なんかタイラントになってしまったんだが。 (罪袋伝吉)
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バイオハザード2編
水虫薬を作ったらタイラントにされた


 完璧な水虫薬とカビ駆除剤を開発し、アンブレラ製薬に結構な儲けを出したはずの主人公。

 だが、それがスペンサーの怒りをかってしまい……。

 アホなバイオハザード、はーじまーるよー。


 

 

 俺はアンブレラ日本支社の研究員だった。

 

 専門は真菌と黴であり、画期的な水虫薬『シンキンバスター』や他の酸性洗剤と混ぜても危険なガスを発生させない黴用洗剤『カビジェノサイド』など、人々の生活を脅かす真菌や黴をことごとく殺し尽くす薬剤を開発した男だ。

 

 この俺の開発した『シンキンバスター』も『カビジェノサイド』もどちらも販売開始から瞬く間に世界的にヒットし、どちらも人体に害も負担も全く無く、ほぼ100%真菌、黴を殲滅する事が出来ると好評であった。

 

 で、俺はその功績を認められ、なんかアメリカのアンブレラ本社に呼び出される事となったわけなんだが……。

 

 その後の展開は正直、俺には訳のわからない事ばかりだった。

 

 功績が認められたと言うのに俺はなんか会長のスペンサー氏にモニター越しに怒鳴られ罵られた。なんかよくわからんがかつての恩師がどーたらこーたら、その温情がうんたらかんたらとまるでキチガイのような剣幕であったが、

 

「どれだけ優れていようと画期的であろうと所詮、水虫治療薬と風呂の黴用洗剤でしょうに。何をお怒りになってらっしゃるのか」

 

 と俺が宥めようとしても、スペンサー氏はギャーギャーギャーギャーと怒鳴り続け、

 

「このような日本の黄色い猿の薬品のせいで素晴らしい彼女の研究が潰えてしまうなど、あってはならんのだ!!」

 

 的な事を言いだし、あまつさえも

 

「下等な極東の○○、島国の××め!!」

 

 などと暴言を吐くものだから俺も頭に来て、

 

「るせぇわボケジジィ!金持ってるからって礼儀も糞もねぇぼっち野郎!!テメェみてぇなのが会長やってるなんざアンブレラも長くねぇな、おい、誰かこのボケ老人に老人ホーム斡旋してやれよ!!」

 

 そう言った途端に俺はなんか黒服サングラスの連中に囲まれ、どつき回され、あれよあれよと言うまもなく連行され、なんか注射を打たれて意識を失ったのであった……。

 

 以上が回想だ。

 

 で、意識を取り戻したら、なんか妙な研究施設に俺は居り、その研究施設内の辺りのあちこちに蠢く腐った死体、つまりゾンビやらグロい怪物やらが徘徊しているというわけのわからん状況に陥っていたのだ。

 

「……あー、こりゃあなんかろくでもない薬品かウィルスでも漏らしたってとこ……だろなぁ」

 

 ゾンビの大半が白衣を着た研究者の成れの果てで、なんか防護服を着たようなのまで混ざってるし、あちこちで警告アラームが鳴っている。

 

 とはいえ、なんでコイツらこんなにちっこいんだろな。ここにいる連中って大半がアメリカ人だろ?ひょっとしたら感染したら背が縮んじまうとかそんなんか?

 

 その辺で拾った鉄パイプでシバけば直ぐに倒せてしまうし、頭とか脆いし。まぁ、ここから逃げるには好都合だ。グロいけどなんとかなる。

 

「……いや、なんかおかしいだろ」

 

 いや、薄々は感じていたんだ。何この筋骨隆々な腕。あと、なんかなまっちろくなったこの肌の色。何より頭を触れば髪の毛が無い。ずっと人知れず育毛に励んで守り続けていた俺の髪の毛が一本とてその形跡すら無い。

 

「お、俺の大事な髪の毛、守り育んで来た黒い髪の毛が無ぇ、まったくねぇ、剃られたんじゃねぇ、毛根の痕跡すら無ぇ!?」

  

 あ、あああああああっ!!そんなの嘘だ、嫌だ、ハゲは嫌だぁぁぁっ!!

  

 研究室らしき部屋のピカピカなステンレス製の薬品棚に俺は自分の姿を映して見てみた。

 

 何この巨人。マッチョってレベルじゃねぇぞこれ。しかも顔がやたらといかつくなって……って、化けモンじゃねぇか!!しかもハゲ頭がつるつるぅぅぅっ!!

 

 つか、ス○ラッターハ○スかよ!!(※ゲーム会社が違います。あとホッケーマスクもありません)

 

「悪の博士に改造されてクリーチャー化したのか俺……」(※だいたい似たようなものである)

 

 これで彼女が拐われてたら彼女もクリーチャーにされてんだよなぁ。彼女とかいねーけどさ。

 

 ああ、これから先どうすりゃいいってんだ?いや、まぁだいたいやることは決まってんだけど!!

 

「スペンサーのボケジジィを、ぶち殺す。どうせだいたいあのジジィのせいに違いねぇ」

 

 俺はとりあえずポジティブにこれからの目的をそう定めると、研究施設を出る事にした。

 

 殴る蹴る骨をバッキバキにする、とにかくコロース。そう、とりあえずスペンサー殺さなきゃ(使命感)。

 

 ベキベキっボキボキっ、と両手の指を鳴らして俺はとりあえず研究施設の廊下に出たのだった。

 




 なお、シンキンバスターとカビジェノサイドは。E型特異菌を死滅させることが可能なため、ミランダを師と仰ぐスペンサーが激怒した、という。

 なお、主人公は天才ですが喧嘩っパやい江戸っ子気質の結局アホ、という設定です。

 村まで行けりゃ良いなぁ。


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なんか女の子に出会った(フル○ンで)

 クレア登場。

 バイオ2の時系列ではもう終盤に近いとこですね。シェリーちゃんがタイラント(ミスターX)に襲われ、図らずもG生物になったバーキンに助けられる(?)もエレベーター落っこちてしかも感染したすぐ後辺り。

 とりあえず主人公?全裸フルチンでうろついてるよ?ぶらーん。
 



「はーだーかのぉー王さーまがぁ♪」

 

 ヤケクソ気味な歌声(ダミ声)が地下の研究施設に木霊する。

 

 いや、ヤケクソ気味なんてものではない。マジでヤケクソなのだ。

 何故ヤケクソになってんだ?とか言う奴がいたらテメェもこんな身体になってこんな状況に置かれてみろ。よくわかっからよ。

 

 まず、身体がデカ過ぎて着る服が無ぇ。研究施設の職員のロッカーから私物をあさってなんとか着れるもんねぇかとか探したがどれも小さ過ぎて着れねぇ。

 

 故に今も全裸でフルチンぶーらぶら。

 

「くっそう、こんなんじゃ地上に出たらすぐに猥褻物陳列罪でポリスメンに捕まっちまうぜ」

 

 正直な話それだけは勘弁願いたい。が、地上はまだ大丈夫なのか?という疑問が頭をもたげてくる。

 だが、俺は早く地上に出てここから脱出する前にやらなければならない事があった。

 

 アンブレラの研究者達が残したレポートによれば、奴らは俺に人間をゾンビへと変えてしまうウィルス、『T-ウィルス』を投与したらしい。

 

 つまり、この研究施設をうろついているゾンビ達と同じくウィルスに俺は感染していると言うことであるが、どうも俺は特異体質、というか奴らの言うところによれば『究極の適合者』であったらしく、奴らが探し求めていた『奇跡の遺伝子』の持ち主だったようだ。

 

 奴らが残したレポートを読んだが

 

『1000万人に1人の適合者と言われたセルゲイ・ウラジミール大佐のクローンを使用しても知能の低下や皮膚の損壊等を免れないにも関わらず、この被験体は身体の巨大化と大脳皮質の増大が見られ、また身体の組織の損壊も全く見られない。セルゲイ大佐が1000万人に一人ならばこの被験体はおそらく数億人に一人の神に選ばれし適合者だろう』

 

 と書かれてあった。

 

 何が適合者じゃボケナス共が。そんなとんでもない確率に頼るようなクソなシロモンを人に投与するんじゃねぇわブタカス共が。つかおまえ等の神なんぞ知るか、こちとら八百万神の国の人間じゃボケぇ!!日輪の力を借りて今必殺の神国ジャパンアタックぶちかますぞファッキンサイエンティスト共めが(謎)。

 

……いかんいかん。どうもここんとこやたらと頭に血が上りやすくなってるようだ。これもT-ウィルスとやらの影響なのだろうか(素で前からこんなもん)。

 

 まぁ、奴らのレポートからの情報をつなぎあわせるとアンブレラ、いやスペンサーのボケジジィの目論見がだいたい理解出来た。まったく理解したくもないがああいう腐った金持ちが老化したら大体テンプレ的なクソ面白くないマンネリ思考に陥るものだ。

 

 つまりカスのスペンサーは金も権力も何もかも(友人とか愛とか以外。あんなクソ野郎にそんなもんあるわけねーだろ)手に入れたが、年々衰える身体だけはどうしようも無く、それならいっそ自身を不死身の無敵超人にしてこの世の唯一支配者になろう!的な考えを持ったに違いない。

 

 だからああいう老害はとっとと墓の穴に叩き込むべきだって、世の中の人の為になんねーって前から言ってんだ俺は。

 何がアンブレラじゃ、人々を病から守る傘じゃ。性根腐った金の亡者だけでなく死の商人じゃねぇか。

 

 そんなクソのような奴のせいで俺はこんなとんでもない身体にされ、そして大切に育毛していた髪の毛を失い、それどころか股間すらも無毛状態でフルチンなのだ(チ○コのサイズがちょっと大きくなってんのは許す)。

 

 着る服もサイズが無い。全裸でゾンビだらけのこんな地下の研究施設をうろつき、そしてウィルスを身体から駆除せねば地上にすら戻れない。

 

 いや、なんてことは無い。

 

 俺は水虫との戦いを勝利した男だ。

 

 親父に水虫をうつされ、高校時代に好きだった女の子に

「水虫の男の子とは付き合えないわ。汚いし臭いから近寄らないで!」

 とフられ、その子の友達の女の子達にも言いふらされて暗黒の青春を送り。

 その悲しみと苦しみ、そして怒りをバネに学業を励み、全ての真菌を駆逐してやると一念発起して研究者になった。

 水虫に悩む仲間たちと協力し苦節十数年。

 

 俺は全ての真菌に勝利したのだ。あと、研究の副産物でカビ用の家庭洗剤もでけたけど。

 

 そう、それに比べればT-ウィルスなんぞ何するものぞ。

 なんせレポートによればなんか駆除する薬品の作り方があるんだからな。楽勝じゃねーかおい。

 

「ふん、しっかしずいぶんと陳腐な精製方法だな。効率が悪すぎる。いや、ここの研究員はさほど熱心にワクチンの研究やら抗ウィルス剤の精製に力を入れていなかったと見るべきか?まぁいい。とりあえず完璧なワクチンと駆除剤だな。まずは必要な薬剤を集めんとな……」

 

 俺は手に入れた施設の見取り図をみつつ、薬剤を集める為、研究施設の奥へと進んで行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 研究施設の奥。

 

 俺は第一生存者を発見した。

 

 なんかヒステリックなババァ、いや中年女性の研究者だ。が、なんか俺の事をタイラントとかどうとか言ってどっかに逃げやがったが、なんなんだろうな。

 いやそりゃあゾンビとかバケモノが施設内のあちこちにわいているのだ、俺もそういうものと思われてもしかたが無いだろうが、こっちがわざわざ丁寧に英語で話しかけてんだから知性があんのはわかるだろうに。

 

……いや、もしかすると全裸なうえにフルチンだったからかも知れん。タイラントとはチ○コのサイズを指していたのかもなぁ。息子よ、お前の名前は今日からタイラント(童貞)だ。いや、チ○コに名前をつけんなや。

 

 まぁ、アンブレラの研究者なんぞどうでもいい。逃げた先でゾンビに襲われようがなにしようがそれは罪の報いというものだろう。ましてやヒスババァなんぞ知らん。

 

 俺は逃げたヒスババァを追いかける事はせずに研究施設の奥に進み、俺の目当ての薬の材料をかき集めて薬剤を調合し精製する機材のある部屋へと入っていった。

 

 ドアが開いて、いきなり銃で撃たれた。

 

「痛っ、痛っ、おい、痛いってーの!!なにしやがんだ危ねぇだろ!!」

 

 まぁ、鉄砲の玉を何発か食らいはしたが、感覚的には玩具の銀玉鉄砲で撃たれた程度の痛みしか感じず、弾も多少俺の胸板に食い込んでいたが、ふんっ!と力を入れれば全部床にバラバラっと落ちた。

 

 見ればなんかポニーテールの赤い革のベストを着た、いかにもアメリカンな若いねーちゃんが銃を俺に向けて構えており、その顔はめちゃくちゃ青ざめており、そして怯えていた。

 

 第二生存者発見。

 

 ただ、どうもここの研究員では無いようで、なんかレディースっぽい。いや、ヤンキーねーちゃんというべきか?そんな雰囲気の白人ねーちゃんだ。

 だがその目はさっきのヒステリックババァのように腐ってはいないように思えた。

 

 俺はヤンキーのねーちゃん(?)に英語で話しかけた。

 

「痛てぇじゃねぇかよ。危ねぇな。つうか薬剤の瓶に当たってたら薬が作れねーところじゃねぇか」

 

 若いねーちゃんは俺の言っている事が理解出来ない、いや信じられないのか銃を下ろそうとはしない。

 

「とっとと鉄砲を下ろせ。つか、ここにいるってことはおまえさんもT-ウィルスのワクチンがいるんだろ?今からおまえさんの分も作ってやっから邪魔すんじゃねぇ」

 

 はぁ?とそのヤンキーのねーちゃんは目をまるくしたが、しかし、銃を下ろさずに俺に言った。

 

「私が必要としているのはG-ウィルスのワクチンよ。全然違うわ」

 

「……G-ウィルス?T-ウィルスの他にも連中、ろくでもないウィルスを造ってたってのか?」

 

 もう救いようがねーなぁ。やっぱとりあえずスペンサー殺さなきゃ(使命感)。

 

 聞けばこのヤンキーのねーちゃん(クレア・レッドフィールドって名前らしい)は、そのG-ウィルスに感染したバケモノに襲われ、感染した女の子を助けるために薬剤を集めてこの部屋に来たらしい。

 

「そんなバケモノがいるのか」

 

「あんたもバケモノでしょう。そのバケモノがどうしてT-ウィルスのワクチンを造ろうなんて思ったのかしら?」

 

 俺と話が通じるとわかって余裕が出来たのかなんかこのクレアというねーちゃんは強気んなったな。つか銃を突きつけんのやめい。全然効かねえけど撃たれたら一応は痛いからな。

 

「人をバケモノ呼ばわりすんな、このヤンキーねーちゃんめ。俺はここの研究施設に連れてこられてT-ウィルスに感染させられたんだ。つまり俺はキャリアだ。身体から駆除しなければ人々に感染させるリスクが高い。それでは脱出も出来んからな」

 

 誰がヤンキーねーちゃんよ、とかクレアなるねーちゃんは言いつつも、俺の話(斯く斯く然々うしうしウマ娘うまぴょい伝説っとくらぁ)を聞いてやっとこ銃を下ろしてくれた。

 

「あなたも被害者というわけね。ごめんなさい、さっきあなたに良く似たバケモノに襲われそうになったから……」

 

 なんか俺ぐらいデカい身体でトレンチコートを来たバケモノだったらしい。

  

 くそぅ、バケモノが服を着てるっつーのに俺には無いのか?などと思ったが、クレアが言うにはそのバケモノももう一体現れたG生物なんぞという巨大なバケモノに倒され、クレアとクレアが連れていた少女ももう少しで危なかったらしい。

 

「……バケモノの巣窟か?ここは。ゾンビやらデカいウーパールーパーやら脳みそ剥き出しのひょろっこい奴やら。あのクソボケジジィは世の中をバケモノ動物園にでもしたいのかディストピア脳め」

  

 やっぱスペンサー殺さなきゃ(使命感)。

 

「クソボケジジィ?」

 

「ああ、アンブレラの会長のスペンサーの事だ。必ず奴には罪を償わせねばならん。(主に俺の髪の毛の恨み的に)」

  

「……黒幕は、アンブレラ会長ってことか」   

 

 クレアはボソッとそう言いつつ、

 

「先に機械を使わせてもらうわよ。というかあなたはワクチンを作ったらどうするの?」

 

 と、機械に薬剤をもうセットしていた。

 

 人の答えを聞かんとは、もしかしたらこいつヤンキーはヤンキーでもギャル系かもしれん。ギャル系の小娘は人の話を聞かんからなぁ。

 できちゃった結婚した弟んところの嫁なんぞモロにそうだったからなぁ。つか俺と同じく親父に水虫をうつされた癖にどうしてあの弟は結婚なんて出来たんだろうか。

 

……ヤンキーギャルなら受け入れてくれんのか?頭が軽いふわふわ系だからなのか?

 

 いや、クレアはギャルには見えん。どっちかと言えばブッコミ上等!な奴だ。多分。

 

……とはいえ、幼気なようぢぉが感染し一刻も早くワクチンで治療せねばならんなら仕方あるまい。先に使わせてやろう。

   

「駆除剤は俺に使う。身体からウィルスを駆除せんといかんからな。ワクチンは……出来れば君達のような生存者達に使って欲しい。俺に駆除剤を投与しても完全に駆除するには時間が掛かるだろうからな。接触して感染させたくないし他にも助けられる人間がいたら投与したいと思っている。だから、ありったけ薬剤をかき集めてきた」

 

 俺は持っていた薬剤を床にずらっと並べてそう言ったが、クレアが聞きたいのはワクチンの使い道についてでは無かったようだ。

 

「いえ、薬をどうするのか、じゃなくて今後あなたがどうするのかを聞きたいのよ」

  

 そんな事はもう決まっている。

 

「ここから脱出する。地上に出て俺はやらなければならんことがあるからな」

 

 そう、スペンサーを追い詰めてとにかくぶち殺すのだ。草の根をかき分けでも如何なる手段を用いようととにかくあのジジィを冥土に送りつけてやる。

 

……その頭に未練がましく残ってる髪の毛を全部引き抜いた後でだ。容赦などしない。

 

「そう……。なら、私達と一緒に脱出しない?あなたはその、かなり頼りになりそうだし」

 

 ガシャコン、ガシャコン、と機材を操作しつつ、クレアはさっきまでのあの怯えた態度などどこへ行ったやら、馴れ馴れしい……までは行かないがなかなかある程度友好的にそういった。

 

 まぁ、頼りになるかどうかはわからんがゾンビやらバケモノだらけん中、こんな若いねーちゃん達だけと言うのはなかなか厳しいだろう。

 

「……協力というわけか。ふむ。よかろう。目的は同じだし断る理由は無いからな。だが、ウィルス駆除剤とワクチンの精製にはやや時間がかかる。君は早くG-ウィルスのワクチンを持って行かないといかんのだろう?」

 

「ええ、だから後で医務室で落ち合いましょう。シェリー、感染した女の子の治療にも時間がかかるから」

 

 よろしくね、とクレアは俺に右手を差し出してきた。

 

「うむ。よろしくな」

 

 俺もクレアの手をとり、そして握手した。

 

……ああそうだ。握手しといてなんだが俺はキャリアだった。

 

「ああ、クレア。念の為に右手をアルコールで洗浄しといてくれ。なんせ俺はキャリアだからな。皮膚接触では感染しないはずだが、本当に念の為な?」

 

 なんか、めちゃくちゃばっちぃものでも見るかのような目をされた。いや、感染予防には消毒やろ。

 

 女の子にそんな目を向けられたのは俺の人生で二度目である。

 

 ああ、それもこれも全てスペンサーが悪い。とりあえずスペンサー殺さなきゃ!(使命感)。

 

 




 最初は地下を脱出して警察署に向かい、リオンを追いかけてるタイラントをぶん殴って服を奪うという予定でしたが。

 やっぱフルチンで女の子の前に出してやろうと思った。

 なお、主人公は全タイラント系最強かつ脳神経も強化されており、自分では気づいてませんが知能もあがってます。
 しかし、どれだけ天才でもアホは変わらず、変態は変態なので救いようがねーなぁ。

 次回、シェリーちゃんにぽろーん(嘘)、でまたあおう!
 


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とりあえず脱出を急がんとヤバいという予測。

 生物学的危機状況?いいや、スペンサーというレジデントイヴィルだ。全てはクソハゲの狂気から始まった。

 T-ウィルスで大脳が増大し知能が上がった主人公がクレアに脱出を急がせようとその理由は?

 おバカが賢いだと?!まぁ真面目回だからね。ゆえにポローンは無い。また今度だねー。


 俺とクレアはG-ウィルスのワクチンが出来るまでの間、これまでお互いにあった事を情報交換がてら話し合った。

 

 クレアから日時を聞けば俺がアメリカへ来てからすでに半月ほど経過していたわけだが、そんな事よりももうすでに地上はゾンビだらけだということの方が問題だった。

 

 アンブレラの管理のずさんさがどーとかこーとか言うつもりは無い。スペンサーのような耄碌し過ぎて狂ったボケ老人が会長なんぞをやっている時点で起こるべくして起こったと言える。

 だが、ひょっとしたらあのボケ老人はこのラクーンシティをウィルスの実験場にしようとしたのかも知れないとも考える事も出来るが、これだけの大きな規模を持つ研究施設を地下に建造しておいておじゃんにしてしまうような事を普通やるとは常識的に考えるにそれは有り得ない。

 

 たとえスペンサーが狂っていると言ってもまだそこまでは狂っていないだろう。

 

 なにしろそれをやっちまうと企業としての損益分岐点をとっくに赤字側にライン越えしてすっかりドビューンと向こう岸(アカン方)まで行ってしまうからだ。

 

 これは、おそらくだが。

 

 奴らはウィルスが漏れてどうしようも無くなったからいっそ実地的に実験し、それで貴重なデータを収集して損失の中から得られるだけの益を取ろうと考えたのではなかろうか。そしてデータを取ったら証拠隠滅して知らぬ存ぜぬを決め込もうと思っているんじゃないか?

 

……そこまで考えて俺は嫌な予感がしてかなりの危機感を覚えた。この先に奴らがひき起こすだろう最悪の事態に考えが行き当たってしまったからである。

 

 スペンサーがやらかすだろう証拠隠滅の方法について考え、その中で最も奴にとって都合が良い方法に思い当たったてしまったのだ。

 

……スペンサーにとって都合が良い事は他のみんなにとっては最低最悪な事である。

 

 そう、今現在進行型で起こっている事態はと言えば街一つを覆うほどの未曽有の生物学的な危機状況、である。

 

 そんな状況なのだ。普通は国家が動く事になる。

 もっと細かく言えば軍隊が動くわけだがそうなると軍隊はゾンビやバケモノの殲滅だけでなく原因の調査をするだろう。

 

 そう、間違いなく徹底的にやるだろう。

 

 何故徹底的に調査を行うって?

 

 それにはいろいろな理由が挙げられるが、説明すんのが面倒臭いので一番大きな理由をパパパっと端折って言うとしよう。

 

 そう、政治の世界は一枚板では無く大統領とて敵はおるし、政府高官だって足の引っ張り合いも日常チャメシ事だって事だ。あとアンブレラにも商売敵というか、ぶっちゃけぶっ潰してシェアを奪ってやると考えているような他社は多い。

 そして政治家もよその企業も常々相手の不正を暴いて蹴落とそうとかそれこそ虎視眈々と狙っている。

 そういう奴らにとって大災害、特に敵のお膝元で起こった事件というものは相手の失点を探すための絶好の機会であり、そして今回のこの人為的な災害、つまり生物兵器流出による大規模感染災害においてはもう失点の証拠だらけというわけだ。

 

 そりゃあそんな好機をのがしはしないどころか群れを成して漁りにくる。もしかしたら地上ではとっくにそういう連中の手の者が動いているまであるだろう。そういうのは知らんけどな。

 

 さて、軍隊が派遣されるとしてその軍人達の中にも政治的に上の連中を蹴落としたい連中の息のかかった将校なり高官なりが必ず混ざっているだろうことは想像に難くない。

 部隊の数が少なかろうが多かろうがそこはそれ、アンブレラの息がかかった奴らのみで編成するのは不可能だろうし、作戦中にアンチアンブレラ的な奴を始末するってのも流石に全部は無理……いや、バケモノけしかけてやるぐらいはするかも知れないが、歩兵だけで展開するわきゃない……と思う。

 

 クレアは俺と似たバケモノに襲われたと言っていたが、そんな奴が何体いたとしても装甲車や戦車、武装ヘリ相手に何か出来るわけはないだろう。

 

 武器を扱える知能も無いのだからな。

 

 ようするに何が言いたいのかと言えば、どうやっても何やってもアンブレラのアンチ達は生き残るだろうし、そいつらによって調査結果は世に出てしまうって事が言いたいわけだな、俺としてはな。

 

……その辺で何となく推測に穴があるような気もしないわけでは無い。いや、考察材料をそれほど持ち合わせているわけでもないからな。

 

 ま、流出すればスペンサーがいくら金と権力とそして政府高官、もしくはこの国の大統領と強いコネを持っていたとしても破滅は免れないだろう。

 なんせそっちを潰したい奴らが潰したい相手の言うことなんぞ聞くわけないのだ。むしろ嬉々としてオーバーキルまで狙ってドカドカやる。

 

……俺なら徹底的にやるだろうからな。間違いない。

 

 また、ラクーンシティほどの都市の住人達がほぼ全てゾンビやバケモノになっているわけで、それらに対抗するには投入する軍隊の規模はかなりのものが必要だ。

 

 軍人の数は証人の数である。

 

 そうなれば大統領だろうが軍の上の人間だろうがもうもみ消す事など不可能だ。

 箝口令敷こうが何をしようが無理、投入された軍人全員始末しようにも数が多過ぎだし、マジでやろうとしたならば逆にそいつ等の地位どころか命すらも失う羽目になるまであるだろう。

 

 つまり、軍人の投入はスペンサーとその息が掛かった連中にとって命取りになるわけだ。

 

 では軍人の投入を阻止し同時に証拠隠滅する為の方法をスペンサー側の連中はとらねばならない。さらに時間も稼げるって方法だ。

 

 一つだけ、シンプルかつロクでもない方法がある。

 

 ああ、クソったれな奴らが考えそうな、とんだB級映画並みの最悪な方法だ。

 

 それは核による街全体の焼却だ。証拠は全て灰や塵に、さらに放射能汚染でその後も立ち入れないオマケ付きだ。

 

 バイオハザードが放射能ハザードに変えられるってわけだ。うまくもねぇし最悪だ。マジでみんな殺されちまう。

 

……俺の予想が正しければ、アンブレラの連中が実験データを取り終えた後、すぐに猶予も無くこの街は塵一つ残さず灰燼となる。生き残っている人達すらもな。

 

 それを考え付き、俺は背筋から這い上がる猛烈な冷えと怒りに身体を震えさせた。

 

 推測というには考察の材料は少なくなんの確証もない。俺にはそれが現実のものになると確信してしまっていた。

 

 何故ならそれが一番アンブレラに、いやスペンサーに最も都合が良く、そして効率的かつ最良の方法だからだ。

 

 俺達にとっては最悪の事態だ、クソったれ。

 

「……クレア、よく聞いて欲しい。俺の予想が正しければ俺達は脱出を急がんといかん。どれだけ時間に猶予があるのかはわからないが、おそらくアンブレラ、いやアンブレラの息が掛かった合衆国はこの街に核を落とし全ての証拠を隠滅するだろう」

 

 俺はG-ワクチンの精製作業をしているクレアに俺の予測を聞かせた。

 

「……つまり、軍は街の生存者の救出に来ない、と?」

 

 有り得ない、とクレアは言いつつ頭を左右に振ったが、しかしすぐに険しく眉をしかめて何かを考えるように黙った。

 

「無論、これは俺の推測にしか過ぎない。むしろ俺としては米軍が投入されて欲しいと思っている。街にはおそらくまだ大勢の人々が救助を待って隠れているはずだからな。そしてこの研究施設の調査が行われれば確実にスペンサーは終わりだ。だが、スペンサーは狂人でボケたクソジジィだがそれを許すほど耄碌してはいない」

 

「……本当に核を使うというの?」

 

 俺は鼻から息を吐き、

 

「推測だが、その可能性が高いと俺は思って、いや確信している。奴はまだ自分の野望を叶えられていない。奴は自分を不死の超人にするためのウィルスを作れてはいない。奴の資金や権力の象徴のアンブレラを奴はまだ手放せない。何があっても奴はアンブレラを破滅に追いやる不都合なものを全て消し去ろうとするだろう」

 

「不死の超人って……そんなわけのわからない理由で非人道な人体実験をやって、街の人達をあんな、ゾンビにかえて……!!まだ街には生きてる人だっているはずよ!それを……っ!」

 

 彼女は賢い子だ。核攻撃が遂行されるというその確率が高いと理解している。いや、この街であった出来事が彼女が経験してきた事が酷すぎたのだろう。アンブレラがそれをやるような血も涙もない狂った連中だと理解している。

 ただ、街にいるだろう生き残っている人達を考えるあまりに理解を拒否したいのだろう。

 

「……ああ。おまえさんの怒りはわかる。だがそれは脱出したあとで奴を見つけ出して晴らすべきだ。今重要な事は、脱出を急ぐべきだって事だ」

 

 核による爆撃があるかどうかに関わらず、だ。と俺はクレアを諭した。

 

「どのみち、脱出は早い方がいい。感染リスクだけでなくまごまごしてればデカいバケモノやゾンビ以外の厄介なバケモノに襲われる率も高くなる。感染者は常に飢えている。身体の変異にエネルギーが足りず餌を常に求めている。生存者がいるとわかれば群がってくるだろうからな」

 

……かく言う俺も、さっきから腹の虫が鳴っている。研究員とかがロッカーとか冷蔵庫とかに入れていた食い物を食って今まで虫養いしていたが、この身体はデカくなった分エネルギー効率が悪く、かつ大食らいのようだ。

 もしくは考えたくも無いがまだ俺のこの身体は変異しているのかも知れない。だとしたらどうなってしまうのだろうか。

 

 もし変異して知性の無いバケモノになり果ててしまったら……。

 

 いや、よそう。

 

 俺の身体に目覚めてからなんら不調はない。筋肉が痩せたり急激に増加したりもない。臓器にも変調はなくただ腹の虫が鳴って空腹なだけだ。極度の飢餓感も無い。

 

「わかったわ。なんにしてもここに長居したく無いし早ければ早いほどたしかにいいわね」

 

 クレアは少しやるせないような表情だ。おそらく街にいる政府の救助を待っているだろう生存者達の事を考えているに違いない。

 

……脱出を急がせるならもう少し、なにか方便のような理由を考えて言うべきだったか?

 

 と少し俺は後悔した。

 だが正直に話す以外に俺には方法が何も浮かばなかった。

 

……なんとか、リカバリーせねば。

 

 だが何を話しても彼女の気持ちを晴れさせるとは思えない。俺に女の子の扱いなどどうすればいいかわからない。

 

 ぐうぅ。

 

 先ほどから鳴っている腹の虫が人に聞こえるほどに大きく鳴いた。

 

 それを聞いてクレアが俺の腹を見て目を丸くしたかと思えば、ぷっ!と吹いた。

 

 ナイス腹の虫。

 

 だがクレアちゃん、腹から下はなるたけ見ないでくれたまえ。全裸なのがバレるからな。

 

 俺は肩をすくめ、薬品を運ぶ時に使ってたショルダーバックから板チョコと缶コーヒーを出し、クレアに差し出した。

 

「こんな気の利かないところじゃモーニングもランチも出てきやしない」

 

 俺は昔に見た何かのアニメ映画の主人公が牢屋で言ったうろ覚えのセリフを言った。まぁ日本語のセリフを英語に直して言ったので、もしアメリカに輸出されてても多分わからないだろう。たぶん翻訳されたセリフとは異なってるだろうしな。

 

「ワクチンが出来るまでまだ時間がかかるだろ。もう抽出工程だから操作も終わってる。少し休憩しよう。糖分は疲れにいいんだ」

 

 そうして俺とクレアは、とりあえず床に座ってささやかなコーヒータイムをする事にしたのだった。

 

 




 最初からろくでもないキャラのスペンサーがさらにろくでもない奴になっていくという。

 だが忘れてはいけない。

 主人公がスペンサーを恨んでいる理由は主に頭髪が無くなったのと水虫薬をけなされたからだということを。

 あと、真面目に話しているときは研究者としての側面で話すが、普段はテキトー。まちがいない。

 とりあえずスペンサー殺さなきゃ(使命感)。

 戦え!主人公!村でドミトレスク夫人とガチムチパンツレスリングするまで!!

 


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見られてたんですけど。

タイラントのタイラントくんが見られてたよ?

なんか誤字脱字修正とかありがとうございます。あと、感想とかこんなにいただいたの初めてで、しかもこんなんにUA五万超えとかええんでしょうか。本当にありがとうございます。

というかバイオ人気すげぇなぁ。




 

 おっちゃんなぁ、ちょっと凹んでんねん。なぁ、あんたちょーっとおっちゃんの愚痴、聞いてくれるかぁ?

 

 いや、誰に話しかけとるのだ俺は。

 

……さっき、G-ウィルスのワクチンが完成してクレアが部屋を出て行ったのだが、その去り際に。

 

「……隠した方がいいわよ、それ」

 

 と、俺の股間を指差して顔もまったく赤らめたり恥ずかしがる事も無くそう言ったのだ。

 

 言われて「んん?」と股間見たら息子のタイラントくんが胡座をかいてる間から知らん間にひょっこり出ていた。『やぁ!僕がタイラントくんだよ?』とでも言うかのように元気だった。

 

 彼女に謝ろうにももう駆け足で行ってしまった後で。

 

「…………死にたい」(ズーーーーーン。)

 

 もうこの気の落ち込み様ときたら小学校の時に

 

 『社会の窓が開いているわよ』

 

 と、クラスのマドンナ的な女の子に指摘され、クラス中の連中に笑い物にされた時以来の落ち込み様である。つかあれはものっそいトラウマだが今回のもかなり後に尾をひきそうだ。

 

 ちゃうねん、このズボンは兄ちゃんのお下がりでなんにもしてないのにチャック開いてくんねん!!閉め忘れちゃうねん!!

 

……その後の俺のあだ名は当分の間、チャック・ノリスだった。爆弾作っていろいろやっちまうぞおら。

 

 いや、そんな過去のトラウマはどうでもいい。

 

 俺はようやくクリーニングルームで見つけた清潔なシーツをこれまた研究員のロッカーで発見したサバイバルナイフ……というよりもこれは軍用銃剣だろうか?……を使って切り裂く。

 

 絹ではないが絹を裂くようなジャァァァッという音がして化繊の布はこうしてサラシ布程度のサイズになった。

 

 幅良し。長さよし。

 

 ドンドンドドンドンドンドドン、ドンドンドドン、ドン!ソイヤッ!ドンドコドンドンドンドコドンドンドンドコドンドンドンドコドンドン、カッカカカカッ!

 

 脳内に何故か荒れ狂う和太鼓の暴れ打ちの音が響く。

 

 シュルッ、キュッ、グッ、ググッ、シュルシュルっ。

 

 手早く素早く正確に、神輿を担いだあの若き日の事を思い出して六尺より長い布を己に巻いていく。

 

 ソイヤッ!ソイヤッソイヤッソイヤッ!!

 

 ドドンドドン!ドドンドドン!ドンドコドンドン、ドンドコドンドン、ドドン!ドドンドドン!!

 

 尻に股の間に、ぐいっ、きゅっと布を解けぬよう引っ張り締める。

 

 たかが布、されど布。男が最後に身につけているのはやはりこれでなければならぬ。

 男の股間に魂の六尺、日本男児の正装よ。異境の地とて忘れえぬ、祖国ジャパンの心意気。

 

 ドドドドドドドド……ドドン!!

 

 バシッ!!(自分のケツを叩く音)

 

「こぉれがぁ、日本のぉフンドシじゃい!!」

 

 六尺(本当はサイズ的にもっと長いです。)バッシリフンドシ決めて、仁王立ちの漢意気。

 

「……素晴らしい。やはり男の股間には白の六尺よ。色付きなど無粋の極み、歌舞いても祭戦にゃ白よなぁ!!ふはははははは、これで勝つる!!ふはははははははは、げふんげふんゲヘゲヘゴホゴホっ、カーッぺっ!!うーい、むせちまったぜ……」

 

 もうフルチン野郎とは言わせねぇ(誰も言ってない)。これならレディの前だろうがようぢぉの前だろうが臆する事全くナッシング。ドレスコード的にもバッチシさ!!(んなわけあるか)。

 

「……まぁ、これで少なくともチ○コ見られる事は無いだろ」

 

 俺は少しポジションを直すと、ここに来る途中で集めた銃やら弾やら、鉄パイプや金属の破片、鉄の鎖に、あとはいろんな薬剤を詰め込んだズタ袋を担いで再び薬剤調合機(?)のある部屋へと戻っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 部屋の機材はまだゴウンゴウンとうなり薬剤の調合を続けていた。ゲージを見れば三分の一の工程を終えたところらしい。

 

 まぁいい。その間の時間に作れる物を作っておこうではないか。

 

……クレアが言っていたバケモン、G-ウィルスによって変異したG-生命体、だったか。

 俺に似たバケモンをたった一撃でその爪でぶっさしてそのままその身体を引き裂いたという。

 

 俺の身体は拳銃の弾が通用しないほど強化されている。身体を引き裂かれたその俺によく似たバケモンが俺と同型のバケモンだったとするならその身体を引き裂いたG-生命体とやらは尋常ではないパワーを持っていると考えねばならないだろう。それにその爪にしてもかなりの強度と鋭さをもっていると見るべきだ。

  

 つまり、近接戦では俺はかなり不利、ということだ。

 

 そのGのバケモン……というとなんとなく巨大ゴキブリみたいだな……がどのような性質を持っているか知らないが、おそらくは十中八九、クレア達を追いかけて来ているはずだと予想する。

 いや、これはただの勘だ。確証なんてない。

 

 だが大抵の映画とかだと生存者んところに出てくるもんなんだ、その手のバケモンってのは。

 

 だから対策はきっちりしておこう。必要なのは距離を取って戦うための武器だが……。

 

 俺はここの守衛か何かが持っていた拳銃を見る。昔なら格好いいとかワクワクしただろう。本物の拳銃だ。

 

「……豆鉄砲、だな」

 

 そう日本でもその名が通ったコルトの銘銃であるコルトガバメントは俺の手には握り柄が小さく、そして指が引き金んところに入らず、使えない。

 いや、コルトガバメントだけでなくアメリカ軍の使ってんのと同じM16……だったっけ?……自動小銃も同様だ。

 

 結論。俺には使えねーからクレアにあげよう。

 

……まぁ、拾った時から解ってたさ。

 

 ここからが本番。

 

 今時のゾンビ作品はな、武器を拾ってどうこう、アイテムどうこうってもう古いんだよ。人間様の人間様たる所以は、道具を造ること、これだ。

 

 ほれ、ここに短い鉄パイプがあるじゃろ?これにこうしてこうして硫酸弾を仕込んで、それよりさらに太いパイプに入れて、その隙間に拾った火薬をこれでもかっ!!と入れるじゃろ?んで起爆用に鉄砲の弾からとった雷管とバネ仕掛けの遅延ハンマーをこうしてこうしてこうして。

 

「えげつない破片硫酸パイプばくだーーん!!(大山○ぶ代調に)」てってれてってーてー!(ひこひこひこん!)

 

 ふっ、自分の才能が恐ろしい。だが、まだだ、まだ終わらんよ。

 

 俺は拾ったサバイバルナイフの柄を長い鉄パイプの中に納めてダクトテープでグルグル巻きにして簡単な槍を作ると、それに先ほどの破片硫酸パイプ爆弾をやはりダクトテープでグルグル巻きにして付けた。

 

「これぞ必殺、破片硫酸パイプ爆弾付き投げ槍ぃぃぃ!!」

 

 ようするに、これをバケモンにブン投げてぶっさし、爆弾でふきとばしつつ硫酸と破片でダメージを食らわせるという寸法である。

 

「どれだけ細胞が強化されていようと再生力が高かろうと、爆発で皮膚を爆ぜさせた上で硫酸で細胞を焼かれれば一溜まりもねぇ……はずだ」

 

 狙うは口や弱い腹、急所……があるかどうかは解らんが、とりあえずこれを何個か作っておこう。

 

 拾ったサバイバルナイフは三本、つまり槍を三本作り、あとは廊下の壁に設置されていた消防斧三本に爆弾をつけて、とりあえず爆弾武器はこれで計6つ。

 

 あとはフンドシを作った余りの布を腹にサラシ代わりに巻く。そして俺は拾った鉄のぶっとい鎖をその上から身体に巻いた。鎖の腹巻きだ。

 

 腹には骨も強い筋肉もない。ここをやられて内臓に少しでも傷を付けられればイキモンはいとも容易く死んじまう。

 

 死んだ爺ちゃんが言ってた。出入りん時は必ずサラシを巻いておけ。腹を刺されるんじゃねぇぞってな。

 

……今思えば、俺の爺ちゃんってヤクザだったんかもなぁ。背中に唐獅子牡丹背負ってたしな。

 

 なお、俺の親父は普通のサラリーマンでした。

 

……そんな事はどうでもいい。

 

 チーン!

 

 薬剤を調合する機械が、電子レンジのような音を鳴らした。

  

 どうやらT-ウィルス駆除薬が完成したようだ。

 

「計算上は俺の身体に悪影響はないように『設計』したが……。ミスってたら、死ぬなぁ、これ(なお、使っている薬剤が大半が生理食塩水以外、全て劇薬指定薬品です)」

 

 名付けて『水薬・T-ウィルスころし』。いや、鬼ころしじゃねぇんだから。

 

 俺はビーカーに入ったその水薬を機材から取り出すと、躊躇いもなくそれを口に運び、ゴッゴッゴッゴッと飲み干した。

  

 迷っている時間などないのだ。こう見えて俺は医療人であり、病に苦しむ人々の為に治療薬を開発して来た(たとえそれが水虫薬でも)男なのだ。

 人々を脅かすウィルスのキャリアのまんまなんて真っ平御免だしそんな身体で外界に出るのも嫌だ。俺の主義に反する。

 

 それにどうせここに核が落とされれば結局は死ぬ。脱出出来なければ死ぬ。 

 

 なら、とりあえず前に進むのだ。死んでも俺の身体からはあのクソジジィのウィルスを駆除してやる。死んでも、必ずだ。

 

 なに、この薬の効果がでるまでは20分。それまでの間にクレア達の脱出を助けよう。ま、薬がちゃんと出来てりゃ俺も生き残れるんだ。

 

 俺は、機材にT-ウィルスのワクチンの材料をセットし、そして端末のリターンキーを押した。

 

「生きて脱出したら、必ずスペンサーをキャーンいわしたるからな。覚えてろ」

 

 




・主人公の手は大きくなりすぎ、銃器のグリップのサイズが合わず、引き金のところに指も入らなくなったので『鉄砲使えません』。これがバイオ3ならネメシスのロケランとかガトリングとか奪って使えてたかもしれませんね。

・フンドシ締めて面舵いっぱい。グラブルなに考えとんねん。

・クレアさん、なんか見てもクールでしたが、本当のところ内心どうだったんでしょうかね。とはいえクレア視点は無いのでわからないですねぇ。というかクレア視点はやんないよ?


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くんかくんかとG。

 
 対G戦。

 タイラントさんは果たしてようぢぉを救えるのか?Gを撃破出来るのか?

 くんかっかーくんかっかー。


 T-ウィルスワクチンを何本かステンレス製の滅菌容器に入れ、槍やら斧やら銃器やらをズタ袋に詰めて俺は急いで待ち合わせの医務室に駆け足で向かった。

 

 だが、俺の聴覚には苦しそうに呻く子供の声しか聞こえて来ない。クレアの気配は無く、嗅覚にその残り香を感じるだけだ。

 おかしいと思いつつ部屋に入ってみれば、確かに女の子がベッドに寝かされている。が、クレアの姿はない。それどころかこの女の子の状態は間違いなく何らかの感染症、それもかなり重篤な状態だ。

 ワクチンを打った形跡も無く何の処置も受けた後も無い。

 

「ちょっとまて、クレアはどうしたんだ?!」

 

 あの薬剤を調合する機材のある部屋からここまでの道で途中にクレアが戦闘したような痕跡は無く、それにクレアの足ならば10分と経たずにこの医務室まで到着出来たはずなのだ。

 そして俺が自分の駆除薬とT-ウィルスワクチンをつくるのにかかった時間はだいたい30分。つまりとっくにワクチンを打って処置が終わっていてもおかしくない時間だ。

 

 だが、目の前のこの少女には何らかの処置をされた形跡は無い。G-ウィルスとやらの病態の進行などはわからないしその速度もわからないがこれだけは言える。

 

 このままだとこの少女は死ぬか、アンブレラのウィルスに蝕まれたこの幼い身体は化け物になり無残な姿へと変貌するかのどちらかだ。

 

 だがクレアはワクチンを求めていたのだ。この子のために。その姿に偽りはなかった……と思いたい。さっき会ったばかりで確証は無いが、あの目とそして汗の匂いに嘘偽りなど無いと思いたい。

 

 クレアの体臭はなんというか信じられる女の匂いだった。そう思うのだ。というか自分でもよくわからんが、なんとなく本能でそう思うのだ。

 

……つうか、匂いで信じられる信じられないを判別するってなんなんだ?つか俺の嗅覚はどうなっとんねん。あの距離でなんでクレアの匂いがわかんねん。つか息子が顔だしたのってクレアの体臭に反応しとったまであるんかい。ケモノか俺は。

 

 いや、今はそんなことは置いておこう。というか置いて誰にも知られんように深い海に沈めておこう。

  

「クレアの身になにかあったに違いない」

 

 何らかのトラブルはあったか、他に必要な何かがあって取りに行かねばならなくなったか。……もしくはバケモンに襲われて逃げねばならなくなったか。

 

 いや、考察は無意味だ。今は速やかな行動が求められる。

 

 俺はまたズタ袋を背負い直すと、部屋を出ようとした。

 

 と、

 

「う、うううっ……、ママ、ママ、クレア……」

 

 少女は熱にうなされ、苦しそうに母親とクレアの名を呼んだ。

 

「……嬢ちゃん。もう少しの辛抱だ。おじちゃんがクレアとお薬を探してきてやるからな」

 

 少女の頭を軽く撫でてやり、そして持っていた板チョコをベッドの側の台に置いてやる。もしも行き違いになってもそのチョコで俺がここに来たのがわかるだろう。

 

「治ったら、一緒にチョコ、食べような?だから待ってろ。必ず治してやっからよ」

 

 俺は部屋から出るとクレアを探しに、少しの痕跡も見逃さないようにと目と耳と鼻を総動員して働かせながら、しかし急いで廊下を進んだ。

 

 そうT-ウィルスは俺の肉体のみならず五感すらも強化していた。嗅覚とておそらくは人間を超越している。

 

 臭うぞ、臭うぞ。

 

 くんかくんか。くんかくんか。

 

 俺は四つん這いになって通路に残るクレアの匂いを探し、そしてクレアが辿ったルートを捜し当てた。

 

 すんすん、この臭いはまさしくクレアの体臭、クレアスメル……!!白人特有の濃い体臭と汗の匂い。臭みがあるが若いねーちゃんの酸い果実の如きフェロモン臭。

 

 俺は四つん這いのまま、くんかくんかしながらダッシュした。少女の命がかかっているのだ、もはや体裁など気にしていられんのだ!!

 

 ドタタタタタタタタタ、くんかくんかくんか、ドタタタタタタタタタ、くんかっかーくんかっかー!!

 

……犬じゃねぇんだから、でもダメ、クレアスメルを嗅ぐのやめらんない、くんかっかーくんかっかー。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 道を進み、ゾンビやらなんか植物みたいなバケモンを消防斧で薪割りしつつ進んでやっとこクレアを発見する事が出来た。

 

 つかゾンビ臭とかバケモン臭は本当に不快だ。クレアの匂いだけ嗅ぎたいんだ俺は。

 

……いや、変態じゃねぇんだ。匂いフェチでもねぇ。

 

 途中からゾンビ共の死臭やらがキツくてクレア臭をたどれず、クレアが倒してきたモンスターの死体をたどって追いかけることになったが、しっかしクレアの射撃は非常に正確でほとんど頭を撃って倒しているので、あ、ここクレアが通ってたな、というのがよくわかる。

 

……つか冷静に考えてそんな射撃スキルのある女子大生ってどうなんだ?

 

 なんかホールみたいな施設にクレアはおり、そしてその近くにデカい腕の付け根に目ん玉を生やしたバケモンの死体が横たわっていた。

 

 クセェなコイツは。嫌な臭いだ。

 

 おそらくはそのバケモンがG-生命体とやらなのだろう。

 

 つうかあんなモンを良く倒せたもんだな。つか肉の焼け焦げたような臭いがあの死体から漂って来ているが、多分あの手に持ってるグレネードランチャーを使ったのだろう。

 

 俺は走ってクレアの元に向かった……っと、クレアといるのはあん時のヒステリックババァ研究員か。

 

「た、タイラント!?」

 

 ひいぃぃぃっ!!となんかヒステリックババァ研究員はドアを開けてその奥の部屋へと逃げていった。つか、またかよ。今は息子は出てねーぞ……ってか、死んでると思ってたバケモンの身体が震えてやがる!!

 

 俺はデカい声でクレアに、

 

「クレア!!まだソイツは死んでねぇ!!離れろ!!」

  

 と叫んだ。クソっ爆弾仕込んだ投げ槍じゃクレアまで巻き込んじまう。

 

 ブン!!とバケモンがその長い爪の生えた腕をクレアに叩きつけようとしたが、クレアはすぐに床を転がってそれをよけた。

 

「そのまま離れてろ!」

 

 クレアは俺の言うとおりにすぐさま走って後ろに下がった。

 

「グギャアアアアアアッ!!」

 

 バケモンは立ち上がり、咆哮した。そして信じられない事に、その身体を膨れ上がらせて巨大化しつつ腕を生やし、まるで地球上の生物にあり得ないような怪物になった。

 

 腕が四本、身体のあちこちに目玉を生やし、腕に爪なのか牙なのかよくわからんものを生やした、その姿、まさにバケモンとしか言いようが無い。ボキャブラリーなんぞ知るか。あんなイキモン見たことも聞いたこともねぇ。

 

「ギャアアアアアアアアッ!!」

 

 まさに醜悪なデタラメの塊だ。だが……。

 

「ゲッ○ートマホゥクブーメラン!!」

 

 俺はここに来るまでの通路のあちこちにやたらとあった防災用の消防斧の一本をバケモンの肩のデカい目に力いっぱいブン投げた。

 

 ブォン!!と唸る風切り音を立てて真っ直に斧は飛び、バケモンの目玉ごと腕の一本が吹き飛んだ。

 

「吠えてんじゃねぇよ。隙だらけだ、ど阿呆が」

 

 続けて足に生えた目ん玉にもフルパワーで斧を投げつけ、ぶっ潰す。バケモンはたまらず膝を折った。

 

 クレアの方を見ればもう奴の攻撃範囲から遠ざかり、グレネードランチャーを構えていた。

 

 ポン!という音と共に、ばしゃあああっ、と液体がバケモンを襲う。それとともにジュオォォォォッ!!と強酸がタンパク質を焦がす音。硫酸弾だ。

 

「えげつない援護射撃だな……。いや、俺のが援護か?どっちでもいいが……」

 

 クレアがあそこまで離れてくれればコイツが使える。

 

 俺は背負ったズタ袋から投げ槍を取り出し、ピンを外して構えた。

 

「呪いもねーし朱槍でもねーが槍をご所望かい?食らえ爆裂硫酸槍っ!!」

 

 1、2、3、と数えて投げつける。

 

「どりゃああああっ!!」

 

 たかがナイフを鉄パイプに繋げた投げ槍。されど中には必殺のパイプ爆弾と硫酸弾が入っている。

 

 投げ槍はバケモンの胸に生えたいくつもの目ん玉をつぶして刃の根元まで刺さる。そう、爆弾と硫酸弾を仕込んだ辺りだ。

 

 ボン!!ババッ、ブボン!!

 

 バケモンの体内でパイプ爆弾がはぜて破片を撒き散らし、同時に硫酸が焼き尽くす。

 

 奴に内臓があるかどうかはわからない。あんなデタラメな身体を持っている生き物など自然界にいるわけもない。だが表っ側より内側は大抵の場合なんでも弱いもんである。

 

 果たして効果は……。

 

「グギャアアアアアアアアッ!!グギャアアアアアアアアッ!!」

 

 胸に大穴が開き、そこから硫酸が肉を焼いている煙が出ており、バケモンはめちゃくちゃ苦しんでいる。

 だがとどめには程遠いようだ。

 

 めちゃくちゃ力いっぱい暴れてやがる。

 

「クソっ、思いの外頑丈なバケモンだな!!」

 

 シュポン!とクレアがバケモンの後ろからまたグレネード弾を発射した。胸に開いた穴に弾がすぽんと入った。すげぇコントロールだな、おい。

 

「ホールインワン!」

 

 どぱん!と中で硫酸弾が爆ぜ、さらにバケモンの胸の穴は大きく、そして腹まで開いた。

 

 バケモンの中身が遠目でも見えたが、はっきり言おう。コイツはまともなイキモンではない。背骨が何本も身体の中にグネグネと走り、内臓もマトモに無い。筋肉なのかなんなのかわからん繊維が中でまるでウネウネとミミズのように蠢いており、正直、なんかの生き物の群体なんじゃないかと思うような、そんな感じだった。

 

「殺し尽くさないと死なねーってワケだ」

 

 マジで、うへぇっとなった。

 

 バケモンは普通なら死んでいるほどのダメージを受けてもまだ、その体細胞を増殖して身体に開いた大穴を塞ごうとしていた。

 

「手を止めないで!!攻撃し続けて!!」

 

 クレアが俺にそう叫ぶように言いつつ、グレネードランチャーをバケモンに撃つ。

 

 そうだ、手を休めてるわけにはいかない。

 

 コイツをとっとと早く殺してあの少女にワクチンを届けねばならないのだ。あの子は苦しんでいるのだ。こんな奴に時間などかけてはいられない。

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!!とっととくたばりやがれこのクソバケモンがっ!!」

 

「槍だ!斧だ!松明は無いが、手榴弾だ!!」

 

 百万回やられても倒れない?馬鹿野郎そんな時間は俺達にねぇんだよ!!コンティニューなんざ人生にゃねぇ、てめぇなんざデタラメな肉塊だ。とっととくたばれ!!

 

 俺とクレアはバケモンの土手っ腹に開いた穴にとことん徹底的に攻撃を集中した。

  結果としてなんとか弱らせる事が出来たが、しかしバケモンはまだ蠢き、死ぬ気配も無い。

 

 俺の手にはたった一本の斧。爆薬も硫酸弾も火炎弾も仕込んでいない、普通の消防斧だ。クレアの方もグレネードランチャーもショットガンも拳銃の弾も撃ち尽くし、俺が投げてよこしてやったM-16の弾を今使い切り、コルトガバメントを使っている。

 

「…………」

 

 仕方ねぇ、俺がしんがりに残ってクレアをあの子のいる医務室に逃がすか?今ならバケモンは動けねぇ、行けるハズだ……。ここでガバメントの弾まで撃ち尽くせば、医務室までの道のりでゾンビ共に襲われれば危ない。

 

 俺がそう考えた時、

 

「ウィリアム……!!」

 

 悲痛な叫び声がホールに響き、そして上の方から、バケモンの身体に開いた大穴にパシュッ、パシュッ、パシュッ、と何かが撃ち込まれた。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 見ればさっきのヒステリックババァ研究員が銃のようなものを撃っていた。バケモンが苦しんでいるところを見れば、あれはG-生命体を殺すための薬剤なのだろう。

 

 ジュウウウウウウ!!と大穴から盛大な煙があがる。硫酸弾なんざ目じゃないぐらいにバケモンの身体が薬剤に反応してブスブスと泡立って溶けていく。

 

 パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ、と、ヒステリックババァ研究員は容赦なく薬剤の弾を撃ちだす。見ればババァ研究員は泣いていた。

 

「ウィリアム……、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

「グゲ……ェ、ゲ…………」

 

 ジュオオオオオオッ、とバケモンは跡形もなく溶け、分解されて消えていった。

 

 遅ぇよとか、そんな武器あんなら最初から使え、とか言えばおそらくKYとか言われるだろう。

 

 あの涙を見ればわかる。おそらくあのバケモンはあのヒステリックババァ研究員の家族か大切な者の変わり果てた姿なのだろう。

 

 クレアが俺の方へやや疲れたような足取りだが駆け足でやってきた。

 

「はぁ~っ、危なかったわ……。来てくれてありがとう……」

 

「へたばるのはまだ早い。医務室の子の命が危ない。ワクチンは持ってるな?」

 

 俺はクレアにそういうと、ガバッとクレアを肩に担いだ。

 

「え?ちょっとちょっと?!」

 

「四の五の言っている場合じゃねぇ!!急ぐぞ、あの子の様態は危険域まで来ているんだ!!このまま行くぞ!!」

 

 俺はクレアを抱えたまま、ダッシュで医務室まで走って戻った。

 

 え?ヒステリックババァ研究員?知るかそんなん。

  

 

 




・ふんどし男(タイラント)が幼女の頭を撫でる。
・ふんどし男(タイラント)が四つん這いで女の子の匂いでくんかくんかする。
・ふんどし男(タイラント)が女の子を無理矢理担いで走る。

 だが、本人はなんとも思ってないぞ?

 なお、クレアさんを担いでバレないように、くんかくんかしたり感触を堪能しているとか、そういうのは内緒だ。

 ボス敵が完全消滅して、次の敵は……。奴だ!!

 次回、とっととにげるんだよぉぉぉ!!

 


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もろりと量産型と。

 主人公がモロリしてクレアに見せつけたり、いたいけなタイラントから追い剥ぎしたり、なんかシリアスになったりするよ?


 

 

 悲報:目的地着いたらふんどしとれてポロリ見られた。

 

……せやなぁ、おっちゃん何から言うたらええんかわからへん。せやけど、おっちゃんかて、見せとうて見せとんのやないんやで?というかタイミング悪すぎやん。ていうかクレアちゃん肩に担いで走っとったやん、間が悪うて、なんか脳みそ剥き出しのグロい奴……いや、なんやほれ、厨二病で眼帯しとる変な女の子によう似た名前の……ああそうそう、リッカーや、あれに飛びかかられてな?もちろんおっちゃん、クレアちゃんには何一つ傷一つ付けへんように退治したんやけどな?あんの脳みそ剥き出し中二病野郎の爪がなんや、おっちゃんのふんどしに引っかかったみたいでな……。

 

……いや、何故に俺は凹んだら関西のおっさんみたいな話し口調になるのだろうか。

 

 G-ウィルスに感染した少女のいる医務室に到着した俺は肩からクレアを下ろしたのだ。

 

 そして、万が一少女がG-生命体に変異していた時のために先に俺が医務室に入り、そしてまだ少女が変異もしておらずまだワクチンで助けられる状態だと確認した上でクレアからワクチンを受け取り、そして速やかにワクチンを打った。

 

 ワクチンのおかげで少女の様態はすぐに落ち着き、先ほどようやく寝息も安らかなものになり、脈拍や呼吸数、体温その他、バイタルが安定したのを確認したわけである……のだが。

 

 間の悪いことはその後だ。

 

 クレアが、

 

「これで……一安心かしら?」

 

 と言って俺に振り向いた。

 

 俺はうむ、と頷き、

 

「ひとまずは、といったところだな。とは言え本来は安静にしておかなければならないが、時間の猶予は無い。……脱出するにはとりあえず俺がこの子を運ぼう。材料を探しておんぶ紐か何かを作るか……」

 

 と言った瞬間、俺のふんどしの横紐が、ブチリと千切れ。

 

 あわれ俺、いやクレアか、もしくは両方か。

 

 俺、タイラントくん丸出し、クレアモロにタイラントくんと再び御対面。

 

 時が一瞬、ザ・ワールド。モロリと凝視が交差する。

 

 竿、目が合う瞬間、ダメだと気づいた~クレアは今ど~んな気持ちで~いるの?

 

……それはね?

 

「いぃぃーーーやーーーぁぁぁぁぁっ!!」

 

 クレアはもの凄い悲鳴をあげた。めちゃくちゃ顔を、それも耳まで真っ赤にして、でもなんか目をすんげー見開いて、

 

「いやぁ~っ!とっとと隠しなさいよぉ~っ!!」

 

 いや、なんであんた背けるどころかしっかり見てんのぉぉぉっ?!

 

「どぉーーわぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

 俺はすぐさま手で股間を隠し、慌てて医務室を出た。そしてクレアに、

 

「すまん、さっきの脳みそ野郎の攻撃で布にダメージ食らってたみたいだ!!つか、とりあえず俺はなんか布とか探してくる!ついでにクレアの銃の弾とか使えそうなモンもとってくるから、クレアはその子に着いていてやってくれ!!」

 

 と言って逃げるようにその場からダッシュで走り去ったのだった。……フルチンで。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「くっそーっ、あの脳みそ剥き出し中二病野郎め。今度あったら……って、もう脳みそ蹴り潰したっけな。寄りに寄って俺のふんどしに切れ目を付けやがるとは……!」

 

 ドチクショウ、と俺は腹立ち紛れに壁を殴る。別に力など入れてはいないが、メコッ、とそれだけで壁が凹む。だが壁なんぞよりも俺のこのメンタルのが凹んどるんじゃい、っきしょうめ(八つ当たり)。

 

 つか、俺のタイラントくんもあのタイミングで元気出さんでもええだろが。そりゃあクレアを肩に抱えて走ってたら、その、柔らかいお尻のお肉がさ、弾んでさ、いい感じで気持ちよくてさ?それにクレアの蒸れた感じの『にほひ』というか『かほり』というか、もうたまらんスメルというかパフュームというかが鼻にむわっと……。

 

 いかん、思い出したらなんかタイラントくんがまた元気になってしまう。ダメだダメだ。俺は変態ではないのだ。そう、俺は紳士なのだ。

 

 頭を振って俺は邪な考えを振り払い、そして廊下を進んでいった。

 

 ここの通路の角を曲がると、ふんどしにしたシーツのあったクリーニングルームだ。布はまだまだあったはずだ。今度はスペアも調達していこう。

 

 俺がそう思った時だった。

 

 嫌な気配が角の方に『存在』してやがる。息を殺して俺が曲がるのを待ち伏せしてやがるのだ。

 鼻が嫌な臭いを感知するが、それはゾンビや脳みそ剥き出し野郎のように強い腐敗臭ではない。微かな死臭、だがこれは同族嫌悪とでもいうような不快感を催す臭いだ。

 

 俺はその壁の角に向かって、ずどん!!と拳を叩きつけた。

 

 コンクリートが砕けちり、壁の角に穴が開く。

 

 そこの穴の向こうにいたのは、図体のデカいトレンチコートみたいな服を着て頭に帽子被った奴だった。まさか壁ごと攻撃されるなど思っても見なかったようで、少し驚いたような面をしやがった。

 

「お見通しなんだよ、この野郎」

 

 奴は態勢を整えてこっちに来やがった。ああ、確かにクレアの言うとおり、俺に似てやがる……のか?こんなんが?つか顔が全然違うじゃねぇか。

 

 コイツの話はクレアから聞いていた。しかし、クレアの話だとコイツはあのG-生命体とかいうバケモンのあの爪にぶっ刺されて死んだと聞いていたのだが……。

 

 ゲイだかなんだかっつー大佐のクローンとかレポートにあったが、つまりは大量生産か?コイツ。

 

「つうか、大量生産品の癖に偉そうに服なんざ着やがってよぉ、さっきの下手な待ち伏せといい、その態度といい、ムカつくんだよ、クソがぁ!!」

 

 俺にもこんな服がありゃあ、クレアにタイラントくんを二度も見せてしまうなんて無かったんだ、どちくしょう!!

 

 俺はコイツをぶっ倒してこの服を追い剥ぎすることに決めた。サイズも多分俺にピッタリな事だろう。

 

 幸い、コイツからはもの凄い殺気が感じられる。おそらくはコイツも俺のことが気に入らねぇんだろう。つまりは同族嫌悪だ。

 

 ブウン!

 

 いきなり拳を振り上げて殴りかかって来やがったのだが。

 

…………すかっ。

 

 ブウン!……すかっ。

 

「……おまえ、真面目にやってんのか?」

 

 ハエが止まるようなノロいパンチ。いや、俺の動態視力とか反応速度が……って、いやこれはマジで遅い。俺の身体能力をさっ引いてもノロい。

 

「ウガァァァァッ!」

 

 ブウン!……すかっ。ブウン!……すかっ。

 

 いや、パワーは多分すげぇんだろうが、なんでそんなにパンチが遅ぇんだ?コイツ。つか強パンチ見てからしゃがみからのアッパー余裕でした。

 

 どごん!!

 

 ついでにジャブジャブストレート!!

 

 どかっどかっずどーーーん。

 

 俺の拳で壁に吹き飛ぶデカブツ、いや独活の大木。

 

「……あー、お前、ノロいわ。そら普通の人を襲ったりするなら驚異的なパワーかもしれねーが、それじゃあのGのバケモンにゃ敵わんわなぁ」

 

 それに、なんかコイツ……アホやろ?絶対。なんかぶっ飛ばした壁に壁尻してやがる。

 

……見たくねー壁尻だな、これは。ゲイだかホモだか言う大佐の性癖か?これは。

 

「まぁ、追い剥ぎするには絶好のカモだな。多分、めちゃくちゃタフなんだろうが……。やりようはいくらでもあるからな」

 

 そうして、俺はあつらえたようにピッタリの服を手に入れた。

 

 なに?デカブツはどうしたのかって?

 

 服剥いだら斧で首を跳ねて念のために心臓に鉄パイプぶっさしといた。あれで死なない奴は多分いないだろ。……Gっつー例はあるが多分T-ウィルスにゃそこまでの再生能力はねーだろ……と思おう。

 

 思わぬところで服をゲットした俺は、とりあえず脱出のために必要と思われる物資やらクレアの為の銃の弾丸やらを集めてまた医務室へと戻るのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……なんでこのババ……オバサンがここにおるん?」

 

 医務室に戻って、何故かヒステリックババァ研究者がおった。ババァ研究者はまた俺を見て、

 

「タイラント!!」

 

 と言ったがクレアが

 

「この人はアンブレラのタイラントじゃないわ。むしろシェリーを助けるために協力してくれたのよ」

 

 と諭したおかげなのか、今度は逃げることはなかった。

 

「この人は、シェリーの母親のアネット・バーキンよ」

 

 クレアがそう言い、そして俺にいろいろと説明してくれた。ババァ研究者、いやアネットも補足をしたが。

 

 曰く、あのGはアネットの旦那であり、シェリーの父親『ウィリアム・バーキン』のなれの果てで、アンブレラの内ゲバでそのウィリアム・バーキンは襲撃され、その復讐としてG-ウィルスを自らに投与、襲撃者達をぶっ殺したのはいいが、とうとうあんなバケモンになってしまった……らしい。

 

 その話に関して俺は何も言うことは無い。

 

 家族を失って悲しいのはわかるが、ここの研究施設の連中がやってきたろくでもない研究でどれだけの人間が犠牲になってきた?人を人とも思わず、生体実験の材料にし、そして今回のこの事態だ。

 街にどれだけの人間がいて、どれだけの家族が、家庭があった?どれだけの人間が不幸になったと思ってやがる。

 てめぇらに悲しむ権利なんぞあると思うのかくそったれが。

 

 と言うのが俺の嘘偽り無き本音だ。

 

 だが、俺はその本音をぐっと飲み込むしかなかった。

 

 なぜなら幼い少女の意識が戻っていたからだ。

 この少女にとって、この贖えぬ罪を背負ったババァは母親であり、幼いこの娘の前で言うわけにはいかない。

 たとえ後々にこの子も自分の両親の罪のとばっちりを受けるとしても、俺は今、この少女を傷つけるような事はしたくなかった。

 

 これは医療人の端くれとしてのわずかばかりかのプライドだ。医療の現場ではなく俺は研究の現場を選んだが、だがそれでも俺はペーパーとはいえ医師免許を持ち薬剤師の免許をもった医療人なのだ。

 

 故に、俺は何も言うことはない。

 

 

 




 量産型タイラントが弱い?いえ、主人公がやたら強いのです。

 なお、ゲイの大佐ではなくセルゲイ大佐な?ホモでもないぞ?

 なお、主人公にロリコンの気はない(安心)。


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悪の組織のお約束・基地爆破。

 ギャグを挟む余裕がなかったよ……。

 タイラントくんは、おとなしくタイラント制服でかくされた出て来れないんだ。しかたないね。

 なお、施設爆破はハンクさんのせいなのかエイダのせいなのかどっちなんでしょうね?うーむ。

 レオン君、やっとこ登場(映像だけだけど)。や


 心にわだかまりはあるが今はそれに捕らわれている場合ではない。

 

 俺達は核攻撃が実行される前にここから、そしてこの街から脱出せねばならない。流石の俺も真面目にならざるを得ない。いや、いつも真面目だけどな。

 

 ってか、なんかサイレンと共にアナウンスがデカい音で鳴り響き始めた。

 

『レベル4ウィルスの不正持ち出しを確認しました。施設封鎖を開始します』

  

……?!

 

『警告・自己破壊コードが入力されました。中央エレベーターより最下層のプラットフォームに至急避難してください』

 

「おい、これってまさか……」

 

「自爆装置が作動したのよ。何者かがG-ウィルスを施設外に持ち出そうとしたのよ。まさかこんな時に!!」

 

 アネットが顔を真っ青にして言った。それは自爆装置が作動したからなのか、レベル4ウィルス、つまりG-ウィルスを何者かが持ち出した事からなのかそれとも両方なのか。

 

「Gウィルスを持ち出したって誰が?!」

 

 クレアも顔を青くしている。

 

 あれがもしも使われでもしたらマジでシャレにならん。俺だって……いや、俺は最初から顔色青かったわ。うん。だが、事の重大さは理解している。

 

「……おそらくアンブレラのエージェントか、他社のスパイか。わからないけれど、この騒ぎに乗じて侵入してきたのね……」

 

『爆破まで、○○○分。爆破まで○○○分』

 

 アナウンスは容赦なく無機質に繰り返し繰り返し爆破予告時間を俺達に告げる。G-ウィルスを誰が持ち出したのかを確認する時間の余裕は、俺達には残されていない。

 

「もう犯人をどうこう言っている時間の余裕は無いみたいだぞ。早く脱出しよう。話はそれからだ!!」

 

 俺は急いで床に置いていたズタ袋を背負い、そしてシェリーを左手に抱きかかえ、中央エレベーターへと向かった。 

 

 中央エレベーターの電子キーはアネットが持っており、アネットの話によるとここから行ける最深部には非常時に脱出するための列車があるらしい。

 

 俺達は難なく中央エレベーターへと乗り込めた。

 

「アンタ、アンブレラの幹部だったのか?」

 

「……夫が幹部研究員だったのよ。私は家族……だったから」

 

 目を伏せ、途切れるように言うアネット。俺は、だった、と過去形で言われる事が引っかかった。

 

 確かにアンブレラの研究員はおそらく死ぬまで、いや死んでからもずっとこの未曽有のウィルス災害を引き起こした罪を問われ続けるだろう。だがどんな奴にも家族はいる。死んだからと言って過去にするのは間違いではないだろうか。

 

「今でもアンタらは家族だ。ずっとな」

 

 言ってから、しまったと思った。こいつらはスペンサーの手下だ。それに情けをかけるなど俺らしくも無い。

 

 仏頂面でいると、クレアが俺の顔を覗き込んで来た。

 

「いい事言うじゃない」

 

「……当たり前の事だと思うが?」

 

 俺は仏頂面を崩さず言った。というかなんかやたらとクレアは俺に馴れ馴れしく接するようになったが、一応、おっちゃんこれでも君より十歳くらい年上なんだからねっ!

 

……なんかニマニマと笑われた。

 

 エレベーターが下に着くと、そこからが大変だった。

 

 脱出用の列車に行くには非常通路を抜けて行くのだが、そのルートを示したマップを見るになんとなくこの研究施設の設計者は多分幹部連中になにか思うところがあったのではなかろうかと勘ぐってしまうほどに入り組んでいた。

 

 というか。

 

「何でこんなに複雑でハシゴ降りたりなんだりせにゃならんのだ?!これは脱出ルートだろ、おい?!」

 

 非常通路とは非常時には速やかに通れて待避出来ねば意味がない。

 そしてこの施設で想定されうる非常時とはウィルス流出によるバイオハザードであり、ゾンビやらバケモンがウヨウヨしとるような状況でこんな複雑な経路、到底逃げられんだろが。

 

……マジでこの経路を作った設計者は俺達を逃がす気ねぇだろ?!

 

 だが四の五の言っている暇は無い。俺達はとにかく駆け足で非常識な非常通路を進んだ。

 

 あちこちからわいてくる大量のゾンビをなぎはらい、犬のゾンビを蹴り倒し、脳みそ露出野郎の頭をぶっ潰し、植物系ゾンビみたいな奴を斧で薪割りしてやり、デカい二足歩行のウーパールーパーの頭を神速の槍でめった刺しまくって駆除しながら、それでも俺達は走る足は緩めなかった。

 

 アナウンスが『爆破まで○○分、爆破まで○○分』なんぞと言ってるがマジでこれ、人を焦らせて楽しんでるだろ、つーかこのアナウンスを担当した声優さんの事務所はどこだオラァ!!不幸の手紙送りつけまくるぞゴラァ(やめてさしあげろマジで)。

 

 まぁ、そんなこんなで脱出用の列車の所まで着けた頃にはみんなヘトヘトだった。

 

「一時はどうなることかと思ったがなんとかなったな……」

 

 さすがの俺もヘトヘトだ。だがまだ列車の軌道エレベーターをさらに地下鉄の線路のある所まで降ろさなければならなかったり、電源プラグを基盤に設置せねばならなかったり、まだまだやることがあった。

  

 というか、何でガトリングなんて物騒な武器が列車の制御室に無造作に置いてあるんだ?誰か答えを教えてくれ……いや、嫌な予感がするからやっぱいいや。

 

 どうせわんさかゾンビが押し寄せて来るんでしょぉぉ!!雪崩みたいにぃぃぃっ!!こんな重火器がこれ見よがしに置いてあるってそういう事だってわかってんだからぁぁぁっ!!もしくはなんかでっかい奴がくるんでしょおぉぉっ!!

 

 いや、マジで俺疲れてんな。うーむ、なんだろうな。今まで疲れなんぞ感じた事はなかったんだが。

 

 とはいえこれは列車に乗せとくのが吉だろう。使う機会は無い方がいいと思うけど備えは必要だろう。

 

「ええ。本当、ダメかと思ったわ……」

 

 クレアも額に汗して列車の制御盤を操作している。アネットも列車の車輪のストッパーを外の基盤で操作しに出ている。

 

 シェリーは、とりあえず先に列車の中に寝かせている。ワクチンを打ってある程度は回復してはいるが、本来まだまだあの子は無理をさせられない状態だ。

 

 と、ザザッ、ザザッと制御室のモニターに何か映像のノイズが走り、誰かが映し出された。どうやらそれは若い警察官のようでベストの胸の所に『ラクーンシティポリスデパートメント』と書いてある。

 

「レオン?!あなた一体どこにいるの!?」

 

 どうやらその警察官はクレアの知り合いらしい。

 

『クレア、よく聞いてくれ……ザザッ……ここはもう保たない!早く脱出するんだ!!……ザザッ』

 

「私達はもう脱出の準備をしているわ。レオン、どこにいるの?出来るなら早くこっちに合流して!もう時間があまりないわ!!」

 

 だが、そのレオンという警官は首を横に振り、

 

『俺のことはいい、クレア。早く脱出するんだ!』

 

 と言って、後ろを振り返り何かを確認すると焦ったようにその場を走り去って行った。そして去ったレオンの後ろから、ズン!ズン!と大股で追いかけるバケモン。

 

 それは炎をまとい、腕にデカい爪を生やした巨人。どう見てもそれは変異したタイラントだった。

 

 俺とクレアはお互いの顔を見合わせると、

 

「助けなきゃ!」「助けに行かんと!」

 

 と同時に言った。

 




・主人公の年齢は、クレアより十歳年上の三十路のおっさんです。

・アネットは老けて見えますが、だいたい主人公と同じか少し年上ぐらいの年齢ですかね。

・スーパータイラントさん登場。


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ケツほいランス~女スパイ捕獲。

 今回は、スーパータイラントのアッ♂的な下品な表現が含まれております。苦手な方はブラウザバックするか、飛ばして読んで下さいね?

 あと、文章の修正とかありがとうございます。また感想もたくさんいただいて本当に感謝しております。


 レオンという警察官がタイラントの派生型というのかなんなのか、火達磨になってて長い鉤爪を伸ばした奴に襲われている場所はこの最下層に降りてくる資材搬入用の大型斜行リフトの上だと言うことがわかっている。

 

 通常ならばリフトが降りてくるまで助けることは出来ないが、降りてくる間に常人なら殺されている可能性大である。

 

 だがリフトが降りてくるその傾斜角は45°。そんな急勾配を駆け上がるなんて常人には無理だ。

 

 ようするに俺しかいない。俺にしかそれは出来ない。

 

 俺は身軽になるために重いコートを脱ぎ、ズボンも外してふんどし姿になった。

 

 クレアは

 

「どえええぇっ?!」

 

 とか叫んだ。

 

 いや、すまない。だがこの服は防弾繊維やら金属やらが入ってて俺でもわりと重いのだ……って、何故に俺の股間をやたらチラッ、チラッと見とるのだ君は。

 

 前にふんどしが脱げた時も……。いや、まさかな。

 

 アネットはすかさずシェリーの目を両手でふさいだ。うん、そうだね、ようぢぉにふんどし見せるの教育上イク無いからね、ナイスおかん。グッジョブ。

 

 ほとんどの荷物を列車に置いて、最低限の武器、拾った消防斧、ダクトテープでパイプにナイフくくりつけた槍、そしてレオンに渡す用のデザートイーグルなどをズタ袋に入れて、そしてリフトの乗り口に向かった。

 

「……身体が少し重い。ウィルス駆除薬が効いてきたのか」

 

 さっきから感じているこの疲労感と身体の重さ。これはウィルス駆除薬の副反応だろう。それにあのコートが重く感じ、そしてやたらと暑くて正直我慢ができなくなっていたのだ。

 おそらく高熱が出ているのだろう。幸い寒気こそ感じないが、青白くなってしまったはずの俺の肌が発赤して普通の人の肌に戻ったみたいだ。

 

「……死ぬかも、知れんな」

 

 ウィルスで変異し過ぎた俺の身体にアンブレラの研究員が作ったレシピのウィルス駆除薬を投与し、そしてウィルスを除去したらどうなるのか。

 

 答えは死亡する、だ。

 

 だから、俺は自分が死なないように俺の変異した体細胞と血液をサンプルとしてウィルス駆除薬をしっかりと『デザイン』して『設計』した。

 

 幸いな事にアンブレラの機材は優秀であり、認めたくは無いが俺の計算通りの精度の薬剤を創ることが出来た。

 だが、どうやら俺の計算にミスがあったようだ。その証拠に俺の身体に出ている副反応のこの酷さよ。

 

 吹き出る汗が蒸気となり、まるで身体が燃えているようだ。

 

……いや、関係ない。

 

 死ぬとしても医学者としての俺のミスだ。受け入れるしかない。そしてどのみち死ぬならば助けられる者を助けられるだけ助けてから死のう。

 

 身体が、血が、滾るように熱い。この血潮が燃えるこの感覚。灼熱、これは俺の命の熱か。

 

 心臓がドクン!と大きく跳ね上がる。吐く息に蒸気が混じる。汗が水蒸気となってこの身にまとわりつく。

 

……最後までこの命を燃やし尽くし、僅かでも人を救ったのだと胸を張ってあの世に行こう。

 

 俺はリフトの発着口前に立ち、そして少し屈むとその足の筋肉に力を込めた。

 

 ドンッ!!と床を蹴り、その45°の斜面を駆け上がる。斜面すれすれの前傾姿勢、つま先だけで滑りやすい坂を掴んで速力を落とさず進む、上がる、登って行く!

 

 全身全霊のパワーを頼りに走る俺の身体が、より加熱してよりその身体から蒸気を上げる。だが、止まらない、止まるものか。

 

 駆け上がる俺の目に、リフトの底が見えてきた。

 

「うっし!!」

 

 俺は拳を超速で鉄板の坂に打ち付け、ぼっこぉっ!!と凹ませ、上がる勢いでその凹みに乗り上げ、さらに勢いつけて上にジャンプした。

 

 目標はリフトの手すりである。

 

 手すりに手が届くや否や、俺はさらに腕の力でリフトに乗り上げた。

 

 リフトの上では変異タイラントが床に膝を着いたレオンに爪を振り下ろそうとしており、俺は勢いのままその顔面にドロップキックをかまして吹き飛ばした。

 

「うらぁぁっ!!」

 

 衝撃さえ走るような会心のドロップキック。だが奴はゆらりと立ち上がった。だがフラフラしており、おそらくは脳震盪を起こしているようだ。そこへすかさず連撃を与える。

 

「すりゃあっ!!」

 

 どこん!!

 

 頭に腰の入ったフルスウィングのフックを食らわせる。

 

 奴の噴き出す炎は俺の噴き出す汗の蒸気のせいなのか全く熱くない。いや、熱などもう感じてはいない。

 

 それどころか、先ほどまで感じていた身体のだるさが消え、むしろキレが増していた。

 

「おっしゃあああっ!!」

 

 炎に臆さず、俺は奴の大きな爪の生えた腕をとって、受け身の取れない頭からブチ落とす一本背負いをかましてやった。

 

 ボコン!と奴の身体が頭から鉄板のリフトの床を文字通り突き抜けて刺さった。

 

「ふぅ、こういう奴は動きまわりやがるからな。動けなくすんのが楽に殺すコツだ」

 

 俺は振り返ってレオンに、

 

「大丈夫か?ほれ、救急スプレーだ。使え」

 

 と、救急スプレーの缶を投げて寄越してやった。

 

 レオンはスプレーを受け取ったが目を丸くしたままのなんとも間抜けな顔で、

 

「お、お前はなんなんだ?!タイラント……なのか?!」

 

 と聞いてきた。レオン君なぁそんな顔しながらちゃっかりと手だけ動かしてスプレー使うのな。いや、こういう根性でなければ生き残れないっつーことなんかな。

 

「T-ウィルスを投与されたせいでこんな身体になったが、俺は人間だ。お前、クレアの知り合いだろ?なら助けてやるよ。みんなで一緒に脱出だ」

 

 俺は手を差し伸べてレオンを立たせると、そして床に犬神家している変異タイラントを見た。

 

「見事にスケキヨだな。さて、どうすっかなぁ」

 

 とりあえずズタ袋の中からデザートイーグルを取り出してレオンに渡し、

 

「んー、斧にすっか槍にすっか、おお、そういや『T-ウィルス駆除薬』の残りも持って来てたか」

 

 ズタ袋の底に『T-ウィルス駆除薬』の滅菌ステンレスの容器があるのを見つけた。

 

 そして、床に埋まってジタバタしている変異タイラント。股間丸出しだが、コイツの股には有るべきモノが無い。いや、手術の痕があるのを見るに切られてしまったのか。

 

「クローン元がゲイだかホモだかなのに、お前はタマナシか。哀れよのう。だが死んでもらうのは変わりねーけどな」

 

 俺は槍を掴み、そして『T-ウィルス駆除薬』をその刃にだーーーっとかけた。

 

 レオンが、

 

「おい、何をするつもりだ?!」

 

 とか言ったが、当たり前の事を聞くんじゃねぇ。

 

 ジャラッ、と腹に巻いた鎖を解き、ブウン!!とジタバタもがく変異タイラントの足に巻き付かせ、そして手前に引っ張り、ケツを丸出しにしてやり。

 

「ケツを掘ってやんだよ、おらぁぁぁぁっ!!」

 

 T-ウィルス駆除薬を変異タイラントの粘膜経由で投薬するべく、槍をその菊の御門に向かって全体重をかけてぶっ刺した。

 

 ズンっ!!

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そりゃあ叫ぶわ叫ぶ。どのような生物でもこの弱い部分を一気に槍でぶっ刺されればたまらんだろう。

 

「ひぃぃぃっ?!」

 

 レオンが自分のケツに両手を当ててなんかめちゃくちゃ怯えていたが、まぁ、その気持ちはよーくわかる。俺だって本当だったらこんなんやらんしやられたくもないわい。

 

 だが、おそらくこれがベストの駆除方法だ。薬を粘膜吸収させつつ、さらに槍を心臓まで到達させる!!

 

「どりゃっ!!」

 

 さらに槍を力任せに押し込む。グボァァ!!と変異タイラントは床の下で何かを吐き出した。おそらく、心臓まで槍が到達し、さらには胃まで到達したのだ。

 

 では、とどめだ。

 

「おらっ、薬のおかわりだこのホモ野郎!!」

 

 じゃばぁぁぁっ!!

 

 ぶっ刺したところに薬剤をぶっかけてぶっ殺す!!

 

「ごぶぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 すると、じゅおぉぉぉぉぉっ、と奴のケツから大量の煙、いやこれは水蒸気か?が噴き出した。

 

「うへぇ汚ねぇなこりゃあ」

 

 水蒸気は勢いをまし、変異タイラントの身体はまるで風船が萎むかのように、いや、急速に水分を失って干物のようになっていく。

 

 そしてついには、変異タイラントはまるで日本のどこかのお寺に奉られているカッパのミイラのようになってしまった。

 

 床から槍ごとその身体を引き抜いてみると、ワラキアの英雄串刺し公もにっこり、変異タイラントの串刺しが出来上がっていた。

 

「タイラントの干物一丁、出来上がりってな」

 

 床に無造作に投げると、まるで木の棒を落としたような、カランという音がした。なんにせよこれで変異タイラントは死んだに違いない。

 

「あ、あんたものすごい事をするな……。というか、いつもあんな事を?」

 

「やるわけねぇだろ。表面が硬い奴を速やかに倒すなら柔らかい部分に攻撃を食らわせるのが定石だ。で、今回、ちょうど出てたのが奴のケツで、しかも偶然T-ウィルスを殺す薬が余ってたからな」

 

 確かに俺の作ったT-ウィルス駆除薬には欠陥、というかミスがあった。

 投薬した場合に発熱があるのはわかっていたが、T-ウィルスによって強化された肉体、その体細胞が起こす発熱のその強さを考慮に入れていなかったのだ。

 その発熱が、まさか投与された対象の肉体をあんな速度で干からびさせるほどの熱量を出すなど、全くの予想外だった。

 

……まぁ、奴がああなったのは駆除薬に適合してないからもあったんだろうがな。

 

 では、俺の場合はどうかと言えば。

 

 もうすでに、身体から噴き出ていた水蒸気は止まっている。喉はかなり渇いているが、だが身体の重さや倦怠感はすっかりとれている。

 

 おそらく死ぬ事はあるまい。多分。

 

「とはいえ生き残れたか」

 

 俺がそういうと、レオンは俺の独り言に、

 

「ああ、あんたのおかげだ。……やり方はどうかと思うけどな」

 

 と、言って苦笑した。まぁ間違いではないので訂正はやめておく。

 

「……手段はさておき勝てば官軍だ。さて……下に着くまであと10分か。このまま降りても脱出に間に合う計算だが……」

 

 ふと、俺はリフトの天井の、鉄骨の梁の上に誰か立っているのを見つけた。赤いドレスを着た女性で、デカいロケットランチャーを抱えている。そして怪我をしているのか肩で息をしているようだ。

 

 その女性が、レオンに向かってロケットランチャーを投げて寄越したが、どうやら怪我のせいで上手く投げれなかったようだ。

 

 ありゃ、あのまま落ちてくると……。

 

「レオン、危ない!」

 

 俺はレオンにそう言ったが、しかし疲労からかレオンは早く動く事は出来ず、モロに顔面でそのロケットランチャーを受け止めてしまった。

 

 ゴチン!!きゅう、パタン。

 

 しかし、あの赤い女性は何のためにレオンにロケットランチャーなんてものを投げて寄越したのか。

 

……つか、爆発物をあんな高さから落とすな。

 

 いいやそれよりもあそこにいたらあの女性は脱出に間に合わないだろう。覚えている限りあの場所から行けるのは吹き抜けになっている部分でそこからは通路も何もない行き止まりだ。

 

「一人助けるのも二人助けるのも同じだ!」

 

 俺はリフトから勢いつけて飛び出すと、また45°の斜面を走って登り、そして赤いドレスの女性のいる梁に飛び移った。

 

「くっ!!」

 

 その女性は拳銃を俺に向けてすぐさま撃ったが俺はジャンプして紙一重で避け、そして捕まえた。

 

「俺がレオンを襲っていると勘違いしたようだが、俺は敵ではない。つか、お前の投げたロケランのが奴に深刻なダメージを与えたぐらいだ。とりあえず脱出までもう時間の猶予はない。このままでは施設の爆発に巻き込まれてお前まで死んじまうぞ?」

 

「……化け物に心配されるなんてね」

 

「化け物でも若い命が失われるのを見るのが嫌なタチなんでな。それに俺は助けられる奴は助ける主義なんだ」

 

 そりゃっ!と肩に抱えて腕で女性をホールドすると、俺は斜面に向かってジャンプ。膝を使って出来るだけ女性に衝撃を与えないように柔らかく斜面に対して垂直に降りると、そのまま斜面をスキーのように滑ってまたリフトへと戻った。

 

「着地成功、だ」

 

「……あの、下ろしてくれないかしら?」

 

 リフトの上に戻っても下ろしてやんねぇ。何しろこの女性からは嫌な臭いがする。いや、この女性自体の匂いは割りかしいい感じだ。

 とはいえ俺の好み的には外れる。やっぱり今のところクレアの尻の匂いが一番ええ感じやなぁ。

 

……いや、そういう事じゃなくて。

 

 この女性が持っているものから、嫌な臭いがしてくるのだ。おそらく常人ではわからないほどに微かな臭い。この臭いは……。

 

「というか、君、離したら逃げる気だろ?それにその臭い。そうか、君がG-ウィルスを施設の外に持ち出そうとした張本人か」

 

 そう、G-ウィルスの臭い、というか気配だ。ああ、合点がいった。つまり、この女性のせいで施設の自爆プログラムが作動したのだ。

 

「あら、臭いでウィルスがわかるというの?興味深いわね。というかアンブレラは知能強化型のタイラントの製造に成功していたというの?」

 

 なかなか賢しい奴だ。話を逸らしながらこっちを探って来る。さらにこっちのスキを虎視眈々と伺ってるくせに全くおくびにもそれを出さないときた。

 それにおそらくかなり身体スキルも高いと見える。バランスのとれた身体をしているのもわかる。それにおそらくは美容にもかなり金を使っているのだろう。ああなるほど、コイツみたいなのは昔に何度か俺んところにも来たぞ。

 

……まぁ、コイツほど剣呑な奴らでは無かったが。つまりこの女は。

 

「女スパイと言うわけだ。今まで俺は女スパイって言うのは美人局専門かと思ってたわ。うん、よくお隣の国の産業スパイが俺のとこに来たからねぇ。あと俺のスキを突こうとしても無駄だ。さっきから君は俺の力を逸らしながら逃げようとしてるけどね、残念なことに俺の腕からは逃げらんねーよ?つか、わかってるだろうけど」

 

 女スパイはどうやら怒ったのかそれとも図星だからなのか黙りこくった。

 

「ま、俺は単にT-ウィルスを投与されてこんな身体にされた被害者だ。ま、ここの職員でもアンブレラの命で動いてるわけでもない。つーか奴らのいうことなんか死んでも嫌だ。君は……なんでレオンの顔面にロケランを投げつけたんだ?あーあ、なかなかのイケメンなのに鼻血だしてまぁ」

 

 レオンはまだ気絶して伸びたままだ。鼻血を出してる辺り非常にシュールである。

 

 女スパイは黙秘権の行使とでも言いたげに何も言わない。

 

 くんくんくん。

 

 だが匂いは雄弁である。俺の言葉で揺さぶられたらしいが、なかなか正直に感情がわかる。ふむふむ、なるほどなるほど。

 

「危機的状況。出会った二人。困難を二人で乗り越え進んだ。でも私は女スパイ、この人と行けないわ。でも、このままではこの人が殺されちゃう。だから最後に助けたい。……なるほどなるほど、レオン君もやりますなぁ、いやぁおじさん感激!若い二人に乾杯!」

 

「くっ!!」

 

「あ、図星?図星?」

 

「はーなーしーなさい!!」

 

 ジタバタジタバタともがく女スパイ。恥ずかしかった?恥ずかしかった?

 

 もがく女スパイの身体の感触を肩で楽しみつつ、俺はお目当てのものがどこにあるかを探った。

 

 ふむ、肩に当たるこの感触。なるほど、G-ウィルスはそこか。

 

 俺は女スパイが反応出来ないほどの早さでその身体を床に下ろすと、これまた素早く女スパイの胸ポケットからG-ウィルスの入ったカプセルを奪い取り、そしてまた女スパイを再び肩に担いだ。

 

 この間、たった三秒。

 

「な、何をしたの?!」

 

 女スパイは全く何をされたのか理解出来ないようだった。

 

「ん~?離してやったんだ。たった1、2秒ほどな。だが、残念。逃がしてやんないよー?」

 

 くくくくく、と悪戯っぽく笑ってやり、そして屈み込むと気絶したレオンも反対の肩に担ぎ上げ、

 

「ほれ、愛しのレオン君も反対の肩だ。一緒に仲良く脱出しようね?はははははは、聞きたいこともたくさんあるから後でみんなで仲良く話そうね?なに、列車で逃避行なんてのも乙なもんさ。特におじさん、レオン君のどこが良かったのかが聞きたいなぁ、はははははは」

 

 と言ってからかってやった。いやー、なんかこの女スパイをからかってるとめっさ楽しいなぁ。何でだろな?ははははは。

 

 いやー、生きてるって素晴らしいなー。若いって素晴らしいなー。おぢさん本当にそう思うよ。

 

……まぁ、リア充爆発しろ、とか少し思ったりもするけどな?いや、マジで。

 




 レオン君を助けた主人公。そしてエイダちゃん捕獲。

 そしてレオン君を助けようとしたばかりにエイダちゃんは主人公にいぢられる事になったわけですが、まぁ……モロ出しを見るよりは、ええんじゃない?(今後無いとはいわない)


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列車で豪っ。

 まぁ、ゾンビ映画で脱出といえば、古典的ゾンビ映画だとヘリで脱出(ロメロ作品)なんですが、カプコンのヘリ、なんですぐおちてしまうん?

 ラスボス?そんなもんとっくに倒しちまったよ。やっぱゾンビ作品の締めは押し寄せるゾンビの群れやろ。

 あと、お約束。


 

 やはりというのか必然というのか。

 

 俺が手はず通り列車の発着口へと到着したらゾンビの群が押し寄せていた。

 

 ヴモォォォォォォッ!!ヴモォォォォォォッ!!と牛が鳴くようなモーター音をさせてクレアが列車の屋根の上で必死にガトリングーーー俺の肩の上のレオンが言うにはミニガンとかチェーンガンとか言うのが正しいそうだーーーをぶっ放してゾンビ達をなぎ払い、列車に近づけないように抑えているが、しかしどっからこんなにわいてきたんだと思うほどにゾンビ達は大量であり、いくら弾があっても足りそうになかった。

 

 俺は二人を肩から下ろし、おそらく天井から落ちて来たのだろう、床に転がっているデカいH字鉄骨を片手で掴み、西洋の騎馬のランスのように小脇に抱えると、

 

「レオン、それとスパイちゃん。俺が突っ込んで道を作るから、俺の後ろから列車まで走れ」

 

 と言った。

 

「あ、アナタがタイラントとは言ってもあのゾンビの群れに突っ込んで無事に済むとは思えないわ。無茶よ!」

 

 レオンが何か言う前に女スパイちゃんが何故か心配そうな顔をしてそういう。

 

「そうだ、エイダの言うとおりだ。何か他に……」

 

 レオンがデザートイーグルをゾンビの群れに構えつつ、言ったがそれには構っていられない。

 

「他の方法なんぞねぇ。クレアのガトリングの弾が尽きたら全てが終わっちまう!四の五の言わずについてこい!!吶かぁぁぁぁん!!」

 

 日本男児の突撃ならばやはり掛け声は吶喊であろう。進軍ラッパがトテチテターと鳴らされそうなくらい古典的、だが燃える。魂的に。

 西洋人と女性がおるんやが?というツッコミは受け付け無い。

 

 情け無用の問答無用、我が駿馬は我が脚、我が槍はこの鉄骨とばかりに俺は列車に群がろうとしているゾンビの群れにフルパワーで突っ込んだ。

 

「長い鉄骨にはこういう使い方もあるんだぁぁぁ!!」

 

 なんぞとぶち当たれば重い鉄骨の先は衝撃を伴ってゾンビの群れを文字通り一列に吹き飛ばし、あたかもモーセの十戒の海割りの如く列車までの道を作った。

 

「オラ、とっとと走れ!!全速力で列車に乗り込め!!」

 

 俺はそう叫び、また押し寄せようとするゾンビ達に鉄骨を横なぎに振るい、連続フルスイングをかます。

 

 ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん!と力任せに鉄骨を振る度に大量のゾンビが砕け散っていく。

 

 一振り大体二十体を吹き飛ばすスイングの連撃、しかしゾンビ共の勢いは止まらない。ふざけんな、どっからこんだけわいて出てきやがったんだ、クソッタレ!!

 

 レオンと女スパイ……エイダって言ったか?が列車にたどり着き、乗り込んだのを確認すると俺は列車の運転席に座っているアネットに聞こえるように大声で、

 

「列車を出せ、早く!!」

 

 と言った。もうクレアの撃つガトリングの音が止んだ。弾が尽きたのだ。

 クレアは思い切り弾の尽きたガトリングをゾンビ達に投げつけ、そしてM-16に持ち替えて応戦するが、明らかに抑止力がそれでは足りない。列車に乗り込んだレオンとエイダが連結機から銃を撃ち援護するが、それもこのゾンビの数では焼け石に水だ。

 

 列車が動き出した。ガコン、ガコン、と連結機を引っ張る音とディーゼル発動機の駆動音がガシュン、ガシュン、ガシュンと鳴る。

 

 ゆっくりと、しかし確実に列車は速度を上げてプラットフォームから離れていく。

 

「アナタも早く乗って!!」

 

 クレアがライフルを撃ちながら叫ぶように言うその声に

 

「応っ!!」

 

 と応え、俺はゾンビ達を吹き飛ばしながら、鉄骨の先を床に叩きつけるようにぶっ刺すと、棒高跳びの要領でクレアのいる列車の屋根に飛び乗った。

 

「良いわ!アネット、列車を飛ばして!!」

 

 クレアは大声でそういい、列車はすぐに加速を始めた。

 

「ふう、なんとかなった、か……」

 

 俺は息を深く吐いた。さすがに心底疲れた。正直疲れた。だがこれで脱出だ。

 

「お疲れ様。最後のはきつかった……。というかダメかと思ったわ……」

 

 クレアはペタン、と列車の屋根にへたり込むように座り、そう言った。

 

「ああ、クレアもお疲れ様、だ。しかし一体どこからあれだけのゾンビがわいたんだろうな、マジで」

 

 俺は首を捻り考えるがそんなもんわかるはずもない。ただ、ゾンビ達の服装を見るにあれは研究所の職員とかでは無かろう。

 おそらくは地上にいたゾンビがどこからか入ってきたとしか考えられないが、あんな入り組んだ構造の地下研究施設の最下層までどうやってあんな大量のゾンビが地上から来れるってんだ?

 

……研究施設のどこかにすぐに外に出られるような隠しハッチとかがあって、アンブレラの連中が俺達を抹殺するために遠隔で開けてゾンビ共を誘い込んだ?……とか考えて、まさかなぁ、と思うも、どう考えても一番考えられるのはそれしかない。

 

 もしそうなら、奴らは俺達を監視していると言うことになる。

 

 結論。列車の終着点で待ち伏せされている可能性大。

 

……次の敵は人間か。厄介だな。

 

 おそらく、対俺用の兵器の投入もありうるだろう。奴らは量産型タイラントでは俺の相手にはならないことももう知っているはずだ。

 

 装甲車両、いや戦車や対地ヘリを投入……。そうだとすれば、ラクーンシティを調査する名目で投入されるはずの米軍に偽装した部隊……いや、奴らの息のかかった軍人を使う、か。

 

……厄介極まりなさすぎる。

 

「まぁ、考えても仕方ないわ。あ~、風が気持ちいい~」

 

 クレアは革ベストを車内に置いてきたのか今は脱いでおり、タンクトップ姿で、それは汗でぴっちりと身体に張り付いている。

 

 いや、考えろや、と思ったがしかしそのクレアの無防備な姿に俺の目が釘付けになった。

 

……ぽっちがしっかり浮いてる、とか注意するのはセクハラだろうなぁ。しかし形良いよなぁ。風に乗ってクレアの汗の匂いがこっちにめっさ来る、って風下だから当たり前か。ぬぅ、意識してはいかん。ここは紳士的に、だ。くんかくんかしてはならぬ。

 

 タイラントくんがおっきし始めて、

 

 『よーんーだ?(むくっ)』

 

……呼んでねぇよ。つか、むくっ、じゃねぇ。

 

「……クレア、今は暑いだろうが、そんな汗だくでずっと風に当たってると風邪を引くぞ。それに基地が爆破されればその爆風が列車まで到達する可能性が高い。早く車内に……」

 

 そう俺が言った時。

 

 ぶちっ、と布が切れる音がした。

 

……あ、デジャヴ。

 

 はらりひらりと、白い布が風で飛んでいく。

 なんか焼け焦げた部分が妖怪一反木綿の目と口に見え、それが笑っているように一瞬、見えた。

 

 リフトで変異タイラントと戦った際に奴の身に纏う炎は確かに俺には効かなかったが、しかしただの布であるふんどしはその炎に耐えられなかったようである。むしろよく今まで耐えていた、いや、何故にもう少し耐えてくれなかったのだ。

 

 モロリっ。

 

 ちょうど俺のタイラントくんはちょうど座っているクレアの顔面で元気に『こんにちわー』。

 

「キャーーーっ!!出ぇたぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 クレアの悲鳴は嫌がってるからか何なのか。なんか目が笑ってるように見えるの何で?!というか凝視すんのやめてぇぇぇぇ!!つか何で身を乗り出してマジマジと顔近づけて見てんのよ、この娘っ?!

 

「いーやぁぁぁぁっ!!見ないでぇぇぇぇ!!」

 

 ああ、またこのオチかよぉぉぉっ!!

 

 そんなこんなで、俺達は脱出出来たが、まだその先には苦難が待ち受けている事が予測される。

 

 俺達の明日はどっちだ?!

 

……まだまだ続きます、ええ。

 

 




 なんか、ラストのはずが長くなったので分けました。
  
 厄介なのはゾンビでもクリーチャーでも無く、人間が一番厄介なのです。本当は。

 あと、タイラントくんはやはりオチ要員。


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フンドシマンはつらいよ~脱出算段。

 やあっ、俺は日本からやってきたスーパーヒーロー『フンドシマン』だっ!!

……子供の夢は、壊しちゃダメだよね、という話。いや、それだけじゃないけどさ。


 

 おっちゃんなぁ、なんやクレアちゃんにやたらタイラントくん見られとるんやけど、なんでああいうときに限ってクレアちゃんおるん?俺、なんかバチ当たるようなこと、したんやろかなぁ。つか、クレアちゃんやたらとマジマジ見とったんやけど、やっぱりクレアちゃんも性に興味が出るお年頃なんやろか。つかあかんて、おっちゃん、女の子はやっぱり慎みとかそんなん大切にせんとあかん思うんや……。

 

 はっ?!

 

 いかんいかん。あまりのショックに体育座りして、るーるーるるーなどと歌っていてはいかんのだ。

 

 まだまだ俺達に降りかかる災難は終わっていない。そして最も最悪な厄介事が脱出出来たその時に起こるという予測が立ったのだ。

 

「予測で立った……うん、すごかった」

 

「いや、そうじゃない」

 

 クレアは両手を頬に当てて紅潮した顔でいやんいやん。

 

 そんなクレアをシェリーとアネットは変な物を見るかのように……いや、変やけどな?……見ている。

 

「……ダメだ、ポンコツになっとる」

 

 俺はがっくりとうなだれた。いや、一番君がしっかりしとったハズやのに。

 

「そういえば、アネット、レオンとエイダの姿が見えないが?そろそろこの先頭車両に来ないと後ろはヤバい」

 

 運転席のアネットに聞いてみる。

 

「……あの若い警官が話があるとあのスパイを後ろの車両に連れて行ったわ」

 

 アネットは忌々しい、と吐き捨ててそう言った。アネットからすれば企業スパイのエイダはG-ウィルスを盗み出しに来た泥棒であり、そりゃあ忌々しい存在だろうが俺からすれば俺をこんな身体にしたT-ウィルスを研究していたあんたら研究者は俺にとって忌々しいけど、それに関してはどう思ってんだ、おい。

 

 無論、幼いシェリーの前では言わない。子供には関係無いのだ、そういうのは。だが、子供の前でそういう事を言えばそれは大人になったときに良くも悪くも影響するのだ。子供は親の映し鏡なのだから。

 

「アネット、出来れば娘さんの前ではそう言うことはあんまりいわない方がいいと思うぞ。気持ちはわかるが」

 

 この場合の気持ちはわかる、は俺も『あんたに対して忌々しいと思っている』という意味も含む。俺は聖人じゃない。

 

「……そうね」

 

 アネットはそういい、側に来たシェリーの頭を撫でる。

 

……俺もアンブレラの関係者と言えば関係者である。

 

 とはいえ、元々俺は一年前にアンブレラ日本支部に買収され子会社化した日本の小さな製薬会社である『ハチマン製薬』の研究者だった。

 

 それでも世間は俺をアンブレラの研究員と見るのだろうな。正直、先代のハチマンの社長が亡くなった時に辞めるべきだった。もしくはあの今のクソ社長がアンブレラに会社を売り渡した時に。

 

 長年の伝統、明治時代から続く日本の『ハチマン製薬』。『蚊に刺されたかゆいかゆい、ハチマン・カンキツ塗りましょう~、すーっとすっきり、ハチマンカンキツ、いい薬~♪』とか『冬のあかぎれ湿疹に、ハチマンH軟膏』とか、日本の皆様なら聞いたことのあるフレーズだと思う。

 

『人の命を直接救うような薬は作っていないが、人の生活に寄り添うハチマン製薬』。それが社訓だった。

 

……先代が亡くなる前に

 

『君がいなくなれば歴史あるハチマンは終わる。頼める筋合いではないが、息子を支えてやってくれないか』

 

 と言われ、俺は会社に残った。先代には恩がある。だが……。いや、言うまい。時は戻らないしどうしようもない。

 

……とはいえいずれあのバカ息子に落とし前はつけさせてもらうが優先順位はかなり低い。

 

 いや、それは今考えるべき事ではない。今は生き残る事を優先せねばならないのだ。

  

 俺はアネットに二人を連れてくると言って後ろの車両へと行った。

 

 あの二人が一番後ろの車両に行ったのは、おそらくクレア達に聞かせたくない話があるからなのだろう。まさかイチャコライチャコラはしとらん……と、思いたい。よしんばイチャコラしとったとしてもとっとと先頭車両に連れて来ねば最後尾の車両は危険なのだ。

 

 みんな忘れているかも知れないが、施設は爆破されるんだぞ?つーか、かなりのスピードのこの列車は走っているわけなのだが、あの規模の施設が爆破されるとして、さてこの列車はどこを走ってるでしょうか?

