に馴染みつつある。

 ……ボクは、どうすればいいのだろうか。

 

 宇宙人──FM星人達が攻めて来る。物語なんて言い方はもうできない。見たあの世界は、これからこの世界が直面する未来だ。それにFM星人を、あの巨大電波兵器(アンドロメダ)を何とかしたところで今度は太古の文明ムーの力によって世界がまた危機に陥る。

 

 どの世界も、ボクが引きこもり、逃げ続けた場合必ず滅んでいた。立ち向かった時も、場合によっては負けて結局滅んでいた。つまりは、世界を救える可能性があるのはボクただ一人ということ。それも確実じゃない奇跡ありきでの話だ。

 

 馬鹿げている。そんな、それって、ないだろ。

 

「うっ、おえぇ……」

 

 腹から熱いものがこみあげて来る。ベッドの上は流石にまずい。

 布団を跳ね除け一階のトイレに直行する。途中、母さんが驚いたようにこちらを見た気がしたが構っている暇はなかった。個室に入り、鍵を閉め、もはや限界だったソレをぶちまける。

 粗方ぶちまけ終わっても尚収まらない吐き気は口を拭うことで無理やり抑え込んだ。

 

「はぁ、はぁ……クソ、ふざけるな!」

 

 思わず叫ぶ。思考がまとまらない。それでも幾度となく経験した危機のお陰で、嫌でも落ち着いて判断できる。そんな自分が気持ち悪い。頻繁に危機が迫って来るこの世界が気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い! 

 

「クソッ!」

「ス、スバル? 大丈夫? 顔色悪かったけど、嫌な夢でも見たの?」

 

 コンコンというノックの音と、心配そうな母さんの声にはっとする。

 ……八つ当たりしても仕方ないか。来るものは来るのだ。来てしまうのだ。だったら、その対処法を考えるしかない。いくら気持ち悪いこの世界だろうと、そこにボクは暮らしている。母さんも、あの三人も、そして……彼女も。他にも、あの世界でみた沢山の笑顔が、この世界には存在しているのだ。

 

 ボクが何もしなければ、それらは全て潰される。圧倒的な力、理不尽の前に、塵の如く吹き飛ばされるだろう。

 

「……それは、嫌だな」

 

 ボクがかつて仲良くした人。ブラザーを結んだ人。あったことも無い知らない人……までは正直守ろうとは思えないが、逆にそれ以外の皆を傷つけられたくはない。

 何よりも、母さんが傷つけられるかもしれない。それだけは許せない……! 

 決めた。自分が傷つくのは嫌だ。けれど、母さんを護るためならボクは一人でも立ち向かう。とりあえずは、今心配させてしまっている母さんを安心させることからだ。

 

「ご、ごめん! ちょっと嫌な夢見ちゃって、その」

「……そう。……やっぱり大吾さんの夢かしら

 

 扉越しではあるが、ボクが母さんの声を聞き逃すわけがない。無意識に呟いてしまったのであろうその内容もボクの耳にはばっちり聞こえている。

 星河大吾……ボクの父さんだ。数年前、宇宙人とブラザーバンドを結びに行くんだ! なんて言って飛び出して──未だ帰ってこない、ボクの憧れでトラウマ。

 父さんを失ったことでボクは人との繋がりを失う怖さを知った。そして、二度とそんな思いをしないために他人との繋がりを一切断ち切ることを選んだのだ。学校も休んで、いつか父さんを迎えにいくために宇宙の勉強もしだした。母さんを悲しませることは分かっていても、ボクは人との繋がりが怖くて──そして引きこもった。

 

 でもそれは、今日までだ。父さんの分までボクは、母さんを守らなきゃならない。

 

「気分が落ち着いたらでいいから出てきて頂戴ね。今日は天地さんが来る日だから」

「うん、分かった。……ねぇ、母さん」

「なに? スバル」

 

 震える身体を無理やり抑え、声だけはいつも通りに振る舞う。

 一呼吸してドアを開けると心配そうにこちらをのぞき込む母さんと目が合った。

 落ち着け、落ち着け、大丈夫だ。なにせ間接的とはいえ、何回も死にかけたし死んでいるのだ

 それに比べたら大したことは無い。

 

「ボク、学校行くよ」

 

 

 

 ###

 

