奇跡の栗毛 (零課)
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黄金の浮沈艦と銀の姫君と栗毛のオタクと

なんとなく書いてみましたあ。ちょこちょこ書いていくと思いますのでよろしくお願いします。


 「うふふふ・・・・ああ・・・美しい車体・・・この曲線美・・・やっぱり電車最高・・・」

 

 

 パシャパシャとカメラで新幹線、電車の写真を撮る一人のウマ娘。ひざ下まで伸ばす長い栗毛を編んでまとめ、左の耳には大きなリボンの耳飾り。前髪には柔和な笑顔が似合う琥珀色の瞳はカメラ越しに移る電車を捉えて離さない。

 

 

 「む・・・おっとと・・・離れないと・・・」

 

 

 ただ、電車が駅の近くになるとすぐに距離を取って邪魔に、車掌さんのお仕事の邪魔にならないようにするのが撮り鉄のマナー。フラッシュもたかずにしっかりフィルターを使い出来る限り最高の写真を。朝の方は船の写真を撮ったし今度は電車。かれこれ写真を撮っているなかふと時計を見る。

 

 

 「・・・・・・・・あ・・・そろそろ行かないと・・・」

 

 

 今日はトレセン学園の入学式。しかも日本最高峰の中央トレセン学園。入るのも大変であればそこでのしのぎの削り合いも並じゃない。つわものたちが夢の後。夢破れて学園を去るウマ娘も多いという華やかな世界である一方でその影もある。厳しい世界の入り口だ。

 

 

 ただ、それでも行きたいと思える誘惑と魅力がある。煌くレースとライブの頂点に立つためなら、日本でそれを目指すというのならここしかないだろう。

 

 

 「よーし。おいでヨルちゃーん」

 

 

 そこにようやく入学できるようになったというのにその日に遅刻は出来ない。急いで駅から出ると駅の外で待ってくれていた私の親友の黒猫。ヨルを呼ぶとすぐに私のカバンの上に載ってくれる。

 

 

 「んふふーそれじゃ、行きましょー」

 

 

 にゃーんと鳴いて応えてくれるヨルに思わず嬉しくなりつつウマ娘専用の自動車道からかけていく。ここから始まるのだ。私とヨルの学園生活と闘いの日々が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えーと・・・ど、どこだろう・・・? あー・・・もー・・・」

 

 

 トレセン学園について、入学式のための会場。体育館を目指そうとしているのだが、何せトレセン学園は広い。そのせいもあってなかなか体育館にたどり着けずに困っていた。

 

 

 ヨルもいつの間にやらいなくなっていたので尚更不安になっていたのだが、そこに来るのはヨルと鹿毛を肩にかかるくらいに伸ばした、前髪の一部が白いひし形。そこから下にのびた部分が特徴的なウマ娘。

 

 

 「わ。黒猫ちゃんどうし・・・あら? 新入生?」

 

 

 「ヨル。呼んできてくれたの? ありがとー♪ そうなんですよ。入学式の会場が広すぎてわからなくて・・・」

 

 

 「そうなの。実は私もそうで。よければ一緒に行かないかしら? ちょっと親友が何やら変なことしているみたいで・・・」

 

 

 「ありがとうございます。ヨルー後でご飯あげるからこれで我慢してねー」

 

 

 その人も新入生らしく、一緒に行くことに。場所も分かっているようだしそれを呼んでくれた夜にカリカリを入れた袋から少し出してヨルにあげる。

 

 

 んふふ。ありがとうと答えてくれるヨルの顎を撫でると一声鳴いてからぴょいと降りた。会場には入れないからね。バイバイと手を振って本人は近くの木に登っていく。あそこで昼寝でもするのだろう。

 

 

 あ。そう言えばこの人に名前を教えていないわ。

 

 

 「そういえば、自己紹介がまだでした。私はメビウスワン。えーと・・・同級生でいいよね? 名前はなんていうの?」

 

 

 「ああ。ごめんなさい? 私はジャスタウェイ。メビウスちゃん。あの猫は貴女の飼い猫?」

 

 

 「ううん? ただ、仲良くなったから一緒にいるんだ♪ 一応後で予防接種とか用意したりこっそり飼うつもり」

 

 

 「う、うーん・・・いいのかなあ・・・一応、後で寮長に相談しましょう?」

 

 

 ほうほう。ジャスタウェイちゃんかあ。すっごく優しそうな子だし、嬉しいな早速こういう人と友達に慣れて。

 

 

 「ありがとう。そう言えば。ジャスタウェイちゃんの親友って?」

 

 

 「うん。ゴールドシップって言ってね? 長身で綺麗な芦毛を持つ美人さんなの。ただー・・・そのぉ・・・うん。ちょっと変わっているのよね」

 

 

 「ふーん? 変わり種さんかあ・・・あー・・・もしかしてあれ?」

 

 

 目をキラキラさせて話すジャスタウェイちゃんだけど、ゴールドシップちゃんの変わり種という部分になるとたははとほほをかいて苦笑。ようやく入学式会場につくと、そこで片手でルービックキューブをいじりつつなんでかブレイクダンスをしている芦毛の長身で、綺麗なウマ娘がいた。

 

 

 「あー・・・そうそう。あの子。ゴルシちゃーん!」

 

 

 「おー? おおージャスタウェーイ! 久しぶりだなあ!!」

 

 

 「30分前に合ったわよー。ああ、それとこの子は私の友達のメビウスワンちゃん」

 

 

 「よろしくお願いします。ゴールドシップちゃん。はえー・・・本当にきれい」

 

 

 ゴールドシップちゃんはジャスタウェイちゃんを見つけるとバビュンととんでもないパワーでジャスタウェイちゃんに抱き着いてきて、心底嬉しそうな笑顔を二人とも見せる。そしてその美貌とかっこよさを両立させる長身、風貌、そして声。なるほどジャスタウェイちゃんがああもほほを赤らめながらいうのも納得。

 

 

 「お? メビウスワンってーのか。アタシはゴールドシップ! ゴルシちゃんと気軽に読んでくれい!」

 

 

 「よろしく~ゴルシちゃーん。うふふ。友達が増えたー」

 

 

 「おう。アタシとジャスタウェイで学園をいつか支配しよーぜ!」

 

 

 「支配はちょっとねー。ささ。一緒に入りましょ。そろそろ入らないと・・・」

 

 

 ジャスタウェイちゃんにも押されて三人で仲良く入学式。そこで『皇帝』シンボリルドルフ生徒会長のあいさつはすごくよかったし、身が引き締まる思いだった。

 

 

 ・・・・・・最後のおやじギャグさえなければ。だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさか同じ部屋になるなんてねー」

 

 

 「だなーでも、その分広くてゴルシちゃん大満足だぜ♪ うっしし。さてさてー? 何を用意しようかなあーっと」

 

 

 「お願いだから変なものを出しすぎたり異臭騒ぎするのを出さないでよー」

 

 

 この後に一緒に寮への部屋割りなのだが、フジキセキ先輩に「ポニーちゃんたちは仲がいいのを見れたし、ゴールドシップと一緒にしてあげるよ」とのことで大きい4人用の部屋に割り当てられた。その時に私のあごをそっと触れながら耳元で「君たちがかわいいからさ特別だよ?」とささやかれてほほが赤くなったのはちょっと恥ずかしかった。

 

 

 で、私は早速列車の模型とか、船の模型を部屋に飾りつつ、ゴルシちゃんは何かのメカの部品とか、工具をごろごろ。ジャスタウェイちゃんは漫画と・・・・芦毛のウマ娘たちのぬいぐるみ、銀色の何かとか、とりあえずそんなのがたくさん。

 

 

 なんやかんや、ジャスタウェイちゃんは芦毛フェチなんだなあと思いつつ荷捌きと整理を終えてようやく一息つけば、明日以降の話になる。

 

 

 「クラスもおんなじだし、明日の模擬レースどうなるかなあ」

 

 

 「アタシらの圧勝だろ♪ そうそう負けるこたぁーねえよ」

 

 

 「もう。確かに回りはそう言ってくる人が多いけど、ここはトレセンよ? 強い子たちばかりよ。油断は駄目だって」

 

 

 「そうだねえー・・・私も頑張らないとねえーヨル」

 

 

 クラスも同じ、そしてだが午後くらいから実力を測るためということで模擬レースが行われる。このレース自体は私たちの慣らしもあるのだけど、勝負はこの時点で始まっていると言ってもいい。

 

 

 何せまあ、ここに来るウマ娘たちはなんやかんや小学校のころから頭角を現していたり、学園を目指して、頂点を目指して鍛えている子たちが多い日本最高峰のウマ娘たちの学園。そのために早いうちからトレーナーも契約するウマ娘を探すために目を光らせていることが多い。有名処だと生徒会のシンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアン、そして生徒会以外だがミスターシービーらはデビューのころから目をつけられてすぐさまリギルに入ったという。

 

 

 ここの成績次第でうまくいけば名チーム、名トレーナーたちと勝利を目指せるかもとあって学園通の子たちほどここから気合が違うとか。本当に厳しい世界だと思いながらこっそり部屋に入れていたヨルの頭を撫でる。

 

 

 そうするとヨルは大きく鳴いて大丈夫だと言わんばかりに私とゴルシちゃん、ジャスタウェイちゃんの足を順々にまわっててしてしと叩いて、元気づけるように鳴いてくれる。うん。ありがとう。

 

 

 「いよぉーし! ヨルに元気も貰ったし、明日は全員一番を取ろうぜ!」

 

 

 「おー!」

 

 

 「うふふ。もちろん」

 

 

 明日で早々トレーナーさんがついてくれるか、チームに入るかわからないけど三人いい結果でありたいなと思いつつ、ヨルに餌をあげる。

 

 

 フジキセキ寮長は許してくれたけど、あんまり鳴き過ぎちゃだめだよ?




