聖遺物厳選が終わらない!! (ジュレポンズ)
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実数値ステは厳選の敵

どうも、ジュレポンズです。この二次小説はほぼ幣ワットの実録です。
よって細かい部分はうろ覚えだったりもしますが大体ノンフィクションです。
メタ要素、キャラ崩壊(特に空君)が多分に含まれるので苦手な方は注意。


「天動万象!!」

 

「冥王、顕生へ……」

 

「全力攻撃だ!!」

 

「判決を、下す!!」

 

 

 

 

「なぁ旅人……もうそろそろ良さげな聖遺物が出て来たんじゃないか?」

 

「何言ってるのパイモン。メインステは勿論、最低でも有用なサブステが三つ付いてる聖遺物以外は有象無象に変わりないって説明したでしょ? アタッカー用には最低でも会心系二つと攻撃%、サポーターも会心系二つは結構有用だし、それに追加して元チャとかHP%とかから欲しいと思えるステの最大値を狙って行きたいし、聖遺物を妥協したら折角天賦レベルを上げて武器の育成も済ませてるのに鍾離先生の元素爆発で会心時でも五万ダメ超えないとか言う悲惨なダメージしか出ないんだよ? ただでさえ俺達は護摩の杖を手に入れられなかったのに聖遺物まで妥協したら一体ここまでやってきたのは何だったんだろうってなっちゃうよね。もう俺達は退くに退けない所まで来ちゃってるんだよ。つまり周回は続行、満足行くまで樹脂を叩き割るよ」

 

「ヒィ!? いきなり早口で喋り続けるなよぅ、何だか怖いぞ……。そもそもフィンドニールの頂上で鍾離用の聖遺物は出ないだろ?」

 

「うん、まぁ……今はタルタリヤと行秋、それに甘雨の聖遺物を厳選してるからね」

 

 パイモン(非常食)と一緒に秘境を周回中の皆を眺める。

 七周目の周回、連戦での秘境攻略に皆もかなり疲れつつある様だ。

 ……あ、ベネットが霜鎧の王の氷結晶を踏んで吹っ飛んだ。

 

「それならさっきそこそこ良いのが出てた気がするけど、それじゃダメなのか?」

 

 パイモンの言ってる聖遺物は水聖遺物の花の部分の事かな。

 確かにあれは攻撃が実数値だった事を含めても、それ以外は会心二種と元素チャージ効率を持ってるからタルタリヤや行秋にとって結構な良聖遺物だった。

 けど、俺の勘が今回の周回でそれを上回る聖遺物が出ると囁いてる。故に周回は続いていた。

 

「裁きを―――受けよ!!」

 

「GRUUUUU……」

 

 最終的にいつも通りにディルックがトドメを刺して攻略が終わる。

 最初の二回は通常樹脂で報酬を受け取っていたので最後の濃縮樹脂を使って報酬を受け取る。

 

「会心率・会心ダメ・攻撃%……会心率・会心ダメ・攻撃%……会心率・会心ダメ・攻撃%……」

 

「だから、さっきから怖すぎるぞ!?」

 

 ごめんパイモン、今ちょっと集中してるから静かにしててね。

 地脈の奔流よ、今回こそ神聖遺物を俺達に恵んでくれ!!

 

 ……今回出たのは水聖遺物二つ、時の砂と生の花か。

 まずは時の砂の方から確認しよう。

 

「メインHP%にサブ元チャ・会心二種……え? 行秋に滅茶苦茶合う神聖遺物では?」

 

 それも会心率が最大値の3.9%だ。

 元チャは中央値より少し高めの5.8%、会心ダメは最低値の5.4%だけど付いてるだけ良し。

 そう考えると強化で増える残り一枠にもよるけど結構期待出来るぞ……!?

 

「一個目は中々良し、残るもう片方は……」

 

『攻撃力4.1%、会心率3.9%、会心ダメージ7.8%』

 

 ……見間違いじゃない。

 その聖遺物には攻撃力%と会心二種のサブステが付いていた。

 攻撃力%は最低値だけど付いてるだけで儲けもの、会心率と会心ダメージは最大値だ。

 メインステは生の花だからHP実数値で固定されてる。

 つまりこの聖遺物、相当優秀だ。

 

「や、やった!! やったよパイモン、遂に俺達は神聖遺物を手に入れたんだ!!」

 

「おぉぉぉぉぉいいぃぃぃぃぃぃ、おいらを振り回すなよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 俺は歓喜した。

 これでしばらくは聖遺物周回から離れられるかと思うと涙が……。

 

 いや、まぁ待とう。

 どっちの聖遺物もまだ四つ目のサブステが分からないんだ。

 内容によっては微妙な聖遺物になるかもしれない。ここで気を引き締めなきゃ。

 

 どっちの聖遺物から強化しようか迷うけど……。最近はタルタリヤに戦って貰いたいと思ってるから花の方から強化していこうかな。

 そうと決まれば今までに掻き集めた山の様な聖遺物と大量のモラを用意して……。

 

「早速強化を始めようか」

 

「ゴクリ……。今度こそ成功すると良いな!!」

 

 まずは四つ目のサブステに何が出るかを確認しよう。

 今の所は不要な強化済み聖遺物が無いから、チマチマと強化をしていくしかない。

 手間ではあるけど、同時に長い時間緊張と興奮を味わえる。

 やっぱり聖遺物厳選と言えばこの瞬間もたまらないね。

 

「一、二、三……と。パイモン、心の準備は良い?」

 

「あぁ。おいらはバッチリだ!!」

 

 あと一回強化すれば四つ目のサブステが付く、と言う所で息を整える。

 タルタリヤの聖遺物として付いて欲しいのは元素爆発を高速で回す為の元素チャージ効率、欲を言えば蒸発反応で大ダメージを狙えるようになる元素熟知、この二択か。

 

「さぁ……来い!!」

 

 触媒となったモラと聖遺物が光となって対象の聖遺物を包み込む。

 そして強化を終えて光が収まって行く……。

 聖遺物に付いたサブステは一体……。

 

 

 

『攻撃力4.1%、会心率3.9%、会心ダメージ7.8%、攻撃力16』

 

 

 

「……ま、まぁ妥協範囲だね」

 

「元素熟知じゃ無かったけど、防御力が付くよりは良さそうだな!!」

 

 パイモンの言う通り防御力ステが付くよりは優秀だ。

 少なくともここで強化を躊躇う必要はそこまで無くなった。

 あとは会心率や会心ダメージをどれだけ伸ばせるかに掛かってるけど……。

 

「なるようになるさ!! 行け!!」

 

 ありったけの聖遺物とモラを注ぎ込んで一気に聖遺物を強化する。

 

 

 

『攻撃力4.1%、会心率3.9%、会心ダメージ7.8%、攻撃力32』

 

 

 

 一回目のサブステ強化は攻撃力実数値。

 それも中央値より少し下の強化幅。

 

「これは……」

 

「ま、待て待て旅人!! まだ一回目だぞ、ここで諦めちゃダメだ!!」

 

 思わず拳を握りしめてしまったがパイモンの声で我に返る。

 そうだ、まだ一回……。

 ここから会心系を引ければまだ立て直しは効く。

 

 さぁ、次だ!!

