凍結極寒世界フロストパンク〜鋼の指導者たち〜 (アイゼンパワー)
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新たな家 その1 〜邂逅〜

情熱に身を任せて書き上げました
たぶん所々おかしい


 1886年、二つの巨大火山の噴火により、太陽光は遮られ、地球は極寒の世界となった。日に日に気温が下がり、ロンドンが雪に埋もれ行く中、富豪と貴族は悠々と避難所に避難したが一般市民は取り残された。

そして、一人の男が死に行くロンドンから逃げ出すことを提案した。

ここに留まっても未来はない、であれば外に向かって未来を探すのも手ではないか。

仲間はあっという間に集まった。未来を求める者は数え切れないほどいたのだ。

残された鉄屑、蒸気機関、木材、石炭を用いて巨大な蒸気機関車を作り、“ウィンターホーム”……市民の希望、最後の街へと旅立った。

旅は簡単なものではなかった。

最も暖かい時で摂氏-20度、寒い時は-100度にも達する極寒の中、彼らはひたすらウィンターホームがあるはずの北へ向かって進んだ。

そうして、人々が疲れ切り、もう歩けないというところで、彼らは見つけたのだ。希望を……巨大な、無傷の蒸気ジェネレーターを。

ウィンターホームを目指す旅は一旦取りやめとなった。

男は言った「ここに新たな街を築こう。人類最後の街を、最も快適な街を。」

しかし彼らは所詮難民なのだ。持ってるものは個人用の小さな暖炉と分厚い防寒着、そしていくつかの登山用具のみ。住むところすらなかった。

それでも、生きねばならない。

生き残らなければならない。

ロンドンに置いてきた者のためにも、途中で落伍した者のためにも、我らは生きねばならないのだ。

 

 

生きよう、この新たな家(New Home)

 

分類:並行世界

命名:frostpunk

シナリオ:NEW HOME

観測開始

 

ーーーー

ノウム・カルデアにて

「藤丸くーん」

かの偉人、レオナルド・ダ・ヴィンチの霊……ただし幼女の姿が口を開き、人を呼ぶ

そして駆けつけたのは夜闇のように黒い髪、引き締まった体、整った顔を持ったどこに出しても恥ずかしくないイケメン、我らが人類最後のマスター、藤丸リツカである。

「なんだい?ダヴィンチちゃん」

「興味深いものを観測してね、ほら、第一異聞帯。覚えているかい?」

「もちろん、逆に忘れるとでも?」

忘れもしない第一異聞帯、大寒波により世界のほとんどが壊滅した中、ロシア帝国のみが魔獣との融合を果たすことにより生き延びた世界。そこに未来はなく、ついに世界から切り捨てられてしまった。

そして異聞帯で結んだ縁……パツシィ、カドック、アナスタシア。これもまた忘れることはないだろう。

「そこにね、面白いものを見つけたんだ。聞きたいかい?聞きたいよね!」

「そこまでいうなら聞いてみたいな」

興奮するダヴィンチちゃんを見て、藤丸は面白いこととは何か、本格的に気になってきた。

「なんとねえ!!」

「うん」

「なんとなんと!!」

「うんうん」

「なんとなんとなんと!!」

「早く言ってよ」

「並行世界が繋がったんだ!」

 

 

 

沈黙

 

 

 

 

「それってすごいことなの?」

藤丸が問いかける。

時計塔に代表される魔術の学術機関を出たものならば皆が知っているように、並行世界の運営及び観測は第二魔法の領域とされ、使い手は宝石翁、魔導元帥など多くの肩書を持つキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグただ一人とされている。

簡単に言うと、とってもすごいことだ。

今の人類が逆立ちして生身で空を飛べばできるかもしれないがそんなことができる奴は人間ではない。

そして悲しいかな、藤丸は数年前までただの素人だったのだ。

魔術学校やそれに類するものに通ったことなどないし、魔術師に師事したこともない。知らなくて当然であろう。

「もちろんすごいことだよ!」

「おい、技術顧問。私は忙しいんだ。用事は素早くしてくれ。」

ダヴィンチが興奮と共に叫ぶと同時にカルデア新所長、ゴルドルフ・ムジークが技術室に入ってきた。

「よく来てくれたね!新所長!」

「おぉ…来たとも。で、用事はなんだ?」

ダヴィンチのあまりの興奮しようにゴルドルフが少し気圧されている。特に珍しくはない光景だ。

「並行世界につながった話はもう聞いたかい?」

「ああ、聞いたとも。それで?」

「レイシフトの許可をいただきたい。」

 

 

沈黙

 

「な、何を言うんだ君は!」

ゴルドルフが叫び出す。

「ただでさえ我々は危険な状態にあるんだ、観測できる限りでも異聞帯は後二つある。それなのに、並行世界にも首を突っ込もうとは、正気か?!」

第五異聞帯、オリュンポスを攻略し、次の異聞帯のための長い長い準備期間を設けているが、食料や医療など問題は未だ山積みである。

そんな暇はないがトンチキ特異点に数多のリソースを割いてきた旧カルデア組としてはそんなものは問題ではなかった。

「ゴルドルフ君。君は並行世界を見てさぁ、第二魔法を一時的ではあれど使用した者として尊敬されたくないのかい?」

 

鉄の男、ゴルドルフ。しかし名誉と愛には弱いのであった。

 

「というわけで許可を得たので、並行世界に向けてレッツゴー!」

「ダヴィンチちゃんそれでいいの……?」

とは半ば空気と化していた藤丸の言である

いいわけがないが監視機関など今や存在しないのだ。好きなだけやってしまえ。

「あ、あそこすごく寒いらしいから防寒魔術礼装着てってね。」

「了解しました、技術顧問殿。」半ば呆れたように、藤丸は返事をするのであった。がんばれ、藤丸。世界の明日は君の肩にかかっているぞ。

 

ーーーーーーー

レイシフト当日

中央官制室にて

『藤丸くーん、マシュー、準備はいいかーい?』

「はい!マシュ・キリエライト、いつでも準備万端です!」

相変わらず我らが後輩は元気で可愛い。

「もちろん。いつでもOK。」

藤丸は答える。

『レイシフト先では魔力はごく少量しか検出できなかったから魔獣とかの心配はしなくていーよー。じゃ、いってらっしゃーい』

 

視界が歪む、体の感覚が消えていく、自我の境界が薄れていく。

レイシフトの感覚はいつも好きになれないが、もう、慣れてしまった。

 

そして目の前が光り、トンネルのような何かを通り抜け、レイシフトが完了する。

 

 

 

「「さっっっっっっむい!!!」」

 

それもそのはず、現在摂氏にしてマイナス40℃、極寒と言われる気温である。ここに普段着で来るような愚か者がいようものなら一瞬で凍結し、死亡するだろう。

しかし彼らは普段着ではなかった。普段着のように見えるが、緻密に縫い込まれた魔術礼装の働きにより、寒さを寄せ付けないのである。

であるが………

その礼装を貫通するような寒さ。ヤガ・ロシアでも見なかったような寒さだ。

 

空間に青いノイズが浮かび、人の顔が映し出される。

『聞こえるかい?聞こえるなら返事をしてくれ。』

「聞こえます、ダヴィンチちゃん」

カルデア定番の通信である。

仕組みはよくわからないが固有結界の中でもつながる優れものである(その割には結構通信不能になるが)。

『それならよし。北の方に大規模な生命反応があるんだ。向かってくれ。』

 

ーーーーーーー

我々はロンドンから逃げ出して、どれくらい歩いたのだろうか、数日?数週間?もしかしたら数月間?

