いきなり異世界? 勘弁してくれ… (ダイ⑨)
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プロローグ、謎のメモ、与えられた能力。
暫しこの妄想にお付き合いください。
「知らない天井だ…。」
…。
……。
勘弁してくれ。
まさかこの台詞を生で言う日が来るとは…。
とりあえず、直近の記憶を整理してみよう。
昨日は…
…飯食って風呂入って歯磨いてソシャゲやって寝ただけだな。
うん、笑っちゃうくらいいつも通りだ。
それじゃあ何故、俺はこんな見覚えの無い部屋に居るのか。しかも寝る前にはパジャマに着替えてた筈なのに、今は普段着だ。…何故か財布もスマホも持ってないけど。
窓から見える景色も見覚えは………。
ん? この窓ガラスが嵌まってないな?今時珍しいような…案外そうでもないのかな?
いや、それ以前に…
「ログハウスか?入ったことすらあまり無かったと思うけど、こういう感じなのかな…って、そんな場合じゃねぇか」
そう、俺が目覚めたのは何故かログハウス(?)の中だった。木製と一目で分かる床や天井に、丸太の丸みを感じられる壁。そして部屋の中央にはこれまた木製の、素人の作と見てとれる一脚の椅子と小さなテーブルのセットが有った。見える範囲にドアは一つしかなく、階段の類も見当たらない。随分と簡素な印象を受ける。
しかし何と言うか…生活感が無い。何年か前に放棄されて、それ以来使われてこなかったかのような感じだ。
なんだが…
「…何だこりゃ。」
ふと、テーブルの上にメモが置かれているのが見えた。紙の色は真っ白で、しかも触ってみると慣れ親しんだ洋紙の手触りだ。
…どう見ても、この放棄されたも同然の小屋には不釣り合い。誰かが意図的に置いたようにしか、俺には思えなかった。
ならやる事は一つ。
「どれどれ…?」
迷わずそこに有った二つ折りのメモを手に取り、開いて覗き込む。そこには、ワープロのものらしき文字でこう書かれていた。
『ご機嫌よう、黒河 葉さん。
こちらの都合ですみませんが、貴方にはこれからこの異世界「ラムンダ」で生きて頂きます。
いきなり身一つでこの世界に放り込むのも酷だと思い、貴方には「全ての生物と対話ができる」ようになる力をお与えしました。
身勝手なお願いとなりますが、ご幸運をお祈りします。 賢者コイズミ
追伸 いつまでも引きこもってばかりとは感心できませんよ?』
…。
……。
勘弁してくれ。
幾らなんでも超展開すぎやしないか…。
まず俺にコイズミなんて知り合いは居ない。その上で相手は俺の名前を知っていて、こんな
そして極めつけは追伸の文。これが一番よく分からない。「いつまでもこの小屋に居るのはよろしくない」と言うことか?それとも…
疑問は尽きなかったが、いつまでもこのメモとにらめっこしていてもしょうがない。そう思ってメモを元の通り二つ折りに…したところで、さっきまで白紙だった筈の裏面にビッシリと文字が書きこまれていることに気付いた。
仰天しつつも、その文字を読んでみる…。
内容は、表面で言及していた『「全ての生物と対話ができる」ようになる力』についての説明だった。
大まかに要約すると、大事なポイントは
・意思の疎通をしたい相手を思い浮かべることで発動する。
(『一歩足を踏み出す度に足元から何万もの悲鳴が聞こえるのは嫌でしょう?』とのこと。)
・読み書きにも効果を発揮する。読む場合は『読みたい』と思うだけで注目している文字が読めて、書く場合は書きたい言語や読ませたい相手を想像しながら日本語で文字を書けば、その通りの文章となるらしい。
(随分条件が緩い。特に後者に至っては「○○さん」といった狭い範囲から「人間」、更には「全生物」なんて指定も可能らしい。
最も、視覚が無い生物に読ませることはできないらしいが。)
…という2点だった。
今度こそもういいだろうとメモを机の上に戻してみる。するとその瞬間、このメモは
…湯気を出しながら炭になった。
………。
いや、うん。確かにセルロースは炭水化物だから、分子から水素と酸素が抜けたら炭素しか残らない訳だけど…こんな簡単に炭になるか?
絶句しつつも、引きこもってばかりじゃ始まらない。そう思った俺は、部屋全体をザッと確認した上で小屋から出てみた。
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状況確認、食糧探し、初エンカウント。
小屋から出て、とりあえず周囲の様子を確認する。どこを向いても木、木、木。
随分深い森の中のようだ。この分だと、村や街までは相当距離があるだろうなぁ…。
幸いこの小屋の周囲、4mほどには木は殆ど生えていない。約50平米ってところかな?こんな森の中であることを考えれば、かなり贅沢にスペースが取れていると思って良さそうだ。
放棄されているようだし、当分はこのログハウスを拠点にさせてもらおう。…引きこもる訳じゃないぞ。多分。
改めて森に目を向ける。パッと見ただけでは獣道らしきものすら殆ど見当たらず、結構な密度で木が生えているな。
生えているのは多分落葉広葉樹の類だけど、その圧倒的な密度からは『密林』って言葉がしっくり来そうな印象を受ける。
…少し森の中に入り、土の様子を見てみよう。
かなりジメッとしてるな。土も心なしか黒っぽい。いかにもキノコとかがよく生えそうなイメージだが、こんな状況で野生のキノコなんか食べたら自殺行為も良いとこだろう…。
ハァ…そう考えると鑑定スキルって便利だわ。異世界転生の必須スキルと言われる訳だよ。
「なんてこのまま無い物ねだりしてる訳にもいかねぇか。とりあえず食糧を確保しないと話にならないな…。」
そう判断し、俺はもう少しだけ深く森に入ってみた。念のため、ログハウスが辛うじて見えるくらいの位置で食べられそうな物を探す。
「キノコは怖いし…山菜とかを狙うのも厳しいかな。木の実あたりが有れば有り難いけど…。」
そんなことを呟いていたら…見つけた!
