トレセン学園コック長 (ブランチランチ)
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焼きそばお待ち!!

思い付きなのでネタが切れるまで頑張ります。


第1話

 

 

トレセン学園ウマ娘達がトゥインクル・シリーズで活躍するべく日々しのぎを削る場所である。そこでコック長を務める男がこの物語の主人公である。

 

 

「コック長!!約束しただろこの間のレースで1着取ったら焼きそば作ってくれるって!!さぁ作れ!!今すぐ作れ!!最高にかっこよく美味しくな!!」

 

先程から付き纏ってくるウマ娘、ゴールドシップ、通称ゴルシ、黙っていれば美しいのだが面白さや興味を優先して動く癖の強いウマ娘である。

 

「えーい!!うるさいわい!!朝から付き纏いやがって、ひと段落したら作ってやるって言ってるだろが!!」

 

ったく、朝からギャーギャーと仕事してる間もずっとこの調子だよこの子。周りの人もウマ娘もゴルシの破天荒さは身に染みているからってそっぽ向きやがって!!

 

「だっで、ずっど無視するんだもーん」

 

エグエグと泣いているゴルシ。側から見たら泣かしたみたいに見えるかもしれないが、騙されないでくれ、コイツチラチラこっち見てるやんけ!!くそ、やってやるよ!!度肝ぬいてやる!!

 

「わかった・・、ゴルシ鉄板用意しとけ今から美味い焼きそば作ってやる」

 

「カッコ良くは?」

 

「いや、カッコ良さは・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・やってやろうじゃねぇか!!」

 

「ww ww鉄板用意してくるぜww」

 

くそ、やってやる!!やってやるさ!!

爆笑しながら鉄板を用意しに行ったゴルシを背にあるものを取りに自室にいくコック長。

 

 

 

チームスピカの小屋前で屋台用の鉄板を用意し終わったゴルシはコック長を待っていた。

 

なんだかんだと相手をしてくれて自分のノリに付き合ってくれるコック長、今回はどんな事をしてくれるのかワクワクしている。

 

「またせたな」

 

いつもは白いコック服を愛用しているコック長だが今は学ランしかも長ランにリーゼントそしてサングラス姿である。気になるのは両肩から見える金属、ガン◯ムのビームサーベルのように見えるそれはなんなのか・・・

 

「お、おぅ、コック長どうした頭おかしくなったか?」

 

「お前に言われたくないわ、気分や、学祭でやった時と同じ衣装なんや」

 

「まぁ、いいや、さぁ作れ!!」

 

「任しときぃ、ほなぁやったるでぇ」

 

ちょっとエセ関西弁がウザイと感じるゴルシであった。

 

 

さて、ちょっと久々で出来るかわからないけどなんとかなるだろ。

 

鉄板を熱し、油をひきニンジン、キャベツに火を通して火のついてない左の方に避けておく。次に肉を焼き軽く塩胡椒をして野菜と同じように左に、そして麺を投入する

 

「んで、こいつやぁ」

 

「そっそいつは!?」

 

ビール、麺をほぐすだけなので少しだけだがこいつでほぐすと一味かわるのさ。

 

「おい!!コック長!!全然カッコ良さがないぞゴルシちゃんはそんな変な格好だけでは騙されないぞ!!」

 

「こっからや!!黙って見とけよ」

 

背中に背負っていた二つのコテを取り出す

 

「なんだ、それは!?」

 

驚愕するゴルシ通常のコテと違い長さが60センチ以上長いのだ、それに持ち手までの間がねじれているのだ。

 

「いくぜぇーー!!」

 

長さによる使いにくさを感じさせない見事なコテ捌きて麺と野菜肉が混ざっていく。

 

「ゴルシ見とけよ、これぞダブルドラゴントルネェェェド!!」

 

持ち手のボタンを押すとあらかじめセットしていた特製ソースがコテをつたっていく、それに合わせて両手のコテを回転させ麺と野菜を巻き込む様に鉄板から天へと登らせソースと絡ませていく。さながら黄金の龍と漆黒の龍が絡まる様に麺とソースが一つとなり、それに巻き込まれて野菜と肉が漆黒の龍に呑まれていき天に登り一つとなった。絶妙な力加減で竜巻の様に混ぜるコック長は降り立つ龍の眼下に皿を待って行くと吸い込まれるように降り立ち最高の一品となる。最後に鰹節と青のりを降らせ紅生姜を添えれば完成となる。

 

「焼きそば、お待ち!!」

 

ゴルシの前に差し出された焼きそばは綺麗に盛られていた。野菜も肉も偏りなく散りソースもキチンと絡まっている。あんなめちゃくちゃな方法で混ぜられたのに綺麗の一言しか出ない。

 

「なに固まってやがる食ってみぃや」

 

皿を受け取り麺に箸を通す。口にはまず鰹節と青のりの香りが広がり後を追ってソースの香りが全体に広がる。辛めのソースは野菜と肉の甘さを引き立たせそれを纏めて受け止めるもちもちの麺。美味い!!美味い!!

 

「気に入ったよぉやぁなぁ」

 

サングラスを外しドヤ顔のコック長

 

「うめぇ、うめぇよコック長!!しかもなんだ竜巻みたいな調理法はマジスゲェ、しかも全然こぼれてねぇなんて!!」

 

「当たり前だ、食べ物を粗末にするなんざ許されねぇ」

 

昔練習中には悲惨な事になり泣きながら食った苦い記憶がある。

 

何回か同じように焼きそばを焼いているとあるウマ娘が現れた。

 

「コック長!!私にも焼きそばを頼む!!頼む!!」

 

芦毛の怪物、オグリキャップは土下座で頼み込んできた。

 

「えっと、ゴルシいいか?」

 

一応材料はまだまだあるが一応ゴルシとの約束なのでゴルシに確認を取る。

 

「ゴールドシップ頼む!!コック長の焼きそばを私にも!!」

 

綺麗な土下座である、絶対に食べたい!!と伝わる真摯な姿勢。

 

「う〜ん、こんどぱかチューブ出てくれるなら良いぜ!!」

 

「わかった!!出る!!」

 

即答である。こちらを見上げる瞳は爛々と輝き口からは流星がたらり

 

「そういうことなら、ほいオグリ」

 

「ありがとう!!いただきます!!」

 

話の流れで許可が出そうであったので直ぐに作り始めていたコック長はゴルシの五倍程の量をオグリに渡す。

 

ズゾゾゾーと焼きそばを啜るオグリはとても美味しそうに食べていた。吸引力の変わらない焼きそば吸引マシンと化すほどに・・・

 

ゴルシもまだ食べそうなので焼きそば作成マシーンになる俺に驚きの声が届く

 

「な、なんやそれめっちゃカッコええやん、しかも焼きそばやてウチをはずすんはひどいやん!!」

 

「タマちゃんも来たか、食べるか?作ってやるぞ」

 

焼きそばトルネードに、驚くタマちゃんに声をかけると直ぐに返事が帰ってきた。

 

「コック長たのむわ!オグリが急にとんでもないスピードで走り出すから何事かとついてきたら最高の場所やったわ」

 

ニシシと笑うタマちゃん、かわええのう、かわええのう、たんとお食べ、出来上がった焼きそばを渡してあげる。

 

「うまぁーー!!これめっちゃうまいで!!コック長」

 

「そかそか、よかったのぅ」

 

その後も、ソースの香りに導かれスペシャルウィークが辿り着き。小屋に来たスピカのメンバーや通りかかったウマ娘達が焼きそばを求めて賑わった。

 

 

 



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パリッと焼きおにぎりお待ち!!

誤字報告ありがとうございます。
ライスちゃん可愛いです。
呼ばせ方に難儀しましたがこれでご容赦ください。


今日はルドルフ会長から昼食用の弁当を頼まれた。なんでも書類が溜まってるらしい。生徒会室で食べるからサンドウィッチとおにぎりを所望された。

 

 レタスを切りトマトを輪切りにしパンに乗せてさっと塩をかけパンで閉じる。同じ中身で今度はマヨネーズに少量の辛子を混ぜたものを塗り二品目完成。

 

 お次はゆで卵を形がそれなりに残るように細かく切る。それをマヨネーズと少量のマスタードを加えて混ぜる。これをたっぷりとパンにぬり挟む。

フライパンを熱しバターを溶かすとそこに牛乳とマヨネーズを混ぜた溶き卵を投入して硬くなりすぎないようにヘラでフライパンの上を掻き混ぜボウルに移す。最後に粗挽き胡椒を振り軽く混ぜたらパンに挟む。

 

 次は、豚ロースを出し肉叩きで筋を切る。

塩胡椒を振り薄力粉を満遍なくつけて軽く叩いてつけすぎないようにする。これを溶き卵に通し、パン粉をつけたら馴染ませる為に置いとく置いてる間に同じように何枚か作る。

馴染んだものを低温で揚げ一旦取り出す。

最後に高温にして二度揚げしたらとんかつの完成。パンに乗せ甘辛く仕上げたソースを塗りサンドウィッチ達に軽く重しをして味を馴染ませる。

 

「コック長のお兄さんおはようございます」

 

おにぎりを握っているとライスシャワーがあいさつしてきた。

 

「おはようライス、朝練終わりか?食堂は見ての通りまだなんだが」

 

「えっと、本当は部屋に戻って食堂が開くのを待つつもりだったんだけど、お兄さんが見えたから・・・」

 

見かけたから声を掛けた事を上目遣いに言われてテンション爆上がりするしかないコック長であった。おにぎりをにぎる速度が三倍に跳ね上がる。かわええやんけ、さすがライスたんや!!護らねば!護らねば!

 

「迷惑だったかなぁ」

 

「んな事ないよ朝から最高の気分だよ」

 

涙目のライスに優しく応えるコック長。

本当は心の底から声を張り上げて自分がいかに幸せな気持ちになったのかを言いたかったがライスを驚かしてはいけないと紳士的な回答を選んだ。

 

「よかったぁ」

 

「っ!!」

 

自分に向けてにっこりと微笑んだライスの笑顔はコック長のメンタルにクリティカルした。尊さにより一瞬の硬直がおにぎりを手から滑らせてしまう。

 

「あっ」

 

二人の間の抜けた声、高速スピンを続けるおにぎりは茶色い物が詰まったタッパーに落ちてしまう。

 

「あ、ああ、ライスが声なんてかけるから!!」

 

それを見て一気に表情が崩れ涙を流し始めるライス。

 

(俺はなんてことを!!調子にのって5倍速にした自分にキン◯バスターを掛けてやりたい!!しかし、今はライスたんを笑顔にすることが自分の命より大事だ!!何か、何か無いのか!!)

 

打開策を探そうとおにぎりを拾うと一つ思い出した。

 

「ライス泣かないでくれ、何も問題ないから」

 

「でも、お兄さんが作っていたおにぎりが」

 

「これは、味噌なんだ、だからこのおにぎりがダメになったわけじゃないし、うーんなら一旦朝練の汗を流してからまた来てくれないか?これはライスが起こした不幸じゃなくて幸運にするから」

 

「わかった」

 

なんとかライスを宥めてこの場を収めるコック長だがライスの、表情はまだ暗かった。

 

 

シャワーを浴びて再び食堂に向かう。40分程かかってしまったが約束の為食堂に、向かう。

 

「おはよう、ライスちゃんどうしたの?まだ食堂やってないよ」

 

元気いっぱいに挨拶してきたハルウララは不思議そうに問いかけて隣りをついてきた。

 

「おはよう、コック長と約束したからちょっと早いけど今から行くの」

 

「そうなんだ!!ウララもついてっていい?食堂始まるまで今日何食べようか考えてるから!!」

 

了承し食堂の前までくるとトウカイテイオーが話しかけてきた。

 

「おはよ!!ライスとウララどしたの二人ともまだ食堂やってないよ?」

 

「おはよー、ウララ達はねーコック長に用があって来たのーテイオーは?」

 

「そっちもコック長なんだ、僕は、会長からお弁当貰って来てって頼まれたのとコック長が作ってるらしいから、なんか作って貰えないかなーと思ってね!」

 

コック長が作ってるお弁当と聞いて表情が暗くなるライス。自分のせいで会長達のお弁当を台無しにしてしまったと落ち込んでしまう。

 

「きたなライス、ウララとテイオーも一緒か、テイオーは弁当取りに来たのか?」

 

三人で入るとコック長が声をかけてきた。

 

「そだよー、お弁当会長に持ってくんだー、後なんか作ってよコック長」

 

「ラッキーだなテイオー、ライスのおかげで美味いもん食べさせてやるぜ!ウララも食うだろ?」

 

「やったーライスありがとう!!」

 

「ウララも食べるーライスちゃんありがとう!!」

 

「えと、ライスは別に何も・・・」

 

ガハハと笑いテイオーとウララを誘うコック長とコック長のご飯が食べれると喜びライスに、感謝する二人。困惑しながら厨房に程近いテーブルに招かれる三人。

 

そこには七輪が三つ用意してあった。

 

「じゃあ焼いてくな、おっと焼くのを待ちながらこれでも摘んでてくれ」

 

差し出されたのはスティック状に切られた野菜達、ニンジン、きゅうり、キャベツや大根などが並べられ隣には味噌ベースのタレとマヨネーズ、豆板醤を使ったピリ辛のもの三種類ある。

 

「生でも美味しいけどタレもいいね、この味噌とマヨネーズは何かいつものと違う気がするー」

 

「ウララもこの味噌のやつ好きーいい感じに、あまじょっぱい!!」

 

「お味噌美味しいです」

 

ぽりぽりシャクシャクと食べ進める三人はタレも気に入ったようだ。

 

「その味噌は6ヶ月前に仕込んでた奴が出来上がった俺特製味噌をつかったんだぜ!!マヨネーズもついさっき作った出来立てホヤホヤさ」

 

サムズアップしてドヤ顔をキメるコック長は暑苦しい、の一言だが味は最高である。

 

「んで、この七輪で焼くのがこのおにぎりさ!!」

 

味噌でコーティングされたおにぎりを七輪で焼いていくと焼ける味噌の匂いが食欲をそそる。一つの七輪は味噌おにぎり、もう一つは焼きながら醤油を塗っていくこれも醤油の焼ける匂いがたまらない。最後はプレーン、おこげを楽しむ焼きおにぎりだ。

 

程よく焦げ目ができたところで三人の前に焼きおにぎりを、置いていく。

更に別で作っておいた筑前煮と焼き魚、味噌汁を並べてスペシャル朝食の出来上がり。

 

前菜の野菜スティックを平らげた三人は香ばしい匂いに涎が、止まらなかった。

 

「それではどうぞ召し上がれ」

 

「「「いただきます」」」

 

三人揃って手を合わせて食べ始める。

 

「お味噌の美味しいよ〜」

 

あまじょっぱい味噌が焼けた事により風味を増し噛むほどにご飯と馴染み口の中を旨みで満たす。

 

「おこげもパリパリしてて食べてて気持ちいいし、煮物にちょうど良い」

 

パリパリと食感を楽しむと口に入れられた煮物から溢れる汁を受け止めて旨味を引き立たせる。

 

「お醤油も、香りが良いし止まりません」

 

魚と一緒に食べると醤油の風味が食欲を際立たせて食べる手が止まらない。

 

「いや〜作った味噌で何作ろうか迷ってたらライスがヒントくれてな、焼きおにぎり作ろってなったんだよ喜んでくれて良かった、でも仕込んだ味噌はあまりないから言いふらすなよ?」

 

焼きおにぎりを作りながらニコニコ話すコック長

 

「じゃあ、ライスのおかげでこんな特別な朝食が食べられたんだ!!ライス様様だね」

 

「ライスちゃんありがとう、本当に美味しいよ!!」

 

「ライスが起こした幸運に感謝しろよ〜」

 

「「ありがとうライス(ちゃん)」」

 

「っ!?」

 

顔を伏せてしまうライス

 

「不味いものあったか?!それとも朝はパン派だからやっぱり嫌だったとか?!」

 

慌てるコック長

 

「違うの、ライスの、不幸を幸運に変えてくれたお兄さんがすごいなぁって、ライスのおかげって言ってくれることが嬉しくて」

 

「お兄さん・・・ありがとう」

 

満面の笑みで言われたコック長のテンションは爆上げとなり奇声を上げながら焼きおにぎりを焼いたそうな。

更に朝練上がりのオグリンが爆速で登場し三名に加わったのであった。

 

 

 



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たこ焼きお待ち!!

伸びるお気に入り数とUAに嬉しくて次弾を発射してしまいました。
お楽しみいただけたら幸いです。

※コック長がぷかぷかさせてるのはオモチャです。


「ふぅ〜これで準備は出来た」

 

トレセン学園の食堂から程近い中庭でコック長は屋台の設置に汗水流していた。

 

今日はある意味決戦といっても過言では無い日となる。

 

実は先日の焼きおにぎり事件の際に事は起こった。

途中参加したオグリンにより自家製味噌は瞬く間に無くなってしまった。

無くなった事は問題では無い、四人共満足した顔で「ご馳走様でした」と最高の笑顔をコック長に与えた。この時、間の悪いことに

「うちも〜」と登場したタマちゃんとご馳走様(完食)が被ってしまい、焼きおにぎりを食べさせる事が出来なかった。

 

「そんなこといってほんまはあるんやろ〜」と肘でツンツンしてきたタマちゃんに「醤油とプレーンなら」としか言えなかった自分の不甲斐なさに今でも腹が立つ。目の前でご馳走にありつけなかったと絶望したタマちゃんの顔は今も夢にみる。その後は何とか直ぐに作れた俺特製オムライス30個で満足してもらえた。あれ?何で30個も作ったんだっけ・・・ああ、オグリンか・・・

 

ともあれ、その後に何が食べたいか確認したところ「たこ焼き」と回答があったので今日のこの屋台設営に至ったわけだ。

決戦とは?って、いやその場にオグリンも居たから今日は最初からクライマックスなんだよ。

 

 

「いや〜午後の練習も終わったし楽しみやなぁ、オグリ!!」

 

「ああ、さっきから空腹で倒れそうだ」

 

コック長との約束で食堂近くの中庭に向かうタマモクロスとオグリキャップ。

正直、オムライスも相当な出来で満足したのだが、申し訳無さそうに聞いてくるコック長にたこ焼きをリクエストしてしまった。

 

ようやく食堂近くになると遠くからでも屋台が見える。お祭りにあるような屋台で看板や旗にたこ焼きと大きく書かれている。

そんな屋台の横に座る人影が見える。

 

「コック長〜〜っ!!」

「??」

 

手を振りながら近づくタマモクロスは驚愕し、オグリキャップは疑問の表情を作った。

 

そこには、はっぴを着て捻り鉢巻を頭に装着し、茶色の大きなグラサンを掛けキセルから煙を出しながらビールケースに座るコック長と思われる人物がいた。よく見ると頬やオデコにマジックペンで書かれた縫傷と思われるペケマークが書かれている。

 

固まる二人に893仕様のコック長が声をかけて来た。

 

「嬢ちゃん達、たこ焼き食わねぇか?」

 

ぷかぷかキセルから煙を出しながら低くしわがれた声を作って問いかけて来た。

 

「頼む」

 

「え?」

 

短く答えるオグリキャップに気を取られて突っ込むタイミングを逃したタマモクロスは調理過程を見守るしか出来なかった。

 

「たこ焼き入りヤース!!」

 

気合いの掛け声をあげて立ち上がるコック長(893仕様)は背中に祭りと書かれた団扇を帯にさしていた。

 

鉄板に油をひき、生地をつけた菜ばしで鉄板の温度を確かめるとジュッと焼ける音がする。これが開始の合図となった。柄杓を使い鉄板に生地を満たすし、窪んだ場所にタコを投入する。次は全体に散りばめる様に刻んだ青ネギ、紅生姜、キャベツ、天かすを投入。ある程度生地が固まったら竹串でさっと線を引く様に窪地以外をなぞる。そこからは高速で窪地の周囲の生地を巻き取る様に綺麗な丸を形成していく。鉄板全ての生地は瞬く間にたこ焼きへと昇華していく。そこから少しの間たこ焼きを転がして表面をパリパリにする。

 

「嬢ちゃん達、青のり、鰹節、ソース、マヨネーズ全部つけちまって良いかい?」

 

コクリと頷く二人にニカッと微笑むコック長の笑顔をウザイの一言である。

 

竹串で回転をかけて打ち上げたたこ焼きは、さっと出したプラ容器に綺麗に収められてハケでソースをぬり、マヨネーズを波のようにかけ青のり、鰹節を振りかける。

 

「お待ち!!」

 

二人に差し出されたたこ焼きは鰹節が踊りソースのいい香りがした。

 

「「いただきます!!」」

 

爪楊枝を刺し口に入れるとより香りを感じる、一口噛めばパリッとした食感の後にトロトロの中身が溢れる濃いめのだしで味つけられた生地は鰹節の風味を増し昆布の香りがほのかに香り紅生姜の酸味と青ネギの辛味がピリッと味をしめる。

 

「うまぁ」

 

「!!?、!!?、!!?」

 

確かな味に酔うタマモクロスとは違い、オグリキャップはうまい、美味い、旨いと次々口に放り込む。

 

「満足したようで安心したぜ」

 

いつもの口調で話しかけて来たコック長。

 

「マジうまいで、ご飯ある?」

 

「あるよ!!」

 

「あんがと、でもドヤ顔がウザイ!!あとそのカッコはなんやねん!!普通に返事したオグリの所為でツッコミできんかったけど」

 

ドヤ顔で返答したコック長は怒られてしまった。

 

「いや、子供の頃行ってたお祭りでこんな感じの兄ちゃんがやってるたこ焼きがめちゃくちゃ美味くてね、それを真似てる」

 

ご飯をよそいながら答えるコック長にタマモクロスは呆れていた。

 

「コック長は変なカッコすることおおいな、焼きそばの時もそうやったし」

 

「まぁ気にしなさんなタマちゃん、後一旦こっち来てオグリンも」

 

二人を屋台裏に呼び込み、自身は屋台のちょっと離れた所に立ち背中の団扇を装備する。

 

祭りと書かれたコック長の背中に隠されていた巨大な団扇それを

 

「せい!!、やぁっ!!」

 

二度大きく薙ぎ払う様に振るった。

ふぅっ、と額を手ぬぐいで拭いながら戻って来たコック長は一仕事した良い表情をしていた。

 

それを迎えるのはモグモグと口を動かしながら?を浮かべるオグリキャップとドン引きしたタマモクロスであった。

 

「いや、なんやねん・・・マジで」

 

「まぁ見てろって」

 

たこ焼きを再度焼き始めたコック長を他所にたこ焼きとご飯を食べていると

 

 

「スズカさん、こっちから凄い良い匂いがします」

 

「スペちゃん待って〜ウソでしょ、全然追いつけない」

 

 

「会長〜こっちから良い匂いがする、きっとコック長がなんかやってるんだよ」

 

「そうだな、テイオー行ってみよう」

 

 

「ウオッカ、スカーレット急げ、ゴルシちゃんレーダーが反応してる!!こっちでコック長が面白いことしてる」

 

「ゴルシ先輩待って」

「早すぎだぜゴールドシップ先輩」

 

団扇であおいだ方からぞろぞろとウマ娘達が集まって来たようだ。

 

「にいちゃんから教えてもらった客寄せ方法だ効果抜群だろ」

 

程なくして集まったウマ娘達はたこ焼きを楽しみ、ゴールドシップから無茶振りされたコック長は曲芸まがいのたこ焼きを披露するのであった。

 



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シャーベットお待ち!!

ペアならこの2人がダントツで好きです。
お楽しみいただけたら幸いです。


「コック長この通り頼むよ」

 

コック長が事務室で納品リストの確認と申請許可の事務仕事をしていると、スピカのトレーナーが入ってくるなり両手を合わせて頼み込んできた。

 

「頼むと言われても、まぁ、内容を教えてください」

 

椅子に腰掛けたトレーナーから話を聞くとこういうことらしい。

 

1.ダイワスカーレットとウオッカにレースで1着取ったご褒美にオシャレなレストランに連れて行ってやると約束(別々に約束)

 

2.トレーナーは何方とも忘れていた。

(二人とも予約してるから期間が空いたと思っていた。)

 

3.二人に聞かれて思い出す、しかし財布には小銭しか無い

 

4.助けてコック長!!

 

「とりあえず、二人には土下座してください。まぁ、なんとかしましょう料理は俺が作っても良いかの確認をお願いします。」

 

「ありがとう!!コック長、二人にはちゃんと聞いてくる」

 

バタバタと出て行くトレーナーを見送りある場所へと電話をかけるコック長であった。

 

 

 

 

青を基調としたパーティドレスに身を包んだダイワスカーレットと黒のジャケットに黄色のシャツとデニムにシルバーアクセサリーに身を包んだウオッカが車で目的地に移動している。

 

女性らしさが際立つダイワスカーレットに対してカジュアルでボーイッシュなウオッカという感じだ。

 

「ここが目的地だ。二人とも機嫌直してくれよぉ」

 

車を止めて出てきた二人に声をかけるトレーナーは情けない声をあげる。

 

「まぁ、数日で用意した事に免じて忘れてたのは許してあげる。でも満足出来なかったら改めて連れてってもらうわよ」

 

「オレもスカーレットと同じだ、まぁ期待してるぜ」

 

エレベーターから出て扉を開けると落ち着いた雰囲気のバーだった。

 

二人を迎えたバーテンダーは奥のカウンター席へ誘う。

 

「あれ、コック長じゃねぇか!?」

「嘘、全然雰囲気違うじゃない!?」

 

驚く二人に、にこりと笑うバーテンダーはコック長なのだが、いつもの暑苦しかったり、ウザかったりする笑顔ではなく控えめで爽やかな微笑をしているのだ。

 

唖然とする二人にコック長はスッと二つのグラスを二人の前に置いた。

 

「こちらウェルカムドリンクになります」

 

鮮やかな黄色の液体が入っているグラス、縁にはオレンジが添えられていた。

 

少し躊躇いながら飲んでみると爽やかなオレンジとパインの酸味にレモンの香りが絡む爽やかな味わいをしていた。

 

「お出しするドリンクはノンアルコールカクテルですので安心してお楽しみください」

 

恐る恐る飲んでる二人を安心させる為に補足するコック長。

 

 

「さ、流石にお酒じゃないと思ってたけど緊張したわ」

 

「オ、オレは気づいてたけどな」

 

「こちらは鯛のカルパッチョになります。

次はツナマヨと明太子のディップをバケットにのせました。」

 

白いお皿にベビーリーフを敷き綺麗な白身の鯛を並べ、プチトマトを刻んで出汁醤油とオリーブオイルとレモン汁で味を整えたソースを乗せ刻んだ青葉をちらした見た目も美しいものとなっている。

 

もう一つは一口サイズに切られたバケットにベビーリーフをのせツナマヨと明太子を混ぜたピンク色のディップを乗せてプチトマトが添えられている。

 

「こちらはモヒートになります」

 

二人は無言でカルパッチョに箸を向ける。

白身の鯛がトマトの酸味とオリーブの香りをまとい、ベビーリーフのわずかな苦味がアクセントとなり旨味となる。

 

次にバケットを口に入れると小麦の香りが広がりツナマヨと明太子の塩気がトマトの酸味で一体となりまた口に運びたくなるスナックの様な気軽さを覚える。

 

酸味と塩気で潤いを求める口にモヒートを流し込めば、ミントの香りと炭酸のシュワシュワが口の中を洗浄し、仄かな蜂蜜の甘さを感じた後には口の中はリセットされている。

 

 

「すげぇ、モヒートでまた一から美味しく食べ始められるぜ」

 

「カルパッチョ気に入ったわ」

 

あっという間に空になったグラスとお皿を下げて次のお皿を置く。

 

「カプレーゼとローストビーフになります。

ソースはオニオン、ベリー、わさびとなっております。そしてサングリアになります。」

 

前菜により胃袋が適度に刺激された後に出された肉、二人は生唾を飲み込みローストビーフに箸を進めた。

 

塊から切り分けられたローストビーフにウオッカはオニオンソースをかけて口に運ぶ。

玉ねぎの甘さと醤油の塩気による甘ジョッパイというコンボは牛肉とマッチして濃厚な味となる。

 

対してダイワスカーレットはベリーソース。

酸味の強いフルーティな味わいは甘酸っぱく牛肉をあっさりとしたものに変え食が進む。

 

そして二人は止まった。

 

「わさびって、あのツーンってする奴よね」

 

「あぁ、ゴールドシップ先輩にチューブわさびで悪戯されたがやばかったなぁ」

 

ツーンときて痛みを覚える薄緑のそれに余り良い印象は無かった。殆どゴールドシップによる悪戯の所為ではある。それに二人は魚に使うイメージはあったが肉料理に使うイメージがなかった。

 

「月並みな話ですが、いいわさびは辛く無いんです。それにお肉との相性は抜群です。騙されたと思って多目にのせてみてください。」

 

「や、やるわ」

 

わさびを箸で摘みお肉の中心におき巻き込んだ。一瞬箸が止まるが勢いで口に入れる。

 

「だ、大丈夫か?」

 

心配し顔を覗き込むウオッカに対して

モグ、モグと確かめるように口を動かすダイワスカーレット。

 

「辛くない!?全く無いわけじゃないけど、わさびの香りが鼻に抜けてローストビーフの味わいがさっきと違う!!おいしいじゃない!!ウオッカも食べてみなさいよ」

 

「お、おう」

 

ダイワスカーレットと同じようにしてみると

 

「なんだよこれ同じわさびか?あん時は痛いだけだったのに」

 

「これは本わさびでチューブわさびとは違い混じりけのない、わさび本来の味になります」

 

 

出されたものを空にするとコック長が一枚の紙を渡してきた。

 

「ふぅー、取り敢えず雰囲気つくってそれっぽくしたのは全部出したぞ。お前ら場にのまれてカチカチじゃねぇか、ここに書いてるのなら出せるから好きなの頼みな」

 

息を吐いたコック長はいつもの調子に戻して言った。

 

「あ〜、いつものコック長に戻った!」

「コック長の違和感凄かったもんなぁ」

 

「いや、なんか料理を美味しく食べてくれてるのはわかってるんだけど、肩肘張ってるのが目に見えてよ。言ってなかったがここは貸切にしてるんだぜ」

 

「嘘!?だって何人かお客さんだって・・・」

 

「そうだぜ!いくらなんでも・・・」

 

辺りを見渡すとそれぞれシャキッとした服装でお酒や料理を食べている。しかし、よく見るとトレセン学園で見たことある事務員だったりトレーナーだった。なんならスピカのトレーナーはおハナさんとご飯を食べてるようだった。

 

「エキストラさ、でも気づかないくらい店にのまれちまったのさ。知ってる顔だ、もっとはっちゃけなよyou!!」

 

変顔で指をさされたがいつものコック長に安心を覚えた。若干の苛立ちもだが

 

「おっしゃ!!片っ端から食って飲んでやる」

 

「ちょっと、アタシにも見せなさいよ」

 

 

その後は、ワイワイと周りを巻き込んでのドンチャン騒ぎであった。途中調子にのって酒に手を出したスピカトレーナーはコック長とおハナさんのクロス◯ンバーで沈み、その連携に場内が沸いた。

 

 

 

最初の席に戻り余韻に浸ってる中、ウオッカがポツリと呟いた。

 

「なんか・・・焦ってたのかもなぁ、スペ先輩とかスズカ先輩とかすげぇし。1着取れたオレはもっと強くなったんだってオレも負けてないって」

 

「アタシもそうかも、強くて大人になったって思ってたのよ」

 

二人は凄い先輩や周りに焦りを感じてしまったのだろう。だから必死に背伸びをして大きく見せようとした。しかし、そんな事をしなくても引けを取らない実力がある事はここにいる全員がわかっていた。

 

「そんな二人に魔法をかけてやろう」

 

コック長はスッと二人の前にグラスを置いた。

 

「これって」

 

「これは、ウェルカムドリンクとして出したシンデレラっていうノンアルコールカクテルを俺なりにシャーベットにしたものさ」

 

二人はコック長の話しを聞く。

 

「このカクテルには物語のシンデレラにあやかってお酒の飲めない人でもパーティが楽しめますようにっていう願い・・・いや、魔法がかかってるのさ」

 

二人は話を聞きながらグラスをジッと見つめる。

 

「だからオレはこれに、お前たちが凄いウマ娘になるって魔法をかけて作った特別製だ。

このままだと、このシャーベットの魔法はとけちまう。食べてくれるか?」

 

二人に問いかけるコック長にニカっと笑ってグラスを手に取る。

 

「当たり前じゃない、アタシは1番のウマ娘になるんだから!!」

 

「はん!!スカーレットの方は効かないかもな1番になるのはオレだ!!」

 

二人は互いに持ったグラスをチンッと合わせてから食べ始めた。

 

 

二人とスピカトレーナーはオハナさんが責任を持ってトレセン学園に送って行ってくれた。コック長は後片付けを終わらせてある人たちと今日の成果を確認していた。

 

「いい記事書けそうですか乙名史さん」

 

「最高のものが書けそうです!!」

 

興奮する乙名史さんは今日の出来事にテンションが上がりっぱなしである。

 

「それは良かった、貸切で店を提供したかいがありました」

 

今回最大の協力者であるマスターも胸を撫で下ろす。トレーナーとコック長は乙名史さんにダイワスカーレットとウォッカの記事を出さないかと打診しその際に会場の広告もしてもらえるように頼んだのだ。これによりマスターを説得し一晩をタダ同然の値段で貸切にさせてもらった。

 

「それにこれ見てくださいよ!!長くウマ娘さん達の写真を撮ってましたが中々こんなにいい表情のもの無いですよ!!」

 

興奮して話すのは乙名史さんに無理を言って連れてきてもらった隠し撮りの上手いカメラマンだ。

 

彼が見せる写真は最後のシャーベットのグラスを合わせている所だ。二人の表情は自信に満ちたもので、お互いから負けないという闘志を読み取れる。それでいて讃えあっているような仲の良さも感じる。

 

「いいライバルって感じとも取れるし、戦友を讃える様にも見えてイイね」

 

ボソリとコック長が

 

「なんかカップルみたいじゃね?」

 

盛り上がる周りには聞こえなかったが、女性らしさが強調されたダイワスカーレットとボーイッシュで決まっているウオッカは良きパートナー同士に見えてしまったコック長であった。

 

後日、ダイワスカーレットとウオッカ二人に了解をとり掲載された月間トゥインクルは即日完売となり、男性と女性ファンは二人の魅力に取り憑かれたのだった。

マスターも嬉しい悲鳴をあげコック長にヘルプを出すのであった。

 

 

 

 



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つけ麺準備中

誤字報告ありがとうございます。
今回の誤字は自分に対して凄いショックでした。

お気に入り登録ありがとうございます。
当初の目標が100だったのですがいつの間にか超えてました。
本当にありがとうございます。

短いですが区切りが良いのであげます。
お楽しみいただけたら幸いです。



「コック長〜こないだの企画手伝ってくれよ〜てゆうかコック長居ないと出来ないし〜」

 

「お前、俺を殺す気なのか」

 

ゴールドシップはコック長にかれこれ3日間付き纏っていた。料理はさせてもらえるが事務仕事がまるで捗らない。

 

ゴールドシップが持ってきたのは悪魔の企画だった。焼きそばの件でぱかチューブにオグリキャップを出演させるにあたり面白い企画はないかと考えていた。その時わんこそばをテレビでみたという。しかし、わんこそばの気分ではなかったらしくつけ麺にしようと訳の分からない事を言ってきた。

 

あまつさえ大食い対決だ!!