 

 

 Side:あかね

 

 私はこの日のことを、一生後悔している。

 

 スバルが突然学校に行くと言い出した。あの人──大吾さんがいなくなってからずっと引きこもっていた息子が外に出ようとしている。それ自体はとても嬉しいことだ。でもどうしてか、私は素直に喜べなかった。

 それはきっと、まだ私が前を向くことができていないからだ。

 

 努力はしている。それでも脳裏にこびり付いてしまっているのだ。戻ると言って出掛けた大吾さんが、二度と帰ってこなくなった時のことが。

 もしかしたらスバルまで失ってしまうかもしれない。そう考えると、口ではスバルに「学校に行ってみない?」と言いつつ本当は引きこもっていることに安心感すら覚えてしまっていた。

 

 ダメな母親だ、私は。いつまでも過去に縋ってしまう。でも今日、あの時のスバルの目は真っすぐ前を向いていた。それは私の大好きな大吾さんの目によく似ていて……隠し切れていない怯えは私によく似ていた。

 どこまで行っても私たちは似たもの同士の親子のようだ。そのことが、私に勇気をくれた。

 

 スバルは前を向いた。なら私も前を向くべきだ。今は無理でも、少しずつ。

 大吾さん、私頑張るから。死んだなんて思っていない、いつか帰って来るって信じてるから。どこかで見守っててね。

 

 天地さん──大吾さんの仕事の後輩──から大吾さんがかけていた薄緑のゴーグルを受け取るスバル。その姿を見守りながら、私は前を向く決意をした。

 

「聞いたよスバル君、学校に行くんだって?」

「……母さん」

「あはは……話しちゃった」

 

 だから、ジト目で見つめて来る息子の背中を押してあげよう。大吾さんもからかうとよくこんな目をしたものだ。

 それがどこか面白くて、つい私は笑ってしまった。

 

 そのついでで思い出したが、大吾さんは色んな女の人にモテていた。かっこいいし頼りになるから当たり前と言えば当たり前だったのだが、私としては非常に複雑な思いであった。

 そしてスバルはその血を継いでいる。贔屓目かもしれないが顔は大吾さんに似て整っているし、成長すれば更に……。その時何人も女の子を泣かせるかもしれない。

 

 これは、今のうちに教育しておいた方が良いかもしれない……!

 

「それじゃ、お邪魔しました。スバル君、頑張ってね」

「はい、ビジライザーありがとうございました。さっきのお話の件もお願いします」

「はは、任せておいてよ」

 

 スバルと並んで天地さんを見送る。その際スバルと何か話していたようだが、今の私の耳には入っていなかった。

 バタンと扉が閉まるのを確認して、隣のスバルの肩を掴む。

 

「スバルッ! 学校に復帰する前にちょっとお話があるわ!」

「えっ!? 急にどうしたの母さん!?」

「安心して、しっかり教えてあげる。女の子の扱い方!」

「急に何言ってるの!?」

 

 慌てたスバルと顔を見合わせ、一瞬沈黙が生まれるが直後同時に吹きだす。こうして一緒に笑うのもいつ振りだろうか。少しだけ肩の力が抜けた。慣れてしまった寂しいリビングに、暖かさが少しだけ戻ったような気がした。

 

「もう、急に変なこと言いださないでよ母さん」

「ふふ、ごめんねスバル。スバルが学校に行くって言ってくれたことが、嬉しくて……」

「母さん?」

 

 あぁだめだ。私も歳をとったものだわ。すぐに涙が出てしまう。けれど、息子の前では強い母親でいなければならない。

 目じりを擦り、滲んだ視界を振り払う。

 

「……大丈夫! きっと大吾さんだって喜ぶわ! もし友達が出来たら連れてきてね!」

「そう、だね……うん、きっと連れてくるよ」

「楽しみにしてるわ」

 

 キリッとした息子の顔を見て、思わず笑みが零れる。

 しかし私はこの時気付くべきだったのだ。

 

 ──あの子の目が、酷く淀んでいたことに。

 

 

 

 

 




流ロクの二次創作が! 少ない!
需要(俺調べ:サンプル数1)に対して供給があまりに少ないので自分で書くことにしました。
もっとみんな気軽に妄想投下してもええんやで……?


