遊戯王・ミソロジーテイル〈一章終了・一時更新停止〉 (黒霧春也)
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第1話・ことの始まり

 人生とは苦痛と理不尽しか存在しない。何故か、それは上位階級の人達は勝ち組で他の人達が負け組となる。そうなると生まれが低い人は上の人達の為にブラックな環境で働かないといけない。そんな闇を解消するのがデュエルモンスターズだが、それも勝ち組が金に物を言わせたデッキを作り圧倒するので勝ち目がほぼゼロ。その為、人生は生まれガチャと言われる。

 

 この後も恨みつらみの内容を書かれた作文が書かれる。

 

〈早付市、大月学園〉

 

 大都市・早付市の中心部にある広大な敷地を持つ学園。その設備には多大なお金がかかっており、大きなデュエルコートやライディングデュエルができるサーキットなどが存在しており生徒達はデュエルを楽しんでいた。しかし、その中で青春とは真逆の考えを持つ少年がいた。その少年の名前は風見颯汰。現在、彼は今現在担任教師に捕まって生徒指導室に連れてこられていた。

 

 ーー

 

 今現在、目の前にいる担任教師の威圧を半ば受け流してお茶を飲む。

 

「……おい風見。お前は私の話を聞いているのか?」

「えっと、学食を奢ってくれる事ですか?」

「違うわ馬鹿者! 私が言っているのはこの作文だ!!」

 

 目の前にいる黒髪ロングの女性教師であり、高等部1年3組の担任である松永先生は目つきを鋭くして俺に向かってギロリと睨んだ。

 

「私が出した課題を覚えているか?」

「えぇ、世の中とは何かですよね」

「そうだ! それで提出された作文を読んだが真っ黒な闇しかなかったぞ」

「でしょうね」

「でしょうね……じゃない! お前はこの世の中をどう思っているんだ?」

「醜い争いの連鎖と闇しかない現実」

「そこまでストレートに言うか」

 

 正直、ブラック企業は長時間残業に給料未払い。人達は自慢やマウントの取り合いで周りが見えてない。この現実をつらつら書いたが松永先生はお気に召さなかったようだ。

 

「あの、逆に嘘の明るい話を書いて楽しめますか?」

「明るい話を嘘と言えるお前はズレてないか」

 

 明るい話を嘘と言い切った俺に松永先生は可哀想な人を見る目になった。

 

「確かに周りとはズレているとは思います」

「それなら何故周りと合わせないんだ?」

「正直、自分が爪弾き物になるのは目に見えているので空気を読まずに壊しました」

 

 ハッキリ言って友情や努力は嫌いだ。理由はいくつかあるが、簡単に言えば裏切るところだけを強く思い浮かべる。

 

「高校が始まって2週間。私のクラスでこんな問題児がいるとは思わなかったぞ」

 

 問題児……昔から言われてきた言葉にイラッとして歯を噛み締める。

 

「おっ、目つきが変わったな」

「えぇ。正直、この話は聞いても意味がないと思いました」

「そうか……私も同じ事を思ったぞ」

 

 松永先生は立ち上がって懐からある物を取り出す。

 

「この話はデュエルで決着つけるぞ!」

 

 彼女が取り出したのはデュエルディスク。タイプはデッキを装着するとプレートが出現する主力モデル。それを見た俺も立ち上がって言葉を発する。

 

「ここは狭いので移動しましょう」

 

 決して広くない部屋なので場所のチェンジを申し上げる。

 

「あぁ、そうだな」

 

 周りを見た松永先生も頷き、俺達は生徒指導室から出る。

 

〈大月学園・デュエルエリア〉

 

 高等部の区画からデュエルができる場所に移動。この場所は天井が付いているドームや外の区画もあり、設備が充実している。そして、生徒達は自分達の仲間と集まって対戦を楽しんでいるみたいだ。

 俺はその光景を見てため息を吐くが、松永先生はコチラをガン見していた。

 

「風見、お前はこの風景を見ても作文の内容を肯定できるのか?」

「できますよ」

「なるほど、それなら私が教えないといけないか」

 

 デュエルリンクに立った松永先生はコチラをしっかり見て喋る。

 

「この世界は明るい事にあふれているとな」

「……」

「無言か、なら一つ賭けをしないか?」

「賭けですか?」

「あぁ! お前が勝ったら私が出来る事ならなんでも言う事を聞いてやる」

「ふむふむ、なら先生が勝った場合は?」

「それはある部活に入ってもらう」

「嫌な予感がしますがやりますね」

 

 俺は自分の左腕にデュエルディスクをセッティング。松永先生は笑って距離をとった。

 

「約束は忘れるなよ!」

「えぇ、当たり前ですよ」

 

 俺と松永先生は一定の距離をとった後、デュエル開始の合図をする。

 

「「デュエル!」」

『ARビジョン、リンク完了』

 

 デュエル開始と同時にARビジョンがリンクされ、フィールドの中心からデジタルな数字が周りを巡った。

 

 風見LP4000VS松永LP4000

 

 先行は松永先生なので相手の動きを観察する。

 

〈ターン1〉

 

「私のターン! 私はフィールド魔法〈竜の渓谷〉を発動! このカードの効果で手札の〈ラビードラゴン〉を捨て、デッキから〈トライホーン・ドラゴン〉を墓地に送る」

「なるほど、ドラゴン族デッキ」

 

 竜の渓谷〈フィールド魔法〉

 

 高火力モンスターが揃っているドラゴン族デッキはかなり厄介。でも、コチラも手札がいいので安心して相手を見る。すると松永先生はその大きな胸を張りながら自慢してきた。

 

「給料を使って作った大人のデッキだ! コレでお前に負けたら私は泣くぞ!!」

「その現実は知りたくなかったですよ!」

 

 大人のメンタル問題。松永先生の発言に呆れながらデュエルの続きを見る。

 

「デュエルに戻って、私は魔法カード〈おろかな埋葬〉を発動! デッキから〈アークブレイブ・ドラゴン〉を墓地に送る! そして速攻魔法〈銀龍の轟咆〉を発動! 墓地の通常モンスターである〈ラビードラゴン〉を蘇生させる!」

 

 おろかな埋葬〈通常魔法〉

 銀龍の轟咆〈速攻魔法〉

 ラビードラゴン(通常モンスター)

 レベル8、ドラゴン族、光属性(攻撃表示)

 ATK2950、DFF2900

 

 目まぐるしく動く展開の結果、松永先生の前には白色と黄色が混ざった大型モンスターである〈ラビードラゴン〉が特殊召喚された。そのモンスターは特殊召喚された時に大きな咆哮をして周りの生徒の注目を集めた。

 

「おお、スゲェ!」

「あの先生、大型モンスターを特殊召喚したぞ」

「あの対戦相手の黒髪、最初から〈ラビードラゴン〉を相手しないといけないのか」

 

 この世界のデュエルは大型モンスターを出したら有利。つまりはステータス至上主義の人達が多い。

 

「あの、いきなり大型モンスターを召喚してもよかったのですか?」

「なんだ、ビビってサレンダーの申し出か?」

 

 質問しただけなのにビビっていると勘違いした松永先生の言葉。それを聞いた俺は首を横に振って言葉を続ける。

 

「〈銀龍の轟咆〉はこのタイミングで使うよりも俺のターンで使った方がいいと思っただけですよ」

「何を言っているんだ? 大型モンスターはカッコよく出すもんだぞ」

 

 コチラの意図が伝わってないみたいで相手に否定された。俺はこれ以上は説明するのは難しいと思って黙る。

 

「結果的にあいつは何を言いたかったんだ?」

「〈ラビードラゴン〉にビビっているだけだろ」

「ひ弱そうよね」

 

 周りの生徒達の視線は松永先生の〈ラビードラゴン〉に注がれている。この状況は少しマズイと思い言葉を話す。

 

「松永先生、デュエルを続けてください」

 

 コチラの言葉に相手は頷き、デュエルを再開した。

 

「私は手札から〈アレキサンドライドラゴン〉を召喚!」

 

 アレキサンドライドラゴン(通常モンスター)

 レベル4、ドラゴン族、光属性(攻撃表示)

 ATK2000、DFF100

 

 今度は黒い皮膚を持ったドラゴン〈アレキサンドライドラゴン〉を召喚。周りの生徒達は松永先生のドラゴンに目をキラキラさせていた。

 

「ここまでかっこいいドラゴンが揃うなんてな」

「アイツに勝ち目はないし、このまま写メを撮ろうぜ」

「そうね!」

 

 周りの声に松永先生は笑って拳を天にあげていた。

 

「私はコレでターンエンド! さてと、お前は無様に負けるかこのドラゴンモンスターに蹂躙されるかだな」

 

 松永LP4000、手札0枚

〈フィールド〉

 ラビードラゴン(攻撃表示)

 アレキサンドライドラゴン(攻撃表示)

〈魔法・罠〉

 竜の渓谷(フィールド魔法)

 

 この言葉にため息を吐きつつ俺は冷静に言葉を返す。

 

「それは嫌なので足掻かせていただきますよ」

 

 俺はこの状況から逆転する為にデッキトップに手を置く。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードと今手札にあるカードを組み立て俺は進み始めた。

 

 

 

 

 



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第2話・光刃(こうじん)デッキ出陣

 相手のフィールドには攻撃力2950の〈ラビードラゴン〉と攻撃力2000の〈アレキサンドライドラゴン〉が存在している。その中で俺はデッキのカードをドローした。

 

〈ターン2〉

 

 俺がデッキからドローした後、松永先生がカードの効果を発動した。

 

「スタンバイフェイズ時、墓地にある〈アークブレイブドラゴン〉の効果発動! このカード以外のレベル7.8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する! こい〈トライホーン・ドラゴン〉!!」

 

 トライホーン・ドラゴン(通常モンスター)

 レベル8、ドラゴン族、闇属性(攻撃表示)

 ATK2850、DFF2350

 

 青い皮膚に角みたいなトゲが身体中から生えている悪魔的ドラゴン〈トライホーン・ドラゴン〉を特殊召喚。松永先生は自信満々のドヤ顔でコチラを見てくる。

 

「どうだ! 私のドラゴン軍団は!!」

「……」

「無言か。まぁ、この状況なら仕方ないか」

 

 ドンドン俺の評価が下がっている気がするが、元々ないような物なので無視して進める。

 

「メインフェイズ、俺は手札から速攻魔法〈光刃・逆襲の剣〉を発動! デッキからレベル4以下の〈光刃〉モンスター1体を特殊召喚できる」

「今更何を呼んでも変わらんぞ!」

「……と、思いますよね」

 

 この状況でレベル4以下のモンスターを呼んでも壁にしかならない。とか周りの生徒達が叫んでいるが、俺は淡々とディスク画面をスクロールしてカードを選ぶ。

 

「アイツ、何がしたいんだ?」

「この状況で覆せるカードはほとんどないわよね」

「あぁ。一応覆せる〈ブラックホール〉や〈ライトニング・ボルテックス〉もオレ達じゃあ手が出せないカードだぞ」

「だな、あんな奴が持っているわけないよな」

 

 生徒達は好き勝手言ってコチラを怪訝な目をコチラに向ける。それをチラッと見た俺は心の中でため息を吐きながら画面のカードをタッチする。

 

「……〈逆襲の剣〉の効果でレベル4の〈光刃・ガドル〉を特殊召喚! そしてガドルの効果、同名以外の〈光刃〉モンスターを手札から特殊召喚できる。この効果で〈光刃・メルナ〉を特殊召喚!!」

 

 光刃・逆襲の剣(速攻魔法)〈オリカ〉

 効果、このカードの①の効果は1ターンに一度しか使えない。①デッキからレベル4以下の〈光刃〉モンスター1体を特殊召喚できる。

 

 光刃・ガドル〈効果モンスター〉〈オリカ〉

 レベル4、戦士族、光属性(攻撃表示)

 ATK1700、DFF1000

 効果、①このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、手札から〈光刃・ガドル〉以外のレベル4以下の〈光刃〉モンスター1体を特殊召喚できる。②1ターンに一度、墓地のこのカードを除外して発動できる。フィールドのモンスター1体を選択してエンドフェイズまで効果を無効にする。この効果は相手ターンでも使用できる。

 

 光刃・メルナ〈効果モンスター〉〈オリカ〉

 レベル4、戦士族、光属性(攻撃表示)

 ATK1600、DFF1200

 効果、このカード名の①、②の効果はそれぞれ1ターン一度しか発動できない。①このカードが召喚・特殊された場合、デッキから〈光刃〉カード1枚を手札に加える。②、墓地のこのカードを除外してデッキから〈光刃〉モンスター1体を手札に加える。

 

 最初に呼んだ〈光刃・ガドル〉は筋骨隆々の厳つい男性。彼が装備している大きな大剣を地面に突き刺すと召喚陣が現れた。その中から高校生くらいの金髪の女騎士が長剣を腰から引き抜きフィールドに現れた。

 

「この状況で雑魚モンスターを呼んでも壁にしかならないぞ!」

「えぇ、知ってます。でも俺のターンは終わってないですよ」

 

〈光刃・メルナ〉はこのデッキのエンジンなのでガンガン回し始める。

 

「俺は〈光刃・メルナ〉の効果発動! 1ターンに一度、このカードが召喚・特殊召喚された場合・デッキから〈光刃〉カード1枚を手札に加える。この効果で〈光刃・ライトブレイカー〉を手札に加える!」

「チッ、その様子だとエースカードか」

 

 松永先生は俺がサーチした〈光刃・ライトブレイカー〉を警戒しているが、伏せカードもないので対抗策はないはずだ。

 俺はそう思ってフィールドのガドルとメルナのカードをプレートから取り外し墓地に送る。

 

「フィールドのモンスター2体をリリースしてアドバンス召喚! 現れろ、レベル8!〈光刃・ライトブレイカー〉!!」

 

 地面に現れた穴に光刃モンスター2体が入った後、自分のフィールドにカードが置かれて中から俺のエースモンスターである〈光刃・ライトブレイカー〉を召喚。その姿は金色のフルプレートアーマを着た金髪の剣士で、右手と左手には長さの違う剣を持ち相手モンスターを睨んでいた。

 

 光刃・ライトブレイカー(効果モンスター)〈オリカ〉

 レベル8、戦士族、光属性(攻撃表示)

 ATK2500、DFF2000

 効果、①このモンスターが相手モンスターを破壊した場合、そのカードの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。②自分・相手のメインフェイズに発動できる。手札・フィールド・墓地のこのカードを除外してデッキからレベル4以下の〈光刃〉モンスター1体を特殊召喚できる。

 

「確かにいいモンスターだが、ソイツでは私の〈アレキサンドライドラゴン〉しか倒せないぞ」

「それはどうかな?」

「!? なに!」

 

 俺は墓地に送られたカードを確認して効果を発動する。

 

「俺は墓地にいる〈光刃・メルナ〉の効果発動! 1ターンに一度、自身を除外してデッキから〈光刃〉モンスター1体を手札に加える! この効果で〈光刃・ムーン〉をサーチする」

「は!? 1枚で2枚のサーチができるのか!」

 

〈光刃・メルナ〉の効果に対戦相手の松永先生は驚き、周りの生徒達は固まっていた。

 

「あのカードだけで2枚もサーチできるのは強くないか?」

「というか、回りも凄くないかしら?」

「だな……あのデッキ、上級モンスターを呼んでも手札が5枚残っているぞ」

 

 手のひらをクルクルしている奴らの言葉を聞きながらデュエルを続ける。

 

「だ、だが! このターンで〈アレキサンドライドラゴン〉を倒しても、次のターンで私のドラゴン達を使ってお前のエースを倒せるぞ」

「普通ならそうですよね。でも、そうじゃないんですよ」

 

 俺は目の前にかっこよく剣を構えている〈光刃・ライトブレイカー〉と相手のドラゴン軍団を交互に見た後、大きな声で言葉を発する。

 

「バトル! 俺は〈光刃・ライトブレイカー〉で〈ラビードラゴン〉を攻撃(ホーリー・エンド)!!」

「!? 攻撃力は〈ラビードラゴン〉の方が上だぞ!」

「えぇ、知ってますよ」

 

 松永先生の発言と周りの生徒達は俺の事を馬鹿だと思ってそう。ただ、勝手な被害妄想でもあるので雑念を頭から消してあるカードを使う。

 

「この瞬間、手札の〈光刃・ムーン〉の効果発動! 自分フィールドの光属性モンスター1体を選択して、その攻撃力をエンドフェイズまて1500ポイントアップさせる!」

「ぐっ! 狙っていたのはコレか!!」

「えぇ、そうですよ!」

 

 光刃・ムーン(効果モンスター)オリカ

 レベル4、戦士族、光属性

 ATK1500、DFF1200

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①手札のこのカードを墓地に送り、フィールドの光属性モンスター1枚を選択して発動できる。エンドフェイズまで攻撃力を1500ポイントアップさせる。②墓地のこのカードを除外して、自分フィールドの光属性モンスター1枚を選択して発動できる。そのモンスターはこのターン、相手のカード効果を受けない。この効果は相手ターンでも使用できる。

 

 光刃・ライトブレイカー

 ATK2500→4000

 

 さっき手札に加えた〈光刃・ムーン〉の効果を使い〈光刃ライトブレイカー〉の攻撃力が上がり、反撃してくる〈ラビードラゴン〉の首を持ち前の剣で一刀両断。悲鳴をあげる〈ラビードラゴン〉は粒子に変わり爆発した。

 

「ぐうぅ!」

 

 光刃・ライトブレイカー、ATK4000

 VS

 ラビードラゴン、ATK2950

 ダメージ1050

 松永LP4000-1050=2950

 

 戦闘でのダメージの突風を受けた松永先生は、歯を食いしばってその場に留まった。

 

「〈ラビードラゴン〉は破壊されたが私のフィールドには〈トライホーン・ドラゴン〉と〈アレキサンドライドラゴン〉が残っている!」

「えぇ、そうですね」

「しかも〈光刃・ライトブレイカー〉の攻撃力はエンドフェイズ元に戻るから私のドラゴンで倒せるぞ」

「あの……そろそろ現実を受け入れてください」

 

 松永先生の目の前には剣を光輝かせている〈光刃・ライトブレイカー〉が存在していた。

 

「あ、あ」

「〈光刃・ライトブレイカー〉の効果。このカードが相手モンスターを破壊した場合、元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

〈光刃・ライトブレイカー〉は空高く上げた剣を振り下ろし松永先生の残ったライフを擦りとった。

 

「ぐ、あぁ!」

 

 剣戟をまともに受けた松永先生は後ろの壁の方に吹き飛び思いっきりぶつかった。それを見た俺は安堵しつつ、ARビジョンが終了する光景を見る。

 

 ダメージ2950

 松永LP2950−2950=0

 勝者・風見颯汰

 

 



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第3話・キッカケ

『ARビジョン、解消完了』

 

 デュエルの決着がつき。賭けは俺の勝ちなので松永先生にある事を聞いてもらう。

 

「この賭けは俺の勝ちなので言う事を聞いてもらいますよ」

「あぁ」

 

 あの場所では目立つので生徒指導室に戻ってきた。だが、松永先生は放心状態で話を聞いているのかよくわからない。

 

「それでは……って、ハッキリ言えば特にないので貸しにしときますね」

「それでいいのか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 ここで〇〇とか命令したら俺の人生が終わると思いマシな選択を選ぶ。

 

「ハァァ、私は何をやっているんだろうか」

「いきなり何ですか?」

「いやな、問題児の更生すらできない私はダメだなと思っただけだ」

「その問題児の性格が捻くれているから無理なんですよ」

「それを自分で言うか?」

 

 コチラのボケに松永先生は苦笑いで突っ込み。ため息を吐いた彼女はソファに深く座りお茶を飲んだ。

 

「まぁ、ある意味計算外の事は起きたが面白い事になりそうだ」

「それは嫌ですね」

 

 このまま目立たず静かに生活したいのに面倒事はごめん被る。

 

「嫌だとは思うが、さっきのデュエルでお前は目立ったぞ」

「……でしょうね」

 

 あの状況から後攻ワンキルをした俺は生徒達からいろんな感情が混ざっている目で見られた。

 

「さてと、私は仕事があるから離れるな」

「はい。俺も失礼します」

 

 問題になった作文の事を言われるのは嫌なのでさっさと生徒指導室から出る。

 

 ーー

 

 教室に戻って鞄を回収した後、大月学園の校門を潜り街の中を歩く。

 

「やっぱり早付市は都会だよな」

 

 俺の目に入るのは空に浮いている車にビルに取り付けられている大きなモニター。他にはオボットと呼ばれる卵型のロボットが街のゴミを集めている。

 

「確か街の人口は100万人くらいだったな」

 

 そうなると街に捨てられるゴミも多いと思いつつ、街を歩いていると大安売りのスーパーの広告を目にする。

 

「今日は豚バラや鶏モモが安いのか」

 

 豚バラなら生姜焼き、鶏モモなら唐揚げが頭に浮かんだ。この選択になり俺は前者の生姜焼きを選ぶ。

 

「醤油や生姜はあるし、豚バラをメインで買っていくか」

 

 少し離れた場所に広告のスーパーがあるのでビル街を歩きながら目的地を目指す。

 

「ここだな」

 

 到着したスーパーの自動ドアが開いたので中に入りカゴを手にする。

 

「うーん、野菜はキャベツだよな」

 

 キャベツの千切りは生姜焼きに必要だと思い半玉のをカゴに入れる。次に生肉コーナーに行き豚バラを回収。そしてアイスコーナーにいく。

 

「普通にチョコモナカでいいか」

 

 俺が選んだのはモナカの中にアイスと板チョコが入っている品物。コレもカゴの中に入れると後ろから声をかけられた。

 

「やあ颯汰」

「この声は詩音か」

「そうだよ」

 

 声がした方に振り向くと青髪ショートの少年に見える少女、宮国詩音がスーパーのカゴを持って立っていた。

 

「まさか、タイミングがぱっちりとはね」

「……何か企んでいるな」

「えー、ボクがそんな顔をしているかな?」

「しているぞ」

 

 嫌な予感がする。そう思ってモナカアイスをカゴに入れて離れようとしたが、詩音が右手で俺の肩をガッチリ掴んだ。

 

「お、おい」

「困っている少女を無視するのかい?」

「……困っているよりも企んでいるの間違いじゃないのか」

 

 コイツの面倒さはよく知っているのでため息を吐く。

 

「あー! なんでため息を吐くのさ」

「自分の心に聞いてみろ」

「うーん、何も聞こえないけど」

「……」

「ここで無言はやめてよ」

 

 コイツの心は自分勝手にできているのか?と感じながら俺は言葉を発する。

 

