SAOが好きすぎる俺がSAOの中に入っちまった。それもホロウフラグメントなんだけど (クラッカーV)
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プロローグ!………これやんなきゃ、始まった気がしないよね

キーンコーンカーンコーン

 

授業の終わりを告げるチャイムが鳴る

 

そして生徒が教科書等、片付けを終え、教師の話を聞く為に席に着く。それを教師は見て、明日の連絡事項等を述べる

 

「えー、明日は宿泊研修です。忘れ物の無いようにしてくださいね」

 

教師の言葉を聞いてざわざわと教室内が沸く。生徒達は口々に「明日宿泊研修かー」「なあ、バス隣になろうぜ」と話し出す

 

…………だがその中、他の生徒とは違う反応をする一人の男子生徒がいた

 

「……………」

 

彼の名前は土方 信一《ひじかた しんいち》。彼は机に頬杖をつき、SHRが終わるのをまだかまだかと待っていた

 

「(いいから早く終わらせろよ!こちとら早く帰って早くお目当てのもんを買いに行きてえってのによぉ!くぅ〜、小学校から約9年聞き続けて来た先生の話がこれほどまでにいらねえと思ったのは初めてだぜ)」

 

彼は心中でそう叫ぶ

 

「(今日発売の新作ゲーム、ソードアートオンラインーホロウフラグメント-が俺を待ってんだからさぁ!!)」

 

若干教師を睨む彼は登校用のバッグを手に握る

 

「それでは、終わります」

 

「(きとぅあ!!)」

 

教師の言葉に心から歓喜の声を心中であげた

 

「きりーつ、礼」

 

『ありがとうごz「ありあっしたー!!」………』

 

そして元気に挨拶をし、誰よりも早く教室を跡にするのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼をよく知らない者は彼についてこう言う

 

「土方君ってオタクだよね〜」

 

「そうそう、この前なんかわけのわからないこと熱弁してたしさ〜、それに自己紹介の時なんかアニメやラノベ?だっけ、大好きですって自分で言ってたしぃ?引くよね〜」

 

「マジオタクとか無理だわ〜」

 

そして、彼をよく知る者はこう言う

 

「あいつは、なんて言うか………自分に正直だよな。間違いだと思うことは間違いだって誰にだってハッキリ言うし、自分が違ってたらきちんと謝れる奴だと思うよ」

 

「そうだよな。それにあいつは自分の好きなことに妥協、っていうのをしないんだよ。好きなことは最後までやり通す、って感じ」

 

人によって彼への見方は違うが、これで彼はどの様な人間かわかっただろうか?

 

 

彼は、自分の心に素直だ

 

彼は、好きなことには妥協しない

 

 

そんな人間である

 

 

 

「いやあ〜、買えた買えた♪」

 

彼、信一は袋を持って小刻みにスキップしながら店から出てきた

 

「SAOーホロウフラグメント-。生産限定版GETだぜ!早速家に帰ってやらないとな〜♪」

 

彼の袋の中にあるのは一つのゲーム

 

ソードアートオンライン、通称SAO。最近信一がどハマりしているライトノベルだ

 

簡単に言えばデスゲームに閉じ込められたプレイヤー達がゲームクリアを目指すものだ。だが一巻の時点でそのゲームはクリアされており、二巻は短編集。三巻からはデスゲームではないにしろ、新たなゲームを舞台とし、主人公キリトが戦うというライトノベルなのだ

 

今回信一が買ったゲームは一巻の、これまた簡単に言えばifの話らしい

 

ライトノベルでは、本来クリアすべき所までは行かずにラスボスと戦い、そして勝ってデスゲームから解放される。ということなのだが、これはどうやら解放されなかった時の話みたいだ

 

「インフィニティ・モーメントは時期が時期だからプレイしてないけど、これは殆ど話が同じだって言うし」

 

SAOは前作として、インフィニティ・モーメントというのが発売されていたのだが信一はまだその時ソードアートオンラインの存在を知らなかったのだ。後に何故知らなかったのかと後悔し机に頭をぶつけまくった

 

そして知った頃に今日買った、ホロウフラグメントが発売するという情報が出回っていたのだ

 

「ゲームオリジナルキャラクター、フィリアにストレア。どちらも可愛い、甲乙付け難いぜぇ」

 

くぅ〜、とその場でしゃがみ唸る。周りから見れば変な人だろう、彼は机に頭をぶつけまくった日からネジが何処か緩んでしまったのかもしれない

 

「だがしかし、シノンさんも忘るるべからずだ。GGOシノンさん、ALOシノンさん共にクールでビューティだが、リアルシノンさんも十分可愛い。さらにクールでビューティだ、マジでクールでビューティ、略してクールビューティ」

 

何やらわけのわからないことを口走っている。横にいる女性はおもむろに携帯を取り出していた

 

「よし、早く帰ろう。今すぐ帰ろう」

 

そして立ち上がり走り出す。女性には奇行に見えたのだろう、110番を押し始めた

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

「ただいま!」

 

家の鍵を開け、ドアを勢い良く開き言う

 

中から返事などは帰って来ない。当然だろう、高校になってからは一人暮らしなのだ。家もあまり広いわけじゃない

 

「♪〜♪♪」

 

鼻歌を歌いながら靴を脱ぎ、歩きながら制服を脱ぐ

 

ハンガーを手に取り手早く制服を掛け、カッターシャツを脱ぎ洗濯機へシュート

 

「いよっし、3P。緑間もビックリだね!」

 

今ならどんな距離でだって入れられる気がする。これがゲームパゥワァ

 

そして部屋着を着てベッドへダイブ!

 

ベッドの上に置かれている充電器に繋がったPSVitaを手に取り充電器を引き抜く。充電はフルにしておいた、用意は十分だ!

 

買ってきた袋から箱を取り出し、中からカセットを取り出してVitaへと挿入。生産限定版に着いてくる特典も見たかったが、まずはプレイしてからだな

 

「電源ON!」

 

電源ボタンを押した。メニュー画面からSAOを選ぶ

 

うう、何故だか緊張するぅ……

 

「…………その前にトイレ」

 

緊張に耐えれず尿意を催しお手洗いへ

 

 

 

少しお待ちください(お花畑〜)

 

 

 

「ふぃ〜…………。さて、やるかぁ!!」

 

大声と共に俺はSAOの欄をタップする為に指を伸ばした

 

『♪〜』

 

「ん?」

 

押した瞬間にスマホから音が出る。なんだ?メールでも受信したか?

 

「やれやれ、こんな時に誰だ?迷惑メールだったらただじゃおかねえ」

 

スマホを掴みメールを開く

 

「えーと、なになに…………あん?んだこりゃあ」

 

そのメールには、0と1が文字数制限ビッシリと書き込まれていた

 

「んだよ、イタズラか。マジふざけんなよ、俺の邪魔しやがって」

 

あー、イラつく。迷惑メールとかマジ大嫌い、この世から無くなれ!

 

俺は迷惑メールにそんな感情をぶつけながらそれを削除した

 

「さてと、それではお楽しみの『♪〜』あぁん!?またかよ!」

 

またメールが来た。どうせなら無視すりゃいい話なんだが……、無視したらしたで内容が気になってしょうがねえ。それでゲームに集中出来ないのは嫌だからな

 

「ったく………」

 

再度メールを開く

 

「うえ、またかよ………」

 

さっきと同じ様なメールだった。ただ違うところと言えば、一番最初が0か1かだが

 

「チッ、知らねえ知らねえ。ほっとくのが一番だ」

 

俺は削除もせずにスマホを放り投げる

 

「それよりゲーム♪」

 

そしてゲームを手に取り、いつの間にか消えていた電源を付ける

 

チカッ…………チカッ

 

「……………あん?」

 

何故か画面が点滅し始めた

 

「おいおい、どうしたよ。壊れたとか言わねえよなぁ?」

 

心配してVitaを見回す

 

チカッチカッチカッチカッ

 

点滅が激しくなった

 

「お、おい………」

 

明らかにおかしい。何が起こっ『ピカァ!』!?

 

「ま、眩しっ!!」

 

画面から突如放たれた光に俺は目を瞑った

 

「……………」

 

もう大丈夫か?

 

俺は目を開ける

 

「…………………な、なんだこりゃあ!?」

 

俺の目には今、信じられない光景が映っていた

 

目の前には0と1の羅列。それが波の様にうねっている

 

「おわっ、なんだ!?」

 

その中から一部が俺の体に纏わり付いてきた。0と1は俺の服の形を変えて行く

 

そして最後、背中に纏わり付いていた0と1が剣を形作った

 

「…………は?剣?」

 

何が何だかわからない。状況が理解出来ない。処理が追いつかない

 

わからない、わからないわからない。何が起こってるんだ?

 

バリィィィィィン!

 

俺がそんなことを考えていると、突然破砕音が聞こえる

 

「なっ!?」

 

破砕したのは、俺がいた空間そのものだった

 

そして破砕した空間向こうに空が見える

 

「………………」

 

刹那、地味な浮遊感を感じた

 

「え…………のおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 

そして俺は、下に見える深い深い森へと落ちて行った

 

 




※2020/02/14 視点変更箇所に
       ======================
       に変更


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わかった、ここはSAOの中だ

「のぉォォォぉぉぉおお(シュンッ)ゔぇ?」

 

ドサッ!

 

「いたっ!………くねぇ」

 

空中からスカイダイバーもビックリのスカイダイビングをしていた俺はいきなり瞬間移動紛いをして地面へと尻から着地した。尻に違和感はあるが痛くはない、なんでだ

 

「それよりもこれは」

 

俺は自分の服装を確かめる

 

無地の白いシャツに胸当て、そしてズボン

 

この服装、どっかで見たことあるぞ。しかし、なんで胸当てなんか着けてんだ?

 

「いやいや、そんなことは問題じゃあない……ことはないけど、なんで俺の服装が変わってんだよ」

 

俺はさっきまで黒いジャージを着ていたはずだ

 

「それにさっきの0と1は………」

 

0と1の波はなんだったんだ?考えられるとしたら二進法、だったか?なんだが………

 

ああもう、わけがわからん。これじゃあ慌てようにも慌てようがない

 

「0と1と言えば、この服と………この剣も、だな」

 

背中に担いでいる剣を引き抜いて見てみる

 

「ん〜………本物、か?」

 

形状としては普通の剣なんだよな。でも触ってる感じが違う

 

いや、本物の剣を持ったことがあるわけじゃないけど、でもなんか違うってわかるんだよな

 

「取り敢えずなんか切ってみるか」

 

近くにちょうどいい樹がある。取り敢えず突き刺してみよう

 

ガッ!

 

「…………わお」

 

本気で突き出したら樹に深々と刺さった

 

「本物ってか」

 

なんでこんな物騒なもんが俺の背中にあったかは知らねえが………まあいいや。引き抜くか

 

「よっ、と…………ぐぬぬぬぬぬ!」

 

ぬ、抜けん!なんだこら、抜けないぞ!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

樹に両足を着けて引き抜きにかかる。これでどうだ!これで抜けなければ勇者の剣と名付けてやる!

 

スポンッ

 

「あっ」

 

抜けた…………のはいいが

 

「おおおぉぉ!?」

 

勢いがありすぎて後ろにゴロゴロと転がる

 

「ぉぉぉぉぉ………お、止まった」

 

やっと止まった、ここから綺麗な空が見える。こんな森だ、鳥の囀りが聞こえてもいいかもしれない

 

『プゴッ』

 

そうそう、こんな感じで………プゴ?

 

いや、プゴはおかしいだろ。鳥ってプゴ、って鳴くっけ?

 

「ん?」

 

俺は仰向けのまま顔を上げて後ろ側を見る

 

『プゴ』

 

そこには猪がいた

 

「……………ハ、ハロー」

 

成る程、プゴ、とはこの猪か。ここはこの森の先住民である彼?彼女?とコミュニケーションを計ってみよう

 

『……………』

 

猪は無言で俺のところまで歩いてくる

 

そして右前足を上げて…………

 

「おわああぁぁぁぁぁ!?」

 

なんと振り下ろしやがった!!

 

俺はすんでの所で転がって避ける

 

「あ、あっぶねえー」

 

どうやら先住民とのファーストコンタクトに失敗したみたいだ。なんとも遺憾だがまあ猪と人間がコミュニケーション取れるところで色々おかしいわな。うん、僕気付いてたよ、ホントだよ

 

「しゃあない、こんなわけわからん場所に放り出されて食糧もどうすればいいかわからない状況だ。今夜は猪鍋で手を打とうか」

 

別にさっきの行動に腹が立ったとかそんなんじゃない。ただこのままだと殺されそうなんだ

 

俺は剣を構える。剣道など学校の授業でしかしたことないが………まあ大丈夫だろ

 

『ブルルル………(ザシュッ、ザシュッ』

 

猪はヤル気満々らしい

 

…………それよりさっきから気になってることがあるんだが、あの猪の上にあるドス黒い赤の……矢印?はなんだ?

 

見覚えがあるな………、よくゲームとかであるカーソルみたいだ

 

「ちょっと待てよ………カーソル?」

 

もし、もしあれが本当にゲームとかであるカーソルだとしたら………、そしてあのドス黒い赤のカーソルは…………

 

「っ!」

 

ダッ!

 

俺は思考の先に辿り着くと同時に踵を返して走り出した

 

『(ダッ!』

 

猪が地面を蹴る音が聞こえた。俺は一瞬だけ後ろを見た

 

気付くと10m程離したはずの距離が既に2m程まで縮まっている

 

「え、速…………うおおおおお!!」

 

雄叫びを上げながら必死に横に跳ぶ

 

猪はそのまま樹にぶつかった

 

「っ…………」

 

猪が追撃を始める前に俺は走り出す

 

「くっそ………なんてこった」

 

なんてこった、なんてこった!ここは、この森は………!

 

「ゲーム……、それもSAOの中だっつうのかよ!」

 

自分で言っていて信じられない。だがさっきの猪にあったカーソルを見るとそうとしか思えない

 

「それに、この服装は………くっそ、どっかで見たことあると思ったら………!」

 

SAOの初期装備だ。だとしたら今俺の右手に握られてる剣は《スモールソード》なんだろう

 

「しかもあの猪のカーソル………」

 

ドス黒い赤だった。確かレベルの違いによってカーソルの色が変わるとかキリトが言っていた

 

「ここは第何層のどこかは知らねえが………初期装備じゃとても勝てる相手じゃねえ!」

 

ここは逃げるしか選択肢はない!生憎この中はゲームだから疲れることはないはずだ

 

「あとは他のモンスターに気を付けないと……」

 

チラッと後ろを見てみる。どうやら猪は撒いたらしい

 

「ふぅ………」

 

これで一先ず安心だ。俺は樹の幹に座って一息吐いた

 

「しかし、ここからどうするか………」

 

どんな経緯、方法でここに来たのかは置いとくとしよう。そんなことを考えていたらどれだけの時が経つかわかりゃしない

 

それよりも今考えるべきことは安全な場所や今後のことだ

 

どれ、まずはこのゲーム内での俺の情報を得なければいけない。レベルがわかればここが第何層なのかはある程度の予測は出来る。まあほんのちょっとだけど

 

「…………」

 

無言で人差し指を振る。小気味の良い音と共にメニュー画面が現れた

 

「ふむ、やっぱ俺の予想通りだな。ここはSAOだ」

 

メニュー画面もアニメで見たものと同じ、メニュー画面の出し方も同じだ

 

「なになに………プレイヤー名、Shin。レベルは43………か」

 

初期装備なのにレベル43とはどういうことだ?

 

「アイテムは……………POTが5つ、回復結晶が一つ、それ以外は無し。おいおい、流石にこれは少ないだろ。レベルの違いを考えろよ」

 

しかも転移結晶が無いときた。転移結晶さえあればアルゲートなり始まりの街なり跳んでいけるんだけどな………

 

「武器・防具が…………なんだ、こっちはちゃんとあるじゃねえか」

 

良かった。初期装備以外にもどうやらあったみたいだ

 

「これを………こうか。んで、これをこうだな」

 

ウインドウを操作して新しい武器と防具を装備する

 

「うん、初期装備よりステは遥かに高いし、レベルには合ってるんじゃないか?」

 

立ち上がって自分の服装を見てみる

 

白色のレザーにボトムス、スニーカーみたいな靴。見た目もだいぶマシになったろ

 

「次はスキルだな」

 

ウインドウを操作してスキルの欄を開く

 

「……………あ?なんだ、これ」

 

スキル

 

片手用直剣 0

 

武器防御 0

 

体術 0

 

索敵 0

 

「全部0だな………」

 

まあしょうがないか。俺は元々プレイヤーじゃないんだから

 

「しかし、スロットもまだ余ってる。それに体術?なんで体術が?」

 

体術は確か二層のとあるクエストをクリアしたら手に入るスキルのはずだ。それを俺が習得してるなんて………

 

いや、そもそも俺がここにいるのといい、おかしいことだらけなんだ。今更気にすることないな

 

「……………」

 

もしこれが一時的なものなら時間が経てば俺は家のベッドの上で気が付くだろう。もしかしたらこれは夢なのかもしれない

 

「出来れば夢であって欲しくはないな〜」

 

空を見上げて呟く

 

ここはSAO、それはもう確実だろう

 

「だったら、楽しむしかねえよな!」

 

そうだ、楽しむべきだ!楽しまなきゃ損だぜ損損!!

 

「それにキリト達に会えるかもしれねえしな〜」

 

SAOならやっぱキリト達がいるだろ。一方的な知り合いだけど話しをするのも良いかもしれない

 

それにキリトだけじゃなくアスナやシリカ、リズとかにも会える。ピナをモフりたいぜぇ

 

『ブブ…………ブブブブ………』

 

「っ!」

 

後ろから何かの羽音が聞こえた

 

「………蜂!?」

 

そこにいたのはドデカい蜂。その複眼で俺を真っ直ぐ見つめている

 

「早速戦闘かよ………!」

 

俺は剣を引き抜いた

 

相手のカーソルはさっきの猪と同じドス黒い赤。勝てるか………?如何せんレベルがわからないからな……

 

このままやり過ごすのも一手だが………駄目だ、完全に俺をターゲットしてる

 

「まずは様子見だ」

 

そこらへんにある石を拾い上げる

 

「出来るだけくらってくれよぉ!」

 

そして蜂へとシュートした。投げた石は青い軌跡を描きながら蜂の顔面へと吸い込まれる

 

…………投擲スキルが発動したのか、一発で発動なんて俺やるぅ♪

 

「どれ、相手のHPは…………はぁ!?」

 

一ミリ程度しか減ってねえじゃねえか!?

 

『シャアァァァァ!』

 

うおっ!?突っ込んできた!

 

「速っ………とぉ!?」

 

すんでのところで避けることに成功した。脇腹に少し掠ったがこれくらいは大したことな…い………なに?

 

俺は自分のHPを見て目を疑った

 

「う、嘘だろ!?」

 

たった一撃、たった一撃だ。それも掠っただけだぞ、なのに………なのに………!

 

「なんで3分の1も減ってんだよぉ!!」

 

叫びながら俺は走り出す

 

くそっ、予想外だ。こんなにくらうなんて………!俺の考えが甘かった。相手のレベルがどれだけ上か考えもせずに攻撃したのが間違いだった

 

「はっ………はっ………」

 

しないはずなのにまるで息切れしたかのような感覚に陥る

 

『シャアァァァァ!!』

 

「ひぃっ!」

 

殺される、その恐怖が俺の体全体を覆う。その恐怖がひたすら足を動かしていた

 

「早く、早くタゲ解いてくれよぉ」

 

半泣きになりながら懇願するように言う。なんとも情けない、普段の俺がこの姿を見たらそう言うだろう

 

だけど体験してる側はたまったもんじゃない。後ろから死が迫ってきているんだ、今にも俺は殺されそうなんだ

 

情けない?かっこ悪い?なんとでも言え。こんな醜態を晒してしまった後悔なんて後でいくらでもやってやる

 

だから………だから…………!

 

「誰かぁぁぁぁぁ!!助けてくれぇぇぇぇぇ!!」

 

俺は走りながら必死に叫んだ

 

誰でもいい、なんでもいい、どんなヒーローでも、どんな犯罪者でもいい!俺を助けてくれ!

 

ガッ!

 

「なっ!」

 

樹の幹でつまづいた。俺の体は投げ出されて転がる

 

『シャアァァァァ!』

 

その間にも蜂は俺に迫っている。逃げなければいけない

 

「くそっ!」

 

なんとかして立ち上がり前を向く

 

『……………シャァァァ』

 

だが、既に俺の前には蜂が回り込んでいた

 

「っ………!」

 

きっと俺の顔は絶望の色に染まっているだろう。そしてそれと同時にこれから起こりうることを考え、ただ蜂を眺める

 

蜂は針の付いた尻を振りかぶる

 

その蜂は、どこか不敵に笑っているような気がした

 

「……………」

 

ああ、俺の人生はこんなわけのわからないままで終わってしまうのか

 

まだホロウフラグメントだってちゃんとプレイしてないのに、まだSAOの2期があるってのに

 

俺はこんなとこで終わるんだな

 

「…………ああ、出来ることなら少なくとも、キリトだけには会いたかったぜ」

 

そして俺は目を閉じる

 

ザシュッ!

 

そんな音が耳に響いた

 

バシャァァァァン!

 

次に破砕音が聞こえる

 

「…………あれ?」

 

何かおかしい、そう思い目を開く

 

「今、キリトって………そう言った?」

 

そこにいたのは青を基調としたポンチョの様なのを着た金髪の美少女だった

 

「………へ?」

 

いきなりの質問に俺はそんな間の抜けた答えを返していた

 

 



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初めてのガチ戦闘

「……………へ?」

 

突然の質問に間の抜けた声を出す信一。いや、SAO内ではシンと呼ぶべきだろう

 

「キリトに会いたいんでしょ?」

 

「え?あ、ああ………会いたい、会いたいです」

 

顔を覗き込まれ少し仰け反りながら答えるシン

 

「(えーと、これはどういう状況だ?俺が蜂に殺されそうになってたところをこの人が助けてくれた、ってことでいいんだよな?)」

 

心の中では必死に状況の整理をしていた

 

「(………この人、何処か見覚えがある。てか多分あの人だ)」

 

助けてくれた人物にどうやら心当たりがあるらしい。シンはジロジロと命の恩人を見回す

 

命の恩人に対して失礼だと思われるが、状況も状況なのでしょうがないだろう

 

「どうかした?」

 

「(青いポンチョみたいな装備に金髪。あのギザギザした剣。間違いない………)あー、もし命の恩人さん。お名前をお聞きしても?」

 

「……………」

 

急に訝しむ様な目線に変わった。それを見てシンは何故だ?と言う風に首を傾げる

 

「…………まあ、しょうがないか。オレンジだし」

 

「オレンジ?…………はっ!(成る程、そう言えばこいつはオレンジプレイヤーだと公式サイトに載っていた。もしや俺がカーソルを見てオレンジだから怪しんでるとか思ってるのか?)」

 

「私はフィリア」

 

「(あ、自己紹介はしてくれるのね。てかやっぱフィリアだったか)俺はシンだ。お礼が遅れてごめんなさい、助けてくれてありがとう」

 

シンは立ち上がってフィリアに深々と頭を下げる

 

フィリアはそれを見て少し驚く、まさか命の恩人と言えど犯罪者の証であるオレンジカーソルのプレイヤー相手に頭を下げるとは思わなかったのだろう。本人もそう割り切ってすぐに立ち去ろうとしていたのだが………

 

「…………別にいいよ。助けて、って聞こえたから駆けつけてみたら殺されそうだったから助けただけだし。大したことしてない」

 

「それでも俺にしたら大したことだ。なんせ命を助けてもらったんだから」

 

「相手がオレンジプレイヤーでも?」

 

「いやいや、オレンジでも恩人は恩人だし。お礼を言わずに名前を聞いたことは悪いと思ってる、ごめんなさい」

 

再度頭を下げるシン

 

「…………変な奴。これ飲みなよ」

 

「え?わっ、ととと………ふぅ」

 

フィリアはそんなシンを見て緑の液体が入った瓶を取り出し放った。急に投げられたので慌てて瓶を取る

 

「(POTか………)ありがとう、いただきます」

 

そして蓋を開けてPOTを煽る。レモンジュースみたいなのに苦い、そんな味にシンは顔を顰めた

 

「(マジで苦いレモンジュースじゃん。こんな味始めてだ)」

 

「その味、慣れないよね。私ももう二年になるけど慣れないんだ」

 

「え?あ、ああ」

 

慣れるも何も初めて飲む物なのだが………、そう言うと話がややこしくなるので伏せておく

 

POTによりシンのHPが回復する。それを見て少しだけ安堵した

 

「…………それで、もしかしてあんたも強制転移でここに来たとか?」

 

「強制転移?…………ちょっと待ってくれよ、色々と整理をさせてくれないか?」

 

そう言ってさっき躓いた樹の幹を少し恨めしそうに見て、一発蹴りを入れてそこに座った

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

…………まずわかったことを整理しよう。フィリアはさっき二年と言っていた

 

SAOが始まって二年の時点で七十五層はクリアされ、皆現実へと戻っているはずだ。だけど実際にクリアはされてないみたいだ

 

ここから導き出されるのはただ一つ。このSAOはホロウフラグメントでのSAO。つまり七十五層でクリアされなかったifの世界

 

「……………(すごく集中してる)」

 

そしてフィリアはキリトのことを知っている。と言うことはゲーム内でのストーリーはもう始まっているってことだ

 

俺はそこに介入する形でここに来たってことになる。多分それで合っているはずだ

 

俺はフィリアに目線をやる

 

「………なに?」

 

最後にフィリアの言っていた"強制転移"

 

俺は公式サイトはキャラクター情報と他を少しだけ見たが、話自体はよく知らない。インフィニティ・モーメントも先がわかったら面白くないので攻略動画などは見ないようにしていた

 

"強制転移"と言うことは………俺の予想が正しければここはホロウエリアと言うことになる。どれ、確かめてみるか

 

「なあフィリア。ここは何層だ?」

 

「何層?違うよ、ここはホロウエリア」

 

「ホロウエリア………」

 

やっぱりか

 

てか今思ったけどフィリアの話し方可愛いな

 

「…………ねえ、体の何処かに紋様とか出てない?」

 

「紋様?」

 

俺は自分の体を見回してみる。どこにもそんな物は見られない

 

「いや、無いけど」

 

「そう……」

 

なんだ?紋様があったらなんかあるのか?てかそんな物を俺に求めるな、キリトにでも求めてくれ

 

「取り敢えず安全な場所に行かないか。いつモンスターに追われるかわかったもんじゃない」

 

「わかった。着いて来て、近いから」

 

「何から何まですまんな」

 

俺はフィリアに着いて行くことにした。もう死にそうなるのはごめんだ

 

ここがホロウエリアならレベルも相当高いはず、それも今の俺の倍近くはな。きちんと安全マージンとってからじゃないと…………

 

ズドォォォォン!

 

「「っ!」」

 

俺達の後ろから何かが落ちてきたかのような音が聞こえる

 

……………おい、おいおい、まさか……

 

『シュロロロロロ………』

 

骸のような頭に、ムカデみたいな身体…………

 

「こいつ………さっき戦った………!」

 

4本の鎌状の腕…………。公式サイトにも載っていた、こいつは……

 

「ホロウ・リーパー………!」

 

「………知っているの?」

 

「知っているというかなんというか…………取り敢えず逃げるぞ!!」

 

俺はフィリアの手を取って走り出す。ハラスメントコードがどーだか出るかもしれないがそんなの知るか!

 

てかなんで俺はこんなにも追いかけられるんだ!?何か呪いでもかかってるんじゃないのか!

 

「フィリア、こっちで合ってるんだよな!?」

 

「う、うん!」

 

「それと!さっき戦ったって言ってたけど、どう言うことだ!?」

 

「さっきはキリトと一緒に戦って倒したの!多分二人で掛かれば勝てると思う!」

 

「無茶言うな!俺のレベルは43だぞ!?あいつのカーソル真っ赤通りこして黒だっつうの!」

 

「えぇ!?だ、だから走るの遅いんだ……」

 

「それを言わないでくれ!」

 

こっちも必死に走ってんだよ!

 

フィリアの手を離すとフィリアは俺と並行して走る

 

「フィリア、俺に合わせなくていいから先行っててくれ!」

 

「それこそ無茶言わないで!見捨てたら見捨てたで寝覚め悪い!」

 

くそぉ、めっちゃ良い人じゃんフィリア!

 

「見えた!あれで圏内まで跳べる!」

 

フィリアは前方にある紋様の刻まれた黒い物体を指差す

 

「ラストスパートだ!」

 

ホロウ・リーパーはまだ追いついて来てない!いったい何をしてるのか知らねえが好都合だ

 

「よし、起動してくれフィリア!」

 

「わかった!」

 

なんとか黒い物体のところまで辿り着き起動する

 

「「……………」」

 

…………あれ?

 

「起動しない!?」

 

「ええぇぇぇぇぇ!?」

 

マジかよ!!じゃあどうするってんだ!?

 

『シュロロロロロ!!』

 

ホロウ・リーパーが追い付いて来た。鎌を俺とフィリアに一本ずつ振り下ろす

 

「っ!来たぞ。避けろ!」

 

なんとか回避に成功した

 

「フィリア、相手のレベルは!?」

 

「89!!」

 

おう、マジかよ。俺の倍はあるじゃねえか

 

俺はなんとか態勢を立て直す。俺と反対側に避けたフィリアもなんとか立て直したみたいだ

 

『シュロロロ…………』

 

ホロウ・リーパーは俺達の様子を伺っているのか動かない

 

その間に俺はフィリアの元へと走った

 

「大丈夫か!?」

 

「私より自分の心配して、一撃でももらったら即死だよ」

 

「ああ、わかってる………」

 

フィリアは剣を抜く。俺も剣を抜こうとしたが、柄に手を置いた瞬間固まった

 

「……………」

 

「?」

 

剣を抜かない俺を見るフィリア

 

…………この剣を抜いたら、戦わなければいけない。もしかしたら死ぬかもしれない

 

そんな考えが俺の頭に過ぎった

 

「……………私が引き付けるから、あんたは逃げて」

 

「え?」

 

「出来るだけ遠くに!」

 

「あ、おい!」

 

フィリアはホロウ・リーパーに向けて走り出した

 

…………なんだよ、逃げろって。自分はどうするんだよ

 

「俺が……足手まといだからか?」

 

フィリアは、俺が足手まといだから自分一人で戦う決意をしたんだ

 

普通俺を置いて一人だけ逃げるもんじゃないのか?なんでそれをしない

 

まさか勝機があるとか言うんじゃないだろうな

 

「ああ、もう。今日は何て日だ?」

 

あんな女の子が戦ってるのに俺は何をしてるんだ?ただ見てるだけか?それで次は自分が殺されるのを待ってるだけか?

 

「ラッキーデイかアンラッキーデイかわかりゃしねえ」

 

……………ああ、もうどうでもいいや

 

「俺を舐めんなよ………!」

 

俺が死ぬなんて、そんなことこの際もうどうでもいい!!

 

俺は剣を抜き、柄を逆手に握って肩に担いだ

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

「くっ………!」

 

流石に一人でホロウ・リーパーを相手にするのはキツイのか段々押され始めるフィリア

 

彼女は斬撃を受け流しながら思った

 

「(ああ、なんであんなカッコつけたんだろ)」

 

一人で戦って勝つなんて無理なのに、と心の中で自重気味に笑う

 

「(もしかしたらあいつに感化されたのかも)」

 

ついさっき出会い、そして一緒に戦った黒い剣士のことを思い出す

 

「……………そうだ、あいつを呼べば!」

 

その考えが頭に過る。キリトを呼んで二人で戦えば勝てるだろう

 

「くっ、でも………そんな暇ない……」

 

メールを打つ時間をホロウ・リーパーはくれないだろう。どうするか………、そう考えるフィリアは気付かなかった

 

左上から丁度死角になって迫っている鎌に

 

ザシュッ!

 

「っ!」

 

右肩を切られる

 

「(油断した!剣で死角になってわからなかった……!)」

 

今のでフィリアのHPは2割が持って行かれた。攻撃を受けた反動で一瞬だが体の自由が効かない

 

ホロウ・リーパーにとって、フィリアに追撃をくらわすのにはその時間だけで事足りた

 

『シュロロロロロ!』

 

鎌が振り下ろされる

 

「っ…………!」

 

フィリアは目を見開いた

 

……………だが、その時

 

「うおおおおおぉぉぉぉらああぁぁぁぁ!!」

 

シンの雄叫びが聞こえた。ホロウ・リーパーはその声に反応して攻撃を中断する

 

刹那、ホロウ・リーパーの顔面へと青い軌跡が走る

 

ズガァ!!

 

「…………クリーン、ヒット」

 

突き刺さったのはシンの剣だった

 

「………………はっ!」

 

放心していたフィリアはすぐに我に返る。そして手早くウインドウを開き、メールをキリトへ打った

 

「オラ、来いよムカデ!俺が相手だ!!」

 

シンが吼える

 

「(派生スキル、《威嚇(ハウル)》。みたいにはいかないが十分憎悪値は上がったはずだ)」

 

剣を肩に担いだ動作はさっきさり気なくスロットに入れていた投擲スキルを発動するための予備動作だった

 

『シュロロロ…………』

 

狙い通りホロウ・リーパーはシンをターゲットする

 

「あんた、なんで……」

 

「知らん!てかフィリア、後でてめぇは説教だ!!一人で突っ走りやがって!」

 

ホロウ・リーパーを引き付けながら叫ぶシン。そこらへんに落ちている小石を拾い投げつけている

 

「もうすぐキリトが来るはずだから!それまで粘って!」

 

「マジか、りょーかい!」

 

シンはホロウ・リーパーの脇を通り落ちている剣を拾いに行く

 

「…………!」

 

そして力いっぱいに振り抜き、腹を切る

 

「くっそ、やっぱあんま効かねえか」

 

ホロウ・リーパーには大したダメージになっていなかった

 

「(出来るだけ距離を取らないと……)」

 

一撃でも食らったら即死、掠るだけでも危ない。そんな状況下、シンの感覚は研ぎ澄まされていく

 

ホロウ・リーパーが鎌を振り上げる。位置と角度からある程度の場所を絞り、その範囲を大幅に転がりながら避ける

 

そして態勢を整えまた走り出す

 

『シュロロロ!』

 

ホロウ・リーパーは鎌を横に振る

 

「マジかよ………」

 

ここに来て初めての横振り、急なことに対応出来るほどシンは戦い慣れしていない

 

「はぁぁぁ!」

 

ガキィィィン!

 

そこにフィリアが割って入った。フィリアの剣と鎌が火花を散らしながらせめぎ合う

 

「うおおぉぉぉ!」

 

シンも加わる

 

「「がっ!」」

 

だが弾き飛ばされてしまった。シンは黒い物体に、フィリアは近くの樹に叩きつけられる

 

「…………チッ、やべえな」

 

今のでシンのHPは残り2割程度に減っている。全損しなかっただけマシだろう

 

立ち上がり走り出そうとするシン

 

『シュロロロロロロロ!!』

 

無情にもホロウ・リーパーの攻撃範囲内だった

 

ホロウ・リーパーは鎌を横薙ぎに振る

 

「(あ、これ死んだ……)」

 

流石にこれは避けれない。シンは死を覚悟する

 

……………だが

 

ガキィィィン!!

 

大きな火花を辺りに散らしながら、二振りの剣が鎌を受け止めていた

 

「待たせたな。よく頑張った」

 

ギィン!

 

鎌が弾かれる

 

突如現れたのは漆黒のロングコートに身を包み、白と黒、二対の剣を携えた剣士だった

 




※2020/02/14 視点変更箇所に
       ======================
       に変更


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フレンド一号と二号

 

「待たせたな。よく頑張った」

 

ホロウ・リーパーの剣を弾き、そう言ったのは漆黒の剣士

 

これが誰だろうかは言うまでもない、キリトだ。状況が状況でなければ生キリトだぜひゃっほい!と叫んでいただろう。だが俺にはそれだけの気力も無ければこんなシリアスな雰囲気を壊せる程の勇気があるわけでもない

 

俺はただ脱力してその場にへたり込んだ

 

「フィリア、行けるな?」

 

「うん」

 

キリトの呼び掛けにフィリアは応える

 

「行くぞ!」

 

そしてホロウ・リーパーへ向けて走り出した

 

 

 

 

 

 

 

そこからは直ぐだった

 

キリトが鎌を防ぎ、フィリアが横からソードスキルで攻撃。更にスイッチなども使い回してどんどん追い詰めていく

 

「すっげ……」

 

めまぐるしく変わっていく戦場に俺はただ感嘆することしか出来なかった

 

「はああぁぁぁぁぁ!」

 

キリトが雄叫びを上げながらソードスキルを放つ

 

…………1……2、3、4……7連撃技か

 

ホロウ・リーパーの顔面へと食い込んだ最後の一撃は、HPを全損させた

 

破砕音と共に崩れ落ちるホロウ・リーパーを見て心から安堵する

 

「や、やった………」

 

俺は呟く。そしてそれと同時に俺の体が金色の光を放ち、ファンファーレが鳴り響いた

 

「レベルUPおめでとう」

 

「え?あ………ありがとう」

 

レベルUPしたのか。だとしたら44かな?不吉な数字だが不思議と不吉だと思わない

 

「しかしビックリしたよ。フィリアから早速メールが来たと思ったら助けて!の一言だもんな」

 

「しょうがないじゃない。打つ時間が無かったんだから」

 

「まあ、無理もないか…………。立てるか?」

 

キリトが俺を心配してか手を差し伸べてくれる

 

「ああ、助けてくれてありがとう」

 

手を取って立ち上がる。こうして見てみると俺より背が低いんだな……

 

うん、キリトだ。少し女顔だし、イケメンだし

 

「俺はシン、よろしく」

 

「キリトだ。よろしく」

 

俺達は握手を交わす。まさか握手まで出来るとは思わなかった

 

「それじゃ一旦安全な場所に移動しよう。いつまた襲われるかわからないからな」

 

キリトが俺の後ろの黒い物体に触れて起動する

 

そして俺の視界が切り替わる。次に視界に映ったのはまるでコンピュータの世界へ入ったかのような光景だった

 

「すげぇ……」

 

これで感嘆するのは二回目だ。いや、ホントすげぇ

 

「ここは管理区って言うんだ」

 

「管理区……」

 

つまりここでホロウエリアを管理してるってことか?

 

「それにしても、ホロウエリアはホントに謎が多いな。一般プレイヤーを強制転移させるなんて」

 

一般プレイヤー?………….ああ、俺のことか。正確に言うと俺はイレギュラーなんだが………

 

「そう言えば、あんた達知り合いなの?」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「さっきあんたに会いたいって言ってたから」

 

フィリアは俺を指差して言う

 

「シンが?」

 

「……………あー」

 

そう言えば言った。うん、言った覚えあるよ

 

「い、いや《黒の剣士》キリトって言えば有名じゃん?ほら、下の方にだって知ってる奴は多いと思うぜ?一方的な知り合いって奴」

 

「あー、確かに。一時期話題になったこともあったな……」

 

キリトはその時を思い出してか何とも言えないような顔を作る

 

「そ、そーそー!それで俺もキリトを知ってたわけだよ」

 

あっはははは、嘘しか吐けないってつれぇー

 

「それでどうして会いたいってなるの?」

 

おぅふ、そう来たか

 

「ほら、有名人には会ってみたいって思うじゃん?いやー、マジで。握手とか出来たし俺この手洗えねえわ」

 

これは本心だ。ゲームの中だし手は洗わなくても大丈夫だろ

 

「ふーん」

 

「なんかそこまで言われると照れるな……」

 

照れてるキリト、何かとレアじゃないか?

 

ふむ………、最初の時点でフィリアとキリトに出会う、ってのは中々良い滑り出しだ。ここからアスナを始め原作キャラと出会えるかもしれない

 

それにここはホロウフラグメントの世界。リーファやシノンさん、ストレアにも会え「あぁ!!」…………なんだ?

 

俺が考え事をしているとキリトが急に大声を上げた

 

「そう言えばリズを待たせてるんだった!早く行かないと怒られる!」

 

なに?リズ、ってのはリズベットのことか

 

「それじゃ、俺は先にアークソフィアに行ってるからな!あ、アークソフィアってのは76層の名前だから!じゃあなシン、フィリア!」

 

「お、おう」

 

「じゃ……じゃあね」

 

俺達が唖然とする中、キリトは持ち前の敏捷力を生かし字みたいなのが刻まれている床へとダッシュする

 

…………もしかして、あれが転移門の代わりなのか?

 

「転移、《アークソフィア》!」

 

どうやら正解だったみたいだ。キリトは叫んだ瞬間青い光に包まれて消える

 

「…………アークソフィア、ね」

 

俺はなんとなく呟いた

 

「あんたも行ったら?」

 

「フィリアは?」

 

「行かない、まだここでやることあるから」

 

やること?うーむ、手伝えるなら手伝いたいが………如何せんレベルがなぁ……

 

モンスターの相手とか絶対に足手まといになる

 

「んじゃ、フレンド登録しとこうぜ」

 

俺はウインドウを操作する

 

フレンド登録しとけばメール送れるし、情報の交換が出来るからな

 

…………あ、キリトとフレ登録してない

 

「えーっと、これが………こうか?んで…………よし、送れた」

 

なんとか申請を送ることが出来た。後はフィリアが承諾するだけだ

 

「……………(ジー」

 

「え、なんでせうか?」

 

申請を待っているとフィリアの視線に気が付く

 

「操作、慣れてないみたいだね」

 

「!………」

 

しまった。そうだよ、仮にも2年はいるってことになってんだから操作が下手だったら怪しまれる

 

「…………(友達、いないのかな)」

 

あれ?なんか視線に憐れみが混じってる感じがするのは気のせいか?

 

いや、それよりもどう言う?……………んー

 

「…………俺、フレンドいないんだ」

 

はっはっはっ、言っちまったぜ…………(泣)

 

これでフィリアの中での俺の印象が『レベルが低いのにホロウエリアに連れて来られた可哀想なボッチ』になったのは言うまでもないだろう

 

「そう(やっぱりそうなんだ……)」

 

フィリアは俺の答えに納得したのかYESを押す。これでフィリアは俺のフレンド第一号だ

 

…………いや、納得されても悲しいんだけど

 

「それじゃ、俺は行くぞ」

 

「………それじゃ」

 

「おう、じゃあなー」

 

俺は転移門の前まで歩いていく

 

「あ、そうそう」

 

「?」

 

フィリアに、一応言っとこうかな

 

「無理だけはすんなよ」

 

「………?うん、わかった」

 

なんでそんなこと言い出すのか、って顔してるが………まあ、そのうちわかるかもしれない

 

フィリアはこのゲームのメインキャラクター。そして公式サイトで見たPVでは何かただならぬ秘密があるらしい。その内容はわからないが

 

…………だから、せめて無理だけはして欲しく無い。命の恩人でもあるしな

 

「また会おうぜ。転移《アークソフィア》」

 

俺はさっきキリトに教えてもらった名前を唱える

 

………これ、キリトが教えてくれなかったらどうしてたんだろ

 

そんなことを考えてる俺を他所に俺の体は青い光に包まれる

 

「………………おぉ」

 

青い光の先には街並。俺がいるここは………広場、か?

 

「思ったより人がいないな」

 

見渡すけど二、三人程度しかいない。NPCってこともあるだろうし、実際プレイヤーは一人もいないのかも

 

「皆攻略に出掛けてるのか」

 

もしくは広場に誰もいないだけ………か。まあ賑やかな場所はあるだろう、住宅地とか

 

「どれ、これからの方針を決めるかね」

 

俺はその場に丁度良い段差があったのでそこに腰掛ける

 

「…………」

 

それにしても綺麗な街だよな〜。公式サイトとちょこっと見たけど、やっぱ実物は違うね

 

「おっと、それよりも今後の方針だよ」

 

まずは宿探して………あ、ちょっと待て、俺って今金どんだけ持ってる?

 

…………えーと

 

「なんだ、少なからずあるんだな」

 

2万か………これで宿とか泊まれるかな。まあゲームの中だから野宿でもなんでもするけどさ

 

「でも、食っていく為には金は必須だよな」

 

これをどうやって手に入れるか、だが…………なんか俺考えてばっかりだな

 

「うーむ、初期装備を売れば少しは金に………まあホント少しだろうけど、それにレベルとかも上げなきゃ駄目だしな」

 

誰かの攻略に連れて行ってもらうか?それなら幾分か安全ではあるが………

 

まあまずは何かアクションを起こさないと、考えてばかりじゃ駄目だ

 

「よし、宿を探そう!」

 

手をパンッ!と叩く

 

そして立ち上がろうとした瞬間、俺の後ろで青い光

 

「…………ん?え!?」

 

「え?何…………ぐぇっ!」

 

転移門から出てきた人に、俺は頭を踏みつけられた

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさい!本当にごめんなさい!」

 

「い、いやもういいって」

 

俺は絶賛女の子に頭を下げられ中である。どうしてこうなった?

 

「いきなり転移門から出てきたら人がいるなんて!ごめんなさい!」

 

「いや……ね?転移門の真ん前で座ってた俺も悪いわけだし」

 

そう、これは明らかに俺が悪いだろう。転移門の真ん前に陣取って座ってたんだ、そりゃ誰かが出てきたら踏まれる

 

それに…………

 

「そう……ですか。あ、私アスナって言います、あなたは?」

 

アスナなんだものーーーー!!!この人キリトの嫁さんなんだものーーーー!!!キリトも命の恩人だからその嫁さんを怒鳴れるわけねえよ!てか嫁さんじゃなくても怒鳴れねぇ!

 

てか実物も可愛いな。こんな可愛い娘に愛されるとか、キリトマジ爆発しろ。さっき命の恩人とか言ったけど、マジで爆発してくれ

 

「………?どうかしました?」

 

「い、いや!?なんでもな………ないでせうよ。俺、シン………です」

 

ヤ、ヤベェ………まともに話せねぇ。なんか俺がコミュ症みたいじゃん

 

「?敬語はいいですよ?」

 

「そ、そうでありますか………いや、そうか」

 

えぇ!?何この人、めっちゃ良い人!なんでこんなに笑顔なの!?

 

「それにしても、なんであんな所に座ってたんですか?」

 

「今後の方針を決めてたんだ。それで宿を探そうとしてた」

 

アスナ、俺なんかと話してていいのかな。キリトのとこ行かなきゃ駄目なんじゃね?キリト嫉妬するよ?

 

「今後の方針?もしかして七十五層以下に戻れないことを知らずに来ちゃったんですか?」

 

うーん…………どちらかと言うと違うんだが……

 

「まあ、連れて来られたというか……」

 

「?」

 

わかりませんよね、すいませんでした

 

「と、ところでアスナは何をしてたんだ?やっぱ攻略か?」

 

こういう時は話題転換だ

 

「いや、ちょっと人を捜しに………全くキリト君ったら、SOSが来たのはわかるけど一人で行っちゃうなんて………せめて私も呼んでくれれば良かったのに……」

 

「……………あぁ〜」

 

わかった。わかっちまった

 

つまりあれだな。俺達を助けに来たキリトを捜してた、ってわけだな

 

「なんか………ごめんなさい」

 

「なんで謝るんですか?」

 

「いや………ごめんね?あと敬語いらないから」

 

「?うん」

 

てかなんで俺達の助けに行った、ってわかったんだろ。リズベットにでも聞いたのか?キリトはリズベットを待たせてるって言ってたし

 

「ああ、そうだ。人を捜しに行ったのに戻って来た、ってことはその人がもう戻って来てるか見つかった、ってことだろ?会いに行かなくていいのか?」

 

お互いこれ以上ここにいる必要は無いだろう。アスナと話せたことは収穫だが、なんだかアスナを見てると罪悪感が………こんなに健気な娘を置いとくなんて、キリトはなんて罪作りな奴なんだ

 

「あ、そうだね。それじゃ」

 

手を振って去ろうとするアスナ。ふと振り向き、右手を振って何かをしだす

 

「ん?」

 

俺の前にフレンド申請を示すシステム窓が出てきた

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「いや…………」

 

俺はYESを押す

 

「それじゃ、またね」

 

そう言ってアスナは走って行ってしまった

 

「……………フレンド第二号はアスナ、と」

 

フレンド欄を開き俺は呟く

 

 

 

 

 

少し嬉しかったのは言うまでもない

 

「あ、キリトとフレンド登録してない」

 

そしてそれを思い出し肩を落としたのも言うまでもない

 



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エギルの店、宿発見!

 

「さて、宿はどこだー?」

 

アスナと別れた俺は宿探しの放浪中だ。やはり中央広場ともなると人も多くなる

 

道中青い小竜を連れたツインテの女の子とすれ違ったがきっとあれはシリカだろう。通り過ぎた瞬間二度見してしまい近くにいた女性の冷たい目線が突き刺さったが俺は悪くない。…………悪く、ないんだ………!

 

どうせなら声をかけたかったがナンパだと思われるかもしれないからな。俺がとった行動は正しかったと言えるだろう

 

シリカだって可愛いんだから二度見ぐらいするよね、決してロリコンとかそんなんじゃないよ?全然違うよ?てか声をかけなかったのがよくやったと褒めてやりたいよ。俺マジナイス

 

「……………手当たり次第入ってみっか」

 

自分を無理に正当化して虚しくなったので取り敢えずヤケになってみよう

 

「よし、まずはここだ」

 

俺は無駄にデカイ扉の前に立つ。扉の横には何やら英語が書かれた看板、斜め上にはトロフィーみたいな絵の書いてある………これも看板でいいのかね?がある

 

「……………あれ?待てよ……」

 

確か宿屋ってなんか専用のマークがあるって言ってたような気がするぞ。プログレッシブに確か…………I………そう、INNだ!

 

「そうだよ。INN探せばいいんじゃん」

 

なんで気が付かなかったんだろ。これさえわかればすぐに宿が見つかるぞ!

 

「…………まあでも、何かの縁だ。ここに立ち寄ってみるかな」

 

それにこの中央広場じゃ一番デカイ扉だ。何かの店なんだろう

 

ついでに売りたい物も売れる。さっきアイテムストレージを見てみたんだが、どうやらあの蜂から素材がドロップしていたみたいなんだよね。これも売ればけっこう金になるかも

 

「ではオープンと行こうじゃないか」

 

SAOでの初の店。内装がどんなのか楽しみだしゲームでの買い物ってのはなかなか楽しめる。例えば新しい街に着いた時なんか店に直行して新しい武器や道具が出てないか探してみたりするもんだ…………まあ大体何もなかったりするが

 

そんなことを考えながら俺は扉の取っ手を掴み、押す

 

「…………………あ、これ押すんじゃなくて引くんだ」

 

『引』とか表示されてないからわかんねえよ

 

…………んじゃ、気を取り直して

 

「いよっし!」

 

俺は勢い良く扉を開けた

 

「いらっsy「すいませんでした!(バタンッ」

 

そして俺は勢い良く扉を閉めた

 

「…………………」

 

なんだ、今のなんだぁぁぁぁ、チョコレートが、チョコレートが立っていたよ!?いや、違う。チョコレート色の巨漢が立ってた!しかもめっちゃ笑顔だった!

 

いや、あれは笑顔と呼んでいいものじゃねえ!なんだよあれ!?子供泣くよ!?号泣するよ!俺でさえちょっと涙目だよ!……え?俺が弱いだけ?………………うっせぇ!

 

あれは…………あれは、間違いねぇ。あの人だ

 

「エギルだぁぁぁ………………」

 

絶対あれエギルだ。間違えようがねぇよ

 

てか実物恐えー、威圧放ってるよ威圧。なんですか、歴戦の戦士ですか?あながち間違ってはいないけれども!

 

「……………いや、よく考えろ。よく考えるんだ信一」

 

エギルはメインキャラだ。メインキャラにこうも簡単に会えたなんてラッキーじゃないか。既に五人目だ、打ち切りが決まった漫画が無理に最終回にする為に頑張るくらいハイペースだ

 

「…………よし、リベンジだ」

 

ここで諦めるわけにはいかない

 

なに、さっきは死にかけたんだ、今更こんなのへっちゃらさ

 

「お、お邪魔しまー…………す」

 

「いらっしゃぁい」

 

なん…………だと!?さっきより悪どい笑みを浮かべていやがる!?

 

「っ……………!」

 

くっ………、なんだこの足の震えは!これは、俺は恐怖しているのか………?この男に!

 

俺を見ながら悪どい笑みを浮かべているエギルは正に獲物を見つけたライオン!そして俺はそのライオンの射程距離内へとタップダンスを踏みながら入ってしまったシマウマにすぎないと言うことか!?

 

「…………見ない顔だな。うちは初めてか?」

 

ボリュームのある声が俺の耳に届く。エギルはさっきまでの笑みを引っ込めていた

 

うん、これなら話せるかな

 

「まあ……初めてでしゅっ!」

 

「ぶはっ!」

 

か、噛んだぁ!?まさかこんな簡単な文で噛んでしまった!

 

エギルは吹き出してるしよぉ…………。恥ずかしいったらありゃしねえ

 

「く、くく………そうか、初めてでしゅか」

 

「おいやめろ、あんたの体躯でそんなこと言ったらホラーにしかなんねえよ」

 

「…………うぉっほん!なかなか失礼な奴だな」

 

「客にあんな悪どい笑顔を送るあんたに言われたくねぇ」

 

「悪どい…………か?やっぱり………」

 

あれ?なんだか落ち込み始めた…………。俺なんかいけないこと言ったかな

 

「…………それで、何か探しものか?」

 

あ、直った

 

「いやね、宿探してて………それでここを見つけたから、ちょっと立ち寄ってみよっかなー、って」

 

「ほう、宿か。ということは最近ここに来たプレイヤーだな」

 

ん、そうだな…………ここでは当たり障りの無いように答えなきゃならんな

 

ついうっかりホントのことを喋っちゃ話にならん

 

「そうなんだよ、それもついさっき。安全マージンさえろくに取れてやしないのに最前線なんかに来ちまったもんだから」

 

俺がそう言うとエギルは肩を竦める

 

「そうか。まあここに来たのも何かの縁だ、何か買っていきな。安くするぜ」

 

え、マジで?

 

そういやエギルは原作で儲けの殆どを中層プレイヤーの育成につぎ込んでいたらしいからな、やっぱり低レベルプレイヤーには優しいんだろうか

 

「あ、それじゃあさ、素材売りたいんだけど」

 

俺はエギルのいるカウンターまで行き椅子に腰を下ろす

 

「おう、見せてみな」

 

そう言ってエギルはメニュー画面を開く

 

「……………(ワクワク」

 

いくらで売れるかな?生活の足しになったらいいけど

 

「…………」

 

「…………(ワクワク」

 

エギルは俺を無言で見つめている

 

え?何?どしたの?

 

「……………………早く売る物出せよ」

 

「そ、そうだった!ごめん!」

 

そうだよ、素材も出してないのに売れるわけねえよ

 

俺はメニュー画面を開いてアイテム欄から蜂の針らしきものを取り出す

 

「これ!」

 

「………………これだけか?」

 

「?ああ」

 

何か問題があるのか?

 

「いや、まあいいか。…………そうだな、1060コルでどうだ?」

 

「それってすごいのか?それとも悪いのか?」

 

「ん………まあ、普通だな」

 

普通なのか、どうするかな…………

 

なーんて、考える時間なんていらねぇよ

 

「それでいいぞ」

 

「おし、買った」

 

交渉成立だ。エギルに俺は針を渡し、俺はコルを受け取る

 

まあ素材一つじゃこんなもんだよな。他は自力でなんとかするしかないか

 

「あれ?シンじゃないか」

 

「シン君?」

 

んー?何か聞き覚えのある声がする

 

「あ、キリトにアスナ」

 

振り向いた先に居たのはキリトとアスナだった

 

「キリト君。シン君と知り合いだったの?」

 

「ああ、ちょっとな。今日出会ったばかりだけど」

 

「そうなんだ。私もなんだよ(女の子ばかり引っ掛けてくるんじゃなかったんだねキリト君!)」

 

あ、なんかアスナがめっちゃ嬉しそうな顔してる。やっぱあれかな、キリトに男友達ができたことに喜んでるとか?

 

……………やば、今俺自然にキリトと友達発言しちゃったよ。どうしよう自意識過剰かな?

 

「へぇー、そうなのか。それよりシン、こんな所で何をしてるんだ?」

 

「おいキリト。こんな所ってのはどういうことだ」

 

エギルがキリトにむっ、となり言う

 

まあそりゃ自分の店がこんな所扱いされたらそうなる

 

「俺は宿を探してたらこの店見つけたんで入っただけだよ。今エギルに素材売ってたところだ」

 

「そうだったのか。おいエギル、また阿漕な商売してるんじゃないだろうな?」

 

まあ確かに阿漕な笑顔なら向けられたよ

 

「何言ってんだ。安く仕入れて安く提供するのがうちのモットーなんだよ」

 

おお!まさかこの台詞を生で聞けるなんて思わなかったぜ!録音しときゃよかったー!あ、録音結晶持ってねえや

 

「…………ん?おい、シンと言ったか」

 

「はいはい、シンと言いますよ?」

 

なんだ?何かエギルが神妙な顔付きになっているが

 

「俺はお前に、名前を名乗ったか?」

 

「「……………え?」」

 

「……………あ」

 

そ、そうだった。まだエギルからは名前を聞いてないんだった!

 

だとしたら俺がエギルの名前を知っているのはおかしい

 

「い、嫌だなエギル。ここに入って来た時名乗ったじゃねえか。『いらっしゃい、俺は店主のエギルだ』ってよ」

 

なんとかこれで誤魔化せるはずだ

 

「そうだったか?」

 

「そーそー!ただ俺は名乗り忘れてて、今キリトから知ったから自分も自己紹介してないと思っただけじゃないか?」

 

「そうだった………ような気もするな」

 

「なんだ、エギルさんが忘れてただけじゃないですか。もう、そういうの辞めてください」

 

「エギル、遂にアルツハイマーか?」

 

「そんなわけあるかっ!」

 

ふっ、我ながら完璧だ。どんどん嘘つきスキルの熟練度が上がって行く気がするが………

 

「あ、そうだシン」

 

「ん?」

 

「宿を探すんならここにすればいいんじゃないか?確かもう一部屋くらい空いてたよな、エギル」

 

宿?エギルの店で?

 

「ああ、一番奥が空いてるぜ」

 

あ、思い出した。確かキリト達はエギルの店で寝泊まりしてるんだ

 

……………て、えぇ!?

 

「い、いいのか!?」

 

マジで!?ここに泊まっていいの!?

 

「ああ、もちろん。だよなエギル」

 

「まあいいだろ。どうせ空いてる部屋を貸すだけだしな」

 

「じゃ、じゃあお願いしてもいいか!?」

 

「ああ」

 

いやったぁぁぁぁぁ!!俺はなんてラッキーなんだ!

 

俺は立ち上がりガッツポーズをする。三人から、特にアスナから微笑ましい視線を受け少し恥ずかしいがそれよりも喜びの方が勝っているので割合だ

 

「うふふ、良かったねシン君(なんか反応が子供みたいだなぁ。弟みたい)」

 

「おう!」

 

アスナに笑顔で返す

 

ここに泊まれるということは他のメインキャラ達に出会うことはほぼ確実と言っていいだろう。そして相手の都合さえ合えばキリトやアスナの攻略に連れて行ってもらってレベルも上がる。良いことばかりだ

 

「それじゃあ、案内するから着いて来な」

 

「イエッサー!」

 

俺はエギルに着いて二階へと上がった

 

 

 

 

 

 

「なあなあ、エギル。やっぱお隣さんとかに挨拶した方が良いかな?」

 

「好きにすれば良いんじゃないか?」

 

「そっかー」

 

まあ何より、これからが楽しみだぜ!

 

 

 



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ゆっくりと

 

「私はユイと言います!」

 

「そっかー、ユイちゃんかー(知ってるけどねー………)」

 

俺は今、キリトとアスナの娘、ユイと話をしている

 

そもそも何故ユイと話をしているかと言うと、エギルに部屋を教えてもらった後に一階へ下りた時にキリトとアスナと一緒にいたから………かな?

 

「俺はシンって言うんだ。よろしく」

 

ユイは可愛らしい笑顔を俺に向けているので俺も笑顔を返す

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「元気いっぱいだねぇ」

 

俺はユイの………ああ、もう。統一しとかないとめんどいな…………俺はユイちゃんの頭を撫でる

 

ユイちゃんは拒否することもなく気持ち良さそうに目を細めている。…………うん、可愛い

 

「早速打ち解けてるな」

 

「そうだね」

 

何故かさっきから二人の視線が異様に暖かい。なんだ、なんなんだ

 

「?どうかしましたか?」

 

ユイちゃんは又もや可愛らしく首を傾げている。うん可愛い

 

可愛いんだけど…………

 

「いや、なんでもない…………」

 

俺はユイちゃんの頭から手を離し椅子に座る

 

…………実は俺は内心で超焦っている

 

何故焦っているか、それは相手がユイちゃん(・・・・・)だからだ(・・・・)

 

ユイちゃんはこの世界を制御するカーディナルシステムを作ったその開発者に作られた《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》だ。略称はMHCP、それの試作一号。SAOの2巻は穴が空く程読んでいるから自然と覚えた

 

2巻は感動作だ。赤鼻のトナカイなんかもう……。そしてそれと同じくらい朝露の少女も良い話だ

 

……………少しズレてしまったが、とどのつまり、ユイちゃんは『このゲームのプログラム』なのだ。今この状況ではどうなのかは知らないが………だがALOではナビゲーションピクシーとして存在していたことからすると、今もそれに近いものなのかもしれない

 

と言うことは、だ。イレギュラーである俺に何らかの違和感を感じるはずなんだ

 

いや、違和感だけならまだ良い。もしかすると元々俺がこのゲームのプレイヤーで無いことがバレてしまうかもしれない

 

本人を見るに、今はどうやら何も無いみたいだが…………それは今だけのことかもしれない

 

「……………」

 

少し頭が痛くなってきた。さっきから考え事ばかりだからな………。エギルに甘い物でも貰おう

 

「なあエギル。何か甘い物って置いてないか?あったら売って欲しいんだけど……」

 

「それはいいが………どうしたんだ?頭なんか抑えて」

 

エギルが心配そうに俺に言う

 

「ちょっと考え事して頭が痛いだけだ」

 

「大丈夫?シン君」

 

「今日はもう休んだ方が良いんじゃないか?」

 

「いや、ホント大丈夫」

 

ホント優しいよな、こいつら

 

「ほら、こっちではココアみたいな味で美味いぞ」

 

エギルが俺の前に黒い飲み物を出してくれた。湯気が立ち上っている、熱そうだからゆっくり飲もう

 

「ズズ…………!ホントだ、ココアみたいだ」

 

すごいな。SAOにこの味ってあるんだ………

 

「幾らだ?」

 

「いらねえよ。サービスだ」

 

マジか、なんか悪い気がするな………

 

「ありがとな」

 

「いいってことよ」

 

ああー、心にも沁みる暖かさだわ………

 

「甘い物は頭を働かせる時に良いですからね。大丈夫ですか?」

 

ユイちゃんも心配そうに聞いてくる

 

……………心配そう、か

 

「ああ、大丈夫だよ。ありがとな」

 

ユイちゃんにそう言い、頭を一撫でしてからまた思考の海へと身を投じる

 

 

 

ユイちゃんはいつ俺のことに気付くかわからない。もしかしたら気付かないのかもしれないし、気付いている上で害は無いと判断し放置しているだけかもしれない

 

それならばそれで良い。ていうか最高だ

 

俺がイレギュラーな存在だと皆に知られたら、正式なプレイヤーで無いと皆に知られたら…………皆はどういう反応をするだろうか

 

いくらキリト達が優しいと言えど、気不味くなるのは明らかになるだろう

何しろ俺はキリト達に嘘を吐いているからだ。沢山の嘘を

 

俺としてはキリト達とそんな関係になるのは嫌だ。もっと良い関係を築きたい

 

「ズズ…………」

 

俺はもう一口ココアもどきを飲む

 

……………そしてもう一つ。俺はさっきユイちゃんをプログラムだと言った

俺はユイちゃんをプログラムだと認識(・・)したんだ

 

こうして見てみるとユイちゃんはそこらへんの女の子と何ら変わりはしない

 

………だけど、俺は知っている

 

この子がプログラムだと言うことを、この子が0と1の塊だと言うことを、この子が浮かべる笑顔はプレイヤーに違和感が無いように与えられた機能のうちの一つであることを

 

だから、俺はひじょうに困っている

 

ユイちゃんが俺を心配する姿が、ユイちゃんが笑う姿が、さっきから俺にはプログラミングされた行動の様に思えて仕方が無いのだ

 

まるでその行動が、決められた物である様に思えて仕方が無い………

 

「………………」

 

俺は片手をぎゅっと握り締め、もう片方に持っているカップへと視線を落とした

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

「………………ねえ、キリト君。シン君、ホントに大丈夫かな」

 

ずっと考え事をしているシンの姿をキリトとアスナはユイと共に離れた場所で心配そうに見ていた

 

「無理もないさ、いきなり最前線へ来てしまったんだから。これからのことを考えるとシンには厳しいだろう。それにシンは俺と同じ様にホロウエリアに強制転移させられ、その上あのスカル・リーパーに似た敵と戦ったんだ。七十五層の時の様に強くは無かったが………その疲れもあるはずだ」

 

シンがカップに視線を落としたのを見て、キリトとアスナはより心配が募る

 

「シン君も、キリト君と同じ…………」

 

「ああ。…………見たところシンの装備は中層……三十層辺りの武具だと思う。だとするとレベルもホロウエリアのモンスター達と比べると遥かに低いんじゃないかな」

 

「そんな………」

 

その状態で死線をくぐり抜けて来たシンにアスナは驚愕した

 

「……………パパ。シンさんはパパと同じなんですか?」

 

「ああ、そうだよユイ。…………でも、シンは俺と違って……こう言ってはなんだけど、強くないんだ。モンスター達の攻撃を受けたら一溜まりもないだろう。いつ死ぬかわからないのは、精神的に来るものは大きい」

 

キリトはシンを見据えて言う

 

「…………」

 

「ユイちゃん?」

 

ユイはシンに歩み寄る

 

「シンさん!」

 

そして手を取った

 

シンはいきなりのことに驚きが隠せない

 

「大丈夫ですよ、そんなに急いで考える必要はありません。ゆっくり、考えていきませんか?」

 

 

 

 

======================

 

 

 

「ゆっくり、考えていきませんか?」

 

俺はいきなりユイちゃんに手を握られ、そう言われた

 

「……………え?」

 

どういうことだろうか、わからない

 

少しの間茫然としていると誰かが俺の肩を叩く

 

「?………キリト、アスナ……」

 

肩を叩いたのはキリトとアスナだった

 

「ユイの言う通りだ。ゆっくり考えようぜ」

 

「まだ時間は沢山あるんだから、ね?」

 

……………もしかして、何か勘違いが起こってらっしゃる?

 

「いきなりこんな所へ来ちまって、これからのこととかを考えると憂鬱なのはわかる。不安だよな」

 

「エギル…………」

 

そうか、そういうことか。俺の考え事を、皆はそういう風に捉えたのか

………………ホント、何て優しい奴らなんだ。お人好しすぎるというか……

 

それに…………

 

「ああ、そうだな。ありがとう、ユイちゃん」

 

ユイちゃんの手は、暖かい

 

頭を撫でた時には気付かなかった。この子は、こんなにも暖かいんだ

 

「少し、休もうかな」

 

皆の言う通り、少し休もう

 

それに、さっきまでの自分が馬鹿らしく思えてきた

 

「夕飯の時には起こしてやるから、それまで寝てろ」

 

「ん、頼んだ。…………おやすみキリト、アスナ、エギル、それに………」

 

俺はユイちゃんの頭に手を置く

 

「おやすみ、ユイちゃん」

 

「はい、おやすみなさい」

 

ユイちゃんは笑顔で応えてくれた。俺はそれを見て二階へ迎う

 

ゆっくりと歩いて、一番奥にある今日からの自室の扉を開ける

 

「ふぁ」

 

どうやら自分でも眠たかったみたいだ。欠伸が出た

 

「………………俺って、ホント馬鹿だなぁ」

 

ユイちゃんがプログラムであることなんて関係無いのにな

 

…………あの子は、この世界で生きてるんだから

 

「おやすみ……………」

 

そして俺は重力に身を任せる様に、ベッドへと倒れ込んだ

 

 




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エンカウント率高くね?

 

 

「……………」

 

俺はベッドの上で目を覚ます

 

毛布を掛けずに寝てたのか…………。まあゲームの中だから風邪は引かないけどさ

 

「ん〜…………よっこい、せ」

 

ベッドの上から立ち上がる。俺の部屋にあるのはベッドと机、そしてランプ。寝泊まりするのに困ることはないが………やっぱインテリアは欲しいよな。………まあそんなに金に余裕があるわけじゃないけど

 

「起こされなかったと言うことは時間的に夕飯はまだなのか」

 

時間を確認してみると時刻は18時過ぎ

何時間寝てたのかなぁ?確かめてないからわかんねえや

 

取り敢えず下に下りようかね

 

「っと、その前に………」

 

俺はメニュー画面を開く

 

「あ〜、キリトやエギルともフレンド登録しとかないとな。…………これを、こうで………良し」

 

スキル欄に一応隠蔽スキルを入れておいた

俺はきっと、一人で行動することもあるだろう。なのでこれは必須スキルとも言える

 

そしてドアノブに手を掛ける

 

「………………」

 

ふと、止まる

 

「これ、下りたら全キャラ集合パティーンじゃね………?」

 

下りたら全メインキャラ居て、一人一人ご挨拶的な感じになるんじゃね?

 

「いや、まあそれならそれで良いんだが心の準備と言う物がですね。恐縮ながら私にはできて…………できて…………できて?」

 

あれ、なんか引っ掛かる

 

さっきから全メインキャラとか言ってるけど………何か大切なこと忘れてないか?何かとても大切なことなんだが……………

 

「えっと…………」

 

何か会って困る様なこともあったっけ?後会ってないのはシリカ、リズベット、リーファ、クライン……ストレア、シノンさん…………うん、特にないはずだ。悪役以外は大丈夫

 

「…………まあ、会えばわかるか」

 

面倒なので考えるのを辞めた。どうせすぐわかるだろうし

 

よし、心の準備もOKだ

 

「いざ行かん」

 

俺はドアを開き、外に出た

 

「きゃっ!」

 

「ん?」

 

何やら可愛い悲鳴が聞こえた

 

「ビ、ビックリした………」

 

見てみると女の子がこちらを驚いた表情で見ていた

 

……………うん、もうなんかね

 

「エンカウント率たけぇ………」

 

「え?」

 

「いや、何でもない」

 

おっと危ない。発言には細心の注意を払わないとな

 

「驚かせたならごめん。どーも今日からここに泊まらせてもらう土ウォッホン!ゴホ!ゴホ!」

 

あ、危ねえ、本名言うとこだった。さっき注意するって言ったばかりなのに

 

「だ、大丈夫?」

 

女の子は俺の顔を覗き込んで聞いてくる

 

「Yes。YesYes。All right」

 

「なんで英語?しかも地味に発音良いし………」

 

あんたがいきなり覗き込んでくるからだよ

美少女に顔を覗き込まれる。そんなシチュエーションなんざ生まれてこの方一度もねえよ

 

…………言ってて悲しい

 

「あー、俺はシンだ。敬語も要らないしさん付けも特に要らないから。よろしく」

 

「………よろしく、私はリーファ」

 

はい………と言うわけでリーファでしたー

 

しかし流石攻略組に名を馳せる《黒の剣士》様の妹なだけある。不意打ちも唯の不意打ちじゃねえぜ。つい今し方全キャラ達とのご対面を心に決めたこの身には効くぜ………!くっ、俺にも戦闘回復スキルがあれば『そんな攻撃(不意打ち)じゃ何時間攻撃しても俺は倒せないよ』みたいなこと言えたのに!

 

「もしかして今から下に下りるところかな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「それじゃあ下に下りようぜ。どうやらここに泊まってるっぽいし、エギルの知り合いだろ?」

 

うお、何この会話マジ自然

 

「エギルさんの知り合いだったんだ」

 

「ああ、うんまあね」

 

「良かった〜、不審者かと思っちゃった」

 

「あ、あっははは、そんなわけないじゃないか」

 

何それ泣きたい。俺の第一印象不審者だったの?

 

「おいおいリーファ。それは失礼だろ」

 

「あ、キリト君!」

 

「おっす、シン。よく眠れたか?」

 

キリトが来た。心無しかどこか疲れてるみたいだけど………

 

「ああ、お陰様で」

 

何時間寝てたかはわからねえがな

 

「あれ、キリト君とも知り合いだったの?」

 

「シンとは今日出会ったんだ」

 

「………ふーん」

 

リーファは俺を見る

 

「シン君。ホントは女の人だったりしない?」

 

「おい待て。俺のどこが女に見えるんだ」

 

急に何を言い出すんだこの娘は。俺は女顔でもないはずだけど………

 

「だって、キリト君が連れて来るなんて女の人としか……」

 

「リーファ、それどういう意味だ?」

 

「もう辞めろ、なんかもうわかったから辞めろ」

 

キリトどんだけそっち方面に信用無いんだよ

 

「…………取り敢えず、下りません?」

 

「そうだな、夕飯だから呼びに来たんだ。リーファもな」

 

なんだ、じゃあちょうど良い時間に起きたってわけだな

 

「もう皆集まってる?」

 

「ああ、集まってる。………あ、シン。皆ってのは俺の仲間のことで、きちんと紹介するからな」

 

遂に来たか………

 

「そりゃあ楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイワイ ガヤガヤ

 

「へぇ、案外賑わってんだな」

 

下に下りると結構人が居た。エギルの店って言うか酒場だなこりゃ

 

「まあ店主があれだかr「キーリト〜!」おわぁ!?」

 

な、なんだぁ!?

 

「キリト〜、どこ行ってたの?いきなり消えちゃうから驚いたよ」

 

「ス、ストレア………」

 

ス、ストレアだと!?あれが…………

 

「……………キリト」

 

「シ、シン。助け「馬に蹴られてぶっ飛べ月まで」えぇ!?」

 

もしかして既に落としてるんじゃないだろうな

ったく、アスナって嫁がいんのにどこまでハーレムを広げるつもりなのかね………

 

「キリト、そんなんじゃあいつかアスナに愛想尽かされるぜ。リーファ、俺はエギルのとこ行くから………それじゃ」

 

まあそんなことは無いと思うが。アスナはキリトにぞっこんだからなぁ………全く羨ましい

 

「え?あ、うん。それじゃあ」

 

「え!?ちょ、シン!?」

 

俺はリーファとキリトに別れを告げてエギルの場所へ向かった。どうせならストレアと話をしたかったが取り込み中なら仕方がない

 

別の方向にアスナやユイちゃん。他にもメインキャラに見える人達が居たがまずはエギルだな。……………はいそこ、ヘタレとか言わない

 

「おっすエギル。儲かりまっか?」

 

「なんで関西弁なんだよ。…………ぼちぼちだな。よく眠れたか?」

 

ノってはくれるのな

 

「お陰様でな。それにしても、結構賑わってると思うけど?」

 

「皆騒いでるだけだ。ご注文は?」

 

エギルは急に態度を変え、ウエーターっぽく聞いてくる

 

「あっはは、何それ似合わねえ」

 

「…………注文は」

 

「ココアもどきくれ。あれ気に入ったんだ」

 

あの甘くて体に沁みる暖かさが気に入った

 

「ほらよ。金は出世払いでいいぜ」

 

「攻略組にでもなれってか?」

 

いきなり無茶な要求を………今すぐには無理だろ

 

「戦力が増えるに越したことは無いぜ」

 

「じゃあ俺のレベル上げを手伝ってもらうぜ、エギル」

 

「時間が空いたらな」

 

あ、マジで?ラッキー

 

「アスナ達の所に行ったらどうだ?」

 

「えぇー、だって他の人と一緒にいるじゃん。女の子ばっかりの中に俺が混ざるのは……」

 

何よりもめっちゃ緊張します。マジでぱないっす

 

シノンさんとか俺の憧れの的だからマトモに話せるかわからねえよ。『あ……しょ、しょうでしゅね』みたいな感じになったら恥ずかしいなんてものじゃねえ

 

「約一名おっさんが混じってるが」

 

「きっと心は女の子なんだろ」

 

「やめてやれ。お前あいつのこと知らないだろ」

 

知ってるよクラインだろ?わかってるよ。ただ口に出さないだけだ

 

「シンさん!」

 

エギルと話しているとユイちゃんが俺の元へとやって来た

 

「どうした?ユイちゃん」

 

「向こうで紹介したい方々が居るんですが………」

 

成る程、来いと

 

チラリとユイちゃんの来た方向を見るとアスナが手を振っていた。苦笑いしながらも振り返す

 

いつの間にかリーファも合流してたみたいだ。キリトとストレアはいないが………

 

「駄目ですか……?」

 

「いや、大丈夫。行こうか」

 

断れるわけねえって、そんな目で見られちゃあ

 

「んじゃエギル。美味かった、また頼むぜ」

 

「おう」

 

俺はユイちゃんの頭を撫でた後立ち上がりアスナ達の所へと向かった

 

 

 




次は自己紹介の話



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自己紹介……しよっか

「(マズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!)」

 

シンは内心で大量の汗を流す

 

『……………(ジー』

 

「(何故こんなにも………アスナとユイちゃんとシノンさん以外だが、見られている!?)」

 

 

 

======================

 

 

 

ユイちゃんに連れられて俺はメインキャラクター達が集まるテーブルへと足を運ぶ

 

テーブルに行くまでがひじょうに辛い。何せ注目の的だ、しかも美少女集団のいる場所へと足を踏み入れると言うことが俺の緊張を加速させる

 

…………あ、約一名おっさんだった。いや、20代だと言ってたからおっさんではないのか?でも見た目的におっさんだからおっさんでいいや

 

「………………こ、こんちはー」

 

テーブルの前まで来たので挨拶をする

 

「シンさん、もうこんばんはですよ?」

 

「………そだね」

 

やめて!緊張してただけなんだ!俺は何も悪くないんだよぉ!

 

「ふふ…………皆、この人はシン君」

 

アスナが俺を紹介する

 

…………うむ、これは俺からも自己紹介をした方が良いだろう

 

「どーも、ホロウエリアに強制転移させられた不幸な青少年のシンです」

 

俺が自己紹介するとその場がザワついた。…………え、なんで?