全球の空が火山灰に覆われた今では朝と夜の区別がほとんどつかない。

我々の時間を守ってくれるのはロンドンから持ち出した大時計のみだ。

我々はかつて自分を育ててくれたもの、自分がかつて信じたもの。

過去の栄光、過去の発明全てを捨てて未来を求めたのだ。

この旅路がどれほど無謀で、どれほど厳しいものであるかは我々が一番よく知っている。

ともあれ、今は巨大蒸気ジェネレーターを見つけて一安心できる。

石炭も山ほど集めて、ジェネレーターを起動し、暖かい区域にテントもいくつか建てた。食料は持ち出したものがまだある。資源は収集小屋から得ることができる。エンジニアたちがさらなる技術を求めて研究を行なっている。今は安心して過ごすことができそうだ………

「キャプテン。」

そんな静かな時間に闖入者が現れる。

ほらみろ、ちょっと目を離したすきに紅茶が凍ったではないか。どうしてくれる。

「なんだ?一体。俺の紅茶を凍らせる価値はあるんだろうな?」

申し遅れた。私はマカリスター、ジェレマイア・ジェイコブ・マカリスターだ。周りはみんな私をキャプテンと呼ぶ。

「紅茶を凍らせたのは申し訳ないですがお客様です。」

闖入者……我が友、アーサー、アーサー・デリック・クロイドンが続ける。

「人数は?病気はどうだ?資源を持ってきたか?」

「人数は二人ほど、見た感じは極めて健康、資源はなさそうです。」

心の中で舌打ちをすると共に安堵する。

資源がないのは今のコロニーにとってマイナスだ。

木も石炭もなんとか生きていく分しかないが、働き手も足りていない。

労働力が増えると考えれば素晴らしいことだがたった二人とは……

二人のためにテントを設けるのももったいないような気もするが……

 

仕方ない、設けてやろう。

「迎え入れよう。ここに連れてこい。」

「はい」

アーサーは快く頷く。仲間が増えることに喜びを感じているようだ。私は嬉しくないがな。人が増えるとその分不満が増える、どこかに文句の言わない労働力はないものか……

「ところでだが……どこから来たか言っていたか?ほら、ロンドンとか、エディンバラとか……もしかしたらウィンターホームから?」

これは重要な問題だ。もしウィンターホームからの使者なら丁重にもてなし、支援を乞う。我々はあらゆるものが足りていないのだ。特に石炭と木。エンジニア諸氏が昼夜問わず研究室に篭って石炭発掘に関する技術を研究してるがまだ結果は出ない、チームリーダーはもうすぐできると言っていたが果たしてどこまで信用していいものか……

 

話が逸れた

ともかく、そういうことで、どこからの避難者であるかは非常に重要な問題なのだ。

 

「えーと、どこだったかな……あ、あった。どうやらカルデア?とかいう研究機関から来たそうで」

 

アーサーが答える。しかしカルデアなる研究機関がこのブリテンに存在していたとは聞いたこともない。私のような一市民の知るところはたかが知れてるがな。

「それなら彼らは技術者ということか」

「それがそうでもないようで……」

「じゃあなんなんだ。」

我が新しい家(NEW HOME )には無駄飯食いを置く余地などまだない。技術者ではないなら単なる労働者として石炭を拾い集めてもらうほかないのだ。

「ただの青年です。しかしカルデアはまだ暖かいそうです。」

 

 

いいことを聞いた。まだ暖かいということはまだ食物が豊富にあることに他ならない。我々は今、これまたロンドンから持ち出した保存食しか持っていない。狩人たちが一生懸命クマやオットセイと言った動物を狩っているが慢性的に不足している。野菜を育てるには寒すぎる。だが、暖かいとなれば話は別だ。きっと野菜を大量生産して食を供給できているに違いない。しかも石炭の産出だって多いはずだ。でなければどうやって暖かさを保っているというんだ。

「なら話は別だ、丁重にもてなせ。そのカルデアとやらに食料等を送ってもらえないか聞くんだ。いいな?」

「はい、キャプテン。」

 

ーーーーーーーー

 

「………見えた!あそこだね?ダヴィンチちゃん!」

藤丸一行の前には巨大なクレーターがあった。

平地を取り囲む険しく反り立つ崖、その中央に立つ巨大な鉄の柱。その先っぽからは炎がチロチロと顔を出している。

『そうだね!大小合わせて80人いるらしい。どこかから降りれないかな』

横を見ると、ロープが張られていた。降りて行った人達が置いて行ったもののように見える、もちろん憶測に過ぎないが。

『あの巨大な構造物……興味深いなぁ…降りたら近づいてみてくれたまえ!』

「はいはい………よっと…」

「大丈夫ですか?先輩。」

藤丸が降り、マシュが心配する。いつもの光景だ、何も珍しくない。しかしいつもならここら辺でワイバーンが襲いかかってもいいはずだがそう言った気配はまるでない。

「………うん、大丈夫そうだ。かなりしっかりとした縄だ。マシュも降りておいで!」

「はい!」

二人がギシギシと縄と大地に突き刺されたパイルを鳴らしながらクレーターの底へと降りていく。

⦅おい、なんだあいつら⦆

当然というべきか、高いところは人の目につきやすいのだ。

近くの資源収集小屋で働いている男たちに見つかった。

⦅誰かキャプテンに報告を!武器を持ってこい!⦆

周りは一気に騒然となり、数人がジェネレーターの足元にあるテントに走って向かい(雪に阻まれてうまく進めないが)、数人が斧やスコップ、ツルハシ、人によっては腰に携えていた信号銃や拳銃をその手に縄の根元に駆け寄った。

「これはちょっとまずいんじゃないかな、ダヴィンチちゃん。」

藤丸は問う。

『だぁいじょうぶ、よーく聞いてご覧?』

 

⦅おい!お前!降りてこい!⦆

男たちが叫ぶ。手に武器を持ち、全身に力がこもり、見るからに臨戦態勢だ。

「何言ってるのか全然わからないんだけど…」

「これは古い英語ですね!アルトリアさんたちが時折話しているのを聞いたことがあります」

マシュが健気にも答えてくれた。わざわざ翻訳機を切って新たな言語を習得しようとするとはさすがマシュである

『翻訳機壊れたのかい?』

胸元につけてある小さな四角い機械を見てみるとそこには真っ白に霜がつき、振ってみるとカラカラと音がする

「こりゃダメだ。ダヴィンチちゃん、壊れてるよこれ。」

なるほど言葉が分からなかったわけだ。

カルデアではレイシフトで様々な地域に赴く必要性があることにより、魔術と科学の融合である同時翻訳機を作成し、各マスターに持たせているが、どうやらあまりの寒さに壊れてしまったようだ。原因は内部部品の凍結だろう。

『じゃ仕方ないネ。こっちで翻訳したデータをそっちに送るよ』

⦅おい!お前たち、何をぶつぶつ言ってる!⦆

古いイギリス労働者は日本語やアメリカ英語、ラテン語を解さない。

「おとなしく降りよう」

そして彼らはクレーターの底に降り立った後、即座に取り囲まれ、しばらく質問攻めにあい、巨大な鉄柱の下に連れて行かれた。

 

そこには男が一人立っていた。他の住人と同じく首の周りに毛皮(ファー)がついたコートを着ているが、彼だけは帽子やフードの類を被っていない。まつ毛は白く凍結し、髪の毛も凍りかけている。顔の血色も悪い。しかしながらその目には強い意志が宿っており。生命力の強さを感じさせる。

 

⦅ようこそ、フジマル君。我らが拠点、新しい家(New home )へ。私たちは君を歓迎しよう!⦆

立っている男……周囲の人物に“キャプテン”と呼ばれている……は両手を広げ、流暢な英語で歓迎の言葉を述べた。

「ありがとうございます。それで、さっそくですが今は何年ですか?」

⦅君は奇妙なことを聞くね?⦆

怪しまれかも知れない、藤丸の心臓は一気に縮まった。

⦅………君は研究機関から来たと聞いた。きっと研究室に篭りきりだったのだろう。今は1886年だ。⦆

1886年にこのようなことになった記録はない。なりかけた記録もない。彼らの話す英語からここは大英帝国であることは察しがつくが、英国がこのように氷雪に包まれることなどあっただろうか。

⦅こちらからも質問をさせて欲しい。⦆

“キャプテン”がこちらに問いかける。

⦅君たちのところ……カルデアだったかね?……はまだ暖かいと聞いたが、本当か?⦆

マシュが答える。

「ええ、本当ですよ。」

彼女は嘘をつくことを知らないのだ。よって、この場に小さな混乱をもたらしてしまったようだと

あたりが騒然となる。人々はひそひそ話を始め、キャプテンも隣の者と何かを話し合っている。

⦅ン゛ッ、ゴホン、静粛に!静粛に!⦆

そしてあたりは静寂を取り戻す。

⦅見ての通り、我々は極めて危機的な状況にある。家は足りない、家を建てるための木も足りない、蒸気ジェネレーターを動かすための石炭は確保してあるが長くは持たないだろう。⦆

マシュと藤丸は彼が何を言いたいのかが少しづつわかってきた。

⦅つまるところ、その、支援してもらえないだろうか?今は対価を出せないが、今後必ず礼をする!どうか、石炭だけでも分けてくれ……!⦆

 

 

『もちろん!』

 