「とりあえず食料を買いたいから手を離してくれ」

「なら、買い終わった後はボクの話に付き合ってよ」

「長くなりそうだから嫌だ」

「そう……ならこの手は離さないよ」

「ちょ、おま!」

 

 このままだと周りの人達がコチラを見て勘違いしそうなので少し考えて内容を口にする。

 

「わかった。話くらいは聞いてやる」

「おぉ! よかったよ」

 

 俺の肩から手を離した詩音はとびっきりの笑顔になってコチラを見てきた。ただ、この表情を見た俺はイラッときたが感情を抑える。

 

「ただ、ここで話すのはマナー的に問題だと思うし場所を変えよう」

「あぁそうだな、って! 何故お前は俺のカゴに高級アイスを入れているんだ?」

 

 一個300円以上するアイスを元の棚に戻し会計をする。でもこの行動に納得してない詩音は口を尖らしていた。

 

「君はケチだね」

「ケチで結構だ」

 

 会計が終わったのでスーパーから出て近くにあるカフェに入る。そこで俺は店員さんにアイスコーヒーを頼み、目の前に座っている詩音に質問する。

 

「さてと、俺をここに連れてきた理由はなんだ?」

「そんなのは決まっているよね」

「……ゴールデンウィークに開催されるデュエルの大会の事か?」

 

 この街にはデュエルモンスターを管理している会社の建物があり。街に住んでいる人達限定でデュエル大会が開かれ、参加条件はプロの資格を持たないアマチュア達が参加できる。

 

「そう! その大きな大会、ディスティニーカップ(DK)に僕も参加するんだよ」

「なるほど、それなら優勝を目指して頑張ってくれ」

 

 正直俺には関係ないので適当に話を聞こうと思ったが、詩音はどんでもない言葉を口にする。

 

「あー、その大会の件で君にお願い事があるんだよね」

「先に言うが俺は参加しないぞ」

 

 静かに暮らしたい俺は参加する事を拒否する。しかし、それに納得しない奴が1人。

 

「言うと思ったよ。でも、君には参加して欲しいんだ」

「……ハァ、お前な」

「君が言いたい事はわかるけど過去を変えられるのは自分しか出来ないよ」

 

 俺の過去を知っているコイツの言葉に頭が痛くなる。

 

「それにデュエルが強かっただけで、周りからハブられたトラウマがある君には辛い事かもしれないけどね」

「それなら!」

「確かに君の気持ちはボクにはわからないよ。でも、このまま引きずっても苦しいのは君の方だよ」

 

 詩音の言葉に胸が痛いがそれでも参加する理由にはならない。そう思って少し揺さぶりをかけてみる。

 

「さっきから綺麗事を言っているがお前の本当の狙いはなんだ?」

「僕の狙いはこの大会の優勝賞品である賞金と金色のトロフィーに決まっているよね!」

「……そうか」

 

 楽しむだけで出る人もいると思うのでそこは否定しておく。そして、店員さんが俺のアイスコーヒーと詩音のココアをテーブルに置いた。

 

 ーー

 

 アイスコーヒーを飲んだ後、俺と詩音はスマホを使って大会登録をした。

 

「うん! コレで大会出場できるね」

「だな」

 

 あんまり気乗りしないが、お冷を飲みながら大会のルール説明を見る。

 

「予選はレッドコアを12個集めて大会受付に持っていくのか」

「うん、そうみたいだね」

 

 ただ、最初に配布されるレッドコアは2個。なので単純に考えると連敗したら失格になる。

 

「ルールは難しくないけど受付で出待ちされると厄介だね」

「いや、12個集まった時点でレッドコアを賭けるデュエルは行えないみたいだぞ」

 

 予選突破できるのにデュエルする人は少ないと思いながら最後まで読む。

 

「最後に予選の期間は3日間か」

「そうみたいだね」

 

 予選と本戦を含めて1週間、ゴールデンウィークが全部潰れる計算だ。

 

「さてとルールは見たしデッキ調整とか必要だね」

「だな」

 

 お冷を飲み終わり会計をしてカフェから出で、俺は詩音と別れて自分の家に帰る。



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第4話・クラス対抗デュエル

 次の日、自分のクラスである1年3組に入り自分の席に座る。すると近くで喋っているクラスメイト達の声が聞こえる。

 

「なぁ! 今回のDKの優勝賞品とか見たか?」

「あぁ、見たぞ! 賞金500万円に金色の優勝トロフィーだったな」

「もしオレ達の誰かが優勝したら山分けしようぜ」

 

 離している人達の言葉を聞いていい友情だと思い心の中で嘲笑う。その理由は実際に山分けする気がないのが丸わかりに見えるからだ。でも、俺の勝手な予想なので本当に山分けをする気の可能性もあるので黙っておく。

 

(友情なんて簡単に崩れる)

 

 この言葉が頭の中から離れない俺は首を横に振る。そしてチャイムが鳴り担任の松永先生が教室の中に入ってくる。

 

「日直、号令を頼む」

「はい! 起立、礼!」

「「「おはようございます」」」

「あぁ、おはよう」

 

 松永先生の声でクラスメイトは自分の席に座り朝のHRが始まった。

 

 ーー

 

 授業は4限目が終わり昼休み。俺は購買でパンの詰め合わせセットとお茶を購入してある場所に向かう。

 

「ここなら大丈夫か」

 

 俺が来た場所はデュエルコートの観客席。ここでデュエルをしている人達の動きを見ながらパンを食べる。

 

「おれは〈ブラッド・ヴォルス〉に〈デーモンの斧〉を装備! コレで攻撃力が1000ポイントアップするぜ!」

「攻撃力2900。それならアタシのモンスターを破壊できるわね」

 

 フィールドを見ると〈ブラッド・ヴォルス〉側は金髪でガラの悪い男子生徒たちで対戦相手は赤髪ツインテールの目つきが鋭い女子生徒。有利なのは男子生徒に見えるが、女子生徒のフィールドには赤い鎧を着た女戦士のモンスターと伏せカードが1枚セットされていた。

 

(あの伏せカードが何かだよな)

 

 攻撃反応系の可能性もある。そう思って観察していると男子生徒がドヤ顔で言葉を発した。

 

「バトル! おれは〈ブラッド・ヴォルス〉で〈スカーレットレディ・ソルジャー〉を攻撃!」

「貴方今、攻撃と言ったわね」

「あ? それがなんだ?」

 

〈ブラッド・ヴォルス〉が斧を振り上げて攻撃を仕掛ける。しかし、女子生徒は冷静に伏せカードを発動した。

 

「リバースカードオープン〈炸裂装甲〉」

「ま、まさか」

「えぇ。この罠カードを使って攻撃してきたモンスター〈ブラッド・ヴォルス〉を破壊するわ」

「そ、そんな……」

 

〈炸裂装甲〉の効果で〈ブラッド・ヴォルス〉が破壊された。そして、次のターンで〈スカーレットレディ・ソルジャー〉の攻撃で男子生徒のライフが0になり決着がついた。

 

「貴方のプレイングは攻撃に偏りすぎているわね」

「チッ! うるせーな」

 

 地面から立ち上がった男子生徒は捨て台詞を吐きデュエルランクから離れていった。それを見ていた女子生徒はため息を吐いた。

 

「この程度のデュエリストしかいないなんて満足できないわね……」

「恋歌様! 素晴らしいデュエルでしたよ」

 

 赤髪の女子生徒の取り巻きに見える女子生徒達が集まりワイワイと言葉を発していた。

 

「この調子ならDKも恋歌様の優勝ですよ」

「それはわからないわ。多分だけどこの街にはまだ強いデュエリストがゴロゴロいると思うわよ」

「そうですか? この学園で腕利きと呼ばれるデュエリスト達を叩き伏せた恋歌様なら普通に勝つと思いますよ」

 

 取り巻き達の言葉に恋歌と呼ばれた赤髪の女子生徒は不服そうな顔で頷いていた。それを見た俺は食べ終わったパンの袋をポケットにしまって立ち上がる。

 

(次はどうなるかだな)

 

 あの赤髪の女子生徒と対戦する事になったら厄介だと思いながらデュエルコートから出る。

 

 ーー

 

 昼休みは適当な場所で過ごして時間潰しをした後、予鈴が鳴ったので教室に戻る。

 

「おい、聞いたか? 午後の授業はデュエルなったぞ」

「マジか! 先生も太っ腹だよな」

「DKに向けてデッキ調整ができるわね」

 

 クラスメイトは盛り上がっているが俺は無視して自分の席に座る。

 

(いきなりだな)

 

 午後の授業は現国と数学IIだったはず。それをやらずにデュエルをやっていいのかと思うが気にしても仕方ないので考えるのをやめる。

 

「そろそろチャイムが鳴るしすわるか」

「だな! 変な事をしてデュエルができなくなるのは嫌だからな」

 

 いつもは騒がしい奴らも今は静かに席に座り。本鈴が鳴り松永先生が教室に入って来る。

 

「さてと、知っている奴らもいると思うが午後の授業は急遽デュエル会になったぞ」

 

 この言葉で生徒達は嬉しそうな表情変わった。だが、松永先生は渋い表情で続きの言葉を口にする。

 

「ただ、最初に1組の代表とデュエルする事にもなった」

「!? 1組って、あの赤城がいるクラスですか?」

(なるほど)

 

 赤城は中等部時代に何回か名前を聞いた記憶を思い出す。その時は凄腕のデュエリストや烈火の姫とかの噂を聞いた。

 

(まぁ、俺は見ているだけだし大丈夫か)

 

 こう思って余裕がある考えをしていたが実際は違う未来になった。

 

〈大月学園・デュエルコート〉

 

 昼休みも来たデュエルコートに到着した俺達1年3組の生徒は観客席に座る。すると違う入り口から1年1組の生徒達が入ってきたがその表情は気持ち悪かった。

 

「おいおい、なんだあの気持ち悪さは?」

「わからないわ」

 

 クラスメイト達は引いているが、相手の生徒達は気持ち悪い笑みをやめない。

 

「ま、まぁ。普通にデュエルをするだけだし大丈夫だよな」

「そうよね」

 

 思いっきりビビっているクラスメイト達をよそに、松永先生は1年1組の担任である大岩先生に声をかける。

 

「大岩先生、さっきぶりですね」

「そうだな」

 

 大岩先生の見た目は筋骨隆々で茶髪短髪の30代前半くらいの大男なので、言い方は悪いが威圧感が凄い。

 

「逃げずに来るとはな? まさか、生徒達に説明してないのか?」

「そ、それは……」

(うん? なんか雲行きが怪しくなってきたぞ)

 

 なんか先生同士の話し合いがあるみたいなので、俺は自分の席に座りながら目を向ける。

 

「このデュエル対戦はどちらの生徒が優秀なのか決める戦いなのを忘れたのか?」

「えぇ、覚えてますよ」

(あーなるほど)

 

 1年3組はデュエルで腕利きと呼ばれる生徒はいない。でも1年1組は優秀なデュエリストが揃っている。そうなるとあちらさんはコチラを叩き潰せて見下せる。つまりは優越感に浸れる。

 

(また厄介な事になったな)

 

 俺はその話を横目に聞きながら色々考え始める。すると松永先生が大岩先生に向かって言葉を発する。

 

「それと今回のルールは3対3のシングルデュエル。先に2人勝てば決着がつく戦いですよね」

「いきなり話が飛んだが、ルールはあっているぞ」

 

 高岩先生がいやらしい目つきで松永先生を見た為、その視線を受けた松永先生は眉を顰めていた。

 

「ここで無駄話をしていても時間が過ぎるだけなので始めましょう」

「お前が仕切るのは気に食わないがその通りだな」

 

 不服そうな高岩先生は自分の生徒達の元に戻っていった。その後、クラスメイトの1人が松永先生に質問する。

 

「先生! 今回参加する生徒達は誰ですか?」

「あぁ、もう決まっているぞ」

 

 この言葉を聞いたクラスメイト達は全員松永先生の方を見る。そして参加するメンバーを決められた。

 

「1番手は羽川、2番手は香坂、ラストは風見だ」

(なるほど……って! ラストは俺かよ!?)

 

 思わず席から立ち上がった俺を見た松永先生は笑顔になって言葉を口にした。

 

「昨日私を後攻ワンキルしたお前を頼りにしているぞ」

「嫌です。お断りします!」

 

 流石にこの状況でヤバいと思いなりふり構わずやめたい言葉を発するが、クラスメイトの1人が口を開く。

 

「松永先生を後攻ワンキルできるなら任せられるな」

「そうね! アイツらを倒してよ」

「なんならボコボコにしても良くないか?」

(コイツら……)

 

 自分達が参加しないから好き勝手言っている。なので俺はその生徒達に向かって一言。

 

「そう思うなら変わってくれるか?」

「う、いや、お前が選ばれたから遠慮するよ」

「いやいや、そんだけ大きな口を叩けるなら大丈夫だろ」

「チッ、空気を読めよ」

(あーあ、この言葉か)

 

 こうなったら俺は空気を読めない奴としてクラスで虐められる事になる。でもそうなったら訴えたらいいと思いため息を吐く。

 

「待て待て、ここで喧嘩するな」

 

 ヒートアップしてきたので松永先生が止めに入って相手の生徒は渋々席に座った。俺はその生徒を並んだ後、自分の席に座る。

 

(どいつも口だけのクズめ)

 

 正直ここまできたら目立たないのは不可能なので、何も言わずに1番手のデュエルを観戦する。

 

 



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第5話・海皇の襲撃

 3組の1番手である羽山はオレンジ髪で整った顔立ちをしているイケメンでクラスの人気者。だが、デュエルの腕前は噂になってないのでそこまで強くないと思われる。対する1組の1番手は青髪ロングの女性・水上だ。彼女は水属性のデッキで大会入賞する程の腕前を持つ実力者だ。

 

「貴方をさっさと倒して次に繋げるわ」

「大会入賞者と戦えるのは光栄だね」

 

 水上の棘のある発言に羽山は面白そうに笑って言葉を返す。そして、2人がデュエルディスクを構え開始宣言を口にする。

 

「「デュエル!」」

『ARビジョン、リンク完了』

 

 羽山LP4000VS水上LP4000

 

〈1ターン目〉

 

 先行は羽山みたいで手札のカードをデュエルディスクのプレートに置く。

 

「オレはモンスターをセットしてターンエンド」

 

 羽山LP4000、手札4枚

 フィールド

 裏守備モンスター×1

 魔法・罠

 なし

 

 羽山は裏守備モンスターをセットしただけで終わり、相手の水上は無表情でデッキからカードを引いた。

 

〈ターン2〉

 

「わたしのターン! わたしは手札から永続魔法〈ウォーターハザード〉を発動! このカードの効果で手札の〈海皇の竜騎隊〉を特殊召喚する!」

 

 水上が呼んだのは銀色と金色の水竜に乗った騎士で、手に持った槍を羽山に向けていた。

 

 ウォーターハザード〈永続魔法〉

 海皇の竜騎隊(効果モンスター)

 レベル4、海竜族、水属性(攻撃表示)

 ATK1800、DFF0

 

 攻撃力は下級アタッカーでは高めのステータス。ただ、コイツの怖さは攻撃力ではない。

 

「そのモンスターでオレの裏守備モンスターを攻撃するのかな?」

「……そんな短絡的なデュエルはわたしはしないわ」

「ならどうするんだい?」

 

 ここで煽りを入れた羽山だが、それを冷静に返答する水上に周りの生徒達は驚いていた。

 

「おれも〈海皇の竜騎隊〉で攻撃すると思っていたぜ」

「いや、魔法カードで強化するんじゃないのか?」

「あー〈アクアジェット〉とか相性がいいのよね」

 

 水属性デッキなら〈アクアジェット〉も採用できるが、多分それだけじゃない。

 

「ここまでプレイングの予想が浅いとは笑えるな」

「バカなんだろ」

「それじゃあウチらに一生勝てないわね」

 

 少し離れた場所で座っている1組の生徒達がコチラをバカにする発言をする。それを聞いた3組の生徒達は声を荒げた。

 

「ならお前らはこの後の展開がわかるかよ!」

「あぁ、もちろんだ」

 

 クラスメイトの言葉に向こうは頷いた後、見下すような視線でコチラを見ながら口を開く。

 

「先に答えを言うと、このターンであのオレンジ髪は負けるぞ」

「は? なんだと!」

「まぁ、見てろよ」

 

 もはや手に転がされているクラスメイトに相手の生徒はため息を吐きデュエルリンクを指さす。

 

「すまない、クラスメイトが失礼した」

「確かに無知は罪ね」

「……」

 

 羽山は水上に向かって頭を下げるが、対する彼女は不服そうにコチラを見ていた。

 

「さてと、デュエルを続けてくれないか?」

「別に貴方に言われなくても進める」

 

 水上は手札のカード引き抜きディスクに置いた。そのカードはこのデュエルに大きな影響が出るカードだった。

 

「わたしは〈海皇の狙撃兵〉を通常召喚! そして魔法カード〈アクアジェット〉を発動する」

「やっぱり〈アクアジェット〉か!」

「えぇ、でもこのカードの対象は〈海皇の狙撃兵〉よ」

「!?」

 

 アクアジェット〈通常魔法〉

 海皇の狙撃兵(効果モンスター)

 レベル3、海竜族、水属性(攻撃表示)

 ATK1400→2400、DFF0(アクアジェット使用)

 

〈アクアジェット〉の対象が〈海皇の狙撃兵〉になったので、羽山や3組の生徒達は驚いていた。ただ、俺はその動きを見ながら心の中で考える。

 

(なるほどな。そうなるとコチラの負けだな)

 

 これから起こる動きにため息が出そうになるが我慢して動きを見る。

 

「なぜ〈アクアジェット〉の効果を〈海皇の竜騎隊〉じゃなくて〈海皇の狙撃兵〉にしたんだい?」

「そんなのは決まっている。バトルフェイズ! わたしは〈海皇の竜騎隊〉の効果発動! レベル3以下の海竜族モンスターである〈海皇の狙撃兵〉は相手にダイレクトアタックができる」

「なっ!」

「いきなさい〈海皇の狙撃兵〉! 相手プレイヤーにダイレクトアタックよ」

 

〈アクア・ジェット〉の効果で攻撃力が1000ポイントアップした〈海皇の狙撃兵〉が手に持った弓に矢を使えて羽山に一斉放射した。

 

「ぐっ!」

 

 羽山は攻撃力の上がった〈海皇の狙撃兵〉の攻撃をまともに受けた。

 

 羽山LP4000−2400=1600

 

 ダメージを受けて膝をついた羽山だが、なんとか立ち上がってディスクを構えた。

 

「ただ、コレでダイレクトアタックはできない! レベル4の〈海皇の竜騎隊〉は自身の効果は使えないはずだ!」

「あぁ、そうだね。でもわたしは〈海皇の狙撃兵〉の効果を発動してない」

「そ、ソイツにも効果があるのか」

「もちろん」

 

 水上が羽山に向かって何を言っているんだ?の表情になりながらディスクの画面をスクロールしていた。そして、水上は〈海皇の狙撃兵〉の効果を発動した。

 

「〈海皇の狙撃兵〉が相手に戦闘ダメージを与えた時、デッキから自身以外の〈海皇〉と名のついた海竜族モンスター1体を特殊召喚できる。この効果でわたしは〈海皇の突撃兵〉を特殊召喚!」

「ぐっ、コイツはレベル3か」

 

 水上のフィールドに現れたのは赤い鎧を着てサーベルと盾を持った魚人の戦士である〈海皇の突撃兵〉だ。

 

 海皇の突撃兵(効果モンスター)

 レベル3、海竜族、水属性(攻撃表示)

 ATK1400→2200、DFF0(自身の効果を発動)

 

「なっ! なんで〈海皇の突撃兵〉の攻撃力が上がっているんだ?」

「それは〈海皇の突撃兵〉はこのカード以外の魚族・海竜族・水族のモンスターが存在する場合、攻撃力が800ポイントアップするからよ」

「そ、それじゃあ……」

「貴方のライフは残り1600で攻撃力2200の〈海皇の突撃兵〉の攻撃で終わりね」

「まさか、オレがワンキルされるのか」

「そうね。まぁ、コレでドドメ! わたしは〈海皇の竜騎隊〉の効果を使い〈海皇の突撃兵〉でダイレクトアタック!」

「ぐっ、あぁ!!」

 

 羽山LP1600−2200=0(−800)

 勝者、水上

 

『ARビジョン、解消完了』

 

〈海皇の突撃兵〉のダイレクトアタックを食らった羽山は綺麗に吹っ飛び地面に転がった。それを見ていた1組の生徒達は笑って3組の生徒達は顔を真っ青にしていた。

 

「まさか羽山が後攻ワンキルをされるなんて……」

 

 松永先生の唖然とする発言に隣で聞いていた大岩先生が上機嫌に口を開く。

 

「水上はウチの自慢の生徒だからな。この程度のデュエリストなら余裕だ」

「ま、まだ残り2人もいますよ」

「あぁ、そうだな。でもコチラが全勝して終わりだな」

 

 自信満々の大岩先生の言葉に浮かない表情をする松永先生。そして、デュエルリンクには2番手の生徒達に入れ替わった。

 

「1組の2番手は黒川、そちらの生徒は誰だ?」

「3組の2番手は香坂です」

 

 1組の黒川と呼ばれた生徒は黒髪黒目で背の高い男子生徒。対する香坂は背の低い緑髪のショートカットの女子生徒。ただ、この身長差を見ると笑えてしまうがなんとか我慢する。

 

「では、デュエルを開始してくれ」

 

「「はい!」」

 

 互いに頭を軽く下げた後、2人はディスクを構えた。

 

「こんな小さい奴の相手をするなんてな」

「小さいと言っても油断しない方がいいですよ」

「だろうな」

 

 黒川は相手の姿を見てため息を吐いているが、対する香坂は真剣に相手を見ていた。そのズレがデュエルにどこまで出るか楽しみだ。

 

 



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第6話・暗黒界の恐怖

 1組代表の黒川と3組代表の香坂。この2人がディスクを構えてデュエル宣言をした。

 

「「デュエル!」」

 

 香坂LP4000VS黒川LP4000

 

〈ターン1〉

 

 先行は香坂みたいで手札と睨めっこしながらプレートにカードを置いた。

 

「あたしは〈コブリン突撃部隊〉を召喚! そして魔法カード〈二重召喚〉を発動! このカードの効果で〈神獣王バルバロス〉を妥当召喚!」

 

 ゴブリン突撃部隊(効果モンスター)

 レベル4、戦士族、地属性(攻撃表示)

 ATK2300、DFF0

 

 神獣王バルバロス(効果モンスター)

 レベル8、獣戦士族、地属性(攻撃表示)

 ATK3000→1900、DFF1200(妥当召喚)

 

 二重召喚〈通常魔法〉

 

 かわいい見た目をしているのに使っているモンスターはゴリゴリのモンスターが多い。俺はその光景を見ながら驚く。

 

(アマゾネスやハーピィらへん使うとは思ったが、デメリットアタッカー系のビートダウンデッキを使うとはな)

 

 そう思いながら俺は香坂のプレイングを見る。

 

「さらにあたしは装備魔法〈デーモンの斧〉を〈神獣王バルバロス〉に装備!」

 

 デーモンの斧(装備魔法)

 神獣王バルバロス

 ATK1900→2900

 

〈神獣王バルバロス〉が手に持っている槍が斧に代わりパワーアップ。それを見た黒川が一言。

 

「さっきの奴よりはマシか」

「さっきの奴って羽山君のこと?」

「あぁ、裏守備モンスターをセットしただけで何もしなかったアイツだ」

「何もしなかったって……言い方が酷い!」

 

 なんか怒っている香坂は最後の手札をディスクにセット。相手を睨みながらある言葉を口にする。

 

「あたしはカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 ターンエンド宣言した事でターンが相手に移る。

 

 香坂LP4000、手札0枚

 モンスター

 ゴブリン突撃部隊

 神獣王バルバロス

 魔法・罠

 デーモンの斧(神獣王バルバロスに装備)

 伏せカード1枚

 

 デッキの周りは良さそうだと思いデュエルの続きを見る。

 

〈ターン2〉

 

「俺のターン、ドロー!」

「この瞬間、リバースカードオープン〈スキルドレイン〉」

 

 スキルドレイン〈永続罠〉

 

 黒川がドローした時に香坂が永続罠である〈スキルドレイン〉を発動。その効果でフィールドには気持ち悪い煙が漂った。

 

「〈スキルドレイン〉の効果であたしは1000ポイントのライフコストを払う」

「だが、コレでフィールドのモンスター効果は無効になるのか」

「そうよ! アンタはモンスター効果を発動できないだけじゃなくてあたしのモンスター達の効果も無効になる」

 

 香坂LP4000→3000

 神獣王バルバロスATK2900→4000

 

 自身の効果で弱体化していた〈神獣王バルバロス〉がスキルドレインの効果で元の攻撃力に戻った。だが、この状況を見た黒川は笑った。

 

「おいおい、まさか俺にとって最高のカードを発動してくれるとはな!」

「!?」

「〈スキルドレイン〉を発動しただけで調子に乗っているのか?」

「ふ、ふん! この状況で何かできるの?」

「できるぜ! 俺は魔法カード〈手札抹殺〉を発動! 互いに手札を全て捨てて同じ枚数ドローする」

「あたしは手札0だから効果を受けない」

「なら俺は5枚の手札を捨てるぞ」

 

 手札抹殺〈通常魔法〉

 

〈黒川が捨てたカード〉

・暗黒界の尖兵ページ

・暗黒界の武人ゴルド

・暗黒界の術師スノウ

・サイクロン

・スキルドレイン

 

(まさかの暗黒界かよ!)