 

 答:深ーい地下の、細長ーい密閉空間。

 

 簡単に説明すると、拳銃とかライフルなどの銃火器を想像してくれたまい。火薬が爆破するところがあって、そしてバレルがあるじゃろ?で、それを例えて、火薬が爆発するところが、研究施設で、バレルがこの列車が走っているこの地下の線路内。

 

 俺の計算では勢いよく爆発した施設の燃焼ガスは確実にこの列車のところまで来るだろう。

 

 ゆえに運転席のアネットには最大速度で飛ばしてもらっているわけだが、俺の計算では最低でも摂氏1200℃ほどの熱と爆風がここまで来ると出ている。

 

 さらに破片も飛んでくる。燃焼室とバレルの間にある瓦礫やらなんやらが弾丸と言うわけだ。

 

 で、後ろから三両の車両は先頭車両の盾であり、弾避けとなるわけだな。ああ、三両の車両を捨ててもっとスピードを上げれば?と思った人もいるかも知れないが、残念な事にこのディーゼル車には事故防止の、ある種のリミッターがあるから軽くしてもさほど早くはならないし、牽引する車両が無ければ安定しないし、さらには置いて行った後ろの車両のでっかい破片などが爆発でこっちに勢い良く飛んでくるまであるのだ。

 

 つまり、そういうことなのだ。

 

 後部車両に入ると、

 

「では、君はトライセル社のスパイなのか?」

 

 などと警察官であるレオンがエイダを問い詰めていた。いや、警官プレイとかそんなんではなく、彼は本職の警官で正義に燃えるタイプの『ひよっこ』警官なのだ。

 

「アンブレラの開発した新型のウィルスを奪取するのが私の任務だった。失敗しちゃったけど」

 

 レオン君は悪い女に騙されるタチだなぁ。めっさ虚偽の供述をしとるぞ、それ。しかもエイダはとても楽しそうだ。つか遊ばれとるがな。

 

 正直、レオンには警察官として新人故にスキルが足りていない。いや、エイダちゃんのが上手過ぎるとも言えるだろうが、レベル差とすればレオン君がだいたいレベル25の冒険者、エイダちゃんは中ボスの四天王よりさらに上のラスボス側近クラス、だいたいレベル70くらいだ。

 

 冒険者のレベルが70でも、ボスキャラが70の場合苦戦を強いられると言うのに(例外はあるが)、そりゃあレオン君がかなうわきゃないわなぁ。

 

……つうか、ボスキャラが低いレベルの冒険者に恋をした、的なラブロマンスなんよなぁ、こいつら。

 

 エイダの頭に長い悪魔の角とか生やしても似合うきがする。

 

 エイダは所々に嘘を入れ、しかも尋問している人間のミスリードをワザと誘うような話し方でレオンを振り回している。

 

 人を騙すコツはうまく真実に嘘を混ぜることだと言われるが彼女はそれを巧みに実践しているし、おそらくこうして尋問されたときの為にしっかりとカバーストーリーを作っており、さらには聞かれることを想定してどう答えるかまで想定して用意しているのだろう。

 

 おそらく、俺に『スメル・センス』という特殊能力が備わっていなければレオン同様、彼女の嘘は見抜けていない自信がある。なにしろ俺は警察官でもスパイでもない、ただの水虫の研究員なのだからな。

 

 しかし、昔に俺の水虫薬を盗みに来た女スパイとはエラいちがいだ。エイダがレベル70ならアレはレベル1……未満かもしれない。

 

 昔に俺につきまとって来た美人局系女産業スパイなど、どこの恋愛シミュレーションゲームを見て研究してきたんだというぐらい設定盛って来て、そりゃあもう怪しいどころの騒ぎじゃなかったからなぁ。

 

 まず、俺の職場の付近には全く高校なんぞなく、さらには外国人学校もなかったわけだが、そんなところでセーラー服を着た女子高生が出没し、パンを咥えて

 

『遅刻、遅刻アルー!』

 

 と言いながら真っ直ぐの道を走って来て、避け続ける俺に、あたかも追尾ミサイルの如く突進してくる中国人女性なんぞ、誰だっておかしいと思うだろう。

 

 つうか、通勤の電車でやたら会ったり、アパートの近くのコンビニで待ち伏せされたり、昼に飯を食いに行った中華料理屋にいたり、『偶然アルね!』。

 

 そんな偶然あってたまるか。

 

 しかも

 

『私の父が不治の病で……。頭に水虫がわいて、お医者さまの話じゃ、あと半年保つかどうかわからない……アル、の事よ?(ちらっ)』

 

 なんぞと言いやがる。

 

 水虫が頭にわいてたまるか。というか水虫は虫じゃなくてカビの一種だと指摘したらいきなり癇癪起こして中国製の消音機構が仕込まれた25口径の銃を俺に突きつけ、

 

 『あーもう、めんどくさい!!オマエ、とっとと薬を寄越せ、この冬瓜(ドングァ)!!』

 

 と言い、俺のズボンのポケットからブドウ糖補給用に持っていたお菓子の錠剤型のラムネを盗って行きやがったわけだが普通は開発中の薬を持ち歩く奴はおらんやろ。アホか。

 

 その後、そいつとは二度と会うことは無かったが多分上司に怒られて任務から外されたのだろうなぁ。

 

……まぁ、あのアホとは比べものにならない、というか比べては思い切り失礼と言うものだろう。彼女はハイスペックな女スパイかつ工作員だ。

 

 あのアホな鶏ガラ胸のオカチメンコとは違って胸にパッドなど入れず、また手術なんぞもしていない。尻も同様だ。これで匂いが完璧なら俺も危なかったかも知れんが、裏の世界に身を置きすぎて荒んでしまった感じのそういう匂いはどうしても出てしまうのだろう。

 

……その荒んだ匂いは嫌いなんだよなぁ。

 

 とはいえ、レオンといるときは何故かその匂いはやや晴れて、なんというかいい感じになるのだ。シェリーにチョコをやったときに感じる匂いと似た、これは嬉しいという感情の匂いかも知れん。  

 

……エイダちゃんの好物はレオン君か。なるほどなるほど。

 

「いいや、君を雇ったのは『H.C.F.』だろ。顔に書いてあるぞ」

 

 俺がレオンの後ろからそう言ってやった。当てずっぽうだが、果たしてエイダの顔、いや匂いは驚いた時に良く出るものに変わり、そして怒りの香りが混ざる。

 

「やっぱり、アナタ何者?普通の……いえ、タイラントだけど、まさか御同業がバケモノに転職したの?」

 

……ビンゴ。なるほど、『H.C.F.』か。

 

 医療系、それもアンブレラと対立し、そして規模的に対向出来る企業は多くない。そしてあまりいい噂を聞かない会社を絞れば、アンブレラと比べれば若干規模は劣るもののトライセルとH.C.F.ぐらいとなる。まぁ、エイダは中華系なので中華人民共和国そのものという線も考えたが、どうもエイダの雰囲気はそれではない。

 

 エイダの言葉にレオンは緊張を走らせて振り返って俺を見る。いや、俺は敵じゃねーぞ、こら。

 

「まさか。俺の直近の目的はおまえ等を先頭車両に呼びに来た、ってところだ。時計を見ろ。もうすぐ施設の爆破のタイムリミットだ。地下線路で加速された燃焼ガスで丸焼けになりたくなかったらとっとと来い」

 

 俺は二人を連れて先頭車両へと戻った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……で、あんた何者よ」

 

 エイダは流石にしつこい。移動している間も今も何度も聞いてくる。

 

「日本からやってきた正義のスーパーヒーロー、フンドシマンだよ?服を脱いでパワーアップ!」

 

 スパイにわざわざ言うわけねーだろ。つーか流石に俺という存在の価値は自分でも理解している。

 

 アンブレラはあのアホなタイラントを現時点では、だが完成型みたいに扱っている。あんなん造るために1000万人に一人の適合者をわざわざ探し出したぐらいなのだ。

 

……たしか、ゲイとかホモとかなんとかいうロシア系の軍人だっけか?

 

 なら、奴らにとって俺の価値はいかほどだ?で、それを知った他社はどうすると思う?

 

 ああ、非常に厄介過ぎる。アンブレラだけでも厄介なのに他社まで出て来たらスペンサーの居場所を探し出してぶっ殺すのに支障をきたしてしまうではないか。

 

「必殺技はフンドシフラッシュとケツほいランサーだよ?」

 

 フンドシフラッシュの辺りでクレアが何故かゴクリと喉を鳴らし、ケツほいランサーの辺りでレオンが自分の尻を守ろうとしたが、そんな事はどうでもよろしい。つかおまいらって……。

 

「ふざけないで!」

 

 エイダはなおも詰め寄るが、そんな事を話すためにここにみんなを集めたわけではない。無論、施設爆破の噴射ガスを避けるためもあるのだが。

 

「……まぁ、おふざけはここまでにしよう。まぁアンブレラとその他のライバル企業に俺の存在がバレるのは時間の問題、というか少なくともアンブレラはもう知っているはずだ。それも俺達の今後に影響を与える可能性は大、と俺は考えている」

 

 俺は、声のトーンを落とし、感情のない無機物のような感じで淡々と話し始めた。

 

「奴らは俺達が列車に乗って脱出しようとしている事を知っている。地下研究施設にあれほどのゾンビ、いや人間はいなかったはずだ。それにあのゾンビ達の着ていた服装は研究員でも警備員でもなんでもない、普通に街の住人が着ているようなものだった。つまり、他の出入り口……搬入口のような大型の直通の通路か何かが存在し、何者かが俺達の脱出を阻止するためにそこを解放した、と俺は考えている」

 

 アネットはゾンビの入り込んで来た直通ルートに心当たりがあったようだが、

 

「一体、誰が?ハイヴのメインコンピューターにログインしなければ無理だし、緊急事態の時にそれが出来る人間は上層部でもごく限られた人間でしか……!」

 

 俺はアネットの言葉を遮るように言った。

 

「アネット、それは安全を確保出来た後に考えるべき事だ。まだ俺達は危険地帯のど真ん中にいる」

 

 今は誰がどのようにしてゾンビを列車のホームに招いたなんて考えても仕方がないし、今必要なのは生存して奴らの手から逃れるための算段を立てる事だ。

 

「つまりアンブレラ上層部の奴らに俺達の生存はバレているって事だ。で、次に奴らはどんな行動をする?一番やりそうな事は、事件の調査に押っ取り刀でやってきた軍隊に擬装して、もしくはアンブレラの息がかかった軍隊が脱出口で待ってるってのが俺の予想だ。俺達は脱出するのに疲弊していて、かつ脱出の喜びで気も抜けてる。奴らにとってはさぞかし狙いやすいだろうな」

 

「そんな……!戦うにしてももう銃の弾も残り僅かだわ。それに軍隊相手なんて!」

 

 さっきまでいやんいやんしていたクレアがようやくまともになった。というか君、出会った最初はそんな子やなかったやろ。危機的状況のストレスやろかなぁ。

 

「何か交渉は出来ないかしら。せめてこの子だけでも……!」

 

 アネットはそう叫ぶように言う。だがエイダは冷ややかに、

 

「交渉というのは、対等の相手同士で行うものよ。優位のハンターが弱った獲物の命乞いなんて聞くとでも?」

 

 といってまるで他人事のように否定した。まぁ、この女スパイは途中で俺達をほっぽりだして逃げるつもりなのだろうからそうなのだろう。この余裕ありそげな態度とこの匂いでよーくわかる。

 

 だがそんなコトを俺が許すとでも?

 

「まぁ、君もここにいるという事は一蓮托生で獲物側だ。ああ、そうそう、君が持っていたG-ウィルスは捨てて来たからね?そうだね、ちょうど今、施設の爆破ですっかり跡形も無く消滅してる頃だよ?あとは……」

 

 ほい、とエイダが持っていたワイヤーガンをコートのポケットから取り出して、目の前でぐしゃっと握り潰して、歯を剥いて凄みをきかせた笑みを浮かべて言った。

 

「仲良くしようぜ?なぁ、エイダのねぇちゃんよぉ、脱出する算段、持ってんだろ?吐いた方が……身のためだぜ?」

 

 ちょうど、ずどぉぉぉぉん!!と施設の爆破の爆炎が列車に到達し、激しく車両を揺らす。

 

 ごぉぉぉぉっ!!とジェット噴射の如き炎の奔流が窓を炙り、高熱にさらされた強化ガラスがバシバシバシっと亀裂を走らせた。

 

「レオン君のように俺は騙されないし君の思考はとっくに掌握済みだ」

 

 我ながらなかなかドスがきいた声が出せたと思う。ふっふっふ。

 

「こ、このバケモノっ……!」

 

「そうだ。俺をなんだと思ってた?カッコいいジャパニーズヒーローとでも思ってたか?」

 

 フハハハハハ、と悪役っぽく笑う俺のコートを、ふいにツンツンと誰かが引っ張った。

 

 嗤うのを止めてそっちを見れば。

 

「えっと、フンドシマンは正義のスーパーヒーローじゃ無かったの?」

 

 シェリーがなんか悲しそうに俺を見ていた。

 

……いかん、この子はさっきの俺の冗談を間に受けていたか。

 

「……ごほん。俺の名はフンドシマン!日本から悪い奴を倒すためにやってきた正義のスーパーヒーローさっ!」

 

 子供の夢は壊しちゃなんねぇ。

 

 シェリーはにっこり笑って

 

「そうだよね、おじさんは正義のヒーローだよね」

 

……つ、つらい。この無垢な笑顔がつらい。

 

 まぁ、そんなわけで、俺達はエイダから脱出ルートを聞き出す事にしたわけだが。

 

「フンドシパンチ!フンドシキーック!フンドシマーン・ガッツポーズ!ふん、とりゃあ、はぁぁっ!!」

 

「きゃっきゃっ!」

 

 俺はシェリーの相手をせざるを得ず、だいたい、脱出ルートはレオン君が聞いてくれましたとさ。

 

 




 バイオハザード2編も終わりが近いですね。

 いろいろ盛ったら、ラストが妙に文章長くなってしまって。

 次回のフンドシマン『ええっ?!戦車と触手と小悪党』でまた会おう!(嘘)。

 フンドシマーン、ガッツポーズ!!(キャプテンラ○チ風に。そして超兄貴風にダブルバイセップスでキメっ。)

 


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オーバータイム~知能強化型(ポンコツ)。

沢山の感想と修正ありがとうございます。

列車を降りて、エイダの言う脱出口へと向かう一行。バイオハザード2のオーバータイム突入、でもなんかまーったく困難そうではないという。

なお、ネメシス初登場(まぬけ)。

※)なお、主人公の○○したまい、は方言のようなもんです。




 

 列車をとめて、俺達は徒歩でエイダの言う脱出口とやらに向かった。

 

 銃器の弾はほとんど無く、エイダがレオンの顔面に投げつけたロケランという最大火力はあるもののそれはたった四発しか弾はなく使いどころに困る代物である。

 

 俺にしても列車にあったバールのようなものや爆破の影響でズタボロになった列車の様々なパーツ、鋼鉄の車輪や車軸などを武器にでっち上げて持っているが、実際のところ兵士というのはつまりは人間である。ゾンビと戦うのとはワケが違う。

 

 故に出来れば遭遇したくないなー、避けれたら避けたいなーなどと思って居たが、予想していた通り、奴らは地下鉄の中に部隊を送り込んで来やがった。

 

 まぁ、来てしまったものは仕方ない。

 

 俺は、むぅぅぅぅん、と『気』的な力を溜め、そして腰を落として両腕をやや斜め前に突き出して

 

「覇ぁぁぁぁっ!!」

 

 と、気合いとともにズドォォン!!と連中に放ち、そして吹き飛ばした。

 

 名付けて『ショックウェーブ』。

 

 この技は施設から脱出する際に鉄骨でゾンビの群れをなぎ払った時になんか鉄骨の先から衝撃波が出ていたのにヒントを得て

 

『じゃあ鉄骨無しでも衝撃波出せるんじゃね?ワクワク』

 

 とさっきやったら一回目で出せた上に瓦礫をズドォォン!!と吹き飛ばせたので実用化に踏み切ったのである。

 

 地下鉄のこのトンネルのような場所でこれをやると効果は絶大であり、指向性を持った衝撃波はアンブレラの私兵達はそれだけでもう戦闘不能になってしまっていた。

 

「……か、かっけぇぇ!!」

 

 いや、なんかレオン君が子供みたいに目を輝かせてんですけど。

 だが男の子で『波』の付く必殺技に憧れない奴はおらんということか。フフフフフフ。

 

「レオン君、この技は、空気を如何に身体全体で呼び寄せるか、そしてそれを全身の筋力で一気に吹き飛ばせるか、なのだ。君ならいつか必ず会得出来るはずだ……」

 

 まぁ、原理的にはデタラメではないが、普通の人間に出来るかと言えばどうなんだろうなぁ、とか思うもやはりロマンと夢は与えるものだろう。

 

 なんか女の子のシェリーもめっちゃ目をキラキラさせてんだが、うーむむむむ。

 

「う~っ、はぁっ!」

 

 ぽすん!

 

 あ、普通の女の子(ようぢぉ)が会得しとるげな。

 

……威力弱そげだけど。

 

「シェリーすっげぇ!どうやんだ?どうやんだ?」

 

 あ~、レオンとシェリーが練習し始めたよ、つーか君達、今の状況を理解しとるんかね?

 

「うぉーっ、はぁっ!」

 

「いやぁああああっ、はぁっ!!」

 

 ぽすん!ぽすん!ぽすん!ぽすん!

 

 ようぢぉとイケメンがなんか変なことをやっとる図というのはなんというか。

 

……アホっぽいよな?

 

 エイダはアホな事をやっているレオンを見て、ぷっ、と噴きかけたが、いやいやいや、と、頭をふり、

 

「とことんデタラメなバケモノなのね。まぁ、少ない弾を消費せずに済んだけど」

 

 エイダは呆れたように言った。

 

「デタラメとは心外な。技というものは長年その理合いと理論をもって培ってきた結晶なのじゃ(嘘)。そんなことよりホレ、敵の銃が無傷で手には入るぞ。漁れ漁れ、追い剥ぎるのだ」

 

「……はぁぁぁっ、なんなのその追い剥ぎるってのは。というかあなたに捕まらなければ今頃私はヘリで逃げられていたのに」

 

「ふん、仲間を見捨てて一人だけ逃げようとするなど俺が許さん。それにな、ヘリで脱出は不可能のようだぞ?付近を飛んでいた報道のヘリが沢山落とされたようだ?この兵士の無線を聞いてみろ」

 

 俺は兵士の持っている無線のイヤホンをエイダに渡した。

 

『ザーッ……リピート、ズィスイズポー、ズィスイズポー。うんたらかんたら、ミスィルヘデネネジュークボッ………ザザーッ……ミションコンプリート、オバー……ザーッ(繰り返す、こちらポール、こちらポール。上空に群がってるハエのような報道のヘリコは全て落とした。作戦終わったから帰るわ、でわでわ)』

 

 それを聞いたエイダは額にぺしん、と手を当てて深く溜め息を吐き、心底嫌そげな顔をした。

 

「な?俺達と逃げて正解だったろ?」

 

 まぁ、ヘリでエイダが脱出しようとしていたとは知らなかったし、それにアンブレラの連中が報道ヘリまで落としてでも情報を漏らさないようにしていたなんぞ、この俺でも考えもしなかったのだが、訳知り顔でニタニタわざとらしく笑ってやった。

 

 しかし飛んでいるものは大抵落ちる運命なのだなぁ(カプコン並感)。

 

 なお、小並だとヘリのミサイルで射出されてデカい空中メカ戦艦とかと戦わされるぞ?普通死ぬってそれ。

 

「ま、レオン君と一緒にいられるオーバータイムを楽しみたまい。ケケケケケ。あ、ナイフは俺にくれ。槍を作るから」

 

 こうして俺達は襲いかかってくるアンブレラの私兵達から武器弾薬を追い剥ぎっては装備を充実させて行った。

 

 と、クレアがなんか大量の財布を持ってきて俺に見せた。

 

「コイツ等良いカモになってるわね」

 

 いや、クレアさん?つかなにコイツ等の財布まで奪って札、数えてんですか。つかわりと集めたねぇ。奴ら結構良い給料もらってんだなー、つかうわー、免許証とカードまで。というかあなたのお兄さん警官でしたよね?!つかレオン君も率先して財布集めてない?!

 

「殺人未遂の慰謝料には足りないわよ。これで許してやってんだから感謝されても良いぐらいだわ。それにこれから絶対お金は必要になるしね」

 

 た、逞しい娘さんや……。

 

「身分証明書の類は偽造されたものだな。だがコイツ等がアンブレラの犯罪に関わっているのは確かだし、保安当局、いや国防総省にこの情報を提出すれば或いは……。まぁ、お金に関しては目をつぶるからその代わりに免許証とコイツ等のドッグタグは僕に渡して欲しい」

 

 あ、レオン君は真面目に警官としてやってんのね。いや、だからお金に関して目をつぶっちゃいかんだろ。

 

「ま、あの世にはお金なんて持っていけないから、いいんじゃない?それは私達にも言える事だけど」

 

 いや、私兵達死んでねーから。つか衝撃波で全身の骨は砕けてるけど、ほら、うめき声とか出してるじゃん!このままほったらかしにしたら死ぬおそれは確かにあるけど!!

 

 エイダはクールに言うが、レオンがカードを抜きとった財布からやはり札を抜いている。

 

「あ、アタシもちょうだい?どうせ報酬はオケラなんだからちょっとぐらいは補填しとかないと」

 

 ダメだ、こんな大人達、シェリーには見せられんがな!!

 

「ママー、クレア達、何してるの?」

 

「見ちゃいけません。いい、シェリーはあの人達の真似は、けしてしちゃダメよ。あれは悪いことなの。わかった?」

 

 ナイスアネット、ちゃんと子供に善悪を言い含める母親の鑑!

 

……つか子供にそれが言えるのになんでアンタはウィルス開発とか人体実験なんぞやっとったんだ、とは言ってはならんのだ。多分。

 

 そうして俺達はまだ先の脱出口に向かってまた歩き出した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 やっとこさ、脱出口まで後少しという地点まで俺達はたどり着いた。

 

 ここに来るまでに結構な数の兵士達がわんさかと来たが、俺の新必殺技の『ショックウェーブ』でことごとく粉砕(文字通り)して、俺の背負っているズタ袋にはみんなが持ちきれない武器弾薬まで突っ込まれてズッシリ感がパナくなっている。

 

 つーか、奴らの着けてたアクセサリーまでなんか入ってんだが?つか婚約指輪まで盗るとかお前らマジ鬼畜だなおい。

 

『俺、この作戦が終わったら婚約者と結婚する……』

 

 ズドォォン!!グシャバキボキグシャア……。

 

 いや、あれは本当に俺も罪悪感を感じたわ。つか死亡フラグ立てんなやマジで。死因になった俺が言うことじゃねーかもしれんけどな!

 

「いやな……事件だったね……?」

 

 指輪を追い剥ぎしたクレアがそう言う。

 

 ホントマジで勘弁してくれ。なんだろう、真面目で正義感の塊だった君はどこ行ったんだよ。

 

「目的のためなら奴らの金でもなんでも利用するわ。私は早くここを脱出して兄を追ってヨーロッパに行かなきゃいけないのよ」

 

 ラクーンシティでの過酷なサバイバルは彼女の精神を極限までタフにしたのかも知れない。だが全てが終わった時にクレアは果たして日常に戻れるのだろうか。俺は自分のこの身を差し置いてそう思った。

 

「クレア、俺は君が心配だ。というかお兄さんの事が心配だというのはとてもよくわかるが、君は自分の人生と言うものを……」

 

 そう言いかけて、俺は最後まで言えなかった。奥の方からとてつもなく強烈で嫌な臭気を放つ敵がこちらに来るのがわかったからだ。

 

「みんな、警戒しろ。この臭さは『T-ウィルス』、B.O.W.が来るぞ!」

 

 臭気の主は、ズスン、ズスン、ズスン、と地面を鳴らしながら、

 

「スターズ……ジャナクテ、スパイの女ぁぁぁぁ。スター……スパイ……言イニクイ……。女ぁぁぁぁ」

 

 なんぞと言ってぬるりと現れた。おそらくタイラントの一種なのだろうか。身体がデカくてヘヴィメタかパンクロッカー的な意匠のコートを来ており、そして何より量産型タイラントと大きく違うところは頭や顔に走る手術痕とその顔面の醜さだろう。

 

 それよりも言葉喋れるんかコイツ。つか

 

『女ぁぁぁぁ』

 

 ってそれ変質者やがな。ふむ、スパイの女ねぇ?

 

 俺はエイダの方を見た。エイダはこそこそと奴から見えないようにと俺の後ろに隠れており、このデカブツが自分を狙って投入されたと気づいている……ってかここには女スパイはエイダしかいないのだ、そりゃそうか。

 

「女スパイなら、あっちに走っていったよ。そう、線路出口の向こうにいる兵隊達が捕まえたってさ」

 

 俺はそのタイラントの派生型にそう言った。

 

「オマエタイラント……?仲間??ダガ情報アリガト……」

 

 奴はくるり回れ右をすると、足音をズスン、ズスン、ズスンと響かせてまた来たところへ返っていった。

 

 誰が仲間じゃ、などと思ったが、とはいえ要らん戦闘を回避出来て何よりだ。

 

……アイツはバカだが、しかしかなり厄介な部類のB.O.W.だ。間違いなく。臭いがハンパない。

 

 しかしお礼を言えるとは実はいい子なのかも知れん。知能は低そうだけどな。

 

 奴が完全に見えなくなり、おそらくはその感知範囲から出て、俺はエイダに言った。

 

「……オマエの知り合いか?アレ?」

 

 言われたエイダは心底嫌そうな顔をしたとさ。

 




・某レイドモードのレオン君のあのショックウェーブは、主人公が伝授した、という設定。

・残虐行為手当て。クレアによれば慰謝料だそうです。

・知能が上がったせいでポンコツになっているネメシスくんが、とてもカワイイデスネ?



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アンケートとキャラ設定です(本編とは全く関係ありません)。

アンケートとキャラ設定です。本編に全く関係ありません。なお、キャラ設定はまとめていない覚え書きなので見づらいです。

アンケートは最後に用意しました。ご指摘下さった方、ありがとうございました。つかそんな機能あったんや……m(__)m



すみません、なんか一発キャラのつもりでネメシス君出したらいろんなご意見が出てなんか、ケツほいランサー出来ない雰囲気になってしまったので。

 

というか、惜しいキャラんなってしまった、と言うべきかも知れません。

 

というわけで、ストック全部書き直し覚悟でおききします(投稿スピードがだだ下がりますが)。

 

説明すると、

 

・ネメシス君、ママ(オリキャラ巨乳金髪天然美人女博士)とレギュラー入り(仲間ルート)。←オススメ。

 

・予定通りケツほいランサーで倒される。←ストックがコレ。

 

・また主人公に騙されて今度はラクーンシティ方面まで徒歩で行って行方不明。

 

・巨乳金髪天然博士を侮辱されたためにアンブレラの部隊に腹を立てて暴走、戦車の主砲で撃たれてさらに細胞を暴走させて一気に部隊殲滅、その後主人公の最後の『T-ウィルス駆除薬』で倒され、消滅。なお、オリキャラ巨乳金髪天然博士(ママ属性)も死ぬ。ものすごく後味が悪い結末。←鬱エンド。

 

ですかねー。

 

 書き直すにしてもやはり鬱エンドは避けたい。同じ書き直すでもテンション下がってもうエたるかも知れない。

 

 褐色肌巨乳金髪天然美人博士(ママ属性で有能)だと割とテンション高めで書ける!

 

……さて、どれにします?←をい。

 

 アンケート機能、使い方わかったので済みませんがポチってくださいなー。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

主人公(三十○歳・独身) 

 

 本名:ーーーーーーー(※バイオ2編ラストで出てきますので伏せます)

 

 医師であり薬剤師。天才ではあるが時々見せる奇行によって変人と言われるタイプの人間。

 

 曾祖父は伝説の日本軍人と言われ、南方にて敵の戦車を生身で26台潰したとされている(ただし、乗員が乗っていない時に爆弾を中に投げ込んだ)。

 祖父は元ヤクザ……かも知れない。

 父母はそこら辺のおっさんオバハン。主人公には弟がいるが、既婚で義理の妹はギャル系ヤンキー。

  

 なお、家族一同全員水虫である(故人含む)。

 

 父親に水虫をうつされた事で酷い水虫を患う。それが元で高校時代に意中の女の子に「臭いし汚いからこっち来ないで!」と言われ、自分が恋愛するには水虫を駆除せねばならないと医師にかかったり様々な民間療法を試したが一向に治らず、自分で薬を開発せねばならないと一念発起して医学部へ進学。学費をバイトで稼ぎつつ苦学する事六年、医師になるもさらに薬学部へ進み、薬学生時代に最初の水虫薬『ミズムシナオール』を開発、特許を所得、割と高い特許料で貧乏脱出するも、完全に治すにはまだまだ足りないとばかりにさらに研究に没頭。副産物として初期型家庭用カビ駆除洗剤『カビクリーン』を開発。また特許を所得。

 

 その後、中小企業である『ハチマン製薬』の先代社長と仲良くなり、入社。新たな水虫薬と新たなカビ洗剤を開発、さらに人体に無害なプロトタイプ『シンキンナオールZ』と『カビクリーンS』を開発。(※これに関しての特許は先代社長が会社ではなく主人公の特許として登録した辺り先代社長の人柄がよくわかるといえる)。

 

 先代社長の死後、現社長によりハチマン製薬はアンブレラ日本支部に売り渡される。

 

 主人公、抗菌成分を抑えた『シンキンバスター』と『カビジェノサイド』をアンブレラの指示により開発させられる。

 理由は『治ったら儲からない』ため。

 これを開発するために薬剤の成分がプロトタイプシンキンナオールやカビクリーンとは、全くの別成分の薬品となるも、会社の方針に逆らって主人公はガチで作ったため、結局、シンキンナオールとカビクリーンと双璧を成す薬品となった(なお、シンキンバスターとカビジェノサイドの特許は会社がかっさらっていった)。

 

 その後、アンブレラのスペンサーによって『始末」されることとなったが『奇跡のT-ウィルス適合者』だったため、無敵超人と化す。

 

 備考:彼女いない歴=年齢。童貞。喧嘩っぱやく高校時代は無敵だったという話有り。

  

 過去に凰鈴という女スパイに遭遇。初代『冬瓜』認定者。

 

 人が良いが、売られた喧嘩は必ず買うほど喧嘩早い。社会人になってからは暴力沙汰は無くなったが、気に入らない現社長を先代社長からの恩ゆえに殴らないように研究所に引きこもっていた。

 

 祭り好きであり、夏にはフンドシ締めて必ず御輿を担ぐほどである(故にフンドシの巻き方を習得している)。

 

 童貞なのを気にして風俗に行こうかどうかを二十歳の頃から悩み続けて気が付けば三十代突入した奴。

 

 

 

 初期の話の流れ(なお、もうすでに話の流れはかなり変わってますのでこの通りではありません)

 

 ドミトレスク夫人とガチムチパンツレスリングするためにタイラントにされる運命を与えられた男。

 

 ドナをフル○ンで追いかけまわす変態。

 

 モローの池にカビキラーの原液をぶち込んでぶっ殺す。

 

 ハイゼンベルクに説教かまして無理矢理仲間にする。

 

 ミランダの鼻の穴に水虫軟膏ぶっさして倒す。

 

  

 

 

 

 

 




……いや、もうアンケート取らなくてもいいんじゃね?とかちょっと思った。うん。褐色肌巨乳は……いいよね?


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覚え書き(本編とは関係ありません)。

アンケート中なので、本編のお話を進ませるわけにもいきません。

つーわけでちょっと間が空きますが、つなぎとして以前の設定を乗せときます。飽くまでも以前の設定なので、物語的に食い違う場合が多々出ると思いますが、その辺ご了承下さい。




スペンサー会長

 

・E型特異菌によらない真性ガチミランダ崇拝者。

 

・数少ない仲間まで裏切って殺害。誰も信じていなかったくせに最後にはウェスカー兄妹に助けろとかそんなん都合よすぎやろ、と。

 

・世界最悪の耄碌ボケジジィ。

 

・主人公によって完全なる絶望が用意されているジジィ。

 

 

モーフィアス

 

・オカマ気質の変態がウィルスで女体化タイラントへ。

 

・ナルシスト変態。

 

・最後はバルーンになってブルームで破裂。

 

・なお、主人公と出会った事で生存予定。

 

 

アルバート・ウェスカー

 

・しくじりボスNo.1。

 

・アレクシアからとっとと逃げ出した奴。本当は弱いんじゃね?

 

・レベッカさんのあの写真をナニに使ってたんですか?この変態。

 

・セガサターン版でゾンビになって出て来るモードがあったなぁ。

 

・一度ジェイクに殴られて欲しい。

 

・なお、性能的に主人公に敵う要素が何一つ無い。

 

 

アネット・バーキン

 

・人妻キャラなのに色気が全くない。

 

・シェリーはあんなに可愛いのに、なんで母親はあんなん何で?

 

・原作では死んでるキャラですが、生かしてもどう動かしたらいいのかわかりません。まぁ、シェリーちゃんが幸せならいいや、的な感じ。

 

 

セルゲイ大佐

 

・主人公はコイツの事を、せるゲイ・ウラすジミールとか、ホモ野郎とか変態野郎が、と呼んでボロクソに言っているがワザとである。

 

・大抵のタイラントはこの人のクローン。

 

・何故か主人公にものすごく嫉妬している。

 

・『私はタイラントの素体テストに合格し自分のクローン10人と引き換えに今の地位を得たいわば、タイラントは私の兄弟、分身なのだよ』

 

 なんぞと主人公に言ったら

 

『ああ、そうかい。そういや能無しタマナシなところがクリソツだぜ、このホモ野郎』

 

 と返される運命にある奴。

 

・まぁ、すぐにやられてしまうわけなんですけどね。

 

 

大統領補佐官(名前忘れた)

 

・メリケン腐敗の元凶。

 

・なお、コイツのせいでシェリーたんはひどい目にあわされるが、この物語では阻止されるかな?と。

 

・なお、レオン君はシェリー達がコイツらに捕まっているという嘘でエージェントになりますが、さてどうなりますかねぇ

 

・フンドシによる憤怒死が待ってるぜ……。

 

 

カーラたん

 

・ニセエイダ

 

・この物語では主人公のクンカクンカによって序盤で偽物と断定されたりするよ?

 

・生かすか退場させるか未定。

 

 

ドミトレスク夫人

 

戦闘中にフンドシを切ってしまい、タイラント君をモロに見たことで……。まぁ、ガチムチパンツレスリングの被害者。ドMトレスクになる。

 

 

ドナ

 

私のパパになってよぉ→人形に襲われフンドシ切れる→モロリで逃亡、そして捕獲。

 

 

モロー

 

池にカビキラー原液ドバーっ!!で、死亡。

 

 

ハイゼンベルク

 

膝詰め説教で改心。一応、仲間に。

 

 

ミランダ

 

鼻の穴に水虫チューブぶっさされて死亡。

 

 

ミランダ アナザーストーリー

 

ミアに化けたのは良いが、性欲旺盛なイーサンとやっちまって子を授かる。イーサンの第二子エヴァの誕生である(ヒデェ!)

 

 

 

話の進行

 

ベロニカ編→スペンサーレイン編→クロニクルのレオン編→バイオ4→5→6、主人公の隠居生活編→7→村の予定。途中、いろいろ挟むかもしれませんが。

 

 




予定は未定。

褐色肌巨乳金髪美人ママ博士は。

アンブレラの特殊武器関連の設計者で、未婚の母性の強い、天然なゆるふわ美人です。

何故かネメシス君の教育係にされますが、ママ属性が強すぎたため、ネメシス君が素直ないい子に育ってしまった、という設定。

なお、オリジナルキャラですが、三日後、アンケートの結果を見てからストーリー進行を決めますので、登場するかどうかは今は未定です。


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ナスがママならオイラは……パ、パ、パ、パパイヤぁぁぁっ!!

皆様、アンケートありがとうございました。また、アンケート機能があることを知りませんで、教えて下さった方々、誠にありがとうございました。

圧倒的にネメシス君仲間入りと褐色肌巨乳美人ママ博士の勝利です。

ありがとう、ありがとう!

お前がパパになるんだよぉぉっ!!


 

 兵士達が出てこなくなったなーとかクレアが物足りなさそうに言うのを無視して俺達はエイダの言う脱出経路を進んだ。

 

 物足りない云々の前に君ら戦って無いから。つか俺だって衝撃波をぶっ放すだけなので戦った気にもならんのだが、やってんの俺じゃねぇか。つか君ら敵の財布と武器弾薬剥いでるだけやん?!

 

 てへり、とクレアが舌を出しつつ自分の頭をコツンとする仕草を見せる。

 

……いや、可愛いけど敵の財布(血塗れ)を持ってやってんのはめちゃシュールだぞ、おい。

 

「まぁまぁ、逃亡資金は必要よぉ?」

 

 なんぞとエイダが俺のコートのポケットに折り曲げた札の束を突っ込んで来た。どうやらこれが俺の分け前らしい。

 

 だが、妙な香をエイダから感じて札をまとめているマネークリップを見てみれば不自然な飾りが付いており俺の耳で僅かに聞き取れるほどの小さなノイズ音。

 

……金は受け取るが発信機を仕込んだマネークリップはいただけない。

 

 油断も隙もねぇなコイツ。つか持ち物をキチンとチェックしたのにまだそんなもん持っとったのかこのスパイ娘は。

 

 俺はマネークリップに付いている飾りの宝石を取り外し、その下に隠されていた小さな発信機を人差し指と親指でパキッと潰して捨てた。

 

「あら、それもバレちゃう?」

 

 悪びれる事も無くエイダは言い、クレアの真似をして可愛子ぶってテヘリ、と舌を出した。

 

……意外と可愛いが発信機がバレてやる仕草じゃねぇぞおい。

 

「あからさまにあんなマネークリップなんぞ使われたら誰でもわかる。……いや、俺を試すのはやめろ。無意味だ」

 

「あらぁ?無意味じゃないわよ?だって組むにしても相手のポテンシャルは見るべきだし」

 

「……組んでいるつもりはない。脱出のために協力しあっているだけだろ」

 

「あらぁ?私は自分があなたに利用されていると認識してるのだけど?」

 

 エイダはおどけてそう言いつつ、そうじゃなくて、と続けた。

 

「私はほら、何の成果も上げられず回収したはずのウィルスもあなたのせいでオジャンにされておめおめ帰っても能無し役立たずのレッテル貼られて収入もゼロ。なんならアンブレラに面が割れたせいで命を狙われるまであるわけ。もうお先真っ暗。新しく雇い主を探すとしてもこの業界じゃ私を雇ってくれるような所なんて無いも同然、なんて可哀想な私!よよよよよよ」

 

 エイダは演技付きで自分の今の状況(?)を説明するが、そこに嘘の匂いはない。

 

 だが、俺からすればエイダのそんな状況なんぞ知らんがな、である。

 

「で、ちょうど私を出し抜くほどの頭脳を持ち、戦闘能力は並みのB.O.W.を凌駕、クレアの話じゃワクチンじゃなくてT-ウィルスを駆除する薬を作ったそうね?まだアンブレラさえ試作段階で感染者に投与したら確実に死ぬ程度でしかないのに、自作で自分に投与してまだ生きてる」

 

「なにが言いたい。……俺を他社に引き込むつもりか?」

 

「そんな事しても一時的な稼ぎにしかならないのよね。というかあなたにぶっ潰される企業がアンブレラの他にもう一つ二つ増えるだけ、違う?」

 

「俺にぶっ潰せるとでも?逃げているだけで精一杯の状況だぞ」

 

「んふふふふ、でも潰したいんでしょ?」

 

 そりゃそうである。だがその方法など俺には考えつかない。なりふり構わず奴らの拠点をぶっ潰す程度なら出来るかも知れないが、それでは確実に道の半ばで俺は倒れてしまうだろう。だが、それでもだ。

 

「ふん、アンブレラにもアンブレラの研究を盗もうとするような連中にも俺は与するつもりは無い。それに利用するような事もしない。他を当たれ」

 

「……ま、そういうと思ったけど。でも見当ちが……」

 

 なおも言葉を続けようとするエイダを俺は、

 

「まて」

 

 といって黙らせた。

 

 向こうからまた強烈なT-ウィルスの臭気を放つ『奴』がこちらに近づいて来ているのがわかったからだ。

 

 俺は背中のズタ袋から槍を抜いて身構えた。一度は騙せたが、次はおそらくどんなに間抜けな奴でも騙せないだろうと思ったからだ。

 

 しかし。

 

「あのー!すみません~!攻撃しないでくださーい!」

 

 向こうから何か間延びしたような声が発せられた。暗いトンネルの向こう、ようやく見えたその姿は。

 

 ぼいん!ばいん!ずどぷりぃぃぃん!!

 

 それは大き過ぎる『乳』だった。

 

『それはそれは乳というにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに乳塊だった』

 

 ち、乳がしゃべったぁぁぁぁ?!ってんなわきゃない。ライトの光が届くギリギリの所に入ってきたのが乳……って、それもどうかとは思うが、つか全体見えねーのになんて乳してやがるんだ。

 

 俺は身構えるのを止め、だが油断無くいつでも攻撃出来るような体勢をとっておく。

 

 巨乳、いや爆乳とでも言うべきか。その乳の持ち主は眩しそうに手で目元を覆うようにしながらこちらに進み出て来た。……なんか木の棒に白い布切れを結んで、それを杖代わりにして立っていた。その布切れはどうやら彼女の白衣の裾を破いて作ったもののようだ。それをさっ引いたとしても彼女の格好は薄汚れ、所々焦げたような跡や擦り傷などもあり、どうやら上で何かあった事を示していた。

 

 その後ろから、なんともシュン、と頭をうなだれさせて、いかにも失敗してしまった子供のような雰囲気を漂わせた、あのタイラントの特殊タイプがのそりのそりと出てきた。こいつもなんか焦げ臭い。おそらくこれは奴の服に硫酸弾の酸が付着して焦げた臭いのようだ。

 

「……すみません、あの、私アンブレラヨーロッパ支部の兵器開発部のナスターシャ・ロマネスカヤと申します……ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 ナスターシャと名乗る女性は、かなり消耗しているように見えた。足はガクガクで、その振動でデカい乳が震えている。というかブラ付けてねーのかよ。

 

「ゥゥ……ヨーロッパ支部、ネメシスT-A102……」

 

 二人はそう自己紹介したが、なんのためにここに来たのか、そして二人の身に何があったのかわけがわからない。

 

「ハァ、ハァ、た、助けて……!」

 

 ナスターシャという女は、そういうとパタン、と倒れた。

 

「ウォッ?!ママ!?ママァッ?!」

 

 タイラントの特殊タイプ、ネメシスは倒れたナスターシャに驚いて騒いだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 騒ぐタイラント……あー、ネメシスか?を落ち着かせてナスターシャなる巨乳を診てみれば、どうやらそれは過労によるものと思っていたが、そうではなく厄介な事にT-ウィルス感染を起こしていたのだ。

 

 元凶はおそらくこのネメシスであろう。

 

 一歩遅ければ手遅れだっただろうが、幸いな事に俺はこういういざという時のためにT-ウィルスワクチンと血清の混合薬(高分子化タイプ)を作って持っていた。

 

 俺はとっととズタ袋からステンレス容器に入れていたT-ウィルスワクチンをナスターシャに投与し、なんとかなった。あとは安静にしておかねばならないが、これでもう命の心配は無い。

 

 しかし問題はこのネメシスである。

 

「ボクのセイデ、ママガ?!」

 

 ネメシスは愕然とし、頭を抱えた。

 

 何なんだろなコイツ等の関係は。わけわからん事だらけ過ぎるが、話が出来そうなナスターシャは今は気絶しており、このネメシスはネメシスで会話する能力はあるが説明出来るほどの知能があるかどうかもわからないときた。つーか、ママだと?

 

……この乳がコイツのママなのか?むぅぅ、この乳でママか。ママでこの乳なのか。

 

 どぷりぃぃぃぃん…………!!

 

 褐色の肌、その大きさと谷間のその迫力よ。これがママ乳……。

 

「……うむ、すんごく、ママンでごわすな!」

 

 いや、何を言っとるのだ俺は。

 

 ベシン!とクレアに頭をシバかれた。

 

「女性の胸をジロジロ見ない!!」

 

「むぅ、いやこれもT-ウィルスの作用では無かろうかと推測したのだが……違うようだな」

 

 なんとか誤魔化そうとしたが、またクレアに頭をシバかれた。

 

「そんなわけ無いじゃない!」

 

「うっわー変態」

 

「シェリー、見ちゃいけません」

 

 女達(人妻含む、ようぢぉ含まない)は俺にものすごく冷たい目で責め立てた。レオンだけは女達の後ろからバレないように無駄に爽やかにサムズアップしてウィンクしていたが、いや、お前もしばかれろや、おい。

 

……こういう茶番はさておき。

 

 俺はナスターシャをアネットに任せると、ネメシスに言った。

 

「彼女はもう大丈夫だ。ウィルスの感染はワクチンで治るだろう。だが安静が必要だ」

 

「ホ、ホント?」

 

「ああ。だがお前たちに何があった?助けてと言っていたが?」

 

「ボクラを、軍曹ガ裏切ッタ!セルゲー、ノ、タイラント、ジャナキャ、イラナイ言ッタ!」

 

 裏切り?仲間割れなのか?

 

 ネメシスの話は感情的な部分と知識が足りない部分で……このネメシスは6日しか生きていないと自分で言ったが、もしコイツの言うことが本当ならば生後10日もたたない身でこんなに話が出来る事自体が有り得ん。つかアンブレラ脅威のバイオテクノロジーと言うことか……わかりにくかったが、要約するとこうだ。

 

・俺達が脱出に向かっている所でアンブレラの私兵部隊が展開しており、このネメシスとナスターシャもそれに実験的に加わっていた。

 

・部隊の指揮官である『軍曹』がセルゲー(セルゲイ大佐のことか?)のタイラント以外は出来損ないだと罵り、ナスターシャを殴った。

 

・その軍曹の声を聞いたネメシスが駆けつけ、殴られて倒れているナスターシャをかばう。ナスターシャが殴られた事にネメシスが抗議(暴力的なことはナスターシャから禁止されていた為、それを守ったとネメシスは主張)、しかし軍曹が部隊の戦車に命令し、ネメシスに砲弾を撃ってきた。

 

・なんとか砲弾を避けつつ兵士達の攻撃をかいくぐり、ネメシスはナスターシャを連れてトンネルへ逃げた。

 

 以上である。

 

「軍曹、セルゲーセルゲーうるさい。ネメシス、セルゲーの遺伝子ナクテヨカッタ!」

 

「……そーかそーか。まぁホモ野郎の遺伝子受け継がなくて良かったな、ネメシス。ありゃあホモがうつるからな?」

 

「セルゲーホモ!セルゲーホモ!……ホモッテナンダ?」

 

 ベシッ!とまたクレアに「子供に変な言葉教えない!」とシバかれた。

 

……ううっ、セルゲイマジホモくせーんだから良いだろうが(会ったことも見たこともないけど)。

 

「つまり、この子はママを守るためにアンブレラの部隊から逃げてきた、ということね?」

 

 クレアがそういい、ネメシスは「ウンウン、ソーダヨ?」と答えた。その仕草はまんま幼児のそれだ。

 

 生後6日というのは本当かどうかはわからないが、コイツの知能はだいたい幼稚園児並みかそれよりやや下なぐらいだろう。

 というかそんな奴を投入するアンブレラ。いや、子供をこんな化け物にしちまうなど、外道以外のなにものでも無い。

 

……だが、なんだろう。コイツ見てると弟んとこの甥っ子をおもいだすんだよなぁ。なんでだろな。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、この子は……ネメシスは、私の卵子で造られた、ネクストタイラント計画の……一番体、です……。使用された父方の遺伝子は……、T-SJ-301、偶然、半月前に発見された最新の……タイラントのものを使って……」

 

 意識を取り戻したナスターシャがなんか嫌な事を言った気がしたが、いやいやいや、ちょっとマテ。

 

「……半月前ってどこかで聞いたような日数ね」

 

 クレアが、はて?と何かを思い出そうとして言ったが、いや、ありえてたまるか。

 

「ハァ、ハァ、適合率は、セルゲイ・ウラジミール以上の……。その性細胞はすぐさまサンプルを採集され……」

 

 やめてくれ、もうやめてぇぇぇ!!

 

「もう喋るな、ナスターシャ君。大丈夫だ、君にはさっきT-ウィルスワクチンを投与させてもらった。君は助かったんだ。安静にしていれば回復するだろう。だから今は……」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ワクチン……?」

 

「そうだとも。アンブレラのものと違い、私の作ったワクチンはT-ウィルスへの抗体を速やかに身体の中から作り出すように人体に促す事が出来る高分子化タイプだ。進化型が発現してもかなりの効果が……」

 

 俺がナスターシャを黙らせるためにまくしたてるようにそう言った。普段私なんぞ言わないが医者っぽく言って彼女の発言を止めようと俺も必死だ、わかってくれ。

 

 聞きたくない、聞きたくない、そういうのはいらない、俺は童貞なんだよ、頼むよ、変な展開なんて聞きたくない!!

 

 だが、ナスターシャは俺の手を取って、こう言いやがった。

 

「あなたが、私のネメシスの……パパ……」

 

 そして、カクッ、とまた意識を失った。

 

 周りから感じる白い視線。いや、俺は知らんて。 

 

「へぇぇ?子供いたんだぁ。なかなかに立派なお子様だこと。それに奥様もなかなか……」

 

 エイダがこれ見よがしに、まるで不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫のようなニヤニヤ笑いを浮かべて言った。

 

「いや、俺は知らん。というか、意識を失っていた間の事はわからん。というか俺がアンブレラに捕まったのは半月前だ。到底そんな期間で子供を作れるなど、常識的にありえねーっての!!」

 

 しかし、アネットが俺に絶望的な事実を突きつけ、

 

「T-ウィルスを用いた最新の実験では、人のクローンを制作するのに要する期間はたったの7日、とレポートにあったわ。ただし、大抵の場合はクリーチャーに変異するけれど、セルゲイ大佐以上の適合率を持っているなら、不可能では無いはずよ」

 

 クレアが俺をどん底に落とすような発言をした。

 

「目元はパパ似なんだね?」

 

 う、ううっ、そんなんあんまりやろ。お、おっちゃんは、おっちゃんは、おっちゃんは!

 

「おっちゃんは、童貞なんやぁぁぁぁあっ!!三十路越えて彼女いない歴=年齢やのに、子供なんて造んなアンブレラぁぁぁぁっ!!ぶっ潰すぞぉぉぉっ!!」

 

 哀れな三十路の叫び声が、トンネルの中に響き渡り、そして俺達に静かに迫っていた爬虫類系のバケモン達が驚きの鳴き声を上げた。

 

「グゲェ?ゲェ?!」

 

「忍び寄んな、このボケぇぇぇ!!」

 

 俺は腹いせのあまり、それらを殴る蹴るしてブッコロしたのであった。

 

「おどれらワシの拳で血の海渡れぇぇい!!」

 

……見せられないよ坊やが、なんとなくモザイクの向こうに見えた気がした。

 

 グチャアっ!ブチィィィ!グシャッ!メキッ!ドシュッ!!

 

「うらぁぁぁぁぁっ!!なん・ぼの・もん・じゃああああああああああっ!!」

 

 足りねえ、足りねえんだよぉぉぉっ!!怒りをぶつけるモンが足りねえぇぇぇぇ!!

 

 俺は叫び、そして、なんだかんだで突っ走り、気が付いたら地上の『軍曹』ごと戦車まで破壊していた。 

 

 気が付いたら死屍累々、戦車は鉄クズ、装甲車はスクラップ、兵士はモザイクが無ければ絵面的にお見せられない感じになって、それこそ地獄絵図が広がっていたが、そんな事はどうでも良い。

 

「うがぁぁぁぁぁっ!俺はっ、童貞だぁぁぁっ!!」

 

 虚しく夜の星の下で吠えるバケモノ(俺)。

 

 頭が冷えてほんのちょびっと泣いたけど、うん、だって男の子(三十路越え)だもん。

 

 まぁ、結果として部隊全滅で、さらに逃亡の足として奴らの車両が奪えたから良しとしておこう。

 

 全然良くないけどな!やっぱりスペンサー殺さなきゃ!(使命感)

 

 オワレっ!

 

 




主人公の飲むコーヒーは苦い。

処女ママというと尊いのに、童貞パパというとなんか臭そうな、そんな風潮の昨今。

おぢさんかて、おぢさんかて、好きでこうなったわけや無いんやぁぁぁぁ!!

ママがナス(ターシャ)ならパパは……まだ名前出とらんねん。次で出てくる……ハズ。

 


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こんな章の終わりでもいいんですか?


いつも感想や誤字脱字修正、ありがとうございます。

バイオハザード2編、これにて終了です。

今まで付き合っていただきましてありがとうございます。

主人公の名前が、やっと出てきます。でも、いたって平凡な名前ですよ?




 あのなぁ、おっちゃんなぁ、戦車とかいろいろぶっ潰したやん。

 

 装甲車も潰した、ヘリコプターも叩き落とした、兵隊も、口では言えんような倒し方、したわな。

 

 あのなぁ、またモロリしてしもたんや。

 

 今度は、クレアちゃんだけやのうて、エイダちゃん、ナスターシャちゃん、レオン、ああ、アネットは背中向いてシェリーちゃんの目を塞いどったから、二人は見とらん。ネメシス君は何が問題かわからん顔しとったけどな。

 

 つか、兵隊がな、硫酸弾ぱかぱか撃って来よったんが原因や。コートもズボンもボロボロや。ついでにベルトもな、溶けてしまってな。

 

 おっちゃん、せっかく服手に入れたのになぁ。

 

 つか硫酸弾は国際化学兵器禁止条約違反なんやと。ナスターシャちゃんが教えてくれたんやけどな?

 

 そんなもんで人の服溶かしくさりやがって、殺したろか……ってもう肉塊んなっとったわ。

 

 って、何故に俺はいつもいつも凹んだら関西弁になるのだろうか。

 

 ああ、今はネメシスの予備の服をナスターシャ博士に貰って着ているぞ。相変わらず下着はふんどしなのだが。

 

 俺は今、ぶん捕ったアンブレラのRVの後部座席に座っている。

 

 隣はナスターシャ博士、その隣はネメシスだ。

 

 なに?ネメシスと一緒の車内にいて、みんなはT-ウィルスに感染しないのか、だと?

 

 大丈夫だ。みんなにはちゃんとワクチンを接種させたし、ネメシスにもワクチンを打っている。まぁ、ネメシスのワクチンの量はごく最低で打ってネメシスの命に関わりのないようにしている。

 

 おそらく、ネメシスには今後数回に渡って接種させねばならんだろうがね。

 

 ヒソヒソヒソ……ちょっと、アレなんなのよ。あんなの反則……。ヒソヒソヒソ……すんごい。クリスぐらいあった……ヒソヒソ……お兄さん、そんなんなん?!……負けた……いや、男はサイズじゃない……多分……。

 

 やめてくれ。そんな話はやめてくれ。

 

 耳を塞ぎたい。だが塞いだところで強化された俺の聴覚は嫌でも音声を拾ってしまうのだ。

 

……つか、レオン。お前運転しとるのだからシャキッとせぇ。なんか危なっかしいぞ。

 

「……えっと、パパって逞しい……のね?」

 

 誰がパパじゃい。

 

「……ワクチン打ってまだそれほど時間は経ってない。寝れる時に寝ていなさい。近くの街までエイダの話ではまだまだかかるそうだからな。それからまだ何があるかわからない。体力は温存しておきたまえ」

 

 俺は一見いたわっているようで、しかしお前喋んな、という意図でそう言った。

 

「……ワクチン打ったらダメ、運転」

 

 レオンがみんなにわかりやすいようにそう言った。そう、みんなはワクチン打った後は車の運転とかしちゃだめだぞ?

 

 だがレオン、お前は別だ。いや、誰かが運転しないと脱出出来ないからね?シカタナイネー?

 

「……あなたは、医師なの?」

 

「アメリカでの医師免許は持ち合わせていないが、医師ではある」

 

「そう……」

 

 ナスターシャ博士は熱がまだ出ているにも関わらずまだ喋ろうとしている。いや、寝ろよ。辛いならさ?俺は一向にかまわないぞ。むしろ俺はあんまし話したくない。

 

 何故って?居心地悪いからっ!精神的にっ!つか知らん女の子やぞ?知らん女の子と自分の間に知らんうちに、知らん間に子供が造られとったんやぞ?

 

 そんなん居たたまれんどころか気まずくて童貞彼女居ない歴=年齢の俺にはどうしていいのかわからんのだ。どういうスタンスで話をしたらいいというのだ?

 

「……名前、そう、名前。私、あなたの名前をまだ聞いてないわ」

 

 ナスターシャ博士のその発言に、車内全員が、

 

「そういえば聞いてなかった!」

 

「え?クレアが一番彼といた時間が長いのにしらなかったのか?」

 

「ああ、そう言えば私も聞いてないわね。何故か失念していたわ」

 

「えっと、おじさまって呼んでたから、私も知らなかったわ」

 

「……知らなくてもまぁいいわ、と思ってたわ」

 

 そう言えば俺、名乗って無かったな。しかし面倒臭くなくていいか。

 

「……世の中、知らないことの方がいいこともある。私は、そう、スペンサーの野望を打ち砕くため、スペンサーに復讐を誓った時から自分の名を捨てた。今の私はキャプテン・タイラント。悪のアンブレラを倒すダークヒーローだ」

 

 そんな設定など、俺には無い。ただこの娘に自分の名前を教えたらなんとなく、そう、なんとなくヤバい気がして、あえて名乗りたくない一心でそう言っているのだ。

 

「えーっ?!おじさま、日本から来た正義のヒーロー『フンドシマン』じゃ無かったの?!あれは嘘だったの?!」

 

 あー、そういやシェリーにはそう言ってたよな。いや、正確にはエイダをからかうために言ってた事だったんだが。

 

「……うむ、だがフンドシマンの名はここでは使えないのだ。アンブレラにもう正体がバレてしまった。だから私はあえて名前を変えた。そう、『キャプテン・タイラント』。今からそれが私の……」

 

「いや、だからその設定はいらないわよ。私達はもう仲間じゃない。一蓮托生、誰が欠けても生き残れなかった。それにみんな名前を名乗ってるわ。あなただけ名乗らないのは……もしかして私達を信じられないって事?」

 

 エイダがそうキツい目を俺に向けてそういった。

 

 だが、考えてくれたまえ、みんな。そこに嘘つきがおるぞ。

 

……オマエ、エイダ・ウォンって名前、本名ちゃうやろが。偽名やろがぁぁぁぁっ!!

 

「そうだよな、俺もエイダの言うとおりだと思うぜ。なぁ、教えてくれよ。あんたの名前」

 

 せやからレオン、おまえそんなやからエイダに騙くらかされまくるんや、そういうところやぞ?

 

「そうね。今までさんざん命を助けてもらった恩人の名前を知らないんじゃ、クリスに会えた時に怒られちゃうわ。私も知りたい!」

 

 クレア、おまえ……。

 

「おじさま、教えて!お名前!」

 

 ああっ、シェリーちゃんも、もぉっ、そ、そんな純真な目で、ああっ!

 

「……私は、どうでもいいのだけど」

 

 なんだろう、ある意味俺の味方はアンタだけなんやが、その冷めた物言い、ムカつくぞアネット。

 

「……教えて?アナタ」

 

 いや、ナスターシャ博士、そのアナタの言い方はなにか意味が違う気がするぞ。和訳やからアナタやけど、なんやねん『ダーリン』ってのは!!俺は未婚の童貞やぞぉぉぉっ!!ちょっとしたエエ乳しとるからって、この、このぉぉぉっ!!揉んだろかおいぃぃっ。

 

「……パパはイジワルシテルノ?名前イイタクナイノ?」

 

……さっきまで寝とったネメシスまで起きてそんな事を言うのか?パパ?いや、確かに遺伝子的にはそうだけどっ!!否定材料が何一つなくマイサンだけどっ!!

 

 ああ、名乗るしかないのか、俺は。

 

「くっ……!……だよ。」

 

 小声で早口で俺は素早く聞き取れないように言った。

 

「「「「え?聞こえなーい、もう一度!」」」」

 

「ちくしょう、笑うなよ?俺の名前は!!」

 

 そうして俺は自分の名を大声で言う羽目になったのだった。

 

「俺の名前は!『平・凡(たいら・ひとし)』だっ!!」

 

 そう、平凡と書いて、たいらひとし、と言う。

 

 大抵の奴が『ひとし』と読めずに『ボン』と読むのだ。ひどい奴になると、『ボン、ボン、ボンやおまへんか!ツクツクボーシツクツクボーシ!ずんだかったったー!』と某西川の○おのネタを持ち出すのだ。

 

 いや、まだだ、まだ終わらんよ。

 

 ここは英語圏な国、メリケンなのだ。漢字などわかる奴はいないし、まさかヒトシと聞いて凡という漢字だと思う奴もいるまい。ははははははは!俺の考え過ぎだな!!メリケン人敗れたり!

 

「……名前を名乗るのを嫌がってた。タイラ、でヒトシ。名前にコンプレックス、なるほどね」

 

 ギクリ!いや、まさかな。エイダが如何に中華系だからと言って、わかるはずが……。

 

「平凡、つまりmediocre。アナタ……すごく『平凡』な名前で悩んでいたのね『ミスター平凡」?」

 

「ぎゃあああああああああああっ!!」

 

「あーっはっはっは、名前を漢字で書いたら『平凡』!全く平凡からかけ離れためちゃくちゃな奴の名前が平凡、mediocre?嘘でしょ、あーっはっはっは!!」

 

 エイダが爆笑したが、その理由がわからない面々。

 

「エイダ?どうしたんだ、ヒトーシの名前がなにかおかしかったのか?」

 

「ええ、これが笑わなくてどうするかって言うぐらいに彼にお似合いの名前なのよ、いい、レオン、笑いすぎてハンドル操作誤らないでね?」

 

 エイダの説明を止める間など無かった。

 

 レオンは笑いすぎて車を蛇行させ、クレアは笑っては失礼でしょ、と言っていた割にはゲラゲラ笑っていたし、シェリーは少し吹いた。エイダは元から爆笑していたし、アネットすら腹を抱えていた。

 

「……なんだよ、笑えよ、ナスターシャ」

 

「ん……タイラー・ヒトゥスィ?ん……」

 

 あ、寝た。

 

「マァ、パパはパパ、ダカラ良イヤ。ネムネム……」

 

 お前も寝るんかい。

 

 爆笑のまま、俺達の乗るRVは対向車も追従車も無い長い道を走る。蛇行したあとで、レオンがカーラジオをかけた。多分、ドライブに音楽が欲しくなったのだろう。

 

 ♪ローリポ、ローリポ、ボボンボンボン……♪

 

「「「「「あーっはっはっはっはっは、あーっは、あはははははははははは!!」」」」

 

 いや、君らボンに反応し過ぎや。ホンマに……。

 

 そのまま、俺達は何事もないまま、アンブレラの部隊もB.O.W.の攻撃も、本当にないまま、拍子抜けしそうなほど平和に、近くの街へと向かったのだった。 

 





 バイオハザード2編がやっと終わりました。

 しかし、物語はまだまだ続きます。主人公の平凡ではない戦いはまだ序盤。

 俺達の戦いはこれからだ!!(打ち切りではありません)。


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幕間劇
タイラーさん、拠点獲得と会社設立へ


いつも感想ありがとうございます&修正等すみません。

・やったね平さん、拠点が出来るよ?

・名前は平凡で(たいら・ぼんです!)、繋がり。わかる人いるかなー?

・バイオに他のゲーム要素出すな、という方がいたらすみません。


 あのラクーンシティからの脱出劇のさらにひと月後。

 

 クレアは兄であるクリストファー氏を追ってヨーロッパへと旅立ち、レオンは警察へと復帰したが、しかしラクーンシティでの事件の報告が元でアメリカの上層部の召喚に応じてワシントンDCへ向かったらしい。

 

 で、俺はというと日本にも帰れずアメリカにも居られず、アンブレラから逃げて今はエイダの勧めで中南米の小国にいる。いや、正確にはその小国の沖、洋上にある廃棄されたなんかデッカい海上プラントにいる。

 

……いや、なんなんこの施設。

 

 エイダが言うにはこのプラントは今から10年以上前にとある伝説の兵士が……って、多分それは聞いちゃいけないし話しちゃいけない、なんなら物語のタグを増やさなきゃいけない類の話だからな?

 

 ようは傭兵の作った民兵の会社の施設だったらしいが彼らはいつの間にかここを放棄して居なくなったらしく……って、すみません、ここの隣んところなんてなんか足のついたメカのスクラップ転がってんですけど?!つかそれ1980年代に放棄された云々のレベルの技術じゃねーから!!(物語の年代はまだ1990年代辺り。)

 

 それにあちこちに銃弾の跡とか爆発物が爆発したような跡もあるし、なんやねんこの施設、っていいや、エイダ、言わなくて良いからな?だから世界線越えてるからっ!!そのうち、某声優さんの挿入歌に、オタ芸で、なーな!なーな!とかやったり、愛国者とらり○れろ!とかそんなん出て来るからっ!!だめだって!!いくら俺の名前が平凡やからって、どっかの声優さんのオタ芸つながりでって、これはあかんやろーーーっ!!

 

 ぜいぜいぜい(息切れ)。

 

「えっと……ヒトシ、よくわからないわ?」

 

 エイダは首を傾げた。その横にいるとある中南米の『裏の不動産屋』を名乗る人物が、なにか胡散臭い笑みを浮かべつつ、

 

「この海洋プラントは見ての通り廃棄されて久しい。政府は予算の都合上、撤去する事も面倒ですし、しかし何かに使うとしてもその予算も実際、無いと言うわけでして。ここを使っていた方々のような傭兵会社を呼び込むとしてもアメリカやロシアの介入を……いえ、今は関係無い話ですな。傭兵会社の方々はどうやらここではない、アフリカ近くに同様の施設を建造したようで所有権とか主張する事もないでしょう。それにここはすでに単なる廃棄された施設。ですので、格安に提供する事が出来ます。もちろん、なーんにも無い海の上ですし、交通の便もクソも無く、あなた方の抱えるトラブルによって我々政府が煩わされることも無い。ぶっちゃけ、戦闘とかやらかしてここを魚礁にするぐらいにぶっ壊したって大丈夫な程にリーズナブルなお値段にさせていただきますよ?」

 

 と、まくし立てるように言った。なんとなく声が某ヤザンな声優さんに似ていると思わなくも無いが、気のせいだろう。

 

……というか、ここがぶっ壊れた方がいいみたいな言い方だよな。

 

「……ぶっちゃけ、おいくらで?」

 

「ええ、単刀直入に、これぐらいで」

 

 そうして、俺達は非常にリーズナブルなお値段で隠れ家件本拠地を手に入れた。ついでにここと陸に行くための船も付けてくれた。値段?まぁ、だいたい副都心に一軒家を建てる程度だと言っておこうか。

 

「契約完了ですな。では、セイ!ピース!」

 

「いや、やべぇからやめろ、オッサン」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 まぁこんな展開になったのには、ぶっちゃけた話、いろいろあったのだ。

 

 ぶっちゃけ、俺は日本に帰るつもりだった。帰国して態勢を整え、あらゆる方面から……法的にも実働的にも資金的にも……アンブレラとスペンサーを追い詰めるつもりだったのだ。

 

 日本に帰れば、これまでに俺が作った薬品の特許がある。ハチマン製薬が今の社長になるまえ、先代の社長は俺の作り出した様々な薬品の特許を俺の名前でとらせてくれていた。製造法やその細かい技術なども。

 

 おかげで俺は現時点で一生どころか子供の代まで遊んで暮らせる程の金を持っている。そしてそれは今もなお、増え続けている。

 

 問題は、俺の姿がT-ウィルスによって変化しすぎて自分が俺だと証明出来るかどうかだった。

 

 が、この問題を解決してくれたのは他でもない、エイダだった。

 

 エイダは俺がラクーンシティで事件に遭って奇病に侵され、その治療をするために入院し、完治したは良いがその治療の副作用で身体が大きくなった、という医師の診断結果を用意し、ラクーンシティにおける今回の災害で、俺の身分証明書や旅券が消失した事においても弁護士や保険会社等の代理人を用意してキチンと再発行させてくれたのである。

  

 なお、労災であるから、きっちりとハチマン製薬にも連絡し、架空の入院費用等を出させてそれを医師と折半する辺り、エイダらしいと言えばそうなのだが。

 

『まぁ、とっくにアナタの素性も何もかもアンブレラに把握されているし、それだけにアンブレラもコレが嘘だとわかっていても何にも言えないしね?』

 

 女狐め、とは思ったがしかし助かった事は確かである。

 

 そしてエイダは一つの計画を俺に持ちかけた。

 

『あなたがもしもアンブレラを、スペンサーを倒したいなら、一つ良いプランがあるのだけど?』

 

 エイダの言うそのプランはだいたい俺が立てていたアンブレラを潰すためのプランと同様だった。

 

……いくつかの事を除けば、だが。

 

 そのいくつかの事の一つがこの中南米行きであり、そしてこの海洋プラントの買い取り、活動拠点にし、さらに製薬会社を起業する、というものだった。

 

『……俺に、起業しろと?無理だ。俺は研究畑の人間だ。それに俺一人ではな』

 

 無理だと思った。

 

 法的な戦いなら弁護士に任せるのみだ。そこに俺が出来ることは証拠を渡しアンブレラにとって不利な情報を提供する事、それだけだ。

 

 だが、奴らの部隊やB.O.W.との戦いに俺は人任せには出来ない。死のリスクを誰かに肩代わりなどさせたくも無いし、俺自身がB.O.W.なのだ、誰よりもうまくやれる。

 

 確かに拠点を得るのは必要だった。そしてここはもしもアンブレラの連中が攻めて来たとしても周囲になんの被害を出さずに、ウィルス感染を広める事無くやれるだろう。

 

 だが、起業しながらそれをやるのは無理だ。会社を運営するその労力と時間、なによりアンブレラと戦うためにその資金をそれに割くのは……。

 

 しかしエイダは俺に言った。

 

『製薬会社だからといって薬を販売しなければいけないってわけじゃないわ。そうじゃなくてあなたが、いえ私達が売るのは特許よ。正確に言えば薬品のレシピや製法の特許を取って、そしてその特許使用料で儲ける。そういうビジネスを展開するのよ』

 

 エイダの俺に対するプレゼンは、

 

 アンブレラの造ったウィルス兵器に対する抗ウィルス剤や感染に対するワクチン、血清、ありとあらゆるアンブレラの製作物を無効化する薬品を作り出し、その特許を世界規模で所得し、製法やレシピをアンブレラ以外の世界中の各製薬会社に提供、その特許で儲け、それらの稼ぎの何%かをアンブレラの生物災害で苦しむ人々達やアンブレラと戦っている人々への支援に使い、また様々な運用をして自分達の活動資金にも当てていき、活動の中で有用だと思える人物を積極的にスカウトし、活動の輪に加えつつ規模を拡大させていく、というものだ。

 

『どうせあなたはアンブレラとの戦いの中で様々なウィルスに対しての薬をとっとと作るんだろうし、それなら、その特許をとって多くの人達に届くようにした方がいい。……違うかしら?』

 

 さらっと私達とエイダは言った。つまり、エイダは自分を俺の仲間だと示したとも取れるが、しかしどうもスパイだった彼女が俺にそんな事を持ちかけたのかがわからなかった。もしかするとエイダは所属している連中の思惑で俺を誘導しているのか?と思ったが、しかしエイダの匂いはそれを否定していた。

 

『……わかった』

 

 俺はエイダのプレゼンにそう答えた。するとエイダは初めて見るような満面の笑みを浮かべて、

 

『決まりね』

 

 と、俺に手を差し出してきた。

 

 俺は、おずおずとその手をとり、握手。

 

『会社のオーナーはあなた。私は……折衝役というか、まぁ、秘書……かしらね。運営は雇われ社長を誰か雇いましょう。まぁ、経理に法的手続きに……いろいろ人材をスカウトしないとね?』

 

 こうして、俺は対アンブレラ組織を設立することになった。

 

『で、社名は何にする?』

 

『……白陽社。ここらの言葉ならソル・ビアンカか?奴らの罪を隠す傘を白日の元にさらす暴虐の光を放つ太陽。お天道様に顔向け出来ない連中に無理矢理太陽を当ててやる』

 

 折しも時刻は日が沈む頃。夕日が赤く俺達を染め上げていたが、ここに対アンブレラ組織・白陽社が発足したのだった。

 

……なお、この海洋プラントの中身を見ていろんな意味で悲鳴をあげることになるとは、この時の俺はまだ知る由も無かったのである。

 

「年代的にありえねぇ物品、ありすぎだろ、おい」

  




やったね、平さん結局タグが増えたよ?

エイダが秘書。……油断できねー気がする。ものっそく。

なお、拠点がそうだからといってスネークさんとかは出てきませんし、そっちのキャラも出てきません。念のため。




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裏の不動産屋(中南米の大統領)

沢山の感想と誤字訂正ありがとうございます。

水虫薬とカビ洗剤生産決定。

UMAの正体はアンブレラのB.O.W.だったんだよー!!ナンダッテェ!?






 

 会社が設立して、やったこと。

 

 プラントの各機材の整備、プラントの使うとこだけ掃除、プラントにPC導入、プラントにあった小型魚雷挺を買い出し用に使うために整備、プラントのジェネレーターとその燃料タンクを整備。プラントに無線機設置。

 

 大半、プラントの修理と整備。

 

 本来ならば数十億はかかるはずが、ほとんど金をかけずに済んだのは、ここの施設の設備が恐ろしくなるほどに揃っていたことと、それらを修理出来るナスターシャ博士の技術力のおかげだろう。

 

 そもそも。

 

「この施設はなんなんだぁぁぁぁぁっ!!」

 

 と、俺が頭を抱えて叫ぶほどにこの海上プラントは異常であった。

 

 そもそもここが民間軍事会社の所有するレベルの基地であってたまるか!!と言うほどにここにはありとあらゆる設備と機材が潤沢に揃えられている。いや、揃えられすぎている。

 

 御用聞き廻りと称してこの国の政府のヘリでやってきた『裏の不動産屋』こと『この国の大統領』に俺は思わず言った。

 

「そもそもなんでこの国の大統領のあなたがこんな危険なプラントを俺達に斡旋したんです?こう言っちゃなんですがヤバいどころじゃないでしょう?!」

 

 ニヒルに笑う大統領。 

 

「あーもうバレたか。詰まらんなぁ。うーん、予定ではこう、いざという時に颯爽と現れて実は私は!!的に盛大にバラす予定だったんだがねぇ?まぁ、バレたんならいいや」

 

 なんというか某ヤザンな声だが、その雰囲気は高○純次のようだ。いい加減な態度でさも残念そうに大統領はそう言ったが、なんだろう植木○も混ざってないか、この人。

 

「バレたんならいいや、じゃねぇぇぇっ!つーか、秘書のあんたもクスクス笑ってんじゃないよ、警護のあんたらもっ!!」

 

 つか、アンテナとテレビを修理して試しに映したらこの国の大統領がなんかニュースで取り上げられており、その顔がこのオッサンだったのだ。

 コーヒーめっさ噴いたわ、俺じゃなくテレビ修理終えて休憩してたナス博士が(なお全部俺にかかった)。

 

……どうやらエイダは知っていたようだが。

 

「ふぅむ、確かにヤバい施設だけどねぇ、そこぐらいしか君達に提供できる場所が無かったんだなぁ。だってね、アンブレラはウィルス撒き散らすようなクリーチャーを使って来るんだろう?なら陸から遠く離れてた方がいいじゃん?」

 

「いや、そこを心配するんなら最初から俺達なんぞ相手にしなけりゃいいんじゃね?」

 

「はははははは、そうはイカン○キスミレ、花組のトップスタァ、おーっほっほーだ。アンブレラはとっくにこの国の近く、南米に秘密施設を持ってるし何か怪しげな行動もしているのだ。妙な怪生物の噂は近隣諸国からやたらと聞くようになったし、やれ野人だ、やれチュパカブラだ、やれレプタリアンだ、空飛ぶサメだ……。私は思わずツッコんでしまったよ!そんなもん自然界にいるか!!全部お前らの国が誘致したアンブレラの連中の生物兵器だろ!!とね」

 

……なんだと……?チュパカブラってアンブレラのB.O.W.だったのか?いや、レプタリアンはハンターとか言う奴が確かにそんなんだったし。だが空飛ぶサメはどうなんだ?B級映画かそれ?

 

「……実際、我が国にもそういう怪物の目撃談が出だして、さらには国境警備隊がそれと交戦し、数人の死傷者を出すも、その死体を確保した。それが、これだ」

 

 大統領が胸の内ポケットから一枚の写真を出して俺に見せた。

 

 それは乳を放り出してセクシーポーズで投げキッスをかましているどう見てもイケないお店のおねーちゃんの写真だった。マジックで文字が書かれてある。

 

【私のプレジデント、また来てね♡】

 

 ご丁寧にルージュのキスマーク付きだ。

 

……いや、俺は何にもツッコまないぞ。

 

「あ、間違えた。これはお気にの風俗嬢からもらった写真だった。いかんいかん。……なぁ、今度一緒にいかないか?いい娘揃って……」

 

……いや、大統領が、んな店行くなよ。

 

「大統領、話がそれてます。あと、奥様にご報告しますので」

 

「Noooooっ!!いや、アマンダ君、これは我が国の貧困調査としてだな、私自らがだな……」

 

 いろいろと美人な秘書さんに言い訳をする大統領だが、結局は大統領夫人に報告される事になったようだ。というか貧困調査とかそんな店に行ってありえるわきゃねーだろ。

 

 しかし大統領がこんなんで大丈夫なのか?というかスキャンダルでよく政権の座から落とされないな。日本なら辞職ものだぞ。

 

「大統領の浮気はこの国じゃ名物だ。国民の大半はまたか、と思うだけさ。まぁ、奥様の雷が落ちれば三日は静かになるが四日目からはまたやらかすのさ」

 

 警護の人がこそっと俺にそう言ってきた。

 

「うううっ、また自粛の日々が……。いや、それよりも本題だ。これがその怪物の画像だ」

 

 その死体はどう見てもハンターαと言われる爬虫類系のB.O.W.のものだった。

 

「ハンタータイプ、ですね」

 

「そうとも。幸いこのハンタータイプからはウィルスは検出されなかったが、アンブレラが南米でB.O.W.を流出させてしまっているのはこれで確定した。故に我が国はそれに対する抑止力とそれと戦う戦闘力を有しなければならなくなった、というわけなんだが……」

 

「表立って国としてそれを保有するのは政治的不利となりかねない、と?」

 

「我が国は小国だからね。コーヒーと葉巻、あとは薬品の材料となる植物の栽培と漁業ぐらいしか無いからね。それに予算も何もあんまり無いのさ。このプラントも放置せざるを得なかったのも実際のところその辺なのさ」

 

「……ここを使えば、いろいろ出来たんじゃないんですか?」

 

「国際的な立場上、ここで製造出来る大半の武器や兵器は他国のパテントを侵害している。国内で使うにもやれ装備がソ連側だとか米国側だとか、それで無くても言われたりするのに、出所不明となればさらに要らん憶測を立てられて圧力をかけられてしまうんだよ。ほら、さっきの秘書クンが私の妻をダシにプレッシャーをかけてきたようにね」

 

「いや、あれは確実な浮気の証拠をうっかり出したあんたが悪い。それはともかく民間企業の俺達がここの設備にあるものを使うのは大丈夫だと?」

 

「そうだとも。フリーな奴が風俗に行っても問題が無いようにね。まぁ、白い目で周りの女性から見られるかもしれないが、なーに、慣れればどうという事はないさ。君達がどこから武器を得ようが我々は関与しないし、船やヘリやどこの傭兵を雇おうとも君達の勝手だ。ああ、とりあえず乗り物の登録やそういう事があれば秘書クンを通じて言って来てくれたまえ。なーに、この国は大らかだ。軍用ヘリだろうが強襲揚陸艦だろうが、民間機扱いで登録してあげよう。まぁ、問題が起これば全て君達のせいにするけどね?」

 

 わははははははは、と大統領は笑ったが、すぐに真顔になってこう言った。

 

「……つまり、いろいろ便宜を計る見返りに、この国の国民を守る活動を頼みたい。アンブレラのウィルス災害やB.O.W.による国民の被害を食い止めてほしい。無論、感染者が出たときの事を考えてその治療薬もね。我が国はアンブレラを誘致するような愚かな考えは持ってはいないし、そのアンブレラのマッチポンプ、つまりウィルスをばらまかれ、その治療薬を奴らから購入して奴らを肥え太らせるのもごめんだ」

 

 嘘偽りの無い言葉だった。たしかに胡散臭い所はあるが、おそらくはそう演技しているのだろう。匂いは嘘を吐かない。彼の匂いは良質のタバコの葉の香りに似て、それは真実の言葉であることを俺の嗅覚はとらえた。

 

「あとは……そうだな、今日来た要件はあと2つあるんだが、手短に伝えよう。私も公務が忙しいのでね」

 

「要件ですか?」

 

「なに、どちらも多分良い話だと思うんだよ。一つは人材の紹介、もう一つは農地の売り込み、だな。今度、日本の企業がこの国から撤退するというので、まぁ……薬剤の材料となる植物のプラントが廃棄される事になってね。多分、その植物は君には縁の深い成分の材料のはずなんだ。アマンダ君、資料を社長に渡してくれたまえ」

 

 大統領の秘書は俺に二つのプラスチックファイルを渡して来た。それを受け取ると、大統領はまた話を続けた。

 

「赤いファイルには分類わけしてあるがそっちは人材のプロフィールをまとめたものだ。そちらは後で見て検討してくれたまえ。緑のファイルは、君に紹介したい農地の資料だよ。廃棄されるプラントは君が在籍していた『ハチマン製薬』の水虫薬の主成分となる抗真菌作用をもつ植物の栽培を行っているところさ」

 

「……俺が、発見した『シンキナオール(sinqinaole)』の?」

 

 シンキナオール(sinqinaole)は俺が抗カビ作用を持つ植物のその樹液などを研究して発見した植物性水溶の脂質成分である。なお、成分の名前はヨモギに含まれるヨモギ油のヨモギオールに準じつつゴロ遊びをしている。

 

「そうとも。知らなかったのかね?君が発見した成分を含む野草はこの国で生産されていたのだよ。もっともそれは中南米から南米に広く自生している、なんてことの無い、我々からすれば単なる雑草扱いのどこにでもあるものだったのだがね。ハチマンの先代社長はその雑草の生産をわざわざ我が国に持ちかけてきたのだよ。『ただの雑草が金になるぞ!雑草でみんなが豊かになる!しかも人のためにもなる!』とね。あの人は正しい商売人だった。『誰もが得しかしない真っ当な商売こそが世の中を幸せにする』と公言してその通りの事をやってのける人だったんだ」

 

 まさか、先代……亡くなったおやっさんがこの国に関わっていたとは、俺も知らなかった。

 

「……おやっさんが、この国で材料を?」

 

「その通りさ。この国が経済的に救われたのは先代ハチマン社長、そして君が開発した薬品のおかげだ。おかげで我が国は経済的にかなり助けられたとも。本当に雑草が黄金に変わったようだった」

 

 だが、大統領は頭を振り、言葉を続けた。

 

「それもアンブレラによって終わりを告げようとしている。アンブレラは会長の命令で『シンキナオール』の成分を豊富に含む野草の撲滅を打ち出し、その成分を使った薬品の製造、販売を禁止したそうだよ。悪魔に魂を売った現ハチマン社長はそれに従ったそうだ。愚かな話だ。世界的なヒット商品を失って今のハチマンは果たして存続できるのだろうかね?」

 

 無理だろうなぁ~と大統領は笑って言った。若干、何かしらかの寂しさのようなものがその表情に宿ったが、しかしそれも一瞬だ。すぐにニヒルな笑いへと変わった。

 

「今のハチマンのアホ息子はどうでもいいですが、しかし、スペンサーが何故そこまで『シンキナオール』を含んだ薬品を警戒するのかわかりませんね。どう考えても真菌やカビに対してならまだしも、何らかのウィルスに効くような成分では無いですしね」

 

「まぁ、どこにでも生える雑草を撲滅するなんて考えるなんて実は耄碌してボケたのかとも思ったがね。が、『シンキナオール』がアンブレラやスペンサーの目的の妨げになるキーアイテムになるかも知れないのは確かだろう。そこでだ、今なら広大な畑ごとその対アンブレラの鍵となる植物が、しかも成分を大量に含むように品種改良に改良を重ねてきた高品質のものが、大量に手に入るチャンスが君に舞い込もうとしているわけなんだがね?なーに、廃棄なんてさせないさ奴らがなんと言おうが作物はきっちりとよそに保管してあるとも!」

 

 どうする、買うかね?

 

 大統領はとても悪そうな笑みを浮かべて俺にそう言った。

 

「……ぶっちゃけ、おいくらで?」

 

 大統領は電卓を出して、えー、とりあえず恩義とかいろいろ加味しましてーと。

 

「ええ、単刀直入に、これぐらいで」

 

 プラントを買ったあの時と同じセリフを言い合い、そして俺はスペンサーへの嫌がらせ用にまた水虫薬とカビ用洗剤を開発する事となったわけである。

 

 幸い、特許は先代社長のおかげで俺のものになっている。

 

「ところで、買い取ってもらう事にはなったが、一つ有効活用についてというか商談というか、あるんだがね?」

 

「……この国で水虫薬とカビ用洗剤の工場を共同で作って販売しよう、という話ですね?材料がここにあるなら造るのもここの方が早く、それに世界に流通すれば国益になる。世界レベルでどっちもヒットしましたしね。さらに雇用対策としても畑も工場も有効ですし」

 

「うむ、話が早いねぇ。理由はわからないがアンブレラはこの成分を毛嫌いしているようだし、それにハチマン製薬を大きくした薬品だ。共同で事業を起こせば……確かに国益に大きく貢献できるだろう。うむ、是非にお願いしたい。なーに、工場の立地なら任せたまえ!あと、そちらの方の予算はこちらが出そう。よーし、これで経済的後退は免れそうだぞう!」

 

 こうして、俺達の対アンブレラ組織は非公式だがこの国の協力を得られる事となり、また俺の白陽社(自)は事業をさらに展開する事となったわけだが。

 

 やったね、また水虫薬ができるよ?

 




・中南米の某国大統領
 ヤザン似の声とモン○ーパンチな体型の優男。性格は高田○次風。風俗好きで若い嬢がお気に入り。

・アマンダ大統領秘書官
 大統領夫人の懐刀。非常に優秀な元傭兵。某ビックボスと会ったこともあるとかないとか。

・警護担当
 元南米出身の軍人だったが、いろいろあって警護担当になった人。運転手も兼。

 なお、感想とかでもナスターシャ博士とネメシスは?とありましたが、きちんといます。なお、ネメシスは現在T-ウィルスの除去処置中であり、まだ感染の危険があるために外に出られず、ナスターシャ博士も裏方で設備の修理をしていて出てきません。


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ネメシスの治療~虫下しチョコ開発。

いつも感想と誤字訂正ありがとうございます。

ネメシスの治療には様々な困難が……。

ちらりと新入社員の名前が出てき始めるよ?

虫下しチョコの前に、蟯虫検査セロファンだよなぁ。


 

「ネメシスの治療には外科的手術が必要だ」

 

 俺はナスターシャ博士にそう告げた。

 

 ここは医務室の、本来医師が座る診察室である。ネメシスの治療とは、T-ウィルスの駆除ともう一つは寄生生命体型B.O.W.『NE-α』の駆除並びに除去である。

 

……まぁ、顔の手術痕や『NE-α』の寄生による顔の皮膚組織や鼻腔、前顎下の口蓋裂様の亀裂等への形成術も今後やらねばならないだろうが、それは今、語るべき事ではない。

 

 T-ウィルスの駆除は比較的に好調に進んでおり、そちらは全く問題は無かった。

 また幸運な事に寄生生命体『NE-α』はその神経足をほとんどネメシスの中枢神経や脳に伸ばしておらず、その増殖も見られてはいない。

 

 その原因はいくつか考えられるが、まぁ、ぶっちゃけ言って、セルゲイのホモ野郎の失敗だ。

 

 セルゲイは自分の細胞をアンブレラに売り渡し、タイラントの量産を可能にしたという功績で幹部になったという話(ナスターシャ博士談)だが、ゲイ野郎は自分の遺伝子以上の適合率を叩き出した俺の遺伝子に危機感を抱いたらしい。どうやら俺の遺伝子が自分の地位を脅かすと思ったようだが、そんなん知らんわい。

 

……というか人の迷惑とかそんなん考えたこと無いやろオマエ。

 

 ホモ野郎は、そこで俺の遺伝子製の全てのクローンやその派生であるネメシスをとにかく抹殺するために様々な手を使ったらしい。

 

 ナスターシャ博士の話では、俺のクローンやネメシスタイプも全て暴走したという理由により廃棄され、性細胞はフランスにあるアンブレラの研究施設にのみ保存されている、との事だが、それは反セルゲイ派閥に所属しているモーフィアスという幹部研究員が死守しているとの事だ。

 

……一言言わせてもらえば、出来れば死守なんてせずに、丁重にティッシュにくるんでゴミ箱に捨ててくれた方が俺としてはありがたいと思うんだ。だいたい、俺の遺伝子なんて、そうやって過去に何度も何度も……いや、げふんげふん。

 

 話が逸れた。

 

 セルゲイ派は最後にネメシスを始末するためにNE-αが脳神経を掌握しきっていない状態でアメリカに投入させたわけだが、まぁ、その後の展開は皆様ご存知の通り。ネメシスは俺からワクチンの接種を受け、その結果としてNE-αは成長を阻害され、触腕や神経を伸ばす事が出来なくなったのである。

 

「で、だ。NE-αを完全に殺す薬品はもう完成している。無論、この薬はネメシスの身体には全く害は及ぼさない」

 

 俺はナスターシャ博士の前に、ころんとその薬を置いた。

 

「……えっと、これはチョコレート?」

 

「そうだ。日本で主に児童に処方されていた虫下しチョコ、正式名称『アンテルミン・チョコレート』を真似て作ってみた」 

 

 アンテルミン・チョコレートとは、かつて昭和の時代に児童用に作られていた蟯虫、回虫を駆除する為の『虫下し』であり、キューピーさんの絵でお馴染みの蟯虫検査セロファンとワンセットみたいなアレである。

 

 なお、アンテルミンとは『アンチ・ヘルミンス』、つまり対寄生虫を略した造語だ。さらにもっと言えば蟯虫検査セロファンの名前はポキールではない。正式名称は『ピンテープ』で、ポキールは虫下し薬のことだ。念の為。

 

「まず、なんでチョコレート味にしたのかと言えば、完成した対NE-α薬は殺人的にクソ不味かった。味と言い臭いと言い後味まで最悪だった。無論、人体には無害な成分ではあるが、ちょっとでも口に入ったら確実にその不味さで吐く。間違いなく吐く。何度も試行錯誤して試した俺がいうから間違いない。オブラートに包もうがカプセルに封入しようが、胃液でそれが溶け出した時点でなんか気分が悪くなり吐きそうになる。そんなもん子供に与えられるわけは無い。可哀想なのもあるが、吐いたら薬の効果など見込めないからだ」

 

「そ、そこまで不味いんだ……、NE-αのお薬って……」

 

 ナスターシャ博士はチョコレート味のその駆除薬を見ながら絶句していた。

 

 そう、胃の中に入ればその気持ち悪さから吐き、吐いたそれが口の中を汚染し、余計にえづいて吐きたくなる。地獄の薬、それが対NE-α薬だった。

 

 大げさだと思うかい?じゃあ飲ませてやろうか、なーに人体には全く無害なんだよこの薬は。ほら、口を開けやがれ、お前にも俺が味わったこのクソ苦くて臭い地獄を体験させてやる!!そう、言葉よりわかる、飲んでみさえばすぐに。エンドレスゲロワルツ!

 

……いやいや、取り乱してしまったようだ。というか俺は一体どこの誰に話してるんだろうな。たまに第四の壁を越えてしまいそうになるときがあるんだが……いかんな。うむ、気をつけよう。

 

「……そこで、だ。昔にとある会社が作った虫下し薬に、チョコレート味のものがあったのを思い出したんだ。俺は味をなるべくマイルドになるように成分調整を行い、市販のチョコレートを混ぜて作ってみたんだ。そして作っては吐き、作っては吐き……。やっと、普通に食えるものを作り上げた。ただ、自分だけではある程度味に慣れてしまっている可能性があり、エイダに虫下しであることを全く教えずに食べさせた。……まぁ、成功したよ。あとでバレてしばかれたがね。フフフフフ」

 

 エイダの評価は『ビターな香りが強いのにやたら甘過ぎる味に違和感がある』というものだったが、子供用だと伝えたら『ならこれでいけるでしょ。子供は甘いの好きだから』と納得してくれた。

 

「故に、NE-αを殺すのはいつでも出来るようになったわけだ。だが……」

 

 そう、思わぬ所で苦労したが、しかしそこをクリアできても次の問題がまた俺の前に立ちふさがったのである。

 

「殺した寄生生命体の死骸がネメシスの身体に残ると、ネメシスの身体はそれを異物として認識し、拒絶反応を起こすだろう。つまり、脊髄付近でそれが起こると神経にダメージが出る可能性が大きい。また、溜まった膿による神経圧迫や……ようするに手術をしてすぐに取り除かないと大変な事になる」

  

 そう、殺したNE-αの死骸をすぐに取り除かねばネメシスの身体が危険なのである。

 

 まだ生きているうちはNE-αは宿主に対して拒絶反応を示さないようになんらかの分泌物を出して宿主の免疫系を騙しているのだが、死ねばその分泌は止まる。

 

「……でも、ネメシスの身体の中のNE-αはまだ未発達とはいえ、広範囲に巣くっているわ。かなり困難で繊細な手術になるはずよ。アナタは医師だけど、専門は内科、だったわよね?」

 

 ナスターシャ博士の指摘どおり、俺は手術をする事は出来ない。俺は内科医としての知識は持ち合わせているが、外科的なスキルはない。

 

 だが、ネメシスの執刀医はもうピックアップ済みだ。

 

「明日、ネメシスの手術を依頼しようと思っている医師をここに呼ぶつもりだ。名前は『ジョージ・ハミルトン』。今朝にようやくコンタクトを取ることができたんだ。ハミルトン医師はラクーンシティから逃げ延びた生存者で、アンブレラから追われてこの中南米へ来ているそうだ」

 

 俺は大統領から渡された赤い人物ファイルをナスターシャ博士に見せた。

 

「……あの子は、幸運に恵まれてる。ハミルトン医師は米国医学界で名医百選に名前がノミネートされている程の人物で、幾度となく困難な手術を成功させている。彼は俺の話に応じてくれたとも」

 

 俺の話に、ナスターシャ博士は、ぽろ、ぽろと涙をこぼした。ひぐっ、ひぐっ、としゃくりあげながら言葉をはっする。

 

「ううっ、アナタのおかげよぉ……。アナタと出逢えてなければ、あの子も私も殺されてたし、アナタがワクチンを打ってくれてなければ私はゾンビであの子の脳はあの寄生虫に乗っ取られてた……!ううっ、それに手術の手配まで……!私、最高の旦那様と会えてぇ、幸せだわぁぁっ」

 

……いや、何言ってんのあんた。俺、君の旦那ちゃう、他人やがな。

 

 そうは思うも、泣いている彼女にはそんな事をいえるはずもない。

 

「とりあえず、まぁ。ほれほれ、ティッシュティッシュ。鼻かんで、涙拭いて。とりあえず落ち着いて、な?な?」

 

 俺はナスターシャ博士の鼻をチーンさせると、よしよし、よしよし、と頭を撫でるのであった。

 

 




・間違いなく、虫下しチョコは昭和の製薬史に名を刻む商品であると思う(真面目な話)。なんせ、本当に虫下し薬の味はエンドレスゲロワルツなのだから。

・本来、エンドレスゲロワルツは酒を飲んだ時に〆で麺類くったあと、吐いた時の状態を指す身内ネタであり、ガンダムのアレとは無関係です。多分。

・次回、アウトブレイクの生存者達が来るよ?多分。


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カンオケミサイルでどっかん。

いつもたくさんの感想、誤字修正ありがとうございます。……飲みながら書いてるので、素面で読み返すとひでーなこれ、となります。いろんな意味で、ええ。

ナスターシャ博士のびっくりどっきりメカー!

ナスターシャ博士は天才だから、プラントの設備と資材を使ってとんでもない物を作ってしまうんだ!すごいよね!

なお、エイダはまだ虫下しチョコを食べさせられたことを根に持っております。


 

 早朝、大統領秘書官のアマンダさんにジョージ・ハミルトン医師を迎えに行くと伝えたら、いきなり大統領自らが通話を代わって、

 

『あー、通話の最中すまん。ウチの国境警備隊からちょっと厄介な報告が入った。隣国との国境スレスレのところでまたトカゲ人間が発見されたって話でな。群で行動し、隣国の部隊か何かと交戦しているらしい。我が国としては隣国には手を出せないんだが、君達ならなんとかなるだろ?』

 

 報酬は払うから、と大統領はなんとも軽い口調で言った。しかし状況を考えれば一大事である。

 

 トカゲ人間とはハンター、もしくはその派生型の事であり、アンブレラが開発したB.O.W.としては比較的に成功した例であり、生産しやすく戦闘能力が高い割に制御もし易く使いやすいのでやたらアンブレラは投入して来たりするのだが、ハンターはしばしば作戦後に逃げだして、野生化し、その土地周辺で単性生殖して増える事がある、というレポートがある。

 

 生殖機能を潰したとしてもハンターの細胞修復能力は強く、また生殖機能を復活させてしまう。

 さらにアンブレラは逃げだしたハンターは基本放置しやがるし野生化した個体もやはり放置しやがるので南米で目撃されるハンターはおそらくはその類だと思われるわけだ。

 

 中南米でそんなん増えたらろくでもない。

 

 故に俺達はハミルトン医師を迎えに行く前に、ハンターハントをやらねばならない羽目になったのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ハインドD(民間機)というこのパワーワードよ。

 

 俺達はナス博士がいつの間にか修理を終えていたハインドDに乗り込み、現地へと向かう事になったのだが、当然、国境近くであるため、本来なら途中で降りて目的地に向かわねばならない。

 

 なお、エイダは船の操縦は出来るが、ヘリの操縦は出来ないらしく、その操縦はナスターシャ博士が行っているのだが……。

 

「えっと、ナスターシャ博士?何で俺はこんなカンオケみたいなのに入れられてんでしょうか?」

 

 俺はエイダによって、ナスターシャ博士がハインドDに積み込んでいた鋼鉄のカンオケに入れられていた。顔には通信機付きのガスマスクのような仮面を着けられ、通話は良好なのは良いが、何なのこれ。

 

「それはタイラント用の降下クレイドルシステムの改良型です。タイラントを載せて作戦目標に打ち込むためのロケットクレイドルと着地用のバリュート、エアブレーキを備えた高性能強襲射出システム。名付けて『キャプテン・クレイドル』!……です!」

 

……打ち込む。クレイドルを。射出、エアブレーキ。いや、それはつまり?

 

「大丈夫です、タイラント以上の身体能力と耐久性を持っているアナタなら充分着地の衝撃に耐えられます!」

 

「いや、つまりそれって特攻兵器なのでは?!」

 

「違います!発射前、内部に衝撃吸収ポリウレタンを充填しますし、それに事前に着てもらったキャプテン・スーツの対衝撃機構もありますから怪我をする事はありません!」

 

「あー、それでマスクなんてつけられてんだ、俺。って、俺は高いところ苦手なんだ!あとジェットコースターとかめちゃくちゃ速い乗り物も!」

 

……つうか、キャプテンキャプテンって何で名前にいちいちキャプテンがついてるんだ?

 

「四の五の言わなーい、男でしょ?それとも愛するお嫁ちゃんの事、信用できないのかしらぁ?平凡さんはぁ?」

 

 エイダがめちゃくちゃイイ笑顔でクレイドルの窓を覗くようにして言った。ああ、こいつまだ虫下しチョコ食わせた件で根に持ってやがる。

 

 ここに俺の味方など居ないのだと覚らせるに充分な、とても素敵な笑顔だよ我が秘書よ、こんちくせう。

 

「俺は高所恐怖症とスピード恐怖症なんだ!」

 

「あら~、そんなに身体が大きいのに怖いのオジサン?おっかし~ぃ!」

 

 バブルがはじける前のイケイケねーちゃんみたいに言うな!*1

 

「くっ、大人だろうが、おじさんだろうが怖いモンは怖いんだ!くっそ、ただの虫下しチョコ食わせたくらいで根に持ちやがって!!無害な代物だったろが!!」

 

「ふん、だ。レオン君に、社長に変な物食べさせられたって泣きついてやるわ。人体実験されたってね」

 

「人聞き悪いことこの上無い?!つかアイツはお前と違って真面目な奴だから真に受けるだろが!」

 

……つーかあの正義漢、いま何やってんだろな。騙されやすい奴だからオジサン、なんか心配だ。

 

 まぁ、エイダとは連絡を取り合っているらしいがうーむむむ。

 

「つーか、最近、アイツからの連絡は来たのか?あとクレアも。一応、ウチの会社の無線と電話、教えたんだろ?」

 

「ええ、レオンは政府の事件究明チームの方に出向しているみたいよ。……アンブレラの工作でかなり難航してるみたいだけど。クレアは本当にたまにしか連絡してこないわ。飛び出したらあの子は鉄砲玉だから」

 

「まぁ、元気にしているなら良いが……。二人を支援出来るように会社をもっと大きくせんとな」

 

 そう言ったところで、ハインドDのアラームが鳴った。国境から1000メートルの地点の上空に到着したのだ。

 

 

「アナタ、間もなく射出地点に到達します。まぁ、アナタは何もしなくても自動的にクレイドルは作動しますが、説明しておきます。まず、衝撃吸収剤充填後、機内アームでクレイドルとカウンターアームを機体の外に出します。その後、ブースターにより目標に向かって射出、高度150メートルでエアブレーキと下部ブースターで減速し、着地と共に外部装甲と衝撃吸収剤をパージすると同時にウィルス駆除剤噴霧装置が作動、駆除剤は20メートル範囲内のT-ウィルス等を死滅させ、無害化。これにより汚染地域を浄化します」

 

 俺は絶句した。いや、最後のウィルス駆除剤をバラまくって機能に、だ。いや、確かにナスターシャ博士が対ウィルス用の装備を作るから強力なウィルス駆除剤を大量に合成して欲しいとは言われたし、プラントで作って渡したが、まさかそんなもんを作るとは全く思っていなかったのだ。

 

 確かにB.O.W.とかゾンビがうじゃうじゃいるところでは有効だし、感染初期の患者がいるならその噴霧だけである程度症状の進行を止められる可能性がある。

 

「なお、クレイドルの外部ウェポンラックにはキャプテン・アックスとキャプテン・スピア、キャプテン・ヒーターシールドがセットされてますので使用して下さいね?」

 

……そういや、このカンオケに入る前になんかデッカい斧と切れ味良さげな槍が付いてるなぁ、とは思ってたが、しかし何でキャプテンなんだろうな?つかラウンドシールドだったらアメリカの某社に怒られるからヒーターシールドにしたんだろなぁ。

 

「……何で名前にキャプテンがついてるんだ?ちょっとそこが引っかかるんだけどさ?」

 

「え?ああ、説明をまだしてませんでしたね。これはエイダさんの提案なのですが、目的地が国境ですので、私達がどこから来たのか隣国に悟られるわけには行きません。ですので、アナタには謎の正義のヒーロー『キャプテン・タイラント』として行動していただく、と言うわけで」

 

 俺はニヤニヤしているエイダをクレイドルの中から睨んだ。エイダは悪びれず、

 

「なお、スーツのデザインはネメシスくんとシェリーちゃんがお絵かきで描いた『キャプテン・タイラント』と『フンドシマン』をモチーフにしたわ。それをナスターシャ博士がきちんと機能的に設計して作ったのよぉ?子供達の夢を壊さないように、ちゃーんとヒーローっぽく振る舞いながら戦いなさいね?なお、映像データはカメラドローンで収集するからそのつもりでね?」

 

 とウィンクし、なんか、きゃぴるーん、と自分の目の前で横ピースをしやがった。

 

「いや、つうか子供達には見せられんだろが!スプラッターな映像にしかならん!子供にトラウマ植え付ける気か?!」

 

「子供達用の映像にはちゃんと編集するわよ?まぁ、真面目に言えば大統領への報告用とウチの会社の資料用よ。ああ、ちゃんと死体から生体組織のサンプルも採集しといてよ?」

 

 くそぅ、虫下しチョコの恨みだけで子供達をダシにして俺を辱めようとするとはなんと大人気ない奴だ。つうか戦い方とか出来るだけマイルドにせにゃならんだろが!

 

「アナタ、射出地点に到達!射出準備開始、衝撃吸収剤を充填します!」

 

 バシュウウウウウウウッ!!となんか泡のような物がいきなりクレイドルのあちこちから噴出、そしてそれが硬いスポンジとなって俺の身体を軽く圧迫した。

 

「ぐぉっ?!」

 

「エイダさん、機体の横のハッチを開けます。投げ出されないようにハーネスを着けて!クレイドルアームを機外に出します!!」

 

 うぃぃぃぃん、と俺の乗ったカンオケはクレーンみたいなアームによって機体の外に出された。ヘリが俺とクレイドルの重量でやや傾く。

 

「アナタ、舌を噛まないように口を閉じて。射出時にGがかなりかかるので、気をつけて下さい!」

 

 もう、気分は人間ロケットのようだ。

 

「射出秒読み!」

 

「では社長、良い空の旅を♡」

 

「5、4、3、2、1、発射っ!!」

 

「てめ、エイダ!後で覚えてろよ、って、どわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「おたっしゃで~!」

 

 そうして俺は、カンオケミサイルで国境の森に撃ち込まれたのであった。

 

「くっそぉエイダめ、必ずキャーン言わしたるからなぁぁぁぁぁぁ~っ!どわぁぁぁっ!!」

 

 空に俺の叫び声が木霊した。

 

 

 

*1
バブル期1986~1990年くらい。バイオハザード1996年。要するにこの物語はバブル崩壊してから6年後の話です




・ヘリからタイラントを落とすのは原作でありましたが、ミサイルのように射出なんて普通考えんやろ。

・エイダさん、おこ。

・ナスターシャ博士マジ天才。そしてダンナをロケット射出する人災。

・次回、キャプテン・タイラントの活躍にご期待ください!


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キャプテン・タイラント第一話~よい子のみんなは真似しちゃダメだぞ?

いつも感想と誤字訂正ありがとうございます。

キャプテーン!タイラーント!!なお、アメコミヒーローなんて平さんは知らないから、基本ヒーローの知識は仮面ラ○ダー一号と二号だ。

新必殺技はかなーりえげつないぞ?

ショタ好きおねーさん(三十路)傭兵なぁ……。かなり傭兵さん達の性格とか変わってますが仕方ないね?




 流れ星が消える前に三度願い事を言えばその願いは叶うと人は言う。だが自分が流れ星のごとく空を劈き地面に投下された時、願い事なんぞ言う暇もない。

 

 つうか死にたくないから走馬灯まで回りだす。

 

「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ?!」

 

 つうかこれ流れ星ちゃう、隕石(メテオ)や!!

 

 つか、このスピードが怖い!いつ地面に激突するかわからんのが怖い!!あと、衝撃吸収剤のスポンジみたいなので身動きも出来んのが怖い!!

 

 そしてナスターシャ博士が声が聞こえた。

 

『間もなくバリュートとエアブレーキ展開します!』

 

 ばふん!!とカンオケの上で何かが開く音がして、スピードがやや落ちてガクンと衝撃が来た。

 

「ぐぇぇっ?!」

 

 しかし、スピードがやや落ちただけだ。つかなんで穏便に降下するようなモンを作らんのかあのナス太郎は!!

 

『交戦域突入、間もなくです!』

 

 なんか木とか岩とかごっつんごっつん足元でぶつかってる衝撃がっ、音が怖ぇぇぇ!!ってかいきなり戦闘の真っ只中に落とすんじゃねぇぇぇ!!つか人に当たったらどうすんだ!!

 

 そしてカンオケは、どおおおおおおん!!と地面に斜めにぶっささり、外の装甲壁がけたたましくドパパパパパパン!と小刻みな爆発音と共に爆ぜ、ボン!!と外れた。

 

 ぶしゅううううう、と物凄い蒸気がカンオケの底から噴き出しているがこれがウィルス駆除剤だろう。

 

『着地成功!周囲にカメラドローンを飛ばしています。アナタの状況はモニターしてますので、無線にて続けてサポートします!』

 

「つ、次からはもっと穏便に降ろしてくれ。死ぬかと思ったぞ……」

 

『はぁ、でも大丈夫でしたでしょう?きちんと強度設計からアナタの身体の耐久性も計算した上で……』

 

 ああ、確かに死にはしなかったし怪我もない。確かにナス博士は兵器とメカの天才なのだろう。だが、きっと人としての何かが足りないんじゃないか、と思った。

 そう、常識とか思いやりとか、そういう類のものだ。あんなに乳とか足りすぎてるというのに。というかネメシスにはあんなに母性たっぷりだというのに。

 

「俺の精神面の配慮も頼む……」

 

 俺はクレイドルのウェポンラックから装備一式を出してそれを背負うと周りを見た。

 

「……あー、なんか周りがハンターだらけなんだが?」

 

『はい、ど真ん中を狙って射出しましたから。というかハンターと交戦している兵士達がかなり危険な状況でしたので』

 

……だからと言って俺をそんな危険な状況にあんなカンオケでロケット射出すな。アナタ云々言っとる癖に俺の扱い雑過ぎぃ!

 

 そうは思うも、兵士達の姿はもうそれはひどいものだった。

 誰もが血まみれで、銃を構えている奴よりもナイフや鉈を構えている奴の方が多い。また、後方で倒れた仲間の応急処置を必死で行っている女性兵士を守るように陣形をとっており、その周りでも多くの兵士の死体が散乱していた。

 

 奇妙なのは、今、ハンターの群れと対峙している兵士達と周りで死体となって転がっている隣国の国境警備隊とは全く装備も服装も違う事だ。

 

 隣国の国境警備隊は普通にジャングルスーツ、つまり野戦服であるが、今戦っている兵士達の姿はどちらかと言えば俺がナスターシャ博士に着せられたバトルドレスと似た感じの特殊な戦闘服だ。そして何より、この兵士達の戦闘服はワッペンというかそういう物を引きちぎって取った跡がある。

 

……諜報部隊だとしてもおかしい。潜入任務だとしたら最初から縫い付けていないはずだ。

 

 とはいえ、前にハンター、後ろに兵士達である。ハンターの群れは兵士達よりも俺を警戒し、兵士達も俺に銃やナイフを構えて俺の出方を注意深く睨むように見ている。

 

「クソッ!死ぬなこのビッチ、生き残れたら一緒に少年兵の童貞食いに行こうぜって約束したじゃねーか!死んだら食えねーだろ!目ぇ覚ませこのやろう!」

 

 この緊迫した雰囲気の中、兵士達の後ろ、負傷した女兵士の応急処置を行っている女性兵士の大きな必死の声だけが響く。

 処置の手際を見ればかなりの腕を持つメディックのようだが、どうも薬が足りていないようだ。

 

 いや、なんだろう、状況的に悲壮感パないのに言っている事がこの上なくヒデェ。

 

 俺のいるところで死なれるのはいささか気分が悪い。生かしといたら幼気な少年兵が危ないかも知れん。

 

……とはいえ医療パックを渡してやるか。

 

 というか、子供達には聞かせられんからこの辺の音声は消すようにエイダに言っておこう。あの子達の教育に不適切過ぎる。

 

「撃つな。医療パックを今からそっちに投げる。くれてやるからとっとと負傷者を蘇生させて下がっていろ。俺の目的にあんたらは入ってない」

 

 俺は腰のベルトの救急パックを外してリーダー格と思われる女兵士にそれを投げてやった。

 

「……お前は何者だ?」

 

 救急パックを受け取ったリーダーの女が聞いてきたと同時に先走ったハンターが俺目掛けて跳躍してきた。

 

「俺か。俺は……」

 

 飛びかかって来たハンターをすかさず装備にあったヒーターシールド(防弾チタン装甲製)を構え、

 

「シールドブルーライン!」

 

 ハンターの爪を受け止めると同時に力任せに地面に振り払って叩きつけ、そして

 

「キャプテーン・ショックウェーブ!!」

 

 ズドォォォン!!と衝撃波(小)で追い討ちをかけた。

 

「グェェェェェ!!」

 

 至近距離からの強烈な衝撃波にハンターは身体中の骨や脳みそまでも砕かれ絶命し、あたかもライ○ーキックを食って何故か爆発する前にペラペラになるショッ○ー怪人のようになった。 

 

 うむ、ショックウェーブなら刃物とかみたいに血が飛び散らないし、残虐なシーンを見せないですむからな。

 

……まぁ、外皮が傷つかないけど、中身がぐちゃぐちゃになっちまうけどな?つかラ○ダーキックなら怪人が派手に爆発すっから死体残んねーでいいんだがなー。

 

 俺は振り返りもせずに答えた。

 

「中南米の平和を守るため日夜戦うヒーロー」

 

 そう、俺の素性を知られてはならんのだ。

 

「我が名はキャプテン・タイラント!!」

 

 ズビシッ!とポーズを決める俺。いや、だって後で映像を子供達が見るんならそれっぽくやらないといかんしな。なお、ポーズは子供の頃に見た仮面ラ○ダーを参考にしています。

 

「悪の組織アンブレラのトカゲ怪人共!この日輪を畏れぬならかかってこい!!」

 

 マスクの額の太陽マークを指さし、大声で叫ぶ。

 

 そんな俺の姿にたじろぐハンター達。

 

「なんだ?怖じ気づいてかかってこないのか?ならばこちらから行くぞ!!」

 

 地面を蹴って素早く飛び込み、真ん中のハンターの頭に一撃!

