普段ボーイッシュな彼女が時たま見せる蕩けた顔が見たくて。 (途追)
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普段ボーイッシュな彼女が時たま見せる蕩けた顔が見たくて。

 

 

しばらくえっちやめない?

 

と、自分の彼女が言った。

 

「別にいいけど、なんでさ」

 

「楽郎、たまたま一日講義の空きコマが重なった昨日、なにしてた?」

 

少しばかりむすっと頬を膨らませて拗ねた顔をする京極を横目に、そういえばなにしてたっけなー。と自分の昨日の1日に思考を寄せる。

 

確か、とりあえず寝たままゲームしっぱなしの朝を迎え、この前の大会の賞金が結構懐をあっためてくれているからちょっとばかり豪勢な飯にしてもいいだろうと出前をとった。

 

待ってるまで暇だから京極を抱いて、向こうがダウンしたから、合間に飯を摘んでまたゲーム。

 

夕方の涼しくなった頃合いに一緒に公園をランニングして、帰り際にコンビニでストックの少なくなってきた避妊具を買い足して。

 

一緒にゲームやろうよと抱きついてきた京極に、今日はそっち(幕末)の気分じゃないからとキスして黙らせて。

 

そういうのじゃなくてさぁーーー!!!とむくれる彼女をよそに、また明日な。と言ってゲームにログインして、起きたら今だったような気がする。

 

「それで?」

 

「それで?じゃない!!!」

 

「???」

 

「フクロウみたいに可愛く首を傾げてもダメなものはダメ!!!」

 

確かに、付き合って男女の関係になったとはいえ、からかえばそれだけ返ってくるのが面白くて、ついついいじり倒してしまうのは良くないのかもしれない。

 

「で、えっちしばらくやめると」

 

「次楽郎がさせて。って言ってきてもさせてあげないからねっ!」

 

「へいへい」

 

「それが彼女に剥ける態度かーっ!!!」

 

ぼすぼすと枕で殴ってくる京極に、じゃあお前から求めてきたならそれはOKってわけだな?って聞くと、ほえ?と呆けた顔が返ってきた。

 

 

 

 

 

どうして付き合ってるの?

とか、どうして付き合えてるの?と聞かれることが、全くないといえば嘘になる。

 

成績はしっかりキープしているとはいえ、ゲームに遊び呆けいている自分。

 

かたや、全国大会優勝の名声を過去のものとせず、今も現役で剣道の世界でトップを貼り続けている有名人。

 

とはいえ、自分は、打てば響く彼女のことを、からかえばそれだけしっかり反応が返ってくる京極のことを、ちゃんと好ましく思っている。

 

性行為にしてもそうだ。

すればするだけ、いじらしく嬌声が返ってくる彼女。

奉仕すればするだけ、ちゃんと頬を赤らめて、だすまいと食いしばりつつも、ちゃんと可愛い声をあげてくれる。

 

歯応えのある、トレーニングルームのCPUというか、自分の得意なコンボが致命的にハマりやすいマッチング相手というか。

 

そういう、デコとボコがピッタリあう感じの相性の良さを感じている。し、向こうもそう思ってくれていると信じている。

 

 

そんなだから、つい、高校の頃はそこまで感じていなかった健全な男子としての性欲も、程よく旺盛に自分の下半身にみなぎっている。

 

「とはいえしばらくお預けかぁ」

 

しばらくは、こちらから求めても応じない。そういってサークル活動に出かけていった京極の背中を思い出しながらひとりごちる。

 

「でも、それって、京極から求める分にはOKってことだよな?」

 

クソゲーマー陽務楽郎。

 

自分は、ハードルが高ければ高いほど燃えて、そして、乗り越えたくなるタイプである。

 

 

 

好き勝手する恋人のことを思いながら、どうしてこいつと付き合ってるんだろ。と冷静になる時がしばしばある。

 

とはいえ、別に、自分も尽くすタイプというわけでもないし、実際のところ、自分が素のまま自然体でいることを肯定してもらえるから、居心地がいい。

 

あと、上手くて気持ちがいい。

悔しいけど。

 

なんか最近はそれに味を占めて、なし崩し的にいいようにされているような、そんな気がするから、少し危機感を覚えている。

 

と、そんなこともあって、しばらくえっち禁止を言い渡したところ、帰宅した私を待っていたのは、妙に神妙な顔をして、凝っているところはないか聞いてくる自分の恋人だった。

 

「で、なにさ」

 

「いや、ちょうどマッサージの勉強をしたので、疲れてるであろう京極の筋肉を揉みほぐしてやろうかと」

 

