元!海賊王の航海 (りむっち)
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始まり編
第1話〜始まり編始〜


砂浜に座りながらその男は

「はぁ·····」

とため息をはいた。

ため息を吐きながら苦笑したその表情はどこか色っぽく、そんな男をチラチラと遠巻きにみている民衆らがいるが、そんなことを気にする様子もなく男は目の前に広がる大きな海をぼんやりと見ていた。

 

男はあの日あの瞬間確かに命を落としたはずだった。東の海のとある島ローグタウン。そこで彼は海軍によって死刑にされた。もちろん、死体は疑り深い海軍が埋めるその瞬間までその男から目を離すわけもなくキッチリと死んだ事が事細かに世間に晒されている。

それなのに·····。

「俺ァ、なんで生きてんだろうねぇ」

くしゃり、と頭を掻き海から視線をあげ空を見上げた。憎らしい程に海と同じ位澄んだ青空が男の目に映った。一羽のカモメが鳴く、自分の心情とはかけ離れた穏やかな景色だった。

 

男の名前は、ゴール・D・ロジャー

かつてこの世のすべてを手に入れた男、海賊王と名を馳せそして処刑され、大海賊時代の幕開けを行った極悪海賊の王。海軍、CP、天竜人に恐れられた男。かつて誰も成し遂げることが出来なかったグランドライン制覇をした唯一の海賊。

 

「いててて…」

一瞬、夢かと思ったロジャーは頬をつねると痛みを感じた。

「やっぱり夢じゃねぇよなぁ。」

思わずため息を漏らした。ロジャーは座っていた砂浜から立ち上がり海へと近づいていく。何度も触った海の感触を確かめるとともに、自分の容姿についても疑問を持ったからだ。

「こりゃぁ、参ったなぁ。歳の頃は大体15〜8位か。しかも容姿が俺の若い頃まんまだ。ホントに一体なにがおきたのやら·····」

手を自分の顎の所へ持っていき顔を傾けた。今のロジャーの心情は死刑されたと思ったら若くなって生き返ってるのだからびっくりの連続でたまったものじゃない。

「しかし、この俺の姿を見てると相棒と会った時のこと思い出すなぁ。ありゃ、一体どこでだっけかなぁ〜」

混乱する事ばかりだが、昔の仲間との思い出を思い浮かべ口を三日月のように、楽しそうな顔をしていた。

 

「っと、いつまでもこんなことしてる場合じゃねーな。ともかくここがどこで、世間はどうしてるのか知る必要があんな」

混乱していた頭を1つ振り抜き、直ぐに状況判断をする。この切り替えの速さは流石海賊王といった所だろう。ロジャーは思いたったが吉日、と言葉の如く、情報を得るために浜辺の近くにある酒店へと足を踏み入れていった。中は酔った男どもでむさ苦しく大賑わいしていた。そんなロジャーはカウンターの席へとつき、近くに置いてある新聞紙を手に取る。

「まさか、俺が死んで15年といった所か。おっ、あの見習いの赤髪のガキンチョが今じゃスーパールーキーと呼ばれているのか。そんでコッチは東の海で元気に暴れてると·····。ワハハハハハ!!あいつらも元気にやってるなぁ!!」

表紙にデカデカと乗っている昔の見習いを思い出しながら大きくロジャーは笑う。いきなり笑った男に周りの客はギョッとしたが自分達の周りもそんなのばっかだからと特に気にした様子はなかった。1人の老齢の海兵をのぞいて。

「あの顔、どこかで·····」

 

「まぁ、おれは死んだがこの通り蘇っている。ならする事は1つだなぁ。まだこの世には知らねぇ事が沢山ある。それを旅して見るのも悪くねぇ。海賊王としての俺は、既に故人。海賊としての道は若いのに任せりゃいい。俺ァ、気ままに旅をするとしよう」

そう決めたロジャーだったが一つだけ不満があった。

「たが、この若ぇ体じゃあ旅にでられねぇな。ここはいっちょ昔を目指して鍛えるかねぇ」

旅をするにしてもやはり体がひよってちゃ何も始まらないと思ったロジャーは体を虐め抜くことを心に決めた。お金をマスターへと渡しとある島へと向かう。その島にはたくさんの猛獣がおり、修行にはうってつけと前世で知っていたからだ。だが、そんなロジャーは船を持っておらず行けずにいた。しかし、ロジャーは海賊王。そんな事で諦めるわけもなく

「ちょうどいい、準備運動がてら泳いで行くとするか」

本来なら何十日も船で旅して向かうところを泳いで行こうとする。食料はどうするのかと思うが近くに魚がいるのだから心配は無いだろうと呑気にロジャーはそう思っていた。服をぬぎ痩せ細った体が表に浮き上がってくる。

「なんだこの体、筋肉も弱っちぃなあ」

つくづく鍛えがいがあると楽しそうに、ポジティブに考えるロジャー。

 

━━とある海1

「おっ海王類!飯だなあ!!」

「くぎゃゃゃゃゃゃゃ!!」

覇王色の覇気を全面にだして、覇気を纏いながらデカい海王類を倒す。

その上にたちバクバクと鳴っていた腹を満たすために直で食べ始めるロジャー。

 

━━とある海2

「ありゃぁ、海賊船か?」

海賊船を見つけたロジャーが海賊船のある所までいき、無断で乗り込む。

「船長!!こいついきなり入って気やがった!!」

「なにぃ!!てめぇ!一体どこのどいつだ!」

その海賊船に乗っていた乗組員は自分達の仲間ではない男を見つけ直ぐにその男を取り囲む。

「おいおい、そんなに怒るなぁ。ほれ、酒でものめ」

それをこれといって気にする訳でもなくロジャーはその船の船長へ持っていた酒を渡す。

「お、そうだな。って!これ俺らのじゃねぇか!」

「ワハハハ!!」

「おい!聞いてんのか!」

そこからはずっとロジャーのペースで怒る気力すら無駄だと悟った船長がほっといていいと他の仲間に促す。それぞれが微妙に納得していないような顔を浮かべながら元の場所へと帰ろうとする。だが、それを許すロジャーじゃなく

「おいおい!こんなに集まってんだからぁよ!宴しようぜぇ!ワハハハハハ!!」

「はぁ?!なにいきなり乗ってきたお前がしきってんだぁ!!」

「まぁ、そう慌てんなって!ほらこれでも」

「お、そうだな。って!だから!この酒は俺らのだ!」

「ワハハハハハ!」

 

ここは、肉質が硬く全長10mを越える猛獣がそこらじゅうに跋扈している島。彼らに仲間という概念は存在しておらず自分自身以外を敵とみなしている。そんな危険がはこびこっている島に1人のヒョロがりの男が到着する。言わずもがなロジャーである。

「ワハハハハハ!ついた!さぁて、久しぶりに暴れるとするかな!」

元気に高笑いしたロジャーが自分の服を絞って木へとかける。上半身裸のロジャーはそのまま島の中心へと歩み寄っていく。3分歩いた所でロジャーの前に大きな虎の猛獣がよってきた。

「グルゥゥゥ!」

「ワハハハハハ!こい猫!」

ロジャーを食べるためにきた虎がロジャーへと走ってくる。ロジャーの上半身を美味しそうに見定めた虎は大きく口を開いて突進してくる。それを見聞色の覇気の未来視で見たロジャーは僅かに傾くだけでそれを難なく逃れる。それに続けてロジャーは肩から手にかけて覇王色の覇気と武装色の覇気を纏いながら殴りにいく。ただの覇気ではない。手だけでなくその手の周りにも覇気をまとう。ロジャーから放たれた拳は虎の体へと寸分違わず打たれた。

「グガッ!!グググ!!!!」

一瞬よろけた虎だったが直ぐに視線をロジャーへと戻し戦闘態勢へとうつる。この島では猛獣同士の戦いは頻繁に行われており覇気を纏ってはいるが筋力もないロジャーの一撃で倒れるわけもなく、そこらの海王類の方がよっぽど楽だとよく実感したロジャーであった。

 

 

━━3年後

「ワハハハハハ!やっと全盛期に戻った感じがするぜぇ!」

そう高笑いするのは浜辺に腰から下を葉っぱで巻きながら突っ立っているロジャーだ。その身長は3m近くあり以前のヒョロがりとは思えない筋肉質な男がたっていた。最初に戦った虎など今じゃ1発殴れば直ぐに気絶する位にまでなった。海王類なんかは覇王色を浴びせれば逃げて行く位にまでなっていた。

「んじゃまぁ!そろそろこの島から離れて旅でもするかな!」

「グッグッ!」

「ん?あっおめぇらか!」

3年も過ごしていれば島の猛獣どもは誰もロジャーに逆らえないでいた。最初の方は弱っちいロジャーを目掛けて倒していたが2年位たつと手も足も出せなくなっていた。そんな猛獣達と仲良くなったロジャーは動物達の声を覇気で聞こえてる体質な事もあり少しだけだがコミュニケーションが出来るようになっていた。

「なに?まずは服だって?」

「ンッ!!!」

ロジャーの言葉に頷く猛獣達。

「確かに葉っぱ一丁じゃ味気がねぇよな!!最初着てた服はどっかに流されてたし、まずは金でも稼いでくるかねぇ!」

そう決めたロジャーは猛獣達との別れも済ませて色々な島を島から島へと泳いで渡っていった。

 

 

 

「なっ!!これは、無名の海賊狩りの海賊!?これは·····」

「ん?どうしたの?レイさん」

「ん、なぁに。少し気になった男というかアイツらしき人を見つけてね」

レイさん、と呼ばれた男は、歳老いているにも関わらず若々しさを持っていた。男から発せられる鋭い瞳は、まるでどこかの男を連想させるような瞳だった。その声色はどこか楽しげな空気と驚いているような空気を醸し出している。その足がまるで今すぐにでも確かめたいかのように貧乏ゆすりをはじめるくらいには。

男は、かつて海賊王ゴール・D・ロジャーの副船長を務めた男で、彼の死後は姿を晦まし、コーティング屋を営む1人のジジイとして生きていた。レイリーの見つめる先には、一枚の変哲もないただの紙。新聞紙を開いて落ちてきたものをみた事から始まる。

それをレイリーは、信じられない!ものをみた、といった思い詰めたかつ驚きが合わさった顔で眺めていた。

「レイさんがそんなこというなんて、よっぽど面白いネタでもあるのかしら?」

クスクス、と笑いながら店の店主、シャッキーはそう口にした。それに対し、

「ただの手配書なのだが、この顔が何度も見てきた顔でね·····」

レイリーは、恐る恐るとシャッキーに向かって自身が眺めていた紙切れを手渡した。そこに映っているのは、一人の男。なんの変哲もない若くギッシリとした体つきの1人の男。

「この人がどうかしたの?」

シャッキーはレイリーが怖い顔をしながら渡してきた紙をみながら何かあるのか?といった感じでレイリーへと尋ねた。

ふぅ、とレイリーは、注がれた酒を一気にあおり口に含んだ。

「君は知らないのか?そういや随分若いから無理もないのかな」

そう、レイリーがこの男の手配書をみたとき、目を見張った。それもそのハズで自分を海賊の道へと誘った若い頃の相棒の姿が写っていたのだから。レイリーが唯一、共に生きたいと請い願った相手。