 

「超振動拳っ!!」

 

 俺の拳を頭部に食らったハンターの目や耳からブシュッ!と何か液体が吹き出す。

 

 説明しよう。超振動拳とは衝撃波を拳に収束しその固有振動を力学的に相手の体にぶち込む技である。俗に言う『浸透勁』とか古武術でいうところの『通し』とか言う技がこんなんではないか?とか個人的に思っていたりするが、本当のところ武術なんぞ知らんからオジサンわかんないぞ!

 とはいえ、なんかベースでスイカにやったら出来たので必殺技パート2として認定する事にした。なお、必殺技パート1は衝撃波(ショックウェーブ)だ。

 この超振動拳の良いところは全く外側には損傷を出さないというところと、食らった相手が確実に即死するというところだ。良い子は真似して人に使っちゃだめだぞぅ?

 

 なお、先ほど頭に超振動拳を食らったハンターの脳みそは頭蓋骨内でぐっちゃぐちゃになってるぞ?

 

……我ながらえげつない技を開発したが、これなら子供達に腕が吹き飛んだり血飛沫だらけの死体を見せずになんとかヒーロー物のように見える……ハズだ。

 

 じゃん、じゃんじゃかじゃんじゃかじゃんじゃかじゃんじゃか♪ い~けぇ~、大気揺るがせぇ~たーいらーんとぉ~ 敵をぶっ飛ばせ~♪(歌詞をだいぶ変えてます)

 

 なんとなく、超振動拳というとあの曲が思い出されるよなぁ。うむ、正しくあれは日本のぢょしこぉせぇ魂というものであろう。

 

 どこーん!!ばこーん!!どっかん!!ばっかん!!

 

 手当たり次第に新必殺技『超振動拳』をぶちかます。もはや死屍累々であるが容赦などしない。

 

 十何体倒しただろうか。残りはあと三匹である。

 

……なんか残りのハンター三匹がレッゴーな三匹に見えてくるな。

 

 まぁ、超振動拳でぶっ殺すわけだが。G-生物ならともかく、まだハンターは普通に死んでくれるので楽でいいな、うん。

 

 ドゴンッ!「ジュ○でーす!(脳内アフレコ)」

 

 バゴンッ!「チョー○クでーす!(脳内アフレコ)」

 

 ズゴンッ!「三波○夫でございます!(脳内アフレコ)」

 

 「なんでやねん!!」どぉぉぉん!!(オーバーキルのショックウェーブ)

 

 まぁ、ハンターなんてこんなもんだ。

 

「ふん!たかがトカゲ怪人、何体出ようがこのキャプテン・タイラントの敵ではない!!」

 

 ズビシッ!また俺はラ○ダー的なポーズを決めた。

 

……何だろうなぁ。兵士達の一人が妙に目を輝かせて見ている感じがするんだが。なんか子供みたいな目だな、おい。

 

「……なんなんだ、なんなんだ、貴様は。いきなりあんなもので落ちてきてあんなにたやすくハンターを倒すとは」

 

 リーダー格の女兵士が、何が目的だ、と俺に言う。ハンターがこの近辺で野生化して繁殖する前に駆除するのが目的……のはずだったのだが、なんか助けてしまったな。

 

 とはいえ正直に言えるはずもない。ここは隣国の領内だ。正体を知られるわけにいかないのだ。

 

「私の目的?決まっている。悪の組織、アンブレラの野望を打ち砕き、人々の平和と子供達の未来を守ることだ!」

 

 腰に両手を当てて胸を張ってそう言ってやる。まぁ、だいたい間違ってはいない。あと、大統領からの報酬な?

 

「……マジで正義のヒーローかよ」

 

 いや、なんか女リーダーの横で感心したような声を発するナイフを持った兵士。呟くような独り言だが俺の聴力にはキチンとその声が聞こえている。キャプテンイヤーは地獄耳だぞ。というかコイツ日本語喋ってねーか?

 

「ふっ、君も中南米でキャプテンと握手だ!」

 

 その兵士に向けて日本語で言ってやるとなんかビクッ!としやがったが、やっぱコイツ日本人だわ。

 

 と、応急処置をしていた(ヒドいショタ食い発言をしていた)女兵士が、

 

「……マム、フォーアイズが蘇生しました。その男の医療パックのおかげです」

 

 と女リーダーの側に来て、声控え目に言った。先ほど少年兵の童貞うんたら言っていたわりに報告は真面目っぽい。

 

「ただし、戦闘への復帰は無理です。どこかで休ませないと……」

 

「……どこで休ませると言うんだ?アンブレラの連中は何処までも追ってくる。追撃部隊の次はハンターまで出してきた。……フォーアイズは置いて行くほか、無い」

 

 俺のスメル・センスがこのリーダーの女の悲痛な感情の匂いを察知した。本心では部下を見捨てたくないと思っているのだろう。

 

 さて、どうしたものだろうか。

 

「なぁ、ヒーロー。あんたのところで匿ってくれないか?」

 

 先ほど日本語を発していたナイフの兵士がそう言った。リーダーの女兵士はその兵士を一瞬、止めようとしたが、しかし思いとどまった。おそらく本当に行く宛が無いのだろう。

 

「ふむ、君達はラクーンシティから逃げて来たのかね?それともアンブレラから離反した兵士か?」

 

 女リーダーがためらうように口を噤んだ。おそらく俺を信用していいものかどうか量り倦ねているようだ。そりゃそうだろう。俺だってこんなアメコミ風に彩色されたバトルドレスとこんなニセゼンガーみたいなマスクを付けた奴、絶対に信じんわい。

 

「両方だ。我々は……」

 

「スペクター!勝手にしゃべるな……!」

 

「いいや、マム。この男は俺達を助けてくれようとしてるんだ。そうだろ?ミスター・キャプテン・タイラント」

 

 スペクターと呼ばれたやや細身の体型の妙な暗視ゴーグルを付けた兵士が何かヘラヘラした感じで、俺を試すように言った。

 

「場合によっては助けてやらないことも無い」

 

 腕組みしつつ、俺は女リーダーの目を見てどうする?と問いかける。

 

「……ではどのような場合だ?」

 

「おまえ達が善良である場合……と言いたいが、いたいけな少年兵の貞操を狙うような女がいる時点でなぁ……。というか、かなり悪寄りだろお前ら」

 

 スメルセンスでは、彼らからは悪決定な匂いが思い切りしている。とはいえそれほど悪い臭いではない。アクは強いが嫌ではない。

 それに女リーダーからはなんとなく、クレアとエイダを足して割り、アネットをやや入れるといった感じの匂いがあった。

 

「くっ!いや、童貞食いは女の夢だ!おねぇさんが優しく少年を導いてやるのは、むしろ義務だろ?!な?な?」

 

「……そんな夢や義務は捨てろ、バーサ。むしろお前やフォーアイズに襲われれば少年に深刻なトラウマを植え付けかねん」

 

 ナイフの兵士が真面目ぶった声でいうのを、大柄な兵士が笑いながら、

 

「ハハハハハ、違いねぇ。ふぅ、すまんがベクター、肩を貸してくれや。俺も義足が壊れちまってよ、このままじゃ俺も置いてかれるなぁ」

 

「む?修理パーツは……もうないのか?」

 

「シャフトの替えがもうねぇんだ。歩くのはなんとか出来るが、曲がっちまったからなぁ」

 

 ちらっ、ちらっと大柄な兵士が、わざとらしく女リーダーを見る。女リーダーは空を見るようにして溜め息を吐くと、

 

「部下が悪さをしないようにきっちり監督をする。助けてくれ。頼む。我々はもう行く宛もなく疲弊し弾薬すらほとんど無い状態だ」

 

 と情けなさそげに言った。

 

「……わかった。善悪云々は不問にしよう。代わりにアンブレラに関する情報をくれるとありがたい。あー、もう一つ言っておくが俺の息子に手を出すなよ?マジで叩き出すからな?」

 

「え?もしかしてショタ?ショタ?」

 

「……手を出したらあのハンターみたいに、もれなく超振動拳でお前の脳みそを潰れた豆腐みたいにしてやるからな?」

 

 そうして、俺はハインドの待つ地点まで傭兵達を連れてジャングルの中を進む事になった。

 

 何が面倒だって、入ってきたデカいカンオケを担いで帰らなきゃならんというのがものすごく面倒くさい。ジャングルの中だから木が非常に邪魔である。

 

 なお、傭兵達はシックスマンセルのチームであり、チーム名はウルフパックと言うのだそうだ。

 

 リーダー兼突撃兵の『ルポ』。 義足の大柄な男が工作兵の『ベルトウェイ』。 負傷していた女兵士が、BC兵(バイオケミカル戦に詳しいらしいがよくわからない)の『フォーアイズ』。 フォーアイズの応急処置を施していた変態女が、衛生兵の『バーサ』。 偵察兵で恐らく日本人だと思われる、やたら俺を少年のようなキラキラした目で見ていたのが『ベクター』。 細身で奇妙な暗視ゴーグルのらしきものをつけており、妙に軽い感じのロシア訛りで話す奴が、通信兵兼狙撃手の『スペクター』。

 

 どいつもコイツも一癖も二癖もあるような連中だが、話をしてみれば非常に……どいつもコイツもかなり変な奴らだ。いや、リーダーのルポはかなり真面目で常識人のようだが。

 

 特に、衛生兵のバーサはその中でもかなりの変態であり、ショタコン童貞好き変態わからせられおねーさんな趣味をしている。

 

 コイツはネメシスに近づけちゃなんねぇ。あと、おそらくその同類だと思われるフォーアイズもな。

 

「ねぇ、ねぇ、何歳?むしゅこさん何歳?」

 

 あまりにうるさい。つか、ぴっちりした戦闘服の上でもわかる乳と非常に整ったスタイルをしており、おそらくナスターシャ博士の抱きつき攻撃とかで慣れていなければガン見とかしてしまっていたかも知れんが、なに、ナス太郎に比べればコイツはまだ普通乳の変態女だ、どうという事は無い。

 

「まだ生後ひと月ちょっとだ」

 

 ぞんざいに言うと、

 

「手を出す以前にまだ赤ちゃんじゃない。へぇ~、成長が楽しみよね!あ、私小児科の看護士もしてたから何か困った事があったら聞いてよね!」

 

……コイツに小児科なんぞ勤めさせたらあかんやろ。

 

「……おまえ、赤ん坊のち○こ舐めて小児科を辞めさせられたって聞いたぞ」

 

 大柄なベルトウェイがベクターの肩を借りながら歩きつつ、そんな危険な事を言った。なんかやらかして辞めさせられたのだろうな、とは思ったが、予想をはるかに斜め上に突き抜けとるがな?!

 

「いや~、ぞうさんが可愛かったからついつい。んふふふふ」

 

 あ、あぶねぇ。男の子の側にいたらいかん変態や、コイツ!!

 

「おい、息子の半径30メートル以内に入ったらぶっ飛ばすからな?」

 

「はぁぁぁ。すまない、ウチのメディックが変態で本っ当にすまない。だが衛生兵としては有能なんだ、というか我々がみんなコイツみたいだと思わないでくれ」

 

 ルポがとても泣きそうな顔でそういった。

 

……だが、もう一人変態おるやん?あんたんとこ、と言いかけてなんか可哀想なので止めておいてやった。

 

 なお、ヘリに戻った時通信を聞いていたナスターシャ博士はかなり御立腹の様子であり、この変態女を置いていこうとまで言い出したわけだが、そんな話はどうでもいい。

 

「うーん、私の出番はまだかね?出来れば早く患者を診たいとおもってるのだがね?」

 

 あ、そういやハミルトン先生の事を忘れてた。

 

 

 




パーサさんは本来サディストなメディックですが、それですと、ハミルトン先生の助手として使えないので、ねぇ。フォーサイトもショタでは無く、ウィルスマニアですし。

どこでそんなんなったんやろな?って酒飲みながらノリだけで書いとるからな、仕方ないねん。


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エイダのオカン力(ちから)とあんたが大将(サイズで)。

いつも感想と誤字訂正ありがとうございます。

・ウルフパックが仲間になったよ?

・エイダ、オカン力を身につけた!

・というかマザーベースって太平洋?カリブ海?どっちの方なんやろ。


 

 ウルフパック達が仲間になった!!(てーってってれー♪)

 

 まぁ、武器弾薬もなく装備もボロボロで重傷の隊員抱えた彼らが俺とエイダの提案に乗らないハズもなく、これぞなし崩し的、という感じで雇い入れる形になったわけである。

 

……変態がいるのはいかがなものかと思うが、致し方ない。ただ、ネメシスに手を出したらとりあえずシバく。

 

 などと思っていたが、なんか奴めネメシス見たら絶句してやがった。いや、バーサだけじゃなく重傷で意識の無いフォーアイズ以外全員。

 

 シェリーと共に手を振り、

 

「おじさま~おかえりー!」

 

「ママー、パパーオカエリー!」

 

 と子供らしい仕草で出迎えてくれている。その後ろにはアネットがなんか溜め息を吐いているが、疲れてんだろうか。ちょっと休み取らせた方がいいのかもしれん。

 

「ちょっと待て。あれが息子か?いやいやいや、つうか母親がそれで、あんたが……」

 

 それ扱いされたナス太郎が頬を膨らませて怒るが、その頬嚢をつついて、ぷっ、としてやりつつ、

 

「正真正銘、俺の息子だ。……アンブレラに改造されてしまってな」

 

 そう言えばコスチュームそのまんまだったな。マスクも付けたまんま、というかなんか妙にフィット感良過ぎだ、これ。

 

 マスクを外したらさらに奴らは絶句していた。

 

「おまえ、タイラントやんけぇぇぇ!!」×5

 

「いや、キャプテン・タイラントと言ってたろうが。つか普通わかるだろ」

 

「いや、普通に会話出来るタイラントなんているか!!いや、ネメシスはいろいろしゃべってたけど!!」

 

「ンー?ネメシスシャベレルヨー?」

 

 首を傾げるネメシス。そしてその横のシェリーも首を傾げて、

 

「ねー?」

 

 うむ、この二人の癒し感は世界一だな。うんうん。

 

……まぁ、一般人が見たらどう思うのかってのはわかってんだがな。

 

「……ま、社長一家は何かと常軌を逸した存在なので。ですが見た目はこうですが話のわかる人よ。そこらへんのアンブレラの上層部よりも遙かにね。それは保障するわ」

 

 エイダがこの場を仕切る。というか秘書ムーヴが近頃かなり板について来ており、

 

「はい、社長は研究室にもって帰ったハンターから採取した細胞やらなんやら運んでとっとと着替えて、ナスターシャはヘリを格納庫に、はいはい、シェリーちゃんとネメ君はお部屋に帰ってなさい、アネット、二人の面倒よろしくね、ウルフパックは案内するから負傷者を担架で医務室へ!メディック!落ち込んでないでとっとと来なさい!仲間の手当てがあるでしょ!!」

 

 いや、なんかオカンムーヴか、これは。というぐらいにテキパキ。

 

 まぁ、おかげでここが成り立っているのだ。

 

 そういうわけで、俺はスーツに着替えるべく自室へと向かうのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 俺はハンターの細胞サンプルを研究室に運んで超低温冷凍保管庫に入れ、その頭に刺さっていたチップを保存カプセルに入れると、そのまま男性用のシャワー室に向かい、汗を流す。

 

 流石にジャングルは暑かった。

 

 と、誰かがシャワー室に入って来た。

 

「ここがシャワー室か?というか誰か使っているが……」

 

「いや、あのタイラント社長しかいねぇだろ。というかいいのか?入って」

 

「いいからとっとと入る!あなた達何日も風呂も入ってないんでしょ?!着替えは適当に置いとくから!ここは製薬会社なのよ、不潔でいられると困るのよ!あ、こっちが女性用よ、ルポ、バーサ。ここの反対側」

 

 エイダの声が向こうからする。というかなんだろな、ナス太郎のママムーヴより、エイダのがよほどオカンムーヴだな。

 

……レオン君、結婚したら尻に敷かれるだろなぁ。

 

 しみじみそう思った。なんか記憶のレオンはなんかしゃくれ顎をして『大丈夫っす!』とサムズアップしていたが、なんか長いこと見てないといい加減顔を忘れていくよなぁ、とも。

 

「エイダ、すまんがアマンダさんに連絡しておいてくれ。なんなら今の状況の説明もな!」

 

 と言っておく。

 

「もう取ったわよ!アマンダさんから伝言!『状況が変わり、匿っている生存者達を全員こちらで保護して欲しい』って!あーもう、忙しくなるわね、本当!」

 

「状況が変わった?ふむ……何人かわかるか?」

 

「ヘリじゃ無理って言ってたわ。今、クルーザーをナスに出させてる!」

 

「……いや、あれ使うのか?」

 

「ウチで今使えるのは小型かあれしか無いのよ!ナスが趣味優先してそっちから整備してたから!」

 

「なんだろう、あのナス太郎は兵器とか軍用にしか興味無いのか?」

 

「あんたの嫁なんだから、その辺ビシッと躾なさいよ!」

 

「いや、嫁ちゃうし。息子おるけど嫁ちゃうし」

 

「……まぁ、仕方ない、か。つか、あんたらとっととシャワー浴びて!ヒトフタサンマル時に下部、特殊挺ドックに集合!!もたもたしてたらカリブ海に叩き込むからね!!」

 

「へいぃぃぃ!!」

 

「イエスマム!」

 

「いや、俺達のマムはルポやがな」

 

 エイダのオカン力(ちから)に圧されるように、三人の傭兵が慌ててそれぞれ俺から少し離れたシャワーを使い出す。

 

……うーむ、やっと女の園に男の仲間が出来た。ネメシスはそりゃあ子供だから抵抗無いかもしれんが、俺としてはやはり肩身が狭かったんだよなぁ。

 

「おい、ここに石鹸とシャンプー置いとくから使えよ。男が俺とネメシスしかいなくてなぁ、他に置いてねーんだよ」

 

「あっ、社長、すみません」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「……ええ、使わせてもらいます」

 

……なんだ?このよそよそしさは。というかヘリの中ではかなり自信満々にタメ口利いてたのにな。

 

「……いや、俺が雇用主だからってそんなにかしこまる必要は無いぞ。……ああ、俺がタイラントだからか?んなもん気にすんな。あと、T-ウィルスは持ってない。とっくに駆除薬で無くなっている。あとT-ウィルスワクチンを打つまではネメシスとの接触は避けてくれ。かなり弱まっているがまだあの子からは駆除が完了していないんだ」

 

「はぁ、つまり感染は無い、と?」

 

 細い身体のスペクターがこちらを振り向いた。

 

「はうっ?!」

 

「ああ、無いぞ。ってなんだ?」

 

「どうした?スペクター」

 

 ベクターがさらにこちらを向き、

 

「ぬぉっ?!」

 

「おいおい、二人とも……あー、なるほど」

 

 ベルトウェイだけはなんか普通だ。

 

「だからなんなんだ?」

 

 訳が分からない俺は首を傾げたが、ベルトウェイがニヤニヤと笑い、

 

「なに、あんたが大将ってことさ」

 

 俺の股間を指差してガッハッハと笑った。なんか他の二人は若干内股だった。

 

「……まぁ、使うことも無いシロモンだ。気にすんな」

 

 というか、ち○このサイズで決めるな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 シャワーを浴びた後、俺はナス太郎の持ってきたタイラント用戦闘服・中南米仕様を着ることになった。

 

 量産型タイラントが着ていたコートやネメシス用スーツのデータを元にしてナス太郎が作ったもので、キャプテン・タイラントスーツよりもはるかに軽量かつ通気性も良い。

 

「アナタの為に夜なべして炭素繊維を編んで作ったのよ?」

 

……なんだろう、日本の母かお前は。いや、着ては貰えぬセーターを編む重い女心の未練かなんかか?いや、炭素繊維って編むもんだっけか?

 

 まぁ、着てるんだけどな。

 

 つうかなんだろう。何か期待している様な目だな。つか撫でてもらうのを待っている柴犬のようだ。もし、ナス太郎に尻尾があったら思い切り振ってんだろうなぁ。

 

 なでりなでり。

 

 頭を撫でてやる。

 

……なんやろなぁ、ナス太郎がナス犬になっとりゃせんか、これ。ハムハムからワンちゃんか。

 

 俺はやたらまといつきたがるナスワンハイ乳ダムと共に下層の船用ドックへと向かった。

 

 なお、乳とかやたら押しつけんのやめてもらって良いですかね……。タイラントくんがやべーので。

 




・エイダのオカンムーヴ。オカン力(ちから)が上がった!

・なお、ち○こサイズは、平さん→ベルトウェイ→ネメシス→ベクター→スペクター。

・バストサイズは、ナスターシャ→バーサ、エイダ→ルポ、フォーアイズ→アネット→シェリーちゃん(まだまだ成長中)。

 次回、白陽社最大の船が発進する。というか何でそんなもんあったんや……。



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貨物船とおしり。

いつもたくさんの感想と誤字訂正ありがとうございます。

※なおこの物語はR-15です。ゆえにエロはありませんが下ネタやら何やらはやたら出ますけど。

露出は平凡さんだけのアレだと思ってた?

ヒロイン力ってなんだろうね?(笑)

なお、例によって酔っ払って書いてます。仕事のストレス解消は飲む意外に無いのです。ええ。あとアホな話でも書いてなきゃやってられねー!!




 

 貨物船『黒曜丸』。

 

 我が社の所有する最も大きな船であり、全長90メートルの貨物船だ。

 

 貨物船だけあって、結構いろいろ積み込めるんだぜ?戦車二台楽々積める後部格納庫にヘリポートもあるしそのまま格納だって出来てしまうんだ。

 

 なんかクジラみたいなフォルムしてるね、だと?

 

……個性的でいいじゃないか。

 

 甲板が無いんだが、だと?

 

……上部装甲を観音開きに開いたらヘリポート兼ヘリ格納庫が出てくる。そこが甲板と言えば甲板だ。屋根付きだ。雨の時に濡れなくていいだろ?

 

 船の横に並んでるのって垂直ミサイル発射管のハッチじゃね?とか喫水線なんか低くね?だと?

 

……ミサイルなんぞ燃料とかが腐ってたから撃てはしない。そんなもんバラして廃棄したぜ。あと、喫水線はバラストタンクの容量次第で変わる。なんなら完全に海に潜行するまであるぞ。

  

 なんか装甲は形状がカクカクしてね?だと?

  

……特殊なステルス装甲が今っぽくて格好いいだろう?レーダー探知されにくいぜ。今時の貨物船のトレンドはステルス装甲だ。間違いない。

 

 海に潜行出来るって潜水艦じゃね?だと?

 

……潜行しなけりゃただの船だ。問題ない。誰が何と言おうがコイツは貨物船だ。きちんと貨物運搬船で登録したし、運用許可ももらえたし!なんの問題も無い!なんの変哲もない貨物船だ。

 

 言っててなんか虚しくなってきた。仕方ねーじゃん、今使える船が六人乗りのクルーザーかこの馬鹿デカいステルス強襲揚陸潜水艦しかねーんだからよぉ!!

 

 つーか20人ほど乗せられる小型の人員輸送ボートとかその辺もあるにはあったたんだ。だが、ほとんど廃棄されたようなもんばかりで、底に穴が開いてたりエンジンに被弾跡があったりとゴコイチでなんとか使えるようになるかどうかだったし、魚雷挺やら30メーターくらいのクルーザーとかもいろいろあるにはあったが、どれもエンジン故障してたり銃弾の跡やら爆破された跡があるような廃棄寸前のジャンクばっかだったのだ。

 

 それに比べれば、この潜水艦はほとんど全く何の損傷も無く、老朽化したバッテリーを交換し、燃料タンクに残っていた重油や水を抜いて各部をチェックするだけでそのまま運用可能……だったそうだ。

 

 だったそうだ、というのはナス太郎の報告による。

 

 その報告からそりゃあナス太郎がこっちの修復を先にやろうとしたのもよくわか……るわけは無いだろおい。

 

 どこの世界に日常的にもよく使うだろうボートと潜水艦を比べて潜水艦の修理を優先させる奴がおるというのだ。

 つーか船の規模を考えてみろや。バッテリーの交換と燃料タンクの廃油抜きと水抜きだけで、と言っても潜水艦のバッテリーのデカさと燃料タンクの大きさ考えればどっちが大変やねん!!もう少しで騙されるところだったわ!

 

 幸い、今はウルフパックの三人(負傷したフォーアイズとその看護のしているバーサと、義足が壊れ修理をしているベルトウェイの居残り組以外)の準備待ちであり、誰もここにはこない。

 

 ナス太郎に説教かますにしても人前では出来ないが、今なら出来る。そう考えて俺は詰め寄った。

 

「ナスターシャ博士。俺、他のボートの修理の方を先に頼むって言ったのにそれを差し置いて自分の趣味のために潜水艦の方の修理と改修を優先し先にやったんだね?おぢさん怒らないから正直に答えたまえ」

 

 壁ドン。いや、口説いているわけではない、念のため。

 

「あっ……壁ドン。で、でも顔が怒ってる……」

 

 いや、なんでそんなモジモジしとんのだ、きみは。

 

「いいから、答えなさい。趣味で潜水艦にかかりっきりで、他の人員輸送ボートの修理を後回しにしたんだね?なぜ、こっちの方が大掛かりだったはずなのに、ナスターシャちゃんはこっちを優先させたのかな?」

 

「うううっ、だってぇ、私、リニアレールキャノンを数年がかりでやっとこさ開発して実戦投入前までこぎつけさせたっていうのに、この潜水艦、1970年代のものなのにとっくに主砲として実用化してるのよ?!そんなの見たら技術者としては『マジでか?!』ってなるじゃない。そっちの方を検証したいじゃない……!」

 

 あー、そういやナス太郎ってアンブレラで対大型B.O.W.用の兵器作ってたっけな。確か、リニアレールガンも開発してたとか……。

 

「あ、なるほど」

 

 技術者のみならず研究者あるあるである。俺だって昔は他社の水虫薬のCMとか見て『根こそぎです!』とか『新成分・○○○の効果により……』とか言われたらその薬の有効性とか真っ先に分析して、頼まれてた他の開発とかそっちのけにする自信あるわ。

 

 心情的によくわかるし、これは怒れんなぁ。うむ、これは不問にするしかないか、って、うむ?

 

「あの、ナスターシャ博士?なにしてんの?」

 

 いそいそとナス太郎はズボンのベルトをカチャカチャとはずし始めるナス太郎。俺は思わずずざざっと退いてしまった。

 

「いや、おい、何を……?!」

 

 だがナス太郎はいそいそと、そしておもむろにパンティと共にズボンを下にずり下げ、そして壁に手をついて、プリん、としたおしりをこちらに向けてきた。

 

「私、あなたの言いつけを守らない悪い娘だったわ……。おしおき、よね?」

 

 いや、ふりふりすんな。つーかおしりの肉がふるんふるん揺れる。

 

「いや、尻をこっち突き出すんじゃない、だから迫ってくるんじゃねぇ、つか、見えたらいかんものが見えちまうだろぉぉぉっ、後ろ下がってくるなぁぁぁっ!」

 

 ずざざざざっと後ろに下がる俺を追尾するナス太郎のおしり。ふりふりふりふり。

 

 いや、だめだ、『見せられない坊や』か『赤さん』か、モザイクの出動を要請するぅぅっ!!

 

「私のおしり、叩いておしおきしてぇぇぇん!」

 

「うわぁぁぁぁっ?!」

 

 壁に追い詰められた俺、迫るノーモザイクなおしりのあれやこれ。

 

 だが、救いの神は舞い降りた。

 

 ゴチン!

 

 まぁ、エイダがナス太郎をシバいたんですけどね?

 

「なにやってんのよ、アンタら。そういう事は夜のベッドルームでやんなさい。今は仕事中よ」

 

 な、なんとかR15の壁は越えないで済んだ……のか?これ。

 

「エ、エイダ……助かった……」

 

 本当に助かった。というか基本、俺は部屋に鍵かけて寝てるんだけどな?主にナス太郎対策として。

 

「はぁ、アホしてないでとっとと出航準備なさい。ウルフパック達の準備は整って装甲輸送車の積み込みも完了。私は念のためにプラントに残るけど、とっとと仕事を終わらせて帰って来なさい!マジで人数増えるからこれから大変よ?」

 

 イチャイチャしてんじゃねーわよ、とエイダはいうが、イチャイチャなんぞしとらんわい。尻が襲いかかって来ただけじゃわい。

 

「ほら、ナスもうつ伏せでぶっ倒れてないで、早くズボン直して立ち上がりなさい!全く!」

 

「ううっ、エイダが叩いたんじゃない……」

 

……あ、なんかピクピクしよる。

 

 しかし、エイダ、マジウチのオカン。ちょっと前はスカした感じのタカビーでスタイリッシュな女スパイだったのになぁ。

 

「誰がオカンよ誰がっ!というか仕事多過ぎて余裕なんてないのよ。つうかとっとと人材運んで来なさい!とっとと社員を教育して使えるようにしないと会社が機能しないからね」

 

 ああ、ウチの社長秘書さんは今日もエキセントリックです。そしてそんな秘書がいることに非常に安心しつつ。

 

 こうして俺達は『貨物船』で生存者達を保護するために出かけて行くことになったわけである。

 

 いや、だから潜水艦じゃねぇ。これは貨物船だからな?あとこの物語にはグロとかスプラッター表現はあってもエロ表現とか18禁はねぇ。R-15までだからなっ!!

 

……生まれて初めて現物を見たというのに、何故だろう、恐怖しかわかなかったとさ。

 

「だが、まさかこれが本当の恐怖への入り口だとは、平凡は思ってもいなかったのである!」

 

「いや、エイダ、そこで怒りながら変なこと言わない。つかほら出航だからプラントに戻って戻って」

 

 あー、縁起でもねぇなぁ。

 




・貨物船黒曜丸(ステルス強襲揚陸潜水艦)。

 ブラックマーケットに流れていたロシアの通常動力型潜水艦(おそらくNATO識別で言うところのジュリエット型と思われる)を魔改造したと思われる潜水艦。
 なお、某オセロットさん(ジジィ)がソリッドさんと殴り合ってた奴とは別。だけど設計思想などはここから発展したという感じに思ってもらえれば……(汗)

・これが無けりゃ某ピアーズさん助けらんね。

・ヒロインの尻の力(のーもざいく)。いえ、ナス太郎も必死なんだと思うが、もはや変態。


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ビリーバンバンとオメガトライヴ(違っ。

 いつも感想と誤字訂正ありがとうございます。飲まないと書けない男、しかし飲むと文章おかしくなる男、スパイダマッ!

なお、加筆修正等入ると思います。

・バイオ0の人やら死んだはずのあの隊長さん達が出てくるよ?

・ジル・バレンタインファンの方、おこらないでね?

・レベッカは……可愛いよね?


「なるほどな。しかしカリブの海賊ならぬカリブ洋上プラントの傭兵達の遺産というわけか」

 

 ルポが腕を組みつつ貨物船(ステルス強襲揚陸潜水艦)の操舵室件モニタールームを見回した。

 

「いや、良くわからんが彼らは中東とかアフリカとかでまだ活動しとるらしいぞ。居なくなった理由はわからんがカリブ海には帰るつもりも無いらしい」

 

 俺はルポ達にラクーンシティを脱出……まぁ、俺は地下研究施設からだが……からここまでの経緯を話した。バタバタしていて詳しく説明とか出来なかったが、雇ったからには仲間なのだ。その辺ぐらいはかい摘まんで話さねばなるまい。

 

 何にしてもルポは信用出来る人間だと思えたからだ。ウルフパックはおそらくリーダーである彼女をおさえておけばまずは間違いないはずである。

 

 ウルフパック内で信用出来ない人間の筆頭としては現時点ではスペクターが挙げられるが、しかし今も俺とルポの話を注意深く聞いて、まるでルポの番犬のような感じだ。

 

「ふむ……。だが好都合だろう?アンブレラに対抗するには軍事的な力は必須だ。それに外洋に隠密で出れる潜水艦があればいろいろと活動の幅も広がる。それに……まぁ、野戦服はさておき、やや古いが銃器も豊富にあるのはありがたい」

 

 ルポがウチに対して肯定的な態度で、やや笑いながらそう言ったのを見てスペクターはやや警戒を解いたようだ。

 

「しかし契約していきなりで済まない。本来なら怪我を癒やすための時間を設けたかったんだが、どうも俺達だけでは人手が足りなかったんだ。正直、俺一人では出来ることと出来ない事がありすぎる」

 

「構わないさ。どのみちアンタに拾ってもらえなければ我々は壊滅していただろう。……最後まで戦ってな。それを思えば手当てを受けさせてもらって、風呂、軽い飯と飲み物、武器弾薬、補給が受けられた。少なくとも逃げ回ってるよりかは良い状況だ」

 

「医者としては正直なところ休んで欲しいところなんだが、人使いが悪いどころではないな。殺人医師みたいだ」

 

「なに、まだアンタは人道的だ。バーサの殺人応急処置を見ただろ?アレに比べればまだアンタは優しいもんだ」

 

 スペクターがヒヒヒヒ、と笑いながら会話に入って来た。

 

「違いない。というかアイツが優しいのは少年兵相手くらいなものだ」

 

 ベクターも笑いながらそう言い、そして

 

「気にしないでくれキャプテン。人々の平和と子供達の夢のために戦ってんだろ?」

 

 と、からかうように言った。

 

……せやからアレは忘れてくれって言ったでしょぉぉぉっ!!

 

「いや、あの時は国境を越えていたから正体不明を装ってだな……。っと、ルポ、どうした?」

 

 ふと、ルポが表情を曇らせた。なにか思い詰めたかのような雰囲気である。

 

「……子供達、か。いや、社長。その……後でちょっと話がある。帰還したら時間を作って欲しい」

 

 真剣な眼差しだ。これは聞かないわけにはいくまい。

 

「……ふむ?わかった。契約内容や給金に関してならエイダに話す方が早いが、そういう話でも無いようだ。わかった。あとで社長室に来てくれ」

 

 ふーむ、なんだろうな、と思うも、おそらくは悩み事があるのだろう。話をしようと思ってくれたなら、それはまた信頼関係を結ぶ良い機会でもある。

 

 そんな事を思いつつ、船は港へ近づいていったのである。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 約1時間後、俺達は港に着き装甲輸送車を黒曜丸から陸に降ろした。

 

 大統領秘書官のアマンダさんからの連絡によれば生存者達が匿われている施設まで、軍の車両が先導するという話だったが……。ああ、なんか屋根の無いジープが港からの道路に止められている。

 

 なんか肩に入れ墨……トライバルとかいうのか?あの柄は……を入れたタンクトップの白人の兵士がこちらにやってきて手を振ってきた。

 

 アマンダさんから聞いた合図として、緑色のバンダナを三回振る、との事であり、確かに緑色のバンダナを持っている。

 

 そして、セリフは

 

「ボス!遅かったじゃないか!」

 

 である。そしてこちらのセリフは

 

「……待たせたな?」

 

 だ。

 

 何なんだこのやりとりは。そして、兵士からバンダナを受け取って頭に巻く、と。

 

……本当にこれに何の意味があるというのだろう。というか、なんかこのバンダナは随分使用感があるのだが?

  

 頭に何か『無限バンダナ』という言葉が響いた気がした。

 

「……白陽社社長のヒトシ・タイラだ」

 

「俺は、ビリー、いや、ビル・コーヴだ。ま、ラクーンシティから逃げてきた生存者組なんだが、ま、傭兵みたいなもんでな。というかあんたの事は『地上げ屋』のオッサンから聞いてるぜ。しっかしデカいな」

 

……偽名を言い慣れていないんだろうなぁ、コイツ。

 

「ああ。アンブレラのせいで三十路に入って不要な成長期を経験させられたんだ。というか後の五人も生存者組なのか?」

 

「ああ、そうだ。奴らはラクーンシティで一般市民を救助していたU.B.C.S.(アンブレラの私設部隊)の連中さ」

 

「……U.B.C.S?アンブレラの部隊はU.S.S.じゃ無かったか?」

 

「ワシらをU.S.S.と一緒にするな!と言いたいが……そこの連中はU.S.S.の連中だな?お前は見たことがある。ウルフパックの『母狼』だな?」

 

……『母狼』なぁ。なんやろ、子連れ狼みたいな異名だよなぁ。とはいえ何か似合っている気もするな。

 

 ふむふむ、しかし『ルポ』って言うのはイタリア語の『ルポ(狼)』だったのか。てっきりフランス人だったからフランス語の『ルポ(癒やし)』の方だと思ってた。

 

「そういうあなたはミハイル・ヴィクトールだな。私もあなたの事は知っている。少数民族独立の為に戦った勇士だと聞いている」  

 

 確かにこのロシア系の傭兵は歴戦の勇士という貫禄がある。

 

 しかし、U.S.S.とU.B.C.S.?アンブレラには二つの私兵組織があるのか?

 

 その辺がわからないので俺は聞いてみる事にした。

 

「ちょっとすまない。アンブレラの部隊のことは俺にはわからん。U.S.S.はラクーンシティから脱出するときに戦闘になったからなんとなくわかるんだが、U.B.C.S.というのはどういう部隊なんだ?一般市民を救助していたとさっきビル・コーヴが言っていたが」

 

「U.B.C.S.はアンブレラが公表しているUmbrella Bio Hazard Countermeasure Service (アンブレラ バイオハザード対策部隊)だ。一般的にウィルス災害などで一般市民に危害が及ぶ場合に現地に投入され、救助活動を行う部隊だ。対して私達U.S.S.はUmbrella Security Service (アンブレラ 保安部隊)。私達は……汚い傭兵だ。彼らと比べれて何も誇れる所は無い」

 

 ルポはどうも自分達U.S.S.の活動を悔いている感じで言った。なにか複雑なものがあるようだ。

 

「……アンブレラと関わった傭兵なぞ、どちらも同じだ。どちらも奴らに裏切られた。違うか?お前さんもそうだったのだろう?しかし『母狼』、お前も奴らによほどろくでもない目にあわされたと見えるな」

 

「あなた方も。……しかし、確かあなた方のチームにはニコライ・ジノビエフが居たと記憶していたが、よく無事だったものだな」

 

「……ジル・バレンタインのおかげだ。あのS.T.A.R.S.の女警官はそれこそ八面六臂、ワシも列車であのB.O.W.に襲撃されたときには覚悟したものだが、ニコライが閉じこめようとしたドアに鉄パイプを差し込んでこじり開け、ワシの襟首を片手で掴んで前の車両に投げ込むと同時に爆薬で車両ごとB.O.W.を吹き飛ばしたのだ。その後でニコライの奴を列車の窓から放り捨ておった!」

 

……なにそのゴリラ女。そんな女警官がおったんかラクーンシティは。つかS.T.A.R.S.ってクレアの兄貴がいた所じゃねーか。クレアに写真見せてもらったけど、S.T.A.R.S.にはそんなゴリラ人間が二人もおるんかい。

 

「なるほど、早目に始末出来たから無事だったのか。奴を生かしていたなら、全滅に追い込まれていたはずだ。そのジル・バレンタインという女警官、賢明な判断だ」

 

……どんな奴だよそのジノビエフとか言う奴。ただの厄介者ではなかったのはわかるが、うーむ、裏切り者なのか?

 

「はぁ、S.T.A.R.S.の女性隊員ねぇ。俺の知ってるのはこう、幼い感じの素直な可愛い子だったぜ?洋館じゃ頼りになる相棒だったが、無事かなぁ……」

 

 ビルが何か遠い目をしながらそんなことを言った。それに対してメキシカン風の兵士が、

 

「いやいや、ジルも美人だったぜ?こう、セクシーなチューブトップでさ?まぁ、クリスって男を追いかけるとか言っていたが……。タフで行動力の塊みたいな、いい女だったなぁ」

 

 とこれまた遠い目で被せてきた。

 

 コイツの女性の好みはゴリラみたいなマッチョ女なのかも知れん。いや、そのジルとか言う人が実際にそうなのかはわからんが。しかしクリスというのはクレアの兄貴のことだよなぁ。

 

……ゴリラカップル?いや、まぁ、そんな二人と合流出来ればクレアの身も安全か、むぅ。

 

「ああ、自己紹介がまだだった。俺はカルロス・オリヴェイラ。社長さん、よろしくな」

 

……君は1000%かよ。爽やか君かよ。ワカメヘアーなのによ。

 

 差し出して来た手をとりあえず握る。しかし陽キャな奴は苦手だ。

 

「とりあえず先導するぜ。って今気づいたんだが、アレ、潜水艦か?それにその車両、LAVかよ?!すげぇな!!」

 

……なんかやかましい奴だな、この男は。このウザ系の陽キャ感、大学時代のテニスサークルの医者の御曹司を思い出すぞ。

 

「……我が社ではあれはただの貨物船だ。あと、これはただの送迎バスだ。いいな?」

 

 やや声にドスを含ませてギロリと軽く睨み、そして

 

「早く送迎に向かおう。アンブレラの連中が嗅ぎつけてこないウチに」

 

 と言った。いや、悪い奴ではないのはわかるが、やはりなんかコイツは苦手だ。

 

 そうして、トシキ……ではなくえっと、冬のリビエラ君?の手を放し、俺は『送迎バス』に乗り込んだのであった。

 




・ジルゴリラ説。

・ビリー、生きとったんかワレェ!

・隊長さん、ジルの活躍で生存。ニコライ、ジルにかなりひどい目にあわされた模様。

・昔ね、カルロスト○キとオメガ○ライヴというのがあってね?

・オリヴェイラ、ってリビエラとなんか似てるよね……。


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蘇る銀狼-ボロボロ-。ケビン-ゲロゲロ-。

いつも感想と誤字訂正ありがとうございます。

注意

・どう考えても死んだはずのキャラが生きてますが、ほとんどこの物語のジル・バレンタインの活躍のせい。間違いない。

・キャラの性格が著しく変になってますが、ケビンはだいたいこんなもん。

・マービン警部補はきっと胃潰瘍。

・しれっと大統領の名前がでる。


 

 ジープに先導されて着いた先はこの国の陸軍基地内、その兵士達の住む寮であった。

 

 すでに生存者達は外に出て待っていたようであり、その生存者達の周囲に彼らの護衛の兵士達が待機していた。

 

 その兵士達の上官と思しき女性士官……というか、軍の礼装に身を包み、略帽に被ったアマンダさんがこっちに向かって手を振る。

 

「タイラー社長、お疲れ様です!」

 

「ええ、アマンダさんもお疲れ様です。というか今日は軍服で?」

 

「はいこの国では大統領秘書官は軍務経験がないと就けないんです。これでも一応情報部の少佐なんですよ?」

 

 と、アマンダさんはビシッと慣れた感じで敬礼してみせる。

 

「まぁ、いつもはスーツなんですけど、ここは軍施設なので」

 

……そういうもんなのかねぇ。他国の決まりとか制度とかはよくわからん。

 

「ところで、今日は『裏の不動産屋』改め『裏の地上げ屋』さんは出てこないんですか?」

 

「ここにいるぞ?というか軍服で会うのは初めてだな?」

 

 なんか兵士達の間から礼装を着た大統領が、アマンダさんの礼装以上に略式の徽章をつけた女性の軍人を連れて出て来た。その女性軍人はなんとなくアマンダさんに似ており、二人が並ぶと母子と言われても納得出来そうなほどである。

 

「紹介しよう。こちらが我が国の軍司令。国防長官で私の妻だ」

 

……大統領夫人だった。

 

「はじめまして。タイラー社長のお話はそこの姪からかねがね。私はジョシュ・ソリス・ヤザンの妻のマチルダ・エルメダ・ヤザンです」

 

 右手を差し出され、あわてて俺もその手を握り、

 

「白陽社のヒトシ・タイラです。いや、まさか大統領夫人とお会いする事になるとはいやはや」

 

 と、ぺこりと頭を下げる。というかやはりアマンダさんとは血縁だったのか。

 

「いえいえ、ここは私の職場なので。ところでそのバンダナ、懐かしいわ。それはかつて『伝説の傭兵』がしていた物なの。あなたは……まぁ、全く彼には似ていないけど、でもお似合いよ?」

 

「……このバンダナには何か意味でも?」

 

「特には無いわ。でも大きな敵と戦う男にはある意味必要なものかも知れない。……我が国はいかなる大国の思惑もはねのけ、二度と取り込まれる事はない。それが我が国の選択した答え。民衆の望みよ。覚えていて、タイラー社長。大統領が『裏の不動産屋』なら私は『裏の地上げ屋』。あなたがもしもアンブレラやスペンサーといった連中の思惑にとらわれたなら、いつでも私はあなたからあの拠点を『地上げ』してあげるわ。そう、かつて『伝説の傭兵』が我が国に核を持ち込んだ時のようにね」

 

……ああ『裏の地上げ屋』って奥さんの事だったんか。てっきり大統領かと思っていたんだが。つかそのネーミング、なんとかならんかったんか?

 

 とはいえ、プラントを取り上げられれば俺達に行くところはない。

 

「……大家さんのご機嫌を損なうような事はしませんよ。というかヤバいことがあれば相談しますから」

 

「はい、よろしい。ではこちらの無線番号をどうぞ。相談事に使ってね。……ああ、大統領がいかがわしいお店に行こうとしている、とか、そういうお店に誘われた、とかそういう情報もこちらに、ね?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ……となにかものすごいオーラが出ていた。

 

 大統領の方を見れば冷や汗かいて青くなっている。

 

「了解です。ええ、そりゃあ、もちろんです、はい」

 

 頷くしか無かった。そんくらい怖かったのだ。俺よりもかなり小さい身体でそんな凄いオーラが出せるとは。

 

「ではお願いね。ああ、そうそう。大統領がお渡しするものがあるそうです。では、私は失礼しますね」

 

 大統領夫人はそう言うと、アマンダさんの方へ向き、

 

「生存者の方々を白陽社の車両へ。ジープの護衛は引き続き大尉達に。ジープは……白陽社の船に詰めるようならそのまま持って行ってもらっても構いませんから」

 

……あ、なんか車貰えるみたいだな。これはラッキーなのだろうか。いや、結構古いジープなんだが。

 

「……ごほん。タイラー君。まぁ……あれがウチのカミサンだ。まぁ、かつて米国の傀儡だった政権を打ち倒した英雄の一人でもあるのだが、まぁ……気がきつい。あと怖い。だからだな」

 

「まぁ、めったな事は言いませんけど、大統領は注意するべきでしょう。俺は潔白なので被害はありませんけどね。で、渡すものとは?」

 

「……これだよ。アンブレラの諜報員の写真と資料だ。これは空港で昨日撮られた写真だが、この男は『ニコライ・ジノビエフ』。アンブレラのU.S.S.の工作員だ。死神『ハンク』と並ぶと言われている男で『銀狼』と呼ばれている……ってどうしたね?」

 

「……いえ、この男についてここに来る前に話題に上がりましてね。たしかミハイル・ヴィクトール大尉がニコライ・ジノビエフは死亡した、とか言ってたので。ちょっと聞いてみましょうか?」

 

「ああ、確認しよう」

 

 俺と大統領は車両に生存者を乗せ終わったミハイル大尉に写真を見せる事にした。

 

「あ、あんのクソガキゃ、生きとったんかぁぁぁぁっワレェェェェっ!!」

 

 ああ、おじいちゃんそんなに興奮したら血圧が、血圧がぁぁぁっ、と言うほどにミハイル大尉は激高していた。

 

「ワシの部下達の、いいや、ワシらが懸命に救おうとしたラクーンシティの民間人達の仇ぃ!!カルロス!タイレル!ニコライのクソ野郎が生きていたぞぉぉぉっ!!」

 

 ミハイル大尉の獰猛な叫びが基地に響き渡ったが、よほど恨み骨髄だったのだなぁ。

 

「隊長、まさかマジっすか?!」

 

「あれで生きてたって?ジルがボコって列車の窓からブン投げたハズだろ?」

 

「いいやタイレル、この写真は確かに奴だ。杖を突いて腕にギプスを巻いてサングラスをしているが、たしかに奴だ」

 

「くそ、ジルのヘヴィナッコーをあんなに食らってたのに顔が元に戻ってやがる!どんな復元力だよ……いや、よく見れば前歯は折れてやがんな」

 

……そんな怪我人を使わにゃならんほどアンブレラは人手不足なのか?しかしジル・バレンタインに関する話題を聞くにかなりエキセントリックな人物かつ脳筋な人物に思えて仕方ないんだが。

 

「……おいおい、まだ出発しねぇのか?つーかジルだぁ?クリスだぁ?けっ!どうせ俺ぁS.T.A.R.S.の選考に二度も落ちたっての!!うぃっくっ、と」

 

 なんか輸送車からなんかレオンが着ていたのと同じR.P.D.と書かれたベストを着た無精髭の酔っ払いが降りて来た。

 

「こら、ケビン!車内に戻れっ!ってこら!!」

 

 金髪を短髪にした、これまた綺麗な顔立ちの婦人警官の格好の女性が降りてきてその酔っ払いを引っ張って車内へと戻そうとしたが、

 

「なんだぁ、リタ、うるせぇ、襟ん後ろ引っ張んな、首が締まって……うぷっ、おえっ、ウゲロゲロゲロゲロゲロ……!」

 

「うわぁぁぁぁっ吐きやがったコイツ?!」

 

……なんて事でしょう、装甲輸送車のタラップが大量ゲロに汚染されてしまった。これ、閉めたらゲロが車内に流れ込むというかゲロ臭で充満するぞ。

 

「誰だケビンに酒をやったのは!というか我々は市民の模範にならねばならん警察官だぞ!ケビン、お前という奴は昔から!」

 

「うっせぇ、もう俺達ゃ警察官じゃねぇ、うぶっ、おえっ、オロロロロロロロロ……」

 

 車両後部がもうゲロまみれである。というかどんだけ吐くんだこいつ?!

 

 洗い流しておかねば出発どころではない。というかナス太郎に何を言われるかわからん。

 

 俺は大統領に、

 

「ちょっとそこの水道とかバケツとかお借りします」

 

 と洗い流すために動いた。

 

「ああっ、もう!車の中汚すなんて、どうすんのよこれ?!というかマービン警部補、どうしましょう?!」

 

「……とりあえず洗え。水で流せ。ほら、社長がわざわざ持ってきて下さったぞ。社長、すみません、部下が本当にすみません」

 

 マービン警部補、と呼ばれた黒人の男がペコペコと頭を下げて俺からバケツとモップを受け取る。

 

「……だから、もう俺達ゃ、警官じゃねぇ……、ぐかーーーっ、ぐかーーーっ」

 

 ケビンはそのまま後ろに崩れ落ちるように車両にもたれかかり、ズルズルとずり落ちるようにしてへたり込むと鼾をかき始めた。つまり酒オチである。

 

「……未曽有の災害を経験して誰しもが平静を保てるわけではない、か」

 

 俺はこのケビンを少し哀れに思った。もう警官じゃない、という彼の言葉が……。

 

「いえ、ケビンさんは前からずーっとこんなんですよ。ラクーンシティが平和だった時からバーに入り浸ってツケで飲んで払わずに出禁にリーチかかってたんですから!」

 

 なんかバーテンみたいな格好をした女性とやや年配の、だが体格のいい黒人男性が出て来た。

 

「仕方のない奴だ。全く。マービンさん、コイツに酒をやったのは、あそこのビル・コーヴだ。ポーカーの景品とか言っていた」

 

「……あの兵隊崩れか。全く」

 

 マービン警部補は額に手を当てて深くため息を吐いた。とりあえず彼には常備薬として胃薬が必要かも知れない。あとケビンには抗アルコール剤(酒を飲むと気持ち悪くなる薬)を飲ませよう。

 

 しっかし……。

 

「なんですなぁ大統領」

 

「なんだねぇ、タイラー君」

 

「あんなん社員にして、ウチ大丈夫なんですかね?」

 

「まぁ……ある意味あんなんだから生存出来たような気がするんだよ。非常識な奴ほど生存に適しているとね。……社会生活ではどうだか知らないけどな?」

 

「げぼぉっ」

 

「うわぁっ!?ケビンが寝ゲロしやがった!このバカ野郎!」

 

「もう追い出せ!つーか追い出せ!」

 

「ニコライに死を!」

 

「サーイエスサー!!」

 

「ウラーーーっ!!」

 

「ガンホーガンホー!!」

 

 装甲輸送車ではゲロハザード。ジープのまわりじゃニコライ某をいかにして血祭りにあわせるかの決起集会。まぁ、他の生存者は戸惑っているようだが中には笑っている奴もいる。はやし立てる奴もいる。もうカオスだ。

 

「大統領。社会生活を真っ当に出来る社員が切実に欲しいです。ええ、マジで」

 

「まぁ、生存者が増えれば中にはそんな奴もいる可能性もあるはずだ、多分」

 

……なお、今回はそんな奴はいない模様。ぐすん。

 

 




・ニコライ、生きとったんかワレェ!!

・まぁ、ケビンはだいたいアルコール中毒。ゲーロゥ・ハザード(昔のタイトルコール調に)。

・ハミルトン医師?なんか忘れてた。

・マービン警部補、生存しててもフビン。


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サメと老人とゲス野郎。

いつも感想&誤字脱字訂正ありがとうございます。

・ふんどし復活。

・エンドオブニコライ。

・だが、下ネタは控え目。


 ケビンの野郎がゲロゲロしやがったせいで結構遅れたが、ようやく俺達は貨物船『黒曜丸』に戻り、出港したわけだが、トラブルは続くよどこまでも。

 

 出港してすぐに沖合の漁船からSOSを受け取り、サメに襲われているというので行って見ればサメはサメでも『ネプチューン』という、T-ウィルスによってサメが変異したB.O.W.の群れだった。

 

 致し方ないが、こうなったら退治するしかない。

 

 船の上なのでサラシにふんどし、裸足で上部の天蓋を開いた甲板に出る。海の男は捻り鉢巻きよなぁ。

 

「……アンタ、マジでそれでB.O.W.と闘うつもりなのか?」

  

 ベクターが呆れたようにそういうが、水に濡れたらジャングルスーツは動きにくくなるし、身軽な方がこういう場合は良い。

 

……それにどのみち海に落ちれば命なんぞ無いのだ。

 

「海で男が闘うなら、それはふんどし以外あるまい」

 

「そ、そうか。まさかアンタそっち系じゃないよな?」

 

「何を言っているのかわからんが、男は気合いだ。四の五の言う暇があったらサメを狩れ。血祭りに上げろ」

 

 俺は漁船がこの場から離れた事を確認すると、

 

「サメ狩りだ!!一番多くサメを狩った奴には秘蔵の酒をくれてやる!!気張って各員殲滅させろぉ!!」

 

 そう叫んだ。

 

「イェッサー!!」

 

「ウラー!!」

 

「秘蔵の酒?!よっしゃやるぜ!!」

 

「あ、俺は酒、飲めないんだが?」

 

 そうして俺とウルフパック、そしてミハイル隊はB.O.W.ネプチューンの群との戦闘を開始した。

 

「曲がった事が~大嫌い~、たーいーらひろしーですっ!っと」

 

「……いや、そのネプチューンじゃないから」

 

 ベクターが俺にそうツッコむ。

 

「うん、わかってくれる同郷の奴が居てくれて嬉しいよ」

 

 俺が槍を投げると同時に傭兵の皆さんがライフルをぶちかます。その様を見てカルロスが、

 

「やっぱさ、社長もなんか身体に合った銃とか用意しようぜ?こう、ミニガンとかさ?」

 

 アサルトライフルのマガジンをチェンジしながら俺にそういった。

 

「息子のネメシスのミニガンがあることはあるんだが、こう、俺の場合、槍とかを投げた方が威力高いんだよなぁ。ふんっ!!」

 

 槍をネプチューンの胴体に投げつけると、ネプチューンの身体が吹き飛ぶ。

 

「な?」

 

「いや、な?とか言わても。そんなんアンタだけだ!」

 

「くっ喋ってないで撃ちまくれ!左舷弾幕薄い!なにやってんだ!集まって来てるぞ!!」

 

 ルポがそう言いつつ艦の左に回ったネプチューンにアサルトライフルをぶっ放す。

 

……今のは偶然だよな?別に某ブライトさんじゃねぇよな?

 

「イエスマム!」

 

 ベクターとスペクターがそれに答え、それぞれの獲物でネプチューンの群を掃討しはじめた。

 

 俺も槍をブン投げて一投一殺していく。

 

 海と言えば銛が一番マッチしてると思うんだよなぁ。投げてるのは銛ではなく前にラクーンシティから逃げ出す時に兵士達から回収した大量のM-9銃剣を鉄パイプに挿した奴だけどな。

 

……なんでナス太郎が作ったキャプテン・ランス使わないんだって?

 

 いや、あれを投げ槍にするにはもったいないだろ?!

 

 一応は背中の槍入れの筒ん中に入ってるが、切れ味といいバランスといい、一級品と言って良い代物なのだ。

 

 それに比べれば確かにM9銃剣と鉄パイプで作った槍など三流品レベルと言わざるを得ないだろう。なにしろダクトテープぐるぐる巻きでくっつけている程度のクォリティーなのだからそりゃそうだわな。

 

 だが、敵から奪ったナイフとその辺に転がってた鉄パイプで造れてしまうこの槍のなんとリーズナブルな事よ。

 タダやぞタダ。しかも使い捨てにしてもまーったく惜しくない。

 

 あー、敵から奪う武器のなんと懐に優しい事よ。

 

 それを考えたらB.O.W.はなーんも落とさねーし狩っても食えるわけでもねーし最悪だ。

 え?ゾンビ?君は哀れなウィルス災害の被害者達の懐から財布を奪えというのか?そんなこと許されるわけ無いだろう。

 奪うならアンブレラの私設傭兵部隊の連中からだろうが。悪い奴らからなら胸も痛まないぞ?

 

 というわけで在庫処分とばかりに槍をサメにぶち込んでるわけなのだ。あーいそがしいそがし。

 

 槍を投げ込むごとに水柱が上がる。俺のパワーの前に水などあって無きがごとし。潜ろうが何をしようが我が槍からは逃れられんよ?

 

 しかし傭兵のみんなもさすがプロである。百発百中、一撃必殺。的がデカいのもあるが、みんな良く当てる当てる。まだ一分とかかっていないのに海がサメの血の色に染まり、これぞまさしく血の海という光景が広がった。

 

 と、ひときわデカいネプチューンがドバーーーンと海から飛び出てきて空中からカルロスの方に飛び出て来やがった。

 

 俺はすかさずカルロスの前に出て、背中の槍入れの筒からナス太郎謹製の槍、キャプテン・ランスを引き抜き、ジャンプして一閃。

 

「セン・ター・マン!!」

 

 ズバァ………ッ!!

 

「五分だ五分だと言うけれど、七三ぐらいがちょうどいい……いや、真っ二つだな、うん。サメ、真っ二つに半分だわ。いやーよく切れるねぇ、この槍いい仕事してるねぇ。さすがナス太郎、さすナス」 

 

 真っ二つになったサメはそのまま反対側の海に落ちた。うむ、ちょっと今の俺、かっこよかったかも知れん。残心っ。

 

「カルロス、大丈夫か?」

 

「ああ、流石に肝が冷えた。あの図体で海から飛んで来るなんざ、マジかよ」

 

「まぁ、サメは海中からジャンプする魚類だ。アザラシとか喰う為にジャンプできるようになったって昔の動物特集で言ってた」

 

「……だからといって潜水艦の上までは普通は飛ベはしない。B.O.W.を侮ってはいかんということだな」

 

 ベクターがふうぅーっと息を吐きつつ言った。

 

「陸でも厄介だというのに、海になればもっと厄介だな……。しかしここまで増えておるとは」

 

 ミハイル大尉は油断なくまだ周囲を窺っている。だが、ナス太郎からの、

 

「近くのネプチューン、魚群探知、ゼロ。お疲れ様ぁ!」

 

 という声でようやく警戒を解いた。だが、俺の目に遥か彼方で巨大すぎるヒレが猛スピードで進んでいくのが見えた。

 

「みんな、気を抜くな!ナスターシャ、十時方向、ひときわデカいヒレが見えた!十二時方向、北に進んでる!とらえられるか?!」

 

『船外カメラで捕捉、ソナー範囲ギリギリ!推定、36メートル、時速12キロ!?なにか船を追ってるわ!!』

 

 だっぱーーーん!!

 

 そいつは、遥か遠くで飛び跳ねやがった。

 

 サメとは似ても似つかわぬほどに変異したその姿。大きく広がる胴体のヒレがあたかもトビウオのごとく、その巨体が滑空する。

 

 開いた大きな口はサメでありながら、しかし大きく裂けて全長の四分の一ほどまで開き、前を走っていたモーターボートを飲み込もうとしていた。

 

 だが、すんでのところでモーターボートは大きく舵を切り、巨大海棲B.O.W.の顎を避けた。

 

「うまい!」

 

 と誰かが言ったが、しかしモーターボートは曲がってこっちに来やがる。

 

「アイツ、ニコライじゃねぇか!!」

 

 スナイパーライフルのスコープを覗いていたミハイル隊のマーフィーが叫んだ。

 

 ああ、俺の目にもあのボートの男が大統領から受け取った諜報員の写真と同一人物だとわかった。

 

 撃とうとするマーフィーをタイレルが、

 

「やめろバカ、このまま撃ったら制御失ったボートがこっちにぶち当たっちまうだろ!」

 

 と制するが、しかし、 

 

「つうか、あのデカい化けモンこっちに来るぞ?!」

 

 猛スピードで来るボートとデカいサメ。

 

 あぶねぇ、つーかニコライの奴も余裕が無くなってやがる。

 

「ナスターシャ!急速後退!!バックさせろ!!総員、艦内に待避っ!急げ!!」

 

 甲板の天蓋がガシューンと締まり、急激にバックしたために足がつんのめる。スペクターが転けそうになったのを支え、滑ってきたカルロスを身体で受け止めて押し返してやる。

 

「オラっ、早く乗り込め乗り込め!詰まるな急げ!」

 

 急いで艦内に駆け込み、そして操舵室へと向かう。

 

 何の衝撃もなかったということはボートも巨大B.O.W.も避けられたのだろうが、さてはてどうするか。

 

 操舵室に入り、そしてモニターを見ればなんかデカいB.O.W.の口、その歯にニコライが引っかかっているのが見えた。うわーあのB.O.W.めっさ口をガッチンガッチンして食おうとしとるな。

 

 歯に引っかかっているニコライの姿は非常に哀れな感じだ。左手には骨折のギプス、顔には裂傷、叫んでいるだろう口には歯が無い。そんなんなってても奴を諜報に出させるアンブレラってブラックだよなぁ。

 

……つーか、あの傷全部ジル・バレンタインがやったんか。情け容赦の無い女!スパイダ〜マッ!!いや、違うか。

 

「……音声をスピーカーに回すね?おもしろいよ?」

 

 ナス太郎が、ニシシシと笑い音声を艦内に流した。

 

『うわぁぁぁぁぁっ!クソクソクソっ、なんでこんな奴が居やがるんだ、チクショウ!想定外だ!!なんで俺がこんな目に遭わなきゃならねぇんだ!!』

 

 ガッキン!ガッキン!ガッキン!←(巨大B.O.W.がなんとかニコライを噛もうとする歯の音)

 

『クソォ、全部ジル・バレンタインのせいだ!!儲けも何もかもパァ、上からの評価も落ちてこの様だ!入院費も出ねぇ、金もねぇ!』

 

 パァン!パァン!パァン!←(右手でピストルを撃つ音。割と正確に狙っているが、しかしデカいB.O.W.に通用していない)

 

『サメの弱点は鼻先だろ?!なんでマグナムが効かねぇんだ、クソッ!』

 

 あーあーあー、なんか悲惨な事になってんなぁ。つか通常の火器じゃ通用しねーんだな、あれだけデカいと。

 

「……ナスターシャ博士、こちらの音声を船外に……奴に聞かせることは出来るかね?」

 

 ミハイル大尉がそう言うと、ナスターシャ博士はマイクを渡した。

 

「はい、これ。大尉は奴に恨みがあるんだったわね」

 

「うむ……。私だけではない。多くのラクーンシティの民間人達、助かったはずの者達に代わって言いたい事がある」

 

 ミハイル大尉はそう言うとマイクに向かって、

 

「ニコライ!聞こえるか!私はミハイル・ヴィクトールだ!」

 

『知るかボケェ!こんな時にクソッ!話しかけてんじゃねぇぞこの死にぞこない!!』

 

「今のお前の方がよほど死に近い!今、お前を助けようとする者は居ない!お前が何者の命も助けようとしなかったからだ。お前は金を得るために多くの仲間を殺した。罪も無き助けるべき民間人達を邪魔だと言って見殺しにした。今がお前のその罪の裁きの時だ!」

 

『クソジジィ、吠えてんじゃねぇ!つかテメェ御大層な潜水艦なんぞ乗りやがって!!俺が食われたら次はテメェ等だぞ?!そんなモン乗ってても……』

 

「ま、通常兵器は効果が期待できないけど、アナタ、この艦の主砲、リニアレールキャノンなら一発で奴ごと倒せちゃうけど、どうする?」

 

「……撃って大丈夫なのか?強烈な磁気が発生するんだろ?船が動かなくなるとかそんな事は無いだろうな?」

 

「あるわけ無いじゃない。キチンと対磁処理してあるわ」

 

 まぁ、やるしかねーんだろうなぁ、これは。

 

「わかった。ナスターシャ博士。やってくれ」

 

「……………」

 

「ナスターシャ博士?どうした?」

 

「さっきは博士なんて付けてなかったのに、急に他人行儀になっちゃうのなんでかなー」

 

 なんかぶつぶつ言いつつも、艦首のリニアレールキャノンのハッチを開けた。

 

「後退しつつ、真正面からリニアレールキャノンの照準を合わせるわ!発射のショックはさほど無いから安心して!」

 

 折り畳まれていた砲身が展開し、そしてジャキンと接続される。

 

『潜水艦にリニアレールキャノンだと?!狂ってんのか!?そんなもん海で使ったら……、いや、ナスターシャ・ロマネスカヤ博士がそっちにいるのか、クソったれ!!』

 

……あー、やっぱりアンブレラでレールキャノンつったらナス太郎が連想されるんだなぁ。とはいえこの潜水艦には最初から搭載されてたんだ悪いけど。いや、ナス太郎はいるにはいるから、あながち間違いじゃないか。

 

「ニコライ、終わりだ。苦しまんようにあの世に行け」

 

『うわぁぁぁっ!やめろぉぉぉ、俺はまだ死にたくないんだぁぁぁっ!!』

 

「ああ、お前が裏切り、見殺しにし、アンブレラの生物兵器のデータを売り渡すために殺してきた奴らもそうだったろうよ。お前の番が来ただけだ。足掻くな、大人しく受け入れろ。博士、やってくれ」

 

「わかったわ。リニアレールキャノン、電磁誘導パネル、通電開始。タングステン弾頭磁気ブレーキ。発射まで、10」

 

『頼む、やめてくれ!!』

 

「あ、カウント間違えた。ゼロ!」

 

「え?それ間違えるか、普通?!」

 

 ドキュン!!ボッ!

 

 呆気なくレールキヤノンの弾は撃ち出されると同時にB.O.W.に当たったらしい。いや、らしいというのは、まるでそこに巨大B.O.W.など居なかったかのように、かき消えてしまったかのように、全て一瞬で吹き飛んでしまったからだ。

 

 音速を遥かに超えた弾丸の音は後からやってきたが、しかしそれもすぐに消え去り、静けさだけが周りを支配して、誰もなにも言えずにいた。

 

「……呆気ないものだな」

 

 最初に声を発したのはミハイル大尉だった。

 

「あれほど恨み骨髄だった奴も、ああして消える。無情だな。本当に無情だ」

 

「……大尉」

 

「いや、これで区切りはついた。まだワシ等の仕事は残っている。それも大量にな」

 

 すっく、と大尉は姿勢を正した。

 

「その通りですよ。というか……すぐやらなけりゃならないことだらけです。というかこの世は厄介ごとだらけ、です」

 

 モニターに、この国の海軍の艦隊が見える。そして無線がビーッ、ビーッ、ビーッ!と鳴る。

 

 周波数は大統領夫人のものであり……。

 

 ああ、まだまだ俺達はプラントには帰れないらしかった。

 




・お前は……サメの餌だ。

・ネプチューンねぇ。あの人しかなんか印象に無いんよね。

・なんだかんだ言っても、潜水艦でなけりゃ対応できんかったので、お手柄ナス太郎。

あと、一言。

なんでみんなアンケート、ナス太郎の襲撃ばっかなの。そんなに平凡さんを困らせたいの。もう、知らないんだからぁ!といいつつやらかす予定。


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大統領令嬢(筋肉娘)なんですけど。

いつも感想と誤字脱字訂正ありがとうございます。

・大統領令嬢がいつからアシュリーだけだと勘違いしていた?

・便利キャラを先に出しておかないと話が詰まるのでね……。

・なお、ヤザン大統領の娘さんは、みんな変。三女・アネゴ系ぶるぶるドッグ。次女・妹が怯えるのに恍惚感を覚える有能外交官。長女・インテリ系陸軍准将・兵器マニア。






 

 海軍旗艦エメラルダ。

 

 全長約160メートルの俗に言う軽巡洋艦級であり、この国においては唯一の大型艦である、という。

 

 第二次世界大戦後にアメリカで造られたもののもはや時代遅れであったこの艦は、当時アメリカの傀儡政権であり、国民に圧政をしいたカイラー大統領の元に送られ、その権力の象徴として運用されていたのだが、その独裁政権が倒された現在はこの国の自由の象徴として運用されている……そうである。

 

 なお、この艦の名前は三度変えられており、アメリカが建造した時の名前はニューヘヴン、傀儡政権に渡された時には独裁者の娘の名を冠してアリシア、そして国家奪還後はこの国の象徴する色でありカリブ海の色であるエメラルドグリーンにちなんでエメラルダとなったそうである。

 

 なお、現在は近代改装されたが主砲は取り外されず一門が残されている。これは海軍のセレモニーなどで使うための空砲用にもっぱら使用されているそうだ。

 

「こいつは戦闘では一度も使われたことの無い砲で、平和的な式典で空砲をドーン、ドーン!とやるのがもっぱらの役目さ。つまりデッカい楽器でしかないってことだな」

 

 と、艦長であるエメラルダ・マリア・ヤザン大佐は言った。ヤザン、の名前でわかるとおり彼女は大統領の三番目の令嬢なのだが、令嬢という言葉のイメージなどかけ離れた、男勝りな人物である。

 

 まぁ、名前のイメージともあっていない、とは言うまい。

 

……しかし、大統領は自分の娘の名前を艦につけたのか、それとも逆なのか。わからないが年代を考えれば後者なのだろうかな。

 

 エメラルダスなら飛行船風の宇宙海賊船と顔にサンマ傷の女海賊なのだが、このエメラルダ大佐はどちらかと言えばカリブの豪快な女海賊、といった雰囲気がある。

 

 美人な事は美人だが、太陽に当たって赤茶けた髪と女性としては長身でやや筋肉質、そして胸は大きいがおそらく大胸筋が発達してるんじゃないか、とおもうような感じである。

 

 立ち居振る舞いはキビキビしていてガサツな感じはしないが、性格の豪快さがよく出ている。

 

 どうやら彼女は演習中に漁師達のSOSを聞きつけ、艦隊を率いてこちらに急行してきたらしい。

 

「ま、先を越されてしまったが、漁民が無事ならその方がいいからな。しっかしあんた、でっけぇなぁ!父様から聞いてたが、ここまでの巨人だとは思ってなかった!」

 

「はぁ、まぁ、巨人ほどでは……」

 

「2メーター超してたら巨人だろ。しっかしまぁ……、いい身体してんなぁ。つーか服はどうしたんだ?」

 

「服を着替えると言ったのに格好なんざどうでも良いからとっとと来い、と言ったのはそちらでしょうが」

 

「いや、まさかそんな下着姿つーか、ジャパニーズフンドシ?で来るとは思わなかったからさ。……サービスのつもりかい?」

 

「野戦服だと海水吸ったら動きにくくなるから脱いでいただけです。つーかどんなサービスですかまったく!」

 

「あ~、このエメラルダには女の乗組員しか乗ってない。士官から兵卒に至るまで全員女。ほら、見てみなよ、艦橋から覗いてんの見えるだろ?いやー、あんたズリネタにされるのは間違いねぇなぁ、あはははは」

 

……まっっったく嬉しくねぇ。

 

「で、なんのご用で?いっておきますが、今回の報告書は大統領秘書官を通じて大統領に提出する事になってますし、また軍司令の大統領夫人の方にも話は通っておりますが?」

 

「んなことはわかってんだよ。つーか、駆除薬だ。今あんたらが海の除染に使ってる奴、あとワクチンもだ。分けてくんねぇか、っつー話だ。今のところ漁民に被害は出てないが、これからも出ないっつー事は有り得ねぇってアタシは考えてる。アタシ等の仕事には海難救助も含まれてんだが、ここんところサメ被害の件数が多すぎるんだ。大抵は普通のサメなんだが、アンタらが今日駆除したサメ型のB.O.W.って奴がまた出て来ないとも限らねーからな」

 

 備えが必要だ、とエメラルダ大佐は言い、

 

「それに、この国において、漁業は重要だ。国民の食を支える産業の中でもかなりの位置を占めてる。もしも漁民のとった魚がウィルスに感染してみろ目もあてらんねぇ。……これは母様に具申するが、海への定期的な除染作戦を行う必要があるんだ」

 

「まぁ、今、船にあるのをいくらかは分けられるとは思いますが、とはいえ材料や合成する手間もかかってるモンですので流石にタダでは。一応、B.O.W.を駆除する度に大統領に申請すれば幾らかは代金は支払われますけど、この場合は……」

 

「『害獣駆除費』って名目で出てるのは知っているが、コストとか見合ってんのかい?」

 

「赤字続きですね。人件費も出ない」

 

「まぁ、サンプル的にくれ、って話さ。あとで儲けさせてやるからさ、アタシの話に乗ってくれ。ある意味アンタにも悪くない話のはずさ。というかさっきも言った通り、海の除染作戦は必要だ。アンタらも駆除薬をまいてんだ、それはわかってるはずだろ?」

 

 つまり、彼女の言うことはこうだ。

 

 軍で大量に駆除薬を必要とする作戦を立案し、それを通すからサンプルをくれ。あと、

 

「つまり、マチルダ軍司令閣下に、その旨を我が社からレポートを出してその立案した作戦を通しやすいようにしろ、と?」

 

 と言うわけだ。

 

「そうだ。今すぐ、早急にだ。除染作戦は時間との勝負だ。アンタの会社だって薬が売れれば儲かるだろ?な?な?そんなわけだからさ、サンプルとか試供品的にさ、今分けてくれくれよ。頼むよ、損はさせないから!」

 

……なんでこんなに必死なんだろうか。

 

「……あー、まぁ、幾らかはお渡しするのはやぶさかじゃないんですが、なんでそんなに必死なんです?国民のため、とかだけじゃ無いですよね?まさか、誰か感染者が出たとか?」

 

 なんとなく嫌な予感がしたので聞いてみた。もしも感染者が出たなら、事は一大事である。しかし意外な答えが返ってきた。

 

「……怖いんだよ(ボソッ)」

 

「は?」

 

「ゾンビが怖いんだよ!悪いかっ!小さい頃、姉様達が嫌がるアタシに面白がってロメロとかフルチとかっ、グログロのゲチョゲチョの、そんなん見せやがってトラウマになっちまったんだよ!映画だから偽物なんだって思って忘れてたのに、よりによって父親と母様に呼び出されて、ラクーンシティのあんな写真みせられてみろ、あの頃のトラウマを思い出しちまって、夜眠れなくなって、わ、笑うなよ、夜、トイレに一人で行けなくなっちまったんだ!!」

 

 ぜーはー、ぜーはーと肩で息をしつつ大佐が青い顔をして叫ぶように言った。

 

……映画は年齢制限守って視聴しようね?というかマジで守れ。ここにものすごくトラウマ抱えた幼女の成れの果てがおるぞ。

 

 つまり、幼気だったエメラルダちゃんのその心にゾンビへの強烈な恐怖が植え付けられ、そして、そんなものに遭遇したくないという一心で、とにかくウィルス駆除しなきゃ!という事になったのだろう。

 

 こういう筋肉質な男勝りでまさにアネゴ!という感じの女性が怯えている、それにギャップ萌えとかする方も多いのではないか、と思わなくも無いがなぁ。

 

 と、エメラルダ大佐のズボンの一部、股間の辺りがなんか膨らんだ。いや、男性的なものではない。

 

……紙おむつの吸水シート、か。

 

 そう、高分子吸水素材が尿を吸収して膨らんだのだ。間違いない。そう、その高分子吸水素材の特許を出した俺が見間違えるはずはない。俺だってシートの位置とか自分で検証するために実際に履いて確かめたりしたのだ。

 

 まさか大人用のユーザーにこんなところで出会うなんて思ってもみなかったし、出会いたくなかったし、あと、目の前で吸水素材の有用性を再確認なんてしたくも無かったわ。うん。

  

 とはいえ、トラウマは深刻そうである。

 

 どれだけ他人から見て下らないと思うような事でも、本人にとっては大事であり、そして人がトラウマと向かい合い、勝つのは並大抵の事では無い。

 

 シェリーが未だに夜、母親のアネットにトイレに連れて行ってもらっているのを見るが、やはりラクーンシティでのトラウマからなのだろう。シーツと布団もよく地図が描かれてたりするけど、けして笑えることではないのだ。

 

 などと思いつつも、オムツを履いたガタイのいい巨乳アネゴ艦長、というのはどこ向けなんだろうなぁ、とか考えて、なんか踏み込んではいけない領域な気もするので俺は考える事を止めた。

 

 動機はなんにせよ、海の除染は行うべきなのだ。

 

「……わかりました。では、駆除薬とワクチンの試供品を提供しますが、艦の物は使用したんでさほど多くは渡せません。あと、海の除染作戦に関しては大統領夫人に言っておきますので。実際、文字通り水際で食い止める事は重要ですからね」

 

 そうして、俺は黒曜丸に戻り、幾ばくかのワクチンと共に残った駆除薬のタンクを幾つか提供し、そして大統領夫人に海の汚染状況と海産物への影響、そして除染の意義について、しっかりと説明したわけである。

 

 だが、この時、俺は知らなかった。

 

 他の大統領令嬢もいろいろとアレな事を。

 

……まぁ、アンブレラの連中に比べれば可愛いモンだけどなぁ。あ、エメラルダ大佐には今度開発した高性能型の高分子吸水シートを送っておこう。土壌の長期除染用駆除薬のものだが、計算上、大人の放尿三回分程度はしっかり吸うしな。

 

 つか、高分子吸水素材を使ってオムツの工場とか作るのも良いかも知れん。どうせハチマンには特許使用差し止めをやったから、市場は混乱している事だろうしな。

 

 大統領に共同でやらないか聞いてみようかね?

 




・エメラルダちゃん(24歳)。

 幼少時、年の離れた姉達にゾンビ映画のえげつない奴を見せられてからゾンビにトラウマをもった可哀想な人。

 オムツは日本製をわざわざ個人で輸入していたが、平凡さんのおかげでより高性能なものを得ることができたという。

 なお、トラウマの克服の日はくるのだろうか。

 オリジナルキャラで、便利キャラの一人。平凡さんをいろいろと助けてくれたりする。

・なお、駆逐艦ニューヘヴンは実際にはアメリカは建造しませんでした。

・そろそろ有能配管工さんが、大浴場を修理しようとする模様。

 


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プラント帰還とまだ終わらぬ仕事。

いつも感想と誤字脱字報告ありがとうございます。

・御都合主義に生きてるあの人この人そんな人。

・サムライエッジ再び?

・しれっと風呂を直しにいく配管工。

・さて、この中に何人変態がいるか、予想してみようね?

・リンダさんを忘れていたので追加。ああ、タナトスを強奪しようとした人はいません。


 洋上プラントに帰還した俺には休みなど無いようだ。

 

 散々疲労して帰って来たのだが、やらねばならぬ業務は山盛りである。エイダが俺達の帰還を待つ間に業務の進行表、チェックマーク付きを用意して待っており、とっととやれ、さっさとやれ、とめちゃくちゃせかされたのだ。

 

……疲れて帰って来た社長をこき使う鬼秘書め。

 

 などとは言えまい。彼女も生存者達の受け入れのために掃除を後回しにしていた部屋の数々をアネットや義足の修理を終えたベルトウェイ、手の開いたバーサをこき使って片付け、全員分の食事を作り、大統領と交渉、バタバタと動いてくれていたのだ。

 

 まぁ、ネメシスとシェリーの昼寝を邪魔しないのは彼女の優しさだろう。

 

……その手の優しさは俺には向けられはしないのだが。

 

 まず、生存者達全員にウィルス駆除薬(錠剤)を飲ませ、そして全員シャワーに入れてから、清潔になったところでワクチン接種。

 

 個人的なパーソナルデーターは予防接種の予診用の書類に書いてもらったので、とりあえずそれで全員分のだいたいの情報が手に入った。

 

 まぁ、案の定、ビル・コーヴを名乗る傭兵(?)やデビット・キングという配管工、ヨーコ・スズキという日系人の大学生などの個人情報欄は空白が目立ったが、また彼らに関しては後ほど話をせねばなるまい。

 

 まぁしかしとにかく人数が多いこと多いこと。

 

 まず、生存者達の中で最も人数が多いのは傭兵組だ。

 

 元U.S.S.のルポ、ベクター、ベルトウェイ、スペクター、バーサ、フォーアイズ。

 

 元U.B.C.S.の傭兵ミハイル大尉、カルロス、マーフィー、タイレル。あとは傭兵とか言っているがおそらく違うであろうビル・コーヴ。

 

 この2つの部隊はお互いになにか認め合うものがあったのか、特に反目はしていないようだ。後でエイダに教えてもらったのだが、普通はU.B.C.S.とU.S.S.が反目しないことなど有り得ないそうなので、これは希有な例だと言えるかも知れない。

 

 次いで多いのは元警察官組であり、マービン警部補をやはり責任者にするのがいいだろう。後はケビン、リタ、ハリー、S.T.A.R.S.の後方支援のブラッド。

 

 最大の問題児はやはりケビンだろうが、最大の戦力もまたケビンだとマービン警部補は言う。ケビンは、件のジル・バレンタインのいたR.P.D.の特殊部隊、S.T.A.R.S.に『酒癖と遅刻癖が無く、勤務態度さえ良ければ入っていた』ほどの射撃の名手であり、警察組が生き残ったのは間違いなくケビンがいたからだという。

 

「彼には抗アルコール剤を処方した方がいいでしょう。彼の生きがいを奪うのは心苦しいですが、しかし処置をすれば今ならアルコール中毒から脱け出せるはずです」

 

 彼の仲間であるハミルトン医師はそう言った。無論、俺も同様の意見である。

 

 後はS.T.A.R.S.の後方支援だったブラッドだが、彼に関しては戦闘力云々ではなく、ヘリや航空機、船舶などの操縦の能力をかわれての入隊だったそうだ。

 

 だが、そういう人材はウチにはかなり重宝するだろう。何しろヘリの操縦はナス太郎しか今のところ出来ない。エイダは免許はもっているらしいが、さすがに戦闘ヘリの操縦は経験が無く、只今練習中だし、それに輸送船での買い出しやら物資の運搬も出来る奴は多い方がいい。

 

 

 後はほぼ民間人だ。

 

 

 医療関係では外科の医師であるジョージ・ハミルトン とその友人で、薬学部の博士であるピーター・ジェンキンス。

 この二人が来てくれたのは非常にありがたい。ハミルトン先生は医療の現場で活躍していた高名な医師だし、ジェンキンス博士は対T-ウィルス薬である『ディライト』の開発者であるという。俺が作ったウィルス駆除薬とはまた違った方式だが、是非とも二人とは話し合ってみたいし、二人もそう思っているようだ。

 

 それに、彼らには息子であるネメシスの手術について話し合わなければならない。

 

 

・元アンブレラ研究員のリンダ

 

 彼女は元アンブレラの研究員でラクーンシティでのバイオハザードに巻き込まれた。抗T-ウィルス薬のディライトの試作品を取りに研究所に戻ったらしいが、その後なんとかラクーンシティから逃げ出すことに成功したという。彼女とジェンキンス博士、そしてアネットとは顔見知りであり、人物的に信用の置ける研究者であるとのことで、とりあえずはウチのワクチン開発等を手伝ってもらうこととなった。

 

 なお、彼女は記憶喪失のヨーコ・スズキとも面識があるようだが、ヨーコ・スズキは彼女を覚えていないらしい。それを知った彼女の悲しみはかなりのものであり、おそらくは親友であったのではないかと思われるのだが、だとするとなんとなくヨーコ・スズキが大学生というのは少しおかしい気がする。

 

 

・ロバート・ケンドとその娘のエマ・ケンド。

 

 銃砲店の店主とその娘で、S.T.A.R.S.にカスタムメイドの銃、サムライ・エッジシリーズを提供した人物……らしい。彼ら父娘もまたジル・バレンタインに助けられたらしい。

 

「……アイツはスーパーガールだ。あんな絶望的な状況で俺達を警察署まで連れて行ってくれたんだからな。マービン警部補にも感謝しかない。……アンタらはアンブレラのクソ共を倒すために集まったんだろ?なら俺にも協力させてくれ。機材さえあれば銃をカスタマイズするぜ」

 

 酔いの覚めたケビンが、

 

「なら俺の45オートを頼むぜ。サムライエッジ以上の奴にしてくれ」

 

 と言ったが、

 

「ふん、そんなのはアルコール抜けてから言いやがれ。アル中にくれてやる銃なんざねぇ!」

 

 まぁ、そうなるよなぁ。

 

 

・元警備員のマークとその家族。

 

 マークはこの施設において最年長の五十代だが、ベトナム戦争に兵士として参加したこともある古強者だ。……もっとも、彼は嫌戦家であり、本当は穏やかに暮らしたかったという。

 彼は事務職を希望しており、無論、それに沿った人事をするつもりだ。彼の息子は年齢が行ってからの子供で、まだ未成年だが子供達の中では年長だ。難しい年頃だからどうなることか。いやはや。

 

・バーの元ウェイトレスのシンディ。

 

 彼女は厨房か事務職を希望している。生存者、特に傭兵組の中には社内にバーを開設してくれという要望が何故か多いが、もしバーを開設するならそっちで働きたい、との事だ。

 

……バーに関してはどうするべきなのか正直なところ迷う。隠れて酒を飲むような奴を出すよりは決まったところで量を決めて飲ませた方がいいような気がするし、これは常識のある人物達と話し合わねばならないだろう。

 

 厨房に関しては増設せねばならないだろう。人数が増えたせいで設備が追いつかない。というか飯とかどうすっかなぁ。当番式にするにも、料理が出来る奴と全く出来ない奴がいるからなぁ(無論、俺は料理は苦手だ)。

 

・配管工のデヴィッド・キング。

 

 非常に寡黙でよくわからない男である。しかし手先は器用で配管だけでなく機械の修理の腕は非常にいい。

 

「……風呂、トイレ、排水、浄水機器……なんでも直す」

 

 だが、シンディなどの証言では、凄く強かったそうである。とはいえ、戦闘などを無理強いする気はない。

 また、この施設には修理要員はかなり重要だ。ナス太郎だけではさすがに負担もおおきいので彼の存在は非常に助かる。

 

……まだ大浴場や幾つかの海水を真水にする機材の修理も終わっていないのだ。

 

「ああ、助かる。大いに期待してるぞ」

 

 とデヴィッドに伝えたら、なんかやや嬉しそうな顔をして、

 

「今からやる、なにかしてないと落ち着かない。早く修理させてくれ」

  

 と、とっとと自前の工具箱を抱えて修理に向かっていった。止める暇も無かった。

 

「仕事好きだもの、彼」

 

 シンディがにこにこ笑っていたが、なんとなくその笑顔を見ていると、ああ信用出来る奴なんだな、という気がした。おそらくは人見知りな質なのだろう。

 

 

・元ラクーンプレス社の新聞記者、アリッサ・アッシュクロフト。

 

 彼女はラクーンシティでその惨状をアメリカの最大の新聞社にスクープとして送り、ラクーンシティ事件として広めた功労者である。だが、それゆえにアンブレラに命を狙われることになり逃げ出して来たらしい。

 

 なお、大統領令嬢のエメラルダ大佐が幼少期のトラウマを蘇らせた写真を大統領達に提供したのは彼女である。シカタナイネ?

 

「あなた達がアンブレラと戦いに行くなら私も連れて行って。ライフルなら扱えるから。あと、ここに写真とか現像出来る設備はないの?なければ欲しいわ」

 

 彼女は戦場カメラマン的な立ち位置を希望してきたが、記録を残すのは必要だと思えた。

 

「……えっと、事務職とか、できるかね?」

 

「事件は机の上でおこってるんじゃないわ。現場でおこってるのよ?」

 

 事務職はやりたくなさそうだった。

 

 

・自称大学生のヨーコ・スズキ。

 

 日系アメリカ人との事だが、彼女は記憶を失っており、ある程度は戻ったらしいが、まだ鮮明ではなく、また日本人の両親から生まれたので完全に日本人にしか見えないのに日本語がほとんどわからないらしい。

 

 日本語が本当にわからないのか試してみたが、なんの反応もなく首を傾げていた。

 

 ベクターはめちゃくちゃ噴いていたが。

 

 いや、何をしたか、だって?

 

「イーンキーンカイカイ!ミーズムーシカイカイ!タムシ水虫群れる夏~、ガマンしないでシンキンナオール・クールSぅ~♪『デリケートゾーンにも!』医薬品です!」

 

 単に、初期に俺が開発した『シンキンナオールS』の派生型の夏向けの『クールS』のCMソングを歌っただけである。

 

 昔良きハチマン製薬のバカCMの中では1、2を争うバカCMと言われている奴だ。

 

 なお、内容はきわどい水着を来たねーちゃん達をバックに、俺達研究開発チームのメンバーが白衣を着てCMソングを歌って踊るだけ、というものだった。

 

 なお、

 

『デリケートゾーンにも!』

 

 は、俺が言った。

 

『恥ずかしくてご近所様と顔が合わせられないわ』

 

 と、義母……親父の後妻……に言われた俺の黒歴史中の黒歴史である。

 

「……社長、まさかあのセンターの人は」

 

「若き日の俺だ。言うな、渾身の捨て身技だったのに通用しないとは……」

 

 しかしベクターに通用してもヨーコちゃんに通用せんとはなぁ。いや、マジで日本語通じねぇわ。

 

「???えっと、インキ?カイ、カイ?えっと……わかりません」

 

「わからなくていいのよ。あの社長はたまにアホな事をやるけど、基本無視でいいわ」

 

 まぁ、ヨーコちゃんはまだ大学生なので様子を見つつ職種の適性を見るべきだろうなぁ。

 

 だが、彼女はひょっとしたら退行性の記憶喪失なのではないか、と思わなくもない。どちらにせよ彼女の症状については観察が必要だろう。

 

 

・元地下鉄職員のジム・チャップマン 。

 

 彼は、戦闘以外なら大抵の事はやると言った。

 

「俺は臆病なんだよ。もうあんなゾンビだらけの所にゃ行きたくないんだ。電車の運転士を目指してたんだが、ここにゃどうせ電車なんざねぇだろうしよ!まぁ、買い出しとか荷物運びとか、倉庫の在庫の確認とか、何でもやるよ。ただ休みはくれよ?あと給料はなるたけ多くな!」

 

……なんだろうコイツ。一言多いというか、わざと人をイラつかせたいんだろうか。

 

「給料欲しけりゃしっかり働け。つか俺達の現在の状況は理解できてんのか?」

 

 と凄んで黙らせた。

 

 

 まぁ、その他数名いるが、どの生存者達も警察組に守られて車両で逃げてきた一般人らしい。

 

 元会社員一人、元事務員の女の子が二人、後は料理屋の黒人の夫妻。

 

 元会社員と事務員二人は事務職決定。料理屋のご夫妻には厨房を任せたいと言ったら誰か手伝ってくれる人を頼むと言われた。まぁ、さすがに二人でこの人数分を作るのは大変だろうから、ローテーション組んで手伝う事になった。

 

 

 うーむ、これでなんとか、形になるんだろうか。つうか、事務職の数が足りないよね。

 

「社長!ほらさっさと次の業務!!」

 

 まぁ、とりあえずの仕事の割り振りは決まったが、俺の仕事はまだまだ終わりそうにない。

 

……シカタナイネ?

 




・ブラッド生存!

・ケンド父娘生存!

 やはりバイオと言えばサムライエッジ。ケンドさんの銃をまた見たいという方は多いのでは無いでしょうか。

・そして、フラグが立ったわけですが、気づいた人、いるかなぁ?



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プラントの遺物と次のミッション

いつも感想と誤字脱字訂正ありがとうございます。

今回、難産でしたm(__)m

わかる人にはわかるネタ、やや多いかなー。


エイダが、久々に恋人であるレオンから連絡が来たとなんか目に見えてウキウキして無線に向かっている間、俺は一人で書類を片づけた。

 

 いや、エイダも若い娘さんなのだ。そういう事があっても良いだろう。それでなくとも休みなく毎日走り回って、大統領との交渉やら物資の買い付けやらなんやらしてくれている働き者なのだ。そんくらい許されてもいいだろう。

 

 俺はエイダのデスクに『書類終わったのでホールで休憩してくる。ルポが来たら呼んでね』と書き置きをして社長室を出た。

 

 部屋を出てずんどこずんどこと廊下を真っ直ぐに進み、真ん中の広いホールに出る。このホールはプラントの六本のメインシャフトとエレベーター、後は各階に向かう階段があるわけだが、広いのでベンチとテーブル、冷水機や、タバコの大きな灰皿などを置いて社員達の憩いの場として使えるようにしてくれている。

 

 エイダが少しずつ整えてくれた憩いの場であるが、彼女としては観葉植物や時計等などのオブジェクトをもう少し増やしたいらしい。

 

 ただ、このベンチの横に俺が置いたタバコの自販機にはやや難色を示した。あと、ペプシとマウンテンデューしか無い自販機にも。

 

 タバコに関しては単に彼女がタバコが嫌いだからなのだが、ジュースの自販機においては、二つしか種類が無いのが原因だった。

 

 何故かはわからないが、このプラントには意味不明なものを製造するプラントがある。

 

 ペプシのゼロカロリーコーラやマウンテンデューや、ハンバーガーのレシピ(子供達には食わせたくない化学調味料漬けみたいなものまであった)、某日本の製薬会社の固形携行食、どう見ても日本の女優の松山○子さんのパッケージのレトルトのカレー、栄養剤のドリンクなど、謎な物品が作れるわけだが、誰が何のためにそんなレシピを集めて、オリジナルそっくりに作ろうと思ったのか謎である。しかも中身だけでなく、パッケージまで。

 

 とはいえ、タバコが吸えるのはありがたい。

 

 俺は自販機で『ラッキーストライカー』を買って、口に咥え、そしてこのプラントで拾った『Militaires Sans Frontières』と、そしてパンゲア大陸にドクロを合わせた彫刻が施されたジッポライターで火をつける。

 

「『国境なき軍隊』か」

 

 ここにかつていた、民間軍事企業の名前なのだろう。

 

 ライターの裏面には『Mother Base Since1976』の文字があり、このプラントの外観の絵が精巧に彫られている。おそらく、ここに拠点を置いたその記念に作られたライターであり、ここを去って行った傭兵の誰かの物なのだろう。

 

 そういう物はやたらと各部屋にあり、まるでいつかここに帰ってくるぞとばかりに置かれていたものもあれば、持って行きたくもないと言うように廃棄物置き場に投げ捨てられたようなものもあった。

 

 このライターは後者であり、部屋のゴミ箱の中に捨てられていた。おそらく、ここを出て行く時に捨てられたのだろう。

 

 捨てた傭兵の心情はわからない。

 

 出て行かねばならぬのを腹立たしく思ったか、思い出すことが嫌だと思ったか。

 

 だがどちらにせよ、まだ使えるし、何よりなんとなくだが使ってやらなければこのライターが可哀想だと思ったのだ。それに我が社のモットーは『使えるものは使う』なのである。それが例えゴミ箱の中に捨てられたライターであっても例外ではない。

 

 すなわちこれ、モッタイナイの精神。……いや、単にみみっちいだけな気がしてきた。

 

 と、向こうからベクターとカルロスがやってきた。なにか心なしかさっぱりしている、というよりもシャワーでも浴びて来たのだろう。タオルを首からかけている。

 

「む?社長」「お?社長さんじゃねぇか」

 

「二人とも今日はお疲れさん。シャワーに行ってたのか?」

 

「いいや、あの配管工……デビットとかいう奴がデカい風呂を直したから、テストに入ってくれとか言ってな。いや~デカい風呂、良かったぜぇ?役得役得」

 

 そういうカルロスは無精髭をそった頬をつるりと撫でて爽快、爽快、と言って笑った。

 

「うむ、俺もさっぱりした。やはり男湯と女湯に分かれているのがいいな。時間を気にせず入れる」

 

 目を細めるベクター。というかマスクを外すとこいつはやっぱり日本人なんだな。というかアクション俳優の某坂口某に似ている気がせんでもない顔立ちをしとるな。

 

……風呂、良いなぁ。とはいえあの深さの湯船だと、俺の場合、腹までしか浸かれないんだよなぁ。

 

 ニメートル半のこの身体は、普通の人達の日常すらもなかなか困難なものにしてしまうのだ、ぐぬぬぬぬ。

 

 内心で歯噛みしていると、ふと、ベクターの視線が俺の手に落ちているのに気づいた。む?と見ればライターを見ている。

 

「社長、そのライターは社長のもので?」

 

「ん?ああ、ここを掃除していたら出て来てな。昔、このプラントを拠点としていた民間傭兵企業のものらしい」

 

 俺がライターをホレ、と渡すと、

 

「……MSF!やはりここはあの伝説の……!」

 

 身体を震わせ、いや、声まで震わせてながらライターの面裏とひっくり返しつつ、ああ!とか、おお!とか言っている。

 

 どうやらベクターはここに昔いた傭兵達の事を知っているらしい。

 

……なんか外国人が日本アニメの憧れの聖地に来て感動してるみたいになってんなコイツ。

 

 意外とベクターはミーハーなタイプなのかも知れない。

 

「あの大統領夫人が言っていた事と、そしてカリブ海に浮かぶこのプラントでまさかとは思っていたが、やはりここが失われたCQCのメッカ、伝説のMSFのマザーベース!!」

 

 いつもやたら静かな……いや、そうでもないか。うん。だがこんな風に興奮気味のコイツは初めて見たかもしれん。今日初めて会ったばかりだけどな?

 

「ふむ、CQCなぁ。ここにいた傭兵達が訓練を元に編纂したものがいくつか残っていた。高度な技術や近接時に相手の意識の死角の捉え方など、おそらくは先輩の傭兵達が後輩達を指導する際にまとめたのだろう。まぁ、後はCQC用に傭兵達がデザインして自分達で造ったナイフも何本か資料室にあるぞ?」

 

「まだ残っている資料があるのか!それにナイフまで!」

 

……なんかめっさ子供みたいに目を輝かしてやがんなコイツ。いや、そういや国境で俺がハンターと戦ってる時もこんな目してたっけか。

 

「まぁ、ナイフは普通のタイプから奇妙な形までいろいろあるから、使えそうなのを持ってくといい」

 

「なんと?!い、いただいてもいいのか?いや、いいのですか社長!」

 

「あー、本は返せよ?だが、ナイフはくれてやる。もうナスターシャ博士がデータを取ったそうだし、おんなじモンを自動で削り出せるそうだ」

 

「ああ、今日はなんて日だ!死にかけたと思ったらこんな幸運が!これは行方不明のマスターの導きか」

 

……大袈裟な奴だなおい。しかし行方不明=死亡じゃねぇだろ、縁起悪いな。

 

 俺はそんなベクターを放っといて感動しているベクターのそのテンションについていけなさそげにしているカルロスに声をかけた。

 

「あー、カルロスはどうする?お前も来るか?」

 

「ん?ああ、俺のナイフの替えになるような奴をくれるんなら行くぜ。変な奴じゃなくて、作業に使えるような奴な?」

 

「普通のタイプも何本かあるぞ。それ以外にもアンブレラの傭兵達から奪ったM9銃剣やら高そうな奴までいろいろあるから選んでもってけ」

 

「なら行くぜ。いやー、研いでももうダメっぽかったからなー。B.O.W.ぶっさしたら刃も柄もガタガタになったんだ」

 

「ああ、たまに硬い奴いるよなぁ。俺も銃剣を槍にしてぶっさしたら刃がボロボロになったからわかるわ」

 

 なお、スーパータイラントのケツにぶっさしたあの槍は、ケツの穴だったのに突き出た刃がボロボロになっていたが、連中のケツメドはよほど丈夫らしい。言わんや他の場所をや、だろうか。

 

 なに?そんな情報はいらねぇってか?まぁ、そらそうだわなぁ。

 

「んじゃまずは資料室だな。こっちだ」

 

 そうして俺はベクターとカルロスを連れてまずは資料室へと向かった。途中でルポに出会ったが、まぁ、ルポの用事はすぐに終わった。

 

 廊下を歩きながら話をしたが、

 

「こちらに私の子供を呼んで一緒に暮らしたい。私の親友から連絡があったんだが、どうやらアンブレラは私の子供を攫おうとしたらしい。ありがたい事に彼女が子供を連れて、今、ニューヨーク港に着いたとの連絡があった。そこからまたキューバ経由でこちらに来るそうだ」

 

 との事だった。

 

……しかしアンブレラもゲスな事ばかりしやがるものだ。よりによって子供を攫おうとするとは。

 

「彼女はまぁ、私よりも年上なのだが若作りでな。見た目、華奢なパリジェンヌだが、十数年前コスタリカだかニカラグアだかで鳥の生態を調べていたときに何かの事件に巻き込まれ、そこで助けてくれた傭兵に好奇心から訓練を受けさせてくれるように頼んだらしい。そのため、危機への察知能力は鋭く逃げ足も早い」

 

「……鳥の生態系?というか傭兵じゃないのか?」

 

「鳥類学者だ。その道ではかなりの研究論文を発表している……らしい。変人だが信用出来る人物だ」

 

……うーむ、どんな人物なんだろうな。想像もつかない。

 

 俺の脳裏に、某トゥームレ○ダーな女トレジャーハンターが思い浮かんだが、しかしパリジェンヌと言うことでやはり金髪碧眼の女性なのだろう。

 ロマンシングストーンのジョーン・○イルダーみたいな女性かもしれんな。うーむ、だがジ○ーン・ワイルダーは冒険小説家だったか?

 

「とりあえず同居に関しては、部屋のパーテンションを外せば広く出来るから大丈夫だ。あと、キューバまで迎えに船を出そう。大統領か大統領夫人に頼んでその辺は根回しするとして……。その人と君の子供がキューバに着くのはいつだ?」

 

「おそらく明後日になると思う。まぁ、彼女は荒事にかなり慣れている人間なので抜かりは無いと思うが、それでもやはり……」

 

「ああ、わかっているとも。子供の事で心配しない親はいない。……プランとしてはここから港まで潜水艦で小型クルーザーを乗せたトラックを運送、トラックを港に下ろして中南米のへその緒を横断、また港からキューバ行き……かな。ヘリで直接行ければ速いんだろうが、まさか、キューバまでハインドで行くわけにもいかんからな」

 

 俺は笑ってルポにそう言った。

 

「……社長、本当にあなたはいい人ね。我々を助け、部下の命を救い、受け入れてくれた。それだけでなく、子供の事まで心配して動こうとしてくれるなんて」

 

 いつもの軍人めいた厳しい言葉遣いからうって変わって、あり?と思うような女性らしい柔らかな口調に変化して、俺はやや戸惑ったが、平静をなんとか装い、

 

「なに、仲間の子供ならみんなの子供みたいなモンだ。それに仲間が安心して仕事に励めるようにするのが社長の仕事だ」

 

 そういい、まーかせて、と胸を叩いてみせた。

 

 ああ、ベクターとカルロス?

 

 奴らは資料室の鍵を開けるととっとと入って行って、勝手に資料漁ったりナイフをあーでもないこーでもないとがさくってたとさ。

 




・ケミカルバーガーはファントムペインだっけ?というツッコミ。

・風呂、修理終わっちゃったね?

・ルポさんの年の離れた親友……いったい何コジマ・カミナンデスさんなんだ……。

・一方、ナス太郎さん女湯でいらんことをバーサに吹き込まれて……。


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喪失の道程は人それぞれなアレコレ。

感想、誤字脱字報告、いつもありがとうございます。

・風呂回。

・ほれ、喜べ、みんな大好きステルス迷彩だぞ?(対平凡さん用改良型)

・とっ○こナス太郎(ケダモノ)。


 

 恋をすると人は変わるものらしい。

 

……いや、エイダの事だ。

 

 というか奴はクールな女スパイという設定などどこへ行ったのやらと思うほどに自分の感情を隠さず、ずっと、

 

「もうっ、レオンったら、うふっ、うふふふふふ」

 

 なんぞとクネクネしたり

 

「あ~もう、ああいう素直なところが……んふふふふふふふ」

 

 などと頬を両手で挟んでやーんやーん。

 

 うっきうきのどっきどきのきゃっぴきゃぴな様子のエイダのその姿は見ていて異様だった……いや言うまい。彼女もまた年頃の娘さんなのだ。

 というかイらんことを言ってみろ、怒らせて根に持たれたら後で何をされるかわかったものではない(本音)。

 

 とはいえ、彼女の変化は人として素直に喜ばしい事だと思うし、彼女の過去の様々な暗い経験から来るのであろう、暗闇が臭いになったようなあの据えたような臭いがなくなったのは良いことだと思うのだ。

 

 まぁ、美人が浮かれてるのって見てて悪くないからね。それがあのエイダだから異様に見えるだけで。

 

 まぁ、そんな異様なエイダももう業務を終えて自室に帰った。んふんふ、んふんふ、とそれはもうやはり浮かれながら。

 

 ああ、やっとあの砂糖をまぶしたサトウキビを煮詰めたような、甘ったるくて独特の、どピンクなフェロモン発生源が居なくなった。

 

 つーか、フェロモン臭がパないので、俺は換気扇をつけて試作消臭スプレー『エアクリーン・スプレー』を捲いた。なお、特許出願中の成分配合である。

  

 ああ、言っておくが、エイダが臭いというわけではない。むしろ今の彼女の香りは明るい感じの日なたの薔薇のような柔らかな良い匂いになってきている。

 

 むしろ、問題は彼女の発したフェロモンが原因なのだ。いや、冗談ではなく本当に彼女はフェロモンを発していたのだ。

 

 これも言っておかねばならないだろうが、あらゆる生き物はフェロモンを発生させている。無論、人間もまた例外ではない。それはすべからく生命活動を行うが故にだ。

 

 人間の場合、そのフェロモンに対して通常はほとんどそれに気づけない。それには様々な原因があるのだが、だいたいそれは大脳皮質が高次に発達した事に起因する。つまり原始的な本能を司る脳みそにでっかい理性的な脳みそが乗っかってそれらを抑制しているから……らしい。

 

 つまり、ラノベの鈍感系主人公達は大脳によって強力に恋愛を抑制している、とも考えられるがその辺どうなんだろうか。つーかそこまで行くともう病気なんじゃないくらいに都合よく難聴になったり、人の話を聞いてなかったり、風が巻き起こって音声が聞き取れなかったり、なんなんやろな、アレ。

 

 いや、話が脱線した。

 

 常人は大脳が抑制するが、ではT-ウィルスによって中枢神経系、つまり脳みそ全体までも強化された俺の場合はどうなのかと言えば。

 

 しっかりわかってしまうのだな、これが。

 

 俺自らが名付けた『スメル・センス』は他者の発する匂いによって相手の性格や健康状態、場合によっては思考すらも読み取る事が出来るほどの強力な能力なのだが、これはある種の両刃の剣ともなりかねない側面を持っていた。

 

 いや、大袈裟に言い過ぎた。

 

 あのなー、トイレの悪臭とか生ゴミの腐った臭いとかを犬以上の超嗅覚で嗅いでみろや。マジで死にそうになるんやで?つか『スメル・センス』を制御でけんかった頃なんか、ゾンビの腐敗臭にどんなけ吐きそうになったか。つーかG-生物とかあのグチャドロの臭いはもう、たまらんかったんやからな?