 

 暗黒界は手札から墓地に送られる場合、効果を発動する厄介なデッキ。しかもフィールドで効果を発動しない為〈スキルドレイン〉の効果も受けない。

 

「さてと〈手札抹殺〉の効果で送られた〈暗黒界〉達の効果発動! まずは〈暗黒界の尖兵ページ〉の効果で自身を墓地から特殊召喚! そして同じ効果を持つ〈暗黒界の武人ゴルド〉も墓地から特殊召喚!」

「ま、まさか……」

「そう! このデッキは墓地で効果を発動するんだよ!」

 

 暗黒界の尖兵ページ(効果モンスター)

 レベル4、悪魔族、闇属性(攻撃表示)

 ATK1600、DFF1300

 

 暗黒界の武人ゴルド(効果モンスター)

 レベル5、悪魔族、闇属性(攻撃表示)

 ATK2300、DFF1400

 

 そして〈暗黒界の術師スノウ〉の効果で〈暗黒界の取引〉を手札に加えた黒川はそのカードを使った。

 

「俺は〈暗黒界の取引〉を発動! 互いにデッキから1枚ドローして手札のカードを1枚墓地に送る。俺は〈暗黒界の龍神グラファ〉を墓地に送る」

「あ、あたしは手札の〈コブリンエリート部隊〉を墓地に送る」

「お前は手札0だったから引いたカードを墓地に送る事になるが、俺は手札にある新しい〈暗黒界〉を墓地に置くれたぜ」

「こ、今度はどんな効果なの!」

 

 香坂は強がっているが足はガクガク震え、黒川はそれを見て笑いながら瞬きした後に話す。

 

「〈暗黒界の龍神グラファ〉の効果はカードの効果で墓地に送られた時に相手フィールドのカード1枚を破壊する。俺はお前の〈神獣王バルバロス〉を破壊する!」

「そ、そんな!」

 

 突如地面から現れた影によって〈神獣王バルバロス〉は引きずり込まれて破壊された。

 

「で、でも! まだあたしの場には〈コブリン突撃部隊〉がいる。例え〈暗黒界の武人ゴルド〉と相打ちになってもライフは残る」

「それはどうかな?」

「!?」

「俺は墓地にいる〈暗黒界の龍神グラファ〉の効果発動! フィールドにいる〈暗黒界の尖兵ページ〉を手札に戻して自身を特殊召喚する」

「こ、攻撃力2700……」

 

 暗黒界の龍神グラファ(効果モンスター)

 レベル8、悪魔族、闇属性(攻撃表示)

 ATK2700、DFF1800

 

 地面に大きな穴が空き、その中から真っ黒の大型ドラゴンが現れ空に向かって吠えた。

 

「トドメに手札に戻った〈暗黒界の尖兵ページ〉を通常召喚してバトルフェイズ!〈暗黒界の龍神グラファ〉で〈コブリン突撃部隊〉を攻撃!」

「ぐうぅ!」

 

 暗黒界の龍神グラファATK2700

 VS

 ゴブリン突撃部隊ATK2300

 ダメージ400

 香坂LP3000−400=2600

 

〈コブリン突撃部隊〉は〈暗黒界の龍神グラファ〉に踏み潰されてペラペラになって破壊された。

 

「コレでお前を守る壁は無くなったな!」

「う、うぅ」

「残った〈暗黒界の尖兵ページ〉と〈暗黒界の武人ゴルド〉でダイレクトアタック!!」

「う、うわぁ!」

 

 香坂LP2600−(1600+2300)=0(−1300)

 勝者、黒川

 

『ARビジョン、解除完了』

 

 デュエルの決着がつき、壁近くまで吹っ飛んだ香坂は泣きながら立ち上がった。

 

「こ、この恨みは忘れない」

「おう! 何回でも挑んでこい」

 

 恨みの言葉を挑戦と意味にとれる黒川の胆力も凄いと思う。

 

(って! 俺は人の心配をしている場合じゃないよな)

 

 今までの対戦で3組は連敗して勝負は1組の勝利で終わった。このまま対戦したくないと思いながら黙っていると大岩先生が席から立ち上がった。

 

「おいおい、メインディッシュの前に決着がつくとはな」

「3組の生徒は弱すぎるわね」

「いや、コチラが強すぎるだけだろ」

 

 落胆している大岩先生に馬鹿にしてくる1組の生徒達。この発言を聞いた松永先生も立ち上がる。

 

「……まだ最後のデュエルがありますよ!」

「あぁ、確かに勝負の決着はついたが最後の勝負があるな」

(おいぃ! 何を余計な事を言っているんだこの先生!!)

 

 このまま解散でいいと思ったのに松永先生の一言で俺が参加する事になった。

 

「ただ、コッチの3番手は赤城だ。お前らに勝ち目があるとは思えないぞ」

「それはわかりませんよ?」

「ほう、そこまで自信があるなら最後の試合をするか」

(おいこら! 何勝手に進めているんだ!?)

 

 このままトイレに行って不参加したいと思うが3組の生徒達は一斉にコチラを見た。

 

「その黒髪の奴が3番手か」

「あ、はい」

 

 この瞬間、最後の試合をする事になった俺は頭を抱えた。

 

(せめて普通にデュエルさせてくれ!)

 

 こんなプレッシャー受けたくないと思いながら立ち上がりフィールドに向かう。

 



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第7話・驚きの召喚法

 デュエルリンクに到着して相手を見ると昼休みにデュエルをしていた赤髪の少女だった。

 

「あら? 貴方、少しはやりそうね」

「そうか?」

「アタシの予想だけどウチのクラスでも通用する強さがありそうよ」

 

 俺のデュエルを見てないのに評価してくれる赤城に対して少し嬉しくなる。

 

「まぁ、それは置いておいて自己紹介しましょう」

「そうだな」

「まずはアタシの名前は赤城歌恋。1年1組のトップデュエリストよ!」

 

 この自己紹介で1組の生徒達、特に女子生徒達が立ち上がって手を振った。

 

「歌恋様! 今日もカッコいいですよ」

「そんな奴、さっさと倒してください」

 

 女子生徒の反応に隣で座っている男子生徒達も顔を赤くしていた。

 

「ヤッパリ歌恋様な美しいな」

「だな! オレが告白したら受け入れてくれるかな?」

「お前は無理だろ」

 

 明るい歓声と黄色い声が消えてくる。対する3組の生徒達はお通夜ムードでコチラを見ていた。

 

「あんなボッチが勝てるわけないな」

「せいぜい馬鹿にしようぜ」

「……」

(温度差がすごくないか?)

 

 片方はアイドルばりの応援で片方はお通夜ムード+批判。俺は悲しくなってため息を吐く。

 

「さてとアタシは簡単な自己紹介をしたから次は貴方の番ね」

「あぁ、俺の名前は風見颯汰だ。デュエルの腕前はそこそこだと思うぞ」

「ふーん、颯汰ね……。決めた! 貴方、アタシの取り巻きになりなさい」

「はい?」

 

 なんかいきなり意味不明な事を言われたので唖然とする。

 

「アタシの取り巻きになったらボッチと馬鹿にされずに入れるわよ」

「いえ、お断りします」

「そう、うけ……え? 今断るって言った?」

「はい、言いましたよ」

 

 俺に断られるとは思ってなかったみたいで赤城は驚いていた。でも少しした後に復活して口を開く。

 

「何故断るの?」

「もし入ったらパシリになるのが目に見えているからですよ」

(アイツらの性格的に恐ろしく感じる)

 

 1組の生徒達を見るとマウントを取る気満々なのが嫌な程感じられる。なので断ると赤城は首を横に振ってコチラを睨む。

 

「まさか断られるなんてね……。まぁ、いいわ! 実力の違いを見せてやるわよ」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 なんか微妙な状況になってしまったが、デュエルディスクを展開して俺は青色のプレートを出す。相手のディスクの色は赤色+オレンジのプレート。それを展開してオートシャッフル機能でデッキをシャッフルした後にスタート宣言をする。

 

「「デュエル!」」

『ARビジョン、リンク完了』

 

 風見LP4000VS赤城LP4000

 

 フィールドがARに変化してデュエルが開始。先行は赤城みたいで手札のカードを見てその中からカードを選んだ。

 

「アタシは魔法カード〈レッド・ワン〉を発動! デッキからレベル4以下の炎属性モンスター1体を手札に加える。アタシは〈レッド・ドッグ〉を手札に加える」

 

 レッド・ワン〈通常魔法〉〈オリカ〉

 このカードは1ターンに一度しか発動できない。①デッキからレベル4以下の炎属性モンスター1体を手札に加える。

 

 最初はサーチカードで動いてきたので予想通りと思いながら相手の展開を見る。

 

「そして、手札に加えた〈レッド・ドッグ〉を通常召喚して効果発動! デッキから〈レッド〉カード1枚を手札に加える。アタシは〈レッド・シンクロン〉を手札に加える」

「シンクロン……つまりはシンクロ召喚ができるのですね」

「貴方、勘がいいわね」

 

 レッド・ドッグ(効果モンスター)〈オリカ〉

 レベル4、獣族、炎属性(攻撃表示)

 ATK1800、DFF500

 このカード名の①効果は1ターンに一度しか使用できない。①このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから〈レッド〉カード1枚を手札に加える。

 

 この世界ではエクストラデッキから特殊召喚するには高度な技術が必要。でも、赤城は普通にできる発言をしている。

 

(なるほど、この世界では厄介だな)

 

 デッキも見た事のないカードで組まれているので先が読めない。俺は自分の手札と相手を交互に観察する。

 

「まぁ、わかっても意味がないけどね。アタシは手札にあるチューナーモンスター〈レッド・スワロウ〉を特殊召喚! このカードは自分フィールドに炎属性モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる」

「ぐっ、ここでチューナーモンスターを特殊召喚ですか」 

 

 レッド・スワロウ(効果モンスター+チューナー)〈オリカ〉

 レベル2、鳥獣族、炎属性(攻撃表示)

 ATK800、DFF500

 このカード名の①の効果は1ターンに一度しか発動できない。①フィールドに炎属性モンスターが存在する場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

 

 相手フィールには、赤い毛皮に口元に炎を溜めているモンスター〈レッド・ドッグ〉と口から火の粉を吐いている小さな鳥が飛んでいる。

 

「おっ! ここで歌恋様のシンクロ召喚が見れるぞ!」

「3組の生徒に見せるのはもったいなく感じるわね」

 

 1組の生徒は笑いながら言葉を発し、3組の生徒達も興味があるようでコチラをガン見していた。

 

「シンクロ召喚なんてテレビでしか見た事ないぞ」

「はっ! オレは本物を見た事があるぞ!」

「テレビでしか見た事がないなんて遅れているわね」

 

 もはや醜いマウント争いをしているクラスメイト達に、ため息も出ない俺は観客席から対戦相手である赤城に視線を戻す。

 

「貴方のクラスメイトは可哀想に見えてくるわ」

「同情するのはやめてください」

「あら? なら、さっさと叩き潰して終わりにしてあげるわ」

 

 赤城はコチラをひと睨みした後、フィールドにいるモンスター2体の方に視線を戻して手を空に上げる。

 

「アタシはレベル4〈レッド・ドッグ〉にレベル2〈レッド・スワロウ〉をチューニング! 火口に存在する赤い竜よ! その紅蓮の炎を纏い現れろ! シンクロ召喚! レベル6〈レッドソード・ワイバーン〉!」

 

 レベル4+レベル2=レベル6

 

〈レッド・ドッグ〉の体が緑色の星に変わり、隣にいた〈レッド・スワロウ〉の体が緑色のリンクに変化。星がリンクの間に入り、ピカッと光ったと思ったら相手のフィールドに赤い体をして火を吐いている大きなドラゴンが召喚された。

 

 レッドソード・ワイバーン(シンクロモンスター)〈オリカ〉

 レベル6、ドラゴン族、炎属性(攻撃表示)

 召喚条件・チューナー1体+チューナー以外のモンスター1体以上

 ATK2400、DFF1800

 効果、このカード名の①、②の効果はそれぞれ1ターンに一度しか発動できない。①このカード以下の攻撃力を持つモンスター1体を破壊できる。②このカードが戦闘・効果で破壊された場合、墓地のレベル4以下の炎属性モンスター1体を特殊召喚できる。

 

(……強くないか?)

 

 コイツの①の効果に目がいくが、本当に怖いのは②の効果だ。理由は戦闘・効果で破壊された場合、墓地のレベル4以下の炎属性モンスターを効果を無効にせずに特殊召喚されるからだ。もしこの効果で〈レッド・ドッグ〉が墓地から特殊召喚された場合、また〈レッド〉カードをサーチされる。

 

「なるほど、その目を見るにこのカードの強さに気づいたのかしら?」

「えぇ、①の効果に目が行きますが②の蘇生効果も強いですね」

 

 ここで勝ちを拾いにいくにはワンショットキルを狙うしかない。俺は自分の手札を見て動きを考える。

 

(手札は悪くないし一気に回すか)

 

 俺は頭の中でプレイングを考えた後、赤城をしっかり見る。

 

「ふふっ、次のターンが楽しみね。アタシはカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 赤城LP4000手札3枚

 フィールド

 レッドソード・ワイバーン

 魔法・罠

 伏せカード1枚

 

 

 



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第8話、光刃・ライトブレイカーの一撃

 赤城のフィールドには攻撃表示のシンクロモンスター〈レッドソード・ワイバーン〉と伏せカードが1枚。対する俺はターンが始まってないので何もいない。この状況で巻き返せる手札ではあるがあの伏せカードが怖い。

 

(保険をかけて動くしかない)

 

 俺はデッキトップに手をかけてカードを引く。

 

〈ターン2〉

 

「俺のターン、ドロー! 俺は魔法カード〈増援〉を発動。デッキから〈光刃・ソル〉を手札に加える」

「〈光刃〉……何処かで聞いた事があるテーマね」

「昨日、松永先生とデュエルをしていたのでその時じゃないですか?」

 

 増援〈通常魔法〉

 

 ここで過去の事はバレたくないので適当に言い訳を話しデュエルを進める。

 

「続けて手札の〈光刃・ファルス〉は自分フィールドにモンスターが存在しない場合、特殊召喚できる!」

 

 光刃・ファルス(効果モンスター)オリカ

 レベル4、戦士族、光属性

 ATK1800、DFF1000

 効果、このカード名の①、②の効果はそれぞれ1ターンに一度しか発動できない。①自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札のこのカードは特殊召喚できる。②墓地のこのカードを除外してデッキから〈光刃〉魔法・罠カードを1枚手札に加える。

 

 〈光刃・ファルス〉は見た目は赤髪短髪で金色の鎧を着た男性戦士だ。このカードは特殊召喚なのでまだ召喚権が残っている。

 

「なるほど、下級モンスターを特殊召喚して場を揃えてからアドバンス召喚するデッキなのね」

「!? まさか」

「アタシは初めて見るデッキでも大体の流れはわかるわよ」

 

 このデッキの隠しギミックまではバレてないみたいだが、大まかの回し方はバレているみたいだ。

 

「なら一気に回しますね」

「えぇ、アタシの予想を超えてみなさい!」

 

 赤城はなんか笑っているので、俺はプレイングにミスが出ないようにデッキと手札を回す。

 

「さらに手札の〈光刃・ソル〉の効果発動! フィールドに〈光刃〉モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる」

 

 光刃・ソル(効果モンスター)オリカ

 レベル4、戦士族、光属性

 ATK1500、DFF1200

 効果、このカード名の①、②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①自分フィールドに光属性モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。②墓地のこのカードを除外して、デッキから〈光刃〉魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

 この〈光刃・ソル〉は〈光刃・ムーン〉の双子の妹で銀色の髪に中学生くらいの見た目の少女。装備は金色の鎧に短い短剣を右手と左手に一本ずつ持っている。

 

「コレでレベル7以上のモンスターをアドバンス召喚ができるのね」

「はい、そうです! 俺はフィールドの〈光刃〉モンスター2体をリリースしてアドバンス召喚! 現れろレベル8〈光刃ライトブレイカー〉!!」

 

 光刃・ライトブレイカー(効果モンスター)オリカ

 レベル8、戦士族、光属性

 ATK2500、DFF2000

 

 2体の〈光刃〉モンスターをリリースしてレベル8の上級モンスターである〈光刃・ライトブレイカー〉をアドバンス召喚。前回と同じ金色の鎧に金髪の髪色の剣士でこの状況を打開するカード。

 

「へぇ、いいカードね」

「このデッキのエースですよ」

 

 俺が召喚した上級モンスターを見た1組と3組の生徒達は目を輝かせている。

 

「おいおい、あの陰キャが強そうなモンスターを召喚したぞ」

「しかも恋歌様の〈レッドソード・ワイバーン〉の攻撃力を上回っているぞ」

 

 周りの生徒達は〈光刃・ライトブレイカー〉に見惚れているみたいだが、俺は墓地に落ちた2枚の〈光刃〉モンスターのサーチ先を考える。

 

(ここはサーチと防御だな)

 

 先を見つけた俺は次に繋げる為にカードの効果を発動する。

 

「ここで墓地にある〈光刃・ファルス〉の効果発動! 自身を除外してデッキから〈光刃〉魔法・罠の〈光刃・天空の城塞〉を手札に加える」

 

 コレで新たな動きができる。そう思い俺はさっきサーチしたカードを使用する。

 

「そしてサーチしたフィール魔法〈光刃・天空の城塞〉を発動! 効果処理でデッキから〈光刃〉モンスター1枚をサーチする。俺は〈光刃・ムーン〉を手札に加える」

「ふむふむ、手札消費は激しいけどサーチ手段が豊富にあるから安定しているのね」

(やはり一筋縄ではいかないな)

 

 伏せカードにもよるが、このターンで決着がつく可能性は低い。そうなると後続を考えてデュエルを進める。

 

 光刃・天空の城塞(フィールド魔法)オリカ

 効果①このカードの発動処理としてデッキから〈光刃〉モンスター1枚をデッキから手札に加える。②フィールドに存在する光属性モンスターの攻撃力・守備力を300ポイントアップさせる。

 

 光刃・ライトブレイカー

 ATK2500→2800

 

 フィールド魔法の効果で〈光刃・ライトブレイカー〉の攻撃力が300ポイントアップ。コレで〈レッドソード・ワイバーン〉の攻撃力の差は400ポイントに広がった。

 

「効果を読んだけど〈光刃・ライトブレイカー〉の効果+攻撃力強化が入れば状況次第ではアタシをワンキルできるわね」

「えぇ、そうですよ。ただ、そちらも対策くらいはありますよね」

「それはどうしから?」

 

 前に見た時は〈炸裂装甲〉を使っていたので警戒しつつ攻撃を仕掛けてみる。

 

「ではバトル! 俺は〈光刃・ライトブレイカー〉で〈レッドソード・ワイバーン〉を攻撃する瞬間、手札の〈光刃・ムーン〉の効果発動!」

「このタイミングなら攻撃力を上げる効果ね!」

「はい!〈光刃・ムーン〉を手札から捨てる事で〈光刃・ライトブレイカー〉の攻撃力は1500ポイントアップさせる(ホーリーエンド)!」

 

 光刃・ライトブレイカー

 ATK2800→4300

 

 この攻撃が通れば俺の勝ちで〈光刃・ライトブレイカー〉は腰の剣を引き抜き〈レッドソード・ワイバーン〉に攻撃を仕掛けて大爆発を起こす。

 

「やったか!」

(やってないと思うがフラグを立てる)

 

 心の中でマジレスをすると予想通り赤城はフィールドに立っていた。その前には伏せてあったカードが発動して、戦闘破壊したはずの〈レッドソード・ワイバーン〉まで残っていた。

 

「残念、アタシは罠カード〈レッド・メタル〉を発動したわ!」

「〈レッド・メタル〉?」

「このカードの効果は、火属性モンスターはエンドフェイズまで破壊されない効果とアタシが受ける戦闘ダメージが半分になるのよ」

「なるほど、それでダメージ軽減と〈レッドソード・ワイバーン〉は健在していたのですね」

 

 レッド・メタル(通常罠)

 ①、このカードを発動したターン、エンドフェイズまで自分フィールドの火属性モンスターは戦闘では破壊されず、自分が受ける戦闘ダメージは半分になる。

 

 相手モンスターを戦闘で破壊していないので〈光刃・ライトブレイカー〉の効果は発動しない。その為、受けるダメージは戦闘ダメージのみ。

 

 光刃ライトブレイカーATK4300

 VS

 レッドソード・ワイバーンATK2400

 ダメージは1900÷2=950

 赤城LP4000−950=3050

 

(ここで防がれるのは想定内。なら、次をどうするかだな)

 

 メインフェイズ2の動き次第で凌げるか凌げないかが決まりそうだ。

 

「俺は墓地に存在する〈光刃・ソル〉の効果発動! このカードも〈光刃・ファルス〉と同様、デッキから〈光刃〉魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。なので〈光刃・光の城壁〉を手札に加え、カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 光刃・ライトブレイカーATK4300→2800

 

 風見LP4000手札2枚

 フィールド

 光刃・ライトブレイカー

 魔法・罠

 光刃・天空の城塞(フィールド魔法)

 伏せカード×2

 

 赤城LP3050手札3枚

 フィールド

 レッドソード・ワイバーン

 魔法・罠

 なし



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第9話・レッドデッキの真価

〈ターン3〉

 

〈光刃・ライトブレイカー〉の攻撃を上手く耐え切った赤城はデッキトップに手をかける。

 

「このターンで終わらせてあげるわ! アタシのターン!」

 

 カードを引いた赤城はニヤっと笑ってコチラを見た。

 

「ここまで引きがいいの嬉しいわ」

(このターンを耐え切れるか?)