 

「おめえさん、大変だなぁ」

 

赤いバンダナと無精髭が特徴のおっs………クラインが俺に同情の眼差しを送ってくる。同情するくらいならコルをくれ

 

「クラインってんだ。ギルド"風林火山"でリーダーやってる。よろしくな」

 

「よろしく」

 

うむ、人当たりが良さそうだなやっぱり。ごめんねさっきおっさんとか言って

 

「私はリズベット。鍛冶屋をやってるの、ご贔屓にね」

 

クラインから左へと移る。お次はリズベットか、見事なピンクの髪だ。学校の入学式で見た桜を思い出す

 

……………あ、入学式の時は桜全部散ってたわ。あれは見てて悲しかった

 

「それじゃあ今度、武器でも作ってもらおうかな」

 

「まっかせなさい!」

 

段々緊張が薄れて来た。なんだ、気軽に話せるじゃないか。さっきまで緊張してた自分が馬鹿みたいだぜ

 

それよりも、とてもフレンドリーだ。皆さんとてもフレンドリー

 

『キュルルルルル!』

 

何やら鳴き声が聞こえた

 

この声は…………!

 

「ピn『キュルルルルル!』のわっ!?」

 

俺の真ん前にピナが現れる。てか危ねえ、思わずピナの名前を言うところだった………

 

『キュルル!』

 

「え!?ちょ、やめ………」

 

何故かめっちゃ突つかれる!もう尋常な無い程突つかれてる!!

 

「こ、こらピナ!」

 

ツインテールの女の子、シリカが必死に止めようとしている

 

「やめ………やめろって!」

 

なんだこれ………。これはジャレてるとか、そんな感じじゃない。まるで敵を攻撃しているみたいな…………

 

「す、すいません………何時もならこんなこと無いのに」

 

やっと解放された。シリカが腕の中でピナを押さえつけながら謝罪してくる

 

「い……いや、大丈夫。元気な小竜だな」

 

そうだ、よくよく考えればピナもプログラムなんだ。俺に違和感を覚えて敵と認識してしまったのかもしれない

 

……………だとするとシリカと攻略には行けないな

 

「私はシリカです。この子はピナ、よろしくお願いします」

 

『キュル……』

 

「ああ、よろしくな」

 

どうやらピナも大人しくなったみたいだ。確かモンスターは人工AIだったっけ、俺は敵じゃないってわかったのかな?

 

「私はさっきしたけど、改めて。リーファだよ、よろしくね。耳とかちょっと違うけど……気にしないで」

 

「ん、了解」

 

リーファが二度目の自己紹介を終える

さて、あと残り……は…………

 

俺は最後の人へ顔を向ける

 

「…………シノンよ。よろしく」

 

シノンさんだった。俺の体を緊張が駆け抜けて行く

 

「よ、よろしく」

 

「……………?」

 

なんとか声を絞り出せた。少し裏返っていたが気にする程でも無いだろう

てかやべえよ、生シノンさんだ。生だぜ生

 

シノンさんのファンであり、シノンさんが憧れの的の俺としてはこの上ない喜びだ。ああ、今日も麗しいですねシノンさん

 

俺はシノンさんに憧れて親に無理言ってまで射撃教室にまで通っている程だ。あ、やべ………そういや射撃教室、今日だったような…………

 

とにかくそれ程シノンさんが好きなわけである。だがしかし、恋愛感情とかそういうものでは断じて無い

 

「何時迄も立っていずに座ったら?」

 

「えっ?おう、ありがと」

 

シノンさんに言われて椅子を引いて座る。人数が人数なので丸いテーブルに俺の左からリズベット、アスナ、ユイちゃん、クライン、シリカ、リーファ、シノンさんという順だ

 

……………つまり隣にシノンさんが座っているということになる。マジ嬉しい

 

「そういやぁ、シンはここに来る前は何層に居たんだ?」

 

向かいのクラインが聞いてきた。なんだ、質問タイムと言うわけですか?

 

…………てか、え?何層に居たか?いや、何層にも居なかったけど。どう答えようか………適当でいいかな

 

「えーっと、三十三層だ」

 

安全マージンギリギリの層を答える。まあレベルから見てこんなところだろう

 

「中層プレイヤーだったんですね。私もなんです」

 

「ここに登って来た時に帰れないと知った時はもう絶望的だったわ。私の店が………」

 

へぇ、成る程。シリカやリズベットかここに居る理由ってのはそう言うことだったんだな

 

「まあまあリズ、私も手伝うから」

 

「アスナ〜」

 

リズベットが涙を流しながらアスナに抱き着く。百合か、百合なのか!?

 

…………はい、すいません。自重します

 

「そう言えば、武器は何を使ってるの?」

 

ん、この質問は楽に答えれるな

 

「片手用直剣だ」

 

まああまり熟練度もないし、変えようと思えば変えれるんだけどな

 

「ちょっと見せてもらってもいい?」

 

「いいぞ」

 

俺はメニュー画面から剣を取り出してリズベットに渡す

 

「……………これ」

 

「どうしたの?リズ」

 

なんだ?リズベットが俺の剣を見て微妙な顔をした

 

「ねえシン、あんた本当に三十三層から来たの?」

 

……………え、なんかやばい感じ?

 

「……………どういうこと?」

 

シノンさんがその言葉に反応する

 

「これは《フェザーソード》って言って、軽いのに定評がある武器よ。確か………十八層の店で普通に手に入る武器で、三十三層のモンスター達には通じないのよ」

 

な、なんだってぇ!?この武器、そんなに下の層のやつだったのか!?

 

「…………一度も強化してないわね。どういうこと?」

 

疑いの視線が一斉に向けられる。アスナとユイちゃんは疑いではないが、似たような視線だ

 

やばい、やばいやばいやばいやばいやばい!!これは流石にやばい!どうする、どうする!?

 

「シン君?」

 

「…………あ、あぁっと!俺アレなんだよ!安全マージンギリギリの層へ移ってみたはいいけど金とか無くてさ!武器の更新をしようと頑張ってた時に強制転移させられた、みたいな!?」

 

なんとも苦し紛れな言い訳。今日でどれだけの嘘を吐いてるんだ俺は

 

「なんだ、そうだったんだ」

 

アスナが安心した様に微笑む。罪悪感が半端じゃない

 

「そうなんだよ!もう困っちゃうよなぁ………はは………」

 

乾いた笑いを浮かべるしかねえ

 

「成る程ね」

 

リズベットも納得してくれたみたいだ。剣を返してくれる

 

「…………怪しいわね」

 

おぉっとぉ!?まさかのシノンさんは疑っていらっしゃる!?

 

くっ、シノンさんを騙すにはスキル熟練度が足りなかったか。流石シノンさん、マジかっけえ

 

「な、何が怪しいんでせうか………?」

 

「………………」

 

目と目が逢う。ちょ、そんなジト目で見ないでくれよ照れる

 

「まあいいわ」

 

「そ、そうでっか」

 

「なんで関西弁?」

 

リーファにツッコまれた。だがしょうがないというものだろう?

 

「はっはっ!面白えなぁ!おめえさんは」

 

なんでてめぇはてめぇでそんな愉快そうなんだよ

 

「……………ん、あれは」

 

リズベットが何かに気付く。その方向を皆で向く

 

そこに居たのはキリトとストレア、ストレアはキリトの膝の上に座っている

 

「な、なんなのよあれ!」

 

「キリト…君…………?」

 

ちょ、落ち着けよ二人とも

 

「キリトさん…………」

 

「むぅ〜………」

 

一気に雰囲気が変わってしまった。この場にいる女の子達の嫉妬心が滲み出ている

 

そう言えばシノンさんはどうなんだ?

 

「……………はぁ」

 

溜息を吐いてらっしゃる。これじゃよくわからんな

 

「くっそぉ、羨ましいよなぁキリトの奴。俺もあんなことしてみたいぜ」

 

「あんたは植木鉢でも膝に乗せてなさい」

 

「…………」

 

辛辣ですねシノンさん

 

「キリトもアスナが居るってぇのに良いのかねぇ?」

 

「なんだ、キリトとも知り合いだったのか。羨ましいよなぁ、あいつよぉ」

 

おいクライン泣くなよ。俺だってシノンさんにあんなこと言われたら泣きたくなるけど

 

「あんたも羨ましいんなら植木鉢でも乗せたら?」

 

少しニヤリとしながらシノンさんは仰られた。クラインみたいに素で返されたわけじゃなくからかいみたいな物なのでまだ傷は浅い

 

……………だが、やられてばかりじゃないのよ俺は

 

「シノンさんでもいいけど?」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「デスヨネー」

 

はい、沈没。割とマジな感じで返された

 

だが後悔はしていない。俺は頑張った

 

「おめえ………すげえな」

 

「……………うん」

 

「ちょっと、本気で落ち込むの辞めてよ。私が悪いみたいじゃない」

 

いや、落ち込んでなんかないし。バリバリ元気だし

 

「それよりもさ、あれ良いのか?」

 

「……………ほっときなさい」

 

なんだか呆れているご様子である

 

「あ、こっち来た」

 

キリトがストレアを連れてこっちに来た

 

………………なんだか、一波乱ありそうだぜ

 

 

 




次はストレアとご対面


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ファイナルアンサー?いえ、ミスアンサーです

 

 

巡り合いは紫色 この場に集いしは光の証

 

その光が欠けないように、その光が消えないように

 

ひとつの異分子を抱えたこの世界で、終わりの見えない虚ろな世界で

 

彼らは今日も………生き続ける

 

ソードアートオンライン《ホロウフラグメント》、始まります

 

 

 

 

 

と、いう風にどこぞのアニメの始まりっぽく現実逃避してみたのはいいが……なんだこれ

 

そもそも今日あったばかりの人達とのコミュニケーションで現実逃避したくなるって何?何なの?いつか俺の胃が破れんの?

 

「皆さん、どうも!」

 

美少女数人の嫉妬の視線を物ともせずにニコニコと笑顔で挨拶をするストレア。その度胸半端じゃねえっす、マジすげえっす

 

「キリト君……その人は?」

 

リーファがキリトに問うた

 

「あ、ああ!名前はストレアって言って……街で何度か出会って、それで知り合いに」

 

それにキリトは慌てながらも答える

 

「………ふむ、成る程。それで口説いてきた、と言うことでファイナルアンサー?」

 

俺は勇気を振り絞り名も知らぬ混沌、もとい修羅場の中へとスカイダイビングを開始した

 

「違うよ、シン君」

 

ん?アスナが答えるのか

 

「ミスアンサー、だよね?キリト君?」

 

「………」

 

「あ、ああ!勿論!」

 

キリトがめっちゃ汗掻いてる

 

「シン君も、あまりからかっちゃ駄目だよ?」

 

「Yes,mom!」

 

やべえ、パラシュートが引き裂かれた。まさかのアスナの《リニアー》によって!

 

俺はアスナの見る者に恐怖を与える笑顔を見た瞬間に椅子ごとシノンさんの後ろへと身を隠す

 

「匿ってつかぁさい」

 

「あんた、相当失礼よ?」

 

そんな場合じゃないって。あれは殺されるって

 

「どうしたの?そんなに後ろに下がって」

 

「クライン、GOだ。俺はお前の健闘を祈ってる」

 

「無茶言うなよ」

 

無茶でも何でも男だろ!行けよ!

 

え?俺?俺はいいんですぅ

 

「な、な……仲良しな関係だったら膝の上に乗ってもいいんですか!?」

 

む、俺がクラインを生け贄に捧げようとしてるうちに話は進んでいるようだ

 

てかシリカ。別にそれは問題ではないんじゃないかな?仲が良ければそういう事する人も居るって。まあ特に仲が良い人達がやるものだろうけどね?

 

ん?てことはまだ数回しか会ってないのにキリトは既にストレアを落としているってことか?マジで馬に蹴られろよキリト

 

「それは、店が混んできたから他の人に席を譲ろうって話になって「俺の膝に乗ったらどうだい?って言ったんだな?」そーそー……っておい!誰だ今の!」

 

ふっ、今の声変えたからな。気付きはしまい

 

「シン君?」

 

「ごめんなさい!」

 

何故バレたし!?

 

「あんた……Mなの?」

 

「違いますごめんなさいだから引かないで。ただちょっとした出来心だったんだ。かっぱえ○びせんだったんだ」

 

「なんでかっぱえ○びせんなのよ」

 

「え?知らない?『やめられない止まらない♪かっぱ○びせん♪』っての」

 

てか知らない人とかいんの?

 

「シン、そりゃあ俺が幼稚園児くれぇの時にしてたやつだぜ?よく知ってんなぁ」

 

「は?…………あ、あー!そういやそうだっけ?いやぁ、親に教えてもらったからよくわからねぇんだよ!」

 

マズイ、これは失言だった。まさかのこれは……ジェネレーションギャップと言うやつか?兎にも角にも気を付けないと

 

「ふーん…」

 

シノンさんも納得したようだ。今度は疑われているようなことは無いらしい、良かった

 

「ねえ、皆で行こうよ!」

 

……ん?どうやら又もや話が進んでいたらしい。俺とシノンさんとクラインが孤立してるみたいだ、なんだか悲しい

 

「そっちの三人も!」

 

孤立していたのを感づいていたのか、俺達の方にも言うストレア

 

「べ、別に孤立なんかしてないんだからね!」

 

ちょっとツンデレ気味に言ってみる。なんだこれキメェ

 

「そういえばアタシ、まだキリトの部屋に行ったことない!」

 

「無視!?まさかのスルー!?」

 

「ちょっとうるさい。なんでさっきからテンション高いのよ」

 

まあこんなにもメインキャラが揃えばテンションも高くなるでしょ

 

それよりうるさい、かぁ……

 

「ちょっと、そんな露骨に落ち込まないでよ」

 

……うん

 

「アスナの部屋も、キリトの部屋も、見てみたいなー!」

 

「え、えっと…………じゃあ、来る?」

 

え!?招待しちゃうの!?

 

「ん~、今日はやめておく。もう十分に楽しんだし!それに皆とも仲良くなれたし!」

 

いや、そこまで仲良くなった覚えはないんだけどね?まあでもそう思ってくれるなら本望か

 

「だから、また今度の楽しみに取っておくね!」

 

「え、ええ……あなたがそれで良いんなら良いけど」

 

「うん!それじゃアタシ帰るね!キリトも皆も、またね!」

 

あれ、帰るんだ。なんか嵐を彷彿とさせる娘だったな

 

「あ!そうそう!」

 

ん?まだ何かあるのか?

 

「ねえ君!」

 

ストレアは俺の方へ向き、目の前まで歩いてくる

 

「…………へ?俺?」

 

いや、何故に俺

 

「そうそう君!えーと………」

 

「シンだ」

 

「へー、シンって言うんだ!ふーん……う~ん……………」

 

な、なんだよ。そんなに見つめられると照れちゃうぞこのやろう

 

「シンとアタシって、どこかで会ったこと無いかな?」

 

「は?」

 

「あ~、いやでも……あれ?会ったことあるっけ?」

 

いや俺に聞かれても

 

「会ったことは無いと思うぞ?」

 

一方的になら俺の方は知ってるけどな。まあ、名前とちょっとした特徴くらいだけど

 

「う~ん、そっか。あ、今度シンの部屋にも行くね!」

 

「どこをどういう風にしたらそうなるんだ?」

 

「まあいいじゃん!またね!」

 

「お、おう。またな」

 

「皆もじゃあね~!」

 

そしてストレアは帰っていった

 

「あ、嵐のような娘ね……」

 

「なんだったの……ホント………」

 

ホント騒がしかったよなぁ

 

「どーせキリトがナンパして来たんでしょ?責任とりなさいよね」

 

「そ、それならシンはどうなんだよ」

 

「だから知らねえって」

 

「ぐ……わかった」

 

あ、とっちやうんだ責任

 

「…………そいじゃあ、俺はここらでお暇しますかねぇ」

 

俺はそう言って立ち上がる。飯食ってないけどまあいいや

 

「なんだ、もう部屋に戻るのか?」

 

「いんや、ちょっと街中捜索でもしようと思ってな。俺まだこの街のことよく知らねえから」

 

「今から?もう日が暮れてるのに?」

 

「そんな街も風情があっていいかもしれないだろ?」

 

話しながら扉まで歩いていく

 

「それじゃ、皆さん。バイバ~イ♪」

 

そして挨拶をして俺はエギルの店を出るのだった

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

「行っちゃったね」

 

「そうだな」

 

シンの後ろ姿を見送ったキリトとアスナは呟いた

 

「さっきのストレアさんもですけど、シンさんも不思議な方ですよね」

 

「キリトと同じでホロウエリアに強制転移させられた、って言ってたし、謎が多いわよねぇ」

 

シリカとリズベットが顔を見合わせながら言う

 

「そうかぁ?あいつは面白れぇ奴だと俺ぁ思うけどなぁ」

 

「俺もそう思うな」

 

「面白いというか、騒がしいの間違いじゃない?」

 

「ははっ、そうかもな」

 

シノンの一言で笑いが起きる

 

「あ、そうそうキリト君。あのね……」

 

そしてそのまま話題は切り替わり、楽しい時間が過ぎていった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~……楽しかったねぃ、っと」

 

一方その頃、シンは外をブラブラと歩いていた

 

外はさっきまでのように賑やかという程ではないが人がまあまあ居る

 

「どっか穴場はないかな~、誰にも見つからないような」

 

シンが出てきたのは人目につかない場所を探す為だった

 

何故人目につかない場所を探しているのか?理由は簡単

 

「修行しなきゃならねえからなぁ」

 

そう、修行もといスキル上げの為だったのだ

 

だからと言って人目につかない場所でやらなくてもいいのだが、本人曰く隠れて修行マジかっけえ、ということだ

 

それに大通りで剣を振り回すのも些か問題がある。下手したら、いや下手しなくても不審者だ

 

「路地裏行ってみるか」

 

シンは建物の間を通り抜けて路地裏へ。通り抜ける際に「ここ、通れんのか……」と呟いていた

 

そして暫く歩くと空き地の様な場所があった

 

「お!良い所あんじゃん!」

 

シンは走って空き地の中央へと向かう

 

「うん、ここなら!」

 

そう言ってメニュー画面を操作して剣を装備する

 

「レべリングは明日キリトにでも頼むとして、これくらいは自分でやっとかないとな」

 

剣を引き抜いて構えた

 

「えっと……ソードスキルは………」

 

シンは色々な構え方でソードスキルの発動を試みた

 

そうこうしていると、急に剣の刀身が青く光る

 

「お!これ来た……うおおぉぉぉぉ!?」

 

青く輝く剣は虚空を水平に斬る

 

ズッシャァァァァ!

 

それと同時にシンのバランスが崩れ転んでしまった

 

「だっは!…………くそぉ、油断した」

 

上手くいってテンションが上がったのも束の間、剣のモーションのスタートが予想より早すぎて自分の動きと噛み合わなかったのだ

 

「でも……楽しいぃぃぃぃ!!」

 

仰向けになり子供の様にジタバタする

 

暫くジタバタした後、シンは空を見て動きを止めた。その眼には空に輝く星達が映っている

 

「…………アインクラッドにも、星ってあるんだな」

 

綺麗だ、と一言呟いた

 

「うっし、やるぞぉ!」

 

そしてシンは空へ剣を掲げ、そう叫んだ

 




スキルってあれ、ただ何も無い所でソードスキル発動とかしてたら上がりますよね?もしそうでなくてもそうします


※2020/02/14 視点変更箇所に
       ======================
       に変更


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感じる『強さ』

 

 

…………暗い。なんだここ暗い

俺は今何してる?……床に蹲ってんのか

 

ゆっくりと顔を上げる。見渡してみるに、エギルに貸してもらった部屋じゃない

 

(俺、昨日どうしたんだっけ?………あ?声が出ねえ)

 

何故に?俺の声帯が異常をきたしたか?

 

(取り敢えず、外に出るか)

 

俺は床に手をついて起き上がろうとする

 

(……………う、動かねえ…)

 

体はピクリとも動かなかった

 

(おいおい、どうしろってんだよ。………はっ、まさかこれは夢か?抓って確かめたいところだが動かねえしなぁ……)

 

コンコン

 

(ん?)

 

部屋にノックの音が飛び込んできた

 

(なんだ?誰だか知らないけど、今は動けない状態なんだ。だから諦めてくれ…………あれ?)

 

体が急に動くようになった。どういうことだ?相変わらず声は出ないようだが

 

(…………まあいい。扉を開けてあげよう)

 

俺は起き上がり音の発生源へと歩いていく。部屋の中は暗いから手探りで探さないと…………あった、これがドアノブだな

 

(はいはい、今開けますよ〜)

 

俺はドアノブを捻り、扉を引く。扉の間からはとても眩しい光が入ってきて、それに思わず目を細める。何処と無く暖かい

 

扉を完全に開け放った瞬間、俺は訪問者の姿を見ることなく意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

「……………んあ?眩しっ!」

 

次に目を開けた時に俺の瞳を熱傷せんが如く太陽の光が入ってきた

 

………少し言い過ぎたかもしれない。たださっきまでの暖かい光と違って目にあまりよろしくはないだろう

 

「こ、ここはどこだ………」

 

俺は起き上がって辺りを見渡す。さっきみたいに体が動かないと言うことはなかったので安心した

 

起き上がった瞬間に白い毛布がハラリと膝に落ちる

 

「…………なんだ、空き地か」

 

ここは昨日俺が修行をしていた空き地だった。どうやらここで夜を明けてしまったらしい

 

「てかこの毛布なんだ?」

 

膝の上にある毛布を手に取り見てみる。綺麗な白色をしている毛布だ、だが俺には見覚えが無い

 

「……………!もしかして」

 

誰かお優しいお方がここで寝ている危なっかしい俺に優しさを込めてこれを掛けてくださったのか!?なんてお優しいお方なんだ!

 

きっと素晴らしい人に違いない!もし男ならばイケメン、女ならば美人さんだろう。俺は美人さんの方であると希望する!だって男だもの

 

大穴の大穴でもしかしたら原作キャラの誰かかもしれない!俺としてはシノンさんがいいな!

 

ザリッ

 

そんな妄想を張り巡らしていると後ろから足音が聞こえた

 

こ、この足音はもしかして!この毛布の主、もといシノンさんか!?

 

勝手にシノンさんだと決め付けてしまったがまあいいだろう。もしシノンさんじゃなくとも他のキャラだったらOKだろ。皆可愛いし

 

まあこの毛布イベント……イベント?があったところでどうと言うこともないけどな

 

俺は嬉々とした表情で振り返る

 

「よお、起きたか?シンよ」

 

そこにいたのはクラインだった

 

「………………」

 

俺の表情は今どうなっているのだろう。自分でもわからない

 

「ん?おい、どうしたよ」

 

「さ………さ……………」

 

「さ?」

 

だがこれだけは言っておこう。さあ皆さん、両手を頭に置いて空を見上げぇ

 

「最悪の裏切り行為だぁぁぁ!!」

 

俺の叫びは、きっとアークソフィア全体に届いただろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビックリしたぜ。お前さん、いきなり空に向かって叫び出すもんだからよ。何が最悪の裏切り行為だって?」

 

「……………いや、なんでもない」

 

まさかクラインだったとは……期待していた分落ち込みも激しい

 

と言うことはだ。もしかしてこの毛布はクラインのか?

 

「あー………毛布サンキューなクライン」

 

「ん?いや、そりゃあ俺のじゃねえぞ。お前さんのじゃねえのか?」

 

「は?いや………なんか気付いたら掛けてあったけど」

 

クラインじゃなかったのか。なんだ、やっばり何処かのお優しいお方が掛けてくださったんだな

 

…………この言い方だとクラインが優しくないみたいだな

 

「しかしその白い毛布。綺麗な色してんなぁ」

 

「ん?ああ、そうだよな。俺白色好きなんだよね」

 

クラインが毛布をマジマジと見るので両手で持って広げて見せてやる。見れば見るほど綺麗な白色だ

 

(うん!やっぱり白が似合うね!)

 

「…………あ?」

 

なんだ?今の…………

 

「へぇ、だから装備は白を基調としてるんだな」

 

「え?あー、まあね」

 

自分の装備を見る。改めて見ると確かに白を基調としてるな。でも変えないと駄目かな………じゃないと防御面に心配が

 

「ま、これは持ち主が現れるまで俺が持っとくか」

 

俺は白い毛布を畳んでストレージに入れた

 

……………しかし、なんだったんだ?さっきの声は。何処かで聞いたことあるような声だった

 

俺が居た世界で誰かに言われたことだったか………?覚えてないな

 

「おお、そうだシン」

 

「んあ?なんだ?」

 

「エギルの店に行くぞ。アスナさんがカンカンに怒ってるぜ」

 

……………はい?

 

「え、えっと……なんで?」

 

「昨日宿に戻ってねえんだろ?圏内にいることはフレンド登録してっからわかったけど、じゃんけんで負けて俺が見に来てみれば呑気に寝てるときたもんだ。そうメール打ったらアスナさんから怒りマーク付きのメールが返ってきた」

 

ほらよ、と可視化されたクラインのウインドウを見る

 

『後でお話がありますから、エギルさんのお店に来なさい』と確かに怒りマーク付きでそこには書かれていた

 

「oh………」

 

何故だ。何故にこんなに怒っていらっしゃるんでしょうか………

 

「…………なんで怒ってるかわかんねえ、って顔だな」

 

「すげえなクライン。まさにその通り、ザッツライト」

 

「はぁ………」

 

何で頭抑えるんだよ。やめろよ俺が変な奴みたいじゃないか

 

「外で寝てたら圏内と言えど危ねえんだ。睡眠PK、ってのは聞いたことあるよな?最近ではあまり聞かないが………その可能性は十分あり得るってことだ。今この七十五層から下に下りられなくなった状況で、オレンジギルドのプレイヤーが間違いや視察なんかで上がって来てるってぇ可能性もある」

 

「……………成る程な」

 

最前線には攻略組が居るからそんなことはまず無いと思ってたが………可能性は0じゃないってことなんだな

 

「ほら、行こうぜ」

 

クラインは俺の肩をトントン、と叩くと歩き出した

 

「でも、一ついいか?」

 

「?」

 

「なんで、そんなに心配するんだ?俺達って昨日出会ったばっかだよな」

 

そう、俺達は昨日会ったばかりだ。まあ出会いは特殊だが、でも昨日出会ったことに変わりはない。そんな人間のことをここまで心配出来るものなのか?いくら原作キャラと言えどそこまでお人好しじゃないだろう

 

これだけはどうしても気になることだ

 

「……………お前ェ、何言ってんだ?」

 

「あん?」

 

クラインは顔だけを俺に向けて言う

 

「昨日出会ったばかりだろうが、一昨日出会ったばかりだろうが、お前ェが死んだら悲しいじゃねえか。一度同じ机囲んだらもう仲間なんじゃねえのか?その仲間が死ぬ、なんて考えたくねえじゃねえか

 

まあ確かに、今日会った奴が明日になったら死んでました、ってのは目覚め悪いな

 

「……………俺もよ、ダチが一人やられちまってるんだ」

 

「!…………」

 

クラインの友達が一人死んでいる。確かに原作でそのことを話しているシーンがあったな………

 

「ダチだけじゃねえ。攻略の途中でどれだけの数のプレイヤーが死んでいったのか覚えてねえ。今でもよ………死にたくねえって泣きながら消えてった奴らの顔を、ダチの顔を思い出すと辛ぇんだ」

 

そうクラインは眉間に皺を寄せ、何かに耐えるように言う

 

「だからよ、お前さんにもそうなって欲しくねえんだ。一度知り合っちまったからにはな」

 

「………………そうか」

 

ああ、そう言うことか

 

クラインは………いや、クラインだけじゃない。キリト達も含めこいつらは、この二年間のデスゲームでこう言う風になっちまったんだ

 

いきなりデスゲームの中に放り込まれて、今まで感じたこともない恐怖を感じながら毎日を生きる。そんな生活を続けていくうちに、人が死ぬと言うことに敏感になったんだ

 

だからこんなにも優しいんだ

 

「ほら、行こうぜ」

 

クラインは俺を一瞥して歩き出す

 

「……………」

 

俺は、その背中がとても大きく感じた。そして、とても強く感じた

 

本を読むことではわからない。アニメを見ることでは理解することは出来ない『強さ』をクラインは持っていた

 

原作を読むに、クラインは攻略組と言うトップ集団の中に居ると言うことで、ある程度強いことはわかっていた。だが原作やアニメではクラインの戦闘シーンは少なすぎる。だからどこまでのモノなのかは俺はわからなかった。そう思っていたんだ

 

でも今、はっきり感じた

 

『ある程度強い』?そんなことを思っていた前の自分をぶん殴りたい

 

こいつはこんなにも強いじゃないか。こいつは、俺なんかとは比べ物にならないほど強い

 

「おい、待てよ」

 

きっとこの『強さ』はクラインだけじゃなく他の皆も持っているモノだろう

 

「あ?どうしたシン」

 

俺がこれから、ここで生きていく為にはこの『強さ』を得なければいけない。皆の役に立つ為には、皆と肩を並べる為には、これが絶対に必要だ

 

だけど、俺にはこの『強さ』の意味がまだよく理解出来ていない。何と無くはわかるが、まだ核心には至っていない

 

だから…………

 

「クライン…………」

 

俺はウインドウを操作して剣を取り出し、引き抜く

 

シュラァァァン、と音を立てながら引き抜いた剣の先を地面スレスレまで下げ、右足を引き腰をどっしりと構える

 

「俺と、勝負しろ」

 

『強さ』を知る為に、俺はお前と勝負する………!

 

 

 




次回はクラインとの真剣勝負


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真剣勝負だ

「……………は?おいおい、何のつもりだ?」

 

クラインは剣を抜いたシンへ向かってヘラヘラと笑いながら言う。冗談だと思っているのだろう

 

「攻略組との差を知っておこうと思ってな。"風林火山"は攻略組ギルドだろ?中層でも話は聞くぜ。それのリーダーのクラインは攻略組でも指折りの実力を持ってるんじゃないのか?」

 

出来るだけ当たり障りの無いように話す。これまでで変な発言をして怪しまれることが何回かあった為か自然な言葉を選んでいるようだ。その度に嘘を吐いている、と自分で感じ嫌な気分になる

 

「別にいいだろ?減るもんじゃないし」

 

「まあそりゃそうだがよぉ……」

 

クラインは困ったなぁ……と言って頭を掻く。シンは本気だと感じるとやれやれ、とウインドウを操作して刀を装備した

 

「(クラインの主武装の刀、リーチは俺の剣より長い、スピードも力もレベル的にクラインの方が上かな。…………はっ、勝ってるもんが何も無いなおい)」

 

内心で笑いながらクラインの刀をじっくりと観察する

 

「いいかクライン、これは所謂システム外デュエルだ。攻撃が当たっても《アンチクリミナルコード》によって弾かれるだけ、他人が見ればただ剣を振り回してる馬鹿どもだ」

 

ニヤリ、と笑みを浮かべるシンに対しクラインは苦笑いを浮かべる

 

「おいおい、そこまで言うかぁ?」

 

「…………ま、お互い手加減無しで行こうぜ」

 

そう言ってシンは更に笑みを深める

 

実は、シンはさっきから笑いが止まらなかった。それはただ楽しい、と言う感情からでは無い

 

「(あー、わっけわかんねえ。なんでだろ、笑みが止まらん)」

 

正直自分でもわかっていなかった

 

剣を抜き、クラインと対峙しているこの状態がシンの心を昂らせる

 

それは今まで体験することの叶わなかったことから来る高揚感であり、クラインに仲間と認められたことからの嬉しさからであり、ライバルの様に剣を交えれる。対等であるということから来るモノだった

 

だがそれに本人は気付いていない

 

剣を持ち戦うと言うことは初めてでは無い。経験は浅いが既に数匹のモンスターと戦っているのである。ただ状況が状況なだけにそんなことは感じられずにいた

 

「デュエルってことは、決着は初撃決着で付けるんだよな?」

 

「何言ってんだ。そんなんじゃあすぐ終わっちまうだろうが。決着はなぁ………」

 

そこまで言ってシンは地面を蹴る。クラインとの距離は僅か5m程度、1秒足らずで距離は詰めれる

 

「俺が諦めるまでだ………よっ!」

 

青く輝く刀身が横薙ぎに振り払われるのと同時に、勝負の幕は切って落とされた

 

 

 

======================

 

 

 

まずは《ホリゾンタル》をクラインに叩き込む。これで目にもの見せてやるはずだったんだが………

 

「まあ、そう簡単には行かねえよな」

 

まだスキル硬直の解けないままクラインを見る。クラインは俺の斬撃を慌てることなく後ろに跳ぶことによって避けた。結構距離が空いちまったな………

 

「くっ、余裕な顔しやがって…………」

 

「いや、でも今のは危なかったぜ。あと一歩だったな」

 

「ちぇっ…………んで、いつまで動かないつもりだ?クライン。俺のスキル硬直は解けたぜ」

 

「観察ってもんをよくしないと駄目だぜ。初見の敵にはよ」

 

はっ、よく言うぜ

 

「観察なんざしなくても大体わかるだろ。それに気付いてるんじゃねえのか?俺がなんでホリゾンタルを使ったのか」

 

「あんなにわかりやすくされちゃ嫌でもわかるってもんよ」

 

…………そう、俺が最初の一撃にホリゾンタルを選んだのには理由がある

 

クラインは明らかに格上、幾ら武器が刀と言えど片手用直剣の初級スキルなんてこれまで敵や仲間が使っているのを散々見たことがあるだろう。それだけにどんなものかもよくわかっている

 

だからクラインに俺の全てのソードスキルは通用しない。ステータス的にもな

 

スキルを使うにしても突進系の《レイジスパイク》が無難だろう。同格相手なら初手を取れるかもしれないが、この場合は違う

 

だったらなんでソードスキルを使ったのか?

 

それは、俺がこの勝負に対して本気だということを伝える為だ。冗談なんかじゃなく、お巫山戯なんかじゃなく、真剣であるということを

 

その思いを込めて一撃を放った。そしてクラインはその思いに気付いた

 

「わかってるんならよ、応えてくれるんだよな?」

 

「……………はぁ、しゃあない野郎だ」

 

クラインが刀を構えた

 

………そうだぜ、それでいいんだ

 

「ビビってションベン漏らすなよ?」

 

「ここはゲームだからそんなことならねえよ」

 

「違いねえ……………行くぜ」

 

ダンッ!

 

地面を蹴る音が聞こえた。そして次の瞬間、クラインが俺の目の前に現れる

 

「っ!」

 

刀の刀身が輝いてる!?やべえクラインの斬撃が来る!

 

俺は剣でガードしようと腕を動かす。だがその行動も虚しく、轟音と共に視点が一気に空へと移った

 

「ぐ………ぉ……!」

 

今の俺は仰け反った状態だ。コードによって守られていることで吹っ飛びはしないが………ソードスキルだったらノックバックくらいは発生するとか書いてあったなぁ、この野郎!

 

「んな、ろぉ!」

 

尻餅を着きそうになるのを剣を持って無い方の手で体を支えてなんとか凌ぐ

 

次が来る前に横に手の力を使って転がり距離を取った

 

「おぉぉぉ!」

 

すかさずレイジスパイクを発動してクラインに迫る。発動するかどうか不安だったけど、発動して良かった………

 

クラインは今スキル硬直で動けないはずだ。俺の読みが正しければ威力的に考えてあのスキルは中級スキル。もし解けても避けることは出来ないだろう

 

「よ、っと」

 

「はぁ!?」

 

だが、そんな俺の考えとは裏腹にクラインは前に跳ぶことで躱した。俺のスキルは不発になり、射程距離ギリギリの場所で体が硬直する

 

「ス、スキル硬直は…………」

 

「そんなに長く続かねえよ、あんな初級スキルじゃ」

 

「な……ぐぉっ!?」

 

さっきと同じスキルをクラインに叩き込まれた。またノックバックが発生し俺は仰け反る。今度はそのまま重力に身を任せ、地面へと腰を落とした

 

…………嘘だろ、あの威力で初級とか巫山戯てんのかよ。スキル硬直時間を短くするスキルは知ってるが………くそ、完全に読み違えた

 

「どうした、もう終わりか?」

 

「は、はは………んなわけねえだろ」

 

剣を握り直して立ち上がる

 

「行くぜクライン!」

 

俺はクラインに向かって剣を中断に構えて突っ込む

 

クラインが受ける態勢に入った。それに構わず俺は何度も剣を叩きつける

 

「くっそ………おぉぉぉぉぉ!!」

 

何度斬りつけてもクラインには軽くいなされるだけだ。まるで親と子供が紙で作った剣でチャンバラごっこしてるような、そんな感じがする

 

「ふっ!」

 

「あっ!」

 

下から振り上げられた刀に俺の剣は弾き飛ばされる。今の衝撃で手を離してしまった

 

「もういっちょ行くぜ、シン」

 

クラインがスキルの初動モーションに入った

 

や、やべえ………!なんとか避けないと!

 

俺は必死に体を避けることに専念する。だがクラインの持つ刀は容赦無く俺へと向かってくるだろう

 

「ぬ……あぁぁぁぁぁ!」

 

それでも諦めるわけにはいかない。そう思って体を必死に捻じる俺の右腕が青く輝いた

 

「は?」

 

そして次の瞬間、俺の右手が手刀の形をとり、そのまま突き出された

 

……………と言っても、突き出された方向はクラインの頭よりも上、突き出すモーションに合わせて俺の体も動き、思い切り態勢を崩してしまう

 

「おぉ!?」

 

クラインも驚きながら僅かに仰け反る

 

空を見上げる形になってしまった俺の真上を刀が通り、突き上げられた形になっている右腕に見事クリーンヒットした

 

その所為で右腕だけにノックバックが発生し、右腕を起点に俺の体は回転して叩きつけられる。右腕のなんとも言えぬ不快感が半端じゃない。腕が切断された時ってこんな感じなんだろうか。多分痛みでわからないとは思うけど

 

「シ、シン。お前ェ、体術スキルなんて習得してたのか……」

 

「う、腕が………」

 

クラインが何か言ってるがそんなことよりも腕の不快感がヤバイ。だがあそこで体術スキルが発動したのはラッキーだった

 

腕をぎゅー、っと握ってこの不快感を振り払う。因みにこれはアスナがキリトにやってあげたやつの引用である。俺も誰か可愛い子にやってもらいたい。今はどうでもいいことだけど

 

「………………よし、治った」

 

不快感が無くなったことを確認すると俺はダッシュで剣を取りに行く

 

そして拾うと同時に肩に担いだ。剣は青い光を纏う

 

「くらってくれよクライン………」

 

俺は切実にそう願い思い切り振りかぶり、クラインへと投擲した

 

「なぁ!?」

 

その行動に目を剥くが、すぐさま刀で防御する。流石にソードスキルを弾くのは困難なようで、刀はクラインの頭より上へと上がっていた

 

…………………掛かったな

 

「おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!」

 

「なっ………!」

 

俺は剣を投げた瞬間、ウインドウを開いて剣を装備していた。まだ派生スキルである《クイックチェンジ》は習得できてないが、昨日の晩に必死に練習した。操作をミスることもなかった為上手く行ったようだ

 

そして俺はレイジスパイクを発動してクラインに迫っていた

 

「くっ……!」

 

クラインはなんとか防御しようとするがもう遅え!

残り距離1m程度。今から防御しようとも無理だろう。俺はそう確信した

 

……………だが

 

ギャリィィィィィン!

 

視界を白い閃光が埋めた

 

「……………何を、しているの?シン君。クラインさんも……」

 

俺のスキルは目の前に現れた人物によって止められていた

 

「ア、アスナ…………さん……どうして、ここに?」

 

「クラインがあまりにも帰って来るのが遅いから、来たのよ」

 

そう、俺のスキルを止めたのは、『閃光』こと『血盟騎士団』副団長、アスナ様であらせられた

 

「……………そ、そうでせうか」

 

「それで、これは何をしてたのかな?」

 

やばい、これはひじょうにやばい…………アスナ様からゴゴゴゴゴと効果音が出そうな程の気迫が漂っている。後ろにキリトの姿が見えた。俺がキリトを見た瞬間に勢い良く目を逸らしやがった

 

「何をして、いたのかな………?」

 

「ちょ、ちょっと模擬戦をですねぇ………クライン、さんと……はい」

 

「へぇー、皆を心配させてるのに、それを置いてクラインと模擬戦してたんだ」

 

ちょ、マジ辞めて!恐い、恐いから!そんな黒い笑顔で迫らないで!

 

「まずはエギルさんの店に行こっか。ここじゃあれだし」

 

「は、はい…………」

 

そして俺はアスナ様に周りからの奇異の視線に晒されながらエギルの店まで引き摺られていった

 

その後正座をさせられ説教をくらった。終わった後にシノンさんが「バーカ」と言って俺の横を通りすぎて行ったことで俺のライフが0になると共に、よくよく考えればシノンさんさっきの可愛かったなぁ、と回復する俺だった

 

……………最後、なんか戻ってきたシノンさんに割と本気のビンタをくらい机に突っ伏した

 

俺が何をしたって言うんだ…………

 

 

 




結局あまり熱い展開にはならなかった

※2020/02/14 視点変更箇所に
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しゃあ!行くかホロウエリア!

 

 

「……………」

 

「ねえキリト君。今日はどうするの?」

 

「今日はホロウエリアに行こうと思う。アスナも行くか?」

 

「うん!」

 

俺は今、机に突っ伏しながらキリトとアスナの会話を見ている。とても仲睦まじい様は見ていて嫉妬心に駆られるのは何故だろうか?俺が独り身だからだな!くそ、キリトめ見せつけやがって!俺だって高校生なんだ。彼女の一人くらい欲しかったりする

 

この場にはあそこの夫婦以外はエギルと俺だけだ。俺の説教の後、皆思い思いの行動を開始したようで、ユイちゃんも街へと繰り出して今はここにいない

 

「仲………良いよなぁ。なあ?エギっちゃん」

 

「エギっちゃん?……まあ、そうだな」

 

やべえ、実物見ながらエギっちゃんって呼ぶとなんか気持ち悪いわ。ごめんエギル

 

「シン、お前も行くか?」

 

不意にそう声掛けられた

 

…………なんですと?

 

「One more time」

 

「え、えぇ?」

 

おっと、驚きのあまり英語になってしまった

 

「ビックリ………発音良いね。シン君もホロウエリアに行かない?って話なんだけど……」

 

「ふふ、そうだろう。発音良いだろう?これでも英語の成績は悪くなかったんだ。先生も褒めてくれたんだぜ!」

 

土方君は発音が良いですねぇ、なんて言われちゃって。いやぁ、皆の前でそんな照れますよぉ、なんてねぇ

 

「うんうん、そうなんだ」

 

アスナは頷きながら話を聞いてくれる。流石アスナ、伊達に副団長はしてないぜ!聞き上手ってやつかな?キリトが横で「え、えと……早く行かない?」なんて言ってるがまあほっといて大丈夫だろう

 

「(母親に学校で褒められたことを報告してる子供の図にしか見えねえ……)」

 

「それでシン君、ホロウエリアなんだけど行く?」

 

「行く行く!…………あ、でもレベルとか低いしな」

 

そこまで言って自分のレベルの低さを思い出した。ホロウエリアのモンスターの攻撃なんて一撃食らえば即死、運良くHPが残っても危なすぎるのは明らかだ

 

アスナやキリトがいれば大丈夫かもしれないけど………流石におんぶに抱っこというのはなぁ

 

「大丈夫、シンは俺達が守るから安心していいぞ」

 

何と、流石攻略組最強の《黒の剣士様》である。そんなクソイケメンなことを言ってくれやがった。俺が女なら惚れてたかもしれない

 

……………だから皆コロっと落ちてくんだよ

 

「それにシンは俺と同じでホロウエリアに入れるだろうからな。…………多分」

 

確証は無いのかよ…………てか、ん?

 

「キリト以外はホロウエリアに入れないのか?」

 

「ああ。入れるのは俺とあと一人だけなんだ。ホロウエリアに強制転移させられたシンなら入ることは出来ると思うんだが……」

 

そうだったのか………。まあゲームとしたらそういう進行の方が良いのか?そこのところはよくわからんが、キリトがそうだと言うのならそうなんだろう

 

「もしそうだとしたらホロウエリアを攻略するにあたって戦力は多い方がいい。シンには強くなってもらわないとな」

 

えぇ〜、何それ。俺は強くなることを宿命づけられたわけなの?まあ言われなくてもそのつもりだけどさ

 

「おう、すぐに強くなってやるからな」

 

「その意気だ」

 

俺が拳をキリトに突き出すとキリトも同じようにして拳を打ち合わせてくれる。うん、なんかいいよねこれ。ずっと憧れてた、これやるの

 

しかも相手がキリトだからな。俺のテンションは最高にハイッてやつだ

 

「それじゃあ、張り切っていきまっしょい!」

 

テンションがハイボルテージの俺はキリトとアスナの肩を叩いて転移門に向けて走り出す。いざ行かん。未踏なるホロウエr「ちょっと待ってシン君」…………出鼻を挫かれた

 

「なんでせうか?アスナさん」

 

「準備はしっかりして行ってね。転移結晶は必須だよ」

 

お、おお………流石だな。確かに準備して行かないと俺なんて何があるかわからないし。アスナがいて良かったー

 

「そうだな。えーっと………転移結晶が無いな。エギル〜、転移結晶ちょうだい」

 

ストレージの中に転移結晶が無かったので今の今まで空気になっていたエギルから買い取ろうと声を掛ける

 

「10万8千だ」

 

………………え?

 

「い、今何て言ったのかな?ごめん、もう一回言ってくれるか?」

 

なんか明らかに桁がおかしかったような………。あ、あれだ!10マンダとか言う本編では出てない単位なんだな!ほら、コルとKの間とか………

 

「10 万 8 千 だ」

 

「HAHAHAHA!…………よし、行くかご両人」

 

「え………転移結晶買わないのか?」

 

買わないんじゃない、買えねえんですよ………

 

俺の全財産いくらだと思ってんだよ!?3万も満たしてないぞ!?これじゃ転移結晶なんて買えねえよ!買えても10分の3だね!なんてこったい!

 

「もしかして、買えないのか?」

 

「…………はい」

 

「昨日無駄遣いしちゃったの?」

 

「いえ、ただそれだけの金を持ってないだけです………」

 

キリトとアスナに問われて俺は肩身を狭くして答える

 

だってしょうがないじゃん。無いものは無いんだもの。だいたいお前らがブルジョワすぎんだよ、それに比べて俺はどうせ貧乏人なんだよ

 

「はぁ………転移結晶ないと困るし、俺のやるよ」

 

「…え?いいの?…………いやでもそんなお高い物貰うのは気が引けるし……」

 

今回は諦めるしかないな………。なんか簡単なクエストでもこなして金でも貯めるか

 

「いいんだよ。中層プレイヤーへの支援は上層にいる人間の役目でもあるからな。主にエギルがしてたし」

 

「今じゃ下の層に行けないからな。間違えて上に上って来ちまった奴らの面倒も見なきゃならねえ」

 

うーん…………なら、いいのか?

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて………」

 

「ああ」

 

そう言ってキリトは転移結晶を手渡してくれる

 

いやぁ、なんかホント頭が上がらないなぁ………。こんなに良くしてもらって良いんだろうか?思えば俺って幸運の持ち主だよな

 

「じゃあ私からは装備をあげるね。余ってたやつがあるんだ、シン君に丁度良いかも」

 

「マ、マジッすか!?」

 

「うん。いいよ」

 

何と!?まさか装備まで譲り受けることになるとは思ってもみなかった!これはもう幸運なんてものじゃねえ!

 

くぅ〜………ホントのホントになんて良い奴らなんだ。俺なんか涙出て来そうだ

ここまで良くしてもらったんだ。皆の期待に応えないとな………!

 

「何から何までありがとう。いつかこのお礼は絶対するからな!」

 

ウインドウを操作してアスナから装備を受け取ると俺はそう言って早速装備を変えた

 

アスナから受け取ったものはなんかGGOキリトが着けていたのに似ているプレートアーマーに僅かながら筋力値補正のある白いレザーコート。このレザーコートはさっきまで装備していた普通のやつと違い、胸元と下の部分がひし形に開いていて何か留め具の様な物が着いている

 

そして下の装備は…………

 

「アスナ………さん?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「なんで……なんで……………」

 

膝下までしかない傘の様に広がった布、ヒラヒラとした物が着いてるし更に足が見えている!

 

「なんでスカートなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

俺は渾身の雄叫びを上げた。スカート姿で

 

他の人から見たらただの変態じゃねえか。誤解街道真っしぐらじゃねえか!

 

「…………あ、ごめん。間違えちゃった」

 

間違えた!?間違えたの!?

 

「それならしょうがないね。……………ってなるかぁ!」

 

こんなナチュラルに女装させられるなんて思わなかったよ!てか俺の女装って誰得!?言っとくけど俺は女顔とかじゃないからね!?自分じゃあんまりよくわかんないけど中性的な顔立ちはしてないと思うよ!うん!

 

てかなんで俺も装備する前に気が付かなかったんだろうね!おかしいね!てか男アバターがスカートって装備出来たんだ!?

 

「……………くっ、ぶふっ!」

 

「は、腹が………」

 

「はいそこぉ!笑ってんじゃねえよこの野郎共が!!」

 

必死に笑いを堪えながらも堪え切れてない恩人兼馬鹿どもにメニューからさっきまでのボトムスに履き替えながら指を指して叫ぶ

 

くそぉ、まさかこんな落とし穴があるだなんて。普通男はスカート装備出来ないもんでしょうが!

 

「く…くく………ごめんごめん」

 

ごめん、じゃねえよ………ったく

 

「……………く、ぶはっ!」

 

「てめえはまだ笑ってんのか!!」

 

エギルがまた吹き出しやがった!!ツボに入ったのか!?あぁん!?

 

「ごめんねシン君。それ以外余りはないの」

 

吹き出したエギルにメンチ切ってるとアスナに申し訳なさそうな顔で言われた

 

「いや、まあ……此方は貰う側だから。そんな顔しないでくれよ」

 

こんなに良くしてもらってるんだし、我儘言うことなんて許されないよな。それにこれでも防御は大分上がっただろ。

 

いやぁ、アスナさんマジ天使、シノンさんもマジ天使。ただしエギル、クライン、てめえらは駄目だ。キリトは………まあいいや

 

「それじゃあ行くか」

 

「そうだね」

 

一人でトリップしているとどうやら出発の時間になったようだ。ここからは俺にとっては死地に赴くも同然。いや、俺だけじゃなくキリトやアスナも場合によっちゃ同じか…………俄然気を引き締めていかないとな

 

パンッ、と頬を叩いて気合を入れる

 

「しゃあ!行くか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、キリト君の『嫁』のアスナです」

 

「……………え?」

 

えー、何これー………

 

俺達は今、ホロウエリアの管理区にいる

 

確証は無かったが、俺もホロウエリアに入れた。多分キリトと同じ仕様でパーティメンバーも一人しか連れて入ることは出来ないんだろう

 

…………だが、そんなことよりも

 

「お、おいアスナ………」

 

「なに?私がキリト君の嫁って自己紹介すると何か不都合でもあるわけ?」

 

この修羅場を何とかしてくれ………!

 

「お、おいキリト。アスナとフィリアは初対面なのかよ?昨日はここに来なかったのか?」

 

「あ、ああ……シンが部屋に戻った後に俺だけがホロウエリアに入れるってことになってな。色々と試すだけで終わったんだよ」

 

「そうなのか………」

 

うーむ、てっきり既に会ってると思ってたんだけどな

 

フィリアに再開した。それまでは良かったんだ

 

その後が問題だった。フィリアがキリトに「また来てくれたんだね」って言った後、キリトは持ち前のイケメンを生かして横に嫁がいるのにそんなこと言っていいのか?的な感じのことを口走るもんだから、女の勘というやつを張り巡らしたアスナはさっきの様に自己紹介をしたのだ。フィリアの顔見てみなよ、めっちゃ驚いとるよ

 

「ていうか、さっさと収集つけてくんね?この空気嫌なんだけど」

 

そして俺達は後ろの方でヒソヒソ話をしているというわけなんだが…………

 

「私のことはフィリアでいいよ」

 

「え?あ、うん。私のこともアスナでいいよ」

 

あるぇ?なんで急に仲直りしてんの?いや、まあアスナが一方的だっただけなんだけどさ

 

キリトも俺と話をしていて会話に耳を傾けておらず、目をパチパチとさせている。目があったので取り敢えず首を傾げるとキリトも同じ様に首を傾げた

 

「遅れてごめん、あんたも来てくれたんだね」

 

「え?………あ、ああ、もちろん!」

 

上手く状況が掴めないのに急に声を掛けられたから焦る。え?マジで何があったの?

 

「今日は四人でホロウエリアのマップを埋めて行く作業をしようと思ってるの」

 

「私も手伝うよ」

 

「ありがとう!それじゃあパーティ組もっか」

 

……………うん、もういいや。考えるの辞めよう

 

俺は視界の端にフィリアのHPバーが出現するのを見るとキリトの肩を叩く

 

「女の子は仲良くなるのが早いってことで」

 

「…………ああ」

 

俺の言葉を聞いてキリトも考えるのを辞めたようだ

 

「よし、行こう。シンは危険を感じたらすぐに転移してくれ。アスナとフィリアも、もしものことがあるかもしれないからポーチに持っておくように。主に初撃は俺かアスナがする。フィリアは二回目のスイッチに入ってきてくれ。それ以外は横から攻撃だ」

 

キリトが戦闘での大まかな動きを説明してくれる。それにアスナとフィリアは頷いた

 

「シンはスイッチしなくていい。その代わり投擲で援護を頼む」

 

「おう、任せろ」

 

俺はサムズアップしてキリトに返した

 

援護、後ろから物を投げるだけだが大分重要な役目だろう。ただ邪魔だからとか、そんな理由じゃないよね…………?

 

そんなことを考えていると三人はそんな俺をよそに転移場所へと歩き出す

 

俺はその後を遅れないように着いて行った

 

 

 

 




お久しぶりです

ホロウエリアにシンご一行ご案内。何が起こるかわかりません


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覚えた違和感

 

 

「スイッチ!」

 

アスナの声が響いた

 

前でキリトが牛人間みたいなデカイモンスターに一撃を入れてアスナと交代する

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

そしてアスナの剣が輝きを纏って牛人間の喉を抉った。その後も数発刺突が打ち込まれる

 

更にフィリアが横から追い打ちをかける

 

牛人間はバシャァン!と音を立てて消えた

 

「……………」

 

…………俺、いらなくね?

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

「ふぅ………大分倒したな。シン、結構レベル上がったんじゃないか?」

 

キリトが流れる汗を拭いシンに聞く。狩りを始めて二時間程度が経過した

 

その間ずっとモンスターと戦っていたのだ。目的はシンのレベルを最低限安全な場所まで上げること

 

普通ならば圏内でこなせる生産系クエストでレベル上げをしてもらうのだが、シンは他のプレイヤーと違いホロウエリアに入ることが出来る

 

ホロウエリアを攻略するに辺り、いつキリトとフィリア、それとキリトのパーティ一人の三人では倒せないような的が現れるかわからない。だからシンには強くなってもらわねばならないのだ

 

「……………」

 

「シン君?」

 

「………俺、いらない子です」

 

シンは体育座りをしてのの字を書き始めた

 

「ど、どうしたの?シン君」

 

アスナがシンの肩に手を置いて聞く

 

「だって………俺の援護無くてもすぐに倒しちゃうし」

 

「そ、それはいいんじゃないか?すぐ終わればそれだけレベルも上がっていくぞ?」

 

「人がやるRPGを横で見るほどつまらないことはねえですよ……」

 

この発言に全員はどうしたものか、と頭を悩ませる

 

キリト達側としてはレベルアップに付き合っている方なのでこんなことを言われるのは本当はお門違いなのだが、全員一応ゲームをしている人間としてわからないこともない

 

「………………だから」

 

シンはのの字を書く手を止める。そしてその手をキリトに突き付けて言った

 

「次からは、初撃は俺が入れる!」

 

「「「………………はぁ?」」」

 

 

 

======================

 

 

 

「次からは、初撃は俺が入れる!」

 

俺は三人に向かって指を突き付けて宣言する

 

「「「………………はぁ?」」」

 

う……思った通りの反応を返されたぜ………

 

確かにキリト達に任せていれば俺のレベルはどんどん上がっていくだろう。現に今もうレベル50まで来ている。キリト達のおかげでマッハに近いスピードだ

 

「こんなことを言うのはお門違いかもしれない。だけど……どうしても、俺も戦いに混じりたいんだ。それになんか寄生してるみたいで嫌だしさ」

 

折角皆と肩を並べて戦えるんだから戦いたい。自分だけ側で指を咥えて見てるだけなんて嫌なんだ

 

「はぁ………あまり我儘言わないの。優先すべきはレベル上げでしょ?」

 

「フィ、フィリア…………いや、その通りなんですけどもね?ほら、今言ったじゃん」

 

「それこそ何言ってんのよ。命を危険に晒さずに強くなれるんだから儲け物じゃない」

 

…………いや、だからさ

 

「それが俺は嫌だって言ってんの」

 

少しばかり語気を強くして言ってしまう

 

「だから、嫌でも安全を考えなさいって言ってるの」

 

むむむむ…………なんでわかってくれないかなぁ。いや、まあフィリアは俺じゃないんだから俺のことなんかわかるはずないけどさ

 

わかるわけねえよなぁ………

 

フィリアはこの世界の住人で、キリト達のことなんか出会うまで全く知らなかっただろうけど、俺は違うんだ

 

SAOのことを知ってから俺は毎日のようにキリト達のことを見ていた

 

毎日小説を読んだ。アニメだって何回も見直した。携帯ゲームも毎日ログインして、イベントにだって積極的に参加してた

 

だから俺にはわかる。この世界が繰り広げられている紙の外で、液晶の外側で見ていた俺だからこそわかるこの気持ち

 

 

 

一緒に肩を並べたい。一緒に戦いたい。力になりたい。助けたい。見ているだけなんて嫌だ

 

 

 

折角俺はこの世界にいるんだ。なのに、この世界に来る前と同じでどうする?そんなの駄目だ。何も変わらない

 

「それでも見てるだけなんて嫌だ」

 

俺はフィリアと目を合わせて言う。声とこの目に、絶対なる意志を乗せて

 

「……………はぁ、勝手にすれば?」

 

フィリアは溜息を吐きながらもそう言ってくれた

 

「!ホントか!?」

 

「ただし、危なくなったら引くことを忘れちゃ駄目だよ」

 

「うん、うん!」

 

力強く頷く

 

いやっほぅ!俺も戦闘に参加出来るぜぇ!

 

「二人も、それで良いよね」

 

俺が喜んでるのを他所にフィリアはキリトとアスナに同意を求める。キリトとアスナの方を見ると顔を見合わせてやれやれ、と言った風に首を振り

 

「わかったよ」

 

「でも、危ないことはしないでね?」

 

了承してくれた

 

「ありがとう!」

 

いやー、最高だ。今ならどんな敵でもドンとこいだ、俺がねじ伏せてやる

 

「お!早速獲物発見!!」

 

向こうに猪がPOPするのを確認!よく見れば俺がここに来た時に一番最初に会った猪だ。今度こそ猪鍋にしてやるぜ!

 

シン、行きます!!

 

「あ、シン君!あんまり調子に乗ったr「イェェェェェガァァァァァァ!!」シン君!?」

 

そして俺は、猪を一匹残らず駆逐(猪鍋)する為に剣を抜き放った

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

「イェェェェェェガァァァァァァ!!」

 

「シン君!?」

 

向こうに猪型モンスターを発見するや否やシンは何かを叫びながら突進を始めた

 

イェーガー、確かドイツ語で猟師と言う意味だとリーファ……もといスグが自慢気に言ってたことがあったな

 

「あれ、大丈夫?」

 

フィリアが今丁度モンスターに斬りかかったシンを見て眉を寄せて言う

 

「ど、どうだろう……」

 

もはや苦笑いしか出来ない。さっき本当に落ち込んでいたのかと言うくらいテンションが高い

 

戦いたいと言っていたところから見て戦闘狂の気がちょっとあるのかもしれないな。俺も人のことは言えないけど………

 

「どわぁ!?」

 

「あっ!」

 

シンが危なげにモンスターの攻撃を避ける。今のは直撃かと思ったぞ、よく避けたなあれ………

そしてお返しとばかりに弱点である首の付け根を攻撃している。集中して狙っているのを見ると弱点だと知っているのだろう

 

アスナは心配そうにシンを見ている

 

何故だかアスナはシンのことをよく気にかけている。昨日と今日でよくわかった

それが他の男に対して、であると言うことに少しばかりシンに嫉妬心を覚えるが、どうも見ているとシンを弟のように見ているというか………今でもすぐさまスイッチと叫んで入れ替わりたいのだろう。それをしないのは戦況がスイッチ出来る状況に無いからだが

 

フィリアも少しは心配しているようだ。シンの紙回避(誤字では無い)を見るたびに目が揺らいでいる

 

「シン君、スイッチ!」

 

「お?……お、おう!」

 

アスナが無理矢理スイッチと叫んだ。ひじょうに微妙なタイミングだが……流石《閃光》。素早い突きでモンスターのHPを刈り取った

 

「ふぃー………ナイス、アスナ!」

 

シンは拳をアスナに突き出す

 

「うん?…………うん!」

 

アスナは最初は意味がわからなさそうだったが、さっき俺とシンがやっていたのを思い出したのだろう、シンの拳に自分の拳を重ねる

 

「よっしゃ次だ!」

 

シンは次の獲物を探してキョロキョロし始めた

 

 

 

……………シンは愉快な奴だ。それでいてなんだかほっとけない感のある奴でもある

 

実を言うとアスナがシンを弟のように見ている、ってのには俺もわからないでも無い

 

シンは俺より背が高く、見た目も俺と同じくらいなのだが………ユイと一緒に話をしているのを見ると兄妹が話をしているようにしか見えないのだ。しかも歳が近い。精神年齢が低いのかどうかわからないが

 

しかし、それだけじゃない

 

「おっ、いた」

 

「ちょっと、あんまり突っ込まないでよ」

 

「わかってるよ、心配すんな。…………どういう風に攻めるか」

 

新たに現れた剣を持つ亜人型モンスターを見据えてシンは呟く。その顔は真剣だ

 

…………シンをほっとけない理由、そのもう一つはあれだ

 

シンは考え始めると結構深いところまで考えてしまうみたいだ。エギルの店で見せたあの集中力、頭を痛める程とはどれぐらいなのだろうか

 

そして、その時のシンの印象はガランと変わる。まるで別人みたいに

 

歳相応、が正しいだろうか。どっちが本当のシンかと迷うくらい雰囲気が変わるのだ

 

「よし、決めた。フィリア、援護頼む!」

 

「わかった!」

 

モンスターへ向かってシンとフィリアが走り出した。亜人型モンスターは二人に気付き剣を構える

 

「オラ!」

 

シンはまず初撃に肩から下にかけて斬りかかる。その後に剣を返して左斜め上へと斬り払った

 

…………あの形、《バーチカル・アーク》に似てるな。スキルアシストが無いと言うことはまだ習得してないんだな

 

「もういっちょ!」

 

次にシンは《ホリゾンタル》を放つ

 

スキルも含め与えたダメージはごく少量だが、後はフィリアの援護でなんとかなるはずだ

 

「はぁぁぁぁ!」

 

フィリアのソードスキルがクリーンヒットしてモンスターのHPがガリガリ削られる

そこに硬直が解けたシンがダメ押しとばかりに剣を振り回す

 

……………そう、振り回している

 

「……………?」

 

その光景に俺は違和感を覚えた

 

今のといい、さっきのといい、シンはどうも剣を振っている、という感じじゃなく、剣に振り回されている、という感じなのだ

 

シンは確か中層プレイヤーだったと言っていた。と言うことはある程度戦い慣れしているはずだ

剣に振り回される、というのはまず無い。俺はそう思っている

 

なのにシンは違う。アスナから貰ったシンの武器が重いのかと考えたが、さっき弄んでいたところを見たのでそういうわけじゃなさそうだ

 

更に言えばアスナとのスイッチの時にスイッチの仕方が明らかに不自然だった。まるでやったら出来た、みたいな感じに………

 

「なんだ?この違和感………」

 

シンを見てると、まるでつい最近《始まりの街》から出てきたみたいな。いや、それとはちょっと違う。そんな人間がモンスターの攻撃を避けれるわけがない。それにシンは猪型モンスターの弱点を知っていた

 

でも戦闘は初心者。まるで………

 

 

今まで(・・・)誰かが戦うのを(・・・・・・・)横で見てきただけ(・・・・・・・・)みたいな

 

 

「キリト〜?どうしたんだ?」

 

「へっ!?え、あ………ごめん」

 

「俺レベル上がったぜ!これで51だ!」

 

シンは二カッ、と笑い言う

 

「そっか、やったな!」

 

「おう!次はキリト、援護頼むぜ!」

 

「おう、任せろ!」

 

シンが出す拳に拳を重ねる

 

…………ま、今はどうでもいいか

 

 

 




初めてのキリト視点、上手く書けてるといいな………

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全てに宣言する

 

 

「…………皆、今日はここまでにしよう」

 

俺の超無理矢理レベリングをしながらホロウエリアを突き進んでいるとキリトが前方にいるモンスターを見据えてそう言った

 

「なんだよキリト。まだ昼過ぎだぞ」

 

それにまだ一回しかエリア移動してない

昼飯は食べてないが、まだまだ俺としてはいける

 

「それは賛成かも」

 

「フィリアまで………」

 

二人とも急にどうしたんだ?

 

「このエリア、モンスターのレベルがさっきの所と比べて高いんだ」

 

「なに?……一応聞くけど、どれくらい?」

 

エリアが変わっただけでそんなにレベルが変わるもんでもないだろう

 

「100行くか行かないか……くらいかな」

 

「………前は?」

 

「80後半………」

 

マ、マジかよ。てか俺とモンスターってそんなにレベル差があったの!?そんな場所で俺は戦っていたんですか!?

 

俺は言葉を失った

やっベ………俺って一歩間違えば死んでた?簡単に死んでた?

 

「あれくらいのレベルならシン君の安全は一応保障出来たんだけど………流石にね」

 

あ〜、やっぱりそうなのか。結構ギリギリだったんだ、俺の命って………

って言うかもしかして俺って邪魔になってね?俺の所為で攻略が進んでないってことだよな?これ

 

俺の所為で攻略が遅くなってる、ってことなんだよな?

 

俺がいる所為(・・・・・・)で………

 

 

 

『俺の所為で○○はーーんだ』

 

 

 

「っ!?」

 

な、なんだよ今の。おかしいぞ

 

俺の頭に今、何が流れ込んで来たんだ?今の俺の声か?俺の所為で誰がどうなったって?おかしいぞ、おかしい…………わけがわからない

 

似たようなことが前にもあった。俺の声じゃないけど、誰かの声が頭に流れ込んで来て………

 

なんでなんだろう。なんで………こんなにも、心が痛いんだ……!

 

「な、なんか……無理言ってすみませんでした」

 

もう、なんか頭上がらない。上がらなさ過ぎて地面に食い込んで行くレベルだ

 

「ちょ、シン君!?なんで地面に頭擦り付けてるの!?」

 

「いや、もうホントすみません。ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「急にどうしたの!?」

 

すみませんすみません、何回謝ればいいかわかりません、すみません……

 

「はぁ………こんな所でモタモタしてたらモンスターに気付かれるし、早く戻らない?」

 

「そ、そうだな。ほらシン、早く戻ろう」

 

「…………」

 

俺はキリトとフィリアのその言葉を聞いて立ち上がり、皆と一緒に管理区へと戻った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理区へ戻った俺達。管理区内へ転移すると共に俺は口を開いた

 

「キリト………アスナにフィリアも……ごめん。俺の所為で攻略が行き詰まっちまったな」

 

「え?……おい、シン?」

 

「わり、先帰る。今日はホントごめんなさい!…………時間、とらせたな」

 

俺は三人の横を通り転移門へと足早に進んだ

 

「ちょっと、シン君!?」

 

「ごめんなさい。ホント、ごめんなさい………転移、《アークソフィア》」

 

後ろでアスナの声が聞こえたが、俺はそれを無視してアークソフィアへ転移した

 

移り変わる視界。未だ見慣れないこの街を一瞬だけ眺め、俺は自分の敏捷値が許す限りのスピードで走り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

俺は気付くと昨日の夜見つけたあの空き地へ来ていた

 

「わっかんねえ…………」

 

…………申し訳ない気持ちでいっぱいだ

 

しかしなんでこんなにも申し訳なく、こんなにも心が痛むのかがわからない

 

俺は壁にもたれ掛かり座る

 

「わからねえ〜」

 

なんでだ?なんでなんだ?

俺の心がおかしい。俺の何かがおかしい。急に俺はどうした?なんで三人にあんな態度とった

 

申し訳ない気持ちはいっぱいあるんだ

 

本来ならば昼で攻略を終えることなど普通は無い。あるとしたら何かしらの理由があった場合だろう

だとしたらその理由は何だ?それは俺だ

 

ホロウエリアに行かないか、と誘ってきたのはキリト達だけど……それを受けたのは俺だ。そして俺の為にレベリングをした。フィリアもそれに付き合ってくれた

 

そのおかげで俺のレベルはマッハのスピードで上がったけど、でもまだまだ足りない

 

結局俺は何をした?途中から我儘を言って戦いに参加して、無茶やってるとこを三人に助けられて。一歩間違えば………いや、間違わなくても俺は死んでた。キリト達がいなけりゃどう考えても死んでるじゃないか

 

最終的に俺は三人の時間を盗っただけだった

 

俺のレベリングに費やした数時間、その時間があればあの三人だけでどこまで攻略が進んでいたのか?今日の目的はホロウエリアのマップを埋めることだったが、実質埋められたのは狭いエリア一つ分。攻略組二人に攻略組レベルの人間一人の三人、それが数時間でマップ一つ分だと?明らかにおかしいだろ

 

俺に時間を費やした所為で遅くなったわけだ。あいつらは良い奴らだからそんなこと気にしてないだろうけど………でも、それって言ってみればこの世界から解放される時間がどんどん遅くなって行くわけで、それは俺がそうさせているわけで

 

結局俺は皆の邪魔してたわけで………

 

「それに、なんなんだよあれ………」

 

あの時突然俺の中に流れ込んで来たあの声。あれが聞こえた瞬間から、俺の心は痛いんだ

 

あれさえなければ俺は三人にあんな態度とらなかったのに………なんなんだよ、まったく

 

『俺の所為で○○はーーだ』

 

何が俺の所為だって?誰が、どうなったって?知るかよ。何のことだよ

 

「身に覚えの無いことなのに、何でこんなにも辛いんだ」

 

心の底に何か、尖ってるものが刺さってる

 

記憶喪失になった覚えなんか無いから、これは俺の知らない記憶じゃあない……と思う

 

「俺がここに来たことと何か関係してるのか……?」

 

思い出してみれば、あの声は掠れてて俺の声かどうかは定かじゃない。だとしたら誰だろうか

このゲームに囚われ、死んで行った人の声とか?いやいや、そんなことはないだろう

 

だとしたら、神様かなんかが俺に与えた試練とか………?

 

ここに来て一番わからないこと。それは誰が、もしくは何が俺をここに連れて来たのか

そんなこと考えても無駄だろうが………

 

「…………………やめたやめた。忘れよう」

 

まだ尖ってる物は消えないけど、無理矢理忘却の彼方へと消し去ろう

 

「深く考えるのはもうやめだ。ユイちゃんにも言われたしな」

 

それに、さっきまでの俺はちょっと俺らしくなかったかもしれない

 

キリト達の邪魔をしてた、ってのにもまだ申し訳ない気持ちはあるけど………切り替えよう

 

「ただ、あいつらの優しさに頼るのはもう辞めよう」

 

今の俺が邪魔になると言うのなら、そうならない様にすればいい。今の俺が邪魔になると言うのなら、やってやろうじゃないか

 

俺は天高く人差し指を突き上げる

 

決めた………1ヶ月だ。1ヶ月で俺は攻略組になってやる。もしなれなくても、誰の邪魔にもならない様になってやる

 

「神様だろうが、誰だろうが、何だろうが………全てに宣言してやる。俺は強くなる。誰にも迷惑は、かけない!」

 

パチパチパチパチ!

 

「…………ん?」

 

誰だ?拍手してるのは

 

「シン、かっこいいー!今のセリフかっこいいね!」

 

「ス、ストレア………?」

 

「うん!ストレアだよ!」

 

ビックリしながら言うとストレアはニッコリと笑って返す

 

「またここに居るんだね」

 

「……………?また?」

 

確かにここに来るのは二回目だが………何故ストレアが知ってるんだ?

 

「寒そうだったから毛布掛けたけど、どうだった?」

 

「毛布ぅ?…………あっ!」

 

毛布、と言えばあの白い毛布!

 

「あれってストレアが掛けてくれたのか!?ありがとな、あの毛布!」

 

まさかストレアだったなんてなぁ………あ、そう言えばまだ持ってるから返さないとな

 

俺はストレージを操作して白い毛布を取り出す

 

「ありがとなこれ」

 

「どういたしまして。シンは白が似合いそうだから、白い毛布にしたの」

 

「え?………あ、あぁそうか?まあ白は好きな色だしな」

 

白が似合う。クラインとあと一人、誰かに言われた様な気がするな………まあいいか

 

「へぇ〜、そうなんだ」

 

はい、そうなんです

 

「ねえ、シン」

 

「なんだ?」

 

「強くなるの、手伝ってあげようか?」

 

「……………what?」

 

俺は、その言葉に耳を疑った

 




なんか、突然すぎるかな


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そして彼は奇行に走った

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 

「それ何語?」

 

「何か出た!!……………そ、それよりも!」

 

「それよりも?」

 

「この剣を退けてくれえぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

======================

 

 

 

「この剣を退けてくれえぇぇぇぇぇぇ!!」

 

俺は今、渾身の雄叫びをストレアへと向けて放っている

 

その理由はただ一つ。ストレアとの修行の一環でスキル上げをしよう!ということになったのだが………

 

「まだ始まったばかりだよ?」

 

「いきなりすぎるわ!なんだよそのでけえ大剣!!」

 

ストレアが取り出した得物がドだけでなくドドドが付くほどデカイ大剣だった!公式サイトを見た感じ確かにデカイ剣だったけどさ、実物を見るとマジビビる

 

さらに俺は唖然として放心していると、いきなりソードスキルをぶっ放してきたのだ。それも三連撃の

 

さっきの変な奇声を上げながら何とか避けきったが地面にへたり込む俺の真横にラストアタックが減り込めばそりゃ驚く。てか早く退けてくんね?割とガチで

 

「何って、アタシの武器だけど」

 

首をこてん、と傾げながらストレアは答える。やだなにこの子可愛い

 

「と、取り敢えずさ……立ってもいいかな」

 

「いいよ」

 

許可をもらい………いや、もらう必要は無いけど立って尻を叩く。ゲームの中だから気にする必要は無いんだけど気分だな、やっぱり

 

「ほらほら、早く構えて」

 

ストレアはそう言いながら俺と距離を取り始める。俺もジリジリと後ろに下がって何時でも剣を装備出来るようにしておく

 

「なんか………さっきまでの俺のシリアスがブレイクファーストされた感じだぜ」

 

「うん、そうだね!」

 

「せめてツッコミ入れてくれない!?」

 

くそぅ………シリアスが壊れたのならギャグ路線で進むしかないのにそれは許されないと言うことか!?いったいストレアは俺に何を求めているんだ………!

 

「行くよ!」

 

「来させん!」

 

又もやソードスキルの構えに入ろうとしたので瞬時に剣を取り出して肩に担ぐ。剣は青い輝きを放ち、俺はそれをストレアに投擲した

 

「えぇ!?」

 

俺の行動に驚くストレア。しかし難なく弾く

初見の奴は皆驚くのだろうか?まあその方が俺にとって都合が良い場合もあるだろうけど

 

「…………やば」

 

そしてここで俺は失態に気付いた。してやった、とドヤ顔キメてて新しい剣を装備するのを忘れていたのだ。このままじゃソードスキル直撃真っしぐら、もしくは奇声発しながらの避け真っしぐらだ

 

「あ、そうだ」

 

「…………ん?」

 

ストレアは何かを思い出したようで大剣を下ろす

 

「どうした?」

 

「ちょっと用事思い出しちゃった。今日はここまで!」

 

「え?そ、そっすか。あざっした」

 

「うん!またね」

 

「あ、はい。また」

 

俺がそう言うとストレアは手を振って向こうの角へと消えていった

 

「………………」

 

い、いきなりすぎね?

 

「あ!そうだ!」

 

「おぉ!?」

 

更にいきなり角から顔を出すストレア。マジビビる

 

「シンは投擲用武器を沢山持った方が良いと思うよ。剣をわざわざ投げては拾うの、大変でしょ?」

 

「まあ……確かにそうだな。わかった、沢山石集めるよ」

 

「いや、ピックの方が良いんだけど………まあいいか。じゃあ、またね」

 

「ああ、ありがとな」

 

今度は俺も手を振る。そしたらストレアはニコッ、と笑ってまた角に消えていった

 

……………しかし、投擲用武器か。俺は主にそこら辺にある石を拾って投げたり、剣を投げたりするけど、石はともかく剣は拾うのがひじょうに面倒だ。もうそろそろ派生スキルの《クイックチェンジ》が習得出来そうなんだが………いや、それでも剣を拾わなければならないか

 

ならば石一択か?ダメージあんまり無いけどな

 

「キリトに相談してみよう!…………無理だ!」

 

そう言えば急に出てきたばっかりだった。多分今会ったら気不味い雰囲気になることは1+1=2だと答えるのと全く同義だ。田んぼの田と答える奴もいるが

 

それにあまり頼りすぎるのも駄目だ。取り敢えず自分で何とかしよう

 

「しかし、これはあかん。これはあかんで」

 

どうやって仲直りしようかな………

 

「何で関西弁?儲かりまっか?」

 

「ぼちぼちでんな。…………ん?」

 

何故か後ろから聞き覚えのある声が聞こえた

 

「よっ、何してんのよこんなところで」

 

「リズベットか。リズベットこそ何してんだ?」

 

後ろに現れたのはリズベットだった

前屈みになっていたのを直す際にピンクの髪が揺れる。春の桜を連想させてるな

 

…………てか店はどうした

 

「なに?私がここにいちゃ駄目っての?」

 

「いやいや、店どしたよ」

 

NPCばかりに任せちゃいかんよ?

 

「…………あれ?私あんたに鍛冶屋やってるって教えたっけ?」

 

「え、えぇ!?お、教えたよな?教えたはずだぞ!?」

 

う、嘘ぉ!?教えてもらったよな!?そうだと言ってくれ!

 

「ああ、そうだったわね」

 

「そ、そうだよな!」

 

あ、あっぶね〜………忘れてただけかよこいつ

 

「何でそんなに挙動不審なのよ?」

 

「い、いや?別に?」

 

誰の所為だと思ってんだよ!

