アンタとはもう戦闘ってられんわ! (阿弥陀乃トンマージ)
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チャプター1
プロローグ 空から降る一丁の褌


 ある春の日の朝、九州、長崎県の佐世保市郊外にある『(有)二辺(ふたなべ)工業』の正門を一人の女性が文句をブツブツと言いながら開けた。

 

「何が掃除は皆でやるから素晴らしいや……朝の掃除、最近ほとんどウチ一人でやってるやんけ……」

 

 文句は言い続けているが、手際よく開門を終わらせた茶髪を短く後ろでまとめた女性は、さっさと次の仕事に取り掛かろうと、倉庫方面に歩いていった。海沿いにあるこの会社には、時折気持ちの良い潮風が吹く。何度目かにして、わりと強い風が吹き付けてきたことによって、女性も青空を仰ぎ見る余裕が出てきた。

 

「あ~本日も晴天なり! って感じやな。まさに雲一つ無いとはこのこと……ん?」

 

 女性が視界に奇妙なものを捉える。はじめは雲かと思っていたが、かなりのスピードをもって、この二辺工業の方に向かってきているのだ。

 

「敵襲⁉ いや、それならなんぼウチの会社のオンボロセンサーでも感知するはずや!」

 

女性は後ずさりしながらも徐々に近づいてくるその物体を凝視した。

 

「鳥? 飛行機? いや、あれは……」

 

 その物体が白い球体であると認識した女性はこう確信した。

 

「脱出ポッドか⁉ ってこっちに来る!」

 

 女性はその球体の進行方向の延長線上に自分が立っていることに気付き、慌ててその落下予想地点から離れた。そして約数秒後、凄まじい衝撃音とともに、球体が地面に落下した。

 

「いや……何なん? ……ん?」

 

 球体は落下したものの、そこで止まる訳ではなく、もう一度バウンドするような形で宙に舞った。そして、何故か女性の方へと向かってきた。

 

「いやいや! 嘘やろ⁉ ちょっと待ってって!」

 

 半分パニック状態になりながら逃げる女性。球体は何度か地面を転がった後、女性の目と鼻の先でようやく止まった。

 

「はあはあ……し、死ぬかと思ったわ……」

 

 女性は腰の抜けた状態でその場にへたり込んだ。しかし、やや間を置きながらも、なんとか立ち上がり、現状の把握に努めた。警戒しながら、球体に近づいていった。

 

「やっぱり脱出ポッドか。見たこと無い型やけど……一体どこのロボットや?」

 

 するとそのポッドが煙を吹き出し、中央の部分がゆっくりと開き始めた。女性は咄嗟に近くに転がっていた竹箒を手に取り、身構えた。

 

「……! 所属と氏名を! ……って、えええええ⁉」

 

 女性は驚いた。ポッドから姿を現したのは精悍な体付きをしたフンドシ一丁の男だったからである。男はフラフラとポッドの外に出ると、2、3歩程歩いて、その場に倒れ込んだ。

 

「だ、大丈夫⁉ ……ってかアンタ誰なん⁉ 何で半裸なん⁉」



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第1話(1)怪しさ120点の吉兆

 それから数日後……そこには作業服に身を包んで元気に働く青年の姿があった。青年の名前は疾風大洋(はやてたいよう)。年齢は二十歳。以上である。……というのも、それ以外の情報が全く分からないからである。青年のフンドシに挟まっていたIDカードによって、名前と生年月日は判明したのだが、その他の個人情報が殆ど謎に包まれている。大洋の搭乗していた脱出ポッドによる落下に見舞われた、長崎県は佐世保市にある中小規模のロボット企業、『有限会社二辺工業』の社員が個人データの照会を試みたが、それでも分かったのは、大洋が『西東京工業高校』のエンジニア科を二年前に卒業したということだけである。高校にも大洋について問い合わせをしたが、驚くべきことに大洋の個人情報はほぼ抹消されており、入学年と卒業年しか分からないということだった。

 

「怪しさ120点満点やな……」

 

 作業に勤しむ大洋の姿をぼんやりと眺めつつ、紙コップに注いだアイスコーヒーを飲みながら、茶髪の女性が呟いた。この女性の名は飛燕隼子(ひえんじゅんこ)。先日のポッドの落下事故に危うく巻き込まれそうになった女性である。そんな隼子の後頭部を大男が小突く。

 

「痛っ! いきなり何するんすか、大松さん!」

 

「なーにを堂々とサボってると?」

 

 この大男は、大松裕也おおまつゆうや、この会社のチーフメカニックである。

 

「そんなに気になるとね? あの色男が?」

 

 そう言って、大松は大洋に向かって顎をしゃくった。隼子が慌てて否定する。

 

「いやいや、そんなん違いますって……まあ、気にならへんと言えば嘘になりますが」

 

「ほう……」

 

「だって気になりませんか? 個人情報はほとんど分からへん、乗っていた脱出ポッドも形式番号を照会してみたけど、該当する機体データ無し! その正体に関する、手がかり一切無し! 怪しさが服着て歩いているようなもんなんですよ、あの男は!」

 

「……まあな」

 

「一言で片付けんといて下さい! そもそも先日の落下事故も軍どころか警察・消防も一切動いてない! あれだけの衝突音や落下の衝撃があったのに! この会社が町外れにあるとはいえ、目撃者の一人も居ないって、おかしいでしょ!」

 

「常識的に考えれば、アイツの身を医療機関などに引き渡すべきではあるとね……」

 

「そう! そうなんですよ! ただ実態はどうですか⁉」

 

 隼子は会社の作業服を着て、立ち働く大洋を指し示す。

 

「……エンジニアの腕はなかなか良いモノを持っていると。こんな九州の中小企業ではまず望めない人材が加わってくれたことは心強いばい。人柄も気持ち良か男で、もうメカニックチームの連中とはすっかり馴染んでいるとね」

 

「~~! しかし、よくウチの社長が許しましたね?」

 

「社長は最近占いに凝っているそうたい」

 

「は? 占い?」

 

「そう、タロット占いか何かは知らんけど、占いの結果、今回の大洋の落下を我が社の『吉兆』と捉えているみたいやね」

 

「なんぼなんでもポジティブに捉え過ぎでしょ……」

 

 頭を抱える隼子を再び大松が小突く。

 

「サボってないで、シャキシャキ働くとね! ほらそっちの資材ば第二格納庫に運べ!」

 

「……ウチ、パイロットなんですけど……」

 

「パイロット見習い、やろ? 今はとにかく人手が足らんばい、頼んだとね!」

 

「ぐぬぬ……」

 

 隼子が不満気な表情をしながら、資材の乗った荷台を押そうとするが、これが予想以上の重さだった。

 

「ちょ……大松さん、これ重過ぎますって……」

 

 隼子が振り返って抗議したが、既に大松は別の場所に行っており、居なくなっていた。他の皆も忙しく動き回っている。大松の言った通り、この時期に人手不足という事情は隼子も理解はしていた。そこでやむなく荷車を押すが、さすがに女性の細腕では難儀する重さである。それでも意地で十数歩程は進んだが、堪らず音を上げた。

 

「かぁ~! やっぱ無理やって!」

 

「飛燕さん、代わりましょう」

 

 突如声を掛けられた隼子が驚いて振り返る。そこには大洋の姿があった。



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第1話(2)要するに地球ヤバい

「あっ……」

 

「これをどこに運べば良いんですか?」

 

「あ、あっちの第二格納庫や。お願い出来る?」

 

「お安い御用です」

 

 そう言って大洋は軽々と荷車を押し始めた。置き場所を教える必要性があると思った隼子は慌ててその後を追いかけた。

 

「……じゃあ悪いけど、その辺りに並べてもらえる?」

 

「分かりました」

 

 大洋は手際よく、荷車から資材を下ろしていく。数時間はかかるかと思った作業が十数分で終わったことに隼子は喜んだ。

 

「いや~お陰で助かったわ。ホンマにありがとう。これお礼のアイスコーヒーな」

 

「あ、ありがとうございます。いただきます」

 

 大洋は隼子から紙コップを受け取った。一口飲んで、隼子に尋ねる。

 

「あ、あの、飛燕さん、質問しても良いですか?」

 

「ん? 何?」

 

「ここ数日、この会社は随分と慌ただしいですが、何かあるのですか? トラック等も頻繁に出入りしていますが……」

 

「ああ、それは毎年恒例の『ロボットチャンピオンシップ』、通称ロボチャンの長崎県予選に参加するためや。大会の会場にロボットを移送したり、諸々せなアカンことが一杯あるから、この時期は皆てんてこまいやねん」

 

「ロボチャン……ですか?」

 

「え、ロボチャン知らんの⁉」

 

「何となく聴いたことはある気がするんですが……すみません、思い出せません」

 

「いや、別に謝らんでもいいけど。そっか~記憶喪失って難儀やな~」

 

 隼子は空になった荷車に腰を掛けて大洋に説明を始めた。

 

「ロボチャンは防衛軍やら、政府や大学等の研究機関やら、さらにはウチみたいな民間企業まで、数多くの組織・団体が参加して、各自の開発したロボットの性能を競う場なんや」

 

「性能を競うというのは?」

 

「色々な部門があるけど、最も盛んで、尚且つウチの会社も参加するのは『戦闘』部門やな」

 

「戦闘……」

 

「そうや、ガチンコで相手のロボットと戦って、相手を戦闘不能に追い込んだら勝ちや!」

 

「最も盛んと言うのはどれくらいの規模なんですか?」

 

「う~ん、九州地区だけでもざっと20~30組は参加するんちゃうかな」

 

「そんなに⁉」

 

「そうやで……あ、これ見て!」

 

 隼子は自分の持っていた小型タブレットから今回のロボチャンの公式プログラムを映し出して大洋に見せた。何故か得意気に胸を張る隼子。大洋は少し躊躇いながら口を開く。

 

「飛燕さん、もう一つ質問しても良いですか?」

 

「え、うん、ええけど」

 

「何ゆえにこんなにも多くのロボットが作られているんですか?」

 

「あ、そこから? 記録によると高校は出ているみたいだから、その辺の事情も把握しているかなと思ったんやけど……」

 

「座学で様々な講義を受けたという記憶はおぼろげながらあるんですが……」

 

 大洋が何だか申し訳なさそうに頭を掻く。隼子はその様子を見て思い付いた。

 

「よっしゃ、疾風くんもそこに座り! 隼子先生による即席授業や、科目は『5分で分かる21世紀の歴史』や」

 

 いつの間にか、何処からか調達してきた白衣を羽織り、度なしの眼鏡を掛けた隼子が指し棒を片手でポンポンとしながら授業を始めた。

 

「世は21世紀初頭、人類はこの新たな世紀はきっと希望と平和に満ちあふれた世紀になるだろう! ……と皆が思っとった。しかし、蓋をあけてみると、テロ活動の頻発、国家はそれを鎮圧するために、軍隊を出動させる。各地で規模の大小を問わず戦争や紛争が続いた。そうこうしている内に未曾有の天変地異や全世界規模のパンデミック発生や! それまでの人類の築き上げてきた社会が大きくぐらつき始め、人々は不安と苛立ちに駆られた。数年かかってそのパンデミックも何とか収束……しかし、人類には再び厳しい試練が襲い掛かってきたんや。」

 

「厳しい試練?」

 

「2030年代に入ると、天変地異の影響によるものなのか世界各地で巨大怪獣が出現するようになった。巨大な獣たちは世界中で破壊の限りを尽くして暴れまわり、人類を恐怖のどん底に突き落としたんや。」

 

「巨大怪獣……」

 

「対立ばかり繰り返していた人類もここにきてようやくまとまりはじめ、新たに発足した『地球圏連合』、通称、連合の軍が、当時最新鋭の兵器・武器を結集して、暴虐な獣たちを次々と駆逐することに成功したんや」

 

「凄いですね」

 

 感心する大洋に対して隼子は首を振る。

 

「……それは終わりではなく始まりでしかなかったんや……」

 

「え?」

 

「それまでオカルト雑誌のネタに過ぎんかった、ムーやアトランティス、レムリアといった海の底深くに沈んでいた巨大大陸が突如浮上。その巨大な大陸には大小様々な部族が居住していた。連合は便宜上、そのものたちを『古代文明人』と呼称。古代文明人はそのほとんどが人類に対して友好ムードやったが、いくつかの過激派と見られる勢力が連合に対し、宣戦を布告してきよった」

 

「ええっ⁉」

 

「奴らは人類を凌ぐテクノロジーを有していて、中には巨大怪獣を自由自在に操る部族もいた……更に泣きっ面に蜂というしかない状況が人類を襲う」

 

「ま、まだ何か……?」

 

 隼子が指し棒で上を指し示す。

 

「異星人や」

 

「異星人⁉」

 

「まだ月にも満足に行けないような状態だった人類にとって、文字通り宇宙から降ってくる異星人の軍隊は脅威そのものやった。中でも一番の脅威やったのが、異星人の操る機動兵器、通称『ロボット』や」

 

「ロボット……」

 

「人型やったり、獣型やったり、そのタイプは様々やったが、連合の所有する兵器ではなかなか太刀打ち出来んかった……しかし捨てる神あれば拾う神ありとでも言おうか、それとも敵の敵は味方か、古代文明人がその優れたテクノロジーを人類に提供してくれたんや」

 

「おおっ!」

 

「さらに異星人も一枚岩ではなかったようで、一部の戦力が離反。連合と同盟を締結することとなった。異星人側からも様々な技術供与があって、人類のロボット開発や宇宙開発は僅か数年で飛躍的な進歩を遂げた。こうして、人類は古代文明人の操る怪獣や、異星人の操縦する機動兵器に対しても、互角以上に戦えるようになっていった」

 

「それで倒したんですか⁉」

 

 興奮気味の大洋に対し、隼子は静かに首を振った。

 

「穏健派の古代文明人たちが形成する国家群はそのほとんどが『地球連合』の傘下に加わった。しかし、一部の過激派の古代文明人たちはしばらく鳴りをひそめている」

 

「鳴りをひそめているというのはつまり……」

 

「いつまた人類に牙を剥くか分からんっちゅう話しや、現にここ数十年で地底や海底にひそんでいた勢力が何回か地上に対して侵略を仕掛けてきた話もある」

 

「まさか……異星人も?」

 

「察しがええな、月面に基地を建設したのを皮切りに、多くの宇宙コロニーが衛星軌道上に作られ、火星のテラフォーミング計画も本格化してきたこの数十年、それぞれ色々な思惑を持った様々な異星人からちょっかいを掛けられているのが現状や、さらに……」

 

「さらに?」

 

「宇宙に移民した人たちが連合の支配から脱却を目的に、自治政府を樹立した。これを良しとしない連合の強硬派が、軍を派遣して、自治政府を潰そうとしたが、連合の穏健派がこれを必死に押し留めている……というのがここ十数年の流れやね」

 

「……隼子さん、ひょっとしてなんですが……」

 

「ん?」

 

「地球ヤバいんですか?」

 

「相当ヤバいよ、滅亡への二三歩前ってところやね」



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第1話(3)予想だにせぬ半裸

 あっけらかんととんでもないことを言う隼子にやや面食らう大洋。

 

「し、しかし、そのわりには、飛燕さんも皆さんもなんだかのんびりしていますね。まあ大会が近いということで慌ただしくはありますが……」

 

「まあさっきも言ったように、この十数年、怪獣の出現やら古代文明人や異星人の侵略行為、反地球連合勢力のテロ活動なんかはそれほど活発なわけではないからね。大体、何故かはよう分からんけど、そういった事態は都会がターゲットになることが多いねん。それに比べたら、ここら辺の地方都市はまあ静かなもんやで」

 

「そうなんですか……」

 

「半年に一回位かな、佐世保にそういった緊急事態が起こるのは。それも防衛軍や大企業のロボットが鎮圧してまうから、ウチらにお鉢はほとんどまわってこんけどな」

 

「……出撃の場合はあの機体を使うんですか?」

 

 大洋が格納庫の隅に立つ、白い幌を被った機体を指差した。

 

「いやいや、あの機体はもう現役を退いたアンティークって話しや。大体幌を取ったとこ、ウチも見たこと無いし。出撃で使用するのは我が社自慢のFS(フタナベスペシャル)改や」

 

「飛燕さんも……?」

 

「え?」

 

「飛燕さんも出撃されるんですか?」

 

「あ、ああ、こう見えてもパイロットやからな、まあウチの場合は主に住民の避難誘導がメインやけどな……」

 

「でも必要に迫られれば……戦うんですね?」

 

「そ、そりゃあな」

 

「怖くはないんですか?」

 

「いや、そら怖いよ! 当たり前やん!」

 

「だったら何故、危険なパイロットを……」

 

 大洋の問いかけに隼子は俯いて小声で呟いた。

 

「戦わなアカン理由があるからや……」

 

「飛燕さん……?」

 

「あ~! ま、まあええやん! 乙女の秘密っちゅうやつや! そんなことよりさ、その『飛燕さん』っていうのをやめへん?」

 

「え?」

 

「歳も一個しか変わらんのやし、ウチのことは隼子って呼んでええよ! 何か名字で呼ばれると他人行儀な感じがするわ。同じ会社で働く家族みたいなもんやし、下の名前で呼んでや。ウチの会社の皆もそうやし」

 

「家族……ですか。分かりました」

 

「あ~敬語も要らん要らん! 何か調子狂うわ。だからウチもアンタのこと名前で呼ぶわ、そんじゃ改めてよろしくな、大洋!」

 

「分かり……分かった、よろしく、隼子」

 

「うんうん、それでええねん!」

 

 隼子は笑顔で大洋の肩を軽くポンポンと叩いた。その時、サイレンの音が鳴り響いた。

 

「⁉」

 

「警報⁉」

 

「……会社付近の海岸に正体不明の巨大怪獣が出現! 各員持ち場に着いて下さい! 繰り返します……」

 

 スピーカーから女性のアナウンスが聞こえる。隼子は白衣を脱ぎ捨てて走り出した。白衣が大洋の顔に掛かる。

 

「っ! 隼子! どこに行く⁉」

 

 白衣を除けながら大洋が問い掛ける。隼子が振り向かずに答える。

 

「決まっているやろ! 出撃や‼」

 

 隼子は更衣室で素早くパイロットスーツに身を包むと、第一格納庫に一機だけ残っていたFS改の元に駆け付け、機体の状態をチェックする大松に声を掛ける。

 

「大松さん、出撃します!」

 

「い、いや、しかし……」

 

「今会社に残っているパイロットはウチだけです! 大丈夫、やってみせます!」

 

「う~む……」

 

 大松は腕を組んで考え込む。大会に参加するため、正規のパイロットたちは皆機体とともに出払ってしまっていた。さらに社長以下主だった役職の面々も同様に不在だったため、現場の指揮権は古株の大松に委ねられていた。

 

「このままでは会社どころか、近隣の住宅地にも被害が及びます! 決断を!」

 

「わ、分かったばい! 飛燕隼子、直ちに出撃せよ!」

 

「了解!」

 

 隼子は敬礼すると、すぐさま機体に乗り込んだ。大松や整備員たちが離れたことを確認すると、全高8mのモスグリーンの機体を起動させ、出撃体勢に入った。一歩二歩とゆっくり前に歩くと、そこから勢い良く走り始めた。ガシャンガシャンという音を立てながら、格納庫から外に出た。

 

「さて、敵さんは……?」

 

 隼子がモニターを確認する。画面には海岸に上陸した怪獣の姿が映し出された。二足歩行で歩く、ワニのような外見の怪獣である。

 

「上陸してもうたか……」

 

 コックピットに通信が入る。声の主は大松であった。

 

「先程、付近の防衛軍にも出撃を要請したと! 隼子、くれぐれも無理は禁物ばい!」

 

「それは敵さん次第です……!」

 

 隼子は操縦桿を操作し、機体を怪獣に向けて急加速させた。怪獣の動きも案外素早かったため、想定よりも早く相対することとなった。

 

「うお……! 思ったよりもデカ!」

 

 FS改の頭部に備えられたモノアイ式のカメラで捉えた怪獣の姿を確認した隼子は怪獣の大きさにたじろぐ。モニター画面に分析データが表示される。

 

「体長約25m……! こちらの3倍以上のデカさやな! 種別データは……該当無し⁉ ちょっと待った、新種って奴かいな!」

 

怪獣も隼子の機体を認識したようで、覗き込むような体勢を取った。

 

「未知数の相手やが……先手必勝や!」

 

 隼子のFS改がその腰部に付いたホルスターから口径120mmのチェーンライフルを抜き取って構える。しっかりと怪獣の頭部に狙いを定める。

 

「まずは眼を潰す! 喰らえ!」

 

 そう言って、隼子はライフルを発射した。放たれた弾は狙い通り怪獣の頭部に命中したものの、眼からは僅かに外れてしまった。怪獣は若干顔をのけ反らせた。

 

「眼は外してもうたか……⁉」

 

 次の瞬間、怪獣が右腕を振りかぶり、鋭い爪で隼子の機体を切り裂こうとした。

 

「危なっ!」

 

 間一髪で隼子は機体を後退させ、攻撃を躱した。

 

「あの爪は要注意やな……ただ、手は短いからリーチもたかが知れとる。このまま距離を取って戦えば……⁉」

 

 怪獣は後ろに振り返ったかと思うと、その長い尻尾を勢いよく振って、隼子の機体に叩きつけた。

 

「うおっ……!」

 

 直撃をもろに食らってしまった隼子の機体は派手に吹き飛ばされ、二辺工業の敷地内へと転がった。

 

「くっ……アホかウチは! ベッタベタな攻撃を食らいよってからに!」

 

怪獣がゆっくりと迫ってくる。隼子は機体を急いで起こそうとするが、赤く点滅するモニター画面を見て愕然とする。

 

「な⁉ 脚部に異常あり⁉ 立てへんやんけ!」

 

社屋内で戦況を見つめていた大松も焦り、臨時でオペレーター役を務めている女性に向かって怒鳴る。

 

「防衛軍は何をしていると!」

 

「別地区でも怪獣が出現し交戦中! そちらにはすぐには向かえないとのことです!」

 

「なっ⁉ 同一地域内でほぼ同時に怪獣が出現⁉ この十数年無かったことが……」

 

 予想外の出来事に一瞬頭がパニックになった大松であったが、すぐに気を取り直して、会社中に指示を飛ばす。

 

「全員直ちに緊急避難ばい! 自分の身を守ることば最優先すると!」

 

 すると大松の視界に上半身だけでも機体を動かそうとするFS改の姿が入った。大松が慌てて通信を入れる。

 

「隼子、何しとると⁉ 早く機体を捨ててそこから逃げるばい!」

 

「逃げるとか、冗談……! さっきも言うたけど、ここで食い止めな住宅地に被害が及んでまうでしょ……」

 

「くっ!」

 

 大松は格納庫に急いで降りる。車を運転して機体の元に向かい、隼子を無理やりにでも機体から引きずり降ろそうと考えた。格納庫に着くと、頭を抑えてうずくまる大洋を見つけた。

 

「だ、大丈夫か! どこか怪我でもしたと⁉」

 

 心配する大松の声に対し、何やらぶつぶつと呟く大洋。

 

「銀座、原宿、六本木……」

 

「た、大洋! しっかりすると!」

 

 叫びにハッと気づいた大洋が大松の方に振り返る。

 

「大松さん!」

 

「ど、どげんしたと?」

 

一方、ゆっくりと迫りくる怪獣に対して、隼子は機体の上半身だけを起こしてライフルを撃ち続けていたが、弾が当たっても怪獣をその歩みを止めない。

 

「ちっ……そもそもこのライフルじゃさっぱり歯が立たんやん……」

 

 いよいよ怪獣が隼子の眼前に立った。怪獣が再び右腕を振り上げる。

 

「ここまでなんか……?」

 

 怪獣が爪をたてて右腕を振り下ろす。隼子は思わず目を瞑った。

 

「っ! ……えっ⁉」

 

 次の瞬間、目を開けた隼子は驚いた。自らの機体の前に怪獣と鍔迫り合いをする見慣れない金色の機体が立っていたからである。約17m位の大きさながら、自らより大きい体である怪獣の爪による攻撃を左肘から突き出したブレードで受け止めている。

 

「な、何や……⁉」

 

 ここから更に隼子は驚くこととなる。なんと金色の機体が怪獣を押し返してみせたのである。バランスを崩した怪獣は後ろに倒れ込んだ。それを見て、金色の機体が隼子の方に振り返って屈んだ。そして右腕を隼子の機体腹部のコックピット部分へと伸ばし、その掌を大きく広げた。

 

「隼子、ハッチを開けてこっちに乗り移れ! 外に出るよりひとまず安全だ!」

 

「その声……もしかして大洋か⁉ アンタ何してんねん⁉」

 

「説明は後だ! いいから早く!」

 

 予想外の事態に三度驚く隼子を大洋が促す。隼子は戸惑いながら、FS改のハッチを開き、金色の機体の掌に飛び乗った。それを確認した大洋は機体の右手を自らの腹部にあるコックピット付近に持って行く。ハッチが開いた。

 

「乗れ!」

 

「お、おう!」

 

隼子は金色の機体のコックピットに文字通り飛び込んだ。

 

「よし、とりあえず無事だな!」

 

「ああ、おおきに……って、えええっ⁉」

 

 隼子は四度驚いた。コックピットにはフンドシ一丁の大洋が座っていたからである。

 

「なんで半裸やねん⁉」



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第1話(4)第4世代の光

「え?」

 

「いや、え? じゃなくて、何がどうなってフンドシ一丁って状態になんねん⁉」

 

「馬鹿! そんなこと気にしている場合か!」

 

「阿呆に馬鹿って言われた!」

 

「来るぞ!」

 

「いや疑問に答えろや……ってうおおおっ⁉」

 

怪獣が尻尾による攻撃を繰り出してきた。大洋は機体の左腕をを操作してガードの体勢を取るが、衝撃を受け止めきれず、真横に吹っ飛ばされる。金色の機体は二、三回転がって立膝を突く。

 

「くっ、厄介な尻尾だな……」

 

「嫌あああっ!」

 

 隼子が悲鳴を上げる。

 

「どうした⁉」

 

「どうしたもこうしたもあるかい! なんでアンタの股間を至近距離で見なアカンのや⁉」

 

「それはお前が逆さまの体勢になっているからだろう」

 

「冷静なことで!」

 

「悪いがちょっと邪魔だ。シートの後ろにでも捕まっていてくれ」

 

 大洋が右手の親指で自らの後方を指し示す。隼子はどうにか体勢を立て直して、言われた通りにシートの後ろへと移動した。呼吸を落ち着かせてから大洋に尋ねる。

 

「大洋、アンタ操縦できたんか⁉」

 

「どうやらそうみたいだな!」

 

「パイロットだったんか?」

 

「覚えてないが、体の方が覚えているようだ!」

 

「この機体はあの幌を被っていたやつか?」

 

「そうだ!」

 

「一体、何なんや、コイツは?」

 

「それは分からん!」

 

「分からんのかい⁉」

 

 そこに、大松から通信が入る。

 

「隼子! 無事だったとね!」

 

「大松さん! ナイスタイミング! 聞きたいことが……」

 

「いや、オイにもよく分からんが、突然何ごとか叫んだかと思ったら、おもむろに服を脱ぎ始めたばい……」

 

「半裸になった経緯はどうでもいいんですよ! いや、気にはなるけども! それよりもこの機体! 何なんですかコイツは?」

 

「そいつは我が社が約17年前に開発した戦闘ロボット、『(こう)』ばい!」

 

「17年前って……第4世代の機体やないですか⁉ 今はもう第7世代ですよ!」

 

「なんの! カタログスペックは十分ばい!」

 

「ああ、コイツならやれる!」

 

 大洋が操縦桿を操りながら叫ぶ。

 

「そうなんか⁉」

 

「……そんな気がする!」

 

「いや、確証ないんかい!」

 

 そこに怪獣が再び尻尾で薙ぎ払ってきた。大洋は光の背面バーニアを噴出させ、飛び上がってその攻撃を躱した。隼子が感心する。

 

「よく躱したな!」

 

「確かにジャンプ力、推進力ともに十分だ! これで一気に間合いを詰める!」

 

 大洋が再びバーニアを噴出させ、光を怪獣に接近させる。

 

「懐に入った!」

 

「よし! これで……」

 

 大洋は光の右肘部分からブレードを突き出して、怪獣の胸部を攻撃する。

 

「やったか⁉」

 

「いや……浅い!」

 

 大洋の言葉通り、光のブレードは怪獣の厚い皮膚に深く突き刺さった訳では無かった。

 

怪獣がその左手を光に叩き付ける。光は再び吹っ飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

 大洋はすぐさま機体を起こす。今度も咄嗟に右腕でガードを取ったため、胴体への直撃は何とか避けられた。シートにしがみつき、再び逆さまの状態になるのを堪えた隼子が大洋に声を掛ける。

 

「なんぼ巨大怪獣でも生き物ならば、心臓、またはそれみたいなもんが必ずあるはずや。胸部や腹部を狙った攻撃は悪くない判断やと思うで!」

 

「だが、このブレードではあの分厚い皮膚を破れん!」

 

「困った時の事情通や!」

 

隼子がシートの後ろから右腕を伸ばし、コントロールパネルを操作して通信回線を開く。

 

「大松さん! 戦況は確認してますやろ⁉」

 

「ああ! 勿論ばい!」

 

「なんかないんですか! この光に他の武装は⁉」

 

「頭部の額の辺りにバルカン砲が……いや、今は弾を込めておらんばい……」

 

 怪獣がまたも尻尾を振り上げた。隼子がもはや悲鳴に近い声を上げる。

 

「うわあ、また尻尾ビンタが来るで!」

 

「ちっ……マズいな!」

 

「ど、どないしたん⁉」

 

「バーニアに異常発生だ! これではあの素早い攻撃を躱せん!」

 

「スマン……近々定期点検を行うつもりだったんやが……」

 

 スピーカーから大松の申し訳なさそうな声が聴こえてくる。それに対して隼子が悲痛な叫び声を上げる。

 

「いや、そこで謝られても!」

 

「諦めるな!」

 

「⁉ 大洋……」

 

「諦めなければ絶対に活路は開ける!」

 

「そ、そない言うてもやな~ああっ、来るで!」

 

 隼子が前方を指差す。怪獣が尻尾を勢いよく振り下ろしてきた。光を上から叩き潰そうという狙いである。

 

「……そうや! 大洋! 左脚部ばい!」

 

「!」

 

 大松の声に反応した大洋が瞬時にコントロールパネルを操作する。しかし、怪獣の尻尾がすぐ眼前まで迫ってきた。隼子はまたしても目を瞑った。

 

「……ん? あ、あれ? ペシャンコになってへん……って、ええっ⁉」

 

 隼子は目を疑った。前方のメインモニター画面一面に怪獣の尻尾の断面が広がっていたからである。

 

「ど、どういうこっちゃ? 尻尾は?」

 

「斬った」

 

「斬ったって……あ、あれは⁉」

 

 隼子は周りを見渡すと、光の右手に鋼鉄製の巨大な刀が握られており、さらにその先には、斬りおとされた怪獣の尻尾が転がっていた。

 

「こ、これは……?」

 

 戸惑う隼子に、大洋が振り返って説明する。

 

「オレ、キッタ、シッポ、カタナデ」

 

「そりゃ分かっとるわ! なんで急にカタコトになんねん! 聞きたいのは……」

 

「それが光の主武装、名刀・光宗(みつむね)ばい!」

 

 スピーカーから大松の誇らしげな声が聴こえてくる。

 

「名刀・光宗……」

 

「左脚部の太腿辺りに収納されていた。抜刀術の要領で刀を抜き取ると同時に、あの尻尾を斬りおとした」

 

「さ、さよか……」

 

「咄嗟のことだったが、上手くいって良かった。大した切れ味だな」

 

 大洋は刀身をまじまじと見つめる。すると怪獣が低く唸り声を上げる。

 

「尻尾斬られて逆上しとる!」

 

 怪獣が右腕を振りかぶった。

 

「爪で引っ掻いてくるで! 受け止めるか⁉」

 

「……いや、ここは!」

 

 怪獣が思い切り右腕を振り下ろしてきた。だが、光は宙に飛んで、その一撃を躱した。

 

「攻撃あるのみだ!」

 

「やっぱりバーニアが壊れとる! 頭を狙うなら高さが足りん!」

 

「十分だ!」

 

 光は両手で刀を掴み、大きく振りかぶった。

 

「喰らえ! 大袈裟切り‼」

 

 光は刀を怪獣の左肩から右太腿辺りにかけて斜めに一気に振り下ろした。次の瞬間、怪獣の体は二つに別れ、地上にボトリと落ちた。怪獣が動かなくなったことを確認し、光は刀を脚部に収納した。

 

「か、勝ったんか……?」

 

「ああ」

 

「……」

 

「隼子?」

 

「うわあああ! 良かった~! ホンマに死ぬかと思った~!」

 

 隼子はほとんど泣き叫びながら、前方に座る大洋に抱き付いた。

 

「ありがとう、大洋! アンタは命の恩人や~ホンマおおきに~」

 

「わ、分かったから離してくれ、く、首が締まって……」

 

 

 

 数時間後、防衛軍が到着し、怪獣の死骸の回収を開始した。大洋たちはその様子を格納庫から眺めていた。

 

「何でこそこそ隠れる必要があるんです?」

 

 隼子が光を見上げながら、大松に尋ねる。

 

「いや、諸々の事情があるばい。今はまだこの機体のことは秘密にしておきたいと」

 

「ふ~ん、あ、そうや大洋」

 

 隼子は傍らに立つ大洋に話しかける。

 

「何だ?」

 

「アンタ、落下してきた時もフンドシ一丁やったな、コックピットに座るときはフンドシ姿になる……この一見奇矯な行動にアンタの記憶を取り戻す鍵があるんとちゃうか?」

 

「いや……残念だが恐らく違う気がする」

 

「え?」

 

「これは多分、単なる俺の性癖だと思う。何故ならその方が妙に落ち着くからな」

 

「ホンマにただの変態やないか!」

 

 ギャーギャーと騒ぐ隼子たちを物陰から一人の少女が見つめていた。

 

「イレギュラーな事態だったけど、良いデータが取れたわ……疾風大洋、サンキューね」



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第2話(1)突然のムササビ

「だぁー! くそー!」

 

 隼子が叫びながら、ゴーグルを外す。黒くなったディスプレイには『YOU LOSE』の文字が浮かぶ。隣に座っていた大洋がゆっくりとゴーグルを外し、口を開く。

 

「もういいか? 大松さんに頼まれた仕事があるんだが……」

 

「もう一回! 負けっ放しじゃ終われん!」

 

「さっきからそう言って、もう十回はやっているぞ」

 

「ぐっ……この戦闘シミュレーションでウチはほとんど負けたことないのに……!」

 

「お取り込み中申し訳ないんだけど……」

 

 二人が声のした方に振り返ると、顎に不精髭を生やした丸眼鏡の中年男性が部屋の入口に立っていた。

 

「あ、小菅部長、お疲れ様です!」

 

「お疲れ、昨日の今日で戦闘シミュレーションとは精が出るね」

 

「いえ、これが仕事ですから! 部長はどうしてこちらに?」

 

「いや、こちらの疾風くんに用事があってね……、まだちゃんと挨拶はしていなかったよね? 初めまして、僕は総務部長の小菅和弘(こすげかずひろ)です」

 

「は、初めまして、疾風大洋です!」

 

 大洋は慌ててシミュレーション用のゲーミングチェアから立ち上がって、挨拶を返した。

 

「大洋に何か用事ですか?」

 

「今朝方、うちの部のものから社員用のタブレットが支給されたと思うんだけど?」

 

「ああ、はい。これですね」

 

 大洋は作業着の内ポケットから小型のタブレットを取り出した。小菅は頷いた。

 

「そっちにメールは届いてる?」

 

「えっと……はい。届いています……『中途入社手続きについて』?」

 

「うん。昨日のことも含めて、最近色々とバタバタしちゃってて、延び延びになっていたんだけどさ。個人情報等入力して、総務の方に返信しておいてくれないかな?」

 

「個人情報ですか……?」

 

 大洋が少し困った表情を浮かべる。隼子が代弁する。

 

「部長、大洋は記憶が……」

 

「ああ、それは聞いているよ、大変だね。だから憶えている範囲で構わないからさ、チャチャっと入力しちゃってよ」

 

「ええんですか?」

 

「まあ、採用はもう社長が決めちゃったからね。これ以上僕がどうこう言うことじゃないよ、こういうご時勢だし、うちみたいな地方の一中小企業には色んな経歴の人がいるから、あんまりあれこれと詮索するのもね……お互い面倒でしょ?」

 

「ま、まあ、会社がそういう考えなら、ウチも何も言えませんけど……」

 

 隼子も一応は納得した姿勢を見せた。

 

「エンジニアとして優秀だって聞いているし、何より昨日のパイロットとしての大活躍っぷり! こんな優秀な人材を逃す手は無いよ」

 

「……」

 

「ん? どうしたの? もしかして入社するつもりは無い感じかな?」

 

 小菅の質問に大洋は慌てて首を振って答える。

 

「い、いいえ。他に行くあても無いですし……こんな自分で良ければこちらの会社でお世話になります!」

 

「うん。じゃあ、入力して返信よろしくね、明日までで良いからさ、そんじゃ……」

 

「あ、あの!」

 

「ん? 何?」

 

 部屋を出ようとした小菅を隼子が引き留める。

 

「昨日の戦闘についての報告レポートの件なんですが……」

 

「ああ、そういやそれもあったね。知っての通り、防衛軍に提出する為のものだ、一両日中に頼むよ」

 

「金色の機体……光については、それを伏せてレポートを作成しろとのことですが、どういうことでしょう?」

 

「まあ……あの機体についてはしばらく伏せておきたいというのが会社の考えなんだよ」

 

「でも映像データを併せて提出するんですよね?」

 

「映像に関しては『録れていませんでした、テヘペロ♪』で誤魔化そうかなっと思っているんだけど……」

 

「いや、それはアカンでしょ⁉」

 

「……確かにおっさんのテヘペロ♪は自分でも気持ち悪かったと思うよ」

 

「そうじゃなくて!」

 

「うちの部署の若い女の子に言わせるから……」

 

「伝える人の問題やなくて! 若い女でも仕事でテヘペロ♪はアカンし! だからそうじゃなくて、映像なしだったらバレるでしょ? あの怪獣の死骸を見たら、FS改ではどうしてもこんな傷を付けるのは無理やって、察しが付きますよ!」

 

 興奮気味の隼子を両手で落ち着かせながら、小菅が答える。

 

「あのワニの怪獣、新種だったんでしょ? だったらしばらくはそっちの分析に関心があるはずだから……とにかくあの機体はこっちの重要機密みたいなもんだからさ、戦闘データに関しては上手いこと誤魔化しといてよ」

 

「防衛軍、というか国に対していつまでも隠しきれへんと思いますよ……」

 

「だからしばらくで良いんだよ」

 

「しばらくっていつまでですか?」

 

 隼子の追及に小菅はやや困った顔をしつつ、一瞬間を置いて答えた。

 

「あの機体に関しては僕も詳細は知らされてないんだ。どうしても知りたいなら、あの娘に聞いてみたら?」

 

「あの娘って……もしかして開発部のアイツですか?」

 

「うん、主任研究員のアイツ」

 

「そ、そうですか……」

 

「入力・送信終わりました」

 

 そう言って大洋がタブレットを内ポケットにしまった。そして、隼子に告げる。

 

「あの機体のことは俺も気になっていた。ちょうど大松さんに頼まれていた用事も開発部主任研究員に関係することだったんだ。一緒に行かないか?」

 

「い、いやウチは別に良いかな~?」

 

「さっき『この戦闘シミュレーションでウチは連勝記録を持っているんや! 負けたら何でも言うこと聞いたるで~』って言ってたよな?」

 

「ぐっ……なんで一字一句正確に覚えてんねん……わ、分かった、一緒に行くわ!」

 

 数分後、二人は開発工廠に来ていた。しかし、誰もいない。隼子が辺りを見回す。

 

「あれ、皆休憩中かな? すみません~!」

 

「! 隼子、伏せろ!」

 

「え⁉」

 

「『忍法、ムササビの術』!」

 

 階段の踊り場から一人の少女が白いシーツを背負い、そのシーツの四つ角をそれぞれ両手両足でつまんで、パラシュートを広げるような要領で一階に向かって飛び降りてきた。体重が比較的軽いこともあって、落下というよりは滑空の体勢が思いの外取れていた。だが、その為に、大洋たちと衝突しそうになり、大洋と隼子は咄嗟のところでそれを躱した。ムササビ少女は着地に一旦は成功したかと思われたが、3歩目辺りでバランスを崩し、何やら工具が置いてあるテーブルに突っ込んだ。

 

「だ、大丈夫か!」

 

 大洋が心配そうに声を掛ける。ムササビ少女はシーツでしばらく身を包んだ後、突如としてそのシーツを真上に勢いよく投げ捨てた。

 

「うーん、ムササビの術、まだまだ検討の余地ありだね……」

 

「余地なしや! そんなことより先に言うことあるやろう!」

 

「え?」

 

「だから、え? じゃないちゅうねん。あんたのそのけったいな忍術?でこっちは危うく怪我するところやったんやから」

 

 ムササビ少女も事態を把握し、隼子たちに謝罪した。

 

「これはもうとんでもないことを……リーソー、リーソー」

 

「あ、なるほどな~自分日米ハーフやからな、英語も堪能やねんな……ソーリーをリーソーっていうのはつまり日本語に訳すと、ゴメンゴメンをメンゴメンゴという意味になるんや、なるほどね~……ってなると思ったか! このボケ!」

 

「まあまあ、少し落ち着きなさいな」

 

 ムササビ少女はテーブルの上に立って怒る隼子を両手で宥める。

 

「これが落ち着けるか! 一遍アンタにはガツンと言ってやらなアカンと思っていたんや! テーブルから降りて来いオーセン!」

 

「オーセン?」

 

 不思議そうな顔を浮かべる大洋に隼子が答える。

 

「せや、アンタのお目当ての開発部主任研究員がこの娘やで!」

 

「ええっこんな少女が⁉」

 

 気が付くと、大洋の前に立っていた少女がこう名乗った。

 

「ロボット研究の若き天才、桜花(おうか)(ライトニング)(ひらめき)だよ、よろしくね、大洋」

 

 そう言って少女はつま先立ちになって、大洋の頬にキスをした。

 

「⁉」

 

 突然のことで大洋は狼狽し、隼子は唖然とした。



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第2話(2)インクレディブル・シルバー

「な、何をしてんねん!」

 

「何って挨拶だよ、問題ある?」

 

「問題あるやろ! ……い、いや、無いな……ウチ、何で怒ってんねやろ?」

 

 首を傾げる隼子をよそに話を進める大洋。

 

「君が開発部主任研究員か、大松さんからこれを渡しておいてくれと頼まれた」

 

「メモリースティックとはまたアナログなデータ管理だね~。まあ今の時代、かえって秘密保守にはなるか」

 

 閃は大洋から受け取ったものを羽織っている白衣の内ポケットにしまった。大洋はジッと彼女を見つめる。

 

「何?」

 

「いや、サイズ合ってないんじゃないか、その白衣?」

 

 大洋の指摘通り、閃の白衣はブカブカである。

 

「これは今後の成長を見越しているんだよ」

 

 そう言って、閃は口を尖らせる。

 

「アンタ、17でそれなら見込み薄やろ」

 

「17⁉ てっきり13、14位だと……」

 

「ロリ体型で悪かったね!」

 

 閃が腕を組んでそっぽを向く。大洋が慌ててフォローする。

 

「し、しかし、その若さで開発部主任研究員とは凄いな」

 

「さっきも言ったでしょ? 『ロボット研究の若き天才』、『人類を導く者』、『花も恥じらう雷鳴美人』とは私のことだよ」

 

「せめて二つ名は一つに絞れ! ただでさえ名前も長いんやから!」

 

「だから、オーセンで良いって言ってるじゃん~」

 

「そのオーセンって言うのは……?」

 

 大洋の質問に隼子が答える。

 

「『桜花』のオーに、『閃』を音読みしてセン、合わせてオーセンや」

 

「ああ、愛称か」

 

「大洋もそう呼んで良いよ」

 

「いや……閃はなかなか良い名前じゃないか。俺は閃って呼んでもいいか?」

 

 閃は一瞬目を丸くしたが、すぐ笑顔になった。

 

「好きなように呼んでよ、そうだ、『インクレディブル・シルバー』っていうのもあるよ。まあ、これは髪の色から来たやつだけど」

 

 そう言って、閃は自らのショートボブの銀髪をわざとらしくくしゃくしゃにした。

 

「『インクレディブル』……“素晴らしい、凄い”って意味か」

 

「初めはな、今はむしろ“信用できない、信じられない”って意味やろ」

 

「信用できない?」

 

 大洋が隼子に尋ねる。

 

「飛び級で日本の大学に入学し、その後はアメリカの名門大学院に進学、若干12歳で卒業、『ロボット研究の若き天才』と騒がれた、その時はな」

 

「その時は?」

 

「卒業後は世界有数のロボット開発企業に入社、しかし三年程経っても莫大な研究費をかけるばかりで目立った成果を残せずリストラ。その後は日本に戻り大手企業に入るも、そこでも結果を残せず、紆余曲折あって、今この会社に至る……というわけや」

 

「概ね合っているね、大抵こういうのは噂に尾ひれ羽ひれがつくものだけど」

 

 隼子のやや一方的とも思える批評にも閃は怒った様子を見せず、淡々と肯定した。

 

「まあ、私の最悪にして最大の不幸は誰も私の考えを理解出来ないってことかな~」

 

「理解出来ない?」

 

「そう、私の天才的な発想に誰も着いてこれないのさ」

 

「突拍子も脈絡もない発想やろ……」

 

「何だか今日はやけに突っかかってくるね~ジュンジュン?」

 

「ジュンジュン言うな!」

 

「……閃は光について何か知っているのか?」 

 

 大洋は話題を変えた。閃はやや間を空けてその疑問に答えた。

 

「……いわゆる第4世代に該当する機体で、私の知る限り、この会社の最高傑作の一つだね。建造には高コストがかかったため、量産化は見送られた……」

 

「ウチも昨夜調べてみたけど、会社のデータベースには何も記載されてなかったで?」

 

「まあ、そりゃ重要機密だし? 知られてはならないから消去したんじゃない?」

 

「それをなんでアンタが知ってんねん⁉」

 

「う~ん、たまたま、ってことにしておこうか」

 

「なんやそれ!」

 

 閃に詰め寄ろうとする隼子を大洋が制する。

 

「落ち着け、隼子」

 

「せ、せやかてやな~!」

 

「閃、小菅さんは光についてはもうしばらく秘密にしておけというようなことを言っていた。しばらく、ということは、近い将来にあの機体を公にする考えなのか?」

 

「そうだね~」

 

「いつだ?」

 

「一か月後かな」

 

「い、意外と早いな?」

 

「まあ諸々の条件が整えば、の話だけどね~」

 

「条件……?」

 

 大洋はさらに詳しく尋ねようとしたが、そこに警報が鳴り響いた。

 

「⁉」

 

「なんや⁉」

 

 アナウンスが開発工廠にも流れる。

 

「……会社付近の山間部に正体不明の巨大怪獣が出現! こちらに向かってきている模様! 各員持ち場に着いて下さい! 繰り返します……」

 

「ま、またかいな!」

 

 連日の怪獣出現に戸惑う隼子。一方、大洋は既に走り出していた。

 

「大洋!」

 

「ボサっとするな! 出撃だ!」

 

「わ、分かっとるわ!」

 

「ファイト~」

 

 格納庫へ向かう二人を閃が気の抜けた声で送り出す。

 

「機体の調子はよかね? それじゃ各員は次の持ち場に着くと!」

 

 光の傍で大松が怒号を飛ばす。

 

「大松さん!」

 

「おう、大洋来たか! 悪いが今日もコイツで出撃ば頼む! ……って、ううん⁉」

 

「機体に異常は無いんですね!」

 

 フンドシ姿の大洋が尋ねる。

 

「強いて言うなら、搭乗員に異常ありばい! なしてまた裸になっとると⁉」

 

「せや! 服を拾う身にもなれや!」

 

「ありがとう! 助かる! ……よし、出撃だ!」

 

「よしって、なにも良いことあらへんがな! パイロットスーツを着ろや!」

 

 隼子の叫びも届かず、大洋は光に乗り込んだ。

 

「ああ、もう! ……大松さん!」

 

「FS改も出れるばい!」

 

「では、飛燕隼子、出撃します!」

 

 FS改に乗り込んだ隼子が大洋の光に次いで出撃しようとしたその時、格納庫の隅に白い幌を被った機体を見つけた。

 

「ん? 何やあれは? 今朝は無かったよな……」

 

「どうした隼子! 集中しろよ!」

 

 隼子のモニターに半裸の大洋が映る。

 

「アンタのその恰好でむしろ気が散んねん!」

 

 隼子は幌を被った謎の機体のことを一旦忘れて出撃した。



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第2話(3)苦戦の先に

 出撃した二人は、会社の敷地外で一旦止まり、モニター画面と外を交互に見て現状把握に努める。

 

「敵は⁉」

 

「山間部からこっちに下ってきとる!」

 

「あれか! ……巨大なイノシシか?」

 

 大洋のモニターにイノシシの様な怪獣の姿が映る。隼子がデータ照合を行う。

 

「……! また該当データ無し! 新種かいな!」

 

「体長は約14m。この光よりは小さいか」

 

「それにしても凄いスピードや! 一直線にこちらに向かってきとる! 市街地に向かわれるよりはマシやけどな!」

 

「ジュンジュン、大洋、聞こえる~?」

 

 二人のモニターに閃の姿が映る。

 

「オーセン、こんな時に何やねん⁉」

 

「悪いニュースともっと悪いニュースがあるんだけど~」

 

「最悪の二択やな!」

 

「悪いニュースから聞こう」

 

「冷静やな!」

 

「ほぼ同時刻に別の地域で怪獣が出現したってさ~」

 

「ええっ⁉ っていうことは……」

 

「そう、今日も防衛軍の援護は期待できない。あのイノシシさんは二人で何とかしてくれる~? それじゃあ良い戦闘データを……じゃなくて、健闘を祈るよ~」

 

 閃は呑気に右手を振って通信を切った。

 

「マイペースなやっちゃな!」

 

「来るぞ!」

 

 大洋は光の脚部から光宗を取り出そうとするが、隼子がそれを制する。

 

「まだや! まずはあのすばしっこい脚を止める!」

 

 隼子はFS改のチェーンライフルを構える。

 

「第一希望は見事命中やが……」

 

 一言呟いて、隼子はライフルを発射した。銃弾が飛んでくるのを銃声で察知した怪獣は、寸前でそれを躱す。隼子はその後、続けて二発撃つが、それも躱されてしまった。

 

「弾数には限りがあるだろう! 余り無駄弾は撃つな!」

 

「無駄ちゃうわ! よう見てみい!」

 

「……! なるほど、こちらの射線に誘導したのか!」

 

 隼子の撃った弾を躱した怪獣は、大洋から見てほぼ真直線の位置にその進行方向を移していた。隼子は胸を張る。

 

「これで光の頭部にあるバルカンの射程内やろ? 仕留めるのは任せたで!」

 

「流石、シミュレーションほぼ負けなしの女! 俺には負けっ放しだったが!」

 

「うおおい! 皮肉辞めろや!」

 

 隼子の叫びを余所に、大洋が頭部のバルカンを操作する。

 

「弾は補充して貰っているな、よく狙って……今だ!」

 

 バルカンが火を噴いた。大洋はその際、光の首を多少左右に動かした。

 

「上手い! 両脚を狙ったんやな、全速力で走っている最中に真横には飛べんはずや!」

 

「⁉」

 

「う、上⁉」

 

 左右には躱せないと本能的に察した怪獣は上に飛んで躱した。着地と同時に、勢いを失わぬまま大洋たちに向かって突っ込んできた。

 

「瞬発力と跳躍力があるな!」

 

「距離を詰められたで!」

 

「光宗を抜いては間に合わんか! ブレードで迎え撃つ!」

 

 大洋は光の右肘からブレードを出して身構えた。

 

「……くっ! 体勢が低いな!」

 

 四足歩行の相手は近づいてみると、思ったよりも低い場所からこちらに向かってきていた。大洋はすぐさま光の機体を屈め、怪獣の脚を狙ってブレードを振るった。しかし、怪獣は再び飛び上がって、頭から光に突っ込んだ。強烈な頭突きを喰らった光が後ろに吹っ飛び、会社の敷地内に転がった。

 

「大洋、大丈夫か!」

 

 隼子の声に大洋は機体を起こしながら答える。

 

「左手で咄嗟にガードした。なんとかコックピットへの直撃は避けられた……」

 

 怪獣がFS改の方に向き直る。隼子はライフルを構えようとするが、考えを改める。

 

「近接戦か、飛び込んできた所を斬る!」

 

 隼子はライフルを機体の腰部ホルスターへと戻し、肩部に収納されているソードを取り出して両手で構えた。怪獣は鼻を鳴らして、勢いよくFS改に向かって突っ込んできた。

 

「気分は侍やが……! 生憎ウチはパイロットやねん!」

 

 隼子はそう言って、FS改の右脚を動かして、地面を思いっ切り蹴り上げた。大きな土塊がいくつも怪獣目掛けて飛んで行く。それを躱すため、怪獣は宙に舞った。狙い通りの展開に隼子は思わず笑ってしまった。

 

「ははっ! そうや、やっぱり上に飛ぶよな!」

 

 隼子はソードを怪獣の顔に向けて斬りつけた。手ごたえありかと思ったが……。

 

「な、なんやて⁉」

 

 怪獣は隼子の繰り出したソードを、口を開いて牙で受け止めていた。そして再びその口を開いたかと思うと、豪快に噛み付いた。その牙は強靭で、ソードごとFS改の両手を噛みちぎった。さらにその勢いのまま、FS改の頭部に強烈な頭突きを見舞った。

 

「どおわっ!」

 

 FS改がたまらず倒れ込む。怪獣がその上に馬乗りになる。大洋が光を操作して、バルカンを放ち注意を自らに向ける。

 

「隼子、大丈夫か⁉」

 

「両手ごとゴッツい牙に持ってかれて、頭部のメインカメラもやられた! 状況が掴めん! 今サブのカメラに切り替える!」

 

 映像を切り替えると、口を大きく開いた怪獣の姿が隼子の目に飛び込んできた!

 

「でえええっ⁉」

 

「離れろ!」

 

 光が機体ごとタックルを喰らわして、怪獣は横に転がった。

 

「後退しろ、隼子! ここは俺がなんとかする!」

 

「ス、スマン!」

 

 光に向き直った怪獣が二、三度後ろ脚で地面を蹴る。大洋もあらかじめ光の体勢を低くして、相手の突進に備える。

 

「隼子の狙いは決して悪くは無かった……」

 

 怪獣が突っ込んできた。光はブレードを大きく振りかぶってみせた。怪獣が警戒した様子を見せる。しかし、大洋が選択した攻撃は頭部のバルカンだった。怪獣はやや面食らったようだったが瞬時に上に飛んで銃撃を避ける。

 

「飛んだ所を……斬る!」

 

 右肘のブレードで怪獣の顔を狙う。怪獣は口を開いて、牙でそれを受け止める。だがここまで大洋の想定内であった。

 

「ブレードはもう一つある!」

 

 光が左肘のブレードで斬りつけた。怪獣は右のブレードを受け止めているため、身動きは取れない。

 

「もらった! ……な、何⁉」

 

 大洋は驚いた。怪獣が両の前脚を使って、左のブレードを受け止めたのだ。そして、一旦口と脚を離し、光の両肘を蹴飛ばして、真横に飛んだ。着地すると間髪入れずに光の横っ腹に突っ込んできた。

 

「しまっ、ぐおっ!」

 

がら空きの脇腹に頭突きを喰らい、光はバランスを崩して転がった。怪獣はすぐさま光の上に飛び乗る。

 

「ぐ、マウントを取られた……」

 

 前脚で光の両腕をしっかりと抑えこんだ怪獣がその口を大きく広げる。戦況を見つめていた隼子が叫ぶ。

 

「大洋!」

 

「くっ……」

 

「こっちや、イノシシ!」

 

 隼子がFS改の手の甲に付いている機銃を放つ。だが、怪獣は微動だにしない。

 

「ち……アカン! 大洋、脱出や!」

 

「むう……」

 

 怪獣の鋭い牙が今まさに光に噛み付こうとしたまさにその時、この日一番の砲声が轟いた。砲撃を喰らった怪獣の牙が片方砕け散った。怪獣はのけ反った。

 

「な、なんだ……⁉」

 

 砲声のした方向に目をやると、そこには銀色の機体が立っていた。光とよく似たフォルムをしている。構えた右手の手首が折れ曲がって、そこからキャノン砲が覗いていた。

 

「見ていられないな~こんな所でやられてもらっちゃ困るよ~」

 

「そ、その声は⁉」

 

「閃か⁉」

 

「まあ、コイツのデータも取れると思えばいっか♪」

 

 銀色の機体は右手を元の状態に戻した。

 

お読み頂いてありがとうございます。



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第2話(4)奔放な電

「……という訳で、私も混ぜてもらうよ~」

 

 大洋と隼子、二人の機体のモニターに白衣姿の閃が映った。」

 

「その機体は何なんだ⁉」

 

「アンタ操縦出来たんか⁉」

 

 矢継ぎ早に尋ねる二人を閃は落ち着かせる。

 

「質問には一つずつ……まずこの機体の名前は『(でん)』。大洋の乗っている光とは同時期に開発された姉妹のような機体だね~。実は詳細は私もまだよく分かっていないんだけどさ。操縦に関してだけど、どんな機体もマニュアルを大体見れば、人並みには動かせるよ。なんてたって天才だからね~」

 

「電……」

 

「それで人並みかい……嫌味なやっちゃな!」

 

「それじゃあチャチャっと片付けちゃおっか~」

 

 突然の砲撃を受けて体勢を崩している怪獣を大洋は跳ね除けた。そして素早く機体を起こして距離を取る。

 

「近づかせるとあの牙は面倒だ……」

 

「じゃあ近づかせなければ良いんだよ~」

 

 閃は再び電の右手の手首を折り曲げて、キャノン砲を構えたと同時に、二発発射する。

 

「⁉」

 

「お、おい!」

 

 発射した砲撃だが怪獣はすんでのところでそれらを躱した。

 

「あちゃあ~外しちゃったか~」

 

 呑気な声を上げる閃に対し、隼子が怒鳴る。

 

「大洋が近くにおるやろ! 当たったらどうすんねん!」

 

「当たらないように気を付けたよ~」

 

「き、気を付けたってアンタな~!」

 

「待て! イノシシの様子がおかしい!」

 

 大洋の叫び声を聞き、隼子と閃は怪獣へ視線を戻す。すると怪獣は猛然と自らの足元を堀り始めた。

 

「な、何や⁉」

 

「宝探しでも始めるのかな~?」

 

「んなアホな!」

 

「どうする気だ⁉」

 

 すると、怪獣は自分の堀った穴へと飛び込んだ。

 

「穴に入りよった!」

 

「まさか……!」

 

 大洋が足下に目をやる。怪獣が地中を猛烈な勢いで進んでいく様子が確認出来た。

 

「くっ!」

 

 大洋は慌てて光に防御の姿勢をとらせる。次の瞬間、怪獣が地中から姿を現して、光に向かって突っ込んできた。光が吹っ飛ばされる。

 

「ぐおっ!」

 

 光が急いで体勢を立て直すが、怪獣は再び地面に穴を掘り、そこに潜り込んだ。

 

「地中でも地上並みの速度で動けるのか!」

 

「大洋! 後ろや!」

 

「何⁉」

 

 怪獣が光の後方から飛び出してきた。全く予想外の方向から飛び出してきた為、光は体当たりの直撃を喰らってしまう。

 

「ぐおっ!」

 

「大洋!」

 

「猪突猛進かと思いきや、意外と能があるね~」

 

「感心しとる場合か!」

 

 怪獣はそこかしこに穴を掘り、地中を縦横無尽に動き回り、飛び出しては光に体当たりを繰り返す。光は防戦一方を余儀なくされる。

 

「くっ……どこから飛び出してくるか分からん……」

 

「おい、オーセン! 何とか援護せな!」

 

「う~ん、そうだね~」

 

「そうだね~やなくて!」

 

「……ジュンジュン、肩借りるよ~」

 

「はっ⁉ 肩⁉」

 

 閃は電の機体を隼子のFS改に向かって走り出させる。

 

「な、なんや⁉」

 

「大洋! そこからちょっと離れといて~」

 

「な、何⁉」

 

 電は飛び上がり、FS改の肩を踏み台にして、空高く舞い上がった。電は左手の手首を折り曲げる。そこからガトリングガンが出てきた。

 

「モグラ叩きならぬ、イノシシ炙りってやつかな~」

 

 電はガトリングガンを連続で発射する。激しい銃撃が地上に降り注ぐ。

 

「どわっ⁉」

 

 大洋は何とかその銃弾のシャワーを躱した。

 

「む、無茶苦茶しよる……」

 

 隼子が呆れ声を上げる。

 

「! あれは!」

 

 銃撃によって、地中に潜っていた怪獣の姿が露になった。

 

「今がチャンスだよ~大洋~」

 

 怪獣は戸惑いながら、近くに立つ光に飛び掛かろうとする。しかし、ガトリングガンによって脚を撃ち抜かれた為か、動きが随分と鈍くなっていた。大洋はその隙を見逃さなかった。

 

「もらった!」

 

 光が脚部から名刀・光宗を引き抜く。怪獣が口を開きながらジャンプして、牙で噛み付こうとする。

 

「喰らえ! 牙折り!」

 

 光が刀を横に勢いよく薙ぎ払う。怪獣の体が上下に別れた。

 

「やった!」

 

「お見事~」

 

 隼子と閃がそれぞれ喜びの声を上げる。

 

 

 

 戦いが終わり、防衛軍が駆けつけ、怪獣の死骸を回収している。大洋たちはまたも機体を格納庫に隠して、その作業を見守っていた。

 

「やっぱりこの機体も秘密なんやな……」

 

 隼子の呟きに閃が答える。

 

「そうだね~後もうちょっとは秘密にしておきたい所だね~」

 

「諸々条件が整えばと言ったな、その条件とは?」

 

 大洋が閃に尋ねる。

 

「まあ、それももうちょっと秘密にしておこうか」

 

「秘密だらけやな……」

 

「さっきも言ったけど、私もまだよくこの機体たちについては詳しく分かってないんだよね~」

 

「そうなのか……」

 

「まあ、それはそれとしてやな……」

 

「ん?」

 

 隼子が居住まいを正す。

 

「オーセン、さっきは悪かったな、何か意地の悪いことばかり言うてしもて……」

 

「あ~やけに突っかかってきた奴~?」

 

「そ、そうや、スマン!」

 

「別に気にしてないよ~」

 

「き、気にしてないって……?」

 

「客観的に見てみれば、落ちぶれている様に見えるのは事実だしね~。まあ、ジュンジュンはそんな私を自分と重ね合わせちゃったって感じでしょ? でも別段焦りもしてない私に対してイラついたって所かな~?」

 

「そ、それは……」

 

 隼子は何か言い返そうとしたが、黙り込んでしまった。

 

「話が今一つ見えないが……」

 

「大洋は自分の記憶を取り戻すことを優先した方が良いよ~」

 

「そうか、まあいい……それより閃」

 

「何?」

 

「お前の戦い方だが……自由奔放過ぎる、もう少し連携意識というものを持った方が良い」

 

 フンドシ姿で腕を組みながら大洋は閃に戦い方を説いた。隼子が思わず突っ込む。

 

「アンタはもう少し恥じらいというものを持てや!」



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第3話(1)つまりは表に出ろと

「隼子! 無事か!」

 

 大洋が医務室に駆け込むと、ベッドに横たわっていた隼子は右手を軽く挙げて応えた。

 

「おお、いや大丈夫、大丈夫。大したことあらへんがな」

 

「そうか……」

 

「複数箇所に軽い打撲よ。骨には異常ないわ」

 

 白衣姿の女性が長い黒髪をかき上げながら近づいてきた。

 

「えっと……」

 

「そういえばこうして挨拶するのは初めてかしら? この会社の勤務医兼カウンセラーの真賀琴美(まがことみ)よ。君が墜落してきた日も会っているんだけど……お変わりないかしら?」

 

「ああ、はい、その節は大変お世話になりました。俺は特に大丈夫です」

 

「そう、なら良いけど」

 

 そう言って、真賀は飴を舐め始めた。大洋の視線に気づき、説明する。

 

「これはシガレットキャンディーよ。私、自分で言うのもなんだけど、大のニコチン依存なの。とはいえ勤務中にタバコを吸うわけにはいかないからこれで我慢してるの」

 

「それを我慢してるって言わないでしょ……」

 

 隼子がゆっくりと体を起こした。

 

「平気なのか?」

 

「もう一時間もここで横になっていたからな、大丈夫や」

 

「無理しない方が良いわよ?」

 

「いえ、まだ色々と仕事が残っていますので」

 

「パイロットさんはタフね~私なら今日はサボっちゃうわ」

 

「本当に平気か?」

 

「くどいな、ホンマに大丈夫やって」

 

「それなら良いが……」

 

「……着替えたいんやけど」

 

「ああ、スマン」

 

 大洋は医務室から出て、廊下で待った。

 

「お世話になりました……ん? 何や、わざわざ待っといてくれたんか?」

 

 制服に着替えた隼子が医務室から出てきた。

 

「……」

 

「大洋?」

 

「美人だな、あの先生。今まで気が付かなかった……」

 

 思わぬ言葉に隼子は軽く空を仰いだ。

 

「真賀先生はアンタよりもちょっと前にこの会社に来たんや。前の勤務医が随分とおじいさんでな、年齢的にそろそろ辞めたいって言うて。そしたら知り合いの知り合いとかであの先生が来たんや。それから大したことも無い癖に、ちょっと調子が悪い言うたら、医務室に行く男性社員が増えたで、全く男っちゅうもんは……」

 

 隼子は窓の外を見つめながらブツブツと文句を言う。

 

「カウンセラーと言っていたが?」

 

「ああ、なんかそういう資格も持っているらしいで、アンタも相談してみたら?」

 

「何を相談するんだ?」

 

「何ってそらアンタの記憶喪失に関してやろ。詳しいことは分からんやろうけど、もしかしたら専門医とか紹介してくれるかもしれないで」

 

「そうか、まあ後で機会があればな」

 

「今はアカンの?」

 

「今は別の用事がある。それにお前に伝言があるからな」

 

「伝言?」

 

「おお、なんだ、飛燕。もう退院か?」

 

 見るからに軽薄そうな茶髪の男が声を掛けてきた。隼子が苦々しく呟く。

 

「佐藤さん……」

 

「折角見舞いに来てやったのに。まあ、真賀ちゃんに会うついでだけどな」

 

 軽薄そうな男の隣に立つ、チャラそうな金髪の男がニヤニヤと語る。

 

「鈴木さん……」

 

「……この人たちは?」

 

「ウチの会社の正規パイロットのお二人や……」

 

「とりあえず大したことないみたいで良かったぜ。あれ位で大怪我されちゃ、おちおち模擬戦も出来ねえからな」

 

「怪獣を二体も撃破したって言うから少しは期待したのによ。あの体たらくじゃ俺らの練習にもならないぜ」

 

「そうそう、折角ロボチャンの県大会を勝ち抜いて、九州大会進出を決めたってのによ。かえって腕が鈍っちまうぜ」

 

「これで調子崩したらどうしてくれるんだよ?」

 

「……まさか二対一とは聞いていませんでした! それが分かっていればもう少し対処の仕様がありました……」

 

「言い訳すんなって」

 

軽薄な茶髪の言葉にチャらい金髪が同調する。

 

「そうだよ、実戦で相手の数を必ず把握出来るとは限らないんだぜ?」

 

「すみません……精進します」

 

 隼子は俯きながら答えた。茶髪が頭を掻きながら答える。

 

「いや、もういいぜ、お前」

 

「え?」

 

「入社して三年目だろ? それで俺たちにまともに攻撃を当てられないんじゃマジで才能無えって、いい加減辞めとけよ」

 

「そうそう、マジで大怪我する前にさっさと実家に帰った方が良いぜ」

 

「それは……」

 

「あ、事情あって帰れねえんだっけ、お前?」

 

「くっ……」

 

 隼子が拳を握りしめる。

 

「え、事情って何よ?」

 

「あれ、知らねえのお前? コイツさ……」

 

「先輩方」

 

 大洋が話を遮る。

 

「なんだよ、お前?」

 

「自分もパイロット志望なんです。お疲れの所申し訳ありませんが、自分とも模擬戦をやってくれませんか?」

 

「あ、お前確かエンジニアだろ? なんでお前とやらなきゃいけない訳?」

 

「そこをなんとか。是非ともご指導ご鞭撻を賜りたいのです。勝つためなら手段を選ばない、卑劣な戦い方の」

 

「ああ?」

 

「何? もしかして喧嘩売ってる?」

 

 金髪の問いに大洋はにこやかな笑顔で返答する。

 

「言葉の意味が分かりませんか? 表に出ろってことです」

 

「……! この野郎!」

 

「上等じゃねえか……十分後、演習場に来いや」

 

 そう言って、茶髪と金髪は踵を返し、格納庫の方に向かっていった。

 

「大洋、喧嘩はアカンって!」

 

「喧嘩じゃない、模擬戦をするだけだ」

 

「まさか、光で出るんか?」

 

「光はここ数日会社を離れていた人たちにも秘密にするという考えなんだろう? お前のFS改を借りるぞ」

 

「だ、だけど……!」

 

「それより閃から伝言があったのを思い出した。第二格納庫の裏に来いだと」

 

「は⁉ 何それ、呼び出し⁉ ひょっとしてボコられるんか、うち⁉」

 

「とにかく伝えたからな」

 

「ああ、ちょっと待ってよ!」

 

 隼子の叫びも空しく、大洋も格納庫へと向かってしまった。

 

「なんやねん……まあ、とにかく行くか」



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第3話(2)嫌いなこと

 格納庫で大松が不安そうにFS改のコックピットに座る大洋を覗き込む。

 

「大洋~大丈夫と?」

 

「何がです? 大会の戦いぶりは映像で確認しました。それなりに腕のあるパイロットたちだということは承知しています」

 

「いやいや機体のことばい……」

 

「機体?」

 

「向こうのは大会用に特別にチューンアップされた機体ばい。このFS改では、その、なんというか、若干の性能差が……」

 

「……」

 

「い、いや、隼子にも止めておけと言ったと! ただパイロット同士にはパイロットの上下関係というものがあって、オイでも容易に口を挟めんと……ましてやあの二人は我が社の数少ない正規パイロットやけん……すまん、何を言っても言い訳になるか……」

 

「……大松さん、一つ思い出しましたよ」

 

「な、何を思い出したと⁉」

 

「俺が嫌いなことです」

 

「嫌いなこと?」

 

「疾風大洋、出撃します!」

 

 大洋がFS改を起動させる。

 

 

 

 一方、隼子は呼び出された第二格納庫の裏にやってきた。そこには閃が立っていた。隼子は警戒しながら声を掛ける。

 

「な、なんや、オーセン、ウチに用事っちゅうんは?」

 

「あ、来たね~ジュンジュン。医務室でお休みのところ呼び出しちゃって悪いね」

 

 振り返った閃に隼子は思わず身構える。

 

「なんでファイティングポーズ?」

 

「い、いや、こういう建物裏に呼び出すっていうことはアレやろ? 生意気なウチを〆ようっちゅうことやろ⁉ そういうもんやって大体相場が決まってんねん!」

 

「ジュンジュン、何時代からきたのさ……」

 

 閃が呆れ顔で呟く。

 

「ちゃうんか⁉ ならば……もしかして愛の告白か⁉ い、いやその気持ちは嬉しいし、ありがたいよ⁉ で、でもな、女の子同士っちゅうんはその……」

 

「案外考え方が古いな~保守的というべきか……」

 

 閃が隼子に向かってゆっくりと歩いてくる。隼子は思わず後ずさりをして壁に背を付ける。閃は右手をドンと隼子の顔の横に突く。

 

「こ、これは噂に聞く壁ドン⁉ い、いや、そんな、ちょい待ち、オーセン! ま、まだ心の準備が……」

 

「だから何時代の人間だよ、ジュンジュン……」

 

 閃は再び呆れ顔になる。

 

「こ、こういうのはもっと段階というもんを踏んでからやな~?」

 

「まあ、ある意味告白ではあるけどね~」

 

 閃が壁の取っ手を引っ張ると、コントロールパネルのようなものが現れる。数字とアルファベットが並んだキーボードをいくつか押して、最後に『ENTER』と書かれたボタンを押す。

 

「こういうとこもアナログなんだよな~。まあ、これも機密保持の為かな~」

 

「はっ⁉」

 

 隼子が戸惑っていると、しばらくして、目の前の地面がゆっくりと動き、地下への階段が現れる。

 

「階段⁉ こんなものが……」

 

 閃が階段を降りようとして隼子の方に振り返る。

 

「色々検討したんだけど、この際ジュンジュンでも良いかな~って思ってさ。もう結構知り過ぎちゃってるしね~。大分非科学的な言い方だけど……これも運命ってことで」

 

「は、話がさっぱり見えへんのやけど……」

 

「……落ちぶれていると感じている現状から抜け出したいのならついてきて」

 

 そう言って閃は階段を降りていく。しばし呆然としていた隼子だったが、やがて意を決して閃の後に続いた。

 

 

 

 演習場では3体のFS改が向かいあっていた。

 

「はっ、逃げずによく来たな」

 

「……」

 

「さっきデータ検索したらよぉ、お前シミュレーションで飛燕に負けなしだってなあ?」

 

「……俺の十戦十勝位ですかね」

 

「へぇ、やるもんだな、アイツ、シミュレーションだけはやたら強いのによ」

 

「ただよ、シミュレーションはあくまでシミュレーションだ。実戦とは訳が違う」

 

「実戦?」

 

「そうだ、俺たちは先週ロボットチャンピオンシップ、通称ロボチャンの長崎県予選を勝ち抜いて九州大会進出を決めた!」

 

 軽薄そうな男が胸を張る。大洋が冷ややかに返す。

 

「それは知っています。さっきも聞きましたよ、鈴木さん」

 

「っ! 俺は佐藤だ!」

 

「おいおい、落ち着けよ……経験値ってもんが違うんだ、それをたっぷり教えてやるよ」

 

 チャラい男がやたら上から目線で言ってきた。大洋は淡々と答える。

 

「是非ともご教授お願いします、佐藤さん」

 

「っ! 俺は鈴木だ! お前わざと間違っているだろ!」

 

「というより覚えていません。正直どっちがどっちでもどうでもいいので」

 

「てめえ! ロボチャン長崎大会ファイナリストの実力見せてやるよ!」

 

 軽薄男の言葉を大洋は聞き逃さなかった。

 

「ファイナリスト? ああそうだ、優勝はしてないんですよね?」

 

「そ、それは……」

 

「出場権は確保したんだ、文句あるのかよ!」

 

 少し口ごもった軽薄男の代わりに、チャラ男が答える。

 

「別に文句はありません……くじ運と組み合わせに恵まれ、本命や有力チームが潰しあってくれたお陰の棚ボタ的な決勝進出だったこと、消化試合とはいえ、決勝はほぼ何も出来ず、良い所なく相手に完敗したこと、自分だったら恥ずかしいなとは思います」

 

「「!」」

 

「て、てめえ……怪我で済まなくても後悔すんなよ、エンジニア!」

 

「お前らのお陰で一つ思い出した……」

 

「あん?」

 

「思い出した?」

 

「俺が嫌いなことだ……俺は『曲がったことが大嫌い、疾風大洋だ‼』」

 

 大洋は操縦桿を思い切り倒し、FS改を相手に突っ込ませた。

 

 

 

 二人が地下に降りると、そこには広大なスペースの格納庫があった。階段を降りながら隼子が感嘆した声を上げる。

 

「地下にこんなゴッツい格納庫があるなんて……」

 

「私も知ったのは最近なんだけどね」

 

「会社の皆は知っているんか?」

 

「ここ十五年位はまともに使われてなかったみたいだから、一部の古株の社員やお偉いさんしか知らないと思うよ~」

 

「さ、さよか。それにしてもちょっと暗ないか?」

 

「ちょっと待って、今、主照明を点けるよ」

 

 階段を先に降りた閃が、壁際に向かい、備え付けのパネルを操作する。格納庫全体がパッと明るくなった。

 

「何や? 機体が並んでいるな……おっ、電があるやん、姿見いひんと思ったら、ここに運んでたんかいな……こ、これは⁉」

 

電の隣に並んでいる機体を見て、隼子は驚愕した。



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第3話(3)模擬戦からの実戦

「喰らえ!」

 

 軽薄男のFS改が模擬戦専用のソードを両手で持って大洋の機体に斬りかかるが、大洋は機体を前に踏み込ませて懐に一気に潜り込み、肘を相手の持ち手に当てて、ソードを振り下ろさせるのを防いだ。

 

「くっ!」

 

 大洋はそのまま肘を上に勢いよく跳ね上げて、相手のソードを両手ごと弾き飛ばす。軽薄男の機体は万歳をしたような状態になる。

 

「しまっ……!」

 

大洋はがら空きとなった相手の胴体めがけて拳を思い切り撃ち込んだ。軽薄男は後方に吹っ飛ばされた。それを見たチャラ男が激高し、大洋との距離を一気に詰めてソードを真横に薙ぎ払う。

 

「⁉ き、消えやがった⁉」

 

 自身の視界から大洋のFS改が消えたように映ったため、チャラ男は困惑した。次の瞬間に両腕をガシッと掴まれて、大洋の機体がしゃがみ込んでいることに気づいた。

 

「⁉ 下か!」

 

 大洋は機体を後方に倒れ込ませながら、チャラ男の機体の両腕をグイッと引っ張った。そして、右足を相手の腹部に当てて、柔道で言う『巴投げ』を繰り出した。

 

「うおおっ⁉」

 

 全く予想だにしない攻撃を喰らったため、チャラ男はどうすることも出来ず、派手に投げ飛ばされた。

 

「ちっ……んん⁉」

 

 なんとか機体を起こしたチャラ男はモニターに映った光景に目を疑った。大洋のFS改が軽薄男の機体の両脚部分を持って豪快に回転しているのである。これはプロレスの技『ジャイアントスイング』である。

 

「お、おい待て、まさか……」

 

 そのまさかである。大洋は掴んでいた両脚をパッと離した。軽薄男の機体が真っ直ぐにチャラ男の機体に飛んでいく。両者の機体は正面衝突し、地面に派手に転がった。

 

「ク、クソが……」

 

「め、目が回った……」

 

「……」

 

 大洋が無言で二人の機体へと近づく。そして、二人のモニター画面に目を閉じた大洋が映り込む。

 

「な、なんだよ……」

 

「どうやら俺は興奮すると、コックピットでフンドシ一丁になる性癖があるらしい……しかし、今の俺は服を着ている……これがどういうことを意味するか分かるか?」

 

「は?」

 

 大洋がカッと目を見開いてこう言い放った。

 

「貴様らには半裸になる価値も無いということだ‼」

 

「な、何言ってんだコイツ⁉」

 

「やべえ、やべえよ……」

 

 そこに警報が鳴った。大松から通信が入る。

 

「怪獣が出現! 海上からこちらの方面に向かっていると! 三人とも一旦帰投し、武装を換装して、怪獣撃破に出撃ばい!」

 

「了解!」

 

「……りょ、了解」

 

「怪獣撃破? マジかよ……」

 

 三人は演習場から格納庫へ機体を向けた。格納庫に戻った大洋は機体から降りて、スタスタと歩く。大松が声を掛ける。

 

「大洋? どこに行くと?」

 

「光で出ます。あのFS改はダメージが蓄積されていて反応が若干鈍くなっているので」

 

「ば、ばってん、光のことは出来るだけ社内でも秘密に……」

 

「今は緊急事態ですよ」

 

「むう……まあ、止むを得んとね」

 

「おい、エンジニア!」

 

 大洋が声のする方へ振り返る。

 

「さっきはたまたま不覚をとったがな! あれはあくまでも演習だ! 実戦とは訳が違うってところを見せてやる!」

 

「御無事を祈ります、四天王寺さん」

 

「佐藤だ! 誰だよ四天王寺って!」

 

 機体の換装を終えた佐藤は鈴木とともに一足早く出撃した。

 

「……さあ、どこにいやがる怪獣!」

 

 威勢の良い佐藤とは対照的に鈴木はやや沈んだ声で呟く。

 

「撃破って……迎撃とかじゃないのかよ……」

 

「何だ、ビビッてんのかよ、鈴木!」

 