 

 防御札は伏せているが相手の動き次第で詰む。なのでタイミングを逃さないように構える。

 

「恋歌様! このターンでソイツを倒してください!!」

「またシンクロ召喚お願いします!」

 

 1組の生徒達のテンションは最高潮で赤城は観客席の方に向かって手を振り、改めてコチラに振り向く。

 

「一気に行かせてもらうわ! アタシは〈レッド・シンクロン〉を召喚! そして効果で手札の〈レッド・スワン〉を特殊召喚!」

「ぐっ、チューナーと非チューナーが揃った……」

「確かにそうだけどまだよ! アタシは〈レッド・スワン〉の効果発動! 墓地の〈レッド・ドッグ〉を蘇生する。そして〈レッド・ドッグ〉の効果でデッキの〈レッド・グース〉を手札に加える」

「でた! 恋歌様のモンスターコンボ」

 

 フィールドには赤い服を消防服を着た戦士族モンスターである〈レッド・シンクロン〉に赤色の白鳥〈レッド・スワン〉が特殊召喚された。それだけでも厄介なのに〈レッド・スワン〉の効果で墓地の〈レッド・ドッグ〉まで蘇生してサーチ効果まで使われた。

 

 レッド・シンクロン(効果モンスター+チューナー)オリカ

 レベル4、戦士族、火属性(攻撃表示)

 ATK1400、DFF500

 効果、このカード名の①の効果は1ターンに一度しか発動できない。①このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、手札のレベル4以下の火属性モンスター1枚を特殊召喚できる。

 

 レッド・スワン(効果モンスター)オリカ

 レベル4、鳥獣族、火属性(攻撃表示)

 ATK1500、DFF1000

 効果、このカード名の①の効果は1ターンに一度しか使えない。①召喚・特殊召喚に成功した時、墓地に存在するレベル4以下の火属性モンスター1枚を特殊召喚する。

 

 レッド・ドッグ(効果モンスター)オリカ

 レベル4、獣族、火属性(攻撃表示)

 ATK1800、DFF500

 

 厄介なデッキだなと思いながらディスクから赤城の方に振り向く。すると彼女は可哀想な目でコチラを見ていた。

 

「そういえば、さっきから見ていたけど貴方のクラスメイトは他人を蹴落とす事しかしないのかしら?」

「人なんて大体そんな物ですよ」

(何を今更)

 

 人を見下したりマウントを取って優越感に浸る。しかもその方法が自分の能力を上げる為に努力するじゃなくて、他人を落としたり虚栄心で自分を大きくする。

 その事はデュエルにも反映していて、強いカードを使い相手を叩き潰して楽しんでいる奴らもいる。

 

「そう考えるとウチのクラスはマシなのね」

(おいおい、いきなりマウントを取り始めたぞ)

 

 デュエルをしているのに違う事で心に大きなダメージを受けた俺はイラッとしながら言葉を発する。

 

「あの、デュエルを続けてください」

「あら? 地雷だったかしら?」

「いえ、まだ決着がついてない事を伝えただけですよ」

(なるほど、俺を煽っているのか)

 

 気持ち悪い感情をなんとか抑えると同時にコイツは性格が悪いと思い渋い表情になりながらデュエルを続ける。

 

「そうね……なら、アタシはレベル4〈レッド・ドッグ〉にチューナーモンスター〈レッド・シンクロン〉をチューニング! 紅蓮の鎧を纏いし女戦士よ! その剣を使い愚鈍な敵を薙ぎ払え! シンクロ召喚! 現れろレベル8〈スカーレットレディ・ソルジャー〉!!」

 

 レベル4+レベル4=レベル8

 

 スカーレットレディ・ソルジャー(シンクロモンスター)オリカ

 レベル8、戦士族、火属性(攻撃表示)

 召喚条件、チューナー1体+チューナー以外のモンスター1枚以上

 ATK2800、DFF2000

 効果、このカード名の①、②の効果はいずれか一つしか発動できない。①自身の攻撃権を放棄してこのカードの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。②このカードが相手モンスターを破壊した場合、手札・デッキからレベル7以下の火属性モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚できる。

 

「きたー! 歌恋様のエースモンスター!!」

「やっぱりカッコよくて美しいモンスターだよな」

「えぇ、このモンスターのダイレクトアタックを受けてみたいわ!」

 

 シンクロ召喚の演出後、光の中から出てきたのは赤髪ロングの美人で装備は赤い西洋鎧にロングソード。その姿はまさしく戦う者の姿に見えた。

 

「また厄介なカードが出てきましたね」

「えぇ、アタシのエースだから当たり前よ!」

「でしょうね。デュエルディスクで効果を読みましたが、強力な効果に召喚条件の縛りがないのは強いと思いました」

 

 このモンスターだけでも厄介なのに赤城のフィールドにはレベル6のシンクロモンスター〈レッドソード・ワイバーン〉まで残っている。そうなると今伏せているカードだけではキツイかもしれない。

 

「そう言ってくれるのはありがたいけど、まだアタシのエンジンは回り切ってないわよ」

 

 赤城はそう言って勢いよくカードをプレートに置いた。

 

「アタシは魔法カード〈シンクロギフト〉を発動! 自分フィールドにシンクロモンスターが2体以上存在する場合、デッキから2枚ドローする。そして、手札の〈レッド・グース〉はレベル8のシンクロモンスターである〈スカーレットレディ・ソルジャー〉が存在するから特殊召喚できる!」

「!?〈レッド・グース〉はチューナーモンスターですか!」

「ええ、そうよ!」

 

 シンクロ・ギフト(通常魔法)オリカ

 同名カードは1ターンに一枚しか発動出来ない。①自分フィールドにシンクロモンスターが2体以上存在する場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローできる。

 

 レッド・グース(効果モンスター+チューナー)オリカ

 レベル1、獣族、火属性(守備表示)

 ATK500、DFF100

 このカード名の①、②の効果はそれぞれ1ターンに一度しか発動出来ない。①自分フィールドにレベル6以上のシンクロモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。②このカードがシンクロ素材になった時、自分はデッキから1枚ドローできる。

 

〈シンクロ・ギフト〉の効果で手札補充した後に〈レッド・ドッグ〉でサーチしたチューナーモンスターである小さなネズミみたいな見た目の〈レッド・グース〉を特殊召喚。この場で考えるとまたシンクロ召喚される。

 

「先にシンクロ召喚をしようと思ったけどコッチが先ね。アタシは魔法カード〈ナイトショット〉を発動! 貴方の右側に伏せられているカードを破壊するわ」

「!? リバースカードオープン〈光刃・逆転の盾〉を発動! 手札の光属性モンスターである〈光刃・メルナ〉を墓地に送り、相手が発動した魔法・罠の効果を無効にして墓地に送る!」

 

 ナイトショット(通常魔法)

 光刃・逆転の盾(カウンター罠)

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①相手が魔法・罠を発動した場合、手札の光属性モンスター1枚を墓地に送りその効果を無効にして墓地に送る。②このカードを墓地から除外して発動できる。墓地に存在するレベル4以下の〈光刃〉モンスター1体を表側守備表示で特殊召喚できる。この効果は相手ターンでも使用できる。

 

〈ナイトショット〉は対象としたカードは発動出来ないので、選ばれなかった罠カードである〈光刃・逆転の盾〉で無効にして墓地に送る。ただ、この動きを見て赤城はニャっと笑った。

 

「その伏せカードが貴方の防御札なのが分かったわ」

「それはどうかな?」

(思いっきりバレてそうだな)

 

 表向きはポーカーフェイス?で誤魔化したつもりだが、赤城のニャっとした表情は変わらなかった。

 

「なるほどね。ただ、貴方はこの状況でも自分を偽ってデュエルしているわね」

「……」

「図星かしら?」

 

 ここで肯定したら過去の連鎖が進むし、否定してもバレるのは見えているので無言で返す。

 

「まぁ、いいわ! このモンスターで貴方の仮面を外してあげるわ!」

「来ますか!」

「アタシはレベル4〈レッド・スワン〉にレベル1〈レッド・グース〉をチューニング! 赤い炎を拳に宿した闘士よ! その拳撃で高みに登れ! シンクロ召喚! レベル5〈レッドガール・ウォーリア〉!!」

 

 レベル4+レベル1=レベル5

 

 レッドガール・ウォーリア(シンクロモンスター)オリカ

 レベル5、火属性、戦士族

 召喚条件、チューナー1体+チューナー以外のモンスター1体以上

 ATK2300、DFF1200

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①自分の墓地に存在する火属性モンスター×200ポイント、このモンスターの攻撃力をアップさせる。②このカードを墓地から除外して墓地のレベル4以下の火属性モンスター1体を特殊召喚できる。

 

 シンクロ召喚の演出後、赤城のフィールドに現れたのは赤いガンドレットに赤い皮の鎧を着た赤髪の少女。

 

「このモンスターで貴方を砕くわ!」

 

 この言葉で自分が脇役だと強く思った俺は、予想される災難に向かってディスクを構え直す。



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第10話・シンクロモンスターの脅威

 風見LP4000手札1枚

 フィールド

 光刃・ライトブレイカー

 魔法・罠

 光刃・天空の城塞(フィールド魔法)

 伏せカード×1

 

 赤城LPLP3050手札2枚

 フィールド

 スカーレットレディ・ソルジャー

 レッドソード・ワイバーン

 レッドガール・ウォーリア

 魔法・罠

 なし

 

 フィールドではシンクロモンスターが3体も揃っている赤城の方が有利。なので俺は自分が伏せているカードを頼りに相手を見る。

 

「アタシはシンクロ素材として墓地に送られた〈レッド・グース〉の効果発動! デッキからカードを1枚ドローする」

「!? またドローですか」

 

 この状況での手札増強は更にきついので、額から汗が流れて地面に落ちる音が聞こえる。

 

「! いいカードが来たわ! アタシは魔法カード〈シンクロソウル〉を発動。ライフを1000ポイント払ってフィールドのシンクロモンスター1体の攻撃力をそのレベル×400ポイントアップさせるわ!」

「まさか!」

「そうよ! アタシはレベル6の〈レッドソード・ワイバーン〉を選択するわ」

 

 赤城LP3050−1000=2050

 レッドソード・ワイバーン

 ATK2400+(400×6)=4800

 

〈シンクロソウル〉の効果をレベル8の〈スカーレットレディ・ソルジャー〉にあえて使わず、レベル6の〈レッドソード・ワイバーン〉に使ったのには何かある! 

 俺はそう思って身構えていると観客席からクラスメイト達の声が聞こえてくる。

 

「まさかのミスプレイングか?」

「赤城もミスする事なんてあるんだな」

「レベル8の〈スカーレットレディ・ソルジャー〉の方が攻撃力の上昇値が高いわよね」

「あぁ、800ポイントも高いぞ」

 

 赤城の行動理由の意図がわかってない3組の生徒達をよそに1組の生徒達は笑っていた。

 

「おいおい、アイツら正気か?」

「恋歌様が大事な局面でミスする事はないわよ」

「アイツらは〈レッドソード・ワイバーン〉の効果を知らないんだよ」

(やはり何かあるのか!)

 

 また厄介な効果があるのかと思っていると赤城が〈レッドソード・ワイバーン〉を見た。

 

「アタシは〈レッドソード・ワイバーン〉の効果発動! このカード以下の攻撃力を持つモンスター1体を破壊できる。アタシはもちろん〈光刃・ライトブレイカー〉を選ぶわ(クリムゾンブレス)!」

「ぐっ、リバースカードオープン〈光刃・光の城壁〉! このカードの効果でエンドフェイズまて自分フィールドの光属性モンスターは戦闘・効果では破壊されない」

「へぇ」

 

 光刃・光の城壁(通常罠)オリカ

 効果、①自分フィールドに存在する光属性モンスターはエンドフェイズまて戦闘・効果では破壊されない。②墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分が受ける全てのダメージは0になる。

 

〈レッドソード・ワイバーン〉の吐息が〈光刃・ライトブレイカー〉に直撃する前に光のバリアが現れて攻撃を防いだ。ただ、破壊されなくなっただけなので……。

 

「破壊できなくてもダメージは受けてもらうわ! アタシは〈スカーレットレディ・ソルジャー〉の効果発動! 自身の攻撃権を放棄してこのカードの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える(フレアバーナ)!」

(墓地にある〈光刃・光の城壁)でダメージは防げるがここは!)

 

 俺は腕を交差させて衝撃に備える。 

 

「ぐっ!」

 

〈スカーレットレディ・ソルジャー〉が発生させた衝撃を受けた俺は後ろの壁の方に吹き飛ぶ。

 

 風見LP4000−(2800÷2)=2600

 

 コチラがダメージを受けた姿を見た相手は不服そうに次の動きを口にした。

 

「更にバトルフェイズ! アタシは〈レッドソード・ワイバーン〉で〈光刃・ライトブレイカー〉を攻撃(フレイムキャノン)!!」

「〈光刃・光の城壁〉の効果で〈光刃・ライトブレイカー〉は破壊されない!」

「でもダメージは受けてもらうわ!」

「ぐあぁ!」

 

 レッドソード・ワイバーンATK4800

 VS

 光刃・ライトブレイカーATK2800

 4800−2800=2000、ダメージは2000

 風見LP2600−2000

 

 光のバリアのおかげで〈光刃・ライトブレイカー〉は破壊されないが、ダメージをモロに受けて俺は壁際まて吹き飛ぶ。

 

「げほっ!」

 

 受けたダメージが大きいので体の節々が痛いが我慢して立ち上がる。

 

「まだ目が死んでないわね」

「えぇ、ここまで来て負けたくないですからね」

 

 フィールドに戻った俺は赤城を睨む。すると彼女は笑顔になって言葉を口にする。

 

「そう……なら容赦なく行くわ! アタシの墓地に存在する火属性モンスターは5体だから〈レッドガール・ウォーリア〉の攻撃力は1000ポイントアップする」

 

 レッドガール・ウォーリアATK2300→3300

 

 赤城の墓地に存在する火属性モンスターは〈レッド・ドッグ〉〈レッド・スワロウ〉〈レッド・スワン〉〈レッド・シンクロン〉の5枚。なので〈レッドガール・ウォーリア〉の攻撃力の合計は3300になる。

 その状況を見た俺は自分のライフがギリギリ残る安心感と今から受ける衝撃の事を考えて渋い顔になる。

 

「来ますか!」

「えぇ! アタシは〈レッドガール・ウォーリア〉で〈光刃・ライトブレイカー〉を攻撃(フレイムフィスト)!」

「だが〈光刃・ライトブレイカー〉は破壊されない!」

「それは知っているわ! だからダメージを受けなさい!!」

「ぐ、があぁ!」

 

 レッドガール・ウォーリアATK3300

 VS

 光刃・ライトブレイカーATK2800

 3300−2800=500、ダメージは500

 風見LP600−500=100

 

〈レッドガール・ウォーリア〉の紅蓮の拳がバリアで守られた〈光刃・ライブレイカー〉に直撃。その時に起きた衝撃はこれまでの中で1番マシだったが、ダメージを受けている体で受け切るのは辛かった。

 

「耐え切られたわね」

「ハァハァ」

「アタシはカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 レッドソード・ワイバーンATK4800→2400

 

 赤城LP2050手札0枚

 フィールド

 スカーレットレディ・ソルジャー

 レッドソード・ワイバーン

 レッドガール・ウォーリア

 魔法・罠

 伏せカード2枚

 

 赤城は驚いた表情になってコチラを見ていた。でも俺はなんとか立っている状態なので余裕がない。

 

(かなりキツイが巻き返せない事はない)

 

 ターンエンド宣言をした赤城は表情を驚きから真顔に変わった。

 

「ここから貴方がどうやって巻き返すのか頼しみね」

「そうですか!」

 

 相手の余裕そうな表情を見てやり返したいの気持ちが大きくなる。

 

(このドローで変わる)

 

 ここで巻き返せる方法を考えてデッキトップに指を置く。

 

「俺の……ターン!!」

 

 このドローて運命が決まる。

 



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第十一話・性格変貌?

〈ターン4〉

 

 デッキトップからドローしたカードはこの状況を巻き返せるカードだった。

 

(キタ!)

 

 俺は心の中で喜ぶが、まずは墓地に存在するモンスターの効果を発動する。

 

「俺は墓地にある〈光刃・メルナ〉の効果発動! デッキから同名カードである〈光刃・メルナ〉を手札に加えて通常召喚!」

「ここで下級モンスターを召喚しても意味がないわよ」

「……と、思うじゃん」

「!?」

 

 光刃・メルナ(効果モンスター)

 レベル4、戦士族、レベル4(攻撃表示)

 ATK1600→1900、DFF1200→1500

 

 このデュエルで〈光刃・メルナ〉の召喚・特殊召喚時の効果を発動してなかったので相手は驚き、俺はそれをスルーしながら効果を続ける。

 

「〈光刃・メルナ〉の効果発動! デッキから〈光刃〉カードである〈光刃・ムーン〉を手札に加える」

「そのカードは攻撃力アップのカード!」

「そうですよ!」

 

 ここで攻撃力を上げるモンスターの存在は大きいので〈光刃・ムーン〉をサーチ。そして相手のモンスターを指差して言葉を発する。

 

「バトルフェイズ! 俺は〈光刃・ライトブレイカー〉で〈レッドガール・ウォーリア〉を攻撃(ホーリーエンド)!」

「普通なら自爆特攻だけど……」

「ダメージステップ時、手札の〈光刃・ムーン〉の効果発動! 相手の攻撃力の数値分、このカードに加える」

「!? リバースカードオープン〈ガード・ブロック〉」

「やはりか!」

 

 予想通り防御札だったので驚かずに頷く。

 

 ガードブロック(通常罠)

 

「コレでなんとか防いだわ!」

「それはどうかな?」

「ぐっ!」

 

〈光刃・ムーン〉の効果で攻撃力が上がった〈光刃・ライトブレイカー〉の攻撃で〈レッドガール・ウォーリア〉を破壊。しかし〈ガードブロック〉の効果で戦闘ダメージは0+デッキから1枚ドローされた。

 

 光刃・ライトブレイカーATK2800→4300(光刃・ムーンの効果)

 VS

 レッドガール・ウォーリアATK3300

 4300−3300=1000、ダメージ1000

 赤城LP2050−0=2050(ガードブロックの効果)

 

 ただ、戦闘ダメージは防がれたが相手モンスターを破壊したので〈光刃・ライトブレイカー〉の効果が発動できる。

 

「〈光刃・ライトブレイカー〉の効果発動! 戦闘破壊した〈レッドガール・ウォーリア〉の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「リバースカードオープン〈レッドブロック〉! このカードの効果で〈光刃・ライトブレイカーの効果をエンドフェイズまで無効にする」

「チイィ!」

 

 タイミングよく防御札を使われて追い込まれるが俺の攻撃は終わってない。

 

「なら!〈光刃・メルナ〉で〈スカーレットレディ・ソルジャー〉を攻撃(シャインダンス)!」

「もしかしてまたなの!」

「えぇ! ダメージステップ時、手札の〈オネスト〉の効果を発動! バトルする相手モンスターの攻撃力をコチラの光属性モンスターに加える」

「でもアタシは耐え切れるわよ!」

(だろうな)

 

 だが、コレで効果ダメージを発生させる〈スカーレットレディ・ソルジャー〉を破壊して大ダメージを相手に与える。

 

「きゃぁ!!」

 

 光刃・メルナATK1900→4700(オネストの効果)

 VS

 スカーレットレディ・ソルジャーATK2800

 4700−2800=1900、ダメージ1900

 赤城LP2050−1900=150

 

 この攻撃で俺と赤城のライフポイントが並んだ。なので、この状況を見ていた生徒達はかなり驚いていた。

 

「あの恋歌様と互角に戦っているなんて」

「アイツはモブじゃないのか?」

「このままだと恋歌様が負けるわ!」

 

 俺が予想以上に検討している事で、担任の松永先生と1組の担任である大岩先生の声も聞こえてくる。

 

「まさか赤城がここまで追い込まれるとはな」

「私の生徒はどうですか大岩先生?」

「……実力者がいるのは認めよう」

(先生達も大変だな)

 

 なんかよくわからない事になっているが無視して赤城の方を見る。すると、彼女は勢いよく立ち上がって楽しそうに笑っていた。

 

「……そう、そうよ! この戦いをアタシはしたかったのよ!」

「え? いきなりなんですか?」

(赤髪の美少女がいきなり豪快に笑い出したぞ)

 

 頭に疑問符が何個も浮かんでいると笑っていた赤城が真剣な目でコチラを見て来た。

 

「風見、いや颯汰! 礼を言うわ、ありがとう」

「あ、はい」

「久しぶりに面白いデュエルと心から思えたわ」

 

 いきなり名前呼びをされた俺は驚きよりもドン引きしてしまった。だが、それを無視する赤城は早口で言葉を発してきた。

 

「貴方! さっきからアタシに敬語を使っているけど今からやめて大丈夫よ」

「え、いや」

「やめなさい」

「わ、わかった」

(何が起きた?)