 メビウスワン

 モデルの馬はキンチェム。それに名前負けしないようにリボン付きの死神の名前をチョイス。撮り鉄であり船好き。トレセン学園に入学する前から早起きして電車を取りに行く程。途中で仲良くなったヨルと一緒に学園の門をたたき、すぐさま友達が出来てうっきうき。モデルの馬が牝なのも合ってかゴルシちゃんとも仲良くなれた。適正距離が1000メートルから4000メートル以上すべてに合わせられる。


 ヨル

 雌。メビウスワンと仲良くなってから一緒に過ごす子猫。頭が滅茶苦茶いい。馬でいうとゴルシとかそれくらい。メビウスワンに一番なついており手助けもしばしば。フジキセキにも媚びを売ったのでこっそりならいいよということで寮のアイドルに。


 ジャスタウェイ


 ゴルシの親友。基本優等生だけど芦毛と一緒だとテンションが少しおかしくなる。ジャ〇プを愛読書にするマンガ好きであるマンガを特に愛読。ゴルシの暴走をさほど気にせずに抑え込めるので部屋割りの時点で一緒にさせられることに。本人は嬉しがっていた。


 ゴールドシップ


 言わずと知れた天才かつハジケリストのウマ娘。ジャスタウェイと仲良しでメビウスワンとも仲良しに。実は部屋割りをする前も弁当売りをこっそりしていたところエアグルーヴに見つかって追いかけられたりとひと騒ぎ起こしており、その騒ぎを報告したところ部屋割りを急遽変更。仲良くしていたが大人しいジャスタウェイとメビウスワンと一緒にさせることでストッパーにあてがわされるという。性格はアニメより。


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そのトレーナーの名は

この話までは書いておきたくて頑張ります。


あ、それとゴルシ、ジャスタウェイ、メビウスの三人の世代は言ってしまえば空白世代。主だったメンバーがいない感じで捕らえてくだされば。


そしてメビウスのトレーナーが決まります。


 「ふふふ・・・ゴルシちゃんの髪・・・綺麗よね・・・」

 

 

 「ありがとよーそれはそれとしていつまでやるんだよジャスタウェイ―もうメビウスのやつは尻尾もやってくれたってのによー」

 

 

 「・・・ほわぁー・・・ゴルシちゃんのブラッシング気持ちいい・・・」

 

 

 朝、起きてから三人で輪を作りながらブラッシングをする私達。互いの尻尾と髪を手入れするのだが私は髪が長いし編み込んでいるしで助かるし、ゴルシちゃんも長いからありがたいと言っていた。

 

 

 ただ、ジャスタウェイちゃんが少しテンション上がり気味に丁寧すぎるほどにゴルシちゃんの髪の毛としっぽの手入れを続けるので私とゴルシちゃんはそれぞれやることをやったのだが動けないのが実情。

 

 

 「もージャスタウェイちゃん。早くしないとご飯食べられないし、授業にも送れちゃうよー」

 

 

 「・・・ハッ! そ、そうよね! ごめんなさい二人とも。急いで行きましょう」

 

 

 「ナイスだメビウス。いい加減腹がペコペコだし、行くか―」

 

 

 ジャスタウェイちゃんがいつものノリに戻ったところで三人とも寝間着から制服にそでを通して食事を食べに行く。

 

 

 その際だけどゴルシちゃんは自作のセグウェイで移動していたところをまたエアグルーヴさんに見つかって怒られていた。本人反省するふりしてスルーしていたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 「さーてとー・・・んーここでいいのよね?」

 

 

 一般教養の授業もまだ始まったばかりなので楽に授業を済ませ、昼休みとご飯も終わらせれば午後の授業。いよいよ模擬レースとなる。

 

 

 ただ、その模擬レース場といってもトレセン学園は広い。芝、ダート、ウッドチップのレース場にトレーニング専門の建物に体育館と本当に多くの施設があるために私は迷わないように地図を持ちながら歩くしかないのだ。

 

 

 ゴルシちゃんはなんだかやる気満々らしく授業が終わるやすぐさま走っていったし、ジャスタウェイちゃんもそれを追いかけるので私は後を追いながらてくてくと向かう。すでに着替えは済ませているし。次の授業への余裕もある。なので焦らないでいいのが嬉しい。

 

 

 なのだが・・・

 

 

 「なっ!?」

 

 

 「なんだこりゃあ・・・芯の固さ、しなやかさも今までにないほどだ」

 

 

 いきなり脚を触れ回している謎の手の感触・・・いや、声の主からして男性なのは間違いない。ただ、思わぬ事態に固まってしまって対応が遅れる。いわゆる痴漢というものなのだろうか。そうと分かればだんだんと早く対処しなきゃという気持ちに切り替わる。

 

 

 「まだ細いがトモもばっちり・・・これから仕上げればきっと高等部に負けないほどのもの・・・これでまだ中等部、未完成なのか!?」

 

 

 「この痴漢~~!!」

 

 

 「ぉぼふっ!?」

 

 

 このトレセン学園で痴漢をするという。ウマ娘相手に痴漢をするとは命知らずもいい所だと後ろ蹴りで男を蹴り飛ばし、くるりと振り向く。少しの不精髭に整った顔立ち・・・に私の靴のあとが残り、左側頭部を刈り上げている青年。廊下に転がっているのだがすぐさま鼻血を出しながら起き上がってきた。

 

 

 え・・・気絶するくらいにはしたはずなのにすぐ復活? これは急いでブザーの方を・・・

 

 

 「抑えているとはいえいいバネだ!! 得意コースは!? 芝? ダート? あ、ちょ、ちょっと防犯ブザーを鳴らすのは止めてくれないか?」

 

 

 「え・・・だって・・・普通に急に女の足を触る不審者ですし・・・」

 

 

 「あー・・・申し訳ないね。君の脚にとんでもない才能を感じたもので。俺は一応ここのトレーナーだよ。ほれ。スピカのトレーナーもしている。・・・今はメンバーがいなくて活動休止中だけど」

 

 

 私がもっていた防犯ブザーを見ると急いで立ち上がって弁明。トレーナー免許も見せてくれたのでようやく落ち着いた。才能があるというのは嬉しいが、流石にいきなり脚を触るのはどうかと・・・昔誘拐された過去を思い出してしまうわ・・

 

 

 しかし、チームのトレーナーとは。いきなりの事態だが複数のウマ娘たちを同時に指示しつつ結果を出せるほどの手腕を持っているということ。トレーナーの方針は様々だけどもそれをこなせるというのはなるほどこの人は相当に優秀なのだろう。

 

 

 無許可でいきなり脚を触るという悪癖さえなければ完ぺきといえるのだけど。

 

 

 「はぁー・・・しかし、スピカのトレーナーさんは何で私を? いや、先輩とか、同世代でもってすごい子たちはたくさんいるでしょ?」

 

 

 「いやね。新入生たちの模擬レースでめぼしい子たち、俺とウマの合う子たちはいないかと。いれば是非とも契約の予約とかしてチームとして再起動したいなあとね。で、そのために歩いていたら君を見つけた感じ」

 

 

 「なるほど・・・うーん。私としてはゴルシちゃん・・・あ、ゴールドシップとジャスタウェイちゃんがいいと思いますよ?」

 

 

 「なるほど。確かに二人ともすでにいい肉体を持っているし、気負っている感じもしなかったし確かにいいかもな。君も相当いいものがあるが、どうだい? うちのチームに入るのは」

 

 

 授業もあるのとスピカのトレーナーさんも目的地は一緒ということで歩きながら話すことに。しかし、学園に来たばかりの新米も新米。その模擬レースにもトレーナーが見に来るという噂は本当らしい。

 

 

 「うーん・・・私はもう少し考えさせてください」

 

 

 「ま、確かに今決めなくてもいいな。ただ、俺は君には光るものがあると思っているし、気が向いたらいつでも来てくれ」

 

 

 「嬉しい言葉をありがとうトレーナーさん。それじゃ、頑張ってくるねー」

 

 

 フジキセキ先輩曰くトレーナーと反りが合わなかったりいろんな理由でトレーナーがつかない子たちのために定期的に模擬レースがあるという中でこう言ってくれる優しさと自分を買ってくれるトレーナーさんに感謝をしつつ私は少し早足になって移動。授業に遅れちゃだめだもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おせーぞーメビウス―」

 

 

 「ごめんごめーん。ちょっとね。あ。出走順は決まったの?」

 

 

 「ええ。私達は全員がバラバラね。ふふ。ある意味良かったかも?」

 

 

 ジャスタウェイちゃんの発言にそうだねーと返す。ウマ娘はどうにも人と比べるとレースへの執着、勝利に関して激しく闘争心を燃やす場合がほとんど。もちろん例外はいるけどおおよそそうだと言っていい。

