魔法武闘伝Gの劣等生 (ガノタなエクセル)
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武闘家襲来!魔法の世界を拳で打ち払え!

この日、国立魔法大学付属第一高等学校に一人の少年が入学をしました。
しかし、彼は魔法を学ぶことを目的とせず。そしてまた魔法を用いて戦わない彼の目的はただ一つ。

『強者との戦い』

この純粋ながらも異質な考えを持つ彼はこの第一高校で巻き起こされる波乱にどう戦っていくのでしょうか。

それでは!マギクスファイト!レディー……ゴー!


「ここが第一高校か……」

 

桜が舞い散る学び舎の門を一人の少年がくぐる。

高身長で筋肉質な身体。だが、着瘦せするタイプなのだろうか、制服を着ている状態ではあまりそういった印象を感じない。

顔は彫りが深く、それなりに整ってはいるが、吊り上がった切れ長の目と顔に付けられた十字傷。そして、まるでにらみをきかせているかのような無愛想な表情はすれ違う者に威圧感を与える。

 

彼の名前は 土門魁斗(どもんかいと) 

 

魔法師の家庭の生まれではないが魔法の素質が発現しており、この第一高校にもなんとか入学できた。

そのため彼が着用している学生服には八枚花弁のエンブレムが無い。つまり二科生であり、魔法実技の成績も下から数えたほうが早いまである。

 

今、彼の周りに人はほとんどいない。

まだ入学式まで二時間ほどあり、式の準備をする上級生などはいるが、新入生が来るには早すぎる。

 

取り敢えずどこかで瞑想でもして待っていようと考えた土門はなにか言い合っている男女に見向きもせず学校を彷徨い始めた。

 


 

「あの~……新入生ですよね?もう開場時間だから起きてくれませんか?」

 

中庭。この第一高校の中で最も自然が豊かな空間といっても過言ではない場所。

そこの中でもひときわ大きな一本樹の下で座禅を組み目をつぶっている少年に対し声を掛ける少女。

 

「もとより眠ってなどおらん。だが、開場時間となったことを教えてくれたのには感謝する。」

 

「あ、一応自己紹介をしておきますね。私は生徒会長を務めています七草真由美です。『七草』と書いて『さえぐさ』と読むの。」

 

「そうか、俺は土門魁斗だ。」

 

土門のあまりにも淡白な返事に真由美は顔をしかめ、その後笑みを浮かべる。

 

さっき少し話した司波達也もそうだが彼もなかなか攻略が難しそうだ。

 

七草真由美はいわゆる小悪魔系である。普段はそれなりに節度を持って他人に接するが、彼女の本質はからかいたがり。

ちょっとからかうだけですぐにうろたえてくれるようなちょろい人間も好きだが、ちょっとやそっとのからかいごときに全く動じない男が顔を真っ赤に染めるのを見るのが特に大好きという性格である。

色々お話をして彼の弱点でも見つけていきたいが、今は時間が無い。

だが、ちょっとしたジャブ程度に少し話を続けるぐらいだったらいいだろうと考え

 

「私これでもあなたの先輩なんだから敬語ぐらいは使ってほしいものね……もしかして先輩後輩以上の関係になりたいなんて思ってたりしてるのかしら?」

 

「以上の関係というのはよくわからんが……俺は師匠程の方でない限り敬意を持つことはない。」

 

「あら残念。それじゃあそろそろ入学式始まっちゃうから早く講堂に行ってちょうだい魁斗君。」

 

「?……わかった。」

 

彼女が言った「残念」という言葉の意味、急に自分のことを下の名前で呼んだ意味はわからないが取り敢えず忠告通りに講堂へと向かう土門。

 

「フフフッ。今年の新入生は興味を引く子が多くていいわね♪」

 

そうつぶやき土門の後ろ姿を見送っていたが、生徒会長である自分も講堂にいないといけないことを思い出し、走ってあとを追いかけるのであった。

 


 

講堂に入ると開始数分前だからかほとんどの席が埋まっていた。

さすがに一席は空いているだろうがそれを探すのは時間がかかりそうだと考えていたがその悩みは杞憂だった。

入ってすぐの後ろ側の席が空いておりすぐに見つけることができた。

 

「隣、座ってもいいか?」

 

「別にいいわよ。」

 

「そうか。ならば失礼する。」

 

座ることができた土門はまた瞑想でも始めようかと思ったところで隣から声を掛けられる。

 

「私は千葉エリカよ。よろしく!」

 

「私は柴田美月です。」

 

「そうか。俺は土門魁斗だ。」

 

「ふ~んそれじゃあ土門って呼ばせてもらうわね。」

 

「別に構わん。」

 

淡白な返事を返してすぐに瞑想をする土門。

そんな彼は声をかけてきた千葉エリカとその隣にいた柴田美月の更に隣にいた男について意識を向けていた。

先ほどの七草真由美という女もそうだったがこの二人からも強者の気を感じる……師匠に言われてこの学校に入学したが正解だな……

 


 

「ゆくぞ魁斗!」

 

「はい!師匠!」

 

「流派!東方不敗は!」

 

「王者の風よ!」

 

「全新!」

 

「系裂!」

 

「「天破侠乱!見よ!東方は赤く燃えている!」」

 

ギアナ高地の奥地にて二人の男が拳を打ち合わせている。

このギアナ高地での修行を始めてからそろそろ十年がたとうとしている。

これで朝の鍛錬は終わりだ。朝食として釣った魚を焼いて食べているときだった。

 

「魁斗よ確かおぬしは魔法を使えたよな?」

 

「ええ。一応隔世遺伝で魔法の素質が発現しておりますが……どうしてそのようなことを聞くのですか?」

 

「うむ。おぬしに魔法科高校に通ってもらおうと思っておるのだ。」

 

「魔法科高校ですか?俺は今さら魔法師になるつもりはないのですが。」

 

確かに最初は魔法の才能があることを知り、魔法師を子供の夢ながらに目指していた。

しかし、師匠に救われ、師匠の力、流派東方不敗の力、武闘家を目の当たりにした今は魔法師程度に興味が無い。

 

「別に魔法師を目指せというわけではない。だがこの世界において魔法師というのは全ての頂点に立つ程の強者だ。強者との戦いは更なる成長において必要不可欠だからな。」

 

確かに一般常識としてはそうだろう。

だが、師匠を超える生物がいるとは考えられない。

 

「しかし、俺としては師匠との修行で十分だと思いますが……」

 

「魁斗よ、おぬしはわしがこの世界の人間でないことは知っておるだろう?」

 

「はい、かつて教えてくださったことですので覚えております。」

 

「そのため流派東方不敗は魔法師との戦いなど想定されておらん。だからこそおぬしには魔法科高校に入り魔法師との戦い方を知ってほしいと思っておる。それにわしだけが強者ではない。色々な強者との戦いの経験というのは必要になるからな。」

 

「……わかりました。」

 

こうして土門の第一高校入学が決まった。

 

だが東方不敗としては魔法師との戦いの経験をしてほしいという思いもそうだが。

なによりも学生生活を送って欲しいという思いもあった。




皆さんお待ちかね!

第一高校一年E組となった土門魁斗!

彼は一科・二科制度の確執を垣間見てしまいます!

プライドと嫉妬にまみれ、司波深雪を独占しようとする一科生を相手に

土門は武闘家の力を見せつけます!

次回!魔法武闘伝Gの劣等生!

『見よ!流派東方不敗王者之風』に

レディー……ゴー!

注:実際の内容と異なる可能性がございます。


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見よ!流派東方不敗王者之風

さて皆さん!

国立魔法大学付属第一高等学校の入学式を終えた土門!

これから多くの友と切磋琢磨しあう楽しい高校生活が始まろうとしていますが

何やら不穏な空気を感じますな。

それでは!マギクスファイト!レディー……ゴー!


