神に至る竈の英雄 (茶々丸さん)
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Prolog

0 異聞

 

 

 

とある神は言った。

世界は英雄を求めている。

世界で人類がモンスターに蹂躙されていた時代、多くの英雄が現れ、幾度となくモンスターと死闘を繰り広げ、その名を武勇を世界に知らしめた。

 

それから幾年も過ぎ去り、娯楽を求め地上に降り立った神によって神時代が幕を上げた。

神々から『恩恵』を受けた人間は超人的な力を得てモンスターに対抗する手段を得た。

 

良くも悪くも人類は力を得てしまった故に英雄の誕生の妨げになった。

モンスターを生み出す地下迷宮、ダンジョンを中心に迷宮都市オラリオは生まれ、少なくともダンジョンに挑むことで英雄と呼ばれる者たちは着実に生まれていった。

 

オラリオトップであったゼウス・ファミリア、ヘラ・ファミリアのオラリオ追放によって時代は新たな幕を開けた。

時代を担う英雄候補達は静かに産声を上げた。

そして、オラリオから遠く離れた村でも次代の英雄候補は着実に成長し、やがて最後の英雄となる。

 

 

神は言った

 

―――世界は英雄を求めていると―――

 

 

これは新たに紡がれる英雄の物語。

これは神に至らんとする1人の少年が英雄になる物語。

これは英雄達による新たな英雄譚。

これは最後の英雄達の眷属の物語。

そしてこれは誰も知らない、起こりうるはずの無かった世界、迷宮異聞英雄譚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい調子ですよ、ベル。」

 

「はぁっ、はぁっ、ありがとう、ございます、先生」

 

優しい笑みを浮かべる男に対して死にものぐるいで剣を振っていた少年は笑顔で応えた。

 

「ベル、君と出会って3年、ですか。」

 

 

「はい、先生。先生の指導のおかげで少しは強くなれたと思います。」

 

「ふふ、そうですね。君は強くなったと思います。けれど慢心してはいけませんよ?君は神の恩恵を受けていないのだから。」

 

「はい、分かってますよ先生。」

 

「ベル、訓練はここまでにしましょうか。」

 

「…?分かりました。」

 

いつもは厳しい己の師匠が日課となっていた訓練を午前の内に切り上げ戸惑っていると。

 

「ベル、ベルは何故強くなりたいのですか?」

 

「……僕は、英雄に成りたい。この村は低級とは言え良くモンスターに襲われます。

先生に師事された僕は確かに低級であれば難なく倒すことは出来ます。

だからこそ、英雄時代の凄さが分かる……と思います。

 

神の恩恵の無い身で人々の為に立ち向かいモンスターを打倒してみせた。

確かに、始まりはおじいちゃんの話してくれる英雄譚がきっかけかもしれない……けど、僕はそんな英雄達に憧れたんです。」

 

「なら、」

 

「はい。行こうと思います。迷宮都市・オラリオに。」

 

「そうですか……確かにあそこなら君の夢も叶うでしょう。しかし、オラリオはそんなに甘い所ではありません。それでもオラリオへ?」

 

「はい、僕はもっと強くなりたい……英雄に成りたい!」

 

自身の弟子のその真っ直ぐな瞳に男は懐かしむ様な笑みを浮かべた。

 

「良い覚悟だ。ベル、君ならきっと英雄になれます。私はオラリオで冒険者をしていましたがそこそこ有名だったんですよ?そんな私が保証しましょう。」

 

少年はパァっと表情を明るくすると小さくガッツポーズを取った。

 

「さて、ベル。今日はもう帰って休みなさい。明日からまた厳しく指導していきますよ。」

 

「はい!よろしくお願いします、先生!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遂にここまで……僕はここから始めていきます。見ていてください、先生、おじいちゃん!」

 

ベル・クラネルのオラリオ到着。

ここから物語は大きく動き始める。

 



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一節

Ⅰ 神の眷属

 

 

 

 

 

他種族で賑わい活気に溢れた迷宮都市・オラリオ。

笑顔の絶えないその街の中でその場の空気に似合わないオーラを撒き散らす少年がとぼとぼと歩いていた。

 

そう、何を隠そう英雄になる為に村を飛び出したベル・クラネルその人である。

オラリオに到着してはや3日が経過していた。

しかし、ベルを受け入れてくれたファミリアはまさかの0だった。

その多くがベルの見た目を見て門前払いをした者しか居なかった。

 

「はぁ……そんなに頼りない見た目かな……。後はロキ・ファミリアだけ……か。」

 

オラリオに存在するファミリアの門を片っ端に叩いていき残ったのはロキ・ファミリアのみとなった。

オラリオ屈指のファミリアはさすがに望み薄だろうと思い後に回していたがまさか結局来る事になるとは。

 

「あの、ここはロキ・ファミリアのホームで間違いありませんか?」

 

「ん?なんだ?」

 

「あ、僕、ベル・クラネルと言います。ロキ・ファミリアに入団したいのですが……。」

 

「はっ、冗談はよしてくれよ!その貧相なナリでロキ・ファミリアに入りたいだって!?」

 

ロキ・ファミリアのホームで門番をしている男の人はゲラゲラと笑いながら僕を指差す。

 

