魔剣戦士イクス (クレナイハルハ)
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プロローグ~ヒーローに憧れた少年~

 

 

 

 

 

 

 

 

───貴方は今

 

運命の選択を強いられている

 

貴方はかつて世界を旅し

 

その最後に世界を破壊した

 

今度こそ、貴方は世界を救ってね

 

私の事は助けなくて良い

 

だから、どうか思い出して

 

貴方の運命を、貴方の…………………力を

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だろう、このメッセージ」

 

そう呟きならスマホの画面に写るメッセージアプリに来た不思議なメッセージを流して読む

 

えっと、送り主は『第08転生女神 エイティス』?

 

今って、こんなのが流行ってるのかな?

 

最近の流行りってあんまり分からないな。

 

そう思いながら僕は携帯をポケットに締まって何時もの帰り道を歩く

 

僕の名前は大空 優助(おおぞら ゆうすけ)

 

カレーと特撮が大好きな高校二年生!

 

特に大好きな特撮は作品は『魔剣戦士イクス』!

 

この作品のストーリーは

 

『とある町で花屋で働く心優しい青年、花咲 優騎《はなさき ゆうき》が突然と家の前に置かれていた魔剣イクスカリバーを手にし、かつて悪魔から人を守るために戦ったとされた魔剣戦士イクスへと変身。悪魔との戦いに身を投じる事になる』

 

といった感じ。

 

この作品の主人公、優騎はその優しさから悪魔である敵を剣で斬り、傷付けてしまう事に悲しみながらも地球を守るために地底から甦った悪魔と戦うのは、子供向けとは思えないほどにリアルで悲しいかった

 

最後には皆の笑顔を守るために、最後の敵に挑み、相討ちで敵を倒す

 

泣きながらも幼い心を持つ子供のようなラスボスと泣きながらも斬り結ぶ姿はとても心を揺すぶられた

 

この作品が僕に本当の強さと、優しさを与えてくれた

 

強いだけの力が強さじゃない

 

その事を教えてくれた

 

幼い僕はこの作品をみた時、イクスみたいに成りたいと本気で思った

 

憧れてた

 

強くて、優しくて

 

沢山の人を助けられる程の力を持った

 

そんなヒーローの姿に僕は憧れた

 

でも、そんな幼い頃の思いは成長するに連れてだんだんと薄れていた

 

高校生になって、この作品を見ていると

 

何時も思ってしまう

 

『本当に僕は、この人みたいに優しくて強い人になれているのだろか………』って。

 

僕は憧れただけで

 

行動を起こすことはなかった

 

体を鍛えることも、格闘技術を学ぶことも剣道を学ぶこともなく

 

ただ、口にしているだけ

 

『皆の笑顔を守りたい』そう言って戦うイクスのように僕は慣れないのだと

 

そう感じてしまう

 

せめて強くはなくても優しい人に成ろうとしたけど、結果としてはクラスで面倒事を押し付けられることになった

 

それでも面倒事を片付けて他の人を少しでも助けられるようにと

 

結果としては、優しい人ではなく雑用を押し付けられる都合の良い奴

 

そんな風になってしまった

 

そう考えると何だか、悲しくなってくる

 

「ハハッ……僕、何やってるんだろう」

 

思わず、そんな事を呟いてしまう

 

きっと、僕はヒーローになれない

 

僕は強くない

 

それに臆病だ、もしイクスのように戦うことを強いられたら逃げてしまうだろう

 

そんなことを考えながら家の玄関の扉を開けて中に入る

 

「ただいま」

 

「あ、お帰り優助。荷物届いてたから部屋に運んどいたわよ」

 

すると、母さんが台所からピョコッと顔を出してそう言った

 

「うん、ありがと」

 

僕宛に荷物?何か頼んだっけ?

 

そう思いながら手洗いうがいをしてから部屋に入る

 

部屋には所々に様々な特撮やアニメのDVDや本が置いてある棚

 

魔剣戦士イクスのポスターが張られ、沢山の特撮のおもちゃが飾られていて

 

ベッドと机のある何時も通りの自分の部屋

 

「あれが母さんの言ってた荷物か」

 

母さんの言っていた荷物は恐らく机の上に置かれた小さな段ボールの事だろう

 

とは言え、まず開ける前に制服から普段着に着替えてから

 

カッターでダンボールの縁に張られているテープを切ってダンボール開けるとそこには西洋の鎧のような体に、淡く光るツインアイ。

 

胸にひし形の宝石が付いており、両腕にもひし形の宝石が付いており剣を持った戦士イクスが描かれた箱が入っていた

 

少し前に当時発売された『魔剣戦士イクス』の変身アイテムであるブレスレット

 

『イクスブレス』を作り直しセリフや劇中に使われたBGMが収録され、よりリアルになった

 

プレミアムの『イクスブレス』が入っていた

 

花咲優騎はこのブレスレットを使って魔剣イクスカリバーを召還して変身していた

 

「そっか、そう言えば注文してたんだ………すっかり忘れてた」

 

そう思いながら早速水色と白の装飾が付いたブレスレット、『イクスブレス』を左手腕につける

 

「くぅ、やっぱり格好いいなぁ……」

 

そう思いながら早速イクスブレスのボタンを押す

 

『皆の笑顔を守りたい、だから!!』

 

「第1話の初変身の時のボイスだ、すごい!BGMとかどうなってるのかな?」

 

他のボタンを押すと当時の戦闘BGMが流れる

 

早速BGMを流しながらボイスを流して原作を再現したり、変身ポーズを決めたりした

 

「はぁ、満足!」

 

いつの間にか、僕はイクスブレスを眺めながら笑っていた

 