 

 よくわからない事が起きすぎて、頭の処理が追いつけないのでポカンとしかできない

 

「それと、貴方とは後でじっくり話し合いたいわね」

「……はい?」

「でもデュエルの決着が先ね! とぼけてないでターンを進めなさい」

「あ、あぁ」

 

 止まっていたデュエルを進める為に俺はモンスター効果を発動する。

 

「改めて、俺はカードを1枚伏せてターンエンド!!」

 

 今の状況では伏せるカードがコレしかない。その為、かなり辛い状況なのは否定できない。

 

 光刃・ライトブレイカーATK4300→2800

 光刃・メルナATK4700→1900

 

 風見LP100手札0枚

 フィールド

 光刃・ライトブレイカー

 光刃・メルナ

 魔法・罠

 光刃・天空の城塞

 伏せカード×1

 

 ここまでのギリギリの戦いで俺の残りLPは100で赤城のLPは150。正直、一手の差で勝敗が決まる状況だ。

 

〈ターン5〉

 

「コレが運命の……アタシのターン、ドロー!!」

「来るか!」

「えぇ! アタシは墓地の〈レッドガール・ウォーリア〉の効果発動! このカードを除外して墓地の〈レッド・スワロウ〉を特殊召喚」

「!? まさかシンクロ召喚か!」

「そうよ! これから見せるのはアタシの本当の切り札よ!!」

 

 レッド・スワロウ(効果モンスター+チューナー)オリカ

 レベル2、鳥獣族、火属性(守備表示)

 ATK800、DFF500

 

 その言葉を聞いて〈スカーレットレディ・ソルジャー〉を超えるカードが出てくると予想する。

 

(まだあるのかよ)

 

 ここまでシンクロモンスターを3体も出しているのに更に上があるのは驚きしかない。

 

「行くわ! アタシはレベル6の〈レッドソード・ワイバーン〉にレベル2〈レッド・スワロウ〉をチューニング!!」

 

 レベル6+レベル2

 

 シンクロモンスターである〈レッドソード・ワイバーン〉を使ったシンクロ召喚。レベルは〈スカーレットレディ・ソルジャー〉と同じ8だが、迫力が桁違いに見える。

 

「大いなる希望の豪炎よ! その紅蓮を纏い我が化身となれ! シンクロ召喚! レベル8、ランサーレッド・ドラゴン」

 

 6個の星と2つのリングが合わさり光り輝いた。その後、光の柱の中から〈レッドソード・ワイバーン〉よりも一回り大きな赤い皮膚のドラゴンが現れた。

 

 ランサーレッド・ドラゴン(シンクロモンスター)オリカ

 レベル8、ドラゴン族、火属性

 ATK3000、DFF2500(攻撃表示)

 効果、このカードはモンスター効果の対象にはならない。①このカードがS召喚に成功した時、自身以外のフィールドのカード全てを墓地に送る。②このカードが守備モンスターを攻撃した場合、相手の守備力を超えた分だけ戦闘ダメージを相手に与える。

 

「コレがアタシの切り札〈ランサーレッド・ドラゴン〉よ!」

「な、なるほど」

(マジかよ! ここで攻撃力3000はヤバイぞ!)

 

 強いモンスターが出てくるのはわかっていたが、ここまでとは思ってなかった。その証拠に周りの観客達は互いに顔を見合わせていた。

 

「か、歌恋様が見た事のないモンスターを召喚した!」

「まさか……あの陰キャが歌恋様を本気にさせたのか」

「悔しいけどそう見たいね」

 

 なんかさっきから俺の事は陰キャ呼ばわりされている。(否定は出来ない)

 

(今は陰キャ呼ばわりよりも対策だよな)

 

 俺はこのモンスターが、どんな効果を持っているか観察していると赤城が効果を発動させた。

 

「アタシは〈ランサーレッド・ドラゴン〉の効果発動! シンクロ召喚に成功した時、このモンスター以外のフィールドのカード全てを墓地に送る!」

「!? なんだと!」

「(セメタリー・フレア)!」

 

〈ランサーレッド・ドラゴン)の拳が地面にぶつかり、亀裂からマグマが吹き出しフィールドを埋め尽くした。そして、フィールドのカードが地面落ちていく。

 

〈今回の登場カード〉

 レッドブロック(カウンター罠)

 効果、①自分フィールドに〈レッド〉と名の付くモンスターが存在する場合、相手が発動した魔法・罠・モンスター効果を無効にする。



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第12話・エースVSエース

 フィールドがマグマに覆い尽くされてカードがなくなった。そう、無くなったはずだった。

 

「後は〈ランサーレッド・ドラゴン〉のダイレクトアタックで終わりね」

「……と、思うじゃん」

「!? な、なんでそのモンスターがフィールドに残っているの!!」

 

 マグマが消滅した後、泡に包まれた俺のエースモンスター〈光刃・ライトブレイカー〉が元に戻ったフィールドに舞い戻った。

 

「俺は墓地にある〈光刃・ムーン〉の効果を発動していた」

「そのカードは手札から墓地に送って光属性モンスターの攻撃力を上げるカード……って、まさか!」

「そう、このカードの墓地効果だ」

 

〈光刃・ムーン〉は自身を墓地から除外して、フィールドの光属性モンスター1体を相手からの効果を受けなくさせるカード。この効果で俺のエースは〈ランサーレッド・ドラゴン〉の効果から外れた。

 

「だ、だけど! フィールド魔法が無くなって〈光刃・ライトブレイカー〉の攻撃力は元に戻っているわよ」

「あぁ、そうだな」

 

 光刃・ライトブレイカーATK2800→2500

 

〈光刃・天空の城塞〉がなくなり攻撃力がダウンするが、元々攻撃力は〈ランサーレッド・ドラゴン〉の方が上なのであまり関係ない。

 

「最後の抵抗も無駄に終わったわね」

「無駄には終わってない! 俺は〈光刃・ライトブレイカー〉の効果発動! 自身を除外してデッキから3枚目の〈光刃・メルナ〉を特殊召喚する」

「ぐっ、ここでエースを除外してサーチできるモンスター特殊召喚するのね」

「更に〈光刃・メルナ〉の効果でデッキから〈光刃・ムーン〉を手札に加える!」

 

 光刃・メルナ(効果モンスター)オリカ

 レベル4、戦士族、光属性(攻撃表示)

 ATK1600、DFF1200

 

〈光刃・メルナ〉の攻撃力は1600だが、サーチした〈光刃・ムーン〉の効果で攻撃力を3100まであげる事ができる。なので攻撃力3000の〈ランサーレッド・ドラゴン〉では破壊できない。

 

「ま、まだよ! アタシは魔法カード〈死者蘇生〉を発動して墓地の〈スカーレットレディ・ソルジャー〉を特殊召喚!」

「!? まさか!」

「そうよ! ここで〈スカーレットレディ・ソルジャー〉の効果発動! 自身の攻撃権を放棄して元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。コレで終わりよ(フレアバーナ)!!」

「まだだ! 俺は墓地に存在する〈光刃・光の城壁〉の効果発動! このカードを除外してエンドフェイズまで俺が受ける全てのダメージを0にする」

「ぐっ、ならバトル!〈ランサーレッド・ドラゴン〉で〈光刃・メルナ〉を攻撃(バースト・ブラスター)」

「!? 俺は手札の〈光刃・ムーン〉を捨てて効果発動! フィールドの〈光刃・メルナ〉の攻撃力をエンドフェイズまて1500ポイントアップさせる!」

「だけど貴方は〈光刃・ムーン〉を使い切ったわね!」

 

 自分の切り札を囮にコチラの奥の手を使わせたのか。そう考えると次のターンはかなり辛い。

 

 光刃・メルナATK1600→3100

 VS

 ランサーレッド・ドラゴンATK3000

 3100−3000=100、ダメージは100

 赤城LP150→50

 

〈光刃・メルナ〉の手持ちの剣は光を纏い自分の数倍あるドラゴンを切り裂いた。

 

「ゴメン〈ランサーレッド・ドラゴン〉……」

 

 自分の切り札を自爆特攻させる気持ちはかなり辛いと思う。しかしコレは勝負なので相手をしっかり見る。

 

「まさか勝つ為に自分の切り札を囮にするなんてな」

「当たり前よ! アタシは勝ちたいから!!」

 

 コイツの覚悟は本物だと思って俺も最後の賭けをする覚悟を決める。

 

「次のターンが勝負か」

「そうね! アタシはコレでターンエンド」

 

 赤城LP50手札1枚

 フィールド

 スカーレットレディ・ソルジャー

 魔法・罠

 なし

 

 次の俺のドローで全てが決まる。その為、デッキトップに置いている手が重い。

 

「俺のターン……ドロー!!」

 

〈ターン6〉

 

 俺が引いたカードは……フィールド魔法〈光刃・天空の城塞〉だった。

 

(きたぁ!!)

 

 ここで1番欲しかったカードが引けた。なので俺は笑顔になって前を見た。

 

「あら? 貴方、今までで1番いい顔になっているわよ」

「だろうな」

(ここまで来たら今使える物を使ってコイツに勝つ!)

 

 そう思ってドローしたカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「俺はフィールド魔法〈光刃・天空の城塞〉を発動。その効果処理でデッキから2枚目の〈光刃・ライトブレイカー〉を手札に加える!」

「〈光刃・ライトブレイカー〉……」

「次に、俺は墓地に存在する〈光刃・メルナ〉の効果発動! 自身を除外してデッキから〈光刃・ソル〉を手札に加える。そして〈光刃・ソル〉はフィールドに光属性モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる」

「コレでモンスターが2体揃ったわね」

 

 光刃・天空の城塞(フィールド魔法)オリカ

 光刃・ソル(効果モンスター)オリカ

 レベル4、戦士族、光属性(攻撃表示)

 ATK1500→1800、DFF1200→1500(攻撃表示)

 

 この状況で手札にあるカードを召喚する為にフィールドのモンスター2体をリリースする。

 

「俺はフィールドの〈光刃〉モンスター2体をリリースしてアドバイス召喚! 再び現れろレベル8〈光刃・ライトブレイカー〉!!」

 

 2人の少女が光り輝き消えた後、金髪イケメンの剣士〈光刃・ライトブレイカー〉が堂々と現れた。

 

 光刃・ライトブレイカー(効果モンスター)

 レベル8、戦士族、光属性(攻撃表示)

 ATK2500→2800、DFF2000→2300

 

 コレで俺と赤城のフィールドには同じ攻撃力を持ったモンスターが揃った。

 

「あの状況からここまで立て直すなんてね」

「あぁ、意外となんとかなるもんだな」

 

 口では余裕な言い合いをしているが、実際は互いに息切れを起こしてギリギリの状態なのでこのターンで決めたい。

 

(このターンで決める!)

「俺は墓地に存在する〈光刃・ソル〉の効果発動。自身を除外してデッキから〈光刃・逆襲の剣〉を手札に加える」

「ここで新しいカードをサーチした!?」

「あぁ、次に繋げる為にな!」

 

 俺は自分のエースと相手のエースモンスターを互いに見た後に大きな声を出して指示を出す。

 

「バトル! 俺は〈光刃・ライトブレイカー〉で〈スカーレットレディ・ソルジャー〉を攻撃(ホーリーエンド)!!」

「向かい打て〈スカーレットレディ・ソルジャー〉(フレア・エッジ)!!」

 

 光刃・ライトブレイカーATK2800

 VS

 スカーレットレディ・ソルジャーATK2800

 2800−2800=0、ダメージ0

 

 互いの剣がぶつかり大きな衝撃波が起きる。そして、互いにエースが破壊されて場がガラ空きになった。

 

「コレで貴方のバトルは終わりね」

「……それはどうかな?」

「!? まだ手があるの!」

「あぁ、ある! 俺は速攻魔法〈光刃・逆襲の剣〉を発動!!」

「それはさっき〈光刃・ソル〉の効果でサーチしたカード!」

「そうさ! このカードの効果でデッキからレベル4以下の〈光刃〉モンスターである〈光刃・ファルス〉を特殊召喚する!」

 

 光刃・ファルス(効果モンスター)オリカ

 レベル4、戦士族、光属性

 ATK1800→2100、DFF1000→1300

 

 バトルフェイズ中に特殊召喚された〈光刃・ファルス〉は攻撃ができる。

 

「まさか恋歌様が負ける」

「そ、そんな事が起こるの!?」

「どんでん返しすぎるだろ!」

 

 周りのビックリしている声が聞こえるが俺は赤城の方に振り向き〈光刃・ファルス〉に攻撃指示を出す。

 

「コレで終わりだ、バトル!〈光刃・ファルス〉でダイレクトアタック〈光の剣撃〉!」

「ここで負けるわけにはいかないわ! アタシは手札の〈レッド・スカンク〉の効果発動!〈光刃・ファルス〉の攻撃を無効にする」

「なんだと!?」

「そして無効にしたモンスターの攻撃力の半分のダメージを互いに受ける」

 

 レッド・スカンク(効果モンスター)オリカ

 レベル3、獣族、火属性

 ATK1000、DFF1000

 効果、相手モンスターの攻撃宣言時、手札のこのカードを墓地送り攻撃を無効する。その後、無効にしたモンスターの攻撃力の半分のダメージを互いに受ける。

 

〈光刃・ファルス〉の光り輝く斬撃が赤い小動物である〈レッド・スカンクを切り裂き大爆発を起こした。

 

「ぐあぁ!!」

「きゃぁぁ!!」

 

 2100÷2=1050。〈レッド・スカンク〉の効果で互いに受ける。

 風見LP100→0

 赤城LP50→0

 引き分け(ドロー)

 

『ARビジョン、解除完了』

 

 3番手である俺達のデュエルは大激戦の末、引き分けに終わった。

 



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第13話・ガチ勢とエンジョイ勢

 3番手の風見颯汰VS赤城歌恋のデュエルは引き分けになり、周りの人達は驚きを通り越してよくわからない表情になっていた。

 

「あのモブが歌恋様と引き分けたなんて……」

「しかも熱いデュエルだったぞ」

「あぁ! ここまでドキドキしたデュエルは久しぶりだな」

 

 1組の生徒は明るい顔でデュエルコートの方を見た。対する3組の生徒は倒れている風見の方を見ながらいろんな感情が篭った視線を送っていた。

 

「なんであんな陰キャが目立つんだよ」

「しかも相手は学年トップのデュエリストだぞ」

「イライラするわね」

「……お前ら、嫉妬心が凄すぎるだろ」

 

 ドン引きしている生徒もいるが半分以上は風見に嫉妬や妬みの言葉を言う奴らが多く見える。

 なので、その光景を横目で見ていた松永先生と大岩先生は2人ともため息を吐いた。

 

「3組の生徒達は問題児が多いな」

「はい……そうですよ」

「さっきはすまなかった。松永先生もかなり苦労しているんだな」

 

 もはやクラス対抗戦の事を忘れて謝罪する大岩先生と俯いている松永先生。この2人を側から見れば関係性がいい先輩と後輩の姿だ。

 

 ーー

 

〈レッド・スカンク〉の効果でデュエルの結果が引き分け(ドロー)になり、俺はフラフラになりながら立ち上がる。

 

「ここまで本気でデュエルをしたのはいつぶりだ?」

 

 最後の切り札は使わなかったが、それでも楽しいと思えたデュエル。俺は確かな満足感を得ながら天井を見る。

 

(シンクロ召喚の使い手で学年トップのデュエリスト。この肩書きを見るとアドバンス召喚しか使ってない俺はよく引き分けられたな)

 

 相手の手札にあった〈レッドスカンク〉がもう少し早いタイミングで使われていたら負けていた可能性もある。

 

(あー、いろんな可能性が浮かんでしまう)

 

 頭に浮かぶ可能性を考えた後、髪の毛をガシカジ掻いて首を横に振る。

 

「ただ、楽しかったな」

「えぇ、アタシも楽しかったわ」

「それは……って!?」

 

 視線を天井から赤城の方に戻すと目の前に本人が笑顔で立っていた。それを見た俺は思わず後ろに倒れてしまう。

 

「いたた」

「あら、大丈夫?」

 

 尻餅をついた俺に向かって手を差し伸べてくる赤城。しかし、俺は恥ずかしくなって手を握らず立ち上がる。

 

「いきなり目の前に現れるのやめてくれ」

「あぁ、ごめんなさいね」

 

 クスクスと笑っている赤城を見て俺はよくわからない気持ちになるが、周りからの嫉妬の視線が刺さり眉を顰める。

 

「しかし赤城「歌恋でいいわよ」……む、はい」

 

 無理と言いかけたが、赤城……いや歌恋の威圧で名前呼びになった。

 

「あ、改めて歌恋は人気だな」

「そうかしら?」

「俺から見てもそう思うぞ」

 

 今の俺とは正反対だと思いながら言葉を口にすると歌恋は少しムッと頬を膨らました。

 

「颯汰から見ればそう思うかもしれないけど、人気者はやっかみもあるから面倒よ」

「なるほど、それはら俺は空気の方がいいな」

(面倒なのはごめんだ)

 

 ここまできたら目立つのは仕方ないとして、面倒な事は出来る限り避けたい。なのでこれ以上話すと生徒達の嫉妬がヤバいと思うので話を切る。

 

「さてと、そろそろ離れるよ」

「あ、それなら貴方の連絡先を聞いてもいいかしら?」

「あ、あぁ」

 

 俺は自分の懐からスマホを取り出し歌恋に連絡先を教える。そして向こうも登録が終わったみたいでLINEでメッセージが送られてくる。

 

〈LINE〉〈颯汰視点〉

〈カレン(赤城歌恋)〉よろしく!(スタンプ)

〈ソウタ(風見颯汰)〉あ、はい(既読)

〈ソウタ〉よろしく!(スタンプ)(既読)

 

 LINEをする為にスマホを見ているとある人物に声をかけられる。

 

「お前ら、ここでラインをするのはやめてくれ」

「青春しているのはいいが、独身の私には辛いぞ」

 

 声をかけてきたのは大岩先生と松永先生。2人は渋い表情をしながら苦言を言う。それを聞いた俺と歌恋は周りを見渡す。

 

「……嫉妬どころか妬みの視線がエグいな」

「なんか怖いわね」

(ここまで来たらクラスで浮くどころかタコ殴りにされそうだ)

 

 特に3組の生徒達の視線が怖すぎる。なので、俺は歌恋に向かって一礼をした後にデュエルリンクから離れる。

 

 ーー

 

 5限目の授業は対抗デュエルで潰れてしまったが、6限目は生徒達が各々のデッキを使ってデュエルを観客席で見ている俺はあくびを噛み締める。

 

「1組の生徒は狙いが比較的纏まっているな」

 

 水上の〈海皇〉や黒川の〈暗黒界〉を筆頭にデッキコンセプトをしっかり決めて回している姿をよく見る。対する3組の生徒達は……。

 

「どうだ! おれの〈偉大魔獣ガーゼット〉の攻撃力は4000だぞ!」

「おお! すごいな」

 

〈偉大魔獣ガーゼット〉の攻撃力が4000になって、相手にダイレクトアタックをしたら〈魔法の筒〉で攻撃を反射されていた。他には〈カラテマン〉の効果で自滅してフィールドがガラ空きになって一斉攻撃を受けたりしている生徒も存在した。

 

(ガチ勢の1組とエンジョイ勢の3組か)

 

 一応3組の生徒もガチで勝ちに行っているみたいだが、1組と比べると戦略性が低いといいざるを得ない。

 

「難しいな」

「何か難しいんだ?」

「あ、松永先生」

 

 俺の隣に来た松永先生は椅子にドカッと座りコチラを見た。

 

「お前が1人で寂しくしているところを見て来てやったぞ」

「別に寂しくしてないですよ」

 

 昔から仲間と呼べる人が少なく1人で過ごしていた俺は、この程度は苦にはならない。

 そう思って言葉を返そうと思ったが松永先生が続きの言葉を話してくる。

 

「確かにお前は孤独に耐性がありそうだな。ただ、本当の意味で孤独に耐えられる者はこの世界には存在しないぞ」

「?」

「今はこの言葉の意味が分からなくてもいいさ」

 

 よくわからない内容なので疑問符を浮かべる俺。すると松永先生は笑って天井を見た。

 

「さてと、お前はデュエルをしないのか?」

「えぇ、見ているだけでいいですよ」

「そうか……ただ、見ているだけは無理だと思うぞ」

「はい?」

 

 松永先生の言葉に嫌な予感がして振り向くとある人物が仁王立ちでコチラを見ていた。

 

「……大岩先生がめっちゃコッチを見てないですか?」

「あぁ、見ているな」

(見ているな、じゃない!?)