 

と、それに真っ先に名乗りをあげたのがスペシャルウィーク

 

「つけ麺がお腹いっぱい食べられると聞いて!!」

 

鼻息荒くゴールドシップと来た時は死神が鎌を持って来た幻覚が見えた。

 

オグリンVSスペ 大食い対決!!

 

料理関係者からしたら恐ろしいと思うのは無理ないと思う。ウマ娘きっての健啖家の2人がモグモグする・・・最高かな?

 

アカン!!コック長も突き抜けた奴だった!!

 

ふむよく考えたら、でも・・・準備が・・・

 

「もう一息か」

 

悪魔の囁きが聞こえた様な気がしたがコック長は混乱している。

 

 

バタンと扉が開けられるとオグリキャップとスペシャルウィークが

 

「つけ麺を食べさせてくれるのか!!」

「つけ麺食べたいです!!」

 

キラキラと期待の眼差しで見上げる2人の顔はとても綺麗だった。

 

「あ、う」

 

「「つけ麺!!」」

 

「う・・」

 

「「つけ麺!!!!」」

 

「やっ、やっ、やったろうじゃねぇか!!?」

 

「「つけ麺ーーー!!」」

 

ウガーと天に咆えるコック長と歓喜の声を上げるオグリキャップとスペシャルウィークは見ていなかった。

 

「計画通り」

 

見えない様にほくそ笑むゴールドシップの姿が・・・

 

 

コック長は2週間の準備期間を要求しスープ開発と麺の発注を行った。

 

コック長がスープ開発に勤しんでる中事態は急変する。

大食い大会に色めき立つ学園で特にオグリキャップとスペシャルウィークの活躍が凄まじく、理事長が原因を突き止めるとスポンサーになる事を決定。地域交流イベントとして大々的に行われる事となった。

さらに、偶々来ていた乙名史さんが月間トゥインクルの特別号としてオグリキャップとスペシャルウィークのインタビューを掲載したところ大反響。

特別号を読んだファン達からダイワスカーレットとウオッカが食べた料理を作ったコック長の作るつけ麺を是非食べたい!!とトレセン学園の広報ページがパンクする始末。

 

準備期間を追加し一月後となり、麺も追加発注した。会場も別途外に用意する事となった。

 

「あ、アタシは悪くねぇ」

 

 

 

大会当日、快晴に恵まれ大盛況となっている会場。大型の公園で開催される今大会は巨大広場をメイン会場として各地で屋台が出店されたグルメ大会になっている。

 

広場にはステージが建設された。ステージ場を移す巨大スクリーンは人の集まる場所には設置され、公園内で飲食を楽しみながら今回の大会を楽しむ事ができる。

 

メイン会場内にある今大会最大のスクリーンを設置された脇には、コック長が監修したつけ麺を提供する屋台があり、出店の中で最大の規模を誇る。何故なら、大会中であればお代わり自由で提供されるからである。

勿論来場者は来園チケットとして代金を頂戴している。完全無料なのはウマ娘達だけである。

 

そして、ステージ裏にはコック長がスタッフと最終確認をしていた。

 

「チャーシューやメンマ、付け合わせの準備は済ませとけよ。注文係は連携の最終チェックだ!!おかわりを途切れさせない様にするんだぞ」

 

「「「はい!!」」」

 

トレセン学園で日々料理を提供する歴戦の強者達は気合い十分であった。

 

「おっしゃーー!!料理に微笑むウマ娘が見たいかー!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

「元気いっぱいでおかわりにくるウマ娘が見たいかー!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

「お腹いっぱいのウマ娘が見たいかー!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

「ウマ娘のご馳走様が聞きたいかーー!!」

 

「「「おおおお!!!」」」

 

「いくぞーーー!!」

 

「「「「「召し上がれーーーー!!!」」」」

 

こうして大会は始まるのであった。



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つけ麺お待ち!!


今回はセリフが多いです。
こういう回も楽しく書けました。
それと今度から分割はやめようと思います。
お楽しみいただけたら幸いです。


「さぁ、始まりましたトレセン学園特別金船つけ麺杯、実況はトウカイテイオーと」

 

「サイレンススズカです」

「タマモクロスや」

 

ステージ脇に設けられた実況席に座る三人がマイクで自己紹介する。

 

「今回の大会はゴールドシップが発端となり始まりました。皆さんからの反響を受けて大々的に開催されることとなった事に本人もやる気充分で焼きそばを売っておりますので見かけたら是非購入してください」

 

「ゴルシおらんのかい」

 

「あはは、自由な方ですから」

 

苦笑するスズカと呆れるタマである。

会場からも笑いが漏れた。

 

「それでは、選手の入場です。1番1枠スペシャルウィーク!!今大会真っ先に出場を申し込みました!!今大会2番人気になります」

 

「今大会への意気込みは並々ならぬものがありますね」

 

登壇したスペシャルウィークは満面の笑みで小さく手を振り観客の声援にこたえる。

 

「続きまして2番2枠オグリキャップ今大会1番人気!!既にヨダレが止まらない!!」

 

「ハンカチ渡しといて正解やったわ」

 

オグリキャップはハンカチで口元を拭きながら観客にペコリとお辞儀した。

 

「3番3枠ツインターボ!!ターボエンジンは奇跡を起こすのか!!」

 

「無理はしないでほしいですね」

 

「まったくや」

 

観客に両手をあげてアピールし宣言した。

 

「なんと、大逃げ宣言!!流石師匠!!会場も大盛り上がりだーー!!」

 

「嘘でしょ?!」

 

「意気込みは買ったる」

 

「4番4枠メジロマックイーン、ゴルシにより勝手に出場登録されたが不戦敗は許されないと参戦」

 

「ゴールドシップさんによくいじられてますもんね」

 

「不憫やな」

 

「皆さん着席ください。ルールの説明をさせていただきます。制限時間内により多くの麺を食べたウマ娘が優勝となります。スープとトッピングもおかわり自由ですが得点には基本的に加算されません。最終的に同点の場合により多く食べた方を優勝といたします。」

 

「なるほど、箸休めや美味しいからとトッピングを食べてもお腹を膨らませるだけになってしまうんですね」

 

「極端な話し麺1皿の方が得点につながるっちゅうわけやな」

 

スクリーンにはイラストでわかりやすくルールについて映し出されている。

 

 

 

観客席の中、最前列の男が話し始めた。

 

「なるほど、勝利に固執するなら麺に限定して食べ進める事で確実に勝利を目指せるという事か」

 

「どうした急に」

 

「オグリキャップもスペシャルウィークも全ての食べ物を平らげるだろう。これはツインターボとメジロマックイーンに有利に働くはずだ。」

 

「それで?ツインターボとメジロマックイーンの勝算は」

 

「それ聞いちゃう?」

 

「ご飯は美味しく食べるのが1番だと思います」

 

「「ふ、そうだな」」

 

幼い子の意見に同意する男たちであった。

 

 

 

 

「それではお待ちかね!!つけ麺についてご紹介します。スープはなんと4つご用意いたしました。更に麺は2種類あります。スズカさんお願いします。」

 

「はい、まず今回は太麺と細麺を用意致しました。選手の皆さんは麺の太さとあったかい麺のあつもりと、冷たいめんのひやもりを選んでいただきます。次にスープについてタマモクロスさんお願いします」

 

「おう、4種類のスープは鶏ガラ醤油、濃厚魚介、坦々、酢醤油、があんで。酢醤油は冷たいスープになってるんや。コック長のオススメの組み合わせは太麺のあつもりが濃厚魚介と坦々、あつもり細麺が鶏ガラ醤油、ひやもり細麺が酢醤油や。勿論好きな組み合わせで食べてええで」

 

「それでは失礼してお先に味見しちゃいます」

 

ガタッ!!

ガタッ!!

 

「オグリキャップ、スペシャルウィーク静かに座っときー」

 

「まずボクが鶏ガラ醤油を細麺あつもりでいただきまーす」

 

カメラに写し出されたスープはほんのりと醤油の色合いを出しているが透明度は高く、チャーシューの油が程よく輝きを放っている。

持ち上げた麺は細麺ストレート、それをスープに潜らせてトウカイテイオーは一気に啜った。

 

スープを纏った麺は勢いよく彼女の唇を通過し閉じた唇はスープにより艶を増していた。

 

会場は皆黙りごくりと生唾を飲み込み様子を伺っている。

 

「あっさり醤油、王道のラーメンで優しい味です。このスープはこのまま飲んでもちょうど良い味です。おいしい」

 

眩しいくらいの笑顔に会場のみんなもほっこりした。

 

「では続いてサイレンススズカが濃厚魚介をあつもり太麺でいただきます」

 

鶏ガラ醤油とは違い茶色くどろっとしたスープで麺を潜らせると黄色かった麺を茶色くコーティングする。

 

スズカは髪が麺とスープにつかない様に片手でかきあげ、ふぅふぅと熱を冷ましてから口に麺を啜った。

 

「魚の風味が強く麺ももっちりと歯応えが強いです。スープの味に負けない麺はとても食べ応えがあります」

 

「ウチは坦々スープで、あつもり太麺や」

 

白濁のスープにラー油の赤い斑点が浮かんでいる。

タマモクロスはつけた麺をカメラに見せずそのまま、ずぞぞっと一気に食べた。

 

「胡麻の香りにピリ辛の味、ぷりぷりの麺もいい感じやー、もうちょい辛みが欲しいなウチは」

 

「薬味は胡椒、ラー油、山椒にお酢すぐにお出しできます」

 

サイレンススズカが補足説明をする。

 

「じゃあ最後の酢醤油はボクが」

 

とスープの入った容器を掴もうとしたところで横から取られた。

 

「これはゴルシちゃんがいただくぜ」

 

「「ゴルシ!!」」

「ゴールドシップさん!!」

 

「おぉ、労働の後にこの酸っぱいスープは効くぜ、火照った体にも冷たくて気持ちいいしな」

 

「こっちの醤油もいいな、魚介もガツンとくるぜ。ゴルシちゃんには坦々はこのくらいがいいな」

 

進行なんて知らんと次々と試すゴルシの姿はそのまま会場に写し出されており、選手と会場の心は一致した。

 

(早く食べたい!!)

 

「えーと、ちょっとハプニングはありましたがそろそろ始めたいと思います。初めはあつもりの太麺と細麺がきます」

 

「それと会場のみんなにお知らせや、スタートしたらステージ横のスペースより、つけ麺の提供が開始されるから楽しんでなー」

 

 

 

タマモクロスのお知らせの間に各選手の前にスープと麺が用意された。

 

「それでは」

 

「「「召し上がれー」」」

 

「おーっと、会場の観客が一斉に提供スペースへ、いつもはボク達が走り出すのにね」

 

「新鮮な感覚ですね。しかし、皆さん怪我をしない様に走らないでください。量は十分にありますので、お子さんやお年寄りを優先してあげてください」

 

サイレンススズカのお願いを聞いてくれた様で続々と子供やお年寄りがつけ麺を持って戻ってきた。

 

「さぁ、実況に戻ります。静かな立ち上がりを見せるのは1番人気オグリキャップ一つ一つ確かめる様箸を進める!これはどういう事でしょうタマモクロスさん」

 

「アレは全部試して好みの味を探してるんやな。好みを見つけたら一気に行くと思うわ」

 

「なるほど、おっとスペシャルウィークはまずスープの味見から入った一つ一つテイスティングしている。どう思われますかサイレンススズカさん」

 

「オグリキャップさんと同じで味を確かめてるのでしょう、その、テイオーがスープを飲んでる時凄い羨ましそうにしてましたし」

 

「美味しいからね♪ここでツインターボ動いたー!!あつもりの太麺を豪快によそい濃厚魚介に突っ込んだ!!それを一気に啜る!!

しかし、盛大にむせた!!一旦麺を切り食べたが熱かったのか舌を出して悶えてます。水で口を冷やします。スタッフも大慌てで水を持ってきて、頬についた汁を拭き取ってあげてます」

 

「あーあかんなぁ、大食いであないに水飲んだら腹膨れてまうわ」

 

「しかも、余り無茶な食べ方をして食材を台無しにしたらコック長は凄い怒ると思います」

 

「おっと、舞台袖で腕を組みツインターボを見ているのはコック長!!それに気づいたツインターボは震えながらゆっくりと食べるのを再開、おっと途端に笑顔だー!!」

 

「美味しいのでしょう」

「やろな」

 

「これにはコック長もニッコリ、サムズアップしながら裏に戻ります」

 

「食べ物台無しにするとマジで怖ぇからなコック長」

 

「ゴルシ何したんや・・・」

 

「その横ではメジロマックイーンが優雅に鶏ガラ醤油で食べている!確実に食べ進めています」

 

「観客を意識して食べ方に気をつけてる様に見えます。気品すら感じますね。」

 

「ターボの後だから尚更やな」

 

「ここでオグリキャップ動いた!あつもり太麺20皿追加だーしかもチャーシューとメンマまで!!対してスペシャルウィークあつもり細麺と太麺を10皿づつ追加しかもメンマ増し増しだー!」

 

「オグリはずっと腹減ったーって言うてたからガツンとくる濃い味の2つから食べ進める様やな」

 

「スペちゃんはメンマが気に入ったようですねコリコリとした歯応えは私も好きです」

 

「2人に続けとツインターボとメジロマックイーンも追加だ!しかし1皿、逆転はあるのだろうか!」

 

「難しいやろなぁ」

「そうですね」

 

 

 

 

 

「今大会も残すところ後僅か、やはり残ったのはこの2人!!オグリキャップとスペシャルウィーク!!」

 

「ほんま凄いわ、ずっと食べ続けてるやん」

 

「スペちゃん幸せそう」

 

「そんな2人の横では轟沈したツインターボと、キャロットジュースと杏仁豆腐を食べ続けるメジロマックイーンだ」

 

「アイツ絶対もっと食えたやろ」

 

「しかも、つけ麺食べてた時はキリっとしてたのに、ニッコニコで食べ続けてますしね」

 

「あんなに尻尾も揺らして耳も動きまくっとる」

 

「甘いものは別腹ですの!!ですからねテイオーも一瞬固まってましたし」

 

「杏仁豆腐とキャロットジュース出てきた時のオグリとスペもやばかったけどな、競技変わるところやったわ」

 

「食べ終わったら出しますって言って収まりましたけど」

 

「無情にもタイムアーップ、2皿差で優勝はオグリキャップです!!お二人とも勝因はなんだと思いますか?」

 

「メンマやろ」

 

「そうですね、スペちゃん途中メンマしか食べない時ありましたからね。余程気に入ったのでしょう」

 

「対してオグリは麺食べながら全てのトッピングも均等に食べてたからな」

 

「なるほど、メンマで勝負を忘れてしまったという事でしょうか、スペシャルウィークには魔性のメンマだったということですね!

改めまして優勝はオグリキャップです!見事金船つけ麺杯を制しました!!」

 

 

「それで皆さん、一旦あの言葉で大会を締めたいと思います。ゔぇ?!スペちゃん、オグリ先輩、ちゃんとキャロットジュースと杏仁豆腐はこの後出るからそんなに睨みつけないで、コホン失礼しました。それでは」

 

「「「「ご馳走様でしたーーー!!」」」」

 

 

こうして大会は無事に終了した。この後も数時間会場は賑わい続けウマ娘達との交流会は大盛況で幕を閉じた。

 

後日、トゥインクル交流会スペシャル号が出され即日増刷が決まる売れいきとなった。さらに抽選でトレセン学園でウマ娘と食べるコック長の料理招待券の応募があったのだが応募サイトがパンクしたのは別の話である。

 



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チャーハンいただきます!!

誤字報告ありがとうございます。
あの子もこの子も出したいと改めてアニメを見て
ゲームをやり込んでます。
お楽しみいただけたら幸いです。


「これが終わったら飯にしよう」

 

コック長はフラフラになりながら歩いていた。金船つけ麺杯が終わり溜まりに溜まった事務仕事をようやく片付ける事が出来た。ゴルシに付き纏われた3日間が、そもそも月で1番多く事務仕事が立て込む時期の出来事であった。更に金船つけ麺杯の特別発注がかさんだのだ。材料費、機器レンタル、外注費等、請求書に不備がないかのチェックが加わった。更にトゥインクル交流会スペシャル号の取材に日々の業務、睡眠時間を削り何とか完了したのだ。

 

(眠い〜腹減った〜体が重い〜)

 

なんとか書類をたづなさんに提出し、緊張が解けたのだろう事務所に戻る途中で力尽きた。

 

 

「マックイーンは何食べるの?」

 

「悩んでますの、新作も捨てがたいですが季節のフルーツパフェ、ショートケーキにワッフル悩みますわ〜」

 

幸せそうに悩むマックイーンは味を思い出してか期待してなのか恍惚とした笑みを浮かべている。

 

「うひゃ〜キラキラしてるなぁ、ネイチャさんにはこんな表情できないですよ〜」

 

「大丈夫だ、このゴルシちゃん特製からしクリームで粉砕してやるぜ」

 

「いや、ゴルシが粉砕される未来しか見えないんだけど・・・」

 

わいわいとカフェを目指す3人が廊下の曲がり角を曲がるとコック長が倒れている所に遭遇した。

 

「ちょっと!!コック長大丈夫ですの!!」

 

「あわわ、これやばいんじゃ!!」

 

「こんなとこで寝てると風邪ひくぞー」

 

メジロマックイーンとナイスネイチャは慌ててコック長に近づき容体を確認する。

 

はっきりと見える隈と青い顔で唸っている。

目立った外傷は見当たらない。

 

「流石にここに寝かせとくわけにも」

 

「すぐそこにコック長の事務所があるから運ぶか、でっけーソファあるし」

 

「そうしましょう、ゴールドシップお願いします」

 

「ったくしょーがねぇ〜なぁコック長」

 

よっと、軽くコック長を持ち上げ事務所まで運ぶゴールドシップ。

 

「いや〜やっぱ凄いですね〜そんな軽々と」

 

大柄なコック長をものともしないゴールドシップの力に少し驚くナイスネイチャだった。

 

 

 

ソファに寝かせ、置いてあった布団を被せる。

 

「とりあえず、保険医さん呼んでくるね。戻ってくるまで見てて」

 

「わかりました」

「おう」

 

ナイスネイチャが出ようとした時、呻き声と共に盛大にお腹が鳴った。

 

微妙な空気になる室内

 

「過労と空腹で倒れてたのかな?」

 

「その可能性が高い気がしますわ」

 

「そういえば、ここ最近、書類整理やら何やらで寝る暇も無いって言ってたな。後、事務仕事させてくれって泣いてた。無視したけど」

 

「ちょ!!」

 

「あなたという人は全く!!」

 

「だって美少女ゴルシちゃんの方がそんな紙切れより重要に決まってるだろ、まぁ悪かったと思うけど」

 

なんだかんだとウマ娘には甘いコック長は、結局ゴールドシップの相手もしながら仕事をしていたのだろう。容易に想像できる2人はため息を吐いた。

 

「一応、保険医さん呼んでくる」

 

「お願いします」

 

 

 

程なくして保険医が駆けつけ触診をした。

 

過労からくる失神だろうとの事でコック長を運ぶ為の準備をしてくると一旦戻っていった。

 

「とりあえず一安心ですわ」

 

「ネイチャのやつ何処行ったんだ?」

 

「確かに、一緒じゃありませんでしたね」

 

戻らないナイスネイチャに疑問を感じつつコック長を見ている2人だった。

 

「こんな所で倒れてしまうとは情けない、ウリ、ウリ」

 

「ちょっとやめなさい起きてしまいますでしょう」

 

コック長のほっぺをツンツンするゴールドシップを止めようとメジロマックイーンが肩を掴むと

 

「んぁ!!ふごっ!!」

 

ビクッと顔が上がり、マックイーンにより軌道のズレたゴールドシップの指はコック長の鼻に突き刺さった。

 

「きったね!!マックイーン何しやがる!!」

 

「あ、あなたが悪戯してるのが悪いんでしょう!!」

 

「ゴルシ、上着で拭くんじゃねぇティッシュ使えティッシュ!!」

 

一瞬で騒がしくなった部屋にナイスネイチャが戻ってきた。

 

「なんか騒がしいじゃん、コック長起きたんだ」

 

「おお、寝てたみたいだ」

 

「アタシが運んだんだからなコック長」

 

「倒れてたの見た時はビックリしたんですのよ」

 

「そうなのか?すまなかったな、ありがとう、後ネイチャはクロッシュなんて持ってきてどうしたんだ?」

 

「あぁ、この蓋そういう名前なんだ厨房で持ってく時に被せてくれたのだけど、まぁ、その、あれですよ・・・、出てく時あんなに盛大な腹の虫を鳴かせてたんだから・・・えっと、ネイチャさんが、ちゃ・・チャーハン作ったわけです、はい」

 

パタンと耳が倒れ顔を真っ赤にしながら伏し目がちにお盆を出してきたナイスネイチャ

 

目を閉じてソファに倒れるようにもたれたコック長

 

(かわいい)

 

昇天するような安らかな顔だった。

 

「んん??俺に!!?」

 

ガバッと立ち上がるコック長

 

「そう言ってんじゃん、まぁ、味の保証はしませんけどね!!」

 

(天使や)

 

また安らかな顔で力が抜けるのをすぐに立ち直す。

 

「い、忙しい方ですのね」

 

「あはははは!!」

 

昇天と、覚醒を繰り返すコック長に呆れるメジロマックイーンと爆笑するゴールドシップ。

 

席につきクロッシュを開けると、中からは、刻まれたオレンジのニンジンと緑のピーマンで彩った卵により黄金にコーティングされたチャーハンが湯気を立てていた。

 

コック長は手を合わせて

 

「いただきます!!」

 

「め、召し上がれ」

 

スプーンを入れるとパラリと崩れるチャーハンは一粒一粒が玉でコーティングされている。

 

口に含むとハムの素朴な味とニンジンの甘味、ピーマンのほんのりとした苦味を卵が包み込む。塩で整えられた味に胡椒の香りが鼻をつく。

 

「うまい、うまい」

 

「良かった」

 

ほっとするナイスネイチャを他所にコック長は止まらなかった。

 

スプーンが動きチャーハンの山が瞬く間に削られていく。満面の笑みで食べていくコック長はスプーンを加えるたびハフハフと歓喜の吐息が漏れる。

 

最後のチャーハンを口に含むとコック長は立ち上がるり

 

「う〜ま〜い〜ぞー!!」

 

全身から眩い光を出し叫んだ。

※光は幻覚です。

 

叫びながらコック長の全身は2周りほどパンプアップされ筋骨隆々の姿になっている。

 

「なんですの!!なんですの!!」

 

「ちょっ、予想外すぎて処理が追いつかない」

 

「すげぇ、コック長!!すげぇ!!」

 

オロオロ狼狽えるメジロマックイーンと呆然とするナイスネイチャ、目を爛々に輝かせるゴールドシップ三者三様な反応を見せる。

 

「どっどうしたんですか!!」

 

保険医が数人を引き連れて部屋に入ってきた。

 

「コック長、あなた倒れたんですよ!!早く医務室に」

 

いつもと違う様子のコック長に物怖じせず腕を掴む保険医

 

「ダイジョウブ、ダイジョウブ、フン!!」

 

保険医の肩に手を置き、上半身に力を入れると上着が勢い良く弾け飛んだ。勢いよく膨れ上がった筋肉はなんのこともなく上着を破り更なるパンプアップを果たすコック長。

 

 

「・・・」

 

「もう、もう」

 

「あひゃー」

 

「ウヒョー!!」

 

絶句する保険医。

目を手で覆いイヤイヤと首を振るメジロマックイーン。

現実逃避し声が漏れるナイスネイチャ。

歓喜で興奮するゴールドシップ。

 

「オレ、ウマムスメ、ヨロコバス、リョウリ、ツクル」

 

部屋に来た人を置き去りにコック長は歩を進める。ドチュ、ドチュと足音を響かせ肩をゆらしながら。

 

 

 

そんな怪事件があった翌日。

 

「ネイチャ、居るんだろ早く出てこーい、壁ぶち破るぞ!!」

 

ドンドンと部屋のドアが叩かれ起きるナイスネイチャ。

 

「うるさい!!まだ日も登ってないじゃない!!なんなのよ!!」

 

「よう、いくぞ」

 

そこにはメジロマックイーンを小脇に抱えたゴールドシップがいた。

 

「えっ?ちょちょちょーー!?」

 

片手で持ち上げられ、ガシっと小脇に抱えられた。ゴールドシップは絶叫するナイスネイチャと抵抗する気力を奪われたメジロマックイーンを抱えながら爆走する。

 

「食堂?」

 

「ふぎっ?!」

 

降ろされた所は食堂だった。

 

「ちょっとゴールドシップ!!」

 

「まぁまぁ、あっち行ってみ」

 

指刺す方は厨房の近く。

 

メジロマックイーンとナイスネイチャは互いを見てから歩を進める。

 

(寒い?)

 

近づくにつれて冷気を感じる。

そこにはコック長がイビキをかきながら寝ており。

 

少し離れたところには氷の壁があった。

 

「ちょっと、ええぇ!何これ!?」

 

「美しいですわ」

 

氷の壁に囲まれた中央には、純白の翼を背中に携える女神像。

美しい女神は明らかにナイスネイチャを象っていた。

 

「これはマックイーンと、ふふゴルシか」

 

女神の前には祈りを捧げるウマ娘と鎌を持つウマ娘。こちらは茶色と漆黒である。前者がメジロマックイーン、後者がゴールドシップ。

 

「この香り、チョコレートですの!!」

 

目を一瞬で輝かせるメジロマックイーン。

それを、聞いて驚くナイスネイチャ。

 

「チョコ!!コック長半端ないわぁ、しかも女神がアタシとかないわぁ〜」

 

「昨日、チャーハンを作ってくれたのが嬉しかったのでしょう。本当に美味しそうに食べてましたし・・・その後の奇行はともかく」

 

「ありがとう、コック長」

 

眠ってるコック長に感謝の言葉を告げるナイスネイチャはとても優しい顔をしていた。彫像とは比べられないくらいに

 

 

ゴールドシップの爆走により起きた数人から飛火してこの後騒ぎになるのだがそれはまた別の機会で。

 

 

 

 

 

※おまけ

 

 

女神ナイスネイチャ事件の翌日、乙名史記者はコック長の奇行を目撃したコックに取材をしていた。

 

「よろしくお願いします」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「それでは、当日のコック長についてお聞かせください」

 

「あの日はそうですね。朝見たコック長はいつもより陰があり倒れそうだったんですよ」

 

朝礼で見たコック長の印象を伝えるコックA

 

「聞いた話とは大分違いますね」

 

「はい、金船つけ麺杯で日に日に弱っていたコック長だったんですがあの日が1番でしたね。でも驚きましたよ。そんな人がですよ、咆哮を上げながら厨房に入ってきたんですよ。しかも、しかもですよ、別人かってくらい大きいんです!!」

 

コックAは両手で大きさを表現しようと大きく広げた。

 

「大きく?ですか?」

 

「乙名史さんも知ってますよねコック長。ただでさえ大柄なんですが、ムキムキで3いや4回りは大きかったですね」

 

「は、はあ」

 

「コホン、興奮してしまいました。まぁ、そんな別人になったコック長が「オレ、リョウリ、ツクル」って片言で中華鍋ふるい出したんですよ」

 

またヒートアップするコックA

 

「実は、コック長はあんまり昼食とか夕食の定期的な調理はしないんですよ。仕込みや指導はしてくますけど後は私たちに任せてくれて、1着取った娘とか気落ちした子とか、とにかく特別な料理を作るんです」

 

「なんか意外な気がしますね」

 

「コック長いわく「俺が居なくてもウマ娘に美味しい料理を食べて貰いたい」って事らしいです。話しがそれましたね。それで中華鍋をふるいながら、天ぷらを揚げて、キャベツの千切りをしてたんですよ!!」

 

「ん?高速に別々にという事でしょうか?」

 

「違います!!同時にです!!私には三人に見えました!!いやぁ真似出来ませんね!!私もまだまだです!!」

 

「えぇぇぇ」

 

うんうんと頷くコックAに驚く乙名史記者であった。

 

 



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サンドウィッチお待ち!!

誤字報告ありがとうございます。
感想とUA数を確認するたびにニヤニヤしています。
ありがとうございます。

お楽しみいただけたら幸いです。


「ウィー、コック長の特製弁当配達でーす!タキオーン開けてくれー!」

 

部屋のドアが開かれると

 

「コック長お疲れ様、楽しみに待っていたよ。おやっ、君は確か・・・」

 

「はい、ダイワスカーレットです。タキオンさん!!ご一緒させてください!!」

 

「うむ、構わないよ、とりあえず入りたまえ」

 

試験管が並び顕微鏡やフラスコが散乱する部屋そんな中にソファが一つあり、2人が座るのがやっとといったサイズである。

 

「なにぶん、人をもてなす部屋ではないので窮屈なのは我慢して欲しい。机は予備があった筈だ」

 

「そんな我慢なんて」

 

「あった、これを使うといい、コック長は・・・」

 

「お構いなく」

 

ダイワスカーレットの前に簡易の机を置いた。

 

「そうか、すまないね」

 

2人はソファに座り弁当を食べはじめた。

 

 

(俺は壁、俺は壁、スカーレットが何故かタキオンにデレている。これはてぇてぇ事が起こる筈だ。2人の間に入ってはいかん、本来ならクールに去るべきなのは分かる。しかし、しかしだ!!生で見れる機会をふいにするのはどうなのだ!!故に俺は壁、俺こそが壁なのだ!!)

 

 

「タキオンさん・・・コック長、口元隠しながらこっちガン見してるんですけど・・・」

 

「スカーレット君、コック長の思考を読み取ろうとするのは時間の無駄だ。気にしないのが1番さ。直接の害は無い」

 

 

(コソコソ話す為に口元を押さえて互いに顔を近づけて密着している。スカーレットの耳打ちも良いが、タキオンの萌え袖がヤバいな。半目のタキオンが萌え袖でスカーレットに耳打ちする。スカーレットも声を拾おうと耳が下を向いている。何という芸術!!タキオンの横顔は色っぽさが極まっている。それに対してあどけないスカーレット!!これを芸術と言わず何が芸術だ!!)