 

 

 

『攻撃力4.1%、会心率3.9%、会心ダメージ7.8%、攻撃力50』

 

 

 

「……」

 

「早まるな旅人、落ち着け!!」

 

 またか……またなのか。

 どうして君は俺の邪魔をするんだ……。

 俺はただ仲間の為に神聖遺物が欲しいだけなのに……。

 

「頼む……もう、限界なんだ」

 

 チャンスは後二回。

 ここまで実数値ステが伸びてしまったら神聖遺物にはなり得ない。

 それでも藁をもすがる思いで強化を続ける。

 

 

 

『攻撃力4.1%、会心率3.9%、会心ダメージ7.8%、攻撃力66』

 

 

 

 

 ま た 攻 撃 力 実 数 値 か

 

 

 

 

「あんまりだぁあああああああ!!!!」

 

「旅人、しっかりしろ!! 旅人ー!!」

 

 思わず誰も居ない方向に元素爆発を放つ。

 ヒルチャールさえ一体も居ない、そんな場所でうねりを上げて竜巻が吹き荒れる。心なしかいつもの元素爆発よりも範囲が広がっている様な気がしたけど、そんな事はどうでもよかった。

 

「もう、もう嫌だ……。こんな……こんなのって無いよ!!」

 

 あまりの光景に心が折れそうになる。

 早く終わってしまいたい、頼むから終わらせてくれ……(※聖遺物厳選)

 

「元気出せ旅人!! まだもう一つの聖遺物が残ってるだろ? それを強化してみても良いんじゃ無いか?」

 

「ッッ!? 確かにまだ行秋の為の聖遺物が残ってる……」

 

 パイモンの言葉で再び我に返る。

 そうだ、今日の俺達は一味違う。

 

 一つ目の神聖遺物モドキを餌に真の神聖遺物を作れるチャンスが残って居るんだ。

 ……取り敢えず、この聖遺物を最大まで強化して次の供物にしよう、そうしよう。

 

 

 

『攻撃力4.1%、会心率7.8%、会心ダメージ7.8%、攻撃力66』

 

 

 

 出ました、聖遺物厳選名物『他の強化は失敗して最後だけ良い伸び方をするサブステ』

 最後の最後で会心率が爆伸びしちゃったよ。

 

「……早く次の聖遺物を強化しよう」

 

「うぅ……旅人の顔が怖いぞ……」

 

 パイモンが泣き出しそうな顔になってるけど、俺だって泣き出したい。

 神聖遺物候補がもう一つなかったら泣いてたかもしれない。

 このゴミ聖遺物を餌に、一気に強化する。

 もうゆっくりと真綿で絞め殺される様な苦しみを味わいたくない。

 

 やるなら一気にやってくれ!!

 

 ……強化する聖遺物はメインステHP%の時の砂、サブステはこんな感じだ。

 

『元素チャージ効率5.8%、会心ダメージ5.4%、会心率3.5%』

 

「頼む……神聖遺物来い!!」

 

 手を合わせて、目を閉じて次の聖遺物を拝む。

 一気にサブステ強化四回分になるよう聖遺物を捧げ、それらが光となって聖遺物に吸い込まれていく。

 そして―――

 

 

 

 

 

『元素チャージ効率5.8%、会心ダメージ5.4%、会心率6.2%、防御力21.9%』

 

 

 

 

 

 ―――目を開けると、そこには地獄の様な光景が映っていた。

 

「世界に……拒まれた……」

 

「旅人ーーーー!!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 どうやら、今回の聖遺物厳選は俺達の敗北で終わってしまった様だ。

 仕方が無いので鹿狩りに行ってやけ食いする事にした。

 

「今日は残念だったな……」

 

「……そうだね」

 

「ほら!! おいらの分の串焼き、少し分けてやるから元気出せよな!!」

 

「……ありがとう、パイモン」

 

 パイモンが珍しく自分の食べ物を分けてくれた。

 食べ物に目が無いパイモンにしては珍しい、それだけ俺の落ち込み具合が酷く見えるのかな。

 

 それにしても……今回の聖遺物もまた次の聖遺物の供物にするしか無いか。

 今回の二つは実戦投入出来ない程に酷い強化内容だった。

 

「……なぁ、おいらも強化してみて良いか?」

 

「え? パイモンが?」

 

 鹿狩りで食事を終えてモンドを散歩していると不意にパイモンがそう口にする。

 そう言えばパイモンでも聖遺物の強化って出来るのかな……。

 面白そうだし、少し試してみよう。

 

「良いよ。やってみて」

 

「よぅし!! おいらに任せろ!!」

 

 パイモンは張り切って聖遺物強化に挑戦する。

 強化して貰う聖遺物は……パイモンの言ってた聖遺物で良いか。

 

『攻撃力16、会心率2.7%、元素チャージ効率5.8%、会心ダメージ6.2%』

 

 水聖遺物の生の花。生の花だからメインステはHP実数値で固定、サブステは行秋にもタルタリヤにも持たせられるような汎用型。サブステの初期値はそこまで優秀とは言えないけど、妥協聖遺物としてはまずまずの性能だ。

 

「行くぞ……えい!!」

 

 パイモンが多量のモラと聖遺物を捧げ聖遺物を強化する。

 既に何度か強化済みの聖遺物を集め、それらを吸い込んだ聖遺物は一気に最大強化に到達する。

 そして肝心の強化性能は……

 

 

 

『攻撃力16、会心率13.2%、元素チャージ効率12.3%、会心ダメージ14.0%』

 

 

 

 

 強化回数五回、内訳的には会心率三回、元素チャージ効率と会心ダメージに一回ずつ。

 会心率も会心ダメージも10%を超えた、妥協聖遺物としてはこれ以上ない出来栄えだった。

 

「……パイモン!!」

 

「うわぁ!? いきなり抱き着いてくるなよぅ、息苦しいぞ……」

 

 感極まって思わずパイモンに抱き着いた。

 もちもちとした肌触りに少し高めの体温が心地良い。

 

「やっぱりパイモンは最高の仲間だよ」

 

「うぇっ!? いきなりなんだよぅ……」

 

 パイモンは俺の腕の中でもじもじと体を動かす。

 

 次の聖遺物もパイモンに強化して貰おうかな……。

 いや、頼りすぎるのもよく無いか。

 でもこの聖遺物のお陰で聖遺物周回のモチベーションが保てそうだ。

 

「よし、また明日も頑張ろう」

 

「おう!! おいらもついて行くぞ!!」

 

 新たな神聖遺物を求めて、俺達の秘境周回はまだまだ続くのだった……。



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杯の厳選難易度だけ異様に高い

続いた。今回はアルベドがメインの回、少し刻晴も。


「何で元素って七つもあるんだろう……。お陰で厳選が大変だ」

 

 今日も今日とて聖遺物厳選に勤しんでいる俺はふとそんな事を思う。

 厳密には元素が七種類あるのは仕方が無い。

 問題なのは元素ダメージを強化したいと思うと杯の厳選を余儀なくされる。

 そして、その杯のメインステは驚く事に十一種類も存在していると言う点だ。

 

 メインステを厳選するだけでも一苦労、サブステも厳選となると地獄、そしてそこから五回のサブステ強化による運試しと言う三重苦。うっ、頭が……。

 

「……旅人、頭を押さえて苦しそうにしてるけど大丈夫かい?」

 

「アルベドか。大丈夫、心配無いよ」

 

 俺に声を掛けてくれたのは西風(セピュロス)騎士団の主席錬金術師、アルベド。

 岩元素の神の目を持つ彼は、味方の攻撃に合わせて追撃を行う岩元素の華を地面に設置し、味方の火力支援を行ってくれる優秀なサポーターだ。

 

 最初に彼がこの旅に同行すると言った時は、思わず意外だと思ってしまった。

 錬金術以外にはあまり興味が無い物と思って居たけど、案外そうでもないらしい。

 

 彼の描くスケッチはそこに風景や動物が実在するかの様な精巧さで描かれているし、彼の作るオリジナル料理は素材の味を最大限生かし、魚の芳醇な香りと果物のさっぱりとした風味が口いっぱいに広がりパイモンも絶品と太鼓判を押す程の一品だった。

 

 確かに興味の無い事は少し乱雑になる傾向はあるけど、やろうと思った事はとことん突き詰める彼の才能は旅の中でもよくお世話になっている。

 

「もし体調が悪くなったらボクが治療薬を調合しよう。何かあったら頼って欲しい」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

 ……お世話になってるんだけど、たまーに怪しい実験に協力させられるのが怖い。

 実際は体に害が出る物は一つも無かったし、アルベド自身もそこら辺のリスク管理はしっかりしてるから心配ないんだけど……。

 でもやっぱり自分が飲む物に蝶の羽や晶核を入れられてるのを見たら誰だって躊躇すると思う。

 

 それはそれとして……俺は彼に渡している聖遺物を見る。

 

 現在の彼の聖遺物セットはそこそこ優秀な効果が付いた旧貴族の花に守護2、盤岩2のサポート特化型だ。

 

 アルベドの設置する『陽華』は、彼の防御力依存の岩元素ダメージを繰り出す。

 従って2セット効果で防御力が上がる守護シリーズと岩元素ダメージを伸ばせる盤岩シリーズは相性が良い。

 何より守護シリーズは比較的簡単に手に入る聖遺物ながら彼との相性がピッタリな為、非常に重宝している。厳選難易度も低いしね。

 

