我拳は銃なりて (秋華)
しおりを挟む

第Ⅰ部:ようこそネギまの世界へ
プロローグ


ようこそ、秋華が描く”ネギま”の世界へ

楽しんで行ってくださいね。


暗い

ああ…そうか電気消したっけ。

ってあれ?体が動かない。まさかこれが俗に言う金縛りって奴なのか?

うは~なんか貴重な体験してるな。

 

「なんじゃ。結構落ちついとるの」

 

は?

誰か俺の部屋にいるのか?

俺は一人暮らしのはずなんだけど…

 

「あぁその疑問については簡単じゃ」

 

へ?

 

「あのな…お主は死んだのじゃ」

 

は?………はああぁぁぁ!?

 

「それでじゃが…」

 

いやちょっとまてよ。何でそんなに軽いんだよ。ていうか死んだって何?

 

「ちなみにお主の死因は病死じゃ」

 

いやいや…そういうことを聞いてるんじゃなくてだな…。あーもう訳が分からん。最初から説明してくれ!!!

 

「ふむ。それもそうじゃな…。ごほん。まずお主はすでに死んだ。これは良いかの?」

 

良くないけどまぁ…話が進まないからそれでいい。

 

「懸命な判断じゃな。…でじゃ死んだお主は今輪廻の狭間に来ておる訳じゃが…大体のものはここを素通りして三途の川に行くのじゃ。が、お主は少々特別での、じゃからこうしてここにとどまっておると言うわけじゃ。」

 

ふ~ん。ていうか本当に三途の川なんてあるんだ…。

それで…一応死んだ事になっている俺が、特別ってどういうこと?

 

「お主は平行世界と言う言葉を知っておるかね?」

 

まぁ知ってるよ。簡単に言えば、俺がいた場所に良く似た別の場所のことだろ?

 

「まぁ、その理解で大体あっておる。本来、人とは同じ世界でしか生きられんものじゃ。どんな死に方をしても同じ。同じ世界に転生する事になるわけじゃが、数億人に一人と言う割合で、他の世界に行く資格を持ったものが現れる。それがお主と言うわけじゃな」

 

なんていうか…テンプレ?いや…違うな。でも、良く似たものを俺はよく知っている気がする。

 

「それはそうじゃろ。言ってしまえば、お主の世界で言う二次創作、いや外史といった方が分かりやすいかの?それと同じ運命をたどる必要があるということじゃからな。」

 

必要?

 

「うむ。ここからは、ちょっとしたこぼれ話になるわけじゃが…。世界と言うものには刺激と言うものが必要での。刺激のない世界じゃと、たとえどんな事をしようとしても、その世界は変わらない。ループしているのと同じなのじゃよ。」

 

ループねぇ…。ひどい世界だったら、それはいけないだろうけど、平和に暮らしている世界があるのなら、ループしているのも悪くないんじゃないのか?

 

「そう考えるのも分かるが、それではいかんのじゃよ。変わらない世界など、死んでいるのと同じじゃ。まぁ極論かもしれんがの。世界も人も一緒。日々変わっていく事で生きる事ができる。そのために、お主のように違う世界に転生する事が出来るものを探し、そっちに送り届けるわけじゃ。」

 

なるほど。極論って言ったけどなんとなく分かるような気がするわ。

 

「そう言ってもらえて嬉しいの。さて、話を戻すが、本来ならその資格があっても記憶を消してそっちに転生するようにすればいいのじゃが…。今回行く場所は少々特殊での。なのでこうして転生する前に話しをしとる訳じゃ。」

 

特殊ねぇ…ただでさえ別の世界に行く事になってるのに、さらに特殊とは…俺運がいいのか悪いのかわかんねぇ。

 

「まぁそう言わんでくれ。で、特殊と言うはじゃな。言ってみれば白い世界。つまりこれからつくられる新しい世界に飛ばされる事になっておるのじゃ。」

 

新しい世界…。つまり自分の思い通りに世界を創れるってことか?

 

「正確にはちょっと違うがの。新しい世界といっても一から創るわけじゃなく、元からある世界をベースに新しい未来を創ると言ったところかの。まぁあれじゃ、二次創作みたく原作破壊して自分が望む未来を創れってこのじゃの。」

 

みたくじゃなくて…まさにそのまんまじゃないか。

 

「それがそうとも言えんくての。大きく違う所は、規制が厳しいという事と、こちらの言う事を聞いてもらわなければならないということじゃな。」

 

めんどくさそう…

 

「そう言わんでくれ。まず規制についてじゃが、能力の制限じゃな。良くある他の世界の技術や技魔術などは原則としてもって行けん。つまり他の世界にFateの法具は持って行けんし、特殊能力とかも無しというわけじゃ。」

 

なんていうか、すでに死亡フラグが立ってる気がするんだけど?

 

「そうかの?あれらは言ってみれば、強くなるための付属にすぎん。強くなるのに最も必要なのは己が肉体と努力。…そして何より強くなりたいと思う意志の強さじゃよ。それに、別に才能を与えてはいけないと言う事ではないから、そう深刻になることもないじゃろうて。次に、こちらの言う事を聞いて欲しいということじゃが…これは今から生み出される世界によって違ってくるのでな。今はどうすればいいとかは言えん。でもまぁ、どんな世界に行ってもやってほしい事の一つは決まっておる。ハッピーエンド。これだけは実行して欲しい。」

 

それはあたりまえだろ?誰が好んでバットエンドなんかなるかよ。

 

「ま、そうじゃろうな。では、あらかた説明が終わった所で…お主が行く世界を教えよう」

 

いよいよか…柄にもなく緊張してるな。

出来れば知ってる世界が嬉しいが…

 

「お主が行く世界はネギま。魔法と科学両方が存在する面白い世界じゃ!!」

 

へ~ちょっと嬉しいかもしれない。まぁこれが本当のことだったらだけどね。

 

「なんじゃ。まだ疑っとるのか?…まぁそれが普通かの。で、じゃ。そこでお主はハッピーエンドを目指す事になるのじゃが、それを達成する為に、幾つかの力を授けようと思う。さて、まず最初はお主の力…つまり魔力とか気の力のことじゃな。すまんがこれはお主の意見は聞けん。ベースの強弱を壊されてしまっては意味がないのでの。」

 

まぁ確かにチートって奴にあこがれはあるけど、チートすぎるのもどうかと思うから別にいいです。

 

「良い心がけじゃの。さてまずお主の魔力じゃが、最終的にはナギと同じくらいにはなれるが、初期は赤き翼のアルより少し下と言う程度にしておく。そして気も最終的にはラカンより少し下と言う程度にはなるが、最初はガトウより下と言うところになる。」

 

えーそれってすでにかなりのハイスペックじゃないですか。チートにはしないって言ってたのにどういうことですか?

 

「それは仕方がないんじゃ。お主が飛ばされるのは丁度世界大戦の真っ只中。それくらいないと一人では生きていけんからの。それに無敵と言う訳でも無いし、ちゃんと修練しなければ宝の持ち腐れになるだけじゃから。世間一般的なチートとはまた別モノじゃろうて。で、次なんじゃが、お主の能力についてじゃ。何か希望はあるかの?」

 

希望ねぇ…じゃあまず自分でオリジナルな魔法をつくってみたいかな。後はエヴァを人間に戻してやりたいんだけど…それも出来るのか?

 

「オリジナルについては魔法の才能をつけておく。それで大丈夫じゃろう。そして…エヴァを人間に戻したいと言うことじゃが…これも大丈夫じゃな。ただそれ単体の力というものは、ほぼ無意味になってしまうから、呪いも結界も状態異常も治せる力を授けることにするぞ。他にはあるかの?」

 

他…他…あ!ちょっと聞きたいんだけど、他の世界の技はもっていけないってことだけど、あっちで自分で再現するっているのはありなのか?

 

「ありじゃな。それに技と言ったがそれは特殊な力を用いなければ出来ない技。例を挙げるならNARUTOの血継限界を用いた技のことじゃからな。普通の武術や他の力で代用可能なものならいけると思うぞ?」

 

なら俺、銃闘技を使ってみたいんだけど…それは大丈夫なのか?

 

「む!それはなかなかマニアックな…。若い世代など知らんじゃろおそらく。まぁいい。それについては可能じゃ。グレーゾーンではあるが、あれは特殊な鍛錬を用いる事によって、できるようになる技じゃ。ブラットバーン…セカンドスキルについても才と言うほどのものじゃないから別にかまわん。しかし、ブラックアウトとかはちゃんと起こるから注意が必要じゃけどな。気を用いれば強力な武になるじゃろうて…。まぁその分鍛錬はつらいものになるじゃろうが…そこはお主次第じゃな。それじゃ、そのために必要な武の才とついでに知識を授けておこう。鍛錬方法も必要じゃし、原作にも詳しくは書かれてなかったからの。…あぁサービスとして他の世界の武術の知識も与えておく。どう使うかはお主しだいじゃ。」

 

おお!!それはうれしい。あ~あと一つだけ欲しいんだけど闇の魔法と感卦法を一緒に使える技みたいなのがほしいな。これってやっぱり無理?

 

「む~。なかなか難解なことをいうな。じゃができない事はない。ただしそれ相応のデメリットは存在する事になるがかまわんか?」

 

まぁそれが無いともう人じゃなくなるから仕方がないと思う。

 

「この考え時点ですでに人の道から外れる事になっておるんじゃが…まぁ良い。あくまでネギまの世界にのっとった力じゃからあの世界でももしかしたら実現可能かもしれんからな。さてその力については了解じゃ。詳しくはあちらに着いたときにポケットに紙を入れておくのでそれをみてくれ。あと名前じゃが…然となずけるが良い。これはネギが開発した太陰道よりもっと進んだ技法じゃ。これぐらい大それた名をつけてもよいじゃろ。」

 

分かった。これで十分。他はいらないよ。

 

「言われんでももう無理じゃよ。あぁこれは必要として授けるのじゃが、練金の知識と才もつけておく。銃闘技についても然についても、ある程度実戦で使えるようになるには時間が必要じゃ。魔法球があれば効率よく出来るし、魔法媒体も自分でつくらんと手に入れるのは苦労するじゃろうからな。」

 

それはありがたいね。…ってなんか話進めちゃったけどこれは実は夢でしたっていうオチはやっぱり無いわけ?

 

「ないぞ?それじゃ送るから達者でな」

 

え…いやちょっと…まって…いや…まってくだs……

 

こうしてこの話の主人公こと伊達武はネギまの世界へと旅たつのであった。

そこに待ち受けるのはどんな物語なのか…

 

それでは我拳は銃なりて…その物語を始めましょう。

 

 

 

 

「いったの。ワシはもう見守るしか出来ん。お主の未来が幸あらんことを。」

 

「あ、最初の課題いい忘れたの。まぁ……紙で指令を送ればよいか…さて次の案件は………」

 




最後まで見ていただいてありがとうございました。

感想・メッセージお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話:親友登場!その名は龍牙!

ん…ここはどこだ?

確か俺死んで………!!!!

 

「あ゛ーーーー!!俺死んだってやっぱりマジだったのかよ!!っていうかあの神、もっとこうなんかあるだろ普通。死んだから他の世界に転生しろ!?そんなんで納得できるかーーー!!!!」

 

かーー

かー

ヵー

………

 

「………と言っても、今更仕方が無いんだけどね。まぁ、いきなり飛ばされるとかよりはマシなのかなぁ。はぁ…とりあえず現状確認だな。確か手紙かなんかが、俺のポケットに入っているって言ってたよな。…見てみるか。」

 

~神の手紙~

 

この手紙を見ておるという事は、無事に転生できたという事じゃな。

さて、もう一度言うがそこはネギまの世界じゃ。時代的には世界大戦真っ只中。赤き翼にラカンが加入する少し前といった所になる。まず、お主にはラカンと一緒に紅き翼に入り創造主を倒してもらう事になる。もちろん今のお主の力ではどちらも達成できんじゃろうから、自身を鍛える必要がある。その為ラカンが加入する2~3ヶ月前に降りてもらうことになった。

近くに荷物があると思うが、その中には魔法球を作るための材料と、魔法媒体を造る為の材料が入っておる。それと、魔法球に入っても歳をとらなくする魔導具の材料も、入っておるからうまく活用してくれ。少し歩けば町へ行けるし、すぐ近くに洞窟があるからそこで己自身を鍛えるが良いじゃろう。

3ヶ月たった後、近くの町にラカンと、紅き翼を倒して欲しいという依頼人が現れる事になっておる。そこから原作に介入して欲しい。町に行けばそのまま自然に介入できるはずじゃ。

ただし!!その時にどうしてもラカンと戦わなくてはいけなくなるため、可能な限り力をつけておく事じゃ。(実戦については心配ない。洞窟には誰も来る事は無いが、近くの森には幻獣など数多くの生物が生息しておる。そこで実戦を経験し、なれることじゃ)

ちなみにお主の年齢は14歳となっておる。それとあくまで不老不死ではないから、死なないよう注意するように。

二枚目にはお主が望んだ”然”の詳しい内容とデメリットが書いてある。それと言ってから思い出したのじゃがいくら魔法の才があっても知識がないと意味が無いので、魔法のことも少し記載しておいた。それ以上は誰かに教えてもらうように。手助けしようにも、もう送ってしまった後だったからそこら辺は納得して欲しい。

そして三枚目は、地図と今この世界の情勢が書いてある。あって損は無いはずじゃから使ってくれると嬉しい。

最後に、この世界では魔法世界がつくられた世界というわけではなく、ちゃんと生きておる。創造主とかは原作と同じ知識しかもっておらぬのでそうとは気付いておらんはずじゃ。なので心配せんでもよろしい。

ではお主の未来が幸福でありますように…

                                              神

~神の手紙・終~

 

「………ん。ちょっとはいい人?じゃん。何も分からないままと言うわけでも無さそうだし、いきなり原作介入なんて無茶な事も言わないから、ちょっとは感謝してもいいかもしれない。さてと…」

 

俺はそう呟いてあたりを確認すると手紙の通り近くに大きなバックとそのすぐ後ろには洞窟があった。おそらくこれが手紙に書かれていた物なのだろう。なので俺は、手紙に書いてあった通り、バックを持って洞窟へと入り、まずは自分を強くする為の環境作り…。そう魔法球の製作に取り掛かるのであった。

 

……ネギまの世界に着いてから一日が経過した頃。やっとの事で、魔法球を作り出すことに成功した。知識とかは何がつくりたいかを考えれば、頭にその答えが浮かび上がってくる感じだった。その感覚になれなくて、最初は違和感ありまくりだったが、魔法球を作っていく過程でその感覚にも慣れていき、最後の方には全く違和感が無くなっていた。魔法球自体は、プラモデルでもつくっているような感覚で、つくっておいたパーツをくみ上げていくだけなので、大して時間が掛からなかったが、魔法を発動する為の、呪文(と言うよりはおそらく式(しき)とか魔法円の方が近いかもしれない)を込めたりするのに慣れていないせいか、思ったよりも時間が掛かってしまい、結果一日が経過してしまった。

ちなみに、飯はバックの中に多少のお金があったので、地理の把握と本当にこの世界は自分が暮らしていた世界と違うのかを確かめる為に、近くの町へ行って買ってきた。

そして、町に行って今更だが、本当にネギまの世界に来たんだな~と実感してしまった。

見知らぬ土地で目が覚めた事と、神様の手紙で覚悟はできたはずだったが、やっぱり少し心細くなってしまったのは、仕方がない事だと思う。

 

「さてと…。魔法球は出来たし、中の時間も一時間を一日計算にした。後はどうしようか…」

 

そう言って少し考える。確かに、魔法球は出来たが、その中にはまっさら土地があるだけ、建物はおろか森も川も無い。そんな場所に行った所で、良い鍛錬は出来ないし、第一生きていける気がしない。なので、設定を少しいじり中に森とか川…更には滝まで作ることにした。森ができるまでは時間が掛かるらしくそれまでは中に入ることは出来なかった。

 

「こうして待っているだけってのも時間の無駄だな。どうせラカンと戦うのは必然なわけだから、少しでも早く鍛錬を開始するか。とりあえずは銃闘技を習得しないと…」

 

俺は頭の中にある銃闘技習得の鍛錬を開始し、その鍛錬のきつさに涙するのであった。

そして更に一日がたち……

 

「いたたた…全身…特に腕の筋肉痛がひどいな。まぁ仕方が無いのかもしれないけど。とにかくこれでやっと魔法球に入れる。歳のとらない指輪も出来たし準備万端だな。さて…いっちょ気合入れていきますか。」

 

これから待ち受けるきつい鍛錬に心が折れないように、明るく振舞って心を奮い立たせる。

そして中に入って最初にやった事といえば………自分が住む場所。つまり建物の建設だった。

 

以外にもそれが良い鍛錬になり、更に言うなら気の運用の仕方も学べたため良い経験になったと思うようになったのは鍛錬を始めて少したった後だった。

 

――ここよりは修行のダイジェストとなります。

 

銃闘技の修行

 

「120…121…ってなんで腕立てじゃなくて拳立てなんだよ。拳立ては骨に異常を起こすとかどっかの情報で耳にしたことがあるぞ!?」

 

「…ていうかいい加減拳立て飽きたんだよ。もっと他の鍛錬法とかねーのかー!!!!」

 

銃闘技をマスターするために拳立てをしていてあまりの地味さに発狂しかけている主人公こと武…だからと言って拳立てをやめない所は素直というか真面目と言うか……まぁただやる事が他に無いだけだからがもっとも有力だろうが…。それを言ってしまうとさすがに武がかわいそうだろう。

 

魔法の修行

 

「プラクテ ビギ・ナル”火よ灯れ”!!………って火ともんねーーーー!!」

 

「ああ…いい加減灯りやがれ!!!」

 

ボオオオオオオ……

 

「ケホッ……うん。まぁ魔法って危険だな。いい加減にやっちゃこっちの身が持たない。慎重にやっていこう。……じゃないとこれは軽く死ねる」

 

初級の魔法も出来なくてイライラしていた所。魔力が暴発してしまい漫画でよくある真っ黒になった武。これを気に慎重に魔法を使う事になる。

ちなみに、この時初めて漫画のおなじみの展開ができてちょっと感動してしまったのは仕方がないと思う。

 

初実戦

 

「なんだ…初めてだから大変だと思ったけどそうでもないかな。ま、こんな感じならよゆーだね。」

 

ポタ…ポタ…

 

「ん?雨か?なら今日はこれくらいにして……………は?」

 

「いや…あのね。確かによゆーとかいって調子のったのはいけないと思うよ?でもさ…なんでここで竜がでてくるのかなぁ。……しかも俺の事なんかロックオンしてない?いやいや…あれですよ。俺なんか食っても美味しくないし、第一貴方の大きさじゃ俺を食っても腹膨れないでしょ?だから…その………逃がしてくれませんかね?」

 

グオォォォォォン

 

「ヤッパムリデスカーーータスケテクレーー」

 

調子に乗って森奥に進んでしまい。竜とエンカウント必死に逃げて何とか逃げ切れたのは良かったけど、それ以降何故かエンカウントしやすくなってしまった。

ある意味主人公の宿命。ちなみにそれ以降しばらく森に入れなかったのだが、それは仕方がない。

 

 

 

そしてあっという間に時間は過ぎていき、武がネギまの世界に来てから3ヶ月が経過した。

 

 

「ふう…。いろいろあった3ヶ月とうとう原作へ介入か……思い起こせば………うん。つらかった思い出しかないな。強くなるために篭りっきりだったからなぁ…あまりに人と喋らないから幻獣に話しかけてしまった時は……今考えると末期だったんだろうな。」

 

目を細めてそう呟く。

何故か涙がこぼれ落ちているのはこの際気にしてはいけない事なんだろうと思う。

 

「まぁいいか…そのおかげで幻獣と実はお話ができる事がわかったし、ほとんどストーカーみたいに俺を追い回した竜は恋人に振られてやけになってただけらしいし……ってあれ?俺って一歩間違えれば竜の奥さん貰ってたわけ?…………考えるのはやめよう。涙がまたあふれそうだよ。」

 

必死になって考える事をやめ、涙を堪えていると自分のすぐ下から声がかかる。

 

「どうしたん?タケやんそろそろ向かわんと今日までに町につけへんで?」

 

そう声をかけてきたのは幻獣達が住む森で仲良くなった一匹の虎。

変な関西弁と人懐っこい正確から龍牙(りょうが)と名前をつけた。愛称は龍ちゃん。

 

出会いは最初話しかけてしまったのがこの龍ちゃんで、話している中で妙に馬が合いそれからは一緒に行動を共にしている。話を聞くと幻獣の中には、人に化けれるモノもいるらしいのだが、それには歳を重ねないといけないらしく、現在の龍ちゃんには無理との事。だけど、体自体を小さくしたりするのは可能なので、前に一緒に町に行った時はぬいぐるみサイズになって、肩に乗っていた。

ちなみに、戦闘能力はかなり高い。

おそらく、それなりに強そうな魔法使いや、最高位レベルの幻獣以外なら、おそらく倒す事ができるだろう。

そんな龍ちゃんとのケンカの成績は、50勝49敗と勝ち越しているが、お互いに本気でやりあうとかなりやばい事になる為、最初の一回以降全力ではやっていない。

 

「いやな。ちょっとこれからのことを考えてただけだよ。」

 

「ふ~ん。でもタケやん。そんなちょっと、かっこよさげな事言っても、二枚目にはなれへんで?」

 

「なっ…!!おいおい龍ちゃん…俺はどうみても…」

 

「三枚目やで♪」

 

「ムカッ!!てめっ!!今日こそその減らず口閉じさせてやる!!」

 

「やれるもんならやってみいや~!!!!」

 

 

 

――しばらくケンカしておりますのでしばらくお待ちください――

 

 

 

「はぁ…はぁ…龍ちゃん。なんかもうどうでもよくなったから、そろそろ行こうか?」

 

「せやな。暗くなる前にいこか」

 

ぼろぼろの体を引きずりながら町へと向かう一人と一匹。

 

これからもっと大変な事が起こるというのにこんな調子で果たして大丈夫なのだろうか?

 

とにかく話は進みとうとう原作介入へ…

 

筋肉バカ登場まで後もう少し

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話:仕事の依頼

タイトルとかは、前と違っています。
内容はOTRと同じですが…。


神様が残してくれた手紙の通り、3ヶ月後、俺とその相棒である龍ちゃんは、ラカンと出会う予定になっている目的の町に到着していた。

到着した俺達が、まず最初にした事。…それは、ラカンの情報を得るために酒場へと向かう事だった。

 

酒場に着いて、適当にお酒を頼むと、俺達は人から少し離れたテーブルに座り、二人で注文したお酒を飲んでいた。

ちなみに、龍ちゃんは今ぬいぐるみサイズになっている為、テーブルの上に座りお酒をなめている状態だ。それがちょっとかわいく見えてしまうのはおそらく俺の気のせいじゃないだろう。

何せ、酒場に来ていた女性の客なんか、目をうっとりさせて龍ちゃんを見ているのだから…。

そんな、女性の視線をひしひしと感じながら、二人してお酒を飲んでいると、周りを警戒しながら龍ちゃんが話しかけてきた。

 

「なぁなぁタケやん。ここにその…、ヤカン?やっけ?そいつが来るんか?」

 

「ラカンな。…まぁ、予定ではそうなってるっぽいんだけど…実際はわからん。」

 

「そうそうラカンな。…でも、わからんとか。いい加減やな。大体なんでそいつに会わなあかんのや?」

 

「……龍ちゃん。最近帝国と連合が戦争してるのは知ってるよね?」

 

「まぁ、それぐらいはな。いくら幻獣のワイでも知っとるで?何時の時代も、人間っちゅうもんは争うのが好きな種族やの。いい加減あきへんのかな?」

 

「耳に痛い話だけど、それは無理だと思うよ。…それでね。ちょっと事情があって、その戦争を起こしている奴を叩き潰さないといけないんだよ。んで、そのラカンっていう奴と一緒に行動していけばその内、そいつにぶつかる可能性が高い。だからラカンに会わないとといけないのさ」

 

「ふ~ん。正直な話、いろいろ納得できへんけど…。まぁ、タケやんがやらなあかん事やったら、ワイはそれを手伝うだけや。」

 

「すまんな。龍ちゃん」

 

「ええて。…ただ何時でもええ。タケやんが、秘めとるもん教えてな。一人で抱えてもええことなんてたぶん無いで?」

 

「ありがと…。でも、虎に慰められるなんて…人としてどうなんだろ。」

 

「虎は虎でも、タケやんよりよっぽど歳をとっとる幻獣じゃ!!大体ここでそんな発言かますから二枚目やのうて、三枚目やっていうんやで!!」

 

「んなっ!!今ここで、そんな話題出す必要ないだろうが!!」

 

「なんやまたやるんか!?さっきので、懲りたとおもっとったんやけどな。」

 

「フフフ…人の恐ろしさその身におしえこんだるわーーー!!!!」

 

 

――――ただいまぬいぐるみサイズの虎と本気《マジ》ケンカ中――――

 

俺と龍ちゃんがしばらくケンカをしていると、その光景を遠巻きに見ていた一人の男性が、こちらに向かって来ているのが、気配と横眼で確認できた。龍ちゃんも、それに気付いているようで、俺に目で“どうするん?”と訴えてきたが、相手の目的も分からない状態で、下手に行動しても、あっちに警戒させるだけだし、俺としては、この状態でなぜ近づいて来たのか理由が知りたかったので、龍ちゃんと目配せをして、ケンカを続ける事にした。

すると、やっぱり目的は俺達だった様で、まるでケンカの仲裁をするかのように、その男性が話しかけてきた。

 

「もし…ちょっとよろしいか?」

 

「なんや!!ワイらは今取り込み中じゃ後にせんかい!!」

 

「あほか!!初対面の人になんて口をきいてやがる!!…すいません。このアホ虎が失礼な事を」

 

「いえ、かまいませんよ。やはりその虎は幻獣だったのですね。それよりも、貴方とその幻獣はなかなかのウデとお見受けしました。」

 

「ほほう…。おっちゃんワイらに目をつけるとは、なかなかええ目もっとるやないか。」

 

「お…おちゃ…んん。まぁ、それでなんですが、少し仕事を頼まれてもらえないでしょうか?」

 

「仕事?いきなりですね。しかも、自分で言うのもなんですが、身元もさだかでない人ですよ?」

 

「それは別にかまいません。むしろその方が好都合です。実は、少しでも今回の仕事が成功するように、いろんな人に声をかけておりますので…。もし仕事を請けてもらえるなら、今日の夜中、町の中央にある酒場まで来てくれませんでしょうか?仕事が成功した場合、かなりの金額の謝礼を約束します。それでは」

 

用件だけ伝えると、その男性はこの酒場から出て行った。

その男性が出て行った後、俺たちはケンカをやめて、最初と同じように座り、何事も無かったかのようにまた酒を飲み始める。

ケンカしたせいで、酒場のマスターから凄く睨まれてしまい、迷惑料として少し多めにお酒を注文したのは、当然の配慮だろう。

決して、マスターが怖かったからじゃない。

…怖かったからじゃないからな!

……おほん。それは兎も角として、俺達は新たに運ばれてきたお酒を飲みながら、さっきの男性が言った事について龍ちゃんと相談する。

 

「にしても仕事ね。なんつうか、こうフラグがビンビン感じるんだけど?」

 

「フラグなぁ…。それはつまり、あの男について行けば、タケやんが言とった、ラカンっちゅう奴に会えるって事か?」

 

「確証はないけどね。」

 

「ふーん。まぁ…、そういう感的なもんは、大体あっとると思うで?」

 

「と言うと?」

 

「ワイは人より鼻が利くから分かるんやけど、血の匂いがしたわ。少なくとも、力仕事とか、人探しなんかみたいな、まともな依頼やあらへんやろ。それに、タケやんが言っとったラカンは、傭兵なんやろ?なら、戦いと血の匂いがする場所におるんやないか?」

 

「なるほど。その予想には、かなりの説得力があるね。…でも、龍ちゃん。何、今更頭良いみたいなキャラつくってんの?ぶっちゃけかなり似合わないぞ?」

 

「これが普通や!!…まったく。たまに真面目に話したらこれかい」

 

「すまん、すまん。おもわず…」

 

「まぁええわ。もうケンカする気もおきんわ。…今日の夜は、いろいろ忙しくなるかも知れんからなぁ…」

 

「……そうかもね。」

 

龍ちゃんの言葉に頷きながら俺は、お酒の入ったグラスを口に運んだ。

そして、改めて今日の夜の事について考えてみる事にした。

 

もし、これが龍ちゃんが言った通りの仕事の依頼とするなら、俺には一つだけ心あたりがある。

それは、ラカンが“紅き翼”に加入する事になった最初のきっかけ。

ラカンが、“紅き翼”をつぶすように仕事を依頼された出来事だ。

詳しい時期とかは、全く覚えていないけど、神様が言っていた事が本当に起こるとするなら、まず間違いないだろうと思う。

だた、神様はこの街でラカンと合流しろと言っていただけで、詳しい事は何も知らされていないから、間違っているのかもしれない。

…けど、何となく予感がした。

俺が、あの原作でも最強のパーティーとして名高い“紅き翼”と出会う日はもうすぐそこまで来ているのだと…。

 

「ああ…そや。それとやな。あの男、亜人やったで?それも血の匂いの他にも、いろんな匂いがしたからな…。結構いい所の出やないかな?おそらくは…」

 

「…帝国の人間だって言いたいんだろ?」

 

「まぁ、そういう事やな。んで、改めてどうするん?あの男から得た情報を総合してみると、十中八九戦争に介入する事になるで?どう介入するとか、どこまで深く関わるかは実際に話を聞いてみんとわからんけどな。」

 

「…龍ちゃんには悪いけど、行くよ。ラカンに会うチャンスだし。……それにどの道俺は戦争に介入しないといけないからな。」

 

「…そっか。なんやわからんけど、やっぱりタケやんにも、いろいろ事情がありそうやな。…ま、それをワイに教えてくれんのは少しさみしいけどな。」

「…ごめん。」

 

「ええて。さっきも言ったけど、ワイはタケやんが話してくれるまで待つわ。…それとや。ワイに悪いとか考えんでええ。…ワイはタケやんと一緒に居たいからここにおるんやし、いややったら最初から言うとるわ。」

 

「そっか。…なら、ありがとな。」

 

「おう」

 

心の中で改めて、龍ちゃんと友達になれた事を感謝しながらお酒を飲んだ。

その後は、約束の時間までまだ、かなり余裕があったので二人して他愛のない雑談をしながら酒盛りをしていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

しばらくして、約束の時間になった俺と龍ちゃんは、あの男が待っていると言っていた、中央にある酒場へ向かっていた。

詳しい場所は聞いていなかったので、人に聞かないと分からないかもと思っていたが、中央に着くと、少し大きな酒場の前で、先ほど声をかけた男が入り口に立っていた。

その男は、俺達を見つけると、手を振りながらここだと俺達を呼びよせた。

 

「おお…。お待ちしておりました。きっと貴方様方なら着てくださると思っていました。」

 

「まぁ、俺達もお金欲しいからね。お金は大事だよ」

 

本当の目的は、そこに集まる人…ラカンなのだが、この男にそれを言う必要はないので、適当に出まかせを言ってごまかす。

すると、その男は俺の言葉を信じたのか、何の疑いもせず俺達を中へと案内し始めた。

 

「それは結構。それではご案内します。…他の皆様はもうこちらにいますので。」

 

そう言って店の中に入っていくと、そこにはあきらかに普通の客じゃない人達であふれていた。

何せ全員が全員、武器を持っており、体つきもそれなりに鍛えられていた。

おそらくほとんどが傭兵なんだと思う。

 

「ふ~ん。確かにいろいろあつまっとるなぁ。でも皆なんか弱そうやで?」

 

「こら龍ちゃん。そんなほんとの……げふん。そんな失礼な事言ったらいかんだろうが。」

 

「だってやな~タケやん」

 

小声で龍ちゃんがそう俺達にそう言ってくる。

確かに、そんなに強そうには見えなかった。

傭兵として、おそらく何回も修羅場をくぐってきてる人達なんだろうと思うが、どうしても俺より強そうには見えなかった。

…今まで戦ってきた相手が幻獣ばかりだったから、俺の感覚がマヒしているのかも?

そんな事を考えていると、いつの間にか、後ろに人が居たらしく、しかも俺達が小声で話していた事が聞こえていたのか、いきなり会話に参加してきた。

 

「その虎の言う通りだな。こんな足手まとい達と一緒に仕事なんてしたくねーぜ。」

 

『は!?』

 

「兄ちゃんもそう思ってんだろ?」

 

そう俺達に笑いかけてきたのは……俺が探していた人物。

 

「千の刃」「死なない男」「伝説の傭兵剣士」といわれる事となるジャック・ラカンその人だった。

 

「それよりも兄ちゃん。俺様といっちょ戦ってみないかい?」

 

俺達が驚いていると、それをまるで無視するかのように話を進めるラカン。

しかもはたから見たら笑っているのに、目が笑ってない。

それどころか俺達にぶつけてくるかのように闘気をだしてきた。

 

「いやいや。俺なんてあんたには敵わないし、弱いからやめておくよ。」

 

「HAHAHA!下手な謙遜はよくねーぜ?弱い?よくそんな事が言えるな。俺様の闘気を難なく受け止めていやがるくせによ。」

 

「これぐらいなら誰でもできるだろ?」

 

「誰でもねぇ…ならお前の後ろの連中はどう説明するんだ?」

 

そうラカンが指摘し、俺も後ろを振り返って見ると、さっきまで騒いでいた連中全員が机に突っ伏して眠っていた。仕事を依頼してきた男も同様だった。

するとラカンが依頼人の男に近づいて何かを確かめる

 

「あ~こりゃダメだな。明日の昼ぐらいまではおきねーわ(笑)ってことは…だ。これからは暇になったってことだろ?」

 

そう言ってこちらに向かって笑いかけてくる。

ていうか、絶対にわざとだろ。そうなんだろラカン!!

 

「はぁ…強引だな。そんなに戦いたいのか?」(まぁここでなんやかんや言っても戦うのは決まってるんだろうけどね。…にしても展開が強引な気がするな。…いやある意味らしいのか?)

 

「おほっ!やる気になってくれたのか?いいねぇ~。俺様は戦いがいのある奴と戦うのが大好きなんだよ。」

 

「でも一つだけ聞かせてくれ。何で俺なんだ?」

 

そう、いくら神様が仕組んでいた事とはいえ、何故俺と戦いたいと思ったのか?

その答えが気になった俺は、ラカンにそう聞いてみる。

 

「そりゃ~俺様がすげーからだよ。」

 

「は?」

 

「俺様ぐらいつえー奴になると、そいつがいくら隠していようが、その強さが大体分かっちまうもんなんだよ。兄ちゃんの肩に乗っている虎もかなりつえーだろうから戦ってみたいが…、それよりも気になるのはお前だ。まだ大して歳いってねーくせに、その身からにじみ出ているのは、まるで何年も愚直に目指す物を見据えて鍛え上げた男しかだせねー様な闘気だ。それに、さっき威嚇のつもりで闘気を出したっていうのに、それをまるで何も無かったかのように受け止める胆力。気になるなって言う方がおかしいと思うぜ?」

 

「なるほど」(あれ?なんかイメージと違うな。ラカンってもっとバカっぽくなかったけ?)

 

「ま、それでも俺様の方がつえーけどな。HAHAHAHA…」

 

「そうですか」(あ…いややっぱりバカだわ)

 

「なーなー。タケやんが戦わんのやったらワイがやってもええで?」

 

「お!?それも面白そうだな。」

 

「龍ちゃん!…お前いつの間にそんなバトルマニアみたいな事を言うように…」

 

「いやいや…そんなわけないやん。でもな?こんな正面きって戦えなんて言って来る奴、そうはおらへん。なら正々堂々戦ってみるのもええんと違うか?」

 

「ほ~う。良い事言うじゃねーか!」

 

「龍ちゃん………。一人で男振り上げてる様だけど、それは許さんぞ?」

 

「だ・か・ら・!なんでタケやんは、こういう所でそんな発言がでるねん!ワザとか?ワザとなんやな!?それともワイにケンカうっとんのかい!!」

 

「いやそんなつもりはねーけど。…なんか気になって。」

 

「はぁ~。…だからタケやんは、三枚目や言うんや。ほんまこのバカは…。」

 

「なんだって!?バカとか言うな!!そっちこそケンカうってんだろ!?」

 

「なんや、このにーちゃんとやる前に、のしたってもええんやで?」

 

「上等だコラ!やってやんよ。」

 

売り言葉に買い言葉。

おそらく今の状態を表すと、この言葉がピッタリだろう。

おたがいにガンを飛ばしあって、今にもケンカが始まりそうになっていると、ラカン笑い声がまた酒場に響く。

 

「HAHAHA!本当にお前らおもしろいな。ケンカするなら俺様もまぜろや。」

 

「じゃ町の外に出ようか。そこで決着つけてやる。」

 

「望む所や!!土下座して“ごめんなさい”言わしたる!」

 

「どこでもいいぜ?どうせ俺様が勝つんだからよ」

 

そうお互い言い合って、俺達は町の外へと向かって行った。

ちなみに酒場で突っ伏していた人達は、俺達のケンカが終わるまでずっとそのまんまだったらしい。

後から聞いてちょっと申し訳なくなってしまった。

まぁ龍ちゃんとラカンは笑ってたけど…。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話:男達の言葉

~ラカンside~

 

俺様の名前は、ジャック・ラカン無敵の傭兵だ。

最近俺様が強くなりすぎちまったせいか、戦える奴がいなくて暇してた時に、知らない男から声が掛かった。昔からいろんな仕事をしてきたせいなのか、それとも奴隷闘士の頃に培った勘が教えてくれたのかはわからねーが、男が話してきた仕事は今までやって来たどんな仕事よりもやばそうな感じがビンビンときた。

だけど、それこそ俺様が求めていたことじゃねーか。

つえー奴と戦える。そしていっぱい謝礼がもらえる。

…それに、やばそうな感じの他にも、行くと俺にとってかなり嬉しい事が起こる予感がしたんだ。

だからこうして、言われた場所に足を運んでみたんだが…正直落胆した。

俺の勘を信じるなら、この仕事はかなり危険なモノになる。だから、少しでも確率を上げるために人を集めるのは間違っちゃいない。

けどなぁ…。今ここに集められている奴らじゃ、意味がねぇ…。

強さも平均して、大した事が無いし、何よりこいつらの目。

全員が全員、もうすでに仕事が成功した気でいやがる。経験上、こういった目をしている奴らは、多分俺様の邪魔をしてくるだろう。

そう思うと、いくらつえー奴に会えるかもしれないとはいえ、この仕事を受ける気がしなくなっていた。

 

「…帰るか」

 

そう俺様は呟き、席を立ち出口に向かうという所で、思わず立ち止まってしまった。

なぜなら、新たに依頼人の男に連れられて入ってきた奴は、人間ではおそらく初めて感じるぐらい最初から“強い”と感じさせる奴らだったからだ。

依頼人の男に連れられてやってきたのは、一見ガキと小さい虎。

だが実際はそうじゃねぇ…。俺様だから分かるんだろうが、なんて力もってやがる。

一目見ただけで分かる。

あの存在感。しかも肩に乗ってる虎まで強そうじゃねえか…。

クククッ…さすが俺様。良い予感ってのはこの事か。…まさかこんな大物が現れるなんてよ。

あーもう我慢できねぇ。戦いてぇ…。

 

そう思うと、いつの間にか体が動いてそいつに喋りかけていた。

 

さて、どうやって俺様と戦うように仕向けようか…。

久しぶりにマジケンカできるかもしれねーな。

とにかく楽しみだぜ

 

~ラカンside終~

 

~武side~

 

予定通りにラカンと出会い、なんかいつの間にかケンカすることになっていた俺達は、町の外の荒野まで歩いていた。

そしてある程度、町から離れた所に着くと、龍ちゃんが俺の肩から降りる。

そして元の姿に戻っていた。

 

「お?お前さん幻獣だったのか?通りで…。小さい虎のくせに存在感がハンパじゃねーわけだぜ。」

 

「まあな。普通ならワイのこの姿を見せるんは、人ではタケやんだけで、それ以外見せる気なかったんやけど、にーちゃんならええかと思うてな。」

 

「ははは!そう言ってくれるのはうれしいぜ。俺様の名前はジャック・ラカンって言うんだ。ジャックでもラカンでも好きに呼んでくれ。」

 

「わかったでラカン。ワイの名前は龍牙や。そっちも好きによんでええで?」(なるほどコイツがタケやんが言ってたラカンか…。…強いな。おそらくワイたちよりも…。)

 

「さて。ケンカするんだろ?どうすんだ?俺様は二人がやりあった後でもかまわねーよ?」

 

「いや、それにはおよばねーさ。さっきは龍ちゃんとケンカごしになっちまったけど、俺達はいつでもできる。それに……せっかくの客をもてなさない訳にはいかねーだろ?」

 

「そやな。……タケやん今さらキャラ変えてもしょせんは三枚目や、あきらめ。」

 

「おまっ…いいかげんにしろよ?少しは俺にも決めさせろって。」

 

「HAHAHA…本当にお前ら仲いいな。」

 

「まあな。」

 

「たぶんほめらてへんで?」

 

「!!……まぁいいやともかくケンカしようか?」

 

そう言うと、俺は気持ちを戦闘状態に持っていく。

殺し合いとかは正直好きになれないけど、ケンカなら別。

俺も龍ちゃんとケンカしてるうちに、いつの間にかバトルマニア見たくなっちまったな。

 

「お!なるほど、それがお前の本性か。いいねぇ…さすが俺様だ。目に狂いはねえな。だけどいいのか?二人してかかってきてもいいんだぜ?」

 

「はっ!それはねえよ。相手が一人っていうならこっちも一人でやるのが普通だろうが。ケンカっていうのは対等な立場にあって始めて同じ土俵にたてるんだからな。それに……ケンカはタイマンが一番おもしろい!!」

 

「ま、そういうことや。心配せんでもワイも後で戦うで。」

 

「言ってくれるじゃねえか!俺様ほどじゃなくても兄ちゃんかっこいいぜ?もう一度自己紹介させてくれ!俺の名前はジャック・ラカン!…さぁ兄ちゃん名前おしえてくれよ!」

 

「はは…。ありがとよ。…俺の名前は伊達武。こっちの言い方ならタケル・ダテって所か」

 

「ハッ!タケルか…じゃそろそろ始めるかタケル!!」

 

「おう。戦闘開始《オープンコンバット》だ!!」

 

~武side終~

 

~全体視点~

 

最初に仕掛けたのは武だった。

まるで狙撃するかの様な姿勢をして、ラカンに向かって、拳を打ち出して行く

 

「うお!何だこれ?拳が飛んできやがった。気弾ってやつか?」

 

「似てるけど違うよ。」

 

これは銃闘技にある3っつの基本姿勢の内の一つ。

 

銃闘技『遠距離姿勢〈スナイパー・ポジション〉』

 

そこから撃ち出されるのは、通称“ガンブレット”という技である。

血液を用いた技で、簡単に言うなら気を使っていない気弾である。

 

「だけどこんな攻撃へでもねえぜ!!」

 

そう言ってラカンは、武から打ち出させるガンブレットと次々と討ち落としていく。

 

「そんなもん。最初から分かってるよ。」

 

武はそう言って、また姿勢を変える。

今度は、先程とは違い前傾姿勢となり、ラカンの懐目掛けて飛び込んでいく。

 

銃闘技『突撃戦闘型〈アサルト・ポジション〉』

 

そこから繰り出される技の名前は、ガン・ダイヴァー。

 

強く踏み切り、相手に向かって突進を仕掛け、そのまま攻撃する技である。

この技は利点は、このまま攻撃してもいいし、相手の距離を詰めたり接近戦に持ち込んだり、追撃をしかけたり、といろいろ用途があり点であり、単発になりがちな銃闘技の攻撃をつなげる大切な技でもある。

 

「お!いいねぇこっちに突っ込んでくるか。いいぜ?派手な肉弾戦といこうじゃねえか!!」

 

武がこっちに突っ込んでくるのをラカンが確認すると、嬉しそうに笑いながらラカンも同じように突っ込む。そして、お互いに拳を振り上げて相手の顔面目掛けて殴りかかる。

 

ドカァッ!!!

 

本来鈍い音がする打撃戦なのだが、何故か二人から聞こえてくる音は爆撃音にも似た、音だった。

おそらく、二人の拳から繰り出される力がすさまじい為、そう聞こえてくるのだろう。

普通の人…いや、世間でも強いと言われている人達だとしても、こんな威力は出せないだろう。

 

 

「……っ!!いってー!!ラカンわざわざ顔狙うなよ。あとで飯食う時困るんだからよ。」

 

「へっ!タケルも同じだろうが!おらどんどん行くぜぇぇぇ」

 

そう言ってラカンは武に向かって連打を浴びせてくる。

 

「オラオラオラオラ!!!どうしたまさかインファイトできないわけじゃないんだろ?」

 

すさまじい勢いで、武に向かって拳の連打を浴びせてくるラカン。

その勢いに、最初武も押され気味だったのだが、ラカンにそう言われてちょっと頭に来たのか、すぐさま反撃をし始める。

 

「なめんな!!」

 

武がそう叫んで、また姿勢を変える。

その姿は、まるで西部劇に出てきそうなガンマンの構え。

その名も…

 

『銃闘技〈接近姿勢(ガンマン・ポジション)〉…通称”迎撃防御射撃”』

 

その姿勢から繰り出される攻撃は、まるでマシンガンの様な拳の嵐だった。

 

「はははっ!!まさか俺とインファイトでやりあえるなんてな。何時振りだよ。」

 

「何言ってやがる!まだまだこれからだぜ!!」

 

武はそう言うと、今でも異常なくらいの拳の連打のスピードを、更に上げる。

今までは本気のスピードじゃなかったと言わんばかりの拳の嵐には、さすがのラカンも対応しきれず、次々と被弾していく。

 

「ちょ。まて!!ヘブブブブッ…」

 

想像以上の連打に、さすがのラカンにも焦りが見えてくるが、それでも止まない拳の嵐。

そして、その嵐の勢いによって、この世界でもかなりの巨体であるラカンの体が、しだいに宙に浮かんでいく。

これでは攻撃する事も、武の拳を回避する事もままならない。

そして、チャンスを逃す武では無かった。

その隙を利用して、右腕をまるで拳銃の撃鉄を起こすかの様に振り上げる。

すると、振り上げた右腕からどんどん血の気が引いていき、肌色から鉛色へと変わっていく。

さながら、その色は鉄の色。

 

「げ!それはちょっとやばくね?」

 

その右腕の脅威を感じたのか、すこし焦った感じで、そうラカンは呟くが、そんな事を言っても武の攻撃が止まる訳が無く、武はその拳をラカンに向かって放った。

 

「くらえ!44マグナム!!」

 

ドコォォォン

 

まるで銃弾を放ったかの様な音がしたかと思うと、その拳を受けたラカンは遠くへ弾き飛ばされてしまった。

放った武の方と言えば、右腕を上にあげて、その場に佇んでいた。

右腕からは白煙が立ち上り、その異様とも言える光景は、まるで本物の拳銃を撃った後をイメージさせた。

 

これこそが銃闘技の奥義であり、代表的な技『絶対破壊《アブショリュートブレイク》44マグナム』である。

腕を振り上げ(ハンマーコック)、血液を止めて力を溜める事により、その腕は鉛色に変色し、筋肉がスプリングのように収縮を開始する。そしてそれを解放した時、心臓から送られる爆発的な血液によって筋組織を一瞬にして活性化させ、通常の何倍以上の威力を発揮する事ができるのである。これらの現象の事を、『血液爆発《ブラットバーン》』と言い、これこそが銃闘技を最強と言わしめている源なのだった。

『ブラットバーン』を最大限生かした44マグナムの威力は見ての通り。あの巨体のラカンを吹っ飛ばす程の力があり、通常では考えられない威力。まさに絶対破壊攻撃と言えよう。

ちなみに、先ほど使ったガンブレットや、ガン・ダイヴァーは、44マグナムを習得する為の修練で会得した数ある技の一つに過ぎず、言ってみれば副産物の様なものだ。

ただ、副産物と言うにはあまりにもすさまじい技の数々なのだが…。

これで分かったと思うが、銃闘技とは、血液の力をかりた圧倒的なスピードと、驚異的な攻撃力と破壊力を持った武術なのである。

 

これは余談だが、武はこの『44マグナム』が好きで、神に銃闘技を覚えたいと言ったのである。

 

「あれ?綺麗に決まっちまった。あ~これで終りか?」

 

右腕から立ち上る白煙を、腕を振る事によって消しそう喋る武。

その武の言葉に、今までじっと二人の戦いを見つめていた龍牙が答えた。

 

「タケやんのマグナム。まともに撃ち込まれたらワイでも沈むで?人やったらあたりまえちゃうんか?」

 

「いや…そんなはずねぇだろ。龍ちゃんだって分かってるだろ?ラカンは俺達よりも強い。そんな奴が何もせずまともに攻撃を受けたんだ。なんかあるだろ。…それに龍ちゃんも知ってるだろ?マグナムを受けると吹っ飛ぶんじゃなくて、その場に蹲るんだ。…衝撃が貫通するからな。」

 

そう、先程威力の説明で、ラカンが吹っ飛んだと説明したが、それはマグナムを撃ち込んだ相手が起こす現象ではないのだ。本来44マグナムは、外部からの打撃攻撃なのに、そのあまりの威力故、某忍者漫画でお馴染みの柔拳の様に、内部攻撃に似た効果を持つ技である。その為マグナムを撃ち込まれた相手は、吹っ飛ぶことや、外部に傷ができる事はあまりなく、内部を破壊されその場に蹲ってしまうのが本来起こるべき現象なのだ。

しかし、マグナムを撃ち込まれたラカンは遠くに吹っ飛んだ…。

それはつまり、あの瞬間ラカンが何かしたに違いないと言う事になるのである。

 

「そやったな。…と言う事はや。ラカンは自分で吹っ飛んだって事になるな。」

 

「…おそらくな。…!!どうやら、その予想は正解みたいだぜ?…ここか本番って事かもな」

 

二人がそう喋っていると、いきなり体中に今まで感じた事の無い殺気が武と龍牙ぶつけられる。

二人は、すぐさま殺気が発せられている方を見ると、そこに居たのはマグナムによって吹っ飛ばされて倒れていた、ラカンがいた。

 

「クククッ…アーハッハハハ…」

 

狂ったように笑い出すラカン。そしてゆっくりと体を起こしながら、こちらを睨みつけてくる。

その目は先ほどまでの楽しそうな目ではなく、まるで獲物を見つけたような猛獣の目をしていた。

 

「いいぜ、最高だぜ武よぉ…。まさかこの俺様が、本当に本気でやれるなんてな…。誇っていいぞ?」

 

「………うわ~。やべーな。なんか変なもんおこしちまったかも…。」

 

「ていうか、自分で吹っ飛んだからと言っても、あのマグナムまともに撃ち込まれて、何事も無かったように立つなんて、ホントに人か?」

 

ラカンから発せられる、先ほどとは比べ物にならない威圧感に、思わず冷や汗が出る武。

そして、マグナムをまともに撃ち込まれて、立ち上がった事に驚いている龍牙。

確かに、自分達より実力が上なのは知っていた。しかし、それでもこうしてまともに攻撃をくらって何事も無く立ち上がるラカンに、二人は恐怖すら感じていた。

 

「いやー確かにタケルの最後の一撃…マグナムだっけか?かなり効いたぜ。とっさに後ろにバックステップしなけりゃ、こうして立ち上がる事も難しかったと思うぜ?それにしても珍しいよな。衝撃が突き抜けるなんて。それに、こんな風に体に突き抜けた後まで残る。…なるほどこれは初体験だぜ。」

 

そう言って自分の体から煙が出ているのを見て嬉しそうに笑う。

 

「だがな。俺様も伊達に無敵と言われているわけじゃねーんだよ。これぐらいじゃ倒れねえさ。それに何より、喜びの方が勝って、倒れる気なんてまるでおきねえよ。」

 

「喜び?」

 

「ああ。俺様がマジで本気出しちまうと、すぐ相手をつぶしちまうからな。それじゃあ面白くねえんだよ。だけど…タケルここからはマジだぜ?気も全開でやってやる。だからオメーも全力だせ。それこそ俺を殺す気でな!!」

 

そう言って力を込めるラカン。そこから感じられる威圧感、そして気の強さはさすがバクキャラと呼ばれる男。そこにいるだけで心が折れそうだった。

 

「………気付いていたのか?」

 

「…ったりめーだ!さっき気弾っぽいのだって気弾じゃないって言ってただろ?なら純粋な体術で戦っていたって言う事だ。だがタケルから感じた力はそんなもんじゃねぇ!!オラだせよ。じゃないとすぐ終わっちまうぜ?」

 

「分かったよ。」

 

自分が力を隠していた事に気付かれて少々驚いた武。

しかし、それは当然だろう。原作でも、楽天的で、いつも適当に戦っている様に見えるラカンだが、その戦闘経験と格闘センスは原作の中で一番なのだから。

だからこそ、武もさっきよりも鋭い目でラカンを睨みつけ、今自分が出せる全力以てラカンを倒す事を決める。…そうそれこそ、ラカンを殺すつもりで。

そんな二人を見ていた龍牙は、すぐさまその気配を察知して、巻き込まれるのと、二人が全力を出せるように、その場から更に外れ観戦する事にした。

 

 

それを確認した武は、少し空を見上げ、目を閉じて“ふぅ”と短く息を吐く。

そして、先程の何倍にもなるだろう闘気を体中から発して、こう呟いた。

 

「闘火薬点火《プライムファイヤード》」

 

「プライムファイヤード?なんだそれは?」

 

「…俺の心の火薬に火がついたって事さ。後はもう爆発するしかねーんだよ。」

 

そう武がラカンに言うと、先ほどまで感じられた闘気の他に、今まで一回も感じさせなかった魔力が武から漏れ出した。

その巨大な魔力によって、武の周りには突風が巻き起こり、武を包む。

それを見て、ラカンは更に獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ククク…はーっはははは…。なるほど、それは言いえて妙だな。俺様も火つちまってるからな。同じように爆発するしかねぇ…いいぜ見せてみろよ。タケルの本気ってやつをよ!!!!」

 

そう叫ぶとタケルに向かって突進してくるラカン。

それを見たタケルは、自分が本気を出す為に必要となる呪文を唱え始めた。

 

「オン・フィスト・ガン・ペンスリット

”契約に従い我に従え炎の覇王””来れ浄化の炎””燃え盛る大剣”

”ほとばしれよ”ソドムを焼きし火と硫黄”罪ありし物を死の塵に”

”燃える天空”!!”固定””掌握””術式兵装”………”炎帝”!!」

 

呪文を唱え終えると武の周りを炎が包みこむ。

それを見てラカンは、突っ込むのをやめ、一度距離をとるためにバックステップをした。

 

「おいおい…。闇の魔法かよ。まさかそんなもん使えるなんて、さすがの俺様でも夢にも思わなかったぜ。しかもこの威圧感さっきとダンチじゃねえか。ククク…面白くなってきたぜ。」

 

炎に包まれている武をみて思わずそう呟くラカン。

声とは裏腹に視線はずっと武からそらさない。

一度逸らしてしまえばこちらが負ける。そんな雰囲気が武から漂ってきたからだ。

その時ラカンは改めて、覚悟を決める。

 

今俺様は、今まであってきたケンカ相手なんか、比べものにならないくらいの男と戦っているのだと。

そして、そんな男と命の奪い合いができる事に感謝しろ…と。

 

しばらくすると、武を包んでいた炎が真っ二つに横に裂けて、その中から武が姿を現す。

その姿は、さっきとはまるで別人だった。

 

茶色だった髪の毛は、燃えるような赤。

目の色も赤

体のあちらこちらから炎が上がっており、武の周りは陽炎が出来ていた。

それだけを見ても、武自身かなりの熱量をもっていることが分かる。

ただ、そこに佇んでいるだけでその熱量…、まさにその姿は炎の覇王…”炎帝”名に相応しかった。

 

「ラカンこれが俺の本気だ。さぁ燃やされる覚悟はできたか?」

 

「はっ!言ってくれるじゃねえか!!そっちこそ吹き飛ばされる覚悟は出来てんだろう…なっ!?」

 

そう軽口を言葉にしたラカンは、高密度の気を体に纏い武に突っ込む。武もそれを見計らったように、その場からラカンに向かって突撃を開始する。

 

そして二人は激突した。

 

その瞬間、大地は罅割れ、空に浮かんでいた雲はすべて吹き飛んでしまった。

まるで、そこからはもう誰も立ち入る事は許さない。…いや許されないと思ってしまうほど、神秘的な空間が出来上がり、まさに世界が二人を思う存分戦わせる為に創り上げた特別のリングの様だった。

そこから聞こえるのは、大きな爆発音と鈍い打撃音。

 

ラカンが気を込めた拳を繰り出せば、地面が大きくへこみ

 

武が拳を撃ち出せば、地面が真っ黒に染まる。

 

二人が同時に拳を繰り出せば、その衝撃波で地面が割れた。

 

そんな光景がずっと続いていく…。

 

いったいいつまで続くのだろうか?

 

そんな事をふと思ってしまうが、“始まるあるモノは、必ず終わりがある”と言う言葉があるように、決着はもうすぐ傍迄、近づいていた。

 

「はぁはぁはぁ…ぺっ…へへまったくたのしいぜ。」

 

口に溜まった血を吐き、笑みを浮かべるラカン。

 

「ゴホ…ゴホ…俺はいい加減疲れたんだけど」

 

咳き込んで、血を吐きながら答える武

 

「けっ。そう言う割には楽しそうな顔してんじゃねーか。もっと素直に生きようぜ?」

 

「素直だから嫌だっていってんだよ!!」

 

「つれねえな」

 

「いっとけ」

 

二人とももうすでに限界など超えて、立っているのも辛いはずなのに、軽口を言い合いながら二人で笑い合う。

何故こんな場面でも、こんな事が言えるのか?

それはおそらく、負けたくないという強い意志と、少しでも長くこの時間が続くように強がってるせいなのかもしれない。

しかし、彼らの願いは叶わず、決着の時は訪れた。

 

二人とも限界なのは当に承知していた。

だからこそ、さっきまであれだけ激しい戦いをしていたのに、今は静かにそこに佇みじっと何かを待っている。

すると、そんな時間に我慢しきれなくなったのか?武がラカンに向かって一つ提案をする。

 

「なぁラカン」

 

「なんだよ」

 

「お互い限界も近いことだし、最後の大勝負をしないか?」

 

「いいなそれ…おもしれぇ…もちろん乗るぜ。」

 

「決まりだな」

 

そう言うと、二人は少し距離をとり、お互い右腕に残っている力を集める。

そしてそのまま動かず、じっと決着の合図を待ち続ける。

 

ズサッ

 

それはきっと、龍牙が動いた音だろう。普段なら気にならないその音が、二人にはとても大きく聞こえ、そしてそれは、決着の合図でもあった。

二人とも、図ったように同じタイミングで動き出す。そして、先ほどまで溜めていた力を、拳に乗せて一気に解放し、今自身が出来る最高の攻撃を繰り出した。

 

「オラァ!!ラカンインパクト!!!!」

 

「いけえぇぇ!!ナパームキャノン!!」

 

ドゴオオォォォォォン!!!!!!!

 

耳の鼓膜が破れてしまうのではないか?そう思ってしまうほどの巨大な音があたりに響き渡り、二人が放った拳によって、辺りにすさまじい熱風と、爆煙が広がる。

その瞬間龍牙は、この勝負に決着がついたと思い、二人がいるであろう場所へと走る。

そして、その場に着いたとき龍牙が見たものは………。

 

 

 

 

倒れている武と何とか踏ん張りながら立っているラカンであった。

 

 

 

「えらい派手にやったなぁ。二人とも生きとるか?」

 

「HAHAHA…あたりまえ…グハァァァ…」

 

多分大笑いして余裕ぶりをアピールしようとしたんだろうが、下手に大声を出したせいで盛大に血を吐いて倒れこむラカン。

息はあるので生きているだろう。

 

倒れている武の方といえば、体がピクリとも動かないのであろう、倒れたまま視線だけをこちらを向けて答えた。

 

「はははっ…なんとかね。…………龍ちゃん」

 

「なんや?」

 

「……やっぱり負けたよ。」

 

「そか」

 

そう。そっけなく返す龍牙。

だが心の中はまったく別であった。

 

力の差はあった。

しかも相手は傭兵。

戦闘経験ではどうあっても敵うわけがない。

つまり最初から負けることは分かっていた。

だけど…それでも……

タケやんはきっと勝ちたかったのだろう。

そして負けたことがいっとうに悔しいのだろう。

ワイだって”よくやったやん”の一言ぐらいかけてやりたい。

でもそんな言葉かけた所で余計悲しくなるだけや。

だからこそ今ワイができる事はそばにいてやる事。

そしていじけてしもうたらケツひっぱたいて前に進ます事ぐらいや。

 

でも…

 

そんでもなぁ…

 

これだけは心の中で言わせてくれんか?

 

 

 

”ほんまええ勝負やった。……お疲れさん”

 

 

 

こうしてラカンと武の勝負は、ラカンが勝者となり幕を下ろした。

 

武がネギまの世界に来て3ヶ月…

 

初めて本気で勝ちたいと思い

 

そして初めて負けて悔しいと思った日であった。

 




今日はここまでです。
おそらく、明日とかにまた投稿すると思います。

感想・メッセージありましたらお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話:帰ってきた依頼人

 

ラカンとの勝負から一夜明けて、俺と龍ちゃんはとりあえずお腹がすいたので、自分たちが泊まっている宿の食堂へ行き、少し遅めの朝ご飯を食べていた。

……なぜか、昨日ケンカが殺し合いまで発展したラカンと一緒に。

 

「……なんでラカンと一緒に飯食べてんだろ。」

 

「ワイもそう思うわ。しかもさも当然のようにいるから、今の今まで気付かんかったけどな。」

 

そう言って二人でため息をつく。

しかも、俺達が泊まってる宿は教えてないはずなのだが、どうしてここがわかったのか?

本当に謎だらけだ。

 

「がっははは。気にするなよ。」

 

「いや…。俺たちじゃなくて、お前が少しは気にしろよ!」

 

ラカンの言葉に、俺はツッコミを入れて、更に深いため息をつくのであった。

すると、ラカンはまた大笑いすると、急に真剣な顔つきになって、俺達に語りだした。

 

「いや、実際な話だな。俺様は、タケル達の事、かなり気に入ってんだよ。それに…、勝負はまだついてねぇからな。」

 

「は?勝負は、俺の負けで決着がついただろ?」

 

「負け…負けねぇ…。ありゃーどっちかっつうと、引き分けだ。」

 

「引き分け?」

 

「ああ。確かにあの時、最後まで立っていたのは俺様だがな。それは、タケルの技のおかげでもあるんだよ。あの時、俺は地面に叩きつけるように殴ったが、逆にタケルは掬い上げるように拳を放った。しかも、タケルの拳は衝撃が貫通するからな。だから立ってたと言うよりも、立たされていたって言うのが正確なんだよ。…ま、これでも納得できねーなら。勝ちは貰っておいてやるよ。」

 

そう話していたラカンの顔はとても真剣で、俺が知識として知っていたラカンとは、まるで別人のような感じがした。いつもこんな感じだったらバカとか言われないんだろうな…。

 

「そしておいてくれ。負けるのは悔しいが、おかげで自分の未熟さが分かったしな。」

 

「俺様も今度こそは、圧倒的に勝つためにも、もっと強くなるならねーとな。いっちょ、新必殺技でも開発するとするかな?HAHAHA!!」

 

「なーんか、タケやんとラカン一気に仲ようなったな。…なんやワイだけ取り残された感じや…。さみしい…さみしいで…ほんま。」

 

「……龍ちゃん」

 

「……タケやん」

 

「ま、頑張れば?」

 

「(ブチッ)…お…己は…ええ加減にせいよほんま!!何で今そんな言葉が出るねん!!!慰めてくれるんかと思って、ちょと感動しかけたワイの気持ち返せ!!この三枚目のボケナスがぁ!!!」

 

「なっ!!…だれが三枚目のボケナスの空気読めないだー!!」

 

「そこまで言うてへんけど、間違ってへんやろーがー!!」

 

「表出ろ!!ナパームくらわしたる」

 

「昨日の怪我まだ完全には回復できておらんやろ?……安心しいや。もう一度ワイが寝たきりにさしたるわ!!」

 

「おっ!ケンカまたすんの?俺様も混ぜろ。って言うか昨日龍牙と戦ってねーからまず、龍牙!俺様と戦え!!」

 

「ええ度胸や。筋肉戦闘バカ!!後悔しなや!!」

 

本当に俺達はさっきまで、真剣に話していたのか?

そう他の人が、疑問に思ってしまうかもしれないけど、これこそ俺達らしいんじゃないかと思う。

大体、俺にしても、龍ちゃんや、ラカンもそうだけど、こう、真剣な感じよりはこうやってワイワイ騒いでいる方が性に合ってる気がするから。

そんな事を思いながら、俺達は宿から出ていき、昨日ケンカした場所まで、移動しようとするが、そこで男性の声で、呼び止められる。

俺達を呼び止めた男性とは、昨日俺たちに仕事を依頼してきた依頼人さんで、よっぽど俺達を探していたのか、依頼人の額には、大粒の汗をつけていた。

 

「はぁはぁ…さ…探しましたよ。」

 

「ん?……あぁ昨日の…」

 

「そうです。あなた方に仕事の依頼をしたものです。…すいません。昨日はいきなり寝てしまって。たぶん疲れが溜まっていたんでしょうが…今日はちゃんとお話させてもらいますので、一緒に来てもらえますか?」

 

(なぁなぁ…もしかして昨日のこと気付いていないのかな?)

 

(たぶんそうやろ。……なんかちょっと気の毒や)

 

(いやーこれはチャンスだ。下手に気を悪くさせるのはよくねーぜ)

 

《やったのはお前だけどな|(やけどな)》

 

「あの…何か?」

 

俺達が、そう言って小声で相談していると、それが気になったのか、依頼人が首を傾げて怪しんできた。

なので、あわててごまかす。

 

「!!い…いえ。分かりました。」

 

「ほ…ほな、いこか?」

 

「HAHAHA。ほらいこーぜ」

 

そう言って依頼人をせかす。

すると、依頼人は、多少まだ首をひねっていたが、それ以上俺達に追求する事無く俺達を話ができる所へと案内していく。

小声で喋っている事を聞かれなくて、本当によかったと、俺は胸を下ろすのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

依頼人につれられて、やって来たのは昨日と同じ酒場であった。

ただ、昨日と違うのは俺達以外の人がいない事だった。

 

「あれ?俺達だけですか?」

 

「ええ。昨日いた人達は、気付いたらもういなくなってしまっていて…。今から探そうにも時間が足りないので、こうして最初に見つけた貴方方に、依頼を頼むことにしたのです。」

 

「おう。任せときな。俺様たちにかかりゃどんな依頼も成功したも同然だぜ。」

 

「おお!!それは心強い。それでは依頼の説明をさせてもらいます。」

 

依頼人はそう言うと、姿勢を正してあたりを警戒しながら喋り始めた。

 

「今回の依頼ですが、ある人物達を倒して欲しいのです。」

 

「倒す?それは相手を負かせってこと?」

 

「いえ…。できれば殺す…いえしばらくの間動けなくして欲しいのです。」

 

「ほーう。…それで相手は誰だ?」

 

ラカンがそう聞くと、依頼人は懐から4枚の写真を取り出して、俺達に見せる。

 

「こちらの4人になります。」

 

「なんでぇ、ガキ2人と、ひょろっちい男が2人だけじゃねーか。」

 

ラカンが写真を見ながら、そう言うが、俺は写真を見た時に、自分の予感が本当に当たった事を知った。

 

「外見に惑わされてはいけません。この4人は、今世間で有名な”紅き翼”なのですから。」

 

「誰やそれ?」

 

「世間で有名な人だよ。…強いって噂の」

 

龍ちゃんにそう説明する。

つまり俺はこれから原作に介入しろと言う事なんだろう。

更に、依頼人はこの4人の詳細を説明してくれた。

 

「…”紅き翼”とは、4人で構成されているパーティーの名前です。リーダーの”ナギ・スプリングフィールド”、剣を使う”近衛詠春”、鉄壁の盾”ゼクト”珍しい重力魔法を使う”アルビレオ・イマ”…皆それぞれ強力な力の持ち主です。」

 

「ふーん。強いってどれくらいなんや?」

 

そう、いくら依頼人に強いと言われても、正直どれくらい強いかわからない龍ちゃんは、気になっていた事を聞く。

すると、依頼人が話すよりも先に、ラカンが話し出す。

 

「龍牙。俺様も傭兵やってそれなりに長いんだがな、その“紅き翼”については最近結構話を聞くぜ?傭兵って奴らは、無駄にプライドが高いからな。そんな傭兵達から“強い”って噂れることは、結構できる奴らなんだろう。それともう一つ、そいつら“紅き翼”の名前が噂され始めたのはここ最近だ。…つうことはだ。奴らはそこら辺で噂されている奴らなんかよりも、数倍強い可能性があるだろうさ。」

 

「ラカン様は、“紅き翼”の事ご存じなのですか?」

 

「いや、俺様が知っているのは、傭兵の中でその名前が売れているってことだけさ。まさかこんな4人だとは思わなかったけどよ。」

 

「ん?だったら何で、ラカンはそいつらが数倍強いだろうって分かるんだ?」

 

「ん?ああその事か。それは結構簡単で、もともとそこまで強くない奴らが、鍛錬なんかして強くなっていくと、ここ最近いきなり噂される事なんてまずありえねーんだよ。もっと前からじわじわと話の話題になるはずだからな。だが、“紅い翼”についてはそんな事は無くいきなり噂されるようになった。と、するとだ。奴らはいきなり現れてその力を見せつけたって事になる。…そんなこと出来る奴らがそこら辺で噂になっている奴らと同等なわけねーだろ?だから数倍強い可能性があるって言ったんだ。」

 

ラカンの説明に、俺と龍ちゃんは“なるほど”と頷く。

すると、それを擁護するかの様に依頼人の男も話し出した。

 

「ラカン様の言っている事は事実です。御三方もご存じだと思いますが、今連合と帝国は戦争をしています。そして、彼らは今連合軍に所属しているのですが、ある戦場にて、彼らはたった四人で数十万とも言われた帝国の兵士達の8割以上倒しております。その後も数々の戦場にて帝国側に圧倒的な被害を与え続けているのです。」

 

「帝国の兵士ってどれぐらいの強さなん?いくら数だけおっても、弱ければそういう事になってもおかしくないと思うんやけど?」

 

「んーそうだな。もともと帝国ってのは、獣人や亜人なんかの集まりだからな。普通の人間の何倍も力はつえーよ?体力もあるし…。だから俺様の予想では、帝国の兵士一人に対して、大体連合の兵士2~3人分って所か。ま、魔法とか抜きにして、単純な身体能力だけの判断だがな。」

 

龍ちゃんの疑問にラカンが答える。

おそらく傭兵の仕事で、兵達にもあった事があるのかもしれない。…もしくは戦ったのかも?

本当の所はわからないけど、ともかくそれは的を得ているようで、依頼人の人も否定せず頷いていた。

 

「なるほどなぁ…。それが確かなら強いな、そいつ等。」

 

「ええ。しかし彼らはやり過ぎました。…いえ目立ち過ぎたと言ってもいいでしょう。その為こんな依頼が出てくることになったのです。…簡単にですが、これが依頼の内容になります。お引き受けいただけますか?」

 

依頼人としても、できる事なら早く依頼を遂行して欲しいのだろう。これ以上無駄に時間を潰したくないのか、すぐさまそう俺達に訪ねてきた。

俺としては、この機会を逃す手は無いし、受けてもいいと思う。

そう思って、他の二人を見てみると、どうやら俺と同じ考えの様で、軽く頷いていた。

なら、決定だ。

でも、すべてあっちの思い通りになるのは、つまらないので、ちょっとだけあっちを驚かそうと思う。

どうせ、あっちはばれていないとでも思っているのかもしれないけど、バレバレなんだよね~。

 

「依頼の内容はわかりました。その依頼お引き受けしましょう。…あなたの上司である帝国のお偉いさんにもそう伝えてください。」

 

「…なんでしょうか?」

 

ちょっとの空白があった後、案の定しらを切って来たけど、未だばれてないと思っている所が、俺達を侮ってるって証拠だよね。

 

「もしかして、ばれてないとでも思っていたんですか?あまり私達を、見くびらないでほしいんですが?」

 

「………なんの事でしょうか?確かに私は代理人でしかありませんが、別に帝国の人間だとは一言も…」

 

「せやな。確かにアンタは帝国の人なんて一言も言ってないで?…だけどなぁ。ワイらの実力をまだ下に見とらんか?特にワイなんか、虎やで?匂いで分かるっちゅうねん。どんだけ香水とかで隠したとしても、普段から体に染みついとる微かなにおいまではごまかせんよ。」

 

「ま、それにだ。いくらそいつらが目障りだとしても、今連合側がそいつらを始末しようなんて考えねーだろ?もったいないし、そこまで状況が見えてない奴はもうすでに死んでるか、そもそも戦争に関わってないだろうよ。だから、今こうしてこんな依頼をしてくる奴なんて、帝国側しかありえねーってことだ。」

 

「まぁ、理由の方は今二人が言った感じです。でも、先程も言った通り依頼は確かに引き受けました。貴方が帝国の人間だというのもここだけの話にしますよ。だから安心してください。」

 

「…そうですか。では、お願いします。でも、その前に一つだけ…。私を帝国の人間と知ってなぜ貴方達は、依頼を引き受けようと思ったのですか?」

 

「簡単な事です。俺達にとって帝国・連合どっちも変わりません。ただ自分の為に…そうですね。しいて言うなら“自身の目的の為にこの依頼は丁度良かった”そう言う事です。」

 

そうニコッと依頼人に笑いかけると、俺は席を立ち出口へと向かって歩き出す。

それに続くように、ラカンも席を立って俺に着いてきた。

もちろん龍ちゃんは、俺の肩に乗ってる。

その言葉を言った後の、依頼人の顔はおそらくしばらくは忘れないだろう。

あれほど間抜けな顔をした、人を見るのも初めてだしね。

 

こうして、俺達は最初の依頼にしては、あり得ないほどの難易度である、“紅き翼”討伐の依頼を受ける事になったのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話:邂逅

依頼を受けてから数日が経過した。

まず最初に俺達がやった事と言えば、“紅き翼”の情報を集める事だった。

依頼人も出来るだけ早く実行して欲しいとは言ったが、明確には期限を決められていなかったので慎重に慎重を重ねて、情報を集め吟味していた。

ただ、驚いていけないのは、この情報集めをしようと言い出したのはラカンなのだ。

普段や、原作を知っている俺からすれば、ラカンがこんな事を言い出すとは、夢にも思わなかったが、“人数も負けてるし、相手の正確な強さも分からない状態で戦うのは死に、行くようなもんだ。これは仕事だ。なら、絶対に成功させないと意味がない。”と経験豊富なラカンに言われてしまえば、それに従うしかなかった。

やっぱり傭兵としてのラカンは優秀なんだと思う。

そして、ラカンの言う通り情報を集めていたのだが、途中でばからしくなってきた。

…なぜなら、さすがは“未来の英雄”最初から俺達の度肝を抜いてくれた。

 

「…なぁタケやん、ラカン。こいつら調べる必要あるんか?」

 

「…それは思っていても、言わないでよ龍ちゃん。」

 

「コイツは驚いたぜ。俺も傭兵を始めて結構立つが、こんな奴らは初めてだ。」

 

ラカンがそういうのだから本当にありえないことなんだろうと思う。

 

曰く、奴らにはどんな攻撃も効かない…無敵なんだよ。

 

曰く、あいつらには誰もかなわねぇ…無敵さ。

 

曰く、あ、あ、あ、あいつらの話はしないでくれ。今こうして生きていられるだけでも幸運なんだよ。帝国にとっちゃあいつらは不死身の悪魔なんだ!!

 

などなど、ほとんど同じ様なことしか聞けなかったのだ。唯一有力な情報と言えば刀を使う詠春が女に弱いと言うことぐらいである。

 

「…で、どうしようか。これ以上はめんどr……調べても何にも出てこないような気がするんだけど?」

 

「今めんどくさいとかいったやろ?…でもまぁ同感や。意味ない気がするわ。」

 

「だな。まぁ今どのあたりにいるかは聞けたし、そろそろヤツラの面でも拝みに行くか!」

 

『賛成』

 

これ以上情報を集めても、有益な情報は手に入らないと思った俺達は、ラカンのその言葉に賛同して、ラカンが持ってきた“紅き翼”がいるであろう場所の情報を元に、そこへと向かうのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

 

“紅き翼”に会う為に町を出てから、数日がたった。

もちろん。その間ただ移動していただけじゃなくて、ラカンや龍ちゃんと手合わせを何度もし、少しでも勝率を上げる為にも、お互いに力をつけていった。

ちなみに、先送りになっていた龍ちゃんとラカンのケンカだが、まぁ結果を言うならラカンの勝ちだったが、どうしても納得できない事があった。

それは、龍ちゃんが口から氷のレーザーみたいなものを出した時、ラカンはそれをまともに受けて氷漬けになったのだが、なぜか何事も無かったかのように中から氷を割り戦っていた。

普通なら悪くて死に、良くても体のどこらかしら異常をきたして動きが鈍くなると思うのだが…なんか氷漬けされた前よりも動きが良くなっていた。

龍ちゃんもあれには驚いてたよなぁ…。

まぁ…存在がバグとか言われてる人だから…。と言う言葉で何とか自分をごまかしていた。

 

それはともかく、そんな時間を過ごしながら俺達は、目的の場所へと移動していった。

そしてついに”紅の翼”の姿を確認したのであった。

 

「やっと見つけたぜ。んー今は飯中か」

 

「……なんやむっちゃうまそうな匂いがするんやけど。ええなぁ~」

 

「あ!あれなら俺も作れると思うぞ?鍋って言う料理だけど……まさにあれは日本が生み出した最高傑作のひとつだね。」

 

「日本?どこやそこ」

 

「えっ!!いや…あはは。気にすんな。」

 

「なんや、なんではぐらかすん?」

 

「だから気にすんなって!…気にしすぎるとはげるぞ?」

 

「なんやて!?ハゲるってなんや!どこがハゲるいうんや!!」

 

「HAHAHA。相変わらず緊張感ねえな。…疑問なんだが、幻獣もハゲるのか?」

 

「ハゲるわけあるかい!!…たぶん。」

 

「たぶんって…。それに緊張感ないなんてラカンには言われたくねーな」

 

「ちげーねーな。」

 

そう言って三人で笑い合う。

さて、いよいよ”紅の翼”と対決。自分が英雄相手にどこまで出来るのか。ためさせてもらう!!

 

~紅の翼・ナギside~

 

オスティア防衛戦のあと何故か俺達は戦争の前線ではなく辺境の地へと送られた。

理由は分からないが、別にいい。俺達は気に入らないやつらをぶっ飛ばせればいい。それならどこに行こうとかんけーねーからな。

そんな訳で、俺達は、今辺境の地で詠春が作っている料理、鍋?ができるのをまっていた。

 

「お!?これが旧世界の『鍋料理』ってやつか!それじゃ早速肉を投入~♪」

 

「トカゲの肉でもうまいのかのう?」

 

「ちょ、ナギ!おまっ!!何いきなり肉を入れようとしている!!」

 

「いいだろ?詠春。うまいんだからさ~」

 

「バ、バカ!火の通る時間差というものがあってだな。まずは野菜を入れてから…」

 

詠春がなんかごちゃごちゃ言ってるけど、そんなのかんけねー!!とりあえず俺様は肉が食いたいんだよ。

 

「フフフ…知ってますよ、詠春。日本では、貴方のような人を『鍋将軍』と呼ぶのでしょう?」

 

『な…鍋将軍!!』

 

なんだそれは…。常日頃最強だと思っている俺様でも、敵いそうにねぇ名前は。

 

「つ…強そうじゃな」

 

「まいったよ。まさか詠春が、そこまで偉いなんて知らなかったぜ…」

 

「うむ…。料理はすべてお主に任せる。好きにするがよい…」

 

「ん?なんかいろいろ疑問を感じるんだが…まぁいいか」

 

なんか詠春が首を捻って考えてるけど、気にする必要はねえな。

とりあえず、今は詠春が作ってくれる鍋を楽しみにするか。

 

「……よし!そろそろ食べてもいい頃かな?」

 

「マジか!!よっしゃーいただきます!!」

 

「うまそうじゃのう」

 

「私もいただきます」

 

鍋将軍?詠春のお墨付きを貰ったからようやく食べられた。

んで口に入れた瞬間。今まで食べた事の無いそのうまさに思わず叫び出したくなった。

 

「んめーーーーーー!!」

 

「このしょうゆ?とか言ったかこれがなかなかええのう」

 

「それにこの大根おろしもですね。」

 

「ハハハッ!そう言ってもらえると嬉しいよ!!」

 

詠春は俺達が旨そうに食べているのが嬉しいのか、笑っている。

こんな時間が過ごせるなら、わざわざ辺境の地に来たのも悪くなかったと思うぜ。

そう思っていると、突然空から大きな剣が降ってきやがった。

それも丁度鍋の近くに…あ、もったいねぇから肉の確保、確保っと。

 

そしたら次に来たのは、さっきの剣を投げた奴だろう。

大男がやってきた。

 

「食事中にしつれ~い。俺は放浪の傭兵剣士ジャック・ラカン!!いっちょやろうぜッ!!」

 

…コイツはかなりつえぇ…俺がやるか?

そう思っていると、その大男はいきなり横にぶっ飛び、さっきまで大男がいた場所には肩に虎を乗せた男だった。そして大男に向かって叫んでいた。

 

「このバカンが!!!せっかくの鍋を…もとい、食べ物を粗末にするなんて何考えてやがるんだーー!!!」

 

何いきなり来て言ってるんだ…?

 

~紅の翼・ナギside終~

 

~武side~

「さてと…さすがに食事中は戦うのは気が引けるな…終わるまで待つか」

 

チョイチョイ

 

「ん?どうしたんだ龍ちゃん?」

 

「……ラカンが飛び出していったんやけど」

 

「え゛!!」

 

龍ちゃんに言われて、そっちの方に視線を移して見ると、さっきまで鍋があった所にラカンの大剣が刺さっていて、大剣を投げたラカンと言えばそのままその場所へ降りていっていた。

 

「あの…バカンが!!飯を無駄にするなんて!!!!!!」

 

「は?いやいや突っ込む所そこなんか?」

 

「あ゛ああん?」

 

「い…いやなんでもないで」

 

「とにかく俺たちも行くぞ?あのバカンと少しOHANASIをしないといけないみたいだからなぁ!!」

 

「さーいえっさー」

 

そう言って俺達もその場所へ向かう。

なんか龍ちゃんがプルプル震えていつもと違っていたけど今はそんな事気にしている場合じゃない!!

あのやろう!!ご飯は大切にしないといけないって親に教えてもらわなかったのか!?

しかも鍋!!!

まだまだいろいろ出来たのに…終わったあとの雑炊が格別なんだぞ!?

それを…それを…あのバカン!!!!

コノウラミハラサデオクベキカ…

 

「あれ?タケやんって、こんなに食べ物にうるさかったっけ?なんやワイでも見たことが無いくらい怒っとるんやけど…。ワイは、ご飯を粗末にあつこうた事無いから、大丈夫やと思うけど、気をつけなあかんな。…まぁ、ラカンはご愁傷様やな。」

 

とりあえずぶっ飛ばす!

マグナムでぶっ飛ばす!!

ターゲットロック!!

くらえバカン!!!

 

ドコォォォン!!!

 

「このバカンが!!!せっかくの鍋を…もとい、食べ物を粗末にするなんて何考えてやがるんだーー!!!」

 

「グハァ…タケル何しやがるんだ!!」

 

「それはこっちの台詞だ馬鹿野郎!!食べ物は粗末にしたらいけないって、小さい頃に教わらなかったのか!!!」

 

「いや…それは…」

 

「聞く耳もたん!!」

 

「聞いたんだから、いわせろや!!」

 

「とにかくだな。お前がやった事でこの鍋はもう食えなくなったんだ!!謝れ!この人達に…そして鍋に!!」

 

「はぁ?なんで…」

 

「あ゛ああん?テメーマグナム全弾急所にくらいてーか?」

 

「すいませんでしたー!!!」

 

さすがにマグナム全弾は食らいたくないのか、土下座して謝ってる。

皆呆けた顔しているけど、関係ない。

こういうのは謝る事がまず大切だからな。

一人鍋かぶっている人もいるけど…それも気にしない。

 

「あ、ああ。別にいいぜ?」

 

「そ、そうじゃの誰にだって間違いはあるしの?」

 

「フフフ…直接被害を受けたのは詠春だけですしね。」

 

やっと再起動をしたのか、”紅の翼”の人達が返事を返す。

鍋をかぶった人も、最初プルプル震えていたけど、ラカンが素直に謝ったら少しは怒りが収まったみたいで、顔を拭いていた。まだラカンは睨んでいるみたいだけど。

 

「それでじゃが…お主等は一体何しにきたのじゃ?」

 

しばらくすると、爺言葉を喋る少年が、俺達に聞いてきた。

この人が、あの最強の盾と名高いゼクトか…。

 

「ん?ああ実はさっきラカンが言ったかも知れないけど、俺達は傭兵でね。”紅の翼”を潰してほしいって依頼があったから、こうしてきたんだよ。」

 

「へーそうなのか。」

 

「バカ!!何普通に返してんだナギ!こいつらは俺達を倒しに来たって言ってるんだぞ?」

 

「何!?」

 

(なんか思っていた以上にナギがバカだな。)

 

「ま、そんな訳で、さっきも言ったがいっちょやろーぜ?」

 

「へっ!おもしれぇ。やってやるぜ!!」

 

そう言って、ラカンとナギはこの場を離れていった。

そしてそのすぐ後、大きな爆発音が聞こえてきたから、かなり派手にやっているらしい。

 

「バカはバカの相手をすればよかろう。…それでお主等もやるのか?」

 

「ん?ああまぁ依頼だし?それに巷で有名なあんた達に俺がどこまで出来るか試してみたいって言うのもある。」

 

「そういうこっちゃな。なんやお互いバトルマニアぽっくなってもうたな。」

 

「多分バカンのせいだろ?龍ちゃん」

 

「あーそうやろなタケやん」

 

そう言いながら二人で笑い合っていると、何故か他の人がビックリしていた。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「ど…どうしたって虎が喋ったんだぞ?」

 

「む…もしや幻獣か?」

 

「なかなか興味深いですね。幻獣が人と一緒に行動しているなんて。」

 

あーなるほど。確かに珍しいかもしれない。あまりにラカンが普通にしてたから大丈夫だと思っていたけど、これが一般的な反応か。

 

「まぁ、龍ちゃんとは気があってね。そっからは一緒に行動しているんだよ。」

 

「気があったからって…」

 

「気にしないでよ。えーと…」

 

「詠春だ。近衛詠春」

 

「ワシはゼクトじゃ」

 

「アルビレオ・イマといいます。アルと呼んで下さい」

 

「俺の名前はタケル・ダテ。んでこっちが…」

 

「龍牙や。よろしゅうな」

 

『よろしく』

 

そう言って自己紹介を済ませる。

自己紹介を済ませて、なんか和やかな空気になってしまったけど、依頼は依頼。そろそろ実行しますか。

 

「って訳で、俺達も手合わせお願いします。」

 

「ふむ。仕方が無いの」

 

「それでなんですが、俺と相手は詠春さんお願いできますか?」

 

「え?私かい?」

 

少々ビックリした感じでそう返す詠春。

 

「ええ。理由としては、私は武術家です。無論魔法とかも使えますが、今回は一武術家として戦いたいと思っています。それに私の武術は銃火器を模してつくられた武術。銃と剣どちらが上か確かめるのも一興と思いませんか?」

 

「素手と剣で戦うのかい?それはちょっと…」

 

「心配しなくても結構です。私の拳は剣よりも強いですから…それとも私に負けるのが怖いですか?」

 

「!!!いいだろう。その勝負受けよう」

 

「ありがとうございます。では少し離れた場所へ移動しましょう。」

 

「分かった。」

 

そう言って俺たちも移動をした。

銃闘技の天敵は原作では剣術だった。実際は剣を模した拳術だったけど、それでも戦ってみたい。サムライ・マスター近衛詠春。俺の拳で打ち砕いてやる!!!

 

~武side終~

 

「なんや。いつもの違うな~タケやん。なんかあったんか?」

 

「いつも、あんな感じじゃないのか?」

 

「ちゃうな。いつもは好戦的じゃないし、それにあんな挑発せーへんもん。」

 

「なるほど。何か事情があるのかもしれませんね。」

 

「かもな…。まぁええ。それよりワイの相手なんやけど…ゼクトはん頼めまっか?」

 

「ワシか?かまわんが理由を知りたいのう」

 

「ワイの真骨頂は攻撃や、ならあんたらの中で一番防御に優れとるゼクトはんと戦ってみたいと思うねん。それにアルはんはなんや相性が悪い気がする。主に性格的な意味でな」

 

「それは少しひどくありませんか?」

 

「ふむ。わからんでもないのう」

 

「ゼクトまで…」

 

「あーなんや。別にあんたの事は嫌いやあらへんよ?まぁ好きでもないけどな…」

 

「それはとどめをさしてますよね。」

 

「あ!?そんなつもりやあらへんねん。…とにかくや。やろやゼクトはん」

 

「そうじゃな。じゃワシらも場所を移すとするかの」

 

「りょーかいや」

 

こうして龍牙達も移動していった。

そしてのっこったのはアル一人。

 

「ふう…私って嫌われているんですかね」

 

その呟くアルの背中はとても寂しそうだった。

 




今日は休みなので、もう少し更新できると思います。

感想・メッセージお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話:銃と刀

武と龍ちゃんの戦い前篇です。

まずは、武からどうぞ!


詠春さんと俺は、皆がいた場所から十分に離れた場所で足を止めた。

遠くからは、爆発音などが聞こえてくるが、これだけ離れていればこちらに影響は来ないだろう。

それを確認した俺は、詠春さんから少し離れて、すぐにでも戦闘が開始できるよーにグローブを装着する。

詠春さんもさっきとはまるで別人のような顔つきになり、静かにそこでたたずんでいた。

 

「詠春さん。先ほどは申し訳ありませんでした。」

 

「何のことだい?」

 

「いえ先ほどの挑発で怒らせてしまったかと思いまして…」

 

「ああ、その事か気にしなくていいよ。むしろこちらこそ、武君の決意を不意にしそうになって申し訳なかったね。」

 

「いえ…」

 

「しかしなんだな…。君は見た所ずいぶん若いようだが、落ち着いているね。」

 

「そんな事無いですよ?さっきの挑発にしても、心臓がバクバク言ってましたから」

 

「ハハハッ…そんな緊張しなくてもいいのに。」

 

「緊張もしますよ。先ほどは剣と銃のどちらが上か確かめたいとか言いましたけど、いつもはそんな事言うキャラじゃないですし、それにこうして剣の達人と戦うのは初めてですから…」

 

「そう言ってもらえるのはうれしいね。でもだったら何故戦うといったんだい?」

 

「…そうですね。しいてあげるなら”憧れ”でしょうか?」

 

「憧れ?」

 

「はい。小さな頃からの憧れです。話で聞いていた”侍”それに強い憧れを持っているんです。正義でもなく悪でもなく…ただ自分が正しいと思うことを”刀”に乗せて戦う。そんな生き様に俺は憧れたんです。」

 

「…君は日本人なのか?」

 

「ええ。どういう訳かこうして魔法の世界で生きてますけど、生粋の日本人です。だからこそ貴方と戦いたい。今こうして憧れの侍が目の前にいる。俺も刀は使いませんけど志は同じ、ならそれが本物かどうか貴方と戦う事で確かめてみたいと思っています」

 

実際は理由も知ってるし、もう今更なんだけど、それでもこの気持ちは本当だ。

TVや小説、演劇で見ていた侍。俺はそれに強い憧れを持っている。もちろん刀で戦う事に憧れた事もあったけど、歳を重ねるにつれて、刀よりもその生き方に強い憧れを持つようになってきた。

自分もこんな生き方がしてみたい。

そんな事を思うようになっていたけど、思うだけで、元いた世界ではそんな生き方できていなかった。けど、何の因果か、この世界で生きていけるようになったので、ここでは、その生き方をこの鍛えた拳と共に貫いてきたい。

コレは、俺がこの世界に来て最初に決めた事だった。

そんな思いを胸に秘めて詠春さんにその旨を伝えると、詠春さんは目を大きく見開いてこちらを見た後、急に真剣な顔つきをして頭を下げてきた。

 

「………失礼した。」

 

「えっ?いきなりなんですか?」

 

「武…いや武殿がそこまでの思いをもっていたとは正直見抜けなかった。だからこそもう一度あの言葉を放った事謝罪したいと思います。」

 

「そ、そんな…。頭を上げてください。あと、年下の私にそんな敬語を使われたり、頭を下げられたりしても、こちらが困りますよ」

 

そう言って、詠春さんの行動に慌てていると、それを見た詠春さんがまた目を見開いて驚き、そして大声で笑った。

 

「ハハハッ…!君は本当に面白い子だな。…だが、その気持ちは本物だ。そしてその実力も…。改めて名乗らせてもらう。神鳴流免許皆伝、近衛詠春。貴殿の思いに答える為にも、全力で相手をしよう!!!」

 

そう名乗りを上げた瞬間、そこには小さい頃から憧れた侍がそのまんまの姿で、そこにいた。

すると、俺の体に微かな変化が生じた。

それは、体の震えだった。

恐怖…?いや違う。これはきっと“武者震い”と言うものだろう。

日本人特有の現象とは聞いていたが、まさか自分がそれを体験する事になるなんて、思いもしなかった。

まるで体が、あこがれの人と戦える事を歓喜しているようなそれは、最初から戦いたいと思っていた心に更に熱を与えて、もう爆発してしまいそうだった。

そんなはやる気持ちを、どうにか抑えながら、詠春さんの名乗りに応えるように俺も声を張り上げて、自分の名を名乗る。

 

「銃闘技タケル・ダテ…いや、伊達武。よろしくお願いします。」

 

普通に考えれば、素手と真剣。一歩間違えれば、死んでしまうかもしれないというのに…嬉しさが止まらない。

さぁいこうか俺の拳《相棒》よ。

俺のすべてをぶつけて、この素晴らしい好敵手を超えよう。

 

~全体視点~

 

武と詠春。お互いに名乗りを上げた後、最初から離れていた距離を保ったまま、二人は動かない。

詠春は、鞘から刀を抜いて、かまえる事もせず、だらんと下げ、武の方は、肩幅に足を開いて拳を下に下げていた。

詠春の方はそれが構えなのか分からないが、武の方は、ただ下に拳を下げているだけではなく、いつでも拳を撃ち出せるように準備…。そうつまり『ガンマンポジション』で待ち構えている状態だ。

奇しくもその構えはどこか似ており、おそらく両方の構えの事をこう言うのだろう。

自然体。

数ある武の構えの中で最も難しく、そして最良の構えである。

つまり、この状態からどんな風にも動けるし、攻撃できるというわけだ。

 

その構えを保ったまま、武は詠春の構えで気になった事を聞く。

 

「詠春さん。峰を返しているのは、俺相手では本気になる必要はないということでしょうか?」

 

「いや違うよ。これはあくまで仕合い。殺し合いじゃない。だから刃を向ける必要が無いだけさ…。それに神鳴流は獲物を選ばず…。峰を返していても、斬ろうと思えば人は切れるし、気を込めればそんじょそこらの真剣よりも切れるよ。それよりも君は何もしなくていいのかい?まさか気を纏わないで刀と戦うなんて思ってないよね。」

 

「…そうですね。では失礼して…”右手に気、左手に魔力…合成”」

 

詠春のもっともな返答に、少し笑みをこぼした武は、そう呟いて胸の所で手を合わせる。

すると、武の体の気が爆発的に上がる。

 

「…気の増加?いや…それにしては感覚が違うな。」

 

「感卦法ってやつです。今の俺じゃ詠春さんの気の量、質には敵いませんから」

 

感卦法。

この世界では、究極闘法の一つとして名を連ねている技である。

自分を無にして、己の気と魔力を合成させる技。

そうする事で、強力な力を得る事ができる闘法なのだが、これを習得するのは容易では無い。

気と魔力を正確に同じ量に調節するのもかなり難しいのだが、何よりこの闘法を習得するのに一番の難関と言われているのは、己を無にする事である。

人間、いや生物にとって、何もしない、何も考えないというのが一番難しい。

しかしこの闘法を成功させる為には、それをしなくてはいけないのである。

それゆえ、これを習得できるものは少なく、戦闘でコレを仕様する人は、もうほとんどいないのである。

武は、神様にそれが使えるように頼んだので、簡単に使えているが、本来はそんな簡単にできる事ではない。

もちろん、武の修練した努力があったからこそなのであるが…。

 

「なるほど…。これは面白くなりそうだね。」

 

強力な力を得た武を見た詠春は、ニヤリと笑いそう言った。

詠春も今武がどれだけ強いのか、わかっている。

しかし、彼もまた生粋の戦士。

自分と同等、それ以上の相手と戦うのは、思わず笑みがこぼれてしまうほど楽しい事なのだ。

 

「…それでは行きます!!」

 

武は“ふぅ”と短く息を吐いた後、そう詠春に言い放ち、『ガンマンポジション』から『スナイパーポジション』に構えを変えて、“ガンブレット”を撃つ。

 

「む!」

 

まさか射撃武器があるとは思わなかったのか、詠春はガンブレットを見て、少々驚いたような顔をするが、すぐさま刀を振り、ガンブレットを斬る。

 

「なるほど。銃を模した武術…その名に偽りなしか。しかし神鳴流には飛び道具など無意味だ!!」

 

「そうかも知れませんが…一発ではなく複数ならどうでしょうか?」

 

詠春の叫びに、極めて冷静に答えた武は、先程は一発だった、ガンブレットを連射する。

ただし、その連射はほとんどタイムラグの無い連射で、いうなれば…マシンガンの連射能力を持ったスナイパーライフル?それよりも、スナイパーライフルの様な遠距離射撃ができる、マシンガンと言った方が正しいのかもしれない。

そんな通常不可能なモノを可能にした、この技の名前は、“クレイジー・ホース”。

感卦法の様に、自分自身の能力をUPしてないと使えない技で、狙撃銃の様な、射程の長さと、マシンガンの様な連射力を併せ持った技となっており、武がこの世界に来て、編み出した彼オリジナルの銃闘技の技の一つだった。

 

「クッ…。確かにこれは骨が折れるが、そんなものでは私に当てる事などできん」

 

武から放たれる“クレイジー・ホース”の攻撃の多さに、さすがの詠春も顔をしかめるが、表情が少し変わっただけで、さも当然と言った感じで打ち出された、ガンブレットを切り落としていく。

そんな光景に、武は驚いて一瞬攻撃が止まり掛けたが、すぐに持ち直し、休む事無くどんどん撃ち込んでいく。

しかし、その攻撃もすべて詠春に切り落とされ、さすがに限界が来たのか、少し肩で息をしながら武が呟く。

 

「うわぁ…。これはさすがに、ショックを隠せないんですけど。せめて一発ぐらい当たってもいいじゃないですか。」

 

「フッ…。確かに、これの速度と量はたいした者だが、速度については私が追いつける範囲だし、量で言えばナギなどが撃ってくる”魔法の矢”に比べればたいしたことは無い。…まぁ威力はまったく別物だがな。」

 

律儀に武の呟きに答える詠春。その顔は、先程とまったく変わっておらず、疲れなど内容だった。

その反面、武は“クレイジー・ホース”を撃ち続けていた事で、スタミナを消費していたが、感卦法で自分の力をUPさせているおかげで、これ以降の戦闘には支障は無かった。

それに、正直を言えば、武自身も実際は当たると思ってはいなかった。

原作でも、神鳴流の飛び道具対策は万全で、しかも今、目の前に居るのは、圧倒的な技量を持った詠春である。正直、一発でも当たったらお慰みモノだろう。

しかし、当たらないと分かっていても、おそらくスタミナや気力は削れるだろうと思っていた武にとって、さすがにこの結果は予想外だった。

 

「さて、なかなか面白いものを見せてくれたんだ。こちらもそれ相応の技をお見せしよう。行くぞ?」

 

そんな武の驚きを知ってか知らずか、詠春は武にそう言うと、その場から一気に加速して武へ迫る。それを見た武も、何とか撃墜しようと、詠春に向かって攻撃を繰り出すが、その攻撃を流れるような動きで、詠春は回避していき、そして自分の射程範囲に入った所で剣を振り上げた。

 

「斬岩剣!!」

 

そう詠春は叫んだ。

 

“斬岩剣”

神鳴流の基本的な奥義にして、もっとも使う頻度が多いとされる技である。

その名の通り、岩をも切り裂く剛剣。

そんな技が武に向かって放たれた。

それを見た武は、最初迎え撃とうと考えたが、すぐさまその技の威力を感じ取り、迎え撃つ事をあきらめて、すぐさまその場から退避する。

 

ドコォォン!!

 

すると、先程武が居た場所から、大きな音が鳴り響き、その場所が土煙に覆われる。

土煙が消えると、そこには、大きなクレーターが出来ており、更にはクレーターの中心から真っ直ぐ大地に切れ込みができていた。

それを見た武は、背筋に嫌な汗が流れていくのを感じた。

 

「いい判断だね。もし受け止めようとしていたら、その体は今頃半分に分かれていたと思うよ?」

 

「…みたいですね。良かったです。勘が働いて…」

 

「でも、何時までよけられるかな?」

 

そう軽口を叩くが、武の顔はすぐれない。

しかし、それも仕方がないだろう。何せ、その威力をまざまざと見せつけられて、しかもそれが自分を襲ってくるのだから。

だけど、あきらめたわけじゃない。

これから詠春が、その技を俺に向かって放ってくるのなら、俺はこうすればいい。

おそらく、俺にしかできないだろう行動。

簡単な事だ…。

 

「…いいえ。もう避けませんよ?」

 

武がそう言うと、詠春の顔に少々落胆の色が見える。

だが、次の言葉が武から放たれると、楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「詠春さんがその技を出せる暇を与えないほど、圧倒的に撃ちぬかせてもらいます。」

 

「……おもしろい!!出来るものならやって見せてもらおうか!!!」

 

そう二人は叫び、再び激突する。

武は詠春の懐に潜り込むと、すぐさま『ガンマンポジション』の構えになり連撃を浴びせる。

詠春も、当然の様に武の連撃を受け流しながら、刀を振るっていく。

 

ガガガガガガガガガガガ!!!

