二度目の狂気を異世界で (神代リナ)
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第一章 過去の栄光をこの手に
第一話 理想郷を求める旅は終わらない


不定期更新で投稿していきたいと思います。


20XX年 *月*日 某所 

 

……あぁ、私は負けたのか。私の人生を……生きる価値を……私の全てを賭けた狂った博打はこんな所で終わってしまうのか……

 

「あなたの狂気にさようなら」

 

あと……あと少しだったのにな……

 

私の頭が銃弾に撃ち抜かれる。

 

そして、私の生きた証も功績も……魂も"無"に帰するはずだった。

 

そう、神の悪戯さえ、無ければ。

 

……まだ我々は世界を理解しては……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦1096年6月6日 神聖ヴィクトリア帝國帝都 自室

 

この世界の私、アレクシアにかつての自分の自我が目覚めたのははたしていつだっただろうか?

 

確か10年くらい前だった気がする。あまり良く覚えていない。

 

気づいたら私の魂はよくゲームや小説にありそうな中世ヨーロッパ風の魔法と剣が主流の世界に生きる少女に転生ていたのである。

 

かつて、前世のローマ帝国の如き繁栄を誇ったその世界のとある大陸の大国、ヴィクトリア帝國。その帝國の第三皇女というのが今の私の立場だ。

 

 

 

「アレクシア様、お入りしてもよろしいでしょうか?」

 

私の元で働いているメイドの一人が自室のドアをノックをして入室許可を求めてくる……

 

「構わない。入れ」

 

私がそういうとメイド服を着た白髪の少女が入って来た。彼女の名はベルタ。中級貴族カイン家の次女だ。

 

「……失礼します。頼まれていた資料を……」

 

「……あぁ。あれね。届けてくれてありがとう」

 

「あと、第二次親衛隊拡張計画案についてなのですが、皇帝陛下が拡張を許可しました。……数を少し減らされましたが」

 

……やっぱりそう上手くはいかないか。まぁダメ元で頼んでるから数が減らされたくらいなら問題無いけど。

 

「何人減らされた?」

 

「親衛隊員5人の増員をアレクシア様は御要求なされましたが認められたのは3人でした」

 

「ま、3人増えただけ儲けものだよ。所詮私は第三皇女なんだから」

 

これでやっと私直轄の親衛隊も13人か。少ないように見えるかい? ところがこれでもかなり増えた方なんだよ。最初は5人だったからね。いくらスペアのスペアとはいえ扱いが些か雑な気がするが……ヴィクトリア帝國の現状を見ると妥当なのかもしれない。対外関係の悪化に国内分裂の危機、伝染病の蔓延そしてさらには経済危機。かつてこの大陸全土を手中に収めたヴィクトリア帝國の栄光は見る影も無い。そんな中で第三皇女に充てる戦力なんて制限されるのが当然だろう。

 

「……そう、ですか」

 

メイドは悔しそうな顔をしている。別に君のせいじゃないだろうに。忠誠心ってやつだろうか?……やはり、前世と変わらず私に清い心とやらは分からないな。……結局、やろうとしてることも変わらないし……ね。

 

「今は耐えよう。私たちに必要なのは耐えることだ。耐えて、耐えて、耐え続けたその先に……きっと私たちの目指すかつての如く栄光ある帝國があるから」

 

「……では、私はこれで失礼します。未来のアレクシア"皇帝陛下"に栄光を!」

 

彼女は去って行った。

 

「やれやれ……誰かに聞かれてたら極刑ものだよ」



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第二話 部下に癖があり過ぎて辛い

なんかネタ回になりました。真面目な内容にするはずだったんですけどねぇ


さてベルタは出て行ってしまったし、彼女の持ってきた書類を読むか。

 

この書類は、彼女が情報収集をして得たとある情報を纏めたものである。

ちなみに、とある情報とは……私が後に立ち上げる予定の派閥、皇道派に貴族や騎士達が所属する可能性があるかどうかという情報である。

 

「ふむふむ……なるほど」

 

皇道派に所属する可能性の高いのは主に文官としての能力が高い貴族が多い。逆に武官の能力が高い騎士は皆、可能性が低い。やはり指揮権の統一が響いてるのかな?