 

気持ちが昂り少しパンプアップしてしまった。

 

「む!?あれが噂に聞いたネイチャの祝福か、面白い・・・是非研究したいな」

 

「タキオンさん、ご飯にしましょ。ね?」

 

(くっ、タキオンがこちらを見ていた。俺は壁、俺は壁、俺は壁・・・今回はスカーレットに救われたが、クソッ!!俺が未熟だから)

 

 

「そうだね、とりあえず腹の虫を黙らせよう。ほぅ、今日はサンドウィッチか」

 

弁当箱を開けるとサンドウィッチが鎮座している。具材も様々で色彩豊かである。

 

「あっ、ドリンクもあります。すみません出し忘れてました」

 

小さなクーラーボックスからストローの刺さった容器が出てきた。

 

「ありがとう、飲み物を用意しに行こうとしたところだ。それでは」

 

「「いただきます」」

 

「蓋を開けた時からこれが気になっててね」

 

手に取ったのはコッペパンの切り口に小松菜を敷き、鮭のムニエルにきのこのホワイトソースが掛かったものだった。

 

「実に良いね、濃厚な鮭にクリィーミーなホワイトソース、小松菜のシャキシャキ感にキノコの香り、よくホワイトソースを吸ったパンもいい」

 

「タキオンさん、食レポ凄いですね!!アタシはおいしいってしか言えないです。」

 

「まぁ、気分でやってるからね。ふむ今回は骨に良い成分を意識してるようだね」

 

ドリンクを持ちストローをチューっと吸う。

 

「バナナに豆乳かな?バナナの甘みが好みだまた作って貰おう」

 

「タキオンさん、カツサンドも甘めのソースがパンにもカツにも染みててとってもおいしいです。えっと、ジューシーです」

 

「ふふ、無理に食レポみたいなことしなくて良いのさ、ハムっ、食べ応えがあっておいしい!これで十分さ」

 

「はい、おいしいです」

 

シャキシャキとする歯応えを感じながらレタスとハムのサンドウィッチを食べ終え最後の卵サンドをみる。

 

「実はこの卵サンドは毎回入れてもらっていてね。1度食べてから気に入ったのだよ」

 

「そうなんですか?それじゃあ、はい!!アーン」

 

無邪気な笑顔で差し出された卵サンド、ダイワスカーレットを見てからパクリと食いつくアグネスタキオン。

 

「この、ふわふわのオムレツ風の卵が実に良い!!控えめな塩加減とバターの香りがとても好みだ、それではお返しにアーンだよ」

 

アグネスタキオンは自分の卵サンドをダイワスカーレットの前に差し出した。

 

顔を赤らめパクリと食べると目を輝かせて更にパクつく。

 

 

(何だよあれ、何だよ!!可愛いかよ、可愛いだよ、最高か、最高だよな、最高だ!!お互いにだべさせるとか・・・眼福!!スカーレットかわええ、タキオンかわええ・・・閃いた!!)

 

 

「タキオン、ちょっと用事を思い出した。弁当箱は今度来た時回収するから」

 

そう言い残しコック長は部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「ライス〜、ウララ〜ちょっと良いか〜」

 

「なに〜コック長」

 

「どうしたのコック長」

 

ライスシャワーとハルウララに声をかけるコック長はバスケットを持っていた。

 

「ちょっと試食してほしいんだけど良いかな?」

 

「わーい、コック長の料理!!ウララ食べたい!!」

 

「私もコック長の料理たべたい」

 

「それじゃあ頼む、はいっ、アーン」

 

コック長はバスケットから卵サンドを出し2人の前に出した。

 

「ふぇ!?あの、コック長ライス恥ずかしいよぉ」

 

耳を垂らして赤面し困惑するかもライスシャワー。

 

「わーい、アーン」

 

対照的にそのまま食いつくハルウララ。

 

(ふふ、ウララならこうなると思ったぜ、ふふふウララがやればライスもやる筈だぐふふ)

 

「ライスちゃん、おいしいよ!!」

 

「う、うん」

 

ハルウララに押される形でゆっくりとパクリと卵サンドを食べたライスシャワー。

すぐに耳は立ち尻尾が揺れて笑顔になる。

 

「おいしい」

 

「おいしいね、ライスちゃん」

 

2人にパンを食べさせるコック長は安らかに昇天していたという。

 

 

 

 



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ドリンクお待ち!!


誤字報告ありがとうございます。
感想は本当に励みになります。
あと、閃きも得られます。
感謝の気持ちでいっぱいです。

お楽しみいただけたら幸いです。


自販機の前でソワソワ、キョロキョロと周りを見渡すウマ娘、ミホノブルボン。

彼女は先程から何かを探しているようだ。

 

「どうしたんだ?ブルボンそんなにキョロキョロして?」

 

見かねたコック長が声をかける。

 

「コック長、丁度良かったです。飲み物を買おうとしていたのですが、私が触ると壊れてしまうので誰かいないか探していたのです」

 

「なるほど、ならこっちも丁度良い今からドリンクを配りに出ようと思ってたんだ。苺とパイナップル、バナナどの味が良い?」

 

「ふむ、ではバナナでお願いします。これから練習なので、よりエネルギーになるもので。さすがはコック長美味しいです」

 

香りと甘みの強い完熟バナナを牛乳と合わせてミキサーにかけて蜂蜜を軽く溶かしたものだ。

 

「なるほど、だからリアカーを引いていたのですね。こんなにクーラーボックスを積んでいるとは、旗は何ですか?」

 

「これは後でリアカーに立てるんだよ、ドリンクとおいしいって書いてある奴なんだけど、そうすれば何してるか想像つくだろ?」

 

「確かに、コック長が外で何かしてる時は旗や看板が出てますね」

 

「少しでも多く配りたいからな、何か騒がしいな」

 

はて?と振り返るコック長。

 

「おそらくあれは・・・」

 

「バクシン!バクシン!バクシン!バクシーン!!困ってる人がこの辺りに!!委員長レーダーが反応しています!!」

 

手を耳に添えて辺りを見回すサクラバクシンオー。

 

「やや?ブルボンさんにコック長じゃないですか。ここらへんに困った方はいませんでしたか?」

 

「その・・飲み物を買おうとしてたのですが、コック長にドリンクをいただき助かりました。サクラバクシンオーさんもいつもありがとうございます。」

 

「困り事が解決したならいいんです。友達ですし、何より私は学級委員長ですから!!」

 

腰に手を当てて笑うサクラバクシンオーと微笑むミホノブルボンブルボン。

 

この時コック長に電流が走る。

 

(つまり、ブルボンはバクシンオーを探していたのか!!あんなにソワソワして?!何というギャップ萌え!!普段はあんなにクールなブルボンが・・・はっ!!閃いた)

 

笑ってるバクシンオーに気づかれないようにミホノブルボンに耳打ちしあるものを渡す。

 

「サクラバクシンオーさん、そんなに汗をかいてまで、ありがとうございます。これはコック長からのドリンクです」

 

ミホノブルボンはサクラバクシンオーのおでこに流れる汗を拭きながらドリンクを差し出した。

 

「すみません。つい夢中で走ってきてしまいました。あまずっぱくて美味しいです!!」

 

おでこを拭かれながら、そのままストローに吸い付いたサクラバクシンオーは目を輝かせる。

パイナップルと完熟オレンジをミキサーにかけたドリンク。パイナップルの酸味を完熟オレンジの甘みでまろやかにしたスッキリとした喉越しのドリンクだ。

 

(俺の目的はおでこふきふきで達成されているが、さらにそのままストローに吸い付くだと!!甲斐甲斐しくお世話するブルボンという構図が予想以上の完成度になっている。やるじゃないかバクシンオー、流石は学級委員長だ!!)

 

「ちょわっ!!ブルボンさんコック長が立ったままで寝てます!!」

 

「何と!!随分と清らかな寝顔ですね」

 

「おっと、いいものありがとう、ブルボン、バクシンオー」

 

一瞬、キョトンとする2人だが

 

「まぁ、よくわかりませんけど満足したなら良かったです!!」

 

「そうですね」

 

「それじゃあ、俺は行ってくる」

 

笑うサクラバクシンオーと微笑むミホノブルボンに見送られてコック長は練習場へ足を向けた。

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉ、負けるもんかー!!」

「くっ、させるか!!」

「負けない!!」

 

ウイニングチケット、ビワハヤヒデ、ナリタタイシンがほぼ同着でゴールを決めた。

 

「アタシの勝ちだよね!!」

 

芝に寝転がりながらゼーハーゼーハーと呼吸をするウイニングチケット。

 

「私に決まっているだろう」

 

「いや、アタシでしょ」

 

膝に手をついて呼吸を整えるビワハヤヒデとナリタタイシン。

 

「てゆーか、チケットの乱入のせいで無茶苦茶なんだけど!!」

 

「えー、でも熱いレースになったでしょ!!」

 

怒るナリタタイシンに笑顔で返すウイニングチケット。

 

「いや、まぁ、いい走りは出来たけど!」

 

「いいじゃないか、フォームの確認も済んできたところだったし、次は全力で走ろうと言ってたじゃないか」

 

ナリタタイシンを落ち着かせようとするビワハヤヒデ。

 

「はぁ、ちょっと休憩しよう」

 

「うん!!」

「わかった」

 

ナリタタイシンの提案で休憩しようとする3人に声がかけられた。

 

「へへ、嬢ちゃん達、暑い中大変だねぇ。おっちゃんの特製ドリンク飲まねえかい」

 

背を丸め、手を揉みながら声かけてきたのはコック長。麦わら帽子に短パンタンクトップで肩にはタオルがかけられている。

 

「飲み物ーー!!」

 

一目散に駆け寄るウイニングチケット。

 

「コック長相変わらず暑苦しい笑顔だね」

 

「タイシン流石に失礼だろ」

 

「へへ、気にしねぇでくだせぇ、あっしは気にしてやせん。へへへ」

 

「そ、そうか」

 

呆れるナリタタイシンと困惑するビワハヤヒデだった。

 

「この赤いの苺なんだー美味しいーー!」

 

苺をベースにクランベリーと葡萄をミキサーにかけたドリンクは、葡萄で瑞々しさを加えて、苺とクランベリーの酸味でアクセントをつけたものになっている。

 

「私はバナナだな、うん、うまいな」

 

「アタシはパイナップルかな?おいしい」

 

「へへ、お気に召したようで何よりで、へへへ・・・うーん!!飽きた!!」

 

姿勢を正し伸びをするコック長。

 

「急にもどんな!!びっくりする!!」

 

「あははは、コック長は面白いなぁ」

 

「ちゅー」

 

驚くナリタタイシンと笑うウイニングチケット、ドリンクを飲むビワハヤヒデ。

 

「にしても、さっきの走りは見ててワクワクしたぞ、ゴールから離れてて分からなかったんだが誰が勝ったんだ?」

 

「正直分からんな、殆ど差が無かったし、みんな必死だったから」

 

「いやいや、アタシだよーハヤヒデ!!」

 

「はっ!アタシだチケット!!」

 

「勿論、私も自分だと思ってる」

 

「なるほど」

 

納得したコック長は既に別の事を考えていた。

 

(うーん、チケゾー、あのジャージの中にはあの勝負服で垣間見える健康美が隠されているのか、ゴクリっ、タイシンも時折見せる優しさと照れ顔が素晴らしい。ハヤヒデのあの髪に頭突っ込んで深呼吸したいなぁ。うーんせめてあの髪を模倣したデフォルメ人形でも作るか。ハヤヒデのモコモコを再現したいあのボリューム」

 

「おい!!コック長!!誰の頭がデカいって!!」

 

「何と漏れてしまっていたか、違うハヤヒデの髪の毛がもふもふで触りたいと思っただけだ!!」

 

「か、髪だと!!」

 

「いやいや、コック長流石にそれは」

 

「でもハヤヒデの髪モコモコしてて気持ちいいよね」

 

「やはりか、チケゾー!!どんな感じだ!!」

 

驚くハヤヒデと呆れるナリタタイシン、髪について感想を述べるウイニングチケット。

 

「なんか、わたあめみたいな感じかなぁ、ふわっとしてて、艶々でサラサラしてるんだ」

 

「おおおおお!!」

「へぇーーー」

「やめろ!!チケット!!」

 

「そういや、触ったことないやアタシ」

 

「さっき、ふとハヤヒデのデフォルメ人形でそのモコモコを再現出来ないかと考えていてなチケットもっと詳しく!!」

 

「良いねそれ、出来たらアタシにも頂戴!!」

 

「勿論だともチケゾー君」

 

熱い握手を交わすコック長とウイニングチケット。

 

「その、アタシも欲しい」

 

遠慮がちにナリタタイシンが告げる。

 

「もちろんだタイシン」

 

コック長の出された手をそっと握るナリタタイシン。

 

「ちょっと待てコック長!!私は許可してないぞ」

 

抗議の声を上げるビワハヤヒデだが

 

「まぁまぁ、ハヤヒデはん、そうムキにならんとどうせ人形自体はゲーセンにもあるじゃないですか」

 

「むぅ、しかし」

 

「ちゃんとチケゾーはんとタイシンはんのも作りますさかい。3つ揃えてお渡しいたしますよ」

 

「おお!」

「ええっ!」

 

「それなら、うむ、しかし」

 

悩みはじめるビワハヤヒデ。

 

「ちょっと、ハヤヒデ!!ていうかアタシの作るの聞いてない!!蹴るよ!!」

 

「蹴られて達成出来るなら容易い!!この俺にウマ娘から逃走するという選択肢は無い!!野望を叶える為ならば、引かぬ!!媚びぬ!!省みぬ!!さぁ、こい!!」

 

「なら、望み通りに!!」

 

ナリタタイシンの蹴りが迫る中コック長に電流が走った。

 

自身をパンプアップし鋼と化したコック長

 

「あれ、手応えが?」

 

蹴りを放ち確かに直撃した足。しかし、ものを蹴ったというにはあまりに手応えが無い。

 

片膝をつきながらコック長は

 

「間に合ったか、ぐふっ」

 

「えっ、ちょっとどういこと?」

 

困惑するナリタタイシン。

顔を見合わせるウイニングチケットとビワハヤヒデも困惑していた。

 

「ふふ、簡単な事よ。確かにウマ娘の蹴りは強靭、だがそれで硬いものを蹴ればタイシンの脚がどうなるか分からん。故に直撃のタイミングで脱力しタイシンへの負担を無くしたのよ。それがこのザマさ」

 

「あんた、バカじゃない、蹴る側の心配するとか・・・でも、その気持ちはありがとう」

 

「うぉぉぉ、ごっぐぢょゔ」

「いい話なのか?」

 

この後、ナリタタイシンのありがとうで全快したコック長は改めて説得し開発の許可をもらえた。

 

 

 

 

 

おまけ

 

トレセン学園某所

 

「やりますねぇ、本当に素晴らしいウマ娘ちゃんが見れました」

 

「ふふ、お前も最高だぜ!この写真達は、後で絶対に許可を取り付けてやるから俺の分もたのむぜ」

 

「でゅふふふ、勿論です。そのかわり許可はちゃんお願いしますね。私ではウマ娘ちゃん達の前に出てお願いなんて出来ませんから」

 

「難儀な鉄則だな、それとこっちは許可をもらってきた案件なんだが・・・」

 

「皆まで言わなくて大丈夫です。既に素材を集め始めてます。じゅるり、最で高のものを作りますとも、ふひひっ!!」

 

「おう、これからも頼むぞ」

「勿論です」

 

「無断で部屋を使っていると報告があった生徒会だ!!」

 

「クソ、嗅ぎつかれた!!またな!!」

 

「はいぃぃ!!」

 

「クソっ待て!!」

 

 

謎の2人はエアグルーヴの追手を無事振り切ったのだった。

 

 



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特製デザート頂きます。


誤字報告ありがとうございます。
思いついたら止まらなくなり上げちゃいました。

タイトルをどっちにするか迷いましたがこのパターンにしました。

お楽しみいただけたら幸いです。


ポツポツと窓に雨が当たるのをボーっと眺めるナリタタイシン。

 

不調が重なりレースには結果が出せず、更に出たレースで故障をしてしまった。

最近は何をしても上手くいかない。

日に日に足は重くなり部屋に籠るようになっていた。

 

「はぁ、何やってんだろ」

 

チケットもハヤヒデとも、何回もレースの約束をしたが誰かが故障してしまい揃っての出走ができない。

その誰かが欠けたレースでも結果は散々だった。チケットは悔しいと練習を増やしてるらしい、ハヤヒデに聞いた。ハヤヒデも治療中みたいだ。この間、足に包帯を巻いていた。

アタシはどうだ?足は治ったと医者は言っていた。しかし、この間走ってみると重りでも括り付けられてるのかと思う位足が重く感じた。身体が鈍ってるのは分かるが元に戻る確信が持てず怖い。わからない、なんで走っていたんだっけ?

 

コンコンとノックの音が聞こえる。

 

「タイシン?タイシンいる?チケットだけど」

 

 

 

 

 

部屋にチケットを入れた。

 

「何?」

 

「うん、今日は届け物があるんだ」

 

チケットはバスケットを開けるとミルフィーユとパイが出てきた。

 

チケットとテーブルを挟んで向かい合う。

ミルフィーユとパイ、飲み物は偶々あったペットボトルの紅茶。それをコップに注いでチケットと私の前に置く。

 

「まずは食べよう、話す前に」

「うん」

 

雨の音と食器の擦れる音しか聞こえない部屋。チケットが部屋に来たら隣の部屋から苦情が来ないか心配するのに・・・

 

 

ミルフィーユ、小さなみかん?が乗っている。サクサクの生地に甘酸っぱい果実美味しい。ペットボトルの紅茶じゃ申し訳ないと思ってしまう。なんだっけ、この果実?

 

途中でパイの方も一口。匂いで何となくわかるけど・・・うん、やっぱり桃だ。桃のパイ。桃の果実と桃のジャム、パリパリの生地美味しい。

 

ふとチケットを見ると涙を流している。

 

「チケット!!」

 

「大丈夫、うん、大丈夫だから」

 

チケットはそう言うが落ち着かない。

 

「このスイーツなんだけどね、コック長が一生懸命食材を探し回ってたんだ。アタシ達に美味しいの食べさせるんだって、少しでも元気になって欲しいって・・・それでね、アタシ聞いちゃったんだ」

 

私を見るチケットは話す度に涙が溢れている。

 

「タイシンのトレーナーがね、なんでこの2つなんですか?って聞いてたんだ、そしたら、ミルフィーユは落ち葉が積み重なった様子が名前の由来なんだって、それで金柑には「思い出」と「感謝」って意味って言うか果物言葉があるんだって、うぅ、だから、だから、「アタシ達に出会えた事への感謝と多くの思い出をありがとう」って気持ちを込めたんだって、ひっく、ぐす」

 

なんなの、いつもウザイコック長の癖に、変で暑苦しい・・・でも、全力な

 

「チケット、こっちは?」

声が震えてるのが分かる。視界も滲んできたでも聞きたい。

こっちにも意味があるはず、あのコック長なら

 

「グス、なんとかパイをあやかってるって言ってたけど聞き取れなかった、ごめん、でも、桃にはその、「私はあなたのとりこ」って意味があって「上を目指すあなたに私はとりこ」って意味を込めるって笑ってた。周りの皆んなも、その通りだって」

 

その時の事を思い出したのか、チケットも笑っている。涙に濡れた顔だけど。

 

想像できる、多分あの暑苦しい笑顔で笑ってるんだ。空につられて周りも

 

「あとこれ、タイシンのトレーナーが、一部だけど渡してくれって」

 

チケットは袋を渡してきた。

 

「手紙?ファンレター?」

 

偶々、本当に何となく引いた手紙を読んでみると。

 

「ナリタタイシンさん、貴方は今とてつもなく苦しい中に居ると思います。私もその1人でした。不調で結果が出ないと、誰も私を見てないと苦しみました。でも、あなたに勇気を貰いました。諦めない気持ちをもらいました。今貴方の苦しみを少しでも和らげたいと筆を持ちました。貴方の活躍を心よりお待ちしています。赤毛のファンより」

 

他の手紙も、いつも応援してます。頑張る貴方に勇気を貰いました。優勝インタビューを待ってます。とか、アタシを「信じて」くれてるものばかり。

 

アタシは残りのミルフィーユを一気に食べた。アタシだって感謝してる多くのファンに!!チカラを貰ってるんだ!!数ある思い出の中のファン達に!!

 

桃のパイも一口で!!アタシの虜にしてあげる天下無敵のナリタタイシンが!!

 

「チケット、ありがとうハヤヒデのお見舞いに行ったら併走頼める」

 

「うん!!」

 

窓の外はお日様が出始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厨房にて

 

 

「そっちのパイにはどんな思いが?」

 

「思い付きなので恥ずかしいんですが、スターゲイジーパイって知ってます?ニシンのパイって呼ばれてることもあるんですが」

 

「あの、見た目のインパクトが凄い奴ですよね?ニシンがパイから突き出て直立してる」

 

トレーナーの問いに、コック長があるパイを知ってるか尋ねる。するとコックAが聞き返し、周りのコックも首を傾げる。

 

「あれですか、それでそのパイと何の関係が?」

 

「いや〜見た目も関係無いんですけどとりあえずそれにあやかってパイにしたんですよ。

スターゲイジーパイって勇敢なある漁師を称えた食べ物なんですよ。嵐で漁に出れなかった事で魚が主な食べ物だった村は酷い食糧難だったんですが、その漁師が嵐の中、海に出て魚を持ち帰ったそうなんです。」

 

「それで彼女らを称えてって事ですか、コック長って割とロマンチストですよね」

 

「うるへー、んでもって桃には「私はあなたのとりこ」って意味と「天下無敵」って意味があるんで、「頂きを目指す貴方に私はとりこ」っていうのと、「頂きを目指す貴方は天下無敵」って思いをね。思いついたのですよ。」

 

「星を見上げるパイから頂きに変えたんですね、ひゅ〜」

 

「でも、誰よりも高い目標を持つウマ娘は強いですからね」

 

「まぁ、茶化しちゃいましたけど俺たちの思いも変わりませんし」

 

「コック長、謝りますから照れ隠しで拗ねないでください」

 

厨房は笑いにつつまれていた。

 

 



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クッキーお待ち!!


誤字報告ありがとうございます。

お楽しみいただけたら幸いです。


「来たかテイオー」

 

「カイチョー僕に用事って何ー?」

 

生徒会室に入ってきたトウカイテイオーを椅子に座ってるシンボリルドルフが迎える。

 

「広報用の映像を一緒に確認してほしくてな」

 

「そんなの撮ってたんだ」

 

「エアグルーヴ頼む」

 

「はい」

 

モニターに映像が映し出される。

 

 

 

[今回はトレセン学園内でのウマ娘達の日常を食事を通してお送りします。]

 

「カイチョーがナレーションしてる」

 

「これも生徒会の仕事でな」

 

[トレセン学園では早朝よりトレーニングしてる生徒が多い、そんな中で最初に食堂に入ってきたのはサイレンススズカとスペシャルウィークです]

 

サイレンススズカとお腹を押さえたスペシャルウィークが食堂に入ってきた。

 

「あー、多分スペちゃんがお腹すいたーってスズカにねだったんだよ多分」

 

[彼女達はチームスピカに所属し、同室であり周りから見ても大変仲の良い2人です]

 

ニコニコとサイレンススズカに話しかけているスペシャルウィークと時折笑いながらそれに応えるサイレンススズカからは仲の良さが滲み出ている。

 

 

「彼女達は本当に仲がいいな」

 

「僕もカイチョーの事大好きだけど、スペちゃんもスズカの事大好きだもんね」

 

「ふふ、そうかありがとう」

 

テイオーがシンボリルドルフに擦り寄り抱きつくが、シンボリルドルフは受け入れて軽く頭を撫でてやるのだった。

 

[サイレンススズカはバランスの良いモーニングセットを選んだようです。スペシャルウィークはニンジンハンバーグ3つと山盛りご飯です]

 

サイレンススズカのモーニングセットはトマトにレタス、ゆで卵パプリカのサラダに、コンソメスープ、オムレツ、牛乳にクロワッサンとニンジンスティックである。スペシャルウィークは大きなハンバーグの中心にニンジンが突き刺さり直立しデミグラスソースがかけられたハンバーグと見たまんまの山盛りご飯である。

 

[2人がニコニコと会話をしながら食べている朝食はトレセン学園名物コック長がスタッフ達と考え調理したものです。特に週2回から3回は朝食用のパンはトレセン学園内で焼き上げられた名物パンになります]

 

「食堂に向かう途中であの香りを嗅ぐと今日はパンにしようって思っちゃうんだよねー、カイチョーは?」

 

「あの匂いは朝食前には反則級だ、何せエアグルーヴが何回かお腹を鳴らせるくらいだからな」

 

「会長!!それは秘密だと約束したではないですか!!テイオー!!わかっているな!!」

 

「わかってるよぉ、言わないから睨まないでぇ」

 

キッと睨むエアグルーヴにシンボリルドルフに抱きつく力が強くなるトウカイテイオー。

 

「まぁ、いいじゃないか女帝も可愛らしい一面があるという事で」

 

「まったく会長は」

 

クスクスと笑うシンボリルドルフに赤面しながらため息を吐くエアグルーヴ。

 

[ご存知の方もいるでしょうが、スペシャルウィークはトレセン学園きっての健啖家の1人です。彼女は毎回お腹いっぱいに食事をしてこの満足そうな笑顔で食事を終えます。彼女のこの笑顔に私を含め多くの人達が幸せな気持ちになります。貴方もその1人ではないでしょうか?普段は大人しいサイレンススズカもこのような笑顔にかわります。満足した様子で食器を片付けて食堂を後にします]

 

「いやースペちゃん本当に美味しそうに食べるね。僕ちょっとお腹空いてきちゃった」

 

「そうだな、何かあるかエアグルーヴ?」

 

「先程、コック長から試作のクッキーを頂きました。少しお待ちください」

 

給湯室に向かいクッキーと小皿、ティーセット、ビンを3つトレイに載せて持ってきた。

 

「ビンの中身はなに?クンクン、ジャム?」

 

「ああ、クッキーの甘さを減らしてこのジャムをつけて食べると説明があった。クッキー自体も美味しかった」

 

「ずるーい、先に食べるなんて!!」

 

「つまみ食いか、女帝エアグルーヴが、ふふ」

 

「会長、違います!!その場で試食を求められたのです!」

 

ぶーぶーと抗議するトウカイテイオーと茶化すシンボリルドルフ、否定するエアグルーヴ。

 

「「「頂きます」」」

 

2種あるクッキーは片方がサクサクと軽い口当たりで、もう一方はしっとりと口の中で溶けていくようなものである。

両方とも、口当たり以外は同様で小麦の香りが広がりほんのりと甘い。

 

3つのジャムは苺、ブルーベリー、オレンジ。苺は甘酸っぱく、酸味が少し強い。ブルベリーは糖度の高いものを使用しておりブルーベリーの香りと砂糖に頼らない自然な甘味が特徴的だ。最後にオレンジのジャムは皮も丸ごと入ったもので爽やかな香りとほんのりとした苦味を感じ一品だ。

 

「どれも美味しいが、このブルーベリーは普通のと甘味が違うな」

 

「うん、なんだろう?甘さがなんか違う?わかんないけど美味しい」

 

「コック長がようやく直産農家を見つけたとウザったい小躍りをしながら説明してました。なんでも粒が通常のものより大きく、砂糖を使わないでもジャムを作れる優れものなんだとか」

 

「なんか、コック長の姿が想像出来るのが嫌なんだけど・・・きっとまた大きくなってるよ」

 

「想像できるな。彼の欠点の一つだな」

 

「ええ、まったくです」

 

3人はやれやれとため息を吐くのだった。

 

「でも、そんな良いブルーベリーなのにジャムだけなのかな?」

 

「それなら、丁度モニターのマックイーンが食べてる奴がそれを使った新作スイーツだそうだ」

 

横目で見ていたモニターにはカフェにメジロマックイーンが入ってきて件のスイーツを注文していた。

 

 

[彼女はスイーツが大好きで、レースで見せる気高い姿は鳴りを潜め年齢に見合った少女の姿がそこにあります。切り分ける仕草こそ気品を感じますが、ケーキを口にした時の、この光を放つ様な満面の笑みは、皆さんが見たことのない彼女の魅力ではないでしょうか?どうやら気に入ったようです。おかわりを注文する彼女は、まだか、まだかとケーキの到着を胸を高鳴らせながら待っています。いざケーキが到着すると先程以上にニコニコしている彼女はとても可愛いらしいではないですか。紅茶で、口を一旦リセットしてから改めて食べ始める彼女の笑顔は止まりません。最後に載っけられていたブルーベリーを食べて余韻に浸っているようです。こうして息抜きを終えた彼女はまた、皆さんに凛々しい姿を見せてくれる事でしょう]

 

「美味しそう〜、ショートケーキみたいに大きなブルーベリーが乗っかってたね〜」

 

「二層で上は紫色だったからブルーベリーなんだろうが下の白いのは何味だろうか?」

 

「マックイーンも随分と緩んだ顔で食べてましたね」

 

「なぁ、提案なんだが、あれを食べに行かないか?さっきのクッキーだけでは物足りなくてな」

 

「賛成!賛成!!大賛成!!僕も気になってたんだ!!カイチョーとおやつだー」

 

「賛成です。テイオー余り騒ぐな!」

 

モニターを切り生徒会室を後にする3人はカフェに向かうのだった。

 

 

 

おまけ

 

「そういえばカイチョー、あのナレーションってカイチョーが考えたの?」

 

「いや、エアグルーヴが原稿を持ってきてな」

 

「最近、捕まえた奴が思ったより優秀でな、撮影と原稿を任せたんだ」

 

「ほぅ、女帝に優秀と言わせる奴とは一体誰なんだ?」

 

「いえ、変わり者です」

 

「今度、連れてきてもらえないだろうか?あの原稿は1人1人凄く観察し、愛が無いと書けないと思ってな。是非お礼を言いたい」

 

「言葉は伝えておきます。多分、会長の前に出てきたら気絶すると思いますので、私も手を焼いております」

 

「そうか、皇帝と女帝の二つ名では威圧してしまうのか、悲しいな」

 

「いや、そういう問題では無いと思います・・・」

 

「???」

 

 



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ピザトーストお待ち!!