南天を一回り大きくしたかのような赤い実だ。幸運なことに、ある程度纏まった数がある。これ幸いと早速口にしようとした…その時。
後方から、ギャアギャアと何かの鳴き声(?)が聞こえた。
声に気付いて振り返る。そこに居たのは…。
俗に言う『ゴブリン』だった。
…。
……。
勘弁してくれ。
こんなに早くモンスター?とエンカウントするのか…。
ゴブリンの背丈は恐らく俺の腰あたりまでで、基本的な体のバランスは人間と大差ない。特徴的なのは緑色っぽい皮膚に突き出た耳と鼻、それから直立すれば膝まで届くであろう長い腕だろうか。
それが、2体。片方は小型の石斧を、もう片方は木製の棍棒をそれぞれ手に持っていて、どちらも毛皮の腰巻きを身に付けている。
石斧を持った方のゴブリンは、尚もこちらに向かってギャアギャアと何かを叫んでいる。
だが…何だ?不思議なことに敵意の類は感じ取れない。寧むしろ一歩下がった位置に居る棍棒を持ったゴブリンは、こちらを心配そうに見ているような気さえする。
と、ここでやっと自称「賢者」から与えられた能力について思い出した俺は、目の前の2体のゴブリンとの意思の疎通を試みた。
…次の瞬間、鳴き声のようにしか聞こえなかったゴブリンの言葉が、確かに意味を持つ。
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案内、道中、詰問。
『…い、おい!聞こえてるのか!?その木の実は毒だ!食ったら死んじまうぞ!?』
これは…忠告!?
「えっ、毒!?」
そう反応して赤い木の実から手を離し、ゴブリン達の方に向き直る。棍棒を持った方のゴブリンがあからさまにビクッとしたよ、今。
「忠告ありがとう、助かったよ。」
『気にするなって!どこから来たか知らねぇけどさ、『森では正しい知識が無いと生きていけない』ってジイチャンが言ってたぜ!』
「ジイチャン?」
『オレタチの村で一番かしこいんだぜ!』
「そうなんだ…。」
『森では正しい知識が無いと生きていけない』か。折角良い拠点が手に入ったんだし、この森で生きる術を知っておいて損は無いよな。
「そのジイチャンって人に一度、会わせてくれないかな?この森のことをよく知りたいんだ。」
『おう、良いぜ!オレタチの村はこっちd』
『ちょ、ちょっと待ってよガジル!』
と、ここまで無言だった後ろのゴブリンが異議を唱える。
『コイツどうみてもボクタチの仲間じゃないよ?村に入れても大丈夫なの!?』
『大丈夫だろギバル。だってコイツ、話が通じるんだから!さあ、こっちだ!』
『あっ、こらガジル!』
…石斧を持った快活な方のゴブリンの名前がガジルで、棍棒を持った大人しい方のゴブリンの名前がギバルか。
かくして俺は、この二人の案内でゴブリンの村に連れていってもらうことにした。
~~~~~~~~~~~~~~~
さて、ゴブリンの村に向かって歩き始めたは良いものの…。
かれこれ15分くらい歩いている筈なのに、まだ着かないらしい。
…。
……。
勘弁してくれ。
元ヒッキー予備軍の俺にこの道なき道を行く行程は辛いよ…。
なんて心の中で毒づきつつ、元気いっぱいで先導しているガジルにギリギリでついていく。
…ここで、思いがけないアクシデントに見舞われた。
『…ねぇ、ちょっと良いかな?』
「えっと…ギバル、だっけ。どうしたんだ?」
『さっきから気になっていたんだけど…キミ、どこから来たの?』
「…どういう意味?」
『最初に話したときの様子といい、今歩いてるときの疲れ方といい…多分、森に入るのも初めてだよね?
なのにこんな森の奥にいて、しかもそんなに体は汚れていない。…どうやって、ここまで来たの?』
「!?」
…
『おーいギバル!それにオマエも!そろそろオレタチの村に着くぜ!早く来いよ!』
「ごめんごめん!今そっち行くよ!」
『あっ、待て!まだ話は…!』
そんなこんなで、ゴブリンの村に到着した。
村と言っても、
そうして集落を観察していると、一つ気になるものが目についた。一人のゴブリンが集落の中から、じっと
…そのゴブリンは暫しこちらを観察した後、不意に大声を張り上げた。
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『ジイチャン』、お説教、交渉。
続き書かなきゃ…
『ガッ!グギャ、ギガッ!』
前方に居るゴブリンは、恐ろしい形相でそんな風に叫んでいる。
…が、俺はヤツが何を叫んでいるのか分からない。
『ジイチャン!?何でこんなとこまで!?』
『族長!こ、これは、その…!』
ガジルとギバルの反応を見るに、眼前のゴブリンこそがこの集落の長であり、ガジルが俺を会わせようとした『ジイチャン』その人らしい。
(…なんで二人が焦っているかのような反応をしているかについてはこの際置いておくとして、ガジルやギバルとは問題なく会話ができるのにどうして俺は『族長』の言葉が理解できないんだ?)