 

 

 なのでいきなり同室同士でバチバチにやりあってなんだか変な空気になるのは嫌だったので本当に助かる。この二人はそういうのと無縁な気がするけど、私も初めてのレースだし不安だし。

 

 

 「ま、とりあえずアタシからだな。軽く勝ってくるし、お前らも続けよな」

 

 

 ひらひらと手を振って呼ばれたのでレース場に出ていくゴルシちゃん。芝1200メートル。

 

 

 並んだところでゲートが開いて皆走り出す。ゴルシちゃんは少し出遅れたけど、後半で追い上げて1位だったコスモスユーンちゃんと並びつつもやや前に出て1位。

 

 

 「ゴルシちゃん大勝利―♪」

 

 

 「おめでとうゴルシちゃん! 次は私よ」

 

 

 「おめでとう! ジャスタウェイちゃんもがんばってー!」

 

 

 そして次はジャスタウェイちゃん。ジャスタウェイちゃんは流石の流石。2着に5バ身差をつけての圧勝。これには皆もおおーと声を上げ、見に来ていたトレーナーも思わずうなるほど。ジャスタウェイちゃんの性格もあってこれは引っ張りだこだろーなーとゴルシちゃんと話しているとジャスタウェイちゃんが戻ってきた。

 

 

 「よージャスタウェイ! さっすがじゃねーか! このこの!」

 

 

 「キャッ! ゴルシちゃんくすぐった・・・あははっはあは!! ちょ、ほんとにあめて・・・ひゃはははは!!」

 

 

 「んふふージャスタウェイちゃんもまんざらじゃなさそうだね。お? 次は私だ。いってきまーす」

 

 

 ゴルシちゃんがジャスタウェイちゃんを捕まえてくすぐっていると今度は私の番。よーし。頑張るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほぉーう。なるほどあの子が言うようにゴールドシップにジャスタウェイ。確かに強いものを感じるし、ゴールドシップは息切れも感じない。すでにスタミナはいいものを持っているな・・・これはなおさらスカウトしたい」

 

 

 

 1200メートルの模擬レース。そこで走るメンバーを見つつなるほど。特にあの二人は強い。この世代は空白世代と言われていることもあっていつもより青田買い・・・もとい、原石を見に来るトレーナーは少ないがそれでも全員才能を探し、そして一様にあの二人の才能にほれ込む。欲しがる人が多数だ。

 

 

 「できればあの二人一緒にしたいな・・・仲がいいし、互いに刺激し合うライバルなら練習でもいい具合になる。もっと言えばメビウスワンも欲しいけど・・・あー・・・大丈夫かな」

 

 

 いや、なんやかんや色よいとは言えないが脚を触れてしまった後だというのに優しく対応してくれた。うまくいけばあの3名でスピカ再起動。一緒に夢を目指せるかもしれない。

 

 

 「お。あの子も走る番だな・・・」

 

 

 「ほう・・・」

 

 

 「ん? あんたは・・・!」

 

 

 そして、メビウスワンの走る番となる際にやってきた巨漢。その威圧感、迫力。何よりトレーナーなら知らない者はいない怪物。

 

 

 三冠ウマ娘を2人。そして変則三冠を一人輩出したまさしく日本ウマ娘のトレーナーの偉大な一人。ただ、めったに出てこない。出てきても誰一人として契約しないこともある。それゆえに自分もだが若いトレーナーたちからは都市伝説扱い、隠居していると思われることもしばしばある怪物。

 

 

 「おお・・・久しいの若造」

 

 

 「お、お久しぶりです」

 

 

 「どうだ? 若い芽たちは・・・皇帝たちに続く才能は見つかったか」

 

 

 「ええ。ゴールドシップとジャスタウェイ。それに。ああ。あの子です。今もぐんぐん差をつけているでしょう?」

 

 

 「・・・・・・・んむ」

 

 

 その人が俺に話しかけているので答えて咥えていたキャンディーで走っているメビウスワンを指せばあの子は早速4バ身差をつけての圧勝。キャッキャとジャスタウェイとゴールドシップとほほ笑み、なんでか胴上げされたと思えば次の瞬間には投げ飛ばされて見事に着地を見せていた。

 

 

 それを見て一つ頷くとレース全部が終わったのを見計らってウマ娘たちのほうに歩きだすおやっさんに続くように俺やほかのトレーナーも歩き出す。あの人はシンザンを見出したようにどこで才能を見つけるかわからない。だれを見つけるか・・・とりあえず、瞳の圧が強くなったメビウスワンには興味がありそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「メビウスワンさん! ぜひ私と一緒に勝利を目指しましょう!!」

 

 

 「ゴールドシップさん。君の末脚はまだ伸びる! そして三冠だって目指せるはずだ!」

 

 

 「ジャスタウェイさん、その加速力は確かなものがある。GⅠで連覇も狙える! ぜひ私と契約を!!」

 

 

 レースが終わり、まだまだ授業時間には余裕があるのだが、やってきたトレーナーたちに私たちはもみくちゃにされそうなほど、そして取り囲まれて自分と契約しようと取り囲まれている始末。

 

 

 ゴルシちゃんもジャスタウェイちゃんも・・・あ、ゴルシちゃんはやる気なく聞き流しているだけで慌てているのは私とジャスタウェイちゃんだけだ。というかその顔で変顔していると普段が美人な分落差がすごい・・・!!

 

 

 そんでこんなに積極的なの!? いや、ほんとびっくり・・・んー・・・でも、何だろう。妙に合わないかもと思えてしまう。どうやってここ切り抜けようかとジャスタウェイちゃんとアイコンタクトして、ゆっくり考えさせてくださいと言おうとしていたら、その人の壁の中に割り込んでくる一人の巨漢。

 

 

 スキンヘッドに鋭い目つき。伸ばしたひげに背丈も大きければ体格も巌のごとく。ボディービルダーのような肉体なのが付けている着物からもうかがえるし、腕は丸太のように太い。鍛えに鍛えられたそれ。

 

 

 その迫力と、名のあるトレーナーなのだろう。いつの間にか私たちを囲んでいたトレーナーの壁が消えていた。

 

 

 「あ、あのー・・・トレーナーさんですか?」

 

 

 「・・・うむ・・・・・・・」

 

 

 ジャスタウェイちゃんとゴルシちゃんを見て、すぐに私を見てしばらく・・・目を閉じて、何かを考えた後にカット目を開いて

 

 

 「わしが日本中央トレセン学園所属トレーナー江田島平八である!!! メビウスワンよ! わしと最強を越えて最強を目指さぬか!!!!」

 

 

 「っっっっっ~~~~~~~!!!?!?!」

 

 

 学園の窓ガラスがバリンといくつも割れ、その声で衝撃波が出る始末。私もとっさに耳を抑えたけど、ゴルシちゃんとジャスタウェイちゃんは目を回しているし、ほかのウマ娘たちもバタンキュー。トレーナーさんたちも軒並み・・・あ、スピカのトレーナーさんは無事? ほんとタフだわあの人。

 

 

 そして・・・最強を超える最強・・・・つまりは、シンザンを越えろとスローガンにして頑張り、追いついた天衣無縫ミスターシービー。それを越えたシンボリルドルフ。永遠なる皇帝。それを超える。越えられるかもと私に言ってくれているのかこの人は。

 

 

 「あつつ・・・耳が・・・うぐ・・・江田島トレーナー・・・私も、せっかくなら最強を目指し、前代未聞となれるようなりたいです・・・その助けをしてくれますか?」

 

 

 「もちろん! わしはお前がそうなれると信じておる!! あやつらもそうだった!! そしてそれを超えるものをお前はある。どうじゃメビウスワン!! GⅠの栄光だけでは足りぬ。歴史を作るほどのウマ娘となる道を目指さんか!!」

 

 

 私の目をまっすぐ見据え、普通なら怯みそうなほどの圧を持ちつつもどこか優しい空気を見せてくれる。さっきのトレーナーさんたちの言葉よりも滅茶苦茶かつ、そして夢物語を言っている。けど、熱は、その言葉の重さは誰よりも強く、まっすぐだし、私の心に響く。

 

 

 この人なら一緒に進んでもいいかもと。戦ってもいいとすんなりと思えてしまう。気づけば外見からの威圧感やこわさ、そういったものは消えていた。

 

 

 「ならお願いします江田島トレーナー。偉大なる始まりの頂点も、最強の戦士も、天衣無縫も皇帝も越えていけるウマ娘を目指すために!」

 

 

 「よくぞ申した!! それでこそウマ娘!! ターフの上で己が全身全霊命を懸けて戦う戦士、女傑たるのにふさわしい言葉、眼よ!! 目指すは世界最強! 前代未聞をまた刻んでみせるぞ!!」

 

 

 「ほにゃぁあああああ!!!?」

 

 

 がっちりと握手をして、よろしくお願いしますと握手をした後にまたあの人の声とは思えない音圧兵器を喰らって私はノックダウン。目を覚ましたら保健室でした。

 

 

 あ、ちなみにゴルシちゃんとジャスタウェイちゃんはスピカだって。あの人に何かティンと来たとかなんとか。私達三人のチーム、トレーナー契約の決定はかなり早い段階で決まったらしく。しばらくちょっと注目を浴びちゃった。