誤字報告ありがとうございます。

お楽しみいただけたら幸いです。


「ネイチャの加護を研究して出来た試作品だ。回復力を高める実験結果が出ている。さぁ、コック長飲みたまえ」

 

差し出された試験管を受け取るコック長は困惑した表情をしている。

 

「約束したから飲むけど前回がなぁ、害は無いと思うが・・・」

 

「あぁ、あれは酷い事件だった」

 

額に手を当てて思い出す2人。

以前、似たような薬品を飲んだコック長は全身を発光させてパンプアップした状態でハイテンションになり踊り狂うという事件を起こしている。時折ポージングを決め、発光し暑苦しい笑顔でサイドチェストを決めたコック長を至近距離で見たトウカイテイオーやスペシャルウィーク等が数日の間、コック長がサイドチェストで迫り来る悪夢を見たという。

 

「あの時の失敗から強壮剤となる素材を1から見直したんだ今度はいけるはずさ」

 

「わかったよ、男は度胸ってな!!行くぜ!!」

 

腰に手を当ててグイッと飲んだ。

 

「タキオンの薬って割と速攻で効くのに?」

 

コック長の周りをクルクルと回り全体を確認するが変化を確認出来ない。

 

「失敗だろうか?力が漲る筈なのだが・・・」

 

「これ以上漲らせてまなぁ、あ!うっ!うぁ、がぁ、ぐお!」

 

「おお、やっと効いてきたか!!」

 

部分的にパンプアップと元に戻るを繰り返す体

 

「ちょっ、止めろ、とめ、止めてぇぇ!!」

 

眩く発光し視界が白に染まる。

 

 

「タキオン、また何かやらかしていると報告が入ったぞ!!」

 

バタンと扉を扉を開けてエアグルーヴとヒシアマゾンが入ってきた。

 

「やぁ、副会長とヒシアマゾン、正直困ってしまってね。見てくれたまえ」

 

そう言ったタキオンは少年を持ち上げてエアグルーヴとヒシアマゾンの前に出した。

 

「どっから迷い込んだんだ?随分と服の丈が合ってないな」

 

「ああ、ぶかぶかじゃないか」

 

「コック長なんだ」

 

「ん?」

「へ?」

 

告げられた内容を理解出来ない2人。

 

「コック長が私の薬によって縮んでしまったんだ」

 

「コック長って誰のことだ?」

 

少年は可愛らしく首を捻り口にした。

 

「姉ちゃん達、ウマ娘だろ!!すげぇ初めて見た」

 

「 」

「嘘だろ」

 

絶句するエアグルーヴと信じられないと声が漏れたヒシアマゾン。

 

「なるほど、記憶に何らかの変化があるようだ興味深い」

 

観察を継続するアグネスタキオンの声は嬉しそうだった。

 

 

 

 

「ふむ、記憶の欠落が見受けられるが問題無く料理は出来たと。更にDNA情報はコック長で間違いないと」

 

「はい、更に害は無いので、そのまま生徒会預かりとすると理事長が決定しました」

 

シンボリルドルフとエアグルーヴが確認している中でコック長(ショタ)はソファの上でスーパークリークと遊んでいた。

 

「キャハハハハ」

「うふふふふふ」

 

甘やかす事が大好きなスーパークリークは、コック長(ショタ)とあっち向いてホイや、あやとり、いっせーの、で遊んでいる。

 

「普段の奇行が嘘のような、無邪気な少年になっているな」

 

「はい、既に「タキオンの奇跡」として噂が広まりつつあります」

 

普段はた迷惑な実験を繰り返すタキオンの成功例と言う事と、奇跡のようにコック長の不要な部分を削ぎ落とした事。2重で皮肉った呼称が広まっている。

 

「面白い、流石は強化モルモットとして覚醒したコック長だ!!そのデータを余す所なく記録しなければ」

 

「これ以上事態をややこしくするな!!」

 

ケタケタと笑いながら端末に入力を繰り返すアグネスタキオンに怒号が飛ぶ。

 

そんな中バタンと扉を開けて

 

「カイチョー!!なんか面白い事になってるって聞いたよ!!僕も混ぜて!!」

 

トウカイテイオーが勢いよく飛び込んできた。

 

「また、騒がしいのが」

 

頭に手を当てるエアグルーヴは本当に困った様子である。

 

アグネスタキオンがコック長(ショタ)に迫るのをスーパークリークが鉄壁の防御で阻止してる間にトウカイテイオーはコック長(ショタ)に近づく。

 

「ほー、コック長また面白い事になってるねぇ」

 

「なんだ?姉ちゃん遊んでくれるのか?」

 

「良いよー何する?」

 

「お姉さんも混ぜてね」

 

「もちろん!!」

 

遊ぶと聞こえた瞬間にアグネスタキオンをねじ伏せたスーパークリークは何も無かったかのように参加するのだった。

 

「お、おのれ、スーパークリークっ、ガクっ」

 

倒れ伏すアグネスタキオンは恨めしそうに呻き意識を手放した。

 

「ダメだぞ、そんなとこで寝たら風邪引くぞ!!」

 

倒れ伏すアグネスタキオンを何とかソファに寝かせようとするが体格と力が足りない。

 

「クリーク姉ちゃん手伝って!!」

 

「はーい」

 

元凶はニコニコ笑顔で手伝うのだった。

 

「何で、この天使みたいな子がコック長になるの?」

 

アグネスタキオンをソファに寝かせると

 

「疲れた、お腹空いたよクリーク姉ちゃん」

 

お腹を押さえるコック長(ショタ)

 

「それじゃあ、おやつにしましょうか」

 

「うん、厨房に連れてって」

 

「僕もおやつー!」

 

喧騒を見つめるシンボリルドルフは静かに考え込んでいた。

 

「会長どうされました?」

 

「いや、少し考え事をね、まさかな」

 

「??」

 

「それより、彼らを放置すると厄介な事になりそうだ行こうか」

 

 

 

「ちょっと待っててね!!すぐ作るから!!」

 

厨房に消えるコック長(ショタ)

 

「カイチョー、あれって大丈夫なの?」

 

「料理は出来たと報告はあったが少し不安だな」

 

ここにいる面子は、皆少し不安な様子だ。

 

「ちょっと覗いちゃいましょう」

 

スーパークリークの提案により、こっそりと

厨房の傍から覗き込む。

 

コック長(ショタ)は危なげない手つきでトマトとピーマンを輪切りにし、ウインナーを斜めに切っていく。それを少し厚めに切った食パンにのせトースターに入れる。

 

程なくして出てきたトースターにあるものを取り出す。

 

「何あれ!?」

 

ホールチーズを半分に切ったものが設置されている機材。コック長(ショタ)はスイッチを入れると切られた部分が熱せられてトロリと溶けていく。それをヘラで撫で取りトーストにかけていく。

 

最後の1つにかけて完成したピザトースト。

 

「姉ちゃん達、お待ち!!特製ピザトーストだよー!!」

 

トレイにピザトーストを乗せたトレイを持ってきた。

 

「ちょっと待っててね!!」

 

小走りで戻るとすぐに瓶を持って帰ってきた。

 

「コックさんがニンジンジュースくれたー」

 

ニコニコするコック長(ショタ)はピザトーストをみんなに配りニンジンジュースを注いだコップを1人1人に手渡した。

 

「食べながらケチャップとマヨネーズ、タバスコを好きな様にかけてね。美味しいから」

 

忙しなく動くコック長(ショタ)を見守りながら、言われた事にうんうんと頷き返す一同である。

 

「じゃあ、手を合わせてー」

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

パンから溢れんばかりのチーズとそれに埋もれる具材は、乗せすぎでは?という様な様相だが、それぞれの塩気、酸味、苦味が絶妙にマッチして厚めのパンが更にボリューム感をプラスする。

 

「美味しい、なんか昔食べたことある様なシンプルなトーストだね」

 

「偉いわ、こんなに美味しいのを1人で作れるんだから、良い子良い子」

 

「やめろよ、食べてる時は食べる事に集中するんだって母さんが言ってたぞ」

 

「ごめんなさい」

 

撫でた事を注意されるがニコニコと謝るクリークだった。

 

「まったく、普段のコック長にもこうなって貰いたいものだ。会長どうされました」

 

「いや、彼だったんだなと思ってな」

 

「コック長の事ですか?」

 

「ああ、確信が無かったのだからこれで思い出したよ。私はこれを食べた事がある」

 

懐かしむシンボリルドルフは遠い目をしていた。

 

 

 



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あの時の思い出

誤字報告ありがとうございます。

今回、没案としたコック長がもったいなく感じ
おまけとして追加いたしました。

どちらもお楽しみ頂けたら幸いです。


「テイオー達は外で遊んでくるそうです」

 

「そうか」

 

生徒会室、会長席に座るシンボリルドルフは目を閉じていた。何処か懐かしいものを思い出そうとしてるように見える。

 

「会長、お聞きしても良いですか?」

 

「コック長のことかな?」

 

「はい、以前に会っているとの事ですが」

 

「ああ、まったく彼がコック長だったとは現実は甘くないな」

 

はぁっとため息を吐くシンボリルドルフは何処か遠い目をしていた。

 

「聞いてくれ」

 

 

 

 

市長自らが大会運営をし、月1回開催されるレース。未来のスター選手を市から出し観光地とする為に!!という建前のもと。毎回レースを観戦しに来る市長は根っからのレースファンであり未熟ながら懸命に走るウマ娘達を前に毎回涙を流すほどである。

 

そんな大会に私はパパとママに連れられてチビッコレースに参加し見事1着を取った。

 

1着でゴールしてパパとママに頭を撫でてもらい、気分が高揚していたのが悪かったのだろう。

 

先導している気になっていたが、いつの間にか逸れてしまった。

 

「パパァ、ママァ」

 

もう会えないのでは?無性に不安が大きくなる。必死に周りを見渡すがパパもママもいない。周りは私の事など、いないかの如く誰も注意を向けるものがいなかった。

視界は歪み遂に雫が溢れる。

 

「うわぁぁぁん」

 

ちらりと、見る人が何人かいるが自ら厄介毎に首を突っ込む者はいない。

お人好ししか

 

「嬢ちゃん、さっきレースで1着取ったウマ娘じゃないか」

 

私に視線を合わせてしゃがむ青年は大会関係者の腕章を見せて笑った。

 

「大丈夫、心配事は俺が何とかするから泣き止みな!!あんなに立派に走ったんだ。もうちょっとの辛抱さ」

 

爽やかな笑顔でサムズアップする。お兄さんはとても頼もしく見えた。

 

「うん、がんばる」

 

服の袖で涙を拭く私に慌ててハンカチを渡す。

 

「可愛い顔が台無しだ、ちょっと先に関係者テントがあるから一緒に行こう」

 

「うん」

 

優しく手を握ってくれるお兄さんはゆっくりと私に合わせて歩いてくれる。

 

テントに着くと私の名前を聞かれた。

 

「ルナちゃん、今からパパとママを呼ぶからちょっと待っててね〜、これ飲んで座ってて」

 

パイプ椅子に座るとニンジンジュースをくれた。

 

「おいしい」

 

「よかった、お腹空いてない?」

 

「ちょっとだけ」

 

「わかった、軽くなんか持ってくるね」

 

程なくしてお兄さんが戻ってきた。

 

「ピザトーストとパフェだよー」

 

お皿には4つに切り分けられたピザトースト、透明なカップに入れられたパフェがあった。

 

「パフェ!!」

 

好きなものは最後に食べる私は、先にピザトーストを口に入れた。

 

「!?」

 

1口で涙目になった。

 

「??」

 

「に、苦いよぉ」

 

チーズに隠れてて見えなかった子供の天敵、緑の悪魔が潜んでいた。

慌ててニンジンジュースで口の中の苦味を退治する。

 

「ああ!!ごめんね、ルナちゃん!!パフェ、パフェ食べよう!」

 

慌ててパフェを差し出す青年。

 

「うん」

 

何となくまだ、苦い気がする。

目の前のパフェを食べて忘れよう。

 

パフェはソフトクリームにチョコが散りばめられ、茶色で筒状のお菓子が刺さっている。

カップの中にはある程度形を残したクッキーと思われるものがあり薄紫色のものが層を作っていた。

 

まず、ソフトクリームにをスプーンを入れて口に運ぶ。ソフトクリームに混じったチョコの味も加わり2種類の味を楽しめる。

刺さったお菓子を引き抜き、口に入れるとブルーベリーヨーグルトの味が広がる。二口目にはソフトクリームの味にかわり変化を楽しめた。食べ進める度に足の変わるパフェにスプーンが止まらない。最下層のクッキーもバニラ味とブルーベリーヨーグルト味と次々に味が変わる。

 

空になった容器を置くと、口を拭かれた。

 

「ルナ、そんなに汚して食べてはダメよ」

 

「そんな顔を見れて安心したよ」

 

パパとママがパフェを食べるのを見守ってくれていた。

 

「ママァ」

 

ママに抱きつき温もりがちゃんとそこにある事を確認した。ママは優しく頭を撫でてくれた。

 

「本当にありがとうございました」

 

「いえいえ、お役に立てて良かったです。

俺が作ったパフェもあんなに美味しそうに食べてくれましたし」

 

頭を下げるパパ。青年は、あははと返事を返す。

 

「お兄さん、ありがとう!!」

 

「今度来た時は屋台にも寄ってね!ルナちゃん、兄ちゃん手伝いしてるから」

 

「うん」

 

目線を合わせてくれた青年はニコリと微笑んだ。元気に返事をすると父に手を引かれて帰宅した。

 

 

それから、1年くらいは大会のたびに青年の屋台を訪れてはパフェをねだった。

 

違う屋台をしている青年は

 

「1着になったご褒美だよ」

 

という感じで作ってくれた。

 

無理を言って屋台の手伝いをさせてもらうこともあった。私は行くたびに屋台を訪れては青年に戯れ付き、甘えていた。ニコニコと私の我儘を受け入れてくれて美味しいパフェも作ってくれる。この時間が大好きだった。

 

しかし、月1回の大好きな時間は突然終わりとなった。青年はヨーロッパに留学しに行ったのだ。料理を学ぶ為に・・・

 

青年は1通の手紙を私宛に残していた。

 

[本当にごめんなさい。ルナちゃんの泣き顔が見れなくて、手紙でのお別れとなってしまい本当にごめんなさい。ルナちゃんはすごいウマ娘になれる!!だから、オレもすごいコックになってくる。今度は最高のパフェ食べてもらうから、すごいウマ娘になるんだぞ!!

それでは、また会う日まで!!」

 

 

「まぁ、そんな感じかな」

 

背もたれに体を預けて天井を見上げるシンボリルドルフ。

 

「なるほど、そんな事が」

 

「今となっては忘れていたが頑なにパフェは食べなかったな。帰ってきた青年のを1番に食べると、ふふっ、おかしいだろ、いつ帰ってくるか分からないのにな」

 

「良いじゃないですか、可愛らしい意地で、コック長には伝えないので?」

 

「まぁ、何年も待たせたんだコック長がいつ気づくか楽しみにしようじゃないか」

 

くるりと椅子を回し、外を眺めるシンボリルドルフの横顔は微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

おまけ:没案 理由:若すぎた。

 

 

「うぇぇぇん」

 

泣き出すウマ娘。しかし誰も彼女に手を伸ばさない中、1人の少年が近寄る。

 

「おぉ、神速の女神に祝福されし少女よ。泣き止むのだ。先程の勇姿が霞んでしまうぞ」

 

跪き目線を合わせる少年に少女は固まってしまう。

 

「安心するのだ。オレは組織の1員である。少女の悩みなど瞬く間に解決してみせよう」

 

大会関係者の腕章を見せてくる少年。オッドアイで両手に包帯を巻き、前髪の1部分だけ白のメッシュにして三日月のようになっている。

 

「ルナと同じ」

 

少年の前髪を凝視するウマ娘、ルナは自分のチャームポイントである前髪を指さす。

 

「ああ、オレは月の眷属になったからな。少女は月の使者殿かな?」

 

「月の使者?」

 

首を傾げるルナに少年は続ける。

 

「ああ、生まれながらに月の印を持つもののことさ。オレは最近月の眷属になったからな。取り敢えず此方に月の使者殿」

 

「うん」

 

 

少年について行くと大会運営テントに案内された。そこでパイプ椅子に座らされている。

 

「月の使者殿、なにぶん「子供の園」迄は距離がある故此方でお待ちください」

 

仰々しい名前に迷子センターを改名した少年はニンジンジュースを入れたコップをルナの前に置いた。

 

「お兄さん、ルナって呼んで、月の使者殿はヤッ!!」

 

名前で呼んでくれない少年にほっぺを膨らまして抗議の声を上げる。

 

「そんな可愛らしく抗議されては此方がもたない。ルナで良いかな?」

 

大袈裟に驚く仕草をして観念したと手を上げる。

 

「うん」

 

満足し、こくこくとニンジンジュースを飲むルナ。

 

「まだ、時間があるだろうから、おやつはどうだルナ?」

 

「おやつ!!」

 

「了解だ!!」

 

問いかけに目をキラキラさせるルナに即答する少年。

 

少したち少年が帰ってきた。

 

「会心の出来だ!ルナよ!!刮目せよ!

この、黄金の津波に染められし赤緑の供物とスノーキャッスルに備えられしラビリンステイストを!!存分に食すが良い!!」

 

言っている事はよく分からないが、そこにはピザトーストとパフェがあった。

 

「パフェ!!」

 

好きなものは最後に食べるルナは、先にピザトーストを口に入れた。

 

「!?」

 

1口で涙目になった。

 

「どうした?」

 

「に、苦いよぉ」

 

「な、なんだと!!クソ!!緑の悪魔め!!くっ!!オレの腕が足りないばかりに!!」

 

驚愕し、膝をつく少年はピーマンを憎んだ。

 

「ルナ、スノーキャッスルを食すのだ。その迷宮は君を癒すはず!!」

 

ガバッと顔を上げる少年はルナにパフェを食べるように勧める。

 

ソフトクリームにをスプーンを入れて口に運ぶ。ソフトクリームに混じったチョコの味も加わり2種類の味を楽しめる。

刺さったお菓子を引き抜き、口に入れるとブルーベリーヨーグルトの味が広がる。二口目にはソフトクリームの味にかわり変化を楽しめた。食べ進める度に足の変わるパフェにスプーンが止まらない。最下層のクッキーもバニラ味とブルーベリーヨーグルト味と次々に味が変わる。

 

「迷宮に囚われたようだな」

 

クックックと笑う少年は美味しそうに食べるルナを見ていた。

 

程なくして両親が迎えに来てルナを連れて行った。

 

 

次の大会でも、1着になったルナは両親に頼んで少年を探していた。大会運営委員の人に聞くとすぐに分かった。明るく仕事熱心な少年は、あの奇抜な言動と容姿も相まって有名人らしい。屋台の手伝いをしているらしい。

 

早速ルナ達は屋台に向かうと、以前と変わらぬ姿で屋台の手伝いをしていた。

 

「お兄さん」

 

ルナは一目散に少女に抱きついた。

 

「お?おお?、ルナではないか」

 

少年は衝撃に驚いたが怒ることもなく、ルナの顔を見るとニコリと笑った。

 

「今日も素晴らしい走りだったな!!」

 

ポンと頭に手を置きルナを褒める。

 

「ルナ頑張ったからまたパフェ作って」

 

「おお、見事に迷宮に迷い込んだようだな!!少し待て!!すぐに作ろう!!」

 

嫌な顔一つせずに、許可を取りに一旦その場を離れた。

 

すぐに前回と同じパフェを作ってきた。

 

両親は屋台にいたスタッフ達に謝ったが、全員が口を揃えて

 

「「「あの笑顔の為だ、お気になさらず!!!」」」

 

嬉しそうに言うスタッフ達に感謝するのだった。

 

「うまいか?」

 

「おいしー」

 

「それは良かった。1つ提案なんだが1着取った時のポーズを練習しないか?」

 

「ポーズ?」

 

少女は少年の提案に首を傾げる。

 

「ああ、せっかく1着になって注目されるんだカッコいいポーズでビシッと決め喝采を浴びずどうする」

 

「そうかな?」

 

「そうだとも!!」

 

「わかった!!」

 

真っ直ぐで澄んだ瞳で力強く説得する少年にルナは納得してポーズの練習を少年とした。

 

その様子を見てる両親は少し困った顔をしてるのだった。

 

 

 

「まぁ、そんな感じかな」

 

背もたれに体を預けて天井を見上げるシンボリルドルフ。

 

「ちなみにどういったポーズを?」

 

苦い顔をしながら

 

「ちょっと言いたくないな、その後は1着取るたび別のポーズをしたよ。彼が居なくなるまでは」

 

「と言いますと?」

 

「料理の学校に行くと引越ししてしまってね。彼が居なくなってからはポーズをしてもなんだか寂しくてやめてしまったよ」

 

「なるほど」

 

シンボリルドルフは椅子を回し窓から外を見ながら

 

「あの時の気持ちどうしてやろうか」

 

そう言うシンボリルドルフは微笑んでいた。

 

 

 

 



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最高のパフェお待ち!!

コック長をショタ化したのはこれを書きたかったからです。
暴れ回るコック長(ショタ)。

お楽しみいただけたら幸いです。


生徒会室で椅子を回して遊ぶコック長(ショタ)。今日は、勝負服で撮影をするらしく誰も遊んでくれていないのだ。

一応、お守りとしてアグネスタキオンとスーパークリークがいるがタキオンは端末に何かを入力していて相手にしてくれない。

クリークは悪戯しても「ダメよ」と優しく言うだけなので面白くない。

 

つまりコック長(ショタ)は暇を持て余している。

 

「クリーク、撮影会ってどこでやってるの?」

 

「昨日、追いかけっこした所にステージがあったでしょう。そこでやるのよ。行きたい?」

 

「んーー」

 

テクテクとタキオンの方に行き、そのまま白衣をめくる。

 

「なんだい?今はデータを入力してるから後にしてくれ」

 

淡白な反応で面白くない。

 

そのままクリークの方に行き勝負服のスカートをめくる。

 

「悪戯はダメよ」

 

優しく諭すように言うだけ。

面白くない。

 

「面白くない!!」

 

そのまま生徒会室を走り去ってしまうコック長(ショタ)

 

「あっ待って」

 

慌てて追いかけるスーパークリーク。

 

端末に入力する事をやめないアグネスタキオンはまだ生徒会室の中。

 

 

 

「ここに居るかな?」

 

ステージ近くの校舎内、撮影待機室と紙が貼られた一室にコック長(ショタ)は訪れた。

 

少し扉を開けて中を覗くと、他の部屋より大きな作りになっている。ダンス練習室のように鏡が壁に貼られている。そんな部屋にトウカイテイオーやダイワスカーレット、ウオッカ、スペシャルウィーク、サイレンススズカ、ゴールドシップが見える。

 

ニヤリと獲物を見つけた表情で堂々と中に入るコック長(ショタ)。

 

「コック長、ダメだよここに入ってきちゃ。しょうがないなぁ、まだ時間もあるし生徒会室一緒に行ってあげるよ」

 

一瞬で視界から消えてテイオーを通りすがる瞬間に右手が唸る。ばさりと音を立てて捲られるスカート。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと何するのさ!!」

 

勿論、勝負服なのでパンツが見える訳では無いが捲られてしまうと恥ずかしいのはどうしようもない。赤面して抗議するテイオーに他のメンツも此方をみる。次の獲物は・・・

 

「どうしたのよテイオー、そんなに真っ赤になって」

 

「そうだぜ、コック長が何かしたのか?」

 

「2人ともコック長捕まえて!!」

 

コック長はスカーレットのスカートをすかさず捲る。

 

「キャッ!!あんたねぇ!!」

 

「見られて困るもんでもないだろ?」

 

「そう言う問題じゃないのよ!!」 

 

やれやれという感じのウオッカとキーっと怒り赤くなるスカーレット。

 

「まぁでも、悪戯はいけないな、コック、ひゃん」

 

コック長(ショタ)は的確にウオッカの脇腹を突く。

 

「あんただって、可愛い声あげてるじゃない!!」

 

「うるせぇ、脇腹突かれたら出ちまうだろ」

 

「何よ!!」

 

「なんだよ!!」

 

メンチを切り合う2人の肩が叩かれる。

 

「お前らあれ見てみ?」

 

ゴルシが肩を叩いて顎で指す。

 

スカーレットとウオッカが視線を向けると仲間割れする2人を煽る、とにかくムカつくドヤ顔をしたコック長(ショタ)であった。

 

「「コック長ーー!!」」

 

「あははは」

 

思惑通り釣れた2人に気分が良くなるコック長(ショタ)

 

「ウマ娘3人を相手に逃げられる訳ないじゃん!!観念したらコック長」

 

「そうよ!!」

 

「そうだ!!」

 

3人で囲みジリジリと包囲を狭める。

 

コック長(ショタ)は余裕の表情で口笛を吹いている。

 

「この!!」

 

スカーレットが痺れを切らし飛び込んだ。

伸びた手をかわし、スカーレットとウオッカの間に体を進める。

 

「捕まえた!!」

 

踏み出すウオッカを前に左斜め後方に飛ぶコック長(ショタ)、コック長(ショタ)が消えた空間にウオッカが突っ込み、振り返るスカーレットと鉢合わせして激突する。

 

「「ぎゃん」」

 

飛んだ先からウオッカの横を通りすぎるコック長(ショタ)は軽くウオッカの尻を叩く。

追い抜く際にも煽りを忘れない。

 

「2人とも大丈夫」

 

テイオーがかけよる。

 

 

コック長(ショタ)の前には両手を大きく広げるスペ。スズカを背にするかたちだ。

 

「スズカさんは・・・やらせません!!」

 

ふんすと鼻息荒く飛びこむスペを軽くかわしてスカートをめくり、お尻を叩く。

 

「す、スペちゃん」

 

勢いを殺せず転ぶ見事なやられっぷりに声を漏らすスズカ。

 

コック長(ショタ)もやれやれと首を振る。

そして、スズカに対峙するコック長(ショタ)

 

ジーッと見つめられるスズカは困った表情をしてコック長(ショタ)を見返す。

 

「ごめんなさい」

 

ぺこりと頭を下げるコック長(ショタ)

 

「えっ?えっ?んうぅ」

 

コック長(ショタ)に困惑してる間に脇腹を突かれて嬌声を上げるスズカ。

 

「ちょっと、なんでスズカ先輩はそんな感じなのよ」

 

コック長(ショタ)に抗議をあげるがスカーレットの方を見るコック長(ショタ)は哀れんだ目を向けてから、やれやれと手を上げて首をふる。

 

「フン!!ギギギギ!!」

 

顔を真っ赤に歯を食いしばるスカーレット。

 

「いや、流石にこれはスカーレットが釣られにいっただろう」

 

スカーレットを憐れむウオッカだった。

 

「スペちゃんじゃ頼りにならないし、ゴルシも手伝ってよ!!」

 

壁に寄りかかり全体を見ていたゴルシ。

 

「良いぜぇ、面白そうだ」

 

いつもと違うゴルシの迫力にゴクリと唾を飲み込むコック長(ショタ)だった。

 

第2ラウンドが幕を開ける。

 

「ウソでしょ」

 

謎のバトル漫画のような緊張感に困惑するサイレンススズカ。

 

動いたのはゴールドシップ。

 

「全員ゴルシちゃんの指揮下に入りな!!」

 

ゴルシの掛け声に頷くスズカを除く全員。

 

「スペ!!もう一回飛びつけ」

 

「はい!!」

 

ヒラリと避けるコック長(ショタ)避けざまにお尻を叩くのも忘れない。

 

「次、テイオー!!」

 

「行くよ!!」

 

フェイントを混ぜながら近づくテイオーを少し見てからテイオーと同じ方向に2度ステップを踏む。

 

「!!」

 

驚くテイオーは一瞬速度が緩む

 

「きゃん」

 

隙を見逃さず脇腹をツンツンしてテイオーから離れる。

 

「スカーレット、ウオッカ左右からだ!!」

 

すかさず挟み込むようにコック長(ショタ)に迫る。

 

「っ!!」

 

「バカが!!」

 

「正面からなんて!!終わりよ!!」

 

2人が捕まえるのを確信し挟み込もうとした刹那、コック長(ショタ)が消える。

 

「なっ!!んぅ!!」

「クソ!!耳はダメぇ!!」

 

スライディングで中央を滑り抜けて素早く立ち上がるコック長(ショタ)はスカーレットにはツンツン、ウオッカには耳に息を吹きかけた。

 

「!!」

 

迫る殺気に飛び退くコック長(ショタ)の前にはゴールドシップが仁王立ちしていた。

 

「追い詰めたぜ、コック長」

 

静かに告げるゴルシに警戒しつつあたりを見回す。ゴルシを前に後方は少しのスペースと壁と壁、部屋の隅に追いやられていたのだ。

 

「終わりだコック長!!」

 

伸ばされる手に一か八かで動くコック長(ショタ)壁を蹴り跳躍したその先は

 

「なん、だと!?」

 

コック長(ショタ)はゴールドシップの伸ばした腕の上に着地したのだ。

 

「あっははは、やっぱコック長はスゲェ奴だ、ほらよっと!!」

 

笑うゴルシはニカっと微笑んでから足を掴み部屋の中央へ投げる。

 

くるんと受け身を取り立ち上がった先はスカーレット達の丁度真ん中くらいだった。

 

また追いかけっこが始まる。

 

 

「素晴らしい、素晴らしいぞコック長!!少年となってもその身体能力!!加護無しでこれとは!!」

 

途中からクリークと部屋に入って来たタキオンはスズカの横で観戦していた。

 

興奮するタキオンを無視してスズカがクリークに聞く。

 

「止めないんですか?」

 

「本当は止めないといけないんだけど、ほら楽しそうだから」

 

逃げるコック長(ショタ)は真剣で笑顔が絶えなかった。

 

「みんな居なくて退屈で寂しかったのよ」

 

4人に追いかけられるコック長(ショタ)は先程とは違いイキイキしていた。

 

「それに、そろそろ」

 

「??」

 

バタンと扉が開けられて

 

「何を騒いでいる!!撮影前だというのに!!」

 

女帝が喝を入れる。

その後ろには皇帝がいた。

 

 

「それでこの騒ぎか」

 

呆れるエアグルーヴを前に正座する下手人。

 

コック長(ショタ)はみんなの方へ体を向けて

 

「本当にすみませんでした」

 

素直に土下座した。

 

顔を上げると満面の笑みで

 

「本当に楽しかった」

 

無邪気な笑顔に毒気を抜かれた面々は

 

「しょうがないなぁ、ボクは大人だからね許してあげる」

 

「ったく、そんな笑顔されたら怒れないぜ」

 

「まぁ、撮影前にいい運動になったわ」

 

「スズカさんが許してるし私は大丈夫です!!」

 

「ふふ、スペちゃんったら」

 

「ゴルシちゃんは楽しかったしな!!」

 

全員に許してもらえたコック長(ショタ)はそのまま撮影の見学をする。

 

 

ステージ上で輝くウマ娘に上機嫌で見学する。大音量で流れる音楽に歌い踊るウマ娘達、シンボリルドルフを中心にした1組目で他にも後が控えている。ドローンも使い空中からも迫るように撮影される。

 

別場所から映像を確認する面々も撮影の成功を確信している。

 

会長がドローンに向けて指を差しウィンクをする。

 

会長の魅力に映像を確認する全員がため息を漏らす。しかし、コック長(ショタ)は違和感を覚える。

 

ドローン映像のモニターを食い入るように見る。

 

「クリーク姉ちゃん、これって」

 

クリークを引っ張り、モニターの床を指さす。

 

クリークが確認すると、小さな穴が2箇所見える。しかも横の床が微妙に沈んでいるように見える。

 

この場所は、ステージ中央の下から登場する事が可能な昇降口になっている。

 

「危ない!!」

 

クリークが声を上げると同時にコック長(ショタ)は駆けた。

 

クリークは監督に中止の声を上げるが音楽によりステージ近くにいる監督まで声が届かない。

 

ステージ袖の階段を目指すコック長(ショタ)を3人のスタッフが止めにかかる。

 

ステージの映像がドローン映像に切り替わる。シンボリルドルフがドローンを見ながら後退を始める。一歩、一歩と

 

「っ!!」

 

クリークが監督の元に行く様子が見えるが他のスタッフに止められている。すぐには止められない。覚悟を決める。

 

待ち構えるスタッフに速度を上げて近づく。

狙いは1番背の高い奴。

 

1人目が掴み掛かろうと距離を詰める。

体を直前で捻りダッキングして脇を抜ける。

 

2人目が驚きながら手を伸ばすがそこにはもういなかった。そのまま、男の脇にある機材が置いてあるテーブルを蹴り3人目に跳びかかる。

 

「おわっ!!」

 

突然の予期せぬ行動に体をのけぞらせる3人目。これは幸運だった。ほぼ直立の状態になった。

 

「ごめんなさい!!」

 

勢いをそのまま、肩と頭についた足を思いっきり踏ん張り跳ぶ。

 

なんとか引っかかった手に力を入れて勢いをまし、とび箱を飛ぶようにしてなんとか、ステージに着地出来た。

 

 

既にシンボリルドルフは足を件の位置に置き床を踏み抜く様なていで体が倒れかかっている。

 

「間に合えーーーーーーーーー!!」

 

全力でスタートダッシュをするが感覚的に直感する。間に合わない。

 

「うおおおおお!!」

 

懸命に動かす体は光り輝き声が太くなる。

 

一歩が先程とは違い大きくなる。足に入る力は先程の比ではない。視界が高くなりシンボリルドルフ迄の距離が近くなる。

 

既に床はシンボリルドルフを支えることを放棄して落下を始める。浮遊感に包まれる体、首を回し背後をみれば暗い奈落。最悪の出来事が頭をめぐり目を閉じる。

 

そんなシンボリルドルフの手がガシリと掴まれる。

 

「コック長」

 

穴に吸い込まれ落ちる事が決定された身を引っ張り上下を入れ替えるコック長。

 

「ルナ!!」

 

「!?」

 

ガッシリと抱きかかえたコック長は幼名で呼びそのまま落ちる。

 

 

 

その後は、騒然となった。

コック長の捨て身の行動でシンボリルドルフは無傷。何故かコック長も無傷。

本人曰く

 

「(ウマ娘に対する)愛の賜物です!!」

 

ウザく熱苦しい笑顔で告げるコック長は救急車で運ばれ徹底検査となった。

 

撮影は中止となり、事故原因の解明に力を注いだ。その結果。

 

今回の事件は野外ステージ昇降口の天板を止める金具が錆びて脱落した事と判明した。

これにより学園設備の徹底点検が二重三重に行われた。

 

 

「エアグルーヴ!!今日はカイチョー何処に居るの見つからないんだけど!!」

 

「知らん、会長とて息抜きは必要だ。あんな事があった後だぞ」

 

テイオーはエアグルーヴに詰め寄っていた。

 

 

 

「いや〜シンボリルドルフがルナちゃんだったとは、驚いたぜ」

 

「私もあの青年がコック長だったとは思わなかったよ」

 

談笑する2人は生徒会室にいた。

 

エアグルーヴを隠れ蓑にして

 

 

「ではパフェを頂こうか」

 

「おう、でもまさかこれを所望されるとは」

 

「ふふ、なんでも頼んで良かったのだろう?」

 

「まぁな、まぁあの時とは違って腕も食材も完璧さ間違いなく最高のパフェの1つだ」

 

「ああ、いただくよお兄さん」

 

そこには素材と盛り付けこそ完璧に整えられたがあの時のパフェがあったのだ。

 

 

 

おまけ

スカート捲り終わらせ方の別パターン

 

 

ゴルシに投げられた先は入り口近く。

 

ガラッと扉を開けて入ってきたのはミホノブルボンとライスシャワー。

 

咄嗟に先に入って来たブルボンの勝負服のスカートを捲る。

 

「なっ!!」

 

短いスカートの中には扇情的なハイレグが隠されていた。

 

「ごっごめんなさい!!」

 

「え?あっはい」

 

すぐに土下座するコック長(ショタ)にあっけに取られて返事を返すブルボン。

扇情的な姿にとても悪いことをしたと後悔するコック長(ショタ)は顔が真っ赤になっていた。

 

「もう、そういうイタズラはダメなんだよ」

 