「はいはいご機嫌取りご苦労様」

 

ぽすっ。とかばんを部屋に投げ捨てて、とはいえ、確かに筋肉の疲労もほどほどにあるから、その挑発に乗ってあげる。

 

「で、どうすればいいのさ」

 

「ベットにうつ伏せに寝てくれたら全身の揉み解しをするよ」

 

「はいはい」

 

正直にいえば、あまり期待はしていなかった。

その一方で、やたらと手先が器用だったり、体を動かすのが、体を思い通りに細かく制御するのが得意なのが、陽務楽郎という男だ。

 

太ももを揉み解す力の入れ具合は、絶妙で、運動後の疲れが、綺麗にもみほぐされていく感触がする。

 

「はふぅ」

 

なんて、安堵の息が漏れたりもした。

 

と、そんなところに割り入る声。

 

「じゃあ、ついでに新しいリラクゼーション試してみない?」

 

「ん?いいよ?」

 

じゃあ、自分の声に合わせて息を吸ったり吐いたりしてくれな。

 

オッケー。

 

気を抜いた返事ともに、心地よい弛緩した意識が相まって、ふっと意識が蕩けていく。

楽郎も、意識を蕩していいというから、合わせて意識をトロトロに溶かしていく。

 

ふぅっと浮いて、ふぅっと落ちて。ふわふわとリラックスした体とほぐれた筋肉。

 

居心地いのいいマットレスの反発。ふわっと浮かび上がっては、泡のように弾ける意識。

 

すうっと、軽く力を入れて、ふっと力を抜く。

それを繰り返せば、自分という輪郭が溶けて、とろっと世界と自分の境界が曖昧になる。

 

ふぅっと溶けて、ふぅっと集まって。

 

その繰り返しの中で、自分の中の、"気持ちいい"が、だんだんと濃縮されて、自分の真ん中に集まっていく。

 

パンッ

 

っと、音がした。

 

楽郎が手を叩いた音だという認識は、随分と遅れてやってくる。

 

それよりも、パンッと音がした。

 

それは弾ける音だ。

なら、なにが弾けたのか。

自分?

自分だろうか?

 

それとも、自分に集まっていた何かだろうか。

この白くてふわっとして、とろっとして、気持ちいい、何か。

 

そう、自分の"気持ちいい"だ。

 

ふわっとして、暖かくて、気持ちよくて、暖かくて、ふわっとして、暖かくて、気持ちいい、自分の"気持ちいい"だ。

 

全身から集めて、体の真ん中に集めた気持ちいいが、パンっと弾けた音だ。

 

集めて、集めて、集めて集めて、集めて集めて集めて集めて、シャボン玉のように丸く集めて、雪玉のようにぎゅっと集めて固めた、まん丸の自分の"気持ちいい"。

 

ちょうど自分の真ん中で、呼吸に合わせてトクントクンとおっきくなったりちっちゃくなったりしていた自分の"気持ちいい"が、自分のお腹の真ん中でパンッと弾けた音がした。

 

弾けたらどうなるのだろう?

 

普通に考えたら、波のように広がるはず。

 

そうだ。パンっと弾けたんだ。

 

そんな思考が、楽郎が手を叩く音がした。という認識がやってくる前に、走馬灯のように、或いは津波のように頭の中を駆け巡って。

 

パンッという音とともに、自分の意識が急に鮮明になって、そして次の瞬間、意味もわからずに、多分自分は絶頂した。

 

 

 

自分が認識していた、気持ちいい。という概念の集合体が、パンッという音の針で突き破られて、ぽちゃんという水面のように一気に全身に広がっていく。

それと同時、見失っていた自分の輪郭が一気に戻ってきて、行き場を無くした波が、自分の輪郭で反響して、内側に戻ってきて混ざりある。

綺麗な同心円がだんだんと入り混じってなにもわからなくなって、ぐちゃぐちゃに自分の中を掻き乱して、自分の中で荒れ狂う。

 

でも、それが気持ちいい。

 

気持ちいい波が自分の中を這いずり回って、無理矢理自分を推し高めていく。

 

なにもわからないままなのに、そうやって無茶苦茶になっている自分を客観的に認識する自分が、ぐちゃぐちゃになった"気持ちいい"に上書きされて、また自分が絶頂する。

 

「ッッッ〜〜〜〜!!!!!」

 

めちゃくちゃに気持ちよくなって、自分の輪郭だけが絶望的にはっきりしていて、行き場を無くした絶頂が自分の真ん中に戻ってきて、まためちゃくちゃに絶頂する。

 