さっきまでの暗くて、悲しくなる気持ちはいつの間にか太陽のように明るくて晴々としたものに変わっていた

 

ふと左手に付けたイクスブレスに触れる

 

まるでイクスブレスを通して、魔剣戦士イクスが僕の心の闇を切り払ってくれたように思えた

 

………そう言えば、イクスブレスは予約だったし早めにお金払った方が良いな

 

僕、時々忘れっぽいからもう行ってこよ

 

そう思いながら、ボクは財布と携帯を持って部屋を出て玄関に向かう

 

「母さん、少しコンビニに行ってくるよ。ついでにアイス買ってくるけど何が良い?」

 

「あら?良いの?それなら、バニラのカップアイスをお願い」

 

「分かったよ、行ってきます!」

 

そう言って玄関を出てからふと自分の左手を見る

 

「あ」

 

左手には先程まで付けて遊んでいたイクスブレスが装着されたままだった

 

イクスブレス、付けたまま出ちゃった………

 

まぁ電源をオフにすればファッションみたいな物だし、誰も何も言って来ないよね?

 

最近になって使い始めたブルートゥースのイヤホンを携帯で操作して魔剣戦士イクスのオープニングを聴きながすっかり暗くなった道を歩いて最近出来たコンビニに入る

 

「いらっしゃいませー」

 

コンビニに入りまず支払いを済ませる

 

会計をしながらチラリと後ろを見ると、クラスメイトの女子が大人の女の人と仲良さそうにお菓子を選んでいた

 

誰だろ?あんな人クラスには居なかったし、もしかしてお母さんと買い物に来てたのかな?

 

そう思いながら支払いを済ませて自分の分と母さんの分のアイスを買ってを外に出る

 

「ふぅ、あんまりイクスブレスに視線が来なくて良かった………」

 

そう呟き、イヤホンにイクスのオープニングを流して帰ろうと思った

 

ふと、少し先からコンビニへと走ってくる小学生位の女の子

 

そしてその後ろから、凄い勢いで大型トラックが走ってきていた

 

見ると、トラックの運転手は居眠りしており目の前に女の子が居ることに気付いていない

 

そして女の子もこっちに走るのに必死なのか後ろから来るトラックに気付いてない

 

頭の中であの女の子がトラックに跳ねられて大量の血を流して倒れる未来と事故死と言う言葉が脳裏に浮かび上がる

 

思わず辺りを見回すが、コンビニの回りには誰もいない

 

気付いてるのは、僕だけ!?

 

「助けないと……ッ!?」

 

そう思い走り出そうとしたが体が、足が震えて進めなかった

 

怖い

 

今、目の前であの女の子が死にそうになっているのに

 

僕は自分が怪我するのが、死ぬのが怖くて一歩を踏み出せない

 

ふと、左手に付いているイクスブレスが目に映る

 

僕は………

 

『僕は……助けたい。皆の笑顔を守りたい、みんなに笑顔でいて欲しい』

 

『ジーとしてても、ドーにもならない。変えるぜ、運命!』

 

『未来は変えることが出来る。良いようにも、悪いようにも、それを変えるのは君しだいだ』

 

『諦めるな!』

 

今まで見てきた特撮作品の主人公の言葉が浮かんでは消えていく

 

そうだ、僕が走り出して助けなかったら

 

絶対に後悔する!動け!動けボク!

 

気が付くと、体の震えが止まっていた

 

全力で地面を蹴って走る

 

そして女の子へと手を伸ばし道の端に突き飛ばしトラックの進路から退ける

 

女の子が急に突き飛ばされたことに驚いている

 

今からでも、トラックを避けようと横に飛ぼうとする

 

もし、トラックが小型ならギリギリ避けれたかもしれない

 

でも目の前に迫るのは大型トラックだ

 

避けられない

 

光を放つヘッドライトに思わず目を瞑る

 

次の瞬間、大きな衝撃と激しい痛みが身体中に走り

 

体の骨が折れる感覚と浮遊感を感じ何か叩きつけられ、地面を転がる

 

痛い、なぁ………それに何か、辺りが温かい

 

閉じていた目を開けると僕の周りは赤く染まっていた

 

もしかしてこれ、僕の血なのかな

 

ふと視線をずらすと、僕を引いたトラックが近くに止まっており

 

運転手が降りて何処かへ電話していた

 

さっき突き飛ばした女の子の方を見ると地面に座り込んでいて僕の方を見て泣いていた

 

そんな女の子の様子にコンビニから出たのか、クラスメイトの女子と女の人に心配されている

 

良かった、助けれた

 

こんな僕でも誰かを助けられたんだ

 

そんなことを考えていると、頭の中に今までの思い出が浮かび上がっては消えていく

 

もしかして、これが走馬灯なのかな

 

『母さん!僕ね、イクスみたいになる!』

 

『ふふ、優助ならきっとなれるわ』

 

『本当!?』

 

『えぇ、だって私の子だもの』

 

子供のときに母さんと話していた記憶が浮かび上がる

 

母さん、僕……最後くらいはヒーローに

 

イクスみたいになれたかな?