空中に突然青い四角の平面が飛び出す。そこには愛らしい幼女*1の顔が写っていた。

キャプテンは大層びっくりしたようで、目を見開き、口が半開きのままになり、声も出ない。

群衆の方は一つ大きな声をあげ、後ずさった。

 

『もちろん支援させてもらうさ!そっちの方が楽しそうだからね!』

⦅あ、あなたはどちら様で……?⦆

目を見開いたままキャプテンは問いかける。

『ん?そういや自己紹介を忘れていたね!私はダヴィンチ、レオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデアの技術顧問をやっているよ!』

画面の中の幼女は元気よく答える。

それに返答するはキャプテンである

⦅ご丁寧にどうも……申し遅れましたが、私はマカリスター、ジェレマイア・ジェイコブ・マカリスターです。この街の長をやっております⦆

⦅私はアーサー・デリック・クロイドンです、市長補佐をやっています⦆

*1
中身が超絶フリーダムな万能人であることを忘れるべからず




FROSTPUNKすごい楽しいのでみんなもやろう!
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新たな家 その2 〜質問〜

前回のあらすじ
ニューホーム御一行ロンドンからエクソダス
クッソ辛い旅を続けたらなんか蒸気ジェネレーター見つけた
カルデア何故かこの並行世界を捕捉、藤丸を送って観察することに
送ったはいいけど寒すぎて翻訳機壊れた
ニューホーム御一行の長と会見
ダヴィンチちゃん呼ばれてないけど飛び出てジャジャジャジャーン!

以上


一行の対談の場はテントの中に移された。

『じゃ、改めて自己紹介をしよう!我々は人理継続保障機関カルデア。私は技術顧問を務めるダヴィンチ!』

「僕は藤丸、一応マスター……えっと、わかりやすく言うなら隊長みたいな立ち位置かな?」

「私はマシュ・キリエライトです!先輩の補佐をしています。」

カルデア一行の自己紹介は終わった。今度はニューホームの番である。

⦅私はジェレマイア・ジェイコブ・マカリスター。ここ、ニューホームの長、ロンドン脱出の発案者だ。⦆

⦅アーサー・デリック・クロイドン。マカリスターの補佐をやっております。気軽にアーサーとお呼びください。⦆

ここで自己紹介は一通り終わった。

しかしどちらにしても疑問が多い。

ニューホーム側としては支援をもらえるのか、カルデアはなんなのか、さっきの青い何かはどうやったのか。

カルデア側としては何故このような状況になったのか、あの鉄柱はなんなのか。どうしてロンドンから脱出したのか。

⦅質問があるんだが、いいかな?⦆

先に口を開いたのはキャプテンーーマカリスターだった。

『もちろん、どうぞ?』

返答したのはダヴィンチちゃん。藤丸の意思はどこに行った。

⦅カルデアというのはどこにあるんだ?この極寒の世界で今も暖かさを保っているなど信じられない。⦆

藤丸が説明しようとするが……

『カルデアはねぇ……うーん、説明しづらいけどね、一言で言うと並行世界にあるんだよ』

またもやダヴィンチちゃんが答える。可哀想な藤丸である。

⦅並行世界……並行世界ってなんだ?⦆

1886年、並行世界という概念はなかった。まだ世界は一つであり、複数の世界があるなど想像すらされていなかった時代。

『あー、そこからかぁ……まぁ、微妙に違う歴史を辿った世界とでも考えればいいよ。カルデアはそっちのように寒くなってない。でも人類は滅びかけてる。それだけさ。』

マカリスターはあまり信用していないように見える。当然だろう、藤丸はそう思った。こんなトンチキで色々省かれた説明を聞いて信用するわけがない。

『こっちからも質問させてもらうよ』

⦅待て、まだ聞きたいことが『まーまー、あとでいいじゃないか』うむ……⦆

まだ聞きたいことがあるようだが無理矢理割り込んで黙らせた。流石ダヴィンチちゃん、そこに痺れないし憧れないがフリーダムさがとんでもない。

『まず簡単に……どうしてこんなに寒いんだい?なんでロンドンから脱出したんだい?』

⦅一つづつ聞き給え。⦆

簡単にと言ったのに一気に二つの質問をしてきたダヴィンチちゃんをあまり良く思っていないように見える。マシュはこの対話の行く末を心配した。この集落から叩き出されないだろうかと。

⦅まずは、そうだな。寒くなった原因から話そう。⦆

マカリスターが話す

⦅政府によると1885年……つまり去年だな……にどうもふたつの大火山が噴火したらしいが少なくとも私は信じていない。⦆

『というと?』

⦅火山灰程度でここまで寒くなるわけがない。なったとしてもこんなに長期間続くものだろうか?いや数ヶ月も経てば雨なりなんなりで地上に降ってきてまた太陽が顔を出すはずだ。⦆

マカリスターが持論を説く。現在の研究において、火山灰および火山から出る噴出物が形成する火山雲は最長でも2、3年しか保てないし、1000年間最大の火山噴火で実際に温度は低下したものの、それはたったの5℃くらいであった。

しかしこの世界はどうだ、ここはおそらくブリテン島ーー海を越えたのでグリーンランドかもしれないがーーロンドンから北に数百マイル。ここでは-20℃くらい普通かもしれないが、脱出前のロンドンでは-49℃を記録していた。ありえないことだ。とてもではないが火山噴火では説明がつかない。

『つまり……不明と言うことかい?』

⦅そうだ。⦆

ダヴィンチは少々不服そうだ。

好奇心が満たされなかったのが原因だろう。

⦅次の質問は何故ロンドンを脱出したかだったな?⦆

『そうだね、素人目で申し訳ないがロンドンにとどまった方がインフラも整っていて、より暖が取れる環境だったのではないかな?』

⦅ふむ………君は、今、南の方がより寒いと言うことを知っているかね?⦆

これもまた考えられないことである。

一般的には日照時間の長い南方、つまり赤道周辺や南半球の方が気温が高いと言うのは良く知られているがこの世界では違うのだ。

謎の寒波襲来の結果、太陽は姿を隠し、南方は一気に-60℃まで冷え込んだ。原因はいまだに不明である。

これを知らないものはよく『なんで北に行くんだい?南の方が暖かいと鳥でさえ知っているのに』と言うが、その鳥は長い飛行の結果、餌ひとつない大地に辿り着くことすらなく、空の上で凍って、死ぬのだ。

『それは知らなかったな』

⦅その上、あそこはただでさえ慢性的な石炭不足に悩まされていた。全ての家庭や施設が一斉に暖炉をつけ、石炭を消費した結果どうなったか容易に想像できるだろう?⦆

ロンドンは大寒波に襲われる前から各種施設に使用する石炭を他都市からの輸入に頼っており、自ら生み出すことはできなかった。

よって大寒波初期は余裕を持って耐えることができたが、それが長引けば長引くほどインフラは雪や風によって破壊され、ついに石炭は運び込まれなくなり、運命の時が来てしまったのだ。

⦅石炭は尽き、燃やす木さえもなくなった。ロンドンはただ死を待つ街と化したのだ。ところが、先人たちは先見の明を持って石炭が豊富に残されている北極圏に複数の動力および発熱等々の複合した機能を持つ素晴らしい発明品を建造した。それがこの鋼鉄の柱、ジェネレーターだ。⦆

言い終えたのち、マカリスターは両手を広げ、ジェネレーターを抱くような仕草をした。

『なるほど……つまりは石炭やらなんやらの資源のための大脱出だったんだね』

⦅そうだ、ロンドンに残っても死を待つだけ、ならば、未来を求めて、“ウィンターホーム”に向かって旅立とうと言うのが我がキャラバンの目的だった⦆

『だった……?』

ダヴィンチは“だった”と言う部分が引っかかるようだ。

今の目標はなんなのか、ウィンターホームとは何か、聞きたいことは山ほどあるがまずはマカリスターの説明を聞こうではないか。

⦅我々は疲れ果てたのだ。もう体力は尽き、食料もわずかしかない。だからここを暫時的な住居とする。ここで身と心を癒し、その上でウィンターホームに向かって再び旅立つのだ。⦆

⦅サー、よろしいでしょうか。⦆

テントの幕をめくり、一人の男が入ってくる。

⦅ああ、いいぞ。⦆

マカリスターが答える。

⦅ワークショップの技術者からの伝言です。“キャプテン、ビーコンの研究が終了しました。これで熱気球を飛ばし、周囲を観測してその情報をもとに遠征隊を送り出すことができます。次の研究を指定してください”だそうです。⦆