 普段は腐るような聖遺物でも、彼の手に渡れば神聖遺物となる可能性を秘める様になったのは大きい。だけど……そんな彼に持たせている聖遺物の中で一つだけ俺の頭を抱えさせる物がある。

 それが先程から話題に出ていた杯の部分だった。

 

 彼が持っている杯は危岩盤石の杯。

 元素ダメージを伸ばせる杯や会心系を伸ばせる冠は中々入手し辛い聖遺物の方が効果が高い。

 だからこそ盤岩シリーズの杯を厳選していた訳だけど……。

 

 サブステだけ見れば防御力と会心ダメが17%超、それに加えて元素チャージ効率が11%ある。

 会心率は低めの3.1%だけど、全体的に見ればアルベドに持たせるのに不足はない内容だ。

 ただメインステが問題だった。

 この杯、最初は鍾離先生にHP特化型として持たせたかったからメインステがHPになっている。

 

 それを見る度に何度も思った……何でこの杯岩元素バフじゃないんだろうって。

 

 優秀な盤岩シリーズに優秀なサブステ、だけどメイン効果が致命的に噛み合わないと言う何とも言えない歯がゆさをアルベドを見る度に味わっていた。

 特にアルベドは秘境周回メンバーとして日々周回に勤しんでくれている。

 そんな彼に持たせている聖遺物が微妙に厳選終わって居ないのがすっごく申し訳なく感じる。

 まぁこれは殆どの人達に言える事なんだけど……。

 

「……よし」

 

 久しぶりに岩聖遺物を厳選しよう。

 鍾離先生もアルベドもしばらく聖遺物の更新が滞っていたし、つい最近ノエルの命の星座が全ての輝きを取り戻した所だ。

 三人分の聖遺物更新を目指して、いざ秘境周回だ!!

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「剣光よ、世の乱れを斬り尽くせ!!」

 

 刻晴が元素爆発を発動し、目にも止まらぬ速さでアビスの魔術師たちを切り刻む。

 彼女の聖遺物は強化こそされているものの、雷元素特化の聖遺物と物理特化の聖遺物をごちゃ混ぜに付けられているせいで本来の実力が発揮できていない。

 それでも難なく敵を倒せる辺り彼女の素の実力の高さが窺い知れる。

 

「……刻晴の聖遺物もちゃんと厳選しないとな」

 

 アルベド達の聖遺物厳選中にそんな事を思う。

 聖遺物厳選をしていると途中で周回して貰う人達の分の聖遺物も厳選したくなり、結果としてどっち付かずになりそうだから……実際なってしまっているから怖い。

 

 心を鬼にして岩聖遺物の厳選を続ける。

 すると三回目の周回。天然樹脂で報酬を受け取るとその報酬の中に例の杯が現れた。

 

「今回は比較的早かったね」

 

「そうだね。これで終われば良いんだけど……」

 

 声を掛けて来たのは相も変わらず周回の固定メンバーに抜擢されているアルベド。

 自身の聖遺物を厳選するのに自分で秘境を周回させられている彼の事を思うと……。

 とまぁ、それはともかく……今回出て来たのは危岩盤石の杯。

 性能次第によってはアルベド達の聖遺物を更新出来るけど……。

 

「さて、性能は……っと!?」

 

「どうしたんだい旅人? そんなに驚いた顔をして……なるほど」

 

 驚愕のあまり目を見開いて固まった俺を見たアルベドは、その元凶となった聖遺物を一瞥して直ぐに納得した。

 この聖遺物のステータス……それは―――

 

 

 

『会心率3.9%、防御力5.8%、元素熟知19』

 

 

 

 会心率、ヨシ。防御力%、ヨシ。元素熟知、まぁまぁヨシ。

 アルベドに持たせる性能としてはまずまず。だがこの位の聖遺物なら割とよく出て来る。

 

 肝心なのはこの杯、岩聖遺物のメインステ岩元素ダメージバフ付きだと言うその一点だ。

 

 元素バフと聖遺物の種類が噛み合わない事なんて日常茶飯事だ。

 旧貴族シリーズや剣闘士シリーズならまだしも、毎回の様に杯に炎バフを付ける沈淪シリーズや氷風シリーズに、そもそも杯自体出てくれない魔女シリーズと、とにかく杯厳選は骨が折れる。

 

 けど、この聖遺物はその壁乗り越えた。

 いわば一握りの逸材とも言える聖遺物だった。

 

「ゴクリ……」

 

 思わず生唾を飲み込んで杯を凝視する。

 メインステは三つ。その中で元素熟知はあっても良いが上がりすぎてもアルベドには合わない。

 どうにか防御力%……あわよくば会心率に極振れして欲しい。

 それと四つ目のサブステで会心ダメージが付いて欲しい。

 

「その聖遺物を強化するのかい?」

 

「うん。正直、今日はこの聖遺物を超えられる聖遺物には出会えない気がする」

 

 アルベドの問いに俺は即答する。

 早速大量の聖遺物とモラを用意し、聖遺物の強化に臨む。

 まずはサブステに何が付くのかを確認しよう。

 

「会心ダメージ……会心ダメージ……会心ダメージ……!!」

 

 居もしない聖遺物の神に祈るかの様に俺は膝を付き、手を合わせて真剣に願う。

 光となってモラと聖遺物を吸い込み強化された杯に付いたサブステは―――

 

 

 

『会心率3.9%、防御力5.8%、元素熟知19、攻撃力16』

 

 

 

 ―――悪夢の様なサブステだった。

 

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」

 

「ちょっ、旅人!? そんなに震えてどうしちゃったの!?」

 

「心配ない。聖遺物に付いた効果が彼にとって望んでいたものにならなかった時に起こる発作だ。時間が経てば現実を受け入れ始めるから、次第に収まる」

 

「そ、そうなの? 収まるなら良いんだけど……」

 

 刻晴とアルベドが何か言ってるけど上手く認識できない。

 それだけ今、目の前で付いたサブステは俺にとっての悪夢だった。

 止めろ……止めてくれ!! もう強化回数を攻撃力実数値に吸われたくなんて無いんだ!!

 

「そろそろ落ち着いたかい?」

 

「あぁ……ごめん。心配かけたね」

 

 しばらくしてようやく体の震えが収まる。

 震えている間、ゆっくりと背中をさすってくれたアルベドにお礼を言う。

 そうだ……、逆に考えよう。『攻撃力実数値に強化吸われちゃってもいいさ☆』ってね!!

 

 いや、良くない(手の平遺跡守衛)

 

 良くは無いけど、ここで止まる訳にも行かない。

 もうここは一気に畳みかける。

 シールドが割れたアビスの魔術師をボコボコにする勢いで聖遺物を強化しよう。

 

 もし熟知や実数値に吸われ過ぎたらその時はその時だ。

 

「さぁ……勝負だ!!」

 

 俺は気迫を込めて残りの聖遺物とモラを捧げる。

 一際大きな光が杯を包み、秘められた力が一気に膨らんでいくのを感じる。

 

 ……強化が終わり杯はその輝きを収める。

 一気に最大強化まで叩き上げられた杯の最終的なステータスは――――

 

 

 

 

『会心率3.9%、防御力16.8%、元素熟知19、攻撃力47』

 

 

 

 

 

「うん、うん? うーん……うん。うぅん?」

 

「アルベド、この反応はどうなの?」

 

「これは……良いとも悪いとも言えない、本当に何とも言えない表情だ。珍しいし、スケッチに残しておこう」

 

 アルベドが唐突に俺の表情をスケッチに残しだす。

 さて、それは置いといて聖遺物の強化内容だけど……実数値に見事二回吸われたなぁ。

 四つ目として付いた事も含めると三回、残り二回の強化は全て防御力%に行った様だ。

 

 アルベドに持たせる聖遺物としては何とも……。

 まぁ防御力%高いし、メインステ岩バフだから妥協は出来るのかも知れないけど、今彼が持ってる聖遺物とどちらの方がダメージが伸びるのか分かりずらい。

 

 岩バフ持ってるから、こっちの方が優秀かも……?