 はい。というわけでジャスタウェイとゴルシはスピカ。メビウスワンは江田島平八トレーナーと契約。ここから三羽烏で暴れまわっていきます。


 メビウスワン


 上々なスタートどころか伝説的トレーナーと契約。その事態に気づいたのは後日。契約時に言った言葉は江田島トレーナーの熱意に自分の中の闘争本能に火がついたから。モデルの馬的にこの人レベルでも問題ないとなりました。
このあとゴルシちゃん、ジャスタウェイちゃんたちとみんなトレーナーを見つけた祝いにジュースを買って部屋でプチパーティーを開いた。


 ゴルシ


 スピカのトレーナーの変人具合と才能を見抜いてチーム参加。ジャスタウェイも入って嬉しいがメビウスが別なのが少し残念。ま、でも遊べるし練習も誘えばいいかと考えているのでむしろメビウスのトレーナーが見つかったのを素直に喜んでシャコの写真としゃべるウマ娘の貯金箱をくれた。


 ジャスタウェイ


 気が付いたらスピカに入っていた。けどゴルシがいるしいいかと思い、スピカのトレーナーの方針も悪くないと思い、更にはかなり早くからチーム加入出来て万々歳。メビウスに良いトレーナーがついたのを喜んでコンビニからお菓子を買ってきてプチパーティーを三人で開いた。


 スピカトレーナー


 ジャスタウェイ、ゴルシと契約出来てウハウハ。まさか江田島が来るとは思わず、同時に彼が認めたメビウスワンの才能ののび次第では本当に底が見えなくなると考えている。チーム参加祝いとして鍋を振る舞い三人で食べた。



 江田島平八


 セントライト、シンザン、クリフジなどなどクラシック、変則三冠ウマ娘たちを生み出したトレセン学園きってのトレーナー。だが基本彼が認めたウマ娘以外にはめったに契約をせずにウマ娘たちの才能を思いきり伸ばせるようにトレーナーの教育を行っているトレーナ塾なる教育機関にいた。おハナさん、スピカトレーナー、南坂トレーナー、桐生院トレーナーの先生でもある。

 今回はメビウスワンに感じるものがあったので自ら契約を持ちかけたことで学園内でちょっとしたニュースとなったとか。




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路線確定

 江田島さんってリアルでセントライトやシンザンたちをみて日本の競馬の復興と日本の元気を感じていたりしたのだろうか。元海軍とはいえ軍馬とも触れ合う機会もあったでしょうしねえ。


 「二人とも、大丈夫だったかしら?」

 

 

 「え、ええ・・・一瞬何事かと思いましたが・・・学園が広くて助かりました・・・近所迷惑の意味も込めて」

 

 

 「まだ頭が揺さぶられている感覚はしますが耳鳴りはしませんよ」

 

 

 あの江田島先生の相変わらずのド迫力の・・・いや、もう兵器と差し支えない大音量の声で学園の一部は窓ガラスが大量に割れ、一部の小さな道具入れの小屋、木々の細い枝が折れていたりと散々な状況。

 

 

 生徒会室も窓ガラスが割れているということでシンボリルドルフとエアグルーヴがいた時になって会いに来たが無事そうで安心した。窓ガラスも掃除済みのようだし。

 

 

 「しかし・・・あれ、失礼・・・あの人がシンザンやセントライト、クリフジのトレーナーであり、オハナさんの先生とは」

 

 

 「ええ。始まりの覇王。最強の戦士。永遠の女王。彼女たちを輩出して、私たちの先生でもある偉大な人よ」

 

 

 「私も幼いころシンザンのレース後の表彰式の際にいたのを覚えていましたが、まさかこうして出向くとは」

 

 

 「実際、もう二十年近くトレセン学園に足は運んでいなかったようだからね。たづなさんも理事長も学園で会うのは今日が初めてといっていたし」

 

 

 信じきれないという感じのエアグルーヴに、自身の記憶力で引き出してようやくといった感じのルドルフたちを見てもしょうがないと言える。

 

 

 トレーナー育成期間で教鞭をとることは多いが、ここ最近はめっきり表に出てくることがなかった。

 

 

 私やたづなが聞けば『若い世代たちが日本を、ウマ娘業界を動かしていくべきだ。わしはその若い芽を育てていく。わしらを越える英傑を世に出して日本を賑やかにしてこい』といってのんびりたばこをふかす。現役時代の活躍と経歴を知れば最早隠居していたようなもの。

 

 

 それが何年ぶりかにトレセン学園に来たかと思えば新入生を直々にスカウト。声でノックダウンした新入生メビウスワンは現在先生に保健室に運ばれて休んでいるそうだが。

 

 

 「ところで、その江田島トレーナーは今どこに?」

 

 

 「ええ。先ほど職員室で会ったけど、理事長と何か話した後にトレーナー契約の書類を用意していて、メビウスワンのサインとハンコがあればすぐにでも動けるようにしているとか」

 

 

 「凄い気合の入れようですね・・・メビウスワンにはそれほどのものを?」

 

 

 二人の発言に思い出すのはあの場にいたというスピカのトレーナー。ちょうどいいと聞いてみればメビウスワンには光るものが確かにある。と言っていた。私はリギルのトレーニングメニューと遠征を終えたルドルフの休養明けのプランを練っていた。

 

 

 仕方がないと言えばしょうがないが一目見ただけであの人がここまで気にいるというのは。そのスカウトの流れはベテラントレーナーに聞けばあの三人をスカウトした時と同じだとか。

 

 

 「多分・・・ね。まだまだデビューもしていない新人だけど、おそらくそれくらいの才能を持っていると思っておくべき」

 

 

 「ふふ・・・それは嬉しいですね。私達ともいいライバルになってくれるかもしれないですし」

 

 

 「会長に匹敵するほどのウマ娘ですか・・・戦うには少し後になるかもですが、それは・・・面白そうです」

 

 

 三冠ウマ娘伝説のクラシック、ティアラ両方で始めさせたトレーナーの認めるウマ娘を相手にしてやる気を出してくれる二人に嬉しくなる。そう。シンザンを越えろ。これをもとに戦い続け、超えたのがルドルフ。そして女帝と呼ばれるエアグルーヴ。今や日本のウマ娘の頂点の一角だが慢心どころかやる気を出してくれる。

 

 

 そういう意味では先生には感謝しかない。この新入生の成長次第ではリギルの成長の刺激剤としてこれ以上ないのだから。迷走気味のスズカにもいい刺激となるといいのだけど・・・

 

 

 「あ、そういえばガラスや建物の被害総額。私理事長にもっていくけどどうする?」

 

 

 「えーと・・・おおよその見積もりですが・・・」

 

 

 「その、結構な値段に・・・」

 

 

 一応の見積もりで出された今回の先生の大声で割れた窓ガラスの被害。芝の張替えに比べれば安いがかといって軽くない。・・・予想外の出費に理事長とたづなさん。頭を痛めなければいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やぁああっ!!」

 

 

 「ぬぅん・・・ぬるい!」

 

 

 「ほわぁっ!?」

 

 

 あの文字通りの大騒ぎから後日。無事にトレーナー契約を結んだ私と江田島トレーナーは早速トレーニングルームに移動。

 

 

 何でか私はサンドバッグ目掛けてドロップキックを何度もぶつけ、江田島トレーナーはサンドバッグの裏から支えることで私を押し返してくる。床にマットを敷いているから痛くはないけど、もう息切れするほどに繰り返している。

 

 

 その前はタックルやミット打ちを延々と。何が何だかわからないままこれを繰り返し続けて、夕暮れになるころにようやくブザーが鳴った。

 

 

 「よし・・・これまでぇい! メビウス。よくやったぞ!」

 

 

 「ぜー・・・あ、ありがとうございます・・・・で、でもこれ・・・走るためのトレーニング・・・?」

 

 

 「うむ。まあそこも含めて話そう。片付けながら、身体を動かしながら話すぞ」

 

 

 マットに突っ伏す私の疑問には応えてくれるけど、息切れしながらもすぐ止まるなということでどうにか立ち上がってマットやミット、グローブを片付け、モップをかける。正直、私は女子プロレス育成機関に来たんじゃないかと思うほど延々とキックとパンチをしまくっていた気がする。

 

 

 「まあ、これはわしなりのやり方だがな。メビウス。お前の肉質、脚質、柔軟性、骨の具合を見ていたのよ」

 

 

 「ようは・・・最初にしていた触診をさらに深くした感じです?」

 

 

 「その通り。レースというのはとんでもない負担を全身に、特に足腰にくる。その衝撃を耐えきれるしなやかかつ強い骨か。そしてパンチやキックの際によどみなく全身の力を伝えていける動きがしみこんでいるか。それを見て見たかったのよ」

 

 

 一応道理は通る・・・のかな? 二人でモップ掛けを終え、トレーニングルームを出てからグラウンドで二人とも用意していたお茶をすすりつつ練習している先輩たちの様子と落ちゆく夕日を眺める。んー・・・汗をかいた分水分が染みるわ。

 

 

 「それで・・・どうでした?」

 

 

 「そうじゃな。日本刀・・・しなやかかつ強い。おれず曲がらず、使い手に応える確かなものを持っておった。肉体も同様。まだまだ粗削りだがいいと言えよう」

 