 

「それより、こんな人通りの少ない所に何の用だ?」

 

「それあんたが言う?………ちょっとこの向こうにある店に用があってね。最近見つけたんだけど、休憩には丁度良いのよ」

 

「へぇ、こんな所にそんなのが」

 

まあまだ来てから二日目だし、知らないのも無理はないか

 

と言うか俺も腹減ったな。結局昼飯食ってないし………キリト達と別れなければアスナの弁当食べれたかもな……いや、あれは夫だけか。一度食ってみたいな

 

さっきの狩りで結構金も集まったしな、倍くらいには

そう、さっきの狩りで…………よし、決めた

 

「リズベット、俺用事が出来たから。じゃーなー」

 

俺はリズベットに背を向けて走り出した

 

「また店にも来なさいよ〜!」

 

「おう!」

 

リズベットの声に手を振って返した。そしてその後メニュー画面からフレンドへ、キリトの名前を探して場所を検索

 

「…………エギルの店か」

 

場所はわかった。進路をエギルの店へ変更

周りの視線が俺に集まるが気にはしない。あ、シノンさん見っけ、手を振ると呆れたような視線を貰った。ちょっとショック

 

更に前方にシリカとピナ、リーファ発見。敬礼しながら通り過ぎるとその隣の男性プレイヤーに敬礼された。お前じゃねえよ

 

「着いた!」

 

エギルの店前へ到着!

 

「頼もぉ!」

 

勢い良くドアを開け放つ!

 

「シ、シン………?」

 

「こんにちは、シンさん」

 

キリトとアスナ、ユイちゃんがいた。キリトは俺のいきなりの登場に目を丸くし、アスナは何か不安気に俺を見る

 

「こんにちはユイちゃん」

 

ユイちゃんに挨拶をしながら俺はアイテムストレージを操作した

 

手に現れるのは今日稼いだ分の3分の2くらいのコルが入った袋

 

「キ〜リ〜ト♪受け取れっ!」

 

そしてキリトに投擲っ!

 

「お、おぉっ!?」

 

キリトは見事コル袋をキャッチした。よし、これで目的は達成した!

 

「俺、いつかそれ取りに来るから預かっておいてくれ!んじゃ、さいなら!」

 

「え!?ちょ、おい!」

 

そして俺はまた走り出す。次に目指すはホロウエリアだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだったんだ?今の………」

 

「パ、パパ。いつか取りに来るって、もう戻って来ないつもりなんじゃ………」

 

「ユイちゃん、それホント!?キリト君、追い掛けなきゃ!」

 

「あ、ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「転移!《ホロウエリア管理区》!」

 

俺の視界が移り変わり見慣れた、と言う程でも無いけどこの二日のうちじゃ結構見た場所が目に映る

 

「フィリアはいるかな〜………いない」

 

フィリアを捜し求めてここまで来たのだが、どうやらいないみたいだ。残りの3分の1は誰に渡せばいいのやら

 

今日の狩りは迷惑掛けたし、せめてもの詫びのつもりなんだけどなぁ………まあ確かに、フィリアもホロウエリアに住んでるわけじゃないからな。そう言えばフィリアはアークソフィアのどこに住んでるのだろうか?全く見ないが

 

「まあいいや!ここで待ってよう。そのうち来るかもしれないし」

 

剣でも振って待ってよう。日々精進あるのみ、だな!

 

と言うわけで、俺はアスナに貰ったばかりの剣を取り出し、振り始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンいたか!?」

 

「ううん、いない!フレンド追跡しても反応が無くって!」

 

「まさか…………圏外に!?」

 

「行ってみよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ、フィリアを待ち伏せしてる俺ってストーカーじゃね?」

 

 

 

 




他から見れば奇行以外の何でも無い

※2020/02/14 視点変更箇所に
       ======================
       に変更


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勘違いしてるんだよ

 

 

「ふっ!ほっ!」

 

「…………何してんの?」

 

「ん?」

 

後ろから声掛けられた

 

「お、フィリア!さっき振りっすね〜。てなわけで受け取れ」

 

俺は側に置いていた袋をフィリアに投げて渡す

 

「わっ!?とっ………これ、なに?」

 

「それ、いつか取りに来るから。管理よろしく」

 

「は?」

 

フィリアは訳がわからなさそうにしてるが、まあ使ってしまったらそれはそれでいいだろう

 

さて、目的は達成したわけだがこれからどうしようか。生産系クエストってどこに行ったら受けれるんだ?店とか入ったら出来るかな。エギルの店で働くとか………あれ?それって経験値になんの?

 

取り敢えずエギルに相談してみよう

 

「ちょっと、どう言うことよ」

 

「いやいや、気にしなくてよろしいのですよ?」

 

「いや、これを持っとけば良いのはわかったけど。あんた、旅にでも出るつもり?」

 

…………ん?

 

「なんで?」

 

「だって、いつか取りに来るから、って………」

 

「…………………」

 

まあ、確かに………そう聞こえるな

 

「あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、メールが来てた。剣振ってたから気付かなかったな」

 

たった今、視界の端にメールのアイコンが出ていることに気が付いた。誰からのメールだろうか?フレンドは少ないからな、もしかしたらアスナからかもしれない

僕はフレンドが少ない、はがない…………ごめん

 

「どれどれ………やっぱりアスナからだな」

 

メールを開くとやはりアスナだった

 

「あれ、キリトとユイちゃんからも来てる」

 

総数は三通、三人ともどうしたんだろうか?何か用があるとか

 

「三通も?何で気が付かないのよ」

 

「いやぁ、集中してたもので」

 

取り敢えず内容をチェックしよう。まずはアスナから

 

 

 

from:Asuna

 

シン君、どこに居るの!?

 

 

 

………?どこに居るの?って、ホロウエリアに居ますよ?

 

何か焦ってる風だな。取り敢えず返信しとくか

 

 

 

from:Shin

 

只今ホロウエリア

 

 

 

 

 

 

「!シン君から返信!……ホロウエリア!?一人で!?」

 

 

 

 

 

 

次はユイちゃんに返信だな

 

「ねぇ、ちょっと」

 

フィリアが俺に少し気不味げに話しかける

 

「なんだ?」

 

「勘違い、されてるんじゃない?」

 

「勘違い?………何を?」

 

「…………もういい(一度痛い目見ないとわからないか……)」

 

俺が聞き返すとフィリアは不機嫌そうに顔を顰めそっぽを向いてしまった。仕草的には可愛いのだが………如何せん理由がわからない

 

まあいい、ユイちゃんのメールは……

 

 

 

from:Yui

 

シンさん、早まっては駄目です!

 

 

 

………俺が何を早まったと言うんだ。あ、もしかして金のことかな?

 

 

 

from:Shin

 

良いんだ。俺が決めたことだから

因みに今ホロウエリアです

 

 

 

 

 

「あ、メール………パパ、シンさんからです!」

 

「ホントか!?………これは……シン、早まるんじゃない、早まるんじゃないぞ………!」

 

 

 

 

 

ちょっとカッコつけすぎたかな?まあいいや

 

それより次はキリトだな。先の二人のメールの内容からして似たような物かもしれない

 

 

 

from:Kirito

 

シン、今どこだ?無茶なことは辞めろ

アスナもユイも心配してる。戻って来るんだ

 

 

 

 

「…………?」

 

いよいよもってわからなくなって来た

 

戻って来る?いや、まあ目的も達成したし今日は一度エギルの店に戻ろうかなとか思ってるけど

 

「っ!」

 

そして、ここで俺の中で何かが繋がった。ような気がした

 

フィリアがさっき言っていた。「勘違いされたんじゃない?」と

そしてその前の会話、フィリアはその時に俺が何処か旅に出るのか?と聞いてきた

 

つまり、キリト達も同じ勘違いをしてるわけか

 

「………………ふぅ」

 

「?」

 

「やっ、ちまったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「………あぁ、気付いたんだ」

 

フィリアが横でやれやれ、と首を振ってるが今はそんなこと気にしてる場合じゃねえ!

 

つまりあれか!?俺の言ったことが誤解を招いて、三人は俺を捜してるってぇことか!?迷惑は掛けないとか宣言しながら思いっきり掛けてんじゃん俺!

 

「フィリアも気付いてたんなら教えてくれればいいじゃん!」

 

「普通気付くでしょ。逆に何で気付かないの?」

 

ぐぬっ!…………痛いところを突かれた

 

「う………に、人間そう言うこともありますぅ〜!偶に鈍感になったりするんですぅ〜!」

 

「開き直ってるし……」

 

そうだよ!誰にだってこんな失敗はあるのだよ!

 

「てか、ホントに教えてくれても良かったじゃん!」

 

「一回痛い目見ないとわからないと思ったのよ」

 

「ひどい!フィリアだってそう言う時あr「シン!」ん?」

 

フィリアと口論してるとキリトの声が聞こえた。その方向を見るとキリトとアスナが転移門から走ってくる

 

「フィリア、シンを引き止めててくれたんだな!」

 

「え?……え、と……」

 

「シン君、一人でホロウエリアなんて無茶しちゃ駄目だよ!」

 

「いや、その………」

 

未だ勘違い継続中の二人の言葉に俺とフィリアは吃る

 

「二人とも、勘違いしてるのよ」

 

「「え?」」

 

「ちょ、フィr「あんたは黙ってなさい」………あい」

 

暴露しようとするフィリアを止めようとしたが鋭い眼光で睨まれ萎縮してしまった。何あの目恐い

 

「二人もこいつに言われたんでしょ?『いつかこれ取りに来るから』って」

 

フィリアは袋をキリトとアスナに見せながら言う

 

「あ、ああ………」

 

「そうだけど……」

 

「それ、こいつの言い回しが紛らわしかっただけで、どこにも旅に出たりなんかしないわよ」

 

「「……………」」

 

そう聞くと二人は無言で俺を見つめる。て言うか睨みつけてる

これは非常にマズイ状況かもしれない。きっとアスナの説教コース行きだ

 

「い、いやぁ…………あ、そうだ!リズベットの店に何か用があった気がするなぁ。これは急がないと!んじゃ、バイなら!」

 

ビシィッ!と効果音が付きそうな勢いで敬礼のポーズを取り転移門へとBダッシュ!!そして飛び込む!

 

「こら!待てシン!!」

 

「逃ぃげるんだよぉぉぉぉぉ!!転移、《アークソフィア》!」

 

こうして、俺とキリト&アスナの鬼ごっこが開幕した

 

「とうっ!」

 

俺は着地してすぐに走る態勢を取る

 

「シンさん、やっと見つけましたよ!」

 

「ユイちゃん!?」

 

だが出た瞬間、ユイちゃんが現れガッチリと腕をホールドされてしまった!

 

くそっ、このままでは捕まってしまう!ユイちゃんの腕を振り払って走るわけにもいかないし………

 

ポンッ

 

「……………」

 

如何にして逃走しようか考えを張り巡らしていると両肩に手を置かれた

 

ギギギ、と機械みたいな音が出てるんじゃないだろうか?そんな感じに後ろを見るとそこには………

 

「ちょっと、エギルの店に行くか」

 

「そうだね、行こうか」

 

笑顔なのに恐いアスナと、そのアスナにビビりながらもしっかりと俺をホールドしているキリトが居た

 

 

 

 

 

 

そしてその後、アスナに説教された俺は俺の決意を二人に話したが……「一ヶ月で攻略組?無理だろ」「一人じゃちょっと………ねぇ?生産系クエスト一日中やっても行けるかどうか……」と否定されて悔しかった。やっぱり一ヶ月は無理なのかな………もう少し期間延ばそうかな

 

更に説教されてる所を丁度エギルの店に寄ったシノンさん、リーファ、シリカ&ピナに見られた。シノンさんからは「あんた、本物の馬鹿なの?」と言われライフポイントをガリガリ削られた後、残りの二人から「「あんまり心配掛けちゃ駄目だよ?/ですよ?」」と声を揃えて言われた。俺の方が年上なのに…………

 

ピナは膝の上に飛び降りて来た。励ましてくれるのかと思いきや『クルルルル、クルル』と鳴いてシリカの元に戻って行った。一体何だったんだ…………

 








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情報屋の鼠

 

 

「おはようございます、シンさん!」

 

「おはよう、ユイちゃん」

 

朝、目覚めの一発にちょっくら外で隠蔽スキルを上げていて、それを見たシノンさんに怪しいと追放をくらった俺は現在、ユイちゃんと挨拶を交わしていた

 

今回はスキルを上げていただけと言うことで説教はくらわなかったが………怪しさ100%と言うことで大通りでやるのは辞めろと言われてしまったよ

 

「シンさんが悪いと思いますよ?」

 

「やっぱそうなのかねぇ?」

 

どうやら俺が悪かったようだ。俺は努力しようとしてたのになぁ………。まあ、迷惑ならばしょうがない

 

「てなわけで、ちょっくら隠蔽スキル上げる為にキリトでも尾行して来るよ。ユイちゃん」

 

「さっき注意されたこと忘れたんですか?駄目ですよ、シンさん」

 

「ごめんなさーい」

 

ユイちゃんとそんな会話をしながら俺は店を出る

 

さて、今日はどこに行くか

 

キリトとアスナからの情報によって生産系クエストだけでは一ヶ月で攻略組に入ることは無理らしい。だとしたらやはりモンスターを狩るしかない。経験値が沢山手に入って、俺でも安全な場所がどこか無いか…………

 

「まあ、無いだろうな!」

 

ここは最前線だぜ?そんな甘い所なんて無い無い

 

キリトとアスナは今日は攻略に行くそうだ。他は知らん。いつの間にか皆いなくなってるし………

 

エギルは店番、クラインも多分攻略かな。あぁ、リズベットも店か。シリカやリーファは何をしてるんだろ?リーファのレベルとか気になるな。ALOでは古参プレイヤーとかあったから、レベルとしては攻略組に負けないくらいなんじゃないか?羨ましい。シリカは…………まあ、ピナとどこか徘徊してんだろ、よくわからんが。シノンさんは…………どこかでお茶飲んでそう。椅子に座って紅茶飲んでたら絵になるかもね。まあ、皆そうかもだけど

 

ホロウエリアでフィリアと話でもしに行こうか。………邪魔になるな。ストレアに会いに行こうかな〜………いや、用も無いから会いに行くわけにはいかない

 

「ちょいト、そこのお兄さン」

 

あ〜、でもなんか、ストレアなら用が無くても全然気にしなさそうだな。ストレアは話し易いんだよ、なんか。なんでだろ?波長が合うのかもしれない

 

「おイ、聞いているのカ?」

 

「聞いてる聞いてる」

 

あれ、なんでストレアに会いに行く話になってんだ?だいぶ脱線してんな………

 

「絶対に聞いてないだロ」

 

「……………誰だ?」

 

今、ようやく後ろから声を掛けられてるのに気が付いた。これは申し訳ない、と思い後ろを振り向く

 

「………うっぷす」

 

「?」

 

振り向いた先に居たのはフードを被った小柄の人。金髪の髪と、頬に付いた三本線のペイント、もうこの時点で誰かがわかる

 

「アルゴ……」

 

「ン?どこかで会ったことがあったカ?」

 

「…………ま、まあ?鼠のアルゴと言えば有名だしな」

 

「アッハハハ!そうか、オレっちは中層でも有名か!」

 

「そ、それなりにな」

 

なん……だ、と。俺が中層プレイヤーだって知ってる………?いやまあ、ホントは違うけど

鼠のアルゴと言えば情報屋だ。五分雑談すると知らないうちに百コル分のネタを持って行かれると言う、会えて嬉しいのかどうか微妙なところの原作キャラだ。まあ、会って損なことがあるのかと言われると、俺には無いような気がするが…………それよりも、だ。俺のことを中層プレイヤーだと知ってる、ってことは俺に何か目的があって話し掛けて来たってことだよな

 

「しかし、オレっちは自分の見た目を情報に出したことは無いんだがな」

 

「……………」

 

す、鋭い。だてに情報屋をやってるわけじゃないってことか

 

「あ〜、アレだ!俺、アルゴのこと見たことあるんだよ。別に街中を徘徊しない、ってわけじゃないだろ?あれ誰だろ、って思ったから知ってる人に聞いてみただけだよ」

 

「ああ、成る程ナ。その知り合いが情報を買った奴なラ、の話だけド。名前は何ダ?」

 

「俺はシンだぜ」

 

「いや違ウ、教えてくれた奴の名前ダ」

 

「え……」

 

え、な………名前!?そんなのも聞かれるの!?てかなんか、俺のこと疑ってない!?なんか訝しんでない!?

 

「な、なんでそんなこと聞くんだよ」

 

絶対怪しんでるよコレェ………。え?俺が何したって言うの?てかさっきから道の真ん中で立ち止まってるけどそれって良いの?周りに迷惑になってない?なんかヒソヒソ話されてるよ、憐れみの視線貰っちゃってるよ!

 

「職業柄そういうことには敏感にならないと駄目だからナ。どうしタ?何か言えない理由でもあるのカ?」

 

「い、いや…………」

 

これはマズイぞ………キリト達の名前を出せば、もしも確認を取られでもすれば嘘だってバレてしまう。悲しきかな俺に他の友人は皆無。ここは適当な名前でも出すか?でもこいつ情報屋だしな………

 

現在の俺の嘘つきスキルではこいつを騙しきることは出来ないのか………!騙せたら騙せたで悪い気もするが、もはや色んな人に嘘を吐いている俺としては手遅れな気もするがな

 

しかし、俺の友人………友人……………

 

「ジン…………」

 

「何?ジンだト?」

 

「え?」

 

アルゴが動揺した

 

「ふム………お前はジン坊の友人だったカ。………そうか、悪かっタ。それじゃあナ」

 

「お、おい」

 

俺に短く謝った後、アルゴは踵を返して歩いて行ってしまった

 

…………なんだ?今の反応。てか、そもそも……

 

「ジンって誰だよ………」

 

俺は誰にも聞かれないような声で、呟いた

 

なんでジンなんて名前が出たのかはわからない。きっと、アルゴを切り抜けたい一心で吐いた嘘だろう。無意識に吐くとは………嘘つきスキルの派生スキルか何かか?いや、そんなスキル無いけども

 

「まあ、いいか」

 

アルゴは何か誤解したままのようだが、俺の本当の正体を探られるよりはまだマシだろう。俺の咄嗟に言ったジンと言う名前と、アルゴの知っているジンさんが誰かは知らないがな

 

てか、なんたる偶然だよ………

 

もしかしたらだが、申し訳なさそうなアルゴの反応を見るに、ジンさんは既にお亡くなりになっているのかもしれない。そう考えると悪いことをした気がする

 

「……………はっ!」

 

アルゴに情報貰えば良かった!いい経験値が貰える生産系クエストとか、俺でも倒せるモンスターがいるところとか!

 

「追い掛けるか………てか、あいつ足速えな」

 

既に姿が見えなくなってる。しゃあない、今日はアルゴ捜索に時間を潰すか

 

…………金、足りるかな

 

 

 

======================

 

 

 

 

「ジン…………」

 

「何?ジンだト?」

 

「え?」

 

オイラは目の前の男から出た人物の名前に耳を疑う

 

目の前の男、シンと名乗る男は確かにジンと言った。ジンとシン、名前が結構似てる………

 

「ふム………お前はジン坊の知り合いだったカ。………そうか、悪かっタ。それじゃあナ」

 

「お、おい」

 

後ろで何か言ってるが無視して踵を返し歩き出す

 

「…………まさカ、ジン坊の知り合いだったとハ」

 

世界とは本当に狭いものだ。と言ってもここはゲームの中であり、現在のプレイヤー人数は今や七千人未満なのだから別段不思議でも無いのだが

 

ジンとは、よく情報を買ってくれていた奴の名前だ。………そう、買ってくれていた(・・)奴だ。もう、それは頻繁に。明るい奴で、いつも笑っている馬鹿だった。オイラはジンのことをジン坊と呼んでいた。まあ、オイラより年上だったが

 

ジン坊はアインクラッド解放軍に所属していた。《軍》と呼ばれるギルドだ。《軍》と言えばいい噂は全然聞かないが、あいつは本当に《軍》なのかと疑いたくなるほど軽い奴だった

 

数週間前、七十四層攻略の際だ。コーバッツと言うプレイヤーの部下として部隊に入り、迷宮区を攻略していたらしい

 

その時、ジン坊は命を落とした

 

コーバッツの無理な命令でだ。まあ、当の本人も命を落としたらしいが

 

ろくに対策もせずにボスに挑むからだ。一人で無謀な戦いを挑むのならば未だしも、自分の部下達を巻き込んでどうする

 

…………ジン坊は、ご贔屓様だ。何回か情報代の代わりとして食事に行ったこともあった。そのジン坊が死んだのだ、死因くらいは知っておきたい。そう思ったオイラは色々と情報を集めた

 

結果、ジン坊は仲間を守ろうとし、仲間諸共ボスの持つ剣によってHPバーを削り取られたらしい

 

それを聞いた時、何ともあいつらしいと思った。軽くて明るい馬鹿だったけど、あいつの、このデスゲームからプレイヤー全員を解放したいという意志は本物だったからだ

 

そう言えば、弟みたいな奴ができたと話していた時がある。それがさっきの男、シンなのかもしれない

 

「あ!見つけた!」

 

「ン?」

 

いつの間にか転移門前に来ていた。斜め前方から白を基調とした装備のプレイヤーが走ってくる

 

「どうしタ、オネーサンに何か用でもあるのカ?シン坊」

 

シンだった。これからはシンのことをシン坊と呼ぼう

 

「シ、シン坊?まあいいや。それに、用があったのはそっちだったんじゃないのかよ………」

 

「あア、別に大した用じゃなかったんだヨ」

 

「なんだ、そうなのか」

 

ただキー坊達やアーちゃんと一緒にいるところを見たから気になっただけで、そんなに用があるわけじゃないんだよ

 

しかし、オイラに何か用があるんだろうか

 

「情報なら良い値で売ってやるゾ」

 

「ん〜…………やっぱ金?だよな……」

 

シン坊は金が無いのか頭をガシガシと掻きながら悩ましい声を出した

 

「等価交換でも問題はないゾ。そんな情報があるならの話だがナ」

 

「えぇ〜?因みに幾らだ?」

 

「情報によるナ。どんな情報が欲しいんダ?」

 

中層プレイヤーの欲しい情報と言うと、美味い店の場所か?それとも他か

 

「…………どんな情報でも持ってるんだよな」

 

「知り合いにオネーサンのことは聞いてるんだロ?オネーサンの手腕を疑ってるのカ?」

 

「いや、そういうわけじゃないけどさ」

 

申し訳なさそうにまた頭を掻いた

 

ジン坊の奴、オネーサンのことはきちんと良いように教えてるようだな

 

「俺さ、強くなりたいんだ」

 

シン坊はオイラに向き直り、真剣な眼差しでそう言った

 

 

 




長らくお待たせしました!

主人公、アルゴと遭遇しました。これから強くなるために頑張ります

※2020/02/14 視点変更箇所に
       ======================
       に変更


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初クエスト

 

 

「………ここか」

 

俺は現在、アルゴから教えてもらった情報を元にアークソフィアの端の端………だよな、にあるとある場所に来ていた

 

目の前には封鎖されているが、アークソフィアから圏外へと繋がる門。周りには人気も無く、居るのは俺と門の横に座るNPCのお爺さんのみ

 

本作の方のゲームにここは出てくるんだろうか?転移門は中心にあるとしても、広場から離れた所にある場所だ。同じアークソフィア内なのにここに人気が無いのはここに来る途中によく工事現場で見る立ち入り禁止のバリケードが立っていたからだろう。この門のある場所は隠しエリアみたいなものなのかな?狭いけど

 

「ホントに強くなれんのかぁ?…………いや、アルゴ本人もわからねえって言ってたな。そういや」

 

ものの数分前…………あれ、数十分前だったか?忘れたけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強くなりたイ?」

 

俺の言葉にアルゴは眉を寄せながら言った

 

「そうなんだよ。俺レベルも低いし、スキルの熟練度も大したことない。でも、力になりたい人達がいるんだ。だから少しでも早く強くなりたいんだ。情報屋のアルゴなら効率の良い経験値の稼ぎ方を知ってると思って」

 

「成る程ナ。攻略に着いて行って守ってもらいながらレベルを上げていけば良いんじゃないカ?」

 

ん〜……、それじゃ駄目なんだよな

 

「攻略の邪魔するわけにはいかない。そうなると他に友達もいないわけで………」

 

「後は生産系クエストで稼ぐしかないガ、それだと時間がかかり過ぎてしまうト」

 

「そーそー!」

 

流石アルゴだぜ。話が早い

 

「うーム…………」

 

アルゴは顎に手を当てて考える

 

もしかして、これはあるパティーンなんじゃね?期待しても良い感じですか?やったぜひゃっh「シン坊が出来る効率の良い経験値稼ぎなんて断じて無イ」…………なん……だと…

 

「嘘やろ!?マジで!?マジで無いん!?」

 

スッゲー期待してた分結構クルものあるよ!?

 

「なんで急に関西弁になるんダ?シン坊は変だナ」

 

「俺が変態だと言いたいのか?」

 

「誰もそんなことは言ってないヨ」

 

男は皆変態だよ!って俺の友達が言ってたよ!

 

「とにかく無いものは無いんダ。諦めてくれ」

 

「そんなぁ〜…………」

 

アルゴの言葉を聞いて俺は目に見えて落ち込んだ。それはもう、なんだか結婚式当日に結婚相手に愛人がいて結婚式の途中で乱入して来て花嫁を連れ去られた時の新郎の如く落ち込んでいるだろう。なんでこんな具体的なのかは気にしない。俺は気にしないから皆気にするな…………皆って誰だよいねぇよそんなの

 

しかし、無いのならば仕方ないか。地道に頑張るしかない

 

「だガ、一つだけ可能性が無いでもなイ」

 

「……………なに?」

 

その言葉に、思わずアルゴの方を俺が持つ最大限の敏捷力で向いてしまった。首に最大限の敏捷力を使ったせいで首が持っていかれた……………!!状態になってしまうかと思ったが全面的に気の所為だった

 

「これは最近手に入れた情報なんだガ、まだ誰にも教えていない情報なんダ」

 

「そ、そんな情報を俺に売って良いのか………?」

 

それに、お高いんじゃないだろうか?小市民の俺にはキツイ、と言うか払えないような値段なんじゃ………

 

「なニ、気にするナ。オイラは誰にだって情報を売ル。差別はしないのサ」

 

「か、かっけぇ…………」

 

なんか、アルゴがヤバいほどカッコ良く見える。いや、女だから天使としておこう。アルゴマジ天使!シノンさんマジ天使!

 

「あ、でも金は……」

 

「それは心配するナ。情報ってのはクエストのことなんだガ、オイラもクリアしてないんダ。丁度良いからシン坊、クリアしてくれないカ?報酬はクリア条件でいいゾ」

 

「ホントか!?」

 

「クリア報酬もとっておいたら良イ」

 

「おぉ!」

 

アルゴ太っ腹だぜ!

 

…………でもよ

 

「それって、強くなるのに関係あるのか?」

 

「報酬は未だにわからなイ。だけどクリアすれば経験値も貰えるから損にはならないはずだゾ」

 

「結局地道に頑張れってことなのな………」

 

「もしかしたら武器かもしれないだロ?クリア出来たら情報提供よろしくナ」

 

「うぃ〜っす。……………フレンド登録しとこうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てなわけで行き方を教えてもらってここまで来たんだが

 

「NPCって、多分この人だよな………」

 

門の横に座るお爺さんNPCを数m横から見下ろす

 

この人から話を聞けば良いんだろうが…………

 

「話、長そうやなぁ………」

 

しかし、このお爺さんから話を聞かなければ先には進めない

 

「あの〜…………お爺さん」

 

「…………………………」

 

「お爺さん?」

 

「………………」

 

しゃ、喋らねえ。この人じゃないのか?でもこの人以外いないしな………

 

「お、お爺さ〜ん」

 

「…………ハッ!……すまん、寝ておったわい」

 

「いや寝てたのかよ!!」

 

おかしいだろ!目開けてたよね!?普通に座ってただけじゃん!

 

「…………ん?」

 

心の中でツッコミを入れているとお爺さんの頭にピコンと?マークが出た。因みにこれクエスチョンマークって言うんだぜ。!マークはエクスクラメーションマークって言うらしいよ。やったね、勉強になったね!

 

「ど、どうかしましたか?」

 

?マークはクエストのサイン。このお爺さんは今現在俺に助けを求めている!

 

「………実はの、大切な鍵を失くしてしもうたのじゃよ」

 

「鍵?」

 

「儂の家の中にある宝箱の鍵なんじゃが「宝箱!?」

 

宝箱とな!その中にはきっと強い武具か、もしくは金目のもんがあるに違いねえぜ!!

 

「大切な物が入っておるんじゃ。肌身離さず持っておったのじゃがな…………年は取りたくないもんじゃよ。この街のどこかで落としたことは間違い無いんじゃがのぉ」

 

成る程、それを見つけてくれば良いんだな

 

「探しとる最中で腰を痛めてしまうし………お前さん、どうか探して来てはくれんか?」

 

「まっかせろい!」

 

確かYesとかはいだけでも良いらしいが、キリトが言ってたように気分だな、これは

 

元気良く返事をするとお爺さんは微笑んだ。そしてクエストログが更新される

 

「クエスト名《大切な宝物》、か。それを開ける為の鍵を探すってわけだな」

 

「もしかしたら人が拾っておるかもしれぬから、地面を探すだけでなく人にも聞いてみておくれ」

 

「わかった。楽しみに待ってろよ!」

 

俺はお爺さんに手を振ってその場から走り去る。細い道を通りバリケードをぴょんと飛び越えて人通りのある場所へ出た

 

取り敢えず下を向いて何か落ちてないか探してみるか

 

「鍵〜カギ〜」

 

下を向きながら大通りを真っ直ぐ進んで行く

 

……………無いな

 

「いや、探す範囲はこの街全体だ。そんな簡単に見つかるわけないよな」

 

これは俺の思ってる以上に大変なクエストかもしれないぞ………!気合入れて挑まないと

 

「いよっし、やるぞ!」

 

俺は天高く拳を振り上げ、意気込むのだった

 

周りの視線?ナニソレオイシイノ?

 

 

 

 

「……………目立つなぁ、シンさん」

 

『キュルルルルル………』

 

その頃、大通りの真ん中で意気込む俺を見て、シリカがそう呟いたことは後になって知った

 

 

 

 

 

太陽が西へ………西、だよな?に沈みそうになっている。夕焼けが綺麗な赤色をしていて、それを見ていたらとても幻想的というか、なんか感慨深いものを感じた

 

「鍵、見つからねぇ…………」

 

なので現在、俺はエギルの店でココア片手に項垂れていた

 

「どうしたの?」

 

「…………ん?」

 

俺の向かい側の椅子が引かれ、そこに誰かが座った。この声は………シノンさん!

 

「ど、どしたのシノンさん」

 

「いや、それこっちの台詞だから。何か悩んでるみたいだから声掛けたんだけど」

 

な、なんとお優しい………俺、感激し過ぎて涙出ちまいそうだ!天使はここに居たんだね!

 

「実は、今クエストやっててさ。鍵を探すクエストなんだけど、この街のどこにも落ちてないし、NPCにも話を聞いたけど、誰も知らないって言うんだ」

 

「ふーん」

 

「一体どこにあるんだろ…………」

 

俺は深い溜息を吐く。別にタイムリミットがあるわけじゃないが、出来れば今日のうちにクリアしておきたい。時間が掛かれば掛かるほどその分強くなるのが遅れてしまうからな

 

「どこか、見落としてる場所があるんじゃないの?」

 

「見落としてる場所ぉ?」

 

「ちゃんと見たの?植木鉢の中とか、溝の中とか」

 

「ん〜………一応探したけどな……」

 

だいぶ細かく探したつもりなんだよな。うーん………

 

「屋根の上から探したら案外見落としてるものに気付いたりして」

 

……………成る程

 

「ちょっと俺屋根に登ってくる」

 

「え?い、いやちょっと冗談で言っただけよ。そんな真に受けなくても」

 

む?なんだ、随分と自信無さそうだな

 

「案外正しいかもよ?それに、何もしないよりはマシだ。自信持ちなよ」

 

俺は立ち上がってシノンさんにそう言った。なんか、シノンさんにこんな偉そうなこと言うのはお門違いかもしれないが………

 

「そうかしら。ただの、素人の意見よ」

 

「わかんないって、シノンさんはもしかしたら探し物見つけ上手かもしんないぜ?」

 

実際はどうかは知らんがな!てか、今の俺めっちゃシノンさんと話してない?ヤバくない?…………マジ感動っす

 

「……………そうね。ま、今となっちゃわからないけど」

 

「ん?…………っ!あ〜………んじゃ!行ってくる!」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

俺はシノンさんに元気良く挨拶をしてエギルの店を出た

 

「そういや、シノンさんは…………」

 

そうだ、確か公式サイトには、シノンさんは記憶喪失だってあった

 

「ってことは、あのことも忘れてんだよな」

 

記憶喪失ってことは、あの事件のことも忘れてしまったってことなんだよな………?

 

きっと、今この世界では…………いや、このゲームの世界では、もう俺だけしか知らないあの事件。シノンさんが忘れてしまったあの事件。俺も、その場を見て聞いたわけではないが、本で何度も読んだ悲しき事件

 

それも含め、全ての記憶を取り戻して欲しいと切実に思う俺はシノンさんファンとしてどうなのかな?

 

あの事件を忘れることが良いことなのか、悪いことなのか。それは俺にはわからないけどさ

 

「……………でも、思い出さなきゃ駄目だろうな」

 

だって、シノンさん…………俺はあんたに、シノンさんが救った人のことを知ってほしいから

 

「………難しいねぇ」

 

ま、なるようになるかな

 

まずはそれよりも…………

 

「屋根の上って、どうやって登るんだ………?」

 

 




最後の最後でしまらないシンだった………


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…………泣けるぜ

遅くなってしまって誠に申し訳ない

学校行事の準備やら夏休みの残った課題とか、色んな物があって疲れてモチベーションがだだ下がりだったんです

あー……まだまだ残ってる。誰かたすてけ


 

 

「よいしょっ………と」

 

俺は自分の部屋の窓から頑張ってなんとか屋根の上までよじ登った

 

最初はどうすれば屋根に上れるか考え込んだが、SAO原作の八巻、圏内事件の時にキリトが屋根の上を走ってるところがあったのを思い出した。そこで俺は考えたわけだ

 

あの時キリトは確か宿の中にいた。確か二階だっけ?そっから屋根に上ったってことはだな……………

 

「はっ!窓!?」

 

ってことで今自室からよじ登ったわけだ

 

シノンさんに行ってくると意気揚々に言って出てきた手前、また店に戻るとなんとも微妙な目で見られたが、そこは気にしないでおこう。………き、気にしてないぞ

 

それよりもここから見える夕日が綺麗だぜ

 

「さて、上から捜してみまっしょい!」

 

俺はエギルの店の屋根から隣に移る。間隔が狭くて助かった。もうちょっと広がったら落ちてたかな?

 

「……………」

 

屋根の上から下を見ると人が行き交うのが見えた

 

「……フハハハハ!人がゴミのようだ!」

 

あ、何人かがこっち向いた。急いで隠れなくては!

 

ササッ!

 

「ふっ、まだまだだな」

 

さて、探索を始めるか。てかぶっちゃけそこまでゴミみたいでもなかった

 

屋根の上から上へとエッサホイサエッサホイサ

 

ツルッ!

 

ツルッと滑った〜♪

 

「のわぁ!?」

 

ガシィ!

 

「あ、あっぶねー」

 

い、今起こったことを話すぜ。屋根の上から鍵を捜そうと、もしくはまだ話しかけてないNPCを見つけようと屋根から屋根へ飛び移っていたら急に足が滑って落っこちそうになっちまった。何を言ってるかわからねえと思うが俺はわかる。単純にヘマしただけっす

 

そして今、俺はぶら下がってる状態だが…………路地裏だから問題無い。誰にも見えてないはずだ

 

「…………」

 

否!誰か一人見てた!!誰だこれ………なんか工事現場でよく見るヘルメットしてる

 

「…………こんにちは〜。フンッ!」

 

軽く挨拶をした後に俺は腕に最大限の力を込め、けんすいの容量を使って再び屋根へと生還した!!

 

「不覚、まさか滑ってしまうとは…………まあ、ここだけ他より間隔が広かったからしょうがないのか?もうちょっと敏捷あった方がいいかなぁ……」

 

どうやら俺のステータス、筋力値寄りみたいなのだ。まあ軽いと言えど剣をぶん投げれる時点で薄々気付いてたんだがな

でもここから敏捷に振るとなるとバランスは良くなるのだが………俺のスタイルから言ってそれで良いのかどうかがまだわからない。と言うかまだスタイルを確立させてない

 

そもそも何故俺のステータスは筋力値寄りなのだろうか?ホロウエリアに落ちた時のレベルは43だったけど、ランダムで振られていったのか?一応そこら辺がまだよくわかってないから振り分けポイントは均等に分けてるが………

 

…………今は考えなくていいや

 

「ん?………なんだアイツは」

 

何か怪しい奴を見つけた。変にキョロキョロしてる女の人だ

 

「ん〜?」

 

よく見ると色んな人に声を掛けている。それもどうやらNPC限定みたいだ。一瞬プレイヤーかと思ったがカーソルがNPCのやつだ

 

「見つけた!」

 

あれだ!絶対にあれだ!他から見たら普通に歩いて話をしてるNPCにしか見えねえからそりゃわかるはず無いわな!それにあのNPC、見たこともなければ話しかけてもねえ奴だ!なんで今まで会わなかったんだ?何か条件でもあったってのか………?

 

「まあいい。見失う前に話しかけないと!」

 

俺はパイプがあったのでパイプを使い路地裏に飛び降りる。さっき落ちそうになった場所だ。結局落ちることになろうとはな。ふっ、これも運命と言うやつよ

 

………なにこれ中二

 

「おっし!」

 

俺は鍵を持っているであろうNPCのいる場所へと走り出す。途中でさっきのヘルメットさんが誰かと談笑していた

 

「こんちはっ!」

 

「(ビクッ!」

 

こっち見て来たから大声で再度挨拶をしておいた。ビクッ!となってたが俺は悪くないはずだ。だって挨拶したんだもの

 

「いたいた。すいません、ちょっといいですか?」

 

と、まあ俺は悪くないと言うことをQ.E.DしてNPCへと声を掛けた

 

「はい、なんでしょう?」

 

NPCは振り返る。おぅふ、美人です。て言うか可愛い、ってのかな?アレだね、CLANNADの渚ちゃんに似てるね

………ん?これどういう風に言えばいいんだ?

 

ああ、そうか

 

「鍵知りません?お爺さんの」

 

「鍵?………あぁ!これですか?」

 

NPCはポケットから鍵を取り出して俺に見せてくれる。これ、だよな

 

「多分それです」

 

「それは良かった。持ち主を捜していたんです。はい、どうぞ」

 

「いやぁどーもどーも」

 

俺の前に差し出された鍵を俺は受けと………

 

バサバサッ!

 

「キャッ!?」

 

「んなっ!?」

 

ろうとした瞬間、黒い鳥が飛んで来てNPCの手から鍵を持ち去りやがった!!

 

「な………な…………」

 

「……………」

 

鳥が………鳥が、盗って行った………

 

何を……何を……!

 

「何をしとんじゃてめえぇぇぇぇぇ!!」

 

俺は剣を抜き放ち肩に担ぐ

 

そしてソードスキルを発動!!まだ鳥はそんなに離れてねえ、討つなら今がチャンス!!

 

「焼き鳥にして食ったる!」

 

俺の手から放たれる剣。その剣は青い軌跡を描きながら鳥へと直進する。その様は周りから視線を集める程だ

 

……………だが

 

『くぁー』

 

鳥は、一鳴きすると剣の軌道上からヒョイと避けた

 

軌道上から避けたと言うことは勿論剣は鳥に当たらずに飛んで行くわけで………

 

「俺の剣がぁぁぁ!」

 

俺は鳥ではなくまず剣を追いかける羽目になった

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ、見失った!!」

 

剣を拾いに行ったらあのクソ鳥を見失っちまった。まさか目の前で掻っ攫われるとは思っても見なかった。何時ぞやか旅行に行った時にカラスが俺の目の前で店からじゃが○こをぐわし!と掴み飛んで行ったのを見たことがあるが、それよりも衝撃的だったぜ。そしてカラスよ、なぜじゃが○こなんだ

 

「どーすんだ、どーすんだよこれ。なんてこった、なんてこったい!あのクソ鳥の巣なんてわかるわけねえし、そもそも巣がこの街にあるのか自体わからねえ!」

 

もしあの鳥の巣が圏外にあったらどうすりゃあ良いってんだ!

 

「OH MY GOD!これが所謂詰みって奴ですかい!?」

 

「……………それで、俺にどうして欲しいんだ?」

 

てなわけで、俺は今エギルの店に戻ってた。え?なに?早すぎるって?そんなものは知らん!シノンさんもどっか行ってたしNo problem!

 

「取り敢えずGive me ココーア!」

 

「そこはココアまで発音良く言えよ………ちょっと待ってろ」

 

エギルがココアを淹れる為に俺の目の前から離れる

俺はカウンター席に突っ伏した。マジで鳥どうしよっかな

 

「よおキリト。今日はもう終わりか?」

 

ん?キリト?

 

「ああ、疲れたよ。でも、今日は収穫があった」

 

突っ伏したままで首を横に向けるとキリトが俺の隣に座る。それと同時に俺にココアが差し出された

 

それよりも、今日はキリト一人なのか?アスナやユイちゃんはどこだろうか。もう日が沈む寸前だから部屋にでもいるのかね

 

「よぉキリっち、収穫って何ぞや。てかアスナやユイちゃんはどした?」

 

「キリっち?………アスナならまだ戻って来てないぞ。ユイは………多分部屋だな」

 

「そーなのかー」

 

今日はアスナと別行動だったのか。それで良いのか夫よ。そしてそれで良いのか嫁よ。原作では結構二人で行動してた気がするんだが………そう言う時もあるってことか?しかし、アスナよ。そんなんだからキリトがフラグ立てまくるんだよ

 

くそっ!キリトめ………このモテ男め!だが今はそんなモテ男のキリトよりあの鳥の方が憎たらしい!!

 

「どうした?シン。何か言い得ぬ顔をしてるが」

 

「何でもないんだぜ………てか、収穫って何だったんだ?」

 

「それは俺も気になるな」

 

エギルがキリトに飲み物を渡した

 

「リズと今日、ボス部屋を見つけたんだ」

 

「………なに?」

 

ボス部屋が見つかった………だと?いや、それよりもリズとって言ったか?こいつ

 

いや、なんでリズと行動してんの?あれなの?浮気なの?…………いや待て待て、まあ仲が良ければそう言ったこともあるだろう。何でもかんでも浮気にこじつけるのは良くない。彼女じゃあるまいし。ごめんねキリト

 

「そうか。七十五層をクリアしてからまだ一週間程度だが、なかなか良い滑り出しじゃないか?」

 

「あぁ、でも一度入ったら後戻りは出来ない。偵察も碌に出来ないから、クエストで得られるボスの情報を元に明日、ボス攻略に乗り込もうと思う」

 

え?明日?

 

「ちょ、ちょい待てよ。明日?幾ら何でも早くないか?」

 

そんなにボス攻略って早いものなのか?確かに七十四層からは結晶無効化空間、七十五層からは扉が閉まって引き返すことも出来ないとあったが…………確かに偵察は出来ないし、クエストでボスの主な攻撃パターンの情報が得られるらしいのでその用意をきちんとしとけば良いんだろうが、それでもボス部屋を見つけてから翌日と言うのは…………

 

いやね、喜ばしいことだよ?確かに喜ばしいことだけど危なくないかな?

 

「なにも何の考えも無しにボス相手に突っ込むわけじゃないさ。情報を基に練った戦略を使って、誰も死なずにクリア出来るようにするんだ。それに、ヒースクリフ………いや、茅場晶彦が死んだ今何故このゲームから解放されないのか。理由はわからないが何時迄もこの中にいると危ない」

 

「茅場 晶彦が死んだ…………」

 

そう言えばそんな話だったか?しかし、茅場はホントに死んでんのか?原作でも茅場本人は死んでるとは言え茅場の意思はSTL、もとい『ソウル・トランスレーター』のプロトタイプなるものでプログラムになりどこかで生き続けているらしいが

 

「………そうか、シンは知らないんだったな」

 

「?………あ、あぁ」

 

そうだ、俺は知らないことになってるんだった

 

集中しないとすぐにボロを出しそうになる。気を付けないと

 

「まあ、別に話さなくてもいいぜ」

 

だって、知ってるし

 

「そうか?………まあいいか。何より、明日は大変になる」

 

そう言うとキリトは手に持つコップを一気に傾ける

中の飲み物を飲み干すとタンッ、と置いて立ち上がった

 

「もう部屋に戻るのか?」

 

「あぁ。エギルは明日の攻略どうする?」

 

「俺も参加するぜ。一応、攻略組だからな」

 

「わかった。それじゃ」

 

キリトに挨拶を貰って二階への階段を上って行くキリトを見送る

 

…………明日かぁ。このペースでもしクリアされて行ったら一年足らずで百層まで到達してしまうな

 

「おい、シン」

 

「ん?なに」

 

エギルに声を掛けられた。なんだろうか、ココアのおかわりでもくれるんだろうか

ならば貰おうじゃないか、俺はココアを貰おうではないか!

 

「サンキュー」

 

「いや、おかわりがいるかと聞いてるわけじゃなかったんだが………」

 

なんだ、違ったのか

 

「じゃあなに」

 

「鳥の件は、いいのか?」

 

………………

 

「…………泣けるぜ」

 

俺はそう呟いたあと、椅子から立ち上がり全速力でエギルの店を跡にした

 

 

 

 

「鳥ぃぃぃ、どこだぁぁぁぁぁ!!」

 

俺の叫びは、きっと街中に轟いただろう

 

鳥ぃ………マジでどこ行った………

 

 

 




次は………やっとクエストクリアといきまっしょい


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やったー!クエストクリアだー!

 

 

クエストクリアの為の鍵を横から掻っ攫って行ったクソバードを捜すべく俺は現在転移門前まで来ている。ここから更に広場と違う方向へ進めば圏外だ

 

本当にあのクソバードが圏外に巣があるのかは俺の予想なので定かではない。だが何故か行かなければならないと言う謎の使命感が俺を襲っている

 

お、俺……鍵を手に入れたら結婚するんだ。え?誰とって?…………誰とだろ?

 

しかし、もう日が完全に沈みかけてる。早く見つけてクエストをクリアして帰らなければ

 

「でも、行かなきゃ駄目なんだろうなぁ………さあ、行こう「どこにダ?」かなぁ!?」

 

急に後ろから声を掛けられてビックリした。マジビビったっす

どんくらいビビったかっていうとのび太君が100点とった時くらいビビった。その後返ってきた俺のテストは41点だった。因みに数学

 

いや、でも………数学だから俺。のび太君は忘れたけど……俺その時中学生だったからぁ!

 

「な、なんだアルゴかよ………ビックリさせんなよなぁ全く」

 

心の中で悔しさに歯噛みする俺がいたが無視しよう

 

「すまんすまン。それデ、クエストはクリア出来たのカ?」

 

「あぁ〜………、それが……」

 

取り敢えずアルゴに話しておいた方が良いかな。何かアドバイス貰えるかもしれない

 

「実はな」

 

というわけで、俺はクエストが始まってからこれまでのことを全てアルゴに話した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふム。それで今はその鳥を捜しているのカ」

 

「そうなんだよぉ〜。ねぇ何か道具出してよアルえも〜ん!」

 

「誰がアルえもんダ。しょうがない奴だなシン太君ハ」

 

「誰がシン太だ」

 

意外にもアルゴはノリが良かった

 

しかしこの世界でもやはりドラえもんは健在だった。やはりドラえもんは偉大だな、全国民があれを見て育つべきだと思います

 

「流石にオイラにはどうすることも出来なイ。しかし、結構珍しいケースだナ」

 

「そうなのか?」

 

この世界は結構自由度高いし、こういうクエストはあると思うんだけど………まあ、自分でもよくわかってないんだけどさ

 

「ならオイラと一緒に圏外へ行くカ?守れる保障はないがナ」

 

「なんとも心強いのかどうかわからない言葉だな」

 

そこは嘘でも守ってやるって言って欲しかった。女に守られる男ってどうなの?とか思われるだろうけどこの世界じゃそんなの関係無いし。俺これから一生絶対にアスナに勝てる気がしないしアスナに胸張って「君を守るよ!」的なこと言える気がしない

 

あ、でも他の人なら………駄目だ、自信が無い。でもいつかは出来るようになってやる。最低でもシノンさんは、あとなんとなくストレア。理由はわからないけど

 

「しかしシン坊。こう言ったクエストは圏外『くぁー』行かなくてもいいと『くぁー』ゾ?」

 

「『くぁー』?なんて?」

 

何か聞こえて『くぁー』聞こえない。いったい『くぁー』を言ってるんだ?

 

「「……………ん(ン)?」」

 

『くぁー』

 

こ、この鳴き声は………!俺の後ろから聞こえるこの鳴き声は………!

 

「まさか!」

 

俺とアルゴは一斉に俺の後ろを見た

 

『くぁー』

 

そこにはあの時、あの場所で!俺達の、目の前で!鍵を掻っ攫って行ったあの憎っくき………憎っくきクソバードだった!!奴の脚にはどうやって括り付けたのか鍵が着いている!

 

「テメェェェ!!ここであったが百年目だぜ!」

 

俺はクソバードへ向かって自分の許す限りの力で突撃ぃぃ!!

 

はぁっはっはっはっ!間抜けヅラ晒しおって!

 

「捕まえたぁぁぁぁ!!」

 

これでクエストクリアだ!!

 

『くぁー(バサバサッ!』

 

「なにぃ!?んぎゃっ!」

 

なんとクソバードは俺に捕まらずにヒラリと躱して飛んで行った!

 

そのせいで俺は地面へとフレンチキス(激突)をすることになってしまった

 

「くそぅ、なんてことだ!奴は俺の動きを読んでいたと言うのか!?あの動き、あの飛び方!奴はエスパーなのか!?」

 

なんてことだ………勝てるわけがねえ。エスパーノー、ノーエスパー。ノーエスパーノーライフ!………あ、これ違うわ

 

「いヤ、あんなに大声出しながら突撃したら普通気付くだロ」

 

「でも相手は鳥だぜ?」

 

「関係あるわけ無イ」

 

「なん……だと……」

 

…………まあそりゃそうか

 

ふぅ、あのクソバードに怨みの念がありすぎてついやっちまったぜ

 

「あー、また鳥捜さなきゃならんのかい………もうやだ〜。疲れたよ〜」

 

もう完全に日が沈んで街灯も点き始めた。もうなんか、今日は疲れたよ………

 

地面に俯せで蹲っている俺をアルゴがチョイチョイと足で突いてるがもう反応する気力も失ってしまった

 

助けてえーりんならぬ助けてシノンさん。いやマジ助けてシノンさんじゃなくても良いから誰でもいいからぁ!二次でもいいから!………ここ二次元じゃん

 

「シン坊、鳥は広場の方へ飛んで行ったゾ。行かなくて良いのカ?」

 

「どうせいやしねえよ」

 

「こう言ったタイプはエリア移動を繰り返していくものだと思うんだガ」

 

「む………」

 

アルゴからそう言われると何だかそんな気がするな……

 

「オネーサンの言うことは素直に受け取っといた方が良いゾ?今回は珍しいケースだからナ。その分の働きはするゾ」

 

「むむむむ……」

 

アルゴから突っつきが速くなる。ツン、ツンからツンツンツンてな感じに変わった

 

「むむっ……わかったよ。オネーサンの言うことちゃんと聞くよ」

 

「良い子はオネーサン嫌いじゃないゾ」

 

「じゃあ付き合って」

 

「断ル」

 

「デスよね〜」

 

冗談ですよ。そんな真顔で答えないで、そして頭に足を乗せないで

 

「んじゃ、行くか」

 

アルゴの足を避けよっこらせ、と立ち上がる

 

「んじゃ、行こーぜオネーサン」

 

「悪いナ。これから依頼人と会う予定があるんダ。ジャーナ」

 

「…………」

 

そう言ってアルゴは広場ではなく商店通りの方へ走っていく。流石敏捷極振り、速い速い

 

「え、えぇ〜………」

 

そりゃねえぜ。アルゴさん

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、来ました広場。只今クソバード探索中であります」

 

そしてアルゴの言いつけ通り広場まで来た俺はクソバードがどこかにいないか首をグイングインと動かしながら探索中である

 

色んな人が俺の横を通り過ぎて行く。偶にシリカやクラインが通り挨拶をしてくれるのでなんだか嬉しい

 

「こ、こんばんわ〜……」

 

「?こんばんわー!」

 

知らない人に挨拶された。工事現場でよく見るヘルメットを被ってるのを見てそう言えば昼頃にこの人に挨拶したなー、と思い出した。でも挨拶してくれるなんて良い人だね、あの人

 

『くぁー』

 

そんな感じでほこほこしてる俺の耳に奴の鳴き声がっ

 

「見つけた!………アルゴの言う通りだったのか」

 

これはアルゴに感謝しなければ

 

『くぁー』

 

奴は丁度あのクエストを受けたお爺さんのいる場所へと続くバリケードの上にとまっていた。しかもご丁寧に向こうを向いている

 

「ゆっくり………バレないように」

 

抜き足差し足忍び足だ

 

「ふへ、ふへへへ……」

 

抜き足

 

「へへへへ」

 

差し足

 

「ふぅっはははは!」

 

忍び足ぃ!!

 

『くぁー(バサバサッ』

 

「んなっ!?」

 

マジかよ!?また飛んで行きやがった!

 

「くっそ!」

 

しくじった!高笑いなんぞするんじゃなかったぜ!

いや、だってさ、なんか笑えたんだもん。これでクリアだー!って思ったら嬉しくって

 

…………俺、疲れてんだなー

 

「でも、なんか次で最後っぽいんだよな」

 

今のクソバードが飛んで行ったのはこの道の向こう。俺の予想が正しければこの先あいつはお爺さんがいる所へ行くんだろう

もしあのクソバードが鍵を掻っ攫って行ったのもクエストのうちなら、そこでクリアしなきゃ意味ねえだろ?

 

「うっしゃ、行くか」

 

いざ行かん、クエストクリアーへ

 

 

 

 

 

「……………はぁ」

 

俺は広場から抜けてお爺さんのいる場所へと来た。予想通りここにクソバードは来ていた。来ていたんだが………

 

『くぁー』

 

「なんでテメェはお爺さんの側に佇んでんだよっ!」

 

「おぉ、君。鍵を見つけてくれてありがとうの」

 

「…………は?」

 

何言ってんだこのお爺さん。ついにボケちまったのか

 

くっ………俺が早く鍵を持って来なかったばっかりに!

 

「この子と協力して鍵を探してくれたんじゃろう?ありがとうの」

 

お爺さんはそう言いながら隣に佇むクソバードの脚にある鍵を手に取り、クソバードの頭を撫でる

 

「この子ぉ?」

 

「やっぱり一人じゃ心配じゃからのう。この、ファルクスにも鍵を探すよう頼んだんじゃ。この子は探し物が得意じゃからのう。しかし、この子は散歩が趣味でな。なかなかわしの所へ帰って来ない時もあるのじゃ」

 

「……………」

 

つ、つまりあれか?

 

俺がお爺さんの依頼をしたのはこのファルクスとやらが丁度いなかったから。そしてそれを俺が承諾した後、その散歩からファルクスが帰宅、丁度良いし俺一人じゃ心配なのでファルクスを派遣。気付かぬところでツーマンセルになってた

そして俺が鍵を持つNPCを見つけ、受け取ろうとしたところにファルクスも鍵を発見。お爺さんからの頼みなのでファルクスは鍵を奪取。それを俺が奪われたと勘違いし、追いかけっこの始まり

ファルクスとしては散歩の一環だった

そしてその散歩も終わりここへ戻ってきたファルクス。それを追いかけてた俺は必然的にここに来る、と

 

………確かにここで終わると思ったよ?確かに思ったけどね?

 

「これはねえだろぉぉ………」

 

今までの俺の努力無駄じゃねえか……

 

「どれ、そろそろ腰の調子も良くなってきたし、家に帰ろうかの。君、お礼がしたい。着いてきておくれ」

 

「なぬっ!?」

 

お礼とな!?成る程、クエストクリア報酬だな!ならば有難く頂戴しよう

 

「こっちじゃ」

 

お爺さんは足に力を入れて立ち上がるとゆっくりとした足取りで俺の横を通りとある一軒家の前まで行く。そして鍵を開け入って行った

 

「家近っ!?」

 

『くぁー(バサバサッ』

 

俺があまりの家の近さに驚いているとクソバード、もといファルクスは飛び上がり家の屋根へととまる

 

もたもたしててもしょうがないので俺もお爺さんの家へとお邪魔する

 

「お邪魔しまうま」

 

入ってみるとあら不思議、外から見た感じではちょっと洋風っぽいかなぁ、と言う家なのに中は和洋折衷。畳部屋やら襖、何故か畳部屋には明らかに洋風なランプと大きな宝箱がある

 

まさか、あれが件の鍵が必要な宝箱か。結構デカイな………中身は何が入ってるんだろ?

 

「この鍵はな、あの宝箱を開ける鍵なんじゃよ」

 

うん、知ってる。聞いたし

 

お爺さんは台所と思わしき所でコップにお茶を淹れている

 

「お茶、いるかの?」

 

「貰う!」

 

俺が言うとお爺さんはニッコリと笑ってもう一つコップを取り出しお茶を淹れる。そしてこちらに歩いて来て手渡してくれた

 

その後に椅子に移動してゆっくりと座る

 

「昔、わしはビーストテイマーだったんじゃ。ファルクスも優秀な相棒じゃった。今ではわしと同じで老いて見る影もないがの」

 

「へぇ、あの鳥テイムモンスターだったのか」

 

なんと、お爺さんは昔は凄かったのか。このお爺さんの昔話を詳しく聞いてみたい気もするが、腹も減ったし早くすませて帰りたいので早くクエストクリアのログを更新してもらいたいのだが

 

ずずっ、とお茶を飲む。うまい

 

「その箱の中には、今まで共に歩んできたわしの武具が入っておる。もう古くて使えぬ物もあるかもしれんが………ものは相談なんじゃが、君。あれを持って行ってくれんか?」

 

……………マジで?

 

「え!?………え?良いの?宝箱の中に入ってるってことは大事なもんなんだろ?遠慮しないよ?良いの?」

 

「わしじゃもうあいつを使いこなすことは出来ん。ならば使ってくれそうなお前さんに預けた方が武器も嬉しかろう」

 

お爺さんはそう言いながらほれ、と鍵を前に差し出す

 

「あ、ありがとう……」

 

俺は歩み寄って恐る恐るそれを受け取った。手の平に乗せて見てみると、一瞬だがランプの灯りに照らされてキラリと光る

 

「装備してみてはくれんかの?」

 

「あ、うん」

 

そう言われたので鍵を握りしめて宝箱の前に立つ。そして鍵穴に鍵を入れてゆっくりと回した

 

ガチャリ

 

音を立てて開く宝箱。中に入っていたのは真っ白なマフラーと………

 

「これは………」

 

手に取って見てみる

 

それは直径30cmくらいの輪っかの形をしており、輪っかの中心には持ち手なのか円を半分に割るように棒がある。更にそこにはジャラジャラと鎖が付いていた

 

輪っかの周りには3cm程の刃が付いていて、とてもシンプルなデザインだ

 

「《円月輪(チャクラム)》………?」

 

そう、そこにあったのはチャクラムだった

 

チャクラムと言えばプログレッシブの一巻に出てきたネズハ……いや、ナタクか?どっちでも良いか………が使ったシーンがある武器である

 

確か投剣スキルと体術スキルがなければ使うことが出来ない代物だ

 

「………」

 

無言でチャクラムとマフラーとを見比べる

 

この二つにはお爺さんの今までが詰まっていると言うことだ。鍵を探しただけでこんな大事な物を貰うのには少し抵抗もあるが、快く貰っておこう

 

「よし」

 

そして俺はアイテムストレージの中にその二つを入れて装備画面を開き、装備した

 

俺の首回りには真っ白なマフラーが、俺の腰の右にはチャクラムが装備される

 

「おぉ、似合っておるぞ」

 

「ありがと」

 

笑って言ってくれるお爺さんに嬉しくなって俺も笑った

 

「……お」

 

すると俺のクエストログが更新された。クエストクリアだ

 

更に体が光る。これは………レベルアップしたんだ!

 

「大事に、使ってやっておくれ」

 

「あぁ!」

 

元気良く返事をして家を出た

 

『くぁー』

 

「お爺さんと元気でやれよ!クソバード!」

 

外に出ると鳥が下に降りていて俺に一鳴きした。祝福してくれてるようで少し嬉しかった。だが呼び名は変えない

 

「帰ったらアルゴにクエストのこと報せねえとな!」

 

新しい武器も手に入ったし、防具もGET!

しかもマフラーなんて、GGOシノンさんとお揃い!

 

「さぁ、帰ろう!」

 

俺は帰ったら皆にこれらを自慢しまくると決めて、エギルの店に向かった

 




はい、というわけでシンの武器はチャクラムになりました。いや、剣を使わないわけじゃないですよ?使い分けします

でもチャクラムだし………がっかりした人も多いかもしれないなー。まあいいや
次からは………やべえ、どの時点でホロウエリアのストーリーをクリアすればいいんだろう?


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嫌な夢を見た。最悪な夢だ

 

 

「なあ、見てくれよこれ!カッコよくないか!?」

 

俺は今日手に入れたチャクラムを上に持ち上げて大声を上げる。今回のクエストをクリアした喜びを全力で表さなくては

 

今この場には俺を含めフィリア以外は全員いる。勿論ストレアもだ。周りがガヤガヤと騒いでる中俺もそれに負けじと騒いでいる。因みに自慢はこれで3周目に突入にしていた

 

「ほら!なあ、ユイちゃん!」

 

チャクラムを向けるとユイちゃんはニッコリと笑って返してくれた。その様子に隣にいたアスナも微笑み、そのまた隣のキリトはこちらを横目で見て笑いながら飲み物を口に運ぶ

 

その反応を見て俺は満足し、次はシノンさんとリズベットが座っている方へ向けた。視界の端にはクラインだ

 

シノンさんはやれやれ、と言った感じで息を吐いて料理を口に運ぶ。リズベットは机に肘をついて苦笑いしていた。視界の端のクラインは知らない、きっとカッカッと笑ってるんだろう

 

「しかもマフラーまで貰ったんだぜ!」

 

次にシリカとピナ、リーファの方へ向ける。二人ともリズベットと同じように苦笑い。まだ3周目だぞ?頑張れ頑張れ

 

………そうだ!

 

「ストレア!チャクラムがあれば石とか拾わなくて済むな!」

 

今度はストレアに向けてそう言った。ストレアとはこの前俺の投擲についてちょっと話をしたので一応の報告だ。これで剣を取りに行かなくてもよくなるしな

 

そしてその言葉にストレアは満面の笑みで答えてくれる。後ろからエギルが歩いて来て、まだやってるのか、と言わんばかりに肩を竦めた

 

「なんだよエギル〜、お前はまだ1周目だろ?ほら!」

 

遠くで見てたのかもしれないがエギルに自慢するのはこれが最初だ

 

エギルにグイグイと押し付けているとストレアが店の入り口に向かって手を振る

 

「ん?」

 

誰か来たのか?気になって俺は手を振る先を見た

 

「…………お!フィリアじゃん!」

 

そこにいたのはフィリアだった。俺もストレアと同じように手を振ると小さくだが返してくれる

 

……あれ?ストレアとフィリアはいつの間に知り合ってたんだ?いや、周りの雰囲気を見るに皆知ってるぽいけど………まさか俺がいない間にフィリアと会ってたんだろうか。交友関係とはどこで広がるかわかりませんなぁ……

 

そうだ!フィリアにも自慢しよう!

 

「どうよフィリア!これ俺がクエストクリアして貰ったんだぜ!」

 

こちらに歩いてくるフィリアにチャクラムを見せる。ジッとチャクラムを見た後、周りの様子を見て何だか察したようで肩を竦めたが、少し微笑んでくれた

 

その後に俺の横を通る。シリカが手招き、その隣に座った

 

「てか、皆フィリアのこと知ってるっぽいけどさ、いつの間に知り合ったんだ?」

 

俺がそう聞くと皆顔を見合わせる

 

?俺なんかおかしいこと言ったか?

 

「あぁ、それと」

 

もう一つ疑問があるんだった

 

「…………なんで皆、何も喋らないんだ?」

 

さっきからずっとそうだ。自慢ばかりしていたが、誰も何も言ってくれない。返ってくるのは笑顔や苦笑い、呆れた様な表情だけだった

 

俺がそう言うと又もや皆顔を見合わせ、困ったような顔をした

 

それに、他にもつい今し方、違和感を感じている

 

「フィリア、お前カーソル……」

 

フィリアのカーソルがオレンジではなく緑色だったからだ

 

つい一昨日まではオレンジだったはずだ。カルマクエストを受け、クリアしたと言うのならわかるが…………言わせてもらうと、そんなことはまずない。だってそんな簡単に緑に戻れるのならわざわざホロウエリアでオレンジカーソルでいた必要性がない。ホロウフラグメントと言うゲーム的に、だ

 

一見喜ばしいことだが、逆に今の状況じゃ違和感がありすぎる

 

そこまで考えると同時に、エギルが背を向けて歩き出した

 

「ちょ、待てよエギル」

 

カウンターに戻るつもりなんだな?だけどまだ話は終わってないぞ!

 

呼び掛けても止まらないエギルを追いかけ、肩に手を置こうとしたところ

 

パリィン

 

「え?」

 

エギルの姿が、ポリゴン片となって砕け散った

 

「…………え?」

 

エギルだったポリゴン片が床に落ちて消えていく

 

それを見た瞬間、言い得ぬ恐怖が俺を襲った

 

パリィン

 

「っ!!」

 

後ろで先程と同じ音が聞こえ、慌てて振り返る

 

皆が俺をジッと見つめていた。…………いや、皆じゃない

 

「クラインは!?」

 

クラインの姿が失くなっていた

 

「皆!クラインが!!」

 

パリィン、パリィン

 

「っ!!」

 

又もや音がした。急いで向くと、そこにはさっきまであったシリカとピナの姿がない

 

「シリカッ、ピナ!」

 

これは、これは一体どう言うことだ!?何が起こってる!?システムのバグ?エラー?わからない!!

 

「皆!なんで座ったまんまなんだよ!!」

 

俺は叫んだ。この状況なのに、誰一人としてなに食わぬ顔で俺を見ている

 

「何してんだよ!!今何が起こってるか理解出来てないのか!?」

 

俺も完全に理解出来ているわけじゃないが、何かヤバいことが起こってるってことはわかる!!

 

俺が叫ぶと、ゆっくりと立ち上がり始める

 

「くそっ、何が………」

 

俺はシリカがいた場所に何かないか見てみる。………何も無い

 

「リーファ!何かシリカに変化とk(パリィン)え……」

 

今度はリーファがポリゴン片となり砕け散る

 

少しの間呆然としていると、リズベットが俺の目の前に来て俺の肩を叩き

 

パリィン

 

砕け散った

 

「っ………!?」

 

俺はその場にへたれ込む

 

なんなんだこの状況、訳がわからない。涙が溢れてきた

 

「…………ストレア」

 

手を持ち上げられた。持ち上げたのはストレアだった

 

フィリアも心配してか俺の横で膝をつく

 

「ストレア、何が起こって……」

 

俺はストレアを見る。ストレアは俺に微笑んで、手をギュッと握ってくれた

 

パリィン

 

「フィリアっ!?」

 

今度はフィリアがポリゴン片になった。ストレアの手を力強く握りしめ、言い得ぬ感情に耐える。目からは涙が溢れ出し、顔はグシャグシャになっているだろう

 

ストレアの力を借り立ち上がる

 

「ユイちゃん……キリト、アスナ……シノンさん……」

 

まだ残っているだろう四人を捜した。すぐ近くに見つけ、安堵の息を漏らす。キリトとアスナ、そしてユイちゃんに近付き、ストレアと握っていない方の手を伸ばした

 

そんな俺を見てキリトとアスナは微笑んで、ユイちゃんはニッコリと笑う。そこにシノンさんが歩いて来る。キリトとアスナと同じように微笑んだ

 

パリィン

 

そして四人はポリゴン片となった

 

「あ………あぁ……ああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

触れようとした瞬間、ポリゴン片となり俺の手を素通りして落ちて行く

 

「なんで………なんだよ、これ。なんでこんな……」

 

ストレアに縋るように泣き付く。訳がわからなかった。涙が溢れてくる。皆はどこに消えてしまったんだろうか?…………死んだ?やめろ、考えたくない

 

「……………大丈夫」

 

不意に、ストレアに頭を撫でられた

 

「シンは、もう大丈夫だよ」

 

大丈夫?何がだ。皆消えてしまった。なんで消えてしまったんだ。なんで俺とストレアだけが残ったんだ

 

「アタシがいなくても、大丈夫」

 

「……………え?」

 

パリィン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

俺は叫びながら跳ね起きた

 

「ハァ、ハァ…………あれ?」

 

周りを見渡す。ここは俺の部屋だ

 

「今のは………夢、だったのか」

 

息を整えて頭の中を整理する

 

「ハ、ハハ………よ、良かった。あんなこと、夢じゃないわけが…………あれ、どんな夢だっけ?」

 

夢の内容を忘れてしまった。思い出そうと必死に唸るがどうも思い出せない。何かここまで出かかってる気はするんだが…………何故だか思い出すのを拒否するかの如く何も出てこない。おかしい、起きた直前は確かに覚えてたっぽいのに

 

まあ、恐い夢だったのだから思い出す必要も無いか

 

「汗びしょびょだな………。まあ着替える必要もないから良いけど」

 

頰に流れる汗を拭い立ち上がる。手早くウインドウを開き、操作してマフラーを着用した

 

グシャグシャになっている布団を直して部屋を出る。現在の時刻は朝10時、完全に寝過ぎだな

 

「…………あ」

 

階段で一階に下りるとシノンさんが座ってお茶を飲んでいた。カウンターにはエギルではなくNPCがいる

 

「………あれ」

 

頰に何かが伝うのを感じた。触ってみると濡れている

 

…………泣いてる、のか?俺

 

「シンじゃない。おはよう」

 

シノンさんが俺の存在に気付いたらしく挨拶をしてくれた

 

「お、おはようシノンさん!」

 

慌てて顔を拭って笑顔で答える

 

シノンさんの顔を見て、シノンさんの声を聞いて何故か物凄く安堵している自分がいる。一体どうしたんだ?夢の内容が何か関係あるのかもしれないな………

 

…………まあいい

 

「シノンさーん、見て見て!マフラーだぜ!」

 

「はぁ………また?あんた昨日も散々自慢してたのにまだ足りないの?」

 

夢の内容なんか気にする必要は無い。深く考えるのは辞めだ、ユイちゃんに言われたからな

 

楽しく、笑って、また今日を過ごそう

 

 

 

 

「わかってないな〜、シノンさんだから自慢してるんだよ!」

 

「なにそれ、どういうこと?」

 

「シノンさんも是非マフラーを!」

 

「嫌よ、あんたとお揃いだし」

 

「そ、そんな………」

 

「ちょ、ちょっと、そんなに落ち込むことないじゃない」

 

「じゃあマフラーを!」

 

「それは嫌」

 

「……………orz」

 

「……………はぁ」

 




急に砕け散って行く仲間達、俺なら精神崩壊起こしてるかもしれない


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断言してやる。死なないってな

 

「エギルいないな………ココア貰おうと思ったのに」

 

「今日はボス攻略でしょ」

 

「あ、そうか」

 

カウンターに何時もの色黒巨漢がいないと思ったら今日はボス攻略戦だった。確か昨日エギルも参加するとか言ってたな

 

そうなるとキリトやアスナ、クラインとかも今はいないのか。主要キャラだし皆の強さは大体知ってるので死ぬことはまず無いと思うが、少し心配だな

 

だとすると俺は何しようか?やっぱりレベリングが一番か

 

どこでやろうかな〜。アークソフィア周辺だったら安全……ではないけどなんとかなるかな?ヒット&アウェイ、的な?

 

「…………」

 

ふと、ゆったりとお茶を飲んでいるシノンさんを見る。今日も麗しいですねシノンさん。思えば寝起きに生シノンさんを見れる俺は全シノンさんファンに背中を刺されても文句は言えないかもしれない。俺の背中が狙われて……いる…?ブルッとくるぜ

 

「なに?」

 

俺の視線に気付いたのかシノンさんが聞いてくる

 

……………ん〜

 

「何よその、何て言おう、って感じの顔」

 

「凄いなシノンさん。当たりだよ。まさか……以心伝心!?」

 

ヤバい、胸がときめいたよ今の

 

「馬鹿じゃないの?そんなことあるわけないじゃない」

 

「デスよねー」

 

知ってる。ときめきも多分嘘だね

 

…………そう言えばシノンさんのレベルとかはどうなってるんだろう?スキルとか。公式サイトでは弓持ってるとこを見たけど、やっぱり弓使うのか?でもSAOに弓なんて武器ないし。………もしや、ユニークスキル!?

 

「流石シノンさんだぜ」

 

「は?」

 

「あ、いやなんでもない。ちょっと口が……」

 

やっべ、思わず口に出してしまった。そのせいでシノンさんから冷たい視線が突き刺さっている

 

シノンさんのエターナルフォースブリザード・アイ!!

効果ッ!俺は死ぬ!!

 

「ぐふぉ……」

 

そして俺の目の前は(机に伏せたから)真っ暗になった

 

「わけわかんない奴」

 

シノンさんはお茶を飲みながらそんなことを仰られた

 

「うぐ……」

 

シノンさんにわけわかんない奴とか言われた………。ショックだぜ!OH MY GOD!!

 

「「………………」」

 

暫しの沈黙が俺達の間に発生する。カチャリと食器の音が鳴った

 

「はぁ……(この後どうしようかな……)」

 

た、溜息………!?そんなに俺は訳がわかりませんでしたか!穴があったら入りたいですちきせう

 

…………てか、なんかテンションが変な感じになってんな。怖い夢を見たせいだろうか………、俺が思ってる以上にシノンさんといることが楽しくなってる?

 

「こんにちは〜。…………あれ?お二人だけですか?」

 

ん?

 

「こんにちは。シノンさん、シンさん」

 

『キュルルルルル』

 

声の主の方を向くといたのはシリカとピナだった

 

「シリカ………?」

 

「はい」

 

シリカ……シリカじゃないか!!

 

「よっすシリカ!ピナをもふらせてくれ……!(キリッ」

 

「え?……はい、良いですけど」

 

ぃやったね!ずっともふりたいと思ってたんだよね〜

 

「ほら、ピナおいで〜」

 

俺はピナをはしっ!と掴み抱き寄せる

 

おぉ………このもふもふ加減、堪りませんな……。流石フェザーリドラ。羽みたいなこの触り心地、なんかずっともふもふしてたい気持ちになる。めっちゃ和む

 

「よーしよしよしよしよしよしよしよしよし」

 

『キュルルルルルルル』

 

あぁ、マジ可愛いなんだこいつ。癒し系No.1だな

いや、しかし癒しと言えばALOシノンさんも負けてはいない。あの猫耳を是非とも触ってみたいものだ。そう言えばシリカも猫妖精だったな。猫耳シリカもなかなか可愛いと俺は………うん、可愛い。あれも癒しだ

 

そうだ。試しに二人ににゃー、と鳴いてもらお………いや、駄目だ駄目だ!それは色々とマズイ。てかテンション変になってるにも程があるだろ!だいたい二人になんて言うわけ!?癒されたいからにゃーって鳴いてください?俺が社会的に死ぬぞこれ

 

くそっ、どうすれば良いんだ?………そうだ

 

「シリカ。ピナを俺にくれると俺がとても嬉しい」

 

主に癒し的な意味で

 

「駄目ですよ!?」

 

「必ず幸せにするから!」

 

「娘を貰いに来た彼氏ですか!?もう!おいで、ピナ!」

 

『キュルルルル』

 

シリカが呼ぶと俺の腕の中から鳴きながら飛び、シリカの元へと戻るピナ。くっ、やはりこんな男より可愛らしい女の子の方が良いってことか………!そりゃそうだろう、俺がピナなら絶対そうする

 

「何してんのよあんたは」

 

「いやだってさシノンさん。ピナあれじゃん?もっふもっふだぜ。もっふもっふ!」

 

「はいはい、わかったから」

 

むむ、ピナのもふもふさがシノンさんには伝わってないようだ。わざわざジェスチャーも加えたというのに………。シノンさんには是非とも理解してもらいたい心地良さだね

 

「…………そう言えば」

 

シノンさんになんとか伝わらないかとジー、と見ていると何故か睨まれ目を逸らした俺にシリカが尋ねるように言う

 

「シンさんて、シノンさんだけさん付けですよね。会ってあまり経ってないですけど、私のことはさっき呼び捨てで呼んでましたし」

 

「え?…………あぁ〜、え?あ、うん」

 

シリカから突然なる質問をされた。会ってあまり経ってない、と言うところに少し違和感を感じるのはやはり俺がここに来る前は皆のことを知ってた名残なのか………ユイちゃんは呼び方変えたけど、他の人達はそのまんまだったな、そう言えば

 

「そう言えばそうね」

 

シノンさんもこの話に食いついてくる。と言っても、そこまで興味は無さそうだな……

 

「何か理由があるんですか?」

 

シリカもシリカでなんだかワクワクしながら聞いてくる

 

……………ん、あ……えぇ〜?これ、どう答えれば良いんだろ?マズイ、言い訳が思いつかない

 

「え、と……シノンさんはさん付け嫌い?」

 

「別に」

 

取り敢えずはぐらかそう。これはあかん、こういう系はあかんよ

 

「まあ別にいいじゃん?アレだよ、なんかその……シノンさんはシノンさんかなぁ〜って感じ?」

 

ここで憧れてるからです、なんて正直に答えたらまた訳わからん状態になってしまう。どこを見て憧れたの?とか、どこに憧れる要素があったの?とか聞かれるに違いない。主に前者はシリカ、後者はシノンさんにだ

 

そうなると答えを言う時になってボロが出る可能性がある。それの言い訳とかもしなきゃならないので面倒臭いし怪しまれる

 

「ふ〜ん、そう」

 

シノンさんは自然と納得してくれたみたいだ。元々興味無かったんだろうな………。それかどう呼ばれても良いとか思ってんだろう。まさかのまさかで俺に関心が全くと言って良いほど無いとか……?それはそれでまあ、うん。構わないんだけどね。心に突き刺さる言葉を直接言われなければ中ではどう思っててもどうでも良いと思うのですよ俺は

 

…………んで、シリカは……

 

「何かありそうですね……」

 

こいつ何気鋭いぞ!?