入学式が終わり、新入生は続々とIDカード兼生徒証を受け取りに窓口へと赴く。

土門は入学式の時に自己紹介をしあった千葉エリカと柴田美月。そしてその隣にいた司波達也と行動を共にしているがほとんど口を開かず、仏頂面なままなのではたから見ると不機嫌にしか見えない。

デフォルトの表情がそれだというのもあるが確かに不機嫌と言えなくもない。

さすがに学校に通うにあたって友人はいたほうがいいだろうと考えて一人帰らずにいるが、さっさと帰って鍛練でもしていたい。

殺意というほどでもないが少し気を張り詰めさせた隣の男(司波達也)に気を向けながら会話を聞いていると

 

「お兄様!お待たせいたしました!」

 

とどこか聞き覚えのある声が聞こえその方向に目を向ける。

そこには先ほど壇上で答辞を読み上げ、その美貌で多くの人間を魅了していた少女がいた。

壇上では神々しさ感じさせた少女がまるで思い人に会えたかのような晴れやかな表情を浮かべていることに美月もエリカも目を丸くしているが、土門はもはや趣味とまでなっている瞑想をしていたため彼女の姿を見ておらず何も驚きがない。

だが、達也の隣にいるエリカ達を見て「早速デートですか?」と兄に聞く姿には少し肝が冷えた。

笑顔でありながらあそこまでの殺意を放つとは中々のものだと見当違いなことを考える。

女三人寄れば姦しいという言葉通りに早速打ち解けおしゃべりに講じる深雪とエリカと美月にほんとに帰ってしまおうかと考えたところで

 

「深雪。生徒会の方々の用は済んだのか?」

 

と達也が声をかける。

 

「大丈夫ですよ。今日はご挨拶させて頂いただけですから。詳しい話はまた日を改めてします。」

 

この言葉に隣にいた男が驚愕するが真由美は意にも返さない。

これは自分がどれだけ言っても取り合わないだろうと諦めた男はただ達也をにらみつける。

 

「ではいずれまたゆっくりと…」

 

そう言って帰ろうとする真由美だが、その帰り際に

 

「魁斗君もまた今度ね♪」

 

と言葉を残す。

周りはざわざわと喧騒に包まれ、今まで達也をにらみつけていた男のヘイトが土門に移り、今まで以上の殺意が向けられる。

やはりさっさと帰っておけばよかった。と後悔しながら帰っていく真由美の背中を見送る土門なのであった。

 


 

土門が教室に入った瞬間クラスメイトの注目が集まる。

普通ならばすぐに興味など消え、皆自分達の活動に戻るが、一向に視線が消えない。

なんとなく理由を察してげんなりしながら席に着こうとしたところでエリカから声をかけられた。

 

「お、生徒会長の彼氏さんおはよー!」

 

「あの女の恋人ではないと昨日説明しただろ。」

 

「まあ確かにそう聞いたけどもう結構噂広まってるわよ?それこそこの学校で知らない人なんていないぐらいじゃないかしら?」

 

やはりか…だからここまで皆の注目が集まっているのだろう。

これも全てあの女の策略なのだとしたらかなり悪どい。

これからの生活に多少の不安を抱きながら自分の席に着き受講登録を行う。

その後カウンセラーである小野遥が教室に入ってくるまで彼への視線はなくなることはなかった。

 


 

土門は現在、人気のない校舎裏で一人、何かと戦っていた。

だが、彼以外に人はだれもおらず、はたから見れば変な人にしか見えない。

しかし、実力のある人間が見れば彼の目の前で相対する人間を幻視することが可能だろう。

土門が放つ無数の拳の連打を目の前の幻影はそれを涼しい顔でいなしていく。

この攻撃が数十秒続き、突き出された拳が万を超えたあたりでその動きを止めた。

 

「シャドウであってもやはりまだ師匠には勝てる気がしないな。拳打の速さはましになってはいるがスタミナが問題だな……午後はスタミナトレーニングを中心にしよう。」

 

今の時間は昼休み

達也達と食堂で昼食を食べていたが、鍛錬欲と周囲から向けられる視線によってさっさと切り上げて、人目のつかない場所で東方不敗を想定したシャドウファイトをしていた。

取り敢えずもう一度ファイトを行う前に五分ほど休憩しようと思ったところでもはや因縁の相手といってもいい女の声が聞こえてきた。

 

「お疲れ様♪そこの自販機で買ったやつだけどいる?」

 

「またお前か七草真由美……貴様のせいでだいぶ面倒なことになっているんだぞ。」

 

「あら。いつの間にここにいたんだって聞かなくていいの?」

 

「気配自体は少し前から感じ取っていた。それに俺がここに来た時ぐらいから視線も感じていた。」

 

土門のこの言葉に真由美は今までのいたずらな笑みから一転、驚愕の表情に染まった。

 

《マルチスコープ》

七草真由美が得意とする魔法の一つであり、離れた場所を様々な視点から同時に知覚するという効果で、鍛錬していた土門のことも最初はこの魔法を使って見ていた。

もちろん魔法なため視線というものは感じにくいものであり、真由美自身もそこには気を付けていた。しかし、いま彼は視線を感じていたと言ったのだ。

真由美の土門に対する興味がまた増していく。

 

「へぇ……魁斗君はそうとう敏感なようね。それともそんなにお姉さんのこと想ってくれているのかしら?」

 

「まあ確かに昨日、今日、ほかの人間よりかはお前のことを思いながら過ごしているかもな。」

 

「……へ?」

 

もちろん土門としては真由美のせいで生じた誤解を解かなければならなくなったので煩わしいと思っているぐらいなのだがそれがちゃんと伝わっていないのだろう。

数舜惚けていた真由美はその後顔を赤く染める。

 

「あの、魁斗君が私を想ってくれてるのはうれしいけど私七草家の長女だから一般魔法師とそういった関係になれないし。あ、けど学生の間の恋人関係とかだったらいけなくも……いやいやそれでも……ってあ、そうだ!私生徒会でやらないといけない仕事があるの忘れてたからここで失礼するわね~おほほほー。」

 

そのまま早口でブツブツ言いながら目にもとまらぬ速さで帰っていく真由美を土門は見送りながら昨日もこんなことあったなと感じたのであった。

 


 

放課後

 

達也・エリカ・美月と今日知り合った西城レオンハルトと一緒に帰宅しようとしたところで深雪と合流。

だがその深雪の後ろをついてきていたA組の面々が深雪が二科生と行動を共にすることが許されずに難癖をつけてきた。

土門はすぐに出て鍛錬をしていたため知らなかったが、昼食の時も似たようなことがあったらしい。

その為もう我慢の限界だったのだろうかここで啖呵を切ったのはまさかのあのおとなしい美月だった。

だが一科生になれたというプライドにまみれている彼らにはそれが許せない。

ほぼ駄々をこねるだけで、口を開けばウィードごときがなどと蔑むことしか言えない。

そしてそれに皮肉げにA組の意見に返していくエリカとレオ。

段々とヒートアップしていく口論だが、一科生の怒りに油を注ぐ出来事が起きた。

 

「おい土門。どこに行くつもりだ?」

 

「悪いが俺は帰らせてもらう。この程度の奴らに時間を取られるぐらいなら早く帰って鍛錬をしたほうがずっと有意義だ。」

 

「……おい、お前。今僕たちのことをこの程度と言ったのか?」

 

「ああ。はっきり言ってお前たちからは強者の気を感じない。俺が求めるは自身のさらなる成長。その為には貴様らのような弱者共に割く時間はない。」

 

自分を強者と信じてきた者達にとってこの土門の言葉は彼らの怒りを買うには十分だった。

そして怒りで我を忘れた人間が取る行動は一つ。

土門曰く弱者の集団の中心的存在であった森崎駿は自身の懐から拳銃型のCADを取り出し背中を向けている土門にその銃口を向ける。

引き金を引き、自身の想子(サイオン)を送り込み起動式を展開する。

森崎の突然の行動と魔法発動の速さに誰も反応できない。

このまま森崎が発動した魔法が土門を襲うと思われた瞬間、森崎の手からCADが消えた。

それを見た全ての者達が驚愕し、土門の方を見やると彼の手には何の変哲もないタオルと先ほどまで森崎が持っていたCADがあった。

 

「魔法師というのはこれがないとろくに戦うこともできんのだろう?武器というものは自分の半身といっても過言ではないのだからなによりも気にかけたほうがいいぞ。」

 

そう言ってCADを投げ返すがまだ誰も反応出来ず地面に落ちて、カシャンという音が静かな空間に響く。

そのまままた背を向けて歩く土門を見送ることしかできなかった。

 


 

司波家

 

四、五人の家族ならば普通に生活できるほどのこの家には達也と深雪の二人しかいない。

母親は死に、父親は再婚相手の所に入り浸っているためほとんど二人だけの空間となっている。

いつも二人で他愛もない会話をしているが今一人の男について話している二人に笑顔はない。

 

「お兄様。彼はいったいどうやって森崎君のCADを取り上げたのでしょうか?」

 