 

 ただでさえ厳つい大岩先生の真顔の威圧感。それを見た俺は体から冷や汗が出てきた。

 

「あの、帰っていいですか?」

「それ無理だ」

 

 いつのまにか俺の肩を掴んでいた松永先生は立ち上がって俺を大岩先生の元に引っ張っていく。そして俺は1組の生徒達に混ざって無理矢理、デュエルをやる羽目になった。



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第14話・VSヤンキー少女

 午後の授業(デュエル)と帰りのHRが終わり、俺は足早に鞄を持って大月学園から出る。

 

「ハァ、めっちゃ疲れた」

 

 あの後、大岩先生や生徒達に囲まれてデュエルを進めた。しかし、歌恋事が影響して最終的には1(俺)対5(1組の生徒)になってボロ負けした。

 

(流石に複数人を相手するのはキツイな)

 

 街の歩道を歩きながら考えていると、ビルに取り付けられているモニターから興味深い音が聞こえた。

 

『クロガネ社が開発した最新式のDホイール(QA2000)は安定性と加速性を両立させた構成のマシンだ! さぁ、君もこのQA2000でライディングデュエルを楽しもう』

「ライディングデュエルか」

 

 スピードワールドと呼ばれるフィールド魔法が発動されて特別ルールが追加されるデュエル。だが、俺はDホイールの免許を持ってないのでやる事ができない。

 

「あのDホイールが有れば通学も楽になりそうだな」

 

 そう思って俺はモニターから目を離して自宅であるアパートの方に向かって歩き始める。

 

 ーー

 

 自宅に帰る途中、通りかかった公園で子供が泣いている姿を見つける。

 

(……)

 

 その子供は10歳くらいの水色髪の可愛い少年。見る人によっては少女に見えるかもしれない。その彼がベンチに座って泣いていた。

 

(ここは無視するのか1番だよな)

 

 小さい子供に声をかけるだけで誘拐犯にされる可能性があるので、無視して通り過ぎようとしたが少年と目があった。

 

「あ、あの黒髪のお兄ちゃん!」

「黒髪のお兄ちゃんって俺の事か?」

「う、うん」

 

 服の袖で涙を拭いた少年はベンチから立ち上がってコチラに駆け寄ってくる。俺はその姿を見て何か巻き込まれたと直感的に思う。

 

(誘拐犯と思われないといいが)

 

 周りに通りかかっている人達は興味深そうにコチラを見ている。その光景を見て逃げたくなるが我慢して少年の方に向く。

 

「あー、それで何かあったのか?」

「実は、ボクとボクのお姉ちゃんが不良にデュエルで負けてデッキを取られちゃったんだ」

「……はい?」

 

 いきなり話がぶっ飛んだ気がするが、内容的には気になったので続きを聞く。

 

「それで取り返す手段が無くて泣いていたらお兄ちゃんと出会ったんだよ」

「それって……」

(俺は巻き込まれただけじゃん)

 

 不良にデッキを取られたのはともかく、他人を巻き込んでいるこの少年も少年だと思った。

 

「お兄ちゃん! ボクとお姉ちゃんのデッキを取り返して!」

「そんなの無理に決まっているだろ!」

「そんな事を言わないでよ」

 

 この話は警察案件なので交番に連れて行こうと思ったが、ガチ泣きして俺に抱きついてくる少年を無視できない。

 なのでどうするか迷っていると後ろから耳障りな声が聞こえた。

 

「おい、クソガキ! お前はまた他人に泣きついているのか」

「!? あ、あぁ……」

 

 この声に反応した少年が俺から離れてペタンと尻餅をついた。それを見た俺は声がした方に振り向く。

 

「……」

 

 耳障りな声を発した本人の服装は、ボタンの付いてない学ランに黒いダボダボのズボン。手には木刀を持っており一昔前の不良に見える。

 

(まさかの本人が来たのかよ)

 

 学ランの下には黒いシャツを着ており、胸の部分が盛り上がっているので女性。次に服から顔に視線を移すとオレンジ髪のウルフカットで、凶暴そうな見た目の少女だった。

 

「この辺の奴らは倒したはずだがまだ残っていたとはな!」

「倒した? もしかしてこの辺のデュエリストからデッキを奪っていたのか?」

「奪っていたなんて人聞き悪いな! オレは正当な対価としてデッキを貰っていただけだ」

(なるほどな)

 

 だからこの辺には人が少なかったのか。俺はその言い分を聞きながら冷静に答える。

 

「なら俺のデッキも奪うつもりか?」

「それはオレが勝った時だ! お前が勝ったらオレが出来る事ならなんでも言う事を聞いてやる」

「まさか、その言葉で他のデュエリストを釣ったのか?」

「あぁ、下心がある奴や強欲な奴はこの言葉ですぐに釣れたぞ」

(でしょうね)

 

 ワイルドな見た目をしている少女だが、顔立ちは整っているので引っかかる奴は多いはずだ。

 

「ただ、何故かオッサンが多い気がするのは気のせいか?」

「……」

(衝撃の真実!)

 

 まさかの事実を知った俺は何も言えなくなった。しかも、相手は疑問符を浮かべているだけでオッサンが多い理由が分かってない。

 

(ロリコンが多いのか)

 

 変態達の集まりみたいになっているコイツ。流石にこの状況は絵面的にまずいと思ったので辞めさせる方向を考える。

 

「このセリフを俺が言えるじゃないが、カツアゲはやめた方がいいぞ」

「はっ? いきなり味気ついたのか?」

「そうじゃなくてお前の身を案じているんだよ……」

「は? さっき会った奴が勝手にオレの身を案じてんじゃねーよ!!」

 

 ぐうの音も出ない正論を吐かれたが、ここまで来たら引き下がれないので言い返す。ただこの時、水色髪の子供は黙って震えている事に俺は気づかなかった。

 

「お前はデュエルした相手の事を覚えているのかよ!」

「そんなの知るか! オレは強くなる為にデュエルをしているだけだ!」

「そうか、ならここで止めてやる」

「ふん! このオレ、村山蓮を止めれるものなら止めてみろ!!」

 

 俺は懐から取り出したデュエルディスクにデッキを差し込みプレートを出現させる。相手の少女も同じ行動を取った後、俺達は一定の距離をとって掛け声を言う。

 

「「デュエル!!」」

『ARビジョン、リンク完了』

 

 風見LP4000VS村山LP4000

 

 先行は俺からなので最初に5枚引いた時の手札を確認して回し始める。

 

〈ターン1〉

 

「俺は手札の〈光刃・メルナ〉を通常召喚! そして自身の効果でフィールド魔法〈光刃・天空の城塞〉を手札に加える」

「光属性デッキか!」

「そうだ! 更にフィールド魔法〈光刃・天空の城塞〉を発動! このカードの効果処理でデッキから〈光刃・ムーン〉を手札に加える。そしてカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 光刃・メルナ(効果モンスター)オリカ

 レベル4、光属性、戦士族

 ATK1600→1900、DFF1200→1500

 光刃・天空の城塞(フィールド魔法)オリカ

 

 風見LP4000手札4枚

 フィールド

 光刃・メルナ

 魔法・罠

 光刃・天空の城塞(フィールド魔法)

 伏せカード×1

 

 正直手札が悪かったのでデッキ回りが良くないが、なんとか相手の攻撃を防げる盤面にはなった。

 

〈ターン2〉

 

「その程度のモンスターでオレは止められないぜ!」

「そうかな?」

 

 村山がデッキトップに手を置き思いっきりカードを引いた。

 

「オレのターン、ドロー! オレは〈鉄鬼・イエロー〉を召喚して効果発動! レベル4以下の〈鉄鬼〉モンスターである〈鉄鬼・ブラウン〉を手札から特殊召喚する!」

 

 鉄鬼・イエロー(効果モンスター)オリカ

 レベル4、獣戦士族、地属性

 ATK1800、DFF500(攻撃表示)

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①このカードが召喚に成功した時、手札のレベル4以下の〈鉄鬼〉モンスター1体を特殊召喚できる。②このカードがフィールドから墓地に送られた場合、デッキから〈鉄鬼〉カード1枚を手札に加える。

 

 鉄鬼・ブラウン(効果モンスター)オリカ

 レベル4、獣戦士族、地属性

 ATK1600、DFF500(攻撃表示)

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①このモンスターが相手モンスターを破壊した時、相手に500ポイントのダメージを与える。②このカードがフィールドから墓地に送られた場合、デッキから〈鉄鬼〉カード1枚を手札に加える。

 

 村山のフィールドに現れたのは、鍛えられた茶色い皮膚に名前の色と同じ鎧と棍棒を装備した鬼モンスター。その見た目は昔話に出てくる鬼だ。

 

「なんか強そうな見た目をしているな」

「おいおい、強そうなのは見た目だけじゃないぞ!」

 

 名前が適当に見えるのはカード製作者のインプット不足なのかとツッコミたくなるが、無視して相手の動きを見る。

 

「オレはフィールドにいる〈鉄鬼・ブラウン〉をリリースして手札の〈鉄鬼・ブラック〉を特殊召喚!」

「ぐっ、いきなり上級モンスターの召喚か!」

「驚くのはまだ早いぜ! オレはフィールドから墓地に送られた〈鉄鬼・ブラウン〉の効果発動! デッキから〈鉄鬼〉カードである〈鉄鬼・鍛錬〉を手札に加える」

 

 鉄鬼・ブラック(効果モンスター)

 レベル6、獣戦士族、地属性

 ATK2300、DFF500

 効果、このカード名の①、②の効果はそれぞれ1ターンに一度しか発動できない。①自分フィールドの〈鉄鬼〉モンスター1体をリリースして送り、このカード特殊召喚できる。②このカードが相手モンスターを破壊した場合、もう一度攻撃ができる。

 

 さっき召喚された〈鉄鬼〉モンスターよりも一回り大きな体格のモンスターである〈鉄鬼・ブラック〉に驚く。

 

(なんか不味そうだな)

 

 俺は自分の身を案じる為に伏せカードを確認しつつ相手を見る。



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第15話・鉄鬼デッキ

 風見LP4000手札4枚

 フィールド

 光刃・メルナ

 魔法・罠

 光刃・天空の城塞

 伏せカード1枚

 

 村山LP4000手札4枚

 フィールド

 鉄鬼・イエロー

 鉄鬼・ブラック

 魔法・罠

 なし

 

 フィールドの状態は上級モンスターを召喚した村山の方が有利。だが俺も伏せカードがあるので対抗策はある。

 

(ここでどうなるかだな)

 

 相手の手札は4枚も残っているので動きを警戒する。

 

「何か構えているみたいだが無駄だ! オレは魔法カード〈鉄鬼・号令〉を発動! デッキから〈鉄鬼〉モンスター1体を手札に加える」

「そうは行くか! カウンター罠〈光刃・逆転の盾〉を発動! 手札の〈光刃・ファルス〉を墓地に送り〈鉄鬼・号令〉の効果を無効にして墓地に送る」

 

 相手のサーチ手段を潰したので一安心するが、村山は余裕余裕の表情で笑っていた。

 

「なら! オレはフィールド魔法〈鉄鬼・闘技場〉を発動! フィールドの〈鉄鬼〉モンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる」

 

 鉄鬼・イエローATK1800→2200

 鉄鬼・ブラックATK2300→2700

 

 鉄鬼・闘技場(フィールド魔法)オリカ

 効果、①このカードがフィールドに存在する限り〈鉄鬼〉モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。②1ターンに二度、フィールドのモンスターが破壊された時、そのコントローラーは500ポイントのダメージを受ける。

 

 相手もフィールド魔法を使い自分フィールドのモンスターを強化した。しかも〈鉄鬼〉モンスターの攻撃力が2体とも〈光刃・メルナ〉の攻撃力を超えた。

 

「このターンで終わらせてやるよ! バトル、オレは〈鉄鬼・イエロー〉で〈光刃・メルナ〉を攻撃!」

「かかったな! 俺は手札の〈光刃・ムーン〉の効果発動! フィールドに存在する〈光刃・メルナ〉の攻撃力を1500ポイントアップさせる」

「ぐっ!」

 

〈鉄鬼・イエロー〉が自身の棍棒で殴りかかったが〈光刃・メルナ〉は〈光刃・ムーン〉の効果でパワーアップして反撃の斬撃を放ち相手を切り裂いた。

 

 光刃・メルナATK1900→3400

 VS

 鉄鬼・イエローATK2200

 3400−2200=1200、ダメージは1200

 村山LP4000→2800

 

 ここでモンスターが破壊された事によって、村山のフィールドに存在するフィールド魔法〈鉄鬼・闘技場〉の効果が発動する。

 

「自身の効果でダメージを受けろ」

「ちいぃ! だがフィールドから墓地に送られた〈鉄鬼・イエロー〉の効果発動! デッキから〈鉄鬼・レッド〉を手札に加える!」

 

 村山LP2800−500=2300

 

 ここで新しいカードをサーチ+村山の表情が変わってないので何かあると思う。

 

「まさかコレで終わりだと思ってないだろ」

「まぁな」

 

 村山は自分フィールドに存在する〈鉄鬼・ブラック〉を見た後、コチラを指さす。

 

「行くぞ! オレは〈鉄鬼・ブラック〉で〈光刃・メルナ〉を攻撃!」

「攻撃力は〈光刃・メルナ〉の方が上だが……」

「さっきお前にやられた事をそっくり返してやるぜ! オレは手札から〈鉄鬼・レッド〉の効果発動! このカードを墓地に送り、エンドフェイズまで〈鉄鬼・ブラック〉の攻撃力を1400ポイントアップさせる!」

「ぐあぁ!」

 

 鉄鬼・レッド(効果モンスター)オリカ

 レベル3、獣戦士族、地属性

 ATK1400、DFF500

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①手札のこのカードを墓地に送り、フィールドの〈鉄鬼〉モンスター1体を対象にして発動できる。対象になったモンスターの攻撃力はエンドフェイズまて1400ポイントアップする。②このカードがフィールドから墓地に送られた場合、デッキから〈鉄鬼〉カード1枚を手札に加える。

 

 さっきは〈鉄鬼・イエロー〉を破壊した〈光刃・メルナ〉だが、パワーアップした〈鉄鬼・ブラック〉の黒い棍棒に殴られて消滅した。

 

「コレでフィールド魔法の効果も合わせてダメージを与えるぜ」

 

 追加で起きたダメージを受けている俺は地面にしっかり踏ん張って耐える。

 

 鉄鬼・ブラックATK2700→4100

 VS

 光刃・メルナATK3400

 4100−3400=700、ダメージ700+500(フィールド魔法)=1200

 風見LP4000−1200=2800

 

 だがコレで相手モンスターの攻撃は終わった。俺はホッとしていると村山から驚きの言葉を聞く。

 

「何を安心しているんだ? まだバトルは終わってねーぞ!」

「!?」

「〈鉄鬼・ブラック〉は相手モンスターを破壊した場合、もう一度攻撃ができる!」

「な、なんだと!」

「コレで終わりだ! オレは〈鉄鬼・ブラック〉でダイレクトアタック!!」

 

 俺のガラ空きのフィールド向かって〈鉄鬼・ブラック〉は地面に棍棒をぶつけて起こした衝撃波をぶつけていた。そして、俺の目の前で大爆発を起こした。

 

「やったか! やっぱりアイツも呆気ないな」

「……と、思うじゃん」

「!?」

 

 光刃・テルン(効果モンスター)オリカ

 レベル4、戦士族、光属性

 ATK500、DFF2000(守備表示)

 

 砂煙が晴れると俺の目の前にはモンスターが存在している。そのモンスターの手には大きな盾を握っており相手からの攻撃をしっかり防御していた。

 

「俺はダイレクトアタックを宣言した時、手札の〈光刃・テルン〉の効果を発動していた!」

「ぐっ、しぶといな」

 

〈光刃・テルン〉のお陰で助かったが、無かったら負けていたので正直ヤバいと思った。

 

〈光刃・テルン〉レベル4、光属性、戦士族

 ATK500、DFF2000

 効果、このカード名の①、③の効果はそれぞれ1ターンに一度しか使えない。①相手がダイレクト宣言した時、手札にあるこのカードを表側守備表示で特殊召喚できる。②、①の効果で特殊召喚した場合、エンドフェイズまてこのモンスターは戦闘では破壊されない。③墓地のこのカードを除外してフィールドにいる光属性モンスター1体を選択して発動できる。このターン、そのモンスターは戦闘・効果では破壊されない。

 

「トドメを差し損なったか! オレはカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 鉄鬼・ブラックATK4100→2700

 

 村山LP2300手札1枚

 フィールド

 鉄鬼・ブラック

 魔法・罠

 鉄鬼・闘技場

 伏せカード1枚

 

〈ターン3〉

 

 このターンは耐え切れたけど次の相手ターンがどうなるかわからない。なのでできればこのターンで決着をつけたい。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードはこの場では使えないカード。だが、墓地にあるモンスター達の効果で補う。

 

「俺は〈光刃・ファルス〉の効果発動! 自身を墓地から除外してデッキから〈光刃・逆襲の剣〉を手札に加える! さらに〈墓地の〈光刃・メルナ〉の効果でコイツも墓地から除外してデッキから〈光刃・ライトブレイカー〉を手札に加える」

「チィ! インチキ効果も大概にしろ!」

「お前が言える事か!」

 

 互いにどっちがインチキかと言い合っているとさっきまで黙っていた水色髪の少年が一言。

 

「どっちもインチキだと思いますよ」

「「……」」

 

 少年の言葉がグサっと来た俺達は顔を見合わせる。その空気で微妙になったが、なんとか復活する。

 

「つ、続けるぞ。俺は手札に加えた速攻魔法〈光刃・逆襲の剣〉を発動! デッキから〈光刃・メルナ〉を特殊召喚。そして自身の効果でデッキから〈光刃・ムーン〉を手札に加える」

「フィールドにモンスターが2体揃った。しかもまだ召喚権を残しているのか!」

「あぁ、そうだ! 俺はフィールドの〈光刃〉モンスター2体をリリースしてアドバンス召喚! 現れろレベル8〈光刃・ライトブレイカー〉!!」

 

 俺のエースモンスターである〈光刃・ライトブレイカー〉をアドバンス召喚。このカードを使ってトドメを刺しに行く。

 

 



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第16話・鉄鬼(テッキ)デッキのエース

 俺のフィールドには攻撃力2800の〈光刃・ライトブレイカー〉が存在している。対する相手のフィールドには攻撃力2700の〈鉄鬼・ブラック〉がいる。

 

「ここは臆さず攻める! 俺は〈光刃・ライトブレイカー〉で〈鉄鬼・ブラック〉を攻撃(ホーリーエンド)!!」

「ここでは終わらない! リバースカードオープン〈鉄鬼・訓練〉。エンドフェイズまで全てのモンスターは戦闘では破壊されない」

 

 ここで手札にある〈光刃・ムーン〉の効果を使って攻撃力を上げる事はできるが……。

 

 光刃・ライトブレイカーATK2800

 VS

 鉄鬼・ブラックATK2700

 2800−2700=100、ダメージ100

 村山LP2300−100=2200

 

「お前、手札のカードを使わなかったな」

「次の事を考えると使わない方がいいと思っただけだ」

 

 罠カードの効果で守られた〈鉄鬼・ブラック〉に切りかかり僅かな衝撃を起こして村山にダメージを与えた。しかし、彼女は余裕そうな表情を崩さなかった。

 

「その後悔がない事を祈ってやるよ」

「それはありがたいな! 俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 風見LP2800手札3枚

 フィールド

 光刃・ライトブレイカー

 魔法・罠

 光刃・天空の城塞

 伏せカード1枚

 

 煽るつもりで言うと村山の表情が微妙になり地面に向かって唾を吐き捨てた。

 

「……やっぱりお前もオレが生きているのが迷惑なだけだろ」

「はい? いきなりなんだ?」

(地雷を踏んだか?)

 

 直感的にそう思ったので少し心理フェイズに入る。

 

「いきなりキレられても意味がわからないんだが」

「そうか……なら説明してやるよ!」

 

 ここで一旦デュエルを中断して村山の言葉に耳を傾ける。すると彼女は拳を強く握りしめて言葉を発した。

 

「オレの親は共働きで家には誰もいない。たまに会っても冷たく見放される! それで友達とかと遊びたいが、周りは上っ面はニコニコしているけど裏で陰口を言う集団が多い奴ら。こんな闇しかない世の中で生きていけと!」

「それはただの八つ当たりだろ。正直、お前の闇なんて浅いんだよ!!」

「なんだと! お前にオレの辛い気持ちがわかるのかよ!!」

「そんなの本人しかわかるわけないだろ! そもそも自分が変わる気がないのに好き勝手言いやがって!! 本気で自分や周りを変えたいなら行動しやがれ馬鹿野郎!!!」

「そんなの既にやっているんだよ! でも無駄でしかない!!」

「確かに努力が実るなんて綺麗事だ。だが、努力しないと何も進まないぞ!」

 

 昔自分が言われた事を言う日が来るとは思ってなかったが、このままだと締まらないので最後まで話す。

 

「ハッキリ言うが、この世の中は闇だらけだ! だがな……それでも頑張って生きている人達がたくさんいるんだ! それで簡単に諦めるのは早いだろ!!」

「ぐっ、ならオレには何があるだよ」

 

 ポロポロと泣き出した村山に向かって俺は一言。

 

「なら周りを頼ってみろよ」

「ま、周り? オレは一人ぼっちだが……」

「ほう、お前は目の前にいる人物すら目に入らないのか?」

「お前とは今日会ったばかりだぞ」

「……人を頼るのに日にちはあんまり関係ないだろ」

(本当に困った事なら信じられる人の方がいいが)

 

 まぁ、俺もあんまり人に頼ってないなと思いながら村山の方に近づく。そして右手を彼女に向ける。

 

「俺は逃げも隠れもする卑怯者だが人を裏切る事はしないつもりだ」

「……信じていいのか?」

「それはお前次第だろ」

「!? なら信じてやるよ!」

 

 俺の差し出した手を握った村山の顔は今までで1番いい顔だった。そして、コレで閉幕……しなかった。

 

「そういえば、デュエルの決着がついてないな」

「あぁそうだな」

 

 握手した手を離して俺は元の場所に戻りデュエルを再開する。たが、さっきと違うのは村山の表情だ。

 

「このデュエルに勝ってお前……いや、アニキを手に入れてやるぜ!」

「そうか、やってみろ!」

「あぁ! オレのターン!!」

 

〈ターン4〉

 

 今までよりも勢いよくカードを引いた村山はニカッと笑った。

 

「きた! オレは魔法カード〈鉄鬼・再出撃〉を発動! 名前の異なる〈鉄鬼〉モンスター2体を墓地から効果を無効にして特殊召喚する!」

「ここで蘇生カードか!」

 

 鉄鬼・再出撃(通常魔法)オリカ

 効果、このカードは1ターンに1枚しか発動できない。①墓地に存在する〈鉄鬼〉モンスター2体を表側守備表示で特殊召喚する。(同名は1枚まで)

 

 鉄鬼・イエロー(効果モンスター)オリカ

 レベル4、獣戦士族、地属性

 ATK1800、DFF500(守備表示)

 

 鉄鬼・ブラウン(効果モンスター)オリカ

 レベル4、獣戦士族、地属性

 ATK1600、DFF500(守備表示)

 

 1番引かれたくないカードを引かれたので、俺は渋い顔になりながら相手の動きを見る。

 

「この効果で墓地から〈鉄鬼・イエロー〉と〈鉄鬼・ブラウン〉を守備表示で特殊召喚する」

「ここでリリース要因が揃ったか!」

「あぁ、一気に行くぜ! オレは〈鉄鬼・イエロー〉と〈鉄鬼・ブラウン〉をリリースしてアドバンス召喚! 現れろレベル8〈鉄鬼・ゴールド〉!!」

 

 鉄鬼・ゴールド(効果モンスター)

 レベル8、獣戦士族、地属性

 ATK2700、DFF500(攻撃表示)

 効果、このカード名の①、②、③の効果はそれぞれ1ターンに一度しか発動できない。①フィールドの〈鉄鬼〉モンスター2体をリリースしてこのカードは特殊召喚できる。②墓地に存在する〈鉄鬼〉モンスター1体をデッキに戻して、エンドフェイズまでこのカードの攻撃力を戻した〈鉄鬼〉モンスターのレベル×200ポイントアップさせる。③このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、デッキから〈鉄鬼・ゴールド〉以外の〈鉄鬼〉モンスター1体を手札に加える。