 

「まぁ試してみれば良いか」

 

 考えるより行動。早速近辺のヒルチャール相手にアルベドに試運転をお願いした。

 すると、やっぱり岩バフがメインステについてる影響は大きかったようで、『陽華』の通常時・会心時のダメージ、元素爆発の火力が以前の聖遺物と比べて上昇していた。

 

「うん。この聖遺物はボクにピッタリだ」

 

「良かった……ようやく一つ更新出来た……」

 

 俺は久しぶりに聖遺物を更新出来たのを見てほっ、と一息つく。

 また一歩、究極の聖遺物セットへと近づいた様だ。

 

「先はまだまだ長そうだ……」

 

 俺はふと空を見上げて言葉を漏らす。

 次に周回する秘境は何処にしよう。

 そんな事を考えながら俺は頭上に広がる星空を眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ旅人。君にこれを」

 

「スケッチ? なにこれ……って、俺?」

 

 後日、アルベドに一つのスケッチを手渡された。

 そこには何とも形容し難い表情をした俺の顔が精巧に描かれていたのだった……。




アルベド君は天井調整で単発回してたらたまたま来ちゃって、最初は育成に消極的だったんですが白亜の章を進め、元素スキルの仕様上無・微課金勢にも優しい性能だと知り一気に好きになりました。
今では鍾離先生と一緒に秘境周回の半固定要員として戦って貰ってます。
聖遺物もっと厳選してあげたい……。


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キメラ聖遺物セットの可能性を求めて

続いた(二回目) 感想、お気に入り登録ありがとうございます。
感想については返信は出来ませんが励みになってます。
今回は刻晴ちゃんメイン。個人的に空君は刻晴ちゃんとくっついて欲しい。


 

「……ちょっと旅人? 私の話、ちゃんと聞いてるの?」

 

「うん、聞いてるよ刻晴」

 

 いま俺の前に立ち塞がって居るのは刻晴。璃月(リーユエ)を統治する璃月七星の一人、玉衡(ユーヘン)だ。

 雷元素の神の目を持っている刻晴は、剣に雷元素を纏わせ、圧倒的な速度と手数で敵を瞬く間に切り刻んで行くのを主な戦い方とする。

 

 そんな彼女は俺の前で腕を組んでこっちにジト目を向けてきている。

 可愛いんだけど威圧感が凄い。

 

「最近君と一緒に居る時間が少なくなってるから、私の事を忘れられてるんじゃないかって……。無理にとは言わないけど、出来れば出会った頃と同じようにもう一度、君と旅がしたいわ」

 

「ん゛ん゛っ」

 

 刻晴の言葉が俺の胸に突き刺さる。

 彼女と出会ったのはまだ仲間が少ない頃だった。

 

 他の皆がモンド出身の中で、刻晴だけが唯一璃月出身という事で少し肩身が狭く感じるかも……と思って一緒に居る時間を多めに取っていた。実際にはそんな心配は全くなかったが結果として、一時期は俺と刻晴はいつも一緒に居るのが当たり前、みたいな関係になっていたのだ。

 

 だが、最近は凡人の定義をよく理解していない元・岩神だったり、俺を相棒呼ばわりしてくるファデュイの執行官だったり、杏仁豆腐が好きなクール系仙人と一緒に居る事が多くなってしまい、必然と彼女との交流の機会と言うのは減っていた。

 それを寂しく思った彼女が久しぶりの秘境攻略に乗じてこうして話しかけて来たのだ。

 

 ちなみに仙人と執行官の間で度々衝突が起こりそうなのは本当に勘弁して欲しい。

 

「……わかった、少し時間を貰って良いかな」

 

「え? 良いけど……どうしてか聞いてもいいかしら?」

 

「ちょっと用意したい物があるんだ。すぐに済むから、少しだけ待っててくれる?」

 

「そう……わかったわ。でも、なるべく早くお願いね?」

 

 俺は刻晴に少しだけ時間を貰い、その間に用意を整える。

 その用意とは……勿論聖遺物だ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 刻晴用の聖遺物は大分前から厳選して来たが、未だに厳選が終わって居ない。

 と言うのも、そもそも刻晴の戦闘スタイルは雷剣型以外にも物理重撃型があり、様々な理由があってその二つのスタイルを右往左往していた所為だ。

 

 まず最初に手を付けたのは物理型。

 元素反応? 何それ、美味しいの? と言う感じに元素の力にあまりにも無知だった当時の俺は、火力こそパワーと言わんばかりに物理型で戦って貰っていた。実際強かった。

 

 だが、刻晴の命の星座が一つ輝きを取り戻すと同時に彼女の星座は雷元素攻撃の強化に寄った物が多いと判明した。その上物理重撃型はスタミナの消耗が激しく、彼女の機動力を存分に生かせない……となり雷剣型への移行を決意。

 

 しばらく雷聖遺物を厳選しようと秘境に籠るが、中々落ちない所に第二の転機。

 

 鍾離や魈の為に狙っていた護摩の杖をすり抜けて風鷹剣が当たってしまった。

 風鷹剣は物理ダメージを伸ばせる片手剣であり、入手し辛い武器なだけあってそれなりに強い。

 更に血染めシリーズの花の厳選が終わり、護摩の杖を入手出来なかった俺はヤケクソになって、再び刻晴に物理型で戦って貰う事にした。

 

 そうしてしばらくしていると、今度は刻晴の星座がまた一つ輝きを取り戻した。

 それだけだったらまだ大丈夫だったが、最近になって物理攻撃に耐性を持つ敵が増え、物理型の刻晴では中々ダメージを与え辛いと言う状況に陥った。

 加えて雷聖遺物の羽根と雷バフを持つ杯で会心ダメ20%超えの物が出来上がったので、これを機に雷剣型に再び戻した。

 

 だが変えて間もなく、テイワット内で新たな秘境が見つかった。

 その秘境から入手出来る蒼白シリーズは物理強化聖遺物であり、刻晴との相性も良いと来た。

 直ぐに俺はその秘境から全ての聖遺物をむしり取る勢いで周回し始めた。

 

 けど、妥協出来そうな聖遺物も新たに仲間に加わったエウルアに優先して渡していた所為で中々刻晴の分の厳選が終わらない。

 あれよあれよとしている内に今度はテイワット内で元素に対する研究が進み、元素熟知を上げる事によって元素反応のダメージを更に伸ばせるようになった。

 これによって再び雷剣型の株が上昇……と言う所で松韻大剣を押しのけた風鷹剣が一凸した。

 

 もう間が悪いとかそう言うレベルじゃない。

 きっと誰かに仕組まれていると思わざるを得ないレベルで刻晴に対する当たりが強かった。

 

 中途半端な聖遺物厳選、噛み合わない武器効果、二つの輝きを取り戻す命の星座。

 ここから導かれた俺の結論……それは!!

 

「仕方ない、キメラ聖遺物セットにしよう」

 

 キメラ聖遺物セット。

 それは同種類の聖遺物を装備した際のセット効果を発動させず、単体のポテンシャルが高い聖遺物をとにかく装備した状態。

 強力なセット効果を発動出来ない代わりに厳選難易度が格段に下がるうえ、普段使われない様な種類の聖遺物だろうと輝ける機会を与えられる。それがキメラ聖遺物セットだ。

 

 正直、これを刻晴に持たせると言うのは心苦しい。

 統一感ないし、雑に掻き集めました感が半端ないし。

 

 

 

 けど……あまりにこだわり過ぎてると厳選が終わらないんだ!!(魂の叫び)

 

 

 

 

 俺も刻晴と一緒に旅がしたい。

 彼女に存分に力を振るって貰えるように聖遺物厳選を頑張って来たけど、その所為で彼女と旅が出来なくなるってそれ本末転倒じゃないか!!