「……正直、あいつが何をやったかは分かったんだが、どうやったのかが全くわからなかった。」

 

「それは……どういうことなのでしょうか?」

 

「方法自体は単純だ。あいつは右手に持っていたタオルをCADに巻き付けて奪い取った。常人には視認することすら困難な早さではあるが説明だけなら簡単なように感じるだろう。」

 

「だが、タオルの長さを超える距離だったはずなのに移動することなく届かせたんだ。何の変哲もないタオルを伸ばしてな。」

 

「何より一番の問題はそれらを行う際に魔法式が視えなかったことだ。」

 

達也のこの最後の言葉に深雪は驚きを隠せなかった。

司波達也は精霊の眼(エレメンタル・サイト)と呼ばれる特殊な知覚能力を持っている。

現代魔法において世界の全ての情報が記されている次元とされている《イデア》

そのイデアに直接アクセスし、そこからただの情報である魔法式や起動式を読み取り、瞬時に解析する事が可能なのだが

そんな達也ですら視えなかったということはまるで魔法かのようなその一連の行動は魔法に頼らずに行われたことだということになる。

それは即ち魔法師以外の人間でも扱える可能性があり、誰でも魔法師と同程度になれるということになり、今までの魔法師の地位がくずれる危険性がある。

 

土門魁斗

彼の力について色々調べなければならない。

そして深雪の安寧の障害となるのであれば全力をもって排除する必要があるな。

と達也は土門にたいして警戒を強めるのであった。




皆さんお待ちかね!

流派東方不敗の力の片鱗を見せた土門!

生徒会に呼び出された彼は

様々な思惑が蔓延る中、魔法師とのファイトがついに始まります!

次回!魔法武闘伝Gの劣等生!

『激突!魔法師対武闘家』に

レディー……ゴー!

注:実際の内容と異なる可能性がございます。


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激突!魔法師対武闘家

さて皆さん!

一科生と衝突をしてしまった土門魁斗!

事なきをえることは出来ましたが

まだこれで終わりを迎えたわけではありません!

それでは!マギクスファイト!レディー……ゴー!


今日も又、教室に入ると数々の視線を受ける。

昨日の今日で噂が風化することなどないことはわかっていたため何も気にせずに席に着く。

当分、昼食は購買で買ったパンで済ませようかと考えていたところで隣から声を掛けられた。

 

「土門。今日の昼休みは予定があるか?」

 

「……別に急ぎの用はないが、どうした?」

 

「深雪に話があるとのことで生徒会に呼ばれたんだが、それにお前も呼ばれているんだ。」

 

達也のこの言葉にクラスは騒然ととする。

生徒会長からのお誘い

普通の生徒ならば一科生であったとしても一生ないであろう経験をする二科生の男

それが噂の信ぴょう性を上げていく。

 

「はぁ……わかった行こう。」

 

噂がなくなるのは当分先になるだろうなともはや他人事のように考え出す土門であった。

 


 

近未来を感じさせる校舎では異質な木造の重厚な扉を達也がノックし、開ける。

そして深雪が入り礼をする。

その姿は同に入っており格式ばったパーティーであっても浮かないほどだった。

先程の達也の動きと合わせて見れば、まるで令嬢とその護衛のようだ。

 

「いらっしゃい。取り敢えずお話は食事をしながらにしましょう。遠慮しないで掛けて♪」

 

生徒会室の一番奥の机に座る真由美が笑顔で目の前にある長机に着席を促す。

奥から深雪、達也、土門の順番に座り、反対側にいる生徒会の役員であろう人達と対面する。

生徒会室に備え付けされている自動配膳機(ダイニングサーバー)からメニューを選び、準備を終え食事を始める。

 

「それじゃあ改めて自己紹介をしますね。私の隣にいるのが会計の市原鈴音 通称リンちゃん」

 

「私のことをその名で呼ぶのは会長だけです。」

 

「それで更に隣の小さい子が書記の中条あずさ 通称あーちゃん」

 

「会長!下級生の前なんですからあーちゃんなんて呼ばないでください!」

 

あずさの反応からして普段、周囲の人間からそう呼ばれているのだろう

 

「それと副会長のはんぞーくんを含めた四人が今期の生徒会役員です。」

 

「あと私は風紀委員長の渡辺摩利だ。」

 

生徒会側の自己紹介が終わり、食事が進む。

みんなが自動配膳機の料理を食べる中、摩利が手製の弁当を取り出し、司波兄妹が自分たちの世界を作り出す。

土門はそれになんの関心を持たず、ただ黙々と箸を進めていると、真由美から声をかけられた。

 

「けど、魁斗君も精進料理を頼むなんて予想外だったわ。てっきりお肉ばっかり食べてるものかと思った。」

 

「お前には関係ないだろ。」

 

「も~私と魁斗君の仲じゃない。それにお前じゃなくて真由美って呼んでよ。」

 

「たかが数回話した程度の仲だろうが真由美」

 

「つれないわね~……今、真由美って……」

 

「お前が真由美と呼べと言っただろ。」

 

「いやまあ……それはそうだけど……///」

 

はたから見れば少し甘酸っぱい雰囲気を出す二人

未だにイチャイチャしている兄妹と独特の空間を醸し出す二組に、残った者たちは居心地の悪さを感じながら空気に徹した。

 


 

「それじゃあそろそろ本題に入りますね。」

 

ある程度食事を終えたところで少し顔を赤くした真由美が話を変えた。

内容としては入試の主席合格者である司波深雪の生徒会入りのお願いだった。

それに対して深雪は達也の方がふさわしいと推薦するが生徒会は一科生しかなれないという規則があり、却下される。

落ち込んだ深雪が役員を受け入れこれで話は終わりかと思われたとき、そろそろ風紀委員の生徒会選任枠を決めなければという話になったところで更に話は進む。

風紀委員には一科生でなければならないという規則は存在しない。

それに気が付いた真由美が司波達也を推薦する。

それに対して達也自身が反論するがそれもむなしくトントン拍子に話が進んでいき、最終的に深雪がお願いすることによって折れてしまった。

そしていろいろ決まったところで今まで黙っていた土門が口を開いた。

 

「それで、結局俺はなぜ呼ばれた?」

 

今のところ本題の内容としては深雪の生徒会への勧誘しかない。

実の兄である達也はともかく自分がいる必要は全くないだろう。

この土門の疑問に答えたのは摩利だった。

 

「ああ、実は君に聞きたいことがあってだな。」

 

どうやら昨日のA組との衝突の時の話を聞きたいようだ。

たしかに土門はほとんど中心人物といっても過言ではない、それなのにすぐに帰ってしまい事情聴取は受けていない。

納得しつつ事件のあらましを話そうとすると

 

「昨日の内容はある程度達也君から聞いている。それではなくその時の行動、森崎駿のCADを取り上げた方法を聞きたい。」

 

「俺も気になっていたんだ。魔法師に魔法の詮索をするのはマナー違反だというのはわかっているんだがどうしても気になってしまってな。」

 

これに土門は少し逡巡した。

流派東方不敗をそんな簡単に他人に広めてしまって構わないものなのだろうか。

師匠ならばいったいどう言うだろうか。

そう考え

 

「教えるのは構わんが、俺は口が達者な人間ではない。だから手合わせ願えないか?」

 


 

放課後

 

司馬兄妹と土門はまた生徒会室にやってきた。

彼らを迎えるは昼の時のメンバーともう一人窓の外をじっと眺める男。

その男は振り合えり前にいた達也を素通りし、深雪に話しかける。

 

「ようこそ司波深雪さん。副会長の服部刑部(ぎょうぶ)です。」

 

真面目ながらも人当たりの良さを感じる表情で深雪を迎える服部。

だがそれも後ろにいる土門の姿を見つけて崩れた。

 

「土門魁斗。貴様は何をしにここに来た……?」

 

「もうはんぞーくんそんな顔しないでよ。あーちゃんが怖がってるわよ?」

 

「土門は私が呼んだ。これからこいつの力を知るための模擬戦を行おうと思ってな。」

 

真由美の忠告に従い少し落ち着かせる服部。

だが、それでも彼の敵意は消えていない。

 

「渡辺委員長が出るまでもありません。その模擬戦の相手を私に任せてもらえないでしょうか?」

 

「私は別に構わないが……土門はいいのか?」

 

「構わない。お前ほどではないが服部もそれなりの強者とみた。ならば俺からは何も言うことはない。」

 

「そのようなことを言っていられるのも今のうちだ。実力の差を見せてやる!」

 