「ビ、ビビッてねえよ! ただ、俺らだけで撃破するのはちょっと厳しくねえか?」

 

「大松のおっさんが言ってただろうが! 防衛軍のやつらは別地域に出現した怪獣退治で忙しいんだってよ!」

 

「……なんか、最近そのパターン多くね?」

 

「しっかりしろ! 大丈夫だ、俺たちはロボチャンファイナリストだぞ! やれる!」

 

「そ、そうだな! なんてたって決勝進出者だからな!」

 

 鈴木が答えたその時、二人の機体のモニターに怪獣の姿が映った。大きなカラスのような怪獣である。

 

「来やがったな!」

 

「全長8m位か! 大した大きさじゃねえな!」

 

 鈴木がモニター画面のデータを大雑把に確認して叫んだ。怪獣は羽を大きく広げて二人に向かって飛んできた。身長自体はFS改と同じ位だが、羽を広げてみると、一回り大きく感じられた。二人は一瞬たじろいだが、すぐに気持ちを切り替える。

 

「カラスめ、俺が撃ち落としてやる!」

 

「よし、そこを俺が串刺しにしてやる!」

 

 佐藤がライフルを数発発射するも命中せず、怪獣は佐藤の機体との距離をあっという間に詰める。

 

「くっ、速え!」

 

 怪獣が佐藤の機体に取り付いた。両肩に足を乗せている形となった。

 

「は、離れろ! ん⁉ なんだ、前が見えねえ!」

 

 怪獣は佐藤の機体頭部に白い物体を掛けた。一瞬戸惑った佐藤も状況を理解した。

 

「て、てめえ! 俺の機体に糞しやがったな⁉ 畜生、モニターが!」

 

「落ち着け! サブモニターに切り替えろ!」

 

鈴木に言われた通り、佐藤は画面を切り替えた。そこには怪獣の顔が画面一杯に広がっていた。

 

「う、うわあああ!」

 

 佐藤はちょっとしたパニック状態となり、ライフルを投げ捨てて、両手を使って、なんとか怪獣を振り払おうとして、怪獣の片足を掴んだ。その様子を見て、鈴木が叫ぶ。

 

「よ、よし! そのまま掴んでいろ!」

 

 鈴木の機体は飛び上がり、ソードで怪獣に斬りかかった。怪獣はすんでのところで直撃を躱し、二人から距離を取った。

 

「ちっ! どわっ⁉」

 

 ジャンプした鈴木の機体の脚が佐藤の機体の肩に当たり、二人の機体はバランスを崩して、折り重なるように倒れ込む。

 

「お、おい何やってんだ、どけ!」

 

「う、動くな! 脚と腕が絡まって……」

 

 二体がもたもたとしている間に怪獣が地面から飛び立って、その上に舞い降りる。両足を器用に使って、二体とも起き上がらないように抑えこむ。

 

「くっ! コイツ、思った以上に力が強え! 全然動けねえ!」

 

 怪獣は空を仰いで、嘶いたかと思うと、すぐさま視線を落とし、くちばしを閉じて、ジッと二体のFS改を見つめる。

 

「お、おいおい、まさか……」

 

 鈴木の悪い予感は的中した。怪獣は獲物を啄むかのように、その鋭いくちばしで佐藤と鈴木の機体を交互に突っつき始めた。

 

「うわあああ!」

 

「や、止めろ! だ、誰か、助けてくれ!」

 

 怪獣の鋭いくちばしが鈴木のコックピットを貫こうとしたまさにその瞬間……

 

「嘴狩り‼」

 

 大洋の駆る光が駆け付け、名刀・光宗を一閃。怪獣の体は横に真っ二つとなった。怪獣は崩れ落ちた。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「そ、その声はエンジニアか……?」

 

「そうです」

 

「な、なんだよ、その機体は?」

 

「俺の一存では答えかねますね……どうしても気になるのなら戻って大松さんにでも聞いてみて下さい。起きられますか?」

 

 大洋が機体を引き起こしてやろうとするが、鈴木はそれを跳ね除けた。

 

「馬鹿にすんな! 自分で立てる!」

 

「それは失礼……」

 

 しばらくして立ち上がった佐藤と鈴木は冷静さを取り戻し、大洋に向かって叫ぶ。

 

「おい、そんな機体があるならさっさと助けに来やがれ!」

 

「そうだ! 危うくやられる所だったじゃねえか!」

 

「……もうほぼやられていたでしょう」

 

 大洋が呆れ声で呟く。

 

「何だ、文句あんのか⁉」

 

「いえ、その元気があるのなら大丈夫ですね。帰投しましょ……⁉」

 

 光のモニターに新たな反応があった。

 

「敵襲⁉ どこからだ!」

 

 すると先程より大きなカラスの怪獣が驚くべき速さで舞い降りて、佐藤と鈴木二人の機体の頭部をその両足で掴んだ。

 

「デカい! さっきの奴の親か⁉」

 

 怪獣は二体のFS改を足で掴んだまま、上空へと飛びたった。そしてある程度の高さで止まった。

 

「おいおい……」

 

「まさか、嘘だろ……?」

 

 二人の悪い予感は的中した。怪獣は勢いよく足を振り、両機を投げ捨てた。二人の機体は物凄いスピードで地面に落下した。

 

「佐藤と鈴木! いや鈴木と佐藤か! 大丈夫か⁉ どっちでもいいから返事をしろ!」

 

 両機は大破には至らなかった。通信回線からは二人の呻き声が聞こえてきた。

 

「くっ、俺が油断しなければ……おのれ!」

 

 大洋は上空の怪獣を睨み付けた。



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第3話(4)電光石火

「全長16mか……ん? 該当データ無し? これも新種か……」

 

 大洋がモニター画面を確認し、再び怪獣に目をやる。怪獣が翼を大きく広げて、下にいる光に向かって激しく嘶く。

 

「つまり俺は子供の仇ってことになるか……」

 

 怪獣が急降下し、一直線に光めがけて突っ込んできた。光はすぐさま後ろに飛んで、突撃を躱しながら頭部のバルカンを発射する。だが、ダメージはさほど与えられなかったようで、怪獣は怯むことなく、光の飛んだ方に向き直り、翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こした。岩や土の塊が、巨大な粒のように光に向かって飛んできた。

 

「くっ!」

 

 大洋は堪らず光の両腕を交差させて、ガードの姿勢を取ってコックピットやメインカメラへの直撃を避けた。突風をなんとかやり過ごした光はガードを緩める。しかし、その間に怪獣は光の肩部に取り付き、足の爪を使って攻撃を始めた。

 

「ちぃ!」

 

 大洋は光のアームブレードで足を薙ぎ払おうと試みるが、怪獣は上に飛び立ってそれを避けた。続けざまにヘッドバルカンを発射して、追い討ちを掛けるものの、怪獣は更に上空へ舞い、その追撃も躱した。大洋は忌々しげに呟く。

 

「くっ、射程距離外に! 光のジャンプでも届かん!」

 

 怪獣は再び急降下してきたため、大洋は一度納刀した光宗を抜き放とうとする。

 

「近距離ならば、刀の方が先に届くはず! ……⁉」

 

 怪獣は直前で急停止して、翼を羽ばたかせ、真上から突風を巻き起こした。予期せぬ攻撃に光は思わず防御態勢を取る。その隙に怪獣は光の真正面に降り立ち、くちばしで光の頭部を突いてきた。

 

「ぐおっ!」

 

大洋は即座に光の首を捻って、頭部への攻撃をなんとか躱したが、怪獣の鋭利なくちばしは光の右肩の上部を貫いた。更に怪獣は両足を上げて、光の胴体を思い切り蹴っ飛ばした。光はバランスを崩して、後方に倒れ込む。大洋はすぐさま光を立ち上がらせようとするが、怪獣が地面から飛び立って、光の上に着地する。両足を上手く使って、起き上がることが出来ないように抑えこむ。そして、くちばしで光を突こうとする。

 

「馬鹿か俺は! 一度目にしたはずの攻撃を!」

 

 大洋は自らを責めるように叫ぶ。そこに怪獣のくちばしが光の頭部へ迫ってきた。大洋は光の両腕を操作して、咄嗟にそれをガシッと掴んだ。怪獣の力は強かったが、後一歩という所で抑え込んだ。しかし、マウントを取られていることには変わりない。

 

「~~! さて、どうするか……」

 

「そのまま掴んどいて~」

 

 緊張感の無い声がしたと思ったと同時に、怪獣の体を砲撃が貫いた。怪獣は断末魔の叫びを上げると、その場に崩れ落ちた。

 

「な、なんだ……?」

 

「やった~♪ アームキャノン初命中&怪獣初撃破~♪」

 

「電……閃か!」

 

 一瞬あっけにとられた大洋だが、閃が援護にきたことを理解する。

 

「随分と苦戦させられていたね~。ひょっとして模擬戦疲れ?」

 

「ふっ、いいや、全て含めて俺の実力不足だ……」

 

 自嘲気味に笑う大洋の機体を電が引き起こす。

 

「すまん」

 

「良いよ別に~。それじゃあ戻ろう……かっ⁉」

 

「どわっ⁉」

 

 光と電が巨大な黒い影によって突き飛ばされる。

 

「な、何だ⁉」

 

 そこには、先程よりもさらに巨大なカラスの怪獣の姿があった。

 

「ひょっとして、さっきのは母親で、これは父親かな~?」

 

「恐らくそんなところだろうな……」

 

 怪獣が翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こす。

 

「うわっ!」

 

「さっきの比じゃない! 立っているのがやっとだ!」

 

 次の瞬間、怪獣はあっという間に大洋たちとの距離を詰め、その巨大な両足で、光と電の頭部を掴む。

 

「ぐっ!」

 

「気のせいかな、嫌な予感がするんだけど……?」

 

「それは気のせいじゃないぞ!」

 

 怪獣は両機を掴んだまま急上昇する。閃が珍しく慌てた声を上げる。

 

「うおお! こりゃマジでヤバいね⁉」

 

「⁉」

 

「そうはさせんで!」

 

 そこに銅色の戦闘機が、両翼に備え付けた銃口からビームを発射しながら飛んできた。ビームの直撃を喰らった怪獣は、足を開き、掴んだ二機を離した。光と電はなんとか地上に着地した。体勢を立て直した大洋が上空を飛ぶ戦闘機を確認する。

 

「なんだ、あの機体は⁉」

 

「ふふん! よくぞ聞いてくれました!」

 

 モニターに得意気な顔の隼子が映る。

 

「乗っているのは隼子か!」

 

「そうや!」 

 

「戦闘機にしてはやや大きいな……」

 

「これは戦闘機ちゃうくてな……」

 

 戦闘機が瞬時に翼のついた人型ロボットへと変形した。

 

「変形した⁉」

 

 驚く大洋に隼子が更に得意気に説明する。

 

「これはアンタらが乗っている機体の姉妹機! 『石火(せっか)』や!」

 

「石火……」

 

「この機体はご覧の通り単独で飛行機能を持っている! 空中戦は任しとき!」

 

「あ~ジュンジュン、ノリノリの所悪いんだけどさ~それはまたの機会に~」

 

 閃の声に、隼子はややズッコケる。

 

「な、なんでやねん!」

 

「水を差すようだけど、石火単機ではその巨大カラスは流石に手に余ると思う~」

 

「そんなもんやってみなくちゃ分からんやろ!」

 

「チャレンジ精神は結構だけどね~」

 

 そう言って、閃はコントロールパネルを操作する。

 

「……コンディション、オールクリア。よ~し、行くよ二人とも~準備は良いかな~?」

 

「準備って何だ⁉ おい、隼子、聞いているか⁉」

 

「い、いや、ウチも何も聞いてへんで⁉」 

 

突然のことに戸惑う大洋と隼子。閃は構わずに操作を続ける。

 

「よ~し、スイッチ……ポチっとな♪」

 

「⁉」

 

「な、なんや⁉」

 

 一瞬の閃光の後、大洋がゆっくりと目を開けると、自身のシートの足元に二つのシートが並んでおり、そこに右から閃と隼子がそれぞれ座っていた。

 

「合体成功~♪」

 

「が、合体⁉」

 

 そこには金銀銅の三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が空中に浮かんでいた。

 

「よし、じゃあ行ってみよう~♪」

 

「……」

 

「いや、ちょっと待て、これはどういう状況やねん⁉」

 

「三機が合体して一機のロボットになったんだよ」

 

 閃が両手を広げて当然だろうという顔で語る。

 

「それは何となく分かった! いや、分からんけども分かった! ただそんな機能があるなんてさっき石火に乗ったときには聞いてへんで!」

 

「説明は省いたよ、無駄な時間かなと思って」

 

「一番省いたらアカンところやろ!」

 

「……まあ、一言で言うと、『三機合体!電光石火(でんこうせっか)‼』ってことかな~」

 

「だから一言で言うなや!」

 

 黙っていた大洋が口を開く。

 

「なるほど……漠然とは理解した」

 

「いやいや、そこ漠然とではアカンねん!」

 

「うおお! 燃えてきたー!」

 

 大洋がおもむろに服を脱ぎ、フンドシ一丁となる。

 

「だから! なんでいちいち脱ぐねん!」

 

 怪獣がうなり声を上げ、くちばしを尖らせて電光石火に向かってくる。

 

「石火の飛行機能のお陰で空中戦でも引けを取らないよ~」

 

「ああ、この反応速度の速さ! これなら行ける!」

 

 電光石火が光宗を抜き、上段に構える。大洋が叫ぶ。

 

「喰らえ! 超大袈裟斬り‼」

 

 刀を振り下ろし、怪獣の体が左肩の辺りから斜めに分かれる。絶命した怪獣はそのまま地上に落下する。

 

「やった~♪」

 

「……前から思っていたんやけど、アンタの技のネーミングセンスよ……」

 

「……その辺はアドリブだ」

 

「アドリブかい!」

 

「じゃあ、今度こそ帰投しようか……んん⁉」

 

 レーダーに突如として物体反応が示される。

 

「どうした⁉」

 

「前方、二時の方向に反応あり!」

 

 閃の告げた方向に目をやると、何もないはずの空間に紫色の穴のようなものが開き、そこから紫色の機体が姿を現した。鳥と人が合わさったようなフォルムをしており、電光石火に比べれば大分小さな機体である。

 

「な、なんや、また怪獣か⁉」

 

「……いや、あれは……」

 

 閃が何かを言おうとした瞬間、紫色の機体は電光石火に視線を向けたかと思うと、右手をかざした。そこから紫色をした衝撃波のようなものが放たれる。

 

「ぐおっ⁉」

 

 衝撃波を喰らった電光石火は地上に思い切り叩き付けられた。

 

「ぐっ……なんてエネルギーだ」

 

「ま、また来るで!」

 

 大洋が空を見上げると隼子の言葉通り、紫色の機体が右手をかざしており、そこから再び衝撃波が放たれようとしていた。

 

「アカン! またアレを喰らったら!」

 

「くっ! ……⁉」

 

 上空にもう一つ黒い穴が開いたかと思うと、そこから紫色の機体によく似た黒い機体が現れ、紫色の機体に対して猛然と斬りかかった。

 

「あれは⁉」

 

 紫色の機体は寸前でその攻撃を躱した。次の瞬間、左手をかざすと、その空間に再び穴が開き、その穴に入り込んだ。穴は機体が消えていくとともに無くなった。

 

「な、なんだったんだ……?」

 

「さ、さあ?」

 

「し! 静かに!」

 

 閃が二人に静かにするように促す。回線の乱れによるものか、上空に浮かぶ黒い機体のパイロットと思われる声が微かに聞こえてきた。

 

「……あ~また、逃がしたやん……」

 

「次は仕留める……」

 

「自分そればっかりやん……まあええわ、次行こか」

 

 そして黒い機体が左手をかざすと、穴が開き、機体がそこに入ると穴も塞がるように無くなった。大洋と閃には同じ疑問が浮かんだ。

 

(次行こか……⁉)

 

 大洋たちは隼子をジッと見つめる。

 

「な、なんやねん……?」

 

「……ジュンジュン、今の……知り合い?」

 

「なんでそうなんねん!」

 

「だって……関西弁だったぞ?」

 

「確かに関西弁やったけれども! 共通点そこしかないやん! そんな『悪そうなやつは大体友達』みたいな理論やめろや!」

 

「そうか、違うのか……」

 

 大洋は肩を落とす。

 

「当たり前やろ! なんでちょっとがっかりしてんねん!

 

「今度こそ周囲に怪獣等の反応は無し……それじゃあ戻ろうか~」

 

「オーセン……戻ったらアンタに聞きたいことがあんねん」

 

「何、夕食のメニュー?」

 

「ちゃうわ! この機体についてや!」



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第4話(1)サプライズ

「社長からの呼び出しとはな……」

 

「急になんだろうね~」

 

 大洋と閃が話しながら会社の廊下を歩いている。。

 

「全く心当たりが無いな……」

 

「そうだね~」

 

「いや、むしろ心当たりしか無いやろ……」

 

 二人の後に続いて歩いていた隼子が俯きながら呟く。

 

「隼子、分かるのか?」

 

 大洋が振り向いて尋ねる。

 

「昨日の戦闘のことやろ、他に何があんねん?」

 

「ひょっとして勝手に電光石火に合体しちゃったことかな~?」

 

「オーセン、今、“勝手に”って言うたよな? ほら見ろ、絶対その件で呼び出しやって! ああ、絶対お叱りを受けるんや……」

 

「お叱りで済めばいいけどね~」

 

「怖いことを言うな! なんでそんな呑気で居られんねん!」

 

「まあ、緊急事態だったしな、その辺の事情は汲んでくれるんじゃないか?」

 

「前向きやな……」

 

「以前も少し話したが、二辺弓子(ふたなべゆみこ)社長だったか? 優しそうな印象を受けたが……」

 

「それは多分たまたまやって。毎年この時期……ロボチャンの期間中は大抵ピリついとんねん……」

 

「何故だ?」

 

「そりゃ例年我が社の結果が芳しくないからやろ……先代や先々代の社長の頃は全国大会に出場して当たり前やったんやから」

 

「今年は九州大会出場を決めたじゃん」

 

「それはそうやけども……」

 

「着いたぞ」

 

 三人は社長室の前にたどり着いた。

 

「ああ、とうとう着いてもうたか……」

 

「そりゃあ着くでしょ」

 

「入るぞ」

 

 大洋がドアをノックしようとする。隼子が慌てて止める。

 

「ああ、ちょい待ち! まだ心の準備が……」

 

「ジュンジュン、ビビり過ぎだって~」

 

「いや、ビビるやろ普通! 社長やぞ! なんぼウチの会社が地方のアットホームな中小企業と言っても、社長に呼び出されるなんてよっぽどのことやぞ!」

 

 大洋は取り乱す隼子を無視して、ドアをノックした

 

「……疾風大洋、飛燕隼子、桜花・L・閃、以上三名、参りました」

 

「……どうぞ、入りなさい」

 

「失礼します……」

 

「ああっ……」

 

 大洋たちが部屋に入ると、部屋の中は真っ暗であった。

 

「……?」

 

一瞬の間が空いて、部屋の電気が点いたかと思うと、パンッと大きな音がした。

 

「おめでとう~♪」

 

 そこには発射したクラッカーを手に持つ、ショートボブと左目の泣きぼくろが特徴的な女性、(有)二辺工業の三代目社長、二辺弓子の姿があった。

 

「……?」

 

 大洋たちは戸惑った。その様子を見て、弓子も戸惑った。

 

「ええっ、まさかのノーリアクション⁉」

 

「い、いや……」

 

「な、なにがおめでとうなんでしょう……?」

 

 隼子が恐る恐る尋ねる。弓子は自身の側に立つ、黒いスーツ姿の男性に声を掛ける。

 

「吉川、貴方まさか伝えてなかったの?」

 

「ええ……」

 

「何でよ⁉」

 

「いわゆる一つのサプライズです……」

 

「ああ、なるほどサプライズね~。って、アタシもそれを把握してなかったら意味がないじゃない⁉」

 

「申し訳ありません。本日の社長のラッキーシチュエーションが“自他ともに驚く”でしたもので、そういう状況を作りだすならここしか無いだろうと思いまして……」

 

「そっか、それならしょうがないわね」

 

(納得した⁉)

 

(ラッキーシチュエーションって何やねん⁉ しかもあまりにも限定的過ぎるやろ!)

 

 弓子が軽く咳払いをして、改めて大洋たちに話し掛ける。

 

「疾風くん、飛燕さん、桜花さん、おめでとう」

 

「は、はあ……」

 

「えっと……せやから何がおめでとうなんでしょうか?」

 

「貴方たちがロボットチャンピオンシップ九州大会に出場する我が社代表パイロットに選ばれました!」

 

「「ええっ⁉」」

 

 突然のことに驚く大洋と隼子。一方、閃は冷静に質問する。

 

「正規パイロットの二人はどうしたんですか~?」

 

 弓子が顔を背けながら呟く。

 

「実は……今朝方に佐藤くんと鈴木くん、二人から辞表が届いたの」

 

「ええっ⁉ どうしてですか⁉」

 

「えっと……『昨日の戦闘で自信を無くしました、半裸になる価値も無い自分はおとなしく実家に帰ります』、『怪獣マジ怖い、後あのエンジニアの言っていることが意味分かんない、あの人とはちょっと無理です』……っていうことらしいわよ」

 

「いや、そんな⁉ まさか受理したんですか⁉」

 

「数少ない正規パイロットですもの、そう簡単に辞めてもらっては困るから取りあえず休業扱いということにしたわ。ただ、相当自信を失っているようね……」

 

「一体どうしたんだろうな?」

 

「いや、原因の四割位はアンタやろ!」

 

 不思議がる大洋に隼子が思わず突っ込む。

 

「……まあ、そういう訳だから来月種子島で開かれる九州大会には三人に出場してもらうわ! あの機体、何だっけ? そうだ、蛍光ピンクで!」

 

「……?」

 

「……社長、電光石火です」

 

 吉川が訂正する。

 

「……それで!」



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第4話(2)いざ種子島へ

 社長室での話が終わった後、三人は地下格納庫へと向かった。光も含めて、三体ともこちらに収容している。

 

「しかし大きいな、この格納庫は。この会社の地下にこんなものがあるとは……」

 

 大洋が周りを見渡しながら呟く。

 

「この十五年はまともに人の出入りは無かったみたいやで」

 

「つまりこの会社のほとんど誰もその存在すら知らないということか」

 

「オーセンは何で知ったんや?」

 

 隼子が閃に話しかける。閃は情報端末を操作しながら答える。

 

「ん~偶然?」

 

「そんなわけあるかいな!」

 

「やっぱ誤魔化せないか」

 

「当たり前やろ」

 

「電光石火、あの機体にはちょっとした縁があってね……」

 

「縁?」

 

 機体を見上げていた大洋が振り返って尋ねる。

 

「そう、縁。それで色々とこの機体について調べていたらここに辿り着いたってわけ」

 

「ちょっと待った! アンタ、自ら進んでこの会社に⁉」

 

「半分はそうだね。もう半分はジュンジュンが言ったように業界の異端児と見なされて、大手企業で居場所が無くなって、ここに流れ着いたって感じだけど」

 

「でも、アンタもこの地下格納庫の存在を知ったのは最近なんやろ?」

 

「そうなんだよ~巧妙にデータが隠されていたり、消去されていたりしてさ~。大松さんとか古株の社員さんも皆案外口が堅くてさ~」

 

「光はずっと第二格納庫に置いてあったんだろう? それについては調べようとはしなかったのか?」

 

「もちろん調べたよ~」

 

 閃が端末から顔を上げて答える。

 

「ただその時は不覚にも、その光を含めた三機が合体して一つの機体になる、という発想が全く私の頭から抜け落ちていてさ~。よく似ている機体だなということで一旦結論付けちゃったんだよね~」

 

「そこからよく答えを導き出せたな」

 

「もうしょうがないから本丸を攻めたよ」

 

「本丸?」

 

「弓子社長に『ぶっちゃけどうなんすか?』って聞いたんだよ」

 

「軽っ⁉ ってよくそんなんで聞き出せたな?」

 

「本日のラッキーコンフェッションは“秘密を白状すること”ですよって適当に言ってみたら色々と教えてくれたよ~」

 

「コンフェッション……告白、白状って意味か」

 

「大丈夫なんかこの会社……今更ながら心配になってきたわ……」

 

 隼子が頭を抱える。

 

「しかし、大会では電光石火で臨むんだろう?」

 

「……そうだね」

 

「秘密はもう良いのか?」

 

「私がこの電光石火について社長に報告したら、『そんなスペックの高い機体があるなら使わなきゃ損じゃない!』ってことになってね、長崎県の予選を勝ち抜いたら投入する予定ではあったんだよ」

 

「そうだったんか……」

 

「言いづらいけど、FS改のスペックだと九州大会クラスになってくると、通用しなくなってくるというか、ぶっちゃけ歯が立たないだろうからね~」

 

「随分と正直に言うな……」

 

「いやFS改も結構ええ機体やで?」

 

 隼子が少し拗ねたように呟く。

 

「何らかの理由があって封印していたみたいだけど、出るからには勝たないと会社の宣伝にならないし……背に腹は代えられないってことだね」

 

「そうか……」

 

「ただ!」

 

 閃が声のトーンを上げる。

 

「ん?」

 

「考えがあってね~。電光石火への合体はしないで、電、光、石火、分離した状態で九州大会に臨みたいと思っているんだよ」

 

「ええっ、何でまた⁉」

 

「理由は主に二つ」

 

 閃は隼子に向かってVサインを作る。

 

「一つは光など単体でも戦える十分なスペックを持っているということ」

 

「巨大怪獣も数体撃破しているしな……」

 

「そう、もう一つは電光石火の合体時のデータがまだまだ謎が多いこと」

 

「謎が多い?」

 

「詳細な機体データは複雑にブラックボックス化されていてね。解析には流石の私でも、もうちょっと時間がかかりそうなんだよね~」

 

「そ、そんな状態やのに昨日は合体したんか⁉」

 

「ん~まあ、それはあの場のノリと勢いってやつ?」

 

 閃はそう言ってウィンクしながら右手の親指を立てた。

 

「勢いで無茶なことさすな!」

 

「だってさ~大洋? 『合体できます』って言われたら……するでしょ、合体?」

 

「迷わずするな、漢のロマンだ」

 

大洋は気持ちいい位に即答した。

 

「でしょ~?」

 

「アホなやりとりを止めろ!」

 

「とりあえず上手くいったから結果オーライってことで……」

 

「あ、アンタな~」

 

 隼子が閃の適当加減に呆れる。

 

「ただ……社長にはどう説明する?」

 

「う~ん、その辺は何とかなるでしょ。『本日のラッキーバトル』は“分離状態を保ったままで戦うこと”ですとか言えば」

 

「だからどこの占いやねん、その極めて限定的な条件は……」

 

「とにかく今は、大洋は光、ジュンジュンは石火の操作に慣れてもらって……更に各々の機体の特性についても少しでも理解を深めておいてね」

 

「了解した」

 

「了解。まあ……それは重要な事やな」

 

 そしてそこから約一か月が経過して、いよいよロボットチャンピオンシップ九州大会の開幕を迎えた。大洋ら二辺工業のチームは大会会場の鹿児島県種子島に到着した。

 

「いや~とうとう着いたで、種子島! おっ、向こうに見えるのはかの有名な種子島宇宙センターやな!」

 

「楽しそうだな」

 

「ジュンジュンのことだからもっと緊張でガチガチになるかと思ったよ~」

 

「いやいや、何を言うんや、お二人さん! ここまで来たら楽しむしかないやろ!」

 

「まあ、そういう気持ちは大事かもな」

 

「せや! 目指すは優勝や! いくで、エイ、エイ、オー!」

 

「「……」」

 

 テンションの高い隼子に対して沈黙する二人。

 

「な、なんやねんな! ノリ悪いな~」

 

「はっはっは! 随分と威勢の良いお嬢さんがいるとね~」

 

「だ、誰や⁉」

 

「残念ながら、一回戦の相手がウチらたい、その夢は夢のままで終わるとね」

 

 そう言いながらやたらと恰幅の良い人物が大洋たちに近づいてきた。大洋が素直に感じた疑問を口にする。

 

「おじさん? いや、おばさん? やっぱりおじさんか? 隼子、どっちだと思う?」

 

「気になる所そこかい⁉」



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第4話(3)大会初戦前日

「一回戦の相手ということは……大分県第一代表の小堀(こぼり)工業さん?」

 

 閃の問いに恰幅の良い人物が大きく頷く。

 

「そうたい! そしてウチが小堀工業自慢のロボット、『卓越(たくえつ)』のメインパイロットば務める、増子益子(ましこますこ)たい!」

 

「おばさんだったぞ!」

 

「失礼なこと言うな! 聞こえるやろ!」

 

 増子が語り始める。

 

「なんでこんな何の変哲もない普通のおばさんがロボットのパイロットに……? そう思っているやろ? 何故ウチがパイロットに選ばれたかというと、そう、あれは去年の暑い夏の日のことだったと……」

 

「急に語り始めた⁉」

 

「あ、いたいた! ちょっと何やっているんすか、増子さん⁉」

 

 一人の青年が走り寄ってきた。

 

「なんね、曽我部君?」

 

「なんね、じゃないっすよ! 急に居なくならないで下さいよ!」

 

「今、一回戦の相手に挨拶ばしとったたい」

 

「え⁉」

 

「こちらが『卓越』のサブパイロット、曽我部君たい」

 

「あ、どうも曽我部と申します、どうぞよろしく……じゃないっすよ!」

 

「なんね!」

 

「こんな所で対戦相手に油売っている場合じゃないんですって! ミーティングが始まりますから、早く宿舎に入りますよ!」

 

「いや、ちょっと家族に種子島のお土産ば買おうと……」

 

「遊びにきたんじゃないっすよ! ほら、早く行きますよ! 全く、何で俺がこんな保護者みたいなことをしなきゃならないんだ……」

 

 曽我部と名乗った青年がぶつぶつと不満を漏らしながら増子の背中を押して、宿舎の方へと向かっていった。

 

「あれが一回戦の相手か、なかなか手強そうだな……」

 

「いや、今のどこでそう思ったんや⁉」

 

「感じなかったのか? 強者のオーラを……」

 

「生憎、全く!」

 

「まあ、とりあえず私たちも宿舎に入ろうか~」

 

 閃に促されて、大洋たちも宿舎に足を向けた。

 

 

 

 大洋たちは宿舎で閃の司会でミーティングを開始した。

 

「じゃあ、明日の試合について対策会議を始めようと思うんだけど~」

 

「その前にちょっと良いか?」

 

「どうしたの、大洋?」

 

「今更で恐縮だが、大会方式について確認したいんだが……」

 

「してなかったんかい……」

 

 呑気なことを言い出す大洋に隼子が呆れる。

 

「すまん……」

 

「まあ良いよ。この一か月、光の操縦に慣れることに専念していたからね」

 

 閃は小型のタブレットを操作し、大会プログラムを開き、説明を始める。

 

「この大会の試合は最大3対3で行われるんだ」

 

「つまり、電、光、石火と3体とも出せる訳だな」

 

「そう。但し、互いの戦力のある程度の均衡を保つため、相手より多く出せる機体は1体だけなんだ」

 

「そうか。ん、ということは……?」

 

「明日の対戦相手、小堀工業は今大会、卓越1体しか登録していない、だからこちらも3体の内、2体しか出せないんだよ」

 

「そうなのか……」

 

「というわけで……」

 

 閃がプログラムを閉じて、大洋と隼子、二人の顔を見る。

 

「明日は光と石火、大洋とジュンジュンに出てもらうよ~」

 

「ええっ⁉」

 

「そこ、そんな驚くとこかな~?」

 

「戦闘狂気質があるお前は出たがるものだと思ったんだが……」

 

「いや、どんな気質だよ……これは相手を冷静に分析した結果だよ。これを見て」

 

閃は宿舎に持ち込んだモニターに映像を流す。そこには白と青のストライプが特徴的な機体が戦う様子が映っていた。

 

「これは……卓越やな」

 

「そう、相手のロボット、卓越の大分県予選の映像だよ」

 

「地上戦に特化した機体だな、スピードもかなりのものがあるようだ……」

 

 大洋の言葉に閃が頷く。

 

「うん。だから、飛行能力がある石火で空中から攻撃して欲しい。相手の注意が逸れた所を光が一気に間合いを詰めて……」

 

「光宗でたたっ斬ると……!」

 

 大洋が右手を左の手のひらにぶつける。

 

「いや、大会とはいえ何かあったら困るから模擬戦用に用意した光宗(仮)の方を使ってもらうけどね~」

 

 大洋がうなだれる。

 

「……(仮)であれをアレすると……」

 

「そんな露骨にトーンダウンせんでもええやろ……」

 

「以上、ミーティング終わり!」

 

「いや、終わりかい! もうちょっと何かないの?」

 

 隼子の問いに閃が腕を組む。

 

「う~ん、なにか隠し玉を用意している可能性がなきにしもあらずだね~」

 

「隠し玉?」

 

「こっちで言う電光石火への合体機能とかさ、向こうも県予選レベルでは全ての性能を見せてはいないと思うんだよね~」

 

「なるほどな……」

 

「データが無いのはあっちも同じだから、その辺は五分五分じゃないかな。まあ後は戦ってみてからのお楽しみということで……」

 

「いや、お楽しみって……」

 

「よし、風呂に入ってくる!」

 

「私はご飯を食べてこよ~バイキング結構豪華なんだって~」

 

「いや、マイペースやなアンタら!」

 

 隼子のみが不安を抱える中、大会初戦当日を迎えた。



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第4話(4)VS卓越

 特設会場で大洋たちと増子たちが向かい合う。

 

「ふん、逃げずによく来たとね!」

 

「別に逃げも隠れもしませんが……それよりも……」

 

大洋がジッと増子たちの姿を見つめる。

 

「なんね? 何かウチの顔に付いているとね?」

 

「いえ……どこかサイクリングでも行かれるのかなと思って……」

 

大洋が言ったように、増子たちは自転車競技の選手が着るようなユニフォームをその身に纏っていた。

 

「これがウチらの戦闘服たい! なんか文句あると?」

 

「そうですか……こう言ってはなんですが、少し珍妙ですね」

 

「フンドシ一丁のアンタが言うな!」

 

 隼子の声に曽我部がホッとしたように胸を撫で下ろす。

 

「あ~良かった。ひょっとして俺だけ見えてない服を着てんのかな~って思ってたから、内心マジで焦ったわ~」

 

「おかしいと思ったことはドンドン声に出して言うて良いんですよ⁉」

 

 審判員が怪訝な表情で尋ねる。

 

「えっと……二辺工業の疾風選手、本当にそのままの格好で戦うんですか?」

 

「提出した光のデータのコックピット関係の欄をご確認下さい。パイロットの安全性については十二分に保障されています。この大会は安全性や耐久性等に問題が無ければ、服装については不問なはずです」

 

 大洋の冷静な説明を受け、審判は改めてデータを確認する。

 

「ふむ……確かにこれなら問題ありませんね」

 

「納得してもうた!」

 

「……それでは両チーム正々堂々と、フェアプレー精神を持って試合に臨んで下さい」

 

「はい!」

 

 審判の言葉に隼子以外の三人は力強く頷いた。

 

「それでは、礼!」

 

「「お願いします!」」

 

「お願いします……」

 

 大洋と隼子は陣営に戻り、それぞれ機体に乗り込んだ。閃が声を掛ける。

 

「じゃあ、手筈通りに……バトルフィールドは思った以上に広くはないし、相手のスピードもあるから、こちらの想定以上に早く接敵することになると思うよ~」

 

「了解した」

 

「了解」

 

「そろそろ時間だね、それじゃあ、健闘を祈るよ~」

 

 閃が通信を切り、大洋たちは指定されたバトルフィールドへ向かって機体を移動させた。隼子が大洋に声を掛ける。

 

「大洋、一応やけど最終確認や。モニター上に表示されている地図の一部分が赤い線で四角に囲まれているな?」

 

「ああ、このラインの中でのみ戦闘を行うんだろう?」

 

「そうや、一度中に入ったら、外に出た時点で負けになる。後は……」

 

「どちらかの機体を戦闘不能状態にする、もしくはどちらかが降伏を宣言したら決着……だったな?」

 

「そうや。状況によってはレフェリーストップがかかる場合もあるけどな」

 

「だが、いわゆる反則行為というのは基本的には存在せず、なんでもありって訳だろ?」

 

「なんでもあり、って言うのはちょっと言い過ぎかもしれんけど……まあ、大体そうやな。大会運営に申請許可を得ていない武装を使用した場合や、人道的にもとる行為をとった場合などは反則行為に該当するけどな」

 

「その点は大丈夫だ、俺は曲がったことが大嫌いだからな」

 

「ふふっ、……さあ、ラインを越えるで、試合開始や!」

 

 光と石火、両機がバトルフィールドに入った。ほどなくして閃の言葉通り、大洋たちは相手チームの機体、卓越を視認する。隼子が冷静に分析する。

 

「全長18m、こちらよりやや大きい。予選と同様に重火器の類は装備していない模様……完全に近接戦闘に特化した機体やな」

 

「さて、どうやって攻めてくるか……?」

 

 大洋が呟いたと同時に卓越が背部のバーニアを噴出させて一気に加速し、大洋たちに向かって突っ込んできた。

 

「小細工無しに正面から来るか! 隼子!」

 

「分かっとる!」

 

 隼子は石火を上昇させて、空中から卓越を狙い撃った。ちなみにビームキャノンは模擬戦用の砲弾へと換装してある。卓越は素早い反応を見せ、石火の放った数発の砲弾を難なく躱してみせた。

 

「はははっ、狙いが甘いとよ! 卓越のスピードではそんなヒョロヒョロ弾になんぞ当たらんたい!」

 

 回線をオープンにしているのか、増子の声が大洋たちにも聞こえてきた。隼子はニヤりと笑って答えた。

 

「いいや、狙い通りやで?」

 

「何⁉」

 

「ヤバい! 増子さん、誘い込まれた!」

 

 サブパイロットの曽我部が叫ぶ。卓越が砲撃を躱したその先には名刀光宗(仮)を構える光の姿があった。

 

「もらった……!」

 

「曽我部君!」

 

「分かってます!」

 

「何⁉」

 

 光は刀を横に薙いだが、卓越はしゃがみ込んでその攻撃を躱した。そして、機体の体勢を戻すと同時に、拳を数発叩き込んだ。

 

「ぐおっ!」

 

 大洋はややたじろいだものの、すぐさま反撃を試みて、光のヘッドバルカンを発射させた。しかし、既に卓越はその射程圏外に退いていた。

 

「想定以上の反応スピードだ!」

 

 再び、卓越が光に向かって突っ込んできた。隼子が再び空中から砲撃を加える。辺りに土煙がもくもくと立ち上る。

 

「大洋、左に10時の方向や!」

 

「よし、今度こそ……!」

 

 だが、そこには卓越の姿は無かった。

 

「居ない⁉」

 

「二度も同じ手は食わんたい!」

 

 光の背後へと回り込んだ卓越が右脚で思い切り蹴りつける。背中を蹴られた形となった光は堪らずうつ伏せに倒れ込んだ。

 

「くっ……土煙で視界が遮られることを利用して、一瞬の内に背後を取ったのか……!」

 

「す、すまん大洋! 余計なことをしてもうた!」

 

「いや、構わん隼子! 次も奴が突っ込んできたら砲撃を頼む!」

 

「ええっ⁉」

 

「但し……!」

 

 卓越が三度光に突っ込む。石火が砲撃を放つ。増子が鼻で笑う。

 

「ふん! だから同じ手は……⁉」

 

 増子は驚いた。石火は光の周囲を砲撃したのだ。土煙が派手に立ち上る。

 

「増子さん、視界が! 奴が見えねえ!」

 

 曽我部が叫んだと同時に、卓越の左前方から光が刀を斬り付けた。

 

「曽我部君!」

 

「ちぃ!」

 

 曽我部が操作して、卓越は咄嗟に機体を後退させた。左腕部に直撃を喰らったものの、致命的なダメージはなんとか回避した。それでも左腕部は機能を失い、ダラっと垂れ下がった状態になった。

 

「くそっ! 胴体を狙ったが外した!」

 

 悔しがる大洋に隼子が声を掛ける。

 

「せやけど、模擬戦用の刀とはいえ、想定以上のダメージを与えられた! 機動性を重視して、装甲は薄くなっているんや! 次の一撃で決められるはずや!」

 

 左腕部を抑えながら立つ卓越。曽我部がオープンになっていた回線を切って、増子に語りかける。

 

「左腕は完全にダメか……どうします? 増子さん?」

 

「……曽我部君、あれで行くたい」

 

「ええっ⁉ あれは極力温存するって⁉」

 

「こげな所で負けてられんたい!」

 

 卓越が動きを見せる。大洋は光を身構えさせる。

 

「来るか!」

 

 卓越は四つん這いの姿勢を取った。大洋が戸惑う。

 

「……何だ⁉」

 

 卓越が両腕と両脚をそれぞれ重ねると、合わさった腕と脚が車輪へと変形した。増子が笑いながら叫ぶ。

 

「はははっ! こいが卓越のもう一つの形、『二輪車モード』たい!」

 

「いや、何で回線オープンにしちゃうんですか!」

 

「『二輪車モード』だと⁉」

 

「これを見るとね!」

 

「いや、映像まで繋いじゃったよ⁉」

 

 大洋たちのモニターに自転車の様な形状になったシートに座る増子と曽我部の姿が映し出された。

 

「そ、それは……⁉」

 

「このモードになることによって、卓越の速さは更に一段階上がる。『極東の快速列車』と呼ばれたスピード、とくと味わうたい!」

 

 そう言って、増子は物凄いスピードでシートペダルを漕ぎ始めた。その凄まじい回転速度に大洋が目を見張る。そして、卓越は一瞬で光の正面に迫った。

 

「しまっ……!」

 

 卓越は上半身を上げる。バイクで言うウィリー走法の様な形となった。そのまま車輪を光にぶつける。光は後方に吹っ飛んだ。

 

「どわっ!」

 

「ははっ! 良い恰好たい、もう一度行くとね!」

 

 増子は先程よりもペダルの回転速度を上げる。

 

「地元の急坂、釈迦岳をママチャリで登って鍛え上げたこの脚! 止められるもんなら止めてみんしゃい!」

 

卓越は再びウィリー走法で光に襲い掛かる。

 

「くっ……⁉」

 

「⁉ な、なんね⁉」

 

 卓越が大きくよろめいた。石火の砲撃が胴体に命中したのである。

 

「確かにスピードは上がったかもしれんけど、肝心の動きが直線的でかえって読みやすくなったで!」

 

「お、おのれ!」

 

「隼子、ナイスだ! 喰らえ、両輪斬り!」

 

 光が卓越の前輪を斬り付け、返す刀で後輪も斬り付けた。両輪、つまり両腕と両脚を破壊された形となった卓越は地面に叩き付けられた。審判が即座に判定を下す。

 

「卓越、戦闘継続不能と判断! よって、勝者、二辺工業!」

 

「やったで!」

 

 喜ぶ隼子の声を聞きながら、大洋は静かにガッツポーズを取った。

 

 

 

 戦いが終わり、撤収作業を行う大洋たちの下へママチャリに乗った増子がやってきた。

 

「いや~負けた負けた、完敗たい!」

 

「お疲れさまでした」

 

 大洋が一礼する。

 

「気持ちよか試合が出来たと! 思い残すことはなか……」

 

「え?」

 

「会社との契約はロボチャンが終わるまでだったたい。つまり今日敗退した時点で終了……おばちゃんは普通のおばちゃんに戻るたい……」

 

「増子さん……」

 

「それじゃあ、健闘を祈るたい」

 

 去っていこうとする増子を自転車に乗った曽我部が呼び止めた。

 

「待って下さい! 増子さん! 俺……まだまだ増子さんに教わりたいことが山ほどあるっす! だからお願いです! 辞めないで下さい!」

 

「曽我部君……ふっ、よ~し、それじゃあ、あの夕日に向かってダッシュたい!」

 

「はい!」

 

 増子たちは猛然と去っていった。大洋はその姿に拍手を送る。

 

「感動させられた! なんて美しい師弟愛なんだ!」

 

「師弟なんか……? ってか感動するポイントあったか? まあ、ええけど……」

 

「ぶっちゃけ、『二輪モード』にならない方が厄介だったよね~隙が大き過ぎるよ~」

 

「オーセン、それは言ってやるなや……」



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第5話(1)次戦に向けて

 宿舎の食堂の丸テーブルを大洋たち三人が囲んでいる。

 

「大会期間中はこうして文字通り缶詰にされるって訳だな……」

 

 大洋の言葉に隼子が同調する。

 

「そうやな。個人所有の情報機器等も没収されるとは、徹底しとるな……」

 

「外部との連絡を取れなくするためだから仕方がないね、八百長防止の一環でもあるし」

 

「八百長防止?」

 

 大洋が閃に尋ねる。

 

「そう、ロボチャンは大人気の公営ギャンブルでもあるからね~」

 

「そ、そうだったのか……」

 

「こんなご時世やからな、なんでもかんでも娯楽の対象や……」

 

 隼子がテーブルに頬杖をついて、やや呆れ気味に呟く。

 

「ひょっとして、コックピットにカメラが据え付けられていたのは……?」

 

「ネット中継用のカメラだね~観戦者はコックピットの様子も確認出来るんだよ~」

 

「ネット中継されるのか⁉」

 

 大洋が驚く。

 

「だから服を着ろっちゅうてんねん、全国、下手すりゃ全世界にアンタの半裸が晒されてるんやで?」

 

「まあ、それは別に良いんだが……」

 

「ええんかい!」

 

「むしろもっと見て欲しい!まであるな」

 

「変態やないか!」

 

「……照れるな」

 

「褒めとらんわ!」

 

「ただ……」

 

 やや俯く大洋に閃が尋ねる。

 

「中継されると、何かマズいのかな~?」

 

「自分でもよく分からんが、あまり良くはない……ような気がするな」

 

「とは言っても、もう一回戦は中継されてもうたしな……」

 

「まあ、今更言っても致し方ないな……」

 

「ただ、ウチも自分の中継での映り具合はちょっと気になるな」

 

 そう言って隼子は冗談っぽく笑った。大洋が尋ねる。

 

「ネット中継を俺たちは見ることは出来ないのか?」

 

 閃が首を横に振る。

 

「大会参加者は期間中他の試合を見ることは出来ないんだよ~。ミーティングなどに使用する情報端末も一旦大会運営に提出して、使用許可申請を受けなきゃならないんだよ。ネット中継のサイトにはアクセス制限を掛けられてしまうしね」

 

「そこまでするのか、何故だ?」

 

「この大会には『技術の革新と向上』の他に『より実戦に基づいた戦い方を経験・蓄積』というテーマを掲げているからね」

 

「実戦に基づいた?」

 

 大洋の問いに閃が頷く。

 

「実戦においては怪獣だったり、古代文明人や異星人の繰り出すロボットの手の内をこちらが把握しているっていう状況の方が稀だったりするからね、臨機応変な対応力かつ柔軟性に富んだ戦い方を磨くっていう狙いがあるのさ」

 

「ネタバレ厳禁っていうやつやな」

 

「要はそういうことだね」

 

 閃が笑った。

 

「ということは、次の対戦相手は分からないのか?」

 

「あ、流石にそれは分かるよ、えっと次は……宮崎県第一代表の(株)大野田(おおのだ)エンジニアリングだね。それじゃこのままミーティングを始めちゃおうか」

 

「ああ、そうしよう」

 

「頼むで」

 

 大洋と隼子の言葉を受け、閃は情報端末を取り出し、テーブルの上に置く。端末の画面に映像が映し出される。

 

「この映像は?」

 

「宮崎県予選の映像だよ。予選等の映像は視聴しても構わないんだ」

 

「予選と変わらずにこの黒い機体で参戦しとるんか?」

 

「そうだね」

 

「変わった機体だな……」

 

 映像を見つめながら大洋が呟く。

 

「そうやな、まるでお馬さんみたいや」

 

 映像にはまるでギリシャ神話に登場する半人半獣の種族ケンタウロスを模したかのような、上半身が人型で下半身が馬型の黒いロボットが映っている。閃が説明する。

 

「この機体の名前は『ダークホース』。四本の脚を生かした機動力の高さやジャンプ力の高さが売りだね」

 

「今日戦った卓越より速いのか?」

 

「いや、データ上はそこまででも無いね。ただ、実際の馬の様に脚力の強さを生かした戦い方が厄介だね。中でも後ろ脚から繰り出されるキックは要注意!」

 

「武装は特にないんか?」

 

「腰部に付いている大型の弓と背部に背負っているこれまた大型の矢を使った攻撃が主な武装になるね。試合映像を見てもらうと分かるけど、機動力の高さを存分に生かして、距離を取ってからの攻撃が主な戦い方のようだね。ただ……」

 

「ただ?」

 

「今日の卓越の様に、何か隠し玉を持っている可能性があるね」

 

「隠し玉か……」

 

「まあ、その辺は考えてもしょうがないかな~」

 

 閃はそう言って、頭の後ろで手を組んだ。隼子が尋ねる。

 

「出撃機体はどうする? 明日も2体で出るんやろ?」

 

「そうだね~別にタイマンする義務はないからね~」

 

「誰と誰が出る?」

 

「迷う所だけど……電と光、私と大洋が出るよ」

 

「ええっ⁉ 何でやねん!」

 

 隼子が不満気に口を尖らせる。

 

「映像を見ていると、ややトリッキーな戦い方をしてくる傾向が見て取れる。真面目なジュンジュンはちょっと相性が悪いかな~って思って」

 

「……一応理由があるんなら、まあええわ」

 

「納得してもらって良かったよ」

 

「心配するな、隼子。俺たちは勝つ!」

 

「……勝敗云々よりもアンタのフンドシ姿の方が心配やわ」

 

「映っちゃいけないものがネットに映っちゃったりしてね~?」

 

 閃の言葉に大洋が驚く。

 

「そ、その場合は反則負けとかになるのか⁉」

 

「そんなことウチが知るか!」



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第5話(2)大浴場の戦い

「じゃあ、ミーティングはこんな所で終わろうか」

 

「よし、風呂入ってくるか」

 

「好きやな~」

 

「昨日は色々とバタバタしていて気が付かなかったんだが、オーシャンビューの大浴場があるらしい。今日はそっちに入ろうと思う」

 

 そう言って、大洋は右手親指をサムズアップした。

 

「エンジョイしとるな……」

 

「今更だけど大洋、他チームの選手と出会う可能性があるかもしれないけど、余計なことは言わないようにお願いね~」

 

「そうなのか……分かった、世間話に留めるようにする」

 

「記憶喪失の身で世間話するっちゅうのもわりとハードル高いな……」

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「行ってら~」

 

 大洋が浴場へと向かった後、隼子が閃に尋ねる。

 

「そういや本当に他チームの連中を見いひんな?」

 

「食堂は他にも幾つかあるからね。その辺の導線もしっかりしているみたいだし、食事中にお互いにバッタリ、ということはまずないみたいだね~」

 

「気を遣っているんやな……当たり前っちゃ当たり前か」

 

「浴場とかは結構緩いみたいだけどね~」

 

「大洋、問題起こさんやろな……」

 

 

 

「おおっ!」

 

 浴場に入った大洋は思わず声をあげた。オーシャンビューの大浴場は見事な景色が広がっていたからである。

 

「これは良い。種子島の景色を一望できるな」

 

 大洋は体を入念に洗い、風呂に入った。

 

「~~! いい湯だ! 生き返るようだ……」

 

 大洋はしばし湯加減を堪能した後、おもむろに立ち上がった。

 

「う~ん! テンションが上がってきたぞ! こんなときは力の限り叫ぶに限る!」

 

 すぅっと深呼吸して、大洋は叫んだ。

 

「曲がったことが大嫌い! 疾風大洋です!」

 

「多・田・野で~~~~~~~~~~~す!」

 

「「⁉」」

 

 お互いの叫び声によって、ようやく自分以外の入浴者がいるということに気づいた大洋と五分刈りの男、二人が顔を見合わせる。

 

「「……」」

 

 二人は黙って顔を背けてしゃがみ、再び風呂に浸かった。しばらくの間沈黙が続いた。

 

「……俺の方が、」

 

「……僕の方が、」

 

「「大きかった‼」」

 

 再び二人の声が揃った。

 

「アンタ、ナニを言っている⁉」

 

「ナニをって、貴方こそ一体ナニの話しをしているんですか!」

 

「ぐっ……ならば、どちらが長く顔をお湯につけていられるか勝負だ!」

 

「望むところです!」

 

 二人とも顔を風呂の中に突っ込ませる。数分ほどその状態を保っていた。

 

「「ぶっはぁ‼」」

 

 二人はほぼ同時に顔を上げた。互いに顔を見合わせる二人。

 

「俺の方が長かった!」

 

「いいえ、僕の方がコンマ何秒か長かったですよ!」

 

「俺だ!」

 

「僕です!」

 

「くっ!」

 

 大洋は周囲に目をやる。すると、サウナルームが目に入った。

 

「ならば、今度はどちらがサウナに長く入っていられるかで勝負だ!」

 

「受けて立ちましょう!」

 

 両者は勢いよくサウナの中に入った。そして腕を組んでドカッと座席に腰を下ろした。そして10分程経過した。

 

「あまり無理をしない方が良いんじゃないか?」

 

「それはこちらのセリフですよ!」

 

「……」

 

「……」

 

 更に20分程経過。

 

「やせ我慢は良くないですよ?」

 

「その言葉、そっくりそのまま返す!」

 

「……」

 

「……」

 

 それから30分程経過、サウナに入って約1時間が経っていた。

 

「「~~~‼」」

 

 遂に耐え切れなくなった両者は揃って席を立つとドアを開き、隣の部屋の水風呂に思い切り飛び込んだ。一瞬間を置いて、大洋が叫ぶ。

 

「俺の方が長く入っていた!」

 

 五分刈りも言い返す。

 

「いいえ、僕の方がコンマ数秒か長く入っていました!」

 

「なんだ、さっきからコンマコンマって! 正確に計っていないだろう!」

 

「僕の体内時計ですよ!」

 

「そんなものを信じられるか!」

 

 大洋は浴場の外を指し示す。

 

「こうなったら、風呂を上がって勝負だ!」

 

「いいでしょう!」

 

 二人は浴衣に着替え、更衣室から出ると、近くの売店に向かう。

 

「おばさん! 牛乳を下さい!」

 

「あいよー!」

 

 大洋が振り返って五分刈りの男に告げる。

 

「風呂上りと言えばやはり牛乳! 牛乳をどれだけ多く飲めるかで勝負だ!」

 

「受けて立ちましょう!」

 

 二人は購入した牛乳を右手で持ち、左手を腰に当てた体勢でゴクゴクと勢いよく飲み始める。同じ位のペースで1本飲み終えた。

 

「おばさん! もう1本!」

 

「こちらも!」

 

「あいよー」

 

 そして二人は10本ずつ飲んだ。売店のおばさんが申し訳なさそうに二人に告げる。

 

「ごめんね……もう牛乳無いのよ~」

 

「ぐっ……ならば、これだ!」

 

 大洋は売店のレジ脇の冷蔵庫から通常より大分大きなサイズのラムネ瓶を取り出す。

 

「量の勝負では埒があかん! このメガビッグラムネを先に飲み干した方が勝ちだ!」

 

「良いでしょう!」

 

 五分刈りもラムネ瓶を手に取った。二人が並んで立つ。

 

「準備は良いか?」

 

「行くぞ! ……レディ、ゴー‼」

 

 大洋の掛け声と同時に、二人は豪快にラムネを飲み始めた。しかし、余りの大きさの為に、流石に一挙に飲み干すのは至難の業であった。

 

「! ぶっ、ぶふぉ! ごほっ!」

 

 ラムネが気道に入ったのか、五分刈りの男が咽せはじめた。大洋は勝ちを確信する。

 

「ははっ! 悪いがこの勝負もらっ……⁉」

 

「何を騒いでんねん、アンタは!」

 

 大洋の後頭部を隼子が勢いよく引っぱたいた。

 

「な、何をするんだ隼子!」

 

「それはこっちの台詞や! 何を遊んどんねん!」

 

「遊んでいる訳じゃない! 男と男の勝負だ!」

 

 大洋が隼子が言い争っている間に五分刈りの男が体勢を立て直した。

 

「ふふっ、今です!」

 

「しまった⁉」

 

「勝利は頂きで……⁉」

 

「「⁉」」

 

 五分刈りの男が派手に吹っ飛んだ。大洋と隼子が唖然としながら視線をやると、そこには片脚を上げた黒髪ロングの女性が立っていた。

 

「いつまでも戻ってこんと思ったら……何を遊んじょるんや、お前は」

 

「さ、流石の蹴りです……キックさん、ぐぉっ!」

 

 立ち上がろうとした五分刈りの男の横顔を女性が蹴る。

 

「おかしなあだ名ばつけんな……アタシの名前は菊じゃ」



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第5話(3)イノセントデストロイヤー

 翌日、試合直前に両チームの選手が向かい合う。

 

「昨日は有耶無耶になってしまったが……決着は今日付けるぞ」

 

「ええ! こちらこそ望むところです!」

 

 大洋の言葉に五分刈りの男は力強く頷く。

 

「審判さん、ちょっと宜しいですか?」

 

「なんでしょうか? 梅原選手?」

 

 梅原と呼ばれた女性は大洋のことを指差す。

 

「彼はなぜ半裸なのでしょうか?」

 

「……もしかして俺のことですか?」

 

 フンドシ姿の大洋が答える。

 

「アンタ以外に他に誰がおるんじゃ……」

 

「これが俺の戦闘服みたいなものです! お気になさらず!」

 

「いや、気になってしょうがないんじゃが……」

 

「キックさん! 細かいことをいちいち気にすると美容に良くないですよ! ぐおっ⁉」

 

 梅原は鋭い蹴りを五分刈りの尻に喰らわせた。五分刈りは悶絶する。

 

「う、うう……」

 

「五分刈り男が美容がどうとか言うな、気色の悪い……後、アタシの名前は菊じゃ、小さい『ッ』を付けんな。っていうかそもそも下の名前で呼ぶな」

 

「た、多田野選手、大丈夫ですか?」

 

 審判が五分刈りに声を掛ける。

 

「だ、大丈夫です……これも指導の一環ですから、むしろもっと蹴って欲しい位です」

 

「そ、そうですか……」

 

「……変態度では良い勝負かもね~」

 

「な、同類扱いか! 心外だ⁉」

 

 閃の発言に大洋が抗議する。多田野が立ち上がったのを確認して、審判が声を掛ける。

 

「……こほん、えーそれではですね、両チーム正々堂々と、フェアプレー精神を持って試合に臨んで下さい」

 

「はい!」

 

「それでは、礼!」

 

「「お願いします!」」

 

 大洋と閃は一旦陣営に戻った。隼子が尋ねる。

 

「どうやった? 相手チームの様子は」

 

「チームワークは余り良くない……いや、むしろ相当悪いようだな。昨日と同じように鋭い蹴りを喰らっていたぞ」

 

「さ、さよか、それならその点で付け入る隙はありそうやな」

 

「ああ、そうだな」

 

「いや、どうやらあれが通常営業みたいだよ~」

 

 閃の言葉に大洋が驚く。

 

「何、あれでか⁉」

 

「コンビを組んでもう二年目。去年の九州大会にもあの二人で出場しているよ」

 

「そ、そうなのか……」

 

「実力者同士なんか……」

 

「あの五分刈りの彼、多田野一瞬(ただのいっしゅん)君が、インタビューなどで突拍子もないことを言うと、黒髪ロングの彼女、梅原菊(うめはらきく)さんの鋭い蹴りが飛んでくるのは、ロボチャンマニアの間ではもはやお馴染みの光景らしいね」

 

「マニアは一体どこに注目してんねん、ロボットに注目せーや……」

 

 隼子が呆れた声で呟く。閃が説明を続ける。

 

「問題は多田野君が、端から見たら梅原さんの単なる暴力でしかない行為を不甲斐ない自らに対する教育的指導の一環として真摯に受け止めているっていうことだね」

 

「そ、そうなんや……」

 

「純粋なんだな、ある意味」

 

 大洋の呟きに閃が反応する。

 

「そう、そんな二人に付いたあだ名は『イノセントデストロイヤー』!」

 

「訳するなら『純粋な壊し屋』か」

 

「け、結構強そうやな」

 

「というわけだよ大洋、油断せずに行こう」

 

「ああ、勿論だ」

 

「二人とも気を付けてな!」

 

 隼子の声に送られて、大洋の搭乗する光と閃が搭乗する電が、試合が行われる、バトルフィールドへと向かった。

 

「昨日とは違うフィールドなんだな……」

 

「今大会は全部で4つほどフィールドを用意していて、そこからランダムに指定されるって感じかな~。昨日は『平地』だったけど、今日は『山沿い』だね」

 

 ラインに入る二機。閃が声を掛ける。

 

「今回も接敵は速いと思うから迎撃の準備しておいてね」

 

「ああ」

 

「念の為、作戦確認だけど……」

 

「向こうの弓矢、電のキャノンとガトリングガン、射程ではこちらに分がある。撃ち合いが予想されるが、そんな中、俺の光は相手の隙を突いて距離を詰めて……仕留める!」

 

 大洋の力強い返事に閃は満足そうに頷く。

 

「そうだね。向こうはこっちの機体データは持って無いだろうから、現状把握に戸惑っている内に叩く、先手必勝!で行こう」

 

「了解した」

 

 しばらくして、大洋たちのモニターに相手の機体、ダークホースが映った。馬が走るかのように弾みながら、突き進んできた。

 

「来たな!」

 

「全長は約24m、速度も思った以上のようだね……」

 

「閃!」

 

「分かっている! 脚部を狙ってご自慢の機動性を奪う!」

 

 そう言って、閃は電の左腕のマシンガンを発射させる。次々と放たれた銃弾の雨あられがダークホースに襲い掛かる。

 

「!」

 

 ダークホースは飛んでその攻撃を躱した。大洋たちは驚いた。飛んで躱すことは勿論予想の範囲内ではあったが、飛んだ方向が予想外だったからだ。

 

「こちらに向かってきた⁉」

 

「横か後ろに飛ぶかと思ったけど……」

 

 ダークホースが着地して、更に大洋たちに向かって突っ込んでくる。そのスピードは一層加速している。

 

「距離を詰めてきた⁉」

 

「! 大洋! アイツの右手を!」

 

「何! ……あれは⁉」

 

 大洋がダークホースの右手を見て驚いた。その手に巨大な西洋風の槍であるランスが握られていたのである。

 

「あんな武装があったのか⁉」

 

「九州大会用の隠し玉ってことかな?」

 

 大洋が戸惑っている内に、ダークホースが光との距離をあっという間に詰めて、ランスを鋭く突き出してきた。

 

「ぐっ!」

 

 光が名刀・光宗(仮)を引き抜いて、ランスを受け止めようとした。しかし、ダークホースはスピードに乗った状態だった為、その勢いに圧され、刀を弾かれてふらふらとよろめいてしまう。

 

「し、しまった!」

 

 相手は出来た隙を見逃さず、ランスを立て続けに突いてきた。大洋は光の体を丸めさせるようにして、頭部や胴体への直撃を何とか避けようとした。しかし、ダークホースの繰り出すランスは光の両肩や両膝にダメージを与えた。

 

「く、くそ!」

 

「大洋! ……」

 

 閃が大洋に文字でメッセージを送る。相手と近接している為、通信を傍受されるのを避ける為である。大洋はそのメッセージを確認して驚いたものの、コントロールパネルを即座に操作し、「了解」と返信を送った。そして、大洋は光のガードを緩めた。それを見た相手が再びランスを突いてきた。

 

「よしっ!」

 

「何⁉」

 

 光は胸部を狙ってきた相手のランスを寸前で躱し、左の脇を使って巧く挟み込んだ。近接している為か、回線が混線し、多田野の戸惑う声が大洋に聴こえてきた。さらに大洋は刀を一旦収納し、光の右腕を伸ばし、ダークホースの左前脚を掴んだ。

 

「何だと⁉」

 

 今度は梅原の驚いた声が聴こえてきた。

 

「閃、今だ!」

 

「ナ~イス♪」

 

 閃が電をダークホースの後方に周り込ませ、右腕のキャノンを構える。

 

「ま、まさか……」

 

「射線上に味方がおるんじゃぞ⁉」

 

「当たったらごめんね~大洋」

 

 そう言って、閃はアームキャノンを発射した。ダークホースの背面、右肩部の辺りに直撃した。

 

「どわっ!」

 

「ぐっ!」

 

「! うおおおっ‼」

 

 砲撃を喰らい、体勢を大きく崩すダークホース。大洋はすかさず光の体を捻じらせる。そして脇に挟んでいたランスごと、ダークホースの右腕をもぎ取った。

 

「! キックさん!」

 

「くっ!」

 

 何とか体勢を立て直したダークホースは右前脚で光の右腕を蹴り飛ばし、すぐさまバックステップして、距離を取った。その様子を見た大洋は回線をオープンにして、相手に語り掛けた。

 

「お前たちの隠し玉は防いだ! 右腕が無ければ自慢の弓矢も使えまい! 継戦能力はもはや無いはずだ!」

 

「……」

 

「降伏を勧告する!」

 

「「! ……はっはっは‼」」

 

 わずかに間が空いて、相手から笑い声が響いてきた。大洋が尋ねる。

 

「何が可笑しい⁉」

 

「あんなこと言っていますよ、キックさん?」

 

「キックさん言うな……おい、フンドシ男」

 

「何だ?」

 

「まさか隠し玉がそのランスだけだと思うなよ?」

 

「⁉」



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第5話(4)VSダークホース

 ダークホースがまたもや突っ込んできた。大洋は光に光宗(仮)を構えさせる。

 

「やけっぱちになったのか……? ならばこれで終わらせる!」

 

 光は刀をダークホースの胴体部分に向かって横に薙いだ。すると、ダークホースの上半身と下半身が分かれた。マイペースな閃もこれには少々慌てた。

 

「た、大洋! ちょっとやり過ぎだって!」

 

「い、いやそれにしては手応えが無かったような……うぉ⁉」

 

 大洋は驚いた。ダークホースの上半身が光に飛びついてきたからである。

 

「くっ! な、何だ」

 

「これがダークホースの別形態『分離モード』です!」

 

 回線から多田野の声が聴こえてくる。

 

「あ、安易なネーミングだな⁉」

 

「余裕ぶっていられるのも今の内ですよ!」

 

 ダークホースの頭部の口に位置する部分がガバっと開き、鋭い牙が現れた。

 

「! そ、その牙でまさか⁉」

 

「そのまさかですよ!」

 

 多田野はダークホースの牙を操り、光の左肩に思い切り噛み付かせた。

 

「くっ、離れろ!」

 

「離れません!」

 

 光はダークホースを何とか振りほどこうとするが、ダークホース上半身が文字通り喰らい付いて離さない。閃が援護射撃を試みるが、流石の閃もこれには躊躇した。

 

「的が小さくなっている上によく動く! 下手に撃ったら今度こそ大洋に……」

 

「気を取られていて良いのか?」

 

「⁉」

 

「そのキャノンとガトリングガンが目障りだった。だが、距離さえ詰めてしまえば!」

 

 ダークホースの下半身がいつの間にか電の死角となる位置までに潜り込んできていた。

 

「ちぃ!」

 

 閃は電の左腕を操作し、自身の機体の左斜め後方に位置していたダークホースの下半身に対してひじ打ちを喰らわせようとした。そこに回線から梅原の声が聴こえてきた。

 

「遅せぇよ!」

 

「どわぁ!」

 

 電のエルボーアタックは不発に終わり、先にダークホースの両後ろ脚から繰り出されるキックをもろに喰らってしまった。電は前方に突っ伏すように倒れ込む。

 

「くそっ!」

 

 それでも閃はうつ伏せになった電の機体を左半分だけ起こし、ガトリングガンを放とうとしたが、ダークホースの右前脚に踏み潰されてしまう。

 

「くっ……左腕部がやられたか」

 

「こっちの銀色は制圧したぜ」

 

「流石です、キックさん!」

 

「菊だ! ……いいから早いとこ、その金色の喉笛噛み千切っちまえよ」

 

「了解! いただきま~す」

 

「ぐぬぬ……」

 

 相手チームの物騒な会話も一応耳には入っていたのだが、大洋には纏わりつく相手を振り切ることがまったく出来なかった。

 

「大洋!」

 

「くっ! こうなればこっちがやけくそだ!」

 

「⁉」

 

「何⁉」

 

 大洋は両腕を使って光の首から上を引っこ抜いた。直前にサブモニターに切り替えて、視界は確保してある。そしてその視界にダークホースの下半身を捉えた。そちらに目掛けて大洋は光の首とそれに噛み付く相手ごと投げ込んだ。

 

「ぐおっ⁉」

 

「な……⁉」

 

 奇跡的な偶然か、ダークホースの上半身と下半身が再びくっついた。但し、上半身は裏表逆の状態になってしまっている。多田野が慌てる。

 

「キックさん! こ、これはどういう状況ですか⁉」

 

「落ち着け! 恐らく接触したことによって、分離モードが強制解除になったんじゃ! もう一度分離して、体勢を立て直す!」

 

「そうはさせん!」

 

 大洋は遠隔操作で、光のヘッドバルカンをダークホースの上半身に向けて放った。予想だにしない至近距離からの攻撃を受け、多田野は混乱に陥る。

 

「どわぁ⁉」

 

「今だ!」

 

 大洋が機体を素早く走らせて、ダークホースに飛び乗った。そして、すぐさま相手の上半身を羽交い絞めにする。

 

「ぬっ!」

 

「暴れ馬め! 大人しくしろ!」

 

「ちぃ! 振り落とす!」

 

 梅原はダークホースの下半身を激しく上下動させ、光を落馬させようとする。しかし、そうはさせまいと光は必死にしがみつく。大洋が叫ぶ。

 

「閃、後は何とかしてくれ!」

 

「ちょっとカオスな戦況だな……」

 

「しまった! 銀色め、いつの間にあんな位置に⁉」

 

 梅原は距離を取った電の姿を確認した。

 

「返すよ、隠し玉!」

 

 閃は電の右腕を使って、転がっていたランスを拾って思い切り投げつけた。ランスがダークホースの左前脚に突き刺さる。

 

「うおっ⁉」

 

 ダークホースは体勢を崩し、膝を突いた。閃は間髪入れずに、電のキャノンを構える。

 

「動いていない的ならば当てるのは容易い……!」

 

 電のキャノンが火を噴いた。今度はダークホースの左後脚を撃ち抜いた。バランスを失ったダークホースはたまらず横倒しの状態になる。それを見た審判が即座に判定を下す。

 

「ダークホース、これ以上の戦闘継続は不可能と判断! よって、勝者、二辺工業!」

 

「やった~♪」

 

 喜ぶ閃の声を聞きながら、大洋はふうと安堵の溜息をついた。

 

 

 

「お疲れさまでした」

 

「お疲れさまで~す」

 

 大洋と閃が試合終了後の撤収作業を行っている梅原と多田野に声を掛けた。

 

「自分の首をもぎ取るなんて、全くイカれた戦い方をしやがって……アンタ、その恰好だけじゃなく、頭もどうかしているんじゃろ?」

 

「それは同感~」

 

「そういうアンタもじゃ。味方が射線上におっても構わず撃つなんて……」

 

「……」

 

「気にしなくて良いですよ、キックさんがこういう物言いをする時は、ある意味褒めているんです。まったく素直じゃないんだから……⁉」

 

 梅原が多田野の尻を思い切り蹴り上げる。多田野は悶絶しながらしゃがみ込む。

 

「余計なことを言うな……!」

 

「ああ、ご指導ありがとうございます……あ、大洋さん、今後の健闘を祈ります……」

 

「あ、ありがとう……」

 

 多田野のエールに対し、大洋は若干引き気味の笑顔で答えた。



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第6話(1)極悪お姉さん

「修理は認められているんだな、良かった……」

 

 大洋はホッと胸を撫で下ろす。現在、彼らは宿舎の横にある格納庫の一つに来ていた。

 

「大会運営の監視の下だけどね。申請していない武装の追加とかしたらルール違反だし」

 

 閃がマイクで的確な指示を出しながら、大洋の呟きに答える。閃の視線の先には大松ら二辺工業のスタッフたちが忙しく動き回っている。

 

「しかし、首を取ってもヘッドバルカンを遠隔操作で発射出来たのは驚いたで……あれはどういうこっちゃ?」

 

「やってみたら出来たな。やってみて良かった」

 

「そういう感想やなくて、仕組みを聞いてんねん!」

 

「……元々電や石火との合体を前提に設計されているみたいだから、各々のパーツが外しやすくなっているようだね。そういう一環でああいう離れ業も出来るようにしておいたのかも。設計者もまさか本当にそんなことする奴が出てくるとは思わなかっただろうけど」

 

 隼子の疑問に閃が答える。大洋が鼻の頭をこする。

 

「……なんだか照れ臭いな」

 

「誰も褒めとらんぞ」

 

「とにかく修理は間に合いそうだな」

 

「まあ問題は無いね~」

 

「じゃあ、そろそろ明日の準決勝に向けてミーティングをしようや」

 

「お、ジュンジュン、やる気満々だね~」

 

 閃のからかいを隼子は受け流す。

 

「そりゃ当然やろ……明日勝てば全国大会出場決定なんやから。そうなったら我が社にとっては何十年振りかの快挙やで?」

 

「そうなのか⁉」

 

「ああ、そうや」

 

「決勝はどうした? やらないのか?」

 

「勿論それはそれで行うけどな、ロボチャン全国大会の九州の出場枠は3やからな。つまりは実質明日勝てば全国への切符をゲット! っちゅうわけや」

 

 隼子が上を指差して得意気に説明する。

 

「そうだったのか……」

 

「後の作業は大松さんたちに任せても平気だから、宿舎に戻ろうか」

 

 閃の言葉を受け、大洋たちは宿舎の部屋に移動した。閃が司会でミーティングが始まる。

 

「じゃあミーティングを始めようか、明日の対戦相手は……熊本県第一代表の一八(いちはち)テクノ(株)だね~」

 

「よく聞く名前やな、ロボチャン全国大会の常連さんや」

 

 隼子の言葉に閃は頷く。

 

「そうだね~熊本のみならず、九州を代表するチームと言っても過言ではないね」

 

「強豪ってことか」

 

「押しも押されもしないね」

 

「どんな機体に乗っているんだ?」

 

「熊本県予選の映像があるから見てみよう」

 

 モニターに赤白の機体と青白の機体が映し出される。

 

「二体か……」

 

「機体名は『エテルネル=インフィニ』だってさ」

 

「どういう意味や?」

 

「意訳になるけど、フランス語で『永遠の無限』ってところかな~。あ、ちなみに赤白の方の正式名称が、『エテルネル=インフィニ=ニュメロ・アン』、青白の方が『エテルネル=インフィニ=ニュメロ・ドゥ』だって」

 

「……一号機、二号機ってことか?」

 

「おお~ジュンジュン賢いね~」

 

「からかうなや、それくらい大体の見当つくわ……」

 

 そう言って隼子が頬杖を突く。しばらく映像をじっと見ていた大洋が閃に尋ねる。

 

「さっきから一体ずつ映っているんだが……?」

 

「ああ、予選では一体ずつで戦っていたんだよ」

 

「武装もこれだけなのか?」

 

「あえてライフルしか使わなかったみたいだね~」

 

「おいおい、舐めプやないか」

 

「いや、このパイロットたち……」

 

大洋が腕を組んで感心したように呟く。

 

「相当強いぞ。最小限の弾数で着実に相手のウィークポイントを射抜いている……」

 

「エテルネル=インフィニ…ああ! 面倒だからインフィニって呼ぶね、インフィニ一号機のパイロットが海江田啓子(かいえだけいこ)、二号機のパイロットが水狩田聡美(みかりたさとみ)だってさ」

 

「両方とも女か」

 

「強豪チームやのに聞いたことない名前やな?」

 

「コンビでフリーのパイロットとして活動していた所を最近好待遇で雇ったんだってさ」

 

「フリー?」

 

「傭兵かいな、叩き上げのプロやんけ。しかし、こう言っちゃなんやけど、強豪とは言え、よく九州の企業がこんな凄腕コンビ雇えたな?」

 

「まあ、これは風の噂なんだけどね……」

 

 閃が声を潜める。

 

「結構なトラブルメーカーらしいよ。各所で問題起こして、一か所になかなか定着出来ないとかなんとか……」

 

「成程、傭兵あるあるやな……」

 

「それで付いたあだ名は……えっと、何だっけかな?」

 

 首を捻る閃に対し、大洋は話題を変える。

 

「九州大会も一機ずつなのか?」

 

「いや、流石に二機で試合に臨んでいるね。勿論明日も二機でエントリーしている」

 

「と、いうことは……?」

 

 大洋の問いに閃がニヤりと笑う。

 

「そう、ルール上こっちは三機で出ても良い。だから明日は三機でエントリーしているよ」

 

「よっしゃー! 腕が鳴るで!」

 

 歓喜する隼子を横目で見ながら大洋が尋ねる。

 

「作戦は決まっているのか?」

 

「う~ん、作戦は……無いね!」

 

「無いんかい⁉」

 

「まさか武装がライフルだけってことも無いだろうけど分からないし、どういう連携をとってくるかも予想がつかないしね……正直対策の立てようが無いよ」

 

「た、例えば余所で戦っていた時のデータとかは無いんか?」

 

「そう思って探してみたら無くはなかったけど、搭乗していた機体も今とは別だし、戦い方の詳細までは分からなかったよ……」

 

「さ、さよか……」

 

「ただ一つ言えることは……」

 

「言えることは?」

 

「相当腕が立つってことかな~」

 

「な、なんやねんそれ……」

 

 隼子がずっこける。

 

「とにかく油断せずいこうってことだね。以上、ミーティング終了!」

 

「終わりかいな⁉」

 

 大洋が立ち上がる。

 

「よし、風呂に入ってくる」

 

「ほんま、好きやな~」

 

「今日は露天風呂だ!」

 

「へいへい、楽しそうなこって……」

 

 大洋はウキウキした足取りで露天風呂に向かった。

 

「う~ん?」

 

「どないしてん、オーセン?」

 

「いや……」

 

 大洋は露天風呂に着き、すぐさま服を脱ぎ、体を洗って入浴した。

 

「~~~! 良い湯だ!」

 

 大洋は心から叫ぶ。すると、入り口の方から声が聞こえてきた。

 

「うん……海江田、先客がいるよ……?」

 

「そうだね、まあ、構わないさ」

 

 大洋が振り返ると、裸の女性二人がそこには立っていた。

 

「⁉」

 

 大洋は狼狽し、慌てて視線を逸らした。

 

「ここは男湯ですよ⁉」

 

「知っているよ……」

 

「し、知っているって……」

 

「別に男湯に女が入っても良いだろ?」

 

 いつの間にか海江田と呼ばれた女性が大洋の背後に来ていた。

 

「い、いや決まりというものが……」

 

「決まりごととか、はっきり言ってクソ喰らえだね」

 

「そ、そんな……」

 

 大洋は戸惑った。一方部屋に残っていた閃が叫ぶ。

 

「あ、思い出した!」

 

「急になんやねん……」

 

「相手のあだ名だよ」

 

「あだ名?」

 

「そう、その非道な戦いぶりから付いたあだ名は……『極悪お姉さん』」



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第6話(2)危険な混浴

 再び露天風呂にて、大洋は激しく動揺していた。

 

「し、失礼します!」

 

 大洋は立ち上がって、風呂からさっさと上がろうとしたが、腕をガシッと掴まれてそれを阻止される。

 

「⁉」

 

「まあまあ、お兄さんも入ったばかりだろう? そんなに慌てて上がることもないじゃないか、せっかくの露天風呂だ、もう少し堪能していきなよ」

 

(くっ……細腕なのになんて力強さだ!)