 もう俺は迷わない。例えキメラセットだろうが彼女が輝く姿を見れるならそれでいい。

 

「パイモン、今までに集めた聖遺物全部精査するよ」

 

「うぇ!? オイラも一緒なのかよ……。後でスイートフラワー漬け焼きを奢ってくれよな!!」

 

「うん、約束する」

 

 パイモンに協力を取り付けた所で、俺達は聖遺物の山からひたすらに単体性能の高い聖遺物を引っ張り出す。

 杯、羽根、花の部位は既に満足出来そうな聖遺物に心当たりがあったけど、問題は時の砂と冠。

 そこで俺はふと、時の砂に関しても確か良さげな物があったと思いだした。

 

「パイモン、前に甘雨に持っててもらった楽団シリーズの時の砂……あれどこだっけ?」

 

「それならこっちにあったぞ。ほら!!」

 

 俺はパイモンから聖遺物を受け取り、その性能を確認する。

 ……うん、凄い。

 

 メインステ攻撃力%な上に会心系二つが15%超えと言うステータスの暴力。

 会心ダメージはまだしも、会心率15%超えは実質メインステが二つ付いている様な物だ。

 防御力%も12%になっているのが少し勿体ない気もするけど、上げ辛い会心率をサブステでこれだけ盛れていれば合格点だろう。

 

 後は会心率冠が欲しい所だけど……厳選の終わってる会心率冠はなさそうだ。

 

「仕方ない、手持ちの聖遺物を強化するしか無いか……」

 

 そもそも会心率ステを持った冠自体少なかった。

 見つかったそれらはサブステに恵まれずほったらかしにされていた物ばかりだった。

 

「うーん……。ここまで酷いとはね」

 

「でも、これなんか良いんじゃないか? 一応会心ダメージが付いてるぞ」

 

 パイモンは先程までくぐり抜けて遊んでいた冠を指さす。

 確かにメインステ会心率でサブに会心ダメージが付いているけど……。

 いや、躊躇している時間はないな。

 

「刻晴を待たせてるんだ、さっさと終わらせよう」

 

「おう!! オイラも精一杯応援するぞ!!」

 

 早速聖遺物とモラをかき集め、強化の準備に取り掛かる。

 時短の為に強化済み聖遺物を触媒にして一回の強化で終わらせよう。

 

「頼む、会心ダメージ伸びてくれ!!」

 

 集められた聖遺物とモラが―――(以下略)

 さぁ、結果は……

 

 

 

 

『会心ダメージ17.9%、攻撃力33、HP538、防御力21』

 

 

 

 

 

 元々サブステが三つだった事を考えれば二回会心ダメージに強化が入ったし、まぁヨシ!!

 

 そろそろ時間が不味い。

 再びパイモンに手伝ってもらい地面に広げた聖遺物を片付け、冒険のお供として彼女の好物であるエビのポテト包み揚げをこしらえる。

 気合を入れて少し作りすぎた分はパイモンのお腹に収まった。

 

「よし、急ごう」

 

 冒険の支度を整えた俺は、待ち合わせ場所へと急いで向かった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「お待たせ刻晴。はい、これ」

 

 待ち合わせ場所には既に刻晴が居た。

 俺は持って来た聖遺物達を彼女に渡す。

 

「これ……私の為に?」

 

「うん。俺も刻晴と一緒に旅がしたかったんだけど君の実力を引き出せる程の聖遺物が中々無くて……。結局、手持ちの中で一番強い聖遺物を厳選して持って来たんだ」

 

 俺の話を聞いた刻晴はまじまじと聖遺物を見つめる。

 刻晴に釣られて聖遺物を見ていると、ここに集まった聖遺物は何かと彼女に縁のある物が多い事に気が付いた。

 

「懐かしいね。この花の聖遺物なんか大分昔に出た奴だったよね」

 

「そうね。君ったら聖遺物のステータスを見るなり飛び上がって喜んで……」

 

「あはは……そんな事もあったなぁ」

 

 一番最初に神聖遺物認定した血染めシリーズの花。

 その頃は入手難易度の高い聖遺物は中々手に入らずに居たから、この聖遺物が出来た時には本当に嬉しかった。

 

「これは秘境に出て来る敵が殆ど雷元素だったのに、刻晴が物理でゴリ押しした時の奴じゃなかったっけ?」

 

「そ、それは当時の私が物理は元素関係なく戦えるのが便利だって思ってたから……」

 

 この雷聖遺物の羽根も、刻晴と一緒に秘境を回っている時に入手した時の物だ。

 出て来る雷スライム達を全部物理で倒していく刻晴の姿は圧巻の一言だった。

 

「あ、これって私が秘境で三人のアビスの魔術師を相手してた頃の……」

 

「本当だ、懐かしいなぁ……」

 

 旧貴族シリーズの杯は、当時風元素の拡散でアビスのシールドを逆利用すればいいと知るまで刻晴で全員のシールドを叩き割って回っていた頃の物だった。

 その頃は鍾離も居なくてアビスの攻撃に四苦八苦してたな。

 

「ふふっ。本当、懐かしいわね」

 

「そうだね」

 

 刻晴と二人で笑い合う。

 

 今でこそ狂ったように効率や性能を求めて秘境を回っているけど、その頃は純粋に彼女や仲間たちと一緒に秘境を攻略するのが楽しかった。

 

「……また、一緒に冒険しよう。今日はお弁当も作って来たんだ」

 

「あ、この匂い……ハッ!?」

 

 お弁当の中身に気付いた刻晴は、思わず口元が緩んだ事に気が付くと頭を横に振って意識を逸らした。

 

「ともかく、これで準備万端ね!! さぁ一緒に行きましょう!!」

 

 言うが否や刻晴は俺の手を取って走り出す。

 久しぶりに彼女と共に駆け巡ったこの世界は、いつもよりも鮮やかに映って見えたのだった。




刻晴ちゃん可愛いよね。
片手剣・雷元素・重撃メインって言うのが工夫しないと活躍し辛いって言う状況を作ってるのかもしれないけど、操作してて楽しいのはぶっちぎりで刻晴ちゃんなので探索は基本刻晴ちゃん入れるんですよね。次点で魈君。
いずれはガチ厳選聖遺物で大化けさせてあげたい……。


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聖遺物廚のハウジング事情

銀髪後輩系怪力メイドさん(属性過多)のノエルちゃん、可愛いよね
四風すり抜けて天空大剣が突っ込んで来たので同時に育成してます。
深境螺旋で使って見たいと思ってたから丁度良かったかもしれない。

※今回のお話にはノエルちゃんのデートイベント内容が含まれます。
まだ終わってないと言う方は急いで履修しましょう、ノエルちゃんは可愛いぞ※


 塵歌壺、それは仙人の力を用いた凄い道具だ(IQ2)

 

 壺の中に自分だけの特別な空間、洞天を作りだして様々な調度品を置く事が出来る。

 最近では洞天通行証と言う物が出来たお陰で、仲間を塵歌壺に招く事も出来るようになった。

 

「こんにちは、調子はいかがですか?」

 

「やぁマル。最近は本腰を入れて木材の収集に励んでたんだ。これでもっと沢山の調度品を作れると思うよ」

 

 俺に話しかけて来たのは塵歌壺の管理をしている壺の精霊、マル。

 あらゆる調度品やその設計図、果てには刹那樹脂や聖遺物強化に使える祈聖のエキス、モラに魔鉱に経験本までもを売ってくれる最高の存在だ。

 ただし、彼からそれらを購入するためには洞天内で得られる宝銭を使う。

 

 宝銭は洞天内の仙力によって貯まる速度が変わり、仙力が高い方がより早く貯まって行く。

 そして仙力は塵歌壺内に設置された調度品の数によって決まる。

 即ち、より多くの買い物を彼からしたいならば、必然と塵歌壺の中を様々な調度品で充実させていかなくてはならない。

 

 マル……なんて策士なんだ……!!