こうして土門と服部の対決の火蓋が切って落とされた。

ここまで話に入ることができず、無視され続けてきた達也の表情に変わりはないが、その背中には哀愁が漂っていた。

 


 

模擬戦の場所である第三演習室で向かい合う二人の男。

魔法師(服部)は右手につけたCADの調整を続けており

武闘家(土門)は構えをとって集中を高めている

 

「なあ土門。CADを持っていなさそうだが準備をしなくていいのか?」

 

「問題ない。」

 

そう淡白に答える土門。

摩利はその返事に不安を感じながらもそうかと返す。

それを見て自分をなめているのかとさらに怒りをたぎらせる服部。

 

なぜ会長はあのような無愛想で態度の悪い男に好意を向けているのか。

服部は昨日からそのことについて考えていた。

そして出た結論が『女性。特に会長のようなお嬢様は悪い男に心惹かれやすくなる』であった。

その結論に至った服部は会長をたぶらかした男に対する怒りと会長を助け出してみせるという使命感に駆られている。

相手は二科生(ウィード)だが、本気でやって相手を完膚なきまで叩き潰す。

熱い激情をたぎらせながら目の前の相手を睨み、精神を研ぎ澄ませる。

そして摩利の「はじめ!」の合図とともに魔法を展開した。

 


 

服部が展開したのは速さ重視の基礎単一系の移動魔法

これで相手を後ろに吹き飛ばして壁に衝突させ意識を奪う

新入生。それもCADを持っていない二科生ごときに負けるはずがない。

一瞬の間をおいて発動される魔法

目の前の男はそれに反応できずに後方の壁に吹き飛ばされる。

自分のシミュレート通りの結果に勝ちを確信した服部。

誰もが土門の敗北を想定した中、その予想はすぐに裏切られた。

 

土門は空中で一回転し体制を整え、足から壁についた。

そして壁を蹴り十数メートル離れた距離を一瞬で詰め、腕を振り上げる。

服部は咄嗟に後方にステップし、雄叫びをあげながら振り下ろされた手刀は空を切りその風圧だけで服部を更に吹き飛ばす。

土門の一撃の威力に恐怖を覚える一同。

対面する服部は警戒度を一気に上げる。

奴はたかが二科生となめてかかっていい相手ではない

すぐさまCADを操作し、魔法を発動する。

発動した魔法は《ドライ・ブリザード》

空気中の二酸化炭素を集め、ドライアイスを作り、高速で打ち出す魔法。

突如現れた氷結が土門を襲うが涼しい顔をしながら飛んでくるドライアイスを拳で破壊する。

だが、それこそが服部の狙い

《ドライ・ブリザード》の副次効果として発生した霧雨を利用し、電撃を浴びせる魔法《這い寄る雷蛇(スリザリン・サンダース)》を発動する。

放たれた雷撃が土門を襲い爆音を轟かせる。

煙が土門の周囲を覆い、姿を隠す。

全員が土門の身を案じる中、煙の中から声が響いた。

 

「正直、魔法というものをなめていた。流派東方不敗の技を使わずとも倒すことは容易だと思っていた。」

 

突如放たれた突風が煙を消す。

そこには無傷で開いたほのかに輝きを放つ右手を突き出す土門の姿があった。

 

「だが、それは間違いだった。ここからは武闘家として俺がうてる技を用いておまえを倒す!」

 

カッと目を見開き宣言した土門は流派東方不敗の中でも速さに特化した技を放つ。

 

「酔舞・再現江湖デッドリーウェイブ!!」

 

神速の突進は残像を生み出しながら服部を通り抜け気がつくと土門は服部の背後でポーズを取っていた。

 

「ばぁぁぁくはつ!!」

 

この掛け声とともに服部を中心として巻き起こる爆発。

服部の身体が空を舞い、地面にたたきつけられる前に土門に抱えられた。

呼吸は安定しているが彼の腕はだらんと垂れ下がっており、気絶しているのがわかる。

 

「勝者!土門魁斗!」

 

審判である摩利の声が演習室に響き、魔法師と武闘家の初めての闘いは幕を閉じた。




皆さんお待ちかね!

魔法師との戦闘を制した土門!

だが、ここで司波達也との闘いが続けておこなわれるようです!

ウィードと呼ばれ蔑まれる者同士のファイトはどれほどのものになるのでしょうか!

次回!魔法武闘伝Gの劣等生!

『大激戦!隠れた最強同士のファイト』に

レディー……ゴー!

注:実際の内容と異なる可能性がございます。


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大激戦!隠れた最強同士のファイト

さて皆さん!

土門魁斗と生徒会副会長である服部刑部との模擬戦は土門の勝利に終わりました

ですが、まだファイトは終わらないようです

今度の相手は土門のクラスメイトであり劣等生の烙印を押されている司波達也

この二人の闘いはどれほどの熱狂を生み出すのでしょうか

それでは!マギクスファイト!レディー……ゴー!


演習室は静寂に包まれていた。

生徒会の中でも実力者の立ち位置であり、模擬戦においてこれまで無敗の実績を持つ服部の敗北もそうだが

なにより土門の力が彼らから言葉を失わせるに足りた。

男性一人を手刀の風圧だけで吹き飛ばすほどの筋力

魔法の直撃をくらっても無傷ですます頑丈さ

そして一瞬のうちに相手を気絶させるほどの力を持つ彼曰く『流派東方不敗』

もはや人間なのかも疑問に思えるほどの実力に頭が回らない。

 

「取り敢えず勝負は決した訳だがこれで十分か?」

 

土門の問いかけでやっと我に返る者達。

 

「えっと……今のが流派東方不敗?っていう魔法なのよね?」

 

「流派東方不敗は魔法ではない。天と地の霊気を父母とし、天地自然の大いなる力をうけて生まれた拳法の流派だ。」

 

真由美の問いに対する土門の返答に聞いた者達全員が驚愕した。

一世紀以上の歴史を持ち、今やあらゆる武器・兵器よりも強力とされる『魔法』

一部の血族、才能を持つ者にしか使うことができない能力

だが、それを上回るほどの力があることを証明されたものが鍛錬を積めば誰でも扱うことのできる拳法なのだ。

何かの冗談だと疑いたくもあるが、土門は軽々しく冗談を言うような男ではないことは付き合いの短い彼らでもわかる。

わかってしまうからこそその事実を認めたくない。

特に七草真由美は日本でもトップレベルの権力を持つ『十師族』の一つである『七草家』の長女であるため、この力を危険視していた。

まずは流派東方不敗について色々と知る必要がありそうだ。そう考えまた質問をしようとしたところで別の人物から土門への質問が飛んでき、開きかけた口をつぐんだ。

 

「流派東方不敗……あまり聞いたことがない流派だが、所謂一子相伝の秘伝流派なのか?」

 

司波達也もまた流派東方不敗に土門魁斗に危険性を感じていた。

誰でも魔法師を超えることができるほどの力

彼自身に魔法師を脅かす気がなかったとしても魔法師を敵対視する者が流派東方不敗を修めていたのであれば深雪の安寧のために排除する必要がある。

そのための情報を手に入れる必要がある。

そのための達也の質問に対する土門の答えは

 

「一子相伝?いや、俺と師匠の間に血縁関係はない。まあたしかに今この世界で流派東方不敗を扱えるのは俺と師匠だけだから似たようなものかもしれんが。」

 

「お前と師匠だけか。道理であれだけの実力を持ちながら名前を聞いたことがないはずだ。因みにお前の師匠はどのような人物なんだ?」

 

「師匠か?そうだな……師匠はとにかく強い。もはや規格外だと言わざるを得ないほどにな。」

 

お前が言うなとこの場にいた全員が思ったことだろう。

 

「そして何よりも優しい。地球を、自然を、そして人類を愛する心を持っている。まあ悪人に対しては師匠は苛烈になるがな。」

 

「そうか。」

 

これならば少しは信用してみてもいいかもしれない。

まだ様子を見ようと質問者である達也と土門の返答を聞いた真由美は考えた。

 

「うっ!」

 

「目が覚めたのね!大丈夫はんぞーくん!?」

 

「は、はい!自分は大丈夫です!」

 

呻き声をあげながら目を覚ます服部

それに気が付いた真由美が心配そうに顔を近づけるが服部は焦りながら立ち上がり距離をとる。

そして自分を見つめる土門を睨む。

だが、そこに今まで程の殺意はない。

服部の土門への印象は自分が思いを寄せる会長を悪の道に落とす悪人から恋敵へとなった。

 