 

ふと左手に視線を向けると、さっきトラックに跳ねられたからなのか左手のイクスブレスが壊れて少しだけ部品が外れて壊れていた

 

あぁ、もっと遊んどけば良かったかな

 

せっかく高かったのに、壊れちゃったな

 

そう思っていると、さっき助けた女の子が泣きながら僕に近付いてきていた

 

「ごめんなさい、私のせいで………あなたが」

 

女の子が口を開いたり閉じたりしてるけど、何も聞こえない

 

でも、せっかく助けた人に泣いて欲しくない

 

「泣か、ないで……」

 

どうにか口を動かしてそう言うが、声が掠れて上手く喋れない

 

「君の、笑顔を……守れた、かな?」

 

そう言うと女の子が何度も頷く

 

良かった

 

だんだんと体から力が抜けていき、目蓋が重くなる

 

なんだろ、眠いな…………母さんごめん、おやす、み

 

こうして大空 優助と言う一人の少年が事故で亡くなった

 

そんな彼が左手に身に付けていたブレスレットから一人の人間を救ったヒーローとしてその町の新聞に掲載されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






どうも、本日よりオリジナル小説を書くことになりました。クレナイハルハも申します

この作品は小説家になろうにマルチ投稿する予定です

どうか、皆様に面白いと感動したと言って頂けるような小説を書いていきたいと思います

ご愛読ありがとうございます

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転生、初めまして異世界

 

大空 優助side

 

 

「目覚めてください………目覚めてください…………優しき心を持つ者よ」

 

「ん、んう?」

 

優しげな声が聞こえ、僕はゆっくりと目蓋を開く

 

すると、目の前にまるで宇宙のように綺麗な星が見える空間?に立っていた

 

あれ、確か僕はあの子を助けて死んだはず

 

それじゃあ、ここが天国?なのかな、少なくとも地獄には見えないし

 

でも天使がいないし、天国と言うよりは宇宙………だよね?

 

「目覚められましたね、優しき人」

 

さっき聞こえた声と同じ声が後ろから聞こえ、振り替える

 

そこには、腰まで伸びる綺麗な金髪に青い瞳の女の人が立っていた

 

「貴方は?」

 

そう言うと、女の人はにこりと笑いながら口を開いた

 

「私の名はエイティス。第08転生神を務めさせて頂いている者です」

 

「えっと、つまりは神様………って事ですか!?」

 

「はい」

 

な、なんだか凄いな

 

死んだら神様に会えるのか………あれ?そう言えばエイティスって何処かで聞いたことがある

 

そうだ、思い出した!

 

確か携帯に来たメッセージの送り主の名前がこの人と同じだった

 

何故かポケットに入ったままの携帯の電源を着けメッセージアプリを開くと、そこにはエイティス様?から送られたメッセージがしっかりと保存されていた

 

「あの、実は僕のスマホ……携帯に死ぬ前に貴方の名前でメッセージが来たんですけど、これって貴方なんですか?」

 

「へ?私の名前で、ですか?」

 

頭に?を浮かべるエイティスさんに携帯のメッセージ画面を開いて差し出す

 

エイティスさんが画面を見ると先ほどまで穏やかな表情を浮かべていたエイティス様がピシリと動かなくなった

 

「あの?」

 

「……………す、凄い偶然もあるものですねぇ!」

 

エイティスさんはそう言うとスマホの電源を切り僕に渡してくる

 

「そ、そうですね。」

 

そう言って返して貰った携帯をポケットに入れる

 

「こほん、改めて優しき心を持つ者よ。貴方の名前をお聞かせ頂けますか?」

 

「さっきも言ってたけど『優しき人』って僕の事!?」

 

「はい、そうですが」

 

「僕の名前はお、大空 優助……です」

 

「ユースケさんですね。改めてユースケさん、貴方には転生して頂きます」

 

転生?それって確か最近流行ってた携帯とかスライムとか魔法少女とかクマみたいな小説に出てきてた奴だよね?

 

「それってアニメとかライトノベルとかで良くみるあの転生ですか?」

 

「はい、その認識で間違いありません、転生について説明させて頂きますね。実はユースケさんの暮らしていた世界では一年で死ぬ人の数が決まっているんです。ですが、ユースケさんはその決まっていた人たちではなく、貴方の魂は天国にも地獄にも行き場かないんです」

 

「え、それじゃあどうなるんです?もしかして消滅とか、ですか?」

 

「通常ならそうですが、貴方の場合は違います」

 

「えっと、転生って事ですか?」

 

「はい。ですがユースケさんをユースケさんが生きていた世界に転生させると様々な問題が起きます。なので、私が管理を任されている世界『シンセア』に転生させて頂きます」

 

「エイティスさんの管理している世界」

 

「はい、ユースケさんに分かりやすく説明するなら《剣と魔法の世界》でしょうか」

 

なんか、本当にライトノベルで読んだまんまだなぁ

 

「分かりました。僕、転生します」

 

「ありがとうございます、これで貴方の魂は消滅せずに済みます。ところで、ユースケさんに転生特典として此方をお渡しいたします」

 

そう言ってエイティスさんか僕へ、性格には僕の左手へと手を翳す

 

すると、突如として僕の左手首に光の粒子のようなものが集まり左手首を覆っていく

 

「うわっ!?」

 

「大丈夫です、じっとしていて下さい」

 

思わず驚きの声が出てしまう、でもエイティスさんが言うには大丈夫らしい

 

本当に大丈夫、だよね?