土下座するコック長(ショタ)の頭を、両膝をついて優しく撫でるライス。

 

「はい、ごめんなさい」

 

「もうしないって約束、お姉さんと指切りしよう」

 

「はい、お姉ちゃん」

 

優しく微笑みかけるライスと指切りで約束するコック長(ショタ)であった。

 

 




スタッフA「ジェットストリートアタックをかけるぞ!!」

スタッフB「クソっ!!ちょこまかと」

コック長(ショタ) ピョーン

スタッフC「俺を踏み台に!!」



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番外編

誤字報告ありがとうございます。

ノーマルコック長が、出来ない事をする為に
新キャラを投入しました。

お楽しみいただけたら幸いです。


「よう、姉ちゃん久しぶり」

 

「ええ、久しぶりね。一段と暑苦しくなったんじゃない?」

 

「うるへー、姉ちゃんだって一段と目つきがやばくなったんじゃないか?」

 

鋭い目つきのクールビューティー。コック長の姉である。スラリとした体に女性らしい起伏のあるボディを持つ長身女性だ。

 

「んで?姉ちゃんは今回誰かを診る為に来たのか?」

 

医師免許を持ちフリーで病院を転々とする姉は結構有名な医師だったりする。

 

「いいえ、本業の方よ」

 

「そっか」

 

そんな凄腕もおまけと言い放つ姉の本業は、ウマ娘専用の按摩マッサージ指圧師。聞き慣れないと思うが、ようはウマ娘専用のマッサージ師と考えて貰えばこの姉については問題ない。

 

姉は苦しむウマ娘を助けたいという欲望と、おさわりしたいという欲望を国家資格という後ろ盾を得て実現した人なのだ。

 

腕が超一流なのがまたタチの悪い話である。

 

「頼むから逮捕されないでくれよ」

 

「失礼ね、あくまで施術よ。ウマ娘ちゃんも喜ぶ、私も喜ぶ、最高のサイクルね」

 

遠い目で告げるコック長とフフっと笑う姉だった。

 

 

姉は理事長室に来ていた。

 

ノックをすると中から「どうぞ」と扉が開けられる。

 

「歓迎!!まさかあの女医がコック長の姉とは、世の中は狭いな!!是非ウマ娘達を癒やしてやってくれ」

 

ガハハと笑い告げるが容姿から、そのギャップが可愛らしさをアップさせてる様に思う。

 

じゅるり

 

「勿論です。私が来たからには癒やして見せましょう。しかし、理事長、貴方もだいぶ疲れを溜めています。如何でしょう。まずは理事長自らが受けていただくというのは?」

 

「感謝っ!!しかし、私よりウマ娘達で頼む!!」

 

ニヤリ

 

「理事長、ウマ娘のことを思うならそれこそ貴方が率先して受けるべきです。私はポッと出の他人。しかし、理事長自らが私の施術を受けてウマ娘達にお話しいただけたら、彼女達も安心して私の施術を受けてくれるでしょう。それに、貴方ほど彼女達を思う方が疲労で倒れたら優しい彼女達は涙を流すでしょう」

 

ガシッと両の手を掴み、キスでもするかの様な距離で目を見つめながら口早に捲し立てる女医。

 

「こっ、困惑、そうだろうか彼女達の為になるだろか?」

 

(いい匂い)

「勿論です。さぁ、私にお任せ下さい。その疲労癒してあげます」

 

側で控えていた、たづなは「まぁ理事長の為」と何も言わず苦笑の表情で見守っていた。

 

 

医務室のベッドを借りて施術を開始する。

 

「肩周りをほぐしていきます。ベットにお座り下さい。足はこの容器の中に、ラベンダーで香りづけしたお湯になります。後でリンパマッサージも行いますので温めて足の緊張をとりましょう」

 

「了解、それでは頼む」

 

理事長には肌にぴったりとくっつく様なスポーツウェアを着させている。施術しやすいように美しい髪は三つ編みにさせてもらった。

 

(可愛い)

 

じゅるり

 

「失礼します」

 

首、肩、腕、背中を少し指圧しながら触っていく。

 

「首と肩周りが凝っていますね。首からいきましょう。少し顔と頭を触ります。」

 

優しく、顎と頭に手を添えて首をゆっくり横に傾ける。これを左右ゆっくりと行い首の側面の筋肉をほぐす。今度は顎を持ち上げる様にし首の前側の筋肉をほぐす。今度は顔を傾けて顎を持ち上げる。これを左右同じように繰り返す。

 

(可愛いわぁ、肌もスベスベ、唇もプルプルしてる。安心して瞳を閉じちゃって)

 

側から見れば施術だが内心はヤベェの一言である。コック長から見ても「ヤベェ奴」と、一目置かれる存在なのだ。

 

無事、首、肩を行い。足に入る。

 

「極楽〜」

 

足湯と上半身をほぐした事でポカポカと気持ち良くなり目を細めて酔いしれる理事長。

 

「それでは足をほぐしていきます」

(スベスベ、きゃわわのおみ足〜)

 

表情はまるで変わらないクールビューティだが内心は・・・

 

「なかなかはってますので少し痛いかもしれませんがご容赦ください。優しくゆっくり行います」

 

「了解〜」

 

足を拭きながら理事長に告げる女医はおみ足を楽しみながらキチンと触診も欠かさない。

 

「それでは、仰向けでお寛ぎください」

 

足ツボは女医の好きな施術の一つ理由は

 

「んぅ!?あっ、驚愕!?痛気持ちいい!はっ、んん、んぁ」

 

絶妙な力加減でつぼとコリをほぐし、[適度に声を上げるように刺激する]もう一度確認しよう。[適度に声を上げるように刺激する]そして効果があるからタチが悪い。

 

(たまらない、痛みと快楽に身をよじる様、まさに絶景。声も素晴らしいわ)

 

上気した顔でとろ〜んとなっている理事長。

 

「うつ伏せでお願いいたします」

 

コテンっと体をうつ伏せにする理事長はまだボーッとしているようだ。

 

「オイルを塗りますね」

 

オレンジの香りがするオイルを塗りながら足先から膝裏までゆっくりとさすり上げる。

丁寧に表側からも同様に、ゆっくりと優しく何度も、ツボを押すのも忘れずに。

 

ある程度行ったら太もも、膝裏からお尻に向けて、先程と同じようにゆっくりとそして到達する。

 

(おちり、おちり、可愛いおちり!!)

じゅるり

 

プリっとした小ぶりのお尻を太ももから背中に向けて擦り上げる。何度も今度は腰からお腹に向けてゆっくりと前へと、同じ容量でお尻も脇へ脇へと手を滑らせる。

 

(ああ、いい弾力、枕にしたい)

 

こんなことを考えながら、表情を変えずにひたすら理事長を癒す。

 

 

2時間半に及び理事長を堪能、いや、施術した。

 

 

「快調!!素晴らしい!!その腕を是非ともウマ娘達に奮ってくれたまえ!!あっはっは!!」

 

「勿論です」

 

ツヤツヤと血色が良くなった理事長はいつも以上にパワフルになった。女医も何故か理事長以上の血色の良さになり自信満々で答えるのだった。

 

まだ見ぬウマ娘に思いをはせる女医であった。

 

じゅるり

 

 



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芋けんぴお待ち!!

誤字報告ありがとうございます。

お楽しみいただけたら幸いです。


「コック長〜」

 

野菜農家から品物を受けっとっている途中でハルウララが声をかけて来た。

 

「どうしたウララ?」

 

「あのね、あのね、おねがいがあるの!!」

 

「いいぞ、了解した!!」

 

内容を聞かずにサムズアップするコック長。

 

「え?いいの?まだ何も言ってないけど・・・」

 

「当たり前だ!!」

 

「あっはっはっは、流石コック長」

 

納品に来た農家もコック長のウマ娘好きを知ってる為、噂通りの姿を目の当たりにして笑う。

 

「んで?なんだ」

 

「あのね、実は・・・」

 

 

 

 

 

「任せなウララちゃん、そういう事ならすぐに持ってくる!!」

 

鼻息荒く胸を叩く農家のおっちゃんは任せろと興奮してる。

 

「でも、すぐとなるとなると難しいんじゃないか?」

 

「当てはある、ダメといったら大根でぶっ叩いてやる!!」

 

「まぁ、ほどほどに頼む」

 

「お願いします」

 

野菜農家のおっちゃんの意気込みに苦笑するコック長と頭を下げるウララだった。

 

 

しばらくしてサツマイモをトラックいっぱいに持ってきたおっちゃん。

 

「お、おう、多すぎないか?おっちゃん」

 

「いやぁ、ウララちゃんの話ししたら、「うちの持ってけっ!!」「いやいやうちの!!」ってなってな!!後トラック2台分はくるぞ!!最初は渋りやがったから、かぼちゃでぶっ叩いてやったわ。なっはっは!!ウララちゃんの話ししたら掌返しやがって!!」

 

「先に話しようぜ」

 

「おっちゃん、ありがとう!!でも暴力はダメ!!」

 

メッっと人差し指を突き出すウララ。

 

「すまねぇ、ウララちゃんに少しでも恩返ししたくて興奮しちまった。でも皆んな話しを聞いたらこれよ。」

 

孫を可愛がる様な優しい笑顔で笑うおっちゃんはコック長の方を向くとキリッとした表情になって

 

「コック長、後は任せるぞ!失敗したらここら辺の農家は皆んな敵になるかもな、なっはっは!」

 

「おー怖い怖い、そんな事にはならんよ任せとけ!!あっはっは!!」

 

豪快に笑い合うコック長とおっちゃんだった。

 

 

トラック3台に及ぶサツマイモはウマ娘大好きな訓練されたスタッフが瞬く間に倉庫へ搬入した。

 

 

 

とりあえず一箱を持って調理場に行く。

 

「それじゃあやるぞ!!ウララ!!」

 

「うん、頑張るぞー!!」

 

三角巾とエプロンを装備したウララ。三角巾から覗く耳、エプロンはデフォルメされたニンジンのアップリケ。

 

(天使か)

 

ホッコリするコック長。

 

「取り敢えず2個くらいでいいか、芋洗うぞ」

 

「はーい」

 

丁寧にサツマイモについた泥を洗い流し、キッチンペーパーで軽く水気を取る。

 

「次は包丁を使うんだけど使ったことあるか?」

 

「うん、猫さんの手だよね、にゃんにゃん」

 

(きゃわわ)

ホッコリするコック長。

 

じゅるり

 

ハッとして付近を見渡すコック長。

 

(クソが、この邪気は間違いなく見てやがる!!クソ姉がぁ)

 

パンプアップして警戒するコック長。

 

「どうしたの?」

 

「大丈夫だ続けよう」

 

首を傾げるウララに応えて警戒しながら調理を続ける。

 

「じゃあ、猫の手で5ミリ位でまずは輪切りにしていこう、こうやって、こんな感じだ」

 

サツマイモをまな板の上に置き、見本としてコック長が切っていく。

 

「うん」

 

ゆっくりと切り終わると少し不揃いだがキチンと切れた。

 

「んで、切ったやつを今度は同じように5ミリ位で切ってスティック状にする」

 

同じように手本を見せてそれを真似るウララ。

 

「切ったな、じゃあこっちのボウルに入れてくれ。少しアクを抜く15分くらい休憩だな」

 

「うん!!ねえ、コック長おっちゃん達にもお礼したいんだけどどうすればいいかな?」

 

「うーん、どうせなら、おっちゃん達の分も作るか?喜ぶぞ」

 

「ウララので喜んでくれるかなぁ?」

 

切ってだけだが、コック長のものと比べてしまうウララ。

 

「ウララから貰ったら泣いて喜ぶんじゃないかな、マジで」

 

「わかった!!一生懸命作る、やるぞー!!」

 

気合いを新たにサツマイモを洗い始めるウララだった。

 

「んじゃ、揚げるぞー」

 

「おー!」

 

掛け声を上げてサツマイモを揚げる準備にかかる。

 

あの後大量に切ったサツマイモはアク取りと乾燥を終えている。

 

「じゃあ油が跳ねないように淵からゆっくりいれるんだ」

 

「うん」

 

緊張した様子で入れていく。

 

「そんなもんだな、後はくっつかないように菜箸でたまに転がしてやるんだ。15分くらいかな」

 

パチパチと音を立てるサツマイモを見ながら時より菜箸で転がす。

 

「んじゃ、もうちょっとで揚がるからからフライパンでこいつを熱してくれ」

 

「うん」

 

「んで、もう少しするとトロミが出てくるから火を止めて余熱で転がす。じゃあ、このザルでサツマイモを掬って軽く油を落としたらフライパンに入れて、そうそう、転がしてそのトロミでコーティングしてやるんだ。最後にこのクッキングシートに乗せて熱を冷ます。よくできたじゃないか!!」

 

「やったー、後は同じようにやればいいんだね!!」

 

「おう、頑張ろう!!」

 

 

 

 

「はぁ、わたくしはこんなところで立ち止まれないのよ」

 

最近、レースの調子が良くない。練習しても結果がついてこない自分に腹が立つ。

一流でならなければならないのに!!

ピリピリしているわたくしを見兼ねてウララさんもよそよそしい。

あの眩しい笑顔を最近見てない。

 

「はぁ」

 

「キングちゃん!!」

 

勢いよく扉が開き名前を呼びながら入ってきたハルウララ。

 

「ウララさん、そんなに慌ててどうしましたの?」

 

肩で呼吸するウララは余程急いできたということがわかる。

 

「良かったー、部屋にいてくれて。はいっ!!プレゼント!!」

 

茶色の紙袋を手渡された。ラッピングなどはないシンプルな紙袋。

 

「芋けんぴ?」

 

「うん、ウララね。前に、落ち込んでる時にこれを貰ったの。その時に元気になれたからキングちゃんも元気出して欲しくてコック長と作ったの!」

 

「これをウララさんが、私の為に?」

 

「いつも、迷惑かけちゃうし、キングちゃんの役には立ててないけど少しでもって」

 

「いいえ、助けられてますわ」

 

キングヘイローはハルウララに抱きつきその温もりを感じる。受け入れてくれる彼女の優しくて眩しい温もり、いつも真っ直ぐに見てくれる。彼女は信じてくれる一流を肯定してくれる。

 

「少し力みすぎてましたわ。一流なら休むこともしなければ。一緒にいただきましょう」

 

「うん!!」

 

 

 

 

「なるほど、彼女の同室はキングヘイローだったのか。疲労が溜まって力が出せていないと思っていたが少しは良くなるだろう。後は私が」

 

じゅるり

 

「テメェ、余計な事したらマジでたたきにしてやるからな!!でも頼むぞ」

 

「当たり前だ、体の不調ならすぐに直して見せよう。彼女は幸せだハルウララと一緒ならばメンタルも良い方に向くだろう。是非ともハルウララも」

 

じゅるり

 

「そこになおりやがれ1発入れてやる」

 

「ふふ、面白い能力を持ったようだが私に通用するかな」

 

パンプアップし戦闘モードに移行するコック長と余裕を持って対峙する女医はこの後死闘を繰り広げるがまた別の話。

 

ハルウララの芋けんぴを貰った農家の方々は泣いて喜び、神棚に飾ったものもいたという。

 

 

 



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サツマイモスイーツお待ち!!

誤字報告ありがとうございます。

お楽しみいただけたら幸いです。


「悩ましいですわ」

 

カフェで悩むマックイーン。

彼女は選択を迫られていた。

サツマイモ羊羹にするかスイートポテトに

するかサツマイモプリン、サツマイモクリームパフェにするか。かれこれ30分は悩んでいる。

 

ハルウララの相談により野菜農家から大量のサツマイモが入荷した事により、芋けんぴでは消費出来ない。これにより大量のサツマイモ料理がメニューに並んでいる。

 

マックイーンとしては全てのスイーツを味わい尽くしたいのだ。数日前にネイチャやスペとスイーツ食べ放題に出てしまった後なのだ。まだお腹がぽっこりしている。服で隠しているが・・・そんな中でのゲリラスイーツフェスティバル悪夢でしかなかった。

 

「決めましたわ!!」

 

看板との睨めっこに終止符を打ちレジに向かおうとしたところ。

 

「すみません」

 

スタッフが看板を変えた。

 

「!?」

 

新たな看板には、サツマイモパウンドケーキとワッフルのサツマイモアイス乗せが増えていた。

 

膝をつき咽び泣く

 

「ど、どうすればいいんですの〜」

 

じゅるり

 

「お困りのようね」

 

カツカツとハイヒールを鳴らして登場する女医。

 

「貴方は?」

 

「私は理事長からお招き頂いた医師です」

 

トレセン学園のゲストカードを見せる女医。

スッと近づき耳打ちする。

 

「お腹隠してるわね」

(いい匂い)

 

「貴方!!」

 

キッと睨みつけるマックイーンは恥ずかしさで顔を赤くする。

 

「勘違いしないで、その悩み解決してあげる」

 

「なっ?!」

 

甘い囁きだった。

 

「本当ですの?」

 

「まぁ、信用出来ないのも無理はないわぁ。理事長とキングヘイローちゃんにお話を聞くといいわ。医務室で待ってるわ」

 

女医はコツコツとハイヒールを鳴らしながら廊下に消えていった。

 

キングヘイローの噂は聞いていた。数日で調子を取り戻すどころか完全に一皮剥けたような様子であると

 

「確認しませんと」

 

 

 

コンコン

 

「どうぞ」

 

「失礼いたします」

 

「あの、さっきのこと本当ですの」

 

「勿論よ、体の不調を整えるのが私の仕事、いえ、最高のコンディションまで持っていってあげるわ」

 

「お願いいたします」

 

じゅるり

 

着替えたマックイーンのテイスティング(触診)を終えて施術にはいる。

 

「仰向けに寝てちょうだい。それじゃあいくわよ」

 

まずは左肩を押さえて、曲げた左膝を押して体を右に捻る。反対側も同じようにして何回か行う。

 

「足ツボ押すわね」

 

大腸や小腸、胃などの消化器系のツボを集中的に押す。

 

「んっ!少し、痛いっん!ですわっ!んん」

 

「やはり消化器系に疲れが出てるわね。暴食したでしょ」

 

絶妙な力加減でマックイーンを奏でる。

 

「少しっっ、バイキングで、あん、食べすぎましたのっ」

 

悶えるマックイーンにホクホクしながらゆっくりと足をほぐしていく。

 

(これは、足の筋肉の張り方が想像以上ね)

 

思った以上に熱を持ち硬くなっている。丁寧にほぐしていく。

 

「ひゃん、声がでてしまいますわ、んん」

 

普段出さない声に恥ずかしくなり顔が赤くなってしまう。

 

「腸のマッサージをするからお腹触るわよ」

 

「はい」

 

指は立てずにゆっくりとお腹に「の」と描くように手を滑らせる。

 

(もっちりお腹ぁハムハムしたいわぁ、おへそを可愛らしい)

 

少しぽっこりしたお腹の感触を堪能しながら腸の働きを促す。

 

「それじゃあ、お腹にこれを挟んでうつ伏せになって」

 

お腹にあったかくなるホットクッションを挟みこむ。

 

(やっぱり、足があのダメージならお尻も硬くなっているわね)

 

普段ならもっと柔らかいだろうお尻も筋肉疲労から硬くなっている。

 

(さぁ、最高の柔らかさに戻るのよ!!)

 

ゆっくりととねっちりとお尻の筋肉をほぐす。

 

「下半身のダメージが大きいわ、長距離練習を大分無理して行ってたんじゃないかしら?」

 

「はい」

 

声に元気がない。

 

「理由を聞いても?」

 

「焦りですわ」

 

マックイーンはポツリポツリと話してくれた。家からの期待と周りが成功していく姿、取り残されてるような不安。それを取り除く為に練習に打ち込んだと。

 

「そこまで理解しているなら大丈夫よ。それにこのダメージから回復したら一気に世界が変わるわ。だから、少なくとも2日は下半身を休めなさい。体幹や柔軟の強化に当てるの。筋肉は回復させなければそのまま壊れてしまうわ。疲労が回復を上回っている。声をかけて良かったわ」

 

返事はない。

 

「明日は1日スイーツよ、ここまで体をいじめたんだものご褒美をあげなくちゃ」

 

「わかりましたわ」

 

ふふっと笑うマックイーンとお尻を堪能する女医だった。

 

 

 

 

「最高ですわ〜」

 

サツマイモパフェをパクつくマックイーン。

最上段にはソフトクリームとサツマイモプリン、中層には抹茶ゼリーにサツマイモクリームをかけたゾーン。最下層には生クリームに細かく刻んだ芋けんぴ。

 

「パクパクですわ〜」

 

お次は、サツマイモアイスとバニラアイスが乗っかったワッフル。それぞれ単体で食べても良し、のっけて食べて良しの一品。

 

「大丈夫なのかマックイーンは?」

 

サツマイモケーキを持ってきたコック長が少し心配そうに呟く。

 

「何、問題ない私がリセットしたからな」

 

サツマイモ羊羹とお茶を楽しみながら同じ席でマックイーンを堪能している女医。

 

「ひゃ〜マックイーンさん、オグリさんみたい」

 

サツマイモパンとニンジンジュースを楽しむライスシャワーは空になった容器の山に驚く。

 

どうやら限定スイーツを制覇するようだ。

 

「マックイーンさん、ほっぺ」

 

ライスシャワーが指でほっぺについたクリームを取ってあげ、マックイーンの前に出した。

 

「パクっ」

 

「「「?!」」」

 

見せた指に食いつくマックイーンはクリームを食べ、スイーツバキュームを続ける。

 

「えへへ、マックイーンさんったら」

 

驚きはしたが嫌ではなかったライスは可愛い一面を見せるマックイーンに微笑むのだった。

 

(天使や)

ホッコリするコック長と

 

(何故行動に移さなかった私!!)

指パクの機会を逃したと苦悶する女医だった。

 

その後、機会を窺うも時折ライスがほっぺをハンカチで拭いてあげた為女医の野望は潰えた。

 

(ライスシャワー、楽しませてもらうからなぁ)

 

密かにライスにロックオンした女医であった。

 

 

 

 




UA数やお気に入り数の何処かの区切りで、アクションコック長やテイオーとマックイーンのシリアスやりたいです。

頑張ります。


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たい焼きお待ち!!

何とか12時台に滑り込みました。

お楽しみいただけたら幸いです。


「ふんふふ〜ん」

 

また屋台の準備をするコック長。

今日は市内の川で花火大会がある。

朝から学園が色めき立っている。どこもかしこも花火の話で持ちきりだ。

 

「コック長、今度は何するんだ?」

 

屋台を出しているコック長に聞くのはゴルシだ。

 

「今日、花火大会あるだろ?まぁお祭りだな。でも結構遠出できない娘もいるみたいなんだよ」

 

怪我や体調不良、人混みが苦手など理由は様々だが、それなりの数が学園から花火を見るらしい。

 

「そんなこんなで、学園に居ても屋台の雰囲気だけでも味わってもらいたくてな」

 

「それも面白そうだなアタシも屋台やって良いか?」

 

「問題ないぞ、タマもたこ焼きやるって言ってたし」

 

有志の屋台もある、タマのたこ焼き、フクキタルの占い屋台?、クソ姉の着物貸し出し。

 

「ゴルシちゃんは焼きそばやるぜ、コック長は?」

 

「俺はこいつさ」

 

がさりと鉄で出来たものを見せてきた。

 

 

 

夕食を終えて1時間程経った位からトレセン学園内の屋台が動き始めた。

 

それなりの数で賑わう屋台広場でコック長は剛腕を奮っていた。

 

「たい焼きいらんかね〜」

 

長い取手のついた鋳型をジャグリングしている。この鋳型一つ2、3キロはあるものをブンブンさせている。本人曰く取りやすくなるらしい。

 

「また、どえらいパフォーマンスしよってからに」

 

隣でたこ焼きを焼くタマは困惑しながらそれを見ていた。

 

「これ習得したくて、たい焼き屋のじいちゃんに土下座したんだ。ほれっ、ほれっ」

 

3個4個と数を増やす。

 

「凄いけどめっちゃ怖いわ!!」

 

熱された鉄を振り回しているのだ持ち手が逆になれば大火傷、重たいので当たりどころが悪ければ大怪我につながる。

 

「はっはっは!そのスリルも見てて楽しめるだろ?ほい!おひとつどうぞ!」

 

空中で一つが開き落下するたい焼き、シュバっと紙包装を投げてたい焼きが中に入る。絶妙な角度で落ちるたい焼きはタマの屋台に落ちる。

 

「コック長ってのは曲芸出来んとなれんのかい!!」

 

ビシッとツッコミを入れてたい焼きを受け取る。

 

「パリパリや!餡子も頭から尻尾まで!!っかー流石やな文句ないわ!!」

 

皮は薄くパリパリで餡子はたっぷりのたい焼き、少し小振りなそれはオヤツにもってこいの仕上がりだった。

 

「これもどうだ?」

 

先程と同じように届けられる一つのたい焼き。

 

「これは!」

 

皮は先程と同じだが餡子が違う。ニンジン本来の甘さを遺憾無く発揮したニンジン餡子、驚くタマにドヤ顔を決めるコック長はやはり暑苦しかった。

 

「それさえなければホンマ最高やで」

 

ため息を吐くタマの声はコック長には届かない。

 

 

「また妙な事をしているな」

 

カランコロンと下駄を鳴らして女医がきた。

 

「おお、姉貴も随分な格好で」

 

髪を簪でお団子に纏めて薄い紫色の浴衣だった。

 

「この後、お前は私に感謝する事になるんだぞ。変な事は言わない方が良いぞ」

 

ふふんとドヤ顔を決める女医。

 

「あぁん、俺が姉貴に感謝だと!?」

 

ジャグリングを続けながら咆える。

 

カランコロンと別の足音が聞こえた。

 

「コック長、タマモクロスさんどうかなぁ」

「コック長!!ウララ可愛いよね!」

 

※これよりコック長が解説致します。

 

現れましたのは我らが大天使ライスシャワー!!その容姿は浴衣に包まれている。

彼女のトレードマークでもある青い薔薇が刺繍された薄い水色を基調としており可憐さが跳ね上がっております。

次に、ライスシャワー特有の長髪は結い上げられ後頭部に纏められている。纏められた中から一部ポニーテールの様に垂らされた髪型はお祭り特有の雰囲気を醸し出しいつもと違う魅力を放っているーー!!

そして、いつもは隠れたうなじ!!何という事だ!!セクシーさもアップし女神となっているーー!!そんな彼女が薄らと上気した頬と潤んだ瞳で上目遣いだー!!!

んんんんっマーベラス!!

 

横には元気な癒しの天使ハルウララ!!

白を基調とした浴衣には桜の花が舞っている。いつものポニーテールはお団子に纏められ簪が光る。簪の装飾はニンジンの形をしているニンジンが大好きな彼女も大満足か!!

そんな彼女がニコニコと眩い笑顔を向けている。てぇてぇ!!圧倒的にてぇてぇ!!

 

 

「コック長」

 

追加で現れたのはゴールドシップ。

赤を基調とした浴衣には白銀の鯉が泳ぐ。

活発な雰囲気が鳴りを潜め、清楚な令嬢の如く。しかも、何と三つ編みツインテールです。清楚な中にも可愛らしさを取り入れる試み!!普段のギャップからもダメージ倍!!俺の心にクリティカル!!

 

「かわいいー!!」

 

吼えたコック長は広場の中心で吼えた。

 

「すぃやせんでした!!」

 

見事に腰を降り姉に謝罪するコック長。

 

「ああ、最高の出来だ。一つ悔やむならテイスティング出来なかった事か。思った以上にウマ娘が多くてな着付けとセットで終わってしまった」

 

ため息を吐く女医。

 

ハッと気づくコック長。

 

「タマァ!何でお前は法被なんだ!!」

 

「いやいや、ウチたこ焼き焼くんやで浴衣じゃ動きにくいわ」

 

クルクルとたこ焼きを回すタマ。

 

「姉貴!!やれ!!」

 

「おう!」

 

目で合図し、一瞬で串を奪うコック長。

女医はタマモクロスを抱き抱えて連れて行く。

 

「なぁぁぁぁぁあ」

 

タマモクロスの絶叫が響く。

 

ライスやウララ、ゴルシがリンゴ飴やニンジン飴、たい焼きを堪能していると

 

さぁ、現れましたのは関西弁の元気っ子タマモクロスだー!先程の法被も似合っていましたが強制衣装チェンジだ!!

はっきりとした青を基調に花火の模様、明るい彼女にぴったりの浴衣。そして三つ編みツインテールになっている彼女は見た目通りの可愛らしさをますますアップ!!強制衣装チェンジに頬は赤いですが少し大人しい彼女は非常に愛らしい!!あー抱っこしたい!!

 

「なんや」

 

「タマ可愛いぞ」

 

サムズアップし白い歯が見えるくらいのニカっとした笑顔。

 

「う、うっさい、あんまこういうカッコはした事ないんや!!恥ずかしい!!」

 

んー!!可愛い!!

 

今日一のジャグリングで皆を楽しませるコック長であった。

 

 

 

 



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焼き魚お待ち!!