 

 「おおー・・・ありがとうございます!」

 

 

 「じゃが! その素質も常に鍛え、磨き上げていってこそ! うぬぼれは許さんぞメビウスよ!!」

 

 

 どうにも私の肉体はそれなりに江田島トレーナーのお眼鏡には敵ったようだ。その直後にすぐ引き締めにかかるのもしっかりと受け止める。後で調べたけども本当にこの人は日本のウマ娘業界、トレーナーたちにとっては伝説の人だ。この人に見いだされたと言って調子乗らないようにしよう・・・

 

 

 後、ちゃんと声を抑えてくれるのが助かる。初対面のあれで話されれば私は毎日保健室に運ばれる羽目になるし。

 

 

 「はい! それでー・・・江田島トレーナー。私の今後の予定ってどうなっているんです?」

 

 

 「うむ。デビューは6月後半に向けていくことになる。その間みっちりとダンスも走りも鍛える」

 

 

 「ほうほう・・・約二か月強ですか」

 

 

 「そして、そこからひたすらに走り抜け、半年間は力を蓄える。そして来年からはクラシック三冠!」

 

 

 ふむふむ・・・デビューして後はみっちりトレーニングになるのかな? クラシックに向けてひたすらコースの練習とかになるのだろうか。

 

 

 「そして同時に目指すはティアラ三冠!!」

 

 

 「え・・・?」

 

 

 「更にはジェット機も使い合間を縫ってアメリカの三冠も目指す!! 日程は全て問題はない!! 聞けメビウスワン!!! わしらが目指すは九冠の栄光!! それに耐えられる肉体を明日から作っていく。いいな!!」

 

 

 「ええ~~~~~~!!?!?」

 

 

 思わず驚く私の声がグラウンドと夕方の空に吸い込まれていく。おおぅ。私の肉体はどうなるのか・・・後でジャスタウェイちゃんたちに引きずってでも寮に戻してもらえるよう頼まないと・・・




 ちなみにシンボリルドルフを管理していた調教師の方曰くクリフジの方が最強と言ってのけたとか。日本最初期の三冠馬メンバーも本当にエピソードも含めて濃い。濃すぎる。


 メビウスワン。9冠路線へ。一応モデルの馬は牝だったのでティアラ参加も大丈夫です。才能は江田島トレーナーもにっこりしそうなほどです。


 次回からトレーニング開始。


 良ければ感想、評価よろしくお願いします。


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彼なりの特訓

空白世代という設定なのでゴルシたちの上と次の世代がいろいろギチギチになっちゃう。


ゴルシたち以外にも人材はいるのでちょこちょこ絡めていくと思います。


上手く作品をかける方々が羨ましいです。私も浅学菲才の脳みそを絞って頑張れる限り頑張りたいです。


 「はふぃー・・・・・・あー・・・疲れたぁ・・・ヨル―・・・」

 

 

 江田島トレーナー・・・江田ちゃんでいいか。とのトレーニングが幕を開けて早数日。毎日が筋肉痛。訳の分からないところまでぎしぎし言っている体を引きずってどうにか寮にたどり着けた。

 

 

 ヨルを呼ぶとにゃーんと鳴いてくれてとてとてと歩いてくると、それについてきて歩くウマ娘が一人。

 

 

 「ほうほう・・・噂通り頭のいい猫だ・・・そして、勝手に飼っているのが貴様だな?」

 

 

 「エアグルーヴ副会長・・・はぁ・・・つつ・・・はい。入学の際に近所で仲良くなってそのまま」

 

 

 生徒副会長にして樫の女王。『女帝』と呼ばれる彼女の視線は私の頭にのって居心地がいいと鳴くヨルと私を交互に見る。

 

 

 うわちゃー・・・勝手に世話していることに怒っているのかなあー・・・

 

 

 「そしてそのまま・・・か。本当ならすぐさま追い出したり保健所につきだすべきなのだが・・・まあ、その前にだ。見たところ雌猫だが、やることはやっているのか?」

 

 

 「あ、はい・・・予防接種、妊娠しないように治療もしてもらっているので・・・トイレも私の部屋の砂のトイレと、下水溝でしかしないようにしています」

 

 

 「ふむ・・・とりあえず中にはいれ。ひどい顔だぞ」

 

 

 「あははー・・・江田ちゃんに散々しごかれまして・・・も・・・あつつ全身筋肉痛です」

 

 

 「え・・えだ? まあ、とりあえずこれでも飲め」

 

 

 鋭い視線を向けていたエアグルーヴ先輩は安心したのか息を吐いて私と一緒に寮に入って広間の方で腰かける。ついでにスポドリを二本買ってくれて私の前に一本置いてくれた。奢ってくれたみたい。

 

 

 「ありがとうございます。んふぅー・・・で、ヨルは追い出すのですか・・?」

 

 

 「んー・・・フジキセキもみんなの癒しになっていると言っているしな。貴様がしっかり管理をするのなら許可をしよう。ただし、寮とグラウンドなどで校舎内部、教室に入れることはするなよ?」

 

 

 「分かりました。よかったよ~ヨルーうふふ。今夜は猫缶開けようか」

 

 

 スポドリを飲みつつ副会長からの許可も貰えたのを頭の上にいるヨルに言いながら頭を撫でると夜もゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。うんうん。これからはこそこそしないで好きにしていいからねー

 

 

 「仲がいいな」

 

 

 「相棒みたいなものですから。副会長さんも撫でます?」

 

 

 「ん・・・いや、また今度にさせてもらう。今日は早めに休むといい。今度会う時はしっかり疲れを抜いてからだ」

 

 

 「ありがとうございます副会長。それじゃあまた今度―・・・」

 

 

 そういって腰を上げて移動するエアグルーヴ先輩に手を振って見送り、私とヨルは一緒にお風呂に入って綺麗にしてやった。

 

 

 水が得意でよかったよお前は。これでいつももふもふでいられるしノミとか対策になるもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ”~・・・練習キッツいよお・・・・・」

 

 

 「おうおうお疲れだなあメビウス~江田島トレーナーのしごきはきっついのかぁー?」

 

 

 「うふふ。日本屈指のトレーナーの練習だもの。厳しいのでしょうね」

 

 

 風呂で疲れを落としてもまだ残る筋肉痛のせいで床にごろんと寝転がる私とそれにつられて一緒にあおむけになるヨル。ゴルシちゃんは片手でルービックキューブの3面をそろえ、ジャスタちゃんは猫じゃらしでヨルと遊んでいる。

 

 

 練習に関してはきついの一言だ。ボディバランスを鍛えると言って武術をはじめ、近々花壇の整理と農業の手伝いもするようだし、楽しいが厳しい。

 

 

 「きついよーあと、これでやっているのがきついのおー・・・」

 

 

 「ん? シューズ? でも蹄鉄が大きいような・・・重っ!?」

 

 

 「ほー? レース用、練習用にしてもすげえな。なんじゃこら?」

 

 

 「シンザン鉄だって・・・それ以外にもいろいろ・・・ん?」

 

 

 その要因の一つが私の脚力をより鍛えるためにと普通の倍近い大きさと重さの蹄鉄をつけての基礎練習、坂路に直線のダッシュ、フォーム矯正をしているのだがこれが辛い。

 

 

 ダッシュ力、瞬発力で狩りをする動物とかがいい例だけど足の接地面積は小さい。熊とかでも足のサイズでも20センチあるかどうかくらい。

 

 

 大きな体躯から繰り出されるパワーに合わない接地面積の小ささ。その分力が一点に集まるしロスも少ないから無駄なくその力を前に進める力に変えられる。だけどこの蹄鉄は大きい分力が分散すれば重い分いつも通りに動けないともきて本当に走りづらい。これを平然とつけて練習していたというシンザンさんはいったいどれほどの脚力と体力を持っていたのか。

 

 

 これからほぼほぼ毎日これをつけて早くなじめるようにしたい。そう思っているとゴルシちゃんがにやにやしながら近づいてきた。あ、嫌な予感・・・

 

 

 「ほれほれ。ここか?」

 

 

 「にゃぐぃあおおおおおお・・・」

 

 

 「ここか? ここがええのんか?」

 

 

 「ぐぅああおおお・・・ほっ、ぐほぉお・・・ま、待って・・・ぁばばばば」

 

 

 「ゴルシちゃんやりすぎやりすぎ」

 

 

 案の定ゴルシちゃんに的確に痛いところを突っつかれて痛みでのたうち回っちゃう私。やばいやばいやばい! これほんとに来る! ぐぉぉお・・・と、というか何で二人もすぐにスピカんは言ったのに平気そうなのよ・・・

 

 

 ジャスタウェイちゃんが止めてくれて、私の服を脱がせて湿布を張ってくれる。はぁ・・・ひんやりして気持ちがいい。

 

 

 「二人はそんなにきついトレーニングしていないの・・・? ふぐぐぅ・・・ふぁは・・・あ”ー・・・・気持ちいい・・・」

 

 

 「ゴルシちゃんはゴルゴル星との通信が忙しくてなー」

 

 

 「囲碁打っていただけよ。んースピカのトレーナーさんも基本好きにさせる感じだし、基礎練習と体づくりの最中」

 

 

 「そんなものなんだねー・・・はぁああ・・・はひっ!?」

 