 

そのまま少しすると、左手首に集まっている粒子が先程よりも強く光輝く

 

「ッ!?」

 

思わず目を瞑る

 

すると、突如として左手に先程までなかった少し冷たい感触と重みを感じた

 

「もう、目を開いて大丈夫ですよ」

 

エイティスさんの声が聞こえ、目を開くとそこには死ぬ直前まで身に付けていた

 

 

水色と白の装飾、そして中央に淡く光るクリスタルに似た鉱石がブレスレットの中央に埋め込まれている腕輪

 

魔剣戦士イクスへと変身するアイテム『イクスブレス』が装着されていた

 

「これって!」

 

「はい。貴方の記憶から再現して作り出した本物のイクスブレスです、勿論変身も剣を召還することも出来ますよ」

 

「本物の、イクスブレス……」

 

右手で左手に装着されているイクスブレスに触れる

 

「優しき心を持つ人である貴方なら、これを渡しても大丈夫だと思い、それを転生特典として選ばさせて頂きました。他にも言語については大丈夫ですからね?それと次に貴方が目覚めたら、異世界です。近くに町があるので、そこを目指してください」

 

「分かりました、あの色々とありがとうございました」

 

そう言って頭を下げる

 

「いえいえ。優しき心を持つ人……ユースケ、良き第二の人生を過ごしてくださいね。」

 

そう言ってエイティスさんが僕に向けててを翳すと、僕の意識はゆっくりと沈んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………い、おい」

 

体を揺すられる感覚と共に目を覚ますと、目の前には赤い髪で軽そうな鎧を来た僕と同じくらいの年の男の子が立っていた

 

「お、やっと起きたか」

 

その男の子の腰には剣が鞘に納められた状態でベルトから下げられている

 

「ど、どうも……」

 

改めて、本当に転生し異世界に来たのだと感じる

 

「おう!」

 

そう言ってにかっ!と笑う男の子

 

体を起こして立ち上がる

 

「それにしても、いくらここら辺に魔物が出ないからって昼寝は危ないぞ?例外で魔物が出るかもしれないし、盗賊とかに狙われるとかあるかもしれないんだからな」

 

「え!?お、起こしてくれてありがとうございます!あの、貴方は?」

 

「俺はレイト!レイト・クレイフィス、冒険者だ。お前は?」

 

「ぼ、僕は大空 優助です」

 

「ユースケか、良い名前だな!」

 

そう言うと彼はニカッ!と笑う

 

何だろう、もしこの世界に主人公がいるとしたら彼かもしれないとそう思う

 

「そう言えば、お前そんな軽装だけど大丈夫なのか?良かったら近くの町に案内するぞ?」

 

「え!良いんですか!?迷惑じゃなかったらお願いしたいんですけど」

 

「おう!これぐらい勇者を目指すなら当たり前だ!近くの町って言っても俺もそこに戻るから迷惑じゃないぜ」

 

「そうだったんですか?」

 

「まぁな」

 

「よし、んじゃいくぞー!」

 

そう言って歩き出すレイトさんの後ろを追いかけ、並んで歩きながら周りの景色を眺める

 

全てが新鮮だった

 

風が吹くと草が舞い、綺麗な緑の平原が広がっていふ景色

 

前世だと、周りは建物ばっかりで自然が少しだけ少なかったから

 

心なしか、空気がとても美味しく感じる

 

「お、見えてきたぞユースケ!」

 

そう言ってレイトさんが指差す方向には大きな街が広がっていた

 

少し先には門のような所があり、そこから入るようだ

 

「あそこが俺が活動してる町『エクシアス』だ!」

 

あそこが、僕が今から住むかもしれない町

 

「綺麗な町だろ?他の街より治安は良いし、武具の作り手も豊富、冒険者を始めるのならこの街と言われてるんだぜ」

 

凄いなぁ、もしかしてドワーフとか獣人とか妖精さんとかいるのかな?

 

会ってみたいなぁ

 

そんな事を思いながら二人で門へと向かうと、門の前に鎧を来た二人の男の人が立っていた

 

「よう、レイト。仕事は終わったのか?」

 

「まぁな!ほい、冒険者カード」

 

ちょっとまって?

 

「よし、確認した。通って良し、次は……見ない顔だな、旅人か?」

 

「………えっと、そんな感じです」

 

「そうか、冒険者カードを見せてくれ」

 

まずい、僕そんなカード持ってないよ!?

 

そっとポケットへと手を伸ばして何か入ってないか触った感じだとなにも入ってない

 

嘘でしょ!?

 

「えっと、その失くしちゃったみたいで……」

 

「失くした!?」

 

「おいおい………冒険者カードは自分を証明するカードだぞ?そんな簡単に無くしちゃ危ないぞ」

 

そう言うと男の人が目を開いて驚きながらもそう注意してくる

 

この人、優しい人だな

 

こんな見ず知らずの僕の事を心配してくれるなんて

 

それにしても冒険者カードか、身分証明みたいな感じなのかな?

 

「す、すいません」

 

「取り敢えず、この紙に名前を書いてくれ。それで街には入れるからすぐに冒険者ギルドに行って新しく発行して貰えよ?確か150エスで発行して貰える」

 

150エス?これがこの世界での通貨なのかな?金貨十枚とかそんな感じじゃなくて日本みたいな感じのお金の数え方なのかな?

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

そう言って紙に名前を書く、普通に日本語で書いちゃったけど、多分エイティスさんが言語については大丈夫だと言ってたし多分大丈夫だよね

 

そう思いながら早足で門から街に入る

 

「わぁ!」

 

そこには獣の耳と尻尾を着けた獣人や耳が長いエルフ、大きな剣を持った冒険者と思われる人が行き来している大通り

 

そして木で作られた家や店が建っており、様々な人の笑い声が聞こえる、そんなとても賑やかで綺麗な風景があった

 

「僕、本当に異世界に来たんだ………」

 

改めて自分が異世界に転生したのだと自覚する

 

「おーい!ユースケー!」

 

レイトさんの声が聞こえてきた方を見ると、此方へと手を振るレイトさんの方に走る

 

「レイトさん!」

 

「ユースケ、来るのが遅くて心配したぞ!」

 

「すいません、冒険者カード失くしちゃってて」

 

「そうだったのか。それじゃあ早速再発行しに行くのか?」

 

「いえ、手持ちのお金がないので………と、取り敢えず何処かで働こうかなって」

 

「そうなのか?良かったらおれが150エス出すぞ」

 