自分の口から、どんな悲鳴が漏れているかもわからない。

きっと無茶苦茶な嬌声が上がっているに違いない。

 

そんな自分をよそに、今の自分には理解できない楽郎の声が、自分の奥底に届いていく。

 

「これで、さっきのパチンって音は覚えたな?」

 

無意識に顔がこくんと頷く。

 

「今からお腹をとん。ってすると、さっきのパチンっていうのが俺の指先から、京極の全身に広がるぞ?」

 

じゃあ、息を吸って。

吐いて。

もう一度、息を吸って、吐いて。

 

あと3回繰り返したら、京極の準備はしっかり整って、とん。ってされたら、パチン。ってなる。

 

吸って、吐いて。

 

吸って。

 

吐いて。

 

自分の処刑へのカウントダウン。

 

吸って。

 

吸った。

 

吐いて。

 

吐いた。

 

じゃあいくぞ。

 

と、楽郎が自分を壊す宣言をする。

 

とんっ。

 

ずわっ、と、温泉で整った時のような汗腺の開き方が全身に広がる。

或いは、さっきの気持ちいい波が広がった時と似たような感覚。

 

そして、いつも性行為している時に、深く絶頂した時の感覚と近いそれ。

 

奥でイった時のそれと、ほとんど遜色ない気持ちよさが、じわっと下腹部の奥底から全身に広がっていく。

 

とんっ。

 

イく。

 

とんっ。

 

イく。

 

とんっ。

 

逝く。

 

 

あまりにも簡単に、あまりにも気持ちよく、あまりにも呆気なく、あまりにも無様に、あまりにも幸せな、どうしようもない絶頂が、下腹部から全身に広がって、脳のてっぺんで反射して、脳をレーザースキャンするように貫いて通過しながら、頭蓋骨で反射する快楽の波で脳を浸しながら、気持ちよく絶頂する。

 

 

「よーし。次に俺が手を叩いたら、全部忘れて戻ってくる。体は覚えているかもしれないし、気持ちよかったことは覚えているけど、それ以外は全部忘れて意識が戻る。いくぞ?3..........2........1.......はいっ」

 

 

パチン。

 

そんな簡単に忘れるはずないじゃん。こんなに気持ちよかったのに。

 

 

ほんの数瞬前の自分はそう思っていた。

 

ほんの数瞬前の自分が、パチンと電源をオフにして、ふっと"自分"の意識が戻ってくる。

 

「はれ?らくろぉ?」

 

ふわっと、のぼせたような感覚、風呂上がりに体を冷ますのを忘れたような、そんな火照りを体に感じながら寝ぼけていた"自分"が段々と覚醒する。

 

「さて、疲れをほぐすマッサージをしてたわけだけど、何か物足りない感じはしないか?」

 

なんだろう。

そう言われてみれば、何かが足りない感じがする。

 

一緒に懐石を食べにいって、メインディッシュを食べずに戻ってきた時のような。

 

或いは、旅行先で目的地の目の前にまでたどり着いて引き返してきたような。

 

それとも、並んで待っていた買い物の順番待ちで、自分の目の前で目的の商品が売り切れた時のような。

 

何かが足りなくて、でも、その何かがわからなくて、もやっとする心が"気持ち悪い"

 

 

 

続く

 

続き。

 

「なんだか、ちょっと、物足りない....」

 

ちょうどさっきまで食べてた美味しい料理の、デザートを最後の楽しみに取っておいたのに、皿を下げられてしまったような、そういう物足りなさ。

 

と、ふと、自分の意識が下腹部に向かう。

 

マッサージで気持ちよくリラックスしていたはずだけれど、代謝がよくなっていたのか、体がじっとりと汗をかいている。

全身がじっとりと湿り気を帯びていて、張り付いた肌着が気持ち悪い。

 

その最たるものが下腹部で、漏らしたはずはないけれど、じっとりと濡れそぼってべったりと張り付いている。

 

「ほら、水飲むか?」

 

「うん、頂戴」

 

そういって、 手を伸ばして、ふと指先が触れ合う。

 

なんだろう。そういう意図はないのに、ずいぶんとむず痒くて、こそばゆくて、そしてどうしてか気持ちいい。

 

クイッと飲み干したところで、体に思うように力が入らなくて、そのままマットレスにこてんと倒れ込む。

 

じゃ、マッサージの続きするぞ。

 

そうだ。今は楽郎がマッサージしてくれていたんだ。

 

と、トンっと楽郎の指が下腹部に落ちる。

 

唐突に、じわっと、全身に広がる快楽。

 