 

 ゴルシちゃんは奇行。ジャスタちゃんは指示通りの練習をという感じ。でも、忙しいかあ。あの人の能力とウマ娘に急に触れるへんた・・・いや、情熱を持つ人なら付きっきりで練習させそうなものだけどなあ。

 

 

 スピカの方でもこの時期の練習の基準がわからないかと思っていたら急に来る湿布の冷たさに変な声をまたあげてしまう。ヨルも驚いちゃってごめんね。

 

 

 「まーリギルとかは入ってからすぐにメニューを組んで基礎練習をきつくするようだしそんなものだろ。たまに遊びに行くし一緒に練習しようぜ」

 

 

 「そうね。私もなんだかメビウスちゃんの練習内容が気になるし、トレーナーさんに伝えておいてもらっていい?」

 

 

 「いいよー私も二人とやる練習楽しみだし」

 

 

 この後、寝るまでの少しの時間過ごしていたけどその動きが全身筋肉痛のせいでロボットのパントマイムみたいだとゴルシちゃんに笑われ、なんか動画が撮られていた。今度江田ちゃんと私のトレーニング一緒にさせて筋肉痛になったら撮影してやるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぜっ・・・ぜふっ・・・は・・・はー・・・はー・・・」

 

 

 「よし。これまでぇい! メビウスよ。フォームが崩れなくなってきたな」

 

 

 「あ、ありがとうございます江田ちゃん・・・どうにか靴とか諸々にもどうにか・・・」

 

 

 今日も今日とて1000メートルダッシュ5本。ただしシンザン鉄を装着したシューズでのダッシュ。フォームが崩れたら筋トレで体感トレーニング5秒追加で走り続け、もうへとへと。身体中が汗ダバダバだし、顔からぼたぼたと汗がしたたり落ちていくのがわかる。

 

 

 このシューズの重さはまだまだなれないが、それでもこのシューズで来る脚の重さは中盤~終盤以降の間隔に近いし、その中でも気合を入れて戦えるかという根性の鍛錬だと思えばまあ悪くはない。

 

 

 あ、それとトレーナーを江田ちゃんと呼ぶことも許してくれたよ。怖い顔だけど優しい人だろうなと思っていたしあっさり受け止めてもらえたからバンバン気楽に読んで色々話したい。

 

 

 「ほふ・・・ほぁわぁ・・・・アイシング気持ちいい~~・・・♪」

 

 

 「うむ。それでメビウスよ。わしは今から明日まで少し所用で外すことになっていての。その間の練習相手を用意したんだが、その子と頑張ってもらう。よいな?」

 

 

 「いいよ江田ちゃん」

 

 

 大きめのポリバケツにぶち込んだ氷水に太ももまで足を突っ込んでアイシングを開始。一気に火照った体の熱が取り払われて頭の先まで身体が冷まされる感触に悦に浸っているとここからの練習は江田ちゃん不在とのこと。

 

 

 んまー本来は私たちウマ娘たちのトレーナー業務以外にもトレーナーの卵たちの育成もしている人だしなあー新入生たちに教える授業とかそんなのがあるのかな? トレーナーとしてのネームバリューも世界で有名らしいし。

 

 

 「・・・・・・・よいしょ。はぁあーまた使えるように蓋をして・・・で、相手は誰になるの? 併走? 筋トレのケアサポーター?」

 

 

 「いや、今回はちょっと趣向を変えたトレーニングを行う。ついてこい」

 

 

 アイシングの時間になって鳴るアラームを止めてバケツから脚を抜いてタオルで拭き、靴下をはいてまた重いシンザン鉄のシューズを履いてから氷がすぐ溶けないようにバケツに蓋をする。

 

 

 その後に江田ちゃんについていくとそれは学園にポツンとあるストリートバスケのコート。トレセン学園にこんなのがあるとは。

 

 

 そこに立ってバスケットボールを持つウマ娘が一人。ジャージ姿だけどふわふわした焦茶色の髪をツインテールにしている、どこかギャルっぽい? 雰囲気の人だ。入学式で見たような気がするし、別のクラスだけど名前とか思い出せない。

 

 

 「おっそいよー江田島トレーナーさん。帰るところだったわよ~」

 

 

 「うむ。すまぬな。メビウスワン。同学年のトーセンジョーダンという」

 

 

 「メビウスワンです。よろしくー」

 

 

 「チスチス。よろしくぅ。んで? 私はこの子と相手すりゃいいのね」

 

 

 「そうよ。メビウスワン。明日のトレーニングまでトーセンジョーダンと1対1でバスケで勝負をしておけい!!」

 

 

 どうやら前もってトーセンジョーダンには話をつけていたようでとんとん拍子で話が進み、私のトレーニング内容が提示された。この子とバスケ勝負をするということらしい。でも、なんでバスケ?

 

 

 「んー・・・いいですけどなんでです?」

 

 

 「答えは明日に教えよう。さあ用意をせい。時間は待ってくれんぞ!!」

 

 

 「そーそー今日は友達と買い物行くし、チャチャっとね」

 

 

 江田ちゃんは答えを教えてくれずに急かされて私もバスケコートの中に。バスケかあ。小学校の体育の授業でやったくらいだけどうまく行くかなあ。




 馬って一部を除いて小さな動物とかに優しい子が多いですよね。ステイゴールドも猫には優しかったそうですし。


 馬って交友関係とかそういうのがわかるのが珍しいそうですが、そういう意味ではゴルシ、スぺちゃんたちってほんと珍しいのですねえ。


 ゴルシの喧嘩相手トーセンジョーダン登場。彼女自身と縁が深いのだとエイシンフラッシュもそうですがだそうかなあ。


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超短期間反復練習

 ダイワメジャーがウマ娘になったらどんな感じになるのでしょうかね。ゴルシに近い感じのハジケリストか、日常生活ダメダメ、レースは超天才の極端なタイプか。レース強いけど繊細な体質ゆえに体調崩し気味の病弱キャラか。どちらにせよかなり強く、学園内でも美女として有名になるとは思いますけど。


 「・・・・・・」

 

 

 「ふふーアタシレースも好きだけどバスケも好きでさ。ここじゃあんまり開いていなかった分よろしく~っと」

 

 

 「あ、え!?」

 

 

 ジョーダンちゃんとのバスケット勝負。目の前で軽く構えながらドリブルしていたのに、気が付いたら側をすり抜けてシュート。パサリとなっているゴールネットと落ちるボールの音がほんとに決めたんだなあと教えてくれる。

 

 

 「うっし。まず一本。ほらほら。今度はあんたよメビウスちゃん。ふふ・・・守っちゃうわよー」

 

 

 「ギャルなのにガード固い・・・ふっ!」

 

 

 ボールを取って、今度は私がジョーダンちゃんの防御を潜り抜けてゴールを決めないといけない。んー・・・・シューズは以前重りつけたシンザン鉄装着のやつだし・・・身体押し込んでからちょっと遠めの所でシュート・・・!

 

 

 少しづつ慣れてきた重さと動きづらさ。思いきり踏み込んで、自分の身体をカーテン代わりにして隠してからぐるっと回りながらジャンプし・・・

 

 

 「バレバレ~♪ もらいっ! からのソッコー!」

 

 

 「あっ・・・ぐ!」

 

 

 これはジョーダンちゃんに読まれちゃってボールをあっさり私がジャンプしようとする軌道に合わせてボールを取られてからすぐにゴール目掛けてダッシュされる。

 

 

 驚く暇もなくすぐに私も姿勢を戻して急いで戻りブロックするけどそれもバレバレで軌道を変えたシュートであっさり二つ目のゴール。

 

 

 「くぅうー・・・駄目かあ」

 

 

 「バレバレよそれくらいじゃね。じゃ、今度はそっちが守りながら私から取ってみなさい」

 

 

 「分かった! 今度こそとって見せるわ」

 

 

 シュートしたボールを取って今度は攻めるジョーダンちゃんを凌ぐ番。追いつけはするけど最後の一押しが足りないし、テクニックもあっちが何枚も上手。だから・・・集中して読むしかないや。

 

 

 視線でどこから行くか・・・手の動きや体の向き・・・足の感じでつかんでいく。バスケ経験なんてほんとないけど、負け続けるのは嫌だし江田ちゃんの言うトレーニング。なら全力で行くしかない。

 

 

 「ういうい。努力とかそういうの暑苦しくていやだけどさ、キャラとかマンガで見る分は好きだし、私も楽しくなっちゃった。それじゃー・・・」

 

 

 「ここっ!!」

 

 

 口でそういいつつもなんやかんや付き合ってくれるし、すきだと言ってくれるのが嬉しい。同期のライバルになるかもな相手を潰さずにそう言ってくれるのが尚更。

 

 

 早速仕掛けに前に走るジョーダンちゃんの前に手を広げてブロックに入る。でも、それも織り込み済みだと笑顔のまま身体を回してシュートしようとする。私も即座にゴールにかけてそこから思いきり脚を踏み込んでのジャンプ。高さも速度もどうにか・・・指先でも当てて軌道を変えればと思ったんだけど・・・・

 

 

 「んふふっ。40てーん」

 

 

 「うわっ!?」

 

 