男が報告を終えた。マカリスターは少し悩む様子を見せ、地図を広げた。真ん中には巨大な円柱が描かれており、円形に斜線が引かれている。その上、赤、橙、水色、青といった風に区域が色分けされている

⦅室内温度が低い、場所によっては作業ができないだろう………よし、スチームハブを研究させろ。それが終わったら暖房だ、いいな?⦆

⦅はい、サー。⦆

そして男は出ていった。さて、ビーコンを建てるよう指示を出そう。

『私たちはおじゃまかな?』

「そのようですね。」

「そうみたいだね。」

マシュと藤丸が返答する。

しかしマカリスターはそうは思ってないようだ。

⦅健康な男女をタダで食わせる余裕はうちにはない。働きたまえ。建築の道具は倉庫にある、やり方は周りに教えてもらえ。さぁいけ、ぐずぐずしている暇はないぞ!⦆

そう言ってテントから追い出してしまった。

困ったのは藤丸である。特異点で家を建てたことはあるが、全て木造だったりレンガ製だったのだ。このよう鉄を多用した建築をしたことはない。カルデアにいるバッベジ教授やニコラ・テスラ、エジソン両博士なら溶接でどうとでもしてくれるだろうが、彼らにそのやり方はわからないのだ。と言うわけで周りに聞く。一番手っ取り早い方法だ。

「すいません、新入りなものでどうやって建てるかわからないのですが……」

⦅あんた新入りかい?随分とお若いじゃないの。⦆

答えたのは年配の女性だった。メガネを身に付け、腰にはリベット打ちの工具を持っていた。

⦅工具は持ってるかい?⦆

「ええ、キャプテンに持ってくるよう言われたので」

⦅あんたいい子だね、じゃあ見てなさい、こうやって鉄板に穴を開けて⦆

そう言って蒸気駆動と見られるドリルを手に持ち、回し、容易く鉄板に穴を開けた。

⦅そんでこっちの工具でリベットを打つ。⦆

圧縮蒸気によってリベットを高速で打ち込み、固定する。

⦅あとは頭をいい感じに整えるだけ。簡単でしょ?⦆

慣れた彼女に取っては簡単であろうが素人にとっては簡単ではない。

「ええ、わかりました。」

これでわかるのだから人類最後のマスターはやはり規格外である。

伊達にサーヴァントを率いて毎日世界を取り戻す戦いを繰り広げていない。日々如何に勝ち、如何に生き残り、如何に人々を助けるかに頭を悩ましているのだ。思考力は一級品である。

 

そうしてビーコンは順調に建設された。

 

時は18時、今は見えない太陽も沈んだと思われる時間帯である。

労働者諸君、器具は規定の場所に戻しておくように。仕事の時間は終了だ。

そうして労働の時は終わった。

 

テントにて

⦅キャプテン、食料が減ってきています。このままでは明後日には尽きてしまうでしょう。あと石炭も慢性的に不足しています。もっと高効率な回収法が望まれています。⦆

アーサーは問題点を洗い出し、マカリスターに伝える。

⦅あと数人が凍傷になりかけています。早いうちに救護所を立てる必要も出てくるでしょう。⦆

⦅うむ……わかってる。⦆

苦々しい顔をしながら答える。

⦅場合によっては緊急労働法の制定が必要になるでしょう。⦆

説明しよう、緊急労働法とはその名の通り、緊急事態において施設を24時間運用するために24時間労働を強いるものである。もちろん強い不満が表明されるのは目に見えていることだが緊急だから仕方がないのだ。

⦅しかしどうやって不満を抑える?一回の緊急労働でだいぶ不満が溜まることは周知の事実だろう⦆

⦅ふーむ……闘技場を立てるのも手かもしれません。⦆

⦅闘技場?⦆

⦅ギャンブルと暴力的なショーを好むものは多くいます。斯く言う私もギャンブルは少々嗜んでおりましてね…へへへ……⦆

アーサーは恥ずかしそうに笑う。それは果たして恥ずかしいことなのだろうか。

⦅それはいい案だ。すぐにでもそうしよう。⦆

 

 

そして新たな朝が来る




今回ほぼ説明会になっちゃいましたね。心情描写って思ってたよりもだいぶ難しい……
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新たな家 その3 〜自立〜

前回のあらすじ
自己紹介と質問に答えたよ
資源足りない!しゃあないので緊急労働法に署名
凍傷者出る前に救護所立てねば

大体以上


ジェネレーターを見つけ、定住してから3日目。

遠征隊が逸れた住民を連れ戻してくれた。街が喜びに包まれ、感動の再会を祝う中で街の指導部は深刻な問題に直面していた。

ついに食料と木が底を尽きた。石炭ももうそろそろなくなるだろう。

⦅これは深刻な問題だ。⦆

マカリスターはつぶやく。

⦅今残ってる木で製材所が建てれるか?⦆

製材所、それは凍りつき、ひどく硬くなってしまった木を切り倒し、建築に使えるようにするための施設である。素手では収集できない凍りついた木を資材かできるようになる。

⦅ええ、ギリギリ建てれます。⦆

⦅よろしい、東の方に凍った林があったはずだ。そこに設置させろ。⦆

⦅はい、サー。⦆

石炭問題については今も技術者が昼夜問わず研究を行っているがまだ結果は出ない。後に任せたスチームハブや暖房の研究は既に結実していると言うのに。

⦅そういえば石炭ですが研究チームが暫時的な解決策を提出しました。⦆

⦅ほう?⦆

技術者たちが言うには、本格的な炭鉱を立てるにはまだ研究の器具が足りない。あまりにも程度が低いとのことだ。せめて作図台をくれと嘆願書を送ってきた。

⦅ふむ、石炭採掘場……?⦆

眉をひそめ、図面を見つめる。マカリスターは視力があまり良くないので何かを見る時は眉をひそめてしまう。

⦅これはどのような働きをするんだ?⦆

マカリスターは聞く。

⦅圧縮した水を用いて土を洗い流し、埋まっていた石炭を地表に浮き上がらせます。しかしこれ単体では石炭を資源化できません。別途拾い集める必要があります。⦆

しかしこれは従来と比べると効率の高い方法で石炭を地上に露出させ、拾い集めることができる。しかもほぼ無制限に。

⦅素晴らしいじゃないか、ジャンジャン建ててくれ。⦆

⦅あとは食料問題ですな。⦆

⦅一応ハンター小屋を二つと調理場を建てたが果たしてこれで足りるのか……⦆

 

 

「おはよう、マシュ。」

「おはようございます、先輩。」

あったかいとは到底言い難いが、まだ我慢できる室温を保ったテントの中で目を覚ました。

『おはよう、マシュ、藤丸くん。』

「ダヴィンチちゃん、おはよう。」

「おはようございます。」

誰と話すよりも先に通信画面が現れた。

『そっちの世界の簡単な記録を見てね、興味を持ったサーヴァントがいるんだ。』

蒸気と鋼鉄に塗れた世界、そして話を聞く限り一部で階差機関(ディファレンス・エンジン)が実用化されていた世界。これだけ聞けば誰が興味を持ったかすぐにわかるだろう。

『おはよう、マスター。』

画面に映るは鋼鉄の巨体。体の各所から高圧の蒸気を吹き出し、どこが口か知れぬが話している。

そう、階差機関製造の第一人者、蒸気の世界を夢見たもの、チャールズ・バベッジ卿である。

余談だが彼はカルデアにおいて夏になると“蒸気が暑っ苦しい”と言う理由で邪険にされるが、この世界ではまず間違いなく人気者になれるだろう。そばにいるだけで暖を取ることができる上に、その蒸気駆動の鎧は一般労働者の数倍の効率を提供するだろう。

「おはよう、バベッジ教授。」

『早速だが一つ頼みがある。いいかね?』

「もちろん。どんな頼み?」

藤丸とバベッジ卿は親密な関係を結んでいる。藤丸が数学の難問にぶつかった時、教えてくれるのはもっぱら彼である*1

『私をそちらにレイシフトさせてほしい。』

彼は優れた頭脳を持っている。しかもサーヴァントだから食料もいらない。ただ問題が一つある。

⦅おはよう、客人方。⦆

マカリスターの同意である。

「マカリスターさん、ご相談があるのですが……」

⦅なんでも言ってくれ、資源生産がある程度安定してからなら移住も許可する。まぁ……暖かいところからここに移住しようとする変わり者はおらんだろうがなぁ……⦆

話を聞くに石炭採掘場と製材所なるものを建造したためとりあえず木材と石炭には困るなくなったようだ。

救護所もたんまり建てたが食料と人がとにかく足りないらしい。

⦅あまりにも人が少ない。凍傷者の救護のために救護所も建てたがいかんせん人が足りん。あまりにも足りない。もし医者や技術者を連れて来てくれると言うなら歓迎しよう。⦆

それならば話は早い。

「えっと、我々カルデアの中でも優れた技術者の一人を連れて来たくてですね……」

⦅連れて来てくれるなら嬉しい、是非にも連れて来てくれ。⦆

 