乾いたスポンジが一気に水を吸い込むように、唐突に虚空から満たされる快楽が、自分の全身に広がって、滲んでいく。

 

そうして持て余した快楽、スポンジからすれば吸収しきれなかった分が、ドパッと蜜を吐いて、自分の秘所から滲み出す。

 

じわっと広がる波紋が、自分の女の子の部分の輪郭を強く意識させる。

 

じわっとした熱が、下腹部から全身に根を伸ばしていく。

 

「らぅ...らくろぉ....なん.....か.....おかしい....んだけど....なにか...して...ない...よね....?」

 

とんとんとん。と、指先が、或いは手のひらが、自分の下腹部に、落ちてくる。

 

とんとんとん。と、食材の下処理をするときのような。

 

とんとんとん。と、ぐずる赤子を宥めるように。

 

心地いいリズムが、どうしてかコトコトと自分を煮込んでぐずぐずに蕩けほぐしてしまうような熱を自分の下腹部に、子宮に緩く、優しく、けど容赦なく叩きつけてくる。

 

「したよ」

 

残酷な告白。

 

きっとこの、自分をおちょくって楽しむ腐れ彼氏は、また碌でもないことをしているのだろう。

 

それに付き合う自分も自分だ。それでも、その気持ちよさは、間違いなく自分の内側から溢れてくるもので。

 

イく、絶頂するという終わりを際限なく突きつけて、底抜けに自分を気持ちよく高めて高めて高めて高めていく。

 

「イッ.....イクッ....」

 

かろうじて口にできた言葉が、その短い一言だけだった。

 

ビクン。と痙攣する体。

 

トドメとばかりにトンッッッと、余韻を引くように、気持ち強めに落とされた手のひらが、ぃぃィイイインンと長引く余韻を体にもたらす。

 

しなる弦のように、余韻が残ったまま、その振幅を止めようとしない。

 

なのに、なにも加えてない、内側からなんの刺激も与えられてない自分の膣道は、その快楽を錯覚して受け止める。

 

イッたからには、何か内側から刺激があってしかるべき。

 

なのに、それがないということは、自分はまだ絶頂していない。

 

そんなふうに、自分が自分を際限なく追い詰めていく。

 

「らくろっ...ねぇおかしいの」

 

「どうした?」

 

「イってるのに、イケないのっ」

 

欲しい。

 

その言葉が、口から出かけて、寸前で止まった。

 

止められた、或いは堰き止められたというのが正しいかもしれない。

 

 

自分の言葉を遮るように、とんっと落ちてきた楽郎の指が、自分の全身に"気持ちいい"を響かせて、自分の体はまた気持ちよくなっていく。

 

「そっ、それやだっ」

 

「さぁ気持ちよくなろうな」

 

 

 

「ッッッ゛゛゛〜〜〜」

 

違う、欲しいのはそれじゃない。

でも、無理矢理自分の体は満たされて、それでも頂点まであと一歩が足りなくて。

 

絶望的な渇望だけが、自分の中に降り積もっていく。

 

 

「や゛だ゛っ」

 

「でもこれ気持ちいいだろ?」

 

「違うのっ。らくろーのでイきたいのっ」

 

ぷしぷしと濡れそぼった秘所は刺激が欲しい、欲しいとくぱくぱと動いている。

 

きっと物理的な刺激があればそれだけで満足してしまえるほどに、どうしようもなくイってしまうだろうなぁなんて思いながら、満たされることのない偽物の絶頂感に泣き喚く。

 

「でもしばらくエッチはお預けなんだろ?」

 

もういいからっ。

 

好きにしてっ。

 

 

なにも考えられなくなって、そう口走った自分を、どこか遠くから眺めていたような気がする。

 

楽郎はそのあと錦の旗を得たとばかりにヤル気になって、また私を好き勝手にいじめ倒した。

 

とりあえず片手じゃ足りないくらいに気を失って、覚醒してを繰り返して、朝を迎えるころにはお互いクタクタになっていた。

 

一緒にシャワーを浴びながら、ポスポスポスとその胸を叩く。

 

「結局得したの、楽郎だけじゃん」

 

「そんなこと言いながら、きてっ。って自分から求めてたのはどっちだったっけ?」

 

「ばか」

 

宥めるように撫でられる彼の手が、ふと頬に触れる。

 

「ねぇ、解けてない気がするんだけど」

 

「悪りぃ」

 

ジト目で睨んであげると、すまんすまんと軽く謝りつつも、その目に、「でも、好きだろ?」という感情が滲んでいるようで、仕方がないなぁとため息を吐いた。

 



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