世間では、悪逆非道。悪魔と罵られているがそれをものともせず楽しく自由に海賊をしていた背中を、任せることが出来る唯一の男。

レイリーが人生のすべてを賭けた相棒、死んだはずの相棒。なのに手配書には写っている。生きてるわけがない。それなのに生きている。この姿を知っているのは自分かギャバンか若い頃のガープくらいだろう。

「少し、用が出来たよ」

「そう?」

レイリーは、酒場から出てまだ陽は高く昇る空を眺めた。レイリーにとって、太陽を思わせる男の姿を頭の中に描く。もし生きて居たのなら何故死刑なんかと1つ殴らなければ気がすまない。

「ふふ。さぁて、本当にお前なのか、ロジャー…」

 

 

 

ある風車がたっている東の海の島。孫に会いにきたはずの年老いたジジイが空から届けられてきた新聞紙を片手に呑気に歩いていた。そんな新聞紙から落ちてきた1人の手配書をみてさっきまでの呑気さは見る影もなくただただ新聞紙を強く握りしめていた。

「いったい!これは!!これはどこからどう見てもアイツじゃねぇか!!」

一もなく判断した男、ガープは孫をボコしている手をはなし、直ぐに海軍船へと乗った。向かう場所はただ1つ、この手配書に書かれている男の場所。

「もし、アイツが生きてるのなら殴らねぇと!!そうだろう!ロジャー!!」

 

 

「かっーー!!やっぱりここの酒はうめぇ!!」

そんな事いざ知らず、呑気に酒場で1人飲んでいるのはロジャー。写真を取られた事を知る由もなく自分の手配書が世に散りばめられているとは夢にも思わないロジャーはただ楽しく酒を飲んでいた。これから自分を殴りにくる2人に夜通し説明させられるとは知らずに。



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第2話

ロジャーは、猛獣島から泳いで、それなりに民衆らで賑わっている島へとたどり着いた。泳いできた海から地面に足がつくくらいまでの所で立ち上がる。腰には男を象徴している部分を隠せるだけの小さな布切れが1枚巻かれている。それ以外は、裸のロジャー。こんな男の周りにいる民衆らはその男の鍛え抜かれた体に目を奪われていた。特に女性は背丈3mもある筋肉質な体にほぉっと口から吐息をはいていた。そんなロジャーは、布1枚の変質者かと思われるような身なりをしているが幸いにもここは、浜辺。

ただお金のない男が仕方なく巻いてる布を水着と勘違いしてもおかしくは無い。若干水着にしては、薄すぎる気もするが·····。

「さぁて、とりあえずこの街を探検してみるか」

ここにレイリーが居れば直ぐに服についてツッコミをいれるだろうがここにはレイリーはいない。自由奔放なロジャーは服の事なんか頭から忘れて街へと布1枚でくり出す。

 

 

その島の噴水広場近くにあるアイス屋に、1人の少女が親から貰ったであろうお金を小さな拳に握りながらアイス屋へと駆け出していた。

「このアイスください!」

「ほら、アイスだよ。お嬢ちゃん」

「わぁー!ありがとう!」

アイス屋のおじさんからアイスを貰った少女が三段重ねのアイスを片手に元の噴水近くに座っている母親の元へ駆け出す。

「ッテ!」

「あっ!私のアイス」

「この糞ガキ!よくも俺の服に!!」

駆け出していた少女は、運悪くその少女の前を横切った短気でガラの悪い海賊へとぶつかってしまい、手に持っていたアイスはその海賊のズボンへとあたる。ほんの些細な事であるそれを許してくれるような器のでかくない海賊は、短気をおこし少女へ拳を振り被ろうとする。

「ッッ!私の子がぶつかったのならあやまります。すみません!」

「そのガキの母親か?」

「お母さん!!」

少女にぶつかる寸前に直ぐに座っていたところから立ち上がった母親が子を守るために少女と男の間へ飛び込む。少女に向かって放たれた拳は少女には、当たらなかったが子を守った母親の頬には青い痣が浮かび上がってきている。

「それで許すと思うかよ!!オラッ!!」

それでも怒りが治まらないのか怯えきっている2人の親子に男は2人へとさらに拳を握って振り被ろうとする。少女は目を瞑り迫り来る拳に恐怖し、いまかいまかと来る拳に少女の心臓は激しく鼓動していた。だが、いつまでも拳が来ない事を不思議に思った少女がおそるおそる目を少し細めて見ると1人の裸同然の男が2人を庇うかのように前へ振りかぶってきたであろう拳を手で軽く防ぎながら仁王立ちしていた。

「おいおい·····。そんな女子供に向かって·····」

「なっ!てめぇ!」

「そう怒んなよッ!!」

ほぼ裸の男、ロジャーはガラの悪い男ピンポイントに覇王色の覇気を浴びせた。完璧にコントロールしたその覇王色は周りの人になにも感じさせること無くその短気な海賊を一瞬にして気絶させる。

「大丈夫か?嬢ちゃん」

「う、うん!ありがとね!」

キョトンとした少女だったが助けてくれた事を直ぐに理解した少女がロジャーに感謝を伝える。それを少女のすぐ隣にいる呆然とした母親がハッと我にかえり同じようにロジャーへと感謝を伝える。

「あの!娘共々助けて頂きありがとうございます」

「あぁ、いいさ。別に大したもんじゃねぇよ」

「何かお礼させて下さい!」

「別にいいさ」

「助けていただいたのです!お礼させて下さい」

鼻息をフンとはきだした母親がロジャーへと詰め寄ってくる。自分と娘をたすけてくれた男。言わばヒーローの様な存在であるロジャーにその風貌も合わさってか頬を少し赤らめていたりする母親は一気にまくしたてていく。

「おっ、そうか?」

それに気圧されたロジャーはしぶしぶ頷いた。

「ねぇ、お兄ちゃんは服とか着ないの?」

「ん?あっそういえば着てなかったな。ワハハハハハ」

母親に気圧されていたロジャーだったが少女から服を着ていない事を指摘されようやく、ロジャーはその事を思い出した。

「あっならちょうどいいです。私、服屋を営んでいるので是非いらして下さい」

「そうだよ!うちにはいい服置いてあるからお兄ちゃんきてきて!」

ロジャーに渡すお礼品を考えていた母親だったがこれ幸いにと服を着ていないロジャーに服を勧めた。

「悪ぃ、世話になる」

先程頷いた事もありロジャーは、感謝を伝えた。ロジャーは少女の母親が歩き出した所の後ろからテクテクとついていく。10分ほど歩いた所でさっきの一連のことあり疲れはてた少女を見たロジャーが後ろから脇に手をいれ自分の肩へとのせる。その事にびっくりした少女だったが高い所からみるいつもと違う景色にさっきまでの疲れきった笑顔は消え楽しそうにしていた。

「これなんていかがですか?」

母親が営む服屋へとたどり着いたロジャーは早速母親から服を勧められていた。

「服なんてなんでもいいけどよ、俺ァいま、金を持ってねぇぞ」

「いらないですよ。助けてくれたお礼なので」

「そうか?なら、遠慮なく貰ってくよ」

母親から赤を基調とした服をもらったロジャーは、親子に軽い別れをつげ、ロジャーは服屋からでて元きた道へと帰っていく。その際に少女が若干別れ惜しい顔をしていたが、「また会える。」とロジャーが答えた事でしぶしぶ納得し手を大きく振ってロジャーに「ありがとう」といいながら別れた。

 

 

「あの、少しいいですか?」

そんな事もあり元きた道を帰っていたロジャーに若い海兵が後ろから肩を叩いて話しかける。顔だけ後ろに向けたロジャーが海兵をみて明らかに嫌そうな顔を浮かべたがしぶしぶ応答した。

「なんだ、」

「いや、先程ここ近くの噴水広場で懸賞金8千万ほどの男が気絶していたので何か情報はないか調べていたのです」

「ん、お、俺ァしらん。どっかの奴がやったんじゃねぇか?」

唇を横に向け目を上へと向ける。ロジャーは自分に正直に生きてきた男だ。つまり、嘘をつくのがとても下手でそれに気づかない海兵じゃない。

「何か知ってますよね?」

「断じて、しらん!!」

「いや、絶対知ってますよね!あなた嘘つけないタイプの人間でしょ?!」

詰め寄ってきた海兵の腕からヒョイっと抜け出したロジャーは、面倒事に絡まれるのは御免だと逃げ出した。今のロジャーは、海賊を捕らえ市民を守った、いわば、ルールをキチンと守った人としている。だが悲しいかな、ロジャーは前世の常識が身についているためこの人生では何も犯罪を犯していないのに昔の癖で逃げ出してしまった。そのせいか、誤解を生み出して、

「おい!とらえろ!そいつきっと何かあるぞ!!」

ちょっとしたトラブルとなってしまった。若い海兵が周りにいる自分と同じ海兵に声をかけ、走るロジャーを捕らえようとする。

「ッ!!めんどくせぇ!!」

10分以上イタチごっこを続けたロジャーは海兵達の執拗さに、前世同様関わるのがめんどくさくなってしまった。今やロジャーは全盛期以上の力を3年の月日で手に入れている。以前の死にかけの状態であれば体力配分をしっかりしていただろうが今のロジャーはそのリミッターが効いていない。要は少し力を入れただけで覇王色の覇気が簡単に外に出てくる。ロジャーの覇王色はこの世の全てを探しても誰一人たどり着けないような極地に位置している。少し体から漏れ出た覇気だろうが若い海兵達を気絶させるくらい訳ないのだ。漏れ出た覇気を浴びた近くにいた若い海兵達はたまらず一瞬にして気絶してしまった。

「あっやべッ!」

「なっ!!今のはまさか!覇王色ッ!!」

ロジャーの半径5m地点にいた海兵は漏れなく気絶したが気絶をギリギリ耐えた凄腕の海兵1人が何とか踏ん張って耐えていた。海兵であれば覇気の概要は学習事項として知っていて当然の知識だ。ロジャーからはみ出た覇気を覇王色と判断することも雑作もないことだ。

「気絶してるし、お前。ここで見た事忘れろよな?俺ァ海賊だし、お前らが俺を追いかけるのも分かるには分かるがな」

今度は正真正銘、ロジャーが自分の意識から再度、覇王色の覇気をその海兵へと浴びせた。それを耐えられるわけもなく気絶し、ロジャーは直ぐにその場から撤退を決めた。

「えっ海賊だったのか?!」

その一言を最後に海兵は気絶した。

「あれ?」

 

 