「いや、街まで案内して貰った揚げ句そこまでは」

 

「気にすんなよ!俺がやりたくて世話してるんだ。それにお前が金を稼いだら、飯でも奢ってくれれば良いからよ」

 

本当に、この人は主人公みたいだ

 

優しくて、かっこ良くて誰かを助ける

 

しかもそれは自分がやりたいと思えたから

 

凄いなぁ

 

「なら、お願いしても良いですか?」

 

「おう!」

 

そう言って歩き出すレイトさんに並んで歩く

 

「そう言えば、ユースケは珍しい格好だけど遠くから来たのか?」

 

「へ?あ、まぁそうですね」

 

そうだった、僕の今の服は青のTシャツの上にパーカーと動きやすいズボン

 

普通に考えたらこの世界の服とは全く作りもデザインも違うんだよね

 

「と、遠くから来たのでここのお金とかも何も知らなくて」

 

でも、遠くから来たって事にしたら色々と聞けるからいいのかな

 

「そうなだったのか。お、ついたぞ」

 

目の前に他の建物と比べて少し大きく『冒険者ギルド』と書かれた看板が付いており中からは色々な人の笑い声や話し声が聞こえる

 

アニメみたいなかんじだなぁ

 

レイトさんの後を追って大きな入り口に入ると受付らしき場所まで歩いていく

 

そこにはたくさんの剣や杖、鎧やローブらしき服装の人間や獣人がテーブルに座ってお酒らしき飲み物を飲んでいた

 

「なぁ、こいつの冒険者カードの再発行頼むよ。これ、代金」

 

「承知しました、それではそちらの方」

 

すると受付の女の人は良く占い師とかが使っていそうな大きな水晶のような物を取りだすと僕の近くに置いた

 

「此方のマジックアイテムで貴方のステータスをカードにしますので、此方の水晶に手を翳して下さい」

 

「は、はい。わかりました」

 

言われた通り手を翳すと水晶が淡く発光する

 

「はい、もう大丈夫ですよ」

 

そう言われて僕は手を離すと、水晶の光が机の上に集まり1つのカードの形になっていく

 

凄い、なんと言うか幻想的だな

 

そして光が収まると、そこには一枚のカードが出来上がっていた

 

「はい、これで再発行出来ました」

 

そう言われて僕はそのカードを手に取って読んでみる

 

─────────────────────

〔名前〕ユウスケ・オオゾラ

〔性別〕男

〔年齢〕16

〔種族〕人間

〔冒険者〕LEVEL-1

─────────────────────

 

なんだか、少しゲームみたいだ

 

まぁ、この世界にとっては普通なんだろうけど

 

「よし、これでユースケは仕事を探せるな!」

 

「何から何までありがとうございます。レイトさん」

 

「なに、気にすんなよ!さっそく仕事を探そうぜ!俺も手伝うからよ」

 

そう言われて手を引かれて沢山の紙が掲示されている掲示板らしき所で自分でも出来そうなクエストを探す

 

『ゴブリンを8匹討伐』

 

『酒場でのアルバイト』

 

『カフェでのアルバイト』

 

見たところで僕に出来そうなのはこれかな

 

そう思いながらカフェのアルバイトの紙を手に取る

 

あ、そう言えば再発行……失くしたってことにしてるからクエストの受け方分からないや

 

「レイトさん、このクエスト受けたいんですけど」

 

「お、どれどれ……カフェのアルバイトか。受けるなら受付でこの依頼が書かれた紙を提出すれば判子を押して貰えるんだ。そうしたらそのカフェまで行くだけだ」

 

「なるほど、さっそく行ってきます!」

 

「あぁ、ちょい待て。ユースケ、お前そもそもこの街に来たばっかりだろ?せっかくだし案内してやるよ!」

 

「え、流石にそこまではして貰うのは悪いですよ」

 

「気にすんなよ!言ったろ?俺が好きでやってるんだ、取り敢えずクエストは明日から始めるよう受注しとけ」

 

「わ、解ったよ。何から何までありがとう」

 

そう言って僕はクエストを受注しに受付へと向かった

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

あれから、レイトさんにこの街を案内して貰った

 

服屋やおすすめの料理のお店、僕が明日行く予定のカフェ

 

お掛けで必要な道や、行く場所を覚えることが出来た

 

レイトさんには頭が上がらないな

 

そう思いながら、部屋に置かれたベッドに座る

 

あれから結局はレイトさんは宿代も出してくれ、僕とレイトさんは別れた

 

異世界一日目、なんだか凄く色々と聞けたしこの街に付いて知ることが出来た

 

ふと、左腕についているイクスブレスを見つめる

 

「僕、イクスみたいになれるのかな………」

 

エイティスさんからイクスブレスを貰ったけど、実際に変身して戦えるかと聞かれたら

 

僕は無理かもしれない

 

僕は臆病だ、実際にモンスターとはいえ戦うのは怖いから

 

そんなことを考えながら僕はイクスブレスを腕から外す

 

すると腕を包んでいたブレスレットの装飾以外の輪の部分が淡く光ながら消えていき、真ん中の装飾だけが残る

 

その状態のイクスブレスを枕元に置いてから僕は瞳を閉じた

 

 

 

 

 

 





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宿と仕事とクラスメイトと

 

大空優助side

 

 

目が覚めると、目の前には知らない木造の天井が広がっていた

 

そっか、そう言えば転生したんだっけ

 

そう思いながら体を起こし、枕元においてあったイクスブレスを左腕に当てる

 

するとイクスブレスから腕を覆うリングの部分が現れてブレスレットになる

 

左腕に付いたブレスレットを中に掲げ、自信の腕に付いたイクスブレスを眺める

 