………。
…少し考えれば分かることだった。俺は先程「『目の前の2体のゴブリンとの』意思の疎通を試みた」のであって、全てのゴブリンと会話しようとした訳ではない。と、言うことは今の俺はガジルとギバル以外のゴブリンの言葉は理解できないってことか。
…。
……。
勘弁してくれ。
思った以上に扱いにくいぞ、この能力…。
…まぁこれが俺の話す言葉でも同様だとすれば、特定の個体だけに通じる会話ってのも中々便利だ。使いこなせればすごい有能になるよなぁ…。
兎に角仕組みは分かった筈。そういうことならと俺は『ゴブリン』全体との対話のイメージを浮かべる。…思った通りだ。これで向こうのゴブリンの言葉も理解できるようになった!
『あれ程お前達だけで森の探索はしてはイカンと言ったじゃろうが!まだお前達はほんのヒヨッ子。森のことなんぞ欠片も…』
…成程、お説教の最中だったのか。道理で隣のガジルがうんざりした表情になってきた訳だ。
『それに…この村にニンゲンを連れて来るとは何事じゃっ!』
『『ニ、ニンゲン!? コイツが!?』』
『如何にも。ニンゲンの恐ろしさは散々話したじゃろう。
傲慢であり強欲、自分の望むものを手に入れるためなら同じニンゲンさえも簡単に裏切る、
故にニンゲンには気をつけろと、儂が今まで何度言ったと…!』
『傲慢であり強欲…。』
『同じニンゲンさえも、簡単に裏切る…!』
ギバルとガジルの顔が、見る見るうちに青ざめていく。
…しかし散々な言われ様だな。微妙に否定できないけど。
いずれにしても、このままじゃ話すら聞いて貰えないだろう。
どうしたもんか…。
俺は口が巧い方じゃないし、相手を言いくるめて要求を通す交渉をした経験なんて皆無だ。ついでに相手の心証は最悪。話すら
だが、とりあえず挑戦はしてみないと何も始まらないだろう。俺は意を決して、未だにお説教を続けている族長に改めて向き直った。
「失礼致します!」
『…ニンゲンが何の用じゃ?』
嫌悪感を隠そうともせずに、族長はそう応える。
「はい。私にこの森で生きる術を教えていt」
『寝言は寝て言え。そんなものは他のニンゲンから教われば良かろう。』
…うん、この上無い正論だわ。ここからどう食い下がるか…。
「そうは言っても、今の私には頼れる人間が居りません。
昨日までは他の人間と共に暮らしていたのですが、今日の朝起きてみればこの見知らぬ森の奥にただ一人…。恐らく、他の人間に捨てられてしまったのだと思います。」
彼の人間に対する悪印象を逆手に取ってみる。嘘をつくのは少しだけ良心が痛むが、これで俺も“ニンゲン”の被害者に見えるだろう。
『コイツが森について何も知らないのは本当だぜ、ジイチャン!コイツ、さっきトシキの実を食べようとしてたんだ!』
『…ガジル、それは本当か?』
『あぁ!』 『ボクも見ました!』
…何だろう、今一瞬だけ族長が可哀想なものを見る目を向けてきたような…。
(えぇそうですよ。俺は無知ですよ!だからこうしてなんとか取り入ろうとしてるんじゃないですか!)
心の中でそんな風に毒づきつつ、俺は言葉を続ける。
「私が本当に捨てられてしまったのだとすれば、他の人間達の下へ戻ったところでまた捨てられてしまうだけでしょう。私はもう、他の人間と暮らすことはできないと思うのです。
なのでどうか、私が一人この森で生きていけるようその
文章量の都合などで、一部文章がなろう様掲載のモノと違う可能性があります。
間違い探しをしてみても面白いかも?
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報告、襲撃、打算。
『成程のう…事情は分かった。生きる知恵を得るために
じゃが知っての通り、知恵とは森で生きるための財産。村の仲間でもない者、ましてや信頼できないニンゲンに何の見返りも無く与えられるものでは無いわ。』
…うーん、とりあえず話を聞いて貰えたは良いが、対価を要求してくるか。そう言われても俺にできることなんて…。
その辺りを考えようとしたところで、聞き覚えの無い声が耳に入ってくる。
『族長!大変です!子供が“大角”に襲われています!』
声がした方を見ると、そこに居たのは見覚えの無いゴブリンだった。
…ま、俺がここまで会ったゴブリンはガジルとギバル、それに族長の3人だけだし見覚えは無くて当然か。今は「集落のゴブリンA」程度に思っておこう。
『!? あれは滅多なことでは儂らを襲わんぞ!?原因は何じゃ!』
『はっ!どうやら狩りに行った連中がしくじったらしく…“大角”を怒らせてしまった上に、それが逃げた先がよりにもよって我らの村であり、そこで暴れているとのことです!』
『まだ若者に狩りを任せるのは早かったか…!