誤字報告ありがとうございます。

お楽しみいただけたら幸いです。


しゃがみパタパタと団扇を煽ぐコック長。

朝日が顔を出し、今日も暑い日になるだろう。

 

「来るとは思ったが、いつもより早いんじゃないか?」

 

「そんな匂いを嗅いだら、いつもより早くお腹が空いてしまった」

 

お腹をさするのはオグリキャップの視線はコック長の先、七輪で焼き上げている秋刀魚。

 

 

外に席を設けたオグリ専用特別テーブル。正面には大きな七輪が7つ、業務用炊飯器が4つある。

 

「まだ出始めのものだが良いものだぞ」

 

秋刀魚の塩焼き、焼き魚特有の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「いただきます」

 

身に箸を入れるとほろっとほぐれる。まずは一口。まだ秋には早い季節の物なのに脂ののりは悪くない。皮の香ばしさと絶妙な塩加減、ご飯が進む。次は、はらわたをいただく。幼少の頃は独特の苦味が苦手で好んでは食べなかった。しかし、この組み合わせで食べた事から大好きになった。

大根おろし、これを箸で分けたはらわたに乗せて醤油を数滴垂らす。白い小山が醤油でほのかに色付けられる。大根おろしが溢れないように気をつけて口に入れれば、大根おろしによりマイルドになった苦味に醤油のアクセント、またご飯が進む。山盛りだったご飯は消えてしまった。

茶碗を置くと別の茶碗で白い山が出される。

ニコリと微笑み感謝を伝える。コック長もニヤリと返す。

 

少しの間秋刀魚を楽しんでいるとコック長が別のお皿を出してきた。

 

「こいつは脂の乗った旬のものだ」

 

泳いでいる途中で時が止まってしまったかのような姿で串に刺さり、程よい焦げ目と塩で化粧された魚。

 

「鮎か」

 

「がぶりとやってくれ」

 

一旦、秋刀魚をリセットする為水で口の中を清める。そして・・・

湯気を立てる鮎にふー、ふーと息を吹きかけ少し冷ます。狙うわ背中の部分、はむっと齧り付けば、パリパリの皮をつきやぶった先にはホクホクの身、秋刀魚とは違う甘みを含んだ味と鮎独特の香りが香ばしさを携えて突き抜ける。次に腹に食いつけば食べやすい苦味が広がる。いくつか食べていると・・・

 

「これは」

 

子持ち鮎に当たった。お腹に卵を抱えた鮎はプチプチとした歯応えになり、身とはまた違う淡白な味が舌を楽しませる。

 

「子持ちがいるとは気が早いのもいるもんだな」

 

一体幾つの秋刀魚と鮎を平らげたか分からないが満足しお腹をさする。

 

「レース勝ってこいよ」

 

「ああ」

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末様」

 

漲る力に今日はいい結果が残せそうだとこの場を後にするオグリだった。

 

 

 

「コック長」

 

殆ど照明が落ちた食堂。コック長以外のスタッフも居ないそんな中スピカのトレーナーが現れた。

 

目には隈があり、表情は優れない。

 

「待ってましたよ」

 

優しい笑顔で迎えるコック長。

 

「素面で話すような事じゃないんでしょう?ささっ」

 

厨房から程近い場所に料理が置いてあった。

 

「とりあえず、ビールで」

 

「了解」

 

ビールを取りに行くコック長を見送る。

 

「いただきます」

 

幾つかある料理のうち小鉢に箸を向ける。

 

小鉢に入った里芋の煮っ転がし、程よくツヤのある見た目に惹かれた。食べやすい程度の熱を残したそれは、口の中に溶けると出汁の風味と里芋の滑らかな食感を感じ。確かな旨味を口に落とす。優しい味を楽しんだら、胃袋がもっとパンチのあるものを寄越せと食欲を刺激する。目についたのは唐揚げ。まずは一つ。皮がパリッとし、肉からは肉汁が溢れる。醤油味とわかる風味とガツンとくる味に「アレ」が飲みたくなる。

 

ニヤリとしたコック長がジョッキを渡してきた。こちらも笑い返し一気に煽る。

口の中の脂を全て薙ぎ払い苦味と香りが突き抜ける。喉に心地よい刺激を浴び一つの区切りを迎える。

 

「っあーー!!」

 

気づけば一気に飲み干してしまったジョッキを見てると次がおかれる。

 

「もう一杯くらいはいるだろ?」

 

ジョッキを置くコック長に感謝する。

 

「ありがとう」

 

空のジョッキを渡し、新たなビールを受け取る。

 

唐揚げを食べるのを再開する。

 

唐揚げで追加のジョッキを開ける。

次の料理をいただく前に酒を変えたい。

 

「コック長、日本酒ある?」

 

「勿論、冷酒でいいか?」

 

ちょっと迷い告げる。

 

「熱燗で頼む」

 

少し驚き、了解と厨房に戻るコック長。

 

里芋を食べつつ酒を待つ。

 

徳利とお猪口をコック長から受け取り料理に箸を向ける。

 

刺身だ。綺麗に切り並べられ光沢を放つ空は美しく見える。脂ののったサーモン。わさびをのせて醤油につける。わさびのツンと抜ける香りと刺激、サーモンが口の中で甘味のある脂の旨味を爆発させる。そしてそれらを流すように熱燗を煽る。辛口の日本酒は口の中を塗り替えるように全てを押し流す。ビールとは違い酒による熱が胸をカッとさせる。

 

酔いも周り口が回りやすくなった頃合いでコック長は話しかける。

 

「それで、今日はどうした?」

 

「あの女医に叱られましてね」

 

あった事を聞かせるスピカのトレーナー。

 

「いやー、事務室閉めようとしたら女医に詰め寄られましてね。「お前は練習後のケアをちゃんとしているか?」と俺は言ったさ、キチンとそれぞれやらせてるって。そしたら烈火の如くキレ始めてね。何事かと思ったよ。そしたら、マックイーンの脚について言われてな。「彼女はどう考えても貴方のトレーニング以上のダメージがあった」っと。それで俺も調べたら、俺の想像以上のトレーニングをしてたんだ。結果だけ言うと無茶してたようだ。あの内容だと確かにケアが不十分だった。そして怖くなったんだ。俺の不注意でマックイーンの脚を壊してしまったかも知れないと、アイツの夢を俺が潰してしまったかもしれないと」

 

グイっと酒を飲む姿は妙に小さく見えた。

 

ウマ娘が大好きでレースで走るウマ娘が死ぬほど好きなトレーナー。そんな彼が自分のミスで彼女達の栄光に泥を塗ってしまったら?少し想像しただけで鬱になる。トレーナーはそれが現実になるところだったのだ。これを慰めるのは俺が適任ではないな。アイツの意見を聞こう。さっきから居るのはわかってたんだ口下手な奴だから少し不安だが・・・

 

「お前はどう思う?オグリ?」

 

ガタッと音がした方を見ると観念したオグリキャップが出て来た。

 

「気づかれてたとは」

 

「来て直ぐ位に気づいたぞ、頭も尻尾も見えてたし」

 

「そうか、まあいい、スピカのトレーナー、いいか?」

 

「あ、ああ」

 

コック長以外が居て少し恥ずかしくなるトレーナーだが意見が聞きたかった。

 

「うまく伝わるか分からないが、今のままで良いのではないか?」

 

「今のままで?それだとまた俺が」

 

言い淀むトレーナーにオグリキャップは続ける。

 

「ん?だって女医の意見を聞いて正せたのだろう?そして後悔をしたくないからコック長に相談しに来たんじゃ無いのか?」

 

「オグリはこう言いたいんじゃないか?間違いは正したし、その相談も俺にしに来たなら後は次に動くだけだと。トレーナーも次は注意するだろ?」

 

「当たり前だ!!」

 

「そのいき、そのいき、トレーナーはスピカを此処まで盛り上げたんだ自信を持ちな。ケアについては悔しいが、あの姉に頼めば最高の状態にしてくれるさ。美味いものが食いたいなら此処に来れば良い。ウマ娘を支えるのはトレーナーだけじゃないんだから、っな!!」

 

いつもの暑くしい笑顔で告げるコック長。

 

「そうか、みんなでか」

 

少しは良くなった表情になるトレーナー。

 

「んじゃ、飲みな、オグリも腹減ったんだろ?少しつまんでけ!!」

 

「ああ!!」

 

「コック長、酒ー!」

 

「あいよ」

 

こうして賑やかな夜会になったのだった。

 

 

 

 




タイシンの育成が捗りません。
寝不足、偏頭痛、太り気味のコンボやめてください。
やたら不調になるし・・・

タイシンは女医の刑にするので楽しみに待っていてください。

以上


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秘密会議

誤字報告ありがとうございます。
前回のは思わず身悶えてしまいました。
すみません。

おまけが長くなってしまいました。

お楽しみいただけたら幸いです。



トレセン学園のとある倉庫。使用者がいなく物置となっていた場所にコック長とデジタルはいた。

 

「同士デジタル例のものが出来たとは本当かね?」

 

仄暗い倉庫に豆電球、丸机に対面で座るコック長が机に肘をつきゲ◯ドウポーズで問う。

サングラス装備である。

 

「でゅふふ、コック長此処に」

 

デジタルはビワハヤヒデのデフォルメされた人形を机に置く。

 

コック長は姿勢を正し、そっと掴み髪の毛部分に顔を埋めた。グラサンかけたオッサンがハヤヒデ人形を抱き髪に顔を突っ込んでいる。

 

顔に触れるのは、ふわふわとした細かい糸、ハヤヒデの毛髪に似せた癖っ毛で一本一本のクオリティの高さがこのふわふわを作っている。

 

ミチミチッと音を立ててパンプアップするコック長。

 

「8バルクですか、いきなりの高得点にデジちゃんも満足です。でゅふふ」

 

コック長謎技能の一つバルク採点。

 

ネイチャの加護により生まれた特殊能力。

ウマ娘関連商品の完成度を表す指標であり10バルクが最高で0バルクが最低点である。

具体的には5バルクが通常流通しているウマ娘関連商品レベルである。現在確認できる最高10バルクはネイチャからのチャーハンである。自分に向けて作って貰ったもの以上があるだろうか!!いや、無い!!・・・失礼。

 

(※コック長の感性に基づくものなので大目に見てください。)

 

顔を離さずくんかくんかするコック長。

 

「素晴らしい、何という肌触りだ」

 

「まだ、ですよ」

 

追加で置かれるのは、タイシンとチケゾーのぬいぐるみ。

 

「ふむ?」

 

ハヤヒデ人形を離さず、2つを手に取る。

ハヤヒデ人形より生まれた技術で髪質を似せたようだが、はて?

 

少し縮むコック長、しかし

3体を同時に持つと。

 

「「タイシン、ハヤヒデ!!レースしよう!」」

 

「「ふん、私が勝つよ!!」」

 

「「いや、1番は譲らん」」

 

何と掛け合いが始まった。これにはパンプアップするコック長。

 

「なん!!?だと!!」

 

「でゅふふ、デジたん技術を駆使して作り上げた掛け合い機能堪能しましたか〜」

 

可愛くドヤ顔をキメるデジタル。

 

「ふふふ、しかし、同じ発想になるとはな」

 

コック長が取り出したのはテイオー人形。

その手を握ると

 

「「ハチミーハチミーハチミー」」

「「カイチョー」」

「「トレーナー」」

「「意味わかんないよー」」

 

握る度セリフが変わる。

 

「ヒョェェェ!?」

 

遠くから見護るデジタルには出来ない事、コック長は直接許可を取り色んなボイスパターンを収集出来るのだ。

 

「こんなのもある」

 

次に出たのはスペの人形、頭を押すとニコニコの顔が

 

「「あげません!!」」

 

迫真の顔に変わる。

 

「なんか天啓があってな、録音大変だった。お次は」

 

鮮やかな緑のハリセン、パチンと叩くと

 

「「嘘でしょ」」

 

スズカの声が叩いた強さ別で再生される。

 

「「嘘でしょ!!」」

 

「なんかこのセリフ好きなんだよ〜」

 

パチンパチンと机を叩き、叩く度に

 

「「嘘でしょ、嘘でしょ、嘘でしょ!!」」

 

あっはっはと笑いながら机を叩くコック長。

 

「俺も組み合わせものを作ってあってな」

 

そこに出て来たのはルドルフ人形。

 

「「炭酸水を購入したソーダ!!あっはっは傑作だろう」」

 

「こんな感じなんだがこれにテイオーを引っ付けると」

 

「「ニューヨークで入浴!」」

「「カイチョ〜」」

 

「涙声のテイオーになる、デジタル?おい、はっ!気絶してる!!」

 

硬直するデジタルはウマ娘達の日常を思い浮かべ、尊すぎる光景に気絶していた。

 

パンっと両手を叩き猫騙しの様にしてデジタルの前で音を出すと

 

「はっ!!天国が見えました!!尊すぎる風景・・・しゅきぃ」

 

「デジタルーー!!」

 

再度落ちるデジタルをまた起こす。

 

「同士デジタル、そんな事では先が思いやられるぞ」

 

また司令ポーズで偉そうにするが周りにあるグッズ、顔半分がハヤヒデ人形のふわふわに埋もれている様子では威厳もへったくれもない。

 

「はは、取り乱しました」

 

茶番に付き合うデジタル。

 

「これは褒美だ」

 

デジタルの前に目覚まし時計が置いてある。

 

「これは?」

 

「そろそろだ」

 

「「デジタル君」」

 

「!!」

 

タキオンの声で名前を呼ばれている。

 

「「アグネスデジタル」」

 

次はルドルフ

 

「「デジタル〜」」

 

テイオー、と色んなウマ娘がデジタルの名前を呼ぶ。

 

「こっ、こっ」

 

ガタガタと震えながら目覚まし時計を指さすデジタル。

 

「何、色んなウマ娘達に名前を呼んで貰ったのさ、勿論君に渡す許可は得ている。受け取ってくれ本当にありがとう」

 

「はひ、はひ、あり、あり、ありがとう、ごじゃいま、ます」

 

ぐずぐずと涙を流して受け取るデジタル。

 

「あーっと、気絶するなよ?」

 

あまりに取り乱すデジタルに心配になるコック長だった。まだまだ楽しい確認は終わらない。

 

 

おまけ

納品編

 

BNW

 

「うおー、モコモコ凄いねー」

 

「あ、あんまりわしゃわしゃするな!!」

 

「えー良いじゃんハヤヒデ本人にはしてないし」

 

「いや、そうだが、なんかな」

 

(モコモコ気持ちい)

 

(モコモコに顔を埋めるタイシン可愛い)

ムキムキ

 

 

 

ゴルマク

 

「まさか本当に、作って来るとは」

 

「マックイーン人形にこのワッフル人形を持たせると」

 

「「パクパクですわー」」

 

「おお、可愛いじゃん、これその辺の石ころでも出来るのか?」

 

「お前は何を言ってるんだ?こっちはゴルシちゃんドロップキック、樽にゴルシを入れて穴にアンカーを入れると」

 

「「ゴルシちゃんキック」」

 

「なっ!?飛んでから一回転してちゃんと足側から飛んできますわ!!」

 

「おおー!」

 

 

 

ウラライス

 

「このライス人形の背中を押すと」

 

「「にゃー」」

 

「かわいい!!」

 

「そ、そうかなぁ」

 

「コック長かわいいよね!!」

 

「勿論」

ムキムキ

 

「ウララ人形は頭を撫でると」

 

「「がんばるぞー!」」

 

「こんな感じで何箇所か触ると声が出る様にしたんだ」

 

「すごーい!ライスちゃん色々触ってみよう!」

 

「うん」

 

(てぇてぇ)

ビキビキ

 

 

スズスペ

 

「これが例の人形ですか?」

 

「ふふ、スペちゃんかわいい」

 

「えへへ、スズカさ〜ん」

 

無言でムキムキ

 

「スズカ頭押してみ?」

 

「え?はい?」

 

「「あげません!!」」クワッ!!

 

「んふっ、ぷっ、あははは」

 

「スズカさん?!コック長〜」

 

ビシビシビシ

「「嘘でしょ、嘘でしょ、嘘でしょ」」

 

 

タマクリオグリ

 

「なんでウチの人形スモッグ姿やねん!!」

 

「あら〜」

 

「クリークだって奥様バージョンだし、オグリは満腹バージョンだぞ?」

 

(満足そうな顔だ、何を食べたんだろうか?)

ぐぅ〜

 

「人形見ての反応がそれかい!!」

 

「いや、何食べたか考えたらお腹が・・・」

 

「ふふふ」

 

「なんか作るぜ食堂行こう」

 

「ああ!!」

 

 

 

テイシングル

 

「こないだの出来たから持ってきた」

 

「カイチョー人形可愛いー!」

 

「ルドルフちょっと腕出してくれ」

 

「ああ」

 

「これを付けると」

 

「「カイチョー」」

 

「おお、テイオーの声だな、テイオーが引っ付いてるみたいだ」

 

「カイチョーの腕にくっ付くのはボクだよ」

 

「テイオーが2人になってしまった」

 

「カイチョー」

「「カイチョー」」

 

「何とも喧しいな、はぁ」

 

(ホッコリ)

ムキムキ

 

「わっ?!貴様!!急にデカくなるな!!」

 

「すまん」

 

「カイチョーのも喋るの?」

 

「「アルミ缶の上にあるみかん」」

 

「ふふ」

 

「カイチョ〜」

「「カイチョ〜」」

 

エアグルーヴのやる気が下がった。

 

 



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夏野菜お待ち!!

誤字報告ありがとうございます。

やっと師匠出せました。

お楽しみいただけたら幸いです。


「練習終わりー」

 

「ふぅー疲れたー」

 

練習が終わり寮に戻ろうとするネイチャとターボ。

 

「ネイチャ!!何して遊ぶ!」

 

午後からは休息となるためターボは目を爛々と輝かせている。

 

「眩しー、んーどうしよっか」

 

ゲーセン、ショッピング、食べ歩き、うーんと考えていると見慣れた人物が通りかかった。

 

「コック長!!どこ行くの?いつもと違うかっこだね」

 

タタタッと駆け寄るターボを追う様に歩いていく。

 

「ちょっと午後休みになってな、ちょっと趣味でやってる畑を見に行くんだ」

 

麦わら帽子にタンクトップ、下はジャージ姿だ。クーラーボックスを肩から下げていた。

 

「畑?」

 

「おう、小さいけどいい感じに実ってるんだ。そろそろ収穫だし来るか?」

 

「面白そう!行く!ね、ネイチャも行こ!行こ!」

 

ネイチャに抱きつき体を揺らすターボ。

 

「行く、行くから!揺らさないで!あと!!コック長大きくなるな!!それのせいでめちゃくちゃ恥ずかしい思いしたんだからね!!」

 

2人の触れ合いにホッコリするコック長はウガーと頬を染めるネイチャに更に大きくなった。

 

 

トレセン学園内、理事長が栽培している畑からほど近い場所でこじんまりとした畑があった。

 

「きゅうりにトマト、これは、とうもろこし?この葉っぱは?」

 

「ニンジンだ、理事長と肥料なんかを色々試してるやつだ」

 

こじんまりしてる割には種類が豊富だ。

 

「ちょっと軍手とか取ってくる」

 

そう言ってコック長は席を外す。

 

「ネイチャ見て、このきゅうりすごい曲がってる!」

 

ターボが指さすきゅうりは途中から重力に逆らう様に天目掛けて急に曲がっている。その他にも先端が異様に太かったり、細かったりと市販されているものとはかけ離れてるものもある。

 

「トマト〜とうもろこしのヒゲ〜?ヒゲ〜?なんか髪の毛みたいじゃない?う〜ん?まいっか」

 

(可愛いなぁ、この子ほんと無邪気なんだから)

 

野菜を見て周りはしゃぐターボに和んでいるとポンっと頭に何か置かれた。

 

「まだまだ日差しが強いからこれを被るんだ。ターボも戻ってこーい」

 

「はーい」

 

ネイチャとターボは麦わら帽子を装備した。麦わら帽子からはぴょこんと耳が出ている。

 

「なぁ、ネイチャ」

 

真剣な顔をしているコック長。

 

「な、何?」

 

少し身構えるネイチャ

 

「今度、麦わら帽子を被ってワンピース着てくれないか?」

 

「な!?何を言うの!」

 

「??ネイチャなにをそんなに焦ってるの?」

 

(いや、何を意識しているのよ。でも女神とか言われちゃったし)

 

モンモンと考えるネイチャを他所に話を続ける。

 

「なぁ、ターボ想像してくれ」

 

「うん」

 

「ここは草原、そよ風ふく草原だ」

 

「草原」

 

ターボは目を閉じて想像する。広大な草原を心地よくふく風は草を撫でる。

 

「そこには大きめの麦わら帽子を被った白いワンピースを着た女の子が居るんだ」

 

「ふんふん」

 

草原に立つ女の子は麦わら帽子を押さえている。

 

「それはネイチャなんだ」

 

帽子を押さえて佇み、振り返り微笑むネイチャ。

 

「おお、ピッタリ!!」

 

あははと笑い合う2人。

 

「いやいや、ないし!!そんなキャラじゃないし!!ネイチャさんにはキツイですよ!!」

 

頬を赤らめてイヤイヤと手を振るネイチャ。

 

「いやいや、似合うぞ!!そんなに言うならワンピース用意するから着て見せてな」

 

「ズルいターボには?」

 

頬を膨らませブーたれるターボ。

 

「ふむ、ターボはかっこいい勝負服のイメージが強いから可愛いドレス、悩むなぁ、清楚系か?これは会議だな用意したらターボは着てくれるよな?」

 

「うん、着る!!ネイチャも着よう!ね!ね!」

 

(ぬぅ、ターボかわいいなぁ、くそぅ)

 

抱きつきネイチャを説得するターボはニコニコで体を揺する。そんなターボを可愛いと思うネイチャであった。

 

「わかったから、着るから揺らさないでぇ」

 

観念したネイチャと

 

「「いぇ〜い」」

 

ハイタッチを決めるコック長とターボ。

 

(嵌められたか)

 

喜ぶ2人に苦笑するネイチャだった。

 

「まぁ、大分脱線してたが野菜も大分育ってるなぁ幾つか取ってみるか」

 

きゅうりを幾つか取り近くの水道で汚れと棘を落とす。

 

「きゅうりって棘あるんだね」

 

「スーパーとかのにはないしなぁ、まぁ新鮮な証だな」

 

「んじゃ試食ターイム」

 

「ええ、そのまま食べるの?」

 

驚くターボ。

 

「いや、結構美味しいんだよ。私も前に八百屋で新鮮なの食べさせてもらったことあるし」

 

「ん〜」

 

手渡されたきゅうりと睨めっこするターボは意を決して齧り付く。

パリッといい音を立てて折れるきゅうりは、シャクシャクと口の中で気持ちの良い歯応えを与えみずみずしい果肉はほんのり甘い。

 

「お〜美味しい!!」

 

ぱぁっと笑顔になるターボは更にぽりぽり食べ進む。

 

「ん、美味しいじゃん」

 

「おお、ちゃんときゅうりしてるな。じゃあコイツらもどうだ」

 

コック長はクーラーボックスから小瓶を出した。

 

「味噌と、梅?これは明太子?!」

 

「そうだ、梅肉ソースと明太子はまんまだな。この塩気がきゅうりに合うんだ。すまんな飲み物は麦茶しかないわ」

 

「ありがとう。んでつけていい?」

 

「おう、好きなのつけてみな」

 

ターボとネイチャは味噌をつけて食べてみた。味噌の香りに包まれる口の中にみずみずしいきゅうりがシャクシャクと音を立てて踊る。濃厚な味噌の味もみずみずしさが相まってちょうどいい。

 

梅肉ソースは梅干しの香りが爽やかな香りを届けて、さっぱりとした酸味で味噌とは違う軽い味に仕上がっており、きゅうりが短くなる。

 

最後は明太子、解された明太子は先程までとは違う磯の香りを口に広げきゅうりにプチプチとした別の歯応えを生み出す。少し強い塩気もきゅうりのみずみずしさにより絶妙な塩加減に変化する。

 

「っかーやっぱりビールに合うわ」

 

ビール片手にきゅうりを食べるコック長。

 

「なんかコック長が私達と食べ物食べてるのに違和感ある」

 

「いっつも作ってくれる側だからね」

 

「確かにな、ほらトマトもどうだ?うまいぞ」

 

酒が入り上機嫌なのか笑いっぱなしのコック長はトマトを渡してきた。

 

齧りつくと溢れる果汁、しかし驚く事にトマト特有の酸味はなく甘いのだ。

 

「何これ?甘い!」

 

「トマトじゃないよこれ!」

 

「なんでも水を余りやらないようにすると甘くなるらしいんでやってみたんだ。本物のフルーツトマトには全然だけど風変わりなトマトにはなったろ?」

 

感動したのかターボは両手でトマトを2つ交互に食べていた。

 

「もう、口周りベトベト」

 

苦笑しながらハンカチでターボの口元を拭いてあげるネイチャ。

 

「ん、ありがとう」

 

微笑ましいことをしている2人ににっこりしつつ最後の品を出す。

 

「最後はこれだ!!」

 

ドン!!と置かれたのはまんまるで黒シマ模様が入った緑の玉。

 

「「スイカ!!」」

 

大きく6つに切る。

 

「どうするこのままでも良いけど?」

 

「ターボはそのまま!!そのままおっきいの食べてみたい!!」

 

「私はもう少し小さく」

 

「ほいさ」

 

6つに切ったものをそれぞれ2つづつ分ける。ネイチャのは更に半分に切り渡す。

 

しゃくりと食べると溢れる果汁、噛むほどに出る果汁で口が一杯になりスイカの甘さに支配される。

 

「はぐはぐ、しゃくしゃく」

 

「そんな慌てて食べなくても」

 

一心不乱に食べ進めるターボ。

顔を離すとスイカの果肉は無くなっていた。

 

(何この子マジかわいいんですけど!?)

 

盛大に顔を汚してるだろうとハンカチをスタンバイさせていた手が止まる。

 

モゴモゴと口を動かすターボはほっぺがパンパンになったハムスターの様になっていた。そんな顔でスイカの甘さにより惚けているのだ。かわいくないわけがない。

 

「っんーー!?」

 

ペシペシとコック長を叩きながら悶えるネイチャはターボを指さし声にならない悲鳴をあげていた。コック長はサムズアップで応えるのだった。

 




師匠出したくて捻り出しました。
今度はドヤ顔させたい。

師匠の抱きつき攻撃に撃沈した同士は多いはず・・・
泣き顔も良いけどニコニコでやられたら断れないよね!!


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じゅるり!!ライスシャワー

タイトルにじゅるり!!つけましたが正直コイツ女医か?という仕上がりになってしまいました。

大天使ライスの前には邪神もなりを潜めるという事でお願いします。

お楽しみいただけたら幸いです。


カツカツとハイヒールを鳴らして歩く女医。

彼女は観察していた。ライスシャワーを・・・

 

昨日の雪辱を果たそうと、どのように癒やそうかと。

 

観察して気づいた事は彼女は余り他人といる事が少ない。一緒にいる事が多いのはハルウララ。彼女の明るさは周りを笑顔にする。

次点でミホノブルボンだろうか?私が観察してる間は彼女達はよく一緒に練習していた。

そしてライスの様子が一変した。

 

早朝から長距離トレーニング、昼からはプール、夜間まで長距離トレーニング。

 

初日はスタミナトレーニングかと思い過剰と思いつつ口出しはしなかった。

 

しかし、これが4日続いたら話は別だ。

少しづつ天使の様な顔が般若のような追い詰められた顔に変わりつつある。更に外出申請をしてテントを持ち出しキャンプを始めた。

 

「ならーん!!」

 

「きゃっ?!」

 

草むらから飛び出してきた女医は憤慨していた。

 

「こんな根性論的な練習は認められん!!」

 

「ちょ、えっと何?」

 

懐から出した包帯とテーピングを放つと一瞬でライスは絡め取られてしまった。

 

「え?えーーーーー!?」

 

そのまま身動きを封じられたライスを女医が抱えて走り出した。

 

 

連れてこられたのは医務室。

拘束をとかれたライスはジャージから施術着に一瞬で着替えさせられた。

 

「あの、その」

 

目をグルグルさせて困惑するライス。

 

「ダメよ、こんなにダメージが足首と膝の炎症は大分酷い、ふくらはぎも太腿も熱を持ちすぎてる。血流が多いのにこの硬さ」

 

ぶつぶつと足を確認しながらアイシングやシップ、テーピングを施す。

 

真剣な顔を眺めされるがままになっていたライスは困惑した。

 

「女医さん、なんでこんなにしてくれるの?」

 

先程迄は痛みと熱に耐えていたが大分良くなった。まだ気休め程度だが、ダメな自分は追い詰めなければ他のウマ娘には勝てない。だから仕方ない痛みなのだと我慢していた。トレーナーにも、初めにレースを逃げてからは匙を投げられた。ブルボンやウララに励まされながら変わりたいと練習を重ねている。

 

「頑張ってる子に協力したくなるのは変かしら?」

 

処置をしながらそう微笑んでくれた。

 

「でも、ライスはダメな子だから女医さんに迷惑をかけちゃう。それにこんなにすごいならもっと・・・」

 

ダメな自分より、もっと凄い他のウマ娘達に・・・言葉には出来なかったがそう思ってしまった。

 

「ライスは凄いぞ、あんなトレーニングをまだ続けるつもりだったのだろう?褒められた方法ではないが続ければスタミナと足回りの筋力強化は凄まじいものになる。それにあれを続けられる根性を持った子はそうはいない」

 

「見てたの?」

 

「ああ、しかし、ダメージが多すぎる選手生命を削る方法だ。練習後のケアをしっかりしなければいけない。練習と休息の両立が大事だ」

 

見ていたと言われてライスは嬉しかった。他のウマ娘ではなく自分を・・・

 

「ありがとう」

 

嬉しさから微笑み告げるその顔はいつもの天使であった。

 

「ふっ、まだまだだ。次はうつ伏せだ少しでも回復を促さなければな」

 

足を持ち上げたり、広げたりしながら確認する。

 

「やはり大臀筋周りが硬いな、その割には腰や背中は比較的ほぐれている?」

 

可動域の確認と触診で筋肉のコリ具合を測っていく。

 

「何か意識的にストレッチしてるのか?」

 

「あのね、猫さんみたくニャーって伸びをしてるの、背中が伸びて気持ちいいの」

 

「いい事だ。腰は大事だから続けなさい。」

 

「はい」

 

背中や腰、お尻回りの筋肉を丁寧にほぐしていく。ほぐれていく体と女医の温もりに安心し、心地よくなったライスは意識を手放す。

 

 

目が覚めると毛布がかけられていた。血流が良くなったのか身体がポカポカと暖かい。昨日迄の熱と違い嫌悪感はない。壁にかけられた時計を見ると午前3時を回ったところだった。淡い色の光を放つスタンド型のライトが辛うじて部屋を照らす。

 

「女医さん?」

 

帰ってしまったのだろうか?不安になり布団から出るとソファに寝転がっていた。白衣を布団代わりにくるまり寝ているようだ。

 

「あ?おお、起きてしまったのか?まだ寝てなさい休むのも仕事だよ」

 

目を擦りながら言う女医は眠そうだった。

 

「でもそんなんじゃ風邪をひいちゃう」

 

今夜は少し冷えていた。気持ち程度の白衣にくるまって寝ている女医が心配だ。

 

「なに、こんなのは慣れっこだライスは戻りなさい」

 

そう言って再度寝ようとする女医。

 

「じゃあ、女医さんも一緒に寝よ?」

 

幸いダブルサイズ程度の大きさがあるベッドは小柄のライスと女医ならば問題はなく寝れる。

 

「いや、一緒だとライスが休めないだろう?」

 

「女医さんがそのままの方が休めないよ」

 

真っ直ぐ見つめられた女医は折れた。

 

「わかった、寝よう」

 

 

 

布団に入りライスは気づいた。女医の身体はやはり冷えていた。自分をマッサージしてくれた時の温もりが感じられなかった。

 

「どうした?」

 

女医に抱きつき温める。

 

「寒そうだったから」

 

女医の胸に顔を埋めるように抱きつき上目遣いで告げるライス。

 

「ありがとう」

(ぬぅ、調子が狂う)

 

いつもならば嬉々として受け入れる女医だが余りそういう気にならない。

 

(ただ、心地よい)

 

「女医さん」

 

「なんだ?」

 

互いの温もりにより睡魔に導かれる女医は目をつむりながら応えた。

 

「お姉様って呼んでもいい?」

 

「好きに呼ぶといい」

 

「ありがとう」

 

2人は温もりを手放さないように眠りに落ちていった。

 

 

 

「なぁ、姉貴よ」

 

「どうした愚弟」

 

コーヒーを楽しみながら答える女医。食堂の喧騒もどこ吹く風と優雅に応える。

 

「どうしたもこうしたもない!!その状況を説明しろ!!」

 

激昂するコック長は指さす。

 

女医の膝にはライスが座っており、彼女を抱き頭に顔を乗せている女医がいた。ライスもモグモグとパンを、齧っていた。

 

「なにもかにも見ての通りだ。私達は仲が良いからな」

 

はんっと馬鹿にした様な顔でコック長に応える。

 

「ねぇ、急にどうしてそんなに仲良くなったの?ライスちゃん」

 

隣で朝食を食べるウララが聞く。

 

「お姉様はね、ライスのこと見ててくれたのそれで痛いのも治してくれてね。いっぱいいっぱい優しくしてくれたの。だから大好きなの」

 

「へぇー凄いね。ウララも診てくれる?」

 

「勿論だ」

 

ライスを撫でながら応える。

 

そんな中コック長は稲妻に打たれていた。

 

「お、お姉様だと」

 

震える声で絞り出した声は驚愕に染まっていた。

 

ライスの頭に顔を乗せながらニタァとコック長を見る顔は、羨ましいだろう?と語りかけている様だった。

 

キャッキャする女性陣を前に力なく項垂れるコック長だった。

 

 

 



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中華料理お待ち!!

誤字報告ありがとうございます。

感想いただけると嬉しいですね。
妄想が捗ります。

キタちゃんとサトちゃん出したくて妄想中です。
お楽しみいただけたら幸いです。


「さぁ、始まりましたトレセン学園特別レース、嘆きのコック長杯。実況はトウカイテイオーと解説のメジロマックイーンでお送りします」

 

「なんで私ですの」

 

「なんとなく」

 

先日のライスが放ったお姉様発言が発端となりコック長はストレス解消の為料理を作ると宣言。オグリとスペを呼んでいるところにゴルシが聞きつけイベントと化した。

その試合形式はなんとデスマッチ。最後まで食べていたものが勝利者というもの。

 

「それでは厨房のスズカ、コック長はどんな感じー?」

 

「はい、サイレンススズカです。えっと・・・先程からぶつぶつ言いながら料理を作り続けています。そろそろそちらに料理が届くと思います」

 

若干引き気味のスズカはコック長を見る。

 

「1つ振ってはウマ娘の為〜2つ振ってはウマ娘の為〜」

 

呪禁のように唱えながら一心不乱に料理を作るコック長。

 

「なんかやばいですねー。マックイーンどう思う?」

 

「ドン引きですわ」

 

スパッと切り捨てるマックイーン。

 

そんな中、運ばれてきたのは焼き餃子と水餃子。羽根付きの餃子はパリっとした口当たりに野菜の甘みと肉汁が口いっぱいに溢れる。対して水餃子は優しくさっぱりとしたスープ。モッチモチの皮は口に入れるとほぐれ中の肉汁が口の中で暴れる。

 

「オグリキャップ凄い箸捌きだー!!次々と餃子の山とご飯が消えていくー!おっとそれに釣られて師匠が食らいつく!!どう思われますかマックイーンさん」

 

「無謀ですわね」

 

ため息1つバッサリと切る。

 

ターボは負けじと2個3個口にねじ込むがまずは熱さにやられ涙目で舌を出す。慌ててネイチャが水を渡し舌を冷し再度餃子を詰め込む。しかし、今度は詰まらせたのか胸元を叩きながらもがくターボ。もう一度慌ててネイチャが水を渡す。

 

「今回も不発みたいですねーターボエンジン」

 

「相手と競技が悪すぎますわ」

 

2人も餃子をいただきながら実況を続ける。

 

 

餃子を堪能していると麻婆豆腐が運ばれてきた。辛めに作られた麻婆豆腐は痺れるような辛さを伴い山椒の香りが鼻を抜ける。一口で汗が噴き出るがそれすら心地よい。汗を流しながらハフハフと麻婆とご飯をかっこむ。

 

「ひゃーこれ辛いよ、でも癖になる辛さ。汗が出ちゃう」

 

「これは、ご飯が進みますわね」

 

口が辛くなり始めた頃に飲み物が運ばれてきた。白い液体、牛乳だろうかと飲んでみると、ヨーグルトの風味と濃厚なミルクの味に甘い後味を残しながら追従するのはハチミツの香り。口の辛みがリセットされて体をクールダウンさせてくれる。

 

「これなんだろう?飲むヨーグルト?」

 

「んー甘くておいしいですわ」

 

案の定辛みにやられたターボは舌を出してコップの液体に浸している。

 

そこに登場したのはエビチリ。

真っ赤な見た目で辛そうに見えるが、甘辛く仕立てられた一品。尻尾の殻も丁寧にとられておりパクパクと箸が進むようにしてある。

 

「ぷりぷりしてておいしい。全然辛くないし、僕もご飯!!」

 

「いい歯応えですわ」

 

「テイオー!テイオー!ちょっとこっちに映像まわして!」

 

焦った様に割り込んできたスズカ。

 

「おっと何かあったようです。スズカさんどうされました?」

 

「げ、現場のスズカです。ご覧ください。コック長が、コック長が分身してます!!」

 

映し出されたコック長は、鍋をふるう者、卵を割りかき混ぜる者、エビの下処理をする者、野菜をきざむ者、皿を洗う者とそれぞれ何か作業を行なっている。

 

「えー、あー、以上現場からでした」

 

「嘘で」

 

ブツンと映像はスズカが言い終わる前に切られた。

 

「ボクタチハナニモミナカッタ」

 

「そうですわね」

 

触らぬ神に祟りなし、コック長に突っ込むのも意味は無いと見なかった事にした。

 

「モルモットー!!」

 

あるウマ娘は厨房に駆けたが誰も追わなかった。

 

大量に供給される料理にオグリとスペ以外の箸は止まりつつあった。

 

そこに届けられたのは、ごま団子と杏仁豆腐。ごまの風味が心地よく、外はカリッと中はモチモチの歯応えに甘さ控えめのこしあんが口の中でトロける一品。

杏仁豆腐はつるりとした舌触りに甘いシロップ、マンゴー、パイナップル、さくらんぼとナタデココ、とバラエティー豊かなラインナップで口を楽しませる。

 

「スイーツ!!」

 

「のあ!?マックイーン急に叫ばないでよ」

 

ガタッと席を立ち運ばれてくる2つを両手一杯に持ってきた。

 

「解説のマックイーンさんいかがですか?」

 

「かりかりの食感にモチモチを合わせた憎い演出に脱帽ですわ!!ごまの香ばしい香りに餡子の滑らかな舌触りに上品な甘味。至福ですわ」

 

「あ、いや、まぁいっか。ボクも食べるー!」

 

元々お遊びの実況と解説はいなくなり皆んなで料理を楽しんだ。

 

中国には出されたものを少し残し、満足したという文化がある。未だに食べ続けるオグリとスペ、更にスイーツバキュームが加わった。・・・コック長の戦いは、まだまだこれからだ!!