よし、今日は頑張らないとな

 

そう思いながら荷物を纏めて部屋を出て、そのまま宿屋を出る

 

宿屋には昨日見た獣人はあまり見かけなかったから、少し楽し残念だと感じた

 

それにしても、今日も賑やかだな

 

まだ朝の時間帯なのに、この街には沢山の人が行き来して

 

沢山の人が元気に商売をしている

 

そんな沢山人をみながら、昨日レイトさんと確認した場所まで向かっていた

 

道は頑張って覚えたから、道は間違えてない……はず

 

少し不安になりつつ、どうにか目的地へとつくことが出来た

 

街の冒険者ギルドの少し近くにある二階建ての建物

 

『カフェ・シティアーナ』

 

外見は少しレトロな感じで、日の光が入る明るいカフェだ

 

店の扉をノックすると直ぐに誰かがパタパタと誰かが扉へと走ってくる音がして扉が開いた

 

すると、よく町の喫茶店とかである入店の時になる鈴の音色が聞こえ現れたのは赤髪で優しそうな二十代位の女の人だった

 

「すいません、まだお店はやってなくて」

 

「い、いえ!お客さんじゃないんです!あの、これ!」

 

そう言ってカフェのアルバイトと書かれた依頼書を見せる

 

「あ、なるほど。冒険者の方ですか、なら中に」

 

中に通され、お互いに向き合う形で椅子に座る

 

「えっと、大空優助と言います。17歳で冒険者になったばかりですけどアルバイト、よろしくお願いします!」

 

そう言って頭を下げ、机にガンッ!とおでこをぶつけてしまった

 

「いっ!?」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫です」

 

そう言いながら少しだけおでこを少し押さえる

 

「なら良いですけど。私はこの店の店主のセスイ、セスイ・クリセクトですよ。」

 

そう言って笑いながら微笑む姿はまるで姉のように見えた

 

子供とかにお姉さんって良く言われそう

 

「セスイさん、ですね。アルバイトなんですけどこのアルバイトって何日間ですか?」

 

「一応、七日間を考えてますが……何が不都合がありましたか?」

 

七日、だとしたらお給料を貰えるのも7日後に成るのかな

 

だとしたら7日間は厳しいかな、お金はもう無いし、それにレイトさんに頼るのも申し訳ない

 

異世界、結構厳しいなぁ

 

よし、恥ずかしいし情けないけどお給料を先取り出来ないか相談してみよう

 

「その、実は僕……遠いところから来てお金も住むところも無くて。情けないと思うんですけど報酬のお金を先に頂けないかなって」

 

「そうだったんですか……なら!」

 

そう言ってパンと手を合わせて僕の方を見るセスイさん

 

「良ければ、住み込みで働きませんか?依頼を終えてからも内で働いてくれるなら、一部屋余ってるのでそれをお貸ししますよ?」

 

「え!良いんですか!?助かります……でも、僕男ですし色々とダメなんじゃ……」

 

「あらあらウフフ!私に手を出すつもりであるのかしら?」

 

「そ、そんな事は無いですよ!?」

 

「あら、私には魅力が無いの?」

 

そう言ってシュンと悲しそうな顔をするセスイさん

 

「い、いや!?そんな事は無いですよ!髪も綺麗ですし、優しいですし!」

 

「ウフフ、ありがとう。それじゃあ早速ユースケさんのお部屋に案内しないとね」

 

「は、はい!」

 

少し遊ばれた気がするよ………

 

でも、住み込みとはいえ仕事と宿を手に入れられた

 

セスイさんには足を向けて寝られないな

 

そう思いながらセスイさんに付いて歩いていくと店の奥には、家と思われる部分に付いた

 

「店の奥は私の生活しているスペースなの、貴方の部屋は」

 

そう言ってセスイさんが部屋の奥にある部屋を開けて中に入るのに続いて中に入る

 

そこは窓が付いていて椅子と机がある部屋だった

 

「この部屋を使って。ベットは無いけど、毛布の予備があったからとりあえず今日はそれを使って。後で必要な物を買いに行きましょう」

 

「え、そこまでしていただかなくても……」

 

「駄目よ。もうあなたは店の店員なんだから、しっかりと働いて貰うためにはしっかりとした環境が必要でしょ?」

 

そう言って微笑むセスイさん

 

「本当に、ありがとうございます!」

 

そう言って頭を下げる

 

「ウフフ、どういたしまして!」

 

こうして、僕はセスイさんの『カフェ・シティアーナ』と言うカフェで住み込みで働くことになった

 

どうにか異世界で生活していくことが出来そうで良かった

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

 

セスイさんの所で働き、七日間が過ぎた

 

カフェでのアルバイトは頼まれたメニューを素早くメモしたりテーブル席への案内をしたり

 

注文された食べ物や飲み物を運んだりと、前世のアルバイトとかと余り変わらない物だった

 

カフェ・シティアーナは結構人気でお昼になると沢山の人が冒険者の人がご飯を食べに来たり、午後だと奥様方がお茶を飲みに来たり

 

結構忙しかったけど、楽しかった

 

セスイさんは朝と昼と夜のご飯を賄いとして出してくれる

 

この世界ではパンが主食のようで、米派の僕としては少しお米が食べたいと思ってしまう今日この頃

 

冒険者ギルドへの報告も終わり僕はセスイさんと共に買い出しに来ていた

 

七日間のアルバイトのお給料として5万エスを頂いたので、そのお金で家具を購入しようと思ったんだけど

 

セスイさんが『そのお金は自分の好きな物を買うのに使いなさい。ベッド代は私が出して上げるから』とそう言ってくれ、ありがたいことに5万エスは僕の好きなことに使えることになってしまった

 

前世とこの世界のお金の違いはこの世界だとお札が無くて硬貨だけで物の売買をしていることだろうか

 

とりあえずセスイさんがベットを家に運んで貰う為の道案内をするために職人さんと帰っていった

 

とりあえず色々な屋台を見て歩く

 

家具のベットらもう大丈夫だとして、服は今来ているやつ以外に接客用の服しか無いから何着か買っておいた方が良いかな?