 

 大洋は自身の腕を引っ張ってきた女性の腕力に驚きを隠せなかった。

 

「……ひょっとして、一八テクノの方々ですか?」

 

 大洋は女性たちの方を見ずに尋ねた。

 

「……ガチムチえくぼって何だっけ、海江田?」

 

「一八テクノね……アタシらの今の雇い主だよ。いい加減覚えなよ、水狩田」

 

「……ということは明日、対戦することになりますね、こんなところでなんですがよろしくお願い致します」

 

 大洋は背中を向けたまま頭を下げた。海江田が一瞬目を丸くして、高らかに笑う。

 

「はっはっは! 言わなきゃ分からなかったのに、随分と正直なお兄さんだね」

 

 海江田は大洋の背中をバンバンと叩いた。

 

「ぶっ⁉」

 

「つまりお兄さんはなべふた工業の人かな?」

 

「……二辺工業です」

 

 大洋はややムッとしながら答える。

 

「ああ、それそれ。間違えた」

 

「海江田、人のこと言えないじゃん……」

 

「うるさいね、アンタよりはマシだよ。それじゃあ、お兄さんがパイロットかい? 道理で良い体つきをしていると思ったよ」

 

 海江田は大洋の肩をゆっくりとさすった。

 

「⁉」

 

 大洋はビクッとする。その反応を見て海江田は笑った。

 

「あはは、どうしたの、お兄さん。ひょっとして女と風呂に入るのは初めてかい?」

 

「こ、答える義務はありません!」

 

「反応が童貞っぽい……」

 

「な、何を⁉」

 

 水狩田の突っ込んだ発言に対して大洋は思わず振り向いて二人の顔を見た。ところが二人とも想像していたよりも整った顔つきをしていた為、大洋は何故だか無性に気恥ずかしくなり、再び背を向けた。

 

「あら、結構良い男じゃない? もっとお顔を見せて頂戴よ」

 

 海江田が人差し指で大洋の背中をなぞる。大洋は背中を強張らせる。

 

「あはは、お兄さん、露骨に緊張しているじゃない?」

 

「やっぱり童……」

 

「自分は疾風大洋と言います!」

 

 このままでは相手のペースに飲み込まれてしまうと感じた大洋はわざと大声を出して場の雰囲気を変えようとした。

 

「へえ、そうなの。良い名前だね……」

 

「ありがとうございます!」

 

「そんな大声出さなくても良いよ……」

 

 水狩田がややウンザリとした口調で話す。大洋はやや声のトーンを落として続ける。

 

「どうやら自分の名前を初めてお聞きになったようですね?」

 

「うん、そうだね」

 

「……では、明日の対戦相手の情報を全く確認していないということですか? 流石は全国大会常連のチーム、随分と余裕の構えですね」

 

「うーん、余裕というか……」

 

「そもそも興味が無い、毛の先ほども」

 

「なっ⁉」

 

 水狩田の言葉に大洋はやや気色ばんだが、すぐに平静さを取り戻した。

 

「……お二人はこれまで傭兵として活動されていたとのことですが?」

 

「お、よく知っているね」

 

「傭兵稼業こそ情報が何より大事なのではありませんか?」

 

「うん、まあ、その通りだね」

 

「情報収集を怠っていると足元を掬われることになりますよ?」

 

「ははっ、忠告してくれているのかい? でも大丈夫、大丈夫……」

 

 海江田は笑った後、急に低い声色で呟いた。

 

「足元にそもそも近づかせないよ。仮に足元に迫られても……」

 

「踏み潰すまで……アタシたちはそうやって生き残ってきた」

 

 水狩田も低い声で淡々と語った。大洋は自分の背筋がゾクッとするのを感じた。

 

「……」

 

「はははっ、どうしたのお兄さん? いきなり黙り込んじゃって」

 

「ビビった?」

 

「……ビビッてなどいません。むしろ俄然闘志が湧いてきました」

 

「へえ……?」

 

「その強気な態度、明日も保っていられるでしょうか?」

 

「うん?」

 

「言っておきますが、我々は今までの相手とは一味も二味も違いますよ!」

 

「ほお、それは楽しみだね」

 

 大洋は立ち上がった。

 

「それでは、また明日。失礼します、お休みなさい!」

 

 大洋は悠然と風呂から立ち去っていった。その背中を見ながら水狩田が呟く。

 

「記憶喪失の噂、どうやらマジだったみたいだね……」

 

「九州まで流れてきた甲斐があったね……どうやらアタシらに運が回ってきたようだよ」

 

 そう言って海江田は静かに笑った。



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第6話(3)VSエテルネル=インフィニ

 翌日、試合の直前に両チームの選手が整列して向かい合う。海江田がにこやかに大洋に話しかける。

 

「お兄さん、昨日はどうも~♪」

 

「……どうも」

 

「なんや、何かあったんか?」

 

「い、いや、別に、何も無いぞ!」

 

 大洋が分かり易く動揺する。

 

「なんや? 怪しいなぁ」

 

「何も無かった!」

 

「そう、別に何も無かったよ、ただ……」

 

「ただ?」

 

 海江田の呟きに隼子が問い返す。水狩田がボソッと答えた。

 

「裸の付き合いを少々……」

 

「はっ⁉」

 

「ご、語弊のある言い方はやめてもらいませんか! こ、混浴! そう、ちょっと混浴をしただけだ!」

 

「試合前に対戦相手と混浴って……」

 

「それはそれは……随分と楽しそうだね~」

 

 隼子と閃は大洋に冷ややかな視線を向ける。

 

「違う、たまたま成り行きで混浴になっただけで……」

 

「何や! 成り行きでって⁉」

 

「こんなセクシーなお姉さんたちにのぼせてしまっていたわけだね」

 

 閃が海江田たちを指し示す。海江田たちは一見、レオタードにも見えるような露出度の高い戦闘服に身を包んでいる。

 

「のぼせるとは上手いこと言うな、閃……じゃなくて! 別にやましいことは何ひとつとしてない!」

 

「さっきから目が泳いでいるやんけ! なんで相手のことを見いひんのや?」

 

「いや、目の毒というか、い、いや、むしろ目の保養なんだが……」

 

「別に減るもんじゃないから、もっと見ても良いよ、お兄さん?」

 

「……くっ、色仕掛けとは卑怯やぞ!」

 

 隼子の言葉に水狩田が呆れる。

 

「別に戦闘服に細かい決まりは無いし……この程度で動揺する方がどうかと思うけど」

 

「そ、それは確かにそうやけど……恥ずかしくないんか⁉」

 

「まあ、この戦闘服? というか衣装もギャラの一部だからねえ」

 

 海江田が両手を広げて服をみせびらかすように答える。

 

「ギ、ギャラ……?」

 

「そ、雇い主の意向には極力従わないとね、水狩田?」

 

「それなりのスタイルが求められるけどね……」

 

「……なんだか引っかかる言い方だな~」

 

 水狩田の言葉に閃の顔がやや引きつる。

 

「? なにか気に障った?」

 

「別に~?」

 

 閃の反応を気にしつつも、水狩田が大洋を指差す。

 

「……というか、戦闘服がフンドシ一丁の方が大分恥ずかしいでしょ」

 

「な! この姿のどこが恥ずかしいというんですか! これが俺のれっきとした戦闘スタイルですよ!」

 

 大洋が反論する。海江田が笑いながら答える。

 

「戦闘っていうか、まるで銭湯に向かうようだね、そのスタイル」

 

「……そうやって上手いこと言ったつもりの海江田、嫌い」

 

「えっ⁉ 嫌い⁉」

 

「うん、一番嫌い」

 

「あ、そ、そうなの、気を付けるわ……」

 

 思わぬところから反撃を喰らった形の海江田は若干動揺した。

 

「ご、ごほん、えー両チームともそろそろ宜しいでしょうか?」

 

 審判が声を掛ける。

 

「いつでもどうぞ」

 

「早く始めようよ、さっさと終わらせて帰りたい……」

 

「なっ……⁉」

 

「言ってくれるね~」

 

「……それでは、両チーム正々堂々と、フェアプレー精神を持って試合に臨んで下さい」

 

「はい!」

 

「はーい……」

 

「それでは、礼!」

 

「「お願いします!」」

 

「お願いしまーす……」

 

 大洋たちは一旦陣営に戻り、各々の機体に搭乗した。大洋が二人に声を掛ける。

 

「あんな調子だが、歴戦の強者だ。作戦通り、初めは様子見で行こう」

 

「ギャラがどうとか……ふざけたことを……」

 

「じ、隼子……?」

 

「遠回しに私のことを子供体型ってディスってたよね……あれ?」

 

「ひ、閃……?」

 

「負けられへん……」

 

「負けられない……」

 

「「絶対‼」」

 

「お、おう……」

 

 二人の只ならぬ気迫に大洋は押されてしまった。

 

「こ、これは作戦通りには行かない気がするぞ……い、いや元々俺たちには作戦なんてあって無いようなものだが……」

 

 一方、対する一八テクノ陣営は余裕綽綽だった。

 

「いつもみたいにデータハッキングして徹底的に性能分析しないの、海江田?」

 

「いつもみたいにって……誤解の招く言い方やめなさいよね、今回はそういうつまらないルール違反はやらないわよ」

 

「なんで?」

 

「なんでって……アンタも分かっているでしょ。今回は命を獲るか獲られるかっていう極限状況じゃないからね、あくまでも試合だからね、試合」

 

「試合……」

 

 海江田の言葉を水狩田が反芻する。

 

「電、光、石火……ざっと見た感じ、あの白衣の娘が乗っている『電』が、武装などを見たところ中長距離戦に特化した機体。そして、あの関西弁の娘が搭乗しているのが、『石火』、飛行機能を有しているね。その性能を生かした、支援用の機体かな?」

 

「そして、疾風大洋が乗っているのが、『光』……」

 

「そう、近距離戦に特化した機体だ……さて、どうする水狩田?」

 

「……うざったい二機を先にドンパチで片付けて、この光を丸裸にする」

 

「その後リーチの外から(なぶ)るって感じか……」

 

「そういうこと」

 

「面白いね! それで行こう!」

 

 海江田は水狩田との通信を打ち切った。

 

「後は余計な邪魔が入らなければ、だけど……まさかね」

 

 水狩田は腕を組んで静かに呟いた後、自らの考えを消すかのように頭を振った。両チーム、試合会場であるバトルフィールドに入った。大洋が注意を促す。

 

「これまでの会場とは違う、海沿いのフィールドだ。注意していこう」

 

「……」

 

「……」

 

 大洋の呼びかけに二人とも黙っている。大洋が叫ぶ。

 

「っておい! 聞いているのか! 二人とも!」

 

「間もなく接敵だね~」

 

「モニターで視認した……あの赤白はウチがやる!」

 

 そう言って、隼子は石火を飛行形態に変形させると、相手に向かって一目散に突っ込んでいった。

 

「ま、待て、隼子! 狙い撃ちにされるぞ」

 

 大洋が危惧した通り、隼子の石火は相手の赤白の機体、インフィニ1号機のライフルの正確な射撃の餌食に遭う。いくつか躱して見せたものの、それでも何発かは被弾し、相手との距離を大して詰めることも出来ないまま石火は砂浜に不時着するような形になった。

 

「隼子! 大丈夫か! おい、応答しろ!」

 

「敵は取るよ、ジュンジュン!」

 

「縁起でもないことを言うな!」

 

 閃が自身の操作する機体、電の左腕のガトリングガンを起動させ、すぐさま相手に向かって発射する。

 

「まだ射程外じゃないか? 焦り過ぎだ!」

 

「いや……冷静だよ!」

 

「? そうか、わざと足元を狙って! 土煙で相手の視界を奪って、尚且つ、相手の足場も崩して、移動方向を制限し、こちらに誘導したのか!」

 

 大洋が気付いた時には。閃は電の右腕のアームキャノンを構えていた。

 

「上手くいけば二機とも射線上に重なってくれる……! 一石二鳥!」

 

 閃はモニターに目をやり、自身の狙い通りに誘導され射線上に立つ敵機の姿を見て満足したが、すぐに違和感に気が付いた。

 

「⁉ 一機だけ⁉ もう一機は⁉」

 

 閃のコックピット内に上方の危険を示すアラームが点灯する。

 

「上⁉ 赤を踏み台にして、青が飛んだ⁉」

 

 閃が事態を把握すると同時に、インフィニ2号機のライフルの雨霰が電に向かって降り注いだ。右腕と左腕の付け根の部分を正確に撃ち抜かれ、攻撃機能は瞬く間に奪われ、更に両脚部も狙い撃ちされて、電は力なく、仰向けに倒れ込んだ。

 

「閃! 隼子!」

 

 大洋が必死に呼びかけるも二人からのの応答が無い。代わりに海江田たちからモニターでの通信が入る。

 

「どうする、お兄さん? そろそろ降参する?」

 

「何を馬鹿な! 俺はまだやられていない!」

 

「強がっても時間の問題だと思うけど……」

 

「何だと!」

 

 水狩田の言葉に語気を強める大洋。

 

「まあまあ、お兄さん、少し冷静になろうか」

 

 海江田が大洋を宥める。

 

「アタシらの見立てが正しければ、その機体は完全な近接戦闘特化用機体だ、申し訳程度に頭部にバルカン砲を備えているようだけどね。つまり腕部かもしくは脚部に超強力な近接戦闘武器を隠し持っているという可能性が高い。違うかい?」

 

「……」

 

「この場合の沈黙は肯定と受け取るよ。更に見たところ、あのお嬢さん方が乗っている機体とお兄さんが乗っている機体、設計思想が随分と似通っているようだね、大方同じシリーズの機体ってところかな? もう一つ付け加えると、あの銅色の機体が支援用、銀色が中長距離戦用、そしてお兄さんのその金色の機体が近距離戦用の機体……三機揃って運用して初めて性能をフルに発揮できる機体群だ、当たっているかな?」

 

「……試してみるか?」

 

「ぶはっ! 冗談きついよ」

 

 笑い出した海江田に代わって、水狩田が喋りだした。

 

「近距離戦専用の機体にわざわざ接近する馬鹿はいない……このまま射程外から頭部、両腕部、両脚部を撃ち抜いて、ジ・エンドだ……」

 

「……」

 

「何か言い残すことはある?」

 

「その予測っていうのは……傭兵時代に培った経験からくるものなのか?」

 

「いや、これはそんなご大層なもんじゃなく……」

 

「……女のカンってやつかな」

 

「あははっ! 水狩田良いね、面白いわそれ!」

 

「……そうか」

 

 大洋がニヤりと笑った。海江田が不審な顔を見せる。

 

「ん……?」

 

「じゃあ、外れだ」

 

「何を……うぉっ⁉」

 

「海江田! どわっ⁉」

 

「な、なんだ、後ろ⁉」

 

 そこには飛行形態から人型形態に戻り、片翼を外して、ブーメランのように投げ込んでくる石火の姿と、仰向けで倒れ込みながら、胸部のアーマーを外し、追尾型のミサイルを発射する電の姿があった。

 

「ま、まだ武装が残っていたのか⁉」

 

「は、挟みうち……⁉」

 

 狼狽する海江田たちは、いわゆる“死んだふり”をしていた隼子たちの後方からの攻撃に成す術なく、自慢のライフルを取り落としてしまった。

 

「しまっ……!」

 

「くっ……」

 

「もらった!」

 

 大洋は光を走らせ、一気に相手との距離を詰める。そして、名刀・光宗(仮)を引き抜いて、勢い良く飛び掛かった。

 

「これで決まりだ!」

 

 海江田と水狩田は大洋とモニターを繋いだままの状態で、二人揃って驚きと苦悶に満ちた表情を浮かべていたが、大洋が攻撃に入る瞬間フフッと笑った。

 

「詰めが甘いね~お兄さん」

 

「勝負を焦った……やはり童貞……」

 

「何っ⁉」



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第6話(4)逆転の一手

 次の瞬間、ビリビリっとした衝撃がコックピット内の大洋の体に走った。

 

「な、こ、これは……鞭か⁉」

 

「そう、しかも電磁を帯びた特製のね」

 

 インフィニ1号機の右手には長い鞭状の武器が握られていた。それを近づこうとした光の肩部に思い切り打ち付けたのである。不意打ちを喰らって、大洋は光の動きを停止させてしまった。それを見て海江田がニヤりと笑う。

 

「まさか本気で武装がライフルだけだと思ったかい? お兄さん、流石に考えが甘いよ~」

 

「くっ……」

 

「海江田……」

 

「はいよ!」

 

 水狩田の呟きを受け、海江田は鞭を巧みに操り、光の胴体を巻き付ける。

 

「しまった! 動きを止められた!」

 

「はい、おしまい」

 

「‼」

 

 水狩田はインフィニ2号機を前進させて、一気に光との間合いを詰め、右腕を思い切り振りかざした。その先には鋭い爪状の武器が光る。

 

「大洋!」

 

「どわっ!」

 

「うおっ!」

 

「!」

 

 光は仰向けに倒れ込み、爪による斬撃を辛くも躱した。勢い余って機体のバランスを崩しかけた水狩田は体勢を立て直し、海江田の方に向き直って文句を言う。

 

「海江田、しっかり止めといてよ……」

 

「い、いや、悪い。あの嬢ちゃんが……」

 

「?」

 

 水狩田は投げたブーメランを受け取る石火の姿を確認し、事態を把握した。

 

「ブーメランをこちらじゃなく、味方の脚に当て、わざと体勢バランスを崩させたのか。成程ね、それは予想外だ」

 

「余所見をしていて良いのか!」

 

 大洋は光を鞭に縛られた状態から抜け出させて、すぐさまインフィニ2号機に向かって剣で斬りかかった。

 

「⁉」

 

「……相手の虚を突く戦い方は悪くない。だけどそれだけじゃ……」

 

 水狩田はインフィニ2号機の機体を横に向けた状態のまま、右手の爪で光の繰り出す斬撃を受け止めてみせた。

 

「実力差は如何ともし難い!」

 

 次の瞬間、インフィニ2号機の左手の爪が光の右わき腹の部分に突き立てられた。

 

「くっ!」

 

「意外と固いね、装甲……」

 

「大洋! ぬおっ⁉」

 

「おおっと、戦闘中は油断しちゃ駄目だよ、お嬢ちゃん?」

 

 隼子が驚きの声を上げる。石火の左肩部に対し、インフィニ1号機が電磁鞭を叩き付けたのだ。この攻撃によって、石火の肩のキャノンが一門潰されてしまった。

 

「くっ……思たよりもずっと鞭のリーチが長い!」

 

 隼子は若干石火を後退させて、状況を理解しようとした。

 

「光が縛りを上手く抜け出したんやない……ワザと緩めて、そして返す刀の要領でウチのことを狙ったんか⁉」

 

 一見それぞれが自由気ままに動いている様に見えて、しっかりと連携の取れた相手に隼子は戦慄した。そこに回線をオープンにした海江田の声が聞こえてくる。

 

「どうやら馬鹿じゃないようだから聞くけど、どうする? まだ続ける? 彼我の力量差は理解したと思うけど?」

 

「! その聞き方が馬鹿にしとるやろ!」

 

「その強気な回答は……続けるってことで良いのかな?」

 

「そうや!」

 

「こう言っちゃなんだけど、もうそちらは死に体の様に見えるけど?」

 

「ぐっ……」

 

「まだだ!」

 

「⁉」

 

 大洋が叫んで、光の脚でインフィニ2号機を蹴っ飛ばし、距離を取った。

 

「大洋……」

 

「……まだ俺たちの闘志は死んでいない!」

 

「ぶはっ! 何を言い出すのかと思ったら精神論かい?」

 

「うざ……」

 

 大洋の言葉に海江田は噴き出し、水狩田は心底ウンザリしたような声を上げる。海江田は鞭をゆっくりと振り回しながら、大洋たちに尋ねる。

 

「それで……どうするのかな? 自慢じゃないが、アタシは鞭の使い方にはちょっと自信があるんだ。容易に距離は詰めさせない。例え運良く懐に入っても、水狩田の爪がアンタたちを切り裂く。そして……お嬢ちゃん」

 

「な、何や……」

 

「肩のキャノンは一つ潰した。残った方だけで果たしてどれだけダメージを与えられるのかな? ブーメランも来ると分かっていれば叩き落とすのは簡単だ」

 

「ぐぬぬ……」

 

「まあ、命中率には多少自信があるようだけどね」

 

「おい、あまり買いかぶるなよ」

 

 大洋が突然割って入る。

 

「隼子の命中率の低さは伊達じゃないぞ、さっきのブーメランで俺の機体の脚を払ったのも機転を利かした様に見えて実はたまたまだ。大方、鞭かそっちの青白を狙って投げたのが、こっちに当たって上手いこといっただけだ」

 

「っておおい⁉ 何でアンタがディスってくんねん!」

 

「事実誤認があったようだからな」

 

「言わなきゃ分からへんねん!」

 

「あ、そ、そうなの……?」

 

「海江田、そんなのどっちでも良い」

 

「そ、そうだね、じゃあそろそろ終わりにしようか?」

 

 そう言って海江田は機体に鞭を構えさせ、水狩田は機体に両手の爪を立てさせる。

 

「! ……来る!」

 

 これまでに感じたことの無い只ならぬ気配を感じ取り、隼子は体を強張らせる。次の瞬間、インフィニ1号機の鋭く振り下ろした鞭が石火に迫り、インフィニ2号機が両手の爪で光に襲い掛かった。そのスピードに隼子も大洋も反応しきれず、二人とも体を固まらせてしまった。するとそこに一瞬の閃光が走る。その場にいた全員が眩しさに思わず目を閉じた。海江田がゆっくりと目を開けてモニターを確認すると、そこには金銀銅三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が映し出されていた。

 

「な、何?」

 

「合体した……?」

 

「……せーの、『三機合体!電光石火‼』……って、あれ、どうしたのさ、二人とも? そこはこう、ハモってくれないとカッコつかないでしょ~?」

 

「い、いや、ちょい待ちオーセン、合体は隠しとくんやなかったんか⁉」

 

「だって負けたら元も子も無いし……予定変更だよ」

 

「変更って……」

 

「大洋もOK?」

 

 閃の問いに大洋がフッと笑う。

 

「ああ、反撃開始だ‼」



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第7話(1)とりま、モードチェンジ

「よし、行くぞ!」

 

 電光石火が刀を構える。

 

「まさか三機合体とはね……」

 

「関係ない、経験でこちらが勝る……」

 

 水狩田が静かに呟く。

 

「まあ、それもそうだね!」

 

 海江田が電光石火の脚部を狙って、インフィニ1号機の鞭を振るう。

 

「ちぃっ!」

 

 大洋が舌打ちしながら、機体を後退させ、鞭の攻撃をなんとか躱す。

 

「あの鞭があると容易には近づくことが出来へんで!」

 

「そうだな、どうするか……」

 

「じゃあさ、モード変更でもしてみる?」

 

 閃が大洋と隼子の顔を見比べながら尋ねる。

 

「な、なんやて?」

 

「だ・か・ら、モードの変更」

 

「そ、そんなことが出来るんか⁉」

 

「うん、わりと最近気付いたんだけどね」

 

「……そもそも今は何モードなんだ?」

 

「とくに名称はないみたいだけど、強いていうなら、近接戦闘モードだね」

 

 大洋の問いに閃が答える。

 

「他に何モードがあるんだ?」

 

「どうやら複数あるようだけど、現在判明しているのは一つだけだね」

 

「どんなモードなんだ?」

 

「それは変更してからのお楽しみってことで……」

 

「いや、楽しんどる場合やないやろ⁉」

 

 この期に及んでの閃のマイペースぶりに隼子は戸惑う。

 

「とにかくこの局面を打開するためにはなにかしら手を打たなければならない……閃、モードチェンジだ!」

 

「オッケー♪」

 

「いや、頼むからせめて確認くらいしようや!」

 

「それじゃ、モードチェンジ、スイッチオン!」

 

「⁉」

 

「な、なんや⁉」

 

 突如として電光石火のコックピットが暗くなって回転した。

 

「な、なんやねん……って、ええっ⁉」

 

 目を開けた隼子は驚いた。自身のシートが右側に移動し、隣に大洋が座っていて、そして先程まで大洋がいた位置に閃のシートが移っていたからである。

 

「こ、これは一体どういう状況や⁉」

 

「気分を変えるために席替えをしてみましたってところかな~」

 

「ええっ⁉ モードチェンジってそういうことなんか⁉」

 

「確かに気分転換には良いかもしれないな……」

 

「でしょ~?」

 

「いやいや! そんなお気楽なことでは困んねん!」

 

 閃のマイペースに同調する大洋に対し、隼子は焦りの声を上げる。

 

「む……」

 

「色が変わった……?」

 

 水狩田たちは電光石火の機体の色が変化したことに警戒を抱いた。これまで金色を基調としていた電光石火の機体が銀色を基調としたカラーリングに微妙に変わったのだ。

 

「どうする、水狩田?」

 

「機先を制する!」

 

 水狩田はインフィニ2号機を加速させ、電光石火との間合いを詰める。隼子が叫ぶ。

 

「うわっ! 青白がこっち来るで!」

 

「させないよ!」

 

 閃がパネルを素早く操作する。電光石火の両膝、いわゆる膝小僧の部分が上にスライドして、砲口が出てきた。閃は叫ぶ。

 

「レッグビームキャノン発射!」

 

「⁉」

 

 電光石火の両膝から二筋のビームが放たれた。驚いた水狩田は機体を急停止させて、そのビームをなんとか躱してみせた。

 

「やるね! でもまだだよ!」

 

 閃が続けてパネルを操作すると、今度は電光石火の両肩、人間で言えば鎖骨の辺りが横にスライドし、マシンガンの銃口が顔を覗かせた。再び閃が叫ぶ。

 

「ショルダーマシンガン発射!」

 

 電光石火の肩からおびただしい数の銃弾が放たれる。インフィニ二号機の下半身部分を狙った攻撃だった。水狩田は機体を後退させるが、何発かが、機体の脚部を掠めたため、バランスをやや崩す。

 

「水狩田!」

 

「かすっただけ……騒ぐほどじゃない」

 

 海江田の声に水狩田は落ち着いたトーンで返答する。

 

「そうか、ならば現状を把握しようか。どうやら向こうはモードチェンジしたようだ。恐らく、さっきの金色ベースの時が近接戦闘用のモード、そして現在の銀色ベースの時が砲撃戦に特化したモードのようだね。あくまでこれは予想だけどね」

 

「概ねその分析で合っていると思う……」

 

 水狩田は海江田の言葉に頷いた。

 

「じゃあ、どうする? 生憎こちらはライフルを手放したままだ。鞭によるリーチの利点はあっさりと失われた」

 

「……」

 

「ベタだけど、どちらか一方が囮になって相手の攻撃を引きつけて、その隙に転がっているライフルを回収する?」

 

「いや、向こうも馬鹿じゃない。そんな狙いにはすぐ気付くはず」

 

「だよね……ならばどうするよ?」

 

「回りくどいことは止めよう。現状の手持ちで最善を尽くす……」

 

「うん?」

 

「つまり……」

 

「ええっ⁉ わ、分かったよ」

 

 水狩田の提案に海江田は戸惑いながらも了承した。

 

「くるで!」

 

 隼子が叫ぶ。インフィニ1号機が鞭を大きく振りかざす。閃が電光石火のレッグビームキャノンを1号機に向ける。

 

「まずは赤白から仕留める! って、ええっ⁉」

 

「なんだと⁉」

 

 閃と大洋が揃って驚く。1号機が2号機の方を目掛けて、鞭を振るったからである。

 

「な、なんや⁉ 味方に攻撃しよった⁉」

 

「ま、まさか……」

 

 閃の予感は的中した。1号機の振るった鞭が2号機の体を巻き付けた。そして、その状態のまま、2号機を電光石火に向けて、投げつけてきたのである。

 

「どわっ⁉」

 

 2号機に勢いよくぶつかられて、電光石火は仰向けに倒れ込んだ。水狩田は機体を操作し、すかさず電光石火のマウントを取った。右腕を振りかざし、アームクローを構える。

 

「こうなれば距離は関係ない。喉元引き裂いて終わり……」

 

 近接しているため、水狩田の物騒な言葉が電光石火のコックピットにも直接聞こえた。

 

「ひいっ!」

 

「くっ!」

 

 隼子が悲鳴を上げ、大洋が呻く。すると、閃はニヤりと笑って呟いた。

 

「……ははっ、まさに飛んで火に入るなんとやらだね~」

 

「何⁉」

 

 閃がパネルを操作すると、電光石火が頭部の口を思い切り開いた。その内部で急速に光状の粒子が充填される。閃が三度叫ぶ。

 

「マウスイレイザーキャノン、発射!」

 

 電光石火の口から凄まじいエネルギー量のビームが放たれた。



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第7話(2)形勢逆転?

「ちぃっ!」

 

「外した⁉」

 

「いや、躱された……なんという反射神経……」

 

 閃が苦々し気に呟いた、電光石火の放ったビームは強烈だったが、インフィニ2号機の右肩を僅かに損傷させるにとどまった。とはいえ2号機は体勢を崩した為、水狩田は機体を電光石火から離し、距離を取った。

 

「大丈夫⁉……ではなさそうだね」

 

「右肩部を半分持っていかれたが……戦闘継続には問題ない。だが」

 

 水狩田が海江田に提案する。

 

「こちらも奥の手を使うのはどうか?」

 

「残念だが、却下だね」

 

「何故?」

 

「奥の手使用は全国大会から、というのがスポンサーの意向だ。それには従わないと」

 

「しかし、口惜しいが向こうの合体により明確な性能差が生じたことを確認した。その差を埋めるには……」

 

「こちらには経験があるんじゃなかった?」

 

「さっきはそう言ったが……状況が変わった」

 

 水狩田は淡々と呟いた。

 

「意固地にならず、柔軟に対応するのは良いことだと思うけどさ……機体の数ではこちらが多くなった。打てる手はまだ他にあるはずだ、考えてみよう」

 

「……」

 

 海江田の言葉に水狩田は黙った。

 

「あちらさん、動きを止めたで!」

 

「こちらの出方を伺っているといったところかな~?」

 

「射程外か?」

 

 大洋の問いに閃は首を振った。

 

「射程内の武装もあるよ。ただ癪だけど、当方の練度の関係でね、迂闊に砲撃しても躱されてしまう可能性がある」

 

「では、しばらく膠着状態か……」

 

「そう悠長なことも言ってられんやろ! この勝負、時間制限がある訳やないけど、稼働エネルギーには限りがある!」

 

 隼子の言葉に閃は頷いた。

 

「珍しくジュンジュンの言う通りだね~。合体によってエネルギーを大分消費している。相手より先にエネルギーが尽きてしまう可能性があるね」

 

「珍しいは余計や!」

 

「誉めたつもりだったんだけど」

 

「どこがやねん!」

 

 隼子と閃が言い合う横で、大洋が考え込み、やがて口を開く。

 

「閃……こういう手はどうだろう? 出来るか?」

 

「……出来なくはないね」

 

「ならばやってみよう!」

 

 電光石火が肩からマシンガンを発射させる。しかし、絶妙に射程外に位置をとっていった二体のインフィニには当たらなかった。海江田が笑う。

 

「先に痺れを切らしてくれたか!」

 

「海江田、待った!」

 

「! 煙で視界を!」

 

 インフィニたちの前に大きな煙が立ち込め、電光石火の姿が見えなくなる。

 

「小癪な真似を!」

 

「膝のキャノンか、口のビームが来る! 集中していれば躱せる!」

 

 砲撃音が轟いた。海江田たちは警戒を強めるが、次の瞬間予想もしない光景が彼女たちの目に飛び込んできた。

 

「機体⁉」

 

「砲撃の反動で飛んできたのか⁉」

 

 電光石火は反対方向に向けて口からビームを発射し、二体のインフィニとの距離をあっという間に詰めた。予想外の行動に流石の海江田たちも戸惑った。

 

「距離を詰めたで!」

 

「よし今だ! 閃!」

 

「了解!」

 

「!」

 

 電光石火の機体が光り、銀色から金色に戻った。

 

「またモードチェンジ⁉」

 

「喰らえ!」

 

「! しまっ……」

 

 再び近接戦闘モードに戻った電光石火が剣で斬りかかり、インフィニ2号機は左手の爪でその攻撃を受け止めようとしたが、受け止めきれずに爪を半分切断されてしまい、さらに体勢を崩して、前のめりに倒れ込んでしまう。

 

「くっ!」

 

「水狩田! ……!」

 

 2号機の援護の為に鞭を振るおうとしたインフィニ1号機だったが、電光石火の返す刀によって、右手部分を半分斬り落とされて、鞭を取り落としてしまう。

 

「よっしゃ! もう一息や!」

 

「ああ!」

 

 電光石火は両手で剣を振りかざし、目の前にうつ伏せに倒れこむインフィニ2号機に向かって、剣を勢いよく振り下ろそうとした。

 

「とどめだ! ⁉」

 

 その時突如として電光石火は横から砲撃を受けた。機体をなんとか踏み止まらせた大洋は砲撃の方向を確認する。

 

「なんだ⁉」

 

「海から⁉」

 

「あれは……」

 

 大洋たちが視線をやったその先には海から顔と大きなはさみを覗かせる、巨大なロブスターのようなものの姿があった。

 

「な、なんや! 怪獣か⁉」

 

「いや、違う……」

 

「違う⁉」

 

「第二波来るよ!」

 

 ロブスターの両のはさみが開いたかと思うと、そこからビームのようなものが発射された。大洋は電光石火を操作し、何とか直撃を避けるが、再び攻撃を喰らい、倒れ込む。

 

「ぬおっ!」

 

 半分パニックになりながらも隼子がモニターに映ったデータを確認する。

 

「該当データ無し! また新種の怪獣かいな!」

 

「怪獣ならここに近づくまでレーダーに何らかの反応があるはず……現在大会主催者のみならず、多くの組織・団体がこの種子島に集結している。野生の怪獣がそのレーダー網を掻い潜れるはずが無い!」

 

「せやったらあれはなんやねん! 勿体つけずに教えろや!」

 

「高度のステルス機能を備えた、古代文明人のロボット……」

 

「古代文明人⁉」

 

 閃の答えに大洋は驚いた。



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第7話(3)防衛戦の果てに

「古代文明人が何の用やねん⁉」

 

「そればっかりは聞いてみないと分からないよ~」

 

「また砲撃が来るぞ!」

 

 大洋の言葉通り、ロブスターが三度そのはさみからビームを発射した。正確に狙いを電光石火に定めてきている。

 

「くっ!」

 

「回避しきれん! ……って、ええっ⁉」

 

 隼子が驚く。二体のインフィニが電光石火をかばったのである。

 

「ど、どういうこっちゃ……?」

 

「どうもこうもない」

 

 水狩田がモニターを開き、大洋たちに告げる。

 

「さっさと大会運営からのメッセージを確認しろ」

 

「……大会は中止! 大至急敵を迎撃せよ⁉ って、ウチらがやるんか⁉」

 

「未確認だけど、防衛軍は周辺海域の敵部隊を迎撃に出払ってしまっているみたいね、今動けるのはアタシらだけってことさ」

 

 同じく回線を開いて話しかけてきた海江田に閃は頷く。

 

「人類同士で争っている場合じゃないってことだね~」

 

「そういうこと」

 

「奴が海に潜ったぞ!」

 

 大洋の言葉に全員がすぐさまモニターを確認する。ロブスター型ロボットが海中に姿を消したのだ。

 

「撤退したんか……?」

 

「そういう訳ではないみたいだよ~」

 

「白衣ちゃんの言う通りだね」

 

「目標を切り替えた……」

 

「切り替えた……?」

 

 大洋の呟きに水狩田が反応する。

 

「レーダーで追える。ここまできたらステルス機能を使う必要はないってことだ」

 

「こっちも確認したよ~」

 

「これは……狙いは宇宙センターか!」

 

 ロブスター型ロボットが海中を急速潜航し、宇宙センター方面へと向かっているのが、電光石火のモニターでも確認することが出来た。

 

「アカン! なんちゅうスピードや!」

 

「種子島宇宙センターは前世紀からこの国の宇宙開発の要だ、むざむざ破壊されるわけにはいかない、何としても君たちで阻止してくれ! って、大会運営のお偉いさんたちが騒いでいるよ……簡単に言ってくれるね」

 

 海江田が淡々と呟く。大洋が閃に問う。

 

「速いな……陸地を走って追いつけるか?」

 

「それだと無理だね。他の方法なら……」

 

「他の方法?」

 

「そう、他のね」

 

 水狩田の問いに閃が笑顔で頷いた。

 

 

 

 ロブスター型ロボットが再び海面に顔を出した。宇宙センターは目と鼻の先である。それを確認すると、ロブスターははさみを広げ、ビームを発射しようとした。

 

「させへんで!」

 

「⁉」

 

 銅色にカラーリングを変化させ、翼を広げた電光石火が上空からロブスターを狙い撃った。直撃こそならなかったが、照準が狂ったロブスターの砲撃は宇宙センターの建物を僅かに掠めるに留まった。

 

「そんなモードも隠し持っていたとは……」

 

 インフィニ2号機を乗っていた電光石火から飛び降りさせて、地上に着地した水狩田が忌々し気に呟く。閃が笑う。

 

「本当は出来る限り隠しておきたかったんだけどね~」

 

「俺たちにも黙っていたのか?」

 

「敵を欺くにはまず味方からってね?」

 

 自分の右隣に席を移した大洋に対して閃はウィンクする。

 

「いつもなら恨み節の一つも言うてやるところやけど、今日は大目に見たるで、オーセン! オイシイところをよう残してくれたな!」

 

 メインパイロットの席に座った隼子が喜々として叫ぶ。閃が釘を刺す。

 

「ジュンジュン、これはあくまで飛行支援モードだからね、直接戦闘は極力避けてね」

 

「分かっとる!」

 

「本当かな~?」

 

「関西ちゃん、奴の上空を旋回して!」

 

 海江田が隼子に指示を飛ばす。

 

「了解!」

 

「どうする気だ?」

 

「ロブスターの一本釣りさ!」

 

 海江田は海面に向かって、インフィニ1号機の鞭を振るう。そして鞭を巧みにロブスターに巻き付ける。

 

「海江田!」

 

「それ!」

 

 インフィニ1号機が海中からロブスターを引き上げ、地上に向かって投げつける。そこにはインフィニ2号機が待ち構えていた。水狩田は2号機の右手のクローで飛んできたロブスターを引き裂いた。二つに別れたロブスターが爆発する。

 

「み、見事だ……」

 

「さ、流石のコンビネーションやな……」

 

「お褒めに預かり光栄だね」

 

「大したことじゃない……」

 

 感心した大洋たちの言葉に対して、海江田たちは事もなげに返答した。

 

「水狩田、相手のパイロットは?」

 

「……激突直前に脱出したようだ」

 

「ああ、その砂浜に転がっているポットか、回収しよう」

 

 そして海江田は機体を地上に飛び降りさせた。

 

「パイロット……そ、そうか、相手にも人が乗っているんやったな……」

 

「どうするつもりだ?」

 

 大洋の問いに海江田は冷たい声色で答える。

 

「そりゃ、捕虜に対してやることは一つだよ……」

 

「拷問……」

 

「い、いや、それはアカンで! 条約違反や!」

 

 水狩田の発した物騒なワードに隼子が色めきたつ。海江田が笑う。

 

「ははっ、冗談だよ。アタシらがやるのは身柄を拘束するだけさ」

 

「アタシら?」

 

「上の連中がどうするかは知らないけどね……まあ、手荒なことはしないでしょ。その先のことには興味もないし」

 

「知る必要もない」

 

「成程、『極悪なお姉さん』らしい考え方だね~」

 

「!」

 

「海江田」

 

「……ああ、分かっている」

 

 閃の冗談めいた言葉に、僅かに動きを止めた海江田だったが、機体の左腕を伸ばして、ポットを回収しようとした。

 

「捕虜確保となったら、特別ボーナスとか出ないものかね……どぅお⁉」

 

 身を屈めたインフィニ1号機を強烈な砲撃が襲う。1号機の左半身が大破する。

 

「な、何……?」

 

「海江田⁉ くっ!」

 

 水狩田がモニターを即座に確認する。

 

「クソ、もう一機いたか! マタタビ、注意しろ!」

 

「ウチの会社はフタナベや!」

 

「隼子!」

 

「ジュンジュン、もっと高度上げて!」

 

「え?」

 

 大洋と閃のかけた声も遅く、気が付いた時には、先程のロブスター型ロボットより、ひとまわり巨大なロブスター型ロボットが海面から物凄い勢いで跳ね上がって、電光石火の斜め上まで飛んできていた。

 

「そ、そんなアホな……ぐおっ⁉」

 

 巨大ロブスターはしならせた尻尾を振り下ろして、電光石火を叩いた。凄まじい衝撃を受けた電光石火は地面に猛スピードで地上に叩き付けられた。

 

「「「うわっ‼」」」

 

「……だから言ったのに……大丈夫、生きてる?」

 

 水狩田が呆れ気味に大洋たちに声をかける。

 

「……死んでたら答えられへんやろ!」

 

「全くだ」

 

「とりあえず元気か、しぶといな……!」

 

 巨大ロブスターが手足などを使って、海面を叩き始めた。それによって弾き出された大小様々な水の塊が、電光石火とインフィニ2号機に襲いかかる。

 

「こ、この水、厄介やな!」

 

「コンクリート片でも投げつけられているかのようだね~」

 

「防戦一方だ! 一旦距離を取るぞ! ……どうした?」

 

 大洋が水狩田に問う。水狩田がわずかに笑みを浮かべて答える

 

「海江田を置いてはいけない、大事な相棒だからね」

 

「無事なのか⁉」

 

「ちょっと意識が朦朧としているけど……なんとかね」

 

 大洋の叫びに海江田が反応する。

 

「ならば、そちらの機体か俺たちの機体に乗るんだ!」

 

「そうしたいのは山々なんだけど……この機体で帰投するのが契約条件の一つだからさ」

 

「そんなこと言っている場合か⁉」

 

 大洋の叱るような声に、海江田は苦笑しながら答える。

 

「ごめんごめん、でもね、コックピットハッチが開かないんだ……脱出ポッドも作動しないし……機体の外には出れそうもないんだ……」

 

「海江田⁉」

 

「くっ……」

 

「大洋!」

 

「!」

 

 閃の声を聞き、大洋が巨大ロブスターの方に目をやると、ロブスターは横に大きく尻尾を振りかぶっていた。

 

「あれで一気に薙ぎ払うつもりや!」

 

「耐えきれるか⁉」

 

「さっきの空中のより強烈だ、ガードしても難しい……」

 

「くそっ!」

 

「!」

 

 次の瞬間、小型戦艦が、巨大ロブスターに砲撃を仕掛けた。

 

「なんだ⁉」

 

「防衛軍の部隊が間に合ったんか⁉ でもそんな戦艦一隻じゃ……」

 

「一隻じゃないわよ! よく周りを見なさい!」

 

 桃色の派手なカラーリングの戦艦から女性の声が響いた。続いて、地上から青色の戦車、ミサイルを積んだ黄色の大型トラック、空中から赤色の戦闘機、海中から緑色の潜水艦が、巨大ロブスターに向かって一斉に攻撃を加えた。思わぬ攻撃を立て続けに喰らって巨大ロブスターもたまらず体勢を崩す。それを見て、戦闘機のパイロットがすかさず指示を飛ばす。

 

「チャンスだよ! 全員フュージョン‼」

 

「な、なんだ……?」

 

 大洋たちが戸惑っていると、あっという間に戦闘機と戦車、大型トラック、小型戦艦、潜水艦が一つの機体に合わさり、巨大ロボットの姿になったのである。

 

「フュージョントゥヴィクトリー、見参‼」

 

 空中に浮かぶ巨大ロボットが五人の揃った叫び声に合わせてド派手にポーズを決めた。



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第7話(4)五色合身! フュージョントゥヴィクトリー!

「FtoVや! ホンマモンのFtoVや!」

 

 隼子が興奮気味に叫ぶ。

 

「「誰?」」

 

 大洋と閃が不思議そうに振り返る。

 

「いや、なんでFtoV知らんねん!」

 

「記憶喪失なもんで……」

 

「幼少から研究一筋だったもんで……」

 

「大洋はともかくとして、オーセンは知らんとマズいやろ! ウチらが子供のころから第一線で活躍しているロボットやぞ!」

 

「子供のころからって言うのは、妙に引っかかるからやめてくれる?」

 

 巨大ロボの方から落ち着いた女性の声が聞こえてきた。その声に対し隼子は取り乱す。

 

「そ、その声は、FtoVの左脚担当、火東聖(かとうせい)さん! ウチ、子供のころから……」

 

「だから、その子供のころから~って言うのをやめてよ!」

 

「火東さん、怒るとお肌に悪いわよ~」

 

 もう一人の女性の声にも隼子は敏感に反応する。

 

「FtoVの右脚担当、殿水仁美(とのみずひとみ)さん! チームのエース格!」

 

「良いこと言うわね。見所あるわ、あの娘」

 

「……殿水がエースならアタシは何なのよ?」

 

「えっと……スター格ですかねえ?」

 

 火東の唐突な問いに隼子は戸惑いながら答える。

 

「スター……まあ、悪くはないわね」

 

「そんなんで喜ぶなんて流石に単純過ぎない?」

 

「アンタに言われたくないわよ」

 

「おい、下半身コンビ! くっちゃべってねえで、さっさと脚を動かせ!」

 

 男のダミ声が周囲に響き渡った。火東と殿水が即座に言い返す。

 

「ちょっと、言い方!」

 

「セクハラで訴えるよ!」

 

「うるせえ! 給料分はしっかり働け!」

 

「そもそも給料の配分がおかしいのよ!」

 

「出るとこ出るわよ!」

 

「あ~あ~なんでも良いから、脚部ブースター噴かせ!」

 

 ダミ声の男がウンザリした様子で命じる。

 

「ちっ……」

 

「今に見ていろ……」

 

 頭部と首回りの部分は赤色、右腕と右半身が青色、左腕と左半身が黄色、右脚が桃色、左脚が緑色という、やや、いや、かなり奇天烈なカラーリングの『FtoV』と呼ばれたロボットが急加速し、巨大ロブスターへと迫る。回線をオープンにしているのか、大洋たちにもそのやりとりが聴こえてきた。

 

「よし! ミサイル発射だ、木片!」

 

「ZZZ……」

 

「馬鹿野郎! こんなときに寝るな!」

 

「! ミ、ミサイル発射!」

 

 FtoVは左腕からミサイルを数発、発射した。ミサイルは全て巨大ロブスターに的確に命中した。巨大ロブスターはFtoVに狙いを定める。

 

(かず)さん、砲撃で奴の眼を潰す、許可を求める」

 

 男の冷静な声が聞こえてくる。和さんと呼ばれたダミ声の男が答える。

 

「よし、任せるぞ! 土友!」

 

 FtoVが今度は右腕に付いた砲口から二発砲撃する。これが巨大ロブスターの両眼部分を正確に射抜いた。

 

「メインカメラを潰されて混乱しているはず。仕掛けるならば今だ……」

 

「上出来だ!」

 

 ダミ声の男が快哉を叫ぶ。

 

「5人で別々に操縦しているのか?」

 

 戦況を見つめながら大洋が疑問を口にした。何故か隼子が誇らしげに答える。

 

「せや! 『五色合身! フュージョントゥヴィクトリー』、通称FtoVのお馴染みの戦闘スタイルや!」

 

「一見、てんでバラバラのようだけど、不思議と息が合っているね~」

 

「それは歴戦の強者、『ザ・トルーパーズ』だからこそ出来る芸当やろうな~」

 

 閃の感想に何故か隼子が胸を張る。

 

「『ザ・トルーパーズ』?」

 

 首を傾げる大洋に対し、隼子はパネルを操作して、5人の男女の顔画像をモニターに表示させ、大洋に問いかける。

 

「これが老若男女に人気の5人組パイロット『ザ・トルーパーズ』や! どうや? アンタにもなんか見覚えないか?」

 

「う~ん」

 

 尚も首を傾げる大洋を見て、隼子が説明を始める。

 

「まず、左脚部分を担当するのは、ショートボブが特徴的な火東聖さん。長年に渡って、グリーンフットの艦長を務めている」

 

「グリーンフット?」

 

「あの緑の潜水艦のことや」

 

「ああ……」

 

「それで、右脚部分、戦艦ピンクフットの艦長を務めているのが、ロングヘアーが特徴的な殿水仁美さん。約7年前に前任者から引き継いで現職に就いている。この二人のコンビ、通称『下半身コンビ』の繰り出す見事な推進移動がFtoVの機動性を大いに高めているんや」

 

 モニターには続いて、大柄ではあるが、太り気味な男性の姿と、眼鏡を掛けた細身の男性の姿が映し出された。

 

「この大柄な方が、大型トレーラーイエローアームのドライバーを務めてはる木片義一(このかたぎいち)さん。やや間の抜けた行動をとるのが玉に瑕やが、ムードメーカーとしては必要不可欠な御方! そして、戦車ブルーアームに搭乗しているのが、土友孝智(つちともこうち)さん。常に冷静沈着でチームの中で参謀の様な役割も果たしている!」

 

 最後にモニターにさほど大柄ではないが、ガッシリとした体格の男性が映し出された。

 

「この御方が『ザ・トルーパーズ』のリーダーにして、戦闘機レッドブレインのパイロット並びに、FtoVのメインパイロットである小金谷和久(こがねやかずひさ)さんや!」

 

「そ、そうか、いや、なんというか……」

 

「わりと5人の平均年齢高めだね~?」

 

 閃の発言に隼子は少し慌てる。

 

「な、何を言うてるんや、さっきも言うたやろ、うちらが子供の頃から第一線に立って活躍されてきはったんや、そりゃあ年季も違うってもんやわ」

 

「第1世代のエッセンスを残しつつ、第2世代の技術をふんだんに盛り込んだ、実に興味深い機体ではあるね」

 

「せやろ⁉」

 

「見ろ、戦況が動くぞ!」

 

 大洋の言葉通り、巨大ロブスターは海面をのたうち回るかのように動いていたが、やがて落ち着きを取り戻し始めたかのように見えた。小金谷が叫ぶ。

 

「とどめをさすぞ!」

 

 FtoVが背中から巨大な剣を取り出した。

 

「奴の装甲は固い! それを破るにはこの剣が必要だ! 5人の意志を一つにしなければ、このビッグソードの力も十二分には引き出すことは出来ない! 分かっているな!」

 

「だからそれは何回も聞いたっての……」

 

「火東!」

 

「あ、はい!」

 

「ギャラを上げてくれれば意志でもなんでも合わせるっつうの……」

 

「殿水!」

 

「はいはい!」

 

「ZZZ……」

 

「だから寝るな! 木片!」

 

「! は、はい!」

 

「美味しいところは自分で持って行って、ギャラも一人だけ大目に貰うと……」

 

「土友! 余計なことは言わんで宜しい!」

 

「はい!」

 

「……では行くぞ! 喰らえ! 『ビクトリービッグソード‼』」

 

 FtoVが大剣を勢い良く振り下ろすと巨大ロブスターは成す術もなく、胴体を切断され、二手に分かれて爆発した。その様子を見下ろしながら、小金谷が勢いよく叫ぶ。

 

「悪は俺たちFtoVが倒した……平和へむけたビクトリーロード、またも一歩前進! 次回もまた一所懸命頑張ります! ごきげんよう!」

 

「出た! 決め台詞!」

 

 隼子は興奮気味にモニター越しに拍手を送る。閃はやや呆れ気味に大洋の方を見ると、大洋が何やら深刻な表情を浮かべていた。

 

「大洋……?」

 

「……ああいう決め台詞、俺らも欲しいな」

 

 全然深刻ではない言葉に閃はガクッと俯いた。



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第8話(1)呼び出されたのでウザ絡みした

「……来たわね」

 

 古代文明人からの襲撃を受けた翌日、軍港にある整備用工廠を訪れた大洋たち3人の姿を横目に見ながら殿水が呟いた。

 

「昨日はどうもありがとうございました」

 

大洋が頭を下げる。

 

「別に感謝されるようなことじゃないわ、弱者を助けるのは強者の当然の責務よ」

 

 椅子に座ってネイルの手入れをしながら殿水が事もなげに答える。

 

「弱者……?」

 

 大洋がややムッとした様子を見せたため、脇にいた隼子が慌てて話題を変える。

 

「そ、そういえば、昨日の巨大ロブスター型ロボットに乗っていた敵のパイロットたちを捕えることが出来たそうですね!」

 

「そうね……私たちも極力殺しはしたくないから、脱出していてくれて良かったわ……」

 

「はははっ、極力ですか……」

 

「それで、敵さんの狙いは分かったんですか~?」

 

 閃が間の抜けた調子で尋ねる。殿水がため息まじりで答える。

 

「尋問は私の仕事じゃないわ。大して興味もないしね」

 

「ほお……」

 

「私の仕事はFtoVに乗って人類の平和を守ること。その平和を脅かすもの……つまり敵がいたら戦うだけよ」

 

 ネイルの手入れを終えた殿水は、そう言って大洋たちに向いて座り直した。

 

「カ、カッコええ~! 流石は歴戦の強者! オーラがちゃいますわ、オーラが!」

 

「あらやだ、漂わせちゃった、オーラ?」

 

 殿水が髪をかき上げる。

 

「ええ、それはもうムンムンと!」

 

「関西弁の貴女、やっぱり見どころあるわね……それに比べてそっちの二人よ」

 

 殿水がテーブルに左手で頬杖を突きながら、右手で大洋と閃を順に指差す。

 

「え? 俺たちがなにかやりました?」

 

「戦い方が奔放過ぎるってやつ~?」

 

「それも多少あるけど、まずは心構えよ」

 

「心構え?」

 

「そう、今回の大会映像をさっきチラッと確認したけど、なんでアンタたち二人パイスーを着ていないのよ?」

 

「パイスー?」

 

「パイロットスーツのことや」

 

 隼子が大洋に小声でささやく。

 

「ああ……」

 

「なんでフンドシ一丁と白衣姿なのよ?」

 

 殿水の問いに閃が一瞬間を置いて答える。

 

「……個性を出したいからかな~」

 

「右に同じ」

 

「もっとまともなこと言いなさいよ……」

 

 大洋と閃はそれぞれ腕を組んで首を捻って考えこみ、口を開く。

 

「服を着ているときよりもテンションが段違いなので……」

 

「白衣を着ていると集中力がレベチなので……」

 

「段とかレベルとかじゃなくて場違いなのよ!」

 

「上手いこと言いますね」

 

「感心するところじゃないわよ!」

 

「……お言葉ですが、電光石火のコックピットの安全性は十分に保証されています」

 

 閃が急に真面目な口調で話す。

 

「それでも実戦には万が一ということもあるでしょう⁉ 耐久性や耐ショック性に富んだ戦闘服を身につける方が絶対良いに決まっているはずよ!」

 

「まあ、一理ありますが……その個性的が過ぎる戦闘服を着る度胸はありません」

 

「う、うるさいわね!」

 

 閃が殿水の恰好を指差す。殿水は赤青黄緑桃の五色が混ざった派手なカラーリングの戦闘服に身を包んでいる。隼子が慌てる。

 

「い、いやミニスカート、よお似合ってはるやろ!」

 

「トップスもそうだけど色使いがちょっと大胆過ぎないかな~?」

 

「あえて白のブーツを際立ててはんねん!」

 

「肩パッド尖り過ぎじゃないか?」

 

「もしもの時のショルダータックル用に尖らせてはんねん!」

 

「どんな時よ! 貴女のフォローも微妙に的外れなのよ!」

 

 殿水がたまらず立ち上がって声を上げる。

 

「私だってこんなの着たくて着ている訳じゃないのよ! でもしょうがないのよ! この専用スーツを着ないとFtoVを動かすことが出来ないんだから!」

 

「逆に言えば、そのスーツを着れば動かせると……?」

 

 大洋の呟きに隼子がハッとする。

 

「そうか! 恥じらいさえ捨てれば、ウチもFtoVのパイロットに?」

 

「いやいやジュンジュン、その恥じらいを捨てるのが難しいんだって~」

 

「む、難しいもんやな~」

 

「恥とか言うな!」

 

 殿水が叫ぶ。

 

「色々な適性試験をパスしないと乗れないの! 専用スーツを着れば、それではい、OK!っていう訳じゃないのよ! あんまりFtoVを舐めないでちょうだい!」

 

「まあまあ、少し落ち着いて下さい」

 

 大洋が興奮気味の殿水を宥める。

 

「誰のせいでこうなったと思ってんのよ!」

 

「前置きはこの辺で……そろそろ本題に入って貰えませんか?」

 

「アンタが人の戦闘服にケチつけてくるからでしょうが!」

 

 閃の言葉に殿水が苛立つ。隼子が頭を下げる。

 

「す、すんません、後でこいつらにはきっちりと言い聞かせときますから……」

 

「ま、まあ良いわ、全然良くないけど……それじゃあお望み通り本題に入るわ」

 

「本題ですか?」

 

 隼子の問いを受けてから殿水が一呼吸置いて話し出す。

 

「ここにアンタたちを呼び出したのは他でもないわ……疾風大洋、飛燕隼子、桜花・L・閃……以上、電光石火のパイロット三名、本日は緊急特訓よ! このザ・トルーパーズの若きエース、殿水仁美が直々に相手してあげるわ! ありがたく思いなさい!」

 

「「「ええっ⁉」」」



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第8話(2)桃色の片脚

 大洋たちは驚きの声を上げる。

 

「そんなに驚くこと?」

 

「い、いえ、大変光栄なことではありますが、その……」

 

「なによ?」

 

 隼子が言い辛そうに続ける。

 

「ど、どういった権限でそういったことになるのでしょうか?」

 

「……現在、この種子島及び、周辺の海域は『特級警戒状態区域』に指定されているわ。間もなく正式に通達があると思うけど」

 

「ええっ⁉ と、ということは……?」

 

 隼子の言葉に殿水が頷く。

 

「官民を問わず、一致協力の体制を取る必要があるの。よって貴女たちの会社も私たちの所属している組織の傘下に加わってもらい、作戦行動を共にしてもらうわ」

 

「流石はザ・トルーパーズ、防衛軍よりも上位になるんですね……」

 

 隼子の感心したような呟きに殿水は笑う。

 

「立場上はそうなるけど、別に偉ぶっているわけじゃないわ。軍人さんたちの気持ちを逆撫でしたりすると後々面倒臭いもの」

 

「……作戦行動とおっしゃいましたが?」

 

 閃が真面目な口調で尋ねる。

 

「これも追って正式に通達があると思うけど、『種子島防衛作戦』が予定されているわ」

 

「それは先に捕えた捕虜さんから聞き出した情報ですか?」

 

 殿水は首を振る。

 

「貴女たちは大会期間中だったから知らなかったと思うけど、数日前から周辺海域に古代文明人のロボットや潜水艦などの活発な行動が確認されているの。連中の目的は正直不明だけど、恐らくはこの種子島の宇宙センターを狙っての作戦行動だと予想されるわ。それもかなりの規模のね」

 

「攻めてくることは確実なんですか?」

 

「こちらもそれなりに諜報活動を行っているからね。十中八九、連中の侵攻があるとみて間違いないわ」

 

「いつごろになりますかね?」

 

「そこまでは掴めていないけど、恐らくこの明日か明後日には来るでしょうね」

 

「明日か明後日⁉」

 

 隼子が驚く。閃が顎をさすりながら呟く。

 

「陽動という可能性は?」

 

「他のエリアを攻めるってこと? まず無いわね。沖縄は元々地球圏連合軍の太平洋第三艦隊が常時駐留しているし、南部九州や四国についても、日本防衛軍西南方面隊が防備を固めている。わざわざそこに攻め込んでくる可能性は極めて低いわ」

 

「では昨日の襲撃はどう見ますか?」

 

「捕虜から聞いてみないと正確なことは分からないけど、大方斥候部隊の勇み足ってところじゃないかしら」

 

「本当にやってくるでしょうか?」

 

「来るわ。これは相手にとっても好機だと思うし」

 

「好機?」

 

 閃が首を傾げる。殿水が髪をかき上げながら答える。

 

「自分たちで言うのもなんだけど、私たちザ・トルーパーズとFtoVは日本防衛の重要な一角。それを崩すこの機会は逃さないはずよ。あちらさんにとっては色々と恨みつらみもあるでしょうしね……」

 

「なるほど……」

 

「諦めてくれるのならそれはそれで良し、やってくるのならば迎撃するまでよ」

 

「……それで特訓とは?」

 

 しばらく黙っていた大洋が不機嫌そうに口を開いた。

 

「なにかご不満?」

 

「いえ、弱者がいては、かえって強者の邪魔になるのではと思いまして」

 

「大洋……!」

 

 大洋の物言いに殿水がフフッと笑う。

 

「もしかしてさっきの言葉気にしている? 案外器が小さい男ね~」

 

「……」

 

「……残念ながら今のままでは、確かに貴方たちは弱者ね。戦いに必要とされる経験・技術、どちらも圧倒的に不足しているもの」

 

「ぐ……」

 

 大洋が悔しそうな表情を浮かべる。

 

「ただ……なんて言うのかしら、センスみたいなものは感じたわ」

 

「センス?」

 

「そう。私はそのセンスにかけてみようと思って、貴方たちを呼び出したの」

 

「明日までに特訓……ちょっと付け焼刃過ぎませんか~?」

 

 閃が両手を広げて天を仰ぐ。殿水は相変わらず両腕を組んだまま答える。

 

「無理は百も承知! 連中は恐らく貴方たちの存在を全く計算には入れていないはず……そこに生じた油断を突く!」

 

「成程! ウチらも重要な戦力に数えて頂いているんですね⁉」

 

 隼子の真っ直ぐな視線からサッと目を逸らして、殿水は静かに答えた。

 

「まあ、いないよりはマシってところかしらね……」

 

「え? 今なにかおっしゃいました?」

 

「な、なんでもないわ! さあ! さっさと特訓の準備を始めましょう! 機体は運び込んできてあるわね?」

 

「は、はい!」

 

「では五分後に、臨時に設けられた演習場で行いましょう」

 

「了解しました!」

 

「了解~」

 

「……了解」

 

 三者三様のバラバラな返答であったが、殿水はそのことを咎めることも無く、颯爽とその場を後にした。大洋たちも機体に乗り込む。

 

「昨日の今日だが、大松さんたちは良い仕事をしてくれたみたいだな」

 

「ホンマや……各機体ともしっかりと修理と整備がなされている……夜を徹してやってくれたんやな、ありがたいこっちゃで」

 

「大分、防衛軍等からの部品供与もあったけどね。なんにせよ仕事が速いのは助かるね」

 

「じゃあ、演習場に向かうか」

 

「おう、そうやな」

 

「……それにしても」

 

「どうしたんや、オーセン?」

 

「指定された演習場はどう見ても陸地なんだけど?」

 

「それがどないしたんや?」

 

「あの、殿水さんが乗っているのはどう見ても戦艦だった。ピンク色のド派手な」

 

「ああ、そうやったな……」

 

 大洋たちの言葉に隼子も疑問を抱く。

 

「……どうやって、訓練を行うつもりなんや? 揚陸機能搭載の戦艦というわけでもなさそうやし、ベタに海側からの艦砲射撃か?」

 

「リーチ外から撃ってくるつもりかもしれないけど、石火の飛行機能を使えば、リーチはあっという間に詰められるよ」

 

 閃の言葉に大洋が力強く頷く。

 

「よし、閃は陸地で戦艦の砲撃を引きつけておいてくれ、俺が石火の上に乗って、距離を詰め、艦に飛び移って、甲板を制圧する」

 

「OK~」

 

「なかなかええ感じの作戦やないか」

 

 大洋の提案に閃たちは頷く。

 

「お待たせ~。準備はいいかしら?」

 

 大洋たちのコックピットに殿水の声が聴こえてきた。

 

「ええ、俺たちはいつでもオーケーでっ⁉ ええっ⁉」

 

 大洋の驚きの声を聞いて、隼子と閃もモニターを確認し、

 

「「ええっ⁉」」

 

 大洋と同様に驚いた。何故ならそこには桃色の右脚がポツンと一本立っていただけだからである。具体的に言えばFtoVの右脚部分だけである。

 

「え、えっと、殿水さん、これはどういうことでしょう?」

 

 フンドシ姿になった大洋が慌ててモニター越しに殿水に話しかける。彼女は先程から着ていた派手なパイロットスーツに負けず劣らず派手なヘルメットを被っている。

 

「どういうことって、そりゃあこういうことよ」

 

「い、いや、意味が分からないのですが……」

 

「察しが悪いね~」

 

 殿水はあえてヘルメットを外し、素顔を出して、モニター越しの三人に話しかける。

 

「アンタたち相手には文字通り右脚一本で十分ってことよ」

 

「「「!」」」



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第8話(3)VSピンクフット

 殿水の機体は右脚一本といういささか奇妙な状態ではあるものの、全長55メートルの巨大ロボットFtoVの一部であるため、大洋たちの機体よりもひとまわりほど大きい。

 

「右脚一本で十分……それはそれは……」

 

 閃が静かに呟いて、電の左腕のガトリングガンを構える。

 

「随分と舐められたもんだね!」

 

 閃がガトリングガンを殿水の乗るピンクフットに向けて発射させる。

 

「!」

 

 ピンクフットは機敏な動きを見せて、まるでダンスのステップを踏むかのように銃弾の雨霰を華麗に躱してみせる。

 

「そんな⁉」

 

「カスりもせえへん⁉」

 

「ただ闇雲に撃てば良いってもんじゃないのよ! 弾数やエネルギー量には限りがあるんだから! もっと考えて撃たないと!」

 

 ピンクフットはあっという間に電の目の前に現れた。

 

「!」

 

「隙だらけよ!」

 

 ピンクフットの蹴りを喰らい、電は勢いよく後方にふっ飛ばされた。

 

「閃!」

 

「さあ、お次はどっちかな?」

 

 殿水が弾んだ声色で大洋たちに問いかける。

 

「ウチが行くで!」

 

 隼子は石火を操作し、機体を上空に舞い上がらせた。

 

「大きさに似合わず、スピードはあるようやけど、制空権を獲れば……!」

 

「なるほど、狙いは悪くないわ……ねっと!」

 

 殿水はピンクフットの機体をくの字に曲げて、反動をつけて思い切りよく飛び上がり、一瞬の間に石火と同程度の高度まで達した。隼子が驚きに目を丸くする。

 

「はあっ⁉ そんなアホな⁉」

 

 ピンクフットは機体を空中で一回転させて、強烈なかかと落としを石火に見舞った。石火は地面に豪快に叩きつけられた。

 

「ぐはっ!」

 

「隼子!」

 

「戦況とは絶えず変化するもの! 一時的に優位に立ったからといって、気を抜いちゃダメよ! 一瞬の油断が命取りになるわ!」

 

 ピンクフットは着地すると、大洋の乗る光の方に向き直った。

 

「さあてラストはアンタね、フンドシ坊や」

 

「くっ……」

 

 大洋は光に刀を構えさせると、真正面から斬りかかった。

 

「迷ったら正攻法! 案外悪くはない判断だわ! でも!」

 

 殿水はピンクフットに地面を力一杯蹴っ飛ばさせた。地面をえぐって出来た土の塊がいくつも光に向かって飛んで行き、その頭部にぶつかる。視界を遮られたかたちとなった大洋は機体を思わず停止させてしまった。

 

「ちっ! 何っ⁉」

 

 土塊を弾くことに気を取られた大洋はすぐさま視線を正面に戻すが、そこにはピンクフットの姿が無かった。

 

「居ない⁉」

 

「足元がお留守よ!」

 

「⁉」

 

 屈み込んだピンクフットが機体を激しく横に振り切る。光は見事な足払いを喰らってしまい、半回転して地面に派手に叩き付けられた。モニター越しに殿水の声が光のコックピットに大きく響く。

 

「相手が馬鹿正直に正攻法に付き合ってくれる訳ないでしょ! 無闇矢鱈な突撃はお姉さん感心しないわね!」

 

「ぐぬぬ……」

 

 殿水はモニターに表示された時間を確認する。

 

「訓練開始から48秒⁉ はあ……ちょっと待ってよ、3機でたったの1分も保たないの? これはとんだ期待外れだったかしらね……」

 

「く、くそ……」

 

「歴戦のパイロットとここまで差があるやなんて……」

 

「こりゃ参ったね……」

 

 大洋たち三人は悔しがる。そんな様子を眺めつつ、殿水はコックピットのシートにもたれかかりながら尋ねる。

 

「どうする? 訓練止めにする?」

 

「いいえ!」

 

「ウチらはまだまだやれます!」

 

「このままじゃ終われないでしょ……」

 

 殿水はモニター画面に映った三人の瞳を見て満足そうに頷く。

 

「ふ~ん、まだやる気と闘志は残っているみたいね。結構結構、ただ……」

 

「ただ?」

 

「このまま続けてもどうせさっきの二の舞よ……そこで一つ提案があるわ」

 

「提案?」

 

「そう、貴方たち、合体しなさい」

 

「「!」」

 

「……合体となると、流石にスペックの差がはっきりと出てしまいますが……?」

 

 閃の答えを殿水は鼻で笑う。

 

「なかなか面白いこと言うわね。明確な力量差がそれでようやくトントンになるかどうかってところでしょ? 三人寄らばなんとやらって言うし……さっさと合体なさいよ」

 

 殿水は面倒臭そうに手を振り、大洋たちを促す。

 

「! 言わせておけば! 隼子! 閃! 合体だ!」

 

「分かったで!」

 

「了解~!」

 

 大洋たちの機体は合体して電光石火となった。頬杖をついていた殿水はそれを確認すると、低い声色で話し出した。

 

「さてと、お手並みを拝見させて頂くわ。だけど……文字通り私の足元にも及ばないようだったら……容赦なく踏み潰すわよ」

 

「「「!」」」

 

 殿水の迫力に大洋たちはわずかに怯んだが、すぐさま言い返した。

 

「そちらこそ足元掬われないように注意してください!」

 

「足元に火が点いても知りませんよ~?」

 

「え、えっと……ウチらに足を向けて寝られんくなっても知りませんよ~?」

 

「……別に足絡みで上手いこと言えってターンじゃないからね、ここ」

 

「あ、そ、そうなんですか……?」

 

 殿水は軽く片手で頭を抑える。そして大洋たちに聞こえないように呟く。

 

「電光石火。切り札になるか、足手まといになるか……見極めさせてもらうわよ……」



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第8話(4)右脚の試練

 電光石火とピンクフットが対峙する。大洋が呟く。

 

「さて、どうするか……?」

 

「やっぱりあのスピード、機動力が厄介だよね~」

 

「ズバリ脚そのものやからな……」

 

「とはいえある程度は接近して戦わないといけないよね~。残念だけどこちらの射撃はそうそう当たらないだろうし」

 

 閃の言葉に大洋が頷く。

 

「結局は接近戦ということになるか……しかし、悔しいがやはり双方の力量差はどうしても埋めがたいものがある」

 

「そのためにココを使うってことだね~」

 

 閃が自身の頭をトントンと指差す。隼子が訝しげに尋ねる。

 

「なんぞええアイデアでもあるんかいな?」

 

「う~ん、こんなのはどうかな? ……」

 

 閃の提案に隼子は首を傾げる。

 

「そんなに上手くいくか~?」

 

「……とりあえずそれでやってみよう」

 

「ええっ⁉」

 

「お、話分かるね~大洋」

 

「どの道こちらから仕掛けなければジリ貧だからな」

 

「だってさ。どうする、ジュンジュン?」

 

「素直に多数意見に従うわ……」

 

 隼子は片手で頭を抑えながら、やれやれといった様子で呟いた。

 

「そんじゃ、モードチェンジ、行ってみよ~」

 

 閃が宣言し、電光石火はモードを変更した。殿水も即座に反応した。

 

「銅色がメインのカラーリングの形態……飛行タイプね」

 

 電光石火は上空に舞った。それを見て殿水は呆れ気味に呟く。

 

「やれやれ、なんとかの一つ覚えね……」

 

 殿水はピンクフットの機体を飛び上がらせる。

 

「やっぱり期待外れだったかしら⁉」

 

「オーセン、きたで!」

 

「モードチェンジ~!」

 

「!」

 

 電光石火が飛行中にも関わらず形態を変化させたことに殿水は驚いた。

 

「銀色メインのカラーリング……射撃特化⁉」

 

「この距離、しかも空中では避けられないっしょ~?」

 

 閃がガトリングガンをピンクフットに向けて発射する。

 

「ふん! あまり甘く見ないで頂戴!」

 

「⁉」

 

「なんだと⁉」

 

 大洋たちは驚愕した。殿水がピンクフットの機体を高速回転させて、電光石火の放った銃弾を風で吹き飛ばしてみせたからである。

 

「避けられないなら受け流せば良いじゃないってこと?」

 

「んな目茶苦茶な!」

 

 二体がほぼ同じタイミングで地上に着地した。ピンクフットは着地と同時に地面を蹴り、電光石火に猛然と突っ込んできた。

 

「ガ、ガードや!」

 

「遅い!」

 

 ピンクフットの膝蹴りが電光石火に直撃した。電光石火は堪らず後方に吹っ飛んだ。殿水は機体を操作し、追い打ちをかける。

 

「これで終わりよ!」

 

 ピンクフットは勢いよく飛び上がって、仰向けに倒れ込む電光石火を思い切り踏みつけようとした。

 

「ここまでか……な~んてね♪」

 

「何っ⁉」

 

 殿水は驚いた。電光石火が合体を解き、三体に分離したからである。ピンクフットは何もない地面を踏んだ状態となった。

 

「ちっ! 分離とは!」

 

「もう一丁~♪ ポチっとな」

 

「な⁉」

 

 殿水は続けざまに驚いた。分離していた電光石火が再び合体して、ピンクフットの背後に回ったからである。

 

「よし! 後ろを取った!」

 

「ちっ……!」

 

 近接戦闘モードになった電光石火がすぐさま刀を振り下ろす。回避行動をとろうとしたピンクフットだったが完全には間に合わず、攻撃を喰らう形となった。

 

「ぐうっ!」

 

「やった⁉」

 

「いや……浅い!」

 

 大洋の言葉通り、ピンクフットは機体を捻らせて、直撃はなんとか避けた。

 

「反撃が来る!」

 

 閃が叫ぶ。体勢を即座に立て直したピンクフットの蹴りが飛んできた。電光石火は刀でそれを受け止めた。隼子が驚いた。

 

「刀で斬れんのか⁉」

 

「足裏の装甲はかなり分厚いみたいだね~」

 

 刀と足の裏での奇妙な鍔迫り合いとなった。

 

「大洋!」

 

「分かっている!」

 

 電光石火の左肘から現れたブレードが、ピンクフットのくるぶし辺りを貫いた。

 

「ぐおっ⁉」

 

「よし……!」

 

 大洋は勢いよくブレードを引き抜いた。これによってバランスを崩したピンクフットは反転しながらうつ伏せになって倒れ込んだ。

 

「倒れたで!」

 

「今がチャ~ンスだね!」

 

「……ああっ!」

 

 隼子たちの言葉を受けて、大洋が刀を振り下ろそうとしたその時、ピンクフットの機体が急に縦方向になった。膝を下にして太腿と脚の部分を上に折り曲げ、一本の木のようにしたのである。

 

「なんや⁉ 縦になりよった⁉」

 

「守りを固めるということか?」

 

「縦になったかやけになったか、かな?」

 

「そんなアホな……」

 

「とにかく大洋、刀を振り下ろせばこっちの勝ちだよ」

 

「そ、そう……だな!」

 

 大洋が刀を振り下ろそうとした次の瞬間、

 

「!」

 

「な、何⁉」

 

 大洋たちは目を疑った。ピンクフットが上げていた太ももと脚を思い切り振り下ろして、その反動を利用して、上空に飛び上がったのだ。隼子は唖然とした。

 

「んなアホな……」

 

「そっから上に飛ぶ~?」

 

「! くるぞ!」

 

 大洋の言葉通り、空中で脚を伸ばした状態になったピンクフットは高速回転をして、電光石火目掛けて、鋭い蹴りを繰り出してきた。

 

「「‼」」

 

 互いの機体、電光石火の刀とピンクフットの脚が交錯した。その結果……

 

「あ~‼」

 

「ど、どないしてん⁉」

 

「光宗(仮)が折れた……」

 

「衝撃に耐えられなかったんだね」

 

「そ、そんな……」

 

「模擬戦用でしょ、作戦では本物を使えば良いじゃない」

 

 肩を落とす大洋に殿水が話かけてくる。

 

「は、はあ……ん? 作戦? っていうことは⁉」

 

「……合格よ、明日か明後日の作戦行動。頼りにさせてもらうわ」

 

「ホ、ホンマですか⁉」

 

「ありがとうございます!」

 

「頑張りま~す」

 

「ふふっ、今日はもう退がって良いわよ」

 

 大洋たちが居なくなったのを見てから、ピンクフットは文字通り膝を突いた。

 

「くそっ、脛の部分、いわゆる『弁慶の泣き所』を的確に狙ってくるとは! 疾風大洋……思ったより良いセンスしているじゃないの!」

 

「確認は終わった?」

 

 演習場の近くを走るジープから火東が殿水に話しかけてきた。

 

「わりと手こずっていたじゃないの。思わず左脚が駆けつけてあげようかと思ったわ」

 

「……これくらいやってもらわなきゃ困るわ。電光石火も、そして疾風大洋自身も!」

 

「まあ、彼のこれからを考えたらねえ」

 

「それよりそっちはどうだったんですか、火東さん?」

 

「ああ、全く問題なし!」

 

 火東の言葉に殿水は満足そうに頷いた。

 

「ならば迎撃作戦、何とか目途が立ちそうですね……」



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第9話(1)ヒマなので作戦会議してみた

「作戦会議? とっくに終了したわよ」

 

「い、いや、ちょっと待って下さい! 我々は何も聞いておりませんが⁉」

 

 殿水の素っ気ない返答に隼子は慌てる。

 

「そりゃあ会議に貴女たちは呼ばれていなかったからね」

 

「な、何故ですか? 頼りにさせてもらうっておっしゃっていたやないですか⁉」

 

「そんなこと言ったかしら?」

 

「言いましたよ!」

 

 詰め寄る隼子を片手で制しながら殿水が答える。

 

「貴女たちはそうね……いわば秘密兵器なの!」

 

「ひ、秘密兵器ですか……?」

 

「そう、相手の虚をつくようなタイミングでの出撃が求められる。故にこの迎撃作戦には積極的に参加しなくても良いの」

 

「そ、それで大丈夫なんですか⁉」

 

「……敵を欺くにはまず味方からって言うでしょ? 指定のポジションは追って伝えられると思うから、後はそこで別命あるまで待機をしておいて頂戴」

 

 ポンポンと隼子の肩を叩き、殿水は去っていった。

 

「た、待機言うてもなあ……?」

 

 隼子が首を傾げながら、(有)二辺工業に用意されたテントに向かう。テントの幕をくぐった隼子に大洋が問いかける。

 

「どうだった、隼子?」

 

「いや……どうだったって言われてもなあ?」

 

 椅子に座っていた閃が背もたれにもたれかかりながら、呆れ気味に呟く。

 

「どうせ、作戦会議には混ぜてもらえず、別命あるまで待機……とかそんなところでしょ?」

 

「よ、よう分かったな」

 

「大体分かるよ~」

 

「しかし、作戦会議にも参加させてもらえんとは……」

 

 大洋が腕を組んで不満気な表情を浮かべる。

 

「目下、電光石火は潜在能力こそあるようだが、経験も実績も圧倒的に不足している三世代前も前のロボットに過ぎないからね。それを作戦行動の中心に据えて計算するほど上の連中も愚かでは無いってことだよ」

 

 閃はそう言って上を指差す。

 

「上の連中?」

 

「GofEたい」

 

 作業を終えた大松がテントに入ってきた。大洋が尋ねる。

 

「GofE?」

 

「何ね、大洋? GofEくらい覚えちょるじゃろう?」

 

 コーヒーを注いだ大松が振り返って、大洋にコーヒーカップを突きつけるが、大洋は首を捻るばかりであった。大松は片手で頭を抑える。

 

「おい隼子、説明してやれ」

 

「……大洋、GofEってのはな、Guardians of the Earthの略称で、地球圏連合傘下の治安維持部隊のことや」

 

「そう言われると聞き覚えがなんとなくある様な……」

 

「記憶喪失もなかなか大変たいね」

 

 大松が同情するように呟く。

 

「あのミュージック&ファクトリーもその部隊所属なのか?」

 

「フュージョントゥヴィクトリーな。……ュージとクトリーしか合うてへんやないか」

 

「……当てずっぽうで言った割には良い線いっただろ」

 

「そんなこと当てずっぽうで言うな! アンタな、あんまりいい加減なこと言うてたらザ・トルーパーズのリーダー、小金谷さんにぶっ飛ばされんで?」

 

「あのダミ声の主か」

 

「ダミ声とかも言うたらアカンねん!」

 

「分かった、気を付けよう」

 

「……頼むでホンマ」

 

「それでGofEというのは、要は地球圏全体の防衛軍か?」

 

「まあまあ、概ねその認識でええわ」

 

 隼子は大洋の言葉に頷き、閃の方を向いて尋ねる。

 

「とはいえ、このまま黙って待機っちゅうわけにもいかんやろ?」

 

「と言うと?」

 

「い、いやウチらの方でも対策を練る必要はあるやろ。備えあればなんとやらや」

 

「……それもそうだね、どうせヒマだし」

 

 閃が端末を操作すると、机の上に立体上の映像が映し出された。大洋が問いかける。

 

「これは?」

 