 

※別に打ち切りではございません。

 

 

 

 

 

 

予告

 

 

ウマ娘。

彼女達は多くの人達を魅了する存在。

それは良くも悪くも人を惹きつける。

 

某所

 

「首尾はどうだ」

 

運送トラックの運転席から電話をかける男。

 

「はは、警備なんてあって無いようなもんだな、下見は終わりだ」

 

下卑た笑みを浮かべる男は電話から聞こえる声に満足した。

 

電話を切りタバコをふかすと呟いた。

 

「待ってろよぉ、トレセン学園のウマ娘ぇ稼がせて貰うぜぇ」

 

にやぁと不快な笑みを浮かべてその日を待つ。

 

 

 

 

トレセン学園に急報が届く。

 

「激怒!!ハルウララが攫われた!!警備は何をしていた!!それより行方は!!」

 

バンっと机を叩く理事長。

そこに、たづながドアをバタンと開き入ってくる。

 

「理事長!!大変です!!応援に行ったライスシャワーさんも帰ってません!!」

 

「なんと!!」

 

喧騒に包まれるトレセン学園。

 

 

この悲劇に立ち上がる男がいた。

 

廊下を歩くコック長。

 

「コック長、行くんですかい?」

 

壁を背に問うコックAはコック長を見ずにタバコを咥えた。

 

「ああ、ちょっと悪党共に届けものがあってな」

 

静かに応えるコック長は拳を突き出し。

 

「この拳を喰らわせに!!」

 

 

coming soon

 

 



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風邪

おかしい。
キタちゃんとダイヤちゃんのものを書いてたのに
出来上がったのはダイワスカーレットと
ウオッカのものになってしまいました。


お楽しみいただけたら幸いです。



頭痛が酷くて悪寒もある。喉も痛いし咳も出る。完全にやらかした。風邪だろう。喉が渇いたが身体が重くてベッドから起き上がる事が出来ない。

 

「スカーレット?」

 

そんな時にウオッカが起きてきた。まだ暗い部屋の中、静かに近づいてきた。

 

そーっと覗き込むウオッカと目が合った。

 

「どうした?」

 

いつもと違うアタシに声をかけてきた。

何とか声を出そうとするが上手くいかない。

 

異変に気づいたウオッカはアタシの額に手を置いた。冷たくて気持ちいい。

 

「うお!お前凄い熱じゃんか!大丈夫か?えっと、氷枕とかあったか?ちょっと待ってろ!」

 

照明をつけて血相変えてバタバタと部屋の中を探し回るウオッカ。多分無いと思う。ウオッカに弱った所を見られるのは悔しいが今のアタシにはありがたい。

 

「そうだ!女医の姐さんが居るじゃねぇか!なんかあったら連絡寄越せって言ってたな。でも深夜だぞ・・・と、取り敢えずメールしてみるか?」

 

時間が時間なので、そこまでしなくてもと申し訳ない気持ちになる。

 

「いや、スカーレットは苦しそうだし電話だ!」

 

意を決して電話を掛けるウオッカ。

 

「おお!ワンコールで!!えっ!いや、すみません驚いてしまって、はい。あの夜分申し訳ないんですけど同室のスカーレットが凄い熱で、はい、はい、ありがとうございます!待ってます。お願いします!」

 

無意識なのか電話越しなのに頭を下げている。

 

スマホを切ったウオッカは笑顔で近づいてきた。

 

「すぐ来るってさ。いやー良かったなぁ」

 

その表情で本当にアタシの事を心配してくれてる事がわかる。何よ、ちょっと嬉しいじゃない。

 

コンコンとドアがノックされてウオッカが慌てて迎えに行った。あれ?まだ五分も経ってない様な?風邪で感覚もおかしくなったのかしら?

 

「失礼するよ」

 

「姐さんお願いします」

 

カバンを1つ持ってアタシのベッドの方にきた。

 

「取り敢えず飲みなさい」

 

身体を起こしてくれた女医さんはペットボトル飲料を口に当ててくれた。

 

こくんこくんと喉を伝う水分が身体に染み渡る。

 

「ありが、ゴホッ、ゴホッ」

 

「無理に喋らなくていい、私の質問に頷いてくれれば問題ない」

 

咳き込むアタシに優しく言ってくれる。ウオッカは後ろでバタバタしている。そんなに心配しないで

 

熱を測り、聴診器を当てて幾つか質問を繰り返して女医さんは言った。

 

「熱は高いが他に気になる症状は無い。風邪だな。この薬を食後に飲んで、それでも熱が下がらないなら連絡をするんだ。まぁ、見には来るがね」

 

ニコリと微笑む女医さん。

 

「ありがとうございます」

 

腰まで頭を下げる見事なお辞儀をするウオッカ。それに続いて頭を下げるアタシ。

 

「そう畏まらないでくれ、私にすぐ連絡をしたのはいい判断だった。彼女も大分苦しかっただろうし。熱が高いから、このゼリーを食べた後にこの薬を飲みなさい。あと、朝食は弟にお粥でも作らせよう。私から言っておくよ」

 

飲むタイプのゼリーや先程のペットボトル飲料を幾つか置いてくれた。

 

「何かあったらすぐ連絡するように、それではお大事に」

 

そう言って部屋を出て行った。

 

「はぁー、安心したぜ。取り敢えず薬飲みなスカーレット」

 

こくんと頷き受け取ったゼリーを飲んでから薬を飲んだ。

 

そのまま横になるとすんなりと寝る事が出来た。

 

 

目が覚めると部屋の中はお日様の光で満たされていた。時計を見ると12時を回っており、どおりでお腹が空いているわけだ。

 

まだ身体は重く熱もあるが昨夜ほどでは無い。

 

「おお、起きたかスカーレット昼飯貰ってきたぞ」

 

そんな時にウオッカがお盆を手に持って入ってきた。

 

「ありがと」

 

「おう、朝食もコック長が持ってきてくれたんだけど、スカーレットぐっすり寝てたから泣く泣く帰ってったぜコック長」

 

「そう」

 

肩を落として帰るコック長が目に浮かぶ。後でちゃんとお礼言わなきゃ

 

「んで昼飯は卵粥だってさ」

 

お盆に載った土鍋とラップのしてある小皿には漬物が載っていた。

 

ジーッと見つめていると

 

 

「なんだ?そんなに見つめて、オレに食わせて欲しいか?なーんてな」

 

ケラケラと笑うウオッカにムッとし

 

「あーん」

 

「んなっ?!」

 

揶揄うつもりで口を開けてみた。

 

「えっ?マジ?食べさせるのか?」

 

あたふたするウオッカが可笑しくて調子に乗ってしまった。

 

「あーー」

 

あたふたしてる。そろそろやめよう。口を閉じようとしたら

 

「あ、あーん」

 

レンゲにお粥を掬って出してきた。

ふー、ふーとお粥を冷ましてくれて口に入れられた。頬が熱くなる。赤く染まっている事だろう。

 

とろとろのお粥は卵の風味とネギの香りがする優しい味だ。少し塩気が欲しくて漬物を見る。

 

「こいつか?」

 

本当によく見てる。漬物を指で摘んで出してきた。なんとなくイラッとしたので復讐する。

 

パク

 

「ちょっ!!」

 

驚いてる。指事口に入れて少し舐めてやった。

 

ちゅっ、と指が口から離れるとなんか変な空気になった。アレ?なんか恥ずかしい、なんで、ウオッカも真っ赤になって顔を背けている。アレ?アレ?わからない。もうヤケだ!!

 

「スカーレット痛い!イタタタ!噛むな!」

 

照れ隠しに噛み付いたスカーレットだった。

 

 

「ひでー目にあったぜ」

 

食事を終えて薬を飲んでベッドに入った。

ウオッカは食器を纏めて玄関近くに置いていた。

 

椅子に座るウオッカはバイクの雑誌を読んでいる。

 

「ウオッカ今日の練習は?」

 

確か予定があった筈だ。

 

「バカやろー、そんなお前をほっておいて練習できるかよ」

 

呆れた顔で言うウオッカ。

 

「そっか」

 

「ああ」

 

少し嬉しくて、起きた時にウオッカがいなくて寂しかった事を思い出してしまった。

風邪で弱ってた。そうに違いない。

だからこれは仕方ない事なのだ。

 

自然に手が伸びてウオッカの足に手を置いてしまった。

 

「ん?」

 

そっと手を握ってくれたウオッカ。

 

「弱ってると寂しくなるもんな」

 

優しく握りかえしてくれるウオッカに、恥ずかしくて布団で顔を隠した。

 

ギシっとベッドが軋む。

 

ウオッカが横に寝転んできた。

とんとんとお腹を優しく叩いてリズムを刻む。隣にいるウオッカがいて恥ずかしいけど、安心してそのまま寝てしまった。

 

(なんかあったかくてオレも)

 

そのまま2人は眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コック長はデジタルと新たなアイテム作りの話をしていた。そんな時、突如として身を震わせ片膝をつくコック長。デジタルはその場で立ち尽くしていた。

 

 

「なっ!!なんだ!?この波動は!!デジタル大丈夫か!!」

 

「はぃぃ、しゅごいぃぃ、尊みの波動がぁぁデジたんにぃぃ」

 

デジタルのツインテールの束がある方向を示す。

 

「はっ!!こっちは寮の方角でしゅぅ」

 

「何?ではあちらで何かとんでもない事が!!なっ!!第二波来るぞ!!ぐぉぉぉ耐えろデジタル」

 

「のぁぁぁぁぁ、しゅきぃぃ」

 

敢えなく撃沈したコック長とデジタルは女医に発見された。コック長は蹴られ転がされながら、デジタルはお姫様抱っこで医務室に連れて行かれた。

 

後日コック長とデジタルは、この時の天啓を形にした。そこにはダイワスカーレットとウオッカが添い寝するフィギュアが出来上がり2人は歓喜したが、顔を真っ赤にしたスカーレットにより回収された。

 

 

 

 



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悪徳金策者に鉄槌を!!誘拐編

ハルウララ金策動画を見て溜まったストレスをぶつける為に書きました。

コック長が鉄槌を下しますので今しばらくお待ち下さい。

お楽しみいただけたら幸いです。


地方レース場トレセン学園の生徒が走るにはこじんまりした印象があるレース場にウララは来ていた。

 

中央で戦績が奮わない彼女はこういった場所のレースに出ることの方が多い。しかし、天真爛漫で周囲に笑顔を届ける彼女は行く先々でファンを増やしていた。

 

控室にて

 

「今日も頑張るよー」

 

ガッツポーズを決めて気合いを入れるウララ。

 

「頑張ってねウララちゃん」

 

そんな彼女の応援に来たライス。

 

「それじゃあ行ってくるね!!」

 

控室からレース場に向かう。

 

 

 

 

パドックでは選手の状態を見て歓声を上げる人で賑わっていた。トレセン学園から来たウマ娘も出走するという事でいつもより賑わっている。

 

そんな中で数名が遠まきに見ていた。

 

「兄貴、首尾ば上々ですぜ。諭吉製菓も束で渡して連中上機嫌です。」

 

「おう、ぬかるなよ久々の上玉だ」

 

タバコを吹かしながら視線を合わせずに会話を続ける。

 

そこにハルウララがパドックに出てきた。

会場の声援は一段と増す。

 

「眩しいなぁ、おい、たんまり稼がせて貰うぜ」

 

「へい」

 

ニタァとした笑顔は邪悪であった。

 

 

 

控え室に帰っててきたウララは上機嫌だった。

 

「ライスちゃん見てたー!ウララ1番だったよ!」

 

全身で嬉しさを表すウララは本当に嬉しそうだ。全力で走った結果なのだから当然だ。実力を発揮し日々の努力が報われる瞬間なのだから。

 

「うん、凄かったよウララちゃん」

 

しかし、ライスは一つ気になる事があった。

ウララ以外のウマ娘の中には何か感じだことのない感覚があったのだ。何とは言えないがいつも自身が走っている時には感じない感覚。言いようのない感じに違和感を感じてしまった。

 

(こんなに喜んでるのに水を差さなくてもいいよね)

 

特に言うことはしないで2人は喜んだ。

ウララのトレーナーは2人が咲かせる歓喜の華に水を差さない様に挨拶まわりに出て行った。

 

 

しばらくキャッキャとレースの事を話し帰ったらパーティだね等と話しているとドアがノックされた。

 

「はーい!どうぞー」

 

ウララがドアを開ると覆面を被った男が何かを吹きつけた。

 

身体から力の抜けたウララをそのまま抱き抱える。

 

「ウララちゃん!」

 

身体から力の抜けたウララを謎の男が抱き抱えるのと同時にライスは駆け寄ろうとした。

 

するとウララを抱き抱える男とは別の男が出てきてライスにも何かを吹き付ける。

 

視界が歪み力が抜ける。しかし、なんとか体に力を入れて踏みとどまる。

 

「いい根性じゃねぇか。こいつも連れてくぞ」

 

更に男が増えて先程と同じものを吹き付けられる。

 

(ウララちゃん)

 

気合いも虚しく意識を失うライス。

 

 

無情にもトレーナーが戻ってくるまでにはまだ時間がある。

 

 

 

トレセン学園

 

キングは寮でウララのレースを中継で見ていた。地方レースを取り扱うネットチャンネル

直接応援に行くことはできなかったが彼女の頑張りは見ているつもりだった。振り回される事の方が多いが・・・それでも最近は彼女なりに1番を目指して練習していた。

 

「帰ってきたら祝勝会ね」

 

祝勝会の準備のためにコック長に話をしなければ・・・

 

厨房に行く途中コック長はダンボールを満載して歩いていた。

 

「コック長、凄い量を持ってるのね」

 

若干引き気味で声をかけるキング。

コック長は背中に4つ背負い込み、片手で3つずつ持っていた。

 

「ウララが1番取ったって聞いたからな!料理の準備さ」

 

「それは丁度よかった。私も手伝わせなさい」

 

暑苦しい笑顔で了解するコック長。

 

2人は何を作るか話しながら厨房に向かった。

 

ニンジンを洗いながら

 

「取り敢えず、ニンジンハンバーグにニンジンジュース。ニンジンソテーにニンジンアイス、ニンジンケーキを考えてるんだが他に何かあるか?」

 

「十分ね。ニンジンが好きなウララさんの喜ぶ顔が想像できるわね」

 

丁寧にニンジンの泥を洗うキングヘイローの表情はにこやかだった。

 

ニンジンの皮を剥き始めた頃にたづなさんが厨房に顔を出した。その顔は切迫している。

 

「コック長少しよろしいですか?」

 

「はい、どうしました?」

 

「理事長室に来てください。キングヘイローさんは今までどおりで」

 

「はい、ちょっと待っててくれキング」

 

「ええ」

 

今まで見た事のない真剣な表情のたづなさんに2人は胸の中を掻きむしられるような不安を覚えるが素直に従う。

 

終始無言でたづなさんの後ろをついていく。いつもは雑談をしたりと気安く話せる相手なのだが隙が無いというか、話せる雰囲気ではない。そんなこんなで理事長室についた。

 

理事長室には、ベテラントレーナーと言われる者や各役職で長を務めるものと警備関係者が集められていた。

 

「悲痛、諸君に集まってもらったのはある事を伝えるためだ」

 

冷静を繕っているように見える姿は悲しみと怒りが見え隠れする。

 

「憤怒、本日ハルウララがレース後に消息を絶った。ハルウララのトレーナーの報告によると部屋には何らかの薬品を使用した形跡があり誘拐の可能性があると警察から言われたそうだ」

 

部屋が騒がしくなる。近くの者と顔を合わせて動揺が部屋中に蔓延する。

 

「静粛に!!」

 

理事長が叫び部屋はしんと静まる。

 

「更に応援に来ていたライスシャワーも行方がわかっていない。誰か連絡のあった者は?」

 

首を振る面々、ライスのトレーナーも首をふる。そんな中・・・

 

「理事長、一応レース終了後にライスシャワーからメールはあったが、犯行推定時刻はどの位だろうか?」

 

女医が手を挙げて携帯を出した。

 

「17時から18時の間と聞いている」

 

「メールが来たのは16時です」

 

「そうか」

 

みな一瞬期待したがメールの時間が早く落胆した。

 

「決起、取り敢えず皆顔あげてほしい。今は学園内の警備の見直しとこれからの対応について話す。まずレースについては警察からも犯人側を刺激しないように今まで通り行う。その為、警備の増員とスタッフの身元確認など普段以上の警戒を頼む!!この件は秘匿する。トレーナー諸君はウマ娘達に余計な動揺を与えないようにしてくれ!!」

 

ハルウララとライスシャワーは別の特別トレーニングという名目で暫く帰らないという筋書きを共有し取り敢えず解散となったが皆の足取りは重い。

 

厨房に戻るとキングはニンジンの皮剥きを行なっていた。

 

「コック長?どうしたのかしら表情が硬いわよ?」

 

「あ、ああ、なんかウララとライスは数日戻ってこないみたいなんだ。帰ってきたら改めて祝おう」

 

「そうなの、じゃあその時はまた一緒に作りましょう」

 

素直に聞き分けてくれるキングの笑顔が辛い。

 

厨房にコック長を含めた数人のコックのみとなった。

 

「おい、お前らウララとライスが誘拐された」

 

「おいおい、マジかよ」

 

「かぁーやりやがったねぇ」

 

「それでどうするんだコック長?」

 

「決まってるだろ。助け出すぞ!!」

 

コックA、B、Cは頷く。

 

「取り敢えず情報だ片っ端から集めるぞ。俺は警察の伝手に連絡する」

 

「じゃあ俺らは裏側を担当しましょう。」

 

そこからの動きは早かった。

 

コック長は自身の料理ファンであり大のウマ娘ファンである警視庁のお偉いさんに連絡を取った。そこで内密に現段階の捜査状況を聞いた。曰く幾つかの痕跡から幾らかの目星はついているが、現状では証拠不足で警察はすぐには動けないとのこと。更に目撃情報が皆無な事が気掛かりであり、不審者等の情報も上がってこないという。この点からかなりの協力者がいると睨んでいるとのことだ。

最後に、かなり激怒してるらしく「死人さえ出さなければなんとでもしてやる」というお墨付きを貰えた。

 

そして、コックA、B、Cはハッカー集団に色んなデータ収集をさせていた。そこでわかったことは、今回のレース場近辺の電話、通信量が、ある日を境にある場所に収束している事。更にそこからは大陸との通信量が異様に伸びている事がわかった。

 

中央興業、建設会社としての顔を持つ極道一家。違法ウマ娘レースを行い過去に警察沙汰になった事がある札付きだ。

 

「ほぼほぼ黒だが2人がどこに居るかがわからないな」

 

コックAがそういうと

 

「そこまで割れてれば大丈夫だ少し近づけば気配と臭いでわかる」

 

コック長の言葉に頷くBとC

 

流石にわからねぇよと頭を抱えるA

 

「取り敢えず向かうぞ」

 

「おう!!」

 

4人は動き出した。

 

 

 

 

中央興業分店内で男達は酒を酌み交わしていた。

 

「いやぁ、楽な仕事ですねぇ」

 

「ホンマホンマ!!端金渡したら警備に簡単に穴あけよる!!今回は一回で2人もとはついてるでぇ、んがっははは」

 

酒瓶ごと豪快に飲み笑うのが今回の絵を描いたのが組長。その太鼓持ちが若頭で実行部隊の隊長である。

 

周りでは他にも数名が酒を酌み交わしている。

 

「のう、ライスシャワーちゃん、たんまり稼がせてもらうでぇ。ハルウララと一緒になぁ」

 

部屋の奥にある座敷牢の鉄格子まで近づきニンマリと下卑た笑みを向ける。

 

ライスは未だ意識の戻らないウララを抱いて隠すように座っている。

 

「私たちを返して下さい!!」

 

震える身体に喝を入れながら睨みつける。

 

「あきらめぇや、もう戻れん。なぁにレースは好きなだけ走らせたる。いやでもなぁ。んふっふっふ、あっはっはっは!!」

 

涙を堪えるライス。

 

(諦めない!!泣かない!!帰るんだ!!ウララちゃんと一緒に)

 

 

 




興味で動画を見てしまい心が痛くなりました。
護らねば護らねば!!


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悪徳金策者に鉄槌を!!コック長無双編

誤字報告ありがとうございます。

お好きな処刑用BGMを流しながらお楽しみください。

お楽しみ頂けたら幸いです。


綺麗な星空に月が見えるいい夜だ。風も心地よく吹いており過ごしやすい。

コック長は空に手を伸ばすように腕を伸ばし硬く拳を握る。眼下に迫る瓦屋根に足がつく前に叩きつける。

 

瓦が砕ける音と屋根の木材がバキバキと砕ける。ズドンと音を立てて落下がおさまる。埃や木材が漂う中にコック長は片膝と片手をついて着地した姿勢をとっている。

 

足の下からは巻き込んだのか何人かの呻き声が聞こえる。

 

「てめえ!!何してんのかわかってるのか!!」

 

豪華な瀬戸物が飾られ、鷲の剥製なんかも飾られる豪華な和室。そんな中に組長以下数十名が酒宴を開いていたようだ。

 

若頭が組長の前に出て他の手下も懐に手を入れて得物を握る。手に持つ拳銃やドス、ナイフそれらを佇むコック長に向ける。

 

「何処の組みのもんだ!!黙ってねぇでなんとか言いやがれ!!」

 

殺気が渦巻く渦中でゆっくりと立ち上がるコック長。普段はおちゃらける事が多く暑苦しい笑顔で苦笑を届けるコック長だがその顔は無表情であった。

 

「涼しい顔しやがって!!後悔させてやる」

 

痺れを切らした手下2人がドスを構えて斬りかかる。

 

コック長は虫でも払うように近づく手下の胴を腕で払う。手下はそのまま壁に叩きつけられ意識を失う。

 

「俺は!!トレセン学園コック長!!この度は御注文いただきました品を届けにまいりました」

 

一旦区切り邪悪な笑顔で言う。

 

「たーんと召し上がれ!!トレセン学園コック長!!特製鉄拳デリバリーだぁ!!」

 

啖呵を切り、身体が2回り大きくなる。怒気による圧力が組の連中の殺気を飲み込み迫力が増す。ここに戦端は開かれた。

 

 

 

これはコック長が突撃する日の朝。

コック長を含む4人は中央興業がある町に来ていた。勿論、理事長に数日空ける旨を伝えてから。

 

「取り敢えず、ウララとライスの居場所を見つける必要があるんだが検討はついてるか?」

 

「流石に会社に居るって事もないでしょうが確認の為行って見ましょうか」

 

コック長の問いに答えるコックAの提案を受け入れる。

 

程なくしてコンクリートで出来た高いビル製の社屋につく。高い建造物が少ない町の中では目立つビルに大きな駐車場にはトラックや重機が数十台見える。

 

コックCが気づく。

 

「この香りは!!仄かな甘い香りに清楚な清涼感を感じさせる匂い。更に春を思わせる芳醇な花の香りにかすかな汗の香りに土の匂い。ライスとウララの匂いだ」

 

はっとしたコックCはくんくんと一台のトラックに近づく。

 

「コック長このトラックが犯行に使われたやつですね」

 

一目散に近づくコックCとは違い周りを警戒しながらトラックの物陰に集まる3人。

 

「馬鹿野郎、無警戒に近づくんじゃねぇよ」

 

コックAが声を潜めて怒る。

 

「すまねぇ、興奮しちまって」

 

「それって見つけて嬉しくなってて事だよなぁ」

 

「えっ、あっ、も、もちろんそうだよ。テガカリガミツカッテヨカッタナー」

 

視線を逸らすコックCに溜息を漏らすその他。

 

ナンバープレートや車体を写真に収めて撤収した。

 

取り敢えず宿に戻りBが付近の監視カメラやNシステムにハッキングしトラックが何処を走ったかの情報を集めた。

 

トラックは中央興業の支店の一つに向かった事がわかった。その後、町1番の中央興業社長の屋敷を経由して会社の駐車場へ戻ったようだ。

 

その2箇所を確認すると何方にも匂いが感じられたが、社長宅は薄く支店の方ははっきりとした匂いと気配を感じた。

 

今すぐ突撃したい気持ちを抑えて一旦宿に戻る。その途中で

 

「流石は私の弟だ、ここに辿り着くとはな」

 

「姉貴!!」

 

ふふんとドヤ顔を決める女医が現れた。

 

「なんかツヤツヤしてねぇか?」

 

「んふふ、なぁに例のレースに出ていたウマ娘達に誠心誠意聞き取りを行っただけさ」

 

恍惚とした表情を浮かべる女医。

 

「それで?」

 

突っ込む事を放棄して聞く

 

「ここの社長は度々ウマ娘を違法レースに無理矢理出場させてるらしくてな。その時に支店にある牢屋に入れられる事があるみたいなんだ」

 

すっと真面目な表情となった。

全員身体に力が入る。

2人が牢屋に入れられているであろう現実に怒りを覚える。

 

「今夜だ。今夜ケリをつける準備しろ」

 

全員が頷き準備を行った。

 

作戦はコック長が会長宅を襲撃し囮となり、その他が支店を襲撃しウララとライスを救出。その後は用意した車にて逃走し警察に事実を伝える。

 

二手に分かれる。

 

そしてコック長は跳んだ。

 

 

 

「化け物が!!ぶっ殺せ!!」

 

若頭の掛け声で次々と手下が向かっていく。

 

ドスを手にした数人は鉄拳一撃。肩や肘、腕を一撃で砕かれて戦意を喪失し痛みでのたうち回る。

 

「肉叩きは得意なんだよ」

 

邪悪に微笑むコック長は一歩一歩と近づいてくる。

 

「コック風情が!!撃て撃ち殺せ!!」

 

拳銃を構えて一斉に発砲する。

 

コック長は撃たれる前にゴリラの様に両手で地面を叩くと射線場の畳が衝撃で何枚も捲れ盾となる。

 

捲れ上がった畳を掴むと発砲した者に投げつけ重症を負わせる。

 

「組長、奴は化け物です。ここで時間を稼ぎますので増援の手配をお願いします」

 

「あ、ああ」

 

余りに現実味の無い出来事に放心する組長を外に出し増援を頼む若頭。

 

「おい化け物!!俺が相手だ!!」

 

手下はコック長を囲み、若頭が対峙する。

 

「コックなら包丁の一つでも持って来るべきじゃ無いのか?」

 

若頭は挑発する。

 

「俺の調理器具はウマ娘達を笑顔にする道具なんだよ。貴様らに使うなんてあり得ない。コイツで充分だ」

 

拳を握り見せつけるコック長。

 

「そうかよ」

 

若頭は両腕を軽く構えて拳を握り半身になりながらステップを踏んでいる。

 

コック長は構えを取らないノーガードであり、若頭は素早くジャブを繰り出すがコック長はノーリアクションで受ける。

 

余りに無防備だっため、そのまま左右とワンツーを身体にたたみ込むが余りに硬くダメージを負ったのは若頭の方だった。

 

(俺は何を叩いているんだ!?)

 

僅かにコック長の身体が揺れ周りの手下は歓声をあげる。

 

「流石!!若頭!!やっちまってください!!」

 

「そんなクソコックやっちまえー!!」

 

盛り上がる外野は若頭の内心を読み取れない。

 

コック長が振るう裏拳をかわすが直感で貰ってはいけない威力があると冷や汗をかく。

 

(なんだあの裏拳は鋭さが段違いだ)

 

風を切る音が聞こえるコック長の拳は正に一撃必殺。その威力を意識する事で更に迫力が増した様に感じてしまう。

 

「お、お前ら援護しろ確実に仕留めるぞ」

 

1人では勝てないと確信し指示を飛ばす。

 

手下も刃物を構えてジリジリと近づく。

 

若頭がジャブを顔に当てストレートが綺麗に頬に当たる。よろけるコック長に手下が飛びかかる。

 

「引け!!罠だ!!」

 

手応えの無さを感じた若頭が叫ぶが遅い。コック長の拳が向かって来た手下の骨を砕き、掴まれ叩きつけられる。

 

残ったのは若頭のみとなった。

 

「さぁ、観念してウララとライスを返しな」

 

圧倒的な力でねじ伏せ君臨するコック長に畏怖する若頭だが

 

「なんの事だ」

 

精一杯の虚勢を張り答える。

 

コック長が止めを刺そうとした時に壁が突き破られる。

 

「若頭!!」

 

コック長と若頭の間に解体用重機のアームが突き刺さる。

 

そして、ぞろぞろと武装した男達が入って来る。

 

「お前ら、あのクソ野郎をぶち殺せ!!」

 

組長の号令と共に男達がコック長に殺到する。

 

「組長!!」

 

若頭は組長の元に駆け寄る。

 

「間に合った様やな。しかしエライ被害や」

 

「奴の狙いはウマ娘です。ここで引きつけますから、今のうちに別の場所に移送してください。もしかしたら仲間が救出に来てるかもしれません」

 

「わかった。町中に召集かけて増援を送ったる。奴を仕留めぇ」

 

組長は走っていった。

 

若頭がコック長の方へ向くと、殺到していた手下がコック長を中心にして波紋が広がるように吹き飛ばされていた。

 

「本当に化け物だな」

 

体制を立て直す手下達の中で佇むコック長がズボンから何かを出した。

 

嫌な予感がする。

 

「そいつを取り上げろ!!」

 

(タキオン頼むぜ)

 

ゴクリと青色の液体を飲むと変化は現れた。

 

先程迄は正にゴリラという様な筋骨隆々の大男が本来のサイズに戻った。しかし、肩や拳が青や緑に発光している。口からも発光し開いた目までライトの様に光っている。

 

そして獣は解き放たれた。

 

拳が当たった者はその勢いを殺せず宙を高速で回転しながら吹き飛び。抑え込もうとタックルする者は車に撥ねられたように吹き飛ばされる。しかも先程迄とは比べ物にならないスピードで縦横無尽に駆け回る。その為コック長にぶつかった者は例外なく弾かれる。

 

広い和室で数を活かせる筈が被害は増すばかり。コック長が早すぎるのと同士討ちを恐れて銃器は使えない。

 

かろうじて目で追える若頭が重機を操る。

 

解体用のアームを進路上に構えなんとかコック長が止まる。コック長がアームを手で抑える事で動きが止まった。

 

「今だ!!ヤレーー!!」

 

重機から叫ぶ若頭。

 

手下は選択を誤った。

確実に仕留めようと刀やドスを構えてコック長に殺到した。

若頭に誤射するのを恐れた事が一つの要因。

重機により身動きが取れない事で生じた僅かな油断。

 

今のコック長は化け物なのだ。

 

2人の泣く顔が浮かぶ。助けてと叫んでいる。怒りが大きくなる敵は誰だコイツらだ。

倒れて良いのか?否!!否!!鉄槌を下すのは誰だ!!俺だ!!