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2. 懐かしい君と

誤字報告ありがとうございます。結構見直しているんですけど中々無くならないものですね。もし見つけましたら教えてくれると喜びます。


のんびり書いていきます。
書きだめがあるうちは二日に一回投稿します。


「……そろそろかな」

 

 コダマタウン、展望台。記念品なのか置き場所が無いからなのかは分からないが、機関車の模造品が近くの公園スペースに置かれている。町の外れにあるここは人工光が少ないこともあって、ボクの趣味である天体観測には持ってこいの場所だ。人が滅多に来ないのも都合が良い。ボクにとっても──これから起こる出来事にとっても。

 

 時刻は夜。いつものように天体観測をしてくると母さんに告げ、家を出てきた。父さんのビジライザーも忘れていない。来る途中あの三人組(・・・・・)と少しいざこざがあったが、些細なことだ。今は大したことじゃない。腕の携帯端末──トランサーを見ると、母さんからメールが届いている。どうやらあと一時間ぐらいで帰らなければならないようだ。

 

 記憶(・・)によると、そろそろ()が来る。

 

「ビジライザー、何も見えないなぁ」

 

 手持ち無沙汰のため、昼に天地さんから受け取ったビジライザーをいじくる。見た目は白い縁に薄緑の少し変わったただの眼鏡だ。視力補正のようなものは一切なく、今のところただの変わった色のサングラスだ。

 

「本当に電波が見えるのかな」

 

 本来、このビジライザーにはある能力がある。それは、装着者に電波を見せるという能力だ。

 この世界では電波技術が発展し、今や電子機器はほとんどが電波で操作可能だ。電波技術の粋である電波体──ある程度の自我を持ち身体が電波で構成されている存在──なんかもいて、それらが自動車や重機なんかを動かしているのだ。そういった存在は普通目に見えないが、ビジライザーをかけていると見える、らしい。

 

 実際、他のボクは見たことがあるようだ。ピッチングマシーンの電波体なんかもいるらしい。

 手元のメガネを見る。そんなに凄いものを父さんは作っていたのか。このメガネ、凄いんだなぁ……。

 

 と、ビジライザーをかけなおした時だった。

 

「うわ、なんだ!?」

 

 突然トランサーから警告音のようなものが鳴り響く。耳障りなそれは、不明な何かが急激に接近してきていることを知らせるものだ。

 そしてその信号元は──星河大吾(父さん)

 

 父さんは三年前、宇宙事故で行方不明になっている。嫌というほどそれは知っている。

 しかしこうしてトランサーに表示される名前は、間違いなく父さんだ。つまり、父さんのアクセスシグナルを伝って何かが近づいて来る!

 

「……ほんとに父さんのシグナルなんだ」

 

 奇妙な感覚だった。もしかしたら妄想かもしれないあの記憶の通りに、事態が進んでいる。つまり、あの出来事は全てこれから起こり得るという確証でもあった。

 

 警告音の間隔がどんどん狭まる。やがて連続したけたたましい騒音となり、直後、何かが正面からぶつかってきた。

 

 ──ドンッ。

 

 

「いたたた……」

「……はーん、ここが地球か」

 

 衝突と共に、ビジライザー越しの世界にノイズが走る。そのノイズはやがてはっきりした形となった。

 孔雀緑の身体は、人間でいう所の鳩尾から上しか無い。頭から肩、胸部は青色の鎧に包まれ、獣を連想させるように牙と爪は鋭い。宙に浮く姿は、なるほど確かに、知っていなければ驚くだろう。昨日のボクなら腰を抜かしていたかもしれない。

 

 ビジライザーを外す。目の前の()の姿が消える。

 ビジライザーをかける。目の前に()の姿が現れる。

 

 何度か繰り返していると、そのうち()と目が合う。やっぱりか。さっきの衝突で眠っていたビジライザーの機能が目覚めたのだろう。

 

「なるほど、そのメガネで俺が見えるのか」

「その通りみたいだね」

 

 あまりにも聞きなれたセリフと光景に、つい記憶の口調で話してしまう。

 違う違う。彼とボクは初対面なのだ。ボクが自然と受け入れていることに、逆に彼の方が面食らっているようだった。

 

「ほお、驚かないんだな」

「まぁね。ロッ──んん、ところで君は?」

 