 

まだこの世界は封建制度が主流である。そんな中、急に自分の土地の軍の指揮権を寄越せと言っても無論拒否される。

 

軍事面で支配者階級にいる騎士は尚更軍に指揮権を渡したがらないだろう。

 

だが……公地公民制は絶対に必要だ。公地公民制にすることで皇帝を中心とする強固な中央集権国家を作らなければ……この大陸の統一ひいては……私の野望も叶わない。

 

「にしても、私たちに味方する可能性がある貴族はみーんな中級に下級更には没落貴族……物資は少ないし……軍事力も低い……はぁ、どうにかする方法はあるけど……辛いことには辛い」

 

ん? ドアをノックする音が聞こえる。こんな朝から誰だろう? ベルタはさっき出て行ったから違うだろうし。

 

警備の人達が止めないってことは怪しい人では無いんだろうけど。ま、とりあえず入れますか。

 

「入って良いぞ」

 

「失礼します、アレクシア様」

 

騎士の鎧を着た、黒髪の背の高い少年が入って来た。

 

あぁ……私の親衛隊の……隊長のアレックスだ。

 

いや、彼は(戦時は)優秀ではある。ちょっと……ちょぉぉぉっと思想が過激で普段はバカなだけで。

 

「で、私に何の用かしら?」

 

「先程、道でたまたまベルタ殿に会いまして……多分アレクシア様が困ってるから良かったら助けて上げてと言われたので参上した次第です」

 

「あ、あぁ……そうか」

 

ベルタァァァァァァァァァァッ! 裏切ったなこの野郎ォォォォ!

 

スーッ、ハァー。深呼吸、深呼吸……ヨシッ。偏見は良くないネ。うんうん、今回はまともかも知れない。

 

「アレクシア様は多分、戦力が足りなくなる事で困っていると思います……なので、最強のアイテム1個で敵部隊全部を壊滅させる方法をご用意しました」

 

「ほう……言ってみなさい」

 

本当に今回は……

 

「まず、ヴィクトリア帝国の地下に穴を掘ります」

 

「うん?」

 

「そしてその地下に大量の爆薬を入れて……ヴィクトリア帝国の土地ごと吹っ飛ばせば解決ですよ!」

 

……期待した私もバカだった。

 

「はぁ、ベルタ」

 

「はい、アレクシア様」

 

なんとなく呼んだらベルタが出てきた。あれ? この子私の部屋から離れたはずじゃ……そっか魔法か。そうだよな(諦め)

 

「こいつを摘み出せ」

 

「了解しました」

 

「ベルタ、お前、どうして。俺たち……仲間だよな?」

 

「……さぁ?」

 

清々しい裏切りと笑顔を見た。

 

「ベルタァァァァァァァァァァ!」

 

哀れアレックス。私の部屋から投げ飛ばされた……ベルタさん容赦ない。

 

「さようなら、親衛隊隊長アレックス。君のことは忘れない」

 

「いや、俺まだ死んでないっすよ!」

 



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第三話 ある並行世界のお話

「ん……もう22時か。明日は早いしもう寝ようかな」

 

私はとある計画書を書いていた。お風呂に入った後に少しだけ書こうと思ったのにいつの間にかかなりの時間に立っていたようだ。

 

私はベッドに入って、目を瞑る。しばらくすると私の意識は闇へと沈んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……私はたまに不思議な夢を見る。

 

私が見ているのは間違いなく、先程までいた私の部屋にいる私である。何故か視点が第三者視点だが、長い金色の髪に炎の如く赤い目……前世の見た目と違うせいで未だに自分の見た目という自覚が薄いものの、間違いなく今世の私である。

 

「クソッ! どうしてみんな、私の事を馬鹿にするの! 愚かなのはアイツらなのに!」

 

……性格が私とはかなり違うような気がするが。この性格の違いがある事からこの夢はただの夢ではなく"私"という紛い物がなかった、本来のアレクシアなのではないだろうか?

 

「……アレクシア様、お食事の時間です」

 

ベルタがアレクシアに言う。

 

「……分かったわ」

 

場面は移り変わる。

 

アレクシアは出された食事を一口食べると……皿をベルタにぶん投げてこう言う。

 

「何これ? 不味いんだけど……あなた達まで私の事をバカにするの?」

 

「い、いえ、そのようなことは……」

 

「いいえ、そんなことあるわ! どうせ、どうせあなたも……なんで無能な第三皇女なんかに仕えなきゃいけないんだって思ってるに決まってるわ!」

 

そう叫んで、アレクシアは自分の部屋へと走り去って行った。

 

「……ベルタさん、大丈夫ですか?」

 

別のメイドがベルタに言う。

 

 

「えぇ……私は大丈夫です。それよりも、アレクシア様の方が心配なのですが……」

 

「あぁ、アレクシア様は昔からあんな感じですよ……別に能力自体は低くないんだけど、どうしてもお姉さん達と比べられちゃうと、ね。なのにプライドは高いモンだからいっつもアレクシア様は荒れてるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し時がたったのか、大人っぽくなったアレクシアが反現皇帝派筆頭の貴族と話している。

 

「いよいよ明日ね、■■■■」

 

「そうですね、アレクシア様」

 

「あなたは膨大な土地を得て、私は皇帝になる……今まで私たちを見下していた無能な騎士や貴族共、そしてお姉様達を退けて……ふふっ、ようやく私たちがいるべき所に行けますわね」

 

「上機嫌ですね、アレクシア様。しかし、あまり調子に乗りすぎない方が良いですよ。古来より確実に成功する計画を失敗させるのは慢心と相場が決まってますから」

 

「それもそうね」

 