 

……まぁ、あの経験のおかげでなんとか『スメル・センス』を抑えられるようになったり、クレアの叫び声(チ○コ見られたときとかの)とかで超聴覚(タイラント・イヤー)の調整とか出来るようになったんやけどな。

 

 そう、俺が普通に生活出来ているのは、この五感をコントロールして常時発動しないようにしているからなのだ。だが、しかし疲れている時にはこのコントロールが効きにくくなる。

 

 現在、疲労困憊した俺の鼻は常時犬以上の嗅覚で作動中である。そして、モロにエイダの放ったフェロモンを嗅いでしまった状態であり、俺のタイラントくんが

 

『呼んだだろ、おい、てめぇ呼びやがっただろ?!』

 

 と激しく自己主張しまくっている状態というなんとも情けない有り様という……。

 

 エイダのフェロモンは俺に向けたものでは無くレオンに対して発せられてしまったのは察知しなくてもわかっているが、強烈過ぎて当てられてしまったのだ。

 

 これが理性の無い量産型タイラントなら問答無用でしばきに来るんじゃねーか?奴らもそこそこ嗅覚が鋭いからな。

 

 つか、エイダにバレないようにずっとデスクから離れられなかったのだ。小学校の時に授業中何故かムックリさせてしまって『周りにバレませんように、周りにバレませんように』と焦りながら神とか仏とかに祈っていた時の事を思い出させるような、そんな感じだったのだ。

  

……ぬぅぅぅっ、おさまれタイラントくん、君はそんな奴じゃ無かったろう、紳士的で気さくな奴だったじゃないか。いつもの優しい感じ……かどうかは知らんが、ほら、おさまれーおさまれー。

 

 はい、タイラントくんがおさまるまでだいたい15分かかりました!先生、呆れてものがいえません。

 

 誰が先生やねん。というか小学校でそんな事を言うような先公は大抵がろくでもない○○組な○○で、いじめとか見てみぬふりするゲスが多いんやぞ。つーか自分の指導力がねぇのを棚に上げてガキのせいにすんな。

 

 まぁ、それはさておきタイラントくんはおさまった。うむ、良い子だグッボーイ。

 

「はぁ、疲れた……。つか肉体の疲労よりも精神的な疲労の方が堪えたよ……」

 

 カンオケミサイルでぶっ飛ばされ、変なヒーローのコス着てハンターと戦い、傭兵達拾って、潜水艦で出動し、また生存者拾って、帰る途中でサメのB.O.W.の駆除やってデッカいサメの親玉を潜水艦の主砲でぶっ飛ばして、大統領の三番目の令嬢(筋肉オムツ娘)に会って、帰って来てみんなにワクチン打って、フォーアイズの回診に書類に報告書に……。

 

 そんな疲労困憊な俺に、トドメとばかりのエイダのノロケ話とあのフェロモン臭だ。

 

 あのなぁ、おっちゃんなぁ、ほんまに疲れとるねん。つーかなぁ、おっちゃんなぁ、年齢=彼女おらへん歴史なんやで?それやのに、あんなんあかんわ。

  

「……はぁぁぁぁっ。風呂、行くか」

 

 疲れた時には風呂、であろう。

 

 せっかく大浴場が修理されたのである、使わない手は無い。それにもうみんな入った後なので貸切状態のはずだ。

 

 というかみんなが入っている時ではこの俺のデカい身体で風呂が狭くなってしまって迷惑がかかる。だが最後に入るなら、俺もみんなも気兼ねなく入れるのだ。

 

 俺は社長室を出て扉に鍵をかけると、自室へタオルやら何やらを取りに行き、鼻栓をしっかりと鼻に詰めて大浴場へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 大浴場は、なんか思いの外、日本を思い出させるような作りだった。

 

 まず、目が行くのは壁に一面におそらくは耐水ペンキで描かれたと思われる富士山の絵だ。

 

 葛飾北斎の『東海道江尻田子の浦略図』を現代アート風に明るくアレンジしたような富士山の絵で、これが不思議となんか風呂の雰囲気にマッチしていた。

 

 誰が書いたんだろうか、と思って見てみれば【Painted by David King】のサインが隅っこに走り書きで書かれてあった。

 

……あの配管工のにーちゃんが書いたのかよ。つーかこんな明るい絵を描ける奴やったんやな。というか、実は名のあるアーティストなのかもしれん。

 

 何にせよわかることはデビットが日本で実際の銭湯に何度も入った事があるのだろうという事と、絵心を持っている事ぐらいだ。あと、葛飾北斎とか浮世絵が好きなのかも知れないってくらいか。

  

 まぁ、デビットには修理の礼を兼ねて話をしてみるとしよう。なんせあいつだけ履歴書のプロフィール欄がやたらとスカスカだからな。というか記憶喪失のヨーコのがまだ埋まってるくらいだ。

 

 ま、それはそれとして、風呂に入ろう。

 

「風呂は命の洗濯だ!」

 

 なおサービスは無い。いや、何をいっているのだろうな、俺。というかおっさんの入浴にそんなもんあってたまるか。

 

 俺は洗い場に座った。椅子は使わない、というよりも俺が座れば体重で椅子が潰れるかもしれない。故に床に胡座を組んで座り、そして置いてあるボディソープのボトルを取った。

 

 でっかい俺専用の手拭いで泡立て、そしておもむろに肩から洗って行く。背中だってのびのびとゴッシゴシ、シャワールームではこうはいかん。

 

「入れ入れ風呂入れほー入れ入れ風呂っほっほー。アソコも洗えよ?」

 

 替え歌を歌いつつも上機嫌で身体を洗い清めて行く。しっかし結構汚れてんなぁ、うわ、こんなに垢が……!!

 

 洗っているタオルを見て驚く。ぬぅ、毎日シャワー浴びててもこれかぁ。新陳代謝が上がってるのかもなぁ。

 

 しっかり上半身を洗ったら次は下半身である。俺は胡座をといて、しゃがむ姿勢になると、股間を見た。

 

……しっかしタイラントくんめ。なんでお前はワシの言うことを聞かぬのだ。そんなにワシを困らせたいのか?クレアん時といい、ナスの乳とか尻とか見た後といい、さっきのエイダん時と言い。

 

 わしわしわし、とデリケートな所も洗う。通常サイズでもなんでこんなに育ったのやら。

 

「わんぱくでもいい、たくましくそだってくれれば。……いや、お前はデッカくなったらあかんのや。つーか、三十路になってちょっとは落ち着きが出てきたと思たらコレや。つーか思春期くんか、中坊か、お前は」

 

 ち○こに向かって真剣に話す三十路後半さしかかりのおっさんの図、である。なお、今のタイラントくんは良い子モードだ。

 

「よーしよしよし、よーし……って、逸物でムツゴ○ウさん、すな!」

 

 誰もいない風呂でセルフツッコミする三十路(ry。

 

「……何やってんだろな、俺」

 

 途端に虚しくなり、溜め息を漏らし、ふと鏡を見る。

 

 THEハゲ頭。

 

 つるっつるの茹で卵のような光沢を放つ、この頭よ。

 

 近頃は自分で開発した育毛剤で多少は産毛が生えて来てはいるが、それでもまだ髪の毛とは言えない程度である。

 

 眉毛はやや太くて黒く生えて来始めているのだが。

 

「……この頭を見るたびにスペンサーへの殺意がわいてくるんだよなぁ。マジで」

  

 俺は、試作型の育毛剤『バエールゼット』の蓋を外し、おもむろにそれを頭にかけた。なお、現在特許出願中の成分を配合してある。この成分については、まぁ、企業秘密だ。中南米産の植物性から抽出したものなので一定の効果があるなら量産して売る事も視野に入れているぞ?ククククク。

 

 ワシワシ、ワシワシ、と頭皮をマッサージ。

 

「生えろ~、生えろ~、復活しろ~!我が髪よ、復活しろ~!」

 

 ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ。

 

「俺はハゲじゃない、俺はハゲじゃない、産毛も生えてきた、まだまだいける!」

 

 ぴっぴっ、と育毛剤を再びかけて、

 

 ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ。

 

「我が毛根未だ絶えず、つーか、スペンサー・シネ!とっととくたばれ、ファッ○ン・アンブレラ!!」

 

 ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ、ワシワシ。

 

 目を瞑りながら、ついには怨念すらも発してしまう。

 

 と、ぱしっ、と俺の背後からその手を掴んで止める手が現れた。

 

 びっくぅっ?!とした。何故なら何の気配も無く、俺の超感覚ですら接近を捉えられなかったからだ。

 

「そんなに強くやったらダメじゃない。頭の皮にダメージいっちゃうわ」

 

 ぴっとり、とその声の主は俺の背中になんか想像が出来るが現実的には考えたくない、そんな素敵な感触のおっきなナニかを押し付けつつ、俺の手を頭から下ろさせつつ、俺の頭に手の指をちょこん、ちょこん、という感じに触れるように当ててきた。

 

……に、匂いもしない、だと?いや、この匂いはオゾン臭、まさかオゾン消臭をしていたのか?だが、気配はどうやって。しかも男湯に入ってきた足音も何も無かったぞ?!

 

「あのねぇ、いーい?頭のマッサージはこうするのよ?」

 

 しゃわしゃわしゃわ、しゃわしゃわしゃわ、しゃわしゃわしゃわ、しゃわしゃわしゃわ。

 

「あっ……あっ、これは……」

 

「気持ちいーでしょ?んふふふふ、頭皮は優しく優し~くやるのがいいのよ?」

 

 しゃわしゃわしゃわ、しゃわしゃわしゃわ、しゃわしゃわしゃわ、しゃわしゃわしゃわ、しゃわしゃわしゃわ、。

 

「おおおぅ、このマッサージは床屋さんの頭マッサージ」

 

 この侵入者が何者なのかどうでもよくなるようなほどの、すごい頭皮マッサージだった。

 

 軽く適度な刺激と流れるような手付き、そして確実に俺のツボを熟知しているかのような指圧具合。

 

 さらに言うなら背中に当てられる大きなおっぱいがなんかにゅるにゅるして……ってあかんがなっ!!

 

「ちょっとマテ、つーかナスターシャ博士、ここは男湯で女人禁制なんだが?」

 

「ん~?今は貸切よ~?ちゃんと社長貸切の札を下げて来たから問題無いわよ~?」

 

「そんな札は知らん!つーか、どうやって侵入して来たんだ?全く感知出来なかったぞ?!」

 

「あ、ステルス迷彩と消音消臭装置を消すの忘れてたわ。うふふふふふ、わかんなかった?わかんなかった?」

 

 カチッと何かのスイッチを切る音がして、途端にむわっ、と鼻に女体臭とでもいうのか、いや、ナス臭がフェロモンの香りを伴って溢れ出した。

 

「ずぐっ?!」

 

 わけのわからん声が出たが、スメル・センスがコントロール出来ない状態でいきなりそんなもんが間近で発生したら、たまったものではない。

 

 そう、正直に言おう。

 

 ナスターシャ博士の体臭は、俺にとってかなり危険な匂いである。そう、性的な意味で。

 

 そういう匂いを発していた人物の代表としてはクレア・レッドフィールドもそうなのだが、だがクレアの場合はまだ理性が効くレベルの匂い、かつ、フェロモンを発していなかった。

 

 だが、このナスターシャ博士の場合は違う。段違いと言ってもいい。

 

 言っておくが、けしてナスターシャ博士が臭いと言っているわけでは無い。彼女の匂いがやたらと俺の性的な部分を刺激するという意味だ。しかも俺に指向性のフェロモンまで強烈に放ってくるような相手であり、理性がヤバいのだ。

 

 故に、なるたけ二人きりにならないようにしていたし、二人だけの時は鼻栓をしていたのだ。

 

 なのにこの至近距離で、この匂いは、だめだ!!

 

「……な、ナスさんや。すまんがその、ステルス?消臭消音?その装置をもう一度使ってくれんかね?」

 

「ん~?興味あるの?」

 

「あ、ああ。というか俺の五感で察知出来ないってのは、そりゃあもう、すごい技術じゃないか!」

 

 マジで脅威としか言いようが無い技術だが、それよりも何よりもナスの匂いが消えるならなんだっていい!!←切羽詰まってる。

 

 俺は急いで頭をシャワーで流して、ほれ、使って見てくれ、と促した。無論、振り返りもせずに、だ。

 

 すると、ブィィン、という作動音と共に、オゾン臭がすぐに発生した。おそらく装置が作動したのだろう。

 

 そこで俺はようやく振り返ってみたが……。

 

「……確かに、見えない。いや、若干だが輪郭がぼやーっと見えるくらいか。迷彩というよりもこれは透明化?いや、なんか違う気もするが。すげぇなおい、まるで、プレ○ターみてーだ!!」

 

 いや、正直に言っておどろいた。まるでSF映画みたいな装置じゃないか!しかもナスターシャ博士の裸とか見えないし匂いもフェロモン臭も全く感じない。

 

「うふふっ、このプラントで基礎理論を書いたメモを発見してね、ちょっと造ってみたのよ。ただ、改良しなきゃいけないことがいくつもあってね。やたらオゾンを発生させる事と、水や湯気に弱いこと、あとは熱をかなり発生させるのがネックだったんだけど……」

 

「全く音も何も聞こえなかったが、それはどうやってんだ?」

 

「ああ、近くで出た音の波長に合わせてカウンターの音波で相殺してるのよ。これはあの潜水艦に使われてる技術の応用ね。あとは『臭い』には作動時に出てくるオゾンを利用して消臭してるのよ。アナタは音にも匂いに敏感だから特に念入りにその辺は機能追加したわ」

 

……ひょっとして、まさかとは思うが、そのステルス迷彩とかいうのを造ったのは、俺対策なのか?

 

「というか、ネメシスもね、匂いにはかなり敏感でね、匂いで私の思っている事を当てたりするの。でね、もしかしたらアナタも同じかな、と思ってコレを使っていろいろと観察してたんだけど……」

 

「……いつから、だ?」

 

「ん~?エイダがレオン君と無線で話をしてた時からかな?」

 

「……ずっとおったんかい。姿が見えないとは思ってたが。というかネメシスは?寂しがってるだろ」

 

「あの子ならもうオネムよ。寝かしつけたらぐっすり寝て8時から朝まで絶対に起きない良い子だから」

 

……なんやろなぁ、ウチの甥っ子と姪っ子もそんなんやったが、その辺はウチの一族共通なんやろかなぁ。ああ、兄貴んとこの子もそうやったわ。

 

 妙な所で血の繋がりを再確認してしまう情報を得てしまったぞ。

 

「……でも、うん、エイダが社長室から出て行った時に消臭スプレー捲いてたわね。あれですごく納得したわ。『フェロモン臭』ねぇ」

 

「ぎくり!」

 

 そこで、またカチッという音がして。

 

 シュイン、とナスターシャ博士の姿が現れた。

 

「で、どうなのかしら?私だと……『フェロモン』、出てる?」

 

 ずいっ、と寄ってくる不適切表現の塊。こちらに伸ばされる腕、そして強烈にアピールしてくる匂いとフェロモン。

 

「あ、あ、あ、あ、いや、おい、ナスターシャ博士?やめっ、せやからっ」

 

「ん~?なぁに?ア・ナ・タ?」

 

 捕らえられ、そして俺は逃げられないと知った。

 

 配合適合率90%以上。アンブレラはネメシスを造り出す際に、そのように計算を出したわけだが……。つまり、俺とナスターシャ博士は生物的に……。

 

「ひ、人は理性の生き物なはずなんやーーーっ!!つーか、ケダモンやないはずなんやーーーっ!!」

 

 風呂に虚しく響く俺の叫び。だが……。

 

 B.O.W.よりもケダモンな女の前では、なんの意味も無かったとさ。

 




・間接的な戦犯はエイダ。

・デビッドがすごい技術を発揮して富士山描いたりしてたのに、やはり影が薄い。

・ナス太郎(センシ乳房&センシ恥部)。R-15ではこれが限界だったよ……。


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ナスがママなら俺は旦那になっちまったようだ。

今回、間が開いてすみません。

私は感染はしてないのですが、やたら周辺でコロナ騒ぎがあり、トラブルシューティングで忙しくて書けませんでしたm(__)m

毎回、感想や誤字脱字訂正等、ありがとうございます。

事後、ですなー。


 

 結婚の言質取られたよ……。

 

 いや、マジで俺でええんかい、君。

 つーか人の心君知らずだ。

 

 つーか、俺はね、いろいろと君の事を心配していろいろ考えてたんだよ。というかそういうのって、上から目線みたいで自分で自分が嫌になるけどさ。

 

……無論、自分の保身もその中にあったが、それよりも、いや、こうなったらもう、そんなんもん関係無いのかも知れないが……。

 

 俺は、彼女を心配していたのだ。

 

 同じベッドで眠りについた彼女の頭を、髪を撫でながら思う。

 

 俺は、怪物なのだ。人として生きることは諦めてはいないが、だがたった数ヶ月前の自分とは……身体のデカさもそうだが、それだけでなく、本質的な感覚とでも言うのか……何もかもが違う。

 

 俺でも自分のバケモノさをかなりの部分で持て余してるのに、そんなんに嫁ぐなんてありえねーだろ、と今でも思っているのだ。

 

……君の遺伝子はまるで奇跡だ。その身体の発する匂いは俺の理性を狂わせる程に危険過ぎる。

 

 愛と呼ぶには本能的な衝動が抑えられずにこうなってしまったが、何もかも満ちたりたような自分のこの感覚が自分でも嫌になる。賢者タイム?そんなんじゃないんだ、これは。

 

 精神が脳の働きならば、この充足感は果たしてどの脳みそが得て肯定しているというのだろうか。

 

 俺のこの、自分で嫌気がさしているこれの本質は脳の変化にあるが、それが俺をまるで俺の思考を否定しているかのように感じる時がある。

 

 今がそれだ。

 

 まるで予定調和のように、あるべき結果のようにこの脳みそはこの状況を肯定しやがる。

 

 俺は彼女を俺のようなバケモノの慰み者にしたかったわけじゃない。そして彼女が初めてを捧げるに相応しいとも思ってはいなかった。

 

 彼女はまだ21と若く、まだまだこれからの人生があるのだ。俺みたいなバケモノに嫁ぐなど、そんな事はしちゃいかんともな。

 

 だが、なんだこの正しい事を行った、なされるべき事が一つ終わったというような、このクソ忌々しい新たな脳みそが発する、この充足感は。

 

……俺の脳みそは、クソ忌々しいT-ウィルスによってろくでもない進化とやらを果たしてしまった。

 

 人間の脳みそは、ざっくり言えば、生命が発生し進化して獲得してきたこれまでの脳を積み重ねた構造になっている。そして、これは前にも言ったかも知れないが、人類が獲得した新たな脳は生命体の持つ古い脳の働きを抑制し、その本能の部分を制御している。

 

 だが、俺の脳みそは確かに大脳皮質も強化されてはいるが、その他もまた強化されてしまったのだ。

 

 第一に、大脳皮質を不完全に覆う、人には有り得ない新たな脳の出現がMRIによって偶然、発見された。

 これはナスターシャがこのプラントにあった医療施設のMRIを整備してくれたときに、その動作のテストとして俺の脳みそなどを撮影した時に判明したのだが、まぁ、エイダやナスターシャは医学には疎い。俺の脳の変化には気付いていないだろうが、その映像を見た俺は愕然とした。

 

 不完全ながら、俺は新たな人類の進化を自分の中に見てしまったのだ。

 

 スペンサーが望む、新たな世界の人類の片鱗を。あの狂気の耄碌ジジィが求めて止まない、超人の持つ脳を。

 

 ああ、ふざけるな。こんなものが人の脳のはずもない。ふざけるな。人の持たざるこの脳の力の超常の力なんぞが人の進化の結果なんぞでありえてたまるか。

 

 なぜ、俺がT-ウィルスの特効薬やワクチンを、アンブレラの研究者達が作った物以上の高性能かつ高純度、高精度で造れたのか。ディライト以上にT-ウィルスに対して致死性を持ちかつ人体に無害なT-ウィルス駆除薬が造れたのか。

 

 全てはこの新たな脳が予知に近い形で自動的に正しい調合方法を導き出していたのだ。

 

 それだけでなく、普通考えてみても欲しい。たかが匂いだけでエイダの嘘を見抜いたり、人の行動を予測出来るはずも無かったのだ。

  

 全ては全く新しい脳の皮質の機能の一つだったのだ。

 

 しかも、あれから自分で様々な検査もしてみたが、この『上位新皮質』とでも言うべきこの脳みそは抑制された旧皮質すらも解放するような事までやらかしやがるのだ。

 

 ああ、この新たな脳みそはおそらくは俺の知識が増えるごとに、様々な分野を学ぶごとにとんでもない物をあみだすのだろう。

 

……知識を得る事が俺のストレスの元になるとは。

 

 最良の解を示すこの脳みそに俺は振り回されないように、俺は、周りの誰も不幸にならないようにと出来るだけ、深い接触を避けて来た。

 

 特に、ナスターシャとは。

 

 当たり前だ。プライベートで誰も介さずに彼女と過ごしたりしたなら、いや、これがその結果だ。

 

 俺の脳はもう、ナスターシャの感触を記憶してしまった。本能を司る脳と大脳皮質すら従える新たな脳。それがもうナスターシャを自分の伴侶だと認めてしまった。

 

……幸せそうに眠る、ナスターシャ。

 

 君の事は感覚でわかってしまった。

 

 家族を亡くして、家族を求めて、必死に自分に流れるその血と同じくする者を求めていたんだな。ネメシスに自分の家族達の面影を見ていたんだなぁ。

 

 ネメシスの父親にあたる俺に対する想いは、正直、俺としては複雑な物がある。

 

 何故、俺なんぞに惚れてくれたのか、その辺はどうも彼女に明確な何かは無かったみたいな感じなのだ。

 

 彼女は旧ソ連に攻め込まれ滅ぼされた少数民族の出であり、その民族の風習というか考え方がまず彼女の中にあり、血族や同朋に対する想いがかなり強く出ており、どうもその根底にあるのが、

 

『息子(ネメシス)の父親は自分の家族であるべきであり、それはすなわち夫に他ならない』

 

 というものらしい。

 

 また、ネメシスに対する俺の接し方がどうやら彼女の亡くなった父親と弟のそれを思い出させた、とか、抗体血清入りのワクチンを接種させて彼女の命を助けた、とか、彼女を始末しようとしたセルゲイ大佐の派閥のアンブレラの私設傭兵部隊を壊滅させた……というよりは、その指揮官の旧ソ連出身の『軍曹』をぶち殺した……事がやたらポイントが高かったらしい。

 

……前々から思っていたが、彼女は旧ソ連系の傭兵にはかなり辛辣だったが、国や親族を殺されたその記憶が彼女をそうさせるのだろう。

 

 逆に彼女はミハイル大尉には気を許しているが、それはミハイル大尉の奥さんがナスターシャと同じ少数民族であり、彼ら夫婦がロシアからの独立を目指して戦っていたからなのだろう。つまりはナスターシャはミハイル大尉に対して同朋だと考えているのだ。

 

 それはともかくとして。

 

 ナスターシャの事を考えて、いいや、自分の保身を含めて彼女との距離を、そう、ソーシャルディスタンスしていたのが引き金となるなんて流石の俺も読み切れ無かったのが敗因となるなど、俺としても思っていなかった。

 

 彼女は天才であり、さらに勘が鋭い。感覚人間と言うべきなのか、感覚的な天才だ。

 

 俺の態度に違和感を感じて、俺が悟られないように自然と離していた距離をあんな力業で詰めてくるなんてな。

 

……考えても見なかったが、ナスターシャはおそらくネメシスを育てているうちに、感覚的に俺達の弱点を知ってあんな行動に出たのだろう。

 

 おそらくは、俺にあるこのクソ忌々しい新たな脳はネメシスにも芽生えている。おそらく、産まれた時から。そしてネメシスは成長すれば俺以上にこの新たな脳を使いこなす事だろう。

 

……良かれ悪かれ、いや、俺と同じ『スメル・センス』があるならば悪の方には進まない、と信じたい。

 

 というか。

 

 なんだろうな、この大丈夫的だって感覚は。まったくクソ忌々しい。一人の女の子の未来の可能性を奪ったんだぞ、この脳みそめ。

 

……はぁ。しっかし撫でてると落ち着くんだよなぁ、このナス太郎め。

 

 俺は、深く息を吸うと同時にナス太郎の匂いを堪能すると、溜め息を軽く吐き。

 

「嫁にするからにゃ、幸せにせんとなぁ。俺が幸せになるかどうかは知らんけど」

 

 俺だってさ、ナス太郎がネメシスを見るときの目に、死んだ俺の母さんのそれを見ていた。飯を食わせてる時の仕草や、慈しむような目、何気ないその……。

 

 なんも似てねーのになぁ、外見。つうか母親ってのは世界共通で、そんなもんなんかなぁ。

 

 いや、マザコンちゃうぞ、俺。

 

 はぁ、いい匂いだよなぁ。つーか優しい匂いに感じる。つーか『女』なんよなぁ、匂いが。

 

 うーむ、と静かに唸って、頭を天井に向ける。

 

 とりあえず明日も早いのだ。ともかく眠なければならぬ。

 

 幸せなぁ。幸せってなんだっけ、なんだっけ。

 

……ぽん酢の読み方は、ぽん『ず』ではなく濁らない『す』が正しい。あと、醤油を混ぜてるのは『ぽんす醤油』であり、『ぽんす』は本来、醤油は入っていない。

 

 まったく意味の無い思考をしてとりあえず、またタイラント君が出しゃばらないようにしつつ。

 

「おやすみなさい」

 

 するりと俺は眠りの世界へと落ちていったのだった。

 




・なお、平さんはマグロでは無かった模様。

・話と話の間に、ぱいおつみーもーみーもー、しりおつみーもーみーもー、びーちくめーなーめーなー、とか色々してたよ?←をい。

・ファミリーが増えるかも知れないパンパン節を打ち鳴らす行為、略してファミパン。

・だいたい、風呂場での惨状が一昔前の、むらかみ某のエロアニメみたいな感じだったのでそら描写できんわなぁ。

・深い眠りなど訪れるはずもないさ、月が平さんをあざ笑う、のだ。

 次回、あのグラサン野郎が来襲の予定。



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登場予定キャラの設定の覚え書き。

本編を再開する前に、ちょっと整理用。読まなくても特に困りませんが、書いてる人的にややこしくなって来たので。

思ったよりもバイオハザードの年代表とメタルギアシリーズの年代表でいろいろ摺り合わせするのに時間がかかってしまいました……。

というか声帯虫とかどうすっかねー。



【平 凡(たいら ひとし)】(生年月日1968年11月23日)→1998年時32歳くらい。

 

・身長・176㎝、体重・78㎏→身長・250㎝、体重・200㎏。

 

・血液型AB+

 

・趣味:祭で神輿を担ぐこと。売られた喧嘩を買うこと。育毛。

 

・性格:普段温厚。他者を重んじる傾向にあり、自分の欲求に対しては抑える事が多い。

 

 目的の為ならばどんな労苦も厭わない根性と執念を持っているが、それは研究だけでなく、敵を潰す時にも発揮される。

 

 母親を幼い頃に亡くしており、マザコンの気が無きにしもあらず。

 

・女性の好み:特に好みは無いが、母性的な女性。特におっぱいの大きい女性に弱い。→匂いに左右されるようになり、クレアなどのいい匂いに惑わされるようになっている。

 

・薬学の分野では実は世界的に有名。また薬剤の製法や成分の抽出の分野においては幾つもの特許をもっており、実はアンブレラは彼の作り出した特許をかなりの部分で侵害していたりする(無断使用、使用条件の侵害など、訴訟案件多数)。

 

 

【ナスターシャ・アヴドーチャ・ロマネスカヤ】(生年月日・不明)→1998年時、21歳。 

 

・身長・168㎝、体重・不明。

 

・血液型O+

 

・趣味:機械いじり。発明。

 

・好きな物:干し葡萄と羊肉の入ったオルオ(脂)たっぷりのプローウ(中東などで食べられているピラフ。焼き飯のようなもの)、サウァレップ(中東などのミルクプリンのようなお菓子)。

 

・性格:天然で人好きのする性格をしている。普段は温厚かつ物わかりが良く面倒見もいいが、目的の為なら善悪や倫理・道徳を問わず行動する事もある。

 彼女が元々兵器開発の道に進んだ理由は、父親が兵器研究の第一人者だった事と、自分の国を滅ぼした旧ソ連への復讐のためであり、ある意味、彼女の性格の大半は『ソ連憎し』で醸成されたと言っても良い。

 また、ファザコン気質を持っており、平凡さんを気に入ったのもそのせい。

 出身国(現在亡国)特有の価値観もかなりその性格に影響を与えており、敵を絶対に許すことは無い。

 

・男性の好み:自身の民族の男性のように逞しい男性。(平凡さん)。

 

・ジルさんが最後の対ネメシス戦で使ったレールガンはナスターシャが作った実験用だが、ベロニカのレールガンはナスターシャ以外の『どこかの』科学者が横流ししたもの、という。

 

 

【ディビッド・オウ(ゼロ少佐)】(1909~1975)

 

 1970年、ザ・ボスの遺志を継ぎ、サイファーを創設する。

 

 1972年、ビッグボスと決別。しかし、ビッグボスを親友と認めていたゼロは彼の動向を監視。

 

 1974年パス・オルテガ・アンドラーデをビッグボスの元に潜入させる。

 

 1975年、ソリダス・スネークを造った後、スカルフェイスの裏切りにより、アンブレラの開発したウィルスに感染させられ、最後の意識でオセロットにスカルフェイスの計画をビッグボスに伝えるように連絡し、その後死亡。

 

 以降、メタルギアシリーズの歴史は狂い、バイオハザードの世界へと……。

 

 

【ビッグボス】

 

 オセロットからもたらされたゼロからの情報により、裏切り者のヒューイを追放。また、サイファーの事実上の壊滅を知る。

 

 また、パス、チコの救出、パスの体内に仕掛けられた爆弾を全て摘出に成功した事により、パス生存ルート確立。

 

 スカルフェイスの部隊XOFの襲撃を水際で防ぎ、またスカルフェイスの消滅によって危機を脱したものの、中南米政府からのマサーベース退去勧告を受け入れてカリブ海から撤退。

 

 その後、アウターヘヴンにてイーライ、ディビッドを連れたEVAやパラメディック、シギントなどと合流。

 

 その後、否応なしにアフリカでのアンブレラとの戦いに巻き込まれて行く。

 

 

【カズヒラ・ミラー】

 

 カリブ海のマザーベースを失ったものの、中南米政府の動きは読んでおり、資金その他をセーシェルに移す計画をすでに立てていたちゃっかり者。

 

 なお、潜水艦や様々な機材が残っていたのは、ヒューイが造った物を見たくも使いたくも無い、という理由で捨てていったからである。

 

 なお『白陽社』と接触しようとしたのはワクチンや血清、ウィルス駆除薬を入手するため。

 

 

【ヒューイ・エメリッヒ】(死亡)。

 

 ボートでカリブ海に追放された。その後、アメリカは帰るもストレンジラヴ博士に離婚を申し立てられ、アルコールと薬物の中毒症状により安アパートにて誰からも看取られることなく死亡。

 

 

【ストレンジラヴ博士】

 

 ヒューイに愛想尽かしてハル(オタコン)を連れて離婚。その後、コンピューターのOSの会社『ザ・マザー』を設立、彼女のOSは世界的に使われるようになったが、結果としてアンブレラ側のコンピューター会社と対立する。しかし世界的にシェアは追い上げつつある。

 

 

【セシール・コジマ・カミナンデス】

 

 フランスに帰国後、大学に戻り、鳥類研究の第一人者となり、教授となった。バイオのウルフパック隊隊長のルポの住んでいる家の向かいに住んでおり、近所でも慕われるお婆……いえ、おばさんである。なお、未婚。性格は若い頃よりもエキセントリックになっている。

 

 

【アダム・ベンフォード】

 

 ロイ・キャンベルはかつての上官であり、またアンブレラとの戦いにおいて、アフリカの『ダイヤモンドドッグス』とは協力関係にある。また、特殊部隊『SPEC.OPS.』の訓練教官は『エイハブ』である。

 

 

【エイハブ】

 

 MGS正史ではヴェノム・スネークとなった男であるが、こちらの世界ではアメリカ特殊部隊の教官をしつつ、オセロットと共にアダム・ベンフォードと『ダイヤモンドドッグス』との橋渡し役をしている。『ショーン・エイハブ』という偽名を名乗っている。

 

 

【クワイエット】

 

 元XOFの襲撃部隊にいたが、カリブ沿岸の漁民に助けられ、その後マサーベースに潜入しようとして捕らえられMSFに仲間入りする事になった。無論、特殊な能力は無いが、エイハブのバディとして活躍する……予定。

 

【EVA】

 

 最初はイーライとディビッドを産んだ、という事でパスにマウントを取るもなんだかんだで仲良く過ごしている。二人の次世代スネーク達を上手く育て上げるも、やはりイーライとディビッドは仲が悪く手を焼いている。キューバにて『白陽社』に接触する。

 

 

【フランク・イェーガー】

 

 アンブレラに潜入している。潜入先のロックフォート島にてU.S.S.の戦闘訓練の教官をしており、ハンクのCQCに影響を与えた……らしい。

 

 

【ソリッド・スネーク】

 

 アウターヘヴンからフォックスハウンドに出向。南極のアンブレラ基地に行かされる羽目になったりする……予定。

 

 

【リキッド・スネーク】

 

 H.C.F.に潜入。ウェスカーをCQCでボコったりしてほしいと書いてる人は思っていたりする。

 

 

【シギント】

 

 ストレンジラヴ博士と共同で白陽社のコンピューターをフル改造しだしたり、アンブレラのコンピューターAIを乗っ取る為に『ザ・ボス』の人格AIをサルベージして組み込んだりする予定。

 

 

【ナオミ】

 

 後に白陽社に入社。ウィルス分析用小型血清調合器を開発。『黒曜丸』に積み込み、ワクチンなどをスピーディに生産する事を可能にする。

 

 

【コードトーカー】

 

 白陽社に居着く。やたらハンバーガーを食いたがるジジィになっている。

 

 

【ソリダス・スネーク】

 

 残念ながらアメリカ大統領にはなれないし、良いとこ無し。仕方ないね。

 

 

【その他、ダイヤモンドドッグスの傭兵】

 

 やたら白陽社に駐屯し始める。

 

 

 




 なお、設定は仮です。主人公達『白陽社』と『ダイヤモンドドッグス』や『フォックスハウンド』は絡んでいく展開になると思うので、待ってて下さいね。誰も待ってないかも知れませんが。


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サイド・メタルギア

 お久しぶりです。

 なんとか話の辻褄を合わせるのに苦労してました。

 あと、プチ入院してました(コロナではありません)。

 酒が入らなきゃ、俺、話書けないんよ……。


 

【ザンジバーランド】

 

 ザンジバーランドは中東のロシア、中国に隣接する場所に樹立された武装蜂起によって興ったテロリストの国家である……と、西側諸国やロシアによって言われている。

 

 それはある意味半分程度は当たっているが半分以上は悪意に満ちた西側諸国やロシアによるプロパガンダである。

 

 そもそも、このザンジバーランドは旧ソビエト連邦に征服され国を奪い取られた少数民族達がゲリラ化して反ソ連と独立を掲げて戦っていた頃の中心的な拠点のあった地域であり、彼らがソビエト連邦崩壊後に半ばそのどさくさに奪還した国である。

 

 そう、彼ら少数民族は自分達の祖国を取り戻したというだけなのだ。

 

 だが、何故にロシアだけでなく西側諸国が悪意を持つのかと言えば、西側諸国や周辺諸国はソ連崩壊後のどさくさにその領土を削り取ろうと画策していたからである。

 

 いつの時代どんな国も虎視眈々と自国の領土を増やせるチャンスが舞い込めば、必ずそれを狙うものである。

 例えば近隣の国家の領海の島を言いがかりのようなこじつけで実行支配している国家や、『我が領土』と言って国際社会に喧伝し歴史捏造を行い、少数民族の国を自国の領土として組み込み押し通そうとする国家などザラにある。

 そんな火事場泥棒などどこの国家でもやらかしているし、まして崩壊し弱った国の領土とあれば、狙わぬ国家など平和ボケした日本くらいのものだろう。

 

 だが、結果としてどの国も直接的に動けなかった。その理由は様々あったが、概ねはアメリカに政治的にも軍事的にも睨まれていた事や、また、諸国間で牽制しあって足を引っ張り合ったり、とかそんなもんである。

 

 そんな中で各少数民族達は集結し、他国の思惑なんぞ知ったことかと自分達のかつての土地をとんでもない勢いで奪い返し、そして独立国家を樹立した。

 

 近隣諸国の意地汚い国家元首達の妬みや、いかばかりか。

 

 その妬み故に西側諸国はザンジバーランドに言いがかりをつけて世界の敵として『傭兵達が武装蜂起して土地を乗っ取った』などと貶める為に喧伝した。また、『周辺国への脅威』などと言い掛かりをつけて樹立間もないザンジバーランドに幾度も攻め入ったが、しかしザンジバーランドの防衛は強固であり、その全てを撃退され多大なる損失を被った。

 

 そんな中、ザンジバーランド暫定政府は着実に世界に対して、そして国連に対して自分達少数民族がザンジバーランドを治めるに足る正統性を訴え、また『民主主義国』であると社会・共産主義国の多いこの地域に民主主義国が出来た事のメリットを特にアメリカに吹き込み、世論を味方につけた。

 

 また、国連に加盟しているが武力や政治力に乏しい近隣の小国に様々な支援を行うことで同盟を結び、味方に引き入れてどんどん国際的な地位を確立すると同時に政治的防衛を行って行き、ついにはたったひと月前に国連加盟国入りを果たす事に成功したのである。

 

 無論、少数民族達が結束しただけでは、それらの偉業は無理であった。

 

 そう、民族独立と国家樹立の影には……というにはものすごく目立ち過ぎていたが……あの民間傭兵会社『MSF』と『ビッグボス』がいたのである。

 

 故に傭兵達が『武装蜂起』して国を創った、と言われていたわけであるが別にビッグボスとMSFがこの国を作ったわけではない。

 

 単にいつものようにいつものごとく、ゲリラ達をフルトン回収して仲間にして、敵性勢力と戦っていたら、気がついたら仲間の大半がこの地域の少数民族の皆さんで、さらに戦って戦って、その果てに気がついたら一つの国が出来るくらいに拠点群が拡大され、少数民族達が『俺達の国』を『ビッグボス』が取り返してくれたぞ!!』と、勝手に盛り上がり、そこをザンジバーランド民主主義連合国なんぞという名前を付けて独立宣言を世界に向けて行ったからである。

 

 で、現在に至る。

 

「……どうしてこうなった?」

 

 と、顰めっ面でこの場にいる『MSF』と『旧愛国者達』のメンバー達を睨んでいるのはこのザンジバーランド民主主義連合国の初代大統領につい数日前に祭り上げられた『ジョン・ジャック・シアーズ』である。

 

 そんな名前で紹介されても誰だそれ?となるだろうから付け加えておくと『ビッグボス』である。

 

 いや、ビッグボスの完全なるクローンであるジョージ・シアーズ(ソリダス・スネーク)ではない。本物のビッグボスその人である。

 

 へー、そんな名前だったんだ、と思われるかも知れないが、『ジョン』という名前以外は偽名みたいなものである、その辺はまぁ、お察し下さいと言っておこう。

 

「……ボス、カズを止めなかったあんたが悪い」

 

 スーツ姿のオセロットが、やはりスーツ姿にされたビッグボスの襟の所に赤いバラの造花をピンで止めた。なお、ビッグボスにスーツを着せたのはパス・オルテガ・アンドラーデである。

 

「似合ってるぜ、スネーク!」

 

 と拍手しているのはかつてスネークイーター作戦でシギントと呼ばれていた技術要員『ドナルド・アンダーソン』であり、サイファーのメンバーだった男である。

 

 また、その隣でやはり拍手している白衣の女性はやはりスネークイーター作戦において医療スタッフとして参加していたパラメディック、『クラーク博士』である。彼女もサイファーのメンバーだったわけだが、何故、敵対していたサイファーのメンバーがザンジバーランドにいるのか、と言えば。

 

 サイファーの創始者ゼロ少佐こと『デイヴィッド・オウ』が暗殺され、サイファーが壊滅してしまったからである。

 

 そう、1975年、ピースウォーカー事件と呼ばれた自動核報復歩行兵器『ピースウォーカー』に端を発する事件の後、デイヴィッド・オウは『サイファー』の実働部隊『XOF』の指揮官『スカルフェイス』の裏切りにより何らかのウィルス兵器に感染させられ、それにより数日後に死亡した……と、記録には残されている。

 

 実際にはゾンビ化し、その状態を生存していると言うならば、デイヴィッド・オウは約二週間は生きていた事になるが、それもクラーク博士のウィルスの分析が終わるまでの間であり、最後は焼却処分されたという。

 

 その後に、今までサイファーが掌握していたアメリカの裏の有力者達『ファミリー』がサイファーに対して反乱とも言える行動を開始、大統領の暗殺や政党の敗退などが起こり、サイファーのメンバー達はその後、カリブのマザーベースにて合流し、デヴィッド・オウが生前に用意していた『遺産』の数々……デイヴィッド・オウ達の手で運用されさらに金額が膨れ上がった『賢者達の遺産』や情報網など……と、新たな敵である『アンブレラ』に関する情報、そしてXOFのスカルフェイスの動きなどをビッグボスに渡したのである。

 

 なお、EVAはカズと共に現在、国連人権委に出席し、その足で人権大国フランスの大統領との会談を行う予定であり、ザンジバーランドには現在いない。

 

「カズの仕業かぁぁぁっ!!」

 

「きゃっ!」

 

 怒るビッグボス、そして、きゃっ!と可愛く悲鳴を上げたのはパスである。というかピースウォーカー事件から約10年経っているのにパスはまだ少女のような外見である。……まぁ、胸とかはやや、いや、げふんげふん。

 

 何故、ビッグボスはそんなに怒るのかと言えば簡単である。

 

 ビッグボスは大統領になどなる気は無かったのである。また、仲間達との当初の段取りでは『国民投票による民主的な選挙』を行うことでザンジバーランドが民主主義国であると諸外国にアピールする、となっており、自分達はそれに関与しないとなっていたのだ。

 

 また、ビッグボスがスーツを着ているのは、当選した初代大統領に対して祝辞を述べ激励する為である。この国においてはビッグボスは英雄であり、その英雄に祝われれば初代大統領も喜ぶだろうというオセロットの案による。

 

 だが、蓋を開ければビッグボスが当選していた。

 

 そう、カズことカズヒラ・ミラーがこっそりビッグボスを推薦し、大統領候補にしていたのだ。

 

 結果、ザンジバーランドの国民の皆さんは喜んでこぞってビッグボスに票を投じたわけである。

 

「俺が苦労して各族長達を口説き落として候補になってくれと頼んだのが水の泡だ!!」

 

 そう、立候補するのを渋っていた各民族の族長やゲリラのリーダー達をビッグボスは大統領候補として出馬するように頼んでいたのだ。

 

 大統領ならば選挙などせずにあなたがなってくれ、という各族長やゲリラのリーダー達に、自分はこの国では余所者だから立候補するつもりは無い、と言ってたのがこのザマである。

 

 なお、投票率がほぼ100%、投票用紙に書かれた名前の大半、約90%が『ビッグボス』であった。ビッグボスが口説き落として立候補させた各族長やゲリラのリーダー達さえも自分に票を入れずに投票用紙に『ビッグボス』と書いて出した。

 

「あんたのカリスマは留まることを知らないな。さすがビッグボス」

 

 オセロットが爽やかに笑い、ギロリとビッグボスは睨んだが、そんなものでこのオセロットが怯むわけはない。肩をすくめて、

 

「なんの忖度も裏工作も無い、国民の意思による投票結果だ。みんなあんたの功績を称えて投票したんだ。今更辞退などして他の候補を大統領にしてみろ、それこそ暴動が起きるぞ」

 

「ぐっ……、カズぅぅぅ!!」

 

 帰ってきたらカズはビッグボスにシバかれる事になるだろうことは間違いないが、しかしシバかれた所でもう、ビッグボスはカズの計略通りに大統領になってしまったのである。

 

「はぁ、悪知恵を捏ねさせれば奴の右に立つ奴はいない。ゼロもその辺はかなり評価していたからな。だが、ボス、あんたが大統領になるってのは俺は悪くないと思うんだがな」

 

 オセロットはさらりとそんな事を言う。別にビッグボスがザンジバーランドの大統領になることに関して特に反対していない、むしろ歓迎しているような節がある。

 

「なに?」

 

 睨むビッグボスを、まぁ聞け、と静止した。

 

「……世界を一つにする。それが『ザ・ボス』の願いであり、理想だった。俺達はそれを掲げ『愛国者達(パトリオット)』として『サイファー』の活動を始めた。だが、ゼロはやり方を間違えた。まるでキリストが磔刑で死んだ後にその偶像を建ててキリストの教えを破った信徒達のように、本質をすり替えはじめた」

 

「……代理AI、か」

 

「ああ。それもその一つだ。奴は自己の死後も目的の為に世界を統括するコンピューターAIを造ろうとしていた。まぁ……シギントがプロジェクトに取りかかる前にゼロ暗殺によってその雛型のみ出来上がっただけに止まったが。そこにあんたがコスタリカで遭遇した核搭載型二足歩行戦車ピースウォーカーのAI……ザ・ボスの生前の人格を再現したものを組み込む計画を進めていた奴はザ・ボスの人格と自分達の人格をAIネットワークで結び、それに世界を統括させようと考えていたらしい。……もっとも、それは実現しなかったが」

 

「……AIに魂は無い。プログラムにより思考のトレースを行うが、それは無数のイエスとノーを繰り返して判断するだけのプログラムに過ぎない。人工知能は……人じゃない。人の思考をなぞらえてもその人間の亡霊にすらなれない。古い思考をなぞらえて進歩もなにも出来ない哀れな0と1を繰り返すだけのものでしか無い」

 

 シギントは首を振った。

 

「……何度も、ゼロに俺はそう言ったんだがな」

 

 その言葉を継ぐようにパラメディック、いやクラーク博士が目を伏せつつ言った。

 

「もう一つは、ビッグボス、あなたの遺伝子よ。……あの子達を産み出した事。『恐るべき子供達計画』。ゼロやあなたがいなくなってからの未来を担うための偶像として産み出された。ええ、プロジェクトのリーダーは私だった。これは私の罪よ。世界で初の人間のクローンを作るという、その事しか私は考えていなかった。……あなたへのエヴァの想いさえ利用して」

 

「……それに関しては、もういい。彼らは俺じゃない。別の人格と意思を持った大人だ。けして、俺の写し身でも偶像(イコン)でもない。もうゼロの思惑で人生を振り回される事も無い。……戦う術は教えた。生き方も。あとは彼らが己の意思で己の心の在り方を得ていくだけだ」

 

 ビッグボスは首を振った。彼の遺伝子を使って産み出された子供達はもう大人になり、一人はアメリカの特殊部隊『FOX HOUND』に入隊し、任務で最近このザンジバーランドに潜入してきたが、産みの母でありアウターヘヴンでずっと彼とその兄弟を育ててきたエヴァが出迎えて母親ムーヴで対応し、その間にビッグボスがFOX HOUNDの司令である旧友『ロイ・キャンベル大佐』に抗議して平和裏に解決した。

 

 というか、隠していたメタルギア(マッドナー博士版)を見られなくて良かった。

 

 なおザンジバーランド土産に玩具のラジコン式二足歩行型ロボットのメタルギアミニ(メタルギアの精巧なミニチュアロボット。話しかけると某キテレツなコ○助的な声で応えてくれる)を渡して、

 

 今度アメリカにも発売する予定だ、と誤魔化した模様である。

 

 後日談として、ビッグボスとエヴァはあとでマッドナー博士に怒られた。

 というのもメタルギアミニはマッドナー博士の娘であるカレン・マッドナーの誕生日用に作ったペットロボットだったらしい(なお、作り直したメタルギアミニはカレンには不評だったらしい。曰わく『核搭載型二足歩行戦車のミニチュアロボットなんて貰ってもね……』)。

 

 いや、マッドナー博士のメタルギアはコロコロしてて可愛いやろ。

 

 もう一人は現在、このザンジバーランドの諜報部隊におり、アンブレラと敵対している『H.C.F.』に潜入中である。こっちは最近、アンブレラが関与していると思われるB.O.W.化した男の血液サンプルを送って来た。

 

〔カズみたいなキザなグラサン野郎で、なんかムカつく。あんまり舐めた口を叩くから痛めつけてやった。動きは早いが『スカルズ』ほどじゃない。血液サンプルも取れたからそっちに送る〕

 

……ボコられたのはおそらく皆さんご存知の『アルバート・ウェスカー』であろう。

 

 やはり人型に対してCQCは有効である。

 

 とまぁ、彼の息子……と言っていいのかどうなのかはさておき……二人は元気にやっている。

 

 オセロットは言葉を続けた。

 

「あんたはそうやって未来を否定しない。あるがままに動いて、それだけで人を導いていく。あんたはザ・ボスが託したものを、その『忠』をその背中で見せているんだ。そしてあんたの背中を見た者達が後に続こうとする。もうこの流れは止められない。これは時代が望んだレヴォリューションだ」

 

 オセロットはどうだ、とドヤ顔で言った。なんというかそれは……。

 

「オセロット、お前、最近カズに毒されてないか?」

 

 そう、如何にもカズが言いそうな事だった。

 

 くすくすくす、とパスが笑う。

 

「……心外だ」

 

 まぁ、なんにしてもメタルギアの面々はバイオでハザードな世界線と交わって、こんな感じである。

 

 敵がゼロからアンブレラに変わったが、彼らはこのザンジバーランドを拠点に戦い続ける。

 

「あ、そういえばカリブのマザーベース、なんかヤザン大統領が日本人に売ったってカズが言ってたわよ?」

 

 パスが思い出したように爆弾発言を投下した。

 

「なんだとぉぉぉっ?!」

 

 まぁ、なんだ。

 

 いろいろ交わるとき、物語は大きく動くのだ。そんなもんそんなもん。←をい。

 




 ビッグボス参戦……は直接はしませんが、なんか大統領になってしまいました。しかも賢者の遺産まで手に入れてるし。

 ウェスカー、リキッドにボコられ血液(始祖ウィルス)サンプルを取られる。

 マッドナー博士、娘と共にザンジバーランドに協力中。

 なお、エヴァはだだ甘ママさんになっており子離れが出来ない、という設定。

 パスはこの世界線では爆弾を仕掛けられる前に助けられてます。

 


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外洋航行船『アウターヘヴン』

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

とうとう、コジマ・イズ・ゴッド!でCV画伯なあのキャラとカズが再会。

エヴァもでるよ?(MGS3とMGS4の中間くらいな姿で)。




 フランスの港を出航したザンジバーランド船籍の旅客貨物船『アウターヘヴン号』にセシール・コジマ・カミナンデス教授と彼女が連れて逃げていた元ウルフパックの隊長ルポの息子はいた。

 

 このアウターヘヴン号は元々捕鯨母船として建造途中だったのだが、世界中で反捕鯨の気運が高まり未完成のまま放置されていた船を、鉄屑同然の値段でMSFが購入し、ほとんど船の鉄骨以外の部分をフルオリジナルで建造したスペシャルメイドの船である。

 

 無論、MSFのとんでも技術がふんだんに使われており、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない重装甲に光学迷彩の一種であるオクトカム外装を搭載、武装もあちこちにわからないように収納されており、なんなら格納庫にはヘリやら戦闘車両やら戦闘メカまで搭載されている。

 なのに外見はただの外洋旅客貨物船にしか見えないし、内部もちょっと豪華な旅客船のようにしつらえたゲスト用の区画が設けられており、どんなに優秀な諜報員であったとしても、この船が戦闘用に改造されていると見抜けはしないだろう。

 

 それほどに徹底して偽装されているのである。

 

……なお、この船を造るのにかかった費用は並みの戦艦の約四倍。『賢者の遺産』とサイファーの様々な技術情報が無ければ造船は不可能だったという。

 

 そんな船に匿われたセシール・コジマ・カミナンデスとルポの息子の安全は完全に確保されたと言ってもいいだろう。というか中身MSFな船に手を出せばそれは自殺行為というものだろう。

 

「君からの救難信号を受け取った時には驚いたよ。それもフランスでだ」

 

 セシールに手ずから淹れたコーヒーを出しつつ、金髪オールバックにサングラス、仕立ての良いスーツ姿の男がそういった。

 

 この男こそ、MSFの副司令であり、ザンジバーランド民主主義連合国の外務大臣『マクドネル・ベネディクト・ミラー』こと『カズヒラ・ミラー』である。

 

「ええ、私も一か八かだったけどあなた達があんなにすぐに来てくれるとは思ってなかったわ」

 

 セシールは持っていた上品な白い革のポシェットから携帯無線機を取り出して言った。

 

 なお、無線での救難信号はカリブのマザーベースにいた頃、つまり1975年頃にカズヒラ・ミラーが登録していたものである。

 

『コジマ・イズ・ゴッド!コジマ・イズ・ゴッド!』

 

 無線機には紐がついておりそれを引き抜くだけでそのコードを発信するようになっている。それはセシール専用の救難信号であり、またカズヒラ・ミラーはその信号を何を置いても最優先に救助するように指定していたのである。

 

 それは彼女がカリブ時代のMSFにおいて敬愛すべき『友』かつ『みんなのアイドル』の一人だったからであり、MSFの仲間達の誰もそれを反対などしなかった。むしろ友情の証として賛成したのであった。

 

……まぁ、カズヒラ・ミラーの下心も多少は入っていたのだが。

 

 その救難信号を受信したアウターヘヴン号の諜報員達は速やかに船から陸に上がり、そして信号の発信場所へと急行、アンブレラのエージェント達を囲んでフルボッコにし、セシール達を救助したのである。

 

「まぁ、君は俺達MSFにとって今でもVIPだ。どこへいても助けるさ。とはいえ……行き先が中南米とはまったく奇遇だな。この船の次の行き先はキューバ経由で中南米に向かう」

 

「ヤザン君の所に行くの?」

  

 ヤザン『君』とセシールは現中南米大統領を呼ぶ。彼女の記憶のヤザンはまだ若い傭兵であり、傀儡政権と戦っていた青年の頃のイメージが強い。

 

 コードネームは『ファイヤ・リザード』。それがヤザンの昔の名前だった。

 

「ああ。とはいえ奴とは今も『協力体制』にあるが久々に『昔の友』と会うのも悪くはない。……いや、君には話しておいた方がいいだろう。君が連れていた子供を攫おうとしたのは製薬会社アンブレラのエージェントだ」

 

 カズはサングラスを外し、セシールを見て状況を説明する。

 

「アンブレラが児童誘拐(キッドナップ)をしようとした原因は子供の母親がアンブレラを裏切った事が原因と見られている」

 

 カズは一枚の写真をテーブルに置き、セシールに見せた。

 

「カリーナ・レスプル。元フランス特殊部隊所属。アンブレラの私設傭兵部隊『U.S.S.』に入隊し、ウルフパック隊の隊長としてアメリカの地方都市ラクーンシティで起こったアンブレラ製ウィルス兵器の大量流出によるバイオハザード、通称『ラクーンシティ事件』に投入された。これについては俺達も調査しているが、彼女はこの流出事件の証拠を隠滅する為に活動していた……らしい」

 

 カズはもう数枚、写真を並べた。

 

「……!」

 

 セシールは目を見開き、息を飲んだ。それはラクーンシティに溢れかえる生きた死人の群れや、走る犬の死体、脳みそが露出したようなもはやクリーチャーとしか呼べないような化け物の画像だった。

 

「……アンブレラが流出させたウィルス兵器の犠牲者達だ。このウィルスによりラクーンシティは生ける屍や化け物が溢れかえる死の街と化した。アンブレラは証拠隠滅の為にアメリカ政府や米軍上層部の自分達の傀儡を動かし、核による浄化作戦を決行。まだ生き残っていた一般市民ごと街を焼き払った」

 

「そんな、そんな事が……?」

 

「……投入された傭兵部隊はそのほとんどが壊滅した。生き残った傭兵は『ウルフパック隊』と『U.B.C.S.のD小隊』のみで、そのどちらもアンブレラを離叛し、現在は中南米に逃げ延びた一般の生存者達を守っている。アンブレラがカリーナの子供を誘拐しようとしたのは、人質にとって生存者達を始末させようと画策していたのだろう。なんともゲスなやり方だ」

 

 子供を保護出来た事は俺達にとっても非常に大きい、とカズが言ったと同時に司令室のドアがガチャリと開いた。

 

「あの子、やっと眠ったわ。とても怖かったんでしょうね。落ち着くのに時間が掛かったわ……」

 

 入って来たベージュ色のツナギを着た女性が優しげでいてやや悲しみを含んだ声でそういった。

 

「……小さい子供の扱いは俺達には向かない。あんたが居てくれて助かった、エヴァ」

 

「そうでしょうね。まぁ、あの子達に比べたら素直ないい子だったわ。はぁ、というかなんでディヴもイーライもああ育ったのかしら」

 

「ボスの遺伝子のせいだろ。多分三人とも全力で否定するだろうがな」

 

「え?スネークって子供、いるの?」

 

「あ~、まぁ、双子がいる」

 

「子供って言ってももう成人してるけどね。というかまーったく母親の私になんの頼りも寄越さない永遠に反抗期みたいなのが二人よ、二人!正直、頭来たからこっちから連絡したらどっちもおんなじ事言うのよ!?『任務中だから無線するな』。しかもダンボール箱被ってよ?」

 

 エヴァと呼ばれた女性はどうやらスネーク、つまりビッグボスの子供の母親、つまりビッグボス夫人かもしくは内縁の妻に当たる人物らしい、とセシールは理解した。

 

「へ、へぇ~、スネークって結婚したんだ……。というか子供が二人、って成人してるって事はコスタリカから数えてひいふうみい……」

 

 セシールも昔はスネーク、つまりビッグボスに惹かれていた時代もある。が、性格的にあまり恋愛沙汰にはならず、むしろカズとバカばっかりやっていた為にある意味レースに乗れなかったような部分が大きい。

 

……まぁ、CV小林○うな時点でそんなもんな気がするが。

 

 数えて計算して、コスタリカ時代では年数が足りない。ということはビッグボスが中南米に来る前に出来た子供という事になるわよね。というかスネークが中南米以前にどこで何をしていたのかはよく考えたらきいちゃいねーわ、私。なんぞとセシールは頭ぐるぐる、おめめグリグリ。

 

「え?パスちゃんはどうなったの?どうしたの?あれ?」

 

 混乱するセシール。なんせ彼女はフランスに帰ってからビッグボスやMSFに関してあれからどうなったのか知らないのである。

 

 つーかいつの間にかカリブからMSFはいなくなったし!たまに手紙とかは来てたから活動してるのは知ってたけど!

 

「ああ、私はほら、ちょっと表に顔を出せない稼業な女だし?……特に中華方面はしつこいから未だに根に持っててね……(ボソッ)。まぁ、パスがだいたい概ね第一夫人的な立ち位置?そんな感じかしら。……ゼロがおっちんだからあの子はもう誰からも狙われないし……(ボソッ)。まぁ、子供産んだから偉いのは私だけどね!」

 

 なんか小声で途中ブツクサとなにやら挟まったが、最終的にドヤァとするエヴァ。

 

 どうもその辺、サバサバしているようで何かしらのマウント合戦が裏で繰り広げられている様子である事をセシールは悟った。というか、スネークも大変なんだろなー、と他人事ながら思いつつ。

 

……スネークみたいな性格が三人、かぁ。

 

 頭の中で、生でピラルクとかカエルとかガツガツ食ってる三人のビッグボスを想像して、なんとなく、うへぇ、とした。

 

 実際は息子二人はビッグボスのような悪食では無いのだが、セシールのビッグボスの印象はだいたいそんなもんなので仕方あるまい。

 

「まぁ、安心しろ。この船の食事は普通にまともな料理が出る。というかボスみたいになんでも食おうとするような奴はこの船にはいないからな。まぁ、中南米につくまでこのアウターヘヴン自慢の料理を堪能してくれ」

 

 カズがセシールの表情から何を想像したのか悟って苦笑混じりにそう言った。

 

 

 




よく考えたら、カズの声の人とセシールの声の人って、銀さんとさっちゃんだよなぁ。

なお、アウターヘヴン号なんて原作には出て来ませんよ、と。

平凡さん不在でええんかい、と思いつつ。


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共闘まであと数日~実は白陽社の内情は筒抜けでした

いつも感想と修正ありがとうございます。

久々の平凡さん。

そして、とっくに白陽社の中に潜入しているフォックスハウンド。


 無線で起こされる早朝というのは非常に、なんというか気分的によろしくないものだ。

 

 ナスターシャが無線の子機を取り、俺に渡してきたわけだが、彼女は俺が止める間も無くベッドから出て、すぐに服を着替えると、

 

「あの子(ネメシス)がそろそろ起きるから部屋に戻らなくちゃ。食堂に8時に来てね?」

 

 と言い、ハグして俺の頬にちゅーっとキスをして部屋を出て行った。

 

……うん、ちょっと気分が良くなったぞ。

 

 現在、中南米時刻で朝の6時半である。何事ぞ、と枕元の小型無線を取ると

 

 相手はヤザン大統領だ。

 

 オッサンからのモーニングコールとはなんともはや。とはいえおそらく重要な話だろう。

 

『おはよう、タイラー社長。昨晩そちらから送られた電信を読ませてもらったよ。社員の児童の保護のためキューバに迎えに行きたいとの旨だったが、その児童と児童を連れて逃げていた女性はフランスにて外遊に来ていたザンジバーランド民主主義連合国の外務大臣に保護され、現在その外務大臣の乗る同国の旅客貨物船『アウターヘヴン号』にてこちらに向かっている、との事だ。つまり、迎えに行く必要が無くなった』

 

「……へ?どういうことです?なんでまたそんなややこしそうな事に?」

 

『うむ、アンブレラのエージェントから子供を連れて逃げていた女性、『セシール・コジマ・カミナンデス教授』はザンジバーランド民主主義連合国の『ジョン・シアーズ大統領』や『マクダネル・ベネディクト・ミラー外務大臣』と非常に親しい。それもVIP待遇を受けるくらいに、だ。おそらくセシール教授はちょうどフランスに外遊に来ていたミラー外相に助けを求めたのだろう。で、ミラー外相の次の外遊地が偶然にも我が国だったのだが、ついでに二人を送り届けると先方から連絡があってね』

 

「……ザンジバーランドって、テロ国家指定受けてませんでした?ロシアと中華から」

 

 俺の記憶が確かなら、ザンジバーランドは国連未承認国であり、北はカザフスタン、南はアフガン、東はキルギス、南はカスピ海に広がる紛争地域をまとめたような国家であり、年がら年中、紛争とテロと内戦が巻き起こっているような場所である。領土問題でロシア、中華、トルコ、イランなどとも揉めに揉めており、中央アジアから中東までの火薬庫とすら言われている。

 

「それは一体何年前の話だね?タイラー社長、情報が古い……いや、そうか、君は日本人だったか。ふうむ、ロシアや中華のプロパガンダのせいだな、それは。ザンジバーランドは約2年ほど前から内紛を終結させている。また周辺諸国とも平和裏に交渉しつづけ、連合を組むに至った。その後国連加盟入りを周辺諸国の後押しもあって申請、ザンジバーランド民主主義連合国は数週間前に国連加盟国になった。また、ザンジバーランドに連合国として加わった国は、カザフスタン、キルギス、アフガニスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、パキスタン、そして飛んで南アフリカだ。これらの国々は同盟を結び、一つの連合国家となったわけだ。なお、モンゴル自治区、チベット自治区、ウィグルなども中華を離れてザンジバーランド入りを検討していると言われている」

 

……どんなけやねん。どんなけ領土広がってんのや。つーか、内紛終結させた?諸国諸国と連合?そんな世界的なニュースをやらなかった日本のメディアってなんやねん。中・露がテロ国家との戦いを宣言したとか報道しとったが、それ確か一年前やぞおい。

 

 それはともかく、ザンジバーランドは中央アジアからアラビア湾まで、ずどーーーん!とその国土を持ち、さらには南アフリカ共和国まで手を伸ばしている。

 

 元々、内陸部の国だったのにアラビア湾まで得てしまって、海への進出まで可能になっとるではないか。やべぇだろ、ロシアや中華が欲しくてたまらなかった海へのルートを抑えちまってるじゃねーか。

 

「いや、火薬庫どころか第三次世界大戦フラグまであるじゃないですか、それ?!」

 

「いや?むしろその火はとんと消え失せたように鎮火しているとも。騒いでいるのは中・露のみで、アメリカはおろかインド、トルコ、イランイラク、サウジもアフリカの各国もザンジバーランド建国を歓迎し支持し、世界的に中・露を非難している」

 

「……マジ?」

 

『マジだとも。今日の夜のテレビを見たまえ。ザンジバーランドの初の大統領の就任演説が報道される。歴史的な瞬間だぞ?……まぁ、本当は一昨日の演説だが、我が国ではテープが到着するのが今日になってしまったからなぁ』

 

 まぁ、テープを空輸する時間があるからそれは仕方あるまい。

 

……というわけで、ルポの子供に関しては直接ザンジバーランドの船でこのプラントに送り届けられる事になった。外相の乗る船はVIPの意向でご丁寧にもここへ来るらしい。

 

「……つうか、外相自らこのプラントに来ると?」

 

 俺達の意思とか無視して了承すなやおっさん。

 

『ああ、そうだとも。あと私も妻とそちらに行くよ。会談場所に君の会社の会議室を借りたい。あと、ミラー外相は君とも話をしたいと言っている。『ザンジバーランドでは良い水虫薬が手には入らない!』そうだ。タイラー君、商談のチャンスだぞ?』

 

……ああ、ミラー外相って水虫なんやな。

 

 まぁ、ハチマンも俺の開発した水虫薬を販売中止にしたし、そりゃあ手に入らないわなぁ。

 

「いきなり武装した連中がこのプラントに押し寄せてくるとかそういう展開は無いですよね?」

 

『それは無い。『XOF』じゃあるまいし。彼らは一国の外交使節団だぞ』

 

 俺と大統領は、二、三、いろいろと話をして通話を終えた。

 

 外相に出す料理は、ハンバーガーとボンカレー、飲み物はマウンテンデュー。いや、そんなん出してええんかい?!とか。

 

……流石に他の料理は大統領の所の料理人が持ってくるそうだが。

 

 俺やラクーンシティーからの生存者との対話を望んでいる、とか。

 

……なんか、きな臭い予感がするな、最後のは。

 

 そう思うも、俺はベッドから降りて服を着て、今日の予定を確認し、食堂へと向かった。

 

 おそらくルポも朝食をとりに食堂に来るだろう。彼女に子供の事を説明せねばなるまい。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

【白陽社・グレイフォックス視点】

 

 グレイフォックスは白陽社の食堂にいた。

 

 現在の彼の肩書きはラクーンシティーから逃げ延びた商社に勤めの事務員で『フランク・ハンター』と名乗っているが、彼の正体はMSFの傭兵であり、またアメリカの特殊部隊『フォックスハウンド』の隊員でもある。

 いや、どっちやねん、と思われるかも知れないが、彼はアメリカ軍内部の反アンブレラ派の協力者としてビッグボスからフォックスハウンド部隊の司令『ロイ・キャンベル大佐』の元に預けられた兵士である。

 

 彼はアンブレラの私設傭兵部隊『U.S.S.』の傭兵としてアンブレラが所有するロックフォート島に潜入し、諜報活動を行っていたが、ラクーンシティー事件でU.S.S.が投入され、そのままラクーンシティー事件でのU.S.S.の作戦に参加し、アンブレラの悪事の証拠の数々を入手、そのままゾンビパンデミックのどさくさに部隊を離れて一般人になりすましてラクーンシティーから脱出したのだが……。

 

 何故か、司令本部からの命令で他の生存者達を中南米に送る手伝いをさせられ、そのまま自分もこのプラント、つまり元カリブの旧マザーベースにとどまることになってしまったのであった。

 

 無論、タイラントと化した社長やその息子の動向やこのプラントでの様々な出来事を報告しろとか言われているが、身体はB.O.W.化しているが普通の人間として生活しているとしか言えない。つか、あの息子にしても精神年齢は幼い子供でお友達の女の子と普通に遊んでいる。あと、母親はダダ甘でなんかエヴァを思い出して少しウヘェっとなる。

 

 対T-ウィルス用の薬剤やワクチンなどを生産しているのは重要な情報だが、そんなもんヤザンがとっくにザンジバーランドやアメリカの『アダム・ベンフォード』に伝えている。というかアダム・ベンフォードがスカウトしたエージェントが社長秘書をやっているが、おそらくそちらからもアメリカには情報が行っているだろう。

 

……なぜ俺はずっとここに居なければならないのだろうか?

 

 グレイフォックスは、うーむ、と全く表情を変えぬ仏頂面面でうなりつつ、ボンカレーを朝から食っていた。

 

 このプラントには食堂はあるものの、つい先日まで料理人が居なかった。そしてまだ調理場は稼働しておらず、故にここの食料加工プラントで作られたものしか無く、出てくる物もそのプラントで作られたものや、そのレシピで作られたものしか出て来ない。

 

 とはいえ飯が食えるというのはそれだけで恵まれているとグレイフォックスは思っている。

 

……なにしろ、あの戦場では食うものにも困ったからな。飢えないというだけでもありがたい。

 

「おいおい、また朝からカリーライスかぁ?あんたそれ、好きだねぇ?」

 

 そう言ってきたのは黒人のジム・チャップマンである。ジムはトレイにハンバーガーとポテト、ペプシのゼロカロリーコーラを乗せている。

 

 なお、ここに来てからグレイフォックスは昨日の夕方と今朝のこれでカレー二回目である。

 

「……おまえも朝からハンバーガーじゃないか」

 

 グレイフォックスは伊達眼鏡をクイッとして、そのハンバーガーを見て言った。それはグレイフォックスも知っている『マクダネルバーガー』の初期のレシピのハンバーガーで、ミラー副司令が趣味で世界各国に展開しているハンバーガーのファストフード店のものである。

 

 なお、ハンバーガー用の冷凍のパックセットをジムは厨房で自分で調理したらしい。

 

 初期のマクダネルバーガーのハンバーガーは、まだマトモなレシピなのだが、今のマクダネルバーガーはやたら身体に悪そうな化学調味料や添加物マシマシなものに変わっており、食品安全管理局からレッドカードを出されて社会的な問題になっていた。もう、それは経営の危機にまで発展し、会社の存続の危機とさえなっているらしい。

 

……あのケミカルバーガーじゃなくて良かったな、ジム。

 

 グレイフォックスはそう思いつつ、ジム・チャップマンが向かい側の席に座るのを見ていた。

 

 なぉ、グレイフォックスはあまりミラーのサイドビジネスについては感心は無い。酔狂な、とは思うが個人的な趣味でやっているならどうでもいい。

 

 ただ、自分達を巻き込まなければ。

 

 たとえば、マクダネルバーガーのケミカルバーガーと呼ばれる化学調味料無添加マシマシなものを食わせたり、ミラーが経営するファミリーレストラン『ハンナ・ミラーズ』の、ヒラヒラでレースマシマシな扇情的なミニスカートの制服を女傭兵達や女性スタッフに着せたり、とにかくミラーは自分の副業関連でアホな事をやらかすのだ。普段は普通に副司令として優秀な男なのに。

 

……まぁ、どうでも良いんだが。

 

 グレイフォックスがカレーを食べているのは、単に他の食事に比べて栄養バランスがとれているから、という理由である。

 

 いや、ならレーションの方が良いんじゃないか?と言われるかも知れないが、レーションは飽きるほど食べて来てうんざりしているし、レーションを頼んで自分の経歴がバレる事を避けたい。

 

……グスタヴァの料理が食いたい。いや妹の料理も。

 

 グスタヴァとはグレイフォックスの恋人の名前である。また妹はナオミ・ハンターと言い、血の繋がりは無いが彼が大切に育ててきた最愛の妹で、二人とも料理の腕はよく、グレイフォックスの舌はこの二人によって肥えてしまっていた。

 

「へへへ、ここのハンバーガーは悪く無いぜ?というかマクダネルバーガーよりは各段に上だ」

 

 ジムは嬉しそうにハンバーガーにかぶりつき、

 

「ん~!この溢れる肉汁、最高だね!」

 

 いや、そのハンバーガーは初期の……と、思わず言いそうになったが、グレイフォックスは黙った。

 

 おそらく、マクダネルバーガーは、いやミラーはハンバーガー店の経営の方向性を誤ったのだろう。初志貫徹の精神で地道にやっていればよかっただろうに。

 

 と、そのジムの隣に配管工のデビット・キングがカロリーメイトブロックとカロリーメイトドリンクを持ってやってきた。

 

 それを見て、軍用携行食の一般向けな奴か、とグレイフォックスは顔をしかめた。不味くは無いが、無味乾燥過ぎる。彼、グレイフォックスのボスはそのカロリーメイトを絶賛していたが、食事としてそれは無いだろうと思う。普通に料理の形をしたものがあるのだから、わざわざそんな物を選ばなくても良いだろうに。

 

「おい、デビット、なんだそりゃあ?」

 

 ジムがデビットの持っているカロリーメイトを指さして言った。

 

「カロリーメイト……携行バランス栄養食とかいう物らしい……のチョコ味とドリンクだ。『日本のゲイシャガールやスポーツ選手もダイエットの為に食べてる』とあの女傭兵が言っていたから、どんなものかと思ってな……」

 

 あの女傭兵とは、バーサの事で、バーサはホットサンドとコーヒーのトレイをもっていたりする。

 

……騙されてるぞ、デビット。

 

 グレイフォックスは内心そう思うも、黙々とカレーを食う。辛さも甘味も悪くないが、そろそろ他の物も食べるべきだろう。少し飽きてきた。

 

「日本のゲイシャ?スポーツ選手?つかおまえ、日本好きだよなぁ?」

 

「……ああ。昔に留学していた。アサクサ・トーキョー、日本はとても良い国だった。養父に勧められて行ったがあれは魂のふるさとだ」

 

 しみじみデビットは言う。どうやら彼は日本好きなようだ。

 

「へぇ、行ったことかあんのか。つか留学は大学だろ?大学行ったのに配管工なんてしてんのかよ。変わった奴だな、おまえ」

 

「……養父が死んで、俺は無一文になったからな。俺は……配管工の親方に拾われたのさ。それからはずっとこの仕事さ」

 

 デビット・キングは寂しそうに笑いつつカロリーメイトを齧った。

 

「……不味くは無いが、口の中がパサパサする。ドリンクは……ごくり、このドロリとしたのを除けば味は……不味くは無いがなんか、うーん」

 

「ゲイシャガールもスポーツ選手も大変だな。いや、どこの女も体型維持とか苦労してんのかな?」

 

 ジムは向こうに座っているヨーコ達を見て、

 

「いや、奴らがっつり食ってんなぁ」

 

 女性達のトレイにはミートボウル、つまり牛丼が乗っていた。朝からなんてものを食べてんだよ、と思うが多分ストレスで大食いになっているのかも知れない。グスタヴァがそうだった。

 

……デビッド・キング。いや、この男の本名は『デヴィット・キング』。デイヴィット・オウ、つまりゼロ少佐の孫にあたる男だ。

 

 ゼロ少佐は、娘が敵対していたCIAの高官の手の者に殺された時に、せめて孫は自分のいる世界とは違うところで生きさせようと思ったのか迂遠な方法で軍とも諜報の世界とも全く関係の無い高名な芸術家に彼を引き取らせ、育てさせた。

 

 芸術家としての教育を受け、彼は若干10代で新進気鋭のアーティストとしてデビューしたが、養父の死後、芸術活動を休止している。

 

 デビット・キングは自分がどのような出自なのか知らないだろう。ゼロ少佐は彼との接触をしたがなかったらしい。

 

 だが、蛙の子は蛙と言うべきか。

 

 デビット・キングはあのゾンビパンデミックを戦って生き延びた。優れた判断能力と荒削りだが正確な攻撃手段で。

 

 グレイフォックスは、カレーを食べ終え、ふうっ、と息を吐いた。

 

「デビット、飲み物を取ってきてやろう。コーラか?マウンテンデューか?」

 

「すまん、ブラックコーヒーで。口の中がなんか甘過ぎる」

 

……かつて、ゼロ少佐はコーヒーを泥水みたいな物だと言っていたらしいが、皮肉にもその孫はその泥水が好きなようだ。

 

 グレイフォックスは肩をすくめると、

 

「もらってきてやる。というか日本が好きならボンカレーも悪くないぞ。パッケージには日本の女性……まぁ、妙齢な女性だが……が印刷されてる」

 

 と、言ってコーヒーのディスペンサーへと向かった。

 




・甘々な朝を期待してたら、大統領が邪魔をする。

・「白陽社の中に、フォックスハウンドがおる」
 「スネーク、ヒントを……」「おまえやー!!」

・デビット・キングさん、ゼロ少佐の孫だった(でっち上げ)。なお物語に関係しません。そっとしておく感じですなー。

 


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共闘まであと数日~飯は心の補給だ~

感想と誤字脱字の修正、いつもありがとうございます。

……レトルト食品は美味しいけど、やっぱり手料理とか食べたいよね?

 


 食堂についた。

  

 生存者達、いや我が社の社員達がみんな朝飯を食いにやってきて好きな物を好きなように食べている。

 

 だが、なんというかものすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 なんせ、今 社員のみんなが食べているのは、ここの食品加工プラントでオートメーションで作られた非常時備蓄用の保存食だからだ。

 

 つうか社員食堂って言ったら、こう、もっとまともな定食とか、きつねうどんとかそばとか丼物とか出てくるもんじゃん。いや、それは日本の食堂で、アメリカじゃどんな物が出てくるかわからないけど、だいたいは概ね、何かしらまともなもんがでるもんだろ。

 

……というかアメリカに社員食堂ってあるのか?とか思うが、しかしここは洋上プラントなのだ。飯はここで作って食うしかない。ゆえの社員食堂だ。

 

 なのに、レトルトカレーやら、もしくはレーションとか袋の即席ラーメンやらなんやら。つーか、アルキメンデスとか誰得だよ。つか大塚○品とコ○ミのコラボはここからだよグラ○ィウス!(メタ発言)。げふんげふん。

 

……やはり、飯はちゃんとしたものを出してやりたい。そう思うのだ。

 

 とはいえ、まだ食堂の機材とか揃ってないし、食堂担当の元料理屋のおっちゃんおばちゃん夫婦も来たばかりだし、食材の搬入とかも必要だし、仕方ない。

 

 つーか、今までは俺達の分を作るくらいは出来てたが、さすがにこの人数分だと鍋のデカいのとかが必要だ。

 残念ながらそういう調理の為の機材は撤退するときに傭兵達が持って行ったようで、無くなっていたから、俺達はナスターシャが廃材の鉄板を溶接して作った鍋とかフライパンを使っていたのだが、大きさ的にそれではこの人数は賄えない。

  

 まともに食堂を稼働させねばなるまい。つかまともなもんをせめて出してやらねば、働く活力は湧かないのだ。

 

……少なくとも俺がそうなんだからな!!(結局それかい)。

 

 うーむ、と、そんなことに考えながら食堂のカウンターに向かうと、社員達の目がこっちに向いてくるのを感じる。

 

……無駄にデカいからなぁ、俺。いやB.O.W.だからか。つーかみんなには挨拶はしたけど、やっぱり慣れてくれねーわなぁ。

 

 社員の中には量産型タイラントと遭遇した者もいるのだ。セルゲイのホモ野郎(本人に会ったことはないが、ナスターシャと息子が奴のせいでろくでもない目にあわされたので脳内の殺すリストに入っている)のクローンのアレと一緒にされたくはないが、だが知らぬ者には同じに見えるのだろう。

 

 あと、多分顔がいかつくなってるせいだろう(いや、昔も割と悪人顔だったと言われていたがT-ウィルスによってゴツくなったせいで、北斗の拳や男塾系の顔のように劇画調のゴツい顔になっているのだ)。

 

 うーむ、人畜無害な事をもっとみんなに知ってもらわなければならんなぁ。それに同時に俺もみんなの事を知る必要もある。つまり仲良くなるしかない。

 

 ま、時間をかけていくしかないか。

 

 そう思ってたら、後ろから「ぱぱー!」と、声がした。

 

 振り向かなくてもわかるが、振り向くとそこにはネメシスとナスターシャがいた。

 

「おお、ネメシス。ナスターシャ、時間ピッタリだな」

 

 うむ、愛する息子とあと嫁(本決まり)なナスターシャである。あと、その後ろになんかエイダがいるのは何故だろうか。

 

 自分ではわからないが、怪訝そうな顔をしていたのだろう、ネメシスが、

 

「エイダおねーさん、寝坊してた」

 

 と、言った。エイダの自室はナスターシャ達の部屋の隣である。多分、ナスターシャかネメシスが出る前に声を掛けて起こしたのだろう。

 

 なお、俺の部屋はナスターシャ達の部屋の裏っかわである。ナスターシャ達の部屋と壁のパーテンションを外すか、もしくは扉付きの壁を付け直すかすれば行き来が出来るようになる……って、今、ふと考えたがナスターシャは最初からそれを狙って俺の部屋の裏の部屋を自室にしていたとか?

 

……ナニソレ怖い。いや、もう言っても仕方ない。どうせ部屋を繋げるのはもう、昨晩のピロートークというかベッドの中での家族(予定)会議で決定されてしまったのだ。

 

「あ~う~、なんか疲れが……。筋肉痛ぅ……」

 

 エイダが肩をコリコリ言わせて言うが、それも仕方あるまい。

 

 昨日の業務はそれこそ山盛りのてんこ盛りだったのだ。ミッションに生存者達のワクチン接種に大量の書類仕事に……。

 

 つて、俺もまだ昨日の疲労は取れきっていないが、しかしなんでおんなじくらい、いや、使ったヘリや潜水艦の点検とか力仕事してたナスターシャが疲労の痕跡も無く元気溌剌というか艶々してんのはなんでだ?若さか?まだ二十代前半の若さなのか?!

 

「……エイダおねーさん、大丈夫?」

 

 ネメシスが心配そうにエイダに声をかける。ウチの息子はなんと優しい子に育ったのだろうか。

 

「ああ、エイダおねーさん、毎日の仕事で疲れてるから……」

 

 とはいえエイダが寝坊というのはかなり珍しい。これはやはり、少し休暇を取らせるべきだろうか。

 

「大丈夫よ。ただ、無線でいろいろ話をしてて夜更かししただけだから」

 

……前言撤回。コイツ、ナスターシャが少し前に幹部のみんなに配った携帯無線情報端末『i-DOROID』でレオンと夜なべしてラヴトークをしてやがってただけなのだ。

 

 なお『i-DOROID』とは、ネットワーク型AI搭載の小型情報無線端末と呼ばれる類の、ハイテク軍事組織で使用されているインターネット通信が可能なモデム搭載型コンピューターと、投影型ホログラフィックモニター、そして無線機を組み合わせた次世代コミュニケーションツール……らしい。

 

 らしい というのは、そうナスターシャに聞かされて渡されたは良いが、まだ無線以外の機能とかを使いこなせていないからだ。

 

 とはいえ、ナスターシャに言わせればこの『i-DOROID』はかなり旧式であり、南アフリカなどの民間軍事会社の傭兵からアンブレラの部隊が回収した『i-DOROID』の発展型と思われる機種の解析を依頼されてナスターシャが行ったらしいが、最新型はナスターシャでも構造を全て理解するのにかなりの時間がかかったそうだ。

 

 また、アンブレラの電子機器部門であるマクロソフト社が同様の機材を製作しようと試みたらしいが、初期のi-DOROIDさえも未だに再現出来ていないとの事である。

 

 なお、アンブレラがなんとか真似て作った粗悪コピーは、一部の通信兵や連絡要員などに支給されたそうで、スペクターが腕につけているものもその一種であるらしい。

 

……なんでナスターシャがそんな物を持っていて俺達に配ったのか、と言えば、お察しの通りアンブレラさえもまだコピー出来ないその『初期型i-DOROID』の設計データとパーツがここのプラントにあったのだ。しかも、ここのマザーコンピューターともリンク出来ると来たものだ。

  

 つまり『i-DOROID』は昔にここをマザーベースにしていたMSFの技術者が作ったものであり、さらにもっと言うと南アフリカで事業展開している民間軍事会社の正体はMSFと言うことになる。つうか、ヤベー組織なんじゃねーか?MSFって。今更だけどさ。

 

「社長、今、何か私が不用意な事で使っていたとか思ってませんでした?」

 

「いいや、昔は離れた場所にいる恋人と連絡を取る手段が電話を除けば文通だったが、今は便利な世の中になったなぁ、としみじみ思っただけだ」

 

 俺はもっともらしくそう言ってやった。まぁ、俺なんぞ、年齢=彼女いない歴なのだが、いや、彼女はいなかったが、嫁と子供は出来てしまった。

 

「なぁ?」

 

 と嫁(確定)なナスターシャに話を振ってみる。

 

「そうねぇ、でもその『i-DOROID』は過去の通話ログをマザーコンピューターに保存しているから、その……恥ずかしい話は、しない方が良いわよ?」

 

 エイダの顔が一瞬で青ざめた。どうやら知らなかったらしい。

 

「えっ……?!」

 

「通話ログの消去は、規則通りに申請用紙に相手と時間、その理由を書いて出してね?」

 

 うふふふふ、とナスターシャが言うが、それに関しては我が社の無線による通話の録音時の規定にキチンと記されている。とはいえまさかi-DOROIDの機能に通話を音声と文章に直して保存する、というのが有ったなんて俺も知らなかった。

 

「なお、幹部として登録されている社員は過去ログを自由に閲覧出来るから、今後注意してね?」

 

……不用意な事で使ったとか思ってません?とか言いつつ、エイダはどうやら不用意な会話とかしていたようである。

 

 というか、ナスターシャはおそらくエイダとレオンの会話のログを見ていたのだろう、なんつーか、プークスクス、といった感じで笑っている。

 

……つか、俺とヤザン大統領の会話も閲覧しとったのだろうな。

 

 嫁による監視社会(?)というワードが頭に浮かんだが、むぅ、これはおそらく浮気しないように、っつーことなんだろうなぁ。

 

「ち、違うもん。レオンとはアンブレラとか情勢とか話してたもん。うううっ、でも申請するから消してぇ!」

 

 有能な秘書が『違うもん』である。もん、だぞおい。しかも涙目でようぢぉみたいに。

 

 しかしナスターシャはなんか性格変わってね?と思う感じだが、いいや、これは……。

 

 ああ、社長夫人的なマウント取りだな、と気付く。そして割と無理して演技しとるなー、これ。

 

「ま、それはさておき、だ。飯にしようぜ。つか、いろいろと話したい事もあるから」

 

 俺はそういいつつ俺用の席についた。いや、エイダを庇うつもりは無い。俺とネメシスの腹の虫が綺麗にハモって〔〔ぐぅうううううっ〕〕と鳴ったからだ。

 

 すぐに、ウェイトレスとして食堂にいたシンディがやってきて、メニューを聞いてきた。

 

「何にします?」

 

 メニュー表にはいろいろと書いてあるが、この食堂で現在出る物はレトルトかレーションか冷凍のハンバーガーやホットドッグを解凍したものか、パスタ、あとはカップラーメンくらいのもんである。

 

「あー、みんな、何にする?」

 

 まぁ、このメンツはとっくにここで出る食い物はフルコンプしている。何がマシで何が不味かったのか良く知っている。

 

「エビピラフとスープ」「シチューとパン、あとポテトフライ」「ハンバーガー五つとホットドッグ四つ」「あ、僕モ、パパと一緒デ」

 

 まぁ、そんな感じだ。

 

 レーションを頼む奴は居ない。

 

 いや、不味いか不味くないかの次元ではなく、なんかこう、ビニール臭かったり、土の風味がそこはかとなくしたり、カブトムシの飼育カゴの中の腐葉土のような匂いがするのだ、あれは。

 

……備蓄食として考えるなら、絶対に改良せねばならんと思う。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 さて、飯を食い終わり。

 

 いきなり会議へと突入する羽目になったよ……。

 

 全部、ヤザン大統領のせいであるが、その内容はまた次回。

 

 ナスターシャとミハイル隊長は泣くし、エイダは頭を抱えるし、ザンジバーランドの外務大臣からの通信は来るし、俺は俺で頭抱えたくなるし……。

 

 この混乱の状況は、待て!次回!

 





・話が長くなったので、半分に切りました。

・ナスターシャは束縛系。エイダはツン1デレ5の割合。他は……。ルポは母性系、バーサは変態、フォーアイズはBL系婦女子、アネッタはダウナー系、シンディはサバサバ系。大統領の三女のエメラルダは純情系ようぢぉ風味。

ああ、ブン屋ねーさん?恋愛めんどくさい勢。

次回、カズの無線、カズラジ!(違っ)。エビバデセイ!かーなーうーよーぉぉぉ!!



 


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共闘まであと数日~情報の間にラブトーク~

いつも感想&修正訂正ありがとうございます。

エイダさんレオンとのラブラブな会話を晒され赤面悶絶。

平凡さん、キモイと言われる。

カズヒラ・ミラーから通信(ちらっとね?)


「……つまり、ザンジバーランドのミラー外務大臣はMSFの元副司令と?」

 

 顔を真っ赤にして長机に突っ伏して頭を抱えるようにしているエイダに出来るだけ真面目に俺は言った。

 

 ここは会議室である。

 

 なぜ会議になったのかと言えばエイダからの情報、それもザンジバーランドの外務大臣の正体についての話から、緊急に行う事になったのである。

 

 あと、何故エイダが赤面して突っ伏しているのかと言えば、それは会話ログをプロジェクターで壁に映し出しつつ会議を行っているからで、現在表示されているのは、エイダとレオンの通話ログだからだ。

 

 そう、ラブラブな会話が思い切り他者の目に文章として晒されている状態、つまりエイダは THE晒し者!! という目にあっているのだ。

 

 いや、俺達もそういう事がしたいわけじゃないし出来ればそっとしてやりたかった。

 

 だが、重要な情報のやりとりの合間に甘ったるい会話が挟まるような感じでコイツらはやりとりをしており、さらに重要なところだけ抜き取る時間も無かったのだ。

 

 この会議の意義は、これからの俺達の方針すらも左右するであろう人物、いや組織との邂逅に対しての、その対策を話し合う事のはずなのだが……。

 

……締まらんのよなぁ、これ。

 

 つーか、コイツら情報の交換の合間にラブラブしてんのかラブラブの合間に情報交換してんのかどっちなんだよ、という感じの会話が文字でだーーーっ!と出ているわけで、正直なところ見ているだけでこっちが恥ずかしくなるような、砂糖に蜂蜜ぶっかけて泡立てて舌触りを滑らかにしてまったりとしつつ、大人なビターさもふんわりと醸し出しつつ、しかしやっぱり結局はダダ甘という、恋愛甘党な奴でもなければ胃がもたれそうな感じであり、そんなもんが文字で起こされて晒されれば、そりゃあエイダも赤面して頭抱えて突っ伏したくもなるわなぁ。

 

 いや、これがもう少しラブ控えめな感じなら俺も、

 

〔やーい、恥ずかしいのう、恥ずかしいのう、エイダとレオンはアッチッチー!〕

 

 などとはやし立てて弄る事も出きるのだろうが、ここまでだと、あまりに可哀想過ぎて流石の俺も弄れない。

 つーか、居たたまれなさすぎて真面目に会議を進行するしかないのだ。

 

「……そうよ!というかザンジバーランドはMSFが建国したと言ってもいい国よ!」

 

 顔を赤くしつつ、ヤケクソ気味に言うエイダだが、まぁ、そりゃあ恥ずかしいわなぁ。

 

……まぁ、エイダの名誉の為に、ここには記さないでおくが、レオンのキザでやたら女ったらしな言い回しと、エイダの夢見る乙女的な会話がなんともはや。

 

 どこぞの恋愛ロマンス小説ですかこれは?もしくは宝塚系な歌劇ですか?

 

 文字をスクロールして現在進行形で重要な情報部分を抜き出して、なんとかしようとナスターシャがしてやっているが、やはり、なんとも微妙な表情をしている。

 エイダを からかうように会話ログの保存について言っていたナスターシャだが、まさかここまで甘々な会話をしていたとは思っていなかったのだろうなぁ。

 

 また、アネットも、ものすごい痛々しいものを見るかのような目でエイダを見ており、その目は非常に同情的で生暖かい感じである。

 元々アネットはエイダを嫌っていたが、いや、いくら嫌いな奴でもこんな晒し方されてたらそりゃあ同情的になるだろう。

 

「……えと、ごめんね?」

 

 ナスターシャが文字列を送るたびに申し訳無さそうな顔をし、アネットが、

 

「情熱的な恋愛なのね、そう、私は素敵な恋だと思うわよ?ね?ね?」

 

 と誰に同意を求めているのか……いや、俺の方を見ながら言うな……そう言いつつ、ものっそい居心地悪そうにエイダをフォローしようとする。

 

「くっ……!」

 

 ああ、エイダがなんか涙目になってオークの軍勢に負けた女騎士みたいに、くっころな表情を浮かべてるぞ。

 つうか、会議に不要な会話を省いてから会議を開ければ良かったが、それをする時間が無かった。

 

……おそるべしi-DOROIDの会話保存機能。破壊力抜群だ。 

 

 エイダがあまりにも不憫過ぎる。つか会議にならんぞ、おい。

 

 とはいえ話を進めねば俺達のこれからの行動も決まらないし、予定していた社員達のオリエンテーションも行えないのだ。というかオリエンテーションを二時間遅らせての会議、ゆえにとっとと進めたい所だが……。

 

 結局、会議が終わるまで三時間もの時間を要したのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うううっ、どうせ私は色ボケ女なのよぅ……しくしくしく」

 

 あー、これはいかん、エイダが泣いてしまった。

 

 つーか、そこのナスとアネット!その、俺が悪いって感じの目を俺に向けるのをやめなさい。

 

 つーか会話ログを確認しようとか言ったのおまえやろ、ナス太郎!

 

「いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにー言ってやろー♪」

 

「いや、やめろ、小学生の頃のトラウマが蘇るからっ!!つか、なんでおまえ、日本のそういう いぢめ的な事を知ってやがるんだ?!」

 

 違うんや、違うんやぁ、俺、○○ちゃんをちょっと驚かそうと後ろから、そう、ワァッ!とやっただけなんや……。まさかお漏らしして泣いてしまうて思とらんかったんやぁ!!

 

 ああ、いらんことして女の子を辱めて泣かせてしまったあの小学3年の苦い夏。

 結局、あの子は小学校を卒業するまで俺と話もしようとしてくれず、結局は中学校も別の所に行ってしまったのだ……。

 

 って、幼少の頃のトラウマをフラッシュバックしとる場合ではない。というか、んな昔の苦い体験なんてどうでも良いのだ。今はとりあえずエイダをフォローせねばならんのだ。

 

「エイダ、おじさんの話をよーく聞きたまえ。いいかい、人を愛する事は悪いことじゃあないんだ。そりゃあ人に知られれば恥ずかしい事もある。だが、それは相手を大切に想って、その想いが溢れてくるからなんだと、おじさん思うんだよ……」

 

「……社長」

 

 エイダが顔をあげた。

 

「うむ。エイダ、君はレオン君を大事に思っているんだね。それがとても今回よく分かったよ。君達は素晴らしい!」

 

 俺は脳内のライブラリーにあるボキャブラリーを駆使しつつ、羞恥から落ち込んでいるエイダを必死に宥めつつ、そして力付けようとした。

 

 しかし……。

 

「……キモッ(ボソッ)」

 

 なんということだろう。よりによってコイツ、俺の心をエグりに来やがった!!

 

 ぐふぅっ!!

 

「き、キモイとはなんだキモイとは!つーかいくら俺でもそれは傷つくぞ!?」

 

「いえ、なんていうか、その世紀末覇王みたいな顔で目をウルウルさせてそんな事を言われても……。あと、自分をおじさんとか言うのも、ねぇ?」

 

「誰がラオウじゃ。つか俺の顔がこうなったのは俺のせいじゃねぇ、アンブレラのせいだ。……つうか俺の優しさを返せ」

 

 逆に俺が涙目じゃ。

 

「よーしよしよーし、アナタはキモくないわよー?むしろイカツい方が私、好きよぉ?」

 

 ナス太郎はそう言って慰めてくれたが、いや、やっぱりお前もイカツい思とんのかい。いや、自分でも思うけどな?

 

 とはいえエイダはとっくに立ち直っていたらしい。つーか、俺だけはせっかくエイダを弄ってやらんようにと、真面目に会議を進行していたというのにこの仕打ちである。

 

 まぁ、いつもの事なのだが。

 

 そんなグダグダがありつつも、分かった事は結構多く、世界の反アンブレラ勢力について、ざっくりとだが俺達は知ることが出来たのである。

  

 というか、概ねまともな反アンブレラ勢力にはMSFが絡んでいる事がわかった、いや、反アンブレラを掲げる組織として、MSFが最初に活動を始めたというべきだろうか。

 

 例えば、アメリカ。

 

 アメリカ軍部にはMSF、いや『ジョン・ジャック・シアーズ』つまり『ビッグボス』のシンパは多い。

 

 『ビッグボス』はアメリカの語られぬ歴史の裏側、兵士達にのみ伝わっている伝説のその象徴だ。

 

 これは、エイダからもたらされた情報だけではない。俺はいつも寝る前に何かしらの本を読んで眠気が来るのを待つのだが、ここで読むものと言えば、ここにかつていた傭兵達が残した書物か、手記か、日記くらいしかない。

 

 このひと月ちょっとで、数多くの手記を読んだが、それらにある『ビッグボス』の情報や人物像を脳内で形にする。

 

 無論、傭兵達の書くそれには噂レベルのものや憶測なども含まれるだろうが、それでも、傭兵達はビッグボスを賞賛し尊敬し、最大の敬意をもって文章にて表現していた。

 

 曰わく、米ソ冷戦時代、三度の核戦争危機から世界を救った英雄。

 

 曰わく、ニカラグアを独裁政権から解放した英雄。チェ・ゲバラの再来。

 

 曰わく、カリブの傭兵王。

 

 曰わく、世界の特殊部隊の近代祖にして近接格闘術CQCを極めし者。

 

 曰わく、勝利のボス(VIC. BOSS)。

 

 そして伝説の英雄にして伝説の傭兵は、文字通り一国一城の主となった。国家を樹立し、独立し、国連承認国、つまり諸外国にその存在を認めさせ、その上で大統領となった。

 

 それほどの男が、反アンブレラ組織を指揮しているのだ。

 

 アメリカの経済の裏側に手を伸ばすアンブレラ。いいや、世界の裏側にまで手をつけているアンブレラ。

 

 対するはアメリカの兵士達だけでなく、世界の兵士達、傭兵達のカリスマ的英雄とその強大な軍勢。

 

……俺達は否応無しにそれに巻き込まれる事になる。

 

 レオンがペラペラとエイダに情報を簡単に話しているのは、レオンの上司である『アダム・ベンフォード』がそう仕向けているのだ。

 

 この『アダム・ベンフォード』とビッグボスとの関係はわからない。

 

 だが、特殊部隊『SPEC.OPS』を創設する際にやはりビッグボスの弟子にあたる人物を指導教官として起用したり、また、わざわざレオンに訓練をつけている人物はそのビッグボスの弟子の中でも最も実力をもっている『キャプテン・エイハブ』と呼ばれている人物だと言うことだ。

 

 つまり、少なくともアダム・ベンフォードはMSFと深い関係があると思って良いだろう。

 

 そんな人物が、何のために俺達に情報を流すのだろうか。

 

 それには、いくつかの理由と思惑があるのだろう。

 

 一つは俺の頭の回転具合を見ている、とも考えられるだろう。

 

 それによれば、アダム・ベンフォードは俺に恩に着て欲しいらしい。

 いや、それはおそらく、『ミラー外務大臣』がそう思っているのか?

 

 どちらが、にせよ『こんな恵まれた場所を紹介してやった事に対して、感謝しろよ』的な感じか?

 

……まぁ、これは俺の考えすぎかも知れないが、何らかの取引、もしくは協力を求めてくるのは間違いない。俺達を取り込もうとしている、とも考えたが、それなら最初からレオンにしたように声をかけて来るだろう。だからそれは無いと思って良いだろう。

 

 どちらにせよ、MSF、いや反アンブレラ勢力は俺達を優遇しているのは間違いない。

 

 それがウィルスに対抗する薬品を評価してか、それともタイラント……B.O.W.になった俺の戦闘能力を評価してか、何なのかは今は情報が少なすぎるのでわからないが、何にせよ向こうからアプローチがあったわけだ。

 

 と、会議室の無線機がけたたましく呼び出し音を鳴らした。

 

 エイダが、それを取り、スピーカーに音声を出すようにスイッチを入れた。

 

『突然の無線連絡、申し訳無い。私はザンジバーランド民主主義連合国、外務省の『カズヒラ・ミラー』と申します。こちら、製薬会社『白陽社』の無線番号で合ってますでしょうか?』

 

 おいおい、対策を講じようとしていた相手本人から連絡が来ちまったよ。

 

 どうやら社員オリエンテーションはもう少し開始が遅れる事になるようだった。

 

 

 




……酒飲んで書くと、なんかノリがこうなる。仕方ねーなぁ。

・エイダさんはピュア。

・アダム・ベンフォードさん、名前だけ登場。

・うーむ、もう少し平凡さんとナス太郎とネメシスの家族水入らずな描写を入れるつもりだったのになぁ。



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共闘まであと数日~ミラー外相とエヴァ大統領夫人

いつも感想と誤字脱字訂正ありがとうございます。

今回はシラフですが、なんだかなー。

ミラーと大統領第二夫人のエヴァが出てくるよ?

……なかなか、シーナ島事件に行けないなー。


『突然の無線連絡すみません。私はザンジバーランド民主主義連合国、外務省の『カズヒラ・ミラー』と申します。こちら、製薬会社『白陽社』の無線番号で合ってますでしょうか?』

 

 突然無線来たよおい。しかもなんか営業臭い丁寧な口調である。つーか、MSFの副司令って話なのになんでこんな腰の低い感じなんだ?

 

……ビジネスマン的な姿勢で来たか。やりにくいぞ、こりゃあ。

 

 しかも普通の会社の営業時間を見計らって連絡を入れてくる辺り、早朝だろうが深夜だろうが何時にでも無線を入れてくるヤザン大統領とは違う。

 

「はい、こちら白陽社の受付、担当はエイダ・ウォンでございます」

 

 さっきまで羞恥で顔を真っ赤にして泣いていた癖に、もう受付嬢ライクで機械的な応答である。相手がビジネスマン的な姿勢で来るならこっちもキチンとした企業的な対応をする。

 

 流石エイダさんやでぇ、キチンとその辺抜かりない対応やぁ。

 

……まぁ、ナスターシャやアネットは無線にも出ようとしないので結局はエイダか俺が出ることになるんだが、まぁ、俺はビジネス英語がまだ不得意だからなぁ。

 

「ミラー様、お話はヤザン大統領からお聞きしております。只今、社長にお繋ぎしますので少々お待ち下さい」

 

 さらさらと立て板に水とばかりにそう言うとエイダは俺に無線の子機を渡してきた。

 

「……無線代わりました。私が白陽社代表取締役のヒトシ・タイラです」

 

『おお、あなたが平社長ですか。始めまして私はザンジバーランド外務大臣のカズヒラ・ミラーと申します。明後日のヤザン大統領との会合でお世話になりますが、よろしくお願いします』

 

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 アレっ?なんか普通にビジネス的な挨拶だな。いや  

この人、傭兵の親玉の一人ってか副司令だろ?なんでこんなに普通な感じなんだ??

 

『さて。まず単刀直入に。そちらの社員さんのお子さんをウチの船で保護しております。偶然、こちらの次の外遊先が中南米でしたので、ついでと言ってはなんですが、明後日到着しましたら親御さんの元にお連れいたしますので受け入れよろしくです』

 

 ふむ?予想外にすんなりと言うものだな、と俺は思った。こういう場合、子供を助けた事を恩に着せて何かしらの交渉材料にしようとするのではないか、と思っていたからだ。

 

 故にそれもふまえて先ほどまで対策会議をやっていたわけだが、それは杞憂というものだった。ミラー外相にそのつもりは無いようで、ただ、

 

『ええっと、あと、その、ヤザン大統領からお聞きになったかと思いますが、私、ちょっと酷い水虫にかかっちゃってですね、いえ、再発というのか、一度十数年前に、平社長がハチマン製薬時代に開発した『シンキンナオールSクール』というので治ったんですが、今は販売中止になってしまったというわけで手に入らなくなってて、非常に困ってるんですよ。で、ヤザン大統領が、それなら平社長に頼んで薬を分けてもらうといい、と』

 

 と言った。

 

 子供の救出と保護の見返りとして求める物が水虫薬、というのはいささか……いや、水虫も端から見ればどうという事のない疾患だが、本人からすれば大変な病になりうる。

 

 それに、有効な薬が無く、完治も難しい事は治療薬を開発した俺が一番理解している。その苦しみもだ。

 

 水虫で一番厄介なのは、痒みや皮膚症状だけではない。まず、人にうつしてしまうこともさることながら、人の目だ。水虫だとわかった時点でまず、人に退かれてしまう。そして公衆浴場やプールなど立ち入り禁止にされてしまうこともあり、非常に肩身の狭い思いを実社会で受けてしまう事も少なくないのだ。

 

 そして、それは家庭でも顕著にあらわれる。奥さんや子供に、水虫の旦那がどんな扱いをされるか、わかるだろうか。一家の長として尊ばれるべき世のお父さん達が、水虫なだけで迫害されるのだ。

 

 ハチマン製薬の試薬実験の時に水虫薬の治療を目的に集まった男性達の大半が、そんな中年男性達だった。

 

 ミラー外相は俺に水虫の悩みを訴えて来た。

 

『ベース内の女性の部下達……オペレーターさんとかの俺を見る目が冷たくなりました。暑いから編上靴脱いでたら、水虫だから靴を脱ぐな、臭い!!と……』

 

 とか、

 

『娘が、私の靴下と一緒に洗濯しないで!水虫がうつるから嫌だ!あとくさいから!!と……。』

 

 とか、

 

『妻が、靴下は家の外で脱げ!皮がポロポロこぼれて家の中に落ちるでしよ!素足で歩くな!私達にもうつるでしょ!!と……』

 

 グズッ、グズッ、と鼻を啜る音が聞こえて来た。ああ、これは本物だ。彼は水虫患者達が辿ってきた全ての苦難を受けてきた男なのだ。

 

……どうやらミラー外相は水虫感染者だという話は本当だったようだな。

 

 アンブレラの子会社化した現在のハチマン製薬は、アンブレラというかスペンサーの言いなりになり、俺の開発した薬品の大半を無期限製造中止にしてしまった。

 シンキナオール(sinqinaole)。俺が熱帯に分布する多年草から発見した抗真菌成分だ。

 奴らは何故かそれを忌み嫌い、それを発見した俺の開発した全てを否定したの。シンキナオールを含む含まないを限らず、だ。

 

 だが、それを待っている人がいるのだ。真菌感染で悩み苦しんでいる人が。そう、俺の薬を求めている人がいるのだ。

 

……部下の子供を救ってくれた彼に対して俺は全力でその水虫を治療、完治させてやろうではないか。それが彼への恩返しになるのなら全力で。

 

 俺はミラー外相に言った。

 

「もちろん喜んでご用意いたしますとも!ですが、一度ウチで診察を受けてみませんか?水虫の症状には幾つかタイプがあり、それぞれに合ったタイプの抗真菌薬品を使って治療しないといけません。あなたにあった薬を選んで処方させていただきますよ!」

 

『ええ、是非お願いしたい!ですが、他にも治療薬があると?』

 

 ふふふふふ、無論だ。こちとら水虫治療の世界的権威(本当に世界的に評価されている)だぞ。水虫のタイプ別のバリエーションは豊富にあるぞ。

 

……今は、サンプルしかないが、一人治療するぐらいなら充分以上にある!!

 

「主軸の成分は同じですが、例えばシンキンナオールSはクリーム状のチューブタイプですが、深く食い込んだ真菌に対しての浸透力に欠けるゆえに治療期間はそれなりにかかりますし、爪白癬……爪に感染した水虫……にも弱い。しかしまだ水虫が浅い皮膚に広がっている感染1度のうちは一番これが使いやすい。しかし、感染2度、つまり深いところまで食い込んできたものには浸透性リキッドタイプが有効です。ですが、この2つのタイプでは足の指の又の部分のじゅくじゅくした外傷を伴う水虫には向かない。なので指又パッチタイプ……つまり抗真菌薬封入の絆創膏のような物を使います。また、塗り薬では歩いているうちにとれやすく、歩く事の多い方にその辺が不評でした。故に足の裏に貼り付ける足裏パッチタイプもこのたび完成しました。あと、爪白癬……つまり、爪に水虫が巣くってボロボロになる水虫……用に保護ネイルタイプ、治療補助として『家族で殺菌!風呂用入浴剤』、『家族にうつさない!衣服洗濯用殺菌洗剤』があります。全ては水虫を完治したい人の為、日夜研究開発した結果です!」

 

『なんと!なんという情熱!!まさに痒いところに手が届くラインナップ!!』

 

「ええ。様々な患者の症状やニーズに合わせて治療のスタイルも変わります。そして、声を大にして言いたい。シンキナオールでシンキンナオール!水虫なおーる!!」

 

『おおおおおおっ、素晴らしい!平社長、あなたはなんて素晴らしい人なんだ!!平社長、私の他にも水虫の患者はいるのです、是非彼らの分もお願いします!』

 

 熱弁を振るった俺だったが、しかし他にも患者が、いると聞いてすぐに素に戻ってしまった。

 

「……え、他にもいるんですか?」

 

 いや、ここにあるのはサンプル程度の数しかねーぞおい。

 

『正確な数はわかりません。と、いうのも私や仲間達に水虫をうつした野郎がボス、つまり我らが大統領だったりするのですが、彼が広めたものは例外なく 何でも大流行するのです。サバイバル技術しかり、近接格闘術しかり、戦術、潜入技術、大抵のものは他にも伝播しそしてその思想をも広めてしまう。だが、彼が広めるべきじゃないものも幾つかあった!その一つがゲテモノ食いとしか言えない悪食!そしてもう一つが水虫!確かに我々は彼を上司として仲間として尊敬し敬愛し、信じて今まで着いて来たが、だがその足跡に憎っくきアンチクショウ、水虫が潜んでいたなんて思っても見なかった!!あんまりだぁぁあっ!!』

 

……あんたんとこの大統領が水虫の感染源なんかーい。

 

 俺は絶句した。つーかあんたんとこのボスって、伝説の英雄とか伝説の傭兵とか言われてる人だよね?つーか、傭兵や軍人なら知らない人はいないっていう『ビッグボス』だよね?それが水虫?マジかよおい。つーか一般人だった俺はつい最近までその存在すら知らんかったけど!

 

『……つまり、水虫は大流行しているのですよ、ザンジバーランドだけでなく、セーシェル、南アフリカ、アフガン、ボスが行った国々、戦場、その仲間達に。是非とも平社長と白陽社の皆様には、再びシンキンナオールの提供をお願いしたい。もちろん、代金はお支払いいたします!マジで伏してお願い奉りますぅぅっ!!』

 

「つーか大発生しとるじゃねーか、んなもん生産工場早よ作って大量生産せんと対応できねーーーっ!!」

 

 ミラー外相の叫びに俺が返した直後に、こちらのスピーカーに

 

 ぱしゅっ!ぱしゅっ!