 また間違えかけた。ギリギリで誤魔化せたが、ここで不信感を持たれても困るのだ。

 気を引き締めなければならない。これから起こることに彼──ウォーロックの力は必ず必要になる。

 

「……まぁいい。俺の名前はウォーロック。ロックとでも呼んでくれ。FM星からやってきた──まぁ、有り体に言えば宇宙人ってヤツだ」

 

 俺からすればお前ら地球人の方が宇宙人だがな、とウォーロックは付け加える。

 

 ウォーロック。FM(プラネット)からやってきた、父さんと知り合いの宇宙人。その身体は全て電波で構成される、正真正銘の地球外生命体だ。

 父さんが行方不明になったのは、単なる宇宙事故が原因じゃない。それには彼の来たFM星が関わっているのだが──今は考えている時間は無さそうだった。

 

 突如、汽笛のような音が展望台に鳴り響く。発生源を見ると、動かないはずの機関車から火花が散り、車輪が回転し始めていた。見た目にそぐわず電子制御で動いていたらしい。

 

「チッ、もうきやがった……! オイ! 星河スバル!」

「ボクの名前……っ」

 

 彼──ロックが叫ぶ。教えていないのにボクの名前を知っているのは、やはり父さんから聞いたのだろう。

 そして動き出した機関車。あの中には、FM星からロックを追ってきた電波ウィルス──数年前から突如その数と種類を増やし始めた電脳プログラム──が入り込んでいるはずだ。電波ウィルスは今のように電子機器に入り込み、誤動作を引き起こす。今回のは、意図的に引き起こされた誤動作だ。

 

「細かいこたぁ後で話す! 今は俺の指示に従え!」

 

 ボク以外の人がいないことは来た時に確認しているため、ロックの話を聞く時間はある。

 しかしこのまま何もしなければ、暴走機関車はそのままコダマタウンに突っ込み、甚大な被害が出るだろう。もしかしたら母さんに危険が及ぶかもしれない。

 

 

それは、ダメだ。

 

 

「教えてロック。ボクはどうしたらアレを止められる」

「話が早いじゃねぇか、気に入った。お前ら地球人はカードフォースってのがあるんだろう? 空のカードを出しな!」

 

 覚悟を決める。それは、今までの日常を捨てる覚悟。そして、戦い続ける覚悟だ。

 言われた通りに空のカードを出す。個人のウィルスバスティングが当たり前となった現代で、電波ウィルスを倒すためのプログラム、バトルカードが流通している。このうち中身が入っていないカードはブランクカードと呼ばれ、ロックが言ったのはこれのことだ。

 

「あぁ。そして──ハァッ!」

「……カードが、光った」

「今そいつに、俺の力を与えた。そいつを持って、そのメガネで空間の歪みを見つけろ!」

 

 ロックがカードに手を添えると、ブランクカードが光りだした。とりあえずウェーブカードと仮称する。ビジライザーをかけたまま周囲を見渡すと、展望台を降りて丁度影になっている場所に、ソレを見つけた。

 

「これが……」

「ああそうだ。ウェーブホールと呼ばれている、電波空間の歪みだ。そいつの上に乗って、さっき教えた通りにしろ!」

 

 足が震える。これから起こることを知っているだけに、怖気ついてしまう。けれどボクは、もう引けない。

 頬を叩いて気合を入れる。

 

「立ったよ。ここで良いんだね」

「あぁ。そこで叫べ」

「うん──」

 

 大きく息を吸う。そして、叫ぶ。始めて言うはずのセリフなのに、やたら馴染んだ感覚が少しだけ気持ち悪い。

 

「電波変換! 星河スバル──オン・エア!」

 

 トランサーにウェーブカードを読み込ませ、それを腕ごと掲げる。

 強い光が僕の身体を包み──次の瞬間、ボクは空に立っていた。

 

「そういや言ってなかったな。ここはウェーブロードっつう、電波の通り道だ。俺と電波変換し、お前は今電波体となった。こいつであの機関車を止める」

 

 それだけじゃない。ボクの姿は変わっていた。全身が青装束に包まれ、上半身はロックを連想させる薄い鎧のようなものに覆われている。自分からは見えないが、頭部にはヘッドギアが装着され、目元はバイザーで隠れているはずだ。そして左手だった場所には、ロックの顔がある。