「今回侵攻してくるであろう古代文明人の一派“ヴァールア”の主戦兵器だよ」

 

「ヴァ―ルア?」

 

「ポリネシア語で“魂”とか、そういう意味あいの言葉だよ」

 

「そうか。これはロボットなのか? 大きい魚のように見えるが……」

 

「連中は海棲生物を模したロボットを多く用いているんだよ。このデカい魚型ロボットはイアと呼ばれている。色々機種はあるようだけど、基本的にはこの青い機体が多く運用されているようだね」

 

「そうか……」

 

「やっぱり海中戦がメインになると考えた方がエエんか?」

 

 隼子の問いに閃が頬杖を突きながら答える。

 

「向こうの狙いがイマイチ不透明なんだけど、海深くでの戦闘はこちらに分が悪い。ある程度引きつけて、深度の浅い場所、もしくは海上で迎撃するって考えだと思うんだよね」

 

「俺たちに課せられるミッションはなんだと思う?」

 

「まだまだ分析が不十分なところがあるけど、電光石火は海中での戦闘には基本不向きだ。それはお偉いさんたちも承知している。大方宇宙センターと周辺施設の防衛に当たれって言われるんじゃないかな」

 

 大洋の質問に答えると、閃の端末にメッセージの通知が入る。

 

「何のメッセージや?」

 

「……これはプライベートなメッセージだね」

 

「なんやそら、仕事用の端末になんでそんなん来るねん?」

 

「私は仕事とプライベートの区別が実に曖昧なんだ」

 

「いや、そこはキッチリしろや!」

 

 胸を張る閃に対して隼子が大声を上げる。再びメッセージの通知が入る。

 

「今度はなんや?」

 

「……いわゆる迷惑メールだね」

 

「フィルターかけろや!」

 

「乱暴に言ってしまえば私にとってはほとんどのメールが迷惑メールみたいなもんだよ」

 

「乱暴過ぎるやろ!」

 

 そこに三度通知が入った。

 

「はあ……また迷惑メールか?」

 

「いや、GofEからの連絡だね。ある意味迷惑だけど」

 

「今一番重要なものや!」

 

 興奮気味の隼子を落ち着かせながら大洋が閃に問う。

 

「内容は?」

 

「ふむ……待機位置の指定だね。作戦開始、というか相手の侵攻が明け方頃になると予想されるってさ。もう準備に入った方が良さそうだね」

 

 閃が大松に目配せする。大松は力強く頷くと、テントの外に出て行った。

 

「了解した。五分で準備すると」

 

「実戦か……」

 

「どうしたの、ジュンジュン? 何か心配事?」

 

「いや、アンタら怖くないんか? 敵勢力とはいえ、人間相手やで?」

 

「私は寝過ごさないか心配だよ。徹夜は苦手なんだよね~」

 

「俺はフンドシ姿が禁止されないかが心配だ」

 

「……同意を求めたウチがアホやったわ」

 

 五分後、大洋たちは機体へと乗り込んだ。



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第9話(2)そこはかとないセンスの良さ

「……予想の通りセンター防衛に当たれってことだったな」

 

 大洋が光のコックピット内で腕を組んで呟く。隼子が閃に尋ねる。

 

「電光石火に合体していなくてもええんか?」

 

「敵の数がはっきりとは分からない。各個撃破しやすいように頭数だけでも増やしとけって考えなんじゃないかな~」

 

「大丈夫かいな……」

 

「この電もジュンジュンの石火も、そして大洋の光も、スペック的には向こうの主戦兵器であるイアを凌駕している。あんまり心配は要らないよ」

 

 閃は隼子の心配事を取り除くように穏やかに話す。

 

「さよか……」

 

「まあ、後は臨機応変に対応しろってことだね~」

 

「その臨機応変っていうのが一番難しいねん……」

 

「センター防衛は俺たちを含めて十三機か」

 

 大洋が話題を変える。閃が光のモニターにデータを送り、簡単に解説する。

 

「そう、あの迷彩色の機体は『防人参式(さきもりさんしき)』。日本の海上防衛軍の主戦ロボットの一つだね。基本は陸戦用だけど、海中の戦闘もある程度はこなせる。今回の作戦には適しているんじゃないかな。量産機だけど、流石は国民の血税を注いで製造しているだけあって、ウチの会社のFS改よりもちょっとサイズが大きく、かつ優れているよ」

 

「FS改もそれなりに良い機体やっちゅうねん……」

 

 隼子がぷいっと唇を尖らせる。

 

「FtoVは南西に位置しているな……他には五機か」

 

 モニターに映るFtoVの姿を大洋が確認する。同じ要領で閃が解説する。

 

「あの五機の薄緑色の機体は霊亀(れいき)。GofEの東アジア地区中心に配備されていて、海中戦闘に適した機体だね」

 

「霊亀……なるほど、亀のように甲羅を背負っているな」

 

「あの甲羅が強力な推進力を生み出すブースターになっているんだ。あの甲羅のお陰で海中でも素早く泳ぎ回ることが出来る」

 

「つまりは海中戦も辞さないってことかいな?」

 

 隼子が会話に割り込んできた。

 

「どうやらそうみたいだね。FtoV自体もわりと海中戦闘を苦にしないというデータもあるし。こりゃ案外、待機しているだけで終わるかもね~?」

 

「正直な話それで済めばええんやけど……」

 

「本当に明け方に攻めてくると思うか?」

 

「まあ、奇襲ならば夜がもっとも効果的だと思うけどね~」

 

 大洋の問いに閃がシートにもたれかかりながら答える。そして欠伸をする。

 

「ねえ、お二人さん。私は少し眠るから、相手が来たら起こしてくれないかな?」

 

「アカンわ! 寝るな!」

 

「徹夜はお肌に良くないって言うじゃない~」

 

「研究で徹夜なんてしょっちゅうやろ!」

 

「あ、知らなかった? 私って基本、アフターファイブは研究しない主義なんだよ~」

 

「どんな主任研究員やねん……んん⁉」

 

 そのとき爆音が轟いた。センター周辺の数か所で爆発が起きる。

 

「何だ⁉」

 

「ば、爆撃⁉」

 

「……これは驚いた。空からやって来たね~」

 

 閃の言葉を受け、大洋と隼子も夜空に四機ずつ編隊を組んだ合計八機の魚型ロボットが飛んでいることを確認した。

 

「な、なんやねん、あれは⁉」

 

「う~ん、羽のようなものが付いているね。さしずめトビウオ型ロボットかな?」

 

「ほんまに飛ぶのは反則やろ!」

 

 そこに殿水から通信が入った。

 

「三人とも無事ね⁉」

 

「は、はい、何とか!」

 

「空の魚釣りは貴方たち電光石火に任せるわ!」

 

「ええっ‼ ウチらだけですか⁉」

 

「空中戦が出来る機体は現在、種子島の北方を哨戒飛行中、すぐには間に合わないわ! それまで何とか持たせて頂戴!」

 

「そ、そんな!」

 

「大丈夫よ! 自信を持って!」

 

「じ、自信って、何を根拠に⁉」

 

「……貴方たちにはそこはかとないセンスの良さを感じるわ!」

 

「漠然としてません⁉」

 

 慌てふためく隼子をよそに大洋と閃が冷静に呟く。

 

「……流石は歴戦の強者だな。了解した」

 

「やっぱり滲み出ちゃうよね~こればかりはどうしてもさ~」

 

「納得すんなや!」

 

「じゃあ、後はアドリブでよろしく!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! FtoVはどないされるんですか⁉」

 

「相手の母艦を直接叩く! 南方に艦影を確認したわ!」

 

「は、はあ……」

 

「帰る母艦を失くせば、相手の士気も落ちるって寸法よ!」

 

「成程……」

 

「理には適っているね~」

 

「でしょでしょ? それじゃ、健闘を祈る!」

 

 右手で敬礼して、殿水は通信を切った。

 

「あっ! ちょ、ちょっと! ……切れてもうた」

 

「まあ……とにかくやるしかないだろう」

 

「そうだね~」

 

「気楽やな、アンタら!」

 

 隼子が頭を抱える。

 

「どうする、閃?」

 

「そりゃ、合体一択でしょ?」

 

「そうだな。おい隼子」

 

「あ~もう、了解! 電光石火、合体!」

 

 隼子がスイッチを押す。三機が合体し、電光石火となった。モードは飛行形態である。

 

「オーセン、あのトビウオのデータは⁉」

 

「残念ながらデータ無し……ただ見た所、イアの改良型のようだね。つまり単純なスペックならば完全にこちらに分があるよ~」

 

「さよか……」

 

「隼子、落ち着いて行けばお前なら大丈夫だ」

 

「……その心は?」

 

 隼子は大洋に問う。大洋は振り返りながら答える。

 

「お前には得意技があるだろう」

 

「得意技?」

 

「ツッコミだ!」

 

「なんやねん、それ!」

 

「……間違っている物事を正す能力に長けている!」

 

「良い感じに言い直すな!」

 

「第二波、来るよ~」

 

 閃の言葉に隼子はモニターを確認する。そこには最初の爆撃を終えたトビウオ型ロボットたちが旋回飛行して、再びセンターに向かってくる様子が映っていた。

 

「隼子!」

 

「ジュンジュン!」

 

「え、えーい、アンタらしっかり掴まっときや! この飛燕隼子様が種子島の夜空にでっかい花火打ち上げんで!」

 

 隼子の操作で電光石火が飛び立った。



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第9話(3)迎撃戦、開戦

「11時の方向!」

 

「了解!」

 

 閃の言葉を受け、隼子は電光石火の両肩のキャノンを数発発射させる。トビウオ型ロボット四機の内、二機に命中した。

 

「あ、当たった!」

 

「飛行しながらの難しい射撃だったが、見事だ」

 

「編隊飛行が乱れたよ!」

 

 閃が言った通り、キチンと組んでいた編隊がやや崩れた。予期せぬ反撃を喰らったためか、ヴァールアの部隊にはいくらかの動揺が見られた。

 

「これは……畳みかけるチャンスだな!」

 

「その通り! ジュンジュン! 右脚部に収納されているライフルを使って!」

 

「ほいきた!」

 

 隼子はコントロールパネルを操作し、右脚部からライフルを取り出して、電光石火に構えさせた。片目をつぶりながら静かに呟く。

 

「空中での姿勢制御もちゃんと出来とる。地上に立っていると同じような状態……後は演習と同じや、的をよく狙って……」

 

 照準が合ったことを確認した隼子はライフルを発射した。

 

「喰らえ!」

 

 発射された銃弾がトビウオ型ロボットに命中した。羽のような部分を撃ち抜かれたその機体はバランスを大きく崩し、落下していった。

 

「……」

 

「隼子! まだ残っているぞ!」

 

「わ、分かっとる!」

 

 隼子は同じ要領でライフルを三発発射させた。いずれもことごとく命中し、片方の羽をもがれたような形になったトビウオ型ロボットたちは力なく落下していった。

 

「流石は紀きノ(の)國くに機械きかい工業こうぎょう製『アサルトマゴイチ』だ……威力は十分だね~」

 

 閃はライフルの挙げた戦果を見て、満足そうに頷いた。

 

「編隊は一組崩れた。もう一組だ、隼子」

 

「あ、ああ!」

 

 大洋の言葉を聞き、隼子はもう一組のトビウオ型ロボットの編隊に狙いを定めて、ライフルを発射させた。しかし、今度は躱されてしまう。

 

「くっ! 外した!」

 

「相手もやるな……」

 

「ジュンジュンの狙いがやや馬鹿正直すぎるのかもね~」

 

「馬鹿は余計や!」

 

「失礼失礼、ここは一つ提案なんだけど……」

 

 閃の提案に隼子たちが驚く。

 

「そ、それは……」

 

「そんなん当たるか~?」

 

「まあまあ、騙されたと思ってやってみようよ」

 

「騙されては堪らんねん!」

 

「来るぞ!」

 

 射撃を躱して体勢を整えた残りのトビウオ型ロボット編隊一組が電光石火に向かってきた。二機ずつ左右に分かれ、攻撃を仕掛けてこようとしていた。

 

「二手に分かれたぞ!」

 

「いちいち狙いを定めてられんか! しゃあないな、オーセン! 騙されてやるで!」

 

 隼子は電光石火の片翼を引き抜いて、ブーメランのように投げ込んだ。射撃がくると読んでいた相手は完全に虚を突かれたためか反応が遅れ、二機は直撃を喰らい、残りの二機も回避しきれず、機体に損傷を負った。戻ってきた翼を掴んで、隼子は歓喜する。

 

「よ、よっしゃ!」

 

「本当に当たるとは……適当に思い付いた策でも言ってみるもんだね~」

 

「思い付きをやらせんな!」

 

「今の攻撃で二機落ちた! だが、まだ二機残っている!」

 

 大洋が叫ぶ。閃に文句を言っていた隼子はすぐさま視線を前に戻す。

 

「く、しぶといな……ん?」

 

 残った二機が機体の方向を変えて、電光石火の目の前から飛び去った。

 

「な、なんや……?」

 

戸惑う隼子に閃が指示を飛ばす。

 

「母艦に戻る気だ! 追撃しよう!」

 

「え、ええんか? センター付近から離れても……」

 

「航空防衛軍の機体が戻ってきたのを確認したよ! ここは彼らに任せよう!」

 

 閃の言葉に大洋が頷く。

 

「そうだな、アドリブで戦線をぐちゃぐちゃにかき回す感じでよろしく! と恥ずかしい恰好のお姉さんも言っていたものな!」

 

「殿水さんや! そ、それにそこまでしろとは言ってなかったやろ!」

 

「いずれにせよ好機には違いない!」

 

「えーい、分かったわ!」

 

 隼子は電光石火を逃げた二機の追撃に向かわせる。相手は全速力で逃げていたため、電光石火が追い付いたのは約90秒後のことだった。

 

「追い付いたで! あ、あれは⁉」

 

「ヴァールア自慢の潜水型母艦だね! 周りには護衛艦が三隻!」

 

 そこに再び殿水から通信が入る。

 

「来たわね! 正直手こずっていたから助かるわ!」

 

「へえ……意外とやるじゃないの」

 

 火東が感心したような声を上げる。大洋が大声で語り掛ける。

 

「下半身コンビさん! 指示を下さい!」

 

「「下半身コンビって言うな!」」

 

 殿水と火東が揃って大洋を怒鳴る。隼子が慌てる。

 

「アホ! それはNGワードや!」

 

「隼子も言っていたじゃないか」

 

「余計なことを言うなや!」

 

 殿水が咳払いをして、指示を飛ばす。

 

「護衛艦はこっちが片付ける! 電光石火は敵母艦を!」

 

「了解しました!」

 

 大洋が勢いよく返答する。しかし、母艦や護衛艦から激しい対空射撃が飛んできた。

 

「く! どないする⁉」

 

「このまま突っ込む!」

 

「ええっ⁉」

 

「大洋に賛成! ジュンジュン! ガードを固めて、左側の護衛艦の甲板に突っ込んで!」

 

「! 分かった!」

 

 電光石火は両腕をクロスさせて射撃を防ぐと、相手護衛艦の甲板に着地した。そして、間髪入れず、母艦の方に向かって飛んだ。

 

「護衛艦を踏み台にした⁉」

 

「やるわね!」

 

 横目で戦況を確認していた殿水たちが驚きの声を上げた。

 

「よし! ここでモードチェンジ! 大洋、任せた‼」

 

「任された‼」

 

 電光石火が近接戦闘モードに変形すると同時に、名刀・光宗を大きく振り上げた。

 

「貰っ……何⁉」

 

 大洋は驚いた。電光石火の機体が大きな触手に巻き付かれていたからである。

 

「こ、これは⁉」

 

 次の瞬間、機体の自由を奪われた電光石火は海面に激しく叩き付けられた。

 

「ぐおっ!」

 

 ヴァールアの母艦よりも巨大なタコ型ロボットが海面から顔を出した。

 

「な、なんて大きさ!」

 

 殿水が驚き、火東が呟く。

 

「こんなもの隠していたなんて……一筋縄では行かないってことね……」



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第9話(4)VS巨大オクトパス

「電光石火の三人! 応答なさい!」

 

「ぐっ……」

 

「フンドシ君! しっかりしなさい!」

 

「意味不明なあだ名で呼ばないで下さい……」

 

 殿水の呼びかけに大洋がなんとか反応する。火東が呆れる。

 

「むしろこれ以上無い程ピッタリな愛称でしょ……」

 

「よおっし! 護衛艦は片付けたぞ! 次行ってみよう!」

 

 FtoVのメインパイロットであり、ザ・トルーパーズのリーダーである小金谷が高らかに叫ぶ。火東と殿水が冷淡に対応する。

 

「そんなの見てりゃ分かりますよ」

 

「たたでさえ声も顔もデカいんだから、通信に割り込まないで貰えません?」

 

「お、お前らな~! リーダーに向かってなんだその態度は!」

 

「「「うわあああっ⁉」」」

 

 大洋たちの叫び声がFtoVのコックピットにも聴こえてきた。見ると、電光石火が再び巨大タコ型ロボットの触手に捕らわれている。

 

「おい殿水! お前さんが見込みあるって言っていた奴らがあの有様だぞ!」

 

「こんなのが出てくるなんて私たちだって想定外なんですから無理もありません! 救出を提案します!」

 

「言われるまでも無い! FtoVはいつだってどこだって弱者の味方だ! 木片!」

 

「ZZZ……」

 

「だから起きろ!」

 

「は、はい!」

 

「レフトアームバスター発射だ! あの銅色の機体に巻き付いている触手を狙え!」

 

「り、了解!」

 

 小金谷の指示を受けた木片が操作し、FtoVの左腕に装備されているバスターを発射させる。砲撃は的確に命中し、触手の一つは折れたような状態になったため、電光石火は触手から解放され、タコ型ロボットは触手を広げる。電光石火は落下し、海面に叩き付けられそうになったが、隼子が何とか操縦し、二度目の激突は回避した。

 

「土友! あのタコは何だ⁉」

 

「照合データ無し……。ヴァ―ルアの新型かと思われます」

 

 土友が眼鏡を直しながら、冷静に答える。

 

「ちっ! 対策は⁉」

 

「あの自在に動く触手が厄介です。しかし、ご覧の通り、装甲はそこまでの厚さでは無い模様。八本の内、一本を潰しました。後七本潰せば無力化できます」

 

「聞いたな! お前ら! 残りの七本を潰すぞ!」

 

「了解~」

 

「へいへい……」

 

「火東! 殿水! 集中しろ!」

 

 小金谷はイマイチやる気の無い二人に怒号を飛ばすと、大洋たちに呼び掛けた。

 

「おい! パソコンラック! お前らも聞いているな!」

 

「電光石火です! “こ”と小さい“っ”しか合うてません!」

 

 隼子が抗議する。

 

「名前なんざどうでも良い! 触手を潰すのを手伝え!」

 

「簡単に言いはりますけどね! 正直避けるのが精一杯です!」

 

 次々と繰り出される触手の攻撃を電光石火は何とか躱し続けていた。

 

「上出来だ! 避けられるなら当てられるな!」

 

「い、いや、どういう理論ですか⁉」

 

「強いていうなら根性論かな~?」

 

「嫌いではないな」

 

「アンタらはちょっと黙っとけ!」

 

 隼子が下のシートの二人に叫ぶ。そこに土友が冷静な調子を崩さず、語りかけてくる。

 

「申し訳ないが、うちのリーダーが一度こう言い出したら、反論は受け付けない」

 

「そ、そんな⁉」

 

「触手五本はこちらで引き受ける。後の二本をお願いしたい」

 

「二本って⁉ いやそれより五本って⁉ 流石に無茶やないですか⁉」

 

「問題はない 健闘を祈る」

 

 そう言って土友は通信を切った。

 

「あ! ちょ、ちょっと!」

 

 FtoVに触手が五方向から迫っていた。

 

「触手が五本同時に向かっているぞ!」

 

「いや、あの動きは……敢えて誘導したんだ……」

 

「何⁉」

 

 閃の呟きに大洋が驚く。小金谷が叫ぶ。

 

「来たな! 喰らえ! ウィンクボンバー!」

 

 FtoVが片目をウィンクすると、ハート型の砲弾が発射され、触手を破壊した。

 

「ウィンク⁉ そこはビームとか出すんじゃないのか⁉」

 

 大洋が衝撃を受ける。土友が静かに呟く。

 

「……ライトアームフリック!」

 

 FtoVが右腕を伸ばすと、所謂デコピンを操り出し、触手を弾き飛ばした。

 

「デコピン⁉ 素直にパンチで良いんじゃないのか⁉」

 

 大洋が驚愕する。木片が呑気な声を上げる。

 

「レフトアームクラッシュ~」

 

 FtoVが左腕を伸ばし、触手を握り潰した。

 

「いや、さっきのバスター使わんのかい!」

 

 大洋が狼狽する。火東が叫ぶ。

 

「レフトフットサンドイッチ!」

 

FtoVが左脚を伸ばし、内腿とふくらはぎの部分で触手を挟み潰した。

 

「ちょっと左腕と攻撃方法被っているだろう!」

 

 大洋が困惑する。殿水がやや気乗りしない様子で叫ぶ。

 

「……ライトフットキック!」

 

 FtoVが右脚を伸ばし、触手を蹴り飛ばした。

 

「単純に蹴った⁉」

 

 大洋が仰天する。小金谷が満足そうに頷く様子が電光石火の画面に映し出される。

 

「どうだ! 五本潰したぞ!」

 

 唖然とする大洋に隼子が嬉しそうに話す。

 

「見たか、二人とも⁉ これがFtoVの多彩な戦い方や!」

 

「多彩過ぎるでしょ……」

 

 閃が呆れ気味に呟く。殿水が叫ぶ。

 

「まだ二本残っているわよ! 余所見しないで!」

 

「!」

 

 触手二本が電光石火に襲いかかる。しかし、相変わらず隼子は躱すことが精一杯だった。

 

「反撃せねば倒せんぞ!」

 

「悔しいですが、今のウチの技量では無理です! 救援をお願いします!」

 

「大丈夫だ! お前たちなら出来る!」

 

「ええっ⁉」

 

 驚く隼子に土友がボソッと呟く。

 

「助けたいのは山々だが、こちらは現在エネルギー切れで動けない」

 

「そ、そんな⁉」

 

「ご利用は計画的に!」

 

 これには閃も堪らず叫ぶ。

 

「土友さん! 予備エネルギー充填は⁉」

 

「勿論やっているがもうしばらく掛かる」

 

「くっ! 万事休すね……」

 

「諦めんといて下さいよ!」

 

 殿水の言葉に隼子が抗議する。目を離した隙に一本の触手が伸びてくる。

 

「隼子!」

 

「しまっ……⁉」

 

 思わず目を瞑った隼子だったが、目を開けると、切り裂かれた触手の姿が合った。

 

「……来るのが遅いのよ」

 

 火東が首を傾げながら呟く。

 

「このエレキテル=アンチョビは海中戦に不向きな機体。無理は言わないで欲しい……」

 

 機体の爪で触手を切り裂き、戦艦の甲板に降り立った水狩田が淡々と答える。その隣に立つ海江田が訂正する。

 

「エテルネル=インフィニね……自分たちの機体名位ちゃんと覚えなよ」

 

「邪悪なお姉さんたち! 助けに来てくれたんですか!」

 

 大洋の言葉に水狩田がややムッとする。

 

「そのあだ名、あんまり好きじゃない……それにこれも仕事……」

 

「出遅れた分はキッチリ取り戻しますよっと!」

 

 海江田が機体の鞭を残った触手に巻き付ける。

 

「電磁の味はお好き?」

 

 海江田がスイッチを入れると、電流が走り、タコ型ロボットの動きが鈍くなった。

 

「! よし、隼子! ギリギリまで近づいてくれ!」

 

「分かったで!」

 

 電光石火がタコ型ロボットとの距離を詰めると、近接戦闘モードに切り替わった。大洋は機体に刀を振り上げさせる。

 

「喰らえ! 大タコ斬り‼」

 

 電光石火の斬撃を喰らい、一瞬の間を置いて、タコ型ロボットは爆発、炎上した。

 

「次は母艦か! 居ない!」

 

「海中に潜ったみたいだね。でもこの深度ならまだ追えるよ!」

 

「よっしゃ! 追撃や!」

 

「その必要はありません」

 

 勢いづく大洋たちを土友の冷静な声が制した。

 

「な、何故ですか⁉」

 

「どういうことだ、土友! 説明しろ!」

 

「リーダー……こちらのメッセージをご覧下さい」

 

「む……了解した。各機帰投しろ!」

 

 小金谷の唐突な命令に大洋が食ってかかる。

 

「ど、どういうことですか!」

 

「落ち着け……後で説明する。とりあえずご苦労だったな、電光石火」

 

「そんな!」

 

「納得出来ません!」

 

「まあまあ、名前覚えて貰っただけで今日は良しとしときなさい」

 

 限定回線で通信してきた殿水がそう言って大洋たちにウィンクする。



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第10話(1)ガチめの作戦会議

 深夜の迎撃戦を終えてから約6時間後、大洋たちに召集がかかり、三人は種子島の軍港のターミナルに臨時に設けられた作戦司令室へと向かっていた。

 

「ア、アカン、絶望的に眠い……」

 

 隼子が目をこすりながら呟く。

 

「なんだ隼子、眠れなかったのか?」

 

「いや、色々と考えてしもうて……アンタらは眠れたんか?」

 

「そりゃあもうぐっすりと」

 

「ああ、爆睡した」

 

「大した神経しとるな……」

 

 三人は司令室の前にたどり着いた。ドアの脇に立っていた制服を着た若い兵士に向かって隼子が敬礼し、所属と氏名を伝える。

 

「二辺工業の飛燕隼子、疾風大洋、桜花・L・閃、以上三名参りました」

 

「ご苦労さまです!」

 

 兵士は元気よく答えると、ドアの脇にあるパネルを操作した。ドアが左右に開く。

 

「どうぞ!」

 

「どうも……」

 

 隼子が軽く兵士に会釈をして、二人を伴って司令室へと入って行った。

 

「おはよう。ゆっくり眠れたかしら?」

 

 出入口近くの椅子に座っていた殿水が話しかけてきた。

 

「いえ、全く……」

 

「でしょうね。実質初の実戦だったんでしょ? 無理も無いわ」

 

「よくご存じですね?」

 

「勝手ながら御社のデータベースから経歴を調べさせてもらったわ」

 

「そうですか……」

 

 俯く隼子に大洋が声を掛ける。

 

「どうした隼子? そんなに疲れたのか?」

 

「肉体的にもそうやけど、精神的にもな……」

 

「精神的に?」

 

「そうや……いくら敵対勢力とはいえ、何人もの生命をウチは……」

 

 隼子が唇を噛む。

 

「それなら心配ないわ」

 

「え?」

 

 隼子が殿水の顔を見る。

 

「昨夜の戦闘での死者は確認した所、敵味方共にゼロという報告を受けたわ。貴女が撃墜した機体からパイロットは皆脱出に成功したわ。もっとも皆こちらの捕虜になったけど」

 

「そ、そうですか、それは良かった。いや、良かったっちゅうかなんちゅうか……」

 

 殿水は椅子から立ち上がると腕を組んだ。

 

「……昨今のロボット同士の戦闘に於いて滅多に死者は出るものじゃないわ。各勢力ともどんな機体でもまず脱出装置に開発の全精力を傾けるって話もある位だしね。正規のパイロットライセンスを持っている貴女なら聞いたことあるでしょ?」

 

「ええ、まあ……」

 

「人命の替えは利かない……人類は21世紀終盤に素晴らしい発見をしましたね~」

 

 閃の皮肉めいた言葉を殿水は受け流した。

 

「ただ、万が一ということもある。私たちがやっているのはゲームじゃなくて戦争だからね。酷なようだけど、その辺は早目に割り切りなさい」

 

「……お言葉ですが、そう簡単には……」

 

「貴女たちが先月退治した怪獣だって生命ある存在よ?」

 

「!」

 

「民間企業に就職したとはいえ、貴女の家柄的にロボットパイロットとしての覚悟と矜持は備わっているものだと思っていたけど」

 

「そ、それは……」

 

 再び俯いた隼子を見て、殿水は片手で頭を掻いた。

 

「ごめんなさい、何だか意地悪なこと言っちゃったわね。もっと気の利いたアドバイスが出来れば良かったんだけど……」

 

「いえ、お気遣い痛み入ります……」

 

 隼子が軽く頭を下げる。殿水が大洋たちに視線を向ける。

 

「フンドシ君と白衣ちゃんはどうかしら?」

 

「……記憶は喪失していますが、どうやら俺にはその辺の覚悟みたいなものは元から備わっているようです」

 

「少々マッドサイエンティスト的な発言をしますと、研究には犠牲がつきものですから~。勿論、心が全く痛まないという訳ではありませんが」

 

「……それは結構」

 

「……だから、『至急こちらに応援に向かえ』ってメッセージは送ったでしょ⁉ 戦闘能力を失った相手に必要以上の損傷を与えなくても良いの!」

 

 火東の怒鳴り声が響く。壁にもたれかかりながら海江田と水狩田が答える。

 

「何事も念には念をと言うじゃありませんか、先輩?」

 

「やるなら徹底的に……私たちはそうやって生き残ってきた」

 

「今は私たちが上官みたいなものよ! 命令にはキチンと従って頂戴!」

 

「……ねえ海江田、これってギャラちゃんともらえるの?」

 

「GofEの指揮下に入るのは極めてイレギュラーな事態だけど、その辺は契約書にちゃんと盛り込んであるよ、ご心配なく」

 

「ア、アンタらね~! も、もう良いわ! ったく、これだから傭兵って連中は……」

 

 火東がブツブツと文句を言いながら、自分の席へと戻った。それを見た殿水が苦笑混じりで隼子に話す。

 

「まあ、あそこまで割り切らなくても良いと思うけどね」

 

 司令室に小金谷が土友を伴って入ってきた。小金谷は部屋を見渡して頷く。

 

「ふむ、全員集まったようだな、それでは作戦会議を始める!」

 

「作戦会議?」

 

 大洋が隼子に尋ねる。隼子は首を振る。

 

「い、いや、ウチも何も聞いてへん」

 

「メインモニター前に全員集合!」

 

 小金谷の号令を受け、司令室の壁に備え付けられた大きなモニターの前に皆が集まる。モニターに地図が映し出される。小金谷は指揮棒でその中のとある島を指し示す。

 

「このティーア・イ島へ攻める!」

 

 その言葉に皆がザワつく。大洋が小声で呟く。

 

「南洋にあんな島あったか?」

 

「つい昨年、海底火山の大爆発によって形成された島だよ。地球圏連合とムー大陸連邦政府の間で話し合いがもたれ、ムー大陸連邦の統治領ということになった」

 

「結構揉めに揉めてたけどな……」

 

 閃の説明を隼子が補足する。火東が尋ねる。

 

「その島はムー大陸連邦の民間人も多く移住しているはずですが?」

 

 土友が答える。

 

「一か月ほど前からヴァ―ルアがその民間人や連邦の役人たちを追い出し、島自体を要塞化し始めているという調査報告が入った」

 

「すると昨夜の連中は?」

 

 殿水の問いに土友が頷く。

 

「察しの通り、この島に逃げ込んだようだ」

 

「上層部はそれを我々に叩けと?」

 

「先の迎撃作戦の延長線上と考えろとのことだ。確かに現在近いのは我々だ」

 

「彼我の戦力差はどれほどですか?」

 

「監視衛星からの情報などをまとめると、要塞化はまだ十分には進んではいないようだ。この種子島の部隊に沖縄の地球圏連合軍の太平洋第三艦隊の支援があればこちらが優勢であるとの判断が下された。自分も先程、同様の結論に至った」

 

 土友の分析に小金谷が頷く。

 

「ヴァ―ルアの戦力を削ぐ絶好の機会だ。では作戦の詳細に移るぞ……」

 

「まさかこちらが攻めることになるとはな……」

 

 大洋が腕を組んで呟いた。



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第10話(2)それにしても女の勘はないやろ

「目標のティーア・イ島、見えてきました」

 

 兵士の報告を受け、モニターを確認した小金谷が頷く。

 

「うむ!」

 

 会議から数時間後、GofE指揮下の混成部隊が太平洋上に浮かぶ島、ティーア・イ島の近くまで到達した。

 

「僅かな時間で着いたな……」

 

 大洋が感心したように呟く。

 

「そりゃあ、なんと言ってもGofE自慢の最新鋭の高速戦艦やからな!」

 

 何故か隼子が誇らしげに胸を張る。現在二人は戦艦の甲板の上に立っていた。

 

「船酔いは治まったのか?」

 

「そのワードを出すなや、思い出すから……今は気力で誤魔化しとんねん」

 

「それはすまない」

 

「アンタは平気そうやな?」

 

「名前が〝大洋“だからな……もしかしたら記憶を失う前の俺は海の男だったのかもしれんな。焼きそばも好きだしな」

 

「焼きそばの好き嫌いは知らんけど……成程、“大きな洋”やからな、あながちその考えは間違ってないかも知れんで?」

 

「いや、待てよ? 焼きそばを嫌いな奴なんてそもそもいるのか……?」

 

「何に引っかかっとんねん……」

 

 見当違いの自問自答を始めようとした大洋を隼子が注意する。

 

「歯に青のりが付くから嫌い……」

 

「いやいや、味で判断しなよ」

 

 大洋たちが振り向くと、そこには水狩田と海江田が立っていた。

 

「あ、あれ? お二人はブリッジに呼ばれていませんでした?」

 

 隼子が艦の高所に位置する艦橋を指差す。水狩田が気怠そうに答える。

 

「抜けてきた」

 

「いや、抜けてきたって……作戦の最終確認中でしょ?」

 

「戦況なんてどうせその都度変化する……要点さえ抑えておけばいい」

 

「そ、そういうものですか?」

 

 戸惑う隼子に海江田が自分の頭を指でつつきながら答える。

 

「島の地形、周辺海域の深度や海流、敵基地の戦力などは頭に入れてある。問題ないよ」

 

「も、問題あると思いますが?」

 

「問題が生じたら、その時はその時だ。何事も臨機応変にだよ。それに……」

 

「それに?」

 

 大洋が尋ねる。海江田は隣の水狩田に目をやる。水狩田が呟く。

 

「あそこは嫌な予感がする……」

 

「水狩田の嫌な予感は困ったことに大抵的中するんだ。だから甲板に降りてきたってわけ」

 

 そう言って海江田は大げさに両手を広げた。隼子が眉をひそめる。

 

「そんなん、なんぼなんでも自由過ぎませ……⁉」

 

 突如爆発音が響き、艦橋が炎上した。

 

「敵襲⁉」

 

「どこからだ⁉」

 

 驚く大洋たちとは対照的に海江田たちは冷静な態度を崩さない。

 

「まあ、島が見える位近づいて、何も仕掛けてこない訳ないわね」

 

「まず指揮系統を破壊する……理に適っている」

 

「感心しとる場合やないですよ! 艦橋が……!」

 

 海江田は隼子の口元に人差し指を当てて、もう片方の手を自身の耳にあてる。

 

「……第一艦橋炎上につき、現在消火中! 艦長らは無事! 但し、こちらでの作戦指揮継続は不可能! よって指揮所を第二艦橋に移す! 各員は直ちに迎撃行動をとること! 繰り返す……」

 

 ブリッジクルーの声が艦中に響き渡る。

 

「……だってさ」

 

「行くぞ、隼子! 出撃だ!」

 

 大洋が機体の収容場所に向かって走り出す。

 

「ちょ、ちょっと待ってえな!」

 

「水狩田、私らも急ごうか、機体に乗っていた方がいくらか安全だ」

 

「……ラーメン」

 

「え?」

 

「私の予感が的中するかどうかの賭け……当たったから私の勝ち。一食おごり」

 

「ち、忘れてなかったか……」

 

 大洋が電光石火の下へ着くと、閃がコックピットから顔をひょこっと覗かせた。

 

「遅いよ~二人とも。一人で出ようかと思ったよ」

 

「閃! 無事だったか!」

 

「攻撃を受ける直前にレーダーが敵の接近を察知したからね。ギリギリセーフだったよ」

 

「最新鋭のレーダーでも探知が遅れたんか⁉」

 

「高度なステルス機能を有した機体での攻撃だね~。恐らく空中から……」

 

「空から⁉」

 

「またトビウオ型かいな⁉」

 

「さあ? それはどうかまだ分からないな~。取りあえず飛ぶ相手には飛行モードで対応と行こう。ジュンジュン、頼んだよ」

 

「了解! 電光石火、発進すんで!」

 

 隼子はカタパルトに機体を移動させて、勢いよく飛び上がった。

 

「さあ、どこからでもかかってこいや! ……ってうおおっと⁉」

 

 威勢良く叫んだ所に攻撃を喰らい、電光石火はバランスを崩す。

 

「レーダーでは探知不能だ!」

 

「ほ、ほんまにどこからでもかかってくる奴がおるか!」

 

「ジュンジュン、理不尽」

 

「うるさいな! 自分でも無茶苦茶言うてる自覚はあるわ!」

 

 喚く隼子を余所に、大洋が閃に問う。

 

「相手は正に透明機体のようだ。どう対応する?」

 

「う~ん、頼みのレーダーも使えないんじゃなあ~。ただ……」

 

「ただ?」

 

「今の攻撃はミサイルやビームの類の攻撃ではなく、機体ごとぶつかってきたような衝撃だった。つまり、次も接近してくるはずだよ」

 

「近づいてきた所を叩くわけだな!」

 

「どうやって接近を探知すんねん!」

 

「そこはその、あれだ……女の勘って奴を働かせてくれ」

 

「今出勤しとるとは限らん!」

 

「相手が見えた瞬間に撃つ……女スナイパーだね、カッコいい!」

 

「おだてても無理なもんは無理や!」

 

「落ち着け、ひよっこ共! 対処法はある!」

 

 電光石火のコックピットにダミ声が響き渡る。

 

「小金谷さん⁉ 単独で出動したんですか⁉」

 

「空中での小回りはこいつの方が利く! 問題ない!」

 

 赤いカラーリングの戦闘機に乗った小金谷が答える。

 

「た、対処法とは⁉」

 

「こういうことだ!」

 

 小金谷は四方八方に弾を発射する。閃が思わず声を上げる。

 

「ペイント弾!」

 

 赤の塗料がたっぷりのペイント弾を受けた相手の機体が、空中にその姿を現す。

 

「あれはエイ型ロボット⁉ トビウオ型よりデカいな!」

 

「姿が見えたらこっちのもんや!」

 

 隼子は電光石火の両肩のキャノンを発射し、敵機を撃ち落とした。

 

「ありがとうございます! 小金谷さん!」

 

「これが経験の成せる業だ! 驚いたか!」

 

「ええ、驚きました。余りにも古典的過ぎて、逆に思い付きま……!」

 

「べ、勉強させてもらいました!」

 

 隼子はシートから飛び掛かる勢いで閃の口を塞いだ。



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第10話(3)悲しくなるからフォロワー数の話はやめよう

「よし、防衛が比較的手薄い南東から島に近づくぞ!」

 

 小金谷が指示を飛ばす。北と西から攻めた艦隊としては回り込むような形となるが、機動力の高さとヴァ―ルアの迎撃が予想を下回るものであったため、艦隊は島の南東の海域にたどり着くことが出来た。

 

「わりと簡単に回り込めたな……」

 

「要塞化は十分ではないという話やったけど、どう思う、オーセン?」

 

「……」

 

「閃?」

 

「あ、ああ、ゴメン、なんだって?」

 

 作戦中に何やら別のことに気を取られていた様子だった閃に隼子が呆れる。

 

「相手の反撃の鈍さについてや」

 

「ざっと考えてみて三点ほど理由の候補が考えられるね」

 

「三点?」

 

 大洋の問いに閃が頷き、立てた三本の指を折りながら答える。

 

「まず一点目、単純に相手の指揮官が無能故に部隊全体の迎撃行動が鈍いということ」

 

「そらこっちとしては大歓迎やな」

 

「二点目はこちらの進撃が予想以上の速さだったため、撤退の準備を進めているか」

 

「島を捨てるということか。もう一点は?」

 

「三点目は……おっと!」

 

 海中から触手が鋭く伸びてきた。電光石火はすんでの所でそれを躱す。

 

「またあの大ダコか!」

 

「量産しとるのかいな! 勘弁してほしいわ!」

 

「……敢えてこちらを引き付ける作戦をとっているということ……」

 

 残った三本目の指を折りながら閃が呟いた。

 

「全軍うろたえるな! 予想の範囲内だ!」

 

小金谷が回線を通して味方を落ち着かせる。

 

「勝負所だよ! 全員フュージョン‼」

 

 小金谷たちの機体が一つの機体に合体する。

 

「フュージョントゥヴィクトリー、見参‼」

 

 ザ・トルーパーズ五人が声を揃え、FtoVが空中でポーズを取る。

 

「カッコええ!」

 

「あれ毎回やるんだ……」

 

「分かっとらんな、オーセン! 様式美ってやつや!」

 

「様式美ねえ……」

 

 目を輝かせる隼子に対して、閃が醒めた声で呟く。

 

「一度対峙した相手に構ってはいられん! とっとケリをつけるぞ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

「五人の意志を一つに! 喰らえ! ビッグソード‼」

 

FtoVが大剣を思い切り振りかざした。放たれた斬撃は海を割らんばかりの勢いで巨大タコ型ロボットに当たり、タコは成す術なく縦に真っ二つに割れ、爆発を起こした。

 

「よし! 次行ってみよう!」

 

 島からの砲撃もようやっと激しさを増してきた。

 

「くっ! これでは近づけん!」

 

 隼子が回避行動を取りながら叫ぶ。

 

「これは射程外に一旦退くべきかな~」

 

「下がるな! 電光石火!」

 

 閃の言葉を受け、隼子が機体を後退させようとした所、隣を飛ぶFtoVから小金谷の怒鳴り声が飛び込んできた。隼子が片耳を抑えながら返事する。

 

「しかし、このまま飛び込んではそれこそ良い的になります!」

 

「今から活路を開く……」

 

「活路?」

 

 土友の冷静な声に大洋が問い返す。殿水の顔が電光石火のモニターに映り、フッと微笑む。

 

「まあ見てなさい」

 

FtoVは両膝に収納されていたキャノン砲を取り出して構える。閃が驚く。

 

「これは……! 物凄いエネルギー量だ!」

 

 閃の言葉通り、大量のエネルギーの粒子がキャノン砲の砲口に充填されていく。

 

「ツインメガビームバスターキャノン、発射‼」

 

 次の瞬間、凄まじい威力のビームが放たれて、島の山間部に激突した。ビームがぶつかった場所は大爆発を起こした。

 

「二発とも目標に命中……敵基地、沈黙」

 

 土友が戦況を伝えると、小金谷が叫ぶ。

 

「よし! 島に上陸するぞ! 電光石火、続け!」

 

「凄い破壊力だが……武器の名前長いな!」

 

「大洋も分かっとらんな! ああいうのも様式美やねん!」

 

「そ、そうなのか……」

 

 隼子の弾んだ声に大洋が戸惑う。

 

「上陸、完了」

 

「残った敵はもういないか!」

 

 島の海岸にFtoVを着陸させ、小金谷が周囲を見渡す。すると、火東が叫ぶ。

 

「地下から反応あり!」

 

「何⁉」

 

 地中から大きな人型ロボットが飛び出して攻撃を仕掛けてきた。FtoVは何とかその攻撃を躱した。殿水が叫ぶ。

 

「まだ機体を残していたの⁉」

 

「ん? うわあああっ⁉」

 

「どうした、木片⁉」

 

「ひ、左腕が、溶けている!」

 

 攻撃をわずかに掠めたFtoVの左腕の一部が溶けていた。火東が土友に問う。

 

「あの機体は⁉」

 

「該当データ無し……ただ、推測するにあの先端部分に強力な溶解液を備えている模様」

 

 土友の言うように、その人型の機体はいわゆる顔面の口の辺りの一部分が長く尖っていて、その先端に紫色の液体を滴らせていた。殿水が思わず苦笑する。

 

「まるで出っ歯ロボットね! 人型なんてヴァ―ルアにしては珍しいじゃない⁉」

 

「……恐らく〝ニフォロア“を模したものだと思われます」

 

 閃が通信回線を開いて、殿水たちに話しかける。

 

「2フォロワー⁉ 隼子のSNSでももっとフォロワーいるぞ!」

 

「な、なんで人のアカウント知ってんねん⁉」

 

「二人とも、ちょっと黙っててくれる?」

 

 閃の言葉を聞いて、土友がパネルを操作する。

 

「確認した、“ニフォロア”……長い歯が特徴的なサモア全域に伝わる妖怪とのことだ」

 

「また一つ豆知識が増えたわ……」

 

「隼子のフォロワー数は伸び悩んでいるようだが」

 

「放っとけ! マイペースでやっとんねん!」

 

 するとFtoVが突然膝を突いた。

 

「ど、どないしたんですか⁉」

 

「なあに! エネルギー切れだ!」

 

 小金谷が豪快に叫ぶ。

 

「ええっ⁉またですか⁉」

 

「ツインメガビームバスターキャノンを発射したんだぞ! あれは相当のエネルギーを食う! シングルメガビームバスターキャノンならまだもう少し持ったが!」

 

「そ、そんな!」

 

「という訳で電光石火! あの“きくらげ”はお前らに任せる!」

 

「ニフォロアです! もはや一文字も合うてません!」

 

「時間を稼いで頂戴! 美味しいところは私たちがキッチリ持っていくから!」

 

「殿水さんまで何を言うてるんですか⁉」

 

「閃、これも様式美か?」

 

「かもね」

 

 閃は首を竦めた。



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第10話(4)VSニフォロア

「ジュンジュン、変わってくれる?」

 

「わ、分かった」

 

 閃の言葉を受け、電光石火は射撃モードに変形した。

 

「こっちが相手になるよ!」

 

 閃は電光石火のショルダーマシンガンを発射させ、ニフォロアの注意を引く。全身黒いカラーリングのニフォロアが射撃を躱しつつ、電光石火の方に向き直る。

 

「注意は向けられた……っと」

 

「それでどうする?」

 

「詳細不明の相手だ、加えて危険な溶解液持ち……下手に接近戦はしない方が良いね」

 

 閃は冷静に分析する。ニフォロアが電光石火に向かって走り出してきた。

 

「来たぞ!」

 

「結構素早いで!」

 

「その脚を止める!」

 

 閃は電光石火の腰部に収納されていたピストルを取り出す。

 

「ウェストマグナム、発射!」

 

 閃は走る相手を止めようと、ニフォロアの脚をめがけて撃った。狙いは決して悪くはなかったが、ニフォロアは機敏なサイドステップでそれを躱した。

 

「躱された!」

 

「ちっ! 機動力は水準以上ってわけか!」

 

 閃は舌打ちしながら、操作を行う。電光石火が自身の、人間で言えば左耳に当たる部分を下に引っ張った。耳たぶに当たる部分がスライドし、小型ミサイルが出てくる。

 

「な、なんや⁉」

 

「そんな武装が⁉」

 

「イヤーミサイルランチャー、発射!」

 

 三発のミサイルがニフォロアに向けて放たれた。一瞬虚を突かれた様子を見せたニフォロアだったが、ミサイルの弾道が直線的だったため、上にジャンプして苦もなくそれらを躱してみせた。

 

「また躱された!」

 

「もうギリギリまで接近されてもうたで!」

 

「ところがどっこい!」

 

 閃が叫ぶと、ミサイルが弧を描き、ニフォロアの背中に三発とも命中した。

 

「これは!」

 

「追尾式ミサイルでした~♪」

 

 ニフォロアがうつ伏せに倒れ込む。

 

「今や!」

 

「狙い撃ちさせてもらうよ!」

 

 閃がピストルの銃口を向ける。

 

「もらっ……な⁉」

 

 そのとき、脇の森林部から黒い影が飛び出し、電光石火に飛び掛かった。ぶつかられた電光石火は堪らず仰向けに倒れる。

 

「な、なんや⁉」

 

「もう一体いたのか⁉」

 

 電光石火は新たに現れたニフォロアにマウントを取られてしまう。

 

「不意を突かれちゃったね~」

 

「呑気に言うとる場合か!」

 

 ニフォロアの長い歯が電光石火の胸部に迫る。

 

「くっ! 閃、受け止めろ!」

 

「言われなくても!」

 

 閃は電光石火の両手を使って、尖った歯を真剣白刃取りの要領で受け止めた。

 

「やったか⁉」

 

「い、いや、アカン!」

 

 尖った部分から流れる溶解液は強力で、電光石火の両の掌を溶かし始めた。

 

「オーセン! 口からドバーって出るやつは⁉」

 

「そうだ! あのゲロみたいな攻撃だ!」

 

「マウスイレイザーキャノンね! 二人とも認識がクソガキレベル!」

 

「なんでもええから発射や!」

 

「あれはエネルギー充填にちょっち時間がかかるんだよ! 今すぐには間に合わない!」

 

「そ、そんな⁉」

 

「ここまでか!」

 

「手が掛かるな~」

 

 ニフォロアの歯に鞭が巻き付く。

 

「なるほど……先端部分以外は触っても大丈夫なんだね」

 

 エテルネル=インフィニ一号機を駆る海江田が淡々と呟いた。

 

「両手を離して!」

 

「了解!」

 

 海江田が機体を操作し、鞭を思い切り振り上げる。歯を巻き取られた格好のニフォロアは空中に持ち上げられ、程なく地面に叩き付けられた。

 

「念には念を……ってね!」

 

 海江田がスイッチを入れると、強烈な電磁波が流れた。ニフォロアはビリビリと痺れると、完全にその動きを止めた。

 

「た、助かりました……」

 

「お礼は良いよ、後でラーメン奢ってくれない?」

 

「な、なんでそないなことせなアカンのですか⁉」

 

「そうですよ、海なら焼きそば一択でしょ⁉」

 

「そういう問題やないわ!」

 

「! もう一機!」

 

 閃が叫ぶ。海江田の機体の背後からもう一機、ニフォロアが飛び掛かってきた。

 

「あ、危ない!」

 

 しかし、崩れ落ちたのは襲ったニフォロアの方だった。海江田が呟く。

 

「……ナイス、水狩田」

 

 水狩田が操るエテルネル=インフィニ二号機の爪がニフォロアの三体目を切り裂いた。

 

「……ギョーザ追加ね」

 

「あちらさんにお願いして」

 

 海江田が機体の右手の親指を電光石火に向ける。隼子が叫ぶ。

 

「生きるか死ぬかっちゅうときに賭け事せんで下さいよ!」

 

「半ライスは付けなくても良いんですか⁉」

 

「なんで奢ることに前向きやねん!」

 

「ノリが良いんだか、悪いんだか……」

 

 海江田が微笑を浮かべる。水狩田が叫ぶ。

 

「海江田、上空に反応あり!」

 

「⁉」

 

 海江田が空を見上げると、何もない空間に紫色の穴のようなものが開き、そこから紫色の機体が姿を現した。鳥と人が合わさったような独特なフォルムをしている。

 

「あ、あれは、先月遭遇したやつやないか⁉」

 

「現れたか……」

 

「閃! なにか知っているのか⁉」

 

 閃が答えようとした瞬間、紫色の機体が凄まじいスピードで急降下し、電光石火たちに襲いかかってくる。

 

「やるよ! 水狩田!」

 

「言われなくても!」

 

 海江田が鞭を振るって攻撃を仕掛けるが、超低空飛行の紫色の機体はその攻撃を難なく躱し、あっという間に二機のエテルネル=インフィニの背後を取る。

 

「しまっ……」

 

 海江田たちが機体を振り向かせようとしたその瞬間、紫色の機体がサーベル状の武器を操り出し、二機に斬り付ける。

 

「!」

 

 攻撃を喰らった二機は力なく倒れ込む。大洋が驚く。

 

「あの二人が一瞬で⁉」

 

 すると、紫色の機体は電光石火に向かってくる。隼子が狼狽する。

 

「こ、こっちくるで!」

 

「大洋、モードチェンジするよ!」

 

 閃が操作し、電光石火は近接戦闘モードに切り替える。

 

「間に合わんか⁉ ⁉」

 

 電光石火が刀を構えるよりも先に、紫色の機体のサーベルが電光石火を貫いたかと思われたが、そこに紫色の機体によく似た黒い機体が現れて、紫色の機体の攻撃をサーベルで受け止めた。

 

「あ、あれも先月見たやつや⁉」

 

 紫色の機体は黒色の機体を確認すると、左手をかざす。空間に再び穴が開き、その穴に入り込んだ。穴は機体が消えていくとともに無くなった。呆気に取られている大洋たちに黒色の機体のパイロットたちの声が聴こえてきた。機体同士が近いため、回線が入ってきたのである。

 

「……あ~またまたまた、逃がしたやん……」

 

「次は仕留める……」

 

「自分そればっかりやんけ、まあええわ、次行こか……って⁉」

 

 残っていたニフォロアが黒い機体に襲い掛かった。

 

「ふん!」

 

 黒い機体はサーベルを横に薙ぎ払うと、ニフォロアは上下に分かれ、爆発した。

 

「ビックリしたな~。ほんじゃ、後を追おうか」

 

「いや、今の一瞬で奴の反応を探知出来なくなった。ついでにエネルギーもいよいよ厳しい。補給の必要がある」

 

「補給って、アテがあんのかいな?」

 

 黒い機体が左手の親指を電光石火に向ける。

 

「ええ~? そんなん、大丈夫か?」

 

「話せば分かる……はずだ。俺もそろそろ日本食が恋しくなってきたしな」

 

「まあええわ、その辺の交渉は任せるわ」

 

 黒い機体が電光石火に向き直り、モニター回線を開いて通信してきた。そこには黒のヘルメットを被り、これまた黒いパイロットスーツに身を包んだ青年と、古代ローマの人々が身に纏うような白い衣服を着た虹色の坊主頭のマッチョの青年が映っていた。

 

「金色の機体、応答求む、GofEに合流したい」

 

「あ、貴方たちは一体……?」

 

 戸惑いながら大洋が問う。青年はしばし考えて答える。

 

「ふむ……簡単に言えば異世界転生者だ」

 

「「ええっ⁉」」



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第11話(1)異世界?六度救ったが

「……そういう話ならば、異世界転移者という方が適切ではないか?」

 

 土友が眼鏡を直しながら、椅子に腰かける黒髪の青年に尋ねる。

 

「……とにかくこことは異なる世界から来たのは事実だ」

 

「異世界闖入者っていう方が正しいんじゃない?」

 

 火東が虹色の坊主頭の青年を見て呟く。

 

「なんか小馬鹿にしとるやろ、いてまうぞ、姉ちゃん!」

 

「落ち着きなさいよ、虹色坊主くん」

 

「これが落ち着けるか! なんでオレらが拘束されなアカンねん!」

 

 虹色坊主が殿水に向かって叫ぶ。彼ら二人は、GofEの戦艦内の一室で椅子に縛られた状態であった。部屋の隅に立つ大洋が隣の隼子に小声で尋ねる。

 

「なあ、俺たちがここに居ても良いのか?」

 

「オーセンが権限を主張したらしいで」

 

「閃が?」

 

 大洋が逆隣に立つ閃を見る。閃が小声で呟く。

 

「人類の平和を希求するロボット研究者としての立場から、正体不明の謎多き機体の調査、及びそれの搭乗者なる者の話を聴取する必要性があるとかなんとか言ってみたら同席の許可が出たよ……戯れに取った博士号が役に立ったね~」

 

「そうか……あの二人は?」

 

 大洋が自分たちの真向いに立つ海江田たちに目をやる。

 

「万が一この謎多き青年二人が暴れ出したときの為の鎮圧する役まわり……流石は腕利きの傭兵コンビ、体術の方も男性顔負けらしいよ」

 

「なるほど……」

 

「リーダー、尋問の類は嫌いだって言っているでしょ? もう出て行っていい?」

 

 殿水がウンザリした様子で小金谷に問う。

 

「駄目だ。こいつ等の素性はチーム全員で知る必要がある……ここにいろ」

 

 小金谷が彼にしては落ち着いた口調で殿水を諭す。土友が自身の小型タブレットを確認し、部屋中に聞こえる声で告げる。

 

「データ照合終了……十年前の第二新東名高速道路で起こった交通事故の後に行方不明になった美馬隆元(みまたかもと)で間違いありません」

 

「十年前だと?」

 

 小金谷が驚き、部屋中がざわめく。火東が土友のタブレットを覗き込む。

 

「行方不明時は……十八歳⁉ どう見たって、アタシより年下じゃない?」

 

「かの有名なザ・トルーパーズのメンバーたちにお会い出来るとは光栄だ。メンバーが一人変わっているとは驚きだったが」

 

「歳をとっていないとは羨ましい……じゃなくてどういうカラクリよ?」

 

 殿水が問いかける。美馬が首を傾げる。

 

「さあな、この世界とあの世界は時間の進みが違うんじゃないか」

 

「あの世界?」

 

「パッローナや……」

 

 虹色坊主が呟く。

 

「? それが貴方たちの住む異世界の名前?」

 

「そうや……」

 

「彼……美馬君と行動を共にしている理由は?」

 

「……オレらがコイツを召喚したんや」

 

「召喚?」

 

「そうや、詳しいことはよう分からんけど、魔方陣的なものをザァーっと地面に描いてパパッと呪文を唱えてガッと呼び寄せたんや」

 

「興味深いね、何故そんなことを?」

 

 閃が身を乗り出して尋ねる。

 

「そら、こっちの世界から人を召喚する必要性があったからや」

 

「必要性?」

 

「ああ、エレメンタルストライカーを操縦する適性能力が高いのは、パッローナの連中よりもこっちの世界の連中やからな」

 

「エレメンタルストライカー? あの黒い機体の名前?」

 

「エレメンタルストライカーは機種名や、あの機体の名前は『テネブライ』や」

 

「テネブライ?」

 

 火東の呟きに閃が答える。

 

「ラテン語で『闇』って意味ですね」

 

「俺はあの交通事故で死んだと思ったが、そういう理由でパッローナに呼び寄せられ、あの世界で『勇者』として戦った……」

 

「勇者?」

 

「コイツはゴッツい活躍したで! 都合六度パッローナの危機を救ってくれたわ!」

 

「ええっ⁉」

 

「いや待てよ……あれは七度に限りなく近い六度やな!」

 

「細かいことは知らんがな!」

 

 隼子が叫ぶ。美馬が呟く。

 

「四度目は危なかったがな……」

 

 虹色坊主が深く頷く。

 

「あれはエグかったな! あっこで姫さんのペンダントがピカーって光らなかったら詰みやったで、正直! あ、自分やっぱ持ってるな~って思ったもん、オレ」

 

「『勇者』から『救世主』にランクアップしたからな」

 

「扱いめっちゃ良くなってたよな! 王子もタメ口止めて敬語使い出してたからな!」

 

「異世界の思い出話中悪いんだけど……」

 

 殿水の言葉に虹色坊主が叫ぶ。

 

「さっきから異世界異世界うるさいねん! オレから言わせりゃこっちが異世界じゃ!」

 

「ちょっと落ち着いて、虹色坊主君」

 

「誰が虹色坊主や! ナー=ランべスってれっきとした名前があんねん!」

 

 そう言うと、虹色坊主の背中から昆虫の羽のようなものが開いた。

 

「ええっ⁉」

 

 隼子たちは驚き、海江田たちは無言で拳銃を構える。小金谷が問う。

 

「……お前は人間じゃないのか?」

 

「そうや! 文句あるんか⁉」

 

「じゃあ、何なんだ……?」

 

「……あれやがな、フェアリーや」

 

「フェアリー⁉」

 

「そのガタイで⁉」

 

 大洋と隼子の驚く声にナーが反発する。

 

「なんや! マッチョがフェアリーやったらアカンのか⁉」

 

「い、いや何となくイメージとは違うな……」

 

「そんなもん、お前らの勝手なイメージやろ! そっちの固定概念押し付けんな!」

 

 殿水が落ち着かせるように話す。

 

「ごめんね、ナー。それで貴方が美馬君と一緒にいる理由は?」

 

「……エレメンタルストライカーを動かすには通常、フェアリーの力も必要やからな」

 

「つまり貴方があの機体……テネブライ専属のフェアリーってこと?」

 

 閃の問いにナーが首を振る。

 

「いやそれは偶々や。シフトが空いてたからな、『ほんならお前行けや』ってフェアリーのおっちゃんに言われたんや」

 

「……フェアリーのおっちゃんって誰?」

 

「細かいことはオレもよう知らんよ。なんか偉い長生きのフェアリーやからフェアリーのおっちゃんって皆で呼んでたんや、親しみを込めて」

 

「分かったような分からないような……」

 

 大洋の呟きにナーはうなだれる。

 

「いや、これで分からんかったらオレもしんどいって! 頼むわ、ホンマ!」

 

「……あの紫色の機体は?」

 

 土友の問いに美馬が静かに答える。

 

「あれは『アルカヌム』。奴を止めるのが、俺の救世主としての使命だ……」



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第11話(2)利害と思惑

 南洋の決戦から二日後、大洋たちは長崎に戻ってきていた。隼子がベンチに腰を下ろし、三段重ねのアイスクリームをおいしそうに頬張る。

 

「なあ、隼子」

 

「うん? やらんで。自分で買うてこいや」

 

「違う、そうじゃない……」

 

 隼子の隣に座る大洋が首を振り、溜息まじりに尋ねる。

 

「どういうことだ?」

 

「え? ああ、ここは佐世保が誇る伝統ある観光スポット、ハウス……」

 

「今いる場所がどこか位は俺も分かっている。何故ここにいるのかってことだ」

 

 大洋の言葉に隼子は目をパチクリさせる。

 

「ん? 帰りに社長の話聞いてへんかったんかいな?」

 

「例の如く爆睡をかましていたからな」

 

「いや、起きろや」

 

「いや、起こせよ」

 

 アイスを一舐めし、隼子が説明する。

 

「……ヴァ―ルアの襲撃によって、ロボットチャンピオンシップ……ロボチャン九州大会は中止になったのは覚えとるよな? その後大会運営の方から通達があってな、我が社がロボチャンの全国大会に出場出来るようになったんや」

 

「ちょっと待て。九州大会からの出場枠は全部で三だろう? 残っていたのは俺たちを含めて四チームだったはずだが?」

 

「事情はよう分からんが、一チームから辞退の申し出があったらしいで。よって、ウチらとあの傭兵コンビんとこと、残りのもう一チームが出場権獲得っちゅうわけや」

 

「そうだったのか……」

 

「我が社にとっては久方ぶりの快挙やからな。社長も大層ご機嫌で……つまりお祝いと慰労を兼ねての社員旅行ってわけや。日帰りやけどな」

 

「そうか……」

 

 大洋が腕を組む。

 

「なんや? ひょっとして臨時ボーナスの方が良かったか? 残念ながら我が社の財政状況では望み薄やで。休み貰えただけでも良しとせんと」

 

「それは別に良い……もう一つ聞きたいことがある……何故あいつらまでここにいる?」

 

 大洋が指を差した先には美馬とナーの姿があった。

 

「ええな~ここ! どことなくパッローナ感があるわ!」

 

「これが噂の佐世保バーガーか……美味いな」

 

 異世界からやってきた(戻ってきた)二人はテーマパークを満喫している。

 

「あの二人、いや、一人と一フェアリーはてっきりGofEに行くのかと思ったが?」

 

「面倒やから二人でええやろ……その辺の事情はハカセに聞いてみたらどうや?」

 

 隼子が後ろに振り返る。ベンチの背後にある芝生のスペースで、閃がどこから貰ってきたのかシャボン玉で一心不乱に遊んでいる。

 

「お~い、オーセン!」

 

「違う……もっとこう、シャボン玉と一体化するイメージで……雑念は捨てろ……」

 

「シャボン玉への取り組み方がマジ過ぎんねん!」

 

「あ、割れちゃった……も~何さ、ジュンジュン?」

 

「ええからちょっと来いや!」

 

「はいはい……よっと」

 

 閃がベンチの後ろから飛んで、隼子と大洋の間に座る。

 

「閃、あの二人は何故こっちに来たんだ?」

 

 大洋が美馬たちを指差す。

 

「あ~その辺はそれぞれの利害や思惑が絡み合った結果だね~」

 

「利害や思惑?」

 

「大洋が言った通り、ウチもあの二人はGofEが預かるかと思ってたんやが……」

 

「GofEも強固な一枚岩という訳ではないからね~」

 

「どういうことだ?」

 

「……実は約数十年前から異世界または平行世界に関する研究というものは、程度の差はあれど、各所で行われていてね。私もアメリカにいた頃はよく小耳に挟んだよ。もっとも都市伝説に毛が生えたもの位の認識だったんだけど」

 

「ああ、そんなんウチもちょっと聞いたことがあるわ」

 

「ひょっとして、この間の迷惑メールもそれに関することか?」

 

 閃がやや驚いた顔を見せる。

 

「鋭いね、そういう研究をしている友人からでね。『君が向かっている海域に空間の歪みがわずかながら確認された』って趣旨のメールだったんだけどね。正直その時点ではまだ完全には信じられなかったよ。先月一度目にはしていたとは言ってもね」

 

「だが実際こうして異世界からの転移者が現れた……フェアリーのおまけ付きで」

 

「フェアリーと呼ぶにはまだ若干抵抗があるけどな……」

 

 隼子が頬杖を突きながらアイスを舐める。

 

「そう、空間転移を可能とする機体だ。この21世紀は常識外れの出来事だらけだけど、中でも彼らの出現及び我々への接触は最上級の常識外と言っていい」

 

「まさに歴史的な瞬間に立ち会ったって訳だな」

 

「それで一枚岩ではないことにどう繋がるんや?」

 

「つまり……あの黒い機体やそれに付随する未知の技術を巡って、GofE、そして地球圏連合政府内での微妙なバランスが崩れてしまう可能性をザ・トルーパーズのリーダーは懸念し、彼らをあえて自由にさせるという判断を下した。恐らく日本の領土・領空・領海内という条件付きだろうけど、国内ならば他国も容易には手を出せないからね」

 

「小金谷さんが……」

 

「ただのダミ声のおっさんじゃないってことだよ」

 

「では、あいつら……美馬達にとっての利はなんだ?」

 

 閃は腕を組んで首を傾げる。

 

「う~ん、これは推測でしかないんだけど、美馬くんはいわば十年前の世界からのタイムスリッパ―みたいなものだ。彼にとっては同じ人類とて容易に信用出来るものではない。GofEに身柄を預ければ、どうなるか予想はつかない」

 

「『GofEに合流したい』って言うてたやん」

 

「あれはその時のやむを得ない判断だったんじゃないかな、実際機体はほぼエネルギー切れだったし。母国の英雄FtoVの姿を見て、一旦合流へと心が傾いたけど……」

 

「だが、あいつらは現在ここにいる」

 

 大洋の言葉に閃は頷いた。

 

「あの時の聴取の後に小金谷さんとの間で何か取引があったんじゃないかな。流石にその場からは私も締め出されちゃったから、内容は分からない。これも推測なんだけど」

 

「どう考える?」

 

「単純に考えれば、金銭のやり取り。もうちょっと真面目に答えれば、情報の共有」

 

「情報?」

 

「あの紫色の機体、『アルカヌム』のこととかさ……」

 

「ああ、奴を止めるのが使命だとかなんとか言うてたな……」

 

 隼子が二段目のアイスを頬張る。

 

「それで俺たちにとって利はあるのか?」

 

「我が社にとっては、世界中の恐らく誰も知らないであろう異世界の技術を目にすることが出来る。地方の一中小企業にとっては大きすぎるメリットだよ。もっとも美馬くんやあのフェアリーの生体反応を感知しなければ、コックピットなどを開くことは出来ないみたいで、彼らの同席が無ければメンテナンスもままならないけど」

 

「そういや昨日見とったな……なにか収穫はあったんか?」

 

「またまたまた推測の域を出ないけど、興味深い発見があったよ……⁉」

 

「なんや⁉ 地震⁉」

 

 大きな揺れとともにテーマパークの南方の地中から巨大な双頭犬がその姿を現した。

 

「怪獣⁉ くっ、こんな時に! ん⁉」

 

 美馬とナーが逃げ惑う人々とは逆方向、つまり怪獣の方に向かって走って行く。

 

「行くぞ、ナー!」

 

「フェアリー使いの荒いやっちゃで……アーレア ヤクタ エスト!」

 

 ナーが叫ぶと、何もない空間から彼らの機体であるテネブライがその姿を現した。

 

「召喚した⁉」

 

 大洋たちが驚く。



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第11話(3)救世主の戦い

「で、あれはなんや、双頭の犬……オルトロスか?」

 

「尻尾が蛇ではないから違うな……」

 

 ナーの言葉を美馬が冷静に否定する。美馬の服のポケットから電子音がする。

 

「な、何の音や⁉」

 

「落ち着け、これの発する音だ……昨日連絡用にと、白衣の女から渡された」

 

 美馬が小型の端末を取り出す。

 

「通話は……これか」

 

 美馬は端末の通話ボタンを押す。閃の声が聴こえる。

 

「あ! 美馬くん、聴こえている⁉」

 

「ああ」

 

「そう、悪いけどその正体不明の怪獣の相手をしてもらえる?」

 

「元からそのつもりだ。たとえどこの世界にいようとも、俺の為すべきことは人々の平穏と世界の安寧を守ることだからな」

 

「カッコ良い! 流石は救世主!」

 

「からかうな……」

 

「とにかく頼むね! 応援はちょっと遅れるかもしれないけど!」

 

 そう言って、閃は通話を切った。ナーは肩を竦める。

 

「意志の疎通にテレパシーも使えんとは……人間ってのは不便な種族やな~」

 

「出来る種族の方が珍しいだろう……」

 

「で、カイジュウってのはなんや、要はモンスターか?」

 

「まあ、そんなところだ」

 

「あんな大きいのはパッローナでは流石に数十年に一度現れるかどうかやな~こっちの世界では当たり前なんか?」

 

「例えるなら少し規模の大きい自然災害みたいなものだな。どうやらここ最近は出現頻度が異様に上がってきているようだが」

 

「ほお~それはまた難儀なことで」

 

「無駄話はここまでだ、奴を仕留める。指示を頼む……」

 

「ほいほい、ちゃっちゃっと終わらせるで!」

 

 テネブライが腰からサーベルを取って構える。

 

「街……っちゅうかテーマパークって言うんやったか? あそこに近づかせんようにするのと、脚を止めるって意味でもまずバルカンで威嚇射撃やな」

 

「分かった!」

 

 テネブライは頭部のバルカンを発射する。双頭犬の足もとに弾丸が降り注ぎ、双頭犬はやや高度を取っているテネブライを仰ぎ見る。

 

「よし、注意を引けたぞ!」

 

「次は威嚇じゃなく、当ててまえ!」

 

 再びテネブライがバルカンを発射する、しかし、この射撃を双頭犬はステップを踏むかのように軽快な動きで躱す。

 

「ちっ、避けられたか!」

 

「なかなかすばしっこいのお! 距離を詰めてサーベルで斬り付けろや!」

 

「ああ!」

 

 テネブライは高度を下げ、滑空するように飛び、双頭犬との間合いを一気に詰める。

 

「もらった!」

 

「……パラエ!」

 

「⁉」

 

 テネブライはサーベルで双頭犬に斬り付けたが、双頭犬の眼前に結界のようなものが生じ、サーベルを弾き飛ばした。勢いよく飛び込んだ反動で、テネブライは体勢を大きく崩す。そこに双頭犬が襲いかかる。

 

「しまった! ぐっ!」

 

 相手の体当たりを喰らい、テネブライは吹っ飛ばされ、仰向けに倒れ込んだ。美馬はすぐさま機体を起こして、距離を取った。美馬の傍らに立つナーが叫ぶ。

 

「な、なんやねん⁉」

 

「いや、突然女の叫び声が聴こえたかと思ったら、あの犬の前方にバリアのようなものが生じた……」

 

「確かに何か聴こえた気がするけど……あれちゃうか~? さっき自分が使こうていた板切れからちゃうか⁉」

 

「端末の通話は切ってある……違う女の声だった」

 

「か~! 流石モテモテの勇者様は違うの~! 一度聞いた女の声は間違えんってか!」

 

「そこまで記憶力は良くない……」

 

「モテモテを否定しろや! なんか腹立つな~!」

 

「僻むのは後にしてくれ、引き続き指示を頼む……」

 

「だからそれが腹立つっちゅうねん! ま、まあええわ」

 

 落ち着きを取り戻したナーは双頭犬を見る。

 

「あーいうバリア的なもんはな、より強力なエナジーをぶつけることによって、ブチ壊せるって相場が決まってんねん!」

 

「同意だ、だが現状のテネブライの出力ではなかなか難しい……」

 

「それやねんな~この世界には姫さんのペンダントや幻のクリスタルもないからの~さて、どうしたもんかな~」

 

 ナーが頭を抱える。そこに双頭犬が迫り、牙を剥き出しにして飛び掛かってくる。

 

「ちいっ!」

 

 美馬はサーベルを横にして、噛み付かれるのを防いだ。しかし、もう片方の犬が横からテネブライの右腕に噛み付こうと首を伸ばしてきた。

 

「くっ! ⁉」

 

 噛み付かれるのを覚悟した美馬だったが、そこに銃弾が飛んできて、双頭犬の片方の眼に命中する。双頭犬は悲鳴を上げ、テネブライから離れる。

 

「すまん! 遅くなった!」

 

「その声は……金色の機体のパイロットか……」

 

「そうだ!」

 

 大洋が元気良く答える。

 

「そのモスグリーンの機体は昨日補給してもらった際に見かけたな……」

 

「うちの会社自慢の量産機、FS改だ! 大松さんが偶然トレーラーで運んできていたんだ! 旅行の帰りに寄るところがあったそうだからな!」

 

「金色の奴はどうしたんや⁉」

 

 ナーの問いに大洋が答える。

 

「今、隼子たちが急いで取りに向かっているが、正直間に合うかどうかは微妙だ!」

 

「悪いけど、その機体じゃ役不足やで!」

 

「百も承知だ! とにかく全力を尽くす!」

 

「い、いや、そない言うてもな~」

 

「不満を言っても始まらない。今は偶然に感謝しよう……」

 

 美馬が静かに呟く。

 

「前向きなんは結構やけどな!」

 

「少し落ち着け、あいつの攻撃が命中した……強力なエナジーを秘めていた訳ではない、至って平凡なライフルが、だ。これはどういうことを意味する?」

 

「……バリアは一方向にしか張れんっちゅうことか!」

 

「その可能性が高い」

 

「そうと分かれば、やりようはあるで!」

 

 ナーの言葉に美馬が微笑む。

 

「頼もしいことだ、指示を頼むぞ。おい、お前も聞こえているか⁉」

 

「お前じゃない! 大洋だ! 疾風大洋という名前がある!」

 

「! ……それはすまんな、大洋。今から指示をさせてもらうが良いか?」

 

「世界を六度救った救世主の言葉を聞かない馬鹿はいない!」

 

「「⁉」」

 

 テネブライとFS改のモニターが繋がり、画面に映った大洋の姿に美馬たちは驚く。

 

「どうした⁉」

 

「い、いや、どうしたはこっちの台詞だ……何だその恰好は?」

 

「フンドシ一丁で戦うのが俺のスタイルだ!」

 

「ば、馬鹿がおったー⁉」

 

 ナーがこの日一番の叫び声を上げる。



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第11話(4)VS巨大双頭犬

「と、とにかくだ、大洋。その機体のデータスペックを送ってくれるか?」

 

「分かった……送信したぞ」

 

「よし、パッローナ語に変換完了……確認を頼む」

 

 ナーが画面を覗き込み、呟く。

 

「これはどうしてなかなか……ええもん持っているで……」

 

「そうか」

 

「ああ、見事な6LDKやで……」

 

「LDK? コックピットの広さのことか?」

 

「肩なんかこれ、小っちゃい馬車乗せてんのかいって話やで……」

 

「肩部の大きさか? まあ、乗らないことはないと思うが……」

 

「大胸筋も歩いているでこれ……」

 

「……ちょっと待て、何の話をしている」

 

 ナーがモニター越しに大洋に向かって叫ぶ。

 

「ナイスバルク! 兄ちゃん、切れてるで!」

 

「誰が筋肉の寸評を頼んだ!」

 

「そこまでの肉体を作り上げるまで、眠れない夜もあったやろう⁉」

 

 大洋が鼻の頭を擦る。

 

「分かるか?」

 

「分かるで!」

 

「分かりあうな!」

 

 美馬が大声で叫ぶ。

 

「なんやねんな、そんな大声出して……」

 

「……機体のスペックを分析し、最適解の戦術考案を頼んでいる」

 

「分かっとるがな……」

 

 ナーはしばらく考え込んで、答えを出す。

 

「……分かった。大洋も良いな?」

 

「了解した」

 

「では行くぞ!」

 

 美馬の掛け声と同時に大洋がFS改のチェーンライフルを発射する。狙いは正確で、双頭犬の頭部に命中したかと思われた。だが、双頭犬は結界を生じさせ、それを防ぐ。

 

「! バリアか!」

 

「こっちだ!」

 

 双頭犬にテネブライを接近させた美馬は機体頭部からバルカンを発射する。大洋とは逆方向、別の頭部を狙った射撃である。今度はバリアを張ることが出来ず、射撃を喰らった双頭犬は呻く。

 

「当たったぞ!」

 

「よっしゃ! 予想通りや!」

 

「大洋! 交互に休みなく撃ち続けるぞ!」

 

「ああ!」

 

 美馬の読み通り、結界を一方向にしか張ることの出来ない双頭犬は、テネブライとFS改からタイミング良く、規則正しく繰り出される連続射撃に対して、成す術なく、やがて力なくうなだれる。大洋が叫ぶ。

 

「美馬! 今だ!」

 

「分かっている!」

 

 美馬はテネブライを急加速させ、双頭犬との間合いを一気に詰め、サーベルを大きく振りかざし、叫ぶ。

 

「エレメンタルスラッシュ!」

 

 強烈な斬撃を喰らった双頭犬の体は真っ二つに分かれる。テネブライがサーベルを鞘に納めると、その背後で双頭犬は崩れ落ちる。

 

「やった!」

 

「やれやれ、どうなることかと思ったで……」

 

「ふっ……」

 

 ナーの言葉に美馬が微笑を浮かべる。

 

「オロカナ……」

 

「⁉」

 

「今の声は⁉」

 

「ヨミガエリ!」

 

 再び女の声が聴こえてきたかと思うと、倒れ込んでいた双頭犬の遺骸がもぞもぞと動き出す。ナーが嘆く。

 

「おいおい、冗談きついで……」

 

 二つに分かれていた双頭犬は各々ゆっくりと体を起こす。そして、それぞれ頭と胴体と手足を生やしたのである。

 

「二頭に増えた⁉」

 

「倍々ゲームかい! そんなんアリか!」

 

「大洋!」

 

「! ああ!」

 

 美馬の声に大洋が反応し、それぞれ近くの双頭犬に射撃を加える。しかし、どちらも結界を張り、その攻撃を防ぐ。ナーが天を仰ぐ。

 

「カァー! 今度はどっちもバリア持ちかい! これじゃ振り出しどころかマイナスからのスタートやで!」

 

「くっ……」

 

「大洋、待たせたな!」

 

「隼子か!」

 

 大洋が上空を見ると、そこには電光石火の姿があった。閃の声が聴こえてくる。

 

「早くこっちに移って~三人分の仕事を二人でこなすのは結構しんどいんだよ~」

 

「分かった!」

 

 着陸した電光石火に機体を近づかせた大洋はコックピットに飛び込む。ナーが呟く。

 

「こないだ見たのとは違うカラーリングやな?」

 

「形態を変化することが出来るんだろう」

 

「ほお~そういう機体か」

 

「早速データスペックが送られてきたな……どう思う?」

 

 美馬の言葉を受け、ナーが画面を覗き込む。

 

「これは……どエライ性能やな」

 

「ちょうど二対二だ。とりあえず一頭は大洋たちに任せるか?」

 

「いや、それよりもや……」

 

 ナーの提案に美馬は頷く。

 

「分かった、それで行こう……おい! 大洋!」

 

「なんだ⁉」

 

「白衣の女はいるか?」

 

「白衣の女じゃなくて、桜花・L・閃って名前があるよ……」

 

 閃がムッとした顔でモニターに顔を出す。

 

「それは済まない、ライトニング」

 

「ミ、ミドルネームで呼ばれるのはなんか新鮮だね……」

 

「頼みがある……」

 

 美馬がナーの考えを伝える。閃が驚く。

 

「そ、それは……」

 

「可能か?」

 

「出来るけど、何の為に?」

 

「説明はやってみてからだ!」

 

「了解! ジュンジュン、機体をテネブライに近接させて!」

 

「わ、分かった!」

 