 

「調度品が増えたお陰でこの洞天も賑やかになりましたね。ただ……もう少し配置に工夫をしてみてはどうですか?」

 

「ぜ、善処します……」

 

 マルの言いたい事も分かる。

 俺はとにかく仙力上げに重点を置いていたから、メインの島以外に設置した調度品がごちゃごちゃな状態で放置されっぱなしなのだ。

 それもこれも祈聖のエキスが欲しいが為だったからなんだけどね。

 

 でも今は一段落ついたし、そろそろ洞天内の調度品整理を始めても良いかもしれない。

 俺は早速、サブの浮島へと移動する。

 ……徒歩で行かなきゃいけないのがちょっとしんどくてどうしても放置しちゃうんだよね。

 

「ふぅ……はぁ……や、やっと着いた」

 

 息を切らしながらも辿り着くと、そこには適当に配置された調度品の数々が。

 正直来るだけでも精一杯なのにこれからこの調度品を整理するとなると気が滅入る。

 

「……やっぱやめよう!!」

 

「おいおい旅人、それじゃマルが怒ってアイテムを売らなくなるかもしれないだろ? そうなったら困るし、頑張って整理しないか?」

 

「そうは言ってもね……パイモンはこの調度品の山を何とか出来る?」

 

「うん、無理だな!!」

 

 自信満々に言う事じゃないよね。

 まぁ俺も無理だと思うけど。

 

「でも、何とか出来そうな仲間が一人居るぞ!!」

 

「……あ、確かに」

 

 けど、パイモンの一言で一人の仲間の姿が思い浮かぶ。

 彼女とは割と昔からの付き合いで、最近はこの洞天によく遊びに来ていたはずだ。

 そう言えば「メイドとしての仕事が少ない」と言っていたし、今回の調度品の整理を快く手伝ってくれるかもしれない。

 

「よし、じゃあ呼んでみようか」

 

「おう!! せーの……」

 

 

 

 

「「ノーーーーエーーーールーーーー!!」」

 

 

 

 

 俺とパイモンが声を張って叫ぶと、邸宅の在ったメインの島から一気に物凄い勢いでこちらへと向かって来る人影が一つ。一体どこからそのスピードが出て来るんだろうと不思議に思っている内に件の人物は俺達の前に到着した。

 

「お待たせいたしました、栄誉騎士さま。何か御用でしょうか?」

 

「久しぶりノエル。急な頼みで悪いんだけど、一緒にこの調度品を整理して欲しいんだ」

 

「なるほど、お片付けならお任せください!!」

 

 やって来たのは西風騎士を目指す騎士見習いのメイド、ノエル。

 モンドで彼女の名を呼べばどこであろうと駆けつけてくれると噂される程、彼女は他人の手助けを率先して行ってくれる。

 そんな彼女だが、最近この洞天に入り浸っている時間が多く、洞天内の管理は基本的にマルが行ってくれているお陰でやる気を持て余し気味だった。

 

 そこへ今回の頼み事があったからいつも以上に張り切っているのかもしれない。

 

 何にせよ彼女が頼もしい助っ人である事には変わりない。

 俺はパイモンに動物達の誘導を、ノエルに小型の調度品の片付けを頼み、俺自身は大型の調度品を片付ける事にした。

 

「さて、二人に他のを任せたとは言え……」

 

 動物と小型調度品を二人に任せたは良いが、乱雑に置かれた大型の調度品の整理は中々に骨が折れそうだった。

 普段ならマルも手伝ってくれるが、今回は俺が何とかしないといけない。

 悩んでいるのも勿体ないので、比較的簡単な荷車辺りから手を付け始める。

 

 元素の力も駆使して何とか一つ、二つと撤去を進める。

 ようやく少し片付いたかな? と言う所で一休みしようとして―――

 

「栄誉騎士さま、小型の調度品は全て片付けました!! 次はどれを片付けますか!?」

 

「うわぁ!?」

 

「え、栄誉騎士さま!? 大丈夫ですか!?」

 

 ―――後ろから声を掛けて来たノエルに驚いて転んだ。

 油断してた……。普段なら反応出来るはずなのに、ノエルのメイドとしての身のこなしが完璧すぎて背後に立たれた事を悟れなかった……。

 

「だ、大丈夫……ちょっと驚いただけだから」

 

「そうですか? ……いえ、掌を擦り剝いてますね。私が治療します!!」

 

 派手に転んだ俺の姿を見て申し訳なさそうにするノエル。

 俺は直ぐに立ち上がって何でもない事をアピールするが、丁度転んだ時に手を付いた所為か少しだけ掌が擦り剝けていた。

 それに気付いたノエルは懐から治療箱を取り出して応急処置を始める。

 

 ……その大きさの治療箱をどこから取り出したの?

 

「……はい、これで一安心ですね」

 

 そんな事を疑問に思って居ると、瞬く間に応急処置が終わっていた。

 いつも思うけど、ノエルの問題解決速度って早過ぎると思うんだ。

 これで十分戦闘も出来るし正直今すぐにでも騎士団に入団出来そうな気もするんだけど……やっぱり困った人を放っておけなさ過ぎるのが問題なのかなぁ。

 

 ……にしても、以前は俺の事を『先輩』と呼んでくれていたノエルが、いつの間にか出会った頃の呼び方に戻っている。栄誉騎士さまって、ちょっと他人行儀だから少し気になっちゃうな。

 丁度良いし、何かあったのか聞いてみよう。

 

「……そう言えばいつの間にか俺の呼び方が元に戻っちゃったね。前みたいに先輩って呼んでくれないの?」

 

「ふぇっ!? そ、それはその……」

 

 俺がノエルに尋ねると、ノエルは何故か赤面して顔を逸らす。

 ……今の会話に赤面する様な要素があったかな?

 どうしても気になる俺はジト目でノエルの事を凝視する。

 

「っっ~~~!! わ、分かりました、事情を説明しますのでそんなに見つめないで下さい!!」

 

 ようやくノエルが観念し、事情を話し始めた。

 

「その……以前ベアさまのお手伝いをした事は覚えていますか?」

 

「あぁ、そう言えばそんな事もあったね」

 

「はい。私はその、ああ言った事に対して経験がありませんでしたので、余りお力になれず……」

 

 ノエルが言っているのは、ベアトリーチェとクインの事だろう。

 ベアトリーチェがアピールしている事に気が付かないクイン。それをどうにかしたいと思ったベアトリーチェはノエルに協力を頼んで来た。

 ただ、ノエルはそう言った恋愛に関する事には疎く、心配した俺が手を貸す事になったのだ。

 

「それで、あの後色々な方法で恋愛に関する知識を身に着けました。モンドの方々からお話をお聞きしたり、ムードのあるデートスポットを調べてみたり、図書館で恋愛に関する本を読んだりと」

 

「あぁ~なるほどね、前に俺と色々な場所を巡ったのって、全部デートスポットだったんだ……」

 

 そう言えばあの後、ノエルに「下調べにお付き合いください!!」と言われて色んなとことに引っ張り回された事があったけど、まさか全部デートスポットだったとは……。

 やけにカップルっぽい二人組が多いな、と思ってたけどそう言う事か。

 

 ……でもここまでだと特に問題無さそうだけど。

 

「そ、それで図書館で恋愛に関する本を読んでいる時に、ある物を見つけてしまいまして……」

 

 おっと、この流れは不味いのでは?

 いや、でもモンドの図書館にそんな感じの本が或る訳……いや、どうだろ。

 あれだけの蔵書があれば一冊や二冊……もしくは大量にあるのかもしれない。

 

 そんな事を考える俺を他所にノエルは話を進めていく。

 

「その本の内容なんですけれど、私と栄誉騎士さまの関係とよく似た二人が主役の物語なんです。騎士を夢見る少女と異邦の旅の果て、騎士団に特別な形で入団した男性騎士のお話で、その物語に出て来る少女が私自身と重なって見えてしまいまして……」

 

「あ、そう言う……」

 

 何だか邪な考えをしていた自分が恥ずかしい……。

 それにしても、確かに俺とノエルによく似た登場人物だ。

 ……俺の境遇って創作とかでよく出て来そうな物なんだろうか?

 

「それで、主人公の少女も異邦の騎士さまを『先輩』と言う呼び方をしていて……。そのお話を意識してしまうとつい恥ずかしくなって言い辛くなってしまい……」

 

「良かった。嫌われてるとかそう言う訳じゃ無かったんだ」

 

「私が栄誉騎士さまを? まさか、そんな事はありません!! 寧ろどれほど感謝しても足りないくらいです!!」

 

「そ、そう? 俺なにかしたっけ……」

 

 ノエルは嫌うどころか感謝してくれてるらしいけど、そこまで感謝される様な事をした覚えは無いと思う。

 精々がノエルの訓練に付き合ってあげたり、息抜きに一緒に料理を作ってみたり、半年後の入団試験の事を考え少し気落ちしているノエルを励ましたり……。うん、至って普通だ。

 

「……栄誉騎士さまは、先輩と呼ばれる方がお好きなのですか?」

 

 うーん、と唸りながら自分の言動を思い返していると、今度はノエルが俺に尋ねて来た。

 

「え? あー……そう言われるとそうかも。栄誉騎士さまって少し他人行儀な感じで聞こえるからさ、ノエルにそう呼ばれると少し寂しいかも……って思ってたり」

 

 そう返すと、ノエルは再び顔を赤らめてそっぽを向く。

 そんなに本の内容と自分を重ねて恥ずかしがるって、一体スイートフラワーを何本一緒に煮込んだような甘さのお話なんだろう。

 

「別にノエルに嫌われてる訳じゃ無いって分かったし、無理に呼ばなくても大丈夫だよ?」

 

「い、いえお気になさらず!! 大丈夫です、呼びます……呼んで見せます!!」

 

 何と言うか、一世一代の大告白をするかのような決意で答えられるとこっちも緊張してくる。

 ノエルは深呼吸をしながら気持ちを落ち着け、何とかこっちを向いた。

 

「せ……先輩……」

 

「どうしたの、ノエル?」

 

「っっ~~~~!!」

 

 ノエルはどうにか先輩呼びが出来たものの、言い終わった途端に恥ずかしがってまた顔を逸らしてしまった。

 そんな彼女を見て俺は微笑ましい気持ちになった。

 

 ―――そんな所に

 

 

 

 

「うわぁ!? 旅人、ノエル!! 危ない!!」

 

 

 

 

 

 パイモンが誘導に失敗した猪がこちらに突っ込んで来た。

 ……そう言えば調度品の整理してる最中だった!!