 さっきロックが言った電波変換とは、電波体と人間が一つに合体することを意味する。即ちこの姿は、ロックとボクが一つになったもの。

 

 身体が軽い。物理的に体重がほぼゼロになったこともあるがそれ以上に──身体に馴染むのだ。電波変換してみて初めて分かる。あの記憶の通りにとは行かないまでも、きっとボクは戦える。戦えてしまう。

 

「あの近くに行けばいいんだね」

「あ、あぁ。……やけに落ち着いてんなコイツ

「──行くよ」

 

 足に力を込める。記憶の通りなら、多分行けるはずだ。

 込めた力を一気に開放する。踏みしめたウェーブロードがどんどん小さくなっていくのが見えた。

 そしてそのまま、機関車の近くのウェーブロードに着地する。

 

「よし、できた……!」

「やるじゃねーか。ますます気に入ったぜ。そのまま機関車の電脳に入れ!」

 

 ウェーブロードはいたる所に張り巡らされている。それを辿れば大体の場所に行けるが……それ故に、道が複雑だったり直線距離で行けなかったりする。なら、跳べば良い。

 今ので記憶と感覚のズレは無くなった。今後失敗することは多分無い。

 

 機関車にはウェーブホールと似た、空間の歪みがあった。これに飛び込めば、機関車の電脳とやらにいけるとのことだった。

 そして飛び込んだ先には──膝下ぐらいの大きさで、ヘルメットを被った何か。あれが電波ウィルスだ。

 

「予想通りだ! おいスバル、そいつらを倒せば機関車は止まる!」

「分かった」

 

 

 そこから先はよく覚えていない。夢中になって戦っていたら、いつの間にか終わっていた。ただ分かっているのは──ボクの初戦闘は、何事もなかったということ。そして、

 

「こいつは思わぬ収穫だ。これから暫くお前んとこに世話になるぜ!」

「うん、いいよ」

 

ボクのトランサーに、居候が一人増えたということだ。

 

 

 




ゲームだとセーブ&ロードでいくらでも失敗できるじゃないですか?
結局後に残るのは全てに成功したっていう結果だけ。じゃあ失敗した過程ってどこ行ったんです?
プレイヤーの経験値、ですよね(にっこり)。
この小説はそんな思い付きと妄想でできています。


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3. 相棒

よろしくお願いします。


 Side:ウォーロック

 

 

 スヤスヤと眠る少年の傍ら、俺は頭を悩ませていた。悩みの種は勿論目下の少年、星河スバルだ。

 

「アイツの息子とは思えないほど根暗で貧相な奴だ。ただ戦闘センスは予想以上……むしろ、高過ぎる」

 

 思い出すのは数時間前の戦闘。

 

『ロックバスター、か。牽制用だね』

 

 始めての戦闘とは思えない身のこなし。一の説明をするうちに、十も百も学んでいるような成長速度。

 電波変換なんて体験は初めてのはずなのに、まるで思い出すかのように色んな事を試しては一人で納得しているような感じだった。見た目の割に喧嘩は得意なのかもしれない。

 

『バトルカードは──使える、よし』

 

 地球人の情報端末、トランサーとか言ったか。あれを媒体に電波変換しているためか、中に入っていたバトルカードもそのまま使えるのだ。俺が教える前にスバルは、自分でそれに辿り着いた。俺が教えたことと言えば、電脳空間への入り方と戦闘の補助だけ。戦い方はアイツ自信があの場で産み出しやがった。それもバトルカードと俺の能力を十二分に活用した、文句の付け所の無いものを。

 

『行くよ、ロック』

 

 そしてなによりもあの目だ。敵を真っすぐに見つめる、覚悟を宿した鋭い眼差し。

 初めて合った俺に驚かず、むしろ状況の解決のために最善策を探す能力。こりゃあまるで。

 

「まるで歴戦の戦士、だぜ」

「う、う~ん……母さん……」

「……いや、気のせいか」

 

 涎を垂らし、ニヤニヤと寝惚ける姿はただの年相応な少年だ。

 考え過ぎかと頭を振り、思考を投げ捨てる。FM星から逃げてきたばかりでまだ緊張が解れていないのだろう。ハッ、俺としたことが柄にもねェ。

 