 

「ないない、何もない」

 

俺は否定の意を表すために右手を顔の前で振る

 

てかなんで今回はこんなに怪しんでるんだ?顎に手を当ててまるで「私、探偵です」とでも言うように俺をジロジロ見ている。何故前回俺が言い訳をした時にはすんなりと納得したっぽかったのに………シノンさんが納得してるとこを見ると、前回と正反対じゃねえか

 

視線が……シリカの視線が非常に痛い

 

致し方ない、ここはっ!

 

「あっ、そうだ!俺、誰かに用があるんだった!!んじゃ、バイなら」

 

振ってた右手をシリカに手の平を見せるようにビシッ!と突き付けた後に走り出す

 

「あ、ちょ……シンさん!?」

 

「あばよとっつぁん!」

 

シリカが探偵ならば俺は泥棒か、某3世の真似をして俺は去る!あ、あれのライバルは警察か。だったらあれだ、じっちゃんの方だ。となるとシリカはホームズですかい(笑)

 

…………取り敢えず、ホロウエリアへと避難しようかね。あそこはキリトがいないと他の奴は来れないし。まあ、特に何かするわけじゃないけど、フィリアがいれば軽くお話でも

 

てなわけで、ホロウエリアへとレッツゴーだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か、って。誰よ」

 

「………さぁ。でも、あの反応は……(シノンさんだけさん付けをすることと言い、シノンさんにだけはなんか接し方違いますよね………微妙にですけど。これは………恋愛の匂いがします!)……ふふ…」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

何やら変な誤解をされた気がしないでもないが………全面的に気の所為だろう。エギルの店から走り出した俺は真っ直ぐ転移門まで走って現在転移門の広場に入ったところだ

 

「ん?」

 

転移門前に見慣れた小さい影がある

 

「ユイちゃんじゃないか。何してんの?」

 

そのまま無視するってのも頂けないので声を掛けた

 

「あ、シンさん。こんにちは」

 

「あいこんにちは」

 

「実はさっきまで攻略会議がここで行われてて、攻略組の皆さんがボス戦に向かったところなんです。と言っても既に30分は経ってますが」

 

「へぇ、じゃあキリト達が帰ってくるのをここで待ってるのか」

 

30分前か………朝早くから行ってるのかと思った。それよりも、もしかしてずっとここで待ってるのか?なんて健気なんだユイちゃん………お兄さん涙出ちゃう

 

「と言うか、ここら辺を散歩してる、の方が正しいですね。いつもしてますから」

 

………あ、そうなの

 

「でも、ボス攻略なんだからそう短時間で終わりはしないだろ」

 

実際はどうか知らないが、何せボスだ。何時間かかるかなんて俺は知らない

 

「そうですよね」

 

うん、そうそう。あれ?でも本の描写だとそこまで時間経ってないように感じるな……。ま、本だしそんなもんか。アニメなんか30分程度で終わってるからな。実際は知らんが

 

……………

 

「やっぱ心配?」

 

「え?」

 

「いや、なんか顔がちょっと不安そうに見えたから」

 

「…………実は、ちょっとだけ。攻略組の皆さんやお二人が強いのは知ってます。それに信じてますけど、何があるかわかりませんから」

 

うむ、やはり心配なんだな。そりゃそうか、なんたってパパとママだもんな。心配じゃないわけないだろう。俺もこの歳になって反抗期を迎え………迎え?たよな?うん、迎えてるけど親には死んで欲しくない

 

しかし俺はあの二人、そして他の主要キャラが死んでしまうとは思えない。他の奴らはどうか知らんが……きっと死なないと信じたい

 

だから俺は胸を張ってこう言おう

 

「大丈夫!」

 

ユイちゃんの目線に合わせるようにしゃがむ

 

「キリトもアスナもクラインもエギルも、ユイちゃんの大切な人は絶対死なねえよ。勿論、攻略組じゃないリズベット達もな。この先絶対にねえ。断言してやる」

 

俺っていうイレギュラーがいる分、どういう風に進むかわからないがストーリー的に何ら問題は無いはずだ。大まかに行くと残り二十五層をクリアする話だろ?あとホロウエリア。茅場が今どこで何してるかは知らねえが関与してくることはまだ先だろうし、何よりしてきても問題は無くね?………いや、あるかもしんないけどそん時はそん時だ。何より攻略サイトにあったキャラのCVが某無駄無駄ァ!と同じ人がいた時点で俺は須郷絡みだと思ってる。悪役繋がりではあとPoHもいるな

 

これらを見て、俺以外のイレギュラーだと判断出来るものが出た場合は俺の仕事だ。それらに他の皆を巻き込むつもりなど一切無い。もし巻き込んだとしてもこの命と引き換えにしてでも守る気だ。今のところ口だけだが……。ま、俺としては自分もいてハッピーエンドが嬉しいのでそんなことは無いことを願うのだが

 

そうならない為にも、早く強くならないとな

 

……と、まあ考え始めるとどんどん深くなっていくのだが、思考に没頭するのはここら辺で終わろう

 

「シンさん、聞いてますか?」

 

「ごめん、聞いてなかった。なに?」

 

何故ならさっきから呼ばれていたからだよ。全然気付かなかった。思考に没頭するのも程々にしないとな

 

「ですから……シンさんもですか?」

 

「俺………?」

 

俺も、とはどう言うことだ?

 

「それはつまり、俺も死なないか?と言うことでOK?」

 

「はい」

 

ふむ、成る程成る程………

 

「約束はしないね」

 

「えっ!?」

 

いや、驚かれても

 

「そ、それはおかしいです!自分の安全は約束出来ないのになんで他人は無事だと言い張れるんですか!?」

 

何やらアタフタとまくし立ててるが……いや、そうは言われてもな。根拠なんて話してもユイちゃんにはわからないし

 

「いや、だって俺弱いし」

 

「だ、駄目ですよ!約束してください!!」

 

ん〜………

 

「『絶対に死なないって!』」

 

「え?」

 

ユイちゃんの声に、誰かの声が重なった

 

「ん?ん?」

 

誰かが合わせたのか?俺はその主をキョロキョロと首を回して捜す。何の意味があってこんなことをしたのか知らないが、どう言うつもりだ?てか、イントネーションがと言うか、含まれてる意味が違ったような気がした。まるで俺に、君は死なないと断言してるように

 

「聞いてるんですか!?」

 

「ちょ、ちょっと待って……」

 

いない。転移門には現在、昼時前にしては早すぎるのだがそこら辺のレストランにでも行ってるのか全く人通りが無い。いつ次の層がアクティベートされるかわからないからな……まあわからんでもないが

 

となると、ここに来てからもう数回起こってるアレか。頭に響いてくる感じだったし、一体なん『ザー』アレ?考えるのもメンドイ『ザー』考えないけ…ど………なんだ?ノイズ音?

 

…………止まった

 

まあいいや

 

「それじゃ、ユイちゃん。俺はホロウエリアに行くから」

 

「まだ話は終わってません!あ、シンさん!」

 

何やら面倒なことになりそうだったからユイちゃんを避け転移門へとダッシュ

 

「転移、"ホロウエリア管理区"」

 

「帰ったら覚えておいてくださいね!」

 

…………うん、なんか後が怖いな

 

私怒ってます、って感じのユイちゃんを尻目に見ながら俺は青い光に包まれ転移する。次に目の前が移り変わりホロウエリア管理区へと

 

「…………」

 

まあいいやと言っておいてなんだがやはりさっきのアレが気になる

 

『絶対に死なないって!』、ね

 

「『俺だって、死にたいわけじゃないよ』」

 

俺の声がさっきのように、誰かと重なった気がした

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってんの?」

 

「あ、フィリア。別になんでもねえよ」

 

「ふ〜ん………丁度良かった。付き合ってくれない?」

 

「………え?」

 

 

 

 

 




そう言えば情報遅いかもしれないですけど、来年にもまたSAOのゲーム発売するんですよね。確か舞台はALOとか
それまでに終わるかな……(遠い目)


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フィリアの手伝い

 

 

「丁度良かった。付き合ってくれない?」

 

ホロウエリア管理区に転移してすぐにフィリアに会えた、と思ったらフィリアから付き合って欲しいと言われた。一瞬頭の中に我が世の春が来たァ!!と叫んだ俺を剣で斬り伏せる。そういう付き合ってじゃないからね?男女交際とかそう言うのじゃないからね?てか、俺って飢えてんのかな………付き合うっていう単語を聞いただけでこうなるとは……

 

「付き合うって、何に?」

 

心の中での一瞬の葛藤を何とか乗り切った俺はフィリアに聞く。付き合うって、買い物か何か?荷物持ちですねわかります。沢山買い過ぎて前が見えなくなるんですねわかります。一度は女の子とお買い物行ってみたいですわかりますよね?(必死)

 

「武器を強化したいから、素材集め手伝って欲しいんだけど」

 

素材集め?

 

「ってことは、フィールドに出るんだよな」

 

「当たり前でしょ?」

 

「…………ふむ」

 

素材集めを手伝って欲しいのはわかったが、何故俺なのかがわからん。俺のレベルは低い、そして弱い。チャクラムを手に入れたとしても、フィリアの邪魔にしかならないと言う確信があるって言うか………だいたいデメリットはあってもメリットはないよな?丁度良かったからと言っても………あ、もしかして囮か?いやいや、そんなことするような奴じゃないってことはわかるし

 

「ほら、今回はマッピングじゃないし、必要な素材を落とすモンスターがいる場所もわかってるから。レベル的にも余裕だし、あんたを守りながらでもいけるよ。………それに、暇でしょ?」

 

「…………そう言うことなら」

 

なんだ、一人じゃ寂しいのか?可愛いなおい。………いや、違うな。目がちょっと泳いでることから何か別の理由があるのかもしれない

 

…………まさか、こう考えると自分の良いように解釈している気がするが、前回のことを気にして俺を気遣ってくれているのか?あれは全面的に俺が悪いと思うんだがな

 

「ダメ、かな?」

 

フィリアが恐る恐ると言った感じに聞いてくる。ちょ、そのダメかな?のイントネーションはダメなやつ!断れなくなるやつだから!!

 

「手伝わせていただきます」

 

「別にそんなに畏らなくても」

 

はっはっはっ、何を言ってるのですかフィリアさん。そんな風に聞かれて男が断れると思ってるのですかい?断るとしたら多分キリトぐらいじゃないかな。「あ、ごめんシリカと用事が……」みたいな感じで断るに違いない。キリトじゃない俺は断れません!!………あぁ、フィリアが可愛くて生きるのが辛いとはこのことか

 

「役に立てるかわからねえがな。だけど俺の新武器、このチャクラムで頑張るぜ!!」

 

ババーン!と効果音が付きそうな感じでチャクラムを見せ付けるように俺は持ち上げる

 

そう言えばまだフィリアに自慢してなかった気がする。が、しかしあまり長引いてもダメだからここまでで置いておこう

 

「期待してる」

 

「まっかせろぃ!」

 

期待されちゃった。よっしゃ頑張るぞ!

 

それに、この鎖付きチャクラムで出来るか試したいこともあるしな

 

「それじゃ、行こう」

 

「ああ」

 

フィリアからパーティ申請が来て、Yesを押しながら答える。視界の端に一本のHPバーと、フィリアの名前が出る

…………張り切っていかないとな。迷惑は掛けないように、しっかりしないと

 

そして俺達は転移の光に包まれて、ホロウエリアへと向かった

 

 

 

======================

 

 

 

シンとフィリアの二人は樹海エリアの神殿のような建物の前へと転移する

 

「早速モンスターがいるな………うへぇ、相変わらずカーソル真っ赤っか」

 

二人の視界の先には数体の骸骨が武装し、剣と盾を持ったモンスター、《パワードスケルトン》がいる。どれもレベル80後半とシンより遥かにレベルが高い

 

「一、二、三体か………フィリア、どうする?スルーして行くか?」

 

右の方に二体、左に一体のスケルトン。右のスケルトンと左のスケルトンの間は大きく開いている

 

「出来ればそうしたいけど………あいつは倒さないと駄目かな。あっちの方向に目的地があるから」

 

「となると、一体か………。んじゃ、まずは俺がチャクラムでタゲをとるからそっからの主な攻撃をフィリアに任せる。俺も出来るだけ参加はするから」

 

「無理はしないようにね」

 

「わかってる」

 

シンは頭のスイッチを切り替える。さっきまで表情豊かだった顔が無表情になり、その目には一体のパワードスケルトンを見据えている

 

チャラ、と手に持つチャクラムの鎖が揺れた

 

「(チャクラムの射程距離はだいたい7m。ギリギリのところで投げて変に失敗するよりも、確実に当てて、少しでもダメージを与えておいた方が良いな)」

 

考える。レベルが低く、攻撃力は未だしも防御力では現時点でダメージディーラーであるキリトに大幅に劣るシンは、このホロウエリアのモンスター一体一体が自分を殺すことなど容易いことを何時も心に留めておいておかなければならない。それ故に油断は許されないし、今は一撃くらい受けても死にはしないだろうが、それが死に確実に直結する為にそれを受けることすらも避けなければいけない

 

チャラ、とチャクラムに付いている鎖が鳴り、シンは走り出した。それに遅れてフィリアも走り出す

 

シンの持つチャクラムは鎖が付いている分、あまり長いと持ち運び難いため普通のチャクラムよりも射程距離が遥かに劣る。それをアルゴに教えて貰ったシンが「マジかよ……」と嘆いたのは記憶に新しい

 

「ふっ!」

 

5m程離れた場所でシンがスケルトンに向かってチャクラムを放つ。ジャラジャラ!と鎖が伸びる音を立てながら真っ直ぐにスケルトンへ向かう

 

「…………げっ」

 

ガインッ!

 

だがチャクラムはそんな音を立てながら弾かれた

 

スケルトンがシンの存在に気付いてなかったわけじゃない。その証拠に、丁度今シンの存在を確認し武器を構え、攻撃する為に向かって来ている

 

何故弾かれたのか?理由としてはとても簡単で、運悪く盾に当たってしまったからだ。後ろを狙ったはずなのにスケルトンが向きを変えて盾に当たった。何とも運が悪い。だが、当たった盾を持つ腕もあらぬ方向に弾かれてスケルトンの行動を遅延させるくらいは出来ただろう

 

「んなろっ!そりゃねえぜ!」

 

向かってくるスケルトンに対して、シンは急いで右腕を引いた

 

またジャラジャラ!と音を立てながらチャクラムが動き、シンの手元へと戻ってくる

 

鎖付きのチャクラムはこれが利点だった。帰ってくるのを待つのではなく、自分の意思で手元に戻すことが出来る。そして落とした時なども取りに戻る必要はない

 

『〜〜〜!』

 

スケルトンが変な声を上げながらシンへと剣を振り下ろした。既に手元にチャクラムが戻って来ていたシンは左へ大きく転がることでそれを避ける。そしてそれと同時に距離をとった。スケルトンはそれを追いかけようと向きを変える

 

「やぁっ!」

 

だが、そこにフィリアが斬り込んだ。そのことでターゲットがフィリアへと変わる

 

フィリアはスケルトンの攻撃を巧みに躱し、時には武器で防ぎ攻撃をする。シンも横から、さっきのように盾に弾かれないようにチャクラムを使いダメージを与える

 

「はあぁぁぁ!」

 

フィリアの武器が光る

 

短剣四連撃スキル、《ファッド・エッジ》がスケルトンに命中した

 

そしてスケルトンはポリゴン片となり砕け散り、フィリアとシンに経験値が入る

 

「…………うむ、なかなかですな!」

 

早くも何時ものスイッチに切り替えたシンは笑顔で言った。チャクラムの使い勝手に満足がいったらしい

 

「なんだ、結構戦えてるじゃん」

 

フィリアが先程の戦いを見て言う。シンの動きは慣れたものではなかったが、十分に通用していた

 

「いやぁ、伊達に毎日剣振ってないし、シュミレーションもしてないぜ。………でも、今のは殆どフィリアがやってるみたいなもんだったな」

 

若干照れた後、苦笑いして答えた。それにフィリアは「そんなことない」と首を振る

 

「それだけ出来れば十分だと思うよ」

 

「そ、そうか?………ま、役に立ってんならそれでいんだけどよ。それより早く行こうぜ。リポップする前によ」

 

進行方向をちょいちょい、と指差しながら言うシンに、フィリアは「そうだね」と答える

 

「ここからは走って行こうか。出来るだけ距離を開けないように、倒さなきゃ駄目なモンスターは私が指示するから初撃はよろしく」

 

「わかった」

 

頷くシンを見てフィリアは走り出し、シンもその後に続くように走り出した

 




思うんですけど、既に二十数話なのに今頃この話ってどうなんですかね


※2020/02/14 視点変更箇所に
       ======================
       に変更


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スライムと言えばドラクエが真っ先に出てくる

いやぁ、遅くなってしまってすみません
これからもこんな感じが続くと思いますがどうかご了承ください

…………そして

皆さん気になってるよね!?キャラ達のシンへの印象コォナァァァァ!!
気にならないなんて言わせない、そんなこと言う貴方の頭をブレイクスルー!御構い無しにいくぜ!

これを見れば一目瞭然!さあ行きましょう

注)これはあくまで現在のことを表すものである!
因みにシノンさんだけさん付けだが気にしないでほしい


『キリト』
見た目に反して幼い、なのに自分より背が高いから若干複雑。ユイと一緒に話しているのを見てどうしても歳の近い兄妹に見えてしょうがないのが不思議

『アスナ』
キリト同様ユイと歳の近い兄妹に見える。だけど見た目も相まって息子ではなく弟みたいな感じ。弟がいたらこんな感じかな〜っていう感じ。無茶をしないか心配

『ユイ』
よく話をする人No.1。頭を撫でてもらうと気持ち良い。見た目よりも幼いと思っていて、なんだかとても接しやすい。兄というものはこんな感じかなと最近思っている

『シリカ』
変な人………変人?と言うかどこか理解出来ない人
シノンさんに対して恋心を抱いているのでは?と勘違いしている

『ピナ』
クルルルルキュルル、クルルルル、キュルルルルルルルル
クルル、キュルルクルル
注)ピナ語

『リズベット』
変人かと聞かれれば悩むことなく変人。というかバカ?
アスナに説教されているのを見て笑っている
何で偶に関西弁になるのかがわからない

『リーファ』
よくわからない。でも話していて不快ではないから仲良くはしていきたいと思っている
人の目を気にせずに行動するところを尊敬していいのかどうか迷っているが凄いと思っている
そして実はまだ女の可能性は無きにしも非ずでは………!と考えている(何故だ)

『シノンさん』
変人。バカ
話していて不快ではないがよくわからない発言が多いので困る。もう少し落ち着いてほしい

『ストレア』
誰にも迷惑掛けずに頑張ろうとしてる頑張り屋。でも何言ってるかわからない時がある
どこかで会ったことがあるかもしれないけど思い出せない。白が似合う

『フィリア』
結構戦えるのが意外。もしかしたら頭の回転が速い?
テンションが高いしよくわからないことを呟いているのがなんか変。でも結構いい奴だと思ってる

『アルゴ』
お得意先だったジンの形見のような奴
だから少しは気に掛けてやろうと思っている
話していると案外面白い

『クライン』
面白い奴。一緒に狩りに行きたいと思っている
予想外な行動をするところが更に面白い。リアルに帰ってシンが成人したら一緒に酒を飲み明かしたいと思ってる。勿論キリトも含めて

『エギル』
手の掛かる奴。訳のわからない発言に困る
アスナと話していると一瞬姉弟に見えてしまって不思議だった
甘いココア擬きが気に入ったらしくそこら辺もそう見える理由の一つなんだろうか、と真剣に考えてる






「お宝ちゃんとご対面だよー」

 

目の前には笑顔で宝箱を開きながらそう言うフィリア

 

後ろに立つ俺はゆっくりと斜め上を向き、口を塞いだ

 

「……………」

 

 

 

俺のハートがストリーミングゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 

 

 

「なんだ、回廊結晶か………トラップがあったから少し期待したのに…」

 

おいおいなんだよさっきの、可愛いなぁおい!もう、あぁもう!

 

「でも二つか……シン」

 

やばい、やばいぞこれは………フィリアのファンになっちまいそうだ。俺はシノンさんファンだというのに……!

 

「シン?」

 

いや、待てよ?落ち着け俺。Be cool Be cool………そしてstay cool……。OKOK、深呼吸深呼吸

 

………別にどちらものファンでも良いんじゃないか?

そうだよ!どっちのファンでもOKなんだよ!どちらか片方じゃないと駄目なんてことないからね!ヤッタネ!

 

てかあれだよ?さっきのアレが駄目なんだよ?何だよあれ、ギャップ萌えってやつですかありがとうございます!

フィリアの可愛さにきっと全世界の皆が俺と同じ気持ちだよ

 

「ちょっと、聞いてるの?」

 

「は、はい!なんでせうか!?」

 

おっと!話しかけれてたのか!ごめんねフィリア気付かなくて

 

「回廊結晶二つ入ってたから一つあげる」

 

回廊結晶………?ってのは確か、直接指定した場所に繋がる転移結晶みたいなもんだったな。原作ではボス部屋の前とか、キリトがオレンジプレイヤーを追放する時に使ってた

 

でも確かあれって結構高価な物なのでは?

 

「良いのか?確か回廊結晶って高くないか?」

 

「私達はパーティなんだから分けるのは当たり前でしょ?」

 

「ありがとうございます!」

 

フィリアは本物の天使なんじゃないかと思い始めた今日この頃だよ!

 

「大袈裟だね、シンは」

 

「いやぁ………(照」

 

「(なんで照れるんだろ……)それじゃあ、目的の場所はすぐ近くだから一気に走るよ」

 

お、もう近いのか。となると本格的にモンスターとの戦闘が多くなるな、気を引き締めないと

 

「合点だ!どこまでも着いて行くぜ!」

 

「………あ、うん」

 

え、何その微妙な反応……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……………」」

 

『(ふにょんふにょん』

 

俺達の目の前にはスライムがふにょんふにょんとしている。名前はえっと………なんてバレイ?スラシュ?………スラ種?読みにくいな

 

あれから俺達はここ、フィリアの欲しい素材をドロップするモンスターがいるエリアへと来たんだが………一つの部屋の入り口付近から中を二人で仲良く覗き込んでる状態だ。二人で仲良く、だ。大事なことだから二回言ったぞ?二人で仲良くだ。あ、三回言っちゃったてへぺろ(棒)

 

…………な、仲良さそうに見えるよな?だって、あれだよ?なんかこう……部屋の入り口に目を隠してそぉ……っとみたいな感じだよ。仲良さそうに見えるよね?仲良いと良いな。願望です(切実)

 

「どれを倒せば良いんだ?あれ?」

 

俺はスライムを指差して聞く。因みにスライム以外にも二体程この部屋にはモンスターがいた。どちらもゴーレムで、こいつにも名前にバレイが付いている

 

しかしスライムと言えばドラクエをあまりやったことのない俺でもわかるあのスライムだ。あれと同じなら例えレベルが俺と30程差があっても勝てるかもしれない

 

「どれだろ………手当たり次第倒していけば良いと思う」

 

「マジっすか。了解でぇす」

 

倒さなきゃならんのか………あのスライムはまだしもこっちのゴーレムはなぁ………なんかゴツゴツしてるし、背高いし。エギルより高いんじゃねえのあれ

 

それに比べてこっちのスライムは………

 

『『『(ふにょんふにょん』』』

 

ふ、増えてるぅぅぅぅぅ!?

 

スライムが三体に増えてる!?いつの間に湧き出てきやがりましたか!?

 

「…………増えてる」

 

フィリアも同じことを考えてたのかボソっと呟いた

 

「…………」

 

なんかね、こう………好きなアニメのキャラと考え方が同じとか、あ!それ俺も考えてた!ってなると嬉しいよね。つまりアレだよ。そう、流行りの『それな』ってやつ。いやまあ、流行ってるかどうかは知らないが

 

てか『はやり』って漢字で書くと『流行り』なんだってね。これ知るまえずっと『流行ってる』を『りゅうこうってる』て呼んでたよ。りゅうこうってるって何?

 

まあそんなどうでもいいことは置いといて

 

「いきまっか」

 

「え?」

 

「………行こか」

 

ごめんね、わかりにくかったね

 

「幸いなことにあのゴーレムと距離はあっから、スライム三匹一気狩りでいけるよな?」

 

「私は大丈夫だけど………あんたは?」

 

「大丈夫と言ったら嘘になるぜ!」

 

良い笑顔で言うと呆れられた。解せないぜ

 

「初撃はよろしく。外側から上手く立ち回って」

 

「OK、死なないように頑張りましょー」

 

若干戯けた感じで言いながらチャクラムを手に取って走り出す。既に頭のスイッチは切り替えた

 

まずは一番手前にいるスライムに向けて思い切りぶん投げる。この瞬間にさっきあの骸骨との最初を思い出した。ブニョン、って弾かれたら次にどう動くかを頭で考える

 

『『『っ!』』』

 

だがそんな考えも杞憂だったみたいでチャクラムは直撃し、スライム達は俺をターゲットする。さて、鬼ごっこの始まりだ

 

こっちに向かってくるスライムを横目に俺は部屋の、ゴーレムがいない方向にチャクラムを回収した後逃げる。俺を追い掛けるスライムのうち一匹をフィリアが斬りつけた。悲しきかな俺のチャクラムでの攻撃はフィリアの一撃に劣るようですぐ様タゲを変えて一匹のスライムがフィリアに向かった

 

さっきからずっとこの戦法でここまで来た。複数の敵がいる時は俺がタゲをとって逃げ回り一匹、もしくは二匹ずつフィリアが倒す。最後の一匹になれば俺もチャクラムでバンバン参加し経験値も入るという

 

「おっとぉ!?」

 

後ろからスライムが粘液を吐き出してきた。今のは当たるかと思ったぞ、あっぶね〜

 

「…………やっぱ逃げてばっかじゃかっこ悪いかねぇ」

 

ふと思ったがこれ俺逃げてるだけじゃね?ダメダメ戦わないと。スキル上げにならない

 

視界の更に後ろではフィリアがスライムを倒してこちらに向かってるし…………よし!

 

「俺も行くぜ!」

 

向かってくるスライム二匹と向かい合う。片方がなんか吐き出しそうなモーションに入っていた

 

俺はとうっ!と言ってはないが心の中で叫びながらスライムの上をダイビングジャンプして転がり奴らの後ろへ逃げる。ゴロゴロと転がって止まった所に丁度フィリアが来た。なんだかギョッとしているがどうかしたか?

 

…………まあいいや

 

「フィリア、片方はよろしく。片方は俺が相手をするぜ!と言っても時間稼ぎだけど」

 

「え!?ちょっ」

 

フィリアは止めようとしたみたいだが時既に遅し。俺は右側のスライムに向けてチャクラムを放つ。当たったけど全く減ってねえ

 

「早く終わらせるから、気を付けてよ!」

 

無駄だとわかったのかそう言ってもう片方に向かうフィリア。お優しい言葉が心に染みるぜ

 

心に染みる感覚を味わう間もなくスライムは俺に突進してきた。それを某狩りゲーよろしく回転して避ける。立つ前に屈んだ状態でスライムにチャクラムを投げた

 

ここまではナイスな感じに進んでいる。動きがメチャクチャな感じがするが気にせずにガンガン行こう

 

《クイックチェンジ》でチャクラムから剣に持ち替え肩に担ぐ。こっちに向かってくる前にソードスキルを発動して剣を投擲。見事に突き刺さった。がしかしすぐに剣はスライムの下に落ちる

 

奪われないか心配だがそういうモンスターじゃなさそうなので取り敢えず大丈夫だろう。あの剣軽いから投げやすいんだよな

 

もう一度《クイックチェンジ》で剣を取り出しスライムに斬りかかる。ここまででスライムの体力は十分の一くらいまでは減っている。なかなかの進歩だ

 

「てえぇい!」

 

だからと言って一発も食らいたくないわけなので振り下ろした剣を振り上げると同時に後ろに跳んだ。突進やら粘液やら来たらやばかったが普通の近距離攻撃だったから避けることが出来た

 

「スイッチ!」

 

後ろからフィリアの声がした。どうやら倒したみたいだ

俺の後ろからフィリアが現れスライムに俺の一撃よりも強い一撃を放つ。あんな攻撃出来たらいいな。羨ましい

 

フィリアは数撃スライムに食らわせると叫んだ

 

「ソードスキル行くよ!」

 

フィリアがソードスキルを発動する

 

そしてここであぁ、俺も行くのか!と理解して俺も少し遅れてソードスキルを発動した

 

「はああぁぁぁ!」

 

俺が発動した時にはフィリアのスキルは既に発動しており二発食らわせている。三発目から俺の《バーチカル・アーク》と一緒に二連撃を放つ

 

「っ!」

 

俺はなんとなく直感した。これ、スライムの体力数ドット残るんじゃね?と

そんな感じがしてどうしようもないと言うか、そう思った瞬間には体が動いていた

 

剣が完全に振り上げられる前に左拳を握り脇に構える

キリトがプログレッシブでやっていた体術スキルへと繋ぐ技。確かこれは………

 

《体術》スキル基本技、単発突き《閃打(センダ)

 

俺の拳が仄かなライトエフェクトを纏って一直線に突き出され、スライムの体に叩き込まれる

 

そしてスライムはポリゴン片となり砕け散った

 

「うっし!」

 

思わずガッツポーズを決める。だってアレだよ?キリトと同じこと出来たんだよ?そりゃ嬉しくもなるって

 

「あんた、《体術》スキル持ってたんだ。あれって確かエクストラスキルだよね?」

 

「おう、実は使えたんだぜ!」

 

フィリアの言葉にサムズアップして答える。いやぁ、どうもどうも、何故習得してるかはわかりませんがどうもどうも

 

「そう言えば、欲しい素材ドロップしてたか?」

 

戦闘に夢中で忘れていたけど、素材は手に入ったんだろうか?

 

「ちょっと待ってて………一つだけど、ちゃんと手に入ってる」

 

「お、マジで?んじゃあスライムを駆逐していけば良いってわけだな。戦闘パターンはどうやら近距離攻撃以外は粘液と突進ぐらいみたいだし、別に俺一人で一匹ぐらい相手にしてもいけるかもな〜」

 

「そうだね」

 

「おう。んじゃあ、行こうか!」

 

俺はフィリアに向かって拳を突き出す

 

「?」

 

「あれ、わかんない?」

 

どうやらおわかり頂けなかったようだ。俺としてはもうこれは仲間達とやる挨拶だと誰かに教わった気がするんだが………あれ?誰だっけ?おいおい、重要なことだぜ俺。忘れんなよ

 

まあそれよりも。フィリアとこの前やったような気がするんだけどな

 

「俺と同じように拳を出して」

 

「あぁ、それのことだったんだ」

 

フィリアは納得したように拳を突き出す

 

お、わかったか

 

「頑張ろうぜ」

 

「うん」

 

コツンと拳がぶつかる音が聞こえる

 

たったそれだけのことなのに俺にはそれがとても嬉しく感じた




次回はシンのキャラ達への印象でも


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今日は具材たっぷり鍋だってよ、ヤッタネ

誰も気にならないであろうシンの各キャラ達への印象をば

『キリト』
シンの言葉にすると「"黒の剣士"様キャーカッケー!でも爆発しろ。アスナというあんなに良い嫁がいながら他の女とイチャラブとはなんたることか、けしからん!俺だって彼女が欲しいんじゃい!なんでや!なんであんなにモテるんや!チーターや!チーターやないkブフッww(笑いが堪え切れなくなった。そして一度言ってみたかった)。あ、でもホントお世話になってるよ」という、尊敬してるのか嫉妬してるのかわからない

『アスナ』
キリトのせいで大変だろうに、頑張って欲しいと思っている。とてもお世話になっている。防具と武器なども貰い頭が上がらないどころかブラジルまでめり込んでしまう程。でも怒ると恐い。アスナじゃなくて阿修羅

『ユイ』
よく話をする。一番最初は0と1の塊だと思って内心気不味かったが温かさに触れてその考えを改めた。今では妹に欲しいと思ってる。まだ攻略組には入っていないから、キリトやアスナが攻略で忙しく、また自分が暇な時にはできるだけ一緒にいようかと思っている

『シリカ』
ピナをもふらせてくれ
兎に角ピナをもふらせて欲しい。ていうかピナを嫁に欲しい。癒しが欲しいからくださいマジで
ピナと戯れているシリカを見ると純粋に可愛いと思ってる。実は原作キャラではシノンさんの次にシリカが好きだったりする

『ピナ』
もっふもふ、何がもっふもふってもう全てがもっふもふ
ラブリーマイエンジェル(癒しという意味)ピナたん。この子擬人化したら超可愛いぞ絶対!とか思ってる
癒し系No. 1

『リズベット』
髪の色を見て散った桜を思い浮かべた。鍛冶屋なので今度武器の強化でもして貰おうと思っている。そのためには金貯めないとあいつ絶対ぼったくる………!などと失礼なことを思うことも多々ある

『リーファ』
一番最初に不審者かと疑われたショック
レベルとかどれくらいなんだろうか、強いなら暇そうだし狩りにでも誘うかと考え中

『シノンさん』
クールでビューティーなマイヒーロー。麗しき狙撃手
GGOシノンさんもマフラーしてるんだからして欲しい
記憶喪失らしいが、どこまで記憶を失っているのかは知らない。でも全ての記憶を取り戻して欲しいと願っている。ついでに言うと早く弓を持って活躍するシノンさんがみたい

『ストレア』
案外神出鬼没。寝てる間に毛布を掛けてくれた優しい娘
白が似合うと言われた時に何故かデジャブを感じる。理由は不明
話しやすいしなんだかすぐに心を開ける

『フィリア』
なんか、可愛い。意外なギャップがすごく良い
フィリアを中心に何かが起こることがわかっているのでこまめに顔を合わせようと思っている。無理をしているならば助けたい

『アルゴ』
クエストの情報をくれた意外と優しい奴
ジンという名を口にした時の反応を見て申し訳なく思う。何故ジンという名前が出てのかは不明
これから仲良くできると嬉しい

『クライン』
この世界に来て初めて本当の強さを知った時から少し尊敬の念を抱いている。キリト達含め必死に背中を追いかけようと固く決めたのはクラインと勝負したから。次は負けないと息巻いている

『エギル』
ココアをくれるし宿を提供してくれる良い奴。クラインのように原作ではキリト達の影に隠れていたが、クライン同様の強さを持っているだろうと思っている






 

 

三匹のスライムを倒した後俺とフィリアはゴーレムをスルーしてスライムだけを狙うことに決めた。名前の部分に同じのがあるからあのゴーレムを倒しても手に入りそうな気がするけど………まあ、スライムの方が楽だし

 

というわけで、スライムを求めゴーレムからコソコソしながら部屋を移動したわけなんだが

 

『ふにょんふにょん』

『ぺったんぺったん』

『ふにょふにょ』

 

「…………めっちゃおるな」

 

次に来た部屋を見てみるとスライムが沢山生息していた。十匹近くいるのを見ると変な汗が出てきた

もうアレだ。ポケモンのルビサファでのマボロシ島みたいだ。ソーナノしかいないんだぜあそこ

あそこ行くの苦労したなぁ………何日粘ったことか

 

もしかしたら同じようにゴーレムの部屋もあったりすんのか?やべえなそれ

 

「どうする?」

 

流石にこれはフィリアも顔が引きつっていた。あまり俺に無理な戦闘は難しいだろうと思ってるのか意見を求めてくる。…………まあ、そのとおりなんだけどねっ!

 

「どうすっかな〜」

 

あんな数に囲まれたな流石に死ねるしなぁ………

 

苦い顔をしながら俺は部屋の中を見渡す。俺達の現在位置は部屋の入り口付近。スライム共は部屋全体に散らばっててさっきまでの戦法を使おうものならサザエさんのエンディングより長い行列になる

 

ふと、一番近い位置にいるスライム達に目を向ける。三匹仲良く?顔をつき合わせてふにょふにょしてる奴らだ

 

………………………

 

「なあフィリア、あれ見て」

 

「どれ?………スライム?」

 

「あのスライム達………なんか話してるみたいじゃね?どんな会話してるかすげえ気になる」

 

「すごくどうでもいい」

 

「…………ごめん」

 

か、悲しくなんかない!予想以上に冷たい反応が返ってきて悲しいわけじゃないんだぞ!

あ、あれ?目から水が………汗かな?ハハッ、運動した後だからかな?

 

………いいよ、だったら一人であいつらの会話妄想するからいいよ

 

左からABCの順番としてだな………ふむふむ

 

A『ふにょ(聞きました?奥さん。隣町のスラ太郎さん達が剣士達の手によって殺されたんですって)』

C『ふにょ〜(あらやだ、世の中物騒ねぇ〜。ここまで来ないで欲しいわ。それより聞きまして?向かいのゴーレムさん、息子さんが家出したんですって!)』

B『ふにょ(ふっ………奴もまた、男だったということさ)』

C『ふにょん(仲が悪そうには見えなかったのにねぇ〜)』

B『ふにょ…(男というものは、旅をして生きるものだ……。そして何かと出会い、別れ、成長していく。若葉はいつか、大きな木となるようにな………)』

A『ふにょ〜ん(あっ!もうすぐタイムセールの時間だわ!卵一パック80円よ!早く行かなくちゃっ!)』

C『ふにょふにょ(お肉もお野菜も安くなるんですって!今日は具材たっぷりお鍋で決まりね!)』

B『ふにょ…(求めるもの、求められるもの………その二つがあるからこそ、世界は回っていられる。その事を忘れるな……)』

 

やっべ、スライムB全然話噛み合ってねえ。なのになんかめっちゃカッケェ。あいつのCVは渋い声の人がいいな………

 

「あのスライム孤立してる。狙うなら今かな……」

 

「AとCはタイムセールに向かったようだぜ。今日は具材たっぷりお鍋だってよやったね!」

 

「………何言ってるの?」

 

やっべ急な発言したら変な目で見られた

 

「……………な、鍋はポン酢派?ゴマだれ派?って聞きたかったんだ」

 

因みに俺はゴマだれ派である。偶にポン酢で食べるけどね

あ、でもキムチ鍋とかもつ鍋とかは何もつけないかな

 

「ゴマだれ?鍋はポン酢だけじゃない?」

 

「あれ、ゴマだれ使わないご家庭でしたか」

 

そんな家庭あったのな………まあ、家によって違うのかもな。俺の友達なんて水炊きの鍋を何もつけずに食べて素材そのものの味を楽しむという奴がいたし

 

鍋はゴマだれが一番だと思うんだけどなぁ……

あ、そう言えばフィリアは何の具材が好きなんだろ?聞いてみよう

 

「因みに鍋だったら具材は何が美味しいと思う?俺はえのき」

 

あの食感が良い。偶に歯の間に挟まるのがウザいけど

 

「…………白菜」

 

「成る程、確かに白菜も美味い。じゃあ鍋は何鍋g「いいからどうするか考えて!」ごめんなさい……」

 

怒られてしまった。でもやっぱり俺はえのきが一番だと思います。因みにキムチ鍋が一番大好きだ

 

「もう、特攻仕掛ける?」

 

「危なすぎるでしょ」

 

「死にそうになったらダッシュで逃げれば良いんだよ」

 

そりゃもう、死に物狂いで走ろう。顔が鼻水やら涙でぐちゃぐちゃになるくらい。そうすりゃ絶対に助かるんだよ

 

それにまあ?所詮スライムだし?楽だよ楽。もう赤子の手を捻っちゃうね

いや、調子乗ってるとかそんなんじゃあないよ?さっきスライムに無傷で勝てたからっていきがってるわけじゃないんだよ?

 

「だからだいっじょぉ〜ぶ!」

 

 

 

 

 

……………なんて、思ってる時が俺にもあったんだ

 

 

 

 

 

 

「ちょ、やべ、マジやべ…………死ぬ!?」

 

「は、早く撤退!POT飲んで!」

 

「は、はいぃぃぃ!」

 

や、やっぱり調子に乗るんじゃなかった!!俺のHPが残り三分の一しかねえよやっべ逃げろおおおぉぉぉぉ!!?

スライムだからと言って舐めてかかったら駄目だった!ちょっとミスって攻撃食らった瞬間追撃がぱねぇんだもん!フィリアが助けてくれなかったら俺死んでたって絶対!

 

俺は急いでスライム達から離れてPOTをがぶ飲みする。中身が無くなったPOTの瓶はスライム達の中へとスキルを使って放り込んだ。…………やっべ三匹こっち来た

 

残りのスライムは六匹、あれから数匹フィリアが倒してくれてたみたいだが………これやばくね?三匹は俺の方に来て、残り三匹はフィリアの方に………フィリアのHPも削れているし、どうするか

 

追ってくるスライムから逃げながら作戦を考える。フィリアは三匹のスライムと戦っており、丁度一匹倒したところだ

 

「こっちすぐに終わらせるから!頑張って!」

 

向こうも大変だろうに俺を気遣ってくれるフィリアに泣きそうになる

 

「…………んじゃ、頑張りますか」

 

徐々に回復していっているHPを一瞥した後、スライム達に向き直り、走り出す

 

それを見てかスライム達が粘液を吐く態勢に入った。確かこういう時は………原作の始まりの日にあったように

 

「吐き出す瞬間を見極めて、避ける!」

 

吐き出そうした瞬間、俺は横へ大きく避けた

よし、上手くいった!よく見たらモーションもわかりやすいし、こいつらの粘液の範囲もそこまで広くなかった為に難なく避けれた

 

そしてそのまま三匹のスライムを対称に、反対の位置へと俺は走る

 

「あ、因みにこれなんだかわかるかね?」

 

こっちを向くスライム達にそう言って右手を上げて鎖を見せる

 

…………鎖だけ、だ

 

「りゃあっ!」

 

動き出そうとする前に右腕を力一杯引く。するとジャラジャラ!と音を立てながら鎖の先にある物がスライム達のうち二匹にダメージを当てながら戻ってくる

 

実はスライム達の粘液を避ける時、チャクラムを地面を滑るように反対側へ放り投げていたのだ

 

チャクラムってのは戻って来る武器、つまり俺が投げたチャクラムは俺の元に戻ってくるのが当たり前。それを利用して俺自身が動き、チャクラムと俺との対角線上にスライムを置けば………

 

「あら不思議、逃げながら攻撃が出来ますってね!」

 

本当なら三匹同時に攻撃したかったが、流石にそこまで上手くはいかないか

 

それよりもフィリアは………残り一匹、流石だぜ。だけどHPもそろそろ半分行きそうだ。回復しなきゃ駄目だろ、もしかして気付いてないのか?

 

「なら俺が回復させねえとな」

 

えっと確か………回復結晶があったはずだ

 

「お、あったあった………て、おわぁっ!?」

 

やっべ、スライムのこと忘れてた!

 

「こんにゃろ!」

 

突進してきたスライムを間一髪避けて《クイックチェンジ》。剣を取り出してスライムを斬る。こいつの残りHP、もう少ないな……さっきまでの戦闘で中途半端にダメージを負わせて放置する形になってたのか。頑張れば削り切れるか?

 

…………やるしかない!

 

「おおぉぉぉ!」

 

上に斬り上げまた下に振り下ろす。攻撃が来る前にスライムの正面からズレ、剣を横に振る

残りのスライムが遅れてやって来て、一匹が突進してきた。なんとか避けようとするが少し掠ってしまいHPが減少する。POTで回復していたからまだ余裕はある。三匹目の追撃が来る前に後ろへ跳んで避けた

 

焦るな……見極めろ………

 

自分に言い聞かす。慎重さを欠いて攻撃を食らった瞬間dead endだ。さっきみたいにスライムだからと言って舐めたら駄目だ。もうあんなことしない絶対

 

距離を詰めてくるスライム達。後ろに避け………

 

「…………!」

 

後ろに跳ぼうと見たら結構近い距離にフィリアとスライムがいた。すぐにでも倒せそうではあるが、倒した後は回復に専念して欲しい。しかしここで後ろに跳んだらフィリアも巻き込みかねないぞ

 

…………どうする

 

「なら、飛ぶ!」

 

俺は急遽進路方向を変えて武器を収納、スライム達に向かって走る。そしてスライム達が間近に来た時、俺は大きくジャンプした

 

ブニョン

 

そんな音………ていうか感じが足にした瞬間、それを後ろにぶっ蹴る

 

「のわぁ!?」

 

と同時にバランスを崩してしまった!?

 

「けぺっ!?」

 

ズザザザザ!

 

少し空中浮遊した後に顔面から着地。マジ不快感半端ないんすけど

 

か、顔が……顔がぁ………!

 

「って、んなことしてる場合とちゃう!」

 

すぐさま起き上がってスライム達が来る前に逃げる

 

………あ、HPちょっと減ってる

 

「全く、無茶するんだから」

 

そんな声が聞こえた気がしたが構うものか。ふと後ろを見れば残りのスライムは二匹。うちどちらもフィリアと戦闘中である。二匹を相手してるフィリアも無茶してる気がするのは俺だけか?え?俺だけなのか?

 

元々HPが減っていたのか一匹は数秒となく倒され、もう一匹は俺が剣を投擲した後フィリアのソードスキルによって散っていった

 

そして部屋に残ったのは俺とフィリアだけ。それを確認すると俺はへたりと座り込み

 

「し、死ぬかと思たぁぁぁぁぁ」

 

思いっきり息を吐いた

 

「危なかった………主にあんたが」

 

「うん、俺めっちゃ危なかった。恐かったぁ………」

 

いやぁ、今思うとマジで恐かった。なんで俺調子に乗っていけるとか言い出したんだろ………あの時の俺に筋肉バスター食らわしたい

あれ、なんでだろ?安心したら涙がホロリと……

 

「でも無事で良かったね」

 

「お互いな………あ、フィリア、HP回復してねえじゃん」

 

フィリアのHPが未だに半分ぐらいなのを見て俺はポケットに入れておいた回復結晶を取り出す

 

「回復結晶?………いいよ、POT飲むし。何より勿体無い」

 

「まあまあ良いじゃないの、一回誰かの為に使ってみたかったのですよ」

 

それに結構お世話になってるしな。こんな場所じゃPOTも一つでも多くあれば御の字だろう。それを減らさずに済むなら良いじゃないの。使うこともあんまりないだろうしな。ネットで調べたことあるんだけど、Lv80越えでもハイポーションで足りる〜〜みたいなこと書いてたから

 

「そんな簡単に………」

 

「俺はさっき回復したから、何も問題無いのですよ?遠慮なんてしなさんなって」

 

俺は左手でフィリアの手を取る

 

「ヒール」

 

唱えると結晶は砕け散り、フィリアのHPバーがフルに回復する

 

直接渡しても良いんだけど、なんか意地でも回復しなさそうだからなぁ。べ、別に女の子と触れ合いたいとか、そんな邪な考えがあったわけじゃないぞ?ほ、本当だぞ!?あ、でもフィリアの手って意外とちっさいなそれに柔らか……ほ、本当に邪な考えとかないからな!!

 

「……ありがと」

 

申し訳なさそうにお礼を言うフィリア

 

ん〜……どうせなら笑って言って欲しかったんだけどな。まあいいや

 

「まずはこの部屋から離れようぜ。またいつ出てくるかわかんねえし……そういやあ、素材の方はどんな?」

 

「えっと………あ、もう十分集まってる」

 

なに!?それは真かね!?

 

「んじゃあ管理区に帰ろうぜ!もう疲れたよ帰ってあったかい布団でお昼寝したいです!」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜……やっと帰って来た」

 

あの後俺とフィリアは進路上に放浪する邪魔なモンスターを退けながらもなんとか管理区まで帰ってきた。マジで疲れたです。もう休みたいです

 

「お疲れさんフィリア。後は武器の強化するだけだな」

 

「そう……なんだけど」

 

「じゃあ後は楽だな〜。………そう言えばさ、素材って何個必要だったの?」

 

「あまり多くなくて、五個くらいかな」

 

「へぇ〜、そうなのか」

 

案外少ないもんなんだな。それとも既に何個か持っていたとか?

 

まあなんだ。ちゃんと素材が集まって安心安心。これでフィリアの武器も強くなる

 

「早速強化しに行こうぜ!俺も立ち会っても良いよな?」

 

「あ〜………うん、それは良いんだけど」

 

ん?だけど?

 

「だけどなんだ?」

 

「……実は、知り合いに鍛冶屋がいなくて」

 

ほうほう、知り合いに鍛冶屋がいないとな?

 

「よし!だったら俺が知り合いの鍛冶屋を紹介してしんぜよう!まだ一回も行ったことないが実力は折り紙付きだぜ!」

 

「なんで一度も行ったことないのにそんなことわかるのかが不思議でならないんだけど……」

 

おぅふ、そんなジト目で見んといて。あ、でも可愛い

 

「まあ良いじゃん行こうぜ。アークソフィアの………どこだっけか。取り敢えずあるって言ってたから」

 

「そこじゃ行けない」

 

…………んぇ?

 

「なんで?」

 

「私オレンジプレイヤーだし、圏内に入れない。ここは別みたいだけど」

 

「……………あ〜」

 

そうか、そう言えばそうだったな。フィリア、優しいからオレンジだなんて感覚忘れてた

 

うぅむ、どうしたものか………ホロウエリアに鍛冶屋があるとは思えないし

 

「そうだ。じゃあ、俺が強化してくるぜ!」

 

そうだよ、俺が強化してくれば良いんじゃん

 

「良いの?」

 

「俺は構わんぜ。ただまあ、俺にフィリアが剣を預けてくれるならの話だけど?」

 

剣ってのはこの世界では自分の身を守るもんだし、相棒でもあるからな

あれ?それじゃあ普段相棒をぶん投げてる俺って一体………

 

「………それじゃあ、よろしく」

 

「おう」

 

トレード画面が開かれてフィリアの剣とその素材と思われる物がレートに出される。こっちからも何か出さなきゃならんわけだな?何を出そうか…………

 

うむ、相棒を預かるのだからこっちもそれ相応じゃないと駄目だよな

 

「トレード開始〜」

 

チャクラムと二振りの剣をレートに出してトレードをする。フィリアが驚いた顔をしてこちらを見ているが、まあ大方レート内容に驚いてるんだろう。てかそれしかないよね

 

「なんで?」

 

「強化して帰ってくるまで預かっといて、そうしときゃ俺は逃げれなくなるだろ?」

 

「逃げるつもりだったの?」

 

「ぜぇんぜん。ま、なんとなくだよ」

 

そう言って俺は転移門まで走りだした

 

「すぐ帰ってくっからね〜、転移《アークソフィア》!」

 

 

 

======================

 

 

 

元気な声を出しながら青い光に包まれていくあいつを見送った私は、ただそこにボーッと立っているままだった

 

ふと、右手を振ると聞きなれた小気味の良い音と共にメニュー画面が開かれる。私は持ち物の欄をタップして、さっきあいつから預かったチャクラムと二振りの剣を見た

 

なんでこれらをトレードに出したんだろう?少しの間とは言え、これらはシンの主武器なのに

 

私は腕を組んで悩む

 

あいつは言ってしまえば変な奴で、急に変なこと言ったり、今まで見たことないような戦い方をしたり、急に畏まったり………取り敢えず変な行動が多い。だからそんなあいつの思考を理解しようなんて無理な話なのかもしれない。ひどいことを言ってる様な気がするけど全部事実だし………

 

でも私は気になった。理解したらあいつに一歩近付くかもしれないと思って少し躊躇いはしたけど………自ら変な人になりたいとは思わないよ普通。思った時点で既に変人だと私は思う

 

だけど嫌な奴じゃない。寧ろ好感が持てる…………変人だけど

 

さっきあいつは、逃げれなくなるから、って言ってた。でもあれはきっと本当の理由じゃない。何でかわからないけど……そう感じる

 

「…………う〜ん」

 

なんだかよくわからなくなってきた

 

そんな時、転移門が光る

 

「ただいま!あ、あっぶねぇ………ユイちゃん転移門前で張ってるとかどこの刑事だよ」

 

ゆいちゃん?誰だか知らないけど……

 

「随分と早かったね」

 

「ダッシュで行ってきました!………てか、10分は経ってるぞ?」

 

シンはよく軍人がするような敬礼をしながら私に言う

 

………ほら、また畏まった

 

ていうか、そんなに経ってたんだ………

 

まあいいか、本人も帰ってきたし、聞いてみようかな

 

「ねぇ………」

 

それに、名前も呼んでみよう

 

「シ…ン………聞いてもいい?」

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

強化してきた武器をトレードしながらフィリアは口を開いた

 

「おう、なに?(え?今俺の名前呼んだの?なんかめっちゃ恥ずかしがってなかった?か、可愛えぇぇぇぇぇぇ!!)」

 

普通に返すも内心フィーバーを始めるシン

 

「なんで自分の武器をトレードに出したの?」

 

「ん?さっき言ったじゃん。逃げられなくするためだって」

 

「それだけ?」

 

「ま、フィリアが相棒の剣を預けてくれたから、その代わりに俺の相棒達も預けた、ってのもある」

 

「……そうなんだ」

 

「そうなんです」

 

「ありがとね」

 

「いえいえ」

 

 




ロストソング、3月26日に発売予定なんですってね…………

終わるわけねえじゃん!?それまでに!このペースじゃあ!!
ロストソングも書きたいのになぁ………あぁ……

※2020/02/14 視点変更箇所に
       ======================
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八つ橋に包んで

 

 

「またなー、フィリア」

 

「うん、また」

 

俺はフィリアに別れを告げて転移門へ向かう。また明後日くらいには来ようかなと思ってる

 

「転移《アークソフィア》!」

 

元気良く転移先の名前を叫べば青い光が俺を包んで次の瞬間にはアークソフィアの街が視界に映る

 

「さーて、こっからどうしよっかな」

 

いやぁ、今日は疲れたしもうベッドに直行しようかな。夕飯の時間になったら起こしてもらえば良いし

 

「そうですね、私とお話しなんてどうでしょう?」

 

「あぁ、良いかもね。ユイちゃんもキリトやアスナがいなくて寂しいだろうし、そう言えば攻略組は帰ってきた?」

 

「いえ、どうやらまだみたいですね」

 

「そっか〜………ごめんユイちゃん、俺用があるんだったっ!!」

 

「あっ!」

 

全力ダッシュゥゥゥゥ!!今ここでユイちゃんに捕まるわけにはいかんのだ!!ごめんねユイちゃん!また今度遊んであげるから!

 

だって、今ユイちゃんと話をしたら絶対さっきのこと問い詰められるよね!?言い訳とか考えてないし、何よりめんどくさい。別にユイちゃんと話をするのが嫌なわけじゃないが、あまりそう言った話はしたくないんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうするか。正直言ってユイちゃんに対して罪悪感がないわけじゃないので、今からどこかでヒャッハー!とはしゃぐ気も起きない

 

どれだけ罪悪感を抱いてるかと言うと、もう心が痛い。俺のハートがブレイクしそうな………はっ、これが噂のハートブレイク!?

 

なんて、どこから出た噂だよ、という感じになるが………いいや、取り敢えずホント申し訳ない

 

「……………剣でも振っとくか」

 

振ってれば熟練度も上がるからな

 

そう思い俺は早速この前見つけた人気のない場所に向かう。もう少しで夕方だが、まだ日も暮れていないのにここは人っ子一人いやしない。ゲームとしてこれはどうなんだ?とも思うがきっと俺があのまま普通にホロウフラグメントをプレイしていたらこんなところを見ることは無かったんだろうな

 

「よっこいせ」

 

別に大して重くもないがなんとなく言いながら剣を抜く

 

普通にプレイしていたら、そんなことを考えるとまたふと考えてしまう

何故俺はここにいるのか、一体誰が……もしくは何がここに連れてきたのか、俺に何をさせたいのか

 

俺は無言で剣を振るう

 

そんなこと考えても結局答えは出ないし、時間の無駄だと言うことはわかっている。でもやっぱり考えてしまうのが俺というわけであって、それについてついつい悩んでしまうのも俺なわけであるのだけど………いつか余裕のある時にでもじっくり考えよう

 

別に今が余裕が無いわけじゃないし、時間もあるんだけどな。まあそこは気にしない方向で

 

剣は青く輝いて、次の瞬間俺の体はシステムによって動き始めた

 

「ぬうぉっ!?」

 

ドサッ!

 

じつはあまり意識してやってたことじゃなく、ここ数日のパターンと化してしまっていた為にいきなりスキルが発動してビビった。お陰で無様に転んじまったぜちくせう………

 

「ぬ〜……イマイチ気がノらない」

 

仰向けになって唸る

 

なんか気怠い。疲れてるからかは知らんが剣を振り続ける気になれない。このままボーッとしてよう

 

「な〜にそんなとこで寝転んでんのよ」

 

「ん?」

 

ボーッとしてから一分くらいたっただろうか、声が上から降ってくる

 

仰向けの状態から上を向いて声の主を見る

 

「リズベット、さっきぶりやね」

 

「あんたが急に関西弁口調になるのはもうスルーでいくわ……」

 

そこにいたのはリズベットだった。別にツッコミが欲しいわけじゃないんだが、苦笑いしているリズベットを仰向けになりながら見上げる

 

……………あ、スカートの中が見え

 

「よっこいしょ」

 

る前に起き上がった。俺はアレだよ?紳士だからね、女の子の下着なんか見ないのだ

 

だからって興味が無いわけじゃないんだけどね!

 

「今日も休憩がてらお茶にでも行くのか?」

 

「まあそんなところね。あんたは今日もここでボーッとしてんの?それとも人気のない場所が好きだったりすんの?」

 

「んなわけねーだろ」

 

むむむ、リズベットから見たら俺はただボーッとしてるだけの奴だったのか。これは考えを一新させる必要があるかもしれない……

 

「ふっふっふ、今は気がノらないがまたの機会に俺の素振りを見せてやろう!俺のイメージが変わること間違いなし!」

 

「あ、そういうのいいわ」

 

「なにぃ!?」

 

なんだと!?

 

笑って手を振りながら言われるとめっちゃ傷つく………

 

「そう言えばあんた、さっき強化しに来た短剣なんだけど」

 

何気に沈んでいるとリズベットが聞いてくる。因みに俺が今はorzの状態、リズベットがその前に膝を曲げて座ってる状態だ。だからと言って何があるわけじゃないけどな

 

………てか、短剣?

 

「フィリアの短剣?」

 

俺は顔を上げて言う。四つん這いの状態で変な感じだから座り直そう

 

「フィリアって………ホロウエリアでキリトが会ったっていう?」

 

「っていうフィリア」

 

「ふ〜ん……そうなんだ」

 

リズベットは何やら考えているようだ。ウンウンと頷いた後に俺を見る

 

いやぁ、目と目が合ってなんだか照れるなぁ

 

「どんな感じなのよ」

 

「ん?」

 

どんな感じ………とは?

 

「だ〜か〜ら〜」

 

俺がわからなそうに頭を捻っているから補足説明をしてくれるみたいだ。優しいねリズベットさん!

 

「キリトとさ、どういう感じなのよ」

 

……………あー、はいはい。そういうことね

 

「つまりフィリアがキリトのことをどう思ってるのか、この先恋のライバルになり得るのかが知りたいと、そういうわけですねわかります」

 

えぇ、えぇ、わかっております。ただ一つ言わしてもらうと…………

 

キリト爆発しろ

 

「………あんた、直球ね。もっとオブラートに包むとか出来ないの?」

 

「生八つ橋になら包めそうだ」

 

因みに食ったことはない。中学の頃の修学旅行は長野だったんだよ!本場の八つ橋食ってみてぇ!

 

「じゃあこれからは包みなさい」

 

「だが断る」

 

てか、オブラートに包むなんてめんどいでしょうが。だったら直球勝負じゃね?

 

「はぁ……続きはカフェででもしましょうか。あんたにはしっかりと情報提供してもらうわよー」

 

なんか悪どい笑みを浮かべてる

 

…………ん?カフェ?ってことは……

 

「やったー!奢りですねありがとーございます!」

 

「え?シン奢ってくれるの?ラッキー♪」

 

はぁ!?

 

「誰が奢るかッ!あっしはここら辺でバイならするぜ!」

 

このままじゃ俺の懐が氷河期を迎えそうなことを察知した俺は逃げようと立ち上がり走り出

 

「はい、残念でした」

 

「うごぉ!?」

 

そうと思ったら襟首を掴まれた!?なんて奴だ!ハラスメントコードとか気にしないのか!?…………いや、よくよく考えたら襟首じゃあ出ねえか

 

それよりも!

 

「離せぇぇぇぇ!俺はまだ氷の中の冷たさを知りたくないんだ!!」

 

「はいはい、わけわからないこと言ってないの。よく冷えた水なら何杯でもお代わりOKよ」

 

そりゃそうだよね!?逆にそれで金取る方が珍しいよね!?

 

「そう言えば今更だけど、なんであんた私がキリトのこと好きなのを知ってるかとか、そこら辺も聞かせてもらうから」

 

「え!?」

 

や、やべぇ!そう言えば俺ってばリズベットがキリトのこと好きとか聞いたことなかったんだった!原作知識があるあまりに下手打ったか………!これは逃げられなくなったぞ。もしここで逃げるのに成功しても、リズベットが他のキャラに話してしまえばアウト!更にめんどい事態になる!

 

俺はリズベットに引きずられながら必死に考える

 

だがしかし、どう言い訳する!?わかりやすい反応を見た覚えは………一回ぐらいしかないが、たった一回じゃあ流石に理解するのに無理があるか!?

 

だったら………そうだ!俺が深読みしたということにすれば良い!そうすれば、あ……なぁんだ!やっぱり当たりだったんだね!みたいな感じにすれば万事OKだ!よし、いけるぞ!ナイス、俺!

 

「な、なぁんだ!やっぱりそうだったのか!」

 

男シン、また一つ嘘という罪を重ねます!

 

「?」

 

なんとか引きずられながらも態勢を立て直して顔に手を当てる

 

「いやぁ、そうかなぁとは思ってたんだけど………まさか自分から公表してくれるなんて。俺の勘も捨てたもんじゃないなぁ、うんうん」

 

俺がそこまで言うと、リズベットは歩くのを止めた

 

ど、どうだ………?

 

チラリと頑張って後ろを見てみれば、そこには顔を真っ赤にしながら目を見開いてこちらを見ているリズベット

 

「あ、あんた………!鎌かけたのね!」

 

「え、えと………」

 

これは……上手くいった、のか?

 

これからどうするか思考を巡らせているところを、リズベットが襟首から手を離したので一旦止める

次のリアクションに内心冷や汗ダラダラ流しながらリズベットの様子を観察していると

 

「あああぁぁぁぁ!もうっ、シンなんかの策にハマるなんてぇ!!」

 

急に頭を抱えて叫び出した

 

…………っておい待てゴラァ!俺なんか、ってどういうことだよ!

 

「ああぁぁぁ………最悪」

 

今度は急に静かになった

 

な、なんか…….俺悪いことしたんだろうな。こんなリズベット原作じゃ見た覚えないぞ。まさかの俺の発言でキャラ崩壊させちまったか?いや、でもそこまで崩壊してもない気が……

 

「シンッ!」

 

「はいっ!」

 

そんなことを考えているといきなりのリズベットの大声。思わず敬礼しながら良い返事をしてしまった

 

リズベットはと言うとさっきまで消沈した雰囲気は何処へやら、今はなんていうか……怒気を放ってる感じ。アスナが怒った時と少し似てる。やだー!恐いよぉぉ!

 

「あんた、知ったからにはこれから色々と利用させてもらうわよ!わかった!?」

 

「え?ちょ、待って何を?てか、それならクラインとかももう気付いてるんじゃあ……」

 

て、て言うか、好きな人知られたくらいでそんなにならなくても。やっぱりそういうもんなのか?確かリズベット、原作では相手に聞こえてはないけど告白してたよな?キリトに。だったら今更恥ずかしがることはないんじゃあ………

 

「わかったわね?」

 

「は、はい」

 

今度は打って変わっていつものようなニッコリとした笑顔だった。別に、よく漫画とかに出てくるように黒いオーラが出てるとかそんなんじゃないんだ。そんなんじゃないんだけど………!

 

何故か、逆らえませんでした

 

そして俺はカフェへと連行される。別に引きずられてるわけでもないのに、何故か牢屋へ行く囚人の気分だった

 

「……………明日は、ユイちゃんと沢山喋って、ピナをもふりまくろう」

 

俺は明日の癒しのため、頑張ることをここに決意するのであった

 

 

 

 

 

 

「で?どんな感じなのよ」

 

「時間の問題かと思われます、はい」

 

「はぁ………全くあいつは」

 

「はい」

 

「無意識に女の子を落とすのはどうすればいいと思う?」

 

「はい、もう手遅れだと思います」

 

「なんであんたさっきから敬語なの?」

 

「……………な、生八つ橋に包んだ結果」

 

「…………あっそう」

 




ホンット寒くなりましたね、毎日布団の中でガタガタ震えてます

そんなことよりも、ロストソング初回限定版、予約してきたぜヒェッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ⤴︎!!

やっぱアニメイトだね。うん

そして、最近本屋行ってなかったからプログレッシブの新巻が出ていることに全く気付かなかった………俺としたことが、なんたる失態! やっぱ小まめに本屋に行った方が良いな……

…………しかし、ロストソング発売までに果たしてこの物語を終わらせることが出来るのだろうか!?

期待はせずに待っててください!



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出来るだけ嘘は吐きたくない

 

話し始めてから何分経っただろうか?ウソ、まだ15分程度!?俺の体感時間はすでに3時間は余裕で越えたよ!?

しかも話してる最中に何やら頼みだして……まあ俺も頼んだけど、今じゃ机の上には空のパフェが二つとココア擬きが入っていたコップが一つ置いてある

 

どうやら俺お気に入りのココア擬きはそこら辺のカフェで飲めるらしい。でもなんだかエギルが淹れてくれた方が美味しく感じたなぁ………人によって違うのかな?もしかしてアスナやシノンさんが淹れてくれたらもっと美味くなったり………

 

「それじゃ、私はお店に戻るから」

 

そう言ってリズベットは席を立つ

 

は?……いや、待て待て!

 

「ちょ、ちょぉ待てや!支払いどうすんねん!」

 

俺に全部払わせる気か!?男だから俺が払うとか、そんなこと言える程金銭面に余裕ねぇし気前もよくねえよ!?

 

「そんなの店出れば勝手に割り勘されるに決まってるでしょ」

 

「あ、そうだっけ……」

 

そう言えばそうだったな。支払いせずに店を出れば人数分割られるとか、原作にあったような気が………

 

「なに?もしかしてあんた誰かとレストランとか行ったことないの〜?」

 

何やらからかうような顔で言ってきたリズベットに対してむっとなる

 

そんなこと、俺はここ………SAO自体に来て一ヶ月も経っていないのだから当たり前じゃん、と言ってやりたいがリズベットはそんなこと知る由もないし……てか、知られても困るのは俺なんだけどな

 

「な、なんだよ。悪いかよ。どうせ俺は誰ともレストランに行ったことなんて……」

 

 

 

『おいしい!このお店当たりだよ、良かったね!』

 

 

 

「…………」

 

………また、か?また、この現象

 

お店?………レストランのことか?いや待て待て、その前になんだこれは

思えばここに来て毎日起こってないか?そろそろ真剣にコレについて考えなければいけないかもしれない

 

声は前回に起こった時と同じ声………だと思う。今回ははっきりしていたし、ユイちゃんの声と被ることもなかったからはっきり聞こえた。女の子の声みたいだ

 

いったいこれはなんなんだ?俺がこの世界に来たことと関係しているように思えて仕方ない

 

「なに本気で落ち込んでんのよ………ちょっとからかってみたかっただけだっての」

 

「んぁ?」

 

考え事してたらなんか勘違いされたっぽい

 

「あぁ、いや、落ち込んでたわけじゃないんだ」

 

今は考えるべきじゃないな。今日の夜、寝る前にでも考えよう

 

「そうなの?」

 

そうなのそうなの

 

……………ん?

 

「メールが来た」

 

「あ、私も」

 

リズベットもか?じゃあもしかしたらキリト達からかな

 

どれどれ………

 

 

 

from:Kirito

 

76層のボスを倒した。77層の転移門前で待ってる

名前はトリベリアだ

 

 

 

「おぉ!!キリト達攻略組がボスを倒したって!」

 

やったなあいつら!流石攻略組って感じだ!

 

「私もアスナから来た!」

 

「早速皆集めて行こうぜ!」

 

俺とリズベットは顔を見合わせた後、すぐさま走り出した。目指すは転移門前

 

カフェのドアをリズベット、俺の順に通り抜ける。金は勿論割り勘だ

 

まあパフェ二つにココア擬き一杯だ。そんな大した金額じゃあ………

 

「あぁ!俺が払った金額割りに合わねぇ!!」

 

俺は走りながら叫ぶ

 

だって!だってリズベットパフェ二つ食ってたよ!?勢いに任せて!ばくばくと!それに比べて俺ってばココア一杯……割りに合わねぇ!

 

「そんな細かいことでケチケチしないの。心狭いわねぇ」

 

カッチーン!今のはカチンと来た!誰が心狭いってぇ!?元はと言えばお前が無理矢理連れ込んだんだろうが!

 

「パフェ二つも食いやがって、太っちまえコンチキョー!」

 

「うっわ!女子に向かってなんてこと言うのよあんた!それにゲームの世界なんだから幾ら食べても太るわけないでしょーが!」

 

「アバターが異常きたせ!バグ起きろバグ!んでもってキリトに助けてもらえ!」

 

「何それ私ヒロイン!」

 

「馬鹿野郎正妻はアスナだ!」

 

「あ、シリカー!リーファー!」

 

「話聞けよ!?あ、シノンさーん!ユイちゃーん!」」

 

俺達は周りの目も気にせずに顔を付け合わせて怒鳴り合いながら転移門目掛けて走る。その途中でそれぞれ違う方向に、リズベットはシリカとピナとリーファ、俺はシノンさんとユイちゃんを見つけ大声で呼んだ

 

しかしシノンさんとユイちゃんの二人組とは、なかなかレアだな!

 

声掛けてそのまま走り去るのもアレなので合流して歩くことにした。皆も丁度転移門に行くらしい

 

「あんた達、人の目も気にせずになに走り回ってるのよ」

 

おぉう、シノンさんに注意されてしまった。ごめんなさい

 

「シノンさん、シンさんに関しては今更だと思いますよ。一昨日すごく目立ってましたから」

 

「え?そうだっけ?」

 

なんかシリカの俺の扱いが雑な上に身に覚えのないことを言ってる。いや、ホントに身に覚えがないんだけど

 

「自覚ないんだ………」

 

リーファ何故呆れたし

 

「リズ、こいつに合わせると侵食されていくわよ。さっきみたいに」

 

「あ〜………気を付けるわ」

 

「おいおい、お二人さ〜ん。それはちと酷いんじゃあねえの?」

 

まったく、侵食なんてそんな俺を毒か何かみたいな。俺涙目

 

「それに俺はですね〜、いつでも全力全開で生きてるつもりだから別に問題など無いのだよ!」

 

そう!俺はいつでも一生懸命なつもりなのだよ!だから周りの目など気にならない!…………まあ、たまにはあるけどね?

 

「あ、あはは」

 

『クルルルルル』

 

苦笑いかよ………信じてねえな!?

 

「つもりって………」

 

そ、それはまあ、色々あんだよ!

 

「はいはい」

 

「自分で言う人程信じられないわよね」

 

ぐ、ぐぬぬぬぬ………

 

「ユイちゃ〜ん!皆が俺をイジメるんだ!」

 

俺はさっきから何も話さずに着いて来ていたユイちゃんに泣きついた

 

「知りません」

 

「っ!?」

 

抱き付こうと思ったら拒否された………!?アレか、一度女の子に抱き付いてみたいと言う邪な願望を見破られたのか!?例え小さな女の子でもユイちゃんは可愛いから一度くらいはギュッてしてみたいよね!?そうだよね、全世界のSAOファンの皆様方!!

 

「シンさんなんて知りません!」

 

「ぐはっ!」

 

ユイちゃんの言葉が俺の胸に突き刺さりそのまま貫通してアインクラッドの遥か上へと突き抜けて行った

 

「行きましょう、皆さん」

 

当の本人は俺にそっぽを向いて歩いて行ってしまった

 

「…………あんた、何したのよ」

 

orzの形の俺の背中にリズベットが質問を投げかけた

 

「いや、何もした覚えは…………はっ!」

 

ま、まさか、まさか!?

 

「アレかぁ…………」

 

絶対アレだ。俺、ユイちゃんと話すと色々と言い訳しなきゃいけなくなるから、用事があるとか言って避けてたからかぁぁぁぁ!!

 

「何か怒らせるようなことしたんですね」

 

「ど、どうしよぉ……」

 

このままじゃあユイちゃんとこれから話すことが出来なくなる!俺の癒しがッ!ピナ以外の癒しがなくなる!?

 

「早めに謝っときなさいよ。見てる方は別に良いけど、アスナとか怒ったら恐いのは身に沁みてるでしょ?」

 

「Oh………」

 

そうだよ……ユイちゃんが話せばアスナやキリトにも問い詰められるに決まってる!殺される……!までは行かなくても、説教ルート直行!?嫌だぞそんなの!

 

「ぬおおおおお!」

 

俺は先々と進んで行くユイちゃんの前へと走り

 

「ユイちゃん、すいませんでした!」

 

そしてガバッ!と頭を下げて謝った

 

周りの目が俺に向いてる気がするがそんなの知るか。てか元々気にしてねぇ

そんなことよりも俺にとって一番大事なのはユイちゃん含めキャラ達との友好な関係だ!そしてさっきも言ったようにユイちゃんは俺の癒しだ!

 

どうかせめて慈悲を!慈悲をおくれ!

 

「…………約束、してくれますか?」

 

「え………?」

 

その言葉に俺は顔を上げ、ユイちゃんと目を合わせる

 

約束してくれるか、というのは多分………俺もこの先死ぬことはないと、さっきのように断言しろと言うことだろう

 

「そ、それは……」

 

俺は態勢を直して頬を掻きながらユイちゃんから目を反らす。周りの連中は俺達のしてることに興味が無くなったのか………まあ、当たり前だろうが、次々と転移門に入って行き、周りには俺達以外人と言えばNPCぐらいしかいなくなった

 

ど、どうしよう……助けて皆!女神シノンとその一行よ!

 

「え、えと……私達先行ってるわね!」

 

「後でちゃんと来なさいよ」

 

機転を利かせたのかどうか知らないが皆は俺達を残して転移門に消えて行ってしまった

 

…………いやフォローぐらいしてけぇぇぇ!シノンさんやシリカ、リーファは良いがリズベット、テメェは駄目だ!パフェの分働いてから行けよぉぉぉぉ!

 

くっ………そもそも内容知らねえからフォローも大したことないか、してくれたとしても期待は出来ない

 

「そ、その……」

 

もう一度ユイちゃんに視線を移すと悲しそうな顔で俺を見ていた

 

「っ………」

 

やべぇ………俺、ユイちゃんになんて顔させてんだよ……!キリトやアスナに会わせる顔がねぇ

 

それにこの子は優しい子だから、俺なんかでも死ねば悲しむ。悲しんでくれる

だから、あの時俺が言った言葉がどうしても嫌なんだろう。だから拘ってる

 

でも……それでも………!

 

「約束は、出来ない。ごめん」

 

俺は顔を上げてそう言った

 

「そうですか………」

 

…………顔を下に向けることが出来ん

 

「行きましょう」

 

ユイちゃんが俺の横を通る感じがした。恐る恐る顔を下げると目の前には既にいない

 

「…………あー、やっぱ俺良いわ。また明日にでも行くとするよ」

 

流石にこのままの気分で新天地へと向かうことなんて出来ない

 

「転移、《トリベリア》」

 

少し間を置いた後ユイちゃんは第七十七層の名前を言って転移する

 

俺はそれと同時に歩き出した

 

「つぁぁぁぁぁ」

 

そのまま手を顔に当てて唸ると変な声が出た

 

ユイちゃんとこんな感じになりたくはなかった

…………でも、嘘は吐きたくない

 

俺は、皆に沢山嘘吐いてんだから……正直に話せることなら出来るだけ話したい

 

「くっそ、こんなことならあんなカッコつけたこと言わなきゃ良かった」

 

後で悔やむから後悔と書くんだけど………やっぱ後悔すんのは嫌だな。正に今の状況だ

 

だがまあ、これで俺も一つ学んだな!後悔することで人は前へと進むことが出来るし!

 

「そうだ、俺は一つ学んだのだ!はっはっはっ……………はぁ」

 

無理矢理自分を正当化してみても虚しいだけだった

 

「結局俺はどうすりゃいんだよ」

 

誰もいない裏路地の広場に俺の声が染み渡る。誰も答えてくれやしない

 

気付けばまたいつもの場所に来ていた

 

「どうしたの?浮かない顔してるけど」

 

「ん?」

 

一人で佇んでいると声がする

 

この声は………

 

「ストレア」

 

「こんにちは!またここで会ったね」

 

そこにいたのはストレアだった

 

 

 

 




ユイちゃんは優しい子

シンの自分以外は死なない宣言は許せない!

だからきっと、シンに自分も死なないと約束させると俺は思います

…………ホント、良い子。涙出てくる(泣)


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はい、無理矢理連れて来られました

 

いつもの場所でストレアと出会った。毎回ここで会うような気がするが、なんでだろう?

 

「シンは行かないの?」

 

「どこに?」

 

なんでだろう〜?と考えていると質問された

まあどこかはわかりきっている。恐らく七十七層だろうが、なんとなく質問を返す

 

「七十七層」

 

「今日はいいや、人多いし」

 

ホントはユイちゃんと一緒にいるのが気不味いだけなのだが、理由を聞かれても説明したくないので嘘を吐くことにした。もうなんか、自然と嘘吐いてるよね、俺……

 

「ふーん………アタシは今から行こうと思ってるんだけど」

 

「あいあい、いってらっしゃい」

 

「一緒に行こうよ」

 

「…………what?」

 

あれ?俺さっき行かないって言わなかったっけ?言ったよね?なのになんで俺も行くみたいになってんの

 

おっかしいなぁ〜………聞こえてなかったのかな?よし、もう一度言ってさしあげよう

 

「今日はいいや、人多いし」

 

一字一句違わずストレアに返す。聞こえたかな?わかってくれたよな?

 

「七十七層はどんなところなんだろうね?」

 

「話聞いてる!?」

 

だがストレアは俺の答えなど気にせずに俺の手を取って歩き始めた。無理矢理振り払うのもアレなのでよろけながらもストレアに合わせるように歩く

 

しかし、本当に聞こえてないのだろうか。いや、絶対聞こえてるね!聞こえてないわけないじゃん!これで聞こえてなかったらラノベのハーレム主人公並みに難聴だよ!?

 

「ちょ、ちょちょちょ、ストレア?ストレアさーん?」

 

「なに?」

 

「俺、今日は行かないって言うの聞こえてました?」

 

「アタシそんなに耳悪くないよ」

 

ほうほう、やはり聞こえていたと……

 

「じゃあ何故に俺を連れて行こうとしてるんですかねぇ!?」

 

「ダメだよ、キリト達は転移門の前で待ってるんだから」

 

「ユイちゃんに言ったからきっと行かないって伝えててくれるって」

 

多分だが、ユイちゃんの様子の変化からだいたいの事情は向こう側はわかることだろう。だから行きたくないの!絶対キリトとかアスナとかわかるから!