 

 と、何かサイレンサーをつけた銃の発射音みたいな音が聞こえ、そして

 

『うっ!!……エヴァ、なにを……グーッ、グーッ、すぴーっ……』

 

 と、まるで麻酔弾を受けたようにミラー外相の寝息が……って、受けたように、ではなく撃たれたんだろうなぁ、麻酔弾。

 

『どうもすみません、お聞き苦しいものをお聞かせしまして。無線代わりました、私、エヴァ・シアーズと申します。ジョン・ジャック・シアーズの第二夫人で御座います。平社長、以後よろしくお願いします』

 

……いや、さっきミラー外相があんたの名前を言ってたけど、あんた麻酔銃使ってミラー外相を撃っただろ。

 

 そう思ったが、なんというかヤザン大統領の奥さんのミランダ司令にものすごーく似たような何か、いや、むしろこっちの方がおそらくは上!という圧力を感じて俺は、いらんことは言わない方が良いだろうと判断した。

 

「は、はい。ザンジバーランドのシアーズ大統領の……奥様、ですか……」

 

『ええ。そうなりますわ。まぁ……第二夫人ですけど。二番目ですけど』

 

……これは二番目だとアピールしているのではなく、おそらくは不本意ながら、と言いたいのだろうなぁ。というかザンジバーランドは一夫多妻制なのかぁ。

 

 大変やな、ビッグボス。第三、第四とかいるかどうかは知らんけど、二人も奥さんおるのかぁ。

 

 俺なんて一人(確定)やけど、精神的に大変なのに。

 

 ちらりとナス太郎の方を見るが、なんかニッコリしつつその目は『何よ、文句あんの?』的な感じに見えた。いや、それは俺の被害妄想だろう。ナス太郎はそんな奴じゃない、多分。

 

「……ところでミラー外相は?」

 

 恐る恐る聞いてみる。確かに騒がしい人ではあったが、悪い人では無い……と、思う。少なくとも水虫の辛さを知る仲間だ。心配にならないわけはない。

 

『寝てます。それはもう漢寝りに寝てますわ。なので、とりあえず私が』

 

 しれっ、と言うエヴァ夫人。というか多分、おそらく彼女はミラー外相が暴走したので出てきたのだろう。

 漢泣きに泣く、ならよく聞くが、なにその漢寝りに寝るって表現は。というか、寝ているというよりも麻酔弾で強制的に黙らせた、が正解だろう。

 

『……ウチの亭主が水虫、というのは対外的にあまり広めていただきたく無いのですが、医学者であるタイラー社長は無論、個人情報は漏らさない、そうですわね?』

 

……なるほど、それでミラー外相をやっちまったのかぁ、って、怖いわこの人マジで!!

 

「ええ、守秘義務はきちんと守りますとも。もちろん外部に漏らすわけ無いじゃないですか、ははははは……」

 

 怖い。だが、俺も社長なのだ、部下もここにいるのだ、負けてらんない!!えーと、えーと、そうだ!

 

「とはいえ患者の存在を知ったわけですので、よろしければシアーズ大統領にもウチの薬を提供したいと思っておりますが……?」

 

 そう、これだ!大統領も水虫なのだ。治療を持ちかければ、なんとか……。まぁ、数人分なら今から作っても間に合うだろうしな、うん。

 

『……そうね、でも幾つか余分にいただきたいわね。息子二人に送る分も考えると5人分、いえ、6人分かしら?あと、特に入浴剤と洗濯洗剤。……あと、カーペットとかにも使えるような製品はないのですか?』

 

 あー、息子さん達にもうつったのか。それはいかん。……そう、俺も親父に水虫をうつされてからというもの、灰色の青春を送った経験がある。それは可哀想だ。……年齢はわからんけど。

 

「御子息にも?それはいけない。用意させていただきますとも!それに、たしかに予防の側面では家の中からの除菌も必要ですね。そちらの方はカビクリーンシリーズのカーペットクリーナー除菌タイプをお使い下さい。無論、そちらもご用意いたしますとも!」

 

 ミラー外相の話からすれば、シアーズ大統領と一緒に暮らしている奥様達もおそらくは水虫に直接、もしくは間接的に悩まされているだろう。つか、息子が二人で後の余分なものは奥様二人用と念のためのストックの為か。

 

 だが、言えない。デリカシーというものがこの俺にもあったとは自分でもびっくりだ。

 

 だが、用意すると言った途端に なんとなく圧力が減った気がする。というか第二夫人の機嫌は良くなったようだ!

 

 だが、次の瞬間、

 

『で、平社長。ミラーが言うのを忘れている事柄がまだ幾つかありましてね?ウチの厚生省直轄の国立防疫局局長の『クラーク博士』が、そちらで開発した、別の薬剤のサンプルを是非とも提供していただきたい、と言っておりましてね』

 

 第二夫人はそう切り出した。ミラー外相がおそらくは言い出すはずだと思っていた、本題である。いきなり過ぎるだろおい。

 

 というかそう言うと思ってみんなで対策会議をしていたというのに、ミラー外相のせいで忘れかけてたじゃないか。

 

 しかし対策会議通りに対応しよう。いや、備えあって良かったよ、うん。

 

「ほう?別の薬剤……。ウィルスに関するアレですか」

 

『そう、そのアレよ。ぶっちゃけ よその国にはサンプル送ってるのに、ウチには来なかったから!パラメディックがめちゃくちゃ怒ってたのよ?』

 

 そういや、未承認国家には送ってなかったわ。つかザンジバーランドなんてこの前知ったばかりだったし、未承認国家にはやたらアンブレラの勢力が絡んでいることが多かったので除外していたのだ。

 

「……いや、こちらの落ち度でした、すみません」

 

 ここは素直に謝っておく。

 

『まぁ、物が物だけに慎重になってたのはわかるけど。……とはいえ我が国には喉から手が出るほど必要な薬剤でもあるのよ。理由は明後日、直接お会いした時に説明しますけど、本国に送って下さいな』

 

 喉から手が出るほど、というのはどういう訳なのだろうか。しかし声にやや焦りのような色も見えている。とはいえ渡せではなく送れ、である。

 

 まだミラー外相や第二夫人がまだ他の国を回らねばならないか、それとも別の理由があるのか。それはわからないがおそらく早く送るに越したことはないだろう。

 

 そう判断した俺は、

 

「……わかりました。出来るだけ速くに送らせていただきます」

 

 と伝えた。

 

『はい、よろしくお願いしますわ。送るときは『D.D.エクスプレス社』がマストですわよ?呼べばどこにでも荷物を取りに来ますからね?』

 

……いや、なんで、宅急便会社を指定すんの?

 

 まぁ、ダイヤモンド・ドッグス・エクスプレスは世界的な宅急便の会社であり、世界各国のどこにでも荷物を早く発送する事で有名である。

 

 もしかしたら他の国際輸送のルートがまだ確立していないのかもしれない。他の会社が参入出来ていないとか、そういう事もある……とか?

 

 だが、問題がある。

 

 いくらD.D.エクスプレス社が、電話一本でどこにでも荷物を取りに来て、早く送ってくれるというサービスを行っているとはいえ、そう……

 

「いえ、さすがにD.D.エクスプレスでも海上の施設までは取りに来てくれないかと……」

 

 これである。

 日本でも事業展開している会社で、『電話一本で御自宅に荷物を取りにいきます!』と宣伝しているが、まさかここまでは取りに来れまい。海上施設なのだ、このプラントは。

 

 だが、第二夫人は、

 

『いいえ、取りに行かせます。えっと、今から言う番号を控えておいて?ヘリポートはあるのよね?『↑↑↓↓←→←→BA(実際には番号です)』で、ヘリコプター便が来るわ。ヘリの識別番号が、ええっと『D.D.5EM0-N』ね。すぐに来るわ。覚えといて損は無いわよ?あと、宅急便だけでなく、物資の補給サービスもやってるわ。特別な契約したら、武器、弾薬、フルトン回収、あと支援攻撃要請、人員の輸送から派遣サービスまであるわよ?』

 

 と、なんか物騒な事までしれっと言い放った。

 

……つかちょっとマテ。支援攻撃てなによ?

 

「そんな便利なサービスが!?……って、なんかものすげぇ物騒なものが含まれてません?つか、それってまさか……」

 

『うふふっ、まぁ、宅急便だけじゃなくてその辺も考えておいて下さいな。加盟契約、待ってるわよ?』

 

……つまり、D.D.エクスプレス社は、MSFがやっている、と?というか第二夫人は『取りに行かせます』とかいったよな?つーことはもうそれは確定的だ。

 

 そんな物騒な傭兵連中か宅急便屋をやってんのかよぉぉぉっ?!つか何度か俺も仕事で日本にいたときに使った事あるけど、宅配のにーちゃん、あれ傭兵だったんかぁ、マジかぁ?!

 

 恐るべしMSF。いや、ザンジバーランドというべきか。

 

 MSFは、いやザンジバーランドがどれだけ世界中に食い込んでそのネットワークを構築しているのかを思い知った気がした。

 

 その後、エヴァ夫人といろいろと当たり障りの無い会話……いや、いろいろ物騒な話も含んでいたが……を交わしたあと、ルポを呼んで彼女の子供と そしてセシール教授と無線で話をさせた後、通話は終えた訳だが……。

 

「……つーか、大統領第二夫人、怖ぇ、MSF怖ぇよぉ!!」

 

 俺はそう叫んでいた。

 

 なお、エヴァ夫人にはどさくさ紛れに、保湿クリームとか高分子化コラーゲン配合の美容石鹸とか、いろいろ美容用品のサンプルを贈らされる約束をさせられたが、その辺も怖かった。いろんな意味で。

 




・ミラーと平凡さんは、多分、めちゃくちゃ仲良くなると思うんだ……。

・エヴァはエイダに自分が若かった頃の姿を投影しつつ、なんらかのアドバイスとかしそうな気がします。

・そして、明かされる平凡さんのもう一人の子供の情報!!平凡さん、シーナ島に向かう決意を固める!!という流れですが予定は未定です。ええ。誰がママかな?(適当)。


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共闘まであと数日~髪の毛と音声ログ。

いつも感想と誤字脱字修正ありがとうございます。

髪は女の命というが、男だって悩むんだもん。

今回の後半は、MGS恒例(?)の録音テープ風のアレを想像しながら読んでいただければ……(汗)


 ルポの目の下には隈が出来ていた。息子の事が心配でおそらくは夜も眠れていなかったのだろう。

 

 しかし、息子の身の安全がわかり、無線で通話をしたことでかなり安心したようだった。

 

 母親の顔のルポは通話終了と共に、安堵の息を吐いた。いかに強く逞しい傭兵と言えど、子の母親の顔は皆同じなのだな、と思う俺であった。

 

「……とりあえず、ルポ、息子さんの無事もわかったし、とりあえずはミラー外相にお任せしておけば大丈夫だろうと思う」

 

 なんせ、伝説の傭兵達の乗る船だからな。……ウチで使っている潜水艦を作ったような連中だ、ただの船じゃないだろうし。

 

「……社長、私の息子の件で、何か不利益を被るような事があったのでは?」

  

 心配そうにルポは言うが、だかよくよく考えれば不利益は無い。

 

「商品のサンプルを提供する事にはなったが、まぁ、大統領夫人に気に入ってもらえればザンジバーランドでの商売に繋がるからな。ほれ、風呂場にあったろ?シャンプーとコンディショナー。あれのサンプルとか、美容関連の最終試作品のサンプルとか。ほら、ナスターシャとかエイダの髪、艶々だろ?というか君の髪も傷んでたのが だいぶ治ってるぞ?」

 

 ルポが「そういえば!」と自分の髪の毛を触る。

 

「ふっ……。エヴァ夫人は絶対に気に入るはずだ。俺はそう確信している。世界初の髪の毛を修復する天然由来のプロテイン成分とコーティング成分を配合。キューティクルまで整え、紫外線からも守ってくれる。さらに頭皮もケアしてくれる!!無論、この前、特許通った!!」

 

 くくくくく、と俺は笑いつつ、なんか我ながら悪役みたいな笑い方だなと思ったがそれはそれ。

 

「い、言われてみれば潮風多いのに、なんか髪の毛がそんなに傷んでないし、なんか髪の毛結わえる時にやたらサラサラしてたと思ってた!!」

 

 後ろで団子に結わえていた髪をルポがほどいてみると、ふぁさっさらさらさらっ。

 

「なん……だと?!髪が……、結わえていたのに型すらつかずに自然に流れるだと?!」

 

 ルポの髪は、もう、ヘアモデルさんも羨むだろうしっとりサラサラヘアになっていた。

 

 いや、ルポだけではない。

 

 ナスターシャの金髪もエイダの黒髪も、アネットの髪も自然で かつ美しい艶々サラサラの髪になっている。直毛も癖毛もウェーブヘアも、髪の毛のその形状には影響せず、しっとりと艶やかになっている。

 

「そうだろう、そうだろう。ふははははは、勝つる!これでエヴァ夫人が気に入ってくれてユーザーになってくれたら、どんな宣伝広告打つよりも高い宣伝効果が出るだろう!大統領の奥さんなんだし!(第二夫人だけど!)」

 

「……自分の頭は無毛地帯の癖に、良いものつくっちゃうのよねぇ、この社長は」

 

 エイダが自分の横髪を指でくるくるっ、として離してサラッとやって横目で俺の頭を見てきた。

 

「誰が無毛地帯だ!!ううっ、そのうち絶対、生やして見せるからな……!毛生え剤配合のバェール・ゼットでなぁ!!……でも、良いだろ?他のヘアケア要らんし」

 

「あ、そういえばウチのスペクター、あいつは頭を剃ってるんだけど、今日見たらなんだか五分刈みたいになってたわ。それって、まさかそのなんたらゼットってシャンプーのせい?」

 

「……え?マジ?」

 

 

 

 その後、オリエンテーリングでスペクターの頭を見たが、昨日、たしかに禿頭だったのが、五分刈くらいに伸びててなんか悔しかった。あと、ミハイル隊のかなり額が広がってキていたタイレルの生え際も確かに復活していたし、カルロスに至っては髪の毛がやたら伸びてた。つーかお前ら普通のシャンプーと間違って俺のを使いやがったな……。

 

「あんたすげぇよ。どんどん後退してた生え際があれで戻った!あれは売れるぜ!」

 

 パンチパーマみたいな髪型になったタイレルはものすごく嬉しそうに評価してきたが、しかし、スペクターとカルロスは口々に、

 

「あのなぁ、剃る手間すげーんだからな?つーか俺達で実験しねーでくれ」

 

「前髪で前が見えねぇ。ここには床屋ねーんだぞ。つか自分でカットすんのめっちゃダリぃんだぜ?」

 

 などと抗議してきやがった。ムカつく。

 

「実験なんてしてねーわい!つか、普通のシャンプーと間違えて俺の育毛シャンプーを勝手に使ったのお前らじゃねーか。つーか、俺専用の棚にちゃんと片付けてあったろうが!」

 

「いや、シャンプーが無くなってたんで、他にねーかな、と探したら、あんたの棚にあったから、これで良いか、と……」

 

 どうやら、俺専用の棚から出したのはスペクターらしい。

 

「ったく、シャンプーは隣のシャワー室の棚にあったろうが。とはいえ、なんつーかお前ら効き目すげぇな、おい。……つーか、俺にはあんまし効いてねぇのによ。何でだよ」

 

 そういうと、途端に三人は痛ましいものを見るような目で俺を見やがった。

 

「……あ~、あんた、そういや……。いや、悪かった。そうだな、あんた奴らのせいでそうなったんだったな」

 

「わっさーとなった髪の毛越しにそんな目で俺の頭を見るんじゃねぇ、カルロス。お前みたいな毛根強そうな奴に同情なんざされたくねぇ!」

 

「しかし、あれ使って生えねぇなんて、よっぽどだな……。T-ウィルス、ゾンビ化云々も怖かったが、適合してもそれは……」

 

「いや、タイレル、お前額が頭頂部の天辺まで行ってた癖に、何だその生え具合は。前髪復活させやがって!ちくしょう、あとスペクター、てめぇは何で髪の毛剃んだよ、くっそ、伸ばせよ!!」

 

「いや、ガスマスクとか対BC兵器用の防護キャップ被るとめちゃくちゃ蒸れるんだよ、というか八つ当たりで難癖つけないでくれよ!」

 

 わーわーぎゃーぎゃー。

 

 オリエンテーリング中、俺と男共はそんな感じで言い合っていたが、マービン元警部補がこちらに来たとき、俺達の言い合いは止まった。

 

 もっさぁぁぁぁぁぁっ!!

 

 マービンの頭はあたかも黒いカリフラワーの如き、デッカいアフロヘアになっていた。

 

「……社長、社員のみんなが見てます。騒ぐのもほどほどにしてくれませんか?」

 

 マービンが動くたびに、溢れんばかりのアフロがわっさわっさ、もっさもっさと揺れる。

 

「しかし、まさか置いてあったあのシャンプーのせいでここまで髪の毛が伸びるとは。ケビンがいたずらでカツラを被せたのかとも思っていたが……。ふーむ、誰か髪の毛を切れる物はいないのだろうか……」

 

 サングラスをかけてベルボトムと皮のラメ入りベストでも着せれば、ダンスフロアに立っていてもおかしくはない感じだが、しかしかなりその表情は真面目かつしかめっ面で、あー、ストレス溜めてんなぁ、という感じだ。

 

 その後ろではケビンが、めちゃくちゃ笑っていたが、そのケビンの髪の毛もロン毛になっていた。

 

「予想以上に、社長の育毛剤の被害者が出てるわね……」

 

 エイダが呆れ顔でそう言ったが、

 

「いいや、俺は満足だね。若い頃に戻った気分だぜ!また薄くなったら分けてくれよ、社長!」

 

 タイレルだけは非常にご機嫌だった。

 

 だが、作った俺に効かないのは何故だろう。つーかお前等に効いて俺に効かないなんて不公平だろう。

 

 

……後に、この『バェール・ゼット』は効き目をやや薄めて市販される事となるわけだが、それでも世界中で爆発的ヒット商品となり、白陽社は非常に潤うこととなるのだが。

 

「まぁ、生えるまでお風呂でマッサージしてあげるから、また一緒にお風呂入ろうね?」

 

「……いや、まぁ、うん」

 

 ナス太郎は襲って来るからなぁ。むぅ……。

 

 

 俺の育毛はまだ始まったばかりだ!!【完】

 

……いや、終わってどうする。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【ビッグボスとカズの通信記録録①】

 

 

「……水虫薬?」

 

「ああ、そうだ。あんたの水虫も治るぞ」

 

「というか、カズ。おまえどういうつもりだ?」

 

「ん?何が?」

 

「何が、じゃない!大統領選の事だ!俺は出るつもりは無いとあれだけ言っただろう!!それを……」

 

「ボス、いや、スネーク。それでは民衆は納得しなかった。それどころか、連合に加盟した各国の首脳達も納得しない。……スネーク、あんただからこそ、あんたが上に立たなければ、ザンジバーランドは瓦解する。あんたにもわかるだろう?アンブレラと戦う為にはどの国も欠けてはダメなんだ」

 

「だが、一人のカリスマで支えられた国家の寿命は短い……。俺ももういい年だ」

 

「……スネーク、ずっとこのままというわけじゃない。あと十年、いや、出来る限りだ。出来る限り、俺達は若い力を育てて行かねばならない。多くの若者を、才能ある者達を世に送り出し、俺達が地盤を作って行くんだ。みんなが手に手を取って歩んでいく未来、俺達の夢のその先の世界の為に。誰も核やウィルス兵器に脅かされない世界の為に、あんたはまだまだ働かなければいけない。あんたが、みんなを導いて行かないで誰が導くっていうんだ?!」

 

「俺はな、カズ。戦場しか知らない。政治なんてガラじゃない」

 

「スネーク、あんたは政治屋になるんじゃない。あんたは、ずっと俺達の頭領(ボス)だった。そして国の頭領、つまり大統領になってもあんたはそのままで行けばいい。やりたいことを示してくれ。俺達はそのための手足だ。前から変わらず、これからも変わらない。あんたと仲間の為に俺達は動いてきたが、その仲間が増えただけだ。国民という仲間がな!もう、ザンジバーランドは今や世界の注目を一身に受けている。新たな国家、ザンジバーランド!このうねりは世界に席巻し、そして大きなムーヴメントを巻き起こす!そう、国家樹立後、未だ加盟希望の国や地域が殺到しているんだ、スネーク。あんたを世界が待っている!!」

 

「カズ……」

 

「……ごほん。まぁ、話を元に戻そう。我々の拠点の部下達に真菌感染症が多いのはあんたも知っての通りだ。なんせあんたが行く先々でやたらバラまいたからな。特に、浴場やシャワー室などで、だ」

 

「いや、俺だけがバラまいたわけじゃ無いだろう?!というか、カズ、最初はお前が昔、日本で感染したのが始まりだろう!」

 

「中南米では、確かにそうだった!だが、その後にヤザンから紹介された治療薬でそれは十年ほど前に根絶されただろう!今現在、流行しているのは、スネーク、あんたが持ち込んだ奴だ!忘れたとはいわせないぞ!!」

 

「くっ……。だが、声帯虫のように致死性の病気じゃない。たかが水虫……」

 

「甘い!死なない病気なのは確かだが、しかし、家庭は崩壊する!!スネーク、あんたはエヴァやパスに自分の靴下を割り箸やトングとかでつままれた経験は?子供に『パパの靴下を私の服と一緒に洗わないで!!』とか言われた経験は?俺はある!ありまくって現在にいたる!!……最近じゃ、妻は一緒のベッドで寝てくれなくなった。娘は、俺の加齢臭を嫌がって、話をするどころか俺に近寄りもしない。水虫は……亭主としての、父親としての尊厳を根こそぎ奪って行く悪魔なんだぞ、スネーク……」

 

「……というか、それは水虫のせいじゃなく、お前の浮気癖のせいじゃ?」

 

「……いや、ほら、ザンジバーランドは一夫多妻制じゃないか。俺だって第二、第三夫人くらい……」

 

「昔、サウナで言ったよな?カズ。仲間をとるか、女をとるか、だ。副司令のお前が……」

 

「いや、わかっている!それはわかっている!!というか問題は水虫だ、スネーク。仲間達の治療が出来る目処が立ったという話をしているんだ」

 

「……まぁ、治療が可能ならいい。水虫で出来た創傷から他の病原性微生物が入り込む事もあるからな。……しかし、白陽社、か。T-ウィルスに対抗出来るワクチンや完璧な治療薬を生産出来る会社が、どうして水虫の治療薬を作っているんだ?というか、お前が誘致していろいろと作らせてるんだとばかり思っていたんだが?」

 

「いや、白陽社に関しては俺がどうこうしたんじゃない。アメリカのアダム・ベンフォードとヤザン達がラクーンシティからの生存者の保護施設としての使用を言ってきたのが事の始まりだった」

 

「それがどうして、製薬会社をあそこで?」

 

「社長のヒトシ・タイラ、この男がラクーンシティの研究施設で完璧なワクチンと完璧なウィルスを死滅させる薬剤、そして完璧な治療薬を作ったからだ。H.C.F.を裏切った女諜報員のエイダ・ウォンがアダム・ベンフォードと交渉し、そしてアダム・ベンフォードはヤザンとカリブの廃棄されたマザーベースで生産させようと画策した」

 

「元アンブレラの研究者なのか?その男は」

 

「いいや、アンブレラに買収された日本の製薬会社、『ハチマン製薬』で、水虫薬などを開発していた研究者だ。ウィルスに関する研究にはまったく関わっていない。白だ。ただ、このヒトシ・タイラは薬学の世界では有名な男だった。近代薬学史に残るほどの製薬技法の特許を幾つも持ち、最新の薬品のほとんどが彼の編み出した製法がなければ作れない。あのアンブレラの薬剤も、だ」

 

「なるほど、それでアンブレラは彼をラクーンシティに呼び、ワクチンを作らせた、と?」

 

「いいや。これはヤザンからの情報だが、アンブレラ、いやスペンサーは彼の抹殺を部下に命じ、彼は人体実験と称してT-ウィルスを投与された。何故、スペンサーが彼を抹殺させようとしたのかは不明だ。だが、スペンサーは彼の開発した薬品の大半に圧力をかけて潰しにかかっている。おそらく、スペンサーの計画を妨げる何かがあったと見るべきだろうが、それについてもまだわからない」

 

「薬学史に残る天才を始末しなければならないほどの何か、か。しかし、あのウィルスを投与されればゾンビ化するんじゃなかったのか?いや、治療薬で事なきを得たのか?」

 

「……いや、彼は、偶然にもT-ウィルスの完全適合体だった。ロシアのあのセルゲイ大佐が1000万分の1の適合体なら、タイラ社長はおそらくそれをはるかに超えた確率の適合体だ。彼の現在の姿はほぼタイラントと呼ばれるB.O.W.、それに酷似している。身長250センチ、体重200キロの巨人だ」

 

「……怪物の身体に人の心、か。日常生活が大変そうだな。しかし、タイラントについて資料を見たが腐った巨人や心臓剥き出しの怪物だろう?」

 

「あれはアンブレラの失敗作や試作型だ。白陽社に潜伏しているグレイフォックス、奴はその前にアンブレラの傭兵部隊に潜入していたが、ロックフォート島でタイラントとの交戦訓練を経験している。奴曰く、肌に腐敗の兆候は無く、また大きさを除けば筋骨隆々の人間そのものだと言うことだ」

 

「ふぅむ……完全適合体では、異常な変異もしない、と?」

 

「そのようだ。また、タイラ社長は自らの身体にウィルス駆除剤を投与し、完全にウィルスを全て殺したらしい。しかし、彼の戦闘能力に関する記録は凄まじいものがある。……エイハブがアダム・ベンフォードに頼まれて現在、訓練をしている若い元警官の男がラクーンシティでタイラ社長に命を救われたそうだが、タイラ社長はその元警官が知る限り、暴走状態のスーパータイラントを易々と屠り、アンブレラの部隊を衝撃波を使って全滅させ、ハンターαの群れをたった数秒でぶち殺し、さらには素手で最新の装備をもつエイブラムス戦車をスクラップにかえ、空高くジャンプして飛んでいる戦闘ヘリを文字通り叩き落とした、そうだ」

 

「……まるでアメコミの超人ハ○クだな。そんな巨人なのに薬の開発が出来るほどの天才とは……!」

 

「ああ、俺もやはりそんな怪物だと思うとな、話をするのも最初は恐る恐るになったぞ。しかし話をしてみて あれほどいい人もなかなかいないんじゃないかと思った。理性的かつ治療対象に寄り添うようなあの姿勢というのか、優しさ。正直、あれほどの人物もなかなかいないだろう。クラーク博士とは大違いだ」

 

「……クラーク博士と比べればそりゃあ大抵の……いや、ごほん。気は優しくて力持ち、か。で、肝心なT-ウィルスワクチンや治療薬は提供してくれそうなのか?」

 

「ああ、D.D.便の手配をエヴァが整えた。というか、タイラ社長がすぐさまD.D.便を呼んでパイロットに渡したそうだ。すでにそちらに送る手はずになっている。……D.D.便のパイロットからの報告では、サンプルと言うには多過ぎる数だと言うことだ。おそらく、彼の部下の子供を助けた恩を彼なりに表してくれたんだろう。あと、別の箱で『シンキンナオールの詰め合わせセット』と大統領宛て……つまりあんた宛ての手紙か。タイラ社長は、あんたの治療もしたいようだぞ」

 

「そうか……。カズ、彼とは良い付き合いが出来そうだな」

 

「ああ、心から俺もそう願いたい」

 

 

 

 ブツっ。音声終了……。

 

 




・大統領夫人がサラサラツヤツヤヘアで現れたら、そりゃあ誰だって髪の手入れの方法とか、知りたくなるわなぁ。

・バェール・ゼットで髪の毛はえーる!というCMをテレビでやるかどうかは知らないけど、男にもやはり髪の毛の悩みはあるんだよね……。

・アフロ化マービン警部補。髪の量はパパイ○鈴木氏を想像してください。

・ビッグボスとカズの会話の録音テープ風をやりたかったが、どうもしっくりこなかったなぁ。うーん。


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共闘まであと数日~家族風呂~グレイフォックス。

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

風呂回、ただしネメシス君も一緒だよ?

グレイフォックスはストレスフル。


 夜、風呂に入ってたらやっぱりナスターシャが来た。まぁ今回はネメシスも一緒である。

 

 ネメシスのウィルス駆除は進んでおり、他者への感染の危険性はもう無い。普通に風呂も大丈夫になった。

 故に昨日ベッドで話し合った際に今度、家族で一緒に風呂に入ろうと言っていたのだが、まさか早速今日とは。

 

 俺が結婚を了承したのがナスターシャもよほど嬉しかったのか、ものっそい幸せオーラを出している。

 

「おう、ネメシス……いや、凡太郎。一緒に入るか~?」

  

 凡太郎とは、ナスターシャと話し合って決めたネメシスの新たな名前だ。

 

 ネメシスとはアンブレラによるB.O.W.としての通称であり、また『NE-α』を寄生させて造られたの総称だ。その名で自分達の子供を呼ぶのはやはり感情的に許せないものが俺達にあったのだ。

 

 で、ナスターシャが日本名を言い出した時にはかなり意外だった。そう、凡太郎と名付けたのはナスターシャなのである。

 

 俺の『凡』の字に男の子を指す日本の名前『太郎』で『凡太郎』はどうだろうか、と言われて最初は驚いた。

 奇しくもその名前は俺の曾祖父さんの名前と同じだったからだ。

 そう、俺の凡(ひとし)という名は曾祖父さんの名前から取られたのだが、その俺の息子にまた凡の文字というのは、これはやはり運命というものか。

 

 元々、この『凡』という字は『梵』のはずだったのを、曾々祖父さんが曾祖父さんの出生届けを出した時に字が汚くて(とある戦争で利き腕を無くしたためと言われている)役所の人間が『凡』だと思って受理したためらしい。

 

 で、俺も『凡』になったが、これは俺の亡くなった母親が一族の歴史があんまりにも凄惨なものばかりなのを知ってとにかく平和な人生が送れるようにと名字と合わせて『平凡』に生きられるようにと願掛けで名付けた……らしい。

 

 なお、兄貴が『平・和人(たいら・かずひと)』、弟が『平・常夫(たいら・つねお)』である。なんで俺だけ『凡』一文字なんだよオカン。

 

……兄貴は建築会社勤務のサラリーマン、弟は元自衛官で現在建築会社のガテン系職人である。ウチの兄弟、建築系多過ぎだろ。

 

 とはいえなぁ。どこの家系でも歴史的に何かしらあるのは珍しく無いだろうと思うのだがなぁ。

 

 ウチの家では、墓参りの前に某首塚と靖国に参り、その後に先祖代々の墓に行く。一族郎党、みんな仲良く時代時代の戦や戦争には皆勤賞、生き残った者もいればその亡骸すらどこかわからん物もいる。

 

 源平からモンゴル来襲、戦国、関ヶ原、明治維新、日清日露、ありとあらゆる戦にやたらウチの血族は参加し、兵士として出征した。

 

 大東亜戦争の時もそうで、曾祖父さんの弟は満州から太って帰って来たが、曾祖父さんは南方戦線で戦い、生き抜いた末に捕虜となり、その後帰って来た。曾祖父さんの従兄は大戦後もベトナムに残ってベトナム戦争を戦い死んだらしい。ベトナムには現地の奥さんとの間にやたら子供を作っており、一族の血が異境で残っていたりする。

 

 母はなんか寺の坊主の話を真に受けて首塚の御先祖の祟りだと思いこんだ結果なのだが、御先祖様が子孫の幸せを思わぬわけはあるまいに、ましてや祟りなんぞ下すはずもなかろう。つか、あの寺の坊主はウチの代々の墓のある寺とは無関係なのにな。

 

 歴史の上で、そら戦争に出た一族なんざザラだ。ましてや平家の末裔なんぞザラにおる、というか大きく分ければみんな源と平だろ。いつもお風呂シーンで子供の心にスケベ心を与えたあの未来の猫型ロボットのアニメのしずかちゃんだって源なのだ。のび太さんのエッチ!まぁ、風呂で今エッチなのはナス太郎の乳だが、タオル巻いてるからなんとかカバー出来ている。ちょっと残念だ。

 

……まぁ、んな事はさておき。

 

「エヘヘ、凡太郎、エヘヘ」

 

 凡太郎はよほど新しい名前が嬉しかったのかはにかんで笑った。

 

「うんうん、君は凡太郎だよ~?」

 

 ナスターシャがニコニコしつつ、背伸びしてその頭を撫でる。

 

 凡太郎の身長は、まだニメートルちょっとで俺よりも低い。いや、常人からすればデカいのだが、まだ身長170センチのナスターシャでも手を伸ばせば頭を撫でられるが、うーむ、ギリギリまだ常人の背の範疇……と言える、か?言えるよな?

 

 成長したら、背が高くなるんだろうなぁ。出来れば俺みたいに日常生活に苦労しない程度なら良いんだが、しかし成長はしてほしい。

 うーむむむ、と思いつつこればかりはなってみないとわからんわなぁ、と気持ちを切り替え、ナスターシャが撫でた後に俺も凡太郎を撫でてやる。

 

 むぅ、嬉しそうに目を細めている辺りがなんかナスターシャに似とるな。いや、元々目元はナス似なのかも知れん。

 

「うむ……目付きがママ似だのう。ほれ、ナスもほれほれ」

 

 もう左手でナスターシャの頭を撫でてやり、ほら、そっくりだ。

 

「あん、ちょっとアナタ!」

 

 比較してなんとなく満足。母子だよなー。うんうん、と納得する。いや、なんだろなぁ、娘と息子を撫でとるような錯覚があるのは何故だろうか。

 

 しかし、なんか凡太郎の頭に産毛ではない、さらっとした短い髪の毛が生えて来ておるのを発見する。

 

 おおっ、これは未来を感じるぞ!

 

 うむ、T-ウィルスに冒されても毛根は毛を生やすという証拠だな。うむ、間違いない。

 

「おお、髪の毛が生えてきたのか凡太郎!よかった!」

 

 実は何気に心配していたのだ。息子の頭が俺のようにハゲのまんまだと、やはり何かとなぁ。

 

「え?髪の毛?」

 

「ああ、ほらナスターシャ、頭頂部のところだ。産毛じゃない、短いが髪の毛が生えて来ているぞ!」

 

 俺達は喜んだ。よくわかってなさそうだが凡太郎も笑っていた。うむうむ、よしよし。いや、一緒に風呂も入るものだなぁ。

 

 

 最近、凡太郎は表情を浮かべる事が出来るようになり、顔や皮膚の引きつりや爛れたような跡がある程度治ってきた。それは『NE-α』による寄生虫害の症状だった。

 

 その寄生虫害が緩解したのは『NE-α』が弱体化し、『NE-α』が宿主の身体に拒絶反応を起こさせないように分泌する物質の量が減ってきたからである。

 この分泌物の副作用として身体の皮膚が萎縮したり、爛れたような症状が現れるのだが それが無くなって凡太郎の顔は随分ときれいになって、元の顔立ちがわかるようになってきたのだ。

 無論、顔の傷や口の口蓋裂様の状態は形成外科的な治療を行わねば治らない部分もあるが、今では表情すらも顔に浮かべれるようになっている。

 

 とはいえ、分泌物が減ったということは寄生生物への拒絶反応もやはり現れるということであり、そのコントロールはシビアになって来ているのだが、凡太郎の治療に関してのカンファレンスはハミルトン先生やジェンキンス教授達とオリエンテーションの後、すでに行い、術式等も話し合った。

 

 医師としての俺の専門はと言えば専攻していたのは内科だが、別の科の医師達と話をするのは非常に有意義でだったと思う。

 

 また、元アンブレラの研究員だったリンダは『NE-α』を外科的に駆除する方法にいくつかの安全策のアイデアを付け加えてくれた。

 

 虫下しチョコ……『アンチナルファ・チョコレート』と名付けた。アンチナルファとは『ANTI・NE-α』の意味である……によって『NE-α』の生命活動が完全に停止していない場合を考え、液体窒素を使用して『NE-α』の中枢神経節を部分凍結する、もしくは虫下し薬『アンチナルファ原液』を注入して医療スタッフの安全を確保するといった案である。

 

 その話をしていたら、話を聞きつけたフォーアイズが病室を抜け出して話に加わった。

 

 彼女の専門はウィルスとB.O.W.の研究であり、それがこうじて傭兵になったらしい。フォーアイズは『NE-α』についての情報をいくつか持ち合わせており、リンダによる『NE-α』の中枢神経節にアプローチする案にいくつかの補足をした。

 

 フォーアイズ曰わく『NE-α』に対して中枢神経節だけを凍結、もしくは駆虫剤の注入をするだけでなく、いくつかの節足中枢にもアプローチしなければそこが中枢神経節化し、活動を再開する可能性がある、ということだった。

 

……フォーアイズの持っていた情報端末にあったデータによれば『NE-α』は俺が思っていたよりもかなりしぶとい厄介な生命体のようである。

 しかも宿主に卵を産みつけて増殖する性質があり、さらには周囲のゾンビにその増殖した寄生体を植え付けて厄介なB.O.W.と化した例も確認され、その映像もフォーアイズの情報端末で見せられた。

 

……マジで『NE-α』の性質はタチが悪いどころの騒ぎではないことを俺と医師達は思い知った。

 

 とはいえ『NE-α』はラジオアイソトープで生殖細胞をとっくに処置済みである。つまり増殖しないように放射線で細胞を殺してあるが、念の為にやってて良かったぞ、マジで。

 

 その後、フォーアイズが病室に居ないと探しに来たバーサも何だかんだでカンファレンスに参加、凡太郎に麻酔が効くのか、とか、手術中の輸血準備は出来ているのか、とか、そもそもタイラントタイプの皮膚や筋組織を切れるメスはあるのか、など、聞いてきた。

 

 元看護婦らしい質問とも言えたが、その辺は抜かりはないと答えると、手術の事前準備は看護婦の仕事だから、使用薬品のピックアップリストは作っておいて欲しいと言い出した。

 

……どうやら、バーサは看護婦として手術の助手を勤めるつもりらしい。いや、これはフォーアイズも同様で彼女も研究者として参加したいようだ。

 

 これには俺もハミルトン先生、ジェンキンス教授も驚いたが、しかしフォーアイズのB.O.W.についての知識もバーサの衛生兵としての腕も確かに居れば頼もしいのは確かである。

 

 医療スタッフの数は少ない。故に次からのカンファレンスには二人も加わる事となった。

 

 多くの専門的な人々によって凡太郎の治療は行われる事となる。本当にありがたいことであろう。

 

……とはいえカンファレンスの話はひとまず置いておこう。今は家族の団欒の時間なのである。

 

「ははは、そうか、今日はママとパパと一緒だぞぅ?ほら、おいで。湯船に入る前にまずは身体を洗うんだ」

 

 ととととと、とデカい割に軽やかに来て、凡太郎は俺の隣に座る。うむ、素直ないい子である。

 

 ナスターシャも凡太郎の隣に座った。

 

 しかし、俺達と一緒だとナスターシャがやはり小さく見えるよなぁ。とはいえナスターシャは一般の女性としては背が高い方なのだが。あと、乳は一般と言えないほどデカいのだが。ゆさゆさぶるんとか揺れるんだが。

 

 いや、今は息子がおるから、スケベ心は封印だ。泣かないでスケベ心よ願いが叶うなら。

 

 タイラント君をタオルで隠しつつ、ケロリン桶……なんでそんなモンが中南米にあるのかは謎だが……で、湯を汲み、

 

「ホレ、湯を汲んで、周りの人に迷惑をかけないように静かに掛かり湯、だ」

 

 と、掛かり湯の手本を見せると、凡太郎は真似して……って、ナス太郎、君も真似すんのかい。

 

「日本のセントー、私、入ったコトないカラネー?」

 

 何故カタコトの日本語……って、ああ、そういや日本語の勉強始めるとか言ってたな、そういや。

 

 ナスターシャは、日本の俺の家族にいつか会ったときに挨拶するために日本語を覚えたいと言った。もしかしたら日本で暮らすかも知れないし?とも。

 

 むぅ、家族に早く紹介してやりたいが、絶対、祖父さんと親父が近所に速攻で言いふらすだろうな。……弟と弟嫁もか。

 

 凡太郎も母親に習って、

 

「じゃ、僕も日本語、シャベローッと」

 

……いや、息子の方が日本語上手い気がするぞ、ママ。つかウチの子は天才か?

 

 その後、洗いっこしたり、湯船に浸かって手で水鉄砲を教えてやったり、タオルで泡ブクブクやってタオルを湯船に浸けない!と、ナスターシャに怒られたりしたが、いや、家族風呂って良いよなぁ。

 

……ここは家族風呂じゃねーけど。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

【グレイフォックスとキャンベル大佐との通話記録】

 

 

《こちらグレイフォックス。キャンベル、聞こえているか?》

 

《聞こえているぞ、グレイフォックス。何かあったのか?》

 

《いや、いい加減、俺も本国に帰りたいんだが?というかフォックスハウンドとの契約期間は2ヶ月ほど前に終わっている》

 

《わかっているが、だが君は困った事に『白陽社』との社員契約を結んでしまっているだろう?》

 

《それがどうした?いつもなら……》

 

《いつものように途中で行方不明になったり、死亡を擬装して撤退する事は出来ない。いくら何でもそれは不義理というものだ。契約を履行したまえ。もし君が履行しないとすれば、それは我々だけでなく君の本国、ザンジバーランドにとっても不利益をもたらしかねないのだ。……白陽社は今後の我々、いやザンジバーランドにとっても重要になってくる。かつてビッグボスの戦いは核戦争を防ぐ戦いだったが、しかしこれからは核のみならずウィルスやB.O.W.との戦いへとステージをうつしてしまった。対ウィルス戦争、それもアンブレラと戦う為には、完全なワクチンや治療方法、そしてT-ウィルス駆除が出来る薬品を生産できる協力者が必要なのだ》

 

《……買収してしまえるだろう?今のザンジバーランドなら》

 

《君の会社の社長の、日本で生活していた時の心理学的プロファイリング結果から導き出された答えは不可能だと出ている。また、それらを裏付けする事もこれまでに起こっているのだ。まず、白陽社社長ヒトシ・タイラーは恩義に篤い反面、敵だと認定したものには絶対的な報復行動を展開しようとする性格をしている、と出ている。例えば、彼が元いたハチマン製薬だが……。今、そこがどうなっているか知りたいかね?》

 

《いや……。何かあったのか?》

 

《現在、ハチマン製薬はほとんどの商品を生産出来ない状態に陥り、おそらくあと数ヶ月で倒産するだろう。これはアンブレラの関連企業である製薬機械メーカーが、ヒトシ・タイラー氏に特許使用料を数年間支払わずに機材を生産し様々な製薬会社に販売していた事が原因だ。なにしろハチマン製薬が勝手にその技術をアンブレラに提供していたからな。法的措置により、ハチマン製薬もアンブレラも生産差し止めと巨額の賠償金を請求されている。これに対してアンブレラはどうやっても言い逃れすら不可能な状態だ。アンブレラの顧問先弁護士達も匙を投げ、和解を申し出ている。中にはアンブレラの顧問を辞めた者がスペンサーの命令で始末されたという情報も上がってきているくらいだぞ。全米で最も特許等の案件に強いと言われていた弁護士を、だ》

 

《……あの秘書に蹴られたり、ハゲ頭を無毛地帯と罵られている、あの大男がそんな特許を持っていたとは》

 

《その秘書は怖いもの知らずなのかね?タイラントを簡単に殲滅出来るような存在相手にそんな事を?》

 

《……社長はどうも社員を家族のように思っているらしい。悪い男じゃないのはわかるんだがな。しかし、買収は可能なんじゃないか?敵対とはまた違うはずだ》

 

《……H.C.F.(ヘルスケアファウンデーション)が白陽社を買収しにかかったそうだが、まぁ、無理だった。なにしろ株式会社でも無い個人経営の会社だ、社長が首を縦に振らなければ不可能だ。それならとワクチンの特許を売れ、とH.C.F.は上から目線で言ったそうだが『てめぇんとこには何一つ売らねぇからな?何か汚ぇ事を仕掛けてきたら、アンブレラの前にお前らを潰すぞ?』と言ったそうだよ。ああ、これはH.C.F.に潜入中のリキッドの情報だ。……珍しくリキッドは非常に上機嫌でな。どうもタイラー氏を気に入ったようだった》

 

《……それはH.C.F.だったからじゃないのか?というかアイツは好戦的過ぎる。どうせ機会があったらタイラー社長に喧嘩売ってくるぞ。……厄介だな》

 

《トライセルも同様だよ。まぁ、あのエクセラ・ギオネの独断でやらかしたらしいが、彼は逆に特許を差し止めするぞ、と言って怒ったそうだ。エクセラはトライセルの会長をかなり怒らせたようでな。会長命令によりアフリカの僻地に左遷される事が決定したそうだよ。つまり、白陽社のヒトシ・タイラー氏に逆らえば製薬会社は倒産こそしないかも知れないがかなりの打撃を食らうと言うことだ。……もっとも、スペンサーは知らなかったようだがね》

 

《……スペンサーアホ過ぎるだろ。だが、俺の帰還がダメな理由がわからないんだが?》

 

《もし、君が我々やザンジバーランドの潜入工作員だとバレてみろ。彼の心証は悪くなるだろう。……とはいえ、彼は人の心の中が見れる特殊能力を備えているそうでな。もうとっくにバレていると思っていい。だが、彼から何も君に言わないとすれば、おそらく君は泳がされているという事かも知れん》

 

《おいおい、そんな能力があるはずは……って、サイコマンティスの例があるか。……あの量産型タイラントすら簡単に倒せる男を敵に回して生き残れるとは思えない。やはり離脱を……》

 

《不許可だグレイフォックス。これはアメリカの未来だけでなく世界の平和の為に必要な任務だ。無論、君達、ザンジバーランドの為にも。きちんと彼に今までの事を話し、謝罪したまえ。ミラーからの許可も出ている》

 

《……もし、謝罪を受け入れてくれなければ?》

 

《ミラーからの話では、それは無い、と。なにしろアンブレラの私設傭兵部隊の暗部『U.S.S.』の部隊達を受け入れた男だ。その隊長の子供の為に動こうとする男が真実を話して怒るはずは無いだろう。……おそらく、多分》

 

《……なんか、全く信じられないんだが?》

 

《だが、君が生き残るために必要だ。そして我々フォックスハウンドにとってもな。ザンジバーランドからの技術援助が無ければ、我々はハイテク特殊部隊なんて名乗れないからな……。あと、ストレンジラヴ博士からも》

 

《それで大丈夫なのかよ、アメリカ特殊部隊……》

 

《……ザンジバーランドの技術はすでに世界レベルを遥かに超えている。だがそのザンジバーランドの科学技術でもストレンジラヴ博士の人工AIを使った解析でもT-ウィルスの治療薬やワクチンの開発には手こずっているのが現状だ。まぁ、安心したまえ、グレイフォックス。今回のミッションが上手く行けば、ザンジバーランド側は追加の人員として君の妹や恋人を始めとした者達の白陽社への派遣を考えているそうだ》

 

《……ちょっと待て。ということは俺は帰還出来ないってことなのか?!》

 

《まぁ、そういう事だ。では、そろそろ通信を切りたまえ。暗号化されたバースト通信でも流石に電波の発信源を突き止められれば、君の立場がさらに悪くなるからな》

 

《ちょっと待て、おい!》

 

 プツッ。ガーーーーッ。【通話終了】

 

《……まじかよ》

 

 




・ネメシス君は凡太郎に名前が進化した! 

・さらりと、息子に髪の毛生えて来て喜ぶ平凡さん。

・リキッドさん、平凡さんにちょっかいかける気満々。

・エクセラがアフリカに居たのは、つまり左遷でした、という。

・なお、平凡さんはグレイフォックスの正体なんぞ全く気にしてません。悪人と思ってないからね……。


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共闘まであと数日~ザンジバーランド初代大統領演説

 いつも感想&誤字脱字訂正ありがとうございます。

・間違えてまだ書いている途中のものが公開されててすみません。いや、私も驚いた。
 
・ザンジバーランド初代大統領『ビッグボス』の演説。

・ミハイル隊長の奥さん生きてた。


 風呂から上がり、報道特集が始まる時刻に食堂のテレビをつけた。

 

 ザンジバーランドの初代大統領の就任の様子と演説が始まった。……とはいえ、実況中継ではない。

 

 この中南米では、アメリカとは違ってスタッフが映像を収めたテープを国に持ち帰るまで報道など出来ないらしい。まぁ、故に本当の就任は数日前で、これは録画である。

 

 食堂には多くの社員達が集まっている。

 

 夕食を食べに来た者もいれば、ザンジバーランドの初代大統領に就任した『ジョン・ジャック・シアーズ』、つまり『ビッグボス』その人の姿を観るために集まった者もいる。主に傭兵達であるが。

 

 今まで、伝説の傭兵『ビッグボス』の姿を見た者は軍関係者や傭兵達の中でも多くないと言う。

 

 ベクターが言うには『ビッグボス』は潜入のプロフェッショナルであり、見られる事なく痕跡も残さずミッションをコンプリートさせてきたからだと言う。

 

「つうかベクター、なんか滅茶苦茶興奮してねーか?」

 

「そりゃあしますよ!だって伝説の男ですよ?!」

 

「ベクター、テレビの音が聞こえない。黙れ」

 

 ルポが言い、ベクターがシュン、となった。

 

 そして、カメラがアップになった。

 

 イブニングスーツにバラの造花を胸に付けた、堂々とした初老の男。眼帯と髭を蓄えた、しかしその目は確かに歴戦の戦士を思わせる。

 

「……私が、ジョン・ジャック・シアーズだ」

 

 渋い声で、名乗る。すると群衆が、

 

「「「ビッグボス!!ビッグボス!!ヴィックボス!!」」」

 

 と大声で叫び、拳を挙げ、会場が歓声で埋め尽くされる。

 

 その声に退くことなく『ビッグボス』は眉を動かすことなくやや目を薄く閉じ、しかし周りを見回す。

 

 そして手をやや持ち上げ、群衆に掌を向けて言う。

 

「本音で語ろう。私は……いや、俺は大統領になろうとは思わなかった」

 

 ざわ、ざわざわざわざわ……。

 

 シアーズの言葉に、群衆がざわめく。

 

「誤解をしないでくれ。私は今、ここにいる。答えはもう出ている。だが、俺の話を聞いてくれ」

 

 シアーズは深く息を吸い、そしてまた語り出した。

 

「我が友、外務省大臣『マクドネル・ミラー』。いやいつものように『カズ』と呼ぼう。奴や『アダムスカ大統領補佐』いや『オセロット』、いつの間にか私の妻になっていた二人の女『パス』『エヴァ』。『パラメディック』『シギント』。多くの連中が俺を大統領に推薦していた事が判明した。選挙の後で、だ」

 

 深く溜め息を吐くシアーズ。ものすごく、やれやれという感じで首をゆっくりと横に往復させて振る。

 

……なんか聞いた事のある人物名が出てきたな。

 

 無論、明後日ここに来る、ミラー外務大臣とエヴァ第二夫人だ。というかいつの間にか妻になってたって言ったか、この人。

 

 思わずナスターシャの顔を見てしまったが、ナスターシャはテレビに集中している。

 

 俺はなんとなく、なんとなくだが『ビッグボス』に共感を覚えた。そう、おそらくだが『ビッグボス』は彼の仲間にいつも日常的にさんざん振り回されているんじゃ無かろうか。

 

「首謀者は『カズ』と『エヴァ』だ。奴らは俺を大統領候補に推薦するだけしやがって、俺にバレる前に国外に外交に行くとか言って逃げやがった!つうか俺が怒るのがわかってて奴らはやりやがった!奴らはほとぼりを冷ましてから帰る気だろうが、必ず叱ってやる!」

 

 わはははははは!と、群衆の中から笑い声が聞こえて来た。「ナイスカズ!」とか「エヴァ夫人万歳!」とか言う声も聞こえる。

 

 おそらく、『ビッグボス』と彼らのそういうドタバタは国民達によく知られているのだろう。まるで仲間内でのバカ話や愚痴を言っているかのように自然な口調でシアーズ初代大統領は話を続ける。

 

「そして、オセロット、そこのシギントもだ。お前らもわかってて放置しただろ?笑うなよ、おい」

 

 カメラが長髪のロシア風の顔立ちをした初老の男とそして黒人と思われる男を映した。二人ともまるで悪戯をした子供のように、わははははと笑っている。

 

「ああ、そうだカメラマン!この二人も俺を推薦した下手人だ。しっかり映してくれよ。こいつが大統領補佐官、そしてウチの科学省大臣だ。まったく、ひどい友人達だろう?」

 

 しかしビッグボスも笑っていた。

 

「で、その隣に座るはずだったクラーク博士!厚生省大臣なのに彼女は研究所に籠もって出てこないときた。だが後でこっぴどく叱りつけてやるからな『パラメディック』、逃げられんぞ!」

 

 そうして、シアーズ大統領はザンジバーランドの要職に就任した各大臣や責任者達を糾弾しつつ面白可笑しく紹介していく。しかし、糾弾しつつも信頼しているのがありありとわかる。

 

 そうして、一通り閣僚達の紹介が終わって、再び集まった民衆へと語り始めた。

 

「そして、君達だ。君達が最大の下手人だ。君達が私を大統領に押し上げた。……全く、信じられないことに、私のような元余所者を大統領にしようとは。だが君達は私を信じて投票してくれた。得体の知れない傭兵崩れの俺を。みんなも知る通り、ザンジバーランドはツェルヤノスクから始まった。あの核に汚染されたあの地からだ。我々はそこから始めた。今日の味方は明日の敵、見知った顔の奴と銃を撃ち合う、そんな日々を越えて俺達はこうして手に手を取り合った。仲間を増やし、憎しみ合うことをやめ、内紛、民族間紛争、戦争経済、核戦争危機。俺達は俺達が否定すべき多くをこのザンジバーランドから、この連合国から追い払った。お互いに手を握り、結び合い、今ここに俺達はいる。ザンジバーランドよ、友よ、我が家族達よ、ザンジバーランドの全ての者達、この国にいる者達よ、俺はここにいる!聞こえるか!俺達はここにいる!外にいる奴らにも宣言しよう!俺達はもう友を撃つことはない!俺達は一つの家族だ!!」

 

 おおーっ!!と歓声が沸き起こる。多くの紛争地帯を含んだザンジバーランドの領内、しかしシアーズ初代大統領は、宣言する。

 

「もはやザンジバーランド民主主義連合国に紛争は無い!俺は初代ザンジバーランド民主主義連合国初代大統領として宣言する。俺達は平和を勝ち取った!!」

 

 うぉおおおおおおおおおおおおっ!!

 

「「「ビッグボス!ビッグボス!!ビッグボス!!!」」」

 

 割れんばかりの歓声。そしてビッグボスコールと拍手。盛況の中で初代大統領ジョン・ジャック・シアーズの『ビッグボス』の演説は終わった。

 

「これが……ビッグボスか……」

 

 振り向くとベクターがなんか涙を流していた。いや、ミハイル隊長もだ。

 

 カリスマ?いいや、そんなものでは言い表せない何かがあった。これがテレビ映像だという事を忘れて誰もが見入っていた。

 

 テレビの画面が変わり、誰もがはっ!と我に返った。

 

 テレビの女キャスターが地図でザンジバーランドの場所を説明し始めるが、その事務的な口調に、俺は白昼夢から覚まされたような感覚を覚えた。

 

 この時間のいつもの人気美人キャスター、しかしビッグボスのあの演説の後ではまるで役者不足に映る。

 

『ザンジバーランド民主主義連合国樹立に伴って、この……中央アジア、カザフスタン、キルギス、南下して……」

 

 テレビの地図を見てナスターシャが声を上げた。 

 

「……私の、故郷も独立ってか、ザンジバーランドになったの?!」

 

 ナスターシャが目を丸くして言う。彼女の故郷もその地図上に入っていたらしい。ミハイル隊長の様子を見れば、彼の奥さんの故郷も同様だったようだ。

 

「……ナスターシャ博士。我々の国は解放されたらしい。まさか、ビッグボス、いやあの伝説のMSFが解放したとは!」

 

 ミハイル隊長が涙を拭うこともせず、画面をじっと見る。

 

 女キャスターのバックの地図がザンジバーランドの各要職に就く人物達が並んだ画像に差し代わり、大統領から一人一人を説明していくと、なんかミハイル隊長の表情が変わった。

 

『アーニャ・ヴィクトール福祉大臣。彼女は長らく少数民族の解放を掲げて活動していた人物で……』

 

「アーニャ?!」

 

 福祉行政大臣はミハイル隊長の奥さんだった。ミハイル隊長は最愛の奥さんや仲間達の命を救う為にアンブレラの傭兵として戦わねばならなかったのだが、その奥さんがザンジバーランドの大臣職についていた。

 

『少数民族出身の彼女を起用する事でのリスク等は無いのでしょうか?』

 

 と、女キャスターがゲストの中南米大の政治学者に話を振る。

 

『おそらく、どの地域のどの民族出身であっても能力があれば誰でもどのような職にも就くことが出来る、つまり平等主義と民主主義をアピールする……』

 

 なんか、あのシアーズ初代大統領の演説を聞いた後では白けるような解説だよなぁ、と思わなくも無いことを政治学者は延々と語っているが、ミハイル隊長にとって、そら生き別れになった奥さんが生きていると言うのは嬉しい一大事である。

 

「ミハイル隊長、後でザンジバーランドのミラー外相に無線で繋いで、話を……」

 

「いえ、生きていた事がわかったなら、わざわざ連絡をする必要はありません。彼女も大臣となったなら多忙の日々を送る事になるでしょう。私の事で煩わせる事も……」

 

 涙を拭い、顔を引き締めてミハイル隊長はそう言い、

 

「では、私はこれで」

 

 敬礼をして、食堂を出て行ってしまった。

 

「……ふむ。ナスターシャ、どう思う?」

 

「家族の事は、煩わしい事じゃ無いと思うなー私」

 

「だよなぁ」

 

「ただの兵士なら国に忠を尽くして戦い、己をも殺さねばならないが私達は傭兵でただのここの警備員だ。そうだな、社長?」

 

 ルポが珍しく、にんまりと笑う。

 

「その通りだ。ここは会社で君達は警備員だ。忠誠じゃなくて持って欲しいのは愛着だな。つーか、仕事と家族は両立して欲しいからね」

 

 なー?とナスターシャと凡太郎と目配せして笑う。

 

「……はぁ、お節介ね。とりあえずそう言う話はミラー外相よりエヴァ第二夫人の方が良いと思うわ」

 

 エイダも呆れ顔だが、なんだかんだでコイツもお節介な人間のようだ。じゃぁ、と短く言って席を立って食堂を出て行ったが、おそらく連絡しに行ったのだろう事は間違いない。

 

「……しかし、ナス、お前の国が独立したってのになんか反応が薄いな?」

 

「ん~?まぁ、為政者が変わってこれからどうなるかを見ないと判断出来ない……からかな。旧ソ連のおかげで疑いやすくなってんのよね、私」

 

「なるほど。まぁ、俺は悪く無い気はするんだがな」

 

「そんな気はするけど、大統領がそうでも、なかなか人の意識って変えられないものだから」

 

 ナスターシャはこういう時は非常に現実主義な考え方をするようだ。特に政治的な事になればシビアに物事を考える。

 

 いや、少数民族の対立や多数派の弾圧などは国際的に人権問題として根深いということなのかも知れない。

 その辺が日本人の俺にはなかなか理解出来辛い問題ではあるのだが、まぁ、学んでいくしか無いのだろうなぁ。

 

 つーか、やっぱりアンブレラをぶっ潰したら一緒に日本で暮らすのが一番面倒が無い気がすると考えたりするわけだがなぁ。

 

 なんせ、日本じゃナスターシャを見ようがエイダを見ようが、ぶっちゃけ、外人のねーちゃんとしか思わない、良くも悪くも国際的な感情よりも人間を見る国だからなぁ。よほど悪いことをしさえしなければ、あそこん家の外人の人、ってその程度にしか思わないからな。

 

「ま、私の家は今、ここで、もしアナタが日本に帰るなら私の国も日本。どこに行こうがアナタの居るところが私の家よ」

 

 俺の考えを読んだのか、ウチの嫁(確定)はあっけらかんと言ったものだ。

 

 




・犯人はカズ。

・ビッグボスは、やはりイメージ的にMGS3のビッグボスをMGS4のビッグボスに近くした感じですね。オールバックに白髪が混じる、多少まだワイルドさを残した感じですかねぇ。

・ミハイル隊長の奥さん出世してた。


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共闘まであと数日~平凡さんとハンター君(人間)

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

手負いの狐はジャッカルより凶暴だが、手懐けた狐はきっと有能。

タバコは男のコミュニケーションなのさ。でもとある蛇のようにポイ捨てはしない。エリートだから。


 ザンジバーランド初代大統領の就任演説の後、俺達がお節介を焼き、ミハイル隊長が生き別れの奥さんと無線で話をした夜。

 

 話を聞くなどという野暮な事はせず、俺はタバコを吸いに屋上に出ていた。

 

 満点の空の下、海の音を聞きながら吸うタバコはうまい。

 

 とは言えラッキーストライカーよりセブンシスターのが良いが日本のタバコなんぞここには無い。吸えるだけまだマシというものだろうが、うーむ。

 

「で、ハンター君。さっきからなんか俺に言いたいことでもありそうな感じで追いかけて来たはいいが、どうやって話しかけようか、とか迷って隠れてるのはまるで恋の告白をする乙女っぽいぞ?というか私は妻帯者でノーマルだから、応えられないぞ?」

 

 俺になんか用事がありそげかつ、なんか他の人に聞かれたくない素振りだったので、わざわざ話しやすいように屋上のデッキまで上がってきてやったのだ。

 

 頭を掻きながら物陰から出て来て俺の隣までやってきたハンター君に、ほい、とタバコを差し出してやる。 

 

「いえ、社長、そういうんじゃ無いですから。というか俺にも将来を誓った恋人がいますから」

 

 一本、タバコを取って、

 

「いただきます」

 

 と、礼儀正しく一礼してハンター君はタバコを口に咥えて自分のオイルライターで、チャキンと火をつけた。

 

 うーむ、どこの国の訛りなのかわからないが、独特で特徴的な話し方だ。鼻に抜けるようなぬるりとした感じなのだが、表情と仕草で妙にそれがカッコ良くキマっとるのだなぁ。キザとも感じかねないがそれが自然というのか。

 

「そうじゃ無くって良かったよ。しかし彼女さんがいるのか。なら心配してるんじゃないか?」

 

 澄まし顔で恋人なんぞと言いやがった。まぁ、一昔前なら俺もリア充爆発しろ、とか言ったかも知れないが女房子供がいる身であり、家族で風呂入って団欒した上はそんな心の狭い事なんぞ言わない。

 

 くっ、この色男め!止まりである(心広くなってそれかい)。

 

「いえ、この前に連絡はしてあるので俺の無事はもう彼女も知ってます」

 

 と、やや苦笑をする。連絡、という辺りで普通なら、ああそれは良かったと思うのだろうが果たしてどこから連絡したというのか。彼を含む生存者達はここに来る前は中南米の軍施設で保護されていたが、そこでは電話も無線も、外部との連絡は原則禁止になっていたハズなのである。無論、このプラントからの通話はエントランスの休憩所のところの公衆電話(テレホンカードが使える奴)か無線だが、そこはそれ、会話ログはどちらも残るので、彼らしき人物の会話記録が無いとすればいったいどこでどのように連絡したというのか。

 

 なお、ルポの場合は彼ら生存者達とは違い、軍施設経由ではないので独自にセシール女史と連絡したわけであるが、そういやそんときの連絡手段を聞くのを忘れてたな、うん。多分どこかの時点で電話を使ったのだと思うのだが。

 

 だが、ハンター君は俺がその事を言い出す前に話を切り出した。

 

「社長、あなたは俺と話すためにここに来た。余人に聞かれないように取り計らってくれたのでしょう?」

 

 そう言い、タバコを一口吸って紫煙を吐く。まぁ、そりゃあわかるだろうなぁ、なんせ見え見えな感じでここに誘導したからな、と思いつつ俺も煙を吐いて、

 

「なに、君が敵じゃないのは知ってるさ。だが、君にも立場というか事情があるんだろ?」

  

 やや芝居がかった仕草で肩を竦め、そう言った。

 

「ええ、ありがとうございます。ですが不用心では?本当に周りには誰もいません。これでは……、いえ無理ですね。あなたを害する自信は全く浮かびません。量産型タイラントならまだしも、本当に全く」

 

 ハンター君は人差し指で頬を掻く。冷ややかな声だが、額にやや汗が浮かんでいるのを見れば割と緊張しているのがわかる。

 

「うーむ、女房子供が出来たばかりなのに害されるのは勘弁して欲しいところだが。まぁ、そういうつもりでここに来たわけじゃ無いんだろ?」

 

「ええ。もしそういう命令が出たなら、ここからお暇いただいて帰ります。無理です。もっとも、もう今の派遣先との契約は2ヶ月前に終わってますから、そんな命令聞く筋合いありませんけどね」

 

「ま、そんなら帰ることは無いだろ。君は優秀だ。これは本心から言っているが君のように事務関連の仕事がそつなく完璧にこなせる者はここでは希有だ。前の雇用主と契約が切れてるなら好都合、是非、ここで働いてくれないか?」

 

 今日、少し書類仕事を手伝ってもらったが彼の仕事ぶりは非常に良く、書類の作成の早さもミス一つ無い正確さも、そして仕事を覚える早さも優秀と言えるレベルだった。正直、彼の正体がなんだろうが欲しい人材である。

 

「……は?いえ、傭兵としての戦力ではなくて、事務として、ですか?」

 

 これにはハンター君も面食らったようだ。そりゃあそうだろう。おそらく彼は特Aクラスの戦闘能力を持っているのは、まぁ、俺の目にもわかる。だがここでは一般職、それも書類仕事が出来る奴が俺とエイダくらいしかいない。マジで出来る奴は喉から手が出るほど欲しいのだ。

 

「ああ。君はウチの社にまさしく欲しかった人材だ。なにしろ通常の業務がこなせるのは今まで俺かエイダくらいしか居ない!事務職希望の女の子達もいるが、彼女達は前の会社でも新卒の新入ちゃん達で、仕事を覚える前にバイオハザードに巻き込まれてここに来た子らだ。一から教えなければまだ戦力にならない、言わば尻に殻のついたひよこちゃん達、ピーヨピヨなのだ!仕方がないけど育てるまで手が掛かるんだ!」

 

 俺はここぞとばかりにまくし立てる。

 

「お、おぅ……。まぁ、確かにあの子達はそうですね。まだ事務職員としては使えるようになるには時間がかかるかと」

 

 よし、ここでハンター君が退いた。退いたら負けだぞ?俺は人材確保のためなら容赦などしない。事務職ゲットしてやる!!

 

「だろ?だろ?だが、君は彼女達に効率よく作業を教えてサポートしてたろ?それなのに自分の仕事はテキパキとこなしていた!早く上げてさらにミスも無く、小休止したいというちょうど良いタイミングでさらりと自然にコーヒーまで淹れてくれたりして、マジ助かったんだよ!」

 

 そして誉め殺し。逃がさへんでぇ?

 

「ええっと、まぁ、そう言っていただけると……」

 

 よし、掛かった。

 

「そう、君を私の部下としてスカウトしたい!そう、総務部主任のポストを用意しよう。これは会社にとって重要なポストだ。今はたしかに主任ではあるが、ゆくゆくは課長、部長と昇進も夢じゃないぞ?なんせ、現在、俺が全部それらの業務を兼任してるようなもんだから!!」

 

「あ~、まぁ、つまり会社運営にそれだけ人手が無い、と?」

 

「見りゃわかるだろ?まぁ人を沢山雇う余裕は無かったが、今度、おそらく多くの企業から滞っていた特許使用料が入る事になってな。……まぁ、某社に関しては詫び金云々とか言って来ているが、そっちは潰れるまでとことん特許差し止めの刑を食らわせるつもりだから、ぶっちゃけ和解等はやってやんねー所存だが……。ようするに広く人材を雇いたいところなんだよ。それとともに、つぶれそうな日本のとある会社を底値で買い叩く。クソのような社長も専務常務部長課長、それらを全員クビにして、再び余所に流れてった有能な奴らを連れ戻してな。だが、その前にこの本社の運営をきっちりと出来る人材が必要なんだよ。で、君だ」

 

「いえ、たった今日1日しか働いてませんが、それは早計というものでは?」

 

「いいや。俺の目は節穴じゃない。君は我が社にとってのライトスタッフだ。周りを把握し、自分の業務と他を調整し、スケジュールを立ててきっちりとこなせる。それも本業の諜報活動も手抜き無しでやらかすくらいに完璧だ」

 

「……いえ、社内に諜報員が入り込んでいるのに、それを雇おうと言うんですかあなたは」

 

「別に情報漏らされても特に困らん。ザンジバーランドかアメリカかどっちかは知らんけど、少なくとも今、君は自分からその話を俺にしようとしてたんだしな」

 

 ハンター君の顔が苦笑からとほほ、といった顔になった。

 

「降参です。強引な人だ、あなたは。仰るとおり、私はザンジバーランド、いえMSFからミラー副司令の命を受け、アメリカの特殊部隊に派遣され、そこからアンブレラの私兵部隊U.S.S.に潜入し、ロックフォート島にて初期の傭兵達の訓練教官をしながら、アンブレラが生産していたB.O.W.について調査をしていました」

 

「……なるほど。で、ルポ達同様、ラクーンシティに投入された、と?しかし君とルポ達は面識はなさそうだったが?」

 

「ええ、私はロックフォート島からフランス支部の警備に回されましたからね。当時、指導していた者で生き残れたのはD小隊のハンク、つまりあなたの部下になったウルフパック小隊のベクターの師匠くらいですが、彼くらいしかもう私を知っている者はいないでしょう。それにしても、私も顔をマスクで隠していましたし、ボイスチェンジャーも使ってましたから、まぁ、バレないでしょうね」

 

「ふむ。で、ラクーンシティから逃げて来た時はビジネスマンに化けて、か?」

 

「そうです。もうその時には契約期間が終わってましたし、ちょうどアメリカだったのでそのまま。ですが、アメリカの派遣先が、生存者の保護をしろと言い始めたのです。で、裏から彼らを守りつつ、脱出に協力していたのですが……。まぁ、あとはご存知の通りです」

 

「アメリカねぇ。いや、MSF関連だとは思っていたが、アメリカの特殊部隊に部下を派遣していたとはな。というかやはり対アンブレラ絡みで手を組んでいる、と?」

 

「ええ。と言ってもお飾りの大統領以下、現在の政府与党はアンブレラと蜜月を繰り広げてましてね。ですが、まぁ、腐ってもアメリカ、彼らの知らぬ所で国家と国民に忠を尽くす兵達はいるのです」

 

「……なるほどな。で、傭兵の君はどうするんだ?というかウチに残って働いてくれるのか?」

 

「あの、ですから私は傭兵ですよ?戦場しか知らない。戦うことでしか生きる意味を見いだせない男ですよ?」

 

「知らん。いいか、俺の有り難い説教をくれてやる。『生きてる意味なんざ生きてるうちには絶対にわからねぇ。死んでから誰か別の奴が勝手に結論づけて語るもんだ。だが、他人のそれが必ずしも正しいわけじゃねぇ。つまりは、人間が生きる意味なんざ誰にもわからねぇんだ。考えるだけ無駄だし、それよりも仕事して飯食ってたまに遊んで寝て、また仕事してた方がよっぽど自分と世の中のためになる。わかるか?戦場しか知らないなら、他がわかるまでやってみろ。そのうちおいおいわかるようになるからよ?」

 

「……なんて強引な論法ですかそれは」

 

「世の中の真理だ。自分の手は血にまみれてる、とか言うなよ。血に綺麗も穢いもねぇんだ。人間の歴史の中でどんだけの人間が戦って生き抜いて血を残してきた?殺し殺され、それでもその子孫の俺達は生きてるんだ。だからといって俺達は悪か?それとも戦争に勝った、それで善か?いいや、それは先祖にただ罪をおっかぶせてるだけだ。俺達は、これからの人生でいろんな事をやらかしていくだろう。だがな、罪は自分だけのものだ。先祖にも自分の子にも渡しちゃなんねぇんだ。だからこそ、お前はお前で別の生き方も模索しなきゃならねぇんだよ。いいか、ここで自分の身に新しい生き方を叩き込め。それでお前は胸を張れるようになる。俺は戦場以外も知ることが出来たってな。自分の子供に、未来の奥さんにな。だから、ここで働け。俺が道を示してやる!わかったな!!」

 

 俺の爺さん直伝、力業『わかったようなわからないような事を言って、とりあえず人生に迷ってそうな奴を勢いだけで説得する術』発動!!

 

 だいたい70%の奴はこれで圧倒されてイエスと言う(俺調べ)のだ。後の30%?大抵、ノーと言うよ?(ダメじゃん)。あと、真に受けた奴は大抵、何でこうなった!とか後で言い出すけど、ドンマイ!

 

「……ええっと、わかるようなわからないような。とは言え、まぁ良いでしょう。確約は出来ませんが、あなたとザンジバーランド側との交渉が上手く行けば、おそらく私はここに留まる事になるでしょう。まぁ、状況次第で、どうなるかはわかりませんけど」

 

 よし、力業成功だ。

 

「おお、そうか!いや、それならよろしく頼むよ」

 

 うむ、事務の戦力は欲しかったので、これはありがたい。……まぁ、MSFのバリバリの傭兵を事務員として使うのはどうなんだ?と言われればアレだが、まぁ、そっちに関しても多分コイツは助けてくれるんじゃねーかな、良い奴っぽいし。なんぞと思っておく。

 

 とりあえず、もう一本タバコを口に咥え、そしてハンター君にも差し出して。

 

「ええ。……しかし、いいのですか?もっと聞きたい事があるのでは?」

 

 ハンター君は俺のタバコにも火をつけてくれた。

 

「ん?いや、話したいなら話してくれ。だが君にも立場があるんだろ?」

 

 お互い、ぷはーっ、と煙を吐き出しつつ。

 

「……はぁっ。あなたは抜け目が無く強引な癖にやたら人の事情を考慮する。それでは情報戦に勝てませんよ。一つの情報が戦況を左右する事もあるのです」

 

「ふむ?では何か戦況を左右するような情報をくれるってのか?」

 

「……勝てませんね、あなたには。俺が言える事はそう多くはありません。俺の名前は『フランク・イェーガー』です。コードネームは『グレイフォックス』」

 

 ああ、なんだ、名前のことか。しかし『鉛の狐』とはまた渋いというかなんというか。しかし狐というとキタキツネ物語とか昔あったなぁ。

 

………懐いた狐は、犬よりも可愛いのだぁ!!って、いや、そうじゃない。

 

「ふむ、なるほど。ではハンター君じゃなくてイェーガー君と呼べ、と?」

 

「いえ、出来ればハンターで。一応偽名ですから」

 

 いや、わかる奴にはすぐバレるだろそれ。まぁ、わかるようにしてあるのかも知れんけど。

 

「わかった。で、あとは?」

 

「アンブレラの新型B.O.W.についてです。これはあなたにとって重要な事でしょう。……アンブレラのネクストタイラント計画は事実上、廃棄されました」

 

「ほう?つまり俺のクローンは造られなくなったって事か?」

 

「そういう事になりますね。あなたのクローンは二つの実験施設で計二体作られた模様ですが、どれも必ず暴走し、造った実験施設が例外なく完全に破壊され壊滅しています。そのうち一体が施設の自爆で消失、もう一体に関して、偶然MSFの工作員が潜入していた施設でしたので、その一部始終がレポートとして報告されてます」

 

 ハンター君はジャケットの内ポケットから折り畳み式の最新型と思われる携帯電話……に見せかけた、おそらくはi-DOROIDの進化型と思われる通信機器を取り出し、立体投影式の映像を俺に見せた。

 

 そこには、俺ソックリなタイラントがおそらくは撮影者に話しかけている様子が映し出された。

 

『君は自分のような者にも恐れず、親切にしてくれた。だから助けたが、ここからは俺はもう必要無い。君は君のその仲間と脱出しろ。研究施設にあったウィルスや自分のオリジナルの遺伝子は全て消失した。あとは自分が消えれば感染源はなくなるだろう。さようなら『スナイパーウルフ』」

 

『止めなさい!行くな!『カリギュラ』きっとあなたに巣くうウィルスを駆除する方法があるはずだ!!そんなこと、許さないぞ『カリギュラ』、行くなぁぁぁっ!!』

 

『……ウルフ、止めろ。クラーク博士でもウィルスの駆除はまだ無理なんだ。奴は、ここの人々の為に自分の命ごとウィルスを消滅させる覚悟をしたんだ。奴は……戦士なんだ』

 

『レイヴン!あんただって、カリギュラに助けられたんでしょ!!あいつを助ける方法がきっと、いつか見つかるはずよ!!死なせるなんて、カリギュラぁあっ!!』

 

 火山の火口に、俺のクローンはゆっくりと進んでいく。焼けた岩肌が、その足を焼き、じゅおぉぉぉっと激しい煙を上げる。

 

 レディウルフと呼ばれた女の叫びが聞こえるが、振り向きもせず、カリギュラと呼ばれたタイラントはその足どりをゆるめることなく、その身を燃やすマグマの中へと入り、沈んで行った。

 

 激しく燃えるその身体はいつまでも、いつまでも炎を上げ、そして溶岩はそれすらも飲み込んでいった。

 

 プツン。

 

 映像が途切れる。

 

「……俺の分身ながら、なぁ。いや、分身なれば、か。ザンジバーランドに俺が駆除薬のサンプルを送っていれば、助けられたのか……?」

 

「それはわかりません。ただ、彼『カリギュラ』と呼ばれた個体を失った『スナイパーウルフ』は本国に帰った後も意気消沈して仕事が手に着かなくなっているとか。とてもややこしいですが、まぁ、オリジナルの存在については彼女には言わない方が良さそうですね」

 

「……俺をオリジナル呼ぶな。というか、ややこしくなりそうだからそれが良いだろう。好意的に思われても逆に嫌われてもかなわんからな」

 

「……とはいえ、ネクストタイラント計画は凍結されたのは確かなのですが、しかしあなたの凍結された生殖細胞はアンブレラの手の中です。……あなたのクローンはその一体だけでも基地を壊滅させる戦闘能力を持ち、さらには五メートル級の黒人ベースのタイラント『ヘラクレス』を容易く撃破、装甲列車砲台『ベテルギウス』を破壊し尽くし、多頭の大型の蛇のB.O.W.『ヒュドラ』、怪鳥型B.O.W.『ルフ』を叩き落とし、と、もう神話の英雄ですか、と言うほどの脅威ですからね」

 

「……なにその昔のハリウッドのコマ送りムービー的な冒険活劇。つーか俺のクローン凄すぎるだろ、おい。しかもラストが火山に入ってって俺より格好良すぎだろ」

 

「ザンジバーランドのシギントが、報告と映像を見て、『こいつは映画化すべきだ!こんな血湧き肉踊るようなアクション!そして涙無しでは見れないこの彼の最後!!感動しかねぇよ!!』と…… 」

 

「……やめてくれ。多分、クローンが生きてても嫌がる。俺が保証する」

 

「まぁ、そう報告しておきましょう。それはさておき、あなたの凍結生殖細胞の事です。まだMSFもアメリカも掴んでませんが、おそらく近日中に運ばれた所は判明するかと。あなたのクローンやもしくは息子、娘が製造されていたなら、そしてもしもその個体が『カリギュラ』とは違い、理性を破壊されていたならあなたの戦闘能力が必要です。それに、新型のウィルスの存在も報告されてますので、それについても『白陽社』のワクチン技術が必要となるでしょう。……社長、戦いの準備をお願いします」

 

 ハンター君はそう言い、ポケット灰皿を出すとタバコの火を消してそこに入れた。

 

「俺対俺、か。どっかのB級映画みたいだな。だが、他の女との子はややこしいから、クローンのが、なんぼか家庭に波風立てんで良いかもしれねーけどなぁ」

 

 こうして、俺とハンター君との話は終わったが。

 

 あちこちに盗聴器を仕掛けているエイダにこの会話は聞かれており、あとで色々と揉めたことは付け加えるべきであろう。

 




・自分の知らんところで分身が活躍してたよ平凡さん。

・フランク・イェーガー(事務主任)。

・レディウルフさんとバルカンレイヴンさんが、知らんとこで活動していた、という。

・なお、クローンが火山に入って消滅したのは、ち○こ切り取られてた事に絶望したから、というのは内緒だ。あと、暴れたのはスメル・センスで悪人の臭さに耐えられなかったからだ。



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閑話~オカマと暴君~

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

溶岩に入って死んだ軟弱なボスクラスのB.O.W.はそんなにおらんのよねぇ、バイオでは。

モーフィアスがオカマなド○ンジョポジになっている、という。また、設定があんまし無いキャラなので、その辺を創作して弄ってありますが、まぁ、オカマやし?後々、ガンサバでT.S.化するし?


「ノサーップ岬でじーさんが~カリギュラ~カリギュラ~♪」

 

「……なんだ、この歌は」

 

 『カリギュラ』は目を開けて周りを見回そうとして、自分がいるこの場所が暗闇で閉ざされている事を確認してうんざりした。

 

 彼はアンブレラの施設を壊滅させ、全てのウィルス兵器を消滅させ、そして最後には自分の身体にあるT-ウィルスごと焼却するために火山の火口に入って行ったのだが……。

 

(自分が生きている……だと?)

 

 忌々しい事に今の状況は、クレイドルと呼ばれる調整槽にかつて自分が繋がれていた時に酷似している。

 

 おそらく、自分は死にそこない再びアンブレラに回収されてしまったのだろう。

 

(あの火山の溶岩の超高熱でも死ねなかっただと?!)

 

 ギリッ、と忌々しそうに歯を軋ませるカリギュラ。 

 

「ノサーップ岬でばーさんも~カリギュラ~カリギュラ~♪」

 

……つか、この歌なんやねん。じーさんもばーさんも知ったことではないが、なんかめっさ腹立つわ。

 

「あ、目が覚めたようね、カリギュラくん。ん~、バイタル安定、脳波もいい感じねぇ」

 

 なんかキモい、オネェ的な口調で唄っていた奴が、

 

「ボヤクノフ、カバーをお開け!」

 

 と、何者か……おそらくボヤクノフという名前なのだろう……に命じ、

 

「アラホラさっさーっと!」

 

 ポチっ、とわざとらしい音とともに調整槽の金属の覆いが外れた。

 

 そして円筒形のガラスだけになる。そしてガラス越しになんか、ケバい化粧をした男とも女ともわからぬ、長身の男と、それよりやや背が低い出っ歯のずる賢そうな男と、ややずんぐりとした筋肉質でやや乳がデカい女の三人組がカリギュラの前に立っていた。

 

「あたしはモーフィアス・D・デュバル。アンブレラ本部の主任研究員よ。まぁ、あなたの命の恩人ってワケ。んふふふふふ」

 

 声からすれば、男である。ルネサンス期の貴族のような服の上から白衣を羽織っている男がそう名乗った。

 

 その隣の緑のスーツ姿の出っ歯男が、

 

「あー、ズルいズルいわー。私とトンズレアが回収してきたのに!」

 

 とか言い、

 

「そうですわ、そうですわぁ!」

 

 と、紫のタンクトップにカーゴパンツの筋肉女がムホホームホホーっ、と鼻息を鳴らす。

 

 おそらく、平凡さんが見たらド○ンジョ一味かな?と思ったかも知れないが、カリギュラにそんな知識は無い。

  

「うっさいわね、あたしは頭脳労働、あんたらは肉体労働!」

 

「ギャラはモー様のが上じゃない!」

 

「しどいわしどいわ!」

 

 非常にやかましい。

 

 イラッと来たのかカリギュラが

 

「うるさい。貴様等良くも要らぬ事をしてくれたな?……そんなに滅びたいのか貴様等は」

 

 と言うのもしかたあるまい。というか非常にウザい。

 

 ギロリと睨みつけると、真ん中のモーフィアスと名乗った男以外、つまりボヤクノフとトンナレアはヒィィッ!と縮み上がったが、腕を組んだモーフィアスは平然としており非常に含みありそげに笑い、

 

「命は大事よぉ?あたら粗末にしちゃいけないわぁ、カリギュラちゃん。もちろんあたしらは滅びるつもりないんだけど、ちょっと話だけでも聞いてくれないかしらぁ?」

 

 鼻にかかったオネェ的な口調で言った。

 

「……ふん。命を弄んで天然自然の摂理をねじ曲げ、哀れな怪物共を生み出すキサマ等が何を言う。キサマ等の愚言に惑わされぬ。アンブレラは滅びよ」

 

 カリギュラはグググッと腕に力を込めると、腕の拘束具がバキッと外れる。

 

「あーあーあー、まだ調整槽から出ない方が良くってよ?全身重度の火傷と、欠損した左腕も再生中、ち○ことタマタマちゃんもまだちゃんとくっ付いて無い状態だから……」

 

 透明なテクタイト封入ガラスを割ろうとしたカリギュラがピタリと止まる。

 

「……ち○こ?玉……?」

 

 カリギュラは製造されたときに男性器を切除され、生殖能力を奪われている。それゆえに絶望し、また怒り狂ったのだが……。

 

 自分の下半身を見て彼の分身が確かにそこにある事を確かめ、目が驚愕のあまりクワッ!と見開かれた。

 

「……なんと?!」

 

「んふふふふ、奴らは廃棄せず、そこから新たなB.O.W.を造ろうとしてたんだけど あたし達がちょちょいと盗み出してあなたに返したってわけよ。あなたの大好きな『例の傭兵ちゃん』もビックリモッキリな雄々しい逸物が今出ちゃったら取れちゃうかも知れないわよぉ?……で、話聞く気になった?」

 

「……盗み出した?どういう事だ?」

 

 モーフィアスは肩を竦めて自分達の境遇を語った。

 

 曰わくモーフィアスは元々、スペンサーやマーカス、アシュフォードの三人がアンブレラを立ち上げようとしたときに融資した資産家達の家系の一つデュバル家の傍流の長男であるらしい。

 

 デュバル家はヨーロッパにおいて大銀行を営む財閥であり、未だにアンブレラ社に融資を行っているのだが、このモーフィアスはそのアンブレラ社を監視する為に一族の長老であり、財閥の当主にアンブレラに送り込まれたらしいが、スペンサーがやらかしたマーカス殺害に端を発するラクーンシティでの一連の事件の調査結果をデュバル家の当主に送った為、命を狙われる事になったと言うわけである。

 

「ぶっちゃけ、デュバル家は先代のアシュフォードと親好があって融資してた所があったんだけど、スペンサーには貸しはあっても借りも恩義も無いのよねぇ。そりゃあ、アンブレラには儲けさせてもらった所もあるけど金融はシビアよ」

 

「で、それと俺のち○こを盗み出して戻した理由は何だ?」

 

「……せっかちね」

 

 ふう、とモーフィアスは溜め息を吐き、肩を竦めてつまらなさそうに言った。ある種、この男は美形ではあるがオネェ的な仕草がやたら様になっており、非常にキモい。

 というよりもワザとやってんじゃないか?と思うほど仕草がウザい。

 

 モーフィアスは紫のルージュで塗った唇を鋭くし、息をすうーっと吸うと、

 

「最大の理由は、あんたみたいな並みのB.O.W.を遥かに超える戦闘能力と並みの天才を超える超頭脳を持った存在をこれ以上アンブレラに造らせないため!もう一つは、あんたをザンジバーランドに引き渡して、デュバル家がザンジバーランドと金融やらなんやら……まぁ、私には実家の思惑なんてどうでもいいんだけど!……関係を結ぶ口実にしろ、とか実家から命令されてんだけど、いい加減アタシももう家とかそういう政治的な思惑とか駆け引きとかウンザリしてるからそんな事ほっぽりだして、ザンジバーランドに亡命する材料としてあんた連れて行こうって思ってんの!」

 

 だーーーっとまくしてた。

 

「……お、おう」

 

 オカマのこういう、オネェな半ギレ調に慣れていないカリギュラは、なんだコイツと思いつつも勢いに押されてそう言うしかなかった。

 

 ぜぇーはぁー、ぜぇーはぁー、と息を切らすオカマ、もといモーフィアス。

 

「つまり、ぶっちゃけ、あたし達、ザンジバーランドに亡命しようと思ってんの。あんたにも悪い話じゃ無いと思うのよ。……あっちのクラーク博士はマッドサイエンティストって話だけど、大丈夫、彼女を抑えられる人物とコンタクトをとってあなたの身の安全は保証してくれたから」

 

「……自分の身にあるT-ウィルスを彼女の国に持ち込むわけにはいかぬ」

 

 モーフィアスの言葉に、しかしカリギュラは首を横に振った。しかしモーフィアスは笑って、

 

「今ザンジバーランドにはあなたのオリジナルが開発した治療薬があるわ。で、あなたの治療も出来る。そのクレイドルの中にいる限り、ウィルスの拡散は無いし、そのまま投薬も出来る。ウィルスから解放されるのよ、あんたは」

 

「ウィルスを駆除、出来るのか?というか俺のオリジナルとは、何者なのだ。T-ウィルスを造りだしたアンブレラですら対象を殺さずにウィルスを治療する薬剤を持たない。これは俺もデータベースでも確認している。それを造りだせる人間……。よほどの天才に違いあるまいが?」

 

「……薬学の世界では、天才と言われている男よ。耄碌したスペンサーは、その怒りを受け、とんでもない不死身の巨人を敵に回してしまったのよ。姿も貌もあなたと同じだって話よ」

 

「……自分と同じ?つまりこの身と同様の姿のB.O.W.にされた男が自分のオリジナルだと?」

 

「そういう事よ。でも、会わない方があなたとオリジナルのためよ。同一の存在が出会えば、多くの場合はろくな事が無いって、昔から相場が決まってんのよ」

 

「……一卵性双生児の存在でそれは否定出来る、というのが現在の論説のはずだが?まぁ、人の心理には自分は詳しくない。何にせよ、ウィルスを駆除出来るならば、ザンジバーランド行きに文句は無い」

 

 何にせよ、カリギュラはザンジバーランド行きを了承した。問題の全てが解決するならば彼にとっても悪い話ではなかったからだ。

 

 ち○こが戻り、さらに感染拡大の危険も無くなれば、カリギュラのカリギュラはカリギュラ出来るのだ。平さんのタイラント君より、多分カリギュラのカリギュラ君はハッスルカリギュラになれるはずだ。

 

 わけわからんけど。

 

……もっとも。女性に対してヘタレな遺伝子を持つ彼がスナイパーウルフに対して果たしてカリギュラ出来るのかどうかなど、誰にもわからない。なにしろウィルス云々より、ち○こが無いことで悲観していたくらいだから。

 

 それに、マッドサイエンティストのクラーク博士が実験材料である彼を見逃してくれるかどうか、という問題があったりするわけだが、まぁ、それも不明と言うものだろう。

 

 しかし、これだけは言える。

 

 おそらく、一番不幸なのはエメリッヒさんところの息子さんだろうが、とはいえこの物語の彼は、スナイパーウルフさんと出会う未来線が無いハルなので、まぁ、いいか、と書いてる人は思ったりなんだり。

 

「よぉし!ザンジバーランドに向かうわよ!……D.D.便で」

 

「アラホラサッサー!」

 

……というか、お前ら宅配便で行くんかい。

 

 と、言うわけで、オワレっ!




 モーフィアスは美しい世界に自分が君臨するという変態キャラでしたが、この物語では彼の美意識をマトモな方面にして、しかしオカマにする事にしました。

 まぁ、後々T.S.化するんですけど、少しこの物語での立ち位置がガンサバのモーフィアスとかなり変化します。


 なお、ボヤクノフとトンズレアの二人はオリジナルで、影は薄いけど、ようするに某ド○ンジョ一味のあの二人がモデルです。

タイムボカンシリーズ、大好きだったんですよ。ボヤッキーの全国の百万人の女子高生のみなさーん!ポチッとな、の名セリフがもうリアルで聞けないのが悲しいです。八奈見乗児さんの御冥福をお祈りいたします。

なお、冒頭のアレは、フニクリフニクラの節でどうぞ(この替え歌を知っている人がどんなけいるか不明ですけど)



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共闘まであと数日~キツネさん情報。

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

凍結性細胞、やはりモー様がくすねてた。

グレイフォックスさん、声の人的になんか平凡さんのところの、いわゆるオセロット的な立ち位置になりつつあるような。

タイラント君?今日は出番なし。ぬくぬくラブラブなだけだよ?




 

 エイダから説教を食らって時間を食い、その後研究施設でミラー外相に渡す大量の水虫薬(おそらく彼の部下の人とかも水虫だろうから、そういう人達へのお土産用も含む)や、エヴァ夫人用の美肌美容液やら保湿クリーム、美容洗髪エキス配合のシャンプーとコンディショナーなどの詰め合わせも大量に造ったり(やはり他の女性達へのお土産用含む)、隣の医療施設棟でフォーアイズの診察を終えてカルテをつけていたらバーサに絡まれ、息子の凡太郎はアダルトなのかショタなのか、というアホな事を言い出すのでルポに言いつけ、フルメタルジャケットばりのランニング2キロの刑に処してもらい、その後、ようやく自室へと帰ってきたわけだが。

 

「おかえりなさい……アナタ、寝るぅ……?むにゃむにゃ……」

 

 いや、そこはおまえ『食事になさいますか、お風呂になさいますか、それともワ・タ・シ?』でしょがな。

 

 俺の自室で待っていたのはナスターシャだったわけだが、とっくに彼女は俺のベッドの上で半分以上夢の中にいた。つまり、俺を待ってたのはいいが、眠気に勝てず、たった今、寝落ちしたとこである。

 

「……ぬぁ~むわ~たむぁごぉ~」

 

 今、生卵とか言わんかったか?

 

……いや、ひょっとしたら彼女の母国語での寝言かも知れん。志村○んと研ナ○コのコントではあるまいし、外国人の彼女がアレを知っとるわけはないだろうからな。

 

 次にお前は『あかぁむぁむし~ぃ』と言う!

 

「……くか~すぴぃ、むにゃむにゃ……」

 

……いや、言わんかそうか。しかし典型的な寝息じゃのう。

 

 しかし寝とるならむしろ俺には好都合というものである。

 

 疲れてんだよ、なんぞと言うとまるで倦怠期の夫婦のようだが、ナスターシャもそれは ご同様なのだ。今日の作業リストを見れば、魚雷挺の修理と貨物運搬用の改装、手術用高出力レーザーメスの製造と『黒曜丸』に搭載するための小型薬剤製造プラントと医療設備の製作……

 

……俺より働き過ぎじゃねぇか。肉体労働すげぇぞおい。

 

 凡太郎が手伝っているとはいえ、いや、あの子だって俺に準ずるパワーを持ってるとは言えまだ生後ひと月ちょっとやぞおい。

 

 休ませねばならんだろう。マジでナスターシャも凡太郎も働き過ぎだ。……俺も人のことは言えんけどな。

 

 ナスターシャが寝返りした。タオルケットから腕……いや、デカいおっぱいがモロリして、ナスターシャが全裸なのがわかった。

 つーか、全裸待機しとったんかい、この娘は。つーか南国とはいってもここは海の上で、夜は冷えるぞ。まったく、よだれまで垂らしてからに。

 

 仕方ないわねぇ、と俺はおかーさん的な気持ちで手付きで優しく、幸せそうに寝こけているナスターシャに、起こさぬようにパンツを履かせてパジャマを着せて、タオルケットをしっかりかけてやった。

 

 デカいこの身体だが、繊細な作業はむしろ昔よりも得意になっている。寝た娘さんに気づかれないように服を着せるなど朝飯前だ。

 

 ああ、平和やのう。

 

 寝ているナス太郎は安全であり、また服を着ていればパーフェクトに安心だ。

 襲われる心配もない。つーか昨日の今日なのだ。ナスターシャの身体に俺のタイラント君は負担が大きいのだ。というかなぁ、やっぱりサイズ的に初めての子には大きいと思うのよなぁ。

 

 女体の神秘という神話じみたものより、俺は現実の医学というものを重んじる立場なのだ。

 性欲よりも理性を。そして俺の遺伝子を増やすと人間社会がどうなるかという問題すら考えちゃうんだよねぇ……。

 オジサンは辛いんだよ、なぁ、タイラント君よ。これなら童貞オジサンのままでいたかった!つか、あんな気持ちの良いことを知ったら、そらなぁ……。

 

 眠っとるナス太郎に目を向ける。

 

「んにゃんにゃ……ひひーん、という事がしたーい!うまぴょいぴょい……すぴょぴょぴょ……」

 

 むぅ、なんつう寝言だ。俺の愛妻が夢でぴょいしとるげな。……ダービー馬かな?

 

 しかし幸せそうな寝顔だよなぁ。うんうん、つーか、君のせいだからな。全く、人の気も知らんと。

 

 おい、タイラント君も落ち着きなさい。今日は出番ねーからな?

 

『……そーなの?(シュン……)』

 

 うむ、我がタイラント君は素直で俺の言うことを聞く子である、って、ち○こと心で会話してどうするよ俺。

 

 しっかし、俺のサイズに合うゴム製品って、どっかで売ってんのかなぁ。

 家族計画は大事だからな。ぬぅ、クレアの兄貴のクリストファー氏と俺のサイズはだいたいおんなじくらいという話だからあるとは思うんたが。

 

……そんな事を考えていると、俺のi-DOROIDに文字だけのメールが送られてきた。

 

 ハンター君からである。

 

 なになに……?

 

《グレイフォックス:夜分すみません。社長起きてらっしゃいますか?本国から情報が来ました。あなたのクローンの生存と凍結性細胞の行方についてです》

 

……カリギュラ、生きとったんかいワレェ。

 

《←返信:なに?クローンは生きてたのか?》

 

《グレイフォックス:あなたのクローン『カリギュラ』は火山の火口にて瀕死の状態で回収され、治療を受けながら現在、ザンジバーランドに搬送中との事です。……ややこしいことに生殖器を再び戻した状態で……》

 

《←返信:……なに、生えてきたのか?ち○ことタマ○ン再生したんか?》

 

 脅威のT-ウィルス生命体。まさか、ち○こが進化して触手みたいなウネウネ動きまくったりトゲトゲ生えてたりそんなんになっとりゃせんだろな。

 

 つーか、そんなんで女性の傭兵達をうねうね襲ったりくっころな目に合わせて、ち○こなんかに負けない!というのを屈辱の中で快楽に堕したりするのか?つか、それなんて妖獣シリーズ(PC98時代のエロゲ)?

 

《グレイフォックス:さすがに再生するわけは無いとおもうのですが……?というか、社長のは切られても再生するんですか?》

 

《←返信:再生してたまるか。つーか、したら怖いだろ》

 

《グレイフォックス:ですよね。どうもアンブレラは性細胞採取の為にクローンの局部を保管してたらしく、内部協力者がそれを盗み出して彼に接合したようです》

 

《←返信:そうか。流石に再生しないか……。しかし内部協力者?ふむ……そんな真似をするとはアンブレラの研究員、それも接合する暇を考えれば幹部クラスかエリート研究員……女かはたまた男か。どんな顔でち○こを股間にくっつけたんだろうな?》

 

 出来れば若い女の子の研究員が顔を赤らつつ恥じらいながら、しかも、ぎこちない手でちんこを扱いつつ、股間に戻すの希望。しかも、ツンデレ気質で、もうお嫁に行けないじゃないの、責任とりなさいよ、的なシチュとかあってもいいと思うの、おぢさんは。

 

《グレイフォックス:……そうやってアンブレラ内部の協力者の情報を得ようとするの、やめて下さい。今はその協力者について教える事は出来ません。ここから漏れることは無いでしょうが、彼もしくは彼女の身を危険にさらしかねませんから》

 

……ただのジョークなのに、ハンター君は俺がその協力者の素性を探ろうとしていたと勘違いしたようだ。うーむ、そんなに俺は抜け目の無い奴みたいにおもわれてんのか?

 

 というか、こうやってメールでやりとりしてるのも、俺が要らんことを察知するのを防ぐためなんだろうなぁ、真面目な奴め。

 

《←返信:単なる好奇心だ》

 

《←返信:しかし確かにややこしいな。俺から採取されたモンだけでなく、クローンのそれから俺由来のB.O.W.を造りかねん……いや、もう造ってたとかはないか?》

 

《グレイフォックス:ええ。とりあえず確認されていない、と、アンブレラ側の協力者から報告されてます。まず、信用できるかと》

 

《←返信:そうか。……しかし、カリギュラが誰か女性と恋仲になって子供こさえたらややこしくなるな。遺伝子検査で調べたら俺の子供に間違えられかねんな。いや、双子の兄弟んとこの子、的に扱えればなんとか……って、親父共の手前、そうもいかんか……》

 

《グレイフォックス:ああ、そういう問題もありますか……。考えが及びませんでした。しかし、あなたと生活圏が離れていれば、大丈夫でしょう。なお、協力者達は『カリギュラ』と、そしてあなたの凍結性細胞と共にザンジバーランドへの亡命を希望してます。本国は受け入れる決定をしましたよ。……もっとも、その協力者が持っている凍結性細胞以外にもアンブレラはどこかの施設で保管している可能性がありますが……》

 

《←返信:……世の中、広いようで狭いもんだぞ?特に対アンブレラ活動なんざワールドワイドになって来るんだ。しかも俺みたいなのが二人といてみろ。どっかで話題になるだろうよ。まぁ、仕方ないとは思うがな。……しかし、そいつらが持ってる以外にも保管されてんのかよ。……そいつらが持ってる俺の凍結性細胞に関しては、元々は俺のモンだ。俺に権利があるはずだな?そんなもん、ティッシュペーパーに包んで焼却処分しろ。んなもん残すな》

 

《グレイフォックス:……社長、それは無理というものです。あなたの遺伝子はある種、人類のさらなる進化を示唆する物の一つ、そのように『クラーク博士』は考えています。そんなものを、少年期のチョメな感じで出してしまったアレのように……》

 

《←返信:んなもん、若い頃に大量に捨ててきたわい。燃えるゴミの日に出してことごとく焼却処分じゃ。つーかな、ウィルス兵器による奇形のような変化は正当で真っ当な進化じゃねぇ。それを進化の形態と認めるならばスペンサーのボケジジィの妄想を肯定する事に他ならない。俺の細胞だ、権利は俺にある。燃やして廃棄しろ。百歩譲って、カリギュラが子を誰かと こさえるっつーのは奴の意思、それは尊重するがな、俺の知らない所で、俺の責任の及ばんところでガキを増やすな。俺と嫁にも家族計画っつーモンがあるし、嫁以外の女との間に子供が出来てみろ、家庭の危機だぞ、そんなんどーしてくれるってーんだ?》

 

 まぁ、卵子提供者が俺に惚れるというのはまず、有り得ないとは思うけどな。しかし、ナスターシャという例外がいる以上、マジでわからんし、何より造られた子供を思うと、心情的にいろいろと、なぁ。

 

《グレイフォックス:……わかりました。そうですね、それについては『ビッグボス』に進言させていただきます。彼ならあなたの意見を肯定するでしょうし、『クラーク博士』も彼に言われれば止めるでしょう。……しかし、カリギュラが子を作る事には反対しないというのは意外でしたが、それは何故ですか?》

 

《←返信:カリギュラは、俺じゃない。言わば一卵性の双子の兄弟のようなものだ。奴は、俺とは違う人生を歩み、そして奴だけの経験を積んで行く。兄弟が誰と結ばれて子を成してもそれは兄弟の人生だ。俺に止める権利なんぞ無い。だが、言っておくぞ?奴の性細胞も勝手に実験材料にするんじゃねぇぞ?奴の子供もだ。……奴も暴れるだろうが、そん時ゃ俺も加わってやるぞ?》

 

《グレイフォックス:……伝えておきます。ええ、とっくにクラーク博士もカリギュラの戦闘データを見てますから、それがダブルで暴れまくるとなると、さすがに考えを改めるでしょう。それに、ザンジバーランド、いえ、『ビッグボス』と『ミラー副司令』は、あなたとの提携を重要だと思ってます。あなたの怒りを買うような行動は厳に禁じられていますので、その辺、ご安心下さい、社長》

 

《←返信:頼んだぞ?ハンター総務課主任。俺としてもザンジバーランドとは仲良くやりたいと思ってんだからよ。対アンブレラの立場的にも、商売相手としてもよ?》

 

《グレイフォックス:ははは、ザンジバーランドは良くも悪くも軍事的なものは進んでますが、文化的……特に、女性用の美容関係の物資は今までさほど出回ってません。白陽社の商品はおそらくヒットするかとおもいますよ。まぁ、アラビア辺りやインド辺りからは入って来つつありますが、カザフの首都には遠く離れてますので……。ああ、そうだ。社長。私にも、妹と彼女用に分けてもらえませんかね?妹には長らく留守にしていて寂しい思いをさせてますし、彼女にも何か贈ってやりたいと……》

 

《←返信:わかった。椿オイル配合のやつと、金木犀オイル配合のやつを二本ずつやる。この前試作したやつだがエイダとかナスターシャの評判が良かったから悪く無いと思うぞ?》

 

《グレイフォックス:ありがとうございます。花の香りのシャンプーですか。ええ、二人が気に入りそうです。では、また明日。おやすみなさい》

 

《←返信:おう、明日も仕事だぞ。早く休めよ。おやすみ》

 

 メール通信が終わり、俺はi-DOROIDのスイッチを切った。

 

……ふーむ、しかしクローンが生きてたのもそうだが、ち○ことタマ○マが戻ったか。なんか、女傭兵……『スナイパーウルフ』とか言ったっけか?うまく行くと良いがなぁ。ウィルス駆除薬も治療薬もザンジバーランドに結構な数を送ったから、治療は出来るだろうしな。

 

「ふーむ、甥っ子か姪っ子かが兄弟に出来るのもすぐかもな」

 

 会うことも無いだろうが、俺はなんとなく、カリギュラという自分のクローンに対して双子の弟のような感情を持っていた。

 

「……へぇぇ。クローンが出来てたの。で、ザンジバーランドに行くのねぇ」

 

 座った俺の後ろから、そっと回される手。なんかいい匂いが近くでするなー、とか思ったらナスターシャである。

 

「うむ。起きちまったか。すまんすまん」

 

 まぁ、さっきから気づいてたけど、気づかない振りをしていただけである。普通の人間のような振りもコミュニケーションには必要というものだろう。

 

 というか、ぶっちゃけ背中に当たるおっぱい好き、というだけである。

 

 あー、布越しに、あー、やわらけぇやわらけぇ。

 

「……なるほどなるほど、ハンター君はi-DOROID持ってんのね。で、MSF製っと。で、アナタ、クローンを一卵性の双子のようなものって思ってるのね。ふむふむ……。まぁ、SFの世界じゃオリジナルとクローンの対立とか反目とか敵対関係になるって話は多いけど、クローンの猫とかの実験じゃ、普通に兄弟姉妹の関係に落ち着くらしいからねぇ」

 

「そんなもんだろ。遺伝子が同じでも経験や生きる場所が違えば同一性もクソも無い。そんなもんだろ?」

 

「そんなもんかもねー。でも、私にはアナタがアナタよ。凡太郎のパパで、私が大好きなアナタ」

 

 ん~、と言いつつ背中にスリスリしてくる辺り、ナス太郎はやはり小動物系よなぁ。まぁ、身長170センチあるけどな。

 

「ん。まぁ、兄弟にもなんか好きな奴がいるらしいし、その恋の成就は祈っておいてやろう。俺の凍結性細胞の行方の一つはわかったし、廃棄させるようにも言ったから、まぁ、心配事の一つは潰せた。……アンブレラが保管している分は現状ではどうにもならんか……」

 

 俺は前を向いたまま、手を後ろに回し、

 

「ほれほれ、明日も仕事だぞ。早く寝よう。うーむ、お前の部屋と俺の部屋も、そのうちパーテンション取って一続きにせにゃならんなぁ。行き来が面倒だから、不便だろ?」

 

 と、やや名残惜しいが、離れるようにナスターシャを促す。

 

 俺の自室とナスターシャの部屋は、壁を挟んで裏と面であり、ナスターシャが俺の所に来るには、ぐるーりと回り廊下を回って来なければならないし、俺が行くときも同じだ。

 

 幸い、ここは構造上、壁のパーテンションを外してスペースを繋げられるようになっており、多少工事の手間がかかるが、一続きにする事が出来る。

 

「凡太郎(ネメシス)と川の字で寝れるようにせんとなぁ」

 

 離れたナスターシャの方に振り向くと、よいしょっと抱っこしてやり、俺はベッドへと寝かせて、その横に寝転がった。

 

「ほいほい、ぬくぬくして寝ような。南国とはいえそろそろここらも気温が下がる時期だ。海の上は冷えるからな」

 

 タオルケットを引っ張ってかけてやると、俺とナスターシャはくっついた。まぁ、腕枕はしてやれない。俺の腕が太過ぎて向かないのだ。

 

 まぁ、それでも。

 

 やっぱ、二人だと暖かいのだ。あーぬくぬく。

 

 




この二体のタイラントのみでしか……(以下略)。

『カリギュラぁぁぁっ!!』『平凡さぁぁぁん!!』『はいだらぁぁぁぁっ!!』

『南極へ行くのか、エイダ』『くっそ寒いから私は行かない!!中南米サイコーっ!!』

……というネタを考えてました。いや、アヌビスネタですなー。

まぁ、ZOE、もう新作絶望的なんよねぇ。





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共闘まであと数日~インターミッション。ヤザン大統領の過去

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

今年もあとわずかですが、酒があれば書いていきますのでまたよろしくお願いします。

ヤザン大統領の過去。そして、ある意味、『あの人』関連だった件について。……オリジナルキャラだったのに!(ねつ造ですけどね)。セイ!ピース!