 

他にもいつまでも賄いに頼っていたら駄目だし、ある程度は貯金してお金を貯めようかな

 

そんな事を考えながら歩いているといつの間にか少し薄暗い感じの通りを歩いていた

 

「あれ!?ここ何処!?」

 

思わず、辺りを見回して目に入ったのは檻に入れられ首に首輪をした人たちだった

 

もしかしてセスイさんの言ってた奴隷売場に来ちゃった!?

 

この世界だと、よく異世界で聞く奴隷制度があるようで、お金を借りて払えなかったり、罪を犯した人が奴隷になるらしい

 

奴隷は所によっては自分の売値分の働きをすれば自由になる契約をするところもあるらしい

 

でも、売場に出される奴隷はあくまでも生きることが出来ているだけで薄汚れている服を着ていることも当たり前

 

正直、三食の食事を出されているかも怪しいところだ

 

正直、この町の人々は優しい人が多い

 

だからこそ、アニメとかでよくある奴隷の虐待を見ることはなかった

 

でも、ここではない何処かで虐待を受けている

 

そう思うとなにも出来ない自分が酷く無力に感じた

 

そんな事を考えながら、どうにかこの場所から抜け出そうと道を歩いていると

 

「どうですかお兄さん、安くしときますよ?」

 

そう言って両手を揉むようにしながら三十代位の男性が店から出て呼び止めてきた

 

「す、すいません!僕はお金が余り無いので」

 

奴隷がいくらぐらいするのか分からないが、そんな事にお金を使ったらセスイさんに怒られる

 

ただでさえ住み込みで働いている立場なのに

 

そう言ってそのままどうにか帰ろうとしたその時だった

 

「にゃぁぁぁあー!?も、もしかしてお、()()()()ッー!?」

 

「え?」

 

檻の方から猫のような叫び声が聞こえ、檻の方を見ると猫耳と尻尾が生えていて白髪で少し痩せこけた幼い感じの子が僕の方を指差していた

 

え?大空くん?今、彼女はそう言ったのか?

 

僕の事をしる人はこの世界にはいないはず、それにこっちでは珍しい大空と言う名字

 

「うるさいぞ、そこの奴隷!」

 

「ねぇ!私を買って!お願いだから!!」

 

そう言って檻の間から顔を出して必死に頼み込む獣人、確かにこの世界だと亜人族っていうんだっけ?

 

亜人族の子が話しかけてくる

 

「な、なんで僕の名前……それに君は?」

 

そう言うと亜人族の子がよくぞ聞いてくれましたと言った風に一度檻から離れると両手を猫の手にして猫のようなポーズを取る

 

「ご主人のみんなこんにゃんにゃー!バーチャルライバーの猫又 白奈(ねこまた しろな)だよー!!」

 

「……………え」

 

なんか、良く前世の動画サイトとか人気だったVT○berのようなセリフが飛び出てきた

 

「………………」

 

思わずポカンとしてしまうと、その白奈と名乗った女の子は段々と真っ白な顔を赤く染めていく

 

「うぅ、な、なんか言ってよ!?」

 

「え、いやその……ごめん、君って誰?」

 

「私だよ!って言っても体も性格も変わったから分からないか、小野寺 奈那(おのでら なな)だよ、クラスメイトの!!」

 

そう言われ頭に浮かぶのはクラスで凄く大人しいメガネを掛けた内気な女の子。

 

「え、えぇ!?あの小野寺さん!?なんで小野寺さんがここに!?」

 

「思い出してくれた?説明したいけど、取り敢えず大空くん、私を買ってよ!お願い!役に立つから!!」

 

「な、なんで僕に……あんまり僕ら話したことも無いのに」

 

「他の誰かの奴隷になるよりは知り合いに引き取って貰った方が良いの!だからお願い、私を買って!!」

 

そ、そんな事を言われても僕の手持ちは少ない

 

セスイさんの話だと奴隷ってかなりするって聞いてるし

 

「あの、この子っていくらなんですか?」

 

いくら元々はクラスメイトとは言え人をお金で買うのに少しだけ抵抗を感じた

 

「すいませんお客様。えっとこの子ですと、4万2000エスとなりますが」

 

4万2000エス、ギリギリ買える

 

ふと小野寺さんを見る

 

まるでデパートで迷子になった子供が親を見つけた時のような表情の小野寺さんに、断るのは凄く罪悪感を感じる

 

幸いに今僕の手持ちだと彼女を購入できる

 

なにより、イクスに憧れた僕が助けを求めてきた女の子一人救えないのは駄目だと

 

そう感じた僕は、決意した

 

「か、買います」

 

「そうですか!ならどうぞ店内へ」

 

お店の人に言われ、中に通されるとテーブルを挟むように設置されあソファのある部屋に通された

 

「ささ、お座りください。只今お茶をご用意します」

 

そう言われるがままソファに座ると、三十代位の男性の店員さんが向かい側に座る

 

すると部屋にメイド服を来た女の人がトレーに乗っているソーサーに乗ったお茶の入ったカップを二つテーブルに置くと頭を下げて部屋を出ていった

 

「名乗り遅れましたが私は奴隷商人のジョズと申します。それでは、お客様。まずお客様は奴隷を購入なされたことは?」

 