━━海軍本部

元帥の部屋に設置されているドアをいきよいよく海軍少将の男があける。

「コング元帥!大変です!!」

「どうした。騒々しいぞ」

全速力で走ってきたのだろう、肩を上下に揺らしながら大きな声で持ってきた情報を開示する。

「どうしたもこうしたも無いんですよ!海軍基地があるリ・ドル島から連絡が来たんです」

「連絡?」

ハテ?と頭を傾げたコングがハテナを出しながら続く言葉をまつ。

「はい。その島を占拠していた8千万の海賊を一撃で倒した輩がいるんですよ。その他にも色々な海軍基地から同じような案件が届いていてかれこれ10件目ですよ。そのどれもが懸賞金5千万以上の海賊達ばかり。しかも、どの1件も1人の男が行ったことらしいです。また、その島にいた海軍大佐から聞いた確かな情報が·····」

「その情報とは·····」

「覇王色を自由自在に操れると·····」

「なに?!何故そんな奴が野放しになっているんだ!!」

覇王色を自由自在に操れる輩が居るとすれば海賊だと四皇や一部海賊船の船長のはずだ。代表をあげるとすれば白ひげだ。覇王色とは百万のうち1人という上に立てる存在の奴しか操れない代物だ。もし本当に居るとするのならば、赤髪に続いてまたこの世を騒がせることになる。

「それは、その無名の男が1週間のうち行ってきた事だからです。」

「たった1週間だと?!そいつの手配書を直ぐに発行しろ!懸賞金は異例の事態だが1億くらいにしとけ!ソイツの写真はあるのか!」

大海賊時代が始まり胃の休む暇がないコングはまた舞い降りてきた事態に辟易にしていた。

「これがそうです」

「なっ!?」

見せられてきた写真を覗けば、そこには信じ難いものが写っていた。

「どうかしましたか?」

顔を青くするコング元帥を見た海軍少将の男が心配する声をかける。

「直ぐにガープとセンゴク、つるを呼んでこい。直ちにだ」

「ガープ中将は今休暇の真っ最中ですけど·····」

「なにっ?!ならその手配書を世界中にばらまいとけ。アイツなら速攻飛んでいく。俺達も直ぐに向かう。一刻を争う自体だ」

「ハッ!!」

直ぐに命令を出したコング元帥は机に置いてあった胃腸薬を片手にでんでん虫へと頭を抱えながら触れる。コングの胃は、これから来るであろう更なる面倒事に胃腸の痛みは肥大化していくのだった。

 

 

ONEPIECEの世界では、大陸より海の割合の方が圧倒的に占めている。そのため、人々は島間を定期便で行き渡りしている。わざわざ、泳ぐ馬鹿など存在しないのだ。そんな定期便に、ある銀髪の年老いてはいるが若い風貌した男、レイリーが乗っていた。

「さぁて、本当にお前なのか」

そんな事を甲板で呟いたレイリーに偶然それに乗り合わせた1人のサングラスをかけた男が後ろから驚かけるように話しかける。

「よぉ!!!レイリー!」

「ん?ギャバン!久しぶりだな。元気にしてたか」

久しくあった海賊の頃の仲間。それも船長の次に信頼していた男、ギャバンとあった事で話す2人には笑顔が絶えていなかった。

「まぁな」

出会った2人は、軽い世間話から始まり現在の生活について楽しく会話していた。それがある程度済んだところでキリッと顔を直したレイリーが突然話をもちだす。

「お前もこれを見て、来たのだろう?」

「あぁ。その手配書だろ。おれも真相を確かめに来たのさ。この世には悪魔の実っていう超常現象がある。もし、誰かがイタズラで俺らの船長を馬鹿にしているものなら容赦はしない」

「そうだな。私も久しぶりに剣を携えてきたよ」

「お前もか!俺も斧を持ってきたぞ。ハハハッ!」

今じゃ、年老いた2人だが少なくとも2人を止めるには、海軍大将を1人つれて来ないと勝てない相手だ。2人の技は全盛期に比べれば落ちたが覇気に関しては現役といっても差し支えないところだ。

 

定期便から降りた2人は自然と迷いなくある場所へと歩いていく。

「なんだ、レイリーも知ってるのか」

「まぁな。この島にはアイツの大好き酒場がある。もし本当にロジャーならそこに居ないはずがないさ」

「だな」

それ以上に2人から声が発する事はなかった。ロジャー海賊団は他の海賊団よりも仲間との絆が厚い海賊だ。互いの趣味趣向や意思疎通など出来て当然。信頼し合えるからこそ仲間を傷つける奴ほど怒りっぽくなる。それがロジャー海賊団というものだ。しばらく2人は歩き目的地である酒場へとたどり着いた。ドアを開けようと扉に手をかけたレイリーは中から聞こえてきた声に体を止めた。

「ワハハハハハ!!お前ら元気だなぁ!昔の仲間みてぇな奴らだ」

特徴ある笑い方。何十年も聞いた覚えのある声。朗らかな態度。その全てがとある1人を思い出させる。レイリーは溢れてくる涙を抑えながら中へと入っていく。




評価やお気に入り、感想まことに感謝いたします。ちょっとした感想でも筆者のモチベは、どんどん上がります。是非お願いしますね。


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第3話

時間軸について質問が多かったので答えると、エースはもう既に旅立っていて、ルフィがあと1年位したら風車村から発ちます。


ここの島の名は、マラキ島。海賊からの収支を元手に発展してきた島で、小さな屋台から始まり高価なレストランまで全てが配備されている。街では人々が大賑わいし、静かになる時間帯など存在しない。また、この島では海賊同士の喧嘩もよく勃発していて、迷惑事がよく起こる。しかし、この島の住人達は長年海賊を相手に商売してきた強者だらけでそれすらも酒の肴やどちらが勝つかというギャンブルだったりと如何に儲けを出すかという豪人な者ばかりが住んでいる島なのだ。

 

ロジャーがまだ若きりし頃、海賊王と呼ばれるにはまだ早いロジャーのルーキー時代。その時ロジャーは、よくこの島を海賊拠点として活動していた。その時によく利用していたのがこの島にある裏酒場Rockyであり、ロジャーが数ある島を旅した航路でも上位にはいる程に好きだった酒場だ。若くなって生まれ変わったロジャーは久しぶりに行こうかと幾つかの島を(仕方なく)暴れた後、この島へと上陸した。

 

「ここに来るのは何時ぶりだろォなァ……」

島から上陸したロジャーは、近くの店で新聞を買ってから生前使っていた酒場へと足を向ける。何回も歩いた道のりに感慨深くなり、白い歯を表に出しながらニヤニヤと笑う。裏酒場Rockyについたロジャーは取り付けられている扉に手をのせ、キィーンという音と共に中へと入っていく。店の中には海賊らしき者で溢れており入ってきたロジャーに目を鋭くさせながら酒をのんでいる。

「いらっしゃい」

幾分か年老いた老人が目線を下に向けながらグラスを拭き、入ってくる音を聞き入ってきたであろう男へ無骨なあいさつをかける。

「よぉ、マスター。いつものくれ」

「いつもの?ッ ッ!こりゃあ懐かしいお客さんだ。ほれ」

グラスから目を離し、カウンターへと座ってきた男に目を向ける。ガッシリとした体、見た事ある髪型、そしてマスターがはじめてこの店をオープンし最初のお客だった海賊王の男。それが処刑の報をきいて悲しんでいたがその処刑されたはずの男が目の前に座ってきた。吃驚したマスターだったがそれよりも懐かしい顔をみて驚きより嬉しさが上回ったマスターは口角をあげながらその男が以前好きこのんで飲んでいた酒を瓶ごとわたす。

「フフ」

何も言わないでくれるマスターにロジャーは感謝し渡された酒をゴクゴクとのむ。果実をわざわざ炙りそれから発酵させた果実酒。それがロジャーの大好物だった。懐かしい味にロジャーの気分は上がっていく。すると、そんな気分が上がってきているロジャーの席のうしろ。つまりこの酒場の入口付近で大の大人2人がいま、懐かしい話題で口論し始めているのが聞こえてくる。

「だから!北極の方が寒い!!」

「馬鹿言え!南極だ!!」

「わっからねぇ奴だなぁ!!」

「やんのかゴラァ!!」

だんだんと喧嘩の音が大きくなり、周りにいた客もそれをひぎりに「やれ!やれ!」と2人を囃し立てるように騒がしくなり始めた。その光景を目の端でとらえ、店の熱くなった雰囲気がロジャーの身の所まで届く。その光景はまさに、昔よく見た、幼かった見習いのガキンチョ2人とそれを囃し立てる仲間を連想させた。ロジャーはそんな雰囲気に酒で高揚していたのもあって座っていた席から背を仰け反りながら突然大きく笑い始めた。

「ワハハハハハ!!お前ら元気だなぁ!昔の仲間みてぇな奴らだ」

声を大にして笑っているロジャーの目には涙が少し溜まっていた。それが懐かしい涙なのか憂いの涙なのか分からない。ただそれでも涙を堪えちゃいけねぇような気がするロジャーだった。

 

「また、アイツらと馬鹿してぇなぁ·····」

瓶を机に軽く叩き、目を机の軋めに向け涙を耐えるかのようにそう独りごちた。

「なら、またやればいい」

「だなっ!」

そう独りごちたロジャーに本来聞こえないハズの声が一筋の風のように胸へと流れてくる。一緒に旅をし、命を預けあった仲間。この世の誰よりも信用出来る唯一無二の存在。若くなっても中身が年老いたジジイになったロジャーは聞こえてきた幻聴に涙脆くなった涙腺に小さな涙を流した。

「はっ。馬鹿だなぁ俺ァ。アイツらはここに居ねぇってのに·····」

そう鼻をならして言を放ったロジャーだが、コツコツとこちらにやってくる音がだんだんと大きくなってくるのが分かる。そして目を伏せているロジャーの肩に手がおかれる。

「居るさ、ここに」

「たく、涙なんか流しやがって」

分かっている。知っている。扉に手をつけた時から分かっていた。幻聴なんかじゃない正真正銘の声だってことを。

「ッッッ·····。レイリーッ!ギャバンッ!」

伏せていた目を後ろにやって来ている2人に向ける。その目は涙を流していており、反対に口は大きく白い歯を見せながら笑っていた。ズバッと立ち上がったロジャーはレイリー、ギャバンを真正面から精一杯抱きしめた。

「おいおい、そんな涙脆くなったのか?」

「お前も人の事言えねぇぞ。レイリー」

レイリーがおどけていいながらもその目には涙が溜まっており、おどけたレイリーに向かって放ったギャバンの声も若干震えていた。

「ほらっ、そろそろ離せ。大の大人3人が抱き合ってるなんて異様だぞ」

「それもそうだな!」

「そうか?」

流石にずっとハグしていると恥ずかしかったのか1番に離れるように促したのがレイリーだった。それに続けてロジャーが元気よく声をだし、ギャバンが名残り惜しそうに言う。

 

それから3人はロジャーを真ん中にしてカウンター席へと座った。マスターと喧嘩している者達は見なかったことにしてくれているのかさっきからロジャー達をほっといて騒いでいた。