今ヤツが暴れている場所は!?』
『食料庫のすぐ近くです!』
『分かった、すぐに向かう!お前は村の大人を全員かき集めて食料庫に向かえ!』
『はっ!』
『ガジル!ギバル!お前達も来い!少しは力になれるはずじゃ!』
『分かった!』 『分かりました!』
急な襲撃を村一丸となって乗り切ろうとしてる、ってとこなのかな…。
…。
……。
勘弁してくれ。
交渉の最中に非常事態が起こるとかどこの三流ドラマだよ…。
いや、でもこれはチャンスか?俺は先程の族長のお説教の一部を思い出す。『ニンゲンは
…これならイケル!早速交渉だ!
「族長!」
『何じゃあ!見ての通り、今はお前に構っている暇など…』
「私も同行させてください!」
『!』
「私はこの通り、図体は大きいです。故に“大角”を止める役に立てるかもしれません!」
『……分かった。正直に言えば、今は少しでも戦力が欲しい。』
『族長!? コイツは…』
『良いのだギバル。先ずは役に立つかどうかを見る。細かい話はそれからで良かろう。』
『ッ…!』
交渉成立ゥ!これでキッチリ役に立てれば彼との交渉のカードになってくれるだろう!
そんな訳で俺達は、族長の案内でゴブリンの集落の中を進んでいった…。
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“大角”、対峙、窮地。
族長の後に続き、ゴブリンの集落の中を進む。こうして見ると、ガジル達と族長は体の大きさが頭ひとつ分違う。さしずめこの二人は人間で言うなら13、4才くらいであってまだ大人じゃないのかな?
そんなどうでも良いことを考えていると、族長が静かに声をかけてきた。
『(居たぞ、あれが“大角”じゃ!)』
その声に促されて見た先に居たのは…
…鹿?だった。
…。
……。
勘弁してくれ。
一気に元の世界に引き戻された気分だぜ…。
実際に戻れていればどんなに良かったか。
…また阿呆なことを考え始めていたことに気付き、それを振り切るために目の前の“大角”をじっくり観察することにした。
大きさとしては、ちょうど俺の目線の位置に頭頂があるくらいか…。これ、ゴブリンから見たらさぞ巨大に見えるんだろうな。
大きさはさておき、俺が目を奪われたのはその異様な『角』だった。鹿の角といえば頭から左右に広がっているイメージだけど、コイツの場合何本にも枝分かれした、どこぞの名前も知らない木のような立派な角が頭から2本
更にその足元を見ると、明らかに怯えた表情をした小さなゴブリンが…ってそうだよ!悠長に観察してる場合じゃねぇじゃん!
「族長、普段はどうやってあれを狩っているのですか?」
とりあえず今必要なのは外見じゃなくて倒し方の情報だ。アレは元々狩りの獲物らしいからね。
『うむ、見ての通り“大角”は体が大きい故に力があり、更にあの角も脅威じゃ。故に普段は落とし穴に嵌めた上で痺れ薬を打ち込むのじゃが…。』
確かに今から落とし穴を作って誘導するのは無理だ。何か代案を…ッ!
マズい!鹿が足元のゴブリンを狙っている!前脚を持ち上げて…勢いをつけて角を突き刺す気か!?
もう四の五の言ってる暇は無い!
俺は即座に、そこに割り込むように飛び出してしまった。
ほぼ無策で飛び出してしまった俺だが、一応考えらしきものは有る。“大角”の角が振り下ろされる、それより速く“大角”とゴブリンの間に割り込んだ俺は…
「要は動きを止めれば良いんだ、ろっ!」
“大角”の角の根元を、正面からガシッと掴んで受け止めることにした。
…
何とか受け止められたが、今度は体が浮き上がるような感覚に陥る。嫌な予感がして手を離すと、ちょうど“大角”が頭を大きく後ろに振り上げているところだった。もしあのまま角を掴んだままだったら…吹っ飛ばされていたか、それとも改めて地面に叩きつけられていたか。いずれにしても背筋が凍る。
あのまま押さえ込めるようなモンじゃないか…。
とりあえず、手を離したおかげで無事に着地できたから良しとしよう。…正直甘く見てた。地球の生物とほぼ同じサイズとは言え、野生生物とマトモに丸腰で取っ組み合うのは無茶だわ。どこぞの百獣の王は凄かったんだなぁ…!
ひとまず子供のゴブリンを抱えて距離を取る。
(どうしよう…このまま逃げるか?でもコレを放置してここで暴れられるのも
※裏話 “大角” の体長について:
実は昨日までなろう様で公開されていた文章では、“大角”の体長についてこんな記述がされていた。
前:肩高は俺の身長と同じくらいか。結構大きい。
(現:大きさとしては、ちょうど俺の目線の位置に頭頂があるくらいか…。)
トナカイと比較して考えると、修正前の“大角”の体重は約300kgということになり
「このスケールの鹿のヘッドバットを受け止めて「流石に重い!」で済ませる元ヒッキー予備軍の主人公とは一体…?」となったため
急遽(公開一年後に)改訂されることになったとか。
ガバを伏線に変える文章力が欲しかった…
良い子のみんなは 投稿前に ちゃんと確認しようね!
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奇策と、狩りの後。
このままでは
…ん?
(これならイケルかもしれない!)