「な、無いです」

 

「それでは、幾つか主従契約について説明させて頂きます」

 

「はい」

 

「まず、お客様。奴隷には『自信の値打ち分働いたら奴隷から解放することが出来る』と言う契約を施します。首輪に主従を繋ぐ契約魔法を施すのですが、主からこの場合はお客様の合意で解放する事も出来ます。ですが、それには1万エス程頂きます」

 

ま、魔法か

 

まさか異世界で自分から使う魔法が奴隷契約だなんて思わなかったなぁ

 

取り敢えずここを出たら小野寺さんと相談しよう

 

奴隷なんて早く抜け出したいはずだ

 

小野寺さんも余り中が良くない僕とずっと一緒は嫌だろうし

 

「また、奴隷は人ではなく所有物となります。そして奴隷への命令を必ず実行させる解約も施されております、自信の命に関わる命令でさえも。さて、こちらの奴隷契約書にお名前を記入して頂きます」

 

「はい」

 

奴隷契約書と羽ペンを受け取り、契約書の方を確認すると、先ほど説明された

 

値打ち分働いたら奴隷から解放する事が出来る

 

上記出はない場合の奴隷からの解放は1万エス払う必要がある

 

奴隷は主人の命令に逆らえない

 

主従契約の魔法を施す事が書かれ、西後の欄には名前を書くところがあった

 

上には先ほど小野寺さんの名乗った名前が『シロナ・ネコマタ』と異世界風にサインされてある

 

筆ペンは使ったことがあるけど、羽ペンって始めてだな

 

そう思いながら羽ペンで名前の欄にサインをする

 

「はい、これで契約の準備が整いました。次に奴隷との主従契約に映ります。少々お待ちを」

 

そう言ってジョズさんが出ていき部屋に残された僕は取り敢えず出されたお茶を飲むことにした

 

カップに注がれた紅茶は正直いうと美味しいか不味いかは分からないけど

 

取り敢えず一口でも飲んでおいた方が良いだろう

 

飲んでみると、普通の紅茶の味がした

 

家って言うと変だけど、セスイさんの入れたお茶の方が美味しい気がする

 

そんな事を考えながらカップをソーサーに戻す

 

「お待たせしました、お客様」

 

そう言ってジョズさんは首輪をしてシンプルな白いワンピースを来た小野寺さんを連れて来た

 

「これより、主従契約の魔法を施しますのでお客様。こちらへ」

 

ジョズさんの言うとおりに小野寺さんと向かい合うように立つ

 

「シロナ・ネコマタの首輪に触れ、お客様の名前を唱えて頂ければ契約完了となります」

 

「わ、分かりました」

 

片膝を付いて小野寺さんの首もとに付けられた首輪に触れる

 

「名前ですよね?ユースケ・オオゾラ」

 

そう唱えると、首輪が薄く発行し小さな魔方陣のような物が浮かび上がると直ぐに戻った

 

「これにて奴隷契約、購入は終了となります。それではお客様、4万2000エスの方を」

 

「は、はい。どうぞ」

 

そう言ってジョズさんに4万2000エスを払う

 

「ありがとうございました、奴隷購入の際は是々非々うちへ」

 

そう言って見送られ、店の外に小野寺さんと出る

 

「はぁ、助かったにゃんよ大空くん」

 

そう言って身長的に上目ずかい笑う小野寺さんを見ると、お金を一気に使ってしまったことはどうでもよくなる

 

小野寺さんを笑顔に出来てよかった

 

「う、うん。でも、この後はどうするの?奴隷解放は少なくとも来月のお給料まで待って貰わないと」

 

「え?別に冒険者として稼ぐにゃよ、こう見えて私強いからね!」

 

「そ、そうなんだ」

 

そう言いながら軽くナイフを振るうような動きをする小野寺さん

 

「最低限、ナイフと靴さえあれば簡単な依頼こなして稼げるし」

 

「そ、そっか。それじゃあ、はい」

 

「ん?」

 

そう言いながら歩きだそうとして、ふと小野寺さんが裸足である事に気付いた

 

考えて見れば、さっき見た奴隷の人たちも服しか着てなかったな

 

そう思いながら、しゃがんで小野寺さんに背中を向ける

 

「えっと、にゃに?」

 

「いや、おんぶだけど………裸足だと歩くとき痛いと思って」

 

「そう?ならありがたく」

 

そう言いながら背中に乗ってに手を回して貰い落ちないようにして立ち上がる

 

職業体験で保育所に言った時の事を思い出すな、小さい子達がおんぶやだっこをせがんできて大変だったんだよなぁ

 

そう思いながら、恐らくはこの道の出口と思われる方へと歩きだす

 

「ハッ!?言っとくけど、いくら奴隷になったからって貴方のヒロインにはならないからにゃ!!」

 

「えっと…………小野寺さん、僕たちただのクラスメイトだよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

奴隷売場を抜け出した僕は、カフェ『シティアーナ』に帰ってきていた

 

そんな僕を迎えたのは、凄い笑顔を浮かべたセスイさんだった

 

そして店の中で床に正座させられています

 

セスイの後ろには小野寺さんが気まずそうにカフェの椅子に座っている

 

「ユースケくん、確かに私は好きなものを買ってきなさいとは言ったわ。」

 

「は、はい……」

 

「だからと言って………だからと言って奴隷を買ってくるとかなに考えてるの!?しかもこんな小さい女の子を!?」

 

「ほ、本当にごめんなさい!!」

 

そう言って怒る普段の穏やかさでは考えられないほどの表情を浮かべたセスイさんに僕は必死に頭を下げたのだった

 

「私、これでも13にゃんですけど………」

 

 

 

 







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