 隼子は電光石火をテネブライの近くへ移動させる。大洋が問う。

 

「閃、どうするつもりだ?」

 

「バックパックにコードを接続!」

 

「な、なんやて⁉」

 

「こっちのエネルギーを送りこむ!」

 

 ナーがモニターを確認し、頷く。

 

「よし、十分なエナジーや!」

 

「よし! 喰らえ! エレメンタルバースト!」

 

 テネブライがサーベルを大きく振りかざし、勢いよく振り下ろす。強烈かつ大きな衝撃波が放たれて双頭犬に向かって飛んで行く。それを喰らった双頭犬は二頭とも跡形も無く消え去る。大洋が感嘆の声を上げる。

 

「な、なんて威力だ……バリアごと吹き飛ばした……」

 

「どうや! これがテネブライの力や!」

 

 ナーが誇らしげに言いながら、上着を脱ぎ、ポーズを取る。

 

「ナイスバルク! 仕上がっているよ!」

 

 大洋がモニター越しに声援を送る。隼子が呆れる。

 

「いつのまに友情育んでねん……」

 

「マッチョは種族や世界の壁だって軽々と越える……素晴らしいことだね~」

 

「マッチョは放っておいて……ライトニング、そして……」

 

「飛燕隼子や」

 

「そうか、隼子。二人に頼みがある。テネブライはエネルギー切れでしばらく動けん」

 

「うん?」

 

 数分後、戦闘地域からやや離れた地点で機体から降りた閃と隼子は周囲を見回す。閃が端末を片手に美馬に問う。

 

「この辺りから女の声がしたの~?」

 

「ああ、これは只の俺の勘だが……その女があの双頭犬を操っているように感じた」

 

「そういう勘は得てして当たるもんだよ」

 

「けど、それらしい姿は見えへんで」

 

 隼子が閃の手元の端末に話しかける。

 

「そうか……いや、俺の幻聴だったかもしれん」

 

「大洋たちも聞いたのならそれはないんじゃないかな」

 

「集団幻聴って可能性は?」

 

「それも無いと思うな~」

 

 隼子の言葉に首を振る閃。

 

「いや~しかし、とんだ社員旅行になったな~」

 

「? これは……?」

 

「ん? どないしたんや、オーセン?」

 

 機体に戻ろうとした隼子は地面にしゃがみ込む閃に声を掛ける。

 

「ごめんごめん、何でもないよ」

 

「さよか」

 

「まさか……ね」

 

 閃は拾ったものを白衣のポケットにしまい込んだ。



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第12話(1)突然のお誘い

「壮行試合?」

 

「ええ、『当社は約二か月後に控えたロボットチャンピオンシップ全国大会へ向けての特別壮行試合を開催したいと考えております。昨今の情勢の関係上、なかなか他地域の企業・団体等との模擬戦等は実現し難い面があります。そこで同じ九州の代表として、是非とも貴社の御参加を賜るとともに、交流を深めたく存じます』と高島津製作所さんから打診があったわ」

 

 大洋の問いに二辺工業の三代目社長である二辺弓子は手元のタブレット上に記載されたメッセージを読み上げた。

 

「高島津製作所……鹿児島県代表で、全国大会常連の大企業ですね」

 

 隼子が呟く。大洋が質問する。

 

「打診を受けるんですか?」

 

「ええ、そのつもりよ。何か異論ある、大洋くん?」

 

「い、いえ、自分は特にありません」

 

「そう。閃ちゃんはどうかしら?」

 

 閃は髪の毛を指先でいじりながら答える。

 

「……当社の演習場を使用しての試験戦闘などにはどうしても限界があります。しかし、先方の言葉通り、他地域の企業との模擬戦を組むのも困難。そこで、この壮行試合の申し出は正に渡りに船。機体の問題点を洗い出すにはやはり実際に戦闘するのがベストです。今回の打診を受けることに開発部主任研究員としても異論はありません」

 

「うんうんうん」

 

 閃の言葉に弓子は満足気に頷く。そして隼子の方に顔を向ける。

 

「隼子ちゃんも良いわよね?」

 

「社長の判断に従うまでです。それで……開催日はいつでしょうか?」

 

「今週末よ」

 

「ず、随分唐突ですね⁉」

 

「まあ、あちらさんにも色々と都合があるんでしょ? ちなみに会場だけど桜島を一望出来る、鹿児島湾内に特設された海上の舞台ですって! 大企業はやることがスケールデカいわよね!」

 

「つまり鹿児島に向かうわけですか……移送などの手配は間に合いますかね?」

 

 隼子の問いに弓子は軽く両手を振る。

 

「心配ご無用。機体移送用の船などは明日にでも出港出来ますって。宿舎についても高級ホテルを用意してくれるそうよ。御社の社員皆様が全員いらっしゃっても構わないですって。折角だからお言葉に甘えちゃおうかしらね?」

 

「こ、この地域周辺の防衛はどないするんですか?」

 

 慌てる隼子に社長秘書の吉川が口を開く。

 

「既に防衛軍には通達済みで了解を得ています。その点に関しては心配ありません……勿論、流石に社員全員で向かう訳ではなく、何名か留守番をしてもらうことになりますが」

 

「ちぇ~何年かぶりで泊りの社員旅行が出来るかと思ったんだけどな~」

 

 弓子は口を尖らせる。

 

「し、しかし……」

 

「ん? 隼子ちゃん、まだ気になることがあるの?」

 

「強豪相手に対策を練るには少し時間が足りないかと……」

 

「え? 隼子ちゃん、もしかして勝つつもり?」

 

「そ、そりゃあやるからには」

 

 隼子の言葉に弓子はフッと笑って片手を振る。

 

「そんなのいいの、いいの~。とにかく怪我だけしないように気をつけてもらえば」

 

「そ、そんな!」

 

 弓子は人差し指を立てて、隼子を制する。

 

「隼子ちゃん、貴女、目的を履き違えているわね」

 

「は、はい?」

 

「吉川、説明してあげて」

 

「はい……今回の壮行試合ですが、九州中のロボット開発研究の企業・団体・組織の関係者を多数招待されるとのことです。関連企業の方々もまた多くいらっしゃるそうです」

 

「と、言いますと……?」

 

 弓子が両手を腰につき、仁王立ちして言い放つ。

 

「今回の壮行試合、勝敗は二の次、三の次! 大事なのは『コネづくり』よ!」

 

「は、はあ……」

 

「我が社にとって戦場は壮行試合前日に行われるレセプションパーティ! 今後の二辺工業の命運がそこに懸かっていると言っても過言ではないわ! ……という訳で話は以上よ、時間を取らせて悪かったわね、下がって良いわよ」

 

「は、はい……」

 

「失礼します」

 

「失礼しま~す」

 

 一礼して社長室を出ていく大洋と閃を慌てて追いかける隼子がハッと振り向いて吉川に小声で尋ねる。

 

「吉川さん、もしかしてなんですが……」

 

「……お察しの通り、『今週のラッキーパーティ』が〝レセプションパーティ“だったので上機嫌なのだと思われます」

 

「だから何なんですか、その限定的な占いは……」

 

「あ、そうだ、隼子ちゃん、パーティで着るドレス貸す? 良い人見つかるかもよ~」

 

「は、はははっ、折角ですが遠慮しておきます。失礼します!」

 

 社長室を出て、廊下を歩きながら大洋が話す。

 

「社長は先日から機嫌が良いな。俺たちのことも下の名前で呼ぶようになった」

 

「一応、会社の利益に繋がる結果を出したからね。露骨だけど、私は嫌いじゃないよ」

 

 閃はそう言って笑う。二人の後ろを歩く隼子がブツブツと呟く。

 

「納得いかんな……」

 

「何がさ、ジュンジュン? 名前呼びが気に障ったの?」

 

「それはええねん、むしろそっちの方がええわ。壮行試合のことや……」

 

「ああ……」

 

「二人ともそれでええんか? やるからには勝ちを狙うべきやろ!」

 

「勿論そのつもりだが?」

 

「え?」

 

 大洋は何を言っているんだという顔で隼子を見つめる。隼子は閃の方を見る。

 

「有効なデータを得た上で勝利……それが最良のシナリオだよね~」

 

「さ、さよか。それやったらええわ」

 

 隼子は安心したように頷く。そこに目の前から勤務医の真賀琴美が歩いてきた。

 

「あ、先生、こんにちは」

 

 隼子が頭を下げる。

 

「こんにちは、パイロット三人ともおそろいで。体の調子はどうかしら?」

 

「お陰さまで大丈夫です」

 

「ウチもです」

 

「……異状な~し」

 

「それは何よりだわ。何かあったらすぐ言って頂戴ね」

 

「はい、ありがとうございます。ところで先生、こんなところでどないしたんですか?」

 

「社長から呼び出しよ、パーティで着るドレス選ぶの手伝ってくれだって……」

 

 真賀が参ったという様子で首を竦める。隼子が苦笑する。

 

「た、大変ですね」

 

「業務外手当もらいたいわね……あ、そうそう、あの二人組? 美馬くんたちを見かけたら医務室に来るように伝えて貰える? 簡単な診察だけだから安心してって」

 

「分かりました。伝えます」

 

「お願いね」

 

 そう言ってウィンクして、真賀は社長室へ向かう。隼子が大洋に尋ねる。

 

「あの二人自由にうろついている様やけど、アテがあんのかいな?」

 

「端末の電源も切っていて、連絡つかないんだよね~」

 

「美馬はこの時間帯はよく釣りに行っている。ナーはジムだろうな、『こんな合理的な訓練施設、パッローナには無かったで! 活用せんと損や!』と目を輝かせていたからな」

 

「筋力トレーニングに精を出すフェアリーって、何か嫌やな……」



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第12話(2)嵐の前のパーティ

 それから約一週間が経った。

 

「本日はご多忙の中、お集まりいただきありがとうございます。それではこれよりレセプションパーティを開催いたします。本日、司会進行を担当させていただきます……」

 

 鹿児島市内にある高級ホテルの大ホールで、慣れた様子の司会者の開式宣言により、パーティが始まった。フォーマルスーツに身を包んだ隼子が呟く。

 

「……こういうセレブな雰囲気はやっぱり慣れへんな……ん?」

 

「流石に旨いな、高級ホテルの料理は……」

 

「お肉がジューシーだね~」

 

「まだ食うなや! 乾杯してからや!」

 

 隼子が両脇に立つ二人を注意する。

 

「そうなのか……」

 

「ったく、保護者の気分やわ……」

 

 隼子は頭を抑える。

 

「それでは開会にあたり、主催者を代表して、高島津社長代行よりご挨拶がございます。高島津社長代行、よろしくお願いします」

 

 司会に促され、長い黒髪を背中の辺りで一つに束ね、赤いドレスに身を包んだ眼鏡をかけた若く美しい女性が壇上に上がって、挨拶を始める。

 

「只今ご紹介に預かりました、社長代行の高島津伊織(たかしまづいおり)です。本日は……」

 

 挨拶する女性を見ながら、大洋が呟く。

 

「……大企業の社長というのに随分と若いんだな」

 

「今、代行って言うてたやろ。あの人は社長の娘さんや」

 

「……現在父はぎっくり腰で療養中でございまして……え? それは言わなくていい? え? こっちを見なくていい? し、失礼しました! え、え~っとですね、あら? 何を話していたんでしたっけ? ……」

 

 大企業の令嬢とはいえ、こういう場にはまだ不慣れなのか、壇上でアタフタとする伊織の様子に会場から笑いが漏れる。閃が隼子に囁く。

 

「天然系の人なのかな~。でも、皆好意的な反応だね」

 

「美人さんは得やな……って、オーセン、なんやその手に持っているのは?」

 

「え? ワイングラスだよ。そろそろ乾杯でしょ?」

 

「アンタ、18にもなってへんやろ。良い娘はオレンジジュースでも飲んどき!」

 

「え~ケチ~」

 

「ケチちゃうわ!」

 

「……長として普段は仕事をこなしておりまして、一時的な代行とはいえ、社長というのは大変だなと思う、今日この頃でございます……」

 

「あ、聞き逃した。なあ、今何長って言うた?」

 

 閃からワイングラスを没収した隼子は大洋に問う。

 

「館長と言っていたぞ」

 

「館長?」

 

「確か博物館だか記念館とかも持っているし、そこの館長さんとかなんじゃない?」

 

「あ~そういうことか……って納得してもうたら悪いか」

 

 閃の言葉に隼子は頷く。伊織のたどたどしい挨拶も何とか終わり、会は進行し、乾杯も終わって、司会が告げる。

 

「それではこれよりしばしご歓談のお時間とさせていただきます」

 

 隼子が大洋に尋ねる。

 

「っていうか、アンタよくスーツとか持っていたな? フンドシ姿で現れたらどないしようかと思うたで」

 

「正直ギリギリまで迷ったんだが……」

 

「迷うな! 冗談で言うたのに!」

 

「用意してもらったんだ」

 

「誰に?」

 

「ナーにだ」

 

 大洋がパスタを頬張りながら壁際に立つ二人を指差す。

 

「え⁉ マッチョフェアリーに⁉ どうやって?」

 

「うん? よく分からんがスーツの画像を見せたら、なんかチャチャっと出してくれたぞ。自分たちの分も含めて」

 

「魔法使えんのかい……便利なやっちゃな」

 

「非科学的だね~今更だけど」

 

 隼子と閃が呆れ気味に壁際の異世界コンビを見つめる。二人は何やら話している。

 

 

 

「いや~こっちの料理もなかなか旨いな! 気に入ったで!」

 

 ナーが料理を片手に、壁にもたれかかる美馬に話しかける。

 

「それは良かったな……」

 

「なんや暗いの~」

 

「俺がこういう場を好まないのはよく知っているだろう……」

 

「ほんなら何で来たんや?」

 

「付き合いだ、今は二辺工業の関係者ということになっているからな」

 

「そういうことやなくて、別にサセボに残っていても良かったんちゃうかって話や」

 

「……“二度あることは三度ある”」

 

「え?」

 

「この国のことわざだ……俺は部屋に戻る。お前も適当に切り上げておけ」

 

「お、おい、ちょっと待てや、なんや始まるみたいやで?」

 

 ナーは壇上を指差した。

 

 

 

「ご歓談中ではございますが、ここで明日の壮行試合に出場するロボットパイロットの皆さま方に一言ずつご挨拶を頂きたいと思います。では第一試合に出場する(有)二辺工業さま、どうぞお願いします」

 

「は、はい! 二辺工業所属、飛燕隼子です。長崎代表として恥ずかしくない試合が出来ればと思います。よろしくお願いします」

 

「桜花・L・閃で~す。以下同文~」

 

「そんな挨拶あるか!」

 

「疾風大洋です。頑張ります……」

 

「ぶ、無難に終わらせたな」

 

「なんか芸でもやった方が良かったか?」

 

「せんでええねん……!」

 

 隼子のツッコミも全てマイクが拾ってしまい、会場には苦笑が漏れた。司会が続ける。

 

「で、では続いて一八テクノ(株)さま、お願いします」

 

「……一八テクノ所属の海江田啓子です。全力を尽くします」

 

「……水狩田聡美。頑張ります」

 

「二人も来ていたんですね?」

 

 隣に立つ大洋が小声で話し掛ける。海江田が首を窄めながら答える。

 

「乗り気じゃなかったんだけどね~会社の意向だから致し方ないよ」

 

「眠い……帰りたい……」

 

 水狩田が気だるげに呟く。司会がトーンを一段上げて紹介する。

 

「さあ、続いては第二試合に出場の(株)高島津製作所さま! よろしくお願いします!」

 

「よっ!」

 

「待ってました!」

 

 客からの歓声が飛び交うなか、小柄な体格の黒髪ツインテールの美少女が両手を上げてそれに応える。

 

「え~っ応援あいがと! 改めまして、うちは高島津幸村(たかしまづゆきむら)! 明日はロボチャン全国大会へ向けて派手な試合をしょごたっ! 期待したもんせ!」

 

 幸村と名乗った少女は拳を豪快に突き上げる。客から拍手と歓声が飛ぶ。

 

「女の子⁉」

 

 大洋が驚く。隼子と閃が囁く。

 

「なんや、知らんかったんか?」

 

「あれでも九州を代表する天才パイロットだよ~」

 

「高島津ってことは……?」

 

「そうや、社長さんの娘。高島津三兄妹の末っ子や。確かまだ15歳やったかな」

 

「そ、そうなのか……」

 

 戸惑う大洋をよそに、司会は進行を続ける。

 

「それでは最後に(株)博多アウローラさま、お願いします」

 

 スキンヘッドの痩身かつ長身の男性がマイクを手に取る。

 

「……高島津さんに一つお願いがあります……」

 

 幸村に向かって、男が呟く。会場がざわつく。

 

「ないね?」

 

「明日の試合形式ですが、4チームのバトルロイヤルにしませんか……?」

 

「? よう分からんが、面白そうやなあ、よかじゃ」

 

「何⁉」

 

「承諾しよった⁉」

 

 大洋と隼子が驚く。会場もざわめく。

 

「良かった……もう一つお願いが……」

 

「ないね? 言うてみ?」

 

「明日僕らが勝ったら、ロボチャン全国大会の出場枠を譲ってもらえませんか?」

 

「なっ⁉」

 

「いや、アンタん所は一回辞退したやろ! 無茶苦茶や!」

 

 大洋は再び驚き、隼子は堪らず声を上げる。会場のざわめきはさらに大きくなる。

 

「はっはっはっ!」

 

 幸村が高らかに笑う。会場の注目が集まる。

 

「そげなケチくせこと言わず、もしもアンタらが勝ったら、残りの3チームは全国大会出場を辞退してやっ!」

 

「「「ええっ⁉」」」

 

 幸村の言葉に会場中が驚く。



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第12話(3)密約してみた

「いや~それにしても幸村さんには驚いたなぁ」

 

「流石に度胆を抜かれたね」

 

「……自信の表れか、天才の考えることはよく分からん……」

 

「そうやな……」

 

「どうしたの、ジュンジュン? ミーティングするんでしょ?」

 

「いや、なんでこの二人もおんねん!」

 

 隼子が海江田たちを指差す。

 

「そんな水臭いこと言わないでよ」

 

「一応対戦相手やろ!」

 

「細かいことは言いっこなし……」

 

「そうはいかんやろ!」

 

 サムズアップする水狩田に隼子が吠える。海江田が諭すように話す。

 

「まあまあ、一つ提案があるのよ」

 

「提案?」

 

「そうそう、短刀直入に言うけど、明日、手を組まない?」

 

「はあっ⁉」

 

「成程、理には適っているね~」

 

「いやいや、何がどう適ってんねん!」

 

 閃が片手を挙げて隼子を制する。

 

「ジュンジュン、ここは状況を整理しよう。明日の試合形式はバトルロイヤルが採用されることになった。そして、もしもあの博多のチームに負けたら全国大会の出場を辞退せざるを得ない雰囲気になってしまった。単なるエキシビジョンマッチのはずが所謂“絶対に負けられない戦い”になったんだ」

 

「雰囲気って、そんなの無視したらええやろ」

 

 閃が人差し指を立てて、左右に振る。

 

「あの幸村嬢の性格からして、そんな半端な行為を許すとは到底思えない。あの若さで『ツインテールの鬼神』との異名で呼ばれているパイロットだよ?」

 

「どんな異名やねん……」

 

「ちなみに『ツインテール×侍=最強』、『戦国の世から甦りしツインテール』って異名もあるね、あんまり定着してないようだけど」

 

「ちょっと長いし、そもそも戦国時代にツインテールおらんやろ!」

 

「とにかくだ……我々はリスクを減らす必要があるんだよ。そういうことでしょ?」

 

 閃が腕を組んで、海江田たちに問う。

 

「そういうこと、話が早くて助かるよ。全国大会出場辞退なんてことになったらスポンサーとの契約も台無しになるからね」

 

「……リスクを減らすとは?」

 

 話を黙って聞いていた大洋が口を開く。水狩田が呟く。

 

「魚テンプ―ラをいの一番で潰す……」

 

「……博多アウローラね」

 

「ならば対策を練らなければならないな」

 

「そう、これを見てくれる?」

 

 海江田が情報端末を取り出し、机上に3D映像を映し出す。それぞれ赤色、白色、緑色をした機体が戦う様子が映っている。

 

「これは?」

 

「博多アウローラの使用する機体、『トリオ・デ・イナウディト』だよ」

 

「意味はイタリア語で『前代未聞のトリオ』ってところかな」

 

 閃の言葉に海江田が頷き、説明を続ける。

 

「正式名称はもうちょっと長いんだけど、ここでは割愛して、単純に赤、白、緑と呼称するよ。名前からも大体の予想がつくと思うけど、三機同時運用で力を発揮する機体だ。赤は重火器武装に特化した機体、白は近接戦闘を得意とする機体、緑は索敵などに優れた電子戦闘用の機体だね」

 

「俺たちに似ているな」

 

「合体はしないけどね。知っての通りルール変更により、明日は3機とも出てくると予想される。単独でもパイロットの技量の高さも相まって厄介な存在なんだけど」

 

「有名なパイロットなのか?」

 

「ああ、赤に乗るのがリーダー的存在、松下克長(まつしたかつなが)。さっき壇上にいた長身痩せ型の男だ」

 

「ええっあの有名な松下さん⁉ 雰囲気が違うから全然気づかんかったで!」

 

 隼子が驚きの声を上げる。閃が指摘する。

 

「頭を剃っていたからじゃない?」

 

「そ、それにしても人相が随分と変わっていたような……いや、映像とかでしか見たこと無いけども」

 

「白に乗るのが竹中大門(たけなかだいもん)、背丈は普通だけど、筋肉質な男だね。緑に乗るのが、梅上愛(うめがみあい)。小柄でふくよかな女性。壇上には上がらなかったがパーティでの写真を撮ったよ」

 

「この二人もスキンヘッドになっとる⁉」

 

「ちょっと不気味だね~。揃って出家した訳でもあるまいし」

 

 画像を見た隼子と閃の反応に、海江田が両手を広げて頷く。

 

「そう、一旦辞退したのにやっぱり出たいって言い出すとか気になる所が多くてね。ここはオタクらと手を組んだ方が良さそうだという結論に至ったのさ」

 

「分かった……どうすれば良い?」

 

「まず初手で電光石火に合体してくれる? 白の相手をお願いしたい。リーチのある赤は私が鞭でなんとかする。緑は水狩田に任せるよ、機体性能的に接近戦は嫌がるはずだ」

 

「了解……」

 

「倒した後はどうする?」

 

 大洋の問いに海江田は小さく両手を上げる。

 

「リスクは片付いたことになるわけだから、後はご自由に……。地元のスターに華を持たせるも良し。『ツインテールの鬼神』の鼻っ柱を叩き折るのも良し……」

 

「データは取りたいね、邪魔しないでくれる?」

 

「う~ん、それはその時の気分次第かな?」

 

 閃の言葉に海江田は肩を竦める。

 

「……で、何で大洋の部屋で話し合いやねん? ミーティングルームを用意してもらっていたやろ?」

 

 部屋を出て、隼子は振り向いて海江田に尋ねる。

 

「あ~それはね……」

 

「は、疾風さん⁉ こ、これは⁉」

 

 大洋たちが声のした方を見ると、高島津伊織の姿があった。

 

「貴女は社長代行の……」

 

「不潔!」

 

「えっ⁉」

 

「部屋に女性を4人も連れ込むだなんて……! 弟から聞いていた話とは違いますわ!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

「待ちません! 貴方には失望しました!」

 

 そう言って、伊織は走り去ってしまった。大洋がうなだれる。

 

「くっ、破廉恥な男だと思われてしまった……」

 

「いや、落ち込む所そこちゃうやろ! なんか物凄い大事なこと言うてたぞ!」

 

 隼子が騒ぐ横で海江田が呟く。

 

「このように参加者同士の私的な交流だと勘違いしてくれる……密約を結んだなどとは誰も考えない……」

 

「成程、理に適っている……かな?」

 

 閃が首を傾げる。

 

 

 

 翌日、鹿児島湾内に設けられた試合会場で四組のロボットが顔を合わせる。

 

「障害物も何も無く、シンプルな会場だな」

 

「横幅約150m、縦幅約300mといったところだね」

 

「湾沿いに観客席も設けたのか、大丈夫か?」

 

「安全性は保障されているそうだから、気にしなくていいと思うよ。美馬くんたちも見ているってさ、恥ずかしい試合は出来ないね」

 

「……これ、床は何で出来ているんや? 鉄か? 桜色とはまた派手やな……」

 

 隼子が石火で軽く足踏みする。カンカンと音がする。

 

「ジュンジュン、そろそろ始まるよ~」

 

「あ、す、すまん」

 

「博多アウローラの三機は南方に、そして、北にいる赤紫の機体が……」

 

「そう、高島津製作所ご自慢の名機。(おに)(きわみ)だよ。最初の機体はこの電光石火と同じく、17年程前に作られたけど、そこから改良を重ねていった……単純に壱、弐とナンバリングしていたんだけど、よほど自信があるんだろうね、極と名付けるなんて」

 

「とりあえず、鬼退治は後まわしだな」

 

「そうだね。まずは手筈通り、トリオ・デ・イナウディトを倒す……」

 

 やがて試合開始を告げるアナウンスが流れる。大洋が叫ぶ。

 

「よしっ! まずは合体……」

 

「電光石火! エテルネル=インフィニ!」

 

 幸村の声が戦場に鳴り響く。

 

「こいは中止になったロボチャン準決勝の再戦のようなもんじゃ! よって手出しは無用でお願いしょごたっ!」

 

「「「ええっ⁉」」」

 

 幸村の唐突な宣言に大洋たちは再び驚かされる。



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第12話(4)鬼・極VSトリオ・デ・イナウディト

「よし、行っど!」

 

 幸村は機体を並び立つトリオ・デ・イナウディトに勢い良く向かわせる。

 

「三機を一機で相手するというのか⁉」

 

 大洋が戸惑う。隼子が閃に尋ねる。

 

「ど、どうする⁉」

 

「まあ……様子見かな~」

 

 海江田も水狩田に尋ねる。

 

「どうしようかね?」

 

「ここはお手並み拝見といこう……『縦ロールの貴婦人』の」

 

「『ツインテールの鬼神』ね……」

 

 海江田が視線を前に戻す。

 

「秒で終わらすっ!」

 

 幸村が愛機、鬼・極に刀を構えさせる。次の瞬間、緑の機体が肩部から白煙を噴出する。煙は鬼・極とトリオ・デ・イナウディトの間にたちまち充満する。

 

「む!」

 

 幸村が機体を急停止させる。戦況を見つめていた大洋が驚く。

 

「煙⁉」

 

「緑の……イナウディト・ヴェルデはジャミング戦法を得意とする機体だけど、わりと古典的な手法を用いてきたね」

 

「古典的ではあるが、効果的な手法……出鼻を挫いた」

 

 大洋たちに通信を繋いできた海江田と水狩田が状況を解説する。隼子が叫ぶ。

 

「赤が射撃したで!」

 

 赤の機体が放ったミサイルが数発、鬼・極に襲いかかる。幸村が機体を後方に向かって飛ばし、すんでの所で躱したかと思われた。しかし、ミサイルは床に着弾せず、浮き上がって、鬼・極を追いかける。

 

「ちぃ!」

 

 放たれたミサイルが全て、鬼・極に命中する。空中で攻撃を喰らい、バランスを崩した鬼・極は上手く着地することが出来ず、仰向けに倒れ込む。

 

「ぐっ!」

 

 回線をオープンにしたままだった為、幸村の呻き声が大洋たちにも聞こえてくる。

 

「ホーミングミサイルか!」

 

「まだ続くよ!」

 

 閃の言葉通り、赤の機体が、ガトリングガンを発射する。銃弾の雨霰が倒れている鬼・極に降りかかる。

 

「ふん!」

 

 幸村はすぐさま機体を前転させ、銃弾を躱す。床に着弾した弾は爆発する。そこで生じた爆風を利用し、鬼・極は前方にいる赤の機体に向かって勢いよく低く飛ぶ。

 

「前に躱したで⁉」

 

「躱すとともに、反撃に繋げる……戦い慣れている」

 

 水狩田が感心すると同時に、幸村は機体に再び刀を構えさせる。

 

「これだけ低く飛べば、狙いもつけにくいじゃろう! ……って何⁉」

 

 赤の機体の膝が開いたかと思うと、黒い球体が飛び出す。地面にワンバウンドしたその球体を赤の機体がサッカーボールを蹴るような形で思い切り蹴り飛ばす。

 

「はっ⁉」

 

 予想外の攻撃に反応しきれず、鬼・極はその球体を受け止める。機体にぶつかった瞬間、球体は激しく爆発する。

 

「爆弾だと⁉」

 

 驚きの声を上げる大洋に海江田が説明する。

 

「赤の機体……イナウディト・ロッソは火力の高さを生かした戦い方をする機体、武装も豊富だ。今の爆弾は驚いたけど」

 

「手榴弾ならぬ足蹴弾かな?」

 

「そんなのアリかいな……」

 

「しかし、これもギリギリだが、ガードした……大した反射神経だ」

 

 水狩田が再び感心する。若干後退した鬼・極は向きを変え、ヴェルデに襲い掛かる。

 

「やっぱり食事は緑色のものからとらんといけんな!」

 

「!」

 

 ヴェルデは左手をかざす。幸村が叫ぶ。

 

「位置は把握した! 煙を出しても、もう無駄じゃ!」

 

 しかし、ヴェルデの左手の掌から出たのは白い物体だった。その白い物体が直進していた鬼・極の足もとに絡みついたかと思うと、急ストップがかかったような形になった鬼・極は前方に派手に転ぶ。

 

「なんだあれは⁉」

 

「トリモチ弾だね。あれはなかなか粘着力があって厄介だ」

 

 大洋の叫びに海江田が反応する。水狩田が淡々と呟く。

 

「容易に近づかせないように工夫している……」

 

「ぬおおっ!」

 

 幸村は刀を杖のようにしてすぐに機体を起こす。しかし、脚が床にくっついているため、自由に動くことが出来ない。そこを逃さずに白の機体が襲い掛かる。隼子が叫ぶ。

 

「白が仕掛けたで!」

 

「イナウディト・ビアンコ……接近戦主体の機体だね」

 

「仕留めに入った……」

 

 海江田と水狩田が呟くと同時に、白の機体、ビアンコが右腕を振りかぶり、右手に持ったブレードで斬りつける。鬼・極も刀でそれを受け止める。

 

「受け止めたぞ!」

 

「やるね~!」

 

「まだだ!」

 

 大洋と閃が感心したように声を上げるが、水狩田がそれを遮るように叫ぶ。その言葉通り、ビアンコには文字通り次の手があった。いつのまにか左手に持っていた先が三つ又になっている槍を鬼・極に突き刺したのである。

 

「ぐおっ!」

 

 鬼・極の胸部辺りを狙った攻撃だったが、幸村は機体の上半身を捻るようにして、右肩部でそれを受け止めた。しかし、衝撃を吸収しきれず、仰向けに倒れ込む。

 

「ちぃっ!」

 

 ビアンコが鬼・極を見下ろすように立ち、両手のブレードと槍を振りかざす。戦況を見つめていた水狩田が静かに呟き、海江田が大洋たちに呼び掛ける。

 

「これは番狂わせ……」

 

「順序が逆になったけど、予定通り、連携して戦おう」

 

「れ、冷静やな……」

 

「待て! 奴はコックピットを狙っていないか⁉」

 

 大洋が叫ぶ。

 

「なんやて⁉」

 

「閃、撃て! 奴を止めろ! これは試合の域を超えている!」

 

「わ、分かった!」

 

 閃が慌てて、ガトリングガンを構える。しかし、それよりも早く、ビアンコがその両手を振り下ろす。

 

「ア、アカン、間に合わん!」

 

「くっ!」

 

「……しゃらくせっ‼」

 

「⁉」

 

 鬼・極が足払いをしてビアンコの体勢を崩す。大洋たちが驚く。

 

「何や⁉ トリモチで動けなかったんやないか⁉」

 

「いや、足場ごと切ったんだ……!」

 

 まるで下駄を履いたようなかたちとなった鬼・極が立ち上がり、すぐさま上に飛んで、左足でビアンコをロッソの方に蹴り飛ばす。その反動を生かして、ヴェルデの方へ飛ぶ。

 

「トリモチごちそうさん!」

 

 そう言って、右足でヴェルデもロッソの方に向かって蹴り飛ばす。トリオ・デ・イナウディト三機が互いに衝突し、揃って倒れ込みそうになる。間髪を入れず、幸村が叫ぶ。

 

「面倒じゃ、まとめてお礼をさせてもらうでごわす!」

 

 蹴り飛ばしたことで、足にくっつっていた床の部分も取れた鬼・極は大きく空中に舞い上がり、刀を振りかざす。

 

「チェスト――‼」

 

 幸村は高らかに叫び声を上げ、刀を思い切り振り下ろした。攻撃を喰らった、トリオ・デ・イナウディトはそれぞれ腕や脚を破損し、力なくその場に崩れ落ちた。

 

「よし! こいで準決勝は終わり! それじゃあ三組での決勝戦と行こうか!」

 

 機体を着地させた幸村は刀を左右に大袈裟に振って、大洋たちを煽る。隼子が大洋に問う。

 

「どうする、大洋⁉」

 

「やるからには勝つ! 合体だ!」

 

「フガイナツィ……!」

 

「⁉ なんだ、女の声⁉」

 

 大洋が周囲を見回す。隼子たちにもその声は聴こえており、皆辺りを見回す。

 

「チカラヲツァヅゥケヨウヅォ……!」

 

 女の声が再びしたかと思うと、トリオ・デ・イナウディトをまがまがしい黒い光が包む。

 

「な、なんだ⁉」

 

 次の瞬間、トリオ・デ・イナウディトは一機の巨大な機体となって、立ち上がった。

 

「合体機能はなかったんとちゃうんかい!」

 

 隼子は海江田たちに叫ぶ。海江田たちは困惑気味に答える。

 

「い、いや、そのはずなんだけど……」

 

「色も黒くなった……!」

 

「破損箇所も修復されている……⁉ 迂闊に近づかない方が良い! 危険だ!」

 

「「断る!」」

 

 閃の提案を大洋と幸村が揃って却下し、更に揃って刀を黒い機体に突き付けて叫ぶ。

 

「「先手必勝!」



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第13話(1)鬼神覚醒

「気が合うのお! 金色のパイロット! 名前は何だったかの⁉」

 

 幸村は機体を光の方に向けて、語りかける。大洋が力強く答える。

 

「疾風大洋だ!」

 

「! そうか、お前が! って、ひえええ⁉」

 

 モニターを繋ぎ、大洋の姿を目にした幸村が悲鳴に近い叫び声を上げる。

 

「ど、どうした⁉」

 

「それはこっちの台詞じゃ! な、なんちゅうあられもない恰好しちょるんと⁉」

 

「あられもない……?」

 

 大洋は首を捻る。

 

「なにを首捻るところがあんねん! 至極真っ当な反応やろ!」

 

「フンドシ一丁は15歳の少女に見せる恰好では無いよね~」

 

「兄上に聞いていた男とは違う! ふしだらじゃ!」

 

 そう言って、幸村はモニターを切った。大洋がうなだれる。

 

「ふしだらな男と言われた……!」

 

「だから落ち込んでいる場合ちゃうねん! 大事なこと言うてんねん!」

 

「来るよ!」

 

 閃が叫ぶ。一機の巨大な機体となったトリオ・デ・イナウディトがその右腕に持つブレードを振りかざし、大洋たちを狙って斬り付けてくる。

 

「躱せ!」

 

 大洋が叫び、三機ともイナウディトの鋭い攻撃をなんとか躱す。

 

「合体だ!」

 

 大洋が号令し、三機は合体し電光石火となる。冷静さを取り戻した幸村が呟く。

 

「な、成程、あれが噂の電光石火か……!」

 

 イナウディトが返す刀の要領で、今度は鬼・極を狙う。幸村はやや反応が遅れたものの、刀を縦に構え、その攻撃を受け止める。

 

「ほう! さっきとはパワーも段違いじゃな!」

 

 するとイナウディトが左腕に持った三つ又の槍を鬼・極に突き立てようとする。

 

「しまっ……!」

 

 しかし、イナウディトの繰り出した槍は鬼・極の機体の寸前で止まる。海江田が駆るインフィニ一号機が鞭をイナウディトの左腕に巻き付け、その動きを止めたからである。一瞬間が空いて、幸村が礼を言う。

 

「すまん! 助かった!」

 

「お礼の請求は御社にすれば良いのかな? ……って、なんてパワーだよ⁉」

 

 インフィニ一号機が引きずられそうになる。水狩田が叫ぶ。

 

「もう少し堪えろ海江田! 奴を大人しくさせる!」

 

 水狩田が自身の駆るインフィニ二号機のバーニアを思い切り吹かし、がら空きになったイナウディトの前方に回り込む。機体の左腕のクローを振りかざしながら、イナウディトの胸部辺りに飛び掛かる。

 

「敗者復活戦は無い! 茶番は終わりだ……!」

 

「待て!」

 

「!」

 

 大洋の叫ぶ声と同時に、水狩田の攻撃はバリアのようなものに弾かれる。

 

「やはり! あの双頭犬と同様にバリアを発生させることが出来るんだ!」

 

「バリア⁉ 一旦退け、水狩田!」

 

 海江田が叫ぶ。だが、水狩田は再びイナウディトに向かって飛び掛かる。

 

「出力を最大にして、連撃を浴びせれば、多少のバリアだろうが破れ……⁉」

 

「な、なんや⁉」

 

 イナウディトの胸部から黒く長いトゲのようなものが鋭く突き出され、空中のインフィニ二号機を串刺しにする。閃が驚く。

 

「第三の武器⁉」

 

「水狩田‼」

 

「ぐっ……」

 

 水狩田の呻く声が聞こえてくる。海江田は少し安心しながら、問いかける。

 

「無事なの⁉」

 

「間一髪でコックピットへの直撃は避けた……ただ困った、これでは動けん」

 

「今度はウチが助ける番じゃ!」

 

 幸村はイナウディトの右腕をなんとか押し返す。そして飛び上がり、トゲを斬ろうと、刀を大きく振りかぶる。

 

「チェスト――‼」

 

 威勢の良い掛け声とともに振り下ろされた刀だったが、トゲを斬ることは叶わず、ポッキリと折れてしまう。

 

「あら?」

 

「ええっ⁉ 折れた⁉」

 

「危ない、避けろ!」

 

「⁉」

 

 刀が折れて、空中で無防備な状態になっていた鬼・極に対して、イナウディトの右脚のキックが飛んでくる。

 

「ぐおっ⁉」

 

 強烈な蹴りを喰らった鬼・極は後方に吹っ飛ばされる。大洋が声を掛ける。

 

「だ、大丈夫か!」

 

「ぐ……な、なんとかな……」

 

 幸村のやや苦し気な声が聞こえてくる。

 

「うおっ⁉」

 

 大洋たちが視線を移す。海江田の機体が真上に引っ張りあげられている。

 

「ちょっ、ちょい待ち! どおっ!」

 

 海江田の制止も空しく、機体が床に叩き付けられる。

 

「お、おおう……」

 

「満足に動けるのは俺たちだけか! 行くぞ、二人とも!」

 

「あのバリアを破れるんか⁉」

 

「分からん!」

 

「分からんのかい! どうなんや、オーセン⁉」

 

「出力をMAXにすればワンチャンあるかも!」

 

「なんとも心許ないな!」

 

「やってみるしかない!」

 

 大洋が叫び、機体を突っ込ませる。イナウディトのブレードや槍が襲い掛かるが、これを巧みに躱し、懐へと飛び込む。

 

「喰らえ! 大袈裟斬り‼ ⁉」

 

 渾身の力を込めた一撃だったが、バリアによって虚しく弾かれてしまう。次の瞬間、イナウディトの左脚による蹴りが電光石火を襲う。

 

「どおわっ⁉」

 

 電光石火も後方に吹っ飛ばされる。何とかガードをとったために受ける衝撃は幾分緩和された。大洋はすぐさま機体を起こし、二人に語り掛ける。

 

「くそ! もう一度行くぞ!」

 

「いや、ちょっと待てや!」

 

「現状のスペックではやはり厳しいよ!」

 

 隼子と閃が大洋を引き留める。

 

「それでも、ここは俺たちがやるしかない!」

 

「待てや……」

 

 声のする方に振り返ると、立ち上がった鬼・極の姿があった。幸村が呟く。

 

「ウチに任せとき……」

 

「どうする気だ⁉」

 

「全国大会まで隠しておくつもりじゃったが、こん状況じゃそうも言ってられんな……モード『鬼神』発動!」

 

「何⁉」

 

 幸村が発した掛け声とともに、鬼・極の機体が光り出し、頭部の二本のアンテナが長く伸び、正に鬼の様になった。

 

「こいつで片を付ける……」

 

「し、しかし、刀はどうするんや⁉ 折れてもうたぞ!」

 

「鬼の得物はやはりこいで決まりじゃ……」

 

 そう言って、幸村は鬼・極の背部から長い棒を取り出す。閃が驚く。

 

「そ、それは金棒⁉」

 

「そうじゃ、『鬼に金棒』じゃ!」

 

 幸村はそう叫びながら、イナウディトに飛び掛かり、金棒を思い切り振り下ろす。

 

「⁉」

 

 鬼・極の金棒はバリアを豪快に打ち砕き、イナウディトの機体に当たる。直撃を喰らう形となったイナウディトはその場に崩れ落ちる。大洋が驚嘆する。

 

「な、なんてパワーだ……」

 

「! あれは⁉」

 

 隼子が叫ぶ。見ると、イナウディトを包んでいた黒い光が消え去り、イナウディトは元の三機に戻った。

 

「ん……ここはどこだ? 俺たちは一体……?」

 

 イナウディト・ビアンコから松下のやや間の抜けた声が聞こえてくる。閃が呟く。

 

「? 正気に戻ったのか?」

 

「フン、マアヨイ……トキハミチタ……」

 

「また女の声⁉ って何や⁉」

 

 次の瞬間、桜島が轟音を立てて噴火した。噴煙の中から、双頭の竜がその姿を現した。

 

「犬の次は竜か!」

 

「フウインハトケタ……アバレルガヨイ」

 

 女の言葉に呼応するかのように、双頭竜は物凄い勢いで大洋たちの方へ向かってくる。竜は鋭い爪を立てて、鬼・極に迫る。大洋が叫ぶ。

 

「狙われているぞ、避けろ!」

 

「そいつは無理な相談じゃ……モード鬼神の稼働後はしばらく動けんからの」

 

「何だと⁉」

 

 大洋が鬼・極を守ろうと、機体を動かすが、とても間に合いそうにはなかった。

 

「間に合わんか! ⁉」

 

 すると、竜の爪を黒い影が弾き飛ばした。閃と大洋が叫ぶ。

 

「テネブライ!」

 

「美馬か!」

 

「遅くなった……観客の避難誘導をしていたものでな」

 

 美馬の脇でナーが呑気に話す声が聞こえてくる。

 

「え~っと、これで通算七度目の世界救出になるんやったっけ?」

 

「何度目でも良い! 何度だって救うだけだ!」

 

 美馬はテネブライを双頭竜に向けて突っ込ませる。



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第13話(2)桜島、浮上

「ちょ、ちょっと待てって!」

 

 ナーの声が響き、美馬は機体を急停止させ、ウンザリした口調で尋ねる。

 

「何だ?」

 

「盛り上がっているところ悪いんやけど、どうせあのドラゴン?もこないだの犬と同じでバリア持ちってオチやろ? 斬り込んでも弾かれてまうで? って、おい!」

 

 双頭竜の片方が口を開き、炎を吐き出した。まるで火炎放射器のような炎がテネブライに襲いかかる。美馬は機体を操作し、これを躱す。

 

「お約束の火炎放射かい! こりゃ簡単には近づけんで!」

 

「テネブライの機動力ならば!」

 

 美馬は機体の背面バーニアを一杯に噴き出させて、空中を素早く動き、炎を吐き続ける頭とは反対の頭に回り込む。しかし、反対の頭も口を開き、火球を数発吐き出す。

 

「こっちは火の玉! 連射のおまけ付きかい!」

 

「ちっ!」

 

 美馬は火球を躱しつつ、頭部のバルカンを数発発射する。しかし、ナーの予想通りバリアのようなものに弾かれる。美馬は機体を後退させ、距離を取って様子を見る。

 

「バリアか、厄介だな。さて、どうするか……」

 

「英雄のお兄さん! それとも救世主さんだったかしら⁉」

 

 美馬はモニターを開く。海江田と水狩田の姿が映る。

 

「尋問の際に同席していた女たちか……悪いが世間話などをしている暇はない」

 

「こっちもそのつもりは無いから! ここは私たちに任せてくれる⁉」

 

「任せるとは手があるのか?」

 

「ふふっ、こちらにございますはエテルネル=インフィニ専用のライフル、二丁!」

 

 海江田は機体にライフルを構えさせる。傍らに立つ水狩田も無言で構える。

 

「この二丁のライフルを組み合わせ、パーツを付けて、アレをナニしてコレすると……あ~ら不思議! 大型バスターライフルの出来上がり!」

 

 瞬時に組み立てたバスターライフルを二機のインフィニが支えるように持つ。

 

「いや、アレをナニしてコレするってなんやねん! 大事なところをはしょんな!」

 

「細かいことを気にするな……アー=ナツヤスミ……」

 

「ナー=ランべスや! 伸ばす棒しか合うてへんやないか!」

 

「スも合っている……それはどうでもいいが、そのバスターライフルの衝撃にそっちの機体が持つのか? だいぶボロボロの様だが……」

 

 美馬が冷静に問う。水狩田が淡々と答える。

 

「その点は問題ない……この三機がエネルギーを供給してくれる」

 

 水狩田が機体の親指を自機の後方に立つ三機に向ける。そこには辛うじて立ち上がったトリオ・デ・イナウディトの姿があった。

 

「「「⁉ 聞いてないぞ⁉」」」

 

 松下たち三人が揃って驚く。水狩田が呟く。

 

「今言った。迷惑をかけた弁償代がわりだ」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

「俺らはなにかに操られて……」

 

「時間が無い!」

 

 水狩田の言葉に梅上と竹中が黙る。松下が口を開く。

 

「……分かった! エネルギーを供給する! 行くぞ、お前ら! あの二機を支えろ!」

 

 松下の指示で、トリオ・デ・イナウディトはインフィニ二機の後方にケーブルを繋ぎ、エネルギーを送り込む。海江田が叫ぶ。

 

「よし! 3.5機分のエネルギーを確保! 水狩田!」

 

「バスターライフル……発射!」

 

 膨大なエネルギー量を持ったビームが放たれ、双頭竜に目掛けて飛んで行く。双頭竜は即座にバリアを張るも、ビームがこれを破り、見事命中する。これにより双頭竜の片方の首が吹っ飛び、体勢を大きく崩す。美馬がそれを見逃さず、機体を接近させ、サーベルを振り下ろす。

 

「エレメンタルバースト!」

 

 テネブライの攻撃をもろに喰らった双頭竜は消滅した。ナーが快哉を叫ぶ。

 

「やったで!」

 

「ああ……ん⁉」

 

 テネブライのレーダーの反応を確認し、美馬が舌打ちする。

 

「ちっ! こんな時に!」

 

 何もないはずの空間に紫色の穴のようなものが開き、そこから紫色の機体が姿を現す。

 

「アルカヌム!」

 

 アルカヌムはテネブライを一瞥すると、電光石火に向かい急降下する。大洋が驚く。

 

「何だと⁉」

 

「こっちに来たで⁉」

 

 アルカヌムがサーベルを素早く振り下ろす。その速さにガードが間に合わず、直撃を喰らった電光石火は片膝を突く。アルカヌムがそれを見下ろすような形で立つ。

 

「ぐっ……速い」

 

「……まだこの程度か」

 

「⁉」

 

 電光石火のコックピットに聞き覚えの無い女の声が聞こえてくる。閃が驚く。

 

「この声は⁉ もしかしてアルカヌムのパイロット⁉」

 

「今の貴様らには倒す価値も無い……」

 

「何を!」

 

「もう少し強くなってもらわなければならない……」

 

 電光石火の画面にメッセージが表示される。それを確認した閃が再び驚く。

 

「こ、これは……⁉」

 

「健闘を祈る……」

 

 そう言って、アルカヌムは左腕をかざして空間に穴を作り出し、そこに入ろうとする。

 

「逃がさんぞ! シャイカ=ハーン‼」

 

 テネブライが迫る。シャイカと呼ばれたアルカヌムのパイロットは静かに呟く。

 

「テネブライ、ミマ=タカモト、貴様の相手はまたいずれしてやる……」

 

 そう言って、アルカヌムは姿を消す。テネブライの振り下ろしたサーベルは空を切る。

 

「くっ! ⁉」

 

 先程に比べると小規模ではあるが、桜島が数度噴火した。噴煙の中から、双頭竜よりは幾分小柄ではあるが、数十頭の竜が翼をはためかせ、電光石火たちに向かってきていた。

 

「あ、あれは⁉」

 

「イマイマツィイヤツラメ……オヤノアダハコラガウツ……」

 

「またあの女の声や! 親の仇って⁉」

 

「双頭竜の子供ということだろう!」

 

「あ、あんなにぎょうさん……」

 

 大洋の言葉に隼子が絶句する。

 

「あ~あ~、マイクテスト、マイクテスト……」

 

「⁉」

 

 またもや違う女の声が戦場に響き渡る。

 

「皆さん、大変恐れ入りますが、足場から離れて下さい~」

 

「なんや⁉」

 

「飛行能力の無い機体の方は、お近くのハッチを開きますのでそこに入って下さい」

 

 足場が大きく揺れる。大洋が戸惑いながらも隼子に指示する。

 

「隼子、飛行形態に変形だ!」

 

「わ、分かった!」

 

 電光石火が飛行形態になり、その場を飛び立つと、桜色の足場がゆっくりと浮上する。

 

「う、浮いたで⁉」

 

 足場は浮かび上がると、花のつぼみが開くように、ゆっくりと左右に開閉する。

 

「これは……⁉」

 

 大洋が目を疑う。開花したその中に、巨大戦艦の姿があったからである。

 

「航空戦艦『桜島』出航せよ‼」

 

「⁉ も、もしやこの声は⁉」

 

 電光石火のモニターに軍服に身を包んだ眼鏡の女性が映り、にっこりと微笑む。

 

「ごきげんよう、この桜島の“艦長”を務めております高島津伊織です」

 

「「「ええっ⁉」」」



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第13話(3)絆……?

 驚きながらも、大洋はなんとか平静さを取り戻し、伊織に問おうとする。

 

「あ、あの……」

 

「お話は後で! 今はあの竜の大群をどうするかです!」

 

 伊織の言うように、数十頭の竜が、突如として戦場の真ん中に現れた桜色の航空戦艦、『桜島』を標的に飛んできているのは明らかだった。

 

「対空迎撃が可能な機体はウチらとあの異世界コンビだけや!」

 

「ジュンジュンにしては冷静な状況判断が出来ているね~」

 

「からかうなや!」

 

 隼子は手を伸ばし、閃のぼさぼさな頭をさらにクシャクシャにする。

 

「あの大群をウチらとあの黒い……テネブライでどう抑えんねんって話や!」

 

「ご心配には及びません」

 

 伊織の声が電光石火のコックピットにも聴こえてくる。

 

「ええっ、心配するなって言うても……」

 

「各砲門、撃ち方用意!」

 

 伊織が凛とした声で指示を飛ばす。桜島の両舷に備えられている数多の砲口が一斉に斜め前、竜の大群へと向けられる。

 

「各砲門、照準修正完了!」

 

 ブリッジクルーの青年の報告に頷くと、一呼吸置いて、伊織が叫ぶ。

 

「一斉射撃、撃てえ――‼」

 

 桜島の両舷から放たれた砲撃が竜の大群に襲い掛かり、数十頭いた竜たちは瞬く間にその姿を消し飛ばされる。隼子が感嘆の声を上げる。

 

「な、なんちゅう火力や……」

 

「戦局を一変しちゃったね~」

 

 閃が両手で双眼鏡を作るようにして、戦場を覗き込む。大洋が改めて問う。

 

「その戦艦は?」

 

「我が社が極秘裏に建造を進めていたものです。本日の壮行試合の後で、サプライズとして、皆様にお披露目するつもりでした。予想外の形とはなりましたが……」

 

「いやいや、十分驚きました。船体が全部桜色って……」

 

 隼子が艦を指差しながら呟く。

 

「軍服もピンクとは派手ですね~」

 

 閃がからかうように声を掛ける。伊織は片手で軍服を軽くつまみ、もう片方の手でかぶっている帽子を直しながら、照れ臭そうに話す。

 

「オシャレは軍服からと言いますから……」

 

「いや、そんな格言初耳ですけど」

 

「オノレ……!」

 

「! 女の声だ!」

 

「あれを見て!」

 

 閃が指を差した先に女が空中に浮いている姿があった。

 

「人が宙に浮いとる⁉ しかもあれは……」

 

「真賀さんか⁉」

 

 大洋の言葉通り、その女は二辺工業の勤務医、真賀琴美であった。閃が呟く。

 

「もしかしたらって思っていたけどやはり……」

 

「知っとんたんか⁉ オーセン!」

 

「……この間の双頭犬と戦った現場近くに落ちていたんだよ……」

 

「何がだ⁉」

 

「彼女ご愛用のシガレットキャンディーがさ……」

 

「「⁉」」

 

「ワレノタマツィイハイクドトナクテンツェイヲカツァネ……イマコノヅゥダイニナッテ、ヨウヤクチカラヲエタ……」

 

「ど、どういうことや⁉」

 

 隼子が閃に問う。

 

「彼女の……真賀さんの中にもう一つの人格が存在していたってことかな……」

 

「貴様の目的はなんだ⁉」

 

「ヌヤコクノフッカツ……」

 

「ヌヤコク⁉」

 

「奴邪国……古代、九州を中心に西日本に広い領土を持っていたとされる大国……僅かに伝わる伝承によれば、巨大な獣を意のままに操ることが出来たといいます……」

 

 伊織が呟く。閃が問う。

 

「史学は専門外なんだけどさ! 邪馬台国とは違うの?」

 

「ヤマト……!」

 

 女の眼がカッと見開かれる。

 

「イマコソカエツィテモラオウ……! ヤマトニウバワレツィ、ワレラノチヲ……!」

 

 女が叫ぶと、またも、桜島が噴火活動を始めた。立ち上る噴煙の中から、数十頭の竜が翼をはためかせ、電光石火たちへと向かってくる。大洋が叫ぶ。

 

「第二波か⁉」

 

「要は邪馬台国への八つ当たりかいな! んなもん知らんっちゅうねん!」

 

 隼子が機体を操作し、迎撃に当たろうとする。伊織が制する。

 

「大丈夫! こちらで対処します! 各砲門、撃ち方用意! ……撃てえ――‼」

 

 再度、戦艦の両舷から放たれた砲撃が竜の大群に襲い掛かる。

 

「カワセ!」

 

 女の叫びに呼応するかのように数十頭いた竜たちは射撃を躱そうとする。躱しきれなかった竜もいたものの、半数近くが回避に成功し、戦艦に向かって襲い掛かってくる。それを見て隼子が悲鳴に近い声を上げる。

 

「いやあ! 大勢こっちに来るで!」

 

「叫んでいる暇があったら迎撃だ!」

 

 美馬の声が入る。大洋が問う。

 

「美馬! 良いのか⁉ あの……紫色の機体の追撃は⁉」

 

「今はこちらの方が重要だ!」

 

 そう叫ぶと、美馬はテネブライを襲いくる竜の群れに突っ込ませ、サーベルを駆使し、竜を何匹か切り捨てる。大洋が叫ぶ。

 

「隼子! 俺たちも続くぞ!」

 

「わ、分かった! 行くで! ってええっ⁉」

 

 電光石火がバランスを崩し、戦艦桜島の甲板に緊急着陸する。

 

「ど、どうした⁉」

 

「い、いや、オーセン⁉」

 

「さっきの紫色……アルカヌムにやられたダメージがここにきて響いてきたね……」

 

「どうする⁉」

 

「とにかく甲板で迎撃するしかないね、ジュンジュン、代わるよ!」

 

「わ、分かった!」

 

 電光石火は射撃モードに変更し、向かってくる竜を狙い撃つ。しかし、数が多く、撃ち漏らした竜が四頭、爪を立てて、電光石火に襲い掛かってくる。閃が舌打ちする。

 

「チッ! 四方向から⁉ 防御が間に合わな……えっ⁉」

 

 次の瞬間、電光石火を襲った四頭の竜の体が爆発し、消し飛んだ。

 

「な、なんだ……?」

 

 戸惑う大洋たちに語り掛けてくる声があった。

 

「苦戦しているようじゃなあ! 電光石火!」

 

「その声は増子さん! 卓越か!」

 

「大洋さん、僕らもいますよ!」

 

「多田野くん! ダークホースか! キックさんもいるんですね!」

 

「菊じゃ! 小さい〝っ〝を付けんな!」

 

「佐賀の守り神、サガンティス参上!」

 

「サガンティスまで来てくれたのか!」

 

「いや、ちょっと待てや!」

 

「北九州の暴れん坊、リベンジオブコジロー推参!」

 

「リ、リベンジオブなんちゃらまで!」

 

「いや、なんちゃらって!」

 

 大洋が目頭を抑え、鼻をすする。

 

「鎬を削った皆が助けてくれるとは……まさしく昨日の敵はなんとやらだな!」

 

「削った覚えの無い奴らも混ざってるけどな!」

 

 騒ぐ隼子を余所に閃が冷静に伊織に尋ねる。

 

「……この愉快な方たちは?」

 

「ロボチャン九州大会を見て、スカウトさせて頂きました。正確に言うと、出向してもらっている形ですね。この戦艦、戦力がまだまだ乏しいもので」

 

「成程ね……」

 

「よし、反撃だ! 閃!」

 

「了解~」

 

 閃が砲撃を再開して、艦に向かってくる竜を吹っ飛ばしていく。テネブライも空中で竜を次々と斬り落としていく。ついに竜は一頭もいなくなった。大洋が力強く叫ぶ。

 

「見たか! これが俺たちの絆の力だ!」

 

「そうだ! 絶対に貴様らには負けないぞ!」

 

「良いこと言うな! えっと……知らない人!」

 

「いや、俺っすよ! 曽我部っすよ! 覚えてないんすか⁉」

 

「……生憎!」

 

「絆は⁉」

 

 卓越のサブパイロット、曽我部の叫びが虚しく響く。

 

「コレデカッタトオモウナ……!」

 

 女が叫ぶと、またもや桜島が噴火した。この日一番の規模の噴火であった。

 

「第三波かいな⁉」

 

「いや……あれは!」

 

 もくもくと立ち上る噴煙の中から、四つの頭を持った竜がその巨大な姿を現す。

 

「デ、デカっ! さっきの双頭竜の倍はあるで⁉」

 

「親玉登場ってところかな!」

 

「ふん、腕が鳴っな!」

 

 幸村が叫び、鬼・極が甲板に上がってきた。大洋が問う。

 

「鬼・極! 大丈夫なのか⁉」

 

「エネルギーの補充は完了! 派手に暴れてやっ!」

 

「頼もしいな!」

 

「ただ、まだ心細いかな……」

 

 閃が呟く。そこに戦場に一際大きな声が響く。

 

「待たせたな! ヒヨッコども‼」

 

「そのダミ声は⁉」

 

 大洋たちが空を見上げると、五色のド派手なカラーリングをしたロボットがポーズを取っていた。タイミングがよく揃った声が戦場に響き渡る。

 

「フュージョントゥヴィクトリー、見参‼」



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第13話(4)怒涛の決着

「FtoV! 来てくれはったんですね!」

 

「沖縄への任務のついでだけどね」

 

 隼子の言葉に殿水が答える。火東が四頭竜を見て呟く。

 

「それにしても大きいわね……こっちの倍はあるんじゃないの?」

 

「大きさ=強さという訳ではない。俺たちは何度もそれを証明してきたはずだ……」

 

「土友は良いこというね。その通……ZZZ……」

 

「会話の途中で寝るな! 木片!」

 

 小金谷が木片を怒鳴る。幸村が笑いながら叫ぶ。

 

「かの有名なFtoVと轡を並べられるとは! 光栄でごわす!」

 

「あ~盛り上がっている所悪いんやが……」

 

 ナーが呟く。美馬が問う。

 

「どうした?」

 

「自分、ちょっとバルカン撃ってみ」

 

 美馬はテネブライのヘッドバルカンを四頭竜に向けて発射する。巨体を覆い尽くすような大きなバリアが発生し、バルカンの銃撃を防ぐ。女が叫ぶ。

 

「ムダダ! ケッカイハヤブレヌ!」

 

「成程、極めて強力な結界……バリアがあるということか」

 

 土友が眼鏡を直しながら呟く。火東が叫ぶ。

 

「攻撃、来るわよ!」

 

 四頭の竜がそれぞれ炎を吐き出した。放射線状に広がる炎、直線に飛ぶ炎、球状に飛ぶ炎、曲線を描く炎、四種の炎が、戦艦桜島とその周囲のロボットたちに襲い掛かる。

 

「全機、緊急回避だ!」

 

 小金谷が叫ぶ。電光石火などは間一髪で躱したが、数体は炎を喰らってしまう。

 

「ダメージを受けた機体は一旦下がって下さい! 船首付近の消火活動を急いで!」

 

 伊織が的確に指示を飛ばす。殿水がぼやく。

 

「強力&広範囲なバリア持ちに四種の火炎……近づくのも厄介ね」

 

「お任せ下さい! 活路はこの戦艦桜島が開きます!」

 

 伊織が力強く叫ぶ。小金谷が問う。

 

「威勢は結構! しかし、どうやってだ!」

 

「この桜島の主砲ならば、あのバリアも破れるはずです! データを送ります!」

 

 伊織からFtoVにデータが送られる。

 

「どうだ、土友?」

 

「……この威力ならあのバリアも壊せるでしょう」

 

「よし! 任せるぞ!」

 

「任されました! 各員、主砲発射準備!」

 

「お言葉ですが艦長! 主砲発射は反対です!」

 

 ブリッジクルーの青年が伊織に叫ぶ。伊織がずっこけそうになる。

 

「ど、どうしたの⁉」

 

「主砲については試射もまだです。加えて照準修正と威力調整が非常にデリケートです! 現状のクルーの練度では完璧な状態での発射は困難を極めます!」

 

「何を弱気なことを! って、一理あるわね……」

 

 伊織がうなだれる。

 

「今日はあくまで試運転のつもりだったからね。まさかガチンコの戦闘になるとは……」

 

「お困りのようですね?」

 

「貴女たち⁉ ブリッジは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」

 

 ズカズカとブリッジに入ってくる海江田たちに伊織が驚く。

 

「緊急事態にそんなことも言ってられないでしょ? ……悪いけどどいてくれる?」

 

 海江田たちがクルーを退けてシートに座る。

 

「な、何をするつもりですか⁉」

 

「代わりに発射をオペレートする……」

 

 水狩田が静かに呟く。

 

「ご経験があるんですか⁉」

 

「……ある寄りの……ない!」

 

「ないんじゃないですか⁉ 一瞬、頼もしいわって思った気持ちを返して下さい!」

 

「まあまあ、新兵よりはいくらかマシだよ。行こうか、水狩田」

 

 海江田がコントロールパネルを巧みに操作する。水狩田も同様に手元のパネルを操作しながら淡々と呟く。

 

「トリオ・デ・イカガワシイも宜しく頼む……」

 

「イナウディトだ!」

 

 松下がモニターを確認しながら叫ぶ。竹中や梅上も話しながら、忙しく手を動かす。

 

「初対面なのに人使いの荒い連中だ!」

 

「全く! はい! 角度調整完了よ!」

 

 海江田がモニターを見て満足そうに頷く。

 

「流石は歴戦のパイロットたち……ぶっつけでもなんとかなるもんだね。さて、艦長?」

 

「は、はい⁉」

 

「主砲発射準備完了しました」

 

「そ、そうですか……コ、コホン、主砲、撃てえ――‼」

 

 伊織の掛け声とともに桜島から主砲が発射される。凄まじいエネルギーの奔流が四頭竜に向かって、勢いよく飛んでいく。

 

「⁉」

 

 主砲の直撃により、四頭竜を覆っていた巨大なバリアは破壊され、砲撃は竜の体を直接貫き、竜はその衝撃で大きく呻き声を上げてのけ反る。

 

「よし、今だ! 畳みかけるぞ!」

 

 小金谷が檄を飛ばす。美馬がテネブライを空中に浮かせる。

 

「俺が先陣を切る! ……『エレメンタルフルバースト』!」

 

 テネブライが両手でサーベルを思い切り振り下ろすと、その剣先から斬撃が飛び、四頭竜の頭を一つ切り裂いた。その様子を見ていたナーが呼びかける。

 

「思うた通りや! さっきより大きなものやないけど、四つの頭もそれぞれバリアを張ることが出来るようやで! つまり……」

 

 木片が突如割って入ってくる。

 

「各々、バリアごと吹き飛ばす強力な攻撃が求められる!」

 

「お、おう! そうや! なかなかどうして鋭い……」

 

「ZZZ……」

 

「え⁉ 寝るの? この流れで⁉」

 

「お次はうちの番でごわす! 姉上! カタパルトを!」

 

「⁉ 分かったわ! 射出カタパルト作動させて!」

 

 鬼・極をカタパルトに移動させていた幸村が姉の伊織に呼び掛ける。姉もその狙いに気付き、カタパルト作動を指示する。鬼・極が勢いよく空中に射出される。

 

「勢いも高さも十分! 喰らえ! 『砕岩』!」

 

 再びモード『鬼神』を発動させた鬼・極の振り下ろした金棒は凄まじい破壊力で、竜の頭を一つ粉砕する。幸村は満足気に微笑み、静かに呟く。

 

「上手くいったが、困った。今の鬼・極では飛行出来ん。さて……ん⁉」

 

 海面に落ちそうになった鬼・極の首ねっこをテネブライが掴んで引っ張り上げる。

 

「あ、あいがと……」

 

「気にするな……」

 

 幸村の礼に美馬がそっけなく答える。ナーがぼやく。

 

「けど少し重いの~! もうちょっとなんとかならんか?」

 

「き、機体差によるものじゃ! そればかりはどうにもならんと!」

 

「敵頭部は残り二か所!」

 

 土友の報告に小金谷が頷く。

 

「よし、俺たちで終わらせるぞ!」

 

 FtoVが両手にキャノン砲を構える。エネルギーの粒子が大量にキャノン砲の砲口へと充填されていく。小金谷が叫ぶ。

 

「『ツインメガビームバスターキャノン』、発射‼」

 

 放たれた二筋の大きなビームが竜の頭部と胴体に命中し、大爆発を起こす。手応えを感じた小金谷はガッツポーズを取り、いつもの決め台詞を叫ぼうとする。

 

「悪は俺たちFtoVと愉快な仲間たちが倒した……平和へむけたビクトリーロード、またも一歩前進! 次回もまた……」

 

「待て、和さん! まだ頭が一つ残っている!」

 

 土友の言葉通り、頭部が一つだけ、更に胴体も半分になりながら、竜はしぶとく空中に浮かんでいた。小金谷が怒号を飛ばす。

 

「おい! 下半身コンビ! 姿勢制御ミスったんじゃねーのか⁉」

 

「多少の誤差はあるものでしょ! 相手が上手く避けたのよ!」

 

 殿水が負けじと叫び返す。ナーが周りに呼び掛ける。

 

「アカンで! 奴ら自己修復・再生が出来んねん! 早くトドメ刺さんと!」

 

「ツインメガビームバスターキャノンは連射することは出来ない……」

 

「モード『鬼神』発動後は、しばらく満足に動けんのじゃ……」

 

「知っての通り、テネブライもエナジー切れに近い……」

 

「嘘やろ! 打つ手なしかいな!」

 

「! 電光石火はどうなの⁉」

 

 殿水の言葉に隼子が申し訳なさそうに答える。

 

「情けない話ですが、現状の当機では皆さんのような威力ある攻撃を放つことは……」

 

「いや、待って!」

 

 閃が叫び、コントロールパネルを操作する。大洋が尋ねる。

 

「どうした、閃⁉」

 

「! やっぱりだ……さっきのアルカヌムが送ってきたメッセージ……これは電光石火の武装解除コードだ!」

 

「な、なんでそんなもん、あいつが知ってるんや⁉」

 

「分からないけど、コードは適用出来る! しかもご丁寧に日本語で……ってこれは⁉」

 

「どないしたんや⁉」

 

「新たな武装に関するキーワード……い、いや、キーセンテンスなのかな?」

 

「キーセンテンスだと⁉」

 

「何て書いてあるんや⁉」

 

 閃は戸惑い気味に読み上げる。

 

「えっと……『褌を引き締めろ』……だって」

 

「⁉」

 

「何を素っ頓狂なこと言うてんねん! 冗談言うてる場合ちゃうねんぞ!」

 

「わ、分かっているよ! でもほら見てよ!」

 

 閃は二人のモニターにもその文面を映す。

 

「ホ、ホンマや……ど、どういうこっちゃこれは?」

 

「分かんないよ!」

 

「分かった……」

 

「「大洋⁉」」

 

 閃と隼子は静かに頷く大洋を驚きの目で見つめる。

 

「分かったって本当⁉」

 

「ああ、もう完璧すぎる程理解した。120パーセントな」

 

「それ分かってない奴の台詞やん!」

 

「隼子、相手に向かって飛べ! 出来る限り接近しろ!」

 

「り、了解!」

 

 電光石火は空中に飛び上がり、竜に接近する。大洋が叫ぶ。

 

「閃、モードチェンジだ! 近接戦闘モードに切り替える!」

 

「わ、分かった!」

 

 電光石火は金色主体のカラーリングである近接戦闘モードに変形する。

 

「で、どうするんや!」

 

「『褌を引き締めろ』……つまり尻に力を込めろということ!」

 

「「はあっ⁉」」

 

「まずは両脚を閉じる! 若干胴体を反らす! そして、両手を頭上で合わせる!」

 

「こ、これは刀⁉」

 

「そうだ! 電光石火それ自体が刃と化す……〝コロンブスの卵“的発想だ‼」

 

「よう分からんけど、コロンブスに謝れ!」

 

「行くぞ! 『必殺! 電光石火‼』」

 

 大洋は電光石火を機体ごと竜に突っ込ませる。まるで巨大な刃となった電光石火の攻撃を喰らい、残っていた竜も爆発し、消滅した。

 

「どうだ! この高度な技は防ぎきれまい!」

 

「ただの体当たりやないか!」

 

「ツォ、ツォンナバカゲタコウゲキニ……⁉」

 

 女が突然気を失い、空中から落下する。大洋が叫ぶ。

 

「真賀さん!」

 

「!」

 

 鬼・極を桜島へと運んだテネブライがすぐさま降下して、真賀の身体を掌で受け止める。

 

「大丈夫だ、まだ息はある」

 

 美馬の言葉に大洋たちは安堵する。火東が殿水に声を掛ける。

 

「これも期待通りってこと?」

 

「いや、期待以上よ」

 

「美味しいところ持っていかれちゃったわね」

 

「ま、たまには良いんじゃないの? リーダー!」

 

「……ゴホン! 帰投だよ! 戦闘終了!」

 

 小金谷が号令をかける。既に鹿児島の空は夕焼けに染まっていた。



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インターローグ 真っ赤な褌を見ただろうか

「FtoVって一応は東北方面担当でしょ? 西南方面に駆り出され過ぎじゃないの?」

 

「あら、沖縄行けるから良いじゃない? 私、新しい水着買っちゃったわよ」

 

 ぼやく殿水とは対照的に火東は嬉しそうに話す。土友が眼鏡を直しながら呟く。

 

「残念だが、任務をこなしたらすぐに引き返すことになるぞ……」

 

「え~海に行けないの⁉」

 

「う~ん、正義の味方に休息なしってことだね~」

 

「義一さんは年中休息みたいなもんでしょ……」

 

 スナック菓子を頬張る木片を殿水が冷ややかに見つめる。小金谷が怒鳴る。

 

「お前ら! ブリッジは休憩所じゃないんだ! やることないなら部屋で待機だ!」

 

「はいはい……」

 

「はいは一回だ! ったく……」

 

 小金谷は四人がブリッジを出ていくのを見届けると、手元の端末に視線を戻して呟く。

 

「やはりFtoVの性能強化を上に認めさせんとな……」

 

 

 

「姉上、もうお出掛けですか?」

 

 幸村が大きなカバンを車に積み込む伊織に声をかける。

 

「ええ、10日程かけて、九州中の関係各所を挨拶回りよ。人手不足の艦は辛いわね……」

 

「出港はその後に?」

 

「そう、高知、呉、と寄って、大阪にね。予定の船員がそれで揃うわ。クルーの経験不足という懸念もある程度解消されるはずだわ。それより鬼・極の刀は大丈夫なの?」

 

「元々打ってもらうちょっ刀がもうすぐ出来上がります。全国大会には間に合います」

 

「全国大会は……今年は淡路島だったわね、休みが合えば、大阪か神戸で食事でもしましょう。ちょっと足を伸ばして京都も良いかもね」

 

 幸村は笑顔で頷く。そして真顔になって尋ねる。

 

「姉上、疾風大洋のことは兄上には……?」

 

「竜王りゅうおうには連絡したけど返信なし……しばらくは様子見ね。それじゃあ行ってくるわ」

 

 伊織は車に乗り込み、車は走り出した。幸村はそれを見送った。

 

 

 

「海江田、今後の方針は?」

 

 水狩田は端末でゲームをしながら、運転席の海江田に尋ねた。

 

「全国大会に出るよ、ベスト8がノルマだから気合いを入れないとね」

 

「楽勝でしょ……いざとなれば“奥の手”使えば良いし」

 

「それはそれは、頼もしいことだね」

 

「フンドシくんのことは?」

 

「……興味を持ちそうなところに話は持ちかけているけど、どこも態度がはっきりしなくてね。まあ、もう少し他を当たってみるよ」

 

「面倒だから、その辺は任せる。着いたら起こして……」

 

 水狩田はゲームを止め、小さく欠伸をして、目を閉じた。

 

 

 

「これがツインテ―ル嬢ちゃんからのお礼のサイドカーか! 気前がええのう!」

 

 ナーの言葉にヘルメットを被った美馬が頷く。

 

「早速出掛けるぞ。どこか行きたい場所でもあるか?」

 

「ええんか? またアルカヌム……シャイカがちょっかいかけて来よったら……」

 

「しばらくは来ないだろう。そんな気がする。何かあれば大洋たちが連絡をくれるしな」

 

「そうか、救世主にも休息が必要やしな! それじゃあ、モジに行こうか! なんでも若者に人気のデートスポットらしいで!」

 

「何故お前と行かなきゃならん……まあ良い、門司方面に向かうか」

 

 美馬はサイドカーを発進させた。

 

 

 

「さっき、異世界コンビがツーリングに出掛けていたで」

 

 地下格納庫に降りてきた隼子が閃と大洋に声を掛ける。

 

「リフレッシュになれば良いね……そう言えば真賀先生が目を覚ましたらしいよ~」

 

「ホンマか⁉ ど、どうなるんやろ?」

 

「小金谷さんや眼鏡の艦長が色々掛け合ってくれているみたいだから……最悪の事態はなんとか避けられそうだと思うよ」

 

「さよか、それは良かった……」

 

 隼子がホッと胸を撫で下ろす。大洋が閃に尋ねる。

 

「それで今後はどうする?」

 

「う~ん、二人は引き続き、愛機の練度向上に努めてくれる?」

 

「アンタはどないすんねん?」

 

「勿論トレーニングはするけどさ、電光石火の分析が最優先だね、まだまだ隠されている機能がありそうだからさ」

 

「マトモな機能であることを願うで……」

 

「よし! 隼子、模擬戦だ!」

 

「なんや大洋、随分気合い入ってるなあ……ってなんで脱ぐねん⁉」

 

 大洋が褌一丁になる。いつもの白い褌ではなく、真っ赤なフンドシである。

 

「それは気合いも入るだろう! 今日はコイツのデビューだからな!」

 

「ア、アンタとはもう戦闘()ってられんわ!」

 

                 ~第一部完~



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チャプター2
第14話(1)長崎で今日も半裸だった


 雨が降りしきる夜の長崎。坂道を一台の中古車が走る。21世紀初頭の車である。

 

「もっとマシな車は無かったの? 動いていること自体が奇跡よ」

 

 車のハンドルを器用に操作しながら、艶のある黒髪をおさげにした少女がぼやく。垂らした右の前髪と切れ長の目が印象的で、整った顔立ちをしている。

 

「車種などどれでも良いと言ったのはそっちだ。目的地まで持てばいいだろう」

 

 助手席に座る黒髪を短髪にまとめた少年が素っ気なく答える。髪型が異なる以外は、顔は少女と瓜二つである。

 

「それにしても限度があるでしょう……むしろよくこんなアンティーク用意したわね?」

 

「だから、この姿は辞めようと言ったんだ……これでは正規ルートでの調達は難しい」

 

 少年は自分の服を指でつまんで大袈裟に引っ張りながら、少女に口答えする。二人とも年ころは13、14歳程に見える。

 

「これ位の年恰好の方が何かと都合が良いのよ」

 

「それこそ限度があるだろう……ブレーキに足が届いてないんじゃないか?」

 

「届いているわよ、失礼な。それにしても、坂が多い土地ね!」

 

 少女がハンドルを切りながら、軽く舌打ちする。長崎に坂道が多い理由は、三方を山に囲まれたすり鉢状の地形に由来するものである。通常このような地形においては、平地部に住宅地等が集中するものなのだが、この長崎は昔から山の斜面を利用して住宅地を造成してきた。そのため、日本全国でも珍しい山に市街地が広がる都市となっていて、21世紀末期でもその名残は残っている。

 

「まあ、お陰で追っ手は撒けたんじゃないか……⁉」

 

 少年が呟いた瞬間、助手席の窓ガラスが割れ、ダッシュボードに銃弾がめり込む。

 

「銃撃⁉ どこから⁉」

 

「上からだ! ドローンを使ってきた!」

 

 少年が窓の外を確認し、即座に状況を確認する。運転しながら少女が尋ねる。

 

「撃ち落とせる?」

 

「問題ない」

 

 少年が懐から銃を取り、窓から半分体を乗り出して、すぐさま銃を発射する。弾は一発で命中し、ドローンは落下した。体勢を戻した少年が呟く。

 

「港近くの倉庫は駄目だったのか?」

 

「その裏をかいて山の方にしたんだけど……連中もそこまで馬鹿じゃなかったみたいね」

 

 少女はペロっと舌を出す。少年が指を折って数える。

 

「シンガポール、マニラ、上海、釜山……これで五度目か」

 

「しつこい男は嫌われるって、ママに教わらなかったのかしらね?」

 

「俺に聞くな……前!」

 

 少女が視線を前方に向けると、車が二台横になり、道路を塞いでいる。その手前に黒いスーツを着た男たちが銃を構えている姿も見える。少年は尋ねる。

 

「どうする⁉」

 

「突っ切る!」

 

「だろうな! 聞くだけ無駄だった!」

 

 少女はアクセルを目一杯踏み込み、車を加速させる。黒いスーツを着た男たちが慌てて横っ飛びして、車を躱す。少女の運転する車は停車する車二台と激しく衝突しながらも、そのまま減速せず道路を進む。

 

「我ながら無茶するわね」

 

「自覚があるなら結構……今度は横だ!」

 

 バイクが右側から車と並走してきた。バイクに乗る男が、運転席の窓ガラスを叩き割ろうとする。一度目でヒビが入り、男がもう一度窓を叩こうとした瞬間、少女がドアを思い切り開け放つ。ドアに当たってバランスを崩したバイクはあっけなく転倒する。

 

「ノックするから開けてあげたのに……」

 

 少女はフッと微笑む。

 

「さてと、そろそろゴールかしらね……!」

 

 次の瞬間、激しい銃撃音とともに車のフロントガラスが割れる。少年が身を屈めながら少女に大声で尋ねる。

 

「またドローンか! 大丈夫か⁉」

 

「運転出来ているからどうやらね。日頃の行いが良いおかげだわ」

 

「よく言う!」

 

 少年は僅かに顔を上げて銃を構える。

 

「ドローンは二機か!」

 

「待って!」

 

「何だ⁉」

 

「ガラスの破片で頬が切れちゃったわ。私の顔に傷を付けるなんて……許さない」

 

「私の顔ねえ……」

 

 少女は右手でハンドルを握りながら、左手でナイフを二本取り出して、前方に飛ぶドローンに向かって投げ付ける。顔を俯きながら投げたにも関わらず。ナイフはドローンを正確に貫く。制御を失ったドローンは二機とも地面に叩き付けられる。