「取り敢えずお前の実力は認める。これほどの力があるのであれば風紀委員でも活躍できるほど……そうだ!こいつを風紀委員に推薦するのはどうでしょうか!?会長!渡辺委員長!」

 

服部のこの言葉にあっけにとられる一同。

そういえば司波達也を生徒会推薦枠に選んだことをまだ伝えてなかったことに気が付きばつが悪い表情になる。

雰囲気の変化に気付きはしたがなぜこうなったのかがわからずにきょとんとする服部。

 

「えっと……生徒会は達也くんを推薦することに決めてるのよね~……」

 

「達也?そこにいる男ですか?二科生のようですが……勿論土門のような例があるのでもしかしたらかもしれませんが……土門を推薦したほうがいいのではないでしょうか?」

 

「確かに実戦能力があるのかわからない司波君よりも副会長との模擬戦で実力が判明した土門君を推薦したほうが建設的かもしれません。」

 

服部の意見に鈴音が賛成を示す。

あずさや摩利までもがそれに賛成の意を示し、やはり土門を生徒会推薦枠として風紀委員に任命させようかという風潮になっていく。

しかし、それを認めることができない人間が一人

司波深雪である。

彼女はなによりも兄である達也を尊敬・恋慕しており、達也の実力を理解されてないことに憤りを感じていた。

折角達也の実力を正しく理解してもらうチャンスなのにそれをあのような男に不意にされたくはない。

反論をしようとしたところで男の声が響いた。

 

「ならば達也の実力が分かればいいのだろう?」

 

「……そうです!ここは演習室ですしお兄様も模擬戦を行えばいかがでしょうか!?」

 

「いや……別にそこまでしなくても……」

 

「対戦相手は俺がやろう。達也とは一度ファイトをしたいと思っていた。」

 

「俺は別に風紀委員に入らなくてもいいんだが……」

 

「それじゃあ魁斗君は連戦になっちゃうし10分程休憩をとってからにしましょう。」

 

「……」

 

こうして急遽達也対土門の模擬戦が執り行われることとなった。

自分の意見を聞かれることなく勝手に決められたことに無表情ながらも不機嫌になる達也だった。

 


 

少し距離を離して向かい合う達也と土門。

武器を持たずに構える土門に対し達也はアタッシュケースから取り出した自身の拳銃型CADを左手に持ち突っ立っている。

またも審判を務める摩利の「はじめ!」の合図の直後轟音が鳴り響いた。

その音の方に視線を向けるとそこには右の拳を突きつける達也とその拳を左腕で受け止める土門の姿があった。

 

「CADを持ちながら初手が打撃とは驚かされたぞ。」

 

「当然のように受け止められながらそれを言われても嬉しくはないがな。」

 

笑みを浮かべながら一言会話を交わす二人

そしてまた格闘の応酬が始まる。

左手に持っていたCADをホルスターに収め、両拳による連打を始める達也。

土門はその全てを受け止め、いなし、躱していく。

土門が返しで放つ拳もまた達也にいなされる。

まさに一進一退の攻防を繰り広げる二人。

格闘戦では埒が明かないと考えたのか達也は一足で土門から距離を取り周りを走り回りながら魔法を使用する。

使用する魔法は《空気弾(エア・ブリット)

手元で圧縮空気弾を作り、それを打ち出す魔法であり、比較的簡単に使用することができる魔法なうえ、達也が持っているCADである《シルバー・ホーン》は魔法の連続発動に最適化されており魔法の発動速度が遅い達也でも弾幕を張ることができる。

前後左右、更には上から無数に飛んでくる空気弾に回避をとることで精一杯になる。

だが、土門の表情に焦りはない。

 

「毎秒六発といったところか……達也よお前が六発の弾丸を放つのならば!俺は六人の俺でお前の攻撃を止める!」

 

「秘技!十二王方牌大車併(じゅうにおうほうぱいだいしゃへい)!」

 

そう叫びながら自身の前面に突き出した掌を円のように動かすと『十・二・王・方・牌・大・車』の文字と火の玉が浮かび上がり掌を突き出すと火の玉は小さな土門となり空気弾を打ち消しながら達也へと殺到する。

魔法ですらできるわけがない有り得ない光景にさすがの達也も無表情を保てず困惑顔で動きを止めてしまう。

その一瞬を土門は見逃さない。

一瞬のうちに距離を詰め手刀を首元で寸止めをする。

二人の間に生まれる静寂

それがこの戦いの終わりを告げた。




皆さんお待ちかね!

司波達也との模擬戦を終えた後日

クラブ活動勧誘期間に入りまさにお祭り騒ぎの様相になります!

ただ闘いを望む土門はいったいどのようなクラブに入ることになるのでしょうか!

次回!魔法武闘伝Gの劣等生!

『歓迎!マーシャル・マジック・アーツ部』に

レディー……ゴー!
注:実際の内容と異なる可能性がございます。


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勝負!剣術部 桐原武明

さて皆さん!

風紀委員を決めるためのファイトが終わり、クラブ活動勧誘期間が始まりました

そこで衝突を起こす剣道部と剣術部

その諍いに土門魁斗も首を突っ込むようです

剣士との闘いはどのような決着を迎えるのでしょうか

それでは!マギクスファイト!レディー……ゴー!


その日の授業が終わり放課後。

本日からクラブ活動勧誘期間が始まる。

この期間中は有望な新入生の取り合いになる上にオリエンテーションのためにCADの携行が許可されているため別名クラブ活動勧誘合戦と呼ばれており、風紀委員最初の大仕事となる。

新入生の多くがどこのクラブに入ろうかと期待に胸を膨らませる中、不機嫌さを醸し出してる(土門魁斗)がいた。

普段から余り人を近づけない雰囲気を出している彼が更に不機嫌なことによりほとんどの人が彼に話しかけることができない。

しかし、それは大多数の人間であってそんな彼に構わず話すことができる一部の人もいる。

 

「どうしたんだよ魁斗。腹でも減ってんのか?」

 

「あんたじゃないんだからそんなわけないでしょ。」

 

「なんだと!」

 

「エリカちゃんもレオ君も喧嘩はやめてください!」

 

「まあ、魁斗のことだから鍛錬の時間が減るのが気に食わないんだろう。」

 

土門と親交があるエリカ・レオンハルト・美月・達也の四人は土門の雰囲気を気にすることなく会話を広げていく。

彼が更に気を悪くしないか周りの人たちは戦々恐々としていたが彼が少し笑みを浮かべているのを見てそれが杞憂だと悟り各々の活動に戻った。

 

「まあ、そうだな。正直に言って気が進まん。」

 

「だが、決ってしまった以上どうすることもできない。さっさと覚悟を決めておけ……そろそろ俺は行くよ。」

 

「そうか……達也!」

 

「どうした?」

 

「風紀委員頑張れよ。」

 

「ふっ。お前は早く入るクラブを見つけろよ。」

 

軽口をたたき、自分の仕事(風紀委員)に向かう達也。

それを見送る土門はまだ入るクラブを見つけていない者同士であるエリカと共に勧誘を行う上級生でごった返す校門前へと向かった

 


 

「勝者!土門魁「いや違うな。」なに?」

 

摩利の勝者の宣言は本人によって遮られた。

確かに土門は達也の首元に手刀を当てている。

しかし、よく見ると土門の鳩尾には達也の拳が寸止めされていた。

 

「お互いに急所への寸止め……勝負は引き分けといったところか。」

 

「けど、だとしたら結局達也君の風紀委員入りはどうするの?」

 

「確かにそうですね……」

 

どちらが風紀委員にふさわしいかを決めるための模擬戦だった。

しかし結果はどちらも申し分ないほどの逸材である。

しかし、推薦枠は一つしかない。

どちらかを選ばなければならないことに頭を悩ませる。

その悩みに対して当の本人が解決策を出した。

 

「でしたら自分は「元々は達也が風紀委員にふさわしいかを決めるファイトなんだ。そのまま達也を推薦すればいいだろう。」……」

 

土門の言葉に明らかに下がっていた演習場の室温が戻っていき、その元凶である少女の笑みからも冷たさがなくなっていく。

だが、深雪以外はなんとなく土門が風紀委員になりたくないだけだということを察していた。

しかし、下手に追及して深雪の機嫌をまた悪くさせても困るので黙っておくことにした。

 