 

「それでもダメだよ」

 

「なんでさ!?」

 

「ん〜………なんとなく?」

 

なんとなくかよ!?

 

「なんて言うか、シンを見てたらアタシがリードしなきゃ、って気持ちになるんだよね」

 

「それどう言うことだよ……」

 

え?なに?俺そんなオーラ出してる?いやいや、なんでだよ。てか、リードってなに?首輪についてるあの紐かな?………ワン!ってか

 

「わかんないけど………ねぇシン、やっぱりどこかで会ったことないかな?」

 

ストレアは一度止まって俺の方を向いて言う

 

会ったことか………それって、一番初めに会った時にも言ってたよな?ここ、七十六層より下でストレアと会ったことなんてあるわけないんだが………だって俺下に行ったことないし、てか行けれないし

 

「前も言ったけど、ねえよ。忘れてる、ってのもない」

 

「う〜ん………」

 

ストレアは俺の手を掴んでない右手を顎に当てて悩むような声を出す

 

………そう言えば、いつまで掴んでらっしゃるのだろうか。思えば俺の人生の中でこんなに長く女の子と手を繋いだ……てか、女の子に手を掴まれたことはない。つまり、初体験

 

ストレアさんありがとうございます!

 

「誰かと勘違い、ってことはないのか?」

 

心の叫びが表に出ないようにしながらストレアに言う

 

テンションが真逆だったもので声が真剣な感じになっちまったよ

 

「そうなのかな………まあいっか!行こうよ、シン」

 

「お、おう…………おう?」

 

「キリト達待たせちゃってるかも」

 

やべぇ、なんかナチュラルに俺も行くみたいな感じになってる!?

 

「ス、ストレア?俺は行かn「どんな街なんだろうね?」さ、さぁ?………あのな?ストレア、俺は行かn「名前はトリベリアって言うんだって」うん、知ってる……いや、あの「楽しみだね」…………うん、そだね」

 

負けた…………へへ、俺の負けだぜストレア。連れてけよ、俺を業火の中によぉ

 

てかさ、ずっと手掴まれてるけどハラスメントコードとか大丈夫かな?これ俺の方には出ないの?やっぱ男だから?

 

「転移"トリベリア"!」

 

そうこうしてるうちに転移門の前にやってきてストレアが地獄への門を開く。俺達は青い光に包まれ、次の瞬間には初めて見る街並みが

 

転移門広場だからかそこまで人が多いわけじゃないが、アークソフィアよりは人が多いな。当たり前だけど

 

「わぁ、居住区が浮いてる」

 

「ん?」

 

ストレアが上を見ながら言うので俺も同じように上を見上げると、デッカい岩の上に街を作ったような、そんな感じのが浮いていた。あそこにはどうやって行くんだ?転移とか出来んのかな

 

「お、ストレア来たのか。………あれ?シンも来たのか?」

 

二人でおー、すごいねー、などと呟いてたら後ろから聞き覚えのある声。この声は我らが"黒の剣士"様じゃないですかヤダー

 

発言的にユイちゃんから俺は来ないと既に聞いていたか、しかしユイちゃんは事の発端を話してないようである。嬉しいのか罪悪感マッハなのか………

 

「やっほーキリト」

 

「ストレアに無理矢理連れて来られた」

 

ストレアは挨拶を、俺は来た理由を話す

 

「成る程、だから手を繋いでるわけか」

 

どこが手を繋いでるように見えるのか知らないが確かに未だ手を掴まれてはいる。いやね?別に嫌じゃないのよ。むしろ嬉しいんだけど、なんて言うか恥ずかしいと言うか、ストレアの手があんなデカイ大剣を振り回してる割には小さくて可愛いと言いますか、いや何言ってんだ俺

 

「あ、掴んだままだったね」

 

そう言ってストレアは手を話す。掴まれてた部分が一気に外気に晒されてなんか少し物寂しくなったようで、てか普通に残念

 

「他の皆は?」

 

一抹の寂しさを噛み締めているとストレアが今の俺には非常にバッドな質問をキリトにした

 

俺としては来てしまったものはしょうがないのでこのまま一人で街を探索にでもダッシュしたいのだが…………

 

「ずっと立って待つのもアレだし、近くに丁度良い喫茶店があったからそこにいる」

 

「キリトはここでストレアを待ってたってわけか」

 

成る程律儀じゃないか。まあ、待ってるって言ってた本人がいなかったらそれもそれでどうかと思うが

 

「そうだ、シン。ユイと何かあったのか?リズ達がなんか話してたからさ」

 

「うぇぃ!?」

 

キリトの言葉に俺の体が跳ねた

 

や、やっばり気付くか………そりゃ気付くよな、自分の娘だもんな。てかリズベットなにしてんの、勝手にお前が俺の墓穴掘ってんじゃねぇ!マジやめてくんない!?

 

ヤッベェ……どうする?

 

「それより早く喫茶店に行かない?」

 

まさかのここで救世主ストレアの登場!?

 

「そ、そうだぜ、早く喫茶店行こう!俺ココア飲みたいな〜!」

 

「?わかった。けど、シンは本当にココア好きだな」

 

「ま……まぁな!」

 

よし!なんとか誤魔化せたぞ。そして次は隙を見て離脱するだけ

 

「キリトくーん!」

 

「」

 

どうやって抜け出すか作略を巡らせようとした矢先、かの"閃光"様がユイちゃんと女神シノンとその他一行を引き連れてやってきた

 

喫茶店にいたんじゃねえのかよぉぉぉぉ!?

 

「あ、シンさん」

 

シリカが俺の姿を見てなんだ結局来たのか、みたいな目で俺を見る。他の面々も殆どが俺にそんな視線を投げかけており、リーファなんか生温かい目で俺を見ている。やめろ、俺をそんな目で見るんじゃない!

 

「なんだ、結局来たのね」

 

リズベットが視線に込められた意をそのまま言葉にして撃ち出してきた

 

「ストレアに無理矢理」

 

「まあ、なんにせよ丁度良かったよ。今から皆で街を回ろうと思ってたから」

 

うぇー………なんで

 

「SAOに来てまだ間もない奴もいるから、新しい街での楽しみを教えようってわけだ」

 

「なんだエギル、いたのか」

 

「………お前は俺の巨体が見えなかったのか?」

 

「いや、自分で言うのもどうかと」

 

「はぁ………帰ったらココアの新作を作ってみようかと思ったが、その様子じゃいらないな」

 

なん……だと!?

 

「冗ぉぉぉ談じゃないですかヤダナー!もう、その頭の先から爪先までちゃぁんと見えてましたとも!いやぁ、今日もそのツルピカリンな頭が光ってますね!」

 

「現金な奴……」

 

「しかも褒めてるのか貶してるのかわからないし」

 

いやいや、新作のココアとなればこうもなるでしょうに

 

楽しみだなぁ、どんな味なんだろう

 

「ココアもいいが、早く行かないか?」

 

「そうだね」

 

キリトの提案で俺達はぞろぞろと転移門広場から商店通りの方へ出る

 

転移門広場から丁度、商店通りとの境を跨いだ時、俺の左手が取られた

 

「シンさん、一緒に歩きませんか?」

 

その手を取ったのはどうやらユイちゃんらしい。声の方へ顔を向けるとユイちゃんはいつもと変わらぬ笑顔で俺の横にいた

 

……………what?

 

 

 

 

 

 

 

 

商店通りに入るとプレイヤー達の群れと言うか、とにかく人が沢山いた

 

「おぉう、やっぱ多いのな」

 

「シンさんは人が多い所苦手ですか?」

 

「うぇ!?い、いや……別に?」

 

ユイちゃんの質問に俺は吃りながらも答える

 

「そうですか。…………あ、あれおいしそうですね!」

 

「お……おう、そだね。食べる?」

 

「良いんですか?」

 

「OKOK、YESYES」

 

俺はユイちゃんが指を指した屋台へとユイちゃんと共に歩いて屋台で牛串のような食べ物を購入、そしてキリト達の元へユイちゃんと共に戻る

 

そう、ユイちゃんと共に。手を繋いで

 

「…………」

 

どうなってんの?

 

あれ?おかしいな。俺達、転移門通る前まで気不味い雰囲気だったよね?別れたばかりの男女がコンビニとかでばったり会っちゃったぐらい気不味い雰囲気だったよね!?え、なに?何が起こったの?七十六層と七十七層の間になんか不思議な力でも働いてんの?

 

キリトやアスナとか、攻略組の奴らはホント何も知らないから温かい目で俺達を見てるけど、シノンさん達なんかすんげぇ………何があった?みたいな目で見てくんだけど、何があったかなんて逆に俺が聞きたいよ………

 

もう何がなんやら訳がわからないよ状態だ。小休憩としてさっき購入した牛串擬きを口に入れる

 

「…………なにこれ固いし味薄い」

 

「うーん………なんだか、すごく筋張ってておいしくないです。タレの味もしません。ママが作ってくれた料理の方がおいしいです」

 

ユイちゃんも同じ意見なようで、二人して顔を顰める。確かにアスナの料理はうまそうだ。未だに一度も食べてないが

 

「はっはっ!どうやらハズレだったようだなぁ、お二人さん?」

 

そんな俺達を見てクラインが笑ってそう言った

 

くそぅ………こいつの口の中に突っ込んでやろうか?あ、でも俺が食った後だし何より俺が嫌だからやめとこう

 

…………しかし、金の無駄遣いだったな。捨てるか?……いや、このまま捨ててしまったらそれこそ無駄遣いだ

 

「折角買ったからな、男ならば完食するべし!」

 

もう一度牛串に食らいつき、今度は豪快に残り全ての肉を口の中へと誘う

 

固い肉を歯で潰す。味のない肉を食っててなんかゴムみたい………

 

「私も、折角買って頂いたものですから完食します!」

 

俺を見習ってか同じように………いや、俺みたいに一気にとはいかないが完食しようと頑張るユイちゃん。見ていてとても微笑ましい

 

「ふふ……」

 

「んぐ?」

 

肉と奮闘してると後ろから笑い声が。後ろを見るとシリカだった

 

「あ、いえ……お二人が兄妹のように見えたものですから」

 

「…………」

 

兄妹、か

 

俺は口を動かしながらユイちゃんを見る。するとユイちゃんも必死に口を動かしながら俺を見上げていた

 

「んぐ」

 

こくん、と可愛らしい音を立てながらユイちゃんは口の中の物を飲み込んだ

 

俺もごくりと飲み込んで、二人で無言で見つめ合う

 

「ま、それも悪くないかもな」

 

「!………はい!」

 

俺がそう言うと、ユイちゃんは笑顔で返事をしてくれた

 

いやしかし、さっきまでの二人の雰囲気とは180度ひっくり返っている。何故かは知らんが、ユイちゃんの心境に何か変化があったとしか思えない

 

俺としては仲直り出来てとても嬉しい。だけどやっぱり、俺の中でつっかえが少し残っている

 

これを失くすには………

 

「なぁ、ユイちゃん」

 

出来るだけユイちゃんだけに聞こえるように言う。まあ、他の皆は屋台や武器屋やらにいつの間にか行ってしまったから気にする必要はないかもしれないが

 

「はい、なんですか?」

 

「…………ごめんな、避けたりなんかして。俺ってば強くないからさ、絶対に死なない、なんて嘘を吐きたくなかったんだ」

 

最初からこれを伝えてれば良かったんだけど、それだとあの時のユイちゃんには逆効果な気がしたから、だから言わなかった

 

「だから、その為にこれから頑張らなきゃ駄目なんだけど………ごめん、まだ俺は弱いから。明日、気付けばもう死んでました、なんてこともあるかもしれないし」

 

それに、何より

 

「嘘吐きだって思われるのが恐かった」

 

嘘なんて沢山吐いている。自分から吐いているのだから、そう思われても自業自得なのかもしれない。俺の正体がバレるのが恐かったから嘘を吐いてるけど、お前は嘘吐きだ、って言われるのも恐かった。考えただけで、何故かとても恐ろしく感じた

 

「シンさん、それは違います」

 

「………なにが?」

 

「それだと、シンさんが死んでしまう前提での話になってしまいます。シンさんはそうなりたいんですか?」

 

「……………」

 

ユイちゃんの質問に少し黙らされる

 

確かに俺が死ななければ良いだけの話だ。だが正直言って絶対的に死なないと言える根拠なんてどこにもない

 

…………でもまあ、死にたいのか死にたくないのかと聞かれたら

 

「死にたくない」

 

「じゃあ、それで良いんですよ」

 

?どういうことだ?

 

「その思いが大切なんです。結果ばかりを見ては駄目です。過程も大事にしてください

………シンさん、あなたの頑張る姿を見て、嘘吐きだなんて言う人はいませんよ」

 

「…………そっか」

 

ユイちゃんの言葉が、俺の不安を取り払ってくれた

 

死にたくないから、頑張る。その過程にあるものは嘘じゃなく、本当のことなんだな

 

「……話してくれてありがとうございます」

 

「ん?」

 

ユイちゃんにお礼を言われた。逆に俺が言う方だと思うんだけどな

 

「さっき、転移門の前で思ったんです。シンさんには何か理由があるから、問い詰めようとする私を避けていたと言うことに。その理由が知れて、私は嬉しいです」

 

「ユイちゃん…………」

 

成る程、そう言うことだったのか。だからユイちゃんは何事もなかったかのように

 

………うし!

 

「ユイちゃん、ちょっといいかな?」

 

「?なんでしょう?」

 

「いよっと!」

 

「わっ!?」

 

俺は確認をとった後にユイちゃんの脇に手を通して持ち上げる

 

そしてグイッ!と上に持ち上げて俺の肩へガッシーン!

 

「どうよ!肩車!」

 

「わぁ……高いです!」

 

どうやら喜んでもらえてるみたいだ。これ、拒否られたらマジで精神的にキツかったな。良かった〜…………ハラスメントコードとか出てないよな?

 

しっかしユイちゃん軽いわ。俺のステが筋力値寄りだからかは知らないけど、うん軽い

 

「よし!走るぞユイちゃん、しっかり掴まっとけよぉ!」

 

「はい!」

 

「特急シン号、発車致しまぁす!」

 

ユイちゃんを乗せた俺は街中を走り回った。時に屋台で食べ物を買い、時に店で服を見たり、時に誘拐と間違われ追いかけられたりと様々なことがあったが、とても楽しかった

 

「今日は楽しかったな?ユイちゃん」

 

「はい!また肩車してくれますか?」

 

「もっちろん!」

 

そして俺達は仲良く手を繋いでエギルの店へと帰るのだった

 

「さて、また明日から頑張ろうかな」

 

 

 




思ったこと

仲直り、はえーー!







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Poker Game

 

 

ガヤガヤ、ワイワイ

 

七十七層をユイちゃんと堪能したその夜、騒がしい中エギルの店で俺はココアを啜っている。他にもキリト以外のメンバーもきちんといて、各々好きなように過ごしている

 

「やるな、エギル。ココアにミルクを入れてミルクココアなんて在り来たりだけど」

 

「一言多いぞ」

 

いやしかし、ミルクココアうまいな。普通のココアとはまた違ってこう……クリーミーな感じが

 

「ふっふっふっ、スリーカード!」

 

「残念、俺はフルハウスだ」

 

「なにぃ!?」

 

ミルクココアを堪能していると後ろからそんな声が聞こえる。後ろを見てみると円テーブルを数人のプレイヤーが囲み、その中で椅子に座ってる二人がポーカーをしてるみたいだ

 

「ポーカーか、面白そうなことやってるな」

 

暫く様子を見ているとさっきまで外出していたキリトがそう言いながら入ってきた

 

「ポーカー……?」

 

「あれ、ユイちゃん。ポーカー知らない?」

 

キリトにお帰りなさいと言いながら近寄ったユイちゃんが不思議そうな声をあげたので聞く。確かにこの年齢の子がポーカー知ってたら大したもんか………いや、今時はそうでもないのかな?

 

「トランプゲームの一つで、5枚のカードの組み合わせで役を作って得点を競うゲームのことだよ」

 

「ストレートフラッシュ!ってね〜。案外面白いもんだぜ」

 

実はトランプゲームの中では結構得意な方だったりする。ポーカーフェイス(キリッ!って言ったら友達全員に、お前は終始ニヤニヤしてるから違う、って言われた記憶があるよ

 

「パパはやったことありますか?」

 

「ネットゲームで少しはあるかな」

 

ネットゲームか………カードゲームとかボードゲームとか、コンピューターに勝てる気しないのよな。チェスとかやったことあるけどボロ負けするし

 

「ポーカーをやるって言うんなら付き合ってもいいぜ」

 

コップを拭きながらエギルがどこから出したのかカードをカウンターの上に置く

 

用意いいなこいつ……

 

「そうだな、ユイにどんなゲームか実際やって見せるのも良いかもしれない」

 

「ってことなら、勿論俺も参加させてもらうぜ。いやぁ、久しぶりだなぁポーカーなんて」

 

ふっふっふっ、腕が鳴るよのぉ

 

「なになに?こっちでもポーカーやるの?だったらアタシも入れて!」

 

どこでやるか机を探してたらストレアが釣れた。どうやらストレアもポーカーがしたいらしい

 

「おお、構わないぞ。人数が多い方が面白いからな」

 

「どうせなら皆集めようぜ。ポーカーする人この指止まれ!」

 

俺は高らかに宣言しながら人差し指を上に上げるとストレアが嬉々としてそれを握る。続いてキリトも上に手を乗せた

 

「少し興味あるわね、私も参加するわ」

 

後ろからシノンさんが手を重ねる。細くて白い腕だねシノンさん!今日が終わると言えど麗しいです

 

「さてさて、参加人数はこれで決まりかな?」

 

俺はお前らも来い、という意を込めながらアスナにリズベットやシリカ、リーファに目を向ける

 

四人は行くべきか、行かぬべきと悩んでるみたいでなかなかこちらに来ない。ポーカーしようぜ!(円堂○風)

 

「勝ったら何が貰えるの?賞品は?」

 

賞品かぁ………うむ、やっぱりポーカーと言えば賭け事。賞品は大切だよな

 

「………そうだな、店のメニューから何か一品奢る、ってのはどうだ?」

 

「そんなの全然嬉しくないよ」

 

「ひどい言われようだな………」

 

ブフッ!ざまぁエギルww…………そうだ!

 

「ココア一年分とか、どうだ!」

 

「あんたしか得しないじゃない」

 

えぇー?そうかなぁ?

 

「シノンさんはココアお嫌いかな?」

 

「嫌いじゃないわよ。ただ、一年分もあっても消費に困るだけ」

 

「その時は是非俺に!」

 

「だから、結局あんたしか得してないでしょうが」

 

ふむ、成る程………

 

「じゃあどうするよ?」

 

「そうだな………普通に考えてここは…」

 

キリトの提案、普通に考えたらってことは金なんだろうな

 

「お金を儲けるのは駄目だよ、キリト君」

 

アスナもキリトが言おうとしたことがわかったのかそう注意しながらこちらに歩いてきた。そして重なった手達の上に手を重ねる

 

プレイヤー一人GETだぜ!

 

「まあ、揉め事になっても嫌だしな。えーと、じゃあ………そうだな。ユイだったらご褒美は何が欲しい?」

 

ユイちゃんに賞品を求めるそうだ

 

「ご褒美ですか?えっと………パパを一日ひとり占めできたらとっても嬉しいです!」

 

あら可愛い………!なんて可愛い子なんだ。こんな子が娘だったら全国のお父さんは幸せに満ち溢れてるぜ……!

 

「いいじゃん!賞品はそれに決定ね!」

 

「お、おい……」

 

「話は聞かせてもらったわよ!勿論私も参加するんだから!!」

 

賞品の内容を聞いてリズベットがマッハで飛んできた。こいつ……!賞品がキリトと聞いた瞬間、一瞬でクラウチングスタートを決めやがったな!?

 

「はいはーい、私も参加します」

 

続いてリーファもやって来て手を重ねる。なんか、手で傘が出来そうだ

 

「あの……私もやります!」

 

シリカもやって来た。やはり好きな人が賞品だと乙女は燃えるのだろうか

 

「ちょーっと待った!」

 

ここでおっさんの声が介入して来た。クラインだ

 

どうやらこっちの様子を伺いながら出てくるタイミングを計ってたらしい。ババーン!的な感じで出てくる

 

「この流れで俺が参加しないってのも……おかしな話だよな?」

 

決めポーズをしながらそう言うクライン。そのクラインに俺は言うんだ

 

「そんなにキリトをひとり占めしたいか、このゲイがッ!」

 

「はっ!?」

 

「クライン……あんた、そういう趣味があったのね」

 

ここで意外にもシノンさんがノッてきた。…………あれ?ノリだよね?本気で思ってるとかそんなんじゃないよね?

 

「ごめんな、クライン。俺、男はちょっと……」

 

「おいおいおいおい!待てよ!俺はゲイでもホモでもねぇ!」

 

「ま、愛の形は人それぞれってことで。ポーカー始めまっしょい!」

 

「いや、話聞けよ!?」

 

何やら後ろでクラインがうるさいが俺達は気にすることなく空いてる円テーブルを探し足りない分の椅子を他から持ってきて座る

 

さぁ、ポーカーのスタートだ!

 

 

 

 

 

 

エギル以外のプレイヤーは椅子に座り円テーブルを囲む。外側ではユイちゃんとピナがそんな俺達を見ている

 

ディーラーを務めるらしいエギルがカードをシャッフルしながら口を開いた

 

「ポーカーって話だったが、人数が多いからな。ちょっと特殊なルールを使おう」

 

特殊なルール?ポーカーって……俺が知ってるルールと違うのがあるのか?

 

「カジノでよくプレイされているテキサス・ホールデムを元にしたポーカーにするのがいいだろう」

 

「テキサス………ホールディム?」

 

「テキサス・ホールデムよ」

 

俺が復唱するとどうやら間違ってたらしくシノンさんが正してくれた

 

「プレイヤーには2枚の手札が配られる。そして場には5枚のカード

自分の手札との合計7枚を使い、一番強い役を作る」

 

そう言ってエギルは時計回りにカードを一枚ずつ配っていく

 

「………一番最初のディーラーボタンはストレアからだな」

 

そう言ってエギルは配ったカードを回収していく

 

ディーラーボタン………?わかんないけど後で聞くか

 

「手持ちのチップを使い切ったら脱落………最終的に一番稼いだ奴が優勝だ」

 

ふむ、なかなか面白そうなルールだ

 

俺は自分のチップを一枚手に取る。流石にカジノで使われるようなチップはないため、コルで代用しているが

 

「これ以上やりたくなかったらFold。受けて立つ時はCall

掛け金を上乗せしたい時はRaise!と叫ぶんだぞ」

 

「Raise!」

 

「まだ早いぞ……ルールはわかったな?じゃあ、ゲームを始めよう」

 

「皆さん、頑張ってください!」

 

「クルルルルル!」

 

そして、俺達のポーカー勝負の幕が切って下された

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ、フォールド」

 

「私もフォールド」

 

まず開始して1度目。今のところ全員が勝負を降りた

 

次は俺の番か………場に出ている札はスペードのKが2枚とクラブの10、ダイヤのJと2が順に並んでいる

 

それに対して俺の手札はダイヤの8とハートの2。ツーペアしか作れないな。場のカードだけでもワンペア

 

「Fold」

 

カードを裏向きに机に置いて俺は宣言した

 

「次、リズベットだぜー」

 

「わかってるわよ。……………よし、これなら間違いなく勝てるわ。勝負するっきゃないでしょ!」

 

え?マジで?

 

「全賭けのオールイン!」

 

はっはっはっ!こいつ馬鹿だ………初っ端からオールインする奴がどこにいんだよ

 

あ、ここにいた!

 

「これで勝てなかったら脱落なんだから、なんとかなってよー!」

 

懇願するように両手をギュッと握るリズベット。まあ、強い役が来たらわからんでもないが、俺も最初の頃はよく全賭けしてたよ。まあ、賭けてたのはチョコレートだったけど

 

「コール!」

 

おっと、ストレアがコールか。ストレアが行動したってことは一勝負目は終わりかな

 

ディーラーボタン、聞いてみるとどうやらこのゲームでは一番良いポジションのことらしい。なんでも最後に行動出来るからだとかなんとか。詳しいことはよくわかんねぇや

 

「コール!?」

 

「もちろんだよ、ふっふっふっ」

 

え、なにあれ可愛い

 

「Showdown。それじゃあ手札を見せてくれ」

 

エギルの合図で二人は一斉にカードを表にする

 

「じゃじゃーん!」

 

…………おぉ!

 

「ストレート!?」

 

「あはは、残念でした♪

キングのスリーカードも強いんだけどね〜………でも、勝ちを確信しちゃダメだよ。何事も失敗の可能性はあるでしょ?」

 

「く………く、悔しー!」

 

まずはリズベット脱落、と

 

 

 

 

 

 

 

そして時は変わり3度目、2度目は特に面白味もなく、レイズしたら誰もコールして来なかったからチップが増えた。まあ、俺の役を見た時リーファなんか悔しがってたけどね。だってツーペアだもん

 

「うーん、どうしよう。順番が来ちゃうよ」

 

どうすっかなー、と考えているとシリカから悩む声が聞こえた。元々チップの数が少ないからか、シリカはこれ以上レイズした場合、負けたら脱落かな?

 

「やっぱりレイズした方がいいのかな………どう思う?ピナ」

 

ふむ、レイズを考えているのか。ってことは自信のある手札なのかな?現在コールしてるのはアスナとクラインだけだけど……

 

よし、後押ししてやろう(悪い顔)

 

「シリカ〜、次シリカの番だぞー」

 

「え!?あ、はい!レイズです!………あ!」

 

「コールだ」

 

シリカのレイズに続いてキリトのコール

 

よしよし、上手くいったか。人っていきなり声掛けられたらあんな風に思わず言っちゃうことってあるよねー

 

「フォールド…………あんた、意外とそう言うこともするのね」

 

してやったり!な顔をしてたらシノンさんにそう言われた

 

「Fold。ま、俺もキリトの独占権は欲しいしね〜」

 

「え………」

 

おっと勘違いの予感

 

「キリトの独占権があれば、レベル上げに一日中付き合ってもらえるからな」

 

「攻略に連れて行ってもらえばいいじゃない」

 

「キリト達の邪魔になるのだけはごめんだね」

 

Showdownでコールした奴らの手札を返して、クラインが悔しがってるのを見ながら俺は呟いた

 

「でも、賞品なら合法的だ」

 

「………そう」

 

あらら、興味無さげかな………?

 

「次のゲームを始めるぞ」

 

そのエギルの声に、俺は手元のカードをエギルに返した

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと残ってるのはシノンだけ。………よし、オールインよ。うん、間違いない」

 

アスナが全部を掛けて勝負に出た

 

今現在残ってるのは順番から見てキリト、俺、ストレア、アスナ、シノンさん

リーファとクラインはブラフ張ってそれを看破され散って行った。因みに俺はちょこちょことやってたためまだ余裕がある

 

しかし、アスナがとても真剣だ。まあ、自分の夫の独占権が掛かっているのだから当たり前っちゃ当たり前か

 

「コール」

 

「なっ………!?」

 

おっと、ここでまさかのコール。シノンさんにも強い手札が回ってたのか

 

ホント良いよな〜、俺なんか今回ワンペアだったってのに

 

「Showdownだ」

 

エギルの合図でアスナとシノンさんがカードを表にする

 

「クラブのフラッシュ。私の勝ちね」

 

「そ、そんなぁ……」

 

まあ、なんだ…………ドンマイ!

 

「やった!これで残るはアタシとシンとキリトとシノンの4人!とっとと優勝を決めちゃおう!」

 

「負けるつもりはないわよ」

 

「優勝は俺が掻っ攫ってくぜ」

 

例えシノンさんと言えど負けるつもりは毛頭ないのである!

 

「あーあ、勝ちたかったなー」

 

「誰が勝っても悔しいだけだし、こうなったらキリト君を応援するしかないな」

 

脱落者のリズベットとリーファが何やら言っている

 

………いやいや、俺が優勝した場合でも悔しいの?

 

「シン、特にあんたは優勝するんじゃないわよ」

 

「いや、なんでだよ」

 

「絵面的に男の子同士ってのはちょっと……」

 

「俺はクラインみてぇにホモじゃねぇ!」

 

「俺だってホモじゃねえよ!」

 

え、そうなん?

 

「が、頑張ってくださいキリトさん!シンさんには優勝させたら絶対駄目ですよ!」

 

「おいシリカ、さっきのお返しかコンニャロー」

 

「…………」

 

………アスナ無言?こわっ!

 

「カードを配るぞ」

 

「よっしゃ来いやぁ!」

 

「ちょっとテンション高すぎ、うるさいわよ」

 

「…………はい」

 

シノンさんに怒られてしまった………

 

ちょっとしょんぼりなりながら手札を手に取ってみる

 

「……おおーっ!これは最強のカードと言わざるを得ないよ!…………よし!アタシはここでオールインするね!」

 

カードを見ようとしたらストレアがそんな声をあげた

 

てかマジか、そんなカードが来てんのか………運が良いなストレアは

 

「どれ、俺のは……」

 

スペードのQとJか………

 

「場のカードは……」

 

順番にスペードのKとA、クラブのK、スペードの10、ハートの6

 

………ん?スペードのK、A、10?

 

手札は、スペードのQ、J

 

合わせてスペードの10、J、Q、K、A………

 

「カフッ」

 

気付いた瞬間、息が詰まった

 

「どうした?シン」

 

その変化に気付いたのかエギルが俺に問う

 

「What up? Egil.I'm okay.」

 

「おい、こいつどうした」

 

「ほっといた方が良いと思うぞ」

 

「…………そうか」

 

え?ちょ………え?これって、あれですか?この役はやっぱあれですよね。ロイヤルストレートフラァァァァッシュ!!

 

お、おぅふwふ、ふふ。マジか、これマジか!?え!?ロイヤル来ちゃった!?ロイヤル来ちゃったかぁ〜、来ちゃったよ!!やべぇって、俺ヤッベェ!成る程、今までワンペアツーペアしか出なかったのはこれまでの布石だったのね!

 

見たか貴様ら!これが私の力だ!!ふは、ふへははは!

 

「コール」

 

………はっ!イカンイカン。なんかどうにかなってたみたいだ。シノンさんのコールで正気に戻った

 

「お、俺もコールだ」

 

この手札、コールしないわけにはいかないだろう。てか、俺の勝ちも決まったようなもんじゃねえか

ロイヤルストレートフラッシュ………まさか、本当に出るんだな、この役

 

………さて、後はキリトだけだが

 

「俺はコール………勝負だ!」

 

GOOD!キリトもコールしてきた

 

「Showdownだ」

 

今日で既に聞きなれてしまったその言葉でまずはストレアから手札を表にする

 

「じゃじゃーん!Kのスリーカードだよ!」

 

「危なかった………Kと10のフルハウスだ」

 

二人ともなかなか良い手札だ。てか、本当に運良いのなお前ら。俺なんかさっきまでワンペアかツーペアのどっちかだったってのに

 

「フルハウス!?そんな強い手札が最後の最後に出るの!?」

 

………ごめん、俺最強の出ちゃってます

 

「はぁ………負ける気しなかったんだけどなぁ」

 

「後はシンとシノンのカード次第だが……」

 

キリトがそう言うと一斉に皆の目が俺達に向く

 

「……………」

 

シノンさんはだんまりで自分の手札を見ていた

 

「……………残念だけど、私の負けね」

 

手札を表にせずにシノンさんはそう言った

 

………なんかおかしいな。これまでの勝負、一度もシノンさんは手札を見せなかったことなんてないのに

 

もしかして嘘吐いてる?…………まあ、アスナとか懇願するような目で見てきてるからなぁ……

 

「シ、シン君は……?」

 

我慢しきれなくなったのかアスナが俺に問う

 

……………どうすっかなぁ。レベリングも大事だけど……うーん……いやでも、ロイヤルストレートフラッシュだよ?もう人生にまた一度来るかどうかわからない役なんだよ?

 

「どうなのよ?」

 

そう急かさんといてくださいシノンさん………

 

ぐぬぬぬぬぬぬ…………はぁ……

 

「あーあー、くっそ。最後の最後までワンペアってどーゆうことですかい!おいエギル、お前俺にだけなんか仕掛けとかしてねぇよな!?」

 

優勝は譲ってやりましょうかね

 

「…………ってことは、キリトが優勝か?」

 

「そーなるね!ところでエg「してねえよ。そもそも、ワンペアやツーペアしか出てないのにここまで生き残ったお前が何か仕掛けしてるんじゃないのか?」ぐぬ……何もしてねぇよ!ったく……トランプ貸せ、俺がシャッフルする」

 

俺はエギルの手から引っ手繰るようにカードの束を取ってまずは自分の手札だったカードをイン。そして他の人のカードも集めて軽くシャッフルしてOK。アフターケアも万全の俺なのです

 

「えっと………これ、優勝賞品はどうなるの?」

 

「賞品が優勝しちゃったらねぇ………」

 

あー、確かにそうだな

 

「だったらさ、キリトが決めれば良いんじゃね?」

 

「俺が?」

 

「そうそう、ユイちゃんをひとり占めとか」

 

「…………成る程、じゃあそうしようかな」

 

………あれ、優勝賞品変えれるんなら俺譲らなくて良かったような気が

 

「パパが私をひとり占めですか?えへへ、嬉しいです!」

 

うわぁもうなにこの子めっちゃ可愛いやん。俺がひとり占めしたいぐらいだよコンチキショー

 

「うん、それなら………」

 

アスナや他の面々も納得したご様子だし、まあいいか。終わり良ければ全て良しってね

 

ここらで解散だろうし、俺は剣でも振りに行こうかな

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

「それじゃ、ここらで解散か?楽しかったぜ、皆お疲れさん!」

 

「お疲れー!」

 

「カツカレー!」

 

「うわ、寒……」

 

「お疲れ様」

 

各々挨拶をして解散する

 

「あっ、ちょっと待ってくれシノン」

 

俺は部屋に帰ろうとするシノンを呼び止めた

 

「なに?」

 

「…………さっきの勝負、本当に負けてたのか?」

 

ポーカーの最後の試合、シノンはカードの表を見せなかったのを俺は見ていた

 

「なぜそんなことを聞くの?」

 

「最後、手札を見せなかっただろ?もしシノンの手札がエースのペア……」

 

「………それを答えてもいいの?」

 

「え?」

 

「それを答えて、もし私が勝っていたら私が賞品をもらうことになるわよ?」

 

そう、シノンがもしAを持っていたとするならば、本当はあの勝負、俺が優勝することは出来なかった

 

「そ、それは……」

 

口籠る。自分が賞品となって競い争われるなんて本当は嫌だったからだ

 

「それに、聞くのなら私じゃなくてシンに聞いた方が良かったんじゃない?」

 

「なんでだ?」

 

シノンの言葉に俺はさっきの勝負のことを思い出す。ストレア、シノン、シン、俺の順にコールして行き、シノンがカードを見せなかったから不思議に思った俺は今こうして呼び止めてるわけだが…………そう言えば、シンはワンペアだと言っていたが、何のワンペアだったっけ?

 

待てよ………

 

「………!そう言えば、シンも手札を見せていない。口ではワンペアだなんて言ってたけど…」

 

「そう言うことよ。いち早くカードを片付けてたしね」

 

確かにそうだった。負けたとエギルにいちゃもんをつけた後、引っ手繰るように束を取っていち早くシャッフルを始めたのはシンだった

 

じゃあ、もしかしてシンは俺より強い役を手にしていた?そう言えば場のカードと手札を見比べた後、何かあったらしくエギルが反応していたな………挙動不審みたいだったし、今までにない役が来たのならば頷ける

 

「ま、ホントのところはどうかわからないわ。私は負けてたけどね

…………信じるか信じないかはキリト次第よ。それじゃ、また」

 

そう言ってシノンは自分の部屋へと帰って行ってしまった

 

…………もうカードは完全に片付けられていて、本当のことを確認することは出来ない。本当は俺の勝ちじゃなかったのかもしれない

 

シンに聞けば答えてくれるだろうか?………いや、答えないだろうな

 

シノンも、ああ言ってるんだ。俺が勝ったということにしておこう

 

 

 

 

 

 

「キリト、トランプ知らないか?」

 

「トランプ?………さぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

「………….あ、エギルのトランプ持って来ちまった。まあいっか!」




今回の話、ゲームをやった人達にとっては特に目新しさも何もないつまらない話だったかもしれません

もうちょっとオリジナル性を入れれたら良いんですけどねぇ………

※2020/02/14 視点変更箇所に
       ======================
       に変更


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さぁ、気張って行こー

 

 

「おはよー!」

 

俺は挨拶をしながら階段を駆け下りる。最後の5段くらいでピョンッ!とジャンプして見事に着地!

 

「ふっ、10点満点だな。エギルー、ココア頂戴」

 

「あいよ、ちょっと待ってろ」

 

カウンターの前に座っていつものようにエギルにココアを催促。思えばここ数日で飲んだココアの数は数え切れない程だ………ただ単に数えてないだけで本当は大したことないだろうけど

 

「今日はどうするんだ?」

 

カチャリとココアを俺の前に置いてエギルが聞いてきた

 

「サンキューエギル。そうだなぁ………」

 

今日はどうすっかねぇ……やっぱりホロウエリアにGOだろうか?

 

よし、キリト巻き込んでホロウエリアに遊びに行こう。そう言えば昨日エギルのトランプを返し忘れてたし、三人で仲良くババ抜きってのも良いかも

 

全員連れて行けないのが悩みの種だよなぁ……

 

「ホロウエリアにでも行こうかな」

 

あ、でもそれはそれでキリトが攻略に行きたいって言うかもしれないな。俺がいたら邪魔だし、俺も邪魔はしたくない

 

レベル上げないと………そろそろ街の外に繰り出してみるか?危なくなったらすぐに圏内に入れば良いし

 

「そうか、一人じゃ危ないからキリトかアスナ、もしくはクラインを連れて行けよ。俺は店番があるからな」

 

「ダイジョブダイジョブ、圏内で遊んで帰ってくるだけだから」

 

「まあ、それなら安全で良いがな。それよりシン、俺のトランプを知らないか?」

 

…………あ〜

 

「俺が持ってる。ごめん、返すの忘れてた」

 

俺はポケットから入れっぱなしだったトランプの束をエギルに見せる

 

「なんだ、お前が持ってたのか。どうする、貸しとくか?」

 

「頼む。サンキューエギル」

 

いやぁ、ホントエギルにも頭が上がりませんなぁ

 

そんなことを思いつつココアをぐいっ!と飲み干す

 

「なんだ、今日は早いんだな。シン」

 

階段を下りてくる音と一緒に上から降ってくる声

 

「おはようキリト。俺はいつも朝にはお強い人だぜ?」

 

「昨日は俺達がボス戦に行った後に起きたって聞いたけど?」

 

「うげ、誰に聞いたんだよ…………」

 

もしかしてシノンさんか?うーむ………まあいい

 

「シン、今日はホロウエリアに行かないか?」

 

「ん?」

 

俺の横に座ったキリトがそう切り出す

 

「丁度良かったじゃないか。今日はホロウエリアに行く予定だったんだろ?」

 

エギルがココアのコップを片付けながら言った

 

確かに丁度良いかもしれないが………

 

「あぁ、うんまぁ………キリト、それってやっぱ攻略?」

 

攻略だとすると、話は別になってくる

 

「そうだな、攻略が主になると思う」

 

「あー、んじゃいいわ。フィリアと二人で行ってらっさい」

 

キリトの言葉を聞いた瞬間俺はバッサリと断った

 

「おいおい、そりゃあどういうことだ?」

 

「だってよー……」

 

俺はカウンターにだらしなくもたれる

 

俺がいたら俺のレベリング中心になって先に進まねぇんだもんよぉ。そんなの、申し訳ないったらありゃしねぇ

 

「シン、もしかして前回のことをまだ気にしてるのか?」

 

「………」

 

気にしてるって言うか、なんと言いますか

 

「攻略に行ったら、レベルの低い俺の為にレベリング中心になる。イコール時間掛かる。労力増える。俺にとって悪いことじゃないけど………お前らにとってはあまりよろしくない。だからとても非効率的です。Do you understand?」

 

そして数日前に誰の邪魔もしないと宣言した俺がそれを破るのもいけないことだ

 

まぁ、攻略以外の場面では思いっきり頼るけどな

 

「…………わかった」

 

キリトもどうやらわかってくれたようだ。流石攻略組トッププレイヤー、自分の攻略が遅延すれば全体が遅れることをちゃんとわかっていらっしゃr「じゃあ、こうしよう」………ん?

 

「俺もフィリアも攻略を優先させる。シンはその後に着いてくるだけでいい。勿論、援護してくれても良いし何もしなくても構わない」

 

「ん?ん?んん?」

 

「だけど、俺達にピッタリくっ付いてないと危ないぞ。HPが危なくなったら一人ででも良いからいち早く転移結晶で戻るんだ。良いな?」

 

「ジャストモーメントだキリト。言ってることがイマイチ理解出来ねぇです」

 

こいつはいきなり何を言い出してる?ちょっとごめんわかんない

 

「つまり、何も言わずに着いて来いってことだ」

 

エギルがわかりやすく且つシンプルに教えてくれる。あまり変わらないような気がするが、冷静に考えてみると理解出来ないことなかったわ

 

きゃあ漢らしい!………じゃねえよ!

 

「で、どうなんだ?」

 

ぬ………ぐぬぅ……

 

どうする?キリトは口ではこう言ってるから確かに俺のレベル上げなんざ二の次にするんだろうが………周りでチョロチョロされたら邪魔なんじゃないだろうか?

 

でも、折角のキリトの好意を無下にするわけにも……それに、戦闘にちょいちょい手出ししてれば経験値も入ってくるだろうし、俺にとっても得になるのか

 

「…………OK、わかった」

 

納得し返答する。言い包められた気がしないでもないが、そこは気にしたら俺の負けかもしれないから敢えて気にしない

 

「よし!そうと決まったら早速行くか」

 

「へーへー、黒の剣士様の仰せのままにー」

 

俺達は立ち上がりエギルに別れを告げて店から出る。必要となるアイテムの残量を確かめ、武器を装備する。その後にパーティ申請がキリトから来た。それに承認すると転移門の前はもうすぐ、軽く駄弁りながらだったからもう目の前にまで来ていた

 

「「《ホロウエリア管理区》」」

 

二人で口を揃えて転移先を言うと俺達は青い光に包まれて転移が完了する

 

「フィリアー、フィリアはいるかね?」

 

入って早々俺はフィリアの姿が見当たらなかったので大声を出して呼んだ。ここにいないなんて珍しい。どこか行ってんのか?

 

「いないみたいだな………多分、外に出てるんだろ」

 

「うぇー………じゃあどうすんの。帰る?」

 

フィリアがいないんじゃあキリト一人で俺というお荷物を背負ったままじゃキツイはずだ。てか、フィリアもよく一人で外に出ようとか思たよな

 

いや、でも俺達と出会う前は一人だったみたいだし、そうでもないのかな?

 

「別にフィリアがいなくちゃ進めないってわけじゃないだろ?なに、心配ないさ」

 

「本当かぁ………?」

 

なんかスッゲー不安なんスけど。いや別にキリトの実力を疑ってるわけじゃないんだよ?でもね、俺も安全性と言うのを高めておきたいわけですよ。フィリアとは二人で確かに行ったけどさ、あれは保証があったわけだからね。新しいとこを歩こうってんなら念には念をだな………

 

「今日は奥の方まで行ってみるか。行くぞ、シン」

 

既に行く気満々………だと!?

 

「まあまあ、待ちーやキリト」

 

管理区から転移するのに必要な石碑みたいな、パソコンのキーボードみたいな感じのやつの前にいるキリト。その肩に手を置いて言う

 

「なんだ?なんで関西弁だ?」

 

「未だ未開の地に二人パーティなんて心許なさすぎるだろ?な、ここはフィリアを待とう。それまで二人でトランプでもしてようぜ?」

 

ポケットからエギルから拝借したトランプを見せる。種目は二人だからスピードで良いだろう。もしくは神経衰弱でも可

 

「探索の途中でフィリアに会えるかもしれないだろ?」

 

「確率的に考えろ、会う確率の方が低いだろうが」

 

「引き際ぐらい弁えてるさ。俺がシンを守れないようなレベルのモンスターが出た場合、速攻引き返すよ」

 

あぁ、もうなにこのイケメン………、もう何も言えねぇ

 

「へーへー、黒の剣士様の仰せのままにー」

 

「それさっきも言ってたな……」

 

なんか若干嫌そうな顔をしなさる黒の剣士様。これは弄るいい機会かもしれない

 

「仰せのままにー!仰せのままにー!黒の剣士様のぉ〜仰せのままにー!」

 

キリトの肩から手を離してクルクル〜っと回りながら言いまくる。キリトの顔が若干嫌そうな顔からものすごく嫌そうな顔にグレードアップした。多分きっと心の中では『なにこいつ、ウザっ!』とか思ってるに違いない

 

「やめろよ、傷付くだろうが!!」

 

「…………いや、自業自得だろ」

 

おぅふ、言い返せねぇ

 

「んじゃぁ、行くか」

 

言い返せないので話の転換。キリトの肩に再度手を置いてGOサインを出す

 

「行きたくないんじゃなかったのか……」

 

「仰せのままにー」

 

「まだ言うか。ったく、行くぞ」

 

「イエっす!」

 

こんな馬鹿な会話をしながら俺達はホロウエリアを生き抜けるのか不安になってきたが………そんなことは顔にも出さずに転移した

 

転移するとフィリアと来たのと同じ場所に出た。後ろには建物がある

 

「まずは向こうの森を抜けよう」

 

そう言ってキリトが指差す方向は昨日とは違う方向だった。森の入り口らしき付近には蜂モンスターが複数匹いる

 

蜂か………鉢には良い思い出が全くない。あったとしたらハチミツおいしぃなぁ〜、ぐらいしかないぞ。今度ハチミツ入りココアをエギルに申請してみるか……….ハチミツが採れるのかは知らないけど

 

「行くぞ」

 

「イエッサー」

 

キリトの声で同時に駆け出し、俺はチャクラムを取り出して目の前にいた《パワードスケルトン》のど頭に一撃を食らわせる。相手が後ろを向いてたし、周りに他のモンスターがいなかったから引き付ける必要もなかったので、投げてはない

 

頭に強烈……って程でもないけど、一撃を食らったスケルトンは俺をロックオンする

 

だがしかし、お前の相手は俺だけではないのだよ!!

実際に声には出してないが、脳内でスケルトンに吐き捨てた直後、スケルトンに一瞬にして二回、切り傷が刻まれる

 

言うまでもなくキリトの攻撃だ。相変わらず速い。その速さを少しでいいから俺に分けて欲しいな………あとモテ度も

 

俺がそんなことを考えているうちにもキリトの追撃は更に続く。だけどやっぱり、相手さんも勇者の前に立ちはだかるモンスターであるようで、スケルトンは剣を所定の位置に構える

 

間違いない、俺もここ数日でよく知ってる。あれはソードスキルの構えだ

 

「キリト、ソードスキル!!」

 

そこで俺はキリトにそう叫んだ

 

キリトは相手から目を離さないまでも、俺の言葉に首を傾げてるようだ。何を言ってんの?みたいな顔してる

 

だがそんな顔が出来るのも今だけだ

 

「いょっとぉ!」

 

俺はチャクラムの鎖を掴み、モーションに入り始めたスケルトンの腕に素早く鎖を巻き付ける。剣の軌道上俺には当たらないようにしているから大丈夫だ。そしてスケルトンが剣を振るう時、同時に鎖がジャラジャラと鳴る

 

剣がキリトを捉える前に、俺は体術スキルを発動した。スケルトンとは逆方向にだ

モーションと自己ブーストで最大限の威力になっただろう俺の拳は、チャクラムの鎖を全力で引っ張る

 

「っ!そう言うことか!」

 

キリトは俺のやろうとしていることに気付いてくれたのだろう。俺を信用して、すぐにスキルのモーションらしきものに入る

 

ならば信用、答えようじゃないの!

 

ガキィ!

 

そんな音と共に、俺の右腕に多大な負荷が掛かった。それに負けぬように一生懸命踏ん張り、それはすぐに消えた

 

負荷が無くなったので後ろを見ると、スケルトンの攻撃は中断されていた。どうやら上手くいったらしい

嬉しいことには態勢が斜めになっている。いきなり別方向に力が働いたからソードスキルの威力が出し切れず、姿勢も崩したことで中断することとなったんだ

 

更にそこにキリトのソードスキルが迫る。スターバーストストリーム!!………とまではいかないけど、何時ぞやに見た7連撃が見事にスケルトンに決まった。だがまだ油断するな

 

「とりゃっ!」

 

俺はすぐにスケルトンへチャクラムを投げつける。至近距離から、投げなくてもいい距離だったかもしれないけど、見事頭に当たってスケルトンとはオサラバ。ポリゴン片となって散っていった

 

「ナイス、シン。凄かったぞ」

 

「いやぁ、それ程でも」

 

あるかもね!

 

多分さっきの相手の行動を中断した奴だろうけど、褒められると嬉しい。でもあれ、人型にしか使えない手なんだよな………浮いてたりとかしても多分駄目だ。あと他にも、股の間に通して転ばすとかあるけど、これは実践したことないからわからん

 

しかし、上手くいって良かった

 

「よし、行こうぜ」

 

「ああ」

 

俺が拳を突き出すとキリトも同じように拳を出してこつん、と合わせる

 

それと同時に次のターゲットは入り口付近の蜂3匹。まず離れた一匹をチャクラムで誘き寄せ、攻撃にヒヤヒヤしつつも撃破。残りの2匹はキリトが引き付け、一気に撃破していた

 

そして森の中へと侵入。蜂が多い!

 

「もーやだー!蜂多いよー!」

 

「我慢しろよ……」

 

泣き言言ったらキリトにそう言われた

 

お前は蜂に殺されかけたことが無いから!………いや、実際は知らんけど、そう言えるんだよ!

 

蜂に泣く泣く対処しながらも順調に歩みを進めて行く。蜂をキリトの二刀流で千切っては投げ、俺のチャクラムでおちょくり、偶に俺の剣でセイヤッサ!

そう言えば今思い出したが、確かにキリトの言うように俺のレベル上げは優先していないみたいだ。でも邪魔になってはしないだろうか?

 

邪魔な蜂を葬ったキリトに俺は聞くことにした

 

「なぁー、キリト?俺ってば邪魔じゃない?」

 

そう聞くとキリトは何言ってんだこいつ、見たいな目で見て来やがった。そんな目で俺を見ながら口を開く

 

「シンは俺が思ったよりも戦えてる。前回、4人で来た時は剣に振り回されてるようで不安だったけど、それも解消されてるようだし。全然邪魔じゃないよ。寧ろ若干頼もしい」

 

うぉ、意外に高評価。てか、剣に振り回されてたのか俺………

 

「すごい成長振りだよ。前は本当に振り回されるだけだったのに、それはもう……」

 

キリトがあの時のことを思い出すかのようにしながら言うのを俺は黙って見てる。まあ、毎日沢山剣を振ってるから多少は改善されてるんだろうな

 

そして俺は、その次の言葉に一瞬だけだが、息を呑んだ

 

「まるで、誰かが戦うのをずっと隣で見てきただけかのようだったからな」

 

「っ!……そーなのかー。だが、今の俺は違う!私は常日頃進化するのだよ」

 

驚いた表情を悟られないように敢えてそう続けた

 

今のキリトの言葉、確かに的を得ている。剣の素振りを始めたばかりの俺は………いや、まあまだたった数日しかやってないのだが、振り方は全てアニメで見た動きとかを自分で適当に組み替えていただけだった。目の前で本格的に見るまでは今まで真面に剣なんて振ってこなかった俺はただのチャンバラごっこにしか過ぎなかった

 

それにキリトは気付いていたのか………流石、攻略組トッププレイヤーの名は伊達じゃない

 

「はは、そうだな。よし、そろそろ行くか」

 

キリトは俺の些細な変化に気付くことなく歩き出した

 

良かったと言うべきか、なんと言うか………別にそこまで気にする必要もないのかもしれない。今は改善されてるって言うし、何よりそこから俺の全てがバレるようなことはないだろうな

 

「いぇっすー!もう直ぐ森抜けんじゃね?」

 

「あぁ、そうみたいだぞ」

 

キリトに追い付くとそこはもう出口だった。ただ、森を抜けて開けた所に出るだけなんだけどな

 

引き続き俺達はモンスターを倒しながら前へと進む。あまりレベルの変動がないようで助かる。俺はほぼ後衛で遠距離武器だけど

 

「はああぁぁぁぁぁ!」

 

キリトが変な牛人間みたいな奴にトドメを刺す。ここらに来てから結構進んだ。次はどこに………

 

「ん?」

 

俺は視界の先に建物を捉えた。見た感じ、教会っぽい見た目なような………

 

そして、その入り口から全体的に青い服装の人が出てくる

 

「おいキリト、あれフィリアじゃね?」

 

「え?………本当だ。おーい、フィリア!」

 

大声でキリトがフィリアを呼んだ

 

そんな大声出したらモンスターがッ!とか思うかもしれないが既に周りにモンスターの影は無し。あるとなったら俺達の大分後ろの方にリポップした奴らだ

 

大声で呼ばれたフィリアは俺達の存在に気付き、走ってこっちに来た

 

「よっすフィリア!こんなとこで何してんの?」

 

目の前まで来たフィリアに声を掛ける

 

「探索してた。二人はどうしてここに?」

 

「今日は奥の方まで行ってみようと思って、つい数時間前に来たんだ。フィリアがいなかったから二人で」

 

「そうなんだ。…………そうだ」

 

フィリアは何か思い出したかのように声をあげる

 

「ついさっき、そこの教会でモンスターが守ってる宝箱を見つけたんだけど、そのモンスターがすごく強そうで。良かったら二人とも手伝ってくれない?」

 

ほう、モンスターが守ってる宝箱とな。それは中には結構レアな物が入ってるとかそんなパティーンですか?

 

「ああ、わかった。案内してくれるか?」

 

手早くパーティ申請を出して言うキリト。宝箱の中身が気になるのか早く行こうぜ!的な感じでそわそわし始める

 

「うん、こっち」

 

新しくパーティにフィリアが加わったことを確認したら、フィリアに案内されて教会の中へと入った

 

おっと、ここで大事なことがある

 

「まあまあ、お二人さん待てよ」

 

俺は教会の入り口で二人を引き止めた

 

「強い敵と戦う前ってなったら、やっぱりこれじゃねぇっすか?」

 

俺は拳を前に突き出す

 

「好きだなぁ……それ」

 

「気合いを入れるなら他の方法もあると思うけど……」

 

口々に言いながらも拳を出してくれる二人が俺は好きだ!あ、でもバイセクシャルとかそんなんじゃないよ?俺普通に女の子が好きだから。だから結婚しようピナ(白目)

 

「行くぞ!」

 

「「おぉ!」」

 

キリトの合図で3人で拳をぶつける

 

さぁ、気張って行きまっしょい!!

 

 

 




結構長くなったな………戦闘描写ってね、難しいっす……


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サンクチュアリ(笑)

 

 

「確かに強そうだな………」

 

俺の隣でキリトが呟いた

 

フィリアに案内されて来た部屋の外で俺達三人は仲良く横一列で立っていた。まあ横一列だからと言ってここからよーい、ドン!あ、お前フライング!みたいなことをするわけじゃないが

 

俺達の目は部屋の真ん中でドッシリと佇んでいる巨体に全て向いていた

 

エギルよりもデカイ体躯、一つ目、どっからどー見てもゴーレムなそいつ。取り敢えず名前がわかる範囲まで歩みを進めてみると奴の名前が判明した。どうやら何もしなければ向こうから仕掛けてくることはないみたいだ

 

「…………サンクチュアリ」

 

フィリアが呟いた

 

「はぁ〜、サンクチュアリねぇ。随分とご大層な名前持っちゃってまぁ」

 

サンクチュアリ、英語での意味は神聖な場所とかそんな意味だったと思う。見た目からはそんなオーラ全然ないけどね。どっちかって言うとジョジョのゴゴゴゴゴ!みたいな。そうだ、サンクチュアリじゃなくてこれからはエギルマシーンmark2と名乗ることを許可しよう!

 

それにしても、宝箱を守る為の聖域ってぇわけか?シャレてんのかどうかわかんねぇな

でもそんな大層な名前の奴が守ってんだ。きっとあの中身はレアアイテムに違いない

 

「どーしますかねぇお二人さん。こいつ以外にも周りにはスケルトンがチラホラいるみたいですが………まずはスケルトンからの方がいんじゃね?」

 

取り敢えず二人に提案してみる。てか、これ以外はまずあり得ないだろう

 

目の前のエギルマシーンmark2と戦闘始めたら周りが誘われて来ちまう。そうなったらキリトもフィリアとキツイだろう。俺?………言わせんなよ

 

「そうだな、幸い数も少ない。先に終わらせよう」

 

言うが速いかキリトはエギルマシー………もういいや、言うの面倒だからmark2で………キリトはmark2を無視して一体のスケルトンへとヒュバッ!と音を立てながら行ってしまう。相変わらずキリトのステップは速い

 

俺も別に使えないわけじゃないんだが、あれ小回り利かないのよ。まだ慣れてないからさ、直線上にしか動けなくって………カクッ!カクッ!ってした動きとかマジ無理です。それに俺は某狩りゲー直伝のローリング回避とハリウッドダイブがあるからね。体育がマット使うとき絶対あれやる。偶にスネーク!?とか言われるけど

 

パリィン!

 

「っ!」

 

スケルトンがポリゴン片になる音で関係無いことを考えるのを止める。どうやらお二人さんは既に一体倒しちゃったみたいだ

 

まずいぞ………!これは俺も行かなければ!

そう思い駆け出す俺、mark2の真横を通りながら背中から勢い良くギャリィン!と剣を引き抜く

 

それが間違いだった

 

ズドン!

 

「おぉ!?」

 

いきなり俺の真横に振り下ろされるデカイ何か

 

この場にいる皆さん、既にお分かりだろうか?

 

『(ゴゴゴゴゴ………!!』

 

そう、mark2の腕である

 

………………ヘァ!?

 

「馬鹿!なんでそいつに攻撃したんだ!!」

 

キリトから割りとマジな怒鳴り声が聞こえる

 

「……………え、嘘!?俺攻撃しちゃったの!?」

 

「知らずにしたの!?もう………馬鹿!!」

 

今度はフィリアから怒鳴り声を貰ってしまった

 

え?え?…………つまり、どゆこと?

 

「シン、危ない!」

 

「え?…………ホァッ!」

 

追撃のmark2、振り下ろされた腕を変な声をあげながら必死に避ける

 

その時僅かだが目に入った。いや、入ってしまった

 

……………奴の横っ腹の辺りに、切り傷があることに

 

「………………」

 

俺は思わず急停止する

 

その…………つまり、あれだ

 

「ごめんキリトォォォォォォォ!!フィリアァァァァァァァァ!!」

 

俺が剣を抜いた時に当たっちゃったのね!?

 

俺は二人に謝罪しながら走り出す。目指すはmark2の後ろ側

 

「ホントだよ!この馬鹿!!」

 

「ごめぇぇぇぇぇん!!」

 

半泣きになりながら全力疾走、奴はその後ろを追ってくる!

 

やめろ、こっち来んなし!宝箱守ってろよ!サンクチュアリ(笑)だろ!?エギルマシーンmark2とか言ったこと謝るからさぁ!!だから止まってよお願い300円あげるからぁぁぁぁ!!いや、ここコルだったわ!

 

「のわぁ!?」

 

そんな俺の心の叫びを無視して奴の攻撃は俺に迫る

 

「くっそぉ………しゃあねぇ、こうなったらキリト達来るまで時間稼ぐしかねぇな!」

 

振り下ろされた右腕を避けてその上にジャンプ、申し訳程度に切り込み入れてから避難する。すぐに左腕で攻撃してくるがそれを武器で受け止める。筋力値寄りでも流石にレベル差があるからか吹っ飛ばされたよ当然だね!

 

「ぐ………の!」

 

だけどまあ防いだことに変わりはないようで、反動の分と吹っ飛んだ分とで体力はまだ7割残ってる。ポーチに入れといたポーションを取り出して飲んで回復はこれでOK

 

こちらに向かって走ってくるサンクチュアリ(笑)に向かって中身の無い小瓶を投げ付けた後に手持ちの剣も投げ付けて逃走を開始する。奴から逃げ延びなければ………!

 

既にそこまでやって来たサンクチュアリ(笑)が腕を振り上げる。ビビッと、なんか変な感じがした

 

だけど気にしてる暇もないのでそれを避ける為に足を動かす

 

「なっ!?」

 

サンクチュアリ(笑)が振り下ろした拳は地面に当たると衝撃波となった

 

その衝撃波によって俺はダメージを食らい行動を停止する。結構強い衝撃波だったが、次に来る攻撃の方がもっとやばい!俺はそう思い体を動かそうとした

 

「…………!?」

 

体が………動かない!?

 

俺の体は石にでもなっちまったかのように動かなかった

 

その間にもサンクチュアリ(笑)は構わず俺目掛けて拳を引き絞る。やっと動くようになったかと思えば、既に奴は拳を突き出そうとしていた。これは避けれない。万事休すか………!

 

ガギィ!

 

そして響く衝突音。明らかに今の音は、俺が拳に殴られた音じゃない

 

「全く………!後でアスナの説教だ」

 

「やめてください土下座するから(真剣な声)」

 

俺を守ってくれたのはキリトだった

 

「はあぁぁぁ!」

 

サンクチュアリ(笑)の後ろではソードスキルの光が見える。フィリアも来てくれたみたいだ

 

今のソードスキルでタゲがフィリアへと向く。フィリアは奴の攻撃を跳ね返しすぐさまキリトとスイッチ、攻撃が跳ね返されてなんか動けない状態になってる奴にキリトがソードスキルを食らわせる

 

「俺も負けてられるか!」

 

続けて俺もソードスキルを発動。《バーチカル・アーク》から《閃打》に繋げることで少しでもダメージを増やす

 

キリトとフィリアが加わることでサンクチュアリ(笑)のHPはゴリゴリと減って行った。そりゃもう、例えるならば………うん、ごめん。わかんね。取り敢えずゴリゴリ減って行った

 

そして最後、フィリアの攻撃が決まり奴のHPは無くなった

 

「…………….お、終わった。キツかった」

 

俺はそう呟く。呟いた瞬間俺に視線が集まるのが感じた

 

お前のせいだろうが、みたいな…………いや、その意味であってるなこりゃ絶対

 

「「「………………」」」

 

え、待って?誰も喋んないの?なにこれ怖い

 

と、取り敢えず片膝ついて地面に拳つけて

 

「くっ………奴め、まさかこんな刺客を送ってきていたとはな」

 

「「……………」」

 

せめてツッコミ入れて欲しかった…………

 

「すみませんでした!」

 

立ち上がって誠心誠意心を込めて頭を下げた

 

「…………はぁ、もう今回のようなことはないようにしてくれよ」

 

キリトが溜息を吐きながらもそう言った

 

………と、言うことは許してくれると言うことだよな?

 

「あざっす!」

 

「貸し一だから」

 

「あざっ…………す?」

 

え、今なんて?フィリア

 

「流石に今回のことをタダで許すって言うのはなんだか嫌だから、貸し一」

 

「あぁ、いいなそれ。俺も貸し一だ」

 

フィリアの言葉にキリトもニヤリと笑いながらノッてくる

 

「う、承ったでござる」

 

ま、まあ仕方ない。元はと言えば俺が悪いのだから

 

貸しなんて向こう側は気にしてないだろうが、こちら側としては作ってる……….てか量産してるわけだし、今更一つぐらい増えても何の問題もナッシングだぜ。なんならもう作ってナンボのもんじゃい

 

「それじゃあ、早速宝箱を開けてみようぜ」

 

おぉ、そうだ。宝箱のことを綺麗さっぱり忘れていた

 

部屋の奥でぽつんと放置されてる宝箱はなんか寂しそうな感じで置いてあった。ごめんよ宝箱、今日からトレジャーボックスに改名してあげるから許してくんない?

 

「それじゃあフィリア、頼んます」

 

「うん、任せて!」

 

俺がフィリアに言うと元気良く返事が返ってくる。うわー、可愛いなー、とか思いながらフィリアを見れば手をわきわきとさせながら宝箱に近付くおっさんみたいな雰囲気を醸し出していたので目を逸らした

 

いや、でも案外悪くないかもな………うん、可愛いと思うよ

 

「お宝ちゃ〜ん、出ておいで〜」

 

ホント今更だけどこれキャラ崩壊とかなってるわけじゃないよね?可愛いから良いんだけどもさ、俺のせいでキャラが崩壊しちゃったみたいな?そんな感じじゃないよね!?いや可愛いけど!!

 

キリトの方を見てみるとちょっと驚いたような顔をしてる。まあそりゃそうだろうね、あのギャップだかんね

 

…………成る程、この先の展開読めたぞ。ここでキリトがフィリアを落とすための言葉を頻発するわけだな!?そして行く行くはフィリアもキリトのハーレムの一員になるんだぁ(泣)

 

俺には何のチャンスも回ってこねぇってわけですか、そうですか!!

 

「……………いや、待てよ?」

 

「?どうした?シン」

 

「なんでもないでござる」

 

もしかしたらキリトがフィリアを落とす前ならば俺にもワンチャンあるんじゃないですか!?

 

やべぇ、俺って天才かもしんない…………いや!ダメだダメだ。そんな不純過ぎる考えでフィリアとつるむなんて。そもそもキリトがフィリアを落としたからなんだ!キリトには正妻アスナがいるんだぞ!

 

くそぅ………今度クラインに飲みに連れてってもらおう………

 

「じゃじゃーん!」

 

心の葛藤の後に泣きそうになってたらフィリアが宝箱を開けたみたいで、中にある物を上に掲げてる。その姿が子供みたいで微笑ましいのなんので、さっきの葛藤なんてどこかへフライアウェイ!

 

「……………アクセサリー?」

 

「お、結構レアなんじゃないか?」

 

取り出したのはなんかのアクセサリー。あんまりアクセサリーの類はしないから手に付ける奴なのか首に掛ける奴なのかわからないな

 

「やったね!えへへ、やっぱりお宝探しは楽しいなぁ」

 

フィリアの目がなんか、恋に恋する乙女ならぬ宝に恋する乙女みたいな感じになってる。まあ、聞いただけじゃあまり良い感じのイメージしないけど、実際見てみたら凄いよこれ。何が凄いって、もう…………うん

 

「なんだか………可愛いな」

 

「………」

 

そんな声がキリトの方から聞こえた。俺も無言で頷く

 

「………どうしたの?」

 

あらあら聞こえてたのね。不思議そうな顔でこちらを見てくるフィリア

 

「え、あいや………えっとだな、可愛いって言ってもアレだぞ?妹みたいな、そんな感じで……」

 

「え………私、可愛い?」

 

はい来ました、キリト君の落としタァァァァァァイム!!

 

いきなりの発言にフィリアも顔をほんのりと赤くしてますチクショウメェ!!俺なんか横で何も言えねぇ状態だよ!ただの空気と化しちゃってるよ!!

 

「あ、だから違くて………」

 

「違う?私は可愛くないってこと?」

 

ううん、そんなことないよ!可愛いよ!!俺も叫びたいけどそんな度胸ないんだ、ゴメンね!!だから僕は心の中で愛を叫びます。ピナ結婚しよう(白目)

 

「違うよ!いや、えと………」

 

あたふたするキリト、よく言った!けど爆発してくれ!

 

二人の会話を聞きながら俺は心の中で血涙を流し、二人の行く末を見守っていた。あぁ、こうやってフィリアも落ちていくのか………いや、落ち着け俺、さっきの葛藤をまた繰り返すなんてナンセンスだ

 

「…………ふふ」

 

また俺の脳内へと現れた葛藤に筋肉バスターをかけた後にリング外へ放り出しているとフィリアが笑っていた

 

え、何があったの?

 

「あたふたしてるキリトって可愛いね」

 

「…………やめろよ」

 

うわぁい、今更だけど俺空気

 

「じょーだんだよ、冗談。うーん…………どうする?」

 

フィリアが唸る。どうするって何が?

 

「私は別にいいんだけど、キリトかシンのどっちが持った方が良いかなって」

 

いや、もう俺とか選択肢に入れなくていいんで。俺どうせ空気なんで

 

「フィリアが見つけた物なのに貰うってのも気が引けるが………それならシンの方が良いんじゃないか?」

 

え…………イヤイヤ何を言ってはりますねんキリトさん

 

「俺もいいって、だってなんか似合いそうにねぇもん。しかもそれ変な模様入ってるし。俺空気だし………」

 

「そう言う問題じゃないんだけどな…………てか、空気ってどう言うことだよ」

 

どういう問題なのよ。空気は空気なんだよ

 

「それじゃ、キリトに渡すね」

 

「え………良いのか?」

 

「俺は別に構わんのですよ」

 

よくよく見たらペンダントだな、これ

 

「ありがとう………大切にするよ」

 

「本当に大事にしてよね。人にプレゼントするなんてあんまりないんだから」

 

「もちろん」

 

うぁー、また空気になりそうだぁ

 

「Heyお二人さん。目的を達成してCongratulationsと言いたいとこだが………こっからどうするよ?戻るにしてもまだ早いし」

 

時間帯は昼時をとうに終わってるが、帰るにはまだ早いだろう

 

「そうだな………フィリア、ここの探索はどれくらいまで進んでるんだ?」

 

「一応、ほぼ探索したかな」

 

マジか。一人でやったのかよ………すげえな

 

「まあでも、今からゆっくり管理区に向かえば丁度良い時間になるんじゃないか?なんならシンのレベリングも兼ねよう」

 

「キリト………俺に時間は使わないって話じゃなかったっけ?」

 

「まあ良いじゃないか。こうやって時間も余ったんだからさ」

 

「そうだよ、良いことじゃん」

 

ぐぬ…………はぁ

 

「OK、承った。んじゃ、ゆっくりと帰りましょ「ん?」………どした?」

 

ゆっくりと帰ろう、そう言おうとしたらキリトが何やら様子が変わった

 

「クラインからだ」

 

どうやらクラインからメールが来たらしい

 

「……………シン、呼び出しだ」

 

「呼び出しぃ?」

 

俺もか?……ってことはなんかやるのかね?

 

「まあ、呼び出しと言っても18時に必ずエギルの店に来い、って言ってるだけだからな。ゆっくりとは行かないが、余裕はありそうだ」

 

「そうなのか?………クラインのことだから丁度に行っても、遅ぇぞ!とか言ってきそうだからな………そうとなりゃあ早目に帰ろうぜ!」

 

「楽しそうだね」

 

キリトと話してるとフィリアがそう言う

 

楽しいかどうかは…………うーん、どうなんだろう。………あ、てかフィリア来れねえじゃん!ホロウエリアに置いてけぼりになっちまうのか。それはそれで可哀想だな………

 

うーん、どうするか

 

「取り敢えず管理区に戻ろう」

 

俺が悩んでいるとキリトがそう言うので悩みながら管理区へ戻ることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん………」

 

「何悩んでるの?」

 

無事管理区へ着いた俺達。時間も丁度良いくらいになっている

 

しかし、フィリアを残してクラインにお呼ばれする。もといフィリアをここに放置して俺達だけがワイワイと騒ぐのに、なんだか負い目を感じてしまう

 

うあー………さっきフィリアの「楽しそうだね」って言葉が無かったら絶対気付かなかったんだろうなぁ

 

「どうした?シン」

 

キリトは別段何も思ってないようだが………鈍感って良いよね!変に悩まなくていいからね!

 

「呼ばれてるんでしょ?早く行きなよ」

 

「まあまだ時間はあるんだけどな。ごめんなフィリア」

 

「ううん、呼ばれてるんなら仕方ないし」

 

うむ、悪いと言う気持ちはキリトにはあるのか………。でもね?俺はフィリアも連れて行けたらな〜、とか思ってるわけよ

 

てかもう、クラインお前が来い。あ、でもどうせ皆集まるから無理なのか………

 

「うーん………」

 

悩む。悩みまくるぞ。不意に手をポケットに入れて俺は悩むのだ

 

……………ん?これは……

 

「そうだ!!」

 

「うお!?」

 

「ビックリした……」

 

あ、ごめんごめん

 

いや、それよりもだな

 

「フィリアフィリア」

 

「なに?」

 

俺はフィリアを呼びながら、ちょいちょいとポケットを呼び指す

 

「…………ズボン?」

 

「いや、ポケットじゃないか?」

 

はいキリト正解!

 

「ポ〜ケットのなぁかぁには………♪」

 

二人が注目したのを確認すると俺はポケットを漁りながら歌い出した

 

「ト〜ランプがひとたーば♪」

 

そしてエギルのトランプを取り出してジャジャーン!と二人に見せ付ける

 

ふっふ………どうよ!

 

「「……………」」

 

あれ、無言?まあいいや

 

「クラインの用が終わったらさ、今日はまた管理区に来るよ。んでもってトランプゲームしようぜ!」

 

トランプを掲げたまま二人の顔を交互に見ながら言う。キリトは少しトランプを見た後、ニヤリと笑い、フィリアはキョトンとしている

 

「いいな、それ。どうせなら暇になるだろう誰か二人を選出して連れて来ようぜ」

 

「ユーNICEアイディーア!」

 

「一人目は、そうだな………昨日は見てるだけだったし、ユイを連れて来ようか」

 

「んーと、じゃあ俺は………」

 

未だにキョトンとしているフィリアを差し置いて二人で話を進めて行く。誰を連れて来ようか?シノンさん?アスナ?ストレア?知り合いだし、無難にアスナかな

 

「え、えっと………」

 

「そうと決まれば早く行こうぜ、キリト!じゃあな、フィリア。何時間掛かるか知らねぇけど、必ず来るからな!」

 

「ああ。じゃあまた後でな、フィリア」

 

フィリアに別れを告げて俺は転移門にダイブ!《アークソフィア》の名前を叫ぶ。キリトも後ろに着いてきてるみたいだ

 

そして視界は既に見慣れた街並みへ、キリトに競争だ!と叫んで俺はエギルの店目指して走り出した

 

 

 




ポ〜ケットのなぁかぁからト〜ランプがひとたーば♪

ポォケットを叩くと………….もう何も入ってませんよ?


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クライン様々、アスナ様々!!

皆さんお久しぶりです。クラッカーVです

今日はバレンタインDeathねぇ………別にチョコあげ貰いしてキャッキャキャッキャ言うのは構いませんが………

あ、チョコですか?貰いましたよ?はい、アニメイトでこころぴょんぴょんって言ってきました

それじゃあどうぞ、ゆっくり見ていってください。今回いつもよりめっちゃ長いですが




「たっでーまー」

 

俺はエギルの店の扉を潜る。現在時刻は18時前、フィリアと別れてから俺とキリトは街をブラブラしていたのだ

キリトのオススメのお店とか今後の攻略の進み予定とか聞けて悪くはない時間だったと思う。まあキリトは先に帰ってしまったが

 

その中で驚いたことが二つ

 

この浮遊城アインクラッドは百層建ての城であって、上に行くにつれ層は狭くなっていく。それに伴い、迷宮区を見つけることも容易くなってくるわけだ。そして、今現在の最前線は七十七層。つまり、最初に比べると大分狭くなってるのではないかということ

 

それらを踏まえた上で考えたところ、このままのペースで行けばなんと、この先は一層ごとに5日程度でクリア出来ると言うらしいんだ。これが驚いたことの一つだった

 

しかし悩ましい。いや、別にクリアされて行くことに不満はないんだけどな?俺が攻略組になるまでにクリアされないかどうかが心配なんだよな………頑張らなければ

 

そして二つ目に驚いたこと。それはポーションには、体力を回復させるだけのポーション以外にも種類があるということだ。これにはめっちゃ驚いた。出来るだけ顔には出さなかったけどな

 

原作で読んだ覚えはないが………どこか見落としてたのかな?

 

AGIポーションやらSTRポーションなど、ステータスを一時的に上げるポーションが存在するらしい。何故知ったのかと言うと、SAOのメール機能には、道具が添付出来るらしくて、誰かさんからのメールに添付されてたそうだ。レベリングのお礼なんだってよ

 

これは危なかった。ポーションとか俺は逃げ回ってるだけであんま使わなかったし、宝箱からも未だにポーションしか発見してないからなぁ………今回の探索で見つかったらしいけど、分配するの忘れてた、だって。何だった?って聞いた時に、ポーション類、って答えるのやめてほしいわ。わからないから

 

「お帰りなさい。シンさん」

 

長い長い思考の中エギルのいるカウンターの前まで歩くと、奥側からユイちゃんが走って目の前までやって来た

 

「ただいま、ユイちゃん。いい子だったか?」

 

「はい!お店のお手伝いをしていました!」

 

「おぉ、えらいな!そんなユイちゃんにはこれをあげよう」

 

俺はポケットからさっきキリトと街を歩いている時に買った袋詰めのクッキーを取り出した

 

このクッキー、実はプレイヤーメイドなんだよね。リズベットやシリカみたいに、戻れないことを知らずに来てしまったプレイヤーが営んでるお店で低価格で売ってるもんだ。サクサクしててほんのり甘い。俺は好きな味です

 

ついでに蜂蜜も買ってみた。瓶だから結構量多くて高かったけど………まあ、武器や防具みたいにお高いもんじゃなかったしな。ただ、普通で言うとえ、これ高くね!?って感じ。なんでも七十六層のレアな蜂モンスターから採れる蜂蜜らしくって、わざわざ依頼してまで採って来てもらってるんだそうだ。今回はお試しにと少し安くしてくれたから、買う決め手はそこだったな

 

帰ってココアに投入してみるか………

 

しかし、売り子のお姉さん可愛かったな………美味そうな食べ物いっぱい置いてたし、キリトと一緒にお得意様になろうかな。あ、でもキリトくんは周りの子達に嫉妬されちゃうからなれませんね。大変なことで(笑)爆発しろ

 

そうだな………クラインでも連れて行くか

 

「いいんですか?ありがとうございます!」

 

クッキーの袋を受け取り嬉しそうに笑うユイちゃん。早速開けて口に運ぶと、おいしいです!と言ってくれる

 

あぁ〜………癒されるわぁ

 

「キリトとは別行動してたようだな?クラインならあそこだ」

 

ユイちゃんの頭を撫でようかどうかと悩んでいるとエギルが店の奥あたりを見ながら言う。俺もつられて見てみるとクラインが皆に向かって何やら自慢気に話をしていた。声は聞こえるんだが、話の内容がよくわからない。俺はエギルとユイちゃんを連れてそこまで歩いて行く

 

「それでよぉ、俺は待ち続けたんだ!奴が現れるその瞬間まで!そして、現れた時に素早く奴の前に身を躍らせ!バッサリと一刀両断!!くぅ〜………あの時の俺の様を皆に見せてやりたかったぜ」

 

ん?なんか、クラインの背にある机にどデカイ肉が乗せられてるな………

 

「クーライン。何の話してんの?」

 

「おぉ!シン、来たか!おっせぇぞ!」

 

「指定してた時間までまだ数分あるから遅くないんだよ。んで、何用で集めたんだ?」

 

恐らく後ろの肉関連なんだろうな

 

俺はそう当たりをつけて周りにいる皆に挨拶をする。すると、クラインが話す内容を手っ取り早く頭の中で纏めたのかその場から少し擦れ、肉を見せびらかすようにする

 

「おぅ、聞いて驚け!こいつを見ろ!」

 

「えぇ!?マジかよ!?」

 

「まだ何も言ってねぇよ!?」

 

いや、聞いて驚け!って言われたらこれが定番だろうが。わかってねぇなぁクラインは、そんなんだからモテないんだよ!…………俺もでしたすみません!