「お前の息子、巻き込んじまった。すまねぇ」

 

 (ソラ)を見つめ、ここにいない友人に謝罪の言葉を口にする。

 俺があいつらから盗んできたアンドロメダの鍵。一度起動すれば惑星一つを簡単に滅ぼせる巨大兵器の鍵を追って、FM星からどんどん刺客が送り込まれてくることだろう。斥候として送られてくる程度の奴なら俺一人でも勝てるだろうが……いずれ、スバル無くしては勝てなくなる。そしてもし負ければ、この星は終わりだ。

 そんな重大な責務を、俺は目の前の少年に押し付けた。

 

 改めてスバルの顔を見る。未だにやけているその面は、ただの少年にしか見えない。

 しかしその能力は本物だ。今の段階でこれなら、こいつはもっともっと強くなるはず。

 

 そしてそれは俺にとっては好都合。俺の目的の為に無関係の奴を巻き込むのは──なんて、綺麗ごとはこの際捨てる。利用できるものは何でも利用して、俺は俺の目的を達成する。まぁ、危ない場面があったら助けてやらないこともない。

 

それにしても、と思う。

 

「大吾から聞いてた性格とかなり違うが……人間ってのはよく分からねェ」

 

 

 

 

 Side:星河スバル

 

 

 

 

 

 目が覚める。いつもは目覚ましか母さんが起こしてくれるのだが、今日は自然と起きてしまった。仕事を奪われた目覚まし時計をオフにして、枕元にあるビジライザーをかける。

 

「よう、起きたか」

「おはよう、ロック」

 

 目の前にはつい昨日出会った宇宙人がいる。

 ウォーロック。FM星から逃げてきた宇宙人。父さんの知り合いで、アンドロメダの鍵(とんでもないもの)を持ち逃げしてきた張本人。記憶の限り、殆どの場合ボクはこのロックと出会っている。ロックの力が無ければ、ボクは何もできない。

 

 ボクは、記憶で見たような勇敢な戦士では無いのだから。

 

「ねぇ、昨日のことなんだけど」

「あん? 何のことだ?」

「とぼけなくていいよ。ただボクは──君と取引がしたい」

 

 さしあたっては宇宙人との契約だ。いくつか条件を提示し、内容を煮詰めていく。

 記憶でロックの目的は知っていた。どんな思いで地球まで逃げてきたのか、何を求めているのか。何が好きか、何が嫌いか。知らないことの方が少ないと言っても良いだろう。

 一方的に相手を知っているという感覚。……ああこれは、あまり良い気分じゃないな。

 

「フン、お前との契約か。悪くないが、お前はそれでいいのか?」

 

 ボクの話を聞いたロックは顎に手を当て考える素振りをする。

 ボクの提示した条件は、ざっくり行ってしまえば『ボクはロックに全面協力するけど一般人は巻き込まないでね』というものだ。

 

 頭を使うことが苦手なはずのロックだが、決して頭が悪い訳ではない。今の話と状況を吟味した結果、ボクに利益が無いことに気付いたのだろう。

 

 だがそれでいい。記憶で見たボクとロックの関係に、限りなく近付くように条件は考えた。そして、ボクの目的はこれから来る世界の危機を何とかすること。……我ながら、現実味は無いが。言ってしまえば、ロックに協力すること自体が目的だ。

 

「うん、構わないよ。ボクはボクの目的の為に、君の力を借りたい」

「……なるほどな。契約成立だ。よろしく頼むぜ──相棒」

「──」

 

 言われた言葉に一瞬喉が詰まる。その言葉は、星河スバルがウォーロックと信頼関係を築き上げたからこそ産まれた言葉だ。

 ボクみたいな真似することしかできない偽物が、受け取って良い言葉じゃない。

 沈黙するボクを疑問に思ったのか、ロックは言葉を続ける。

 

「ん? 地球じゃあ同じ目的の為に行動する二人を相棒っつうんだろ? 昨日あのテレビってやつでやってたぜ!」

「あぁ、そういう……。じゃあそうだね、うん」

 

 ──よろしく、ビジネスパートナー(相棒)

 そう告げて、ボクは身支度を整えるのであった。

 

 

「よしっ」

 