「なら風紀委員に推薦する人が決まったところで達也君は本部まで来てくれ。」

 

「はぁ……わかりました。」

 

「それじゃあ私たちも戻りましょうか。魁斗君は帰ってくれていいわ。今日はありがとう♪」

 

「構わん。二回もファイトできたのだから俺としては本望だ。」

 

「それならよかったわ……そういえば今度クラブ活動勧誘期間が始まるけど、うちは生徒会や風紀委員に入ってるなどのよほどの事情がない限りはどこかに絶対に入らないといけないからね♪」

 

「なに?」

 


 

「いや~ほんと土門と一緒にいると変な輩に絡まれなくていいから楽だわ~!」

 

入るクラブがまだ決まっていないエリカと土門は現在行動を共にしている。

取りあえず演習を見たいということで『第二体育館』、通称『闘技場』に向かっている。

そのために部活動勧誘を行っている上級生がひしめき合っている道を通っているのだが誰も彼らに声を掛ける様子はない。

二科生だから誰も声を掛ける気が起きていないとかそういうわけではない。

なんなら誰もがエリカを勧誘しようとしている。

深雪という圧倒的美少女が近くにいるせいで埋もれてしまっているが、エリカは彼女とはまた違うタイプの美少女であり、広告塔やマスコットとしては申し分ないほどである。

そのため特に非魔法系クラブが彼女を勧誘しようと目を光らせているが隣にいる土門魁斗が放つ気迫のせいで誰も近づくことができない。

何のアクシデントも起きることなく平和に目的地に向かうことができるためエリカの表情はとても明るい笑顔だった。

 

「……」

 

闘技場に着いて現在行われている剣道部の演習を見ているが、エリカは先程の笑みが噓のように不機嫌だった。

 

「上機嫌かと思えば今は機嫌が悪くなったり……せわしないやつだなお前は。」

 

「だってさ、落ち着いて演習を見れるのはいいんだけどその見てるのがこんなただの殺陣じゃ機嫌も悪くなるでしょ。」

 

「そうか?これは誰かに見せるためのものだある程度見映えをよくしたほうがいいだろう。それにそれを一般人にはわからないように見せれているんだ。あいつらの技量の高さを伺える。」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いや、あんたのことだから『なんだあれは!武道というものを無礼(なめ)ているのか!』とか言うもんだと思ってたから……」

 

「流石にそのようなこと言わん。俺をなんだと思っているんだ?」

 

「いや~それは「ちょっと!何やってるの!」ん?」

 

彼らの会話は突如さえぎられた。

下を見ると先ほどまで行われていた演習が終わり、倒れている生徒、何か言い争いをしている女子生徒と男子生徒の構図が出来上がっていた。

野次馬根性を働かせ近くに向かうエリカ、土門もそれに着いていく。

 

「あの二人か……面白いことになりそうね。」

 

「知っているのか?」

 

「女子の方は壬生沙耶香。一昨年の剣道女子で全国二位よ。男子の方は桐原武明。こっちは関東剣術大会のチャンピオン。まあ、要するにジャンルは違うけど二人とも剣において学生の中でもトップの実力を持つ人達よ。」

 

「なるほど。」

 

今現在の険悪な雰囲気。

そして両者共に名のある剣士であればこの後何が起きるか想像に難くない。

武闘家ではあるが剣も少しかじっている土門としても期待を寄せてしまう。

 

「剣術部の順番までまだ一時間以上あるのよ!どうして大人しくできないの!?」

 

「おいおい心外だな壬生。あんな未熟者相手じゃお前の実力を披露できないだろうから俺が手伝ってやろうってのによ。」

 

「無理矢理勝負を吹っかけてきたくせに何が協力よ!その上先輩を気絶させるなんてどうかしてるわ!」

 

「あいつが先に手を出してきたんだぜ?それに対して俺は面の上から竹刀で叩いただけだ。それで気絶するってことはそいつが未熟なだけだろ。」

 

明らかに挑発する男子生徒。

一触即発の空気に周りの人達は固唾を飲んで見守ることしかできない。

 

「せっかくだ可哀想だから魔法は使わないでおいてやるよ。」

 

「魔法に頼り切った剣術部のあなたが剣技のみを磨き続ける私に勝てると思っているの?」

 

「へっ。なら見せてやるよ。身体能力の限界を超えた次元で競い合う、剣術の剣技をな!」

 

その言葉と共に始まる試合

一瞬で距離を詰め、両者剝き出しの頭部に向けて竹刀を振り下ろす。

スパンという音が響き、それが勝負の決着を伝えた。

ぱっと見では相打ちのように見えるがわずかながら壬生の竹刀の方が深く決まっている。

 

「真剣なら致命傷よ。素直に負けを認めなさい。」

 

「真剣なら……?そうかお前は真剣勝負が望みか……ならお望み通り()()()相手してやるよ!」

 

負けを認めるよう壬生が言うと、桐原は不適に笑い出し腕に巻いてあったCADを操作し、竹刀を振り下ろす。

壬生は守るように竹刀を構え後方へ跳んだが、触れた竹刀は真っ二つに切られ、かすった胴には細い線が入り込んでいた。

 

振動系・近接戦闘用魔法《高周波ブレード》

刀身を高速振動させ、接触物の分子結合力を超えた振動を伝播させることで固体を局所的に液状化して切断する魔法であり、同じ魔法を使うか、硬化魔法を発動させなければ真正面から打ち合うことはできない。

 

そして休む暇なく振り下ろされる刃

それは壬生の身体を切り裂くことはなかった。

真剣が打ち合ったような音を立ててぶつかり合う竹刀。

それを扱うのは一人は勿論桐原。

そしてもう一人は花冠がない制服を着用している少年。

その光景にエリカは目を見開き隣に目をやるとそこにいたはずの連れはいなかった。

 

「戦意喪失した者に刃を振り下ろすなど剣士の風上にも置けんぞ。」

 

「なんだァ?てめェ……」

 

「土門魁斗。武闘家だ。」

 

「そういう意味じゃねえよ!」

 

「ならどういう意味なんだ?」

 

「はぁ……てめえは新入生……それも二科生(ウィード)だろ?そんな餓鬼が何のつもりでこの戦いに割って入った?女の子が傷つくのが許せないとか考えてる騎士気取りじゃねえだろうな?」

 

「戦いへの覚悟を持っているのであればそいつはファイターだそこに女も子供も関係ない。だが、あの戦いの決着はもうすでについている。それなのに更なる追い討ちをかけるなど剣士以前に人としてどうかしているぞ。それほど人斬りがしたいのであれば俺が相手になろう。」

 

「ほう……言ってくれるじゃねえか。なら、やってやろうじゃねえか。とはいえハンデは必要だろうからな。最初の一撃はお前に譲ってやるよ。」

 

突如切って落とされた戦いの火蓋。

突然の状況に観客達は何も行動を起こすことができない。

 

「では行くぞ!」

 


 

桐原武明は油断していた。

目の前の男から気迫自体は感じるが雄叫びをあげながら真正面から振り下ろすその姿は初心者丸出しだ。

上段から振り下ろすされる刃にあわせて自分の竹刀を構える。

そしてぶつかり合う刀と刀。

このまま相手の竹刀を弾き飛ばして……弾き……飛ばせない!

まるで樹齢何百年もある大木を押し込んでいるかのように動く様子がない。

それどころかドンドン押し込まれていき、そしてついに吹き飛ばされてしまった。

3mほど引き離され、桐原は悟った。

この男は手を抜いて勝てるほど簡単な相手ではない。

俺が出せる魔法(本気)で相手をしなければ勝てない!