そして、その貴族としばらく話した後、アレクシアは帰路につく。そう、明日への期待で胸を膨らませながら。

 

だからか、アレクシアは気づかなかった。後ろから迫る"死"に。

 

彼女は背中から短剣を突き刺される。

 

心臓を貫通している。もう助からないだろう。

 

「……アレクシア様、あなたは皇帝の器ではありません。ビクトリア帝国のために死んでもらいます」

 

「ベル……タ。やっぱり……」

 

……終わりは呆気ないものである。彼女が何十年もかけて作った計画は、日の光を見ることなく潰えたのである。

 

そして突如映像が消えて、こんな声が聞こえた。

 

「あなたは私より上手く出来るかしら?」

 

あぁ、やってみせるさ。

 

だんだん、暗かった視界が明るくなっていく。

 

もうすぐ、私は夢から覚めるのだろう。

 

「そう……それなら安心しましたわ」

 



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第四話 貴族のパーティとか絶対にめんどくさい事起きるよね

新暦1096年6月16日

 

「アレクシア様、到着しました」

 

とベルタの声が聞こえたので、私は馬車から降りる……優雅に見えるように。前世は一般人だったもんでこの……なんというか貴族らしく振る舞うっていうのが難しい。

 

なんとか教育係の人から教えてもらったが……外からどう見えてるか心配で仕方ない。まぁよく見えてると信じていきましょうか。

 

「ねぇベルタ、馬車の乗り心地、どうにかならないかしら」

 

「そこは我慢してもらうしか……」

 

「やっぱそうなるか……」

 

馬車乗るとほんとにお尻あたりが痛くなる……前世の車が恋しい。

 

「にしてもやっぱり大きいね」

 

そう、今日私が帝都から出てきたのはパーティに参加するためである。ちなみにパーティの主催者はビクトリア帝國で最も有力な貴族であるカール卿だ。

そんな貴族が主催したパーティなので、お姉様方である第一皇女と第二皇女も参加する。

 

ちなみに皇子はどこに行ったんだよっていうと現皇帝と正妻の間に男子が生まれなかったためいない。まぁ正妻以外の側室との間になら男子はいるが……お姉様方は普通に上に立つ者としての才能があるし、正妻との間に出来た子なので皇位継承権が最も高い。

 

「招待状をお見せください」

 

屋敷に入る前に門の前に立っていた若い男性の人に止められる。恐らく警備の人だろう。前はこんなの無かった気がするんだけど……何かあったのかな?

 

とりあえず私は彼の指示に従い彼に招待状を手渡す。

 

「……アレクシア様にベルタ様、本物ですね。お手数掛けて申し訳ありません、アレクシア様、ベルタ様」

 

「それは構わないけど……何かあったの? 前までこんな手続きはなかったはずですけど」

 

「……この前開いたパーティで、変身魔法を使って招待された人に化て、この屋敷に侵入した暗殺者が居まして。幸い、カール様は無事でしたが……それ以来再発を防ぐため、パーティを開く時はこの特殊な魔法の仕込んである招待状を確認しています」

 

……なるほど。そういう訳か。

 

にしても、もしカールがその時死んでしまっていたら恐らくビクトリア帝国は大きな混乱に陥っていただろう。その暗殺者が最後の最後にしくじってくれて本当に良かった。

 

「ベルタ、どうしたの?」

 

ベルタが若干、険しい顔をしているので尋ねる。

 

「いえ、大したことでは……ただ、その変身魔法を使う暗殺者に聞き覚えがありまして。そこでちょっと気になって」

 

なるほど……ベルタはビクトリア帝国の諜報活動を担うカイン家出身だからその情報網に引っかかったのかもしれない。他人にほぼ完全に擬態できるほどの上級変身魔法の使い手なんてそうそういないから、もしかしたらベルタの聞いた暗殺者と今回の暗殺者は同じ可能性は高い……ただ

 

「まぁ、仮にベルタが聞いた人が今回の事件の暗殺者と同じかもしれないけど、どちらにしろソイツは拘束されたんだから」

 

「それもそうですね。時間をかけてしまい申し訳ありません」

 

「いや、私は構わないよ。じゃあ、行こうか」

 



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第五話 面倒なことは起きなかったそう信じたい

……私たちは屋敷の中のパーティ会場に入った。

 

さてと、私の席はお姉様の隣である。階級順の並び順だね。私は皇族だからさっさと座れるけど、下級貴族とか自分より上の位の人達が座るのを待たなきゃいけないから絶対大変だよね。

 

ちなみにベルタの席はもちろん無い。私のメイドだから私の側に立たせて置かなければならない。元現代人の私的にはなんか申し訳ない気持ちになるけどこちらの世界では常識だから早く慣れた方が良いね。

 

第二皇女ディアナが席に着いたから私も座ろうか。

 

私はディアナ姉様の隣に座る。

 

「あ、アレクシアじゃん。元気にしてる?」

 