「それで、何をどうしてそうなったんだ?」

「やっぱり、悪魔の実か?」

端的にレイリーが言葉を放つ。そのレイリーの言葉に続けギャバンも体を前に傾けながら興味深そうにいう。

「それがよ、俺にも分かんねぇんだ。悪魔の実とかじゃねぇと思う。死んだ感触あるし·····」

「ふぅむ」

「なんだ、神様にでも嫌われて行けなかったのか?くくっ」

「それかもな。ワハハハハハ!!」

「そんなわけないだろうに·····」

ロジャーとギャバンが笑いあっているそばで真剣に考察し始めるレイリー。だが、元々よく考えるような性格じゃないロジャーは体の赴くままに行動していてその事になんも疑問点をいだいていなかった。昔からこういう面倒事は相棒にまかせるもんだとよくレイリーを困らせていた。今回も同じで、レイリーはまたかと呆れるもそれがひどく懐かしくロジャーに振り回されるのもわるくなかったりする。

「それで、どうするつもりなんだ?ロジャー」

「分かってるのに聞くか?」

「そうだぞ、レイリー」

ロジャーとギャバンがこれからの行動を聞いてきたレイリーに対しておちゃらけて答える。

「しっかりと聞きたいんだ·····」

そんなおちゃらけたロジャーやギャバンと違い真剣な顔をしたレイリーが心の全てを表にだしゆっくりと吐き出す。レイリーの纏う雰囲気がさっきまでの会えた事による喜びから、歴戦の海賊然とした雰囲気となる。そんなレイリーの気迫がロジャーには、妙に懐かしくなり2人の雰囲気も真剣なものとなる。

「フッ。なぁレイリー、ギャバン。俺ァよ、お前らと冒険できて楽しかった。初めてあったときから俺は、ずっとお前らを振り回してきて迷惑かけっぱなしだ。今だってそうだ。俺が海賊の道に連れ出さなきゃお前らは普通に生活できたかもしれねぇ」

「「………」」

ロジャーがゆっくりと語る。長年に積もった思い。それを包み隠さずに2人へ打ち明ける。レイリーとギャバンも何も言わず静かに続きをまつ。

「だけどよぉ。そんな俺にずっとついてきてくれた。お前らには感謝してんだ。生き返って別の生き方ってのも考えた。だけどよぉ、どれをやってもあんま楽しくねぇんだ。俺はお前らとあった事は運命だと思ってる。だから!」

ロジャーは立ち上がり2人に手を差し伸べる。自由奔放でおっちょこちょいでトラブルメーカー。でも誰よりも仲間を愛してくれるそんなロジャーを2人はよく慕っていた。

「俺と一緒に、もう一度世界をひっくり返さねぇか?」

自信満々に言われた言葉。NOと答えても無理やり連れて行こうとするような声音。白い歯を浮き彫りにし楽しみが抑えきれない子供のようなそんな顔。

「お前の自由になんど振り回されたことか…。だが」

「全くだ。全然逃げねぇし、毎日戦いばっか…。でも」

レイリーとギャバンが手に酒瓶をもちながら立ち上がる。

「「そんなお前に俺らはついて行くし命を預けれる」」

それにロジャーも手に酒瓶をもち、かかげる。

「……」

ロジャーはこれから行う楽しい出来事に気持ちを膨らませながらゆっくりと続くその言葉をまつ。

「「そのはなし、のった!!」」

3人は、それぞれが持っていた酒瓶を3人の中央でいきよいよく当てる。キィーンという音がこだましてる店で3人は瓶に残っていた酒をひと息にあおる。

「ワハハハハハ!!!!」

返ってきた答えに満足したロジャーは今まで以上の声を出して大笑いした。また、航海できる。コイツらと、一緒に!!

 

「拳骨ビッグバン!!!」

そんな楽しい雰囲気を出していた3人に耳を劈く程の音が聞こてくる。酒場の壁はぶっ壊れ、その余波で中の椅子やテーブルが粉々になっている。土煙がまい、壊れた所に大きなシルエットが見える。舞った土煙が収まりそこに立っていたのは、1人の大男。正義のマントを着ていて、被っていたヒョウ柄の帽子をとる。

「ガッハッハッ。話は外から聞いていた。俄には信じ難いが·····。それでも、このワシがお前を行かせると思うか?」

「おいおい、もう嗅ぎつけてきたのか?」

 

「ロジャー!!」「ガープ!!」

ロジャーとガープ。ロジャーにとってガープは白ひげに次ぐ自分の好敵手。いく先々に必ずいて自分をとっ捕まえようとする。だが、そんな2人の仲はそんなに悪くない。むしろ良い方だ。どこか似通っている性格の2人はとても馬が合う。もし道が同じだったのなら2人はきっと仲間となり最高の相棒となっていただろう。だが現実は違う。2人は捕まえる方と捕まる方。だからよく喧嘩をしていた。喧嘩をする2人に険悪な雰囲気などなく楽しそうでそれでいて何時も真剣。今も2人が纏う雰囲気は真剣そのものだが2人は久々の邂逅に楽しさ9割真剣さ1割の気分でいた。

「久しぶりだなぁ。ロジャー!」

「こっちもだガープ。相変わらず、お前はいつも直ぐに現れるなぁ。」

「当たり前だ!ワシはお前を捕まえるために生まれたようなもんだからな!」

嬉しいこと言ってくれるガープにさっきまでとは違う高揚さが出てくる。

「それにしてもよく俺が生き返ったってわかったな」

「お前の手配書を見たからな」

「手配書?」

一体なんの事かと首を傾げたロジャーにガープが紙を見せながらこたえる。

「知らないのか?お前、もう懸賞金かけられとるぞ」

3つか4つか前に暴れた島の写真を背景に撮られてる自分の写真を見る。いつのまに?!と思ったロジャーだったがそんな事気にしていたらキリがないと直ぐにどうでもよくなった。ロジャーにはよくこういう事が多々ある。それで仲間が苦労しているとも思わずに。

「そうなのか!ワハハハハハ!!」

「まぁ、いい!そこにレイリーとギャバンもいるが一緒にぶっとばす!」

声を大にガープが腕に覇気をまといながらそう言い放つ。

「ガープ、レイリーは私に任せてもらおう」

「なら、ギャバンは俺がいこう」

ガープのうしろから、どこからともなくコングとセンゴク現れ、傍に歩み寄る。いきなり現れた2人にガープは驚いたが2人に任せば何とかなるだろうと、ロジャーとの一騎打ちを心置き無くやれるとコングとセンゴクに押し付けたガープは、悪い表情をうかべる。

「おいおい、勢揃いじゃねえか」

「どうするロジャー」

「決まってる」

コング、センゴク、ガープ。さらに後ろに沢山の海兵。たった3人には重すぎる程の戦力。たがそれを前にしても3人の顔から笑顔は消えない。なぜなら、こういう時の自分たちの船長程頼れるもんを知ってるのだから。

「生きてこその戦い。やるぞっ!!」

「ロジャー、預かっていたこれを渡しておく」

そう言い放ったロジャーにレイリーがとある剣をロジャーに向けて渡す。それを受け取ったロジャーの口角はさっきから上がりっぱなしだ。

「懐かしい感触だ」

レイリーとギャバンもそれぞれの得物を手に取る。レイリーにはひと振りの剣。ギャバンは2つの斧。

そしてロジャーには、最上大業物の1つ【エース】を携え、鞘からいきおいよく解き放つ。握っていた所から徐々に黒く染まっていき剣の周りを黒いモヤが浮き上がる。

「行くぞ!海軍!!」

「こい!ロジャー!!!」

ガープとロジャーがそれぞれ飛び出す。

拳骨銃(ゲンコツガン)!!」

神避(かむさり)!!」

2人がそれぞれに覇王色と武装色を纏いながらぶつかり合う。それはまさに災害そのもの。雲はわれ近海の海にまで波が昂る。

久しぶりに見たレイリーもギャバンも口角上げながらロジャーの後に続く。ロジャーの強さに気圧された海軍だったが何とか踏ん張り飛びだしたガープにつづく。




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第4話 〜始まり編終〜

「あやつ、強くなっておったな」

ガープが煎餅を食べながら、今回の事件を機に元帥となったセンゴクに向かって言い放つ。その顔には、若干の憂いが漂っていて自分とロジャーの差を実感したのが垣間見える。

「こっちは、年老いているのだ当たり前だろう。なぜ、彼奴が若くなっておるのかは、分からんがな」

フンと鼻息荒く吐き出してセンゴクは、ガープへと答える。

「それに、彼奴が病に冒されていた時でさえ海軍は彼奴を掴まられなかった。それが今じゃあ、病に冒されていなく、力が全盛期以上ときた。そんなもん、不可能に近いぞ」

はぁと溜息をこぼす。コングから元帥の立場を戴き、頻発してる海賊問題に胃が痛くなるのに加え、とんでもない爆弾を野ばらしにせざるを得ないのだからたまったものではない。

「安心せい。ワシが絶対牢屋にぶち込んでやる」

さっきの雰囲気は何処へだか、覚悟を決めたような顔つきをする。ただ、口元をよく見ると口角が上がっているのがみえ、生粋のバトルジャンキーなのがよく分かる。

「差は歴然だぞッ?」

此度の闘いで久しく忘れていた強者との戦闘を経験したセンゴクが少しの震えを含ませた声音でそう言う。ロジャーが居なくなったことで世は大海賊時代をむかえ、海には若手の海賊が増えた。強い海賊は率先して新世界へと船を出航しておりセンゴクは前半の海を守ってきた。そこに現れたロジャーという強者に戦闘の勘が鈍っているセンゴクでは太刀打ち出来ないのは当たり前としか言いようがない。

「ガッハッハッ!!なら鍛え直せばいいじゃろうがい。センゴク、少し休暇を貰うぞ」

了承を得たとばかりに要件をつげ、後ろからの声を無視してガープは元帥室を出る。

「なっ!今はそんな暇無いぞ!おい!待てガープ!!」

机に手をのせ、前屈みになりながら止めようとするがそこにガープは居ない。

「諦めなよ·····。あいつと同期なアンタも知ってるだろう。ロジャーが絡んだ時のアイツほど頼れる奴はいないよ。任せておきな」

元帥室のソファでお茶を飲んでいたつるがガープの行動に肯定を示す。この3人は、古くからの同期であり互い同士よく理解している。ガープの自分勝手には鼻面を引き回されるがその行動にはしっかりとした理由がついている。

「つる·····」

「それに、あんな戦闘見せられちゃあね·····」

つるが1週間前のロジャーとの戦いを思い浮かべる。その顔は少し青くはなっているが、歴戦の海軍参謀として毅然とした態度は崩していない。

 

 

 

拳骨銃(ゲンコツガン)!!

神避(かむさり)!!