そして左腕に装着したCADを操作して一足で離された距離を詰める。

その速度は明らかに人間の限界を超えており、常人では目で追うこともできない。

 

《自己加速術式》

その名の通り自身を加速させる魔法。

単純ながらも強力な魔法であり、魔法に長けた者であればあるほど効果を発揮する。

桐原の速さはその中でも目を見張るものがあり、彼の実力の高さが伺える。

彼が言ったように身体能力の限界を超えた次元の速度で繰り出される数々の剣戟。

だが、土門はその速さについてこれていた。

残像により複数の剣を同時に振っているようにすら見える程の斬撃の全てに自身の竹刀を割り込ませており、対抗している。

続くかと思われた拮抗は皆が予想していない形で崩れた。

どんどん加速していく打ち合いに先についてこれなくなったのは桐原だった。

魔法で加速した桐原ですら対応できない速さの剣に押されだしていき。

彼は撤退を選んだ。選ばざるをえなかった。

魔法で加速された全力を用いて後ろに跳んでいく桐原。

自己加速術式(速さ)だけでは太刀打ちできない。

対抗するためには今までの実力では勝つことができない。

普段の試合ではほとんど使うことのない技術をぶっつけ本番で試した。

闘技場内に思わず耳を塞ぎたくなるなるほどの不快な音が鳴り響く。

そして竹刀を構え、また目で追うのも困難な素早さで近づく桐原。

その速さにその場にいた全員が驚愕した。

彼は《高周波ブレード》と《自己加速術式》のマルチキャスト(同時使用)を行ったのだ。

系統の違う魔法を同時に使用するためには緻密な魔法操作が必要であり、高等技術として扱われるほどのものだ。

それこそ魔法競技の大きな大会でもベスト4に入るような者がようやく使用できるほどのレベルであり、彼自身関東大会の決勝ですら扱っていなかった。

桐原はもともとマルチキャストの成功率はあまり高くなく、5回に1回成功する程度でしかなかった。

だが、正直この部の悪い賭けにでなければきっとあの男に勝つことができないと考えた桐原はそれに挑戦し、成功した。

竹刀で受け止めるのも不可能な斬撃を通常の人間では反応不可能な速さで振っていく。

土門は今度は自分の竹刀で受け止めることはせずに後ろに跳んでかわした。

圧倒的な加速で目標を追う桐原と、それをかわし続ける土門。

お互いに苦悶の表情を浮かべながら続いていく試合の中、効力がきれた魔法をもう一度かけ直す桐原。

そのほんの一瞬の隙を見出した土門は「ハアッ!!」と雄叫びをあげる。

それはただ気合を入れただけだが、攻めようとしていた桐原を吹き飛ばした。

また振り出しに戻る彼らの位置、桐原が相手の次の行動に対処する為に姿勢を戻した後土門を見、目を見開いた。

なんと目を閉じていたのだ。

まさに隙だらけな状態だが、それに相対する桐原の背中に一筋の汗が流れた。

今までとは比にならないほどの闘気が溢れ、その手に持つ竹刀に集中している。

最後の一振り……それで決着がつく……

それを察した桐原もまた自身も集中を高める。

《高周波ブレード》の振動数を更に上げていき、《自己加速術式》を自身の腕だけに限定させながらもその効力を更に上げていく。

そしてお互いに目を開き、構えをとる。

二人の構えは奇しくも同じだった。

 

上段の構え

 

攻めに特化した構えであり、格上の相手に使えば失礼にあたってしまうこともある構えでもある。

即ち、お互いにこの構えをとったということはお互いにこの一撃を持って相手を倒すことを考えており、そしてお互いに相手を認め合っているということになる。

明らかに変わり、張り詰めた空気に観客も固唾を呑んで見守る。

そして数秒後、二人が全く同じタイミングで走り出し竹刀を振り下ろす。

真剣が打ち合ったかのような音を残し、交差して位置を入れ替える二人。

 

「俺の……負けだ。」

 

そう静かに放った桐原の竹刀は半ばから断ち切られていた。

 


 

『こちら渡辺摩利だ。各員定期報告をしろ。』

 

渡された通信機から通信が入る。

それを皮切りに次々と続く『異常無し』という通信。

そして自分の同僚となった森崎駿の報告が終わったのを聞き届け、自分も報告を入れる。

 

「こちら司波達也。現在第二体育館……異常ありません。」

 

これは貸しにしとくぞ魁斗。

そう心の中で呟きながら達也は闘技場を去っていった。




皆さんお待ちかね!

第二体育館での騒動が終了した後

平和な日々が続いていきます

しかしそれは新たな騒動の前触れでしかありません

次回 魔法武闘伝Gの劣等生

『日常 嵐の前の静けさ』に

レディー……ゴー!
注:実際の内容と異なる可能性がございます。


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日常 嵐の前の静けさ

さて皆さん!

怒涛の日々が過ぎていき、比較的落ち着いた日常が始まりました

土門魁斗もクラブを決め、活動に精を出しているようです

ですが、それは新たな波乱が起きる前の猶予期間でしかありません

まあ、今はその日常を楽しんでもらいましょう

それでは!マギクスファイト!レディー……ゴー!


ぶつかり合い音を響かせ合う剣と拳

圧倒的な速さで打ち合う攻撃は衝撃波が発生していると勘違いを起こすほどの圧を放ち介入をほぼ不可能にするほどであった。

周囲の者達は倒れ伏しながらも顔だけは激闘の中心に向け、一挙手一投足を見逃すまいとせめてこの闘いを最後まで見届けようと体に鞭打つ。

CADを身につけ竹刀を振るう男(桐原武明)丸腰のままただ拳を突き出す男(土門魁斗)の闘いは互角の様相を呈していた、いや、互角の様に見えるそれは互いの様を見れば一目瞭然だった。

桐原の表情は曇り、振る竹刀からは鋭さが失われているが

土門は余裕の表情を浮かべながら、更に拳打の速度が上がっていく。

だからこそその決着は必然だった。

疲労から緊張がほんの少し弛んだ一瞬の隙をつき、桐原の背後に回り込んだ土門は彼の首筋へ手刀を落とした。

普通であればなんて事のない一撃だ、その衝撃だけで人を倒れさせることなど漫画などの創作上のものでしかない。

だが、立つことすら限界なほど満身創痍な桐原にとってそれだけで倒れるには充分だった。

ドサという音が響き、その後訪れる静寂。

それがこの闘いの決着を知らせる。

倒れ伏す剣術部員数十名とそれに囲まれる土門魁斗

闘いの壮絶さと、それでもなお息ひとつ切らすことなく立つ彼の異常さを誰もが見てわかるだろう。

 

「本気でやって素手の奴に勝てないとかマジかよ……」

 

「大丈夫か?」

 

「…これが大丈夫なように見えるか?」

 

「特に問題はなさそうだな。」

 

「大丈夫じゃねえつってんだろ!」

 

「それだけ騒げるなら充分だろう。俺が師匠と修行をしてた際はいつも3時間ぐらいは気絶していたからな。」

 

「毎度思うけどお前の師匠どんだけやばいんだよ…」

 

今の彼らの会話には初めて対面した時のような険はない。

一度の闘いを経て二人は好敵手()となっていた。

今や土門魁斗の実力は剣術部の部員全員に認められており、剣術部は彼にとっても気が置けない場所となっている。

だが、彼の居場所はここではない。

「そろそろ時間だから俺は行くぞ。」と一言残し魁斗は自身が所属する部活に向かう。

彼が立ち去った闘技場からは「早く起きろ!次は素振り千回だ!」の声とそれに付随して悲鳴が響いていた。

 


 

今から数日前

クラブ活動勧誘期間二日目、闘技場での騒動があった次の日の話である。

 

放課後の昇降口前土門魁斗はそこに一人で立っていた。

先日彼を誘ったエリカは「今あんたと一緒に居たら変なとばっちり受けそうだから今日から別行動ね。」と言われ、いない。

勧誘期間の真っ只中で盛り上がっていた勧誘の声も彼が姿を見せた瞬間に鳴りを潜め、皆、彼を遠目から見つめるばかり。

好奇 嫌悪 羨望 敵意 様々な感情が込められた視線を向けられ、さすがの彼も居心地の悪さを感じる。

もうクラブに入らずに帰ってしまおうか。あの女にはこの状況を説明すれば特例にしてくれるだろう。と考え、そのまま校門を抜けようと歩を進め始めた時、正面から男が現れた。

 

「たった一日で随分人気者になったじゃねえか。土門魁斗」

 

「お前は……桐原武明か。」

 

軽口を叩きながら現れたのは先日相対した桐原武明だった。

周囲の人間はまさか昨日の屈辱を晴らそうとしているのかと身構える。

だが、土門は構えない。

 

「俺のこと知ってたんだな。」

 

「昨日、連れからお前のことは聞いていたからな。それで、俺に何の用だ?」

 

「単刀直入に言わせてもらう。お前、剣術部に入らないか?いや、入ってほしい。お前がいれば三年間大会を総なめ出来る。それに、お前のような奴がいれば部員全員が成長できる。もちろん無理にとは言わないが……どうだ?」

 

「なるほど……申し出はありがたいが断らせてもらう。」

 

「そうか。ちなみに理由を聞かせてくれないか?」

 