 気分を切り替える。非常に気が進まないが、来週から学校に行かなければならない。猶予は1週間も無い。今のうちにできることはしておく必要があるだろう。

 

「じゃあ行ってきます」

「ええ、気を付けてね」

 

 家を出て展望台に向かう。あそこは滅多に人が来ないため、ロックと話すにはいい場所だ。今日は家に母さんがいるため、宙に話しかける息子の姿を見せて無駄に心配させる訳にはいかない。

 

「──ってとこだ。あぁつまり、今の俺は」

「絶対に捕まっちゃいけないってことだね」

「あぁ、その認識で良い。そして話を聞いた以上、お前にはこれから追手のFM星人共と一緒に戦ってもらう」

 

 展望台。あたりに人がいないことを確認し、ロックの話を聞いた。

 FM星が地球を滅ぼそうとしていること。その際用いる破壊兵器『アンドロメダ』の鍵を持ってロックは逃亡していること。これを追って多くのFM星人がこの先襲ってくるであろうこと。

 そして、追ってくるFM星人の能力までロックの知る限りの情報を聞き出した。

 

 概ね記憶通りであり、今のところ差異は無い。電波変換した後の能力については前例が無いため分からないとのことだったが、これも恐らく記憶の通りだろう。

 となれば、やることは決まりだ。だがその前に、ロックには聞いておかなければならないことがある。

 

「ねぇロック。父さんのこと、知ってるんでしょ?」

「────」

 

 急にそんなことを聞いたからか、ロックは沈黙してしまった。腕を組み、じっとこちらを見つめる。数回のため息や逡巡の後、やがてボクが引かないことを確信したのか、ポツリポツリと話しだした。

 

「あぁ。お前の親父さん……星河大吾と俺は、話したことがある」

 

 三年前の、あの日のことだ。そう語るロックは、どこか遠い目をしていた。三年前と言えばあの事故──NAXAが打ち上げた宇宙ステーション『絆』からの通信が突如として途絶えてしまった時のことだろう。そこにはボクの父さんも乗っていて、随分泣いた覚えがある。その数か月後、太平洋に『絆』の残骸が大気圏を突き破り落下したことで、『絆』及びその乗員の捜索は完全に打ち切られてしまった。

 

「FM王……FM星の王様と『絆』は連絡を取り合い、友好関係を築きつつあったんだ。だがそこで、ある噂が流れた。『地球人はFM王を騙し、利用しようとしている』ってな」

 

 それを耳にしたFM王は怒り狂い、『絆』を襲撃した、と。その際捕虜として捉えられていた父さんと、見張りをしていたウォーロックが出会ったらしい。そこで意気投合した二人は友人となり、父さんからボクのことを聞いたのだそうだ。だからボクの名前を最初から知っていた。

 

「大吾とお前には親子の絆があった。それを利用して、大吾はお前に繋がる道を作り出した」

「絆……? ブラザーバンドってこと?」

 

 話を聞いていくと、聞きなれない単語が聞こえた。記憶を探るも、やはり聞き覚えは無い。初めて聞く話だ。それに父さんとボクはブラザーバンドは結んでいない。

 

「俺もよく分からねぇが、キズナ理論ってのがブラザーバンドの元になってんだろ? それを利用したとか言ってたぜ」

「……なるほど。で、その道をロックが辿ってボクに行き着いたんだね」

 

 ブラザーバンドは父さんが作ったものだ。その元になったのだから、当然父さんはそのキズナ理論とやらを知っていて、応用もできたのだろう。

 キズナ理論、ティーチャーマンの授業で聞いたことがあったような気がする。

 そうか、ボクは父さんについてまだ全然知らなかったんだ。

 

「ねぇ、もっと教えてよ。父さんのこと」

 

 それからボクとロックは、父さんの話をし続けた。

 ウォーロックがFM王からアンドロメダの鍵を盗んだこと。

 その騒動に乗じて父さんを電波化し、逃がしたこと。

 騒動中父さんとははぐれ、今父さんがどうなっているかは分からないこと。

 

 結果的には大まかな出来事は全て記憶の通りだったが、有意義な時間だったと思う。父さんとロックが知り合いなのは知っていたが、ボクや地球の話をするくらい仲良くなっていたのは知らなかった。それに、少しだけ目標が増えた。

 