 

「こいつはな、S級食材《フライングバッファロー A5肉》だ!」

 

「なん……だと……!?」

 

S級食材だと……!?そんな、まさかクラインが!?こいつ、なんて強運の持ち主なんだ!!

 

「ふっふっ、その反応が俺は見たかったのよ。しかも本邦初公開ってやつだ!俺が初めてドロップさせた第一人者だぜ!」

 

「な……に…!?」

 

マジかよ!?こいつ、なんて強運の持ち主なんだ!!(二回目)

 

…………はっ!?そうか、そう言うことなのか!俺は気付いてしまった………!!

 

今回のこのS級食材で、クラインは強運を見せ付けた。だが、それは強運ではなくただ運を使っただけ!

つまり!この先、クラインに幸福なことが訪れることが少なくなる………!例えば、嫁が見つからずに三十路を迎えるとか………

 

くぅ……(泣)、クライン。お前って奴ぁ!不憫すぎるぜ!同じモテない同盟の仲間として俺には同情しか送ることが出来ないなんて

 

そうやって俺の思考は加速して行き、耐え切れなくなった俺は思わずクラインの肩に手を置いた

 

「クライン………強く、生きような」

 

「何言ってんだお前ェ?」

 

「相変わらず訳のわからない思考回路してるわね」

 

シノンさんの声は俺には聞こえなかったと信じたかった(過去形)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?このS級食材………フライアウェイビーフだっけ?どうすんの?」

 

「フライングバッファローですよ」

 

むぅ、シリカに間違いを正されてしまった

 

だがしかし、俺は諦めん!

 

「なに?クラインバッキャロー?」

 

「そんなこと言ってません!」

 

「あらあら、聞き間違いでした。ごめんなさいねぇ、最近耳が遠くって………もう歳かしら?ゴメス」

 

「今あなたにすごく腹が立ってます」

 

わお、そんな冷たい目で俺を見ないでくれ。マジごめん

 

あ、因みにゴメスってのは………なんだっけ?ごめんなさいすみませんの略だっけ?

 

「んで、どうすんの?」

 

「どうするって………売っちまうのも勿体ねぇしなぁ」

 

「じゃあ料理して食うか?この店で、皆に振る舞うってんなら場所は貸すぜ…………あとはシェフ次第だがな」

 

エギルのその言葉に俺以外の全員がアスナを見る。俺は肉を見ながら少し考え事をしていた。皆の視線を受けながらアスナが、任せなさい!と言ってるがそれは取り敢えず置いておく

 

この机に置かれてる生肉をさ、調理せずに食ったらどうなんのかな?SAOの中ではさ

 

ちょっと試してみようかなー、と思い肉に手を伸ばす

 

ペシッ、ペチッ

 

「おうっ」

 

リーファに手を、リズベットにおデコを叩かれた。解せぬ

 

「何をするだぁぁ!」

 

「今から皆で食べようってもんに触るんじゃないわよ」

 

「せめて手を洗って来て」

 

「どうせバイキンなんてついてねぇよぉ………ったく」

 

叩かれた手と額をさすりながら言う。すると視界の端に青いふわふわした物体が

 

『きゅるる♪』

 

「ピナ、まだ食べちゃだーめ!ちゃんと料理してからじゃないと」

 

『きゅるるぅ……』

 

ピナァァァァ!!可愛いなぁおい!

 

………ん?てか、なに?今からこれ食うの?

 

「皆で食べるって………良いのかよクライン。折角のS級だぜ」

 

「おう。量も多いし、一人じゃ食べ切れねぇだろうからな。皆でパーッと平らげちまおうぜ!」

 

おぉ!そりゃ太っ腹なこった。S級食材なんだから、きっと美味しいんだろうなぁ……

 

それに!調理するとなったらやはりシェフはアスナだ。初めてアスナの手料理が食べれるってことだぜ!!いやぁ、すみませんねぇファンの皆様方。俺だけなんかアスナの手料理堪能しちゃってぇ。大丈夫ですよ?きちんと800字以内の原稿用紙で纏めますからね?

 

「そうと決まれば早速調理しよう!そうしよう!アッスナっの手っ料理〜♪」

 

やっぱり女の子の手料理って心にグッと来るものがあるよね!例えそれが人妻でも!

 

「ふふ、それじゃあエギル、厨房貸してもらうね」

 

「俺も手伝うぜ」

 

アスナとエギルは厨房らしき所へ肉を持って向かう

 

「そうだ」

 

厨房へ向かおうとしたエギルが一旦止まった

 

「どうしたの?」

 

「肉料理に合ううまいドリンクがあるんだが、丁度切らしてるんだ。誰か買ってきてくれないか?」

 

「それじゃあ私は飲み物でも買ってくるわ」

 

「あ、それ私も行っていい?なんかお手伝いくらいはしたいからねー」

 

どうやらリズベットとストレアは飲み物調達へ。肉に合うドリンクか……ワインとか、そんな感じのやつなのかな?そう言えばSAOに来てから俺、ココアかポーションしか飲んでない気がする

 

「俺ココアねー」

 

駄菓子菓子!俺はココアを選択するのだ!ドリンクの方も気になるんだけどねー

 

「はいはい」

 

おい、適当に返して行くなよ

 

「それじゃあ私達は飾り付けでもしましょうか」

 

「そうね」

 

残ったうちのシリカとシノンさんはテーブルの飾り付けか………ユイちゃんは厨房の方で盛り付けを手伝うそうだし、キリトはクラインの自慢話を延々と聞かされてる。キリトが助けてくれ、みたいな視線を送ってくるが華麗にスルーしておこう

 

俺はどうするか………

 

「シノンさん、シリカ。なんか手伝うことありまっか?」

 

「二人で十分よ」

 

むぅ………リズベットとストレアは買い物に行ったし、クラインの自慢話なんか聞いても面白くない。どれ、厨房へいざ行かん!

 

「Heyアスナ、エギル。見学に来たぜぃ」

 

厨房へ颯爽と乗り込んだ俺はユイちゃんの頭に手を置き撫でながら二人に言った。厨房の食材を置いてあるところには、肉だけでなく調味料の入った容器や他の食材も並んでいる。その奥ではアスナとエギルがせっせと料理をしている

 

「手伝いに来たわけじゃないんだな」

 

「料理スキルなんてビタ一上げてますぇーん」

 

例えスロットに入れてたとしても使えるほど熟練度が上がってないだろうしな

 

「摘み食いしちゃ駄目だよ」

 

丁度一品できたのか、鍋を置いて俺に言うアスナ。流石料理スキルMAXと言うべきか、てか早すぎんだろ………そこはゲームだな。うん

 

「摘み食いなんてしないよ。なー、ユイちゃん」

 

「大丈夫です。私が見張ってますから!」

 

………あれ?俺って結構信用ない?

 

何とも言えない事実………事実?になんか悲しくなってきたので本当に摘み食いしてやろうかと思う。ゆっくりと腰を低くし、両手をだらんと下に垂らす。いつでも準備はOKだ

 

そう、俺は獲物を狩るハイエナ………!

 

「はい構えない」

 

「おうっ」

 

いつの間にか前に現れたアスナにおたまで小突かれた。真正面からエプロンを着たアスナの姿が見える。とても似合っておりますです

 

「言ったそばから、全く………摘み食いする気満々じゃない」

 

「いやぁ、最初はする気なかったよ?でもさ、皆さんの期待に応えないとダメかなぁって」

 

「皆さんって誰だよ……邪魔するんなら出てけ」

 

奥で作業してるエギルからそんな辛辣な言葉を貰った。何もそこまで言わなくても良いと思うんだけど、それは俺だけか?いや、俺が悪いからなのか

 

何にせよ、言う通りにしといた方が良いだろう

 

「わかったよ。静かにしておりますよ」

 

俺はそう言って壁に背を預けた。ユイちゃんはその横に椅子を持って来て座る

 

それを見たアスナは再び調理へ

 

「…………」

 

アスナとエギルが料理をしているのをぽけ〜、と眺めながら俺は食後のことを考えていた

 

管理区へ連れて行くメンバー、一人はユイちゃんとして……もう一人は誰を連れて行こうか。どうせ皆暇だろうしなぁ………そうだ、ユイちゃんに食後に管理区へ行くことを伝えておかないと

 

「ユイちゃんユイちゃん。食べた後はキリトと……あと誰か一人と一緒に遊びに行こうか」

 

「遊びに……?どこへですか?」

 

キョトンと首を傾げ俺を見上げるユイちゃん。上目使いになってて可愛いです…………ロリコンじゃねえぞ?決してロリコンじゃないからな?

 

「管理区にだよ。フィリアも混ぜて5人でカードゲームしよう」

 

俺はポケットからトランプを取り出してチラつかせた

 

「ホントはここにフィリアも連れて来たかったんだけどな。カーソルがオレンジだからさ、圏内には入って来れないんだよ。………話は聞いてるよな?」

 

「はい、話には聞いてます」

 

やっぱり、フィリアのことはキリトが話していたか。いったいいつ話したのかは知らないけど………もしかしたらフィリアと初めて会って、別れてから直後かもしれないな

 

「フィリアにユイちゃんのことも紹介するからな」

 

「はい!」

 

うむ、元気がよろしい

 

まあそれはいいとして

 

管理区は例外だが、フィリアはオレンジカーソルのプレイヤーだからここに来ることは出来ない。…………あれ?ってことはフィリアはホロウエリアに住んでるってことなのか?転移門ってアークソフィアにしかないよな?今じゃあトリベリアにも行けるけど、あそこも圏内だし。ってことはホロウエリアに住んでるってことで良いんだよな?

 

おいおい待てよ。これって改めて考えると結構すごいことじゃないか?ポーションとかどっから調達してるんだろ………。てか、俺気付くの遅くねぇ?今まで管理区に行けば結構頻繁にフィリアが居て、そういうもんなんだなぁ〜って思ってたけど、真面目に考えたらそうじゃん。フィリア、ホロウエリアの住人じゃん

 

あ、でも転移結晶があれば圏外の街にも転移出来るのか?そこら辺どうだったか………原作に書いてあるのか忘れたが、もし出来るならその手がある。…………いや、でも転移結晶をそんな頻繁に使うと赤字必死だぞ。多分ないな

 

ってことは、てことはだよ?フィリアって普段何食って生きてんの?

 

まさかとは思うけどそこら辺のモンスターから取れた生肉やらあの蜂から採れるのかは知らないが、蜂蜜やらを毎日貪ってるのか?もしくは何も食わずに空腹に耐えて………いやいや、そんなことをしたら死んでしまう。死ななくても気絶くらいはするだろう。リアルでは点滴してるだろうしな

 

生えてる草をモシャァ!してるわけでもないだろうし………

 

そんなフィリアの姿を想像してみる

 

「うん、ないわ」

 

「何がですか?」

 

「なんでもないよ〜」

 

ないわ、割と本気でないわ

 

考えてみてよ。華の乙女が草むしり取ってモシャァ!って、モシャァ!って………親御さん見たら泣くよ?ダム決壊必須だよ?

 

ってことはホロウエリアのどこかに木の実でも採れる場所はあるのか?肉とかは、多分道具があれば簡単な調理は出来ると思うし。キリトも野宿セットで確か暖かい飲み物作ってリズベットと飲んでたはず。俺の記憶違いじゃなければ

 

でも、木の実かぁ………不味いやつも多いだろうし、フィリアって結構苦労してるんじゃないだろうか

 

……………よし

 

「アッスナー」

 

「なに?」

 

「肉、少しくらい残らない?」

 

「残すことなく使おうと思ってるけど」

 

あ、そうっすか………

 

「どうしたの?」

 

「いやー、実は………」

 

俺はアスナに俺の考えを話すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいユイちゃん、シン君。これよろしくね」

 

「イエッサー。ユイちゃん、足元気を付けろよ?」

 

「はい!」

 

俺とユイちゃんはアスナに手渡された料理が入った大きな皿………と言うか、こりゃ完全にバイキングとかでよく見るアレだな。銀色のアレ。デカイ入れ物だ。それを持って綺麗にテーブルメイクされた机の上に置く

 

流石シノンさん。綺麗にメイキングされてますですよ

 

「たっだいまー」

 

「飲み物どこに置けばいい?」

 

丁度リズベットとストレアも帰ってきたみたいだ。二人はは両手で大きな瓶を数本抱えて入って来た

そんなにいらないような気がするけど………まあいいや、余ったら貰おう。管理区にも持って行けるしな

 

「シン、よくも見捨ててくれたな……」

 

「なーんのことでございますかー?」

 

キリトが恨みがましい目で見てきた。そんなキリトに戯けながら返す。まったく、勘違いも甚だしいことでありますよ

 

「おぉ!流石俺のA5肉達!!すごくうまそうにできあがってんじゃねえか!」

 

ドヤ顏をしながらキリトをからかってたらクラインの驚嘆と賞賛の声が聞こえた。俺とキリトもそれにつられて料理の並ぶ机を見る

 

運んでる途中には気付かなかったが、確かに豪勢だ。一度にこんな豪勢な食事なんて滅多にないぞ。てか、今までの人生であったかどうかも怪しい

 

クラインの意向でバイキング形式にしようぜ!ってことになったのでそれっぽく机に並べてみたが……うん、我ながら良い並べ方だと思う

 

「まずは何よりステーキでしょ、それとシチューも用意してみたわ」

 

うんうんと頷いていたらアスナが一つ一つ指を差しながら説明を始めた

 

………ほう、シチューとな?シチューと言えば煮込み兎を思い出してしまう。ラグー・ラビット食いてぇ

 

「あとはローストビーフに「うぉう!?」…………どうした?シン」

 

「なんでもないでござる」

 

び、びびったー!アスナの綺麗な声がいきなりボリュームのある声に変わってマジびびったー!びびらせんなよマジこの野郎がよぉぉぉぉぉ!!

 

「ローストビーフにタタキ。せっかくだから肉の味を堪能できるメニューを頼んだんだ」

 

「レストランも顔負けだな」

 

「ほんのちょっぴり他のことに使っちゃったけど、元のお肉の量すごかったよ」

 

まあ確かにドデカかったからなぁ………

 

「他のこと?何に使ったんだ?」

 

「ちょっとね」

 

アスナは俺にウインクしながらそう言った。思わず心臓がときめいた俺は悪くないと思う。そして後ろから若干キリトが嫉妬の目を向けてくることも悪くないと思うんだ俺

 

「なになに?シンとアスナ、何かあったの?もしかして二人だけの秘密とか?」

 

「何もねーよ。誤解招くような言い方をするんじゃあありません!」

 

やれやれ、ストレアったら。そんなことを言ってしまっては駄目ですよ?ほら、キリトが意外にも嫉妬してるからね?てか、お前嫉妬なんて感情あったんだな………

 

「シン君は良い子ってことだよ。ね、ユイちゃん」

 

「はい、シンさんは良い人です」

 

ちょ、マジやめて恥ずかしいから。そして皆、そんな不思議そうで意外そうな目向けないで!?なに?俺ってそんな問題児みたいな印象なわけ!?てかアスナ、"子"ってなんだよ"子"って。まるで子供扱い受けてるようでなんかやるせない気持ちでいっぱいだよ!んでもってエギル、テメェはそのニヤケ顏を引っ込めやがれ!

 

「と、とにかく冷める前に食おうや!うまい飯が冷めてちょっとうまい飯になるのも嫌やろ!?」

 

「出た関西弁」

 

ほっとけ!

 

「それじゃあお前ェら、じゃんじゃん食えよ!」

 

「ありがたくいただくが………まずはクライン。お前から食べないことには進まないぞ。仮にも主役みたいなものだしな」

 

「仮にもってお前ェ………いいんだよ、オレ様はまたいつでも食えるからな。今日はお前らが腹いっぱい食えって」

 

本日二回目だが………

 

 

なん……だと!?

 

 

クラインの言葉に場の全員が騒然とした

 

「え?………クライン、お前本当にそれでいいのか?」

 

「そうだぞクライン。いいのか?いいんだな?そんなこと言ったらお前、皆容赦無く食いまくるぞ。もう、特にエギルとか巨体だからやべえ程食うぞ。それでいいんだな?よし、ならばもう何も言うまいいただきます!」

 

「待て馬鹿」

 

「おうっ」

 

エギルに邪魔された。頭をガッシリと掴まれたら動けませんよエギっさん

 

ちょ、力強いって!エギルの名前出したことは謝るから!

 

「男に、それも武士に二言はねぇ!………ただ、残った時は俺も食わせてもらうがな!」

 

あ、残ったら結局食うんかい。二言はねぇ!ってところでクラインさんかっけぇぇぇぇぇ!って挟もうと思ったのに

 

「よし、仕切り直しだ。お前ェら、たらふく食えよ!!」

 

「やった!いただきまーす!」

 

クラインの合図でリーファを筆頭に皆が次々とお皿を持って料理へと手を伸ばす。俺も負けじと皿を取ってその輪の中へと進む

 

まずはどれを食べようか………

 

「ローストビーフからかな」

 

そう決めて俺はローストビーフを皿に取る

 

「あ、シン。アタシ次ローストビーフ食べようと思ってるから、アタシの分も取ってくれない?シンの分のタタキ取るから」

 

「ん?おう、OKOK」

 

ストレアから提案を受けたからストレアの分も皿に取る。料理が置いてある机と座って食べる机は別だから、確かに何度も往復するのは面倒だ。ステーキは結構大きいし、シチューに関しては皿を置いて来てしまってる。後で取りにくるか

 

…………俺と同じ量でいいよな

 

俺は皿の上に同じ枚数乗せ、分けてるのがわかるように並べる

 

「ストレア、俺この次すぐにシチュー取るけど取ろうか?」

 

「良いの?お願いね」

 

「うぃー。ストレアどこ座んの?」

 

「シンの隣で良いよ」

 

「了解了解」

 

一旦ローストビーフの入った皿を置いて、俺が座る予定の席の皿を取る。その左隣………は、ユイちゃんが座ってるな。なんか知らんが見られてる気がするが、早く食べたいので右隣の皿も取ってシチューをGETに向かう

 

「ほい、ストレア」

 

「ありがと」

 

戻って来るともう皆座ってた。何故か知らんが皆が皆俺を………てか、俺とストレアをガン見してるような気がするのは気のせいか?

 

ストレアは気付いてないみたいでタタキに手を伸ばし始めたし

 

「あー………なに?」

 

取り敢えず誰でもいいからなんか言ってくんねーかなー、と思いつつ若干リズベットに目線を向けながら言う

 

「いや、なんて言うか………あんたら、仲良いのね」

 

………?ごめんちょっと何が言いたいのかワカラナイ

 

「仲が良いって言うか………なんか、慣れてるって言うか」

 

「二人でよくご飯を食べに行ったりするんですか?」

 

はぁ?

 

「ん、おいしー!…………え?二人でって、シンと?一緒にご飯食べに行ったことあるっけ?」

 

ストレアが聞いてくるが、逆に俺が聞きたい状況なんだけど

 

「いや、ねぇけど。てか、別にこんくらい普通じゃね?なぁ、ストレア」

 

美少女が相手ってことは普通じゃないけど、別段珍しいことでもないと思う。多分皆が言いたいのは俺がストレアの分を代わりに取るってことだろ?別に普通じゃね?

 

皿に同じもん乗せると、タレとか付けてるもんが違った時に味が変になる時があるからな。ストレアも同じ考えだったと思うんだけど…………あ、もしかしてこれ同じタレか?いや、少し色が違うな

 

「うん。あ、タタキおいしいよ!」

 

「マジで?」

 

俺もタタキを手に取って一口

 

「……………おぉ!うまい!流石S級食材、クライン様々だな!」

 

タレが肉にマッチしてなんかこう、とにかくうまい!…………うん、俺絶対グルメリポーターなれねぇわ

 

「……似た者同士ってわけね」

 

「ははは……」

何やら向こうで納得してるが………まあいいだろう。俺は座ってシチューを口に入れる

 

ホンットうまいな。こんなうまいの初めて食べた。なんかもう涙出てきてもおかしくないよ?

 

…………しかし、確かにストレアとは結構すんなり話せるな。そう言えば初めて会って緊張しなかったのはストレアぐらいじゃないか?………いや、クラインとかは除くけど。やっぱ波長かなんかが合うんだろうなぁ………シチューうまっ!野菜と合わせて食うとマジうま!

 

「ストレア、シチュー食べた?うまいぞ」

 

「ホント?それじゃいただ…き………シン?」

 

「どした?」

 

なんかストレアが驚いたような顔で俺を見ている。え、もしかして俺の顔驚く程歪んでる?そんだけうまいってことなのか、すげえなこのシチュー………センチュリースープ?

 

「シン……….どしたの?」

 

「いやいや、それはこっちの「泣いてるよ?」…………はい?」

 

は?う、嘘だろ?

 

俺は慌てて目の下を触る。確かに濡れていた

 

「ホントだ………」

 

マジかよ………シチューでマジに泣いちまったよ

 

「ちょっとちょっと、料理がおいしすぎて泣いてるとか言わないでよ?」

 

リズベットも見てたのかそう言われた。でも顔は少し驚いてる

 

「辛かったのかな………いや、でもそんなはずは」

 

「あぁー!大丈夫大丈夫!リズベットの言う通り料理がうますぎただけだって!!俺も料理で泣くなんて初めてだよ!いやー、すげぇなアスナ」

 

「そ、そうなの?………まあ、シン君がそう言うんなら。ありがとね」

 

「いやいや、こっちがありがとうを言いたいね。ありがとうございます!」

 

こんなおいしい料理を作ってくれたアスナに、敬礼!………なんてな!

 

そうだ、俺が泣いたのは料理がうますぎただけなんだ。多分、ここ数日人が作ったもんを食べてなかったから嬉しくなっちゃったのかな?わかんねえけど……俺こんな涙脆かったか?

 

「シン………本当に料理がうますぎただけ、なんだよな?」

 

「当たり前だぜ」

 

そうだ、そうに決まってる…………よな?

 

「そうか」

 

キリトはそう呟いた後にドリンクのコップを傾けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、うまかった。ローストビーフがうまかった!」

 

数十分後、俺も皆も腹いっぱいになったみたいだ

 

「アタシもローストビーフかな?タタキも良かったんだけどね」

 

「お、二人とも気が合うじゃねぇか。俺もローストビーフだな、肉の味がよく出てた」

 

いやぁ、タレも良かったと思うぜ俺は

 

「私は肉のタタキへ。タレがいい味出してたわ」

 

「だよなシノンさん!タレうまかったよな!」

 

「えぇ………あんたローストビーフのこと言ってなかった?」

 

同じ思いをシノンさんと共有来とぅあ!神様ありがとう………ローストビーフ?いえ、知りませんね。なにそれうまいの?

 

うん、うまいの

 

「ローストビーフ派じゃなかったのかお前は………タタキとローストビーフのタレには肉から出た肉汁を使ったみたいだぜ」

 

そうだったのか

 

「あたしはやっぱりステーキよね!いかにもお肉って感じの味が堪らないわ」

 

「どれもおいしかったですが、ビーフシチューが私の一番のお気に入りです!」

 

あー、ステーキも良かったな。なかなか食えるもんじゃないし、ホントクラインと料理してくれたアスナ様々だ

 

「あたしはお肉のタタキに一票です!」

 

「どれもおいかったってのは私も同じだな。ただ、やっぱりシチューが一番かも」

 

やっぱキリトとの思い出の品だからか?

 

「あたしもシチューが一番おいしかったと思う」

 

「俺はステーキだ。肉のストレートな味が楽しめて良かった」

 

…………うん、今更ながら感想大会みたいな感じになってんね。まあいいか

 

いやしかし、ホントに食った食った。暫く肉は食わなくても………あぁ、いや、まだあったなそう言えば

 

「んで、ステーキが二切れ残ってるけど………どうする?」

 

俺は机の上に二切れだけ乗ったステーキを見ながら言った

 

周りを見渡してみると皆もういいですサインを出している。あ、でもエギルはまだまだいけるぜ!みたいな顔してる

 

「良かったなクライン。たらふく食えよ」

 

「たらふく食えるかぁ!ステーキ二切れでよぉ!!」

 

え〜………でも、食っていいって言ったのお前だし

 

「肉を味わうなら、そいつに限るぜ」

 

確かに、ステーキはストレートな味だった。良いこと言うなエギル

 

「慰めにもなりゃしねぇよ!お前ェら………あんだけあったもん殆ど食べ尽くすなんて………」

 

「じゃあ俺が食ってもいいか?」

 

「駄目に決まってんだろ!どんだけ食うんだお前ェは!………ったく」

 

んじゃ、クラインが食うってことに決定だな。はぁ〜、腹もいっぱいだし、そろそろ管理区に行くメンバーでも募ってみるかね?

 

俺はクラインかれ皆に目を向ける。丁度顔を向けた先はシリカだった

 

あー、シリカ連れてってピナモフるのもいいな。もっふもっふなピナをフィリアにも是非…………ん?ピナ?

 

「なぁおい、シリカ」

 

「なんですか?」

 

「ピナは………肉食ったのか?」

 

「………………あっ」

 

『………………あっ』

 

皆の声が重なった瞬間だった

 

『きゅるぅ………』

 

「ご、ごめんねピナ!食べるのに夢中で………ピナも食べたかったよね?」

 

あぁ、可哀想なピナ。よし、ならばクラインが食べる予定の肉を進呈しよう

 

「残念だったな、クライン。その肉は既にお前のじゃなくなった」

 

「俺が取ってきたS級食材だぞ!?」

 

「でもまた取れるんでしょ?あげなさいよクライン」

 

「二切れあるんだから、片方でもあげたら?」

 

「クラインのカッコいいところ見てみたいなー」

 

やべ、なんか集団で囲んでクラインイジメてる感じになってきた

 

「まあ、片方ぐらいならあげてもいいんじゃないか?また取れるんだろ?クライン」

ここでキリトが助けに入った。俺には友達がイジメられてるのを必死に止める小学生にしか見えねぇよ………流石だぜ、キリト

 

「ま、まあ片方ぐらいなら良いけどよ……」

 

そう言ってクラインはフォークでステーキを刺すとピナに差し出した

 

「…………おい待て馬鹿!ピナにあーんは俺がやr「ちょっと黙ってなさい」おうっ!?」

 

クラインの許されざる行為に異議を申し立てようと思ったらシノンさんにマフラーを後ろに引っ張られた。首の不快感が!首の不快感が半端じゃないっす!

 

『きゅる〜♪』

 

「良かったね、ピナ」

 

ああぁぁぁぁぁ!ずっるぃ!クラインずっるぃ!俺もピナにあーんてしてぇのに!

 

…………くっ、まあいい。また別の機会を探るしかないな

 

「くぅ………うめぇ!」

 

幸せそうな顔しやがって………あ、そうだ

 

「おーい皆、ちょっと聞いてくれ。俺とキリトはこの後ホロウエリアに遊びに行こうと思ってるんだけどさ、着いてくる人手ぇ挙げて。あ、一人だけな、もう一人はユイちゃんで決まりだから」

 

俺は管理区へ行くメンバーを募った。べ、別に忘れてたわけじゃないんだからねっ

 

「あの、そのことなんですけどシンさん」

 

「ん?どしたユイちゃん」

 

「私、今回は遠慮させてもらいます」

 

「え、なんで?」

 

俺なんかやったっけ?

 

「いえ、後片付けをお手伝いしようと思って。これだけの量ですから、時間が掛かると思いますし」

 

「…………そか」

 

めっちゃ良い子(泣)

 

「つーわけで、あと二人誰かいませんかぁー」

 

「じゃあ私行ってみたいな!」

 

「私も興味あるわ」

 

お!ストレアとシノンさんの二人が手を挙げてくれた!

 

「それじゃあ、そこの二人に決めたぁ!」

 

「シン君、キリト君、シノン、ストレア。お皿の片付けは良いから、行っておいで」

 

「え!?いいの!?」

 

マジで!?いいんですかアスナさん!

 

「うん。早くこれ、渡してあげて」

 

そう言ってアスナがあるものを手渡してくれる

 

中には俺がアスナに頼んだやつが入ってる

 

「おう、シンよ。そりゃあなんだ?」

 

「クラインの分もあるだろうから、アスナに貰って開けてみな!行くぜ三人とも、今日は朝までトランプだ!!寝かさねぇからな!」

 

俺はエギルの店の扉へ走って向かう。その間に机の上にあった栓の開いてないドリンクの瓶を掴み取って外へ出る

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝までって………アスナ、あの中身はなんなんだ?」

 

「私も気になるわね……」

 

「て言うか、皆気になってるよね」

 

「ふふ、それはね………これ。実はね、シン君の提案で、ーーーなの」

 

「え、これって……」

 

「成る程ぉ、あの時の言葉はそう言うことだったのね」

 

「俺達の分もあるんだよな?」

 

「勿論!………あ、シン君自分の持って行ってないや」

 

「まぁ、そのうち取りに来るだろ。…………ん、待てよ?そうなるってぇと、俺がピナに肉を分けなくても……」

 

「終わったことだ。気にするなクライン」

 

「チクショウ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっすフィリア!お待たせ。さっきぶりですな!」

 

「あ………ホントに来てくれたんだ」

 

ふっふっふっ、何を当たり前のことを

 

「あったりまえじゃん。…………あれ?キリト達は?」

 

後ろに着いて来てるかと思ったのに………仕方がないなぁ、もう

 

「あ、フィリアこれ」

 

取り敢えずキリト達のことは置いておいて

 

「?……なにこれ?」

 

「今日のフィリアの晩飯だ!」

 

そう言うと、フィリアは少しキョトン、とした後にバスケットを開く

 

「すごい……!これ、どうしたの!?」

 

中身は《フライングバッファロー A5肉》と野菜を挟んだサンドイッチだ!うまそうだな………いや、絶対うまい(確信)

 

「クラインがS級食材取ってきてさ、アスナが料理してくれたんだぜ!もう、俺なんか涙が出るほどうまかった!うまい飯ってのは、皆で分け合うもんだからな。あ、クラインってのは俺の仲間な。今度暇な時連れて来るわ」

 

どこぞの漫画じゃないけど、うん。分け合うって大事だよね

 

「それにどうせ、ろくなもん食ってないだろ?だってホロウエリアだし」

 

「うーん………いや、そこまで酷いってわけじゃないけど」

 

………あ、そうなのですか

 

「ま、まあ、ストレージに入れとけばもつし、お好きな時にどうぞ」

 

「今更だけど………いいの?クラインって人が取ってきたやつなんだよね?」

 

「いいに決まってんじゃん!クラインも本望だぜ」

 

美少女のためとなればあいつも本望だ。逆に文句言うようなら俺がこの手で奴を粉砕してみせる

 

「ありがとう、シン」

 

「…………お、おう!あ、いや、お礼はアスナとクラインにだな、その……してくれ」

 

やっべ、笑顔のフィリアが眩しい。てか、今更だけどだんだん気恥ずかしくなってきたぞ!?顔赤くなってねぇかな………確かSAOって感情表現がオーバーなんだったな。多分、さっき涙が出たのもこれが原因か………

 

「そうだ、俺キリト達迎えに行かなくちゃ駄目だから!すぐ戻るから、マジで!」

 

そう言って俺は転移門に行きアークソフィアへと転移。キリト達はまだ転移門前にはいなかった

 

…………遅いな。何してんのかな

 

まあいいや、と思いエギルの店に向かって走ろうとしたところで三人の姿が見えたので立ち止まる

 

「おーい!早く来いよ!」

 

俺の声が転移門広場に響いた

 

これからまだ夜は長い。たっぷりと楽しもう

 

俺はそう思い、笑いながらマフラーを口元が隠れるように上へと上げた

 

 

 




アスナの料理とフライングバッファロー A5肉の感想

一年 A5組 土方 信一

今回、クラインが取ってきたフライングバッ
ファローのA5肉はなんと言うか………超絶うま
かったとしか表記しようがない。因みに、A
5組ってのはA5肉と合わせてみた。フライ
ングバッファローに関してはこれで終わり
アスナの料理はもう絶品だった。何が一番



うまかったかと言うと、やっぱりローストビ
ーフのような気がする。あの肉の味と、バッ
ファローの肉汁の入ったタレはとても合って
いて、あぁ……これが本物の味か、と思わされ
る程だった。やっぱりあの味はシェフが凄腕
だから出せる味なんだろうな。俺はアスナが
厨房で言ったことを一生忘れないと思う。そ
の言葉は
「料理って愛情も必要だけど、何より技術な
のよ」


ペラリ(次の原稿用紙を用意する音)


この言葉を聞いて、俺はこう言ったんだ
「それ色々とアウトじゃねぇ?」
そんな俺を見て、アスナはニッコリ笑って冗談
よ、と言ってた。あれは本当に冗談だったん
だろうか?本当のことを調べる勇気は俺
にはない。キリトにでも頼んでみようと思う
あの時のアスナの目は……なんか、怖かったん

そろそろ原稿用紙二枚目が終わるので、もう
終わろうと思う。………だけど、最後に



よくよく思い出したら、俺はアスナが〜〜か
らの会話、俺の夢だったわ(笑)






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勝負の前は賑やかに行こう

 

時刻は良い子の寝る時間をとうに過ぎているだろうそんな中、俺は床に散らばるカードを見ながら右手を宙で右往左往させる

 

「……………」

 

静寂がその場を包んでいる。散らばるカード達を中心に、点で繋げば星が完成する感じに俺達は座っていた

 

それぞれの顔は真剣そのもの。俺は左手に握った数枚のカードの束を握り締めながら

 

「…………これだ!」

 

スパァーン!と目の前のカードを横へ叩いた。そのままカードはシュルシュルシュル!と回りながら俺達の輪の中から外へ出て行く

 

カードが止まるのを確認した後、俺は真剣な表情で皆の顔をそれぞれ見た

 

そして、キリトが口を開く

 

「………いや、キメ顔してないで捲れよ」

 

その言葉に皆が頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

「神経衰弱、結果発表〜!イエエェェェェェェイ!!」

 

俺は高々と右腕を上へ突き上げて叫んだ

 

さっきはちょっとシリアスっぽい雰囲気出してたが、そんなもの知らん。今すぐゴミ箱に捨ててきなさい

 

「イェーイ!」

 

「イ、イェー」

 

うむ、ストレアはノリがいいね!フィリア、恥ずかしがりながらもやってくれるなんてありがとね!

 

只今ホロウエリア管理区。俺達は神経衰弱をしていた。さっきまでポーカーやババ抜き、七並べをやっていたが………そろそろ飽きてきたでござる

 

てか、シノンさんとキリトが無反応なんだけど

 

「二人とも、テンション低いぞ。是非とも今のはノッて欲しかったな!」

 

俺はいつでも大歓迎だよ!

 

「さっきからずっとそのノリじゃない。いい加減疲れたわ」

 

え〜………そう言うことは一度はノッてから言おうぜ

 

だがそこは流石シノンさん。成る程、いつでもクールビューティーを心掛けているというわけか。シノンさんマジかっけぇ

 

「まあいいや。俺は4組取ったぜ、どうだ!」

 

俺は手に握っているカードを前へ出す。神経衰弱はジョーカー入りのトランプ56枚でやるから、全23組出来るはず。今回人数多いからな………

 

「私も4組」

 

「同じく」

 

なに!?シノンさんとストレアは俺と同じだったのか………

 

「3組だった……」

 

キリトが落ち込んだようにカードを前に出しながら言う

 

あぁ、お前そう言えば自信あり気に捲ったカードが違ったってオチだったな

 

しかし、キリトが3組と言うことは……

 

「8組!やった、ぶっち切りの優勝だ!」

 

フィリアが笑顔でそう言った

 

やるなフィリア………。流石お宝大好きトレジャーガール。勘も良いのか?

 

やったと笑っているフィリアを見ると純粋に楽しんでいるようだ。来て良かったと本当に思う

 

「カード、片付けるわ」

 

「ありがと」

 

シノンさんがカードを掻き集めている。シノンさんにやらせるのは忍びないが、フィリアとの交流を少しでも持ってもらいたいので敢えて見守ろう

 

管理区にシノンさんとストレアを連れて来た時、自己紹介も全部ぱっぱと終わらせたからな。お互いわからないことも多いと思うが、オレンジだからと言って悪い娘じゃないので是非とも美少女三人で仲良くやって欲しい。子を持ったお父さんの気持ちってこんな感じなのかな?新しくお父さんキャラを確立してみるか………あれ、今の俺って何キャラ?

 

と言っても、いつも明るく元気なストレアがいるからか、既に三人は仲良く話しているけどな

 

「ねぇフィリア。ホロウエリアで一人なんて大変じゃない?」

 

「あ、うんまあ………でも、キリトやシンが来てくれるし大丈夫かな」

 

おぉ、今なんか心にグッと来た。君がいるから大丈夫だよ、てなんかグッと来ない?

 

「キリトは確かに助けになるかもしれないけど………」

 

うん、ごめんシノンさん。その目なに?

 

「お、俺だって頑張ってるんだぞ!毎日熟練度を上げるために剣振ったりとか!」

 

「へぇ、意外ね。結構頑張っt「隠蔽スキル上げるために誰か尾行したりとか!」前言撤回させてもらうわ」

 

はっ!?しまった!?

 

「そう言えばこの前俺のこと尾行してたよな。敢えて無視したけど」

 

「変態だとは思ってたけど、まさかそこまでだったとはね」

 

「やめて!俺をそんな目で見ないで!!」

 

違うんだシノンさん!シノンさんはまだ尾行してないんだ!!だからそんな冷たい目で見ないでくれないかなぁ!あ、フィリアも少し引いた目で見てる………

 

「フィリア、変なことされたら迷わず通報するのよ」

 

「うん」

 

ちょ、待って!マジで待って!

 

「いや、あのね!尾行って言ってもそんなやましいことがあるわけじゃないんだよ!?アレだよ、市民の安全を守る警察みたいな感じだよ。市民を優しく見守ってるんだよ」

 

俺は必死に弁解した。届け俺の熱い気持ち!

 

「警察にお世話になる方ね。わかってるわ」

 

「ちっがう!てか、何気にシノンさんって人からかうの好きだよね!?」

 

どうやら俺の迸る熱いビートは届かなかったようだ

 

「熟練度上げたいならアタシが付き合ってあげようか?」

 

「ストレア〜」

 

ヤベェ、今味方なのお前だけだよ。ありがとう、俺の味方でいてくれて!

 

「だから犯罪からは足を洗おうね」

 

っ!?まさかの裏切り!?いや、最初から俺に味方などいなかったのか!

 

「いや、あのね?別にストーカーってわけじゃ」

 

「もうやめるよね?」

 

「…………はい」

 

何故だ。逆らえん………!

 

「さて、次は何をする?」

 

おいキリト、俺が頷くのを見てそんな満足そうな顔で次に行こうとしてんじゃねえよ

 

「もうトランプで出来るネタは無くなったわよ。他の遊びは知らないわ」

 

あー、そっか。もうネタないのか

 

俺が他に知ってるのは………ブラックジャックとかあるけどなぁ。ルール教えても良いけど、そろそろトランプ自体に飽きてきたので他のものに変えよう

 

「じゃあ古今東西とか」

 

「また随分と無難なのを持ち出してきたな……」

 

「古今東西?」

 

俺の提案にキリトが苦笑い、ストレアが疑問符を浮かべた

 

…………え、知らないの?シノンさんやフィリアも首を傾げてるし………「知ってる?」「知らない」、なんて会話してるし

 

「山手線ゲームだよ。古今東西ってのはそれの別称」

 

「あぁ、山手線ゲームね」

 

なんだ、古今東西って言う名前を知らなかっただけか

 

「じゃあルールは知ってるよな?」

 

「お題を決めて、それを順番に言っていくゲームだよね」

 

フィリア正解!しかし、それだけじゃないんだなぁ

 

俺はチッチッチッ、と指を振った後にその腕を上から下へ下ろす。Yes,I am!とは言ってない

 

「負けた人には罰ゲーム!これがまだあるのだよぉ!」

 

「え、罰ゲームつけるのか?」

 

「あったりまえだろ。それを楽しむゲームだからな」

 

実際は違うかもしれんが

 

「はい、それじゃあノリ良く行きましょう。土k…………シンから始まるぅ!」

 

「イェーイ!(名前言いそうになったね)」

 

「イ、イェーイ(本名言いそうになったね。ひじ……なんだろ?)」

 

あっぶねー、本名言いそうだった。てか今更だけど、なんか合コンのノリじゃね?

 

「古今東西!お題は"キラキラネーム"!」

 

「ちょっと待った」

 

お題を出した瞬間キリトに止められた

 

「どうしたキリト」

 

「なんだそのお題」

 

「キラキラネームを言っていくんだよ。DQNでも可。それっぽくなかったらアウトだからな」

 

「いや、それはわかるけど……」

 

なんだよ〜、何が不満なんだよ〜。一回やってみたかったんだよ。古今東西中にカッコつけてルシファー!とか言ってみたかったんだよ

 

「あ、因みに構成する漢字も言ってね。自分が考えたのでも良いからね。でも一度言った名前はアウトだから」

 

それじゃあ気を取り直して行きましょー…………これ、結構難易度高くね?

 

「行くぜ!」

 

パンパン(手拍子)

 

「"堕天使"と書いてルシファー」

 

パンパン

 

「"理"に"音"と書いてリオン!」

 

む、やるなストレア。カッコイイ名前だよね、リオンて

 

パンパン

 

「て、"天使"と書いてエンジェル……?」

 

「クス」

 

「シノン、今笑ったか?」

 

「なんのことかしら」

 

気付いて欲しい、皆笑ってることに。いきなりエンジェルはキツいわ

 

パンパン

 

「希望の"希"に"星"と書いてキララ」

 

おぉう、無難なので来たな

 

「え、えっと………"海"に"神"でポセイドン!」

 

………ん、んぅ〜?まあ、OK?

 

次は俺か

 

パンパン

 

「桐たんすの"桐"に"人"でキリト」

 

「ストップ!」

 

えwなにww?

 

「これは、喧嘩を売られてるととっていいのか?」

 

「えぇぇwwそんなことないですよぉ〜www」

 

「ぐ………」

 

キリトが何かに耐えるように拳を握り締めた。あ、ヤベェやりすぎたかも

 

「ま、まあキリト。良いじゃん」

 

フィリアも半笑いじゃん。ストレアとかシノンさんも笑ってるよ?ほらほら

 

「俺はキリトだ(キリッ」

 

「シン、そう言えば熟練度上げるために頑張ってるって言ってたな?俺が手伝うよ」

 

あ、これヤバイ

 

「ごめんごめんて、ちょっとした出来心ですよぉ。さっき弄られたから弄り返したかっただけなんだって」

 

「デュエルをすれば、熟練度上がっていくと思うんだがどう思う?」

 

聞いてねぇ!?デュエルって………ちょっと待て!これキリトとデュエルするパターン!?

 

「シ、システム的デュエルじゃなければ、いいんじゃないっすかねぇ」

 

ま、まずいぞ。これはなんとかして逃げ出さなければ!

 

「よし、殺ろうか」

 

「いやいやいやいや!ちょっと待てよキリト!ただの冗談じゃんかぁ!」

 

「私達は邪魔にならないように離れてましょうか」

 

シノンさーん!?助けてはくれないのね!?

 

「頑張れ!」

 

フィリア………いや、頑張れじゃなくてだな!?

 

「シン、キリト!頑張ったら何かご褒美あげるよ!」

 

いや、ストレア…………なに?

 

「よし、やるかキリト」

 

俺は髪をストレージから剣を装備しながらキリトに向き直った

 

ご褒美………ストレアからのご褒美。なんだろう胸がトキメキます

 

「あ、ああ。やるか」

 

なんかキリトが引いてるが気にしない。シノンさんとフィリアの冷たい視線が胸に突き刺さり挫けそうになるが、全てはストレアからのご褒美のため!お前はその礎となってもらう

 

…………男の性には勝てんのだよ。ご褒美なんだろな〜♪

 

「ストレア、俺頑張る!」

 

あ、二人の視線が更に下がった

 

 

 

 




次回、キリトVSシン

何故こうなった?


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VSキリト

決して広いとは言えない管理区の中心。5m程の間を空け、俺とキリトは向かい合っていた

 

実際剣を構えて向かい合ってみると、先程の俺の軽はずみな行動をとても後悔している。あの時の自分を殴ってジャーマンスープレックスを食らわせたい気分だ

 

だが俺も男。いや、漢なのだから一度勝負をするとなるともう引くことは出来ない…………だって、ストレアがご褒美くれるとか言ったんだもん

 

「準備はいいか?」

 

「おー」

 

返事をしながら剣の切っ先をキリトに向けて構える

 

キリトもキリトで両手に持つ片手剣を俺に向けている。あ、今ちょっとキラッて光ったように見えた

 

「ルールの確認だ。これは所謂システム外デュエルだ。勝敗はどちらかが負けを認めるまで………OK?」

 

これはクラインとやった時と同じルールだ。あの時はアスナの介入があったが…………さて、どこまで諦めずにやれるか

 

「わかった。…………それじゃ、行くぞ」

 

「どっからでもかかってこいやぁ!」

 

俺は自分を奮い立たせるように大声を出した

 

「…………ふっ!」

 

瞬間、キリトの姿が消えた

 

次に現れたのは俺の目の前、俺に向かって右の剣を突き出している

 

「ちっ!」

 

だが俺はそれを予想して後ろに跳んでいた。だが、このままだとまた直ぐに追撃が来ることを悟り舌打ちをする

 

だから俺はそのまま床へ倒れ込む。俺の丁度真上を剣が通り過ぎた。あぶねぇ〜………タイミング遅けりゃ当たってたぞ

次に完全に倒れる前に後転の容量で後ろに転がり、その際に足でキリトが突き出している腕を上へ弾きそのまま距離をとった

 

「やるな……だけど、剣を使わなきゃ意味がないぞ」

 

「無茶言うなよ………これでももう精一杯なんだから」

 

話しながらもスキルを発動するのを忘れない。投擲スキルを使ってキリトに剣を投げ込む

 

「おっと……!」

 

「まだまだぁ!」

 

投擲だけじゃあ終わらねぇ。《クイックチェンジ》により新しく剣を取り出して《レイジスパイク》でキリトに迫る

 

…………だが、防がれる。絶対に

 

そんな確信が俺にはあり、その確信は事実だった

 

「行くぞ………!!」

 

二刀流が輝きを放つ。俺はスキル硬直により、その場を動けない状態だ。ソードスキルを受けるのは必須だろう

 

甘んじて受けてやるよ。来い………!

 

俺は次に来るであろう衝撃に向けて気合を入れた。瞬間、体を襲う衝撃。キリトはこの技を気に入ってるのかどうかは知らないが、何度も見た覚えのある七連撃が俺を襲った

 

一撃、二撃、三撃四撃と次々と斬り込まれる俺の体。正確には、システム的保護がある為に、破壊不能オブジェクトとして攻撃を跳ね返してるのだけど、ソードスキルの威力が強いから一撃一撃がノックバックを発生させる。何度も揺らされて変な感覚だ。そして体に走る違和感も半端じゃない

 

確か二巻で《軍》の奴らが、アスナにやられてるシーンがあったが…………成る程、こりゃ恐い。しっかり意識保ってないと心が折れそうだ。クラインとの勝負の時はあいつが手加減してたのかもしれないけど、ここまで恐ろしくはなかった

 

七連撃を体で受け止めた俺は、耐えようのないノックバックを貰い後ろへ吹き飛ぶ。このまま背中から倒れ込んだら駄目だ。心が折れて、負けを認めてしまうことになる………!そう思った俺は必死に体を捻って転がり、瞬時に態勢を立て直す

 

伊達に毎回体育のマット運動で、ローリング回避やハリウッドダイブ練習してたわけじゃねぇんだよ!

 

「お、りゃぁ!」

 

「くっ………!」

 

ちょっと折れそうになった心をなんとか持ち直して、再度剣を投擲。スキル硬直中だったキリトの腹に吸い込まれ、キリトは若干後ろへ仰け反る。《クイックチェンジ》で今度はチャクラムを装備。ソードスキルは発動せずにキリトへと力一杯投げた

 

投げたと同時にキリトの前までステップ。チャクラムを弾いたばかりのキリトは俺の姿を確認するや直ぐに後ろへ跳んだ

 

逃すまいと伸びきった鎖をキリトの方へ向かわせる。なんの意味もないが、牽制としては使えるはずだ

 

「おぉぉ!」

 

と思ったら構わず突っ込んで来やがった!?鎖を剣で弾きながらもう一方の剣を俺に向けている

 

「っ!?」

 

その剣は俺の顔面を捉えた。システム外デュエルなので、実際当たりはしないが………俺の動きを止めるのには十分過ぎる。目の前に急に突き出された剣に俺は萎縮してしまった。先端恐怖症になったらどうしてくれるんだ

 

その隙をキリトが見逃すはずもない。輝きを放つ二振りの剣は輝く

 

「今度はちょっと多いぞ」

 

俺を心配するかのようにキリトはそう言った

 

それに俺は、ニヤァと笑いながらこう答える

 

「転移、《アークソフィア》」

 

「……………は?」

 

瞬間、切り替わる視界。耳にはキリトの間抜けた声が残っている

 

俺はチャクラムをしまった後、踵を返し

 

「《ホロウエリア管理区》!」

 

勢い良く跳びながらまた転移した

 

「よっと!」

 

降り立った俺は目の前で目を剥いて驚いている観客の三人と、現在後ろで硬直しているだろうキリトを無視して近くにあった剣を拾い上げる

 

「悪りぃなキリト!使えるもんはなんでも使わなきゃ、俺お前に勝てないのよ!」

 

言葉だけの謝罪と言い訳を述べて、俺はキリトに《バーチカル・アーク》を放った

二発の剣がキリトに打ち込まれる。だが、これじゃ終わらない。俺は左拳を握って《閃打》の構えに入り、スキルを発動させる

 

放った拳はキリトの顔面を捉える。別に、一人だけモテまくるこいつに丁度良いからとか、そんな私念は混ざってない………はずだ

 

そして、ここからが俺の新技!!

 

拳を放った際に体を無理に捻る。ブーストがなくなり威力は下がるが、俺の腕は投擲スキルの構えを取る。そして、投擲スキルが発動!!

 

「おおおぉぉぉ……ぉぉ!?」

 

…………するはずだった

 

ズシャァァァァ!

 

無理矢理体を捻るもんだから、足がもつれて転んでしまった。キリトの横を通り過ぎてズシャァと無様に滑る

 

直ぐに立とうと思うがスキルの硬直があって立てない。どうしよう…………

 

「…………シン」

 

どうするか試行錯誤していたら後ろからいつもより若干低いキリトの声が

 

硬直してるから振り向けない、それが恐怖を更に煽り、俺の内心冷や汗だくだく

 

「ほら、シン。手貸してやるよ」

 

だが、なんということか!今度は優しい声音で俺に手を差し伸べてくれた

 

これはもう、俺の勝ちってことでいいんだろうか?キリトが負けを認め、お前やるなぁ!はっはっはっ!みたいなノリで熱い友情物語が始まっちゃうんじゃないんだろうか!

 

ふふ、ならば俺もこの握手に答えなきゃならんよなぁ?そう思い俺は笑顔でキリトの手を取り、立ち上がった

 

「ありがとな、キr」

 

次の瞬間、俺は未だかつて味わったことのないような衝撃を受けた

 

何故に?考える余裕など俺にあるわけもなく、ただただ意識がブラックアウトしていく

 

最後に見たのは、青筋を浮かべながら俺にソードスキルを叩き込みまくるキリトと、呆れたような目で見ている三人の姿だった

 

 

 

======================

 

 

 

十五連撃ソードスキル、《シャイン・サーキュラー》をシンに打ち込んだ後、白目を剥きながら倒れるシンを見て、少しやり過ぎたかと後悔した

 

いや、でもあれはシンが悪いと思う。確かに、ルールの中で転移門を使ってはいけないなんて言ってなかった。しかし、これは勝負なんだ。その場にあるもので戦況を立てるのも場合によっては大切なのかもしれないが、普通は転移門なんて使わない。て言うか、転移門を使うなんて想像普通はしない

 

それを踏まえて、やっぱりシンはどこか人と違うなぁ……と思いながら、シンを引きずって観客の三人の元に行く

 

「なんて言うか、色んな意味ですごいデュエルだったわね……」

 

「気絶してる………」

 

シノンとフィリアが気絶してるシンを突いたりしながら口々にデュエルの感想を言う

 

…………確かに、シンはすごかったと言ってもいいかもしれない

 

今回のデュエル、俺は最初の一撃でシンの動きを制限し、そこからソードスキルを発動する気でいた。自分で言い出したことだったが、出来れば早めに終わらせたかった

 

と言うのも、そろそろ日付が変わる頃であり、帰って寝たいと言うのも理由にあった。そろそろ解散を提案しようと思っていたからだ

 

だが、俺の思うように上手くはいかなかった。シンは俺の動きを読んでいたからだ。一撃目ならまだなんとかなった。しかし、シンは後ろへ跳んだ勢いを利用して、俺の腕を真上へ弾いた。狙いが正確だったので、驚いて追撃が出来なかったのは秘密だ

 

元々運動神経が高いのだろうか。圧倒的レベル差のある俺に対して………勿論本気ではなかったが、十分に着いて来ていたことも驚きだ

 

しかし、転移門まで使ったのは頂けない。例え転移門の側で戦っていたとしてもだ。間抜けな声を出してしまった

 

「うんうん、シンもキリトも頑張ってたね!転移門を使ったのには驚きだけど」

 

ホント、ストレアの言う通りだよ………

 

でもまあ、シンはシンなりに戦術を立てていたと言うことでは、一方的に否定するのもよくないかもしれない。頭の回転も速く、アドリブにも強いみたいだからな

 

もし、もしもシンと俺とのレベル差が無ければ……………シンは、恐らく現時点ではこと対人戦において、一番の強敵となり得るかもしれない

 

そう考えると、この世界で数少ない同年代の男友達としては、俺もまだまだ負けていられないな。それと同時に、シンが強くなっていくのが楽しみでもある

 

「……………起きないね」

 

「せめて、目だけでも閉じてあげようよ」

 

そう言ってシンの両目をゆっくりと閉じさせる

 

…………いや、待てストレア。なんか縁起悪いぞ

 

「あ、キリト。ご褒美はまた今度あげるね!」

 

「え」

 

そうだった。ご褒美の件があった

 

いったい何をくれるのかはわからないが、あまりアスナ達を刺激しないようなものでお願いしたい。アスナが怒ると怖いんだ。そりゃもう、鬼も泣いて逃げるほどだろう

 

「ふふ、何にしようかな〜♪」

 

まだ決めていなかったのか…………

 

「できれば、何か食べ物がいいな」

 

食べ物ならばアスナ達を刺激するようなものは来ないだろう。そう踏んで俺は言った

 

「う〜ん……」

 

ストレアは悩みながら、自然な動作でシンの側に座り、シンの頭を自分の膝に乗せる

 

「考えとくよ」

 

「あ、あぁ。頼んだ」

 

自然な動作過ぎて一瞬何事もなかったかのようにスルーしようとしていたが、膝枕とは………シンが起きたらひどく喜びそうだ

 

俺は別に気にしないが、どうやら他の二人は色々と気になるらしい。自然すぎる動作を見てストレアの顔をガン見している

 

「なに?」

 

「……………いや、ホント仲良いわね。アンタ達」

 

確かに言われてみればそうだ

 

シノンの言葉で、俺は先程まで賑やかに机の上に並べられた料理を食べる二人の姿を思い出す

 

仲が良い、というより………慣れている。リーファが言っていたこの言葉は正しく的を得ている。出会ってからまだそれほど経っていないが、まるで長い間を一緒に過ごしたかのように二人は見える。時がある。仲の良い兄妹のような感じだ

 

ただ、それが時たまあるだけで、実際にどうなのかはわからない

 

……………ん?そう言えば

 

「ストレア。確か、シンとはどこかで会った覚えがあるんだったよな?」

 

「え、そうなの?」

 

俺の言葉に、フィリアが反応した。俺達はストレアを見るが、ストレアは首を横に振って答える

 

「確かにそんな感じなんだけど…………どこで会ったのか覚えてないし、シンも記憶に無いって言ってるから違うと思う」

 

「そうなのか………」

 

どこかで会った覚えがあるのなら、あの慣れている?という感じも納得がいくんだが………本人達が言うのなら、そうなんだろう。もしかしたら、ただ気が合うからという理由かもしれないし

 

「ん………」

 

ストレアの膝上から、声がした。どうやらシンが目覚めたらしい

 

…………さて、じゃあそろそろ帰宅の提案でもしようかな

 

俺はそう思いながら、ゆっくりと目を開くシンを見守った

 

 

 

======================

 

 

 

「ん………」

 

頭になんだか柔らかい感触を感じながら、俺の意識は覚醒した

 

ここはどこ?私は誰?ここは管理区、俺はシン

 

勝手に脳内で質問をしてそれに答えていると、だんだんと俺がどうなっていたのかが思い出されてきた

 

「キ、リト………」

 

「なんだ?」

 

「後で覚えてろよテメェ………」

 

「いや、まあ……気絶するまでやったのは悪いと思ってる」

 

悪いどころじゃねえよ。めっちゃ怖かったんだぞ

 

…………それよりも、だ

 

「Helloストレア。俺って今どんな状況?」

 

「どんな状況だと思う?」

 

「……………」

 

俺の真上に見えるストレアの顔。後ろ頭に感じる柔らかい感触。俺を見下ろすキリト、シノンさん、フィリアの三人

 

「膝枕か!」

 

「正解!」

 

……………え、マジで?

 

「膝枕かぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

俺は膝枕だと完全に認識した瞬間、転がってストレアの膝から落ちてそのままローリングを開始した

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「シ、シン!?」

 

やっべ、マジで!?膝枕!?ストレアの膝枕!?え、なんで!?なんで膝枕されてたの?気絶してたから?え、なに?ストレア俺のこと好きなの?そうなの?いや、そんなわきゃないないないないない言ってて悲しくなんかない!!

 

「……………ふぅ」

 

一旦落ち着こう

 

「天国はここにあったのか………」

 

「大袈裟ね。膝枕くらいで」

 

…………なぬ?

 

「じゃあシノンさん、膝枕しt「嫌よ」デスよねー」

 

そんな即答せんでもええやん………

 

しかし膝枕とは……人生初の膝枕。全俺が歓喜しているぜ!これで後一億年と二千年は戦えるな

 

「ストレアよ。ご褒美とは膝枕のことか」

 

「うん、そうだよ。シンのはね」

 

「ありがとうございます」

 

やべぇ、ストレアマジ天使。この世界にはいったい何人の天使がいるんだ………!

 

すぐに膝から落ちてしまったことを後悔してるぜ!出来ることならもう一度して欲しいが………だが、あれは俺が頑張ったという正当な報酬なわけだから、それを追加で貰うのはルール違反というやつだ

 

「…………そろそろ帰らないか?」

 

くっ!空気を読まない奴め

 

しかし、もう遅い時間だからな。帰って明日に備えなければならないのか………

 

「そうだな。フィリア、また来るからな」

 

キリトの提案を甘んじて受け入れフィリアへと別れの挨拶をする

 

「うん………またね」

 

フィリアは若干寂しそうにするも、笑って見送ってくれた

 

「じゃあね。私もまた来るよ」

 

「それじゃ、また会いましょう」

 

「うん、また」

 

皆それぞれお別れを済ませ、転移門からアークソフィアへ戻る

 

「いやぁ、今日は楽しかった!」

 

「そうだね。また連れてってね?」

 

「あぁ。…………いや、今度はフィリアをこっちに連れて来れるようにしないとな」

 

「…………さ、早く戻りましょう」

 

こうして、俺達の楽しい夜は終わりを告げた。きっとまた次も、楽しい一日が来るだろう

 

だがそうなると、ふと終わりのことを考えてしまう。楽しい日々が、終わる日のことを

 

「どうした?シン」

 

「お?いんや、なんでもねぇ」

 

そして俺は、それから目を反らすように考えるのを止めた

 

 

 

 




珍しく連続投稿。ちょっと放り込み過ぎたか………!


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七十七層、攻略開始

未だ日も昇らぬ時間帯、何故か俺は目が覚めた

 

別に怖い夢を見たからとか、そんなわけじゃない。わかんないけど何故か目がぱっちりと開いている

 

「くっそ寝れねぇぜおい」

 

若干喉の渇きを感じながらベッドの上で起き上がる

 

「えっと、そう言えば昨日リズベット達が買ってきた飲み物があったような………あったあった」

 

俺はストレージを開いて飲み物の瓶を取り出し栓を開けると、そのままラッパ飲みをする。そう言えばこれ、結局飲んでなかったな。まあいいか

 

「ぷはぁ。美味でござる」

 

これ案外うまいな。ココアの次に俺のフェイバリットドリンクとして迎え入れてもいいかもしれない

 

まあ、そんなことは置いといて………

 

「っしょ………」

 

ベッドから降りてマフラーを首に巻く

 

どうせこのままじゃ寝ようにも寝れないだろう。なら時間は有効活用しなきゃな

 

そう思い俺はいつも剣を振っている場所を目指して部屋を出た

 

「おっとと」

 

なんか知らんがふらついちまったぜぃ

 

 

 

======================

 

 

 

「おはよう、キリト」

 

「あぁ、おはようエギル」

 

朝、いつもより少しだけ早く起きた俺は早めに支度をして一階へと降りる。一階には店の準備をしているのか、早くもエギルがエプロン姿でいた。いつもより早い時間なだけあって、まだ誰もいないようだ。もう少ししたらアスナが起きてくるかもしれないから、アスナが降りて来たら今日は攻略に誘ってみようか

 

「今日はどうするんだ?」

 

「七十七層の攻略に行こうと思ってる。昨日はどこまで進んだんだ?」

 

「七十七層は環状に連なっている浮島の中央に迷宮区塔がある。昨日は迷宮区に向かう途中でゴブリンがやけに多い洞穴をアスナが見つけたらしい。今日はそこの攻略を中心にするんだそうだ」

 

「そうか」

 

俺がホロウエリアを探索しているうちにもきちんと攻略は進んでいるようだ。アスナ一人とは考えられないため、恐らく《Kob》のメンバーと一緒に行ったんだろう

 

ホロウエリアとアインクラッド、どちらの攻略も出来るのは俺とシンしかいない。アインクラッドの攻略はアスナ達に任せて、俺達は出来るだけ早くホロウエリアを攻略するべきだろうか…………いや、ホロウエリアにばかり付ききっきりでボス戦となったらいざ現れると言うのもなんだし

 

それに、これから攻略をしていく上で戦力増強は必須だ。特に俺と同じく、どちらも行き来できるシンは優先しないければならない。本人もそれがわかっているようだし、少々無理があるかもしれないが常に探索にはシンを連れ回した方が良いか。レベルが高い場所だからと言って、下がらせておいてはいつまで経っても成長はない

 

「あ、おはようございます!キリトさん、エギルさん」

 

「ん?」

 

「おはようシリカ」

 

シリカか。こんなに朝早いのは少し珍しいんじゃないだろうか

 

「あ、あの、キリトさん!」

 

「どうした?」

 

少し緊張したような、上擦った声に不思議に思いシリカを見る

 

「今からご予定は……あ、ありますか!?」

 

「今から………?アスナが起きて来たら攻略に行こうと思ってるけど」

 

「そうですか……」

 

急に表情を暗くして俯くシリカ。一体どうしたんだろうか。エギルに解答を求めてみるがエギルは肩を竦めるだけで何も言ってはくれない

 

「あー……どうかしたのか?」

 

「いえ……その、大した用ではないんですけど………」

 

『きゅるぅ』

 

シリカは一呼吸置く。頭の上でピナが安心させるように一鳴きしたのに、ありがとうと一声掛けた

 

「きょ、今日はわた………私と攻略に行きませんか!?」

 

顔を紅く染めながら俺に言うシリカ。攻略………恐らく七十七層のことだろうが、それに同行したいということだろう

 

うん、十分大したことあるよシリカ

 

まあ、安全マージンは多く取れてるしな。偶にはシリカと行くのもいいだろう。シリカのレベルが上がれば戦力増強に一歩、少なからず近付くわけだし

 

「いいよ、行こう」

 

俺は快く了承した。そうなると、準備を整えたらすぐに出発しよう

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。ただし、危なくなったらすぐに転移結晶を使うんだ。無理は死に直結するからな」

 

「はい!やったよ、ピナ〜♪」

 

『きゅる♪』

 

喜びを分かち合っているのかピナを抱き締めているシリカを横目に見ながら、ポーションなどの残量を確認する

 

しかし、そんなに喜ぶことなのだろうか。少しでも攻略に貢献したいと思い今回のことを申し出たんだと思うが………少しでも貢献出来るのが嬉しいのかもな。本当にシリカは良い子だと思う。この前紹介した生産系クエストも頑張っているみたいだしな。…………まあ、どこで働いているのかは知らないが

 

「それじゃあ早速行こうか」

 

「わかりました!」

 

椅子から立ち上がり軽くエギルに挨拶をする

 

さて、今日も一日頑張ろうかな

 

「気を付けて行ってこいよ」

 

「わかってる。アスナには伝えておいてくれ」

 

アスナをパーティに加えてもいいのだが、折角やる気になっているんだ。俺とアスナの二人で組めばシリカの出る幕はほぼ無いだろうからな。道中で会うこともあるだろうし

 

何より自分が攻略組のトップクラスのプレイヤーだと言う自覚はあるつもりだ

 

トッププレイヤー同士が組むのもいいが、違うパーティで攻略した方が効率が良い場合もあるかもしれない。まあ、効率と言う言葉を出してしまえば、現状ではアインクラッドとホロウエリアを右往左往して攻略している俺も悪いと言えば悪いのだが、敢えて言い訳させてもらうならばシンとフィリアが心配だ。色んな意味で

 

身の心配ということもあるし、何より俺もネットゲーマー。二人だけの攻略中、超レアなアイテムやらスキルやらが出た時には嫉妬と着いて行けば良かったという後悔の念を募らせる自信があるぞ

 

「了解」

 

俺はその言葉を聞き、店を出るために歩き出す

 

「あぁ、そうだ。ちょっと待ってくれ二人共。少し聞きたいんだが」

 

「?」

 

エギルの静止の声に顔だけをエギルの方へ向ける

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、大したことじゃないんだがな。昨日、買ってきてもらった飲み物と一緒にあそこに置いていたやつがあるんだが、それが消えてるんだ。誰かが片付けたのかと思ってな」

 

飲み物?そう言えばリズとストレアが沢山買ってきてたな

 

「無くなって困るものならちゃんと管理してろよ」

 

「別に困るわけじゃないんだ。ただ、中身が………圏外で飲むと、少なからず危険性があってな……」

 

そんなものなんで置いてるんだよ………

 

「まあ、誰かが持ってたら俺に届けるように言っておいてくれ」

 

「わかった」

 

そう言って俺とシリカは店を出た

 

 

 

======================

 

 

 

「いい汗を掻いた。エリート塩作れるんじゃね?いや、気持ち悪りぃからいいや!」

 

お日様サンサンサンルァァイズ。実際は太陽じゃないけど、日が俺がいつもいるこの場所を照らしてなんか………うん、朝って感じがするでやんす!

 

てか、なんかさっきからテンションおかしいんだよね。なんでだろ?なんかね、リズベット達が買ってきたジュースで水分補給しながらやってたら変なテンションになっちゃったのよ。しかもなんかいつもより素晴らすぃ動きが出来ちゃってもうなんかGOOD!

 

もしかしてこのジュースのせいかぁ?

 

「あーはっ。そうだ、突撃隣の朝ごはん」

 

と言うわけで、エギルの店に帰ろう(使命感)

 

 

 

======================

 

 

 

キリト達を見送った後、俺は開店の準備をしながら一人きりの空間を楽しんでいた

 

賑やかなのが嫌いなわけじゃないが、こう言った一時も悪くない。早めに準備が終われば一服するのもいいかもな

 

「ゥエッギルー!ご飯寄越せやオンドリャァ」

 

……………どうやらそれも叶わねぇらしいが

 

店の扉をぶっ蹴り開けた目の前の白いバカを俺は半目で睨む

 

「気配がねぇと思ったら外にいやがったか。夢遊病か?」

 

「むゆーびょーなんてなってますぇーん。それより腹減ったんでなんか寄越さんかい」

 

人を小馬鹿にしたようなこの態度、腹が立ってきた。そもそもなんでこいつは朝からこんなにテンション高ぇんだよ………持病か?いつもより早い時間から起きていたみたいだからな

 

しかし、他人に飯を集るような奴だったか?いつもならココアをくれと普通に頼みに来るんだが………

 

「いい汗掻いたんでぇ………水分補給って、大事ですよね」

 

俺の目の前にどかっと座ってキメ顔を作りながらそんなことを言うバカ。ストレージを操作すると何か飲み物の入った瓶を取り出す

 

……………いや、おい待てよ。それは!!

 

「あ〜………シン?お前、それはどこで手に入れたんだ?」

 

「んぁ?教えて欲しい?」

 

いいから早く教えろ…………と言いたいところだが、恐らくこれを飲んでいるだろうシンには逆効果か

 

「あぁ、是非とも教えt「教えねぇー」

 

ブチ切れてもいいよな?

 

「これなー、昨日リズベット達が買うて来たジュースやねん。ホロウエリアで飲も思ったらな、忘れとったんやでっすぇ!」

 

もう関西弁もメチャクチャになってきてるぞ。てか、結局教えてんじゃねえか

 

「はぁ………」

 

確定だ…………よく見てみれば顔も紅くなってやがる。こいつ、大分飲みやがったな

 

《バッカスジュース》、シンが手に持っている瓶の中身の正体だ

 

こいつはプレイヤーのステータスじゃなく、運動能力を強化してくれるアイテムらしいんだが………飲んだ後に酔ったような感覚になっちまうのが欠点だ

 

全く、今まではなかったってのに、ここに上がって来てから急に現れやがった。レストランのメニューを見た時飲もうと思ったが、丁度その時《バッカスジュース》を飲んで酔っ払ったプレイヤーが一騒ぎ起こしたから飲まずにすんだぜ

 

酔って下手なことしてもいけねぇからな。それから飲まないよう気を付けていたんだが…………まさか知り合いの伝手で手に入るとは思わなかった。あの後にクラインが《フライングバッファロー A5肉》を持って入って来たから、取り敢えずと思い机に置いておいたのがいけなかったのか。丁度買ってきてもらった飲み物の死角に隠れてたみてぇだし、俺も存在を忘れてたからな

 

…………しかし、なんてことだ。まさかこいつがそれを持って行っちまってたとは

 

「コップコップ………」

 

「って、何してんだ!?」

 

「何って……コップを探してるんでありますよ二等兵」

 

だからと言って椅子の下にはないと思うぞ………おい、カウンターの中に入ってくるな

 

「あ、因みに俺軍曹な」

 

俺より上かよ!?

 

と、取り敢えずこのバカをどうにかしねぇと………

 

「おはよー」

 

いい所に来た!

 

「お、おっはよーアスナ!今日も元気ですかー!!」

 

「え?あ、うん。元気だよ」

 

「それは良かった。最近流行ってるよねー、元気があればなんでも出来る!!」

 

「へ、へぇー……そうなんだ」

 

大分古いがな

 

てか、アスナが少し引いてるじゃねえか

 

「シ、シン君どうしたの?なんだかいつもより二倍くらいテンション高いけど……」

 

「ん?」

 

「大丈夫?」

 

「ん?」

 

もう駄目かもしれん………

 

「《バッカスジュース》を飲んでるんだ………」

 

「それって………この前騒ぎになった?」

 

「あぁ……今こいつは酔ってる状態だ。持続時間はそんなに長くないが………こいつ、継続して飲み続けてるみたいでな。恐らく後数分はこのままだぞ」

 

「えぇ………」

 

そんな顔にもなるよな………だがこいつの相手をさっきからしている俺の身にもなってくれ

 

「なんか楽しくなってきた!こりゃあ祝杯じゃあ!」

 

「馬鹿!もう飲むな!!すまんがこいつから瓶を取り上げてくれ!」

 

「わ、わかった!」

 

また飲もうとしやがったバカを羽交い締めにする。こいつ、暴れるな!

 

あ、危ねぇ……更に効果が追加されたら俺はこいつに何するかわからなくなるぞ

 

「離せぃ!俺は男に抱き着かれる趣味はねぇ!」

 

「俺だって男に抱き着く趣味はねぇよ!」

 

「じゃあ嗜好か!?」

 

「ほぼ一緒だろうが!」

 

こいつ……!このまま噴水にでも落としてやろうか!

 

「いや、マジで離してくんね?」

 

ん?なんか急にテンションが低くなったな

 

「酔いが冷めたのか?」

 

「あん?酔うってどういうことだよ。ここじゃあアルコールは入らねぇんじゃなかったの?」

 

どうやら正常に戻ったらしい。いや、元々正常だったのかどうかはまた別だが…………そうか、こいつはこのジュースのことを知らないんだったな

 

やれやれ、説明してやるとするか………

 

 

 

======================

 

 

 

「いやぁ、すまんねぇ二人とも。まさかあのジュースにそんな効果があるなんて。どうりでいつもよりいい動きが出来るもんだと思ったよ!」

 

いやぁ、酔いって恐ろしいですな。まさかSAOにもそんな物があるなんて………何より、酔った勢いで口を滑らせて、ヤバイことを口走らなくて良かったー!

 

「対応するこっちは結構疲れるんだからな………」

 

「シン君。今度から勝手に飲み物持って行っちゃ駄目だよ」

 

「へーい」

 

二人ともめっちゃ疲れたような顔してるけど、なんかごめんね?

 

「まあそんなことより取り敢えず。エギル、ココア頂戴」

 

「…………はいよ」

 

俺が頼むとエギルは少しジト目でこちらを睨んでからココアの用意に取り掛かった。いや、そんな目で見られてもなぁ………ジト目はお前がやっても需要ないよエギル

 

暫くしてから俺の目の前に置かれるココア。お礼を言った後口を付ける

 

うむ、うまい

 

「なぁー、アスナ。今日はどうすんの?」

 

一息ついたところで俺はアスナに今日の予定を聞くことにした

 

「キリト君と一緒に攻略にでも行こうかな。最近ろくに二人でパーティ組めてないし……」

 

え、そうなの?おいおい、大丈夫かよ。正妻の座が危ういことになってるんじゃないのか?

 

全くキリトめ。まあ確かに、嫁さんだからといって常に行動を共にしなきゃいけないわけじゃないからどうとも言えないけどさ?もうちょい大事にしてあげようよ。まあ、そんな暇がないってことなんだろうけど

 

「キリトならついさっきシリカと一緒に攻略に出たぞ」

 

「え?」

 

………………え?

 

「そうなんだ……それじゃあしょうがないね」

 

「……………」

 

エギルの言葉に寂しそうに呟いたアスナ。すぐに笑顔に戻るがさっきの表情を見てしまったことにより居た堪れない気持ちになる

 

あいつ…………いや、でも絶対一緒ってわけじゃないんだ。何度も言うけど、絶対一緒ってわけじゃ。でも本人のあんな顔を見るとさ、なんか遣る瀬無い気持ちにもなるんだよ

 

キリトもアスナのことをどうとも思ってないわけじゃないと思うよ?てか、アスナとユイちゃんのことを一番大事にしてると思う。なんだろうなぁ………なんか、すれ違ってるというか、キリトがこう言ったことに関して不器用というか

 

……………うむ!

 

「エギル、キリト達の向かった詳しい行き先わかる?」

 

「恐らく最前線だろうな。アスナが昨日洞穴を見つけたって言ってただろ?そこの探索にでも行くんじゃないか?」

 

ふむ、成る程。ついさっきって言ってたし、追い付ける可能性もあるな

 

「アスナ!」

 

ガタッ!と椅子から立ち上がり、机をバン!と叩いてアスナを呼ぶ

 

「な、なに?」

 

「俺と攻略に行かねぇ?超ハイスペースで!」

 

手をアスナに伸ばして、そう俺は言った

 

「………………ふふ」

 

一瞬呆然としてるアスナだが、俺の意図がわかったのか口を押さえて笑い声を漏らす

 

「うん、行こうか」

 

そしてアスナは俺の手を取って立ち上がった。おぉう、やべえ……握手しちゃった。アスナの手柔らかいです

 

「よし、そうと決まれば早速行くぜ!!」

 

俺もあいつに言ってやりたいこととかあるしな!んでもって、攻略に出れば俺のレベルも上がるはずだし、俺にもメリットがあるってもんよ

 

「道案内は頼んだぜ」

 

「うん、わかった。無理はしないでね」

 

「了解した」

 

手を離し、お互い拳を合わす後に俺はメニュー画面を開いてアイテムを確認する

 

転移結晶は………ポケットの中入ってるな。あと数個ポーションも入ってる。残量もOK

 

「…………うし」

 

せいぜいアスナも邪魔にならないよう、精一杯行くとしますか

 

 

 

 

 

 

 





閃光と白バカ、二人だけの珍しいコンビ

さぁ、どうなっちまうんでしょーか。それは作者にもまだわかりません

あ、でも多分神様なら知ってるんじゃないかな


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地雷は踏み抜くためにあるんじゃないと知った

「うぉー………こりゃあスゲェ」

 

俺は目の前に広がる光景に驚嘆の声を漏らす。初めてホロウエリア以外で圏外に来た気がする。てか、初めてだよね、うん

 

目の前に広がるのは凡そ日本に住んでいては見られない光景。てか、多分世界中にもないと思うけど………地面には偶に吹く風に揺られる芝生のような草、まさに草原と言った感じ。しかし右を向けば所々白いコーティングをされた青空。左を向いても同じ

 

主住区にも浮いてる所があったから、きっと七十七層は浮遊島とかそんな感じな設定なんだろう。まさに今浮遊島の上に立ってる状況だ

 

てかさ、さっきの白いコーティングをされた青空って表現、なんかよくね?俺マジ詩人て感じ

 

「行くよ」

 

「いえっす!」

 

自画自賛して悦に浸っているとアスナから声が掛けられる。それに返事してアスナの後を追うように歩き出した

 

「ちゃちゃっとキリト達に追い付こうぜ」

 

「無理はしないようにね」

 

「わぁってる、よ!」

 

アスナの注意に返事をしながら俺はチャクラムを目の前に現れたモンスター、《セイレーン》に投げ付ける

 

なんか知らんが、当たる瞬間こっちを向いたせいか奴の顔面にクリーンヒットした。うわぁ、痛そう………とか思ってたら猛スピードで俺に向かってくる。このままじゃ流石にマズイから急いでチャクラムを引き戻して目の前に来たセイレーンにもう一発顔面へスパーキンッ。飛んでるからアッパーする感じでもう一発スパーキンッ。途中からアスナの素早い攻撃も入る

 

ホロウエリアの奴らよかレベルが70後半と幾分か低いため減らすHP量も違うような気がする。目測だからよくわからんが、レベル制なのでやっぱり違うものは違うんだろう

 

もう一発行くか悩んだところでセイレーンが飛んだまま体を後ろに、頭を下げるというよくわからんモーションをしたから後ろへ跳んで避ける

 

「シン君、そっちは駄目!」

 

……………んぇ?