「はい、私は元気に過ごしております、ディアナ姉様」

 

「そう、それなら良かった。あなたは私の可愛い妹なんだから困ったことがあったら言ってね」

 

「ありがとうございます。いざという時はお願いします」

 

私とディアナ姉様はそこそこ仲がいい。第一皇女であるエルザとも別に仲は悪くは無いはずだ。……あの夢の中では私たちは仲が悪かったけどね。

多分、仲が悪かったのはアレクシア本来の性格のせいだろう。私なら問題ないはずだ。

 

「そうそう、アレクシア聞いてよ。この間、エルザ姉様がさぁ」

 

ちなみにエルザ姉様とディアナ姉様は仲が悪い。恐らく性格の違いだろう。エルザは慎重な性格でディアナは積極的な性格だ。それでどちらも皇帝としての能力は高い。だから、彼女達二人は陛下から一部の政治の仕事を任されている。その際、いつも言い争いになる……その性格の違いから。

 

「あらディアナ、私がなんだって?」

 

「しまった……横にいるの忘れてた。い、いえ、なんでも。ただ、やっぱりエルザ姉様は凄いなぁって言う話をしようとしただけで」

 

ディアナ姉様……エルザ姉様がいるのを忘れてたのね……

 

「ふーん、なら良いけど。アレクシアに変なことを吹き込まないでよ?」

 

「分かってますよ」

 

「さて、皆様が席に着いたようなので始めさせていただきます。さて、まずは今日、集まっていただきありがとございます……」

 

パーティーの主催者であるカール卿が話しを始めた。その空気を読んで私たちは話すのを止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーは何事もなく無事に終了した。

今、私は馬車に乗って帰っている途中である。

 

私はお姉様方や貴族達と差し障りのない話をしただけなので成果や面白いことはなかった。

……途中、酒に酔ったエルザ姉様とディアナ姉様が乱闘騒ぎを起こしかけたが。

 

ちなみに私はギリギリ成人では無いためお酒は飲めない、残念。

あと1ヶ月で15歳(成人)になれるのに……ほんとびみょーに日数が足りなかった。

 

「あ、そうだベルタ。あなたご飯食べなかったわよね?」

 

馬車で移動する苦痛から目を逸らしたいので会話でもしよう。

 

「そうですね。飲み物くらいなら飲む機会がありましたが……結局、食べ物は食べませんでしたね。一応食べれたんですけど、メイドである私がアレクシア様の側にいないのは如何なものかと思いまして食事は取りませんでした」

 

うーん、この苦労しそうな性格。もうちょっと肩の力を抜いて仕事すれば良いのに。

 

「ご飯ぐらい食べても良いんだよ? まったく真面目なんだから。帰ったらちゃんとご飯を食べなさいよ?」

 

「はぁ、分かりました。……アレクシア様、馬車が止まりましたね」

 

「本当だ。家に着いたにしてはまだ早いし、何があったのかしら?」

 

御者さんに聞いてみよう。

 

「御者さん、どうしました?」

 

 

「アレクシア様、実は自警団の人に止められまして。アレクシア様が本物かどうか見せろと煩いもんで」

 

自警団か。まぁ一目見させてやれば帰るだろう。

 

「じゃ、ちょっとその自警団の人とやらに顔を見せてくるわ」

 

私はランタンを持って馬車から降りると目の前には自警団の服を着た男がいた。

 

「これで満足かしら、自警団さん」

 

「ふむ、あなたは本物のアレクシア様のようですね。手間を取らせて申し訳ありませんでした」

 

「いえ、問題ありません。あなた達はただ治安を守ろうとしようとしてるのは知っているので」

 

「そうですか。それはありがたいことです。これからより一層治安維持に努めてまいります」

 

「頑張って。では、私はこれで」

 

私は馬車に乗るために自警団の男に背を向けた。

 

だから、彼が短剣を手に取ったところを見ることは出来なかった。

 

 

 

 



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第六話 アレクシア死す(大嘘

馬車に戻ろうと自警団の男に背を向けたすぐ後、後ろから僅かながらに殺気のようなものを感じた。

 

振り返ると男は短剣を私に刺そうとしていた。

 

避けるのは……間に合わない。武器は手元にはない。魔法は……詠唱破棄出来る下級のなら間に合う!