 

⦅みんな、持ち場につけ!やるべきことは多いぞ!⦆

 

低く、太い汽笛と共にアーサーが労働時間の開始を宣言し、彼もまた自分の持ち場についた。彼の持ち場はジェネレーターの足元……マカリスターと一緒にジェネレーターの管理を行い、街を導くことである。

 

そして自らの職場に着いた時、見慣れない影があることに気づいた。

それは大きく、分厚く、まるでロンドンにいた頃に見たオートマトンのようだった。

⦅キャプテン、いつの間にオートマトンを拾ったんですか?⦆

⦅アーサー、ちょうどいい。紹介しよう、階差機関の発明者のチャールズ・バベッジ博士だ。⦆

アーサーは一瞬耳を疑った。あの世界的有名人かつ、高名な貴族でもあるあのバベッジ卿*2がこのような辺境にいるとは夢にも思ってなかったのだ。

⦅こ、これはサー・バベッジ。ご機嫌麗しゅう…オートマトンなどと間違えるなど……申し訳ありませんでした。⦆

見るからに腰が引けている。

「そのような固い言葉遣いは不要である。我はこの世界のバベッジではない故。」

⦅は、はぁ……⦆

⦅どうだ!アーサー、並行世界とはいえ、あのバベッジ卿がこのような土地に来てくれたんだ。未来が約束されたようなものじゃないか!⦆

キャプテンは随分と浮かれているようだ。無理もない。あの階差機関を発明した優秀な技術者が助力してくれるとなればもう怖いものはないと言ってもいいだろう。

 

「早速今の研究環境を見せていただきたい。」

⦅どうぞこちらへ、しかし定住したばかりですのでろくな設備もありません。昨日の夜に作図台を設置したばかりでしたので。⦆

「なるほど。であればまだまだ発展途中ということだ」

⦅えぇ。そうですとも。さぁこちらがワークショップです。あとは中の技術者とお話しください。⦆

「うむ、そうさせていただこう。」

 

マカリスター氏はその強面と違って社交性が高いようだ

 

⦅アーサー、派遣した遠征隊から何か連絡は?⦆

⦅まだありません。彼らは目標の鉄橋に向かっています。あと少しで………今ですね、連絡が入りました。⦆

事前に派遣しておい遠征隊は道中幾つもの遺跡や廃棄された工場を漁り、豊富な資源を蓄えていた。彼らに何かあってはならない。

⦅どうやら、えー、オートマトンを発見したようです⦆

⦅ほう、オートマトン!⦆

椅子の肘置きを叩き、マカリスターは立ち上がる。

オートマトン、それは現状人類の発明した最も優秀な労働力であり、兵器にもなりうる。スチームコアの力で石炭や水の補給を必要とせず、その四つ足で半永久的に動き続ける鋼鉄の巨獣である。しかも基本的にパンチカード*3を変えるだけで建築から石炭採掘、鉄鋼精製までなんでもできるときた。

⦅して、それは動くのか?まだ働けるのか?⦆

鼻息を荒く、目を見開いてアーサーに詰め寄る。

⦅え、えぇ。そのようです。⦆

⦅素晴らしい!街に送らせろ、今、すぐにだ!⦆

⦅はい、キャプテン。⦆

こうして一旦アーサーは退室した。

オートマトン、ああオートマトン。、オートマトン。

彼らはいかに寒かろうが、食料が無かろうが休まず働き続ける。効率自体は人間の労働者より劣ると聞いているが二倍の時間働けるため実質的には人よりも高い効率を誇る。何より文句を言わないと言う点が素晴らしい。

 

しかし今後はどうしたものか、家々を温めないと間違いなく病気の者が増えるだろう。テントから脱却せねばならない。

 

そう考えた彼はバベッジがいることも忘れてワークショップに電話をかけた。

 

 

ジリリリリリリ

 

ジリリリリリリ

⦅はい、ワークショップ。⦆

技術者の一人が電話を取った。

世に名を響かせる偉人との対談を中断させられたせいか、声が妙に苛立っている。

⦅マカリスターだ、家の設計を頼めるか?⦆

マカリスターは用件を述べた。

それを聞いた技術者は苦い顔をした。

⦅それだけのためにバベッジ博士との会話を中断させたんですか?もちろんできます。話はそれますが、今スチームコアの仕組みと製造について話していたんですよ、彼はやはり偉人と言われるだけあります。なんとこれを製造可能だと言うのです。しかも階差機関等の計算機さえあれば一両日中に量産の目処を立てて見せるとまで!キャプテン。素晴らしいことですよこれは!⦆

スチームコア。蒸気の供給だけで半永久的に動き続ける上に熱をも供給する人類科学の結晶。彼らには仕組みが理解できず、ほぼブラックボックス扱いであり、多数の重要施設に必要なものの製造方法が何一つない。

⦅それは素晴らしい!しかし今一番重要なのは鉄と家だ。寒波が来ることが観測隊から伝えられている。せめてテントからは脱却しなくては。⦆

声が深刻さを醸し出していた。もしなんの準備もなく、寒波が直撃すれば病人が続出し、医療施設が足りなくなり、街は回らなくなるだろう。まともな住宅が欲しいなどと贅沢は言わない。せめて宿泊小屋を設けなければ。

⦅そのあとは製鉄所の研究を頼む。家を建てようにも鉄が足りないのでは話にならない。⦆

⦅……今日は長い仕事になりそうですな。夜食の手配を頼みますよ。⦆

⦅もちろん、調理場とハンター小屋に捻出するよう言っておこう⦆

 

ガチャリ

 

電話が切れた。

 

⦅はぁ……キャプテンも無理を言う。しかしこれもより良い明日のためか……⦆

そう言いながらバベッジ卿に向かって歩いていく。

⦅サー、申し訳ありませんが仕事が入りましてね。スチームコアの談義については後にしましょう。⦆

「うむ、君とは実にいい話し合いができた。名前を聞いておきたい。」

バベッジは満足そうに微笑み(顔がどこかすらよくわからないが)、名前を聞く。

⦅光栄です、サー。私はジョン、ジョン・マクマナスです。以後よろしくお願いします。⦆

「よろしく、マクマナス君。ところで、仕事とは何かな?我も手伝えるようなものかね?」

バベッジが問いかける。彼はこの世界の技術を見て、聞いて、知った。今彼が望むことは一つ。夢見ていた蒸気の世界の一員となることだ。

⦅いや、博士の手を煩わせるほどでは……⦆

「何かさせて欲しい。あのように夢見た蒸気世界が目の前にあるのだ。我にも何かさせて欲しい。」

⦅そこまで言うのなら……製鉄所の設計をお願いできますか?我々は家の設計を行うので。⦆

この男、厄介な案件の方を丸投げした。しかしそれもバベッジの優秀さを見込んでのことだろう。そうに違いない。たぶん、きっと……

 

 

 

そして夜は更けていき、新しい日を迎えようとしていた。

*1
我がカルデアにモリアーティ教授はいらっしゃいません。テスラ博士はいるけど

*2
この世界では階差機関の発明によって大英帝国にかつてない発展をもたらした功績により、領地と爵位を与えられ、貴族になった

*3
現在で言うプログラムにあたるものである




今思ったけどこのキャプテンってサーヴァントとして来てくれれば第一、二異聞帯割とすんなり行くのでは(purposeの法律から目を背けつつ)
純粋な子供ならきっと信じてくれるさははは(白目
コメントをくださると励みになります。


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新たな家 その4 〜発展〜

前回のあらすじ
スカウトが逸れた住民を連れ戻してくれてみんなハッピー
でも食糧も木も石炭も足りねえ、じゃ石炭採掘場と製材所建てようぜ!
今度は寒波が来る、テントじゃ寒すぎる。
家の研究と製鉄所作っとこうぜ!
アーサー:なんかオートマトンおるやん。えっ、あれバベッジ博士?
本物のオートマトン見つけた!これで勝つる!