子ゴブリンに衝撃がいかないように地面に下ろした上で、再び“大角”に接近する。その上で足元に潜り込み、“大角”の右前足の足先を抱え込むようにして
当然、いきなり足元を
掬い上げた右足を左腕で抱きかかえた格好のまま右手でヤツの左半身を掴み、そして
「うおおおおぉぉぉぉっッ!」
“大角”もろとも
~~~~~~~~~~~~~~~
“大角”を観察していて思ったんだ。コイツは立派な角をしているが、それがなんでか2本とも垂直に生えている。そのせいで
その癖、それ以外の部分は普通の鹿と大差ない。この2点を組み合わせて考えた結果、『“大角”は一度倒れたら起き上がれないのではないか?』という仮説が、俺の中に出来上がっていたんだ。厳密に言うと違うけど、キリンみたいだな。
~~~~~~~~~~~~~~~
急いで起き上がり、体勢を整える。“大角”は…思った通りだ!首や脚をジタバタと動かしているけど、一向に起き上がる気配が無い!
…我ながらかなりこじつけのアイデアだったが、賭けには勝てたってとこかな!
『今じゃ!全員かかれぃっ!』
そんな族長の号令と共に20は居るだろう完全武装のゴブリンが殺到してきたところで、我に帰った俺はゴブリンの子供を抱え直して避難した。
集団戦は連携が命。部外者が居るとロクなことにならないからね。
………。
こうして、無力化された“大角”はゴブリン達の手で速やかにフルボッコにされた。合掌。
事故は起きたが、一応狩りは成功したって言えるんだろうな…多分。
…。
……。
勘弁してくれ。
今背後がどうなってるかはちょっと確認したくないわ。グロいんだろうなぁ…。
『全く、なんとか被害が出ずに済んだから良かったものを…後であ奴にはしっかり言い聞かせておかなければ…。
それよりも! 今はお前のことが先じゃ!』
戻ってきた俺に、族長が言葉を続ける。
『今の一件でお前に力が有ることは分かった。じゃがどうにも腑に落ちない点が幾つか有ってな。それについて、じっくり聞かせてもらうぞ?』
「…分かりました。逃げも隠れもしませんよ。」
後ろ暗いことは無いはずだけど、どうにも緊張するな。
「でもその前に、この子をどこかに預けてきたいんですが?」
そう言って抱えた子ゴブリンを見る。
もうね、すっごい震えてる訳よ。まぁ無理もない。自分の何倍も大きい動物に襲われたと思ったら、今度はこれまた
『それもそうじゃな。ガジル!この子をあの連中に預けてきてくれ!』
『おう!』
これくらいならまだ全年齢版でいけるかな?
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尋問開始と、思案。
『ガジル!この子をあの連中に預けてきてくれ!』
『おう!』
即答したガジルは、子ゴブリンを背負ってまっすぐ“大角”の解体を行っている大人たちの所へ
『あぁそれから!』
…行こうとしたところで、再び族長から声がかけられる。
『
『分かった!』 『分かりました!』
『では儂らは先に向かっているぞ。ギバル、ガジルがあの子を預けたら儂の家まで連れてきてくれ。あ奴一人ではどこで道草を食うか分からんからな…。』
『あはは、そうですね…分かりました。』
『では行くぞ、ニンゲン。話は儂の家で聞かせてもらう。こっちじゃ。』
そう言って先導する族長の後を追って、俺は集落の中心部、族長の家へと向かった…。
………。
そんなこんなで、集落の中心部に有る一際大きい家へと案内された。
外観と同じく歴史の教科書で見た竪穴住居にそっくりだが、中は思ったより綺麗だな…。
『まぁ適当に座れ。さて、二人にはああ言ったが先に始めてしまおう。
儂が訊きたいことは大きく二つじゃ。まず一つ目。お主、一体どこから来た?』
「…ギバルにも同じことを訊かれましたよ。どういうことで?」
『明らかに森を歩き慣れていないのにこのような森の奥に居るというのも十分奇妙じゃが、それ以上に儂は、お主のようなニンゲンを
儂は以前森の外で生きていたことがあるのじゃが、お主のような装いのニンゲンは居なかった。』
…この爺ちゃん、本当にゴブリンなのか?実はエルフだったりしない?
まぁ確かに、異世界の服装は奇抜だと見られることが多いよな。厚手の長袖シャツにジーパンという今の俺の出で立ちも、流石に
…ってことは、替えのジーパンが欲しくなったら自作するしかないか?
…。
……。
勘弁してくれ。
そんな知識も技術も無いぞ…。
まあそんなことはさておき。
「どこから来たか、ですか…こっちが訊きたいくらいです。」
『
「確かに俺は、昨日までは他の人間たちと一緒に生活していました。なのに目が覚めたら、この見たことも聞いたことも無い森の中にただ一人。本当にそうとしか言えないんです。」
『…
何故お主は、今こうして儂と
なのに何故この森のことを何も知らないお主が、こうして儂らの言葉に耳を傾け、それに応えることができている?』
…拙いねぇ。それを説明するにはあの変なメモに言及することになる。だが信じてもらえるかな?