「電波化した人間はどれくらい持つの?」

「基本、デリートされない限りずっとそのままだ。飯も要らなきゃ眠りも要らねぇ」

「そう、じゃあ、契約内容に一つ追加しても良い?」

「……あぁ、そういうことか。いいぜ、付き合ってやる」

 

 ロックを見る。その顔にはどこか、覚悟が浮かんでいるような気がした。もしかしたらロックは、最初からそのつもりだったのかもしれない。

 

 世界を救った後は、父さんを探そう。あの宇宙のどこかにきっといる。

 根拠は無いけどそう思うんだ。

 

 

 そうして決意を新たにしてから三日後。相変わらずボク達は展望台にいた。違う点と言えば、既に電波変換も済ませ、ウェーブロード上で仁王立ちしてるくらい。

 

「お、来たぜ」

「ボクにも見えたよ。じゃ、今度はバスターだけで」

「うへぇ、意外と疲れるんだぜあれ」

 

 嫌そうな表情を浮かべるロック(左手)を宥めつつ、今まさにウェーブロードに降って来た電波ウィルス達を処理していく。既に慣れた作業にだった。

 

 契約が成立したあの後、ロックと話し合い今後の方針を決めた。

 やられる前にやれ。それがボク達の結論だ。ひとまず、FM星人は見つけ次第各個撃破していく。それもできれば電波変換前に。

 肩慣らしをしたいというロックの言葉もあり、暇な時間はFM星人の捜索がてらウィルス相手に戦闘や検証の繰り返しだった。お陰で今や自宅周辺どころか町全体にウィルスの姿はほとんどない。多少やり過ぎた気がしないでもないが、今後を考えるとそれでも足りないくらいだ。まだまだボク(・・)には経験が必要なのだから。

 

「だからってわざわざ宇宙から飛んでくるウィルスを出待ちたぁ、どっちがワルモノか分かんねぇな」

「元々わる~い宇宙人でしょ、ロック」

「ヘッ、ちげぇねェ!」

 

 軽口を叩きながら、既に最後の一体となったウィルスの攻撃を避ける。ついでにチャージしておいたロックバスターを近距離でぶち当てて、戦闘終了だ。さっさとリザルトを流し、また空を見上げて仁王立ち。こうしていると、まだコダマタウンにウィルスが沢山いた時が懐かしく感じる。

 時には町中の人のトランサーを覗き見たり、話を聞いて悩みを解決したり、電波ウィルスと電波変換した存在──ジャミンガーと戦闘もあったが、FM星人の手掛かりは未だ見つかっていない。

 

「スバル、休憩の時間だ」

「え、もうそんな時間? ……うわ、ホントだ。電波変換解除、っと」

 

 相も変わらず何の変哲もない空を見上げていると、不意にロックから声がかかる。時計を見ると、既にこの作業を始めて数時間が経過していた。そのまま変換を解除し、数時間ぶりに大地を踏みしめる。

 

「なんか、不思議な感じ」

「寝てる時以外は電波変換してる時間の方がなげーんだ。そりゃそうなるぜ」

「はは、まるで宇宙飛行士だね」

「笑いごとじゃねェっての」

 

 ロックのお小言を聞き流しながら帰り道を歩く。言い出したのはロックの癖に、最近どうにもボクを休ませようとするのだ。肩慣らしはもう良いのだろうか。ボクはまだ足りない。

 ――と、コダマ小学校の近くを通りかかった時。視界の端にある人物を捉えた。その近くにも二人、合計三人のグループだ。何かを探すようにあたりを見回しており、ボクの方を見た途端──結構離れているはずのボクにもはっきり聞こえるような声量で、一人が叫ぶ。

 

「待ちなさい! やっと見つけたわ!」

 

 ずんずんとその人物は近づいて来る。地毛であろう自然な金髪(ナチュラルブランド)を伸ばし、縦ロールのツインテールにしているその人物は、数日前にも同じように声をかけてきた。

 それから暇な時はずっと電波変換していたのだから、彼女たちがボクを見つけられなかったのは当たり前だろう。

 

「今日こそ学校に来てもらうわ!」

 

 その自信満々の目で見つめられるのは、もう何度目のことだったか。

 

 




ちょっとリアルがクソ忙しくなってきたので更新難しいかもです。


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