ロジャーとガープの剣と腕が覇気を身体の外側に纏わせながらぶつかり合う。黒い雷電が辺りに迸り、大気が揺れる。空を覆っていた雲は真っ二つにわれ、海の波が高さ10mまでの大波となり荒れる。この時間わずか5秒。たった数秒の激突は辺りの風景を変えロジャーが武装色とは他に覇王色を纏っている剣の影響で今立っている海兵のほとんどが気絶してしまう。尚、その島の住民は長年の勘で絶大な戦闘の気配を悟って遠くまで逃げている。流石と言ったところだろう。だが、海賊は1人残らず気絶しているが·····。

「これほどまでなのか!!」

「こんなの!!強すぎる!!」

これらの言は今尚たっている少将から中将までの海兵達だ。階級が大佐から下の海兵は、戦場に立つことすら叶わず撃沈しており集める事が可能な海兵を合わせても10人といったところでセンゴク達にとっては心もとない。ちなみにその中には最近中佐に昇格したスモーカーも紛れており鬼迫で何とか立ったものの、目の前で行われている戦闘を見て何も出来ずにいる自分の弱さに歯を食いしばっている。

 

「さぁて、剣を握るのは久々なんだ。お手柔らかに頼むよセンゴク。」

久しぶりの船長の強さを間近に感じたレイリーが嬉しそうな声音でセンゴクにおどけて言ってみせる。ただし、レイリーは一切の油断はしていなく覇気を全面に出している。

「バカをいえ。こちらは最初から本気でいくぞ!!」

ヒトヒトの実モデル大仏の実を食べたセンゴクがいきなり巨大な金色の大仏へとなり、その大きな右手をレイリーへと攻撃する。だが、その迫り来る拳を余裕をもって避け、その大きな右手へとのりセンゴクの首元へと走りだし、肩から背中にかけて剣で斬りつける。

「ガハァッ!」

覇気のひとつ上の段階である身体の外側を纏う覇気を体得しているレイリーが叩き出すその攻撃はとても強烈であり流石のセンゴクも一撃だけのはずが堪らず膝をついてしまう。それを程までにロジャー海賊団の副船長という肩書きは伊達ではない。たとえ、戦闘勘が鈍ろうと船長のために戦ってさえいれば何時もの何倍もの力をだせる。それは勿論レイリーだけでない。ギャバンでも同じだ。

 

「コング元帥よぉ、お前にはもう戦う力が残ってないぞ·····」

レイリーと同じ位のスピードで2つの斧でコング元帥を攻撃する。

「だまれ!俺は海兵だ!お前らを牢にぶち込む役目がある!」

ロジャー海賊団は、一人一人が一端の船長をやれるくらいのクルーしか居ない。その中でNo.3を張っていた男の力が年老いた所で弱るわけなくコングを終始圧倒していた。また、鍛え抜かれた見聞色の覇気で未来視さえ可能にしロジャー、レイリーと同じく持っている覇王色の覇気を纏いながら戦う。それは、全盛期を彷彿とさせる鬼迫であり周りいる歴戦の海兵たちが一歩も出せない状況を作り出してみせた。

「ここまで、俺たちゃあ弱ぇのか!!」

その時、勇気を出して飛び込んた海兵がいた。その海兵は、ロジャー、レイリー、ギャバンの近くに行くにつれ体は震え上がりそこに行く前に気絶してしまった。明らかな無謀。だがそれはバカには出来ない·····。なぜならそれほどまでにこの戦闘は苛烈を極めていてステージの次元が全く違うのだから。たとえ海兵としての任務があろうと手を出すべきてはないと心が身体がそう言うのだから··········。

 

ロジャー対ガープでは、お互い拮抗していた。そう語るのは傍から見ていた中将の男だ。この男はガープを海兵の中で1番尊敬していて、その強さと自由に惚れている。それがあの強者と渡り合っているのだから嬉しく思えた。だがその気持ちは一瞬で消える。

神威(カムイ)!!

ある1点を集中的に狙うための剣技。その強さはとてつもなく増大であり唯一受け止められるとしたら白ひげかカイドウくらいのものだろう。それを何とか拳で受け止めようとガープが自分の渾身の一撃をそれに合わせる。

拳骨爆正(ゲンコツゴセイ)!!

ロジャーの剣とガープの拳がまたしても大きな衝撃を伴って大気を震えさした。地面の砂埃が舞い、影が浮び上がる。

「やった!ガープ中将が!!」

浮かび上がってきたシルエットはひとつであり、海兵達はそれをガープと疑わない。なぜなら何時も助けてもらい戦って守ってくれた最高の人だから。砂埃が収まりだんだんと影が鮮明になっていく。

「ワッハッハッハ!!今日の所は終いだ。また出直してこい」

そこに立っていたのは傷ひとつ無いロジャーだった。大声で笑い海兵達の遥後ろを指しながらそう言う。ロジャーは、持っていた剣を鞘えとおさめ、レイリーとギャバンの方へ歩きだす。

「なっ!ガープ中将は!?」

海兵達は信じたくないあまり咄嗟に声が出てしまう。自分達の遥後ろ、船へと激突し気絶しているであろうガープがあの衝突で後ろへと吹き飛んだ事を目の端で、とらえられた事ができたのは数人程度。何も知らない海兵達が喚くが戦況を悟った中将の海兵がすぐに鎮まらせる。今の戦力じゃあ、どうあがいても勝てやしないという事実をこの戦闘で目の当たりにしたのだから。

 

「レイリー、ギャバン!!用は済んだ、いくぞ」

ガープとの戦いに区切りをつけたロジャーが余裕綽々とした雰囲気で戦闘態勢であるレイリー、ギャバンに声をかける。これに気づいた2人がフッと笑いながら肯定し、それを傍で聞いていたセンゴクとコングが下唇を噛み締めた。

「そういう訳だ。また会おうセンゴク」

剣をおさめ、膝をついているセンゴクに別れを告げる。その圧倒的な雰囲気とは裏腹に楽しそうな面持ちを浮かべるレイリーに思わず殴りたくなってしまう。

「クソっ!」

だが、ここで更に戦いを長引かせては今助かる海兵を見捨てる事になり、幸いにも向こうは攻撃してこない。ここは苦渋を飲んででも我慢するべきだろう。それが最善の選択。たとえそれが海賊を野放しにしようと·····。

「了解ッ!はぁはぁ。コング、次はもっと滾るのをやろうな!」

「はぁはぁ·····」

終始圧倒していたギャバンだったが途中から踏ん張りをみせたコング元帥に互角までの所まで削られている。伊達に元帥に名を連ねていなくそれ相応の実力があるのだから当然だろう。だがそれでさえもギャバンに少しの余裕があったのはロジャー海賊団のクルー1人残らず戦闘能力が他のに比べてずば抜けておかしいからであろう。

 

 

「よし、船はろくなものが無かったからこの小船でいくぞ!」

海軍との戦闘が終わり3人は、港へときていた。最初に来た時はもう少し景観が綺麗だったのだが今じゃ、ボロボロであちこち崩壊している。どれかの船をかっぱらって使おうと画作していたロジャーは周りを見てもどれもが大破しており、使えそうにない。唯一使えるとしたら端にある小さな小船くらいだろう。

「小船か·····。懐かしいな」

その小船を見たレイリーが最初の頃を思い出し物思いに耽る。いきなり運命とか訳分からないこと言われ、海賊としての生活に変わり自分の首に懸賞金がつけられる。本来なら海賊としての道に連れ込んだロジャーに怒る所だろうがいつからかそれは楽しみへと変わっていき見ず知らずの他人が信頼出来る仲間へと変わって、波乱万丈な航海へと旅立つことになった。そのどれを思い出しても楽しい思い出ばかりでレイリーの口元は微笑んでいた。

「そういや、最初はこんなのだったな·····。懐かしいぜ。ワッハッハッハ!」

また、この小さな船からのスタートをきる事に運命を感じたロジャーは大きな声で笑い出す。新たな航海をする第2のスタート。まだ見ぬ冒険にロジャーは楽しさが止まらない。それは、ロジャーだけでは無い。レイリーやギャバンもそう。全員が新たなスタートにウキウキ、ワクワクしている。年甲斐もなく全員の顔はまるで若い頃の3人(正確には2人)のようで元気よく小船へと乗っかった。

「よし、お前ら!出航するぞぉ!!」

「「おう!」」

 

 

 

「はぁ·····。」

元帥室でセンゴクが心のこもった溜息をはく。

「センゴク、溜息ばっか吐いてないでさっさと仕事をし!」

そう注意するのはつるだ。毎度毎度、元帥室まで来てみれば必ずと言っていいほどセンゴクが溜息をはく。それがイラついてしょうがないつるは毎度の如くしかる。情けない同期に喝を入れるためである。

「分かっておる」

「幸いにもロジャー達が表立っておらんせいで世間はまだ平気よ。それに上の奴らも揉み消してるんだろう?」

上とは言わずもがな五老星の事だ。ロジャーが若返って生き返った事は直ぐに上へと知らせた。最初は信じ難い事実に混乱を極めていた五老星だったがすぐに状況を収めるようにと指令を逐次だしていた。その慌てっぷりを見ればロジャーの恐ろしさがよく分かるだろう。

「あぁ……」

海軍では今、ロジャーが若返って生きている事を世間に公表していない。それもそうだろう。もし、海賊王が現れたらこの世は混乱の渦へと巻き込まれる。それを防ぐためにあの島での戦闘の事は箝口令をひき、手配されていた手配書は写真から手書きへと変わり、unknownという名前だったのが「R」という名前で手配されている。本当に捕まえる気があるのか海軍!と言いたいところだがコレでしか彼奴を秘匿する方法が思い付かず兎に角、騒がないようにしろという指令の元、行われている。

「なんか、嫌な予感がする……」

仕事を淡々とこなしたセンゴクは降って湧いた寒気にそうこぼす。それを間近で聞いていたつるが確認のため問い直す。

「嫌な予感?」

「ああ。とんでもない。嫌な予感だ。」

バァァン!