「それについては少し長くなるんですが…。」
『構わん。じゃが、あ奴らにもきっちり話してもらうぞ? そろそろ来たようじゃ。』
族長がそう言うと、ガジルとギバルが入ってきた。
『二人ともご苦労。それではニンゲンよ、話してもらうぞ?何故お主が、儂らと言葉を交わせるのか…。』
ギバルの顔つきが厳しくなる。彼も少し引っかかってたのかな。
対してガジルは…あらら。鳩が豆鉄砲食ったような顔してるよ。会話ができたのが“当たり前”のことだと思ってたみたいだね。
さて…どう話を進めようか。
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暴露と、思わぬカルチャーショック。
「これから話す内容は、正直に言って信じられない話だと思います。実際に俺も、自分の身に起こったことだというのn」
『御託はいい、さっさと話さんか。』
下手な小細工ができる程俺は口が
「はい。…この森で目覚めた時、俺の手元に書き置きが有ったんです。その中に『この森が、昨日まで俺が生きていた世界とは全く別の場所である』ってことと、『急に見ず知らずの場所に送り込まれた対価として、全ての生き物と会話ができるようになった』ってことの2つが記されていました。
正直に言って訳が分かりませんが、これがこうして貴方たちと会話ができている理由です。」
『…なるほど、確かに要領を得んな。』
『そんな急に話ができるようになる訳…。』
まぁ思った通り、族長もギバルも怪訝そうな顔をしてる。一方のガジルは…。
…うん、キャパオーバーで思考停止してるっぽい。後で適当に解説しとくか。
『そもそも一つ良いか?お主は先ほど「目が覚めたら、森の中にただ一人」と言っておったじゃろう。なら全ての生き物と話せるようになった、というその
「へ?いやだから書き置きだと…。」
おい、まさか…。
『? だから、お主がそのことを新たに
…。
……。
勘弁してくれ。
もしかして、このゴブリン達には…。
『文字』の概念が、無い…?
…まぁ、文字の概念が存在しないってだけならそこまで不思議なことでもないんだろうな。情報の伝達なんて口頭で済ませればいいだけだし。
でも面倒だなぁ、これ…。何とか誤解を解かないと最悪『一人きりだったというのは嘘だ』とか思われて話が
まあ「話の前提を確認する」っていうのも大事だし、仕方ない。ちょっと脱線するけども、文字の概念について説明しておこうか。
全く、文化が違う相手との会話はこれだから…。
「それがですね、人間たちは
『何?なぜ
いや、それよりもどうやってそんな事を行っているのじゃ?』
「ええと…実際に見てもらった方が早いかな。ちょっと大きめの石か木の枝をお借りしても?」
『…良かろう。ガジル、ニンゲンにお前の斧を貸してやれ。』
『えっ?お、おう!』
話についていけず、半ば混乱しているガジルから石斧を受け取る。サイズはスマホよりちょっと大きいくらいかな?やっぱり人間基準だと少し小さいわ…。
まあそれはさておき。
これでサクッと
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実演、ひとまずの納得、“森の神様”。
受け取った石斧で
もちろん能力の発動も忘れない。対象は…目の前の3人でいいか。
「…よしっと。こういった記号に意味を持たせることで、人間たちは言葉のやりとりをすることがあるんです。」
『何々…「わたしは あやしい ニンゲンでは ありません」か。なるほど、確かにこれなら声を出さずに言葉を伝えられるな。
じゃが、この記号が有ったということはこれを残したニンゲンが居た筈じゃろう?それとは話をしなかったのか?』
「それが居なかったんですよ。この記号…“文字”の大きな特徴として、一度書いておけば消されない限り
つまり先ほどの話の内容を文字に残した『誰か』は俺が目を覚ますより先に何処かへ行ってしまっていて、その文字を後から俺が読んだ…という訳です。」
『それ故に「見覚えの無い森にただ一人」だった、と?』
「ご理解頂けたようで何よりです。」
更にこれを実演したことで、俺が嘘をついていないことをもう一つの観点から証明できる筈だ。
「ところで今読んで頂いた文字ですが、それはここから遠く離れているであろう俺の故郷で使われている文字なんですよ。
恐らく族長は初めて見た物だと思うのですが、何故
『『!!』』
「これで俺が言った『全ての生き物と会話ができるようになった』という話が嘘ではない、と信じて頂ければ幸いなのですが。」
…さあ、どうだ?
『…このような不思議なものを見せられては、信じる他無いな。』
良かった…何とか納得してくれたみたいだ。
『…どうして、こんなことが出来るようになったんでしょうね?』
『“森の神様”のご加護かもしれんな。』
「“森の神様”?」
『この森に住んでおり、森の全てを知っているお方じゃ。』
「…成程?」
アニミズムの
『よし、それでは暫くお会いしていなかったことじゃし、お主のことを尋ねるのも兼ねてお参りに行くとするか!』
「!? 会えるものなんですか!?」
『この森の奥深くに、神様の化身である大樹が有る。そこでは神様からお言葉を頂くこともできるのじゃ。』
会話できる神様か。何ともファンタジーだな。
「あの、俺も一緒n」
『当然お主にも同行してもらうぞ。お主について訊くのも大きな目的じゃからな。
ガジルとギバルもついて来い。そろそろお前達も神様にお会いして良い頃じゃ。』
…これはあくまで俺の推測なんだが、この『神様に会う』って言うのはいわゆる通過儀礼なのかな?日本で言う成人式みたいな。
『じゃが、もう日も高い。ここで一旦食事にしよう。…お主も一緒に食うか?』
これでストックが(ほぼ)切れたため、毎日更新は打ち止めです…。
しばらく休んで来週から「毎週土曜日 朝8時」の投稿を目指しますよ!