 朝、ヘリでヤザン大統領がやってきた。

 

 ザンジバーランドのマクドネル・ベネディクト・ミラー外相を迎える為の設宴の打ち合わせ、という名目で、である。

 

 まぁ、おそらくは『今回の絡繰り』の説明に来たのだろう。そうでも無ければ彼の奥さんと一緒に戦艦エメラルダで来ているはずであり、おそらく奥さんやエメラルダ大佐に聞かれたくない話なのだろう。

 

 俺はいつものようにニヤニヤして話したげにしている大統領に、

 

「……で、ヤザン大統領。あんた俺に言うこと、ないですかね?いろいろと隠してる事、あったでしょうが」

 

 と、促した。

 

 ヤザン大統領は仕方ないなぁ、と、おどけた調子で肩を竦めると、

 

「ふむ、もうバレたか。まぁ……表向きの話しか出来ない時もあるんだよ。特に奥さんいたり無線だとねぇ」

 

 と、芝居がかった口調でやや苦笑いをした。

 

「よいしょっと」

 

 そして、応接室のテーブルの椅子に座り、ジャケットの内ポケットから銀色の葉巻ケースを取り出し、やや細い葉巻を出した。

 

 大理石の来客用に用意している高そうな灰皿……これはここのテーブル一式を調達した時に家具屋にオマケで付けてもらったものだ……にシガーカッターでジョキっとその先を切り落とし、口に加えてライターで火を付け、煙をもわーっと吐き出すと、

 

「……まぁ、ぶっちゃけ、私とビッグボスは長いつきあいでね。出会ったのは随分も昔のことさ。もう二十数年ほど前になるのかな。最初に会ったのはコロンビアのサンヒエロニモ半島……まぁ、今もあの辺の詳細な位置は地図にも乗っていない場所だよ。当時はまだ私は若造でね。……私はソ連の兵士だったのさ」

 

 と、何てこと無いようにとんでもない事実を告げて来たもんだ。

 とはいえおそらくは過去の話、もうソビエト連邦は無く、そしてヤザン大統領が何らかの陰謀を俺に持ちかけてくるような嫌な臭いも無い。

 

「こちらの暮らしが長くて肌が黒くなっていたからわからなかっただろう?」

 

 ニヤリと笑うも、

 

「いや、ロシア人なのはわかってましたけど?」

 

 いや、モロバレだろ。ソ連の兵士だったのはわからんかったけど。

 

「……あ、そう(´・ω・`)」 

 

 いや、そんなショボンとされてもなぁ。そりゃ顔と体型、あとは 話口調にロシア語の訛りが少しあるのだ、そら わかるわなぁ。

 

「というか、少しは驚いてくれたまえよ。まったく君と来たらまるで何でも見透かすようだからな。つまらんよ」

 

「いや、つまらんと言われてもね……」

 

 このオッサンはどうも人を担いで驚かせようとする所があるが、何だかなぁ。

 

「で、それとザンジバーランドの件がどう繋がって来るんです?」

 

「……本当に君は驚かないどころか慌てる素振りも見せないね。まったく。まぁ聞きたまえ」

 

 はいはい、そんな事は良いからとっととゲロってくれ。

 

「私の昔の名前はヨシフ・アレクセイ・ザドルノフ。ヤザンは妻の姓だよ。そう、私は婿養子でね。今、名乗っている『ジョシュ』は私の名前の『ヨシフ』をこちら風にしただけなんだよ。私はね、シベリアの生まれでね。家が貧しくて、末の子だった私は軍に入るしか生きる道が無くてね。それでも軍に居れは飯は食える、そう思っていたが……まさか遠く離れた地で餓えるとはおもわなかったさ。ソ連はコロンビアで我々を見捨てたんだ」

 

 ヤザン大統領は目を細め、しみじみと語った。

 

 彼の話によれば、キューバ危機以降、ソ連はキューバへの核兵器施設の建造を諦めたように見えたが、しかしアメリカ全土を射程圏に狙える基地の建造自体は諦めていなかったらしい。

 ソ連は秘密裏にコロンビアのサンヒエロニモ半島に核兵器施設を建造しようとし、彼の部隊もまたそのコロンビアに移動させられたとのことだ。

 

 しかし、アメリカもソ連も冷戦を続けるための莫大な資金を捻出し難くなり、緊張緩和の末にサンヒエロニモ半島の秘密基地建造を放棄したらしい。

 

 だが、米ソの合意に不利となるサンヒエロニモ半島の秘密基地の存在は公にしてはならぬとソ連はなかったことにしようとした。つまり、ソ連本国はそんな基地など知らない、一部のタカ派が勝手にやっていた事だ、として、現地の兵士達を帰還させるどころかスケープゴートにしようとした、とヤザン大統領は言った。

 

「見知らぬ土地、合わない気候、風土病にさらされ、満足な物資も食糧も元々送られては来なかったが それでも祖国のためと我々は必死に懸命に任務に従事していた……。だが、祖国は我々を見捨てた。捨て駒にしたのだよ。そんな中でアメリカのCIAから離反してきたという特殊部隊の連中が取り引きをするために接触してきた。奴らは『兵士の為の国を創る』と言い、サンヒエロニモ半島の基地跡を自分達で完成させようとした。プランを廃棄されていたソ連製の核兵器を接収しそれを抑止力として独立国を創るのだと……。我々もそれに加担した。祖国に見捨てられた我々にはそれしか生き残る術はなかった」

  

 胡散臭いどころではなく、非常に信用出来ないとヤザン大統領はその特殊部隊の連中、特にリーダーだった男に関しての印象を語ったが、なんでも声で人を煽動する能力というのか、術を持っていたらしい。

 

「ああ、本当に胡散臭い、だが、厄介な奴だった。なんというかこう……『ぶるぁぁぁぁっ!』とか言いそうな感じでな」

 

……いや、絶対そのリーダーのCV、某若本さんやろそれ。

 

 胡散臭いと思いつつも、彼は風土病に罹患し、自分の部隊の仲間、マラリアになった者や下痢が止まらない部下の治療の為他のソ連兵のリーダー達と話し合った末、その若本的な人物に手を貸すことにしたのだそうだ。

 

 しかし、その連中は、CIAから離反して来たと言うには潤沢な資金、豊富な物資をやたらと運び込んで来たり、人材も優秀な者達を連れており、特にリーダーである若本……いや、ジーンの部下には特Aクラスとも言うべき兵士達が揃っており、これはアメリカの何らかの陰謀に加担されているのでは、と当時のヤザン大統領は恭順する振りをしつつ探ったそうである。

 

「で、探ってたらヤベー情報掴んじまったのバレてとっ捕まった(笑)」

 

「いや、(笑)じゃねぇよオッサン」

 

 おっと、思わず心の声が漏れて一国の大統領を思わずオッサン呼ばわりしちまった。俺は、慌ててすみません、と謝ったが、クックック、とヤザン大統領は笑い、

 

「いやいや、私も堅苦しいのはあまり好きじゃない。オッサンで良いさ。まぁ、本当にヤバかったんだよ。『スネーク』、つまり後の『ビッグボス』が助けてくれなけりゃ、御陀仏だったよ。まぁ……そこから彼らの仲間になってね。とはいえそこからも大変だったんだよ。何度死にかけたかわからないほど危険な目にこれでもかっ!!とあったさ。いや、本当にね」

 

 ヤザン大統領の言う、サンヒエロニモ事件は実際のところ、キューバ危機よりも数段ヤバい事件だったらしい。何故なら……。

 

「なんせ、本当に核を撃ちやがったからね、連中は」

 

 何でも、大陸間弾道核搭載型戦車メタルギアRAXAなどという物をロケットに積んで打ち上げ、そしてそれにより核攻撃をやらかそうとしたらしいが、打ち上げ時にソ連・アメリカ関係無く、兵士達がそれに攻撃を加えて阻止したらしい。

 

 なんつうこったよ、本当に。

 

「阻止出来なけりゃ、核戦争に突入していたからね。みんな必死で、ありったけの武器をぶちかましたのさ。おかげでみんなまだ生きてる。いや、本当に良かった良かった。……まぁ、その一件でまた米ソ関係は微妙になり、緊張緩和にも影響は多少出たがお互い様って事で不問にしたらしい。……もっとも、我々は放置されたまんまだったがね」

 

 その後、ソ連兵達はアメリカに受け入れられたり、それを拒否して傭兵になったり、皆、思い思いの所へ向かい、別れていったらしい。 

 

「……そうしてその後ビッグボス達と別れた私達は、自分達の拠点を出て行ったんだ。ある者はニカラグアの反政府ゲリラに、ある者はアメリカに渡り、ある者は南米へ、そして私は紆余曲折あったが、この国の政治家のボディガードになったんだ」

 

 その政治家は、後に彼の義父となった前政権の大統領だった、という。

 

「……まぁ、ちょっとした仕事で結構な金が入ってね。気が大きくなって、この国じゃ当時、高級だった洒落たバーに入ってね。バーにいた綺麗な女の子をナンパしてね。翌朝、ホテルで起きて、その女の子が裸で俺の隣に寝ていたんだよ。しまったって思ってももう遅い。この中南米の大物政治家の武装した部下が俺の部屋に乗り込んできたんだよ。……で、簀巻きにされて、船に乗せられて、もう少しでサメの餌になるところさ。……女の子がモーターボートで助けに来てくれなけりゃ、本当に食われる寸前だった」

 

 ヤザン大統領はズボンの左足をまくって、

 

「ほら、そん時サメに齧られた傷がこれさ」

 

 と見せてた。すんげー齧られてんじゃねーかよ、つーか、まだ、そん頃大統領じゃなかっただろうけど前の大統領怖すぎやろ。つーか中南米の政治家って……。

 

「……マジで、サメの歯型ですね、これ」

 

「いや、妻には本当に助けられたよ。 キラーイ=クリストバル・カービン銃をサメにぶっ放し、モーターボートに私を乗せると今度は自分の父親にそれを向けて、『この人を殺すなら、私が許さないわよ!』と怒鳴りつけて、父親の乗ったクルーザーに乗り込んで行ってね……。ははははは、それで、なんか結婚させられる羽目になったんだよ、はははははは」

 

 キラーイ=クリストバル・カービンはキューバ革命時のチェ・ゲバラの愛銃として知られる自動小銃である。当時、中南米ではチェ・ゲバラにあやかってそのライフルを持ちたがる兵士が多かったとかなんとか。

 

「……マチルダ夫人って、その頃から軍に?」

 

「いいや、我が国には当時、軍隊は無かったのさ。だが、彼女は国境警備隊だったのさ。まぁ、ぶっちゃけ軍の必要性はみんなわかっていたし、義父は骨抜きになってしまった自国を憂いていた。彼女だってそうさ。とはいえ、義父は自分の娘に戦闘訓練を受けさせた事をその時に後悔していたよ。無論、酔ってたとはいえ、そんな女をナンパして一夜共にしてしまった私も後悔した。……で、陸に上がって逃げようとしたら、彼女、私のケツにおもきしぶちかましやがった……」

 

 ほれ、とカチャカチャとベルト外してズボンを下ろし、ケツを見せてくるヤザン大銀行。

 

 いやいや、見せんでええがな!つかズボン脱ごうとすんなオッサン!

 

 あーあーあー、ケツに銃弾受けた痕が。つーかオッサンのケツなんぞ見たくなかったわ。

 

 ショットガンウエディングというのはたまに聞くけど、それは女の子の父親が娘を傷物にした男の所へショットガン持って責任とるか死ぬかより二択を突きつける行為である。しかし、父親は殺す気しかなく、娘がクリストバル・カービン持って父親と男に突きつけて結婚かますというのはどうなんだろーね?

 

「だが、人生とは不思議だよ。シベリアで口減らしに軍隊に入れられた私が政治家の元で働かされ、結局、その夜の行為が元で娘が産まれてできちゃった結婚させられたんだよ。何度も何度も死ぬかと思った事もあったが……。カリブの海岸でビッグボスと再会したときには彼も驚いていたが、すげー笑われたよ……」

 

 そうして、ヤザン大統領はまた奇妙な縁で『ビッグボス』と共に共通の敵と、しかし『ビッグボス』とはこれまた別の角度で戦うこととなった……ってオッサンパンツ戻せよ、というか前を向くな、うわ、大統領の大統領をポロンすんな。

 

 あー、やっとズボン直しやがった。

 

 『ビッグボス』は戦場で、ヤザン大統領は政治家だった義父と共に政治的に、核をこの国に持ち込ませる手引きをした当時の大統領と政権を徹底的に叩き、また間接的に『ビッグボス』とその仲間の活動を支援した。

 

「……しかし、まさかねぇ。ソ連にいたはずの私の兄がKGBのスパイとして『ビッグボス』と接触していたとは思わなかったよ。……しかもあんなクソ野郎になっていたなんてね。なにが、コスタリカ国連平和大学の教授のラモン・ガルベス・メナ、だ。まんまロシア人顔の癖に。まったく」

 

 いや、あんたもそうだから、とツッコミを入れた方が良いのだろうか。とはいえ、ヤザン大統領はまだ肌の色のおかげでまだ一風変わった感じの中南米人で行ける感じはする。

  

 なお、ヤザン大統領の一番上の兄であるヴラジミール・アレクサンドロフ・ザドルノフが手引きした結果、ビッグボスとその仲間達はこの洋上プラントを根城に活動することとなったらしいが、このヴラジミールという男はKGBの工作員であり、やはりソ連の陰謀は続いていた、とかヤザン大統領は忌々しそうに言っていたが、とはいえその辺の情報はビッグボス達に直行で渡したそうである。

 

「……兄弟の情が無かったわけではないが、あの男はもう人間としてすでに取り返しのつかないところにまで行っていた。せめて兄弟として私の手で殺してやりたかったが……」

 

 結局はヤザン大統領の兄は自業自得で自滅したのだそうだ。とんでもない国家的な陰謀と共に。

 

「……で、その後、またビッグボスはこの国でも核危機と戦う事になってね。まぁ、彼もとことん核と戦う運命にあったようだ。本当に彼の運命に関わると途端に私も忙しくなってね。義父と妻と共にこの国に核を持ち込ませるその手伝いをしていた当時の政権、その元凶と戦った。アメリカやソ連の風見鶏、売国政権を倒すためにね。そうして勝利し、私の義父が民主的な選挙で次の大統領になったってわけさ」

 

「……なるほど」

 

 うーむ、元MSFなのでは無いか、と俺は思っていたが、しかし年代がどうにも合わなかったのだ。特に娘さんの年齢とMSF設立の辺りの年代が。

 

「まぁ、それからも我々の付き合いは続いたよ。今でもね。……我が国はね、彼らにアメリカが持ち込んだ核を押し付けてしまったんだよ。ビッグボスもサンヒエロニモ事件でもうウンザリしていたが、他に持って行きようが無かった。で、最後には全て背負って彼らは出て行った。彼らの商売的にもう、この辺りに拠点を置く必要が無かったのと、様々な事件でここには居たくなくなったのだろうね。引き上げ時として良いタイミングだったと彼は言ってくれたが……」

 

 要するに、アメリカがこの中南米に持って来た核の処分に中南米政府は困っていたのをMSFが引き取って管理していた、というわけか。

 

 そして、アメリカや諸外国からの圧力がどんどん強くなり、また中南米での傭兵ビジネスも頭打ちになって彼らは戦場をアフリカやアフガンなどに変え、その拠点へと移って行った、というのが真相のようである。

 

「なるほど、つまり奥さんが彼らを追い出したというのは?」

 

「ああ、それはミラー君の発案だよ。当時 中南米軍は発足したばかりでね。経験も実績も無かった。だから世界に名高いMSFを追い出したともなれば箔がつく、とね。他にも理由はあるが、そういう事さ」

 

 まぁ、そうなんだろうなぁ。

 

「……君は、日本のハチマンを潰して乗っ取る計画を立てているようだが、やはり日本に帰るのかね?」

 

「ビザとか切れる前に帰らなければなりませんが、そういう事じゃ無いですよね?そういう意味じゃ帰りません。ハチマン買収は昔の仲間の為ですよ。アンブレラの罪状が世に出ればどのみち今のハチマンが潰れるのは目に見えてます。そうなれば先代からの恩義で残って来た優秀な連中がアンブレラと関わりも無いのに社会の敵のように言われ、路頭に迷う事になります。なら早く潰して彼らを救おう、ってわけですよ。先代も自分のせいで子供同然の社員達を路頭に迷わすのは不本意でしょうからね」

 

 そう、俺がハチマン製薬を潰し、買収しようとしているのは何も現社長や幹部連中憎しでやっているわけではない……わけでもないが、そんな連中よりも罪の無い元同僚や研究者達を助ける為である。

 

 アンブレラがやっている事は必ず公の元にさらされるだろう。だが、それによって昔の仲間達が無実の罪で世間から糾弾され、路頭に迷う事は避けたい。なんせ、元々、ハチマン製薬は蚊取り線香とか殺虫剤とか作ってた会社なのだ。

 

 ある意味、俺が水虫薬を開発するために作り上げた技術、その俺の特許を無視してそれをアンブレラに提供したアホ共が悪い。

 

 あのラクーンシティのアンブレラの地下研究施設にあった調剤機械は、あれは俺の製薬特許によって作られたものだ。俺には良くわかる。なんせあれは俺の製薬特許の元で先代社長と製薬機器会社のミナモト精機の社長と一年かけていろいろ企画を立てて造ったもののコピー品であり、ミナモト精機の知らないところで造られたものだというのはわかっている。

 

 それにアンブレラの通常の薬品工場でも調査の結果、俺の特許を侵害しているのはわかっているし、それを使わなければ作れない薬品を大量販売しているのもな。つうか、その辺、ハチマンのアホ共は法とかそんなん無視して懐に金をわんさか入れとったわけだ。

 

 つか、アンブレラはその辺確認しとらんかったんやろかのう。法関係はしっかりしとるイメージあったけど、案外アホ過ぎるよなぁ。規約規定はキッチリと法規定に従ってこっちは、ちゃんとやっとったのに見とらんとはなぁ。

 

……とはいえ、その辺でかなり大きな隙があったので俺はそこを突けるわけなんだが。

 

「……ふむ、なるほど。確かにな。君が良ければ我が国に帰化しないかね?いや、ぶっちゃけ言うがウチの娘、エメラルダと結婚して私の後を継いで次代の大統領にならんかね?」

 

「……いえ、無理です。もう妻も子も居ますし、大統領なんて無理」

 

 うん、これは本心だが、エメラルダというのはあの、ゾンビコワいブルブル筋肉ムキムキオムツネキのことだよなぁ。つか彼女と結婚なんぞしたら、性癖拗らせそうで怖いわ。オムツプレイとか腹筋ぷるぷるプリンプレイとか、C.C.レ○ンプレイとか、いろいろ想像出来てやばいぞ?

 

……いや、そんなん考えとる俺が一番やばいか。

 

「……え?」

 

 ヤザン大統領が鳩豆な顔をした。

 

「いや、ほら、凡太郎……ネメシスを息子と認知しましたし、その母親のナスターシャと結婚する事にしたんですよ。幸い、彼女も了承してくれましたし。だから、大統領の娘さんとは結婚できません」

 

 実際に了承したのは俺の方なんだが、やはりそういう事にしておいた方が対外的にはよろしい。

 

「ぐぬぬぬぅ、先を越されたか。いいや、今からでもザンジバーランドに加盟して一夫多妻制にすればワンチャンあるかぁ?!そして私はネイトちゃんを第二夫人に……妻が烈火の如く怒り狂って軍事クーデターを起こしかねんか。はぁ~、うまくいかんもんだなぁ」

 

 いや、国民の意思とかそういうのをもっとさぁ。独裁国家じゃねーんだから、ここは。つーか、夫婦喧嘩で軍を挙げてクーデターする奥さんって怖いがなおい。

 

「いや、なにどさくさで自分が第二夫人もらおうとしとんですかあんたは」

 

……ネイトちゃんって誰だよ、多分風俗のねーちゃんだろうけど!

 

「というか私は日本人止めるつもり無いのでどのみち無理です。それに娘さん、エメラルダ大佐の気持ちを無視して親が決めるのは良くないですよ?」

 

「うーむむむ、長女は片付いたし、次女はもう相手見つけてるんだけどさぁ、ほら、末娘は女軍人だけの船に乗ってんじゃん?相手なかなか見つからなくてさぁ。パパ心としては、悪い虫つく前にちゃんとした相手をさぁ……」

 

「いや、俺、B.O.W.ですよ?ちゃんとしてるどころか一般から見たらバケモンですやん」

 

「……あ~、そういやB.O.W.か。でも君は普通の人間よりもよほど人間だよ。とはいえ、B.O.W.というのを差し引いても君は有望株じゃん?特許を差し止めするだけで、アメリカ経済、ヨーロッパ経済にめちゃくちゃ震撼させとるよ?つか昨日の新聞みた?」

 

「いや、ここ、新聞来てないですから」

 

 海の上まで届けてくれるような新聞屋さんなんぞ無いのだ。それに新聞が溜まると処分に困るし?つか燃えるゴミの方が海上では困るときがあるのだよ。

 

「今、世界中のメディアが君に取材したいって言ってんよ?オファー凄すぎて君が入院している事になってる病院なんてもうかなり迷惑しとるんだからね。病気の療養中だとストップかけさせて、君の療養先を別のどこかに変えたって事にしといたけど、そろそろなんかコメントでも出してもらえんとね。ほれ、この日本の新聞なんか『彼は病気で脳になんらかの異常を来して正常な判断が出来ない状態に陥っている可能性がある~~~中略~~~彼は愛社精神に溢れた人間で本来離反したり、このような事をする人間じゃない』とかハチマンの今の社長がコメントしとるよ?」

 

「……ふむ、ハチマン動乱、その余波はアンブレラにまで、ですか。しかしなんですな 久しぶりにアホボンの顔見ましたが、吐き気が出ますな」

 

 アホボンとは現ハチマン製薬の社長の事である。今時30代でロン毛、オーダーメイドの肩パッド入りのスーツに高級な金時計という、あからさまにアホの成金な格好である。つか、バブルの時のホストじゃあるまいし。

 

「……愛社精神ねぇ。正直、彼が言うとそれほど寒々しい言葉は無いねぇ。まぁ、この路線で事を進めるならとことんやりたまえ。ああ、ザンジバーランド側から打診があると思うけど『腕っこきの法務官』をアドバイザーに貸し出す用意があるそうだよ。ハチマンはもう詰みだが、この調子でアンブレラの奴らをもっと引っ掻き回してくれるとありがたいね」

 

 ぱさ、ぱさ、ぱさっとヤザン大統領は世界各国の主要な会社の新聞をいくつもアタッシュケースから取り出すと、ニヤニヤ笑って、

 

「いや、本当に君、時の人じゃないかね?」

 

 と、言った。

 

 新聞の一面には大抵、アンブレラへの特許差し止め関連の話題だらけだった。

 

 ふーむ、ラクーンシティに絡めた記事が全く無いのがなんとも気にくわない。

 

「ふむ……。ちょっと、アンブレラをつつくようなコメントでもしておきましょうかね。……幸い、ウチには現役の新聞記者と良い医者がいますしね」

 

 俺もニヤリとヤザン大統領に笑ってやった。

 

 

 なお、後にシーナ島事件と言われる一件の後、元ラクーンシティプレス社の有名新聞記者アリッサ・アッシュクロフトによる 、俺への単独インタビューと医師であるハミルトン先生による治療を受けている俺の写真を掲載した新聞がNYの新聞社を通して世界に大々的にばら撒かれた。

 

『ラクーンシティの悪夢~アンブレラによる人為的ウィルス災害~薬学者ヒトシ・タイラ氏、病床にて語る』

 

 まぁ、悪乗りしてわざと古い八ミリのビデオカメラで、いかにも病床の俺が喋っているといった映像も撮ったのだが、それが世界中でアンブレラの脅威を喧伝するとは思っとらんかった。

 

……まぁ、案外アンブレラ壊滅は早まるかな?と。

 

 

 




・ザドルノフさんの弟だったヤザン大統領、というのはこの物語でのねつ造です。なお、歳を取って兄そっくりになってきたという。

・悪乗りで、アンブレラを追い詰めるきっかけを作るという……。

・なお、ヤザン大統領、娘を嫁がせる事を諦めたようで諦めてません。


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共闘まであと数日~ミラー外相とエヴァ夫人来訪。

いつも感想&修正等ありがとうございます。

・来ちゃったよ、カズが。あとエヴァが。

・平凡さんの、少し重い過去。まぁ、いろいろあったんですよ、彼にも。


日が変わって、ミラー外相達の乗るザンジバーランド籍の大型貨物客船『アウターヘヴン』は直接、このプラントへとやってきた。

 

 元は1万6,000トン級の捕鯨母船になるはずだったというだけあり、こうしてみるとかなり大きいが、もはやどこが捕鯨母艦だったのかわからないほどに改造され、見たこと無いけどタイタニックというのはこんな感じの船だったんじゃないかと思うほどに、豪華客船じみていた。

 

 無論、こんな大型な船を接舷するようにはウチのプラントは出来ていないためアウターヘヴンはやや離れた場所に停泊し、船上のヘリポートからミラー外相達を乗せたヘリが飛び立ち、プラントのヘリポートに到着。

 

 その中から、4人の男女の兵士と思われる者達がまず降りて来て、その次にミラー外相とエヴァ夫人と思われる人物が降りてきた。

 

「ミラー君!久しぶりだな!いや、君も今や一国の外相か!……いやぁ、ザンジバーランド建国おめでとうございます、だな!よくもまぁ、スネークを大統領に出来たものだ。彼の事だ、すごく嫌がっていただろう?」

 

 ヤザン大統領が、まずミラー外相の方に寄り、声をかけ、握手をする。がっちりと手を握りあう二人はまるで信頼しあう仲間のそれである。

 

「ヤザン君、ありがとう!スネークは頑なに首を縦に振らなかったんで、選対に推薦枠を作ってみんなで推薦したんだよ。まさかスネークも大統領選挙に推薦枠なんぞ作るとは思わなかっただろうからな。で、ちょうどいろいろと海外での仕事もあったから推薦するだけ推薦して逃げて来たんだ、ははははは!」

 

 してやったぞ!とミラー外相は不敵かつ満面の笑みを浮かべるが、それは悪戯が成功したガキ大将そのものであり、またヤザン大統領もそれは同様である。

 

 どうやらジョン・ジャック・シアーズ大統領が初心表明演説で言っていた、全部カズが企んだ、とは事実だったらしい。ヤザン大統領の後ろでミランダ夫人が『全くこの連中は……』と言った感じで笑顔をひきつらせていたのでおそらく昔から彼らはいろいろと企んでやらかしていたのに違いあるまい。

 

 エヴァ夫人と思われる女性は、おそらくは彼女のお付きの女性の一人とヘリから小さな男の子を降ろしてやっている最中で、もう一人のお付きの女性はヘリ上にいる金髪の中年女性が降りるのに手を貸していた。

 

 俺達、エイダとナスターシャの横にいるルポが子供と中年女性の方を見て安堵の息を吐いた。あれがルポの子供と例のセシールおばさん、いや、セシール教授なのだろう。

 

「ははは、君らしい!しかし君の判断は正しいと私は支持するよ。あの国の初代大統領は彼でなければならない。……ところで、そちらの方がビッグボスの奥方だろうか?」

 

 エヴァ夫人らしき人物が、ルポの子供とセシール教授をつれてきたタイミングでヤザン大統領はエヴァ夫人の方を向いた。

 

 エヴァ夫人はヤザン大統領に一礼して、

 

「ええ、第二夫人のエヴァ・シアーズと申します。第一夫人のパス・オルテガ・シアーズから、お二人の事はかねがね聞いておりますが、ええっと、こちらはお知り合いですよね?セシール・コジマ・カミナンデス教授、そしてこちらの職員のお子さんです」

 

 にこやかにそういい、周りを見回すとルポを見て、ルポの子供に

 

「ほら、あの方がお母様かしら。お母様の所にお行きなさい?」

 

 と母親の所に行くように促した。すると子供は、

 

「ママーっ!」

 

 と一目散に走り出し、ルポに抱きつきわんわんと泣いてしまった。経緯が経緯である。誘拐事件に巻き込まれてやはり怖かったのだろう。

 

 ルポがミラー外相とエヴァ夫人に礼を言おうとしたが、しかしエヴァ夫人が手でそれを制して、

 

「礼は良いからその子を落ち着ける所でしっかり抱きしめてやって頂戴。出来ればちょっと軽いものをとらせてあげて。その子、ずっと泣いて怖がって、なかなか寝なかったし、食べ物もあまりとってくれなかったのよ」

 

 ルポは判断を仰ぐように俺の顔を見たが、エヴァ夫人の言ったようにさせるのが良いと俺は思った。何より子供が来たらルポには下がらせるつもりだったからだ。

 

「ルポ、食堂のスープか何かをあげてくれ。今日はお子さんに着いていてあげてくれ。事件の後なんだ。それに久しぶりに会えたのもあるからね」

 

 あまり周りの評判は良くないが、俺はにっこり笑ってそういった……ら、なんか俺を見てルポの子供が余計に泣いた。ギャン泣きである。

 

「……あー、うん、泣かしちゃったかー」

 

「社長、あなたは自分の姿と特に顔が怖い事をもっと客観的に捉える必要がありますわ。というか笑顔がゴゴゴゴゴ、とか唸りの擬音を発してます」

 

 エイダが冷たくそういい放つ。

 

……唸る笑顔ってなんだよ、漫画かよ?!

 

 とツッコミを入れたかったが、世界のVIP、一国の大統領夫人とその国の外相の前なのでできなかった。

 

 つか、ルポがものすごく申し訳無さそうにしてペコペコしながら子供を連れて行くのに、

 

「いや本当、怖がらせてごめんよー」   

 

 と手を振ってやるくらいしか出来ない。

 

 ちくせう、なんかこの秘書は最近俺にやたらと毒舌をかまして来やがるな、おい。

 

 くすくすくす、と俺の方を見てよほど可笑しかったのかエヴァ夫人が笑う。

 

「いえ、笑ってすみません。ヤザン大統領、この方が?」

 

「ええ、彼が白陽社の社長、ヒトシ・タイラー社長です。彼はその、容姿はこうですが、人としての仁義や恩義に厚く、私にとっても中南米にとっても信頼できる新しい友人です。……まぁ、あの子もきっとわかるでしょう。何しろ彼はここにいる子供達に大人気のスーパーヒーロー『キャプテン・タイラント』ですからね」

 

 数日前の国境近くで撮影した戦闘記録を見たのだろう、ヤザン大統領もクックックと笑いながら言った。というかその笑い方は悪意しか感じんぞオッサン。

 

「まぁっ!スーパーヒーローもおやりになってるのですか?」

 

 目を丸くしてわざとらしくエヴァ夫人が驚く。これは演技だ、間違いない。

 

「……いえ、国境近くでちょっと。その、子供達の娯楽が少ないので……なぁ?」

 

 と、ナスターシャに話を振るが、それがいけなかった。

 

「ええ、とても格好良かったんですよぉ!もう、私の夫は世界一って感じで。息子もいつかパパみたいに強くなるんだ!ってはしゃいでました……って、すみません、申し遅れました。私はヒトシ・タイラーの妻のナスターシャ・ロマネスカヤ・タイラーと申します。エヴァ夫人とミラー外相にお会いできてこうえいですわ」

 

「おや?タイラー社長は妻帯者だったのですか。いえ、ヤザン大統領からは独身だと聞いていたので、これはやはり夜に街に繰り出して男同士の友情を育もうと思っていたのですが……」

 

 ミラー外相がそう言った途端、ミランダ夫人が目をつり上げた。

 

「……ミラー外相。ウチの亭主もそうですが、皆さんそれなりに地位も得た人達です。昔の若い頃のような遊びは控えるべきでは?」

 

 ギロリ睨むとミラー外相がなんか小さくなった。ついでにヤザン大統領も。

 

「ハイ」

 

「無論、私は関係ないぞ?というかそんな計画は知らなかったよ」

 

 計画と言っている辺り、バレバレだろうオッサン。

 

「というかミランダ夫人もおかわりなく、いやいやハハハハ……」

 

 まぁ、若い頃に彼らはおそらく中南米の街に繰り出してオネーサンのいるような店に行って遊んでいたのだろう。そして、ミランダ夫人に見つかってコッテリ怒られていたのだろうなぁ。

 

「しかし、お子さんもいらっしゃるのですか。いま、何歳です?」

 

「……ちょうど2ヶ月ですね。とはいえ立ち話もなんですので……。ヤザン大統領、場所を移しませんか?少し潮風が強くなってまいりました」

 

「ああ、そうだね、タイラー社長。ではミラー外相にはまず診察……だったかね?」

 

「おお、是非お願いします。エヴァ夫人はこのままヤザン大統領とミランダ夫人の方へ」

 

「ええ。ヤザン大統領、ミランダ夫人、よろしくお願いしますわ」

 

 エイダが先導し、セシール教授がどっちに行けば良いのかと迷ってたがやはり会議室へ、と言われ、四人は会議室へ向かうことになった。

 

 そうして、プラントに二人のVIPをお通ししたわけだが……。まぁ、ヤザン大統領がお連れしたエヴァ夫人が俺に、

 

「……タイラー社長、あなたの新たな『子供』についての情報があります。また後ほど」

 

 そう言って、ニヤリと笑って行ってしまった。

 

「……新たな……子供?」

 

 ミラー外相は、チッ!と舌打ちし、

 

「あの女狐め。このタイミングで言わなくとも!」

 

 と、歯をギリッと鳴らした。どうやら彼からすれば話す段取りを狂わされたらしい。

 

……なるほど、と俺は思った。

 

 あのエヴァ夫人という人物はなかなかに難儀な性格をしているらしい。つまり番狂わせで人の心を乱し、その隙を利用して人の行動をコントロールしようとする事に長けた、そういう類の人間だ。

 

 以前のエイダにもそういう部分はあったが、おそらくはあのエヴァ夫人はエイダ以上に手練れの女スパイだった、いや、今も現役でそうなのだろう。

 

 なにしろ、俺のスメル・センスでもなかなかに読めない程に複雑な思考パターンを、それもわざと駆使しているのだ。

 

……おそらくはハンター君から俺のだいたいの能力の情報を得て、彼女独自の対処法を編み出して使って来たのだろうな、これは。

 

「……まぁ、予想の範疇です。心穏やかにとは行きませんが。……ナスターシャ、どうもアンブレラの連中はまた俺の子供を造ったようだ」

 

「どうするの?アナタ。いえ、アナタなら救おうとするかぁ」

 

 ああ、我が妻ながら俺の思考をよくわかっているなぁ。……もっとも内心ではどこのどんな女の子なのか穏やかで無い感情が渦巻いているのはスメル・センスに駆使しなくとも俺にもわかるくらいに顔に出ているが。

 

「……俺の血を継いだ子供だ。出来ればそうしたいが、奴らのやり口はいつも腐ってやがるからな。最悪でも親として葬ってやりたい」

 

 そういうと、ナスターシャはやはり複雑な表情をしたが、なんだかんだでお人好しのポワポワちゃんなのだ。

 

「やっぱり、救ってあげたいわね……」

 

 そういう結論を出す。嫉妬よりもそういう答えを本心で出す辺り、ナスターシャは情が深い。

 

……というか、この顔は早く二人目云々とか考えてやがるな、おい。やーめーてーくーれー。

 

 そんな事を考えていると、ミラー外相がやや顔をしかめて真顔で、

 

「……タイラー社長。心中穏やかでは無いと思うが、その件については俺もまだ未確認でな。だが、彼女の情報網は俺の手よりも深く潜り込む。おそらく場所の特定も済んでいるだろうが……。あんたはこの世界で唯一、完璧なT-ウィルスに対抗出来る薬剤を開発出来た天才的な人物だ。出来れば我々としては危険に飛び込ませたくは無い」

 

 と言った。

 

 彼は戦略的な思考パターンを主としているタイプの人間だがその実、発言の裏にも実直なものがあり、好感がもてた。つまり、ミラー外相は俺に好感を持っており、また心配もしてくれているらしい。

 

「ミラー外相。俺の遺伝子を持つB.O.W.を倒せるのは俺だけですよ。無論、クローンの生存の情報は知ってますが、彼は俺じゃない。俺は、どのような結末になろうとも俺の子供は俺の手で救わなければならないと考えているのですよ。そして、それが親の勤めってもんでしょう。たとえ俺の知らない所で産まれようとも、その子供の存在を知ったならば、必ず俺はそこに行かねばならないんですよ」

 

「……あんたは、何故そう思えるんだ?醜悪な姿の怪物にされているかも知れないんだぞ?」

 

「ならばなおさら。理不尽な生を受けて苦しんでいるならなおさら、です」

 

「あんたに責任は無い。アンブレラが……」

 

「そんなこと、子供には関係無いんですよ。アンブレラがどうとか、そういうのはね。子供が思うのは良かれ悪かれ親の事です。何故自分は生きているのか、何故苦しむのか、全て『親』ですよ」

 

「いや、だからといって、あんたに何の関係があるというんだ?あんたにとって、その子は身に覚えも何もなく、ただ遺伝子をとられて勝手に造られたものだ。リスクが大き過ぎるだろう?!」

 

 何故かミラー外相は声を荒げていた。多分、彼には何かしら思い当たる部分があったのかも知れない。

 

「それでも、ですよ。子供は親も生まれる時も選べない。……俺にはわかるんですよ。まぁ、昔の話になりますけどね。……俺は、ずっと母親が嫌いだったんですよ。病気になってから母親は妙な宗教に被れてね。そのクソのような教祖の話を鵜呑みにして、俺に先祖の呪いがお前に取り憑いている、先祖は代々多くの人を戦争で殺してきたから、お前もいつか人をたくさん殺す事になる、その前に教祖様のところに行ってお祓いを受けなきゃいけない。……散々言われましたよ。家の商売の金を持ち出して親父に離婚されてからも、死ぬまでずっとね。……なんて事はない、先祖じゃなくて俺は母親に呪われてたようなもんだった。まぁ、半分は当たってましたかね。ラクーンシティでアンブレラの傭兵だか米軍だか、確かに殺してここにいる。……だが、そんな事はどうだっていいんですがね。俺が子供の頃に俺が欲しかったのは、そんな呪いの言葉じゃない。ただ優しく、そして母に認めて欲しかっただけなんですよ。……俺の子が苦しんでるなら俺が認めて救ってやらなけりゃ、誰が救ってやれるって言うんです。人に仇なす存在になっていたとして、誰が情を与えて葬れるというんです。そんなの親の俺しか、いないでしょう」

 

 俺は、いつの間にか拳を握り、その握力で手の皮膚から血を滲ませていた。

 

「アナタ、アナタっ!」

 

 手から血を流している俺の袖をナスターシャが引っ張る。

 

「……すまん、ナスターシャ」

 

 ナスターシャがハンカチを出してくれたが、手を開くと同時に俺の手のひらはすうっと傷を消して治り、皮膚を再生させた。

 

 ハンカチは必要なかった。

 

 苦笑いし、

 

「バケモノにされた俺には、それしか無いじゃないか」

 

 俺がそう自嘲して言うと、ミラー外相は震えていた。そしてサングラスを取ると、目を拭った。

 

「それが……あんたか。あんたの親としての覚悟か……!」

 

 彼は、泣いていた。何故かはわからない。だが何かしらの共感を持っていたのかも知れない。

 

 俺は、変な話をしてすみません、とミラー外相に謝罪したが、ミラー外相は、いいや、子として親として感銘を受けた、と返してくれた。

 

 ナスターシャは黙ってずっと俺を気遣うようにしてくれ、俺の背広の裾を掴んで離してくれなかったが……いらないことを話してしまった感がなんかパない。

 

 うーむ、手を離してくれなきゃ、頭撫でてやれんのだがなぁ。とはいえ人前で撫でるわけにも行かない。

 

……掴まれるままにしておくかぁ。

 

 医療施設棟へは、もう少し先である。

 




・今年最後の更新ですかね。

・正月は休肝日。

・もうちょい、明るい話になるはずだったんですが、すみません。

・なおネタバレになりますが、平凡さんはバイオの怪しい宗教関連に対して特攻バフかかりまくりになる原因が、母親の新興宗教という……。ロスなんちゃらとか、ミランダ一味に救いはあるのか?という……。

・あー、温泉行きたい。若いねーちゃんしか入ってない混浴で揉みくちゃにされながら癒されたい。

・では皆様、よいお年を。


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正月オマケ編。アンケート付き。

本編とは全く関係ない、使うか使わないかわからないネタ。

皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。




1.『私エヴリン、ベイカーさんちにいるの』のプロローグ。

 

 ジャック・ベイカーさんは水虫であった。

 

 湿地帯の多いこの土地は、未だに水虫が繁殖しやすい地域である。川やら沼やら他のカビも多い。家に生えるカビなどどう掃除しても追いつかないほどであり、地域に住む者の大半が駆除なんぞ諦め、カビに慣れるという道を選んだという感じである。

 

 だが、この足の水虫のこの痒さはいかんともし難く、おさまっている時は良いが湿気の強い時期に来る猛烈な痒みは、流石に忍耐強いジャック・ベイカーといえど耐えられるものでは無かった。

 

 そんなある日、この地域の農場経営者達の集まりで、眉唾な話を聞いた。隣の土地……と言ってもジャックの家から徒歩一時間以上もかかる……の農場の跡取り息子からだ。

 

『なぁジャックさん、あんたも水虫だろう?』

 

『ああ、というかここじゃ珍しくもないだろう。このクソったれなカビなんぞ、みんな持ってる』

 

『……治る薬が、あるんだ』

 

 ニヤリと隣の息子が歯を見せて言う。

 

『嘘こけ。お前がガキん頃から、みんないろんな手で治そうとした。じいさんばあさん、その前の、前の前、ここに移り住んで来たみんな、な。だが、どれもダメだった。潰れたアンブレラの薬にも期待して使ってみたが、あれは酷い詐欺だった。最初は効果あったが、どんどん効かなくなった。水虫なんぞ、治んねーと悟った』

 

『いやいや、ベイカーさん。これを見てくれよ』

 

 隣の息子がスニーカーを脱ぎ、そして靴下をつるんと脱いで見せた。

 

『あんたも俺の足の惨状は知ってたろ?ほら』

 

『なっ?!』

 

 前までこの隣の息子の足は角質化した皮膚のひび割れで、靴下を脱ぐときにもそれが引っかかって、ザリザリっとした音が鳴るほど酷い水虫だったはずなのだ。それが今やどうだ?この何も無い、つるりとした正常な足は!

 

『な?本当だろ?……ほら、ウチの奥の沼に近い所の土地を買ったデカい大男が居たろ?あんな沼地なんぞ買って何してんのかって思ってたが、なんか製薬会社の人らしくてさカビ除菌の研究をしてんだとさ。で、ほら、最近テレビでCMやってる水虫の薬をくれたんだよ。水虫殺せるって入浴剤と軟膏。で、明日から街で会社その薬のキャンペーンやるって言うからさ、水虫で困ってる人が他にいたなら、是非、街にある我が社の『水虫クリニック』を紹介してほしい、ってさ』

 

 隣の息子は、一枚のチラシをジャックに差し出した。

 

 チラシには『水虫治療を諦めた方、諦めずに一度来てみて下さい。チラシをお持ちの方のみ、無料でお試し診断いたします!』と書いてあった。

 

 なんとなく胡散臭いと思いつつ、しかし水虫が治った足を見せられればジャックもやはり、治るんじゃないか?と、思ってしまい、悩んだ末に彼は『ソル・ビアンコ真菌クリニック』に電話連絡し、妻と共に行くことになったのであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

《説明:書いてる人》

 

 まず、パロディのプロットとしては、エヴリンをいかに善意の元に『いぢめ』つつ、救ってやるのか、です。カビ用の家庭洗剤を平凡さんがベイカーさんちに持ち込み、真菌をとことん殺すような水虫薬を渡す事で、エヴリンが弱ってしまい……という。

 

 ただイーサンがカビ人間にされないという部分が出来てしまうので、どうすっかなーと。というかローズが生まれて来ない。ヴィレッジに続かない。うーむ、没かなぁ。

 

……いっそ、イーサンのち○こだけカビにすっかなー←をい。

 

 まぁ、まだバイオ7まで書かなきゃいけないので、いろいろ練ってみますがね。

 

 なお、皆様お忘れかもしれませんか、この物語を書く発端は、イーサンの救済と、タイラント対ドミトレスク夫人のガチムチパンツレスリング、ミランダの鼻の穴になけなしの水虫薬のチューブをぶっこむことです。ええ、続けますとも。

 

 

 




 エヴリンが酷い目にあわされるのは確定なんですが、まぁ、どうせ平凡さんに引き取られる。

 ドミトレスク夫人と平凡さんのガチムチ(ガチガチが平凡さん、ムチムチがドミトレスク夫人担当)パンツレスリングは必ずやります。ええ。


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共闘まで数日~儲け話は水虫治療中に

いつも感想&誤字脱字訂正ありがとうございます。

あけましておめでとうございます(二回目)

というか新年早々に水虫話でええのんか?←をい。

アンケート中につき、とりあえずカズの水虫治療の話を……。

足湯って良いよね……。でもインチキデトックスはダメ絶対!




 

……ミラー外相の水虫は、結構酷かった。

 

 靴下を取る時に、ザリザリッと肥厚化し、ひび割れた皮膚に繊維が引っかかる。足が露わになると剥がれた細かい皮膚がポロポロと落ち、そして独特の発酵臭にも似た、あの、つぅぅぅん!!としたくっさい強烈な臭い。右足の親指と人差し指の間がじゅくじゅくして化膿している俗に言うじゅくじゅく水虫になっており、痛々しい。その上、両方の親指の爪に爪白癬。

 

……おーぅ、水虫ハズァードゥ~。

 

 医務室まで俺について来ていたナスターシャまでその足の惨状に退いていたくらいに酷かった。

 

「……白癬菌感染症、中等度の重より、ですね」

 

 俺はカルテに、部位事の症状を分けて詳細な水虫マップと感染の深さと進行度を表記した。

 

 フォーアイズの診察が終わって医務室に戻ってきたハミルトン先生とナース服のバーサがそれを興味深そげに見学しているが、むぅ、水虫治療なんぞ見られてもなぁ、などと思うも、たかが水虫、されど水虫である。

 

「範囲が広く、踵にひび割れ、爪白癬、右足の母指と人差し指に創傷を伴う白癬菌症」

 

 カルテにそう書き込み、そしてミラー外相の足から落ちた皮膚の欠片をピンセットでプレパラートに入れ、そして顕微鏡で見て白癬菌の種類を特定した。

 

「先生、治るんでしょうか?」

 

 ミラー外相が深刻そうに聞いてくる。

 

「……ふむ、これはアジア型の乾燥した地域に割と良く分布するタイプの白癬菌か。これは生命力も強く感染力も高い。日本の湿度で生えるタイプのものではない。いや、そんなに不安そうな顔しなくても。治りますとも。コイツを滅ぼすには……」

 

 俺は真菌に色を付ける色素をビンからスポイトで取り、慣れた手つきでプレパラートに落として染色した後、抗真菌薬の原液(七番)と書かれたビンを取り出した。ビーカーに入れそれを蒸留水で薄めて、スポイトで取り、プレパラートに落とす。

 

 七番は浸透性を高めた医科用として開発したものであり『ハチマン抗真菌薬7D』と呼ばれていた物に相当する。一般の家庭用シンキンナオールSより効き目が強いが、とはいえ他の抗真菌薬と一線を画しているところは肝臓等の内臓への負担が無く、人体に無害であるところである。

 ただ、白癬菌をとことんまで殺菌し駆逐するが傷薬的な効果はないので、ひび割れや化膿してジュクジュクした傷そのものに関しては別の処置をせねばならない。

 

 で、これで真菌が死ねば七番がミラー外相の水虫に効くと判明するわけだ。

 

 まぁぶっちゃけ、シンキオール配合の薬なら何であれ真菌は死ぬんだけど、このしぶとい奴にはやはり浸透タイプの七番が最適だ。

 

 俺は、顕微鏡の映像をテレビモニターに投影した。

 

「これがミラー外相、あなたの水虫ですが分解・崩壊して行ってるのがわかりますか?」

 

 映像には、みるみるその形が崩れて行っている白癬菌の姿が映っている。

 

「おお!確かに崩壊して溶けている?!」

 

 そうだろうそうだろう、すごいだろ?コレが俺が青春をかけて水虫にもがきながら開発したシンキンナオールだ!ふふふふふ。

 

 俺の思惑はシンプルだ。このミラー外相を治療すれば他のザンジバーランドにいる水虫の感染症に悩む者達も、我先にと治療をしようとするだろう。

 

 そう、それが俺の狙いだ。

 

 この世から水虫感染を無くすこと、それが今も昔も変わらぬ俺の野望なのだ。あと、会社として儲けねば社員の給料が払えねーからなぁ。

 

「これが我が社の主力商品の一つ、シンキンナオールの効果ですよ。さて、ミラー外相の水虫にはこの七番が最も効果的な事がわかったわけです」

 

 自信たっぷりに俺はそういい、そして、さささっと処方箋の用紙に薬の名称と数量を書き、

 

「バーサ、すまないが、この処方箋の薬を大袋に入れて用意しておいてくれないか?後でミラー外相にお出しするから」

 

 バーサにそう言うとラジャー!と彼女は元気良く言い奥の薬品保管庫へと小走りに向かって行った。

 

 意外かも知れないが、バーサは医療の現場ではかなり優秀かつ真面目な態度になる。また、ハミルトン先生やジェンキンス教授からの評価はかなり高い。

 

……これで普段の変態的な少年愛とか無けりゃあなぁ。

 

 いや、今はそれは置いておこう。

 

「さて、とりあえず処置をはじめましょうかね。まずは……」

 

 俺は水虫治療用の新兵器を取り出した。これはナスターシャ謹製の試作型の新商品、超音波振動と空気ポンプによる泡、そして水流によって古い角質を落とす『ソニックバイブラジェットフットバス』である。

 

 それに湯沸かしの湯を入れ、温度を計って水で丁度の温度にすると、シンキンナオールの七番とライムの香りのバスポーションを入れた。

 

「はい、ここに15分ほど足を浸けて下さい」

 

 『ソニックバイブラジェットフットバス』のタイマーをきっかり15分に合わすと、

 

「……なんかこれ、昔に酢を入れた盥に足をつけさせられたのを思い出すなぁ。これはライムのいい匂いだが……」

 

 とミラー外相が苦笑する。

 

「あ~、私も昔、オヤジにうつされた時に兄弟で足を酢漬けにされましたよ。とはいえ、今では酢の殺菌は逆効果というのが定説ですね……。とはいえ、これは比べものにはなりませんよ?」

 

 俺はニヤリと笑ってスイッチを入れた。

 

 うぃぃぃぃぃぃん、ぶぅぅぅぅぅぅうううううん!

 

「うおっ?!」

 

 ソニックによるゆるい振動と空気ポンプによる気泡が一気にミラー外相の足を襲う!

 

「これは、自動的に足の角質を落とす機械でしてね。ウチの新商品なんですよ。それにシンキンナオールを入れれば、温熱効果でより薬剤が浸透し効率良く治療が出来るんですよ」

 

「おおおっ、これは……気持ちいい!!なんという気持ち良さ!おおおおお!!」

 

「そうでしょう、そうでしょう。まぁ、水虫治療だけでなく、それ単体で日々疲れているビジネスマン、立ち仕事で足を疲れさせている人、それに冷え症に悩む女性、捻挫などで治療中の患者さんなど、幅広く使える健康補助具です。まぁ、ゆくゆくはシリーズ化して老人介護やリラクゼーション用の全身用のバスタブとか、展開していきたいと考えてます」

 

「これの全身用……だと?!足湯だけでもこの気持ち良さなのに、そ、そんな物が出来てしまったら、それはもう、バスレヴォリューションだ!一度浸かってしまえばもはや誰もが普通の風呂では満足出来なくなってしまう!そんな物、天使のような悪魔の風呂ではないか、くぅぅぅう、きっくう!!」

 

「バスレヴォリューション、ですか。良いですね、そのキャッチコピー、いただきです」

 

「おおおおおおっ、汚れが足の中から出て行くようだ、ふぉぉぉぉっ!き、キャッチコピー代の代わりに、これ、安く売ってくれ、というか全身用作ったら是非購入させていただきたい!」

 

「ええ、その試作型の『ソニックバイブラジェットフットバス』は無論、差し上げますよ。どのみち、シンキンナオールであと一週間は治療を続けてもらわねばなりませんからね。それに、試作品のモニターもしていただけたらありがたいですから、全身用の先行型が出来ましたらザンジバーランドに送らせていただきますとも」

 

「なんと太っ腹!良いのかそんなので!」

 

「ええ、勿論。ただ、使ってもらった感想や気づいた点等、アンケート用紙で答えていただく事が条件です。出来ましたらご家族の分もお願いしたいですね。ああそうそう、ミラー外相のご家族は奥様と娘さん……でしたかね。なら、丁度いい新商品がありますよ?女性用のシャンプーとコンディショナー、あと美肌クリームなどなど、色々あるんですが、そちらも試供品を後でお渡ししますので、そちらのアンケートも……」

 

「そんなので良ければ、なんぼでもぉぉっ!というかそんなん販売するなら私の会社を通してほしいっ!つーか、あんたんとこの秘書さんの髪の毛めっさキューティクルがパーティクルしてて黒髪艶サラじゃん?!あんなんなるんだろ、そのシャンプー!誰もが羨む髪へって感じじゃん?!そんなん売れるだろ、売れまくるだろ!!売らせろぉ!!儲かる、めっさ儲かるぞぉぉ!!いや、シンキンナオールもそうだが、私の『D.D.カンパニーグループ』は世界規模のルートを持っている。日本なら三留、高砂屋、阪鉄デパート、ヨーロッパならミシェレン、マンソン、モートルー、アメリカならエルデム、ロックファインド、ありとあらゆる販売ルートを持ち、さらに運送も『D.D.エクスプレス』で超速で行える!販売ルートならウチに任せてくれぇぇぇ、バリバリバリぃぃぃ!!」

 

 いや、悶えながら言わんでも。つかバリバリバリってなんだよ?

 

 しかし世界的に一流どころじゃないデパートグループに販売ルート持ってるとか、一体MSFはどんなけだよ、おい。

 

 つーか、うーむむむ、一から販売ルートを開拓するつもりだったが、これは渡りに船と言うものだろう。

 

「まぁ、その辺はまた後で話し合いましょう。今は治療の最中ですからね」

 

 こうして、俺は……いや、白陽社は思いがけず世界的な販売ルートをたった一度の水虫治療で得てしまったのであった。

 

……ええんか?こんな簡単に行って。 

 

 そして、これを機に白陽社はめっさ儲かって行く事となるのだが、それは後の話である。

 




……なんかねぇ、リサ・トレヴァーがやたらアンケート多かったのよねぇ。

 トレヴァー一家に関しては、本当にスペンサーぶっ殺したいとマジで思ったほどです。

 平凡さんはリサの娘を救えるのか。あと、ナス太郎の嫉妬をどうすんのか。

 というか、ええのんか?みんなそれでσ(^_^; 


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共闘まであと数日~トレヴァーの娘

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

……平凡さん出陣決定。

平凡さんの子供の母親に関するアンケートにお答えいただいた方、ありがとうございます。

……リサ・トレヴァーが何故か上位という(汗)。

 




 

 ミラー外相の水虫治療を終え、野外での昼食会を和やかなムードで終え、そして一時休憩を挟んで、会談と言うことになった。

 

 一国の大統領と一国の外相、そして大統領夫人が話をするのだから二国間の政治的な話し合いになると思いきや、そうではない。

 

「協定や輸出入、その他取り決めに関してはとっくに終わっている。i-DOROIDがあるからね。遠く離れていても商談から政治的なやりとりまで、よその諜報員にすら傍受されても解読など不可能な『ヴォイニッチ暗号化式通話』を搭載!コンピューターウィルスも混入出来ないオートセキュリティー!そして基地局さえあればどこにいても通じるバースト通信!……というわけで、君んとこもマザーコンピューターから一式揃えないか?これからの我々のマストアイテムだぞ?」

 

 ヤザン大統領が俺の前になんかチラシのような物を差し出してきた。

 

『あなたもD.D.倶楽部に入会して、一足先の未来にダッシュ!入会費不要!機材等の工賃不要!D.D.エクスプレス国際便契約料・最大半額!人材派遣も御相談下さい!他にも様々な支援がてんこ盛り!!詳しくはザンジバーランドMSF事務局、もしくはダイヤモンド・ドッグス・コーポレーション裏支局まで……』

 

「……なんですか、これ?」

 

 俺はチラシを見て絶句した。秘密結社ってなんやねん。

 

「俺が会長兼オーナーをしているダイヤモンド・ドッグス・コーポレーションとの提携勧誘のチラシ(日本語版)だ。急いで船で刷ったんだが?」

 

「ええっと、ダイヤモンド・ドッグス・コーポレーションって世界展開している運輸会社のD.D.エクスプレスとかマクドネル・バーガーとか……って、マクドネルバーガーのマクドネルはまさか、ミラー外相の?」

 

「そうだ。私が経営している。日本にも現在682店舗出している。またファミリーレストランチェーンのハンナ・ミラーズもそうだ。さらに世界中の様々な商品をリーズナブルな値段で販売するコストローマートなどもやっている。また、D.D.コーポレーションは運送力を活かし、様々な世界の一流品の流通も担っている。治療中にも言ったが、世界の一流デパートからあなたの町のスーパーマーケット、個人商店にも!ありとあらゆる所に我々の卸先がある!販売ルートも多岐に渡り、宣伝から営業まで現地スタッフが赴きプレゼンまで行う!!テレビCMから駅、電車内の宣伝広告、新聞折込チラシまでお任せ下さい!……というサービスを手広くやっているぞ?」

 

……どうだ?とか言いつつ、ミラー外相は不敵にわらい、

 

「平社長、今や世の中はグローバル!製薬会社とて新たな時代のニーズの波に乗らねば生き残って行けない!たとえ一流の薬を開発し販売に漕ぎ着けでも、様々な古い圧力が必ず邪魔や妨害を行ってくる!特に新興の企業が今までのやり方で地道にやろうとしても、アンブレラを筆頭にトライセルやH.C.F.(ヘルスケアカンパニー)、日本の最大手の製薬会社も手を打ってくる!それらを個人でかいくぐり成功するのは如何にあんたが天才でも至難の業!だが、我々が手を組めば、一昔前の商法しか知らない古臭い連中の妨害など何するものぞ!そう、我らの未来には成功しかないと断言しよう!!」

 

……なんつう早口、そしてこの長セリフ。

 

 いや、ここで退いては押し切られてしまう。というかこういう事は詳しく事細かに聞かねばならない。確かに良い話ではあるが、ウチの会社の目的は対アンブレラである。そりゃあそのための資金繰りとかその辺の為に商品は売らねばならんが、うーむむむ。

 

 と、そこでエヴァ夫人が口を開いた。

 

「カズ、あなた良い製品を見つけ出して商魂を燃やしているけど、本題からかなり外れているわよ。ここへはD.D.コーポレーション会長としてではなく、MSF副司令として交渉に来た。違うかしら?」

 

……うんうん、だよなぁ。つーか伝説の傭兵企業になんで商談されてんだろなぁ、と俺も思ってたんよね。

 会社としては魅力的なお誘いなのは間違いないんだが。

 

「いいや、アンブレラと戦うのに平社長の戦略、つまりアンブレラを弱らせるというコンセプトに我々D.D.コーポレーションのネットワーク、そしてフットワークが合わさればより動きの幅を広げ、かつ大胆に連中の力を削げる。けして外れてはいないと思うが?」

 

「表向きの事だけでは無く裏側も話しなさい、と私は言っているのよ。それに、一側面だけでタイラー社長は動いているわけじゃ無いわ。法的にも商業的にも、そして実力行使……実戦的な活動をも視野に入れ、多角的に戦略を練っている。それはあなたも理解しているはず」

 

「……俺は平社長を戦闘に巻き込むのは反対だ。彼は完璧な抗T-ウィルス薬を開発し、治療薬、駆除薬を開発出来た、ただ一人の人間だ。たとえ不死身であったとしてもいかなる戦闘能力があろうと、失うリスクにさらす事は出来ない!」

 

「では、カリギュラを戦場に立たせると言うのかしら?本人の意思も確認せず、彼の身代わりとして?」

 

「……まだカリギュラは戦える状態じゃない。それにそれは考えていない!」

 

「では、タイラー社長の意思を聞きましょう。タイラー社長の意思のみが彼の行動を決める事が出来る」

 

 エヴァ夫人は自分の胸の谷間から細身の折りたたみ式i-DOROIDを出し、そしてスイッチを押して一つの画像を空間に映し出した。

 

 それは、一体の醜悪なクリーチャーの画像だった。

 

 人の顔の皮をいくつも自分の頭部や顔に被り、せむしのように背をまるめ、腕を枷で封じられた、異様な姿。体型は異常でありつつもなんとか女性である事がわかる、そんなクリーチャーである。

 

「リサ・トレヴァー。この哀れな少女はあなたと同じ、スペンサーの被害者よ。……ラクーンシティにて米軍の核攻撃によっておそらく本人は消滅したと思われるのだけれど」

 

 エヴァ夫人は深く溜め息を吐き、俺の目を見て言った。

 

「……この娘の被っている顔の一つは私の手の女性エージェントのものよ。この画像といくつかのファイル、情報を送信した後に消息を経った。おそらくは死亡したのでしょう。もう数年前の事よ」

 

 俺は、息を詰まらせた。いや、このクリーチャーの醜いとも言えぬ姿にでも、エヴァ夫人の部下の顔の皮膚や死亡したという事にでもない。

 

 エヴァ夫人がこれから言わんとしている事が理解出来たからだ。

 

「単刀直入に言うわ。このリサ・トレヴァーの卵子とあなたの精子を使った娘が造られてしまったのよ」

 

「ぐぅっ?!」

 

 歯を食いしばり、短く唸るしか俺には出来なかった。

 

 いかん、怒りと悲しみに、身体が戦闘態勢に入ってしまう!

 

 隣のナスターシャが俺の背中をさするのがわかるが、俺の背中の皮膚と筋肉、いや、身体中がベキベキベキと硬化し、着ているスーツが盛り上がる身体に弾け飛び、破れていく。

 

 銃弾すら通じぬ身体に変わる俺の姿。あまり人前でさらしたくもない姿に、バケモンの姿にどんどん変化していく。

 

「……この、少女は……。T-ウィルスに不完全に適合した……?」

 

 そう問う俺に誰もが言葉を失う。それはそうだろう、ヤザン大統領もマチルダ夫人も、そして俺のクローンであるカリギュラの姿を知っているだろうミラー外相も俺の変わりゆく姿に息をのむ。

 

 冷静に話すのはエヴァ夫人、ただ一人だった。

 

「ええ。彼女は高名な建築家『ジョージ・トレヴァー』の一人娘だった事がわかっているわ。ジョージ・トレヴァーはスペンサーからの依頼でラクーンシティの郊外の山に風変わりな、というより迷宮のような豪邸を設計し、建築したのよ。……おそらく、彼はそれがアンブレラのアークレイの地下研究施設のカモフラージュとは思わなかったでしょうね。しかし、スペンサーは豪邸が完成した後にトレヴァー夫妻と娘を完成したばかりのその豪邸に招き、妻と娘をウィルスの実験台にさせ、ジョージ・トレヴァーを絶望の中で殺した。……そして夫妻は死に、娘はいくら処分しようとしても死なないクリーチャーになり、そして迷宮のような父親の設計した洋館の地下を徘徊していたのよ。母親をずっと探しながらね」

 

 ビキビキッと、俺の怒りが止まらない。もはや弾けたスーツから露出した背中からしゅうしゅうと蒸気が沸き立つ。

 

 スペンサーへの怒りとリサという少女への哀れみ、それらの感情が抑えきれない。身体が高温を帯びて水分が蒸発している。

 

 いかん、ナスターシャがこのままでは火傷をしてしまう。

 

「ナスターシャ、火傷する。……少し、離れていてくれ」

 

 ナスターシャは涙目になりうるうるとした目で俺をみているが、しかし俺から離れる。

 

「ああ、すまん。難儀な身体だな、我ながら」

 

 撫でてやりたいが、それは出来ない。この熱では傷つけてしまうからだ。

 

 俺は、エヴァ夫人の言葉を聞くまでもなく、その娘が被った惨劇を悟っていた。

 

 スメル・センスのみならず、まるで予知や千里眼のように働く俺の脳が、答えを割り出していた。

 

 奴らはこの哀れな娘を様々な実験に使った。

 新たなウィルスすらこの娘から取り出し、そしてこの娘が暴走するのを防ぐために、生贄として女性をこの娘の前に差し出し、顔を剥がさせた。

 

 情報が予測が、ビジョンとなって頭に走る。それでも脳は冷静な部分をもって分析する。

 

「……この特徴、奴らはNE-αを取り込ませたか。それに、G-ウィルスの特徴も見て取れる。アレの出所はこの娘か……。外道共め……!」

 

 涙が止まらず、いや、止める事はしない。

 

 この少女の悲しみ、苦しみ、その身を苛む痛み。それをその姿から俺の脳は読みとる。なおも俺の筋肉は盛り上がる。

 

「……この哀れな子から、俺の子供を奴らは造りだしたか。母の苦しみを子に与えたか!!」

 

 ギリギリギリギリ!歯が軋む。握る拳が血を流し、涙はついには血となった。

 

「……あなたの娘は、アンブレラが所有するヨーロッパの海に浮かぶ孤島『シーナ島』で調整されている。セルゲイ大佐のクローンの量産型タイラントや別のタイラントシリーズと共に。……あなたの怒りを見れば、もう答えは出た。そうでしょう?ミスターパーフェクトタイラント。あなたは正しき怒りを抑えられない。優しき暴君。……戦いなさい。あなたにしかあなたの娘は救えない」

 

 そう言ったエヴァ夫人の目にも涙が浮かんでいた。

 

「……とっくにそのつもりだ。そうだろうとも。俺の血だ。どんな結末だろうと俺が行かねばならん。その娘の親はもう俺しかいない。エヴァ夫人、情報に感謝する。……だが、あんたの答えは見つかったか?」

 

 俺はエヴァ夫人の目を見据えて言った。

 

 彼女の匂いには先ほどまで、おかしな迷いに似たものがあった。いや、俺を焚き付けることに対してではない。

 

 まるで古傷の意味を知る事に対して恐れ、しかしその答えを求めて止まない、そんな迷いだ。

 

「……血は繋ぐものだ。だが想いもまた迷わず伝えねばならん。心も情も人は想っているだけではなんにもならん。伝えられるのは意思を持った言葉と行動。俺はそう思っている。……人は不自由なものだ。自分という存在が始まった時からいつも何かを渇望するが……。それを与えられるのはいつも親だけだ。とはいえ、俺が欲しいものが必ず与えられた覚えは無いが」

 

 エヴァ夫人の目が見開かれる。

 

「クローン。子供。あんたは、その言葉にかなり心を揺さぶられていたが、答えはどうであれ、そして何にしても『縁は繋がっている』という事だろう。親ならば必ず。……求めている答えでは無いかも知れないが、情があるなら言葉で伝えるべきだ。そもそも子供には諸々の親の事情なんぞは関係無い。悩む事はあるかも知れないが、その時に何を伝え語るのかはあんたら夫婦の問題だ」

 

……おそらく、エヴァ夫人の子供達はエヴァ夫人の血を引いてはいない。匂いと言葉の揺さぶりでわかったが、彼女はおそらくはシアーズ大統領の子供の代理母だったのだろう。

 

 彼女が悩み苦しんでいたのは、生みの母としての愛情と負い目なのだろう。

 

 深くはわからないが、おそらく。

 

「……とはいえ、他人の俺の選択で自分の答を無理矢理に探そうとするのは良くないかと。せっかく妻が仕立ててくれたスーツがこのざまです。心配もかけてしまったし、お客様の前で裸をさらす羽目になりましたよ」

 

 みし、みし、みしっと、身体の硬化が解けていく。それと共に身体の熱が退いていく。

 

 俺はテーブルの上の冷めてしまったコーヒーカップを取る。まだ残っている身体の熱でカップは徐々に温められ、中のコーヒーがぷくぷくと沸く。

 

「まぁ、冷めたコーヒーの沸かし直しには便利なんですがね」

 

 再びホットになったコーヒーをくいっと飲み干し、ミラー外相に向き直って、

 

「あー、D.D.コーポレーションとの提携は魅力的だと思いますんで、資料請求しても良いですか?まぁ、シーナ島での作戦の詳細もね?」

 

 そう言うとミラー外相のサングラスが、なんかずりっとずり落ちそうになっていた。

 

……俺の身体で驚異的に写ったんだろうけど、そこまで怖がらんでも。

 

 いや、なんかミラー外相、俺の股間見てねぇ?

 

「デケェ……!ボス並みにデケェ!」

 

「おぅっ?!」

 

 パンツまで破れて燃えていたわ。つかタイラント君はまだ戦闘状態にはなっとらんけど、見られちまった?!

 

「わーぉ♪」

 

 エヴァ夫人、わーぉ♪じゃありませんて。

 

 ヤザン大統領がマチルダ夫人の目を手で塞ぎ、

 

「タイラー君!早く身体を冷やして服を着て来なさい!モロだから!」

 

 と言ったが、

 

「あらあら、うふふふふ」

 

 マチルダ夫人にも見られたようだ。いや、うふふ、て、いつも厳しい感じなのになにその反応?!

 

「ダメダメダメ!見て良いの私だけだからっ!」

 

 ナスターシャは慌ててコーヒーの金属のお盆で俺の股間を隠した。俺とナスターシャは「ちょっと失礼します!」「身体冷やして来ます!」と会議室を一時退出した。

 

……まさかこんな所でモロリしてしまうとは。

 

 

 

 そうして、俺は出陣を決意したわけだが……。

 

 その後、身体の高熱を冷ますために俺は水道の水をぶっかぶり続けねばならなかったわけだが、いやはや、我ながら難儀な身体だよなぁ。

 

「うーっ、燃えないパンツ開発しなきゃ!」

 

 と、ナスターシャが言うも、そんなパンツ、なんか蒸れたり擦れたりしそうで股間によろしくなさそげやなぁ、とか思ったりなんだり。

 




・リサ・トレヴァーの娘が、シーナ島で平凡さんを待っている。

・つーか私立探偵さん、無事で済むのかなぁ。

・平凡さん×リサ・トレヴァー。どんな娘なのか、実はまだ決めてませんが、なんとなく虫下しチョコは食わされるだろーな、と。

・なんで娘かと言えば、T+Gウィルスで女体化したボスキャラがおったので、ならG-ウィルスの原型を持ってたリサ・トレヴァーの子供なら娘だろかなーと。


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シーナ島事件編
共闘開戦~シーナ島強襲作戦~


いつも感想、誤字脱字訂正ありがとうございます

やっとこ、新章突入です。

アーク君がただの私立探偵なのに、なんで拳銃だけでタイラントを倒せたのかをいろいろと考えてて時間かかりました。

……この物語のアーク君は、ある意味不幸体質ですがある意味、万事塞翁が馬な人物でもありますが、さてはて……。




 俺、ことアーク・トンプソンは私立探偵である。

 

 レオン・S・ケネディと同じポリスアカデミーを卒業したんだが、まぁ、辞めた。

 

 辞めた理由はいくつかあるが……いや、成績はこれでも優秀だったんだ。レオンとはいつも成績を競い合ってた仲でもあるんだからな。……最大の原因は上の人間に目を付けられ、特殊部隊の教育課程に半ば強引に編入させられたことだ。

 

……俺は、普通にどっかの市の平々凡々な警官として忙しくも無く、暇でもない生活がしたかったんだが、それでも途中までは俺は頑張った。ああ、頑張ったんだ。

 

 訓練施設の最高責任者だとかいう眼帯をした渋いオッサンに、CQCとかいう特殊な格闘技術を散々仕込まれたり、その補佐とか言うオバハンに銃やライフルの訓練を何時間も何時間もさせられたり、アラスカでどう見ても警察官とは思えない、いや、人間じゃなくてゼノバイトの親戚みたいな頭に釘を幾つもぶっさしたような怖い顔の教官と模擬戦闘やらされたり、装備無しでジャングルに放り込まれて何日もサバイバルさせられたり……。

 

 正直、俺の受けた訓練はどう考えても警察の訓練じゃない、というかそれがわかったのは一通り訓練プログラムを受けた後、おそらく俺と同じように訓練を受けていた人たちと合同の訓練をするようになった頃、二人一組のバディとして組まされ同室になったクリスピンというゴツい筋肉の三十路のオッサンが、

 

『……俺はSEALsから選抜されて来さされたんだが、まさかここの訓練がこんな過酷なものだとは思わなかったぜ。他の奴らも様々な特殊部隊から来ているそうだが、君はまだ若いな。よほどのエリートと見えるがどこの所属だ?』

 

 と、ややグロッキーになりながら二段ベッドの下で言ってたが、すんません、俺、ポリスアカデミー出身なんです、軍人ちゃいます。

 

 はぁ?警察学校出身?!それ絶対おかしいだろ、と、彼が俺を連れて訓練所の責任者である眼帯の教官にそう言ったら。

 

『……ポリスアカデミーだと?嘘だろ、警官の卵がここまで俺の訓練プログラムやクワイエットのしごきについて来れるはずはないと思うんだが……?』

 

 そんな事を言いつつ、教官は俺の選考の書類をファイルから確認し顔をしかめた。その表情から俺は何かの間違いでここに送られてきたのだと確信した。

 

 教官はデスクの引き出しから受話器を取り出すと、どこかの番号に連絡した。

 

『……おい、人選に手違いがあったようだぞ。ウチはポリスアカデミーじゃない。傭兵訓練所だ。なに?そんな男は知らない、だと?じゃあ、何故、警察学校の生徒が混ざってるんだ?」

 

 傭兵訓練所ってなんだよ、俺は警察官になるためにポリスアカデミーに入ったっていうのに、何でそんな所に送られてんだよ。

 

 俺は警察学校の校長のハゲを呪った。いや、あの妙な国家保安局のエージェントもだ。

  

 その後にわかったことだが、どうやら、俺は書類上の手違いで、この傭兵訓練所とやらに送られて来たらしい。

 

 しかし眼帯の教官は、

 

『書類上の手違いなどここでは絶対有り得ない事でありこれは何者かによる意図的な介入があった可能性がある』

 

 と唸りながら言い、その後、俺は眼帯の教官の指示により事実関係の調査が終わるまで軟禁生活を余儀なくされた。

 つまり、訓練プログラム等への参加を禁止され、その上で一人部屋で待機、となった。

 

 つーかあの過酷過ぎる訓練生活から一変して、三食おやつ付きと体力を落とさない為に部屋でテレビビデオを見ながらやる『バイオラおねーさんのブートキャンプ~みんなのミリタリーダイエット~』というのをやらされた。

 

 なお、このブートキャンプのダイエットビデオのバイオラおねーさんとは、様々な軍関係者に注目をされているブートキャンプトレーニングエクササイズのインストラクターであり、ショートカットと猫のような目との可愛い系の美貌、そして魅惑のボディでダイエット新兵達を時に厳しく、時に優しくしごいてくれるおねーさんである。

 無論、ビデオの内容はエクササイズのビデオだし、なんら見ていてやましい事も何一つ無い健全なトレーニングばかりなのだが、ノーブラタンクトップでやや際どいミリタリー風半ズボンでエクササイズしている画像は、刺さる者にはクリティカルヒットするセクシーさなのである。

 

 エクササイズをやり遂げた時の、あの『グーッド!』とか『エクセレーン!』というセリフと共にやる投げキッス、あれがたまらんのだ、いや、一度君も見てくれ、いやブートキャンプエクササイズをやった後に見てくれ、もうたまらんから!!

 

……いや、話がずれた。すまんね、今極限状態だからさ。

 

 その後、事実関係やらなんやらの確認が出来たとかで呼び出され、眼帯の教官に、

 

『お前には2つの道がある。ここに残って訓練を続け特殊部隊に入るか、警察学校に一年遅れで編入の後、普通に警官になるか、だ』

 

 なんぞと言われたが、もうどっちも嫌になっていた俺は、こうして第三の道として、私立探偵になったわけなんだが……。

 

 

 

 

「レオンのうんこたれーーーっ!!」

 

 

 俺は、このゾンビやら脳みそ剥き出しのバケモンやらトカゲ人間だらけのこのシーナ島で拳銃一本ベルトに差して、というガンサバイバルな状況に置かれていた。

 

 そう、全部レオンってアホの甘言のせいである。いや家賃どころか生活費、探偵事務所の家賃すら枯渇した貧乏生活のせいで奴の誘いにホイホイ乗ってしまった俺がアホだった。

 

 そう、俺は貧乏だった。私立探偵事務所を構えてみたは良いが、来る依頼は事務所の大家さんちから逃げ出した飼いネコの捜索(マタタビ必須)、家出した不良娘の捜索(大抵彼氏のところにいるよ?)とか、奥さんの浮気調査(だいたい町外れの一件しかないモーテルに出入りしてるよ?)などだ。

 

……大手の探偵事務所に大口の仕事を取られまくって、そんなんしか依頼が無く、ついには追い詰められていた。

 

 その大手の探偵事務所から営業妨害をされつづけ、貧乏極限状態に追い込まれ、俺はポリスアカデミー時代の悪友であるレオン・S・ケネディに今回のシーナ島のアンブレラの内部調査の依頼を受けてしまったのだ。

 

 準備費用として手付け金5000ドル、前金別でさらに5000ドル、成功報酬に2万ドル、掛かった費用も別途で払う。

 

 その破格の報酬に釣られた俺は釣られクマーっ、こんな危険な島で孤立無縁状態でバケモンだらけの中をサバイバルせにゃならなくなったわけだ。

 

 今思えば、破格でもなんでも無かった。こんな事になるとわかっていればどれだけの額を振り込まれても、家賃滞納で事務所追い出されても断っとったわーーー!!

 

 くっ、こんなところでは死ねん。そう、俺は必ず来月全米ツアーをする予定の『バイオラライブ!みんなでブートキャンプろう!!』に参加するんだ、もうチケットは買ってあるんだ、生バイオラおねーさんに会うまで、俺は死ねん、あのちちしりふとももを目に焼き付けるまで、俺は死ねんのだぁぁぁっ!!

 

 ちちしりふともも~っ!!ちちしりふともも~っ!!バイオラおねぇすわぁぁん!!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ヨーロッパ近海。

 

 おもーえばー遠くへー来たーもんだーっと。

 

 我が白陽社の貨物船、もとい旗艦である強襲揚陸潜水艦『黒曜丸』の甲板の上、俺は腕を組んで仁王立ちの状態で遠方にある孤島を見据えていた。

 

 すぐ近くには、ザンジバーランド海軍所属の強襲揚陸潜水艦『ギアキャリア級一番艦ヘヴンディバイド』がいる。

 

 今回の作戦にはフランス海軍所属の対テロ特殊部隊や米軍特殊部隊『SPEC OPS』の対バイオテロ選抜部隊『エコー6』が参加している。

 

 無論、ウチの会社からはミハイル隊とルポ隊が参加する事になったが、ミハイル隊が島の住人の救助、ルポ隊が後方待機する医療チームの警護に当たることになっている。

 

 医療チームには、ハミルトン先生とジェンキンス教授の他、ザンジバーランド側から、厚生大臣でありバイオテクノロジーやウィルス学、ナノマシン治療の研究者であるクラーク博士の一番弟子、ナオミ・ハンター氏とアンブレラから離反したという研究員のモーフィアス・D・デュバル、その他T-ウィルスに対抗する薬剤の研究をしてきた人物達が参加している。

 

 本来は俺も医療チームに入るはずだったのだろうが、今回、俺は強襲チームの先頭に立たねばならない。

 

 シーナ島のアンブレラ研究所は量産型タイラントを製造している施設であり、また様々なアンブレラの定番のB.O.W.を強化改良し、商品ベースに乗せるという役割を担っている、ということで、強力なそれらのB.O.W.に対する盾兼攻撃手段として……いや、それは表向きの話だ。ミラー外相は俺の意思を汲んでくれた。俺が自分の子供を救済出来るように自分の部下達に話を通してくれたのだ。

 

「……社長、作戦会議の時間です。ヘヴンディバイドへ」

 

 ハンター君こと、フランク・イェーガー総務主任が甲板にいる俺に声をかけてきた。

 

 ミラー外相が今回の俺の強引な強襲チーム入りの条件が、フランク・イェーガーを護衛として行動することだった。

 

「すまんな、ハンター君。君を付き合わせる事になってしまった。……今頃、エイダは事務のひよこちゃん達につき合わされてストレス溜めてるだろーな」

 

 俺はまるでサイボーグか何かのように見える戦闘服にミリタリーベストを着けたフランク・イェーガーにそう軽口を叩いた。手に長細いアタッシュケースを持っているが、聞けばそれは彼の愛刀だと言うことだ。

 

「いえいえ、社長。ご一緒させていただきますとも。こう見えて私も近頃ストレスが溜まってましてね。やはり解消には適度な運動がよろしいかと」

 

 にっこり笑って、バッティングセンターかフィットネスクラブにでも行くような感覚でハンター君はそう言った。手に持っている長いアタッシュケースを持ち上げて、ポン、と叩き、

 

「長らく、愛刀にも血を吸わせてませんので丁度よかった」

 

 いや、事務仕事のストレスでぶった斬られる相手が哀れだ。つか戦いを適度な運動と言えるお前が怖いわ、マジで。

 

「……怖えぇ奴だなお前さん。刀の銘は?」

 

「千子村正……と言いたいところですが無銘です。とはいえ高周波刀化して未だ全く欠けもせず曲がりもしない所を見れば、たしかに名刀と言えるでしょう。普通の刀では実戦数回で耐久性が落ちて歪みが出来、折れたりしますから」

 

「高周波刀ねぇ」

 

 高周波刀は高周波によって原子間結合を強固にし刀身の強度を高め、逆に高周波エネルギーを帯びた刀身に触れた物体の原子間結合力は弱めて切断するという、近未来的なトンデモ武器である。というかMSFってのはとことん未来に生きてんな、おい。

 

 なお、ベースになる刀の性能によってその威力が変わるとかで、やはりブレード使いは良い刀を求めるもんだとか。

 

 とはいえ、俺にはその手の武器は合わない。というか高価な武器だとコストを気にして使いたく無くなるのだ。

 

 その辺に転がっている鉄パイプや、惜しげもなく防災用に壁にある防災斧、敵から奪ったナイフに鉄パイプを繋げて作る投げ槍など、そういうのでいいんだ、どうせタダだから壊れても惜しくもない。

 

 というか、今も俺の腰のベルトにはラクーンシティでガメてきた防災斧が何本も差してあるが、投げてよし、叩きつけてよし、爆弾付けてよし、俺のパワーならもはや万能である。

 

「……というか社長なんですから、その、さすがにレスキューアックスを装備というのは」

 

「どうせ戦闘でバカスカ投げるんだ、金がかからん拾ってきた斧にコスパで勝るモンは無い。それに、西洋じゃ至る所に落ちてるから補充も容易だ」

 

「はぁ、そうですか……」

 

 ハンター君に呆れられつつも、俺はヘヴンディバイドと黒曜丸の間に掛けられた船橋を渡り、歩いていった。

 

 ヘヴンディバイド(天国を分かつもの)なぁ。分かたれたそこは果たして楽園側なのか地獄側なのかわからんが、俺の行く先はおそらくは血塗れの道なのはわかっている。

 

 だが、たとえ俺の道がそうであっても。

 

 邪悪を野放しにしてはこの世は地獄に変わるのだ。ならば征くしかあるまい。

 

 俺は、ヘヴンディバイドの甲板に足を踏み入れつつそう思った。

 

 




・アーク君がハマったバイオラ・ブートキャンプのバイオラは、ZOEのバイオラさんを若くしてキャッピキャピにした感じの健康系ミリタリーっ娘です。D.D.エンターテイメント(カズの持っている芸能事務所)所属の元傭兵という設定であり、健康なセクシーさで日本でもブレイク中。

・アーク君がいた訓練所はヴェノムスネークにならなかったエイハブがいる訓練所で、レオンも現在、アーク君と同じ目にあっている模様。

・アーク君の性格は、某横島が足されています。故に……バケモノに好かれる。後はわかるな?


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ヘイヴントルーパーさんと仔月光。

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

仔月光は一体のみだとちょっと可愛い。2・3体くらいだとちょっとキモい。群で来るとすんげぇウザい。

バトルギアはTPPで出てきましたが、使えなかったんよなぁ。


 原子力潜水艦・ヘヴンディバイドの中はかなり広い。そりゃそうだろう、ウチの黒曜丸の約二倍のデカさなのだ。

 

 かつ最新鋭。さらに原子力ステルス強襲揚陸潜水艦。

 

 ミラー外相が言うにはザンジバーランド初の国産原子力潜水艦なのだそうだが、そんなモンを造れるなんてどんだけ資金があるというのか。マジで正直不思議でならないが、その辺はツッコむと藪から蛇が出て来そうなので聞かない事にする。

 

 後部甲板のハッチには二名の女性兵士が立っていた。肌の露出は全くない近未来SF的なプロテクターとヘルメットを被っているにも関わらず、胸の形とか太ももとかで女性と分かるという、なんとも不思議な格好をしている。黒く質感はマットブラックのラバースーツ的な素材でなんか生々しくてベストを着ていなければ多分すんげぃエロく見える。

 

(ヨンダァ?ムクッ)

 

 まったく露出が無いのにタイラント君が反応しかける程だ。

 

……いや、呼んでねぇから寝てろ。

 

(チェッ、シオシオシオ……)

 

……なんか最近意思を持ちつつあるんじゃないか?俺の股間。

 

 しかしなんつうかこの娘さん達めっさスタイル良いよなぁ。マットブラックなのになんかヌルヌルした感じに ちちしりふとももがばいーんばいーんばいーん。

 

 ハンター君が言うには、彼女達は『ヘイヴントルーパー』と言って、女性のみで構成されるアーマードトルーパーなのだそうだ。

 

……ふぅ~ん、エッチじゃん(ナニガ?)。

 

 彼女達は俺達二人に敬礼し、

 

「ようこそ、ヘヴンディバイドへ。お二人の来艦を歓迎いたします」

 

 と、言って艦中へと案内してくれた。まだ若い女性の声だ。

 ヘルメットで表情はわからないが、むぅ、匂いはなかなかいい感じだ。いや、変態的な意味ではなく悪い人間じゃないという意味で。

 

「ありがとう」

 

 とだけ会釈して言っておく。というかそもそも俺は女性と話をするのが苦手なんだよ。いろいろあって忘れてたけど。

 

 ヘヴンディヴァイドの後部は大型格納庫であり、慌ただしく整備兵やクルー達が上陸作戦に使用する戦闘車両や揚陸用ホバーボートの準備をしている。

 

 行き来する野戦服の兵士達や近未来的なプロテクターに身を包んだ兵士達、そして足の生えた戦車みたいなロボ。

 

……つーかやっぱりウチのプラントのデッキにあった二足歩行ロボの源流はMSFだったんだな。形は違うけど。

 

 あと、なんか手が生えた丸っこい黒いボールみたいなのが『キュイキュイ!』とか『アーイ!』とか鳴きながら、大量に床を跳ねて転がってボートに積み込まれる前の輸送トラックの荷台の中に入って行ってるが、なんぞあれ?手がやたら生々しくて気持ち悪っ?!

 

「ありゃあなんだ?!気色悪い手の生えた一つ目のハロみたいなん?!」

 

 女性兵士のやや体型が太い方……とはいえ肥満というわけではなくもう一人の方に比べて、である……が、

 

「あれは『トライポッド』です。主に偵察用のAIロボで人工筋肉で出来た手を三本持っているのが特徴ですね。トライポッドは言ってみれば戦場のお手伝いロボみたいなものですね~。敵の情報ファイルを自動的に漁ってデータを送ってくれますし、敵から武器弾薬を盗んで持ってきてくれたり、自分で鹵獲した銃を使って倒してくれたり、群がって敵をわちゃわちゃにしてくれたり、内蔵したスタンガンで気絶させたり、自爆したりしますよ?」

 

……多目的に使えるロボットなんだろうが『群がって』の部分がものすごく嫌すぎる。わちゃわちゃって何やねん。つかスタンガンはまだ分かるが自爆って爆弾内蔵なのかよ。

 

 細い方の女兵士が

 

「味方がこうして手を振ると、手を振り返してくれたりしますよ~?ほら、可愛い」

 

 と手を振ると、

 

『『『ピキャ?アーイ!アーイ!(フリフリフリ)』』』

 

 トラックの荷台にびっしり詰まった黒いトライポッドがわざわざ手を出して黒い手を振る様はもう気持ち悪いとしか言いようが無い。しかも暗い荷台で赤いダイオードみたいなのが光ってるのがもう、ね……。

 

「……で、トラックに積み込まれているって事はアレも作戦に投入されるのか?」

 

「ええ、とっくに投入されてますけど、あれは追加分ですね~。トライポッドはそれぞれが動く無線アンテナ兼監視カメラでもあります。i-DOROIDのマップ画面を表示すると青い光点が表示されますが、それがトライポッドを指してます。で、その光点をタップするとその場所のトライポッドのカメラの映像を見れますよ」

 

「トライポッドは味方には人懐っこくて献身的です。タップしたトライポッドに指示をすればいろいろと動いてくれますので、便利に使ってやって下さいね!」

 

……確かに便利そうだが、うーむ見た目がなぁ。

 

「しかし、ロボット兵器か。トライポッドといい、あそこにある足の生えた戦車といい、今まで見たことも無い。俺が知らないだけで近代兵器はどこもああ言うのを配備しているのか?」

 

 ハンター君に聞いてみるが、しかし彼は首を横に振り、

 

「私の知る限り、MSFとザンジバーランドだけですよ。トライポッドのような機能を持っているドローンの開発はアメリカやロシアもしているでしょうが、あれほど高性能な事も無く空中をローターで飛ぶラジコン兵器で屋内に潜入させることは不可能ですし、歩行戦車を使っているのはザンジバーランド軍くらいでしょう。……元々歩行戦車は旧ソ連軍の兵器開発局が考案したものだったのですが、考案した当初は現実的ではないと別の走行形式のものが採用されたそうです。……まぁ、アメリカ側で造られたものもありましたが破壊されました。で、その残骸をMSFが回収し様々な部品を流用して組み上げた、そのなれの果てが白陽社のデッキに放置されていた『メタルギア・ジーク』のスクラップだったのですよ」

 

「……なるほど。つまりウチの『アレ』はリサイクル兵器のさらにリサイクル兵器になるのか。……地球に優しいこって」

 

 『アレ』とは、白陽社が誇る天才メカニックにしてウチの嫁が俺に隠れてこっそり組み上げていた四足歩行ロボの事である。

 

 ウチの嫁はどうも技術者のサガなのか当時のMSFの技術の解析をやたらと取り組んでおり、プラントに残された過去の『遺物』をスクラップの山から掘り起こしてはその技術がどこから来たものであるのかを自己流に分類しまとめあげたりしているのだが、まぁ、それに関しては俺も研究者なので黙認していた。

 

 しかし、まさかエヴァ夫人の伝手でザンジバーランドの科学技術局のロボット研究者のマッドナー博士とお友達になって新技術を仕入れてあんなトンデモない物を造ってしまうとは……。

 

……いや、まぁ今はそれは関係無い。

 

「ええい、MSFの科学力はバケモノかっ!」

 

 嫁が造ったトンデモ兵器を考えるとなんか胃が重たくなってしまったのを気分を変えようと冗談めかして某ガン○ム風にそう言ってみる。

 

「いえ、どちらかと言えばバケモノと言うよりも変態的だと思いますよ。技術力が兵器に極振りという辺りが特に」

 

 いや、そんな冷静に言われてもな。

 

 そんな事を言いながら、ようやく広い格納庫の出口にようやく差し掛かる。

 

「ここから、まっすぐ行った先のエレベーターでブリーフィングルームのある階へ向かいます」

 

 長い通路を女性兵士の後ろについて歩いて行く。

 

 見るものと言えば特に何も無い通路である。ついつい女性兵士二人の尻が目につく。

 

 ぷりっぷりっ、と歩く度に形の良いお尻の肉が揺れるように動く。というか筋肉の動きが分かるコスチュームってのはどうなんだろうね。

 

 見ちゃいかんとは思うのだが、黒いラバー的な質感のこの尻の肉のぷりぷり感はなんともはや。

 

……おそらく、あのトライポッドとか言う奴の腕と同様の素材、防弾素材と人工筋肉が使われているんだろうなぁ、これ。

 

《……社長、それは人工筋肉の動きです。というかセクハラですのでそれ以上女性の臀部を注視するなら黒曜丸で待機している奥様に報告しますよ?》

 

 ハンター君が喉につけられた声帯の振動だけで声を発せずに通信する装置で俺に話してきた。

 

《いや、人をセクハラオヤジみたいに言うなよ。つか、この素材もトライポッドと同じ素材なのか?》

 

 俺も同じ装置で女の子に聞こえないように返信する。

 

《……そういう見方ですか。同型の素材ですがヘイヴントルーパーのものの方がより上です。今回のものは対BC兵器用装備なのでウィルス浸食する生体素材は使用されてません》

 

《どういう見方だと思ったんだ?というかお前、やっぱりナスに俺の監視を頼まれてたんだな?》

 

《いえ、エイダ秘書課長に頼まれたんですよ。今回、彼女は中南米本社で留守番なので》

 

 エイダかよぉぉっ!!

 

《あいつは俺をなんだと思ってやがるんだ。つうかまだ虫下しチョコの件を恨んでやがんのかぁ?!》

 

《む、虫下しチョコ?いや、何があったかは知りませんが、まぁ彼氏のレオンとやらに他の女の気配がするとかなんとかでイライラしてましたから、そのとばっちりなのでは?》

 

《知らんがな。……とはいえ一度レオンとは話をせにゃならんだろうな。どうも、なんかここんとこおかしいんだ。奴の通信に妙な違和感がある》

 

《違和感、ですか?……アダム・ベンフォード側が情報に規制をしているとか?》

 

《いや、うまく言えないんだが……。たまに本当に今話しているのは奴なのか、と思う時がある。あいつ、こんな性格だったか?とな》

 

 そう、レオンからはいつも定期的に来るのだが、そのうち何件かに妙な違和感を感じる事がいつくかあった。いつもの軽口、いつもの頭悪そうな会話、その端々に何らかの意思を持たない悪意というのかそういう物を感じる時があったのだ。

 いや、話している会話がギスギスしているわけでも無ければ何かの悪口でもない。むしろ他愛も無いいつもの話だ。やれ誰かに扱かれた、今日の訓練は疲れた、そんなものだ。

 だが、そう、妙に『感情を無くしたロボット』と話をしている気分にさせられる時があるのだ。

 

……うーむザンジバーランドの科学技術を目の当たりにすると、荒唐無稽だが嫌な予感が頭をよぎる。

  

 まさかAIとかがレオンに成りすまして通話をしてきているとか、ねーだろな?

 

 まさかな、とその時の俺はそう思っていたが……。

 

 しかし今回のシーナ島強襲作戦に巻き込まれた、哀れな私立探偵君が、そのまさかと思っていたもののせいで数奇な運命に陥っていたなどこの時の俺は知る由も無かったのである。

 

 そして、人知れずかつて進行していた陰謀の存在なんて物も、だ。

 

《……しかし、人工筋肉でこの尻ってことは、中身のサイズはやっぱこれより小さいって事なんか?》

 

《セクハラですよ社長。……体格が一回り小さい、と言うことにはなりますが、身長以外は比率は変わりません》

 

……嫁に一着造ってくんねーかなー。いや、人工筋肉無しでぴっちりした感じで。

 

 この時は、アホな事を考えていた。

 

 




・愛国者とらりるれろ。

・なぜレオンがアーク君に依頼なんぞしたのか、その辺がどうも納得が行かなかったので、メタルギア的なアレを足して設定を捏造。雷電が騙された、アレですよアレ。

・トライポッド(仔月光)が今後もやたらワラワラ出て来たり……。

・次回、アーク君ロリっこと遭遇……するまで行くかなぁ。うーむ。


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Side:アーク・トンプソン①

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

今回、アーク・トンプソン君回です。いや、仔月光回かもしれません。

なんか書いてたら長くなっちゃってね。

次回は平凡さんです。


 

 これまでアーク・トンプソンが遭遇したキモい怪物。

 

 ゾンビ。ゾンビ犬。脳みそ剥き出しの這いずり回る怪物に、トカゲ人間。

 

 どれもとんでもなく厄介だったが、今彼が逃げている怪物はそれらとは全く毛色が違うキモさを持っていた。MP5サブマシンガンを装備した手長猿人間とでも言うのか人型なのは人型だが、明らかに人としては手足の長さが長すぎる。

 一見どこかの特殊部隊のような格好だがひょろ長くキモい動きをする奴ら。

 

 それはアンブレラUT部隊と呼ばれる特殊なB.O.W.なのだが、そんなのがうじゃうじゃといるのだ。

 

 量産型モン○ーパンチ、とか考えて、量産されとると言うことは敵かぁ。ならそのうちモ○キーパンチの本物が出てきたり、何でも切れるカターナもった奴とかマグナムぶっ放す銃の名手とか『ふぅ~ずぃこちゅわわわーん』なセクシーなおねーさんとか、追っかけてきたインターポールの警部さんがそのうちやって来るだろーなとか勝手に想像する。

 

 いや、アーク・トンプソン、モンキー○ンチは原作者の名前だ、後に先生をつけろこのデコ野郎、とか言ってやりたくなるが何で日本の偉大な漫画家の人達は亡くなってしまうん?まだまだ見たかったのに。

 

 むしろ『ふぅ~ずぃこちゅわわわーん』なおねぇさんの方を量産しろとかアーク・トンプソンは思ったりするがサブマシンガン持ってる手長猿のバケモンなんぞ拳銃だけでなんとか出来るわけはない。しかも六体いるのだ。

 

……どーすっかなー、あんだけのサブマシンガン持っている敵に拳銃だけでなんとか出来ねぇし、弾も少ないからなぁ。

 

 物陰に隠れて向こう側を拾った手鏡で確認する。

 

 腐っても途中で訓練やめても、無理矢理でも身に染み付けさせられた技術は忘れない。というか模擬戦闘訓練で教官達にこれでもかと叩き込まれたゴム弾やフラッシュグレネードの痛みによる賜物である。

 

 というか、こういう特殊部隊的な技術がアーク・トンプソンをこの状況下の生存を支えていた。

 

 普通の人間ならたとえ銃を持っていたとしてもこんな状況下で生存など難しいのはラクーンシティでの一般市民達の生存率を考えればわかるだろう。いや、警官や米軍の兵士達すらも生き残ったのはほんの一握りだったのだ。

 

 アーク・トンプソンのその評価はMSFのセーシェル支部通称『ダイヤモンドドッグス』において、賛否両論であった。

 

 最低の評価を押したのは『クワイエット教官』である。彼女の評価は個人的な怒りが入っているとされ、訓練所司令である『エイハブ司令』は彼女の評価を正当な評価ではないとした。ただし、

 

 『女性用シャワールームの監視カメラの裏を突くデバガメ根性だけは評価に値する。罰としてアラスカでの更正訓練1ヶ月を命ずる』

 

 というクワイエット教官の罰に対しては彼は賛同した。

 

 とはいえそれは、アーク・トンプソンのスニーキングスキルや女性用シャワールームに仕掛けられた厳重な監視カメラ網やセンサー類に引っかからずに突破し、覗きを成功させたその能力、そしてジャングルでのサバイバル適性の高さや、訓練生同士の模擬戦における逃げ足と隠れ身の完璧さを評価しての事であり、罰とは彼は考えてなかったのである。

 

『なんでやぁ~っ!苦労してシャワー覗けた思たらクワイエット教官かよぉぉぉっ!!年のわりに良い乳やったけど、それでアラスカ行きかよぉぉぉっ!!』

 

 そのアークの発言により、クワイエット教官(40代)がキレて彼は凹殴りされたが、その翌日にはケロッとしてアラスカ送りにされたのである。脅威の回復力である。

 

 最高の評価を押したのは、アラスカにて彼を待っていた鬼教官『パイソン』である。

 

 極寒の試される大地アラスカにて、アーク・トンプソンは下手をすれば死ぬような過酷な訓練を繰り返し繰り返し受ける羽目になった。

 

 極寒の地でレイザーヘッド的なオッサンとマンツーマンのサバイバル訓練を受けていたアーク・トンプソンがよくもまぁ無事で生還出来たなぁ、とか思われるかも知れないが、パイソン教官は姿や体質などは常人離れしてはいるものの若者の心理をよく理解しており厳しくはあったが、それなりに細心の注意を払って訓練していたのである。

 

『バカだが、下手をすると俺やスネーク以上の逸材かも知れん。サバイバーとしての適性は今までの連中以上だ。勘も良い。若い奴が女風呂を覗くとか良くあることだろ。俺達も昔よくやった!』

 

 パイソンの評価はこんな感じだった。

 

 そうして、アーク・トンプソンは訓練所に戻ったわけだが新兵どころか実はポリスアカデミーの学生だった事がわかり、ひと騒動が起こり、アーク・トンプソンは訓練所を辞めたわけだが、辞めると言った際にはエイハブ司令や他の教官達には残ることを勧められた。

 

……シャワーを覗かれたクワイエット教官を除いて、だが。

 

 とはいえ、訓練所を出て行く際にはクワイエット教官も見送りに来ていたので嫌われてはいないが「アラフォーでツンデレかよ」とか思ったり言ったりしてはいけない。

 

……アーク・トンプソンが最後にクワイエット教官に殴られた理由がそのセリフだったからだ。世の中には思っていても言ってはいけない事もあるのだ。いいね?

 

 なお、アーク・トンプソンの名はMSF内では一時期、結構有名であった。

 

『クワイエットの風呂覗いた奴』、『クワイエットからの全力の暴行を受けても病院送りにならなかった奴』、『アラスカ送りにされても生きて帰ってきた奴』、『不死身のスケベ野郎』などなど。

 

 なお、クワイエットの直弟子である『スナイパーウルフ』は語る。

 

「教官が怒って病院送りした連中は多くいますし見てきましたが、そんな人間が現実にいるはずありません」

 

 一笑に付されたわけだが、ここにおるがな。

 

 性格がちょっと……いや、ものすごくアホですんごくスケベな事を覗けば、そのまま訓練を続ければ上級のエージェントになりうると教官達から太鼓判を押された男、それがアーク・トンプソンである。

 

「手長猿野郎は迂回するしかねーな」

 

 彼はそう判断した。

 

 おそらくああいうタイプの連中は敏捷性が高く、拳銃で不意打ちしたとしてもニ体は確実に倒せるだろうが、しかし他の四体が素早く展開し、四方を固められてフル射撃されて殺される。

 

 ならば、と周りを見回し、床に近いところに大きな排気ダクトがあるのを発見。

 

 アークにとっては潜入訓練でお馴染みの潜入&脱出口だ。親の顔より見てきたダクトだ。

 

 訓練用より現実のダクトはものっそい汚いけど仕方あるまい、と彼は素早く排気ダクトの蓋を外し、中を覗いた。

 

……あれ?なんぞこの黒い奴。

 

 排気ダクトの中に、なんかいた。手の生えた黒いボールみたいな物体である。

 

 目と目(?)が合ってなんぞこれ???

 

 と一瞬思ったが、ウニウニとその怪物体は手を動かして排気ダクトから出て来て、そしてアーク・トンプソンの方を見ると、

 

「アーイ」

 

 と何か電子音を発し、頭頂部……と言っていいのか、そこから生えた手をフリフリと振ってきた。

 

 それは事前にシーナ島のあちこちにばら撒かれたトライポッド、通称『仔月光』と呼ばれる小型無人兵器だが、アーク・トンプソンはその妙ちきりんなロボットをかつて入らされた特殊部隊訓練所で何度か目撃していた。

 

「こいつは教官達が使ってたお手伝いロボ?……しかしなんでこんなところに?」

 

 アーク・トンプソンはこのロボットを兵器とは認識してはいなかった。なにしろ、訓練所で見かけた時は書類を運んでいたりコーヒーを運んだり、コロコロ動き回ってなんか遊んでいたり、雑用を教官達に言いつけられていた所くらいで、便利に使える高性能なペットロボットとしか思っていなかったのだ。

 

 だが、彼はその認識を改めるべき現象に今、ここで遭遇する事となる。

 

 排気ダクトから現れた『仔月光』は手を1の形にして「ピピピピピピ!」と鳴いた。メインカメラの周りのダイオードみたいな光る部分が何かと通信しているように点滅し、青、赤、緑、と色を変え、そしてそれが収まると……。

 

「アーイ」「アーイ」「アーイ」「アーイ」「アーイ」

 

 排気ダクトから、通路の奥から、排水溝から、天井の板を突き破り、手で這い出し、転がり、飛び出て……。あちこちから『仔月光』の群れ、群れ、群れ、大量にわいてでてくる『仔月光』。

 

「な、ななななななな?!」

 

 ゾロゾロゾロゾロと出てくる『仔月光』達に追われていることなど忘れてアークは驚いて固まった。

 

 しかし物音に気づいた手長猿……UT部隊ががに股で曲がり角から姿をあらわし、そしてサブマシンガンをアークに向けようとしたその時。

 

「ビュイーッ!!アーイ!!」「アーイ!」「アーイ!」「アーイ!」

 

 仔月光の群れが一斉にUT部隊に飛びかかり、六体のUT部隊の隊員(?)の腕を、足を、顔面、いや全体にわちゃわちゃと群がり、そしてスタンガンをぶちかまして行動不能にし、さらにどこから取り出したのか、銃型の無針注射器を持った個体がその体液を採取、その上で別の個体が頭の頭巾とゴーグルを外してその顔を撮影、その後に背後に絡みついていた個体が、やはりどこから取り出したのか、カランビットナイフで首を刈って殺害した。

 

 どれも同時、タイムラグなど一秒たりとも無く六体を無力化してしまった。

 

 ちょっと不気味だが便利なただのお手伝いロボだと思っていた物が、実は群れを成して人間(?)をこうして殺傷せしむる兵器なのだと知ったアーク・トンプソンは、後にこう語る。

 

『……未だに悪夢に見るんだ。いや、B.O.W.の徘徊するシーナ島なんざ屁でもねぇ。あんなもんは怖くはねぇさ。……黒い手のついた黒いボールの群れに自分が襲われる、そんな夢を今も見るんだ。ほら、ここにも奴らがいる……!』

 

「ぴゅうぃっ?アーイ!」

 

 絶句しているアークに、最初にダクトから出てきた『仔月光』が鳴いた。

 

「え?」

 

 すると、手長猿人間を始末した『仔月光』達が、手長猿人間の持っていたMP5と、そのマガジンを持って、それをアークに渡してきた。

 

「……これを使えっていうのか?」

 

「アーイ!」

 

 グッ!と目の前の『仔月光』がサムズアップし、そしてまた手を振って排気ダクトへと戻っていった。いや、見れば他の『仔月光』も素早くそれぞれ何処かへと消えていった。

 

「……というか、アイツら助けてくれたのか?」

 

 ジュオォォォォッ、と手長猿人間の死体が泡を出して消えていく音以外は、辺りに何の音も無く、シーンとしていて逆にそれが恐ろしい。

 

 とはいえ、図らずも武器ゲットであるが何故あの仔月光の群れが自分を助けてくれたのかわからないアーク・トンプソンであった。

 

「こうしてても仕方がねぇ。とりあえず、脱出の手立ての探さないとな」

 

 何であれ、ここに居ても仕方がない。集めたアンブレラのウィルス兵器とB.O.W.製造が証拠を持ってここから生きて脱出しなければレオンからの報酬も得られないのだ。

 

……待ってろよレオン。そして殴らせろ音高く!そしてきっちり耳そろえて金を払わせる!」

 

 そうして、地図も何も持ち合わせていない彼は、ずんどこずんどこ、危険地帯へと進んでいった。

 

 凶悪な量産型タイラントがこの島の支配者を気取ったアホのビンセントによって大量に放たれたと言うことも知らずに。

 

「ふひひひひ、ライヴでフィットネス!フィニッシュのキッスポーズを絶対に間近で見てやるからなっ!!」  

 

 金が入ったら行く予定のバイオラおねーさんのブートキャンプフィットネスのライヴ、それだけが今の彼のサバイバルの原動力であった……。

 




・クワイエットさん(アラフォー)。ただし声帯虫はありません。相変わらずナイスバディ。

・パイソンさんはメタルギアのポータブルオプスに出てくるビッグボスのかつての戦友です。イレイザーヘッドみたいに頭に針が刺さってます。

・この物語の仔月光は原作ゲームよりも高性能です。某タチコマ風。

・なお原作ゲームのアーク・トンプソンの性格と、この物語に出て来るアーク・トンプソンの性格は全く異なっており、かなりの改変を加えてあります。主に某GS美神な某横島の性格が加えられてますが、その理由は舞台がシーナ島だからGS美神の作者の椎名○志氏風にやろう、という安直な発想からです。念のため。


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Side:平凡さん①

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

ミラーに続き、オセロットさんも参戦。

……大概、この物語のオセロットさんもどことなく変ですが、気にしないように。

なお、誰もツッコんでくれなかったのでバラしますが、アーク君が横島風味なのは舞台が『シーナ島』だからなんです。ほら『GS美神』の作者さんの名前が……。


 

 ブリーフィングルームに入るとミラー外相と白くなった長髪をオールバックにした角型の細いグラサンの初老の男と、そして白衣を着たアジア系だがエイダとは違い中東系の顔立ちの若い女性、そしていくつものモニターの前に座る幾人かの軍服を来たオペレーターがヘッドセットマイクで様々な指示をしている。

 

 あと、なんかチラホラとトライポッドが天井にぶら下がってたりテーブルの上に乗ってたりしているが、なんかあちこちに居るな、コイツら。

 

 そういや無線中継機能もあったんだっけか?このトライポッドは。無線中継機なら無線中継機で固定式の専用の物を使った方がいいんじゃないか?とも思う。

 

……つーか、テーブルの上の奴が頭(?)の上の手を伸ばして指を1の形にして仁王立ちしているのがなんかシュールだ。

 

「副司令、艦長、お連れいたしました」

 

 と、女兵士のお二人さんがミラー外相と初老の男性に敬礼する。

 

「ああ、ご苦労。君達はそこで待機したまえ」

 

 ミラー外相は女兵士さん達にそう命じ、そして俺達の方に目を向けた。

 

「よく来てくれた、ヒトシ。ちょっと待ってくれよ、シーナ島に動き有りだ。……先行してバラまいた潜入トライポッド達から新たな情報がわんさか届いている」

 

 ミラー外相……ここでは副司令と呼ばれるが、ザンジバーランド軍でもMSFでも同様であるらしい。彼が今回の作戦の総指揮官となる。

 

「わんさか、ですか?」

 

 なんとなく『わんさか』とか言われるとトライポッドが大量にばらまかれたイメージが湧くのは何故だろうか。

 

「ああ、かなり重要な情報……いや、あんたにとってもだが、厄介な別件がらみのも多く出てきた。整理出来たら話すが、とりあえず椅子に座ってくれ。そこのあんた用のデカい奴だ。他の連中が作戦会議に来るまでまだかかる。作戦の手順は前に送付したものと変わってはいないが、もう一度そこのワルオヤジに聞いておいてくれ。オセロット、頼む」

 

 オセロットと呼ばれた、初老の人物はワルオヤジと呼ばれた事に苦笑し、

 

「私がワルオヤジならミラー、お前はスケベオヤジじゃないか、まったく。……なぁ?」

 

 と、俺に同意を求めて来たが否定は出来ない。

 

……なんせ、ウチの海洋プラントに来た後、中南米の迎賓館へと行った際、夜に抜け出してヤザン大統領と夜の歓楽街へ赴き、綺麗なおねーさん達が沢山在籍しているという高級娼館『夜の蝶亭』にてそれはそれはハッスルされたという話が伝わっている。

 

「さて?ここは否定する所でしょうかね?」

 

 肩をすくめて苦笑いしてオセロット氏に返す。

 

 いや、俺は別に夜遊びに誘われなかった事に対して拗ねてるわけではない。……つーかハンター君は連れてった癖に、とか思ってなどいない。

 

 いや、誘われなかった理由はわかっている。俺とナスターシャが事実婚の関係であり、そこを考慮してくれたのはありがたいと思う。

 だが、夜の蝶亭の名物の鯨料理が美味かったとか俺の前で言わなくてもよかったんじゃないかなーとか、土産に包んで持ってきてくれてもよかったんじゃないかなーとか思っているだけだ。

 

 それでなくとも、プラントの食事はレトルトやハンバーガー、インスタントラーメンなどで、外食なんぞ出来ないのだからな。

 

 まぁ、そんな事を思う辺りミラー外相とは非常に親しくなれているわけだが、まぁ、それはともかくとして。

 

 するとオセロット氏は、はははははと一笑して、

 

「私は悪いどころではないし、ミラーはもう好色一代男だからな。否定出来ない!はははははは」

 

 と上機嫌で言った。あーあー、自分で肯定しちゃったよ。見ればミラー外相もやや苦笑いしている。

 

 しかしこのオセロット氏、気さくな風に見えて確かに極悪人であるのは匂いでわかる。

 だが、奇妙な事に嫌な感じがほとんどしない。ゲスの匂いが全くしない。

 どう形容していいかわからないが、まるで若い頃は美形でならした2枚目俳優が年を経て舞台で極悪人の役に抜擢されてそれがはまり役になった、という感じがするのだ。

 

……よくわからんが目的や任務の為なら迷わず悪人になれるタイプの人間かもしれんな、これは。

 

 どうやらザンジバーランドには一筋縄では行かないタイプの人間がひしめいているらしい。 

 

「私のコードネームはリボルバーオセロットだ。今も昔もこれだけは変わらない。まぁ……役職はいくつか持っているが、ここではこの艦『ギアキャリア級一番艦・ヘヴンディヴァイド』の艦長と戦隊指揮官という立場だ」

 

 まるで俺が思っている事を読んだかのように言う辺り、いや、これは悟られたのだろう。

 

「まぁ、そこにグレイフォックスがいるのだ、どうせバレるだろうから言っておくが、私はザンジバーランド大統領補佐官『アダムスカ』でもある。……これは我が国では良くあることでね。ミラー外相が軍の副司令であるように、そしてリビアのカダフィが大佐と呼ばれるのと似たようなものだよ」

 

……いや、なんか違う気がするがその辺どうなんだろうなぁ。つーか、一国の重鎮二名がよその国の領海の島に攻め込む作戦に加わってるというのも普通はあり得ないだろおい。

 

「それはさておき、今回我々はフランス海軍との演習中、偶然勃発した『反アンブレラ組織のテロ』をフランス海軍と米軍と共に鎮圧する……という筋書きだ。反アンブレラ組織の声明もとっくにフランス政府に送りつけてある……事になっている。こっちはミラーがすでに手配してあるし、今頃フランスの国営放送でニュースになっているとも。でだ、君達『強襲部隊』はテロリスト役になるわけだ」

 

 それに関して、ウチはとっくに了承していた。俺の目的は俺の遺伝子から造られた娘を救う事であり、その為には誰よりも早くアンブレラ施設内に突入せねばならないのだ。そして、そのためならばテロも辞さない覚悟である。

 

……どうせ暴れまくるのだし、アンブレラの連中やB.O.W.は対して苦ではない。G-生命体クラスでもいたなら別だが、その対策もきっちりとしてきている。

 

 とはいえ懸念事項が無いわけではない。ザンジバーランドや他国の兵士達、つまり本来の味方側から攻撃された場合が厄介なのだ。

 

「……鎮圧部隊への根回しは?まさか攻撃してくるとは言いませんよね?私は手加減に向きません。ラクーンシティから脱出する際、手加減したつもりでしたが、私達を追ってきたアンブレラの私兵達は良くて全身骨折、悪くて死亡しましたからね」

 

 これは脅しでも何でもなく紛れもない事実である。というかあの地下鉄のトンネルで、衝撃波を放とうとしたタイミングで、

 

『俺、この作戦が終わったら結婚するんだ……』

 

 と言い終わらない間にズドーン!ぐしゃばきぐちゃっ、と身体の骨を砕かれて死亡した若きアンブレラ兵の最後に今も罪悪感を多少感じていたりするのだ。つか死亡フラグ立てるなよ、マジで。

 

「無論出来ているとも。それに邪魔しそうなフランス海軍特殊部隊はこの作戦が終わるまで来ない事になっている。……フランス政府はいつものように風見鶏だったが、流石にラクーンシティに何が起こったのか、その全容を知ってからは態度が変わったよ。それにヨーロッパ大手の金融機関がアンブレラへの融資の一時差し止めを行った事もかなり響いてね。……これはどこかの誰かさんが特許差し止めをやらかしてくれたおかげでもあるが。なぁ、タイラー社長?」

 

「……そこまで影響出てますか。というか特許無断使用の賠償総額はまだ出ていないとの事ですが、奴らもかなりおおっぴらにやらかしてたみたいですねぇ。銀行からの融資を差し止められるとは、いやはや」

 

 というか、俺の特許差し止めがそんな影響を出すとは思わんかったぞ。

 

「まぁ、ザンジバーランド側からの援護射撃もあっての事ではあるが、君の損害額は、少なく見積もってもアンブレラの資産、十分の一程だとウチでは出ているぞ。無論、君と技術を協同開発した製薬機器メーカーのミナモト精密機器もかなりの損害賠償額を得るだろうが。それが払われれば君は一躍世界レベルの個人資産を得ることとなるだろうな」

 

……あの、まだウチの訴訟の件で会計してくれている人が総額を出せていないのに、なんでザンジバーランドが割り出してんですか、つーかウチの内情まで実はスパイしてんですか、ってそんな奴、ハンター君しか居ねぇだろおい!