 

「クッ…さすがにつらくなってきたな。なるほど。こちらが本来の速さか…」

 

武から繰り出される攻撃の速さに、さすがの詠春も捌くのが難しくなってきた。

しかし、詠春は勘違いをしていた。

 

“これが本来の速さ?”

 

それは、甘い幻想でしかないのだ。

 

「甘いですよ、詠春さん。」

 

「なんだと?」

 

「今のは、ただの様子見ですよ。…ここからが俺の本気の速さです。さぁ…耐えられますか?すべてを飲み込む拳の弾幕に…。”ダブルガトリングショット!!!”」

 

武がそう叫ぶと、先ほどの2倍~3倍に膨れ上がった拳の弾幕が詠春に向かって放たれる。

抗う事を許さない。移動する事も許さない。この技を目の前にした人にできるのは、ただこの攻撃が収まるのを待つ事のみ。

まさに拳の大津波であった。

 

”ダブルガトリングショット”

 

これも武自身が望み作り上げた。オリジナルで、武が今繰り出せる最高の技だった。

”ガトリングガン”

銃の中でも、圧倒的な連射速度と量を誇る銃であり、それこそが、この技の名前の由来でもある。

この技の目的はただ一つ。

自分の目の前に居る敵を、殲滅する事だけ。

牽制や、正確性などを忘れたような技なのだが、それ故に恐ろしい技である。

ちなみに、一発一発はそこまでの威力はもっていない。だが、塵も積もれば…ということわざがあるように、数を当てれば、いくらタフな相手でも倒れるしか…いや、この連打では倒れる事も許しはしないので、相手が動かなくなる事だろう。

ラカンにも、これはもう二度と味わいたくないと言わしめた技でもあった。

 

「クッ……」

 

さすがの詠春でも、この量は捌ききれないのか、次々と被弾していき、顔が苦痛にゆがむ。

そして、ある一発の拳が詠春に当たる。

その一発は、運良くいい所に当たったのか、その一発で、詠春の体が浮き上がり、一瞬だけ無防備になる。

その瞬間、先ほどまでの拳の大津波は止む。

詠春がどうしたのか?と思った瞬間、詠春の全身に一斉に鳥肌が立つ。

 

「コイツで止めだ!!44マグナム!!」

 

「なっ、間に合え!!真・雷鳴剣!!」

 

ズカァァァァン!!!

 

武の44マグナムと詠春の真・雷鳴剣。

互いの技の中でも最高の威力を持つであろう技が激突した瞬間、あたりは真っ白に包まれ、その後、爆発音といっていい音が響き渡る。

あまりにもすさまじい威力によって、地面に生えていた草花は一瞬にして消え去り、荒野のようになってしまっていた。

 

そしてその荒野に佇む二人の姿。

もちろん、武と詠春であるが、二人は互いに位置が変わり、背中合わせでその場に佇んでいた。

すると、一人が膝を付く。

 

それは詠春だった。

 

だが、詠春が膝を付くのとほぼ同時に、武の体から血が噴出し、武も膝を付く。

 

ブシュゥゥゥ

 

「ぐっ…完全に撃ち勝ったと思ったんだけどな。」

 

武は、右肩を左手で抑えながらそう呟く。そこには、おそらくあの瞬間、詠春の刀によって斬られたと思われる傷があった。

 

「くっ…何とか急所からは外せたが、それでもこの威力か。」

 

無論、詠春の方も無傷と言うわけでは無く、体の中心から少し外れた所に、しっかりと、マグナムが撃ち込まれた後が出来ており、そこを手で押さえていた。

 

「詠春さん。さすがですね。まさか俺のマグナムを逸らし、さらに斬り付けるなんて普通できませんよ。」

 

「そういう武君だって、急所から外れているはずなのに、この威力なんて…まさに銃弾の拳だな。」

 

二人とも傷口を手で押さえながら、互いの強さを褒め合う。

その顔は苦痛でゆがんでいながらも、どこか楽しそうで、相手の実力とその技が本物だった事を喜んでいる様だった。

そんな光景を、もし龍牙がこの場に居て見ていたら、ほぼ間違いなくこう言っただろう。…ラカンとのケンカをもう一度見ているかのようやと…。

 

「さっきの技、ガトリングだったか?あれはかなり効いたよ。…だが弱点も分かってしまったがね。」

 

(ピクッ)

 

二人はしばらく、そこで蹲っていたが、不意に詠春がそんな事を言い出す。

その言葉に、武は反応し、詠春の方を見た。

 

「銃と一緒で、玉数制限があると言った所か。…実際は拳を撃っているだけだから、拳を繰り出すための体力だろう。まぁ普通なら、あの速度と量を打ち出すこと自体無理な事なのだが、それを武君は修練によって可能にした。それだけでも尊敬に値する。しかし、そのためには膨大な体力を必要とし、感卦法によって強化されてもそれは変わらない。違うかな?」

 

詠春の問いかけに黙ってしまう武。

なぜなら、詠春が言った事は事実であり、弱点のすべてを見透かされたわけではないが、見事看破しているからである。

 

ダブルガトリングショット

その弱点とは、体力消費、酸欠、筋肉の酷使、そして心臓の負担が大きいことである。

体力についてはそのままの意味であの連射をおこなうために膨大な体力が消費される。

そして酸欠については、速度が問題となってくる。速度を極めるにあたり、行き着いたのが無呼吸運動である。実際は持たないため呼吸をしているが、ほぼ無呼吸運動なため、撃ち続ければ酸欠になってしまう。

筋肉の酷使についても同様で、あの連射と速度を保ち続けるために相当筋肉を酷使している。

そのため、技を限界まで続ければその後はしばらく腕が上がらなくなってしまう。

そして最後の弱点。心臓の負担である。

銃闘技のキモである血液の流れ、それをコントロールしているのが心臓であるが、激しい運動に加え酸素不足によってマグナムよりも数倍の不可がかかり、最悪心臓が止まってしまう場合もあるのだ。

無論その事は武も重々承知でこの技を使っており、感卦法を使用しなくても、一応は使えるのだが、なるべく感卦法を使用する事で、負担をできる限り少なくし、ギリギリの所を見極めている。

 

「…どこで気がつきましたか?」

 

「強烈な一撃を放とうとした所からかな?あのまま続けていれば、私は何も出来ないまま負けていただろう。だけど君は、あのまま攻撃していれば勝てるのに、それをやめて、止めをさそうとした。そこで気がついたのさ。」

 

“全くさすが詠春さんと言う事か…。観察眼迄一流なんだな。”

武は、そう心の中で呟く。

 

「さすがですね。まさかこうも簡単に、気付かれるとは思いませんでした。」

 

「簡単じゃないさ。おかげでかなりギリギリの所まで追い詰められているからね。でも武君もその傷じゃ同じ事は出来ないだろうし、やれる事も限られてくるだろ?」

 

さらなる詠春の問いかけに、もう武は苦笑いしかできなくなっていた。

 

「お見通しですか…。やりにくいなぁもう。」

 

「ハハハッ、君よりは長く生きてるからね。それぐらいは見抜けないと。」

 

「それでどうします?このままじゃお互いに収まりつかないと思いますけど?」

 

「そうだね…。武君も分かってるだろうけど、もうお互いできることは限られているからね。ここはやっぱりお互いすべてを込めた一撃を放つって言うのが常道だろう。」

 

詠春の提案に、武は思わず笑ってしまった。

 

「どうしたんだい?何かおかしいことでも言ったかな?」

 

「クククッ…いえ。実はラカン…あの今ナギさんと戦っている男と、マジケンカしたことがあるんですが、その時もお互いギリギリの勝負になって、最後は同じ展開になったものですから。…こうも同じだと、何故か笑えてきてしまって…。」

 

武がそう言ってまだ笑っていると、納得がいったのか詠春も同じように笑い出す。

 

「あっはっはっは。なるほど。武君が笑ってしまう気持ち分かる気がするよ。えてして、強者との戦いというものは、こうなるようになっているのかもしれないね。私も覚えがあるからね。」

 

そう言って笑い合う。

そして、お互いにある程度笑い合ったところで、二人は真剣な顔つきになり、構える。

詠春は刀を正眼に構え、武は右肩が斬られて右腕が使えないので、左腕を構えハンマーコックする。

 

「利き腕じゃなくても、さっきのような強烈な一撃を撃てるのかな?」

 

「ご心配なく。確かにマグナムは撃てませんけど、それに変わる必殺の技が左には備わっていますから。」

 

「そうか…それは安心した。」

 

その言葉を最後に二人は、ぴたりと会話をやめて、お互いがお互い全力を出せるように、神経を集中させる。

そして、二人が集中してからしばらくして、まるで照らし合わせたかのように、二人は言葉を発した。

 

「詠春さん。貴方と戦えて本当に良かった。貴方は、やっぱり俺が憧れた侍そのものでした。」

 

「武君。君と戦えて本当に良かったよ。久しぶりにいい勝負が出来た。それだけでも嬉しいよ。」

 

「でも」「だが」

 

『この勝負、勝つのは俺(私)だ!!!』

 

そう叫んだ後、二人は怪我をしているのが、嘘のように先程と変わらない…。いや、先程よりもさらに鋭く、相手に向かって、飛び出した。

詠春の刀に気が集まり光を出せば、武のハンマーコックした左腕が、鉛色から青銅色《ガンブルー》に変わる。

 

そして、今できる最高の一撃の名を叫ぶ。

 

「これが俺のラストショット!イビジブル・デリンジャー!!」

 

「新鳴流最終奥義!神鳴!!」

 

その瞬間、大きな雷が轟音を響かせてあたりを包み、銃声と聞き間違えるほどの低く鈍い音が突き抜ける。

そして、辺りが静けさを取り戻した時、そこには寝そべっている二人の姿があった。

 

「ハハハッ…まいったよ。初めてあんな事をされたよ。私も修行が足りないな。」

 

そう言ったのは詠春。彼の心臓とみぞおちの辺りには、武によって撃ちぬかれた証の銃痕が残っており、どうやら、そのせいで、体が動かないようだ。

 

「かなりの賭けでしたよ。でも詠春さんの技の威力がでかすぎて、俺もまったく動けないんですけどね。」

 

そう言うのは武。体のあちこちから黒い煙が漂っていて、少し焦げたにおいがする。

ただ、どこも斬られていない所をみると、直撃は避けられたようだったが、しかし詠春の繰り出した攻撃のすさまじさによって、ダメージをかなり受けてしまい、こちらも動くことはできないみたいだった。

 

あの時何があったのか?

 

説明するとこう言う事だ。

あの瞬間、武は詠春から放たれた刀の側面に、動かないはずの右拳を撃ちつけ斬撃を逸らし、そのまま懐にもぐりこみ、必殺の左腕を解放。急所に向かって、超高速の二連撃を食らわせたのだ。

しかし、逸らしたと言っても、ただでさえ、斬られてまともに動かす事が出来ない右腕でやったのだ。逸らす事に成功したのは、ほんの少しだけ。詠春が放った“神鳴”は、気を電撃に変化させ、しかも突きの攻撃なのにも関わらず、攻撃範囲が通常の突きよりもかなり増えていた為、刀に纏わせていた電撃の攻撃は、まともに食らっていたのである。

 

以上が、あの時あった事のすべてだが、正直一歩間違えば武は詠春によって、体を貫かれてしまったのは、間違いなく。まさに運が良かったとしか思えない攻防であった。

 

「この勝負私の負けかな?」

 

さっきの事を思い出し、詠春がそう口にするが、武はそれを否定する。

 

「いえ、引き分けでしょう。俺も動けませんから」

 

「そうか。にしも私は剣をそれなりに極めたつもりだったんだが、まだまだだなぁ…。ありがとう。己の未熟さを思い知ったよ」

 

「まさか、お礼を言われるとは思わなかったです。」

 

「ハハハッ。そうだ!またしばらくたったら仕合いしてくれるかな?」

 

「えーと……出来れば拒否したいかな~って」

 

「それは出来ない相談だね。私を武術で引き分ける相手なんてまずいないからね。互いによきライバルでいようじゃないか。」

 

「いや、それは嬉しいんですけど基本的に戦うのは好きじゃないので…」

 

「それはうそじゃないかな。戦っている時はあんなに楽しそうだったじゃないか。大丈夫、無理にでも戦ってもらうからね」

 

「何が大丈夫か分かりません!!!だから俺は…」

 

「鍋料理を食べさせてあげるとしても?」

 

「………考えさせてください。」

 

「ふむ。日本料理でつればいいのか。良く分かったよ」

 

「……そんな簡単に篭絡できると思わないでくださいね。…でも鍋は食べさせてください。」

 

「わかったよ。でも今は…」

 

「そうですね。どうやってあっちに戻りましょうか?」

 

そう言って、考え込む二人であった。

 

剣と銃どちらが強いのか?

 

その答えはこの戦いで出ることは無かった。

 

もしかしたらその答えは、永久に出ないのかもしれない。

 

なぜなら互いに高めあって限界を無くしていくのだから。

 

武がこの世界に来て約4ヶ月。

 

ようやく英雄の力に追いついた瞬間であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話:矛と盾

今度は龍ちゃんの戦いです。
それではどうぞ!


詠春と武が戦いを始めた頃、ゼクトと龍牙も、先ほどいた場所から離れ、お互いに少し距離をとっていた。

戦いが始まる前の、独特の緊張感の中、ゼクトが龍牙に話しかける。

 

「のう…龍牙。お主そのままで戦うつもりか?」

 

「なんやゼクトはん、気づいとったんかい。」

 

今のこの姿が、仮初めの姿という事に気が付いたゼクトに、少々驚く龍牙。

 

「幻獣の中で、そんな体の小さい者など、フェアリー族以外見た事が無いし、聞いたことも無いからの。と言っても、儂が知らないだけかもしれんが。それに歳を重ねる事に、相手の正体と言うものが戦う前から何となく分かるようになっての。儂の感じた感覚と、今のお主のその姿にはかなりの矛盾を感じているんじゃよ。」

 

「…なるほどなぁ。てことは、見た目そんなんやけど、結構…いやかなり歳とっとるみたいやな。ほんま人間か?」

 

「そうじゃの~。限りなく人から離れた人間と言う所じゃの。魔法の研究のせいで不老になってもうただけじゃ。」

 

「だけって済ますには、事が大きすぎると思うんやけど…まぁええか。それじゃお言葉に甘えて…」

 

そう龍牙が言い、”よっ”っと声を上げて飛び上がる。

すると、先ほどまでぬいぐるみぐらいのサイズだったのが、一瞬にして大人の身長よりも大きな虎の姿となった。

 

「ほう…本来の姿はそんなんじゃったか。思ったより大きい訳じゃないんじゃな。」

 

「何と比べとるんか分からんけど、これぐらいが普通やで?まぁ、ワイは種族の中でも、まだ若い方やから、小さい方やと思うけど。それでも、もうそう大きくなりはせえへん。せいぜい、この体が二倍になるくらいやな。」

 

「それはかなり大きくなると言うのではないか?…ワシも成長薬でも作ってみるかの。」

 

「あーそれ、わざとそういう姿の訳じゃないんや。…そっか。いろいろ大変やな。」

 

「幻獣に慰められるとは…。まぁ良いわ。さて、おしゃべりもこれくらいにして、そろそろ始めるとするかの?」

 

「せやな。時間が足らへんと言う訳でもないやろうけど、せっかくの戦いや、変な邪魔入って欲しくないしな。」

 

龍牙がそう言い終わると、お互いもうお喋りの時間は終わったとばかりに、体から発せられる魔力の量を増やしていく。

ジリッジリッ…と、互いに視線を交わしながら、間合いを詰めていく。

そこには、真剣勝負特有の緊張感と重たい空気が流れていた。

 

「ワイからいかせてもらうでぇ!!」

 

その重たい空気を、吹き飛ばすかのように、先に動いたのは龍牙からだった。

考えてみれば当然だろう。龍牙の真骨頂は攻撃にある。相手が動くのを待つのは性に合わないのだ。逆にゼクトは、戦う前に龍牙が言った通り、守りが得意である。

ただし、それは攻撃を防ぐ事が得意と言うよりも、相手の攻撃の隙をついてのカウンター…つまり迎撃が得意なので、決して相手の攻撃を防ぐ事だけが得意と言う訳では無い。

むろん、それは龍牙も知っている事だが、だからと言って動かずにいたら、それこそゼクトの得意とする状況になってしまう。

なので、龍牙が先に行動したのは最良の選択と言えるだろう。

 

「くらえや!空牙!!」

 

そう叫んで、龍牙は爪を出した前足をその場で勢い良く振る。

すると、その爪から空気の刃が出て、ゼクトに襲い掛かった。

ちなみに、技名を付けたのは武だ。

龍牙も最初、“本当に名前なんて必要なんか?”と思っていたが、今ではかなり気に入っている。

むしろ、技名を叫ばないと、調子が出ないみたいだ。

 

「ほっと。危ないのう。空気の刃といった所か、幻獣はもっと肉弾戦を好むと思っていたのだがの。ほれお返しじゃ。光の矢100本」

 

軽く空牙を避けたゼクトは、返す刀で光の矢を放つ。

その数100本。普通の魔法使いなら、まず簡単に出せる量じゃ無い。

 

「うはーけっこう量多いな~。やけど、これぐらいの速さと数じゃワイには当たらんで?それとゼクトはん。その考えは間違ってないで?普通の幻獣は、だいたいそうや。でもな、ワイの相棒はタケやんやで?武術家の相棒やったら、こんな芸の一つや二つ使えんとな。」

 

そう軽口をたたきながら、迫り来る魔法の矢を前足で払いのけていく。

 

「ふむ。それはすまんかったの。…にしても、大方予想はしておったのじゃが、改めて龍牙よ。お主やるのう。」

 

「当たり前や。でも、ワイの力はこんなもんやないで?これからもっと驚かせたるわ。ま、そんなゼクトはんも、さすがやと思うで?ワイが知るどの魔法使いよりも強いやん。」

 

「あたりまえじゃ。年季がちがう」

 

「その姿でそれ言われてもな…。まぁええわ。」

 

そう二人は和やかに話しているが、二人が繰り出す攻撃は凄まじく、すでに辺りはひどい事になっていた。

地面は空牙によって裂け、魔法の矢によって大小の穴が開く。その中を二人はなんてことの無いように動き回り攻撃していく。

しばらくそんな状況が続いた後、二人はお互いに距離を取りまた最初のように見つめ合う。

 

「さて、準備運動はこれくらいにして、そろそろ本気でいこか?」

 

「じゃの。」

 

今までは本気じゃなかったのか?と言いたい所だが、二人が言うなら本当の事なのだろう。

それを証拠に、龍牙とゼクトの体から先程よりもさらに強大な魔力が立ち上り、それによって突風が巻き起こった。

そんな中、龍牙がニヤリと笑うと、ある言葉を紡ぐ。

 

「いくでぇ…”我名において助けを請わん。その友の名は火の精霊クゥ。我魔力を糧に我に力をしめせ”」

 

そう龍牙が唱えると、龍牙の体を炎が包み、そしてその中から紅く色を変えた龍牙が出てくる。

その姿を見てゼクトは驚く。

 

「なんと!!龍牙は”闇の魔法”を使えるのか?」

 

「”闇の魔法”…ああタケやんが使う魔法の事か?ちゃうちゃう。これは幻獣特有の魔法って奴や。」

 

「そうなのか?初めて聞くのう」

 

「そやろな。これはワイら虎型の幻獣特有って言っても良いと思うで?そもそも幻獣に、人が使うような魔法は存在せんのや。使こうとるのは、人に良く似た奴らだけやろ?他は使わん。やけど、幻獣は、人よりも精霊に近い存在や。そのお蔭で、精霊の力を人よりも強く感じれる。やから魔力を糧に精霊の力を借りて、種族ごとに特有の魔法みたいなもんがあるんや。たとえば竜とかは、それをブレスとかに活用してる。んで、ワイら虎型の幻獣やけど。ワイらは、精霊の力をこの身に宿して戦う。それがこの”赤王”や」

 

「なるほどの。長く生きてきたが、そんな話初めて聞いたわ。にしても…”赤王”とはなかなかカッコイイ名前じゃの」

 

「そう言ってもらえるとうれしいわ。名前付けたのはタケやんやけどな、ワイ自身結構気に入ってるんや」

 

ゼクトに名前を褒められて、嬉しそうな顔をする龍牙。それを見ていたゼクトは、”こうも人間らしい虎がいるとは…おもしろいのう”と心の中で思ったとか。

 

「さて、勝負を中断して悪かった。続きを始めるかの?」

 

「望む所や!!!」

 

そう言って龍牙は最初と同じように、ゼクトに向かって駆け出す。

その姿を見たゼクトは、先程とは違い、相手が攻撃をする前に迎撃しようと詠唱を始めた。

 

「”ヴシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト”…”母なる水より生まれし小さな子供達よ””我に集い形成せ””その小さき姿は互いに寄り添い””列なる事で荘厳なる姿となし””すべてを呑み込む海となれ””大海嘯”」

 

ゼクトの詠唱によって生み出された大きな津波が、龍牙に襲い掛かる。

 

しかし、そんな大きな津波を見ながらも龍牙は、焦ることなく、むしろ笑みを浮かべていた。

 

「甘いでぇ…そんな水なんかで、ワイの炎消せると思うんか?オラァ!!かき消えんかい!!炎爆波!!」

 

ゼクトの魔法に対し、龍牙は右前足に火の魔力を集中させ、アッパー気味に振り上げ、前方の水に対して一気に爆炎を放出した。

すると、前の水は一気に蒸発し、ぽっかり穴があく。すかさず、龍牙はその穴に飛び込み一気にゼクトに迫る。

その光景にゼクトは驚くが、すぐに気を取り直し、次の魔法を撃つ。

 

「あの水の量を蒸発させるじゃと…これは驚きじゃ。じゃが、おかげ出てくる場所が丸見えじゃの。ほれ、”雷の暴風”」

 

この瞬間、ゼクトは自分の魔法が当たると確信していた。

…が、次の瞬間龍牙の体は煙のように消えてしまった。

 

「むっ…上か?」

 

それを見て一瞬驚愕と言った表情をするが、戦場で思考が停止してしまうのは、一番危ない事だとゼクト自身経験で分かっている。

なので、未だ気持ちが落ち着かないが、すぐさま周りに気を張って龍牙を探す。

すると、上空からとてつもない大きな気配を感じる。

すぐさまゼクトは上を見上げると、そこには大きな火の玉が自分目掛けて落ちてきているではないか。

 

「くっ!!」

 

間一髪と言った感じで、何とか避けてその場を離れると、地面に落ちた火の玉は、周囲を燃やしつくし、一瞬にして炎が広範囲に舞い上がった。

そしてその中心には、先程直撃を食らったはずの龍牙がいた。

 

「あれ?今のは決まったと思うたんやけどな…」

 

「正直危ない所じゃったわ。あの身代わりに気付かんかったら、直撃しておったわ。」

 

額に流れる汗を拭いながら、ゼクトは答える。

すると、龍牙は心底驚いたと言った表情を見せた。

 

「うわ!!”陽炎”見破ったん?そらあかんわ。」

 

「ほう。”陽炎”と言うのか先ほどの技は、いい技じゃの。」

 

「ま、あそこまで出来たんは半分ゼクトはんのおかげや。ゼクトはんが水だしてくれたもんで、ええ感じにつくれたんや。ありがとはん」

 

陽炎

それは、龍牙が赤王に成った時だけ使える技である。

本来なら、龍牙から発せられる熱によって視界を歪ませ、蜃気楼を起こし、あたかもそこに自分がいるように見せかける技なのだが、今回はゼクトが最初放った水を蒸発させることで、霧を造りだしいつも以上に分かりにくくしたものである。

その為、龍牙はゼクトに挑発の意味合いも込めたお礼を言ったのだが、ゼクトには効果は無かったようだ。

まぁ、龍牙本人も乗ってくれたら儲けモノぐらいにしか考えていなかったので、特にショックを受ける事は無かったのだが…。

しかし、両方とも今の邂逅で一つわかった事がある。

それは、このままでは消耗戦になってしまい、しかも勝敗はどっちに転ぶか分からないぐらい拮抗してしまうと…。

なので、ゼクトは少しでも自身の勝率を上げる為に考えた結果、ある方法を思いつく。

それは、ゼクトにしては珍しく、伸るか反るかの懸けの様な方法だった。

 

「そのお礼は嬉しくないのう。しかし、これではらちが明かん。どうするかの」

 

「その意見には賛成や。お互いにまだ手の内はすべて曝してないとは言え、同じ事の繰り返しやろ」

 

「まぁやりようはあるか…”ヴシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト”…”母なる水より生まれし小さな子供達よ””我に集い形成せ””その小さき姿は互いに寄り添い””列なる事で荘厳なる姿となし””すべてを呑み込む海となれ””大海嘯”」

 

そういったゼクトは先ほどと同じ魔法をまた唱え龍牙に向けて放つ。

それに対し、龍牙はゼクトの行動に少し疑問を持ちながらも、とりあえず目の前に迫っている魔法を迎撃しようと力を溜めた。

 

「なんや?また消されたいんか?爆炎波!!」

 

その結果、やはり先ほどと同じように、自分の近くだけ水を消す事に成功し、すぐさま攻撃に移れるように目の前に居るはずのゼクトを睨みつける。

…が、もうそこには、ゼクトの姿は確認できず、龍牙はすぐさま気配を探る。

すると後ろの方から詠唱の声が聞こえてきた。

 

「”ヴシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト”…”契約により我に従え””大空を統べる王””来れ””天上を貫く荒ぶる槍よ””天へと誘う道となれ””深緑の柱”」

 

その瞬間、龍牙を中心に風が巻き起こり竜巻となって、中心にいる龍牙を押しつぶそうとする。

しかも、まわりには先ほど放った水があり、竜巻によって舞い上がり重みの無い風に重量を与える。

 

「しもうた!!」

 

ここでやっと、ゼクトの考えが読めた龍牙は、必死になって地上に出現した渦潮の中から逃げ出そうと、攻撃を放つが、まるで効果は無く何もできないまま、渦潮に飲み込まれてしまう。

そんな状況の中、さらにゼクトは、魔法を唱え始め、追い打ちをかけていく。

 

「”ヴシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト”…”契約に従い我に従え””氷の女王””来れ””とこしえのやみ””えいえんひょうが”」(さすがにきついの…。じゃがここで決めねばワシは勝てん!!)

 

すると、渦潮は一瞬にして氷の彫刻になった。もちろんその中には、龍牙の姿があり、ゼクトはそれを確認すると、止めの一撃を放つ。

 

「”ヴシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト”…”来たれ水の精””風の精””水を纏いて””貫け””海神の槍””三又の鉾(みつまたのほこ)”!!」

 

大魔法を連発して、残り少なくなった魔力でゼクトが放てたのは、“雷の暴風”と同じ中級魔法として分類されている“三又の鉾”だった。本来ならこの魔力でも、炎系最強呪文を放つことはできたのだが、いくら今氷漬けとなっている龍牙あったとしても、彼が今纏っているのは炎。

もしかしたら、自分が放った炎を利用してしまうかもしれないと思い、この呪文にしたのだ。

この呪文は、“雷の暴風”と同じ中級魔法と言ったが、本来広範囲攻撃となる魔法をある程度纏める事によって、貫通力と破壊力を上げている呪文の為、単純な破壊力は上級魔法にも匹敵すると言われている。しかし、拡散しようとする魔法を纏める難しさと、ちゃんと標的に当たらないと、最悪ダメージも与えられない状況になってしまう為、この魔法を覚えている者はほとんどいない。

しかも、ゼクトでさえ、拡散する魔法を纏めるのに、余計な魔力を消費してしまう為、燃費がかなり悪い魔法なのである。

何故、こんな魔法を使ったのか?

その理由は簡単だった。

他の上級魔法を使うには魔力が足りず、中級魔法では威力が足りない。

今ゼクトが放てた魔法はこれしかなかったのだ。

まっすぐ龍牙に向かって放たれる魔法を見て、”勝った!!”そう思ったゼクトだったが、すぐさまその顔は驚愕の顔となる。なぜなら、本来なら、もうしばらくは閉じ込めておけるはずの氷の中にいた龍牙が赤く光り、ゼクトが作り上げた氷の柱に皹が入っていきたからだ。

 

「ワイをなめるんやないでぇぇぇ!!!!」

 

そう叫んで氷の柱を突き破る龍牙。その体は炎に包まれ、あまりの熱量に龍牙の周りの景色は歪んで見える。そしてそのまま”三又の鉾”へと突っ込んでいく。

その光景を見て、ゼクトの頭には“何故!?”と言う言葉で埋め尽くされていた。

普通に考えて、せっかく脱出できたのに、わざわざ魔法に突っ込んでいく必要など無い。

脱出に成功したが、回避は間に合わないというなら“死中に活を見出す”と言う事で突っ込むのも分からなくは無い。

しかし、あのタイミングだったら、普通の魔法使いなら無理かもしれないが、先程まで見ていた龍牙であれば、かろうじてだが回避は間に合ったはず。

なのに龍牙は、魔法に突っ込んで行った。

しかも、炎の弱点と言われている水の塊に…。

ゼクトには龍牙の考えが分からなかった。

そして、龍牙と“三又の鉾”が激突した瞬間、ゼクトの目の前には信じられない事が起こった。

 

「なん…じゃ…と…」

 

”三又の鉾”に突っ込んだ龍牙は何故か、先程よりももっと巨大で大きな炎を纏ってゼクトに向かって突撃してきたのである。

その大きさは自身の体の二倍はあり、その威風堂々とした姿は、”赤王”…炎を統べる虎王に相応しい姿であった。

 

「…ゼクトはんの考えは間違って無い。炎を纏ってるワイに水の攻撃魔法。理にかなっとるわ。しかしなぁ、ワイが纏っとる炎の強さを読み違えとるわ。ワイの炎を消したかったら、最低でもあの“大海嘯”ぐらいの水が無いとなぁ。むしろこの水のお蔭でワイの炎は更に燃え上がったわ!!これがワイの最高の技じゃ!!!火迦具槌!!」

 

「間に合え!!障壁最大!!」

 

そう叫ぶと虎の形をした炎が大きく口を開けてゼクトを飲み込もうとしてきた。

対するゼクトもほとんど残っていない魔力を搾り出し自身が出来る最大の防御魔法を唱えて堪えようとする。

 

ゴガォォォォン

 

ぶつかりあった瞬間、鈍い音と燃え盛る炎の音が混じって大きな音が響き渡る。まるでそれは虎が雄叫びを上げているようにも聞こえた。音の中心では爆炎に包まれ、まるで炎の棺の様に形を作る。

 

火迦具槌

神の名を借りたその技は、まさしく対象を逃れる事の出来ない炎で抱擁し、すべてを焼き尽くす技だった。

 

しばらくすると、炎の棺は姿を消し、二人の姿が見えてくる。

いつの間にか二人は地面に降りており、あんな激しい衝突をしたにも関わらず、二人とも倒れている事は無かった。

 

「ハァ…ハァ…。なぜじゃ。確かにお主の炎の力を読み違えていた事には納得した。じゃが、何故それで炎が大きくなるんじゃ。」

 

おなかを手で押さえ、肩で息をし、体中に焦げた後や、火傷があり、しかも口からは血を流していたが、そんな事よりもさっきの事が納得できないゼクトは、龍牙に向かって質問を投げかける。

 

「…ワイは、炎を統べる虎であって、炎そのものやない。たとえ水に濡れたとしても、すぐさま炎を纏う事ができるわ。…魔力が続く限りな。やから、あの瞬間纏っとた炎は消えたかもしれんが、火種はくすぶっとった訳や。んで、その火種はまたワイの魔力で燃え上がる。しかもオマケつきでな。ワイは幻獣とはいえ、ベースは虎…恒温動物なんやで?」

 

「恒温動物…。ハッ!!そういう事じゃったのか!!」

 

「気づいたみたいやな。恒温動物は、急激に体温が低下すると、体温を元に戻そうと発熱する。その熱量はかなりのもんや。それとワイの魔力で燃え上がった炎…通常よりも炎が大きくなってもおかしくないで?」

 

「…なるほど。龍牙はそこまで考えてあの魔法に飛び込んだと言う訳じゃな。…儂の完敗じゃよ。」

 

ゼクトは龍牙の答えに納得できたのか、満足した顔でその場に倒れこむ。

しかし、それと同時にもう一つ何かが倒れたような音がした。

もちろんそれは龍牙であった。

彼もまた、あの魔法に真正面からぶつかったのだ。無事であるはずがない。

その証拠に、もう体に炎は纏っておらず、体中に傷をつけた状態で元に戻って倒れこんでいた。

二人の耳に聞こえるのは、遠くから大きな爆発音と、近くにいる人の息遣いだけ…。

その音を聞きながら、二人はしばらく何も喋らずそのままでいた。

そうして、しばらくたった後、龍牙が独り言のように呟く。

 

「今日はワイが負けといたる。…やけど次はギリギリやない。誰が見ても分かるように勝ったるわ」

 

「…そうか。じゃがこの戦いで、儂も未熟だと分かった。じゃからこの勝負は引き分けじゃよ。…もう二度とお主とは戦いたくないがの。」

 

こうして、龍牙とゼクトの戦いは終わりを告げた。

 

武達と同じく、彼らも引き分けだった。

 

二人は、負けたと思っているかもしれないが、むしろ彼らは勝者だろう。

 

互いに目指す場所ができ、そしてこれから目標となる人を見つけ、それに向かい一歩踏み出したのだから。

 

二人は、さらに強くなることを心に誓い、今は休む。

 

その顔は、とても清々しい表情をしていた。

 




おそらく今日はもう少し投稿できると思います。

それとですが、武と龍ちゃんのプロフィールと、今までてきたオリジナル技をまとめたものを別に投稿する予定です。
今日できれば投稿したいと思いますが、もし気になる方は覗いてみてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話:グレート=ブリッジ奪還作戦

昨日はあの後、寝落ちしてしまったので、今日投稿します。
さて今回は有名なあの戦いになります。
楽しんでいってくださいね。


詠春との仕合いが終わり、動けるようになるまでしばらく時間が係ったが、何とか動けるようになったら俺達は最初詠春達が居た場所に戻ってきた。その時に、アルがとても嬉しそうにこちらに向かってきたのだが、その光景はとても不自然だった。隣に居た詠春も微妙な表情をしていたからたぶん俺と同じような気持ちなのだろう。

…というか、正直アルのキャラでそれをやられると、いろいろダメな感じがした。

それはともかく。

仕合の事をアルに根掘り葉掘り聞かれながら、話をしていると、龍ちゃん達も勝負が終わったのかこっちに向かって来た。

勝敗について俺は尋ねる事はしなかったが、龍ちゃんの顔を見る限り、何か得る物があったんだろう。それぐらい、良い目をしていた。

龍ちゃんも龍ちゃんで、こっちの勝敗を聞くことは無く、じっと俺の目を見つめると、納得したように”うんうん”と頷いていた。

そうして残るはラカン達となった訳だけど、しばらく雑談をしながら時間を潰していたのだが、一向に帰ってくる気配が無く。未だ爆発音が聞こえている。それから考えるに、まだまだ決着はつかないだろうと結論を出し、俺は詠春さんに頼んで日本食をつくって貰い、皆それを食べながら待つことになった。

 

それからさらに半日以上が過ぎた所で、爆発音も無くなり、おそらく決着がついたのだろうと思った俺達は、様子を見に全員でその場所へ向かった。

するとそこには、二人して体が動かないのか、寝転がっている二人を発見した。しかも未だに口ゲンカをしているし…。

それを見ていて、あまりにも見苦しかったので、引き離して連れて帰ろうとすると、なんというか、子供のような捨て台詞をラカンは叫んでいた。

 

「今日は調子が悪かっただけだ。今度会うときは覚えとけよ!!」

 

そうラカンが言うと、ナギの方も同じように子供じみた捨て台詞を叫ぶ。

 

「へっ!俺様だってお腹がいっぱいで、うまく動けなかったんだよ!!次あったらボコボコにしてやるぜ!!」

 

うん。

もう好きにすればいいと思う。

きっとここにいた全員が、同じ事を考えていたんじゃないかと、俺は思う。

それから約2ヶ月、俺達は”紅き翼”とケンカをしていた。

ケンカと言っても、やっているのはラカンとナギだけで、他は思い思いに過ごしていた。

俺は詠春さんと一緒に修行したり、ゼクトやアルに魔法を教えてもらい、龍ちゃんの方と言えば、ほぼ俺と一緒で、詠春さんと戦ってみたいと言って仕合いをしたり、興味があるのか俺と一緒に魔法の授業を受けていた。

そんな日が何日か続いたある日、いつものようにラカン達がケンカから戻ってきたのだが。何かおかしい。

何故あの二人は肩を組んで、仲よさそうに帰って来てるのだろう?

皆して打ち所が悪かったのか?と心配したが、どうやらいまさら互いに強さを認め合って仲良くなったらしい。

本当にいまさらだ。

そしてさらに驚いたのが、どうやら俺と龍ちゃんはいつの間にか、”紅の翼”のメンバーになっていたらしい。

それについて、“いつの間に!?”と思わず声を上げてしまったが、他のメンバーからすれば、“何をいまさら…”という目で見られ、“ああ、そういえば、勧誘とかしてなかったっけ?”と呆れたように言われた。

ちなみに、もうメンバーの一員として決まっていた俺達に向かって、ナギからこう言われた。

 

「ラカンから聞いたけど、オメェ達もかなりつえーんだって?だったら俺達と一緒にこねぇか?一緒に大暴れしようぜ!!…って言うか、今さらだよな。もうお前たちは“紅き翼”の仲間だからな。それより、後で俺とケンカしようぜ?どれくらいつえーかためしてみてぇ…」

 

なんていうか、言葉は微妙なのに、何故か一緒に着いて行きたくなる。これが俗に言う主人公体質っていう奴なのかもしれない。カリスマってやつ。

でも、これで当初の目的通りに話が進めそうだった。

毎日が騒がしくて、いろいろ大変だけど、心が許せる仲間がいるのはこんなにも楽しい事なんだなぁ…としみじみ思う今日この頃だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・

 

俺が“紅き翼”の正式なメンバーになって何ヶ月が過ぎたある日、俺達”紅き翼”はある戦場へと向かっていた。

…そう、原作で”紅き翼”が世界的に有名となる舞台。

グレート=ブリッジへと…。

 

「なぁ、ワイの記憶が正しければ、グレート=ブリッジって連合のもんやなかったんか?」

 

「いえ、龍牙の言う通りですよ。でも、帝国側が大規模転移魔法を使って奇襲をし、難攻不落とまでいわれたグレート=ブリッジを陥落させたんです。」

 

「そのせいで、連合側は後手後手に回ってしもうての、今形勢は帝国側有利になってしまったんじゃ。」

 

「それで、その状況を打開するために私達が呼ばれ、今回の作戦が決まったということだな。」

 

「今回の作戦…グレート=ブリッジ奪回作戦か。だけどこれは作戦っていうのか?周りで陽動をかけて、その隙に俺達が奪還するだけだろ?」

 

呼び出された俺達は、最初連合のお偉いさんからありがたい作戦を伝えられた。

…が、正直その作戦は、作戦と言う言葉を冒涜している様なモノ。

ただでさえ、難攻不落と言われている要塞の防御力もあるのに、それに加え、兵力は相手の方がかなり上という情報まで入っている。いくら陽動をかけると言っても、それでどれだけの兵力がそちらにいくか分かったもんじゃない。これでは俺達に死ねといっているもんだ。

 

「そうですね。私達のことを信頼していると言われれば聞こえはいいですが、私としてもどうかと思っています。戦況が見えていないのか、それとも…」

 

「あ゛ー、そんな難しく考える必要なんてねーよ。ようは俺達が敵をぶっ飛ばせばいいことだろ?簡単じゃねーか。俺達は無敵の”紅き翼”だぜ?負けるわけがねー」

 

「HAHAHA!その通りだぜ。むしろ他のヤツラがいない方が、余計な気を使わなくてすむってもんだ。むしろやりやすいぜ。」

 

二人はそう言って大笑いをしている。

これだからバカと言われるんだけど…まぁいい所でもあるのか。

それに、一見バカバカしい発現だけど、ナギ達が言っていることも間違っていない。

どんな作戦だろうと、ようは俺達が成功させればそれでいい事なんだし、難しく考えて体が動かなくなってしまうのもバカらしい。

そう思っていると、他の皆も同じ気持ちなのか、仕方が無いなぁと行った感じで笑う。

でもその目は真剣味を帯びており、これからやる事の覚悟が出来た目をしていた。

 

「はぁ…バカは気楽でいいな。」

 

『誰がバカだ!!コイツと一緒にするな!!』

 

俺がそう呟くと、二人してこっちに叫んでくる。まるで息を合わせたように同じ事を言うので思わず吹き出しそうだった。すると、さっきの言葉に引っかかったのかまた二人が言い争いを始める。

 

「おい。ラカン俺様が何だって?お前と違ってバカじゃねーんだよ。この筋肉バカ」

 

「はぁ?何言ってやがんだ?てめーこそ未だに魔法ほとんど使えないくせに。このバカガキが!!」

 

『……ぶっとばす!!』

 

そう言ってお互いに胸倉をつかみ合う。また始まったみたいだ。

 

「はぁ…だから二人はバカなんだって…」

 

「そういうたかて、いまさらやん。それに……タケやんもあんま変わらんで?」

 

「オイオイ…。それを言うなら龍ちゃんだろ?俺はいつも冷静だ。」

 

「冷静って言葉の意味しっとるか?…それとワイのどこがあいつ等と一緒や!!」

 

「ほう…龍ちゃんケンカ売ってんの?」

 

「そっちこそワイにケンカ売っとるやろ?」

 

『……表に出やがれ!!』

 

「戦争する前に龍ちゃんを亡くすなんて、残念だよ。」

 

「そのキャラは無理やといっとるやんけ。いい加減あきらめや!それとそっくりそのままその言葉返したるわ。…覚悟せいよ。ワイの半分も生きてないクソ餓鬼が!!」

 

「やめんか!!!状況を考えてケンカしろ!!」

 

詠春さんがケンカを止めようと叫ぶが、そんな事関係無い!!今日こそは俺が二枚目になれることを証明しなくちゃいけないんだ!だから…

 

『『黙れ!!邪魔すんな!老け顔詠春!!』』

 

「老け……!!フフフッ………斬る!!」

 

「ふう…あやつらは。これから戦争しに行くって本当にわかっとるのかのう」

 

「忘れていると思いますよ?ですが…フフフッ」

 

「なんじゃ?」

 

「いえ。この方が私達らしいと思いましてね。」

 

「わっはっはっは。なるほど。その通りじゃ」

 

そんな感じで指定された場所へ行くまで、俺達はずっとケンカをしていた。

皆この後戦争すると分かっていたのか、ただのじゃれあい程度だったが、それでも場所についた時に、そこにいた兵達に怪我の心配をされてしまった。

俺達にとってはこんなもの日常茶飯事だったのだが、どうやらそれは普通から見たらありえない域だったらしい。

どうやら俺もかなり毒されてしまったようだ。

 

「もともとやないんか?」

 

龍ちゃん心を読まないで欲しいな。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・

 

「ナギ!そろそろ作戦開始時刻ですよ。」

 

アルがそう言うと、一瞬にして皆真剣な顔つきになる。

正直俺は戦争をするのが始めてだから、怖い気持ちが無いわけじゃない。

するとそんな気持ちを感じ取ったのか、そばに居た龍ちゃんが声をかけてくれた。

 

「タケやん。怖いのは全員一緒やで?大丈夫や。うち等は強い。んで、うち等は誰も死なへん。安心しいや」

 

どうやら龍ちゃんは、俺の心が分かるらしい。

確かに殺し合いをするのは怖い。

だけどそれ以上に怖いのは、心を許しあっている仲間が死ぬ事だ。

だから戦争は嫌いだ。

 

「そういうことじゃ。安心せい。」

 

「ですね。」

 

「私の背中を任せられるのは、武しかいない。お互い助け合えば大丈夫だ。」

 

「らしくねーなタケル。いつもみたいなクソ度胸、どこいったんだ?オメーが負ける?ハッ!こんな奴らにやられるわけがねーだろ?俺様達は最強なんだよ。やられるわけがねー」

 

「ラカンの言う通りだぜ!俺様達は無敵の”紅き翼”様だ!この世界で俺達に敵う奴らなんか、いやしねーぜ。この”サウザント・マスター”のナギ様が保証してやる。タケルは負けねぇし、俺達も死なねぇよ!」

 

やば!不覚にも泣きそうになった。

ホントこいつ等とダチになってよかった。

これからもこいつ等と、バカをやっていく為にもこんな所で負けちゃいられない。

 

「んー?なんだぁ?タケルオメー泣いてやがんのか?おい見ろよ!タケルの奴泣いてるぜ?」

 

「……ラカン後で急所にマグナム全弾な。しかも下の方の」

 

「HAHAHA。やっといつものタケルに戻りやがったな。……マグナムは嘘だろ?」

 

「ふう。わりぃな。おかげでようやく負けねぇ”覚悟”って奴ができたよ。」

 

「気にするな。」

 

「なぁタケル嘘だといってくれ!!頼む!謝るから!!」

 

「……ラカン。」

 

「おお!!龍牙。俺様を助けてくれるのか?」

 

「よく言うやん。諦めが肝心やって」

 

「ノオオオオオォォォォ……!!!」

 

なんかラカンが叫んでいるけど気にしない。

自業自得だし、まぁ無事に生きていたら全弾じゃなくて一発ですましてやるさ。

 

「んじゃま。そろそろ行くか…オメーラ準備はいいか?」

 

おっ?ナギまでラカンを無視か?

さすがにラカンがかわいそうになってきた。

…自業自得なんだけどさ。

 

『『オウ!!!』』「……オゥ」

 

「よっしゃ!じゃ行くぞお前ら!!!」

 

ナギの掛け声と共に、俺達は戦場へと突っ込むのだった。

 

「最初は俺様からいかせてもらうぜ!オラァ『千の雷』!!」

 

ナギ得意の広域殲滅魔法によって、前方にいた戦艦や兵達が一瞬にして吹き飛ばされ、壊滅する。

その光景に帝国、連合両方の兵達が驚き一瞬動きを止めた。

 

「どうせ後が無いんだ……派手に暴れさせてもらうぜぇぇぇ!!!”アデアット”『千の顔を持つ英雄』オラオラオラ!!HAHAHA!!どんどんきやがれぇぇ!!!」

 

続いてラカンが、ナギとのパクティオーによって出てきたアーティファクトを使って、剣を次々だし相手に向かって投げる。そしてバスターソードとでも言えばいいのか、ラカンの身長ぐらいある剣を取り出すと、敵陣に突っ込んで行った。

大きい戦争で、興奮しているのか、それとも何か他に理由があるのかわからないけど、いつも以上にラカンの奴飛ばしてるな。

あれが“鬼気迫る”って奴なんだろうな。

 

「こっちも忘れてもらっては困るのう。ホレ『雷の暴風』。」

 

「そうですね。」

 

ラカンの反対側では、ゼクトとアルが魔法を放ち次々と相手を倒して行く。

特にアルの重力魔法。

あれはひどい。

爆発する訳でも無く、ただそこに存在している魔法なんだけど、次々とアレに巻き込まれて部隊が壊滅してる。

あれこそチートって奴じゃないか?

 

「武!余所見をしていると危ないぞ?『真・雷鳴剣』!!」

 

俺が、アルの魔法を見てそんな事を思っていると、俺の横に居た詠春さんが、俺に声をかけながら技を放っていた。

ナギの”千の雷”より範囲は狭いけど、これも大概だよな。

神鳴流はダテじゃないって所か…。

俺も負けてられないな。

 

「おっしゃ。龍ちゃん戦闘開始《オープンコンバット》だ!」

 

「任せとき!」

 

「オン・フィスト・ガン・ペンスリット

”契約に従い我に従え炎の覇王””来れ浄化の炎””燃え盛る大剣”

”ほとばしれよ”ソドムを焼きし火と硫黄”罪ありし物を死の塵に”

”燃える天空”!!”固定””掌握””術式兵装”………”炎帝”!!」

 

「”我名において助けを請わん””その友の名は火の精霊クゥ””我魔力を糧に我に力を示せ”……”赤王”」

 

俺達がそう詠唱すると、皆さっきナギが魔法をぶっ放した時と同じように唖然としていた。

まぁ仕方が無いか。

俺と龍ちゃんは炎を纏ってそこに佇んでるし、ラカン達曰く威圧感がハンパないらしいからね。

 

「行くぜ!”クレイジー・ホース””モデル・サラマンダー”!!!」

 

俺はそう言って敵に向かって炎を纏ったガン・ブレットを乱れ撃つ。

ガン・ブレットが敵か地面に当たった瞬間大きな爆発がした。

本来ガン・ブレットは爆発なんて起きないけど、これは”炎帝”時に起こる偶然の産物だった。直接殴りつければ相手は炎に包まれ、ガン・ブレットなど間接攻撃に当たると、爆発する。

詠春さん達と修行し、ゼクト達に魔法を見てもらったせいか、威力が前よりも上がったし何より効率が良くなった。

ゼクト達が言うには、魔力とかを気にせず打ち続けるのは、ラカンとナギぐらいで、普通は自分の限界を知ってから、効率化を図るそうだ。

俺の場合は、特に”感卦法”や”闇の魔法”を使用し、銃闘技を使うと常時消費しているだけではなく、攻撃する際、魔法をぶっ放しているのと同じ事らしいので、とても燃費が悪かった。

更に問題なのが、銃闘技の強みである圧倒的な手数のせいで、さらに燃費が悪いらしい。また、連続で魔法を撃ち続ける事は、体にかなりの負担をかけて、最悪魔法が使えなくなるかもしれないらしい。

それを聞いた俺は、すぐさま二人に手伝ってもらって、自身の技の効率化することで、負担を軽くすることに成功した。しかも、効率化を図った結果、すべての技が前より一段階上へ上がるというオマケまでついてきた。

それを見た詠春さん達は、”理解ができる分バクでは無いが、それでも武装した武はすでに人のレベルではない”と人外の称号を俺に授けてくれた。

…嬉しくないけど。

それを聞いた俺は皮肉のつもりで、詠春さん達に”そうは言うけど、詠春さん達も大して変わらない”と言ったら三人ともそれは自覚しているようだった。

…俺と同じく、とても嫌そうだったが。

 

「ワイも行くでぇ!!爆炎波!!」

 

隣では、龍ちゃんが同じように炎を飛ばして攻撃をしている。

こっちもこっちで、以前よりかなり強くなったみたいだ。

もともと幻獣は、魔法の効率化なんて考えた事もしたことも無かったらしく、俺と同じく効率化をしてみたら格段に動きが良くなり、そして技の威力も上がった。

なんでも、うまく魔力を込めれるようになったとか?

アルとゼクトの二人も、さすがに幻獣の魔法については全く分からなかったので、全部龍ちゃんの感覚でしか成果が分からない。

そのせいか、ゼクトは、戦争が終わったら、幻獣についていろいろ研究してみたいと呟いてみた。

まぁ、それがいつになるか俺も分からないけど、そうなったら修行を手伝ったお礼として俺も、龍ちゃんにお願いしてあげようと思う。

龍ちゃんなら、“面白そう”と言って協力してくれそうだけどね。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

とまぁ、そんなこんなで俺達は、ほぼ無双状態でどんどん敵陣に突っ込み、とうとう難攻不落の要塞の前まで来ていた。

そして、いざ要塞を攻略しようとした所で、ゼクトとアルが急に止まり要塞を見ながら渋い顔をした。

「ふむ。これはちょっとやっかいじゃの」

 

「そうですね。」

 

「どうしたんだお師匠。何がやっかいなんだ?」

 

「ふむ。簡単に言えば魔法障壁が、これでもかって言うくらい張り巡らされておる。」

 

「なら詠春に斬ってもらえば、いいだけじゃねーのか?」

 

「それが出来ればいいんですが…。ここまで巨大な障壁を斬ったことがないでしょう?これ一枚で多分私達が使う障壁最大の二倍は硬いと思いますよ。それが幾重にも張り巡らされているとすると…詠春はどう思いますか?」

 

「そうだな…。斬れないことはないと思う。だが、それにはかなり時間がかかるな。もちろん全力でやってみるが…とても短時間では無理だろう。でも、二人の感じから言って、それじゃ駄目なんだろう?」

 

「その通りじゃ。コレに手間取っている時間は無い。時間を掛け過ぎると、敵の増援が来てしまう。そうなったらワシらは良くても他がもたん。まだコレは城門じゃ、その後には制圧作業が待っておる。それを考えたら、もうほとんど時間が無いと言ってもいいじゃろう。」

 

「つまり、短い時間の間…。できれば、ほぼ一発でこれを撃ち破る必要があるわけか。俺達が一斉に攻撃して、攻撃を集中させるのは?」

 

「それでもたぶん威力が足りないですね。まったく厄介なものです。」

 

「オイ!いよいよやベーぜ?連合が押され始めやがった。このままだともたねえ。」

 

ラカンがそう状況を皆に伝える。それでもまだ皆の顔は暗いままだった。

どうにかしたいが、力が足りないのだ。

必死に頭を回転させて打開策を考えるが一向に思いつかない。

どうしたら…。

皆の気持ちは一つだった。

 

だけど、俺だけは違う。

かなりのカケになるけど、一つだけ方法を思いついていた。

 

「……アル?後どれくらいの威力が必要なんだ?」

 

「え!?…そうですね。ナギ一人分の威力でしょうか。それだけあれば大丈夫かと。…でもそれがどうしたんですか?」

 

「…方法が一つだけある」

 

『『何だって!?』』

 

帝国の兵達の攻撃をかわし、反撃をしながら皆武の方を見る。

この追い詰められている状況で、それを打開する方法があるというのだ。当然の反応だろう。

皆が期待を込めた表情で俺を見ている中、一人だけ視線の感じが違う。

それは、龍ちゃんだった。

俺の相棒にして、この中で一番付き合いの長い龍ちゃん。

だからこそ俺の考えている事に気付いた。…いや、気付いてしまったのだろう。

俺に詰め寄って必死になって、俺を止めようとする。

 

「まさか…あかんて。タケやんそれだけはやったらあかん。アレはまだ完成しとらんやんけ。前つこうた時、どうなったか覚えとるやろ!?」

 

龍ちゃんが今まで見たこともないくらいに、取り乱しているのを見て他の面々は驚いていた。

いつも飄々としているあの龍ちゃんがここまで必死になって止めるのだ。

それはつまり…常道な方法ではない。

”紅き翼”の間になんとも言えない緊張感が漂い始めてくる。

 

「でも龍ちゃんもう時間もないし、アレを使うしか方法が無いじゃないか。」

 

「せやけど…」

 

「龍ちゃん大丈夫。俺は不可能を可能にする男だぜ?」

 

「……こんな時までアホいうよるんやから。わった。でもタケやん死ぬんや無いで?」

 

俺の意思が固いのを知って、止められないと分かった龍ちゃんは、そう言って俺の傍から離れる。

それを見ながら笑い、真剣な顔になって皆の方へ顔を向ける。

 

「皆聞いて欲しい。これから俺はある詠唱をする。それがうまくいけばナギ一人分の威力は確保できると思う。だけど…」

 

「だけどなんだよ」

 

「コレはまだ完成もしてないし、もちろん使いこなせるわけでもない。実際に前使おうとしたら扱いきれず結果ひどい重症をおった。」

 

『!!!!』

 

「しかもコレを使った後、俺はしばらく戦闘不能になる。だけどこの状況を打開するためにはもうコレしか手がないと思う。だから俺を信じてみてくれないか?」

 

そう言って頭を下げる。

すると皆近くに寄ってきて、肩に手を置いた。

 

「何いってやがる。オメーが信じろって言うなら、俺様は信じるぜ?そんなもん頭下げて言われる必要なんかねーよ。」

 

「私もだ。今から何をやるか想像はつかんが、それでも武ならできる。そう信じている。だから思いっきりやれ」

 

「お主とおると本当に退屈せんのう。分かった。その代わり絶対に成功させるんじゃぞ?その後のことは任せておけ」

 

「そうですね。私も信じますよ。後のことは任せてください。貴方は成功させる事だけを考えてくれればいいですよ。」

 

「何言ってやがる。ダチの言う事しんじねーで何を信じるってんだ。それにうまくいかなくても俺様がケツを拭いてやるぜ。…それが嫌ならせっかくの見せ場だ!絶対に成功させろよ!!」

 

「お前ら……よっしゃ。いっちょやってやるぜ!!」

 

皆からの信頼されるという事は、これほどまで俺に力を与えてくれるものなのか!

その信頼に答えるためにも、俺は不安でいっぱいの心を吹き飛ばすかのように、大声を上げて気合を入れる。

 

「ありがとう。じゃあすまないが、この詠唱はちょっと時間が掛かるんだ。それまで俺を守って欲しい。それから俺が合図したら一斉に要塞に向かって攻撃して欲しい。」

 

『まかせろ!』

 

「じゃ始めるか。…闘火火薬点火《プライムファイアード》!!」

 

そう言って俺は準備を始める。

今まで一度も成功させた事の無い魔法。

俺にしかできない、俺だけの魔法。

 

“然”を…。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話:その拳はすべてを貫く

さていよいよ登場します。
武にしかできないあの魔法を…。どんな魔法か気になった人もいてくれると思います。

それでは、どうぞ!


~龍牙side~

 

タケやんが、あの魔法を使う。

タケやんが考えて、そしてきっとタケやんしか使えない究極の魔法を…。

 

「龍牙?貴方はタケルが今から使うアレの事を、知っているのですか?」

 

「……しっとる。アレはな、ワイらがまだラカンと会って無い頃、タケやんが試してみたい魔法がある言うたのが始まりやった。そん時は、ワイもどんな魔法やろってワクワクしながら見とったんやけどな?すぐそのワクワク感はなくのーて、次に感じたのはとてつもない恐怖やった。」

 

「何をしようとしたんじゃ?」

 

「……”感卦法”と”闇の魔法”の融合や」

 

『!!!!!』

 

驚いとるな。

そらそうやろ。普通そんな事考えへん。二つともそれぞれ最上位にある魔法や。それをあわせるなんて出来ると思うほうがおかしいねん。でもタケやんにはそれが出来るんや。

 

「あ…ありえません。そんな事できるわけが無い!!」

 

「そうじゃ。そもそも”感卦法”自体が”気”と”魔力”の融合じゃ。それに更に”闇の魔法”を融合させるじゃと…そんな事…出来るのは神…いや神でも無理じゃ!!!」

 

いつも冷静な、アルはんやゼクトはんが取り乱すのも当然や。

でも今からそれをやる。だからワイはタケやんを止めたんや。

 

「ワイもそう思った。だけどな…タケやんはそれを形にして何とか成功させた。やけど…」

 

「なんと…」

 

「バグ…と言う言葉ではすまんぞ」

 

「やけど…その力は大きすぎた。タケやんが言うには、うまく行き過ぎてまったとか言ってたけどな?そのせいなのか知らんけど、すぐさまその力が暴走して、何時もなら怪我しても次の日にはピンピンしとるタケやんでも、一週間寝たきりになってもうた。」

 

「………」

 

ああ、皆黙ってもうた。

しゃあないけどな、でも皆忘れとらんか?タケやんはなんて言った?そしてうち等はなんて答えたんや?

 

「やけどワイは、タケやんが成功させるって信じとる!あのアホは、確かに変な所で決めきれへんアホンダラやけど、ワイらの信用を裏切る真似は絶対せいへんからな!!!」

 

「…そ、そうだな。タケルはぜってー成功させる」

 

「俺様は最初から疑ってねーぜ。」

 

「…そうだな。武はやる男だ」

 

「フフフッ…楽しみになってきましたよ。そんな魔法が拝めるなんてね。」

 

「長く生きたワシでも考えた事なかったわ。…ワシもまだまだじゃの」

 

皆ええやつや。

さて…ワイの相棒が命かけてがんばっとる。

ならワイは?……もちろんやる事はきまっとる。

 

「おうお前ら!誰に断ってこっちに攻撃しようとしとんねん。タケやんの邪魔はさせへんで?どうしても邪魔したいんやったらな……ワイを倒してからにせんかい!!」

 

信じとるでタケやん

 

「ワイは”炎帝”を守る”赤王”じゃ!!命捨てる覚悟が出来たやつらからかかってこんかい!!!」

 

~龍牙side終~

 

~武side~

 

ふう…さて始めるか。

 

”オン・フィスト・ガン・ペンスリット”

 

”我詠うは精霊の詩””我奏でるは命の炎”

 

俺の足元に大きな魔方陣が浮かび上がる。

よし、前までならすでにここできつかったけどゼクト達のおかげでスムーズにいけた。

本当に感謝しないとな。

 

”二つは交わりすべてを照らす光となる””固定”

 

これで感卦法の準備は出来た。次は…

 

”我願うは終焉の炎””我掴むは精霊の理”

 

ぐぐぐぐっ…きっつー魔力の効率化はかってもこの重さかよ。体の中で魔力が暴れてやがる。

ちょっとはおとなしくしてくれよ。

 

”二つは重なりすべてを飲み込む闇となる””固定”

 

ハァ…ハァ…よし。さて最後の仕上げだ。

前回はここで俺駄目だった。

今なら分かる。

あの時は”感卦法”と同じように自分を無にすればいいと勝手に思っていた。

でもそれは間違いなんだ。

”受け入れる”じゃなくて”受け止める”

その為には自分の意思を強く持たないといけない。

自分が空っぽだったら、受け止める事なんて出来るわけが無いよな。

でも今は違う。

俺を心配してくれる相棒がいる。

俺を信じてくれる仲間がいる。

そんないいやつらのためにも俺は”力”が欲しい

すべてを守り、すべてを撃ち貫く”力”が…

だから”力”を怖がるな!

さぁ…最後の大仕上げだ!!

 

”光と闇すべてはわが身に宿り””すべてを撃ち貫く力となれ!!”

 

俺の気持ちを最後に詠い、右手と左手を合わせて合掌の形をとる。

すると、前やった時は力が暴れて制御できなかったのに今はまるで感じない。

 

失敗したのか…?

 

そう思った瞬間、丹田の辺りからすごい力が巻き起こり俺を優しく包み込んでくれる。

なるほど…。神が”然”と名づけた理由がわかった気がする。

”然”とは”自然”…自然はすべての源であり、すべてを表す言葉。

つまりはそういう”力”なんだろう。

 

自分で考えといてなんだけど……俺やばい魔法考えちゃったわけだ。

………まぁとにかく、今は目の前のことに集中!

時間も限られてるし、行動しないとね!

 

~武side終~

 

武が”然”を成功させた瞬間”紅き翼”のメンバーは思わず手を止めてしまった。

”紅き翼”でコレなのだから他の人達は動けるはずも無い。

 

武の姿は先ほどとあまり変わっていない、ただ炎の色が違っていた。

先ほどまであんなに真っ赤に燃え上がっていた炎はオレンジ色の澄んだ色をしてた。

それは何処か頼りないように見えるのに、何故かとても心強く感じる。

そして何より違ったのはその圧倒的な存在感と武から発せられる力

 

”炎帝”…それはだれが呟いた言葉だっただろうか。

その呟きは全員に響き渡る。

 

今までも”炎帝”の名に相応しかったが、この姿こそ本当の”炎帝”

火を制し、火を従え、火とともに存在する。

炎の支配者に相応しい姿だった。

 

「皆!頼む!!」

 

そう武が叫んだ瞬間、”紅き翼”はすぐさま詠唱を始めたり気を溜めたりした。

その顔は皆笑顔で笑っていた。

 

「クククッ…あーおもしれぇおもしれぇ!!こんなの魅せられたらいやでも力が入っちまうぜ!!なんだよそれ!俺様と戦う前からあっただぁ?なら今度はその状態で戦おうぜ!なぁタケルよぉ!!」

 

「あーはっはっはっは!!タケル何で今までそんなおもしれぇもん隠してたんだよ!今オメーと凄くケンカがしてぇ!!だからもうこんな戦いは止めだ!一気に終わらしてやるぜ!!」

 

「はははっやってくれる。私は今すばらしいものを見てるよ。そのお礼といってはなんだけど最高の技を魅せてあげるよ」

 

「フフフッ…私も柄にも無く興奮してますよ。さて早くこんな障壁なんか壊してその魔法についていろいろ教えてもらいましょう!」

 

「あー笑みがとまらん。もうこんな戦場なんか興味が失せたわ。早く終わらしてしまおう。時間は有限じゃ。効率よく使わねばの」

 

「あははは!やった…やったやん!さすがワイの相棒や!!それにしても注目浴びすぎやで?…あかんな。タケやんのボロがでる前にさっさと決めな。ってことですまんけど覚悟してや?」

 

敵側がやっとの事で意識を取り戻し、阻止しようと動こうとしたがもう遅い。

 

「ぶっとべ!!『ラカンインパクト』!!」

 

「くらえぇ!!『千の雷』!!」

 

「神鳴流究極奥義!『滅殺斬空斬魔閃』!!」

 

「潰れなさい!!」

 

「『千の雷』!!」

 

「いくでぇ!!『火迦具槌』!!」

 

ナギとアル、ゼクトの魔法で大爆発を起こし障壁を何枚か破る。

その後にラカン、詠春、龍牙が突っ込み、更に追い討ちを掛けると更に障壁が破れた。

だが、さすが難攻不落といわれた要塞。

それでもまだ数枚の障壁が張られていた。

しかしそれは”紅き翼”も分かっていた事。

でも誰一人悲観してなかった。

なぜならまだオオトリがいる。

”銃神”にして”炎帝”…伊達武

 

彼が力を溜めて待っていたのだから。

 

「さぁ仕上げだ!!」

 

そう言って武は右腕をハンマーコックする。

するといつものように腕は鉛色に変色していくが、その腕の周りには炎がまるで吸い寄せられるかのように集まり螺旋を描いていく。

 

更に鉛色から青銅色に色が変わってくる頃には炎も同じようにオレンジ色から青色へと変化をしていき、右腕の周りを高速に回転していく。

 

「いくぜ!!!」

 

そう言ってその場から飛び出し、ナギ達が壊した障壁の所へ突っ込んでいく。

その間に皆はその場から離れ様子をうかがい、これから来るであろう衝撃に準備をする。

 

「撃ち破れ!!『メガフレア・バレット』!!」

 

武と障壁がぶつかった瞬間、辺りにはすさまじい衝撃波と熱風がまきをこり、近くにいた敵、見方問わず巻き込んでいく。

ナギ達は衝撃に備えていたため飛ばされずにすんでいたが、そのあまりにもすさまじい威力に目を見開いていた。

 

「すっげーな。アレがタケルの本気ってやつか…。」

 

「ええ…。しかも見てくださいアレを」

 

アルがそう言って空を指差すと、そこには二本の火の線が武の突っ込んでいった所まで伸びており、空に火の道が出来ているようになっていた。

 

「アレを見ただけでも、すさまじい力だったという事が分かるの。」

 

「そうやな……ってそんな事よりタケやんは?」

 

ゼクトに同意しながらも、龍牙は武の事が心配になり、爆炎の中に居るであろう武を目を凝らして探す。しばらくすると爆炎が晴れてきて人影が見えた。

それを見て”紅き翼”の面々は成功した喜びと、武が無事な事にほっと胸をなぜ下ろす。

すると武が急にぐらつき方膝を付いた。

それを見た”紅き翼”は一斉に武の下へと移動する。

 

「ははは…。皆何とかやったよ。でも…さすがに頑張りすぎたわ。」

 

皆が心配してそこに行ってみると、そこにはへらへらと笑いながら倒れている武の姿があった。

所々小さな火傷をしているみたいだが、どうやら大きな怪我とかはしてないようだ。

他のメンバーはそれを確認して、一安心する。

 

「あほぉ…。当たり前や。それより大丈夫なんか?」

 

「龍ちゃん…。なんとか大丈夫みたいだけど。さすがに今日はもう動けない…かな?」

 

「お疲れ武。後は私達にまかせておけ」

 

「そうだぜ。あとはパッパっと俺達が片付けてやるよ。」

 

「そうじゃ。」

 

その言葉を聞いて武はフッっと笑いそのまま目をつぶる。

 

「タケやん!?」

 

「……心配しなくていいですよ龍牙。疲れて眠ってるだけです。」

 

「そ…そっか…。このアホは人に心配ばかりかけよってからに…」

 

「そうじゃな。じゃがそのおかげでワシらの勝ちは決まったようなものじゃ。…本当にたいした男じゃよ。」

 

「……よし。師匠、アル、それから龍牙はここにいて武の様子を見ていてくれ。詠春、ラカン、俺達はさっさと制圧しちまおうぜ?」

 

「おう。」

 

「わかった。」

 

こうしてグレート=ブリッジ奪還作戦は、”紅き翼”の活躍により連合の勝利で幕を閉じた。

この戦いのおかげで、”紅き翼”の名は大陸中に知れ渡り、一躍有名になる。

そしてそのあまりにもでたらめな強さに、畏怖と親愛を込めて二つ名をつけられる事となった。

もちろん武も同様で、それ以降こう呼ばれる事となる

 

『銃神』・『炎帝』と

 

この事実を武が知り、頭を抱える事になるのは、戦いからしばらくたった後だった。

 

 




いかがだったでしょうか?
楽しんでもらえれば幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小話Ⅰ:音速の拳とその弟子

グレート=ブリッジの戦いが終わり、つかの間の休息を楽しむ”紅き翼”のメンバー。
倒れた武もそれに参加する予定だったのだが…。

そこに現れたのは、音速の拳を持つ男とその弟子だった。


「……ん。……ここは…。」

 

確か”然”を成功させて、要塞の障壁をぶっこわした事までは覚えているんだけど…。

そこから先は覚えていない。

……まぁ考えても、分からないものは、分からないか。

ふぅ…。とりあえず…。

 

「…知らないてんj」

 

「いわせるかーい!!!!」

 

二次小説なんかで、もはやお決まりのセリフを言おうとした所で、俺のお腹を誰かが殴った。

まぁ、声からして龍ちゃんなんだろうけど、さすがに寝起きに殴られるのは勘弁してほしい。

おかげで、蛙が潰されたような声を俺は出してしまった。

 

「んげっ!!」

 

「いってー…。何するんだよ。龍ちゃん!」

 

「何するやあらへんわ!お前今危険な事言おうとしたやろ!」

 

「いやでも、これは言わないと…」

 

「ダメや!」

 

「龍ちゃんめ…。大体、俺が何言おうとしたか知ってるのかよ?」

 

「知らん!」

 

「だったらなんで!?」

 

「知らんけど、なんやどうしてもそれは言わしたらあかんって、変な使命感を感じてな。」

 

どうやらこの言葉は、この世界の何かに反するらしい。

もはやお決まりとなってるこのセリフを、俺も言ってみたかったのに…。

まぁ仕方が無い。……と、今は割り切って、機会があったら、今度は絶対に言い切ろう。

そう心に誓っていると、横に居た龍ちゃんが、怪しげな目で俺を見てくる。

 

「なんや変な事、考えてへんか?」

 

「!!キ…キノセイダヨ」

 

「……まぁええ。それよりも、今自分の状況わかっとるか?」

 

「いや。説明してくれるとありがたい。」

 

「わった。んじゃな…」

 

龍ちゃんと、こんな風に話せていると言う事は、おそらくここは安全な所なんだろう。

だったら、俺が寝ている間に起きた事を、把握しておくべきだと思う。

なので、俺は龍ちゃんに俺が気を失ってからどうなったかを教えてもらう事にした。

龍ちゃんの話によると、今はあの戦いから一週間経っているらしい。

その間、俺はずっと眠り続けていて、無理やり起こそうとしても、起きる所か、反応さえ無かったらしい。

皆が心配する中、ゼクトやアルだけは冷静で、その時に俺が陥っていた症状を皆に説明したそうだ。

二人が言うには、『おそらく、“然”を成功させる事は出来たが、そもそも初めてそれが成功した事もあって、力の配分がうまくできず、必要以上に魔力を使ってしまい、それに加えて、その前までの戦闘の疲労が重なり、体の防衛本能が働いて、一種の冬眠状態になっている』という事らしい。

ただ、“然”という魔法はこれまで見た事も、聞いた事も無い魔法の為、あくまで予測でしかないと二人は言っていたらしいが…。

 

「なんかかっこわるなぁ…」

 

「それは贅沢やと思うで?前は体中傷だらけになって、死ぬ一歩前やったんやから。それに比べれば全然ましやろ?」

 

「まぁそうだね。」

 

神様がくれた手紙には、ひどい筋肉痛ぐらいと書いてあったんだけど…、それは多分、俺がうまく扱えてないせいなんだろうな。

俺の陥っていいた状況を最初に話してくれた龍ちゃんは、次に、今俺がいる場所の事について説明してくれた。

龍ちゃんの話によると、ここは連合の本拠地がある町の宿屋なのだそうだ。

俺が倒れた後、無事に作戦は成功して、戦いは終わったのだが、その後連合のお偉いさんが俺達に会いに来て、俺達を本拠地に呼んだらしい。

いつもなら、その申し出についてあれこれ意見が分かれる所だけど、その時ばかりは、皆も疲弊してて、早く休みたかったらしく、二つ返事で了承して、ここに来たそうだ。

もちろん宿代はタダ。

あの戦争で、俺達はいつの間にか連合内で、英雄扱いになっており、メシとかも頼めば用意してくれるらしい。

まさに居たせりつくせり状況なのだそうだ。

 

「…なるほど。大体今俺達が置かれている状況は把握した。それで?他のやつらはどうしたんだ?」

 

「ナギとアル、詠春はお偉いさんの所にいっとる。ラカンは酒飲みに出かけて、ゼクトはんは町をぶらぶらしとるんや無いかな?」

 

「なるほど。じゃあ俺も…」

 

「アホか!!!」

 

それを聞いて俺も、町へと繰り出そうとした所で、俺は龍ちゃんに叩かれる。

しかも、手?にはいつの間にかハリセンが握られており、そんなに痛くは無かったけど、とてもいい音が、部屋の中に響いた。

 

「いてぇ!!お前さっきまで寝込んでた奴に、なんて仕打ちを…。」

 

「さっきまで寝込んでたんやから、皆が返って来るまでおとなしゅうせい!!」

 

「えー…。」

 

「えーやない。タダでさえ寝たきりで、体力が落ちとるんや。無理すんな!」

 

「分かったよ。」

 

龍ちゃんに言われて、しぶしぶだけど、ベットに寝転がる。

さすがに今回は、かなり心配をかけたから、体の怪我なんかが、完治するまでは、大人しく言う事を聞いておいた方がいい。

龍ちゃんには、特に心配かけたみたいだしね。

それから皆が帰ってくるまで、龍ちゃんと一緒にゴロゴロしながら、これからどうなるのか、どうするのかをいろいろ考えていた。

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・

 

「お!?やっと起きたか」

 

「体の方はもう大丈夫なのかい?」

 

「…どこも異常はなさそうですね。」

 

「まったく。年寄りに心配をかけさすんじゃないぞ。」

 

「HAHAHA。起きたなら一緒に酒のみにいこうぜ?さっき良い店見つけたんだよ」

 

しばらくして、宿屋に皆帰って来たらしく、下が騒がしくなった。

その後、部屋の扉がノックされて、皆が俺の部屋に顔を出してくれた。

皆は、俺が起きているのを見ると、皆一斉に声を掛けてくれる。

その顔は、どこかほっとしているような表情をしていて、かなり心配かけたようだ。

 

「なんか、かなり心配かけたみたいでごめん。でも、もう大丈夫だから。」

 

そう俺が言うと、皆笑顔になって、“気にすんな”って返事を返してくれた。

そのせいで、ちょっとウルッっときて、必死になってそれをごまかした。

たぶん皆には、ばれてるとは思うけどね。

そんな感じで、いろいろ皆と話していると、皆の後ろの方で誰か知らない人が立っている事に俺は気が付き、皆に質問をする。

 

「あ、そういえば、さっきから気になってたんだけど、ナギ達の後ろにいる人達は誰?」

 

「あ、そやそや。ワイもそれ気になってたんや。誰や?」

 

俺と龍ちゃんがそう疑問を投げかけると、ナギはその二人を俺達の前に出して紹介する。

 

「あぁ、こいつらか。こいつらは…」

 

「まて。自己紹介ぐらいは、俺から言わせてくれ。俺の名前は、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグだ。訳あって今日から”紅き翼”に入ることになった。よろしく頼む」

 

「その弟子の高畑・T・タカミチです。タカミチって呼んで下さい」

 

これがあのガトウか。そういえば、この時期から一緒に行動するようになるんだっけ。それにしても…んーナイスダンディ。俺も歳とったらこんなふうになりたい。

それとタカミチか…。この時はまだ子供なんだよな。それにしても、こんな純情そうな子が、原作開始時にはあれだけ老け顔になるんだから……くっ!よし。タカミチにも魔法球で、歳をとらない指輪作ってやろう。なんかすごいかわいそうになってきた。

 

「ふーん。そうなんか。…それで訳ってなんや?」

 

「それについては、私から説明しましょう。簡単に言うなら、彼らは私達と連合を結ぶパイプ役ですね。先の戦いで、私達の力の大きさにやっと気付いて、直接連絡が取れるようにしたいそうです。まぁ、こちらとしてもいろいろ情報を流してもらう予定なので、損は無いでしょう。」

 

なるほど…と俺と龍ちゃんは頷く。

まぁ、他にも監視とかいろいろ理由はあるんだろうけど、まぁそれはそれ。

とりあえず今は、新しい仲間を歓迎しよう。

 

「タケル・ダテだ。よろしく。」

 

そう言って右手を差し出すと、あっちも同じように手を出して握手をする。

 

「よろしくたのむ。」

 

「タカミチもな。」

 

「は…はい!よ…よろしくお願いします。」

 

ガトウと同じように、タカミチとも握手をしようとしたのだが、何故か手と声が震えていた。

あれ?俺って何か嫌われてる?

そんな事を考えてしまい、ひそかにショックを受けていると、それを察してかガトウがフォローしてくれた。

 

「ああ。タカミチはお前さんを尊敬しててな。緊張してしまっているのさ。」

 

「し…師匠!!」

 

その言葉に、タカミチは顔を赤くして、ガトウに詰め寄る。

それを見て、思わず俺は吹き出してしまった。

他の奴らも大笑いしており、それを見てさらにタカミチは顔を赤くしてしまう。

 

「はっはっは。そんな緊張しなくても。俺は別にすごい人なんかじゃないぞ?」

 

「そんな事ありません!!あ…いや。大きい声を上げてすみません。」

 

「別にいいさ。ま、慕ってくれるのはうれしい。これからよろしくな?」

 

「はい!」

 

そう言ってタカミチに笑いかけると、タカミチも嬉しそうに笑っていた。

そして、それを見ていた他の連中も、その光景をほほえましい光景を見ているように、少し目を細めて眺めていた。

 

「んじゃ。タケルが目覚めた祝いと、”紅き翼”に新しい仲間が入った祝いもかねて、パーっと騒ごうぜ!!」

 

最後に、そうナギが〆て、俺達はさっきラカンが言った酒場へ、移動するのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

酒場に移動して、早速乾杯をする。ラカンオススメの酒場だけあって、お酒の味も量も問題なく、皆それぞれ思い思いに飲んでいく。そんな中、俺は適当にラカン達から逃れると、アルとゼクトが飲んでいる場所へと移動した。

理由は簡単。

アイツらと一緒に飲むのは楽しいけど、それよりも先に皆が帰ってくるまでに考えていた、これからの事について、先に二人に話して起きたかったからだ。

 

「ゼクト。アル。」

 

「ん?なんじゃ?ラカン達はいいのか?」

 

「ええ…。貴方もお酒好きでしょうに。」

 

「まぁ、そうなんだけど。本格的に酔っちまう前に、ちょっと相談ごとがあってな。」

 

「ふむ。では聞こう。」

 

そう言って二人は、飲んでいた酒をテーブルの上に置くと、真剣な表情で、俺の話を聞く体勢になってくれた。

 

「それで相談とは、一体なんです?」

 

「うん。二人に相談って言うか、お願いごとなんだけど…。今度”然”の修行付き合ってくれないかな?」

 

「ほう。」

 

「これはこれは、なんとも面白そうな話ですね。」

 

俺がそう頼むと、二人は興味津々といった感じで、俺の顔を見てくる。

 

「じゃが…、”然”は、ワシらも初めて見る魔法じゃ。うまくアドバイスなんかできんぞ?」

 

「それなんだけど、”然”を成功させてから、いろいろわかった事があるんだ。アレは確かに俺しか出来ない魔法だと思うけど、でも魔法は魔法なんだよ。根本的な事は何一つ変わってない。」

 

「ふむ。つまりは、私達に魔法を教えて欲しいと?」

 

「そうだね。今までもちょくちょく教えてもらったけど、今度は詠唱とかじゃなくて、もっと根本的で基本的な事を教えて欲しいんだ。」

 

「根本的で基本的となると…。魔法とは何かとか、そういう話になるのかの?」

 

「それも知っとくべきだと思うけど、今お願いしたい事は違うかな。なんていうか、どうやって魔法を発動させているのかとか、的確なイメージの仕方を教えてほしいんだ。そこら辺、俺曖昧なんだよね。」

 

「ああ。言いたいことは、大体分かりましたよ。タケルは今まで感覚だけでやっていた魔法に、明確な芯みたいなものがほしいという事ですね?」

 

どうやら俺の下手な説明でも、アルは俺が何を言いたいのかわかってくれたらしい。

俺が二人に教えてほしい事は、まさにアルが言っていた事なのだから。

 

「そうなんだよね。今のままだと、いくら慣れてきたって、”然”をうまく扱えないと思う。感覚でやってると、どうしても曖昧な部分が出来て、それだと制御しきれないんだ。ちゃんと魔法の事を理解できて初めて、100%“然”を制御できるようになると思うんだ。おそらくだけど…。」

 

「なるほどのう。それならワシらでもアドバイスできるの。分かった。明日からでも修行に付き合おう。」

 

「ええ。ただ対価と言ってはなんなのですけど、”然”についていろいろ話が聞きたいですね。」

 

「別にかまわないけど、さっきも言った通り“然”事態は成功させたけど、感覚と言うか、適当?そんな感じで、完璧に理解している訳じゃないから、話せる事なんて少ないぞ?」

 

「別にかまいません。理解できた所で、使える訳じゃないですし、ただ未知の魔法に興味があるだけですから。」

 

「分かった。明日からよろしくお願いします。」

 

こうして俺は、ゼクトとアルに魔法を教えてもらえる事になった。

初めて成功してみて分かった事だけど、”然”は回復魔法と同じような、いわゆるインテリな魔法だと思う。

すべての割合を均等にしないと発動できないし、発動できても、効率よく使わないと戦闘では危なっかしくて使う事なんか出来ない。

それに、今の俺じゃあ、終わった後の反動が大きすぎる。

使うたびに寝込んでしまっていては、はっきり言って欠陥魔法と何ら関わりない。

せめて、手紙に書いてあったデメリットに抑えないとな。

それにしても、改めて“然”について考えてみると、この魔法は、デメリットが多すぎる。

まぁそれを超えるくらいのメリットがあるのも事実なんだけど…。

早く使いこなせるように、ならないとな。

せっかく俺だけの魔法なんだから…。

 

「お?タケルこんな所に居たのか。ちょっとこっちに来てくれ。」

 

アル達とこれからの修行法についていろいろ話を聞いていると、いつの間にか、近くにナギが来ており、無理やりラカン達がいる所に連れて行こうとする。

 

「ちょっ!まだ俺アル達と話してんだけど?」

 

そう言ってはみたけど、ナギはそれをまるで聞いていないかのように無視をして、腕を掴んでラカン達の方へ引きずっていった。

ナギに引きずられながらラカン達の所に来てみると、そこにはさっきまで酒を飲んでてテンションが高かったはずの皆が、静かになっていてこっちを見てくる。

 

「…で?一体なんのようなの?」

 

「すまないな武。実は、今日から入ることになったガトウの力試しをしようって話しになったんだよ。」

 

「はっ?一体どうやったらそんな話に…。いやいやまぁ、それはいいとしても、何でそれで俺が呼ばれるわけ?」

 

「いやな。どうせなら俺様が戦いたかったんだが、なんかタカミチの奴が、タケルが戦っている所を生で見たいとか言い出してな。それならタケルにやってもらおうって話になったわけだ。」

 

タカミチ…なんて事を言ってくれたんだ。俺を慕ってくれるのはうれしいんだが、そんな事言ってくれるなよ。おかげで”然”の修行に集中できねーじゃねーか。しかもまだ俺完全に直ったわけじゃないんだけど?

 

「いーやーそれは無理じゃないかな?第一まだ俺はまだ完全に治ってないし、それに時間ないだろ?これからもっと俺達コキ使われる事決定しているだろうし。俺も修行したいし。」

 

こう言っとけば大丈夫だろ。ただでさえ修行に集中しないといけないし、何より戦いたくない。ガトウが使う技は知ってる。アレは正直相性が悪いんだよ。銃闘技は全距離対応型だけど、それでもやっぱり得意な距離は決まってる。

近・中距離だ。

だけど、ガトウが使う”居合い拳”は中・遠距離を得意としてて、しかも呼び動作無し、気配も感じにくい。おまけに連射が出来る。

こんな相手とどう戦えと?

どう考えても俺が被弾覚悟で突っ込むしか方法の無い未来しか見えない。

だから嫌だ。

そんな事を考えていると、今度はナギが会話に入ってくる。

 

「そう言うなよ。さっき龍牙から聞いたけど、お前魔法球持ってるんだって?だったらそこに入ってやればいいじゃねーか。」

 

龍牙キサマなんてことを!!

 

おもわず俺は、龍牙を睨みつけると、器用に前足を重ねて俺に謝ってくる。

はぁ…つまり俺に逃げ場はなくなったって事なのかな?

 

「う゛…確かにもってるけど。………わかったよ。ガトウと戦う。それでいいんだろ?はぁ…。」

 

「そこまで嫌がられると、俺としてもあまりいい気分じゃないんだがな。」

 

「いや…。ガトウは悪くないし、別に本気で嫌がってる訳でもないんだよ。ただちょっと集中したい事があってね。正直魔法球で修行するのは反則だと思ってるし、なにより…。」

 

そう言ってラカンとナギの方をチラっと見る。

 

「しっかし、まさかタケルが魔法球持ってたなんてな。でもこれで、いつでもお前たちと本気でケンカができるぜ!」

 

「ホントだよな。俺様達がマジでケンカするとなると、場所が限られるし、今の状況じゃ怪我なんてできねーからな。タケルの魔法球があれば、場所も時間も確保できたも当然だぜ。」

 

ああ、やっぱりそのつもりなのね。

そうなるだろうと分かってたけど、それでも泣きそうだ。

誰がその後を修復すると思ってんだ。

 

そう思ってため息を吐くと、ガトウが何かを察してくれたようで、凄く申し訳無さそうな目をして肩を叩いてくれる。

 

「…悪かった。修復の手伝いは出来ないが、いつでも相談や愚痴に付き合ってやる。…タバコ吸うか?」

 

更に詠春さんまでこっちに来て、ガトウと同じく肩に手を置いて同情するような目で見てくる。

 

「私も付き合うよ。あのバカ達が無茶しないように、私がちゃんと見張っておくから。だから…その……すまない。」

 

ガトウと詠春さんの優しさが、今は痛いです。

こうして俺は、ガトウと戦う事になり、しかもナギとラカンに魔法球のことが知られてしまい、疲れているのに後処理することが決定した。

ああ…これが背中がすすけている感じなのか。それとも真っ白に燃え尽きた状況か?

とにかくそんな気持ちを始めて味わったけど………これ絶望って奴なんじゃね?

 

 

「あ…あの?龍牙さん。僕、何か悪い事言いましたか?」

 

「そうやな…。タケやんにとっては、悪いっちゃ悪いこと言ったかも知れんけど、多分一番はワイやろうな。」

 

「そうですか…。」

 

「まぁ、そんな気にせんでええで?なんだかんだ言っても、タケやんは優しいから許してくれるわ。だけど…。」

 

「だけど?」

 

「タケやんの機嫌取りしよか?タケやんの未来を労わる意味も込めて。」

 

「そんなんでいいんですか?」

 

「あー良くは無いやろうけど…。今のワイらにはそれしかできんし、それ以外思いつかん。」

 

「そうですね…。」

 

 




本筋は進んでないので小話となります。
こんな感じなのがもう一話続きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小話Ⅱ:目指すべき背中

目が覚めた武は、初めて成功させた”然”を使いこなす為に修行を開始しようとする。
しかしナギ達の策略により、何故かガトウと戦う事に…。

小話Ⅱとなります。この話は長いので疲れてしまうかもしれませんが、最後まで読んでもらえるとうれしいです。


あの飲み会から夜が明けて、その日俺は、影にしまっておいた魔法球を取り出して、部屋に集まっていた皆を招待した。

メンバーのほとんどが、俺が影魔法を使える事を驚いていたが、ゼクトやアルなんかは、何処か納得していた。

その事で少し疑問に思った俺は、二人に理由を聞いてみると…。

 

「闇の魔法を扱える。つまりは闇の素養を持っているということじゃ。ならばコレくらいは出来て不思議ではない、むしろ当然じゃろ。」

 

「ええ。それにこの魔法は便利ですからね。もっと修練すれば影を自由に行き来できますし、そうじゃなくても、物を保管するには最適。せっかく素養があるのですから、覚えない方が損というものですよ。」

 

と、得意げな顔で俺に理由を話してくれた。

実際、荷物の保管場所で、いろいろ考えなくてすむからこの魔法は重宝しているし、本当に覚えてよかったと思っている。

それに、どうやら二人の話から、影の中を移動する魔法…。つまりは原作でエヴァなんかが使ってた魔法だと思うけど、アレはてっきり吸血鬼だけの、特殊な魔法だと思っていたけどどうやらそれは違うらしい。

それなら、二人ともその魔法の事を知っているみたいだし、“然”の修行のついでに教えてもらいたいと思う。

便利そうで、ちょっといいなって思ってたし…。

 

さてさて、そんな事を思いながら、全員で魔法球の中に入ったのだが…。

驚いたことに、まず誰よりもはしゃいだのが、詠春さんだった。

 

「これはいいなぁ。すごい癒されるよ。日本の風景そのままだ。別に魔法世界が嫌いなわけじゃないけど、やっぱり生まれ育った景色が、一番落ち着く。ここにはちょくちょく邪魔させてもらいたいね。」

 

そう言って、一人でそこら辺を散策し始めた。

詠春さんの言う通り、俺の魔法球の中は、純和風の世界となっている。

少し大きな武家屋敷に竹林。その近くには、滝と川が流れている。遠くには、山や海があるのだが、かなりの距離がある為、家の近くに作った魔方陣を利用して移動できるようにしてある。

魔方陣は全部で3つ。

一つ目は険しい山と崖がある場所。

二つ目は海の砂浜。

三つ目は年中雪が積もっている山の中腹。

どれも修行と癒しを目的として、俺の想像で作ったものだ。

時間が出来たらもう一つぐらい増やそうかなとも考えてるけど、実行に移すのはもう少し後の事になるだろう。

それはともかく、今は思い思いに散策している皆を武家屋敷に呼んで、これからのことについて話しをしないといけないな。

そう思って、すでに俺の傍からいなくなっていた皆を呼びに行った。

 

「さて招待したけど、まずこれからどうしようか?」

 

武家屋敷に全員が集合した所で、俺はお茶を皆に配りながら、そう話を切り出す。

すると、やはりと言うか…。まず最初に発言したのはナギだった。

 

「そんなの決まってるじゃねーか。タケルとガトウが戦うんだろ?」

 

「はぁ…ナギよ。タケルは、まだ完全に調子を取り戻してはおらん。そんな状態で、戦わせるのか?」

 

「う゛…。じゃあどうすればいいんだよ。」

 

「そうですね…。ここは魔法球の中ですから、そこまで時間を気にする必要は無いでしょう。まずは全員日ごろの疲れをとったり、各々好きな事をしながら時間潰して、タケルの体調が完全に戻ったら、勝負をすると言う事でどうですか?」

 

「俺はそれでかまわんよ。正直、最近働きづめで、まともに休んでも無かったんだ。だから体を休める事ができるのは、正直ありがたい。それに、タカミチの修行を見てやりたいしな。」

 

「師匠…ありがとうございます。」

 

「私もそれが良いと思う。これからどんどん戦争が激しくなってくるだろうし、まともに休めるのも今のうちだけだ。」

 

「そりゃそうかもしれないな。だが詠春よ。休みたければ、タケルに魔法球出してもらえればいいんじゃねーか?」

 

「それは難しいだろ。今は、外にある魔法球の周りに強力な結界や障壁。更には認識障害の魔法をかけて隠している状態だ。比較的安全な場所でも、コレだけ警戒してるんだ。他の場所だとコレだけではすまないだろう。戦争中には使えないよ。」

 

「そうやでラカン。コレは無いものとして考えた方がええ。それにこの中は外の世界より時間が早く進む。つまりや…。外の世界より何倍も歳をとることになるんやで?ワイはかまわんけど、嫌やろ?」

 

「さすがに歳はとりたくねーな。」

 

まぁ、歳については魔法具をつくれば心配は無いんだけど、それは言わない方が絶対に良い。

だって今の状態で魔法具なんか渡したら、絶対にここに入り浸るだろうから。

もしあげるとしても、詠春さんとタカミチ、ガトウぐらいなものだ。後は歳をとっても平気な人たちだし、ナギとラカンは論外。

絶対にあの二人には渡さない。

 

「じゃ、さっきアルが言ったようにしよう。それでタケルは何時ごろ全快するんだ?」

 

「んー正直俺にもわかんないけど、そこまで時間掛からないと思うよ?」

 

「ふむ。ワシもその意見に同感じゃ。もう肉体的には問題ない。後は魔力と気が戻ればいいだけじゃ。そうじゃのう……あと2~3日といった所か。」

 

「うし!じゃ3日後ガトウとタケルが戦って、その時に出来た傷次第で外に帰る時期を決めることにするか。」

 

「ええ。ちなみに時間差はどれくらいなのですか?」

 

「今はあっちの一時間がこっちの二日だね。コレは設定をいろいろ変えることができるよ。」

 

「わかりました。やっぱり便利なものですね。魔法球とは…。」

 

「じゃ。皆解散!!」

 

最後にナギがそう〆て、一旦俺達は解散する事になった。

解散した後、早速ナギとラカンは、魔法球の中を探検してくるとか言って、魔法陣に飛び込み別の場所へ行き、ガトウとタカミチの二人は、先程言っていたように竹林の中で修行をするらしい。

詠春さんは、しばらくここでボーっとして、その後、滝に打たれてこようかなと言っていた。

そして俺は、と言うと…。昨日の内にアルとゼクトに頼んでおいた、魔法の修行をさっそく開始する事にした。まぁ、修行と言っても実際に魔法を使う事はまだできないので、座学なのだが…。

でも、こうして誰かに教えてもらいながら勉強するのは、とても久しぶりな事で、昔高校とか通っていた事を思い出して、懐かしい感じがした。

 

「ほら、タケル。ボーっとしている場合じゃありませんよ?知らなくてはいけない事は山ほどあるんですからね!!」

 

ただ一つ誤算だったのは、いつの間にかメガネに黒板を指す棒を装備したアルが、とてもウキウキしていた事だ。

これもある意味懐かしいのかな?

…龍ちゃんとか、開始してからまだそんなに時間経ってないのに、もう寝てるし…。

はぁ~。“ワイも魔法の事知りたいんや!!”って目を輝かせていた龍ちゃんはどこに行ったんだよ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・

【第三視点】

 

恰好はアレだったけど、かなり魔法の事を真面目に教えてくれたアル先生の授業から2~3日が経ち、約束通りガトウと仕合いをする日がやって来た。

場所は、武家屋敷から少し歩いて、滝がある所で、ギャラリーが見守る中、武とガトウは少し距離を開けて対峙していた。

 

「待たせてごめん。」

 

「いやいや。こっちこそ無理をいってすまない。それに疲れた体も休めたし、タカミチの修行も見れたから、とても有意義な時間だったよ。」

 

「それならよかった。……じゃ、はじめようか。」

 

「ああ」

 

そう言って、二人はお互いに構えあう。

くしくもその構えは、似ており唯一違う所といえば、ポケットに手を入れているかいないかぐらいである。

 

「なぁ詠春。ガトウの構え…っていうかポケットに手を入れてて大丈夫なのか?」

 

「私に聞かれても困るぞナギ。だが…ふむ。わざわざポケットに手を入れているのだから、それなりに理由があるのだろうが…ちょっと予想がつかないな。」

 

ガトウ独特の構えに皆困惑しているが、弟子であるタカミチだけは当然その理由を知っており、内心ほくそえむ。

皆がどんな反応をするのか楽しみで仕方が無いといった感じだ。

 

「……こないんですか?」

 

「君こそ向かってこないのかい?」

 

「まぁ…攻めても良いんだけど。ここはガトウさんの為の戦いだろ?だから先手は譲りますよ。」

 

「俺より年下の癖に言うじゃないか…。では、お言葉に甘えさせてもらうか。」

 

ガトウがそう言った瞬間、武とガトウの間の空間から”パンッ”という音が聞こえ、空気が弾ける。

 

「!!!これはすげぇぜ。…タケルに譲るんじゃなかったな。」

 

その一瞬の攻防に、ラカンが目を輝かせる。

ラカンと詠春、そしてナギの目には今の攻防がどんなものなのか、分かったみたいだが、それ以外は何が起こったのか分からず、ラカンに今あった事を尋ねる。

 

「ラカンは見えたんか!?ワイにはガトウの手がブレたようにしか見えんかったんやけど?」

 

「ワシもじゃ。」

 

「魔力を感じなかったので魔法じゃないと思いますが…なんでしょうか?」

 

「ガトウはポケットから高速で手を出しただけだ。まぁ、多分気かなんかで強化してるんだろうが、俺様でもかなり神経を使ってないと視覚できない速度とは驚いたぜ。」

 

「なるほど。居合いか…」

 

「へっ…なるほどあの構えはダテじゃねーって事か。」

 

そう言って”紅き翼”は口々にガトウをほめる。そんな中、タカミチ一人が今の出来事に唖然としており、そして我に返ると慌てて叫ぶ。

 

「いや…いやいやいや!確かに師匠はすごいのは知ってますけど。何で皆タケルさんには驚かないんですか!?あの師匠の居合い拳を初見で防いだんですよ?」

 

それを聞いて皆タカミチに”何言ってるんだ?”って顔をしながら顔を向ける。

 

「へぇ…居合い拳って言うのか。まぁ確かに驚いた事は驚いたけどよ。タケルが防いだ事については別に驚くほどでもないぜ?」

 

「ええそうですね。なにせ彼もまたやり方は違いますが同じ様な事ができますから。なら防げるのも納得できますよ。」

 

そう言って再び戦っている二人に顔を向ける。

それを聞いてタカミチは、自分の常識が崩れる音が聞こえるような気がした。

だが、すぐさま意識を覚醒させると、とにかく二人の戦いを見ようと必死になって目を凝らし始める。

この高速の戦いを、少しでもこの目で追える様に。

 

「…これは驚いたな。まさか初めてで反応できるなんてね。」

 

「まぁ、俺も同じ様なことが出来ますし。でもまだ本気じゃないんでしょ?」

 

「…なるほど。やはりあの噂は嘘じゃないってことか。…これは俺も様子見とは言ってられないな。」

 

そうガトウが言い、気を引き締めなおす。

一方タケルの方といえば、口ではあんな軽口を言っては見たものの内心では心臓をドキドキ鳴らしまくっていた。

 

(は~なんとか反応できてよかったよ。にしてもなんて速さなんだよ。クイック・ドロウできなかったら絶対あたってたよ。しかもやっぱり分かりづらい。今は様子見で速さ抑えてたんだろうし、今度はもっと隙なんてなくなるんだろうな。となると…やっぱりアレしかないか。)

 

「フッ!!」

 

ガトウが息を短く吐くと、今度は様子見なんかじゃなく、本気の居合い拳が武に向かって放たれる。

しかも複数。

それに対しタケルがとった行動は、両方でクイック・ドロウをして弾幕をはる事だった。

”下手な鉄砲数うちゃあたる”

ということわざもある通り、見えないのなら、自分の前に弾幕を張ることで防げばいい。

しかしコレは銃闘技を使える武だからこそ出来る防ぎ方であり、しかも重大な欠点があった。

 

「攻撃ができない……ですか?」

 

「ああ。タケやんのあの攻撃はあくまで迎撃専用。言ってみれば近距離でしか攻撃できへんのや、でもガトウの居合い拳は中・遠距離の攻撃や。このままやったらジリ貧になるやろうな。」

 

「たしかにな。…だがタケルもそれ分かってるだろうし、なによりこんなんで終わるわけがねーだろうがな。」

 

ラカンがそうやって話をしめると、またジッとタケル達を見る。

タカミチもそれに習ってジッと見つめる。タカミチにはもう殆ど攻撃など見えていないのだが、それでも一生懸命に見続ける。どうすればあそこまで強くなれるのかを考えながら…。

 

“パパパパパパッン!”と乾いた音があたりに響きわたるが、その音の原因である拳の姿は見えない。その為、はたから見ればそこに立っているだけに見えるだろう。

しかし熟練者から見れば、その光景は息をもつかせぬ攻防戦である。

そんな中、タケルはこれからどうするか考えていた。

 

(このままじゃダメだな。何かきっかけがほしい所だけど…相手のミスをまってもたぶん無理だしな。ここはやっぱり突っ込むしかないのか。…でもなぁ、痛そうだよね。はぁ…仕方が無い。)

 

「ガトウさんそろそろ疲れてきたんじゃない?」

 

「フッ、まだまだ大丈夫さ。それよりもタケルこそどうなんだ?いい加減腕が上がらなくなってきただろ?」

 

「まさか。まだいけますよ。」

 

「そうかい。なら、そろそろ噂の実力をみせてほしいな?こんなもんじゃないんだろ?」

 

「あらら。同じ事言われたか…。ならしょうがない。ビックリしないでください……ね!!」

 

そう言った瞬間タケルの姿がぶれて、そしてその場からいなくなる。

ナギ達はそれを見てニヤリと笑いタケルの行方を追う。

タカミチはすでに見失ってしまった。

タケルの目の前のガトウといえば、一瞬目を見開いたが、すぐさま姿勢を整え何もない空間に居合い拳を放つ。

しかし、二三発放ったところで、ガトウはハッとした顔になったかと思うと、急いでその場から下がる。

すると、その場に大きなクレーターが出来、その中心にはタケルの姿があった。

 

「アレ?結構うまくいったと思ったんだけど…はずしたか。」

 

そう言って首を捻る。

 

「その歳でたいしたものだ。まさかここまで完成度の高い瞬動を見れるなんて思わなかった。」

 

「よく言うよ。すぐに俺の姿見つけられたくせに。しかも攻撃まで当ててくるしさ…。」

 

「それくらいはやらないと、君に失礼だろ?だが…それ以上に驚いたのは、その拳の威力さ。まさか当てに来た拳がここまですごいなんて…。自信が無くなる。」

 

「それなら奥の手見せればいいじゃないですか。まだあるんでしょ?」

 

「観察眼まで一流か…。分かったそうさせてもらおう」

 

ガトウは武の言葉を聞いて顔をニヤリとすると、その場から少し下がりフゥと短く息を吐く。

 

「”右手に魔力”、”左手に氣”……合成!!」

 

「感卦法か…。(原作知っているから分かってたけど…すごいな。俺が使う感卦法なんかよりずっとうまく使えている。年季ってやつなんだろうな。)ならば、こっちも…”右手に魔力”、”左手に氣”……合成!!」

 

ガトウが感卦法を使うと、武もそれに習うかのように感卦法を発動させる。それを見たガトウは驚くがすぐに気を取り直してタケルを睨みつける。

 

「まさか感卦法まで出来るとはな。…コレでも究極闘法とか呼ばれていて身につけるのはかなり難しいはずなんだが…。」

 

「ガトウさんの感卦法に比べると、まだまだ粗が目立ちますけどね。じゃ行きますよ!!」

 

そう言って、またガトウに向かって突進する武。ガトウはそれを見て、適度に距離を取ろうとバックステップをして迎撃できる態勢をとる。

 

「”豪殺居合い拳”!!」

 

ガトウからまるでレーザーのような一発が武に向かって放たれる。

しかし武は、それをよけずに真正面からぶつかって行く。

どうやら拳で、この攻撃を撃ち砕くつもりなようだ。

 

「”リボルバーマグナム”!!」

 

そう叫んだ武は、体を回転させながら“豪殺居合い拳”三発拳を当てて、やっと相殺すると、その勢いのままガトウの懐に飛び込む。ガトウもそう簡単に入れさせないと、居合い拳を放ってくるが、体を回転させながら懐に入ってくる為、なかなか良い所に当てる事が出来ず、そのまま懐に入れてしまう。

 

「くっ!!」

 

「残り三発!まとめてくらえぇぇ!!」

 

ガァン!ガァン!ガァン!