「……案内して貰えませんか?」

 

「しつこいぞ。お前みたいなガキにロキ・ファミリアは相応しくない。分かったらさっさと帰りな。」

 

「そう…ですか。」

 

それ以上は何を言っても無駄だろうと見切りをつけその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ここで何かあったのかい?」

 

「あ、団長!いえ!今日も何も問題ありません!」

 

「そうか……」

 

ロキ・ファミリアのホームから出てきた少年……の様な見た目のアラフォー改めロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナは震える親指を抑えてホームへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日は沈み街をオレンジ色に染める夕暮れ時。

街の路地裏にベルは1人ポツンと座っていた

 

「はぁ……まさかどこも受け入れてくれないなんて。」

 

どうしたものかと頭を抱えていると

ぐぎゅるるるるる……

 

「……こんな状況でもお腹は空くんだな…」

途端に悩んでいた事が可笑しく感じ立ち上がると村から持ってきた残り少ない資金を握りしめ再び街へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの…このお金で何か飲み食いできるかな……」

 

「やぁ、少年!」

 

「?」

 

握り締めた資金を見つめ唸っていると自分より低い位置から呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「えっと、貴女は?」

 

「ん?あぁ、ボクはヘスティア!よろしくね!」

 

「ベル、ベル・クラネルです。神、ヘスティア様」

 

「よろしくね、ベルくん!それより、お金を見ながら唸ってたけどどうかしたのかい?」

 

「あぁ、実は今日オラリオに来たばかり何ですけど……ご覧の通りお金が心許なく夕食をどうしようかと……」

 

「……もしかして、ベルくんはファミリアには?」

 

「あはは……オラリオ中のファミリアから門前払いを受けまして…お察しの通りフリーです。」

 

「……」

 

ベルの言葉にヘスティアは腕を組みツインテールをぴょんぴょんさせながら唸ると

 

「ベルくん!」

 

「?はい。」

 

「ボクのファミリアに入らないかい?」

 

「え、ヘスティア様のファミリアですか……?」

 

「嫌かい?」

 

「い、いえ!僕で良ければ是非お願いします!」

 

ベルは先程まで感じていた空腹を忘れて喜んだ。

そしてヘスティアは

 

「い…………やったぁぁぁぁぁ!!ホントに入ってくれるんだよね!?嘘じゃないね!?」

 

ベル以上に飛び跳ねて喜んでいた。

 

「実は恥ずかしながらベルくんが初めての眷属なんだ。」

 

「初めて……つまり僕1人」

 

「そうだね。君一人だ。」

 

「はは、いいですね!」

 

「え?…そ、その反応は予想外だ…」

 

「ヘスティア様、僕は英雄になる為にこのオラリオに来ました。」

 

「英雄……」

 

子供の見る夢、荒唐無稽なその夢を語るベルの姿にヘスティアは目を離せずにいた。

 

「世界に名を残すような、英雄譚に綴られるような、子供が憧れるような……そんな英雄に僕は成りたい!

確かに強いファミリアに入ればその夢に近付けるかもしれません。

けど、他人の歩んだ道を辿って英雄に成りたいんじゃない…英雄に至る道を自ら切り拓きたい!

ヘスティア様とこのオラリオ、いや、世界に名を残す英雄になりたい!」

 

「べ、ベルくん……うん、君ならなれるさ!僕が全力でサポートするよ!」

 

「よろしくお願いします、ヘスティア様!」

 

「うん!改めてよろしくね、ベルくん!」

 

こうしてベルはヘスティア・ファミリアへ加わる事となった。

その後、ヘスティアの働いているというじゃが丸くんのお店でじゃが丸くんを購入後にヘスティアの案内でホームへと向かった。

 

ボロボロの教会を前に戸惑いはしたものの、ベルはここから成り上がってやるとむしろ心を燃やす事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ベルくん。服を脱いでくれ!」

 

「え?」

 

「恩恵を刻むには上半身裸にならないといけないんだ。」

 

「あ、分かりました。」

 

ベルはヘスティアの説明を聞いて納得したのか服を脱ぎ始めた。

 

「ベルくん……見かけによらず鍛えてるんだね……。」

 

「あはは……師匠が厳しい方だったんで。」

 

少し懐かしむように自身の師の話をしながらヘスティアに指示されベッドに仰向けとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これが君のステイタスだ。」

 

 

ベル・クラネル Lv.1

 

力: I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

 

《スキル》

 

 

「……」

 

「はっはぁ〜ベルくん、その顔さては何かスキルか魔法が発現してる事を期待してたんだろ」

 

「む、悪いですか?やっぱり英雄を目指す身としては憧れるじゃないですか!」

 

「ふふ、ベルくんは可愛いなぁ。そんなに焦らなくても大丈夫さ。君はこれからもっともっと強くなるんだろ?」

 

「はい!……それよりヘスティア様。やっぱりスキルの欄の消した後はミスですか?」

 

「ん?あ、あぁ、手元が狂ってね。」

 

「はぁ……」

 

ベルは思っていた様なステイタスではなかった事に肩を落としながら服を着替えていた為に気付くことは無かった。

表情に影を落とし何かを考え込む主神の姿に。

 



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