「ほらな」

その言葉通りにドアが思いっきり開いて中将の1人が中へと入ってくる。その顔は青くなっているのは言わずもがな·····。

「センゴク元帥!!大変です!ロジャーがマリージョアへ進撃していると!」

鼻息荒く全身に汗をふきだしながら突如知らされてきた報をセンゴクへと伝える。

「そう慌てるな。ほれ、茶でも飲んで·····」

「おい、センゴク。なにを現実逃避している。現実を見んかい!」

つるが現実を直視したくないセンゴクへとツッコミをいれる。ただ、そのツッコミをいれるつるが1番現実逃避したい気持ちでいるのだが、それはここだけの話。




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筆者は振り仮名を身につけた


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マリージョア編
第5話


燦々と照り輝く日差しで目が痛くなる程鮮やかな空と海。何処までも青く潮が大河のように風をつたってのんびりと鼻翼をくすぐる昼下がり。

「今日は、良い天気だなァ〜。」

デッキチェアで体をのばしながら、ロジャーが暢気に呟く。寝ているデッキチェアの近くには、フルーツジュースが置いてあるローテーブルがあり、如何にのんびりしているかが分かる。

「そうだなァ〜。こういう時はのんびりするのが1番だ。」

何気ない呟きをはいたロジャーに応えたのは、同じく隣で横になっているギャバンだ。いつも掛けているサングラスを外しロジャーと同様日光浴を楽しんでいる。

「お前ら、少しのんびりしすぎやしないか?」

こう言うのは、自分の得物の剣をデッキで座りながら手入れしているレイリーだ。ロジャー海賊団は、他の海賊団よりも自由でのびのびしている。これはロジャーが船長という事に起因していて、戦闘の時は鬼のように鬼迫迫るロジャーだが、基本はどんな事も楽しむ陽気な性格でよく笑う。そんな陽気なロジャーにつられて他の船員もよく笑いロジャー海賊団は、毎日楽しい雰囲気となっている。別段レイリーは、その事に不満はない。むしろ良いとさえ思っていたりする。

ただ、あまりにも弛緩した雰囲気になりすぎると偉大なる航路(グランドライン)といういつ危険が忍び寄ってくるか分からない状況では、たとえ海賊王の船だろうと命取りとなる。なので、そういった役目を仕事をしない船長の代わりに任されているのがレイリーであり副船長としてその任を全うしている。

「とか言いつつ、ちゃっかりお前も横にドリンク置いてあるじゃねェか。」

「水分補給は、必要さ。」

「何言ってんだか·····。」

たとえ、いくらか歳をとろうが最後の航海以来となるロジャーとの2度目の航海が楽しみじゃない訳が無い。口では注意を促すような事を言っているが、ギャバンと同じでこんな軽口を船上で久々にたたけあえる事が楽しくてしょうがなく、話す2人の雰囲気は長年旅をしてきた仲間の信頼さを感じさせる。尚、その間ロジャーは1人でグゥグゥと寝息をたてながら気持ち良さそうに眠っていて、2人と同じ位、いやそれ以上に信頼しているかが寝顔を見ればありありと分かる。

 

3人は、海軍との抗争を終えたあと幾つかの島を巡って旅した。そこでは、食料や飲水、航海に必要な物品を拵えた。その際には、一切面倒事は起こしていない。たとえ問題を起こして海軍が来ようと勝てる自信はロジャー達には大いにある。だが、態々海軍が来るような事を毎度毎度起こしていては島人に迷惑をかけるのは勿論のこと出航が遅れてしまう。第一、ロジャーは生粋のバトルジャンキーだがそこまで戦闘に固執していない。やられたらやり返すが向こうが何も干渉しないのならば基本的には無視というのが以前からのロジャー達のやり方だ。もし、面倒事をロジャーが起こすというのならば、それ相応の理由があってヤルので仲間達ら何も疑わず一緒に戦う。なぜなら、そういう時はきまって、自分の事じゃなく誰かの為にやっていると理解しているから。

 

剣の手入れを終えたレイリーが次の島を指しているログから航路を確認するために船のデッキへと登る。この海ではずっとログを確認しておかないと直ぐに迷ってしまい次の島へと辿り着けないからだ。

「おい、あれ溺れてないか?」

ログが指している方向へ目を向けたレイリーは、船の前方で溺れている人影を見つける。バタバタと手を動かして此方に知らせているのを遠目からでも理解したレイリーは真っ直ぐにその方向へと船を進める。

「おーい、大丈夫か〜?」

ロジャーとは違って起きていたギャバンもレイリーの後ろに続き船に付属していた救命浮き輪を溺れている人に向かってなげ、それを掴んだのを確認したギャバンがそれを引き上げる。

「ゴホッゴホッ·····。」

「平気かい?」

「はい·····。助けてくれてありがとう。」

そこに居たのは小さな歳の頃が6歳くらい女の子だった。

「おう!別にいいぞ!とりあえずココアでも入れといたから飲んで暖まれ嬢ちゃん。」

そう応えたのは、何時の間にか起きて傍に寄ってきたロジャーだ。その手にはさっき入れたであろう湯気がたっているココアが握りしめられている。

「お前、いつのまに·····。」

「あっありがとうございます·····。」

「それで、嬢ちゃんはなんでこんな所で溺れてたんだ?」

ギャバンが少女に溺れていた原因を問いかける。海軍かもしくはCPの手先では無いかと疑っているからだ。面倒事を起こしていないとはいえ、海軍達がこんなにも音沙汰無しなのは変だと思ったからだ。

「それが·····、父ちゃんと漁をするために出かけたんだけどその帰りに外を泳いでるイルカに目を奪われちゃって·····。」

少女は、恥ずかしそうに頬っぺを赤くしながら溺れた原因を話す。

「それで落っこっちまったと·····。」

なんともごく普通の理由で落ちた事にギャバンは肩透かしをくらう。その後ろを見ればロジャーとレイリーの肩が震えている事がわかる。

「アハハ·····。」

父とはぐれた事かまたは、恥ずかしい事をしてしまって苦笑しながら少女は、俯いてしまう。

「ワッハッハッハ!安心しろ嬢ちゃん。俺もそういう時あるから!」

''いや、それはなおせよ!''というツッコミが両サイドからとんでくるがそれを華麗にスルーするして、少女の恥ずかしい体験談をロジャーがフォローした。本人にフォローするという気は合ったのかと問えば十中八九無いと言いきれるだろう。なぜなら昔からこういった人柄で自分の弱い部分を人にプライドなくさらけ出せるのがロジャーのいい所であり人に好かれる部分なのだから。

「大人なのに?」

「大人でもだ!ワッハッハッハ!」

豪快に笑ったロジャーに俯いていた顔を上げた少女がロジャーにつられて笑い始める。その表情には、さっきまでの恥ずかしさはどこえやら年相応に無邪気に笑っている。

「このバカはほっといて、島は何処だい?送ってあげるよ。」

「えっ!?いいの?!」

確認のために本能でロジャーがこの船の船長だと確信した少女がロジャーに詰め寄る。

「おう!いいぞ!」

それを笑顔で応えるロジャー。その隣では提案をしたレイリーとギャバンも笑って頷いてくれている。

「それで名前はなんてんだ?」

「私は、リルだよ!」

無邪気に笑って答えるその笑顔はロジャー達を一瞬にしてメロメロにした。昔旅した仲間の1人、おでんが子持ちでその子供と旅したことを思い出したからである。その時もロジャー達はむさ苦しい男だらけで見習いのシャンクスやバギーとは違う癒してくれる存在にメロメロになっていた。

「そうか!リルっつうのか!それでリルの所は、なんて島なんだ?」

「ハノン島って名前だよ!」

「それなら2つ次の島だな。」

顎髭を撫でながらレイリーがそう答える。それには、ログを確認して大して時間もかけずにたどり着けるだろうという意味もこめられている。

「それ、本当かレイリー。」

「あぁ。ただ、1つ島を経由するがな。」

「よし!じゃあリル。寄り道する事になるけど冒険に行くぞ!」

リルの脇から手を入れて自分の肩へと持っていき、次の島の方角へと笑顔で指を指す。

「冒険!!楽しそう!!!」

6歳の子供と言ったら男女違わず冒険には心をくすぐられる。絵本を読んだり、大人から聞いたりと未知な事を知る事が子供には楽しくてしょうがなく、リルも例外ではない。ロジャーと同じようにこれからする冒険にワクワクしてロジャーに負けず劣らずの笑顔で海へと指を指した。

「ワッハッハッハ!それじゃあ、リル。行くぞー!」

「おー!」

 

リルを含めたロジャー達4人は、とある島へと上陸した。その大きな島は人1人住んでいる様子がなく木々が生い茂っていた。

「わー、でっかい木だー!」

浜辺にて船の錨を降ろし、さっそく探索へと出かける。この島でのログが貯まるのはだいたい1、2日なのでそれまでの食料や住みばを確保する為だ。冒険を船中からずっと楽しみにしていたリルは誰よりも早く駆け出して島を探検した。

ザザザ

駆け出していたリルの横の葉っぱが揺れ動き、中から巨大な猛獣が出てくる。全長およそ8m。見た目はティラノサウルスのように体が筋肉と脂肪で覆われており6歳の子供では到底立ち向かえない猛獣だ。それと至近距離で目と目が逢う。

「··········ッ!!ギャァァァァ!!!」

悲鳴を聞きつけたロジャーがリルの所へ向かって走ってくる。

ドドン!

後ろを向き逃げようとしていたリルが振り向いた瞬間に背後から大きな破裂音が響き渡る。その音は、ロジャーが距離約50m、それをわずか1秒もかからない速さでやってきて猛獣の頭へと力いっぱい拳を叩きつけた音だ。

「ん?おー、これは随分でかい食料じゃねぇか!良くやったぞ、リル。」

自分の脚を抱きしめてくるリルの頭をよしよしと撫でる。ロジャーの体には外傷はなく汗ひとつかいていない。たとえ、どれだけ大きな猛獣かろうが自分よりは弱いと確信している自身への絶対的な自信、そして何より一時的とはいえ、仲間となったリルを怪我させたくない一心で猛獣を一撃で仕留めた。

「えっ?怪獣さん、やっつけたの?」

目を点にしながら目の前を横たわってる猛獣に目を向ける。その猛獣の顔には拳で作られた跡があり息をしていなかった。

「おう!もう平気だぞ!」

「すっげぇぇー!!」

自分が女の子と忘れる位の言葉遣いで目をキラキラと輝かせながら叫ぶ。それには、はじめて見る強さに驚きよりもカッコ良さが勝ったからだ。それもそうだろう。こんな大きな猛獣なんて普通に生活していたら見ることはない。ましてやそれを一撃で倒す程の人など信じられない思いだ。

「さぁ、ここはあぶねェから浜にきて飯くうか!レイリーとギャバンが準備してくれてるぞ。」

「うんっ!」

 

「うおっ!でっかいお肉!」

葉のお皿で差し出されたそのお肉は、先程の襲ってきた猛獣のお肉だ。お肉から香ばしい匂いが辺りを漂って胃袋を揺する。

「ほら、ガブッといけガブッと。」

肉をかぶりついた所からたくさんの肉汁が溢れ出てきてさらに食欲を加速させる。肉の隅々にまで染みたソースが柔らかいお肉と混ざりあいその美味しさが体中を駆け回る。

「うまい!」

「ワッハッハッハ!!そうだろうそうだろう!」

「そんなに急がないで、ゆっくり食べなさい。まだあるから。」

真ん中を火で囲む食事は、船上での食事よりも美味しく賑やかなものだった。酒で酔っ払ったロジャーが服を脱ぎ捨てて踊りだし、それにギャバンも続けて踊り出した。その時のリルは大笑いしていた。家族で囲む食事もいいがこうやって誰かとする食事もいいなと心に思って。

 