 

金属音のような音が響き渡ると、二人はさっきまでいた場所から少しはなれて対峙しており方膝を付いていた。

 

「えっ!いったい何がどうなったんですか!?」

 

何があったかまったく見えなかったタカミチが近くにいたほかの人に聞く。

 

「二人ともさすがだな…。いいかいタカミチ?さきほどの大きな居合い拳をタケルが相殺し、その勢いのままガトウの懐に飛び込こんだ。…ここまではいいかい?」

 

詠春がそう言うと、タカミチは黙って頷く。

 

「その後タケルは、ガトウに対して攻撃を仕掛けようとしたんだが、ガトウは更にタケルに接近してその攻撃を潰そうとしたんだ。しかも気を込めた拳のおまけつきでね。タケルもガトウの考えが読めたんだろう、すぐさま拳ではなく肘の攻撃に変えてそれを迎え撃った。結果急所には当たらなかったけどタケルの攻撃はガトウに三発あたり、タケルの方もガトウの気の込めた拳をまともにくらってそのまま距離を取ったんだよ。…わかったかな?」

 

そう詠春には説明されたが、頭では何とか理解できても、気持ちが全くついて行けず、タカミチはただただ愕然としていた。

 

(あんな一瞬でこんな攻防があったなんて…。僕もいつか師匠のように戦ってみたいと思っていたけど、今の僕じゃ師匠の背中さえ拝ませてもらえない。ましてや才能なんてない僕なんて…。)

 

そんな事考えながら顔を下に向けていると、横にいた龍牙がタカミチの考えを見透かすように声をかける。

 

「タカミチ。大体今何考えとるんかは、想像できるけどな。勘違いしたらあかんよ?」

 

「えっ?」

 

「確かにタケやんもガトウも強い。でもそれは、今まで血のにじむような鍛錬をしてきたからや。それについては、ここにいる皆かてそうやろうけどな。確かに才能ちゅーもんはあるやろうけど、そんなもん戦いの場では絶対的な有利になんかならし、役に立つかも微妙な所や。なぁ詠春はん?」

 

「そうだね。才能っていうものは、言ってみれば人よりも早くうまくなれるだけだからね。それイコール強さとは何の関係も無い。むしろ遠回りした人の方が強くなる場合だってある。そもそも武術と言うのは”努力が才能を陵駕するためにつくられたモノ”と言う格言があるくらいだからね。私はその言葉にこそ武の神髄が込められていると思うよ?10の努力で勝てなければ、100の努力をすればいい。簡単な事だよ。」

 

「10でなければ100の努力…。」

 

「それにな。タケやんの強さを才能っていう言葉だけで片付けられるのは、許せんよ。ワイはタケやんと一緒におったから分かるけど、毎回ぶっ倒れるまで鍛錬して、やっとあそこまでの強さを手に入れたんや。確かに魔法球は使ったけど、結局はやらんければ意味は無い。それをやり続けた努力は決して才能なんかやない。タカミチはまだそこまでやってないやろ?」

 

龍牙の言葉は深くタカミチに突き刺さる。

今までの自分は、ちっとも上達しない事に対して才能が無いからと決め付けていたのではないか?

たとえ無いとしても、勝手に自分で限界を決めて倒れるまで努力をしたことがあるだろうか?

そう考えた瞬間、タカミチは今まで自分がやってきた事を恥じる。

そしてその事があまりにも情けなくて、いつの間にか涙があふれてきた。

 

「タカミチ。君はまだ若い。…いや若すぎるといってもいいだろう。これからいくらでも取り戻せるさ。でも今流している悔し涙は忘れないようにね。それさえ忘れなければきっと君は強くなれるよ。」

 

「…あ゛い」

 

「ま、今はタケやん達の戦いをしっかり見ることやな。お?そろそろ動きそうやで?」

 

龍牙と詠春の言葉に、ごしごしと乱暴に涙を拭うと、武たちの戦いをジッと見つめる。

その目は、いつかあの場所に立ちたいという戦う男の目をしていた。

 

 

 

「なんか隣でとても青臭いことやってますが…フフッ嫌いじゃないですよ。そういうの。」

 

「俺様もだな。漢は悔し涙の数だけ強くなるってかぁ?」

 

「お?ラカンにしてはいい事いうじゃねぇか。まっ俺様にはカンケーねーけどな。」

 

「はぁ…ナギの馬鹿は少しぐらいタカミチを見習って欲しいのう。」

 

ナギたちがそんな事を言っている中、ガトウと武は互いに方膝を付きながらこれからのことについて考えていた。

 

(何とか急所は外れているけど、それでもこの威力か…。まったく恐れ入るよ。”銃神”とは良く言ったものだ。まさに銃弾の拳。いや食らったのは肘か…それにまだタケルは手の内をすべて見せていない。もし”炎帝”の異名とされる技なんて使われたら…考えただけで嫌になるな。)

 

表情に出す事はけしてしないが、内心冷や汗びっしょりのガトウ。

しかしタケルもそれは同じだった。

 

(普通あんな場面でそんな事考え付くか!?やっぱり経験の差ってやつなのかな?それにしても、正確性だけで言ったら、たぶんここにいる誰よりも上だろうな。きっちりとダメージが残る場所へ当ててきやがった。こっちは全弾撃った反動が来て頭がくらくらしてるって言うのに…はぁ。どうしよか。)

 

そうして二人してにらみ合いながら考えていると、お互い考えている事が一緒なのが分かったのか。ニヤリと笑い合ってその場で立ち上がる。

 

「ガトウさん。たぶん考えている事は一緒だと思いますけど、そろそろ感卦法もきれますし最後の一発になりますかね?」

 

「そうだな。年寄りにはそろそろきつくなってきたから、終わらせたい所だ。」

 

 

………それじゃいくか!!

 

二人が同時にそう言葉を発すると、ガトウは突撃しながら、片手で普通の居合い拳を出しながら牽制をする。対する武は右腕をハンマーコックし、それを可能な限りよけながらガトウに接近して行く。

そしてガトウは武を十分に引き付けると、残っていた力をすべて使ってない右手に集中し先ほどよりも特大な居合い拳を撃つ。

武はそれを見て、相殺するのは無理と判断し、体を捻りながらそれを交わそうとした。

しかし、特大の”豪殺居合い拳”の前では避けきれず体をかすってしまう。

かすっただけでも、その威力は絶大で後ろに吹っ飛ばされそうになるが、それを体を回転させる事で何とかやり過ごしガトウの懐に入った。

 

「これは…俺の負けだな。」

 

「いっけぇぇぇ!!44マグナム!!」

 

ガコォォォォン!!

 

大きい音が当たりに響き渡り、他の人達は勝負がついたと思い二人によっていく。

するとそこには、背中にマグナムがあたった証拠の弾痕が残っているガトウと、倒れそうなガトウを抱えている武の姿があった。

 

「この勝負タケルの勝ちだな。」

 

それを見たナギが武の勝ちを高々と宣言する。

それを聞いた武は、気が抜けたのか、その場でしりもちをついてしまった。

良く見ると肩で息をしており、かなりの接戦だったと言う事が分かる。

 

「何とか勝てた。ガトウさん強いわ。」

 

「おいおい…。お前にはまだ”炎帝”があるのに何とかって…。」

 

武がそう呟くと、近くに寄ってきたラカンが、呆れた顔をしながら話しかける。

そのすぐ傍では、詠春がガトウの状態を確認している。

表情を見るにどうやら、深刻な怪我なんかは無いようだ。

あの戦いで、相手をなるべく傷つかせないように戦うなんて高度な事は、今の武にはできない。

なので、ガトウが無事と分かって武はホッと一安心した。

そして、武はラカンの疑問に答える。

 

「ラカン。”炎帝”出した所で変わらないさ。魔力を使うか気を使うかの違いでしかないし、それに単純な能力アップじゃ感卦法の方がいいんだぞ?」

 

武がそう説明すると、さらにゼクトが補足する。

 

「まぁ、そうじゃろうな。確かに魔法を取り込むことによるほぼ無敵状態になるのは魅力じゃが、単純な力でいったら感卦法の方が上じゃ。何せ魔法と氣の融合じゃからな。」

 

「そんなもんか?なら何で戦闘で感卦法をあまり使わないんだ?」

 

ラカンの当然ともいえる質問に、アルが答える。

 

「簡単な事ですよラカン。タケルが使う銃闘技は、相手を行動不能に出来ますが、あくまで肉弾戦。個人との戦闘に適していますが、集団にはむかない。たとえ強化してもです。だけど”炎帝”など”闇の魔法”は魔法が付加されることで、広範囲にわたって攻撃ができるんですよ。例えば炎とかね。」

 

「なるほど。なっとくだぜ。じゃぁ何で俺様と戦う時はそれを使ったんだ?」

 

「あの時はまだろくに感卦法も使えていなかったし、”炎帝”がどれほど使えるか試したかったんだよ。」

 

「へー」

 

「ま、そういうこっちゃ。それで詠春はん。ガトウはどないや?」

 

「ふむ。まぁ2~3日安静と言ったところだろう。命に別状はないさ。」

 

詠春の言葉にタカミチがほっと息を吐く。そしてしばらくガトウを見ていたと思うとキッ!っと表情を引き締めて武の前まで来る。

 

「武さんお願いがあります!!」

 

「へっ!?お…おう。何?」

 

「僕に銃闘技を教えてください!」

 

「…………マジで言ってる?」

 

タカミチの突然のお願いにあっけにとられる武。

ナギたちも同じようにあっけに取られていた。

だけど、ラカンだけはどうやらこうなる事を予想していたらしく、にやにやと笑っている。

 

「マジです!」

 

「何でまた?銃闘技なんかより、ラカンからもっと実践的なこと教わったほうがためになると思うぞ?」

 

「俺に教わりたいなら金を用意しな(キラッ」

 

「ラカン空気よめや。」

 

ラカンの言葉に皆あっけに取られていると、近くにいた龍牙がラカンの言葉に龍牙が突っ込みを入れる。

 

「……まぁ、ラカンは後からシバくとして、そうじゃなくてもガトウさんからいろいろ教わってるんだろ?それじゃだめなのか?」

 

「いえダメじゃないです。でも僕は銃闘技を学びたい。…憧れなんです。最初は才能がないから無理だと勝手に自分であきらめてました。でも龍牙さんや詠春さんにいろいろ言われて決めたんです。憧れを憧れで済ますんじゃなくて、自分の物にするって。…だからお願いします。」

 

そう言って土下座をしながらお願いをするタカミチ。

その姿を見て武はしばらく目をつぶって考えるとタカミチに向かって問いかける。

 

「タカミチ…。銃闘技を覚えたいという熱意は伝わった。けどそれは生半可な鍛錬じゃすまないぞ?」

 

「覚悟してます。僕には才能なんてたぶん無いけど、努力すれば身に付けられないものなんてないですから!」

 

「………わかった。教えるよ。」

 

「!!!ホントですか?」

 

「ただし!!ガトウとの鍛錬もしっかりやる事が条件だ。…いいか?あくまで俺が教えれるのは銃闘技の基礎だけだ。今使っている銃闘技はその基礎の上に俺が使えるものと組み合わせてつくりあげたまったくの別物。それは俺にしか使えないものでもある。それを見に付ける事は不可能だろう。」

 

武がそう言うと、タカミチは泣きそうな顔になる。

憧れである銃闘技は自分には使えないといわれているのだから当然だろう。

しかし、武が言った次の一言でその顔は一変した。

 

「何泣きそうな顔してんだよ。言っただろ?あくまで俺が使っているものは…だ。だからお前はお前だけの銃闘技を作り上げてみろ。ガトウとの鍛錬をしっかりやるって言うのもそれが理由だ。ガトウの技と銃闘技を組み合わせる事で、俺にも出来ない銃闘技が生まれるだろ?それが出来るのはお前だけだ。基礎は俺が叩き込んでやる。そこには銃闘技のすべてがある。それじゃ不満か?」

 

その言葉にタカミチは一生懸命首を横にふる。

 

「よし。なら、まずは特別な筋トレとかをして、銃闘技が使える体に作り上げないといけないんだけど、でもその前に、銃闘技を教えるにあたって一つ課題を出したいと思う。」

 

「課題…ですか?」

 

「そうだ。課題と言ってもすぐに答えられるものじゃないけどな。銃闘技…。いや、戦うという事に対してとても大切な事だ。タカミチ。お前はその拳に何を込めて戦う?」

 

「何を込めて…。」

 

「覚悟…信念といってもいいか。それをしっかりともってない限り、銃闘技は完全には扱えない。なぜならそれこそが銃闘技の強さの源だからだ。何のために戦い。何のために拳を振るうのか…。それを考える事だ。これは多分すぐには見つからな事だと思う。そしてこれに答えなんてない。なぜなら、人によってそれは違ってくるから、何が正解で、何が間違っているなんて言う事は出来ないんだ。だから、これは俺も含めて、たぶん一生の考え続ける事になると思う。だからタカミチ。お前が銃闘技を使って戦うと言うなら、とにかく考え続けろ。いろんなものを見て、いろんな人の考えを聞いて考え続けろ。そのお前が出した答えを、いつか俺達に迫るぐらいまで強くなった時に、聞かせてくれ。それが最初の課題だ。ちゃんと覚えておけよ?」

 

「はい!」

 

こうして、ガトウと武の勝負は幕を下ろした。

その勝負を見て自分の進むべき道を見つけたタカミチ。

ひょっとしたらタカミチにそれを教えるために、二人は戦ったのかも知れないが、それは武達には分からない。

だけど、ただ一つ確かな事で、分かってる事がある。

 

それは、ここにまた一人英雄の卵が生まれた

 

ただそれだけだ。

 

 




今日はおそらくこれで更新は終了になるかと思います。
前話していた、武の詳細などはもう少し後に投稿する予定です。

感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話:発覚・想い・出会い

ガトウとの戦いの後、俺達は、ガトウの怪我の治療も考えて、さらに魔法球の中で一週間ほど休み、外へと出ることになった。

結構長く魔法球の中で過ごしていたが、現実の世界ではほとんど時間が経っていない。

皆、その事にとても驚き、改めて魔法球の便利さ…。と言うよりも、チートさに呆れたようだった。

ちなみにタカミチの修行についてだが、あの後、目が覚めたガトウにも事情を説明した所…。

 

「そうか…。二つとも疎かにしないのであれば俺からは何も言う事はない。…頑張れよ。」

 

と言われ、タカミチは感極まったのかガトウに抱きついて泣いていた。

それからはガトウが一日修行をつけ、次の日は俺が修行をつける。一日休息と自修練の日を挟んでまたガトウの修行…といったサイクルで鍛錬を続けている。

かなり大変そうなのだが、タカミチは何処か嬉しそうに鍛錬をしていた。

きっと目指すものがしっかりと見定まったのかも知れない。

これからのタカミチに乞うご期待といった所だろう。

 

さて、話は最初に戻るが、魔法球の外に出た俺達は、ガトウがいろいろ調べてくると言ってその場から立ち去った後、皆思い思いに過ごしていた。

 

と言っても、その行動は魔法球の中に居た頃と何ら変わりなく、ナギやラカンは探索に出かけたり騒いだりと日々をすごし、他の面子といえば、タカミチは修行。俺と龍ちゃんはアルたちに魔法の授業を受けていた。

たまにガトウが帰ってきたり、連絡が来て戦場に出たりしたのだが、別段特にコレといった進展は無く、ただただ時間が過ぎていった。

 

そんなある日の事…。ガトウが皆を集めて話したいことがあるというので、もうおなじみとなっている酒場でお酒を飲みながら集まっていた。

ちなみに酒場で話す理由は、下手に隠れようとすると逆に怪しまれる可能性があるから、普段から騒がしい所で話した方が安全だということらしい。

 

「皆集まってもらったのは他でもない。ちょっと緊急の話があってな。」

 

「なんだよいきなり。何かあったのか?」

 

「ナギの言う通りですね。いったいどうしたのです?」

 

「……実はこの戦争には裏があったんだ。」

 

「そんなもの今更じゃろ?政治やらなんやらいろんなことがあるのが普通じゃ。」

 

「いや…確かにいろいろ裏があるのは当たり前なんだが…これはそんな生易しい話なんかじゃない。」

 

「ガトウ回りくどい事言うのはよそうぜ?ぱぱっと言ってくれや」

 

ラカンがそうちゃちゃを入れると、ガトウは酒を一気に煽るとみんなの目を見て話し出した。

 

「結論から言おう。この戦争はわざと引き起こされたものだ。しかも必要に戦争を長引かせて戦火を拡大させている。ある一つの組織によってな。」

 

「!!!!!!!」

 

「……ちょっとまてよ。じゃあ俺達は一体何のために戦ってたんだよ。平和を勝ち取るためじゃないのか!?戦争を終わらせるために戦ってたんじゃないのかよ!!!」

 

ドン!と机を叩き、ガトウの言葉にナギが反応する。

 

「そのはずだった。…だが実際は違っていた。帝国も連合もその組織の連中たちに言いように動かされて戦争を続けているだけだ。目的なんかは分からんが、トップ近くの連中までがその組織の一員らしい。」

 

ガトウの言葉に、皆言葉が出なかった。

俺達”紅き翼”は戦争を早く終わらせるために精一杯戦ってきた。それはきっと両国の兵士達も同じだろう。皆先にある平和を目指して戦っていたはずだったのに、ガトウの一言でそれが無駄だったといわれているのと同じ聞こえた。

 

重い空気がメンバーの中に漂っている中、ガトウは話を続ける。

 

「とりあえずわかっている事は、そいつら組織の名前は”完全なる世界”というらしい。それ以外のことは現在調査中だ。そしてここからが本題なんだが…その組織を潰すためにそのためにあるお方が力を貸して欲しいと要請をうけた。」

 

「確かにそれだけの事やれる組織なら、並大抵のことでは歯が立たないだろうが…。ガトウその人は信用できる人なんだろうな?」

 

「ああ。それは大丈夫だ。もともとあのお方がおかしいと感じて調べて気付いた事だからな…。それでどうする?」

 

「きまってるぜ。とりあえず今の状況じゃ、俺達に選べる選択肢なんて無いようなもんだ。だったらまずその人に会って、これからのことを考えようじゃねーか。…むやみに戦争を長引かせようとしたやつら、絶対に許してはおけねー!!」

 

『じゃな・だな・ですね・やな・』

 

「わかった。さすがに今日はもう遅いから明日逢うことにしよう。」

 

そうガトウがしめてこの場はお開きとなった。

その後、俺と龍ちゃんは部屋へと戻り明日の準備をする事になったんだか…。どうも龍ちゃんの様子がおかしい。

部屋に戻ってから、ずっと黙って何かを考えているようだった。

すると、龍ちゃんが、何処か真剣な顔をしてが話しかけてきた。

 

「タケやんどうしたんや?さっきの話を聞いている時から、まったく喋らんようになったけど…。」

 

「……いや別に何でもないよ。」

 

「うそやな。」

 

即答でそう返す龍ちゃんに、少し驚きながらも動揺を見せないように淡々と答える。

 

「うそって…なんでだよ。」

 

「簡単な事や。あんな話聞かされてタケやんが頭にきてない訳が無い。あの場でナギたちと同じように叫ぶぐらいは普段のタケやんならしとる。…何を考えとるんや?いや何かしっとるんか?」

 

「いや、あの組織のこと考えてただけだよ。」

 

「……タケやんワイは信用できんか?」

 

「いきなりなんだよ」

 

そう言って龍ちゃんの顔を見ると、そこには今まで見たことのないくらい悲痛な顔と、今にも泣き出しそうな目をした龍ちゃんがそこにいた。

 

「前々からおもとったんやけど、タケやんいろいろ隠し事しとるやろ?それはワイにも話せんことなんか?ワイはタケやんのパートナーやなかったんか!?ワイか勝手におもっとっただけなんか!?」

 

「龍ちゃんそれは…。」

 

「違うとでもいうんか?なら…なら…ワイに隠し事なんてやめてぇな。タケやんがそこまで隠し取ることなんやかなりやばい事なんやと思う。でも…ワイはそれを一緒に悩みたい。タケやんはワイの一番の”親友”やからな。こんなこと言うの卑怯やとは思う。でもそれくらい心配なんや。タケやんが一人で無茶しそうで…。」

 

いつの間にか龍ちゃんは泣いていた。大きな目にいっぱいの涙を浮かべて…。

龍ちゃんが言っている通り、かなり前から俺が何かを隠している事に気が付いていたのだろう。でも、俺の事を考えて今まで何も聞かなかった。俺の事を心配しているからこそ、聞きたいのに、聞いて助けになりたいのに、その気持ちをぐっと堪えて…。

そんな龍ちゃんの気持ちを、俺は無下にはしたくない。

いや、できない。

だから俺は、覚悟を決めて龍ちゃんにすべてを話すのだった。

 

「………わかったよ。でもお願いだからこのことは誰にも言わないで欲しい。頼む。」

 

「もちろんや。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

 

「…タケやん確認のために聞いとくけど、この話はホントのことなんやな?」

 

「信じれないのは、無理ないけど…。」

 

「アホ!そうやない。……は~タケやんのことやから、かなりやばい事隠しとるとは思っとたけど…。コレは相当やな。」

 

深くため息をつく龍ちゃんに、俺は何も言えなかった。

だって、俺がここに来た時からずっと一緒に居る、龍ちゃんにこんな隠し事をしていたのだから、怒られても仕方がないと思う。

 

「………」

 

「何おちこんどんねん。ワイは怒ってない。と言うよりも、なんでもっとはよう聞かんかったかって、自分にイラつくわ。」

 

「へ?」

 

「今までよう我慢しとったな。えらいわ。…ほんまえらい。こんな事一人で抱え込むなんて…。でも大丈夫や!これからはワイが一緒に背おったる。ワイとタケやんは一心同体や。」

 

その言葉に思わず、龍ちゃんを抱え泣き出す俺。

 

誰にも言えなかった。言えるはずなかった…。頭がおかしくなったといわれても仕方が無い事だったから。

でも、やっと話せる相手が出来た。それが何よりもうれしい。

苦しかった。救えるすべがあるのに行動できない自分に…。

悲しかった。知識を持っていたとしても守れなかった命に…。

イラついた。力の無い自分に…。

 

そんな気持ちを分かってくれているのか、龍ちゃんはただ俺に抱かれながら頬をこすりつけてくれていた。

 

 

「…泣き止んだか?」

 

「ああ、ありがとう。…はは。かっこ悪いところ見せたね。」

 

「なんや今更。タケやんのかっこ悪いところなんていっぱいみとるっちゅーねん」

 

「ひどっ!!」

 

大げさにリアクションをとって二人で笑いあう。コレはきっと龍ちゃんの優しさなんだろう。

明るい雰囲気にしてジメジメした空気を払拭してくれた。

 

「はは。まぁええ。…んで、いろいろ聞きたいんやけど、原作っちゅーたか?ともかくタケやんは、大体の事をしっとるって言うたな。」

 

「まぁね。でも知っているといってもこんな事が起こるとか、こんな人物がいるとかで、詳しく知らないし、それに本当にあっているのかも確証が無いよ。」

 

「どういうことや?」

 

今一要領を得ないのか、龍ちゃんが聞いてくる。

 

「例えば、こんな事があると分かっていても、それが何時起こるとか、敵がどれだけ強いとか、そんな事は分からないって事。大体俺が知っている原作では、当然俺も龍ちゃんもいないわけだし。知識として知ってても、経験で知っているわけじゃないから意味無いんだよ。」

 

「ほ~つまり答えをしっとっても、それに辿り着くための道はしらんちゅー訳やな?」

 

「そういうこと。ラカンのことにしたってもそうなんだよ。そもそもラカンと一緒に行動するのも、神様からの手紙通りに動いただけだし、それ以降もラカンと行動して行けば、ナギたちに逢えて、この戦争の黒幕である”完全なる世界”にも関われるだろうって思ったからだし。」

 

正直、神様の手紙が無かったとしても、おそらくラカンを探すか、それとも直接“紅き翼”を探すかしたと思う。力があるのに、見て見ぬふりなんて俺は出来ないから。たとえそれで、自分が傷つく事になろうとも…ね。

 

「…役に立つのか、立たんのか分からん知識やな。」

 

「本当にその通りだと思うよ。」

 

「でもや。その”完全なる世界”のアジトとかは知らんのか?どうせやったらそこを強襲すればすぐにでも戦争が終わると思うんやけど?」

 

「ん~どうだろう。多分あそこで間違いないとは思うんだけど…。でも知ってても意味無いよ。大体今戦った所で勝ち目ないんてないもん。戦力が違いすぎるし…。原作でも、戦っていく内に、いろんな人に協力してもらえるようになって、なんとか戦力を増強できたんだ。更にその戦いで、いろんな拠点を潰して相手の戦力を削っていったのも大きな要因の一つだと思う。いくら“紅き翼”が一騎当千の働きをしたとしても、数の暴力には勝てないよ。」

 

そこなんだよね。神がいうにはハッピーエンドを目指せば何やってもいいと言われているけど、実際そんなうまくいくわけじゃない。

いくら俺たちが強くてもやっぱり数には勝てない。

どっかの弟も言ってたけど”戦いは数”なんだよな~。はぁ…

 

「そっか…ならしゃーないわな。しばらくは流れに身を任せんといかんというわけやな?」

 

「そうだね。それまでに助けられる命は極力助けたいし、あと黒幕の一員である爺たちの思い通りにはいかない様に手をうつ必要があるし…問題は山済みだよ。」

 

「めんどい…というか、なんというか。…にしてもその元老院っていったか?そいつらうざいな。」

 

「ああ。大体俺は悪とか正義とかどうでもいいんだよね。でも、人の命をもてあそぶ奴等は大嫌いなんだよ!ぜってーひどい目見せてやる。」

 

「ワイも手伝うわ。というかワイにもやらせてや。人の権力争いとかワイは興味ないけど、自分の事に関係無い人を巻き込むのは許せんわ。」

 

「ありがと。……まぁとりあえずは明日だね。」

 

「明日か…。たしかどっかの姫に逢うんやっけ?」

 

「そ。ともかく明日に備えて寝よっか?」

 

「そうやな。」

 

そう言って二人で寝床に言って寝ることにした。

 

明日…

 

とうとう逢えるのか、ナギの嫁にしてウィスペルタティア王国の姫。

 

アリカ・アナルキア・エンテオフィシア殿下に…

 

 

はぁ…どう考えても面倒な事になりそうだよ。

 

 

 

さてさて、龍ちゃんとの話も終り一夜明け、俺達は本国首都へと出向いていた。

まぁ、原作知っている身だとそこまで疑問を抱く事無いはずなんだけど、知らない人からしたらきっと疑問でいっぱいなんだろうな~。…と、そんな事を考えながら皆と一緒にまっていた。

ちなみに他の面子は、何故こんな所に連れてこられたのか分からずあっけにとられているようだった。

しばらくして、こちらに向かってくる人影を見つけ皆それに注目する。

そしてそれが誰だかわかると驚いたように声を上げる。

 

『マ、マクギル元老院議員!?』「…誰?」

 

…ってああこの人がマクギル元老院議員か。原作で名前くらいは聞いた事あったけど、それぐらいにしか記憶に無い。顔なんてもちろん覚えていない。つまり印象が薄いって事は、そこまで必要な人物じゃないんだと思うけど…。まぁ、一応顔と名前くらいは一致させておこう。

 

そんな事を考えている間も、話は進んでいるようだった。

 

「いや…ワシちゃう。主賓はあのお方じゃ。」

 

そんな事を言って後ろについてきた人を紹介する。

さて…いよいよご対面か。

 

「ウィスペルタティア王国…アリカ姫」

 

「へ~アレが言っとたアリカ姫か。性格きつそうやけど、べっぴんさんやな~。そう思わんタケやん?…ってタケやん!?」

 

………はっ!一瞬言葉を失ってた。

うわ~まさか見惚れるとは俺らしくねー!!!!

そりゃ確かに、原作でもきれーだなーとかは思ってたけど、現物見るとマジ綺麗だわ。

コレはナギが一目ぼれするのも分かる。

 

「タケやん!!!」

 

「!!…ん?何龍ちゃん?」

 

「何やあらへんがな。どうしたんや?いきなりボーっとしてからに?」

 

「いや本物にあえたから、ちょっと感動してただけだよ。」

 

「……ふ~んまぁええわ。ともかく、そろそろ真面目に話し聞かんといかんのやないか?」

 

「わかってるよ。」

 

そう言って俺は話し合いに参加する事にした。

そこで話し合われた事をまとめるとこういうことらしい。

 

アリカ姫はなんでもこの戦争を止めるための調停役だったのだが、いろいろ妨害や邪魔が入り、力及ばずダメだったらしい。それでも何とか成功させたいらしく、俺たちを頼ってきたそうだ。

また”完全なる世界”についても、その妨害や邪魔をした相手を特定するためにいろいろ調べさせた所、その組織が浮かび上がってきたといういことだ。

 

そして、これからが重要なのだが、現状、組織の中心人物や構成、目的などがまったくといっていいほど分かっていないらしく、大手を振って行動する事が出来ないと言う事だ。

その事に対して、ナギが“分かってるのに何で無理なんだよ!!”と叫んでいたが、俺には無理な理由が分かる気がする。

俺が居た世界でもそうだったけど、“かもしれない”では大勢の人、もっと言うなら国なんてものは動かない。“石橋を叩いて渡る”と言えば聞こえがいいけど、ようは皆臆病で、自分が大切なのだ。確証の無い事に手を出して、損をするのが嫌だし、何より報告で聞いていても、実際自分は安全な所に居るので、今どれだけ危ない所に自分達がいるのか分かっていないのだろう。

その為、しばらくは本当に信頼できる人達だけでこの組織のことを調べ、少しずつ事態を好転させて行くしかないという結論に至った。

 

正直目的とか、何とかは俺にはわかっているんだけど、言えないよな。元老院がやっている事を知ってるとしても、名前まで知ってるわけじゃないし、知っているとしたらアールウェンクスぐらいしか覚えてないから意味が無い。

まぁ、あいつらがやってる事はわかってるんだから、それを元にいろいろ調べればうまくいけば早くに証拠つかめるかも知れない。

今俺にできる事と言えばそれぐらいか…。もどかしいな。

 

「…やるしかないか。」

 

「ん?どうしたんや?」

 

「いや…この状況を好転させるためにも、今はやれる事をやらないとなって思っただけだよ。」

 

「せやな。まずはやれる事やろうや。」

 

龍ちゃんと決意を新たにした所で、丁度あっちの話し合いも終わったようだ。

この話し合いで決まった事は、俺、龍ちゃん、ガトウ、アル、ゼクト、詠春などで情報集め、そして統括をして、他の面子はおもに護衛や戦闘をすると言う事だった。

さっそくアリカ姫は、ナギに罵倒を浴びせながらも顎で使っているっぽい。

まぁコレは原作通りかな?

でもなんだろ?ナギとアリカ姫が話している所を見るとちょっとズキってするんだけど…。俺何か変な物でも食べたのかな?

原作とかでも、綺麗だとは思っていても、特に好きとは思ってなかったから、恋とは別だとは思うけど…。

 

一体どうしたんだろう?

 

ま、今はそんな事どうでもいいか!今は情報集めが重要だからな。

 

さぁ気合入れて頑張ろうか!!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話:英雄→反逆者

アリカ姫との対談から、数ヶ月が経とうとしていた。

その間、俺たち”紅き翼”の面々は表立っては連合の為に戦闘をおこなっていたが、裏では”完全なる世界”の情報を必死になって集めていた。

こうしている間にも戦火は広がり、たくさんの命が奪われていく。

そんな現実を見つめ、今にも怒り狂いそうな気持ちをぐっと堪え今できることをしていく。

少しでも早くこの大戦が終わるように…そう願いながら。

 

そんなある日、俺達の元に有力な情報が入ったという報告を受け、それを聞いた俺達はガトウの元へと急いでいた。

そしてガトウが仕事をしている部屋へと入ると、そこには頭を抱えながら唸っているガトウがいた。

 

「ガトウ!有力な情報が見つかったと言うのはホントなのか?」

 

「あぁ詠春。確かに奴等の真相に迫るファイルを見つけることには成功したんだが…。」

 

「ガトウ。どうしたのですか?」

 

「いや…確かに情報のソースから言って、かなり信憑性の高い情報であることは間違いない。だがな…。」

 

「……ガトウさん。はっきり言ったらいいんじゃないかな?一人で悩んでいても仕方がないことだと俺は思うんだけど…。」

 

そう、俺がガトウの後押しをする。

するとガトウは、タバコに火をつけてふぅっと煙を吐くと皆の顔を見て覚悟を決めたのか話し出す。

 

「…実はこの男にも”完全なる世界”との関与の疑いが出てきた。…信じたくないぐらいの大物だよ」

 

そう言って一枚の写真を俺達に見せる。

そしてそこに映っている人物を見て、みんな唖然とする。

 

「これは…。」

 

「オイオイオイ…マジかよ。」

 

「現執務官!?」

 

「……ちょっとまってや。たしかコイツは…。」

 

「ああ。メガロメセンブリアのNo2さ。」

 

やっと出てきたか。

俺はそう心の中で呟く。

まったくなかなか尻尾をつかませてもらえなかったから、結構時間が掛かったけど、ようやく捕まえる事が出来た。さてここからが本番だな。

龍ちゃんも俺に視線を送りコクリと首を縦にふる。

どうやら龍ちゃんも同じ気持ちらしい…。

 

「ただ皆に言っておくが、確かに信憑性は高いが確証があるわけじゃない。だからここだけの話にしてくれ。」

 

「それはもちろんじゃが…。どうやってその証拠を掴むつもりじゃ?」

 

「……直接聞くしかないだろう。」

 

「直接聞くって…そんな簡単に口を開く訳ないだろうが。」

 

「まぁ確かにな…だがこの情報を掴むだけでも、かなりの時間を費やしたんだ。そんな悠長な時間はもう取れそうにない。それにやり方はあるさ…。」

 

そう言ってニヤリと笑うガトウ。

うん。なんていうか、悪人面だよな。普段はかっこいいオジサマなのにね。これはガトウのファンには見せられない顔だな。…いるのかは知らないけど。

でも、正直そこら辺は、ガトウに任せるしかないだろう。俺達じゃ、うまく割らせる事なんで出来そうにないし…。

ガトウを見ながらそんな事を考えていると、急に外から爆発音が鳴り響き一気に騒がしくなる。

 

ズズン!!!

 

『!!!?』

 

「なんだ!?」

 

「外から聞こえましたね…。」

 

急いで窓へと向かい、状況を確認する。

すると市街地の方で、爆発があったみたいで煙が立ち上っていた。

 

「!!!(思い出した。確かナギとアリカ姫が襲われるんだっけ!?)」

 

「くそっ!ここからじゃ何があったか分からない。武、龍牙一緒に来てくれるか?」

 

『わかった』

 

詠春に言われ、俺達は部屋から出てその場へ直行する。

 

「俺たちはここで情報を集めてみる。…たしか今はナギ達も町に行っているはずだ。うまく協力をしてくれ!!」

 

後ろからガトウがそう叫ぶ声が聞こえてくる。

俺達は、その声に後ろを振り返り頷き、爆発があったであろう現場へと向かうのだった。

 

 

現場に着いた俺達がまず行った事は、この爆発でひどい怪我を負った人がいないか確認する事だった。

 

「武!そっちはどうだ?」

 

「こっちは特にひどい怪我をした人はいないみたいだ。そっちはどうですか?」

 

「こっちも大丈夫みたいだよ。…それにしても一体何があったんだ…。」

 

そう言って爆発の中心を見つめる詠春。

そこには、おそらく魔法で出来たであろう大きなクレーターが出来ている。

その魔法の威力を証明するかのように、その余波に当てられたのか、近くの建物とかに、何か所も罅が入っていた。

 

「…まさかとは思うけど、コレナギがやったんやないやろうな?」

 

「ハハッ…まさか………否定できないな。」

 

「龍ちゃんいくらナギがバカでも、それはいくらなんでも…。」

 

「何でもなんや?」

 

「………ごめん。」

 

三人の間になんともいえない空気で支配されていると、何か思い立ったのか近くにいた龍ちゃんが足元までやってきておもむろにすそを引っ張る。

 

「ん?どうしたの龍ちゃん?」

 

[それで?コレはどういうことなんや?]

 

詠春さんに聞こえないように注意しながら、小声で話しかけてくる。

まぁ、話す内容が内容なので、当然といえば当然だろう。

そして俺の方も、詠春さんの視線を気にしながら、龍ちゃんに話しかける。

 

[原作だと、ナギとアリカ姫が”完全なる世界”の奴等に襲われるのが真相なんだけど、この爆発事態は誰が起こしたものなのかは覚えてないよ。]

 

[そうか。…これからどうするつもりや?]

 

[そうだね…。その後はナギとアリカ姫が敵の拠点に乗り込んで潰すんだけど、その拠点がどこにあるかなんて分からないし、できることは殆どないよ。]

 

[ならじゃーないな。]

 

しょせん原作を知っているからって、やれる事なんて少ない。

いくら答えを知っていても、その道筋をちゃんと分かってないと、こんなもんだと改めて思う。

龍ちゃんと二人で”ん~”と唸りながらどうするか考えていると、さっきまで黙っていた詠春が声をかけてくる。

 

「二人ともこれからのことなんだけど…。」

 

「そうですね…。とりあえずは、どうしますか?」

 

「出来ればこの町の何処かにいるであろうナギ達を探したい。それとコレの原因も可能な限り情報を集めた方が言いと私は思っているんだが、どうだろう?」

 

「俺も賛成ですよ。ならとりあえずは近くにいた人からいろいろ話を聞いて見ませんか?この爆発に対してナギ達が気付いていないはずは無いから、もしかしたら、あっちはあっちでいろいろ動いているのかもしれません。うまくいけばその情報も手に入るかも?」

 

「せやな。それにナギの奴は厄介ごとに関わるの好きやからな~。と言うよりも、厄介ごとに巻き込まれやすいんか?まぁ、ともかくここにいないって事はもう行動しとる可能性は高いと思うで?それにあのアリカ姫もな~…ナギと同じようない匂いがするわ。」

 

「いやまさか…いくらアリカ姫でも…。…龍牙、ちなみにその匂いって奴はどれぐらいあたりそうだ?」

 

「ほぼ100%やと思うで?」

 

ニッコリ笑ってそう告げる龍ちゃん。

その表情に俺達は、思わず頭を抱えてしまった。

 

「………武。」

 

「はぁ…わかってますよ。全力で探します。」

 

「たのむ…はぁ。」

 

そう言って二手に分かれて、情報を集める事となった。

アリカ姫が来てから詠春さんのため息が一気に増えたような気がするのは、気のせいだろうか?あの人も後の事を考えずどんどん自分で動いていく人だからな~。

……今度からは、あの二人にはお目付け役みたいな人が必要なのかも知れん。

じゃないと詠春さんとか、ガトウさんが、多分ストレスがマッハで胃がテレッテー(北斗風)みたいなことになると思う。

 

「タケやんどうしたん?」

 

「いや…詠春さんやガトウさんの心境を考えるとね…。」

 

「あ~…あいつ等、戦闘で死なんでもナギ達に殺されるんとちゃうやろうか?」

 

「そうならないように、少しは手伝ってあげようよ。」

 

「そうやな。」

 

「はぁ~まさかここでこんな難題にあたるなんて…思わなかったな。」

 

「まぁアレや”英雄詠春・ガトウお腹を抱え謎の死!!”って見出し出されんようにがんばろうや。」

 

「ハハハッ…。現実味がありすぎて笑えないよ龍ちゃん。」

 

そう言って俺達は、情報を集めるために奔走するのだった。

主に、ナギ達の心配ではなく、詠春さん達のお腹の心配のために…。

 

その後、ある程度時間が経った所で、詠春さんと合流してみたのだが、結果は思わしくなく、それっぽい人を見かけたという情報は手に入ったのだが、それ以外は何も分からず、ナギ達も見つけることが出来なかった。

なので、とりあえずは情報を整理する為にも、拠点に戻る事になった。

詠春さんは”もしかしたら戻っているかもしれない”と希望を口に出して言っていたが、答えを知っている俺たちからしたら、そんな事はまずありえないだろうと思い、詠春さんの胃が爆発しない事を祈りながら帰るのであった。

 

そしてその事件から一夜明けた所で、何事もなかったかのようにナギ達が帰ってきた。

アリカ姫の方は、”疲れた”とか言って部屋へと戻っていき、それに便乗するかのようにナギも部屋から出て行こうとしたが、まぁ……当然のごとく詠春さんにつかまった。

 

そして今ナギはというと……絶賛俺達の前で正座中。

主に詠春さんからのお叱りを受けているのであった。

 

「…で?お前はアリカ王女殿下を一昼夜連れまわしたあげく、敵の拠点を潰してきた訳か。…どうやったらそんなレベルの夜遊びをすることになるんだ!!」

 

「いや…まぁ…あるだろその場のノリって奴がさ?それにある程度潰したら後は警察に任せてきたしよ…。」

 

ノリって…おいおい。

いや、まぁ…分からなくは無いよ?

でも、せめてここでは、もうすこしまともな言い訳をしようよ。

たとえそれが事実だとしてもだよ?

いくらなんでも、中学生の夜遊びのような理由で、拠点潰されても…俺達からしたら“ありえん”の一言につきると思うんだ。

 

「ノリですむ問題かーー!!!大体お前も理解してるだろうが!敵の下部組織潰した所で、たいした意味はないんだ。だからこうやって秘密裏に情報を集めているんだろうが!大体アリカ王女殿下に怪我でもあったら、どう責任を取るつもりなんだ!?」

 

「いや~最初は俺もそう思って、アリカ姫だけでも返そうとしたんだぜ?でもよー。どうしてもあの姫様が、付いてくって言って聞かなくてさ。それに戦闘になったらなったで、俺以上にノリノリだしよ~。まぁ、怪我しないように注意はしてたけどな。」

 

「普通はその付いてくとか言われた時点で、まずこっちに帰って来い!そうじゃなくても連絡ぐらいしろよ!!」

 

「あ!……あはははっ…わりい!でもまぁそのおかげで、こうして敵さんの証拠も見つけてきたんだからそれでいいだろ?」

 

そう言って、ナギは懐から一枚の手紙を取り出す。

それを受け取ったガトウが確認すると、どうやら執務官の物と思われる手紙らしい。

にしてもさすが主人公。なんてタイミングのいい事なんだ。

コレってどんなチートよりも、ひどいチートだと思うのは俺だけなのか?そうなのか?

まぁ、そんな心の叫びはおいといて、とりあえずはナギに感謝しとくか。

 

「ナギ!お前最高!」

 

「かっこええな~。さすがワイらのリーダーや!」

 

「だろ?」

 

「だろ?じゃなーい!!武達もあまりナギを調子づかせるな!!……あぁ頭が痛くなってきた。」

 

あ、詠春さんを助けるとか言ってたくせに、ダメージ与えちまった。

ある程度時間が取れたら、また魔法球の中にでも招待しよう。そこで少しでもストレスを緩和してあげないと…。

 

その後、ナギが見つけた証拠と今まで集めていた証拠をあわせ、ガトウがマクギル元老院議員へ連絡をいれると、その証拠をナギに持たせてこっちに来て欲しいという話になった。

だけど、ナギだけだと心配だと言う事で、ラカンとガトウ、そして俺達も一緒にナギに付き合う事になった。

 

一方アリカ姫はというと、俺達とは別に、帝国の第三皇女と話をしに行くとが決定し、俺達より早くに出発する事になった。

その時、アリカ姫とナギが何か話しており、それを眺めていたら、何故かナギが思いっきりひっぱたかれていた。

確かに、あの人もすぐ手が出る人だとは思うけどさ…。なんでこう、すぐひっぱたかれるのかねぇ?

俺も少しだけど話した事あるけどさ、そんな事無かったと思うんだけどなぁ。

ま、あくまで報告だけだったし?”用が済んだら帰れ”みたいな雰囲気だったけどね?

あ、そういえば…。

その後、龍ちゃんとかラカンが”どうだった?”見たいな事をしつこく聞いてきたんだよね。あれって一体なんだったんだろうか?

 

まぁいいや。とりあえずは俺は俺でやる事をちゃんとやりましょうか。

そう思い、アリカ姫が出発したすぐ後、俺達もマクギル議員の所に向かった。

確か、マクギル議員はもう亡くなってるんだよな。それを防ごうと考えたんだけどすぐ別の場所に行っちゃったから何にも出来なかった。

あの人いい感じの人だったから、どうにかして助けたかったんだけど…。

………後悔しても今更どうしようもない。とにかく今はこの後おこることを乗り越えないと。

さぁご対面といきますか。

 

マクギル元老院議員がいる所についた俺達は、すぐさま部屋へと呼ばれた。

部屋に入ると、椅子に座っているマクギル元老院銀の姿が見えた。

 

「マクギル元老院議員。」

 

「ご苦労だった。証拠品の方はもちろんオリジナルだろうね?」

 

「ハッ…法務官殿はどうしたのですか?まだいらっしゃらないみたいですが?」

 

「……法務官はこられぬ事になった。」

 

「え?」

 

「…あれからいろいろと考えたんだが、せっかくの勝ち戦なんだ。…ここで慌てて水を差すのは悪いと思ってね。」

 

「ハァ…そうですか。」

 

そう答えるナギは、何処か納得できてない顔をしていた。

勘って奴なんだろうけど、やっぱりナギはすげーと思うよ。

でも…なぁ…。

たとえ答えを知らなくてもあきらかにおかしいでしょ?

考え方が180度違うし、喋り方もびみょーに違うしね。

もう少し、どうにかできなかったのかなぁ…。

 

「(あ、あーナギ、ナギ?聞こえますか?)」

 

「(ん?タケルか?どうした?)」

 

「(いや~あきらかにあのマクギル元老院議員怪しくないか?)」

 

「(お!?お前もそう思うか?俺もそう感じてるんだよ。)」

 

「(じゃ、やっちゃいますか?)」

 

「(おう。)」

 

そんな事をナギと念話で話していると、近くにいた龍ちゃんからも念話が入る。

 

「(タケやん、タケやん?聞こえてるか?)」

 

「(ういうい。どうぞー。)」

 

「(あれ。偽もんやで?匂いがまったく違う。)」

 

「(さすがだね。正解だよ。)」

 

「(…なるほど。コレわかっとった訳やな?)」

 

「(まぁ、そうじゃなくても怪しいと思ったけどね。…今ナギとも連絡してたけど、これからそれを暴く心算だから、一緒にやるぞ!)」

 

「(了解や!)」

 

そう龍ちゃんとも打ち合わせをし、その時に備える。

すると、マクギル元老院議員(偽)がこっちに歩いてきた所で、ナギが待ったをかける。

 

「まちな!」

 

「?」

 

「お前マクギル議員じゃねーな!正体を現しやがれ!!」

 

その言葉を合図に、ナギと龍ちゃんが炎で相手を燃やし、俺はハンマーコックした拳を相手のお腹めがけて打ち込む。

 

『なっ…』

 

「ちょーーーーー!!ナギ…おまっ…何やってんだよ。タケルも龍牙もだ!」

 

「元老院議員の頭燃やして、…しかもマグナム思いっきり食らわしてどういうつもりだ!?」

 

「二人ともよく見てくれ!」

 

『何っ!?』

 

俺の言葉で、二人はマクギル議員の方を向く。

するとそこには、マクギル議員の姿はどこにもなく、燃えている炎の中から出てきたのは、丁度ナギや俺と同じぐらいの少年。少しお腹を押さえているが、それ以外はまるで何もなかったかのように悠然とそこに立っていた。

 

「…良く分かったね。千の呪文の男…それに銃神と獣王。…まさかこんな簡単に見破られるとは思わなかった。もう少し研究が必要かな?」

 

「ん~研究っていうか演技力?喋り方とか雰囲気違いすぎるし、それにいくらなんでも言っている事が180度変わりすぎだろ?」

 

「せやな~。あといくらうまく化けたとしても、ワイの鼻はごまかせへんで~。」

 

「…なるほど。勉強になったよ。それにしても銃神の拳は一体何なのかな?確か障壁でガードしたと思ったんだけど、ダメージがしっかりと残ってる。」

 

「ん?それは企業秘密だな。それを君に教えるほど仲良くないし…ね。」

 

「それは残念だね。じゃぁ今度仲良くなったら教えてもらおうかな。」

 

「まっ、そんな機会多分ないと思うけどね。」

 

「やるぞタケル!」

 

「おう!」

 

そう言って二人で彼に向かって突っ込む。

しかしそれは、二つの影によって足止めを食らう。

 

「通しませんよ!」

 

「くらえ!!」

 

「ちっ!!」

 

あぁ、コレが原作にあった仲間達か、確かに強いわ。マジでやって、ギリギリ勝てるかどうかって所かな。当然然を使えばすぐにでも倒せるんだろうけど、アレは切り札だから使えないしな。

そんな事を思いながら、敵がはなった魔法を防ぐ。

 

「強ぇぞやつら!!」

 

「ハッハ!だが生身の敵だ!政治家だ何だとガチで勝負できない敵にくらべりゃ…万倍!!戦いやすいぜッ!」

 

「さすがはバカンやな~。…でも同感や。一気にいくでぇ!!」

 

二人とも任せろとばかりに突っ込み。俺もその勢いに乗じて相手に向かって攻撃を仕掛けようとするが、二人に阻まれてうまく本丸を撃つ事が出来ない。

そうしているうちにマクギル議員に化けていた奴が、声を真似て応援を呼んだ。

 

「わしだ!マクギル議員だ。スプリングフィールド・ダテとそのペット・ラカン・ヴァンデンバーグ。奴らは帝国のスパイだった!奴らの仲間もだ!今も狙われている!軍に連絡をッ……!!」

 

「げっ…!!」

 

「やられたな。」

 

「君達は少しやりすぎだよ。悪いが退場してもらう。」

 

「ハッ!その前にテメェの人生の幕引きが先だろ!!」

 

そう叫びながらラカンとナギが突っ込むが、結局倒しきる事が出来ず、その後軍が部屋に乱入してきて、結果俺達は連合から追われる事になってしまった。

 

「タカミチ達はだいじょうぶかな?」

 

「心配せんでもなんとかなるやろ?」

 

「にしてもこれからどうすればいいか…。」

 

「ガハハッ。傑作だぜ。退屈しねぇ人生ってのは最高だな。」

 

皆思い思いの事を逃げながら喋っていると一人真剣な表情でいたナギがボソッと呟く。

 

「姫さんがやべぇな…」

 

「今の俺達じゃ下手に動くと余計に状況は悪くなるだけだと思う。だから今は…」

 

「ああ。とりあえず他の仲間と連絡が取れるようならとって隠れ家へ向かおう。」

 

「何かあったら隠れ家へ向かうという事は、前から決めていた事だ。だからあいつ等もきっと向かっているはずだろう。」

 

「だな。とりあえずは追っ手をまかないとな。」

 

そうラカンが締め、追っ手の軍から少しでも距離をとるように逃げるスピードを上げる俺達。

その後辺境を転々と移動しながら追っ手をまいていき、隠れ家へと向かうのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話:騎士誕生

首都から追われ、一気に連合が敵になった俺達。

多分こういうのを、波乱万丈とか言うんだと思うけど、あんまいいこと無いなと改めて実感していた。

将来自記伝みたいのを書くとしたらこう書くと思う。

 

”平凡な日常こそ最高の幸せ”

 

とまぁ、戯言みたいな事はおいといて…

 

俺達は、何とか連合の追っ手を振り切り、隠れ家があるルシス大陸極西部オリンボス山に辿り着く事が出来た。

さっそく隠れ家に入ってみると、もうそこには、他の面々がそろっており、何があったのか説明を求めてきた。

焦る他の面々をまずは落ち着かせて、それから俺達の身に何があったのか一から説明をした。

その説明に皆納得してくれたのだが、どうにも顔色が優れない。

 

「?…どうしたんだよ。確かに良くないニュースだけどよ。そこまで暗くなる必要は無いんじゃねーか?」

 

あまりにも皆の顔色が優れないので、ナギがそう話すと、先に来ていた面々の中を代表して、アルが俺達にその理由を説明し始めた。

 

「…実は、ナギ達がこっちにつくまで、私達も可能な限り情報を集めていたのです。そしてその情報の中に、帝国側に接触を試みていたアリカ姫が捕まったらしいという情報がありました。しかもその信憑性は高く。まず間違いなく、捕まっていると思われます。」

 

『!!!!!』

 

アルの言葉に俺達は息を呑む。

今の状況を簡単にまとめてみると・・・

 

・”完全なる世界”によって”紅き翼”は賞金首になり連合に追われている。

 

・戦争を早く終わらせる為に、アリカ姫が帝国の皇女と会っていたが、それはほぼ失敗といっていい状態

 

・連合に対して発言力を持っていたアリカ姫が捕まり、投獄されている。(原作通りならこっちの見方であろう帝国の皇女も同じく投獄されている)

 

うん。…これはやばいというよりも、ほぼムリゲーって感じだな。

力でこの戦争が終わらせられるなら、とっくの昔に、俺達が終わらせていると思う。

それが出来なかったのは、政治的なものが関係してうまく動けなかったからだ。しかもそれを担っていたアリカ姫が投獄され、今残っている人でアリカ姫の代わりを務められそうなのは、唯一ガトウだけだろう。

しかし、そのガトウも、連合から敵扱いされているから、今までみたいに動けるわけがない。

 

オイオイ…コレがゲームなら俺はもう既に電源を切っているレベルだな。

 

頭の中でそう考えて、さらに落ち込みかける俺に、肩に乗っていた龍ちゃんが、小声で話しかけてくる。

 

[なぁなぁ…タケやん。これからどうなるん?]

 

[どうなるもこうなるも。この状況になったら、もうやる事は一つしかないよ。]

 

[やっぱりそうなんか…。大変そうやな~]

 

[軽いね龍ちゃん…。まぁいいや。とりあえずは…。]

 

[せやな。考えるよりも行動やな!]

 

そう俺達が内緒話をしている中、他の面々はこれからどうするか話し合っていた。

皆たぶん考えている事は同じなんだろうけど、その危険性から発言できないみたいだ。

なら…ここは俺が一石を投じる事にしますか。

 

「皆…。いろいろ話し合っている所悪いんだけど、もうここまで来たら、俺達ができる事、いや、やらなくちゃいけない事なんて、一つしかないと思うんだけど?」

 

「タケル……。いや、しかしだな…。」

 

「ガトウさん。確かに危険は大きいし、失敗したら終りだと思うけど、どう考えてもそれ以外できることがないと思うし、やらないと先に進めないと思う。」

 

「タケルの言う通りだな。ここで必死になって考えても、何も変わらない。…なら、やるしかねーだろ!!」

 

『…よし。やるか!』

 

「おう!……アリカ姫を助けるぞ!」

 

そこからの行動は、早かった。

まず、情報収集能力が高い面々を中心として、アリカ姫がどこに投獄されているかを掴み、そこを戦闘能力が高い面々で強襲、奪還という、かなりシンプルな作戦を打ち立てるとすぐに実行に移した。おそらく、こんな作戦でうまくいくのは俺達“紅き翼”だけだろう。

そして、情報収集により掴んだアリカ姫の場所へ強襲する日。

最初は、いくらなんでもうまくいくのか?と不安に思っていたが、蓋を開けてみると、正直こんなにうまくいっていいのか?と思うくらいに割りとあっさり成功してしまった。

まぁ、もともと戦闘に特化している連中が、いきなり強襲をかけるんだから、せめてあっちに俺達と同じぐらい戦えるやつがいないと、防ぐ事なんてまずできないだろうし、俺達のこと忘れていたのか、それとも油断していたのかは知らないけど、その場所の警備はザルだった。

そのお蔭で、俺達はアリカ姫の奪還はすんなりと成功させるのだった。

ちなみに、アリカ姫とナギの掛け合いは見れなかった。

外で龍ちゃん達と暴れていたから仕方がないんだけど、それでも原作イベント見逃すのはちょっと勿体無かったかな~とか思う。

 

さてさて、そんな訳で、アリカ姫とついでにテオドラ皇女の奪還に成功した俺達は、悠々と隠れ家へと帰ってきた。

 

「何だ!これが噂の”紅き翼”の秘密基地か!どんな所と思えば…ただの掘立小屋ではないか!」

 

「俺ら逃亡者に何期待してたんだよ。このジャリは…」

 

「でも秘密基地ってこんなもんじゃないの?大体こんな所にそんなすごい建物つくったら、秘密所か目立ちまくりでかなりあやしいでしょ?」

 

「タケやんの言う通りやな。目立たんでナンボやろこんなもん。最低限休めて、あまり周りを気にせんと話し合いができればいいだけやと思うし。」

 

これがテオドラ皇女…。

確か正式な名前は……長すぎて忘れた。まぁテオドラ姫でいいや。

ん~印象は、やっぱりおてんば姫って感じだよな。仮にアリカ姫が綺麗なら、テオドラ姫はかわいいが当てはまりそう。…性格についてはノーコメントだな。

見た目の好みで言うなら、かわいい系のテオドラ姫なんだけどね。

アリカ姫がダメって訳じゃないけど、憧れの方が強くなっちゃうから。何せ、何度もあっているくせに、未だに、顔を見るとドキドキするから…。

 

「何だ貴様!無礼であろう!!それに秘密基地と言うのだから、もっと期待してもいいではないか!?」

 

「へっへ~ん。生憎ヘラスの皇族にゃ、貸しはあっても借りはないんでね。」

 

そう言ってラカンが逃走した。

……逃走?って!おい俺に丸なげするつもりか!?

 

「はぁ…もうどうでもいいか。それと期待については、小説とか絵本の見すぎですから。」

 

「…主の名は?」

 

「申し送れました。タケル・ダテといいます。こっちの虎は龍牙です。」

 

「なんと!?お主等があの”銃神”と”獣王”だというのか!?」

 

「そうやけど?」

 

「うう~む。聞いていた話と全然違うではないか…”銃神”は髪が紅く、鋭い目つきをしておると聞いておったし、”獣王”にいたっては、体のサイズがまるで違う…。それに…」

 

あー確かに戦場で”炎帝”使えばそんな感じになるけど、それを鵜呑みにするのはどうなのよ?

大体、俺普段はこっちの姿の方が多いと思うんだけどな…戦闘以外。

 

「……のうタケルよ。」

 

「なんですか?」

 

「……その龍牙なんじゃが…。」

 

「龍ちゃん?それがどうかしましたか?」

 

「……妾に抱かせてはくれないかの?」

 

は?

 

「……だめかや?」

 

「……はぁ~。龍ちゃんどう?」

 

「まぁ抱かせるくらいなら、ええけど…。」

 

と、龍ちゃんがテオドラ姫に近づいた瞬間。

俺でも見失いそうなぐらいのスピードで、一瞬にして龍ちゃんを抱きかかえて頬擦りをしている。

 

「ふおおおお…。このモフモフのフワフワ感。抱き心地最高じゃー!!」

 

「ちょ…やめ…やめてーな。あ、そこはあかん。あかんて…あ…あ…あはははははっ!!!」

 

おお。龍ちゃんがモテとる。

確かに普通に見れば、かわいいぬいぐるみが喋って、しかも動いているんだもんな。かわいいもの好きにはたまらない光景なんだろたぶん。いつも一緒だったから忘れてたわ。

 

「よかったな、龍ちゃん!モテて。」

 

「よくないわ!頼む…ほんま頼むからたすけてや~!!!」

 

「むふふふふ…。どうじゃ龍ちゃん妾のペットにならぬか?一緒に暮らそうではないか。」

 

「なるかボケー!!ええからもう離さんかい!!」

 

「嫌じゃー!!もう絶対離すわけないじゃろーがー!!」

 

「ふう…。龍ちゃんにも春がきたのか。」

 

「そんな台詞いまいらんのじゃ!ええから、はよ助けんかい!!このままやと…ワイ…ワイ…お嫁にいけんようになってまう!!」

 

「アホか。もともといけんだろうが。お前は雄だ」

 

「大丈夫じゃ。妾が娶るから心配するな。」

 

「ええかげんにせんかーい!!!!」

 

龍ちゃん体使ってまで俺たちを笑わせてくれるなんて…。

くっ…さすがだよ。

 

 

とまぁ、そんな事もありまして、俺達は今隠れ家の中に集合。

今の今まで、テオドラ姫に弄ばれていた龍ちゃんは、俺の肩でぐったりとしている。

時折”もうお嫁にいけへん…”とか呟いているが、それは聞かなかったことにしておきたい。

その原因をつくったテオドラ姫はと言うと、まだ満足いっていないのか、こちらをジッと見ながら指をくわえていた。

でも、さすがにこれ以上は龍ちゃんが持たないので、やめて欲しい。

そんな中、ナギがアリカ姫に向かって話しかける。

 

「さーて姫さん。助けてやったはいいけど、こっからは大変だぜ?連合にも帝国にも…あんたの国にも味方はいねぇ。」

 

「恐れながら事実です王女殿下。殿下のオスティアも似たような状況になっています。それ所か、最新の調査では、オスティアの上層部が最も【黒い】…という可能性まで上がっています。」

 

「やはりそうか…。」

 

アリカ姫を奪還して、少しは状況が好転したと思っていたけど、それでもやっぱり厳しい状況なのはかわらないか。

まぁ、そんなんであきらめる奴なんて、きっとこの中ではいないんだろうけどね。

俺ももう覚悟決めてるし。

 

「我が騎士よ。」

 

「だぁから。その”我が騎士”ってのは何だよ姫さん。クラスでいったら魔法使いだぜ?しかも恥かしーしよー。」

 

「もう連合の兵ではないのじゃろ?ならば主はもはや私の物じゃ。」

 

「なっ…!!」

 

オイオイ…物はねーだろ物は。言っている事は…まぁ良いとしても、言い方ってもんがあるだろーが。

 

「帝国に連合…そして我がオスティア。世界のすべてが我らの敵というわけじゃな。」

 

「じゃが…主と主の”紅き翼”は無敵なのじゃろ?」

 

「世界すべてが敵――良いではないか!こちらの兵は8人と1匹…じゃが最強の8人と1匹じゃ!!」

 

おお!なんかアリカ姫が輝いて見える!これがカリスマって奴か。始めて見たけど、なんかやれそうな気持ちになるのは何でだろうな。ナギもそれもってるっぽいけど、普段が普段なだけにあまりそれっぽく感じないしな。

 

「ならば我らが世界を救おう。我が騎士ナギよ。我が盾となり剣となれ。」

 

「……へっやれやれ相変わらずおっかねえ姫さんだぜ。…いいぜ俺の杖と翼あんたに預けよう」

 

め…名場面キターーーー!!!

やっぱここはかっこいいな。なんか心臓ドキドキしてるし、体も震えてきた。

武者震いなんて二度目の経験だよ。

さぁこの戦いのフィナーレまで、ラストスパート開始って感じだな。

 

そんな事を考えていると、肩に乗っていた龍ちゃんがボソリと呟く。

 

「熱くなってきたな…。」

 

「…だね。なんか体中がうずうずしてきたよ。」

 

「ワイもや。…血が滾ってきたわ。」

 

「もちろん最後まで付き合ってくれるよね、龍ちゃん?」

 

「あほ。あたりまえや。最後の最後まで一緒やで?…ちゅーかコレ終わっても一緒やけどな。」

 

そんなうれしい事を言ってくれる龍ちゃんの頭を、俺はやさしく撫ぜる。

それが気持ちいいのか、目を細めて嬉しそうに撫ぜられている龍ちゃん。

初めて会った時はこうなるなんて思わなかったけど、本当に龍ちゃんにあえてよかったと思うよ。

 

「のう…。」

 

「ん?どうかしましたか?テオドラ姫?」

 

「まず敬語はやめよ。それに姫もいらん。テオと呼んでいいぞ?と言うか呼べ。」

 

「何で命令口調!?…はぁ、それでどうかした?」

 

「いや…なんだか震えておるようじゃったのでな?」

 

「えっ…?ああこれの事?心配ないよ。これは武者震いって言って、別に怖くて震えている訳じゃないから。」

 

「そうかの。なら良いのじゃが…。」

 

まぁ、武者震いを知らない人から見たら震えているように見えるのは、仕方がないことなのかな?

武者震いって日本人特有らしいし。…ホントかどうかは、わかんないけどね。

でも、まさかテオが心配してくれるとは思わなかったけどね。

それとも、俺じゃなくて龍ちゃんの心配か?

だとしたらちょっとだけへこむな。

 

「あぁ…それとじゃな。先ほどラカンからいろいろ話を聞いていたのじゃが、お主かなり強いらしいの。」

 

「まぁ、ラカンとかナギとかと一緒にされても困るけど、それなりに強いのは自覚しているよ。」

 

「それなり…それなりのう。お主がそういう割には、ラカン奴今まであった中で一番強いとか言うとったがの。…どういう事じゃろうか?」

 

俺にもわかりません。

普通に考えて、力で強いのはラカン。

魔法で強いのはナギ。

技で強いのは詠春さん…っと、それぞれ突き抜けている人が、この”紅き翼”に集まっている訳だけど…、俺は全部中途半端でしょ?

多分あれだと思う…器用貧乏って奴。

 

「ラカンが適当に言っただけだろ多分?俺は一番なんかじゃないよ。」

 

「いーや。間違いなく俺様が闘った中で、一番つえーよ、タケルはよ。」

 

俺がそうテオに向かって言うと、近くで会話を聞いていたのか、ラカンがこっちにやってきて俺達の会話に参加してくる。

 

「はぁ?何言ってんだよ。俺なんて…。」

 

「ばーか。誰が単純な力の話をした。オメーが一番つえーのはココだろ。」

 

そう言って拳を俺の心臓に当てる。

 

「確かに単純な戦闘力とかそんなもんは一番じゃねーかもしれねぇ。あ、“然”は抜いてな?だが戦いっていうのは、それだけで決まるもんじゃねーだろ。どんな状況においても潰れねぇ、折れねぇ、なくならねぇ、ココの強さってもんも大事なんだよ。そしてそれは、お前が一番つえー。戦った事のある俺様が言うんだ。間違いねぇさ。…そしてそれはよ。ここぞって言う時に、俺達以上の力を出してくれるもんだ。あのグレート=ブリッジの時のようになぁ!」

 

「なるほどのう。ココの強さか…。それなら妾は、お主に期待しよう。」

 

「はっ?」

 

「アリカ姫の騎士がナギであるように、妾の騎士はお主じゃタケル。妾のために…そしてこの世界に住む者たちのために戦ってくれ。期待しておるぞ我が騎士よ。」

 

あれ~?なんでこんな事になってるの?

俺そんな柄じゃないんだけど…。

 

「タケやん返事せんとあかんで?」

 

「龍ちゃんいくらなんでも俺は…。」

 

「む~だめかや?」

 

あ゛~!!!そんな泣きそうな顔をするなよ!

それに何この空気!?やらないといけない空気?

ラカンとかアルとかナギがニヤニヤこっちを見てるしよ…

う゛~~あ゛~~もう!!

 

「…ったよ。わかったよ。俺の力あんたに預けるよ。目の前に塞がる敵すべて撃ち貫いてやるよ。この拳でな!!」

 

「うむ!たのむぞ!」

 

は~なんでこうなった!?

……あと騎士っていうのはこの戦いだけの話だよね!?

ずっととか嫌だからな俺は!!!!!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小話Ⅲ:男達の願い

あまりの急展開さに、良く状況が理解できてないが、どうやら俺はテオの騎士になったらしい。

アリカ姫の事がうらやましくなったのか、それともただ騎士が欲しかったのか。それは俺には分からないが、テオが本気で俺の事を騎士にしたかったという事だけは、良く分かった。

なぜなら、あれから事あるごとに俺を連れまわし…もとい護衛としてそばに置き。

俺が用事で出かけると、よっぽどの危険がない限りは一緒に行動するようになった。

まぁ、その度に甘えたり、龍ちゃんにちょっかいをかけているのはご愛嬌なのだろう。

でも、こうして俺に甘えたりする事について、最近はこれでいいんじゃないかと思っている。

だって、いくらテオが偉い立場の人物だとしても、やっぱり歳を考えると、いろんなことに興味を持ったりと、遊びたい盛りの年齢なのだ。

きっと帝国に帰ってしまえば、また皇女としての仮面をかぶりそれっぽく振舞わないといけなくなる。

ならその時がくるまではこうしてわがままいったり、やんちゃしたりしていてもいいと思う。

やっぱり子供は笑顔が一番だと思うから…。

 

ただし…言っておくが俺はロリコンじゃない!!

 

アルと一緒にして欲しくないので、コレだけは声を大にして言いたいと思う。

 

 

……こほん。

少し取り乱してしまったが話を進めたいと思う。

ナギ&俺の宣誓が終わってから、俺達は”完全なる世界”に対して反撃を始めた。

ガトウ&アルを中心とした情報収集、そして作戦発案組みは、敵の拠点や陰謀に加担しているものを暴きそれを潰すための作戦を立案。

ナギ・ラカンなど行動組みは、それに従いながら敵を強襲・迎撃をする。

ちなみに俺は主に行動組みなのだが、時と場合によってアル達の組で行動している。

俺達自身にできる事はそう多くない。でも全員で頭を捻り行動していけばきっと光が見える!それを信じて今は必死になってできることをしていた。

 

そんなある日。

次の作戦まで何日か暇な時間が出来た為、弟子のタカミチと一緒に魔法球に入ることになった。

タカミチが弟子になってから、殆どを筋トレや、的に向かっての打ち込みをさせており、それを見るにそろそろ次のステップ…技の段階に入っていいだろうと思ったのが理由だ。

なぜか当然のように、ナギ・ラカン・テオそして詠春さんが一緒に魔法球に入ってきているのだが、そこは突っ込まない方向でいきたいと思う。

 

「さて…これから技の修練に行きたいと思うけど、覚悟はいいか?」

 

「はい!」

 

「ん。いい返事だ。ならまずコレを渡しておこう」

 

そう言って俺は、タカミチに指輪を渡す。

 

「これ…一体なんですか?」

 

「それは、この魔法球に入っても歳をとらなくする為の指輪だ。技の修行には、それなりに時間が掛かる。ある程度形になれば、外で修行していけばいいけど、それまではココで修行する事になると思うからな。…嫌だろ?現実世界に戻った時に老け顔になってるの。」

 

「それは…その……はい。」

 

苦笑いしながら、返事をするタカミチ。

まぁ、原作を知っている俺から言わせてもらえば、あの強さの引き換えとはいえ、あそこまで老け顔になるのは、正直かわいそうだと思う。

もともとの歳でそうなるのだったら仕方がないけど、魔法球に入り浸ったせいでそうなるのぐらいはせめて変えてあげたい。

…優しさって奴だな。

 

「よし。じゃぁ始めるか!」

 

「よろしくお願いします!」

 

指輪をちゃんとはめて律儀に頭を下げるタカミチ。

さて…一体何から教えようかな…。

 

 

「いいよなーあの指輪。俺にもくれねぇかな~」

 

「本当だぜ。そうすれば気軽にこの魔法球の中に入って戦えるのによう…。」

 

「は~そんなんだからくれないんだろ?私はもらってるけどな。」

 

『なに!?くれ!!』

 

「やるか馬鹿者が!!」

 

「ま~妾は別に年取ってもいいがの。長寿の種族じゃし、今更一年や二年は変わらんからの。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・

 

「そうだ…。まず、技の修行に入る前に、そもそも“銃闘技とはどういったものか”と言うのを説明しないといけないな。」

 

「どういったもの…ですか?」

 

「そう。銃闘技は他の格闘技とは違う。本来あれほどの威力やスピードを出す為には、気や魔力の補助が絶対条件になってくるけど、この銃闘技はそんなものは一切使っていない。」

 

「……ええ!!じゃぁどうやってあそこまでの…」

 

「血液だよ。」

 

「血液…ですか?」

 

「ああ。銃闘技は、己の血液の流れを利用した格闘技なのさ。独自の鍛錬によって作り上げられた筋肉と心肺機能。それによって生み出される強力な血流を操作して、あそこまでの威力スピードを生み出しているという訳だ。」

 

「たしかに…筋トレについても、的撃ちについても聞いた事がないものばかりでしたけど…。」

 

「だろ?だけど、その鍛錬をしっかりとこなさないと使えないんだよ。だからこれからもあの筋トレと的撃ちは続けておこなうように。技の修行に入ったからといっても、体作りが終わったわけじゃないからな。」

 

「はい!」

 

「よし!じゃ…まずなじみが深そうな、近距離系の技から入ろうか。」

 

まだ話しておかなくちゃいけない事は沢山あるけど、いきなり一片に話しても、おそらく頭の中が整理できないだろうから、ここで一度話を打ち切って、技の修行に入る事にした。

近距離系から始めたのは、居合い拳を撃つための格好と似ているし、やっている事もさほど変わりがないから、うまくいけばコツがつかめるだろうと思ったからだ。

 

「いいか?まず教えるのはマシンガン。俺も良く使う技の一つだ。この技は、とにかくスピードが命だ。相手に反撃を許さないぐらい数を撃たないと、意味がない。スピードを突き詰める為に、威力・正確性を犠牲にしてるからね。」

 

「マシンガン…。それってやっぱり、銃火器のマシンガンをイメージすればいいんですか?」

 

「正解。っというか、銃闘技って言ってるぐらいだから、実際の銃火器を体で再現している格闘技だから、技名と同じ銃火器をイメージすれば、どういった技なのか想像できるし、どんな場面で使うと効果的なのかそれも分かってくるだろう。…本来なら、実際にその銃火器を触ってみたり、実際に撃ってみたりすると、もっと効果的なんだが…。さすがにそれは無理だろうから、俺か詠春さんにいろいろ聞くと良い。詠春さんも旧世界の出身だから、それなりに知ってると思うぞ?」

 

「分かりました。」

 

「じゃ、一回手本見せるから、その後に真似してやってみて。」

 

「はい!」

 

こうしてタカミチ強化の修行が、本格的に始まった。

技の修行のやり方は、大体こうだ。

まず最初に、どういった技か説明し、目の前で実戦。

その後、タカミチが同じようにやってみる。

それから直すべき所を指摘して、またタカミチがやる。

これの繰り返しである。

 

なんにせよイメージと、とにかく数をやらせる事が一番大切だと思う。

イメージについては簡単。目指すべき物がはっきりした方が、どんどん前に進む事が出来るから。

数については、自分でコツを掴むしか技の習得は難しいと思っているからである。

出来れば、俺が知っているコツを教えてあげたい所なんだけど、俺とタカミチではきっと体の感覚とかが違ってくる。それだと、せっかくコツを教えても意味が無くなってしまう。だから、こればっかりは数をこなさせるしかない。

もちろん、ある程度形になってきたら、参考程度に俺が掴んだコツなんかも言っていくつもりだ。

そうする事で、さらに上達できるだろう。

だから、形になる前までは、自分でコツを掴み、完成へと導いていくしか方法がない。

それが、銃闘技を見につけた俺の結論だった。

 

今は手探りで、しかもなかなか思うようにいかなくて苦しいだろうけど、そこを乗り越えないと銃闘技は使えない。

俺から言えることは”頑張れ”の一言だけ。

あの時俺に向けた目と、言葉が本当だったら乗り越えられると思う。

 

だから頑張れ!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・

 

「よーし。今日はここまで。」

 

日も傾き、辺りが暗くなり始めた所で、俺は今日の鍛錬の終了を告げる。

 

「はぁ…はぁ…あ…ありがとうございました。」

 

苦しそうな顔をして、その場に倒れこむタカミチ。

きっと今体中が重くて動けないんだろうな…。うんうん。俺も経験したよ。

 

「タカミチそのままで良いから、ちょっと話を聞きな。」

 

「は…はい。」

 

「今、体中が重くて、しかも目の前がチカチカしてるだろ?違うか?」

 

「してます。」

 

「それが銃闘技の弱点だ。」

 

「へ…?」

 

「たとえ話をしよう。本来銃というのは弾を火薬で打ち出す兵器だ。そのため弾や火薬が無くなれば兵器としては役に立たない。そしてそれは銃闘技も同じ。銃闘技にとって弾とは血。火薬とは心肺機能…いやスタミナだな。そのことを言う。それがどういう事かわかる?」

 

「えっと…血が無くなれば使えなくなるって事ですか?」

 

「まぁ、概ね正解。実際血が無くなるなんて事はまず無いから、血が通っている血管。特に腕の血管を傷つけられたりすると、うまく使えなくなる。スタミナについてはそのままで、数を撃つ為に他の格闘技とは桁違いのスタミナが必要となってくる。それと同時に、マシンガンのような連射技は突き詰めて行くと無呼吸運動になり、結果すぐに酸欠になってしまうんだよ。」

 

「なるほど。」

 

「タカミチの今の状態は、酸素不足が大体の原因。うまく酸素が頭に行き渡ってない為に、目の前がチカチカしてるんだよ。これは銃闘技を使っていく限り、避けられない事だから良く覚えておくように。もちろん鍛錬をしていけば、鍛えられてそう簡単にこうなる事はなくなるけど。そうだな…弾数が増えるって言えばいいのかなぁ。だから、日々自分の限界を超えるのを目標に鍛錬に励むこと。わかったか?」

 

「はい!」

 

「よし。じゃ、さすがにここで寝るのはどうかと思うから、家に言って柔軟して風呂に入って寝な。」

 

「はい。」

 

タカミチが、そう元気よく返事をすると、体を動かそうとするが、思うように体が動かないのか、立てないみたいだ。

それを見た俺は、近くでタカミチの修行を見ていた龍ちゃんを呼ぶ。

 

「龍ちゃん。」

 

「了解や。…ほらタカミチ。ワイの背に乗り」

 

近くで見守っていた龍ちゃんは、本来の姿に戻りタカミチを背に乗っける。

 

「ありがとうございます。龍牙さん」

 

「ええて。…それとワイに敬語はいらん。呼び方も龍ちゃんでええで?」

 

「ありがとう。龍ちゃん」

 

「そっちの方がしっくりくるわ。…なら落ちんように気いつけや」

 

タカミチを背に乗せた龍ちゃんは、明かりが見える家へとゆっくり、なるべく揺らさないように移動して行く。きっとテオやナギがメシを食べているだろう。さっきアルとかゼクトも、こっちに来てたから誰かご飯ぐらい作れるだろうしな。

 

「お疲れさん。」

 

「酒とつまみ、後、メシもってきたぜ」

 

「ついでにタオルも、持ってきてやったぞ。」

 

タカミチを見送って一息つくと、ご飯と酒をもって詠春とラカン、そしてガトウがこっちにやってきた。

 

「ありがとう。それにしてもガトウさんは何時こっちに?」

 

「ああ。結構前にな。お前たちの修行の邪魔にならないように、声はかけなかったけど、少し見せてもらった。お前の強さに納得したよ。あれほどハードな鍛錬をすれば、強くならない方が嘘だ。」

 

「ははっ。俺はもう慣れましたけどね。まだ最初の内は、体がうまく使えなくて辛いでしょうが、慣れていけば、そこまで辛くは無くなりますよ。」

 

「なるほどな。…それでタカミチの奴はどうだ?」

 

お酒を俺に渡しながらガトウが聞いてくる。

きっとそれが聞きたかったのだろう。詠春さんもラカンもこっちに顔を向けてくる。

 

「…下地は順調に出来上がっています。技については今日始めたばっかりだから、正直まだわかりません。ただやる気と意気込みがすごいので、もしかしたら、すぐにでも形はできるかもしれないです。」

 

「そうか…。」

 

どこかうれしそうな顔をしながら呟くガトウ。

そばで聞いていたラカンや詠春さんも、同じように何処か嬉しそうだった。

 

「あいつは、他の奴らからいつも才能がないと言われ続けていた。…生まれた時から魔法が使えないせいでな。魔法なんて選択肢の一つでしかないって言うのに、この世界じゃそれしか評価するものがないと言わんばかりだ。」

 

「まぁそれは…なんとなく分かりますよ。」

 

俺も正直そこがよく分からなかった。

確かに生まれた時から魔法と言うものが身近に存在していて、それが使えないとなると、その結果どういう事になるか安易に想像がつく。

現に”サムライマスター”と呼ばれ、英雄扱いされている詠春さんでさえ、ごく一部の人間からは、あまりいい印象をもたれていない。

俺から言わせてもらえば、詠春さんの力と技こそ、真に評されるものだと思うんだけどな。

 

「そんなタカミチに俺は、タカミチに居合い拳を教えた。魔法なんか頼らなくても強くなれる。そう思ってほしくてな…。だからあいつが必死になって強くなっていくのを見ると、うれしいんだ。」

 

「私も同感かな。才能だの、魔法だのと、たかがそんなものに胡坐をかいて、偉そうにしている奴らより、タカミチの方が何倍も素晴らしいと思うし、尊敬できる。」

 

「ハッ…そんなの当たり前だろ詠春。魔法を習ってそれが使えた…。それだけで強くなったと勘違いしている奴らと、今のタカミチを一緒するなんざ、タカミチに失礼ってもんだぜ。本当の強さってのは、数え切れないほどの鍛錬と経験、そして意志の強さって決まってんだよ。」

 

「へぇ…ラカン言うじゃないか。でも、俺も賛成だよ。あいつはきっと強くなる。それはけして才能と言う言葉だけで片付けれるモノじゃない。」

 

そう言って、みんなで顔を見合わせてニヤリと笑う。

何の因果かしらないが、ここにいる全員魔法というものにあまり頼っていない。

全員が全員、己の肉体と鍛え上げた技で戦っている。

…まぁ、俺は魔法も使ってはいるが、あくまでそれは技の威力をあげる為のもので、普段の戦闘では殆どといっていいほど使ってはいない。

 

「…ただ勘違いして欲しくないのは、俺もここまでいろいろと魔法を認めないような感じで喋っているが、別に魔法が嫌いって訳じゃないからな?」

 

何を思ったかガトウがそう皆に言うと、一瞬あっけにとられそのまま大爆笑する。

 

「それぐらい分かっているさ。…それよりも」

 

一通り笑い終わった後、詠春さんがそう話、酒を注いだ杯を上に持ち上げる。

それを見ていた俺達は、詠春さんが何をしたいのかが分かって、同じく杯を上に持ち上げ、詠春さんの言葉を待つ。

 

「タカミチのこれからの成長を。」

 

詠春さんがそう言い

 

「タカミチの修行の成功を。」

 

ガトウがそう続け

 

「タカミチが俺様達に追いつけるように。」

 

ラカンもそれにあわせるかのように話し

 

「タカミチが、タカミチだけの強さを手に入れれますように」

 

俺が最後に締める。

そして全員タイミングを計ったかのように叫ぶ。

 

      『『乾杯!!』』

 

タカミチのこれからの成長に期待し、男達は酒を飲む。

いつかこの場所にタカミチが入って同じように酒を飲めるように…

そんな事を願いながら…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話:決戦

魔法球の中で、タカミチの修行をつけている間にも周囲の状況は刻々と変化していった。

連合と帝国が大々的な戦闘をおっぱじめれば、両軍を止めるために俺達は戦い、その間に”完全なる世界”の拠点を一つ一つ確実に潰していった。

もちろん自分達の敵は帝国や連合ではなく、それを操っている”完全なる世界”だということを説明するのも忘れない。

その説得のおかげなのか、犯罪者として狙われていた俺達にも少しずつ味方が増えていき、早くこの戦争を終わらせる為に多くの人達が力を合わせて戦っていった。

そして半年後…。とうとう俺達は”完全なる世界”の親玉がいる拠点を見つけることに成功したのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・

 

昔見ていた二次小説の中で書いてあった長編映画になるっていうやつ、その意味が良く分かった。

これは確かにそう書かれていても仕方がない。

俺が思うに、映画にもなった某物語を現実で再現されているような感覚に陥る。

実際現実に起こると、夢も希望もないのだけど…。

 

さてその物語に例えるなら、映画で言う三作目。

とうとう最後の締めの部分までやってきた。

そう…”完全なる世界”が根城にしている世界最古の都・王都オスティア空中王宮最奥部。

 

――墓守人の宮殿へと…

 

 

「あ、…あの!ナギ殿!」

 

「ん?なんだ?」

 

「ササ…サイン!お願いできないでしょうか!?」

 

「お?おお…いいぜ?」

 

辺りがピーンと張り詰めている緊張感の中、セラス総長がナギにサインをねだっていた。

なんというか、この場面でそれが言えるセラス総長は肝が据わっているというか、空気読めていないとでも言うのか…いやはやなんとも言えない感じがする。

すると微妙な表情を見ていたのか、肩に乗っている龍ちゃんが声をかけてくる。

 

「なんや?うらやましいんか?」

 

「い…いや!?そんな事はないけどさ…ただ最終決戦のはずなのになんでこんな変な空気になっているのかな?って思ってね」

 

「あー…まぁええんとちゃう?下手に緊張するよりましやろ?」

 

「まあそうだけどね」

 

そう言って二人で笑い合う。

ちなみに、前俺達にファンクラブが出来たと言ったと思うが、何故か俺のファンクラブには女性が少ない。まったくいないわけじゃないのだが、なんだかちょっと悲しくなってくる。

なんでも俺のファンの殆どは、タカミチぐらいの子供とか若い男性が中心で、俺自身の強さと言うよりは銃闘技に憧れている人が殆どらしい。

その人達曰く…”銃をもしてつくられた銃闘技…イカス!”とか”コレに燃えなきゃ男じゃねえだろ!?”とかそんな意見ばっかりである。

まぁ確かに本家の漫画でも男人気が凄かったらしいけど…やっぱり男として生まれたからには女の人にちやほやされてみたいという願いはあるわけで……うん。考えると涙が出そうだからもう考えるのはよそう。

でもやっぱり…主人公ってのはもてるのが当たり前なんだね。

たしかこの物語の中では、俺が主人公のはずなんだけどな……

 

「タケやん何考えとるんかわからんけど…とりあえず涙拭き?」

 

「な…泣いてなんかいないんだからね!?」

 

「なんやそのキャラきっもいわ~。」

 

龍ちゃんとは、この戦いが終わった後じっくりと拳で語り合うとしよう。

コイツのファンクラブも女性多いからな。

”カッコイイのに、カワイイ♪”とか”私の肩にも乗って~”とか…

親友って思っているけどそれとこれは話が別だ!!

 

「しっかしよ~。不気味なぐらい静かだな。奴等。」

 

「なめてんだろ?悪の組織なんてそんなもんだ。」

 

「ラカン。油断するな!相手は強敵ばかりだそ!?」

 

「へいへいわーってるよ詠春。」

 

「ともかくあの少年達の事だから何かあるんだろ?警戒しつつも早く準備を整えようぜ?」

 

俺がそう締めると、皆頷き道具の点検をしたり、体を少し動かしてこれから起こる戦いに備える。

するとさっきまでナギにサインをねだっていたセラス総長が、真剣な顔つきでこちらにやってきた。

 

「ナギ殿!帝国・連合・アリアドネー混合部隊準備が整いました!」

 

「おう。あんたらが外の自動人形や召喚魔を抑えてくれりゃ、俺たちが本丸に突入出来る。頼んだぜ!」

 

「ハッ!おまかせください。」

 

俺達の前で敬礼をすると、準備が完了している部隊に指示を出すためにこの場を後にする。

さっきまでのセラス総長は、どこにいったのだろうか?

なんてバカな疑問を考えづつも、戦場を見渡し気持ちを戦闘状態まで持っていく。

 

「連合の正規軍の説得は間に合わん。帝国に行っているタカミチと皇女も同じだろう。決戦を遅らせる事はできないか?」

 

ガトウが通信でそう言ってくる。できる事なら俺達だって遅らせたい…でも…。

 

「無理ですね。私達でやるしかないでしょう。」

 

「既にタイムリミットだ。」

 

「ええ…。彼はもう始めています”世界を無に返す儀式”を…。なぜなら世界の鍵”黄昏の姫御子”は今彼等の手の中にあるのですから。」

 

「ああ」

 

「……そうか。こっちも少しでも早くそちらに向かえるよう力を尽くす。…皆死ぬなよ。」

 

『おう!』

 

 

「じゃあヤロウども……いくぜ!!!」

 

ナギの掛け声で俺達は大勢の敵へと突撃を開始した。

心は不安でいっぱいだ。

だけど勝ちたい…いや勝たなくてはいけないんだ!

ハッピーエンド目指すって決めてるんだから。

 

さあ戦闘開始(オープンコンバット)だ!!

 

 

「道を開けな!!”千の雷”」

 

ドゴォォォン!!!

 

「オラオラオラァーー!!!俺様達を止めようなんざ100年はえーんだよ!!」

 

ドドドドドドドドォォォン

 

ナギとラカンが持ち前の魔力と力を使って敵を混乱させ、本丸へと続く道を作っていく。

俺達といえば、ナギ達の撃ち残しを倒しながら被害を広げ、この後戦うであろう混合部隊の為に少しでも敵を減らして行く。

ここであまり体力や力を使いすぎないようにナギ達と交代しながら進んでいき、敵の本丸へと入っていった。

 

「オラァ!!」

 

「邪魔すんなや!!」

 

予想はしていたのだが、やっぱり敵の本拠地と言う事はあり、そこら中にトラップや敵がうじゃうじゃいる。敵は外にいるやつ等よりは、強かったと思うけど、所詮はモブで名前もないザコキャラ…俺達の敵じゃないな。

それにトラップとか最初見つけたときは避けるとか、解除しなくちゃいけないから、めんどくさいって思ってたんだけど、目の前に、“そんなのかんけーねー”っと言わんばかりに力ずくで壊していっている奴らがいるんだよなぁ…。やっぱりバグと呼ばれている人達は違うな。それにしても…。

 

「…んーあいつ等は、何のためにトラップ何か仕掛けたんだろうな?」

 

「ん~?大方あれちゃう?足止めできればいいとか考えとったんやろ?」

 

「だろうな。だが…まぁ…無駄だな。」

 

「無駄ですね。」

 

「無駄じゃな。」

 

「ハッハー!!なんだこんなもんで俺様を止められるとでも思ってんのか!?」

 

「邪魔なんだよ!!」

 

はい。皆様お気づきの通り、ナギとラカンが手当たり次第ぶっ壊しています。

しかも中心に行けばいいとかきっと考えているのでしょう。

目の前に壁があったらそれをぶっ壊して直進しているんです。

確かに最短距離を進んでいけば、それだけ早くつくんだろうけどさ…さすがに壁壊してでも直進するとか、それってどうなんだろう?

 

「……宮殿残るかな?」

 

「武。答えが分かってていうもんじゃないぞ?それにいいじゃないか…。」

 

「え?…詠春さん?」

 

「フフフフフ…今更どんだけ壊しても頭を下げる必要はない。それこそ宮殿壊してもな。最近ストレスが溜まりに溜まっていたんだ。丁度いい。」

 

いや…あの…詠春さん?目が反転してるんですけど?

どれだけストレス溜まってたんですかーー!!!

黒い…黒いよ詠春さん!!

 

「…アルはん。これが終わったら詠春の為にクスリでもつくってもらえへんか?」

 

「…そうですね。そうしましょう。彼が壊れてしまったらいろいろとダメになりますから。」

 

「詠春も疲れとったんじゃのう…。すこしでも優しくせんといかんな。」

 

「フハハハハハハ…邪魔者はすべて切り捨てる!!!」

 

これが修羅って奴か…

ああは絶対なりたくないな。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

 

「うらあぁぁぁ!!!」

 

ドゴォォォン!!!!

 

「お!?なんだか広い所に出たぜ?」

 

「どうやらこの先が、この宮殿の中心部分みたいですね。」

 

「…まったく。まさか壁を壊しながらこっちにくるなんて、乱暴にもほどがあるよ。」

 

ラカンが壁を壊し、皆あたりを警戒しながらそこに入ると、丁度その中心には、忘れもしないあの少年が佇んでいた。

 

「あ!テメーは…。」

 

「久しぶりだね千の呪文の男…。まった君達のおかげで、ここまでやってきた事がすべて水の泡だよ。」

 

「ハッそいつは良かったぜ。テメーらがやっている事は気にいらねぇ…。だからぶっ飛ばす。」

 

「あいかわらず直線的だね。…だけど僕もその意見には賛成さ。………君達はやり過ぎたよ。ここで死んでもらう。」

 

そう少年が言うと、今までどこに隠れていたのか、急に人影が現れ俺達一人一人に向かって突撃し、その場から遠ざける。

そして気付いたらこの場所には、俺とあの少年の二人になっていた。

 

「…で、俺の相手はお前って事か?」

 

原作だとコイツはナギが相手することになってたんだけど、これは俺が介入した事によって変わった所なんだろうな。

てっきり適当な相手が俺に来ると思ってたんだけど、あてが外れた。

 

「そうだよ。本当なら僕の相手はナギだったんだけどね。…どうしてもあの時の借りを反したくて、無理を言ってお願いしたのさ。」

 

「借り?…おいおい借りがあるのはこっちのほうだろ?」

 

「まぁ、そっちも借りはあると思うけど、こっちにはこっちで借りがあるのさ。」

 

そう言うと少年は少し笑い、体を動かし始めた。

 

「僕は魔法に結構自信があってね。障壁も、そんじょそこらの魔法使い何かじゃ、破れもしないぐらい強力なはずなんだけどさ…。それを破るのではなく突き抜けさせた。それがちょっと悔しくてね。だからこうして君と対峙してるってわけさ。」

 

「なるほどな。…にしても冷静そうに見えて、実は結構熱血タイプなのか?」

 

「自分でもこんな気持ちになるのは驚いているさ。…でも悪くないね。」

 

「そうか…。ははっなんだか俺、お前のことちょっと好きになったよ。」

 

「お?それはうれしいよ。まぁ僕も君の事は嫌いじゃないけどね…。」

 

俺達は和やかに会話をしながら、コツコツと中心に向かって歩いていき、その間に少年と俺は魔力を高めながらすぐにでも動けるように準備をしていく。

そしてある程度近づいた所で、俺達はそこに立ち止まりすぐにでも戦闘がおこなえるように構える。

 

「…そういえばあの時はいろいろあって名前聞きそびれたけど、なんていうんだ?」

 

「そういえばそうだったね。本来僕には名前なんてもんはないし、呼ばれている名前も気に入ってないからね…。僕の事をを呼ぶならフェイト…。フェイト・アーウェルンクスって呼んでくれないか?」

 

この名前を聞いて俺は愕然とした。

 

なんだって!?なんで、ここでもうフェイトが出てくるんだ?

たしかここで来るのは確か一番目…フェイトじゃなかったはずなのに。

フェイトの話を聞いている限りだと、元老院議員に化けていたのもどうやらこいつらしいし…。

いろいろ変わっちまったみたいだけど、それはそれでいいか。

それに丁度いいのかもしれない。

フェイト…コイツは間違いなく俺達と同レベル。

今まで稽古として詠春やナギ、ラカン達と戦ってきたけどそれはあくまで稽古。

同レベルの人物と真剣に戦ったのは、詠春さんと戦った時以来になる。

あれから俺がどれだけ強くなれたのか確かめるチャンスだろ。

あれ?俺、戦闘狂じゃなかったはずなんだけどな…もしかしたら銃闘技を扱っているせいで、剛打銃のようにスリルを楽しむようになっちまったのかな?

ははっ…俺も龍ちゃんやラカンのこともう言えないな…。

 

「わかったフェイトだな。」

 

「君の名前知ってはいるんだけど、君から教えてもらえるかい?」

 

「俺の名前はタケル・ダテだ。好きに呼んでいいよ。」

 

「じゃぁタケやんと…」

 

「タケルと呼べ、タケルと!」

 

「冗談だよ。」

 

そう言ってクスクス笑い出す。

性格原作と違ってねぇか?まぁこっちの方がとっつきやすいし、親しみも沸くんだけどさ。

何か調子くるうな。

 

「さて、君と話すのはとても楽しいんだけど、そろそろ始めないとね。」

 

「…そうしようか。」

 

「じゃぁ」「それじゃ」

 

『始めようか!!!』

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話:石の王と銃神

【Onther・Side】

 

 

ビシッ…

 

どこからともなく音が聞こえてくる。

それが戦いの始まりだった。

先ほど、戦いを決意しそれを言葉によって表明した二人だったが、その後はまったくといっていいほど動かず…いや動けず、その場でじっと動き出す切欠をまっていた。

そしてそれは起こった。

…二人は敵を互いの得意な距離に置こうと動き出す。

最初に仕掛けたのは、武からだった。

 

「オン・フィスト・ガン・ペンスリット

”契約に従い我に従え炎の覇王””来たれ浄化の炎””燃え盛る大剣”

”ほとばしれよ””ソドムを焼きし火と硫黄””罪ありし物を死の塵に”

”燃える天空”!!”固定””掌握””術式兵装”………”赤熱の騎士”」

 

「いきなり”闇の魔法”かい?これは評価されていると思っていいのかな?」

 

「ああ。最初から出し惜しみなんてしてたら、すぐにでも負けそうなんでな。…それに勝負は楽しみたいが、時間がないのも事実。だから早く決着をつけたいと思ってね。」

 

「つれないねぇ…。だけどその技はたしか”炎帝”って名前じゃなかったけ?」

 

「”炎帝”の名にもっと相応しい技を習得したからね。これには改めて名前をつけさせてもらったのさ。」

 

「なるほど…。じゃあまずはその”炎帝”を引っ張り出さないといけないかな?」

 

「この”赤熱の騎士”もなめないで欲しいな。フェイトたちが調べていた時よりも数段威力共に上がってるんだから…」

 

武がそう言い放ち、フェイトに向かって炎を纏ったガンブレットを撃つ。

その威力は武が言った様に、今までとは比べものにならないくらい強力。

言ってみれば、”豪殺居合い拳”に炎が螺旋を巻くようにまとわりついている感じだ。

それを見たフェイトは最初受け止めようと構えたが、背中にゾクリと冷たいものがはしりその場から退避する。

 

ドゴォォォォン!!