家と製鉄所の研究は無事になされた。今や人手が足りないながらも製鉄所は仕事を開始し、バベッジ博士の優れた設計によって予想を超える生産量を叩き出している。

 

研究の進行速度に不安を抱えるキャプテンによってワークショップは増築され、より多くの技術者が詰め、より早く研究が進むようになった。

 

テントは全て宿泊小屋に建て替えられ、人々は安定した住居を得ることができた。これからは寒さに怯えず、安心して過ごすことができる。人々の不満はなくなり、希望を持って明日も生きようとしていたその矢先。

 

寒波が到来した。

 

⦅しっかりと着込め!気温が落ちるぞ!⦆

新たな家。現在の気温:-40℃ 現在の時刻 5:30

総人口:114人

全ての住民に家を提供することはできたが、新たな問題が浮上した。

ジェネレーターの出力があまりにも足りていない。天に向かって聳え立つ鉄柱の足元はいくらか温まっているものの、少しでも離れると骨身に沁みるような寒さが襲ってくる。

⦅キャプテン、市民からの陳情書です。⦆

アーサーが一枚の紙を差し出す。

そこには長々と文が書かれていたが、要約すれば“家が寒い。どうにかしてくれないと病気になっちまう。”と言ったような内容であった。

マカリスターは立ち上がり、電話の受話器を取った。

 

ジリリリリリリ

⦅はい、ワークショップ。⦆

前と違い、ワンコールで繋がった。

⦅マカリスターだ、早速だがジェネレーターの放熱範囲の拡大と火力増大を頼めるか?⦆

⦅ええ、お任せください。キャプテンが増築してくれたワークショップとバベッジ博士の開発した階差機関があれば今日中には終えて見せましょう。⦆

バベッジ卿は材料を要求したのち、なんと一晩で階差機関を組み上げてしまったのだ。彼は一体いつ寝ているのだろう。

………

話が逸れたが階差機関のおかげで計算は従来と比べると非常に正確、かつ高速に行われるようになり、より一層複雑なものが研究可能になった。

⦅早急に頼む。⦆

そう言って電話を切った。

 

⦅次は遠征隊の報告です。多数の難民を発見したようで、判断を求めています。⦆

そう言ってデスクの上には2枚の紙が広げられた。

一枚はオートマトンを発見した鉄橋を渡った先で45人の難民を見つけたと言う報告、もう一枚は天気観測所でスチームコア1こ、道中にあった放棄されたシェルターで大量の食料と木、またもやスチームコアを拾って帰ってくると言う話であった。

⦅難民は受け入れる。遠征隊に案内させてやれ。難民たちは不安になっているにちがいない………そのあとは近くにある天文台に行ってくれ。ビーコンから難民らしき物を発見したと報告された。⦆

今、この街のインフラは整ったがそれを維持する人手が圧倒的に足りていないのだ。

 

⦅キャプテン、次は子供からの陳情書です。⦆

辿々しい文字で書かれた手紙には子供たちも力になりたいと言った内容が書かれていた。

⦅……ふーむ、どうするかな…⦆

子供、斯くも扱いに困るものがいようか。

働かせるのもいいが大した足しにはならない上に怪我をさせると親がうるさい。しかし将来的には成長し、我が街の中心を担ってくれるだろう。

将来に賭けて、児童を保護するか。それとも短期的な目標達成のために児童労働を許可するか?

⦅児童保護法を発布する。⦆

⦅よろしいので?⦆

アーサーが棚の中から古ぼけた本を取り出した。

その表紙には“法の書(Book of law)”と書かれている。

手袋を外し、指を舐めてページをめくり、探していたページを見つける。

児童保護法。希望が上がるが児童保護シェルターを立てる必要がある。その出費と子供たちのもたらす未来が釣り合うかどうかはわからない。

 

 

ーーーーーーーー

数時間後

 

昨夜は住民総出で寒波に備えるために家を建て替えた。

布一枚以外に遮るものがなく、風も雨も少ししか防げないようなテントから風雨を凌げる宿泊小屋へ。かなりマシになった上に断熱性を少し持つようになった。

今の状況ならこれでも十分だろう。

⦅傾注!傾注!新しい法だ、新しい法の発布だー!⦆

ジェネレーター前広場が俄に騒がしくなる。

⦅キャプテンは児童を保護することに決めた!児童保護法に署名したのだ!明後日までには学校ができていることだろう、全住民はそこに自分の子供を預けるように!⦆

新しい法案が発表されたようだ。

「おはようございます、先輩。」

「おはよう、マシュ。外が賑やかだね。」

人口が増えたせいもあってか賑わいが段違いだ。

⦅いいね、子供は宝だ。キャプテンはいい判断をした。⦆

⦅しかしだね、子供たちは学校で何をやるんだい。教科書もないのに。雪が落ちてくるのを見てるのかい?⦆

中々の賑わいが街を包んでいた。

⦅キャプテンは人口の増大を望んでいる!これから余所者がどんどん入って来るだろうが、みんな歓迎するように!⦆

そして汽笛が鳴り響く。ゆっくりとした朝の時間は終わりを迎えた。

⦅さぁ、仕事だ!全員持ち場につけ!明日のパンのために働くんだ!⦆

技術者諸氏はワークショップに入り、炭鉱とジェネレーターの改良のために頭を働かせる。労働者諸氏は製鉄所や製材所、そして石炭採掘場へと赴き、生きるために今日も働く。

幸い今まで怪我人や病人は出ていないがこれからも出ないとは限らない。それに今日は寒波が来ている。いつもの二倍寒い。

職場はジェネレーターから遠く離れたところにあることが多く、スチームハブによって多少の熱が届けられているものの寒いものは寒い。今日も一日健康に過ごせるだろうか……?

「第一異聞帯のことを思い出すよ。あそこで賑やかだった時は大抵悪いことが多かったけど今度は違う。みんな希望に溢れているんだ。」

「先輩、パツシィさんのこと…」

「いや、パツシィとは約束したんだ。彼の分も楽しく生きるって。」

 

一瞬の沈黙が場を支配する

 

バベッジ卿は最近ワークショップに篭りっぱなしだ。どうやら設計どころか見たこともない炭鉱の設計に手間取ってるようだ。基礎技術は確立されたが、どうも細かい箇所の仕様が定まらない。それでも一応形になったので提出したところ採用され、一両日中に石炭の供給源を石炭採掘場から炭鉱に置き換えると言っていた。

 

今この場にいないのが恨めしい。彼がいたなら空気を読まずに何かをぶっ込んでくれただろうに。

 

⦅フジマル!マシュ!出てきな!仕事だよ!⦆

初日に仕事を教えてくれた女性……エバンズ婆さんとみんなは呼んでいる。口は悪いが面倒見のいいことで有名らしい。

⦅今日は難民がいっぱい来るらしいからね!もっと働かなくちゃね。⦆

⦅先に出かけるよ!⦆

そう言って同居人たちは出かけて行った。

“新たな家”では規定によって10人で一つの住居に住むことになっており、藤丸たちはエバンズ婆さんと同じ宿泊小屋に割り当てられたのだ。そして彼の鍛え抜かれた体とマシュの怪力*1を買われて製材所に仕事を割り当てられた。

なんてことはない、寒空の下、凍った木を切り倒して建物まで運ぶだけのお仕事である。簡単そうではあるが、力に自信のあるものしかできない仕事だ。

風の噂では“ウォールドリル”なるものに製材所は置き換えられるらしいが果たしてどうなるかは(キャプテン以外)誰も知らない。

「ねえ、マシュ。」

「なんですか?先輩。」

「ここに来てから何か魔術師らしいこととか、マスターらしいことってしてないなぁって思って。」

彼らはここに来てから建築を手伝わされたり、製材所に通って労働したり、バベッジ卿を呼んだこと以外魔術や戦いとは無縁の生活を送っていた。

そのバベッジ卿すら英霊らしいことはしていない。一人の科学者として街の発展に貢献しているのみであった。

彼はこの平和を享受していたのだ。元は一般の高校生、今となっては大学生になってもおかしくない歳だろう。年相応に勉学に励んでいるわけではないが、社会に加わり、働くという長らくやってこなかった一般人の生活を送っていると言うことに彼は喜んでいるのだ。