食後、リルとレイリーは食後の運動がてらに浜辺を散歩していた。

「冒険、楽しかったー!」

「そうか。」

今日、起こった出来事の一つ一つを楽しく語るリル。それを笑顔で相槌をうち、その様はさながら歳の離れた親子のようだった。

「今日ね、こんなデッカイ怪獣に襲われたんだけどね!」

身振り手振りで自分を襲ってきた猛獣を伝える。

「それをね!1発でやっつけちゃったの!」

「それはすごい。」

そう語るリルの顔はキラキラしていた。

「私も仲間が欲しい·····。」

夜空を覗き込みながから、リルはふと呟く。今まで体験してこなかった事を仲間と危険を乗り越えていく。中途半端ではないしっかりとした気持ちだった。

「何言ってるんだ。もう、リルは私達の仲間だろう?助けて欲しかったら何時でも言うといい。私たちは直ぐに駆けつけるよ。」

「う·····、うん!!」

目の端に仲間と言われた事に光の粒が煌めくがそれをレイリーは見て見ぬふりをした。

「フフ(やはり、仲間というのはいいものだな。)」

仲間がどれだけいいものかレイリーは知っている。そしてその大切さも。ほんの少しの冒険だったがいい思いをさせて良かったとしみじみと思った。

 

それからロジャー達はその島を出航した。ログがたまりリルの島への航路がわかったからだ。この1週間の間でロジャー達とリルの間には強い絆が生まれた。途中、大きな嵐に見舞われたがロジャー達のためになにかしようと帆をはろうとしたり。ご飯を作ってあげたり。また、再び海に落ちてしまったり。1週間とは思えない波乱万丈な航海で絆を育んだ4人は色々な事を経てリルの島へとたどり着いた。

「ここが·····。」

「綺麗な街でしょ?」

街に背を向けながらそう言う。青を基調とした家々で道路がレンガ造りのいわゆる、西洋のような街並みだ。道歩く人達が常に笑顔で生活している。まるで取り繕っているかの様にさえ感じさせる雰囲気だ。

「こっちが私の家よ!」

リルを先頭に4人はリルの家へと歩き出す。ギャバンとリルが2人で話している後ろでロジャーとレイリーがヒソヒソとリルに聞かれないように話していた。

「ここって、アイツらが来る所だよな。」

「あぁ。大方、親が''天竜人''を見させないようにしているのだろう。今向かっている家の方向だって街からそうとう離れた位置にありそうだ。」

顔が険しくなる。以前からロジャーは、天竜人が大っ嫌いだった。その事でガープと意気投合下まででもある。人を傷付けることを厭わない、そんな巫山戯た連中。しかし、ロジャーは1度も彼等とやりあったことは無い。なぜならケンカを売る程の奴らでもないし、する価値すらないからだ。

「ここだよ〜!」

「お·····、ここか!」

ロジャー達が辿り着いた家は丘の上にある一軒家だった。程よい風が吹き身を暖めてくれる。長閑な雰囲気を感じさせる。




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第6話

「ただいまー!!」

そう声を大きく出しながら玄関のドアをいきよいよく開け放ち、中へと入っていく。ほんの数日の間だけだが、リルのようなまだ幼い女の子ではほんの少しでも家族と離れてしまうと恋しくなってしまう。それに、体験してきた冒険を早く会って語りたいという気持ちもあり、家のリビングへと駆け出していく。

「お父さん!」

あたりを見回してテーブルの上で突っ伏している父の方へと抱きつきにいく。

「リ、リルなのか!!良かった!ほんとうに良かった。」

焦点が定まらない目で、抱きついてきたリルを確認すると精一杯の力で抱きしめ返す。その目には滝のような涙を流していた。荒れた様相の部屋と所々に蜘蛛の巣が張ってある所を見るに、随分と憔悴していたのが分かる。

「アハハ、大袈裟だよ。」

「良かったな、リル!親父にあえてよ。」

目の前で再開を喜ぶ二人にロジャーも嬉しくなり、声を上げて喜んでいた。

「うん!」

リルの後ろで喜ぶ大男とその両隣りに立っている男達を涙で視界が狭まった目でとらえたリルの父親は、恐る恐るとたずねだす。

「えっと、どちら様でしょうか?」

「この人達は、私をここまで届けてくれた命の恩人だよ。」

「それは!本当に本当にありがとう。私に残されたたった1人の家族なんだ。感謝してもしきれない。」

涙目でそう語るリルの父親は本当に嬉しそうだった。娘を抱く手が震えているのも突然やって来た娘の実感を今になって深く噛み締めているのが分かる。しかし、そう語る父親の雰囲気は安堵とは他に奥底に絶望がまみれていた。見聞色の覇気を極限まで鍛えぬかれている3人だからこそ感じられたものであり、並の人ならば感じさせない面持ちだった。リル自身は勿論のこと、父親自身もその心の闇を抱えている事には気づけていない。

「そうか。」

そう語るロジャーの顔は笑顔だった。何に絶望しているのかロジャーには知らない。ただ、娘との再会を喜べるのなら今はその気持ちに気づけていなくとも、今の幸せを実感して欲しいと思うロジャーだった。

 

「そうだ、自己紹介が遅れたね。私はご覧の通り、リルの父親のロイスだ。改めて、リルをここまで無事に届けてきてくれて本当にありがとう。」

ロイスは娘の頭に手を置き、先程迄とは違ったいっそう明るい表情に彩られながら自己紹介をする。

「気にすんな!」

「船長命令でやった事さ。」

「何より、我々も好きでやった事だしな。」

上から順にロジャー、ギャバン、レイリーが朗らかに返答する。こういった事は海賊時代の頃にはよくあった事でロジャーの気まぐれや優しさに触れていた2人はこういった事が慣れっこだった。また、2人自身が優しい性格だという事もあり、当然のことのように行動していたのだから2人の言が身に染みて感じたロイスは感慨無量の思いであった。

「何から何までだ。どうだ、お腹空いていないかい?良かったら食べて行くと言い。それに今日の泊まり場所は決まっているかい?決まっていないのならついでに泊まっていくといい。」

「いや、それは悪い気が……」

「気にする事はないよ。その方がリルも嬉しいことだろう?」

「うん、食べてってよ!」

「冒険話とやらも聞きながらね。」

リルの言葉に付け加えるように父のロイスが晩御飯へと誘う。それは、恩人に何かを返したいと思う気持ちと同時にリルの顔に陰りが見えたからだ。何となくだがここに留まるのを良しとしない人達なのだろうと3人を見ながら父ロイスは思った。ならば、この優しい人達にもう少しだけ荷に預かりたいと思い、その気持ちと共にロジャーへと目線を送る。

「そうか?じゃあ、遠慮なく邪魔するぜ。」

それを感じ取れないロジャーではなく、隣で俯いて了承を得られるか不安気なリルに向かって素直に了承をした。

「なら、手伝える事があったら言ってくれ。これでもこいつらの飯を作ってきたのは俺だからな。」

「何、心配要らないさ。そのお気持ちだけでも貰っておくよ。」

「しかしなぁ〜」

断られて難色を示すギャバンにレイリーが最もと言える、最善案を提案する。

「見たところ食材があまり無いように見える。私とギャバンで食材を買いに行って来よう。」

「そうなのか?いや、そうみたいだな…。」

ロジャーが頭をコテンと傾けたが部屋の現状を今一度見渡して納得した。この有様なら、食材はおろかその器具まで準備されていない事を。

「誘っていおいて申し訳ないのだが、見ての通りこの有様だ。」

トホホと息を吐き残念な顔をさらす。リルが戻り冷静な頭になったからこそ、この部屋の現状に顔から火が出る思いとなった。

「そうか、ならレイリー、ギャバンと食材の買い出しをたのむ。その間に俺とリル、リルの親父さんで家の片付けをしとく。幸い、時間は日が真上に登ったところだ。夕食までには間に合うだろうよ。」

自分で誘っておきながら、手伝って貰う事に更に恥ずかしくなるロイスだった。しかし、こんな醜態を晒している私を何一つ悪い気を持たずに接してくれる人達に今まで悔いてきた心や恥ずかしい心が優しさという感情でいっぱいいっぱいとなる。

 

・・・この人達は人の弱い部分、脆い部分を肯定し一緒に歩み寄ってくれる人達なんだな。リルが凄く懐いているのがその証拠と言っていい。

 

「お願いしてもいいかい?」

「おう!」

終始笑顔でこちらに接してくれるロジャーやレイリー、ギャバンを見て少しでも役に立とうと強がりを見せてい心が自然に解けていくのが自分でも分かるとロイスは感じた。これは自分自身からの一方的な信頼かも知れないがこの心から信頼しようと思える気持ちは間違いないと断言出来る。なぜなら……

「いや、口にするまでもないか。」

「どうした?」

「いや、なんでもないさ。」

そう言って、5人は夕食の準備を元気よく始めたのだった。ロジャーの指示通りロジャー、リル、ロイスが家の掃除をする。レイリー、ギャバンが夕食の為の買出しを。

 

担当分けした、レイリーとギャバンは来た道を戻って市場へと来ていた。食材はなんでもいいと言っていたので、バランスよく肉、魚、野菜と買っていくつもりであった。

「魚に関しては任せてくれ。活きのいいやつ買ってきてやる。」

「なら、私がお肉と野菜を買ってこよう。今日は豪勢といきたいからね」

「あー、明日には帰っちまうしな。」

「リルにロジャーはああ言っていたが私達が居ては何か巻き込まれそうな気がしてね。」

「違ぇねぇな。」

晴天の青空の元、2人は呑気に会話をし食材を買うために整備が整っている綺麗な大通りを歩いていた。ただ、2人には気がかりとも思える事があった。行きと同じで人通りは多い、ただ明らかに海から此方に向かってくる人達の方の比率が多い事にだ。また、それに拍車をかけたのが向かって来る人達が次々に自らの家だと思える家へと入っていき少しづつだが人波が減ってきている事。それを不思議に思っていると突如街の中心から大きな鐘の音が響き渡る。身体の奥からズシンと響くような音で街全体か、或いは島全体に何かを知らせる程の音。それをもって街の人達の歩みは一段と速くなったと2人は感じた。

「一体何が……。」

「あれは……。」

まるで何かから逃げてくるように...