 猪は既に目と鼻の先まで迫ってる。傷付ける事は出来ないし回避……は間に合わない。

 

 そんな中いち早く動いたのはノエルだった。

 

「はあああああああっ!!」

 

「「ええっ!?」」「フゴッ!?」

 

 両手を広げて猪の前に立ったかと思うと、真正面から猪を迎え撃った。

 そのまま猪を持ち上げて勢いを失わせると何事も無かったかのように猪を地面へと降ろした。

 

「よしよし、落ち着きましたか?」

 

「フゴゴッ!!」

 

「フフッ、少し驚いて興奮していたみたいですね」

 

 興奮して突進して来た猪はノエルに撫でられて落ち着いた様だ。

 ノエルの言葉から察するにパイモンが驚かしてしまったらしい。

 俺はジト目でパイモンを見つめる。

 

「うっ!? いやぁ、ちょっと……本当にちょーっとだけ背中に乗せて貰おうとしただけだぞ?」

 

「パ イ モ ン ?」

 

「ううう……わ、悪かったよ旅人」

 

 俺にじっと見つめられたパイモンはしょぼんとしながら白状する。

 反省している様だし、俺から特に言う事は無い。

 そんな俺の雰囲気を察したパイモンは猪を受け止めたノエルに近づく。

 

「ノエルも怪我は無いか?」

 

「はい。私は大丈夫です。もし猪に乗りたいのでしたら、一度餌をあげながら撫でてあげて落ち着かせると良いですよ。この子は特に人に慣れている様なので、ちゃんと接してあげればいつでもパイモンさまを乗せてくれると思います」

 

「本当か!? さっすがノエル!!」

 

 猪の乗り方をノエルから教わったパイモンは先程までの様子が嘘の様に活き活きし始めた。

 それを見た俺とノエルは思わず苦笑いを零す。

 

「さて、随分と話しこんじゃってたけど……情けない事にまだ大型の調度品の整理が終わってないんだ。手を貸して貰えないかな、ノエル?」

 

「はい先輩。私に何でもおまかせください!!」

 

「おう、オイラもまだまだ手伝うぞ!!」

 

「フゴッ!!」

 

 ちょっとした騒動もあったけど、その後の調度品の整理は順調に進んで行った。

 見た目によらず力持ちなノエルは俺が苦戦していた物もあっという間に片付けてしまった。

 ノエルは俺に感謝していると言うけれど、俺の方こそノエルに感謝してもし足りない。

 

 

 

 無事に片付けも終わった後、皆でパンケーキを焼いて食べながらお喋りをする。

 塵歌壺の中では今日も穏やかな時間が流れていたのだった。



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モラが無いなら聖遺物を売れば良いじゃない

いつの間にか一ヵ月近く時間が過ぎ去っていた……。
気が付けば稲妻実装前日、しかもタルタリヤの誕生日じゃないか!!
と言う訳で突貫工事で仕上げてヘッドスライディングで滑り込み。
変な所あったらすまぬ。

※タルタリヤのキャラスト・伝説任務の内容に若干触れてます。タルタリヤを仲間にしていない場合でも伝説任務をやってから見るのをおススメします※


 稲妻、それは雷神バアルが統治する現在鎖国中の国だ。

 その稲妻へもうすぐ向かう事が出来ると聞いた俺達は急遽支度を整え始めた。

 

 万葉から聞き及んだ情報からして、雷神との衝突は避けられないと判断した俺達は様々な武器や聖遺物、そして天賦の強化を進めた。

 天然樹脂も余すことなく利用し、天賦本を大量に掻き集め、武器の突破素材を片っ端から回収して行った。その結果――――

 

「と、言う訳でモラが無くなりました」

 

「それを俺に伝えてどうするんだい相棒?」

 

 モラ。それは様々な事に用いられる貨幣だ。

 物の売買を始めとして武器の鍛造、鉱石の加工、武器・聖遺物や天賦の強化などなど……。

 

 その用途は幅広く、とにかく物凄い量を要求される。それがモラだ。

 

 稲妻に向けて準備を進めた俺達に立ちはだかったモラ不足と言う壁。その現実を前に死んだような目をする俺の前に居るのは愚人衆(ファデュイ)の執行官”公子”タルタリヤ。

 

 彼は彼で目にハイライトが入って居ないのだが、以前面倒を見た(見させられたとも言う)彼の弟であるテウセルへの態度や、彼の性格的にファデュイは向いていないんだろうなぁ……と思って居たら、いつの間にか俺自身に興味を持ったタルタリヤが旅に同行してくるようになっていた。

 

 それで良いのか執行官。

 

「タルタリヤなら前みたいにモラくれないかなって」

 

「相棒は俺の事を何だと思ってるんだい? それに、俺も今は北国銀行に顔を出し辛くてさ。お金関係の事だと力になれないと思うよ?」

 

 以前の様にお遣いを頼まれて渡されたモラを値切りでちょろまかす事は出来ない様だ。

 まぁ、何となく分かって居た事だけれども。

 

「それはそうと最近耳にした話なんだけど、どうやら市場で聖遺物の取引幅が広がったらしいよ」

 

「……それはどこ情報?」

 

「いきなり目の色変えたね。この情報だったら、この前璃月をこっそり散歩してたら拾えたよ?」

 

「そうなんだ……。最近秘境しか潜って無かったからなぁ」

 

「君の収集癖は相変わらずだね」

 

 どうやら俺達が血眼で聖遺物をかき集めた所為か、今まで取引出来なかった聖遺物も売買出来るようになっていたらしい。最高ランクの聖遺物は未だ取引する事は出来ない様だけど、その一個下までの聖遺物なら普通に売れる様だ。

 

「よし、じゃあ早速換金してこよう」

 

「あ、あいぼ――――」

 

 大量の聖遺物を抱えた俺は、タルタリヤが何か言おうとしたのにも気付かずに全速力で璃月の換金所へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「す、凄い……。こんなに大量のモラが……」

 

「お帰り相棒。その様子だと上々な結果だったようだね」

 

 換金を終えて戻ってくると、タルタリヤは釣りをしながら待っていてくれたようだった。

 大量のモラを得てホクホク顔の俺に気が付くと釣りを切り上げてスッと立ち上がる。

 

「これなら前以上に強化が捗りそうだ。教えてくれてありがとうタルタリヤ」

 

「お安い御用さ。……一応確認しておくけど、強化用の聖遺物は残してあるんだよね?」

 

「?」

 

「?」

 

 ふと発されたタルタリヤの言葉を頭が理解するのを拒んだせいで思わず鳩みたいな表情になる。

 それに釣られて首を傾げるタルタリヤだったが、何かを察したのか右手で顔を覆う。

 その光景で理解を拒んでいた頭がようやく現実を受け入れ始めた。

 

「強化用の聖遺物無くなった……」

 

 両手両膝を地面に突いて、無情に突きつけられる現実に打ちひしがれる。

 考えてみれば……いや、考えなくても分かるはずだった。聖遺物を売ってモラを手に入れれば、売った分だけ聖遺物は減って行くと言う単純な事実に……!!