 

「プロテクト!」

 

男の短剣は私の身体を突き刺さる寸前に、見えない壁に弾かれた。

危ないところだった……。

 

さて、これからどうしようか。

 

プロテクトはあと数秒程度で切れてしまう。とりあえず後ろに下がって……

 

「アレクシア様、魔法の行使をしたようですが……彼、のせいですか。アレクシア様、私の後ろに」

 

私の魔法行使を感知して馬車から出てきたベルタは、状況を理解するとすぐに私の前に立ち、自身の短剣を構える。

 

彼女にメイドと護身を兼ねさせておいて良かった。

 

「ベルタ、私も魔法で援護するわ」

 

「お願いします」

 

さて、下級防御魔法のプロテクトが解けたのでベルタと自警団(?)の戦闘が始まろうとしている。まぁ多分、ベルタは自警団(?)の男に勝つだろう。理由は単純。同じ土俵ならば明らかに練度の高いベルタの方が圧倒的に有利だからだ。自警団(?)の男は暗殺者が好んで使う短剣を持っていることとわざわざ私を殺す際に私が後ろを向くまで待っていたこと、これらから考えて彼は自警団に変装していた暗殺者でほぼ確定だろう。

 

彼は"皇族"である私を狙うくらいなのだからそれなりに腕に自信はあるのだろう。

 

しかし、ベルタは新暦106年にルーシア帝国から独立したビクトリア王国(ビクトリア帝国の前身)の時代から暗殺を生業としているカイン家の出身だ。

 

故に私のところに追放されたとはいえ、そこらの暗殺者より練度は遥かに高い。勝ち確ってやつだね。

 

「敵が仕掛けてきます……全ての攻撃を迎撃するように頑張りますが、一応、気をつけてください」

 

そうベルタが言った直後暗殺者は身を屈め……私に向かって急接近してくる。

 

そして後一歩で私の首に短剣を突き刺せるというところでベルタの短剣に迎撃される。

 

短剣と短剣がぶつかり、甲高い金属音が鳴り響く。

 

ベルタの迎撃が失敗した時用に私も一応武器を持っておこう。

 

さてさて、私の愛剣を呼ぶとしよう。

 

元の世界にいる人に言ったらきっと頭が逝っている人を見るような、哀れなものを見る視線に晒されることだろう。そりゃあそうだ。剣がワープするなんてあり得ない。

 

だが、この世界の聖剣、私の愛剣は聖剣なのだが、は持ち主が聖剣召喚用の詠唱を行えばどこからでも召喚できる。この世界の聖剣は確か全部神造兵器らしいのでどんな機能が付いてても不思議では無い。神様はすごい。

 

という訳で早速呼び出そう。

 

「始原の聖剣よ。悪を取り払い、光をもたらせ!」

 

そう詠唱すると私の手元が光り輝き、光が消えると穢れなき白銀の剣が私の右手に収まっていた。

 

そしてちょうど私が聖剣の召喚を終えた時、ベルタはちょうど暗殺者を無力化し終えていた。

 

「……アレクシア様、敵を気絶させ無力化しました」

 

「お疲れ様」

 

召喚したけど聖剣の出番は全くなかったね。まぁ出番が無い方が良いだろうけど。なんか残念。

 



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第七話前編 公務員(反乱軍)募集中

この作品全体的にそんなに明るい話では無いからせめてサブタイトルはふざけたいとかいう謎のこだわり。


「アレクシア様、この暗殺者をこの地区の本物の自警団か騎士に預けますか?」

 

うーん、普通ならそうするんだけど……割とこの暗殺者能力高そうだからもし交渉が出来るのであれば取り込むのもありかもしれない。

 

「……いえ、アレックスたち親衛隊に預けなさい」

 

「……なるほど。では、もし彼との"交渉"が上手くいったら私が面倒を見ましょうか? 家を追放された身とはいえ、一応一通りの訓練は受けていますし」

 

うーん、やっぱこの子優秀なんだよね、なんでカイン家はこんな優秀な子を追放したのだろうか?って思うくらいには。いやまぁ、理由はなんとなく分かるけど。あの家に彼女みたいな悪くいうと器用貧乏な人材は要らないのだろう。

 

「えぇ、任せるわ。でも、またあなたの仕事が増えるわね……」

 

「構いませんよ。私はアレクシア様に仕えている身ですから。では、とりあえず簡単に拘束しておきますね」

 

どこに隠していたのか分からないがベルタは太めの縄を取り出し、暗殺者を拘束しようとする……ん? この反応は……魔力反応……!

 

「ベルタ、避けて! 彼に魔力反応が!」

 

「……チッ、バレましたか」

 

「アレクシア様、忠告ありがとうございます。助かりました」

 

暗殺者の短剣がベルタが元々いた場所に振り下ろされる……動きがさっきよりも早かった。短剣にも魔力反応がある気がするから短剣の効果か?