 

すると先ほどまでフェイトがいたであろう場所には、大きなクレーターができ、そして地面は所々黒くこげていた。

しかも中心には、拳の痕がくっきりと残り、その拳の威力の凄さをまざまざと見せ付けているようだった。

 

「…なるほど。確かに。さっき言った言葉は訂正させてもらうよ。本当に君の拳は危険だね。」

 

「ま、これでも”銃神”とかたいそうな名前をつけられているんだ。これくらいは出来ないと名前負けするだろ?」

 

「ふぅ…”銃神”ね。いままでも十分名前負けしてなかったと思うけど…。やはり君は”紅き翼”の中で最も注意すべき相手だと思うよ。」

 

「嬉しい事言ってくれているけど、”紅き翼”の中じゃ強い方だとは思ってないんだ。注意するべき奴は他にもいるさ…。」

 

「やれやれ…自覚していないのがもっと腹立たしいね。…そして何よりも恐ろしい。」

 

「言ってろ。オラァ!!どんどん行くぜ!!」

 

強制的に会話を終わらせると、先ほど撃ったガンブレットをフェイトに向かって連射する。

その多さに、フェイトも顔を歪めながら致命傷を避けつつよけて行くが、その眼光は鋭く、わずかな隙も見逃さないように相手を睨みつけ、そしていつでも魔法が撃てるように準備をしているようだった。

一方武の方と言えば、こちらもまた、ガンブレットを連射しながらも、フェイトが魔法を撃つタイミングを計っていることを重々承知しており、撃たれるにしても、なるべくこちらがいい状態で次につなげられるように注意しながら、相手を追い詰めて行く。もちろんこのまま終わって決めの一発を食らわせれるなら、それに越した事はないと思ってはいるが、相手は少なくとも俺よりは下の実力者ではないフェイト。

そう簡単にいくとは思えなかった。

 

「くっ…隙探そうにも、こう威力のあるものを連射されたら隙なんて見つかりそうにないね。……ならここは少し強引でも、ちょっとおとなしくしてもらおうか!!」

 

フェイトがそう呟くと、ガンブレットをギリギリまで引き付けて避け、相手が次を撃つ前に無詠唱魔法を繰り出す。

 

「千波黒耀剣!!」

 

するとフェイトの周りに、無数の石の剣が出現し、武に向かって突っ込んでいく。

それを見た武はガンブレットを撃つのをやめ、ガンマンポジションに構えを返るとすべて撃ち落す。

 

「これくらいなんてことない!!」

 

「そんな事分かっているよ。でもこれで少しは時間が稼げた。今度は僕からいかせてもらうよ!!」

 

「”障壁突破””石の槍”!!」

 

フェイトがそう唱えると、武の足元から急に尖った石が武のお腹を目指して伸びてくる。

 

「チッ!!」

 

それをバックステップで避け、すぐにフェイトに向かって攻撃を仕掛けようとするが、目の前にはフェイトの次の攻撃が迫っていた。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト

”おお…””地の底に眠る死者の宮殿よ””我らの下に姿を現せ””冥府の石柱”!!」

 

「まだだよ。

ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト

”おお…””地の底に眠る数多の騎士よ””我が敵に剣を討ち立てよ””不死の騎士団”!!」

 

あっという間に武の目の前には、大きな一枚岩と、石の槍が無数に現れ、武を潰し、刺殺さんと迫ってくる。

 

「くそ…。数が多くて、しかも種類が違うとか、性格が悪いぞフェイト!!」

 

「それは心外だよ。それに君のガンブレットに比べればこんなの全然ましだろ!?そらどんどんいくよ!!」

 

武にそう言われ、心底心外だといわんばかりに呆れた顔をしながら、次の魔法を唱え始める。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト

”小さき王””八つ足の蜥蜴””邪眼の主よ”

”その光””我手に宿し””災いなる眼差しで射よ”

”石化の邪眼”!!」

 

するとフェイトの手から光線が発射され、それを見た武は聞こえてきた呪文と背中に感じた寒気を信じすぐさま、その場から離れる。

そしてそれは正解だった。

先ほどまで武がいた場所では、不気味な石のオブジェができていたのだから…

大方、フェイトと武の戦いを影でこっそりと見て、隙あらば武を仕留めようとしていたフェイト側の人物だろう。

”石化の邪眼”によって、後ろから殴りかかろうとしていたまま、そこで石像となっていた。

 

「……あっぶね。にしても味方まで巻き添えかよ…。」

 

「味方?…せっかくの決闘を邪魔しようなんて味方じゃないさ。それにしても…さすがの”闇の魔法”。でもその様子だと、さすがに石化は防げないみたいだね。」

 

「それを承知で使ったんだろ、どうせ…。」

 

「確証はなかったさ。…でもこれで、君に有効な攻撃方法が分かったよ。」

 

「ふっ…。だからと言って、そう簡単に使わせるかよ。」

 

武は突撃形態〈アサルト・ポジション〉をとると、宙に浮かんでいるフェイトめがけて突っ込む。

しかも足の方に魔力を集中したおかげか、まるでロケット噴射をしたかのように、炎の道を空に描きながら突っ込んでいく。

 

「くっ…旧世界で見たことがあるミサイルみたいだよ。まぁ…威力もスピードも桁違いだろうけどね。」

 

「お褒めいただき光栄だ!…お礼に一発くらっていきな!」

 

「それはごめんこうむるよ!」

 

「えんりょうすんな…よ!!」

 

武の突っ込んでくるスピードに魔法は撃つ暇がないし、逃げるのにも無理があると判断したのか、その場で魔力を集中させて、武の拳を防ごうと突き出した手で、向かってくる拳を払おうとする。

フェイトの考えでは、銃弾と同じく側面から衝撃を与えれば、武の拳は方向を変えて防げると思ったのだろうが、それは甘い考えだとすぐに思い知らされることになる。

 

「ぐっ…!!」

 

武の拳を払おうとしたフェイトの手は、フェイトの想像とは別にはじかれてしまい、そのまま武の拳は吸い込まれるように、フェイトの体に突き刺さっていた。

 

「続けていくぜ!!セカンド!サード!…」

 

一度懐に入ったら、もう武は止まらない。

体を回転させながらハンマーコックをしていき、二発・三発とフェイトにマグナムを撃ちつけていく。

その間、フェイトも何とかしてこの間合いから脱却しようと、後ろに向かってバックステップをするのだが、リボルバーマグナムの特徴の一つがそれを許さない。

リボルバーマグナムは、回転しながら次のショットに繋げていく為、セカンド・ショット―サード・ショットと続けると、遠心力によりどんどん撃つスピードが上がっていく。しかも回転は相手の懐に飛び込む役目もしており、一度マグナムからリボルバーへと繋げられると、回避するのが難しく、あっという間に最高弾数である6発を無防備に打ち込まれてしまうのである。

 

「おっしゃぁぁ!ラストショット!」

 

五発撃ち終り、最後の一発をフェイトの体ど真ん中に標準を定める。

しかしその瞬間、フェイトも口から血を流しながらこっちを睨みつける。

 

「あんまり……調子にのるなぁぁ!!!」

 

「いっけぇぇぇぇ!!!」

 

ズガシャァァァァン!!!………ズズン!

 

二人がぶつかり合った瞬間、一瞬その場が真っ白になり次の瞬間大きな爆発音と衝撃波が巻き起こった。その衝撃の強さをものわたるかのように、周りの壁のあちこちには罅が入り、ひどい所では、壁が崩れ落ち、外が見えている所もあった。

爆発の中心はと言うと、地上で戦っていた訳でもないのに、その場所はクレーターのようにへこんでおり、沢山あったはずの瓦礫とかは跡形も無くなっていた。

 

そして二人はというと……。

 

ガラッ……。

 

「ゴホッ……ペッ…ハァハァ…(まさかあそこでこっちを殴るだけの余力を残していたなんてな。しかもご丁寧にカウンターにしやがって…。おかげでブラックアウトに加えて、そのダメージで体が思うようにうごかねぇじゃねえか。ちっ…はやく動けよ俺の体!!あいつがこんなチャンスのがす訳がねぇ。すぐに追撃がくるぞ!!)」

 

武は、必死にうまく動かない体を無理やり動かすが、体は動いてくれず、片膝を付いたままだった。

しかしそれも仕方がないことだろう。マグナムをフルショットした後遺症のブラックアウトに加え、スピードが乗った所にカウンターであわされてしまえば、どんなにタフな奴でもすぐに体が動くわけない。

武は、かすむ視界の中、せめてフェイトの姿でも見えればと、必死になって探すが目の前にはフェイトの姿などどこにもなかった。

 

なぜなら、フェイトも同じ状況に陥っていたからだ。

 

「グフッ…ハァハァ…クッ…(最初から無傷で勝てるなんて考えてはいなかったし、タケルのことも要注意人物として油断してなかったつもりなんだけど…このダメージは、さすがに予想外すぎるね。この体は、打撃とかにはかなりの耐性があるはずなんだけどな…。恐るべきは銃闘技…いやタケル本人かな?さてこの後どうするか…。体が動くまでまだ少し時間が掛かる。それまでタケルがまってくれているはずないし、これはかなりやばいね。)」

 

フェイトも、武と同じように体を無理やり動かそうとしていたが、まったく動けない。

それならばと、意味は殆どないだろうが、気休めにと魔法障壁を張り、はやく体が動けるように回復に努める。

もちろんあたりを見渡しながら、警戒するのも忘れない。

 

こうして二人は互いに警戒し合いながらも、体力の回復に努め、この後どうするのか考えるのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

 

『…………』

 

体力が回復し、ようやく立ち上がる事が出来た二人は、互いに見つめあい無言。

そしてしばらくそうやって見詰め合っていると、互いに顔を歪め笑い出す。

 

『……クククッアーハッハッハ…』

 

「なんだ。フェイトもぼろぼろだったのか。」

 

「それはこっちの台詞だよ。おかげで余計な心配してしまったじゃないか。」

 

「自業自得だろ?」

 

「だろうね。にしてもなぜかな?」

 

「ん?」

 

「君に出会ってから驚く事ばっかりだ。今までにない気持ちになったり、言葉遣いも少し感情的になったり、生まれて初めての体験だよ。」

 

「でも悪くないんじゃないか?」

 

「ふっ…そうかもしれないね。」

 

その時フェイトは、かすかにだが笑みをこぼした。

その表情に少し驚く武。

それは原作で知っている人形のようなフェイトではなく。

人そのものに見えたからだ。

 

ズズゥゥゥン…!

 

「おっと…。タケルとこうして話している時間も、そろそろ終わりみたいだ。名残惜しいけど、決着をつけないとね。」

 

「みたいだな。さっき聞こえた音からして、他の所も決着がつく頃だろうし…。」

 

ザザッ………

 

「楽しかったよタケル。タケルを殺すのはなんだか勿体無い気がするけど、仕方がないね。これも世界のため…ここで終りにしよう。」

 

「俺も同じ気持ちだよ。さよならフェイト……お前は俺がここで撃ち殺す。」

 

二人とも互いに必殺を口にし、構える。

もう両者とも、戦っていられる時間は少ない。

だからこそ、今もてる最高の一撃を撃たんと集中する。

 

そして、最後の時はやって来た。

辺りに、大きな爆発音がまた響き渡り、その音と同時に二人はお互い目掛けて、突っ込む。

そして、互いに必殺の技を叫ぶ。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト…”秘匿されし天上人””今こそその名を呼ばん”

”その者死を予期する者なり””その者すべてを視る瞳なり””その者すべての終りを示すものなり””その名の下に我に逆らいし者に永久の別れを告げよ”…”運命のダブレット”!!」

 

フェイトがそう唱えると、フェイトの右腕に魔力が集まり姿を変えていく。

それは動いている者すべて、動きを止めてしまいそうなくらい美しい天使の翼だった。

その翼が羽を広げたかと思うと、まるで翼が意思を持っているかのようにタケルに向かって伸びていった。

 

「これが俺の最凶の一撃だ!…紅蓮の拳に貫かれな。エクスプロード・キャノン!!」

 

天使の翼が迫ってくる中、武も己の最凶の一撃を放たんと力を溜めていた。

最強ではなく最凶…これは武が、どんだけピンチになろうと使うのを躊躇っていた、銃闘技の奥義であった。

最凶の一撃の元の名前は、44マグナム・キャノン。

相手に衝撃を貫通させる事が出来る44マグナムとは違い、これは相手の体ごと貫通させる事が出来る。つまり本物の銃と変わらない一撃を出す技である。

もちろん奥義と呼ばれるだけあり、そう簡単に撃てるものではない。

このマグナム・キャノンを撃つ為には、相手を殺すという意志…つまり”殺意”が必要なのだ。

武にとって、”殺意”を持つ事は正直難しい事ではなかった。

今は戦争をやっているのだ。”殺意”を抱かせる理由なんてそこらじゅうにあるのだから。

実際、戦争に参戦してからすぐに、このマグナムを使う事が出来たくらいなのだ。

だけど、今まで使うことはなかった…。いやおそらく、使う気も起こらなかったがきっと正しいのだろう。

それは、人を殺すのが怖いわけではなく、自分が”殺意”に飲まれることが怖かったから。

そして、人を殺しても罪悪感を持たなくなってしまう事を、恐れたからだった。

だから使わない。

そう決めていたはずなのに…。

武は、この場面で迷わずそれを使うことにした。

別にフェイトをそこまで憎んでいるわけではないのに、何故か”今使うべき”そう思った。

それはきっと……

 

 

ドゴォォォォォォンン!!!!!!

 

 

大きな爆発音と閃光が、戦っていた部屋を包み込む。

その衝撃波で、部屋の壁は殆ど弾け飛び、外が丸見えになっていた。

そして二人は、その中心にいた。

 

一人は立っているものの、左手から左肩にかけて石になっていた。

 

そしてもう一人は、上半身だけの姿になってその場に倒れていた。

 

「ゴフッ……見事だよ…タケル。僕の負けだ。」

 

「ほんの少しの差だったけどな。」

 

そう言ってタケルは、石化された左腕を右手でさする。

 

「フフ…どこがほんの少しなのかな…。」

 

そう言ってフェイトは、あの瞬間を思い出す。

あの時フェイトは、自分の勝利を確信していた。

 

(いくら力を溜める必要があるとはいえ、いくらなんでもタケルの行動が遅すぎる。あの状態からじゃ、もう避けることもできない。もしかしたら、この魔法ごと迎撃を考えているのかもしれないけど、それは甘い。これは僕が創り上げた石化の最大呪文。その翼に触れるすべても物を石化させる。いくらその拳が強くても、この魔法は撃ち破れるわけがない。)

 

しかし、次の瞬間武が起こした行動にフェイトは驚くのであった。

武は、フェイトの攻撃が目の前に迫った所で、ハンマーコックしていない左手を、わざと魔法の中に突き入れ、その魔法の根元であるフェイトの腕を外側に弾いたのだ。

いくら石化魔法といえど、一瞬にして石化する訳ではなく、ほんのわずかではあるが、自由に動かせる時間はある。だけどまさか、左手を犠牲にするとは思っても見なく、フェイトはなすがまま手を弾かれてしまった。

そして武は、空いたスペースに潜り込むと、フェイトに向かってエクスプロード・キャノンを放ったのである。

 

「まさか左腕を犠牲にするなんて思わなかったよ。…でもそれ以上に驚いたのが最後の技。アレは一体なんなんだい?」

 

「言っただろ?最凶の一撃だってさ」

 

「最凶……フフフッ…確かに最凶だね。僕をこんな姿にするんだから…でも疑問が残る。何故この技を今まで使わなかったんだ?」

 

「…この技は封印してたんだよ。あまりにも威力が強すぎる…。それこそ死ぬまで使う気なんてなかったよ」

 

「…だったらなぜ?」

 

当然のように聞くフェイトに対して、タケルは何処か遠くを見つめるように呟く。

 

「さて…正直自分でも良く分かってない。…ただ、フェイトにこれを使う事は礼儀だと思った。そうとしか今の俺には言えないよ。」

 

「そっか……。」

 

その答えに何処か満足したような顔をしてフェイトは、壊れた壁から除かせている空を見上げた。

 

「……はやくナギ達に合流したほうがいい。」

 

「えっ?」

 

「僕達が真の黒幕じゃないって事さ。…真の黒幕は別にいる。そしてそのお方は、きっとナギを狙ってくると思うよ」

 

「……なんでそれを俺に?」

 

「………君と同じ礼儀だよ。命を懸けて僕と戦ってくれたね。」

 

「……ありがとう。」

 

「礼なんていらないさ。ふう…。それにしても、最後に“銃神”の腕を潰せたのは、良い思い出になったかな。」

 

「……わるいな。」

 

そうフェイトに謝ると、武は右手に意識を集中させる。

するとその手には白っぽい何かが集まり、武はそれを石化している左腕に当てる。

その瞬間、石化した左手はあっという間にもとの腕に治っていた。

 

「!!!!……クククッ…君は本当に面白いね。まさかそんな事まで出来るなんて…。」

 

「俺だけにしか出来ない裏技だよ。……龍ちゃん以外でこれを知っているのは、フェイトだけだから内緒にしてくれよ?」

 

「さて……それはどうしようかな?」

 

二人はそう言い合いながら笑い出す。

 

「じゃ…行くわ。」

 

「……またいつか逢おう。今度逢う時までにもっと強くなっておくから…。」

 

「……そん時は、また返り討ちにしてやるよ。」

 

ニヤリとした顔でフェイトにそう言うと、武はその場を後にした。

フェイトといえば、武がその場を立ち去るのを見届けた後、満足そうに笑みを浮かべながら目を閉じていく…。

その顔は決して敗者がするような顔ではなかった。

 

 

 

武VSフェイト……………勝者…武。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話:願い託して

フェイトとの戦闘を終えて、俺はナギ居ると思われる場所へ移動していた。

正直、ナギが何処に居るかなんて、正確には分からないけど、おそらく爆発している所が、”紅き翼”が居る場所だろうと考えて、とりあえずは騒がしい所に行く事にした。

すると、途中で意外な人物と、最初に合流する事が出来た。

 

「意外なんて失礼ですね?」

 

「思っていることを読まないで欲しいなアル?」

 

最初に合流できたのはアルだった。

話を聞くと、どうやら俺に近い所へ飛ばされたらしく。自分の相手を倒してから、まず俺に合流しようとしていたらしい。

なぜアルが正確に俺の場所がわかったかというと、アルのアーティファクトである”イノチノシヘン”のおかげらしい。

俺が知っている原作では、そんな能力はなかった気がするけど、アルから聞いた話では、ある程度の距離ならば、その人物が何処に居るか把握できるとか。

意外に便利だということが判明した。

ちなみに、なぜ俺が登録されているかというと、”然”の修行に付き合った見返りとして、ほぼ無理やりに登録させられた。正直嫌だったのだが、魔法の修行に関して、かなり助けてもらった事もあって、断る事ができなかった。

 

「それで?そのフェイトが言っていた事は、本当に信用できるのですか?」

 

アルと合流した所で、俺はフェイトから聞いた情報を、アルにも話しておいた。

アルとしては、黒幕についてはそんなに驚く事はなかったが、フェイトから聞いたナギを狙っているという情報だけは、今一つ信用できないらしい。

でも、俺が聞き出した訳じゃなく、フェイトが自ら喋ってくれた事だから、信じることが出来ないのも無理はないのかもしれない。

 

「俺はそう信じているかな。なんていうか、命かけて戦ったせいかな…。俺には、あいつが嘘言っているようには思えなかった。」

 

「なるほど。…まぁ、いいですよ。フェイトについて私は到底信じることは出来そうにありませんが、貴方なら信じることはできますから。」

 

「うぇ…まさかアル…。」

 

「何を想像しているか、分かりたくありませんが、私は幼女が好きなノーマルですからね?男にはそういった興味はありません。男の娘は大歓迎ですけど…。」

 

「わざわざ力説しなくても…。」

 

まさかいきなりそんな事を言うとは、夢にも思わなかった。

正直あの必死さは、ドン引きせざる終えない。

 

「……こほん。ともかくですね。ナギを狙っているにしろ、そうでないにしろ、一度皆と合流するのは良い事だと思います。とりあえずは念話で皆に呼びかけることにしましょう。あとタケルの傷もある程度回復しておかないといけませんね?」

 

そうアルが言うと、俺に向かって回復魔法をかけてくれる。

正直ありがたいと思った。

フェイトの戦闘でおった石化で、解呪を使ったせいで魔力をかなり消費している。

多分ラスボスの創造主(ライフメイカー)と戦うとなると、”然”になる必要が出てくるだろう。

そうなるともう魔力を使う事は出来ない。

ゼクトやアルと修行をしていて分かったこと、それは”然”の活動時間やその後の状態は、使う前の魔力と気に比例するという事だった。

そして現状の魔力を考えると、これ以上使ってしまうと、最大稼動である30分持たない所か、その後の後遺症がかなりひどくなってしまうことになる。

それだと非常に困った事になる。

だってラスボス倒して、終わりって訳じゃないから。

真のハッピーエンド目指すなら、オスティア墜落は阻止できなくても、せめてそこにいる住人すべて退避させる為の、仕掛けぐらいはしないといけないと思う。

もうこの戦争で亡くなる人は、無しにしたい。

それぐらいこの戦争では、もう人が死にすぎてしまったのだから…。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・

 

しばらくして、ラカン・詠春さん・ゼクトそして龍ちゃんが合流した。

皆所々怪我などをしていたが、たいした事はなく戦闘にも支障をきたすものはないようだ。

 

「みんな集まりましたね?じゃナギの所へ向かいましょう。先ほどナギと連絡を取ってみたのですが、敵がなかなか強いらしく、まだ少し時間がかかるそうです。それまでになんとしてもナギの下にたどりつきましょう。」

 

「そうじゃな。タケルが敵から聞き出した黒幕…もしそれがおって、ナギを狙っておるなら、目の前の敵をナギが倒した瞬間に現れるじゃろう。」

 

「なるほど。勝利して油断した所で…ということだな。ならすぐにでもナギの下へ行かないとな…。」

 

「やけど、ワイらも多少なりとも体力や魔力を消費しとる。もし黒幕と戦うなら、少しでも回復せなあかんとちゃうんか?」

 

「龍ちゃんの言う通りだな。でもどうやって…。」

 

「あ~うだうだ言っててもしかたがないだろ!?とにかく今は行動あるのみだ。アル!ナギがいる場所はここから遠いのか?」

 

「いえ…そこまで遠くではないようです。」

 

「なら移動しながらでも休めばいいだろ。遠くじゃなかったら気や魔力を使わなくても移動できるからな…。ともかく急ごうぜ。…俺様はあまりこういったこと信じねぇんだが、なんか嫌な予感がするんだよ。」

 

ラカンがそう締めると、皆頷いて行動を開始した。

ラカンが言った”嫌な予感”というのは、きっと”創造主”のことを指しているんだと思う。

しかも、いつも戦闘では余裕綽々といった表情でいるラカンが、こんな真剣な顔をしているのだから、かなりやばいのだという事が分かる。

事実他の皆も、ラカンの顔を見て同じ事を考えていたのか、回復に努めながらも今まで以上に神経を尖らせていた。

ナギ……!!頼むから俺達がつくまで無事にいてくれよ!!

 

【ナギside】

 

「いい加減死になよ”千の呪文の男”!!」

 

そう叫び、俺に向かって魔法を放ってくる敵。

 

「そいつは聞けねぇ頼みだな。それと”千の呪文の男”っていい加減いいづらくないのか?」

 

その魔法に対して俺は、魔法で迎え撃ちそれを迎撃する。

本当なら、こんなめんどくさい事しなくても、でっけぇ魔法一発ぶっ放せば、すぐにでも決着がつくんだろうけど…アルに止められているからな。

 

しばらくこの敵と戦闘をしていた時に、アルから連絡があった。

なんでも、今戦っている奴らが黒幕じゃなくて、こいつらに命令している真の黒幕がいるらしい。

まぁ、聞いてて確かにありえそうだと思いながら、”そんなの関係ねぇ!全部まとめて相手をしてやる”とアルに返事をしたら……おもいっきり怒られた。

タケルが敵から聞き出した話だと、その親玉はどうやら俺を狙っているらしい。俺的には望む所なんだが、手下でさえこれだけ強力なんだ、親玉は俺が思っている以上に強い、だから皆と合流するまで戦闘を引き伸ばせ!と言われた。

はっきり言って、戦闘を長引かせるのは、そんなに難しい事じゃない。

たしかにコイツも結構強いが、だからと言って普段ケンカしているラカンやタケル、詠春に比べると見劣りしてしまう、そんなやつが俺に敵うわけがない!

きっと親玉もアルが勝手に心配しているだけだと、俺は思っている。

だけど、アルは”紅き翼”の参謀で俺よりも遥かに頭がいい。

そんなアルがここまで言っているんだから、きっとそれは正しいのだろう。

けどなぁ……。

 

「…力をセーブして戦うのは、結構ストレスが溜まるんだよな。…大体細かい事、俺は苦手だしよ…。」

 

「何か言ったい!?」

 

「あ?いや~オメーよ。確かメガロで一回戦った事あるよな?確か元老院議員に化けてて…だけどなんっか違うんだよなぁ~。」

 

「僕は君と戦った事なんてないよ。君達と戦ったのは別の奴さ。たぶん今頃あの”銃神”と戦っているはず…まぁもう決着がついて”銃神”は死んでいるだろうけどね。」

 

そう言って奴は、また俺に向かって魔法をぶっ放してくる。

なるほど。前戦った奴はタケルと戦っているって訳か…あいつはかなり強そうだったからちょっとタケルがうらやましいぜ。

でもコイツは何を言っているんだろうか?

 

「タケルが負ける?……ハッ!そんな事笑い話にもならねーぜ?いいか俺達”紅き翼”は最強無敵だ!そいつは今頃思い知っているだろうぜ?”銃神””炎帝”の名を持つ意味って奴をなぁ!!」

 

それによ。もう念話で聞いてんだよ。

アイツは多少怪我とかしているっぽいけど、勝ったってな!

それをわざわざアイツに教える義理なんてねーから、いわねーけどよ。

 

「フン。それはどうかな…。”紅き翼”のリーダーである君でさえ、こんな力でしかないんだ。どうせ今頃ズタボロになって殺されているだろうさ…他の皆も同様にね。所詮”銃神”とかたいそうな名前、所詮贔屓目で見られただけなんだろ?だいたい、君達がやっている事は、所詮無駄な努力でしかないのさ。僕達は、世界を救う為にやっているのに、何で君達は邪魔をするのかな…理解に苦しむよ。」

 

……………わりぃアル。

さすがに今の言葉は、頭にきちまった。

もとから鼻につくやつだったけど、今の言葉は許せねぇよ。

俺を同等と勘違いしたことや、俺の仲間を侮辱した事も理由にあるけど…それ以上に頭に来ていることがある。テメーは今なんって言った?

 

「…世界を救う?……ふざけるな!!世界を救う為なら、何でこんなに大勢の人を殺す必要がある!戦争を起こす必要がある!無駄な努力?…無駄なんかじゃねぇ!人ってもんをバカにするなーー!!!」

 

「なっ!!」

 

ドゴォォン!!

 

俺の魔力を込めた一撃で、アイツがぶっ飛ぶ。

その際何か驚愕したような表情をしていたが、今さら何を驚いているのやら…。

俺がわざと戦闘を長引かせる為に、力を抑えていたのにも気付かない奴が、俺に勝てる訳がねぇだろ?

アル…皆…多分もう近くまで来てるんだろうけど、はやく来てくれよ?

俺はもうとまらねぇ…。

さぁ……ここからは本気でやってやる。

俺を…いや人間をなめた落し前つけてもらおうか!!

 

【ナギside終】

 

 

 

 

 

 

 

 

【タケルside】

 

「これはちょっとまずいですねぇ…」

 

「どうしたんだアル?」

 

体力の回復に努めながら移動をしていると、さっきまで真剣な顔で何かをやっていたアルがそう呟く。

 

「いえ…皆合流したので、ナギにもう一度報告しようと念話を飛ばしたのですが、通じません。」

 

『!!!!!』

 

アルの一言で俺達の顔が歪む。

 

「それって…ナギがやられたってことか?」

 

「いえ…それは無いでしょう。先ほど話していた限りでは、ナギが相手しているのはナギに言わせればそこまで強くない敵のようですし、それにあの時にしっかり言い聞かせましたから”時間を稼げ”と…。」

 

「それならいったいどうして…。」

 

詠春は、皆が思っているであろう疑問を口にする

するとアルはすこし考えるような仕草をして、自分の考えを口にする。

 

「考えられる事は二つ。一つ、今戦っている敵と同時に新たな敵…多分黒幕でしょうが、そいつが一緒になって攻撃を仕掛けてきており念話をする余裕が無い。二つ、頭に血が上るような事があって念話を自ら無視している。これのどちらかでしょう。」

 

「ふーむ。いつもなら二つ目と断言できるのじゃが…今の状況からじゃと、どちらもありえそうじゃな。」

 

「どちらにせよ、ナギの奴がそう簡単にやられるわけがねぇ…が、急いだ方がよさそうだな。」

 

ラカンの言葉に、皆頷き移動する速度を上げる。

すると、爆発の音が段々近くなっていき、遠目でナギが戦っている姿が見え始めた。

どうやらまだ無事らしい。

敵さんの方は………アレはもうだめだな。

ナギの圧倒的な火力の前に何も出来てない。たまに魔法とか撃っているみたいだけど、それを魔法で相殺…いや逆に押し込んで攻撃を当てている。

まったくあんなことできるのは世界でもナギだけだろうな…さすが元祖バグ。

 

そして俺たちが十分に近づく事が出来た頃には、ナギは敵の首を持って持ち上げていた。

 

「ナギ!!」

 

「お?皆無事だったか。…へへっ!まぁ、知ってたけどよ。」

 

「まったく…。私があれほど戦いを伸ばせと言っておいたのに…暴走して…。」

 

「わりぃアル。…でもよ。コイツがどうしても許せねぇ事言ったもんでな。さすがに頭にきちまったんだよ。でもこうして間に合ったんだし、結果オーライじゃね?」

 

『は~…。』

 

ナギの言葉に、皆ため息が出る。

俺だってそうだ。何か心配するのが損だと思ってしまう。

 

「クククッ…確かに僕の考えが甘かったみたいだね。だけど君達は僕が黒幕だと本当に思っているのかい?」

 

俺達の姿を見て、最初は驚いたような顔をしていた敵だが、すぐに冷静さを取り戻したのかナギに向かってそんな言葉を投げかける。

 

「いや?思ってねーぜ?って言うか、それを知ってるから、少しでも戦いを有利にしようと、わざわざめんどくせーのに、戦闘を長引かせてたんだしな。」

 

「なっ!なんだと!!」

 

お~敵さん驚いてるな。

まぁ、そりゃそうだろう。敵からしたら、真の黒幕がいることはトップシークレットだったろうし、今それを言ったのも、きっと俺達の戦意を少しでも無くす為だったんだろうしね。

なんていうか…哀れ。確か一番目の人。

他の人達も、なんだかかわいそうな目で敵を見つめていた。

その場の空気が少し緩みかけたそんな時、いきなり大きな黒い塊が俺達を襲った。

 

ゴオッ!!

 

「チッ!味方も関係無しって事かよ!!」

 

ナギが先ほど掴んでいた敵を放し、後ろにバックステップをする。

 

「障壁最大じゃ!!」

 

ゼクトはナギの前に躍り出て、最大の障壁を展開する。

 

「ナギは下がって魔法をあの黒い塊に撃って相殺してください。タケル貴方も遠距離からの攻撃を!」

 

ゼクトの後ろではアルが結界を張りながら、皆に指示を出しゼクトと同じく障壁を展開する。

 

「オラァ!!」

 

ラカンは誰よりも前に出て気を最大限解放し、自らの肉体で黒い塊を押さえ込む。

 

「くっ…私の護符で、どれだけ食い止められるか…。」

 

詠春さんは、アルが張った結界に、更に護符で結界を張り、護符に気をめいいっぱい注ぎ込んでいく。

 

「ナギ!龍ちゃん!」

 

「おう!」

 

「わっとる!」

 

そして俺とナギ、龍ちゃんは、魔法とガンブレットを、炎を黒い塊に向けて放つ。

 

「くっ…この…いいかげん止まりやがれー!!!!」

 

「!!あかん!タケやん!!」

 

ドゴォォォォン!!!!

 

大きな爆発が起こり、俺はその爆風によって吹き飛ばされる。

そして目の前が大量の煙で埋め尽くされる。

 

「痛っ…くっ…皆!無事か!!!」

 

俺は叫んで皆の無事を確認する。

さっきの衝撃で、体中が傷だらけになって血が流れている。

どうやら致命傷は避けれたみたいで、何とか動く事などは出来るようだけど、それでもかなりのダメージを受けてしまった。

他の皆は…!?

視界が悪すぎて、皆がどこにいるか…生きているかどうかも分からない。

だから声を出して叫んだ。

皆はやられちゃいない!そう信じて…。

 

「ゴホッ…タケル。俺様は何とか生きてるぜ!」

 

「わいもや……体中痛いけどな」

 

最初に返事をしてくれたのは、俺の近くに飛ばされていたラカンと龍ちゃんであった。

やっと煙が無くなり始めてその姿を確認できた瞬間、俺は言葉を失ってしまった。

ラカンは口から血を流し、体中血だらけになって地面に横たわっていた。そしてあの太い腕が両方ともなくなっており、そこから滝のように血が流れている。

龍ちゃんはいつの間にか”赤王”が解除されて、普通の白い虎になっていたのだが、その毛は所々赤く染まっていた。それでも、何とか立とうとしているのだが、足が震えてうまく立つ事が出来ないみたいだ。

 

「龍ちゃん…俺をかばって…。」

 

あの爆発の瞬間、近くにいた龍ちゃんは、俺の前に立ちふさがって炎を全開にしていたのが見えた。

つまり龍ちゃんは、身を挺して俺を守ってくれたって言う事だ。

それにラカンも同じだ。一番先頭にいて、皆を守るために自分の体を盾にして守っていた。

そのせいでこんな大怪我までして……。

 

「ははっ…。かっこよくタケやんを守ろう思ったんやけどな…。うまく守れんですまんかった。」

 

「俺様も…ちょっと無理しすぎたみたいだな。」

 

「バカやろう……無茶しやがって…。」

 

涙がどうしても流れてくる。

今は泣いている場合じゃないのに…。

敵が目の前に迫ってきているって言うのに…。

 

「くふっ…皆さん無事ですか?」

 

今度は、アルの声が聞こえた。

声から察するにかなり辛そうだった。

 

「私は生きてるよ。…立てそうに無いけどね。」

 

「わしも無事じゃ。」

 

「俺…もだぜ…ちょっときついけどな。」

 

煙が完全に晴れて皆の姿が確認できると、そこはまさに死屍累々といった光景が広がっていた。

皆所々血を流しており、かろうじて動けそうなのは俺とゼクト、そしてナギぐらいだった。

他の皆はどうにか起き上がれそうではあったけど、とても戦闘なんて出来る体じゃないことは一目で分かる。

そんな光景に、また俺は言葉を失っていると、近くから俺たちではない声が聞こえてくる。

 

「クククッ…まさか生き残っているとはな。正直驚きだ。」

 

その声の方向に視線を向けると、そこには黒い外装を纏ったモノが悠然とそこに佇んでいた。

 

「けっ…親玉登場って訳か。」

 

体を起こしながら、ナギが敵を睨みつける。

 

「我名は創造主〈ライフメイカー〉。…よくぞここまで辿り着いた。その褒美といっては何だが、そこで指をくわえて見ているがいい。世界の救済を…。」

 

創造主はそう言って、消えるようにその場から立ち去った。

 

「くそ…まちやがれ!!」

 

「フン…。もう魔法は発動し始めている。止められるものなら止めて見るがいい。…追って来られるものならな。」

 

姿はもう消えているのに、言葉だけ聞こえてきた。

一瞬見ただけで分かる。

アレはあきらかに俺たちより強い。

 

「………アル。俺に残りすべての魔力を使って、回復魔法をかけてくれ。」

 

「ナギ!?」

 

ナギが何かを決意したような目でアルにそう話し、それを見た他の面々は驚く。

 

「無茶です!いくら貴方でも、そんな無茶な治癒では……。」

 

「30分持てば十分だ!!やってくれ!」

 

「ふふ良かろう。わしも行くぞ。この中では比較的傷は浅い方じゃ。十分戦闘は出来る。」

 

「お師匠…。」

 

「ゼクトまで…。」

 

「ナギ!ゼクト!待て!アイツは別格だ!死ぬぞ!ここはいったん引いて、体勢を立て直してだな…。」

 

ラカンも一目でその強さが分かったのだろう。普段言わないような事を言い、ナギ達を止める。

だけど…それじゃ意味が無い。

時間はもう無い。さっき創造主が言っていたが、魔法が始まりかけているんだ。だったらもうここで倒さないと、今までやってきた意味がなくなっちまう。

それに…俺達はこのくそったれた戦争を終わらせる為に、世界を救うとか言いながら多くの生物を死なせた、あのクソ野郎をぶったおす為にここに来たんだ。

ここは絶対に引いたらいけない!

だから俺は……。

 

「ん?…タケル!?」

 

「心配するなよラカン。俺達は死なねぇよ。ここで全部決着をつけてやる。」

 

ラカンの肩に手を置いて、俺はニカッと笑いながらそう言う。

すると、案の定ラカンは俺を止めてきた。

 

「ばっ…!!バカやろう!お前まで死ぬつもりなのかよ!」

 

「だから死なねぇって。……行ってくる!」

 

まだラカンが何か言いたそうな目をしていたけど、俺の顔見て、もう止められないと思ったのか、口を閉じる。

俺は、それを見ながら心の中で“ありがとう”とラカンに言って、そして創造主がいるであろう、奥に目を向ける。

するといつの間にか、目の前にさっきまで倒れていた龍ちゃんが座っていた。

 

「どうせ止めても無駄なんやろ?」

 

「さすが俺の相棒!わかってるね。」

 

「当たり前や。…本当ならワイも一緒に着いて行きたいけど、この傷じゃ足手まといになってまう。だからここで皆と待っとる。」

 

「ああ。待っててくれ。すぐ戻って来るさ。」

 

「絶対やで?あ、そうやった。一つお願いがあるんや。」

 

「何?」

 

「あの創造主とか、いけすかん馬鹿に、これでもかって言うくらい拳叩き込んで、撃ち貫いて、ぶっ飛ばしてきてや。」

 

「約束する。」

 

「頼むわ。」

 

龍ちゃんの頭を撫ぜながら約束を交わし、前へと足を踏み出す。

するとそこにはナギ・ゼクトが俺を待っていた。

 

「おいおい。やるのはかまわねぇけどよ。俺の分も残しておいてくれよ?俺もこれでもかって一発叩き込みたいんだからよ。」

 

「相変わらずじゃの。…じゃが、それがナギとタケル。いや、儂等らしいかの。」

 

「違いない。」

 

そう三人で言い合うと、タイミングを計ったように一斉に笑い出す。

今から死ぬかも分からない場所へと行くというのに、何故か笑いがこみ上げてくる。

それを見ていたアルたちも最初あっけに取られていたが、しだいにその顔には笑みが浮かぶ。

 

「クククッ…やっぱ俺達は最高だぜ!…それじゃいくか!」

 

『オウ!!』

 

何時も通り、俺達はナギの掛け声で、創造主、そして黄昏の姫御子がいると思われる奥へと向かった。

俺はこの世界が好きだ。

だから…この世界を壊そうとする創造主。

 

お前だけは……この手で必ずぶっ飛ばしてやる!!!!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話:人の力

 

他のメンバーと別れ、俺達三人は、宮殿の奥へと向かった。

一応、罠や適当な敵が居ると思って、警戒だけはしていたが、どうやらそれらしいモノは、無いようだ。

もともと仕掛けて無かったのか、それとも追ってくるはずが無いという余裕の表れか。

でも、これで余計な時間を取られずに、目的地に向かう事が出来る。

そしてそのまま、しばらく進むと、目の前に広い広場のような場所が見えて来た。

しかもその中心には、創造主らしき人影も見える。

 

「見えたの。お主等覚悟はよいか?」

 

「覚悟?アイツをぶっ飛ばす用意ならできてるけど?」

 

そう俺が返すと、ナギとゼクトが一瞬ポカンとした表情でこちらを見て、その後表情を緩ませる。

 

「クククッ…。さすが”銃神”だぜ。お師匠!俺もアイツをぶっ飛ばす用意はできてるぜ?」

 

「クククッ…。失言じゃったな。ワシの方も準備万端じゃ。」

 

俺は、何で二人が笑っているのか分からず、首を傾げる。

それを見た二人は、また笑う。

 

「いや…なんでもねぇよ。よしゃ!行くぜ二人とも!」

 

そうして俺達は、広場へと躍り出るのであった。

 

「へっ!わざわざここで、俺達を待ってくれていたのか?」

 

ナギが創造主に言葉を投げかけると、表情は見えないが、何処か驚いた感じの創造主がこちらに顔を向ける。

 

「まさかここまで来るとはな。…しかし分からん。何故そこまでして、我らの邪魔をする?我らはこの世界を救済…。」

 

「あ゛~ごちゃごちゃうるせー。今まで何度も言ったけど、俺達はそれを認めてねーんだよ。だから、お前は此処で、俺達がぶっ飛ばしてやる!」

 

創造主の言葉を遮るように、ナギが叫ぶ。

 

「我に勝てるとでも思っているのか?ククク…身の程知らずが。よかろう!我にはむかう意味を、その身で味わうがいい!!」

 

創造主がそう言い放つと、いつの間にか創造主の周りには、黒く大きな楔みたいな物が浮かんでおり、創造主が手を振り下げると、その楔は、俺達に向かって突き進んできた。

 

「クッ!ゼクト・ナギ!”然”を使うから、ちょっと間だけ時間稼いでくれ!」

 

「オウ、任せとけ!…オラァ!”千の雷”!!」

 

「うむ!”雷の暴風”!!」

 

楔を避けながら、俺はナギ達にそう言うと、二人は俺の言葉に返事をして、創造主に向かって魔法を放ち、そのまま突っ込んでいく。

二人が時間稼ぎをしている間に、俺は創造主から少し離れ、精神を集中させて呪文を紡いでいく。

この戦いを終わらせる為に。

完璧となった“然”の呪文を…。

 

【Another Side】

 

オン・スフィト・ガン・ペンスリット…

 

”我詠うは精霊の詩””我奏でるは命の炎”

 

”二つは交わりすべてを照らす光となる””固定”

 

 

「ん?…あの者何をする気だ!?」

 

二人を相手しながら、武が何かしようとしているのに気が付いた創造主は、意識がそっちに向く。

その隙をついて、二人は魔法を唱える。

 

「おい!余所見なんてしている暇あるのかよ!”魔法の射手!連弾・光の1001矢”!!」

 

「こっちを忘れてもらっては困るの。”魔法の射手!集束・光の101矢”!」

 

「くっ!おとなしくしていればいいものを…!!」

 

迫り来る光の矢を楔で迎撃しながら、そう悪態をつく創造主。

その間も、武の呪文は止まらない。

 

 

”我願うは終焉の炎””我掴むは精霊の理”

 

”二つは重なりすべてを飲み込む闇となる””固定”

 

 

「!!まさか…どけ貴様ら!」

 

武のやっている事は、まだ分からないが、何か嫌な予感を感じた創造主は、自分に纏わり付いているナギやゼクトを、あの黒い球体を出す事で攻撃し、武へ続く道を開けようとする。

しかし、それをナギ達が許すわけがない。

 

「よっ…と!確かにお前の魔法は強力だけどよ。

撃つ所さえ見えればよけるのはそんなに難しくねぇ…オラァまだまだ行くぜ!

”来れ””虚空の雷””薙ぎ払え””雷の斧”!!」

 

「そうじゃな。それにお主をあちらに行かせる訳にはいかんの!

”闇夜に切り裂く””一条の光””我が手に宿りて””敵を喰らえ””白き雷”!!」

 

創造主に向かって、二人の雷が落ちる。

だが、まともに喰らったはずなのに、少し怯んだだけですぐさまナギ達に攻撃を仕掛けてくる。

 

「ちっ!結構まともに当たってるはずなのによ。効いてねぇのか?アイツは!」

 

「いや…それなりに効いてはおるじゃろ。本当に効いておらんのなら、止まらずにこちらに攻撃を仕掛けておるはずじゃからな。」

 

「つまり火力不足ってことかよ…。タケルまだか!?」

 

ナギがそう言って少しタケルに視線をやった瞬間、創造主はいきなり膨大な魔力を放ちだした。

 

「我に余所見をするなと言っておいて、自らするとは愚かな…滅せよ!!!」

 

「ナギ!!!」

 

ゼクトの声にハッ!っとなって創造主の方へ視線を戻すと、目の前には先ほどとは比べ物にならないくらい大きな黒い塊がすぐ傍まで迫ってきていた。

 

「しまっ!!!」

 

ナギは、回避行動をしても間に合わないと悟って、すぐに障壁を張る。

近くにいたゼクトも、ナギのそばに来て同じく障壁を張った。

 

このままじゃやられる!!せめてタケルだけでも…!!!

 

二人の思いは一緒だった。

いざとなったら、この体でこの魔法を相殺しようと覚悟を決める。

しかし、その覚悟は後ろから来たオレンジ色の影によって無駄に終わる。

 

 

”光と闇すべてはわが身に宿り””すべてを撃ち貫く力となれ”!!!

 

 

ドォォォォン!!!!

 

そのオレンジ色の影と、大きな黒い塊がぶつかりその衝撃で爆発が起こる。

ナギ達は障壁を張っていた為、爆発自体には巻き込まれずにすんだが、爆発によって起こった衝撃波で、少し後ろに飛ばされる。

 

「タケル!!」

 

オレンジ色の影がタケルだと気付いたナギは、思わず爆発した場所に向かって叫ぶ。

しかし、その心配は杞憂だったようで、煙が晴れて見えてきたのは、体中からオレンジ色の炎を纏い平然とした武の姿だった。

 

「おまたせ。」

 

「ほんとじゃよ。」

 

「美味しい所もっていくよな。相変わらず。」

 

ゼクトとナギは、その姿を見て軽口を叩く。

その表情は、先ほどまでとは全く違っており、まるでこの後の勝利を確信したような笑みであった。

 

「な…なんだその姿は…そんな魔法知らんぞ!大体あの魔法をまともに喰らってなぜ平然と立っておられるのだ!!」

 

武の無事と、その姿に驚く創造主。

自分の知らない魔法が出てきた事にも驚いていたが、それよりもあの質量と密度をもった魔法をまともに喰らったのに、平然と立っているこの男に初めて恐怖を感じたのだ。

 

「知らない?それはお前が勉強不足なだけじゃないか?大体自分の魔法が無敵だと考えている時点でおかしい。しょせん魔法は魔法…撃ち破る方法なんていくらでもあるのさ。」

 

「そんな馬鹿な事が…あるはずが…。」

 

武が創造主に向かってそう言葉を返すが、創造主は目の前で起こったことをまだ信じられず狼狽えていた。

タケルはそう言ったが、別に何か特別な事をした訳じゃない。

すべては”然”の特性である魔法吸収・無力化のおかげである。

魔法…魔力でつくられている物であれば、どんなものでも吸収・無力化することが出来る。

それは、創造主が使う魔法でも同じ事だった。

 

「さて…そろそろクライマックスといきますか!!」

 

そう叫ぶと、武は創造主に向かって突撃を仕掛ける。

創造主も先ほどまで狼狽えていたようだったが、すぐに楔などを飛ばし、タケルを迎撃しようとする。

 

「無駄だ!!今の俺にそんなもんは気かねぇ!!」

 

飛んできた楔などは、左手でマシンガンを放ち迎撃し、魔法などは当たっても効果がないと分かったので無視してそのまま突っ込む。その間に右腕はハンマーコックしてあり既に目標の創造主の体に定めていた。

 

「くらえ!!メガフレア・バレット!!!」

 

ズゴォォォォン!!!!

 

大きな爆発音と共に、まともに喰らった創造主は爆炎に包まれながらぶっ飛んでいく。

そして近くの壁にぶつかると、そのまま壁に貼り付けられたようにめり込む。

それを見届けたナギとゼクトは、めり込んでいる創造主に注意しながらも、タケルの傍へと寄っていく。

 

「やったのか?」

 

「………いや。多分まだだと思う。」

 

「あの攻撃をくらって、まだ立ってくるというのか?」

 

決まったと思っていた、ナギとゼクトは驚く。

武自身も、拳が当たった時は決まったと思っていた。

だが、感と言えば良いのだろうか?

武には、どうしても終わったようには感じなかった。

そして、その感は当たっていた。

 

「クククッ……。まさか人でありながら、我をここまで追い詰めるとは…ほめてやろう。だがそんなもので、我が倒れるとでも思っているのか!!!!」

 

埋まっていた壁を、魔力で無理やり壊し、何事も無かったかのようにそこに佇んでいる創造主。

その姿に、さすがのナギ達も言葉を失った。

 

「…ちっ!タケルのメガフレア・バレットでもダメなのかよ!いったいどうすりゃいいんだ!!」

 

ナギがそう叫ぶ。

武もナギの言葉には賛成だった。でもそこで、ふと武の頭にある疑問が浮かんだ。

“こんな時に…”とも思ったが、もしかしたらこれが、あの創造主を倒すヒントになるかもしれないと思い、それを明らかにする為に、傍に居るゼクトを呼ぶ。

 

「ゼクト。」

 

「なんじゃ?」

 

「さっき拳を当てた時、感じた感触なんだけど、ここに来る前に戦った、フェイトと似た感触がした。人では感じた事が無い感触を…。」

 

「人ではないじゃと?…それはつまり、アイツは人間じゃないということか?」

 

「ああ。それにあの耐久力にしても、膨大な魔力にしても…人が持てる範囲を明らかに越えてないか?」

 

そう武が言うと、ゼクトはその言葉に引っかかる事があったのか、少し考え…やがて一つの答えに辿り着く。

 

「…まさか!!じゃが、それならタケルが感じた違和感と一致する。」

 

「お師匠何か分かったのか?」

 

ゼクトの呟きに、ナギが先を促す。

 

「…魔道を研究し、極めようとした場合、大まかに二つの道がある。一つはワシやアルように、不老となり研究を続けて行くこと。…そしてもう一つが…。」

 

「もう一つが?」

 

「己自身が魔法となることじゃ。」

 

『!!!!!』

 

ゼクトの言葉に、二人は驚く。

 

「魔法になるって……どういう意味だよ。」

 

ナギが焦ったようにそう言うが、ゼクトはきわめて冷静に喋り続ける。

 

「そのまんまの意味じゃ。肉体を捨て、自ら魔法そのものになる。古来より幾度も同じ考えをもった奴がおったが、そのすべてが失敗に終り、ただの怪物へとなり果てた。…が、もしそれが成功していたとしたら……。」

 

「アイツのようになるって訳だな。…それで?そいつを打ち破るにはどうすればいいんだ?」

 

「そうじゃな。…用はアイツ自身魔法な訳だから、それを撃ち破るには、アイツの魔法以上の攻撃を食らわせればよい。しかし生半可な攻撃じゃと効かぬうえ、しばらくしたら積もっていたダメージも回復してしまうじゃろう。つまり…。」

 

「全員で一気に畳み掛けるしかないって事だな?……それならば方法はある。」

 

ゼクトの考えを聞いて、武はある技を思い出す。

それはタケルにとって、最高の技であると同時に、不可能と思い断念していた技でもあった。

 

「どうする気じゃ?」

 

「以前考えていた技があった。…だけどそれは、体力的にも身体能力的にも不可能だった為、断念していたんだけど、今の状態ならそれが使えると思う。」

 

「ならそれをぶっ放せば…。」

 

武の言葉に、ナギ達の表情に光が差す。

 

「だけど、多分コレを使ったら、いくら”然”の状態でも、しばらく動けなくなるだろうし、メガフレア・バレットを耐えたんだ。追い込む事は出来ても、止めを刺す事は出来ないかもしれない。そこで二人にも協力をしてほしい。」

 

「おう!なんでも言ってくれ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・

・・

 

「それじゃ、手はず通りに頼む!」

 

「おう!」「まかせるがよい。」

 

「相談は終わったか?ならば…死ぬがよい!!」

 

ゴッ!!

 

武達が相談している間に、ダメージから回復した創造主は、固まっていた俺達に向けて、黒い塊と楔を容赦なく撃ってくる。

俺達はそれを避けて、三方向に散らばり、準備を始めた。

 

「創造主!お前の相手は俺だ!!!」

 

武は自分の分身を出来るだけ作り上げ、創造主に向かって突撃を開始する。

なるべく黒い塊に近づいて、魔力を吸収するのも忘れない。

分身を作るという事は、すなわち魔力を分けるという事。

少しでも相手から魔力を奪えるのであれば、それだけ長く分身を作っていられるし、消費した魔力も回復できる。

もしかしたら、これが“然”の一番の強みなのかもしれない。

 

「面倒な…。だが!魔法が効かないとはいえ、この楔は効くのだろう?」

 

この短時間で、こちらに通用するものを感じ取った創造主は、先ほどの倍に増えた楔を、武に向かって放ってくる。

 

「チィッ…もう見抜いたのかよ!」

 

武はそう悪態をつきながら、迫ってくる楔を迎撃する為に、迎撃隊形〈ガンマン・ポジション〉の構えになりそれを迎撃する。

本来なら、”然”の姿になった武には、物理攻撃などは一切効かない。

だが、この楔だけは別だった。

おそらくこの楔には、なんらかの魔法的付加がついており、”然”のように魔法と一体となっていたとしても、それを無視して攻撃が出来るようになっていると思われる。

系統などは全く違うが、詠春の”斬魔剣・二ノ太刀”と同じようなものだと考えるのが一番だろう。

 

創造主の楔による攻撃によって、次々分身体が攻撃をくらい消えていく。

本体も致命的な傷は負っていないものの、所々引っかき傷のようなものが増えていった。

特に、直接ではないにしろ拳で攻撃している事もあって、両腕の傷はかなりひどい。

オレンジ色の炎を纏っていた武だが、両腕だけは段々紅く染まっていった。

 

「やばいな…。さすがにもう抑えられねぇかもしれない。」

 

ついに武が気弱な言葉を呟いたその時、待ちに待っていた声が聞こえてきた。

 

「またせたのうタケル!準備万端じゃ!」

 

武に声を掛けてきたのは、先ほどまで戦闘に参加していなかったゼクトであった。

 

「まってたぜゼクト!頼む!!」

 

「任せておけ!…”ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト”

”契約により我に従え””大空をすべる王”

”来れ””天上を貫く荒ぶる槍よ”

”天へと誘う道となれ”…最大出力じゃ!!”深緑の柱”!!!」

 

ゼクトが魔法を唱えると、創造主を中心に巨大な竜巻が発生する。

それは、以前龍牙と戦闘した時とは比べ物にならないくらい大きく、強い。

 

「グググ…死にぞこないがいきがりおって…。」

 

創造主が己に魔力を集中させて抜け出そうとするが、思うように体が動かない事もあって、難航していた。

その隙に武は、迎撃隊形〈ガンマン・ポジション〉のまま、創造主を睨みつけながら力を貯めていく。

すると、次第に武を纏っていたオレンジ色の炎が、不規則に暴れだし、全身をオレンジ色から青色へと色を変えていく。

 

「無駄だというのがまだ分からんのか!!!」

 

そんな叫びと共に”深緑の柱”を力ずくで破り、創造主が姿を現す。

しかしそれは、武達が待ちのぞんていた瞬間でもあった。

 

「そうでもないぜ?」

 

「ぬぅ!!」

 

創造主が姿を現した瞬間、彼の懐には青い炎を纏ったタケルがいつの間にかおり、ニヤリとした表情で彼を睨みつける。

 

「いくぜ!…これがすべてを撃ち貫く俺の拳だ!“バレットカーニバル”!!!」

 

武がそう叫んだ瞬間、創造主の目の前には今までに見たことが無いくらいの拳の弾幕があった。

 

「ダブルガトリングショット!!!」

 

ドドドドドドドドド…!!!!

 

拳の津波ともいえる弾幕をまともに食らう創造主。

普段ならコレに対して、何らかの処置を行う事が出来たであろうが、ゼクトが最初はなった”深緑の柱”から抜け出した瞬間を狙われた為、そんな事をする暇がない。

もちろんそうなるように、あらかじめゼクトと打ち合わせをしていたのだが、そんなこと創造主が知る訳も無い。

 

「ググ…だがこんなものでは…。」

 

ダブルガトリングショットをまともにくらい、苦しそうな声を出す創造主。

だがせっかくのチャンス。武がコレで終わるわけが無い。

 

「まだまだぁ!!!」

 

タケルが叫ぶと、体をそこで回転させ、創造主の顎めがけてサマーソルトキックのように蹴りを放つ。

そして蹴り上げられた創造主に向かって、追撃を仕掛ける。

 

「ショットガンエアシュート!!」

 

ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!…

 

拳と蹴りのコンビネーションのショットガンエアシュートを使い、創造主を天高くまで持っていく。

そして締めの蹴りで更に高くまで打ち上げると、一回転しながら左腕をハンマーコックし、相手の懐に潜りこむ。

 

「インビジブル・デリンジャー!!」

 

左手の必殺技である、インビリブル・デリンジャーを心臓と鳩尾辺りに打ち込む。

 

ズドドン!!

 

「くはっ…!!」

 

衝撃が突き抜ける攻撃を無防備に喰らったせいか、初めて創造主から苦痛の息が漏れる。

 

「全弾もってけ!44リボルバーマグナム!!」

 

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 

ファースト!セカンド!サード!フォース!フィフス!

 

容赦なく絶対破壊攻撃の44マグナムを急所に打ち込んでいく。

しかも一箇所では無く、すべて違う場所…。四肢とレバーに容赦なく打ち込み、完全に目標を破壊していく。

そして五発目が撃ち終わった所で、ほんの少し停止し創造主を睨む。

 

「この我が…まさか…。」

 

「お前は俺達をなめ過ぎだ。リーダーが言ったろ?俺達は最高、最強なんだよ!」

 

「コレでフィナーレだ!…目標補足〈ターゲット・ロック〉!ナパームキャノン!!」

 

ズガアァァァァン!!!!!!!

 

創造主の体のど真ん中に向けて、最後の一撃を放つ。

その威力の強さに、創造主の体に弾痕ができ、重力に引っ張られるように、体ごと地面に向かって落ちて行く。

 

「グハァ…!!しかし!まだ!」

 

落ちながらも、体制を立て直そうともがく創造主。

しかし、忘れてはいけない。この戦いには三人で来ているのだ。

そう…”紅き翼”のリーダー…”サウザントマスター”ことナギがまだ残っているのだ。

そのナギは、魔力を溜めながら創造主が落ちてくる場所で待ち構えていた。

 

「そう、まだだよなぁ…。俺が残ってるぜ!!!」

 

ナギがそう叫び、落ちてくる創造主に思いっきりアッパーを繰り出し、また空へと打ち上げる。

そのアッパーの威力が強すぎたのか、創造主は屋根を突き破り外へと放り出される。

そしてナギも一緒になって創造主がいる空へと上っていき、創造主が着ていた黒い外装を掴む。

 

「最後にテメェに言いたい事がある。…俺様をなめるな!”紅き翼”をなめるな!何より……人間をなめてんじゃねーーー!!!!」

 

ドゴォォォン!!!!

 

創造主に向かってナギがそう叫ぶと、掴んだまま魔力をたんまり込めた”千の雷”を放つ。

その威力によって、墓守人の宮殿全域にまぶしいほどの光が降り注ぎ、創造主はその黒い姿を光に浸食されるがごとく消えていく。

 

「我を倒すか……それも良かろう。せいぜい”箱庭”で束の間の平和を楽しむが良い。いずれその時がくるまでな…ククク…アーハッハッハッハ……」

 

その言葉を残し、創造主はすべて光の中へと消え、光が収まった頃にはその姿は無かった。

 

 

【タケルside】

 

「はぁ…はぁ…最後まで訳のわからない奴だったぜ。」

 

空から降りてきたナギが膝を付き、息を荒げながら呟く。

そこへ俺とゼクトが駆け寄る。

 

「お疲れナギ!一番おいしい所決めたな!」

 

「おう。…へへ。タケルからあんな良いパス貰ったんだ。決めないと失礼だろ?」

 

「当たり前だ!」

 

軽口をたたきながら二人はハイタッチを交わす。

それを見て嬉しそうにゼクトも頷く。

 

「うむうむ。めでたし、めでたしじゃな。…まぁ、創造主が最後に言っていた言葉は気になるがの。」

 

「”箱庭”だっけ?」

 

「そうじゃ。一体どういう意味なのか…。」

 

創造主が残した”箱庭”と言う言葉の意味を、考えこむゼクト。

俺達もゼクトに習うかのように考える。

もっとも、ここが”箱庭”じゃないという事を知っている俺は別の事を考えていたのだが…。

 

(たしか俺をここに転生させた神さま曰く、ここは”箱庭”じゃないから心配しなくいいみたいな事言っていたはずだけど…。実際の所どうなんだろう。もし、もう一度会えるならそこら辺を確かめた方がいいのかもしれない。)

 

三人そろって考え事をしていると、急に地面が揺れだし大きな音を立て始める。

 

「って、今ここで呑気に考えている暇はねぇ。早いとこ姫子ちゃんを助けないとな…。」

 

「そうじゃの。創造主の話じゃと、儀式はもう始まってしまっておる。今から止めれるかどうかは分からんが、とりあえずは…。」

 

「だね。姫御子を助けて、皆と合流してこの場を脱出しよう!」

 

皆俺の言葉に頷くと、早速行動を開始した。

姫御子を探すのに結構時間が掛かるかもと思っていた俺だったが、運良くと言えば良いのか創造主と戦った場所のすぐ近くの部屋に姫御子…原作ヒロインのアスナが子供の姿でそこにいた。

その周りには大きな魔方陣が展開されていたが、そんなものは無視して中央にいるアスナを連れ出す。

アスナは人形みたいで、声をかけてみてもまるで反応しない。

おそらく何らかの魔法がかけてあるのだろうと判断した俺達は、とにかくこの宮殿から脱出するためにその場から急いで立ち去った。

 

「ナギ!ゼクト!タケル!」

 

その部屋から出て創造主と戦った場所まで戻ってくると、そこには他のメンバーが集まっていた。

どうやらナギが創造主をぶっ飛ばした所を見てこっちに向かってきたらしい。

 

「お?お前達もう大丈夫なのか?」

 

「ええ。移動できるぐらいには回復できました。にしてもあなた達は…よく創造主に勝ちましたね。」

 

「まったくだぜ。さすがの俺様もビックリだ。」

 

「まったく…おそれいるよ。」

 

「たいしたもんやで!」

 

皆俺達を見ると、口々に俺達を褒める。

確かに褒められるのは嬉しいんだけど、今はそれどころじゃない。

 

「皆ありがとう。…でもとりあえずは脱出だ。」

 

「そうじゃな。ここはもうもたんじゃろう。逃げるぞ!」

 

『了解!!』

 

こうして”紅き翼”は宮殿から脱出した。

…が、宮殿から出た瞬間、目にしたのは巨大な光の塊だった。

 

「なんだあれは!!」

 

「…まさか儀式が完了してしまったという事ですか!?」

 

「姫御子を連れ出すのが遅かったということか!?」

 

皆が光球を見て絶望にくれていると、近くにいたナギが地面を殴る。

 

「ちくしょう…。俺達は間に合わなかったということか!?…せっかく悪の親玉を倒して、こうして姫子ちゃんも助けられたって言うのによ!!」

 

ナギの嘆きに、この場に居る誰も声をかけられない。

皆どうにかできないかと考えては見るものの、アレをどうにかするすべなど誰も持ち合わせていなかった。

その時、空から声が降ってきた。

 

「あきらめるのはまだ早いのじゃ!!」

 

『!!!!!』

 

俺達はその声に導かれるように、空を見上げる。

するとそこには、空を埋め尽くすほどの戦艦があった。

 

「あの声は…テオか!?」

 

俺がそう声を上げる。

 

「そうじゃ。どうやら間に合ったようじゃの。あとは妾たちに任せておけ!」

 

「我騎士ナギよ。テオドラ姫の言う通りじゃ。後は私達にまかせておけ!」

 

テオに続きアリカ姫の声まで聞こえてくる。

ああ…テオが腰に手を当てて偉そうにしているのが見えるよ。

今の状況から言えば、ロリ天使って所か。

 

「タケやん。また変な事考えとるやろ?」

 

「龍ちゃん思ってても言わないで…でもこれで…。」

 

「そやな。…ようやく終わったようや。この戦いも…。」

 

帝国・連合・アリアドネーの艦隊が光球の周りを取り囲み、反転封印術式を大規模展開。

その力によって光球はその大きさを小さくしていき、最後には消えてなくなった。

 

 

「ああ…俺達の勝ちだ!!!」

 

その光景をみてナギがそう叫ぶと、俺たちも一緒になって言葉にならない喜びを天に向かって叫ぶ。

それにつられる様に、まわりにいた人達からも歓声が巻き起こり、皆戦争が終わった事を喜んだ。

 

その日、世界中に戦争が終わった事があっという間に伝わり、この場所にいた皆と同じように天に向かって歓声を上げる。

 

 

こうして永きに渡って続いた帝国・連合の戦争がついに幕を閉じたのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話:護る為に

戦いから一夜あけ、ここは学術都市アリアドネー。

戦争の終結を宣言する場所として、中立であったアリアドネーが選ばれ、俺達”紅き翼”もここで一夜を明かすことになった。どうやら俺達の今までの功績を讃え、表彰もされるらしいのだが…そんな事は今関係ない。

なにせオスティアの滅亡は、もうすぐ傍まで迫っているのだから。

 

「なあタケやん?何やっとるん?さっきからうるさいと思ったら、いきなり何か作っとるけど…。」

 

いつも通り龍ちゃんと一緒の部屋になっている俺は、戦い後すぐ休み、目が覚めた瞬間から滅亡を防ぐために必要な物を作っていた。

創造主との戦いで、限界まで”然”を使ったから、もしかしたら前みたいに体が動かなくなるかも…とそう思っていたが、ゼクト達と一緒に修行をしたおかげか、コレといって体に異常は無かった。

しいて言うなら、魔力が全回復してないのと、体中がバキバキ音を立てるぐらいなものだ。そこら辺は我慢出来る範囲である。

当初の予定では、“世界を無に帰す”魔法が発動する前に止めれるよう、行動をしていたのだが、結果として、原作通りになってしまったのが、残念で仕方が無い。ただ、後悔している時間があるなら、今できる事、被害を最小限にする為に行動するべきだと思う。

 

「これからやる事に必要なものさ。」

 

「これから?戦いも終わったばっかやっていうのに、まだ何か起こるんか?」

 

「いや…正確にはもう起こってて、原因も分かってるんだけどね。」

 

「は!?ちょ…まてや!一体何が起こっとるんや?しかも原因が分かっとるって…どういうことや?」

 

俺のいきなりの言葉に、慌てながらも疑問をぶつける龍ちゃん。

その表情には、誰が見ても分かるような焦りが出ていた。

 

「……結論から言うと、もうすぐオスティア大陸は崩壊する。」

 

「!!!!!」

 

はっきり俺がそう言うと、龍ちゃんの顔から血の気が引き蒼白なる。

 

「どういうことや?何でオスティア大陸が崩壊せなあかんねん!!」

 

「原因は、あの大規模の封印魔法にあるんだ。」

 

俺は極めて冷静にそう告げる。

俺まで取り乱してしまったら、本当に間に合わなくなる。

しかし、今初めてその事実を知った龍ちゃんは狼狽えていた。

 

「なんやと?」

 

「そもそもあんな技術がありながら、何故戦争で使われなかったと思う?」

 

「そりゃ…その魔法が完成出来て無かったからやないんか?」

 

龍ちゃんが、少し考えて喋る。

たしかにそれもある…でもそうじゃないんだよ…。

 

「…確かにそれもあるかもしれない。けど原因はもっと別にある。使えなかったんだよ。あまりにも欠点がでかすぎて。」

 

「欠点?」

 

「そう。確かにあの魔法で、あの巨大な魔力の塊は封印することが出来た。だけど目標だけを封印できるなんてそんな都合のいい魔法なんてそうそうある訳が無い。アレはね、その周辺の魔力まで封印してしまうんだ。」

 

「周辺の魔力まで…?」

 

「うん。するとどうなると思う?…今まで魔力で支えられていた大陸は、その魔力の大半をあの封印魔法で失ってしまう。今は多少魔力が残っていたのか何とか大丈夫みたいだけど、それが消費された瞬間、支えを失ったオスティア大陸は崩壊してしまうって訳さ。」

 

「な…ならその魔力を補充すれば…!!」

 

「それは無理だよ。理屈ではそうなんだけどさ、大陸を支えるほどの魔力なんてどこから補充するのさ?例えばナギや”然”状態の俺がそれを補充するとしても何日…いや何年掛かるか分からないよ。その前に魔力が尽きる。…そもそも大陸、というかその空間にどうやって魔力を補充するの?その方法すら分からないんだよ?」

 

「な…なら!黙って見とけっちゅうんかい!!崩壊するのを!!」

 

思わず龍ちゃんが、声を荒げる。

その目にはうっすらと涙まで浮かんでいた。

 

龍ちゃんは、俺と一緒に行動するようになってから、いろいろ変わった所がある。

本来幻獣などは、自然に逆らう事をせず、身を任せるものらしいのだが、龍ちゃんは過剰じゃない限り人の味方をして、自然に抗うようになった。

聞けば、”ワイと同じように他の幻獣も、人と仲良くできるようにしたいからなぁ”らしい。

そう言ってくれた時の喜びは、今も覚えているし、俺もその場で賛同したくらいだから。

だからこそ、俺がこうして淡々と喋っている事に怒りを感じているのだろう。

まったく…俺の相棒ならこんな時でも俺を信じろって…。

 

「落ち着いて龍ちゃん!だれも黙ってみてろなんて言ってないよ。それに俺がまさかその事を知って何もしないとでも思うのかい?」

 

「え…?じゃ…じゃあ!」

 

やれやれといった感じで龍ちゃんにそう話すと、さっきまで泣きそうだった顔が一瞬キョトンとして、俺の言葉を理解できた瞬間顔色が明るくなる。

 

「そう。今やっている事は、少しでも状況を良くしようといろいろ作っている所さ。」

 

「なんやそれ!そうならはよそう言わんかい!!!」

 

「いや、そっちが勝手に勘違いしただけだろ?」

 

「う…うるさいわい!んで?どうするつもりなんや?」

 

ちょっと照れた感じでこっちを睨み、これからどうするかを聞く龍ちゃん。

その目にはもう悲壮なんてものは無い。

あるのは、何とかしてやろうと言う熱い眼差しだけだった。

 

「まず、最初に言わないといけないのは、どうやってもオスティア大陸は崩壊してしまうと言う事だ。コレはどうやっても変えられないだろう…。」

 

「そうか…やったら状況を良くするってどういう意味なんや?」

 

「確かに大陸は崩壊してしまうかもしれない。だけど、そこにいる人や幻獣たちなら話は別だ。助けられるかもしれない。」

 

「なるほど!だから状況を良くするっていったんか。んで?作戦は?」

 

「それを今から説明する。だけどその前に…龍ちゃん”紅き翼”のメンバーを至急集めてくれ。」

 

「ん!了解や!」

 

龍ちゃんは元気よく返事すると、すぐにドアから飛び出して皆を呼びに言った。

 

ここからだ。

原作では、アリカ姫が何とか少しでも犠牲を減らそうと頑張っていたけど、俺達がいる限り一人ですべてを背負わせない。

俺達も最後まで責任をとってこそすべて丸く収まるって言うもんだ。

 

だから…

 

かならずオスティアの民達を…そこに住む生き物達を救ってみせる!

 

さぁ始めようか…”紅き翼”にしか出来ない最高の救出劇ってやつを!!!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・

 

しばらくして、俺の部屋には”紅き翼”のメンバーが揃っていた。

皆最初は何で集めたんだとか、いろいろ文句を言っていたが、俺がこれから起こる事を説明し始めると、事態の重要さに気付いたのか、皆真剣な顔つきになって話を聞いていた。

そして最後に俺が思っていた事を話すと、皆同じ気持ちのようで全員絶対助けてやると意気込んでいた。

 

「皆話しは理解できた?」

 

「ちくしょう…まだこんな問題が残ってるなんてな。何でもっとはやく俺は気付けなかったんだ!」

 

「ナギ…。それはここにいる皆も同じですよ。…でも良かった。タケルがそれに気付いてくれて。このままでは取り返しのつかないことになる所でした。」

 

「じゃな。してタケル?お主のことじゃ、どうするか考えておるのじゃろ?」

 

「タケル。私にできることなら何でも言ってくれ!」

 

「腕もくっついたし。俺様に何でもいいな!」

 

皆そう言って、俺を見てくる。

ナギは気付けなかった自分を責めていたが、アルに諭されて気持ちを入れ替えたのか、真剣な顔つきでこっちを見つめていた。

 

「じゃ作戦を言うよ?まず、ガトウとタカミチはアリカ姫を手伝ってくれ。あの人もこのことに気付いているはずだ。じゃないとわざわざあそこから離れたアリアドネーで式典を開く事なんかしない。」

 

「どういうことだよ?」

 

「いいかナギ?あの戦いで傷を負ったものは大勢いた。本来ならその場で一泊でもして負傷者の手当てをしたほうが良いのに、わざわざ負傷者を戦艦に運び込んで、こっちに運ぶ必要なんてないと思わないか?」

 

俺の言葉に皆確かに…と呟く。すると詠春さんが疑問に思ったことを口にする。

 

「たしかになそうかもしれない。でもタケル?それはアリアドネーの方が効果的な治療をできるからじゃないのか?治癒魔法も進んでいるし…。」

 

「だけどあそこには、アリアドネーの戦艦も居たんだよ?もちろん治癒魔法が得意な人だって乗っていたはずさ。それなのにか?」

 

「…そうだな。」

 

「これは俺の予想でしかないけど、負傷者をアリアドネーに運んだり、式典をすると決めた理由はすこしでもオスティアから人を少なくするためだと思うんだ。ここまで大規模の戦争の終結、しかもそれを救った英雄のお披露目、わざわざ出向いて見てみたいと思う人も少なくないと思うからね。もっとも、本来ならアリアドネーじゃなくて、もっと近くで開く予定だったかも知れない。ただ、アリカ姫の予想以上に魔力の減少が少なかった事で、ある程度時間ができたし、なにより崩壊する大陸を見せたくなかったから、アリアドネーにしたんだと思う。」

 

俺の想像に皆”なるほど”と頭を縦にふる。

 

「だからアリカ姫はこれから、戦艦などを使って残っている人を運び出そうとするはずだ。だけど、アリカ姫やその側近達だけではどう考えても手が足りないと思う。だからガトウとタカミチはそれを手伝って欲しい。でも、もしかしたらアリカ姫はシラをきったり、一人で抱え込もうとか考えてるかもしれないからそこら辺は二人でうまくやってほしいかな。…最悪アリカ姫に内緒で事を運んで、アリカ姫が行動した時に駆けつけるとかの方が良いかもしれない。」

 

「それはありえるな…。わかった。まかせてもらおう」

 

「僕もがんばります!」

 

ガトウとタカミチが頷くのを確認して、俺は続きを話す。

 

「それで他の面子だけど、まず今のままじゃ何にも役に立たないんだ。」

 

「は?いや…ちょっとまて。確かに戦艦とか俺達には用意できないだろうが、魔力を使って人を運ぶことぐらいならできるぞ?」

 

ナギがそう反論する。

ラカンや詠春さんも同じように頷くが、アルとゼクトはどうやら俺の考えが分かったのか頭を悩ませていた。

 

「おいアル!お師匠!何で何も言い返さないんだ?」

 

「ナギよ…。今オスティアがどういう状況なのかは知っておるな?」

 

「ああ、大陸を支える魔力が無くて崩壊しかけてるんだろ?」

 

「そうです。つまり今オスティア大陸の周り…つまり大気中に魔力が無い事になります。ナギ分かってると思いますが、いつも通り空を飛んだり、転移魔法を使うには大気の魔力を必要とします。それが出来ないとなると今私達にできる事はありません。」

 

「そう。何時間…いや数分間なら可能かも知れないが、己自身の魔力でどこまで出来るかわからないし、途中で力尽きたりでもしたらその場でアウトだ。気については正直分からないけど、あの浮かんでいる大陸から、こっちの大陸までの距離を考えると、ジャンプして届く距離じゃないと思う。」

 

そういい終えると、全員悔しそうな顔をする。

 

「クソッ…!!こんな大変な時に俺は何もできないって言うのかよ…!!」

 

地面に拳を撃ちつけて、うなだれるナギ。

皆も同じ気持ちのはずだ。だから、だれも声をかける事が出来なかった。

ただ一人…龍ちゃんを除いて。

 

「皆あっほやなぁ…。タケやんがそんな事分かってない訳が無いやろ?さっきの言葉も”今のままじゃ~”とかつけとったし、解決する方法があるにきまっとるやん。」

 

さすが龍ちゃん。

さっきまで、皆と同じ反応をしていた奴とは思えないね。

 

「なんや…タケやんに言いたい事ができたんやけど、言い返せん気がするわ…。」

 

それはそうだろうね。

もし言い返して来たら、皆の前でさっきの姿をたっぷり話してやるつもりだし。

 

『本当かタケル!!!』

 

そんな事を考えていると、龍ちゃんの言葉を聞いた皆が、顔を上げて俺に詰め寄る。

 

「ああ…まぁ…。とりあえず落ち着いてくれ。さすがに詰め寄られるとちょっと怖い…。」

 

俺がちょっと顔を青くしながら言うと、皆俺から少し離れて聞く体勢になる。

 

「ふう…。まず、あそこでは魔法は使えず、もし使えてもせいぜい体の強化ぐらいしか出来ないと思う。だけど、魔道具なら別だと俺は考えているんだ。」

 

「でも、魔道具も大気の魔力を使うのでは?」

 

「俺もそう思ってたんだけど、ちょっとあの時を思い出してほしい。あの大規模封印術を使っている時でも近くにいた戦艦とかは動いていただろ?それから考えると魔力を溜めこんだ物ならあそこでも発動できるんじゃないかと思うんだ。もちろんずっとって言う訳じゃないと思うけど…そこら辺は込めた魔力次第だね。そこで俺は、こんな物を作ってみたんだ。」

 

そう言って皆の前にバスケットボールぐらいの大きさのガラスの玉を置く。

 

「これは……魔法球ですか?」

 

それを見たアルがタケルに質問する。

 

「正確にはもどきだけどね。もどきの理由は、時間はこっちと一緒だし、中にあるのもだだっ広くて真っ白な地面、そして入れる容量が決まっているってことかな?」

 

タケルがそう話した瞬間。アル・ゼクト・ガトウ・龍ちゃんから笑みがこぼれる。

どうやら俺がやろうとしている事がわかったみたいだ。

 

「なるほどのう。うまい手を考えたもんじゃ」

 

「確かにこの方法ならいけそうですね。」

 

「さすがだタケル!」

 

「わいは信じとったで!」

 

しばらくして、詠春さんも分かったのか頭を縦に揺らしながら何度も頷き、タカミチはガトウに答えを聞いていた。

そしていまだ分かってないのは体力馬鹿達。

というかラカン!お前馬鹿だけどさっしはいいほうだろうが!

 

「おい!何で俺達意外皆わかったような顔してるんだよう。ずるいぞ!」

 

「そうだぜ!さっさと説明しやがれ!!」

 

「つまりあそこにいる人とかは、コレに入ってもらって、大陸の外にもち運ぼうって言う事だよ。…たのむからコレくらい分かってくれよ。」

 

「「おお!!」」

 

ポン!と一昔前のリアクションをしながら頷く二人。

なんか懐かしいな…と思いながらも続きを話す。

 

「今の所コレ一個しかないけど、作り方は結構簡単だからゼクトとアル、そしてナギと一緒に今からできるだけ作る。特にナギは魔力が多いから、魔力を込めるのを手伝って欲しい。」

 

『わかった。』

 

「詠春さんとラカンはコレの材料の調達。後、コレを一度で一杯運ぶ為の箱か何かを探すか、作って欲しい。ちょっとやそっとの衝撃で、壊れるほど軟な作り方はしてないけど、できれば安全に運べるよう考えてくれ。」

 

『了解』

 

「龍ちゃんは、しばらく経ったら俺とオスティアに行こう。コレが本当に使えるか試さないと意味無いから。」

 

「まかせとき。」

 

「ガトウとタカミチはさっき言っていた事を頼む。それと、何時アリカ姫が動くか調べて欲しいかな?出来れば正確な時間を頼みたい。ギリギリまでコレを作っておきたいからね。」

 

「了解だ。」

 

「作戦はこれだけ。じゃ…ナギ後はまかせた。」

 

「おう…。まずこの事態に気付けたのも、方法とか考えてくれたのもタケルのおかげた。…ありがとう。」

 

ナギがそう頭を下げると、皆同じように俺に頭を下げる。

 

その状況がちょっと恥かしくて、くすぐったくて顔を背けるとナギがそれを見て少し笑う。

 

「はは…。さて皆!タケルのおかげでこのやべぇ状況でも何とかできそうだ!俺達はこんな状況で黙っていられるほど諦めがいいわけじゃない。そうだろ!?」

 

ナギの問いかけに皆頷く。

 

「へへっ…だったら…やってやろうぜ!俺達に掛かればどんな不可能な事も無いって事をダメ押しに皆に分からせてやろうぜ!…じゃ”紅き翼”…行動開始だぁぁぁ!!!」

 

オオオォォォォ………!!

 

ナギの合図で皆一斉に行動を開始した。

俺はまずラカンと詠春さんにどんな材料が必要か教え、実際に簡易魔法球に入って安全性を証明した。

その説明を聞いていた時、思わず皆が”やっぱりタケルはバグかもしれない…”とか言っていたが、コレをつくる事ぐらい皆出来ると思うんだけど…実際魔法球は売ってる訳だし。

 

「いや、あの短時間でこんなすごいもん作るからバグって言われるんやで?」

 

龍ちゃんが横で何か突っ込んでるけど今は気にしている暇は無い。

その後、簡易魔法球から出た俺は、アル達に作り方を説明し、まだ残っていた材料で作り始めた。

まぁ、予想していた通りだけど、ゼクトとアルは作り方を説明しただけで、さくっと作ってしまったが、ナギは不器用なのか正直あまりうまくない。

きっと、工作が出来ない人なんだろう…とりあえず魔力を込める事に集中してもらう事になった。

 

ある程度魔法球が出来た所で、俺は龍ちゃんと一緒にオスティアの近くまで転移して、上陸した。

ついでに少し空を飛んで、大陸の表面を確かめてみたが、今の所罅も入っていないみたいで、おそらくまだ大陸は持つだろう。なので、今の内に当初の予定通り簡易魔法球の実験をおこなう事にした。

結果から言えば成功。

中に入ってくれた龍ちゃん曰く、”ゆれとかもなく、快適やった。これで中に家と自然があったら文句無いわ”らしい。だけど、そんなもの入れたら、それこそすぐに要領がオーバーしてしまうので、そこはダメだとはっきり言った。

 

これで、あらかた救出の目処がたったが、正直これでも俺は足りないと思う。

崩落する大陸に何人、人が居るか正確には分からない。正直、全力で魔法球を作っても足りなくなるのでは無いか?とそう考えている。

もちろん、俺の取り越し苦労ならいいんだけど…最悪の事態は考えておくべきだろう。

”常に最悪を考えて動け”コレは戦争とかでよく使われる言葉だけど、常日頃からそう考えていても悪い事じゃないだろうと思う。

だから俺は、無理かも知れないけど、あるお願いを龍ちゃんにするのだった。

 

「龍ちゃん?」

 

「なんや?」

 

「今やっている事で全部丸く収まれば良いんだけど、最悪の状況…足りなくなる事も俺は考えたい。」

 

「せやな。常に最悪を…その考え方は良いと思う。それでどうするんや?」

 

「龍ちゃんにあることを頼みたいんだ。それは……………」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・

・・

 

「!!!!!タケやん?それマジでいっとるんか?」

 

案の定龍ちゃんが驚いている。

でも仕方が無い。それくらい無理難題を頼んでいるんだから…。

でもこの事がうまくいったら、ほぼ確実に助けられると思う。

 

「無理を言っている事は分かるんだけど、でもうまくいけばほぼ確実に全員助けられる。」

 

「そらそうやろうけど………。あんなタケやん?これは矜持の問題に関わるんやで?それ分かって話しとるんやろな?」

 

「もちろん。龍ちゃんに教えてもらったから知ってるよ。」

 

「…………わーった、わーった。話してみるわ。やけど、うまくいかんかも知れん事だけは覚えといてや?」

 

「わかった。」

 

「ほな。今から行って来るわ。」

 

「いってらっしゃい」

 

俺は龍ちゃんを見送ると、転移魔法でナギ達が居る場所へと戻った。

 

これで今打てる手はすべて打ったはずだ。

あとは失敗しないように、全力で準備をするだけ…。

 

どうか願わくば、皆が笑える明日が迎えられますように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

オスティア陥落まであとわずか…………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話:護れたモノ

すみませんがかなり長くなってしまいました。
分けようか考えたのですが、途中で切るのも微妙なので一気に投稿しました。

量の多さに疲れてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。


ウェスペルタティア王国の崩落を”紅き翼”が知ってから数日が経とうとしていた。

その間俺達は、順番に休みを取りながら簡易魔法球を製作し、俺が想像していたよりも多くの量産に成功していた。

龍ちゃんはといえば、俺が用事を頼んでからこちらには帰っていない。

他のメンバーが心配して俺にいろいろ訊いてきたが、”もしものために手をうってもらっている”と説明して、作業に戻ってもらう事にした。

皆、納得は出来てない感じだったけど、どうやら俺の事を信じてくれるらしい。

それはとてもありがたい事だった。

本来なら、龍ちゃんがやっている事を話しても良いのかもしれないけど、こればっかりはうまくいく保証なんて無いし、変な希望を持たせると今やっている作業にも支障が出るかも知れない。

だから今は黙っている。それに、反対される可能性もあるしね…。

そう言えば、街が俄に活気付いている事から、そろそろ記念式典が開催されるみたいだけど、正直俺達には出ている暇なんて無い。“少しでも多くの魔法球を…”今考えている事はそれだけだった。

 

そして今日も準備で一日が終わろうとしていた時、ガトウから緊急の念話が届いた。

 

どうやら、とうとうその時がやってきたようだ。

 

[タケル聞こえるか?]

 

[ん?ガトウか?聞こえているよ?どうしたの?]

 

[とうとうアリカ姫が動き出したぞ。今オスティアが出せるすべての戦艦を用意して大陸に向かうみたいだ。事情を知らない人には、復興のためと偽って行動している。……俺もそう言われた。どうやらごく一部で解決させようと本気で思っているみたいだ。…まったくなんて姫様だ。]

 

[了解。ならこっちも行動を開始する。転移魔法で近くまで行けばおそらく艦隊が着く前にはこっちの作戦を実行に移せると思う。ガトウはどうするんだ?]

 

[俺はこのまま隠れて戦艦に潜り込む。さすがにタカミチには荷が重いからこっちに残すつもりだ。]

 

[わかった。じゃ王都オスティアで逢おう。]

 

[ああ。]

 

ガトウとの念話を切り、近くに居るメンバーの顔を見る。

どうやら俺がガトウと念話している顔を見て、大体の事は把握したみたいだ。

 

「皆。とうとうアリカ姫が動き出したよ。ガトウは隠れてアリカ姫について行くみたいだ。」

 

「そうか。…でも何でアイツはガトウとかに相談しないんだ?相談した方がいいだろうによ…。」

 

「大体の予測はついてるけど、時間が勿体無い。とにかくこっちも行動を開始しよう。」

 

「そうですね。それで作戦ですが、簡易魔法球にどうやって人を入れるつもりですか?」

 

「それだけど、さすがに正直に話しても入ってくれないだろうから、アリカ姫の名前を使って見るのはどうかな?」

 

「というと?」

 

「”最終決戦の場になり、巻き込まれたウェスペルタティアの民にせめてもの償いとしてアリアドネーに招待したい”とアリカ姫が言っていたが、他の島々にも人がいて開会式に間に合うようにするには時間が足りない。なので効率を良くするためにこの魔法球に入って欲しい。…って感じはどうだろうか?」

 

「ふーむ。きわどい所じゃな。確かにウェスペルタティアの民達はアリカ姫に信望しておるからうまくいくかもしれんが、それをワシ達がやっている理由にはならんのではないか?」

 

「そこはアレだよ。”紅き翼”はアリカ姫の騎士って言うのは皆知っているだろうから、無理やり手伝わされたとでも言っておけばいいんじゃないかな?”お主等が手伝った方が早いじゃろ?”とかいいそうじゃない?」

 

俺がそう話すと、皆なんとも言えない顔をする。

多分簡単にその光景が想像できたのであろう…。

あの人ナギが騎士宣言してから、俺達を自分の手のようにコキつかっていたからな。

 

「……私達は簡単に想像できますが、ウェスペルタティアの民達がどう思うかは正直な所言ってみなければ分かりませんね。でもその案以外は思いつきそうにありません。それでいきましょう。」

 

「よし。後はあっちで臨機応変に対処するって事で何とかするか。それじゃ俺達も行くとするか。……ウェスペルタティアの民を助けによ!」

 

ナギがそう意見をまとめ、俺達は転移魔法でウェスペタティア王国の近くまで飛ぶ事にした。

時間はもう無い。

とにかく今は最善が尽くせるように頑張るだけだ!

 

 

【アリカside】

 

「姫様。今の所予定通りに進んでおります。我々が計算した所によると崩壊まで後三日。あちらにいる者からの報告によれば、予兆として小規模の地震が島々で起きているそうです。このまま行けばあと数時間で到着できると思います。」

 

「うむ。もっと速度を出せるなら出すように言っておいてくのじゃ。三日後と言うのはあくまで私達の予想でしかない。予定よりはやくなるかも知れない事を忘れるな!」

 

「はっ!……アリカ姫様。このような状況下の中、訊くのは間違っているかもしれませんが……なぜ”紅き翼”にも協力を要請しなかったのですか?あの者たちがいればもっとうまく事が運ぶのでは?」

 

「っ…!!それはならぬ。ならぬのじゃ。これは私達の問題じゃ。あの者達は関係ない。……もうよい下がれ!」

 

「はっ…。」

 

”紅き翼”に伝えるか……もう何度同じ事を聞かれたであろうか。

だが、決して教えるわけにはいかん。特にナギにはな…。

あやつがこの事を知ってしまえば、己の身も省みず助けようとするに違いない。

そしてナギに連れ添うように他の”紅き翼”のメンバーも無理をするだろう。

それは…つまりまたナギ達を危険に晒してしまうと言う事だ。

そう思って、長年仕えてくれたガトウにもこの事を伝えなかったのじゃ。

あやつはきっとナギ達に伝えてしまうだろうからの。

 

大体、ただでさえ”紅き翼”には圧倒的に戦力が足りない中、親玉を倒せと無理を言ったのだ。

その間私達は何をしていた?

身の危険が及ばない所で、頭の固い連中と話し合いをしていただけではないか!

体中に傷を負い、血を流し、常に死と隣り合わせの戦場で戦っていたあやつらにまた助けを請うのか?

”英雄”…”英雄”と周りは囃し立てるがナギ達も同じ人なのだぞ!?

私達と同じく血が流れ、私達と同じように泣き、私達と同じように………キズつくのだ。

もう良い…もう良いのだ。

彼らはもう十分この悲惨な戦争で心に体にキズを負ってきた。

それでも、いつも皆の先頭に立って戦い、他の人の気持ちを奮い立たせてきたのだ…。

 

今度は私の番だ。

今まで何もできなかった私が、今度はやらなければいけないのだ。

 

それに…………どうせ民をすべて助ける事は出来ない。

 

何度も考えたが、戦艦の脱出も考えた時間を入れたら、どうしてもまわりきれない島が出てきてしまう。

それでも何とかしようと、無理を通してアリアドネーで記念式典を行う事にして、少しでも民達をオスティアから遠ざけるようにした。だが、状況は思わしくなかった。

それならとすぐにでも戦艦で救出へ行こうとしたが、今度は議員どもが渋って今の今まで時間がかかってしまった。

 

私はなんて無力なのだ…。

 

だが、私に出来ることはまだある。

そう、民を助けられなかった愚か者として皆の非難を受ける事だ。

 

だがそこにナギ達がおれば、一緒になって非難を受ける事になる。

 

それはなんとしてでも避けたい。

 

あやつらは……”紅き翼”は真の英雄じゃ。

 

今まで何も恩返しが出来なかったあやつらに、私から送れる数少ない恩返し。

 

皆に崇められ、讃えられるようにし、これからをせめて幸せに過ごして欲しい。

 

あのとの事はすべて私が引き受ける。

 

だから”ナギよ…我騎士よ…

 

どうか気付いてもこちらにはこないでくれ。

 

私に出来ることはもうこれぐらいしか出来ないのだから………

 

 

 

「アリカ姫様!!」

 

「なんじゃ?」

 

「あの…本国から連絡が入りまして……それが…その…。」

 

「どうしたのじゃ?はっきり申さんか!」

 

「……オスティアに”紅き翼”のメンバーが現れたと言っております。」

 

「!!!!なんじゃと!!」

 

 

【ナギside】

 

「アル!そっちはどうだ?」

 

「あまり芳しくないですね。信じてくれる人がいるにはいるんですが、さすがに急だと準備に手間取っていますよ」

 

「そうか……まじいな。予定の半分も出来てねぇじゃねえか。」

 

そう言って俺は目の前に広がる光景に目をやる。

タケルが案を出してくれた作戦はひとまずは成功した。

姫さんの奴には、すこし申し訳ないことをしたかもしれねぇが…、どうやら俺達が思っている以上に姫さんの性格はウェスペルタティアの民に知れ渡っていたようだ。

……すこしは隠そうとしろよ。……姫なんだからよ。

 

それはともかく、簡易魔法球には不信がりながらも皆入ってくれてるみたいだ。

それもこれも、ここにいたオスティアのお偉いさんが、俺達の言葉を肯定してくれたからだ。

その時に、”ご協力感謝します。…ですがいつの間にここに来る事が決まったのですか?”

そう言われたが、とりあえずは適当にごまかしておいた。

……やっぱり俺達には伝える事無く、自分一人で何とかしようとしていたみたいだな。

まったく……何のために俺はお前の騎士をやっていると思っているんだ!

 

ザザ……ザザ……

 

ん?タケルに持たしてもらった通信機が鳴っているな。

最初はこんなものいらねぇとか思っていたが、貰っといて正解だった。

ここに来たとたん念話がうまく使えない。

話すことは出来そうだったが、いつもみたいに気軽に使えず、結構気を使わないと無理だ。

どうやらこれも大気に魔力が無い弊害って奴だな。

 

…とりあえず通信にでねーとな。

 

「こちらナギだ。どうした?」

 

「あーこちら詠春だ。こちらも兵士達が誘導を手伝ってはくれているが芳しくない。そっちはどうだ?」

 

「こっちも同じだ。今すぐ魔法球に入ってくれるやつは殆どいない。戦艦が着いたら少しは変わるかもしれねぇが……それだと間に合いそうにねぇかもな。やばいぜ?」

 

「……そうか。先ほどゼクトから訊いたんだが、予想以上に魔力の減りが早いみたいだ。さすがに民達に魔法を使うなともいえないから仕方が無いのかも知れないが…このままだと、ガトウが知らせてくれた予定よりはやく崩落が始まるみたいだ。…現にさっきから地震が頻発して起こっている。」

 

「っ…!!そうか。こっちは島が大きいせいか、まだそこまで地震は起こっていねぇ。とにかく、なるべく急ぐぞ。」

 

「了解。」

 

詠春からの通信が切れ、俺は考える。

 

このままだとさすがにやばい。

もう後、数時間もすれば戦艦が到着するだろうが、時間が足りなさ過ぎる。

今の所、民達の混乱はないみたいだが、いつ混乱が起こるかわからねぇ…。

 

どうする…どうすればいいんだ!

 

考えろナギ!

 

あきらめるなんて俺の辞書にはねぇ!!

 

だから考えろ!!

 

 

「ーーーぁ」

 

ん?なんだよ今俺は忙しいんだよ!

 

「ーーがぁ」

 

だからなんだよ?うるせぇな

 

「この馬鹿者がぁ!!!!!」

 

ゴチーーン!!!

 

「へぶっ!!!」

 

「ってえな!!なにしや……が…る。」

 

「それはこっちの台詞じゃーー!!!!!」

 

オイオイもう着いちまったのかよ。姫さんよう…。

 

【Another side】

 

「き…貴様という奴は何故ここにおるのじゃ!!」

 

「何故って…俺はお前の騎士になると誓ったはずだぜ?ならいるのは当然だろう。」

 

「お主は…ここがどれ…ムグゥ」

 

アリカ姫が、これから起こることを口にする前に、ナギが慌てて口をふさぐ。

 

(おい!お前こんな所で何を言い出すんだ!!パニックになっちまうだろうが!!)

 

ナギがアリカ姫だけに聞こえるように叫ぶ。

周りから見たらナギがアリカ姫を襲っているように見えなくも無いのだが、どうやら周りにいた民達は、じゃれているだけど勘違いしたのか、生暖かい目でそれを眺めていた。

ちなみに、なぜそう見られたかと言うと、ことあるごとにアリカ姫がナギを連れまわし、わがままを言っていたのを目撃されたからである。

 

「ムグームグー!!」

 

口を塞がれている為、何を言っているのか分からないが、どうやら文句をまだ言っているらしい。

言葉は分からないが、アリカ姫の目がそんな目をしていた。

 

(ったく。わかった。あっちで話し訊くからよ。今はとりあえず黙ってついて来てくれ。…たのむから黙ってだぞ。)

 

「……ムグ」(コクコク)

 

とりあえず頷く事で異論が無い事を伝えるアリカ姫。

それを確認したナギは、アルにしばらくここを離れると話して、アリカ姫を人気が無い場所へと連れて行った。

 

 

「……よし。ここなら誰もこねーだろう。」

 

そうナギがあたりを見渡しながら呟く。

 

「ムグームグームグー!!!」

 

「お?ワリィ…口ふさいだまんまだったな。」

 

ナギが今更気付いたように、アリカ姫の口から手を離す。

自由になったアリカ姫はよっぽど苦しかったのか、ゼーゼー息を荒げながらナギを睨みつける。

 

「お主という奴は……もっと早くに気付かぬか!!この馬鹿者!!」

 

「だから悪かったって言ってるだろ?…それより話はいいのかよ?」

 

あきらかに悪びれて無い表情をしながら、とりあえずアリカ姫を落ち着かせる。

そして、表情を真剣なものに変えアリカ姫を促す。

 

「そうじゃった…何故お主等がここにおるのじゃ?」

 

「なぜって……姫さんが一人で抱え込もうとしているもんを分けてもらいにだよ。」

 

「!!!……何のことじゃ?」

 

ナギの一言で表情が変わるアリカ姫。

だがそれも一瞬の事…すぐに普段通りの表情に戻しシラをきる。

 

「まだシラをきるつもりか?ウェスペルタティア王国が崩落する前に、少しでも民を避難させようっていう姫さんを助けにきたって言ってんだよ!」

 

「……何故その事を知っておるのじゃ!それはごく一部の者しか知らないはず…。」

 

「タケルのおかげだよ。…アイツが気付いてくれた。あいつがいなきゃ…今頃俺達は何にも知らないで騒いでいただろうさ。」

 

「…あやつがか……余計な事を…。」

 

チッっと舌打ちしながら呟く。

 

「…なぁ姫さん。何で一人でやろうとしたんだ?どう考えたって一人でやるのは無理があるだろうが?」

 

そんな表情を見ながら、ナギは今まで疑問に思っていたことを聞いてみる。

ナギ自身、一人で突っ走ってしまう事が多々あるのだが、この戦争を通じて仲間を信頼し、相談することを覚えたナギから見れば、アリカ姫の今の行動は昔の自分を思い出させた。

 

「…うるさい。そんなものわたしの勝手ではないか!」

 

その一言にナギは思わずカッとなる。

今言った一言はとても許せる一言ではない。

明日を生きたくても生きられなかった人達がこの戦争では多く出てしまったというのに、せっかく生きている人達を、事もあろうにアリカ姫は自分の感情だけで死なせようとしているのだから。

 

「……ふざけるなよ。お前の勝手って奴で死ぬ奴が増えるかもしれねーんだぞ?何をそんなに意地はってやがるんだ!!馬鹿かお前は!!」

 

「…………」

 

「っち!だんまりかよ。まぁいい…でもこれだけは言っておくぜ?俺はお前がどんな気持ちでいるかなんてわからねぇ…。だけどな、姫さんが守りたいって思っているもんはな、俺も守りたいってもんなんだよ!……俺だって一人で何でも出来ねぇ、現に他の奴らに助けてもらってばっかだからな。……だからせめて俺ぐらいには本心曝け出してくれよ。俺はあんたの騎士なんだからな!」

 

「/////////!!」

 

ナギがそう言って笑顔を見せると、思わずアリカ姫はそれに見惚れてしまう。

初めて会った時から、ある感情を抱いていたが、それがアリカ姫の心で更に大きくなるのを感じる。

もちろんその感情の意味する所は分かっているのだが、素直になれない性格と変なプライドが邪魔をして、ナギに伝える事は今までなかった。

無論このような事態になってしまってからは、もうアリカ姫から言うつもりはないのだが、それでもやっぱり自覚してしまう。

この人は自分にとって”特別な人”なのだと…

 

「そんじゃ俺は俺のやるべきことに戻るぜ?姫さんも、姫さんが出来ることをやればいいからよ!」

 

そんな事を思っているとも知らず、ナギはいそいそとその場を後にする。

そして一人その場に残されたアリカ姫といえば、走っていく後ろ姿を見ながら呟く。

 

「………馬鹿者が。私の気持ちも知らないで……ほんと馬鹿者が………じゃが………ありがとう。」

 

それはアリカ姫が自分の心のうちを始めて言葉にした瞬間でもあった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・

 

ナギとアリカ姫との会話が終了してから、一日が過ぎようとしていた。

ナギ達の読み通り、アリカ姫と連れてきた戦艦を見てから、ウェスペルタティアの民達は次々と簡易魔法球に入っていった。

それを見たナギ達は少しだけほっとすると、作戦を次の段階に以降した。

それは、要領がいっぱいになり、それがある程度溜まってきたら、小型の戦艦を使い、とりあえず近くの町まで輸送する。

というものだった。

当初それは秘密裏にガトウが用意していた船でおこなうつもりだったのだが、アリカ姫を交えて相談した所、アリカ姫達も協力することになったのだ。

ちなみにガトウの姿を見たアリカ姫が驚き、叱ろうとした所をナギが必死になって止めていた。

民達には”全員そろってから再度出発する”とアリカ姫が言い、今の所変な不信感は持たれていない。

だが、効率が上がったとしても、状況は芳しくなかった。

なぜなら思った以上に難民がおり、しかもここに留まると言い、その場から出ようとしないものがいるからだ。

そういった輩にはアリカ姫やナギ達自ら説得にあたり、何とか連れ出そうとしている。

さすがに”姫”と”紅き翼”に説得されればと…その場を離れようとするのだが、準備も何もしていなかったため更に時間がたった。

 

もうすぐそこまで崩壊が迫っているというのに…どうすれば!!

 

事情を知っている人達の心の中は全員一緒だった。

だが、こうする以外方法が思いつかず、内心焦りながらもとにかく行動をするのだった。

 

そしてその時はやってきた。

 

 

「姫様!民の移動ですが、今魔法球に入っているものも含めて、8割を超えました!」

 

「まだ8割しか出来てないのか…。」

 

船から出て自ら指揮を執っているアリカ姫に、側近からの報告が入る。

その報告を聞き、アリカ姫は目を細める。

今民達の前にいるため、露骨に表情を出さないが、内心かなり焦っていた。

 

思った以上に人の移動が遅い。

予定ではもうすべて移動できてもいいぐらいなのに…

やはり予想以上に人が多かったせいか…。

 

そんなアリカ姫の気持ちを察するように、側近は言葉を続ける。

 

「はっ!…ですが、予測の日まで後一日はあります。このままいけば問題ないと思いますが…。」

 

「それはそうじゃが……。」

 

側近の言葉に、心の焦りが少し治まったその時!