これまでにあまりにも多くを滅ぼしてきた。

しかしここは滅ぼすべき異聞帯ではない。

危機に陥り、それでも決してあきらめない人類の意地を見ることができる並行世界なのだ。

魔術という力、異星の神という理不尽に襲われることはなかった世界。

あぁ……ここに骨を埋めるのも悪くないのではないか。

 

藤丸そう思いかけたが、自らの家族、友人、なによりも犠牲になったドクター・ロマン、ダヴィンチちゃん(大人)のためにも元の世界を取り戻さなければいけない。

「マシュ。」

「はい?」

「平和だね。」

マシュは一瞬何を言われたのか分からなかった。ぽかんとした顔で藤丸を見つめていたが、次第に口角が緩み、微笑んだ。

「っふふ、そうですね!先輩!」

 

⦅若いのはいいことだね!⦆

 

どうやらエバンズ婆さんはまだ出かけてなかったらしい。

二人は顔を真っ赤にして俯いた。

 

ーーーーーーーー

 

街は喧騒に包まれ、通りに響くのはジェネレーターの作動音、製材所の鋸の音、製鉄所の機械音、石炭採掘場が圧縮水を地層に叩き込む音、そしてウォールドリルと炭鉱が建築される音だった。

しかしそこに一つの、大きな不協和音が響いた。

 

獣の遠吠えのような金属が軋む音、蒸気機関の吠える音、細長い四つ足が地面を踏みしめる音。

 

 

オートマトンが街に到着した。

 

力強く足が振り下ろされ、生き物でいう腹部にあたる部分から蒸気を撒き散らし、三階建ての家を軽々と跨ぎ、中心に存在するジェネレーターを目標として歩んでいく。

⦅これがオートマトン………危なくないのか?⦆

⦅ああ、オートマトン!人類科学の結晶をまた見る日が来ようとは。⦆

⦅これでちったぁ生活が楽になるといいなぁ……⦆

見物人はどんどん集まり、オートマトンについて語り合っていた。

「これがオートマトン……」

⦅えぇ、サー・バベッジ。これがこの世界におけるあなたの大発明、オートマトンです⦆

 

オートマトン、長大な四本の足と多数の作業用アーム、最新技術であるスチームコアを使用した力強い蒸気機関。これら全てチャールズ・バベッジ*2が開発した解析機関によって設計され、製造された。

 

⦅やったな!アーサー!⦆

マカリスターも歓喜していた。

効率自体は多少人間の労働者に劣るものの、昼夜問わず、不平不満を一言も漏らさず働き続けてくれる素晴らしい労働力だ。

これで一つの資源の安定供給は約束された。

 

その後

 

ジェネレーターの足元、制御室にて。

ジェネレーターは絶えず煙をあげ、熱を生み、それを全ての施設に送り続けている。その足元に制御室があり、新たな家全体の暖房やエネルギー供給を制御し、温度を管理することができる。

今は“キャプテン”の執務室として利用されており、常にアーサーとマカリスターの二人が詰めていた。

そこに今日は、一人の来客が現れた。

⦅キャプテン、技術者があなたと話したいようです⦆

アーサーが言う。

⦅いいぞ、通せ。⦆

そしてドアが開かれ、ゴーグルを額につけ、分厚いコートを着込み、腰にはレンチやドライバーといった工具を腰に下げた男が帽子を取り、述べる。

⦅通してくださりありがとうございます、サー。⦆

⦅話とはなんだ?⦆

マカリスターが問う。

⦅えぇ、まずは要求を言いましょう。1日の休みが欲しいです。⦆

⦅あぁ、いいぞ。⦆

マカリスターは快諾した。オートマトンのおかげで今石炭採掘場に勤めている彼と彼の同僚たちはほかの仕事が割り当てられている。彼が今割り当てられている仕事はそれほど重要性が高くないため、何日休もうが大した差はないのだ。

⦅だが理由を聞かせて欲しい。⦆

⦅サー、オートマトンのことは知っているでしょう?オートマトンは改良できる。オートマトンは我々の技術の頂点かもしれませんが、作り方を学んだのだから、もっと良くする方法もきっとあるはずです。どんな機械でも、よく観察すれば調整して性能を上げることができる。それは、彼らも同じではないでしょうか。⦆

技術者はとんでもない迫力で迫りながら一息で言い切った。

⦅おっ……おう…⦆

マカリスターは彼の気迫に気圧されてしまった。

⦅つまり、オートマトンを改良したいと言うことだな?⦆

⦅はい、サー。数日の休みで十分です。後日試験のためにオートマトンを1日貸し与えて欲しいのですが……⦆

⦅……それはその時の状況によるな…⦆

⦅その時はよろしくお願いします。ともあれ、休みをいただきありがとうございます。⦆

⦅うん、幸運を祈る。⦆

そして技術者は一礼して、退室した。

 

一時の沈黙がまたもや制御室を占領した。マカリスターは顔をしかめ、唸り、思案していた。遠征隊が生存者とともに持ち帰ってくる二つのスチームコアを何に使うか。工場を建造し、オートマトンの製造に手をつけ、さらなる安定化を目指すのか。それとも炭鉱をさらに増やし、供給量をさらに増やすのか。

これはそこまで重大ではないように見えるが、現状二つしかない非常に貴重な資源をどのように割り振るか、これは後々石炭、鉄、木といった資源のやりくるに関して大いに影響してくるだろう。果たして安全策を取るか、将来のために思い切って投資するか。

 

 

 

………そして決断は下された。

電話を取り、ワークショップに連絡する。

 

ジリリリリリ

 

ジリリリリリ

 

ジリリリリリ

⦅はい、ワークショップ。⦆

3コール。随分と長くかかったように感じる。

無理もない。彼らは朝に言い渡されたジェネレーターの放熱範囲の拡大と火力の上昇にため一生懸命働き、研究していたのだから。

⦅マカリスターだ。研究の進捗はどうだ?⦆

⦅えぇ、順調です。退勤時間時間までには研究が終わりそうです。⦆

⦅素晴らしい。ところで明日の予定について話してもいいかな?⦆

マカリスターは問う。返答がどちらであろうと話す気であるのは声から聞き取れる。

⦅もちろん。どうぞ?⦆

⦅工場について、研究してくれるか?⦆

⦅工場……!ということはオートマトン製造に手をつけるのですね!いやあ、技術者冥利につきますよ!喜んでやらせていただきます!あ、もちろん明日ですよ。今日はもういっぱいいっぱいですので。⦆

ワークショップに詰めている技術者は快諾した。かつては技術者として最大の幸福……もとい給料の高い仕事といえばオートマトンの整備と製造であった。このための技術は非常に高度かつ専門的な知識が必要になる。しかし彼らは鍛え抜かれた精鋭なのだ。きっと成し遂げてくれるだろう。

⦅じゃ、よろしく頼む。⦆

⦅はい、サー。⦆

 

ガチャ

 

⦅アーサー、今は何時だ?⦆

⦅ええと、午後5時ですね。⦆

時間を訪ねてどうするのか、アーサーが戸惑っていると

⦅もうすぐ生存者達が到着するだろう、家をもっと建てておけ。⦆

とマカリスターが答えた。

そういえばそうだ。朝にスカウトから難民発見の報告を受け、12時間と少しで到着すると言っていた。なるほど、難民達の家のことを心配していたのか。アーサーは感心した。

果たしてそれが人道的観点と言われるものなのか、ただでさえ不足している技術者達を医療に割きたくないのか*3。彼の意思を知ることはできないが、難民達はいい家を得ることだろう。

 

そして夜は更けていく。

労働は終わり、娯楽と休憩の時間が訪れる。

マシュと藤丸は早速食堂に駆け込んだ。

食堂には限られたスペースしかなく、メニューも単調なものであった。しかしそれでもこの街における唯一の栄養補給方法であり、娯楽なのだ。

ニューロンドンにはまだテレビも、ラジオも存在しない。人々は時間を持て余し、さらなる娯楽を求めていた。

そこで我らがキャプテンは酒場を開き、アルコールを提供。その上闘技場を開いたのだ。これは住民に大好評だった。

人々は仕事が終わると酒場で酒を買い、闘技場に駆け出し、掛け金を出して勝者を当てる。見事当てた者には商品として食料や酒が与えられる。全住民はこの新たな娯楽に夢中になっている。

藤丸とマシュは暴力的すぎると忌避していたが、(製材所の)同僚に誘われ、一回行ってみたらこれが意外にハマってしまった。

極寒の中半裸で殴り合う二人の漢、それを取り囲むように設計された観客席から沸き立つ落雷のような歓声。この熱気に当てられ、ついつい掛け金まで出してしまった。手に券を握りしめ、汗が滝のように流れ、喉が枯れるほど藤丸は叫んだ。悲しみではなく、ただひたすらに興奮のために。