 それも読まれてシュートの際に腕を後ろにそらして私の指が当たらないようにしてからの柔らかいシュート。私が喰らいつくかもと考えたうえで修正されてまた点を許しちゃう。動きながらこれだけ考えられちゃうのか・・・経験の差はあるけど、すんごいマルチタスク。

 

 

 ・・・あ。なんとなく江田ちゃんが言いたいもの分かったかも。

 

 

 「よっし! もう一本!!」

 

 

 「はいはい。でも私今日は予定あるし、あと20分だけだよ?」

 

 

 「ならその分思いきり!! さあやろう!」

 

 

 「うわっ暑苦しい。・・・ま、いいわ。今度はダンク決めてあげる!」

 

 

 時間はないのですぐさまやるしかない。ちょっとの時間でも動き続けて、見続けまくって、そして考えまくる。なんなら20分ずっと動き続けるくらいがちょうどいいということでボールを数回バウンドさせてからすぐさまダッシュ。

 

 

 今度はそのまま直進も、身体を回していくのでもなくすぐさまサイドステップで横にずれてからすぐに3ポイントシュートの位置からシュート。は、すぐにジョーダンちゃんに落とされちゃう。ぺしりとハエでも叩かれちゃうように。

 

 

 「そんなのバレバレ。ありえないわよ~ほーら・・・」

 

 

 「っよっし・・・わわっ! う・・お?」

 

 

 また使いまわしている映像でも見ているか逆再生しているのかといいたいほどジョーダンちゃんの攻撃のターン。でもダンクをしてやると言っているのでそれに合わせてゴール下でブロック。身体をつけて私の力で押し出そうとしていたらジョーダンちゃんも付き合う。と思わせてすぐに力を抜いて姿勢を崩した私をすり抜けて奇麗なジャンプからボールをゴールに叩き込む。

 

 

 ガシャン!! と豪快な音を立てつつウマ娘の身体能力をいかんなく発揮して見せた奇麗なダンクシュートを決めて地面に降りるジョーダンちゃん。フェイントまで仕掛けられちゃうとは。

 

 

 「あ~! 合わせることが出来たのに~~!」

 

 

 「あっははは♪ ドンマイドンマイ。でもいい感じについてくるじゃん? 元々そっちもしていた感じ?」

 

 

 「いやいや。それはないよーずっとトレセン学園行きたかったし」

 

 

 「そう? まーとりあえず続けるんでしょ。私もちょっと本気出すからね」

 

 

 この後、文字通り格の違いを散々見せられて3ポイントシュートからアメリカのプロバスケット選手でも早々見ないほどのスーパープレイ乱発。私は一本も取れずにトリプルスコアでの敗北。33ー4どころじゃない。132ー0で。

 

 

 練習が終わって汗でずぶぬれになった私はコートにへばりながらジョーダンちゃんを見送り、フラフラと立ち上がってからまだ氷が残っているバケツで脚を突っ込んでアイシングをして寮に戻る。戻ったらゴルシちゃんがドラム缶で盆栽を育てようとしているのをジャスタウェイちゃんが止めている騒ぎを見たけど疲れが多くて止めきれませんでした。

 

 

 食事も風呂も終えた後でジャスタウェイちゃんに手伝ってほしかったと言われたけど今日はほんと勘弁してくださいと言いつつ頭の中で明日のバスケ勝負をどう戦うか考えていたら寝ていた。気を抜きながらベッドでごろごろしていたらそりゃそうなるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すー・・・すー・・・」

 

 

 「メビウスちゃん・・・起きて、授業だよ・・・」

 

 

 「ほえ・・・はぁ・・・・ん・・・ごめんごめん」

 

 

 授業の時間になっても眠気が抜けない。いつの間にかこっくりこっくり舟をこいでいたらしくジャスタちゃんに起こされる。助かった。この前みたいに教科書が頭にポンポンされて気が付くと先生が目の前だというびっくりが飛んでくる前に起こしてくれてありがとう。

 

 

 「ふぅ・・・くふ・・・おー・・・」

 

 

 「それではメビウスワン。この北海道で行われる条件レース。わかりますか? ヒントは湖の名前です」

 

 

 「え、えーと・・・あ、阿寒湖特別」

 

 

 「正解。このレースはGⅠからはだいぶ下のレースですが条件戦としては2番目。開催される時期も秋になるのでデビューするのが夏から秋ごろだと皆さんも当たるかもしれないレースです。開催地もあって涼しく、トップレースに挑む前の弾みとして選ぶには悪くないでしょう」

 

 

 正解をしてほっとしていつの間にやら黒板にびっしりと書き込まれた問題文と答え、先生の追加メモとかを急いでノートに書き込む。あっぶなかったあ・・・江田ちゃんから私が今後挑むレース候補に入っていたから覚えていたし先生がヒント出してくれていたからよかったけど下手すれば居眠りしそうになっていたのがばれていただろうし。

 

 

 しっかし・・・黒板に色々書き込んでいる先生の持っている教科書とか、ノートを見ると私たちと同じように見えて細かい注釈が多いし、なんならここから勝ち上がって名をはせたウマ娘の名前を書いていたりとでほんと細かいわね・・・私の視力なら見えるし、ついでにメモしておくか。

 

 

 何名かもう伝説レベルの人たちもいるしもしかしたらひっかけ問題とかおまけ問題で出るかもだし。

 

 

 「ふーん・・・結構引退したウマ娘って自衛隊とか警察で働く人も多いんだね」

 

 

 「? なんでわかるんだ?」

 

 

 「ああ。先生のノート。レース関係のお仕事をする人もいるみたいだけど、やっぱり身体能力が高い分色々あるんだなって」

 

 

 「・・・視力。どれくらいなの?」

 

 

 「両方とも2,0だけど」

 

 

 どっちも普通に見えちゃうしなーあーでも、普通の視力検査で使われるランドルト環で計れる視力は2.0までだってドラマかマンガで見た気がするしかしたら私はもっと視力あるのかな。これが普通だと思っていたけど。

 

 

 デビュー戦を終わった後の精密検査ついでに視力も見てもらおうかなーと思っていたら授業終了のチャイムが鳴って先生も挨拶をして終わる。んー・・・ようやく放課後だわ。今日江田ちゃん帰ってくるし、それまでの間にせめて一本は取りたい!

 

 

 あ、そういえばデビューといえば。

 

 

 「ねーねーゴルシちゃん。ジャスタちゃん。二人ともデビュー戦はどうなっているの? 私は6月末だけど」

 

 

 「私は7月中旬くらい。新潟に行くみたい」

 

 

 「ゴルシちゃんは7月初めに北海道だぜ! たくさんの土産もらってくるからなー?」

 

 

 「私は東京だし、美味しいお店のお菓子もらって帰ってくるくらいかなー」

 

 

 デビュー戦とはいえ大事な一歩だし、スピカのトレーナーさんはなかなか早いところでレースを始めるみたいだね。んふふ。私もしっかり頑張って勝って、賞金を稼いでいきたいね。すでに靴を1足壊しちゃったし、ジャージもボロボロすぎて替えを購入することになったし。

 

 

 「あ。じゃあゴルシちゃんはこのヘンテコスイーツが欲しい。色物スイーツとして有名なんだよ~ここのレース場の近くに車出ているからよ」

 

 

 「それゴルシちゃんと私で応援行きながら買いに行ったほうがよくない?」

 

 

 「それじゃー私が奢るよーだから、応援よろしく♬ お、そろそろ練習の時間だからまた寮でね」

 

 

 二人からの応援をもらえるのを嬉しく思いつつジョーダンちゃんを待たせるわけにはいかないので席を立って移動。さてさてー今日こそ・・・綺麗なシュートを! ・・・バスケ選手になるつもりはないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は・・・っ・・・はぁ・・・あ、あんたタフすぎ・・・・」

 

 

 「ありがとう・・・ふふ。・・・ん、頑張ってシュート一本貰うんだから!」

 

 

 昼下がりから始まったバスケ勝負。昨日よりも慣れてきた分ギアをあげて頑張る私と負けないと動きを更に早く鋭くしていくジョーダンちゃんとのいたちごっこで私は未だ一本取れていない。時間ももうカラスが鳴いて家に帰り始めるような時間だ。

 

 

 でも、動きの観察を続けていけば動きの癖とか、フェイントとか、足さばき手の動きで読んで対処するようにはできつつある。もう少しやれば息遣いとか、自分の体力とあわせて対応が出来そうなんだけど・・・ふぅ。

 

 

 「今度は・・・!」

 

 

 「・・! そっち!」

 

 

 「チョット?!」

 

 

 仕掛けていくジョーダンちゃんの動きを合わせて、少しゆっくりに見えるまで集中できたのを幸いにブロックしつつボールを奪う。それに驚いて動きが止まった瞬間を縫って急いでゴール前に。私はシュートもドへたくそだし、近くまで来てからジャンプしてゴールネットのそばから入れるほかない。

 

 

 へたくそなドリブルでどうにかこうにかゴール前についてそのままジャンプしようとする前に背中に感じるプレッシャー。バチンとボールがはたき落とされてしまう。ジョーダンちゃんだ。

 

 

 「まだまだ一本はやれないっての! ほーれ!」

 

 

 すぐにボールを奪ってシュート態勢に入るジョーダンちゃん。私も急いで追いかけるけど追いつけずにまたシュートを入れられてしまう。多分だけど、これで100回くらいは負けているかも。