 

 鉄鬼・ゴールドATK2700→3100

 

 2体の〈鉄鬼〉モンスターをリリースして現れたのは〈鉄鬼・ブラック〉よりも大きなガタイをした鬼。しかも装備は黒色の棍棒じゃなくて背丈に届く程の大きな金色の大剣だった。

 

「どうだ! コレがオレのエースモンスターだ」

「あぁ、いいモンスターだな」

「へへっ!」

 

 さっきよりも楽しそうな表情になったのでコチラも嬉しくなった。だが、ここで大型モンスターの出現はかなりやばい。

 

「さてと、まずは墓地に送られた〈鉄鬼〉モンスター2体の効果発動! デッキから〈鉄鬼・レッド〉を2枚手札に加える」

「マジかよ!」

(攻撃力アップ2枚持ちかよ)

 

 正直かなりヤバイ状態なので冷や汗が流れてくる。しかも、相手の手は止まる気がしない。

 

「バトルの前に〈鉄鬼・ゴールド〉の効果発動! 墓地の〈鉄鬼・レッド〉をデッキに戻して攻撃力を戻した〈鉄鬼〉モンスター×200ポイントアップさせる」

「〈鉄鬼・レッド〉のレベルは3。つまりは攻撃力が600ポイントアップするのか!」

「当たりだ。コレで〈鉄鬼・ゴールド〉の攻撃力は3700だ」

 

〈鉄鬼・ゴールド〉の金色の剣に赤いオーラが纏い攻撃力がアップ。この姿を見て熱いなと思う。

 

「さあこい!」

「あぁ! バトル〈鉄鬼・ゴールド〉で〈光刃・ライトブレイカー〉を攻撃!」

「その瞬間、俺は手札に存在する〈光刃・ムーン〉の効果発動! フィールドに存在している〈光刃・ライトブレイカー〉の攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

「そうくると思ったぜ! オレも手札にある〈鉄鬼・レッド〉の効果発動! このカードを2枚捨てて〈鉄鬼・ゴールド〉の攻撃力を合計2800ポイントアップさせる!」

「ぐっ! リバースカードオープン〈光刃・光の城壁〉を発動! このターン、光属性モンスターは戦闘・効果では破壊されない!!」

「なっ!!」

 

 苦し紛れの罠カード〈光刃・光の城壁〉だが、ライフ的にはなんとか耐えられる。

 

 鉄鬼・ゴールドATK3700→6500

 VS

 光刃・ライトブレイカーATK2800→4300

 6500−4300=2200、ダメージ2200

 風見LP2800−2200=600

 

 赤いオーラを纏った〈鉄鬼・ゴールド〉の大剣が〈光刃・ライトブレイカー〉に直撃する寸前、光のバリアが現れて破壊を防いだ。でも、発生したダメージは大きく俺は後ろに吹き飛ぶ。

 

「ぐっ、あぁ!」

 

 ゴロゴロと地面を転がるが歯を食いしばって痛みに耐え、なんとか止まったのでフラフラになりながら立ち上がる。

 

「ま、まだ終わってないぞ!」

「……〈鉄鬼・ブラック〉では勝てないか! なら守備表示にしてターンエンド!!」

 

 鉄鬼・ブラック(攻撃表示→守備表示)

 ATK2700→DFF500

 鉄鬼・ゴールドATK6500→3100

 

〈鉄鬼・ブラック〉が守備表示に変更され、相手は守備を固めた。それを見た俺は次のターンで決めれる事を願う。



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第17話・アニキ?

 風見LP600手札2枚

 フィールド

 光刃・ライトブレイカー

 魔法・罠

 光刃・天空の城塞(フィールド魔法)

 

 村山LP2200手札0枚

 フィールド

 鉄鬼・ゴールド

 鉄鬼・ブラック

 魔法・罠

 鉄鬼・闘技場(フィールド魔法)

 

 相手のフィールドには攻撃表示の〈鉄鬼・ゴールド〉と守備表示の〈鉄鬼・ブラック〉が存在している。このまま〈光刃・ライトブレイカー〉で〈鉄鬼・ブラック〉を攻撃すれば自身の効果を使って勝てる。

 

「でも面白くないよな」

 

 勝つだけならコレでいいが、今の俺はどうやって面白く終わるかを考える。すると村山が手を大きく開けて大声で叫んだ。

 

「アニキ、今度はオレが受ける番だ! 思いっきりこい!!」

「あぁ、行かせてもらう! 俺のターン!!」

 

 運がいい事に引いたカードはこの場で1番必要なカードだった。

 

「デッキも答えてくれたな」

 

 久しぶりに信じる事をした気がするし、その気持ちを思い出す事ができたので正直嬉しい。

 

「思いっきり行くぞ! バトル〈光刃・ライトブレイカー〉で〈鉄鬼・ゴールド〉を攻撃(ホーリーエンド)!!」

「攻撃力は〈鉄鬼・ゴールド〉の方が上だが……」

「ダメージステップ時、手札の〈オネスト〉の効果発動! このカードを捨てて自分の光属性モンスターがバトルする相手のモンスターの攻撃力の数値を加える!」

「こ、攻撃力5900……」

「コレで終わりだ!」

「ぐっ、うわぁぁ!!」

 

〈光刃・ライトブレイカー〉の光を纏った剣撃で粉砕された〈鉄鬼・ゴールド〉。その時に発生した衝撃を受けた村山は地面を勢いよく転がった。

 

 光刃・ライトブレイカーATK2800→5900

 VS

 鉄鬼・ゴールドATK3100

 5900−3100=2800、ダメージ2800

 村山LP2200−2800=0(−600)。勝者、風見颯汰

 

 ーー

 

 決着がつき、俺は衝撃を受けて倒れた村山に駆け寄る。すると彼女は笑って立ち上がった。

 

「アニキ! 久しぶりに楽しいデュエルができたぜ!」

「それは……って、さっきからなんで俺の事をアニキと呼んでいるんだ?」

「そんなの決まっているだろ! アニキはアニキだ!!」

「答えになってないぞ」

 

 アニキと連呼して俺に抱きついてくる村山を見ながら言葉を発する。

 

「そういえば、俺の名前を言ってなかったな」

「あぁ、そうだな! アニキの名前を聞かせてくれよ」

 

 自分も大概ズレていると認識しながら名前と簡単な自己紹介を始める。

 

「俺の名前は風見颯汰、大月学園の高等部一年生だ。趣味は特に思いつかないが料理をする事は好きだな」

「ふむふむ! 料理が好きならアニキの家に飯を食べに行ってもいいか?」

「別にいいがアパートで1人暮らしだから部屋は狭いぞ」

 

 6畳のワンルームでトイレと風呂は別。コレで家賃がそこそこで仕送りもあるのでやっていけている。だが、そこまで余裕はないので贅沢は出来ていない。

 

「別にそこは気にしねーよ!」

「そうか……」

(ある意味安心できたな)

 

 俺は何故かホッとして村山の言葉の頷き、今度は彼女の自己紹介が入った。

 

「次はオレの番だな。オレの名前は村山蓮(むらやまれん)、アニキと同じ大月学園の中等部に通ってる」

「同じ学園だったのか」

「あぁ、そうだ! でもこの辺は大月学園の生徒が多いから珍しくないと思うぜ」

 

 学年は3年みたいで受験はいいのか?と聞くとエスカレーター式で上がれるからいいと言われた。

 

「なるほどな。ただ、中等部の制服とは見た目が似てない気がするのは気のせいか?」

「あぁ、この服はここにきてデュエルする為に作ったもんだぜ」

「……手先が器用なんだな」

(見た目はワイルドなのに手先が器用なのは驚きだな)

 

 俺の身長は170センチくらいで、対する村山の身長は160センチくらいあるので女子としては大柄に見える。なので、見た目から想像できない事に驚いていると後ろにいた少年が震えながら口を開く。

 

「あ、あの! ボクとお姉ちゃんのデッキを返してよ!!」

「あぁ、このデッキか」

 

 少年の言葉に頷いた村山が懐からデッキを2つ取り出して少年に渡した。少年は俺に一礼した後、足早に去っていた。

 

「あいつ、アニキにお礼だけ言って逃げていったぞ」

「……別にその辺は気にしてない」

 

 少年からすると俺達は恐ろしい存在にも見えるかもしれない。なので、俺は少年が去っていたのを確認してから言葉を発する。

 

「さてと、俺は帰るし村「オレの事は蓮と呼んでくれ!」……蓮はどうするんだ?」

 

 苗字で呼ぼうとしたら大声+威圧で名前の蓮と彼女を呼び。蓮は俺の言葉に笑顔になった。

 

「これからアニキの家に行ってもいいか?」

「別にいいが何もないぞ」

 

 引っ越して1ヶ月くらいしか経ってないので私物は少なくて部屋はガランとしている。そんなところに後輩を招いても面白くないと思ったが蓮は違うみたいだ。

 

「そんなのは気にしねーよ! オレはアニキと話せるだけでもいいぜ」

「なら大丈夫か?」

 

 何か引っかかるが無視して足を前に出そうとしたが、蓮がいきなりオレの左手を握った。

 

「こうすればオレは迷わずアニキの家に行ける!」

「……スーパーに寄って行くからその時は話してくれよ」

「あぁ、もちろんだぜ」

 

 手のかかる妹が出来たみたいで嬉しくなりながら俺は蓮と一緒に帰り道を歩いて行く。

 

 ーー

 

 スーパーで食材を買った後、自宅であるアパートの自室に入る。

 

「ここがアニキの家か」

「手を洗って入れよ」

「了解だぜ」

 

 洗面所の場所を案内して手を洗った後、俺と蓮はリビングに入る。

 

「そういえば、蓮は家に連絡をしなくてもいいのか?」

「LINEは送っといたらから大丈夫だぜ」

「ほうほう、ちなみになんて送ったんだ?」

「信じられる人が出来たら遊んでくる」

「……おい、それはマズくないか?」

(下手すれば俺が変態扱いされる内容だぞ)

 

 放任主義なのはさっきの話とかで理解できたが、年頃の娘が今日会った奴の家に連れ込まれる。

 

(うん、お巡りさんが来ない事を願おう)

 

 思わず窓を見そうになったが、なんとか我慢して蓮との会話を続けているとインターフォンが鳴った。

 

「少し行ってくる」

「いや、オレも行くぜ」

 

 夜ご飯前なので誰なのか大体想像がつくがドアを開ける。すると予想通りの人物が立っていた。

 

「やあ颯汰、夜ご飯を……って、その少女は誰だい?」

「お前こそ誰だ?」

「あー」

 

 詩音がオレの後ろにいる蓮の方を見て疑問符を浮かべる。対する蓮は詩音を見て警戒心を剥ぎ出しにしていた。

 

「と、とりあえず中に入ってくれ」

「颯汰、君はある意味凄いね」

 

 詩音の言葉に冷や汗を掻きながら、蓮を宥めつつ部屋の中に入って貰う。

 

 ーー

 

 詩音を部屋の中に入れて2人に簡単な自己紹介+俺からこれまでの経緯を話す。

 

「とまぁ、こんな事が起きた」

「なるほど、デッキのカツアゲをしていた時に颯汰に出会ったんだね」

「カツアゲって酷い言い方だぜ! オレは正当な権利としてやっていたぞ」

「君はそうかもしれないけど相手はそう思ってないかもしれないよ」

「そんなの知らねーよ! アニキもそう思うだろ」

「答えにくい質問はやめてくれ……」

 

 カツアゲといえばカツアゲだが、相手も認識しているのでなんとも言えない。その為、2人の言い合いはヒートアップしていった。

 

「お前がそこまで言うならデュエルで決めようぜ!」

「そうだね! どっちが颯汰と明日遊びに行くか決めよう!」

「はい? そんなのいきなり決めるな」

「「颯汰(アニキ)は黙って!!」」

「……えぇ」

 

 本人の予定を無視した2人は、自分のデュエルディスクを装着してアパートの中庭に向かって走っていった。

 それを唖然としながら見ていた俺はゆっくり立ち上がりため息を吐く。

 

「なんでこうなるんだ……」

 

 どっちが勝っても明日が潰れる事が確定した俺はノロノロと部屋から出て行く。



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第18話・詩音vs蓮

 単なる言い合いから俺の予定を潰す会話になり、その相手を決める為に詩音と蓮がデュエルをする事になった。

 

(なんでこうなるんだ?)

 

 明日も平日なので授業があるので渋い顔をしていると2人が不機嫌そうに会話を始めた。

 

「悪いけど明日のご褒美は僕が貰うよ!」

「はっ! オレも負ける気はないぜ」

「なるほど、ならその自信を木っ端微塵に破壊してあげるよ」

 

 冷静に話しているが目つきが鋭くなっている詩音に対して最初から口が悪い蓮。この2人の会話はどんどんヒートアップしていく。

 

「それに僕と颯汰は幼馴染だ! 今日知り合った君に勝つ道理はないよ」

「そんなの知るか! オレはアニキのために勝つんだ!」

 

 このままだと近所迷惑になりそうなので口を開く。

 

「これ以上言い合いをするなら明日の予定はキャンセルするぞ」

「「!?!?」」

 

 この一言で固まった2人を見ながら俺は続きの言葉を話す。

 

「夜ご飯の準備もあるし始めるなら始めてくれ」

「あ、うん」

「わ、わかった」

 

 見た目がイケメンの詩音が困ったように頷くのは絵になり、蓮も顔が整っているので悪くない。

 そう思いながら2人を見ていると彼女達は一定の距離をとってデュエルディスクのプレートを出現させた。

 

「じゃあ行くよ」

「あぁ!」

「「デュエル!!」」

『ARビジョン、リンク完了』

 

 宮国LP4000VS村山LP4000

 

 ARビジョンが展開された後、互いにデッキからカードを引いた。そして先行は詩音みたいで動き始めた。

 

〈ターン1〉

 

「僕のターン! 僕は〈刀剣士・ムラサメ〉を召喚して効果発動! デッキから〈刀剣士・キリサメ〉を手札に加える」

「予想通りのイケメンデッキかよ!」

 

 刀剣士・ムラサメ(効果モンスター)オリカ

 レベル4、水属性、戦士族

 ATK1800、DFF1200(攻撃表示)

 効果、このカード名の①の効果は1ターンに一度しか発動できない。①このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから〈刀剣士〉モンスター1枚を手札に加える。

 

 

 詩音が使う〈刀剣士〉はアニメのイケメンキャラが着物を着ているモンスター達。なので、中世の剣士や騎士モンスターが中心の〈光刃〉デッキを使っている俺と和風のサムライ達が中心の〈刀剣士〉デッキを使う詩音との相性が良かった。

 

(まぁ、昔の事なんてどうでもいいか)

 

 そう思って水色の髪色のイケメンである〈刀剣士・ムラサメ〉を見ながら詩音の次の手を見る。

 

「さらに、僕は手札に加えた〈刀剣士・キリサメ〉の効果発動! 自分フィールドに〈刀剣士〉モンスターが存在するので手札から特殊召喚できる!」

「ぐっ、なんかムカつくな」

 

 刀剣士・キリサメ(効果モンスター)オリカ

 レベル4、水属性、戦士族

 ATK1600、DFF800(攻撃表示)

 効果、このカード名の①の効果は1ターンに一度しか発動できない。①自分フィールドに〈刀剣士〉モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 イケメンモンスターが出てきた事で蓮が呆れながら突っ込み、その言葉を聞いた詩音が苦笑いをしていた。

 

「まぁ、他にも色々いるから楽しみにしてよ」

「あぁそうだな! だが、オレのターンで一気に決めてやる」

「そんな事ができるかな? 僕は手札から永続魔法〈刀剣の鍛冶場〉を発動! このカードは手札を1枚捨てて、デッキから〈刀剣〉魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる」

「強いな!」

「当たり前だよ。このカードは〈刀剣士〉デッキの中核のカードだよ」

 

 刀剣の鍛冶場(永続魔法)オリカ

 効果、このカード名の①の効果は1ターンに一度しか発動できない。①手札を1枚捨てて、デッキから〈刀剣〉魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

 刀剣の鍛冶場、このカードの厄介さは充分知っているので俺は渋い顔をする。

 

(いきなりキーカードを握っていたのか)

 

 そうなると詩音の手札はいいのか、と思いつつ2人を見る。

 

「次に、僕は発動した〈刀剣の鍛冶場〉の効果発動! 手札の〈サイクロン〉を墓地に送り、デッキから装備魔法〈刀剣・アオガネ〉を手札に加える」

「装備魔法……、厄介なカードに見えるぜ」

「それはどうかな? さらに、装備魔法〈刀剣・アオガネ〉を〈刀剣士・キリサメ〉に装備させる。コレで〈刀剣士・キリサメ〉の攻撃力は500ポイントアップする」

 

 刀剣士・キリサメATK1600→2100

 

 刀剣・アオガネ(装備魔法)オリカ

 効果、自分フィールドの戦士族モンスターに装備可能。①装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。②このカードと装備モンスターを墓地に送りモンスター1体の攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる。この効果は相手ターンでも使用できる。

 

〈刀剣士・キリサメ〉の刀が〈刀剣・アオガネ〉の効果で、青色の光を纏い攻撃力をアップした。ただ、蓮はその光景を見て少し微笑んだ。

 

「面白くなりそうだぜ!」

「まぁね! 僕はコレでターンエンド」

 

 詩音LP4000手札2枚

 フィールド

 刀剣士・ムラサメ

 刀剣・キリサメ

 魔法・罠

 刀剣の鍛冶場(フィールド魔法)

 刀剣・アオガネ(装備魔法)〈装備者、刀剣士・キリサメ〉

 

 詩音がターンエンドしたので次は蓮のターンになった。

 

「行くぜ、オレのターン!!」

 

 デッキから勢いよくカードを引いた蓮はニヤッと笑った。

 

「オレは魔法カード〈ツイン・ツイスター〉を発動! 手札の〈鉄鬼・訓練〉を捨てて相手の魔法・罠カードである〈刀剣の鍛冶場〉と〈刀剣・アオガネ〉を破壊する!」

 

 ツイン・ツイスター(速攻魔法)

 刀剣士・キリサメATK2100→1600

 

 蓮が発動した〈ツイン・ツイスター〉の突風が、詩音のフィールドに存在する〈刀剣〉カード2枚を吹き飛ばした。それを見た詩音の顔から余裕が消えた気がした。

 

「コレで厄介なカードを破壊できたぜ! さらに魔法カード〈鉄鬼・号令〉を発動! デッキから〈鉄鬼・イエロー〉を手札に加える」

「まさか〈ツイン・ツイスター〉で僕の魔法カードを吹き飛ばした後にサーチまでするなんてね」

「この程度で驚くのは早いぜ! オレは〈鉄鬼・イエロー〉を通常召喚して効果発動! 手札の〈鉄鬼・グリーン〉を特殊召喚するぜ」

 

 鉄鬼・イエローATK1800(攻撃表示)

 鉄鬼・グリーン(効果モンスター)オリカ

 レベル3、獣戦士族、地属性

 ATK1500、DFF500(攻撃表示)

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①フィールドに〈鉄鬼〉モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。②このカードがフィールドから墓地に送られた場合、デッキから〈鉄鬼〉カード1枚を手札に加える。

 

「だけど通常召喚権は使っているよね! コレで上級モンスターを召喚するのは難しくなったはずだよ」

「……普通はそう思うよな」

「ま、まさか!」

「そうだぜ! 手札に存在する〈鉄鬼・ブラック〉は自分フィールドの〈鉄鬼〉モンスター1体をリリースして特殊召喚できる!!」

「レベル6のモンスター……」

 

 鉄鬼・ブラックATK2300(攻撃表示)

 

 蓮の前に現れた大型モンスターである〈鉄鬼・ブラック〉は、召喚された時に〈刀剣士〉モンスターに向かって剣を突きつけた。

 

「この瞬間、墓地に送られた〈鉄鬼・グリーン〉の効果発動! デッキから〈鉄鬼・レッド〉を手札に加える」

「なるほど、〈鉄鬼〉モンスターは墓地に送られるとサーチできるんだね」

 

 詩音が〈鉄鬼〉デッキの動きを観察していたが、微妙に焦っている雰囲気を醸し出していた。それを見た俺はこのデュエルはどうなるかが楽しみになった。



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第19話・刀剣士の輝き

 宮国LP4000手札2枚

 フィールド

 刀剣士・ムラサメ

 刀剣士・キリサメ

 魔法・罠

 なし

 

 村山LP4000手札2枚

 フィールド

 鉄鬼・ブラック

 鉄鬼・イエロー

 魔法・罠

 なし

 

 フィールドの状態は上級モンスターが存在している蓮の方が有利に見えるが、詩音のデッキ内容を知っている俺は互角と認識する。

 

(ここからどうなるかだな)

 

 このままだと詩音は大ダメージを受けるのは確定だが、あの表情は何かを握っている顔だ。

 

「さてと、一気に行くぜ! バトル、オレは〈鉄鬼・ブラック〉で〈刀剣士ムラサメを攻撃! そしてこの瞬間、手札の〈鉄鬼・レッド〉の効果発動! フィールドにいる〈鉄鬼・ブラック〉の攻撃力を1400ポイントアップさせる!」

「ぐっ!」

 

〈鉄鬼・ブラック〉が手に持った棍棒を振り下ろし〈刀剣士・ムラサメ〉が持つ刀を破壊して吹き飛ばした。そして、その時に起きた衝撃で詩音はダメージの衝撃で後ろに転がった。

 

 鉄鬼・ブラックATK2300→3700

 VS

 刀剣士・ムラサメATK1800

 3700−1800=1900、ダメージは1900

 宮国LP4000−1900=2100

 

 蓮の攻撃で詩音は大ダメージを受けたが〈鉄鬼・ブラック〉は攻撃の手を緩めなかった。

 

「ここで〈鉄鬼・ブラック〉の効果発動! 相手モンスターを破壊したからもう一度攻撃ができるぜ」

「!? なんだって!」

「コレで終わりだ!〈鉄鬼・ブラック〉で〈刀剣士・キリサメ〉を攻撃!!」

 

〈鉄鬼・ブラック〉が手に持った棍棒を地面に叩きつけ、発生した砂煙に〈刀剣士・キリサメ〉が巻き込まれ吹き飛ばされた。

 

「よっしゃあ! コレでオレの勝ちだぜ!!」

「……それはどうかな?」

 

 砂煙が晴れて中から虹色のバリアに守られた〈刀剣士・キリサメ〉とギリギリ立っていた詩音が現れた。

 