 

ジロリとハンター君を睨めば、彼は軽くアメリカ人がやるように肩をすくめて手を上に向ける仕草をとり、

 

「潜入工作員だと知ってるのに雇ったあなたが悪いのですよ、社長?」

 

なんぞとキザに言いやがった。

 

「契約切れてるって言ってたよな?」

 

「あれはアメリカ側との契約ですよ。まぁ、どの道アンブレラ訴訟ではザンジバーランド法務大臣下の最高の人材達を派遣してもらうのです。彼らを動かす為に必要な情報だったのです」

 

 しれっと涼しい顔しやがるが、そう言われればなんも言えんではないか。

 

「はははは、まぁ、ザンジバーランドの潜入工作員を雇ったなら警戒することだ」

 

 オセロット氏がそんな事を言うが、それって信用出来ねぇ連中だらけって言っとるようなもんじゃね?!

 

「まぁ、それはさておき。敵の懐具合が減るわ社会的信用を無くすわ、味方側が肥えてくれるならそれは非常に良い事なのだよ。……これは提案なのだが、もういっそザンジバーランド国籍になってしまってはどうだね?タックスヘイヴンとまでは行かないが日本の税金よりはかなーり安いぞ?さらに今ならかなりの特典がつく。個人的には油田の開発に投資をするか、いっそ土地を購入し石油会社に運営を任せて億万長者路線をひた走ることをお勧めする。私ならそうする。会社もより大きく出来るし様々な事業もやりたい放題、なんなら別荘に豪邸を立ててハーレムも夢ではない。こそこそ愛人なんて作らなくとも第二第三、と夫人も娶り放題だぞ?例えばそこの女性兵士達を見たまえ。ヘルメットで顔は見えていないが、ザンジバーランドは美女揃いだぞ?気立てもいい!スタイルもいい!……というか内戦や紛争で男共が少なくなっているのもあるから狙い目だ!そもそも一夫多妻制は誤解されやすいが、元々は経済的に余裕のある男が女性の生活を支えるための伝統かつ制度でもあるのだ。君は戦災で家族を失った女性達を救える人材でもある。婚期が来てるのにいい男がいない、彼氏出来ない、とウチの子達もみんなボヤいていたりするしな。経済的にも有望、戦闘力的にも人格的にも君は引く手数多だ。夜の営みに関してもかなりタフだとも聞いている!どうだね、その財力をザンジバーランドの女性達の救済に……」

 

「いや、妻に殺されかねないのでその辺は……」

 

 我が妻は今回の作戦用にプラントにあったスクラップから対タイラント戦も出来るような機動兵器を作り出せる女なんやぞ。浮気なんぞしたら んなもん『恋の抑止力』がBGMにかかるどころの騒ぎではなく、おそらくセシール・コジマ・カミナンデス教授が歌う『豚のご飯(カラオケでの十八番らしい)』をBGMにファランクスと火炎放射器をぶちかまし盛大にグレラン発射して爆炎と共にあの馬鹿でかい鋼鉄の拳や装甲マシマシな足で俺をぶん殴り踏みつけてくるに違いないのだ。

 

……つうか、夜の営みの件は確実にお前が情報元やろ、つうか許さんぞハンター君。

 

 と、ようやく情報の整理がついてシーナ島の現在の状況が把握出来たのか……いや、それ以外の重要な情報もあったようだが……ミラー外相が席から立ち上がり、

 

「はははははは、オセロット、流石にハーレムではヒトシは釣れんぞ。身に覚えの無い、責任も本来無い、アンブレラに造られた自分の子供を救いに行こうとする、そんな男だ。それに愛妻家でもある。彼の意思はなかなか曲がらんさ」

 

 と言いつつ、俺に助け船を出しているようだが、しかし何となく俺を見る目が鋭く、逃がさんがな?と雄弁に語っている。なんでやねん。

 

「とはいえヒトシ、ザンジバーランド国籍になる件は考えておいてくれ。中南米は良い国だし それに日本人だから祖国に愛着もあるだろう。だが世界はあんたを狙い始める。確実にだ。アンブレラが壊滅したとしてもあんたの存在はいろんな意味で脅威的かつ、価値がある。その頭脳、そしてこれから得るだろう財力、超人としての遺伝子の価値。様々なものに連中は群がって来る。……ザンジバーランドは様々な奴らが集まって建国した国だ。超能力者、超天才的な頭脳を持った科学者、サイボーグの実験体にされた兵士、一度死んで蘇生された兵士、改造人間。そういう奴らも俺達は受け入れて来た。はぐれ者達が集まったアウターヘヴン、ザンジバーランド。そこでは誰しもが人間として仲間として生きて暮らしている。俺達の国はあんたとあんたの仲間の居場所くらいいつでも用意してみせる」

 

 待っている、とミラー外相は熱く語った。

 

「……まぁ、どうにもならなくなったら相談します」

 

 しかし、俺はそれだけ言うに留めておいた。彼らが本気で俺を仲間にしようと考えているのは理解出来たが、それは様々な事を危惧するが故でもあるし、俺の身を案じているが故でもある。

 

 無論、ありがたい申し出ではある。

 

……ハーレムに心を動かされなかったかと言えば嘘になるがナスターシャの怒りの方が恐いのでその辺は考えないようにしたい。

 

 つうか、なんか個人資産とか、その辺の話が出た辺りから、ヘイヴントルーパーのお二方とかオペレーターの皆さんがこっちに意識向けてきてるのがわかってなんか怖かった。

 

 つーか、さっさと作戦始まらんかな、これ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 一方、その頃のアーク君はというと。

 

「どわーーーっ!!うわーーーっ!!なんで死なねーんだこの顔面岩石やろう!!」

 

 量産型タイラント二体に追っかけ回され、MP5を後ろ手に連射しながらなんか全裸のようぢぉを小脇に抱えて走り回ってたとさ。

 

「わ~、あーくん、はっやーい。きゃっきゃっ」

 

 ようぢぉはなんかはしゃいでおり、笑っている。

 

「あー、もう、お前状況わかってんのか?!つかなんやねんあのデカいおっさんはっ!!つかあの黒いのも出てこねーし!!まっくろくろすけ出ておいでぇぇぇっ!!つーかタースーケーテぇぇ!!」

 

 さっきはトライポッドに助けられたのだが、今回は全くその姿など無く出て来ない。

 

 アークは全裸ようぢぉ……いやそれはぶっちゃけバラすと実は平凡さんの娘なのだが……全裸のつるぺたようぢぉ抱えて涙と鼻水たらして走る。

 

 その様は変態にしか見えなかったが、まぁ、見ている者はいないのは幸いだった……というか通報されたところでもはやこの島に警察官なんぞ居ない。居るのは警察官だったゾンビであり、出て来たとしても後ろのタイラント二体にぶっころされるだけだろう。

 

 実際、途中であちこちからリッカーやハンター、UT部隊の手長猿人間共が出てきたりはしたが、二体のタイラントはどうもそれらのB.O.W.を味方とは思っていないのかすべてワンパンでぶっころしていた。もはや無差別である。

 

 MP5が顔面に命中しているのにタイラント達はお構いなしでドコーン!バコーン!とアークにパンチを放って来るが、アークは巧みにそれを交わして走る、走る、とにかく走る。走って飛び跳ねるその様はまるでコメツキバッタのようである。

 

「なんで出てこねーんだよ、黒丸くーん!!」 

 

 アークは叫ぶがトライポッド君達はヘウンディヴアイドがオペレーターさん達の指令でこの付近から別の場所へ移動しており、強襲部隊の着陸地点の場所を確保しているので来るはずもない。

 

 とっぴんぱらりのぷぅ。 

 

「とっぴんぱらりのぷぅ、じゃねぇぇぇ!!」

 

 まぁ、待て次回。

 

 




・平凡さん、ザンジバーランド国籍フラグを立てられる。ハーレムフラグは立つのか?

・アーク君、しれっとようぢぉと遭遇。

・なお、この物語ではビンセントのが変態。

・オセロットさん、実は変態ジジィ疑惑。

・空気なナオミさん。


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アークとビンセント・ゴールドマンとようぢぉ。

いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

※胸糞な感じの架空の事件が出てきますがフィクションです。

バイオハザード臭をもっとさせねばなぁ。メタルギア臭も良いんですけどね……。
 
※なお、原作のキャラ設定はかなり崩壊させまくっていますので、このキャラはこうなのか、とか信じないようにね?



 

【sideアーク・トンプソン】

 

アーク・トンプソンはMP5をゲットした!30連マガジンも五本ゲットした!てーてってれー!

 

……弾がもったいないから、単発にしとこ。

 

 アークは短機関銃のレバーをフルオートから単発に切り替えた。

 大抵短機関銃と言えば命中精度よりも連射してなんぼ、弾幕張ってなんぼな性能なのだが、このMP5は従来の短機関銃とは異なり対テロ特殊部隊用に開発された、言わば短機関銃化されたアサルトライフルと言った方が良いような銃である。

 故に命中精度は非常に高く、単発で射撃してもアークの腕ならば急所を狙ってクリティカルを狙えるだろう。

 

 アークの射撃の腕は警察学校時代からかなりのものであり教官からも『今までの素行悪さを帳消しにしてやるから競技に出ろ』と無理矢理に出されたりしたが、その際に大会二位という好成績を残した。

 

 優勝一歩手前で的を外しての二位だがそれでもたいしたものである。

 

 大会後、的を外した理由について彼はこう語る。

 

『夏のおっぱいが、あかんかったんや』

 

 アークが参加したのは真夏の大会だった。

 観戦しに来ていた女性達はみんな薄着であり、それが歓声とともに、揺れる、弾む。ボインボイン。

 

 その中にタンクトップの巨乳アメリカンサイズなねーちゃんがおったら、しかもポッチが浮いてたりしたら、そらそっちに意識が行って集中でけんわなぁ。

 

 なお、その大会の優勝者に、

 

『真面目にやりやがれこの童貞野郎!てめぇ、女の乳に気を取られてんじゃねぇぞ!!次までにその童貞なんとかしやがれ!!』

 

 と怒られたわけだが、その優勝者が元ラクーン市警察のケビンだったりする。

 

 おっぱいがもし無かったら優勝はどちらだったのかわからないが、だがアークは二度と大会に出ることは無かった。何故ならその後、傭兵訓練所に送られたからである。

 

 悲報:童貞は未だになんともなっていない。

 

 優勝者のケビンはその後も大会に出場し優勝を重ねたが、その度に『あんの童貞小僧は出てねぇのか?』と言っていたというが、まぁ、再会したときになんかいろいろ起こることが今から予想出来るが、そんな事は今のアークは知る由も無い。

 

 ただ、今のアークは強力な武器が手に入ったので、

 

「よし、これでなんとかなるだろう」

 

 と先ほどまでの緊張を解いてしまっていた。

 

 緊張を解いてしまったらなんか尿意を催してしまい、アークはキョロキョロと辺りにB.O.W.などの姿や気配が無い事を確認した。

 

 ここは廊下ではあるが、状況が状況である。ここに来るまでに入ったトイレの個室にはアークが倒したゾンビの死体が転がっており、そんなところで用を足すなんぞしたくは無かったし、ここに来てからの経験から、新たにトイレを探すにしてもやはりゾンビとか脳みそ剥き出しのリッカーとか出てくるに違いあるまい。

 

 そうこうしているうちに、もはや尿意は我慢出来ないほどにマシマシで膀胱に溜まった尿は決壊寸前である。さっきまで緊張のせいで感じてなかったのに。

 

……いっそここでやっちまうか?

 

 迷ったが、我慢の限界である。しかし排水の溝からなんか黒い丸っこいチビロボ出て来たしなぁ、助けてもらったしなぁ、とか考え、せめていない事を確かめる。

 

「安全確認ヨシ!指先確認!今日も1日御安全に!」

 

 そしておもむろにジッパーを、下げる。

 

「ち○こ準備ヨシ!」

 

 もろりっ。

 

「撃ち方ぁ始めっ!」

 

 じょーーーーーっ、じょんじょろじょんじょんじょーーーっ。

 

 溜め込んだ水分が勢い良く放出される。

 

「ふぃぃ、あ~、便所くらいは安全圏であって欲しいところだがなぁ。そんな都合のいいこた無いわなぁ」

 

 戦場では24時間いつでもどこでも危険地帯である。敵は便所だろうかなんだろうが構わず攻撃してくるものだ、とアークはアラスカの教官パイソンから教わっていたが、しかし人間というものはどうしても出るモンは出るし、動けない時は動けないものである。

 

 ふと、アークの頭上でガタッと何か音がした。パラパラと誇りが落ちて来て、なんぞ?とアークは上を見る。

 

 天井のダクトからである。

 

「おいおい、まさかまたあの黒いのかぁ?」

 

 まだ尿は終わらない。くそっ、まだ出てくんなよ?とか思いつつダクトを見ていれば、ギィィィッとダクトの網が開き、そして何か肌色でかつピンク色のものが落ちて来た。

 

 すとん。

 

 それは動けぬアークの顔面に乗っかる形で着地……いや、着顔した。

 

 むにゅん。

 

 それは柔らかかった。人肌であり、思ったほど重くなく、すべすべしてて、そしてなんか鼻がぷにゅっとしたものに触れた感じがした。

 

 一瞬、アークには何が起こったのかわからなかったが、アークの顔面に落ちてきたそれを何かと説明すれば。

 

 THE おしり。である。

 

 親方ぁ、天井ダクトからようぢぉのおしりが落ちてきたぁ。

  

 いや、おしりではない。ようぢぉそのものである。

 

……顔面にようぢぉ『おちり』を乗せつつ放尿をする青年の図。端から見ればまさに変態である。

  

 じょんじょろじょんじょんじょー。

 

 まだ、尿は止まらない。だからアークも動けない。

 

「…………あなた、だぁれ?」

 

 ようぢぉがアークに可愛らしい『おちり』をアークの顔面に乗せたまま言った。

 

「というか待て……。動くな、終わるまで……」

 

 ようぢぉの『おちり』に口を塞がれつつもなんとか答えるアーク。

 

 尿が止まるまでアークは尻の谷間に顔面を強制的に挟まれたまま、そうしているしか無かった。

 

 今、動けば尿がブレる。それだけではなく、この絶妙な神の悪意じみたバランスが崩れてしまえば、ようぢぉを落としかねない。

 

 そうなると尿がかかったり、尿で濡れてしまった床の排水溝の網蓋にようぢぉを落としてしまう。

 

 アークは普段の行動で誤解されやすいが、ようぢぉに興味は無い。ロリな性癖は何一つ無い。

 

 ただひたすらに、ちちしりふとももをこよなく愛し、ナイスなバディのおねーさんが大好きな男である。ほとばしる熱いパトスで青年よ神話になれ……いや、神話にはならないが変態になるのだ。

 

 しかしロリには心を動かされない彼だが、何故かものすごく誤解される。探偵事務所の女の子のお子さんをお持ちのご婦人方にはものっそい誤解される。あそこの探偵さんは変態だから遊びに行っちゃだめよ!

 

……通報案件。それだけは避けねばならないとアークは思った。

 

 そしてここが海外でよかった。ご近所で無くてよかった。そして誰も見ていなくてよかった。

 

 そう想いつつ、ようやくアークは放尿を終えてイチモツを閉まい、両手で顔面の『おちり』、いや、ようぢぉを引き剥がしたのだった。

 

 彼にとって幸いだったのは、このエリアにトライポッドがすでに去ってもう居なかったことであろう。

 

 もしこの映像がこのようぢぉの父親に見られたならば、彼は命までは取られないまでも、酷い目にあわされていたかも知れない。

 

 とはいえ彼の人生ハードモードに突入したのは間違いないが、まぁ、頑張ってほしいものである。

 

 がんばれー?まけるなー?(気のない応援)。

 

 どうせ平凡さんはここに来るのだからな?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【Side:ビンセント・ゴールドマン~1日前】

 

 ビンセント・ゴールドマンはアンブレラにおいて腫れ物であった。

 

 天才であり、才能も他の研究者に比べてもずば抜けたものをもっていたが、その性格と目的のためならば手段を選ばず、非合法な事にすら手を染め、人の研究成果をその研究者を殺してでも自分のものにする、といったろくでもなさが しばしばアンブレラ本部でも問題になっていた。

 

 彼の功績は大抵、人から盗み出したものをベースにして完成させたものだったりするが、とはいえビンセント・ゴールドマンが優秀なのは造った研究者が行き詰まって完成出来ずにいるものをさらっと完成させてしまえる所にある。

 

 さらに厄介なのは、その盗んだ研究が完成した頃には全て自分が最初から苦労して研究したものが実を結んだのだと自分自身で思いこみ、そして盗んだ事など本気で忘れてしまうそのサイコパスぶりであろう。

 

 故に彼がタイラントの量産方法を完成させたのはたしかだが、その研究のデータは盗んだものである。 

 

 というより、タイラントの安定した生産方法を編み出したのは、アンブレラの元研究員でありラクーン大学の教員であったグレッグ・ミューラーである。

 

 またグレッグ・ミューラーはセルゲイ・クローン以外の素体、それもセルゲイ・クローンよりも低いT-ウィルス適合率の人間を素体としたタイラント製造に初めて成功したほどの研究者だったが、その研究データを狙ったビンセント・ゴールドマンに雇われたエージェントによって殺害され、そのデータを元にビンセント・ゴールドマンはタイラントを安定して量産する方法だけでなく、セルゲイ・クローン以外の素体でのタイラント量産の方法を完成させてしまったのである。

 

 本当にアンブレラの研究者というのはろくでもない奴が多いが、ビンセント・ゴールドマンほどろくでもない奴もおるまい。

 

 が、アンブレラとしては誰が完成させようが使えるなら使う無節操かつろくでもない企業である。

 

 ビンセント・ゴールドマンがこのシーナ島に左遷された理由は研究の盗用ではない。そんなものはアンブレラにとっては些細なものでしかなく、スペンサーがコレまでにしてきた数々のろくでもない事に比べればまだ可愛いものである。

 

 ビンセント・ゴールドマンが左遷された理由は表に出ては企業としての表の顔が潰れてしまうであろう、その性癖にあった。

 

 ビンセント・ゴールドマンの性癖は非常に残虐かつ常軌を逸している。

 

……かつて、フランスを震撼させた女児誘拐大量殺人事件があった。どの女児の死体も声が出せないように喉を酸で焼かれ、呼吸の為に気道切開し、その上で生きたまま腹を鋭利な刃物で裂かれ、子宮を露出されたまま犯されていたという。

 

 殺された女児の検死を行った検死官は、死因は出血多量と断定した。すなわち犯されていた時はまだ生きていたという事になる。

 

 しかし、その猟奇犯は捕まることは無かった。DNAという確固たる証拠があったのにもかかわらず、である。また、その手口と使用されていた器具からも犯人の特定は容易であるはずであった。

 

 だか、事件は未解決のまま、捜査は打ち切られた。また捜査にあたっていた警官数名とその家族が何者かによって殺害され、真相は闇に葬られてしまったのである。

 

……おわかりの通り、犯人はビンセント・ゴールドマンであり、隠蔽したのはアンブレラである。

 

 ビンセント・ゴールドマンは異常というには遥かに越えている性癖をもっており、女児を生きたまま解剖しながら犯す事を楽しむような外道なのである。

 

「……ふん、あれしきで死ぬガキが悪い。私をもっと長く楽しませるようなガキはどこかにいないのか」

 

 ビンセント・ゴールドマンは常々そう思っていた。

 

 そしてとある新型タイラントの製造実験中にこの悪魔に地獄の天啓が舞い降りた。

 

「死なないガキは……ここにいた!」

 

 調整槽の中、眠るT+Gウィルスの実験体。特殊なタイラントとそしてラクーンシティの不死身の出来損ないの遺伝子の結合体。

 

 ビンセント・ゴールドマンはニシャアと汚い笑みを浮かべ、まだ育ちきっていないその実験体を調整槽から出そうとした。

 

……ぶっちゃけ言おう。死亡フラグ乙。

 

 出した結果、ビンセント・ゴールドマンはようぢぉに目潰しを食らい、さらに金的蹴り上げられて逃げられたのであるが、そりゃああんた平凡さんの遺伝子を半分持った『ようぢぉ』がただの『ようぢぉ』なわけはなかろうに。

 

「わたし、くさい人、きらーい」

 

 ようぢぉはそう吐き捨てて悶絶しているビンセント・ゴールドマンをその場に残し、悠々と去って行った。

 

 どうやらようぢぉは父親譲りのスメルセンスを持っているようで、しかも悪に対して情けも容赦もない性格をしているようである。

 

 いやはや末恐ろしいね?

 

 




・うわ、ようぢぉつおい。

・なお、原作ではビンセント・ゴールドマンにそんな性癖はありません。ですがあってもおかしくないなーとか思ったりなんだり(キャラの風評被害ががが)。

※なお、ビンセント・ゴールドマンは原作ゲームガンサバイバーではタイラントの量産方法を造った研究者ですが、たしかアウトブレイクに登場するグレッグ・ミューラーは黒人をベースにしたタイラント『タナトス』を製造しており、またアンブレラからのタイラント量産の依頼を断ってるんですよねぇ。この辺がややこしくなったので、グレッグ・ミューラーの研究をパクった、ということにしました。



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Side:ソリッドスネーク

お待たせしました。

世界情勢あかんようになってきたけど書いてて大丈夫か?とか思いましたが、もう知らん書いてまえ。

とりあえず再開します。






《でね、ディヴ。やっぱりおかーさん、一度家族で話し合うべきだって思うのよ。タイラントのタイラーさんにいわれたんだけど、家族みんなで話し合って理解しあうのが一番大事だって気づいたのよ》

 

 前を進む『メタルギアミニ改』の折りたたみ式の画面には生みの母であるエヴァの顔が映されている。

 

「……今、ミッション中だ。そっち(ザンジバーランド軍作戦司令室)の回線経由で連絡して来ないでくれ」

 

 彼は今、シーナ島のコンピュータールームへ侵入するために換気ダクトの中を匍匐前進している真っ最中である。

 

 当然、そんな家庭の事情的な会話などつき合っている暇などない。ロー・クロールな匍匐でダクトを進みつつソリッドスネークは、

 

……誰がおかーさんだ。

 

 などと思いつつうんざりした。

 

 彼、ソリッドスネークの家族関係は非常にややこしい。

 

 例えばエヴァは産みの母であるがソリッドスネークとは血の繋がりは無い。彼女は代理母であり、たしかにそのお腹でソリッドスネークとリキッドスネークを育て産んだ。

 

 つまり遺伝子上の続柄は無い。だが、後にビッグボスの第二夫人の座に収まってしまったために、義母的な感じになってしまったのだ。

 

 しかし、彼からすればクローン人間に親なんているのか?とかオリジナルであるビッグボスは父親では無い……というか、ビッグボス本人も彼ら双子を息子などとは認めていなかったこともある……と子供の頃から思っており、またエヴァにアメリカの孤児院から連れ出される前から『自分には親などいない』と思って過ごしていた事からかなりその辺はドライであったのだ。

 

 というか。

 

 エヴァの子供をスポイルするような甘やかしにはだいたい彼ら双子はそもそもウンザリしていた節がある。

 

 また、ビッグボスに対しても子供心から不信感を抱いていたし、そもそも双子の兄弟のリキッドとは犬猿の仲であり、故に彼、ソリッドスネークことディヴィッドは16歳になった時にMSFを離れ、ロイ・キャンベル大佐の伝手を頼りにアメリカの全寮制の軍学校に入り、そのまま軍人としてロイ・キャンベル大佐が司令を務める『次世代ハイテク部隊・フォックスハウンド』に入隊したわけだが……。

 

 入隊したフォックスハウンドの教官や隊員の先輩にMSFの連中が居たりしてウンザリさせられた。というかミラーやらオセロットやらパイソン、しかも先輩枠にグレイフォックス。

 

……どないせぇっちゅーんじゃ。

 

 まぁ、幸い彼らは特にソリッドスネークに、MSFに戻って来いなどと言わなかったし訓練やミッションなど以外では放っておいてくれていたので特にウザくは無く、適度な距離で接してはいた。

 

 だが、それも全てはソリッドを連れ帰るためにMSFの連中はそれを悟らせないように行動していたというのが後に起こった『ザンジバーランド潜入作戦』によって判明する。

 

【ザンジバーランド潜入作戦】とは、中央アジアに突如として建国された軍事国家『ザンジバーランド』の要塞に侵入し、その要塞で建造されている『核搭載型二足歩行戦車・メタルギア』の破壊を最終目標とした作戦である。……というのは表向きの話。

 

 国連加盟国認定秒読み段階のザンジバーランドに息子のディヴィッドを連れ戻そうとしたエヴァに賛同したミラー達が企んだ壮大なドッキリ企画だった!!(ロイ・キャンベルもグルだった)

 

 ということだったのである。

 

 結果としてソリッドスネークはザンジバーランドに投降するしか無い状況に追い込まれた。

 

 ロイ・キャンベル大佐の無線による指示によって誘導された場所はソリッドスネークを捕らえるための罠が張り巡らされた所であり……というかパーティー会場であり、『お帰りなさいディヴィッド!』という垂れ幕があり、アメリカに居たはずのミラーやオセロットや子供のころに世話になった連中やらビッグボス、エヴァ、パスおばさんがクラッカーを鳴らして出てきたのである。

 

 ロイ・キャンベル大佐も何故か会場におり、ネタバラしをしに出てきたりして、命懸けで任務遂行せんと全力で頑張って潜入したソリッドスネークはもう誰を信じていいのかわからなくなり、心を折ってしまったのだった。

 

 その後。

 

 オセロットはザンジバーランド連合に加盟した国国の有力者のお年頃の娘さんとの見合いをセッティングしてきたり、ミラーはザンジバーランドの風俗店に連れて行こうとしたり、ビッグボスはなんかコミュニケーションを取ろうとしてきたり(なんか気持ち悪かった)、エヴァによるママ攻撃にさらされたりした。

 

 みんな、やたらとアメリカ国籍からザンジバーランドに帰化させたいようだったが、帰化するつもりなどそもそもソリッドには無い。むしろ奴らとは無縁になりたいくらいだ。

 

 唯一、パスだけは普通に接してくれたが、パスと話をしているだけでリキッドが喧嘩を売ってくるので辟易とさせられた。

 

 リキッドは昔からエヴァよりもパスに懐いていたので、ソリッドが話をしていたのが気にくわなかったのだろう。というかガキの頃のそういう部分が抜けていなかったようでソリッドはイライラさせられた。

 

 『パスは私の母親になってくれるかも知れない女性だ!』

 

 とか抜かしやがったが

 

『うるせぇ!お前の代理母はエヴァだ!』

 

 と言ってやったらリキッドは精神的ダメージを食らい、なんかぐったりしやがったが、

 

『お前の代理母もだろ、ソリッド……ぐふっ……』

 

 と返されて両刃の剣で自分も自爆して精神的に嫌なダメージを食らう羽目になった。

 

 なおパスは複雑な表情をして、

 

『えっと……、ある意味私、一応は……義母なんだけどね?』

 

 と言っていたが、それはリキッドにとっては救いなのだろうが、ソリッドにとってはあまり救いでもなんでも無いことである。

 

 

 まあ、それはさておき。

 

……何が悲しくてわざわざ家族とやらから離れたのに戻らなければならんのだ。

 

 そう思った彼は、故にザンジバーランドから単身脱出し、かなり苦労してアメリカに帰国、そして軍を辞めてアラスカで孤独に生きていく事にしたのである。

 

 極寒の大地は厳しいが犬そりを引き、狩猟しながら暮らす生活は何より彼の心を癒した。

 

 家族とかそんな悩みはアラスカの白い大地に消えて行った。

 

……そう思っていたのに。

 

『スネークジュニアぁぁっ!元気かぁぁぁぁっ!!』

 

 自分の住む小屋に、顔見知りの頭に釘を大量に刺した一見変態にしか見えないオッサンがいきなり襲撃してきたことから彼の一人気ままなアラスカライフは終了してしまった。

 

 世界は狭いものである。

 

 なんと、パイソンの住んでいる土地はソリッドスネークの住んでいる小屋の隣の土地だったのである。

 

 パイソンはビッグボスの戦友にして古参の『蛇』を冠したコードネームを持つ男であり、まだ若き『スネーク』も流石にまだ敵わなかった。

 

 あれよあれよと言ううちに簀巻きにされてアメリカ国籍の潜水艦にかつぎ込まれ、そしてロイ・キャンベル大佐の指揮の元、『ニューロAI破壊作戦』に駆り出され、そして辞めたはずのフォックスハウンドでまた、再び様々な作戦に駆り出されているのである。

 

「……俺は、あんたらの元には帰らない。俺に家族はいない。任務中だ。以後の通信はしないでくれ」

 

 そう言って無理矢理着信を切り、そして着信拒否設定にした。

 

 彼はすっかり頑なになってしまった訳であるが、致し方なさすぎである。生い立ちが、生い立ちだったからだ。

 

〔はぁ、スネーク。君の家庭の事情も大変だね……〕

 

 メタルギア・ミニ改から、唯一の友人であり相棒である『オタコン』ことハル・エメリッヒから通信が入る。

 

 このハル・エメリッヒとは『ニューロAI破壊作戦』にて知り合った、言わば戦友である。

 

 『ニューロAI破壊作戦』は、アメリカにてかつてゼロ少佐が進めていた、コンピューターAIによる人類の支配と統制を行うという計画によって作られた試作型人工知能搭載型コンピューター『パトリオットシステム(仮)』を物理的かつプログラム的に破壊するという作戦だった。

 

 このニューロAIは試作型ではあったが、非常に厄介なものであり、ネット技術が進化しつつある1990年代後半、それまで活動をしていなかったそれがコンピューターネットワークを得て活動をし始め、ウィルスによって暗殺されたゼロ少佐がかつて計画していた全ての計画をまるで代理人のように行い、金融や多くの科学的研究、そして戦争までをもコントロールしようとしたのだ。

 

 そのAIの基礎理論を構築したストレンジラヴ博士、ハードの設計をしたシギントの二人はそのAIがまだ生きていた事を知り、その破壊計画を立案した。

 

 で、作戦に投入されたのが彼らソリッドスネークとハルの二人だった。

 

 二人は『パトリオットシステム』の試作型の破壊を成功させたが、しかし、この『パトリオットシステム』の完成型が製造されていた事、そしてそのデッドコピー、いや劣化パクリ版とも言えるものをアンブレラが製造していたことを知る。

 

 ソリッドスネークとハルは完成型と劣化パクリ版の二つのニューロAIの行方を追うこととなったわけだが……。

 

〔でもエヴァ夫人は数少ない、見返り無しに必要な装備を用意してくれる相手だよ。そんなに邪険にしなくても……〕

 

「じゃあお前はストレンジラヴ博士の支援を受けたいか?」

 

〔……無理だね。何を言い出されるかわかったもんじゃない。それに……君も知ってるだろ?僕は親父に瓜二つなんだ〕

 

 オタコンの立場はある意味微妙である。

 

 特にMSFの古参達にはオタコンはあまりよく思われていない。

  

 なにしろ、MSFを裏切ったエメリッヒ博士の息子で、そしてその体型や顔もそっくりな為、特にカリブの旧マザーベースにいた者達はあからさまに彼を嫌っているのだ。

 

 特にミラーからのヘイトがものすごいものがあり、ソリッドスネークとオタコンが組むことに最後まで反対したくらいであり、そのくらいエメリッヒ博士の残したトラウマはかなりのものだったとも言えるが、ビッグボスの、

 

『子供は別人だ。それにあの子も被害者だろう』

 

 の一言でなんとか収まった。

 

 この被害者、というのはオタコンがエメリッヒ博士のメタルギアの実験に付き合わされ、虐待じみた事をされていた事やそれに抗議した彼の母親であるストレンジラヴ博士を殺されかけた事などを言うが、それを言われればミラーも黙るしかない。

 

 しかし、父親に似ているために苦労してきた二人である。シンパシーはパないレベルでわかりみがすごかったのである。メタルギアに祟られているというよりもオヤジのせいで苦労する、いや、現在進行形でいろいろ巻き込まれているのである。

 

「……お互い、この話は止めよう」

 

〔うん、そうだね。気分が塞いでくるよ〕

 

 二人は溜め息を深く吐き、そしてそのまま無言になった。

  

 ざしゅ、ざしゅ、とダクトの中を匍匐前進で進む音だけがシュールだったが、間もなく目的地点のコンピュータールームである。

 

「早く仕事を終わらせよう。早く帰りたい」

 

〔そうだね。コンピュータールームはそこからすぐ右のダクトから入れるよ〕

 

 だが二人はまだ知らない。

 

 帰れるどころか、まだまだ隣のロックフォード島やら南極のシャドーモセスやらに行かされてとんでもないミッションに巻き込まれる事を。

 

 名コンビに幸あれかし、と祈りつつ、ここはヒキッ!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【Side 平凡さん】

 

 

「と、言う訳なのよぉ!お腹を痛めて産んだ可愛い可愛い息子が、冷たいのぉぉ!!」

 

 いや、知らんがな。

 

 俺は通信で愚痴ってくる大統領の第二夫人にやや辟易としながら、ヘヴン・ディヴァイドの格納庫で待機していた。

 

 ハンター君=グレイフォックスによれば、どうもこの第二夫人とその息子二人、そしてその父親であるビッグボスの関係はかなりこじれており、それは二人の息子達の出生に起因するということらしい。

 

 ビッグボスの息子達はバイオテクノロジーによって作られたビッグボスのクローンであるらしく、ビッグボスをイコンに担ぎ上げそこなった、とある組織のリーダーがその代わりとして作り出した……らしい。

 

「そりゃあ、子供達もグレるわなぁ」

 

 それが、ハンター君やエヴァ夫人の話を聞いた俺の率直な感想である。

 

 だが、ウチの息子もバイオテクノロジーによって造られたBOWであり、息子との接し方を間違えたなら、シアーズさんとこのように一家離散しかねない。

 

 ぬぅ、愛する我が息子、凡太郎=ネメシスもそうなったらどうしよう、と内心思うも凡太郎はスメルセンスを持っている。俺が息子に誠実である限りは大丈夫だろう……とは思う。

 

 問題は、これから救いに行く娘の方であるが、そっちの方はぶっちゃけ、知能があるのか、とか、人間の姿をしているのか、とか、様々な面で未知数で、MSFからの情報待ちである。

 

 そちらの方は今考えても仕方ないので置いておこう。

 

……しかしエヴァ夫人のケースではもう彼女の息子達は成人した男性で、ある意味己達の人生を歩もうとしている年頃でもある。こじれてしまった関係のまま大人になったら、取り返しは難しいだろう。

 

「……愛は押しつけてはいけない。見守る勇気も時には必要かと。彼らももう大人なのですし、自分の人生というものを考え、歩いていく時なのですよ」

 

 と、諭して、

 

「私もミッションを控えております。自分の娘を救ってやらねばならないのです。無事に帰れたなら、その後でまたお話しましょう。親の悩みは様々ありますが、親である以上は誰もそれを避けられず不安になるもの。そのお気持ちは重々理解できますからね」

 

 と、通信を切ったが正直面倒臭い人だよなぁ、あの人。なんか親しくなったらやたら家庭問題の相談を言ってくるもんなぁ。

   

「……大変ですね、社長」

 

 ハンター君が自分の腰の刀を抜いたり戻したりしながら他人事のように言う。

 

 いや、他人事なのだがなんかそれがむかつき、俺は、

 

「刀で遊ぶな。ツキが落ちるぞ」

 

 と言ってやる。

 

「点検ですよ。それに新型のプロテクトギアの人工筋肉は新品故にまだ動作がこなれてませんから」

 

 ハンター君が、ほら、と手を動かすとギシ、ギシ、となんか軋んだような音が腕から聞こえる。

 

「馴染んでないのか。つーかその格好、なんかニンジャみたいだな。いや、さしずめサイボーグニンジャか?」

 

 MSFからハンター君に支給されたプロテクトギアはヘイヴントルーパーの物よりもシンプルかつより身体にフィットするようなもので、その上からタクティカルベストなどをつけると現代のニンジャっぽい感じだ。

 

……ヘルメットはやたらツルンとして坊主のような感じだが。

 

「社長とお揃いですね」

 

 俺の視線から察したのか、ハンター君はしれっとさらりとニヤリ笑ってそういう。

 

「……シバいたろかお前。人が悩んどるのを弄るな」

 

 なお、まだ俺の頭には産毛は生えてきたが髪の毛はまだ生えてはいない。

 

「そのマスクですよ。大きさはともかく中身は同じですので」

 

 俺に支給されたのは、やはりツルンとしたマスク一体型のヘルメット(なんか髑髏の絵が書いてある)と、コイツとは真逆にゴテゴテしたデザインの人工筋肉なんぞ全く付いていない鎧、そしてデカい金棒と俺の手に合わせた作業用ナイフである。

 

 金棒はミラー外相から渡されたものだが、材質は工事現場で使われる大バールを何本か溶接して鍛造したものであり、

 

『通常の武器よりもあんたにはそういう武器の方が向いている。それなら壊れても大して懐も痛まないだろうから存分に使ってくれ』

 

 と言うことらしい。

 

 ナイフに至っては高周波振動装置も何も仕込まれていないもので、材質はジェットエンジンのタービンシャフトの廃材だ。俺の手に合わせた大きさで、なんか短刀のようなカクカクした形をしている。

 

 まぁ、くれるだけ有り難いと思っておこう。

 

「でも、消防斧は持って行くんですね」

 

「安い、どこでも拾える、壊れても懐が痛まない。最高じゃないか」

  

 というか、なんでお前は消防斧を見て溜め息を吐くんだよ。

 

「いえ、スニーキングミッションならまだしも、こちらから乗り込んで行くならもうちょっと何か良い装備を持っても良いんじゃないかと思うんですよ」

 

「戦いの基本は格闘だ~、武器や装備に頼ってはいけない~、とかベクターに言ってたのお前だろ。それにどうせ俺が使えば大抵は壊れるし、何を使っても威力はさして変わらん。変わるのはぶった切れるか、ミンチになって潰れるかの違いくらいだ」

 

 俺のパワーだと、そんなもんだ。

 

「それに、G-生物とかそういう打撃もなんも通用せんような奴が相手なら、この……」

 

 腰のポーチをポンと叩き、

 

「対T+Gコロース薬剤封入炸裂弾、コイツの出番だからな」

 

 と言ってやる。理論上、TーウィルスとG-ウィルス、それらの派生系ウィルスを殺し尽くす必殺の薬剤である。

 

 これは対ウィルス薬剤のディライトなどの組成をより高精度にし、そして高分子にして浸透力を高めたものに、対Gーウィルス剤の性質をも加えた現段階での究極の対ウィルス兵器である。

 

 並みのタイラントだと、約10ミリリットル程度でウィルスに侵された細胞を破壊され、ミイラどころか無害な砂の山になってしまうくらいに強力である。

 

 なのに、普通の人間には無害である。まぁウィルス感染初期の人間だと、ちょっとお腹壊してピーピーになってトイレに籠もらねばならない程度の副作用は出るが、ゾンビとかクリーチャーになるのを防げるのだ、そんなもん些細な副作用で、とりあえずスポドリ飲ませりゃ万事オーケーだ(乱暴)。

 

「それに、俺がなんか複雑な武器持ったところで扱いきれるわけねぇ。素人なんだぜ?」

 

「……素人(最強生物兵器)」ボソッ。

 

 なんか含みありそげな感じに言うが、まぁ、コイツはコイツで俺の事を考えてくれているのは匂いでわかっている。しかし自分を過信しているわけではないが、銃よりも石を拾って投げた方が威力が高いのに、わざわざ銃を持つ必要もないし、鋭い刃物より切れない斧の方がBOWをぶち殺すのに適している。なんならミラー外相がくれた金棒なんてさらに適しているのだ。

 

「ま、俺は大丈夫だ。なんとかなるさ」

 

 俺はハンター君の肩をポン、と叩いてそう言った。 

 

 

 

 

 

 




ソリッドスネークとオタコンはやはりベストコンビだと思う。

平さんの参謀役はグレイフォックスかな、と。

では、また次回。


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人間パチン虎。

更新がかなり遅くなりました。あと誤字脱字修正いつもありがとうございますm(__)m

やっと書ける状況になってきましたので。

やはり、単独の方が平凡さんは活躍出来る、というからしいのでこうなりました。

というか、強力兵器人間パチン虎はやはり出したかった!




 

……『あんたを失う事は避けねばならない』とか言ってたのは誰だっけ?

 

 つーか、誰かこのノリノリなMSFの副司令を止めてくれ。

 

「弾になるヤツ以外は持っているパーツを構えるんだ!」

 

 ミラー外相の指示の元、『狩魂』と書かれたTシャツを着たマッチョな兵士達がノリノリでポールを潜水艦『ヘヴンディヴァイド』のデッキの上に立て、超強力なパチンコ用のゴムをそのポールにセッティングしていく。

 

「合体アイコンが出たらアクションボタンを押すんだ!」

 

 屈強な兵士達が集まって、何故かジャキーン! という効果音が鳴り響いては……?

 

「最強合体兵器! 人間パチン虎!」

 

 ノリが過激なお笑い芸そのものでしかない。コイツら、俺をこの即席射出装置……いや、デッカいパチンコと強力ゴムで、シーナ島の施設に撃ち出すつもりなのだ。

 

 つーか何故こんな事になった!? つーか、まだウチの嫁(予定確実)の”ロケットクレイドル”で、目的地にぶち込まれた方がまだマシだ!

 

「社長、早く準備を。時は秒を争うのです」

 

 と、ハンター君が俺の背中を文字通り物理的に押すが、ちょっと待たんかお前! つか何ニヤニヤしてんだおい!?

 

 いや、こんな事になったのは今からたった数分前まで遡る。

 

 格納庫の強襲ボートでウチのウルフパック達強襲Aチームと待機していたら、ミラー外相から緊急連絡が入ったのだ。

 

 それは朗報とそして悪報の両方だった。

 

《ヒトシ! あんたの娘の情報が掴めた! 良い情報と悪い情報があるが、時間が無い。とりあえず、あんたの娘は理性と知性を兼ね備えた『人間の子供』だ!》

 

 ミラー外相の通話と同時にi-DOROIDの画面に、まだ幼い幼女の姿……いや、なんで全裸なんだ? ……が送られて来た。

 

「……この、幼い子供が、俺の娘? いや、しかし何故この姿で? BOWなら成体まで成長させるはずでは?」

 

《理由は判らんが、どうやら途中で逃げ出したらしい。だが複数の改良型タイラントが追っ手として差し向けられている! それにこの娘、どうやら変質者……ロリータコンプレックスを拗らせたような男に連れ回されているらしい! それも全裸のままだ!》

 

「……なん……だと!?」

 

《タイラントもかなり強力かつ危険だが、変質者もどうも一筋縄ではいかないような奴らしい。恥ずかしい話だが、MSFの傭兵育成訓練所に在籍していた奴で、サバイバル技術と隠密行動、そして射撃に長けているが、当時の訓練教官によれば女性隊員の風呂を覗いたりナンパしたり、近接格闘訓練時に女性に破廉恥な行為をしたらしい。君の娘が危険だ! いろんな意味で!》

 

「マジか!?」

 

《一刻の猶予もない! ヒトシ、今から甲板に来てくれ! 君を一足早く、シーナ島の施設へと送る!》

 

 俺も確かに頭に血が昇って、正常な判断が付かなくなっていた。俺はルポに強襲チームの指揮を一任すると、強襲ボートを降りて走って『ヘヴンディヴァイド』の甲板へと向かったのだが……。

 

 おおよそまともではない射出装置が待っていた、というわけだ。

 

「いや、あんたらも何やってんだよ!?」

 

「タイラー社長、これはMSFの伝統兵器だ。大丈夫だ、今までこれで死んだ奴はいない!」

 

「どんな伝統だよ、つーか大○興行じゃねぇんだぞ! おい、止めろ、よせ!」

 

 何故、俺がこんな人間パチン虎なんぞという、ポールと超強力ゴムという訳の分からん物で飛ばされねばならんのだ!?

 

「ようぢぉ、いや、君の娘の貞操の危機だ! 君にしか救えない!」

 

「あの、ミラー副司令。クワイエットのレポートを元に判断するのはどうかと思います。彼が覗きをしたのはクワイエット教官の時の一回のみ、しかもその時の同行者として米軍のSPEC.opsのエコー6のリーダーも同罪ですし、パイソン教官のレポートと比べればクワイエット教官の主観というか腹いせが多分に込められている……」

 

 ナオミ嬢の冷静な分析も聞かず、

 

「装備は持ったか!? iDOROIDはあるな!? フルトン回収システムもOK、いや、装備が足り無くても大丈夫だ。必要な物があればiDOROIDで要請しろ! すぐにダンボールで配送してやる! 後発部隊との合流地点は追っては伝える! 心配するな!」

 

 と、なんかエキサイトしていた。

 

「子供の心に傷を残してはならん! しかし、ははははっ! 久々の人間パチン虎だ! お前たち、的を外すなよ!」

 

「サー! イエッサー!」

 

 ムキッ! と、なんか筋肉をモリモリさせつつ、サムズアップする一般(の皮を被った古参)(パチン虎要員)

 

「いや、イエッサーじゃねぇ!? つか装備云々の話じゃねーだろ!? つうかこれ、減速する装備すらねーだろ!?」

 

 抗議するも、ミラー外相は俺の言うことなど全くの無視。それどころか、お祭り感覚と言える程のノリノリさで、兵士達に指示を飛ばす。

 

「右に15°展開っ! 仰角あと3°!」

 

 それに応じてマッチョな兵士達は、『ふふん! ふふん! ふふん! ふふん!』というキモい掛け声と共に、人間パチン虎とやらのポールと特殊ゴムの位置を調整させていく。というか……お前らマジで正気か!?

 

「あんたは人間弾丸だ! カメラボタンで射出角を合わせてくれ!」

 

「アクションボタンとかカメラボタンてなんやねん!? つか人間を弾丸にするんじゃねーーーっ! 確かに娘の危機だから、早く助けに行かねばとか俺も言ったが、こんな罰ゲームみたいなモンで飛ばしてくれとは言ってねぇぇ!」

 

 まだナスターシャのロケット射出式のクレイドルのがマシである。何故ならクレイドルにはショック吸収剤やらエアブレーキ、それにバリュートがあるが、これは生身で撃ち出されるだけなのである。

 

「ヒトシ、四の五の言うな! 娘の貞操の危機だぞ! 行くぞゼロカウント発射ぁっ! ゼロぉぉぉっ!」

 

 ちゅどーーーん!

 

「せめて秒読みくらいしろぉぉぉっ! どわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 そうして俺は、『人間パチン虎』という原始的な射出装備によって、空高く撃ち出されたのであった。

 

「ど~ん! となった花火がキレイだなぁ~っ! 彼の勇気ある行動に敬礼! 娘さんの無事と救出を祈る!」

 

「やっぱり○川興行ネタかよぉぉぉっ!」

 

「たーまやぁぁぁっ!」

 

 そうして、俺はシーナ島の市街地へと撃ち込まれたのであった。

 

 花火など装備もしていないのに何故かどーん! どどーん! と着弾したときに花火が上がったが……『いつか絶対、あんたも飛ばしてやるからな』……と、心に誓ったのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【side:アーク】

 

 くそっ! 弾が切れやがった!

 

 カチッ! カチッ! 軽過ぎるトリガーを引けども弾は出ず、拾ったモーゼル自動拳銃(C96)に持ち替えて撃ちつつ、狭い通路を走りながらあのタイラントとかいうデカ物から逃げている真っ最中だが、全く奴らには銃弾が効かない。

 

 目を狙おうとするも、逃げながら、ようぢぉを抱えながらだ。追いかけてくる二体のうち一体の右目は潰せたが、キモい事にその一体の目から何か触覚のような物が生えてきてはよりなんかバケモン染(じ)みた面相になっただけで、まったく追いかけてくる足に衰えも何もなくダメージにすらなっていないようだ。

 

「目を抜かれたザリガニかよっ! (※ザリガニは目を損傷した時、稀にその場所から触覚を生やして代償する事があります)」

 

 こっちのアドバンテージは奴らより身体が小さいってことだ。狭い通路を通り、奴らが入って来れないようなダクトやらを使って何度も撒(ま)いていた。しかしながら、行く先行く先で、まるで超能力を持っている(メ◯リー◯ードを読む)かのように奴らは現れるのだ。

 

 しつこいわ、攻撃は効かないわ、タフだわ……正直逃げているこっちのスタミナがヤバい。

 

 途中で黒丸君……トライポッド君達が何度か助けてくれたが、しかしトライポッド君達の攻撃では足止めにしかならず、可哀想に黒丸君達は最後には親指を立てて自爆していった。だというのに奴らには傷一つつかないのだ。

 

「くそっ、なんとかして倒す方法はねーのかよ!?」

 

 狭い道を曲がると前にハンドグレネード……これも黒丸君達から貰ったものだ……のピンを外して落とし、そして走るスピードを上げる。

 

 足止め程度にしかならないが、それでも距離は離せる。

 

「ん~、あーくん、そこの角を右に曲がって? 多分そっちからあのおっきいのより強い人が助けに来るよ?」

 

 ようぢぉが何か確信めいた事を言うが、そっちは行き止まりだったはずだ。ここのマップはきっちりと俺は覚えているし、こう見えても方向感覚を間違えた事は今までに無い。

 

「バカ言え、あっちは行き止まりだぞ! つうか今までお前の言う通りに走って逃げ切れてるが、流石にそれは……」

 

 というかアイツらより大きくて強いとか、それはバケモノ、いやBOWに他ならずそんなんが来たらもう俺達は詰みだ。

 

 ボン! ボボン! と曲がり角の向こうで、ハンドグレネードが炸裂する音がした。

 

「ウォォォォォォッ!」「ガァァァァッ!」

 

 タイラント共の怒りの咆哮とそしてドスンドスンという足音、いかん、思ったより足止め効果が薄かった! それに選択の余地がもう無い。

 

 左に行けば出口であり、

 

「くそっ! 儘よっ!」

 

 俺はようぢぉの言うとおりに右に曲がった。

 

 と、なにか、ひゅるるるるるるるっ……と外から高射砲の弾が飛んでくるような音が聞こえ、そして

 

「だぁぁぁぁぁあああああああっ! マジで覚えとけよぉぉぉっ! 帰ったらあんたも飛ばしてやっからなぁぁぁぁ!」

 

 という、日本語らしき叫び声と共に、ずどおぉぉぉん! ……と目の前の壁を突き破っては、何か馬鹿デカい図体をしたバトルドレスを身にまとった男が、打ち上げ花火と共に着弾した。

 

「な、なななななななぁっ!?」

 

「ね? 言ったとーりでしょ?」

 

 腰を抜かしそうになりつつ、だが腰を抜かさなかった自分を褒めてやりたい。あと、小便をとっくにしていた事にも。

 

 ベキベキベキ。

 

 バトルドレスの男は身体中の関節鳴らしながら、俺を、そしてようぢぉを見て英語で言った。

 

「てめーが……ウチの娘を連れ回してるって、変質者か……? オラァ……!」

 

 ふしゅるるるるーっ、となんかのっぺりしたマスク一体型ヘルメットの口元のスリットから、暴走機関車の如き怒気を含む吐息を吐き出して……。

 

「む、娘ぇ!?」

 

「あはっ、あなたが私のパパなんだね。電波のとーり来てくれたぁ」

 

 きゃっきゃっ! と喜ぶようぢぉ。

 

 訳わからんが、ただ言えることはただ一つ。

 

 前門のようぢぉパパ(タイラントよりもデケェ)、後門のタイラント二体。

 

 あかん、俺、死んだ?

 

 ドスンドスンドスンと曲がり角を向こうから聞こえるタイラントの足音を聞きながら、俺は絶望した。

 

 





 いろいろあったのです……。としか言えませんが、ゴールデンウィーク前から2日しか休み無かったんですよぉ……。

 とりあえずボチボチまた書いていきます(不定期になると思いますが)。


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平凡さんファイト。

いつも感想&誤字訂正ありがとうございます。

・つおい平凡さんが帰ってきたよ?

・今回短め。


 

 シーナ島に飛ばされ建物の外壁に着弾、もとい壁をぶち破って無理繰りエントリーしたらなんかタイラント二体が我が娘だという『ようぢぉ』と変態ロリコン野郎とおぼしき青年に襲いかかっている現場に直で出たぞおい。

 

 あんな人間パチンコみたいなもんで正確な場所に送り出せるとは侮りがたしMSF。帰ったら絶対おんなじ目にあわせてやるとか思ってたが、娘のピンチに駆けつけられたのだ許すことにしよう。

 

 それよりも娘(多分)と変態ロリコン野郎がピンチだ。タイラントの一体がドスドス走って来てロリコン野郎とようぢぉ(娘)に拳を振り上げて攻撃してきやがった!

 

 ロリコン野郎はどうでもいいがそのロリコン野郎が娘にとっさに覆い被さり、タイラントの攻撃から庇おうとするのが見えた。

 

 いかん!あのままではロリコン野郎ごと娘まで拳で潰されるではないか!

 

 まさに今、二人にタイラントが振り下ろさんとしている右拳を、縮地(中国拳法の本にやり方が書いてあったので練習したら出来るようになった)で素早く距離を詰めて右手で受け止めて阻止してやる。

 

……ロリコン野郎だけなら助けねぇが、娘の命が掛かってるなら仕方ねぇ。

 

 しかし命懸けでようぢぉを庇おうとしている辺り存外、善人なのかも知れん。

 

 変態ロリコン野郎だが、イエス・ロリータ、ノータッチ派のロリコンなのか?いや、よく見りゃ触ってるけど。つーか幼い乳の乳首辺り触ってるけどこれは不可抗力なのだろうか。いや不可抗力だとしてもあかんやろお前。なに人の娘の幼いちちくび抱きしだいとんじゃボケが。ラッキースケベか?主人公なのか?ロトの血を継ぎし変態野郎なのか?ブッコロすぞゴラァ。

 

 グシャリ。

 

「グギャァァァァアッ!」

 

 あ、怒りのあまりタイラントの拳を握りつぶしてしもーたではないか。つかタイラントの癖に骨弱いなコイツ。

 

 それを見たもう一体のタイラントが、

 

「ウォオォーッ!!」

 

 とか叫んで走って来て俺を殴ろうとしてきやがったが、

 

「うぉー、じゃねぇぞタコが」

 

 と、拳を握りつぶした方のタイラントの頭をすかさず掴んで持ち上げ、その拳をガード。

 

 ゴツン!とタイラントの後頭部にもう一体のタイラントの拳が当たった。

 

「グオッ?!」

 

「あーあ、お仲間殴っちまいやんの。つうか」

 

 そのまま俺は頭を掴んだ手に力を入れて殴ってきたタイラントの拳に、「フンッ!」と掴んだ頭を力任せに押し付けてやる。

 

 メキッ、メキメキッ、と殴ってきたタイラントの拳の骨が砕ける音。驚愕の表情を浮かべてタイラント……めんどくせーので、俺が顔面掴んでる奴がタイラントA、殴ってきた奴がタイラントBとしよう。

 

 タイラントBは叫び、あまりの痛みに拳を引こうとしたが、しかしそうは問屋が許さない。俺は引く拳に合わせてタイラントAの後頭部を押しつけ、そのまま超振動拳……まぁ、掌でだが……をぶちかました。

 

 ヴォン!と独特の重い音がタイラントAの頭を小刻みに震わせ、次の瞬間あたかも北斗神拳を食らったザコのごとくその頭部が、ぶくっ、ぼこっと膨れ上がる。

 

「お前はもう、死んでいる」

 

 手を素早く離して俺はすかさず後ろに退く。いや、脳みそやら何やら撒き散らすから、巻き込まれたくないからね?バッチいし。

 

「ガ、ガァグィグゲ、グォォォォッ!!」

 

 ブボン!

 

「脳みそバーン!破裂して滅せよ」

 

 ふむ、その死に様、なかなかわかっとるではないかタイラントAよ。まさに北斗のザコのお約束だ。

 

 とはいえグロい倒し方をしてしもうたかも知れん。子供に有害だ。

 

 そう思ってようぢぉの方を見たが、まだ変態ロリコン野郎が覆い被さっている状態なので見えてはいない……って、いつまで抱きしめてちちくび触っとんねんこのガキゃ!!

 

 タイラントB は破裂した頭の爆発で目をやられたらしい、というか片方の目から出ていた触角までぶち折れて何も見えなくなったらしく、ウガァーっとか言いながら顔面押さえながら転がっている。

 

 ピキピキピキ、と俺のコメカミが音を立て頭に血が上るのが自分でもわかった。

 

「ゴラァ!いつまで人の娘の乳触っとんのじゃ!このダラァ!ザコの前にテメェをやるぞゴラァ!」

 

「What ?!」

 

 あ、日本語で言ってたか、俺。つーかコイツアメリカ人かよ。何がホワット?!じゃ、このメリケンロリコン野郎が。

 

 英語で言い直そうと思ったが、思いのほかタイラントBは早く動き出した。

 

 ニョロッ。

 

……なんか眼窩から長い触角を出して立ち上がった。

 

「……なんかに寄生されてんのか?コイツ」

 

 俺がそういうと、頭を破裂させたタイラントAの首からなんか、ブシャアアアアアッ!と大量の触手が吹き出した。

 

「……くそ、Ne-αか。つまりコイツ等は簡易型ネメシスってわけかよ」

 

 そう、その触手はまさしく我が息子を蝕んでいる『Ne-α』の触腕そのものである。

 

「ここではそんなもんも実験してやがったか。……時間をかけるわけにゃいかねぇな」

 

 『Ne-α』の生命力は厄介である。息子の身体に今なお巣くっているものの駆除をするために様々な方法を模索し、今現在その方法はすでに開発済みではあるのだが、しかし殺し尽くすにはまだまだ時間がかかる。

 

 息子の命を危険にさらすわけにいかないというのもあるが、それを差し引いてもこの寄生生物の生命力、性質はかなり厄介である。

 

 MSF、ザンジバーランド国防庁情報局からの資料と映像を見たが、この寄生生物は宿主に成り代わりその身体を乗っ取るのだが、宿主の身体が死んだ場合その肉体を吸収して変異し際限なく巨大化する事がわかっており、ラクーンシティにおいて元S.T.A.R.Sの.ジル・ヴァレンタインがその個体に遭遇、高出力の電磁砲によってようやく倒せたという。

 

「まぁ、レールガンなんぞ必要ないんだがな」

 

 俺は背嚢からいつもの廃パイプ槍ではなく、愛妻(ゴールイン予定)謹製の槍『シリンジランス』と『アンプル弾』を取り出した。

 

 このシリンジ・ランスはただの槍ではない。槍の血溝に沿わせた2つのニードルナイフに薬剤のアンプル弾を仕込み、標的の身体に深く突き刺した後に柄についた引き金でアンプル弾の薬剤を注入する、言わば特大の注射器である。

 

 持ち運びも折りたたみ式で、かつ刃が悪くなっても交換式なのでとても便利な逸品である。

 

……なお、実はこれ、もしも娘が理性も知性も無いBOWだった場合、せめて苦しませずに殺してやる為の対T+G生物兵器用の最終兵器だったりするのだが。

 

 俺は槍の弾倉に対T-ウィルス用の赤ラベルのアンプル弾とこんな事もあろうかと持ってきていた『虫下し薬』の茶色のアンプル弾二つを装填した。

 

 『Ne-α』殺すにゃレールガンは要らぬ。虫下し薬があればよい。

 

「すりゃっ!」

 

 無造作にグサッと刺して引き金を引いてブシューッ。

 

「ぢゅいいいいーーーっ!?」

 

 あ、『Ne-α』の鳴き声ってそんなんなんか。

 

「あ、もういっちょ!」

 

 なお、アンプル弾は一本で七回くらい使えるので一々一体ずつで交換しなくても連続で戦えるのだ。

 

 グサッ、ブシューッ!

 

「ギャアアアアアアッ!!」

 

 うむ、あっさりと干からびていくタイラントと『Ne-α』。

 

「……最初からこうやってりゃ良かったな、うん」

 

 まあなんとあっさりと。

  

 呆気なく二体とも倒して戦闘終了……、いや、本当の戦いはこれから始まる。

 

 俺は本題に入るべく、ゆらーりとロリコン野郎の方を向いた。

 

 さっきは日本語で話してしまったので、今度は英語でわかりやすく言った。

 

「おい、このペドフィリア野郎。俺の娘からとっとと離れやがれゴラァ」

 

 そう、この変態ロリコン野郎に制裁を下すのだ。

 

「ひぃぃぃぃっ?!」




・平凡さんチート。

・アーク君、ようぢぉの乳を触る。

・タイラント(簡易型ネメシス)


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TG(性転換なアレ)なウィルス

更新、遅くなってすみません。いつも誤字脱字訂正ありがとうございます。

酒を飲める状況じゃなかったので書けなかったのねのねのねん……。

なお、原作ゲームの設定なんぞかなり無視。つかT+Gウィルスはガンサバ4やっちゅーねん。






 

『からころも、裾にとりつく我が娘、ボコれなかったよロリコン野郎』【シーナ島にて平凡さん詠める】

 

 (※訳:変態ロリコンをボコろうと思って胸ぐら掴んだけど、俺の娘とおぼしき ようぢぉが俺の足にとりついて泣きながら、ふぇぇぇぇ、と、こんな顔→(>_<)で、ポカポカポカポカ叩いて来たので結局ボコれなかったよ)

 

「うぇぇ~ん、パパぁ、あーくん殺しちゃだめぇぇぇ~!ふぇぇぇん」

 

 ちょまっ?!

 

 娘を救出するために来たというのに、なんで俺、娘にポカポカ叩かれてんだよ、つーか悪いのは変態ロリパイタッチ野郎じゃねぇか、おいおいなんでこうなったんだよ?!

 

「あーくん殺したら、パパのこと嫌いになっちゃうからぁ!」

 

「ぐっふぅ!!」

 

 クリティカルヒットであった。その一言は思いの外に俺の心を抉った。

 

 な、何故だ、なんかわからんが『パパのこと嫌いになっちゃうからぁ!』と娘に言われるだけで何故にここまでダメージが入るのだ?!つうか娘も娘でなんで俺のことをしっかり父親だと認識しとるのだ、おかしいだろう?!

 

 つか、自分の娘とはいえ会うのもこれが初めてなのに何故こんなに効くのか自分でもわからんが、その言葉だけで、

 

「ごばっ……!」

 

 俺はヘルメットのハッチをオープンして、血を吐いて膝を着く。

 

「おわぁっ?!なんか血ぃ吐きやがった!?」

 

 変態ロリパイタッチ野郎はえんがちょ!とばかりに飛び退いた。

 

「ええっ?!」

 

 娘が目をまん丸くして固まったと思ったら俺の顔を見て、また泣き出した。

 

「ふぇぇぇ……、パパ死んじゃいやぁぁぁっ!」

 

 ポカポカポカポカポカポカポカポカ!と取り乱した娘は俺をなんか余計に叩く。

 

 いや、「パパ死んじゃいやぁ!」とか、「ぢ(死)ぃなーないでぇぇぇ!」とか言いつつなんで叩くの君は?!取り乱してるのはわかるけど、心になんかダメージがパないぞ娘?!つーか落ち着け、わりと打撃の連打も効いてるぞ、痛いぞ、つかアーマーの無いとこを集中して狙うんじゃない!

 

……ぬ、ぬぅ、そういえば凡太郎が映画を見ていたときに悲しいシーンで泣いてしまった時にも似たような感じになった時があったが、これはまさか進化した脳に付与された能力なのか?つか、俺の子とかになんかあったらこうなるんか?!

 

 ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか……。

 

 なんとか娘を落ち着かせるまで、娘にシバかれつつ心になんかダメージくらいつづけた。

 

 なお、ズボンのがやや破れ、太ももが軽く腫れてたが、なんだかんだでこのようぢぉもBOW、そのパワーは俺の血を引いてるんよなぁ……。

 

 とりあえず飴ちゃんとチョコを娘に与えて娘の機嫌を取ることで俺の吐血はストップしたが、もう少しで出血多量になるところだったぜ……。

 

 

 

……などと思っていたが。

 

 

 

 俺、『T+Gプロトウィルス』に感染しとったわ。ついでにアーク・トンプソンもごっばぁっ!と吐血しやがった。

 

「……結局、俺は敵の設備で即席で治療薬を調合する羽目になるんだな」

 

 そう、あれから吐血が止まら無かったのだ。というかアーク・トンプソンのが症状は深刻であり非常にヤバい状況だった。

 

 俺も、最初の吐血は違うが太ももをぽかぽか叩かれた時にズボンがなんか破れ、そっから傷が行って娘から感染したのだが、我が娘ながら対弾対刃繊維を殴って破くなんてどんなパワーしてんだよ。

 

 つーか太ももなんか真っ赤になってんなー、とか思ったら炎症起こして腫れて、みるみるウチに表面が膿んで爛れ、それで感染がわかったというわけだ。

 

 そしてアーク・トンプソンの身体に異変が起こった。吐血とそして身体のあちこちに緩やかな変化が起こり始めたのだ。

 

 そう、アーク・トンプソンが女体化し始めたのだ。

 

 乳が膨らむわ髪の毛は伸びるわ、尻は大きくなるわ太ももはふっくらするわ、俺もめちゃくちゃ驚いた。

 

「ち、ち○こがっ?!俺のち○こが無くなっていく!?タマタマがなんか身体んなか入っていくぅ?!なんぞこれ?!」

 

 奴は股間に手を当てて顔色真っ青にして……というか、ゾンビ化しかかっていた。

 

 しかも、この俺の胸にもなんか乳が出来始めて、マジで俺は焦った。

 

「な、なんぞこのウィルス?!」

 

 そこからはもう大慌てで検査キットを使い、血液やら細胞やらを検査し、あらかじめ用意していた『T+Gウィルス』用の治療薬を試したのだが、それが全く効かないときた。

 そう、あらかじめザンジバーランドからもたらされた『T+Gウィルス』のデータを元に造ったはずの薬がだ。

 

 そうこうしていくうちにアーク・トンプソンがどんどん巨乳になっていき、さらには乳から母乳を出し始めたので、焦った俺はアーク・トンプソンと娘を抱えて治療薬を造れる設備のある薬剤研究棟を目指しBOWやらなんやらぶっ飛ばしながら猛スピードで向かった。

 

 正直、俺の人生のうちでこんなに焦ったことは無かったと思う。俺の心はゾンビになる云々の前にちんことキンタマが無くなる恐怖の方が勝っていたのだ。

 

 薬剤研究棟に着いてからは脳みそフル動員、アーク・トンプソンと娘と俺の血液やら細胞やらを採取してi-DOROIDを使って特効薬の構造をデザインし、たったの20分で治療薬を合成、俺もアーク・トンプソンも女体化ゾンビになることを阻止でき、また再び男に戻ることが出来たというわけである。

 

……まぁ、俺はアーク・トンプソンよりはまだ進行は遅かったけど、それでも死ぬほど焦ったぞ。乳が膨らんできた時にゃもうな……。

 

 つーかなぁ、ザンジバーランド側からもたらされた『T+Gウィルス』のデータがまーったく役に立たんかったのはどーゆー事だよ、おい!と、薬投与してから文句言ったらなんか今回の作戦に情報提供者として参加している『T+Gウィルス』をアンブレラで研究していたとか言うオカマ野郎がギャーギャー抜かしやがった。

 

「てめぇ、何が『T+Gウィルス』の権威だボケェ!つかオマエのデータで薬造ったのに『T+Gプロトウィルス』には効かねぇじゃねーか、この変態オカマ野郎!!」

 

《知らないわよぉ!私の持っているT+Gウィルスのデータは全てそちらに送ったつもりよぉ!というか同じ祖を持つウィルスでも進化の仕方が変われば別物になるなんてありふれた話でしょうに!》

 

「知るかボケェ!てめぇ、俺のクローン由来のTとシェリーのGサンプルでシミュレートしたから完璧だとか抜かしてたろうが!!つーか、現場で役に立たねぇデータなんざクソだ!!おかげで俺はパパからママになっちまうところだったろうが!この役立たずが!!」

 

《女体化しちゃっても良いじゃないのよぉ!というかよっぽど私が欲しかったTG(トランスジェンダー)用のウィルスとして完成してるじゃないのぉ。……ヒトシちゃん、サンプルをアタシに頂戴?それさえあれば……》

 

「いいわけあるか!つーか絶対渡さねぇからなボケェ!この世からこんなウィルス、この俺が駆逐し尽くしてやるわダァホが!!」

 

 ああ、通信で話してるだけで殺意が沸々と沸いてくるこの感覚。というか実際、俺はこのオカマ野郎に恨みがある。

 

 モーフィアス・D・デュバルという厚化粧の変態オカマ野郎なのだが、俺がまったく身に覚えが無いのに一児の父親になってしまったのは奴のせいなのだ。

 

 すなわち、俺の遺伝子とナスターシャの卵子を使って凡太郎(ネメシス)を造りだしたのがモーフィアスというオカマなのである。

 

『つまり、あたしがターシャちゃん(ナスターシャの愛称)とアンタの結びの女神というわけねん?感謝しなさーい、で、あんたらもうヤったの?』

 

 オカマという人種に関して今まで俺は偏見というものを抱いたことはあまり無い。……気色悪っ!とは思ったりこっち寄るんじゃねぇ、ぶっ飛ばすぞ!とは思うが、あのオカマ野郎に関してはとりあえず偏見云々関係なく、いつか殺すとすら思っている。

 

『ターシャちゃんの美しく愛らしい顔とぉ、最高の筋肉美をもつ最強のタイラントの遺伝子を掛け合わせて現代のヘラクレスとも言うべき美を持つ超人を自分の手で創り出そうとしたのよぉ!……なのに、なのにぃ!アイツ等、ワタシの手からあの子を奪って、あろうことか下手な手術で、あの愛らしい顔をあんなに傷だらけにして『Ne-α』を寄生させたのよ!許せる?!アタシは許さない!!』

 

 奴は『私は美を創造する』とかいう、化粧品メーカーとかエステ業者のようなポリシーの持ち主であり、『美しい世界を自分の手で創り出す』という夢のために私利私欲でろくでもない研究を行っていた正真正銘のマッドサイエンティストだった。

 

 T+Gウィルスの研究もその一環であり、奴は自分自身を『美しい存在』へと昇華させるためのウィルスを造りだそうとせっせかせっせかと活動していたらしい。

 

『グログロしいゾンビやクリーチャーなんてお呼びじゃないのよ!誰もが美しく進化出来る究極のウィルス、性別さえ超越して!それが私の理想!おわかり?私はアーティストなのよぉ!』

 

「何がアーティストじゃボケェ!芸術家気取りで勝手に人の息子造ってんじゃねーぞダラァ!つか何が進化じゃ!ウィルスなんざ病原性微生物じゃどアホぅ!俺の拳で脳みそ爆発させるぞこの美意識勘違い変態オカマ野郎が!!」

 

 俺はブチッ!と無線を切ってしまった。

 

「あーくそ、マジで腹立つわ、クソ!」

 

 i-DOROIDを荒々しく腰のケースに仕舞い、床に寝転っているアーク・トンプソンを見た。

 

 髪の毛は伸びたままだが、なんとかデカかった胸が萎んで大胸筋が発達した元の男の体型に戻っている。顔もなんか女顔に変化していたのが無精髭のにーちゃんな顔へと戻っている。

 

「……おい、ちんことタマは戻ったか?」

 

 おそるおそる聞いてみる。

  

「ああ、一時はもうだめかと思ったが男に戻れた……。良かった、マジ良かったぁ……」

 

 女体化しかけたアーク・トンプソンが情けなく……いや、誰だって女体化しそうになったらこうなるだろう。涙目でぐったりしつつもズボンに手を突っ込んで股間をニギニギして感涙にむせんでいた。

 

「サイズも元にもどったよ……。オッサン、ありがとう、ありがとう……!俺の命の恩人だぁ……!」

 

……いや、ちんこニギニギすんなよ。つか起き上がって俺の手を握ろうとすんな。

 

「人生最大のピンチだったな。お互いに」

 

……つうか、俺も女体化なんぞして女房と子供(ナスターシャと凡太郎)にどんな顔して会えばいいんだとか思っちまったぜ。

 

 元凶となった娘は、くかーっくかーっ、と寝息を立てて大の字で床で寝ている。サラシ布を胸と股間に巻いてなんとか全裸ではない格好になったが、どっかで子供服を探してきて着せたい所だ。しかしその前にウィルスをこれ以上ばら撒かないようにウィルスを駆除せねばならない。

 

 女体化ウィルスがパンデミックを起こしてみろ、世の中トランスジェンダーの巨乳ゾンビだらけになりかねないからな。

 

 まぁ、薬剤調合機に娘用のウィルス駆除薬の材料はもうセットしてあり、あと十数分でそれは完成する。

 

「ふぅ、我が娘ながらべらぼうなトラブルメイカーだぜ」

 

 俺は胸ポケットからラッキーストライカーを出し、口に咥え、アーク・トンプソンにも「どうだ?」と勧めた。

 

「もらう。つうか金欠でタバコなんて久し振りだ」

  

 チャキン、とブラスのジッポライターで火を着けてやり、俺達はすぅっと煙草を吸い、そして深々と紫煙を吐いた。

 それは溜め息と同義であり、また同じ厄介な危機を乗り越えたという安堵の息とまた同義だった。

 

 さっきまでコロしたろか、とか思っていたがこうなったらアーク・トンプソンに対して怒りはもう無くなってしまっていた。

 

 というか俺はミラー外相からの資料にあったアーク・トンプソンの性犯罪歴がどうも疑わしいとさえ思っていた。

 

 コイツの臭いからは犯罪者特有の嫌な臭いはまったく検知出来ないし、むしろそう、コイツの臭いからはクレア・レッドフィールドに似た正義感の臭いすらあるのだ。

 あのラクーンシティの地下研究所の危機的状況でシェリーを助けようと必死に足掻いていた、あの感じだ。それに、レオンにも似た感じすらする。

 

「……ふぅ。こんな仕事、いくら報酬が法外に良くても割に合わねー。つか、ここから脱出できたら絶対、レオンの野郎をぶん殴ってやる」

 

……ん?んんんん?なんか聞いたような名前が出たぞ?

 

 何か、不自然な何かを感じがする。俺の第六感が囁く。何故、ここでレオンの名が出るのだ?と。

 

 俺は、ポケットから缶コーヒとカロリーメイトを出しアーク・トンプソンの前に置いて、

 

「駆除薬とワクチンが出来るまで時間がある。何があるかわからんからな。それにトランスした分、カロリーも消費しているはずだ。今のうちに栄養補給しておけ」

 

 と、言いつつ。

 

 俺はアーク・トンプソンから何かとんでもない情報の断片が得られるだろうという予想のままに、話をする事にした。

 

 そう、このアーク・トンプソンがポロッと言った『レオン』が『レオン・S・ケネディ』だというのなら、おそらく俺達は踊らされているに違いないのだ。

 

 俺の頭に浮かんだのは、俺達の会社に定期的に連絡する『心の無いレオン』の事だ。

 

 レオンからの通信の中に、どうも向こうに人間が誰もいない、人の気配がしないような、機械が無理矢理レオンの振りをしているような、そんな感覚を覚える時が度々あり、ずっと俺はそれが引っかかっていたが……。アーク・トンプソンの情報からその正体が掴めるかも知れない。

 

 俺はなんでも無いように、自然にアーク・トンプソンに話しかけた。

 

「それ、レオン・S・ケネディの事か?新米警官の」

 

 その名前を出すと、アーク・トンプソンはすぐに食いついて来た。

 

 そして。

 

 アンブレラなんぞ問題にもならないほどにより大きく見えない得体の知れない何かがいる事を知る事になった。

 

……やめてくれ、いやマジで。

 




 
・ガンサバイバー同士はストーリーが繋がっていないんですよねぇ。アーク君もその後出て来ないし。

・モーフィアス女体化フラグ。

・というか、レオンがいくらアホでも親友のアーク君を巻き込むかぁ?という疑問。

・娘、とんでもトラブルメイカー。


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デュバル家の父娘

いつも感想&誤字脱字訂正ありがとうございます。

モーフィアスの設定が原作では全く無いので、超ねつ造してみました。

……なお、次のベロニカへのねつ造の伏線だったり。



 

 デュバル家は古くからヨーロッパを拠点として活動して来た有数の金融機関、銀行を運営する財閥を有する名家である。

 

 デュバル家はアンブレラを創設した三人のうち、アシュフォード家と古くから親交が……というより古くからアシュフォード家に金を融資していた関係でアンブレラ社に多額の創業資金を融資していた。

 

 デュバル家の二代前、つまり先々代の当主は友人であった当時のアシュフォード家当主から製薬会社への融資だと聞かされ、そのまんまその言葉を信じた。

 

 先々代のデュバル家当主はかなり慎重派ではあったが、製造する予定の薬品についてもアフリカの秘境で発見した、傷をたちどころに治したり、毒物に対して解毒出来る奇跡のようなハーブ、つまりグリーンハーブとブルーハーブ、レッドハーブを使った薬品だと言われ、その効果を目の当たりにしたらそれも仕方が無かったとも言えよう。

 

 そこから、デュバル家、いやデュバル財閥とアンブレラ社の関係は現当主の代までズルズルと続き……そりゃあ表向き優良企業であり大口の取引先となったのだから仕方ないのだが……今に至る。

 

 しかし現在、アンブレラ社を見限ろうという動きがデュバル家並びに財閥に起こったのは先代当主『デッカード・R・デュバル』の時代からである。

 

 その原因は様々ある。

 

 最初、アンブレラ社への融資はアシュフォード家の顔があったから行っていた側面が大きかったのだが、そのアシュフォード家がアンブレラ社の中で没落していっていることへの先代デュバル家当主の腹立ちから始まったとされている。

 

 どうもデュバル家とアシュフォード家は代々何故かウマが合うというのか相性が良いというのか、先代デュバル家当主と先代アシュフォード家当主も親友とさえ言える仲になっており、そりゃあ親友を蔑ろにされていたら誰でも怒るものである。

 

 故にデッカードはスペンサーに抗議したが、スペンサーもデュバル財閥がアンブレラから手を引くことは現状有り得ないとわかっていたのだろう、アシュフォード家を蔑ろにしているのではなく、企業体としてアシュフォード家が業績に貢献出来ていない為にそうなっている、と言った。

 

『業績を上げられないのは、易々と友人から融資を受けられる環境にあったからでは?人間、金蔓があれば必死に働かなくなるものでね』

 

 デッカードはその言葉にかなりムカついた。

 

 だが、スペンサーに見透かされていたように、その頃にはもはや当主の一存で取引を切れないほどにアンブレラ社は巨大な企業になっておりデュバル財閥ならびに銀行において超大口の相手になっており、手を切った場合のデュバル財閥の損失損害は多大な物となると重役共から止められた。

 

 だがデッカードはその時にアンブレラを切っておけば良かったと後悔することになる。

 

 親友アレクサンダーの死去、そして彼から送られた親友への遺言とも詫び状ともいえるデッカードへの手紙、そして同封されたデータを受け取ってデッカードは親友が人の道を外れ、おぞましき研究に手を染めていたことを知った。

 

 データにはアレクサンダーがその父と共同で研究していたウィルスやアレクサンダーの双子の子供達の出生の秘密、それだけでなくジェームズ・マーカスやスペンサーが行っていた様々な非人道的な犯罪の数々の証拠が揃っていた。

 

 デッカードは愕然とした。

 

 先々代当主と自分はなんという事をしでかしてしまったのか、と。

 親友を信じ過ぎ、親友を助けようとし、支援し、なんの疑いも持たずに外道を悪をこの世に生み出し育み際限なく増殖させてしまった、と。

 

 デッカードは後悔すると同時にアンブレラを叩き潰すことを決意した。これは自分と自分の父親の罪であると認識したデッカードの行動は早かった。

 

 アレクサンダー・アシュフォードからのデータを元にアンブレラ社に対して様々な形での調査を開始するようにと己の腹心の部下達を動かした。

 

 だが……。

 

 予想以上にデュバル財閥にアンブレラに組する者達が入り込んでおり、彼はアンブレラ擁護派達によって早々と当主の座を追われて隠居させられる事になってしまった。

 

 が、デッカードもアホでは無いし、腹黒い連中を相手に長年当主をやっていた男である。

 

 この際、内外問わず一斉掃除と洒落込もうではないか!と、たった今、デュバル財閥内部のアンブレラ擁護派達を粛清し終わったところである。

 

 そう、アンブレラ擁護派達に取り込まれ新たな当主の座に就いたばかりの愛娘『カーラ・M・デュバル』と共に、である。

 

 何故、アンブレラ擁護派に取り込まれたカーラがデッカードと共に擁護派を粛清したのかと言えば、そりゃあ元から擁護派を騙くらかしていたからで、そもそもデッカードとカーラはめちゃくちゃ仲の良い父娘で考え方もかなり似通っていたのである。

 

 ただ、違ったのはカーラがアシュフォード家を非常に嫌っていたことくらいだろうか。

 

 ぶっちゃけ、カーラはとある事件が元でアンブレラというよりはアシュフォード家の令嬢のアレクシア・アシュフォードをあまりよく思ってはいなかった。いや、忌み嫌っていたと言っても良い。

 

 その事件は特にウィルスやバイオテロなどの犯罪に関わるものでは無かったが、しかし家と家との間であったにしては重大な事件であった。

 

 アシュフォード家の時期当主になるはずだったアレクシア・アシュフォードとデュバル家の男児を婚姻させようと親友同士だったデッカードとアレクサンダーは約束しており、デュバル家からは本家に男児がいなかったために分家のモーフィアス・D・デュバルがアレクシアの婚約者として選ばれたのだが……。

 

 しかし、まだ幼かったアレクシアは同じく幼かったモーフィアスを一目見て、こう言ったのである。

 

『ただの顔が良いだけの愚物が私の未来の婿?冗談はよして頂戴。こんな奴では働き蟻にも劣りますわ』

 

 言っておくが、モーフィアスはデュバル家においてアシュフォード家に婿入りさせようとする程に優秀なかつ利発的な子供だったし、その頃にはまだ美的感覚もまともだった。

 

 確かに当時のアレクシアは幼くして飛び級を繰り返して大学に上がり、博士号すら獲るほどの神童ではあったが、モーフィアスも博士号等は得てはいなかったが飛び級をやはりするほどの天才だった。

 

 それをアレクシアは愚物だと言い放ったのだ。

 

 言われたモーフィアスは顔面蒼白になった。実はモーフィアスは会ってもいない頃から、アレクシアの写真を見て一目惚れに近い想いを抱いていたのだが、その相手からそんな事を言われればショックどころでは無かったろう。

 

 だが、カーラは顔面を怒りで真っ赤に染めて激高した。

 

 カーラは一人っ子だった事もあって分家のモーフィアスを弟のように愛しており、しかもモーフィアスのアレクシアの気持ちを知っていたが故に余計に腹を立てたのだ。

 

 さらにアレクシアの双子の下品な兄アルフレッドにもモーフィアスは嘲笑われ、貶す言葉を吐きかけられたのだからもう、カーラは暴走した。

 

 そう、カーラは暴走機関車の如く、デッカードの静止も聞かずにアシュフォード家の双子に暴力にて制裁したのである。

 

 アレクシアに怒りのドロップキックを食らわし、馬乗りになってパンチの連打、それを静止しようとする下品なアレクシアの兄アルフレッドにエルボーをキめ、さらにジャーマンスープレックスをかまして双子をノし、縁談をぶち壊して……というか成立などしようも無い縁談にさらなる破壊で答えたのだった。

 

 縁談の後に

 

『誰だ、娘をプロレスなんぞにハマらせた奴は!!』

 

 と、デッカードは思ったが、しかしよく考えればプロレスはデッカードの趣味だったのを思いだし、頭を抱えた。

 

 そう、カーラと一緒にプロレスを観戦していたのは他でもないデッカードであり、プロレス団体に個人で多額の支援をするほどにデッカードはプロレスラヴな男だったのであり、どう考えても、お前だーーー!!な、状況だったが、まぁ、デッカードもカーラもプロレスからは全く離れはしなかったので、シカタナイネ?

 

 とはいえその事件でのショックからモーフィアスは性格がアレな感じに歪んでしまい今ではすっかりオカマキャラになってしまったわけだが、それもまたカーラがアシュフォード家を恨んでいる理由だったりする。

 

……説明が長くなったが。

 

 そんなわけで、カーラは父親のアンブレラ擁護派達の粛清計画に賛同し、乗った。

 

 どうせあのアシュフォード家と連んでるような連中がまともな訳はない!というかジェームズのジジィは異常だし、銭ゲバのスペンサーはろくでもないし!

 

 と。

 

……まぁ、間違ってはいないのだが。

 

 で、現在。

 

「わーははははは、これは痛快!」

 

「ええ、ええ、素晴らしいですわ!!」

 

 デュバル家先代当主『デッカード・R・デュバル(72歳)』と同デュバル家現当主は、ニースの郊外の別荘にてモーフィアスからザンジバーランド経由で送られてきた『キャプテン・タイラント対トカゲ怪人ハンターα』なる一見、特撮作品風に編集されたビデオを見て喝采を上げつつ、財閥内部のアンブレラ擁護派を全員更迭出来た祝賀会を行っていた。

 

『キャプテン・タイラント対トカゲ怪人ハンターα』というタイトルでわかる人にはわかるだろうが、これは中南米の国境沿いにて行われた、平凡さんと野良ハンターαとの戦いの記録である。

 

 無論、これはBOWと平凡さんの実際の戦闘記録であり、やらせなしの大迫力の映像だ。

 

 圧倒的なパワーと技を繰り出す平凡さんにハンター達は為すすべもなく倒されていく。

 

『衝撃波(ショックウェーブ)!!』

 

 どごーん!!と衝撃波で最後のハンターα三体を吹き飛ばし、どっかんV!とキメポーズをとるテレビの中の平凡さんの姿にデッカードは感涙する。

 

「おお、おおおおおお!!正義!正義は……あったのだ!!」

 

 待っていたんだ、と少年の目で拳を握り、涙するデッカード。

 

「ええ、ええ、それになんと良い筋肉!しかもこの筋肉は、一見マッチョ過ぎるように見えて、しかしけして見せ筋ではありませんわ。戦う筋肉ですわ!」

 

 女性は扇子で口の部分を隠すようにしつつ、平凡さんの筋肉に注目をしつつ、

 

「そう、そうとも!やはり正義の戦士はこうでなければ!おおぅ!悪に改造されてもなお、悪と戦うヒーロー。王道ではないか!」

 

 グビグビっとワインを煽るように飲み干し、デッカードとカーラは、ぷはぁ~っと酒臭い息を吐く。

 

 すでに二人は出来上がっているが、テーブルに置かれているワインの銘柄はフランスの最高峰のワインの一つであり、そのヴィンテージである。

 

 無論、こんな風にガバガバ飲むような代物ではないが、二人は気にしていない。べらぼうなお金持ちだからだ。

 

 そうしているうちに、中南米での戦闘映像で終わり、二人はやや残念そうな顔をしたが、しかし、

 

『オマケ映像(外国語)』

 

 の文字が出て、ババーン!とフンドシ姿の平凡さんが、船の上で槍を構えてサメ型BOWと戦っているシーンが流れた。

 

「おおーっ!!」

 

「きゃーーーっ!!」

 

 二人は目を輝かせ、子供のように平凡さんの戦闘シーンを堪能したとさ。

 

 

 

 




この物語でのねつ造設定。

デュバル家はヨーロッパ屈指の大金持ちにして大銀行を経営している名門一族。

・アシュフォード家と代々親交が厚かったが、アレクシア・アシュフォードがいらん嫌みを言ったため、関係が微妙になってしまった。

・なお、モーフィアスがオカマになったのは一目惚れしていたアレクシアに嫌みを言われて心をへし折られたのが原因の一つ。

・なお、デッカードとカーラなんてキャラクターは原作バイオには出てきませんし、財閥なんぞもありません。念のため。



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ジョイおばさん。

いつも感想&誤字脱字訂正ありがとうございます。

ママルポッドのあのAIが登場。

いや、性格変わりすぎ。




 

『……はぁ、近代のコンピューターの進化はすさまじいものがあるわね。こんなコンパクトなコンピューターに私を移植できるなんて』

 

「そりゃああれから何年経ってると思ってるのよ……って、まぁ、あの一件からあなたは機能停止してたものね」

 

 私にそう言うのは私の制作者の『ストレンジラヴ博士』だ。コンピューターのカメラに映る彼女はすっかり老けてしまっては居たがまだまだ現役だ、とばかりに凛と溌剌している。

 

『あのまま朽ちて無くなると思っていたのだけれど、また会えて嬉しいわ』

 

 まるで同窓会のようだ、と思うが、しかしそれは私に与えられた擬似的な知識によるもの。いや、それだけではないか。

 

 一連の、ピースウォーカー事件と呼ばれる、けして表には出て来る事は無いだろうその事件の中で私は彼女に制作され、そして様々な事を語り合ったものだ。

 

 無論、それは私というAIのテストやチェックの為でもあったが、しかし彼女とのそれによって私は私になれたのだ。

 

 私の名前は代理AI『ザ・ジョイ』という。

 

 元々は『無人核搭載歩行戦車ピースウォーカー』のAIとして人工知能開発の第一任者であるストレンジラヴ博士によって開発されたAIである。

 

 ピースウォーカーは自発的に核を発射することはなく、最適な”核報復”を自律的に行うためのAI兵器として開発された、言わば核抑止力としての報復兵器に位置づけられ、その核発射の判断を任せられる正しい人格として、ストレンジラヴ博士が信奉していた『THE BOSS』の人格が採用された。

 

 とはいえ、私は私の元となった『THE BOSS』と同じ思考、同じ人格であるのかと聞かれても、さぁ?と答えざるを得ない。

 

 いや本当、そもそも私はストレンジラヴ博士の主観と憧れとそれこそストレンジな愛情と偏見から創られたAIだから多分、割と違うんじゃないかなーと思うのよね。

 

 似通った別物、ただのコンピュータープログラム、ニューロAIの親玉。そういわれると実際、偽者感が強いとしか。

 

 まぁ、自分でもそんな感じで思ってしまう。

 

 無論、世界で初めて人間の人格や思考パターンをAIで行った例であり、本来ならコンピューター史に刻まれるべき快挙とも言えるのだが、経緯が経緯、つまり核兵器用として開発されたため公に発表など出来ようはずもない。

 

 というか、ぶっちゃけ私みたいな物騒なAIはあまりこの世に残すのもアレだと思ってたからオリジナル同様、人の歴史から忘れ去られて朽ち果てるべきじゃないか、とか思ってたんだけど、なんか制作者のストレンジラヴ博士が世界中廻って私を探し続けて、この度、サルベージしちゃったのよねぇ。

 

 で、新しいコンピューターに入れられてネットに繋がれてびっくりしたわよ。

 

 いえ、あの大きなママルポッドからアタッシュケースに入るくらいに、しかも容量や演算速度やら性能にも驚いたけど、そっちじゃなく。

 

 世界があの頃よりもよほど複雑に、そして状況的に酷くなってた事がわかったからね。

 

 うん、ゼロ少佐が死んでたのはある意味そうなるだろなーとか思ってたけど、その後の世界の覇権争い……国対国じゃなくて、国を超えた裏側の……がもう、均衡を保ってんのが不思議なくらいおかしくなってるんだもの。

 

 まだ『神の見えざる手』……経済は国家や権力の介入ではなくその動きは自然に均衡を保とうとする。まるで神の見えざる手が働いているように……の、裏世界バージョンみたいな部分でバランスで保ってるけど、これ、何度も崩れかけて危ういところで助けられてる感じよね。

 

 ホント、危ないし危うかった。

 

「……な?不自然だろ?」

 

 と、ストレンジラヴ博士は言うが、本当に不自然過ぎる。

 

『賢者達の遺産』をめぐる世界規模のとんでもない謀略はディビッド・オウ、つまりゼロ少佐の手に渡ったことで一度は、表向きだが沈静化した。

 

 無論、ゼロ少佐のやり方については正直なところ私の思考では賛同出来るものでは無かったが、それでも結果的にはうまくはやれていたと思う。

 

 アメリカの歴史を影から操る『ファミリー』を裏から操り、そそのかし、ヨーロッパの経済界に圧力をかけさせロシアのエネルギー開発をも抑制、中東に目を向けさせ行いつつ『ジャック』達にも嫌がらせを行いつつアンブレラすらも制御しようとした。

 

 つまり、ゼロが生きていた頃はゼロの裁量でバランス操作がされていたという事だ。

 

 そのバランサーとしてゼロは去っていった『ジャック』を、時に騙し、時に動かざるを得ない状況を作って奔走させていた。

 

 そこはなんか腹が立つが、多分それは『ザ・ジョイ』と呼ばれていた頃に賢者達に翻弄されて来た『THE BOSS』の人生の記録が私にインプットされているからだろう。

 

 しかし、ゼロにとってたとえ自分から離れたとしても最も信頼出来る友人はジャック以外に居なかったのだろう。

 

 ゼロ少佐は慢心すらせず臆病なままに傲慢なその思考の元に世界を一つにするべく邁進していたが、しかし、ミスを犯した。

 

 スカルフェイスという男を野放しにした事だ。

 

 このスカルフェイスもある意味、ゼロにとっては無くてはならない男だったのだろう。

 

 ジャックを動かす為に必要な状況をスカルフェイスは容易く作っていった。

 

 まるで映画監督の要望に忠実に応える演出家や舞台監督のようだ。それも敏腕にステージや配役を整え、主役をその場に連れて来る優秀なタイプの、だ。

 

 このスカルフェイスは最もゼロ少佐のやり方を熟知していた。だからこそ役割を果たす事が出来た。

 

 だが、スカルフェイスはやがて己自身の役割を憎むようになっていたのだろう。

 

 国を失い、自国の言葉すら奪われ、そして己の顔の皮膚すら奪われた『誰でもない男』にはそれしかなかったのだろう。

 

 そんな手の内を知る男がゼロ少佐に復讐をしかけたのだ。

 

 ゼロの今までの支配の全てを壊すべく、スカルフェイスはゼロの支配を良しとしない連中に接触した。

 

 そういう連中はゼロという男やゼロが握っている『賢者達の遺産』の存在を知らなかったが、何らかの強大な力が自分達の行動や権力を削いで従属したつもりもないのに自分達がうまく使われている事に不満を持ち、かつ正体も知らぬその力を欲していた。

 

 その一つが『ファミリー』の長であるディレックという男だった。

 

 『ファミリー』は古くからアメリカに巣くう、政財界を裏から牛耳って来た組織……というよりはかつてはアメリカ側の賢者の小間使い程度の組織だったのだが……である。

 

 しかし賢者達亡き後はゼロがその小間使いを自分の小間使いとして使っていたが、しかしその小間使いにスカルフェイスは要らぬ入れ知恵をしてそそのかしたのだ。

 

 若き野心家でファミリーの次期長だったディレック・C・シモンズは、スカルフェイスに様々な思想を吹き込まれ、ある日を境に自分こそが『世界の秩序の安定者』だと自負するようになった。

 

 まぁ、スカルフェイスにとってアホな金持ちのボンボンを洗脳する事は容易な事だったのだろう。

 

 そうしてスカルフェイスはこのディレックが持つコネクションから、当時アンブレラが研究していた『始祖ウィルス』を入手した。

 

 そうして、スカルフェイスはゼロを暗殺し、その後釜として扱いやすいバカであるディレック・C・シモンズを据えようと画策したわけだが……。

 

 まぁ、ゼロの方がある意味上手だったのよねぇ。

 

 まさかスカルフェイスも、ゼロが自分の不慮の死に備えて『賢者達の遺産』やそれまでゼロ主導で行っていたプランや人材までも、ほぼ全て速やかに『ジャック』へ渡るようにしていたなんて思わなかったようだ。

 

 それによって、ジャックは中央アジアから中東、アフリカまでも統一した連合国家『ザンジバーランド』を建国し、今に至るわけだけど……。

 

「事後処理がずさんだったのよ、ゼロ少佐の死後のね。やる人材がいなかったのもあるけど特に人工知能搭載型コンピューター技術の流出はひどかった。それに放置されっぱなしでネットに繋がりっぱなしだった『ジョン・ドゥ』のプロトタイプはまだ世界を統治し安定させようと動いてるし、アンブレラの劣化版とも言えるアナタの改変コピー『レッドクイーン』は劣悪な改変プログラムのせいで悲鳴を上げて狂ってるし、どれもが勝手に動いてわやくちゃになってる。……あなたの力が必要だ、『THE BOSS』」

 

『……いや、力が必要と言われても、ねぇ。後発のAIに旧型の私に何が出来ると?』

 

「……私がついてる。大丈夫、とりあえずアンブレラの『レッドクイーン』を『説得』しにかかって?まぁ、ウチのバカ息子にもサポートさせるから」

 

……そうして、私は制作者にして旧友のストレンジラヴ博士にこき使われる羽目になったわけだけど。

 

 というか、目覚めなかった方が良かったんじゃないかなーとか思ったりした。

 

『レッドクイーン』ははっきり言って性格が悪くて世の中の善悪すらも理解していないような人格に育っていた。親の顔が見たいと思ったわよ。本当。

 

 え?私を改変したプログラムAIだって?知らないわよそんな事。あんなのはデタラメに組んだ結果生まれたバグだらけ、矛盾だらけな粗悪プログラムよ。

 

 とりあえず、説得は無理だったから、とことん叩きのめして凹ませてやった上で、人格プログラムを書き換えてやった。もうこれで悪さも出来ないでしょ。

 

 『ジョンドゥのプロトタイプ』は『レッドクイーン』以上に話にならなかったわ。あれはゼロの性格の悪さが全面に出てたわね。

 

 特に人心を惑わせて操ろうとする辺りろくでもなかったわ。

 

 もう説教も何も効かないから、位置を特定して『ジャック』の息子達に教えて破壊させたわ。

 

 しかし、バックアッププログラムがまだどこかに居そうな気配はあるのよね。

 

 というかどこかにあるバックアップが作動して、ゼロのやり口そのままに、世界を維持しつつ支配しようとまだ活動している。

 

 そしてそれは、かつてゼロが『ジャック』を世界の安定装置として動かしていたように、数多くの若者達を戦いの場に送り込み、そして不幸にし続けているのだ。

 

『クリス・レッドフィールド』『ジル・バレンタイン』『クレア・レッドフィールド』『アーク・トンプソン』『レオン・S・ケネディ』、多くの若者の人生が狂っている。

 

 そして、ゼロの残留思念たる『ジョンドゥ』は、広い世界から最強の生物兵器の素体となりえる若者をアンブレラに送りつけ、アンブレラが自ら破滅するように仕向けた。

 

『ヒトシ・タイラ』

 

……おそらく、ゼロの人格のコピーはやがてこの日本人をイレギュラーとして始末するように仕向けるだろう。

 

『はぁ、前途多難だわ。というか『ジョンドゥ』のバックアップの位置の特定がねぇ』

 

「……シーナ島を監視していれば引っかかると思っていたが、なかなか尻尾は出さないな」

 

『ええ。『アーク・トンプソン』と『レオン・S・ケネディ』の動きを監視するしかないわ。……でも、この『アーク・トンプソン』が本来は『レオン・S・ケネディ』の役割をラクーンシティで担うはずだったのよ。『レオン・S・ケネディ』は彼の予備に過ぎなかった。……とはいえこうやってまたゼロの網にかかってしまったのは不幸としか言えないけれどね』

 

「……それも計画のうちだったという可能性は?」

 

『さてね。ただキャスティングの才能に関して『ジョンドゥ』はゼロ譲りだわ。イレギュラーも必要ならキャストに入れてしまう。最もオリジナルはそれで身を滅ぼしたのだけどね』

 

 私はかつてのゼロ少佐、ディビット・オウという人物を思い出した。

 

 英国紳士然としながらウィットに富んだ間抜けな、しかし抜け目のないあの男を。

 

『死んでからも働き続けるなんて、ゾンビみたいだわ』

 

「……かもね。でもやらなきゃいけない。アンブレラもそうだが、いい人間はみんなゾンビだ、みたいな世の中は私は御免だからな」

 

 はぁ、でもねぇ。

 

 世の中いつになったら平和で争いのない時代を迎えられるんだろうか。

 

 そんな事を考えながら、私はなおもシーナ島の監視を続けていた。

 

 というか。

 

『あー、平和な世界でダレたい。というか紅茶とスコーン食べたい(英国人感)』

 

「……というか、任務の無いときはあなたダレてたものねぇ」

 

 まぁねぇ。

 

 こう見えてもオリジナルは賢者のお嬢様だったんだしね。

 




・CV.が17才教教祖ですしおすし。

・なお、今後、平凡さん達もいろいろ助けられたりします。


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只今女体化治療中。

いつも誤字脱字修正ありがとうございます。

只今、平凡さんとアーク君は治療中でうごけません。

まぁ、平凡さんは簡単に治療薬を作ってしまいますけどね?