 

 

 「くっうー・・・・また駄目かあ」

 

 

 「でも、いい動き。・・・・ねーあんた。伝説のトレーナーと一緒にさ、どこを目指してんの?」

 

 

 「どこを?」

 

 

 「そ。休憩しながら教えてよ」

 

 

 ジョーダンちゃんも息切れしちゃっているし、私も多分汗まみれですごいんだろうなあ。用意していた水を飲みつつ地べたにすわって休憩に入る。あー・・・水が気持ちいい・・・染みる。美味しい。

 

 

 で、目標かあ。まあせっかく江田ちゃんと組んでもらえたし、それに授業で聞いたウマ娘のレースの歴史を聞けば尚更に最強を超える最強。それを目指したいという気持ちは高まったのは事実。

 

 

 「そうだねー私が目指すのは、皇帝越え」

 

 

 「皇帝・・・生徒会長越え!? ってことは無敗の三冠と7冠達成・・・」

 

 

 「後は、凱旋門賞にオーストラリア、アメリカ。あ、イギリスの長距離レースも興味あるかも」

 

 

 「はー・・・私から言うとさ。出来るのそれ? シンザンですら越えて。最強の戦士を越えた皇帝よ? 汗臭く目標高くしてもさ、負けたらその分だるくなって嫌じゃないの?」

 

 

 「出来るかはわからないけどー・・・でも、ルドルフ生徒会長が現れるまでシンザンさんを超える人が出てこなかったんでしょ?」

 

 

 シンザンを越えろ。これが20年以上ルドルフ生徒会長さんが出てくるまでウマ娘の選手たち、関係者たちのスローガン。歴史の教科書のコラムと、一緒にある資料集みたいな本に書かれているほどのものだった。最強、神讃を越えられないのかと言われた中で出来た人がいた。だからあの人は殊更にまぶしいのだろう。

 

 

 「んまーそれはね」

 

 

 「でもさ、会長が最強越えを出来た。皇帝を鍛えた、見出した人がいる。鍛える肉体を作った学校がある。私達はそこの生徒だし、それくらいは頑張りたいなって。無敗の三冠をして、海外のレースでも優勝。それが出来れば面白くなりそうじゃない? 頑張れば最強を越えた皇帝だって越えられるんだって」

 

 

 「・・・・・同じ場所だからできるか分からないのにね。まーいいや。それならそれで、練習しよっか。もうそろそろ終わりの時間だし」

 

 

 「あ、江田ちゃんが来るかもな時間かー・・・よし! よろしくぅ!」

 

 

 「ほんとタフねあんた・・・」

 

 

 水飲みながらマッサージもしていたしね。回復はばっちり。後は、またやるかわからないこの練習でもっと掴まないといけない。

 

 

 常に動き回りながら最善手を打ち続ける判断力と勝負勘。相手の動きから、視線から考えを読む能力。レースとは違うから丸々とはいかないけど、応用は効くし、なによりそういう練習を2日で100回以上こなせるのはかなり助かる。

 

 

 だけどもう夕暮れ、これ以上遅くまでは出来ない。だからまあ、ラストチャンスだろう。

 

 

 まずは思いきりダッシュで前に出ていくけどジョーダンちゃんに行き先を防がれる。対応するように脚を広くスライドしつつ股からボールをバウンドさせて反対の手にボールを移動させつつ横に移動してブロックをかわそうとする。ルールはよく知らないけど、多分大丈夫なのかな?

 

 

 「ふっ!」

 

 

 「まだ甘い!」

 

 

 少しゴールネットから離れているけどそこからシュートのためにジャンプ。だけどジョーダンちゃんは本当に吸い付くようについてきて私の壁になるようにジャンプしてボールをカットしようとする。

 

 

 よかった。と思う。多分こうなるだろうし、ジョーダンちゃんの視線を見ても対応できると思っていたからここまでは織り込み済み。だから、シュートする姿勢を少し背中をそらしてブロックに当たらないようにしつつシュート。足先から変な音したけど何だろう?

 

 

 「「あ・・・・」」

 

 

 けどシュートはジョーダンちゃんの指先に当たって失速。かごの金具に当たってボールは落ちちゃった。私は当たっちゃったと思う声。ジョーダンちゃんは・・・私の動きが予想外だったのかな? 結局いろいろ読めたうえでの乾坤一擲の作戦は失敗。トホホな結果に終わっちゃった。

 

 

 江田ちゃんの足音も聞こえるし、ジョーダンちゃんとの練習はここまでかあ。・・・む。靴・・・後で江田ちゃんに言おう。

 

 

 「いやー駄目だった。でも、バスケでの練習もすごく楽しかったしありがとね。ジョーダンちゃん!」

 

 

 「私は別にあんたのトレーナーに依頼されてやっただけだし気にする必要ないけど?」

 

 

 「終わったか。トーセンジョーダン、メビウス」

 

 

 「あ、江田ちゃん」

 

 

 乾杯なのは悔しいけど楽しい練習だったのも確か。二日間も練習に付き合ってくれたジョーダンちゃんに握手して笑顔でいると何でか顔を背けられた。

 

 

 で、いいタイミングなのか江田ちゃんも声をかけてきたよ。

 

 

 「うん。私完敗だった」

 

 

 「ま、私にバスケで勝てるわけないでしょ。じゃー江田島トレーナーさん。依頼料。もらうわよ?」

 

 

 「うむ。約束通りのものを渡そう。近所の商店街の料理店1メニュー無料券5枚とスーパーの商品券だ。受け取れ」

 

 

 あ、なんだか庶民的・・・いやでも待てよ? 近所の商店街での目玉メニューのあのにんじんハンバーグを5回ただで食べられて、商品券もあれだけあればジュースやリンゴ、人参沢山・・・おお。いい臨時収入。二日でこれとはジョーダンちゃんおめでとうなのと、ここまでしてくれて江田ちゃん有難うになっちゃうわ。

 

 

 「毎度あり♪ じゃ、私も汗臭いし今日は帰るけどさーメビウスワン」

 

 

 「はふぅー・・・ん。なに?」

 

 

 「あんたの今後どうなるか面白そうだし、がんばなさいよ。バイバーイ」

 

 

 封筒の中身を確認してにししと笑った後に私に手を振ってからバスケットボールを抱えて帰っていくジョーダンちゃん。いい練習だったとコートの扉を閉め、水を飲みつつ身体をほぐしていく。

 

 

 「メビウス。今回の練習の意味は分かったか?」

 

 

 「走りつつ相手と自分の見極めを行うマルチタスクの練習。視線や空気を感じて仕掛けるかの判断。でいいです?」

 

 

 「その通り。ウマ娘たちはレースでは数十キロという速度を出しつつ数千メートルという距離を争う。その中で得られる経験と判断は勝負勘、強さになる。だがレースの負担は大きく何度もできん。だからバスケで応用した。手足を常に動かし相手の裏をかいて、あるいは技術で、あるいは力でボールを巧みに運んでゴールへと入れる。何回も作戦を練って、観察するという練習をするにはちょうどいい」

 

 

 それに、集中する練習にもなった。一定の動きではない中で集中してハイペースで動き回る。あれを繰り返しできたのは本当にうれしい。

 

 

 「集中の練習にもなりましたし、なにより楽しかったです」

 

 

 「ならば良し。明日からは食事量も増やしつつ練習にも気合を入れていくぞメビウス!!」

 

 

 「はい! でも、江田ちゃん。ちょっといい?」

 

 

 「む?」

 

 

 「練習中予備の軽めのシンザン鉄シューズ。一足壊れちゃって・・・新しい鉄の予備ってある?」

 

 

 

 お古の方だけどシューズにつけた蹄鉄ごと踏み込む際にべきりといって足先のカバーっぽい所が根元から折れている。多分最後の勝負の際に思いきりジャンプするために踏み込んで足を曲げた際にやっちゃったんだろうなあ。

 

 

 江田ちゃんからはこの後鉛入りシューズをつけてしばらく練習。後私が自主的にやっているやつを続行と言われて帰宅。デビューまであと2か月ちょい。どこまで仕上げられるか。




 瓦割とかいろいろユニークな練習があるので今回はバスケ。トレセン学園なら色んな練習方法を取り入れているだろうなということと、気分転換で野外のバスケットコートはありそうだなあと。


 メビウスワン シュート一本も入らずぼろ負け。最後にはシューズも一足おじゃんにする羽目に。後日新シューズ購入で痛い出費に。しばらくスイーツパクパクできないねえ。集中力とマルチタスク。相手の行動を読む力が増した。ゲーム風に言えば根性と賢さ。スキルヒントをもらえました。


 トーセンジョーダン 努力とかトレーニングは嫌いだけど得意なバスケを使っての練習と報酬につられて2日間のトレーニングパートナーに。メビウスワンの目標に半ば呆れつつも漫画みたいな目標を持つので横で見て楽しもう位に考えている。



 江田島平八 実はこっそりあることをしていました。シンザンより真面目に練習に励んでいるメビウスは半ば孫みたいな感じになっている。声を抑えめに話しているので多分男塾の皆さんが見たら驚く。

 予想以上に早くシューズが壊れたので新シューズにつけるシンザン鉄はシンザンが使っていたサイズと重さに早くも移行させることに。



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