 

アスナが叫んだ瞬間、セイレーンが翼を勢いをつけて払った

 

「っ!」

 

次に俺を襲ったのは緑色の衝撃波のようなもの。音と共に緑色の衝撃波のようなものの端を体にくらい、跳んで空中にいた俺はそのまま倒れ込む

 

な、なんっじゃそりゃあ………!

 

転んだままで呆然としてるわけにもいかないのですぐに立ち上がってチャクラムを投げる。直撃したチャクラムを引き戻していると、アスナがリニアーを発動し奴を屠った

 

「なんっだありゃあ……」

 

緑色の衝撃波、多分あれは風なんだろう。目に見える風なんて見たのも体験したのも初めてだ。貴重な体験が出来たことを喜ぶべきか、はたまた間抜けにもくらってしまい二割ほどHPを減らした自分を叱るべきか

 

「あぁいうのは初撃によく使ってくるから気を付けて」

 

「あい、わかりました」

 

成る程………勉強になった。これから初見の敵に後ろへ跳んで避けるのはやめよう。もしくはステップをうまく活用した方が良いかもしれない。てか、ステップしてたら絶対に避けれてた

 

「よし、行こうか」

 

「おう」

 

アスナの合図でまた歩き出す。セイレーン相手にはまずステップで避ける………よし、覚えた

 

俺から誘ったんだ。俺が足手纏いになっちゃ駄目だよな。頑張らないと

 

 

 

======================

 

 

 

「ふぅ………」

 

俺は目の前のモンスターにトドメを指すと息を吐いた。ここまで結構ハイスピードでぶっ通して来たが、そろそろ休憩を入れた方がいいかもしれない。ちょうどモンスターのいない安全地帯のような場所が近くにある。そこに行こう

 

「シリカ、少し休もうか。ぶっ通しで来たから疲れたろう」

 

「あたしはまだいけますよ。戦闘は殆どキリトさんに任せきりのようなものですから………あたしがもうちょっと戦えたら良いんですけど」

 

そうは言うがシリカもピナとの連携を活かし戦闘に大いに貢献していると言ってもいい。そう自分を卑下する必要はないと思うだけどな………それに、シリカがここ最近頑張っているのも知っている。まだ大雑把なところはあるが………そこは俺がフォローしながら直していこう

 

「でも、これからのことを考えると休憩はしておいた方がいいだろ。ちょうど近くに休める場所があるみたいだし」

 

俺は安全地帯を顎で指す

 

「わかりました」

 

笑顔で頷くシリカを確認して安全地帯へ向けて足を進める。そろそろアスナや他の皆は起きただろうか。エギルの奴、アスナに俺がいない理由をきちんと説明してくれているといいけど………シンがややこしい方向に話を進めてそうで怖いな

 

そんな予想に若干微笑ましく思い………いや、全然微笑ましくないな

 

少し顔を青くする俺の索敵にいきなり複数の反応が現れた

 

「っ!?シリカッ!」

 

「へ?………きゃぁぁぁ!?」

 

急いで振り向くとシリカの真後ろにはちょうど振り上げた腕をシリカに向け振り下ろそうとしている人型をした木のモンスターがいた。その他にも左右にそれぞれ一体ずつ、キノコみたいなモンスターを引き連れている

 

安全地帯に近付いた途端これかよ………!

 

シリカを引き寄せる。人型の木のモンスター………《ウィズダムトレント》はさっきまでシリカのいた場所に腕を振り下ろす。シリカの前に出てトレントを攻撃し俺がタゲを取る。ついでに周りのキノコみたいなモンスター………《ファナティック・ファンガイ》と読めばいいのだろうか?そいつのタゲもとってしまったがむしろ好都合だ

 

俺はシリカと離れ過ぎないようにモンスター達を引き付け、まずはトレントから狙う。振り下ろされる腕を避け、斬りつける。相手のHPが減ったところで、この数だ………多少のHP消費は覚悟の上で7連撃ソードスキル、《ローカス・ヘクセドラ》を放つ

 

三撃目でトレントのHPを削り切る。ある程度先に減らしておいたから早かった。四撃目からファンガイへ向かって放つ

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

七撃目を気合を入れて放ち、ファンガイのHPを残り一割程まで減らせた。硬直したままファンガイからの攻撃を受け、硬直が解けた瞬間残りを削り取る

 

シリカの方を見るともう一体のファンガイと戦っていた。すぐに俺は走り出す

 

「っ!?」

 

だが目の前にまたトレントが現た

 

「連続ポップ!?なんでこんな時に………!」

 

トレントの攻撃を避け、剣を連続で叩き込む。チラリと見れば更に二体の敵がシリカを囲んでいた。俺の方にもトレントともう一体、ファンガイがいる

 

『きゅるる!!』

 

「えっ……周り、囲まれちゃってる!?」

 

あのままではシリカが危ない!!

 

「すぐ転移結晶を使うんだ!」

 

トレントをポリゴン片に変えながら叫ぶ。間髪入れずにファンガイへと攻撃をくらわせる。いつまたポップするかわからない………ファンガイは置いて俺はシリカの前へ躍り出た

 

「でも、キリトさんが………!」

 

「俺なら大丈夫だ。この程度なら充分凌げるから………だから早く!」

 

「わ、わかりました。転移結晶ならここに………あっ」

 

何やら不穏な声が背後から聞こえたが杞憂であることを信じ目の前のモンスター達と対峙する。剣を横薙ぎに一閃すると四体共後ろへ跳んで避ける。それを追撃し真ん中の二体に攻撃をくらわせ、HPを減らしていく

 

「キリトさぁ〜ん!ピナが………ピナが、転移結晶食べちゃいました!」

 

「な、なんだって!?」

 

一体を屠り、二体目のHPを0にしようとするや否や、シリカからそんな声が聞こえてきた

 

ど、どういう状況だよそれ!…………はっ!いや、ダメだ。余所見したらダメだ

 

二体目にトドメを指し、三体目へと剣を向ける。その際に残ったもう一体がシリカの方へ行ってしまった

 

「しまっ………シリカ!モンスターがそっちに……!」

 

「え!?きゃ、きゃぁぁぁっ!!」

 

くっ………!早くこいつを倒さないと!

 

俺はシリカの方を心配しながら、目の前のファンガイを高速で片付ける為に剣を振るう

 

『きゅる!!』

 

その時、ピナがシリカの前に出た

 

「ダメ、ピナ!身代わりになんか………!」

 

ピナ必死に止めようとするシリカ、それを見て俺はファンガイにトドメを指してシリカ達の方へと向かう

 

『きゅるぅぅぅぅぅ!!』

 

「なんだ!?ピナが光って………」

 

急にピナが光り出した。突然のことに俺は足を止め、モンスターが攻撃のモーションに入っていることに気付くのが遅れた。今からどんなに急いでも間に合わない。ピナ、一撃耐えてくれ………!

 

ピナがトレントの攻撃に撃ち落とされる姿が頭を過る

 

だが、目の前で起こった事実は違った

 

『きゅるぅ!!』

 

なんと、ピナが敵の攻撃を弾いたのだ。一瞬呆然とするも、次の瞬間にはシリカの横へステップで移動する

 

「シリカ、大丈夫か!?敵は怯んでる。この隙にここを離れるぞ!」

 

連続ポップはまだ続くだろう。さっきの戦闘で少なからずシリカのHPが減っている。ここは離れるのが得策だ

 

「ピナ、着いて来い!」

 

俺は小脇にシリカを抱えて走り出す。伊達に重い剣を振るために筋力値に趣を置いているわけじゃない。そのままその場から急いで離れる

 

「あわわわっ!?キ、キリトさん!あたし自分で走れますよぉ!」

 

シリカが何か言ってるが取り敢えず安全な場所に着くまではこのままで我慢してもらおう

 

 

 

 

 

「ふぅ………結局森を抜けたな。でもここまで来れば大丈夫だろ」

 

安全な場所を求め走り彷徨っていたら森を抜けてしまった。しかし危なかった

 

「大丈夫か……?」

 

「…………」

 

そのままシリカの安否を確認する。一応何かにぶつかったりしないように考慮したから大丈夫だと思うが………なんか様子がおかしいな。酔ったのな?もう少し強く抱き抱えた方が良かったかな…………

 

ん?抱えると言えば、妙に手の感覚が柔らかいのが気になると言えば気になる

 

これは一体…………

 

「……………」

 

「……………あ」

 

柔らかいもの…………うん、あれだ。きっと、あれだ……………うわああっ!?あれだ!?

 

「ご、ごめん!!変なとこ触ってた!!」

 

急いでシリカを下ろす。走るのに夢中で気付かなかった。俺はなんてことを………アスナに知れたらタダじゃ済まされないし、何より女の子の………その、なんだ、とにかくやってしまった

 

「本当にごめん!無我夢中で考えてなかったから………」

 

「い、いえ………いきなりでびっくりしましたけど………その、あたしがそんな大きくないからキリトさん気付かなかったんだと思いますし………」

 

「い、いや、そういうわけじゃ……」

 

「そうですよね、皆さん大きいですもん…………シノンさんも、あると言えばありますし。でも、体は二年前ままだからまだ希望は捨て切れないと……うぅ、でもでもストレアさんのとか見ると自信なくすなぁ……」

 

『きゅるる………』

 

ネ、ネガティヴ………ネガティヴすぎるぞシリカ!

 

こ、こういう時はどう言えば………えぇと………そうだ!

 

「お、俺は小さくても良いと思うぞ!」

 

「うぅ………ピナァ……」

 

『きゅるぅ………』

 

あ、あれ!?駄目だったか!?女心って難しい

 

これは慰めるのに時間が掛かりそうだ

 

あぁ、ユイはきちんとお留守番してるかな…………

 

 

 

======================

 

 

 

「高級キノコゲッチュー!」

 

木の下で《高級キノコ》と言う名前の如何にも高級そうなキノコの採取に成功した俺とアスナは現在、森の中にいた。未だキリト達には追い付かず。多分もう先まで行ってしまったんだろう、追い越したってのもなさそうだし

 

しかし、さっきまで島の上!って感じだったのに、転移したらすぐ森だもんな。中心部に近いってことなのかねぇ?中心部に近いってことは、多分迷宮区にも近付いてるのかな

 

まあそんなことは今はどうでもいい。それよりこのキノコ、食えるかな

 

「なーなーアスナ。このキノコうまい?」

 

高級って程だからうまいんだよな?

 

「うーん………どうだろう。調理したことないからわからないけど、帰ってやってみる?」

 

「いいのか!?」

 

「うん、いいよ」

 

いやっふぅー!アスナの手料理がまた食えるとは!…………あ、でもクラインが取って来た肉で作ったサンドイッチが今日の弁当だから、どっちみちか

 

でも楽しみだなぁ。高級キノコ、合計で三つ採れたし、結構大きいし

 

「いいよなぁキリトは、アスナの手料理毎日食えるんだもんなぁ」

 

「そう?ありがとね」

 

「俺も彼女がいたら毎日料理振る舞って貰えるんかねぇ…………。今度ピナにでも結婚申請しようかな」

 

いや、まあ出来ないだろうけどね?ピナモンスターだし

 

だがしかし、ここはツッコミ待ちなわけなのだよ。俺はアスナからツッコミが欲しいんです。いや、ピナとは結婚出来んやろー!とか、なんでピナやねーん!とか、そんなツッコミが!

 

さぁ、来い!アスナ!!俺はいつでもウェルカムよ!?

 

「………………」

 

…………あれ?

 

何も来ない、どころかアスナの足が止まってるような気がする。どうしたんだ?なんかマズイこと言ったかな…………

 

俺は恐る恐る後ろを振り向く。そこには暗い顔をして俯いているアスナがいた

 

「ア、アスナ………?」

 

「………ん?あ、ごめんごめんシン君。なに?」

 

「いや………何も」

 

いきなりの変化に戸惑ってしまう。これは、ガチで俺が地雷を踏み抜いたパターンだろう。なんだ?何が地雷だった………!

 

アスナのあんな顔は珍しいと言える。笑った顔、怒った顔、色んな顔をここ最近で見たが、あんな暗い顔は初めて見る。何が原因だったか、さっきの俺の言葉から頭をフル回転させて答えを導き出す

 

キリトを羨んだ時はアスナはまだ笑っていた。だったらツッコミ待ちだったあの台詞

 

まさか…………

 

「結婚申請………?」

 

ピクリと、アスナの肩が動いた

 

「なあアスナ、なんかあったのか?」

 

聞くのも野暮な気がするし恐ろしいが、意を決して聞いてみる。結婚申請と言うことは………またキリト絡みだろう。アスナとキリトは結婚していて、夫婦の状態にある。例えばその状態で結婚申請がされればどうなるんだろう?もしかしたら、キリトが………もしくはアスナが、誰かから求婚されたとかか?

 

「…………そっか、シン君はあの時まだいなかったもんね」

 

アスナはそう呟くと、俺に向き直る

 

「え、えっと………別に無理に話さなくていいんだぞ?」

 

「ううん………出来れば、シン君にも手伝って欲しいし」

 

目と目が合う。その綺麗な目に少しだけ憂いが見え、俺の心の中の不安は余計に募る。そのまま、アスナの言葉に耳を傾ける

 

そして俺はこの瞬間誓った。これ、キリトのせいだったらあいつ絶対ぶん殴る、と

 

 

 

 

 

 





タイトル………思い、つかない……!!

七十七層、まだまだ続くよ!


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仮定の話は結構大事だと思う………思います

この作品を読んでくださっている皆様方、大変お待たせ致しました。遅くなってすいません


ただ、ただ一つだけ言い訳をさせてもらうとすれば………

俺は悪くない!!デジモンが面白いのが悪いんだ!!だって………!だって誰も教えてくれなかったじゃないか!?あんなに面白いと感じるなんて!!だから俺は悪くないんだ!!

ハマっちまってバトルメンバーもリザーブメンバーも全員レベルMAXだよ!姉からは「廃人の素質あるんじゃないの?」とか言われたよ!廃人に失礼だろうが!?

…………すみませんね、取り乱しました

それじゃ、どうぞ







「そろそろ行くか、シリカ」

 

「はい」

 

あれからシリカを落ち着かせた俺は休憩をする予定だったことを思い出してシリカと一緒に休憩していた。近くにモンスターがいるから、戦闘になるかもしれないと不安だったが、運の良いことに戦闘にならずに十分休憩することができた

 

視線の先でこちらに背を向けている人型のモンスターを一瞥する。見た感じゴブリンだ。恐らくアスナが今日攻略する予定の場所はここから近い場所にあるんだろう

 

「そう言えば」

 

俺はストレージを開く

 

そう言えば転移門を通る前、クエストを受注していたんだった。モンスターからドロップする素材を集めるというものだ。確かトレントからドロップする素材だったはず…………おぉ、ドロップしている。良かった、戻って集める必要はなさそうだな

 

「……………」

 

ストレージを消そうとして…………俺はある一点を見つめる

 

別に何か不思議なものがあったわけじゃない。いや、どちらかと言うとない(・・)から違和感が生じる

 

そこに前まであったのは、アスナとのリンクだった

 

 

 

 

 

 

 

 

七十五層のボス部屋でヒースクリフを倒し、終わるはずのデスゲームは終わらなかった。混乱の中俺達は進むことを決意し、七十六層へと上がったあの日、俺とアスナはポーションの補充の為に商店通りを訪れた。ポーションの残量を確認すると、急にアスナが驚いたような声をあげたんだ

 

俺は最初、ポーション残量が0に近かったから、あまりの少なさに驚いたのかと思った。だけど、それは違った

 

『アイテムの共有が………キリト君とのリンクが、解けてる………!』

 

アスナの口から出た言葉に俺は一瞬耳を疑った

 

急いでストレージを開くと、確かにアスナとのアイテムの共有も切れて、アスナのステータスが見れなくなっていた

 

『ほ、本当だ………』

 

『まさかとは思うけどキリト君………私と、り……離婚、した?』

 

『いや、ない!絶対ない!!間違ってもするもんか!』

 

目に涙を溜めて俺に聞くアスナを必死に宥めながら否定する

 

SAOにおいて、システム上で規定されるプレイヤー同士の関係は4種類。その中の一つが結婚、俺とアスナがこれを共有しているわけだが………結婚と言っても手続きは簡単なもので、どちらかがプロポーズメッセージを送り、相手が受諾すればそれで終了というものだ。実に簡単だ

 

だが、結婚には他の3種類………無関係の他人、フレンド、ギルドメンバーといった具合だが、これらの比にならない変化と言うものがもたらされる

 

大まかにしてしまうとまず第一に自由に相手のステータス画面を見ることができるということ、そして次にアイテム画面の統合化。言わば最大の生命線を相手に差し出す行為だ。だからなのか、アインクラッドでは男性プレイヤーの方が圧倒的に多いからなのかは知らないが、男女間のカップルはあっても結婚まで至るのは非常に稀だ。男女間ということは、同性の間では多いのか?と聞かれるとそれも絶対にないと叫びたい。そもそもシステム的に無理だろう。ネカマならあり得なくもないが、このデスゲーム開始と共に全てのプレイヤーは現実と同じ姿なのだから言うまでもない

 

少し話が逸れてしまった

 

今回のケースは、俺とアスナの結婚という関係……もといリンクがどういうわけか急に切れた、ということだ

 

離婚が出来ないわけじゃないが、俺はアスナと離婚する気なんて全くもってないし、アスナもそんな気はないだろうから、どちらかが離婚申請ボタンを押したというわけではない。それに、申請ボタンを押した場合、相手の受諾がなければ離婚は出来ないようになっている。一方的に離婚する方法もあるが、そうなるとストレージ内のアイテムは全て相手の分になってしまうから、ストレージを見た限りそれもない

 

となると、七十六層に上がってきた時にバグが起こったとしか考えられない

 

取り敢えず、その件についてユイに聞いてみたところ、以前参照したデータから情報を掻き集めて来てくれたらしく、とても有力な情報が手に入った

 

『今、二人が結婚したという値は、システムの不具合が起きた時に壊れてしまったものだと考えられます。

なのでパパとママは《祝福の儀式》というクエストを受けてみてください』

 

《祝福の儀式》、聞くところによるとそのクエストをクリアすることで値が書き換えられ、元の状態に戻せるかもしれないらしい

 

クエストのトリガーは七十七層以上で貰える対になる特殊な指輪。イベントが起こるのは七十七層より上のどこか…………まだ曖昧な状況だが、それでも最初よりは何歩も前進している

 

「キリトさん、どうかしましたか?」

 

「…………あ、いや、なんでもない」

 

気付けばストレージとずっと睨めっこしたままだったようだ。それを不思議に思ったのかシリカが聞いてくる

 

……………さっきはあの森を走って抜けてしまったが、帰りにもうちょっと探索してみるか

 

「行こうか」

 

「はい!」

 

元気の良い返事を聞いて俺は剣を抜く

 

……………俺は正直言って、別にアスナとのシステム上での関係を修復するのに、そんなに急がなくてもいいと思っている

 

アスナのステータスが見れないのは心配だし、不安になるけど………それでも、システム上での値だ。今更俺のアスナへの気持ちが変わることはない

 

例えアイテムが共有されていなくても、リンクが切れていても、心の部分で俺達は繋がっていると信じてるから

 

「……………ふっ!」

 

我ながら恥ずかしいことを考えてるな………そう思い若干頰が熱を帯びるのを感じながら、俺はゴブリンへと剣を振り下ろした

 

 

 

======================

 

 

 

「そんなことがあったのか………」

 

森の中、取り敢えず座れそうな所を見つけて、そこでアスナの話を聞いていた俺は今とっても驚いた顔をしているだろう。今なら睨めっこでも全勝出来そうな顔に違いない…………いや、それはないか

 

しかし驚きだ。まさかそんなイベントが起こっていたとは………

 

「他の結婚していたプレイヤーもそうなってんだよな?」

 

「…………ううん、七十六層には間違って来ちゃった人達以外は皆攻略組だから、結婚してる人とかはいないし、そもそも結婚するっていうケースが稀だから」

 

あぁ、そうか。そう言えば原作でそんなこと書いてあったような気がする

 

しかし、となるとキリトもアスナもシステム的には現在フリーなわけですか…………リズベットがやけにキリトを掻っ攫う態勢全開なのはこれのせいか。なんて厄介なことを、リズベットの目が届かない範囲でこれ以上ハーレム要因を増やさないように、リズベットの目に不本意にもなってる俺の気持ちを考えてくれよ

 

いや、まあね?俺もこれ以上キリトが誰かを落として行くのを見たくないわけよ。俺の心が限界なの!わかる?ねぇ、わかるかな神様!モテ期よ来い!いや、来てくださいお願いします!

 

くっそ、おふざけ半分でアスナに結婚申請でも…………やめよ、普通に殺されるわ

 

「んで、トリガーとなる対の指輪を探してると」

 

「うん」

 

成る程ねぇ…………つかさ、申請すれば結婚出来んのにわざわざクエストにする必要なくない?しかもこんな上層でさ。雰囲気も大事だと思うけど、それだったらもっと下の層であるべきクエストだよな…………いや、実はあったりすんのか?下に行ったことないからわからん。てか行けれないし

 

…………いや、待てよ?下に行けれないからこそ存在してる、ってことか?よくわからんが………SAOのシステム、つまりカーディナルシステムはバグが起きた後でも現在動いてるはずだよな?ゲームからしたら、下に行けれないなんて、それこそ修復するべきバグのはずだ。だとしたら、わかっていながら放置してんのか?でも何の為にだ?……………システムの考えることはわからんな

 

まあいい、今は深いこと考えるのやめよう。多分、まだそんな時期じゃない。恐らくだけど、ホロウフラグメントというこのゲームのメインのメインはまだ始まってない。そんな気がするから

 

そんなことよりも、まずはアスナのことだ

 

俺はゆっくりと立ち上がり、アスナと向き合う。そんな俺を、何かするの?みたいな目で見ているアスナと目を合わせ、俺は左手を顔の前にぃ

 

さぁ、アスナ君。そしてこんな行動に興味が微塵もない………てか、興味というものを抱かないであろうカーディナル君、わかったかなー?

 

 

 

そう!ジョジョ立ち!!

 

 

 

バァーン!という効果音が付きそうなほど勢いよくやる。めっちゃ勢い良く捻ったから少しだけ不快感に襲われるも我慢我慢………これ現実でやってたら体痛めてたわ。勢いつけるもんじゃねぇなこれ

 

「…………なに、してるの?」

 

「ん?………いや、ちょっとやりたかっただけ」

 

そう言うとアスナから絶対零度に近い視線を貰ってしまった

 

…………うん、ぶっちゃけ言うとマジでやりたかっただけなんだよね。いやぁ、たま〜にやりたくなる時あんだよ

 

「なぁアスナ」

 

「あ、そのままで話し始めちゃうんだ」

 

むぅ、嫌ならやめるけど………

 

お気に召さないようなのでジョジョ立ちをやめて座り直す。この世界にジョジョないのかなぁ………?それはそれでショックかも。いや、アスナが知らないだけかもしれないし、まだ希望は捨てない!僕頑張るよ!

 

「それで、何?」

 

「ん?あぁ、ごめんごめん。忘れてた」

 

超高校級の希望を胸に抱きながら頑張るとアインクラッドの天井に向かって想いを飛ばしていたら、アスナのことを忘れていた。あ、ごめん、謝るから!だから溜息吐かないで

 

では、気を取り直して

 

「アスナはさぁ、キリトと出会ってなかったら、って考えるとどう思う?」

 

「え?…………そんなの、考えられないかな」

 

うむ、まあ予想通りの答えです

 

「仮定の話をしようぜ、IFの話だ」

 

そう言いながら俺は、空を見上げた

 

 

 

======================

 

 

 

「仮定の話をしようぜ。IFの話だ」

 

そう言いながら空を見上げるシン君に釣られ、私も上を向く

 

空………正しくは七十七層の天井、青い景色の中に所々白い靄があり、視界の端には木々達の葉が目に入る

 

「もし、俺とアスナが結婚していt「それはないよ」……………」

 

あ、ついつい話を遮っちゃった。でも………うん、それはないかな

 

なに?もしかしてシン君、自分の妄想のこと話そうとしてる?

 

「仮定の話だってば………まあいいや、んじゃあ………もしSAOがデスゲームじゃなかったら、っつう話で」

 

うん、それならいいかな

 

「もしSAOがデスゲームじゃなかったらさ、今頃俺達、こんな必死になってまで攻略なんかしてなかっただろうなぁ」

 

「……………」

 

確かにそうかもしれない。SAOがデスゲーム化していなかったら、きっと今頃私は普通に高校に通って、学校の友達と挨拶したり………でも、きっとナーヴギアは使い続けていると思う。そこでキリト君に会って………きっと、ユイちゃんにだって会える。リズに出会って、友達になって、私の兄も一緒に皆で攻略に行って………あれ?なんだかあんまり変わらないような………ううん、変わるよね。だって学校に通ってるし

 

楽しそうだなぁ………今が楽しくない、ってわけじゃないけど

 

「幸せだろうなぁ。そりゃあ幸せそうだ」

 

シン君がそう呟く声には、少しだけ悲しみが混ざってるように感じた。私はシン君の今までを知ってるわけじゃない。もしかしたら、出会う前までに、辛い出来事があったのかもしれない

 

「だから、その俺にこう願うんだよ。てめぇ不幸になれぇ〜!って」

 

「えぇ!?」

 

不幸を願っちゃうの!?

 

いきなりの発言に私は思わずシン君を見る。シン君はと言うと頭の上で手をヒラヒラとさせていた。まるで不幸になるオーラを送っているようで若干頰が引きつるのを感じた

 

「ま、冗談として」

 

じょ、冗談なんだ………

 

「急に話は変わるけど、平行世界(パラレルワールド)って信じる?

 

平行世界(パラレルワールド)?似たような世界がもう一つある、っていうアレ?」

 

「それそれ」

 

私の言葉にシン君は頭を振って答える。一体何が関係あるんだろう……?

 

私は信じるか信じないかと言われれば………どちらとも言えない。今までそれについて深く考えたことがないから

 

「さっき話した仮定はさ、確かにそん中に存在してんだよ。誰かが言ってた」

 

シン君は両手を上に上げ、ゆっくりと横にスライドさせる。もしかしてあれで表してるつもりなのかな

 

…………それ、本当に正しいの?

 

だって今、突拍子もなく考えた内容だし、それに平行世界(パラレルワールド)自体存在しているとは言えないと思う。存在していない、とも証明出来ないけど、ちょっと不確定要素が多すぎるかな

 

「んで、話は今俺達がいる世界に帰って来ます」

 

上げた両手を目の前まで持ってくる。どうやらアレで表してるみたい。シン君の指先が私の目と一直線に並んでいる

 

「俺達今不幸です。あー、つれー。もうやだ、絶望だわ。希望見えてこないわー」

 

そんな棒読みで言っても説得力ないんだけど

 

「だからさ、そんな時は平行世界の自分を見てみましょう」

 

また両手を上に上げるシン君。結局そっちに戻るんだ………

 

「お、あいつ幸せそうだな!なんであいつ幸せそうなんだ!?俺なのに!あいつが幸せなのに俺だけ幸せじゃねえっておかしくね?ってことは、俺にも幸せ回ってくることじゃね?いやっほい!ヤッタネ!!なんだかやる気が出てきたぜぃ!!

 

……………って感じになるわけよ!」

 

…………うん?

 

「だからさ、アスナ!元気出せよ!!平行世界の自分見て!それに、クエストがあるんだから絶対元に戻るって!諦めたら駄目よ?そこで試合終了しちゃうよ?もっと熱くなれよ!だからこそNever give up!!」

 

「……………ねぇ、シン君」

 

「ん?なに?元気出た?」

 

「もしかして、ずっと励まそうとしてくれてた?」

 

「YesYes!俺も出来るだけ協力するぜぇ。アスナはキリトの嫁ッ!不変の摂理っつうもんがあんのよ」

 

何言ってるかわからないけど…………そっか、私ずっと励まされてたんだ

なんて言うか、もっとコンパクトに出来たんじゃないかなって気もするけど、最初のくだりいる?って気もするけど

 

シン君はシン君なりに、私を励ましてくれてたんだ

 

「ふふ」

 

「ん?………え、なにどしたの。なんで笑ってんの?」

 

「シン君はさ………」

 

うん、シン君は………

 

「バカ、だよね」

 

愛すべきバカ………ってやつ?

 

「what!?なんでいきなりの罵倒!?」

 

「罵倒してるんじゃなくて、褒めてるんだよ」

 

「バカってのは褒める為の言葉じゃねえんだぜ!?」

 

「平行世界では褒める為の言葉かもしれないよ?さ、十分休憩もとれたし、そろそろ行こうか」

 

私は立ち上がって、ギャーギャーと叫んでいるシン君を尻目に歩き出す

 

「ちょ、待てって!なんで?なんで俺、バカって言われたの?」

 

慌てて追いかけて来たシン君の顔は、困惑一色に埋め尽くされている。その顔を見て私は笑いつつ、そう言えばまだお礼を言っていなかったことを思い出した

 

「ありがとね、シン君」

 

「うぇっ…………あ、あい」

 

お礼を言ったのに顔を赤くしてそっぽを向かれた。照れてるんだろうなぁ

 

「頑張らないと」

 

私は剣の柄を握り、気合を入れた

 

システム上のことだけど必ず………必ず、もう一度キリト君と結婚するんだから!

 

 




ロストソングも発売真近ですね。アンケートとってます、是非よろしくお願いします


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合流しました。休憩します

主人公の種族決めアンケート、途中経過。いつホロウフラグメント終わるかわからないから、どんどん投票してください

ケットシー 5票

インプ 4票

スプリガン
プーカ
ウンディーネ 2票ずつ

サラマンダー
シルフ 1票ずつ


大体今こんな感じです。複数票を入れてくださってる分もカウントしてます

まだまだやってるんで、活動報告から是非。よろしくお願いします






「ここがゴブリンの巣窟………洞穴ですなぁ」

 

森を抜けた俺とアスナだが、未だキリトとシリカには追い付けていなかった。これを俗に言うイタチごっこというやつか

 

キリト達と俺達の出た時間にあまり差は………あるのかな?でも、あまりないと思うから多分この洞窟の中にいると俺は思う。ここに二人が入っていれば、だが

 

まあアスナに聞いたところ、ここはまだ入り口周辺を探索したぐらいらしいから。高確率でいるはずだ

 

「キリト君達もこの中にいるんじゃないかな。探すついでに攻略しよう」

 

「え?攻略がついでなの?」

 

「あ………ち、違うよ!?攻略も同じくらい大事だよ?」

 

おいおい、そんなんで良いのかよ副団長様………

 

「んじゃサクッと攻略アーンド、キリトパーティ散策と行きましょうか!そうと決まればジャンジャン行こー!」

 

俺は洞穴に向かって走り出す。後ろでアスナが静止の声を掛けてるから取り敢えず入り口から入った瞬間急ブレーキを掛ける。なんか向こうで三体のゴブリン達が焚火を囲んでるのがなんかシュールだった。更に一斉にこっち向いたもんだからもう笑える(笑)

 

…………あれ、これ俺狙われてね?

 

「……………先手必勝!」

 

剣を弓を引き絞ってるゴブリンに投擲。あ、コントロールまずった!横の奴に当たっちまった!!

 

「ぬがっ!」

 

スキル硬直のせいで避けれず、ゴブリンの射った矢が俺の左足に突き刺さる。弓は耐久値が無くなったのか知らないがすぐに消えて行った

 

うへぇ、矢が足に突き刺さるなんざ普通ねぇぜ。貴重な体験だととっておこうと思うが、やっぱこんな体験嫌だわ。なんで矢を足に受けて貴重な体験だ!って喜ばなければならんのだ。くそ、奴めやり返してやるぞ!足ぶった切る!

 

迫ってきていたゴブリンを避け、地面に放り投げられた剣を拾いに走る。後ろでは二体のゴブリンがアスナと相対してるらしく、ゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。流石っすアスナ先輩、容赦無いっす

 

後ろの二体はアスナに任せ、矢を避けたり肩に受けたりしながら剣を拾った俺はまずゴブリンの弓に一閃。流石にこれで壊れるとは思わないが、なんとか矢の射出を止めることには成功した

 

「足と肩、お返しするぜ!」

 

まずは足に一撃ぃ!突きを入れて引き抜く。更に肩にもう一発!ゴブリンの右肩が後ろに逸れるが、ゴブリンがそれをうまく使って弓を俺の眼前に突き付けてきやがった

 

「ちょ、それヤバ………」

 

ぬぁっ!?耳!耳掠った!

 

「ぬおぉぉぉ!」

 

流石にこれ以上くらったらやべぇ。必死に射線から避けながらもう一発をお見舞いしてゴブリンから離れる。奴の残りHPはまだ八割もある。火力不足が悩みだな………

 

奴も遠距離、俺も遠距離のチャクラムに切り替えて、矢を射った瞬間にチャクラムを放つ。チャクラムが戻ってくるまでにまた次の矢が来るはずだ。無理に引き戻すことはせずに走り出す

 

………って、やば!?あいつタイミング合わせてきてる!?

 

「よっと!」

 

当たりそうなやつが来たから転がって避ける。アクション大事、アクション大事ぃ!俺内心では結構余裕なのよね。内心だけは!

 

態勢を立て直してまたチャクラムを放つ。アスナもこっちに合流してくれたようだ。見るからにHPがガリガリ減っている

 

恐らくアスナのレベルは100に届くか届かないかぐらいだろう。約二倍のレベル差ってのはこうまでも違うのかと思うと少し落ち込むが…………いやまだだ!まだ時間はあるはずだ

 

手元に戻ってきたチャクラムを掴んでゴブリンの頭を砕かんがばかりに殴り付ける

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

「だぁっらしゃぁぁぁぁぁ!!」

 

アスナは《リニアー》を、俺はつい最近存在を知ったチャクラムのソードスキルを使ってゴブリンへとトドメをさす。投げるタイプじゃなくて、体術スキルのように手に持ったまま発動するスキルみたいだ。しかも二連撃

 

アスナのリニアーが貫通するのと同時に一撃目の突きを放つ。これでもうHPバーは削り切ってるのだが、ソードスキルが終わらないと止まれない。二撃目は突き出した腕を真上に上げて瓦割りのように振り下ろした

 

……………なんか動きダセェなこれ

 

「不満です!」

 

「何が?」

 

「何でもない………」

 

茅場ェ………あいつ、チャクラムのスキルに手を抜いたりしてないよな?

 

いやいや、そんなはずはないよな。だってあの茅場だもん、団長だもん

 

「……………おん?」

 

進んでると分かれ道を見つけた。右側になんか装置みたいなもんがあるけど、もしかしてこれはなんかのトラップか?見た感じ誰かが解いた後みたいだ。多分キリト達だろうと思うが………進むとしたらこっちだな

 

「あいつらも足が速えよな。攻略組じゃないシリカを連れてるっつぅのに………お姫様抱っこでもして運んでいやなんでもないです」

 

やっべ失言。アスナが怖い………アスナが怖い!

 

「じょ、冗談じゃないですかアスナさん。ジョークだよジョーク、アインクラッドジョ〜ク!」

 

誰かー、助けてー。キリトでもシリカでも良いからたすてけ

 

『ーーーーー!!』

 

「うおっ!?」

 

角を曲がった瞬間ゴブリンが切りつけてきた!?助けてとは言ったがお前ぇじゃねぇ!!

 

チャクラムでギリギリ受け取め………

 

「あちょっ、無理ぽ」

 

ここでレベルの違いが出るのかよ!!しかもチャクラムは円だから受け止めにきぃ!

 

ゴブリンの剣が俺の頭をチャクラムごと真っ二つにせんが如く迫る

 

ガギィン!

 

「大丈夫!?」

 

「サンキューアスナ!」

 

刃が届く前にアスナの細剣が受け止めてくれた。まったくもってお世話になります!

 

「スイッチの準備!」

 

アスナは叫んだ後、再度振り下ろされた剣を真上に弾き返す。するとゴブリンは後ろに大きく仰け反った。その隙に俺がクイックチェンジで剣へ交換し、前に出る

 

隙の無い三連撃ソードスキルである《シャープネイル》。最近になって使えるようになったが、三連撃以上となると硬直が二連撃よりも長くなるのが当たり前。正直言ってその間に攻撃される不安が大きかったから使わなかった。そこから攻撃され、成す術もなくやられるかもしれない。それを考えるからこそ、そんなにバンバンとソードスキルを使わない。んな不安無かったらソードスキル使いまくってるの

 

俺が三連目をゴブリンへ叩き込んだ後、横を閃光が走る。言うまでも無くアスナの攻撃だ

 

俺の目では追い切れない攻撃がゴブリンのHPを削り切る。横から見たら目の前で雷か何かが走ったのかと思うくらいのスピード。速すぎて何が何やら全くわからんが、八連撃ということだけはわかった

 

あんなに速かったら硬直してる時の不安もなくなるのかね。羨ましいぜ

 

「ひゅー、流石閃光様」

 

実物見ると凄えもんだなぁ。アスナのだからもっと凄えのかもしれんけども

 

「もう、からかわないでよ」

 

「いやいや、普通に感嘆するぜ」

 

流石攻略組のトッププレイヤーの一員。俺もいつかその中に………いや、トッププレイヤーとまでは行かなくても攻略組にはならなければ。自分の手で攻略したいって気持ちもあるし、役にも立ちたい。それに、ストーリーを見届けるためには行動範囲はどこまでも広い方が良い

 

しかし、目で追い切れない程の速さってどんだけだよ………絶対アスナとはデュエルしねぇ

 

アスナに絶対逆らわない、これはもう法律だね。いや、憲法にしよう。憲法って第何条まであったっけ?最後の方に付け加えといてください

 

「多分この奥だよな、キリト達」

 

「多分ね」

 

それぞれ剣をしまった後、道の先を見据える。多分この最奥まで行けばキリトとシリカがいる。そんな気がする

 

すれ違いになったらまた面倒だな…………。そう思いながら俺はアスナの後ろに続いた

 

 

 

======================

 

 

 

「頑張れシリカ!敵のHPは後少しだ!」

 

「はい!」

 

俺は敵からの攻撃を両手に持つ剣をクロスさせ、受け止めながら叫んだ

 

洞穴の、恐らく最奥まで来た俺達は《ゴブリンリーダー》と言う如何にもこのエリアのちょっとしたボスらしきモンスターと戦っていた

 

「………っ!!」

 

歯を食いしばりながら相手の武器を押し返し二回切りつける。敵のHPは残り二割、ここでソードスキルを打ち込めば確実に倒せる!

 

すかさず横に移動してソードスキルを発動する。五連撃ソードスキル、《デッド・インターセクション》を確実にゴブリンリーダーに叩き込んだ

 

ポリゴン片となり散っていくのを見届け、スキルの硬直が終わるのと同時に俺はシリカの方へと体を向ける

 

「お疲れ、大丈夫だったか?」

 

「はい、キリトさんがタゲを取ってくれていたので大丈夫でした」

 

なら良かった、そう返した後ポーションを取り出して呷る。ゴブリンリーダーだけじゃなく複数のゴブリンとも戦闘したからHPも少なからず減っていた。相手方のレベルも七十七層相応のレベルだ。ホロウエリアの方が高くその分レベルも上がっているが、やはり守りながらだとキツイ場面もあるか……………数の暴力って恐ろしいよな

 

「………!」

 

ゴブリン達が新しくリポップする気配もなかったので、シリカと暫し休憩していると索敵に反応があった。どうやらプレイヤーらしく、数は二人、真っ直ぐこちらへ向かって来ている

 

「んでさー、そこの店で売ってるクッキーがうまくてさ。今度アスナも行ってみようぜ、キリトも連れてさ」

 

「クッキーかぁ………暇があれば今度、お菓子を作ってみようかな」

 

随分と聞き覚えのある声だ。シリカも声で二人の存在に気付き、来た道をじっと見つめる

 

「いいねぇ、そんなアスナに蜂蜜を進呈…………お?キリトにシリカ、ピナ、やっと追い付いた!」

 

まず姿を現したのはシンだった。真っ白のマフラーを尻尾のようにユラユラと揺らしながら姿を見せたシンは、俺達の姿を見つけるとこちらに元気良く手を振る。シンに続いて現れたアスナもこちらを見て笑顔で手を振った

 

俺とシリカは手を振り返すと二人へ歩み寄る

 

「二人とも、残念ながらちょっと遅かったな。ここにいた奴は俺達で倒しちゃったぜ」

 

「こんにちはアスナさん、シンさん」

 

二人ともこの時間帯にここまで来たということは、フィールドへ出た時間はそう何時間も違いはないようだ。だけど少し遅かった。もう少し早かったら分け前がそっちにも回せたんだが…………いや、アスナとは必要な分は分け合うつもりでいたし、残念賞はシンだな

 

「ここに何がいたのかは大体察しつくけど………ま、そんなことはどうでもいいや。俺達はお前らを追い掛けて来たんだぜ?」

 

俺達を追い掛けて?

 

「二人が先に出たって聞いたから、攻略のついでに追い掛けようかって話に」

 

「あぁ、成る程。パーティを組もうか、アスナ達もまだ攻略続けるだろ?」

 

「うん」

 

パーティ申請を二人に送るとすぐに承諾され、視界の端にHPバーが二本増える。なんだかこの四人でパーティを組むのは初めてだからか、妙に新鮮味を感じた

 

さて、ここを出て進めばもうすぐ迷宮区のはずだ。確実に攻略していこう

 

 

 

======================

 

 

 

いや〜、無事キリト達と出会えて良かった良かった。すれ違いにもならなくて良かったよ

 

しかしなかなか珍しい組み合わせになってしまった。とは言え俺はホロウエリア以外の圏外に出ることは初めて、シリカは攻略組でもないのだから、そんな頻繁に圏外には出ないだろうしな。珍しいというか新鮮と言った方がいいか

 

俺の視界の先ではアスナとキリトが楽しそうに話しをしている。攻略は少し休憩してから再開するそうだ。そんな仲睦まじい二人を見ながら俺とシリカは離れて、俺はピナをモフりながら、シリカは二人を羨ましそうに見ながら休憩していた

 

「いいな〜………」

 

ピナを撫でていたらシリカからそんな声があがった

 

「あの二人が仲良いのが羨ましいのか?」

 

「えっ!?聞こえてました?」

 

「聞こえない方がおかしい声量だったぞ今の………」

 

如何にも聞こえてたの!?って言う驚いた顔でこっちを見るシリカに思わず呆れてしまった

 

残念ながら俺は難聴鈍感主人公君じゃないので。ごめんね?聞こえちゃって。でも言わせてもらいたい、あの声量は聞こえるわ

 

「いや、まあ………あの二人、こうやって見てると本当に仲が良くて、それが羨ましいなって」

 

「彼氏が欲しいってことでOK?ませてますなぁ〜」

 

何歳だっけ?確かSAO開始当初が12歳だっけか…………ってことは14歳か、そうおかしいことでもなかった

 

「そういうわけじゃありません!」

 

あれ、違うの?俺は彼女欲しいよ。誰でもいいってわけじゃないけど

 

「いや、でも………う〜ん。いらないと言えば嘘になると言うか、何というか……」

 

シリカは必死に目線を泳がせながら言う。チラチラとキリトを見るのも忘れない

 

うんうん、わかってる。キリトが好きなんだよね?でもね、ここで俺は敢えてこう言います

 

「んじゃ俺と付き合う?」

 

「えっ!?」

 

おーおー、驚いとる驚いとる。アルゴの姉貴とか即答だったのに

 

「そ、その、私達はですね!まだ出会ったばかりですし、それにわ、私はシンさんをそそそ、そう言う対象として見ていませんので!」

 

ちょっと待て、普通に断られるより辛いぞそれ

 

「冗談や冗談、そんなガチで断らんでも」

 

俺の心が泣いてるよ?号泣だよ。溢れた涙が海を作っちゃってるよ

 

「冗談って………からかうのも程々にしてください!」

 

「ピュアな子を弄るってチョー楽しい」

 

その分傷も作ることになったけどね!

 

「最低ですよそれ…………て言うか、シンさんは好きな人がいるんじゃないんですか?良いんですか、そんなこと言って」

 

…………あん?俺に好きな人?

 

思わずピナをモフる手を止める。シリカをジッと見つめた

 

「お、お前まさか…………、俺のピナへの愛情を気付いt「もう引っかかりませんよ」…………あっそ」

 

俺のおふざけに即答で返された。どうやら学習したらしい。学習早えよ………

 

てか、そんな人できた覚えはないんだけど。いたとしてもなんでシリカが知ってんの?

 

はっ!まさか、幼稚園の頃好きだった正美先生のことを言ってるのか!?いや、まさかそんなはずはない。知ってるなんておかしいだろ、色んな意味で

 

小学校入ってから好きな人なんてできたことないしなぁ………従妹にも「信ちゃんその年で好きな人いないの!?………もしかして、ホモ?」とか言われたことあるし。じゃあお前はいんのかよ、って話だよ。その後寝っ転がして見様見真似で関節技キメたらガチで痛かったらしくて、後でサンドバックにされそうになった。だから格闘技なんて習わすなって言ったんだよ………

 

「んで、俺の好きな人って何よ。いねぇよそんな人……………それに、意味ねぇし」

 

「え?意味ないってなんでですか?」

 

ん、聞こえないように呟いたつもりがどうやらシリカには聞こえていたみたいだ。鈍感系ヒロインじゃなくて何よりだ。将来沢山の男を泣かせないように願いたい。既に約一名心で泣かせてるがな。勿論俺です

 

「……………意味ねぇってのアレだ、言葉の綾。幸せに出来る自信ねぇから、どうせ離れて行っちゃうってーこと」

 

まあ………うん、こんな感じかな

 

「意外と真面目な答えでビックリです」

 

「あるぇー?ここは、シンさんカッコイー!ってなるとこじゃねえの?」

 

「普段の行いのせいだと思いますよ」

 

ちくせう

 

「二人とも、そろそろ行くぞ」

 

またもや心がシリカに泣かされそうになってるところにキリトが乱入してきた。どうやら休憩は終わりみたいだ

 

「わかりました」

 

「うぃーっす」

 

俺達が返事を返すとキリトは踵を返して歩き出す。それに続き、少し先にいるアスナと合流して俺達は洞穴の外を目指した

 

 

 




ロストソング面白い。けど、アバター………アバター作製、もうちょっと種類なかったんかなぁ………


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大事なことなんだ。しっかりやろう

長らくお待たせしました。感想の返信も長らく放置してて………ホントすみません

こっから頑張っていくよ!多分!!




「これは………」

 

ホロウエリアの樹海を西の方へ抜けた先、鬱陶しい程の木々やモンスター達をなんとか切り抜け、私はこのエリアの端の方だと思える場所に来ていた

 

私の目の前には大きな門。この門を潜った先はこの樹海エリアとは全く違う風景が続いている。だけど、通ろうにもどうやら門が閉じてしまっているみたいだ。もしかしたら、こっちのエリアと向こう側を繋ぐゲートなのかもしれない

 

見渡してみるとちょっとした窪みがある

 

「この窪み…………あのペンダントと同じ形、だよね」

 

見覚えのある形だった。これはキリトにあげたペンダントと同じ形だと思う

 

だとすると、これ以上の探索はキリト達と一緒がいいかな

 

「そろそろ戻ろう」

 

この先に今は進めないことがわかった。だったら今日はもう帰った方がいいよね。ここまで来るのに結構時間掛かったから、ちょうど良い時間帯になると思うし

 

「それに、もしかしたら二人が来てるかもしれないし」

 

私は身を返して元来た道を戻る

 

うん、やっぱりパーティの方がいいよね。ここまで来るのにも結構時間掛かったのは一人だったからだし

 

そんなことを考えながら、そう言えば管理区に今日は誰も来なかったなと思いつつも管理区へ向けて歩く。もしかしたら二人が来ているかもしれない。もしそうならここまで連れて来よう

 

「……………!」

 

私の耳に、僅かに戦闘音が聞こえてきた

 

「近くにプレイヤー………?」

 

戦闘音の方へ進路を変更する

 

………これ、急いだ方がいいかな

 

歩きから走りに変更しながら樹海の方へと入ると、戦闘音の主はすぐ近くだった。ある程度広い開けた場所に出ると、確かにこのエリアの端の方にプレイヤーの姿が見えた

 

その人は一人で一気に四体のモンスターを相手にしている。白い生地に、ポケットの入り口や裾の部分が黒い服の上にプレートを付けている。右手には片手用直剣、左手にはラウンドシールドを持っていた

 

そして、何より私の目を引いたのは顔に付けられた狛犬のようなお面だ

 

「あれは少し危ないか……」

 

呟いて加勢に走り出す。流石にあの数を一人ではキツイと思う

 

けど、私のそんな心配は杞憂に終わる

 

「…………!!」

 

お面のプレイヤーが放った横一閃のソードスキルにより、四体のモンスターはポリゴン片へとなった

 

空中で霧散するポリゴン片に囲まれる中、お面のプレイヤーは剣を腰に刺さった鞘にしまい、こちらに顔を向ける

 

「…………………違う」

 

「え?」

 

冷たい声でそう呟いて、お面のプレイヤーは樹海の奥へ消えていった

 

…………一体、なに?

 

「それに………」

 

あの声、どこかで聞いたことがあるような気がした

 

 

 

======================

 

 

 

「あ〜、疲れたっちゃ」

 

圏外から戻ってきた俺はエギルの店にて机に体を預けてココアをズルズルと啜る。どうだ、器用だろう?行儀は悪いがな

 

あの後合流した俺達は四人パーティ仲良く迷宮区を目指した。迷宮区自体近かったから何の問題も無かった。特に危な気もなく、俺もシリカも一度もHPがレッドゾーンに入ることなく変えることが出来ました。流石キリトとアスナでやんす。殆ど俺達の出番なかったでごわす

 

でも、それと同じくらい特に面白いこともなかったんだよね〜。てか、迷宮区って二十階あるって言っても、一階一階はそんなに広くないのな。だって今日の攻略で五階辺りまでマッピング出来たんだぜ?なんて言うの、なんて言うかさ………まあ、一層に五日程度掛ければ突破出来るって言ってたキリトの言うことがわかったような気がする。まあ、安全マージンとかも含めればもうちょっと掛かるのかな?

 

てなわけで………いや、何がてなわけでなのかわからないが、アークソフィアへ戻ってきた俺達は解散して今に至るというわけだ。キリトとアスナも、シリカとピナもどっか行っちゃったしなぁ…………エギルの店にも中途半端な時間だからか人は少ない、知り合い誰もいない………エギルと二人きりとか誰得ですか?

 

「……………あ、今日ホロウエリア行ってねぇわ」

 

犬飲みのままココアを全部飲み干して、ふとそう思った。ここ最近毎日行ってたような気がするからさ。ほら、習慣ってやつなのだぜ

 

「なら行ってきたらどうだ」

 

「…………ん〜、まぁいいっしょ。今日は初めての最前線圏外で疲れに疲れてるのだよマァァァァック」

 

うん、別にいいよね?新しい一日を開拓するのも大事だと思うよ俺は

 

「誰がマックだ。変に伸ばすな」

 

「あぁ、うん。わりわり」

 

しかし、どうすっかねぇ〜………ホロウエリアには今日は別に行かなくても良いかな、って感じするし。後はもう街をブラブラするかいつもの場所で熟練度上げでもするかのどっちかなんだが

 

…………うむ

 

「よし、剣振ってくる」

 

「おう、行ってこい」

 

俺は立ち上がりエギルにコップを返すと外へ向けて走り出す

 

「俺達の戦いはまだまだこれからだ!」

 

店を出る時にそう叫びながら出たら丁度良く店の前に居たシノンさんに目撃されてしまった

 

「あ、こ……こんちは」

 

「………………」

 

すいませんでした!土方先生の次回作にご期待ください!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恥ずかしさを噛み締めながらいつもの場所へ来た。もうあんなこと叫びながら走らない、きっと!

 

「ああぁぁぁぁぁ!!」

 

さっきの失態を忘れるべく《スモールソード》を取り出し振り回す。きっと俺はタイフーンになれる、そう確信出来るような回転スピードだ。素晴らしいことこの上ないよ

 

「………………フゥ」

 

スッキリ♪

 

額に浮かんだ汗を拭う。回ってたら軽く酔うから回るのをやめて暫く剣を振る

 

バシャァン

 

「ん?」

 

横へ一閃すると何やら手元から嫌な音が聞こえた

まさかまさかとは思いながらも手元にある剣を目の前まで持って来る

 

…………いや、手元には何も無かった。さっきまで剣があったはずなのに

 

「……………ボッキリ♪」

 

そう、どうやらボッキリ剣が折れてしまったそうでな!

 

「はっはっはっはっはっ………はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

えっ!?何!?なんで折れてんの!?

 

「why!?なんでや!どこに行ってしまったんでせうかぁぁぁぁ!!」

 

……………はっ!!

 

「そうか………剣の耐久値がゼロになったんだな!!」

 

そうに違いない!だってそれ以外考えられないんだもの

 

いや、待てよおかしいぞ!剣の耐久値が切れたって…………剣のメンテをしてれば折れることなんてないじゃん!なんで折れたの!?まさかシステムのバグが!?

 

……………いや、違う!

 

 

 

 

「そもそも俺、剣のメンテ行ったことねぇじゃん…………」

 

 

 

うん、めっちゃ簡単なことだったわ

 

いや、鍛冶屋には行ったことあるよ?この前フィリアの武器を強化した時にね。そん時、リズベットとさ

 

『あんたの剣はいいの?メンテとか』

 

『ダイジョーブダイジョーブ!また今度すっから!それより早よ早よ早よ早よ!」

 

『はいはい、早くするからダンダンしない』

 

みたいな会話したよな、確か

 

「あん時にフィリア待たしてでもメンテすりゃ良かったぁぁぁぁ!」

 

俺は頭を抱えて空へと叫ぶ

 

今回スモールソードだっからいいが、これが他の………アスナから貰った武器とかだったらどうなってたか!アスナに申し訳なさすぎるし一番強い武器を失ったことでただでさえない戦力がダウン!デフレスパイラルや…………あれ、なんか違う

 

しかし、スモールソードでもダメージは大きい。あのスモールソードは樹に突き刺さった(突き刺した)状態のものを頑張って引き抜いた剣!あの剣には俺の数十秒間の努力と思い出が詰まっているのだ

 

しかもあれ投げやすいから結構お気に入りだったのに!……………ダメージは少ないけど。あれだよ?与えたダメージによって、あ………あれスモールソードだな、とかわかるんだよ

 

「はっ!まさか他のやつも耐久値がヤヴァイことになってるのん!?」

 

これはいかん!!早くリズベットに見てもらわねば!!

 

慌てた俺は急いでリズベットの店へ向けて走り出した

 

 

 

======================

 

 

 

「ん〜………微妙ねー」

 

「そうか?結構いい出来だと思うけど」

 

俺は剣を振りながら答える

 

迷宮区をある程度マッピングし、アークソフィアへ戻ってきた俺は、アスナ達と別れリズの店に来ていた。今使ってる剣のメンテが終わり、今はリズの熟練度上げを手伝っている。アスナもさっきまでここにいたが、剣のメンテが終わった後に用事があると言って別れた

 

と言うか、リズが作った武器を俺が振って出来を確かめるということだ

 

俺としては少し軽いが、使うには申し分ない出来だと思うんだけどな…………どうやらうちの鍛治士は納得がいってないみたいだ

 

「少し休憩を入れないか?」

 

さっきからぶっ通しで続けているから休憩をした方がいいだろうと思いそう提案する

 

「あ、ごめんごめん付き合わせて。キリトも攻略で疲れてるもんね」

 

いや、まあそれは大丈夫なんだけど

 

「しかしあんたも大変ね。シリカだけを連れて行くんならまだしも、シンまで一緒だと大変だったでしょ」

 

リズと工房を出て店の方まで出てきて、椅子に座り談笑する。するとリズが俺を労うようにそう言った

 

「案外そうでもないぞ。結構連携もとりやすいし、何より狙ってるのかは知らないが援護が的確な時もある。まあ、それと同じくらいミスをする時もあるけど………」

 

「結局プラスなのかマイナスなのかわからないわけね」

 

「いや、プラスだな」

 

「ふーん……」

 

なんか怪しそうに俺を見てるが、実際本当のことなんだよな

 

まあでも、ホロウエリアで《サンクチュアリ》と戦った時はな………次からはあんなミスはしないでほしい

 

「ま、それなら安心したわ」

 

そう言ってリズはニッコリと笑った

 

それから少しの間二人で話をしていた。主に武器の話だったりするが……………そうこうして、そろそろ再開しようかと思ったところ

 

バタン!

 

「リズベットォォォォォオオオ!!!」

 

「うわっ!?」

 

いきなりドアが開け放たれ、大きな声が響いた

 

リズは驚愕の声を上げ、俺は思わず肩を跳ねさせた

 

「リィズベットォォォォォォォォォォ!!!」

 

入ってきた声の主はリズの名を叫んだ

 

腰を落とし、拳を握り、まるで仇を前にしたかのように叫ぶそいつを俺は………いや、俺達は知っている

 

「ルィッズべットォォォォォ!!」

 

シンだった

 

「うるっさい!!」

 

「げぶっ!?」

 

シンの絶叫の中、リズはハンマーを持ってシンに投げ付けた

 

そのハンマーは綺麗な円を描きながらシンの頰に突き刺さる。いや、正確にはコードに阻まれるのだが………結構スピード出てたし、あれはトラウマものだな。現に後ろに大きく仰け反って、今床へと転げる途中だ

 

「な、なにすんだ!この店はお客様にハンマー投げ付けんのか!?」

 

頰を抑えてなよなよしい座り方をしながらこちらへ向かって怒鳴るシン

 

いや、自業自得だと思うんだけどな………

 

「工房まで勝手に入って来て叫び散らす奴を客とは言わないわよ!」

 

「俺がいつ叫び散らしたって!?」

 

自分がしたことを理解していないのかっ!?

 

「ったくよ〜………剣のメンテに来たらいきなりハンマークラッシュくらうなんて。アスナに言いつけてやるからな!怒られちまえリズベットのバーカ!」

 

自業自得と言うことで片付けられるのが目に見えてるぞ

 

「バカはあんたでしょ!」

 

「はぁ!?バカって言った方がバカなんですー!バーカバーカ!……………はっ、言っちゃった!」

 

「ほーら、バカじゃない」

 

「にゃにおう?」

 

目の前で子供みたいな喧嘩が繰り広げられている。もしかしたらリズ、シンに感化されてるのか………?なんだかシンと相違ないように思えるぞ

 

…………このままじゃ埒があかないな

 

「それで?シン、どうしたんだ?」

 

お互いにバカと言い争っている二人を止める為に俺は口を挟んだ。シンがここに来たのには何か理由があるはずだ。まあ、鍛冶屋という時点で何をしに来たのかは大体わかっていた。恐らく強化かメンテナンスにでも来たんだろう

 

「ん?………おう、剣のメンテに来たのよ。ついさっき剣振ってたらさ、耐久値無くなったみたいで壊れちまったんだ」

 

「はぁ!?」

 

リズの大声が響く

 

やはりと言うべきか、シンの目的は剣のメンテナンスだったようだ。こまめにやっておかないと、レアドロップの武器とかを使ってた場合、壊れたらショックどころじゃないからな。物によっては二、三日は塞ぎ込んでしまうかもしれない

 

しかし、壊れたって………どうしてもっと早くに来なかったんだ

 

「あんた!なんでもっと早く来ないのよ!!戦闘中に壊れたらどうするわけ!?」

 

リズは顔を真っ赤にしてシンを怒鳴る

 

リズの言う通りだ。今回は圏内での出来事だったから良いとしても、圏外で……しかも戦闘中に同じようなことが起こった場合、咄嗟のことに反応出来ずにやられてしまう。反応出来ればそれで良いんだが………それでも危険過ぎるんだ

 

まさかシンの奴、中層に居た頃もこんな風だったんじゃないだろうな

 

「お、おぅふ。そんなに怒らなくても良いではござらんか、次からは気を付けるからさ」

 

「全く反省の色が見られないわね…………ほら、早く出しなさい。ちゃっちゃと済ますから」

 

「いや、そこは丁寧にやってもらえると「何か言った!?」何でもございません………」

 

そりゃあそうなる………

 

シンがガックシと肩を落としながらストレージから剣とチャクラムを取り出してリズに差し出す。リズはすぐさまそれらを引っ手繰って胸へ抱えた

 

「全く……武器が可哀想だと思わないわけ?しかも一本台無しにしたとか言ってたわよね………」

 

「い、いや違うんだよ?俺だって忘れてたわけじゃないし、また今度でいいかなとか思ってただけでしてね?ほら、よくあんじゃん。まだ行けると思ってたけど案外キツくて、んで失敗しちゃったりとか。そんな感じだよねぇわかる?リズベットさん」

 

彼氏が彼女に言い訳をするように早口でまくし立てている。汗を掻きながら手をシュパパパと動かして言う様はなんとも情けない

 

「それに壊れたのはスモールソードだったからさ。うん、モーマンタイモーマンタイ!」

 

「開き直ってんじゃないわよ」

 

シンの言い訳も終わりリズが工房に向かった

 

「リズが怒るのも無理はないぞ。シンはまだ出会って日が浅いから知らないかもしれないけど、リズの武器に対しての思いは俺が知ってる鍛治士の中で一番だと俺は思ってる」

 

…………まあ、リズが専門鍛治士(スミス)になる前は殆どNPCだったんだけど

 

「…………悪かったよ。これからは一日に一回は来るよ」

 

「いや、そんなに頻繁には来なくても良いけど」

 

まあ、反省してるようだしいいか

 

……………ん?もしかしてシンの奴、ここに来る前もこんな調子だったんじゃないだろうな

 

「なあ、シン」

 

中層にいたって言っていたし…………いや、正しくは中層に上がったばかりなんだったっけ?そうだとしても、一昔前の俺みたいにソロだったって言うのは考えにくいよな。シンの性格上、一人ぼっちだったって言うのも考えにくい

 

「ん?なに」

 

だから、今まで注意してくれなかった人がいないとも思えない

 

「シンは、ここに来る前はどんなことをしてたんだ?」

 

更に親睦を深めるって言う意味でも、聞いておいてもいいかもしれないな

 

話す際何もないのもアレだろう、俺はそう思いストレージから飲み物と野宿用のコップを二つ取り出して中身を注ぐ。そしてシンに目の前に座れとと言わんばかりにコップを差し出した

 

「………………えっ」

 

…………おいおい、そんな顔はないだろ

 

俺はシンの引きつった顔に苦笑いを浮かべた

 




頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ俺!

出来るよ出来るよ出来るよ出来るよ俺!

だから模試なんて忘れよう俺!


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聞こえる




一体どれ程の時間を費やしているのだろう

一体どこに行けばいいのだろう

この森を何度も何度も行き来して、何度も何度も建物の中を行き来して

捜し続けた。いや、今でも捜し続けている

彼なのか、彼女なのか、物なのか、それとも形の無い何かなのか

わからない…………思い出せない

だけど、ずっと捜し続けている。求め続けている

きっと一目見ればわかる。きっと気付く



俺の大切な…………







「……………えっ」

 

自分でも顔が引きつったのがわかった。目の前のキリトを見てみれば俺の顔を見たのか苦笑いをしている

 

「あー………あぁ、はいはい。私めの今までのストーリーですか」

 

頭に手を置きながらゆっくりと、キリトに誘われるがままに椅子に座り飲み物に早速口を付ける。うむ、うまい。こんなん常に持ち歩いてんのかこいつ、マジうらやま

 

「えーっと………どこから話せば良いかなぁ」

 

うーん………いや、てかはっきり言っちゃうとさ?

 

 

 

 

マジやべっす

 

 

 

 

 

 

だ、だっておま!今まで何してたの?とか聞かれて、SAOのゲームしてたらここに来ちゃった、てへぺろ!とか言ったらお前何言ってんの?とか言われちゃうよ!いや、それだけじゃねえ。もう何が何だかワケガワカラナイヨ状態になっちゃってこの先真っ暗闇しか続かなくなっちまう!!

 

それは俺としてもよくなさ過ぎるのだよ

 

つまりだ

 

「………………」

 

どれだけ俺がキリトをうまく誤魔すかに掛かっている………!

 

「そ、そんなことよりさぁ?リズベットは沢山武器を作ってるな!お、あれカッコ良くね?」

 

作戦1!取り敢えず違うとこへ逸らそう

 

壁に掛け立ててある武器をそれぞれ指差すとキリトもそれに合わせて顔を向ける

 

よしよし、良い感じだぞ。…………いやー、マジで沢山あるな。アンリミテッドにブレイドワークスって感じ。宝物庫でもいいや。とにかく空中に出してドヒューン!ってやりたくなってくるね

 

「あぁ、リズも毎日頑張ってるみたいだからな」

 

へぇー、毎日武器作ってんのか。飽きないのか?………いや、好きなことなんだから普通飽きないか

 

「……………」

 

「……………」

 

…………え、終わり?

 

え、ちょっと待って終わり?他になんかないの?ほら、あるでしょ。この武器はどんな素材使ってるんだぜ、とかドヤ顔で説明してくださいよぉ!

 

「………あ、あぁそうだ!おいしいお菓子を売ってるお店があるんすよ。そこで買ったクッキー食べる?おいしいよ?あ、飴ちゃんあげようか、持ってないけど」

 

「持ってないのかよ……」

 

大阪のおばちゃんみたいな真似してみたけど呆れられた不思議。てか、ホントに大阪のおばちゃんって飴ちゃんくれんのかな?ホントだったら優しいよね。一度もらってみたい

 

てか、どうしよう。これで上手くいくと思ってただけに作戦2を考えていなかった。捏造でもするか?くそ、下手したら面倒なルート直行しちまうぞ………

 

「シン」

 

どうしよう、どうしようどうしようどうしよう………。下手な嘘吐きたくねぇし、かと言って嘘吐かなきゃいけねぇ状態だし

 

このまま無理矢理お流しにでも出来たら良いんだが、それじゃあただの後回しになっちゃうから根本的な解決にはなってない。逃げ出しても同じ、それにリズベットに武器を渡してるから逃げようにも逃げれない

 

「なぁ、シン」

 

「ふぇい!」

 

たす!………いや、違くて

 

「なんだよ、驚かすなよキリト」

 

「いや、さっきから話しかけてたんだけど」

 

マジかよ。やべ、ちょっと集中しすぎたかもしんない

 

顔を上げてみれば少し困ったような顔をしているキリト。そんな顔されても俺が困るんだが、てか現在進行形でお前の質問に困らされてるんだが?そこんとこどう思うのよ。ねぇ、ねぇ!?

 

「別に、話したくないんなら無理に話さなくてもいいんだ」

 

「………は?」

 

はあぁぁぁぁぁぁ!?

 

なに!?何それ!!それ先に言えよふざけんなよもおおおぉぉぉぉん!!

 

今すぐにでも声を大にして叫び出したいよ!変に怪しまれないように顔はポーカーフェイス作ってるけどね!?でも良かったぁ、心底安心したわ。変なこと言いそうにならなくて良かったよマジキリトサンクス

 

…………いや、今思えばキリトのせいだからお礼言う必要無くね。ざっけんなキリト、ブーブー!

 

「なんだよぉ、人悩ませておいてそれかよぉ」

 

内心地団駄踏みながらキリトへの不満を隠そうともせず………あ、ポーカーフェイス出来てないじゃん

 

「ごめんごめん。少しシンのことが気になったんだ」

 

言い方、言い方。勘違いされるよそれ

 

「でも、話したくないならしょうがないよな。誰にだって、話したくないことはあるだろうし」

 

そう言ってコップの中の飲み物を口にするキリトの顔に影が差したように見えた

 

「あ〜……えっと」

 

なんだか勘違いされているような気がしてならないのは気のせいでもなんでもないだろう。何故か気不味い雰囲気になってしまったので俺は顔を逸らして人差し指をちょんちょんと打ち合わせる

 

うむ、なんかややこしいことになったぞ?

 

「キリト?何か勘違いしt「前々から思ってたんだ」

 

話を聞いてくれ!?

 

「シンは、俺達に何か隠してるんじゃないか?って」

 

瞬間、体の奥から冷え上がるような感覚に襲われた

 

「…………」

 

おいおい、マジかよ………嘘だろ?

 

いや!待て落ち着け。まだキリトの言ってることが確証を突いているわけじゃない。隠してることと言っても、また別のことなのかもしれない。ましてや、わかるはずがないんだ。理解が出来るはずがない、俺がイレギュラーだということを

 

理解出来るとしたら、この世界を創ったあいつならばあるいは………いや、非科学的なことだ。あいつでさえ、俺がイレギュラーだとわかっても異世界から落ちてきたなんてわかるはずがない

 

つまりキリトが言っている隠しごとに関して、キリトは内容にあてがあるわけじゃないってことだ。OK、落ち着け落ち着け、クールになるんだ。まだ大丈夫だ

 

しかし、勘がいい奴だとは知ってたけどそれが戦闘やロールプレイング以外で発揮されるなんて、とことん主人公してるぜキリトさんよぉ

 

「隠しごとしてたら、駄目か?」

 

少なからずバレてるなら、誤魔化す必要もないだろう。そう思い椅子の背もたれに右腕が乗るように体を傾ける

 

内容を話すつもりはない。だけど答える気もない。その意を伝える為にちょっとそれっぽい態度をとってみた。あ、なんかホントそれっぽいな………こういう系のキャラ、もしかして俺向いてる?

 

「駄目じゃないさ」

 

「あ、そうすか」

 

キリトの声を聞いてホッと安堵の息を漏らす。ここで駄目とか言われたらどうしようかと思ったし、お前言ってること矛盾してね?ってなっちゃうからね

 

…………そうだ。参考までに何故気付いたのかを聞いとかないと。これ以上面倒なことを増やさない為にはね、あくまで参考までにだけど

 

「でも、なんでそう思ったんだ?俺ってばそんなにわかりやすいかね」

 

「どちらかと言えばわかりやすいな」

 

即答……即答しおったこいつ……!!ま、まあいい

 

「挙げれば幾つかあるんだけど、それじゃあ取り敢えず二つだけ」

 

ちょっと待って、幾つかあるって………二つ以上あるって、マジで!?嘘、どこだろ………

 

「まず一つ目は、皆でクラインがドロップさせたS級食材を食べた時だ」

 

…………あぁ、《フライングバッファロー A5肉》だったか?あれはうまかったなぁ。もう一回食べたい。クラインもう一回ドロップして来ないかな?あ、でもそうしたらあいつ、運使い切って生涯独り身になっちゃうから駄目だな。エギル辺りが落としてこないかな

 

「あの時、アスナが作ったシチューを食べてシンは泣いてたよな?」

 

「いやー、あれはあのシチューが超うまかったからだろ」

 

正直俺も理由がわかってない。確かにあのシチューは今まで食べたことがないくらいうまかったけど、涙が出たのはホントわかんない。辛かったわけでもないし、苦かったわけでもないし

 

「まあ、可能性としてそれはあるんだろうけど………」

 

お互いに苦笑いしか出来なかった

 

「まだこの時はそうかもしれないと思ってた。それで二つ目になるんだけど」

 

「おっと、来たか」

 

若干身構える。一体何が来るのやら………

 

「それが今日のことなんだ」

 

「今日!?」

 

マジすか!今日っすか!?

 

えっと、今日何かヘマしたことは…………迷宮区での時か?おいおい、ヘマなんて普段からやらかしてるから心当たりありすぎるぜよ。どうすればいいでごわすか

 

「シンは今日、武器が壊れたから他の武器もそうならないようにメンテナンスに来たんだよな?」

 

「ん…….うん、まあそうだな」

 

「武器の消耗を忘れるってことはよくあるんだけど、流石に壊れる前には気付くんだ。それをやってしまうのは………言ってしまえば、初心者」

 

「…………」

 

雲行きが、怪しくなってきた

 

「シンのことをバカにしてるんじゃないんだ。だけど、中層にいたって言うシンは、どう考えても初心者じゃないだろ?この二年間、ずっとじゃないにしてもこの世界にいたのなら、始まりの街に籠ってもいない限りは………」

 

あぁ、これはやばい

 

思わず、右手を額に置いてしまう。この態度じゃあ明らかに、はい貴方の言っている通りですと言ってるようなもんだが、そうせざるを得ない程だということだ

 

あぁ、これは本当にやばい

 

さっきの俺の解釈は、それこそ勘違いだったのかもしれない

 

「その、滅多に犯さない間違いが俺に違和感を覚えさせたんだ。武器のメンテナンスを怠った場合、もしかしたら圏外で壊れてしまうかもしれない。そうなると、命に関わるからな。死にたがりじゃない限りは、そんなミスまず犯さない」

 

「…………他に武器を持ってたら」

 

「シンの戦闘スタイルは珍しい。大抵まずは遠距離からの片手剣を投げる攻撃、もしくは片手剣である程度攻撃してから、距離を取って投擲。その後にもう一つの剣を取り出して、同じことを繰り返す。合計三本の剣を持っているシンは、剣の在庫が無くなった後はチャクラムを使っての攻撃へ移る。一回の戦闘に、殆ど必ずと言っていいほど持てる武器全てを使っている」

 

さすがキリト、よく見ている。そこまで言い当てられると若干気持ち悪い気がするが………あちゃあ、こりゃどうすりゃあいいんだ?見事に弾丸論破されてしまっているこの現状。恐らくキリトが感じている違和感を突き詰めて行けば、自ずと俺が何者なのかという所まで行ってしまうだろう。それは出来るだけ阻止したいんだよなぁ

 

でも、どうすれば…………

 

「シン、本当に話したくなければ話さなくていいんだ。ただ、違和感を拭いたくて………」

 

ここまで論破しておきながらよく言う

 

「ただ、仲間なんだからさ。仲間を疑い続けるってのも気持ち悪いし、何より」

 

 

 

 

 

「『信じたいから』」

 

 

 

 

 

 

 

 

まただ。また聞こえた

 

キリトの声に、重なるように聞こえた誰かの声

 

同じ言葉なのに何故か、込められている意味が違うような………そんな感じの声が重なって

 

「………っ……」

 

「………シン?」

 

俺の心を掻き毟る

 

気付けば俺は、奥歯を噛み締めていた

 

『@?,あとujzvh『た』』『62の1Gmtん『…xl$…☆♪1・だ〒々#2〆$』!!??ぜ!?』

 

色んな声が一気に、一斉に駆け巡った

 

何を言ってるのか理解出来ないし、変なノイズも混じって全く理解出来ない。頭の処理が追いつかず、一気に頭に熱がこもる。処理がしきれない

 

『嘘つき………!』

 

『ごめんね。もう………会えないみたい』

 

『明日も生きて、ここで会おうぜ』

 

『また俺は独り………か』

 

「………っ!!」

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

ガタンッ!!

 

大きな椅子の倒れる音に、一瞬だが体を強張らせる

 

その発生源は目の前で机に手を突いて、顔を俯けているシンだった

 

「………だ」

 

何かを呟いた。小さい声だったからよく聞こえなかったんだが………何て言ったんだ?

 

「誰なんだよ、お前ら………ちくしょう………!」

 

シンは今にも泣きそうな顔でそう呟いた。右手で頭を押さえて言うその姿は、少し目を離すと消えてしまいそうな程に弱く見える

 

「くそがっ」

 

「おい、シン!」

 

ふらふらと、机に体をぶつけたり武器を落としそうになったりしながら外へ向かうシン。急いで立ち上がり体を支える

 

「大丈夫か?」

 

「…………わり、ちょっと出てくるわ。武器は後で取りくるって、言っといて」

 

「あ………わかった」

 

目も合わせず、俺の支える手を優しく払うと店の外へ歩いて行ってしまった

 

「…………」

 

やっぱりだ

 

やっぱりシンは、何か俺達には言えないような過去を持っている

 

最初は確かな確証はなかった。シンはなんと言うか、その…………少し俺の知るような普通の人間とは違う行動をする時があるから、もし間違っていた場合凄く遣る瀬無い気持ちになるので出来るだけ心の内に止めるだけにしておいた

 

しかし何事も聞いてみるもので、シンの反応を見る限りは間違いないだろう

 

……………それに、気になることも増えた

 

『誰なんだよ、お前ら…………』

 

シンの発したあの言葉、一体誰のことを言っているのだろうか。いや、シンもわかってすらいないのだから、一体誰のことを………じゃなく、何のことを言っているのか、ということになるのか

 

外からの声であるわけがない。シンの様子が変わったのはあれが原因だということが推測出来るが………一体、何が聞こえていたんだ?もしくは、何かが見えていたのか

 

もしシンの過去と関係があるのなら、精神状態と何かがキーワードとなってるのか?そうだとするなら、シンが俺達に隠している過去は、相当の…………

 

「お待たせー!きちんと整備しといたわよ!今度からはきちんと…………って、あれ?」

 

店の入り口を眺めながら考えていると、武器のメンテが終わったらしくリズが戻ってきた。俺一人だけなのを見て首を傾げている

 

少し、考えを中断させよう。これはきっと、俺一人の力で解決出来るようなことじゃない気がする。少なくとも本人から話す気になってくれないとどうしようもないだろう

 

「キリト、あいつどこいったのよ?」

 

「あぁ、少し出掛けてくるって言ってた。後で取りに来るらしいよ」

 

「はぁ?………まぁ、いっか」

 

腰に手を当ててはぁ、と息を吐くリズが店の入り口へ目を向けるのと一緒に、俺も視線をそちらへ動かす

 

人のことを言えたもんじゃない。だけど、どうか俺達に頼ってほしい

 

……………お前は見てて不安すぎるんだよ、シン

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

 

「あー、くっそ………最悪」

 

リズベットの店の裏手で壁に背を付け座り込む。まだ頭が痛む。勉強とか長時間集中してやった後みたいな、頭を働かせすぎて知恵熱でも起こしたかのような、そんな感じ

 

ストレージからクッキーの入った袋を取り出してガサガサを中を漁り、数枚を口の中に放り込む。本物のクッキーとは若干違うが、サクサクした食感と口に広がる甘さはよく似ている

 

「一体誰なんだ、お前らは……」

 

まだはっきりと思い出せる、最後の声

『また俺は独り………か』

 

その、俺によく似た声(・・・・・・・)は今でも俺の頭の中で回っていた

 

 

 




お久しぶり


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番外編 クリスマスに予定のない俺 前編

まずはお久しぶりです

感想返しきれてなくてごめんなさい。まあ、お気付きかもしれないけど、次話投稿時に返信してるから、期間が空くとどうしても感想を返すことができないんです言い訳ですスミマセン

それで、感想の方にですね。当分終わりそうにないなら、ALOでの主人公での種族が決まり次第ロストソングの方を番外編でやったら?という提案があったので、本編というわけにはいきませんが、小話みたいなのを偶に入れていこうかなと。提案してくださりありがとうございます

今回はクリスマスで丁度良かったんで、どうせなら投稿しようかなと、短いですが

それに関して、急ですが主人公の種族決めを明日行いたいと思います

つまり、今活動報告で募集しているのは明日までが期日とします。詳しく言うと明日の15時までにします

これを読んでくださってる人はドシドシ投票してください。何の種族でも良いですからね

それでは、今回は前編となりますがどうぞ

あ、今回の話をは時系列としてはロストソングのストーリー後ですかね


今日は12月24日………そう、言わずと知れたクリスマスイブ

 

イブだかイヴだかどっちか知らんがとにかくクリスマスイブである

 

俺はその日の昼に、炬燵に足を突っ込んで机の上に置かれた、三角の形をしたカレンダーを手に取って眺める

 

「…………明日の予定が、ない!?」

 

そう、何を隠そう俺はクリスマス当日の予定がスッカラカンなのである!!