 

……というか彼、見た目が変わっている。

 

さっきまで自警団の男性の姿を確かにしていたのに……今は東の方の大陸に位置するとある国独自の服……着物を着た黒髪の女性になっている。

 

さっきまで変身魔法を使ってたのか? てか、もしかしてあの警備してた人とベルタが言ってた変身魔法を使う暗殺者って……

 

「やはりあなたでしたか……変身魔法を使ってカール卿を暗殺しようとしたのは」

 

「そうですよ。にしてもカイン家の人は本当に邪魔ですね……あなたが居なければアレクシア様を仕留められたのに。前もあなたの家の人に邪魔されたんですよ。本当に邪魔な人達ね……まぁ今から一人減ると思えばいくらか気分も良くなりますが」

 

「……アレクシア様、気をつけてください。彼女、恐らくさっきより強いです」

 

「では行きますよ、カイン家の娘。今からあなたを倒して、アレクシア様を殺します」

 

再び、彼女は姿勢を低くする。

また私に近づく気だ。

 

……恐らくベルタが倒されることは無いはずだ。

 

でも、ベルタが食い止められ無くて私のところに来ることはあるかもしれない。

 

聖剣を召喚しといて良かった。そう思いながら私は始原の聖剣を構える。




設定紹介

始原の聖剣
神が人に与えた初めての聖剣。神造兵器であるため、他の武器とは一線を画す性能をしているが、本来は異界から来襲した■■を倒すためのもののため対人戦では本来の性能の半分しか発揮されない。


紹介文は話が先に続くにつれて伏字が見えるようになったり、長くなったりします。


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第七話中編 公務員(反乱軍)募集中

……暗殺者の少女とベルタが戦い始めてから何時間が経っただろうか? いや、何分、だろうか? ひょっと何秒かも。

 

夜の暗い道で月の明かりを反射して光り輝いている二本の短剣はとても綺麗で……このくらい道のりを照らす希望の光にも見える。

 

短剣と短剣のぶつかり合う時に鳴り響く金属音が聞こえなければ、だが。

 

彼女達の戦闘は先程からずっと一進一退の攻防を繰り広げている。

 

どちらも決め手に欠けるといった感じだ。

 

ベルタは攻撃を仕掛けてきた彼女を蹴り飛ばして距離を取ったり、隙を見てカウンターを入れているがいずれもかわされている。

 

一方、暗殺者の少女もまたベルタに対して仕掛けた攻撃は全て弾かれている。

 

……このままではジリ貧だ。いつ終わるか分からない。まさかベルタ相手にここまでやるとはね。まったくの想定外。ま、想定外なんていつものことか。……多分彼女がベルタと対等に戦えているのは魔法が使えるっていうのが大きいはず。なら、彼女の魔法をどうにか封じることが出来ればこの均衡を容易に崩せるはずなんだけど……それは出来ない。

 

……私が使える魔法の中に残念ながら相手の魔法を封じる魔法がないからだ。

 

なら、ベルタの能力を上げるバフ系統の魔法?

 

それなら使えるけどあれ魔力消費が多すぎてな……自分自身へバフかける魔法は魔力効率良いんだけど。

 

なら、私が戦うか? 確かに皇族の一員である私は剣術を習ったし、魔法もそこそこ使える。

 

正面切っての戦いなら私の方がベルタより強い。

 

それに今は始原の聖剣もあるし……ただ……私は基本的に前線に立って良い人間ではない。

 

死んだら替の効かない皇族だからだ。我々一族はこの国の文化上の理由で確かにそこらの騎士よりは強い。が、あくまで政治を担う、民を導く一族である。こう言っては悪く聞こえるが、私たちは騎士やベルタのような人間を盾にして生きていかなければならない。

 

だから自分から戦いに挑むような真似はダメだ。

 

始原の聖剣の能力解放は論外。あれなら後方からでも攻撃出来るがここら一帯が焦土になる。

 

他に何か。

 

私はベルタと彼女の戦いを眺めながら考える……そういえば暗殺者の少女、ベルタから距離を取る時ほぼ同じ場所に後方に跳躍してるな……これなら……閃いた。

 

……術式、構成完了。

 

……設置座標、設定完了。

 

「……マイン」

 

私は爆発系の魔法をなるべく小声で唱える。

 

……あと30秒後くらいには効果を発揮するだろう。

 

よしっ、ベルタが彼女の攻撃を弾いた。

 

今まで通りだ。

 

あと10秒……3……2……1。

 

暗殺者の少女の足元で小爆発が起きる。

 

防御魔法で守られていたからか彼女の身体自体には大したダメージはなかった……が、突然の爆発により隙を晒す。

 

「そこ!」

 

その隙を見逃すベルタではない。

 

「しまっ……!」

 

ベルタは彼女の持つ短剣を自身の短剣で弾き飛ばし、事実上の無力化をした上で彼女の首に向かって短剣を向ける。

 

「……私の勝ちね。あなたに勝ち目はもう無い。大人しくアレクシア様の指示に従ってもらうわ」

 

「……そう、ね。私はあなたには負けた。またカイン家にしてやられた。でも……でも、アレクシア様の首は頂く!」

 

「こいつ……!」

 

暗殺者の少女はベルタを避け、今までよりも遥かに早い速度で私に向かってくる。

 

恐らく全ての魔力を使って……全ての魔力を使ってしまえばしばらくの間は魔法が使えなくなる。捨て身の攻撃か。

 

この速さ、並大抵の騎士じゃ目で追えないほどだ。

 