 

「ねえ、絆創膏持ってない?」

 

 少女が体勢を元に戻しながら、何事もなかったかのように少年に尋ねる。

 

「生憎持ち合わせが無い。どうせあの中にあるだろう?」

 

 少年は溜息を突きながら答え、顎を前方にしゃくる。

 

「そう言われるとそうね、確認をしてなかったわ」

 

「最低限の確認くらいしておけ……」

 

 少女の言葉に少年は呆れる。

 

「念の為、ドラッグストアに寄ってもいいかしら?」

 

「そんな暇は無い」

 

「冗談よ、冗談」

 

 少女は声を出して笑う。少年は再び溜息を突く。

 

「着いたらすぐ次の行動に移る。面倒だがやはり積荷を起こしておくか……⁉」

 

 少年が視線を後部座席にやった次の瞬間、車が爆発する。車は前方に何度か派手に転がり、奇跡的に元の姿勢に戻ったものの、走行を続けるのは無理な状態になった。

 

「びっくりした! な、何⁉」

 

「バイクかドローンに気を取られている隙に、車の下に爆弾でもセットしたんだろう!」

 

「へえ、いつの間に……連中も結構やるわね」

 

 少女は感心したように頷く。

 

「このままだとすぐに炎上する! 降りるぞ!」

 

「了解、積荷はそのままでも良い?」

 

「良いわけないだろう!」

 

「だって、この体じゃ運ぶの大変よ?」

 

 少女がわざとらしく両手を広げる。

 

「都合が良いと言っていただろう!」

 

「あんまりイライラしないで。血圧上がっちゃうわよ、兄さん」

 

「今はお前が姉さんだろう!」

 

「ああ、そうだったっけ?」

 

「設定はしっかり頭に入れておけ! どこからボロが出るか分からんぞ!」

 

「了解、了解」

 

「ったく……」

 

 少年は軽く額を抑え、すぐに気持ちを切り替えて後部座席に向かって叫ぶ。

 

「というか、お前もいい加減に起きろ!」

 

「こんな騒ぎでよく眠っていられるわよね。噂以上の大物か、余程の馬鹿か……」

 

「間違いなく後者だろう。恰好から見ても間違いない」

 

「そう言えば白い褌姿って聞いていたけど……赤い褌ね、人違いってことは無い?」

 

「コックピットでこんな珍妙な恰好をしている奴はコイツ位しかいない!」

 

「それもそうね……あ、起きるわよ」

 

「……う、うん?」

 

 後部座席に横たわる褌姿の男が目を覚ます。少年が怒鳴るように尋ねる。

 

「おい! お前の名前は⁉」

 

「? 俺は『曲がったことが大嫌い! 疾風大洋(はやてたいよう)だ!』」

 

 真っ赤な褌姿の大洋は寝ぼけ眼で叫ぶ。



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第14話(2)月と太陽

「よし、降りろ! もうすぐ炎上するぞ!」

 

「は? 誰だお前は? ここはどこだ?」

 

「説明は後だ!」

 

 後部座席のドアを開き、少年は大洋を引きずり出した。

 

「おおっ⁉」

 

「あそこの建物に向かって走るぞ!」

 

 少年は目の前の古めかしい倉庫を指差して走り出す。

 

「なっ……⁉」

 

 尚も戸惑っている大洋の横で車が激しく燃え上がり始める。

 

「ほら! 急いで!」

 

「訳が分からん!」

 

 少女に促されて、大洋は混乱しながらも立ち上がり、倉庫に向かって走る。

 

「はあ、はあ……取りあえず一安心かな?」

 

 倉庫の中に駆け込んで、少女は肩で息しながら呟く。少年はすぐさま否定する。

 

「車の炎上で奴らもここに気が付くのは時間の問題だ。のんびりしてはいられない」

 

「ちょっと待った! お前らは誰だ⁉ どういう状況だ! 普通じゃないぞ!」

 

「フンドシ一丁の人に普通じゃないとは言われたくは無いわね……」

 

 叫ぶ大洋を少女は冷ややかな視線で見つめる。

 

「俺は名乗ったぞ! お前らが名乗る番だろう!」

 

「まあ、それが礼儀ってものね……そこに隠れているつもりの二人も出てきたら?」

 

 少女が倉庫に無造作に転がっていた一斗缶を椅子に見立てて、そこに腰を掛け、頬杖をつきながら、出入り口の方に目をやる。隠れて中の様子を窺っていた二人の人影が倉庫になだれ込み、拳銃を少女と少年に向かって構える。

 

「! くっ、動くな!」

 

「お前らは完全に包囲されている! ……されてないけど」

 

「余計なことは言わんでええねん!」

 

「タイヤン!」

 

「!」

 

「ぐおっ!」

 

 少女の言葉に反応した少年が、銃を構える二人との距離を一瞬で詰めて、手刀を二人の腕に入れる。二人はあっけなく銃を落としてしまう。少年は素早く銃を少女の方へ蹴る。

 

「護身用の銃ね。この国の中小規模の民間企業ならこんなものか」

 

 自らの方に滑り込んできた銃を手に取って眺めながら、少女は淡々と呟く。

 

「声を掛ける暇なんてあったら、さっさと引き金をひくべきだったな。構えだけはそれなりだったが、後は素人だ」

 

「くっ……子供相手にいきなり発砲って訳にもいかんやろ」

 

 少年の批評に茶髪を短く後ろでまとめた女性は腕を抑えながら反論する。

 

「素人というのは半分当たりだね……」

 

 ショートボブの銀髪が印象的な白衣姿の女性が苦笑交じりで呟く。

 

「初めまして、お会い出来て嬉しいわ。(有)二辺(ふたなべ)工業所属のお二人、茶髪で関西弁の方が正規パイロットの飛燕隼子(ひえんじゅんこ)さんで、銀髪でブカブカの白衣を着ている方が主任研究員兼テストパイロットの桜花(おうか)(ライトニング)(ひらめき)さん、間違いないわよね?」

 

「な、なんで、ウチらの名前を?」

 

「私たちも結構有名になったものだね~これもロボチャン効果かな?」

 

 少女の発言に隼子は驚き、閃は呑気に呟く。ロボチャンとは、『ロボットチャンピオンシップ』の略称で、防衛軍や政府や大学等の研究機関、さらに民間企業に至るまで、数多くの組織・団体が参加して、各自の開発したロボットの性能を競う大会のことであり、隼子と閃は大洋とともに、九州大会を勝ち抜き、全国大会出場を決めたばかりである。

 

「そうね、あの大会ネットで中継なんてされるもんだから、ちょっとばかり有名になり過ぎちゃったのよね~」

 

 少女は拳銃を片手でくるくると回しながら、もう一方の手で頭を抑える。

 

「どういうことだ?」

 

「ああ、こっちの話、気にしないで」

 

 大洋の問いに少女は軽く手を振る。

 

「こっちが名乗る番ね……私はユエ、そっちの不愛想がタイヤン」

 

「不愛想は余計だ……」

 

 少女に指差された少年が不満そうに口を尖らせる。

 

「ふ~ん、(ユエ)太陽(タイヤン)か、こう言っちゃなんだけど、思いっ切り偽名臭いね~」

 

 閃がフッと笑う。タイヤンがユエにつかつかと近づき、耳元で小さい声で抗議する。

 

「だから言ったんだ! 適当過ぎると!」

 

「……項羽と劉邦とかの方が良かった?」

 

「無理があり過ぎる!」

 

 次の瞬間、爆発音とともに倉庫の壁が一部崩れる。隼子が叫ぶ。

 

「な、なんや⁉」

 

「ユエ!」

 

「……車を爆発させたことと言い、ターゲットは多少傷ついても構わないって考えみたいね、失念していたわ」

 

 

 

「こちらアルファ1、目標の反応を倉庫内に確認」

 

「アルファリーダー、了解。各機に改めて通達。クライアント曰く『目標は多少損傷しても構わない』とのこと。確保の手段は問わない。」

 

「アルファ2、了解。速やかに倉庫の包囲を行う」

 

「アルファ3、了解。現在妨害電波を周辺に向けて発信中。当該地域の防衛部隊出動は数分間程遅れる見込み」

 

「アルファ4、了解。45秒でケリをつける」

 

「アルファリーダーより各機へ。目標確保次第、全速で現地点から離脱。合流ポイントで集合せよ」

 

 全長10m程の全身を黒くカラーリングしたロボットが五機、大洋たちが駆け込んだ古めかしい倉庫を包囲する。全機ともライフルを装備している。その内の一機が、ライフルの銃口を構える。

 

「アルファリーダーへ、再度発砲の許可を求む」

 

「こちらアルファリーダー、待て、包囲が完了してからだ……⁉」

 

 次の瞬間、ライフルを構えた黒いロボットが爆発する。倉庫から現れた約16mの青いカラーリングの機体が二又槍を突き立てた為だ。

 

「奴だ! こんな所に隠していたなんて!」

 

 倉庫を挟んで反対側に立っていた黒いロボットが慌ててライフルを構え、青い機体に向けて発砲しようとする。しかし、その両腕ごと薙ぎ払われる。青い機体と良く似た白い機体が投げたブーメラン状の武器によるものだ。

 

「くっ、白い奴もいた!」

 

「各機、距離を取れ!」

 

 

 

「白い奴じゃなくてヂィーユエってれっきとした名前があんのよ……」

 

 投げたブーメランを受け取りながら、白い機体のコックピット内でユエが呟く。

 

「どうする、ユエ?」

 

 モニターにタイヤンの姿が映る。

 

「奴らと戦闘しつつ、彼らの機体を回収……恐らく、後二個小隊くらいいるでしょ……そうなると、私らだけでは手こずりそうだから」

 

「了解!」

 

「ファンの調子はどう?」

 

「上々だ!」

 

 喜々とした様子のタイヤンを見て、ユエは苦笑する。

 

「男の子っていつまでたっても子供ねえ……で、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だと思うか……?」

 

 ユエの座るシートの裏で逆さまになっている大洋が苦しそうに呟く。



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第14話(3)電光石火、見参

「出来れば体勢を整えてくれる? 何か理由があるのなら無理強いはしないけど」

 

「いきなり発進されれば、誰だってこうなるだろう……」

 

 大洋が体勢を直しつつぼやく。

 

「ごめんなさい、でもあちらさんが待ってくれないから」

 

 ユエが笑いながら顎をモニター画面に向かってしゃくる。画面には黒いロボットが三体映し出されている。

 

「奴らはなんだ?」

 

「香港辺りを拠点に東・東南アジア地域で活動しているマフィア『九竜黒暗会』ね。いかにもIQの低そうなネーミングでしょ? で、あの黒いのは奴らが下っ端に使わせる機体『ヘイスー』ね。日本語で黒色って意味。そのままでしょ? 細かい機種名もあるにはあるけど、覚える必要は無いわ」

 

「そんな奴らがどうして?」

 

「それは貴方を……貴方の機体、グアンを狙っているのよ」

 

「俺の機体? (こう)のことか?」

 

「ああ、日本語読みするならそうね」

 

「何故……?」

 

 大洋は首を捻って考える。光はほんの数か月前まで、佐世保にある二辺工業の倉庫の隅で眠っていた機体である。閃の話によれば開発されたのは約17年前のことで、現在第7世代を数える戦闘型ロボットの中では、もはや古株とも言える第4世代に該当するロボットだ。佐世保の地を襲った怪獣の脅威から大洋が無我夢中で起動させたのだ。

 

「思い出した。光を動かそうとした瞬間、コックピットに奴らが乗り込んできて……」

 

「そこよ、そこ。私が気になるのはなんでまた長崎の街中でロボットを起動させる必要があったのかってことよ……っと!」

 

 ヘイスーの内、一機がライフルを構えた為、ユエは自身の駆るヂィーユエを操作し、相手の懐に入り込んで、ライフルごと腕をはね退ける。上を向いた銃口から銃弾が虚しく夜空に向けて発射される。ヘイスーは慌ててヂィーユエから距離を取る。

 

「壮行会だ……」

 

「は?」

 

 大洋の言葉にユエは理解が出来ないというニュアンスを込めた返事を返す。

 

「地元の行政機関がロボチャンの全国大会に出場する俺たちの壮行会を開催してくれた。そこに報道機関が多数取材に来ていた為、宣伝も兼ねて起動させようとしたんだ……」

 

「想像よりも30度位斜め上の回答ね……つまりマスコミ向けに良い恰好しようと?」

 

「まあ、そうなるな。社長命令だ、容易には逆らえん」

 

「大会会場への輸送まで大人しくしてもらえば良かったのに……しょうがないわね!」

 

 ユエはヂィーユエにブーメランを投げさせる。勢いよく投げられたブーメランは二機のヘイスーの胴体を破壊して、ヂィーユエの手元に戻ってくる。ほぼ同じタイミングでユエからファンと呼ばれた青い機体がヘイスーを撃破した。

 

「隊長機を落としたぞ」

 

「了解、それじゃあ、私はこの人の機体を奪還に行くわ。タイヤンは彼女たち二人を優しくエスコートしてあげて」

 

 ユエは通信を取ってきたタイヤンに答え、機体を走り出させる。大洋が問う。

 

「ちょっと待て! お前らの乗っている機体はなんなんだ⁉」

 

「なんかウチらの機体によお似ているな?」

 

「ジュンジュンもそう思った? でもデータベースには該当しないんだよな~」

 

「お、お前ら、大人しくしていろ!」

 

 シートの後ろから身を乗り出して会話を始める隼子と閃にタイヤンは戸惑う。

 

「そう、俺たちの乗る、光や(でん)石火(せっか)によく雰囲気が似ているんだ!」

 

「雰囲気ってまた曖昧な……設計思想が似通っているくらい言って貰わないと……」

 

 大洋の言葉にユエは苦笑する。大洋は構わず重ねて問う。

 

「どうなんだ⁉」

 

「落ち着いたら話すわ! ほら見えてきた! 連中のアジトよ!」

 

 ユエはヂィーユエを操作し、建物を派手に破壊する。そこには横たわる金色の派手なカラーリングが特徴的な光の姿があった。

 

「! こんなところに!」

 

「早く乗り移って!」

 

「ああ!」

 

 大洋はヂィーユエの差し出した右手の掌に乗って降りる。そこから光のコックピットのハッチに向かって飛び移り、コックピットの中に入る。それを確認したユエは叫ぶ。

 

「よし、さっさと離脱しましょう! って、うわ⁉」

 

 ヂィーユエの背後に銃弾が当たる。何事かと振り返ってみると、ヘイスーが20機ほどそこには立っている。ユエは小さく舌打ちする。

 

「二個小隊どころじゃない……倍の四個小隊、これは流石に分が悪いわね……って!」

 

 ヘイスーの一個小隊が一斉射撃を仕掛けてきた。ユエが思わず目を閉じてしまう。

 

(これは避けきれない! 装甲も耐え切れるか? ……!)

 

 ユエがうっすらと目を開けると、そこには光の姿があった。光が盾となって銃弾を全て防いでいたのである。

 

「は、疾風大洋! 大丈夫⁉」

 

「大洋で良い! ところでユエ! アイツらは悪い奴で間違いないんだな?」

 

「えっ、あ、ああ、そうね。一般市民の平和を脅かすとっても悪い奴らよ!」

 

「それを聞けて良かった! ならば手加減無用だな!」

 

 大洋は光をヘイスーの部隊に向けて突っ込ませる。ヘイスーも何機かがライフルを発射させ、迎撃する。何発か機体に命中するものの、大洋は怯まず光を前進させ、さらに左脚部の太腿辺りから鋼鉄製の巨大な刀を取り出して、右手に握らせる。この刀は光の主武装、名刀・光宗(みつむね)である。大洋が叫ぶ。

 

「喰らえ! 横一閃!」

 

 光宗を光は横に薙ぐ。ヘイスー5機の下半身が切断され、残った上半身が地上に落ちる。

 

「す、凄い、一気に5機も無力化させた……技のネーミングは安直だけど」

 

 ユエは素直に感嘆する。しかし、そこに残りの15機が距離を取って、光に向かって、一斉に射撃を加えようとする。流石の大洋も少し焦った声を上げる。

 

「くっ、突っ込み過ぎたか⁉」

 

「援護するよ~!」

 

「猪突猛進が過ぎるで!」

 

「! 閃と隼子か!」

 

 銀色の機体がやや距離が離れた陸上から、銅色の機体が空中から猛烈な銃撃を喰らわせて、ヘイスー10機をたちまち無力化させる。閃の乗る銀色の機体、電の右腕部分に内蔵されたキャノン砲と、隼子が乗る銅色の機体、石火の両肩に備え付けられたキャノン砲がそれぞれ火を噴いたのである。

 

「金色が近接戦闘用、銀色が砲撃戦闘用、銅色が飛行戦闘用……といったところか」

 

「概ねデータの通りね。各機の連携や個々の練度はどうやらそれ以上みたいだけど。嬉しい誤算というやつね」

 

 閃と隼子を各々の機体の下に届けて、ともに戦闘区域に到着し、専用回線を繋いできたタイヤンにユエは弾んだ声で答える。

 

「どうやら俺たちの出る幕はないか?」

 

「そうかもね……ちょっと、様子を見てみましょう」

 

 そう言って、ユエはモニターを確認する。そこには残りのヘイスー5機と対峙する大洋たち3人の駆る機体が対峙する模様が映し出されている。

 

「くっ……残りの一個小隊はなかなか良い動きをしている! これは手強いぞ!」

 

「ジュンジュン~石火を戦闘機形態に変形させて、爆撃を仕掛けてみるのはどう~?」

 

「アホ言うな! アンタらに当たるかもしれんやろ!」

 

 閃の提案を隼子は却下する。

 

「このままでは周辺の市街地に被害が広がる……だが、長引かせるわけにもいかん……」

 

 大洋が閃と隼子に声を掛ける。

 

「一気にケリをつける! 二人とも、準備は良いな⁉」

 

「了解~」

 

「ええっ⁉ やるんか⁉ り、了解!」

 

「よし! スイッチ、オン!」

 

 強い光が周囲に放たれた後、大洋がゆっくりと目を開けると、自身のシートの足元に二つのシートが並んでおり、そこに右から閃と隼子がそれぞれ座っている。

 

「よし、合体成功だな!」

 

 そこには金銀銅の三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が立っていた。

 

「『三機合体!電光石火(でんこうせっか)‼』……ちょっと待て! お前ら何故掛け声を言わないんだ⁉」

 

 大洋が足元の二人に疑問を投げ掛ける。

 

「そんな決まり事無いやろ……」

 

「今決めた!」

 

「無茶苦茶言うなや!」

 

「え~何だか恥ずかしいな~」

 

「恥ずかしくなどない!」

 

「そりゃあ常時褌一丁の人の価値観に照らし合わせたらね……」

 

 戦闘中にも関わらず、わいわいがやがやと騒ぐ3人の声がユエたちにも届いていた。距離が近く、回線が入り易い為である。タイヤンが呆れた声を上げる。

 

「なあ、あいつらに任せて大丈夫なのか?」

 

「ここは電光石火のお手並み拝見と行きましょう……」

 

 ユエは静かに呟く。



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第14話(4)意外な機能

「よし、行くぞ!」

 

 大洋は電光石火を残りのヘイスー5機に向かわせる。頭部のバルカン砲で威嚇の意味も込めた射撃を行う。ヘイスーの足下を狙った攻撃だったが、一発もかすりもせずに、あっさりと躱されてしまう。

 

「くっ、やるな!」

 

「データベースでヘイスーという機体を見る限り、スペック上、そこまでの機動力を有してはいないはずなんだけど……ひょっとすると……」

 

 閃が首を捻る。隼子が尋ねる。

 

「ひょっとすると……なんやねん!」

 

「特別にカスタマイズされた、チューンアップされた機体の集まりかもね~」

 

「成程、ということは……?」

 

 大洋の問いに閃が答える。

 

「互いの性能差にそこまでの差は無い。むしろ単純な機体数や搭乗者の練度から判断するに、こちらが不利と見ていいかも」

 

「なっ! ……くっ! 左腕部に数発被弾! ……これは⁉」

 

「どうした隼子⁉」

 

「左腕が上がらんようになってもうた……」

 

「何だって⁉」

 

 閃が冷静に分析し、即座に答えを出す。

 

「装甲がどうしても手薄になりがちな肘関節の部分を集中的に狙ってきたんだね。一、二発なら耐えられても、三、四発とほぼ同じ所に撃ち込まれれば流石に苦しい……」

 

「くっ、つまり……?」

 

「電光石火は片腕をもがれた状態ということだね!」

 

「ど、どないするんや⁉」

 

「右腕で剣は振れる! 何とか近距離まで奴らとの間合いを詰め……て!」

 

 電光石火が両脚のバランスを崩し、ひざを突いてしゃがみ込んでしまう。

 

「こ、今度はどないしたんや!」

 

「モニター確認!」

 

 隼子の言葉に閃がモニターを確認するように促す。確認した隼子が青ざめる。

 

「……動力エネルギー切れ? どういうこっちゃ!」

 

「機体をこちらに運び込んだ際、エネルギーの大半を抜き取ってしまったらしい!」

 

「随分ご丁寧なことで! このままだとどうなるんや、オーセン!」

 

「後数歩ほど歩いたら動けなくなる、いわゆる“ガス欠”状態になるね」

 

 閃の言葉に隼子は頭を抱える。

 

「くっ……どうする大洋!」

 

 大洋はコックピットのシートの上に仁王立ちして叫ぶ。

 

「万事休すって奴だな‼」

 

「自信満々に言うセリフちゃうねん!」

 

「やれやれ、手が掛かるな!」

 

 タイヤンが自身の乗る青い機体、ファンを電光石火に近づけてきた。

 

「な、なんや⁉」

 

「ちょっと大人しくしていろ!」

 

 ファンの腹部から数本のマニュピレーターが出てきて、電光石火の左腕部を急ピッチで修理し始める。閃が驚く。

 

「修理機能付きなの⁉」

 

「あくまで応急処置レベルだがな! ……これで左腕が動くはずだ!」

 

「おおっ! 動くぞ!」

 

「せやけど、エネルギーの方が……」

 

「それはこっちに任せて!」

 

 ユエがヂィーユエを電光石火の後方に付ける。

 

「エネルギーの供給口は……これね!」

 

 ユエが手際よく電光石火の背部にある供給口にヂィーユエの背部にあるバックパックから取り出したホースを繋ぐ。閃が再び驚く。

 

「こっちは補給機能付き⁉」

 

「補給艦船なんかに比べれば、気休めみたいなものだけどね! これでも無いよりはマシなはずよ……ほい、充填完了!」

 

「モニター確認して!」

 

「満タンではないけども、半分以上は貯まったで!」

 

 大洋がユエたちに頭を下げる。

 

「ありがとう! 助かった!」

 

「礼には及ばないわ……残りを片付けるの手伝う?」

 

「いや、俺たちがやる!」

 

「健闘を祈るわ!」

 

 ヂィーユエたちが離れるとすぐに、電光石火は相手に向かう。かたまっていた5機のヘイスーは散開しようとする。

 

「閃、任せるぞ!」

 

「了解~♪」

 

 電光石火は銀色が主体のカラーリングである射撃モードに変形する。

 

「逃がさないよ!」

 

 閃は電光石火の肩部からショルダーマシンガンを発射させる。銃弾が5機の内2機のヘイスーの脚部辺りに命中し、動きが鈍くなる。

 

「機動力は奪った! お次はこいつだよ!」

 

 閃は電光石火の腰部に収納されていたピストルを取り出す。

 

「ウェストマグナム、発射!」

 

 ピストルから放たれた銃弾が動きの鈍くなった2機のヘイスーのそれぞれの両脚を正確に射抜き、2機のヘイスーは力なく崩れ落ちる。大洋が叫ぶ。

 

「よし、次はアイツだ! 閃、足元を狙え!」

 

「オッケー♪」

 

 閃はピストルを発射するが、狙われたヘイスーは巧みに躱す。

 

「くっ……良い動きを見せる!」

 

「いや、閃、そのまま撃ち続けろ!」

 

「! 了解!」

 

 閃は大洋の言葉通りピストルを撃ち続ける。狙いは決して悪くはなかったが、それでも躱され続ける。しかし……ヘイスーが足元の障害物にぶつかり、バランスを崩す。大洋が再び叫ぶ。

 

「正確な挙動故に、こちらの誘導に乗ってくれたな! よし、変形だ!」

 

 電光石火は元の金色主体のカラーリングが特徴的な近接戦闘モードに変形して、ヘイスーとの距離を一気に詰める。

 

「喰らえ! 袈裟切り!」

 

 バランスを崩したヘイスーの左肩部から右腰部辺りを切断し、無力化させる。

 

「よし! 残り2機……ん⁉」

 

 大洋がモニターで確認すると、残りの2機はブースターを装備し、空中に飛び立った。

 

「動きの質から見て、今倒したのが隊長機みたいだね! トップがやられたら無理せず逃げるって考えのようだね!」

 

「逃がさん! 隼子!」

 

「よっしゃ! 任せとき!」

 

 電光石火は銅色が主体のカラーリングである飛行戦闘モードに変形する。空中に上がると、既にヘイスーとは距離が出来つつあった。

 

「ライフルでは届かん恐れがあるか……ならばこれや!」

 

 隼子は電光石火の片翼を引き抜いて、ブーメランのように投げ込む。鋭い弧を描いた翼の直撃を背部に付けたブースターに喰らい、推進力を失った二機は地上に落下する。隼子はすぐさまライフルを発射し、二機の脚部を正確に撃ち抜く。

 

「これで着地後の移動もままならんやろ! 二丁上がりや!」

 

「多少の練度の差は変形機能を駆使した柔軟な戦い方で補うと……」

 

 ユエが電光石火の戦いぶりを見ながら呟く。タイヤンが問いかける。

 

「お眼鏡には叶ったか?」

 

「まあ、第一段階は合格かしらね」

 

 ユエは冗談っぽく笑う。

 

「防衛軍も駆け付けた。詳細は既に連絡してある。後は彼らに任せよう」

 

 閃の言葉に頷き、大洋はモニターに映るユエとタイヤンに話しかける。

 

「それでお前たちは何者なんだ?」

 

「ごく普通の双子の兄妹よ」

 

「そんなわけあるかい!」

 

「やっぱり誤魔化せないか」

 

「当たり前だろう……」

 

 ユエの様子にタイヤンは呆れる。閃が尋ねる。

 

「その機体たちのことも気になるんだけど……素直には教えてくれないよね?」

 

「青い方がファン、私の乗っているのがヂィーユエよ」

 

「あ、案外あっさり教えてくれるんだね……」

 

「詳しい話は後でにしましょう」

 

「後で?」

 

「ええ、これから同僚になるんですもの、よろしくね、先輩方」

 

「「「ええっ⁉」」」

 

 ユエの思いがけない言葉に大洋たちは驚く。



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第15話(1)出島でマジで⁉な事態

『第二十四新出島』……21世紀の中頃から本格的に推進された『新出島建設計画』のもとに長崎の港に建設された人工島の一つである。そもそも出島というものは、江戸時代に時の幕府が対外政策の一環として建設したもので、扇形の形状をしており、面積は約1.5ヘクタール程の日本史上初の人工島である。『新出島建設計画』は国際情勢、人類を取り巻く環境の劇的な変化も多分に影響し、計画自体の大幅な変更と見直しが行われ、大きさや形が様々な島が数十個建設される運びとなった。この内の一つで他に比べると比較的小さな島に分類される『第二十四新出島』に(有)二辺工業は合計6機の機体を運び込むことになった。

 

「搬入作業はほぼ完了したで」

 

 隼子が倉庫外のビットに腰掛けて海をぼんやりと眺めている大洋に声を掛ける。

 

「ああ、お疲れさん……」

 

「なんや、心ここにあらずって感じやな」

 

「いや……なかなか壮観な眺めだなと思ってな」

 

 大洋が顎をしゃくったその先には、タンカーなどが海上にいくつも出入りし、更に小型・中型の飛行機がこの21世紀に新たに設けられた各々の出島に忙しく離着陸をしている。一見雑然とした感じを受けるが、それぞれが統制のとれた動きをしている為、見た目程は大きな混乱は無く、落ち着いている。

 

「港を訪れた記憶は無いんか?」

 

「どうだったかな……」

 

 その時、隼子の端末が鳴る。隼子は即座に応答する

 

「もしもし? なんや、オーセン、どないしたんや? ……ああ、分かった。すぐ行く」

 

「どうした?」

 

「呼び出しや、あそこの中央管制ビルに来いやって」

 

 隼子が指差した先にはこの出島の中央にそびえ立つビルがある。空港などで言う、管制塔の役割をこなす建物である。

 

「そうか……」

 

 大洋は腰を上げて、地面を見ながら歩き出すと、その頭上を大きな黒い影が通過したため、思わず顔を上げる。

 

「あれは……飛行機か? 変わった形状だな」

 

 首を捻る大洋に隼子は説明する。

 

「あれは宇宙船やな」

 

「宇宙船?」

 

「ここ長崎は日本で10しかない宇宙港でもあるからな。規模もわりとデカい方やからウチらから見たら変わったデザインの宇宙船もわりと頻繁に出入りしとるで」

 

「ということはあれに乗っているのは宇宙人か」

 

「異星人って言った方が正しいかな」

 

「他にも見てみれば、色々な宇宙船があるな。これはつまり相当な数の異星人が入り込んでいるんだな?」

 

「異星人は地球では、基本的に各国政府が指定した居留地以外を出歩くことは禁じられとるから、心配しているような事態はまず起こらんで」

 

「そうか……基本的にというのは?」

 

「例外もあるっちゅうこっちゃ、例えば外交使節なんかは居留地を出て、各都市に赴くこともあるわな」

 

「外交使節……」

 

「せや。地球人類と友好な関係を築きたいっちゅう異星人もおるからな」

 

 話している内に、ビルにたどり着いた隼子たちは、ビルの最上階に上がり、この第二十四新出島のカピタン(総責任者)であるオランダ系日本人のマクシミリアン斉藤と挨拶を交わす。立派な髭をたくわえた紳士的な物腰の人物である。マクシミリアンに作業の進捗状況を伝えた隼子と大洋は控室に案内される。

 

「あ、ジュンジュン、お疲れ~」

 

「お疲れ様」

 

「……」

 

 向かい合って座る閃とユエが部屋に入ってきた隼子たちに声を掛ける。少し離れて座るタイヤンは無言で軽く会釈をする。閃たちはすぐに視線を手に持つタブレットに戻す。

 

「何をしてんねん?」

 

「レトロゲーム、『宅建』だよ」

 

「……なんやねんそれ?」

 

「これは対戦型格闘ゲームでありながら、相手よりも早く建物を建設する必要性があるという、発売当時としては新感覚なゲームとして、極一部の界隈ではカルト的な人気があったとか無かったとか言われているゲームだよ」

 

「ふーん……」

 

「最近この類のレトロゲーにハマっていてさ……ユエも得意だって言うから、じゃあ対戦しようよってなってさ……」

 

「懐かしいわね~当時相当やり込んだものよ」

 

「え?」

 

 ユエの言葉に閃が顔を上げる。タイヤンがわざとらしく咳払いをする。

 

「お、おほん!」

 

「い、いや、別のゲームだったかしらね?」

 

「……まあ、いいけど」

 

「良くないわ!」

 

 隼子が声を上げる。

 

「! あ~負けちゃった、いきなり大声出さないでよ、びっくりするじゃん……そんなにやりたいなら代わるよ」

 

「そういうことじゃないねん! 大体この二人は何者やねん!」

 

「新たに入社した正規パイロットって社長から説明されたでしょ……」

 

「怪しすぎるやろ! どこからどう見たって少年少女やん!」

 

 隼子はユエとタイヤンを指差す。タイヤンは口を開く。

 

「日本国内でも適用されるパイロットライセンスは所持している、問題はない」

 

「問題あるっちゅうねん!」

 

「『今週のラッキーエンプロイイー』が『双子の兄妹』だったらしいから、『これは我が社にとって吉兆よ!』って大喜びだったらしいよ」

 

「だからなんやねん、そのニッチな占いは……」

 

 隼子は頭を抱える。彼女たちの上司、二辺弓子(ふたなべゆみこ)社長は大の占い好きなのである。

 

「まあ、細かいことは良いじゃない」

 

「細かくはないっちゅうねん!」

 

「素性はともかくとして……お前らの機体はなんなんだ? どこで入手した?」

 

「あ、それは私も気になるね」

 

 大洋の質問に閃が同調する。ユエが視線を窓の外に向けながら答える。

 

「……橋の下で拾った」

 

「んなわけあるか!」

 

「ネットのオークションで買ったってのはどう?」

 

「拾ったよりはありえそうだね」

 

 閃が笑う。

 

「どう?って聞いてる時点で嘘やろ!」

 

「なんかマシな嘘ついてよ、タイヤン」

 

「俺に振るな……」

 

「だから嘘をつくな……!」

 

 隼子が叫んだ瞬間、部屋の窓が勢いよく割れ、人影が部屋に飛び込んできた。

 

「!」

 

 大洋たちは驚く。その人が、栗毛の髪に黄緑色の肌の女性だったからである。

 

「な、なんだ⁉ 異星人か⁉」

 

 叫ぶ大洋に目を向けると、その女性は微笑む。整った気品のある顔立ちをしている。その女性はゆっくりと口を開く。

 

「……この際、貴方たちで良いわ。わたくしを守る権利をあげる。光栄に思いなさい」

 

「「ええっ⁉」」

 

 大洋たちは再び驚く。



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第15話(2)買収完了

「……誰だ? !」

 

 大洋がその黄緑色の肌をした女性に尋ねた次の瞬間、ビルが大きく揺れる。

 

「な、何や⁉」

 

 隼子が窓の外に目をやると、空中に浮かぶ紫色のロボットが数機、この第二十四新出島に向けて、ライフルを発射した様子が見えた。

 

「攻撃を仕掛けてきたようだね~」

 

「どこの所属だ⁉」

 

 大洋の問いに閃が腕を組んで首を傾げる。

 

「う~ん、あの独特かつ鋭利なフォルムをした機体は見た記憶が無いな~」

 

「それはそうでしょうね。タエン帝国の機体がこの地球圏に展開したのはつい最近のことですもの」

 

 女性が落ち着いた様子で話す。

 

「タエン帝国?」

 

「この星系……確か太陽系というのだったかしら? この太陽系近隣の星系をほぼその支配下に置いている強大な帝国よ」

 

「……ということは今の行動は侵略開始ということか?」

 

 タイヤンの言葉に女性は首を振る。

 

「まだ公表されてはいないけど、タエン帝国と地球圏連合政府との間で平和条約が締結されたわ。あくまで暫定的なものだけどね。」

 

「いつや?」

 

「ちょうど三日前だったかしらね」

 

「どこで?」

 

「あそこよ」

 

 女性が上を指差す。ユエが呟く。

 

「……月?」

 

「そう、月面の都市でね。だから現在地球圏連合と帝国の間は戦争状態ではないわ」

 

「では、連中の取っている行動は何なのかしら?」

 

 ユエがなおもライフルを構えている紫色の機体群を指差す。

 

「別の目的があるんでしょうね」

 

「別の目的?」

 

「わたくしの身柄を確保、あるいは不幸な事故に見せかけて始末すること……」

 

「な、なんやて⁉」

 

 隼子が驚く。ユエが冷静に尋ねる。

 

「貴女はVIPということ?」

 

「……自分で言うのもなんですけど超VIPになるわね」

 

「本当に自分で言うのもなんだね……」

 

 胸を張る女性を閃が呆れ気味に見つめる。

 

「色々と事情があるようだが、俺たちが関わる義理は無い」

 

 タイヤンが突き放すように伝える。女性はニヤリと笑う。

 

「確かに義理は無いわね、では義務を生じさせるわ」

 

「何?」

 

「セバスティアン!」

 

「はっ、お嬢様」

 

 女性が指を鳴らすと、いつの間にかその背後に女性と同じ黄緑色の肌をした白髪の紳士然とした男性が立っていた。

 

「この者たちの素性は?」

 

「はっ、(有)二辺工業の社員たちだそうです」

 

「会社の業種は?」

 

「ロボットの製造開発・販売です。運用も行っています」

 

「買収なさい」

 

「かしこまりました……完了しました」

 

 セバスティアンと呼ばれた男性が端末を手際よく操作して、女性に報告する。女性は満足そうに頷く。

 

「結構……というわけでたった今からわたくしが貴方たちの会社のオーナーよ。最初の命令を出すわ、全力でわたくしを守りなさい」

 

「なっ⁉」

 

 大洋たちが愕然とする。

 

「驚いている暇は無いわよ」

 

「い、いや……⁉」

 

 ビルが再び大きく揺れる。紫色の機体が再びライフルを発射したからである。

 

「わたくしがここにいる限り、貴方たちにも被害が及ぶわよ。さっさと奴らを追い払うかどうにかなさい」

 

「これはまた随分と無茶苦茶だな……」

 

 タイヤンが苦笑して呟く。ユエが反論する。

 

「急に現れた得体の知れない存在の言うことを聞けと言うの?」

 

「いや、アンタらがそれを言うか⁉」

 

 隼子が思わず叫ぶ。ユエが構わず大袈裟な身振りで続ける。

 

「馬鹿馬鹿しい! やってられないわよ!」

 

「セバスティアン……」

 

「はっ」

 

 セバスティアンが端末を操作し、その画面をユエに見せる。

 

「働きぶりが特に顕著な方にはこの額の特別ボーナスを……」

 

「タイヤン! お嬢様を安全な場所にお連れするわよ! 三人は電光石火で迎撃を! ほら皆、何をボサッとしているの! さっさと動きなさい!」

 

 ユエが両手をバンバンと叩き、指示を出す。

 

「急に仕切り出した!」

 

「至極分かり易いね……」

 

 大洋が驚き、閃が呆れ、タイヤンが頭を抱える。

 

「その性格、なんとかならないのか……?」

 

「いつだってどこだって一番信じられるのはお金よ!」

 

 ユエの言葉に女性が笑う。

 

「物分かりが良い様でなによりだわ」

 

「さあ、お嬢様! こちらにどうぞ!」

 

 ユエが部屋を出て、女性を廊下に誘導する。隼子たちも渋々ながら部屋を出るが、大洋は部屋に立ったままである。

 

「大洋、どないしたんや⁉」

 

「……! こっちだ!」

 

 大洋が部屋を出ようとした女性の手を強引に引っ張る。女性は驚く。

 

「な、何を⁉ ⁉」

 

 次の瞬間、廊下側の壁が大きく崩れる。紫色の機体が穴から顔を覗かせる。

 

「こちらに回り込んでいたの⁉」

 

「ビル内は危険だ、さっさと外に出る!」

 

「どうやって⁉」

 

「あれに乗って、倉庫に急ぐぞ!」

 

 大洋は窓の外に浮かぶ、女性の乗ってきた船を指差す。

 

「成程、では操縦は私めが……」

 

「隼子、閃も乗り込め!」

 

「あ、ああ!」

 

「了解!」

 

 セバスティアンに続き、隼子と閃も船に飛び移る。

 

「ユエたちは……!」

 

 大洋が目をやると、崩れた床の先にユエたちが立っている。

 

「心配無用! なんとかするわ! ボーナス……じゃなくてお嬢様をよろしく!」

 

「分かった、行くぞ! どうした⁉」

 

「くっ、足を挫いたみたいですわ……」

 

 女性がしゃがみ込んでしまう。

 

「うおおっ!」

 

「!」

 

 女性が再び驚く。大洋がおもむろに服を脱ぎ出し、フンドシ一丁になったからである。

 

「な、何をやっていますの⁉」

 

「気にするな!」

 

「気にしますわよ!」

 

「窮地に追い込まれれば追い込まれるほど、半裸になった方が不思議と落ち着く……この感覚、理解できないか?」

 

「まったくもって理解不能ですわ!」

 

「まあいい、お前の名前は⁉」

 

「え、ア、アレクサンドラですわ……」

 

「アレクサンドラ、ちょっと失礼するぞ!」

 

「え? きゃあ⁉」

 

 大洋はアレクサンドラと名乗った女性の腰と膝裏を両手で抱え、所謂『お姫さま抱っこ』の体勢をとる。

 

「こ、これは⁉」

 

「行くぞ、しっかり掴まっていろ!」

 

 大洋は顔を赤らめるアレクサンドラを抱え、船に向かって勢いよくジャンプする。



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第15話(3)安易なお姫様抱っこは避けるべき

「よし! 出してくれ!」

 

「かしこまりました!」

 

 アレクサンドラを抱えた大洋が船に飛び移ると、セバスティアンが停止させていた船を発進させる。隼子が指示を出す。

 

「あの右手に見える倉庫の近くまで寄せてくれれば!」

 

「はっ!」

 

 セバスティアンは慣れた手つきで船を操作し、指定された位置まですぐにたどり着く。

 

「よし、ここからも中に入れるはずや! って、ええっ⁉」

 

 船が大きく揺れる。紫色の機体の攻撃を受けたからである。

 

「だ、大丈夫かいな⁉」

 

「航行に支障はきたしておりません」

 

「ホ、ホンマか⁉」

 

 セバスティアンの言葉に隼子が懐疑的な言葉を向ける。

 

「ジュンジュン、私たちが出来ることは機体で奴らを退けることだよ!」

 

「そ、そうやな! 大洋! ……はあん⁉」

 

「どうしたの? ……はっ?」

 

 隼子と閃が大洋に視線を向けると、そこには驚きの光景が広がっている。アレクサンドラが大洋にガッシリ抱き付いて離れず、頬に情熱的なキスをしているのだ。

 

「ちょ、ちょっと離れてくれ……」

 

「いいえ、離れませぬ♡」

 

「な、なぜだ……?」

 

「ご説明しましょう」

 

 セバスティアンが船の操縦をオートモードに切り替え、ブリッジに振り返る。

 

「貴方、え―――」

 

「疾風大洋だ」

 

「そう、疾風大洋さま。貴方お嬢様を両手で持ち上げるように抱えられていますね?」

 

「あ、ああ、そうだな。それがどうした?」

 

「我が星ではそれは求婚のポーズなのです」

 

「「「ええっ⁉」」」

 

 大洋たちは揃って驚く。

 

「そして、お嬢様は両手を貴方の首に回し、頬に口づけをした……これで……」

 

「これで?」

 

「求婚を受けたということ、ここにお二人の婚姻が成立です。おめでとうございます!」

 

 セバスティアンの拍手が鳴り響く中、大洋たちはしばし呆然としていたが、すぐ我に返ると、状況の打開を試みる。

 

「アレクサンドラ、とにかく降りてくれないか!」

 

「ええ~嫌でございます、ご主人様♡」

 

 アレクサンドラが首を左右に振って、大洋の指示を拒否する。先程までの尊大な態度は幾分和らいだものの、今度は妙に甘えるようになってきた。

 

「隼子、閃!」

 

 隼子たちはそんな大洋を冷ややかな目で見つめる。

 

「楽しそうで結構なことやな~ここは平民のウチらでなんとかしますさかい、ご主人様」

 

「出撃しま~す」

 

「あ、ちょ、ちょっと待て二人とも!」

 

 二人は大洋を置いて、船を降り、自らの機体に駆け寄って乗り込み、出撃する。紫色の機体群が二人の機体を確認し、射撃してくる。二人の声が船にも聞こえてくる。

 

「くっ! 攻撃を喰らった!」

 

「でも耐えられないほどではないね! 勿論、受け続けると危険だけど……セバスティアンさん、あれらはどういう位置づけの機体なの?」

 

 閃が回線を繋ぎ、セバスティアンに説明を求める。

 

「あれらは『プロッテ』という名の機体です。タエン帝国内で広く用いられている量産型の機体で様々な種類がありますが、あれらは地上戦とある程度までの高度の空中戦に対応することの出来る一般的なタイプですね」

 

「主な武装は?」

 

「見ての通りのライフルと近接戦闘用のサーベルに肩部に備えられたバルカンです」

 

「了解!」

 

 閃が自身の乗る電の左腕部のガトリングガンを勢い良く発砲させる。撃ち出された銃弾は電と数体のプロッテの間の地面に着弾し、モクモクと煙が立ち込める。

 

「ジュンジュン、今だよ!」

 

「分かった!」

 

 隼子がすかさず自らの操縦する石火を空中へと浮上させる。煙によって前方の視界を遮られた形になった数体のプロッテは反応が遅れる。

 

「もろた!」

 

 石火が肩に備えているビームキャノンを数発発射する。放たれたビームは数体のプロッテの脚部を正確に射抜き、無力化させることに成功する。

 

「よっしゃ!」

 

「これで片付いたかな? うおっ⁉」

 

 建物の陰に隠れていた一機のプロッテが電に体当たりする。電は仰向けに倒れ込む。

 

「細いフォルムのわりには力があるね……」

 

 プロッテがサーベルを抜き取り、電に突き刺そうとする。

 

「あ、ヤバ……」

 

「オーセン!」

 

「⁉」

 

 そこに大洋の操る光が駆け付けて、刀でプロッテの右腕部をサーベルごと斬り落とす。

 

「間に合ったか!」

 

 プロッテはなおも肩のバルカンを光に向ける。

 

「しつこい!」

 

 光は返す刀の要領で刀を横に薙いで、プロッテの両脚を斬る。脚部を失ったプロッテは力なく地面に落下する。

 

「これで片付いたか……大丈夫か、二人とも?」

 

「! ああ……」

 

「う、うん……」

 

 大洋はモニターを繋いで、隼子たちに話し掛けるが、二人は素っ気ない返事である。

 

「ど、どうした? 怪我でもしたのか?」

 

「それ……何?」

 

「何とは?」

 

「唇のそれや!」

 

 隼子の指摘に大洋は自分の顔を確認してみると、唇のやや横に赤い口紅のキスマークが付いていた。

 

「なっ⁉ いつの間に⁉」

 

「何がいつの間にや! 全く白々しい……」

 

「お楽しみのところお邪魔して申し訳ありませんね~」

 

「ち、違うぞ、断じてやましいことはない!」

 

 顔を擦りながら、大洋は慌てて弁明する。

 

「よう言うわ!」

 

「……! 二人とも気を付けて!」

 

「何っ⁉」

 

「どわっ⁉」

 

 突然の砲撃が大洋たちを襲う。地面が爆風で吹き飛ぶ。

 

「な、何や⁉」

 

「あれは⁉」

 

 大洋たちの視線の先には、空を飛ぶ黒い戦艦の姿があった。

 

「戦艦やて⁉」

 

「桜島ほどの大きさでは無いようだが……」

 

「セバスティアンさん、あれは?」

 

 閃が冷静に尋ねる。

 

「タエン帝国の主力航空戦艦『ラワイスタ』ですね。多くのバリエーションがありますが、あれは海上・空中戦に適した最もベーシックな艦です」

 

 ラワイスタと呼ばれた戦艦のカタパルトから数機のプロッテが発進し、大洋たちに向かって襲い掛かってくる。

 

「新手か!」

 

 大洋たちは迎撃の姿勢を取る。

 

 

 

「航空戦艦まで持ち出すとは厄介だな……」

 

 ファンのコックピット内でタイヤンが唸る。その側でセバスティアンが呟く。

 

「それだけ、お嬢様が大切な御方だということです」

 

「随分と冷静だな……」

 

「セバスティアン、あのデータは確かなのよね?」

 

 ヂィーユエのコックピット内からアレクサンドラが通信を繋いでくる。

 

「勿論でございます、お嬢様」

 

「何? データって?」

 

 アレクサンドラはユエの肩にポンと手を置いて告げる。

 

「せっかく回収してもらって悪いのだけど……二人ともあの管制ビルに戻って頂戴」

 

「ええっ⁉ 狙い撃ちにされるわよ⁉」

 

「ボーナス……」

 

「御安い御用よ!」

 

 気持ちの良い返事をしたユエが機体を島の中央に位置する管制ビルに向かわせる。



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第15話(4)ごっつい扇子

 飛来する四機のプロッテによる正確な射撃に大洋たちは戸惑う。

 

「くっ、狙いが正確だな!」

 

「練度から察するにさっきのは先遣隊で、こっちの部隊が本命かな?」

 

「ちっ!」

 

 隼子が舌打ちをして、石火を向かわせようとする。

 

「待て、隼子! 一人で空中戦は危険だ!」

 

「ほんなら、どうするんや!」

 

「合体だ!」

 

「了解!」

 

 大洋の号令の下、三機は合体し、電光石火となって浮上する。プロッテの部隊にとっては予期せぬ状況変化だったのか、空中でその動きを停止させ、様子を窺う。

 

「なんや、あちらさんの動きが止まったで?」

 

「合体機能を持った機体は珍しいのかもしれないね」

 

「戸惑っているっちゅうことか?」

 

 隼子の言葉に大洋が頷く。

 

「それならば好都合だ、一気に畳みかけるぞ! 隼子!」

 

「よっしゃ!」

 

 電光石火の飛行形態時のメインパイロットである隼子が操縦桿を倒し、機体を勢い良く前進させる。プロッテの部隊の反応が遅れる。

 

「もろた!」

 

 隼子は電光石火の肩部のキャノンを発射する。四機の内、一機に命中し、コントロールを失った機体は落下していく。残りの三機は散開する。モニターで戦況を見つめていた閃がすぐさま指示を出す。

 

「長引けばその分こちらが不利だよ! 少ない手数で一気に決めよう!」

 

「どうする⁉」

 

「10時の方向に飛んだ二機を狙って!」

 

「よし来た!」

 

 電光石火の背部に付いている右翼部分を外して、投げつける。ブーメランと化した翼は鋭い弧を描いて、二機のプロッテの内、一機の背部バーニアと、もう一機の左脚部を破損させて、推進力を奪うことに成功する。

 

「二機とも制御バランスを崩したよ!」

 

「追い討ちをかけたる!」

 

 隼子はすぐさまキャノン砲を撃つ。砲撃を喰らい中波した二機のプロッテは落下する。大洋が声を掛ける。

 

「良いぞ! その調子だ!」

 

「残すは一機やな!」

 

 隼子は機体を反転させて、右脚部からライフル『アサルトマゴイチ』を取りだして構え、残った一機のプロッテを照準に捉える。プロッテはこちらに銃撃を放ちながら、激しく上下左右に忙しく動き回っている。

 

「容易に的をしぼらせないつもりだ!」

 

「くっ、猪口才な真似を……」

 

 隼子は唇を噛む。閃が小声で話す。

 

「ジュンジュン、提案なんだけどさ……」

 

「……成程、それで行ってみようか!」

 

 隼子は再び機体を反転させて、相手の航空戦艦ラワイスタ攻撃に向かう。それを見たプロッテは焦って、母艦防衛の為に引き返してきた。

 

「来たよ!」

 

「そこを待っていた!」

 

 三度反転した電光石火がライフルを二発放ち、そのいずれもが命中。頭部と右脚部を破損したプロッテはそれでもなお、電光石火に向かってくる。

 

「おおぃ! そこは素直に退いてくれや!」

 

 閃は苦々し気な表情で二門の内、一門のキャノン砲を発射する。放たれたキャノン砲はプロッテの胸部を貫く。プロッテは大破一歩手前状態となり、落下していく。

 

「胸部がコックピットやったってことはないやろな……」

 

 モニターをしばらく眺めていると、プロッテの腹部が外れ、そこがそのまま脱出ポッドとなり、上空へ舞う。ポッドはラワイスタの方へ向かっていった。

 

「良かったな、隼子!」

 

「そうやな……」

 

「まあ、次の攻撃目標はあの航空戦艦なんだけどね~」

 

「ええい、分かっとるわ!」

 

 隼子は機体の体勢を整えて、戦艦と空中で相対する。

 

「どうする、突っ込むか⁉」

 

「対空砲火の恰好の餌食になるね」

 

「閃がメインパイロットの砲撃戦特化モードなら互角に渡りあえるんじゃないか?」

 

「ざっと見た感じ単純な撃ち合いなら結構良い線は行くと思うんだけど……」

 

「だけど……?」

 

「飛行機能がないから、数発撃っただけで勝手にリングアウト状態になっちゃうよ」

 

「そうか、俺と閃のモードでは空中戦が満足に戦えないのか……」

 

 大洋が頭を抱える。そうこうしている内に、ラワイスタの方から砲撃が飛んでくる。

 

「くっ、一旦距離を取るで!」

 

 隼子は電光石火を後退させる。大洋がコントロールパネルを叩く。

 

「くそっ、どうすれば……」

 

「お困りのようですわね、ご主人さま♡」

 

 モニターにアレクサンドラが映る。

 

「アレクサンドラ! 無事だったか! 今どこにいる⁉」

 

「『第二十四新出島』の中央管制ビルですわ」

 

「何っ⁉」

 

「せっかく脱出したのにまた戻ったんかいな!」

 

「そのビルは目立つ! 狙い撃ちにされるぞ!」

 

「まあ、見ていて下さいな」

 

 アレクサンドラがウィンクすると同時にモニターの向こう側が揺れる。

 

「言わんこっちゃない! 砲撃を受けているんだ!」

 

「いや……待って!」

 

 慌てる大洋を閃が落ち着かせつつ、状況を冷静に確認する。

 

「これは……ビルや建物が……地中に沈んでいく?」

 

「この『第二十四新出島』の真の姿を……とくとご覧あれ!」

 

 モニターを通じてアレクサンドラの声が良く響く。

 

「真の姿?」

 

「『ビバ!オレンジ号』、浮上せよ!」

 

「はっ?」

 

「何?」

 

「えええっ⁉」

 

 閃と大洋と隼子が三者三様に驚く。小さな扇状の人工島だと思っていた『第二十四新出島』が空中に浮上したからである。

 

「こ、これもあの桜島ほどではないが、大きい艦だな」

 

「大きさよりも注目すべきはその形状だよ!」

 

「せやな、ごっつい扇子が空中に浮かんでいるみたいになっているで」

 

「ご主人様、もっとラワイスタから離れて。エネルギーを前面に集中! 砲撃準備!」

 

「距離・方向OK!」

 

「角度調整完了!」

 

 モニターを通じて、ユエとタイヤンの声も聞こえてくる。どうやら即席のブリッジクルーを任されているようである。セバスティアンが冷静に告げる。

 

「エネルギー充填完了でございます」

 

「よし! 撃てえぇぇぇ‼」

 

 ビバ!オレンジ号の放ったビーム砲がラワイスタに直撃し、見事大破せしめる。

 

「敵艦、沈黙いたしました」

 

「……まずまずの初陣ですわね」

 

 艦長席に腰掛けるアレクサンドラは肘かけに頬杖を突きながら満足気に頷く。



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第16話(1)全員、変人

                  16

 

「ロボチャン出場の為淡路島に急ぐのかと思ったら、博多に寄り道とはな……」

 

「オーナー様のご意向には逆らえないからねえ~」

 

 大洋の言葉に閃が反応する。隼子が呟く。

 

「しかし、博多の島にこないな軍港があったとは知らんかったわ……」

 

「ここは普段はそんなに使われていないからね」

 

 隼子が閃に尋ねる。

 

「で? その軍港をほぼほぼ借り切って一体何をしてんねん? あのお嬢様は? ウチらまでこうやって軍港外に締め出して」

 

「『それは見てからのお楽しみですわ!』って言ってたよ」

 

「お楽しみって……」

 

「……なんとなく確認出来ることは数日前から忙しなく出入りしている業者がどうやら軍事関係の業者ではないってことかな~」

 

「軍事関係ではない? じゃあ、なんなんだ?」

 

「さあ?」

 

 大洋の問いに閃は首を捻る。

 

「あ、こんなとこにいたのね、三人とも」

 

 ユエがタイヤンと共に姿を現す。隼子が呆れ気味に応える。

 

「こんなとこって、この宿舎で待機しとけって言われていたやろ……」

 

「言いつけを律儀に守るなんて真面目ね~」

 

「……その両手一杯にぶら下げている紙袋はなんやねん?」

 

「え、博多土産よ。ちょっと街中に繰り出してきたの」

 

「なっ⁉ いつの間に! 島を抜け出してたんか⁉」

 

「全く気が付かなかったな……」

 

「気が付かれないようにしたからな……」

 

 大洋に対しタイヤンが答える。

 

「なるほどな」

 

「なるほどな、ちゃうねん! 勝手な行動をとってもらっては困るで! これはもうアレやな! ペナルティもんや!」

 

「え~ペナルティ?」

 

「せや!」

 

「それは嫌だわ……明太子弁当で見逃してもらえない?」

 

「いただきます!」

 

「あっさり掌を返したな……」

 

 隼子の即答にタイヤンは戸惑う。閃が笑う。

 

「まあ、博多の近くに来て、明太子食べないのは勿体無いよね~」

 

「なんだか賑やかね」

 

 今度はアレクサンドラがセバスティアンを伴って姿を現す。

 

「あ、オーナーの分も買ってきたわ。はい、どうぞ」

 

 ユエが弁当を手渡す。

 

「これは……?」

 

「この地域名産の明太子よ」

 

「ほう、名産……後でゆっくり頂くとするわ」

 

 アレクサンドラは弁当を側に控えるセバスティアンに渡す。

 

「アレクサンドラ、いつまで待機していれば良いんだ?」

 

「嫌だわ、サーニャって呼んで下さいませ、ご主人様♡」

 

「え?」

 

「もう……二人は他人ではないのですから」

 

 アレクサンドラが両手で恥ずかしそうに頬を押さえる。周囲からどことなく冷たい視線が大洋に集中する。

 

「ご、誤解を招くような発言は止せ! 君と俺とはあくまでもオーナーと社員という関係だ! それ以上でもそれ以下でもない! そうだろう、サーニャ!」

 

「いや、サーニャって言うてもうてるやんけ!」

 

「お~やるね、大洋。玉の輿じゃないの」

 

 ユエがニヤニヤしながら大洋を見る。

 

「と、とにかく! なにか言うことがあってきたんじゃないのか⁉」

 

「ああ、そうね。皆、お待たせしたわね、今日中に全ての作業が終わるから、明日にはここを出港することができるわ」

 

「作業ってなんだったの?」

 

「まあまあ、それは明日までのお楽しみよ♪」

 

「そう言うと思ったよ……」

 

 閃は首をすくめる。

 

「それより、紹介したい人たちがいるのよ。入ってきて頂戴」

 

 アレクサンドラが声を掛けると、軍服姿の三人の女性と一人の男性が入ってきた。

 

「誰だ……?」

 

「自己紹介よろしく」

 

「は、はい……ぼ、ぼく、い、いえ、じ、自分はGofE、極東地区第十三特戦隊隊長の赤目太郎(あかのめたろう)少尉であります……」

 

 四人の中で一番小柄な男が前に出て、ボソボソと喋る。一応折り目正しく軍服は着ているが、何故かフードを被っている。ユエが怪訝な顔をしながらタイヤンに囁く。

 

(GofE、Guardians of the Earth……地球圏連合傘下の治安維持部隊……それは分かるけど、第十三特戦隊なんてあったかしら?)

 

(分からん。今は黙っているしかないだろう……)

 

「太郎! ビッとしろや!」

 

「ひ、ひゃい!」

 

 茶色の髪をした女性が太郎と名乗った男の背中をバシッと叩く。

 

「こういうのは最初が肝心なんだよ! ナメられたら負けだぜ!」

 

「い、いや、負けって……」

 

「手本を見せてやる……オレは第十三特戦隊特攻隊長、檜玲央奈(ひのきれおな)だ! 階級は伍長。ガンガン派手にぶっ飛ばしていくんで、そこんとこヨロシク!」

 

 玲央奈と名乗った女性は軍服を着崩し、髪の毛は良く言えば無造作、悪く言えばボサボサである。呆気に取られている大洋たちを見て、玲央奈は太郎に得意気な顔を見せる。

 

「どうよ! 奴ら度肝抜かれてんぜ!」

 

「いや、呆れているんだと思いますよ……」

 

「太郎、残念なアホは放っておけ……自分は第十三特戦隊遊撃隊長、山牙(やまが)ウルリケ。階級は軍曹。よろしく……」

 

 ウルリケと名乗った細身の女性は軍服をきちんと着てはいるが、何故かニット帽を被っている。白髪交じりの前髪を垂らし、左眼を隠している。

 

「最後はミーか! ミーは第十三特戦隊親衛隊長、波江(なみえ)ベアトリクスだ! 階級は曹長だ、よろしくな! ワッハッハッ!」

 

 ベアトリクスと名乗った一際大柄な女性は軍服の上着を腰に巻いており、黒のタンクトップ姿である。こちらも何故か麦わら帽子を被っている。短い金髪がわずかにのぞく。

 

「えっと、サーシャ……これはどういうことだ?」

 

 大洋が戸惑いながら、アレクサンドラに問う。

 

「タエン帝国に狙われないように手を打ってみたのよ、こちらも地球圏連合政府のツテを辿ってね。政府傘下の治安維持部隊から出向してもらったの」

 

「そ、そうなのか……なんというか、個性的な面子だな……」

 

「腕は確かなはずよ、だって聞いたでしょ? 全員隊長なのよ、そんな部隊ある?」

 

「不安しかないんですが……」

 

 隼子がこめかみを抱える。

 

「大丈夫よ、二つ名だってあるんだから!」

 

「へえ、二つ名持ち? それは強そうだね」

 

「そうよ、オーセン、彼らの二つ名は『奇異兵隊(きいへいたい)』よ! 由来は知らないけど」

 

「恐らく戦いぶりより、その出で立ちが由来でしょうね……」

 

 ユエが目を細めながら呟く。



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第16話(2)心がピョンピョンする

「軍隊でその恰好はどうなんだという話だな……」

 

 タイヤンが訝し気な表情で話す。

 

「まあ、ほら、ウチは自由な社風が売りだから」

 

「いや、勝手に決めんといてもらえます⁉」

 

 アレクサンドラの言葉に隼子が眉をひそめる。そこに警報が鳴り響く。大洋が驚く。

 

「何だ⁉」

 

「セバスティアン!」

 

「……島の北端にタエン帝国の機体、プロッテが八機上陸した模様です」

 

 セバスティアンが冷静に情報をアレクサンドラに告げる。閃が首を傾げる。

 

「……タエン帝国が思いっ切り兵を出しているけど?」

 

「セバスティアン!」

 

「……地球圏連合も一枚岩ではないということ、こちらのコネクションがやや弱かったこと、情報が錯綜している間にお嬢様の身柄を確保するか、始末してしまおうと現場レベルに近い者が判断したということ……などなど、複合的な理由が考えられます」

 

「……ですって!」

 

 アレクサンドラは腕を組んで皆に告げる。

 

「い、いや、ですって! ってドヤ顔で言うてる場合ちゃいますがな!」

 

「ジュンジュン、まずは落ち着こう」

 

 閃が隼子の背中を優しくさすり、隼子は幾分か落ち着きを取り戻した。

 

「せやかてオーセンよ……どないするこの状況?」

 

「ユエとタイヤンはひとまずお嬢様と執事さんを戦艦まで送り届けて!」

 

「なるほど、ここにいるよりは安全ね! ……でも敵さんもそれは百も承知じゃない?」

 

「恐らく島の南端部のこちらに最速距離で向かってくるはず!」

 

 閃は情報端末のディスプレイを周りに見えるようにして、説明を続ける。

 

「敵は島の中央を進んでくるだろう。そこを左翼から私の『電』で砲火、右翼上空からジュンジュンの『石火』で爆撃する……」

 

「挟撃するってわけね」

 

 ユエの言葉に閃は頷く。タイヤンが問う。

 

「その後はどうする?」

 

「足が止まった相手の正面から大洋の『光』が突っ込む!」

 

「しょ、正面からとは流石に素直過ぎないか?」

 

「いや、案外こういうのが効果的なのよ」

 

 タイヤンが戸惑うがユエは太鼓判を押す。タイヤンは尚も首を捻る。

 

「そうだろうか?」

 

「そうよ、ただ……」

 

 ユエが閃の方を見る。

 

「大洋と言えど、八機全ては無理じゃない、撃ちもらしがあったらどうするの?」

 

「大洋の機体とプロッテのデータを比較したところ、かなりの性能差を確認した。相手は無理せず、後退を選ぶはず……そこで『奇異兵隊』の出番ってわけなんだけど……」

 

「! あ、は、はい、えっと……」

 

 奇異兵隊のリーダーである太郎は自分たちが呼ばれるとは思っていなかったようで、慌てて前に進み出るが、ブーツの紐でも絡んだのか、派手に転んでしまう。

 

「ううっっ……」

 

 太郎はそのつぶらな瞳に大粒の涙を浮かべている

 

「泣くのは全部終わってからにしな、太郎。すまねえ、代わりに特攻隊長のオレが聞く」

 

「ならば……」

 

 閃は玲央奈に説明する。説明を聞いて、玲央奈は両の拳を突き合わせる。

 

「……よく分からねえが、要は暴れれば良いってこったな!」

 

「う~ん、思った以上に脳筋タイプか……まあ、いいか」

 

「ええんか⁉」

 

「ほらほら、時間が無いよ、各自出動だ」

 

 閃がポンポンと両手を叩く。各人がそれぞれの持ち場に散る。大洋が倉庫に置いてあった光に乗って即座にモニター画面を確認する。

 

「さて……相手は閃の読み通り、真っ直ぐこちらに向かってくるな」

 

「島民や軍港関係者の居住地域に到達する前に足止めするよ!」

 

 大洋に閃から通信が入り、それと同時に閃の駆る電が左腕のガトリングガンを発射する様子がモニターに飛び込んできた。

 

「続くで!」

 

 隼子が石火を戦闘機形態のまま飛行させ、上空から爆撃を仕掛ける。電の攻撃とともに、固まって動いていたプロッテの部隊に命中する。部隊は動揺したように見られた。この隙を逃さず、大洋が光を勢いよく突っ込ませ、相手に向かって斬りかかる。

 

「喰らえ、横薙ぎ!」

 

 光の持つ名刀光宗が四機のプロッテの脚部を一気に切断する。バランスを失った四機は地面に崩れ落ちる。

 

「よし! 続いて……⁉」

 

 残りの四機のプロッテは既に後退を始めており、光と距離を取っていた。

 

「冷静な判断だね!」

 

「逃がすか!」

 

「おおっと、兄ちゃん! 美味しいところはオレらに任せてもらうぜ!」

 

 光のモニターに四人の男女が映る。

 

「奇異兵隊か!」

 

「いっくぜー!」

 

 玲央奈が叫び、島の北端に後退していたプロッテ四機に追い付く。

 

「あ、あの機体は?」

 

「珍しい、四足歩行型の機体だね」

 

 大洋の問いに閃が答える。モニターには白いカラーリングを基調とした、獣のような形状のロボットが高い機動力で退却しようとするプロッテに接近する。

 

「狩ってやるぜ!」

 

 玲央奈の威勢の良い叫び声とともに彼女の乗る、四体の中では中くらいの大きさであるロボットが文字通り噛み付き、プロッテの右腕部と右脚部を同時に噛み千切る。

 

「か、噛んだ⁉」

 

「ライオン型ロボットか……」

 

 驚く隼子とは対照的に閃は冷静に呟く。

 

「へへっ、どうだ!」

 

「いちいち騒がしい奴だ……もっとスマートに狩れんのか……!」

 

 今度はウルリケと名乗った女のクールな声が聞こえてくる。それとほぼ同時に、四体の中ではやや小さい機体がプロッテの左脚部を自身の左前脚で裂き、続け様に首の部分に飛びついて噛み切った。プロッテの頭部が虚しく地面に転がる。

 

「ま、また噛みよった⁉」

 

「冷静に喉元を噛み千切った……狼型ロボットかな」

 

「さっきのよりは俊敏性に優れているな」

 

 落ち着いて分析する閃に大洋が同調する。

 

「次はミーの番だな!」

 

 ベアトリクスと名乗った女が、自身の駆る大型のロボットを突っ込ませ、プロッテの頭部を掴み、持ち上げて、地面に叩き付ける。プロッテは動かなくなった。大洋が驚く。

 

「大型のわりに結構素早いな!」

 

「速さと強さを兼ね備える……熊さん型ロボットかな」

 

 閃の言葉に頷きながら、大洋が戦況を確認する。

 

「残り一機だ!」

 

「ミーが行くぞ!」

 

「待て、トリクシー……大事な出向初陣だ、ここは我らが隊長に華を持たせろ」

 

「む……仕方が無いな」

 

「アホナも良いな?」

 

「玲央奈だ! わざと間違えてんだろ!」

 

「それはスマンな、日本語はまだまだ不得手でな」

 

「本当に不得手な奴が不得手とか言わねえんだよ!」

 

 奇異兵隊の賑やかなやりとりがそのまま大洋たちに通信される。隼子が呆れる。

 

「や、やかましい連中やな……」

 

「でも、実力は確かでしょ!」

 

 アレクサンドラが通信に割って入ってくる。得意気に胸を張っている。

 

「さっきまで、『正直ハズレ掴まされたかも……』ってネガティブだったのに……」

 

「ちょいちょい、ユエ! 状況というのは絶えず変化するものなのよ!」

 

 アレクサンドラは脇から茶々を入れるユエをたしなめる。

 

「さて、隊長機はどのような機体なのか……」

 

「四体の中では一番小さい機体やな」

 

「獅子、狼、熊ときて……狐かな?」

 

「狸はダメか……?」

 

「ダメかってなんやねん」

 

「パンダに夕飯の豚骨ラーメンを賭けるわ!」

 

「ユエ、お前まで混ざるな……」

 

「……タイヤンの!」

 

「俺の⁉」

 

「はっはっは! どうやらエブリワンの注目がタロウに集まっているようだな!」

 

「期待に応えてみせろ、太郎……」

 

「ビシッと頼むぜ、太郎!」

 

「ううっ……い、行きますよ!」

 

 太郎が涙目になりながら機体を動かす。頭部のアンテナが二本伸びる。

 

「あ、あれは⁉」

 

 大洋が驚く。閃が顎に手をやって呟く。

 

「まるで長い耳……成程、ウサギさんか」

 

「ウ、ウサギ型ロボットやと⁉」

 

「……タイヤン、全員に奢りね」

 

「何で俺の一人負けなんだ⁉」

 

「どうやって戦うのかしら……?」

 

 アレクサンドラが興味津々に呟く。

 

「ううっ……モニター越しでも皆さんの視線がヒシヒシと……」

 

「太郎、いつもの奴カマシてやれ!」

 

 玲央奈が檄を飛ばす。太郎が機体の両の前脚を頭部の両脇に持ってくる。前脚の先端は折り曲げている。

 

「『ウサギピョンピョンミピョンピョン♪合わせてピョンピョンムピョンピョン♪』」

 

 太郎の機体はしゃがみ込んだような体勢のままで前後左右にピョンピョンと跳ねる。戦場を一瞬沈黙が支配する。

 

「こ、これは……大洋……」

 

「あ、ああ……」

 

 閃の問いに大洋が頷く。

 

「「カワイイから良し!」」

 

「良いことあるか!」

 

 何故か声を揃える大洋と閃に隼子が突っ込む。



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第16話(3)連携……?