剣術部のエースから直接の勧誘を断る土門

普通ならば少なからず動揺する筈だが、当の桐原はまるでそう言われるのが分かりきっていたかの如くあっさりと返事した。

 

「刀剣等の武器の扱い方は一通り心得ているが、俺は武闘家だ。基本は無手による格闘を得意としている。そのような半端者が魔法剣技を極めようとするお前達と共にいても和を乱すだけ。」

 

「だから剣術部には入らないってか?律儀というかなんというか……それじゃあお前への用事そのニだ。」

 

まだ他の用があるのかと土門はそのニの内容を促す。

それに対して桐原は何も言わずに土門に背を向けて歩き始めた。

着いてこいということか。そう察した土門は何も言わずに目の前の桐原の背を追いかけた。

 


 

部活棟

第一高校本校舎から少し離れたところにある建物であり、部活連が管理している。

本校舎と比べても遜色無い巨大さを誇るそれには数多くの部室が入っているが、基本殆どのクラブは校舎外の施設やグラウンドを使用する為、あまり人はいない。しかし、そこのワンフロアを使って活動する部活がある。

それがマーシャル・マジックアーツ

USNAの海兵隊によって開発された魔法を併用した近接格闘術

毎年多くの入部希望者が現れる人気クラブでありながら、競争の激しさに自信を無くした新入部員が辞めていき、最終的には半分以下になるほどに厳しいことで有名な部活である。

もちろん遅刻なんてのはもってのほかで、怒鳴られることはないがその日の組み手の相手が先輩達になるので絶対に遅刻などできないのだ。

一部を除いて

 

ガラッ

 

クラブの練習が始まってから三十分ほど経過した頃、近年となっては珍しい自動ではない横開きドアが開かれた。

 

「すまない遅くなった。」

 

そう言って入ってきたのは土門魁斗

彼は現在マーシャル・マジックアーツ部に所属しているのだ(その代わりに週に一度、剣術部の師範として練習に付き合うようになっている)

数日前、桐原に連れてこられたこのクラブはまさに彼に取って理想の環境だった。

自然こそないもののそのかわりにトレーニング器具が充実しており、さらに格闘術を扱う魔法師が一堂に会している。

どこかしらのクラブに所属しないといけない土門からすればこれ以上の良物件はないだろう。

 

「ん?ああ土門か!今日は剣術部の日だったんだろ。とりあえず今から組み手練するからペアを組んでくれ。」

 

そして何よりここの人達は皆人が良い。

上級生の中に彼がニ科生だからと下に見るはおらず、一年にはそういった者は多くいたが、日がたつにつれてニ科生(土門魁斗)に勝てない事実にプライドがへし折られそのほとんどが部活をやめていった。

その為、今もなお残っている一年生は一科の人間でありながら彼を見下すことなく接してくれる。

 

「お疲れ魁斗。剣術部の用事が終わった直後で悪いけど、胸を借りさせてもらうよ。」

 

特に、今話しかけてきた少年は、いわば親友の関係と言っても過言では無い。

彼の名前は十三束 鋼(とみつか はがね)

十三の数字を冠する数字持ち(ナンバーズ)の家系であり、想子(サイオン)を強く引き付けるという体質により想子の放出ができず、身体に密着する範囲でしか魔法式の展開ができない。その揶揄として《Range Zero》という異名で呼ばれている。

だが、それは零距離であれば無類の強さを誇るという意味でもあり、本人もそれを自覚しているから近接格闘術を学んでいる。そのため、1年の中でもトップクラスに格闘の練度が高い。

土門は最初に彼と闘ってからクラブ活動でペアを組む際には必ず鋼と組むようになっていた。

 

「構わん。遠慮などせずかかってこい!」

 

その数十秒後、鋼が倒れ伏すのがマーシャル・マジックアーツ部の日常の風景となっていた。

 


 

クラブ活動とて毎日あるわけでは無い。

一昔前までは平日どころか休日すらも返上して練習等が行われていたが、それがブラック労働を助長するのではと問題視されたことにより近年、週に一度休みの日を設けられるように義務付けられ、今ではそれが当たり前となっている。

その場合、土門は基本すぐに帰宅しては修行しているのだが、彼は今学内のカフェでコーヒーを飲んでいた。

 

「君でもコーヒーとか飲むんだね。私、てっきり水しか飲まないものだと思ってた。」

 

毎度土門に絡んでくる生徒会長(七草真由美)を想起させるようなイタズラな笑みを浮かべながら話しかけるのは向かいの席に座る壬生紗耶香。

彼女は直帰しようとしてる土門に声をかけ、部活動勧誘期間の時に助けてくれたことのお礼がしたいとここに連れてきたのだ。

だが、土門としてはそんなことどうでも良い。

普通の男子であれば壬生のような美女と二人でお茶ができることに喜ぶのだろうが、普段飲まないコーヒーを嗜む暇があるのならば早く修行がしたいと考えている土門からすれば煩わしい以外の何者でも無い。

 

「コーヒーはご馳走になった。もう用がないのならば俺はもう帰らせてもらうぞ。」

 

「ちょ、ちょっと待って!実はまだあなたにお願いしたいことがあるの!」

 

そう言って帰ろうと席を立つ土門を引き留めることに成功した壬生は一つ咳払いを入れてから本題を切り出した。

 

「実は、非魔法系クラブで同盟を組んで、部活連とは別の組織を作るつもりなの。魔法科高校だから、ある程度魔法で成績が左右されるのは仕方ないとしても、クラブ活動まで魔法優先にされるのは許せない!だから私たちは今年中に組織を発足し、学校側に考えを伝えるつもり。」

 

「…で、それを俺に手伝えということか?」

 

「ええ。貴方がマーシャル・マジックアーツ部に所属しているのは知っているわ。けど、ニ科生だからって不当な扱いを受けたとかって経験は貴方にもあるでしょう?」

 

「私はある。あれは入学してすぐ後ぐらいだったかな、ある一科生の人の技に見惚れた私はその人に手合わせをお願いしたの。」

 

「その時に言われたの『ニ科生(お前)では相手にならない』って。」

 

「とても悔しかった。ニ科生だからって、魔法の腕は劣っているからって、私の剣まで否定されたのが許せなかった。」

 

そう言って下を向き、黙り込む壬生。

コップを握る手には力が入り込んでいき、本当に悔しがっているのがわかる。

その様子を見た土門は席を立ち、一言言い放った。

 

「くだらん」

 

きっと了承する旨のことを言うのだろうと思っていたのだろう。

壬生は驚きと困惑が織り交ぜになった表情で見上げた。

 

「魔法技術で劣っていたからと剣の勝負の土俵に立たせてもらえなかった。それが悔しいからこそ、剣を捨て、同じように燻っている者共と徒党を組み、言論でなんとかしよう。そんなものはただの逃避でしかない。」

 

「誰に断られたのかは知らんが、魔法の力がないから相手にされなかったのであればそいつに振り向いてもらえる程に魔法を研鑽すればいい。もしくは、魔法師すらも圧倒できるほどに剣を極めればいい。」

 

「それを諦めたくせに平等を謳うなど愚の骨頂。俺は強者と闘い、自らの力を高める為にこの学校に来たんだ。貴様のような弱者に構う時間は無い。」

 

もうこれ以上話すことなど無いと壬生に背中を向ける土門。

遠ざかっていく背中をただ眺めることしか彼女にはできなかった。

 


 

次の日

学生の情報伝達速度は早いもので、先日の壬生紗耶香との一幕はもう学校中で噂になっていた。

やれ壬生を言葉責めにしただの、やれ告白してきた壬生を振っただの。少し曲解されていき、その結果、真由美が物凄い形相で1-Eの教室に突撃してき、また新たな噂が立ったりし、放課後となった今、土門は机に突っ伏す程に心的疲労を感じていた。

あのエリカでさえ、今の彼に声をかけない程なのだから疲労が相当なものだとわかるだろう。

そして、クラスの皆が部活に行こうと席を立ったその時

 

『全校生徒の皆さん!僕達は学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!!』

 

日常を破壊する放送が学校中に鳴り響いた。




皆さんお待ちかね!

生徒会長と有志同盟による公開討論会

学生達の意見のぶつけ合いが起きる中に忍び寄る集団が

彼らはいったい何者なのでしょうか……

次回 魔法武闘伝Gの劣等生

『襲来!テロリスト集団エガリテ』に

レディー……ゴー!
注:実際の内容と異なる可能性がございます。


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