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昼食のお誘い、そして初の異世界メシ。
『じゃが、もう日も高い。ここで一旦食事にしよう。…お主も一緒に食うか?』
「良いんですか?ならご相伴にあずからせて頂きます。」
実際有り難い。目が覚めてから今(ちょうど正午あたり?)まで何も食べられていなかったんだ。いい加減お腹が空いてきた。
…今一瞬族長が同情の視線を向けてきたの、俺は見逃さんぞ。村の入り口での会話と合わせて考えるに、どうやら俺が食べようとしたあの木の実は相当マズいーー味が悪いって意味じゃなくーーものだったみたいだね。
『では行くぞ。そろそろ先ほどの“大角”の解体が終わった頃じゃろう。』
「解体?と、いう事は…」
『うむ。お主が居らなんだら仕留められなかった獲物じゃ。お主が最初にその肉を食ったところで誰も文句なぞ言わんわい。
ギバル、食料庫からあの“大角”の肉を貰って、広場まで持ってきてくれ。』
『分かりました!』
『儂らは先に広場に向かっておくぞ。
…これ、ガジル。いつまで呆けているつもりじゃ?』
そんなこんなで族長に案内されつつ、なんとか復活したガジルと共に村の広場へと移動。
広場の中心には焚き火が燃えていて、火を使う調理とかはここでやらなきゃいけないらしい。…良かったよ。『森の中で火を
ほどなくしてギバルが、大きめの肉が長めの串(と言ってもほぼ木の枝だけど)に刺さったものを幾つも持って合流した。
焚き火で炙って食べろってことらしい。
「それでは…。」
徐に手を合わせて瞑目。
「…いただきます。」
…目を開けると、三人が奇妙なものを見る目でこっちを見ていた。
…。
……。
勘弁してくれ。
日頃の習慣ってすぐには抜けないなぁ…。
『…ニンゲンよ、今の「イタダキマス」というのは何なのじゃ?』
案の定、思いっきり不審がられた。まあ地球でも日本以外にはあんまり無い文化ーーキリスト教の食前の祈りとも微妙にニュアンスが違った気がするーーらしいし、ある意味当然の反応か。
「俺の故郷の文化ですよ。物を食べる前に、食材となった動植物や食事を用意してくれた人物、そして食事を食べられることそのものへの感謝をこうして示しているんです。」
厳密には違うらしいけど、とりあえず俺はそんなつもりで「いただきます」と言っている。要は心を込めて言えるかどうかだ。
『…! ほう、それは良い文化じゃな。
では儂らもそれに倣うとしよう…イタダキマス。』
族長が合掌しつつそう口にすると、ガジルとギバルも見様見真似でそれに続いた。族長が驚いたような表情をしていた気がするが、今のは一体…?
とりあえず、それについては考えないことにして肉を焼くことにした。
(どれくらい焼けば良いのかな?お腹を壊したら洒落にならんし、しっかり焼いておくk)
『おい、お主。もう良いのではないか?』
「え?」
そんな声をかけられ、肉を火から離す。まだミディアムレアにもいってない気がするが…?
(まあいいか。いただきます。)
心の中でもう一度呟き、肉を
…美味しい。
予想に反して柔らかく臭みも少ないその“大角”の肉を、一口ずつしっかりと
『命をいただく』という言葉の意味を肉と一緒に噛み締めつつ、追加で何串か同じように焼いて食べる。こうして、この『ラムンダ』とかいう異世界での最初の食事が終わった。
ちなみにこの後、いつもの癖で「ご馳走様でした」と言ってまた訝しがられてしまった…。
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推察、【聖域】、動揺。
そんなこんなな食事の後、族長の引率で俺達4人は“森の神様”の下へと移動することになった。
…道中、移動しながら考える。
確かに俺がここに居る理由について、件の神様とやらは何か知っているかもしれない。…でも、あくまで『その程度』。
俺を連れてきた張本人「賢者コイズミ」とはまた別なんじゃないか、俺はなんとなくそう思う。
あのメモには確かに、「こちらの都合で」「この世界に放り込む」と書いてあった。これがもしラノベとかのオーソドックスな異世界召喚だったとすると、俺にはこの世界において明確な『役割』が有る筈だ。
だが、そんなものを聞いた覚えは無い。それが有るなら先のメモに書けばいい話だ。もっとも、「この先、実際に対面してからゴブリン達の前で言い渡される」という可能性も無くはないが…
(…机上論の域を出ないな。これ以上は“神様"の話を聞いてから考えるか。)
そんな
うーん、足の裏が痛い。普段そこまで歩く習慣が無いだけに体が悲鳴を上げてらっしゃる。こりゃ、ここを拠点にするつもりなら知識と一緒に体力も鍛えなきゃやってられないなぁ…!
と、不意に族長が声をかけてきた。
『まもなく、神様のおわす【聖域】じゃ。くれぐれも失礼の無いようにな。』
成程、確かに少し先の空間が開けているのが分かる。ここまで歩いてきたのが結構な密林だっただけに、この先の空間はさぞ特別なものなのかもしれないな。
そして、いよいよその空間に踏み入った俺はーー
言葉を失った。
小中学校の体育館並みの広さ…は言い過ぎにしても、今の拠点(仮)が軽く3つは入りそうな開けた空間と、その奥に鎮座する巨大な、木。
目算には自信がないけど、多分あの大木を人が取り囲むなら大の大人が10人は居ないと厳しいだろう。そう思わせるほどのスケールの木が、
その木の左右にはこんな開けた空間が無いことを見るに、恐らくここはこの空間の『正面入口』とも言うべき…
『ぼーっとしてないで、早く来てください!』
危ない危ない。
いつの間にか前方にいたギバルに急かされ、この【聖域】の中を進んでいく。
【聖域】の
…
…そうして数秒待っていると、どこからともなく「声」が聞こえてきた。
!?