 

大きな音を立てて地面が大きく揺れだした。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

「!!!!これは…今まで起こっていた地震の比じゃない。」

 

「姫様大変です!!」

 

「なんじゃ!!」

 

「周囲を警戒していた戦艦からの報告ですが、ウェスペルタティア王国にある小さな島々が崩壊を始めたとのこと。ただし既にそこの住民は避難が完了しおり、人に被害は無いということです」

 

そう報告され、アリカ姫は瞬時に察知する。

ウェスペルタティア王国の崩壊が始まったと…

 

「姫様!」

 

「今度は何じゃ!!」

 

「たった今近くにいた戦艦から報告が来ました。この島のあちこちに罅が入り危険な状況とのこと!」

 

『!!!!!』

 

「民達の収容を急がせよ!魔法球にまだ入っていないものは遠くにおる者を除き、直接戦艦に誘導し収容する事。発進準備もするのじゃ!」

 

「はっ!!」

 

アリカ姫に連絡をしに来た兵はすぐさま、この命令を伝えにいく。

 

「…姫様。もうここは危険です。小型船に乗り民達とこの場からの脱出を…」

 

「ならぬ!私はギリギリまでここで指揮をとる!」

 

「ですが!!!」

 

「くどい!二度は言わぬ。それとこの事態をナギ達にも知らせよ。おそらくナギ達も、もう気付いておるじゃろうが、詳しい状況は知らぬはず…。そしてそのままナギ達を援護。急げ!時間は待ってくれぬぞ!!」

 

「…はっ!」

 

アリカ姫の剣幕に圧倒されながら、すぐさまナギ達がいるであろう場所へ走っていく。

そしてそこに残ったアリカ姫は、大きな音と揺れの中、毅然とした態度で指示を出す。

 

「皆の者落ち着くのじゃ。大丈夫、何も心配せずともよい。落ち着いて私達の誘導に従ってくれ。」

 

その姿にその場にいた民は、不安そうな表情をしながらも、特に大きな騒ぎもせず誘導に従うのだった。

 

アリカ姫が毅然とした態度をとって指示を出していた頃、いまだ多くの難民たちがいる場所で、誘導をしていたナギ達もまた異変に気付きながらも、自分達が慌ててしまったら余計混乱するだけだと思い、きわめて冷静に対処していた。

 

「皆落ち着いてくれ。確かにちょっと大きな地震だけどよ。なんてことはねぇ…こっちの指示にしたがってくれれば大丈夫だからよ。」

 

「そうですよ皆さん。せっかく姫様が終戦記念式典に招待してくれると言っているのです。たかが地震ごときで慌てて怪我をしてしまったら楽しめませんよ?」

 

その言葉を聞いた民達の顔に少し笑みがこぼれるのを確認したナギ達は、心の中でガッツポーズをする。

 

(よし。ここで暴れられたら間に合うものも間に合わねぇ。おそらく崩壊が始まったんだろう。ゼクト達が言っていたように予定よりかなり早いな。…でも後はここに残っている奴等だけだ。他の連中はもう移動し終わって、今頃姫さんの所で順番待ちをしているはずだ。ここさえしのげば大丈夫だ。)

 

するとそこへ、先ほどアリカ姫の所にいた側近が小型船に乗ってやってきた。

側近はナギの姿を確認すると、収容を他の人に任せて、ナギ達の下へ向かう。

 

「ナギ殿!」

 

「ん?オメーは確か姫さんの…。」

 

「はっ!側近のクルト・ゲーデルと言います。アリカ姫の命によりこちらを手伝うように言われました。それと……ちょっと耳を…。」

 

クルトにそう言われて、ナギは耳を貸す。

 

(この近くにいた戦艦からの報告で、周りの小さな島から崩壊が始まっております。そしてこの島にも多数の罅がはいており崩壊するのも時間の問題です。)

 

(なるほど。了解した。この辺に居る奴等は、全部ここに集まっている。今詠春とお師匠が見落としてないか確認に向かっている。)

 

(分かりました。ではこれより私も貴方の指揮下に入ります。)

 

「よろしく頼むぜ。じゃあっちの魔法球で誘導を手伝ってくれ。」

 

「わかりました。」

 

ナギにそう言われ指示通り動く。

それを確認すると、ナギはふと空を見上げる。

 

(後はこの島がどれだけ持つかが勝負だな。……そう言えばタケルどこ行ったんだ?最後の手をうってくるって言ってラカンを連れてこの場から居なくなったけどよ…。そろそろやばいぜ?…ま、信じているけどな)

 

そう思いながらナギは少し前のことを思い出していた。

それは地震が起こる前、この場にメンバー全員が集まった時突然タケルが言い出した事だった。

 

 

…………大地震が起こる数時間前。

 

 

「…悪いけど、今から俺はここをちょっと離れる。」

 

「はっ?いきなりどうしたんだ?お前にかぎって怖くなったとかじゃねーのは分かるけどよ。」

 

タケルがいきなり言い出した事に皆困惑する。

それを承知の上だったのか、タケルは大して弁解もせず話を続ける。

 

「皆結構前から龍ちゃんがいないのは知っているよね?」

 

「もちろんじゃ。ワシらがそれを訊いたらお主がもしもの時の為に動いてもらっていると説明していたではないか。」

 

「実はその事で、さっき龍ちゃんから報告があったんだ。その報告で、後もう少しでうまくいきそうなんだけど、自分ではこれ以上無理だと言われてね。応援に行きたいんだ。」

 

「…なるほど。でもそれはこっちをほっといてまで、行かなくてはいけないものなのですか?無理なら無理で龍ちゃんをこっちに呼び戻せは良いことじゃないですか?」

 

タケルが言っている事は皆理解できるし、今の状況じゃなかったら、二つ返事で了解した事だろう。

しかし、今はウェスペルタィア王国が崩壊するまでもう時間が無い状態。

流石の皆でも、そう簡単に了承する訳にはいかなかった。

 

「確かにそれを言われると困るんだけど、これがうまくいけば決定的な決め手になると思うんだ。ゼクトが言ったと思うけど、確実に俺達が予想しているより早く崩壊が始まると俺は思うんだ。」

 

「理由は?」

 

「地震の頻度とその強さ。そして予想以上に人が多い事…これが理由だよ。」

 

「地震とかについては納得できるけど、人が多いというのは何故なんだい?」

 

タケルが話した理由で引っかかる事があったのか、詠春が訊ねる。

 

「常日頃から皆魔法を多用しているからだよ。人が多ければ多いほど魔法を使う人が増え、その分大気中にある魔力を消費してしまう。火を熾したりするだけで大気の魔力を消費するんだ。特に難民たちは家が無いから、火を熾して夜を過ごしたはずだ。だったら予想以上に魔力が少なくなっているに違いない。」

 

「なるほど。そう言われれば納得できる。」

 

タケルの言い分はもっともであった。

そしてそれが本当に正しいのなら、大変な事だ。

なおの事、今タケルにここを離れる事を良しとする訳にはいかなかった。

 

そんな中、黙ってタケルの説明を聞いていたナギが、意を決したように呟く。

 

「…わかった。」

 

「ナギ!?」

 

「アル…。タケルが今まで俺達の期待を裏切った事があるか?タケルが言うんだからそれは必ず俺達の力になってくれる。だったら俺達は俺達が心底信頼する仲間を信じればいいだけじゃねーか?」

 

ナギがいった言葉によって、皆の表情に少し笑みがこぼれる。

今までいろんなピンチを迎えてきたけど、そのたびに自分達は仲間を信じてこれまでやってこれた。

しかも、ピンチにおいて一番頼りになるタケルがそういうのだ。

今更信じないという選択肢などありえない。

 

「…そうですね。分かりました。期待させてもらいますよ。」

 

「ありがとう。それと…ラカン?」

 

自分を信じてくれる皆に感謝しながらタケルは頭を下げた。

頭を上げた所で近くにいたラカンに声をかける。

 

「どうした?」

 

「ラカンも手伝ってくれねーか?多分ラカンの力が必要になるだろうからな。」

 

「お?いいぜ?どんな事やるかわからねーが俺様に任せな!」

 

ラカンまでいなくなる事に、少しこれからの事で不安を覚えた他の面々だったが、すぐに気持ちを入れ替え、タケル達を送り出す。

 

「よし。じゃいってこい!こっちのことは心配するな。そっちに集中して成功させろよ!」

 

「おう!」

 

元気よく返事をしたタケル達はすぐさま行動を開始して、その場を去っていくのだった。

 

 

………そして時間は再び現在へと戻る。

 

 

「ナギ!」

 

別の所で指揮を執っていたアルが、焦った表情でこちらに向かってくる。

 

「どうしたアル!」

 

その表情を見て緊急の要件だと察したナギは、ここの指揮を他の人に任せ、アルがここに来る時間さえおしいとばかりに、自ら向かっていく。

 

「大変です。魔法球が足りなくなりました。私達が予想していたよりも人が多すぎました。残りの魔表球の数を考えても、とてもすべて収容出来るとは思えません。」

 

「ちっ…マジか。」

 

「たとえ知っていたとしてもこれ以上は時間が足りなくて無理だったと思いますが…ナギの方はどうですか?」

 

悔しそうな顔をしながら話すアル。

その言葉にナギも悔しそうな顔をして答える。

 

「俺の方は今出ているので全部だ。こっちも全員収容する事はできねーが、後は小型船にギリギリまで入ればいけると思っていたんだが……クルト!!」

 

ナギがそう叫ぶと、同じく近くで作業をしていたクルトが、こっちに走ってやってくる。

 

「どうしましたナギ殿!」

 

「クルト、今から小型船…もしくは戦艦をこっちに向かわすことは出来るか?」

 

「えっ……無理です。小型船は今ここにあるので全部です。他はもう非難させるために発進してしまいました。先に到着したものも急いで下ろしているでしょうが、たとえ今から連絡を取ってきてもらうとしても、どう考えても間に合いません。戦艦はこちらよりも大勢を現在収容しているため、こちらに向かう余裕なんてないと思います。」

 

ナギがそう尋ねるとクルトは最初うろたえたが、気を取り直して報告する。

それを聞いてナギは更に顔を歪ませる。

 

「そうか……アル何か手はあるか?」

 

「残念ながら思い浮かびません。今私達が出来ることといえば、魔法球に収容できなかった人をギリギリまで小型船に押し込んで発進させる事だけかと。」

 

アルも悲痛な気持ちでナギに告げる。

そんな中、詳しい事情を知らないクルトがナギ達に尋ねる。

 

「あの…どうしたのですか?」

 

「良いか?良く聞きなクルト。俺達が用意した魔法球だが、数が足りなくなった。まぁ、予想を遥かに超えた人数だったせいなんだが…それは今更どうでもいい。それよりもだ!お前は今ある魔法球が一杯になったらすぐさま小型船に乗せ、そのままお前も乗ってこの場から脱出しろ。その際小型船に乗れる人はすべて乗せてだ。」

 

「!!!…分かりました。ナギ殿はどうするのですか?」

 

「俺達はこの場に残って、収容できなかった人達とギリギリまで救援を待つ!」

 

「そ…そんな。だったら僕も残ります!!」

 

クルトがそう俺に詰め寄るが、ナギの隣にいたアルがクルトの肩に手を乗せて目を合わせて諭すように話し出す。

 

「それはダメですよクルト君。貴方はまだ若い。こんな所で無理をする必要なんてありません。それにその歳でアリカ姫の側近をやっているのですから、優秀なのでしょ?ならなおの事無事にこの場から脱出しなくてはいけません。」

 

「そんな事ありません。それよりも貴方達こそこの場から早く脱出してください。もう救援なんて来る訳が無いじゃないですか!!貴方達は”英雄”なのですよ!?こんな場所で死んでいいはずが…」

 

「”英雄”か…いいかクルト?俺達は別に”英雄”なんて呼ばれたくて頑張ったわけじゃねぇ。もちろん言われるのは嬉しいけどな。…俺達は俺達がやりたいと思ったから…間違っていると思ったから行動しただけだ。それは今も変わっちゃいねぇ、だからここに残るのも俺達がやりたいと思ったからだ。…それに何を勘違いしているのか分からないが、死ぬなんてこれっぽちも思ってねーぞ?俺達にはまだ最後の手段って奴が残っているからな!」

 

「最後の……手段ですか?」

 

「おっと。それは教えられねぇな。なんせ取って置きだからよ。どうするか楽しみにしてな。……ほら涙を拭いてさっさと行動しな。時間は待ってくれねーぞ。……姫さんの事たのむな」

 

「ぐす……はい。絶対ですよ!楽しみにしてますからね!」

 

涙を乱暴に拭いて、クルトは今出来る精一杯の笑顔をナギ達に向け、その場を後にした。

それを見届けた後、アルはクスクス笑いながら俺に聞く。

 

「とっておきって…そんなものどこにあるんですか?」

 

「ん?あるじゃねーか。タケル達っていうとっておきがな!」

 

「そうでしたね。…ならそのとっておきを私達も楽しみにしておきましょうか。」

 

「だな。」

 

そう言って二人で笑い出す。

まるでピンチをピンチじゃないと感じるほど楽しそうな笑い声だった。

 

 

その頃アリカ姫が作業している所では、予定以上の人数に内心焦りながらも、なんとか近くに居る人すべてを収容する事が出来ていた。

 

「姫様!」

 

アリカ姫の近くで作業をしていた兵士が、報告に来る。

 

「なんじゃ?」

 

「ここにいるすべての人収容完了しました。念のため乗り遅れがいないか確認しましたが、漏れはいないそうです。」

 

「ナギ達がいる場所はどうなのじゃ?」

 

「そちらも先ほど避難所に向けて小型船が移動しているとの報告が入りました。通信する事はできませんでしたが、向かった小型船の数と一致したと言う事です。」

 

「そうか……何とか間に合ったか。…よし!私達もここから脱出するぞ!!」

 

『はっ!!』

 

アリカ姫の言葉で戦艦が浮上を始める。

周りにいた戦艦もそれを見て同じく浮上を開始した。

前もってすぐに移動できるよう準備をしていた為、遅れる戦艦はおらず、アリカ姫もそれを確認してほっと一安心した。

 

(良かった。何とか全員を助ける事が出来た。…これもナギ達のお蔭じゃな。まったく本当にたいした奴らじゃ。落ち着いたらこの功績も含め、改めて謝儀をしなくてはな…。ナギ達はいらないと言うかもしれんが、今回ばかりは、何が何でも受け取って貰うぞ?…お主達はそれほどの事をしでかしたのだからな。)

 

そう心の中で誓う。

その際、ナギ達が困惑しながら断っている姿を想像し思わず笑みがこぼれる。

他の皆も無事に助ける事が出来て笑顔だ。

 

そう……誰もが全員無事だと信じて疑わなかった。

 

ナギ達と収容できなかった人がまだ崩壊しかかっている島に残っている事も知らずに…。

 

 

アリカ姫が避難所に到着したのと時を同じくして、クルト達を乗せた小型船もまた避難所へと到着した。

それを確認したアリカ姫は、民の移動を他のものに任せて、自分はすぐさまその小型船へと向かう。

アリカ姫が小型船の前に到着すると、そこには自分の側近であるクルトが、兵士達に必死になって指示を出していた。

だが、普通ならその場所にいそうなナギ達の姿は見当たらない。

別の小型船に乗っているのかと思い、別の場所へと向かうがその場所にもナギ達の姿は見付けられなかった。

流石におかしいと感じたアリカ姫は、先ほど指示を出していたクルトの場所まで戻り、訊ねる。

 

「クルトよ。ナギ達の姿が見当たらんのじゃが、どこにおるのじゃ?」

 

「………」

 

アリカ姫に訊かれたクルトは、思わず視線を外して俯く。

その姿に最悪の事態が頭を過る。

まるでそんな事態を信じたく無いとばかりに、アリカ姫は再度訊ねる。

 

「黙っていては何もわからんではないか!答えよ!!」

 

「………ナギ殿達は収容しきれなかった民達と一緒にまだあの場所にいます。」

 

「…なんじゃと?…うそ…じゃよな?クルト嘘じゃと言うのじゃ!!」

 

クルトのいった言葉が信じられないとばかりに、肩をゆすって訊ねる。

その様子をおかしく感じた他の兵達も近寄ってくる。

 

「…本当の事です。最後の手段があると僕に伝え、その場に残りました。」

 

搾り出すように話すクルト。

それを訊いたアリカ姫はすぐさまその場から駆け出し、戦艦があるほうへ走り出す。

それを見たクルトは、アリカ姫が何をしようかすぐに分かり追いかける。

そしてアリカ姫に追いつくと、後ろから羽交い絞めにしその場にとどめる。

 

「どこに行こうというのですか!」

 

「決まっておるであろう!ナギ達を助けに向かうのじゃ!」

 

「ダメです。いくら戦艦だからといっても戻って来れません!」

 

「うるさい!離すのじゃ!やってみなくてはそんなものわからんではないか!離せー!!」

 

クルトを引きずりながらも戦艦へと向かうアリカ姫。

事情を知った兵士達もアリカ姫を押さえ戦艦へ向かわせないようにする。

 

「アリカ姫様どうかおやめください。」

 

「姫様を危険な場所へ向かわせるわけにはいきません。」

 

兵士達も口々にそう話すが、聞き入れることなく暴れて拘束を外そうとするアリカ姫。

そんな中、また一人の兵士が話す。

 

「大丈夫ですよ。あの人達は”英雄”ですよ?きっと…」

 

兵士に悪気はなく、少しでも安心してもらおうと思っていった一言だったのだろう。

しかし、その一言がアリカ姫を激怒させた。

 

「ふ…ふざけるなー!!!!!」

 

普段見せた事の無いアリカ姫の叫びに、思わずその場にいた全員の動きが止まる。

 

「確かにナギ達は私達が想像もできないほど強く、そしてどんな困難も乗り越えるほどの機転をもっておるじゃろう。だが!!私達と同じ人間なんじゃぞ!!”英雄”…確かにそう呼ばれるに相応しい人物じゃと私も思っておる。じゃが、ナギ達も攻撃を受ければ、血を流す。どんなに強くても死ぬ時は同じように死ぬのじゃ!”英雄”だから死なない?”英雄”だからどんな事があっても大丈夫?ふざけるな!何故ナギ達が”英雄”と呼ばれるか…それは困難にぶち当たり、死に掛けても、そこから気力を振り絞って立ち向かう…同じ”人間”だからそう呼ばれておるのじゃ!!お前達はそれが分からんのか!!!」

 

アリカ姫の叫びに全員が黙り込む。

アリカ姫を羽交い絞めにしていたクルトもまた同じだった。

 

「よいか!二度と”英雄だから大丈夫”などと思うな!」

 

そう言い切った後、アリカ姫は動く事の出来ないクルト達をその場に置いて、戦艦へと再び走り出す。

そんな時一人の若者が大声を上げてこちらにやってきた。

 

「大変だーー!!!大陸が……ウェスペルタティア王国が……崩れだしたぞーー!!!!」

 

『!!!!!!!』

 

それを聞いたアリカ姫は、戦艦の方からウェスペルタティア王国が一望できる場所へと向かう方向を変え、一目散に走り出す。

その場にいた人達も一斉に走り出し、その場所へと向かった。

 

そして目の前に広がる惨劇に言葉がでず、ただただ呆然とその光景を眺めていた。

 

 

「まに……あわなかった…。」

 

アリカ姫がその場に膝を付き、呟く。

 

「なぜ…じゃ…なぜなんじゃ!!!」

 

「何故ナギ達が死なねばならぬ!何故これまで命を懸けてまで戦った”英雄”が死なねばならぬ!」

 

その叫びに答えるものはいない。

 

「彼らがいたからこそ世界は救われた。彼らがいたからこそ、ここまで多くの民達を、この惨劇から逃す事が出来た!!」

 

「その彼らが何故!!!!」

 

その叫びは皆の心の叫びをまるで代弁しているようだった。

そんな中…膝を付いて泣き叫ぶアリカ姫の下に、近くにいたクルトは声をかける。

 

「アリカ姫様。お気持ちはわかります。…ですが、いまだ魔法球の中には外に出してもらうのを待っている民達がいます。そして今この光景を見て不安に駆られている民達を静めねばなりません。……つらいでしょうが、立って指揮を執って下さい。」

 

「……無理じゃ」

 

「姫様!!!」

 

クルトを見ずそう答えるアリカ姫。

それを見たクルトは思わず声を荒げた。

するとゆっくりと顔を上げてクルトを見るアリカ姫。

その顔は涙でぐちゃぐちゃになり、顔色も真っ青に、いつもそばで見ていたアリカ姫とは別人のようだった。

 

「無理なんじゃ!どんな顔で説明すればいいと言うのじゃ…私には分からん!私達はいち早くこの事を知っていたのに、ギリギリまで何もできなかった役立たずじゃ。それに比べてナギ達はこの事に自ら気付き、すべての民達を助けるために最善といっていい行動をとった。しかもギリギリまでその場で前頭指揮を執り、最後まで民達を思いこの事態と真正面から戦った。…そんなナギ達を助けられなかった愚か者に何が喋れるというのじゃ!!!」

 

そう泣きながらアリカ姫に言われ、かける言葉を失うクルト。

 

(くそっ!!!僕はナギ殿にアリカ姫を頼まれたんだぞ!!なのにこのざまはなんだ!何の為にここへ戻ってきたというのだ!自分はアリカ姫の側近…支える事が仕事なのに……僕は託された事も出来ないのか!?情けない…情けないぞクルト・ゲーデル!!!!)

 

悔しさのあまり握っていた手から血が滴り落ちる。

その瞳には涙を一杯浮かべていた。

そんな時……崩壊している島の方から何かの叫び声が聞こえる。

 

グオオォォォ……

 

ハッとなって、目を凝らして島の方を見ると、そこには小さな影が見える。

しかも最初は舞っていた土煙で一つしか見えなかったが、それが段々を数が増えていき、どんどんこちらに近づいてくる。

 

まさか幻獣が襲いに来たのか!?

 

そう思い、思わず身構えるが、次聞こえてきた声によってその想像は裏切られる事になる。

 

「おーーい!皆無事かーーー?」

 

お…おい…あれ……

 

お前にも聞こえるのなら俺の聞き間違いじゃねーよな…

 

ま…まさか……

 

その声に聞き覚えがあるのか、皆ざわざわと騒ぎ出す。

 

「あ…アリカ姫様……あれをご覧ください。」

 

震えるような声でクルトが喋ると、アリカ姫もクルトが向けている所に視線を移す。

 

 

するとそこには………

 

 

大きな籠らしきものを持ったドラゴン達と、その首辺りに乗っているナギ達の姿が目に入ってきた。

 

 

「お?皆流石に驚いているみたいだな。へへ…気持ちがいいぜ」

 

「まったく暢気ですね。…しかし私も気分は悪くないです。」

 

「にしてもまさか幻獣の背に乗れるとは…長生きはするもんじゃのう。」

 

「振動が腰に来て後が怖いな。…まぁ流石にそれは贅沢か…」

 

「流石タケルだな。まさかこんな体験をさせてもらうなんて夢にも思わなかったよ」

 

「HAHAHA!見ろよ人がごみのようだ!!」

 

「うわーラカン。この状況でそのボケはひくわー…めっちゃひくわー」

 

「って言うか何でそのボケをラカンが知っている!?なら俺も言わざるおえまい。あの呪文を…”バルs”」

 

バチーーン!!!

 

「言わせるかーい!!ていうか今の状況やとマジでそれっぽいやろーが!!!」

 

「いいツッコミだ龍ちゃん…だが何故お主がそれを知っている!!!」

 

まるで何てこと無かったかの様にドラゴンの上で騒いでいるナギ達。

籠からは乗り遅れた人達が顔を出してこちらに手を振っていた。

それを見てこちらの民達も手を振りながら歓声を上げる。

 

ワァァァァ…………

 

先ほどまで絶望の表情をしていたとは思えないぐらいの笑顔。

もちろんクルトも同じように歓声を上げて手を振っていたが、近くからすごい怒気を感じ、恐る恐る隣を見る。

するとそこには黒い瘴気を纏ったアリカ姫がいた。

 

「フフフ……」

 

「あ…アリカ姫様?」

 

「あの…馬鹿は……私が心配していたのも知らないで………」

 

その表情は笑顔のはずなのに目が笑ってはおらず、思わずその場から離れてしまう。

そしてナギ達に心の中で必死に叫び声を上げる。

 

(逃げてー!!ナギ殿逃げてーー!!…でもこれをなだめるの僕では無理だからやっぱり早く降りて来てーーー!!!!)

 

そんなクルトの叫びが聞こえたのか、ナギ達を乗せたドラゴンが近くの広い所に降り立った。

ドラゴンの背からナギ達は降りると、アリカ姫のいる場所へと向かう。

 

「へへ…姫さん。無事かよ。戻ってきたぜ?」

 

ナギが笑いながらアリカ姫に話しかけると、ビクッとアリカ姫の体が反応し、無言でナギの肩を掴む。

 

「姫さん?」

 

「無事でなによりじゃナギよ。…心配したんじゃぞ?」

 

「お…おう。ありがとな。」

 

普段見せないアリカ姫のしおらしさに、思わずナギは顔を真っ赤にしてうろたえる。

それを眺めていたメンバーは、ニヤニヤしながら事の成り行きを見守る。

だが次にアリカ姫がとった行動で皆ニヤニヤしていた顔が一気に引きつる。

 

ばちーーーーーーん!!!!

 

「へぶろはっ!!!!」

 

アリカ姫から繰り出される必殺の右張り手によって、ナギはぶっ飛ばされる。

 

それはまさに神速!

”紅き翼”のメンバーにもその軌道は見えなかった。

 

アリカ姫はぶっ飛ばされたナギに走って近寄ると、馬乗りになりながら、ナギの胸倉を掴みガクガクゆらす。

 

「…なんて私が言うとでも思うたかこの馬鹿者が!!大体なんじゃ!へらへら笑いながら帰ってきおって、私が流した涙を返せ!!心配した心を返せ!!!そもそも幻獣に助けてもらえるなら何故私にそういわんのじゃ!!!」

 

ガクガクガクガク………

 

「ちょ…姫さん…やめ……しゃべれ…………うっぷ」

 

「早く喋らんかーーーー!!!!!」

 

その光景を見て引きつった人達から、次第に笑い声が聞こえ始めあっという間に大爆笑の渦になった。クルトは必死になってアリカ姫を引き離そうとするが、ラカンによって羽交い絞めされ、もがいていた。

 

そんな事お構い無しにアリカ姫はナギをゆすり、ナギはゆすられて気持ち悪くなったのか、真っ青な顔をして口を押さえる。

 

その光景が更に、大きな笑いを呼ぶ事となり、アリカ姫の気が済むまで笑い声は治まる事は無かった。

なんともしまらない終わり方であったが、これも”紅き翼”らしいのだろうとタケルは思った。

 

 

こうしてウェスペルタティア王国崩壊と言う大惨事は、一人の犠牲者……いや真っ青になった一人の犠牲者を出しただけで、終りを告げた。

 

 

 

まさに奇跡と言うほかは無い。

 

 

 

 

この功績により、更に”紅き翼”の名声は広まるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話:ネタバラシ

ウィスペルタティア崩落から一夜明け、俺達はまた皆無事で、アリアドネーに帰ることになった。

あの後、アリカ姫は避難した人達に真実を伝え、”今まで黙っていてすまなかった”と全員の前で頭を下げた。その光景を見て皆驚いていたが、謝罪する時はしっかりと謝罪をするのが上に起つ王族として必要な事で、名君としての器だと俺は思う。

頭を下げられた民達と言えば、話の最初こそ非難をアリカ姫にぶつけていたが、最後アリカ姫が頭を下げる頃には、アリカ姫にお礼の言葉を次々と投げかけていた。

 

それから、正式にアリカ姫達から俺達に向けてお礼を言われたが、ナギが代表で”俺達は俺達がしたいと思ったから勝手にやっただけだ。”と言っていた。

案の定、周りから歓声や黄色い悲鳴などが飛び交っており、やっぱ主役になれる奴は違うなぁ…と一人でどこか納得していた。

ただ…男の俺からしてもかっこいいと思わせるとは……反則だよな。

 

そんな事があってからしばらく経ち、今はアリカ姫も含め俺・龍ちゃん・ラカンが何をやっていたかの報告会…と言う名目の断行裁判が戦艦の中で開かれていた。

 

「さてタケル?そろそろ教えてもらえませんか?何故幻獣達が力を貸してくれたかを…。」

 

「それと、今もこうして一緒にアリアドネーに向かっておる理由もじゃな。」

 

もう当たり前となっている、進行役のアルとゼクトの最年長組がまず話を切り出す。

そのほかの皆は、俺達を囲んで逃がさないようにしていた。

そんな事をしなくても逃げる気がないので、正直やめて欲しいんだけど?

威圧感がハンパ無い事になってるから…。

 

「分かったから。だから正座やめてもいい?てか何で正座?」

 

「ワイ虎なのに正座しなあかんのか?人よりきついんやけど…」

 

「なんで俺様まで!」

 

「ああラカンはついでだ。それとドラゴンの上で馬鹿な発言をした罰でもあるがな。」

 

「ちくしょーー!!」

 

「ちなみにタケルと龍牙。崩すのはすべて話し終えた後だ。あと正座なのは、ギリギリまで私達に黙っていた罰だ。」

 

詠春さんに、とてもいい笑顔でそう言われ、これ以上話しても無理だと悟った俺は、正座のまますべてを話すのだった。

 

「まず、ぎりぎりまで龍ちゃんが居なかった理由だけど、それはウィスペルタティアに住む幻獣にコンタクトを取って、協力を取り付けるためだったんだよ。」

 

「ワイ達がウィスペルタティアで、簡易魔法球が使えるかどうか確かめに行った日の事や。」

 

「あの時か…しかしなぜわざわざ幻獣に?保険をかけるならもっと別な方法もあったでしょう。」

 

「出来れば幻獣達も助けたかったからさ。」

 

アルの質問に俺が答えると、全員の頭からクエッションマークがうかぶ。

 

「どういうことだよそれ。」

 

「確かに、もしもの為に幻獣の力を借りたいと思ったのは事実だけど、それだけじゃないんだ。もしあのまま幻獣達にコンタクトを取らなかったら、十中八九あそこにいた幻獣は全滅していたんだ。」

 

「まて!幻獣達なら自分達で勝手に避難するんじゃないのか?空を飛べない奴は分からなくもないが…。」

 

詠春さんが言う事はもっともだった。

私達人間と違って、幻獣には魔法を使わずともその場から避難できるだけの力を持っている。

それこそドラゴンなど羽をもっている種族であれば、空を飛べばいいことだ。

詠春さん達が疑問に思うのも無理は無かった。

 

「詠春はん、それは勘違いしとるで?幻獣達は避難なんかせいへん。なぜなら、幻獣は自然に逆らう事は絶対しんのや。だから、その場が滅びるならそれに逆らわず一緒に滅びる。人が侵略してきて、その場が滅びようとしているなら別やけどな。今回は人が直接関与したのが理由やけど、幻獣達はその事を知らん。魔力が無くなったのは、あくまで自然現象やと思ったはずや。実際ワイと話した時もそう言っとったからな。せやからワイが話しするまで、島と一緒に滅びるつもりやったみたいや。」

 

「そうだったのですか…。でもなぜ危険を冒してまで幻獣を助けるのですか?」

 

「今回のことは人が100%悪い。そんな人の勝手な都合で死なせたく無かった。っていうのが一つ。もう一つは龍ちゃんと俺の共通の夢のためだ。」

 

アルの疑問に今度は俺が答える。

それは、自分が望む理想であり、最初に神と約束したハッピーエンドの最終的な形でもあった。

 

「夢?」

 

「うん。前に龍ちゃんが話してくれたんだけど、”いつか俺と龍ちゃんみたいに人と幻獣が互いに助け合いながら笑い合える未来が来るとええな”って言ってたんだ。俺もそれに賛同したんだよ。確かに幻獣の中には、人を襲う者も沢山いる。でもそれは、人が無理やり住処を犯したせいだったり、必要に駆られて止むおえず襲ったりした結果なんだ。」

 

「どういうことじゃ?」

 

ナギ達の頭に、またクエッションマークが浮かぶ。

人にとって幻獣とは災害や言葉は悪いが害虫と同じ様なもので、人を仇名す者と言うのが共通の認識だったからだ。

もちろん龍ちゃんを見てからと言うもの、その考え方は変わってきており、幻獣の中には話し合いが出来る奴がいるぐらいまで改善はされているが、やはり最初からある常識を全否定するのは難しいだろう。

 

「皆が幻獣の事をどう思っとるかは、だいだいはわかっとる。でもそれは殆ど間違いなんや。幻獣は皆争いなんて好かん。今おる場所で穏やかに暮らしとる。その世界を壊されん限り何にもせいへんのや。大体ワイみたいに言葉を喋れる幻獣は沢山おるんやで?もちろん頭がええ奴もおる。そんな奴がわざわざ争うまね何かするわけ無いやん。」

 

「つまり幻獣は、己の住処と身を守る為だけに戦うと言うわけじゃな。」

 

龍ちゃんの説明で、他の皆は幻獣と言うものがどういったものかを大まかに想像することが出来た。

幻獣は人と同じようなものなのだ。

人はある程度人数が集まると、その中で取りまとめる長が誕生し、小さいながら国が生まれる。そして身の安全を守るため外から来るものには警戒を…そして攻めて来るのなら迎撃するものである。

人と違う所といえば、欲望のまま他の国を侵略しないと言う事だろう。

もしかしたら縄張りを持つ動物に近いものかもしれない。

 

「そうや。なのに幻獣だからと言ってむやみやたらに怖がり、人から攻撃を仕掛けてくる。だからやむなくこっちも攻撃を仕掛けなあかんと言う訳や。」

 

「耳が痛い話ですね。確かに幻獣=危険と勝手に判断してしまいこちらから攻撃を仕掛けています。人とは本当におろかな存在ですね。」

 

「なるほどな。もし俺もその話を聞いていたらタケルと同じように助けにむかっただろうな。」

 

「わたしもじゃな。」

 

説明したおかげで、どうやら俺達の気持ちを分かってくれたようだ。

できれば俺達の夢に賛同してくれれば嬉しいけど、流石にそこまで求めるのは都合が良すぎる。

今は幻獣に対して変な偏見をなくしただけでも良しとしないと。

ここからは時間が解決してくれる問題だと思うから…。

 

「ま、そんな理由で龍ちゃんには説得に言ってもらったんだよ。」

 

「最初はもちろん頷いてくれんかった。まぁ…当たり前やけどな。自然と共に生きて、自然と共に死ぬ…コレが幻獣の生き方でもあり矜持なんや。”自分達は豊かな自然の恩恵を受けて生まれ、生きていける、住まう大地に尽くし、感謝する事こそ我らにとって何よりも重要な使命であり、生きがいなのだ”ワイも生まれたばかりの頃よく言われたわ。その気持ちは今も変わってへん。」

 

「・・・・・・・・・・」

 

皆言葉を発することが出来なかった。

それほどまでに龍ちゃんの言葉は重く、響くものだったからだろう。

 

「それでも今回の事で一緒に滅びるのは、ワイも納得できんから必死に説得した。”一緒に死ぬ事がだけが、尽くす事じゃない。自然の恵みによって生まれてくる子供達を守る事もまた尽くす事ではないか?”ってな。それを聞いて、何とかあそこを避難することは納得してくれたんや。でもや、人を助けるという事にはまったく賛成してもらえんかった。皆”人間なんて信用できない””なんで助けないといけないのだ”っていってな。」

 

「今までの話を聞くとそれも当然といった所ですね。彼らからしたら、私達は平和に暮らしていたのに、いきなり攻撃をしてくる侵略者。さらに言うなら、この大地を壊した張本人でもあるのですから。」

 

「そういうことや。そんでもギリギリまで幻獣達を説得してな。その甲斐あって、ある条件を出されたんや。」

 

「条件?」

 

「そう。ワイが心底信用しとる人間…この場合は相棒のタケやんの事やけど、その人間を連れてきて話をさせろ。それが条件やった。ワイがあまりにも人を擁護するもんやから気になったんやと思う。だからこの条件をだしてきたんやろうな。」

 

「そのことを聞いた俺は、龍ちゃんの下に向かったって訳。ちなみにラカンを連れて行った理由も、ラカンなら幻獣だからって変な目で見ることはないと思ったからだ。なにせ龍樹の友達がいるくらいだからね。」

 

「なっ!ラカンそれは本当ですか?」

 

皆案の定ビックリしている。

俺は原作でそんな事書いてあったのを知っていたため、そこまで驚く事は無かったけど、それでもラカンから聞かされた時はマジだったんだ…ってちょっと引いた記憶がある。

龍ちゃんも同じ感じだった。

強さも位もあきらかに龍樹の方が上なため、龍ちゃんからしたらかなり驚く事なのだろう。

まぁ今龍ちゃんと龍樹が戦ったら、勝てなくてもラカンと同じく引き分けにはもっていけると思っているけど…。

 

「本当の事だぜ?お前達と旅をする前に一度やりやった事があってな。そんときに仲良くなった。それ以来飲み友達だぜ。」

 

「なんと…流石”紅き翼”じゃな。私の常識をかるく覆してくれるわ。」

 

アリカ姫がそう言ったが、勘違いしないで欲しい。

これに関してはラカンが異常なだけ。

普通ありえないだろ?

人同士なら喧嘩して仲良くなったって話は良く聞くけど、幻獣でなんて……。

あ、そういえば俺も龍ちゃんと喧嘩して仲良くなったもんなのか?

……俺も大概常識外れなんだなぁ。

 

「ま、そんな理由で着いて来てもらった訳。それで俺とラカンがその長らしき幻獣…今横を飛んでいるドラゴンと話してね。協力してくれるって言ってくれたんだ。」

 

「えらく簡単に信じてもらえましたね…。」

 

「そこについては俺も判んない。ただその長としばらく見詰め合って、その後力を見せてたら急に笑い出して、力を貸してやろうって言ってくれたんだよ。」

 

「力を見せる?……戦ったのか?」

 

「戦ってはいないよ。ただ普段抑えてる気とか魔力を解放しただけ。それを見たらだから…何か感じるものがあったのかも知れない。詳しくは時間も無かったし聞いてないよ。」

 

案の定、皆疑問に思っているよな。

正直俺も訳がわからない。

龍ちゃんから、幻獣の事少しずつだけど教えては貰っているけど、まだまだ分からない事ばっかり。

それに幻獣は、種族によって色々違ってくるし、それを全部把握するのにはかなり時間がかかると思っていいと思う。

だって、聞いただけじゃ数百種類いるらしい。

いくらなんでも、全部覚えきれるとは思えない。

 

「龍牙は何か思い当たる節とかは無いのかい?」

 

少しでも疑問を解決させようと、詠春さんが龍牙に聞いてみるが、龍牙も困った表情で頭をかく。

 

「と言ってもやなぁ…。そもそも龍族と虎族はあんま仲良うないねん。と言っても交流が少ないってだけで、敵対してるって訳や無いけど。それもこれも、その場所の長は大体龍族か虎族になる事が多いからな。そのせいもあるんよ。」

 

「へぇ…そうなのか。」

 

「んで、質問の答えやけど…。確か龍族には、その者の気や魔力を感じる事で善悪を見分ける事ができるらしいわ。それが本当かどうかは分からんけどな。ちなみに虎族の場合は匂いでそれが出来る。まぁこの場合匂いというのはワイらの感覚でなんやけど、多分雰囲気的なもんと考えてくれてええと思う。」

 

「それは興味深いの。時間が出来たら幻獣について調べてみるのもおもしろいかもしれん。」

 

龍ちゃんの話にゼクトが興味を持ったみたいだ。

まるで、子供が新しい玩具を見つけたように、好奇心満々といった目をしている。

まぁ…見た目からして子供なんだけど、それは今言わないほうがいいだろう。

 

「それで話は戻るけど、幻獣が力を貸してくれるのはきまったんだけど、それに対して条件があったんだよ。」

 

「条件じゃと?なんじゃそれは?」

 

条件と聞いてアリカ姫が身を乗り出す。

この中だけで、その条件を満たせるのならそれでいいが、それが無理だとした場合。

あちらの条件をクリアできそうなのは、王女としての肩書きを持つアリカ姫しかいない。

それを分かってか、真剣な表情でタケルを見つめる。

早く続きを話せと目で訴えてきた。

 

「これはアリカ姫の力も借りないとできない条件だと思うけど、新しい住処を用意して欲しいって言われたんだ。」

 

それを聞いた瞬間、皆の表情が少し曇る。

 

「それは……でも当然ですね。」

 

「今の私にそれが出来るかといわれれば難しいとしか言えんのじゃが…それぐらいなら何とかしてやりたい。彼らがしてくれたことに対する謝儀としてはむしろ少ないくらいじゃと思うぞ。」

 

「まぁ、いざとなったら俺の魔法球の中とか、テオドラに頼んでみるとか色々考えてはいるんだけどね。」

 

「なるほど。確かに帝国の土地は自然が多い。ある程度縄張りなどあるじゃろうが、幻獣の住処としては最適じゃな。」

 

「まぁそういう訳なんだ。説明も終わったし正座崩してもいいよね?」

 

「ん?まぁ…いいだろう。」

 

そろそろ本格的にきつくなったので、俺は詠春さんに確認を取って、俺達はやっと正座から解放された。

龍ちゃんはよっぽど苦しかったのか、その場に寝そべってぐてーっとなっている。

と言うか、虎なのに正座できる龍ちゃんがおかしい思う。

今更ながら漫画の世界なんだなぁ…としみじみ思った。

 

その話から数時間が経過した所で、俺達はとうとうアリアドネーへ帰還することが出来た。

犠牲者を誰一人出すことなく、しかも助けたかった幻獣も助ける事が出来た。

まさに大団円という所だ。

さらに嬉しい事が一つ。

龍ちゃんから幻獣の話を聞いたアリカ姫が、俺達の夢である幻獣と共に暮らす世界を真剣に考えてくれた事だ。

幻獣の思い、その矜持に深く感銘を受けたのか…あの話の後、龍ちゃんをつかまえては幻獣について色々教えてくれと頼んでいたみたいだ。

龍ちゃんもその気持ちが嬉しいのか色々話をしたらしい。

 

もう既に自分が知っている未来と違うのでコレからどうなるか分からないが、俺はそれでいいんじゃないかと思っている。

 

自分の進むべき道は、先が見えないからこそ面白い。

 

今になってそれを感じる事が出来た。

これからかなり苦労するとは思うけど、それもまた面白いと思う。

 

本当にこれからが楽しみだ。

 

 

 

 

そう思っていた矢先の事だった…

 

 

 

この平和を楽しんでいた俺達の元に最悪と言っていい知らせが舞い込んできたのは…

 

 

 

「大変です!!アリカ姫様が国家反逆罪、さらにこの大戦を引き起こした首謀者として逮捕されました!しかも何故かあっという間に裁判が終り…判決は死刑。ケルベラス無限監獄に二年収容した後、処刑されるとの事です!!!!」

 

 

『!!!!!!!!!』

 

 

どうやら、俺達は平和を楽しむ事さえ出来ないらしい…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話:別れ

「……ふ…ふざけるなぁぁぁ!!!!」

 

報告に来た兵士に対し、ナギが大声を上げながらつめよる。

報告に来た兵士は、ナギに首元をつかまれ持ち上げられ、小さくうめき声を上げる。

普段なら詠春さんやアルがそれを止めるはずなのだが、二人とも報告の内容に衝撃を受けてしばらく動けなくなっていた。

ここにいる誰もが、その報告を信じたくないようでしばらくその光景を眺めるだけになっていた。

 

しばらくして、やっと意識をとりもどした詠春さん達によってナギと兵士が引き離される。

 

「すまない…。大丈夫か?」

 

解放された兵士は息を荒げながら、地面に膝を付いているとガトウが心配して兵士に声をかける。

 

「ごほっ…ごほっ…だ…大丈夫です。それに謝られる必要はありません。いきなりこんな事報告されればこうなる事は予想できました。」

 

「そうか…。ありがとう。……さて詳しくその事を教えてくれるか?」

 

「はっ…了解しました。」

 

そう兵士が言うと、立ち上がり姿勢を正してナギ達に説明をするのだった。

 

 

事のあらましはこういうことらしい。

 

アリアドネーへ帰還したアリカ姫は、まず議員達を招集してこれからの事について話し合いをする予定だったそうだ。

そして、会議の日。

議員達は全員招集していたのだが、その場にはいるはずの国王の姿が見えない。

コレについては一緒に会議に参加していたガトウも確認していた。

疑問に思ったアリカ姫は、議員達にそのことを聞くと、どうやら国王は体の調子が悪いらしく、この場にはこれないらしい。なので、ここで決まった事を後から報告に来て欲しいと言われたそうだ。

その旨を聞いてアリカ姫は会議を始め、それが終わった後、話し合った事や決まった事を国王に報告に行った。

 

事が起こったのはその後。

アリカ姫が、国王がいる部屋へ報告に行き、部屋の前でノックをしていたのだが、返事が無い。不信に思ったアリカ姫が中を確認しようと部屋に入った後、いきなり悲鳴が聞こえたそうだ。その悲鳴を聞き何事かと思った兵士が部屋に入るとそこには血まみれになって地面に倒れている国王と、それを必死になって起こそうとしているアリカ姫の姿があったらしい。

 

それを見て、しばらく兵士達が呆然としていると、騒ぎを聞きつけたのか、議員の一人がここへ入ってきて状況を確認。いきなりアリカ姫を国王暗殺の容疑者として逮捕したそうだ。

アリカ姫は動揺していたのか、たいした抵抗せず逮捕。その後すぐにでも裁判が開かれその結果先ほど報告してくれた状況になってしまったと言うことだ。

 

 

「いや。ちょっと待ってくれ。国王が死んだのはまず間違いないのだろうが、何故それでアリカ姫が逮捕される事になるんだ?」

 

皆が疑問に思っていることを詠春さんが口にだす。

事情を説明してくれている兵士もその疑問は予測済みだったのかスラスラと話し出した。

 

「はっ…。それについてなのですが、裁判に立ち会った兵士達の話を聞くと、アリカ姫と”完全なる世界”との繋がりを記した書類や、国王を殺害したと思われるナイフがアリカ姫の部屋から次々と見つかったそうです。それともう一つ。何故かアリカ姫がその場で弁明をしなかったそうです。なのであっという間に裁判が終り、刑が決まったということらしいです。」

 

ありえない。

 

ここにいる全員がそう思っただろう。

 

大体アリカ姫は俺達”紅き翼”と一緒に行動をしていたし、むしろ俺達の弱みとして”完全なる世界”から何度も襲撃を受けているのだ。

それがフリだったという可能性も確かに無くは無いが、それはあまりにも暴論だろう。

第一アリカ姫が”完全なる世界”と結託するメリットなど無い。

 

だがそれよりも気になるのは…。

 

「…なぜアリカ姫は弁明をしなかったんだ?」

 

タケルがそう呟いた。

 

そう。

 

何よりもおかしいのは、アリカ姫が弁明をしなかった事。

たとえ証拠が色々出てきたのだとしても、それを否定する事ぐらい簡単に出来るだろう。

特にアリカ姫の部屋から出てきたナイフ。

これが一番怪しい。

王がいる部屋に、アリカ姫が入ってすぐに悲鳴が上がったと、この兵士は言っていたが、もし見つかったナイフで殺されたのなら、流石に争った音が聞こえてくるはずだし、王だって抵抗出来たはずだ。しかも凶器はその場に無いとおかしい。

しかし聞こえたのはアリカ姫の悲鳴だけと言っていた。

コレはあきらかにおかしい。

 

今この短時間でコレだけの矛盾が思いつくのだ、アリカ姫だって当然思いついただろう。

 

だからこそ分からない。

なぜアリカ姫が弁明をしなかったのかを……。

 

皆アリカ姫の奇妙な行動について頭を悩ませていると、先ほどまで呆然としていたナギが呟く。

 

「……ここで考えててもしょうがねぇ。直接アリカ姫のとこに行くぞ!」

 

 

 

三人称side

 

それからの紅き翼の行動は早かった。

すぐさま泊まっていた宿から出ると、アリカ姫がいると思われる建物へと向かっていく。

 

今は一刻も早くアリカ姫に真実を聞かねば…

 

皆考えている事は一緒だった。

その中でもナギはその思いが強いのだろう…ここにいる誰よりも必死な表情で飛んでいる。

まるで、さっきまで聞かされたことを信じたくない!何かの間違いだ!

そう自らに思い聞かせるかのように。

 

もしからしたらそれは当然の事なのかもしれない。

誰よりもアリカ姫と一緒に行動し、その姿を見続けてきたのだ。

そして自分の杖と翼を預けると、唯一誓った人物なのだから。

 

しばらくして、アリカ姫がいると思われる建物に着いたのだが、そこには最低限の兵士しかおらず、アリカ姫の姿はどこにも居なかった。

その場に居た兵士に、アリカ姫がどこに言ったのか聞くと(脅して聞き出すと)どうやらもうこの場を去り何処かへ護送するため空港へと連れて行かれたらしい。

 

それを聞いて、今度は都市の外れにある空港へと飛ぶ。

 

どこに行くかはわかっていないが、おそらく船に乗り込んでしまったら刑が執行されるまで普通には逢う事が出来ないであろう。

 

だからこそ急がなくてはいけない。

 

急いで、急いで、急いで……

 

なぜこんな事になったのかアリカ姫から聞き出さないくてはいけない。

 

だから今はとにかく全速力で飛べ!

 

皆考えている事は同じだった。

 

すると、目の前には空港が見えてきた。

目を凝らして見ると、その中でも一番豪華な船に誰かが乗り込もうとしていた。

 

アリカ姫だ。

 

”紅き翼”のメンバーは、アリカ姫の姿を確認するとそのすぐそばに降り立ちアリカ姫の下へと走る。

しかし、その歩みはとまってしまう。

なぜなら、悲痛な顔をしながらアリカ姫が”紅き翼”に叫んだからだ。

 

「来るなーーー!!!!!!」

 

 

タケルside

 

やっとの思いでアリカ姫の所へ着いたというのに、俺達に待っていたのはアリカ姫の”来るな”という叫び声だった。

何故?

そんな言葉が頭の中をぐるぐると回り、思わず足が止まってしまう。

あたりを見渡せば、同じように皆その場で立ち止まってしまっていた。

 

一瞬、時が止まってしまったかのように誰も動かない。

そんな中、ただ一人動く事を許されたかのように、ナギがアリカ姫へと近寄っていく。

 

「来るなといっておるじゃろうが!!」

 

近寄ってくるナギに向かって、アリカ姫がまた叫ぶが、ナギは少し困った顔をしながらも近寄っていき、手を伸ばせばアリカ姫に触れる事が出来るくらいまで近寄ると、自分の頭をかきながらアリカ姫に語りかけた。

 

「なぁ…何そんな怒ってるんだよ。それによ、聞いたぜ?父親を殺したらしいじゃねーか。しかも”完全なる世界”と繋がっていたというオマケ付きでよ。……一体何があったんだ?」

 

ナギの言葉に何も答えないアリカ姫。

すると近くに居た、男が答える。

その身なりからして、かなりの権力を持った人物…多分元老院だろう。

どうやらいきなり俺達が現れた為少々驚いているようだった。

 

「ふ…ふん。何があったかなど明白だろう。この者は自らの欲望の為に戦争を引き起こし、影で操っていたのだ。それはこの者の部屋からも証拠が出てきている。しかしその戦争では王は死なず、自らの立場も変わらなかった為、王を殺すという暴挙に出たのだ。」

 

「……なぁホント何があったんだよ。答えてくれねーのか?」

 

しかしナギは、その男の言葉を無視し再度アリカ姫に尋ねる。

だがアリカ姫は、視線をナギに合わさず、黙ったままだった。

 

「だから言っておるだろうが!この者は…」

 

無視された事を怒ったのか、少し声を荒げながら話す。

しかしそんな言葉を遮ってナギが叫んだ。

 

「うるせぇ!!!お前になんか聞いてねーんだよ!俺は姫さんに聞いてんだ!黙ってろ!!」

 

「な…なんだと。…こ…この私を誰だと……な、何をしておる!今すぐこの者を……」

 

「何をやっておるかナギよ!!何故そなたがここにおるのじゃ!!」

 

元老院の男が回りに居た兵に指示を出そうとした瞬間、まるでそれを遮るかのようにアリカ姫がナギに掴みより声を上げる。

それを見て少し嬉しそうな顔をしながらナギが笑う。

 

「やっと目を見て喋ってくれたな。ようやくいつもの姫さんが戻ってきたみたいだ。」

 

「そんな事はどうでも良い!それよりも何故ここに来たのじゃ!」

 

「だからさっきから言ってるだろ?姫さんが捕まったって聞いたから急いで来たのさ。俺は姫さんの騎士だぜ?誰がなんと言おうと姫さんの言葉を信じる。だから何でこんな事になってるのか聞きに来たんだよ。」

 

ナギに真正面からそう言われ呆気に取られ、思わず顔を背け言葉に詰まるアリカ姫。

しかし、すぐさま厳しい顔つきになりナギに向き合う。

 

「……なら今この場でナギ達”紅き翼”を私の騎士から除名する!」

 

「!!おい!いきなりなんだよ!」

 

「いきなりも何も無いわ。もう戦争は終わった。つまりお主達の役目も終わったという事だ。元は私の騎士でもなかったわけだから、もう私に仕える必要など無い。これからは自由にするが良い。ご苦労じゃったな。」

 

「ちょっとまてよ!俺は別にこのままでも…」

 

「聞く耳は持たん。質問も許さん。…じゃが願う事ならお主達の力を民の為、そしてこの平和を守るために使って欲しい。じゃがコレは命令ではなく願いじゃ。幻獣達の件については責任を持って何とかするから心配するな。話は以上じゃ。元老院殿、話は終わりました。さっさと連れて行ってくれぬか?」

 

「……はっ!う…うむ。わかっておるわ」

 

そうアリカ姫が言い放つと、これ以上喋る事は無いとばかりに、俺達に背を向けて船へと歩いていく。それに続くように元老院の男が周りに指示をだし、船へと向かっていく。

それを見たナギが、アリカ姫を止めようとその背中に向かって走り出したが、近くに居た兵士たちに体をつかまれ動けなくなっていた。

 

「く…っそはなせよ!離しやがれ!姫さん待てよ!俺は納得してねーぞ!!おい聞いてんのか!?……お前はこのまま処刑されてもいいって言うのかよ!!!」

 

ナギの言葉が届いたのか、アリカ姫の歩みが止まる。

そしてもう一度俺達の方に顔を向ける。

その顔は涙を流しながらも笑顔で、今まで見たことも無いくらい綺麗だった。

 

「今までありがとう”紅き翼”よ。そしてナギ…。短い間じゃったが楽しかった。嬉しかった。面白かったぞ。お主に逢えて本当に良かった。これからも私の……いや私達の英雄であってくれ。」

 

 

それでは……元気での…

 

 

 

そんな言葉を残しアリカ姫は船へと乗り、しばらくして船は空へと旅立ってしまった。

その光景を俺達は黙って見ているだけだった。

ただ一人兵士に止めながらもナギは飛んでいく船に向かって手を伸ばし、叫んでいた。

まるで何かを掴もうとしているかのように…

 

こうして俺達”紅き翼”は騎士の役目を下ろされ、また傭兵に戻ったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話:一時解散

タケルside

 

アリカ姫が船で護送されてから一日が経過した。

あの日俺は、どうやって今泊まっている宿に戻ったか覚えていない。

なにせ、気付いたらベットの上で寝転がっていたのだから。

そしてそれは、今隣で寝転がっている龍ちゃんもほとんど同じ感じだったみたいだ。

ただし龍ちゃん自身は、まだ少し冷静な部分が残っていたらしくある程度は覚えているらしい。

と言っても、あの後は皆俺と同じように焦点が合わないまま歩いてこの宿に辿り着くと、一言も喋らず部屋に篭ってしまっただけで、どうしても話さなくてはいけない事などは無かったと龍ちゃんは話してくれた。

それにしても、あのラカンでさえ黙って部屋に入ってしまうのだから、俺達が受けたショックは計り知れないものだろう。

それぐらいアリカ姫の言葉は、俺達にとってショックな言葉だった。

 

「…龍ちゃん。俺って役に立たないよな。」

 

天井を見上げながら、ボソリと俺が呟く。

 

「…それは皆いっしょやろ?タケやんだけやないわ。……言ってて泣けてくるけどな。」

 

隣に居た龍ちゃんは少しだけ体を起こして、俺にそう言ってくれた。

だけど、龍ちゃんはそう言ってくれているけど、違うんだよ。

そうじゃない。

俺が言いたい事はそういう事じゃないんだよ。

 

「違うんだよ。皆は悪くない。だっていきなりこんな急展開になったら誰も動けなくなって当然だと思うよ。あまりにも事態が大きすぎるから。…でも俺は違う。原作の知識でこうなる事は知ってたはずだった!!…なのに、それを防ぐ事が出来なかったんだよ俺は。…本当に役立たずだと思う。」

 

「そう言われれば確かにそうかもしれんな。…でも知っていると言っても、それはあくまで可能性の話やったんやろ?第一タケやんの話では、国王はこの戦争で既になくなっているはずやん。それが無かった時点で、もうその原作からはかけ離れてるやろ?」

 

「確かにそうかもしれないけどさ…。でもたとえ違っていたとしても、それに備える事ぐらいは出来たんじゃないかなぁって思うんだ。可能性はあったんだしさ…。」

 

本当に情けないと思う。

何がハッピーエンドを目指すだ。

実際はナギ達を傷つけ、アリカ姫を投獄されるのをただ呆然と見つめる事しか出来なかったじゃないか。

……本当に情けない。

 

気がついたら、俺の目からは涙が零れていた。

それは皆を傷つけたという後悔からなのか?

自分の力の無さを思い知った悲しみからなのか?

 

分からない…分からない……

 

けど…一つだけわかっている事はある。

 

 

俺は無力なんだと言う事だ……。

 

 

 

「……なぁちょっとワイとケンカしよか?それもマジでやろうや。」

 

俺が自分の力の無さに絶望していると、隣にいた龍ちゃんがいきなりそんな事を言い出した。

その発言にビックリして、すぐさま龍ちゃんの方へと顔を向けると、そこにはいつもぬいぐるみサイズの龍ちゃんじゃなく、戦闘時に見せる龍ちゃん本来の姿があった。

しかも、龍ちゃんからあふれ出てくるのは、初めてケンカした時以来、俺に向けて放つ事が無かった本気の殺気。

その殺気と姿に、思わず背中に嫌な汗を掻く。

そこにいるのは紛れも無く、人よりも上の存在の幻獣。その中でも高位とされる虎族の姿。

逆らう事を許さないと思わせるほどの重圧が、俺にこれでも向けられていた。

 

「…ちょっとまってくれよ。何でいきなり龍ちゃんとケンカしないといけないんだよ」

 

「なんで?…それはなぁ…ここにいる奴がニセモンやからや!」

 

そう言い放つと、さっきよりも更に濃密な殺気を俺に向けて来る。

 

「意味わからねーよ!ニセモンって何のことだよ!理由を教えてくれ!!」

 

俺がそう叫ぶと、龍ちゃんは殺気を俺に向けたまま静かに話しだした。

 

「ええかニセモンさんよ。たとえ未来の出来事を知ってたとしてもやな、本来それを変えるなんて事出来るはずないんやで?やって未来を変えるっちゅう事は、この世界に住む住人すべてを自分の思い通りに動かすと同じことなんや。そんなん神さんやないと無理や。…いや神さんでも出来んかもしれん。…やけどな。そんな無理な事をやってのけた者がおる。いつもワイのそばに居った男や。その男はどんなモノも撃ち破る拳で、その熱い意志で、幻獣、人間関係無しに大切に思える心で、それを可能にしたんや。それはワイが最も信頼して頼りにしとる相棒なんやで?」

 

「龍ちゃん…。」

 

「でも今ワイの目の前におるのは、その最高の相棒に姿形を似せたニセモンや。ホンモンやったらたとえ自分の無力さを痛感しても、その場であきらめて冷めてしまうことなく、むしろこの逆境を撃ち貫いたると目に炎を灯らすはずや。……なぁニセモンさん。ホンモンは……ワイが知っとるタケやんはどこにおるん?教えてや…。」

 

そう言って、こんどはすがるように俺の顔を見てくる龍ちゃん。

いつの間にか殺気や重圧を放っていた幻獣はいなくなっていて、そこにいるのはただ友を探す一匹の幻獣の姿があった。

それを見た俺は、自分がいかに思い上がっていたのか、そして弱気になっていた事を知った。

けど、そんな情けない男をまだ“最高の相棒”だと言ってくれている友人がそこに居る。

俺なら何とかできる。

それを心の底から信じて…。

そんな友人の心を裏切れる訳が無い。

俺はそっと龍ちゃんを抱きしめて話す。

 

「……悪かったよ。確かにさっきまでの俺は俺じゃ無かったよな。こんな事でめげていたらハッピーエンドなんて迎えることが出来ない。ショックだったけど、それに絶望してしまったら終わりだよね。」

 

そう言いながら、俺は更に強く龍ちゃんを抱きしめる。

すると、龍ちゃんは気持ちよさそうに肩に頭を乗せてスピスピと鼻を鳴らす。

 

「やっと戻ってくれたな。…おかえりやタケやん」

 

「おう…ただいま龍ちゃん。」

 

しばらく二人で抱きしめあっていると、龍ちゃんが優しく俺に語りかけてくる。

 

「別に悲しかったり、悔しかったりして泣いてもええ。そん時はワイも一緒になって泣いたるから。…でもな、もうあんな目せんといてや。あんなすべてに絶望してもう何も映さないようなあの瞳に。たとえ周りが諦めとったとしても、タケやんはその目に光を宿しといてや。…それが出来るとワイは思うし、出来ると信じとるから。」

 

そんな龍ちゃんの言葉に、改めて俺は最高の相棒を持っているんだと思う。

そしてそんな相棒の期待に応えられるように、改めて決意した。

 

もう、どんな事があっても、絶望し、あきらめる事はしないと。

 

「わかったよ。…龍ちゃんも今日みたいに俺がダメになりそうだったら怒って目を覚まさしてくれよ。」

 

「もちろんや♪なんて言ったって、ワイはタケやんの相棒なんやから。」

 

龍ちゃんはそう言うと、俺の頬を舐めてくれた。

 

そうだ。

 

何簡単に絶望していたんだろう。

 

俺にはまだ出来ることがあるし、こんな状況くらい簡単に打破する事ができるだろ?

 

なんていったって俺は”銃神”と呼ばれているんだ。

 

その拳は、敵を撃ち貫く事だけでなく、こんな悲しみや、困難も撃ち貫く事ができるはずだ。

 

それをやってこその”銃神”だろ?

 

さぁ…反撃開始だ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……(ムズムズ)ハ……ハ…ハックッションベランメェ!!」

 

「うるさ!!そしてなんやそのくしゃみ!ベランメェっておっさんか!?…けどまぁコレも本物のタケやんっていう証拠か…。最後までかっこよく決められん所とか。…タケやんにしかできんわ。」

 

「……流石に否定できないんだけどさ。でもコレで俺って断定するのはひどくないか?」

 

「…ひどない。言われたくなかったら最後まで緊張感もてって言うねん。」

 

 

 

三人称side

 

最後までシリアスに決めれなかった武だが、龍牙のお蔭でいつも通りの自分を取り戻す事が出来、この状況を打破するために行動を開始した。

まず最初やった事と言えば、他の”紅き翼”のメンバーの部屋へと行き、一人ずつ励ましにまわる事だった。

流石の”紅き翼”のメンバーも、武と同じように今回の事はかなりショックを受けていたようで、いつものような覇気はまったくといっていいほど無かったが、武と龍牙の励ましもあって、いつも通りという訳にはさすがにいかなかったが、現状を打破するために行動する事が出来るぐらいにまでは回復する事が出来た。

ただ、やっぱりと言うか、ナギは他のメンバー以上に深刻な状況であり、いくら武達が励ましたり、気持ちを持ち上げようと色々やってみたりはしたが、大した成果は得られなかった。

しかし、それでも根気良くナギを励まし続けた結果、何とか話したり外へ出かけるまでには回復する事に成功した。

 

でも、この状況を打破する為に動く事はまだ無理みたいで、他のメンバーが色々行動を開始している中、”赤き翼”のメンバーでただ一人動く事が出来なかった。

武達はそれを気にしてはいたものの、ナギの回復を待っていたら、本当に間に合わなくなってしまうかもしれない。

その為、順番にナギに付き添う事にして、それ以外のメンバーはまず事態を正確に把握する為に情報を集めるのだった。

 

そして、アリカ姫が投獄されてから一週間。

メンバーは、今まで拠点としていた宿屋に全員集合し、これからの事について話し合う事となった。

 

「さて。あの日から一週間が経過しました。そろそろここで、各自得てきた情報を統合してこれからどう行動して行くのか話し合いたいと思います。」

 

いつものようにアルが司会進行を勤め、話し合いが始まる。

まずは、この一週間で掴んできた情報を交換することとなった。

 

「じゃあ。まずは俺からだな。俺の伝と王国の中でも信用できる奴らからの情報なんだが…。まずことの発端のあの事件についてだ。今回の国王殺害事件なんだが、思った通り裏があるみたいだな。アリカ姫が国王のいる部屋へと入る前に、何者かが複数中に入っていくのを見かけたそうだ。結構長い時間その部屋にいたらしい。あの部屋はそこの扉以外入ることは出来ない作りになっているし、常に扉の前には護衛として兵士が常住していることから、それなりの身分を持った人物たちだろう。」

 

「ふむ。普通に考えればそいつらが犯人じゃろうな。あれからワシも色々考えてみたのじゃが、どう考えてもアリカ姫が国王を殺したとは考えられん。と言うより、もしアリカ姫が殺したのならその場に凶器が無いと話が通じん。それに、そもそもアリカ姫の部屋から凶器が出ること自体おかしいのじゃ。」

 

「ふむ。それについては同感だな。」

 

ガトウの報告に、ゼクトが自分の考えを述べ、それに詠春が賛同する。

他のメンバーも詠春と同じ考えなのか言葉には出さないが皆頷いていた。

 

「だったらそいつを捕まえて連れて行けば、アリカ姫を助ける事ができるんじゃねーのか?」

 

「いやラカン。それはちょっと難しいな。」

 

今までの話を聞いてラカンがそう意見を出すが、ガトウは難しい顔をしながらそれを否定する。

 

「どうしてだよガトウ。」

 

「まず捕まえるにしてもそいつが誰なのか?今現状は分かっていない。その場にいた兵士に聞いてみたんだが、人相については良く覚えていないと言っていた。本来ならそんな事あってはならないんだが、どうやらその人物達は元老院からの命で来たと言って、兵士達に元老院の命令が書かれた書類を見せたらしい。前にもこういった事があったらしく、それを見て護衛の兵士達は対して顔とかをしっかりと確認する事なく通したそうだ。それを聞いて思わず頭を抱えたくなったが、まぁ今はそんな事はどうでもいい。とりあえず、人相については絶対俺が突き止めて見せるつもりだ。それともう一つ。何とかしてその人物を捕まえたとしても、そいつが罪を認めなければ意味が無い。尋問という手もあるにはあるんだが、それにはどうしても時間がかかってしまうし、そのせいで先に刑が執行されてしまえば、それこそどうしようもなくなってしまう。」

 

「ちっ…結構簡単に終わると思ったのによ。」

 

頭を掻きながらラカンが舌打ちをする。

すると、今度は詠春がガトウに質問を投げかける。

 

「ガトウ。何か方法は無いのか?その…尋問以外でそいつに罪を認めさせる方法なんだが…。」

 

「簡単なことだ。ぐうの音も出せないくらいの決定的な証拠を掴めばいい。コレはあくまで俺の予想だが、アリカ姫の部屋に有ったとされる”完全なる世界”とのつながりを示した書類とかは、おそらく内容はそのままで、あて先や中にでてくる言葉などを変えたものだろうと俺は思っている。だからその原本を掴む事が出来れば、一気に決着をつけることが出来るはずだ。」

 

その言葉に、今度はアルが渋い顔をする。

 

「それは……かなり難しいですね。前偶然発見した元老院とのつながりを記した書類みたいに敵のアジトに有ればよいのですが、そう簡単に見つかるとは思えません。そもそも殆ど私達が潰してしまいましたから、潰してない拠点がどこにあるのか検討がつきません。おそらく今回も元老院達が何らかの形で関わっていると思いますから、あの人達が住んでいる場所ならかなりの確実で証拠になりそうなものが出て来ると思います。ですが…さすがに元老院達がいる場所に忍び込むわけにもいかないでしょうしね。………まぁ、やろうと思えば出来ると思いますけど、それは最後の手段としたい所です。」

 

アルの言葉を聞いたら、普通の人間なら絶句してしまう事だろう。

元老院といえば、ある意味国の王よりも権力を持っており、その力の大きさを考えれば、忍び込むこと以前に反抗しようとする言葉でさえ口に出すのを躊躇うぐらいなのだ。

それなのに、アルは表情を変えず極自然に反抗とも言える言葉を出した。

しかも恐ろしい事に、この”紅き翼”はそれを実行に移せてしまうのだ。今更言う事ではないかもしれないが、改めてここに集まっているメンバーは規格外と言わざるおえない。

 

「そうだな。…まぁアリカ姫が無実だという証拠は俺がなんとしても掴んで見せるさ。」

 

そうガトウが〆る。

 

「さて、他には何か情報を掴んだ人は居ますか?」

 

アルがそう投げ掛けると、今度は武と龍牙が少し前に出て話し出す。

 

「なら今度は俺達が掴んだ情報を話したいと思う。俺達はそもそも何でこんな事件が起こってしまったのかをまず調べてみる事にしたんだ。」

 

「まぁ…流石に全部分かったとは言えんけどな。でもその情報のお蔭で、いろんなことが分かったわ。ちゃんと調べなあかんとわかっとるけど、聞いてて何度暴れようかと思ったか…。」

 

武と怒りを隠そうともしない龍牙の言った言葉に皆思わず息を呑む。

それも当然の事なのかもしれない。おそらくここにいる全員が知りたかった情報だったのだから。皆武の方を見て静かにでてくる言葉を待っていた。

 

「まずは、ここにある人物を呼びたいと思う。俺達にこの情報をくれた一人でもあるんだが、丁度よかったから協力してもらおうと思ってここに呼んであるんだ。」

 

「む?このことはあまり他の人には知られたくないんだが…一体誰だ?」

 

「ガトウも知っている奴さ。…と言うより、皆知ってると思うけどな?まぁいいや。ちょっと呼んでくるわ。」

 

武がそう言うと、皆誰だろうと記憶を探るように考え込む。

その間に武は、今は自分の部屋で待ってもらっている人物を呼びに言った。

しばらくして、武がその人物を連れて部屋へと戻ってくると、つれてきた人物を見て、皆”なるほど”と何処か納得したような顔してその人物を眺めていた。

 

「それじゃ、紹介しようか。今回俺と龍ちゃんに協力してくれたクルトだ。」

 

「皆さんお久しぶりです。武さんに言われて自分も何かお手伝いがしたいと思ってここにつれて来てもらいました。自分が出来ることなんて殆どないと思いますが、それでも精一杯やりたいと思っているので、どうかよろしくお願いします。」

 

武に紹介されて、クルトは改めてメンバーに挨拶をして頭を下げた。

それを見て皆少し顔を綻ばせると、武に向かって次々と言葉を投げ掛ける。

 

「なるほど。確かにアリカ姫の側近をやっていた彼ならいろんなことを知っていそうですね。」

 

「そうだな。俺としたことが、まず真っ先にこちら側に引き込む人物を忘れていたな。」

 

そんな言葉を聞いて、クルトと武は何処か恥かしそうに皆から視線を外す。

しばらくそんな光景が続いた所で、武が一度咳払いをして掴んできた情報を話し出した。

 

「さて、それで俺達が掴んできた情報なんだが、どうやらアリカ姫はこちらに帰ってきてからかなり圧力って言うか、なんていうか…ようは嫌がらせみたいな事を言われてたみたいだな。」

 

「いやがらせ?…確かにそれも問題だと思うが、それと今回の事件とどういった関係があるんだ?」

 

ガトウがピクッと眉を動かし、皆が疑問に思っているであろう事を口に出す。

 

「それはその嫌がらせの内容に関わってくるのさ。」

 

「内容だと?」

 

「そこからは私が説明します。」

 

武の言葉を続けるように、それをそばで聞いてきたクルトが話し出した。

 

「アリカ姫様がこちらに帰ってきてから、殆どの人がその行動と結果に賞賛をあげました。ただ、その功績を妬む人達が居たのです。その人達は、元は国王に仕えている役人みたいな人達なのですが、はっきりと申し上げまして自分達の利益の為にどんな事もする人達なのです。現に黒い噂が絶えません。おそらくは、ガトウ殿も知っている人達ではないでしょうか?」

 

そうクルトが言い、その人達の名前を次々と上げていく。

それを聞いたガトウは、苦虫を噛み潰したかの様な顔をして”なるほど、良くその名前は知っている”と静かに答えた。

 

「その人達は、もともとアリカ姫様の事を良く思っていなかったので、前々からアリカ姫様の邪魔をするように色々ちょっかいを掛けてきました。もちろんアリカ姫も私も、それに対抗する為に、その人達がやったという証拠を集めて、解任させようとしていたのですが、なかなか証拠などは掴めず、たとえそれらしいものを掴めたとしても、トカゲの尻尾切りのように他の人を犠牲にしてそれを逃れていました。」

 

「あ゛~そういう奴俺様は一番嫌いなんだよ!」

 

クルトの言葉を聞いて、いらつきを隠せないラカン。

まぁ誰でもそんな人を好きになる人なんて居ないだろうが、ラカンは特にそうなのだろう。

隣にいた詠春がなだめても怒りが収まらないようだった。

 

「どういう人物かは分かっていただけたと思います。それで話は最初に戻る訳ですが、その人達は当然のように帰ってきたアリカ姫様に対して嫌がらせをしてきました。が、何故か戻ってきてからその嫌がらせがかなり強まってきたのです。そしてガトウ殿も参加した会議の前の日、アリカ姫様が会議の案件を纏める為に仕事をしていると、部屋に大人数で押しかけて文句を言いにきたのです。”一緒に連れてきた幻獣をどうするつもりだ!住処を与えるだと?何を言っているのだ、幻獣は我々人間にとって害でしかない、そんな生物対して住処を与えるなんて何を考えているんだ!!”そう言ってきました。」

 

「害しかならないじゃと…。話をした事も無いくせに、よくもまぁそんな事が言えるもんじゃ。確かに話すまではワシもそう思っていた節が確かにあった。しかし話してみればかなり良い奴ばかりじゃぞ?それを頭ごなしに否定するとは何を考えて居るんじゃ!!」

 

クルトの話に今度は、ゼクトが怒りをあらわにする。

ゼクトがこうして、感情を表に出す事自体が珍しいのだが、それも当然の事なのかもしれない。

武と龍牙の話を聞いた後から、ゼクトは頻繁に幻獣達と話すようになっていた。

そしたらウマがあうのか、かなり仲良くなったらしい。

それからというのもゼクトは、暇さえ見つければ幻獣の所に行ってその度に楽しそうな顔をしながら帰って来るのをここに居る全員が目撃している。

そんな彼だからこそ、この言い分にはかなりの怒りを感じるのだろう。

 

「ゼクト殿の言う通りですね。私も前にアリカ姫様と一緒に話しに行きましたが、その時話を聞いてそして会話してとても楽しい時間を過ごす事が出来ましたから。きっとアリカ姫様も同じ事を思っていたのでしょう。部屋に来た人達にゼクト殿と同じような事を言っておられました。それを言ったとたんその人達は一言二言嫌味を言って返っていきました。そしてその次の日あの事件が起こったのです。」

 

「なるほどな。そんな事があったのか。だがこう言ってはなんだが、そいつらが言っている事も正しい面はある。確かに頭ごなしに否定するのは良くないが、幻獣と話したことの無い人達は同じような感想を持つだろうからな。」

 

「確かにガトウ殿が言っている事も、アリカ姫様は考えておられました。それを解決する為にも、あの会議の時には国王様も交えて、これからどうやって幻獣達と付き合っていくか議論される予定でした。ただしその会議には国王様が来られず、結局話し合うことが出来なかったのですが…。ただその後聞いた噂なのですが、この意見にはあの人達の思惑があったみたいなのです。」

 

「!!!」

 

最後にクルトが付け加えた言葉で、皆の目が見開かれる。

その言葉を聞いて今度は、先ほどまで黙って聞いていた武が話を始める。

 

「そこからはまた俺達から話したいと思う。俺と龍ちゃんはクルトからこの話を聞いてその噂の真偽を確かめる事にしたんだが……結論から言ってその思惑とは、アリカ姫を政治の舞台から引きずり落し、国王を自分達の思い通りに操るつもりだったみたいだ。」

 

「なんだと…。」

 

武が言った結論に皆絶句する。

まさか自分達が想像していた事よりもかなり大きな事態にさすがのメンバーも驚きを隠せないようだった。

 

「ワイらが掴んだ情報によるとやな、そいつらは裏で元老院と繋がっていたらしく、前々から裏で国を操ろうと色々やってたらしいんや。アリカ姫に対するいやがらせもその一環っぽいわ。いやがらせをすることで、アリカ姫が活躍せんようにして国の中での発言権を無くそうと考えてたみたいや。ただ、アリカ姫やそれに仕える人達が優秀やったみたいで、全部失敗に終わったみたいやけどな。それにくわえ今回の功績や、そいつ等からしたらかなり面白くないやろうな。しかもクルトから聞いたけど、そいつら王国が崩壊するって分かってて、そこに居る人達を助けに行こうとするアリカ姫を最後まで邪魔してたみたいやからな。」

 

「ちっ…自分さえ良ければ他はどうでもいいって事かよ!!」

 

「ま、そうやろうな。正直言って苦しんで死んで欲しいと心から思うわ。ま、それはそれとしてや。それであせったそいつ等は、強引にでもアリカ姫を失脚させようと、一緒にここに避難してきた幻獣たちに目をつけた。ご大層にまるで自分達の意見が下の人達の意見の総意みたいなように話してな。だけどその意見にアリカ姫は賛同する事は無かった。当たり前やな。幻獣の実態を知っているアリカ姫にとって、その意見は到底賛成できるもんじゃないだろうし。他の人に言われたからと言って、簡単に意見を変えるほどひよってないからな。でも、その事はあいつ等も予想済みで、むしろそれを利用して国王自らアリカ姫を叱咤してもらい、そのまま追い込む算段やったみたいや。そいつ等と国王が言い合っているのを目撃した侍女さんがおったから、これは事実や。ただし、そん時そいつらにとって予想外の事が起こった。」

 

「なんだその予想外の事って?」

 

「国王がな、アリカ姫を擁護したんや。これもクルトから聞いたんやけどな。アリカ姫はこっちに帰ってきて、すぐに国王と面会して幻獣の事について色々語ったらしい。できる事なら、王と幻獣を会わせたかったんやろうけど、さすがにそれは難しいからな。アリカ姫が実際に幻獣に会って感じた事を伝える事しかできんかったらしいけど。ただ、アリカ姫がかなり熱く語ってくれたらしくて、”色々思うところがあるが、前向きに考えていこう”みたいな事を言ってくれたそうや。やから国王は、アリカ姫の意見をも一度ちゃんと聞いて、幻獣達とも話をしないと決めることは出来ないと言って、その場を後にしたらしいわ。これを聞くだけでもいい人なんやなってワイは思うわ。」

 

「なるほど。あとは大体予想できますね。自分達の意見が通らない国王などは要らないという事で、その人達は秘密裏に国王を殺害。しかもそれをアリカ姫に擦り付ける事で、自分達の思い通りに行かない人物を一気に無くそうとした訳ですか。」

 

おそらくだが、これが今回の事件の真相なのだろう。

アルが言った推理に皆納得がいったようだ。

 

「俺もそう思う。…がこれはあくまで集めた情報を下に考えた、俺達の予想でしかないんだ。くやしいけどそれを証明するモノは何も無い。」

 

「そうだな。証拠が無ければたとえこれが真実でもまったく意味がなくなってしまう。なんとも歯がゆいものだな。」

 

「だが、これで私達がこれからどうするか決まったな。その証拠を集めれば良い訳だ。」

 

詠春の言葉に皆頷く。

その詠春の言葉を皮切りに、各自自分がやろうとしていることを口にしていく。

ラカンなどは、そんなまどろっこしい事をせずにさっさとアリカ姫を助けてしまおうぜ?とか本気で言っているのか、冗談で言っているのか分からないような発言をしていた。

そんな中、ただ一人会話に参加しようとせず、ずっと何かを考えている男が居た。

その男の様子に気付いたアルは、”珍しいですね”と思いながら会話を振る事にする。

 

「それで?ナギはどうするのですか?先ほどから何か考えているようですけど…。」

 

アルがそう言うと、そこにいた全員が一旦会話をやめて、ナギの方へと顔を向ける。

そこにいる全員の視線を受けたナギは、何時もみたいな覇気はまったく無く、アルに話を振られても、反応らしい反応をする事は無かった。

あまりにもいつのも違う、ナギの状況に皆不思議がっていると、不意にナギが呟く。

 

「……なぁ皆。俺達は本当にアリカ姫を助けていいんだろうか?」

 

『はっ!?』

 

いきなりとも言えるナギの言葉に皆思わず聞き返してしまう。

 

「な…何を言っているのですかナギ殿。助けていいに決まっているじゃないですか!先ほどまでの話を聞いていたでしょ?どう考えてもアリカ姫に罪はありません。なら助けるのが当然じゃないですか!」

 

「それくらいは俺にもわかってるよ。姫さんがつかまる理由なんて無いって事はな。だけどよ…。」

 

クルトの言葉に淡々と答えるナギ。しかし、その言葉の最後は弱弱しくはっきりしていなかった。

そんなナギの姿に、どうしてそんな事を言い出したのか気になった武は、ナギに質問を投げかける。

 

「ナギ…。一体何を悩んでいるんだ?」

 

武にそう問い掛けられ、ナギは少しずつ自分が思っていることを口に出した。

 

「…姫さんが船に乗っちまったあの日からよ、ずっと考えていたんだ。何で姫さんは何も弁解せずおとなしくあの判決にしたがったんだろうって。だって何時もなら、あんな理不尽な状況黙って見ているはずが無いだろ?しかも急に俺達を騎士から除名したりしてよ。」

 

ナギの言葉に皆確かにと思う。

それは皆がどうしても知りたかったこと。

何故アリカ姫があんな行動を取ったのか?

一人一人考えてはいるものの、その答えはまだでていなかった。

 

「俺さ、さっき皆が掴んできてくれた情報を聞いて、なんとなくだが姫さんが取った行動が理解できた気がするんだ。もちろんこれはあくまで俺の想像でしかないし、本当の所は姫さんに直接聞かないと分からないけどな。…で俺が辿り着いた答えって奴なんだが、おそらく姫さんはこの状況が長引いて、その間避難してきた人達や、幻獣の問題などが後回しになってしまうのが嫌だったんじゃないかって。」

 

「それは…いえ。確かにアリカ姫ならそう考えてもおかしくないですね。」

 

ナギの考えに、アルがすぐさま否定しようとするが、あのアリカ姫ならそう考えてもおかしくないと思い、つらそうな顔をしながらナギの辿り着いた答えに賛同する。

 

「で…でも!確かに国の再建や、避難した人々のこれからの事、幻獣の新しい住処…色々問題は山済みで、一刻も早くその問題を解決しなくてはいけないのは理解できます。しかし!!それと今回のことは天秤にかけるものじゃありませんよ!!それにその問題はアリカ姫が先頭に立って行う事で初めて解決できるんじゃないんですか?」

 

「クルトに改めて言われなくてもそれは分かってるよ。だがよ姫さんはそれを天秤にかけた。そして自分の地位、名誉、命なんかよりもその問題を早く解決する方がいいって判断しちまったんだろ。おそらく俺達なら自分がいなくても、その問題を解決できると信じてな。」

 

辛そうに喋るナギの言葉に全員黙ってしまう。

普通誰だって自分の命が一番大切で、それが危険にさらされるなら、他の事など気にしている余裕などない。だが、まれにだが自分の命よりもほかの事を優先させる事が出来る人達がいる。そういう人物は得てして”英雄”などと呼ばれることが多いのだが、アリカ姫もその一人だったのだろう。

そして、人々から”英雄”と言われている”紅き翼”のメンバーも当たり前のようにそういうことが出来る人物達で、それゆえに今回アリカ姫が取った行動や、その時考えていた事まですべては無理でも分かってしまう。だからこそ普通の感覚なら馬鹿げていると思えてしまう行動でも、諸手をあげて賛同する事は出来ないが、だからと言って完璧に否定する事も出来なかった。

 

そんな誰もが口を開く事が出来ない状況化の中、いつの間にか瞳に涙を一杯溜めて体を震わせていたクルトが呟く。

 

「じゃぁ…ナギ殿は…ナギ殿はアリカ姫様が死んでもいいと思うのですか!?確かにアリカ姫様の想いはそうなのかもしれません。ですが!!…ですが…これじゃああまりにも…」

 

幼い頃からアリカ姫に仕えてきたクルトにとって、たとえそれがアリカ姫の考え抜いた結論だったとしても、それを認める事が出来なかった。

その気持ちはアリカ姫に忠誠を誓っているだけでの物ではなく、愛しい人を守りたいという気持ちも混ざっていた。

クルト自身も自分がアリカ姫にそんな気持ちを抱いていたなんて、今の今まで気付いていなかったのかもしれないが、そばから居なくなって初めてクルトはそれに気付いたのかもしれない。

それなら、なおの事アリカ姫を助け出したい。

そう思ってクルトは叫ぶ。

それを聞いたナギも体を震わせながら答えた。

 

「わかってる。わかってんだよ!そんな事分かってんだよ!俺だってコレに気付いてから、たりねー頭を使って何度も考えてんだよ!俺だって…俺だってな…姫さん助けたいと思う。だがよ…だけどよう…最後、涙を流しながら笑って言ったあの言葉が俺の頭から離れねーんだよ!!”これからも私の…私達の英雄であってくれ”って言葉が!姫さんが望んでいる”英雄”ってのは今一番困っている奴らを無視してでも姫さんを助ける人の事を言っているのか!?俺はどう考えてもそうは思えねぇんだよ!!」

 

それは初めて皆に見せるナギの弱さだった。

いつも、明るく、自信満々でどんな逆境でも負けないという強い意志を持っていたのに、今のナギはまるで子供。

いきなり知らない所に連れて行かれて、そこで迷子になり、親を探している子供のようだった。

 

「…なまじアリカ姫の気持ちがわかってしまうのがいかんな。クルトが言っている事も間違ってはおらんし、ナギが今悩んでいる事もくだらないとは言えん。…どうすればいいのかワシにも分からん。」

 

そこにいる皆の気持ちを代弁するかのようにゼクトが話す。

先ほどまでナギにくってかかっていたクルトも、ナギが抱えていた悩みを聞いて黙ってしまった。

 

「…皆には本当にすまねぇと思っているが、今の俺はアリカ姫を助けることができそうにねぇ。……時間もあまり無いって言うのに、これじゃいけないと分かっているのに、それでも…どうしても…手に力がはいんねぇんだ。」

 

ナギがそう言いながら震えている自分の手をうらむように見ていた。

その姿を見て、アルは意を決したように皆に問い掛ける。

 

「…分かりました。確かに時間は限られていますが、それでもまだ約二年あります。その間にナギ自身の答えを見つけてください。ギリギリまで私は待つことにします。…他の皆はどうですか?」

 

「ワシもアルと同じように待とう。…こればっかりはワシでも教えられん。それはお主自身が決めなくてはいけないこと。ワシはどんなナギがどんな答えを出したとしてもそれを否定することはせん。…だから時間が許す限り考えてみると良い。」

 

「俺はこの後もアリカ姫を助け出す為に色々準備していくだろうが、アリカ姫を助け出すその日にナギがいなくてもせめたりはしない。ナギが考えて考えて…考え抜いた答えの通り動いてくれ。ただできればそれが俺にとって望ましい答えになる事を祈っている。」

 

アル・ゼクト・ガトウの言葉を続いて、他の皆も同じように自分の言葉を交えながら、ナギが行動しない事を認めた。

クルトもナギの状況を見てどうやら納得できたようだ。皆と同じように今行動しないことを認めていた。

ただ、やっぱり何処か思う所があるのだろうが、その顔には少しだが不満が見て取れた。

しかし、それは仕方が無いことなのかもしれない。

だってそれほど、クルトはアリカ姫の事が心配で、すぐにでも助けたいと思っている証拠なのだから。

 

「皆…ありがとう。これから俺はしばらく一人でこれまでの事を踏まえて色々考えながら大陸を回ってみたいと思う。姫さんの願いの通りいろんな人を助けながらな。」

 

ここに居る全員にナギがそう伝えると、座っていた席から達扉へ向かって歩き出す。

そんなナギに武は声をかける。

 

「ナギ!…さっきナギが言ってた”英雄”の条件なんだけどよ。それはあくまで”英雄”って奴の一面でしかないと俺は思う。”英雄”って奴は多分いろんな形があると思うぜ?…まっ!俺が信じている”英雄”ってやつだけどよ。」

 

「一面…ははっ。俺にはまだその意味がわかりそうにねぇけどよ。…その言葉覚えておくぜ。じゃ、何とか俺の答えって奴を見つけてくる。」

 

武の言葉に、何か思うことがあったのかさっきまでの表情に少しだけ光が差し、今度こそナギはこの部屋から出て行った。

 

そしてナギが出て行った部屋ではナギを除いてこれからどう動いていくかが話し合われた。

 

「さて、ナギを待つと先ほど言いましたが、それまでにやれることはやっておきましょう。」

 

「そうだな。俺はさっき言ったみたいに、これからもアリカ姫の無実を証明するために証拠集めをしたいと思う。それと同時に、アリカ姫を嵌めた奴らの悪事も全部暴いてやる。」

 

「ワシは、幻獣について色々行動したいと思う。あの時アリカ姫が”幻獣については心配するな”とは言っていたが、状況が状況じゃ。どうなるかわからん。じゃからワシの方で最悪の状況にならないように手をうっておこう。」

 

「俺様は…そうだな。まぁ暴れられねぇなら仕方がねぇ。ゼクトと一緒に幻獣について行動するわ。それと傭兵時代に培った情報源を当たってみてやるよ。もしかしたら何かつかめるかもしれねぇからな。」

 

「私は…一度故郷へ帰りたいと思う。何も出来ないのは申し訳ないと思うが、この時間を使って俺もいろんなモノにケリをつけたいと思う。ナギが前に進もうとしているのと同じに、私も前に進む事にするよ。」

 

「お?とうとう覚悟を決めるって事か?確か故郷に許婚がいるんだっけな?結婚するのか?」

 

詠春の言葉にラカンがチャチャを入れるが、何時なら動揺してラカンに切りかかってもおかしくない詠春が、普通にその言葉を真摯に受け止めてラカンの問いに答える。

 

「ああ。式についてはこのことが終わった後にやりたいと思っているがな。…出来れば皆私の式に出て欲しい。……アリカ姫も含めてな。」

 

その詠春の変わりように、普段から一緒にいたメンバーは驚くが、フッっとどこか嬉しそうな顔を浮かべる。詠春にチャチャを入れたラカンは”そうか…”と嬉しそうに顔を緩ませながら呟いた。

 

「それは楽しそうですね。ぜひ参加させてもらいますよ。それで武と龍牙はどうしますか?」

 

アルも嬉しそうに式の参加を決めると、最後に残っていた武達に話を振る。

 

「俺は…どうしようか?」

 

「そうやなぁ…ワイはタケやんについていくつもりやけど。どないしよう?」

 

二人とも特に考えていなかったのか、お互いに顔を見合わせて考えるそぶりをする。

すると、ガトウがそんな武達を見て意見を出す。

 

「まだ何も決めていないのなら、俺からのお願い聞いてくれないか?」

 

「お願い?」

 

ガトウの言葉に武が聞き返す。

 

「ああ。タカミチを一緒に連れて行って修行を見てくれないか?」

 

ガトウの言葉にビックリしたタカミチは、勢いよくガトウの顔を見る。

 

「師匠!?僕も師匠と一緒に証拠を集めます!」

 

「タカミチ…そう言ってくれるのは嬉しいが、折角時間が取れるんだ。この時間は自分の為に使え。いつか自分の成したい事を成すために、どんな困難にも負けない力をつけるためにな。」

 

「…師匠。分かりました。武さんいいですか?」

 

ガトウがそうタカミチを諭し、タカミチ本人もガトウの言葉と目を見て何かを悟ったのか、それを了承し武に確認を取る。

 

「ああ。いいぜ?それに俺達もただ修行するだけじゃもったいないから、ナギと同じように大陸を回って色々見ていこう。修行しつつ情報やこの状況を打破するために動けばいい。龍ちゃんもそれでいいか?」

 

「ええで?ワイはタケやんについて行くだけや。」

 

「ありがとうございます。これからお願いします!!」

 

武と龍牙がタカミチの同行を認めた所で、改めてお礼とこれからお世話になる事も含めて頭を下げる。

その光景を見ていた武だったが、何かを思いついたのか、そばでそれを見ていたクルトにも声をかける。

 

「あ、そうだクルト。よかったらお前も一緒に俺達と来るか?」

 

「えっ?ですが…。」

 

「将来お前がどんな道に進むかわからないけど、自由に行動できる時にいろんなモン見といたほうがこれからのお前の為になると思うぞ?アリカ姫がつかまってしまったから、それなりに暇ができてるんだろ?」

 

「それはそうですが…流石に側近の私が仕事を放棄するのは…それにあの人達を止める必要がありますし…。」

 

そう言ってクルトが悩んでいると、ガトウも武の意見に賛成なのだろう。クルトの心配をなくすように声をかける。

 

「それなら心配するな。俺の方で何とかしておいてやる。それに、どうせあの馬鹿どもが好き勝手やるだろうから、クルトが何とかしようにも発言を封殺されて出来る事はほぼないだろう。なら一度いろんなものをほっぽりだして外の世界を見て回るといい。」

 

「ガトウ殿…分かりました。色々考えてみたい事もありますので、そうします。武殿よろしくお願いします。」

 

「お?…おう。よろしくな。」

 

ガトウにそう言われ、クルトも武達と一緒に行動する事を決めた。

武は、自分で誘っておいてなんなんだが、やけにあっさりと一緒に行くことを決めたクルトに驚いていたが、クルト自身も何か考えがあってのことだろうと思い、その事について触れない事にした。

 

武がそんな事を思っていると、ニヤニヤした表情で龍牙がクルトに話しかける。

 

「あれ?ワイには何もないんか?」

 

「えっ?い…いえいえそんなつもりは無かったんですが!!…えっとその…武殿が誘ってくれた訳ですし…その…あの…。」

 

いきなりの龍牙の言葉に、慌てて色々言い訳を言っていると、それを見ていたラカンが大声で笑い出す。

 

「HAHAHA!クルトがこんな慌てる姿なんて始めて見たぜ。歳も歳なんだからよ。少しは子供らしい事しな。」

 

そのラカンの言葉に皆一斉に笑う。

クルトは何で笑われているのか、いまいちよく分かっておらず更に混乱してアタフタしていた。

 

「そうですね。それが良いと思いますよ。それでは次この全員が揃うのは、ナギが答えを出した時ですね、それまで元気で。」

 

「ああ。皆個別に連絡取り合うだろうが、とりあえずは…皆元気でな!」

 

武が最後にそう〆ると、皆視線を合わせて頷く。

互いにこれからは個別に動く事になるためこうやって逢う事も殆どなくなるだろう。

でも皆また絶対に会う機会がやってくる。

そしてその時は、きっと俺達にも、ナギにも、そして今は幽閉されているアリカ姫にとっても良い事が起こるだろう。

 

そんな予感を感じながらそれぞれこの部屋から出て行き、行動を開始した。

 

武は龍牙達と一緒に行動しながら思う。

 

とうとうクライマックス。最初は自分の力の無さに絶望していたけど、俺には龍ちゃんが、皆がそばにいる。だったら俺は俺らしく、皆が前に進むために目の前に立ちふさがる壁をこれからも撃ちぬいて行こう。

 

そう新たに心に誓い、これからどうするか考えるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小話Ⅳ:それぞれの二年~武side~

今日は仕事も休みだったので、連続投稿できました。
今まで休みはちゃんとありましたが、今日は雨のせいで一日ゆっくりしてます。
いつもだと、本を買いに行ったり、服を見に行ったりといろいろしたい事…というよりはしないといけない事がいろいろあるので…。
いい加減私服買わないと…。今家にあるの何年前の服だよ…(泣


タケルside

 

龍ちゃん・タカミチ・クルトの三人を連れて大陸を回り始めてから、半年が経過しようとしていた。

他の皆からの連絡はまだない。が、おそらくあの面子だから元気にやっていることだと思う。

俺達の方と言えば、アリカ姫の情報とかについては一応調べているのだが、それよりもタカミチの修行と、戦争で被害を受けた町の復興の手伝いを重点に置きながら旅を続けていた。

アリカ姫について気にならない訳では無いが、前話した事以上はおそらく俺には調べる事が出来ないと思っている。無理をすればもう少しは出来るかも知れないけど、下手に無理をすると余計に事態が悪化してしまうかもしれない。それを考えると、ガトウとアルに任せた方が良いと思っている。あの二人なら、きっとそこら辺はうまくやるだろうから。

だから俺は、次世代のタカミチを鍛える事と、少しでも早く日常を取り戻せるように復興を手伝う事を目的として残りの月日を過ごしていくつもりだ。

次世代と言えば、最近になってクルトも俺とタカミチがやっている修行が気になったのか、一緒になって体を動かしている。側近という役職柄、あまり体力とか無いのかと思いきや、意外にもそうではなく、ちゃんとそれなりに動けていた。

しかし、やっぱりそれなりはそれなりでしかなく、俺や龍ちゃんは置いといて、タカミチと比べるとどうしても体力の差が目に見えて分かる。

しかしそれは当然な事だ。

何せタカミチは、銃闘技をマスターする為に今までつらい修行をこなしてきているのだ。

むしろ、もう少し差がついても良いぐらいなのだが、そこはクルトの“タカミチに負けたくない”と言う気持ちが強いのか、頑張ってついてきては、タカミチに“ふっこんな物か…”とか強がりを言っていたりしている。

まぁ、足とかが震えて強がっているのがまる分かりなのだが、それはやっぱり突っ込まないのが優しさってものなんだと思う。

どうやらこれからいいライバル関係になりそうだ。

 

さて、ある程度近況を振り返ったのだが、実は俺達の旅にあと一人同行者が増えた。

その子は今龍ちゃんの背に乗ってすやすやと眠ってるんだけど……さっきから龍ちゃんの助けを求める視線が背中に刺さって痛い。

いや、そう見られても困るんだけどな…。というか、大体何時も俺が世話しているんだから、今ぐらいはゆっくりさせて欲しい。

本当に何で一緒にいるんだろうか……このアスナお嬢様は…。

 

「なぁタケやん。もうええやろ?さっきから遠くを見てワイと目を合わせんようにしとったけど、もうええんちゃうか?アスナちゃんを背からどけてーな。」

 

「いやいや。何時も一緒に寝たり、歩くのを疲れたとき俺が背負ってるでしょ?しかも皆料理できないから、俺が作ってるし…もうちょっとお世話してなさいよ。」

 

「いやいやいや…。そうは言うけどな?タケやんがガトウから頼まれたんやろ?まぁアスナちゃんが一緒にいくって聞かなかったせいもあるんやけどな?それでも頼まれたんはタケやんや。責任もたな。……ていうか、いい加減背中が冷たいねん。よだれのせいで冷たいねん。だから変わってや。いや…変わらんかいこのドアホが!!」

 

「何がドアホか!もうしばらくしたら食料買いに言っているタカミチ達が帰ってくるから、それまで辛抱しろ!!」

 

「それがもう無理やっちゅうねん!!」

 

「諦めんなよ!!もっと熱くなれよ!」

 

「熱くとか関係ないやろ!!ケンカうっとんのか!あ゛ぁ!?」

 

「ム…龍チャン、タケルウルサイ。静カニスル!!」(グイ)

 

「痛たたたた…ちょ毛を引っ張らんといて抜ける、抜ける、禿げてまう~!!」

 

「早くタカミチ達帰ってこねーかなぁ。」

 

「ちょ!!タケやん助け…助けてや~!!!」

 

……ごめん龍ちゃん。俺は無力だ…。

 

「嘘つくなや~~!!!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・

 

しばらくして、タカミチ達が返って来ると俺はタカミチ達が買ってきた材料を元に、本格的に料理を始めた。

アスナちゃんは、タカミチが帰って来るとやっと龍ちゃんの背から降りた。

…と言うよりも、流石にかわいそうなので、降ろした。

その時にかなり駄々をこねられたけど、そこはほら強引に…。もといアスナちゃんを説得して降りて貰った。

お蔭で俺の背中に、不満ありありと言った視線が突き刺さるように向けられている。

ちなみに、アスナちゃんから解放された龍ちゃんは、俺の横でぐたぁとしている。

その…なんだ…お疲れ様です。

 

さてさて、そんな感じでご飯も出来、皆一緒にご飯を食べる事になった。

もちろんアスナちゃんは俺の膝の上に当然のように乗ってご飯を食べている。

…丁度いいか。アスナちゃんに聞きたかったことを聞いてみよう。

 

「なぁアスナちゃん?」

 

「…ナニ?」

 

「何で俺達と一緒に行きたいなんていったんだい?あそこの暮らしが嫌だったのか?」

 

「…別ニ、ソウイウ訳ジャナイ。皆ヨクシテクレタ。」

 

「だったらどうして?」

 

「タケルト一緒ニ居タカッタカラ。」

 

……あれ?俺なんでこんなふうに言われてるんだろ?

フラグ立てたつもりなんて無いんだが……おかしいな?

それと、タカミチにクルト、そして龍ちゃんそのニヤニヤした顔と、微妙に非難するような目はやめろ!!

俺はロリコンじゃないぞ!?