 

 モラに目が眩んだ俺はその事実に気が付けなかった。今まで過剰に余っていた聖遺物を有効活用出来るとウキウキ気分で換金してしまった結果がこの有様か……。

 

「いや、まぁ……そう落ち込むなよ相棒。聖遺物ならまた集め直せばいいだろ? 俺も秘境攻略に付き合うからさ」

 

「……そう、だね」

 

 タルタリヤに慰められるが、正直完全に立ち直るにはもう少し時間が掛かりそうだ。

 稲妻へ行けば新たな秘境に新聖遺物が眠っているかも知れない。それを考えるとどうしてもため息が漏れてしまう。

 

「はぁ……」

 

「割と重症だな……。そうだ」

 

 ちょいちょい、とタルタリヤに突かれてそちらを向くと、彼は先程まで魚を釣っていた竿を俺に渡して来た。

 

「折角だ、一緒に釣りでもして気晴らしと行こうじゃ無いか」

 

 そう言うと彼はもう一本の釣竿で早速釣りを始める。

 それにつられて俺も隣に座って釣りを始めた。

 

「……懐かしいな。こうして誰かと釣りをするのは」

 

 釣りを始めてしばらくはタルタリヤも俺も無言のまま釣りに集中していた。だが時が経っても魚は現れず、俺に少し眠気が襲ってきた頃合いを見計らって彼は口を開いた。

 

「故郷のスネージナヤだと湖なんかは軒並み凍ってたからね。水面に貼った氷に穴を開けてそこに釣り糸を垂らしながらじっと待つんだ。身体の芯まで凍えそうな寒さと、いつ掛かるかも分からない魚を待ち続けるのは、戦いと通ずるものが有る。ただひたすらに神経を張り詰めて機が熟した瞬間、その一瞬を逃さず捕らえる。そんな感じで、釣りは鍛錬としても実に有意義なんだ」

 

「そ、そうなんだ」

 

 いつになく饒舌に話を弾ませるタルタリヤ。

 氷上釣りを戦闘の為の鍛錬として生かすその言動は、常に戦いを欲する彼らしさを感じられた。それと同時に、眠気に襲われ退屈そうにしていた俺を気遣ってくれていると言う彼の優しさも。

 

「そうなると、さっきまでの俺はタルタリヤにとって隙だらけも同然だったね」

 

「あぁ。拍子抜けするくらい隙ばかりだったよ。次は気を付けてくれよ?」

 

「勿論」

 

 俺とタルタリヤは互いに軽口を叩き合う。

 魚は未だにその影すら見せてくれないが、今はその時間がありがたかった。

 

「……隙と言えば、タルタリヤはいつも元素爆発を撃つ時に『隙を見せるのはほんの一瞬だ!!』って言うよね。でも戦いの最中に一瞬でも隙を見せたら危ないんじゃない?」

 

 俺は前々から疑問に思って居た事を口にする。

 生粋の武人らしいタルタリヤが口にするには少し疑問の残る口上だ。

 それを聞いたタルタリヤは少しばつが悪そうに頭を掻く。

 

「あぁ、それか……。『その隙は誘い出す為の罠だよ』みたいな感じで相手を煽ろうとしたんだけど、中々上手い言い回しを思いつかなくてね。結果的に『一瞬の隙も突けない様じゃ、まだまだだね』見たいな感じであの口上にしたんだけど……ダメだったかな?」

 

「そう言う事だったんだ」

 

 今までの疑問が解消されてスッと腑に落ちる。

 そう考えるとあの口上も中々悪くないのかもしれない。

 

「いや、良いと思うよ。中々皮肉が効いてると思う」

 

「そうか……!! ハハッ、君のお墨付きまで貰えたなら大丈夫そうだ!!」

 

 自身の口上を褒められたタルタリヤは快活に笑う。

 それからも俺達は他愛ない話を続けた。最初は気分転換にと始めた釣りだったが、その頃には魚が釣れるかどうかは大した問題じゃ無くなっていた。

 

「―――おっと、もう昼過ぎか。相棒、腹は減ってないかい?」

 

「ん、そう言われると確かに」

 

 朝から聖遺物の換金→釣りと来たお陰でお腹が減り始めていた。

 それに気付いたタルタリヤは、待ってましたとばかりに釣竿を脇に置いて弓を構えた。

 

「そうか!! なら、手っ取り早く飯にしよう。少し待っててくれよ……」

 

 そう言うとタルタリヤは、つがえた矢を水面に向けて一息に解き放つ。

 綺麗に湖へと吸い込まれた矢は悠々と泳いでいた魚を見事に射抜いてみせた。

 

「よし、成功だ!!」

 

 どうやら今放った矢には釣り糸を括りつけていた様で、タルタリヤは矢が魚を射抜いたのと同時に糸を引っ張り上げる。見た目からは想像も付かない程に鍛え上げられた彼の肉体、そこから発される剛力は、暴れ回る魚など意にも返さずに空中へと引きずりだした。

 

「相棒、キャッチ、キャッチ!!」

 

「え? あ、うん。……よっと」

 

 余りにも一瞬の出来事過ぎて茫然としていた所で声を掛けられる。

 ようやく意識が戻って来た頃には、お膳立てされた様に魚が手の中へと吸い込まれていた。

 

 ……これで弓が一番苦手とか本気?

 

「さぁ早速調理と行こうか」

 

 俺が魚を手渡すとタルタリヤは手早く調理を進め始める。その迷いのない鮮やかな手捌きは、彼が精通しているのは武芸だけではないという事を明瞭に物語って居るかのようだった。

 

「……これで良しと。待たせたね相棒。俺の得意料理……そのアレンジだ」

 

「わぁ……。タルタリヤって料理も得意なんだね」

 

「まあね。身体を作るためには食事も大切だ。本格的な料理人にも負けず劣らず、くらいには出来るつもりさ」

 

 そう言ってタルタリヤは得意げに笑う。

 早速差し出された料理を口にすると、魚の味わい深い旨味とそれを引き立たせるかのようなミントとドドリアンの爽やかな風味が口の中を突き抜けて行く。

 

 魚の持つ生臭みを的確に取り除いた上に本来のレシピとは違うにも関わらず素材の味を見事に調和させ、引き立たせている。その見事なまでの一皿は瞬く間に俺の胃の中へと納まって行った。

 

「ふぅ……ごちそうさま。美味しかったよタルタリヤ」

 

「それは良かった。作った甲斐があるってものさ」

 

 俺の食べっぷりを見守っていたタルタリヤはそう口にする。

 今の彼が浮かべている笑顔は戦いの際に見せる相手を威圧するような獰猛な笑みとは違う。

 以前、弟であるテウセルに見せていた、親愛の情を浮かべた温かな笑みだった。

 

 強化分の聖遺物までも売ってしまった俺を励ます為にここまでしてくれるなんて。

 俺にも兄が居たらこんな感じだったのだろうか?

 

 ―――そう考えると同時に、少しだけ胸がチクリと痛んだ。

 

「……ありがとう、タルタリヤ」

 

 そうだ、項垂れている場合じゃない。

 俺にはもう一度会わなきゃいけない()が居て、聞かなきゃいけない事が沢山ある。

 そのためにも、まずは稲妻へ向かわなきゃいけない。

 

「……いつもの相棒に戻ったみたいだね」

 

 俺の表情を見たタルタリヤは満足げに頷く。

 そして水元素で双剣を形成し、両手に構えた。

 

「近い内に稲妻に向かうんだろう? 丁度気合も腹も満たされただろうし、食後の()()と洒落込もうじゃ無いか」

 

 その様子を見て俺はフッと笑みを浮かべる。

 

「あぁ、そうだね」

 

 俺も剣を構えて彼と対峙する。

 

 油断出来ない相手、あえて敵に塩を送るような人物、ファデュイきっての戦闘狂。彼を指す様な言葉が幾つも思い浮かぶ。危険だと感じさせるような要素は幾らでもあるが、それでも憎めないような間柄にいつの間にか落ち着いていた。

 

 それすらも彼の思惑通りか、それとも……案外彼もこの関係性を気に入っているのか。

 

 互いに混じり気の無い笑みを浮かべながら、良い汗をかいた所で食後の運動を終えたのだった。




万葉君で吸い込んでタルタリヤで斬り刻むのは最高に気持ち良いって古事記にも書いてある。


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