…。
……。
勘弁してくれ。
俺名乗った覚え無いんだけどぉ…?
ちなみにあまり関係ないですが、一般的に『屋久杉』として有名な縄文杉の幹の太さは約16.1mらしいです。
※ 8/21 追記
キリが良いところまで書いて区切ってみたところ、字数がちょっと足りなかったので今週はお休みします。
来週までに2話上げる予定ですよ〜…
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愚鈍か、傲慢か
あと警告が遅くなっちゃいましたが、今回から「R-15」「残酷な描写」タグ追加です…!
耐性がない方は閲覧注意です。
では…どうぞ。
…いやいや待て待て、落ち着け俺!
俺はこの世界に来てから一度も自分の名前を名乗っていない。それにも関わらず、こうして俺の名前を知っているということは…。
…やっぱりこの相手、俺の件に一枚噛んでる!
『…今の、“「葉」の名を持つ者”というのは?』
っと、これについて考えるのは後だな…。族長の困惑したような呟きに対して応えるのが先だ。
「恐らく俺のことでしょう。
申し遅れました。俺の名前は
『ふむ…成程。
儂の名はゴジルと言う。村の皆からは族長と呼ばれているぞ。』
『ガジルだ!よろしくな、ヨー!』『ギバルです。宜しく、ヨウ。』
今更ながら、この流れで全員自己紹介を行う。まぁ、俺からしてみれば子供二人の名前はもう分かってたようなものだけどね。
二人とも、良い名です。”
そんなやりとりに、なんと先ほどの天の声も入ってきた。それを聞いてハッとしたゴブリンたちは、再び樹に向き合って頭を下げる。俺も
『はっ…。つきましては、神様。彼ら二人を、我らの同胞とお認め頂きたいのです。』
この森の一員として、これからも健やかに
生きていくのですよ。”
『『はいっ!』』
この天の声こそが“神様”そのものらしい。
ここで“神様”に認められて初めて一人前…ってことなのかな?後でゴジル族長に聞いてみるか。
「はっ…その方はなんと?」
と、そう言っていましたね。”
…。
……。
勘弁してくれ。
この上なく要領を得ない言葉だなぁ…!
そもそも“彼女”って誰だよ!
まぁそれについては後で考えるとして、『思うがままに』か…。
閃いた!
「思うがままに、ですか…。でしたら一つ、行ってみたいことが御座います。
この森に関わることなので、まずは貴方の許可を得ないといけないと思いまして。」
分かりました。ひとまず言ってみてくださいな。”
さて…どうなるかな。
正直に言えば、却下されても困らない。でも…もし許可が下りれば、色々とやりたいことが出来るかもしれないな。
「では僭越ながら。
私としては、この森の『間伐』を行いたく存じます。
この森には確かに多くの木が生きておりますが、それ故にその木によって日の光が地面へと届かず、若い木が思うように育てない状況となっている
そこで、私に一部の木を伐採する許可を頂きたい。もちろん伐採は必要最小限に留めますし、切った木は私やゴブリン、或いは他の生物たちのために有効に利用していく所存です。
…
…沈黙。
思いませんでした。”
「……は」
『この地域には確かに多くの人間が生きておりますが、それ故に資源が全ての人間へと十分に届かず、若い人間が思うように育てない状況となっております。
そこで、私に一部の人間を『間引き』する許可を頂きたい。もちろん間引きは必要最小限に留めますし、その命は私や他の生物たちのために有効に利用していく所存です。』
等と言われたとして、納得できるとお思いですか!”
「…ッ。」
そうか…あぁ、そっか。
そんなこと言われたら、
他の命の有り様に干渉し、その生殺与奪の権を握るような真似を、許容するようなことが有ってはならないのです。”
「…失礼致しました。」
自覚が無かったなら余りにも愚鈍、気づいていたならこの上なく傲慢。
…最早、貴方に話すことなど有りません。”
うっひゃぁ…ブチ切れてらっしゃる。もう顔も見たくないってレベルで嫌悪されちゃったかな…?
ってマズい!それじゃ駄目だ!
俺は先程までの祈り(?)の姿勢から、顔を上げずに姿勢を変える。
立てていたもう片方の膝を地面につき、揃えた両足を挟む格好で両手の肘から先も土に触れさせ、その両手の先に入れるような格好で頭を一層下げて地を拝する。ジャパニーズ・ドゲザ風
「出過ぎた言、大変に申し訳ございませんでした!
ですがどうか、どうかお慈悲を!
私はただ、生きたいのです!この愚かさ、或いは傲慢さが私の身を滅ぼすというのなら!
どうか己を見つめなおし、正しい心の有り様を会得できるまでだけでも、この森に住まうことをお許しください!」
この言葉を最後に、声は聞こえなくなった。
風で木の葉がざわめく音だけが、耳に残っている………。
あと2話ほどで第一章終わりです。それに合わせて小説タイトルも変える予定ですよ。
(現タイトルが一章の章タイトルになる予定)
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