 

「…えっと俺そこまでアスナちゃんに気に入られる事した覚えないんだけど…」

 

「……夢」

 

「夢?」

 

「ソウ。ワタシガタケルト一緒ニ居タイノハ、夢デ見タ人ニソックリダッタカラ。」

 

「どんな夢だったの?」

 

そう俺が、アスナちゃんに尋ねると、アスナちゃんはちょっと顔を赤らめて少しずつ答えてくれた。

 

アスナside

 

私がタケル達と一緒に行こうとしたのは、私が見た夢の中の人とタケルがそっくりだったからだ。

私は、どうやら悪い人達に連れ去られたらしいけど、殆ど覚えていない。

だって気がついたら、ベットの上で寝ていたんだもん。

でも、ほんの少しだけど、覚えている事もあった。

それが、タケルに良く似た人の事だった。

 

私は、夢の中で知らない人に連れ去られて、何処か暗い所にいた。

そこは、寒くて、寂しくて、どれくらいそこに居たか分からないけど、何時までもここには居たくないって思ってた。

そんなある日、暗かった所に光が指してきて、誰かがそこから私を連れ出してくれた。

その時の顔は、良く覚えていないけど、私を連れ出してくれた手と、おんぶしてくれた時に感じた背中のぬくもりはなんとなく覚えている。

とっても暖かくて、優しい感じがして、ずっとこの場所にいたいって気付いたら思っていた。

 

そのままその人におぶられて移動していると、その人が止まって私は急に誰かに抱きつかれた。

その人に抱きつかれた時、最初私は、あの人の背中から急に下ろされて寂しかったけど、抱きつかれた人からも、あの人の背中に居た時に感じた気持ちと同じ感じがした。

だけど、今思うとちょっと違うと思う。

抱きつかれた時も、暖かくて、優しい感じがしたけど、なんていうか懐かしい感じがしていたから。

そうして、しばらく抱きつれていると、さっき私をおんぶしてくれた人は、私の頭を撫ぜてくれてその後どっか行ってしまった。

でも、行ってしまったその人の後姿は一番良く覚えている。

私をおんぶしてくれていた背中は、とっても大きくて、その背中を見ていると顔が熱くなって、胸の所がドキドキするの。

 

その時の気持ちを私の世話をしてくれている女の人に聞いてみたら、”それは好きってことよ”って教えてくれた。

 

それから、いろんな人が私に逢いに来てくれたけど、その中でタケルが私に逢いに来てくれた時に、ふっと背中を見たらそれが、その人にそっくりで、あの時と同じように顔が熱くなった。

 

その後タケルは私とお話してくれたけど、最初は怖くてうまく話せなかった。けど、ちょっと話していたらとても楽しくて、いつの間にか怖いという気持ちはすぐに無くなってた。

そして、いつまでも一緒に話していたいって思うようになってた。

けど、そんなタケルが旅にでるって聞いたときに、とっても悲しい気持ちになった。

そして気付いたら、知らないうちに一緒についていきたいって私の口から言葉がでてた。

皆ダメって言ってたけど、それでも着いて行きたかった。そしてタケルがいいよって言ってくれた時はとっても嬉しかったのを今でも覚えている。

だからこれからもタケルについていくつもり。

ずっと…ずっと……ね。

 

タケルside

 

アスナちゃんから夢の話を聞いて、どう反応すればいいか俺には分からなかった。

すると、近くに来た龍ちゃん達が小声で話してくる。

 

(なぁなぁタケやん。はっきり聞くわ。…その夢の人タケやんやろ?)

 

(……やっぱりそうなのかな?)

 

(え!タケルさんがアスナちゃんの夢の人だったんですか?)

 

(タカミチ声がでかい!…それでタケルさんどういうことなんですか?)

 

(いや、どういう事もなにも、アスナちゃんを助けた時ナギもゼクトもボロボロでさ、俺がおんぶして移動する事になったんだよ。)

 

(あ~確かにおんぶしてたな。)

 

(でもそん時は魔法で眠らされてたのか、気絶していたのかは知らないけど、意識が無かったはずなんだけどなぁ…)

 

(なるほど。…その時に実は少しだけでも意識があって、それを夢と勘違いしているということなんですね?)

 

(そういえば、あの時確かタケルさんがおんぶして、アスナお嬢様をつれてきてくれたんでしたっけ。そのあとアリカ姫様が抱きついておられましたが…)

 

(ああ、んで俺はまだ色々やることがあったから、とりあえずその場を立ち去ったんだけど…)

 

(あれ?アスナちゃんが言ってた頭ナゼナゼはやらんかったんか?)

 

(…やったかなぁ?)

 

(はぁ…なんでそこだけはっきりしてないんですか!)

 

(いや。無意識の行動ってあるじゃん?)

 

(クルトは見てないんか?)

 

(いや…私もその後色々忙しくてタケルさんよりも先にその場を後にしましたから…)

 

(…………なんだよ。そんな目で見るなよ。)

 

(((やっぱりアル(さん)と同じロリコンか…)))

 

「…ちげーーーーー!!!!」

 

「ン?…ドウシタノタケル?」

 

「い…いや…何でもないさ。ハハハ……」

 

俺その日は罪悪感にさいなまれて眠れませんでした。

そしてやっと眠れたかと思うと、その日の夢の中で、アルがものすっごくうれしそうな顔をしながら俺に向かって手招きしてました。

まるで、自分と同じ人が増えてとても嬉しそうに手招きしてるんです。

 

あれほどの悪夢は無かったです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・

 

タカミチside

 

アスナちゃんの衝撃の告白から数ヶ月が経ちました。

その告白を聞いてから、僕達はアスナちゃんの気持ちを考えて、なるべくタケルさんと一緒にいるように色々やっています。

…けして、アスナちゃんのお世話が大変だから、タケルさんにすべてやってもらおうとか考えてはいませんよ?本当ですよ?

 

…おほん。それはともかくとして、タケルさんと一緒にいるアスナちゃんは本当に楽しそうで、それを見て本当に良かったと思っています。

まだ僕よりも小さいのに、いろんなことに巻き込まれて子供らしい事をしていないから、こんな時間があっても罰はあたりません。

それに、タケルさんと一緒に行動するようになってから、最初あった時よりも表情が豊かになって、良く笑うようになりました。

それを見ていると、”ああ…この子にはこれから幸せになってほしい”そう願っています。

なので、タケルさん。もうロリコンとか思わないですから、しっかりとアスナちゃんの面倒を見てあげてください。

 

さて、アスナちゃんのお話はこれくらいにして、今度は僕の事について話したいと思います。

タケルさんと一緒に旅をする事になってから、もう毎日が修行の日々です。

今までタケルさんの時間が取れた時にしか見てもらえなかったので、殆ど教えてもらった事を一人繰り返し練習してました。

なので、本当に出来ているのか心配だったんですが、一通りみせたら形にはもうなっていて、後はその錬度を上げるだけというお墨付きを貰う事が出来ました。

それを聞いた時、間違ってなかったという安堵感とやり遂げたって言う達成感。

そして、また一つ憧れの背中に近づいたうれしさがこみ上げてきて………泣きました。

 

それをみてタケルさんは、頭を撫ぜてくれたんですけど、それが恥かしいやらうれしいやらで、また涙が出てきました。

でもここで満足してはいけません。

だって今日は…とうとう銃闘技の奥義。

 

絶対破壊攻撃〈アブソリュートブレイクシュート〉のマグナムを教えてもらえるんですから。

 

「さてタカミチ。そろそろマグナムを教えたいと思うけど、心の準備は大丈夫か?」

 

「はい!」

 

「よし!じゃぁまずは型からだが…」

 

そう言ってタケルさんは、マグナムの撃ち方を説明してくれました。

今までタケルさんがナギさん達と戦っていたのを見てきたので、おおよその撃ち方は目に焼きついていましたが、実際にやってみるといかに自分が甘かったか思い知りました。

腕の筋肉で血の流れを止めるやり方、暴発しそうな腕を押し込める力、上体を安定させるやり方などなど…あんなに簡単そうにやってたのに実際やっている事はかなり難しいんですね。

改めて尊敬します。

でも、タケルさん曰く”こんなものは慣れだ!”とか言ってました。

けど、常人には無理だと思いますよ?現に銃闘技を使うために鍛えてきた僕でさえ、むちゃくちゃキツイです。

これをなんてこと無さそうに使っているタケルさんは、やっぱりすごい人なんだなぁって再確認した日でもありました。

 

「…ふむ。じゃぁ今教えた事を全部やってみてあの的に撃ち込んでみな。」

 

「はい!」

 

タケルさんに言われて、僕は的の前に立つと、マグナムの準備をします。

 

「ぐぐぐ…」

 

「まだ放つんじゃないぞ。もう少し堪えろ。」

 

自分でもだんだん右手が冷たくなっていくのを感じます。

それと、さっきから心臓が痛くなってきてます。

銃闘技の要は、心臓と血管、そしてそれに流れている血。

その意味が改めて分かりました。

 

「…よし、今だ!撃て!」

 

「…はい!」

 

タケルさんの声を聞いて、僕は的に向かって右手を解放しました。

 

ズガァァン!

 

「…はぁはぁ…で、出来たんでしょうか?」

 

「ああ。成功だ。よくやったな。」

 

成功したと言われてうれしいんですが…すみません。目の前が真っ暗になってうまく立てません。

これってやっぱり……

 

ドサ…。

 

なにやら硬いものが僕の頬に当たり、遠くからタケルさんの声が聞こえてきます。

あれ?近くにいたのでは…?え…な…ん…で…。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・

 

次僕が目を覚ますと、あたりは真っ暗になってました。

 

「お?タカミチ起きたか。大丈夫か?」

 

「え……あ…はい。大丈夫です。まだ少し頭がボーっとしてますがそれ以外は特に…」

 

「そうか……良かった。」

 

タケルさんはそう言って大きく息を吐きました。

 

「タケルさん。僕は一体…」

 

「ん?ああ…まずマグナムを撃った事は覚えているよな?」

 

「はい。…僕は成功したんですよね?」

 

「ああ。ちゃんと撃つ事には成功したさ。でそのあと、反動で倒れたんだよ。前にも言った事があると思うが、ブラックアウトを起こしてな。」

 

「あ…それで。」

 

一人で修行している時も何度かブラックアウトを起こした事があります。

最近は慣れてきた事もあって、そんな事は無くなってたんですけど…。

やっぱりまだまだ修行が足りません!

 

「まぁ…でもそれは仕方が無いだろう。そもそもマグナムの弾数は六発。俺でもそれ以上連続で撃つとタカミチと同じようになるからな。タカミチはまだ体が完全に出来上がってないから、一発でもそうなっちまうってことだ。負荷がかなり大きい技だし、今日始めて撃ったからな…しかたがないさ。」

 

「え!?つまりたとえやり方を知っていても、今の僕では一発撃つごとにこうして倒れるってことですか?」

 

「いや…そうともかぎらんだろう。様は加減すればいいだけだからな。今日のでマグナムがどんな技なのか体で覚えたはずだから、それを元にこれから調整していけばいいさ。劣化マグナム…いやミニマグナムか。そんな感じだったら半分ぐらいは撃てるんじゃないのか?」

 

「ミニマグナム…。」

 

なんかかわいい名前です。

マグナムという名前はかっこいいのに…。

仕方が無い事なんだけど、やっぱり僕は男だからかっこいい方がいいなぁ…。

 

「確かに通常のマグナムに比べれば、威力はかなり下がるだろうがそれでもマグナムだ。普通のパンチの何倍も強い。しばらくはそれを練習するといい。それに今回は初めてということもあって血を止めるのに時間がかかりすぎた。そのせいもあって余計にブラックアウトを引き起こしたんだろう。それが短縮できれば、かなり余裕が出来るはずだからな。」

 

「はい!」

 

でもいつか必ず、タケルさんと同じマグナムを撃って見せます!!

そう僕が意気込んでいると、タケルさんが近くにあった荷物を探り出して何かを僕に投げてきた。

 

「でもまぁ…とりあえずは。ホレ!」

 

えっとこれは杯?

 

「本当なら、ガトウや詠春さん、ラカンも一緒にいればいいんだけどな…。とりあえずは乾杯だ。」

 

そう言って、受け取った杯にお酒が注がれる。

乾杯?いったい何の事なんでしょうか?

 

「じゃぁタカミチ。銃闘技の基本すべて習得おめでとう。その拳と技でお前が何をするのかはまだ聞かない。だけど出来るならその願いが多くの人に共感してもらえるように、そしていつか俺達を超えていきますように……乾杯!」

 

「!!!……乾杯です!」

 

そう言ってくれたタケルさんと、僕は一緒に杯を合わせました。

 

この乾杯はつまり僕の事を一人の男として認めてくれたと言う事ですか?

まだまだ、タケルさん達に並び立つ事は出来ないし、対等の立場で話す事は無理なこの僕を…。

………ひどいですよタケルさん。

今日僕は何度泣けばいいんですか!

そんな…そんな嬉しい事言われたら…僕はもう…泣き言なんていえないじゃないですか!

 

タケルさんの言葉に涙を流しながら、僕はお酒を飲みました。

初めて飲んだお酒は、とっても美味しくて…これは生涯忘れられない味になりそうです。

 

それとタケルさん。

 

僕はどうやら、一生かかっても貴方の前で歩く事は出来ないかもしれません。

だって…貴方ほど大きくて、頼もしくて…なによりやさしい背中を何時までも追って行きたい…

そう思ってしまったのですから…。

 

でもいつかは…

 

そういつかきっと、貴方の前では無く、貴方の背中を預けてもらえるようになります!

 

それが、僕の一番の目標ですから!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでさんやーーーー!!!!」

 

「…オメデト」

 

「ふん。…とりあえすおめでとう。」

 

「わわっ!ちょっといきなり何するんですか!ってあああ…龍ちゃんお酒そんなに注がないで、アスナちゃん何期待した目で見てるの?一気なんてしないし、できないよ!?それとクルトは……うん。何かごめん。とにかくごめん。だからそっちですねないで!!た…タケルさん!助けてーー!!!」

 

すみません。タケルさん。今度は銃闘技のほかにお酒の飲み方も教えてください……オェ…。

 

 

クルトside

 

タケルさんと旅をして、もうどれぐらい経過したんでしょうか?

側近をやっていた頃は、何時も時間を気にして行動していたのですが、旅だとそんな必要はないですね。自由気まま、ただ自分のしたい事を時間も気にせずやる。

今までしたことが無い経験でしたが、なかなかいいものです。

 

経験といえば、旅をしてから本当にいろんな経験をしました。

特に今まで書面上でしか見た事のない民達の暮らしを実際に見れた事は大きな経験でした。

これでもアリカ姫様の側近をする前は、戦災孤児だったのである程度知っていたつもりだったんですが…自分は恵まれていたんですね。

想像以上でした。

改めて何とかしたいって思いましたよ。

 

他にも初めて料理という物をしてみましたが、これはなかなか面白いです。

自分の思い通りに作れた時の感動といったら……これはまた側近をやることになっても続けていきたい。

料理は僕の趣味になりそうです。

 

最後に…タカミチ。

もともと年も近いこともあって、興味があったのですが、なぜなんでしょう。彼に負けているとなんだかこう……ムカムカするというか。やる気になるというか…。

タケルさんとかは”ライバルができたな”とか言ってますけど、そんな事は絶対にありえません!!

いやこう言ってはなんですが、タカミチに比べると私は何でも出来ていると思ってますよ?

そりゃ戦闘とかアスナちゃんのお世話とか、ちょっとした料理とか、値切り交渉とか…色々すこし劣る所があるかもしれませんが、それはタカミチに華を持たせているだけですから!あと彼の方が色々さきに経験していただけですからね?

そこの所分かってくれますか?

……タケルさん、龍牙さん。その生暖かい目で見るのはやめてください!

 

おほん。と、とにかくですね。

タカミチには負けたくないと思って今日はタケルさんに教えを請いに行く事にしました。

 

「と言うことでですね。私にも何か武術を教えてもらえませんか?」

 

「あ…うん。まぁなんとなく言いたいことは分かったけど…」

 

「…クルトッテソンナキャラダッタノ?」

 

「ほほう。男のツンデレか。“紅き翼”には無かった貴重な存在や。…“紅き翼”にも新しいファン層ができるなぁ…。」

 

「龍チャン、ツンデレッテナニ?」

 

「ん?ツンデレっていうのはやな…」

 

そこうるさいですよ!それと私はツンデレではありません!

確かに、タカミチの努力とか強さは認めてますけど、それは…そうです。ただ負けたくないからですよ!だからツンデレじゃないですってば!!

 

「クルト落ち着けって。しかもそれは100%ツンデレの台詞だ。…んで?武術を教えてもらいたいと言ったけど、銃闘技を教えて欲しいのか?」

 

「いえ…出来れば別がいいです。やっぱり同じ銃闘技を習ったとしてもタカミチの方が一枚も二枚も上手でしょうし、なんていうか自分にはあってない感じがします。…やっぱり銃闘技以外は教える事はできませんか?」

 

「いや?俺は確かに銃闘技を使っているけど、それは俺の信念を最も体現しやすいし、自分にあってるし、何より銃闘技が好きだからそれを主にしているだけあってで、他の武術もある程度なら教える事は出来るよ?」(まぁ神さまから武術の才と知識を貰っているから、誰かにそれを教える事は結構普通に出来るからな。)

 

「なら他の武術でお願いします!さっきタカミチに負けたくないと言いましたが、それ以上にただ黙って見ているだけなのはもう嫌なんです。何も出来ないのはもう嫌なんです。たしかに僕は、まだ子供なのかもしれない。でも子供だからっていう言い訳を申したくないんです。これからは”赤き翼”の人達のように自分から進んで道を切り開いて、皆を…大切な人達を危険から遠ざけてあげたい。その為にも力が欲しいんです!おねがいします!!」

 

そうあの日、ウェスペルタティア王国が崩壊した日。

僕はアリカ姫様や、ナギさんの言われるまま行動して、そして脱出する時もナギさんに言われるまま、安全な所へ避難しただけだった。

あの大参事でも、何とかナギさんは助かってアリカ姫様も何時ものように戻ったけど、もし助からなかったら僕はきっとアリカ姫様を支える事が出来なかっただろう。

それは、僕に力が無いから…。

だから、もしまたそういう事があった時は支えられるように、そして”赤き翼”の人達のように不可能を可能に出来る人になっていたい。

だから…僕は…強くなりたい。

強くなりたいんだ!!!

 

「わかった。…明日からタカミチの修行と一緒にクルトも鍛えよう。…弱音吐くなよ。」

 

「はい!!」

 

良し。目指すは”赤き翼”!

その為にもまずは、タカミチとの差を縮めないとな…。

なんだか分からないけど、絶対にアイツには負けたくない!

タカミチも”赤き翼”を…というか多分タケルさんを目指しているんだと思うけど、それは僕も同じ。

まずはタカミチに追いついて、そしてタケルさんを、最終的にはあのナギさんを超えてみせる!!

待っていてください。今は見ることも出来ない貴方達の背中、絶対に捕まえて見せますから…

 

 

タケルside

クルトが、俺の横でなにやらブツブツ言いながら黒い笑顔をしているけど、これは突っ込むべきなんだろうか?

すると、俺が突っ込む前に龍ちゃんが突っ込んでくれた。

 

「なんや、クルトの気持ち駄々漏れなきがするんやけど…いいんかアレが側近で?」

 

「…クルトワカリヤススギ」

 

「まぁ…それ以外は優秀だからいいんじゃないのか?それにどちらかといえば、アリカ姫も気持ちが表に出すぎる人だし、似た物同士と言うことで…。」

 

「…それは国の重鎮としてどうなんやろ?…まぁええわ。それよりクルトには何を教えるつもりなん?」

 

「ん?そーだな。どう見てもタカミチをライバル視してるし、ここはやっぱり銃闘技のライバルといわれる武術かな?」

 

「ほーそんなモンあったんか。てか何でそれを…ああ何時ものアレか。」

 

「まぁそういうこと。…しかも迷ってたんだよねどっちを自分の戦闘スタイルにするか…。それぐらい思い入れのある武術さ。」

 

「ふ~ん。ま、楽しみにしとるわ。」

 

銃闘技のライバル。

それはもちろん剣牙闘技の事だ。

修練によって手を剣に変えて攻撃する武術。

初めてそれを知った時、銃闘技を初めて知った時と同じぐらいの衝撃を受けたのを俺は覚えている。俺自身の解釈としては、豪の銃闘技、柔の剣牙闘技といった所か。

もちろん。豪の中の柔、柔の中の豪と言うように、すべてがそれ一辺倒ではないけど、銃闘技と剣牙闘技それぞれ使っていたキャラクターの魅力もあってそう見えてしまう。

そして、俺にはその剣牙闘技を使っているキャラクターとクルトが何処か似ている気がする。

まぁタカミチより、確か誕生日早かったはずだしな。

そんな理由でクルトに教えたいと思った。

 

後付けをするなら、原作ではクルトは神鳴流を詠春さんから教わっていたから、多分刀を扱う素養があるのだろう。

それと、剣牙闘技を習得できるのでは違いがあるのかもしれないけど、少なくとも銃闘技や他の肉弾戦で戦う武術よりはいけるんじゃないかと思う。

さてさて、これからがどうなる事やら…面白くなってきた。

 

そうだな…出来れば、この旅が終わる頃に一回、タカミチとクルトで組み手をさせても面白いかもしれない。

それはクルトの出来次第だけど、原作を考えるにいけるんじゃないかな?って思う。

 

これからまた忙しくなるな。

 

ナギ。

 

今一体どこで何をしてるんだ?

 

俺達の後に続くであろうやつらは、日々一歩を踏みしめているぞ?

 

ナギも早く、一歩踏み出せると良いな。

 

俺達はそれを何よりも望んでいるんだから。

 

頑張れよ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小話Ⅴ:それぞれの二年~ナギ・アリカside~

ナギside

 

他のメンバーと分かれてからもう一年が経とうとしている。

この一年俺は、拠点とか作らずいろんな町を転々として旅を続けていた。

もちろん其の町々で、困った事があったら力を貸している。

姫さんも俺達にそれを望んでいるようだったからな。

それに…これは俺の罪滅ぼしでもあるんだ。

 

最初立ち寄った町は、戦争のせいで廃墟に近かった。

どうやら、国からの支援がここまで行き届いていなくて立て直そうにもうまくいってないらしい。

だから俺は、この町を元通りとまでは行かないがある程度元通りになるまで手伝う事にした。

その町でも、俺の名前は有名らしく”英雄”と呼ばれてもてはやされたんだが…中には俺の事を嫌っている人達もいた。

 

「なにが”英雄”だ!人殺しの癖に!”英雄”なら返してよ!私達の村を!私の腕を返してよ!!」

 

最初そう言われた時に、俺は何も言い返すことが出来なかった。

 

”人殺し”

 

それは間違ってない。

俺は魔法で多くの人を殺してきたんだから。

 

そう…俺の手は多くの人の血で真っ赤に染まっている。

 

だから今俺に出来ることは、その人に頭を下げて謝って、少しでもその人の傷が言えるように魔法で癒してあげる事だった。

最初はもちろん。罵倒さて、時にはモノを投げつけられたりもしたけど、根気よく通い続けたら次第にそんな事は無くなって、最後にはこう言ってくれた。

 

”あんな事言ってごめんなさい。少し考えればわかる事だった。貴方達が戦わなかったらもっと戦争は続いていたし、私は死んでいたかもしれない。…今更どの口が言うんだって思うだろうけど言わせて頂戴。…ありがとう。そして、今まで辛い事をさせてごめんなさい”

 

それを聞いた時。思わず涙が出てきた。

自分がやってきた事が始めて報われた気がした。

 

だから俺の方こそ言わせて欲しい。

 

ありがとう。

 

馬鹿な俺にいろんなことを気付かせてくれて本当にありがとうって…。

 

それ以来、俺は立ち寄った町や村で、復興の手助けをしていった。

其の間活躍した魔法と言えば、殆ど回復魔法。

魔法としてはかなりインテリな魔法で、俺も苦手としていたんだけど、その苦手な俺の回復魔法でもこれだけ助けられる人が増えるんだから、毛嫌いせず昔からやっておけばよかったって後悔しっぱなしだ。

こういうのは、アルとかお師匠が得意だったから、この旅が終わったら本格的に習ってみようと思う。

 

でも、こうして旅を続けていていろんなことが分かったのは確かに良かった。

今まで自分がどれだけ視野が狭かったってことも気付けてよかったと思う。

だけど、まだ本来の旅の目的を達成した訳じゃない。

 

俺はどうするべきなのか…

 

其の答えはまだ見つからない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・

 

それから更に時が過ぎ、とうとう姫さんの処刑まで半年となったけど、俺はまだこうして答えを出せないで居る。

刻々と時間がしていき心だけは何時も焦っているが、どうしても行動する事が出来ない。

そんな自分が心底情けないって思う。

 

そして今日も復興の手伝いをしながら、答えを探して考え込んでいると、誰かが俺に声をかけてきた。

 

「ねーねーナギさん。」

 

「ん?おお、お前は確か…大工所の坊主じゃねーか。どうした?」

 

俺に声をかけて来たのは、この町の大工の所の子供。

あの大工のおっさんは、ラカンみたいな性格をしていて一緒にいて飽きないかなりいい人だ。

最近だとそのおっさん一緒に作業したり、仕事終わりにはお酒を飲んだりしている。

そしてそのおっさんには、二人の子供がいるんだけど、今こうして俺の前に居るのは、年上の子供の方だった。

 

「うん。ちょっとナギさんにお願いがあるんだ。」

 

「お願い?いいぜ?俺に言ってみな。大抵の事なら叶えてやるぜ?」

 

「本当!?なら、僕に魔法教えてください!!」

 

そう言って子供は俺に頭を下げてきた。

 

「魔法…か。またどうして魔法なんか…」

 

正直、俺は魔法なんて教えたくない。

この旅でいかに未熟だったかを知った俺には誰かに魔法を教える資格なんてないと思う。

それに…俺が本来使う魔法は広域破壊呪文。

壊す事しかできない魔法なんか子供に教えたくなかった。

 

「守りたいんだ。妹を!父さん、母さんを!何時も僕は皆に守られてばっかりでそれがくやしい。だから今度は僕が守ってあげたいんだ。戦争が終わってからも、妹は何時も泣いてばかりなんだ。僕は、それを見るのはもう嫌なんだ!僕はアイツの兄貴だ!ちゃんと守ってあげたい。…僕はナギさんみたいに強くないけど、せめて家族だけでも守りたい!だからお願いします!僕に魔法を教えてください!!!」

 

それを聞いたとき、頭に雷が落ちるぐらいの衝撃を受けた。

そうだよ…なんでこんな簡単なことを忘れていたんだろう。

 

守りたい奴を守る

 

最初俺は自分の力を試したいだけで、魔法使っていたけど、アルやお師匠、ラカン、タケル、龍牙、ガトウに出会ってから、それは変わっていったじゃねーか。

 

自分の為の魔法から、誰かを守るための魔法に。

 

大体、最初から”英雄”とかそんなんどうでも良かっただろ?

前姫さん助けた時だって、犯罪者だったんだから。

それが今は、どうだよ。

 

”英雄”?そんなの名乗ったつもりはねぇ…

 

”世界を救った”?それはやりたい事をやっていたらそうなっただけ。

 

”犯罪者”?上等だよ。それで俺が満足する事ができるならいくらでもなってやる。

 

 

そうだよ。

何、色々考えていたんだよ。俺が行動するのは、俺がしたいって思うからだ。

誰かに言われてだとか、誰かに命令されてだとかじゃない。

もちろん”英雄”なんて言葉何かのためじゃない!

 

はぁ…俺やっぱり馬鹿だよな。何こんな簡単な事に気がつかなかったんだろう。

流石におちこむぜ…

 

「あーもう!馬鹿だな。」

 

「?」

 

「あ!いや。お前のこと言った訳じゃねーよ。それとだな…魔法の事なんだが。悪いな。俺はこれからやらなくちゃいけない事が出来ちまったから。教える事はできねーんだ。」

 

「そうですか…」

 

「あ、でも心配するな!其の用事をパパっと終わらしてきたら、またここに戻ってきて教えてやるよ。まー俺は人に魔法なんて教えた事無いから、うまく出来るかわかんねーけど…な。」

 

「ほんと!?うん。僕待ってる!」

 

「おう。じゃ、行って来るわ。妹やおっさん達によろしくな!」

 

「いってらっしゃい!」

 

子供に手を振ってわかれ、俺は飛ぶ。

とりあえず、アルとか詠春に連絡をとらねーとな。

それと…タケルか。

アイツが俺に言ってくれた言葉。

正直まだその意味は分かってねーけど、なんとなく答えが見えた気がする。

きっとその答えは姫さんが考えて、願った“英雄”とは違うだろうけど、そんな事はもうどうでも良い。

今はとりあえず姫さんを助ける!

そして、これからも姫さんを守りたい!

あいつの騎士であり続けたい!

 

誰がなんと居ようと、俺の邪魔はさせねーよ。

 

 

 

 

俺が”英雄”?

 

違う違う。俺はまだ英雄じゃない。

 

そう。

 

たぶん俺は”英雄”って奴に今から成りに行くのさ。

 

 

 

アリカside

 

刑執行まで、後一週間か…。

ふふ…歴代の王族でも二度もこうして監獄に収容された姫は居ないだろうな。

まったく、我ながら笑えてくる。

 

だが、後悔などは無いがな。

こうして私が犠牲になることで、多くの人と幻獣が救われる。

ならばこの命惜しくは無い。

 

無い…

 

無いはずなのに…

 

何故こんなにも心が締め付けられるのだろう。

 

そして、何故あの男の顔が頭に思い浮かぶのだろう。

 

ナギ…

 

私が王族だと言うのに、そんな態度を取らず、ただのアリカとして接してくれた最初にして最後の男。

アイツの前では私も一人の女でおれた。

今考えれば、色々無茶な事も言ったな。

 

一緒になって敵のアジトに乗り込んだりもしたな。

あれは、本当に面白かった。あんな体験もう二度とできぬであろうな。

 

そして、私の前で騎士になると誓ったあの日。

あの日ほど、嬉しかった事は無い。

 

それからは、互いに忙しくて一緒に居る機会も減ってしまったが、それでもなんだか守られている気がして心強かった。きっとナギがいたから弱音を吐かずここまでやってこれたのであろう。

 

……ふふっ。

 

なんじゃアリカよ。

 

こんな時になってやっと自分の気持ちに素直になれたというのか?

 

本当にいじっぱりな性格じゃな。

 

まぁ今更どうでも良いか。

 

もうすぐ私は死ぬ。

 

おそらく、この大陸史上最大にして最悪の犯罪者としてな。

 

だがそれで、幸せになるものたちがおるなら、それで良いではないか!

 

 

……!!

 

なんじゃアリカよ。

 

今更涙なんて流してどうしたというのだ?

 

覚悟決めたはずじゃろ?

 

そう…覚悟を決めたのじゃ!

 

だから涙など……悲しいなど……こ…怖い…など…と考えるでない。

 

後はナギ達に任せよう。

 

 

ナギよ…

 

愛しいナギよ…

 

もう、私に逢う事はないじゃろうが、これだけは言わせてくれないか?

 

あんなひどい言葉を投げかけた私の事などもうお主は嫌いになって居るじゃろうが、今この時を使って本心を言わせてくれないか?

 

 

 

 

 

 

 

「ナギ、大好きじゃ。私がただ唯一愛した男。お主の事死んでも忘れはしないぞ。…どうか幸せになってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ……出来ることならナギとまた買い物に行きたかったなぁ…。

 

 

 

小さな窓から見える月に私は話しかける。

 

叶わぬ夢と知っていながらも、私は願ってしまう。

 

素直じゃない私の本心を…

 

消して敵わぬ私の夢を…

 

 

 

 

 

 

私が処刑されるまで後、一週間…

 

 

 




んー短いですね。
あっさりしすぎでしょうか?
けど、あまりここらへんはくどくど書いてもなぁ…という所が正直な所です。
アリカについてはともかく、ナギについてはもう少し書けるかもしれませんが、小話ですからこれぐらいで勘弁してください。

武の時は、どちらかと言えば、普段スポットのあたってない三人の話だったので、多く書きました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話:大逆転

三人称side

 

アリカ姫逮捕という大事件から早二年。

ここケルベラス渓谷では、その重戦犯罪人であるアリカ姫の処刑が決行されようとしていた。

なお、この事は撮影され後で民達に公表する事になっており、その為今ここには元老院議員達によって選ばれた兵士達以外は、ここに近寄る事すら禁じられていた。

 

「魔獣うごめくケルベラス渓谷。魔法を一切使えぬ谷底は魔法使いにとってまさに『死の谷』」

 

淡々と刑の内容を話す議員。

その顔は、一見無表情に見えるのだが、少し注意してみると、所々下種な笑いを浮かべていた。

その議員にとって、アリカ姫を始末する事がよほど嬉しいらしい。

まぁそれは当然の事なのかもしれない。

彼…いや、この処刑に賛同した彼らにとってアリカ姫は、己の欲望を達成するためには邪魔存在。

むしろ邪魔所ではなく、生きていてはいけないくらいの人物であった。

その彼女が今から処刑される。

彼らにとって欲望が実現しようとしている瞬間なのである。

それを考えると、どうしてもにやけてしまうのだろう。

 

一方処刑されるアリカ姫と言えば、そんな議員達の表情を見て、おそらく今彼らがどんな気持ちでいるのか想像がついていたが、そんな事はもうどうでも良いとばかりに、その事に反応を示すことなく、整然とした表情で刑の内容を聞いていた。

 

そして、刑の内容がいい終わり、いよいよ執行される時が来た。

 

「これより刑を執行する。…歩け!」

 

「触れるな下郎!言われずとも歩く!」

 

アリカ姫はそう言って、崖へと歩を進める。

すると、先ほどまで刑の内容を話していた議員が、何を思ったかアリカ姫に近寄ってコソコソと話をし始めた。

 

(いい事を教えてやろう。国王を殺したのはこの私だ。そしてお前が素直に逮捕される代わりに願った事があったが…くだらん。大体そんな願いをこの私が叶えると本気で思ったのか?幻獣と共存?笑わせてくれるわ!これが終わり次第根絶やしにしてくれるわ。…あぁついでにあの”紅き翼”とやらも同じようにしてやるとするか。…あいつ等は私達にとって邪魔でしかないのでな。)

 

(!!!!)

 

「き…キサマァ!!」

 

議員の言葉に激昂して食い掛かろうとすると、議員はその光景が凄く楽しそうな笑顔をしながら、すぐにアリカ姫から離れる。

そしてアリカ姫は近くに居た兵士達に掴み取り押さえられてしまった。

 

「ククク…おお怖い怖い。…何をしている。早くこの犯罪人を谷に落すのだ!!」

 

『はっ!!』

 

議員の命令に兵士達が無理やりアリカ姫を立たせると、崖の手前まで移動させる。

 

「くっ…。すまぬ。…すまぬナギよ。幻獣達よ!…私は…私は…」

 

「何をしている!早くしろ!それとも落とされたいのか!?」

 

「ぐっ!分かっておるわ!!……さらばじゃナギよ」

 

兵士達にせかされ、アリカ姫は最後に議員達を睨みつけた後、深呼吸をして、自ら谷へと落ちていった。

 

直後

 

谷底にいる魔獣達の咆哮が辺り一面に広がり、刑が滞りなく執行した事を告げる。

 

「アハハハッ!良しこれで!これで…!!」

 

刑が完了した事に喜びを隠せないように笑う議員達。

しかし、その笑い声は次の瞬間驚きと悲鳴に変わる。

 

「あぁ…これで何もかもうまくいくな。あーもうめんどくさかったぜ!!」

 

そう言って一人の兵士が、肩を回しながら列より前に歩く。

 

「何をやっている!!貴様一体何者だ!!」

 

「あ?何者ってそりゃ……お前たちにとっての”災い”って奴じゃね?」

 

心底楽しそうな声をしながら、その兵士は話し、近くに居てこの様子を撮影していた兵士のカメラを取り上げる。

 

「さて録画はここら辺でおしまいだ。これから先は”無かった事になる”。この意味分かるよな?」

 

兜をかぶっている為、顔は見えないがその体から漂う殺気におされ思わずコクコクと何度も首を縦に振る。

 

その兵士からかもし出される殺気に、周りにいた兵士達も思わず後ずさり、何時しかそこにはぽっかりと人で出来た穴があった。

兵士達でこれなのだ。

そこにいた議員達は最初呆気に取られたものの、身の危険を感じたのかすぐさまこの場から離れようと船へと向かって走り出す。

が、そんな議員達の前に一人の兵士が立ちふさがり、その進行を止める。

 

「じゃ…邪魔だ!!どけぇ!!」

 

本来ここに居た兵士達は、皆議員達の息がかかった者達なので、邪魔する事自体ありえない。つまりその兵士もまた、先程殺気を出した兵士の仲間だと言う事にすぐ気が付くはずなのだが、我を忘れている議員達にはどうやらそんな事も思いつかなかったらしい。その兵士向かって叫びどかそうと、手をふりかざすが、次の瞬間その議員は顔を殴られてその場に倒れた。

 

「邪魔って…ひどいなぁ。大体これから始まるパーティーに主役さんが居ないと始まらないだろ?なぁ…議員さん?いや…国王殺害及び、戦争を引き起こした張本人さん?」

 

「ひっ…ひぃぃぃ…」

 

殴られた顔を手で押さえながら声にならない悲鳴を上げる議員。殴られなかった議員もその場で腰を抜かしてしまい動く事が出来なかった。

ここにきて、議員達はようやくこの瞬間何が起こったかをすべて察した。

 

「ま…まさか…お前達は…!!!」

 

「ぬんっ!」

 

議員達が叫ぶと同時に、先ほどすさまじい殺気を出していた兵士の鎧が弾け飛び、中からラカンの姿が現れる。

 

「オイオイ…。鎧を内側から破るとか、どんだけだよ…。」

 

ラカンの行動に呆れながらも、議員をぶっ飛ばした兵士は鎧を脱ぎだす。

その姿があらわになるにつれて、議員の顔からどんどん血の気が引いていき、真っ青になっていった。

 

「ふう。これあっちーよな。…さてどうも議員さん。」

 

そう言って、姿を現したのは、本来ここに居ないはずの、いや居てはいけない人物。“紅き翼”のメンバーで“銃神”と呼ばれている“英雄”…伊達武その人だった。

 

タケルside

 

うむ。どうやら作戦は成功したみたいだな。

いやー痛快だね。こうしてこの議員の絶望に彩られた顔を見るのは。

俺の顔を見て真っ青になっている議員を見ながらそんな事を考えていると、近場の岩場に姿を隠していた龍ちゃんが、元の姿のままゆっくりと俺の隣やって来る。

 

「いやいや…タケやん。なんでそんな邪悪な笑みしとるん?おもいっきりワルモンやんか。」

 

「え?そんな表情してた?」

 

「もうバッチリな。…でもまぁ気持ちは分かるわ。」

 

そう言って龍ちゃんがニヤッっと笑うと、それにつられて俺もニヤッっと笑う。

すると、さっきまで呆けていた議員が叫びだす。

 

「お、お前達は”赤き翼”だな!貴様等今一体何しでかしているのか分かっているのか?」

 

「え?そりゃもちろんアレだろ?この茶番をぶち壊して犯人を捕まえてる?」

 

「いやそれはちゃうでタケやん。ワイらは捕まえるんやなくてボコボコにして生まれてきた事を後悔させるんやろ?」

 

「おおそうか!」

 

「ふざけるな!!」

 

俺と龍ちゃんが喋っていると、また議員が叫ぶ。

 

「別にふざけてねぇだろ?それにもうネタは上がってんだよ。」

 

「そや。結構簡単やったらしいで?あんた等の悪事暴くの。ずさんやなぁ…大体安心しすぎやろ部屋の机の引き出しの中、二重底の下に書類隠すなんて、思春期の男がエロ本隠すのと一緒やん。」

 

「うわーそれは初めて聞いたわ。いい年こいたおっさんがそれかよ。」

 

「う…うるさい!だ…だが!もうおそいアリカ姫はもう死んだ!すべての罪を背負ってな!今更そんな証拠意味はあるまい!」

 

「いや意味はあるからな?ていうか何威張ってんの?」

 

この状況でまだ俺達に向かって威張り散らしている議員達に呆れながら俺がそう言うと、龍ちゃんが議員達に向かって話し出す。

 

「ある意味関心するわ。それにまわりみてみぃ誰かたらんと思わんか?」

 

龍ちゃんにそう言われ議員が回りを見渡す。

すると、やっと気付いたのかさっきまで青かった顔が白くなっていく。

 

「そう。ここに居るのはガトウ・ラカン・ゼクト・詠春さん・そして俺と龍ちゃんだけなんだよ。肝心の奴がいねーだろ?」

 

そうここに居るのは、兵士として潜入していた俺とラカン。そして、龍ちゃんと同じく岩場に隠れて時機を伺っていたガトウ・ゼクト・詠春さんだけなのだ。

そのラカン達は、兵士達を睨み付けながらすぐにでも戦闘ができるように構えているが、本来ならもう一人いなくてはいけない人が居るのだが、その姿は何処にも無かった。

その事に気付いた議員達は、皆“まさか…”と口に出しながら谷の方へと視線を向けるが、その中の一人がぼそっと話す。

 

「まさか…いやそれでもあの谷底は、魔法が使えないはず…」

 

「魔法ねぇ…確かに使えないだろうが、それは前崩壊の時に体験してるからそれぐらい対処してるっつーの。それによ…」

 

俺の言葉に議員達が反応して、俺に視線を向け、そんな議員達に俺は自信たっぷりにこう言い放つのだった。

 

「姫を助けるのは騎士の役目だろ?そんなおいしい場面を逃すなんて事、うちのリーダーは絶対しないさ。」

 

そう言って俺は、谷へと視線を移すのだった。

 

アリカ姫side

 

あぁ…私はなんて愚かなんだろうか?

 

自分が死ねば後は上手くいくなんて、勝手に考えてその結果がこれか。

 

くやしいなぁ…

 

親の敵もとれず、民達の幸せの為に生きていけず、手を貸してくれた幻獣達の為にもなれず…

 

これほど無意味な死など他には無いだろうな。

 

戦争で死んでいった者達になんとわびれば良いのか私には分からない。

 

そして…

 

こんな愚かな私の騎士となったナギ…

 

いや騎士だったナギを守ってやる事も出来なかった。

 

…ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

もう後は魔獣に食われるか、下に落ちて死ぬしかないが、もし許されるのならその名前を呼ばせて欲しい。

助けてほしい。

 

都合のいい女だと笑われても、蔑まれても良い。

けれどまだ私は死にたくない!

 

「ナギーーーーーーーーー!!!!!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・

・・

 

はいよ。姫さん!

 

・・・・・・・・・・・・

・・・

 

 

ん?

 

ナギの声が聞こえた気がするが、幻聴か?

 

それになにやら、誰かに抱き抱えられている感じがする。

 

……なるほど。これは夢か。

 

なんとも粋な夢を最後に見せてもらえるものだ。

 

私の最後を騎士が助けてくれる。

 

ハッピーエンドには欠かせない結末じゃ。

 

「……おい。姫さん?大丈夫なのか?」

 

ほら、こうしてナギの声が聞こえておる。

夢のはずなのに、その呼吸まで近くに感じれるとは…私の夢も大したものなのだな。

 

「…あーあのよ。目を瞑って夢とか何か言いながらすげーニヤついている所悪いんだけどよ。いい加減目をあけてくれよ。」

 

なんじゃと?

そこは、やっぱりく…く…口付けをして目を開けさせるのが普通じゃろうが!

気が聞かない奴め。私の夢なのだから、それぐらいは気をきかせるべきじゃろうが!!

 

「えっ!?……ったく参ったなぁ。そう言われちゃぁ仕方がねーか。でもアルとかがこういうのは、むーど?が大切とか言ってたんだけどな…」

 

…チム…

 

!!!!!!!

 

「って本当にやる奴がおるかー!!!」

 

そう言って私が目を開けるとそこには、最後に私が逢いたいと願ったナギの顔があった。

 

ただ、ちょっと顔が赤いのは何故だろうか…?

 

ナギside

 

「よ!起きたか姫さん。」

 

「な…な…ナギ…か?」

 

「他に誰に見えるって言うんだよ。」

 

俺がそう言うと、姫さんは震えながら手を俺の顔に近づけて、まるで存在を確認するように何度も顔を撫ぜる。

 

「…夢ではないのか?」

 

「夢じゃねーよ。」

 

「そ…そうか。……っ!!な、ならもしかして私にく…口付けをしたのも?」

 

「…っ!!!あ、ああ俺だよ。姫さんがして欲しいって言うからさ…恥かしいけどよ。」

 

その瞬間、姫さんの顔が真っ赤になり、思わず顔を俺の胸に押し当てて隠してしまう。

しかも体は小刻みに震えている。

 

(やべぇ…すげーかわいいじゃねーか)

 

あまりの姫さんの行動のかわいさに、思わず顔が熱を持ってしまい、しばらくこのままでいたいと思ってしまったが、流石に今の状況でそれはまずいと思い、とりあえず声をかける事にする。

 

「ひ…姫さん?」

 

思わずどもってしまった声出してしまったが、とにかく姫に声をかける事は出来た。

するとビクッ!と姫さんの体が反応する。

そして姫さんは勢いよく顔を上げると、真っ赤な顔と目じりに涙を溜めてキッ!っと俺を睨みつけると、いつか何処かで見たことがある黄金の右手を振り上げた。

 

「こ…こ…この馬鹿者がーーー!!!!!」

 

バシーーーーン!!!

 

「り…りふびん!!」

 

ここで吹っ飛ばされず、姫さんを抱えたまま耐えた俺を誰かほめて欲しい…。

 

・・・・・・・・・・・・

・・・

 

俺に平手を浴びせた姫さんは、しばらく興奮が収まらないのか色々早口でわめいていたが、次第に落ち着いてきたのか、状況を確認するかのように俺に質問を投げかけてきた。

 

「ふー、ふー、ふー…」

 

「はぁ~やっと落ち着いたかよ姫さん。」

 

「う…うむ。取り乱してすまなかったな。…でじゃ何故お主がここに居るのじゃ?」

 

「何故って…そりゃ俺は姫さんの騎士だからな。」

 

「戯けが!私は言ったはずじゃぞ?お主を騎士から除名すると。」

 

「ああ…確かに言ったな。だけど俺はそれを受け入れた訳じゃねー。だからまだ俺は姫さんの騎士だ。」

 

「なっ…!!そんなへりくつを…」

 

「屁理屈でもなんでもいいさ。…俺は姫さんの騎士で、英雄で、そばでずっと守ってやるって決めたんだよ。…ずっと、それこそ一生な。」

 

「はっ…?………いや…いやいやいや!ちょっと待てなんだそれは!それではまるで…」

 

「ん?告白したつもりなんだが?分かりにくかったかな?…アルがこういえばイチコロとか言ってたのによう。…まぁいいや。じゃあこう言えば良いか?」

 

アルにちょっとだけ文句を言ってから、俺は姫さんの顔に顔を近づけると姫さんにしか聞こえないようにそっと呟く。

 

「俺は姫さんが好きだ。この気持ちは誰にも負けねぇ…。この二年色々考えてやっとこの気持ちに気付けた。これからいろんな事が起こっていくと思うけどよ。姫さんを傷つけるモノすべてから俺が守ってやる。一生姫さんの隣でな。……愛しているぜアリカ。」

 

「★■※@▼∀っ!?」

 

おい姫さんそれは他の世界の人の言葉だろ?

……まぁ真っ赤になって驚いているって事は分かるけどよ。

さすがの俺でも恥かしいからな。まっ!後悔はしてないがな。

 

「…でなんだが。出来れば返事が欲しいな。」

 

「……お主は」

 

「ん?」

 

「お主はそれがどういう事か分かって言っておるのか!?大体自ら”英雄”と言うなら私にかまわず他の困っている者達を助けるのが普通じゃろうが!!」

 

「そうかもな。…だが、それは“英雄”の一面でしかねーよ。」

 

「はっ?」

 

「俺も最初“英雄”ってのはそういうもんだと思い込んでいたがよ。それだけじゃないと思うぜ?“英雄”ってのは、それこそ人の数だけその答えがあると俺は思う。そして俺にとっての“英雄”ってのは”大切な人を一生守りきる奴”の事なんだよ。あぁ、けど勘違いするなよ?俺は別に困っている人を助けないと言ってる訳じゃねぇ。俺が力になれる事があるなら、喜んで手を貸すさ。だけど、もし俺の知らない誰かと姫さんどっちかしか助けられないとなったら、俺は迷わず姫さんを助けるぜ?もちろんそんな事態になる前に何とかするけどな。えーとつまりだな…それくらい俺は、誰よりも姫さんを…いやアリカと言う一人の女を助けてーんだよ。俺の一生を使ってな。」

 

「…っ!」

 

「だからこれで良いのさ。アリカを一生愛し、守る事こそ俺がなるべき”英雄”なんだよ。」

 

「……この馬鹿者が。後悔してもしらんぞ?」

 

「はっ…俺の頭に後悔なんて言葉はねーんだよ。どんな事があっても、俺が何とかしてやるさ。…アリカ聞かせてくれ。お前は俺の事どう思ってn…」

 

…チュッ

 

「!!!!」

 

アレ?アリカの顔が近い…じゃなくて、もしかして俺キスされているのか?

いや…まっ…うれしいけど、え?…いやいや…ちょっ…答えは?

 

「…ぷは。これが私の答えじゃ。」

 

「………あーえっと。つまりは…その…なんだ。」

 

「ふふふっ…。そんな顔を見るのは初めてじゃな。…ナギよ。私も愛しておるぞ。」

 

あー最後やられたな。…あ゛~やられた!

 

そんなかわいい顔されたら反則だってーの。

でもまぁいいか。

アリカを助ける事でやっと俺が望む“英雄”って奴にやっとなれたんだからな!

 

 

龍牙side

 

「あー遅いから心配になって覗いて見れば…なんやアレ。ナギを乗せとる幻獣が何かむっちゃかわいそうになってくるわ。」

 

ナギがアリカ姫を助けてこっちに戻ってくる前に、ワイらはここに居た奴らをあらかたぶっ飛ばす。

これがワイらが考えた作戦やったんやけど、思いのほかすぐに終わった。

あらかたっちゅーんは、やっぱり黒幕さん達には最後のお楽しみとして残すことに決めていたからや。アリカ姫もボコボコにしたいやろうからな。

それにしても、魔法が使えんと分かった後、幻獣に助けを求めたんやけど、そん時のナギはかっこよかったなぁ。

まさか”どーしても助けたい奴が居るんだ、だから頼む!俺達に力を貸してくれ!”って言って幻獣達の前で土下座するとは思わんかった。あのプライドの高いナギがな…。

なんや、成長した子供を見た気分やわ。

…ま、ワイには子供おらんけどな。

おそらく他の奴らもわいと同じような気持ちなんやろ。

何か生暖かい目で見とるやつもおれば、呆れた顔をしとる奴もおる。

けど皆わらっとる。

やっぱ、こうでないといかんな。

ワイはそんな事を思いながら、あたりを観察していると、その中で一人他の連中とは違った表情をしとる人を見つけた。

あれは…哀しいんか?

 

「どーしたん?タケやん。」

 

ワイは、皆とは少し離れた場所でナギ達を見ていたタケやんに声を掛ける。

ワイの声に気付いてタケやんがこっちに顔を向けてくれるけど、その顔を見てやっぱりどこかいつものタケやんと違って見えた。

 

「ん?龍ちゃん別に何でも無いよ。ただ、ナギとアリカ姫を見てたら何かこう…なんだろ。上手く説明できないや」

 

そう言ったタケやんの目から急に涙がこぼれだした。

 

「あ…あれ?おかしいな。何で俺泣いてんだろ?ははっ…すべてまるく納まってよかったはずなのにな…」

 

そう言って涙を拭おうと目を擦るタケやん。

だけど、拭っても、拭っても涙は止まらなかった。

それを見てワイの心がズキリと痛む。

そして心の中で小さく呟いた。

…そっか。やっぱりそうやったんか。

……しゃーないな。こればっかりわ。

 

「タケやんそれは嬉し涙やで?」

 

ワイは笑顔を作りながらタケやんにそう言って、何時もワイがおるタケやんの肩へ体を預けた。

 

「嬉し…涙?」

 

「そうや。ナギもアリカ姫も助かって、しかも二人とも幸せそうにしとるのを見てタケやんは嬉しいんや。やからこうして涙がでとるんや。そこもワイら幻獣と一緒やなぁ…」

 

「ははっ…そうか。そうだよな。これは嬉し涙だよな。」

 

タケやんはそう言ってワイを正面に置くとギュッと抱きしめる。

その顔は笑っとるけど、ワイには分る。

きっとこの笑顔は表面だけで、心から笑ってない。

そしてその理由もワイは分っとる。…分っとるけど、その答えはタケやんには言えへん。

…ほんまかんにんや。タケやん。

タケやんに抱きしめられながらそう思っていると、いつの間にかラカンがタケやんのそばに近づいて来ていた。ラカンはタケやんが泣いているのを見て、一瞬悲しそうな顔になったが、すぐさまいつも通りの表情に戻ってタケやんの肩をたたいた。

それを見て、ワイだけじゃなく、おそらくラカンもタケやんの気持ちに気づいていた事を知った。

 

「おっ?なんだタケル嬉しくて泣いてんのか?涙もろい奴だなまったく。」

 

「う…うるせーよ。バカン」

 

「あ゛ぁ!?誰がバカンだコラ!?ケンカ売ってんのか!?」

 

「テメーが売ってきたんだろうが!!」

 

そう言って、ラカンとタケやんが二人で取っ組み合いを始めた。

それを見た他のメンバーは笑いながらそれを見ている。

しかしワイだけは、その騒ぎから少し離れてその光景を見ていた。

 

ふふ…ラカン流石やな。

……すまんなタケやん。

ワイ嘘言ったわ。その涙はおそらくアリカ姫とナギがくっついたせいやと思うで。

前々から薄々気付いとったけど、タケやんはおそらくアリカ姫のことが好きやったんやなぁ。

それも、タケやん自体殆ど気付かんくらいの。

それくらい小さく淡い感情やったんや。

こんな事思いたくないけど、正直最初からこうなる事は分かっとった。

やって、アリカ姫は最初からナギしか見とらんかったからなぁ。

その証拠に、あきらかにナギに見せる顔と、ワイらに見せる顔は違とったから。

やからこの結果は簡単に予想できた。おそらくラカンもそう考えとったはずや。

でも、本人が自覚してないのに、ワイらがどうこう言える訳が無い。

ほんと…歯がゆいわ。

人の言葉でこんな言葉があるらしいな。

 

”初恋は実らない”

 

まさにその通りになってもうたな。

タケやんがその事に気付くのは、まだ先の事やろうけど、そん時タケやんはなんて思うんやろうか?

…いや。そんな事考えんでも良いか。

そん時なったら、ワイもタケやんの傍におって話しを聞いてやれば良いだけや。

哀しかったら慰めたったらええ、うそ教えたって怒られたってええわ。

気が済むまでワイは付き合うで?

 

 

……さて、そろそろワイもあの騒ぎに参加しなな。

 

タケやん…。

 

これからもっといろんな経験をしてくやろうけど、ワイは何時までも相棒としてタケやんと一緒におるで?苦しい事も、悲しい事も全部一緒に考えたるわ。

前にも言ったと思うけど、タケやんはワイの相棒で…

 

ワイの一番の親友やからな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話:すべての決着。そして新たな旅たちへ…

昨日投稿した”大逆転”ですが、もう少し初恋の切なさを出した方が良いという意見もありましたので、少しつけたしてみました。
この付け足しで、もっと切なさとかが伝われば良いと思います。


タケルside

 

俺とラカンがケンカしている間に、どうやらナギとアリカ姫が合流ようだ。

手を繋ぎながら歩いてくる二人に皆群がり、二人の生還を心から喜んでいる。

俺達もケンカをやめて、二人がいる場所へと走っていく。

さっきまでのなんだか分からない気持ちは、ラカンとケンカしている間に殆ど無くなってしまった。

多少まだ残っていると言えば残っているのだが、表情とかに出なくてこうしてナギ達の前でも笑顔でいれるのだから別にいいと思う。

この気持ちがなんなのかよく分からないけど、そう簡単に消えるものじゃない事ぐらいはなんとなく分かるから…。

 

その後、皆の興奮がおさまった所で後始末をする事となった。

後始末と言うのは、もちろん今回アリカ姫が捕まった原因でもあり、己の欲望の為に戦争を起こし、尚且つ長い間戦争を長引かせた首謀者達のこれからについてだった。

 

「いやだからよ。もうアレでよくね?この谷から落として魔獣に食われてもらうってことで。」

 

首謀者達を囲みながら、先ほどから俺達は話し合いをしている。

内容はもちろんどう処分するかなのだが…皆ワザとやっているのか、わざわざそいつ等の目の前でやっている。

刑の内容が出て来るたびに、議員達は喚き散らしているが、皆無視を決め込んでいた。

アルなんかは凄くいい笑顔でコレに参加しており、改めて良い性格しているな~と思うばかりである。

そんな中、流石に飽きてきたのか、ラカンがもうどうでもいいみたいな感じで発言をする。

 

「ラカン。それについては私も賛成だが、それでは余りにもな。…私の国では昔罪人達をワザと民衆にさらして、その後死刑を執行したんだが…どうだろう?もちろん民衆達は歩いてくるアレに何をしても良いとすると言うことで…。」

 

なにやら詠春さんが黒い事を言っている。

それを聞いて俺は思わず詠春さんを見返してしまった。

だってあきらかにそんな事言うキャラじゃないもん。

 

「むぅ…ワシはどうせなら幻獣達の好きにしてもらうのが良いと思うのじゃがな。今回ワシらも被害をこうむったが、それ以上に幻獣達は被害をうけておる。その怒りを考えるとこれが一番じゃとおもうのじゃが…」

 

『ゼクトよ…。私達のことまで考えてくれた事嬉しく思う。だがそうしてくれるのならありがたいが、人には人の決まりがあるのだろ?ならば私達はそこに口出しをする気は無いぞ。お主達は信用できるのでな。』

 

そう言うのはゼクト。それについてナギ達を助けてくれた幻獣が答えた。

どうやらゼクトはこの二年で、しっかりと幻獣と心を通わせていたらしい。前龍ちゃんに聞いた話だけど、幻獣は本来人の事に無関心で、たまに人と喋る事が会っても、それは単なる暇つぶし…というと言葉が悪いので、興味を持った時らしい。

そんな幻獣がこうして会話に参加していると言う事は、それだけ信頼を得たと言う事に他ならない。

人と幻獣が手を繋ぐ未来を目指すための大きな一歩だと言えよう。

本当にありがたいことだった。

 

すると、今度はナギが発言する。

 

「ん~皆の意見もわかるんだけどよ。ここは一発アリカに決めてもらうって事にしてくれねーか?アリカはこいつらのせいで嵌められて、しかも父親まで殺されてしまった。皆色々怒っている事もあるし、俺ももちろんそうなんだけどさ。一番コレをどうにかしたいのはアリカだと思うんだよ。…幻獣達もこう言ってくれているしな。」

 

「そうですね。私はそれに賛成ですよ。他の皆さんはどうですか?」

 

「「「異議なし!!」」」

 

ナギの意見に皆賛成を示す。

それを聞いてアリカ姫が少し驚いたような顔をする。

 

「良いのか?」

 

「ああ。皆賛成してくれたしな。アリカの好きにしな。」

 

ナギが答えると、アリカ姫は”ありがとう”と皆に頭を下げて、拘束されている議員達の前に歩み寄った。

 

「く…くるなぁ!!貴様何をしてるのか分かっているのか!?私の後ろには元老院が…!!」

 

バシィィィィン!!!!!

 

「うるさい。まずその口をとじろ!」

 

「貴様…覚えて…」

 

バシィィィィン!!

 

「閉じろと言っているのが分からんのか?大体覚える?何をだ?どう考えてもお前たちの未来は死以外ありえない。それは私の父を…国王を私欲で殺したという理由よりも、お前達が起こした戦争で無くなったすべての生物の未来を奪った理由の方が大きい。」

 

淡々と話しているように見えるが、アレはかなり怖いと思う。

それほど今回のことには頭に来ていたのだろう。

王家の人間として、なによりこの大地に住む一人の人間として…

 

「ヒィィ…」

 

「安心しろ。私はこう見えて甘い所があるのでな…最後の選択を与える。お前たちの後ろに居る者達をすべて吐き、楽に死ぬ未来を選ぶか。それとも無理やりはかせて貰い、苦しみながら死ぬ未来を選ぶか…二つに一つじゃ。時間は…10秒やる。さてどちらを選ぶ?」

 

10…

 

「な!?ふざけるな!どうだ?今ならまだ許してやるぞ?」

 

9…

 

「そ…そうだ。お前の罪をなくしてやろう。私達が言えば何とかなるぞ?」

 

8…

 

「おい!聞いているのか?」

 

7…

 

「それなら…それなら…」

 

6…

 

「たのむ許してくれ!…ちゃんと罪を償うから命だけは…」

 

5…

 

「わ…わかった。言う…言うから…命だけは…」

 

4…

 

「ああああぁぁ…やめてくれ…」

 

3…

 

「頼む…」

 

2…

 

「殺さないでくれ…」

 

1…

 

「い…い…いやだぁぁぁぁ…!!!!」

 

0…

 

「ヒッ!!!」

 

「見苦しい命乞いなど聞くに堪えん。それにお前達がやったことで、命乞いすら出来ず死んでいった者が居るのだ。…苦しんで罪を償い、あの世でその者たちに謝って来い!…ガトウ。後は任せる。どんな手を使っても良い、こやつらの後ろに居た人物を吐かせ、その後あの崖から突き落としてやれ。」

 

「はっ…!!」

 

アリカ姫は、最後まで醜く命乞いをしていた者達に、侮蔑の視線を向けるとガトウにそう命ずる。

それを聞いたガトウは、返事をしてその者たちを連れて行った。

 

「コレで良かったのかアリカ?」

 

「む…そうじゃな。……ガトウちょっと待ってくれるか?」

 

ナギにそう聞かれ、少し悩んだ後ガトウを呼び止める。

その声を聞いてガトウが、その場に留まるとアリカ姫は立たされている議員の所に行って手を振り上げた。

 

ズバシィィィィィン!!!!!!!

 

「へぶろふっ…!!!!」

 

アリカ姫に叩かれた議員は、その威力で飛ばされる。

 

「ふう…。これで良い。」

 

「あ…ああ。そうか」

 

すっきりした笑顔をナギに見せるアリカ姫。

その光景を見ていたナギは、額に汗をたらしてどもりながら答えた。

どうやら、自分が喰らう未来でも想像してしまったのだろう。

何か小刻みに震えていた。

 

「……うーん。ナギの奴どう頑張っても尻に敷かれる未来しか俺様には想像できないぜ。」

 

「それは同感。って言うか逆らおうとも思えないだろうね。あの威力…魔力も気も使ってないんだぜ?」

 

「ワイ…人間の女性怖いわ。ありゃ多分世の中で最も怒らせたらいかん存在や。」

 

『よく覚えておこう…。他の仲間にもちゃんと知らせておかねば…』

 

「ふっ…ナギ。その気持ちよく分かるよ。……私の妻も同じ感じだしな。」

 

「……俺しばらく結婚はいい。もう少しだけ気ままに生きたい。」

 

「フフッ……これからナギは大変ですね。」

 

「じゃな。アレは今まで戦ってきたどんな敵よりも強いじゃろう。…負けるなよ我弟子よ。」

 

なんていうのか、今回の出来事の結果をまとめるならこうなんだろう。

 

”けして女性を本気で怒らせない”

 

あの迫力といい、あのビンタの破壊力といい…もうコレしか言えなくなった。

普通なら悔しいとか、俺達の頑張りは?とかそんな気持ちを抱くのかもしれないけど、アレを見ているとそんな気持ちを抱く事すらできない。

 

うん…

 

俺しばらくは恋とかしなくていいわ。

 

ガトウじゃないけど…俺もしばらくは気ままに生きたいと思うから。

 

ま、でもコレでやっと終り。

 

果たしてコレが皆が望むハッピーエンドなのかは分からないけど、ここに居る皆は楽しそうな顔をしているから少なくとも悪くはないと思いたい。

 

ナギはこれから大変かもしれないけど、まぁ俺には頑張れとしか言えない。

 

でも、愛があるから大丈夫だろ。

 

昔の番組で言っていたけど、”愛さえあればラブ・イズ・オーケイ”のはずだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナギよ。あそこに居る者達に”千の雷”を食らわせてくるのじゃ。」

 

「はっ?いきなりなんだよ。理由は?あいつ等ダチなんだけど…」

 

「なんとなくじゃ。」

 

「おいそれはどうなんだよ…」

 

「ナギは私の頼みを聞いてくれんのか?」(ニッコリ)

 

「………すまねぇ皆。アリカに逆らえる気がしねぇ…。うらんでくれるなよ。」

 

ドゴォォォォォン!!!!!

 

『うらむにきまってんだろーが!!!!!』

 

「って言うか悩むのみじか!?」

 

「タケやんがおるといっつもこんな終わり方やー!!!!」

 

「俺のせいじゃねー!!!!!!」

 

最後ぐらい綺麗におわりたかったなぁ…

 

 

それからしばらくして、俺達は詠春さんの結婚を祝うと言う建前の元、京都に来ていた。

もちろん、詠春さんの結婚も祝ったのが、理由としては一種の慰安旅行という事の方が割合が大きいと思う。

後は…ナギとアリカ姫の新婚旅行とかなんだけど……まぁそれはもうどうでもいいか。

あの人達、隙を見つけてはイチャイチャしているからね。

行動しているだけで、新婚旅行みたいなもんなんだろ?…たぶん。

 

さて、そのアリカ姫だが、皆で京都に滞在している時にとんでもない事を発表した。

なんと王位を返上すると言うのだ。

それはつまり、ウィスペルタティア王国が終わると言う事だった。

コレに対して一番に反応したのはやっぱりクルトだったが、アリカ姫に説得され、しぶしぶながら”アリカ姫様の考えを尊重する”と言うことで納得した。

 

詳しい話とかは省くが、どうやら濡れ衣だったとはいえ犯罪者の烙印を押されたアリカ姫がまた国を治めるのは何かと問題が出ることになるだろうということらしい。それにそもそもアリカ姫を救い出したあの場面は無かった事になっているので、どう考えても無理な事だ。それ以外の理由としては、新たなリーダーを選出する事で今までの考えを捨て、新たに幻獣と人間の共存を目指した国を作って欲しいという願いもあるみたいで、流石のクルトもそれを出されると賛成せざるおえないと言う所だろう。

 

アスナ姫対しても、今までかなりひどい経験をしてきているので、もう関わらせたくないという姉の気持ちがあり、それに付いてはクルトも賛成をしていた。

これから旧ウィスペルタティア王国がどうなるか分からないけど、クルトやガトウもそのまま残るらしいので良い国になる事を願いたいと思う。

 

そんなとんでも発言からまた数日が経過した。

その間にもまた事件が起こり、何でも京に封印されていたリョウメンスクナの封印が解けあわや大惨事となりかけたが、正直今ここに滞在している面子の前で事を起こした犯人には同情を禁じえない。

あーアレですよ。

しいて言うなら、最強の武器を手に入れた勇者が得意になって、レベルとか作戦を考えずに裏ボス(ラスボスよりも強力な存在)に真っ向から向かっていった感じ。

しかも最強といわれていた武器は、実は特に最強ではなかったというオチつきで…。

 

俺なら逢った瞬間コマンドの“逃げる”を選択するね。

たとえ逃げられないとしても…。

 

とまぁ本来なら大きな出来事だったんだろうが、ここに居る面子のせいでお酒のつまみとして処理されたリョウメンスクナさんには手を合わせておこう。

あ、ちなみにコレをやった犯人は捕まりましたよ?

詠春さんとか結構怒っていたので、どうなったか聞きませんでしたが…。

 

ともかく!いろんな事があったけど、とうとう皆と別れる日がやってきた。

 

「じゃ皆。一旦ここで”紅き翼”は解散だ。楽しかったぜ。」

 

ナギがそう言い出す。

その言葉に皆”俺達も楽しかった”と返事をしている。

全員別れを惜しむ人などいなかったのは少々驚きだったが、皆またこうして皆で会えることを信じていると言う事なんだろう。皆良い笑顔だ。

…そうだ。コレを皆に渡しておかないと。

 

「あ、そうだ。俺からなんだけどコレ貰ってくれないか?」

 

そう言って俺は、少し前からつくっていたモノを取り出し、それを皆に見せる。

 

「ん?これは…銀細工みたいじゃが…。」

 

それを見たゼクトが興味深げにそれを眺める。

 

「別に大したモンじゃないけどさ、しばらくこのメンバーがそろう事がないだろうから。渡しておこうと思って。コレは俺がデザインしたリングなんだけど、自分の意志で、大きさが変わるようにしている。だから指輪や、ピアス。腕輪にして身につけられる。少しずつデザインが違ってるから俺が手渡しさせてもらうぞ。」

 

俺はそう言うと、全員に渡す。

 

ナギには、翼とナギがもっている杖を組み合わせたもの。

アルには、翼と本を組み合わせたもの。

詠春には、翼と刀、そして呪符を組み合わせたもの。

ガトウには、翼とタバコの煙を組み合わせたもの。

ゼクトには、翼と盾を組み合わせたもの。

ラカンには、翼と二つの大剣を組み合わせたもの。

龍ちゃんには、翼と牙を組み合わせたもの。

 

それぞれ俺の勝手なイメージで作り上げたものだったので、批判とか出るかと思ったけどかなり喜んでもらえた。

 

「お、かっこいいじゃねーか。へへっ…大事にするぜ。」

 

「おう。この大剣ってのがいいな。気に入ったぜ」

 

そう言ってナギとラカンは早速大きさを変えながら、指に嵌めてみたり腕につけたりしていた。

 

「とりあえず、喜んでみてくれたみたいだな。良かったよ。あ、それとだな…実はタカミチとクルトにもリング作ってあるんだけど、今は渡さない。」

 

「どう言う事ですか?」

 

「と言うか、私たちも貰えるんですね。」

 

どうやら、タカミチとクルトはもらえると思っていなかったらしく、驚いていた。

 

「二人は俺の弟子だし、もう”紅き翼”のメンバーって言っても良いと思ってる。だけど出来ることならこのリングは、俺達が背中を任せることが出来るくらいまで強くなった時。そして前に俺が出した課題に答えられた時に渡したいと思っているんだ。」

 

「それは…大変ですね。何時になる事やら…」

 

苦笑いを浮かべながらクルトがそう言っているが、俺はそうは思わない。

師匠としてこの二人を見てきた俺ならそう断言できる。

本当にこの二人が、俺達の後を継いでくれると信じれるくらいに二人の事を信用しているのだから。

 

「クルト。俺はそんな遠い未来の話じゃないと思っているぞ?お前達なら出来ると思ってこの条件を出したんだ。現にもう基本的なことはすべて出来るようになっただろ?」

 

「確かにそう言われましたが…」

 

「まぁ自分がまだ納得できてないって言うなら、これからもっと頑張って納得できるまで鍛錬すればいい。俺に教えられる事はもう殆ど教えたからな。」

 

「わかりました。僕はまだ、タケルさん達に背中を預けられる男にはなっていませんが、必ず成って見せます!」

 

「私も同じです。次逢う時を楽しみにしていてください。」

 

「おう。楽しみにさせてもらうぜ。」

 

二人とも俺達の期待にかなりのプレッシャーを感じているはずなのに、こうして俺達の目を見ながらここまで言えるのだから、やっぱり俺達と肩を並べる事が出来る日はそう遠くないだろう。

その日がいつかはまだ分からないけど、とても楽しみだ。

 

タカミチ達二人の決意を聞いた後、ここに居る全員はそれぞれ決めた道へ進んでいった。

 

まず、詠春さんだが…まぁ当たり前のようにここに留まり、今度ここにある協会の役員になるらしい。色々大変だと思いますが、頑張ってください。

 

次にナギ・アリカ姫だが、まだしばらく京に留まりゆっくりすることに決めたそうだ。

ただ、ナギはどうやら魔法世界で約束している事があるらしく、それを果たすためにもなるべく早く魔法世界に戻るらしいのだが、そこら辺はアリカ姫と相談して決めるとか。

大変だなナギ…いろいろと。

 

ガトウ・タカミチ・クルトについては、一度アリアドネーに帰りアリカ姫の言葉を伝えに行くらしい。そしてそのまま新国家を立ち上げるために尽力するとか。タカミチとクルトには更に修行していつか手合わせしに行くからその時までに、俺の課題に答えられるようになっておけと言っておきました。

”何時ですか?”とか聞かれたけど、本当に決めていないので分からない。

多分ここ数年の話ではないと思うけどね。

それとアスナちゃんも、ガトウ達と一緒に同行することが決定した。

アスナちゃんは俺と別れたくないと駄々をこねていたけど、流石に拠点なし、その日暮らしをする予定の俺達と一緒に行くのはどうだろうと言う事で、無理やりにでも納得させました。

ただ、大きくなったら捕まえに行くとか宣言されてしまいましたが、まぁその時はその時で考えることにした。

 

アルは、俺達と同じように旅を続け、どっか落ち着ける場所を見つけたらそこで気ままに過ごすらしい。

 

最後にゼクトとラカンなんだけど、二人は帝国領の何処かで暮らすということだ。ゼクトは幻獣と一緒に生活する事を決めており、そのまま幻獣について色々研究すると言っていた。ラカンはまだ決めてないらしいけど、昔居た事がある闘技場で何かをするつもりだとか。ラカンについては珍しくそこら辺を濁していたので、詳しく聞くつもりはない。

 

とまぁ他の面々はこんな感じ。

そして俺と龍ちゃんだが……

 

「なぁタケやんこれからどうするん?」

 

「ん?そうだな…俺こっちに来てからまだちゃんとこの世界を見てないだろ?だからしばらくは旅でもしようかなって思ってる。」

 

「旅か…それもええな。ワイもあの森から出たこと無かったし、丁度ええわ。」

 

「だろ?じゃあまずどこに行こうか…」

 

「そうやなぁ…」

 

そう言いながら二人で、荒野を歩く。

今居るのは魔法世界。ガトウ達と一緒にここに戻ってきて、旧世界とのゲートの前で皆と別れた。

こうして龍ちゃんと二人で、行動するのは久しぶりでなんだか懐かしい気がする。

思えば、あの日龍ちゃんと一緒に森を出てからもう三年が経過した。

時が立つのは早いものだとつくづく思う。

まぁ今までが濃すぎたからこうして早く感じるのかも知れないが…。

でもしばらくはこうして気ままに旅をしたいと思う。

 

原作までまだまだ時間はたっぷりあるのだから…。

 




これで第一部は終了となります。
この後第二部に移るのですが、その前にまとめと主人公と龍ちゃんのキャラ紹介、それと今まで出てきたオリジナルの魔法・技を書き出したものを投稿します。
特にオリジナルの魔法については、武が使う”然”について詳しく説明したものを記載しているので、それを読んでいただければ、疑問やその魔法を使う光景がイメージしやすくてさらにこの作品が楽しめると思います。
第一部おつきあいいただいてありがとうございました。
第二部もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第Ⅰ部まとめ

眠れなかったのでこんな時間に投稿しました。
まとめと言っても、各キャラクターの紹介みたいなものです。
また別に武と龍牙はプロフィールを公開します。


第一部までのまとめ。

 

世界情勢

MM、帝国、アリアドネーの三つの勢力に分かれており、力のバランスはほぼ原作通り。

だが、タケル達が幻獣と心を通わせたことにより、力関係はこれから一気に変わってくる可能性がある。

タケルと龍牙が目指している”幻獣との共存”については、帝国ではもとより獣人など、多種多様の人種が入り乱れている事から、幻獣との共存には大した抵抗も無く、むしろ率先してそれに賛同している。”紅き翼”と一時期行動を共にしていた、テオドラ姫が率先してそれを目指している影響も大きい。

 

アリアドネーでは、賛成半分、反対半分と言った所。

賛成者の意見としては、”協力し合う事で更なる発展が出来るのではないか?”と言う考えの元、賛同している。他にも、幻獣は自分達が知らない歴史や習慣など、知的好奇心をくすぐるからと言う意見もある。

一方反対者の意見としては、”今まで通り干渉しない方がお互いの為ではないか?”と言う考えが殆どである。また、”急に共存と言われてもすぐには実行できない”という様子見の人も此方に賛同している。

 

最後にMMだが、此方は反対意見が殆どである。

理由としては元老院がそれを拒否しているのが大きな理由ではあるが、他の人にとっても”幻獣=危険”の思いが強い。

他にもあくまで自分達が上の存在で、わざわざ幻獣を同等に扱う理由が分からないなどと、かなり否定的な意見が出ている。

これからどうなっていくのか、それは分からないが現時点では幻獣と共存などありえないと言う考えが強い。

 

人物

 

伊達武

本作品の主人公。二枚目になりきれない三枚目と言うのが龍ちゃんの評価だが、それは何時も最後がかっこよく終われない所から来ている。

第一部では、かなりの活躍をしているのだがそれでも元の主人公であるナギにすべて持っていかれている立場になっている。

精神的には、最初戦争を怖がるとか、自分が原作を知っている事に一人で色々悩んでいたりとか危ない場面が多々あったが、それをすべて龍牙やラカンに助けられ1つずつ成長していっている。

タカミチとかクルトの前では、お兄さんぶっている所があったり、龍牙の前では甘えたりとキャラがコロコロ変わっているが、根本的な所は変わっていない。

アリカ姫に淡い恋心を抱いていたが、本人はその自覚は無かった。

しかし、ナギとアリカ姫が決定的になった時思わず気持ちが溢れて涙してしまった。

 

一部終了時の年齢は17歳。

 

二つ名…”銃神””炎帝””空を紅く染めるもの””男達の夢”(ファン内だけの二つ名)

 

龍牙

第一部の真・ヒロインであることは間違いない(笑)

タケルを支え、タケルの苦悩を一緒になって背負っている。

何時もは突っ込みとして、タケルやラカンに突っ込んでいるがたまに自分から騒ぎを起こしたりしている。

性格は、幻獣としては穏やかで、人をよく見ている。

タケルと行動を共にしてから、幻獣と人間が共存する未来を実現させたいと思っておりそれを実現するために色々頑張っている。

巷ではファンクラブが出来ており、幅広い年齢層のファンを持つが特に女性のファンが多い。

最近では”龍ちゃん人形”が発売されており、それをもっている事がファンの証にもなっている。

(本人は知らない)

ちなみにファン第一号はテオドラなのは当然の事である。

 

二つ名…”赤王””獣王””最強の愛玩動物”(ファン内だけの二つ名)

 

ナギ

”紅き翼”のリーダー

原作よりも馬鹿っぽさがなくなってはいるが、基本やっぱり馬鹿なのでよく詠春に怒られている。

戦闘狂の所があり、強い奴を見かけると勝負を仕掛ける事がある。

今回の大戦で”英雄”と呼ばれているが、その”英雄”の意味に苦しむ。

そのためアリカ姫が捕まった後すぐに助けに行く事が出来なかった。

しかし、処刑されるまでの二年で世界を回り、自分なりの英雄という意味を掴みアリカ姫を助けることに成功した。

その後告白をして、めでたく恋人…いやもう新婚さんとなった。

アリカ姫救出後は、アリカ姫にべったりだが、時折アリカ姫から感じる恐怖に逆らえない。

その結果どう考えても尻に叱れる事は間違いないと言える(笑)

 

二つ名…”サウザント・マスター””赤毛の悪魔””世界のバグ”(アル・ゼクト・詠春命名)

 

ゼクト

”紅き翼”のメンバー

原作での死亡フラグをタケルに折ってもらったため生存。

ナギの師匠であり、第一部ではタケルにも魔法を教えている。

龍牙より、幻獣の話を聞いた事により幻獣に興味を持ち始め、第一部の最後では幻獣と仲良くなっている。

幻獣の事を大切な友と思っており、一緒に生活して行くことを決めている。

実はナギ・龍牙に続いてファンの規模が三番目に大きい。(女性ファンが多数)

 

二つ名…”最強の盾””絶対不可侵””史上最強のショタ”(ファン内だけの二つ名)

 

アル

”紅き翼”のメンバー

YesロリータNOタッチを信条としたロリコン紳士。

ゼクトと同じく不老の存在で、その知識の多さと頭のキレから参謀になっている。

原作よりもロリを大目に出しているが、まだエヴァが出てきていないのでその真価は発揮していないと思われる。

戦闘力はなかなかのモノで、無詠唱の重力魔法などはほぼ最強と言っていいほどの凡庸性をもっている。ロリコンの癖に…

ちなみに攻撃魔法に関してはナギについで二番目に強い。

 

二つ名…”混沌の司書官”(白い服装で、黒色の魔法を使うから)”微笑みの悪魔””紳士”(変態という意味で)

 

詠春

”紅き翼”のメンバー

メンバー内で唯一西洋魔法を使わない剣士。

しかし、呪符を使った東洋魔法はかなりのもので、特に障壁や相手を封じる魔法は思わずゼクトとアルが唸るほどである。

しかしそれ以上にすごいのが、剣士としての腕前であり、その実力は飛びぬけている。

原作と違いオリジナルの技を習得しており、さらに剣士としての実力が上になった。

性格は冷静なのだが、よくナギに乱されていてそれが表に殆ど出てこない。

まさに苦労人といった所。

タケルのことは、自分と武術で競い合える良きライバルと認めており、心から信頼している。

たまに黒くなるが、それはすべてナギ・ラカン・たまにタケルのせいでありその度にアルから胃腸薬を貰っている。

ちなみに、黒くなると平然とひどい事を言ったり、破壊衝動が強くなる。

ナギと同じく嫁には頭が上がらないらしい…。

 

二つ名…”サムライ・マスター””一見必殺””バーサーカー”(黒化時)

 

ラカン

元傭兵にして現”紅き翼”のメンバー

原作の馬鹿っぽさよりも、兄貴肌的な所が全面に出ている。

傭兵としての経験があるため、戦闘時には馬鹿な発言をしならがも戦況をよく見ている。

タケルと龍牙とはかなり仲がよく、タケルとしても龍牙の次ぐらいに信用している男である。

龍牙と同じくタケルがアリカ姫に恋心を抱いていたのを悟った人物でもあり、それが敵わぬ恋だと分かっていながらもひそかに応援していた。

そしてタケルが落ち込んでいる時などは、殆ど最初に声をかけて励ましたりもしている。

まさにタケルにとって、親友であり兄貴的存在である。

 

二つ名…”千の刃””死なない男””伝説の傭兵剣士””不死身バカ””豪力無双””とにかくバカ”(龍牙命名)

 

ガトウ

”紅き翼”のメンバー

ひげダンディにして、歳を取ったらこんな大人になりたいランキングで常にTOPを常にとり続けている人。

アリカ姫と”紅き翼”を結びつけた人で、元捜査官。

その人脈と情報収集能力に定評があり、陰でメンバーを支えてきた。

戦闘能力もなかなかの者があり、タケル曰く”急所に当てる技術はメンバー一”と言わしめたほどである。

タカミチの師匠であり、父親代わりでもある。

なのでタカミチの成長を心配し、成長した姿を一番楽しみにしている人物でもある。

第一部終了時にはアスナ姫も引き取った事からかなりの子供好きと考えられている。(本人は無言をつらぬいている。)

ただし、ロリコンではない。

 

二つ名…”デス・スモーカー””紳士”(良い意味で)

 

タカミチ

ガトウの弟子。

この世界ではタケルに憧れ、銃闘技を習うためにタケルの弟子にもなっている。

結構の熱血漢で涙もろい所がある。

現在、銃闘技の基礎はすべて出来るようになり、銃闘技の奥義である”マグナム”も撃てるようになっている。しかし、今の体ではマグナムを撃つ事が難しく、普段は”劣化マグナム”である”ミニマグマム”を使用している。

最近の目標は、”タケルさんに一人前の男として認めてもらうこと”らしい。

 

クルト

アリカ姫の元側近

戦争孤児だった所をアリカ姫に拾われ、それ以降側近として傍に居た。

その時から、アリカ姫に好意を抱いていたがナギに取られてしまい、納得はしているもののまだその思いを吹っ切れていない。

タカミチと同じくタケルを師と仰いでいる。

しかし習っているのは、銃闘技ではなくそのライバル武術である剣牙闘技である。

もとより才能があったのか、一部終了時には基本的なことはもう出来ており、後はどうそれを自分のものとして昇華できるかにかかっている。

旅の途中で料理にはまり、それ以降色々調べてたり、人に聞いたりしてレパートリーを増やしている。

 

アリカ

ウェスペルタティア王国の王女。

しかし、現在は王位を返上して前に元がつく。

心を許してない他人の前では、厳しく寛大な王としての顔が出るが、心を許している人(ナギ)の前だと、わがままで融通の利かない性格がでる。(甘え下手)

すこし妄想癖があるのだが、それは”王女として望む結婚などは出来ないならせめて想像だけでも”という所から来ている。またその知識などは恋愛小説などから来ており、実は部屋には恋愛小説みたいなものが隠されている(クルト談)

必殺技は目標に向かって振り下ろされる右のビンタ。

”紅き翼”でさえ対応できないスピードと威力なので、裏ではかなり恐れられている。

タケル曰く”魔力も気も感じない”との事なので、もしかしたら世界で一番強い人なのかも知れない。

 

テオドラ

帝国の第三皇女

登場こそ少ないが、かなりキャラが濃い。

タケルを騎士として迎えたが、それが表に出たことが無い。(タケル自身は忘れている)

やんちゃな性格をしており皇女とは思えないが、ときおり見せる優しさや威厳を見るとやっぱり皇女なのかと思ってしまう。

現在龍牙に恋をしている(笑)

龍牙の時も書いたが、実は龍牙ファンクラブ会員ナンバー1番である。

 

アスナ

”黄昏の姫御子”として第一部ではかなりひどい経験を受けている。

そこから助け出した人に好意を抱いており、その後姿がタケルに似ている事からタケルのことが好きになる。(実際助け出したのはタケルなので、間違っていない)

タケルと龍牙の事が大好きで、何時もタケルか龍牙にべったりである。

特にタケルの膝の上と龍牙の背中の上は、大のお気に入りであり、一緒に旅をしている時は殆どそこにいた。

感情を出すのが苦手だが、タケルの前では顔が赤くなったりと結構感情が表に出ている。

最後タケルと分かれた時は、自分がまだ幼いからと思って、大きくなったら捕まえに行く事を心に硬く決めている。

 

フェイト

唯一敵でキャラが立った人。

本来ならこの時点では登場しないはずだったが、この世界では既に起動しておりタケルと戦った。性格的にもタケルはフェイトのことが嫌いではなく、またフェイト自身もタケルのことが嫌いではない。タケルとの決闘の末死んだと思われるが……

 

 

強さ表

 

これは総合的な戦闘力を判断してのものです。

 

武(然使用時)>>ナギ≧ラカン≧武(通常時)=詠春>アル=ゼクト=龍牙>ガトウ

 

タカミチ・クルトはまだランク外となりますが、戦闘力でいえば普通の魔法使い3人分の力はあります。(ラカンの強さ表でいうと800~900辺り)

ただあくまで殺し合いなしという場合にかぎりである。それが入ってしまうと弱くなってしまう。(覚悟が無い為)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主人公・オリキャラ紹介

伊達 武(だて・たける)

呼び名はタケル・タケやん(龍ちゃんのみ)

 

年齢14

飛ばされた時の年齢が14歳。

ナギと同じ年齢である。

 

身長…160→168

飛ばされた時は160だったが、魔法球に入った後168まで身長が伸びている。

しかもまだ成長は止まっておらず、これからも身長は伸びていく予定。

 

体重…58→65

これも最初は58㌔だったが、魔法球に入った後65㌔まで増えている。

身長が伸びたせいもあるが、基本は筋肉がついて体重が増えた。

 

見た目

GODAGUNにでてくる大蛇龍牙そのまんま。ただし頬に傷は無い。

髪の毛は短髪茶髪。

服装は剛打銃の服装に良く似ている。(長袖のジャケットにダメージジーンズ。インナーはタンクトップ)ちなみにジャケットの後ろには”狼”の文字は入っていない。

戦闘時は皮の手袋を装着する。(皮の手袋にはリボルバーがついており、これが魔法媒体でもある)

 

性格

ネギまの世界に降り立った当初は、戦争に参加する事に悩んだり、原作を知っているのに何もできなかった自分に嫌気がさしていたが、相棒の龍ちゃんの励ましもあって一つずつ乗り越えて言っている。

二枚目になりきれない三枚目(龍ちゃん談)。自分ではそう思っていないが、シリアスな場面でもボケたりするので、周りからはそう思われている。しかし、きちんと決める所は決めてくるので、二枚目な部分もちゃんとある。理想ばかりを詠い、現実を見つめていない人達は嫌い。(簡単に言えば、一般的な”立派な魔法使い”とか原作のネギなどが特に嫌い。)

普段は温和で、人当たりも悪くない。後、主人公にはデフォである鈍感は装備されていないが、アリカ姫が切欠で、好意について親愛と愛情の違いが分からなくなっている。(初恋についてタケルはまだ気づいていないが、心に振られたという傷が残っている状態。)

 

きっかけ

二次創作を読んでいる途中で、寝てしまい。そのまま帰らぬ人になった所を、神が漫画の世界に転生する資格を得たとかいって転生させられた。(確率的にかなり低いが、どうやらそれに当たったらしい)ちなみに死因は病死。

 

知識

ネギまの世界のことはほとんどうる覚え。覚えている事といえば、キャラの名前と何が起こるかぐらい(時期ははっきりしてなくて、確かこんな事が起こるよな~と言う感じ)

 

スペック

 

魔力

アルより少し下ぐらい(成長予定。)

 

ガトウよりすこし下ぐらい(成長予定。)

 

魔力と気の割合は、ほぼ同じであり、どれだけ鍛えてもこの比率は変わらない。

成長限界あり。

 

魔法で得意なのは火・水・風・闇。そのほかは普通。(使えて中級ぐらいまでだがうまく扱えないため魔力の消費量がかなり高くなってしまう。)

 

治癒力が高く、普通なら危険な状況でも一日たてば治ってしまう。(真祖の再生能力に比べればたいしたことはないが、それでも普通の人から見たらありえない程)

 

神から貰ったモノ

 

闇の魔法

自分が思い描く魔法のために貰う。デメリットはなし。最初から闇の素養があり、さらに神によって上乗せされた力によって、この魔法をつくったエヴァはもちろん。ネギよりも還元率がよく、また消費する魔力も少ない。基本的にはこっちを使う。

 

感卦法

ご存知の通りそのまんま。ただ闇の魔法も使えるためこっちを使う頻度は少ない。自分が思い描く魔法のために貰った。

 

武の才能

銃闘技を扱うためにもらった。知識としては、転生する前に漫画・アニメ・小説などで知っている武術の知識とGODAGUNに出てくる武術の知識しかないが、細かい所は違うが、基本的な所(体の動かし方。力の入れ方。)などはほとんど一緒の為、他の漫画の世界の格闘技や剣術などはある程度教えたり、実際に使用したりできる。しかし、武自身は銃闘技がメインなのでほとんど他の技を使う事はない。

 

魔法の才能

オリジナルの魔法を使用する為に貰った。その気になれば、ネギまでは存在して無い魔法も創りだして使用する事が出来るが、原則としてネギまの世界の魔法しか使用できないため、ゲームの魔法を作ろうとしても、それに似た魔法になる。

それに、そもそも武にとって魔法は銃闘技を強化する為のものなので、魔法単体で使用する事はほとんどない。

ちなみに、才能と適正はまったくの別物であり、いくら才能が有っても適正に見合った魔法しか使用できない。ただし、アイディアやアドバイスは出来る。

 

練金術

魔導具をつくるために貰った。実際にはもっといろんなことが出来るはずなのだが、これと言って思いつく物が無い為、本人はあまり使う気がない。

 

解呪(かいじゅ)

エヴァを人に戻したいという理由から貰った能力。名前は勝手に決めた。エヴァを人に戻す事が出来るだけでは無く、そのほかの状態異常、呪い、結界まで何でも解呪できる力。

代償として魔力をかなり使うことになる。発動は、相手に触れて意識を集中させる事。

しかし、自分に対してはそう時間がかからず解呪する事が出来るが、使用する相手が自分以外になると、かなり時間がかかってしまう。理由としては自分と他では勝手が違う為。その為基本戦闘状態でこの能力は使う事が出来ず、安全な場所で使用する事が望ましい。

 

戦闘方法

 

俗に言う魔法拳士といった所。と言っても、魔法を相手に使う事はほとんどなく、銃闘技の威力を上げる為に使用しているので、どちらかと言えば、武術家である。しかし、別に魔法が使えない訳では無いので、魔法拳士となっている。

 

オリジナル

 

”然”(ぜん)

名は神がなずけた。これはネギの太陰道をヒントにつくられた技法。闇の魔法と同じく体が魔法と同化し、さらに感卦法と同じく気と魔法を融合させ莫大な力を使う事が出来る。

ネギの太陰導では相手の力を自分の力に変えることが出来るが、自分の気は反発してしまい使用が難しかった為、使う事ができなかった。それを改良し、自分の気の力も闇の魔法を使用している状態で使えるようにしている。

詳しくは、技・オリジナル魔法紹介に記載する。

 

オリキャラ…1

 

名前…龍牙(武命名)

性別…雄

 

種族…幻獣目虎科

 

幻獣であり武と話があってから、一緒に行動を共にする。変な関西弁を使いたまに武をからかってケンカしたりしているが、武のことを心から信頼しており、共に行動し戦う。

体は本来人一人乗れるくらいの大きさなのだが、町に出るときや知らない人間に会うときはぬいぐるみサイズに体を縮めている。

戦闘能力は高く。また幻獣の為魔法も使える。といっても詠唱とかするわけではなく炎を吐いたり体に纏う事によって直接攻撃をする。

ちなみに纏う魔法の属性によって毛の色が変わる。

 

雷→黄色

氷→白

火→赤

風→緑

闇→黒

 

よく纏うのは火。苦手なのは光だけらしい。武が好んで火の魔法を使う為それに合わせている。

だが、最近になって風の魔法にも手を出し始めている。(武がから教えて貰っているある武術を使用する為)

酒が大好物で、14歳なのに酒が好きな武と、晩酌するのが何よりも幸福な時間となっている。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オリジナル魔法・技辞典(第Ⅰ部)

ここには”然”についての詳細も記載されています。
なるべくわかりやすく、そしてイメージしやすいように書いたつもりですが、読んでもいまいちよくわからないと思われた方は、メッセージでも送ってください。
感想ですと、文字制限があるので、書ききれない場合がありますのでよろしくお願いします。


オリジナル魔法

最初に技名の横に書いてある話数は、その魔法もしくは技が初めて出てきた話数となっている。

 

然(第九話)

ネギの太陰道を元に創られた、武だけしかできないオリジナル魔法。

基本は“闇の魔法”なのだが、そこに感卦法で生み出された力(この世界では光の力)を合成させている。

その為、“闇の魔法”の性能・威力が格段に上昇しており、この状態の武は無双状態である。

本来感卦法自体が、気と魔力の融合なのだが、それによって生み出された光の力は魔法とも気ともいえない全く違った力である。武はそれを闇の魔法と同じように体外で固定化させてから闇の魔法で使用する魔法と一緒に体内に取り込む事によって“然”を発動させる事が出来るが、他の人がコレを真似すると、光の力を体外に出して固定化できない状態に陥るか、受け止めきれず闇に飲み込まれてしまう。

更に、これによって生み出される力は凄まじいので、うまく制御できないと、自らの体を傷つけてしまう。

本作品の武も、最初の頃は制御できず結果体を壊してしまったが、グレート=ブリッジ戦の時、“然”を発動する為にもっとも必要な事を学び制御する事に成功した。

それ以降は、アルとゼクトに教えを乞い、さらに完璧に制御できるように日夜努力をしている。

 

主な効果

すべての値が限界を超える→然を最大限生かせれば、魔力はエヴァより上に、気はラカンの数倍になる。

気の力により身体能力がかなり上がる。(イメージとして、ネギが太陰道を使いラカンの力を自分の力にしたような感じ)実際はそれよりも上。

相手の力を自分の力に変える。(魔力の吸収+己の魔力に変換)

膨大な力のおかげで、自分の分身体を作り出すことが出来る。(NARUTOの影分身みたいな感じ)

 

デメリット

無制限に使用する事は出来ず、発動時間は30分。ただし、この30分は通常時・そして“然”をちゃんと使いこなせていての時間の為、どちらかが欠けた場合、この時間は短くなる。

使用後は3時間気も魔法も一般の魔法使いレベルまで落ち込んでしまう。これも通常時で“然”を使いこなせればの話で、そうじゃない場合、もっとひどい事になる。

次の日は、必ずひどい筋肉痛or動け無くなる。

 

詠唱

”我詠うは精霊の詩””我奏でるは命の炎”

”二つは交わりすべてを照らす光となる””固定”

”我願うは終焉の炎””我掴むは精霊の理”

”二つは重なりすべてを飲み込む闇となる””固定”

”光と闇すべてはわが身に宿り””すべてを撃ち貫く力となれ!!”

(終焉の炎の所は、炎系の魔法で闇の魔法を使用している為で、他の場合はまた違った言葉になる。)

 

赤熱の騎士(第三話)

武が闇の魔法で炎を纏った状態。

最初の頃はこの状態を“炎帝”と呼んでいたが、“然”の魔法が完成する事で、そちらの方が“炎帝”に相応しいと龍ちゃんに言われて、名前を変えた。

効果としては攻撃力のUPで、この状態になると、本来単体に攻撃する事に適している銃闘技が多数でも効果を発揮できるようになり、フェイト戦では、着弾場所が爆発するようになった。

 

詠唱

”契約に従い我に従え炎の覇王””来たれ浄化の炎””燃え盛る大剣”

”ほとばしれよ””ソドムを焼きし火と硫黄””罪ありし物を死の塵に”

”燃える天空”!!”固定””掌握””術式兵装”………”赤熱の騎士”

 

炎帝(第九話)

武が然を使用して炎を纏った状態。

闇の魔法の状態とほとんど変わっていないが、炎の色が真っ赤からオレンジ色の澄んだ色になっている。そしてその状態で最大の一撃を放とうとすると、炎が利き腕に絡みつくように集まり、炎の色もオレンジ色から青色へと変わる。

時間制限はあるものの、この“炎帝”の状態になると“創造主”をも圧倒する力を発揮する。

 

赤王(第七話)

龍牙特有の魔法。

幻獣の虎族は人とは違って、詠唱して魔法を撃ち出すと言う事はしない代わりに、精霊の力をその身に宿す事でその精霊の力を使うことができる。(武などが使う闇の魔法と似ている)

精霊を身に宿している状態では、白い龍牙の毛が真っ赤になりその姿はまさに“炎帝”を守る“赤王”そのものである。

この状態になると、炎に関する事なら基本なんでも使用する事が出来、単純に爪で攻撃を仕掛ける時でも、相手に炎でダメージを与える事が出来る。

炎の精霊だけでなく、他の精霊も龍牙は身に宿す事が出来るのだが、本人曰く“タケやんが炎の帝王なら、その相棒も炎の化身じゃないとあかんやろ?”と言って、もっぱら炎の精霊を身に宿す事にしている。ただし、最近は武から聞いたある武術を自分なりにアレンジしながら習得中の為、武との修行中は、他の精霊も身に宿すようにしているとか?詳細は不明である。

 

詠唱

”我名において助けを請わん。その友の名は火の精霊クゥ。我魔力を糧に我に力をしめせ”

 

大海嘯(だいかいしょう)(第七話)

ゼクトが使用した水の魔法。

魔法のランクとしては、“千の雷”と同じく水最大呪文にランクされている。

大気中の水分を集めて、目の前に大きな津波を発生させる事が出来る。

広域に渡り相手を殲滅する魔法で、この魔法を目の前にしたら敵は逃げる事も出来ず絶望する事となる。

魔力を込める事でさらに強力な魔法になるが、ゼクトにはそこまでの魔力は無く、龍牙の炎によってかき消されてしまった。

しかし、それは龍牙の威力が強かっただけで、他の人が同じことをやってもすべて飲み込まれてしまうだろう。

イメージ的には、FFシリーズとかで出てくる大海嘯そのまま。

 

詠唱

”母なる水より生まれし小さな子供達よ””我に集い形成せ””その小さき姿は互いに寄り添い””列なる事で荘厳なる姿となし””すべてを呑み込む海となれ””大海嘯”

 

深緑の柱(しんりょくのはしら)(第七話)

ゼクトが使用した風の魔法。

魔法ランクは“千の雷”と同じく風の最大魔法にランクされている。

敵に向かい大きな竜巻を発生させて敵を閉じ込めすり潰してしまう恐ろしい魔法。また、その発生した風は刃となって周りに居る敵にもダメージを与える事が出来る。

風の魔法の多くは使用者自身を強化したり補助する魔法の方が多い為風の攻撃魔法は少ない。その為、この魔法はゼクト自身が考えたゼクトオリジナルの魔法となっており、他の魔法使いはこの魔法の存在は知っていても、今の所ゼクト以外使用する人は現れていない。

威力的には、他の最大魔法より劣るものの、この魔法の利点として相手を竜巻の中に閉じ込める事が出来る為、使用方法としては、“深緑の柱”→敵が閉じ込められる→“止めの魔法”(ゼクトor他の誰か)と言う風にほぼ確実に次の魔法を撃ち込む事が出来る。

ただし、龍牙や創造主の様に内から魔力を使って打ち破る事も可能な為、相手によっては出来ない可能性もある。

イメージ的には、パニック映画とかで出てくるサイクロン。

 

詠唱

“契約により我に従え””大空を統べる王””来れ””天上を貫く荒ぶる槍よ””天へと誘う道となれ””深緑の柱“

 

三又の鉾(みつまたのほこ)(第七話)

ゼクトが使用した魔法。

魔法としては中級魔法にランクされているが、その威力は上級魔法に匹敵する。

しかしこの魔法を使用する物は少ない。

この魔法は、本来近くに居る人もまとめて攻撃する事が出来る魔法をある程度纏める事によって貫通力と威力を高めた魔法で、本当に敵一人に向かって放たないと意味が無い魔法である。

その為簡単に避けられたりしてしまう為この魔法を有効に使えるかは使用者にかかっている。

他にも、魔法を収縮させる為に本来中級魔法で使用する魔力よりも多く魔力が必要で、この魔法を覚えるくらいなら他の魔法を覚えた方が良いと考える人も多い。

しかし、威力は凄まじいので当たれば相手に大ダメージを与える事が出来る。

イメージとしては、三本のスパイラル回転をした水の槍が相手に向かって発射される。

 

詠唱

”来たれ水の精””風の精””水を纏いて””貫け””海神の槍””三又の鉾(みつまたのほこ)”

 

不死の騎士団(ふしのきしだん)(第十四話)

フェイトが使用した魔法。

ランクとしては中級魔法なっている

敵を包囲するように石の槍が出現して、相手に向かって攻撃を仕掛ける。

しかも、この石の槍には効果は小さいが石化の効果もあるので攻撃が当たるたびにその部分が石化して、最後には全身石化してしまう恐ろしい魔法である。

この魔法に対して武はガンマンポジションですべて迎撃したが、それは向かってくる石の槍よりも早く多く攻撃する事が出来る武だからこそ防げただけで、もし他の人がコレを防ぐためには、かなり広範囲の魔法を自分の周りに撃たないと防ぐ事は難しいだろう。

イメージは、石の槍が相手を囲うように出現して、相手に向かって突進してくるイメージ。

 

詠唱

”おお…””地の底に眠る数多の騎士よ””我が敵に剣を討ち立てよ””不死の騎士団”

 

運命のダブレット(第十四話)

フェイトが使用した魔法。

ランクは最大呪文と同じランクだが、何系の最大呪文なのかは不明である。

(おそらく土系だと思われるが、フェイトオリジナル魔法の為詳細は不明。)

右腕に魔力を集中させて相手に向かってその魔力をぶつける魔法。

その魔力は、まるで天使の羽が開いたように綺麗で神秘的なモノを感じる。

しかし、魔法自体はかなり凶悪で、その魔力に触れる者すべてを石化してしまい、ガードも、打ち消す事も出来ず、防ぐ為には術者自身に使えなくなるまでダメージを与えるしか方法がない。まさに最強の魔法である。

武も左腕を犠牲にしてこの魔法を打ち破った。

この魔法の由来は、イスラム教の天使“イズラーイール”からきている。

“イズラーイール”は死の領域を担当するいわば“死の天使”で、人間の死後の行先を決める“運命のダブレット”を持ち死期が近づいた者の前に現れると言われている。

あまりにも恐ろしい特質故、神は“イズラーイール”の事を秘匿しており、そしてある時その存在が明かされると、他の天使たちは100年気を失っていたとまで言われている。

この魔法も、相手に対して絶対の死を与える魔法としてその名がついた。

イメージは、フェイトの肩から天使の羽が生えてきてそれを相手にぶつようとするイメージ。

 

詠唱

”秘匿されし天上人””今こそその名を呼ばん”

”その者死を予期する者なり””その者すべてを視る瞳なり””その者すべての終りを示すものなり””その名の下に我に逆らいし者に永久の別れを告げよ”…”運命のダブレット”

 

オリジナル技

 

銃闘技

“GODAGUN”を知っていれば、説明は不要だが、知らない人の為に説明を…。

“GODAGUN”という漫画に出てくる武術。

その原作の中で“最強”と呼ばれている武術で、原作では主人公とその父が使用している。

銃闘技とは、読んで字のごとく、銃を模した格闘技である。

独自の鍛え方をする事で、血の流れを自由にコントロールする事に成功し、銃の如き攻撃スピードと威力を人の身で再現する事に成功した。その為銃闘技を習得した者の攻撃は、防御不能、そして完全に回避する事が出来ないと言われている。

何故銃闘技がそう言われているか?