 

(ウララとライスが今も不安でいる。護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねば護らねばあぁぁぁぁぁぁあ」

 

目と口から天をつく様な光を放ちながら全身に力を入れる。

 

鋼鉄のアームから軋む音がする。そして若頭は浮遊感を覚えた。

 

アームを掴むコック長はそのまま体を捻り重機を放り投げた。

 

背中に迫っていた手下達も慌てて逃げる。

 

重機が落下し土煙を上げる中、若頭は衝撃で意識を手放した。

 

「こんな化け物勝てるわけねぇ!逃げろ!逃げろ!」

 

パニックになり出口に向かおうとする手下達。

 

しかし、コック長からは逃げられない。

 

一瞬で出口に陣取ったコック長に絶望する手下達。彼らの悪夢は終わらない。

 

「下拵えは入念にしなくちゃなぁ」

 

悪魔は微笑み発光する。

 

 



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レッツ!!ハロウィン!!

お久しぶりです。

タマちゃんの実装を毎週楽しみにしている者です。

ネタも遅刻ですが思いついたのが今朝なので申し訳ありません。

お楽しみ頂けると幸いです。

タマ貯金を崩してカフェを当てました。
タマはよぉ。




 

マントを羽織。

魔女帽を被る。

手には特大のバスケット。

 

それらを装備するのはコック長。

 

「〜♪」

 

学園内はハロウィン一色で仮装する生徒がそこかしこにいる。

 

「おう!!コック長!!トリックオアトリートや!!」

 

そう声をかけてきたのは包帯を全身に巻きつけたタマモクロスだ。

 

「よしこい!!悪戯こい!!」

 

「ちゃうやろ!!」

 

大声で叫びバシバシと自身の膝を叩き、カモンカモンと手を動かすコック長。

 

それに対してコック長の胸にビシッと綺麗なツッコミを行うタマモクロス。

 

「むぅ、良いツッコミだ・・ハッピーハロウィン!!ほいお菓子」

 

「あ、あんがと。おお、カップケーキに目玉のキャンディ、このクッキーはコウモリか?」

 

透明な袋に幾つかのお菓子が入ったものをコック長はタマモクロスに渡した。

 

「トリックオアトリート〜」

 

コック長は背後の声に反応して振り向く。

 

「おう、クリー!?」

 

そこにはタマモクロスの様に包帯を巻いたスーパークリークがいた。

 

しかし!!タマモクロスの様に可愛らしいものでは無い。

 

胸囲・・いや、脅威の格差が体現されている。巻かれた包帯により強調された胸部は目に毒過ぎた。

 

「えっ、くり、クリーク、そっそれはヤバっ」

 

胸部に目を奪われていて迫る影に気付けないコック長。

 

「シッ!!」

 

クリークの後ろから回り込み、胸部を覗き込む様な姿勢で固まるコック長の腹部に蹴りが突き刺さる。

 

「ふごぉあ!?」

 

したから突き上げられる様な蹴りでコック長は中を舞う。そんな中でもバスケットはタマモクロスに咄嗟に渡している。

 

「おっと!?」

 

「んごがうがろう!?」

 

3回ほど回転して止まり蹴りを放った存在を確認する。

 

「蹴るよ!!変態!!」

 

そこにいたのはナリタタイシン。

 

赤と白のエプロンドレスに赤頭巾マント。

被った頭巾にはタイシンの特徴的な耳が突き出ている。スカートから繰り出された蹴りによりドロワーズが見える。

 

「暴力はダメよ」

 

「でも!アイツエロい目で!!」

 

言い争うクリークとタイシン。

 

「かわいい!!」

 

言い争う2人の元に叫び声をあげハンドスプリングで飛び舞い戻るコック長。

 

「「!!?」」

 

鼻息荒く2人を見るコック長は焦る。

 

「同士!!同士!!カメラを!!カメラを!!はっ!?」

 

近くの曲がり角に足が見える。

 

アグネスデジタルは大事にカメラを抱えて倒れていた。

 

「デジタルーー!!」

 

廊下の曲がり角で叫ぶコック長。

 

 

「この寸劇いるん?」

 

呆れながら呟くタマモクロスだった。

 

その後、捻れたツノをつけたハヤヒデと三角帽子とマントとステッキを持ったチケットが合流し、全員にお菓子を渡したコック長だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

魔女っ子コック長は、まだ見ぬウマ娘に会うために徘徊していた。

 

「コック長!!」

 

ゴルシの声に振り返るとそこには剣道着と防具一式を身に纏う者がいた。

 

「ゴルシだよな?」

 

流石に困惑するコック長。

 

「動くな!!そして前を見ろ!!」

 

叫ばれ背筋を伸ばして前を見る。

 

そこにはレスラーの覆面を被ったウマ娘がモジモジしていた。

 

「なんで私が」

 

(マックイーンか)

 

何かを察したコック長。

 

「おい!!メジロ仮面!!約束しただろやるぞ!!」

 

コック長の後ろでギャーギャー叫ぶゴルシ。

 

「やってやりますわよ!!わかりました!!」

 

何かを決意して右腕を掲げる。

 

「め、メジロパワープラス!!」

 

「メジロパワーマイナスゥ!!!!」

 

掛け声と共に駆け出す2人。

 

(あっ、避けちゃいけない奴だ)

 

悟るコック長は迫る2人の気迫に固まる。

 

「「メジロボンバー!!」」

 

掲げた2人の両腕に首を挟まれる。

サンドイッチラリアット・・・クロスボンバーである。

 

「かはっ!!」

 

一撃でコック長は意識を刈り取られて倒れ込む。

 

「やったな!!メジロ仮面!!」

 

剣道着フル装備のゴルシは親指を立てる。

(甲手で分かりずらいが・・・)

 

面から覗く顔は憎たらしいほど無邪気な笑顔だった。

 

「やったな!!・・じゃありませんわ!!」

 

覆面を剥ぎ取り地面に叩きつけるマックイーン。

 

「なんですのもう!!もう!!」

 

顔を隠してしゃがみ嫌々と顔を振る。

 

「まぁまぁ、なんだかんだノリノリだったじゃねぇか」

 

面を外してニコニコしているゴルシ。

 

「貴方って人は!!」

 

キッと睨みつけるがゴルシはどこ吹く風。

 

「あったあった。流石コック長!!要望通りだぜ」

 

バスケットから目当てのものを取り出すゴルシ。

 

「貴方!!話しを聞きな?!な!なんですのそれ!!」

 

「コック長に特注してたんだ!!すげぇな!!」

 

マックイーンに突き出されたのはコック長の顔の形をしたものだった。

 

クレープ生地の焼き加減を絶妙に調整して日焼け肌の様にして砂糖を薄く塗り若干の光沢を出す事で皮膚ぽくしてある。

更に眉は極細に刻んだチョコを先程の砂糖を接着剤の様にして貼り付け表現した。

形を保つ為に裏面は飴細工を網状にしたもので固定して間には特製クリーム。

味にも拘った逸品。

尚、試食する際は自分の顔を食べるという行為に物凄い嫌悪感を抱いたコック長である。

 

「気持ち悪いぃ、ウケる!!あむっ、おっ!?でも甘くて美味え!!」

 

甘くて美味しいという声でマックイーンの耳がピクピク動く。

 

「ほら、食ってみろよマックイーン」

 

そう言ってコック長の顔を渡す。

 

不気味で気色悪いがゴルシが美味しそうに食べていたので気になる。

 

「しょ、しょうがありませんね。折角だから頂きますわ」

 

顔を受け取り恐る恐る端っこを食べる。

 

唇に触れるそれは柔らかい。

次に噛み切ろうと口を閉じるとポリポリと気持ちの良い歯応え。

そして口に広がるのはフルーツの香り。

食べ始めて感じるのはホイップクリームのミルクの香りとふわっとした滑らかさに確かな甘さ。次の層に到達するとベリーの香りと甘酸っぱいクリーム。二層のクリームとポリポリとした飴細工の歯応えが楽しい。

 

「美味しいですわ」

 

傍目から見るとニコニコとコック長の顔を食べるマックイーンにゴルシは笑う。

 

「尊いぃぃ。しゅきぃ・・・」

 

マックイーンの満面の笑顔に倒れるウマ娘1人。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まだ首が痛え」

 

首に手を当てて学園内散策を再開する。

起きた時に笑顔のマックイーンとゴルシが御礼を言ってくれたからヨシっ!!とする。

 

「コック長」

 

振り返るとコウモリと思われる羽を付けた衣装を着たライスがいた。

 

そしてコック長の時が止まる。

 

「トリックオアトリートォ、お、お菓子をくれないと、えっと、噛みついちゃうゾぉ〜?あれっ?コック長?」

 

牙を見せる為に口を開きガオーとポーズを取る。

 

その光景を見た途端にパァン!!とコック長の胸から赤い液体が弾け倒れる。

 

「ひっ!?」

 

突然の事にライスはあたふたしながら目をぐるぐるしている。

 

「どうしたんだ?」

 

そこに現れたのは探偵のような格好をしたオグリがパイプを加えてやってきた。

 

「オグリキャップさん!!コック長が急に」

 

「まぁ、コック長は変だからなぁ」

 

冷静に状況を確認するオグリはコック長に近づく。

 

「?この香りは・・」

 

恐る恐るコック長の胸から出ている液体に指をつけて舐める。

 

「!?」

 

止まらないオグリに困惑するライス。

 

「オ、オグリキャップさん?」

 

恐る恐る声を掛ける。

 

「む、すまない。すごく美味しくてな」

 

「えぇ」

 

コック長は最後の力で床に「尊い」と赤い文字で書き残した。

彼の顔は安らかであった。

 

 

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描き終わってから思いついた超短編

 

コック長

「タイシン、タイシン」

 

赤ずきんタイシン

「何?」

見上げる形になるタイシンがコック長を見る。

 

近くにいる羊ツノをつけたビワハヤヒデの髪に顔をツッコミ叫ぶコック長。

 

コック長

「可愛すぎるやろぉぉぉぉ!!!」

 

ビワハヤヒデ

「やめろ!!コック長!!」

 

チケット

「あっはっはっはは!!」

 

タイシン

「シッ!!」

顔を真っ赤にしてコック長を蹴り上げる。

 

以上

 

 



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コーヒーブレイク!!紅茶も添えて!!おまち??

タマぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああ!!キターーーーーーーーーーーー!!でも石がないぃぃぃぃぃぃ!!!

勢いで投稿だぁぁぁぁぁあ!!

タマぁぁぁぁぁあ!!

(タマは出ません。書きかけだったものを勢いで完成させました。)


夜遅く材料の確認を倉庫内で行うコック長。

しかし、今夜はいつもと違う。

 

倉庫内の照明がしばしば点滅をしたり、棚の上の物が目の前で何回か落ちてきた。

 

最初は蛍光灯替えなきゃと早々に交換したのだが結果は変わらない。

 

棚も傾いてるのかと思い偶々持っていたパチンコ玉を置いてみたが転がる事は無かった。

(パチンコ玉はゴルシが襲撃したきた際に打ち込まれたもの)

 

「わからん」

 

悪戯かとも思ったが寮は閉められている。

そもそも材料なので摘み食いにも適さない。

 

そして何度目かの落下物。

パシッとキャッチする。

 

「コーヒー豆・・・」

 

高価で瓶サイズの取り扱いしかないもの。

ウマ娘よりはトレーナーや教職員が買う物。

 

瓶を眺めてから棚に戻す。

 

棚を背にするとコロコロと転がる気配。

 

振り返りキャッチし棚に置く。

 

棚を背に少し待つ。

 

するとコロコロと転がる気配。

 

キャッチ。

 

「????、何故コーヒー?」

 

ラベルを見てみる。

 

「結構長い間ここにいるやつだな」

 

瓶は少し埃を被っていた。

賞味期限こそ過ぎていないが半分は過ぎている。

 

「ふむ」

 

あることを思い立ち瓶をポケットに入れて作業を再開しようとしたが別の棚に目が止まる。

 

「これだけじゃ、アイツが騒ぐな」

 

見えた先の瓶を確認して小さく笑う。そして、もうひと瓶棚から取りポケットに入れる。

 

パパッと材料の確認と補充品を洗い出す。

レジに2瓶分の金額を懐から入れてレシートを切る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

静かに本を読むマンハッタンカフェ。

静かに時間が過ぎている。

 

お友達が此処に居ろと外に出るのを許してくれないのだ。

 

まぁ、本でも読んでゆっくりしようと今に至る訳である。

 

おやつ時にコーヒーでも淹れようと思った時に騒がしい音と気配が近づいてきている事に気づいた。

 

コンコンと扉がノックされた。

 

「はい、どうぞ」

 

ノックに返事をするとドアが開かれた。

 

「ちわー!!出張コック長だー!!」

 

「コック長にお呼ばれされましたアグネスデジタルです。お願いしますぅ。」

 

「ハッピーカムカム!!今日はマンハッタンカフェさんの近くに吉と出ました!!コック長に呼ばれたマチカネフクキタルです!!」

 

個性の濃い面子が扉から入ってきた。

コック長を中心に戦隊ヒーローの様にポーズを決めながらそれぞれが挨拶した。

 

「えっと、あ、はい」

 

コック長達の背後に派手な色の爆煙でも焚かれた様な幻視を受け圧倒されるマンハッタンカフェ。

 

「すまんな、偶々見つけたこれをプレゼントするのと、それに合わせておやつを作ってきたぜ!!」

 

カフェに見えるように突き出されたのは高級コーヒー豆。

 

「それは!!」

 

初めてパッと明るくなるカフェ。

 

購買で買うことが出来る最高級のブルーマウンテン。

 

飲みやすく香り高いお気に入りの一つであった。しかし、お値段がそれなりな為自分の為のご褒美としてカフェテリアで数回飲んだ事がある位で1瓶は購入出来なかった。

 

「売店の倉庫で眠ってたからな、どうせなら美味しく飲んでくれる娘にと思ってな!!」

 

いつもの暑苦しいサムズアップで瓶を渡すコック長。

 

「ありがとう・・・今淹れるから是非飲んで」

 

ニコニコと受け取りコーヒーを淹れるために席を立つ。

 

「頼むぜ!!こっちも準備しておく!!コーヒーは5つ頼む」

 

一連のやり取りを見てデジタルは悶えていた。

 

「あぁ〜いつもは無表情が多いマンハッタンカフェさんがあんなにもニコニコなんてぇ〜あぁ〜しゅきぃ〜」

 

涎を垂らし今にも天に召されそうな満足した顔で立ち尽くしている。

 

「ところで呼ばれた理由はなんですか?急に行くぞーって連れて来られてノリできましたが・・・おやつを頂けるのは嬉しいですけど?」

 

フクキタルは占いで「誘いにのるべし」と出ていたので勢いで来たが理由はちゃんと聞いていなかったのである。

 

「おう!占って欲しくてな!!同士も惚けてる場合じゃないぞ!!力を貸してくれ!!」

 

そういうとデジタルの顔の前でパンと掌を合わせた。猫騙しである。

 

「はっ!!失礼しました!!勿論です!!次はどんな事がデュフフ」

 

ビシッと姿勢を正すが直ぐにだらしない顔で妄想を膨らませる。

 

それを置いておいてコック長は高速でフクキタルの周りを回る。

 

「なっ!!なんですかぁ〜!?」

 

高速で周りフクキタルに背を向けてデジタルの方を向いてポーズを取る。

 

顔を掌で隠し腰を捻り状態を逸らし伸ばした足でバランスを取りながら叫ぶ。

 

「フルアーマーフクキタル改コック長バージョン!!」

 

目を回すフクキタルの制服にはダルマや招き猫のポーチがかけられ、デフォルメされた富士山や鶴、亀、鯛の缶バッジが邪魔にならない様につけられている。

 

腕にはパワーストーンの腕輪があり、指にも指輪がはめられている。

 

耳には可愛くリボンの様に結ばれてもう片方には扇の小物の耳飾りがつけられた。

更に小さな帽子型の招き猫ものっけられている。

 

「おお!!なという縁起物の山!!力を感じます!!」

 

デジタルはどこから出したか姿見をスタンバイしておりフクキタルが確認しやすい様にしていた。そして喜ぶフクキタルを見て息を引き取りかけたデジタル。

 

「さあ!!フクキタル!!俺達の待ち人か探し人?を占ってくれ!!デジタルは願え!!ウマ娘に会いたいと!!」

 

「はい!!」

 

「はい!!ハッピーカムカム福きたるー!!」

 

フクキタルは水晶を出して占う。

 

コック長はポーズをそのままに力を溜めている。

 

デジタルは祈る様に目を閉じて願っている。

 

「出ました!!正面です!!ん?正面??」

 

占い結果に困惑するフクキタル。

 

「やはりな!!なんとなく昨日と同じ気配がしてたぜ!!デジタルオラに力を分けてくれ!!」

 

カッと瞳を開いて目標を捉えようと色んな力を出そうと震えるコック長。

 

「イヤです!!私もウマ娘ちゃん見たいです!!」

 

「え!?まぁ・・・そうか!!なら行くぞ!!うぬぬぬんんん!!」

 

するとコック長の瞳が虹色に光出して目標を捉える。

 

「そこだぁ!!」

 

「眩しい?!」

 

「コック長!!またタキオンさんの薬飲みましたね!!眩しい!!」

 

2人を無視して腕を伸ばすと確かに何かを捉えた。生き物を触れる感覚とは違い存在を掴んだというような曖昧なものだが。

 

「?!?!?!」

 

困惑するのが腕から感じ取れる。

 

「ウマ娘を前にしてコック長に不可能はないのだぁぁぁぁぁあ!!」

 

そして引っ張り椅子に座らせた。

 

「食べれたら食べて欲しい。俺の菓子を・・」

 

光る目で見つめそれに話しかける。

 

「・・・・・」

 

困惑はしてても大人しくしているそれに満足してコック長はテーブルに菓子を並べる。

 

「え?ウマ娘ちゃんは?」

 

「?????」

 

困惑するデジタルとフクキタル。

 

「まぁ、席についてくれ」

 

納得しきれないがコック長の圧に押されて席に着く。

 

コック長は部屋の隅に置いていたバスケットを持ってきた。

 

そして小皿を人数分置いてドーナツを置いていく。

 

そして今回の主役がおずおずと戻ってきた。

 

「騒がしかったけど・・・」

 

言葉を途中で切り空席を見るカフェ。

何かを感じ取り黙ったまま人数分のコーヒーを置いた。

 

「コック長も」

 

「ありがとう」

 

そして皆で一言。

 

「「「いただきます」」」

 

小皿に置いてあるのはプレーンタイプとチョコでコーティングされたもの、そして見た目からふわふわした柔らかそうなものがある。

 

カフェは最初はコーヒーの香りを確かめる様に鼻元で嗅ぎ、一口含む。

 

飲みやすい苦味にコーヒー独特の香りが広がる。苦味も仄かな甘味を携えておりスッと飲めてしまう。

 

「はぅ」と一息つくとプレーンドーナツを手に取り頬張る。

 

柔らかな硬さを歯で崩していくとふんわりと小麦特有の香りが広がり甘さを感じる。

 

甘さ控えめな仕上がりだがコーヒーの後だとその優しい甘味も充分感じる事が出来る。

 

コーヒーのお供に最適とさえ思えてしまう。

 

プレーンを楽しんだ後はチョコでコーティングされたものに手を伸ばす。

 

プレーンの下地に主張するカカオの香りに確かな甘味。しっとりと口の中で溶かしたところにコーヒーを含ませる。

 

先程とは逆にコーヒーの苦味を感じる事が出来る。香もカカオの風味が足され違うコーヒーを飲んだ様に感じる。

 

正に味覚と嗅覚を楽しむ事が出来る2つである。

 

そして最後はふっくらしたドーナツ。

 

齧りつくともちもちの食感で先程のものとは全然違う歯応えだ。しかも中にはクリームが入っており蜂蜜の香りと甘味、滑らかな舌触りが舌を楽しませる。

 

「はぁ、抹茶チョコときな粉クリーム美味しいです〜」

 

「このチョコチップの歯応えがモチモチのドーナツにあるなんてやりますねぇ。色もピンク色ですし」

 

フクキタルは抹茶ドーナツをデジタルはカラフルなドーナツを食べて楽しんでいる。

 

「楽しいね」

 

ボソリと呟くカフェは笑顔で空席をみた。

 

バタンと扉が開くと

 

「なんだね!!なんだね!!私を差し置いてお茶会かいコック長!!紅茶はあるんだろうね?」

 

アグネスタキオンが騒がしく入ってきた。

 

コック長は暑苦しいサムズアップをして

 

「あるよ」

 

「では混ぜてもらおうか、カフェ?」

 

「いいですよ」

 

「おや?てっきり"好きにしてください"みたいに言われると思ったのだが?上機嫌だねカフェ」

 

素直に受け入れたカフェと少しは問答すると思っていたタキオンはカフェの上機嫌ぶりに驚いた。

 

「みんなで食べるのは楽しいですからね」

 

優しく微笑むカフェにやられる者が2名いた。

 

 




タマをお迎えしたい。
クリスマスのネタを思いついたのでこれを投稿したかったんです。


タマ実装

ネタにされては泣かされて

やっと来たよタマモクロス



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クリスマスおまち!!

俺のターンドロー!!

諭吉を生贄にタマモクロスを召喚するぜ!!

フクキタル出したからかフルアーマフクキタルもお迎えしました。
すり抜けやめて・・・

ギリギリですがメリークリスマスです。


クリスマス。

年を終える年末に行われる国民的行事。

恋人や家族、友人と食事やプレゼントを楽しむ機会として受け入れられている。

 

キリストがどうとかそういうのは置いといて大いに盛り上がるイベントである。

 

それはこのトレセン学園でも同じである。

 

ウマ娘は人と比べると遥かに食が太い。

それに加えて育ち盛りのアスリートである彼女達はその中でも上位にはいる。

 

更にオグリキャップやスペシャルウィークという規格外の健啖家もいる。

 

何が言いたいかというとコック達にとっては正に戦場となるのだ。

 

「デザート班!!進捗は!!」

 

「はい!!ケーキ等のメインは8割りは完了してます!!マカロン等の小物は9割です」

 

「よし!!次!!スープ班」

 

「和洋中とそれぞれ完了してます。現在はデザート班の加勢に回ってます」

 

「よし!!メイン班!!」

 

「はい!!下準備は完了し特製オーブンで一斉に焼く準備が出来てます」

 

コック長は他にもサラダや飯物、パンなど各班の状況を確認して行く。

 

「よし、順調だな!!そのまま頼む!!ウマ娘に元気な笑顔を!!」

 

「「「「ウマ娘に元気な笑顔を!!」」」」

 

全員が掛け声に応えて復唱しそれぞれの作業に戻る。

 

そしてコック長も作業に戻る。

 

冷凍室の作業台でチョコと向き合う。

 

学園所属のウマ娘達の写真を見ながら特徴を捉えてデフォルメ化してチョコを削り出す。

 

ウマ娘達が一年楽しく過ごした最高の笑顔を表現できるように日々の思い出を振り返りながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んぁー!!終わったー!!そんじゃ行くか!!」

 

最後のチョコ細工を終えて最後の準備に取り掛かる。

 

用意されたのはチョコを運ぶ為の特製ボックス。車輪がつけられてソリっぽくなっており搭乗も可能だ。

 

そしてコック長は赤い鼻をつけてトナカイの着ぐるみを身にまとう。

 

茶色くモコモコの着ぐるみに大きなベルのついたネックレス。丸い赤鼻に立派なツノを頭につけている。

 

「もう来てるか〜?」

 

お手伝いが来ているか確認する為に隣の部屋に入る。

 

「はっ!!!!」

 

そこに居たのは・・・

 

「コック長」

 

「「コック長!!」」

 

ライスシャワー、ハルウララ、サクラバクシンオーの3人。

 

それぞれがサンタコスをしてくれている。

 

赤が大半を占めて裾が白くモコモコしており肩当ても同様である。大まかなデザインは変わらないが3人とも印象が大きく変わる。

 

ライスは、ロングスカートタイプで清楚なサンタを思わせる。

 

ハルウララはズボンタイプで元気に動き回る活発な印象をうける。

 

バクシンオーはミニスカで白いタイツが眩しく脚線美が眩しくコケティッシュである。

 

「眼福じゃあ眼福じゃあ」

 

手を合わせて拝むコック長。

 

「へへーん!!可愛いよね!!」

 

「はい!キマってます!!」

 

「少し恥ずかしいかな」

 

元気いっぱいで飛び跳ねるウララにドヤ顔のバクシンオー、少し頬を赤らめるライス。

 

可愛いの化身だった。

この素晴らしい光景に右手をつき上げて

 

「ああ、我が生涯に悔いな・・・まだだ!!まだおわらんよ!!」

 

眠りにつこうとしたコック長は、まだ見ぬウマ娘達に会うという未練から甦る。

 

「それで何をすれば?」

 

バクシンオーは構わず話を進める。

 

「おっと、そうだそうだ。今日はこれを配るのを手伝って貰いたいんだ。」

 

そう言ってそれぞれ3人がデフォルメされたチョコ人形とクリスマスカードを渡す。

 

「凄い!!」

 

「かわいい!!」

 

「流石デフォルメされてもバクシン的なフォルムです!!」

 

優しく微笑むライスチョコに、元気いっぱいに腕を上げるウララチョコ、ドヤ顔で駆け出しそうなバクシンチョコ。

 

それぞれの特徴を捉えてチョコの彫刻で最大限に表現されている。

 

そこに添えられたクリスマスカードは招待状になっている。

 

「取り敢えずそれは此処に入れておこう。これと同じ物を配達するのを手伝ってくれ」

 

一旦ソリに戻す。

 

「よーし!!お手伝いするよ!!」

 

「うん」

 

「行きましょう!!」

 

「じゃあ、乗ってくれ!!」

 

「「「はーい!!」」」

 

特製ボックスに乗る3人をトナカイコック長が引っ張り配りに行く。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

4人で配り一旦解散となった。

 

コック長はいつものコック服に着替え直して食堂に戻る。

 

会場の飾り付けも終わり全ての料理が並べてありバイキング形式で立食も可となっている。

 

そして入り口には空腹で待つウマ娘達がまだかまだかと待っている。

 

「よし!!開店だお前ら!!」

 

「「「「イエッサー!!」」」」

 

コック達は雄叫びをあげる。

 

扉が開かれると怪物が静かに歩いて来た。

それに続くのは天然健啖家とそれに付き添う最速ツッコミクイーンになりつつある娘。

 

他にも大挙して押し寄せる。

 

怪物は会場を一周してから席につく。

 

「ここからここまでを取り敢えず頼む」

 

「了解致しました」

 

怪物と天然健啖家に関してはテーブル上の料理を空にする可能性が高い為専用の給仕係がいる。これは遠慮する事なく好きな量食べれる配慮でもある。

 

「スズカさん凄いですね。あっ、此処までお願いします」

 

「嘘でしょ!!」

 

メニュー表の半分を要求するスペに驚くスズカ。

 

料理が運ばれて来た所でタマとクリークが料理を持ってオグリの席に来た。

 

「相変わらずえらい量やなぁ」

 

その量に圧倒されて苦笑するタマ。

 

「タマちゃんもいっぱい食べないと大きくなれませんよー?」

 

「うっさいわい!!当てつけか!!」

 

少し屈むとタマにはない部分が強調されてしまう。

 

「まぁ、食べようじゃないかタマ」

 

「せやな、今にも涎が垂れそうな顔しとるもんなぁ」

 

タマとクリークも席に着く。

 

「「「いただきます」」」

 

タマはコーンスープから口に運ぶ。

優しいコーンの甘味が広がり体を温める。

滑らかな口当たりにスプーンが進む。

暫くそのままの味を楽しみバケットに手を伸ばしそのままコーンの海に浸す。

 

スープを吸ったバケットは小麦の風味にコーンの甘味を携えて噛むほどに舌を楽しませる。更にスープが染みてない部分はカリカリとした歯応えも楽しめる。

 

その横でオグリはターキーの足を切り分ける。切る時に皮からパリッと音がし胡椒と香草の香りが食欲をそそる。

 

豪快に手で掴み齧りつく。期待通りのパリッとした皮をかみ切りその下にあるジューシーな肉から旨味が広がる。

 

そのまま食べ切ると次の部位にクランベリーソースをつける。

 

齧りつくとフルーティーな香りと甘酸っぱさがアクセントになり肉の旨みを引き立てる。

 

各々が料理を楽しみ暫くするとBNWの面々がコック長に近づいてくる。

 

「コック長!!頼んでたの作ってくれた?」

 

チケットがコック長に話しかける。

タイシンとハヤヒデはなんだ?顔を見合わせている。

 

「出来てるぜ」

 

そう言って出されたのは小さめの生クリームのホールケーキ。イチゴがのりチョコプレートにはBNWとホワイトチョコで文字がかかれている。そしてそのチョコプレートを囲む様に3人のデフォルメサンタコスの砂糖細工が置かれている。

 

「可愛いじゃん」

 

「よく出来てるな」

 

覗き込んで関心する2人。

チケットがクルリとケーキを回すとハヤヒデの髪には赤鼻とメガネと髭があり背面サンタになっていた。

 

「ぷふ」

 

笑いを堪えるタイシンとやられたと苦笑するハヤヒデ。

 

「せっかくだし!!これなら可愛いでしょ?」

 

にっこりと笑うチケットにハヤヒデはため息を吐いて

 

「まぁ、可愛くはあるな」

 

3人は着席して三等分に切られたケーキを食べる。

 

滑らかでふわふわのホイップクリームに酸っぱめのイチゴが調和してオーソドックスな味わいである。正にコレコレという安心感が感じられる一品だ。

 

そんな3人の笑顔を堪能してコック長はとある場所に向かう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

トレセン学園から程近い特別会場にてキタサンブラックとサトノダイヤモンドの2人は緊張と興奮を迎えていた。

 

トレセン学園のクリスマスイベントで人気投票で選ばれたウマ娘がサンタコスでケーキを配るというイベント。

 

これに見事当選し配る時間が刻一刻と迫っているのだ。

 

「キタちゃん!!緊張するね!!」

 

「うん!!誰が来てくれるのかな!!」

 

手を握りしめながら列に並び今か今かと待つ。

 

会場のBGMが代わり歓声が上がる。

 

「さぁ、お待ちの皆さん只今より配布を開始致します。人気投票に選ばれたのはこのウマ娘達!!拍手でお迎え下さい!!」

 

実況でよく聞く声のお姉さんが呼び掛けると大きな拍手が巻き上がる。

 

ドライアイスの煙で壇上が遮られてカーテンが開かれるが・・。

 

「あれ?これはどう言った事でしょう!!ウマ娘はまだ到着していないのかぁ!?」

 

ガヤガヤと困惑の声が上がる中スタッフがお姉さんに空を見るように伝える。

 

「え?空?・・・なっ!?何とあれは!!」

 

席を立ち空を指さすお姉さんに釣られて観客も空を見上げる。

 

そこには二足歩行で走る発光するトナカイとソリに乗り手を振るサンタコスのトウカイテイオーとメジロマックイーンが空から現れたのだ。

 

驚きの声が上がる中会場の上を旋回して壇上に降り立つ3人。

 

「「メリークリスマス!!」」

 

テイオーとマックイーンが手を振りながらマイクで言うと会場は更に盛り上がる。

 

「それでは順番にケーキの配布と写真撮影を行います。押さないで列を崩さない様にお願いします!!」

 

お姉さんの説明後にスタッフが誘導して列が進む。

 

「テイオーさん!!凄く似合ってて可愛いです!!」

 

「マックイーンさんも負けてません!!凄く凄く可愛いです!!」

 

キタちゃんとダイアちゃんは一生懸命に伝える。

 

「ありがとー!!やっぱりかわいいよね!!」

 

「私は少し恥ずかしいです」

 

クルリとその場で回るテイオーと頬を赤らめるマックイーン。

 

キタちゃんはテイオーとダイアちゃんはマックイーンと手を繋ぐ。勿論キタちゃんとダイアちゃんも手を繋いでいるのでキタちゃんとダイアちゃんを挟む様に立つテイオーとマックイーン。

 

笑顔で並ぶ4人。

 

少し離れた所でそれを見た男達。

 

「テイオーとマックイーンは今を輝くスター選手だ」

 

「どうした急に」

 

「ライバル同士の2人は互いに認め合い中も良い。その2人に挟まれるあの子達も同様だ」

 

「あの子達もそうなれるかな?」

 

「それ聞いちゃう?」

 

「なれるさ。夢に真っ直ぐ進むあの子達なら」

 

「「そうだな」」

 

2人の男に発光トナカイ男が答えて同意する2人だった。

 




おまけ

テイオー「コック長あれどうやって飛んでたの?」

コック長「あ〜最近知り合った人?が支えてくれてたんだよ・・・」

マック「何をバカなことを・・・」

コック長「♪〜」

マック「え?本当ですの?」

高級コーヒー豆の瓶を複数持ちご機嫌なマンハッタンカフェ。


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