 宮国LP500

 

「な、なんでライフが残っているんだ!」

「それは君の攻撃を受ける前に手札の〈刀剣士・ハバキリ〉の効果を発動していた。このカードの効果で〈刀剣士・キリサメ〉の攻撃力は500ポイントアップして戦闘では破壊されないんだよ」

「チィ!」

 

 刀剣士・ハバキリ(効果モンスター)

 レベル3、水属性、戦士族

 ATK1400、DFF500

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①手札のこのカードを墓地に送りフィールドに存在する〈刀剣士〉モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターはこのターン、攻撃力が500ポイントアップして戦闘・効果では破壊されない。②自分フィールドに〈刀剣士〉モンスターが存在する場合、このカードを墓地から特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したこのカードがフィールドを離れる場合、除外される。

 

 鉄鬼・ブラックATK3700

 VS

 刀剣士・キリサメATK1600→2100

 3700−2100=1600、ダメージは1600

 宮国LP2100−1600=500

 

 詩音は手札誘発のカードで連からの攻撃を耐え切った。だが、ライフは残り500ポイントなので次のターンで決めないとかなりキツイはずだ。

 

「さてと、君はターンエンドかな?」

「そんなわけねーだろ! オレは〈鉄鬼・イエロー〉で〈刀剣士・キリサメ〉を攻撃!」

「自爆特攻かな?」

「そうだぜ!」

 

〈鉄鬼・イエロー〉の攻撃を避けた〈刀剣士・キリサメ〉は返の刀で敵を切り裂き、その時に起きた突風で蓮はダメージを負った。

 

 刀剣士・キリサメATK2100

 VS

 鉄鬼・イエローATK1800

 2100−1800=300、ダメージは300

 村山LP4000−300=3700

 

 普通ならただのミスプレイングになるが〈鉄鬼〉モンスターの効果でそれが無駄にならなかった。

 

「ぐっ! だがこの瞬間、オレはフィールドから墓地に送られた〈鉄鬼・イエロー〉の効果発動! デッキから〈鉄鬼・レッド〉を手札に加えるぜ」

「なるほど、自爆特攻した理由は〈鉄鬼〉カードをサーチする為だったんだね」

「当たり前だぜ! オレが何も考えずに突っ込む事はねーよ」

 

 蓮が自信満々に自分の大きな胸を張りながら答え、それを見た詩音は目を鋭くして睨みつけた。

 

「僕はまな板なのに羨ましい!」

「うん? お前は男の娘じゃないのか?」

「ゴフッ」

(なんかニュアンスが……)

 

 最近アニメとかに出てくる女の子みたいな男の子と蓮は思っていたみたいで、その言葉で詩音に大ダメージを与えた。

 

「まさか、僕の性別が勘違いされていたなんて……」

「まぁ、詩音の見た目は可愛いよりもカッコいいだからな」

「颯汰まで酷くないかい!?」

 

 俺が言った事実にさらにショックを受けたみたいでへたり込んだ詩音。だが、少しした後に拳を握りしめて立ち上がった。

 

「この勝負、さらに負けられなくなったね」

「なんか地雷を踏んだ気がする」

「あー、思いっきり踏んだぞ」

 

 メラメラと炎が燃えている目をしている詩音とドン引きしている蓮。この温度差を内心で呆れる俺は口を開く。

 

「それよりもデュエルを続けないのか?」

「あ、そうだった! オレはコレでターンエンド」

 

 村山LP3700手札2枚

 フィールド

 鉄鬼・ブラック

 魔法・罠

 なし

 

〈ターン3〉

 

 ターンエンド宣言を聞いた詩音が自分のデッキトップに手を置き、思いっきりカードを引いた。

 

「僕のターン……ドロー!!」

「気合が入っているな」

 

 煽りなのか余裕な発言をする蓮に向かって詩音は笑った。

 

「このターンで決めるよ! 僕は墓地に存在する〈刀剣士・ハバキリ〉の効果発動! 自分フィールドに〈刀剣士〉モンスターが存在するから墓地から特殊召喚できる!」

「コレでレベル7以上をアドバンス召喚する事ができるのか!」

「そうだよ! 僕は〈刀剣士〉モンスター2体をリリースしてアドバンス召喚! 現れろレベル8〈刀剣士・ムサシ〉!!」

 

 2体の〈刀剣士〉モンスターがリリースされて、新しくできた空間から二刀流で黒髪短髪のイケメンサムライが現れた。

 

 刀剣士・ムサシ(効果モンスター)オリカ

 レベル8、水属性、戦士族

 ATK2800、DFF2000(攻撃表示)

 効果、このカード名の②の効果は1ターンに一度しか発動できない。①このモンスターは相手モンスターに一度ずつ攻撃ができる。②このカードが相手モンスターを破壊した場合、相手に1000ポイントのダメージを与える。③このカードが戦闘・効果で破壊された場合、デッキのレベル7以下の〈刀剣士〉モンスター1体を特殊召喚できる。

 

「ここで大型モンスターのアドバンス召喚かよ!」

「どう、驚いた?」

「あぁ、楽しめそうだぜ」

「なら思いっきり楽しませてあげるよ! 僕はLPを半分払って、速攻魔法〈刀剣・天舞の乱気流〉を発動! この効果で〈刀剣士・ムサシ〉の攻撃力をエンドフェイズまで倍にする!」

「はぁ!?」

 

 宮国LP500÷2=250

 刀剣士・ムサシATK2800→5600

 

 刀剣・天舞の乱気流(速攻魔法)オリカ

 効果、このカード名の①の効果は1ターンに一枚しか発動できない。①LPを半分支払い、自分フィールドの〈刀剣士〉モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターはエンドフェイズまで攻撃力を倍にできる。②自分のLPが相手よりも少ない場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。自分フィールドの〈刀剣士〉モンスター1体をリリースして、そのレベル×200ポイントのダメージを互いが受ける。

 

 ここで〈刀剣・天舞の乱気流〉を握っていたのはかなり大きい。俺は詩音の引きの良さに感心しながら続きを見る。

 

「コレで攻撃力は5600だよ!」

「えげつねぇな……」

「そんな事を言える暇があるかな? バトル!〈刀剣士・ムサシ〉で〈鉄鬼・ブラック〉を攻撃(翡翠双覇斬)!」

「ぐっ、ただでやられるわけにはいかないぜ! オレは手札の〈鉄鬼・レッド〉の効果発動! このカードを墓地に送り〈鉄鬼・ブラック〉の攻撃力を1400ポイントアップさせる!」

 

 鉄鬼・ブラックATK2300→3700

 

〈鉄鬼・レッド〉の効果で攻撃力を上げた〈鉄鬼・ブラック〉だが、パワー的には〈刀剣士・ムサシ〉に及ばないので一刀両断されて破壊された。

 

「ぐうぅ!」

 

 刀剣士・ムサシATK5600

 VS

 鉄鬼・ブラックATK3700

 5600−3700=1900、ダメージは1900

 村山LP3700−1900=1800

 

 大ダメージを受けた蓮だが、まだ〈刀剣士・ムサシ〉の効果が残っている。

 

「この瞬間〈刀剣士・ムサシ〉の効果発動! 戦闘でモンスターを破壊したから相手に1000ポイントのダメージを与える(翡翠風魔斬)!!」

「ちいぃ! だが、オレのライフは残っているぞ!」

 

 村山LP1800−1000=800

 

 なんとか耐え切った蓮に向かって詩音はトドメの一言を放つ。

 

「悪いけど、コレで終わりだよ」

「手札0枚で何ができんだ!」

「それができるんだよね! 僕は墓地に送られた〈刀剣・天舞の乱気流〉の効果発動! 自分のLPが相手より少ない場合、このカードを除外してフィールドにいる〈刀剣士・ムサシ〉をリリース!」

「はっ! 自分から場をガラ空きにするとは負けを認めたもんだぜ」

「確かにそう見えるかもね! だけど〈刀剣・天舞の乱気流〉の効果には続きがあって、リリースしたモンスターのレベル×200ポイントのダメージを互いのプレイヤーに与える!」

「まさか……お前の狙いは!」

「そうだよ! 互いに終わりだね」

 

 詩音の墓地に存在する〈刀剣・天舞の乱気流〉の効果で2人は1600ポイントのダメージを受けて相打ちになった。

 

 互いにダメージ1600

 宮国LP250→0

 村山LP800→0、結果相打ち〈ドロー〉

 



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第20話・ディスティニーカップのルール

 詩音VS蓮のデュエルの結果は引き分け。それを見た俺は安心して言葉を発する。

 

「よし、明日はゆっくりできるな」

 

 相打ちの条件は聞いてなかったのでこのまま終わると思うが、2人が目を見開き飛び起きた。

 

「そうはいかない! 引き分けたから君がどっちと行くか決めてよ」

「そうだぜアニキ! もちろんオレを選んでくれるよな」

「……はい?」

(マジかよ)

 

 まさかの状況になり内心で焦ってしまう。だが詩音も蓮もこちらをガン見しているので何も答えないわけにはいかない。

 

「妥協案でなに「「それはやだ!」」えぇ……」

「だってアニキと買い物に行きたいぜ!」

「僕も行きたいよ!」

 

 ……この2人に何を言っても意味が無さそうなので最悪の手を取る。

 

「それなら3人で買い物に行かないか?」

(コレが無理ならどうしようもない)

 

 片方を選ぶともう片方が拗ねる可能性が高いので、この提案が通らないとかなりキツイ。そう思っていると詩音と蓮が互いに顔を見合わせた。

 

「……僕はいいよ」

「オレもいいぜ」

(良かった)

 

 コレで揉め事がなくなったと思い、俺は2人を連れて部屋に戻る。

 

 ーー

 

 部屋に戻った時、たまたま宅配便のお兄さんが来たので届けられた物を受け取り、部屋に座って確認する

 

「アニキ、何が来たんだ?」

「DK出場に必要なレッドコアとケースだな」

「あぁ! 僕も数日前に来たよ」

 

 昨日登録をしたのに運ばれてきたのにビックリするが、そんな物なのかと思いつつ同封されていたルール書を読む。

 

〈ディスティニー・カップ(DK)ルール説明書)

 参加可能者・10歳以上のアマチュアデュエリスト

 大会期間・ゴールデンウィーク(9日間)

 予選・3日間

〈ルール〉

・デュエル形式はシングルデュエル

・レッドコアを12個集めるか、6個以上手に入れてからプロと戦い勝利する。

(レッドコア争奪戦)

・市内にいる参加者達とデュエルをしてレッドコアを12個集めて受付で登録すると予選通過

(プロ戦)

・レッドコアを6個以上所持している場合、運営が呼んだCランクのプロと戦う事が可能。※

(※プロは自前のデッキではなく、運営が用意したデッキを使用)

・プロと戦う場合は手持ちのレッドコアを全掛けする。

・プロに勝利すれば予選通過。敗北したら失格。

(受付)

・市内に5箇所存在する

〈限界人数〉

・通過者最大10000人

〈本戦1回戦〉

・通過者1000人(ルールはその時に説明する)

〈本戦2回戦〉

・通過者32人

〈決勝トーナメント〉

・優勝者1人

〈賞金〉

・優勝者、500万円+優勝トロフィー

・準優勝、300万円+2位トロフィー

・3位、200万円+3位トロフィー

・4位、100万円+4位トロフィー

・5位〜8位、30万円+ベスト8入りの記念品

・9位〜32位、15万円+上位入賞の記念品

・それ以下も参加賞あり

 

 ルール説明をあんまり読んでなかったので確認した後、2人の方を見る。

 

「このルールならなんとかなりそうだな」

「なんとかなりそうだって……アニキは自信があるのか?」

「いや、あんまりない。ただ予選突破はしたいと思っている」

「なるほどな! 詩音はどう思っているんだ?」

「僕の方が先……まぁ、いいか。僕は優勝を狙っているよ!」

「おお! それならオレのライバルになるな」

 

 蓮と詩音はルール説明を見てかなり喜んでいるが俺自身は渋い顔をする。

 

(手札を一つ切らないとな)

 

 この大会の予選を勝ち抜く為に押し入れに隠しているカードを使う事を決める。

 

〈次の日〉

 

 学園に向かう為にアパートから出ようとした時、たまたまインターフォンが鳴ったので眠い目を擦りながらドアを開けた。

 

「おはようアニキ、迎えにきたぜ」

「……蓮か、おはよう」

 

 俺は目を擦りながら目の前に居る人物、中等部の制服をきた蓮を見る。すると彼女は元気よく俺の腕を掴む。

 

「今日は買い物に行くんだよな」

「そうだな。ただ、その前に学園の授業があるだろ」

「授業……めんどいぜ」

「同感だ」

 

 今日の授業の事を考え、渋い顔になる俺達。だがそれをここで話すのもアレなので部屋の鍵を閉めた後、学園に向かい始める。

 

「しかしまぁ、気が重いな」

「授業を受けに行くんだから当たり前だぜ!」

「……いや、俺の気が重い理由はそれじゃない」

「何かあるのか?」

「まぁな」

 

 蓮が心配そうにコチラを見るが俺は微妙な顔をしてはぐらかす。しかし大月学園に到着する10分前の距離から、高等部の制服を着た生徒達がコチラを見てヒソヒソと何か話していた。

 

「おい、アイツ。確か昨日恋歌様と引き分けた奴だよな」

「あぁそうだぜ」

「僕はアイツと同じくクラスだからその現場にいたけど調子に乗っていたよ」

「マグレで引き分けただけなのに調子に乗るとかクズよね」

 

 その生徒達はコチラに妬みと嫉妬の視線を送ってくるが、隣にいる蓮に睨まれて目を逸らした。

 

「アニキ、アイツらムカつくな」

「……否定はしないが無視するのか安定だぞ」

(ここで問題を起こすと後で響くからな)

 

 自分の能力を磨かないくせに他人を蹴落とすのには全力を出す。なんかズレていると思うが自分もやっていた事なので何も言えない。

 

「陰キャなのに胸の大きな女が横にいるぞ」

「あぁしかも! 目つきが悪いが顔立ちは美少女だよな」

「なんであんな奴と一緒にいるんだ?」

「どうせ脅しているんだろ」

(ここまで来たら面白いな)

 

 言い方は悪くなるが、コイツらは他人を見下して優越感に浸っているとしか思えない。そう思うと内心で笑ってしまう。でも俺の隣にいる人物はかなり不機嫌になっている。

 

「ガチでボコボコにしたくなってきたぜ」

「やったところでコッチが悪くなるぞ」

「それでもいいからやりたいぜ! なんなんだアイツらは!」

 

 馬鹿にしてくる生徒達の方に突撃しそうな蓮をなんとか抑えつつ、歩いていると隣の車が通る道路に大きな車が止まった。

 

「あら颯汰、昨日ぶりね」

 

 大きな車の窓が開き、中から赤城……いや、歌恋が顔をコチラに向けて挨拶をしてきた。

 

「あぁ、そうだな」

「うん? アニキは去年の生徒会長と知り合いだったのか」

「生徒会長?」

 

 隣の蓮の言葉を聞いて疑問符を浮かべる。すると歌恋が乗っている車から降りて俺の隣に立った。

 

「アタシは去年の中等部の生徒会長だったのよ」

「そうなのか……としか言えないぞ」

「でしょうね」

 

 歌恋が鞄を手に持ちながら笑顔になり、それを見ていた生徒達は俺や蓮よりも歌恋の方を見てうっとりしていた。

 

「あぁ……歌恋様の笑顔はいいな」

「だな! ただ、アイツが隣にいるのがムカつく」

「そうね、本来なら私が隣にいるのに!」

「はぁ!? 本来はオレだ!」

「何を言っているんだ君達は? あそこにふさわしいのはこの僕だ!」

 

 なんかヘイトが俺から周りに行った生徒達は互いに言い合いや酷いところでは手が出ていた。なので俺はその光景を見て呆れながら口を開く。

 

「なんでこうなった……」

「アイツらが馬鹿なだけだと思うぜ」

「アタシもそう思ったわ」

 

 喧嘩を続ける生徒達を無視して、俺達は雑談を続けていると大月学園に到着したので中等部の蓮と別れて高等部の校舎に向かう。

 

「まさか村山蓮を手懐けているとは思わなかったわ」

「うん? アイツは有名なのか?」

「えぇ、中等部では有名な不良よ」

「そうか」

 

 以外ではない事実が発覚。ただ、反応しないのはアレなので頷くだけはしておく。そして高等部の校舎に到着したので靴を履き替えた後、歌恋と別れて自分のクラスに向かう。



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第21話・怪しい影

 帰りのHRも終わり、足早に教室から出て下駄箱に向かう。

 

(そういえば、明日のDKに備えている奴らも多かったな)

 

 特に昼休みはクラスメイト達がダッシュでデュエルリンクに向かって走って行ったのが記憶に新しい。

 

「一体どうなる事やら」

「また、1人で呟いているね」

「ん? 詩音か」

 

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので振り向くと、詩音が腕を組んで不機嫌そうにしていた。

 

「僕が君のクラスに迎えに行ったのにいないのはどういう事だい?」

「……あの教室に残る事はできるか?」

「あー、うん。ゴメン」

 

 俺が足早に教室から出た理由はクラスメイトからの陰口や妬みの視線。なので、教室から出て違う場所で待とうと思い移動した。

 

「まぁ、わかってくれて助かる。それよりも蓮と何処で待ち合わせするかだな」

「確かにね……って、下駄箱のところを見てみなよ」

「うん?」

 

 もう少しで下駄箱に到着する場所で詩音に言われ方を見てみる。すると周りの生徒達達を睨みつけるかのような目をした蓮が立っていた。

 

「すごい行きにくいな」

「そうだね。ただ、僕達が行かないと何か問題が起きそうだよ」

「あぁ、そうだな」

 

 もはや言葉の選び方が下手になっている気がするが、それくらいマズイと考えた俺達は靴を履き替えた後に蓮と合流する。

 

「待たせたな」

「!? アニキ、やっと来たか」

「僕もいるよ!」

 

 蓮に声をかけると目を輝かせていたので悪くないと思いつつ、詩音を連れて3人で学園から出る。

 

〈早付市・大型ショッピングモール(エアロ)〉

 

 大月学園から徒歩で20分くらいの所にある大型ショッピングモール(エアロ)に到着した俺達。

 

「いつ見てもエアロはデカいぜ」

「いろんなお店があると建物も大きくなるからな」

 

 大きさ的にはかなり大きいので迷子にならないように気をつけながら俺達は中に入る。

 

「うーん、どの服屋がいいかな?」

「それは自分の予算で考えてくれ」

「なんか冷たくない?」

「オレもそう思うぜ」

「そうか?」

「こうなったら強引に連れて行くしかないね」

 

 なんか女子2人(1人は男装)に批難されてしまい、俺はどうすれば良いか迷っているといきなり蓮と詩音にに腕を掴まれた。

 

「アニキには悪いが、オレ達の買い物に付き合ってもらうぜ」

「おい、俺の自由はないのか?」

「ないとは言わないけど僕達も君を逃したくないから無理だね」

(コイツら)

 

 良くわからない状況になって引っ張られていく俺は、思わず天井を見上げてしまう。

 

(なんか災難だな)

 

 周りの男性達は羨ましそうにコチラを見て、女性達もチラチラ見てくる。その為、メンタルダメージが大きいので胸が痛くなる。

 しかし詩音と蓮はそれを無視して俺を服屋に連れて行き、あちこち連れまわされた。

 

〈???〉(???視点)

 

 暗闇の部屋の中心の丸テーブル。その中に灯る蝋燭の灯りを頼りに仮面をつけた6人の人物がロープを被り椅子に座っていた。

 

「さてと……会議を始める。今回の議題は早付市で開かれるデュエル大会の事だ」

 

 会議の開始を口にしたのは野太い声で周りを威圧する男性の声。しかし、彼もフードを深く被っているので顔が見えないが仮面の中心には光と書かれていた。

 

「はっ! そんなちっぽけなデュエル大会の事でオレ達を呼び寄せたのかよ!」

「あら炎、貴方は見境のない戦闘狂じゃなかったの?」

「おい水! オレの事を単細胞と思っているのかよ!」

「まさか違うの?」

 

 いきりたつ炎の仮面をつけた少年?が水と書かれた仮面をつけている少女?に煽られて立ち上がる。

 

「お前ら、喧嘩をするのはいいが今は大事な会議中だぞ……」

「確かに喧嘩されると話が進まんな」

 

 2人の喧嘩に風と書かれた仮面をつけている青年?と土と書かれた仮面をつけている老人?が2人を咎める。

 

「チッ、おい闇。お前もなんか言えよ!」

「……私は宿敵以外とは話すつもりはない」

「前から言っている貴女の宿敵とは誰よ?」

「それは言えない。この事は私がケリをつける事よ」

 

 炎と水の喧嘩に巻き込まれた闇と書かれた仮面をつけている少女?は2人を無視して自分の言いたい事を発言した。そして、この話を聞いていた光の仮面はため息を吐き言葉を発する。

 

「お前ら、喧嘩は後にしてくれ!」

「チッ……」「はい」

 

 光の仮面の一喝に黙る炎の仮面と水の仮面。それを見た風の仮面は頃合いかと口を開く。

 

「それで光の仮面が急いで僕達を招集する理由はなんだい?」

「風の仮面、お前は神話大戦の事は知っているよな」

「あぁ、大昔にドラゴン・悪魔・天使が争った幻想話だろ」

「そうだ!」

「「「「「??」」」」」

 

 風の仮面の発言に答えた光の仮面。彼の言葉に疑問符を浮かべた5人の内、復活が早かった土の仮面が言葉を返す。

 

「光の仮面はその神話大戦で何か気になる事があるのか?」

「気になる事どころじゃない! その神話大戦が近い内に復活するかもしれない」

「は? 光の仮面、お前は何を言っているんだ?」

「流石にそれはないわよ」

「「「…………」」」

 

 幻想話でしかない神話大戦が実際に起きる。この話を聞いた炎の仮面と水の喧嘩は光の仮面をバカにする発言をするが、光の仮面はそんな事は無視して言葉を続ける。

 

「確かに神話話の御伽噺かもしれない。だが、私が調査しているうちにこの話をは真実だという事が確定した」

「おいおい、それって」

「そうだ! この世界とは別の世界……つまりは並行世界で発生している事が部下の研究で発覚した」

「そん、は? マジかよ!」

 

 この話を聞いた仮面をつけた人達は驚きと現実味のない内容に固まるしかなかった。

 そして、この話はのちに颯汰達も関わっていく事になるとはこの時点では彼らは知らなかった。

 

 




ストックがなくなったので更新を一時停止します。すいません。


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