「よっしゃ! ウケたぜ、太郎!」

 

「いや、ここでウケとか要らないんですよ! 玲央奈さん!」

 

 玲央奈の言葉を太郎は否定する。

 

「いやはや……いつもながら素晴らしいな、まったく言うことが無い……」

 

「言うことだらけだと思いますよ、ウルリケさん!」

 

「ミーは惜しみないクラップを送るよ、タロウ」

 

「戦闘中ですから、操縦桿から手は離さないで下さいよ、トリクシーさん!」

 

 残った一機のプロッテは尚も戸惑っていたが、退却行動を再開する。玲央奈が驚く。

 

「馬鹿な……動じていねえ⁉」

 

「そりゃそうでしょ!」

 

「とにかく接近だ、太郎! お前の機体『プリティーラビット』の機動力ならばまだ追い付けるはずだ!」

 

「ウルリケさん、あまり機体名を大声で言わないで下さい!」

 

 太郎は文句を言いながら機体をプロッテに近づけさせる。プロッテも退却しつつ、正確な射撃を放つ。その射撃を何とか躱す太郎だったが、相手との距離は離れてしまう。

 

「ちっ! なにやってんだ、太郎!」

 

「言い訳は嫌いですが、何度も言っているように僕の機体は索敵メインなんですよ! それを前線に飛び出させる用兵が何をやっているんだって話ですよ!」

 

「ごちゃごちゃとわけ分かんねえこと言ってんじゃねえ!」

 

「結構分かりやすく言いましたけど⁉」

 

「まあいい、トリクシー、二人でやるぞ」

 

「オッケー!」

 

 ウルリケとベアトリクスが各々の機体を素早く動かし、海岸沿いでプロッテをはさみうちの状態にする。

 

「海の中には逃げれまい! 早い者勝ちだ!」

 

「ラジャー! 行くぞ……⁉」

 

 飛び掛かろうとした両機の前に射撃の雨が降りかかる。

 

「ホワット⁉」

 

「新手か!」

 

 ウルリケの言ったように、北側の海から空を飛ぶ黒い戦艦が見えた。タエン帝国の主力航空戦艦、ラワイスタである。そこから二機のプロッテが島に向かって降下してくる。

 

「な⁉ 戦艦の接近に気が付かんかったんか⁉」

 

「発信している識別コードは地球圏連合と同じものを使用していたから、こちらの確認が遅れちゃったんだね~」

 

 隼子の言葉に閃が冷静に答える。

 

「二機増えた位でビビッてんじゃねーよ!」

 

「良いことを言うね、レオナ!」

 

 玲央奈とベアトリクスが迎撃に動く。ウルリケが制止しようとする。

 

「ま、待て、二人とも! 戦況を見て……まあ、良いか、面倒だ!」

 

「ウ、ウルリケさんまで⁉」

 

 ウルリケも敵機に向かって突っ込む。三機とも悪くない動きだったが、後から駆け付けた二機のプロッテはそれよりも優れた動きを見せ、残っていたプロッテとともに、三機一体で見事なコンビネーションを取り、玲央奈たちを翻弄する。

 

「ちぃっ!」

 

「くっ! カタログスペック上ならば遅れを取るはずが無いというのに!」

 

「ホワイ⁉」

 

「それは相手が連携を取っているからですよ!」

 

 太郎が三人に声をかける。

 

「連……」

 

「携……」

 

「ん~?」

 

 三人とも首を傾げる。太郎が驚きの声を上げる。

 

「なんで揃いも揃って連携を知らないんですか⁉ それでよく軍人になれましたね⁉」

 

「まあ、自分で自分の才能が怖いぜ」

 

「貴様の場合は本能だろう、知能が著しく低いからな」

 

「あんだと~?」

 

「言い争いを始めないで下さい!」

 

「ミーは良く脳筋って言われたね~」

 

「照れ臭そうに言わないで下さい! それは馬鹿にされているんですよ! !」

 

 三機が奇異兵隊に本格的な攻撃を仕掛けてくる。ウルリケが舌打ちする。

 

「ちっ、空中戦を織り交ぜられるとこちらが不利だ……」

 

「汚ねえーぞ! 降りてきて戦えってんだ!」

 

「そういうわけにはいかないでしょう!」

 

「ビッグなツリーでもあれば、それを伝って、飛び掛かれるんだけどね~」

 

「どんな大樹ですか! で、でも、本当にどうすれば……」

 

「俺たちに任せろ!」

 

「⁉」

 

 太郎が声のした方向にモニターを切り替えると、そこにはそれぞれ赤、白、緑のカラーリングをした機体が三機映っている。

 

「あ、貴方たちは……⁉」

 

「そう、俺たちは……」

 

「『トリオ・デ・イナウディト』の皆さん!」

 

「お、おう……」

 

 通信に割って入った隼子によって、先に名前を言われてしまい、長身で痩せ型の中年男性は顔をしかめる。隼子はそれに構わず話を続ける。

 

「何故こんな所に?」

 

「……俺たちの勤めている会社『博多アウローラ』がお前らの会社と業務提携を結んだからな、その関係でこうして出向してきたわけだ」

 

「い、いつの間に……」

 

「まさしく電光石火だったよ、ほとんど買収に近い契約内容だが……お前らの会社ってそんなに資金があったのか?」

 

「ちょっと太いスポンサーがついたものでね」

 

 閃が苦笑気味に応じる。

 

「? まあいい、ここは俺たちの地元だ、これ以上の勝手は許さん!」

 

「相手は空を飛んでいますよ、大丈夫ですか⁉ 三機とも飛行機能はありませんよね?」

 

「やりようはいくらでもある!」

 

 男が隼子の言葉に力強く答える。

 

「は、はあ……」

 

「愛!」

 

「はいよ!」

 

モニターに小柄でふくよかな女性が映り、緑の機体が前に進み出て、肩部を突き出す。すると、右手から白い煙が勢いよく噴き出す。空を舞っていた三機のプロッテは突如として煙に包まれ、当惑しているのが機体の動きからも伝わってくる。

 

「緑の機体、イナウディト・ヴェルデはジャミング戦法を得意としている機体! 搭乗するのは梅上愛(うめがみあい)さん!」

 

 隼子が興奮気味に解説する。

 

「続いては俺だ!」

 

 モニターに再び長身で痩せ型の中年男性が映る。赤色の機体が肩部からミサイルを三発発射させる。プロッテもそれを感知し、なんとか回避する。太郎が叫ぶ。

 

「か、躱された⁉」

 

「まだだ!」

 

「⁉」

 

 ミサイルは方向を変え、それぞれ三機の背部に命中した。太郎が驚く。

 

「ホ、ホーミングミサイル⁉」

 

「そういうことだ!」

 

「赤色の機体、イナウディト・ロッソは火力の高さが売りの機体! パイロットを務めるはトリオのリーダーでもある松下克長(まつしたかつなが)さん!」

 

 隼子が熱狂的に解説を続ける。ミサイルの直撃を喰らい、背部のバーニアを損傷した三機のプロッテは地上に落下する。三機とも近い位置に固まるように落ちた。

 

「狙い通りだ! 大門、仕上げは任せたぞ!」

 

「任された!」

 

 モニターに筋肉質な男が映る。白色の機体が勢いよく突っ込み、右手に持ったブレードで次々と斬り付ける。プロッテ三機は片方の脚部を切断され、機体のバランスを崩してその場に倒れる。太郎が感嘆する。

 

「す、凄い、一瞬で無力化させた……」

 

「白色の機体、イナウディト・ビアンコは接近戦特化機体! 操縦は竹中大門(たけなかだいもん)さん!」

 

「隼子、荒ぶっているな……」

 

 我を忘れて解説を続ける隼子を大洋はモニター越しに醒めた目で見つめる。

 

「ラワイスタが撤退していくね」

 

「追いかけるか?」

 

「いや、命令は出ていないし、この戦力ではあの規模の戦艦を落とすのはなかなか大変だ、追い払えただけでも良しとしよう」

 

 大洋の問いに閃は冷静に答える。一方、海岸に並んだトリオ・デ・イナウディトを太郎がこれでもかとばかりに称賛する声が聞こえてくる。

 

「凄いです! 御三方の見事な戦いぶり! 真のチームワークとは何かを教えてもらったような気がします!」

 

「な、なんだか照れるわね……」

 

「はっはっは! なかなか見所のある少年じゃないか! なあ、リーダー!」

 

「そうだな。良かったらサインをしてあげよう」

 

「い、良いんですか⁉」

 

「ああ、ただ、悪いが写真等は会社を通してくれるかい……⁉」

 

「な、なんや⁉ この反応は⁉」

 

 突如、海中から巨大なトカゲのような怪獣が現れて、トリオ・デ・イナウディトを勢いよく弾き飛ばす。無防備だった三機は派手に転がる。

 

「「「き、聞いてないぞ~⁉」」」



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第16話(4)ケモノ、覚醒

「こ、今度は怪獣かい!」

 

「かなりのデカさだな……!」

 

「接近まで全く気が付かなかった! 巨体だけどスピードに注意だよ!」

 

 閃が全員に呼び掛ける。

 

「お三方は大丈夫ですか⁉」

 

「な、なんとか……た、ただ、三機とも駆動系に異常が確認された。しばらくは動けん」

 

 隼子の問いに松下は苦々しく答える。

 

「!」

 

 トカゲのような外見の怪獣が長い舌を伸ばし、玲央奈の機体を巻き取る。

 

「どわぁ⁉」

 

「れ、玲央奈さん!」

 

 トカゲが口を開く。玲央奈はモニターでその動きを確認し、慌てる。

 

「ちょ、ちょっと待て! 食っても絶対美味くねえぞ!」

 

「振りほどけないのか!」

 

「くそっ! 固く巻き付いて……機体が動かせねえ!」

 

 トカゲが舌を引っ込めようとする。太郎が再び叫ぶ。

 

「玲央奈さん!」

 

「⁉」

 

 次の瞬間、トカゲの舌を三機合体した電光石火が刀を使って切断した。電光石火はすぐさま反転し、落下する玲央奈の機体を受け止める。大洋が玲央奈に声をかける。

 

「大丈夫か! 特攻隊長!」

 

「あ、ああ! すまねえ! 助かったぜ……ってえええええ⁉」

 

 モニターを確認し、大洋の姿を目にした玲央奈が悲鳴のような叫び声を上げる。

 

「ど、どうした⁉ 妙に可愛らしい声を上げて!」

 

「う、うるせえ! な、なんて破廉恥な恰好してやがるんだよ⁉」

 

「破廉恥……?」

 

 大洋は首を捻る。

 

「だから、なにを首捻るところがあんねん! 至極当然の反応やろ!」

 

「いきなりフンドシ一丁になっていたらそりゃ誰だって面食らうよね~」

 

「は、離しやがれ! 自分で動ける!」

 

 そう言って、玲央奈はモニターを切った。大洋がうなだれる。

 

「赤は女性が好きな色ではないのか……?」

 

「いや、どこにがっかりしてんねん!」

 

 隼子が声を上げる。閃が指示を出す。

 

「大きいけど、四足歩行なら重心は低い! 飛べば優位をとれるはず!」

 

「よし、隼子! 飛行形態に変形だ!」

 

「了解!」

 

 電光石火は素早く飛行形態に変形し、上に飛び上がる。閃が呟く。

 

「ここから爆撃なり、銃撃をくわえて、弱った所を……!」

 

 トカゲが二足歩行になり、飛んだ電光石火よりもその目線が高くなる。

 

「た、立ちよったで!」

 

「あら?」

 

 トカゲがその右前脚を振りかぶる。大洋が叫ぶ。

 

「マズい! ぐおっ!」

 

 トカゲが前脚を振り下ろし、電光石火を殴る。電光石火は地面に叩き落とされる。

 

「どわっ!」

 

「ぎゃあ!」

 

「た、体勢を立て直さないと……ぬおっ!」

 

 トカゲが太い尻尾を電光石火に向けて叩き付ける。電光石火は機体の半分が地面にめり込むような形になる。

 

「な、なんちゅうパワーや!」

 

「う、動けん!」

 

 その様子を見て、玲央奈が叫ぶ。

 

「お前ら! 今度はオレたちがアイツらを助ける番だぜ!」

 

「バ、バット、あの怪獣、ミーたちの機体と大きさもスピードもパワーも桁違いね……」

 

「ビビッてんじゃねえ、ベアトリ! オレらにはアレがあんだろ!」

 

「ア、アレって……マ、マズいですよ、上の許可を取らないと!」

 

「こんな時に上も下もあるかよ!」

 

「く、訓練でも一度も上手く行かなかったんですよ!」

 

「今上手く行けばいいだろうが!」

 

「そ、そんな……」

 

 太郎が絶句する。ウルリケが呟く。

 

「アホに同意するのも癪だが、現状を打破するならそれしかなさそうだな……」

 

「ウ、ウルリケさんまで! し、しかし、繰り返しですが、許可を取らないと……」

 

「……ナウのミーたちのボスはあのオーナーさんになるんじゃないのかい?」

 

 ベアトリクスの呟きに玲央奈が両手を叩く。

 

「それだ! おい、聞こえているか、オーナー⁉」

 

「そんなに怒鳴らなくても聞こえているわよ……何?」

 

 玲央奈の呼びかけにアレクサンドラが応える。

 

「詳細は省く! 許可を求める!」

 

「省いちゃダメでしょ!」

 

「う~ん、よく分かんないけど……OK♪」

 

「ええっ⁉」

 

 アレクサンドラが軽いノリで許可を出したことに太郎は驚く。

 

「よっしゃ! 許可が出たぜ、お前ら、行くぞ!」

 

 玲央奈たちは電光石火にモニターを繋ぐ。電光石火のモニターに四人の顔が映る。

 

「な、なんだ⁉」

 

「見てろよ、フンドシ野郎! アタシら奇異兵隊の真の姿を!」

 

「し、真の姿⁉」

 

「太郎、指示を頼む!」

 

「か、各自、所定の位置に!」

 

「ストロングライオン、イケるぜ!」

 

「ブレイブウルフ、いつでもいい……」

 

「パワフルベアー、オッケー!」

 

「プ、プリティーラビット、よし! 皆さん、合言葉は⁉」

 

「「「「ケモ耳は正義!」」」」

 

「な、なんだと⁉」

 

 大洋は驚いた。モニターに映る四人の頭にケモノ耳が出てきたからである。玲央奈の頭にはボサボサの髪を避けるようにライオンの耳、ニット帽を取ったウルリケの頭には狼の耳、麦わら帽子を取ったベアトリクスの頭には熊の耳、そして、フードを外した太郎の頭にはウサギの耳がそれぞれ生えるように出てきた。隼子も驚く。

 

「な、なんや、これは⁉」

 

「あ~その為にみんな頭部を隠していたのか~」

 

 閃は納得する。太郎が叫ぶ。

 

「合体!」

 

 眩い光とともに、奇異兵隊の四機が合体し、一つの大きな白い二足歩行の機体となる。

 

「「「「獣如王(じゅうじょおう)、見参!」」」」

 

「あっちも合体機能持ちかい!」

 

「なかなか興味深いね……」

 

 隼子が叫ぶ横で閃が呟く。

 

「ほら見ろ! 上手く行っただろうが!」

 

「威張るな、いつもお前のタイミングがズレていたんだ……」

 

「ほう~こういうコックピット構造になっているのか、フレッシュな気持ちだね~」

 

「……だ、大丈夫なのか?」

 

 やかましいやり取りが聞こえてきて、大洋は不安気に呟く。太郎が慌てて指示する。

 

「み、皆さん、行きますよ!」

 

「おっしゃあ! 獣如王の初陣だ! 狩ってやるぜ!」

 

 獣如王は素早くトカゲとの距離を詰めると、右腕を一閃し、トカゲの尻尾を斬る。

 

「これは予想以上の切れ味だな……」

 

「まだ行くぜ!」

 

 獣如王は左腕で殴りつける。トカゲの巨体が吹き飛ばされる。

 

「ワオ! 凄いパワーだね!」

 

「まだまだ行くぜ! ……うん?」

 

 獣如王の動きが止まる。大洋が問いかける。

 

「どうした⁉」

 

「分からねえ! 太郎!」

 

「想定以上のエネルギーを消費してしまいました、エネルギー切れです……」

 

「そ、そんな⁉」

 

 倒れ込んでいたトカゲがゆっくりと起き上がり、獣如王の方に向かってくる。

 

「ちょ、ちょっちバッドなシチュエーションじゃないか⁉」

 

「ちょっとじゃない、大分マズい……」

 

「くそっ! どうする⁉」

 

「主砲発射! 撃てえぇぇぇ‼」

 

「⁉」

 

 次の瞬間、凄まじいエネルギーの奔流がトカゲの巨体を半分消し飛ばした。

 

「な……あ、あれは⁉」

 

 大洋たちがモニターを見て唖然とする。そこには艦全体をオレンジ色に塗装した『ビバ!オレンジ号』が浮上していたからである。

 

「……調整中だった主砲の威力も十分……エネルギーをかなり食うから連射出来ないのが難点だけど、まあ、贅沢は言えないわね……」

 

「ア、アレクサンドラ⁉」

 

「ご主人様、お待たせしちゃったわね。諸々のチェックに手間取っちゃってね」

 

「い、いや、それは別に良い! な、なんだ、そのカラーリングは⁉」

 

「『名は体を表す』って言うでしょ? やっぱりオレンジ色にした方が良いと思って♪」

 

「ま、まさかオーナー、ここ数日、この軍港に停泊していたのは……?」

 

「? 塗装作業を行う為よ、この地域ほとんどの業者を集めたから早く済んだわ」

 

「ア、アホや、色んな意味でアホや……」

 

 隼子が天を仰ぎ、閃が目を細めて呟く。

 

「あの大きさで艦全体がオレンジ色か……目立つことこの上ないけど、オーナーの一存ならば致し方ないね」

 

「へへっ、あれがオレらの母艦か。何だか面白くなりそうじゃねーの」

 

「不安の種が増えましたよ……」

 

 玲央奈は笑みを浮かべ、太郎は不安げな顔を浮かべた。



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第17話(1)ラウンジで待機

                  17

 

「さて、間もなく関門海峡に差し掛かるわけだけど……セバスティアン!」

 

「はっ……」

 

「異常はないかしら?」

 

「今のところは安全な航行が出来ております」

 

 セバスティアンはビバ!オレンジ号の操舵をしながら冷静に答える。

 

「それは結構……」

 

「ですが、仕掛けてくるとするのならばこの辺りです。気は抜けません」

 

「それもそうね……」

 

 アレクサンドラは席を立つ。

 

「どちらへ?」

 

「お花を摘むついでに頼れるパイロットたちに注意喚起してくるわ」

 

「皆さんには今の時間、ラウンジに集まってもらっています」

 

 アレクサンドラはパイロットたちが待機しているラウンジに向かい、入室する。

 

「休憩中のところ悪いのだけど……⁉」

 

「ふん!」

 

「うおおおっ!」

 

「よっしゃ、いけ、ベアトリ! 奇異兵隊の意地を見せろ!」

 

「負けたら夕飯抜きだぞ、トリクシー!」

 

「女のプライド見せてやりなさい! 波江曹長!」

 

「良い感じで筋肉が躍動しているぞ! 疾風!」

 

「負けるな、大洋! アンタの勝ちにタイヤンの夕飯賭けてるんだから!」

 

「俺の⁉」

 

 部屋の中央でベアトリクスと大洋が腕相撲をしている。互いの実力は思いの外伯仲しており、見守っているギャラリーも白熱している。ベアトリクスを応援しているのが、玲央奈とウルリケと梅上で、大洋を応援しているのが竹中とユエとタイヤンの様だ。アレクサンドラは苦笑しつつ呟く。

 

「力が有り余っているのは結構なんだけどね……」

 

「お疲れさまです!」

 

「オーナー、お疲れさまです!」

 

「お、お疲れさまです!」

 

 アレクサンドラの入室に気付いた松下と隼子がすぐさま立ち上がって敬礼し、側に座っていた太郎も慌ててそれに倣う。アレクサンドラはまた苦笑する。

 

「別に正規の軍隊じゃないのだから、そんな堅苦しい挨拶は要らないわ」

 

「はっ! 了解しました!」

 

「了解しました!」

 

「りょ、了解しました!」

 

「貴方たちはあの馬鹿騒ぎに付き合わないの?」

 

 アレクサンドラは立ち上がった三人とその近くに座っていた閃に声をかける。

 

「自分はいつでも出られるように静かに待機しております! 同僚とのコミュニケーションも重要ですが、それは竹中と梅上に任せております! 役割分担です!」

 

「流石は歴戦のパイロット、頼もしいわね……あ、座っていいわよ」

 

「失礼します!」

 

 三人は席につく。

 

「で、オーセンは何をしていたの?」

 

「技術者としての興味から太郎ちゃん……赤目少尉にあの獣如王という機体について色々と質問を……全部はぐらかされちゃっているけど」

 

「い、一応軍事機密なので、そうベラベラと教えられませんよ! と、というか、僕らも余り細かいことは知らないというか……」

 

「知らへんのかい」

 

 太郎の言葉に隼子が軽く突っ込みを入れる。

 

「そ、そういうお二人だって、電光石火について全然教えてくれないじゃないですか!」

 

「だって乗っている私らもよく分からないし!」

 

「オーセンが分からないんやからお手上げや!」

 

「わ、分からないんですか……」

 

 何故か偉そうに答える閃たちに太郎は困惑する。

 

「あ、オーセンは、名字の桜花の“おー”と、閃の音読み“せん”を合わせたんやで」

 

「そ、それはなんとなく分かります……わりとどうでもいいです」

 

「どうでもいいってひどいなあ~」

 

 閃が唇をぷいっと尖らせる。隼子が話題を変える。

 

「オーナー、なんで艦体をオレンジ色に? というか、ビバ!オレンジなんてけったいなネーミングはそもそもなんですか?」

 

「けったいって……艦長のマックスいるでしょう?」

 

「ああ、マクシミリアン斉藤さん」

 

「彼のルーツがオランダだっていうから。オランダの人にとってオレンジって特別な色っていうらしいし、なんとなくノリで名付けたわ」

 

「そ、そんなノリで……」

 

「あの立派な髭の男性が艦長だったのか……」

 

 隼子と太郎はそれぞれ別の意味で絶句した。閃が思い出したように口を開く。

 

「そういや、松下さんたち、髪が生えるの早いですね」

 

「……嫌なことを思い出させるな。これはウィッグだ」

 

 松下は髪を取って、坊主頭をあらわにする。太郎が驚く。

 

「ええっ⁉」

 

「たったひと月かそこらでここまで生えるわけがないだろう」

 

「な~んだ、てっきり博多アウローラが強力な育毛剤を開発したのかと思った」

 

「それならウチの会社は業種転換した方が良いな」

 

 松下は苦笑しながら髪を被る。太郎が唖然とする。

 

「な、こ、これは……?」

 

「先月桜島の方で色々あってな……」

 

「桜島? ああ、奴邪(ぬや)国復活騒動の……」

 

「そう……古代、九州を中心に西日本に広い領土を持っていたとされる大国、奴邪国……その復活を目論む者に操られて、松下さんたち色々大変だったんだよ~何故か三人揃いも揃ってスキンヘッドにさせられてさ」

 

「調査書には一応目を通しましたが、まさかそんなことがあったとは……」

 

「ああいう調査報告の類は色々と大事な事を伏せてあったりするからね。そのまま鵜呑みにするのは危険だよ~」

 

「肝に銘じておきます……」

 

「それよりも何か大事なことがあったのでは?」

 

 松下がアレクサンドラに尋ねる。

 

「そうそう、間もなくこの艦は関門海峡にさしかかるわ。敵対勢力が仕掛けてくるならばこの辺りじゃないかってセバスティアンが言うから、その注意喚起にね」

 

「敵対勢力?」

 

 太郎が首を傾げる。

 

「タエン帝国……この太陽系近隣の星系をほぼその支配下に置いている強大な帝国よ」

 

「ええっ⁉ タエン帝国と地球圏連合政府との間では先日、月面において、暫定的とはいえ平和条約が締結されたはずでは⁉」

 

「このお嬢さん……オーナーが狙いらしいよ」

 

 閃がドリンクを飲みながら太郎の疑問に答える。

 

「ね、狙いって……な、何者なんですか、アレクサンドラさんは?」

 

「太郎ちゃん、女の秘密は詮索しないものってママから教わらなかった?」

 

「こ、この場合は知る権利があると思います! 僕、自分も一部隊を預かる身なので!」

 

「ふむ、一理あるわね……まあ、折を見て話すわ」

 

「今、話してもらいたいところやけどな……!」

 

 隼子がぼやいたところでラウンジに警報が鳴る。セバスティアンから通信が入る。

 

「敵襲でございます!」

 

「全員、出動よ!」

 

 アレクサンドラの号令で全員がラウンジから飛び出す。



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第17話(2)関門海峡の迎撃戦

「うおっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 アレクサンドラがブリッジに戻ってきたところで、艦が大きく揺れる。

 

「お嬢様!」

 

「状況は⁉」

 

「右舷に被弾しました。エンジンに異常発生! 緊急着水します! 席に座って、耐ショック体勢を取って下さい!」

 

「くっ⁉」

 

 アレクサンドラは急いで席につくと、やや間を置いてビバ!オレンジが海に着水する。

 

「大丈夫ですか⁉」

 

「なんとかね! 敵は⁉」

 

「タエン帝国です! ラワイスタ級一隻! プロッテが十機向かってきます!」

 

「対空射撃用意! 出られるロボットは全機出て頂戴!」

 

 アレクサンドラの指示を受け、電と光と石火、ヂィーユエとファン、トリオ・デ・イナウディトの三機、奇異兵隊の四機が出撃し、艦の上部で相手を迎撃する体勢を取る。

 

「こちらは十二機、数の上では一応こちらが優位だが……」

 

「そうなんだよ、飛行機能を持っているのがジュンジュンの石火しかないんだよね~」

 

 大洋の呟きに閃が反応する。隼子がやけくそ気味に叫ぶ。

 

「一機でもやったんで!」

 

「落ち着け、隼子。電光石火に合体して戦おう」

 

「奥の手はなるべく取っておいた方がいいわ。前回の戦闘でもそうだったけど、連中はまだ部隊を残していそうだもの」

 

 ユエが通信に割って入ってくる。

 

「そうは言ってもだな……」

 

「大丈夫、行くわよ! タイヤン!」

 

「分かった!」

 

「何⁉」

 

 ユエの乗るヂィーユエとタイヤンの乗るファンが人型の形態から戦闘機に変形し、空に舞う。大洋たちは驚いた。

 

「そ、そんな形態あったんかいな⁉ 聞いてないで!」

 

「聞かれなかったからな……」

 

 隼子の叫びに対し、タイヤンが静かに呟く。白色と青色の戦闘機は旋回しながら、プロッテの群れに突っ込んでいく。ユエからの通信が全機に入る。

 

「機動力ならコイツらを圧倒出来る! ただ、戦闘機形態だと武装が貧弱なの!」

 

「何だって⁉」

 

「機銃とミサイル数発しかないのよ! 上手く掻きまわすから、撃墜よろしく!」

 

 そう言うと、二機はプロッテ十機を巧みに翻弄し、ダメージを与える。バランスを崩したプロッテが数機、高度を下げる。松下が叫ぶ。

 

「よし! 後は任せろ!」

 

 松下の搭乗するイナウディト・ロッソがミサイルやガトリングガンを発射し、プロッテを確実に撃墜していく。隼子が称賛する。

 

「流石です! 後半分!」

 

「……いや、体勢を立て直している!」

 

 松下の言葉通り、プロッテの部隊は戦闘機二機による迎撃にはじめは面食らった様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻し、対応しはじめる。

 

「ちぃ! 慣れてきたか!」

 

 タイヤンの苦々しい声が各機に聞こえてくる。大洋が叫ぶ。

 

「隼子! 閃! 行くぞ!」

 

「おおっ!」

 

「了解!」

 

「よし! スイッチ、オン!」

 

 強い光が周囲に放たれ、電と光と石火が合体し、電光石火となる。

 

「『三機合体!電光石火‼』……だから! お前ら何故掛け声を言わないんだ⁉」

 

 大洋が二人に疑問を投げ掛ける。

 

「いちいち言ってられへんやろ……」

 

「なんてことを言うんだ、隼子! 閃! お前、最初は言っていたじゃないか!」

 

「ん~冷静に考えるとやっぱり恥ずかしいからな~」

 

「だから恥ずかしくなどない!」

 

「……か、かっけー! フンドシ兄ちゃん、かっけーな、それ!」

 

 回線をオープンにしているのか、玲央奈の大きな声が戦場に響く。

 

「見ろ、良き理解者がいるぞ!」

 

「良き理解者にフンドシ兄ちゃん呼ばわりされてるで……」

 

「ジュンジュン、飛行形態に変形するよ!」

 

「了解!」

 

 飛行形態に変形した電光石火はすぐさま浮上する。閃が指示を飛ばす。

 

「キャノンで牽制して、ブーメランだ!」

 

「分かったで!」

 

 電光石火は両肩のビームキャノンを発射する。プロッテたちはその砲撃を躱す。電光石火はすかさず背中の両翼を外し、プロッテが避けた方にブーメランとして投げる。

 

「!」

 

 鋭い軌道を描いた二つのブーメランによって、プロッテは脚部や肩部、または頭部を切断され、コントロールを失って、次々と海に落下していく。電光石火は戻ってくるブーメランをキャッチし、すぐさま背中に戻した。

 

「やったで! ⁉」

 

 別の方向から射撃が飛んでくる。隼子が視線をやると、プロッテよりはやや小型の茶色いカラーリングの機体が六機、電光石火に向かって襲いかかってきた。

 

「新手か! 注意しろ、隼子!」

 

「言われんでも!」

 

 隼子はビームキャノンを発射し、ついでブーメランを投げ込もうとする。先程と同じ戦法である。しかし、背中に手をやった瞬間に、既に茶色い機体は砲撃を躱すだけでなく、電光石火との距離を詰めてきた。

 

「早いぞ!」

 

「ぐっ!」

 

 電光石火は茶色い機体のライフルによる攻撃を続けざまに受ける。

 

「……セバスティアンさん、あれらはどういう位置づけの機体なの?」

 

 閃が冷静に回線を繋ぎ、セバスティアンに説明を求める。

 

「『コミシ』という機体です。プロッテと同様にタエン帝国内で広く用いられている量産型で様々な種類がありますが、あれらは空中戦特化の高機動力タイプですね」

 

「主な武装は?」

 

「プロッテと同じく、ライフルと近接戦闘用サーベルに肩部に備えられたバルカンです」

 

「了解! どわっ⁉ 大丈夫、ジュンジュン⁉ なんか喰らいまくってるけど⁉」

 

「迎撃しようと思っているんやが、なるほど、すばしっこいで! 動きが捉えられん!」

 

「……見てられねえ! オレらが助太刀すんぞ!」

 

 玲央奈が叫ぶ。太郎が慌てて制止する。

 

「落ち着いて下さい! 獣如王には飛行機能がありません!」

 

「んなもん、根性でどうにでもならあっ!」

 

「そ、そんな無茶な……」

 

「無茶も過ぎると只の蛮勇だ……ここは任せてもらおう……」

 

「⁉ 誰だ⁉」

 

「行くぞ、ナー!」

 

「楽しい異世界観光もこれで終いか……アーレア ヤクタ エスト!」

 

 海岸の方から叫び声が聞こえたかと思うと、何もない空間から鳥と人が合わさったようなフォルムをした小さな黒色の機体が姿を現して、手にしたサーベルでコミシの集団に斬りかかり、あっという間に六機を撃墜した。

 

「テネブライ⁉」

 

 大洋がその機体に驚く。モニターが繋がる。

 

「……相も変わらずフンドシ姿か……元気そうだな、大洋」

 

 黒色の機体に乗る青年が苦笑交じりの微笑を浮かべる。



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第17話(3)巌流島の邂逅

「自分ら久々に会うたらまたけったいな艦に乗っておるの~」

 

 古代ローマ人の様な服装をした虹色の坊主頭で背中に昆虫の羽のようなものが生えた屈強なマッチョの青年?がビバ!オレンジ号のラウンジを見回しながら呟く。

 

「けったいなのはお互い様やろ……」

 

 隼子が呆れ気味に呟く。

 

「バイクで佐世保からこっちの方に来ていたんだな、美馬」

 

 大洋がマッチョの隣に座る黒ずくめの服を着た男に声をかける。

 

「ああ……ちょっと近くの門司の街を観光していた。海沿いに来てみれば、戦闘を目撃したのでな、助太刀させてもらった」

 

 美馬と呼ばれた男が落ち着いて答える。閃が尋ねる。

 

「この艦のエンジントラブルも解決して、淡路島に向かっているんだけど……これから同行してくれる感じかな?」

 

「必要とあらばな……」

 

 大洋たちのやり取りを遠巻きに眺めていたユエがタイヤンに小声で尋ねる。

 

「ねえ……何者かしら?」

 

「美馬と言っていた……日本人だろう」

 

「それは分かるわよ、私が聞いているのはその隣にいる存在よ」

 

「分からんからこうして距離を取っている……」

 

「再会でお話が弾んでいるところ悪いけど……」

 

 アレクサンドラがセバスティアンを伴ってラウンジに入ってくる。美馬たちが驚く。

 

「! な、なんや⁉ 姉ちゃん」

 

「……ひょっとして異星人か?」

 

「まあ、そうなるわね。初めまして、私はアレクサンドラ。こっちは執事のセバスティアンよ。セバスティアン、準備はいい?」

 

「はい、出来ましてございます」

 

 アレクサンドラの問いにセバスティアンは答える。

 

「結構……このラウンジのモニターを艦内中のモニターと繋げたわ。それぞれ自己紹介をお願い出来るかしら?」

 

「……俺は美馬隆元(みまたかもと)、テネブライのパイロットをやっている」

 

「テネブライ……あの黒い機体ね。ざっと見た感じ、この地球圏のロボットとは随分設計思想が異なるようだけど?」

 

「そうだろうな、あれはエレメンタルストライカーと呼ばれる機種だ」

 

「エレメンタルストライカー? 初耳ね」

 

「こことは異なる世界のものだからな」

 

「異なる世界?」

 

「そう……パッローナと呼ばれる世界だ」

 

「ちょ、ちょっと待てよ! それじゃアンタら、アレか? 異世界人ってやつか⁉」

 

 玲央奈が首を突っ込んでくる。美馬がため息交じりに答える。

 

「……俺は日本人だ、調べれば分かる」

 

 アレクサンドラが視線を向けると、情報端末を確認したセバスティアンが答える。

 

「データの照合終了……十年前の第二新東名高速道路で起こった交通事故の後に行方不明になった美馬隆元氏で間違いありません」

 

「行方不明?」

 

「こいつらに召喚されたんだ……エレメンタルストライカーの操縦適性が高いのはこちらの世界の人間らしいからな」

 

 首を捻るアレクサンドラに美馬が隣に座るマッチョを指し示す。

 

「じゃあこちらのレインボー坊主さんが異世界の住人ってこと?」

 

「召喚って魔法ってことか⁉ すっげー! マッチョのおっちゃん、魔法使えんのか⁉ ますます異世界っぽいな!」

 

「どいつもこいつも異世界異世界うるさいねん! オレから言わせりゃこっちが異世界やっちゅうねん!」

 

 マッチョがテーブルをドンと叩き、背中の羽を大きく広げる。周囲が驚く中、玲央奈が歓声を上げる。

 

「おお、それってマジモンの羽なんだな!」

 

「当たり前じゃ! なんやと思っていたんや!」

 

「オシャレファッションかと思ってたぜ」

 

「オシャレファッションって! 生まれつき付いているもんや!」

 

「生まれつき? レインボー坊主さんって……」

 

「だからなんやねん! そのレインボー坊主って! オレの名前はナー=ランべスや!」

 

「それは失礼……ナーさんはもしかして人間ではないの?」

 

「オレはアレや……極々普通のフェアリーや!」

 

「ええ、フェアリー⁉」

 

「そんなムキムキで⁉」

 

「なんや! フェアリーがムキムキやったらアカンのか⁉」

 

 ナーがアレクサンドラと玲央奈に向かって声を荒げる。

 

「アカンことはないけど……」

 

「なんか、思ってたのと違うな……」

 

「勝手に想像して、勝手に落ち込むな! こっちはずっとコレでやっとんねん!」

 

 露骨にガッカリする玲央奈に対し、ナーが怒る。

 

「お嬢様……」

 

 セバスティアンがアレクサンドラにそっと耳打ちする。

 

「……あら、そうなの?」

 

「なんやねん?」

 

「貴方たち、現在は二辺工業の所属なのね?」

 

「……この世界に戻ってきた当初は地球圏連合に身を寄せようと思ったが、色々と面倒そうでな……ある人に根回ししてもらって、そういうことにしてもらった。ある程度の自由が利く方がなにかと都合が良い」

 

「では、私の部下のようなものと考えても差支えないわね?」

 

「は?」

 

「……どういうことだ?」

 

 ナーと美馬が不思議そうな顔をする。

 

「つい先日、二辺工業を買収させてもらったわ。私が新しいオーナーよ」

 

「⁉」

 

「な、なんやて⁉」

 

「……大洋、本当か?」

 

「ああ、本当だ」

 

 美馬の問いに大洋が頷く。アレクサンドラがグイッと大洋の腕を引き寄せる。

 

「そして、こちらが私のご主人様ね♡」

 

「なっ⁉」

 

「ええっ⁉ 自分ら結婚したんか⁉」

 

「ち、違う! だから誤解を招く発言は止せ!」

 

 大洋が腕を絡ませてきたアレクサンドラを突き放す。

 

「ああん……」

 

「いいか、サーニャ! 何度も言うが、君と俺とはあくまでオーナーと社員という関係だ! それ以上でもそれ以外でもない!」

 

「いや、サーニャって、なんか愛称みたいなん親しみ込めて呼んでもうてるやん! もうそれはそういうことやん!」

 

「わずかひと月くらいで怒涛の変化だな……」

 

 ナーが騒ぎ、美馬は困惑気味に呟く。そこに警報が響く。

 

「セバスティアン!」

 

「……マクシミリアン艦長に確認しました。巌流島付近に巨大怪獣が出現した模様です」

 

「近いわね……行きがけのなんとやらってやつよ、怪獣撃退に出動!」

 

 アレクサンドラの号令で全員がラウンジを飛び出し、格納庫へと向かう。

 

「……どないする?」

 

 取り残されたナーが美馬に問う。美馬はゆっくりと立ち上がる。

 

「答えは決まっている……」

 

 巌流島の南東部の海岸にビバ!オレンジが泊まり、艦載されていたロボットが続々と出撃し、島に上陸する。アレクサンドラが各機に告げる。

 

「巨大怪獣、間もなく、島の北東部に上陸するわ! 各機迎撃して!」

 

「隼子、閃、電光石火に合体しておくぞ」

 

「分かったで!」

 

「まず上陸する所を射撃モードで先制攻撃する。頼むぞ、閃」

 

「出鼻を挫くってわけだね、了解」

 

 玲央奈の駆るストロングライオンの真横にテネブライが着地する。

 

「あら? 出撃すんのか? 新オーナーさんに不服そうだったのに」

 

 通信を繋いできた玲央奈に美馬は淡々と答える。

 

「今はつまらない感情に左右されるべきときではない……」

 

「へ? じゃあどんなときよ?」

 

「危険を省みず、人々の平穏を守るとき……それが救世主としての在り方だ!」

 

「! か、かっけえ~♪」

 

 急加速して飛び立ったテネブライを見送りながら、玲央奈は口笛を鳴らす。

 

「来るわよ!」

 

 アレクサンドラの声と同時に、島の北東部に巨大怪獣が現れる。大洋が驚く。

 

「こ、こいつはカバ型怪獣か⁉」

 

「美馬くん! ありったけの砲撃を加えるから、怯んだところをよろしく!」

 

「承知した!」

 

 閃が電光石火の両膝のビームキャノンと、両肩のマシンガンを放つ。だが、カバのような怪獣は機敏な動きを見せ、前方に飛んでその攻撃を躱す。

 

「躱した⁉」

 

 カバが島に上陸し、テネブライに急接近する。

 

「くっ⁉」

 

 カバが右前脚を振り上げる。テネブライはすんでのところで躱す。ナーが声を上げる。

 

「危なっ⁉」

 

「巨体に似合わずの俊敏さ……少し厄介だな」

 

「ここは任せて……」

 

「なに⁉」

 

 三機のやや大型の戦闘機が空中に現れる。それぞれ紅色、橙色、水色のカラーリングをしている。その内の紅色の戦闘機から女性の声がする。

 

「時間通りにカムヒア! ドキドキドッキング!」

 

「なっ⁉」

 

 次の瞬間、三機の戦闘機が合体し、一体の巨大ロボットとなる。

 

「トライスレイヤー、参上‼」

 

 紅色主体の巨大ロボットが空中でポーズを決める。



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第17話(4)格の違い

「トライスレイヤーや! ホンマモンのトライスレイヤーや!」

 

 隼子が興奮気味に叫ぶ。

 

「「誰?」」

 

 大洋と閃が不思議そうに尋ねる。

 

「いや、なんでトライスレイヤーを知らんねん!」

 

「記憶喪失中なもんで……」

 

「幼少のみぎりから研究一筋だったもんで……」

 

「だから大洋はともかくとして、なんでオーセンまで知らんねん! ウチらが子供のころから第一線で活躍しているロボットチームやぞ!」

 

「ロボットチーム?」

 

「せや! その名も『フリートゥモロークラブ』や!」

 

「相当な実力者なのか」

 

「そうやで」

 

「そうか……だがそれに甘えているわけにもいかん!」

 

 大洋が叫び、フンドシ一丁になる。

 

「な、なんで脱ぐねん!」

 

「閃!」

 

「はいよ~」

 

 電光石火が近接戦闘モードにチェンジし、カバとの距離を詰める。

 

「接近するとより大きく感じるな、だがそれだけ攻撃が当てやすいというもの!」

 

 大洋は電光石火に刀を構えさせ、カバに斬りかかる。

 

「!」

 

「くっ⁉」

 

 電光石火は鋭く刀を振るうが、カバは左前脚の爪を使って、簡単に受け止めてみせる。

 

「!」

 

「どわぁ⁉」

 

 カバの繰り出した右前脚での蹴りを横っ腹に喰らって、電光石火は吹っ飛ぶ。

 

「……大丈夫~? ってか、なんでフンドシ一丁……?」

 

 倒れ込んだ電光石火のモニターに全身紅色の派手なパイロットスーツに身を包み、これまた派手な紅色のヘルメットを被った女性が映り、いまいちやる気のない口調で大洋たちに話しかけてくる。隼子が叫ぶ。

 

「あ、貴女は、大毛利三姉妹の長女で、フリートゥモロークラブのリーダー、大毛利明日香(たもうりあすか)さん! 脱力感たっぷりの大人の女性!」

 

「あ、知ってんの、アタシらのこと?」

 

「そ、そりゃあ勿論!」

 

「ふ~ん。 !」

 

 カバが巨大な口を広げて、倒れ込む電光石火に迫る。隼子が悲鳴を上げる。

 

「ぎゃあああ! く、食われる!」

 

「あらよっと!」

 

 明日香がトライスレイヤーをすぐさま両者の間に割り込ませ、持っていた薙刀をカバの口の中に突き立てて、噛み合わせるのを防ぐ。隼子が胸を撫で下ろす。

 

「た、助かった……ん?」

 

「これくらいでもいいかな? いいか」

 

 女性はぶつぶつ独り言を言いながら、カバの口の中に突っ込ませたトライスレイヤーの右手を引っ込める。手には大きなスポイトのようなものがあった。

 

「な、何をしてはるんですか?」

 

「これちょっと持っといてー」

 

「うおっ⁉」

 

 トライスレイヤーがスポイトを無造作に投げ、大洋が慌てて電光石火に受け取らせる。

 

「……唾液を採取した?」

 

 閃の言葉に明日香が頷く。

 

「そう、新種の怪獣っぽいし、DNA検査に使えれば良いかなって……おっと!」

 

 明日香は薙刀を取り、すぐさまカバと距離を取る。

 

「!」

 

 カバの口がガチン!と大きな音を立てて閉じる。

 

「凄い噛む力だね~大事な薙刀が危うく折れるところだったよ。あ、えっと……フンドシ君たちさ~」

 

「フンドシ君⁉ 誰のことだ⁉」

 

「アンタしかおらんやろ!」

 

「君らの機体とアタシらの機体のコンセプトがどうやら似ているみたいだね」

 

「そのようですね」

 

 閃が冷静に答える。

 

「似たような機体がこうして出逢ったのも何かの縁……先輩として戦い方を見せてあげるから、良かったら参考にして~」

 

 そう言って、明日香が機体を空に上昇させる。

 

「飛んだ⁉」

 

「そうや! トライスレイヤーの紅色は正式名称『スレイヤー・カエルム』! 空中戦を得意とする機体や!」

 

 隼子が大洋に説明する。明日香は薙刀を勢いよく振り下ろす。

 

「『鎌鼬(かまいたち)‼』」

 

 スレイヤー・カエルムの薙刀から斬撃が飛び、カバの巨体を切り裂く。閃が呟く。

 

「薙刀を超高速で振ることによって、衝撃波を発生させた……」

 

「……このように見るからに空中戦が苦手そうな相手にはまず、上から攻めるのが一番」

 

 明日香は淡々と説明しながら、何度か斬撃を飛ばし、カバにダメージを与える。

 

「……!」

 

 カバが苦しそうにもがく。明日香は機体を着地させる。

 

「相手を弱らせたら、攻撃力に高い形態にバトンタッチ……よろしく~」

 

 トライスレイヤーが橙色のカラーリングが主体の形態に変形する。橙色のパイロットスーツとヘルメットを着けた女性がモニターに映る。

 

「今後の戦い方の一助になれば幸いでござる……」

 

「大毛利三姉妹の次女! 大毛利次代(たもうりつぐよ)さん! クールなサムライレディ!」

 

「……別に恨みなどはないが、希望とあらば確かに仕留める、成敗アワーの時間がやって参りました……」

 

 よく分からない謎の口上を述べると、次代は機体の腰を屈ませ、侍が居合い切りをするかのような姿勢を取らせる。首を傾げる大洋に隼子は声をひそめて説明する。

 

「……あれは正式名称、『スレイヤー・テッラ』、近接戦闘や地上戦に長けた機体や……」

 

「光と似ているな……」

 

「……『空蝉(うつせみ)』‼」

 

 次代がスレイヤー・テッラの腰に備えた刀を抜き放ち、カバの巨体を左下から右上に向かって、一瞬の間に二度斬り付け、最後に間髪入れず、右から左に水平に斬る。カバの右後脚と左前脚を切断し、腹部にも深い切り傷を付ける。

 

「ムウ……!」

 

 カバは踵を返し、海に逃げ込む。やや間があってから、明日香が呑気に口を開く。

 

「……しぶとい相手は仕留め損なうことがあるから、追い打ちを忘れずにね~」

 

「情けなし……バトンタッチでござる」

 

 トライスレイヤーが水色のカラーリングが主体の形態に変形する。水色のパイロットスーツを着て、同じく水色のヘルメットを被った女性がモニターに映る。

 

「のんびりし過ぎなのよね、姉さんたちは……今のはあまり良くない例だから」

 

「大毛利三姉妹の三女! 大毛利未来(たもうりみらい)さん! テキパキ働くバリキャリガール!」

 

「ガ、ガールって年齢でもないのだけど……まあ、いいわ!」

 

 未来は機体の下半身を海に浸からせる。両腕を折り曲げ、腰部にピッタリと付ける。

 

「……あれは正式名称、『スレイヤー・マーレ』、海中戦に長けた機体や……」

 

 隼子が再び声をひそめて説明する。

 

「『海割(うみわり)』‼」

 

 未来はスレイヤー・マーレの右腕を思い切り海面に叩き付ける。すると、海がまるで割れたようになり、逃げようと海中を泳いでいたカバの背中を貫いた。カバはぐったりとして海面に浮かぶ。大洋が感嘆する。

 

「す、凄いな、拳の圧でまさに海ごと割ってしまった……海中戦では無かったが……」

 

「押忍‼ ……まあ、ざっとこんなもんよ」

 

「え~と……悪はアタシたちトライスレイヤーが無事倒しました……それじゃあ、平和な明日、また来てくれるかな~?」

 

「きっと来るー! って、なんでアンタら言わんねん! お約束やろ!」

 

 隼子が大洋たちを叱る。閃がぼやく。

 

「いや、約束した覚えないし……」

 

「と、とにかく流石はGofE所属、日本防衛の要の一角なだけあるわ……」

 

「フンドシ君たち~参考になったかな~?」

 

「ええ、脱帽です……生憎帽子の持ち合わせがないので、代わりにフンドシを脱ぎます」

 

「これ以上脱がんでええねん! ってか、服着ろや!」

 

「なんでフンドシ一丁なのか興味あるけど、時間が無いのよね~この辺で失礼するわ」

 

 トライスレイヤーはスポイトを回収すると、三機の戦闘機に分離し、その場から颯爽と飛び去っていった。大洋が考え込む。

 

「大洋? どうかした?」

 

「いや、すっかり格の違いを見せられてしまったと思ってな……」

 

「そうだね~ ! この反応は⁉」

 

 閃がモニターを確認すると、そこには桜色の航空戦艦の姿があった。花が開花したような独特な形状をした戦艦である。

 

「あれは高島津製作所の桜島やんけ⁉ なんでこんな所に⁉」

 

「事後報告になって申し訳ないけど……弊社は高島津製作所と業務提携を結んだわ」

 

 アレクサンドラからの通信が入る。

 

「え? そんなんいつ結んだんですか⁉」

 

「ついさっきよ」

 

「ついさっき⁉」

 

 隼子が唖然とする。

 

「お久しぶりです、電光石火の御三方」

 

 モニターに長い黒髪を背中で束ね、桜色の軍服を着た眼鏡の若く美しい女性が映る。

 

「貴女は……」

 

「戦艦桜島艦長、高島津伊織(たかしまづいおり)です」

 

 伊織は敬礼をして、にっこりと微笑む。約十数分後、ビバ!オレンジ号のブリッジで、アレクサンドラと伊織が対面し、握手を交わす。大洋たちはその様子をラウンジのモニターで見つめる。アレクサンドラが珍しく緊張気味に口を開く。

 

「えっと、高島津艦長? それとも社長代行?」

 

「伊織で構いませんよ、正規の軍人ではありませんし、堅苦しいのは抜きにしましょう」

 

「あら、そう? じゃあ、私のこともサーニャでいいわ」

 

「分かりました、サーニャ」

 

 伊織が微笑を浮かべる。アレクサンドラも相好を崩す。

 

「早速なのだけど伊織、詳細はまだ明かせないのだけど、私たちの艦は狙われているの。主に……っていうか、ほぼ全面的に私のせいなのだけどね」

 

「そ、そうなのですか……」

 

 アレクサンドラの正直な告白に伊織は戸惑う。

 

「お互い、ロボチャンに出場する為に淡路島に向かっているでしょう? 良かったら一緒に行動しない? その方が何かと心強いわ」

 

「ふむ……」

 

 伊織が顎に手をやって考え込む。

 

「駄目かしら……?」

 

「提携パートナーのお力になりたいのは山々なのですが、こちらも色々と寄る場所がありまして……極力航行スケジュールを崩したくはないのです。それに……」

 

「それに……?」

 

「むしろ戦力が欲しいのはこちらというか……」

 

「そう、無理を言ってごめんなさい……」

 

「先程広島に向かわれると伺いました。それならば当てはあります。手配しましょう」

 

「本当? 悪いわね、助かるわ」

 

「困ったときはお互い様です」

 

「! 素敵な考えね……よし! じゃあ、むしろこちらから先に戦力を貸し出すわ!」

 

「ええっ⁉ い、良いのですか?」

 

「良いってことよ。誰か希望者いるかしら?」

 

 アレクサンドラはモニターに向かい問いかける。少しの沈黙の後、大洋が名乗り出る。

 

「俺が行きます、一人で」

 

「ええっ⁉」

 

「大洋⁉ どういうこと?」

 

 突然のことに驚く隼子と閃に大洋が説明する。

 

「先の戦闘で痛感した……俺自身がもっと強くなる必要がある……!」



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第18話A(1)挨拶まわり

                  18A

 

「……とりあえず、大体のクルーとの顔合わせは済みましたね」

 

「すみません……高島津艦長自らご案内頂いて……」

 

 桜島の艦内通路で、大洋は伊織に頭を下げる。

 

「ああ、気にしないで下さい。私も皆の働きぶりをチェックする必要があったので……もっとも皆、真面目に仕事に取り組んでくれていますが」

 

 伊織は微笑を浮かべる。二人は歩きながら会話を続ける。

 

「しかし、かなりクルーが増えましたね」

 

「地元の鹿児島だけでなく、文字通り九州中を駆け回って人を集めました。高知や、先日寄った呉でも経験豊富な人材が加わってくれたのです。ですが……」

 

「……パイロットが不足気味ということでしたね」

 

 大洋の言葉に伊織が頷く。

 

「……ブリッジクルー、エンジニア、艦内スタッフなどはある程度充実しました。しかし、肝心の機体やそのパイロットが……質はともかくとして、量がまだまだ足りません。桜島単艦でもそれなりには戦えますが……ですから大洋さん、貴方が一時的にとはいえ加わって下さって心強い限りです」

 

「……期待に沿えるように精一杯努めます。一肌脱ぎます」

 

「あ、ありがとうございます。そ、そのお気持ちだけで十分です。貴方の場合は文字通り本当にお脱ぎになってしまいますからね……」

 

「……ひょっとしてマズかったですか?」

 

「マズくないと思っていたのですか?」

 

「多少の例外はあれど……味方の士気向上に繋がっていたかと思っていたのですが……」

 

「ず、随分とまた前向きな思考ですね……話は変わりますが、サーニャ、アレクサンドラさんは貴方がこの艦に合流するのを少し嫌がっておられましたね?」

 

「……まあ、新婚夫婦としては出来る限り一緒にいたいと考えるのは地球人でも異星人でも一緒なのでしょうね」

 

「なるほどね……って、はあっ⁉ し、新婚⁉ ご、ご結婚なさったのですか⁉」

 

 伊織が思わず立ち止まる。

 

「い、いや、向こうが暴走しているようなものですが……」

 

 大洋が事情を説明しようとするが、伊織の耳には届いていない。

 

「あ、貴方はほんのひと月前、鹿児島のホテルで四人の女性を自分の部屋に連れ込んでいたではありませんか!」

 

「あ、ああ、あれはですね、なんと言いますか……」

 

 大洋もそのことを思い出す。高島津製作所に招待され、鹿児島湾で行われた親善試合に臨むにあたり、隼子や閃らと作戦会議を行ったのである。そのことをどう説明したものかと考えを巡らす。

 

「なんなのですか?」

 

「ひ、秘密の打ち合わせと言うか……」

 

「ひ、秘め事⁉」

 

「い、いや、そんなこと言ってないですよ⁉」

 

「四人もの女性を誑かした上に、何も知らない異星人の方と婚姻関係を結んでしまうとは……は、破廉恥ですわ!」

 

 伊織がその場から走り去ってしまう。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! 行ってしまった……」

 

 通路に一人残された大洋は頭を掻いて呟く。

 

(後はパイロットの連中との顔合わせだったか……確かこの先のラウンジルームに皆集まっていると言っていたな。高島津さんの誤解も解きたいところだが、今は挨拶まわりの方を優先するか……)

 

 大洋は再び歩き出し、ラウンジルームに入る。

 

「おおっ! 大洋くん、久々やなあ!」

 

 部屋に入ってきた大洋を見て、恰幅の良い中年の人物が歩み寄ってくる。

 

「増子さん! お久しぶりです」

 

 この人物は増子益子(ましこますこ)、大分県にある小堀(こぼり)工業が開発したロボット、『卓越(たくえつ)』のメインパイロットを務める女性である。卓越はロボチャン九州大会一回戦で、大洋たちと戦った。

 

(相変わらずおじさんかおばさんかよく分からない風貌をしていらっしゃる……)

 

 大洋が失礼過ぎることを考えていると、背後からいきなり叫び声がする。

 

「多・田・野で~~~~~~~~~~~す!」

 

「⁉」

 

 大洋が驚いて振り返ると、そこには五分刈り頭の男性が立っていた。

 

「多田野くんか!」

 

「はい、お久しぶりですぅ⁉」

 

 突然、五分刈り男が悶絶しながらしゃがみ込む。その後ろに立つ黒髪ロングの女性に尻を思い切り蹴られた為である。

 

「いきなり奇声ば発するな、みっともない……」

 

「す、すみません、キックさん……ご指導ありがとうございます……」

 

「だから、アタシの名前は菊じゃ。小さい『ッ』を付けんな……」

 

「キックさん……じゃなくて梅原さんもお久しぶりです」

 

「ふん、久しぶり言うても一か月くらいじゃろうが……」

 

 この二人組は、男性が多田野一瞬(ただのいっしゅん)、女性が梅原菊(うめはらきく)と言い、宮崎県の大野田(おおのだ)エンジニアリングが開発したロボット、『ダークホース』のパイロットである。大洋たちとはロボチャン九州大会の二回戦で争った。

 

(梅原さんに蹴られて喜ぶ多田野くん、歪んだ関係は相変わらずのようだな)

 

「……なにか失礼なことを考えてちょるやろ?」

 

 梅原の問いに大洋は話題を変える。

 

「み、皆さん、桜島にそのまま乗艦していたんですね」

 

「そうたい! 出向扱いじゃ。元の会社としても貴重な実戦データが取れるし、何よりギャランティーも良いから、家計も助かるたい!」

 

「か、家計ですか……」

 

「あ、あの~」

 

 一人の青年が話しかけてくる。大洋が首を傾げる。

 

「君は……誰だ?」

 

「いや、だから俺っすよ! 『卓越』のサブパイロットの曽我部(そがべ)っすよ! なんで覚えてないんすか⁉」

 

「……すまん!」

 

「いや、謝られても⁉」

 

「はっ⁉ そちらにいるのは、佐賀の守り神、『サガンティス』と北九州の暴れん坊、『リベンジオブコジロー』のパイロットのお二人⁉ その節は大変お世話になりました!」

 

「なんで、大会で戦っていない相手のことは覚えているんすか⁉」

 

「奴邪国騒動の時にともに戦った戦友だ、覚えていないわけがない。ちょっと失礼……」

 

「俺もともに戦ったんすけど⁉」

 

 その場から去る大洋の背中に曽我部の叫びが虚しく響く。

 

(……さてと、大体挨拶は済んだか?)

 

「こんにちは!」

 

「うおっ! き、君たちは……?」

 

 大洋の前に髪の毛を蜜柑色にした小柄な三人組の女の子たちがちょこんと並んでいる。

 

「挨拶よろしいでしょうか?」

 

「あ、ああ……」

 

「ありがとうございます! それじゃあ……」

 

「ミカンです!」

 

「イヨカンです!」

 

「ポンカンです! 三人揃って……」

 

「「「『カントリオ娘』です!」」」

 

 三人が両手で丸を作り、胸の前に突き出すという揃いのポーズを決める。

 

「お、おお……俺は疾風大洋だ、よろしく……」

 

 あっけにとられながらも大洋は挨拶を返す。



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第18話A(2)新たな出会い

「「「よろしくお願いします!」」」

 

「げ、元気だな……君たちも乗員なのかい?」

 

「はい! 私たちは呉の港で採用して頂きました!」

 

 蜜柑色の髪を右側サイドテールにまとめた女の子が元気よく答える。

 

「し、しかし、その揃いのフリフリとした服装……」

 

「わたしたち地元愛媛を拠点に活動しているローカルアイドルなんです!」

 

 蜜柑色の髪をポニーテールにした女の子がはきはきと答える。

 

「そ、そのローカルアイドルの娘たちがなんでまた戦艦に?」

 

「ワタシたちでもお役に立てることがあるかと思いまして! 思い切って乗艦採用試験を受けさせて頂きました!」

 

 蜜柑色の髪をツインテールにした女の子が明るく答える。

 

「そ、そうか……そ、それはだいぶ思い切ったな……つまり艦内のムードメーカーみたいなものなのかな?」

 

「そうですね、私たち毎日艦内のどこかしらでライブイベントをやっていますので、良かったら見にきて下さい! お願いします!」

 

 サイドテールの娘がまた元気よく答える。どうやらこの娘がリーダー格のようだ。

 

「そ、そうか……まあ皆を元気づけるのも重要なことだな……」

 

 大洋が尚も戸惑い気味に答える。それを察してポニーテールの娘が口を開く。

 

「もちろんですが、わたしたちはクルーとしての仕事もしっかりとこなしていますよ」

 

「そうなのか?」

 

「当然ですよ!」

 

 ツインテールの娘が頷く。

 

「私、ミカンはブリッジでサブオペレーターをしています」

 

「わたし、イヨカンは格納庫で整備士をしています」

 

「ワタシ、ポンカンは医療スタッフアシスタントをしています」

 

「え? あ、ああ、お手伝いをしているというわけだな」

 

「お手伝いではなく、正規のお仕事ですよ!」

 

「ちゃんとした資格持ちです」

 

「ほら、これがライセンスです」

 

 三人がそれぞれライセンスを大洋に見せてくる。

 

「おおっ……」

 

「私は他にも食堂で働いています。これが調理士免許です」

 

「わたしは洗濯部署でも働いています。クリーニング師のライセンスです」

 

「ワタシも清掃部署でも働いています。艦船環境衛生管理技術者の資格です」

 

「こ、国家資格じゃないか!」

 

「他にもまだ色々ありますよ! 三人合わせて、全部で百個ほど資格を取っています」

 

 ミカンが胸を張る。

 

「す、すごいな……なんでまたそんなに?」

 

「今世紀の初めころから続くアイドル戦国時代……ここ最近、終息するどころか、ますます厳しさを増してきています」

 

 イヨカンが淡々と説明する。

 

「ほ、ほう?」

 

「他のアイドルとの違いを明確に示さないといけませんから!」

 

 ポンカンが声を上げる。

 

「た、大変だな……」

 

「前線で戦う疾風さんに比べればなんてことはありません! そうだ。元気をつけるために一曲どうですか? ちょうど新曲が出来たんです!」

 

「あ、ああ、折角だけど、またの機会にお願いしよう……」

 

「そうですか、それでは失礼します! せーの……」

 

「「「お疲れ様です!」」」

 

「お、お疲れ様……」

 

 三人娘はスタスタとその場を後にした。

 

「わざわざ戦艦勤務を希望するとは、アイドルというのも楽じゃないんだな……」

 

 大洋がラウンジの椅子に腰を下ろす。飲み物でも飲もうかと思っていると、目の前にブラックコーヒーがどんと置かれる。

 

「え……?」

 

 テーブルを挟んだ目の前の席に、日焼けした体格の良い男性が座る。

 

「奢っちゃる! グイッと飲むぜよ!」

 

「あ、ああ、ありがとうございます……」

 

 大洋が困惑する。男性が首を傾げる。

 

「なんじゃ? ブラックは嫌いか?」

 

「い、いいえ、別にそういうわけではありませんが、今はなんとなくオレンジジュースの気分だったもので……」

 

「出撃前にブラックコーヒーをごくごくと飲み干してこそ男! 良い仕事は出来んぞ!」

 

「は、はあ……出撃前ということは貴方もパイロットですか?」

 

「おう。挨拶が遅れたのう! わしは外原慎次郎(とのはらしんじろう)! この艦所属のパイロットじゃ!」

 

「疾風大洋です。よろしくお願いします」

 

「噂は聞いている! フンドシ姿でロボチャン九州大会で暴れ回っていたそうじゃな!」

 

「お、お恥ずかしい限りです……」

 

「何を恥ずかしがることがある!」

 

「⁉」

 

 大洋は俯いた顔を上げる。外原は続ける。

 

「フンドシ一丁は不退転の覚悟の表れ! どうしてなかなか出来ることじゃないぜよ! もっと自信を持つがよ!」

 

「は、はい……ありがとうございます! 外原さん!」

 

 覚悟の表れとかそんな大層なものではなく、単に性癖だと思われる。何故ならその方が妙に落ち着くからだということは大洋は黙っておくことにした。

 

「さん付けなんて他人行儀じゃな! 外原で構わんぜよ!」

 

「で、では、俺のことは大洋と呼んで下さい!」

 

「大洋……大きい洋、良い名前じゃ! これからよろしく頼む!」

 

「はい!」

 

 二人がガシッと握手を交わしたところで、ラウンジルームに警報が響く。

 

「!」

 

 ブリッジから連絡が入る。

 

「正体不明の敵から攻撃を受けています! 各自出撃して下さい!」

 

「正体不明……?」

 

「行くぞ! 大洋!」

 

 外原に大洋も続き、光に乗り込んで出撃しようとして、艦の外に出るが、珍しく逡巡する。

 

(くっ、瀬戸内海上だな、光には飛行機能が無い! ど、どうすれば……?)

 

「大洋、乗れ!」

 

「⁉」

 

 発射カタパルトに朱色を基調としたカラーリングの大きめの戦闘機が現れる。

 

「外原⁉」

 

「早くせえ!」

 

「あ、ああ!」

 

 大洋は光をその戦闘機の上に飛び乗らせる。

 

「よし、行くぜよ!」

 

 戦闘機は勢いよくカタパルトから発進した。戦闘機は速いスピードを維持したまま、高度を下げ、瀬戸内海上に点在する島々の間をすり抜けて飛んでいき、ミサイルを発射する。ミサイルは小島に隠れていたロボットたちに的確に命中する。

 

「す、凄い!」

 

「これくらい朝飯前じゃ! ワシは空援隊(くうえんたい)隊長、じゃからな!」

 

「く、空援隊⁉」

 

「はははっ! 驚いたか! あの空援隊ぜよ!」

 

「すまん! 初耳だ!」

 

「初耳かい!」



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第18話A(3)瀬戸内海の攻防戦

「ところで相手のロボットはなんなんだ⁉」

 

「皆目見当もつかん!」

 

「そ、そうか……」

 

 外原のはっきりとした物言いに大洋は黙った。

 

「瀬戸内海には大小合わせて約八百の島々がある! 仕掛けどころとしては悪くない!」

 

 茶色のカラーリングをした機体が島の岩陰などを巧みに利用し、射撃してくる。

 

「くっ、正確な射撃だ。やるな……む!」

 

 大洋がモニターを確認すると、茶色の機体が数機、海上を滑走するように動き、桜島に攻撃を加えている。桜島も反撃するが、うまく距離を取って、再び接近して攻撃、というヒット&アウェイ戦法を用いている。外原が叫ぶ。

 

「艦の方が狙われちょるか!」

 

「やつら、海の上を滑っているぞ!」

 

「よく見てみい! 足元に特殊なホバースケートをつけているんじゃ! あれで海上でも地上とほぼ同様に動き回ることが出来る!」

 

「くっ、迎撃しないと……」

 

「あの艦には飛行機能を持った機体がこの『彼方(かなた)』しかないようなもんじゃからな、海上戦ということもあるし、そもそも単純な機動力で劣っているんじゃ!」

 

「ちょっと待った! 機動力ならば遅れは取らんばい!」

 

「増子さん⁉」

 

 海上に向かって卓越が降り立ってくる。外原が叫ぶ。

 

「卓越の機動力は確かに高い! だが、それは平地での話じゃ!」

 

「まあ、見ちょきなさい!」

 

 卓越は四つん這いの姿勢を取り、両腕と両脚をそれぞれ重ねると、合わさった腕と脚が車輪へと変形した。増子が笑いながら叫ぶ。

 

「はははっ! こいが卓越のもう一つの形、『二輪車モード』たい!」

 

「いや、だから増子さん、何で回線をオープンにしちゃうんですか!」

 

「男は細かいことは気にしたらいかん、曽我部くん!」

 

 外原は驚く、

 

「二、二輪車モードだと⁉」

 

「これを見るとね!」

 

「いや、映像回線まで繋いじゃったよ⁉」

 

 大洋たちのモニターに自転車の様になったシートに座る増子たちの姿が映し出された。

 

「そ、それは……⁉」

 

「このモードになることによって、卓越のスピードは更に一段階上がる。『極東の快速列車』と呼ばれる超スピード、その目に焼き付けるたい!」

 

 そう言って、増子たちは物凄いスピードでペダルを漕ぎ始めた。その結果に大洋が驚く。

 

「なっ! う、海の上を走っている⁉」

 

「ふはははっ! どうたい、大洋くん!」

 

「凄いですよ、増子さん!」

 

「ただ、これには問題があってな……」

 

「問題?」

 

「べダルを漕ぐことに集中せんといかんから、その他の行動がとれん!」

 

「ええっ⁉ こ、心なしか、徐々に海に沈んでいっているような……」

 

「増子さん、マズいっすよ! とりあえず近くの陸地に上がりましょう!」

 

 曽我部の提案で、卓越はその場から離れる。大洋が困惑気味に呟く。

 

「な、なんだったんだ……」

 

「しかし、相手も戸惑い気味ぜよ! 反撃するなら今じゃ!」

 

「それはアタシらに任せてもらおうか」

 

「梅原さん! ですが、ダークホースなどにも飛行機能がないのでは⁉」

 

「その為に私たちがいます!」

 

「その声は⁉」

 

「カントリオ娘、いっきま~す!」

 

 三機の飛行機が桜島のカタパルトから飛び出す。カラーリングは蜜柑色で、そのフォルムは丸みを帯びている。

 

「ひょっとして、乗っているのはミカンたちか⁉」

 

「はい、順に柑橘壱号、柑橘弐号、柑橘参号と言います!

 

 モニターに映ったミカンが元気よく答える。蜜柑色のパイロットスーツに着替えている。

 

「せ、戦闘にも参加するとは……」

 

「ライセンスは所持しています! ご心配なく!」

 

「そうは言ってもだな……」

 

「皆さん、お願いします!」

 

 三機の柑橘の上に三機の機体がそれぞれ飛び乗った。そして、三機は敵機に接近する。初めは面食らった敵機たちだったが、すぐさま射撃の狙いを桜島からそちらに切り替える。

 

「ふん!」

 

 緑色の機体、サガンティスが銃弾を跳ね返し、そのまま、敵機に突っ込み、強烈なパンチを繰り出し、敵機を半壊させる。

 

「流石はサガンティス! 高い防御力と一撃の破壊力です!」

 

 サガンティスを上に乗せているイヨカンが称賛する。

 

「せい!」

 

 青色の機体、リベンジオブコジローが長い刀を振り回し、離れていた敵機の頭部を刎ねる。

 

「出た! 『秘剣・燕倍返し』! 見事な太刀筋です!」

 

 リベンジオブコジローを乗せているポンカンが褒め称える。

 

「喰らえ!」

 

 上半身が人型で下半身が馬型の黒いロボット、ダークホースがその両方の後ろ脚から鋭い蹴りを放ち、敵機の頭部と右肩部を吹き飛ばす。

 

「素晴らしい蹴りです!」

 

 ミカンが拍手を送る。多田野が答える。

 

「当然です! なんてたって、キックさんの蹴りですよ!」

 

「菊じゃ! お前、後で尻ば蹴り飛ばす……」

 

「はっ、教育的指導ですね! ありがとうございます!」

 

「な、何故、お礼を……?」

 

 梅原と多田野のやりとりにミカンは引き気味になりながら首を傾げる。

 

「桜島に群がる敵機は退けた! 反撃ぜよ!」

 

「おおっ! って⁉ ど、どうした⁉」

 

 彼方が急に機体のバランスを崩した為、大洋は戸惑った。外原は言いづらそうに口を開く。

 

「……先の懲戒任務から間を空けずに出撃したので、エネルギー切れが近いぜよ……」

 

「なんだって! うおっ!」

 

 大洋の乗る光が、射撃を喰らう。

 

「だ、大丈夫か!」

 

「ちぃ! 駆動系に異常発生! 本当に正確な射撃だな!」

 

 大洋が忌々し気に吐き捨てる。

 

「お二人とも待っていて下さい! イヨカン! ポンカン!」

 

「ミカン⁉」

 

 ミカンたちはダークホースたちを近くの陸場に下ろすと、すぐさま大洋たちに接近する。

 

「イヨカン!」

 

「了解!」

 

 イヨカンの操縦する柑橘弐号の機体中央部分から数本のマニュピレーターが出てきて、光の故障箇所を急ピッチで修理し始める。大洋が驚く。

 

「修理機能付きなのか⁉」

 

「あくまでも応急処置のようなものですが……これで動くはずです!」

 

「おおっ! 動くぞ! だが、彼方のエネルギーの方が……」

 

「それはこちらに任せて下さい!」

 

 ポンカンが自身の乗る柑橘参号を彼方に限りなく近付け、手際よく彼方の機体側部にある供給口にホースを繋ぐ。大洋が再び驚く。

 

「こっちは補給機能付きか⁉」

 

「補給艦に比べれば、もの足りませんが……充填しました!」

 

「おおっ、充填されたぜよ!」

 

「ありがとう! 助かった!」

 

「まだです!」

 

 ミカンが叫ぶ。大洋が戸惑う。

 

「な、なんだ……?」

 

「……敵機データ分析完了……海賊集団『真倭寇(しんわこう)』の用いる機体、『水猿(すいえん)』の機体群と確認! いずれも主な武装はライフルとブレードのみ! 光のスペックならば、落ち着いて戦えば後れを取ることはありません!」

 

「ミカンの乗機は分析機能付きか!」

 

「直接の戦闘では援護射撃しか出来ませんが、こういう形で役立てます! せーの……」

 

 ミカンたちが大洋とモニターを繋ぎ、声を揃えて叫ぶ。

 

「「「ご武運を!」」」

 

「うおおおっ! 燃えてきたぞ!」

 

「⁉ な、なんで服を脱ぐんですか⁉」

 

 フンドシ一丁になった大洋が見て、ミカンたちが戸惑う。

 

「理由などない!」

 

「せめてあって下さい!」

 

「行くぞ! 外原!」

 

「おおっ!」

 

 外原は彼方を巧みに操縦し、敵機との間合いをあっという間に詰め、大洋が光に刀を振るわせる。次々と敵機を破壊し、戦場に残っていた敵機はいなくなった。

 

「見たか!」

 

「わ、分かったから服を着て下さい! ……! まだ敵がいます!」

 

「何⁉ どわっ⁉」

 

 海中から巨大なサメのような艦が出現し、先端部分を口のように開いて、光を挟み込む。ミカンが間髪入れず叫ぶ。

 

「真倭寇の用いる艦艇の一種、『忍鮫(しのびさめ)』です! そのままでは噛み砕かれてしまいます!」

 

「くっ! は、外れん!」

 

「アミューズパフォーマンス!」

 

「⁉」

 

 ターコイズブルーのような色合いで獅子の顔をした人型ロボットが海中から飛び出し、忍鮫に対して、鋭いパンチを喰らわせる。光は忍鮫から逃れることが出来た。

 

「ようやく着いたさ! ここがロボチャン会場だな⁉」

 

「どう見たって違いますよ!」

 

 獅子のロボットから若い男女の声が響く。



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第18話A(4)泳いできた

「え~じゃあ、ここってどこさ~?」

 

「どこって言われても……! 大星さん! 回線!」

 

「海鮮? まあこの辺のも美味そうだけどね~」

 

「違います! 回線がオープンになっています!」

 

「まあ、ちょっと落ち着くさ~山田ちゃん」

 

「落ち着いてなどいられませんよ!」

 

 戦場に突如として現れた獅子の顔をした人型ロボットに誰しもが戸惑ったが、攻撃を喰らった忍鮫は、このロボットを敵とみなし、先端部分を開いて突撃する。

 

「おっ! なんかこっちに向かってくるさ~」

 

「そりゃあ、思いっ切りパンチをお見舞いしちゃいましたからね!」

 

「いやいや、それは海上に出てきたところにいた向こうも悪い!」

 

「全面的にこちらが悪いんですよ!」

 

 ミカンが尚も戸惑いながらも、通信を繋ぐ。

 

「どなたたちか知りませんが、気を付けて下さい! 海賊集団、真倭寇の艦です!」

 

「し、真倭寇⁉ どこかで見たことがあると思ったら……」

 

「因縁のある相手さ~ならばひと安心! 容赦なくぶっ飛ばせる!」

 

「ええっ⁉」

 

 ミカンが驚く。獅子のロボットもそれなりの大きさではあるが、忍鮫はそれよりも一回り大きい。それで衝突攻撃のようなものを繰り出されたら、吹き飛ばされるのはどうみても獅子のロボットの方だ。そのことは獅子のロボットに同乗している女性もよく理解しているようで、悲鳴に近い声を上げる。

 

「む、無理です! 大星さん、回避して下さい!」

 

「何も慌てることはないさ~」

 

 大星と呼ばれた男性がのんびりした声で応える。

 

「慌てますよ! って、ぶ、ぶつかるー‼」

 

「『シーサーナックル』‼」

 

「⁉」

 

 獅子のロボットは迫りくる忍鮫の顎の辺りに右の拳でパンチをかました。忍鮫の大きな艦体が空高く跳ね上がる。

 

「『……アッパーカット』! どうよ? この狙いすましたパンチは?」

 

「狙ってないですよね⁉ 完全に跳ね上ったのを見てから、後付けで『アッパーカット』って言いましたよね⁉」

 

「細かいことは良いじゃないの、山田ちゃん」

 

「いや、結果オーライでは困るんですよ!」

 

 山田と呼ばれた女性が叫ぶと同時に、空に舞っていた忍鮫が突如としてエンジンを吹かし、その場から離れようとした。ミカンが叫ぶ。

 

「わずかな時間ですが、飛行機能も備えています! ここから離脱するつもりです!」

 

「おっと~逃がしはしないさ~」

 

 大星は獅子のロボットの左の掌を広げ、右拳をポンポンと叩く。

 

「無理ですよ!」

 

「え、なんでさ~?」

 

「この機体はそれなりに高い跳躍力を備えていますが、飛べるわけではありません!」

 

「海の上には立てるのに?」

 

「むしろなんで海の上に立てているんですか⁉」

 

「なんだろうね~『立てたらいいな~』って思ったからかな~」

 

「搭乗者の思考がダイレクトに反映されている? ……って、性能テストの場でもなんでもないのに、ポテンシャルを引き出さないで下さい!」

 

「獅子ロボットのパイロット! よくやってくれた! 後は任せろ!」

 

 大洋がモニターを繋ぐ。

 

「ほ、ほら、軍人さんかな? 後はお任せしましょう……って、きゃあああ⁉」

 

「どうした⁉」

 

「こっちのセリフです! なんで半裸なんですか⁉」

 

「これが俺の勝負服だ!」

 

「な、なんか、訳のわからないことが立て続けに……頭痛くなってきた……」

 

「? とにかく行くぞ! 外原!」

 

「おっしゃ! 任せとけ!」

 

 光を乗せた彼方が急上昇し、忍鮫に追い付く。大洋は刀をあえて納刀する。

 

(あの人がやっていた、抜刀術を真似てみるか……)

 

 大洋は先の巌流島でのスレイヤー・テッラが繰り出した技を思い浮かべる。

 

「大洋! 接近したぜよ!」

 

「よし! えっと……『慈しみ!』」

 

 大洋が光に刀を振るわせ、忍鮫の大きな艦体はエンジン部分を切り離され、ゆっくりと海上に落ちていく。外原が感心したような声を上げる。

 

「爆発はさせんかったか……成程、あの様子ならば、死者は出んじゃろう。悪い相手に対しても、慈愛の心は失わない……大した武士道ぜよ」

 

「……そういうことだ!」

 

 大洋は技名をうろ覚えだったことは黙っておくことにした。伊織が各機に呼びかける。

 

「敵部隊、沈黙を確認……ご苦労様でした。全機帰投して下さい……そちらの獅子のロボットさんも良かったら来てもらえる? こちらは高島津製作所所属の航空戦艦桜島です」

 

「真倭寇……黄海、東シナ海、南シナ海、または東南アジアでの海賊行為はいくつか確認していましたが、まさか瀬戸内海にまで進出しているとは……構成員には日本人も多数含まれているようなので、そこまで不思議なことではないと言えばそうなのですが」

 

 桜島のブリッジにて、ミカンが淡々と説明する。

 

「あいつら、沖縄の海でも悪さしているさ~」

 

 かりゆしウェアにハーフパンツというリゾート感丸出しの服装をした短髪の男が伸びをしながら呟く。年ころは少年と青年の間というところであろうか。さほど大柄ではないが、筋肉質の身体をしているのが見て取れる。伊織が問いかける。

 

「因縁がどうとか言っていましたね?」

 

「先月、ちょっとね~五色の変なロボットが助けてくれたけど」

 

「変なロボットとか言わないで下さい! 大恩人でしょう!」

 

 ミディアムロングの髪をやや茶色に染め、眼鏡を掛けた白衣姿の女性が嗜める。

 

「……貴方たちの所属とお名前を教えて下さいますか?」

 

「は、はい! 琉球海洋大学工学部学生の山田いつきです! こちらが……」

 

「オレは大星修羅(おおほししゅら)さ~」

 

「琉球海洋大学……確か、ロボチャン沖縄大会を勝ち上がっていましたね」

 

「ええ、そうです!」

 

「あの獅子のロボットではなかったと思いますが……?」

 

「そ、それは……」

 

「シーサーウシュはついこないだ太古の深い眠りから目覚めたんさ、たまたま通りがかったオレが搭乗者に選ばれたってわけさ~」

 

「お、大星さん、全部正直に言わないで下さい!」

 

「ウシュ……沖縄語で御主や王を意味する言葉、さながら獅子王と言ったところですか」

 

「ほう、博識だね~お姉さん」

 

「指を差さない!」

 

「……何故に瀬戸内海に?」

 

「沖縄から泳いできたからさ~」

 

「お、泳いできた⁉」

 

「そう、ロボチャン全国大会に出場する為さ~良いトレーニングになると思って」

 

「せっかく淡路島への輸送費をクラウドファンディングで集めたのに……」

 

「お前もロボチャンに出るのか、よろしくな」

 

「お、フンドシのアンちゃんも出場者かい? なるほど、強そうだね。オレは子供の頃から琉球空手をやっているから、強いやつと戦うのは何よりの楽しみさ~」

 

「ふっ、それは同感だ」 

 

 修羅と大洋が笑いながら見つめ合う。伊織が言い辛そうに口を開く。

 

「あの……ロボチャン全国大会は行われないですよ」

 

「「ええっ⁉」」

 

 大洋たちが揃って驚く。



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第18話B(1)艦内風景

分岐ストーリーになります。

18話Aと時間軸は同じです。


                  18B

 

「オーセンよ、本当に良かったんか?」

 

「なにが?」

 

 ビバ!オレンジ号のラウンジで隼子が閃に尋ねる。

 

「いや、なにがって大洋を向こうに一人で行かせたことや」

 

「まあ、可愛い子には旅をさせよって言うし……」

 

 閃はオレンジジュースを飲みながら呑気に答える。

 

「旅って……」

 

「本人がパイロットとしての力量不足を感じたんでしょ。それを補う為に個人で視野を広げようと思ったのなら、それはなかなか止められることじゃないよ。まわりまわって私たちの為にもなるわけだしね」

 

「そらそうかもしれんけどやなあ……」

 

「正妻として不安になる気持ちは分かるけどね」

 

「だ、誰が正妻やねん!」

 

 隼子は顔を真っ赤にしながら首を振る。その様子を遠巻きに眺めながら、ユエとタイヤンが会話する。

 

「俺たちは疾風大洋について行かなくて良かったのか?」

 

「……流石に三人も一緒に移るのは許可されなかったでしょ。こちらの艦も戦力が潤沢っていうわけじゃないし」

 

「ならば俺かお前がどちらかがついて行くのは?」

 

「それにしたって不自然過ぎるわ。咄嗟に理由も思いつかなかったしね」

 

「……大丈夫だろうか?」

 

「念の為、界隈には偽の情報を流しておいたわ」

 

「偽の?」

 

「ええ、色々とね……」

 

「そうか、なるほどな……」

 

 タイヤンが納得したようにこくこくと頷く。その二人を離れたところで腕組みしながら、ウルリケが見つめる。梅上が声をかける。

 

「どうしたの、そんな難しい顔をして?」

 

「我々奇異兵隊は常人より耳が良いのですが……」

 

 ウルリケはニット帽を外して、オオカミ耳をわざとピクピクさせる。

 

「ああ、実質四つあるわけだからね……それで?」

 

「あの二人……」

 

 ウルリケは顎をしゃくって、さり気なくユエたちを指し示す。

 

「え? ユエとタイヤン? どうかしたの?」

 

「こちらに聞こえてくる内容と口の動きが違いますね」

 

「そ、そんなことが出来るの?」

 

「どうやら出来るようですね」

 

「な、なんのために?」

 

「聞かれるとマズいことを話しているようですね」

 

「マズいこと……?」

 

「それが何かまでは分かりませんが」

 

「そもそもあの二人何者なのかしら? どう見ても少年少女だけど……」

 

「注意していた方が良いかもしれませんね。他の面子は警戒心が薄すぎます……」

 

 ウルリケは呆れたような視線を周囲に向ける。松下と太郎が将棋を指している。

 

「王手」

 

「ま、待った!」

 

「待ったは無しだぞ、太郎」

 

「う、うう……」

 

「何をしているのかと思ったら将棋か」

 

「あ、美馬さん……あ、あの、自分は奇異兵隊の隊長なんです」

 

「見かけによらずそうらしいな」

 

「経験豊富な松下さんからリーダーとしての心構えを教わろうと思いまして……」

 

「それで将棋か、おっさんが自分の趣味に付き合わせているだけじゃないか?」

 

 美馬はからかうような口調で松下に話しかける。

 

「将棋というのは色々なことを学べる……」

 

「そういうものか」

 

「大体、美馬よ、お前は向こうの世界に行った十年前に十八歳くらいだったのだろう? それならば俺とそんなに歳は離れていないだろうが」

 

「向こうとこの世界は時間の経過は違うようだからな、単純に歳を十足すわけではない」

 

「ふん、そうきたか」

 

 松下は苦笑を浮かべる。

 

「美馬の兄貴!」

 

 玲央奈が駆け寄ってくる。

 

「なんだ……?」

 

「兄貴に聞きたいことがあるんだけどよ!」

 

「兄貴はやめろ……」

 

 美馬はうんざりした顔になる。

 

「ポッローリでの武勇伝を聞きたいんだよ!」

 

「パッローナだろう……」

 

「それだ! 話を聞かせてくれよ!」

 

「断る……」

 

「頼むよ~救世主さんよ~」

 

「ちょっと馬鹿にしているだろう……」

 

「そんなことないって!」

 

「その手の話なら、ナーにでも聞けば良い……」

 

「いや、それがご覧の通りでよ……」

 

「?」

 

 美馬が視線をやると、三人の男女がワイワイと騒いでいた。

 

「オーウ! ナイスなマッスルね、ミスター竹中!」

 

「ホンマや、二頭筋がデカいで! まるでダチョウの卵や!」

 

「はっはっは! そういうお前らもナイスバルクだぞ!」

 

「そ、そうかな……」

 

「そうだ、波江! 肩が三角チョコパイだぞ!」

 

「うわ、自分ええなあ! ええ感じの掛け声かけてもうてるやん!」

 

「ナー! お前も良いぞ! 背中がカブトムシの腹のようだ!」

 

「ホンマか! クワガタとちゃうんか⁉」

 

「いいや! カブトムシだ!」

 

「カブトムシか!」

 

「……あんな感じでマッチョだけの世界に行ってしまってよ……」

 

 玲央奈が肩をすくめる。

 

「馴染んでいるのならそれはそれで喜ばしいが……」

 

 美馬がため息交じりに呟く。その時、ラウンジに警報が鳴り響く。

 

「広島市郊外から救難信号をキャッチ! 黙って見過ごすわけにはいかないわ! 全機直ちに出動して頂戴!」

 

 アレクサンドラからの通信が入る。全員が格納庫へ走り、順次出撃する。飛行機能があるテネブライと戦闘機形態に変形したファンとヂィーユエが先行して、現場付近に着く。

 

「こ、これは……?」

 

 タイヤンが首を傾げる。ユエが美馬に尋ねる。

 

「救世主さん、心当たりは⁉」

 

「……どうだ、ナー?」

 

「いいや、さっぱりや!」

 

「どうなっているの⁉」

 

 アレクサンドラからの通信にユエが答える。

 

「映像を繋ぎます……」

 

「な、なに、これは⁉」

 

 そこにはかなりの大きさでかつ透明なアメーバ状の生物が何十匹も空中を浮遊している様子が映っていた。



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第18話B(2)鬼神降臨

「これはひょっとして地球外生命体か……?」

 

「っていうことは、オーナーご存知?」

 

 タイヤンが不思議そうに呟き、ユエがアレクサンドラに尋ねる。

 

「だから知らないわよ! 地球の生命体じゃないの?」

 

「それらしい該当データは見当たりませんが……」

 

 タイヤンがデータベースを確認しながら答える。

 

「それじゃあ、異世界とかじゃない?」

 

「改めて異世界コンビの見解は?」

 

 ユエが美馬たちに尋ねる。

 

「いや、知らんな……」

 

「なんでもかんでもこっちに振るなや!」

 

 美馬は静かに、ナーは大声を上げて否定する。

 

「パッローナ以外の異世界からの闖入者……って可能性もあるね」

 

 石火に乗って、現場に到着した電の搭乗者、閃が割り込んでくる。

 

「そ、そんなことがありうるんかいな?」

 

 石火を駆る隼子が驚く。

 

「もはや何が起こってもおかしくないご時勢だからね……」

 

「それにしてもやな……」

 

「それでどうする? オーナー」

 

 美馬が冷静にアレクサンドラに尋ねる。

 

「まさに未知との遭遇ってやつね……セバスティアン、対話を試みて頂戴」

 

「かしこまりました……」

 

「……どうかしら?」

 

 やや間を置いて、アレクサンドラが尋ねる。セバスティアンが首を振る。

 

「……駄目です、あらゆる手段を講じましたが、反応が見られません」

 

「そう……とは言っても、浮遊しているのをこのまま放置するわけにはいかないような気がするけど……⁉」

 

 アメーバ状の生物が突如として、火球を放ち、市街地を燃やし始めた。ユエが叫ぶ。

 

「オーナー!」

 

「セバスティアン!」

 

「周辺住民の避難は既に完了しているとのことです」

 

「これよりあの浮遊体をQと呼称! Qは人類に敵意ありと判断! 速やかに排除を!」

 

 アレクサンドラが迅速に指示を出す。美馬がテネブライをQの群れに向けて躊躇なく突っ込ませ、サーベルを振るう。

 

「はっ!」

 