その理由は、“殴る”という攻撃の一動作がありえないスピードを持っている為である。原作でも“銃闘技をマスターしている人の攻撃は予測も回避も不可能”と言われているくらいで、銃を模した格闘技というよりは、使用者自身が銃そのものと言っても良いくらいで、繰り出される拳は、銃から放たれる銃弾そのものである。

遠くを狙う“スナイパーライフル”や圧倒的な銃弾を繰り出す事が出来る“マシンガン”、強力な威力を誇る“マグナム”など、銃にはいろいろな種類があるが銃闘技では一人でそれを体現する。それを可能にしているのが、血の流れのコントロールである。

銃闘技を習得した者の利き腕は“メインアーム”(もう片方をサイドアーム)と呼ばれ独自の鍛え方をする事で、腕の筋肉で血の流れをコントロールし、それによって凄まじい攻撃を繰り出す事が出来る。そして、血流のコントロールの最大の利点は、踏込など、普通の武術では大切な事とされている“突き”の基本を無視して、どんな体制からでも攻撃をする事が出来る点である。その為、たとえ空中でもその威力は衰えず、むしろ空中こそ銃闘技の本領を発揮できる場所と言えるだろう。

しかし、銃闘技には最大の欠点がある。

それは、血の流れ…つまり血管を傷つけられると、著しくその威力を低下されてしまう事である。特に銃闘技の奥義と呼ばれている“44マグナム”はその威力を出す為に、ハンマーコック(腕を振り上げる動作)をしないといけないので、その隙をつかれて血管に傷をつけられてしまう場合がある。

他にも、その驚異的なスピード故に攻撃の軌道がまっすぐになり少し腕に覚えのある人なら簡単に見切られてしまう可能性がある。(銃弾の様に、発射されると着弾地点までまっすぐ飛ぶ)

その欠点を無くす為にも、圧倒的な手数で冷静に対処させないようにするなど工夫をしているが、いくら銃闘技をマスターしてもその欠点は変わらない。

最強と言われる銃闘技でも、意外に欠点が多い武術なのである。

 

44マグナム(第三話)

銃闘技の奥義と言われている技。

オリジナルではないが、よく出てくる技なのでここに記載します。

血流操作により、筋肉の収縮と活性化を利用して驚異的なスピードで、拳を放つ攻撃である。その攻撃は“絶対破壊攻撃(アブソリュート・ブレイク・シュート)”とよばれ、たとえ44マグナムを防御する事に成功しても、衝撃が防御ごと貫通して相手にダメージを与える事が出来る。

弾数は六発で、体を回転させる事によって連続して撃つ事が可能だが、それを超えてしまうと、回転酔いと血液循環不全によりブラックアウト(目の前が真っ暗になり、体を動かす事が困難になる酸欠の状態に似ている)を起こしてしまう。

44マグナムを撃った後は、そのエネルギーの強力さをもの渡るかのように、腕からは白い煙(ガンスモーク)が立ち上り、その威力を証明するかのように、相手には弾痕のような白い煙でできた痕ができる。

 

ナパームキャノン(第三話)

武オリジナルの技。

“炎帝”“赤熱の騎士”の状態で放つ44マグナム。

基本は44マグナムと同じだが、威力は格段にUPしている。

さらに炎を身に纏っている為、相手に攻撃が当たると、相手を炎で包み込んで追加でダメージを与える事が出来る。

ただし、マグナムすべてがナパームキャノンになる訳では無く、いつもより少し長く力を込める事でナパームキャノンになる。

技の由来は、兵器のナパーム弾である。

 

クレイジー・ホース(第六話)

武オリジナルの技。

通常スナイパーポジションから放たれるガン・ブレットは、連射する事は不可能だと言われていたが、感卦法を使用する事でそれを可能にした。

ネギまの世界で言う“魔法の矢”と同じ意味合いを持つ技。

しかし、詠春曰く、魔法の矢に比べて“威力もスピードも段違い”と言われている。

“炎帝”や“赤熱の騎士”の状態でコレを使用すると、技名は“クレイジー・ホース・モデルサラマンダー”(第八話)と名前が変わり、着弾点が爆発するようになる。

 

ダブルガトリングショット(第六話)

武オリジナルの技。

武一番のお気に入りの技である。

銃闘技のガンマンポジションから、両腕を使って相手に拳を連打する技である。

その連打は凄まじく、まさに拳の大津波と言った所。

コレを目の当たりにした相手は、防ぐ事も避ける事も出来ないまま、拳に飲み込まれてしまう。

この技は連打を極限にまで高めている為、他の技に比べれば威力はさほど強くない。

しかし、一度拳が当たってしまえばもう抗う事が出来ない為、武の技の中でも最上位の破壊力を持っている。

欠点は無呼吸運動・過度の筋肉疲労・スタミナ・心臓に多大の負担がかかる事である。

その為、長時間の使用や、連続で使用する事は出来ないが、それを加味しても強力な技だろう。

技の由来はガトリングガン。

 

インビジブル・デリンジャー(第六話)

武オリジナルの技。

右の必殺技が“44マグナム”なら左の必殺技は“インビジブル・デリンジャー”である。

マグナムとは違い、射程も短く、威力もマグナムより弱いが、撃ち出されるスピードはマグナムよりも速く、武の技の中では一番攻撃速度が速い技となっている。

弾数は二発で、基本的には一回の攻撃で二発撃ち込む。マグナムとは違い“絶対破壊攻撃”ではないので、確実に急所を狙わないと大ダメージを与える事は出来ないが、この技は射程が短い為、至近距離からの攻撃で使うのが普通なのでまず確実に急所を狙い撃つ事が出来る。

技の由来は、小型拳銃のダブルデリンジャーであり、インビジブルはあまりの速さに腕が霞んで見えるという所からつけられた。

 

メガフレア・バレット(第九話)

武オリジナルの技。

“炎帝”の状態で初めて使用可能な技で、武の技で最大の威力を誇る。

元々は、ガン・ダイヴァー+44マグナムの組み合わせで放たれる超絶破壊攻撃(スーパー・ブレイク・シュート)“ギャリックマグナム”(ギャリックは人命でGODAGUNの主人公の親友でこの技を使った時はすでに故人。)で、それだけでも凄まじい威力がある。

(原作では、軍で使用されている強固な隔壁を一撃で破る程)

そこに“炎帝”の力をさらに上乗せされている為、その威力はナギの“最大出力の千の雷”を軽く補えるほどである。

相手に特攻しながら攻撃をする為、隙が大きい技でもあるが、“然”の特性である、通常攻撃無効化と魔法無効化によって迎撃する事が出来ない技となっており、まさに最強の一撃と言える。

技の由来は、作者が最大威力の爆発と言えばFFで出てくるバハムートしか思い浮かばず、そこから“メガフレア”を取った。“バレット”は、個人運用する銃火器の中では最強の威力を持つと言われる対戦車ライフル“バレットM82”からきている。

 

エクスプロード・キャノン(第十四話)

武オリジナルの技。

“赤熱の騎士”の状態で撃つ“44マグナム・キャノン”の事である。

44マグナム・キャノンとは、44マグナムの様に衝撃が貫通したり、内部にまでダメージを与える技ではなく、本物の銃の様に外部からすべてを破壊する技である。

この技を受けると、実銃の様に体が貫通し相手を死に至らせる殺し技で、この技を使用するには、相手に本物の“殺意”を持たなくてはならない。

武自身、戦争に参加している為早い段階でこの技を使えるようになっていたが、自分が殺意に飲み込まれてしまうのが怖くて、フェイト戦まで使う事は無かった。

ナパームキャノンとは違い、この攻撃を食らってしまうと、その部分が大爆発を起こして相手を確実に死に至らせてしまう。その威力は強力で、本来打撃があまり聞かないフェイトでも、その威力によって上半身だけの姿になってしまった。

まさに、最凶の一撃である。

技の由来は、エクスプロード(爆発)そのままからきてる。

 

バレットカーニバル(第十六話)

武オリジナルの技。

この技は単発の技では無く、自分が使う事が出来る技を組み合わせた連続技になっている。

その組み合わせは何通りもあり、この技が最初出てきた創造主戦では、“ダブルガトリングショット”→“ショットガン・エア・シュート”→“インビジブル・デリンジャー”→“44リボルバーマグナム”→“ナパームキャノン”という組み合わせになっている。

本来この連続技を使うには、武の肉体的にも体力的にも実現不可能と思われていたが、“然”によって強化された事で、この連続技が使えるようになった。

元ネタは原作の主人公銃が使用したコンビネーション技が元になっている。

名前の由来は“武装神姫”にでてくるキャラクターの固有技の名前から取っている。“武装神姫”でも今使っている武器のすべてを使って相手を攻撃しているので、この名前を使わせてもらった。

 

空牙(第七話)

龍牙オリジナルの技。

勢い良く腕を振る事で、相手に向かって真空の刃を飛ばす事が出来る。

武が使う“ガン・ブレット”と同じ役割を果たす技である。

 

爆炎波(ばくえんは)(第七話)

龍牙オリジナルの技。

前足に炎の魔力を溜めてアッパーの様に繰り出す事によって、龍牙の目の前に広範囲の爆炎を繰り出す技。

技の由来は、“GODAGUN”に出てくる大和流火拳闘技の奥義、炎爆破をもじった物である。

此処だけの話、技自体ほぼ同じなので、技名もそのままで良かったと思うが、やはり微妙に違うので違う名前にした。(摩擦で火を起こすか、魔力で火を起こすかの違いだけですが…)

 

陽炎(かげろう)(第七話)

龍牙オリジナルの技。

この技は“赤王”の状態でしか使用する事が出来ない技で、龍牙から発せられる熱によって蜃気楼を起こし、自分の幻影を創りだす技で、我拳唯一名前がでた補助の技である。

使用用途は、相手が幻影に惑わされている間に、敵の視界外から攻撃を仕掛ける為に使うのが基本になっている。

 

火迦具槌(ひのかぐづち)(第七話)

龍牙オリジナルの技。

“赤王”状態の龍牙が使う奥義的な技。

全身を炎で包み込み、大きな炎の虎となって相手に突撃する技。

その威力はおそらく44マグナムに匹敵すると思われる。

この技を迎撃しようとして下手に水の魔法を使うと、恒温動物の特性として冷えた体を元に戻そうと発熱する為、さらに熱量が増えて強力な技となってしまう。

もし完璧にこの技を防ごうと思うなら、ゼクトが使う“大海嘯”ぐらいの水量が無いと不可能だろう。

技の由来は、炎系の技で最強の技(和名)で考えた時にこれしか思い浮かばなかった。

 

神鳴(かみなり)(第六話)

詠春オリジナルの技。

神鳴流の中にはこの技は無いが、詠春ほどの腕と才能が有れば一つや二つぐらい技を編み出していてもおかしくないと思って作られた技。

神鳴流奥義の一つ“雷光剣”を昇華させた技で、本来“雷光剣”は、剣に電気エネルギーを帯電されてそれを爆発させる事で広範囲にわたって攻撃できる奥義なのだが、“神鳴”は、そのエネルギーを爆発させるのではなく剣に留める事で、ただでさえ切れ味と威力が上がっている状態なのにそれをさらにUPさせ、それを剣術の中でも最速の切り方である“突き”と組み合わせる事で最速にして最高の技となった。

その一撃はまさに神速。空から降る雷のように、音を置き去りにするくらいの速さと、威力を誇る。

また、電気エネルギーが剣に留まっている為、たとえ突きを避けられたとしても、剣に帯びている電気で相手にダメージを与える事が出来る。

 




一応全話をもう一度読んで、取りこぼしが無いように確認したつもりですが、もし取りこぼしがあるようでしたら、感想もしくはメッセージで教えていただけると嬉しいです。
またオリジナルじゃなくても、”これってどんな技なの?”という疑問についても私が答えられる物なら質問に応じますので気軽に質問してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第Ⅱ部:原作開始まであと何年?
第二十四話:やせいのようじょがあらわれた


さて今回から第Ⅱ部となります。
この第Ⅱ部からは、原作のヒロインたちがちょくちょく出てきます。
誰が出てくるかまでは言いませんが、楽しみにしていてください。

それではどうぞ!


龍ちゃんと二人で旅をするようになって、もう一年がたった。

その間俺達は、魔法世界から旧世界へと渡り今はヨーロッパのあたりで旅を続けていた。

旅を続けていた一年。てっきり何かしらのイベントが起こるかな?と思っていた俺だったが、特にそういった事も起らず少々拍子抜けな所があった。。

そのせいもあって、これからの事とかを落ち着いて考える時間が増えたのは良い事なのだが…その結果、俺は恐ろしい事に気がついてしまった。

 

(今気がついたんだが、もしこのまま原作入ったら俺って40が見えてくるおっさんになるんじゃね?)

 

その考えに至った時、俺の頭に“絶望”の二文字が浮かんでいた。

原作を読んでいる限りラカンは何でかしら無いけど老けないし、アルとゼクトはもともと不老。

ナギはもう結婚してるから後は、かっこいいおっさんになるだけ。

ガトウはもう手遅れ。

詠春さんもナギと同じ理由で大丈夫。

タカミチ達なんかは、最初から問題ない。

そして相棒龍ちゃんは……幻獣だからむしろ歳をとるのは望む所だろうな…。

つまり、今現状歳を取って困るのは俺だけとなる。

アリカ姫を見て正直しばらくは恋愛とかどうでも良いと考えてはいたけど、さすが40になっても女っ気一つ無いのは嫌すぎる。

それに、できるなら原作のヒロイン達とそういう関係に慣れたら良いなってちょっと思ってたりもしたから、それを考えると少なくとも20前半ぐらいで原作突入というのが一番望ましいと思う。

けどなぁ…

 

「あ゛~どーすんだよ俺!!!」

 

「な、なんやいきなり!?とうとう馬鹿が押さえられんくなったんか?」

 

「違うわ!!」

 

「ああ、そうやったな。馬鹿が押さえられんのは最初からやった。」

 

「……そのケンカ買ったぁぁぁ!!!」

 

・・・・・しばらくケンカ中・・・・・・

 

「はぁ…はぁ…んで?冗談は置いといてどうしたんや?」

 

ケンカが終了して二人して地面に寝転がっていると、龍ちゃんが俺にそう聞いてくる。

 

「ふう…ふう…もし俺がこのまま歳とっていったら次大きな事が起こる時はかなりのおっさんになってるなと思ってね。」

 

「次か…それっていつになるん?」

 

「……大体20年前後」

 

「……それは終わったなぁ。」

 

龍ちゃんがものすごく遠い目をしながら、慰めてくれた。

それが余計に悲しい。

 

「…なんか口に出したら余計に悲しくなってきた。」

 

「まっ…まぁ大丈夫やって。多分そんな歳でもタケやんは若いままやって。」

 

「…ホントにそう思うか?」

 

「……すまん。」

 

余りにも俺が落ち込むもんで、龍ちゃんが焦って励ましてくれたが、ついには頭を下げて謝った。

いや…謝られても仕方が無いんだけど…。

どうなる訳でもないしさ。

 

「でもタケやん真面目な話、そうなると不老になる事も考えんとあかんのちゃうか?」

 

「いや…それはやめたいな。俺はあくまで人間。自然の摂理に逆らって生きたいとは思わないもん。」

 

「そうか…そうなると無いものねだりやな。どんなに若作りした所で人の身ではできんことがあるし、体力とかもどうしても衰えてまうもんな…。」

 

「だよねぇ…。いっそのこと未来へタイムスリップできればいいのに…。」

 

「いやいくら魔法の世界やったとしてもそれはありえんやろ。精々仮死状態でどっか安全な場所で時が経つのを待つぐらいしか方法がないんちゃうか?」

 

「ま、そうだよね。仮死状態は嫌だけどさ…」

 

そもそも、仮死状態にする魔法なんてあるのかなぁ?

いや、俺が知らないだけでありそうな気がするけどさ…。

それにしても、どうせなら何度も使えるカシオペアとかを神様から貰えばよかったか?

それとも時空魔法とかで未来へジャンプするとか…。

いや…無駄か。あの時はこんな事考えてなかったもんな。

大体、最後の最後まで本当かどうか怪しんでいたし…。

 

そんな事を考えていると、急に隣にいた龍ちゃんが声を上げる。

 

「タケやんアレ!!」

 

「ん?…!!おい女の子が崖から落ちようとしてるじゃねーか。…っち!間に合うか!?」

 

龍ちゃんにいわれて視線を前に送ると、そこには近くの崖に足を取られて落ちようとしている女の子の姿があった。その場所は急な崖で、落ちたらまず助からないだろう。

しかもここは旧世界。その女の子に魔法が使えるとは到底思わない。

俺は脚に気の力を溜めて、一気にその女の子に向かって走り出した。

近くにいた龍ちゃんも、同じようにして俺を追いかけてくる。

 

目の前では、まるでスローモーションのように女の子が落ちていく姿が俺の眼に映っていた。

 

「きゃっ…!!」

 

「くっ…まにあえぇぇぇぇ!!!!」

 

俺は夢中で手を伸ばし、その女の子を捕まえようとした。

あと少し…!!

そう思いながら必死に手を伸ばす。

そして……

 

カラ…カラ…カラ…

 

「あ、あれ?私落ちてないのか?」

 

「ふう…大丈夫かよ。何とか間に合ってよかった。」

 

何とかギリギリで間に合った俺は、落ちていないことをビックリしている女の子の手をしっかり握りながら、俺は安堵の笑みを浮かべたのであった。

 

それからすぐに、女の子を引き上げ思わず肩で息をしてしまう。

我ながら焦りすぎだろうと思いながらも、助けられた事に満足する。

そして、引き上げた女の子に話しかけようとして俺は絶句してしまった。

 

「ふ…ふん。お前に助けられんでも一人で大丈夫だったわ。…だが助けた事には礼を言うぞ?」

 

「あ、ああ…別にいいけど?」

 

「ん?どうした私の顔に何かついているか?」

 

いや…そりゃ目と鼻と口が…じゃなくて、なんでこんな所にいるんだよ!!

エヴァンジェリン!!!

 

そりゃ…イベントおこってほしいとか言ったよ?

でもこれは流石に急すぎるだろうが!!!!

 

あ゛~もう!神様のバカヤローーー!!!!

 

エヴァside

 

私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

真祖の吸血鬼で、”闇の福音”として恐れられている悪の魔法使いだ。

確か懸賞金もかかっていたはず…600万ドルだったかな?別に気にしていないからよく覚えてはいない。

だが、最近”紅き翼”とやらが戦争を終結させたことで魔法使いの奴らが”正義”を語って私を狙いに来ている。流石に”闇の福音”としての私を知っているものは殆ど居なかったが、吸血鬼としての私は結構有名だからな。確か住処の近くでは、ほぼ伝説みたいになってたからな。

だが、昔も私を倒そうと来た者は居たが、最近は特にそれがひどくなった。

そのため私は、いい加減魔法世界にいるのがうっとうしくなって、こうして旧世界へ来て旅をしているのだが…。旧世界が余りにも平和な為、少々気が緩んでしまったらしい。

崖に足を取られて落ちてしまった。

 

まぁどうせ落ちても私は真祖だし、死なないから意味はない。

それにいざとなれば魔法を使えば空を飛ぶ事など簡単なことだ。

 

とか考えていると、いつの間にか私は誰かに手を握られていた。

その感触にビックリして見上げると、そこには安堵の笑みを浮かべた男がいた。

 

一体どこにいたのか?とか傍にいる虎はなんなのか?とかいろんな疑問が湧き上がったが、とりあえずはされるまま引き上げられ、その男を見つめていた。

 

(ほう…。この男結構…いやかなり強いな。それにあの虎は…)

 

その男を見つめながら冷静に強さを見定める。

でも、その前にまずは助けられた事にお礼を言わないとな。

礼儀というものだ。

 

「ふ…ふん。お前に助けられんでも一人で大丈夫だったわ。…だが助けられた事には礼を言うぞ?」

 

そう私が声をかけると、その男は私の顔を見てくる。そして次の瞬間何か驚いたように私の顔を眺め、どもりながら返事をしていた。

 

(ふふ…私の美しさに惚れたか?まったく私も罪な女だな。)

 

「ん?どうした?私の顔に何かついているか?」

 

そう言うと、はっ!とした顔をしてなにやら考え事を始めた。

それにしても…この男の顔。どこかで見たような気がするのだが…気のせいか?

 

タケルside

 

とりあえず俺は、驚きすぎて意識が飛びそうになったの何とか堪える事に成功した。

そして、心を落ち着かせると適当にエヴァと言葉を交わした後、日も暮れてきたので今日はここで野宿をする事にして、その準備を始めた。

そのさいエヴァも誘ってみると、二言返事で了承の返事がもらえ、また驚いた。

てっきり断られるかと思っていたのだが…何故こんな簡単に?

そんな疑問が頭を駆け巡ったが、エヴァの顔を見てなんとなく了承した意味が分かった気がした。

俺の顔をしきりに見ながら何かを考え込んでいるエヴァは、どうやら俺の事が気になるみたいだ。警戒はしているっぽいが、敵意とか感じない所を見ると、どうやら、俺を見て何かを思い出そうとしているのかもしれない。おそらくそれを思い出そうとする為にも俺に同行する事を認めたのだろう。本来そういうのはかなり危険な行為なのだが、エヴァは自分の力に自信を持っていて、たとえ危険な事が起ころうともそれをねじ伏せるだけの実力は持っていると確信しているのかもしれない。

俺もエヴァと同じ立場だったら同じように行動すると思う。俺とエヴァ今現時点でどちらが強いかなんて実際戦ってみないと分からないが、俺も切り抜けるぐらいの実力はあると思っているから。

 

今だ考え込んでいるエヴァを見ながら、俺がそんな事を思っている間にも、手を動かしながら野営の準備をちゃんとしていき、あらかた今日の晩飯の準備もできた。

なので俺は、一度考える事をやめて晩飯にする事にした。もちろんエヴァにも食事を勧め、あちらの方も一旦考える事をやめて俺が出した食事を口に入れ始めた。

最初食事が口に合わないかな?と心配はしていたのだが、どうやら結構評判だったみたいで、時より顔がにやけるのを必死になって戻そうとしている姿が見えた。

それを見て心を撫で下ろし、俺も食事を続けるのだった。

 

そして食事も済んだ所で、俺はとりあえず会話をしないと始まらないと思い、エヴァに話を振った。

 

「えっと…食事は口にあったみたいだね。」

 

「ふ…ふん。まぁなかなかと言った所だな。」

 

「その割りには顔が緩んでたみたいだけど?」

 

「なっ!馬鹿な!私はしっかり表情に出ないようにしたはず…!!」

 

顔を赤く染めてそう言い放つエヴァ。

それを見て俺は、なんて言うか、こう…もっと苛めたくなるって言うか、保護したくなるって言うか…なんとも言葉に困る感情が湧き出てきた。

でも、この感情について考えてしまうと、アスナちゃんの時みたいにまた夢にアルが出てくるような気がして考える事をやめた。

 

「ハハハッ…。そう言えば、まだ自己紹介してなかったね。俺の名前は伊達武って言うんだ。よろしく。」

 

「あ、ああ。…私の名前は………って今何ていった?」

 

まだちょっと呆けている感じで、俺の言葉に返事をしようとして、急にエヴァの顔が固まる。

どうやら俺の事知っていたみたいだな。

 

「だから伊達武だって。」

 

「!!!!!なんだと!?じゃあお前はあの”紅き翼”のメンバーの一人。”銃神””炎帝”と呼ばれている伊達武なのか!?」

 

エヴァが驚きながらそう叫ぶと、その場から一気に下がり、いつでも戦闘が出来るような体勢で此方を睨みつけていた。

 

「ま、そうだね。んで?そっちはどちらさん?俺の事を知っているって事は、少なくとも旧世界の人間じゃないでしょ?…それと別に襲う気なんてないよ。」

 

ま、本当は誰か知ってるんだけどね?

でも俺がエヴァの事知っていたらおかしいだろう。

度々”闇の福音”の異名は伝説っぽく語り継がれていたみたいだけど、顔まで知っているのは珍しいからな。

 

「ふん。お前も私の名前を聞いたら襲うに決まっているだろうが!…まぁ良い。聞いて驚け!私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!”闇の福音””不死の魔法使い”として呼ばれる吸血鬼だ。」

 

エヴァがそう言って、腰に手を当てて何か威張っていた。

ん~エヴァからしたら威厳とかを出そうとしているのかもしれないけど、その姿じゃ無理だ。

どう見ても、背伸びしたがる子供が胸を張っているようにしか見えない。

 

「へ~そりゃ有名人だな。んで?それがどうかした?俺が襲う理由が分からないんだけど?」

 

「はっ?いやいや…お前は”正義の味方”だろ?なら悪である私を倒すのが普通だろうが!!」

 

いやいや…正義の味方って。

誰がそんな事言ってんだよ。

一度だって俺達は正義を語った事なんて無いはずだよ?

…うん。やっぱり考えても俺達はそんな事一言も言っていない。

 

「いや?俺別に正義の味方じゃないし。って言うか他のメンバーもそんな気無いだろ?…龍ちゃんはどう思う?」

 

「ん~ワイもそう思うわ。大体ワイらはどう考えても”正義の味方”って感じやあらへんやろ。どっちかって言うと”ワルモノ”やないか?行動とか考え方とか…うんやっぱりワイはそう思うわ。あ、ちなみにワイの名前は龍牙ってゆうねん。よろしゅうな~。」

 

俺と龍ちゃんの会話に呆れているのか、口をあんぐりとあけてまた固まっていた。

ああ…女の子がはしたない。

でも、あれでもかわいく見えるんだから、ずるいよな。

 

「お…お前達は…。何でそんなのほほんとしていられるのだ!?私が怖くないのか?賞金首だぞ?人を一杯殺しているんだぞ?」

 

「いや、俺達も戦争に参加してたんだから、言ってみれば人殺しだし、賞金首にもなった事あるしな。それにどう見ても怖そうに見えない。…なんていうかここにアルが居たらすぐにでも写真とっているか、最悪…誘拐されるかもな。」

 

「アルならやりかねんな。どう見てもあいつの好みど真ん中って感じやし。それにな~賞金首とか誰もが一度はなるもんやから気にする意味がわからんしな。」

 

「そんなわけが無いだろうが~~~!!!!って言うか誰だその変態は~~!!」

 

至極まっとうなエヴァの叫び声が辺りに木霊した。

それから俺達は騒いでいるエヴァに適当に相槌を打ちながら、騒ぎ疲れるのをを待ち、やっと大人しくなった所で、一声かけて座るように促した。

 

「まぁとりあえずそこに座って落ち着けよ。ほら…暖かいスープだ。飲みな。」

 

「せやせや。タケやんの料理の腕前はさっき分かったやろ?」

 

「はー…はー…何故私だけこんなに疲れなくてはいけないのだ。アレか?私がおかしいのか?」

 

エヴァがそんな事を言いながら、大人しく俺の言う事を聞いてその場に座って、スープを受け取る。

俺が慌てない理由?そんなの簡単だ。

急に襲われてもいきなり死ぬ事はないと思うし、それ位の力はあると確信している事もあるけどなにより、ナギ達と行動をともにして俺も成長したんだよ。

会話の主導権をとる為には、いくら焦っていても相手に余裕を見せて自分のペースに引きずり込むってな。

アルがそうやってたから真似してたんだけど…やっぱり正解だったようだ。

それしても、エヴァがスープを飲んでいるときに、フーフーして飲んでいた姿はまさに幼女。

思わず和んでしまった。

 

「さてと、エヴァンジェリン…ん~長いからエヴァで良いか?」

 

「もうお前と口で張り合うのは諦めた。…好きにしろ。」

 

「じゃあエヴァ。何でいきなり俺達が襲うと思ったんだ?」

 

「そうやな。大体襲う気があるなら、もうやっとるしな。」

 

これは一番俺達が知りたかった事だった。

確かにあの大戦後、俺達にあこがれている人達が増えているのは知っている。

その関係で、自ら悪の魔法使いと名乗っているエヴァを襲う理由も分かる。

けど、ここまで警戒する必要があるのだろうか?

そんな俺達の質問に、エヴァはうんざりしながら答える。

 

「ふん。簡単なことだ。お前達があの大戦を終わらせた事で、自称”正義”を語る奴らが私を殺しに来たのだ。まぁ今までもそういうことは何度かあったが、ここ一年それが増えに増えまくっている。何でも”立派な魔法使い”になる為だとか言っていたな。」

 

「”立派な魔法使い”?なんやそれ?」

 

龍ちゃんが頭に疑問符を浮かべながらエヴァにそう聞くと、その言葉に少々驚きながらもエヴァは答えてくれた。

 

「ん?お前達もしかして知らないのか?確かMMがそういう称号みたいなものを作ったらしいぞ?そして”紅き翼”の主要メンバー全員それに選ばれたと聞いたが…違うのか?」

 

「いや…どうだろう?そんな連絡聞いてないし、そんな称号みたいなもの出来たのも初耳だ。確かに俺達は最近魔法世界には帰ってないけど…それにしたって俺に連絡が無いのはおかしいよな?」

 

「せやな。もしタケやんが選ばれとるんやったらまず話が来るやろ。でもそんな話しらんしな…大体ワイら元老院とむっちゃ仲悪いんやけど。」

 

「仲が悪いって…敵対でもしているのか?」

 

「敵対まではいかないけど、良い印象をもってないのは確かだね。他の面子もそう俺と変わらない感情をもっていると思うよ?…まぁ良いやちょっと連絡とってみる。」

 

俺はそう言うと、腕につけていたリングを外し、魔力を込める。

実はこのリングには幾つか能力がついており、その中のひとつに念話をする機能がある。

しかも、旧世界にいながらも魔法世界にいる人と話すことが出来るくらいに強力なやつをね。

ただ、それにはある程度魔力がないと無理なのだが…俺達”紅き翼”のメンバーなら簡単な事だった。

他にも色々能力があるのだが、それはその時が来たら話たいと思う。

ちなみに、それを他のメンバーに話した所”やはりお前は何処かおかしい”と言われてしまった。

しかたがないだろ?つくれちゃったんだし…文句は聞かん。

 

(あー、あー…ガトウ聞こえるか?)

 

(……ん?タケルか?どうしたいきなり念話なんてしてきて)

 

(いやちょっと気になる事を聞いたもんでね…。今話せるか?)

 

(大丈夫だ。それで?聞きたい事とは?)

 

(何かMMが”立派な魔法使い”っていう称号を作って、しかも俺達もそれに選ばれたって聞いたんだけど…それってホントか?)

 

(はぁ…。もうそんなに広まっているのか。…認めたくないが本当だ。)

 

(マジかよ…。)

 

(…もともと”立派な魔法使い”ってのは昔からある言葉でな。誰が言い出したか知らないが、人に感謝される魔法使いの事をそう呼んでいたんだ。だが、最近になってMMが…いや元老院と言った方がいいか。そいつらがそれを役職みたいな感じで使い始めてな。俺がその情報を掴んだ時にはもう俺達がその役職についた事になっていた。ちなみに選ばれたのは、ナギ・アル・ゼクト・ラカン・そしてタケルお前だけだ。)

 

(龍ちゃんや、詠春、それにお前は?)

 

(龍牙については幻獣だから、相応しくないらしい。後詠春と俺は魔法使いじゃないからだそうだ。たしかに、俺は魔法を殆ど使わないからな。あと詠春についてだが、詠春が使う呪符とかは魔法として認めないという事だ。…あくまで西洋魔法が主と言う事だな。)

 

(……あっほらし。もともと”立派な魔法使い”ってのは、人に感謝された人の事を言ったもんなんだろ?それだったら別に魔法使いじゃなくても…いやたとえ幻獣であってもかまわないと俺は思うのだが?)

 

(…同感だな。だがそれを言っても、もう後の祭りさ。とりあえず今その話はMM内ではもう殆どの人が知っていると思って良いだろう。…おそらく俺達を良いように使おうと考えている元老院達のしわざだろうがな。こっちでも色々やってはみるが、おそらくもうその称号は取り消せないだろう。)

 

(はぁ…そっか。…あと1つだけ。)

 

(なんだ?)

 

(最近”正義”を語った魔法使いがかなり増えているって聞いたんだけど、それってホント?)

 

(ああ…。大方俺達に憧れた人達がそれを語っているんだろうが…。あまり良くない傾向だ。正義なんてあって無い様なモノだからな。それに惑わされて良いように使われてしまう可能性がある。)

 

(そうだね。…ありがとう。コレでだいぶすっきりしたよ。)

 

(別にかまわないさ。…そうだ。たまには俺達に顔だしてくれよな。タカミチとクルトも逢いたがっているし、何よりアスナがときより寂しそうに外を眺めているんだ。)

 

(ははっ…了解。子育てがんばってね。)

 

(俺はまだ結婚もしてないのに、もう三人の子持ちかよ!まちがってないけどな…じゃまたな)

 

(おう)

 

別れを告げてガトウとの念話は終了した。

そのあと、俺が聞いたことを二人にも告げると、二人は頭を抱えだした。

 

「は~まったく次から次へとろくな事を考えんな。」

 

「ホンマや…あの戦争で懲りんのか?人ってもんは…」

 

「ちょっと人って言うなよ。あんな奴と一緒にされたくない!」

 

「あ、すまん。…そうやなタケやんをアレと一緒にしたら可哀想やもんな。…それにタケやんはアホやからそんな事考える訳があらへんしな。」

 

「そうそう俺はアホだから………龍ちゃんちょっとそこまでいこか?いい加減はっきりと覚えてもらわないとな?俺にケンカ売るっていう愚かしさをな。」

 

「はぁ~ちょっとホントの事言っただけやん。沸点の低いやっちゃな~。大体タケやんがワイに敵う訳無いやろ?…その事を体に教えこましたるわ」

 

「はっ?いやお前らちょっとまて!なんでいきなりケンカしようとしてるんだ?」

 

突然の事にエヴァがついていけず、俺達を止めようとしてきた。

でも無駄なんだよ。もう誰にも止められないんだよ!!

 

「止めるなエヴァ!このダメ虎にどっちが上か教えてやらないといけないんだよ!」

 

「止めんといてやエヴァはん。こうなる事は必然やったんや。…そう運命で決まってたんや。」

 

「いやいや…あきらかにお前が挑発してただろ!?」

 

「いくぜ龍ちゃん!…人間をなめるなよーーーー!!!!」

 

「かっこよく言ったつもりかも知れんけど、そんなかっこよく無し。更に言うなら二枚目は無理やって何度もいっとるやろ?まぁええわ…こいやタケやん!ワイに勝てるっていう幻想を持ったまま溺死しろやーーー!!!」

 

エヴァside

 

なんなんだこいつらは一体。

さっきまで結構真剣な話をしていたはずなのに、いきなりケンカをしだした。

というより、龍牙と言ったか?アイツがケンカを思いっきり売ってたけどな。良く分からんが、もしかしたら何か意味があるのかも知れんな。

 

それにしても…こいつらはおもしろい。

 

私を吸血鬼と知りながら、まったく気にせず接してきている。

長年生きてきたが、こんな奴等は始めてだ。

今もこうして私の前でケンカをしている。まだ知り合って間もないこの私の目の前で…。

信じられるか?

人を殺すことに何の躊躇もない私の目の前でだぞ?

 

ククク…長生きはしてみるものだな。

お蔭でこいつらに出会う事が出来た。

 

何度死にたいと思ったか忘れたが。

もうどうでも良い。

まだ、完璧には信用できないが丁度暇していた所だ。

こいつらについていってみよう。

きっとこいつ等と一緒に行けば、楽しい事が待っているに違いない!

 

ククク…

 

さっきから笑いがとまらん。

こんなに笑ったのは何時ぶりだろうか…。

 

タケル・龍牙…お前達が嫌だといっても私はついて行くぞ。

 

なにせ、こんな面白く楽しい時間が過ごせるのは、まだ私が人間だった時以来だからな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…タケやん。何かエヴァはんが一人で笑っとるんやけど?」

 

「…ん?うわ…マジだ。なんかもう完璧に幼女だな。」

 

「やね。…犯罪臭がプンプンするわ。しかもアレで多分結構歳いっとるやろうから…まさにロリコンにとっては天使やろうな。」

 

「合法ロリって奴か…」

 

「そや…合法ロリってやつや。」

 

………ピク

 

「お前達…さっきから聞いていればロリだの幼女だの…私は成熟した女性だ!!」

 

『……無いな(わ)』

 

………ブチ!

 

「……リク・ラク ラ・ラック ライラック”氷爆”!!」

 

ドゴォォォン!!!

 

『危な!!』

 

「私は…私は…合法ロリ何かでは断じて無い!!!死ねーーー!!!」

 

「うわエヴァマジだ!!」

 

「逃げるでタケやん!」

 

「がってんだ!」

 

「待て!!おとなしく氷漬けにされろーー!!!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話:次の一歩

仕事に行く前に投稿。
遅くなってすみませんでした。


エヴァと遭遇してから、俺達二人の旅は急に終わってしまった。

何…簡単なことだ。

あれからエヴァが旅に参加して一緒に行動をしているからだ。

でも、一緒に旅をしていると言っても少々特殊で、エヴァ曰く”私の行く所と私が歩く前にお前達がいるだけだ”だそうだ。

いや~エヴァさん。俺が知っているキャラ的にもツンデレ的にもそれって俺達について行きたいってだけですよね?あと、そういう時は相手の目を見て話した方が良いですよ?明らかに目を逸らされて言っても嘘を肯定しているようにしか見えませんからね?

 

とまぁこんな感じ。

後、最近になって妙にエヴァからくる視線が多くなった。

気付かないフリはしているのだが、どう考えてもおかしい。

たまに”……いっその事夜に襲って私の従者に…”とかブツブツ言っているのが聞こえてます。

俺いつの間に貴方にフラグを立ててしまったんですか?

そのせいで、龍ちゃんと新たに仲良くなったチャチャゼロ(呼び名はゼロ)から”このロリコンめ!お前にはロリをひきつける能力でもあるんか?”って言われるんだが…まさかそんな能力ついてないよな?

一度確かめなくてはいけないのかもしれない。

 

さてさて、先ほど名前がでたゼロだが、コレはエヴァと会った次の日に紹介された。

あくまで漫画としてゼロの事は知っていたけど、実際に見るとすごい違和感がある。だって人形は喋って動いているんだぜ?

獣人とかは、なんていうか…もともと生物だからそれっぽい感じがして特に違和感とか感じなかったんだけど、流石にそこら辺で売っていそうな人形が喋っていると慣れるまで時間がかかった。

初めてゼロを生で見た時、ホラー映画の”○イルドプレイ”を思い出してしまった俺は悪くないと思う。…と言うかそのまんまなのかもしれないが。

だって…殺人人形だし。

 

そんなゼロだが、実際に話してみるとノリが良いっていうか結構話が合ってすぐに打ち解ける事が出来た。

特に龍ちゃんと仲が良く。最近では俺の肩に龍ちゃん。その龍ちゃんに抱きつくようにゼロが乗っているのが普通になってきている。

…ていうかゼロ。エヴァの近くにいなくて良いのか?一応従者なんだろ?

まったくもってそう見えないけど…だって率先してエヴァ弄ってるし。

確か従者って、主人を第一に考えて行動する人の事を意味していたと俺は覚えているんだが、何時その意味が変わったんだろうか?

 

以上が最近あった出来事なんだけど、改めて頭で整理すると、とんでもないことになっているな。

でも…ちょうど良いのかな?もともとエヴァを人に戻すのも俺の目的の一つだったし、これはコレでチャンスなのかもしれない。

頃合を見てエヴァに聞いてみるか…人間に戻りたいかどうかを。

 

「ってな感じで今俺達は町に着いた訳だが…」

 

「いや…ってな感じってどんな感じなん?…って突っ込みは野暮なんやろうな。」

 

「ソウダナ。俺ノ頭ノ中デモ”ツッコムナ”ッテ言葉ガ聞コエテクルゼ。イイ判断ダ!」

 

俺の肩に乗っている龍ちゃんとゼロがこそっとそう呟く。

 

「はいそこの二人うるさい。お前達はいちいち突っ込まなくていいから。黙って二人でイチャイチャしてなさい。」

 

慣れてきているとは言え、こうも俺の肩でイチャイチャされるとさすがに俺もあまりいい気はしない。

ただ、それについてはもうあきらめているので、イチャラブ雰囲気は何とか我慢するから、せめてイチャラブ会話は俺の肩の上ではやってほしくない。

そう思って、俺は龍ちゃんにそう言うと、龍ちゃんは少し顔を赤くしながら叫ぶ。

 

「な…何いっとるやタケやん!!」

 

「オッ!ソウカ?ナラ…オ言葉ニ甘エテオトナシク龍牙トイチャイチャスルトシヨウカ。」

 

龍ちゃんとは反対にゼロは、ニヤリと笑いながらそう言う。

おそらくあれはおちょくり半分、照れ隠し半分と言った所だろう。

人形故にあまり表情が変わらないゼロだが、最近になって口調やほんの少しの表情の変化で今何を思っているのか大体予想がつくようになってきた。

 

「ゼロも乗るなや!!」

 

「別ニイイジャネーカ。…ソレトモ私トイチャツクノハ、イヤナノカヨ龍牙?」

 

人形なのに、少し顔を赤くしながら悲しそうな声色で龍ちゃんにそういうゼロ。

やっぱり俺の考えている事に間違いは無いようだ。

 

「別に嫌や無いけど…」

 

ゼロのそんな言葉に、龍ちゃんも龍ちゃんで、顔を赤くして、しどろもどろになりながらそう答えている。

はぁ。…どこかに壁無いかなぁ。

先程我慢するし、慣れてきたとは言ったが、さすがにこうまで俺の肩でイチャラブの雰囲気出されると、何かを殴りたくなってくる。

ったくいつの間にこんなラブラブになってんだよ。

リア充爆発しやがれ!!

 

『お前が言うな!!』

 

何故か、二人にいきなりそう言われた。

…いつの間に心の声が漏れたんだろうか。

 

「…と言うか私を差し置いてゼロに恋人が出来る…だと。何故だ!!何故なんだ!?」

 

そんな二人の様子を見て後ろに居たエヴァが膝を付きながら手を地面に着け、“絶望”といった表情で嘆いていた。

…エヴァさんご苦労さまです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・

・・

 

町の入り口でそんな事があった後、とりあえず俺達は、エヴァを何とか立ち直らせて、この町でとりあえず一泊する為に二手に分かれる事にした。

まぁ案の定その時にゼロがまたエヴァを弄っていたが、もうそれはいつもの事だ。

組み分けと役割はこんな感じだ。

エヴァとゼロ組は、今日泊まる宿を探す為に行動し、俺と龍ちゃんはある程度旅に必要な物資の補給と、おそらく大丈夫だとは思うが、もしもの為に退路の確認をする為に町を散策する事になっている。

俺と龍ちゃんは適当にこの町を散策しながら予定通り行動して行く。

立ち寄ったこの町は、そこまで大きな町では無く、物資や退路の確認などはそう時間も掛らずに終わらす事が出来た。

何時もなら、この後何か珍しいものでもないか店とかを回るのだが、先ほども言った通りこの町は大きくないのでそれもすぐに終わってしまい、もうやる事が無くなった俺達はエヴァ達に連絡を取り今日一泊する宿へと向かっていた。

 

「特に珍しいものはなかったなタケやん。ならここには一泊するくらいやな。」

 

流石に人ごみではおっぴらに喋る事ができないので、龍ちゃんは小声で俺にそう話しかける。

 

「だねぇ…。でもそうなると、もうヨーロッパ辺りは大体制覇した事になるから、そろそろ別の地域にでも行こうかな。」

 

「なら次は中国とかがええな。景色が綺麗なんやろ?」

 

「ま、いった事無いけどそう聞くね。」

 

と他愛の無い話をしながら宿へと向かう。

すると、いきなり誰かが俺にぶつかってきた。

 

ドン!

 

「あ、すいません。大丈夫ですか?」

 

「平気じゃよ。すまんのう」

 

俺にぶつかった老人はその場でしりもちをついてしまったが、自分で立ち上がると俺に謝ってすぐにその場から立ち去る。

 

「あかんなタケやん前見て歩かんと…。」

 

その老人が立ち去った後、耳元で龍ちゃんがそう言ってきたが、俺はその言葉に返事する事が出来なかった。

 

「………」

 

「タケやん?」

 

俺が返事をしない事を不思議に思ったのか、龍ちゃんが改めて声をかけてくる。

それを聞いて俺は、黙っていつの間にか手元に逢った手紙を龍ちゃんに見せる。

 

「なんやコレ…手紙やな。………!!!!」

 

その手紙を見て最初不思議がっていた龍ちゃんだったが、その手紙に書かれた内容を見て思わず言葉を無くしててしまう。

なぜならそこに書いてあった内容が内容だからだ。

 

「……これは行くしかないかな。」

 

「…せやな。行かんとダメやろ」

 

二人でそう言うと、とりあえずは今日泊まる宿へと向かう。

時間はまだあるから念入りに準備しないとな。

 

一体アイツは誰なんだ?

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・

伊達武様へ

 

今日の夜。月が真上に来た時に逢って話をしたいです。

 

話の内容もその時話しますので、肩に乗っている幻獣と二人で町の外れの空き地に来てください。

 

コレはとても重要な事です。この世界に転生された貴方にとってはね…。

 

来るのをお待ちしております。

 

                                 ……差出人不明。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・

・・

 

「…確か指定された場所はここだよな。」

 

「間違いないと思うで?時間的にもええ感じや。」

 

差出人不明の手紙を受け取った俺達は、何時通りエヴァ達と食事をした後部屋へと入り、少しの間だけ寝る事にした。

いきなり戦闘とかはおそらく無いと思うけど、もし戦闘になった時変に疲れが残っていましたなんていえるはず無いからな。

その後、隣で寝ているエヴァ達をなるべく起こさないように注意しながら宿を出て、こうして手紙の通りの場所へついた訳だが…そこにはまだ人はおらず俺達二人だけだった。

 

「しっかし何モンなんやろうなこの手紙の主。ワイを幻獣って見破ることは魔法世界の住人ならできん事は無いやろうけど、タケやんが転生しとるっていう情報はワイ以外誰もしらんはずやろ?」

 

「そのはずなんだけどね。ナギ達でさえ俺は言ってないんだ。まずもれる事なんてないし、たとえ俺の事を調べたりしたとしても転生しているとまでは考え付かないだろ普通。」

 

「せやな…一体どういうこっちゃ。」

 

二人してこの手紙の主について考えていると、急に後ろから声がかかる。

 

「ほっほっほ。その疑問ワシが答えてやるわい」

 

『!!!』

 

すぐさまその場から離れて、その相手と対峙する。

最初は、月が雲に隠れてよくその顔が見えなかったが、次第に雲が晴れてくるとその姿がはっきりと見え出す。

そして雲が晴れて完全に月が出ると、月の光に照らされてその声の主の姿がはっきりと見えた。

声の主は、想像していた通り昼間俺にぶつかったあの老人であった。

 

(なぁ…龍ちゃん。あの人に声をかけられるまで、気配とか感じた?)

 

(いや…なんも感じんかった。気配所か匂いさえも全然や。普通の人間…いや生物であるなら多少なるとも匂いはある。やけど、今対峙しとってもまったく匂いがせえへん。こんな事ありえんわ)

 

(となると…。少なくとも生物ではないって事か?)

 

(わからんけどな…。)

 

「そろそろええかの?ワシもこれでも忙しい身でのあまり時間はかけられんのじゃ。」

 

二人してコソコソ内緒話をしていると、その事に焦れたのか先程の老人が声を掛けてきた。

 

「すみませんね。…で?貴方は一体誰?…その姿は仮なんですよね?」

 

警戒している為少々口調が強くなるが、それに構わず俺はその老人に話しかける。

 

「仮と言うほどでもないがの?…どれ本来の姿を見せるとするか。」

 

ゴォォッ!!

 

そんな俺の口調対してその老人は別に気にすることなく、あっさりと今の自分の姿が仮の姿認めると老人の周りにいきなり風が巻き起こり、その老人の姿を隠してしまった。

そしてしばらくすると、その風が次第に弱まってきて中にいた人の姿が見えてきた。

 

その見えてきた姿を見て、俺は言葉を失った。

隣にいる龍ちゃんは俺のそんな顔を見て首を傾げているのを感じるけど、正直今はその説明が出来る状態じゃない。

俺だって“何で!?”って言葉が今頭の中を駆け巡っている状況なんだ。

せめてもう少し、待っていてほしい。

…それにしても何故ここに俺をここに送った神様がいるんだ?

 

「ふむ。わかったみたいじゃな。久しぶりじゃ武よ」

 

俺の頭の中を見透かすようにニカッっと笑う神様。

その言葉に俺の横に居た龍ちゃんが少し驚いた。

 

「えっ?タケやん知り合いか?」

 

龍ちゃんからしたら、いつも一緒に居た自分が知らない人物がいる事に驚いているのだろう。

だから俺は、まだちょっと頭が混乱しているけどとりあえず龍ちゃんの質問に答える。

 

「…知り合いも何も、俺をこの世界に転生させた神様だよ。」

 

「うお!マジか!?」

 

さすがに“神様”と聞いて、今まで見た事も無いくらいに驚く龍ちゃん。

そして驚きながらも、まじまじと神様を見ていると、龍ちゃんに神様が声を掛ける。

 

「マジじゃよ龍牙君。何時も武を支えてくれて感謝じゃ。」

 

「へっ?あ…ああ。それは別に好きでやっている事ですから…」

 

いきなり神様にそう言われて、龍ちゃんはどう反応していいか分からないみたいで、思わず声が上ずっていた。

まぁ、その反応は分かる。何せ、普通本物の神様なんて見る事ないだろうからな。

そんな龍ちゃんを見てとりあえず、落ち着いた俺は、そろそろ本題に入ろうと神様に質問する。

 

「それで神様?わざわざ俺に逢いに来た用件ってなんですか?」

 

「おお…そうじゃったな。まずは大戦を無事に生き抜けてよかった。頑張ったの。」

 

俺にそう言われて、今思い出したと言わんばかりの表情をした後、俺とこうしてまた逢える事を嬉しそうにしながらそんな事を言ってきた。

 

「…俺一人じゃ無理だったよ。”紅き翼”のメンバー…そして何より龍ちゃんが居てくれたから俺はこうして今いれると思っている。俺の頑張りなんて微々たるものだった。」

 

「タケやん…」

 

俺の言った言葉にちょっと感動したのか、隣に居た龍ちゃんが少し涙ぐみながら俺の名前を呼ぶ。

結構同じ事龍ちゃんに言ってるはずだけど、改めて思う。

俺の傍に龍ちゃんがいて良かったと…。

 

「ほっほっほ。良い相棒と仲間に出会えた様じゃな。じゃが、それはお主が悩みながらも前に進んで来たからこそ巡り合い、そしてこうして無事に儂と逢えたのじゃ。じゃからあまり自分を下に見積もるでない。それも過ぎれば、お主と共に行動した仲間たちの気持ちも冒涜する事になるんじゃからな?さて、偉そうに説教するのはここまでにして…。今日こうやって儂がお主の前に現れた理由じが、それはハッピーエンドを目指す為の次のステップに進んでもらう為じゃ。」

 

そう言われて、初めて神様と会った時の会話を思い出すと、たしかあの時も“まず”とか“第一に~”とか言っていた気がする。

それに俺も簡単じゃなかったけど、これだけでハッピーエンドになるとはさすがに思っていない。

むしろこれからが本番なのだから…。

 

「次のステップね…。まぁそうだと思ってたよ。で?その次ってなんなの?」

 

「さすが原作を知っているだけはあるの。予測しておった様じゃな。でじゃ、次のステップとは今から原作開始の一年前に進んでもらい、そのまま原作の舞台の一主役として行動する事じゃ。まぁ主役と言っても目立つ必要は無がの。ただ、その舞台でお主の望む通りに行動すれば良い。ハッピーエンドとは与えられるものじゃないからの。」

 

そう神様が言うと、そこに待ったを掛けるように龍ちゃんが声を上げる。

 

「いやそれは無理やろ?ワイもタケやんから少し聞いとるけど、原作開始は約15年も先の話なんやろ?どうするっちゅうねん。」

 

「そのためにワシが来たのじゃよ。…少しまっておれ。」

 

神様もそう言われるのが分かっていたのか、そう言うと何か呪文を唱え始める。

すると、神様の横に黒い穴みたいなものが現れ、そこから背の小さい人が出てきた。

一体誰なんだ?

 

「ふむ。無事に呼べたようじゃな。…自己紹介をしてくれるか?」

 

神様はその人が現れた事を確認すると、その人に声を掛ける。

すると、ぽやっとした表情をしているその人は、少し間延びした声を出しながら自己紹介を始めた。

 

「はい神様~。始めまして私の名前はクロノス。時を司る精霊で、時の管理人なの~。」

 

「時の管理人?」

 

聞きなれない名称に俺と龍ちゃんは首を傾げる。

 

「そうじゃ。原作でも彼女の力を使った魔法が出てきておったが覚えておらんか?」

 

「えっと…そんなのあったっけ?」

 

神様にそう言われて思い出してみるが、原作にクロノスが出てきた記憶は無かった。

けど、神様がそう言うのだからちゃんと出ているのだろう。

なので、もう薄れ掛けている知識を絞り出すように考える。

すると、思い出せない俺に対して神様がヒントをくれる。

 

「ネギがカシオペアを使うときに使用した占いの初級魔法の事じゃよ。アレは彼女の力を借りておる魔法なんじゃ。」

 

「あ…確かにあったかもしれない。」

 

神様の言葉に一つだけ思い当たる場面があった。

それは、麻帆良学園祭でのネギと超鈴音戦闘だ。

何となくしか覚えていないけど、確かお互いにカシオペアをもって戦闘していて、その際に相手の出てくる位置を予測する魔法を使ってた気がする。

それを思い出して改めてクロノスを見てみると、あの時描かれていた精霊をもっと大人っぽくして、より人間に近い感じにすると多分こんな姿になると思う。

 

「思い出してもらえてよかったの。あの時使った魔法は簡単な未来予知なんだけど、本来の私の力は時間を自由に操る事なの。未来予知はあくまでその副産物。もっと私の力を引き出す事ができれば、未来に干渉する事…相手の時間を止めたり一分や二分先の未来へ自由に行けたり出来るの~。」

 

「ほ~そんな凄い事が出来るんか。まさに時の管理人やな」

 

「そう言われるとてれるの~」

 

クロノスの説明を聞いて龍ちゃんが感嘆の声を上げる。

そのクロノス本人は、少し顔を紅くして照れていた。

そんなクロノスの姿を見てみると、俺の勝手に抱いていたイメージは間違っている事に少しショックを受けていた。

今まで俺は、精霊っていうのはもっとこう厳かな感じかと思っていたけど、クロノスを見ていると結構感情が豊かで人や動物と何ら変わりないと思う。俺としては人より上位の存在だからこそもっと大人っぽくいてほしいと思うのだけど…これは俺の勝手の願望だからな。

仕方が無い事だ。

もっともこう感情豊かなのはクロノスだけかもしれないけど…。

とにかくこのクロノスの力を使って、俺達は未来へタイムスリップすると言う事なのだろう。

 

「つまり俺はこのクロノスの力を借りて未来にタイムスリップしろってことでいいんですね?」

 

俺は確認の為にも神様にそう言うと、神様はうなずいた後さらに言葉を続ける。

 

「そうじゃ。だが、ここでお主に言っておかなくてはいけないことがある。」

 

「言っておかなくてはいけないこと?」

 

その言葉に俺は首を傾げる。

何か問題があるのだろうか?

 

「それは私から説明するの。時を渡ると言う事は言葉にすれば簡単だけど、かなり大変な事なの。特に約15年先に行こうとするならそれなりの代償が必要となってくるの。」

 

「代償?それって魔力の事か?」

 

「それでは足りないの。一分…いや一年くらいだったら魔力だけで十分だけど、それ以上となると魔力だけでは難しいの。」

 

突然クロノスからそう聞かされ、一瞬頭が真っ白になる。

最初聞いた時、俺はタイムスリップのことを簡単に考えていたが、どうやらそれは違うらしい。

でも、そうなると疑問が残る。

だったら、あの人物はそうやって過去へ来たんだ?

 

「えっ…だったらあの超鈴音の時はどういう事なんだ?彼女は魔力と科学の力だけで100年前から来たんだんじゃないのか?」

 

「アレはあの土地にあった神木とあのカシオペアのお蔭なの。あの木が過去と未来を繋ぐパスの役割を果たしたお蔭で、巧く自分が望んだ世界へ行けて、代償はすべてカシオペアが背負ったの。多分その時使ったカシオペアは壊れたはずなの。それでも100年を渡れたのは奇跡としかいえないけど…。」

 

「そうだったのか…。」

 

つまりカシオペアは、指針の役割と同時に身代わり人形の役割を果たしていたという事なのだろう。

しかも、クロノスから”奇跡”と言われる位だからかなり危ない橋を渡ったという事だ。

あの天才と言われている超鈴音がこの事に気付かないはずが無い。

つまりそれほどまでに、超鈴音は未来を変えたかったって事なのだろう。

 

「分かってもらえて良かったの。だけど貴方の場合、今から行く未来にパスが繋がっている訳でもないし、カシオペアみたいに代償を肩代わりするモノも無いから大変なの。」

 

「そっか…。それで?俺はどうすればいいんだ?」

 

「まず、パスについてだけどこれは貴方が作った魔道具…そのリングで擬似的にパスを繋ぐの。その結果約15年後についた時そのリングをもっている人の近くに現れる事になるの。それと、少しでもその代償を小さくする為に、いきなり15年後に飛ぶんじゃなくて何回かに分けて最終的に15年後に到達するようにする予定なの。」

 

「何回かに分けてか…それって誰の近くとか決められるのか?」

 

説明を聞いた俺はクロノスに質問をする。

最初何年後に飛ばされるか分からないけど、できれば何らかのイベントが起こる場所に近い所に出るようにしたい。

特に“紅き翼”のメンバーが関わるようなイベントには俺が参加しないと、最悪二度と会えなくなってしまうからだ。

しかし、クロノスから返ってきた言葉は否定だった。

 

「それは無理なの。リングをもっている人の近くに出ることは確定しているけど、それが誰かになるかはその時その人の周りにあまり人が居なくて貴方が急に現れてもおかしくない場所じゃないとダメなの。これは時渡りを悪用されない為の処置なの。そう簡単にこの魔法が人に使えるとは思わないけど、もし使われてしまったら大変な事になってしまうの。」

 

そう言われてしまえば、もう俺はこれ以上この事について何も言えなかった。

たしかに、この魔法が悪用されてしまえばその人の思い通りに世界が変わってしまう。それがどんなに危険な事か。詳しく聞かなくても分かる。

可能性が零じゃない以上、やらない方が良いだろう。

しかし、そうなると俺の頭に一つ疑問が浮かび上がる。

 

「そうだよな…。でもそれならリングの近くに出るのもまずくないのか?このリングを持っている奴は皆信用できる奴だけどさ…」

 

「そこら辺は大丈夫なの。確かに近くといったけど、そのリングの持ち主の半径10k圏内の場所ならどこでも出る事が可能なの。それに貴方が信頼しているメンバーはこの魔法の存在を知っている人もいるだろうし、その危険性も説明すればちゃんと分かってくれる人達だと神様から聞いているの。神様がそう言っている限りそれは信頼できるの。それに私の方でなるべくこの事が公にならない場所へ操作するからその心配は無いの。」

 

「なら大丈夫か。なら後は代償の話だな。」

 

クロノスの説明を聞いて、納得した俺は今回の魔法で一番大事な事、代償について話を聞く。

 

「代償についてだけど、それは貴方の力の一部が使えなくなる事なの。」

 

「え…」

 

その言葉を聞いて、俺は動きを止めてしまう。

すると、その光景を見たクロノスが慌てて言葉を続ける。

 

「あ、もちろん無事に15年後についたら力は戻るの。こういえばいいのかな。力の一部で本来受けるはずの代償を相殺するの。」

 

「あ、そういうことか。…びっくりした。」

 

「ごめんなの。それで使えなくなる力は解呪の力、それと”然”なの。というか”然”については結果的に使えなくなるの。理由は解呪の力を常に使う事で代償を相殺する為なの。解呪の力は言ってみれば浄化の力だから、代償を相殺するにはうってつけなの。一応此方に出てきたら自動的に解呪の使用はなくなって”然”も使えるようになるけど、ギリギリまで魔力を消費しているから次時を渡る時の事を考えると、”然”を使ってはダメなの。だから”然”は使用できないの。」

 

「それくらいなら大丈夫か…。俺はてっきり体の一部がなくなるのかと思ったよ。」

 

「もし、解呪がなかったらそれもありえたの。」

 

怖!!最初この力に決めたときは、エヴァを人に戻したいからって言うのが理由だったけど貰ってて良かった。

俺がそんな事を考えていると、ずっと黙ってクロノスの言葉を聞いていた龍ちゃんが、神妙な面持ちをしながら発言をする。

 

「…あのワイはタケやんと一緒に行けるんですか?」

 

そう言われてみれば…。

当然俺は龍ちゃんと一緒に行けると思っていたけど、龍ちゃんには俺と同じような解呪の力なんてないんだ。

俺は、どうなんだ?といわんばかりにクロノスの顔を睨み付ける。

するとクロノスは苦笑をしながら答えた。

 

「クスッ…心配しなくても、本来なら時を渡るのは武だけのはずだったけど、龍牙なら大丈夫なの。幻獣は人とは違って精霊の力をその身に宿す事が出来るから、私の力を貸す事で代償も無くす事ができるの。」

 

それを聞いて俺と龍ちゃんは一安心する。

 

「そうか…。よかったわ。…あれ?確かタケやんも魔法と同化することができたはずだけど…何でタケやんは無理なんや?」

 

「う~ん。それをちゃんと説明すると、時間が足りなくなってしまうの。それでもあえて簡単に説明するなら、幻獣と人間では容量が違いすぎるの。たとえば、幻獣が私の力の50%受け入れる事ができても、人はどんなにうまくやってもその4分の一…15%ぐらいしか受け入れる事ができないの。だから代償を無くすことが出来るほどの力を体に宿す事はできないの。」

 

「なるほど。ちゃんと納得できたわけや無いけど、なんとなく理解はできた。」

 

「もう質問が無い?そろそろ時渡りを始めるの!」

 

俺と龍ちゃんにからもう質問が無いか確認した後クロノスは魔力を高め始めながらそう言ってきた。

いきなりの事に俺は慌ててしまう。

 

「えっともしかして今からするの?」

 

「当たり前なの。時間は有限。一時も無駄にできないの!!」

 

「えっ…ちょ…ま…」

 

「ちょっと待ってもらおうか!!!」

 

クロノスに行き成り時渡りをされかけた時、本来ならこの場には居ないはずの人の声が聞こえた。

その声はとても必死で、最近ずっと聞いていた声。

 

”闇の福音””不死の魔法使い”などまさに悪の代名詞的な異名をつけられているが、本当は寂しがりやで、おっちょこちょいで、いじっぱりな吸血鬼のお姫様の声だった。

 

 

「……おいおい。居たのかよエヴァ…。」

 




感想で”然”が強すぎると意見を言われていまして少し考えています。
ただ、ちょっとデメリットの件についてなかなかいいものが思いつきません。
この小説を読んでくださっている方で、何か良いアイディアがある方は教えてもらえませんでしょうか?
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話:また逢う日まで…

 

エヴァside

 

私が武と逢ってから、何日経ったのだろうか?

おそらくまだそんなに経ってないとは思うが、なんだか長い間武と一緒にいた気がする。

つまりいつの間にか私は、そう思えるほどに武の事を信用してしまったと言う事になるのだろう。

 

珍しい事もあるものだ。

 

本当にそう思う。

私が吸血鬼になってから、人を信用するなどまったく無かった。

無かったと言うよりは信用できなかったと言う方が正しいだろう。

何せ信用しようとしても、すぐに裏切られて今までの人達は私を襲ってく来た。

そんなんだから、私はいつの間にか人を信頼するという事を諦めて、闇にまぎれて一人で行動するようになったのだ。

チャチャゼロを創ったのも、従者が欲しかったと言うよりは、もしかしたら一人で居るのが辛くなって、話し相手が欲しかっただけかもしれない。

あの時はそう考えもしなかったけど、今思うとそんな感じがする。

もしかしたらそう考えるようになったのも、武と一緒に行動するようになったおかげかもしれない。

そう思うとちょっとくやしいが、嫌な気持ちじゃなかった。

だってゼロはゼロで、龍牙といういい話し相手が出来たみたいだし、私は私で、こうして一緒に居て楽しい人と出会えることが出来て今生まれてきて一番楽しい時間を過ごしていると私は思うからだ。

 

だが、そんな彼にも弱点がある。

それは寿命だ。

 

私は吸血鬼にして不死の魔法使い。

寿命で死ぬ事などありえない。

 

武は人間。

時が経てば、老いていきそしてやがて寿命が来て死んでしまう。

 

そんなのは嫌だ。

だから私は、武を私の従者にして、私と同じ吸血鬼にしたいと、何時しか思うようになっていた。

私のわがままだって言うのは、分かっている。

でも…それでも…武に恨まれるのは嫌だけど…たとえそうなったとしても、私は武を失いたくない!

 

そう思い始めたのが数日前。

そして今日は、久しぶりに町の宿に泊まる事になって、ゆっくりと休む事が出来る日だ。

何時もだと、野宿と言う事で常に周りに気を遣ったりして、今一落ち着いて話す時間は取れなかった。

まぁ、大半はゼロとか龍牙におちょくられて、そんな雰囲気じゃなくなったと言うのがもっともな理由だけど…。

…とりあえずあいつらは一度氷の棺にでも閉じ込めてやる。

 

ともかく、今日は願っても無いチャンスなんだ。

冗談で言ったり、無理やりなんて私は武に言いたくないし、したくない。

だから今日の夜にでも、素直に私の気持ちを伝えよう。

 

”私の従者にならないか?”って

 

たとえそれで、”嫌だ”といわれても、私は諦めるつもりは無い。

 

この長い年月の中で、初めて心から信頼できそうな人を…

 

私が、好きになった人を、諦めるなんてできない。

 

もう一人は嫌だ…。

 

だから武…どうか私の願いを、聞いてくれないか?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・

 

すぐに宿を見つけた私達は、武に連絡を取り宿で大人しく待っていた。

いつもなら外に出るのだが、今日は武に気持ちを伝えると決めていたので、そんな気分になれなかった。

武達が宿へ帰ってきてからは、何時もと同じ様に振る舞いながら過ごすようにした。

だけど、内心緊張と不安で一杯だった為、正直どうやって自分が寝る部屋に移動したのか覚えていない。

私ともあろうものが、まったく情けないばかりだ。

 

だが、ここからはちゃんとしないと…。

 

別に、今日断られたからと言って、諦めるつもりは毛頭無いが、それでもやっぱりこれを伝えるのは緊張してしまう。なにせ人にこんな事を言うのは初めてだから…なおさらだ。

100人私を狙う人に囲まれても、別に何も感じなかったのに、ただ一人の男にこれを伝えようとするだけで、こんなに緊張しているのだ。

私とした事が、なんと滑稽な姿なんだ。

……笑いたい奴は笑えばいいさ。

 

「アーッハッハッハ!オカシイゼゴ主人」

 

そんな事を思っていると、横に居たゼロが急に笑い出した。

 

「ゼロ!何を笑っている!」

 

「ン?ゴ主人ガ笑ッテイイト言ッタカラ、笑ッテルダケダゼ?」

 

私が強めにそうすると、“何を言っているんだコイツ?”と言わんばかりにゼロがそう返す。

 

「何?そんな事私は言って無いぞ!?」

 

「…サッキカラ心ノ声ガ、外ニ漏レタンダケド…気付イテ無カッタノカヨ」

 

「なんだと!?」

 

ゼロの一言に一瞬にして顔が熱を持ち、真っ赤になってしまった。

そ、それでは私が、さっき思っていた事は、すべて声に出していたとでも言うのか?

一体どこからだ!?

せめてあの告白まがいの事を、言った後だという事だと信じたい。

 

「マァ、別ニ声ニ出テ無クテモ、ゴ主人ハ、分カリヤスイケドナ」

 

「そんな…バカ…な…」

 

私は、その場で思わず膝を付いてしまった。

そんな私を見て、若干めんどくさそうだが、ゼロが肩を叩いてくれる。

 

「気ヲ落スナヨ、ゴ主人。アル意味デソレハ長所ダゼ。ソレヨリモ武ノ所ニ行クンダロ?」

 

「あ、あぁ…そうだな。」

 

ゼロの励まし?によって少し気持ちを取り戻した私はゼロの質問に答える。

すると、ゼロもそれを見てちょっと笑うと言葉を続けた。

 

「俺モヨ、ゴ主人ノ意見ニ大賛成ダゼ。アノ二人トハ、一緒ニ居タイゼ。」

 

「お前の場合は龍牙だろ?」

 

「マ…マァソレモ有ケドヨ。ゴ主人ヲ”吸血鬼”トカ、”悪ノ魔法使イ”ッテダケデ見ナクテ、他ノ人間ト同ジヨウニ、見テクレル奴ナンテ他ニハイネーカラナ。……好キナンダヨナ武ノ事?」

 

龍牙の事を出されて、少し顔を赤くしたゼロがそう私に言ってきた。

その声は、何時も私をからかっている時とは違ってとても真剣だった。

つまりゼロは、私の口から直接本心を聞きたいのだろう。

今までずっと、私と一緒に過ごしてきた従者として…。

だから私ももう聞かれてしまったが、改めてゼロに本心を打ち明けた。

 

「…あぁ。そうだ。フフッ…我ながら始めてなんだよ。ここまで一人の男を好きになったのは。アイツを逃がしてしまったら、もう二度とこんな気持ちにならないだろうとさえ、思ってしまうぐらいにな。」

 

そう私がゼロに伝えると、ゼロはちょっと嬉しそうな表情をしながら私に言う。

 

「…初恋ッテ奴ダナ。ダッタラ早ク行コウゼ!迷信カモ知レネケードヨ、初恋ハ実ラナイッテ言ウカラナ。」

 

「確かにそう聞くな。…だが!このエヴァンジェリンA・Kマクダウェル、一度狙った獲物は絶対逃さない!我誇りに賭けてな!」

 

「ソノ意気ダゼゴ主人!」

 

そう意気込んで、私は武が寝ている部屋へと向かう。

そこにはもう誰も居ないと言う事を、知らずに…。

 

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・

 

コンコン

 

「武?ちょっといいか?」

 

私は、武の部屋のドアを叩く。

でも中からの反応は無い。

 

コンコン

 

「武もう寝ているのか?」

 

もう一度扉を叩く。

だけどやっぱり中からの反応は無かった。

 

…おかしい。

もし武達が中に居て寝ているとしたら、絶対私が来たことに気付くはずだ。

少なくとも龍牙は幻獣。その察知能力は動物…ましてや人間の比じゃない。少なくとも私とゼロがここに来た時点で、気配や匂いを察知しているだろう。

なのに武はおろか、龍牙からも返事がないとなると…。

 

「武?入るぞ」

 

私はそう言ってドア開け、部屋の中に入った。

すると、案の定部屋の中は誰も居なかった。

 

「まったく。どこに行ったと言うのだ…。この町には他に行く所なんて無いはずだが…。」

 

武からこの町の事を聞いていたのだが、それを聞く限り、この町には何も無い。

なので私には、こんな時間に武が何処に行ったのか見当がつかなかった。

 

「ダナ。ダッタラゴ主人。魔力ヲ探ッテ見レバイインジャネーカ?ソレナラ直グニ武達ガ居ル場所ガ分カルダロ?」

 

「そうするか…」

 

ゼロにそう言われて、私は意識を集中させて魔力を探ってみる。

あいつ等は、普段魔力を抑えてはいるが、それでも普通の魔法使いよりは魔力量が多い。

それに何より特徴的なのだ。

魔力とは人によってかなり違うのは、魔法を使う者としては当然の知識だ。

流石に指紋とかのように、誰一人同じ者がいないとまではいかないだろうが、その人の性格や内面が出るとでも言えばいいのだろうか?おそらく得意の魔法にも関係があると思うが、一人ひとり感じ方が違うのだ。

その中でも、武の魔力は特徴的で、しいて言うなら…すべてを焦がすような真っ赤な炎なのに、恐れや熱さはあまり感じず、むしろその魔力を感じるだけで、優しく暖かい炎が私を包み込んでくれるようなそんな魔力だ。

本当に不思議な魔力だと私は思う。

それに龍牙。

アイツは幻獣だから、一番特徴的で分かりやすい。

魔法世界なら幻獣も沢山いるだろうが、ここは旧世界だし、何より人と一緒に居る幻獣なんてこの世界には龍牙しかいないだろう。

だからこそ見つけるのは簡単だったのだが…。

何で町の外れの方でその魔力を感じるんだ?

しかもその近くにある魔力は……

 

「…見つけた。」

 

「オ?ダッタラ早ク行コウゼ!」

 

「…ああ。だが、ちょっと様子が変だ。」

 

「ハ?ドウイウ事ダヨ?」

 

私がそう言うと、ゼロが首を傾げる。

 

「あいつ等が居る場所にもう一つ魔力を感じる。…それもおそらく私よりも魔力は上だ。こんな強大な魔力今まで感じだ事が無い。」

 

「!!!!ナンダト!一体何ヲヤッテルンダ、アイツ等ハ!」

 

その一言に、ゼロが驚愕する。

それも当然だ。

この世界で私より強い魔力を秘めている奴なんていない。

おそらくそれは、魔法世界でも同じだろう。

武も人としては最高峰の人間で、破格の魔力を秘めているが、それでも真祖の私と比べると少ない。

つまり今あいつは、少なくとも人では無い何かと一緒に居るのだろう。

私は一瞬最悪の場面を想像してしまったが、すぐにそれを振り払ってゼロに言う。

 

「わからん!とにかくここで考えていても仕方が無い。急いでいくぞゼロ!」

 

「オウヨ!」

 

そう言って私達は、部屋の窓から外に出てその場へと急行するのだった。

 

(一体何をやっていると言うのだ武は…。しかもあの強大な魔力…。どう考えても人間が発せられる魔力なんかじゃない!特に戦っているといった感じは無いが、どうなるかわからん。しかも何だこの胸を指すような苦しみは…私は…私は何を感じているというのだ!)

 

訳の分からない胸の苦しみを感じながら、武達が居る町のはずれへと向う。

今日は都合のいい事に満月。

私の力が、最も発揮される日だ。

直ぐに武達が居る場所へ行ける。

もしあの強大な魔力を持つ者と、戦闘をする事になったら…いくら武といえど、苦戦は免れない。

最悪…死……。

いやいや、そんな事考えるな。そうなる前に私がその場に居ればいいのだ。

相手がいくら強くても私が居れば戦況は変わる。

だから待っていてくれ武!今すぐ私が行くからな!!

 

あっという間に、武が居る場所の近くへと着いた私達は、すぐに武の姿を確認すると、そこに向かう。

その姿を見るに、戦闘を行った形跡はないし、今の所争うような雰囲気じゃなかった。

その事で一安心した私は、武にどういうことなのか聞くために、武に声を掛けようとした。

しかし、声を掛けようと少し近づいた瞬間、聞こえてきた声は私を絶望の淵へと落とす一言だった。

 

 

 

…つまり俺は、このクロノスの力を借りて、未来にタイムスリップしろって事で、いいんですね?

 

 

 

何を言っているんだ武?

タイムスリップ…?

それは…つまり……

 

オマエモ、ワタシノマエカライナクナルッテコトナノカ?

 

「…主人…ゴ主人!!」

 

「…ハッ!何だゼロ。」

 

武が言った一言で、目の前が真っ暗になってしまった私に、近くにいるゼロが声をかけてくれる。

 

「何ダジャネーダロ!ドウスルンダヨ!!」

 

「…どうするとは?」

 

必死な表情でゼロが私にそう言うが、私にはゼロが何を言っているのか私には分からない。

 

「止メネーノカヨ!」

 

そうゼロが言ってくれるけど、何故そんな事を聞くのだろうか?

 

「……どうして止める必要があるんだ?やっぱりアイツも、今までの奴らと同じ私の前から消えるんだ。それならそれでいい。」

 

「……!!!」

 

ドゴッ!!

 

私の口から出た言葉を聞いたゼロが、行き成り私の顔を殴りつけた。

その拳を受けて、私は思わずよろけてしまう。

 

「何をするんだ!!」

 

頭に血が上ってゼロに掴み寄ろうとするが、行動する前にゼロが叫ぶ。

 

「ア゛ァ!?何ッテ意気地無シデ、嘘付イテイルゴ主人ヲ、正気ニ戻ソウトシタダケダ!」

 

「何だと!?」

 

「ゴ主人ノ気持チッテ奴ハ、ソンナモンダッタノカヨ!!サッキオレニ言ッタ言葉ハ、嘘ジャネーダロ!誇リニ賭ケテ手ニ入レルンダロ?武ヲ!ダッタラ、相手ノ事情何カ無視シテ、力ズクデモイイカラ、手ニ入レルクライノ気持チデイケヨ!ジャナイトキット後悔スルゾ!!今ハマダ、手ヲ伸バセバ届ク距離ニイルンダ。ダッタラ見栄トカ、恥ナンカ気ニセズ伸バセバイイコトダロ!」

 

セロの叫びに、武の一言で真っ暗になってしまった視界に、ほのかな光がさしたような感じがした。

そしてその光によって、私の想いはまた燃え上がる。

 

「………そう…だよな。私がそう言ったんだもんな。誇りにかけて武を手に入れると…。」

 

「ソウダヨ。ッタク手間ヲ掛ケサセヤガッテ…シッカリシテクレヨ、ゴ主人!」

 

私の言葉を聞いて、“ヤレヤレだぜ”と言いたそうな動作をするゼロ。

それを見て、私は苦笑してしまった。

そうだ。

何目の前を真っ暗にしているんだ。そんな事をしている場合じゃない。

さっき目の前が真っ暗になったせいで、その後の会話は聞いてなかったし、そもそもどうして武が未来へタイムスリップしなくちゃいけないかは知らない。

というか、そんなものもうどうでもいい!

 

ただ私はアイツを手に入れたい。

ずっと傍に置いときたい。

ずっと…ずっと…私と一緒にいて欲しい。

 

だから…

 

「ちょっと待ってもらおうか!!!」

 

逃がさんぞ武!

 

武side

 

「…おいおい。居たのかよ。エヴァ…」

 

俺はこっちに寄って来るエヴァの姿を確認して、苦笑してしまう。

こんなに近くまでエヴァが着ていたのに気づかないなんて、よっぽど俺は神様の話に動揺していたらしい。

そんな事を思っていると、エヴァは俺に触れるぐらいまで近づくと、改めて俺に言ってきた。

 

「何私の許し無く、何処かへ行こうとしているんだ?」

 

「いや…エヴァはん。そもそも許しを請う必要あるn…」

 

「龍牙は黙ってろ!それかゼロといちゃついてろ!」

 

「ソーダゼ。ソレニ龍牙。オ前モダ。私ノ許シ無ク、何処ニ行クツモリダ?」

 

「いやゼロ?ちょっと落ち着いてくれんか?…頼むからその手に持っているナイフ、下ろしてくれんか?後、目が獲物を狩る目になっとるんやけど…」

 

俺の事を弁護してくれた龍ちゃんが、ゼロに詰め寄られて顔が引きつっていた。

でも…気持ちは分かるかな。俺も今エヴァに睨まれて怖いし、それに今のゼロマジで怖いもん。

人形の癖に目が反転してる。…魔眼でも発動したんだろうか…う~ん謎だ!

 

「おい聞いているのか!?」

 

「あ、わりぃ…。あまりに展開が急すぎたから、ちょっと現実逃避してた。」

 

近くに居たエヴァにそう言われて、改めてエヴァへ意識を向ける。

どうやら現実からは逃げる事は出来ないみたいだ。

 

「いやソレはこっちの台詞だろ?ちょっとしか聞き取れなかったが、未来にタイムスリップするらしいな?一体何がどうなったらそんな事しなくてはならないのだ!!説明しろ!」

 

「あーいやーそのーどうやって説明したもんかな…。えっと神様?俺どうしたらいいんでしょうか?」

 

”神様だと!?”と俺の前で驚いているエヴァはとりあえず置いといて、神様に俺は助けを求めた。

すると、神様はしばらく考えた後、うんうんと頷いて答える。

 

「そうじゃの。いっその事お前のことを全部話してしまったらどうじゃ?」

 

「はっ?えっ…でも話していいんですか?こういうのって普通話したらいけないんじゃ…。」

 

一瞬神様が何を言っているのか分からなかった。

けど、すぐその意味が分かると、神様に俺はそう質問をする。

しかし、俺の質問がおかしかったのか、少し驚いた表情をしながら神様は答えてくれた。

 

「何を今更。もしダメなら、龍牙が知っている時点でもうだめじゃよ。それとも武はこの子の事を信用してないのか?」

 

「いや別にそんな訳じゃ…」

 

神様にそう言われて俺は口篭ってしまった。

正直に言えば、俺はエヴァの事をもう信用している。そもそも、原作の時から好きなキャラだったし、その考え方とかもいろいろ共感していた。

そしてそれは、こっちの世界で本物と出会った時も変わらなくて、むしろさらに印象が良くなったと言えると思う。

でも…そんなエヴァを、俺に巻き込んでいいのか?

おそらくこれからも色々な事に巻き込まれてしまうだろう。

その中には、最悪命を懸ける場面も出てくると思う。

だいたい、この世界に来た時にもらった解呪の力は、エヴァに人として幸せになってほしいと思ってもらった力だ。

そんな事を思っている俺が、なるかもしれない危険にエヴァを巻き込むのはどうかと思う。

そう思うと…言えない。

それに俺の秘密を知ってしまったら、きっとエヴァの事だ。文句を言いながらも俺の問題に付き合ってくれるだろう。

そんな事になるなら俺は…

 

「私は武の事を信頼しているぞ。今そこにいる神?がいる事といい、その神にそう言われても悩んでいる事といい…それはおそらくとても重要で危険な事なんだろう。だったら余計に話して欲しい。どうせ武が嫌だと言っても、お前に関わるつもりだったんだ。話してくれ。……それとも武は、本当に私のことを信用してないのか?」

 

俺の考えている事を、遮るかのように話すエヴァ。

その目には、少しだけ涙が浮かんでおり、それでいて真剣な目で俺を見つめてくる。

…それを見てしまった俺は、もう選択肢が一つしかない事に気がついてしまった。

 

「はぁ~。お前そんなキャラじゃねーだろ。なんだよそのデレっぷり…ツンが一個もねーぞ。」

 

頭に手を置きながら俺がそう言うと、エヴァは少し顔を赤くしながら答える。

 

「うるさい。こうでも言わないと、お前話す気にならないだろうが!…それに素直になるって決めたんだよ私は。武の前ではな…。」

 

「ったく。…負けたよ。」

 

降参とばかりに俺は両手を上にあげると、エヴァにそう言う。

するとエヴァは嬉しそうな顔をしながら、さらに俺に詰め寄った。

 

「!!なら教えてくれるのか?」

 

「ああ。ただしこれから言う事は、正直信じられねーことだと思うけど、先に言っとく。俺の頭がおかしくなった訳じゃねーからな。」

 

俺はエヴァにそう言うと、今までの事。そして俺が何者なのか。そのすべてをエヴァに説明するのだった。

ちなみに、さっきまで龍ちゃんに迫っていたゼロも、いつの間にか俺の近くに来ていた。

龍ちゃんは………しばらく起き上がる事はできなさそうだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・

 

「なるほど。だったら私もお前達といっしょにタイムスリップする」

 

俺の話を聞いた後、最初にエヴァが言った言葉がこれだった。

 

「いやちょっと待てよ。今説明しただけで本当に信じたのか?」

 

普通なら信じられない事を言った俺の事を簡単に信じたエヴァに対して俺は驚いていた。

特にエヴァは人を簡単に信用する奴じゃない。

それは、今までの経験からきている所があるのだろうけど、別に悪い事じゃ無いと思う。

そんなエヴァがこうも簡単にこの話を信じる事が俺にはどうしても信じられなかった。

するとエヴァは、俺の考えている事なんかおみとうしとばかりに、腰に手を当てて説明してくれた。

 

「フン…まぁ普通なら信じないだろうがな。だがここに居る神様といい、精霊といい。お前の言っている事をすべて肯定しているようなものじゃないか。いくら疑り深い私でもな、こうまで目の前に証明するものがあれば、納得せざるおえんだろ。」

 

「確かにな…」

 

そう言われてみれば確かにそうだ。

だって今ここに神様がいるんだもん。

これ以上の証拠は無いだろうな。

 

「で?」

 

「で?とは?」

 

「本当に俺についてくるつもりなの?」

 

「当たり前だ。私は嘘つきじゃない。」

 

「何時も言葉と言動があってないくせに?」

 

「うるさい。それは………そんな事はどうでもいいだろ!行くったら行くんだ!」

 

おい。自覚があるなら、それどうにかしろよ。

っとまぁそれは置いといて。

 

「真面目な話し無理だろ。」

 

「何故だ!!」

 

「それは……クロノスどうなんだ?エヴァは行けるのか?」

 

「えっ?あっ…私のこと忘れてなくて良かったなの。えっと……無理なの!」

 

すいません。殆ど忘れてました。思い出したのも、エヴァと視線を外した時に、視界に入ったからです。でもやっぱり無理か。

正直その答えは想像が出来ていた。

けど、エヴァからしたらそんな事は認められる訳が無く、クロノスに詰め寄っていた。

 

「無理なの!…じゃないわ!何故なんだ、理由を言え理由を!」

 

「それは、貴方には代償を肩代わりするモノが無いからなの。それに…貴方は“真祖の吸血鬼”種族として分けるなら“魔族”になるんだけど、その場合普通よりも代償が多くなってしまうからなの。…古来より、“悪魔”…“魔族”を呼ぶ為に生贄を用意したって話があると思うけど、それは“魔族”を此方の世界に呼ぶ為の代償を生贄に肩代わりさせる為なの。今回の事だって、タイムスリップって言うよりは、時間を跨いだ召還に近い感じなの。いくらなんでも、そんな大きな代償を肩代わりするモノなんて創れないの。」

 

「そんな…」

 

それを聞いてその場で膝を付いてしまうエヴァ。

でもそこで俺は、ある事に気がつく。

 

(あれ?だったら俺がこの場でエヴァを人間に戻せば、大丈夫って事なのか?)

 

そう思いつくと、その考えをお見通しのように神様から念話が届く。

 

(それは無理じゃな。)

 

(どうして?)

 

(まぁさっき説明したように、人以前に時渡りを行うには代償が必要なのじゃが、お主は“解呪”龍牙は幻獣としての特性でそれを何とかしておるのじゃ。さすがに今この場面でエヴァ様に“カシオペア”みたいな物を造れん。あれは魔法だけでできている訳じゃないからの。それに、そもそも何故エヴァが、真祖の吸血鬼になれたか…。その理由は、彼女自身にその素養があったからじゃ。つまり、人より闇の素養が大きかったんじゃ。普通なら人から魔族になるなど、ありえんことなのじゃ。しかしたまにこうして、それを成功してしまうだけの器と、素養があった者が生まれる。それがエヴァじゃ。だから、たとえ今お主が人に戻した所で、普通の人と同じぐらいの代償で、すむようになるまでは、かなりの時間がかかってしまう。その時間は、流石のワシでもわからん。すぐかもしれんし、何十年かかってしまうかも知れん。しかも、数日で済むと信じ、人に戻したとして、もしそうでなかったら、どうするつもりなのじゃ?嘆かわしい事だが、吸血鬼と言うだけで、エヴァは世界中から狙われておる。その時たとえばエヴァとかが、人だと言っても、それを信じる人はいるのか?もしかしたら、好都合と思われ、逆に殺されてしまうかもしれん。それでもいいと言うのかお主は?)

 

(……それはダメだ。いいわけない!!)

 

(だったら辛いじゃろうが、ここは我慢するのじゃ。エヴァが吸血鬼ならまたきっと出会える。原作の舞台である、あの麻帆良学園でな。)

 

神様にそう諭され、俺は視線を目の前に向ける。

そこには、クロノスに何か方法は無いのかと聞いているエヴァがいた。

 

意地っ張りで、わがままで、素直じゃなくて、たまに抜けてる所があって、でもそれ以上にやさしくて、笑うとかわいいエヴァが…。

そんなエヴァを、みすみす不幸な目に合わせたくない。

俺は決心してエヴァの肩を掴むと、此方に顔を向けさせる。

 

「な…なんだ?いきなり…」

 

「エヴァ。聞いて欲しい。」

 

「嫌だ。聞きたくない」

 

俺の顔を見て、俺が何を言うのか気付いたのか、顔をそむけて俺の言葉を否定する。

 

「いいから聞いてくれ。…俺はお前を連れて行くことは出来ない。」

 

「そんな事、認めない。」

 

そっぽを向いたエヴァの顔をもう一度俺の方に向けて話すが、すぐさま同じように顔をそむける。

 

「…本当に悪いって思ってる。急に居なくなるんだもんな。…でもさ、方法が無いんだ。仕方が無い。」

 

「そんなはず無い。私に少しでも時間をくれれば、きっと一緒に行ける方法が見つかるはずだ!!だから、もう少し時間をくれ!」

 

「エヴァ!本当は分かってるんだろ?」

 

俺は、強めに言葉を発する。

すると、その声にビクッ!っと反応し、その後すぐさま、フルフルと小さな体を震わして、エヴァが叫んだ。

その目に、一杯の涙を浮かべて。

 

「……なら。なら認めろとでも言うのか!?一緒に行けないって!!ふざけるなよ!私はそんな事絶対に認めないぞ!」

 

「すまない。…その代わりといっちゃなんだけど、俺と約束しないか?」

 

「約束…だと?」

 

“約束”と言う言葉に反応して、先程まで涙を流しながら取り乱していたエヴァが一旦落ち着く。

 

「ああ。俺がタイムスリップする終着点は、ここから約15年後の世界だ。そして俺は、旧世界の麻帆良学園という場所へ行く事が決まっている。そこで再会する約束をしよう。」

 

「そんなにも待てるか!!それに…言葉だけでは到底信じられん。」

 

「いや…そう言われるとなぁ…。そうだ!ならこれをやるよ。」

 

そう言って俺は、懐から銀の指輪を取り出す。

これは旅の途中で、暇になったので、手遊びとして作った指輪だった。

しかし、最初こそ遊び程度の物だったのだが、途中から妙に熱が入ってしまって、細かな細工はもちろんの事、魔法媒体になるうえに、”紅き翼”に渡したリングと同じように、広範囲の念話も出来る。

それともう一つ。実験として魔力を溜めておけるかどうか、実験した指輪でもあり、その結果は見事成功。

魔力の貯蓄が出来る指輪になったのだ。

 

その指輪をエヴァに渡す。

 

「これは…指輪?」

 

「ああ。俺が作った特製の指輪だ。色々機能があるから、詳しくは一緒に渡す紙を見てくれ。これは絶対俺が約束を守ると言う証だ。…これを持って待っててくれないか?」

 

そう俺が言ったが、エヴァは何故か指輪をじっと見たまま、固まっていた。

しかもよく見ると、顔が赤い。

えーっと…もしかして俺やっちまったのかな?

その…フラグ的な意味で。

 

「あっ…やっぱり別の…。」

 

「………こんなの貰ったら信じるしかないじゃないか。ずるいな武は…。わかった。」

 

あーダメだ。今更返して別の物を渡すとか言えない。

…意気地無し?

だったらやって見ろよ。嬉しそうにはにかみながら、両手でギュッと、指輪を握り締めてるんだぜ?

そんなエヴァから取り替えせる奴なんかいるもんか!!

ロリコン?

………何かもう言われ続けていて、諦めそうだよ。流石に今回は、そう言われても仕方が無いと思うしさ。

 

「だたし!」

 

「はっはい!」

 

行き成り強くそう言われて俺は思わず直立不動になってしまった。

するとエヴァが、息が掛りそうなぐらいまで、顔を近づけると、俺の眼を見ながらこう宣言した。

 

「信じると言っても、私は気が長い方じゃないからな。待つのに飽きたら、こっちからお前を迎えに行くぞ。」

 

「いや…おとなしく待ってた方が…」

 

「行・く・か・ら・な!」

 

「あー…もう好きにしてくれ。」

 

…俺って押しに弱いなぁ。

でも、なんだかとっても魅力的だった。

そう言えば、アリカ姫の時にもこんな様な気持ちを感じた事があったっけ?

後の時は、憧れだと思ってたんだけど…違うのかな?

それとも、今さら俺はエヴァに憧れているとか?

…まさかね。

 

エヴァに詰め寄られて少し顔を赤くしながらそう思っていると、一部始終を眺めていた神様から声がかかる。

 

「話はまとまったようじゃな。…さて、もうそろそろ夜が明けてしまう。人が起きる前に向かった方がいいじゃろう。」

 

「そうですね…。龍ちゃんそろそろ行くよ。」

 

神様にそう言われて、俺はゼロと話していた龍ちゃんを呼ぶとエヴァ達から少し離れる。

 

「準備は出来たなの?それじゃ行くなの~~!」

 

ちょっとテンション高めなクロノスが出発の合図をすると、俺達はキラキラした何かに包まれる。

 

「んじゃゼロ。また逢う日まで元気でな!」

 

「オウ!龍牙モ元気デナ。……浮気スルンジャネーゾ。」

 

「ははは…いってくるわ!」

 

「返事シネーノカヨ!!……イッテラッシャイ。」

 

お互いに笑いあいながらそう言いあう二人。

それにしても龍ちゃん、もう尻に敷かれてるんだ。

…詠春さんとナギの姿がダブって見えるよ。

 

「武!…今度逢った時。…その時は、ちゃんと返事させてもらうからな!」

 

「あーそのーなんだ。……別ニ気ニシナクテイイヨ?」

 

「バカ…。私が気にするのだ。…待ってるからな。」

 

どうやら俺は完璧にエヴァにフラグを立ててしまったらしい。

しかも、どう考えても結婚まで行ってしまうぐらいのフラグを…

あーどうすっべかなぁ…。

ま、とにかく…。

 

「あぁ…。じゃぁ元気でな。行ってきます」

 

「…いってらっしゃい。」

 

こうして俺は、エヴァと再会の約束をして、この時代を旅立った。

次麻帆良学園で再会するのを楽しみにしながら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでゼロ。お前のその腕についている物は何だ?」

 

「コレカ?コレハ龍牙ノ毛デ編ンダ、特製ノミサンガダ。」

 

「ほう…。」

 

「ソノ代ワリニ、龍牙ニハ、俺ノ髪ノ毛ヲツカッテ編ンダミサンガヲ渡シタゼ。…ゴ主人ハ何ヲ武ニ渡シタンダ?」

 

「………しまったぁぁぁ!!!何も渡してない!!」

 

「オイオイマジカヨ。アイカワラズ、ドッカヌケテンナ、ゴ主人ハ…」

 

「ちょ…待ってくれ!ええいクロノスは何処だ!神様は何処だ!もう一度ここに武を呼び戻してくれーーーーー!!!!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話:出会いは突然…

 

「はい。到着なの~」

 

クロノスの間延びした言葉で、俺達は目を開けた。

すると、そこは先ほどいた場所とは全然違う所で、回りには木が生い茂っている。

おそらく森とか林に今俺達は居るのだろう。

 

「へぇ…確かにさっきいた場所と、全然違うけど、ここは何処だ?」

 

「ん~なんや幻獣達の、匂いもするから、少なくとも魔法世界やと思うけど…」

 

二人してあたりを見渡しながらそう喋っていると、クロノスが話し出す。

 

「正解~!ここは確かに貴方たちが言う、魔法世界です。たしかこの近くに町があって、そこに貴方と同じリングを持った人がいます。」

 

「それって誰?」

 

「誰と言われても…名前を知らないので、誰とは言えないの。う~ん…ぱっと見た感じ、結構歳いっていたと思うな。渋めのかっこいいオジ様って感じ。」

 

『ガトウだな(やな)』

 

クロノスの言葉から想像できる人物について、俺には一人しか思いつかなかった。

時点で、詠春さんとかありえそうだったけど、ここは魔法世界だからその可能性は低いだろう。

 

「それで、俺達はどれくらい未来に来たんだ?」

 

「約8年なの。」

 

「約半分って事か…。次は、何時時渡りするんだ?」

 

「今日を入れて、丁度一年後にまた私が来るの。」

 

「一年後?なんでそんなに時間がかかるんや?」

 

龍ちゃんがそうクロノスに聞くと、クロノスはピン!っと指を立てて説明しだした。

 

「もともと私達精霊が、この世界に姿を現す為には、色々やることがあるの。さっきは神様が呼んでくれたお蔭で、すぐに姿を現すことが出来たけど、次からは正式に手続きをしないとダメなの。」

 

「手続きって…役所じゃないんだから。」

 

その説明を聞いて、俺は思わず顔に手を当ててそう突っ込んでしまった。

 

「大して変わらないの。だいたい私達精霊がこの世界に実体となって現れると、それだけでまわりに影響を与えてしまうの。それは別に人とか、幻獣とかの話だけじゃなくて、今ここにある木々も同じ事なの。精霊が居るだけで、その近くの魔力濃度が上がってしまって、最悪異常進化してしまう可能性だってあるの。だから、他の精霊達に協力してもらって、そうならないようにしないといけないの。」

 

他の漫画とかを知っている俺からしたら、その説明で何となく納得が出来た。

確かに巨大な魔力を持つ精霊が、この場に実体となって出現したら、周りにも影響を与えてしまうという理由は納得ができる。これは別に魔力に限った事じゃ無いし、現に俺が生きていた世界でも強大な科学の力で街並みが一気に変わっていったはずだ。

それと一緒にしていいのか分からないけど、おそらくそう言う事なのだろう。

 

「ふーん。そうなんだ。事情は分かったけど、それって一年もかかることなのか?」

 

「もちろんそれだけじゃないの。時渡りを行うには、私の魔力だけじゃなくて、この世界に満ちている魔力も必要としているの。そして、一度世界の魔力を借りたら、最低でも一年は借りたらいけない決まりになっているの。じゃないと、この世界の魔力が急激に少なくなって、あちこちにその弊害が起こってしまうの。」

 

つまり時渡りを連続で使ってしまえば、最悪あのオスフィア大陸の様になってしまうと言う事だ。

確かにそれは危険すぎる。

 

「なるほど…だから一年必要なのか。分かった。じゃぁまた一年後にたのむよ。」

 

「まかせてなの!」

 

俺がそう言ってクロノスに別れを言うと、クロノスは胸を拳でタタキながらその場から姿を消した。

そして残ったのは、龍ちゃんと、俺の二人だけ。

 

「ん~それでどうする?一年時間があるみたいやけど…」

 

二人になった所で、龍ちゃんがこれからどうするかを尋ねてくる。

 

「とりあえずは、町に向かおうよ。俺今結構ギリギリだから、まず魔力の回復をしたいし…。それにガトウにも逢いたいしね。」

 

「せやな。…っていうかガトウだけなんか?アスナちゃんとかと逢いたないんか?」

 

「まぁ…そりゃもちろん逢うつもりだよ。ってかそのニヤニヤした顔やめろよ。」

 

ニヤニヤしながら俺にそう聞いてくる龍ちゃんに、無駄だと思うけどツッコミを入れて、俺達は近くにあると言っていた町を目指すのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・

 

「へ~結構でかい町やな。」

 

「そうだね。活気も溢れているみたいだし、いろんなお店があるね。一日で全部まわるのは無理そうだな。」

 

早速町に着いた俺達は、口々に町の感想を話す。

近くにあった町は、かなりの賑わいを見せていた。

戦争が終わってからもうずいぶんと時間が経った。

人の心にはまだ戦争で負った心の傷は癒えていないだろうけど、街の復興は終わって、今は心の傷を癒すかのように平和な時間を皆過ごしているみたいだ。

 

「それに…幻獣がたくさんいる。…見るに結構馴染んでいるみたいだから、”幻獣との共存”も巧くいっているみたいだね。」

 

「そうやな…。それが一番うれしいわ。」

 

そう言ってちょっと二人で感傷に浸った。

まだまだ本当の意味で、幻獣との共存はできていないだろうが、それでも今ここでは、人と幻獣が仲良く作業している姿が、あちらこちらにある。

それは俺達が望んでいた姿でもあり、これからもずっと続いて欲しい姿だった。

 

「……さて。何時までも感傷に浸ってる場合じゃないな。とりあえずガトウを探そうよ。」

 

「……やな。でもこの町結構広いからな…何処をどうやって探すん?」

 

「ん~宿屋か、酒場?」

 

「それがええな。ほんならまずは宿屋からいこか?」

 

しばらくして、宿屋が集まっている場所についた俺達は、宿屋の人に話を聞きながらガトウ達を探していた。何時もの俺なら、途中で飽きそうなものなのだが、宿屋の多くが幻獣と一緒に泊まれるように色々工夫しているので、それを見るのが楽しくなり、別に急ぐ必要なんか無いのに、次々と宿屋を回っていった。

 

「ん~なんや嬉しいな。こうして幻獣が、宿に泊まれるようになっとんの見るのは。」

 

「そうだな。…でもそろそろガトウ達を見つけないとな。」

 

確かに嬉しいのだが、そろそろガトウ達の情報が欲しい。

別に今日一日で見つからなければ明日また探せばいいことなのだが、早めに逢えるならそれに越した事はない。

そんな事を考えていると、後ろから何かにぶつかったような衝撃を受ける。

ぶつかったというよりも、抱きつかれたといった方が正しいだろう。

だって腰の周りに手が巻きついているんだから。

 

ドンッ!