こんな経験をしたことはなかった。藤丸はここに来るまで賭け事の類*4に手を出したこともないしここまで熱狂したこともない。マシュに至ってはカルデアの外に出たことすらない箱入り娘なのだ。二人とも一緒になって叫び、拳を握りしめ、周りの観客と同じように腕を振り回していた。

 

⦅いけっ!そこだ!そこでフックだ!⦆

⦅そこじゃない!避けろ!ここでストレートだ!⦆

⦅勝ってくれよー!お前に100ポンド*5掛けたんだからなー!⦆

「いけー!勝て!そこだ!そこで拳を出せー!」

⦅打ち込め!打ち込め!よし、いいぞ!!⦆

「がんばってくださーい!!」

 

そして決着はついた。

赤いベルトをした男が青いベルトをした男のアゴをかちあげ、青いベルトをした男はそのまま倒れ込み、動かなくなった。

⦅勝者!赤コーナー!ジョン・ベッケナー!⦆

悲鳴と歓声が混じって闘技場に響き渡る。

藤丸が自らの手の中を見ると、握りしめたせいでクシャクシャになっていたが、赤に賭けたことを証明する紙が入っていた。

つまるところ、賭けに勝ったのだ。

その後、証書を持って配給所に向かうと甘味と酒………は飲めないと言うことで今では貴重なジュースをもらい、ホクホク顔で家に向かって歩いていった。

「いい日だったね、マシュ。」

「はい!こう言う日がずっと続けばいいのですが……」

「きっと続くさ。うん、きっとね。」

そう話しながら、彼らは喜びと希望に満ち溢れた顔をしていた。

この寒いけど、平和な日々がずっと続く。

そう思っていたが

 

 

平和の終わりは唐突に訪れる。

*1
大体オルテナウスのおかげ

*2
frostpunk世界のバベッジ卿

*3
家もなしに-40℃の寒空の下寝させて凍傷だったり風邪をひかない人はいないだろう

*4
ラスベガスはトンチキ特異点なのでノーカン(暴論)

*5
およそ15000円




次回、ウィンターホーム死す


ウィンターホームの滅亡って良シナリオですよね。
何回遊んでも飽きない。


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新たな家 その五 〜Fall of winterhome〜

前回のあらすじ

平和だなぁ
人が足りない!どんどんひと集めなきゃ
闘技場と酒場建設!ギャンブルと酒と暴力は心を癒してくれる

以上

Fall of winterhomeみんな遊んでくれえ……マジで良シナリオなんだ…


それから二日が過ぎた。

遠征隊は二つに増員され、彼らが持ち帰った複数個のスチームコアによって炭鉱がもう二つ建てられ、石炭はむしろ余るようになった。

オートマトンも建造され、今や炭鉱は完全に自動化され、誰一人出勤していない。藤丸とマシュはウォールドリル*1に配置換えされ、機械化されたより生産的な労働へと身を投じた。

製鉄所もより高度に効率化された“蒸気製鉄所”に建て替えられた。

食料の要であるハンター小屋もまた行動範囲を広げ、より多くの動物を狩れるように、ついに空を飛び始めた。飛行ハンターの誕生である。水素で空を飛び、蒸気タービンでプロペラを回し、空を我が物顔で飛び周り獲物を上空から仕留める。この戦術は非常に有効で、食糧生産量が二倍に跳ね上がった。

物資の生産量が大幅に増えた影響でクレーターの壁際には大量の倉庫が建築された。

 

キャプテン・マカリスターはあらゆる物資を安定して供給でき、住民を凍えさせることもない考えうる限り最高の街を作り上げたのだ。人々は希望に満ち溢れ、不満はほぼなかった。病人は救護所まで案内され、素早い治療を受けることができ、たとえ四肢切断することになっても最新の義肢ですぐに社会復帰することができた。

 

遠征隊によって救助された難民は数えきれず、彼らは“新たな家”の発展に大きく貢献し、街の一員となっていった。

 

そしてある日……

 

 

 

 

⦅キャプテン!キャプテン!至急の報告です、どこにいらっしゃいますか、キャプテン!⦆

 

13日目、午後23:00、住民442人、気温-30℃

 

遠征隊は鉄橋を渡った先にウィンターホームと思われるジェネレーターを発見した。

ウィンターホーム。かつては地球上最後の都市として知られ、我ら“新たな家”の目標であり、希望であった。今でもそうだ、多くの人々はウィンターホームとともに生活圏を築くのを夢として生きているのだ。

⦅なんだ、落ち着け、アーサー。⦆

マカリスターがのそのそと寝床からはい出した

⦅今何時だと思ってるんだ……全く⦆

⦅それどころではありません!サー、ウィンターホームが、あのウィンターホームが……!⦆

 

 

午前3:00、普段ならば夢の国への旅の最中、安らかな眠りを享受している時間。

しかしながら今日は違った。

住民は松明を掲げてジェネレーター前に押し寄せ、大声で叫んでいた。

⦅ここに来たことは間違いだったんだ!⦆

⦅パニックになるんじゃない!我々はまだ生きてる、間違いから学べるはずだ!⦆

⦅ロンドンから離れるんじゃなかったんだ…⦆

⦅私達は子供と自分自身を守らなければならない!その道を探らねば!⦆

人々の目からは希望の光が急速に消えていく。

唯一の目標かつ縋るものであったウィンターホーム、そこはもう、滅んでいた。

遠征隊の報告によると

『廃墟と化した都市の通りには、何人もの死体が散乱している。食糧不足と市民の絶望感、それに続く争い、暴動、無政府状態への移行、減少する資源の奪い合い、そして最終的な飢餓......と、年代記には記されている。最後の記入は"神よ許したまえ、我々は死人を食べている。希望はない“』

死体が数人分しかなかったことからウィンターホームの住民の大部分はどこかへと脱出したことがわかる。しかし街が滅んだことは変わらず、希望の街の崩壊と言う事実が重くみんなの心にのしかかっていた。

 

そこに一つの声重く、低い声が響いた。

⦅諸君!ウィンターホームは死んだ!これは紛れもない事実だ。⦆

マカリスターがジェネレーターの台座の上に立ち、語りかける。

⦅しかし、我々はここに立って、生きている!それも快適に!これもまた紛れない事実だ。遠征隊の報告によるとウィンターホームは非効率的極まりない都市設計であり、初代指導者が怠惰極まりない者であり、何より秩序が存在しなかった!⦆

ジェネレーター前に集まった全住民が彼らのキャプテンの言葉に耳を傾けている。誰一人口を挟まず、ただ黙々とキャプテンに顔を向け、目を見て、立っている。

⦅しかし我が街は高度に効率化されている!機械化された炭鉱!大量の食料を持ち帰ってくれるハンター達、石炭を絶えず採掘するオートマトン達、木を、鉄を、未来を生産する労働者達、そして我らの未来を模索する技術者達!そしてそれを導くこの私、キャプテン・マカリスター!何を恐れることがあろうか!ウィンターホームは死んだが我らは死なない、我らこそが地球最後の都市となるのだ!⦆

 

民衆は一瞬の間を置いて、喝采を彼に浴びせた。

これまで人々の不満をうまくコントロールし、希望を持たせ、生活を大きく改善させた彼を皆信頼しているのだ。彼ならばやってくれる。彼と一緒ならば生きていける。そんな思いが伝播していった。

 

これから新たな家は生まれ変わる。

ただの居住地から、一つの完成された街へ。

*1
“冬”が来る前、新たな家が現在存在する場所は豊かな大森林だった。石炭と鉄の埋蔵量は豊富かつ木材にも困らない、まさに理想の土地だった。そこで政府はここに建設チームを送り込み、ジェネレーターを建てた。しかし降り積もる雪によって周りの森林は氷に覆われ、ついに埋もれてしまった。建設チームはありったけの石炭を使ってなんとかジェネレーターが埋もれないよう雪と氷を溶かし続けたが、それにも限界があった。石炭が尽き手持ちの資材が尽き、これ以上の維持が不可能と判断したチームはここを放棄し、北へと向かった。ウォールドリルとは氷のクレーターの壁を掘り進め、壁の中に埋もれた木を掘り出す施設である。




次回、秩序と規律始動


私秩序でしか遊んだことないから信仰ルート何もわからない

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