 Qは両断される。

 

「私たちも続くわよ!」

 

「了解!」

 

 ユエとタイヤンは機体を飛行形態にしたまま、ミサイルを発射する。それを喰らったQはあっけなく四散する。ユエが皆に通信を繋ぐ。

 

「耐久力は大したことはなさそうよ!」

 

「よっしゃ! オーセン!」

 

「うん、数が多いから、派手に行こう!」

 

 隼子と閃もそれぞれ、石火と電の火器をフル稼働させる。砲撃を喰らったQたちは次々と爆散していく。隼子が手ごたえを感じる。

 

「ええ調子やないか!」

 

「……いや、ちょっと待って!」

 

「なんやオーセン? あ、あれは⁉」

 

 モニターを確認した隼子が驚く。地面に落下したQのかけらが姿を変えて、二足歩行のロボットのような形になり、各々歩き始めたのである。閃が戸惑い気味に呟く。

 

「死んでいない、分裂して増えた……しかもこちらをコピーした……?」

 

「市街地中心に進んでいっている! なんとか防いで!」

 

「そうは言っても! 分裂する相手にどうしろと!」

 

 アレクサンドラの指示にユエが反論する。アレクサンドラが軽く頭を抱える。

 

「くっ……」

 

「お嬢様!」

 

「なに⁉ はっ⁉」

 

 セバスティアンがモニターに表示した画面を見てアレクサンドラは驚く。分裂して、ロボットのようになったQの大きな個体が一体、市街地からやや離れた工場に接近している様子が映っていたからである。

 

「あれは化学工場のようです! 火薬などに引火し、爆発する恐れがあります!」

 

「だ、誰か阻止して!」

 

「美馬くん!」

 

「ちぃっ、間に合うか⁉」

 

 閃の声に応じ、美馬はテネブライを向かわせるが、それよりも早く、Qが工場に向かって、振り上げた右手を振り下ろそうとする。隼子が叫ぶ。

 

「ア、アカン!」

 

「チェストー‼」

 

「⁉」

 

 次の瞬間、大きなQの個体が真っ二つに切り裂かれ、消滅した。そこには刀を真っ直ぐに振り下ろした赤紫の機体が立っていた。アレクサンドラが呆然と呟く。

 

「ど、どなた……?」

 

「あの機体は(おに)(きわみ)……ってことは『ツインテールの鬼神』、高島津幸村(たかしまづゆきむら)ちゃんやん!」

 

「ちゃ、ちゃんって! ……久しぶりと初めましての面々が顔を揃えているでごわすな!」

 

 小柄な体格で黒髪ツインテールの美少女が周辺の各機のモニターに映る。

 

「高島津……もしかして伊織が言っていたのは……」

 

「貴殿が二辺工業の新オーナー、アレクサンドラ氏じゃな! 姉上から仔細は聞いております! 助太刀に参りました!」

 

「心強いわ! 各機反撃よ!」

 

「水を差すようで恐縮ですが! Qの消滅方法が分かりません!」

 

「そ、それがあったわね……」

 

 ユエの言葉にアレクサンドラが再び頭を抱える。閃が幸村に尋ねる。

 

「幸村ちゃん、今どうやって相手を消滅させたの?」

 

「バッっとして、ガッって感じじゃ!」

 

「う~ん、感覚派な答え!」

 

「……コアや」

 

 しばらく黙っていたナーが呟く。美馬が問う。

 

「コア?」

 

「せや! あの透明な体をよ~く見てみい! 中心部分に小さい黒い球があるやろ! あれがおそらく奴らの体を司るコアみたいなもんや!」

 

「ふん!」

 

 美馬が近くのQのコアを狙って斬撃を加えると、Qは消滅した。タイヤンとユエが呟く。

 

「これは驚いた……的確な分析だな」

 

「ただの賑やかしマッチョ要員じゃなかったのね……」

 

「なんやねん、賑やかしマッチョ要員って!」

 

「とにかく対処方法が分かったわ! 今度こそ反撃開始よ!」

 

 アレクサンドラが号令する。

 

「うおおおっ! 地上の敵はオレたちに任せな!」

 

 玲央奈が獣如王を勢いよく突っ込ませ、トリオ・デ・イナウディトとともに地上を歩くQたちをことごとく消滅させていく。太郎が画面の片隅に映ったものに気付く。

 

「ん? れ、玲央奈さん、あれを⁉」

 

「あん? あ、あれは⁉」

 

 獣如王のモニターに崩れた建物のがれきを懸命にどかそうとする男性の姿が映る。

 

「誰かを助けようとしているのか? ……はっ!」

 

 あらたに近くのビルが崩れ、その破片が男性の真上に落下する。玲央奈が手を伸ばす。

 

「くそ! 間に合わねえ! ⁉」

 

 その時、男性を眩い光が包み込んだ。



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第18話B(3)契り交わしてみた

                  ☆

 

「なっ……こ、これは⁉」

 

 突如として光にその身を包まれた男性は、ただただ困惑した。その男性は紫色のシャツに上下ブラックのスーツを着ていて、白いエナメル靴を履いている。

 

「弱者を助けようと懸命に手を伸ばすその姿勢、素晴らしい! 心を打たれたよ!」

 

「なっ⁉ だ、誰じゃ!」

 

 男は前後左右を確認する。頭の中、もっと言えば、脳内に直接語りかけてくるようなイメージである。男とも女とも判断しづらい中性的な声色だ。大体にして今はどういう状況なのか。自分はあるものを助けるため、がれきをどかそうと懸命だったはずだ。それが今は一体どういう状況なのだろうか、よく分からないが、なんとなく居心地が悪い。

 

「君の正義の心を見込んでお願いがあるんだけど……」

 

「ああん?」

 

 やや一方的ではあるが、会話をなんとか成立させていた両者が向きあった。中性的な声色の方は顔と尻尾こそ可愛らしいリスであるが、頭身と手足は完全に人間のそれであった。かたや向かいあった男性の髪型はオールバックで、金縁のサングラスをかけており、額と目尻と顎に大き目の刀傷が付いていた。両者はやや間をおいて口を開く。

 

「誰⁉ 君⁉」

 

「きさんこそ誰じゃ! このリス野郎!」

 

「ええ……ちょっと待って、ちょっと待って……」

 

 リス野郎はその場をぐるぐると回り出す。

 

「ちょっと待てもこっちの台詞じゃ!」

 

「え、「くそ! 間に合わねえ!」って気の強そうな女の子の声聞こえてこなかった?」

 

「……聞こえてきた気もするなぁ」

 

「いや、だからこうして出てきたんだよ、ボク」

 

「はあ?」

 

「長らく探し求めていた正義の心の持ち主とようやく出会えたと思ったのに……」

 

「どうでもええわ! これは一体どういう状況なんじゃ⁉」

 

「ああ、ちょっと時間を止めているんだ」

 

「はあっ⁉ 時間を止めている⁉ ふざけんな!」

 

「ええ⁉ そこにキレる⁉」

 

「誰に許しを得てそないなことしちょるんじゃ!」

 

「確かに許可は得ていないけどさ……でも、良いの?」

 

 リス野郎は真上を指差す。男はその指差した方を見て驚く。

 

「のわっ⁉ が、がれきが上から!」

 

「このまま時間を再び動かしたら、あの大きながれきの下敷きになっちゃうよ?」

 

「ちゅ、ちゅうことはきさん、ワシを助けてくれたんか?」

 

「そういうことになるね」

 

「すまん!」

 

「どわっ⁉」

 

 男がグイッと顔を近づける。

 

「きさんは命の恩人、いや恩リスじゃ!」

 

「いいよ、そこは恩人で……ってかあんまり顔近づけないでもらえる?」

 

「? なんでじゃ?」

 

「こう言っちゃなんだけど、強面すぎるんだよ……」

 

「なにを言うちょるんじゃ、よくおる顔じゃろう?」

 

「刀傷がいくつもついている人はよくいないよ!」

 

「ああ、これはその……躓いただけじゃ」

 

「躓いただけでそうはならないと思うよ⁉ ……まあいいや、それより問題がある」

 

「問題?」

 

「ボクもこうして時間をいつまでも止めていられるわけじゃないんだ」

 

「なんじゃと⁉ ちゅうことは……」

 

 男が再び真上を見上げる。リス野郎が頷く。

 

「そうだね、このままだと、あのがれきが落ちてきて、君はペシャンコだね」

 

「ぬう⁉ ど、どうすれば……!」

 

「切り抜ける方法は無くもないけど……」

 

「なんじゃと⁉」

 

「但し、それには条件があるんだよ」

 

「条件?」

 

「ボクと契りを交わして欲しい。本当は女の子が望ましかったんだけどね……」

 

「ち、契り?」

 

「ああ、もちろんいやらしい意味じゃないよ」

 

「それを交わせば、助かるんじゃな⁉ 俺もあの子も!」

 

「あの子? ああ、あの子を助けようとしたのか……」

 

 リス野郎ががれきの下を覗き込み、納得する。

 

「あの子が助かるのならワシはなんだってしちゃる!」

 

「えっと、顔をいちいち近付けなくていいから……なんていうか圧がすごい」

 

「何をしたらええんじゃ! エンコ詰めたらええんか⁉」

 

「ワードが不穏! そ、そんなことする必要は無いよ」

 

「ほんならどうしたらええんじゃ!」

 

「不思議な力を授けるよ。君たちの言葉で言えば……『魔法』がもっとも適切かな」

 

「ま、魔法⁉」

 

「その力は正義の心が無いと発動しない……君にはその力で悪を倒して欲しい」

 

「……きさんは正義の味方かなんかか?」

 

 男の言葉にリス野郎は笑う。

 

「まあ、そういうことにしておこうかな。で、どうする?」

 

「……どうもこうもないわ。リス野郎、きさんと契りをかわしちゃる」

 

「本当に良いんだね?」

 

「くどいな。男に二言は無いわ」

 

「分かった……ちなみにボクの名前はカナメだ。君の名前は?」

 

「……日下部和志(くさかべかずし)じゃ」

 

「そうか、よろしく日下部……それじゃあリェンバリェンバ、リェンバリェンバ……リェーン♪……なにボーっと突っ立っているの? 一緒に唱えてよ」

 

 カナメは両手を頭上にふんわりと掲げる謎の動きを繰り返す。

 

「はあ⁉ ワシもやるんか⁉」

 

「早くしないとがれきの餌食だよ」

 

「わ、分かったわい! えっと……」

 

「「リェンバリェンバ、リェンバリェンバ……リェーン!」」

 

 再び不思議な光が日下部を包み込む。

 

                  ☆

 

「な、なんだ、この光は⁉」

 

「……って、こ、これは……?」

 

 玲央奈と太郎が唖然とする。そこにはフリフリのフリルや可愛らしいリボンがいくつもついたピンク色の人型ロボットが空中に浮かんでいたからである。

 

「か、かわいいじゃねえか……」

 

「玲央奈さん⁉」

 

「じゃ、じゃなくて、てめえ何者だ! ……? モニターが繋がったな……ってえええっ⁉」

 

 玲央奈が軽くパニックになる。モニターには、ロボットと同様にピンクのドレスに身を包んだ、贔屓目に見ても堅気とは考えにくい強面でがっしりとした男と、顔と尻尾だけが可愛らしいリスで後は人間と同じような姿をした二人組が映り込んだからである。

 

「……何者か聞かれちょるぞ」

 

「日下部、好きな言葉とかある?」

 

「は? ……『仁義を尽くす!』かのぉ」

 

「それじゃあ……魔法少女ロボ、『仁尽(じんじん)』! キュートに参上! 良い子の皆、よろしくね!」

 

 仁尽とそれに搭乗する日下部たちが揃って無駄に可愛らしいポーズを決める。

 

「へ、変なの出てきやがった⁉」

 

 玲央奈が正直過ぎる感想を叫ぶ。



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第18話B(4)ステッキノットステゴロ

「変な奴とは随分とご挨拶じゃな」

 

「ああいう反応も致し方ないと思うよ」

 

「じゃあ、そんな恰好をさせんな……」

 

 日下部がため息まじりで呟く。

 

「他にないからしょうがないでしょ。まさかおっさんが乗ることは想定していないし」

 

「おっさんって言うな、まだ三十路じゃ」

 

「三十路はおっさんだと思うけどな……ロボットの操縦経験は?」

 

「昔カチコミで……いや、工業用ロボットのライセンスは持っちょるが」

 

「また不穏なワードが出たんだけど……まあいいや、このコックピットは……」

 

「仁尽?とやらのパイロットさんたち? 聞きたいことがあるんだけど?」

 

 アレクサンドラが通信を繋ぐ。

 

「む、異星人か。あのオレンジ色の戦艦?からか……」

 

「そう、ビバ!オレンジ号に搭乗しているアレクサンドラよ、この部隊の指揮官のようなものを務めているわ。聞きたいことがあるのだけど、喋るリスさん」

 

「一応、カナメって名前があるよ、こっちは日下部和志ね」

 

「それは失礼。カナメ、質問良いかしら?」

 

「……あまりこちらを見ても動揺しないんだね」

 

「奇矯な恰好をする人たちには慣れているつもりだから」

 

「細かいことを言うと、人とはまた違うんだけどね……フェアリーというか」

 

「フェアリーも間に合っているわ」

 

「ははっ、間に合っているんだ、世間は広いね」

 

「貴方はこの透明な生命体についてご存知?」

 

 アレクサンドラはモニターに自身がQと呼称した生命体を映す。

 

「ああ、これは魔獣だよ。そう、色々な世界を渡り歩いては破壊の限りを尽くす、恐るべき存在だ。もっとも、これらの個体は大分弱い個体だけどね」

 

「その魔獣の目的はなんなの?」

 

「……それが分からないから厄介なんだよ」

 

「ではカナメ、貴方はあの魔獣たちを退治するためにこの世界に来たの?」

 

「……そう捉えてもらって構わないよ」

 

「そう……こちらの分析によると、透明な体の中心に黒い球、コアのようなものがある。どうやらそれを破壊すると、奴らを消滅させられるようだけど?」

 

「へえ、よく気がついたね。その通りだよ」

 

「とりあえすそれが確認できれば良いわ」

 

 アレクサンドラは通信を切った。カナメは日下部に話しかける。

 

「話の途中だったね。ええと……そうだ、このコックピットはちょっと特殊でね」

 

「ちょっとどころじゃないな、シートが無い。立ったまんまでいろってことかいの?」

 

「動きがそのままダイレクトに反映されると言えば分かりやすいかな」

 

「ふ~む……」

 

 日下部が仁尽の右手をまじまじと見る。そこには棒状のものが握られていた。

 

「それはマジカルステッキだね。魔法が使えるアイテムだ」

 

「ワシは魔法なんか使えんぞ」

 

「念ずれば使えるよ、火を出したいと念じれば火が出るし、風を起こしたいと念じれば風が起こせる。この機体自体にも同じことが言える」

 

「走りたいと思えば走れるし、飛びたいと思えば飛べるってことじゃな?……大体分かった。それであの透明な体をした連中をやっつければ良いんじゃな?」

 

「そうだね。火球を放ってくる個体だから、距離を取って魔法で戦う方が……⁉」

 

 日下部はステッキを腰部のホルダーに納めると、仁尽をおもむろに走らせて、近くの魔獣を豪快に殴り飛ばした。コアを潰された魔獣は消滅する。

 

「おっしゃ!」

 

「いやいやいや! 何の為のステッキ⁉」

 

「男は黙って素手喧嘩(ステゴロ)じゃい!」

 

「魔法少女ロボなんだけど⁉」

 

「カバチタレんなや! どんどん行くでぇ!」

 

 日下部は仁尽を走り回らせ、周囲にいる魔獣を次々と消滅させていく。魔法は一切使わず、ただ拳と蹴りのみで。気が付くと、魔獣はあらかた片付いてしまった。カナメは唖然とする。

 

「そ、そんな……ま、まさかこんな戦い方で……」

 

「ざっとこんなもんじゃ!」

 

「魔法を駆使して戦ってくれないとこちらとしては困るんだけどな……ん⁉」

 

 仁尽やビバ!オレンジ号の部隊に属する機体たちに対し、射撃が加えられる。黒色の機体十数機がいつの間にか、周りを包囲していた。ユエが叫ぶ。

 

「やつら、『九竜黒暗会』の機体、ヘイスーよ!」

 

「確か、東・東南アジアを拠点に暗躍するマフィアだったかしら? 何故ここに?」

 

「私の流した偽情報にまんまと引っかかりましたとは言えないわね……」

 

 アレクサンドラの疑問に対し、ユエは小声で呟く。

 

「反社会勢力ならば遠慮は要らないわ。皆、連戦でしんどいと思うけど、迎撃お願い!」

 

 アレクサンドラの指示に従い、各機が攻撃してくるヘイスーを迎え撃つ。

 

「『九竜黒暗会』か……昔を思い出すのぉ!」

 

「昔って何⁉」

 

 日下部は仁尽を勢いよく走らせるが、数歩程走ったところで急に失速し、バランスを崩して転倒してしまう。カナメが叫ぶ。

 

「エネルギー=パイロットの体力みたいなものなんだ! 初操縦だし、体力を思った以上に消費したんだよ!」

 

 転がった仁尽を見て、ヘイスーが二機素早く接近し、ライフルを構える。

 

「くっ……動けん! いきなりタマを奪られるとはな……」

 

「ちょっと諦めが早すぎない? 魔法少女さん?」

 

「⁉」

 

 女の声がしたかと思うと、赤白の機体が長い鞭を鋭く振るう。鞭を三度叩き付けられたヘイスーは頭部と右腕部と左脚部を破損し、たちまち行動不能になる。それを見たもう一機のヘイスーが慌てて距離を取ろうとするが、その先に青白の機体が回り込み、クローで機体を切り裂く。別の女の声がする。

 

「むしろ、無法中年って言った方が良いかも……」

 

 仁尽のモニターに赤白の機体と青白の機体が映し出される。

 

「だ、誰じゃ……?」

 

 首を傾げる日下部の耳に別の女たちの声が聞こえてくる。

 

「『エテルネル=インフィニ』⁉」

 

「海江田さんと水狩田さんか~」

 

「あらあら、久しぶりだね~ジュンジュンにオーセン」

 

「こんなところで会うとはすごい偶然……」

 

「いやいや! 絶対偶然やないでしょ!」

 

「すごい棒読みみたいな台詞~」

 

 そんなやりとりを聞きながら、カナメが呟く。

 

「助かったみたいだね……」

 

「こんな危なっかしい場所に女が多いな……世も末じゃな」

 

「そういう日下部が誰よりも女の子っぽい恰好しているけどね」

 

「くっ、意識が遠なってきた……」

 

 日下部は眠るように目を閉じる。数十分後、ビバ!オレンジ号の格納庫でアレクサンドラが戦場への闖入者、もとい乱入者たちと対面していた。

 

「あらためて、お礼を言わせてもらうわ、高島津幸村さん」

 

「礼には及ばんでごわす」

 

「ロボチャンの大会に出るんでしょ?」

 

「ええ、その為に山陰地方の方で武者修業を積んでおりもうした」

 

「武者修行ね……それは御苦労さま。それで、貴女たちは熊本の一八(いちはち)テクノ所属のパイロットさんたちね。赤白の機体、『エテルネル=インフィニ一号機』搭乗の海江田啓子(かいえだけいこ)さんと青白の機体、『エテルネル=インフィニ二号機』搭乗の水狩田聡美(みかりたさとみ)さん」

 

「どうも初めまして」

 

「よろしく……」

 

 ともに整った顔立ちと無駄のない髪型をした女性二人がアレクサンドラに一礼する。

 

「貴女たちはどうしてここに?」

 

「ロボチャン出場の為に淡路島へ向かっていました」

 

「会社の皆さんとわざわざ別行動を取っている意味は?」

 

「……ふん、なかなかの情報網……」

 

 アレクサンドラの問いに、水狩田が小さく呟く。

 

「腕利きの傭兵コンビの狙いはなにかしら?」

 

「……」

 

「カ~ナ~メ~‼」

 

 そこにフリフリのドレスを着た日下部が割り込んでくる。カナメが驚く。

 

「ど、どうしたの? そんな大声出して」

 

「ど、どうしたもこうしたもあるか! ワシはいつまでこの恰好なんじゃ!」

 

「ああ、半日はその恰好のままだね」

 

「はあっ⁉ 後十時間以上もこんな恰好でおれっちゅうんか⁉ あのロボットに搭乗時だけならばまだ我慢出来たが……」

 

「……日下部さん」

 

 アレクサンドラが声をかける。

 

「なんじゃい! ワシは今機嫌が悪いんじゃ!」

 

「貴方とカナメ、そして仁尽の力を貸してくれないかしら?」

 

「ああん⁉ なんでそんなことをワシが……」

 

「貴方が命より大事にしている愛犬、アンちゃんを保護したわ」

 

「‼ おお~アンちゃん無事じゃったか~」

 

 セバスティアンが犬を運んでくる。日下部は犬を抱き上げ、頬をすり寄せる。

 

「力を貸してくれるわね? ギャラは弾むわよ」

 

「お、恩義があるとはいえ、それとこれとは……」

 

「……仕方ないわね、玲央奈! ちょっとこっちに来てくれる」

 

「ん? なんだよ、オーナー? って、おい!」

 

 アレクサンドラは玲央奈の頭をおもむろに撫で回し、ライオン耳を露にする。

 

「⁉ そ、それは……」

 

「この部隊には後三人、ケモ耳の持ち主がいるわ。一機撃墜につき、一撫ででどう?」

 

「この命、姐さんにお預けします!」

 

「ふふっ、交渉成立ね」

 

「勝手に決めんな!」

 

 笑顔で頷き合うアレクサンドラと日下部の間で玲央奈が叫ぶ。



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第19話A(1)大会、幕開け

                  19A

 

「なるほど……()()大会は行われないということか……」

 

「なんやねん今更、今回行われるのはロボットチャンピオンシップ西()()()大会や」

 

「そんなこと聞いてなかったぞ」

 

「アンタが聞いてなかっただけやろ」

 

 大会出場者の待機するテント内で大洋と隼子が会話している。

 

「なんで西日本だけなんだ?」

 

「ニュースくらい見ろや……」

 

 隼子が頭を抱える。情報端末を眺めていた閃が頭を上げ、口を開く。

 

「東日本数か所でそれぞれ大規模な混乱が発生してね……」

 

「怪獣でも出現したのか?」

 

「それもあるようだね」

 

「それも?」

 

「情報が色々と錯綜していてね……はっきりしていないことも多い……とにかく、東日本のロボット関係各所は対応に大わらわというところで、とてもロボチャン全国大会に参加するどころではないということさ」

 

「それで規模を縮小して、西日本大会に……」

 

「そう、関西、中国、四国、九州、沖縄の各大会を勝ち上がった14チームと、東海、北信越大会を勝ち上がった、三重と福井のチーム、計16チームが参加する」

 

「そうなのか……」

 

「時期を見て、東日本大会も開催するって話も出ているみたいだけどね」

 

「ほ、本気か? そもそも西日本大会を開催している場合でもないと思うのだが……」

 

 閃の説明に大洋は戸惑う。

 

「前も言ったと思うけど、ロボチャンという大会には『技術の革新と向上』、『より実戦に基づいた戦い方を経験・蓄積』というテーマが掲げられているからね」

 

「そうは言ってもだな……」

 

「この21世紀前半、全世界規模のパンデミックに見舞われている最中でも国際的スポーツイベントは開催されたという前例があるからね~」

 

「そ、それは知っているが……」

 

「言うたと思うけど、ロボチャンは人気の公営ギャンブルでもあるからな……要はこれや」

 

 隼子が右手の親指と人差し指で丸を作る。

 

「……思惟(しゆい)?」

 

 大洋が首を傾げる。隼子はずっこける。

 

「なんでこのタイミングで手印を結ばなアカンねん」

 

「違うのか?」

 

「あれは親指と中指をくっつけてるんやろ。ちゃうがな、銭っちゅうこっちゃ、大量の金が動く。そう簡単には中止には出来へんのや」

 

「なるほどな……人類にとって、結果としてプラスになるのならば、大会には真摯に臨もう」

 

「大人だね~」

 

 閃が笑みを浮かべる。大洋は閃に尋ねる。

 

「この辺一帯に集まっているのが参加チームか?」

 

「いや、16チームの内、半分の8チームだね。残りはこの淡路島の別の会場にいるよ」

 

「そうか……」

 

「ちなみに一回戦から4チームずつのバトルロイヤル戦を採用している。2チームが勝ち上がれる。偶然だけどこないだの鹿児島の壮行試合での経験が活かせるね。機体は1チームにつき3機まで。但し、4機以上による合体を行うロボットは初めから合体しておくこと。分離は禁止だ。私たちは合体・分離は自由だね」

 

「ふむ……よく分かった」

 

「ってか、試合形式くらい確認しておけや……」

 

 頷く大洋の横で隼子が呆れ気味に呟く。閃は説明を続ける。

 

「私たちはBブロックに入った。これから行われるAブロックの試合の数時間後に行われる。大会規模の縮小に伴い、日程も短縮されたからね。同時刻でC・Dブロックも行われる」

 

「組み合わせも今朝発表やからな……」

 

「『臨機応変な対応力かつ柔軟性に富んだ戦い方を磨く』っていうのもロボチャンの狙いだしね。対戦相手のデータを可能な限り集めたから見てみようか。その上で作戦会議といこう」

 

 閃が大洋たちにも見えるように、テントに設置された大きいモニターに情報を表示する。

 

「……大体は分かった」

 

 作戦会議を終えると、大洋は立ち上がり、テントを出ていこうとする。

 

「どこに行くんや?」

 

「さっき知った顔を見かけた。Aブロックに出場するのだろう。激励に行ってくる」

 

「記憶喪失のアンタの知り合い?」

 

「桜島で偶然一緒になった。大会に出場するとは聞いていたが」

 

「ああ、そういうことかいな」

 

「興味深いね。ジュンジュン、私たちも一緒に行こう」

 

 閃と隼子も立ち上がり、大洋についていく。

 

「大星! 山田さん!」

 

 大洋が声をかけると、かりゆしウェアの青年と白衣姿の女性が振り返る。

 

「おお、大洋さん」

 

「は、疾風さん……ど、どうも……」

 

「Aブロックに出るのだろう。激励にきたぞ。緊張していないか?」

 

「はははっ! 大洋さん、オレはそんなタマじゃない。むしろワクワクしているさ~」

 

 修羅が力こぶを作ってみせる。

 

「それは頼もしいな」

 

「疾風さん、すみません、時間が迫っているので……」

 

「そうか。呼び止めてすまなかった。健闘を祈っている」

 

「お互いにね~」

 

「失礼します」

 

 修羅は手を振り、いつきはぺこりと頭を下げて、その場を去る。隼子が尋ねる。

 

「あの人らが知り合いか?」

 

「ああ、琉球海洋大学工学部だったかな」

 

「沖縄大会の優勝チームだね。でも、あんなパイロットだったかな?」

 

 閃が首を捻る。

 

「よく分からんが急遽変更になったらしいぞ」

 

「へえ……わざわざ変えてくるとはよほどの実力者ということかな?」

 

「俺も少し見ただけだが……強いぞ」

 

「それは興味深いね……!」

 

「けったくそ悪いの! ペット同伴で戦うつもりかいな!」

 

「ペットやない!」

 

 大洋たちが視線を向けると、時代錯誤も甚だしい特攻服に身を包んだ男が小柄な少女に因縁をつけていた。少女の傍らには少女と同じくらいの背丈で全身水色の肌をして、二足歩行で人のような姿をしているが、体の表面は鱗で覆われ、手足には足ひれや水かきがついている不思議な存在が立っていた。

 

「ペットやなかったらなんやねん!」

 

「半魚ちゃんや! 知らんのか、田舎もん!」

 

「なんやと!」

 

「止めとけ……」

 

「⁉」

 

 特攻服の男の前に錫杖が突き付けられる。そこには短くボサっとした頭髪に、所々破れた袈裟を身に纏った中年男性が立っていた。

 

「文句があるなら本番で蹴りつけろや、兄ちゃん。男がすたるってもんやで……」

 

「ちっ!」

 

 特攻服の男はその場を去る。少女も袈裟の男性に頭を下げ、半魚ちゃん?を連れて、その場から離れる。袈裟の男性も無言で踵を返した。

 

「あいつらが大星の相手か……男二人にどうしても目が行きがちだが、あの少女も侮れんな……俺でなかったら見落としている……」

 

「一番大事な存在を見落としてるで!」

 

 したり顔で頷く大洋に隼子が突っ込みを入れる。



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第19話A(2)乱闘!Aブロック

「予選と違って、他の試合もこうして見られるんだな……」

 

 テントでモニターを眺めながら呟く大洋に閃が答える。

 

「この後私たちもすぐに試合だし、明日の準決勝はC、Dブロックの勝者とごっちゃになるから、観戦してもさして問題はないという大会運営の判断だろうね」

 

「まあ、各地区の予選映像は既に出回っているわけやからな……機体とパイロットが変わっている沖縄代表の存在が不気味やけど……」

 

 隼子がうんうんと頷く。モニターから審判の声が聞こえる。

 

「Aブロック、試合開始!」

 

「ふん、あの生意気な女、さっさと終わらせたる!」

 

 白い機体が開始と同時に砂浜に立つやや小さめの二体並んだクリーム色の機体に向かう。白い機体は足の裏に車輪を付けており、素早いスピードで距離を詰める。大洋は驚く。

 

「速いな⁉」

 

「大阪代表、社団法人岸和田青少年暖簾会の『ごんたくれ』だね。機動力が高い機体だ」

 

「むしろ青少年暖簾会って何やねんって感じやけどな……」

 

 閃の説明に隼子が呆れ気味に呟く。

 

「おらあっ!」

 

 男の叫び声が聞こえ、ごんたくれが両の拳を振るい、クリーム色の二体をまとめて弾き飛ばす。二体は砂浜から海の方に転がる。女の子の声が聞こえてくる。

 

「うぎゃ!」

 

「一気に畳み掛けたらぁ! ⁉」

 

 両者の間にターコイズブルーのカラーリングで獅子の顔をした機体が割って入り、ごんたくれの進撃を、その体を張って止める。大洋が叫ぶ。

 

「シーサーウシュ! 大星の機体だ!」

 

「さっきのかりゆしウェアを着た兄ちゃんの機体か!」

 

「琉球海洋大学の……沖縄の伝説の獣、シーサーを模した機体か……さて、一体どのような戦い方をするのかな……?」

 

 閃が興味深そうにモニターを見つめる。

 

「せいや!」

 

「ぬおっ!」

 

 シーサーウシュが正拳突きを放ち、ごんたくれの左胸部辺りをへこませる。

 

「!」

 

「なめんな!」

 

 ごんたくれが負けじと殴り返す。機体の大きさではシーサーウシュの方がやや大きいものの、ごんたくれの拳はそのサイズ差をものともせずに、シーサーウシュを後退させた。

 

「おおっ! なかなか良い拳さ~」

 

「お、大星さん! だから通信回線がオープンになっていますって!」

 

「そう言われても、細かい操作方法はさっぱりさ~」

 

「そ、そんな……」

 

 シーサーウシュに同乗するいつきは呆れたような声を上げる。

 

「女連れかい、沖縄野郎! ええ度胸しとるやんけ!」

 

 ごんたくれが右脚の蹴りを繰り出す。鋭い蹴りがシーサーウシュの左腰部を襲う。

 

「おおっ! 蹴りもなかなかさ~しかし、琉球空手だけじゃなく、他流試合も結構してきたけど、見たことのない動きをするね~お兄ちゃん、どこの流派?」

 

「んなもん知らんわ! こちとらナメられたら終いの岸和田で培っただんじり流じゃ!」

 

「成程、自己流か~」

 

「なっ⁉」

 

 ごんたくれの右ストレートパンチをシーサーウシュは左腕で軽くいなす。

 

「この手の相手は調子づかせると厄介さ~。せい!」

 

「どおっ!」

 

 シーサーウシュが先程よりも素早く、かつ強烈な正拳突きを放つ。それを腹部辺りに受けたごんたくれは後方に派手に吹っ飛ぶ。何度か転がった後、立ち上がろうとする。修羅はその様子を見て感心する。

 

「……意外とタフな機体だね~。追撃といこうか~」

 

「ちっと待て!」

 

「うん?」

 

 修羅が機体を振り返らせると、そこには海辺に立つクリーム色の機体が二機立っていた。

 

「あのヤンキー兄ちゃんにはこっちが借りを返そうと思うとったのに! 横取りすんなや! こうなったら代わりにアンタをやっつける!」

 

「ええっ⁉ どういう理論でそうなるんですか⁉」

 

 オープンになった通信回線から聞こえる少女の声に山田は戸惑う。大星も困惑する。

 

「さっき見かけたお嬢ちゃんか……あんまり手荒なことはしたくないんだけど……」

 

「なめとったらいけん! 行くぞ、半魚ちゃん!」

 

「ン!」

 

「! この位置はマズいです! 大星さん、離れて!」

 

「え?」

 

「もう遅い! 『渦潮双撃波』!」

 

「⁉」

 

 クリーム色の機体、二機の手から同時に発射された渦を巻いた状態の海水の放流が二条、シーサーウシュを襲う。

 

「きゃあ!」

 

「どわっ!」

 

「あ、あれは……⁉」

 

 モニターを見ていた大洋が驚いて立ち上がる。閃が説明する。

 

「徳島代表、鳴門重工業の『UZUSIO』だよ。ちなみに女の子が乗っている方が『UZU』で、もう一機が『SIO』だ。見た通り、海での戦いを得意としている機体だね」

 

「あの女の子、なかなかの腕前だということが分かった。謎が解けたな……」

 

「もっと大事な謎が残っているやろ! もう一機の奴は……」

 

「待て、隼子! シーサーウシュが動いた!」

 

 大洋がモニターを見て叫ぶ。シーサーウシュが海の方に突っ込んだのである。

 

「来たか! もう一度、渦潮をお見舞いしてやるで!」

 

「ちょ、ちょっと、大星さん! 海に近づいては相手の思うツボですよ⁉」

 

「そのツボを突く!」

 

「ええっ⁉」

 

 シーサーウシュはUZUとSIOの間に割り込み、海面を殴りつける。海が割れたようになり、辺りの海水が一気に弾け飛ぶ。

 

「なっ⁉」

 

「肝心の海水が無ければ、渦潮を巻き起こせないはずさ~」

 

「くっ! 半魚ちゃん、後退や!」

 

「ンン!」

 

 UZUとSIOが急いで海水のあるところに移動しようとする。

 

「そうはさせないさ~!」

 

 シーサーウシュが素早くUZUに近づき、激しいラッシュで、UZUの頭部と左腕部、右脚部を破壊する。軽く起こった爆発の反動を利用し、SIOとの距離を詰め、同様の攻撃で、SIOの頭部などを叩き壊す。

 

「ぎゃん!」

 

「ンンン!」

 

 UZUとSIOはその場に崩れ落ちる。審判の声がする。

 

「UZUSIO、戦闘継続不可能!」

 

「や、やった! やりましたよ! 大星さん!」

 

「さあ、お次はヤンキー兄ちゃんさ~ !」

 

 修羅が視線を向けると、頭部を半分、両脚部と左腕部を破壊されたごんたくれを引きずる、白い頭部に、黒い胴体の機体が立っていた。ボロボロの袈裟を身に纏った中年男性が呟く。

 

「ごんたくれは拙僧が懲らしめた……」

 

「いつの間に……お坊さん、やるね~」

 

「まあ、拙僧も大概な不良坊主やが……力があるのは否定せん」

 

「ごんたくれ、戦闘継続不可能! Aブロック、勝者は琉球海洋大学と鳳凰院!」

 

 審判がAブロックの勝者を高らかに宣言する。修羅が笑う。

 

「強くて面白い奴らが一杯さ~これはまだまだ楽しめそうだね」



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第19話A(3)唐突な命令

「さてと……」

 

 Aブロックの戦いを見届けた大洋が席を立つ。

 

「琉球海洋大学が勝ったか。大学勢が勝つのは結構な番狂わせやないか?」

 

「あのシーサーウシュという機体、ますます興味深いね……」

 

 隼子の感想に閃が頷く。

 

「モニターに映っていたけど、変わったコックピットやったな」

 

「搭乗者の動きなどをほとんどそのままダイレクトに反映する形式のようだね。ロボットのああいった操縦体系に関しては数十年前から提唱されていて、研究自体は十数年前から世界各地で行われている。けど……」

 

「けど?」

 

「こう言っては失礼だけど、世界どころかアジアでも最先端を進んでいるわけではない琉球海洋大学がその研究を具体化させるとは……」

 

「あの同乗していた眼鏡のお姉ちゃんが天才研究者とか」

 

 隼子の指摘に閃は首を振る。

 

「山田いつき……ある程度の秀才ではあるんだろうけど、天才ではないね」

 

「なんでそんなことが言いきれんねん」

 

「ロボット研究の天才なら、同じく天才の私が知らないのはおかしい」

 

「ほ~それはまた強気なこって……」

 

 隼子が苦笑混じりに呟く。

 

「私のことはともかくとして、彼女に天才の片鱗を感じた?」

 

「……まあ、あの娘には悪いけど全然感じんかったな」

 

「でしょ?」

 

「むしろアタフタしとったな」

 

「そう、機体のことをまだ把握しきれていないようだった……」

 

 二人のやりとりを聞いていた大洋が口を開く。

 

「それも無理のない話だろう。シーサーウシュはついこないだ太古の深い眠りから目覚めたそうだからな」

 

「はっ⁉ どういうこっちゃ⁉」

 

「タイコ、スゴイ、ムカシ」

 

「太古の意味は分かっとるわ! なんでカタコトになんねん!」

 

「太古の眠り……古代文明の遺産ということかな?」

 

 閃が顎に手をやって呟く。

 

「それで、なんであのかりゆしウェアの兄ちゃんが搭乗してんねん? 個人データを見たところ、大学の学生でもないみたいやし」

 

「たまたま通りがかったところを搭乗者に選ばれたとか言っていたぞ」

 

「なんでそんなことになんねん?」

 

「さあな」

 

 大洋は首を傾げる。

 

「さあなって……」

 

「色々とバタバタしていたからな。詳しいことは聞けなかった。もっとも本人らもよく分かってないようだったぞ」

 

「さ、さよか……」

 

「興味が尽きないね」

 

 閃が微笑を浮かべる。隼子がモニターを眺めながら尋ねる。

 

「……もう一個の勝った鳳凰院っちゅうのは奈良代表やな」

 

「そうだね、ロボット開発・研究に関して昔から熱心な宗教法人だ。さながら現代の僧兵と言ったところかな」

 

「僧兵って何時代の話やねん……物騒な話やで」

 

 閃の答えに隼子は首をすくめる。閃もモニターに目をやり、呟く。

 

「ただ、この機体も関西大会では使っていなかったね……この西日本大会に合わせて投入したということかな? こちらも興味深いね」

 

大洋が尋ねる。

 

「閃、Bブロックの開始はいつだ?」

 

「ちょっと待って……今、大会運営から正式に通知がきたよ。今から約一時間後だ。十分前には所定の位置についていて下さいってさ」

 

「そうか、少しばかり暇だな……CブロックやDブロックの試合は見られないのか? 同時進行中だろう?」

 

「映像へのアクセスに制限が掛かっているから見られないね。まあ、今日の夜には見られるようになるんだけど」

 

「どんな連中が出て、どのように戦っているか気になるところだが……」

 

「これまた強気やな。まず今日勝つことを考えんと。足元掬われるで」

 

 大洋の言葉に隼子が笑う。

 

「珍しくジュンジュンが良いことを言っているね」

 

「珍しくは余計や!」

 

「ならばちょっと出てくる」

 

 テントを出ようとする大洋に隼子が声をかける。

 

「迷子になんなよ~」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「ならええけど」

 

 大洋がテントを出る。

 

「……迷った」

 

 散歩がてら、尿意に襲われた大洋は仮設トイレを探して慌てて駆け込んだ。用を足した後、仮設トイレを出ると迷ってしまった。

 

「ちょっと、アンタ……」

 

「参ったな……こっちだったか?」

 

 大洋はハンカチで手を拭うと、後頭部を掻きながら歩き出した。

 

「アンタって」

 

「まだ時間には余裕あるな……慌てない方が良い」

 

「呼んどるやろ! 聞こえとらんの?」

 

「もし、遅刻で失格になったら隼子たちに何て言われるか分からんな……」

 

「疾風大洋!」

 

「なんだ、さっきから!」

 

「う、うわっ!」

 

 大洋がいきなり振り返った為、女性が驚いて尻餅をついた。

 

「誰だ?」

 

「聞こえとるなら、さっさと返事しなはれや……」

 

 女性が尻に付いた土を払いながら立ち上がる。黒髪のロングで前髪をパッツンとしており、黒い狩衣に白い袴というこの場にはややそぐわない一風変わった格好をしている。

 

「神主か? 神頼みする予定は今のところ無いぞ」

 

「神主ちゃうわ」

 

「ならコスプレか、生憎撮影機材の持ち合わせは無い」

 

「コスプレともちゃうわ!」

 

「じゃあなんだ?」

 

「うちは陰陽師や!」

 

「陰陽師?」

 

「そう、陰陽師兼ロボットパイロット、『播磨の黒い星』、明石屋浪漫(あかしやろまん)をご存知ない⁉」

 

「ご存知ないな」

 

「あららー!」

 

 大洋のにべもない返答に浪漫は勢いよくずっこける。

 

「だ、大丈夫か……?」

 

 大洋が手を差し伸べ、その手を取って、浪漫が立ち上がる。

 

「ほ、ほんまに知らへんの……? アイドル歌手やら占い師やら気象予報士やら雀士やらマルチに活動しているのに……?」

 

「す、すまん……」

 

「ま、まあ、ええわ……それよりも疾風大洋……うちと結婚しなはれ」

 

「ええっ⁉」

 

 浪漫の突拍子もない提案というか命令に大洋は驚いた。



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第19話A(4)熱闘!Bブロック

「そう、結婚や」

 

「な、なんでまた……」

 

「うちは陰陽師、自分の人生についての吉凶を占ってみたところ……」

 

「みたところ……?」

 

「あんた、疾風大洋と結婚するのが吉と出たんや」

 

「そんなピンポイントで出るものなのか⁉」

 

「出てもうたものはしゃあないやろ」

 

「しゃ、しゃあないって……」

 

 大洋は困惑する。

 

「それじゃあオンライン婚姻届を提出するで」

 

 浪漫が端末を取り出し、操作を始める。

 

「ま、待て! 俺の意志はどうなる⁉」

 

「この場合、アンタの意志はどうでもええやろ」

 

「いかなる場合においても、どうでもいいことは無い!」

 

 大洋が浪漫の腕を掴み、端末の操作をやめさせる。浪漫は軽く舌打ちする。

 

「ちっ……」

 

「だ、大体、君はそれで良いのか⁉」

 

「……最近、方向性に悩んでいてな……」

 

「方向性?」

 

「ああ、陰陽師兼ロボットパイロット兼アイドル歌手兼占い師兼気象予報士兼雀士兼その他もろもろでマルチに活動しているからな」

 

「そりゃあ悩むだろうな……」

 

「この状況を打破する為には結婚が吉と占いで出たんや!」

 

「そうか……」

 

「せやから構わへんな?」

 

 浪漫が端末をタップしようとする。

 

「構う! なんで初対面の相手と結婚せねばならん!」

 

「保守的やな……」

 

「君が革新的過ぎる!」

 

「はあ……分かった……それじゃあこうしようや、次の試合でうちがアンタに勝ったら結婚っていうことでええな?」

 

「次の試合だと⁉ そ、そういえば、さっき映像で見たあの黒い着物を纏ったような独特のフォルムの機体……」

 

「せや、それがうちの自慢の愛機、幽冥(ゆうめい)や。幽冥がアンタらの機体……電光石火やったか? それに勝ったならば……」

 

「か、勝手に話を進めないでくれ!」

 

「なんや、思い切りが悪いな……」

 

「いくらなんでも判断材料に乏し過ぎる!」

 

 浪漫はため息をついて、端末をしまう。

 

「まあええわ。とりあえず試合は容赦なくいくから覚悟しときなはれ……」

 

「そ、それについてはのぞむところだ」

 

「ほな、試合会場で……」

 

 浪漫は一礼すると、その場から去っていった。

 

「……はっ! ぼおっとしている場合ではない! 俺も戻らなくては!」

 

 大洋も小走りでその場を後にした。その数十分後……。

 

「さてと……試合開始だよ」

 

「大洋が来おへんから焦ったで」

 

「すまん」

 

 大洋がモニター越しに閃と隼子に頭を下げる。

 

「Bブロック、試合開始!」

 

 審判の声が響く。閃が尋ねる。

 

「最初から合体しとこうか?」

 

「ひとまず三機のままの方が、三方から来る相手に対応しやすいちゃうんか?」

 

「それも一理あるけど、各個撃破されて合体不可能になって負けるのが一番悔しい負け方だよ。力を出し惜しみしている段階じゃない」

 

「それもそうやな」

 

「よし、合体だ」

 

 閃の言葉に隼子が頷き、大洋がスイッチを押して、三機が合体し、電光石火となる。

 

「ふふふっ! ご丁寧に的を大きくしてくれてありがたいことやで!」

 

「⁉ 幽冥、明石屋浪漫か!」

 

 黒い機体が悠然と歩きながら、電光石火に近づいてくるのが見える。

 

「浪漫で構わんで。二人は夫婦になる運命なんやから……」

 

「人の運命を勝手に決めるな!」

 

「うちの占いはよお当たるんや」

 

「そんな占いなど覆してやる!」

 

「ちょ、ちょっと! 盛り上がっているところ悪いんやけど⁉」

 

「なんだ、隼子!」

 

「なんだはこっちの台詞や! なんや、夫婦がどうのこうのって⁉」

 

「……この試合にうちが勝って、アンタらが負けたら、疾風大洋とうちは結婚する……至極簡単な分かりやすい話や」 

 

 電光石火にモニターを繋いできた浪漫が顎をさすりながら説明する。

 

「い、いや、分かりやすいけれども! 一体、何がどうなってそうなんねん⁉」

 

「やかましいお姉ちゃんやな。占いの結果やから仕方がないやろ」

 

「仕方がないって! ええんか⁉ こんなフンドシ男が旦那で⁉」

 

 隼子は例の如く、コックピットでフンドシ姿になっている大洋を指し示す。

 

「ちょっと変わってる方がええわ。エキセントリック夫婦タレントで売り出せるからな」

 

「どんな夫婦やねん!」

 

「大洋のフンドシ姿に動揺しないとは……なかなかの実力者のようだね」

 

「ああ、これは侮れんな」

 

「何を基準に実力を測っとんねん、アンタらも!」

 

 隼子が頷き合う閃と大洋に突っ込みを入れる。浪漫が口を開く。

 

「そろそろええか? さっさと終わらせるで!」

 

 幽冥の周りに木目色の大きな板状のものが八枚浮かぶ。

 

「あ、あれは⁉」

 

「『光矢(こうし)』!」

 

「⁉」

 

 板状のものから光が次々と放たれる。電光石火にことごとく命中する。

 

「どわっ! な、なんだ⁉」

 

「あの板からレーザー光を発射したんだ! 地区予選では見せていない戦い方だ!」

 

「ふふっ、いわゆるひとつの隠し玉ってやつや……」

 

 閃の言葉に浪漫が余裕たっぷりでに答える。

 

「こちらもやり返すぞ! 閃!」

 

「オッケー!」

 

 電光石火が射撃モードにチェンジし、即座にガトリングガンを発射させる。

 

「ふん……!」

 

「な、なんだと⁉」

 

 板状のものが幽冥をとり囲み、バリアを発生させ、銃撃を跳ね返す。閃が呟く。

 

「バリアを発生させた……? なんだあの板は?」

 

「ただの板とちゃうで、これは電磁護符っていうもんや」

 

「電磁護符……」

 

「優れた陰陽師でもあるうちにしか使えん兵器や。ほな、次で決めるで!」

 

「くっ⁉」

 

「ちょっと待った!」

 

「⁉」

 

「なんや⁉ ぐうっ!」

 

 突然現れたやや茶色ががった白色の機体が幽冥を蹴り飛ばす。不意打ちを食らった形の幽冥は後方に吹き飛んだ。大洋が叫ぶ。

 

「お、お前は⁉」

 

「ウ・ドーンだ!」

 

「香川県代表、大讃岐製麺所の機体か……」

 

「なんで製麺所がロボットを作ってんねん!」

 

 閃の冷静な呟きに隼子が突っ込む。それにウ・ドーンのパイロットが反応する。

 

「そこのお嬢さん、麺もロボットも基本は一緒さ! コシが大事なんだ!」

 

「何を言うてんねん!」

 

「とにかく丹精を込めて作れば、ロボットだって出来るってことさ!」

 

「出来へんやろ!」

 

「丹精を込める……良い言葉だ!」

 

「大洋、変なところに感銘を受けんなや!」

 

「電光石火! 九州大会の戦いぶりは見せてもらった! 君らが一番厄介な相手だと判断した! ここでご退場願おう!」

 

 ウ・ドーンが構えを取る。閃が冷静な分析を続ける。

 

「近距離戦が得意な機体だよ! 距離を取って戦おう!」

 

「そうはさせない! 我が香川県に伝わる伝説のヒーローを模したこの機体の技をとくと味わいたまえ! うどんだけにね!」

 

「は、速い!」

 

 ウ・ドーンが一瞬で電光石火との距離を詰める。

 

「くっ、モードチェンジだ!」

 

「なっ⁉」

 

 近接戦闘モードに変形した電光石火の振るった刀が、ウ・ドーンの両脚部を切断した。バランスを失ったウ・ドーンは落下する。審判の声が響く。

 

「ウ・ドーン、戦闘継続不可能と判断!」

 

「よ、よしっ! やったな、大洋!」

 

「今のは居合い術……? 着実に腕を上げているね」

 

「いいや、咄嗟に飛び出たようなものだ、もっと練度を高めないといけない……」

 

 大洋は隼子らからの称賛の言葉を謙虚に受け止める。審判の声が聞こえる。

 

「幽冥、戦闘継続不可能と判断! Bブロック、勝者は二辺工業と越前ガラス工房!」

 

「な、なんだと⁉」

 

 驚いた大洋がモニターを確認すると、煙を上げて倒れ込んだ幽冥を挟みこむように二体の茶色いカラーリングの機体が立っていた。

 

「はわわっ、か、勝ってしまいましたよ……」

 

「そ、そうですね、まぐれというものがあるのですね……」

 

 二体から戸惑い気味の男女の声が聞こえてくる。大洋たちは言葉を失った。



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第19話B(1)極限まで削ぎ落とした結果

分岐ストーリーになります。

19話Aと時間軸は同じです。


                  19B

 

「ふむ……ハンバーグカレーに外れなし……」

 

「味覚がお子様じゃないか」

 

 ハンバーグを頬張る水狩田を見て、海江田が笑う。

 

「……そんなことより続きを」

 

 水狩田は少しムッとしながら、海江田に話を促す。

 

「ああ、スポンサーから条件変更の通達があってね」

 

「条件変更?」

 

「ああ、この大会ベスト8からベスト4以上に入るようにとのお達せだ」

 

「そうか」

 

「あら? 文句の一つでも言うかと思ったら」

 

 海江田は水狩田の反応に意外そうな顔を見せる。

 

「……全国大会から西日本へと大会規模が縮小されたようなものだから……この大会でベスト4に入ることは実質全国ベスト8ということだ。開催される予定の東日本大会がどういう大会形式がいまいち不透明ではあるけど」

 

「すんなり納得してもらったようで良かったよ」

 

「どの道、優勝するつもりだったし」

 

「~♪ それは頼もしい限りだね」

 

 海江田は小さく口笛を鳴らす。

 

「ごちそうさま……じゃあ、最終確認と行こうか」

 

「え? ここで?」

 

「ああ、いちいちテントに戻るのも面倒臭い」

 

「そうは言ってもね……」

 

「自分で言うのもなんだけど、私の集中力が保たれている内に済ませた方が良いよ……」

 

「自分で自分のことはよく分かっているわけだね……しかし、ここで作戦会議というのはねえ……色々聞かれるとマズいんじゃない?」

 

「聞かれたところでさして問題はない」

 

 水狩田がテーブルに頬杖を突いて呟く。

 

「おいおい! えらい舐めたことを言うてくれるやないか!」

 

 顔を含めた全身を真っ白な包帯で包み込んだ小柄な男が立ち上がり、水狩田たちの座るテーブルにずかずかと近づいてくる。

 

「なんかやって来たな……」

 

「そりゃあ、他の関係者も利用する食事用テントだからね……」

 

 海江田が片手で軽く頭を抱える。

 

「試合前に一つ挨拶でもと思うとったが……熊本のなんとか言う会社やったな、全国でもそこそこレベルのチームが偉そうやな!」

 

「なんとかじゃない、カチコチカルビだ……」

 

「一八テクノね……」

 

 水狩田の発言を海江田が冷静に訂正する。

 

「なんでもええわ。こんなとこで作戦会議をおっぱじめようなんて、大した自信やな?」

 

「疑問形じゃなくて、確信があるんだよ」

 

「確信やと?」

 

「そう、私たちはこのレベルで負けるはずがないという確信だよ」

 

「! い、言ってくれるやないか……」

 

「悪いけど、実戦経験の差が圧倒的だ……くぐってきた修羅場の数が違う」

 

 全身包帯の男がわずかに覗かせた口元を歪める。

 

「そ、そない余裕ぶって足元掬われても知らんで?」

 

「少なくともアンタ程度には掬われないから」

 

「な、なんやと⁉」

 

 包帯男が激昂し、水狩田に飛び掛かろうとする。

 

「やめろ、包帯……」

 

「ガ、ガムテ⁉」

 

 包帯男の肩をこれまた顔を含む全身を黒いガムテープで包み込んだ大柄な男がガシッと掴んで制止する。

 

「水狩田もやめときな」

 

「……」

 

 海江田の言葉を受け、水狩田は左手に持ったフォークを静かにテーブルに置く。

 

「お姉ちゃんたち、堪忍やで」

 

「気にしないで」

 

 ガムテ―プ男の言葉に海江田は右手を挙げて応える。

 

「ほら、さっさと行くで、包帯。全くお前というやつは……下手に揉め事を起こしたらどうなるか分かっとるんか?」

 

「せ、せやけどなガムテ。そもそもとしてあの姉ちゃんがけったいなことを言うから……」

 

 ガムテープ男に連れられながら包帯男がテントを出ていく。

 

「けったいなのはどっちだよ……」

 

「結構マジだったね」

 

 海江田がからかうように水狩田に声をかける。

 

「思った以上のスピードだったものでつい身近な道具に手が伸びた……結構な運動能力というか速さだね」

 

「どうする、作戦会議?」

 

「周りの注目を集め過ぎた……会社のテントに戻ろう」

 

 水狩田は食器をテキパキと片付けると、スタスタとテントを出ていく。海江田は苦笑交じりにその後をついていく。それから約一時間後……。

 

「Cブロック、試合開始です!」

 

 審判のアナウンスが試合会場に響き渡る。

 

「さて……どうする?」

 

「この機体はそこまで機動性に富んでいるわけじゃない。焦らず相手の出方を伺う……」

 

「OK、プランに変更なしね」

 

 水狩田の淡々とした言葉に海江田が頷く。

 

「……来たようだ」

 

 水狩田の言葉通り、彼女たちの駆る機体、二機のエテルネル=インフィニに急速に接近する二つの反応がモニターに確認された。

 

「!」

 

 エテルネル=インフィニの周囲に何発か爆発が起きる。爆弾が投下されたのだ。モニターに包帯男が映る。包帯男が水狩田たちの姿を見て口を開く。

 

「ふふん! ほんまにそないなけったいなレオタード姿で戦うつもりなんやな?」

 

「だからけったいなのはどっちだよ……全身包帯とガムテの男たちに言われたくないよ」

 

 水狩田がウンザリしたような口調で返す。

 

「この新びわ湖航空が開発した、最新鋭の『白鳥』と『黒鳥』で自信たっぷりなお前らの足下を掬ってやるで!」

 

「足下っていうか、頭上じゃん……」

 

「しかし、すごい飛行スピードだね……」

 

 海江田が感心したような声を上げるのを聞くと、包帯男が自慢気に答える。

 

「そうやろう! そうやろう! 極限にまで無駄を削ぎ落とした機体やからな!」

 

「もしかして、その包帯って……」

 

「そうや! 軽量化の一環として、パイロットスーツの代わりに採用したんや!」

 

「また極端なことを……」

 

 水狩田が呆れたような声を上げる。

 

「とにかく、お前らの機体が空は飛べんのは分かっている! このまま、空からの爆撃でお前らは手も足も出ずに終いや! 覚悟しろや、『極悪お姉さん』たち!」

 

「! その呼び名、嫌いなんだけど……」

 

「なんや? 文句あるならかかってこいや……って何いっ⁉」

 

 海江田が操縦するインフィニ一号機が鞭を水狩田の搭乗する二号機に巻き付けて、上空に向かって勢いよく放り投げ、白鳥たちと同じ高度に達する。海江田が笑う。

 

「水狩田が言っただろう? くぐってきた修羅場が違う。飛べないのならそれなりの戦い方ってものがあるんだ」

 

「さすがにこういうのはあまり経験ないけど……」

 

 水狩田はボソッと呟いて、機体にクローを構えさせる。



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第19話B(2)死闘!Cブロック

「くっ!」

 

 白鳥が回避行動をとろうとする。

 

「遅い!」

 

 インフィニ二号機が薙いだ爪が白鳥の機体を損傷させる。

 

「ぬうっ!」

 

「もう一撃!」

 

「させへん!」

 

「っ⁉」

 

 水狩田はインフィニ二号機のもう片方の爪を薙ごうとしたが、黒鳥の射撃を喰らって、のけ反る。黒鳥のパイロットが白鳥のパイロットに声を掛ける。

 

「一旦離れるで! 飛べるか、包帯?」

 

「なんとか大丈夫や、ガムテ!」

 

 黒鳥が白鳥を護るように飛んで、二機はその場から離れた。水狩田は軽く舌打ちする。

 

「ちぃ……装甲も薄かったのに、仕留め切れなかったか……」

 

「水狩田! 結構な高度だから、着地に気を付けて!」

 

「その辺は大丈夫……⁉」

 

 インフィニ二号機が着地したと同時に、爆発が起こり、二号機の右脚部が派手に吹っ飛ぶ。

 

「水狩田⁉」

 

「なんだ⁉ 地雷⁉」

 

「ふふふっ! かかったな! 『まきびし型爆弾』に!」

 

 物陰からやや小型な青いロボットが姿を現す。

 

「やったわね! 雷蔵さん!」

 

 別方向の物陰から青いロボットの同型機と思われる赤いロボットが現れる。

 

「あーなんだっけ……なんとか流忍術保存会だっけ、三重県代表の……」

 

 海江田が後頭部を掻きながら呟くと、青色のロボットから声がする。

 

「慈英賀流だ!」

 

「は? じぇいが?」

 

「違う! じえいだ! ちいさい“ぇ”ではない!」

 

「はあ……」

 

「Iの伊賀でもKの甲賀でもなく、Jの慈英賀と覚えて頂ければ幸いです!」

 

 赤いロボットから女の声がする。

 

「万代! それではむしろ話がややこしくなるだろう!」

 

「はっ⁉ そうだったわね、雷蔵さん! 私としたことが……」

 

「……ごめん、ぶっちゃけどうでもいいわ」

 

 海江田が素直な言葉を口にする。

 

「ど、どうでもいいだと⁉ むむむっ、慈英賀流数十年の歴史を愚弄するか!」

 

「数十年って、案外短いじゃない、そりゃ知らないわけだわ……」

 

「お、おのれ、忍術を駆使した攻撃を喰らえ!」

 

「忍びが手の内を明かしていたら世話ないでしょ……」

 

「海江田……」

 

「えっ、水狩田⁉」

 

 二機とインフィニ一号機の間によろめきながらインフィニ二号機が出てくる。

 

「い、いや、水狩田、片脚を失ったその機体では!」

 

「むしろちょうど良いハンデだよ……」

 

「これは絶好のアタックチャンスだぞ、万代!」

 

「し、しかし、雷蔵さん、いささか卑怯ではありませんか?」

 

「そうも言っておれん! これは絶対に負けられない戦いなのだ!」

 

「……仕方ありませんね」

 

「では、行くぞ!」

 

「速い⁉」

 

 二機が姿を消したことに海江田が驚く。次の瞬間、二機は二号機の背後に回り込んでいた。

 

「後ろをとったぞ! もらっ……⁉」

 

「……なんか言った?」

 

 水狩田が鋭い反応を見せ、二機のロボットをクローで鋭く斬りつけたのである。

 

「ぐぬぬっ! 万代、ここは退くぞ!」

 

 二機のロボットが再び姿を消す。水狩田が珍しく興奮した口調で話す。

 

「忍術だかなんだか知らないけど……こっちはもっとエグイ連中とも戦っているんだよ」

 

「ふふふっ」

 

「何がおかしいの? 海江田?」

 

「いやいや、なかなか良い傾向だなって思ってさ」

 

「良い傾向?」

 

「そうそう……ん?」

 

 海江田たちが視線をモニターの上方向に向けてみると、二機の白鳥と黒鳥が再び戦線に戻ってきた。水狩田がまた舌打ちする。

 

「さっき始末しとけば良かった……」

 

「まあ、ここは私に任せといてよ」

 

 インフィニ一号機が上空で旋回する二機に向かって鞭を構える。

 

「ふん! また鞭で飛ばそうという魂胆やろう? もう分かっとんねん、なあ、ガムテ!」

 

「ああ、滋賀県代表として、恥ずかしい戦い方を続けるわけにはいかん!」

 

「そう……かい!」

 

「はっ⁉」

 

「自分に鞭を巻き付けて……コマの要領で飛んだ⁉ だが、それでは右腕が……」

 

 驚く包帯やガムテープの言う通り、コマを回すように空に飛んだインフィニ一号機だったのだが、右腕部が外れている。

 

「そ、そないな状態で何が出来る……ぐほっ⁉」

 

「包帯! がはぁっ⁉」

 

 高速回転の勢いに乗ったインフィニ一号機は立て続けに白鳥と黒鳥を破損させて、地上に落下させた。審判のアナウンスが響く。

 

「白鳥、黒鳥、戦闘継続不可能と判断!」

 

「あ~目が回った、回った」

 

 着地した一号機はよろめきながら、二号機にもたれかかった。

 

「コックピット自体は回っていないんだから、目が回る訳が無いでしょ……」

 

「冷静な突っ込みだね、水狩田」

 

「そんなことより来るよ……」

 

「モニターに強い反応! ……これは⁉」

 

 二機のインフィニの前に巨大な銀色主体の機体がそびえ立っている。

 

「我は島根県代表、『イズモティック』社渾身の機体、『ボウフウノスサノオ』だ‼」

 

 男のよく通る太い声が試合会場中に響き渡る。海江田が渋い表情で呟く。

 

「……そういえば残っていたな、こんなのも」

 

「手負いの相手に対し、手を抜くのもかえって失礼に当たる! かのツインテールの鬼神殿からも、二人はかなりの実力者だと聞いている! この大剣で、一瞬で終わらせるぞ!」

 

「そりゃあありがたい心遣いだね。えっと……」

 

「ボウフラのなんとか……」

 

「あ~そうそうそんなこと言っていたね」

 

「ボウフウノスサノオだ!」

 

 スサノオが前に走って、大剣を横に薙ぐ。しかし、そこには二機の姿が無かった。

 

「なっ、どこに……はっ⁉」

 

 二機のインフィニはスサノオの巨体の両脇に立っていた。

 

「水狩田、この機体、スペックも良いし、ポテンシャルは結構感じるんだけどね」

 

「それは同感、後は……乗り手の問題!」

 

「成程……ね!」

 

 二号機がスサノオの右肩部から斬り落とし、一号機が巻き付けた鞭で電流を流し、両脚部の駆動部に異常を発生させた。バランスを崩したスサノオは仰向けに倒れ込んでしまった。

 

「どうせくるなら覚えやすい名前になってからにして……」

 

「ボウフウノスサノオ、戦闘継続不可能と判断! よって、Cブロック、勝者、一八テクノと慈英流忍術保存の会!」

 

「さて、ノルマまでは後一勝か……」

 

 海江田が静かに呟く。



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第19話B(3)鬼神の因縁

「Cブロックは多少の波乱ありといったところね」

 

 高島津製作所に割り当てられたテントに高島津伊織が入ってきた。

 

「ああ、姉上」

 

 硬い表情でモニターを見つめていた高島津幸村の表情は姉の来訪によって和らいだ。

 

「確かスサノオとは練習試合を行ったのよね?」

 

「ええ、山陰方面を武者修行しているときに手合わせをしてくれました」

 

「鳥取砂丘での例の一件も?」

 

「はい、共同で対応にあたりました。応援しておりましたが……残念です」

 

「スサノオの敗因をどう見る?」

 

 伊織は椅子に腰掛けながら尋ねる。

 

「……機体スペックを始め、劣っている要素はほとんどありませんでした。単純に機体数の差もあったとはいえ、海江田さんたちの方が上手やったということでしょう」

 

「ふむ……流石は歴戦の傭兵コンビと言ったところね」

 

「そうですね、勉強になりました」

 

「貴女はどうかしら?」

 

「と、言いますと?」

 

「因縁のある相手だから少しナーバスになっているのじゃないかと思って」

 

「姉上、遠慮がないでごわすな」

 

 幸村が苦笑を浮かべる。

 

「オブラートに包んだ物言いは嫌いでしょう?」

 

「それはそうですが……」

 

「昨年の大会では惜しくも負けちゃったけど……」

 

「あの敗戦がうちを大きく成長させてくれました。対策をとってきたつもりです。初戦でぶつかるとはやや予想外でしたが、リベンジの絶好機だと捉えております」

 

「頼もしい言葉ね」

 

 妹の発言に伊織は微笑む。

 

「姉上の方はここら辺をうろちょろしとるということは……?」

 

「うろちょろって人聞き悪いわね。参加チーム関係者という立場を利用して色々ね……」

 

 伊織は首から下げたパスをひらひらとさせながら呟く。

 

「手応えの方はどうです?」

 

「ぼちぼちと言ったところかしらね」

 

「今後の予定は?」

 

「しばらく関西に滞在してから東に向かうわ」

 

「東に……」

 

「ロボチャンの東日本大会が行われるのならば顔を出しておきたいわね。出来れば全国大会にも……()()()()()のはそれからになりそうね」

 

 伊織が上を指差す。幸村は飲み物を口にして呟く。

 

「下も下で何やらまだまだきな臭いようですが……」

 

「その時はその時ね、状況に応じて臨機応変に対応するつもりよ。父上の腰も良くなってきたようだから会社の方も当面の心配は要らないでしょう」

 

「それもそうですね」

 

「二人で食事に行こうと言っていたわね。この日に休みが取れそうだけどどうかしら?」

 

 伊織が端末を操作し、幸村に見せる。

 

「ああ、ちょうどうちも休みです」

 

「それは良かった。場所はどこにする?」

 

「……その後のことも考えると、この辺りが良かですかね」

 

 幸村が端末上の地図を指差す。

 

「そう。私としてもこの辺が良いわ。この近辺で良い感じのお店を探しておくわね」

 

「お願いします」

 

 伊織が席を立つ。

 

「ごめんなさいね、色々とバタバタしているところを長居しちゃって……勝利も勿論だけど……無事を祈っているわ」

 

「ありがとうございます」

 

 幸村も席を立ち、姉に頭を下げる。

 

「それじゃあまたね」

 

「ええ、また」

 

 幸村もテントを出て、伊織を見送った。去りゆく姉の後ろ姿をぼんやりと眺めていると、不意に声を掛けられた。

 

「お姉さんに慰めてもろうたんどすか? 随分と気の早い御方どすなあ」

 

「雷……ほんまのことを言うたらあきません……」

 

 艶やかな着物姿でおかっぱ頭の女性が二人並んで立っている。双子の為、顔はそっくりである。背丈は小柄な幸村よりも一回り程大きい。振り向いた幸村は苦々し気に呟く。

 

千歳風(ちとせふう)千歳雷(ちとせいかづち)……」

 

「『ツインテールの鬼神』はんとまた対戦出来るのはこの上もない喜びどす」

 

「心にもないことを……」

 

「あら、分かってしまいましたか?」

 

 おかっぱ頭の前髪に一部緑色のメッシュを入れた女がクスクスと笑う。

 

「風姉さまもお人が悪い……」

 

 前髪に一部赤色のメッシュを入れた女も口許を抑える。

 

「……わざわざこんなところまで来て何の用じゃ?」

 

 幸村の問いに、雷と言われた女性が答える。

 

「いえいえ、その綺麗なお顔をよ~く見ておこうと思いましてね」

 

「?」

 

「だってそうでっしゃろう? 試合が終わった後はあんさんのお顔、涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになってまうんですもの」

 

「!」

 

 雷の言葉に幸村はややムッとする。

 

「去年なんかえらい傑作やったな~」

 

「雷、その辺にしときなはれ」

 

「あ~これは失礼しました。何分、正直な性格なもので」

 

 そう言って、双子は互いの顔を見合わせて、けらけらと笑う。幸村が口を開く。

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

「「⁉」」

 

 低い声で呟く幸村に双子は視線を向ける。

 

「『おかっぱ頭の風神雷神』、『おかっぱ頭×双子=最凶』、『千年王城に君臨するおかっぱ頭』などなど、数多の異名で呼ばれ、常にその将来を嘱望されてきた……うちもジュニア時代から幾度となく、その後塵を拝してきた……じゃが、それも今日でお終いじゃ!」

 

「「⁉」」

 

「この大会でうちはアンタらを超えてみせる!」

 

「……ほう、これはこれは……」

 

「結構な心意気……試合を楽しみにしております」

 

 双子は踵を返し、その場を後にした。その数十分後、試合が開始された。

 

「Dブロック、試合開始!」

 

 審判のアナウンスが響き渡る。幸村の駆る鬼・極は早くも、緑色の機体と赤色の機体と接敵する。緑色の機体は巨大な布のようなものをなびかせており、赤色の機体は自らの周囲に太鼓のようなものを巡らせている。幸村が自問する。

 

(大京都鋳物堂……千年の永い歴史が生み出した最高のロボット二体、風神雷神……特殊かつ複雑な操縦機構の為、まともに稼働させることが出来るのは千歳一族の血を引くもののみ。……そんな強敵とさあ、どう戦う⁉)

 

「さて、どれほどのものか見せてもらいましょうか?」

 

「……」

 

「来ないなら、こちらから仕掛けさせてもらいます! 行きますえ、雷!」

 

「はい!」

 

「「‼」」

 

 銃声が立て続けに二発鳴り、頭部を撃ち抜かれた風神雷神がドサッと倒れ込む。

 

「な、なんじゃ⁉」

 

 対面する幸村が驚いた。



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第19話B(4)激闘!Dブロック

「!」

 

 幸村はすぐさま鬼・極をその場から離れさせて、機体を隠せる場所に急ぐ。

 

(信じられないほどの遠距離からの狙撃! 正確に二体の頭部を射抜いてみせた! 戦闘継続の可不可はまだ下されていないが、それを待っちょる暇は無い! 呑気にしていたらこちらまで撃たれる!)

 

 なんとか機体を隠す場所を見つけ、そこに機体を移動させ、幸村は一息ついた。

 

「ふう……⁉」

 

 金属音が響く。陰からわずかに覗いていた鬼・極のトレードマークとも言える角の片方が狙撃によって打ち砕かれたのである。

 

(なっ……!)

 

 幸村は慌てて機体をさらに屈ませる。

 

(『お前の姿も見えているぞ』という余裕の表れか! くっ、それに比べてこちらは物陰に芸も無くただしゃがみ込んだだけに過ぎん! すっかり後手後手に回ってしまっている!)

 

 幸村は呼吸を落ち着かせつつ、考えをまとめる。

 

(思考というものがどうにも苦手だが、そうも言っておられん! 考えろ! 風神雷神ばかりに気をとられていたが、恐らく……いや、間違いなく、和歌山代表の奴の仕業! 関西地区の大会ではこういう戦い方はしていなかったはずだが、これが奴本来の戦い方!)

 

 幸村は再び呼吸を入れる。すぐさま思考を再開する。

 

(このまま隠れていても、当然ジリ貧……となれば動くしかない。動くということ=反撃するということ! しかし、反撃の手段は? 長距離のライフルなど持ってはいない。ならば距離を詰める必要がある。いや、待てよ、距離を詰める前に場所を特定せねばならん……! その為にはどうするか……? ……こうすっか!)

 

 幸村は機体を陰から出して、思い切りダッシュさせる。一瞬の間が空いた後、立て続けに二発の銃声が鳴り響き、鬼・極の頭部が外れる。しかし、鬼・極は走りを止めない。幸村は通信回線をオープンにして叫ぶ。

 

「かかったな、狙い通りじゃ!」

 

「⁉」

 

(規定上、コックピットは狙えない。ということはまず優先的に目を潰しに来るのが必定! その為にあらかじめモニターをサブモニターに切り替えて、視界を確保! 次に狙いに来るのが脚部、しかし、両脚を歩行不可能な状態までに破壊するには最低でも二発ずつが必要! そういう種類・破壊力の銃弾しか備えていないということは、頭部の損傷からも把握することが出来た! 四発撃たれるまでに距離を詰めてしまえば良いだけのこと!)

 

「たかが鬼の首を取ったくらいで良か気になるなよ‼」

 

 幸村はよりドスの効いた声を響かせる。大地が少し振動する。

 

「⁉ ア、アホかアイツ……」

 

「……確かにアホやな。ただ、一瞬でもビビッてしもうたあんさんの負けやで」

 

「なっ⁉ 雷神⁉」

 

 鬼・極から離れた木々の茂みに隠れていた迷彩色の機体を見下ろすように雷神が立つ。

 

「さっきは一発くれておおきに。寝ぼけた頭目覚めさすのにはちょうどええ塩梅やったわ」

 

 雷は雷神の頭部を指でトントンと叩く。

 

「紀ノ國機械工業の『ピストレイロ・マゴイチ』……関西大会では当たりませんでしたな」

 

「ふ、風神まで! いつの間に! 狙撃位置はその都度素早く移動していたのに……」

 

「ふふふっ……」

 

「レーダーには感知されないように気を配っていたはずや!」

 

 ピストレイロ・マゴイチのパイロットは困惑する。

 

「ふふっ……」

 

「ま、まさか、音か! 音を聞き分けたっちゅうんか⁉」

 

「ふっ、なんぼなんでもそこまで地獄耳ではあらしまへん」

 

 風は風神の首を左右に振らせる。

 

「ほ、ほんならどうして……?」

 

「なんと言えばええのやろ……あんさんの持つ気の流れを察知したっていうところかな」

 

「き、気の流れ?」

 

「そう、平静を装っているつもりでもわずかに生じた油断・慢心と言った気の緩みやさっき雷、妹が言うた恐れの気持ちの後を辿ってきたんどす……」

 

「な、何を言うているんや……?」

 

 ピストレイロ・マゴイチか恐れおののく様子が伝わってくる。雷が風に告げる。

 

「風姉さま、素人はんにはちょっとばかり難しい話やで」

 

「……せやな、時間の無駄やったわ……!」

 

「……ピストレイロ・マゴイチ、戦闘継続不可能と判断!」

 

 審判のアナウンスに幸村はハッとする。

 

「風神雷神が仕留めたか……向こうに行くとまた奴らと遭遇する……メインモニター無しでは厳しい相手じゃ……となると残された連中が取る方法は一つ……!」

 

「鬼退治の時間じゃい!」

 

「来たか! ……⁉」

 

 幸村が声のした方向を見ると、言葉を失った。桃色の球体が転がっていたからである。

 

「ふん、ビビッて声も出んかのう!」

 

「も、もしかして岡山代表、多喜多重工の『シン・モモタロウ』か……?」

 

「いかにも!」

 

「な、なぜ丸いのでごわすか? 中国地区大会ではそんな形状では無かったはず……」

 

 幸村は思わず丁寧な口調になってしまう。

 

「詳細は省くが、『なんだかんだで丸いのがええじゃろ』という結論に至ったんじゃ!」

 

「話短っ! ノリ軽っ! 結論雑っ!」

 

 幸村は正直過ぎる感想を口にした。シン・モモタロウからは不敵な声が聞こえる。

 

「ただの丸と侮るなよ! 『きび団子フォームチェンジ』を味わってからにしろ!」

 

「き、きび団子フォームチェンジ⁉」

 

「そうじゃ、行くぞ! まずは雉フォーム!」

 

「なっ!」

 

 球体から羽が生え、低空飛行で鬼・極との距離を詰める。

 

「よっしゃ、ついばめ!」

 

 球体からくちばしが出てきて、鬼・極の機体を突っつく。

 

「くっ!」

 

「お次は猿フォームじゃ!」

 

 羽とくちばしが引っ込むと球体から手足が伸び、鬼・極に飛び掛かり、爪で引っ掻く。

 

「うおっ!」

 

「効いとる、効いとる! 続いては犬フォームじゃ!」

 

 猿の手足が引っ込むと、犬の四本足と口が伸び、鬼・極は抑えこまれた状態になる。

 

「ぬっ!」

 

「噛み付け!」

 

 犬が鬼・極の肩部に噛み付く。

 

「離れろ!」

 

 鬼・極が相手を蹴り飛ばす。

 

「とどめはお待ちかねの桃太郎フォームじゃ!」

 

「誰も待っちょらん!」

 

「行くぞ! あ、あれ……? どうした? ……頭部腕部脚部の伸縮機構に異常発生⁉ ど、どうにかせい! え、どうにもならん? そ、そうか……」

 

 シン・モモタロウはただの桃色の球体としてコロコロと鬼・極の前に転がる。

 

「……」

 

 幸村は鬼・極の背部から長い棒を取り出す。シン・モモタロウから驚きの声が聞こえる。

 

「そ、それって金棒か?」

 

「チャー……シュー……」

 

「ま、待て!」

 

「メーン‼」

 

「うおおっ!」

 

 鬼・極はゴルフスイングの要領でシン・モモタロウを豪快に吹っ飛ばした。

 

「シン・モモタロウ、戦闘継続不可能と判断! よって、Dブロック、勝者、大京都鋳物堂と高島津製作所!」

 

「とりあえずは初戦突破か……」

 

 幸村は安堵のため息をついた。



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第20話(1)対戦相手確認

※ここから合流ストーリーに戻ります。


                  20

 

「次は準決勝か……」

 

 大洋が機体を格納庫に預けて宿舎に戻る。連絡があったように自分の部屋の前に隼子と閃が既に待っていた。

 

「遅いで」

 

「すまん、大松さんと久々に話し込んでしまってな」

 

 大松裕也(おおまつゆうや)、二辺工業のチーフメカニックを務めている中年男性である。

 

「出島を出港してから、バタバタしていたし、久々に話す相手も出てくるよね~」

 

 閃が廊下の壁にもたれかかりながら呟く。

 

「中に入ろう」

 

 大洋の後に続き、二人が部屋に入る。

 

「別に部屋でなくてもええんやなかったか?」

 

「確かに宿舎のラウンジとかでも良かったんだけど、どこで聴かれているかわかったものじゃないからね」

 

 隼子の問いに閃が頷く。大洋が尋ねる。

 

「盗聴の危険を考慮してか?」

 

「念には念をね。大した話をするわけじゃないんだけど」

 

「なんや、大した話はせんのかいな」

 

 隼子が肩をすくめる。

 

「どちらかと言えば確認の方が近いかな」

 

「確認?」

 

「そう。対戦相手についてね」

 

「組み合わせは今日と同様に明日の朝決まるんだろう?」

 

 大洋がベッドに腰掛けながら問う。

 

「ああ、ただチーム数が半分に絞られたわけだからね。組み合わせも予想しやすい」

 

「そうなのか?」

 

「考えられる組み合わせは全部で8通りだ」

 

「い、意外と少ないんやな」

 

 隼子が椅子に座って驚く。

 

「今日同じBブロックで当たった福井県代表、越前ガラス工房所属の『TPOグラッスィーズ』……彼らとは準決勝では当たらない」

 

「『播磨の黒い星』幽冥を落とした連中か……」

 

「どうやってやったんや?」

 

「それも気になるところだけど、少なくとも明日は当たらないわけだから」

 

「対策は後まわしでええっちゅうことか?」

 

「そういうこと♪」

 

 閃は大洋の部屋に備え付けられた大きめのモニターに映像を流す。

 

「これは……」

 

「ウチらより先に行われたAブロックの試合やな」

 

「復習がてら見ていくとしよう」

 

 Aブロックの試合がモニターに流れる。隼子が呟く。

 

「まず勝ち上がったのは沖縄