 

「ん?何だ…?」

 

「……逢いたかった。」

 

「…そうだね。俺も逢えて嬉しいよ。久しぶりだなアスナちゃん。」

 

俺に抱きついていたのは、ちょぴり身長が高くなって、いつの間にかたどたどしい言葉もしっかりとしていたアスナちゃんだった。

 

「アスナちゃ~ん。急に走り出すなんてどうした……タケルさん!?それに龍ちゃん!!」

 

「お、タカミチもいっしょやったんかい。久しぶりやなぁ…元気しとったか?」

 

「はい!タケルさんと、龍ちゃんも元気そうですね。」

 

「おう。…大きくなったな」

 

アスナちゃんを探しに後から来たのは、昔見たときよりも一回り大きくなって、子供から大人になりかけているタカミチだった。

俺達を見たタカミチは、かなり驚いていたがすぐに嬉しそうな顔になると感極まって俺と龍ちゃんに抱きついてきた。

いつもなら男に抱き着かれても嬉しくないのだが、こういう時は別だ。

大きくなり逞しくなったタカミチの頭をポンポンと叩きながら再会を喜び合った。

それから俺達は、タカミチにつれられて、タカミチ達が泊まっているホテルへと向かう事になった。

途中、姿が見えないガトウの事を聞いたら、どうやら仕事の話し合いでどっかに行っていると言う事らしい。

おそらく夕方になったら帰ってくるだろうということだった。

その間タカミチは、アスナちゃんのお守りとしてこの町を一緒に散策していたらしいのだが、急にアスナちゃんが走り出して、それを追い駆けてきたらどうやら俺達の姿が見えたそうだ。

にしても、アスナちゃんったらどうして俺達がここにいるって分かったんだろうか?

気になって試しに聞いてみると…

 

「…タケルと私は赤い糸で繋がってる。前に本で見た事がある。運命の二人は小指に見えない赤い糸で繋がっているって…。だからどんなに離れていても私にはタケルの居場所が分かるの。」

 

とまぁ顔を赤くしながら、俺に言ってくれた。

真面目にこんな事を言われると、こっちも照れてしまう。

それにそれはあくまでお話の中だけのはずなんだけど…こうしてアスナちゃんが俺を見つけたとなると、否定できない自分がいた。

アリカ姫もちょっとそんな気があったけど、それはどうやらアスナちゃんも同じなようだ。

 

「へえー?ならタケやんの小指には、何本赤い糸があるんやろうな~。」

 

「ばっ…!!お前何言ってやがんだ!」

 

「………むー」

 

「ははは…。相変わらずですね。……僕にもそんな糸あるのかなぁ。」

 

タカミチにもきっとあるさ。

…………保証できないけど。

あと龍ちゃん人の事言えないからな?絶対お前にはゼロ以外に糸持ってるはずだから。

テオとかテオとかテオとか……

いや…ゼロに関しては、糸と言うより鎖だろうけど。

真っ赤でぶっとい鎖。

もう絶対逃げられない。…むしろ逃がさないって感じだよ。

……がんばれ龍ちゃん。

 

しばらくしてアスナちゃん達が泊まっている宿に着くと、丁度そこにガトウが帰ってきた。

最初ガトウは、俺達の姿を見て驚いていたがすぐさま嬉しそうな顔になって、”久しぶりに酒でも飲もう!!”と言うことになった。

もちろん。俺と龍ちゃんも賛同して一緒に酒場へ行く事にした。

アスナちゃんとタカミチも当然のごとく俺達に着いて来たが、未成年なのに酒場に入れるのだろうか?……そういえば俺も未成年だったっけ?

 

そんなアホな事を考えながら、酒場で一緒にお酒を注文すると、そろそろなんでガトウ達がここにいるのか質問する事にした。

 

「それでガトウ?何でここにいるんだ?…旅行って訳じゃないんだろ?」

 

「ふっ…その通りだ。実は俺に依頼が入ってな。何でもこの近くで、”完全なる世界”に関与していた組織が暗躍し始めたと言う情報が入ったらしくて、その真偽とそれが事実だった場合、潰して欲しいって頼まれたんだ。」

 

「へぇ…そういう系は、俺達でだいぶ潰したと思ってたんだが、まだいたんだ。」

 

「俺もそれについては驚いているさ。だが、たぶんそれぐらい広範囲で活動していたって事なんだろ?それでさっきまで俺は、今回一緒に行動する人達と依頼主を交えて、これからについて話し合っていたという訳さ。」

 

「ふ~ん。なんや、色々大変みたいやな。そんで?もう明日にでもそこに踏み込むんか?」

 

店員さんが持ってきたお酒を飲みながら龍ちゃんがガトウにそう質問をする。

 

「あぁそれなんだが、俺達がここに着く前に色々情報を集めたお蔭で場所や人数などは大体分かっているらしい。だが、今一つ”完全なる世界”に関与していたという証拠がつかめてなくてな。調べた情報によると、限りなくクロに近いんだが…。」

 

龍ちゃんの質問に対して歯切れの悪い答えを出す。

確かにちゃんとした確証が無いと、踏み込むのも二の足を踏んでしまうのだろう。

ナギとかなら“かまわねぇからぶっ潰そうぜ?”とか言いそうだけど、さすがに今の平和なこのご時世でそれは出来ない。

 

「そうか。…なら明日も情報収集なのか?」

 

「いや…。今日の話し合いで、明日は直接そいつ等が根城にしている場所に踏み込む予定だ。そいつ等はもともと、色々犯罪を犯しているらしくてな。踏み込むには十分な理由がある。」

 

「なるほど。…なら俺も付き合うぜ。久しぶりにガトウと仕事するのも楽しそうだしな。」

 

「ワイも付き合うで~。ガトウなら、どんな状況になっても対処出来るやろうが、それでもワイらが居った方が、もしもの時にもっと楽に対処ができるやろ。」

 

少し考えて俺と龍ちゃんがガトウの仕事を手伝う旨を伝えると、ガトウはとても嬉しそうな顔をする。

 

「本当か?それは助かる!…今回はタカミチも連れて行く予定だったし、それに俺達と一緒に担当する事になっている人も、小さな子供がいるらしいんだ。話を聞いた限りだと、学校に入れば、おそらくアスナと一緒の学年になるぐらいのな。」

 

そんなガトウの言葉に、軽く返事をしながら俺はある事を考えていた。

実はガトウに着いて行くのにはもう一つ大事な理由があって、俺はこの事件に最初から関わると決めていた。

その理由はズバリ、ガトウ死亡のフラグを無くすことだ。

正直時渡りをすると言われた時に、ガトウのことはとても気がかりだった。

なにせ原作で、ガトウが死んでしまうことになったあの事件が何時起こったとか描かれていなかったから、もしかしたらそれを潰すことが出来ないかもしれないと思っていたぐらいだ。

だけどこうして事件に関わる事が出来た。

つまりそれは、俺にそのフラグを圧し折れって誰かが言っているんだろう。

多分神様だと思うが…。

ともかく、ガトウ死亡フラグは何としても防いでみせる。

未来にガトウが居ないなんて寂しいからな。

それに、今ガトウが言った言葉の中で、一つ引っかかる言葉があった。

それはこの事件を一緒に担当する人の事だった。

名前はガトウの話に出てきてないけど、もしかしたらという人物が一人浮かび上がっていた。

俺の予想では、その人物はおそらく明石教授の奥さんだと思う。

もうよく思い出せないけど、確かあの人は仕事中に亡くなったはずだ。

それがどんな仕事なのかは分からないけど、この世界ではもしかしたら、このガトウと一緒の仕事なのかもしれない。

となると、この事件はガトウの死亡フラグとともに、明石教授の妻の死亡フラグでもあるってことだ。

それを考えると、なおさらやる気が出てきた。

俺は明石教授の奥さんがどんな人物なのか知らない。

けど、明石教授とその子供、裕奈のことは大体知っている。

原作では二人仲良く暮らしていたけど、やっぱり三人家族で仲良く暮らして欲しい。

俺の勝手な考えかもしれないけど、それでも助けれる命はちゃんと助けたい。

そんな事を思いながら、俺はガトウと龍ちゃんを交えて明日の事について話し合うのだった。

 

・・・・・・・・・・・

・・・

・・

 

次の日。

俺は龍ちゃん・ガトウ・タカミチ・アスナちゃんを連れて宿を出た。

最初、アスナちゃんは宿に置いて行こうと言う話になっていたのだが、どうしてもついて行くと言い、このままだと無理やりにでも俺達に着いて来るだろうと判断し、ならせめて本部に居てもらうという事で、一緒に行動する事になった。

アスナちゃんの護衛には、龍ちゃんにしてもらう事になった。

龍ちゃんも、アスナちゃんを連れて行くと決まった時点で、なんとなく想像できていたらしく、苦笑いをしながら”了解や”と言ってくれた。

これでよっぽどの事が無い限り、アスナちゃんは安全だろう。

それからしばらくして、俺達は本部に着き、もう一度だけ段取りの説明を受けて行動を開始する事になっていたのだが、ここで、予想外な事が起こった。

それは一緒に行動する予定だった人が、この場に居なかった事だ。

どうやら、標的の組織が今朝になって妙な行動をとっているらしくて、状況を確認するために先に行動したと言う事らしいのだが、何でそんな無茶をしたんだ!

と言うか、本部の人も止めろよ!

それを聞いた俺達は、すぐさま行動を開始し、その人が居るであろう場所へと向かった。

 

「タケル。どうしたんだ?何か焦っているみたいだが…。」

 

俺の表情を見ながら、ガトウが話しかけてくる。

どうやら、俺のあせりが顔に出ていたらしい。

 

「何か嫌な予感がするんだよ。もちろん俺の杞憂って事ならそれで構わないんだけどさ…。」

 

「嫌な予感ですか…。でも一体どうして?」

 

嫌な予感と言う俺の言葉に、ガトウとタカミチが顔をしかめるながらタカミチはその理由を聞いてきた。

 

「俺は今回の組織の事を話だけでしか聞いてないけど、ここ数日間何も無かったのに、行き成り変な行動するとか怪しすぎるだろ?」

 

「確かにそうだな。つまりタケルは今回の妙な行動とやらは罠だって思っているのか?しかし、先に向かった人も、かなりの実戦経験を積んでいる。それぐらい予想は出来ていたと思うのだが…。」

 

そうガトウが答えても俺の嫌な予感は小さくならない。むしろ現場に向かうにつれて徐々に大きくなっていく感じがする。

 

「だったらいいんだけどさ…。けどどうしてもこう…嫌な予感が小さくならないんだよ。」

 

「…なら急ぎましょう!もし罠なら先に行動している人達が危ないです!」

 

「分かった。だがタカミチ。焦るんじゃないぞ!もしタケルの予想が当たっているなら、着いたとたんに戦闘になるだろう。そんな状況で焦っていると危険だ。」

 

「はい!」

 

そう話しながら、俺達は更に走る速度を上げるのだった。

 

 

???side

 

「…くっ!ちょっとこれはまずいかもしれないわね。」

 

思わず私は、そう愚痴ってしまう。

本当なら、今ここに居るのは私だけじゃなく、あの”紅き翼”のメンバーガトウさんも一緒に居るはずだったのだけど、少し早めに本部に行ったら、今日突入する予定だった組織が妙な行動をしていると、報告があったので、私は少しでも不安要素を無くす為に、こうして先行してきた訳なんだけど…どうやらそれは間違いだったようだ。

 

「まさか私達を釣るための罠だったなんてね。無くは無いと思っていたけど、いくらなんでもタイミングが良すぎる気がするわ。…何処かで情報が漏れたのかしら?」

 

もちろん。相手が思ったよりも優秀で、こっちの動きを察知していた…と言う考え方もあるでしょうが、もしそうなら、もうとっくに私は始末されていると思う。

でも、まだ私は生きている。

敵の罠にかかったのにも関わらず、こうしてまだ生きているという訳は、私の悪運が強いという理由以上に、相手の行動が余りにもお粗末なのだ。

それを踏まえて考えると、やっぱり私達の情報がどこかで相手に渡ってしまっているというのが、一番確率が高いだろう。

 

何処に逃げたんだ!?

 

探せ!!まだ近くに居るはずだ!

 

相手は一人だ!もしここで始末しておかないと、後々面倒になるぞ!

 

…っと!そんな事を考えていたら、どうやらここら辺にも人がやってきたようだ。

 

「参ったなぁ…。さっき罠から逃げる為に無茶しちゃったから、もうあまり動けないんだけどな~。」

 

そう呟いて、私は怪我をした腕を見る。

そこには、赤い血で染まった私の腕があった。

痛みはまだあるし、手の感覚もなんとなくあるから、神経はつながっているっぽい。

でも、さっきから血が止まらないから、もしこのまま治療が出来なかったらかなりピンチになるだろう。

まぁ…敵の罠に綺麗にはまって、被害が腕一本なら、儲けモノなんだろうけど…。

 

「貴方…裕奈。もしかしたら、貴方達にはもう逢えなかもしれないわ。…ごめんなさいね。こんな母親で…。」

 

タッタッタッタッタ…

 

どうやら敵さんが、此方に気付いたみたいね。

 

私もここまでかな?

 

そんな事を思いながら私は、覚悟を決める。

そんな時、大きな音があたりに響き空から誰かが降ってくる。

 

ドゴォォォン!!

 

「な…何!?」

 

驚いて、おもわず私は隠れている場所から顔を出してしまう。

するとそこには、一緒に行動する予定だったガトウさんと、その弟子のタカミチくん。…そしてもう一人。

背中しか見えないけど、それだけで誰だとすぐ分かった。

こんな背中を見せる人は他に居ない。

 

”紅き翼”のメンバーの中で最強にして、最高と呼ばれている3人の内の一人。

 

“銃神”タケル・ダテ…。

 

「お?どうやら間に合ったみたいだ。大丈夫ですか?」

 

何故貴方がここに居るの?

ダテさんの背中を見た瞬間、腕の痛みも忘れて私はその背中に見入ってしまった。

 

タケルside

 

「…どうやらタケルの嫌な予感というのが、あたってしまったみたいだな。」

 

走りながらガトウがそう話す。

 

「はぁ…嬉しくないな。」

 

思わずそう呟いてしまった。

今俺達の目の前には、かなりの人数で何かを探している人影が見えていた。

注意深くそのあたりを見てみると、そのすぐ近くに、物陰に隠れている人影も見える。

どうやら、あの隠れている人が先行した人みたいだ。

 

「…ん?どうやら怪我をしているみたいだな。これはちょっとまずい。あのままだとつかまるのも時間の問題だ。」

 

「だな。…好。ここはいっちょ派手にやりますか?」

 

「えっ!?あの…派手にって何をするつもりなんですか!?」

 

「ん?何って…こうするんだよ!」

 

タカミチの疑問に笑顔で答えながら、俺は気を拳に込めて、丁度物陰に隠れている人と、それを探している人の中間地点に向けて突っ込む。

 

「おらぁ!!皆様お待たせしました!久々のマグナムだぜぇぇ!!!」

 

ドコォォォォン!!

 

俺がマグナムを打ち込むと、その衝撃で、丁度近くに居た奴らがぶっ飛ぶ。

別にマグナムが当たった訳じゃないから、そこまでのダメージにはなってないだろうけど、まぁそれでも相手を驚かすぐらいにはなったかな?

すると、俺に続いて、ガトウとタカミチも俺の近くに降りてくる。

 

「本当に派手にやったな。いや…まぁ別にいいんだが。これ、後始末が大変そうだ。」

 

「って言うか、皆様って誰の事なんですか?」

 

タカミチ…それは秘密だ!と言うよりもその場のノリって奴だから、理由を聞かれても俺には何も言えん。

それよりも、後ろの方からなにやら視線を感じるが、どうやら無事みたいだな。

 

「お?どうやら間に合ったみたいだ。大丈夫ですか?」

 

「…え!ええ少し怪我しているけど、命は無事よ。…それよりも貴方はもしかして…。」

 

「まぁそれについては後で話しましょうよ。今は目の前に居るお客さんの相手をしないといけないので…。」

 

後ろに居た人に声をかけながら、視線をそちらに向けると、そこには原作で覚えている裕奈の顔を、もっとこう…大人っぽくした感じの女性がそこにいた。

どうやら、俺の予想は間違っていなかったらしい。

なら、俺がやる事はもう決まった。

この人を助けて、ガトウ達も助ける。

ただそれだけだ!

 

「さてと…。ガトウ?確かこいつ等潰していいんだよな?」

 

「もちろんだ。でもやりすぎるなよ。こいつらには色々聞きたいことがあるんだからな。」

 

「りょーかい。…さて久しぶりの実戦。肩慣らしぐらいにはなるかな?」

 

お…お前はまさか…銃神!!

 

ば…ばかやろう!びびるんじゃねぇ。いくらあの英雄だからって、こっちにはこれだけの人数が居るんだ。負けるはずねーだろうが!!

 

「……訂正するわ。多分肩慣らしにもならねーと思う。」

 

「かも知れないな。相手の力量も分からない奴らがいくら居ても、話にならない。第一アイツは分かってないのか?俺達は、それこそ何万という敵の中でも、誰一人かけることなく蹂躙したからこそ英雄なんて呼ばれてしまっていることを。」

 

「まったく…。こっちは英雄なんて肩書き要らないのにな…。」

 

“英雄”と言う言葉自分で口に出した後、思わず二人でため息をついてしまう。

 

「その通りだな。…タカミチ!お前は後ろに居る人を守れ!修行の成果をタケルに見せるいい機会だぞ!」

 

「はい!」

 

「んじゃ…ま!そろそろ始めますか!!」

 

そう俺の掛け声と同時に、敵さんが俺達に突っ込んできた。

さて、戦闘開始〈オープンコンバット〉だ!

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・

 

それから数時間も経たないうちに、全員を倒しきる事が出来た。

タカミチや、ガトウ、明石夫人なんかは、それを見てちょっと気の抜けた顔をしていたけど、俺はどうしても納得できない事があった。

 

(う~ん。いくらなんでも簡単すぎる気がするな。確か原作では、タカミチの攻撃をガトウがかばって、それが致命傷になって死んだんだよな…。それにしては、ここに居た馬鹿共は弱すぎる気がする。攻撃魔法に関しても、そこまで威力が篭っていた感じはしなかったし…。俺の気にしすぎなのか?)

 

「ん?どうしたんですかタケルさん。何か気になる事でも?」

 

「あーいや別に大したことじゃ…」

 

俺が難しい顔をしていた事を疑問に思ったのか、近くにいたタカミチが声をかけてくる。

その返事をしようと、タカミチの方へ顔を向けたとたん、目に入ってきた光景に思わず声が止まってしまった。

視線の先には、かなり追い詰められた顔をした小太りの男が、何かブツブツ言いながら手に魔力を溜めていたのだ。

それを見た俺は、すぐさまタカミチをかばう様に前に出たが、その時俺はその男を良く見ていなかった事を後悔した。

その男から発せられた攻撃魔法は、タカミチを狙った訳じゃなくて、少し離れた場所にいた明石夫人に向かっていったからだ。

 

「チィ…!!」

 

俺はそれに気付くと、すぐさま明石夫人へと駆け寄る。

だけど、最初の行動が遅かった為、間に合いそうにない!!

 

「にげろーーーー!!!!」

 

思わず俺は叫んだが、明石夫人は急な事で、体が動かないのか、その場に立ったままだった。

 

手を伸ばして駆け寄るが、どうしても間に合わない!

 

そう思ったとき、誰かが明石夫人を突き飛ばした。

 

……ガトウだった。

 

当たる瞬間、ガトウはこっちを向いて、笑った。

 

 

じゃあな……

 

 

そう聞こえた気がした。

 

俺は、走りながらそれを見つめる事しか出来なかった……。

 

「ガトウーーーーーーー!!!!!!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話:再会のおまじない

 

攻撃魔法の威力であたりに煙が巻き起こりガトウの姿を隠してしまう。

俺は目の前の光景が信じられなくて思わずその場で立ち止まってしまった。

ガトウに突き飛ばされた明石夫人も、俺と同じ様に黙ってその光景を眺めている。

おそらく俺と同じ気持ちなのかもしれない。

 

「師匠ーーーー!!!!!」

 

そんな中、タカミチだけが声を上げてガトウが居た場所へと走って行った。

その声を聞いてハッ!っとなった俺は、とりあえず攻撃を仕掛けてきた小太りの男を殴り飛ばして、念入りに動けないようにした後、タカミチに続いてガトウの元へと向かう。

するとそこには、倒れているガトウと、その胸で涙を流しているタカミチが居た。

 

「うっ…うっ…し…師匠…。」

 

泣いているタカミチに、俺も明石夫人も声をかけることが出来なかった。

 

あの時もっとまわりに注意していれば…!!!

 

後悔と共にそんな声が頭に響く。

きっと、明石夫人も同じなんじゃないだろうか?

だが、ここで泣いてばかりもいられない。とりあえずここから移動する為に、タカミチに声をかけようとした時、俺はふと違和感を覚えた。

 

(ずいぶん綺麗な顔してんな。…ん?ちょっと待てよ?何でガトウは、モロ攻撃魔法に当たったのにこんなに汚れてないんだ?)

 

「……あっ!」

 

そこで俺は自分がどれだけ馬鹿だったかに気付いた。

 

「う…う~ん。ん!?どうしたタカミチ?」

 

「へ?あ…あれ?し…しょう?」

 

「ええっ!?何で…?まともに攻撃を受けたはずなのに…」

 

タカミチと明石夫人は、何事も無かったかのように起き上がるガトウに驚いていた。

ガトウもガトウで、何で自分が無事なのか分からず手を見ながら首を傾げていた。

 

「えっとガトウさん、私が見た限りだと攻撃をまともに喰らいましたよね?…何で無傷なんでしょうか?」

 

「いや…俺にも何がなんだか。確かあの時は防御も間に合わないと思って、死ぬ覚悟を決めたんだが……そういえば、あの瞬間目の前が光ったんだ。てっきり敵の攻撃魔法だと思ったんだが…。タケル?お前が何かしたのか?」

 

「ははは…。あの時は、流石の俺も何も出来なかったさ。…ただ、間接的には俺が何かした事になるのかなぁ…。」

 

ガトウの問い掛けに、苦笑いを浮かべながら答える。

 

「間接的?どういうことだ?」

 

「あ~実は、ガトウに渡したリングなんだけど…。あれって念話が出来るだけじゃなくて、いざという時の為に瞬間的に魔法障壁が展開するように作ってあったんだよね。」

 

『………それを早く言え!!(なさい!)(ってください!)』

 

しばらくの沈黙があった後、俺は一斉に皆から突っ込まれる。

いや、本当にすみません!はっきり言ってつくった俺も忘れてました!

 

「悪かったよ。今の今まで俺も忘れていたんだ。そのリング色々機能つけようと頑張った奴だからさ、俺自身、何を言って何を言ってないか忘れてたんだよ。」

 

「はぁ~。まぁコレに助けられた手前、強くは言えないが…。それでも先に言っておいてくれ。それで?他に言い忘れとかないだろうな?」

 

「あーたぶん。あ、でもその障壁だけど、それがあるから過信しないでほしい。それは日常ずっとつけていることで、少しずつリングに魔力を溜めていくようになっているだけど、障壁は、その魔力を使って発動するから、一回使ったらすぐには使えない。それに障壁と言っても、精々そこら辺に居る魔法使いが張る障壁と変わらないぐらいのしか張れないから、強い敵の魔法だと簡単に突き抜けてしまう。あくまで保険として考えてほしい。」

 

ガトウが無傷なのは、アレが撃った魔法が大した事無かったおかげでもあるんだ。

もしあれが、前の大戦で戦っていた相手なら意味をなさなかっただろう。

 

「なるほど、わかったよ。…だが、とりあえずはありがとう。タケルのお蔭で命を救われたようだ。」

 

「うん。まぁ…そんなお礼言われるほどの事じゃないよ。ハハハ…」

 

障壁の事をすっかりと忘れてしまっていた手前、素直に喜べなくて思わず乾いた笑い声しか出ない。だけど、まぁこれでフラグはキチンと折れたと思う。

 

多分この場に、龍ちゃんがいればこう言うだろう。

 

”こんなんやから、二枚目やのうて三枚目っていうんや”

 

何時もは、違うって反論していたけど、流石にこの時ばかりは自分でもそうかもしれないと思ってしまった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・

 

その後、俺達はそこら辺に倒れている組織の人間を縛り上げて、本部へと連絡した。

しばらくして本部の連中がやってきてそいつらを連行。

事件は一応解決と言う事になった。

ただ、こいつ等が本当にあの“完全なる世界”と繋がっていたのか?とか、いったい何を企んでいたのか?などは、これから尋問して、詳しく話を聞くことになっている。

なので、真に事件が解決するのはまだ先の話になりそうだ。

ともあれ、今は何とか皆無事にこの事件を終わらす事が出来た事を喜ぶとしようか…。

 

その後、本部の連中と一緒にやって来た龍ちゃん・アスナちゃんと合流し、適当に話をしていると、先ほど助けた女性がお礼を言ってきた。

やはりその女性は、俺の想像通り明石裕奈の母親で、名前を夕子というらしい。

そして夕子さんと話をしていると、今回の事で、彼女は今やっている事を引退して専業主婦として暮らして行くことに決めたみたいだ。

理由を聞いてみたら、今までも家族の事を愛していたけど、自分が死ぬ寸前になって、こんな仕事よりも、旦那と娘の方と一緒に居たいと強く感じたそうだ。もともと旦那からは、やめて欲しいと言われていたらしいのだが、いざやめるとなると、どうしてもやめる自分に納得がいかなくて、今の今まで“ごめんなさい”と思いながらも、仕事を続けていたそうだ。

だけど、今回の事で自分の中で、何か区切りができたらしく、もう仕事を続ける必要無くなったと言っていた。

 

その旨を、上司に言ったら、上司からは、すこし寂しそうな顔をしながらやめる事を認めてくれたそうだ。

と言う事は、これで予想外な事が無い限り、あの明石一家は家族全員で仲良く暮らしていく事になる。

また一つ、未来を良い方に変える事が出来て俺も嬉しくなった。

 

「そうですか。ならこれからは、今まで寂しい思いをしていた娘さんや、心配してくれている旦那さんの為に、専業主婦として精一杯尽くしてあげてくださいね。」

 

「やな。やっぱり子供にとって、母親ってのは、特別な存在なんや。大事にしたり。」

 

「そうするわ。…それで貴方達はこれからどうするの?もし時間があるなら、お礼もかねて私の家族を紹介したいんだけど。」

 

夕子さんにそう言われて、ちょっと考えてみる。

時渡りにはまだ時間があるし、次どこに行くかなんて決めていない。

それにせっかくのご厚意を、断るのは忍びない。

と、俺の中で結論付けて俺は、夕子さんの申し出を受ける事にした。

 

と、そこで、一つ疑問に思った事があった。

今明石夫婦ってどこに住んでるんだろう?

最初は麻帆良かなぁと思っていたんだけど、よくよく考えると、幼い頃裕奈は魔法を使ってたし、もしかしたら魔法世界なのかもしれない。

一応原作では、旦那さんの仕事は麻帆良大学教授だったけど、今そうだとは限らないからな。

気になった俺は、夕子さんに聞いてみる事にした。

 

「あ、そう言えば、夕子さんの家ってどこにあるんですか?」

 

「えっ?私の家は旧世界の麻帆良よ。私の旦那がそこの大学の教授やっているの。そこで家族と一緒に暮らしているわ。」

 

「あ、そうなんですか~。」

 

どうやら、もしかしたら麻帆良に行かなくてもいいかもと言う願いは脆くも崩れ去ったようだ。

エヴァとの約束にはまだ時間があるし、正直今学園長にあうと何かと面倒な事になりそうだから、正直まだ麻帆良には行きたくなかったんだけど、今さら行かないとも言えないしなぁ…。どうしようか。

俺は、麻帆良に向かった時に、どう行動すればいいか考えながら、宿へと向かうのであった。

 

事件から一夜明け、俺は結局何もいい案が思い浮かばないまま、夕子さんと一緒に夕子さんの家族が住んでいる所へ向かう事にした。

ただ、やっぱりと言うか、予想通りと言うか、出発直前になってアスナちゃんが“一緒に着いて行く”と言い、俺の服をつかんで離そうとしなかった。

 

「ねぇ、アスナちゃん?俺はまだどこかに定住する気は無いし、ブラブラとその日暮らしをしながら、旅を続けるつもりなんだ。だからアスナちゃんを連れて行く訳事はできないよ。」

 

「……やっ!」

 

プィっと音が聞こえてきそうな感じで、顔をそむけるアスナちゃん。

そのしぐさはかわいいし、とても感情豊かになってきたのは嬉しいんだけど、でもねぇ…。

さすがにコレは困った。

 

「アスナちゃん。聞き分けてーな。ほら、タカミチもガトウも、あっちでまっとるで?」

 

「……やっ!」

 

『はぁ~…』

 

もうため息しか出ない。

すると、それを見かねたガトウがこっちにやって来て、アスナちゃんの目を見ながら話しだす。

 

「アスナ良く聞きなさい。アスナがタケル達と“離れたくない、いつも一緒に居たい”と言う気持ちは良く分かった。だが、タケル達も言っている通り、アスナがタケル達と旅をするのはまだ早いんだ。それは、体力的なモノでもあるし、何より外の知識…。とりわけ今回なら旧世界、つまり魔法が一般的に存在していない世界へ行くんだ。アスナにはその常識が欠けている。それじゃダメなんだ。もし突発的に魔法を使えると言う事がばれてしまうと、大変な事…命を狙われる危険性だってあるんだ。アスナはそんな世界の中、タケル達に迷惑をかけないと言えるかい?」

 

「……言えない。」

 

「そうだな。だったら、今は我慢しよう。もう少し大きくなれば、体力も付くし、その頃にはいろんな事を知って、タケルと一緒に旅をしても、大丈夫なようになる。俺も、タケルの旅に着いて行けるようにいろいろ教えてやるから。な?だから今回は此処でお別れをしよう。」

 

ガトウがそう、アスナちゃんに諭すと、アスナちゃんは俯きながらも、掴んでいた服を離してくれた。

…目にいっぱいの涙を溜めながらだけど。

 

「…でも、また離れ離れになっちゃうの?また、何年もタケルと逢えないの?そんなの……いやだよ。せっかくまた逢えたのに…。もしかしたらもう二度と……。」

 

「アスナ!そんな事は絶対無い!タケルを誰だと思っているんだ?あの“銃神”“炎帝”の名を持ち、俺達“紅き翼”の中でも最高の男なんだぞ?どんな困難な状況でもあきらめず、その拳で撃ち貫いてきた男だ。それはアスナも知ってるだろ?…アスナは、タケル達を信用できないのか?」

 

「そんなことない!!!」

 

「そうだろ?それに、タカミチから聞いたけど、アスナとタケルは小指に見えない赤い糸が結ばれているんだろ?だったら、絶対にまた逢えるさ。…どんなに離れていてもその糸で繋がっているんだからな。」

 

あーガトウさん。いくら貴方がダンディだとしても、さすがにそのセリフはくさいよ。

あと、タカミチ後で説教な?

もしこれが他のメンバーに…。いや、ラカンとアルに知られたらどんだけ、いじられると思っているんだ!!

“ギン”と音が出るくらいに、俺はタカミチを睨み付けると、タカミチはサーと顔から血の気が引いていき、俺の視界から逃げるようにガトウの背中に隠れた。

ガトウはそれを見て、頭に疑問符が浮いていたが、俺の顔を見て、何となく事情を察して苦笑いを浮かべていた。

そんな中、ガトウの言葉を聞いて、何かを考えていたアスナが、涙を拭いて、かわいい笑顔を俺に向けながら話す。

 

「タケル。私待ってるから、ずっと…ずっと待ってるから!!でも早く迎えに来てくれないと、私はタケルを捕まえる為に、行動起こすからね!!その時はもう絶対に離れない…。ううん。離さないから!!」

 

「あ、ああ。えーっとはははっ…。なるべく早く逢いに行くようにするよ。」

 

アスナちゃんのあまりの剣幕に、俺はしどろもどろになりながら答える。

すると、そんな様子を見ていた他の皆が呟く。

 

「愛ね。」

 

「愛やなぁ~。」

 

「愛だな。」

 

「愛ですね。」

 

夕子さん・龍ちゃん・ガトウ・タカミチの順番でそんな事を呟いている。

いや、愛て…。

色々反論したい所だけど、なまじ当たってる気がするから、反論できない。

もし俺が、皆の立場だったら、同じ事言っただろうからなぁ…。

と、そんな事はどうでも良くないけど、今はアスナちゃんの事だな。

あ、そうだ。

 

「アスナちゃん。小指出してくれる?」

 

「??」

 

俺の言葉に、“何で?”言いたそうな目をしながらも、アスナちゃんは、素直に小指を出してくれる。

その小指に、俺の小指を絡ませて、上下に振りながら、俺は歌う。

幼い頃の約束を守るための歌を。

 

「ゆ~びきりげんまん。嘘ついたら、針千本の~ます。指きった!」

 

「えっ?」

 

「これはね。旧世界の約束を守るためのおまじないなんだよ。だからこのおまじないに懸けて、俺はちゃんと約束を守るから、また逢う日まで元気でね?」

 

「う…うん!」

 

指切りした小指を、大事そうに胸に抱えながら笑顔でうなずくアスナちゃん。

それを見て、俺も笑顔を返す。

 

「やっぱり愛よ!かわいいわ~。アスナちゃんも、タケルくんも!」

 

「タケやんいつの間にそんなテクを…。やるやないか。」

 

「ふふっ。約束を守るためのおまじないか…。粋な事知っているな。」

 

「勉強になります!!」

 

「あ゛~うっさい!!余計恥ずかしくなるからやめろ!!ほら行くぞ龍ちゃん!じゃ、ガトウ、タカミチ、アスナちゃん元気でな!」

 

顔に熱を感じながら、俺は三人に手を挙げて挨拶し、その場を立ち去る。

きっと俺の顔は、真っ赤になってることだろう。

 

「あ、まってや。ほな三人とも元気でな~!」

 

「ふふ…。若いわね~。それではまた、どこかで逢える日を楽しみにしています。」

 

こうして俺達は、ガトウ達から分かれて、明石家族の住む家へと向かう事になった。

その道中、二人にからかわれながらの道のりだったので、いつもの数倍疲れてしまったのは言うまでもないだろう。

あのおまじないは、封印しようと心に決めた俺だった…。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話:明石家族

おそらくここからは、一度も投稿してない新しい話になると思います。

最近妙に忙しくて更新がなかなかできていませんが、頑張って更新していくのでこれからもよろしくお願いします。


昔は、飛行魔法や、徒歩で目的地へ向かわなくてはいけなかったが、大戦が終わってもう何年も経つ今では、魔法の力をつくった飛行船と、幻獣の力を使った馬車的な物が移動手段となっている。

その為、俺達もアスナ達と別れてから、近くの船着き場へ向かい、そこからゲートへと向かい、旧世界へ行く事になっていた。

おそらくこれらは、現代で言う所の飛行機・電車・バスがなっているのだろうけど、便利さと言う事では、おそらくこっちの方が格段に便利だと思う。(主に燃料とかの問題で…。)

 

「便利になったよな~。」

 

「そうやなぁ。ワイら飛行船とか乗った事無いもんな~。」

 

「戦艦なら乗った事あるけどね~。…戦場に向かう為に。」

 

「龍族の背に乗った事もあるな~。…崩壊する大陸から脱出する為に。」

 

「……なぜかしら。貴方達の会話を聞いていると涙が出てくるわ。」

 

窓から景色を眺めながらそう話す俺達の会話を聞いて、何故か夕子さんは”クッ”と涙を流していた。

そんな事もありながら、俺達は順調にゲートへと向かっていた。

飛行船を使って、旧世界へ行けるゲートへ着くと、どうやらタイミングが良かったのか、ちょうど今日ゲートが開くようだ。

タイミングが悪いと、最高一週間は待たないといけないので、これは本当に助かる。

特に、最近夕子さんのツッコミがきつくなってきたから、早く麻帆良に行きたかった。

飛行船乗っている最初の頃は、俺達が有名と言う事もあって遠慮していた所もあったんだろうけど、堅苦しいのが苦手な俺達が”普通に話してくれればいい”と言ってから態度が明らかに変わった。遠慮していた最初とは正反対に、いろいろと質問され、その内容も大戦の頃の質問からプライベートの質問へと変わっていった。

”正直もう少し遠慮してほしい”とも思ったけど、最初に言い出したのが俺達なので、言い出しづらく、適当にごまかしながら、結局質問に答えていた。

でも、夕子さんと話していて一番感じた事と言えば、”ああ、やっぱり裕奈の親なんだなぁ”とか”母親の性格を受け継いでいるんだなぁ”とかだった。

まぁこの考えは、原作を知っている俺だから浮かぶ考えなので、他の人はどう思っているかは分からない。

だけど、改めて思う。

裕奈の為にも、明石教授の為にも、そして夕子さん自身の為にも、この人の命を守れてよかったなぁって。

 

そんな事を考えている間に、どうやらゲートが開く時間になったらしく、俺達はゲートを通って旧世界へ向かった。

旧世界についた俺達は、さっそく飛行場へと向かいそこから飛行機に乗って、麻帆良を目指す。

麻帆良は日本にある為、イギリスからだと、最低でも3日くらいはかかるだろうが、今回俺達が、旧世界にやって来た場所はその隣の中国だった。

こんな場所に、ゲートの出口があるなんて知らなかったけど、これで1日もあれば日本につく事ができる。

ゲートっていうのは本当に便利なんだなぁと思いながら、俺は飛行機に乗っていた。

そして、飛行機に乗って数時間。

俺は、原作の舞台となる麻帆良へと着いていた。

 

「ほ~。ここが麻帆良かぁ~。なかなかええ所やないの。」

 

「そうだね。って龍ちゃん声出したら駄目だよ。ここは旧世界なんだからね?」

 

「あ、そやったな。すまんすまん。」

 

魔法世界と変わらないように話し出す龍ちゃんを注意する。

今までの旅は、歩きが主だったので、龍ちゃんと話しながらでも何とかなったけど、今回は公共交通機関を使っての旅だ。いつどこで、誰が見ているか分からないので注意が必要だ。

その時、出口の方から元気な女の子が手を振りながらこちらへとやってくる。

 

「ママ~。御帰り~。」

 

「裕奈!ただいま~。」

 

夕子さんはその姿を見ると、その子に向かって走り出し、そして飛びついてきたその子をしっかりと受け止めて、抱きしめていた。

おそらくあの子が、裕奈なんだろう。

俺が知っている裕奈の面影があって、そのまま原作の裕奈を小さくした感じだ。

そして、その後ろから一人の男性が歩きながらやって来て、裕奈を抱きしめている夕子さんに声を掛けている。

 

「お帰り夕子。無事でよかった。」

 

「あなた…。ただいま。」

 

裕奈を離した夕子さんは、今度その男性を抱きしめる。

おそらくあの人が明石教授なのだろう。

原作でも、結構若く見えたけど、ここではさらに若い。

好青年って言葉が良く似合う男性だった。

 

しばらく二人は抱き合っていたが、しばらくするとそっと離れて、俺と龍ちゃんの方へと歩いてきた。

 

「ごめんなさいね。貴方達の事放っておいて、勝手に盛り上がっちゃって…。」

 

「いえ別にいいですよ。やっぱ大好きな人との再会っていうのは、特別ですからね。」

 

「もう。あんまりからかわないでよ。」

 

少し顔を赤くしながら、そう文句を言ってくる夕子さん。

すると、今度は明石教授が話しかけてくる。

 

「えっと君は…どちら様なのかな?夕子の仕事仲間か、何かかい?」

 

「あ、そうですね。俺は…。」

 

「あ、ちょっと待って。」

 

明石教授にそう言われて、自分の自己紹介をしようとした所で、夕子さんから待ったがかかる。

 

「貴方達の紹介は私にさせて。あなた。こちらの二人は、今回私の仕事を助けてもらった人で、命の恩人。伊達武さんと、その相棒で、ちょっと特殊なぬいぐるみの龍牙さんよ。」

 

「伊達武…龍牙…?どこかで聞いた事のある名前なんだが…。」

 

「もちろん。あなたも知っている人よ。こういえば分かるでしょ。“大戦の英雄”よ。」

 

「…!!!!ま、まさか君たちが!?あの、銃ムガッ…。」

 

明石教授が、大声で俺についている二つ名を言おうとした所で、夕子さんが慌てて口をふさぐ。

 

「ちょっと声が大きい!こんな人が多い所でそんな事言ったら、大騒ぎになるでしょ!?ただでさえ、二人はお忍びでこっちに来てるのよ?驚くのは仕方がないと思うけど、今は無理やり落ち着いて。」

 

夕子さんがそう明石教授を注意すると、明石教授は、コクコクと頭を縦に振って納得した事を夕子さんに伝える。

それを確認した夕子さんは、そっと口を塞いでいた手を離した。

 

「いや、済まなかった。まさか夕子がこんな有名人と帰って来るとは思わなくてね。最初から只者じゃないとは思っていたけど、まさかこんな大物とは…。」

 

「別に俺達は有名に成りたくてなった訳じゃないですよ。自分がしたいと思った事をしたまでですから。いわば究極の自分勝手なんですよ。」

 

「やなぁ~。結構人様に迷惑かけとるし、自分勝手っていうのが一番やろうなぁ…。ってまた喋ってもうた。」

 

明石教授の言葉にそう返すと、その言葉が意外だったのか、少し驚いた表情をして、その後“フッ”と嬉しそうな表情をする。

 

「たとえ貴方方が自分勝手だったとしても、その行動を皆が指示すれば、それは自分勝手では無く、皆の思いを行動した事になるんです。だから貴方達は“大戦の英雄”“立派な魔法使い”と呼ばれてるんですよ。」

 

「そうですか…。ありがとうございます。」

 

“大戦の英雄”“立派な魔法使い”という言葉に、思わず俺は顔をしかめてしまう。

おそらく、龍ちゃんも同じなんだと思う。

 

英雄…。

俺達は、その言葉で苦しんだ戦友を知っているから。

だけど、きっとこの人は褒めてるつもりでそう言ってくれている。

その好意を無下にするのは良くない。

 

そう思って、すぐ表情を元に戻すが、その変化に明石教授と、夕子さんは気付いたみたいで、“しまった”と言いたそうな表情をしていた。

そのせいか、俺達の間に変な空気が漂い始めるが、その空気を壊すように夕子さんに抱きついていた裕奈が声を上げる。

 

「ママ~。早くお家に帰ろうよ~。ママがいない間にいっぱい見せたいものができたんだから~。」

 

「えっ。ええそうね。じゃ帰りましょうか。武さん達もどうぞ。案内しますので…。」

 

「あ、そうですね。それじゃあお邪魔しますね。」

 

「せやな。この格好にはなれとるけど、ワイ早く元の姿に戻りたいわ。ええ加減。小声で喋るのもめんどくさいしな。」

 

俺はあの空気を壊してくれた裕奈ちゃんに感謝しながら、わざと元気に振る舞う。

そうして、俺達は明石夫妻が住む家へと向かうのだった。

 

明石教授の家に着いてからは、裕奈ちゃんの発表会だった。

夕子さんがいない間に覚えた魔法とか、家で書いた絵とかいろいろな物を見せてくれた。

発表会が終わってからは、元に戻った龍ちゃんに抱きつきながら遊んでいたり、俺と一緒にお話ししていたり、いろいろしていた。

俺と龍ちゃんは、小さい頃のアスナちゃんの面倒を見ているから慣れたモノで、龍ちゃんなんかも、背にのる裕奈ちゃん対して弱音を言う事は無かった。

龍ちゃんに関しては、慣れているというよりも、あきらめの境地に達しているのかもしれないけど…ね。

でも、なぜ俺達が、こうして裕奈ちゃんの遊び相手になっているのか?その理由は、夕子さんと明石教授を二人きりにさせてあげる為だ。

やっぱり子供がいるとはいえ、二人になりたい時間もあるだろう。特に今日とかは…ね。

そう思うと、やっぱりここに来るのは断るべきだった気もするけど、今さら遅い。

なので、せめてものお詫びという奴だった。

 

しばらくして、遊び疲れてしまったのか、裕奈ちゃんは“コックリ、コックリ”船をこぎ始める。丁度その時、近くに夕子さんがやって来て、裕奈ちゃんのその姿を見ると、微笑みながら部屋へと運ぶ。

その入れ替わりに、明石教授がお酒を持ってきてやって来た。

 

「すいません。裕奈のおもりをさせてしまって。」

 

「いえ。別にいいですよ。でもこちらから言ったからとは言え、良く裕奈ちゃんと俺達だけにしましたね?」

 

「まぁ夕子を助けてくれた恩人ですし、裕奈も伊達さん達に懐いていました。監視の魔法は掛けてましたし、それに貴方の目を見て、預けても大丈夫だと思いましたから。」

 

「そうですか。」

 

「ええ。ですので、お礼と言っては質素な物ですが、私が好きなお酒を持ってきましたので、今日はどんどん飲んでください。」

 

そう言って、俺にコップを渡してお酒を注ぐ。

龍ちゃんはそこの深いお皿に、お酒を注いでもらっていた。

 

「ありがとうございます。」

 

「ありがとうや~。」

 

注いでもらったお酒を二人して飲む。

それを見た明石教授も、自分のコップにお酒を注いで飲み始めた。

それから、夕子さんもこの酒盛りに参加し、四人で会話に花を咲かせながら酒盛りは続いていった。

お酒の入った空瓶があたりに散乱し始めた頃、明石教授が急に真剣な顔つきになって、俺に訪ねてくる。

 

「伊達さん。少し聞きたい事があるんですが良いですか?」

 

「えっ?良いですよ?あ、それと俺の事は武でいいです。敬語もいりません。」

 

「そうかい?なら武君と呼ばせてもらおうか。で、なんだが…。最初会った時“大戦の英雄”と言う言葉に反応したけど、何かあったのかい?」

 

「………」

 

明石教授のこの言葉に、俺はお酒を飲む事をやめて、ジッと明石教授を見つめる。

その顔はとても真剣で、ただ興味本位で聞きたいだけじゃないようだ。

その隣に居た夕子さんも、同じような感じだった。

もし、興味本位だけでこの事を聞いてくるなら、適当にごまかすつもりだったのだが、彼らが真剣に聞いている事は表情を見れば分かる

ならば、こちらも真剣に答えてあげるのが、礼になるだろう。

だから俺は、その事について話す事にした。

 

「…お二方が、真剣にこの事を聞いてきていると言う事は表情を見ればわかります。だから俺も真剣に、その質問に答えたいと思いますが…。その前に一つだけこちらから質問をして良いでしょうか?」

 

『いいですよ。』

 

「二人はメガロメセンブリアが定めた“立派な魔法使い”についてどう思いますか?」

 

「どうって…。」

 

質問された内容の意味が分からないという感じで、夕子さんはそう呟くが、明石教授の方は真剣にその事を考えていた。

そして、考えがまとまったのか、静かに話し出す。

 

「そうだな。ここ麻帆良にも“立派な魔法使い”はいる。だけど、僕自身は正直あまりいい感情は抱いていないな。あ、武君達は別だけどね。彼らは“正義”って言葉に固執しすぎている気がするよ。僕が務めている大学の学園長、関東魔法教会の理事である近衛近右衛門は、一応“立派な魔法使い”だけど、戦争を知っているからそんな事は無いんだけどね。だけど他の人達は違う。自分達がやる事は“正義”で“絶対に正しい”と思っている節があるんだ。最近は更にその考えが強いよ。僕は戦争に行った訳じゃないし、経験をしている訳じゃないけど、それでも書物から“正義”なんてもんが絶対なんて思わない。」

 

明石教授のそんな言葉に、夕子さんも真剣に考え始め自分の答えを言う。

 

「そうね。私もエージェントなんてやっていたから、この世に絶対に正しい事なんてない事を知っているわ。他の人は“正義”の為なら何やってもいいと考えているかもしれないけど、私はそう思わない。でも、あえて言うなら、“子を、好きな人を守る事が私にとっての正義”かしら?たとえそれが犯罪だとしても守る為なら、私はやると思うわ。あなたの話を聞く限り、メガロの“立派な魔法使い”さん達には理解できないかもしれないわね。」

 

「そうですか…。」

 

二人の答えを聞いて、俺はこの人達なら俺の話を聞いてもらっても良いと思った。

もし二人が、メガロの言う“正義”の事を信じているのなら、これから言う事は言わない方がいいだろう。最悪争いごとになってしまうから。

裕奈ちゃんがいるこの場所ではそんな事はしたくない。

だけど、この人達なら大丈夫。

だから俺はお酒で口を潤した後、明石教授の質問に答える事にした。

 

「お二人なら話しても大丈夫みたいですね。何故俺達が“大戦の英雄”“立派な魔法使い”って言葉に反応したかでしたっけ?その答えは俺達二人とも、そう言われるのが嫌だからですよ。おそらく“紅き翼”のメンバー全員ね。」

 

俺の言葉に二人が驚く。

何せ、魔法世界で一番有名な“紅き翼”。

その素晴らしい功績を考えても、メンバー全員が“英雄”と呼ばれるにふさわしい。

なのに、本人達がそう呼ばれるのを嫌っているのだ。

驚いて当然なのかもしれない。

 

「!!何やら深い訳があるようですね。」

 

「そう言えば、ガトウさんも“英雄”と言われて苦い顔してたわ。その隣のタカミチ君も…。いったいどういう事なの?」

 

「それは、“皆が望む英雄”と言われる資格もなければ、そう呼ばれたくないからです。“立派な魔法使い”に関してもそうです。それに、二つは目指すものじゃないし、なりたくてなるような物じゃない。それが嫌と言うほど知っているからですよ俺達は…。」

 

「なりたくてなるような物じゃないですか…。」

 

「ええ。特に“英雄”についてはです。俺の戦友にその“英雄”と言う言葉に苦しみ泣いた男がいます。」

 

あの時、ナギは人が望む“英雄”でいる為に、自分の一番大切な者を失う羽目になった。

結果的には、ナギなりの“英雄”という言葉の意味を掴んで、助ける事が出来たんだけど、それでも“英雄”って言葉は人を苦しめてしまう。

 

「彼は、皆が尊敬するような“英雄”でいる為に、自分の一番大切な者を失いかけました。そもそもあの時“英雄”と呼ばれる人達は、言い換えれば“大勢の人の命を奪った人”事を言うんです。俺達はその罪を背負っています。だからこそ彼は、戦争で亡くなった平和を望んだ人達の為にも、大切な人を見捨てる事を選びかけました。結果的には、他の人よりも、自分の一番大切な人を選びましたが…。その時彼は言いました。“他の皆よりも、俺はお前だけの英雄でいたい”って“紅き翼”は、いや俺はそれこそ正しいと思っています。皆が望む英雄は、時に自分の一番大切な者を失う事になるかもしれないんです。そんな状況を他の人には味わってほしくない。だからこそ言うんです。“英雄”なんてなるもんじゃないって…。」

 

「別にワイらは罪から逃げとる訳やない。大勢の人達を殺した罪はこれから死ぬまで背負って生きてくつもりや。やけどな?わざわざそんな辛い事を他の人にも味わってほしいなんて人おるか?“英雄”を目指せば目指すほど、自分の幸せは無くなる。だから“英雄”って言ってワイらにあこがれている人を見ると、悲しくなるんや。やめたほうがええと言っても、“英雄=絶対正義”なんて思ってる人にはワイらの言葉は届かん。それがつらいんや。」

 

「特にMMが定めている“立派な魔法使い”って人達はおそらく皆“皆が望む英雄”って奴にあこがれている人達の集まりです。いえ、元老院たちはそう仕向けたのでしょう。俺達を勝手に“立派な魔法使い”に定める事で。元老院にとって“立派な魔法使い”は都合の良い駒でしかない。ガトウがそんな事を言っていました。もしそれが本当なら、おそらく元老院の命令で、その人の事も知らないのに勝手に“悪”と決めつけて、その人を最悪殺しています。“人を殺す事が一番の罪”だと言う事は知っているはずなのに、“正義”という言葉と“あこがれの英雄になる為に”という思いでごまかして…。」

 

そう話す俺達を見て、二人はとてもつらそうな顔をしていた。

おそらく、二人の娘である裕奈が、もしそうなってしまったらとか考えているのだろう。

親からしたら、そんな道に大切な娘を向かわせるなんて、事絶対にしたくないはずだ。

 

「今俺達にはその行動を止める事が出来ない。たとえ、それが悪い事だと分かっていても、その人自身から変わっていかないと、いつまでも無くならないでしょう。もうそこまで来てしまっている。だからつらいんです。」

 

そう俺が言い切ると、二人は俺達の手を握ってこう呟いた。

 

「つらい事を話させてしまって済まない。」

 

「本当に安易に“英雄”なんて言葉を言った私達を許してちょうだい。」

 

「別にかまいません。俺の話で少しでも“英雄”と言う言葉が持つ意味を知ってくれれば…。」

 

「そうや。悪気が無い事はわかっとる。だから謝る必要なんてないんや。」

 

「それでも!!それでも謝らせてくれ。」

 

「ええ。」

 

『つらいモノを背負わせしまってごめんなさい。』

 

そう言う二人の手は震えていた。

その言葉だけで俺達は救われた気持ちになる。

すると、急に扉が開いて、そこから裕奈ちゃんが目を擦りながら入って来る。

 

「ママ~。どうしたの?」

 

それを見た夕子さんは、思わず裕奈ちゃんを抱きしめて泣いていた。

“何でもないの。何でもないのよ”そう呟きながら。

 

それからは、裕奈ちゃんも含めて一緒に宴会をした。

先程までの空気をすべてぶち壊すかのように…。

そんな中、明石教授が俺の傍にやって来て、ぼそっと話す。

 

「いろいろ考えたけど、やっぱり君達は“英雄”で“立派な魔法使い”だよ。MMが言っている様なモノじゃなくて“本物”のね。だから、君達がちゃんと自分の幸せをつかめるように祈ってるし、応援させてもらうよ。」

 

その言葉に、俺は返すようにこう言った。

 

「俺はあの大戦で、平和を願い、守りたい者の為に戦ったすべての人を“英雄”だと思っています。俺達よりずっと…ね。だけど、ありがとうございます。その言葉忘れません。」

 

外はもう白み始め、夜から朝へ変わっていくが、まだまだこの宴会は終わらない。

皆、こうして平和で幸せな時間が長く続くようにそう願いながら…。

 




さていかがだったでしょうか?
あ、この話からあとがきを少し書いていきたいと思います。

さてと…今回ですがまぁ言ってみれば”英雄”という言葉について書いてあります。
彼らと今の人たちの差を表せたらなぁと思って書きましたが、どうでしょうか?
あと裕奈フラグはほどほどに書いています。

あくまで私が、そして私が書く”紅き翼”はこういうのを”英雄”と思っているだけであって、これが正しいとは思っていません。
人それぞれ…。
英雄の意味もそうだと思っていますので…。
では、また次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話:人とは違う女の子

投稿遅くなりまして申し訳ありませんでした。

えーしばらくの間入院してまして、PCが手元になかったんですよね。
家はノートでは無いので…。

ですが今日から復帰させてもらいます。
いろいろたまったものがあるので、更新は遅くなると思いますが、頑張って続けていくので応援よろしくお願いします。


あの後、宴会は昼ごろまで続いていた。

他の皆はありえないとでも言うかもしれないが、これでも大人しい方だ。

何せ大戦中、俺達“紅き翼”のメンバーでやった宴会なんかは、寝ずに三日間宴会を続けていたのだから。

それに比べると…ねぇ?

 

だから宴会自体は、何も問題無いのだが、それ以外で一つ心配な事があった。それは明石教授の仕事についてだ。今日は確か平日だから、大学も学生であふれているだろう。それなのに宴会していて大丈夫なのだろうか?

そんな事を思っていたが、どうやらその心配は無いらしい。

元々、夕子さんが帰ってくると連絡を受けてから、昨日から一週間程休みを貰っていたらしい。

正直そんなに貰えるのか?なんて思ったりしたけど、ここの所休日を返上して働いていた為、その振替の意味合いもあるらしい。(なんでも、裕奈ちゃんが、夕子さんが帰ってきたら旅行に行きたいとわがままを言ったのが始まりらしい。)

なので、昼まで宴会を続けていても大丈夫だったみたいだ。

それなら俺達も、家族水入らずの所を邪魔したら悪いと思い、宴会が終わった次の日にでもここを離れる心算だったのだが、ここで“待った”をかけたのが、誰であろう旅行を希望していた裕奈ちゃんだった。

裕奈ちゃんからしたら、俺は歳の離れたお兄ちゃんで、すでに家族の一員になっていたらしく。ここを離れると言ったら、思いっきり泣いた。まるで魔法世界で別れたアスナちゃんみたいに。いや、むしろそれよりもひどかった。

何せ、泣きながら俺の服を掴み、泣き疲れて寝てしまった後でも、ずっと服を離さなかったぐらいだから。

その姿を見た龍ちゃん達は“またか…”って呆れて、夕子さんは“いっそこのまま裕奈のお婿さんになればいい”と冗談なのか本気なのか分からない事を言っていた。

明石教授も“この年でもう裕奈を嫁に出す事を考えないといけないとはな…。だが武君なら問題ないかな。僕も武君の様な息子がいるとうれしいし…”なんて、もうすでに嫁にやる父親の気持ちになっていた。

好意を寄せられることは嬉しいけど、とりあえず明石夫妻はいろいろと自重して欲しい。

まだ俺は、結婚なんて考えていませんから。

 

とまぁ、そんな事もあり、結局明石教授がとった休みの一週間は、ずっと明石家に厄介になっていた。正直、麻帆良に長くいるのは都合が悪いと思っていたので、すぐにでもここを離れる心算だったのに、脆くもその予定は崩れ去ってしまった。でも、そんな俺の気持ちを察してなのか、どうやら明石夫妻は、此処に住んでいる他の魔法使いの人には俺の事を話していないし、話すつもりもないようだ。ただ、この麻帆良を預かる学園長には、さすがに報告をしないとまずいだろうと言う事で、報告したらしいのだが、その報告の時に、“騒ぎを起こさない為にも黙っておいた方が良いし、本人達もそれを望んでいる”と言ってくれたそうで、学園長の方もそれを了承してくれたそうだ。

ただ、その時に“いつでもいいので、一度会う時間を取ってほしい。今は難しいと思うが、次ここに来る時でも構わないので…”と伝えてほしいと言われたそうだ。

まぁ、そんな事を言われなくても、次ここに来るときには会うつもりだったので、それは望むべき事だろう。おそらくその時には、深く麻帆良に関わる事も覚悟しているだろうし…。そんな事を考えながら、今日も今日とて、龍ちゃんと一緒に裕奈ちゃんの遊び相手になるのだった。

 

そして、一週間が経過し、とうとう麻帆良を離れる時がやって来た。

もちろん裕奈ちゃんに泣かれる事を覚悟していたのだが、どうやら前もって明石夫妻に説得されていたのか、涙を浮かべてぐずりながらも、俺から離れて手を振ってくれた。

ただ…その…あれだ。

おそらくと言うか、確実と言うか…夕子さんに吹き込まれたのだろう。

裕奈ちゃんともアレをやった。

封印すると決めていた、指切りげんまんを…。

 

「ゆ~びきりげんまん。嘘ついたら針千本の~ます。ゆびきった!」

 

「えへへ。これでまた、ちゃんと逢いに来てくれないとダメだからね!約束ちゃんと守ってくれないと、私…私…泣いちゃうから…。」

 

「あ~言ってる傍から泣かないで。わかった。わかったから…。」

 

「絶対だからね!」

 

「ほんま、小さい子にモテるな。タケやんは…。」

 

「そうね~。武君のファンクラブの女性って、実は皆子供じゃないかしら?」

 

「あはは…。あり得そうで怖いわ。」

 

「ファンか…。確か武君のファンクラブは、男性が多いって聞いていたけどそれも納得できたよ。一人の男として、彼の行動と心意気にはあこがれるね。」

「あら?貴方もかっこいいわよ?」

 

「えっ…。あーうん。ありがとう。」

 

「はいはい。仲がよろしい事で…。ごちそう様や。」

 

そうして俺と龍ちゃんは、明石家族と別れて、次時渡りをするまで旅を続ける事にしたのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

 

旅を続けて早何ヶ月。

俺達はまだ旧世界を旅していた。龍ちゃんが魔法世界から出た事が無かったので、この機会にいろいろな世界を見せてあげたかったのが一番の理由だ。

もちろん、俺も知識や写真でその光景を見た事はあるけど、実物を見るのは初めてなので龍ちゃんの一緒に楽しんでいた。

 

ただ、世界中を回っていると言う事は決して楽しい事だけじゃなかった。

なぜなら、未だに戦争を続けている国があったからだ。

その悲惨さは大戦を経験した俺達でさえも、目を覆いたくなるほどだった。いや、経験しているからこそ、戦争の空しさを知っているので余計なのかも知れない。

だからこそ、何度もその戦争を止めようと思った。

国同士のいさかいを無くす事は無理でも、せめて目の前にある命くらいは助けようと行動した。

けど、いくら魔法世界で有名だとしても、旧世界では俺はただの青年だ。できる事は少なかった。

…そんなある日。

旅の途中で寄ったある村を散歩していると、俺達の目の前で大勢の人が集まっていた。

何をやっているのだろうか?

気になった俺達は、人だかりをかき分けてその中心へと入って行く。

そして俺は見てしまった。

 

その中心で、人達に罵倒を浴びせられ、物を投げつけられている一人の少女の姿を…。

 

「な、何やってるんだお前らーー!!!」

思わず俺は大声で叫ぶと、その少女に駆け寄る。

ひどい…

まさにそうとしか言えなかった。

所々から血が滲み、服はボロボロ。

元々小さな体だが、明らかに軽いと思わせる体重。

おそらくほとんど何も食べていないのだろう。

まるで顔に生気が無く、腕なんかはまるでマッチ棒の様に細く、軽く触っても折れてしまいそうだった。

そんな少女の様子に俺が思わず泣きそうになっていると、周りの人達は口ぐちにこう言い始めた。

 

その子は悪魔の子だ!

 

悪魔の血を引いているんだ!

 

この子が居るだけで町が穢れる。襲われるんだ!!

 

なんでお前もそんな奴の事をかばうんだ!!

 

出てってよ!早くこの街から出てってよ!!

 

悪魔の子?その言葉に、俺は少女に視線を向けて改めて様子を見てみる。

そして、何故この子が悪魔の子と呼ばれているか…。その理由が分かった。

少女の左目が紅く光っていたからだ。

これは…魔眼か?

もしそうだとしたら、この子は人間と魔族のハーフという事になる。しかし、目が紅く光っている事を除けば、他はすべて人間の体だった。つまりハーフなのはまず間違いないだろうが、あくまで人の体に魔族の血が流れているだけに過ぎないのだ。

だったら、普通に生活していれば、魔眼なんてそうそう発動する事は無いと思うが…。

なにせここは旧世界。魔法世界の様にごく身近に魔法なんてものは存在しない。

そうなると、おそらく何かの弾みで、発動してしまったか、自ら発動させたかのどちらかになると思う。

むしろ前者の方が、可能性が高いだろう。

なにせまだそんな歳もいってない子供に、しかも魔法が身近に無い旧世界なんかでは、制御なんてできる訳が無いし、その方法など分かるとも思えないからだ。

でも、そんな事よりも俺が気になったのは、少女の眼に全くの光が灯っていない事だった。

一体どんな事をすれば、こんな目になるんだ。

まるで、すべてに絶望し、それを受け入れている目に…。

こんな子を一人では放っておけない!

そう思った俺はすぐさま行動に移すのだった。

 

「うるせー!!この子よりもお前らの方がよっぽど悪魔だろうが!!大人の癖に、子供をこんな大人数で痛めつけるなんて、それでも人間か!?」

 

な、なんだと…

 

よそ者の癖に…

 

お、おいこいつもまとめてやっちまえ!!

 

そう言って、俺にも物を投げてくるが、物が俺にあたる前に、炎が目の前に起ち上りそれを防いだ。

それをやったのは、龍ちゃんだった。それも、ぬいぐるみサイズじゃなくて本来の姿になって、周りを威嚇している。

 

な、なんだアレは…

 

白い…虎?

 

虎だと?あんな大きな虎居る訳ないだろ!!!

 

「ありがとう龍ちゃん。お前ら怪我したくなかったら道を開けろ。この子は俺が連れて行く。…いいな!?」

 

殺気を纏いながら、俺がそう言うと目の前の人達が“ヒッ…”と声を上げながら道を開ける。

それを見届けた俺は、少女を抱えると、できた道を歩いて行く。その後ろからは龍ちゃんがついてくるのが分かる。

その間、俺の腕の中に居る少女は、まぶた一つ動かさず、ジッと俺を見つめていた。

その瞳に光を映さないまま、まるですべてを諦めているかのように…。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

街から離れた俺は、そっと彼女を地面に下した。

近くには川もあるし、ここで一夜明かすのも良いだろう。

 

「龍ちゃん。追手が来る気配ある?」

 

「…いや。無いな。やけどそれは、今の所は…や。もしかしたら、また後から来るかもしれん。まぁ心配せんでも、なんかあったらすぐ知らせるわ。」

 

龍ちゃんはそう言うと、その場に腰を下ろして一つあくびをした。

姿を元に戻してないと言う事は、おそらく龍ちゃんは、追手が来る可能性が高いと思っているのだろう。

俺もその意見に賛成だ。

二・三日くらいは、気を張っておいた方がいいだろう。

さて、とりあえずはこの子をどうにかしないといけないな。

 

「どこか痛む所はあるか?」

 

俺は彼女にそう聞くが、返事は帰ってこない。

それ所か、反応一つしないのだ。

 

「君の両親は?」

 

反応無し。

完全に心を閉ざしているみたいだ。

でもこれは仕方が無い事だろう。あんな目にあったんだし、それに彼女の目を見ていると、どうやらこういった事は何度も経験していると思う。

そうじゃなければ、あんな目になる訳が無い。

 

「そっか…。最初に言っておくけど、俺達は君をどうこうする気は無いよ。龍ちゃん…。あの虎も喋ってるように、俺達はちょっと特殊だからね。たとえ君が普通の人とは違っても、そんな事は全く気にしないから。とりあえず、二三日くらいは、追手の心配もあるし、俺達と一緒に行動した方が、何かと安全だと思う。だけど、もし家族の下に帰るんだったら、行っていいから。あ、でも一応俺達から離れる前に、一声かけてね。じゃないと心配するからさ。」

 

俺は彼女にそれだけ伝えると、野営の準備をする為に、川へ水を汲みに行こうとその場を立つ。

しかし、そこで今まで黙っていた彼女から声がかかる。

 

「何で?」

 

「ん?」

 

「何でそんなに私に優しくするの?同情?蔑み?それとも、やっぱり慰め者として私を囲うつもりなの?」

 

慰み者って…おいおい。

俺はそんなにモテないように見えるのか?

これでも、それなりにモテるんだぞ?…小さい子ばっかりだけど。

……おっと言ってて悲しくなった。

 

「はぁ…。いいか?今君が言った事はすべて違う。慰み者なんてもってのほかだ。唯一かすってそうなのは、同情ぐらいか?でもそれは、人を助ける時に、必ず感じてしまうもんなんだよ。そうだな…。あえて助けた理由を言葉にするなら、“俺がしたかったから”それと、“目の前であんな事をやっている状態で、見なかった事にするほど、俺は人でなしじゃねー”って所だ。」

 

「…そんな事信じられない。」

 

「まぁ…君が今までどんな扱いを受けてきたのか、大方予想がつくから、そう言われても仕方が無いと思う。…が、それでもこれだけは覚えておくべきだ。“あれが人間のすべてじゃない。中にはましな奴もいるってな。”」

 

そう言うと、彼女は何かを考えるそぶりをしながら黙ってしまう。

それを見て、再度水を汲みに行こうと、彼女に背を向けると、彼女がぼそりと呟いた。

 

「…マナ。」

 

「ん?」

 

「マナ・アルカナ。それが私の名前。」

 

「…そっか。良い名前じゃないか。」

 

そう言って俺は、マナちゃんの頭をなぜる。

マナちゃんはこうされる事に、かなり驚いていたが、別にいやだとは思ってないようだ。

俺が撫ぜ終わるまで、ずっとそのままじっとしていた。

俺の勘違いじゃなければ、少し笑った気がした。

 

マナちゃんが少し心を開いてくれた後、俺は野営の準備をして食事を作り始めた。

よっぽど疲れが溜まっていたのか、ご飯を食べた後マナちゃんはすぐ眠ってしまった。

それを見た龍ちゃんと俺は一安心する。

 

「こんだけ食べれば、体に心配は無いだろう。大した傷も無かったしな。」

 

「やなぁ…。にしても、いろいろ世界見て回ったけど、まさかこんな胸糞悪いもん見るとは思わんかったわ。」

 

「だな。もしかしたら、俺達の知らない所でこういう事があったかもしれないけど、実際見るのは初めてだしな。」

 

「そうやな。確かにあの大戦では、何があってもおかしくない状況やったからな…。まぁええわ。とにかく助けられたんやし…。タケやん。最初の火の番はワイがやるわ。今は気持ちが高ぶっていて、寝れそうにないしな。」

 

「分かった。頼むよ。……龍ちゃん。人に絶望しないでくれよ?」

 

「それはありえん。ワイは、あいつらよりも、ええ奴がいっぱいおるって知っとるし、人の気持ちって奴は、ちゃんと変えられるって分かっとるから。…ワイらの夢の為にも、たとえ、人に絶望しても、心の底から人を嫌う事はありえへんよ。」

 

「そっか。そう言ってくれると救われるよ。お休み龍ちゃん。」

 

「お休みや…。」

 

俺はそう言って、毛布に包まって、体を休めるのだった。

 

しばらく経ってから、俺は龍ちゃんと火の番を交代し、一人火を見つめながら今日あった事、俺と龍ちゃんの夢について考える。

“心の底から人を嫌う事はありえへんよ”

そう言ってくれた龍ちゃんの為にも、今自分は何ができるのか、そして俺達の夢をかなえる為にどうすればいいのか?

そんな事をずっと考えていた。

すると、背中から誰かの視線を感じた。

 

「どうした?起きるのにはまだ早いぞ?」

 

そこに居たのは、寝ていた筈のマナちゃんだった。

マナちゃんはそのまま何も言わず、俺の横に腰かけるとじっと火を見つめていた。

そして、不意に呟く。

 

「…夢って。」

 

「ん?」

 

「さっき貴方が寝る前に、あの白い虎と話していた事。」

 

「ああ。起きてたのか。」

 

「信用できてない人の前で、ちゃんと寝れるほど、図太く無い。それに元々私は寝てても人の会話を聞く事ができるから…。」

 

「なるほどね。」

 

マナちゃんの言葉に納得がいった。

最初言った事は、確かにそうだと思うし、もう一つの方は、おそらく物心ついた時から、本当に安心して眠れた事が無い為に身についた、特技なのだろう。

歴戦の兵士達の中では、そう言った特技を持っている人が居ると聞いたことがある。

まだ、小学生に入ったばかりぐらいの子供だと言うのに…。悲しすぎる。

 

「で…。」

 

「ん?」

 

「貴方達の夢って何?」

 

「どうしたの急に…。そんなに気になるの?」

 

「私を助けるなんて、お人よしの人が持っている夢ってのが気になっただけ。後貴方達の正体も教えて。」

 

「いろいろ聞いてくるなぁ…。」

 

「いいから教えて。こんな私を見ても、人と同じように扱うなんてありえないから。気になるの。だから教えて…。」

 

そう言ってくるマナちゃんの目は真剣だった。

ならこちらも正直に話すべきだろう。

どうせこの子は、その内こちらの世界…つまり魔法世界に入って来る事になる。

しかも、表だけじゃなく裏の方まで。

何せこの子は、あの龍宮真名なのだから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話:ほしかったぬくもり

感想で私の事を心配してくださった皆様、本当にありがとうございます。

やっと私生活が落ち着いてきたので、会社にも復帰ができました。

これからもよろしくお願いします。


辺りはまだ暗く、少し肌寒い。

月の位置から考えると、夜が明けるまでまだまだ時間がかかるだろう。

なら話す時間は十分にある。

そう考えた俺は、自分が羽織っていた毛布をマナちゃんに懸けると、火を眺めながらマナちゃんの質問に答える事にした。

 

「何者か…。俺は人だよ。ちょっと他の人とは、毛色が違うと思うけど。」

 

「毛色?」

 

「そう。たとえば魔法…。えい!」

 

人差し指を立てて、そこに火を灯す。

魔法を覚えるすべての人が最初に唱えるであろう“火を灯れ(アールディスカット)”。

最も基本的で、魔法世界では何ら珍しくない魔法。

しかしマナちゃんは、その光景を見て驚いていた。

 

「驚いた?これが魔法だよ。見た事無いかな?」

 

「お話の世界でなら、聞いた事があるけど…見た事なんてない。どうやったの?」

 

「んーそれは秘密。それよりも、俺の正体の事だろ?」

 

俺がそう言うと、マナちゃんは教えてくれない事に納得がいかないのか、少しぷくっと頬を膨らませたが、魔法の事よりも俺の正体の方が気になっていたのだろう、頷いて答える。

 

「…わかった。じゃあ、あなたは特別な人なの?」

 

「特別ねぇ…。そう言われた事もあるけど、俺は俺。他の人と何ら変わりないと思うよ。」

 

「嘘。だって魔法使えるじゃない。」

 

マナちゃんにそう言われて、思わずなるほどと思ってしまった。

確かに、旧世界でしかも魔法の存在を知らない人から見れば、俺の事を特別と思っても仕方が無いだろう。

俺自身魔法なんて戦いの時にしか使わないし、最後に魔法を使ったのも魔法世界だったはず…忘れていた。

魔法の存在を知らない普通の人からしたら、この反応は当然なのだろう。

本当なら魔法の事を知らないままの方が良いのかもしれないけど、魔眼がある以上この子はそう遠くない内に魔法の世界に入る事になると思う。それが知っているだけで済むのか、それともどっぷりはまってしまうのかは分からないけど、それを考えると教えてあげても良いと思う。

知ると知らないじゃ、全く反応や考える事が違ってくるはずだから…。

そう考えた俺は、マナちゃんに魔法の事を教える事にした。

 

「マナちゃんが知らないだけで、この世界には魔法を使える人は、沢山いるよ。そして努力さえすれば、ほとんどの人が使える。それが魔法だよ。決して神の力とか、悪魔の力なんかじゃないんだ。」

 

「えっ…そんな訳無い。」

 

「そう思うのは仕方が無いと思うけど、これは本当の事なんだ。そして、君の眼もまた魔法なんだよ。」

 

「私の眼が魔法?」

 

「そうさ。もしかして、本当に悪魔の眼とでも思ってたのかい?まぁ、あんな事言われ続けたらそう思っていても仕方が無いと思う。けどそれは違うんだよ。さっきも言ったけど、魔法に悪魔も神も無いんだ。人ってのは、自分の知識に無いモノがあると恐れるんだよ。特にここら辺は紛争が良くあるから、勝手に“自分達がこんな目にあっているのは君のせいだ”って決めつけているんだ。自分より弱い子供だから抵抗されないと思ってね。…ほんと胸糞悪くなるよ。」

 

「そ、そんな…。」

 

俺の言葉にショックを隠せないマナちゃん。

それは当然かもしれない。悪魔と呼ばれ続けて、自分もそうだと思ってずっと我慢し続けてきたんだから、信じられない。と言うよりも信じたく無いのかもしれない。

俺の言葉は、言ってみれば心のどこかで悪魔の眼を持って生まれてきてしまったから仕方が無いと我慢し続けてきたマナちゃんの事を否定しているのだから。

でも、もうそう思い込むのはやめにしてほしい。

君は幸せになって良い。

むしろ今までつらい目にあってきた分幸せにならないといけないと俺は思うから…。

 

「だからもう我慢する必要なんてないんだ。その小さい体で今まで良く頑張ったね。もう泣き叫んでもいいんだよ。助けてって言って良いんだよ。」

 

俺はそう言って、マナちゃんの頭を撫ぜる。

しばらくマナちゃんを撫ぜていると、マナちゃんの体が震えだし、そして俺の胸に飛び込んできて大声を上げて泣き始めた。

まるで今まで我慢していた物をすべて吐き出すように。

 

「…う、うあぁぁん。何で…何で!!もっと早く私の前に来てくれなかったの!?私にそう言ってくれなかったの!?いつも悪魔の子って言われて、石を投げられて、泣いたって、やめてって言っても誰も助けてくれなくて。助けてって言ったらダメなのかなって思い始めてからは、誰も信じられなくて。だから、もう死ぬしかないのかなって…でも、でも、やっぱり死ぬのは怖くて、ううううう…。」

 

「そっか…そっか。御免ね。御免ね…。」

 

マナちゃんが何処に居るのか?

どんな目にあっているのか?

近くに居なかった俺に分かる訳が無い。

でも俺はマナちゃんを抱きしめながら、思わず謝っていた。

こんな小さい体で負った大きな心の傷を、少しでも癒せるようにそっとやさしく抱きしめてずっと謝っていた。

謝って済む問題じゃない。でも謝らずにはいられない。

俺はマナちゃんが泣き疲れて眠ってしまうまで、ずっと彼女を抱きしめていた。

 

マナちゃんが泣き疲れて眠ってしまった後、俺はそっと横に寝かせて毛布を掛けてあげる。

すると、龍ちゃんが起きてきてこちらにやって来た。

どうやら龍ちゃんも起きてマナちゃんの叫びを聞いていたらしく、表情は優れなかった。

 

「ずいぶん溜めこんどったんやなぁ…。」

 

「そうだね。魔眼について知識のある魔法世界、それもある程度平等な帝国領内だとしても、魔眼…魔族の血を引いている人は、良く思われていないのに、旧世界みたいな魔法の知識がない場所だったらなおさらだね。」

 

「やな。今回の事で、ワイとタケやんの夢。“幻獣と人との共存”それを達成するには、まず“人と人との共存”から始めんといかんって思い知らされたわ。そうやないとたとえ幻獣との共存が達成できても、ワイらの目指しとる世界とは違ってきてまう。…こんな悲しい子を増やさない為にもな。」

 

「そうだね。その為にもまずはこの子を助けないと、次時渡りする時間までもう何ヶ月も無いけど、その間に何とかしないとね。」

 

「連れて行く方法が無いからなぁ…難儀な事や。やけどそれ以上に注意せなあかん事は、ワイらに依存せん様にする事や。誰かを頼る事は必要な事やけど、それイコール依存とは全くの別物や。どうにかして人の世界でうまく生きてく術を覚えてもらわんといかんな。…タケやんどうするつもりなんや?」

 

龍ちゃんの言う通り、マナちゃんを連れていける訳じゃないし、俺達に依存させる訳にはいかない。もう何ヶ月もしない内にマナちゃんとは一時の間だけだけど、お別れをしなければいけないのだ。

どうにかしないとな。

 

「うーん。とりあえずは、魔眼の制御の仕方を教えないといけないと思う。効率よく使う所まではおそらくいけないけど、せめて自分の意志で、魔眼を発動したり、させなかったりぐらいは、できるようにするつもりだよ。後は…そうだな。明石夫妻にも相談して協力してもらうつもりだ。」

 

「明石さん所か?ガトウ達に協力してもらった方がええんと違うんか?」

 

「ガトウ達は、基本魔法世界で活動しているだろ?それよりは旧世界で魔法使いやっている明石夫妻の方が、魔法を使えない人と仲良くする術を知っていると思う。それに歳の近い裕奈ちゃんも居るし、なんといっても住んでいる所は麻帆良だ。そこに住んでいれば、何かと好都合だしね。」

 

どうせ俺達の目的地は麻帆良だ。あそこに住んでいれば、必ず逢える。本人が逢いたがるかどうかは疑問だけど、少なくとも幸せに生活できているかは確認ができる。心配事と言えば、あそこに居るMMの魔法使い達だけど、そこら辺は明石夫婦とあとから来るタカミチが何とかしてくれるだろう。正直他力本願で、いい気はしないけど、おそらくこの限られた状況下の中で最大限できる事は、これくらいしかないと思う。

 

「そっか…。ならまずはどうするん?」

 

「まずはマナちゃんにいろいろ聞かないと、住んでる所とか、家族の事とかね。」

 

「せやな。」

 

横で寝ているマナちゃんの頭を撫ぜながら、二人でこれからについて考えていくのだった。

その話し合いは夜が明けても続き、マナちゃんの目が覚めるまで続いていた。

マナちゃんは目が覚めると、どうやら昨日の事を覚えているらしくて、俺の顔を見ると顔を真っ赤にしていたけど、俺の質問にはちゃんと答えてくれた。

マナちゃんの話によれば、両親はもうすでに亡くなっているらしい。いつ亡くなったかは詳しく聞く事は無かったけど、マナちゃんの年齢から考えて、おそらく物心付くか付かないかぐらいだろう。その後は、街を一人で渡り歩いてきたらしく決まった寝床は無いと言う事だ。なので、これからは俺達と一緒に行動したいとまで俺達に言ってきた。

そう言われるのは正直嬉しいし、こちらとしても好都合なので、“よろしく”って言って頭を撫ぜると、顔を赤くしながら照れていた。

それから、改めて龍ちゃんを紹介したんだけど、俺の想像通り龍ちゃんに懐いた。ちょっと大人びた所があるマナちゃんは、さすがにアスナちゃんや裕奈ちゃんみたいに、全力で甘えるみたいな事はしなかったけど、大きくなっている龍ちゃんの背に乗っては嬉しそうにしてたし、ぬいぐるみサイズの時は、目を輝かせて抱きしめていた。

さすが龍ちゃん。皆のアイドルだ!

 

「アイドルて…。ワイ好きでやっとる訳やないんやで?」

 

そう龍ちゃんは愚痴ってたけど、表情から本当に嫌って訳じゃないみたいだ。

まぁそれも当然だろう。誰だって好かれて悪い気する奴なんていないだろうから…。

 

それから俺達は、マナちゃんと言う新しい旅仲間を迎えてまた旅を再開した。

その道中に、マナちゃんに魔眼の制御を教えていたのだが、そこで問題が発生した。

本来なら魔眼の制御だけにする予定だったのだが、それをちゃんと制御するには、どうしても魔力の使い方を身に着けないと無理だと分かったのだ。

その為、あくまで基礎的な事だが、魔力の使い方と、体の動かし方。それと護身程度に戦闘技術を教える事となった。

まぁ、別に無駄になる物でも無いし、マナちゃん自身も嫌がる所か楽しそうにそれに取り組んでいたので、俺達の思惑とは外れてしまったが、結果オーライというやつだろう。

それに、そのお蔭で新たな発見もあった。

それは、何故原作では魔法を使うシーンなんか無かったのか?その理由が判明したのだ。

マナちゃんの魔力の殆どは、魔眼を制御しているのに使っている為、消費できる魔力が少ないのだ。原作で見た“ラカンの強さ表”で表すなら、おそらく鍛えてAぐらいの魔力量にしかならないと思う。それはつまり、麻帆良学園教員の平均ぐらいしか魔力を使う事は出来ないと言う事だ。原作では魔力量を上げる修行もしていたかもしれないが、おそらくもっと低い魔力しか使えなかったと思う。だから、その魔力すべてを体の強化にあてて、攻撃はすべて銃火器でやっていたのだ。

それに気付いた時、俺は思わず“なるほど”と思ってしまった。

だからと言って俺は、今マナちゃんに銃の使い方などは教える事はしないつもりだ。

そもそも、俺が銃火器の使い方を教えれるかどうかという心配もある。

知識だけなら、何故かあるのだが、実際に銃を扱った事など無い。おそらく銃闘技の知識の一つとして銃火器の知識があると推測はしている。

原作でも銃は銃火器扱い慣れてたし、教え込まれたと言ってたから。

 

それと、もう一つ。

俺達と別れた後のマナちゃんについても、いろいろ進展した。

立ち寄った街で、国際電話を使い明石さんに連絡を取って事情を説明した所、快く協力してくれた。ただ、明石さんの家で一緒に暮らすのは、厳しいという事だった。教員である明石教授は、何かとMMの魔法使い達と接する機会が多いらしく、マナちゃんの魔眼が知れたら、その魔法使い達がどんな行動に出るか分からない。私自身だけなら平気だし、夕子さんも大丈夫なのだろうが、まだ小さい裕奈ちゃんの事を考えると、裕奈ちゃんの為にもなるべく危険は回避したいと言っていた。もちろんかなり申し訳なさそうだったけど、それは仕方が無い事だ。やはり自分の子供は大切だからな。だけど、知り合いの人で明石さんと仲が良い人の協力を取り付けてくれた。

その人は、MMの魔法使いとも関わりが少ないし、両方とも魔法使いで、息子も同じく魔法使いなのでそこら辺は心配いらないらしい。しかも、マナちゃんの事情をしっかりと話した上で、了承を得られたので魔眼についても大丈夫だそうだ。人柄についても、明石教授と夕子さんが太鼓判を押してくれて、俺が前話した夢についても賛同してくれる人だとか。

実際に会って確かめる心算だけど、二人が太鼓判を押してくれるならおそらく大丈夫だと思う。それに、その人達は老夫婦で、神社をやっていると言っていたから、おそらく原作の龍宮真名の義理の両親なのだろう。それなら大丈夫だ。

一応保険の為に、ガトウ達にも連絡を入れる心算だけど、ガトウ達の出番は無いと思う。

だから、マナちゃんと別れるその日まで、俺と龍ちゃんは他の人が与えられなかった愛情と、教えられるだけの技術と知識を教えて、別れる日までずっと一緒に過ごすのだった。

 

…そして、マナちゃんと別れる日。

俺達が二度目の時渡りする日がとうとうやって来たのだった。

5



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話:二度目の時渡り

今日はお休みということで、こんな時間に投稿しました。

そろそろザックリ書いた原案がなくなりそうなので、またコツコツ書いていかないと…。
お休みは有効に使いたいです。

それではどうぞ~。


マナちゃんと別れる日。

俺は麻帆良から遠く離れた場所で、明石教授とマナちゃんの家族となるお爺さんと会っていた。

“この人はマナちゃんの家族に相応しいのか?”

それを確かめる為にしばらくこのお爺さんと話をする事にした。

もちろん明石教授の推薦なので、大丈夫だとは思っているのだが、それでも確かめる事は必要だと思う。

そして、話していての感想だが…この人なら大丈夫だろうと思う。

人柄も良く、豪快だけどちゃんと自分の考えを持っている人だという印象だった。

何より目がMMの魔法使いとは違う。

MMの魔法使いの様に与えられた“正義”じゃなくて、自分だけの“正義”を持って居る人しかできない目。

そう、あの大戦でも時々見かけた事のある目だ。

こんな目をした人達は、皆手ごわく、たとえ敵だったとしても尊敬できる人が多かった。

尊敬という意味とは違うが、俺と戦ったあのフェイトもこんな目をしていた。

何でもその昔、魔法世界のあの大戦に傭兵として参加していたらしく、おそらくその経験もあって、自分の“正義”…自分が正しい事だと思う事をする決意ができているのだろう。因みに、俺の事や俺達がやってきた事もある程度知っているみたいだ。

幻獣についても、一緒になって俺と話していた龍ちゃんが居たお蔭と、大戦が終了してから一度幻獣に助けられた経験もあって、“幻獣との共存”には大賛成みたいだ。

そんな考えと経験があってか、マナちゃんが魔眼を持って居た所で別に何も感じないらしい。

“ふーん。そうなのか。じゃが、それのどこに問題があるんじゃ?”

つまりこんな感じらしい。

ともかく、この人は信用して良いと思うし、マナちゃんの新しい家族としても最高の人だろう。

だから俺は、この人にマナちゃんを預けて、これから養女として育ててもらう事を了承するのだった。

 

「では、マナちゃんの事よろしくお願いします。」

 

「任せてくれ。儂らはもう魔法の世界から足を洗った老いぼれじゃが、まだまだ若い者には負けん。特に最近の奴らは力を過信し過ぎておるからのう。マナちゃん一人守るのは訳ないわ。それに、儂の息子にもこの事を伝えたら、妹ができると喜んでおったし、“絶対に俺が守ってやるんだ!”って言っておったからの。大丈夫じゃて。」

 

「私もできる限りの事はするから心配しないでくれ。しかし…本当に裕奈に逢って行かないのか?また逢うのを楽しみにしていたのだが…。」

 

「そう言われるのは嬉しいんですが、俺達はこれからやる事がありますので、もうすぐ出発しないといけないんですよ。心配しなくても、必ずまた逢いに行きますから。」

 

「やな。“また逢う”って約束は必ず守るから心配しんといてや。これからやる事は、ワイら二人や無いとあかん。だからマナちゃんは連れていけんし、何よりマナちゃんにはこちら側に深入りして欲しくない。…ワイらのわがままかもしれんけどな。」

 

わがままと言うよりは、願いなのかもしれない。

もしかしたら、原作通りマナちゃんは傭兵としてこちらの世界に関わってくるかもしれない。

けど、ほんの少しの間でもいいから、普通の子供としての生活を味わってほしい。

今まで悲しい思いをした分、幸せになってほしいから。

 

「…また、逢えるよね?」

 

マナちゃんが目を潤ませながらそう言う。

自惚れかもしれないけど、マナちゃんからしたら、おそらく両親以外で初めて心を許した俺達と別れるのはかなりつらい事なのだろう。

この日を迎える前に、マナちゃんにはちゃんと説明し、何とか納得してもらう事が出来たけど、それでもいざ別れるとなると、頭で理解できていても納得ができないのかもしれない。だから俺は、そっとマナちゃんの頭を撫ぜながら言う。

 

「もちろんだよ。またきっとマナちゃんに逢いに麻帆良に行くから。それまで新しい家族と一緒に待ってて。」

 

「…うん。待ってる。でもその前に一つだけお願いがある。」

 

「お願い?何かな?」

 

この状況でお願いと言われて、一瞬指切りの事なのかと思ってしまったが、マナちゃんにはその事を話していないはずなので、その考えを頭から無くす。

 

「…写真。一緒に撮ってほしい。」

 

「写真?別にいいよ?」

 

正直指切り以外なら何でも良いと思ってしまった俺は、マナちゃんと一緒に写真を撮る事を快く受けた。

しかしそこで、思いもよらない事が起こった。

 

「むー。武兄さんちょっと屈んでほしい。」

 

「へ?何で?」

 

「いいから。お願い。」

 

二人で写真を撮る事になって、マナちゃんがそう俺に言ってきた。

何で屈まないといけないのか、疑問に思ったが、とりあえず言う通りに屈むと、満足そうな顔してマナちゃんが笑う。

それを見た明石教授は、掛け声を掛けてくる。

そして、それは起こった。

 

「じゃ、撮るよ。はい、チーズ!」

 

チュッ!

 

「!!へっ!?」

 

一瞬何が起こったか分からなかったけど、どうやらマナちゃんは俺の頬にキスをしたみたいだ。その事に驚いて、ガバッっと顔をマナちゃんに向けると、そこには顔を真っ赤にしながら、それでも嬉しそうな表情をしたマナちゃんが、はにかんでいた。

それを見てしまったら、俺はもう何も言えず渇いた笑いしかできなかった。

 

「おお!マナちゃんやるやないか!」

 

「ふむ。裕奈にもライバルができたって事かな?全く罪作りだよ、武君は…。」

 

「ほっほ。若いの~。じゃが、武殿よ。マナと恋人になるには、儂を倒してから付き合ってもらうぞ?儂のかわいいマナは誰にも渡さんからな!」

 

いつの間にか呼び捨てにして、もう親馬鹿ぶりを発揮しているお爺さんの事についてはツッコミを入れるかどうかで悩むが、とにかくこれでお別れだ。

また逢う日まで元気でねマナちゃん。

 

 

「…今日の写真は一生の宝物。私の初めてのキス。大好きな武兄さんにあげる事が出来て良かった。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

マナちゃん達と別れた後、俺達は旧世界の人が居ない所を選びながら行動していた。

最初は、魔法世界に行かないとダメなのでは?とも思ったが、よくよく考えると、確か最初に時渡りした時も旧世界だったので、それについては心配いらないだろうと旧世界に居る事にした。人が居ない所については、いつでもクロノスが来て良い様にだ。

そして今日も、人の住んでいる場所から離れた川の畔で野営の準備をしていると、傍で寝転んでいた龍ちゃんが、徐(おもむろ)に立ち上がって言う。

 

「どうやら来たみたいやな。」

 

そんな龍ちゃんの言葉に、俺は龍ちゃんが視線を向けていた所へ視線を向けると、そこには前と変わらない姿のクロノスがいつの間にか立っていた。

 

「お久ぶりなの~。元気してた?」

 

相変わらずののほほんとした口調に、少しイラッとしながらも俺は返事をした。

 

「いろいろあったけど、元気はしてたよ。それより今日は一人なのか?てっきり神様も一緒に来ると思ってたんだが…。」

 

俺がそう言うと、クロノスは困った表情をしながらその質問に答えてくれた。

 

「あの時は特別なの。あの時は、貴方にこれからの事を説明する必要があったし、私の事も説明しないといけなかったからなの。たとえば急に私が貴方達の前に現れても、信用する事ができた?」

 

クロノスにそう言われて、なるほどと思う。

確かに、あの時急にクロノスが現れても信用する事は難しかっただろう。龍ちゃんがいるおかげで、精霊だと言う事は分かるだろうけど、それが本当に神様の使いで来てるかどうかなんて分からないからな。

 

「それに、そもそも神様が地上に降り立つ事自体ありえないの。神様はいろいろやる事があって忙しいし、私以上に周りに影響を与えてしまうから、自ら地上に降り立つのを禁じているの。ただ、あの時だけは貴方を転生さて、さらに頼み事までしていたからそれを破っただけなの。」

 

「なるほどなぁ。神様って奴も大変なんや。」

 

「当たり前なの!神様を甘く見るなだの!」

 

「いや、甘くは見てないからな?」

 

クロノスの言葉に思わず突っ込んでしまう。

しかし神様は此処に来ないのか…。少し聞きたい事があったんだが、クロノスも知っているのかな?

 

「なぁクロノス。少し聞きたい事があるんだが…。」

 

「なんなの?」

 

「確か次は、原作開始の一年前に飛ぶ事になるんだよな?それはつまり、その間に起こるイベントには手出しできないって事で間違いないか?」

 

「それはそうなの。時渡りしている間は、貴方と龍ちゃん、そして私はこの世界に存在して無い事になっているの。だから手出しなんてできる訳が無いの。」

 

やっぱりそうか…。だとしたら原作にある、ナギとアリカ姫の行方不明と、その息子ネギが住んでいる村が襲われるイベントには手出しができないって事になるのか。

しかし、それに関与していたと思われる“完全なる世界”の親玉は俺達が潰したし、イベントが起こらない可能性だってあるのか?どうなんだろうか…。

 

「クロノス。原作の事は知っているのか?」

 

「神様からある程度は聞いているの。ある程度と言うのは、すでにこの世界は原作とは別の道を進んでいるから、詳細は神様にも分からないからなの。」

 

「なるほど。…なら教えてほしい。ナギとアリカ姫が行方不明になるイベントと、その息子ネギの村が襲われるイベントは起こるのか?」

 

「なんやて!?ナギ達が行方不明やて!?」

 

隣で黙って聞いていた龍ちゃんが、俺の発言に驚いて声を上げる。

すると、クロノスは申し訳なさそうな顔をして俺の質問に答える。

 

「…ごめんなさい。それは言えない事になっているの。」

 

「何でや!?」

 

龍ちゃんは、思わず声を荒げてクロノスに食って掛かるが俺は手でそれを留めると、クロノスの話の続きを聞く事にする。

 

「原則私達は、たとえそれがつらい未来だったとしても、直接手を出したり、助言したりする事はやってはいけないの。理由は、私達がこの世界を見守る側であって、創る側じゃないからなの。」

 

「見守る側?創る側?」

 

クロノスの言った意味が分からない俺と龍ちゃんは、思わず聞き返してしまう。

 

「私達の力は、それこそ、この世界を簡単に変えてしまえるぐらいの力なの。それは実際に私の力を使って時渡りをしている貴方達が、一番良く分かっていると思うの。だからこそ、私達が自分の感情だけで直接手を出してしまえば、その世界は死んでしまう。世界の死とは、その世界に住まう生物すべてが、自分を無くしてしまう事。“私達に頼めばなんでもしてくれる”そう考えて成長する事や、考える事をやめてしまう者であふれ、結果ただ私達の指示に従って動き、生きていく事になる。それはもう命の無いロボットと同じ事なの。そんな世界は、死んでいる世界なの。世界とは日々自分で考え、成長していくからこそ、尊くて愛しいの。だから私達は、そんな世界がずっと続くように見守る側になって、私達の力の一部を貸す事で、貴方達がより成長して行ってくれるように、幸せな未来が創れるように願いを込めて貸しているの。」

 

「それがたとえ滅びの道を歩んでいたとしてもか?」

 

思わず俺はそう聞いてしまった。いや、聞かざるを得なかった。

転生する前も、転生した後も理不尽な事があった時、思わず神に祈った事がある。

誰だって、一度は考えたはずだ。

“あの時どうにかできたら…”って。

すると、クロノスは悲しそうな表情をしながら俺の質問に答えた。

 

「割り切る事は出来ないし、悲しい事だけど、そこに住んでいる生物達がそれを選択したなら、私達はそれをすべて受け入れる。…それが力を貸している私達の、せめてもの責任の取り方なの。」

 

今にも泣き出しそうな顔でそう言うクロノス。

きっと彼女達は、これまで何度も滅んできた未来を見てきたのかもしれない。

もしかしたら、我慢ができず、直接手を出して滅んでしまった世界もあったのかもしれない。

その度に何度も泣いて、自分の力が滅びに加担してしまったら、自分の力を呪ってきただろう。

でも…それでも、彼女たちはこれまでも、そしてこれからも世界を見守り続けるのだ。

世界が幸せになるように…と。

 

「…すまん。なんも知らんで、あんな態度とってまって。」

 

「…俺もごめん。」

 

辛い役目を担っているクロノスに、顔を暗くしながら謝る龍ちゃんと俺。

直接言われて改めて分かる。ただ見ているだけと言うのは、とても辛くて歯がゆいものなんだと。

神様なんて楽だよな~なんて少しでも思った俺は、自分が恥ずかしかった。

そんな俺達の気持ちを察するように、クロノスは優しく微笑んで首を振る。

 

「別にいいの。貴方達からしたら、そう思われても仕方が無いと思うから。…そういう訳だからごめんなさいなの。私には何も言えないの。」

 

「そっか…。別に気にしなくていいよ。クロノスのお蔭で、こうやって若いままで原作へ行けるんだし、本来ならコレもダメなはずなんだろ?」

 

「…お礼は神様に言ってくださいなの。“武にはつらい思いをさせている。だからせめてこれくらいは…”って言って、無理をしたのは神様だから。」

 

そっか…。

俺は心の中でお礼を言う。

届くかどうか分からないけど、神様に向かって“ありがとうございました”と…。

 

「そっか…。でも、力を貸してくれているのは、クロノスも一緒だろ?だからありがとう。」

 

「へへ…。直接お礼を言われるのは初めてだから照れるのだの。あ、そうそう。神様からの伝言があるの!」

 

自分が照れているのを隠すように、クロノスが急に話題を変える。

 

「伝言?」

 

「“もし、時渡りで連絡が取れなかった事を誰かに聞かれたら、私の事と時渡りについて話して良いって。武が転生者って事については、話すのは任せる。お主の好きに進み、幸せな未来を創ってくれ”以上なの!」

 

「私って…クロノスの事か?でも話しても信じてもらえるのか?」

 

「それは大丈夫なの。こう見えて私は有名人なの!」

 

「あ、そうなんや。意外やな…。エヴァはんとかは、知らんかったけど…。」

 

「おそらくそれは、文献とか読んでないせいだと思うの。魔法世界にしかない文献だし、知ってても、忘れている可能性だって高いの。」

 

「へぇ…。まぁ聞かれたらそう答えるよ。それで?いつ時渡りするんだ?もう聞きたい事も無いし、準備は出来てるんだけど…。」

 

「時渡りは月が真上に来た時やるの。まだ少しだけ時間があるから、ゆっくりしていると良いの。」

 

「分かった。なら龍ちゃん。ご飯でも食べるか。…クロノスも食べるか?」

 

「飯や~。」

 

「私もお呼ばれするの!」

 

それから俺達は、ご飯を食べながら他愛のないお喋りをして時間を潰す。

クロノスと話すのはとても新鮮で、楽しかった。

そして、話していたらいつの間にか月が真上に上り、最後の時渡りの時がやってきた。

 

「それじゃ。そろそろ行くの!」

 

「おう。さっ、こっからが本番だ!」

 

「わくわくしてきたわ。」

 

「それじゃ…。時渡り開始!」

 

そうして俺達は、この世界から消えた。

次俺達が現れるのは、原作の一年前。

期待と不安を胸に秘めて俺達は旅経つのだった。

 




いかがでしたか?
クロノスと武達の会話については、きちんと書こうと最初から思っていました。
私自身何度も思った事だったので、その回答みたいなものですね。この回答にたどり着いた時、納得できるけど、できないっていうのが私の正直な感想ですけど…。

あと、指切りを期待していた人。
マナちゃんはそんな事じゃ満足できなかったみたいです。(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。