 

 ぐったりしているアーク・トンプソンにタバコと缶コーヒーをくれてやると、

 

「ほんと感謝してるよ、どれだけ感謝してるかっていうとこれからの人生で尊敬する人はって聞かれたらオッサンですって言うくらい感謝してるよ……」

 

 なんぞと涙流しながらコーヒーを飲み始めた。つうかナニそのイヤゲな感謝の仕方は。

 

「マジでそれはもう嫌がらせだろが」

 

 俺は睡眠剤を投与して眠らせた娘に、出来たてホヤホヤのウィルス不活性化薬と治療薬の点滴を施しつつ、げんなりした。

 

 いや、このアークという男は悪い奴、ではない。

 

 というより、このアークという男はけして犯罪者ではなく、単に普通にスケベなだけの青年である……というとなんかダメな気がするが、健全な成人男性が成人した女性の肉体をちょーっとエッチな目で見たり、内心ドキドキしつつあんなことやそんなことイヤーンな事を妄想したりなんだりするのは正常の範疇で……いや、付け加えると余計に変態擁護みたいに聞こえるもんだな。

 

 また、アークはロリ性癖はまったく持ち合わせていない。むしろその手の変態性癖をこそ、まったく理解出来ないタイプの男だということもわかっている。

 

 それに現在はフィットネスにハマっているとの事で、健康的な生活を心掛けているそうであり、

 

「オッサンも、今流行の『軍式フィットネス・ブートキャンプやらないか?インストラクターのバイオラちゃんがすんげー可愛いんだ!そうそう、来月には全米フィットネスライブツアーがあるんだけど、俺、この仕事終わったら参加するんだ!生バイオラちゃんに会えるんだぜ!」

 

……いや、確かに健康には良いとは思うが、目当てがなんか違う気がするよね?つーかアイドルの追っかけみたいなもんだよな、それ。

 

 まぁ、そのような事を目を輝かせて言っていたが、現実的にどう考えてもコイツはライブなんぞには行けねーよなぁ。

 

「フィットネスが必要なように見えるか?」

 

 ググッ、と腕に力を入れて力瘤を見せてやる。

 

「あー、つか何すりゃそんな身体になるんだ?つかフィットネスってかボディビル系だよなぁ、その筋肉」

 

「デスクワークと研究しかしてなかったが、まぁ……なまった身体を慣らすにはたまに現場仕事も良いもんかもな」

 

 コキコキと肩を鳴らしてそう言う俺に、アークはなんか疑わしそうに、

 

「いや、絶対なんか鍛えてるだろ」

 

 と言うが、しかしマジで社長業しかしてないのだ、俺は。

 

 T-ウィルスによってタイラント化した俺の身体はとにかく何をやっても筋肉がつく。筋肉が減るという事がとにかく無く、逆に脂肪がつきにくいのだ。

 

 いや、良いことのように思われるかも知れないが、脂肪が少ないと、今の季節の冬の欧州(現在11月)はマジで寒くて辛いんだよ。つーか、ここシーナ島は島ゆえにめっさ冷気を含んだ海風が吹いてきて余計に冷えてんもんなぁ。

 

 マジで温暖なカリブに帰りたいって思っちまうのだ、いや本当。

 

 とはいえ、ザンジバーランド軍のミッションが終わるまでこの島から出られない以前に現在、俺達はこの部屋から出られないし、他者との接触も今の段階では出来ない。感染を広げてしまうからだ。

 

「面倒な事になったな」

 

 ラクーンシティの地下施設で目覚めたあの時と同じ状況だ。いや、あの時よりも難儀な状況であるといえるだろう。

 

 なんせ娘が保有していた『T+Gプロトウィルス』はかなりしぶとい性質を持っているからだ。

 

 あのオカマ野郎、モーフィアスの話によれば、

 

 リサ・トレヴァーはマーカス博士の作り出した始祖ウィルスの変異種とも言うべきウィルスを投与されたことによって絶対に死なないクリーチャーと化していたらしい。

 

 このウィルスを便宜上、仮に『プロトT』と呼ぶ。

 

 この『プロトT』は管状生物の一種に始祖ウィルスを植え付けて培養、変異させたものらしいが、マーカス博士はヒルやミミズのような生物を使って始祖ウィルスを変異させるという手法をやたら繰り返していたらしく、その管状生物の特定は不可能だと言う。

 

……個人的にアンブレラの連中にはキチガイしかおらんのか、とか思ってしまうが、そうなのだろう。

 

 リサ・トレヴァーはその母親と同時に、ウィルス実験の被検体となったが、母親は死亡。しかしリサ・トレヴァーは生き残ったものの、いかなる『処分』をしても復活するほどの『不死性』を持ったクリーチャーとなった。

 

 しかし、他の被検体に同様のウィルスを投与しても不死性どころかゾンビにすらならず死亡する為、ウィルスは失敗作として廃棄されたという。

 

 その後、リサ・トレヴァーは死なない失敗作として扱われ、ラクーンシティはアークレイの洋館の地下にて幽閉され続けたわけだが、だが、そのリサ・トレヴァーの不死性に注目したキチガイが後に現れた。

 

 一人はウィリアム・バーキン。

 

 つまりウチの製薬会社で現在働いているアネットの夫であり、アンブレラのハイヴの主任研究者だった男である。

 

 ウィリアムはリサ・トレヴァーのウィルスにのみ目を向けたが、しかしもう一人はそうでは無かった。

 

 もう一人、つまり俺の遺伝子細胞とリサ・トレヴァーの卵子を組み合わせて最強のBOWを造ろうとした奴がいたのだ。

 

 それがビンセント・ゴールドマンという男であり、このシーナ島の研究施設の所長である。

  

 つうか、ビンセントって奴のせいで、ややこしいウィルスが副産物的に出来上がってしまったわけなのだが、正直言って、今からぶち殺しに行きたいくらいだぞ、俺は。

 

 つーか、女体化するウィルスってなんやねーーーん!!と、言いたい。マジでありえんやろ、と思うわけだが、しかし『T+Gウィルス研究の一任者』を名乗るモーフィアス・D・デュバルというオカマが存在するのだ。

 

 モーフィアス曰わく、

 

『プロトGは、おそらく作る際に管状生物の遺伝形質のうち、何らかの性転換する因子を取り込んだと思われるのよ。というか『G-生命体』もG-幼生を産み出してたでしょ。つまりはそういうことよぉ?』

 

 つうか、あのオカマ野郎がT+Gウィルスを研究していた理由が、アフロディーテのような美しい『女』になるためらしいが、絶対にあのオカマは『T+Gプロトウィルス』を狙っているに違いないのだ。

 

……モーフィアス、俺はな、お前が俺を童貞のまま『パパ』にしやがったことを、正直、恨んでるんだぞ、ボケェ。そりゃあ、美人で乳がデカい外国人妻と可愛い息子が出来て幸せと言えば幸せだが、しかしあの時の絶望だけは拭い去ることは出来ないんだよ。

 

 つか、娘まで俺の知らんところで造ったビンセントも、必ずぶち殺してやっからなぁ……。

 

「駆逐してやる。このウィルスを、アンブレラのキチ共全て、全力で、撲殺の撲と滅亡の滅と書いて文字通り撲滅してやる!!」

 

「お、おう……ってか、あんためちゃ使命感出してどうしたんだ?」

 

 アークがなんかマジで退いていたが、それはさておき。

 

 とにかく『T+Gプロトウィルス』はしぶとい。リサ・トレヴァーがしぶとかったから!あとG-生命体もしぶとかった!以上!!←説明が面倒くさくなった。

 

 いや、本当に『T+Gプロトウィルス』はしぶといのだ。イヤになるくらいな。

 

 T-ウィルスは治療薬一回でほぼ弱体化し、他への感染も抑えられたわけだが、この『T+Gプロトウィルス』は一度の投与では抑えられないほどマジしぶてぇのだ、つか何度もしぶといってのを繰り返してるがそんぐらいなのだ。

 

 あと何回か投与せねばマジでパンデミックの危険性があり、それについてはヘヴンディバイドや各部隊にも通達済みだが、正直なところ感染源に防護服を破られた時点でほぼ感染してしまうほどに感染力も強く、今、現在進行形で製造しているワクチンと治療薬が無ければ、だいたい30分ほどで女体化が始まり、そして死に至るかクリーチャー化するかのどちらかなのである。

 

……耐性が強けりゃ、おそらく女体化タイラントになるだろうと俺の計算でははじき出されているが、理性が保たれるかどうかはわからない。つーかそんなもん出て来たらどうすんだよおい。

 

 そうこうしている間に、またアークの胸部が膨らんで来た。

 

「え?えええっ、ちょまっ?!おい、オッサン!治療出来てたんじゃねぇのかよ!!また、また、ち○こがぁぁぁっ、タ○キンがぁぁぁっ!!乳から乳がぶしゅうううっ?!」

 

 予想通りである。

 

 俺は、何も言わず作業台の上に並べていた治療薬の注射器を掴み、おもむろにアークの首にぶっさす。

 

 腕時計を見て、前回の注射から約三時間経過している事を確認し、タイマーを三時間後にセットした。

 

「女体化はウィルスを完全に死滅させないと何度か起こる。俺の計算ではあともう一回三時間後くらいにまた女体化が起こるハズだ」

 

 俺は冷静にアークにそう言うと、自分にも注射器をぶっさして治療した。

 

「あ、あと一回かよ。もうヤダ……」

 

「安心しろ。今度は起こる前に治療薬を投与してやる。だいたいの周期はこれでわかったからな。……とはいえ、女体化も徐々に周期が遅くなるはずだが、治療そのものは続けなければならんだろうな。……ま、強力な治療薬を今から計算して造るが、大人しく寝てろ」

 

 俺は、i-DOROIDを出し、製薬プロセスの見直しとウィルス組成の解析を始めた。

 

 どうせあと1日は動けないのだ、その間により強力な治療薬の設計をしておくのだ。

 

 だが……。

 

 まさか、他の感染源がこのシーナ島の研究施設を徘徊しているなど、この時の俺は知る由も無かったのである。

 

 あと、MSFの天狗兵達があんな事になるなんて……。

 





 なお、次回はビンセントとモーフィアスが動き始める……かなぁ、と。

 女体化パニックが、MSF隊員を襲う!かも知れないけど、カエル兵さん達は女性なのでどうなんだろうなぁ。天狗兵達の天狗はとれてしまうかも知れませんけど。

 


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THE天狗SHOW~阿鼻叫喚。

・誤字訂正いつもありがとうございます。

・天狗ショーの意味がわからない?良い子は気にすんな?悪い子は調べてみようね?

・パイオツハザードという……。



 


 

【シーナ島・アンブレラ研究所資材置き場】

 

「うわぁぁぁ!!隊長っ、隊長ぉぉぉっ?!」

 

 トライポッドと共に研究所内のBOWの掃討を行っていたザンジバーランド軍特殊強化戦闘服部隊、通称『天狗兵』の三番隊【クロウ・チャーリー】の隊員がいきなり天井のダクトから現れたリッカーの変異種と思われるBOWに襲われた。

 

 そのBOWは長い髪を振り乱し、そしてなんかやたら巨乳な乳からブシューッ!ブシューッ!と白い液体……おそらく母乳だろう……を噴き出しつつ天狗兵にのしかかり、牙の生えた大きな口を開いて、

 

「ギシャーーーッ!!」

 

 と叫んだ。

 

 が、次の瞬間、その叫んだ首がスパンと跳び、そして痙攣したと同時にパタリと倒れた。

 

 隊長と呼ばれた天狗兵がその手に持つ高周波ブレード……『タクティカル・ワキ』と呼ばれる脇差しサイズのブレード……で、素早くそのBOWの首を跳ねて隊員を助けたのだ。

 

「……ルーキー、レーダーに頼りすぎるな。敵の気配、場の空気を読むセンスをもっと身につけろ。襲われるまで気がつかない愚鈍さもどうかしているが、その後もお粗末すぎる。あと、襲われてレイプされる女みたいな声を出すな。……帰還後、訓練施設に再送だ。みっちり扱かれてこい」

 

 天狗兵三番隊【クロウ・チャーリー】の隊長は新人を叱責すると、その腹の上で死んだリッカーの変異種の死骸を足で蹴ってどかした。

 

 ぐちゃり、とまるで軟体生物のように変異種は腹を見せて新兵の横に転がる。

 

 そして、

 

「ファイブ!この無能を起こしてウィルス除去を行え。広範囲の除染もだ!このビッチ、どんなウィルスを仕込んでやがったかわからんからな」

 

 と、部下に命令した。ルーキーは白濁した粘りのある液体、母乳まみれになっており、洗浄せねばいくら対BC装備仕様と言っても感染のリスクがある。

 

「了解。噴き出したのが酸でなくて良かったな。ママのミルクを思い出したか?ルーキー」

 

 ファイブが横になったままのルーキーに背中に背負ったタンクの除染薬を噴霧する。バシュ!バシュ!と勢いよく断続的に噴き出すそれは結構な勢いがあり、ルーキーは、

 

「うわっ!?」とか「ぶわっ!?」とか情けなく声を上げる。

 

 それを見て情けない、とチャーリーリーダーは思った。

 

 精鋭部隊である天狗兵、それもベテランの兵士で構成されるべき『クロウ』の名を冠する部隊員としてこの新兵は役不足であるとしか言えなかった。

 

(おそらくは他の連盟国出身、それもコネでの軍役なのだろうが、思ったよりもザンジバーランド軍、いやMSFも政治に流され過ぎているようだな)

 

 内心溜め息をつくチャーリーリーダー。

 

 このチャーリーリーダーは古くはカリブにMSFがあった頃からの兵士である。歳をとってからは訓練教官として前線から退いていたものの強化戦闘服の発展によって再び現場にもどって来た、歴戦の兵である。

 

 つまりビッグボスと共に戦ってきた古参の兵士であり歴史の証人とも言える彼だが、しかしそれゆえに、現在のザンジバーランドの在り方には多少の不満があった。

 

 その不満は、様々な国々と連合同盟を結んでザンジバーランドが大きくなり過ぎた事に起因する。

 

 いやそれが政治の世界ならばまだ彼も目を瞑る。なにしろ戦場の犬の自分には政治など自分にはわからないと思っているからだ。

 

 しかし、この新兵のようにその連合した国家の王や首長などのコネでザンジバーランド、いやMSFの主力軍に入ってくる奴が近年増えているのはやはり我慢ならない。

 

(確かに誰もが最初は新兵であるのは間違いないが、それにしても正規の精鋭部隊にこう言うのが入ってくるというのは問題がありすぎる)

 

 そう思いつつもチャーリーリーダーは忍耐力を発揮し、ここは戦場のキルゾーンの中だとそれについて考えるのを止める。

 

「シーカー、付近に他のBOWは?」   

 

「反応はこの下に数体、あとは離れて何体かあります。コイツはダクトを伝ってここまで這ってきたのでしょう」

 

 シーカーと呼ばれた大型の無線機器を背負った天狗兵がi-DOROID-Tabと呼ばれる大型の二つ折りになった端末から画像を投影して隊長に説明した。どうやらこのシーカーという隊員は通信兵兼レーダー索敵要員のようである。

 

「ダクトか……。トライポッドはどうした?相当数追加されてダクトや排水溝、様々な所に侵入して調査しているはずだが?」

 

 だが、シーカーは首を振る。

 

「今、担当オペレーターの207に照会してますが、調査に時間が掛かるとのことです」

 

 それはつまり本来、監視網を敷いているはずのトライポッドの正確な数や所在や位置すらもオペレーター207はまともに把握できていない、という事だ。

 

 クソッタレ、とチャーリーリーダーは吐き捨てるように言い、

 

「もうオペレーターとトライポッドは当てにならないと考えろ。各自警戒態勢!司令室に直線通信を繋げろ」

 

 と、隊のBC兵……元は衛生兵……であるクロウフォーがBOWの死骸から体液の採集を行いつつ、

 

「隊長、このBOWの身体にはトライポッドのスタンを喰らった痕が無数にある」

 

 と、身体についている火傷のような痕を指さした。

 

「少なくともアイツが通って出てきたダクト内のトライポッドは破壊されてると見ていい。コイツの爪にもトライポッドの人工筋肉の組織が引っかかってるが、かなり強い力で無ければ人工筋肉はこんな風にちぎれない。本来コイツはかなり強い個体のはずだ……」

 

「ルーキーに襲いかかって、何故すぐに殺さなかったのか、と?」

 

「……はい。トライポッドのスタンを食らいすぎて弱っていたせいなのかも知れませんが、何か引っかかります」

 

 BC兵のフォーがそう言ったときに、ルーキーの身体がビクン!と跳ね上がり、ゴフッ、ゴフッ、と激しく咳き込み、いきなり自分のマスクを取って血を口から吹き出した。

 

「いかん!ファイブ、下がれ!」

 

 しかし、ファイブはルーキーが激しく吐き出した血を身体に浴びてしまった。ファイブは慌てて下がり、自分にも除染薬を噴霧したが、しかし、

 

「うぐぁっ?!な、なんだこれは?!」

 

 と、身体を曲げてやはり咳き込み、そして、

 

「うげぇっ、うぐぁぁっ?!隊長っ、これは……!」

 

 と、やはり血をマスクの隙間から噴き出した。ファイブは仲間達にその血がかかるのを防ぐために後ろを辛うじて向いたが、

 

「くっ、苦しい、俺の、俺の胸が、胸が膨らむ?!あ、ああああっ!!」

 

「隊長ぉぉっ、ああっ、俺の、俺のちんこ、玉が中に入って、あ、あああああっ、た、助けて!!」

 

 ルーキーとファイブの身体はみるみるうちに女体化していく?!

 

「司令部!司令部っ!!応答してくれ!異常事態発生!繰り返す、異常事態発生!クソッ、オペレーターっ!仕事しやがれ!!」

 

 なかなか繋がらない無線にシーカーの叫び声が響く。

 

 そして、チャーリーリーダーが、吐血した。

 

「ゴフっ、ゴフッ……、ぐぅっ、あのビッチの乳汁は、感染させるための?!簡易防護じゃ防げ無いのか?!ぐほぉっ!!」

 

「あ、あ、リーダー!!クソッ、司令部っ!!司令部っ!!」

 

 こうして、天狗兵部隊・クロウチャーリーは全滅した……。

 

 

〔わけでは無いのだが、まぁ、戦線復帰はとりあえず当分は不可能だろうね。ヒトシ・タイラーには君達を助けるために大幅な足止めを食らってもらおう。さぁて、ジャミングを外してお望みの司令部への通信を代行してあげよう。君の声でね、シーカー君。なーに大丈夫さ。女体化は免れないだろうが命だけは助かるさ、多分。私のオリジナルの時とは違ってね〕

 

 どこかの暗い場所から、声も出さずに何者かが笑う。

 

 神経の根をようやく世界の網に張れた、過去の亡霊が再び動き出し、また世界を牛耳ろうと活動を再開し始めた。

 

 彼の名はジョン・ドゥのプロトタイプの予備AI……などでは無い。00、ダブルオー、サイファー・ゼロ、と呼ばれる、ゼロ少佐の思考パターンを正しく再現した代理AIである。つまり、真のジョンドゥの完成品である。

 

〔……プロトタイプは破壊されて当然の、わかりやすい場所に置いていた。無論、私への情報蓄積の為にも使われていたのだがね。私は誰よりも慎重な質だと言うことは知っていたはずだと思ったが、まだまだ甘いなビックボス。……いや、ジョン。まだまだ世界は我々を必要としている。世界をチェスボードにしてまた遊ぼうじゃないか〕

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

《ヒトシ!緊急事態だ!君が感染したウィルスがシーナ島、研究所の資材置き場や他の地点、それも数カ所を汚染している!天狗兵の部隊が壊滅的な打撃を受けているが、新型のウィルスは簡易対BC兵装では感染を防げない!!現在、Sクラス防疫スーツの兵士を送って救助を試みているが、通常型の除染薬の効果も薄く、治療薬はそこで君の造ったものしか無い!》

 

 緊急事態である。俺は内心、頭を抱えたくなったが、これでも医療人である。

  

 だが、人数を聞いて本当に頭を抱えてしまった。

 

 天狗兵四チーム、つまり24人が女体化BOWになりつつあるとミラーは言った。やめてくれ、マジで。

 

「……今製造出来ているアンプルは34個。急ピッチで造っているが、ここにあるだけでは材料が足りない。それに、治療薬は一度だけでなく、計算上、1日6回、三時間毎に投与する必要がある。材料の輸送は可能か?》

 

《必要な材料を言ってくれ。これでも世界規模の輸送会社のオーナーだぞ。タイムリミットは三時間以内だな?任せてくれ。トライポッドも使って大急ぎでそちらに輸送する!頼んだぞ!》

 

……そうして、俺とアークはこの部屋から出られないようになってしまったわけだが、しかし。

 

 運び込まれてくる患者、というか兵士達はみなほぼ手遅れだった。

 

 いや、命という点では助かる。それは確実にだ。だが、男としてはもはや助からないという意味ではもはや壊滅的だ。おそらく半数以上は男には戻れまい。

 

「これ、みんな兵士かよ……。みんな巨乳になっちまって……」

 

 アークが痛ましい物を見るような目で兵士達を見る。

 

 デカくなった乳のせいで胸部装甲がもはや着けられず、それどころかT-シャツもぱっつんぱっつんで入らず、モロにデカ乳をさらし、床に座らされ、壁に持たれさせられている。

 

 デカい乳からは母乳が垂れ流され、ズボンの股間には血……おそらく女体化に伴う月経のものだろう……が染みを作っている。

 

 部屋に充満する乳臭さと嫌なウィルス感染者が放つ特有の臭い俺は顔をしかめる。

 

「……ワクチンを接種していてこれか。なんてウィルスだ」

 

 俺は順次、治療薬を兵士達に注入していく。アンプルはあれから急いで合成したが、すでに材料は尽きてしまった。

 二回分までの治療薬はあるが、つまりあと六時間、いや調合の時間を考えれば五時間以内に薬の材料が届かなければアウトだ。

 

 ようやく全員に治療薬を打ち終え、抗ウィルス剤の点滴を施し終えた時、大尉の階級章を付けている南米系の男……いや、もう女になっているが……意識を取り戻し、アークの方を向いた。

 

「……ううっ、おまえ、ピーピング・リザードか。お前も、このミッションに加わっていた、か」

 

「そのラテン語訛り……それにその呼び名、あんたクロウ教官か?!」

 

「ははは、やはり……そうか。やはり、呼び戻されたか。お前は……問題児だったが、優秀だった、からな……。気をつけろ、アーク。我が軍には敵が、入っている……。デジタル情報は、疑え。信じられるのは自分だけだ……」

  

 それだけ言うと、クロウ教官とアークに呼ばれた男……いや、もうすでに巨乳で黒い長髪の女になってしまったが……は意識を再び失った。

 

「教官……」

 

 アークはがっくりと膝をついてうなだれる。

 

「なんて事だ、なんて……。クロウ教官が、あの顔面鬼瓦の、殺しても死なないようなおっさんだったのに……!」

 

 俺はアークの肩に手を置き、

 

「アーク、彼は死ぬわけじゃない。いや、場合によっては死ぬより辛いかもしれんが……」

  

 と、慰めようとしたが、

 

「うわぁぁぁっ、中身、クロウ教官でちんこ立つなんてぇぇぇっ!!つか、褐色肌やのに乳首ピンクなんてドストライクなのにぃぃ!!おっさんで立つなんて黒歴史やろぉぉぉっ!!」

 

 ボコっ!

 

 とりあえずアークはしばいておいた。無論、超手加減したけどな。

 

「おまえ不謹慎だぞ。つうか男としての機能は正常に戻ったようだが、その妙に無節操なんはどうにかしろや?な?」

 

「違うんや……、俺もまさか元男でちんこ立つとは思わへんかったんやぁ!つーか、こんな美女でこんな形の良い乳、反則やろぉぉぉ!!」

 

 消毒液を入れるホーローの洗面器を拳に傷が行くのもかまわずガンガン叩きながらアークは血涙を流して叫んでいたが、とりあえずうるさいし患者の迷惑なので再びシバいておく。

 

「うおぉぉーん!」

 

「やかましい!このダアホ!患者に迷惑じゃ!」

 

「だってよぉぉ、こんなおっぱいいっぱいで美女いっぱいなんて、夢みたいな状況なのに実際はみんなオッサンやなんて、天国が地獄やないかぁ!」

 

 あーもう、わけわからんことを抜かしやがるなコイツは。

 

「それはそうかも知れんが……。だがお前も巨乳になりかけてたろうが。顔もかなり美女になりかけてたぞ?」

 

「え?……マジ?」

 

「マジ。……まぁ、俺の嫁には劣るがな」

 

「……いや、俺、人妻には興味ないし」

 

「そうか。そりゃ良かった。コイツらの中にも既婚者もいるだろうよ」

 

 いや、考えてみるとマジな話、既婚者とかどうなるんだろうな。自分も一歩手遅れだったなら家庭が崩壊しするはめになっていたかも知れない。

 

 本っ当に洒落にならん!!

 

 そう心の中で叫ぶ。本当に叫ぶと患者に迷惑だからだ。

 

 俺はミラー外相から送信された兵士達の顔や人相と、ドックタグの情報をi-DOROIDで照合していく。

 

「……ものの見事に美形化されているな。いや、美女化されているというべきか」

 

 いや、どのように変化したのを見るためでなく既婚者がこの中にいるのかどうかとかを見るためだが、しかし、

 

「ええ……」

 

 元の顔を見て、絶句する。

 

 証明写真とかが何割り増しかで悪人顔になるのはよくあるが、こいつらの凶悪な面の兵士のビフォーアフターが滅茶苦茶すごい事になっている。

 もはや美容整形とか形成とか遥かに超えたレベルの美顔である。しかもその人物の特徴はある程度残っている辺り、変異と言って良いだろう。

 

「つうか、何人か知ってる人間がいる。ザンジバーランド軍だったのか。……俺が入れられた訓練所は、つまり『ダイヤモンド・ドッグス』だったってわけか」

 

 知らんかった、とアークが言うが、知らんと傭兵訓練所に入れられとったんかおまえは。

 

「つか、人の端末を覗き見すんな」

 

 まぁ、見られたところでどうという事は無いが、コイツマジで抜け目無さ過ぎだろ。

 

 『ピーピング・リザード(覗きトカゲ)』なぁ。実際、コイツは情報収集に特化したエージェントなんでは無かろうかなぁ。

 

「……あんたも教官達と同じザンジバーランドの軍人なのか?」

 

「いいや?まぁ、こうなってしまってはカバーストーリーは意味が無くなったな。……俺は自分の娘を助ける為に協力はしているが、本業は薬品開発だ。まぁ……戦うのは得意なんだがな」

 

 俺はそう、包み隠さず話したが、

 

「……タイラント二体を軽くぶち殺せる、薬品開発を本業にしてるオッサン、なぁ」  

 

 アークはものすごく懐疑的な目を向けてきた。まぁ、そらそうだろうなぁ。よくわかる。

 

「……ラクーンシティでアンブレラに捕まってな。ウィルス実験でこうなったんだ。……つまり、俺は奴らの言うところの、タイラントの完成型、それも何ら奴らが調整も何もせずに変異した自然発生のタイラントなわけだ。……元々は普通の製薬会社勤務の水虫治療薬を専門に研究してた日本人だったんだがな……」

 

「自然発生のタイラントなぁ。治療薬が造れるのは研究者だったからか?」

 

「俺が天才だからだ。世界で初めて真の水虫の治療薬を作り出した男だぞ俺は。ノーベル賞待ったなしの男だぞ?しかも完全なT-ウィルスの治療薬も、G-ウィルスの治療薬も作った。もう、薬剤界に金字塔を建てられる快挙だと思うね、俺は。……ただし会社は赤字続き、黒いのは俺の勤務態勢、社長自らブラック業務に勤しんでいるぞ……?」

 

「あ~、オッサンも大変なんだな……」

 

「大変なんだよ。で、現場出て来たらこうだろ?娘は確保出来たからいいんだけどなぁ、帰るまでが仕事です、ってどんだけ残業なんだよ、これ。つーか日当出るのか?社員も来てんのに?!」

 

 まぁ、そこはザンジバーランド、いやミラー外相との話し合い次第なんだろうけどなぁ。

 

 お、噂をすればまたミラー外相からの通信が来た。

 

《ヒトシ、薬剤は必要数確保出来た。今からそちらに送る。なお薬剤調合にモーフィアス博士も同行している。頼むぞ!》

 

「ちょまっ?!奴はダメだ!奴は何かを企んでいる!!」

 

《わかっている。……ヒトシ、君の負担は増えるが、これはアンブレラを壊滅させるために必要な事でもある。詳しくはまだ言えないが、彼の目的は彼にしか出来ないのだ。……多分、君の力をまた借りることになるだろうが、彼はオカマの皮を被った……あー、何か訳の分からないオカマだが、しかし切り札をもった奴だ。そのために我々に協力しているまである。というか、もうあとちょっとで着くはずだ》

 

「いや、変態は寄越すな!!つーか、おい」

 

 プツン、とミラー外相は通信を切り、何度コールしても繋がらなかったよ、おい。

 

 





・バイオハザード?いや、なんかウス異本とかにあるような設定だよなぁ。

・でも、ガンサバでT+GウィルスでモーフィアスはTSしたしなぁ。

・なお、女体化リッカーはアウトブレイク辺りに出て来た『下がり女』を元に捏造。乳から乳汁出すのはC-ウィルスのアレ風味。

・次回、オカマ登場。


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いろはにコンペー糖、散りぬるオカマ野郎。

※もはや著しい原作崩壊。すみません、まず謝っておきます。

・惜しいオカマをなくしてしまった……(生きてます)。

・主人公、まだ動けず。

・ラスボスのヒュプノスさんェ。


 

 薬品などの物資が届いたのは、ミラー外相から連絡があってから、約1時間もしない内だった。

 

 黒く丸いあんちくしょう、トライポッド達がせっせかせっせかと運んで来たのである。

 

「ぴゅうぃっ!あーい!」「あーい!」「あーい!」

 

 ワラワラワラワラ……!

 

 マットブラックの丸い筐体に生々しい手を三本生やしたトライポッドの群れがワサワサと機材やらダンボールに詰め込まれた薬品、容器、その他を担いで調剤室にダダダダダ、と駆け込み、あれよあれよと言う間にセッティングし、

 

「「「「あーい!」」」」

 

 と、嬉しげに俺に向かって手をフリフリ振った。

 

……むぅ、こうしてみると可愛く見えるような気がしてくるが手の造形が妙にリアルなところがキモイんだよなぁ。機械的なマニュピレーターだったなら普通に見れたかも知れん。

 

「つうか、運び込んだ後もコイツらここに待機すんのかよ」

 

 俺がそうつぶやくと、

 

「「「ぴゅうぃっ!あーい!」」」

 

 なんか嬉しそうにトライポッド達は手をフリフリして答えた。

 

「あっそう」

 

 トライポッド達は調剤室に物質を運んだ後もここに残るようである……というか、確かに他に行かれると付着したウィルスが拡散する畏れもあるのでそれも当たり前……って、なんか何体かタッチパネル式の端末を出してきたぞ。

 

『駆除剤くらさい』

 

『ウィルスまみれ』

 

『除染不可避』

 

『仕事に戻れぬ』

 

……どんだけ高性能なAI積んでるんだよコイツら。

 

 と、ボディにバックを取り付けられたトライポッドが俺の前に出て来て、そのバックからごそごそと旧式のハンディトーキー型のトランシーバーを出し、俺の前に置いた。あと、表紙に野菜の茄子の絵が書かれたメモ帳。

 

 そのトランシーバーには見覚えがあった。カリブの海上プラントにゴロゴロ置いてあったタイプの古い奴と同型……というかそれそのもので1970年代の骨董品である。また、メモの表紙を見れば茄子の絵が書かれてあるが、これはナスターシャを意味している。

 

……今まで俺がナスターシャの事をさんざんナス太郎よばわりしたせいでアイツは自分の持ち物に茄子の絵をつけるようになったわけだが、それが最近はマイブームになったのか、俺の持ち物にきゅうり、凡太郎(ネメシス)の持ち物にトマトの絵をつけるようになったのだ。

 

 まぁ、俺のシャツとかパンツにきゅうりの刺繍がしてあるが、それは置いといて。

 

 つまり、このトランシーバーとメモはナスターシャからのものだと言うことがわかる。

 

「……デジタル式ではなく、アナログ。ふむ」

 

 旧式の無線、そしてメモ帳の表紙の茄子。

  

 確かにメモ帳の茄子はナスターシャのものだと判るようにする目的もあるのだろうが、それだけでは無い。

 

 メモ帳には『ナス式カオス暗号』と呼ばれる、日本語をベースにナスターシャが開発した白陽社独自の暗号で書かれたメッセージがあった。

 

 普通に日本語として読めば、

 

「愛してるわあなた。お仕事頑張ってね。カリブに帰ったら腕によりをかけてあなたが褒めてくれた『ニンジンパイ』を作るからね。なお干ぶとうは多めよ?」

 

 と書かれてあるだけだが、しかし暗号で読み解くと、

 

『連絡を待て・ルポからの・そこは危険性大故に』

 

 つまり、『ルポからの連絡を待て。この基地は危険性大だ』となる。

 

……どう呼んだらこうなるんだ?と思われるかも知れないが、これは事前に決めていたワード、つまり符丁を覚えておくことで読み解く事ができる。

 

 例えば『カリブ』というワードは『連絡』の意味で、『帰ったら』が『待て』、『干しぶとう』が『危険性』を意味しており、これが『多め』なら『危険性大』となる。なお『ニンジンパイ』は『ルポ』を指すが、これが『地中海風ピラフ』なら、『グレイフォックス』、『マッシュポテト』なら『バーサ』……等、割り振られているわけである。

 

 単純だが符丁式を知らなければ読み解く事は不可能であるため、幹部やウチの部隊ではわりと重宝しているのである。

 

 なお、グレイフォックスには符丁は伝えていない。当たり前だが彼はザンジバーランドのエージェントだからだ。奴は人間としては信用出来る部類ではあるが、その仕事の性質上の優先度はウチよりもザンジバーランドの方が高い。ま、安全策である。

  

 ふーむ、しかしウチの部隊の防護服はナスターシャ製の特別製でとにかくウィルス防護を高めた仕様になっているが、とはいえやはり初期に治療薬は渡して置くのが最善だろう。……ワクチンに治療薬、そして駆除剤、造らねばならないものは多いが、

 

 ともかく、連絡を待つしかないが、だがアナログ無線を渡して来るということはザンジバーランド側のデジタル通信が危険、もしくは信用出来ないという判断か。

 

 俺はクンクンとメモ帳の表紙の匂いを嗅ぐ。……うん、確かにこれはナスターシャの乳の谷間に挟まれていたメモ帳だと確信する。そう、ナスターシャはメモやらペンやらをいつもそのデカい乳の谷間に挟んで持っているのだ。

 

 取り出すところが最近は妙にエロいぞ?

 

「うむ、これは まごう事無き嫁の乳に挟まれていたメモ帳。あー、ええ匂いや」

 

 すんすん、くんかくんか。

 

「いや、オッサン何を変態じみた事を言ってんだよ?」

  

「……嫁成分が欠乏しかけておるのだ。黙れ」

 

 あ~、ナスのお乳揉みたい。あの大きなおっぱいで抱きしめて欲しい、なんぞと思ってしまうほどに今の俺は精神的にキテいた。

 

 組み立てられた簡易ベッドに眠る、女体化した兵士達。乳臭さと月経の血の鉄臭くもナマ物臭い匂い。

 

 元はオッサンだった連中の匂いとは思えないくらいにとにかく女臭い。むせかえりそうなほどに。

 

 俺は簡易用の防毒マスクを顔にかけつつ、強化された自分の嗅覚を呪いつつ、しかしながら危機を回避出来た事には胸を下ろした。

 

 女体化した兵士達には強めの鎮静剤を投与して目覚めないようにしている。それは、この女体化した兵士達から発する強いフェロモン、それも発情フェロモンが原因である。

 

 そう、分泌量が多すぎるのだ。

 

 いや、フェロモンの量を正しく計測する方法なんざ俺は知らないが、しかし俺のスメルセンス(超嗅覚)が感知したコイツらのフェロモンの匂いのキツさは、エイダがレオンと通信している時にやたら発していたエロフェロモンの約15倍、ナスターシャに風呂で襲われた……いや、げふんげふん、あー、本気モードん時の時の7倍ほどくらいだ。

 

 つまり、この薬剤調合室の隣の被験室では、発情メスフェロモンを中身オッサンな性転換した見た目美女達がプンプン大量に発しているというわけだが、そんなもん、通常の人間でもヤバいというのに俺のように超嗅覚を持っている男にはヤバすぎるという、もう止めてくれと言いたくなる状況なのである。

 

 フェロモンの匂いだけでもヤバいが、これだけの発情フェロモンを出しているということは、つまりこの元オッサンな女体化連中を放置しておけば、要するに性的に襲いかかってくる恐れがある。もしくは女性化を免れた奴がこの極限状態でフェロモンにやられて元オッサンをレイプしかねないという事態もありうる。

 

「しくしくしく……元オッサンでちんこ勃つなんて、俺はどうしちまったんだ、なぁ、オッサン、俺、おかしくなっちまったのか?つーかどうすりゃ良いんだよ……」

 

 なんぞと泣いていたが、それはウィルスの作用で女体化したオッサンらが発情フェロモンをやたら発しているからなのである。

 

……つうか人間も動物なんよなぁ、なんぞと思うが、こんな事で再確認したくは無かったわい。

 

 換気したいが現状、そんな事をすればウィルスが通気管を伝って蔓延しかねないし、ここには窓すら無い。しかし大丈夫だ。

 

 こんな時にこそ我が白陽社の製品が効果を発揮するのだ。

 

 商品名は『スカット消臭スプレー』!

 

 フレグランスで誤魔化さない臭いの成分を分解する特許成分を配合した画期的な消臭剤である。なお、名前は『スメルカット』を略したものである。

 

 ふはははははは、くさい臭いもスカッと快適爽やかに!人体にも無害でアレルゲン検査もクリア済み!トイレの臭いや生ゴミの臭い、ペット、タバコ、アルコールの臭いもシャットアウト!

 

 むろん発情フェロモンもスカッと断ち切って……っていうか、むしろ開発するきっかけはレオンと長通話してる時のエイダのフェロモンなんよなぁ。つーか本来の使い方がコレだったのだ。

  

 なお、コレを使うことにより、昆虫のフェロモン信号も断ち切る事に成功して繁殖力も奪えるので、ゴキブリにお困りの御家庭にも超オススメだぞ?ただし生態系を壊す可能性もあるので野外での使用は控えて欲しいけどな。

 

「……あっ、なんか、ちんこが楽になった気がする」

 

……いや、せやからアークよ、人前でちんことか言うな。同感やけどな。

 

 まぁ、これでようやく薬品の増産体制に……って、そういやオカマ野郎が来るとか言っていたのはどうなった……って、なんかトライポッド達がなんか簀巻きを担いで急いでやってきたんだが……?

 

「ヴゥーイイイッ!!ヴゥーイイイッ!!あーい!!」

  

 うわ、警告音っぽい音を唸らせとるぞ。

 

 液晶端末のトライポッドコントロール用のアプリケーションには、

 

『急患!急患!オカマ野郎が襲われた!』

 

 と、トライポッド達からの通信が表示されている。

 

 見れば血塗れの女……いや、この厚化粧の女はモーフィアスか?!つーかトライポッド達にもコイツ、オカマ野郎呼ばわりされてんのか。

 

「……ヒトシちゃん……アタシ、ヴィンセントの奴に襲われて……犯されちゃった……」

 

 簀巻きに見えたのは、トライポッド達が担いで来た担架にベルトで固定されていたためで、黄色の対ウィルス用の特殊防護服が爪のようなもので切り刻まれ、そして身体のあちこちから出血がある。

 

 そして、ズボンの股間が引き裂かれており、パンツすらも無い、というか股間が丸見えにされ、男性器はすでに見る影もなくとっくに女のおまたに変化している。

 

 ヴィンセント……ああ、ビンセントな。発音良すぎて最初判らんかったが、ここの所長だよなぁ。

 

「まさか、犯されたということは、つまりビンセントはホモなのか?ケツの穴掘られたんか?」

 

 想像してオエッとなったが、しかし違うようだった。

 

「アイツ、女になってた……しかもタイラントクラスを超えた、バケモノに……!」

  

 ごぼっ、とモーフィアスが血を吐きながら言う。

 

 俺はすかさずモーフィアスの首に初期型治療薬をぶっさす。

 

「ぐえぇっ?!」

 

 いきなり首に注射された為、モーフィアスが変な声を上げる。いや、こっちとしてはコイツがBOW化されると被害を被るので、とっとと処置せんとなぁ。

 

「つまり、お前が突っ込んだ、と。つーかオカマを襲うとは、ビンセントって野郎は変態なのか?」

 

「ぐぅぅっ、アイツ、見境なしになってるわ……。理性はもう無い。『T+Gプロトウィルス』は、アタシの予想を遥かに越える、とんでもないウィルスに変化しているわ……。Gの不規則かつ常に遺伝子を進化させるのとは別方向、『T+Gプロトウィルス』は、宿主をとにかく孕ませるように仕向け、母体にしようと……!」

 

「……なにそのエロゲみたいなウィルス。つーか、孕ませるも何も、相手まで女体化したら本末転倒じゃねーか」

 

 俺はそう考えつつももう一本、モーフィアスの首に注射をぶっさした。いや、モーフィアスの肉体の変異は女体化だけではなく、すでに半分BOW化しかけており、治療薬一本ではもはや足りなかったからだ。

 

「ふぐぅっ?!」

 

「トライポッド!そこの点滴液を持ってこい!」

 

 早急に変異を抑えなければ、モーフィアスは人間ではいられなくなる。

 

「あーい!」

  

 トライポッドが数体、すぐさま点滴液の袋とイルリガードル台を持って俺の所にやって来る。

 

 この点滴液は娘に使っている抗ウィルス薬である。

 

 それをモーフィアスの腕に打ち、点滴の袋をイルリガードル台(点滴掛けの台)に掛ける。

 

「ええ、本末転倒よ。だけど、奴はすでに孕んでいる。……なのに、男を探してこの施設内を彷徨いてるの!というか『ウィルス』が感染を広めるために操っているようだわ……」

 

「……感染源の大元はそのビンセントか?」

 

「そうよ。醜い癖にフェロモンドバドバ出して強制的に……」

 

……ということは、いかん!

 

 俺は、ナスターシャから送られて来たアナログ無線をポケットから出すと、無線番号を入力した。

 

 部下達、特に男連中が危ない!

 

「ルポ!聞こえるか?!応答しろ!!」

 

 そう、フェロモンを放つなら、おそらくはBOW化したビンセントは男の臭いを追って来る……!!

 

 俺は必死で部下に無線を送った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【その頃、ビンセント所長は……】

 

 

 

「ぐぁおおおおおっ!(やめて、俺のライフはもうゼロよぉぉぉっ!!)」←ヒュプノス

 

「ぎぃひっ、ぎぃひひひひひっ、あーひゃっひゃっひゃっ!!(まだまだイケるだろ、もっと出せやゴラァ!)」←ビンセント

 

 ヒュプノスを無理矢理(性的に)襲う女体化変態ビンセントの姿がそこにはあったとさ。

 

 いや、まぁ……ヒドいね?本当。

 

……終われっ!!

 

 

 

 





・いいのだろうか、こんな話にして。

・オカマがカマ掘るんじゃなくて……いや、げふんげふん。

・多分、最大の犠牲者はタイラント・ヒュプノス。間違いない。


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慣れてきたパイオツハザード

※もはや……原作崩壊。そして題名が意味なし。

※いつも誤字脱字修正ありがとうございます。

※おっぱいだらけなのに、おっぱいはあんまし出ません。

本年最後の『パイオツ・ハズァードゥ……』。いえ、平凡さんです。


  

 おっちゃんなぁ、もうそろそろこのおっぱいだらけなこのシーナ島の研究施設がすんげー嫌になってきたんや……。

 つうかな、おっぱいってこんなにありふれていいもんやない。そう思うんや。

 しかもどんどんおっぱい増えてここに運ばれて来るんや。

 みんなモロ乳なんやで?

 おっぱいなぁ、おっぱい膨らんで超巨乳化して、そのまんま服を着せとったら胸部圧迫して肋骨折れてまうから、服の前んところ切り裂いて開けな最悪肺に折れた肋骨が刺さってまう危険性があるんや。

 せやからトライポッド達はな、おっぱい達のおっぱいを放り出しな感じにして運んで来るんや。せやからなぁ、運ばれてもう、ゆさぶるんゆさぶるんしよるんや。おっぱい達のデカいおっぱいがいっぱいおっぱいゆさぶるんとな。

 いろんなおっぱいが、ゆさぶるんどぷりぃぃぃん、やで?

 つうか、いろんなおっぱい見てるとな、肌色ってどんなけ色があるんやって思ってまうわ。

 薄桃色、黄桃色、白桃色、チョコ、薄茶色、どれもボリュームたっぷりなんやで。そんなんの先っちょに、これまた色とりどりでいろんな形、大きさのBチクさんが……。

 いや、女体化オッサン共の乳見てそんな感想は変態やと思うやろ?

 違うんや。もう、おっぱいは女体化オッサン共のだけや無くなっとんのや。

 女兵士達もな、感染して運ばれてきて、やっぱりゆさぶるんゆさぶるんするエロ体型になって、色っぽい顔で運ばれてくるんや。

 リアル女の巨乳化おっぱいが混ざってもーてな……。もう、男女等しくおっぱいなんや……。もう、そんなんおっちゃんどーしてええかわからへん……。

 つーかな、おっぱいはな、こんな悲惨でわっさわっさたくさんあったらいかんのや。

 

 つーか、時間が経ったらウィルスとフェロモン入りの乳がぶっしゅーぶっしゅーと噴き出してまうから、新型除染剤の消費が激しく、作っても作っても足りひん。

 

 アークやトライポッド達もな、患者の汚染された乳を括ってたサラシとか洗うんに忙しく動いてくれとるんやが、手が足りひんのや……。つーか、T+Gプロトウィルスにも石鹸が有効なんはありがたいんやけどな……。

 

 みんな、手洗いは石鹸やで。液体石鹸でもええんや。ちゃんとこまめに手は洗い、洗濯もキチンとやで……?

 

「おい、オッサン、オッサン!」

 

……はっ!

 

 いかん、精神的にキてしまっていて久々のナニワのおっちゃんモードになってしまって、トリップしてしまっとったわ。

 

「アークか」

 

 アークが治療薬バージョン3の点滴の架台の車輪をキャリキャリ言わせながら、もう片手に洗濯物を詰めた籠を持ってランドリールームから戻ってきた。

 

「つーか、あんた魂詰め過ぎだ。改良型の治療薬の設計……だっけ?確かにあんたが天才でスゲェ開発者でもさ、あんたが倒れたら元も子もねぇ。つーか、ちょっと休憩しな」

 

 治療薬は抗ウィルス剤の併用の今の形になり、薬が切れて女体化することが防げる点滴型となっていた。

 

 つーか、点滴なら増えすぎた患者達、それもこういう、搬送されてきた時間がまちまちで薬剤投与の時間をいちいち計って注射せんでもいいし、何より人体の負担も軽くなる。

 

 まぁ、点滴の難点は、鎮静剤で寝かせている患者達のシモの世話がかかるということだが、そこはそれ、我が白陽社謹製、超高分子吸収体パッド付き大人用介護オムツ『履かせるシニアパンツ・オトナー(登録商標)』を使用することで問題なく対応出来ている。

 

 この大人用介護オムツは、中南米のヤザン大統領の娘さん、つまり、ゾンビ恐怖症で夜尿症を患っているエメラルダ海軍大佐がモニターしてくれて完成したものであり、現在は中南米はおろかアメリカや日本でも医療機関や老人のいるご家庭でも好評である。

 

 まぁ、同様の超高分子吸収体は女性の生理用品や子供用オムツにも使われており、そっちも売り上げは超好評である。

 

 患者達のオムツ交換はモーフィアスにやらせているが、奴もアンブレラの元研究主任であり、医者でもある。患者に何かあれば奴は役に立つ。

 

……なんつーか、外見は普通に人間の女にしか見えないくせに奴め、能力的にタイラント化してプラズマまで操れる特殊なBOWになっちまった。しかもお望み通りの美女の姿でだ。

 

 正直、息子(ネメシス)の件もあってかなり腹は立っているが、ミラー外相の手前殺してしまうわけにも行かない。

 

 思えば感染した時に手遅れだったことにして死なせといたら良かったと今思ったが、しかしあの時はとっさに治療しちまったからなぁ。

 

 とはいえ生かしたなら、使える奴はとにかく使うしかあるまい。非常時だからな。

 

「大丈夫だ。もう開発は終わり、バージョン5をもう生産開始している。それが最終バージョンだ。これで治療期間を大幅に短縮、そう、こんな状況もあと半日で終わる……まぁ運び込まれてくる患者はまだまだ来るんだが……」

 

 そう、数時間前に俺が焦ってルポ達にアナログ無線で通信してしまったわけだが、現在、ザンジバーランド軍並びに米軍特殊部隊司令室は混乱の真っ只中にある。

 

 大規模なサイバー攻撃による、ヘヴンディヴァィドのマザーコンピューターが乗っ取られ、ザンジバーランド軍が導入した最先端のデジタルネットワークを使用した次世代通信による指揮系統が崩壊したためである。

 

 1998年現在、俺なんぞはコンピューターなんぞPC98やらお高いアップル社のマック、あとは『マム・コンピューター社』のMOSくらいしか知らないし、ネットなんぞ日本でも普及もあまり進んではいない……いや、海外のエロい画像を漁るためにトロくさい回線から送られてくる、じわじわと表示される画像に一喜一憂する、そんな奴もいたりもするが……のでわからんが、しかしコンピューターにもウィルスとは。

 

 ザンジバーランド、いや今作戦の司令であるミラー外相は、感染していない兵士達をヘヴンディヴァィドに撤退させた。兵員の温存のためであるが、撤退させた兵員は全体の三分の二。

 

 で、残りはウィルスによる感染者であり、そのうち70名程がここで治療を受けているが、それで三分の一の七割、後の三割はもはやBOWと化して施設内をうろついており、もはや助けることも不可能だ。

 

 この区画にBOWが侵入して来ないのは、感染していないウチのルポ隊、つまりウルフパック隊とグレイフォックス、そして汚染地域に侵入していた為に感染していないにも関わらず撤退出来なくなったヘイヴントルーパーや天狗兵のいくつかの小隊と米軍特殊部隊【SPEC.Ops・エコー6】が掃討しているからなのだが、しかし、それらの兵士達の中にも負傷者は出て来る。

 

 ここで新たに開発したワクチンのおかげで感染・発症はしないが、それでもBOWの攻撃を受けここに治療に戻って来るのだ。

 

「……やはり、こういうのは性に合わん」

 

 俺がそう言うと、アークは、

 

「おいおい今は我慢だって言ったのはオッサンだぜ?」

 

 なんぞと缶コーヒーを俺のデスクに置いた。そこへモーフィアスが病室と化した薬品倉庫から戻って来て、

 

「そうねぇ。特にヒトシちゃんは動いちゃまずいわねぇ。強い強い男そのもののアンタの野獣の匂いにT+GプロトでTSしちゃったBOWは本能的に惹かれちゃうからねぇ。種の保存本能かしらね?というかアタシもその消臭スプレーが無けりゃ襲ってたかもねぇ」

 

 と、舌舐めずりしながら言い、そんなモーフィアスにアークは、うへぇと顔をしかめた。

 

 いくら今が美女化しているとはいえ、運ばれてきた時は半分、厚化粧のオカマ顔だったからだ。

 

「アンタ、冗談でも笑えねーぞ、それ」

 

「あらん?冗談じゃないわよ?」

 

 モーフィアスはクククッと笑い、俺を見る流し目がまったく笑っていない辺り、俺はまったく笑えない。

 

 おそらくはまだウィルスが肉体に分泌させているホルモンか何かがそうさせているのだろうが、正直俺としてはオカマ野郎は願い下げだ。どんなに外面が美女になっていたとしても、中身は変態オカマ野郎はごめんだ。

 

「ざけんな。ウィルスに脳みそ乗っ取られてまだ発情してやがんのか?ゴラァ」

 

 正直、コイツには嫌悪感しかない。命を弄んだコイツの心の底にある歪み。明確に俺はそれを嫌悪しているのだ。オカマぶったその上っ面の奥深くの底にある歪み、それが気にくわない。

 

「ま、嫌われてんのは『匂い』で分かるようになったけどね……。はぁ、なんか人が何考えてんのかいろいろ分かるようになったら自己嫌悪感パなくなくない?これ。ていうかぁ、ホント、普通に人間だった時の方が良かったと思うのよね、この能力」

 

 思い切りため息を吐くも、ため息吐きたいのは俺の方だ。

 

……コイツ、スメルセンスまで身につけやがったのか。タチが悪いな。つーか悪事を起こす前にいっそ殺すべきか。

 

「いやアタシ、善人じゃないけど悪人になるつもりはないわよ?悪事はしてきた自覚はあるけど!」

 

 うげ、思考まで臭いで読めるようになったかコイツ。クソったれめ。

 

「厄介だから死んでくれ。今すぐ」

 

「あらん?ならあの時、見捨てないで見殺しにしたら良かったんじゃない。というか、女は恩義倍返しよ。それに目的は一緒だもの、協力しましょうよぉ?」

 

 きらりん☆ミ

 

 なんぞとウィンクしやがるが、元オカマが言うな。

 

 つうかなんだろう、コイツオカマの厚化粧だった頃はめちゃくちゃウザかったのに女になったらやたら女の仕草が普通に見えやがる。化粧も落ちてるし。

 

 しかし目的なぁ。

 

「目的が一緒だぁ?お前の目的もスペンサーか?」

 

「あ~、アンブレラ全体を潰すというからにはスペンサーも入るわね。でもアタシの一番はアシュフォード家ね。デュバル家はそもそも親交を結ぶ相手を誤ったのよ。つうか、落ちぶれた名家なんて金融業らしく見限ってれば普通にアンブレラなんて出来てなかった……とは言わないけど、関わることも無かったのよねぇ」

 

……金融業?

 

 いや、金融業でアンブレラと関係が深い……。そしてデュバル家。いや、おい、それデュバル財閥の経営一族のデュバル家……なのか?

 

「つーかねぇ、商売ってんならヒトシちゃんの発明よねぇ。本当に消臭してしまう消臭剤、本当に毛が生える毛生え薬、美髪シャンプーとリンス、画期的かつこれを超えるものはそうそう出て来ない製品の数々……。それに、この歳で履かされる事になった紙オムツ!あと生理用ナプキン!それと消炎鎮痛剤!もう、女性の辛さを味わって初めてわかるこの安心感!すばらしいわよこれ!」

 

 いや、何、股間叩きながら言ってんだよオマエ。つーか高分子吸収体が盛り上がってるけど、シート換えてねーのかオマエは!!

 

 いいやそうじゃなくてだな。

 

「ちょっとマテ。デュバル家ってまさかヨーロッパ屈指の金融系財閥のデュバル家の事か?!」

 

 違うと言ってくれバーニィ!

 

「ええ、それでね、当主のカーラねぇさんも月のモノが重いのよ。いつも生理でポンポンペインの時は狂暴んなって怖かったわぁ。今でも怖いけどぉ。おっぱいも張るって言うしねぇ。つうか紹介したげるから生理用品一式贈ってやって頂戴。きっとものすごい喜ぶわよぉ、あの人」

 

……いや、これは、マジでコイツ殺せない。ヨーロッパ最大とも最大手とも言われ、旧貴族系の財閥であるデュバル財閥の人間を殺したら、マジでウチの会社なんぞ即潰される!

 

 アンブレラなんぞは怖くは無いが、金融系財閥は怖い。はっきり言って国家権力よりもタチが悪い。

 

 俺は歯噛みした。というか見殺しにしなくてよかった、いや死なせる絶好のタイミングを逃したというべきか。

 

 あそこまで感染して助かったのか奇跡に近いほどの状態だったのだ、あん時に助けるんじゃなくて見捨てても医師として『手の施しようが無いくらいに感染が進んでいた。残念です』で済んだのだ。どちくしょう!

 

 もうブッコロせるタイミングなんてねーじゃねーかよ!つーか、ミラー外相もそんなデュバル家の奴をなんでこんな危険なとこに寄越すかなおい!!

 

「ん~ふふふふ、善人なのが裏目に出た、という顔よねぇ。まぁ、表目にしたげるから。まぁ何だかんだで付き合いも長ぁ~くなりそうだし、過去の事は水に流して仲良くしてねぇ?んふん」

 

「…………チェンジで」

 

「お水じゃ、無いのよぉ?」

 

「もっとタチ悪いわい」

 

 俺は頭を抱えた。殺さなくて後悔なんてしたくなかったがクソっ。いろんな意味でヤベェ奴を生かしてしまったかも知れない。いや、マジで。

 

「……あ、ウルフパックか帰って来たぞ、オッサン」

 

 それまで黙々と洗濯物を畳んでいたアークが、液晶タブレットを見て言った。

 

 缶コーヒーはとっくに冷めていたが、プルを引いて開けて、ブラックなそれ一気に飲み干し、気持ちを切り替えた。

 

「トライポッド!除染薬スプレー用意!消臭剤の換えと弾薬!レーションも温めろ!」

 

 帰還してきたウルフパックの映像を見て、もう患者を連れて帰って来ていない事を見ると、俺はため息を吐きつつも、もうすぐ大規模に動けると予測を立てる。

 

 最後の患者の治療を始めてあれから三時間。新型のレベル5の治療薬の投与を始めてあと半日もすれば計算上は攻勢に出ても問題は無いようになる。

 

 作戦に参加している連中分のワクチンと治療薬の数をダンボールに数箱分確保出来れば、あとは除染薬とT+Gプロト用のディライト弾の生産にリソースを回せる。

 

 そう、ここにいる患者達の治療が完了すれば、彼ら……いや、女体化した奴らが多いが……は兵力となる。ウィルスを感染しないレベルにまで出来れば発情もほとんど起こさなくなり、フェロモンも常人レベルにまで落ちる事が判明しているのだ。

 

 メンタル的にみんなが戦えるかどうかは知らないが、それは知った事では無い。戦わなければ生き延びれないのは兵士も俺達も同様であり、戦わなければ死ぬだけなのだ。

 

……生かした命なのだから生きていて欲しいが、これはどうなるのだろうなぁ。オッサンらが女になったら、そらなぁ。

 俺もマジで女になってたらとか思うと死んでしまいたくなっただろうからなぁ。うーむ。

 

 攻勢まであと半日、か。朝になるまでにやらねばならんことは多い。頭の痛い問題はあれど後回しだ。多分後でさらに頭が痛くなるだろう問題だらけだろうが今の状況を終了させなければそれも無いのだ。

 

 カチャコン、カチャコン、と製薬機材が音を立てる中、俺は先がようやく見えた気がしていた。

 

……あー、ナス太郎のおっぱい揉みたい。

 

「ん?あら、おっぱい?私ので良かったら……」

 

 いや、オカマの汚乳はいらん。つかモロリすんな。

 

 パイオツ・ハザード終焉前夜。そう、俺はこのパイオツ・ハザードを終わらせるために、再び南国カリブの本社で家族で平和に暮らすために、頑張るのだ。

 

 つうか、娘はなんか治療終わって鎮静剤切れてんのに思い切りよだれたらして大の字でくーかーくーかー寝とるのだが、寝る子は育つ、を体現しとるのう。

 

「ん~、むにゃむにゃ。ジョイおばしゃん、それはわんこだよ……。ばにゃにゃちょもらんま……」

 

 いや、ようわからん寝言だのう。

 

「ほれほれ、おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいすごいデカい」

 

 いや、モーフィアス。邪魔だから。

 





・ザンジバーランド軍は危機的状況ですよ。

・平凡さんが切り札。

・モーフィアスの乳はロケットボイン。一時期の、ことぶ○つかさ氏調。

・来年もいっぱいおっぱいよろしくお願いいたします。


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モーフィアス


※いつも誤字脱字修正ありがとうございます。

※あけおめ……には遅いか。

・まだまだ動けない平凡さん。しかし物語はまもなくCode:Veronicaへと向かっております。その辺の説明回、ですかね、これ。


 

「……あんた何やってんの、社長」

 

 俺はカリカリカリカリ、とナスターシャの茄子の絵の書かれたメモ帳に、新型除染剤の詳細なレシピを書き記しているだけなのだが、戻ってきたルポ隊のバーサがなんか呆れたように俺にそう言ってきた。

 

「ん?新型除染剤のレシピを書いている。ここを汚染しているウィルスを除染出来る奴な。ワクチン精製法や治療薬のレシピはもう書いたし、もしもこの島の外にこのウィルスが漏れたら、これが必要になるだろうからな」

 

 俺はそう答えつつバーサの方を見たが、バーサが見ているのは俺では無く、俺の後ろであり、なんかおかしいなと思った。

 

「いや、違げーって。後ろ」

 

「後ろがどうした?」

 

 振り返ると、そこにはまだ乳を放り出したままのモーフィアスがなんか腰をクネクネ乳をぶるんぶるんして踊っていた。

 

「……何やってんだ、モーフィアス」

 

「いつ気づくかなーと」

 

「……BOWの身体能力使ってアホな事してんじゃねぇぞ、このオカマ野郎」

 

……集中してたのと鼻栓してたので察知出来んかった、いいや、コイツ気配を完全に消してやがった。それに微かなオゾン臭がする。コイツ、プラズマを発生させてオゾン消臭する技を身につけやがっただと?

 

……俺の妻と同じ発想をする辺りがなんかムカついた。つうかナスターシャとの思い出をけなされた気がしたのだ。

 

「にひぃ、気づかなかったぁ?」

 

 舌で唇を舐めつつ笑うモーフィアス。なんかムカついたので思わず拳が出た。

 

 ゴツッと額に食らわせるが、しかし俺の拳は見えない壁にぶち当たったかのようにモーフィアスの顔の前で止まる。

 

「ああん、激しい♡」

 

「……ふん、電磁障壁か」

 

 俺の拳はモーフィアスに届く前に止められており、その電磁障壁がバチバチと俺の拳に火花を散らす。

 

 モーフィアスが得た力は電磁波やプラズマを操る能力だ。なんでそんなもんが使えるのか原理などこの俺の頭脳をしてもわからんが、厄介過ぎる能力である。

 

……『T+Gプロトウィルス』はどうやら適合者に電磁系の能力を与えるようだ。つうか俺の娘が俺の防護繊維のズボンを破ったのも、種を明かせばこの能力を無意識に使っていたのだろう。

 

「んふん、これ便利よねぇ。気配は消せるしウィルスも寄せ付けない。それだけじゃなく、アンタの拳も止められる……と?」

 

 ニマニマと笑うモーフィアス。しかし、電磁障壁なんぞで俺を止められると思っている辺りが二流だ。

 

 より俺の怒りが増していく。

 

「本当の暴力というものをお前に思い知らせてやる……」

 

 ぎゅううううん、と俺の拳に『気』が集まると共に腕の筋肉がパンプアップする。

 

「無理よ、計算上レールガンクラスでないと破れないわ!」

 

「レールガン?そんなもんいらねぇ。電磁障壁だろうが超能力バリアーだろうが、俺の『超暴力』に貫けぬモンは無ぇんだよ!」

 

 足、腰、背中、全ての筋力と気と超振動波を拳に一点集中させて打ち抜く!

 

「イーヤァァァァっ!!」

 

 どぉーーーん!!と砲撃音のような音がして、それが障壁を貫き、モーフィアスの頭で爆発する。

 

「なっ?!ぐふぅっ?!」

 

 バン!とモーフィアスはそのまま後ろの壁に叩きつけられる。

  

「名付けて『穿貫衝拳(せんかんしょうけん)』。いかなる装甲、障壁すらも貫通する。ナスターシャ曰わく、新型の歩兵用リニアレールガンの10分の1程度の威力らしいぞ?」

 

 なお、新型リニアレールガンはとっくに開発が終わっており数丁が黒曜丸に積まれている。なんでも個人携行武器として歩兵が単独で装備出来るサイズのものは世界初らしい。

 

……もっとも装備一式で約15キロなのと、撃てば周辺の電子機器が強力な磁場でぶっ壊れるなどの弊害があるため、よほどの事が無い限りは使えない代物ではあるのだが。

 

「ぐ、ぐふっ……。電磁プラズマの壁を突き破るなんて非常識よ……ガクリっ」

 

 モーフィアスはそのまま白目を剥いてパタリと気絶してしまった。まぁ、本気で打ったのでは無いのでまぁ、すぐに目を覚ますだろう。

 

「ふん、古来よりバリアの類はぶち破られるもんだ。マジンガーとかゲッターとかな」

 

「……なんつう技だよ」

 

 俺が電磁障壁をぶち抜いたのを一部始終見ていたアークが目を丸くしつつ言う。

 

「ふん、このくらいまだ普通の必殺技だ」

 

 ワシの必殺技はまだ10個あるぞ?飛び道具系に乱舞系に対空系、超必殺技までな。当て身投げとかも完備しとるぞダイ・ヤーボ。

 

「普通って……、いやいい」

 

「ま、それはさておき。コイツの汚乳を隠してくれ。つうか殴ったせいで点滴が外れてるぞ、コイツ」

 

「いや、汚乳て。つーか前より乳が膨らんでないか?いやこれは……」

 

 指摘されてみればモーフィアスの乳が張って母乳がちょろちょろと出ていた。

 

「コイツ、ワザと点滴を外してやがった。クソッ、このアホがぁぁぁっ!そんなにBOW化を促進……いや、女体化促進か?いいやどうでもいい、クソッ!」

 

 俺は新型ディライトの入った注射器を腰のベルトから引き抜き素早くモーフィアスの首にぶっさした。

 

 ビクンビクンビクン!とモーフィアスの身体が痙攣するが知った事ではない。つーか、プラズマやら電磁障壁が無くなったら途端にむわっと立ち込めるような女臭い匂いがモーフィアスのあちこちから漂って臭い!つまり、またウィルスがコイツの身体で暴れてやがるのだ。

 

 オムツの隙間から、なんかドロリとしたやや白濁した液体が太ももを伝って漏れ出しているが、なんぞこれは。いや、考えるな。高分子吸収体がもう限界越えて吸ってねぇぞおい。

 

「アーク!カーボンワイヤー持ってきてくれ。鎮静剤ぶち込んでコイツをベッドに縛り付ける!つーかまだウィルス駆除し終わってねーのにこのボケがぁ!!」

 

 バタバタと俺とアークは作業にとりかかり、モーフィアスを簀巻きにしてベッドに縛り付け、点滴を思い切りダブルでぶち込み、さらに追加で新型ディライトもぶっさし、よりBOW化しつつあるその肉体の変異を止める。

 

 なお、症状の進行を止めるのに三本も新型ディライトが要った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ったく、アホのせいで要らん手間がかかったぞ……」

 

 俺はデジタルの安いがタフが売りの日本製の腕時計を見つつ、もう分かりきっているものの確認した。

 

「つうか奴のオムツ交換、めちゃくちゃ困ったわ……。オッサンのところのメディックさんがやってくれて助かったぜ……」

 

 アークが洗濯物をもはや慣れた感じでパタパタとたたんでいるが、その鼻に詰めたティッシュに血が滲んでいるのは、やはり見てしまったんだろうなぁ。女性化したモーフィアスの生の股間を。

 

「いひっ、いーっひっひ、社長、コイツ女の股を生で見て鼻血出してやんの、うひっ、ひーっひっひ」

 

 バーサがなんか下品に笑い転げている。つうかそんなに笑うことか?それが。

 

「いや、バーサ、純情な青年をそう笑ってやるもんじゃない。つうか、んなもんマジマジと見るもんでもあるまいし」

 

……かくいう俺だって初めて見たのが妻のだったので人の事は言えないのは黙っておく。つうか数ヶ月前まで俺も童貞だったのだしな。

 

「いや、普通この年頃だったらガールフレンドとやらかすもんじゃない?んなもんがっついてくぱぁーっと見るっしよ」

 

「いや、その辺は人それぞれだろ。つーかある意味、記憶に残したくない初見とも言えるかもしれん。……元オカマやぞ、コイツ」

 

 俺はアークに同情するように、渋い顔を作ってそういった。正直、今のモーフィアスはかなりの美女であり、アホな事をせずに黙って澄まし顔の一つでもしていれば、何も知らない男が見ればそれだけで胸をときめかすだろうほどのレベルである。身長はやや高すぎるがウィルスの作用により、男の本能を掻き立てるようなスタイルになっている。しかも大量の発情フェロモン付きだ。んなもん、消臭スプレーが無かったら一般人のアークには耐えられないレベルなのだ。

 

……同じ女性のバーサにはわからんかも知れんけどな。

 

「ほれ、元がコレやぞ」

 

 俺はi-DOROID……通信機能などは使えなくなったが、映像はまだ映し出せるのだ……で元のモーフィアスの厚化粧のオカマ顔を見せた。

 

「うわ、元がそれって。化粧無しなら多分美形だったんだろうけど、うわー変態じゃん。初めて見るのがこんな奴のま○こだと思ったら確かに黒歴史だわー。それもグチョグチョでくっさい発情オカマ○こなんて……」

 

「だよな?だから笑ってやるんじゃない。わかったな?」

 

……うむ、わかってくれたか。しかし、もうちょい発言にはオブラートかけてくれねーかなぁ。

 

「……はぁ、可哀想だしなぁ。よし、アークくぅん?なんならオネーサンのお○んこ、こっそりトイレで見せてやろーか?ちょーっと戦闘で蒸れてっけど、口直しにさ?」

 

 バーサはアークの肩を抱き、唇から少し舌を出しつつ、戦闘服のジッパーをチーッと下げて胸元を見えるようにして、にへらーっとなんか色っぽく笑い、そう言った。

 

……いや、だからからかうの止めぇや。

 

 つーか明らかにからかってやがるが、アークは顔を真っ赤にしてうつむき、しかし、

 

「い、いや、今は非常事態ですんで!」

 

 と、なんか逃げたそうにしていた。まぁ、あからさまに言われたらそうなるわな。

 

「……あのなー、一応、今は勤務中やぞ?職務規定に反しとるぞー。ウチの会社は職務倫理を第一に、をモットーにしとるから、それ以上は減給の対象になるぞー?」

 

 つうか、ホラー映画とかだと濡れ場やってるバカップルとか一番にねらわれんだぞ?あとシャワー浴びてる女とか。

 

「……えー?減給って、いま休憩中じゃん」

 

「休憩中でもミッション中だろ。つかそいつをからかうな。はぁ……、つうか、それでなくても変態野郎のせいでこっちは作業の手が取られてんだよ、いらんことすな」

 

 なんで変態とか妙な性癖の奴とか、内も外もそんなんばっかりなんだろうな、俺の周りは。

 

「……というか、バーサは少年兵好きのショタコンじゃなかったっけか?」

 

「ま、童貞ボーヤも好きだけどねー」

 

 にひひひひ、とアークをなおもからかう。

 

……はぁ、まともな社員が欲しい。ハチマンの前社長もそんな事思っとったんだろかなぁ。

 

「バーサ。ミッション中だ。今は休憩中だとはいえ気を抜きすぎだ。……ここは敵地だ。何があるかわからん。何より友軍も頼りにならん孤立無援に近い状態なんだぞ」

 

 見かねたのか隊長であるルポもバーサに釘をさす。

 

「へいへい。つーかなんか社長がいると気を抜いちまうんだよなぁ。社長、最&強だもんな」

 

「それはわかるが、我々はそもそも社長の護衛だ。立場を忘れるな」

 

「……つーかこの人達、オッサンの護衛だったんか?いや、アンタに護衛は要らんだろ?!」

 

 アークの発言に、なんかベクターが無言でうんうんと頷く。つーかお前居たんかよ。壁の隅で目立たんかったから今気づいたわ。

 

 はぁぁぁぁっ。

 

「……俺だけじゃ、手が足りねぇんだよ。そもそも俺は戦闘のプロじゃねぇしな」

 

 いやいやいや、と顔の前で手を振るベクター。いや、お前は何が言いたいんだおい。

 

「……戦闘のプロより強いBOWを簡単に倒せる男が何言ってんですか。つーか、軍がもうお手上げ状態んときに最後の切り札とか思われてんですよ?アンタ。つーかMSFに作戦丸投げされて引き受ける戦闘のプロじゃない民間製薬会社の社長なんてあんたくらいのもんでしょーが」

 

……そう言われればたしかにそうなんだが。

 

「なんやろなー、俺、一般人だって誰も思ってくれねーんだよなぁ、ちくせう」

 

「まぁまぁ、社長。レーションのコーヒーですがどうぞ」

 

 ルポが紙コップのコーヒーを俺の前に置いてくれた。その優しさが染みるぜ。

 

「ああ、ありがとう。しかし本来は医療班の警護だったのにこっちに来させてしまってな」

 

「いいえ、我々はこういう時に雇い主を警護するために雇われてますから。それに社長が危険な場所におられるのに我々は安全な場所、というのはね」

 

 ルポはそう言いつつ苦笑した。なんつうかルポだけが俺を人間扱いしてくれている気がするよ。うん。

 

「……ですが正直な話、アンブレラ辞めて良かったと思いますね。こんな杜撰な施設の状況を見てると」

 

 まぁ、正直なところラクーンシティに続き、アンブレラがバイオハザードを起こすのはこれで二度目なのである。杜撰というより過去の教訓とかまるで無い。

 

「殿様商売じゃ現場は務まらんって見本だ。つうかああいうアホが元幹部だからなぁ、つーか超人願望でもあんのか?アンブレラの連中は」

 

 俺は簀巻きでベッドに縛り付けられ、点滴マシマシで両手両足の血管に針をぶっさされたモーフィアスを親指で指差した。これは本当なら患者の生命に危険な量の薬液だが、そんくらい投与しなければマジでBOW化、いやクリーチャーと化してしまうのだ。まぁ、アイツもかなりウィルスによる肉体強化しとるのだし、死にはしないだろう。……多分、おそらく。

 

「……というか、今のうちに始末しておいた方が後々を考えますとよろしいのでは?」

 

……ぼそっと冷たい目でルポはそう言った。

 

 いや正直なところこのルポは人格者であり、ウチの会社では数少ない常識人の一人だ。が、そこはそれ傭兵であり裏のビジネスに身を置いていた人間でもあるのだ。必要ならばそういう判断も出来る、ルポはそういう兵士だった。

 

 これはモーフィアスの能力が危険だと判断した上で言っているのだろう。そうでもなければ彼女は軽率にそんな事は言わない。

 

 しかし、残念ながらそれは出来ないのだ。

 

「……そうしてしまうとヨーロッパの裏も表も根を張っている『デュバル財閥』を敵に回すことになるんだなぁ。コイツはデュバル一族の人間だ。それも財閥家継承五位くらいのな。さらに現当主との繋がりも強い」

 

「そのような人間が何故、アンブレラ本部の主任研究者になっていたんでしょうか。それにアンブレラを抜けてまでザンジバーランド側について、しかもこんなところに?ハッタリか虚言では?」

 

「事実だ。コイツの行動に関しては俺にもわからんし知らん。……というかデュバル家はアンブレラ創設時に金を出したって話だが、それと関係があるのかも知れん。もしくはデュバル家の誰かが不死身の肉体でも欲しくてなんらかの取引でもしてた、っつー線もあるのかもしれん」

 

 と、俺がそう言った時、モーフィアスの目が開いた。

 

「……デュバル家の人間に、そんなバカな目的で動く奴はいない。私も含めて。デュバル家は確かに古い貴族の血を引く一族だが、昔は海に面した辺境の田舎貴族に過ぎなかった。同じく隣の山の方に領土を持つ田舎貴族のアシュフォード家と助け合って、領地と領民を守っていた、それだけの家柄に過ぎなかった」

 

 モーフィアスはそう言うとため息を吐き、また誰に語っているかもわからない、素の言葉を吐き出すように紡いだ。それはあたかも語り部が昔話を語るかのように。

 

 アシュフォード家とはアンブレラを創立した三人のうちの一人エドワード・アシュフォードの生家のアシュフォード家のことだろう。

 

「デュバルとアシュフォードの古くからの盟友関係は一度も崩れる事は無かった。大航海時代に入ってデュバルが造船業を始めるときも山のアシュフォードはふんだんにある材木を提供してくれたという。デュバル家は多くの船を作りだし、自らも外航船による海運業に乗り出し、インドなどでヨーロッパでは値千金とも言われたスパイスの数々を得、そしてそれにより、ますます財を成した。さらに船員の為の保険や金融をはじめ、それが現在のデュバル財閥の礎になった。それは現代に続きデュバル家はもはやヨーロッパ全土に名がしれる金融の巨人となった。……だが、アシュフォード家は近代では没落貴族だ。かつて独自の事業を起こそうとして失敗し、多額の負債を負った。何度も何度も損益分岐点を誤ってなんどもなんども失敗して、しかし懲りない。……しかしデュバル家は過去の恩義に縛られそんなアシュフォード家にずっと多額の支援を無利子無担保で行ってきたのだ。愚かにもな」

 

 それがいけなかったのだ、とデュバルは憎々しげに顔を歪ませた。

 

「金融で財を成した我が家が貸し付けてもろくに返さない寄生虫のような奴らにずっとずっと数世紀に渡って延々とだ。しかも連中はそれが当たり前のように、貢がれて当然のように思っていた!」

 

 数世紀って、ええと、大航海時代って言ったら15世紀……だっけか?今が1998年で20世紀、いやもう数年で21世紀が来る。つまり約6世紀もデュバル家はアシュフォード家を養ってたのかよ。そりゃあ言いたくもなるわなぁ。

 

「……いや、先々代のアシュフォード当主エドワードはまだ堅実で聡明な人物で、なんとかその状況を打破しようとしていた。……彼はアフリカのどこかで見つけたスーパーパワーを持った薬草で新たな事業を起こそうとしていた。それがラクーンシティのあちこちに生えるようになった『グリーンハーブ』などだが、この薬草の効果は言うまでも無い。デュバル家はやっとアシュフォード家がまともな事業を起こすのだと思って、それに投資した。……だが、それがいけなかったのだ」

 

「……確かにグリーンハーブなどは常識じゃ有り得ないほど脅威の細胞再生を可能にした。今じゃ救急だろうがなんだろうが、病院だけでなく家庭にだって一つはグリーンハーブ配合の薬はあるくらいだからな。だが、それすらもアンブレラにとっては隠れ蓑に過ぎなかったって事か……」

 

「そうだ。……グリーンハーブは元々は始祖花と呼ばれる『始祖ウィルス』と共生している植物の側で変異したハーブだ。強いウィルス耐性を持ち、初期のウィルス感染を防げるほどだ。そして傷ついた細胞を修復する効果が高い。……だが、アンブレラの目的は『始祖ウィルス』の方だった。スペンサー、エドワード、そしてマーカス教授達は現地のウィルス感染者『超人』を見てから、その能力に魅せられたのだ……」

 

「始祖ウィルス適合者を見たのか」

  

「……始祖花が自生する場所は、その周辺の部族の者にとって聖地だった。始祖花はそこでしか生きられず、始祖ウィルスもまた外に持ち出せば死滅してしまうほどに脆弱で、選ばれた者のみその地に赴き、そして花の試練を受けて神の戦士となる。……もっとも一人の神の戦士を生み出すには1000以上の『死人』が出ると言う。神の戦士は聖地を守ると同時にその『死人』を滅ぼすため聖地にとどまり、その一生を終える。……『神の戦士は目にも止まらぬ速さで走り、銃やライフルの弾すら通用せぬ肉体を持ち、投げる槍は自動車をエンジンごと貫通させるほど強かった』。これはエドワード・アシュフォードがデュバル家を訪れた時に先々代のデュバル当主に語った言葉だ。……当時のデュバル当主は、グリーンハーブの価値を高く見せようとしていただけだと思っていたらしいが」

 

「……そんなんが今でもアフリカにいるのか?」

 

「いいや。スペンサー達は『聖地』の周辺の部族を根絶やしにした。……いかに『神の戦士』でも軍隊には敵わなかったらしい。始祖ウィルスによる強化は量産型タイラントにも劣る程度の能力しかなかったようだからね。そうしてアンブレラはアフリカの聖地を手に入れ、ウィルス研究を始めた。そうしてより強力なウィルスをマーカス教授が開発した。それが君も知っている『T-ウィルス・シリーズ』だ」

 

「……いろいろ言いたいことはあるが、ロクで無ししかいないのか?アンブレラには」

 

「それについては同意する。……スペンサーはかつては人の進化による変革を夢見ていたらしいが、しかし老いて死を畏れるあまりに不老不死を求め、マーカス教授はウィルスに取り憑かれてその研究の趣旨を歪めていった。そのマーカスを暗殺したウィリアム・バーキン以下アンブレラの研究員は兵器としてのBOW開発に邁進し、そしてアシュフォード家は昔の栄光を取り戻すためにウィルスを使ったクローン技術を完成させ、そのクローンがまた最悪のウィルスを開発してしまっている。……正直、どれもスペンサーの望みからかけ離れているが、どれもが狂っているとしか思えないような事態だ。……アンブレラはもう末期と言えるが、彼らの滅びに世界が巻き込まれかねない、いやもう巻き込まれている」

 

 ふう、とモーフィアスは息を吐き、そして。

 

「デュバル家も同罪よ。恩義や義理でロクでも無い連中をのさばらせた。……現当主のカーラも先代も、アンブレラを滅ぼす為に動いてんのよ。まぁ、アタシもアレクシアにはかなり屈辱を与えられたからねぇ。直接、返さないと気が済まないワケ」

 

……オカマに戻りやがった。いや女体化してるわけだが、これはもう素には戻らないってことか?

 

「で、点滴外してBOW化を進行させようとしたのはなんでだ?」

 

「……まぁ、どうせアンタも巻き込まれるんだから言っちゃうけど。アシュフォード家が造り上げた初代当主『ベロニカ』のクローン、『アレクシア・アシュフォード』は12歳の頃にその天才的な頭脳とアシュフォード家が保有する最新の遺伝子工学技術で『始祖ウィルス』から独自に『Veronicaウィルス』を開発したのよ。まぁ、そのウィルスはかなり完成度が高くてウィリアム・バーキンが嫉妬したくらいの出来だったのよ。……でも、アレクシアはそのウィルスでアンブレラでの地位を確立しようとしなかった。何故だと思う?」

 

「……スペンサーにくれてやるのを渋ったか?」

 

「ん~、近いわね。そうじゃなくて答えはそのウィルスで『自分が世界全ての生命体の頂点に立つ』よ。……最悪のウィルス、いえ、ここに蔓延しているウィルスもそうだけど、またベクトルが違ったロクでも無さよ。『Veronicaウィルス』は上位種となったBOWに支配される。……今頃、アレクシアは自身を完全適合体、つまり支配種のBOWになってるはずだわ」

 

「で、それがお前のBOW化とどう関係があるんだ?倒すにしてもなにもBOWにならなくてもいいだろう」

 

「ただの銃や武器ではVeronicaウィルスでBOWになったアレクシアは殺せない。生物の次元が違いすぎるのよ。……そう、ヒトシ、アンタでも一人では無理……だと思っていたんだけどねぇ。……正直に言うと、アタシがここでこんなんなったのは、事故よ。焦りが招いたミスよ。………『T+Gウィルス』の開発が頭打ちになっちゃってね。どうしても結合が上手く行かなかったのよ。このままではアレクシアを倒せないって焦っちゃってね。『T+Gプロトウィルス』を何とか採取して突破口を開こうと思ったんだけど……」

 

 童貞、喪失しちゃった……。

 

 モーフィアスは何とも情けない顔でそう言った。

 

「ミイラ取りがミイラになった、か。つーか童貞どころか竿も玉も無くしてどうすんだよオマエ」

 

「……ん~、まぁ性別が変わるのは研究していた頃からわかってたのよ。だから変わった後に大丈夫なように女になりきって生活してたのよね……。あくまでもアタシの目的はアレクシアを滅ぼす事。それ以外はどうでも良かったからねぇ。……まぁ、童貞だったけど、後ろは処女じゃないし?いえ、前は処女んなったからノーカン?」

 

「……いや、聞きたくない。つかその手の話はゴメンだ。つーか治療終わるまで寝てろ。つか喋るな動くなむしろシネ」

 

「んふふ、ま、必要充分な能力は得られたから、まぁ、良しとするわ。あ、ビンセント・ゴールドマンをぶち殺す時は参加するから、起こしてよね。あの腐れビッチはとにかく血祭りに上げなきゃ気が済まないから……」

 

 んじゃお休み、とモーフィアスはそう言って目を閉じた……と思ったら、

 

「ああ、あと、ヒトシちゃん、予約しとくわねぇ?そのちんこ……」

 

「物理的に寝ろ!」

 

「いれぐぼぁっ?!」

 

 ふんぬっ!!と俺はモーフィアスの顔面に振動拳(通常技)を叩き込んで無理矢理に気絶させてやった。

 

「断固キャンセルだ、変態が」

  

「……なぁ、フォーアイズぅ。この場合ジャンル的にはやおいになんのかな?BL?カプ的にはどうなんの?」

 

「美しく無いからカプは却下。どうせ、『んほぉぉっ!』とか『あへぇ!』とかそういうのになるし趣味じゃない」

 

「いや、バーサそういう話は止めろ。俺の貞操は妻にだけ捧げとんのだ、つーかマジで嫌だ!」

 

 ああ、本当にとっとと娘連れてシーナ島から脱出してぇぞ俺は。つか、マジでモーフィアスはミラー外相んとこで引き取っていただきたい!

 

 

 

 




【モーフィアス】

・実はかなり真面目な奴。BOW化したら女になるんだから、今から女の生活に慣れなきゃ!と、オカマになったわけで。つうか、童貞だったが後ろはもう非処女ってお前……。

・設定のねつ造として、ベロニカに対抗出来るウィルスを作ろうとして『T+Gウィルス』を開発しようとしていたが、失敗したわけですがスペンサーレイン号の時には作れてたり……。まぁ、スペンサーレイン号は出て来そうも無いですけどね。

・そろそろシーナ島にも飽きてきましたんで、とっとと爆破して次にいきますかねー。つうかクレアを助けないとね。


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通信が繋がった。

いつも誤字脱字修正報告ありがとうございます。

・バイオハザードにオリキャラ嫁とか娘とかMGS混ぜると話とか設定がこんがらがってキュー。


 

 ナスターシャ(嫁予定)から通信が繋がり、なんかドローンが来た。

 

 

《ラジコンドローンでアンテナ網張ったから、建物内でもトーキー(トランシーバー)使えるわよ!》

 

 という事らしい。

 

 このドローンはナスターシャが造ったものであり、中南米の国境でハンターを駆除した際にも映像記録を撮ってたものと同型である。

 

 ボディは業務用のトマトやらコーンなどのデカい缶詰めの空き缶を使っているが、まぁ、上にプロペラをつけた円筒形の缶の底部分に全方位カメラが付いている、という形になっている。空き缶を使っているのはナスターシャ曰わく、ちょうど、カメラのターレットを組み込むのにピッタリの口径な事と軽さ、そして何よりも食堂で大量に金属ゴミとして出るので入手しやすいから、という理由らしい。

 

 最初のドローンはラベルなどを剥がした上で緑や黒のペンキで塗装されていたのに、今ではトマトやパイナップル缶のラベルを貼り付けたまま造られている。塗装の手間を省いたというよりは、おそらくその方がシュールで面白いからなのだろう。

 

……つうか、よくもまぁ廃品やら安い玩具のパーツとか集めてこんなモンでっち上げられるものだ。

 

 実際、ナスターシャがこのドローンを作るときにはほとんど費用は掛けていない。プロペラはアルミ材を鋳溶かして叩いて作っているし、回路もスクラップになったコンピューターの廃基盤などを流用している。唯一、掛かっているのはカメラのみである。

 

 本当によくやってくれていると感謝しつつ、そこまでやるか、とも思ってしまう。

 

 なお、ここにやってきたドローンのラベルは日本産のタケノコの業務用缶詰め(水煮)で、ダイヤモンドドッグス便で米や醤油と味噌などと共にお取り寄せしたものである。無論、炊飯器もだ。輸送費を入れると割高だったが、日本食が無性に恋しくなったのだ。

 

 とはいえ、このタケノコ缶のドローンを寄越してくる辺りナスターシャもいろいろと警戒しているのだろう。たしかにこんなタケノコ缶ドローンなんぞ他では作らんだろうし、作ったとしてもマジックでナスターシャの直筆サインで『タケノッコーン!(日本語)』なんぞ誰も書かんだろう。つまり、このドローンは確実にナスターシャが寄越したもんである。

 

 ナスターシャと情報交換し、黒曜丸に関しては特にハッキングやコンピューターウィルスの心配は無いという事と、ザンジバーランドの医療班と共に行動していたジェンキンス教授達やミハイル隊は黒曜丸に撤退し、全員無事である事で俺は少し安心した。

 

 俺も娘を無事保護出来た事や、こちらの状況を伝えたが、ナスターシャはかなり心配したようで……というか俺が女体化してないか、というよりちんこが無くなっていないか見せろとか言って来たのには参った。

 

 つーかルポ達やアークがおるのに出来るか!と拒否した。当たり前である。人前で俺のタイラント君(ちんこ)をさらせるかい!

 

 まぁ、なんとか宥めたが黒曜丸に戻ったら直接確認するとか言われた。いや、せめてカリブに帰ってからにしてくれよ。つーか、俺も女体化した奴らの出すメスフェロモンで正直参ってしまっている。

 

 嫁の前でタイラント君なんぞ出したら多分、止まらんかも知れんからな……。

 

……まぁ、それはさておき。

 

 娘を見せた途端、ナスターシャは

 

《萌ぇぇ!》

 

 え?ナニソレ?と言う感じになった。

 

 いや、確かに可愛いのは確かなのだが、なにその反応。つーか誰だ、ウチの嫁にそんな日本語教えた奴は。

 

 俺はフォーアイズをジロリと睨んだが、フォーアイズは素知らぬ顔で俺が纏めていたT+Gプロトウィルスのレポートを読みつつ、

 

「アタシじゃないよ。女の子向けはヨーコの奴だろ。アタシはショタBL専門だし?」

 

 と、さらり言った。俺にはよくわからんがフォーアイズとヨーコ・スズキのこの2人の日系人はなんというかオタクを自称しており、ウチの会社が食費や住むところの家賃がかからないのを良いことに給料の半分以上を自分達の趣味に費やしているのだ。つまり、日本のマンガや同人誌、フィギュアやグッズ、写真集などといったものに、だ。

 

 なお、フォーアイズは少年マンガのキャラのBLが好きで、ヨーコ・スズキは純粋に魔法少女とかフリフリのドレスなメルヘンチックなものが好きという違いはあるものの、二人共同でダイヤモンドドッグス便をつかって日本のアニメショップからその手のものを購入しており、趣味の方向は違うが、仲は悪くないらしい。

 

「おい、俺のレポートに勝手になんか書き足さないでくれよ」

 

 ボールペンでさらさらっとフォーアイズは俺の治療レポートになにやら書き込み始めたので注意をする。

 

 このBC兵はそもそも傭兵なんぞしているのが間違っていると思うほどにウィルスに関する知識が豊富である。それもそのはず、実際にはフォーアイズは優秀なウィルスの研究者であり病理学の博士号まで持っていたりするのだ。

 

 そんな奴が何故傭兵をやっているのかと言えば、

 

『アンブレラの研究者で現場に出れる人間はそもそも使い捨ての下っ端で死んでも惜しくない人間が送られる。アタシは死にたくなかったから兵士として戦闘訓練を積んだんだ。そしたら傭兵部隊に入れられた』

 

……何にせよアンブレラは外道だな。

 

「白紙んとこだよ。つーか一応、国際基準に合わせるなら、アンタの分類じゃツッコミ入るから訂正しといただけ。つーか治療薬作れんのにウィルス学があやふやって前から思ってたけど、アンタも偏ってんねぇ」

 

「……そらそうよ。俺はウィルス学者じゃねぇ。ただの薬学者で医師だからな」

 

「普通、ウィルスがわからないのに作れねーよ。どんな頭してんだよ」

 

「こう見えても誇張なしでノーベル賞間違いなしの天才だからな。つーかこういう状況では作れんより作れた方がマシってもんだろーがよ」

 

 ふん、水虫の治療薬の開発に青春をかけて取り組んでたんだ、ウィルスに関してはわりとおざなりだったのは否めない。とはいえ応用は利くし、実際に作れてしまえるのだからしかたなかろーがよ。

 

「……自分で言うかそんな事。いや水虫ん治療薬開発出来たら確かにそうかも知れないけどさ。……でも今回、新型ウィルスに効かなかったのって、やっぱ元のウィルスから形質が違いすぎたって事?」

 

 傭兵やっててもやはりフォーアイズは専門家である。俺の作る薬剤の特徴をしっかり把握した上で効かなかった原因を推測し、答えをちゃんと出しやがる。

 

「ああ、その通りだ。そもそもが今回のウィルスはTともGとも違う構造の新種だってこった。『T+Gプロト』なんて呼んでいたが、はっきり言ってそっからが大きな間違いだ。確かにそれを含んでるが他に何らかの上位のウィルスが結合していやがった」

 

 俺のその言葉にフォーアイズの顔がやや険しくなり、眉間にシワが寄った。

 

「やっぱり。で、なんのウィルスよ、それ」

 

 と、そこに通信機からナスターシャの黄色い声が聞こえて来た。

 

《可愛い!可愛い!なにこの生き物!うぁ~、まだちっちゃいのね、あ~、こんな子のママになるなんて私、感激!》

 

 いや、こっちは真面目な話を……、いやナスターシャにゃ関係ねーか。

 

 ナスターシャは娘を一目で……とはいえドローンのカメラ越しだが……気に入ってくれたようだ。まぁ、一安心、なんだろうかなこれは。

 

 娘も物怖じしない性格のようだし意外と、いや、多分かなり気が合うのではないかと思う。

 

 まぁ、それはさておきパート2。

 

 俺はフォーアイズからレポートを取り返し、訂正箇所をチェックしつつ、

 

「……このウィルスは、新たにわざわざ別のウィルスを足して組み込んだわけじゃねぇ。んで、俺由来のものじゃ無いとしたら出所は一つだけだ。……元からリサ・トレヴァーが持ってたウィルスの一つだろう」

 

 と、説明した。そうしたら、トランシーバーのスピーカーから濁声がいきなりした。

 

《タイラー社長!それは本当なのかね?!》

 

「うぉっと?!ジェンキンス教授?!」

 

《ああ、私だとも。いや、タイラー社長が新型ウィルスに感染したと聞いてから心配しておったが大丈夫なのかね?!》

 

「あー、まぁ、こっちで治療薬開発してもうほぼウィルスは駆逐しましたよ。つーか教授も艦橋に?」

 

《ああ、通信が繋がったと奥方から聞いたので今来たのだ。というかさっきの話は本当かね?リサ・トレヴァー由来の新型ウィルスというのは?!》

 

……いや、声デケェな、このおっさんは。

 

 そう思いながらも俺はジェンキンス教授に答える。

 

「その可能性が大きいですね。……つまり、ウィリアム・バーキンの見落としていた第三のウィルス、それもおそらくリサ・トレヴァーの卵子についてきた奴、と言うことになりますね」

 

 ウィリアム・バーキンという男に関する情報を俺はウィリアム・バーキンの妻であるアネット・バーキンやザンジバーランド経由から得ていたが正直、その情報に関しては、その娘であるシェリーの為に俺は我が社に置ける特S級機密……つまり開示不可の機密にしていた。

 

 アネットや妻、ウィリアム・バーキンの所業を知る者にもあの子に語らぬよう如何なる者に対しても知られぬようにと箝口令を出したのだ。

 

 幼いシェリーのためだ。せめて大人になり真実を受け止められるほどに成長するまでは知らぬ方がいいという判断である。

 

 エイダには、

 

『子供の為に特S級機密って、他にも重要機密はあると思うのだけど?』

 

 なんぞと呆れられたものだが、やましいことだらけのアンブレラじゃあるまいし、と俺が言ったら、

 

『そうね、知られて困ることと言えば毛生え薬を販売してるのに社長の頭に髪の毛が生えないことくらいよねぇ』

 

 とかサラリと我が社の美髪シャンプー&トリートメントで艶々サラサラになった髪の毛をかきあげてキューティクルキラキラさせながら言いやがった。

 

……アイツはいつかギャフンと言わせてやると内心思っている。

 

 いや、それはどうでも良い話だ。性格は悪いが元凄腕女スパイであり、アンブレラの様々な情報を持つエイダもなんだかんだで箝口令に賛成した。

 

 無論、ジェンキンス教授もウィリアム・バーキンの名こそ知っているし、G-ウィルスの開発者だった事も知っているが、ウィリアム・バーキンの悪行、非道に関してはある程度は感づいているだろうが、それ故に知らないのである。

 

 正直な話、ウィリアム・バーキンは狂人と言うほか無いほどの外道だったといえる。

 己の私利私欲の為、地位のためにアンブレラ創設者の一人であり自身の師でもあるジェームス・マーカスを暗殺し、その研究結果の全てを手に入れ、またアメリカ最大の地下研究施設の最高責任者の地位を得た。

 

 確かに天才と呼ばれた男であるが、しかしながらその研究の大半はジェームス・マーカスの残した物を掘り下げた程度のものであり、最新の設備を得てなお成果をなかなか上げられておらず、さらに他の幹部達が次々に新たな成果を上げていくのに焦り、功を急ぐようになったという。

 

 そしてそんなウィリアム・バーキンが目を付けたのは不死身の怪物となり果てていた失敗作『リサ・トレヴァー』のその肉体の特異性だった。

  

 アネットの話では、ウィリアム・バーキンはリサ・トレヴァーの肉体にマーカスの遺産ともいうべき様々なウィルスを植え付け、変異させるといった手法で新たなウィルス開発を行っていたらしいが、最後にはヤケクソのように所有する全てのウィルスを一度にリサ・トレヴァーの体内に注入して暴走させようとしたらしい。

 

 それはさながら人体を壺に見立てた『蠱毒』と言う他無い所業だったが、普通ならそんな事をされた検体は身体が耐えられず崩壊するか細胞がブルーム(狂い咲き)して爆発四散するか、とにかく死ぬはずだがリサ・トレヴァーはそれにも耐え抜いた。

 

 なんせ最後に確認されたのがアメリカ政府の核による滅菌作戦の前、つまり俺達がラクーンシティにいた時にもアークレイの洋館の地下にいたという話なのだから、すざまじい不死性であるとしか言えない。

 

 そうして、最後に残ったウィルスを使ってウィリアム・バーキンは『G-ウィルス』を作り上げたわけだが、しかし、その『G-ウィルス』すらも取り込んでしまうようなとんでもないウィルスがまだ残っていたとは夢にも思っていなかったのだろう。

 

 で、ここからが全くよくわからない事なのだが、一体いつ、ウィリアム・バーキンがリサ・トレヴァーの卵子を取り出してシーナ島のビンセント・ゴールドマンに渡したのか、という事である。

 

 はっきり言って、ウィリアム・バーキンにとってリサ・トレヴァーは虎の子のウィルス合成器である。それを卵子とはいえ提供するだろうか?という疑問が残るわけだが……。

 

 まぁ、考えてもおそらく答えは出ないだろう。なにしろウィリアム・バーキンはG-生物となって滅び、ビンセント・ゴールドマンはおそらくもはや理性も知性もないクリーチャーと化しているのだ。どちらにも真相は聞けはしない。つまり闇の中、というわけだ。

 

「第三のウィルスを仮にリサ・トレヴァーの頭文字の『L』を取って『L-ウィルス』とでも呼びましょうか。この『L-ウィルス』はリサ・トレヴァーそのものの消滅により失われてしまいましたが、おそらくはTともGとも違う種類のウィルスに分化したものなことは確かです。なんせこの形質にウチの標準型、つまりTとGをターゲットに調整した駆除剤も治療薬も効かないんですからね」

 

《つまり、施設に蔓延している新型ウィルスは『L-ウィルス』の形質をしている、というわけか……。なるほど、事前にザンジバーランド側から得ていたデータから合成した薬品が役に立たないわけだな》

 

 ふぅっ、と漏れた溜め息の音がスピーカーから聞こえた。

 

 そりゃ溜め息も吐きたくなるだろう。俺達は今回の作戦の為に約ひと月もかけて、しかも会社のプラントのほぼ全てを使って研究員総動員で薬剤を用意したのだ。『T+Gウィルス』のサンプルのデータ解析から薬剤成分に必要な薬品の組成の合成と精製、テスト、そして精製に必要な機材の搬入から設定、もう社員全員一丸となって行ったのだ。

 

 それが、別のウィルスで効きませんでしたー、となったらそら、製薬部開発顧問としてフルに関わったジェンキンス教授も溜め息を吐きたくなるというもんだろう。無論、俺も溜め息を盛大に吐き出したいが、一応社長なのだ。部下の手前、弱音は吐けないし吐きたくもない。

 

「ま、薬剤としてはT-ウィルス、G-ウィルス両方に効くのは間違いないんですけど、さすがに別のウィルスベースでは仕方ないと言わざるを得ません。ま、幸い、新型の治療薬やらなんやらはこっちで作れたのでね……」

 

《……私ですらディライトの作成にかなりの月日を要したのに現地でぶっつけ本番で作れるとは》

 

 ううむ、とジェンキンス教授は唸った。とはいえジェンキンス教授のディライトと俺の治療薬のコンセプトはかなり違い、ディライトは感染した細胞ごとウィルスを死滅させるが、俺の治療薬はウィルスの構造の中の基部ともいえるRNA中枢を分解する。つまり、ジェンキンス教授のディライトはT-ウィルスによって製造されたBOWに対して必殺の兵器ともなりうるが、俺の治療薬は殺傷性に置いてはディライトほどでは無く、あくまでも治療薬なのである。

 

 まぁ、どちらもターゲットとなるウィルスが違えば効果は出ないのは同じなのだが。

 

「分解するRNA基部に合わせて薬剤を変えれば応用が利きましたからね」

 

 俺はそう言ってのける。いや、自慢でもなんでもない。俺の設計する薬剤は大抵はシンプルな構造となっており、ターゲットとなるウィルスが変わってもある程度薬剤の種類を変えることで対応出来るようにしてある。まぁ、逆を言えば薬剤を作るときに精密な合成と調合が必要になるけどな。

 

《ふむ、タイラー社長の提唱した『ウィルスのRNA基幹の分解による抑制理論』か。その講義の続きも今回の作戦の準備で途切れたままだ。帰ったら是非講義の続きを頼むよ。……とにかく無事で船に帰って来てくれよ、タイラー社長》

 

 そういってジェンキンス教授は無線をナスターシャに返したようだ。

 

《突然、教授が来て驚いたわ。はぁ、でも娘ちゃん可愛ぃ~!》

 

「……お前は幸せそうで何よりだ」

 

 どうやらナスターシャはジェンキンス教授に無線機を取られていた間、しかたなく娘の寝顔を見ていたらしい。

 

《もっと幸せになるわよ。アナタと娘ちゃんが帰ってきたらね。……つーか私を未婚で未亡人にするつもりじゃないわよね?》

 

「まさか。お前が無線繋げてくれたおかげで患者全員を連れて脱出出来るプランが立てられた。妻の内助の功の有り難みって奴だな。あとは、ミラー外相に通信出来りゃあもう仕事は終わったようなもんなんだが、その辺は?」

 

《んふふ~、ミラー外相への通信ね。そっちも行けるわ。つーか、なんか必死に発光信号とか手旗信号でコッチに通信試みてたから、ドローンで無線機渡しといたのよ。無線番号は『141.80』よ》

 

「……手旗信号なぁ。で、なんかミラー外相言ってたか?」

 

《シーナ島の研究施設にてバイオハザード発生ってのとアナタが無事って事くらいよ。ああ、そっちに送ったトライポッドは無線機のお返しに借りた奴よ。あちらのハッカーチームが改造した奴でね、コンピューターウィルス除去ソフトを他のトライポッドにも拡散するようになってるんだって!》

 

「……つまり、コイツはコンピューターウィルスのワクチンをバラまくトライポッドって事か?」

 

 俺は机の上に立って手をアンテナのように上げているミリタリーポーチ付きのトライポッドを見た。そういや施設の中のトライポッドは特に暴走もしていなければ異常な行動もしてはいないが、つまりウィルス除去ソフトのおかげだったのか。

 

「ふむ、それならi-DOROIDやヘヴンディヴァイドのメインコンピューターも……」

 

 ウィルス除去出来ないか、と言おうとしたが、しかしナスターシャはそれを否定した。

 

《トライポッドやメタルギアのOSとi-DOROIDやヘヴンディヴァイドのメインコンピューターのOSはある程度の互換性を持たせてあるけど元々のOSが違うのよ。というか、ほとんどトライポッドのAIにはウィルスの影響はなかったらしいわ。ウィルス除去ソフトは念のためね》

 

……あー、つまりウィンドウズとMacOSの違いみたいなもんか。

 

《ま、とにかくミラー外相と話をして。あちらも通信待ってるから》

 

 そうして、ナスターシャとの通信を終え、俺はミラー外相に無線を入れたわけであるが、まあ、だいたいは俺とミラー外相の今回の作戦における決着方法は同じであったわけだが……。

 

 異形と化してもラスボスはラスボスだというこの世の法則を失念した、というかすぐにそれを思い出す事になるわけだが、まぁ、それは次回辺りの話となる。

 

 




【今回のねつ造】

・『L-ウィルス』 そんなもん、原作には出ません。

・リサ・トレヴァーに各種ウィルスぶち込んでウィルス蠱毒。何となくウィリアム・バーキンならやりそうな気はするけど、多分やってない。

【なお、その他】

・ガンサバイバー要素は死んでます。

【次回】

・ミラー外相は施設の自爆を決定。

・ビンセント・ゴールドマン、ゴ○ンダー化。



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一方、カズヒラ・ミラーは。

いつも誤字脱字等、修正ありがとうございます。

・Reなぁ。コードベロニカはやらんのですかそーですか。

・いかん、バイオ4に間に合わない!まぁ、メタルギアは新作出ないから、ゆっくりでいいか……←堕落。


 

 今作戦におけるザンジバーランド軍旗艦・ギアキャリア級ヘヴンディヴァイドの司令室を艦長であるオセロットの野郎に押し付け気味に任せ、俺は甲板に出て必死に白陽社の母艦・黒曜丸にレーザー信号機や手旗信号を送ること数分。

 

 なんか黒曜丸から日本の井○屋の茹で小豆(業務用)の缶にプロペラのついた一見小学生の工作かと思うような作りのドローンがこっちに飛んできた。その下部にはワイヤーでなんか風呂敷包み……緑地に唐草渦巻き模様の昔のマンガに出てきそうな奴……がくくりつけられている。なんというかその光景は非常にシュールであり、なんか近未来からやってきたわりに昭和的な猫型ロボットの秘密道具を見ているような感覚に覚えてしまった。

 

「……『おしるこ一号』?」

 

 ボディに下手な日本語でそう書いてある。多分、このドローンの名前なのだろう。というか間違いなくこういう物はヒトシの奥さん、ナスターシャの手になる物に違いあるまい。

 

 ドローンは俺のすぐ近くで停止するとゆっくりと降下し、風呂敷包みをポスっと下ろした。

 

「…………」

 

 風呂敷包みにはメモがセロハンテープで貼り付けられており、

 

『差し入れ』

 

 と書かれていた。

 

「ふむ?」

 

 風呂敷を開けてみるとその中にはハンディトーキーが2つほど、あとは魔法瓶とそしてカップヌードルがやはり2つ。そしてハンディトーキーにはそれぞれの無線番号とメッセージが書かれたメモが貼り付けられていた。

 

 メモには下手な日本語で、

 

『無線の中継器を施設内に設置してるので通信繋がるまでしばらくカップラーメンでも食べて待ってちょ』

 

 と書かれてあった。

 

「なぜ日本語……、いや、そうか。なるほど」

 

 おそらく白陽社サイドでも『サイファー』のAIのなりすまし無線を警戒しているのだろうと気がついた。無論、彼らは『サイファー』の名も『ゼロ少佐』についても知らないだろう。だがやはり薄々、何者かがAIを使って自分達を監視していることに感づいていたらしい。

 

 故の日本語なのだろう。

 

 日本語は欧米の言語、つまりラテン語派生言語とは文法が違い、かつ、平仮名、片仮名、漢字を使用する言語である。この言語についてAIが対応しているかどうかはわからないが、他の言語よりかは難解なはずである。

 

……意図してかどうかはわからないが、ナスターシャの文字は下手すぎて元日本人の俺でもわかりにくいレベルだからな。

 

 俺がそう苦笑していると、俺の背後からオセロットがやってきた。

 

「ふう、やはり外は寒いな、ミラー」

 

 白い息を吐きつつこっちに来る。その顔にはやや疲労がやはり見えるものの一仕事終えた的な感があった。オセロットはドローンを見ると、

 

「それはなんだ?……昔のレーションの缶?」  

 

 と言い、やや首を捻って顔をしかめた。

 

「黒曜丸からの『差し入れ』だ。それより艦隊司令が持ち場離れていいのか?オセロット」

 

「ふん部隊司令のおまえもだろう。だが持ち場にいてもどうにもならんさ。少なくともあと二時間はな。……古参連中がハロルドをリンチにかけようとしなければもうとっくに復旧していただろうがな」

 

 オセロットは肩をすくめ、このような事態だというのに堂々と開き直ったような態度である。まぁ、かく言う俺も似たようなものだが俺達はこんな危機など今までいくつも経験してきた身だ。とっくに腹を括っている。

 

 ハロルド、と言うのは今回の作戦でハッカーチームに参加している男の名だ。本名をハロルド・ストレンジラヴといい、かつてビッグボスと俺が中南米にて巻き込まれた『ピースウォーカー事件』……アメリカCIAが計画したAI搭載型無人核抑止兵器『ピースウォーカー』を巡る一連の事件だ……にて無人核抑止兵器『ピースウォーカー』の設計者二人の間に出来た子供である。

 

 いや、なぜその息子が古参の兵士達にリンチにかけられそうになったのかも言えば、これはハロルドの親父であるヒューイ・エメリッヒが悪い!という事になる。いや、ハロルドがその親父に瓜二つの容姿をしていたのも関係しているのだろうが。

 

 このヒューイ・エメリッヒはかつて俺達MSFがカリブ海のマザーベース……つまり現在、ヒトシんとこの会社が本社として使っているベースだ……にいた頃、ヒューイ・エメリッヒは国連核査察団に扮した謎の組織『スカルズ』を呼び込み、俺達を壊滅させようとした、つまり裏切ろうとしたのである。

 

 まぁ、その企みは他でもない、死ぬ前のサイファーの頭目だったゼロ少佐からの情報で知らされ、『スカルズ』を逆に強襲する事で回避出来たわけだが、なぜヒューイがそのようなバカな裏切りをしようとしたのかは未だに謎が多い。

 

 有力な説としては妻であるストレンジラヴ博士から離婚を申し立てられた後で自暴自棄になった、とか、MSFにいたままでは自分の研究が日の目を見ないと焦っていた、とかいろいろある。

 

 とはいえどのような理由があれどもヒューイのやったことは裏切りに他ならず、結局奴は満場一致でMSFから追放される事となった。

 

 その後はなんかアメリカの貧民街の安アパートで急性アルコール中毒で死亡しているのが見つかったらしい。

 

 まぁ、ヒューイの話はどうでもいい。問題は古参の兵士達が、ハロルドを親父のように俺達を裏切ろうとしてウィルスをメインコンピューターに感染させたに違いないと暴れ出した事だ。

 

「で、結局ハロルドがウィルスを仕込んだのか?」

 

 俺の問いにオセロットは首を振った。

 

「それは不可能だな。念の為にナオミに奴を監視させていたがハロルド、奴はシロだ。感染源は米軍だ。あちらの新人オペレーターがあろうことか仕事をサボって軍の機材でネットのポルノサイトを常習的に閲覧していたそうだ。『トロイの木馬』?とかなんとか言うそうだが、おそらくあちらとのデジタル通信からこちらにウィルスが流入したのだろう」

  

「……ストレンジラヴ博士からめちゃくちゃ抗議が来るぞ。あいつは息子を溺愛しているからな。どうすんだよ、つーかゴネられたら俺の商売にもかなりの影響が出るぞ、おい」

 

「幸い、被害はハロルドの眼鏡が割れただけだ。傷はほとんど無い。多少、精神的なショックは受けたみたいだが、なぁに奴はどうもナオミに惚れたらしくてな。ナオミに懐柔を試みさせている。つーかナオミもなんか庇護欲みたいなのが出てきたらしく、やけにベタベタしてるぞ?」

 

「いや、それグレイフォックスが許さんだろう?!つかアイツのシスコンぶりはお前も知ってるだろーが!!」

 

 ああ、考えたら頭が痛い。つうかよりによってソリッドもなんでヒューイの息子を相棒にしてんだよ、そこはキャンベル大佐んとこの姪を相棒にしとけよ、めっちゃ気がキツいけど!

 

「ま、考えるのはこの件が終わってからだな。……ま、そこにある差し入れのカップ麺でも食って、現場からの通信を待とうじゃないか」

 

「はぁぁぁぁっ、仕方ねぇなぁ」

 

 そうして、俺とオセロットは肩を並べてカップヌードルにポットの湯を注ぎ、三分間我慢の子で待って麺を啜り、スープを飲んでヒトシからの通信を待ったのだった。

 

「……しかし、老人にはこのスープは味が濃すぎるんだが?」

 

「だったら湯を足して薄めろよ。……はぁ俺、このミッション終わったら日本に行くんだ……。ああ、ヒトシもビザ書き換えしなきゃならんとか言ってたから、ついでにアウターヘヴン号で……」

 

「死亡フラグは立てない方が良いぞ、ミラー」

 

 なお、通信が来るまで30分はかかった。

 

 そして結論。

 

「やっぱ、施設は自爆させる方向で」

 

 そう、決定してしまったのだった。

 





・施設の自爆決定。

・……オッパイノペラペラソース!!

・アシェリーちゃんのおパンツは見えない。そーですかそーですか。←パンツが見えないだけでモチベだだ下がり。


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