しかも、いつの間にか彼女の右手にはどこかに隠していた小型のナイフが握られている……。あの速度が乗っていれば、たがが小型のナイフといえども防具も何もきてない私を殺すには十分だろう。

 

実質、回避不能の即死攻撃だ。

 

……私は始原の剣を構える。

 

強化魔法は……かけてる暇はないな。

 

あと、一歩でナイフは私の心臓に突き刺さるだろう距離まできた。

 

もし、私が普通の思いを抱く人間であればここで死んだのだろう。だが……

 

高速で突っ込んできたナイフと聖剣がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り響き、火花が散る。

 

「なっ……!」

 

暗殺者の少女は信じられないようなものを見たといった顔をしている。

 

「すまないね、私の夢は遥か遠くてね……こんな所で死ぬようじゃ決して叶わぬ夢なんだ」

 

そして、ナイフは儚く砕け散る。

 

「その力……あなた様ならもしかしたら……あの、方を。あぁ、すみません■■様。今回もまた……」

 

魔力を使い果たしたせいか、暗殺者の少女は気絶して倒れてしまった……。まぁいいだろう。少し、連れて行くのが面倒くさくなっただけだ。

 

「申し訳ありません、アレクシア様。あなた様のお手を煩わせてしまって」

 

「いや、構わないよ。それより早く帰ろう。私は疲れた」

 



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第七話後編 公務員(反乱軍)募集中

20XX年 ア■■■合■■某所

 

……自分が床に倒れている。

 

穴の空いた心臓から血が流れている。

 

私の前に立っている人達は……あぁこいつら……ついに私を殺したか。よくぞ、この不利な状況で。見事だ。

 

はぁ……この傷じゃすぐに死ぬだろうな。アイツらに、絶対に世界帝国を築いて世界から争いを無くすって……約束したんだけどな。

 

あと……あと少しだった……のに……な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしも……第二の生があるなら。今度こそ……。アイツらとの約束を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦1096年6月17日 帝都

 

「……ん。ここは」

 

……懐かしい夢を見た気がする。

 

まぁ良いや。ここは自室のベッド……あ、そうか。昨日、変身魔法を使える暗殺者に。んで、ソイツを無力化して地下牢にぶち込んどけってアレックスに命じて……寝たんだ。

 

朝食の前に身支度整えたらあの少女に会いに行くか。アレックスには手を出すなって言ってるから話は出来るはず。

 

 

            約1時間後

 

 

「よし、行こう」

 

身支度は終わった。さて、地下牢に行くとしようか。

 

お? 何やら行く途中に廊下で真剣に話し合っているベルタとアレックスがいる……何か問題でもあったのかな?

 

「ベルタにアレックス、そんなに真剣に話し合って……何かあったのか」

 

「「アレクシア様、おはようございます」」

 

「いや、別に問題は起きてないんっすけど……」

 

「なんと言いますか……逆に大人しすぎて。何かまだ切り札でも残してるのかどうかについて2人で議論していた次第であります」

 

ふむふむ、なるほど。

 

そういえばあの少女、倒れる前に何やら意味深なこと言ってたな。まぁあの発言的に……ここからさらに敵対とかは無い気がするけど。

 

「それはまあ本人に直接聞くことにするよ。ちょうど、今からあの子に会いに行こうと思ってたし」

 

「あ、なら俺が案内兼護衛として付いて行きますよ」

 

「私は……この後廊下を掃除する仕事があるので。今回は付いていけません。すみません」

 

「今回の付き添いはアレックスか。ベルタは仕事、頑張ってね」

 

「アレクシア様、では行きましょうか」

 

「あぁ、行こうか」

 

「アレクシア様、お気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       アレクシア親衛隊管轄下地下牢

 

「相変わらず私の親衛隊の管轄出来る地下牢は狭いわね……」

 

「親衛隊の規模が第一、二皇女より小さいから仕方ないですよ……それにこの思いをするのもあと一か月ですから」

 

「それもそうね」

 

「……ここですね、彼女が居るのは」

 

言われていた通り、私を殺したがってた割には大人しい。黙って冷たい牢屋の中の地べたに座っている。確かに不気味なほど静かすぎるように見える。

 

……この態度と彼女の発言から考えるに、ひょっとすると私を殺すって言うのは目的ではなく手段なのかも。カイン家への恨みは単純にやりたいことをことごとく邪魔されたからだろうな。

 

「アレクシア様、彼女は牢に入っていますが……お気をつけて。魔法も使えるようですし」

 

「あぁ、分かってる」

 

一応聖剣も腰に差してる。何があるか分からないからね。アレックスの言う通り、気をつけておこう。

 

「……アレクシア様、やはり来ましたか。待っていましたよ」

 

「ほう、私が来るのを読んでいたとはな。じゃあ、何故わざわざ私の親衛隊管轄の地下牢に君を入れたのかも分かるかな?」

 

「そうですね……後に起こす予定の革命のための戦力確保のために……私と交渉するため、とか?」

 

「……大正解だ。よく分かったものだ」

 