 

誰に言うまでもなく俺の中でデデーン!と言う音が鳴り響く。俺はカレンダーを取り落として炬燵机に顔を打ち付けた

 

「な、なんでだ……!世の中もクリスマス一色、ALOなんかクリスマスイベントまでやってるってのに、イブは愚かクリスマス当日にまで予定が入っていないだと………!?これは一体どういうことだ!」

 

だってあれだよ!?クリスマスと言ったら普通は皆で集まってクリスマスパーティとかやるもんじゃないの!?なんだよ皆用事入ってるからってさ!

 

しかもその用事がさ!

 

アスナとかキリトはクリスマスデートでしょ!?ユイちゃんは言わずもがな二人に着いて行ってるし!家族デートだね、楽しんでね!!

シリカとピナはテイマー仲間でパーティするらしいし!

リズベットはクリスマスのくせにクリスマスイベント張り切って武器作りまくってるらしいじゃん!?フィリアも同じくクリスマスダンジョンにトレジャーに行きましたよ!それにストレア着いてっちゃったよ!

リーファはエルフの領主となんかあるみたい、キリトがいないから他に予定組んだんだね

シノンはなんか今年は実家に帰るとか言ったから………実家で楽しく過ごしてんるんだろうな

クラインは仕事、エギルも仕事、レコン?男と二人で何が楽しいんですか?

アルゴの姉貴は来るわけねぇし、セブンとか予定わかんねぇし………あれ、てかまだフレンド登録してなくね!?レインも同じく!スメラギ君?え、ごめんワカンナイ

 

「なんで皆して予定あんだよコンチキショー……」

 

何これ、俺が暇人みたいじゃね?俺フリーマンじゃね?あ、なんかカッコいい

 

くっ………仕方ないのか。こんなことならフィリア達に着いて行けばよかった。「トレジャー?メンドイからパス」とか言わなければよかった

 

「はぁ……」

 

あ〜、炬燵あったかいわぁ

 

あれ、そう言えばあいつどこ行ったんだろ。我が従妹(いもうと)は何処へ………まあいいや、お湯湧いたみたいだしカップラーメン食おう

 

どっこいセルデューク、なんて掛け声を出しながら炬燵から出てカップラーメンの用意に取り掛かる。昼飯はこれでいいや、作るの面倒ですたい。ポッドのボタンを押すとカップラーメンの器の中にトポポポとお湯が満たされる。線まで満たすと半分まで開けた蓋を閉じ、その上に箸と後入れスープの袋を乗せて炬燵へダッシュ。素早く炬燵に入り、手元にあったスマホで時間を確認した

 

「3分………暇だな」

 

カップラーメンが出来上がるまでの3分間、腹が減ってる時はこの待ち時間がとても長く感じる俺である

 

そうだ、折角クリスマスなんだからやっぱり歌っておかなくては

 

「ジングルジングルジングルジングルクリスーマスー、Hey!今日は〜、楽すぃ〜、クリスマス!Hey!」

 

あ、楽しくなってきた

 

「クリスマース!クリスマース!ビバ、クリスマス!Yeah!!」

 

「うるさいよ!?」

 

おうっ!?

 

「な、なんだいたのかよ」

 

ちょっと恥ずかしいじゃないか。いるんならいるって言ってくれればいいのに我が従妹よ

 

「部屋で準備してたらデッカい声で歌い出したからこっちがビックリだよ!?」

 

「あぁうん、すまそすまそ」

 

………ん?準備?

 

よくよく従妹を見てみると、確かに大荷物………って程じゃないが、リュックサックを肩に背負っている従妹

 

「どっか行くの?アニメイト?」

 

「ちげーよ」

 

即答されたよ。ちげーよ、だなんて………全く口の悪い子だわ!一体誰に似たのかしら!!

 

俺が従妹の返答に内心憤慨していると、俺が見ぬ間に立派とは言えないが人並みの成長をしていた胸を張り、ドヤ顔を作りながら我が従妹は口を開いた

 

「ふっふーん。予定のない信ちゃんと違って、ワテクシは今日明日と友達の家でパーリーざますわよ!!」

 

「なん……だと……!?」

 

口元に手を当ててオホホホとクッソ似合わない笑い声をあげる我が従妹

 

そんな従妹が………予定が、ある!?従兄である俺にはないのに!?この従妹に!?

 

「じょ、冗談はよせマイシスター、お前も俺と同じだろ?予定も何もないフリーマン………いや、フリーウーマンもとい暇人なんだろ!?そうだと言ってくれフリーウーマン!!」

 

「誰がフリーウーマンか。はっ、クリスマスに予定のない暇人なんて今時信ちゃんぐらいだぜマイブラザー!フリーマンはフリーマンらしく、クリスマスパーティしてるアニメでも見ながら一人でケーキ食ってな!」

 

「誰がフリーマンか」

 

くっ、そんな馬鹿な!?マジでこいつ予定が入ってるのか!?

 

「さらばだブラザー!私は友達と素晴らしく楽しいクリスマスを過ごしてくるぜッ。アデュー!」

 

そう言って俺にガッチャを決めた従妹は意気揚々と家を出て行ってしまった

 

「そ、そんな……」

 

その場に膝を着き、崩れ落ちる

 

ま、まさか従妹の奴が予定を入れるなんて………くそっ!俺だって、俺だって本当なら予定があったはずなんだ!キリトやアスナやユイちゃんとか、皆と集まってクリスマスパーティやるんじゃないかなぁって期待してたんだ!なのになんだこの仕打ちは!?メインキャラ達とクリスマス過ごせるかなって淡い期待を心に秘めていたあの頃の俺を返せ!!

 

フローリングを静かに涙で濡らすことしか出来ない俺は、なんて無力なんだろうか……!

 

 

ブー!ブー!

 

 

そんな時、机の上のスマホが唐突に振動を始めた

 

電話だ

 

宛名はシノンからだった

 

「おっ!?おっ……おぉ!?」

 

思わず変な声が出てしまった。俺は直ぐさまスマホに飛び掛かり、応答する

 

「も、もしもしシノン?」

 

恐る恐るシノンの名を呼んだ

 

な、なんだろ………おぉ、お誘いかな!?二人でどっか行かない、とか!?そんなん来ちゃう!?俺の春来ちゃう!?今冬だけど!クリスマスだけど!

 

『………あ、ごめん間違えた』

 

「」

 

体が固まった

 

『えっと、ごめん。それじゃ』

 

「」

 

声が出なかった

 

電話の切れる音と共に手元からスマホがポロリと落ち、床に虚しく転がった

 

 

 

神様、あんたはつくづく俺のことが嫌いらしいなぁ……!

 

 

 

「ふ、ふへ………ふはは」

 

よし、取り敢えず邪神ぶっ潰しに行こう

 

あれ神様だよね?だって神って付いてるもんね?しかも邪って付いてるから倒しちゃってもいいんでしょ?コロコロしちゃってもいいんでしょ?

 

そうと決まれば殴り込みじゃオラァ!!

 

「邪神狩りじゃぁぁぁ!!」

 

俺は自室のベッドに急行し、ベッド横の台に置いてあるアミュスフィアを頭に被る

 

「リンクスタート!!」

 

こうして俺の邪神へ挑む戦いが始まった

 

 

 

 




明日で書ききれるかなぁ………


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番外編 クリスマスに予定のない俺 後編

タグ追加しときまーす

あと、これ読んだ人は「ん?」ってなる部分があるかもしれない。その場合タグでさっしてください


空都《ライン》、昨年このALOに実装された浮遊大陸エリア《スヴァルト・アールヴヘイム》内にある街だ

 

前回のログアウトはここの宿屋からしたので、当然の如く宿屋のベッドから跳ね起きる。ストレージを操作していつもの装備を着込んだ

 

「………あぁ、そう言えば」

 

今日はクリスマスイブである。そして邪神の命日(予定)である

 

皆でクリスマスパーティするんだろうなぁ、とか思ってた俺は、皆に内緒でアシュレイにクリスマス衣装を作って貰っていた。俺専用のサンタコス、ミニスカではない

 

流石アシュレイ、SAO生還者(サバイバー)にしてSAOでいち早く裁縫スキルをMaxにしただけあって仕事が早かった。知り合い方は少しアレだったが今では良き友人ってやつだな

 

まあ折角作ってもらったんだ。着るか

 

「メリークリスマス、邪神狩りのサンタの誕生ってね」

 

再度ストレージを操作してサンタコスに着替える

 

この宿に設置されている姿見を見ると、闇妖精族(インプ)の特徴である、影部分が紫がかった乳白色をした肌の、サンタの格好をした俺がいた

 

いつもの白いマフラーはそのままに、全体的にまんまサンタになってしまった俺。頭にはサンタ帽子が乗っかっているだけだが、まあクリスマスなのでこんなもんだろ。あ、顔に白い髭付けるの忘れないようにしなきゃ!

左肩の部分にはアシュレイの店のロゴマーク。これを見ただけで大抵はアシュレイ産だとわかる程今じゃALO内で有名である。すごいね、皆に注目されちゃうね。完全にネタ装備なのにね

 

更に装備はなんと、クリスマスイベント期間限定で武器屋に並ぶサンタの袋だ。カテゴリーではハンマーに分類される武器なのよね、これ。サンタの袋で戦うとか完全にネタですありがとうございました

 

この袋の中に物入るからね。容量が一杯になるまで詰められるんだ。殴ったら中の物まで耐久値減るらしいけど。誰得?

 

取り敢えずインプ領付近の高山地帯で採ってきたインゴットを詰めてる。リズベットに怒られそうだけどバレなきゃ大丈夫だよね

 

「んじゃあ、まずは仲間(道連れ)探すか」

 

誰に言うまでもなく心の中で言い訳をした俺は邪神討伐の為のメンバー集めに繰り出した

 

外はリアルでの街と同じようにクリスマスな雰囲気一色!男と女の二人組が歩いてるよ!?ゲーム内にもいるんだね!

 

「さって、誰か良さそうな奴いないかな」

 

近くを通りがかった男女の二人組の間を走り抜けながら辺りを見渡す。工事用ヘルメットを被った人がいたので「こんちは!」と挨拶したら普通に返された

 

しかし、全くもって良さそうな奴がいない。『シャムロック』のメンバーもいなければ『風林火山』の奴らも見当たらないぞ。どうしたもんか

 

俺だって一人で邪神に挑む程馬鹿じゃない。というか、ALOにデータを引き継いでから俺の戦闘スタイルが変な方向へ進化を遂げてしまったので、複数人の方がやりやすいのだ。とこの前皆に話したら、皆が声を揃えてさ、『お前は一人の戦闘の方が合ってる』って言うんだ。ひどいこと極まりない

 

サンタコスだから視線は集まるのになぁ………メンバーは集まらないって、どゆことよ

 

 

 

「おい、あれサンタじゃね?」

 

「見ろよ、肩にアシュレイのマーク付いてるぜ」

 

「ウワァ、高かったんだろうなぁ…………馬鹿だな」

 

「あぁ、馬鹿だな。…………なんだ?なんか袋から取り出し……投げたっ!?」

 

「おわぁ!?」

 

 

 

なんか煩い奴らがいたのでインゴットをクリスマスプレゼントしてあげた。喜んでくれて何よりです(良い笑顔)

 

もうなんか、そこら辺の適当な人誘おうかな。ほら、こういう時ってやっぱりさ、一歩踏み出す勇気?ってのが大切なんだよ。友達作る時と同じ。勇気を出して一緒にクエスト行きませんか?とか言ったら皆OKしてくれるよ

 

「そうは思わないかねレコン君」

 

「ワァッ!?………え、誰ですか!?」

 

勇気を出して話しかけた。て言うか見覚えのあるシルフを見つけちゃったので、そいつの後ろまで歩いて肩に手を置いた

 

「その声……シンさんですか?」

 

「ちょっとそこのダンジョンの邪神狩り行こうぜ、邪神」

 

「そんなコンビニ行こうぜ、みたいなノリで言わないでくださいよ!?」

 

んなことどうでもいいから、一狩り行こうぜ

 

「て言うか、そこのダンジョンって………はぁ!?クリスマスダンジョンの邪神ですか!?」

 

「ん?」

 

え、何それ初耳。クリスマスダンジョンって邪神出るの?

 

「何それ、詳しく教えたまへ」

 

「知らないんですか?クリスマスダンジョンでとあるルートを進むと、クリスマスダンジョン限定の邪神がいるらしいんです。僕は見たことありませんけど…………」

 

ほうほう、なんでまた邪神なんか設置したのやら

 

まあいいや。とにかく邪神なんだろ?そいつ邪神なんですよね?だったら行くしかないわー、もうぶっ潰すしかないわー

 

「んじゃ、行くか!」

 

「行きませんよ!?」

 

よっしゃ一人目ゲッチュ〜。さぁって、次は誰を仲間(道連れ)にしようかな!

 

ぶっちゃけ邪神とか少人数で勝てるだなんて思ってないんですよね。だからこその道連れっていうか、ほら、一蓮托生?袖すり合うものなんとやらとか、あんじゃん

 

俺はレコンの首元をしっかりとホールドして引き摺る。他から見たら少年を引き摺るサンタクロースという構図が出来上がっているわけだが、子供のトラウマ必須ですな。ユイちゃんには見せられないや

 

「は、離してください!」

 

「まーまー、遠慮すんなー」

 

「遠慮なんてしませんよ!?レイド単位で挑む敵ですよ!!大体、その邪神は明日、シルフとケットシーとサラマンダーが連合を組んで攻略する予定じゃないですか!リーファちゃんから聞いてないんですか!?」

 

え、マジで?リーファの奴、領主と用事があるってのはこういうことだったのか。そう言えばなんか大層なことやるとか言ってたようなそうでもないような。てか、従妹もそんな感じのこと言ってた気がする。炬燵でウトウトしてたからよく聞こえてなかったのな

 

しかし、連合が明日倒しちゃうのか………

 

「だったらその前にやるしかなくなくない?」

 

「馬鹿ですか!?いや、馬鹿だ!?」

 

「今度リーファとなんかセッティングしてあげるからさ」

 

「行きましょう!!」

 

使えるカードはどんどん切っていくスタイル

 

「んじゃ、他の道連れ探そうか」

 

「道連れ!?」

 

 

 

 

=====================

 

 

 

 

空都《ライン》、前回ログアウトしていた宿屋のベッドで目を覚ます

 

今日はアスナと二人で、クリスマスダンジョンの奥にある大きなクリスマスツリーを見に行く予定だ。ツリーのある場所にはダンジョンを抜けなくても、一番最初にダンジョンの奥まで辿り着いたプレイヤーが、奥へと続くロープウェイのスイッチを入れたので、それに乗っていけば戦闘無しでそこまで行ける

 

まあ、今年そのスイッチを入れたのは俺たちなんだが

 

明日はユイも含めた三人で、央都《アルン》を歩くつもりだ。どちらもイルミネーションで飾られ、夜に街を歩けば幻想的な光景を目にすることが出来るだろう

 

明日は、クリスマスダンジョンのボスらしき邪神モンスターの討伐が行われるらしいが............正直、非常に参加したい。参加したいんだが.........アスナとユイと約束してしまったしなぁ

レアドロップとか沢山あるんだろうなぁ...............

 

内心未練タラタラながら外に出る。時間の関係でイルミネーションはまだ光を灯していないが、所々にクリスマスツリーが見られ、クリスマスなんだなぁ、と思う

 

誰が飾り付けたんだろう。NPCが頑張ったんだろうな

 

そんなことを考えながら、アスナとの待ち合わせ場所まで向かう

 

「そこのアナタ!仲間になりませんか!」

 

そしたら不審な勧誘をしているサンタを見つけた。側には見覚えのありすぎるシルフを連れている

 

あ、あそこ、待ち合わせ場所の真ん前じゃないか

 

「ほら、サンタだよ!サンタさんの仲間になれるんだよ!」

 

いったいそれにどれほどの魅力があるのか、是非とも聞いてみたいものだ

 

というか、何をしてるんだ、シン.........!!声で丸わかりじゃないか。そもそも、そのサンタ衣装どこで.......あ、あの肩にあるマーク、確かアスナが誰かに作ってもらった服にもあったな。プレイヤーメイキングなのか

 

「シンさん、そんなんじゃ誰も............あっ」

 

シンの隣にいるシルフの少年、レコンがどうやらこちらに気づいたようだ。こっち向かないでくれ、シンが気づいてしまう

 

「どったのレコン...........あぁっ!」

 

見つかったか.........

 

「キリトじゃん!今日はアスナとデートだったんじゃないの?」

 

「ここで、アスナと待ち合わせしてるんだ」

 

顔をあわせてみれば白い髭までもしっかり付けているシンに苦笑いを浮かべながら返す

 

「ふぅん.........てことは、アスナもここに来るわけね」

 

俺の言葉に何か思いついたのか、髭を触りながらいやらしい笑みを浮かべるシン。この顔をする時は大抵悪いことを思いついた時だ。嫌な予感しかしない

 

「なあキリト、アスナの幸せな時間を奪うようで非常に申し訳ないんだけどさ」

 

前髪を弄りながら前置きをする

 

おい、それって俺の幸せはどうでもいいってことか?

 

そう反論する間もなく、シンは俺と目を合わせ、珍しく爽やかな笑顔を浮かべてこう言った

 

「俺と一緒に、クリスマス邪神を倒さない?」

 

その提案は非常に無理のあるものだったが、俺にとってとても魅力的なものだった

 

「行こう」

 

気づけば即答している自分。言ってからはっとする

 

「キリト君?」

 

そして、後ろのアスナに気づいたのもほぼ同時だった

 

「...........あー。頼む、アスナ!!」

 

この後、アスナに絶対埋め合わせするからという理由で説得をし、なんとかOKをもらった

 

 

 

=====================

 

 

 

 

「よっしゃー!役者は揃ったぜよ!!」

 

クリスマスダンジョンの真ん前、キリトとアスナをパーティに加えた俺は、あの後アスナに《スリーピング・ナイツ》のメンバーを呼んでもらった。そういえばユウキ達と遊ぶって手もあったね。皆予定入ってたし、いつの間にか勘違いしちゃってたんだな。メンバーが集まるまで俺とレコンはポーションとかの買い出しに行った

 

しかしナイツのメンバーも優しいね。面白そうってう理由で来たんだろうけど

 

俺は集まった皆の前に、向かい立つ

 

「今日は集まってくれてありがとう、暇人共!!」

 

ブーイングが巻き起こった

 

あ、あれ...........ダメだった?

 

「今日は集まってくれてありがとう。皆愛してる!!」

 

またブーイングが巻き起こった。ひどくね?

 

「レイドには全然足んないけど、邪神狩ろうぜ!」

 

またまたブーイングが巻き起こった。なに、お前ら俺のこと嫌いなの?

 

「よっしゃ行くか!」

 

『おー!!』

 

あぁよかった!!最後ブーイングじゃなかった!!

 

俺達《クリスマス邪神潰し隊》総勢13人、邪神潰しに行きます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリト!一斉に行くよ!」

 

「あぁ、行くぞ、ユウキ!」

 

俺にタゲをしたままのクリスマス邪神の右足を、二人のソードスキルが襲う。だが流石邪神、よろけることも無くタゲをキリトへ変える

 

クリスマス邪神の持つ、サンタの袋のような巨大な武器を二人へ向かって振り下ろす。その間にデッチが入り込み、タワーシールドでそれを防ぐが、地面い煙を上げながら後退る。あんな威力、キリトやユウキじゃあ一溜りもないな

 

奴のHPは3本あるうちの、残り1本半。戦闘を始めて約30分。体感時間ではもっと経っているような気がするが、時間がそう言っているのでそうなんだろう。さっきから、俺を含めたフォアードの6人が交代でダメージを与えていっている。アスナとシウネーは支援、ミドルレンジに3人、遊撃に1人、ロングレンジに1人

 

順調に削っていってるように見えて、実はポーションが残り3分の1程度なんだ。このままじゃジリ貧かもしれない

 

流れを変えるしかない

 

俺はこの世界で、恐らく最もお世話になっているだろう《クイックチェンジ》を使い、とある武器を装備した

 

「こっち向けやデカ物!!」

 

挑発スキルを発動して走り出す。邪神がこっちへ顔を向けた瞬間、俺は引き絞った矢を放った

 

両手長弓用ソードスキル《エクスプロード・アロー》

 

これがALOでのバトルスタイル。状況に応じて、幾つかの武器を使い分けるようになった

 

放った矢は邪神の顔面で爆散して、少し仰け反らせることに成功した。俺は近くにいたジュンの後ろに走る

 

「シン君!?]

 

「こっから俺が遊撃すっから、支援よろしく!」

 

仰け反りから解放された邪神は、俺に向かって拳を振りかぶった

 

「ジュン、あれ防いで!」

 

「盾かよ俺は!!」

 

まあ、防がなくてもどっちでもいいけどね!!

 

拳に向かって剣を構えるジュンの前に躍り出る。ジュンの驚いた顔を尻目に、勢いよく足を踏み出した

 

「そぉい!」

 

体術スキル《カゲロウ》

 

俺の体は邪神に確かに攻撃された。しかし、スキルの効果により、俺の体は邪神の拳に手をついて前転をする。するとあら不思議。いつの間にか邪神の拳の上にいるじゃありませんか!!

 

所謂カウンタースキルみたいなもんだ。攻撃を受けることで発動する

 

「にゃおおぉぉぉぉ!!」

 

なんか知らんが上手くいったのでテンションMAXで走り出した。まあ邪神もそれを許してくれるはずもなく、二の腕付近まで駆け上ったら大きく体を震わせて、俺を落とそうとした。ユウキとかめっちゃ切り付けてるけど、いいの?

 

ぶわっ!と体が宙を舞う。俺の名前を呼ぶ声も聞こえるが、俺なら大丈夫だ。なんか中には怒声も入ってて怖いけどね。気にせずに邪神の首の部分に矢を放つ

 

俺も一応、弓使いに分類される............はずだ。だから種族共通(コモン)スペルであるこれも、当然使える

 

「いやっほぅ!!」

 

《リトリーブ・アロー》だ。つまりシノンさんかっけぇぇぇぇぇぇ!!

 

伸縮自在のこの糸、俺が手を引き寄せると、少しだけ向こうに引き寄せられる。その勢いを使ってカッコよく着地を............

 

「あ、無理ぽ」

 

やっべ、これぶつかるわ。地面直行だわ

 

「おぉ!?」

 

「はぁ!?」

 

と思ったら進行方向にジュンがいた。そのままジュンを巻き込んでゴロゴロ転がる

 

「助かったー!ありがと、ジュン。めっちゃ㏋減ったけど」

 

「こっちのセリフだ!なにがしたかったんだよ!?」

 

いや、ちょっと立体起動をね。そんなに怒んなよ、しょうがないなぁ

 

「はい、ポーションあーん☆」

 

「いるかっ!」

 

俺もやって後悔したわ

 

「やってる場合か!!攻撃くるよ!」

 

おっふ、ノリに怒られた

 

見ればノリの言うように、振り下ろされる邪神の武器。俺はすかさず《クイックチェンジ》でラウンドシールドを取り出す。重い衝撃に吹き飛ばされそうになるが、何とか耐えた。㏋やばい

 

「シィィン!あんまり下手しちゃダメだよ!」

 

「ごめ-ん」

 

ごめんよユウキ。そしてアスナ、シウネー。謝るから回復して、お願い

 

「真面目にやってね」

 

「俺はいつでも大真面目だよ」

 

あ、ごめん剣で刺そうとしないで

 

取り敢えず頑張ろう。うん、そうしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が真面目になって更に30分、邪神の残り㏋は最後の1本。それも3割しか残っていない

 

多分、全員でソードスキルを叩き込んだら削りきれる。ポーションも在庫が無いし、やるならチャンスは一回か

 

「おおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

キリトが雄叫びを上げる。両手に持つ剣が光り輝き、邪神の右足を抉らんが如くの勢いだ。

邪神も堪らず体勢を崩した。そこへユウキと、さっきまで後方にいたアスナがいつの間にか前線へ来ていた

 

二人同時に、同じソードスキルが放たれる

 

 

《マザーズ・ロザリオ》

 

 

ユウキからアスナが受け継いだ、二人だけのオリジナルソードスキル

 

合わせて22連撃の剣撃をくらい、ついに邪神は仰向けに倒れた

 

「全員、全力で!!」

 

キリトの声に、全員が自分の持ち得る最大のソードスキルを発動した

 

様々なライトエフェクトに目をチカチカさせながらも、ソードスキルを全力ブーストで叩き込む

 

眩い光が見えなくなるころには、そこに邪神の姿はなかった

 

「はぁ........、はぁ..........」

 

全員が肩で息をしている

 

皆㏋はレッドゾーン

 

 

 

だけど、勝った

 

 

 

「いよっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺の声を皮切りに、その場の熱気が一気に上がった

 

お互いがお互いを労い、ハイタッチ、ハグをしている奴らもいる

 

「やったな、シン」

 

俺の肩を叩き、キリトが笑顔で言った

 

「あぁ!!」

 

俺も満面の笑みで返した

 

 

 

 

=====================

 

 

 

 

「いやぁ.......友情って素晴らしい」

 

皆とひとしきり騒いだ後、ログアウトした俺は一階へ下りながら呟く

 

ホント、まさか邪神を倒せるとは思わなかった。これもキリトやアスナ、ナイツの面々が協力してくれたからだな。今度精神的にお礼しとかないと

 

「なんか、頑張ったら腹減ってきたな」

 

そういえばカップラーメンを作って...........あぁ!?

 

炬燵の上に置いてある、蓋で閉ざされたカップ麺を見やる

 

「し、しくったぁ!」

 

お湯入れたまま放置しっぱなしだった!!

 

頭を抱えて崩れ落ちる。さっきの喜びもどこへやら

 

 

ブー、ブー

 

 

涙目でカップ麺をどうしようか考えていると、スマホが震えた

 

どうやらメールらしい、宛名はリーファだ

 

 

 

 

from:リーファ

 

件名:聞いたよ!

 

クリスマスダンジョンの邪神倒したんだって?

 

そのことについて明日、連合の三領主から話があるんだって

 

色々お小言言われると思うから、覚悟しといたほうがいいよ?

 

時間は追って知らせるね

 

 

 

 

「..........Oh」

 

 

やったね、よていできたよ(白目)

 

 

 

 

 




日、跨いじゃった

言い忘れてた

集計の結果、シンの種族はインプに決まりました


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狛犬と少女

あれから数十分、暫く空を見つめていた俺はふと武器のことを思い出して立ち上がる

 

声の正体がわかるわけでもない。ただ、俺の声に似ているだけだ。声の似てる人なんているさ、偶々そうだっただけ、偶然似ていただけ。そう区切りをつけた

頬をペシペシと叩き、近くにあった窓で笑い顔を作ってみる

 

皆さんこの笑顔100円ですよ!ミスタードゥーナッツ!

 

「…………よっし、調子は戻ったなー」

 

さっきのこともアインクラッドの外側へと放り投げたぜ

 

取り敢えず武器を取りに、リズベットの店へとどーもどーも言いながら入ったら軽いお説教を貰った。はい、スンマセン、反省してます。いや、ホントだよ?反省してるって、ちょ、やめてハンマーを手に握らないで

 

お金を払って武器をストレージへ。うへぇ……結構金かかるのねん

 

それからリズベットにサヨナラバイバイしてエギルの店に、俺はこいつと旅に出るぜ…………あ、やっぱチェンジで、エギルとかないわー可愛い女の子がいいわ

 

そんなことをエギルのスキンヘッドを見ながらカウンター席に座り、俺は二本指を立てて一言こう言うんだ

 

「マスター、いつものやつ……頼むぜっ」

 

「やめとけ、ギャグにしか見えん」

 

ひどくね?

 

「学校じゃ結構、似合ってる〜っ、て言われてたんだけどな」

 

「いや、それ絶対バカにされてるだろ」

 

マジでか………!?

 

「わからなかったんだな……」

 

俺の顔を見てかエギルが暖かい目でそんなことを言いやがった

 

チクショウめぇ………べ、別にわからなかったわけじゃないですし?わかった上で道化を演じてたんだよ。ホントだよ?

 

「わかってたしぃ!」

 

なんかエギルの視線が非常に嫌な上に泣きそうになったので走って部屋まで戻って不貞寝を決め込んだ

 

 

 

 

==================================

 

 

 

 

寝て起きたら朝だった。不貞寝を始めたのが夕方になるちょい前ぐらいからだから…………夜なんてなかったよ

 

エギルから飯とココアを貰って外へ繰り出す

 

さてどこへ行こー、ホロウエリアにレッツゴー。なんてラッパーに失礼ながらもラップ調で口ずさんでたら管理区に着いた。今思えば全然ラップになってなかったような気がします

 

「無限に広がる大宇宙って言うけど、宇宙の果てってあると思うんだ」

 

なんて言いながら管理区へ入るとキリトとフィリアが何か話していた。二人とも俺の方を向いて「お、おう……」みたいな顔をしている

 

あらやだ、私に隠れて密会中だったのね!?キリトの浮気者!アスナパイセンにチクってやる!!

 

「んで、何会議中?もしかして俺ハブられてる?」

 

「そ、そんなことないよ!?」

 

「何で慌てんの?余計ハブられてる感あんじゃん」

 

あ、ヤバ。泣きそう

 

「そういうわけじゃなくてだな、シン」

 

「やめてー、そういうのマジやめてー、俺のメンタルあれ並みに弱いんだから。あれだよあれ…………シャー芯」

 

「シャー芯!?」

 

うん、あんまいい例え思いつかんかったんよ。どうでもいいけどフィリアお前、意外と面白い反応返してくれるのな

 

「で、何の話よ」

 

全く、話が進まないじゃないか。誰のせいだ誰の!

 

………え?何、俺のせい?あぁはいスミマセン

ブーメランってか、お前それブーメランだよ、ってか。大丈夫、俺のブーメランは投げたら『あっ、ブーメランが!』ってなって戻ってこないから

 

「この樹海エリアの向こう側に、他にもエリアがあるんだ。そこに行くための方法について話してた」

 

「向こう側?………あの鬱蒼とした樹海の向こうにまだなんかあったん?」

 

俺は探索を全体までしていないからよくわからないんだけど、まあ確かに、普通は他のエリアがあるもんか。見た感じアインクラッドみたいに迷宮区は無さそうだし

 

「この前俺達で手に入れたペンダントのこと覚えてるか?」

 

ペンダント?……………あぁ、あのサンクチュアリとかいう奴を倒した時のね

 

「これなんだけど」

 

俺が頭の片隅から引っ張ってきているとキリトがストレージからペンダントを取り出した

 

「フィリアが言うには、このペンダントと同じ紋章が刻まれた門があるらしい。それを確かめる為に今からそこへ向かおうと思ってるんだけど、シンも行くよな?」

 

「おう、行く行く」

 

キリトの質問に二つ返事で返す。まあ、元々一緒に探索するのが目的だしね

 

俺の返事にキリトが頷くと、キリトは手元を操作し、俺にパーティ申請を送った。それを承諾して、ストレージから武器を装備する。よし、準備完了。ポーションの在庫もまだある。キリトとフィリアがいるから、強い敵、もしくは沢山の敵と戦わない限りは問題無いだろう

 

いつでも行けるぜ、とアイコンタクトを送ると、キリトの合図で俺達はホロウエリアへ乗り出した

 

 

 

 

=========================

 

 

 

 

「…うわぁ……」

 

樹海エリア、鬱蒼と木々が生い茂る中で少女は目を見開いた

 

時刻は正午前、視界の端に表示された数字がそう告げる

 

「ここが……」

 

右へ、左へ、ゆっくりと景色を眺めながら、自分の立っている場所を確認する。森の中、その一言に尽きる。というか、その一言以外少女は出てこない。ここが彼女の知るゲームの中であれば、まだどこか予想は付くのだが、生憎と彼女は、とある目的の為に『今現在、このゲームにログイン』したのだから、詳しい地形を知っているはずもない

 

必死に思考を巡らせて、取り敢えずその場に腰を下ろした

 

「ここが、SAO………浮遊城、アインクラッドだったよね」

 

少女は、『自分がいるこの場所を、アインクラッド内部』だと認識した。右手を振る動作をし、自分のステータス画面を確認。そして装備画面へ移行して、ストレージ内の武装を全て付ける

 

再度立ち上がり、彼女は言った

 

「まずは人を探さないと!」

 

そしてあても無く歩き出した

 

道中イノシシに遭遇し、左腰に携える片手用直剣で攻撃。相手の攻撃を正確に避け、素早い反撃。超高速の剣は、イノシシにそれ以上の追撃を許すことなく、1分にも満たないうちに、イノシシをポリゴン片へと変えた

 

「うーん、いいね!好調!」

 

立ち止まり、花が咲いたかのようににっこりと笑う。それから確かめるように数度剣を振ると、少女は鞘へ剣をしまった。にっこりと笑った顔は、剣をしまうと再度人を探す為の気合いを入れ直すように引き締まる

 

木々の間から、木の下を通る度に不規則な感覚で顔に当たる木漏れに、少し目を細めながらも上を向いて歩く。眩しいが、心地の良い気候た。運が良いのか、少女の行く先にはモンスターがあまり現れない。気付けば引き締まった顔も微笑に変わり、少女は鼻歌を歌いながら歩いていた

 

「……………!」

 

ふと、少女の耳元に金属音が聞こえる

 

剣と剣がぶつかる音。少女は人がいると考え、そこへ向かって走り出した

 

金属音の発生源へと向かうと、そこには一体のスケルトンと戦うプレイヤーの姿があった。左手にラウンドシールド、右手に純白の片手用直剣。白い生地の服装の上に、プレートを付けている

 

そして何よりも少女の興味を引いたのは、プレイヤーの顔にある狛犬のお面だった

 

「………狐?」

 

狛犬のお面だが、少女には狐に見えたらしい。普通ではあまり見ないその姿に、首を傾げた

 

「はぁっ!!」

 

お面のプレイヤーが気合いの一閃を放つ。その剣はスケルトンの腰骨辺りを薙ぎ、スケルトンはそれによりHPを削り取られた

 

プレイヤーは暫し、ポリゴン片となるスケルトンを見つめる。そして、お面の下で少し息を吐き、肩越し少女を見た。お面の間から見える眼光が、角度もあり鋭く見える。それに少女は臆すことなく、プレイヤーの前に姿を現した

 

「………何か用?」

 

プレイヤーはお面の所為か、少しくぐもった声で問い掛ける。敵意は感じられないが、冷たい声だった。冷たくしているかのような声だった

 

「ボク、人を探してたんだ。本当はもっと人のいる場所に行きたいんだけど、そこもどこにあるかわからなくて」

 

場所だけでも教えてくれないかな?とにこやかに問い掛ける。プレイヤーの態度から見て、案内をしてもらう、という選択肢は真っ先に消した。なぜなら目の前のプレイヤー、少女が話している最中に周囲を見渡しているからだ。話を聞いているのかどうかすらわかったものじゃない

 

「お兄さんが拠点にしてる場所でもいいから。駄目かな?」

 

両手を合わせてお願いのポーズをとる。声と体格から男性だと認識した少女は、取り敢えず彼のことをお兄さんと呼んだ

 

プレイヤーはそれを見て、頭を掻く。そしてまた息を吐き、声色を変えずに呟いた

 

「…………お前も違う」

 

「え?」

 

少女はプレイヤーの言葉がよく聞き取れなかった。しかし、場所を教えてくれているんだな、とも思わなかった。だが何かを言っていたのは事実、少女はそれが気になり思わず聞き返してしまう

 

プレイヤーは少女に向き合う

 

「拠点にしてる場所は忘れたし、人が集まってる所も忘れた。俺はずっとここらで探し物してるだけ」

 

それだけ告げると、全て伝えたと言わんばかりに踵を返して歩き出す

 

「……………え!?」

 

少しの間呆然となった少女だったが、プレイヤーが歩き出して暫くに我にかえった。折角見つけた同じプレイヤーなのだから、逃すわけにはいかない。そう思い走って追いかける

 

「わ、忘れたってどういうこと!?」

 

プレイヤーの隣に着き、少女は声を荒げた

 

探し物のこととか、気になることはあったがそれよりも、だ。拠点を忘れるとは一体どういうことか。街がある場所も忘れたとは一体………どうすればそんなことが起こるのか全くわからない。この人、記憶喪失なのかな?と疑った少女は悪くない

 

「着いてくんなよ。なに、ぼっちなの?寂しんガールなの?」

 

「お兄さんにだけは言われたくないよ………」

 

特にぼっちという単語に関しては、たった一人で探し物をしているこの人だけには言われたくない。少女は心の底から切実にそう思った。声色も変わらない為、本気で言ってるんじゃないだろうか

 

「それにボクはぼっちじゃないよ!ボクのギルドには沢山とは言えないけど、大事な仲間が………」

 

声のトーンが段々と落ちていく

 

「………ボク、皆に内緒で来ちゃった」

 

肩を落とし、落ち込んだ様子で呟いた。そんな少女を横目で確認したプレイヤーは、冷たい声色を少し軟化させて話す

 

「そりゃ大変だ。今すぐ帰ればコンビニでアイス買ってもらえるかもよ」

 

「うぅん、戻れないんだ。少なくとも、今すぐには」

 

「…………はぁ」

 

折角態度を軟化させたと言うのに、更に落ち込んでしまった少女を見て溜息を付いた。頭をガシガシと掻く。お面の奥の瞳は、面倒なものを拾った、と言う感情が見て取れた

 

「まあ、人がいる場所にいつかは行くかもしれないし。それまで着いてくればいいんじゃね」

 

面倒臭そうなのを隠そうともせずにそう告げた

 

対する少女は、そんなプレイヤーの態度を見ても特に変な顔をすることもなく、逆に顔を輝かせる

 

「いいの!?」

 

「そん代わり、俺の探し物の邪魔したら許さん。て言うか、手伝いなさい」

 

「うん!」

 

少女はプレイヤーの言葉に元気に頷く。花のような笑顔に、プレイヤーは少し恥ずかしくなって顔を背けた。少女はそれに気付かずに、早速プレイヤーの言った通り、探し物を手伝う為に其処彼処に歩み寄っては草の根を掻き分けたりしている

 

「ねぇ、探し物ってなに?」

 

聞くのを忘れていた、と少女はプレイヤーに聞いた

 

「知らない。でも、見たらわかる」

 

「じゃあ、もしかしたらこれとか?」

 

少女は不思議な形のした石を拾い上げ、プレイヤーの前に差し出した

 

「…………」

 

プレイヤーは暫しその石を見つめる

 

「チェスト」

 

「ふぎゃ!?」

 

そして、HPが減らないギリギリの威力でチョップを落とした

 

「そんなチンケな物なわけねぇだろうが」

 

「何かもわからないのに?」

 

「…………」

 

頭をさすりながら答える少女に図星を突かれた。少女はお面の下できっと悔しそうな顔をしてるプレイヤーに、ニヤニヤした笑みを浮かべる

 

「邪魔すんなって言ったろ」

 

「あ、誤魔化した!」

 

少女は構わず歩き出したプレイヤーを追かける

 

「あ、そうだお兄さん。名前は?」

 

「………狛犬お兄さんとでも呼べばいんじゃね」

 

「わかった!」

 

それ狛犬だったんだ、と思いながらも元気に返事をする少女。狛犬お兄さん方は内心冗談だったのだが、今更撤回するのも面倒なのでそのままにしておくことに決める

 

「お前の名前は?」

 

実際、本当には名乗ってはいないと言えど、相手の呼び名くらいは知っておかなければいけない。そう思い狛犬お兄さんが問い返す。少女はその問いを聞き、また花のような笑顔を咲かせた

 

「ボク、ユウキって言うんだ!よろしくね」

 

少女ユウキは、パープルブラックの髪を揺らし、朗らかにそう答えた

 

 

 

 




ユウキがログインしました


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目の前に立つのは

前回投稿から約一年、マジ遅くなってすみません

感想とか長い間返せてなくて、申し訳ないです。毎回この作品は次話投稿する時に感想の返信させてもらってるんですが、今回は大分時間空いてるんで返信しないことにします。次からは気付いたら返信させていただくようにするんで、また感想もらえたら嬉しいです

それと、次の話もいつになるかわからないし、この作品自体終わるかどうかわからないんですけど、それでも読んでいただけたら幸いです

それでは、どうぞ


「……………」

 

ポケーッと虚空を見つめる。現在俺がいるのはホロウエリア管理区だ。ついさっき、息を巻いて出たような気がするが……この現状からじゃあ夢か何かだったのかと勘違いしてしまいそうだ

 

胡座をかき、右足に肘を乗せて頰をつく

 

あれからホロウエリアへと乗り出した俺達は、キリトとフィリアが話していた場所へ向かった。現れるモンスターをキリトとフィリアのワンツーコンボで倒したり、偶におこぼれを貰い俺がトドメを刺したり。そんなこんなで数十分で目的地まで着いたわけだ

 

目的地……キリトが言うには、恐らく次のエリアへの門であろうその場所には、確かにこの前手に入れたレアアイテムと同じ紋様があった

 

これ開くんじゃね?もしかしなくても次のエリア行けるんじゃね?とテンション上げながらキリトの手からネックレスを奪い取り(本当は許可を貰って貸してもらったのだが)空へ掲げながら

 

開けゴマァァァァァ!!

 

と叫ぶも数十秒。全く開かなかった悲しい

 

キリトが掲げてみても開かなかったことから、キリトの推測ではフロアボスかなんかいるんじゃね?それ倒したら開くよ、とのこと。いや、開けゴマって言わなかったからだと俺は思う(確信)

 

取り敢えずフロアボスを探そうってことで一度ホロウエリア管理区へ戻る俺達。そう、お気付きだろうか。ここに二回戻ってきてるんです

 

「……はぁ」

 

そっからはトントン拍子に進んだ。思い出すと思わず溜息が出る

 

どこを探すかと協議したところ、まず俺の意見

 

樹海エリアの奥なんだから樹海の最深部じゃね?

 

それに意を唱えたのがフィリアだった。樹海はフィリアが粗方探索しているらしい。隠しエリア的なものはないと断言できるそうだ。出過ぎた真似してすんません!

 

じゃあもうなくね?と諦めかけたところ、どうやら完全に探索できてない場所があるらしい

 

それが、教会の中である

 

とあるエリアに、二体のNM……ネームドモンスターがいるらしい。どちらも名前にデュラハンって付いてて、如何にも首が無さそうと言うか、明らかに首ねえだろ強えだろ、と言いたくなるような名前だ。NMは他の敵よりもレベルが高い。フィリア一人じゃキツイから後回しにしていたそうだ

 

そんなのいたらそこしかねえじゃん、と三人とも思い至る。そしてサザエさんの如くキリトを先頭にその場所へ向かった。教会の近くに転移出来るから速かったね

 

NMを一匹ずつ引きつけて片付ける。マジで首無かった。そのくせ正確にこっちを狙ってくるんだから驚きである。まあ、俺は離れたところからチャクラムで攻撃していただけだったが………

 

微々たるものだが、俺も着々とレベルを上げてきている。それに比例して強くもなっているはずだ

 

「そう、思ってたんだけどなぁ………」

 

がっくりとうな垂れる

 

NM共を屠った後、とある扉を見つけた

 

その扉にはなんと、レアアイテム………三人で見つけたあのペンダントと同じ形の窪みがあった。そこにペンダントを嵌めると先へ進めるようになり、更にその奥……なんだか重苦しい雰囲気を放っている扉を見つけた

 

その雰囲気は二人も感じ取ったようで、三人で顔を見合わせる

 

キリトは、この扉を潜ればボス戦になるだろうと予想した。フィリアも同じ考えに至ったらしくその言葉に頷いていた。俺は場違いにも、これがボス戦の雰囲気かー、と呑気に扉を見上げていた

 

そして次にキリトはこう言う

 

『しっかりと準備をして挑もう。………ただし、シンは不参加だ』

 

その言葉に俺は曖昧な返事を一回返した後、言葉の意味を理解してからもう一度『へいぃ!?』と返した。そりゃ驚くよ。だって、直前まで三人で協力してNMまで倒してきたんだから

 

理由を聞くと、やっぱりボス戦は危ないんだそうだ。まだ早いって言われた

 

エリアボスと言えど、人数は三人。しかもそのうちの一人は戦力として数えていいのかが怪しい。NMでも俺に対して注意を払ってくれていたのに、エリアボスともなるとそうはいかなくなる………って

 

それだけじゃなく、NMとは規模が違う

 

それは大きさという意味もあるし、攻撃がという意味もある。つまり範囲攻撃されたら守るもクソもねえぜってことだ。レベルの高いホロウエリアで紙装甲と呼んでも間違いじゃない俺がそんなの食らってみろ、ゲームからもこの世界からもサヨナラバイバイだ。戻ってくることのない旅に出てしまう

 

そのキリトからの話を聞き、俺も納得せざるを得ないわけで

 

そうなると一人で留守番なわけで…………因みに二人は準備を済ませてボス討伐に行ってしまった

 

「辛いわー、マジ大切にされすぎてて俺辛いわー」

 

こうやって一人で無力さを噛み締めてるわけだ

 

二人だけでも十分危ないのにねー。これ以上は一人しか人数増やせないからしょうがないけどねー。え?俺がいるよりマシ?知っとるわそんなこと

 

それでもやっぱり、こういう時に力になれないってのは結構クるもんだ。数少ないホロウエリア探索メンバーなんだ。俺も早く強くならないといけない。そう、強く思わされた

 

「………よし!」

 

だから、一人でも強くなる方法を探そうと思う

 

俺は立ち上がって転移の準備をする。転移するは次のエリアへと続く門付近。あそこに丁度転移碑があらからだ

 

「とーちゃく」

 

一人でポーズを決めながら転移をする

 

強くなる方法を探してみようとは言ったが、もう既に一つ思いついている。早速近くにスケルトンが現れたので試してみることにした

 

チャクラムを構え、ギリギリ届く距離まで詰める。そして投擲。当たるのを確認して………直ぐに樹海の中へ逃げる!こちらにタゲを付け、追いかけてくるスケルトン。俺はさっき見つけておいたある程度太い木を軸に、ギリギリ引きつけて回る

 

出てきたところをもっかいチャクラム投げて、また走り出す。そして次の木を同じ要領で回る

 

「名付けてヒット&アウェイ戦法!」

 

これを続ければ攻撃をくらわずにいつかは倒せる!

 

『〜〜〜〜!!』

 

「おぉっとぉ!?」

 

倒せる、はずなんだが………ちょ、速い

 

待って待って速くない!?こんな速かったっけ……ちょ、危ない!?掠った!

 

クイックチェンジで剣に持ち替えて2Hブロックでガードする。無理矢理押し込もうとしてきやがる………!!マズイな、非常にマズイ。動けないんですけど!

 

早速失敗してるぜどうすんだよコレェ…!今更ながら自分の浅はかさを呪いたくなるくらいだぜ。ノリで試すようなことじゃなかったなこれ。キリトか誰かが見てる前でやれば良かった。時間が巻き戻るのならば急いで巻き戻してほしい

 

必死に受け続けていると、スケルトンが剣をもう一度振りかぶった。チャーンス!

 

振り下ろす前に横へステップで避ける。そのまま転移碑まで猛ダッシュ。後ろを振り返っては絶対にいけない。振り返った瞬間にバッサリいかれそうな気がする

 

「ホロウエリア管理区!!」

 

転移碑にタッチと同時に叫ぶ。そして視界が変わる。なんとか無事に帰れたようだ。安堵の息を吐いてその場にへたれこんだ

 

イケると思ったのに大失敗である。なんだあれ意外にも速かったんですけど。あんなに速かったっけ?大抵タゲを取ってもすぐ他の人に移るからなぁ………

 

「さて、どうしたもんか……」

 

また胡座をかいて考える

 

ヒット&アウェイ戦法、良いと思ったんだが………やっぱりそれを活かせる速さが必要になるのか。なんかいいスキルないかな?一瞬で他の、それも離れた場所まで移動できるとかそんな感じの

 

でも、そこまでいったらもう魔法の域か。言ってしまえばテレポートだもんな、それ

 

「……………あん?」

 

テレポート?

 

「テレポート……転移?」

 

転移門を見て呟く

 

「ヒット&アウェイ。転移……いけるか?」

 

敵に攻撃を当てる。すぐさま転移。俺大勝利?

 

「いや、待てよ」

 

そもそも、さっき戦ったスケルトンはまだあそこに残っているのか?

 

俺が考えた戦法、それはまさにヒット&アウェイと言うか、ヒット&転移

 

転移碑の近くで待機しておき、敵が来たら攻撃を当てる。そしたらすぐに転移して管理区へ。少し時間をおいてまた転移し直し、敵に攻撃

 

だけどこれには問題があって、転移を繰り返してる間も敵がそこに残っているかどうか。そして、HPがそのままの状態なのかどうかだ。普通考えたらリセットされてるのが普通だ。だけどここはSAOの中、例外はあるがプレイヤー個人個人にマップデータが割り当てられているわけじゃない。俺がこうしてる間にも、あの場所で誰かがあのスケルトンと戦っていたら………その戦いに俺も参戦出来るはずだ。つまり、リセットされていないことになる

 

ただ少し気になるのが、今までフィールドを闊歩している状態の敵に出くわしたことがないということだ

 

あいつらは俺達の前に現れるとき、決まってエフェクトと共に現れる

 

つまり、プレイヤーの視界に入ってないとポップしない?と言うことは、プレイヤーの視界から外れれば、すぐにとはいかないが敵も消える……?

 

「こればっかりは試してみるしかないな」

 

百聞は一見に如かず、そんなことわざもあるぐらいだ。ちょっと見るだけならいいだろ。ちょっとだけ、先っちょだけだから

 

もう一度気を引き締めて、さっきの場所へ転移する。周りにさっきのスケルトンがいないか急いで見渡す

 

「………!」

 

結論から言うと、スケルトンはいた

 

だが……

 

「はっ!」

 

「やぁ!」

 

見つけてすぐに、二人のプレイヤーによってポリゴン片へと変えられたところだった

 

プレイヤー……俺達三人以外のプレイヤーを見るのは、実はこれが初めてだ。キリトとフィリアから、偶にプレイヤーを見るとは聞いていた。だけど、そのプレイヤーはどれも変な奴らばかりらしい。と言うのも、何か命令を受けているかのように一つの行動に執着しているんだとか。キリトが会ったプレイヤーは、HPがレッドゾーンだったにも関わらずに目的地に向かって進んでいたらしい

 

初めてキリトと会った時、転移させられたプレイヤーは珍しいとか言ってたが……意外にもそうじゃないのか?でも、キリト達から聞いたプレイヤーの様子を聞くと、どうも何か怪しいというか……

 

「あ!お兄さん、人だ!」

 

「お兄さんも人ですけど?」

 

「もう、そういうこと言ってるんじゃないってば」

 

あちらもこっちに気が付いたらしい。俺は思考を中断して、近付いてくる二人に視線をやる。片方は……なんだあれ、狐みたいなお面をした奴が一人、さっきまでこっちに歩いて来ていたみたいだが、今は立ち止まっている

 

そしてもう片方が、紫がかった髪の少女。耳はリーファみたいに尖ってて………

 

そこまで考え、その少女の顔を見て俺は止まる

 

「やっと他の人に会えた!」

 

…………嘘だろ?

 

俺に笑顔を向ける少女は、紛れもなく俺の知っている少女。だが、このSAOの中にはいるはずのない少女だ。何故こんなところにいる?何故SAOにいるんだ

 

「こんにちは!」

 

……いや、思い出した。そうだ、確かにそうだ。公式サイトに載っていたはずだ今思い出した

 

「ボクの名前は……」

 

この子の名前は……

 

「ユウk

 

 

 

 

首に衝撃が走る

 

 

 

 

「っが!?」

 

何が起きたか認識する暇もなく、転移碑に押し付けられた

 

目を見開くと、目の前には変なお面。こいつは、もう一人の……!!どうやらこいつに首を押さえつけられているらしい。腕を掴んで睨みをきかせる。首の違和感が半端じゃない。後ろの少女……ユウキも硬直している

 

「………お前の、大事な物はなんだ」

 

目の前のお面はそう俺に問い掛けた。わけがわからない

 

「なに、言ってやがる……離、せ!」

 

「言え!お前の探してる大事な物ってなんだ!!」

 

「はぁ!?なんだよ!わけわかっかんねぇ……よ!」

 

無理矢理腕を振り払う。本当に、本当にわけがわからない。大事な物?俺が探してるって?俺が探してんのは強くなる方法だけだ馬鹿野郎。まさかそのこと言ってんのか?そんなわけあるめぇよ

 

「なら、もう良い」

 

「あん?…………おい……!」

 

目の前のお面野郎はそう言って剣を抜いた。こちらに向けて構えている。面の下の目が鋭く光ったような気がした。突然のことで、それを呆然と眺める。なんでこいつは俺に剣を向けている?

 

わけがわからないまま、剣が振りかぶられ

 

「お前からドロップするかもしれないしな」

 

真っ直ぐ俺に振り下ろされた

 

 

 

 

 

 

「ダメ!!」

 

 

 

 

 

 

突如響く金属音。思わず目を瞑っていた俺はその音に目を開き、目の前に俺を背にした紫の剣士。お面野郎の剣を、その黒曜石のような剣で受け止めている

 

「……何してんだ。邪魔すんなって最初に言わなかったっけ?」

 

「お兄さんこそ何してるのさ。それに、人が見つかるまでって約束だったはずだよ」

 

どうやら、俺はユウキに助けられたらしい

 

「人、だぁ?」

 

そう言うお面野郎の目が、ギョロリと俺を見た。なんで人、ってワードで疑問符浮かべてんだよどう見ても人だろうが

 

ほぼ睨まれてる状態だったので俺からも睨み返す。するとお面野郎は舌打ちをして剣を下げた。完全に剣を収めたのを見て、ユウキも剣を収める

 

「………ごめん」

 

「は?……や、うん」

 

なんかいきなり謝ってきた。いきなり切りかかってきたと思ったら今度はいきなり謝るなんて、本当にわけのわからないお面野郎だ。こっちは内心ヒヤヒヤだったぞ。いきなりが続きすぎてまたいきなり切りかかってきそうで怖いんだが

 

「ごめんね、お兄さんも悪い人じゃないんだ。ちょっと頭がおかしいだけなんだ。………それでもいきなり切りかかるのはどうかと思うけど」

 

「………会って間もないのに頭おかしいと思われてるってどういうこと」

 

「日頃の行いかな」

 

「お前が俺の何を知ってんの……!?」

 

そしていきなり自然と話し始める目の前の二人。俺は一体何を見せられてるんだろうか。て言うか、ユウキと仲のいいこいつの中身は誰だ?インパクトありすぎてユウキがここにいることに対しての驚きが吹っ飛んだんだけど

 

しかも会って間もないのか

 

………となると、ユウキはSAOに来たばかりなのか?俺が考えるに、リーファと同じ方法……というか原因でSAOに来ているんだと思うが、まずリーファがどうやって来たのか知らないからな。今度それとなく聞いてみるか?

 

しかし、俺はリーファがSAOに途中参戦しているってことを、知らないことになってるから………目の前の二人が俺を置いて話しているので、顎に手を置いて考える。すると、ユウキが「そうだ!」と手を叩いた

 

「さっきはお兄さんが邪魔しちゃったから、改めて自己紹介するね。ボクはユウキ、よろしくね」

 

「シンって言います。シンお兄さんとでも呼べば?」

 

「よろしくね、シン。あ、この人は狛犬お兄さんって呼べばいいって」

 

華麗にスルーされたんですけど。なんか慣れてない?お面のことは狛犬野郎でいいだろう

 

にこやかにスルーするユウキを見てちょっと苦笑い。あのお面野郎の相手で慣れているんだろうか。会って間もないのにそれってどうなの?あいつそんなに頭おかしいのか………そりゃ切りかかってきたのに納得ですわ

 

「ねえ、シンはどこを拠点にしてるの?この辺に人の集まる場所ってないかな」

 

ユウキにそう聞かれる。人の集まる場所……普通に考えて街のことだろう。しかし、この辺?ホロウエリアでそんな場所を見た覚えはないんだけどな

 

いや、来たばかりなのだからしょうがないのか

 

俺は転移碑に手を置いて答える。ユウキの後ろの狛犬野郎が辺りをキョロキョロと見渡しているのが気になった

 

「これで転移出来るんだけど、この先にホロウエリア管理区って場所があるんだ」

 

「管理区?」

 

小首を傾げるユウキ。ちょっと可愛いと思った

 

「そ。そこからまた転移するんだけど、アークソフィアってとこなら人がいるぜ」

 

「本当に!?ありがとう、シン!早速行ってみるね!」

 

そう言ってすぐに転移碑に触れて転移していくユウキ。なんだかすごく急いでいるというか、目的をいち早く達成したいという感じがありありと見て取れた。SAOに来たのと何か関係が?

 

考えてもわかることでもないので、俺も後についていこうと考えて転移碑に触れる。そこで狛犬野郎に顔を向けた

 

「なぁ、あんたは」

 

行かないのか?そう声を掛けようとした時、ちょうど誰かが転移してきた。その誰かはさっき転移していったユウキで、どうやら俺達が来ないから呼びにきたようだ

 

「行かないの?」

 

ユウキが狛犬野郎に向けて声を掛ける。狛犬野郎は辺りを見渡すのをやめて……てか、まだキョロキョロしてたのか……こちらに顔だけ向けた

 

「俺はいいよ。さっきお前も言ってたけど、人が見つかるまでって話だったろ?俺のことなんか気にせずに行っちまえ、せーせーすらぁ。もう来んなよ」

 

ちょっと照れ臭そうに頭を掻きながら狛犬野郎は言う

 

「そっか………また来るね」

 

「おう、また会いに来い。会えたらな」

 

………いや、なんだそりゃ。言ってること違うぞ

 

「あはは、さっきと言ってること違うね。やっぱり変なの」

 

ユウキはそう笑って、俺に顔を向ける。俺は頷いた

 

「ちょっと待て」

 

「?」

 

「お前だけは戻って来い。絶対だ」

 

俺を指差し、狛犬野郎はそれだけ告げてまた向こうを向いた

 

「は?あぁ、わかった」

 

曖昧に返して、管理区に転移した。そして、すぐにユウキとアークソフィアへと向けて転移を開始する。いつもの場所に帰ってきた俺は、ユウキをどこに案内すればいいかを考えた

 

やっぱりまずはエギルの所だろうか?

 

「ありがとう、シン。ここからはボク一人で大丈夫だから。それじゃあね!」

 

「え?あ、おい……」

 

折角考えていたのに、ユウキは俺のそんな内情を知らずに行ってしまった。ちょっと寂しくなんかない。決してフレンド登録したかったとかそんなんじゃあない。ほ、ほんとだぞ

 

行ってしまったのは仕方がない。なんか知らんが、狛犬野郎が俺を呼んでるのでさっきの場所まで戻るとしよう。本当に、さっきから急展開過ぎて笑えない。今更ながら凄いことが起こってるぞ………ユウキの参戦、わけのわからないプレイヤー、ユウキの目的とは一体?それに、狛犬野郎の用ってのは……?

 

「来たぞ」

 

空を見上げる狛犬野郎の背中へ投げかける

 

「……来たか」

 

ゆっくりと、俺と向かい合わせた

 

暫く沈黙が続く。呼んだのはそっちじゃなかったか?どうすればわからず、頭を掻く

 

「もう一度聞く」

 

向こうが口を開いた

 

「お前の大事な物って、なんだ?お前は………本当に、プレイヤーなんだな?」

 

またその質問か

 

「わけのわかんねえこと言うなよ。大事な物がないってわけじゃないんだけど………てか、プレイヤーじゃないってなに。カーソル見えない?明らかにプレイヤーでしょうが、あぁん?」

 

「あぁ、もういい。わかった、わかったよコンチクショー。くそっ、わけわかんねえのは俺の方だ」

 

何やら向こうも混乱しているらしい。顔、というかお面を押さえてなんか唸っている

 

「………いいか、今からお前は信じらんねえもんを見るだろうが、パニクんなよ?首も締めにくんな、切り掛かってもくんな。絶対だぞ」

 

そう言って狛犬野郎はお面に手を掛ける

 

何言ってんだ?てか、そのお面外す気のか?

 

「忠告したからな。絶対だぞ。言ったからな?」

 

何度も俺に確認をとりながらお面を外していく。段々露わになっていくその顔を俺は視界に収めた

 

「………ぁ?」

 

辛うじて出せる声なんて、そんぐらいのもんでしかなかった

 

実際に体は別なのに(直接SAOの中に来たと俺は思ってる為、俺はどうなのか知らないが、多分そうだ)心臓が脈打つのが速くなる感覚。どんどん息が荒くなって、体の底が冷え上がっていく

 

目の前に立っているこいつの顔から目が離せなくなる。思わず目を何度も何度も擦っても、消えることがない

 

信じられない、嘘だ、そんな筈があるか、おかしいだろ?は?

 

「………嘘だろ」

 

 

 

目の前のそいつの顔は、俺にそっくりで

 

 

 

 

いや………

 

 

 

 

 

 

俺の目の前には、俺が立っていた

 

 

 

 

 

 




やっとこの作品でやりたかったことが一個できた……!


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終わらせたくない何か

就活行き詰まったから気晴らしに投稿

時が経つのは早いんだなぁって……


目の前に立ってたのは俺だった

 

 

 

 

信じられない光景に目を逸らしたいのに、俺の目は前にいるそいつから逸らすことを許さなかった。氷柱でもぶっ刺されたんじゃないかってくらい体の底から冷えあがっていく感覚に襲われる

 

「お、おま……え、は」

 

のどを必死に絞って何とか声を出す

 

気付けば俺の手は背中の剣へと伸びていた

 

「お前は、誰だ!!」

 

剣を抜き放ち、構える。切っ先を目の前のそいつへ向けた

 

「だから言ったろうが。落ち着けよ、って」

 

そんな声が聞こえるとともに、剣を持つ手が上へ弾かれた。勢いで体が少し伸び上がる。弾かれた腕を呆然と目で追うと、その腕が掴まれた

 

目と目が交差する。そいつの瞳は先ほどの冷たいものとは違った

 

「俺思うんだけど、鏡見てるわけでもないのに自分と同じ顔見てるのって、ナルシストでもない限り良い気分しないよな。気持ち悪くなるわけでもないけどさ……あれ、俺って案外イケメン?な・ん・て」

 

俺の腕を掴みながらおどけて言うこいつに、いやその発言ナルシストじゃね?とか、あれ俺って案外イケメン?……いや、ないわ、とかいろいろ思うところはあるが、こいつのおかげで少し落ち着いた。さっきの体が冷えあがる感覚も、落ち着いて深呼吸すると僅かにマシになる

 

戦闘態勢に入っていた体を落ち着け、腕を振り払った

 

「世界には三人同じ顔がいるって話だけどよ……まさか、こんなところで会うとは思わねぇよな?」

 

「信じらんねえよ。声も同じだと余計な」

 

落ち着いた。落ち着きはしたが……それでも心に言い知れぬ違和感というか、言葉では表すことが出来ない何かが押し寄せる

単純に、目の前のこいつは顔と声が同じそっくりさんなのか?ただ偶然、そういう相手だっただけなのか?

 

 

 

『また俺は独り………か』

 

 

 

こいつは、あの声の正体と関係はあるのか……?

 

「俺も信じられねえ。だからさっきはあんなことしちまった」

 

そう言って目の前のそいつはもう一度お面を付ける

 

「んー、まあ。そんだけだ。同じ顔ですよーって、俺だけ知ってるとか理不尽だろ?」

 

「はぁ?」

 

唐突に突き付けられた俺が理不尽だとは思わんのか。いや、俺が逆の立場でもやってたかもしれないけどさ

 

俺の顔を見て再度狛犬のお面を付けたそいつ(これからは狛犬と呼ぶことにしよう)は、肩を竦めて背を向けた。そしてゆっくりと二回、手を左右に振って歩き始めた

 

ど、どこに行くつもりなんだ?

 

「おい、待てよ……!」

 

呼び止めると狛犬は歩みを止める。だが、俺のほうを振り返るそぶりすら見せない

 

「もう用はねーよ」

 

ただそれだけ言って、狛犬はまた歩き出した

 

別に止める理由なんてない。確かに狛犬の言う通りもう用はないはずだった、ただ同じ顔だから、同じ声だから。世界には三人まで同じ顔の人間がいる、それが本当だっただけの、ただ友達と飯を食いながらの、笑い話のネタになるだけの出来事のはずだ

 

でも何かが違った。俺の中の何かが、このままで終わらせるなと言っていた。ただのサブイベントで終わらせるんじゃないと

 

そう思った瞬間、俺は走って狛犬の隣へ並んだ

 

「……なんで着いてくるんだよ」

 

お面の中から、最初会った時みたいな冷たい目が向けられる

 

「なんか、着いていこうかなって」

 

「はぁ?物好きかよ。俺の顔見たときは剣向けてきたくせによ」

 

「それを言うなら、そっちだって首絞めてきたじゃねぇか。あれ結構きまってたんだからな。お前が何と言おうと俺は着いていくぜ。今日はそうするって決めたんだ」

 

そう言ってやると、諦めたのか溜息を吐きやがった。好きにしろとでも言うように無言で歩き続ける狛犬の横を俺も歩いた

 

そこから先はずっと二人行動だった。だけど、なぜかパーティを組む気にはなれなかったから、二人いるのにどっちもソロプレイという何とも不思議な構図が出来上がっていた。

 

狛犬がこの樹海をさまよっている理由も、不思議と知ろうと思わなかった。ただ何となく、モンスターを倒す度にメニューを開いているらしく、その行動を繰り返しては「ねぇな……」と呟いていた。何か欲しいアイテムがあるんだろうと思う

 

戦闘に関してはそこまで困らなかった。狛犬はレベルが高いんだろうな。タゲを常に取りつつ、相手の攻撃を左手に持つラウンドシールドで防ぎ、攻撃に転じていた。俺の方にタゲが来ても、狛犬が吼えるとそっちへモンスターが集中する。おかげで気にせず攻撃することが出来る

 

意外と相性良いな俺達……つっても、俺の攻撃なんて微々たるものなんですけどね!

 

「ちょ、俺の方やばいって!モンスター来てるって!ハウルハリー!ハウルハウル!」

 

「あーもう、うっとしいな!ちったぁ自分で何とかしろ!」

 

とまあ、こんな感じで戦闘してるわけだが……うん、そんなに困ってないな!

 

「……しかし、今日帰れるかねぇ?」

 

暗くなりつつある空を見上げて呟いた

 

二人で探索しているうちに樹海エリアの奥のほうまで来てしまっている。マップはきちんと把握しているが……狛犬は自分の拠点へ帰ろうとするそぶりすら見えない。そろそろ3時間ほど経つんですけど。良い子はおうちに帰る時間が迫ってるんですけど?

 

「なーなー、まだ続けんの?」

 

そう声をかけると無言でこっちを向く狛犬。そう怖い目で睨まないでほしい

 

「嫌なら帰ってどうぞ。てか弱すぎ。お守してる暇ないんですけど?」

 

「はーっ!?そういうこと言っちゃう!?一緒に探し物してる人にそういうこと言っちゃうんだ!?」

 

なんて失礼なんだこの駄犬は。なんとなく着いてきたは良いけど特にできることもなかったから取り敢えず一緒に探してたのに!なに探してるか知らないけど、なに探してるか知らないけど!

 

「はぁ?誰が一緒に探してほしいなんて頼みましたかー!?脳みそきちんと詰まってんのかよっ!?てかあれか、さっきからしきりに自分のドロップアイテム見せてたのはそれか!」

 

正に噛み付いてくるとはこのことじゃなかろうか。今にも飛び掛かりそうな勢いで俺の顔へ指を突き付け、狛犬が大声を上げた。それ先端恐怖症の人にやったら駄目だかんな?先端は駄目だからな!

 

「それだわ!人間の脳みそは犬のお前より大きいわっ!!」

 

「これはお面だ馬鹿!!バーカ!」

 

そんなこと知ってますけど!?馬鹿っていうほうが馬鹿なんですけど!!

 

「………ちっ」

 

「舌打ちっ!?」

 

睨み合ってたら、なんと奴は舌打ちをしやがった。舌打ちに対しての俺の反応も他所に、狛犬はもう知らんとばかりに歩き出す。慌てて追い掛ける俺、隣に並ぶと狛犬は歩くスピードを上げた。メチャクチャ速いんですけど、歩くスピード速すぎるんですけど!?必死について行こうにも向こうの方がステータス的にも上なので俺じゃあ追いつけ……走り出しやがった!?

 

「ちょぉ待ーてーよ!」

 

大声で呼び止めるが気にすることなく奴は走って行く。どんどん距離が開いていくことに若干焦りが出てきた。いや、マジでこんなとこに一人にされたら死ぬんですけど!?一人じゃモンスター一体たりとも倒せないから!スケルトンに倒されて俺がスケルトンになっちゃうから!!

 

「ねぇ待って、お願いだから待ってぇ!流石に一人で死にたくないって!俺のレベルまだ70も行ってないんだって!」

 

「……はぁん?」

 

よっしゃ、俺の必死の叫びにより狛犬を止めることに成功したぜ!狛犬は訝しげな声を出した後に立ち止まって、俺が追いつくまでこっちに顔だけを向けていた。置いてかれなくて心の底から安堵しますた。ありがとうございますた

 

「滲み出る弱さには気が付いてたが、まさかそんなにレベル低かったとは……お前どうやって今まで生きてきたの?実はもう死んでたりしない?」

 

「しねーよ!てか滲み出る弱さって何!?」

俺の体からそんな加齢臭みたいなのんが出てるのか!?最近食生活悪いからかな……ココアと肉くらいしか食ってねえし、あと野菜も少々。あれ、別にそこまで悪くなくね?ココア?ココアが原因なの?気になって体を匂ってみるけど特に何も匂いとかはないし

 

「ココアは何も悪くないぞ」

 

「知らねーよ」

 

逆に体からココア臭が漂うのならそれはそれで有りかもしれない。こう、香水付けた後みたいな。セルフ香水なんてそれもうなんて病気?この体はココアで出来ている……アイハブボーンオブマイココア。無限のココアですね、何それ欲しい

 

「てか、俺を置いてったら漏れ無く俺が死ぬからな!罪悪感に苛まれたくなければ俺を置いていくな。死ぬよ?いいの、死ぬよ?死にたくねーんだよ!」

 

だから置いてかないでー、と必死に狛犬の右腕をホールド。はっきし言って気色悪いが生きる為なのだから仕方ないのです。ほら折れろ、お前も男に組み付かれたままは嫌だろう?早く折れるのだ!

 

「うるせぇぇ!わかったから離せ!飽きるまで死なないように見ててやるから離せ!男に腕を組まれる趣味は無ぇ!」

 

俺だって無えよ!何が悲しくて男の腕なんざホールドしなきゃならんのだ。ホールドするならシノンさんの腕ホールドするわ。いや、寧ろして欲しいわ。頼んだら眉間撃ち抜かれそうなんですが。銃とかなくても剣でやりそうだよね。流石シノンさん、きっとその姿もお美しいことでしょう

 

まあいつまでもホールドとか逆に俺の腕が腐りそうなんで、折れたことだし狛犬を解放。最初から連れて行けば良いものを、手のかかる奴め

 

「つっても、お前もう帰りてーんだろ?転移結晶でもなんでも使って帰れよ」

 

「そんな金があるとでも?」

 

「どんだけだよ!?」

 

ポーションとか買い貯めてたら金が無くなったんだよ。俺は悪くねえ。悪いのは等価交換だ。仕方ない、こうなったら真理の扉を開いて錬成出来るようにならねば。あ、でも代わりに腕とか足とか持ってかれるな。………目の前のこいつ差し出したらオーケーじゃね?なんて。同じ顔だし

 

てか、転移結晶高いんだよ。一つ10万以上ってなんなの?俺みたいな貧乏人に全く優しくない件について。ん、待てよ?そう言えばフィリアとキリトに預けてた金があったような……あれも含めれば1つくらいなら買えるかな?いやでも、俺が強くなった時に取りに行くって(勝手な)俺の約束だしなぁ

 

「というわけで転移結晶くれ」

 

「今日会った相手に遠慮ないなお前。実は俺も持ってないんだ」

 

「……なんだ貧乏人か」

 

目の前のワン公もお仲間だった件について

 

「貧乏人に貧乏人とか言われたくないんですけど!?ブーメランが脳天突き刺さってんぞお前!」

 

大丈夫、俺のブーメランは投げたら《あ、ブーメランが!》ってなって戻ってこないから。そのままグラビモスの尻尾に当たって切るまでやってのけるスーパーブーメランなので。調合の材料しっかり持ってかなくちゃ

 

あれ、このブーメランのくだりさっきもやったような気がする

 

「あー、もー……わかったよ。じゃあ死なないように着いて来いよ?」

 

「送ってくれるんじゃねえの?」

 

「バーカ、なんで俺がお前を送らないとダメなんだよ?可愛い女の子になって出直してこい」

 

じゃあどうすればいいんだ!?このまま一晩こいつと過ごせばいいってことなんですかね!?なんとも嬉しくない展開じゃねえか。仮面付けた野郎と空の下野宿とか誰得なんですかね

 

お腹も減ってきたし……お腹をさすってみれば今にもぐぅと音が鳴りそうだ

 

「なあ、じゃあ飯とかどうすんだよ?」

 

「飯?」

 

俺が問いかけると、狛犬はキョトンとした。いや、その「なにそれ?」みたいな声はなんだ?俺は日帰りのつもりだから用意なんてしてないし……。もしかして野宿の用意とかって当たり前のことだったり?そういえば、2巻のリズベットと一緒に鉱石採りにいった話では、キリトが野宿セットみたいなのを出していたような。うそ、俺の装備軽装過ぎ……?ライフラインを自ら断っていくスタイル?

 

「飯、ね」

 

狛犬はまたそう呟いた後に空を見上げ、頭をかいた。暫く沈黙すると、ふと思いついたかのように右手を振り、何か手元を動かしだした。恐らくインベントリを開いているのだろう。目当てのものが見つかったのか、指先でタップする動作をすると、手元に白く、俺の頭くらいの大きさの布袋が現れた

 

「んじゃ、これやるよ」

 

そう言って投げ渡されたそれを慌てて受け止める。開いてみると、黒ずんでいるが食べれそうな……ビーフジャーキーみたいな肉。つまり干し肉が沢山入っていた

 

「おい、これ……」

 

「うるせーのは勘弁だ。それやるからもう黙って着いて来い」

 

いやいや、こんなに貰うのは申し訳ないっていうか

 

「飯を集ろうとか、そんな気じゃなかったんだよ」

 

「いーんだよ、俺それ食わねぇから」

 

うーん、そう言うなら貰うのもやぶさかでは……

 

「いいのか?ホントに貰うぞ?お腹すいたら言うんだぞ?」

 

中身いくらか返すから

 

「黙って着いて来いって言ったろ」

 

それ以降はもう知らん、と狛犬はそっぽを向いて歩き出してしまった。俺も慌てて後を追いかける。干し肉を一つ取り出し、口に咥えて残りはしまった

 

それっきり俺たちの間には会話らしき会話はなく、ただ歩いては襲いくるモンスターと戦い、また歩き出すのみだった。空はすでに暗い。視界の端にメールを受信したマークが現れる。見てみるとキリトからだった。どうやらボスの討伐が終わったらしい。新しいエリアへも行けるようになったんだそうだ。新しいエリアの転移碑から管理区へと既に戻り、キリトはアークソフィアへ帰っている、と

 

俺の姿を誰も見てないからメールしてきたのか……取り敢えず、俺は大丈夫だと返しておこう。強いプレイヤーと一緒にいるって書いときゃ安心するだろう。少なくとも、ここら辺の敵に遅れはとってないしな、狛犬のやつ

 

「ん?……マジか」

 

キリトへの返信内容を考えていると、狛犬が立ち止まった。不思議に思い狛犬が見ている方向を見てみれば、いつのまにか次のエリアへ行く道へと来ているじゃないか。そう言えばこの近くには転移碑があったはず……あ、あった

 

「ゲートが開いてる?誰かがボスを倒したってぇことか」

 

キリト達が解放した後だからな、そりゃ開いてるよ。まあ俺もメール貰ったから知ったんだけど。ぼちぼち日が暮れて結構暗いんで、もうそろそろ帰りませんかね?ほら、転移碑そこにあるし

 

「ゲートが開いてる……なら、この向こうになら」

 

「いや、待てぇい!」

 

なんか呟きながら次のエリアへ向かおうとするんじゃないよ!?夜だって言ってんの!良い子はもうすぐ寝る時間帯なんですが!?なんかカッコイイ橋なのはわかるけどさ!

 

「嫌なら帰ってどーぞ」

 

「はぁ!?……あぁ、もう!」

 

そんなことを言って狛犬はスタスタと行ってしまった。確かに転移碑で帰れるが、このままだと狛犬ともう出会うことが無くなりそうな、そんな気がする。俺はキリトへのメールを素早く書き終えて狛犬を追いかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

from:Shin

 

新エリアなう

 

強い人と一緒にいるから心配しなくてオーケーよ!

朝帰りしちゃうかも(はぁと!?)

 

 

 

 

 

 



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