「まあ、実はこの推理にはタネがあるのですが……それは交渉が成功したらお教えします」

 

「ふむ、その発言からすると交渉の余地があると?」

 

「えぇ、あります」

 

……余地があるのは大きい。後は私を狙った理由と交渉する際の条件次第

だな。

 

「さて、早速条件を聞きたいところだが……まず、私を殺そうとした理由を教えてくれ。それが分からないと安心出来ない。あぁ、嘘はつかない方が良い。今から君の発言が嘘かどうかくらいなら魔法で判断出来るからな。もし嘘だったら……分かるよね?」

 

ちなみに嘘である。私はそんな便利な魔法は使えない……が、それは相手には分からない。恐らく、嘘を言うリスクを考えれば真実を語ってくれるはずだ。

 

「……あなたを狙った理由はお金です。どうしても必要だったので……皇族を心底嫌っている例の組織と契約しました。それに関しては誠に申し訳ありませんでした。……もちろん、謝ってすむ問題ではないのは分かってますが。あと、お金が欲しかった理由は……今は言えません」

 

「本来なら皇族を殺そうとしようものなら問答無用で死罪になるから今度からはどんなに美味しい契約があったとしても皇族を狙わないことだ。もっとも、そもそも犯罪で稼ごうとするなと言いたいところだが……まぁ何か理由があったんだろう。にしてもまた赤化思想の連中か。後で奴らの討伐案でも練るかな。それはさておき……交渉を始めようか。私は君に私の支配下に暗殺者として入って欲しい。さて、君が私の望み通りにしてくれるために私は何をすれば良いかな」

 

「そうですね……私がアレクシア様に提示する条件は」



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第八話前編 オーストリア=ハンガリー帝国ってロマンあるよね(唐突

皆様、お久しぶりです。


 私は本来、皇族ならば絶対に来ない場所(スラム街)を歩く。

 もちろん、なるべくそこの人たちに皇族だとバレないように色々と細工はしている。敢えて汚した、そこら辺で売っていた最安値の服を着たり、髪を魔法で傷んでいるようにしたり。

 

 まぁ、こんな姿になるのは……元のアレクシアなら無理だろうが(中身)は泥水啜って生きていた時もある思想家兼テロリスト。

 この程度は余裕でやれる。

 

 ただ、ここまでしても元の見た目が良いからかすれ違った男たちからチラチラと見られるが。

 少女の身体というのも不便なものだ。

 あんまり噂とか広まるのダメなんだけど……大丈夫かな? 

 

「アレクシア様、こちらを右です」

 

 私の護衛を担当している親衛隊の4人の騎士のうちの1人が小声で私に言う。

 ちなみに彼らもまたスラムの住人のフリをしてもらっている。

 

 そして右に曲がり少し経った頃、今にも崩れそうなボロボロの外見をした宿屋の建物が見えて来た。

 

「ここ……か」

 

 あの暗殺者の言っていることが本当ならここに目当ての少女が居るはずだ。にしても……まったく、世の中何があるか分からないものだ。まさか、暗殺者一人取り込むために下手をしたら国際問題になりかねないリスクを背負う羽目になるとはね。ただまぁ、上手くいけば……暗殺者一人と将来、私の夢を叶えるため確実に役立つ駒が手に入る。

 

 ここからは一つのミスも許されない。

 

「親衛隊、作戦に従い行動せよ。間違っても現皇帝派の人間に我々の裏を知られるなんて事にならないように」

 

「「「「了解」」」」

 

 4人の騎士のうち、3人は建物の外の物陰に隠れてこの建物に怪しいものが入らないか警戒、1人は私と共に建物の中に入る。

 

 確か……3階の312号室、だったね。

 310……311……312、ここだ。

 

「私が先に入ります。アレクシア様、私の後ろに」

 

 騎士が312号室の扉をノックする。

 ……1、2、3、4。4回のノックがあの暗殺者……いや、あの護衛騎士と例の少女との間で決められた暗号。

 

 そっと、扉が開かれる。

 怯えたようにぼろぼろの、フード付きの上着を着た少女が顔を出す。

 

「……! 貴女達、まさか……!」

 

 少女は私たちが彼女では無いと分かると、即座に扉を閉めようとする。

 なるほど、良い判断だ。

 だが……

 

 ガンッと、私の騎士が自身の剣を少し歪んだ扉の間に入れて無理矢理こじ開ける。

 

「キャッ……や、やだ……わたくし……まだ……」

 

 部屋の中に入ると、尻餅を付いて絶望感溢れる顔をした先程の少女がいる。

 

「安心しなさい、月出る(いずる)王国の姫。私はヴィクトリア帝國第三皇女、アレクシア・フォン・ノーフォーク、貴女の臣下との協定に従い貴女を匿いに来た」

 

「あ……追手じゃない?」

 

 さて、彼女も大人しくなった事だ。

 私の戦い(外交)を始めるとしよう。



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