 

その頃、ロジャー達は家の掃除をしていた。所々に蜘蛛の巣がはってあるのを剥がし、何日か洗っていないお皿や洗濯物を洗う。その他にも汚くなっていた廊下、埃だらけの椅子、テーブルなど片っ端から綺麗にしていった。それはまるで海賊時代に鬼と呼ばれていたロジャーが今度は掃除の鬼と化していた程に。何故、これ程までにロジャーが頑張るのかと言うと、その根源はリルにあった。先程、ロジャーはリルの父ロイスに泊まっていくと伝えていた。それはリルを喜ばせている吉報のような感じがするが、あくまで別れを先延ばしにしているに過ぎない。明日には発つ予定のロジャーからしてみれば最後にリルに出来る事といえば掃除くらいなのだ。掃除の鬼と化すのは仕方の無い事かもしれない。

「よっこらせと。」

そんな風に、リルが洗い終わった服が多く積み重なって入っている洗濯籠を小さな手で庭にある物干し竿へと、不安定ながらも一生懸命に運ぶ姿を皿洗いしながら柔らかい眼差しで見つめる。

「最初に比べたら結構きれいになったじゃねぇか!」

ある程度掃除が進み、最初に来た時とは比べものにならない程に綺麗になった部屋を見てロジャーがそう口にする。蜘蛛の巣は既に取り払われ、元の綺麗な木面が映る廊下、埃がついてる椅子、テーブルも綺麗となり、庭に目を向ければ風にたなびく洗濯物。

「疲れただろう、お茶でもいれたから休むといい。リルもオレンジジュースだ。」

「おっ、サンキュー!」

「わーい!オレンジジュースだ!!」

掃除が一段落済み、3人は優雅な休憩を満喫していた。特にリルなんかは、氷しか残っていないコップを傍に置き外から差して来る陽に照らされながら昼寝を堪能していた。しかし、その穏やかな一時を過ごしている時間を壊すように突如、耳を劈くような鐘の音が轟く。今、ロジャー達が過ごしているこの家は街の中心から離れた位置におり、ふっくらとした大きな饅頭のような柔らかい形のした緑丘の中心に建っている。鐘の音がなったとしても到底、ここまでの大きさとはならないハズで、何かあったと考えるのが妥当だろうとリルの横で寝そべっていたロジャーは上半身を起こして、そう察しをつけた。

「それにしても長ぇし、デケェな。」

遠くで鳴り響く鐘の音を聞きながらそんな事を呟いていると、バンッ!という音と共に扉が開け放たれた。現れたのは、ハァハァと肩で息をしているロイスだった。

「おい、どうした突然に...」

ロジャーが続きの言葉を言う前にロイスは見た事もない剣幕でロジャーの傍へ直ぐに寄り、肩を強く掴んだ。

「ハァハァ、まずは落ち着いて聞いてくれ。ただ、ここにはリルも居る。少し場所を変えさせてくれ。」

長年、住んでいる土地か何なのか大きな鐘の音が鳴ろうとも一向に目を覚まさないリルを置き、2人はリルに話が聞こえないような場所へと移る。そもそも鐘の音が今も鳴り響いている状況で近くにいたとしても、聞こえはしないのではとロジャーは思ったが余程、リルには聞かしたくない話なのだと少し悲しそうな顔を浮かべた。

「で、なにかあったのか?」

「単刀直入に言おう、君の仲間が危ない!」

今も尚、顔を震わせながら答えるロイスの言には実感が凄くこもっていた。

「危ないだ?」

「あぁそうだ。今も続いてるこの鐘の音はアイツらが来たと言う合図なのだ。」

「アイツら?」

「アイツらはこの世の海、偉大なる航路(グランドライン)を前半と後半に分ける赤い土の大陸(レッドライン)の上に住み、800年前に世界政府をつくったと言われている20人の王の末裔。彼らの中を流れている血こそが彼らをこの世の王、いや、神たらしめている存在なのだ。この世の人々はその人達を世界貴族、天竜人という!」

「天竜人・・・。」

「君も聞いた事があるだろう。世界貴族とは名ばかりの巫山戯た連中だ。気分次第で人を銃で撃ち殺せる。それも簡単にだ!何もしていない、皆と同じように膝まづき粗相ひとつやらかしていない人をだ!俺はアイツらを許さない。だが、反抗したところで海軍が味方するのは天竜人の方だ。間違っているよ……、何もかも……。」

「知ってるよ。俺も同じくアイツらが嫌いでね。」

蘇るのは遠い日の思い出、まだ海賊をはじめてルーキーの頃に起こった出来事。街を歩き噂の天竜人を見かけた時だ。その時は、天竜人がなんなのかも知らず只只、自分の目の前の人達を奴隷扱いし、いとも容易く命を奪った畜生ども。その時のロジャーはまさに鬼のような形相をし、切りかかろうとしていた。ロジャーの隣に比較的冷静だった相棒のレイリーが止めなければ歯止めが聞かなかっただろう。今でもロジャーは思い出すだけで胸のムカムカが止まらなかった。

「んで、それと俺の仲間が危ないってどういう事よ?」

天竜人の話を聞いても一向に仲間が危ない事になる想像がつかないロジャー。

・・・もしかしたら、近くにいる海軍の事を言ってのんか?ってか、その前に俺らが海賊って事も言ってねぇし・・・。

「聞いていただろう!君の仲間2人は年の功がなかなかいっていると見受けられる。もし、銃で撃たれた日には私が殺したようなものだ!アイツらは本当に気まぐれで、今鳴っている鐘の音は天竜人が来たことを知らせる鐘。現に、鐘がなる日にちは、不定期なのだ。」

・・・天竜人の事だったのかよ。レイリーとギャバンがアイツらに殺されるなんて天地がひっくり返っても有り得ねぇな。

「仲間の事は別に心配する必要ねぇよ。それよりも、その鐘バレねぇのか?」

「いやダメだ、今すぐにでも連れ戻しに行かないといけない。君達は私達の恩人なのだ。君達に何かあれば私はもうリルに顔向け出来ないし、何より1度失えばその悲しさは胸が破裂する程のことだ!だから、私は迎えに行ってくる。君はここで、リルが街に行かないのを見張っててほしい。あと、アイツらは鐘の音を自分達が歓迎されてると思っている。そして、私達市民はそれを利用する事で多少だが、妻や子、おじいさん、おばあさんを少しでも助けられるとね。」

そういうと、ロイスはロジャーから背を向けて街の方へ走り出そうとする。だが、ロジャーは最後に一言だけロイスに言葉を送った。

「リルを見ることは構わねぇけどよ。俺の仲間よりもお前自身を大事にした方がいいぞ。お前がいなくなればリルは1人ぼっちになっちまうぞ。」

それはロジャーの心からの心配だった。これは何もリルの心配だけじゃない。ロイスに向かっての心配が6割だった。何か今のロイスには焦っているように見えたからだ。誰かと重ねているように・・・。

「ああ、ありがとう。」

首から上だけをロジャーに向けそう口にする。言い終わるとロイスは街へと全力疾走した。



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第7話

就職希望者さん、こんなカタツムリ投稿の小説に毎度毎度感想を頂きありがとう御座います。その他の読者もご覧頂きありがとう御座います。


綺麗に整備されたその街の道には、家に入っていった人達をのぞいて両端に並んでいた。これから真ん中を通る人達の邪魔とならないよう、そして万が一も殺される事がないように。その中には、レイリーとギャバンが買い合わせた食材を持ちながら立っていた。大方、やってくる人達の姿を2人は容易に想像できた。それを証明するかのように、遠くに居るはずなのに自分達を誇張するためか、或いは身分が上で何をしても良いという価値観を持ち合わせそれを当然だと言わんばかりに、大声で身分とは程遠い、下品な会話が聞こえてくる。

 

「相変わらず、ここは汚いところだえ。下民も街並みも全てが汚いえ。」

大柄な男の奴隷の上に乗り、物理的にも見下しながら歩いているのは頭にシャボン玉をつけたような被り物を被った男の天竜人だった。

「まぁ、そういうでないアマス。ここには、新たなペットを探しに来てるアマス。」

そして、同じく奴隷の上に乗っているのは男の天竜人の母にあたる女性の天竜人だ。

「そうだえ、お母様。でも、なんか並んでるの男ばっかで若い女がいないえ。」

男が周りを見渡して見えたものは、若者の男か老齢の男女しかおらず、女性がいたとしても天竜人がペットにしようとしている若い女性はいない。それを不思議に思ったのか直ぐ傍にいる母に尋ねる。

「本当アマスね。そこの!」

息子に言われ、周囲を見渡すと確かに若い女性が少ないと思った。そこで後ろに着いてきた海兵を顎をしゃくるようにして、周りを指し示した。

「ハッ!」

「この街の若い女を全てだすアマス!」

「え、全て?全てでございますか?」

「そうアマス、早く動くアマス!のろまでグズには要はないアマスよ!」

「分かりました!」

当てられた海兵は、否とは言えず顔中に汗を垂らしながら命令の通りに動き始めた。それが正義だと言わんばかりに他の海兵も天竜人へのある一定の警備の人数は除き街中に散開した。

 

「はぁ〜。めんどくせぇなぁ〜。」

それを少し遠目で見ながら、ケツを掻き、欠伸をしてそんな事を言うのは最近、大将へと昇格した悪魔の実自然系(ロギア)ヒエヒエの実の能力者、クザン。通称『青キジ』 その人だ。

「ちょっと!そんな事言わないで下さいよぉ!天竜人様が近くにいらっしゃるんですよ?!」

中将の頃からの慣れ親しんだ部下から叱責が飛んでくるがそれをハイハイと言うだけで右耳から左耳へと聞き流していた。この青キジという男は、基本的に面倒くさがり屋である。海兵としてのモットーがだらけきった正義と掲げてるだけに、それを体現するかのように言われた仕事の5割も仕事をしない。元々生まれついての面倒くさがり屋だがそれに拍車をかけたのが一時期ガープの部下だった事だろう。あのガープの部下になればその厳しさより強くなれる。しかし、この男は大将になれるだけの力量をもち合わせているのでその厳しさをものともしない。そのおかげでガープのお気に入りにもなった。そのせいか、ガープの横にはいつもクザンがいた。自由奔放で我儘なガープの横にいれば、元々の性格も相まってだんだんとダメ人間へと成長していく事は想像にかたくない。

「分かってるよ。だけどな、俺はただサカズキの野郎に擦り付けれなかった事を悔やんでんのよ。」

「何にも分かってないじゃないですか!」

また飛んでくる叱責をどこ吹く風か口笛を吹きながら天竜人の後へと歩いていった。

 

「おいおい、アイツ、大将ってよばれてなかったか?」

耳を澄まして聞いていたギャバンがあのアフロでやる気が無さそうな奴が大将だった事に驚きを隠せず横にいるレイリーに話しかけた。

「大将が変わったとは新聞で書かれてたとはいえ、此処に来ていたとはな。」

それを聞いたレイリーも驚きが隠せなかった。ただレイリーが驚いていたのは怠気のクザンにじゃなく、大将という高い地位を持った海軍の兵士が居ることにだった。

「それ程、あの天竜人が上の地位の奴等って事かよ。」

「一介の天竜人なら、中将か少将で十分だからな。若しくはただの我儘かどっちかだろう。」

嫌味たらしく言ったギャバンを肯定するかのようにレイリーは言う。レイリーはシャボンディ諸島に住んでいるため天竜人を嫌という程、目の当たりにしている。下に降りてくる天竜人の中には先程の様に大将を引き連れて降りてくる天竜人は居らず大抵、中将クラスの海兵か少将の海兵5人程で守られている。天竜人同士に地位があるのは当然の様に考えつく。海賊、海軍、革命軍、王国、商人といった組織には必ずと言っていいほど上下関係が存在するのだから上の地位であろうとそれに際限はない。しかし、日頃から見ている天竜人を考えればただの我儘とも思えてしまう。何故なら、''天竜人だから''と言う理由で済まされる程にそういう振る舞いを昔からして来たからだ。

「我儘って、彼奴らは我儘の権化じゃねぇか」

「それを言うならうちの船長もだがね。」

「ちげえねぇ。」

身近な人に重ねたのか、そう言って2人は海軍にバレないように笑いあった。ちなみに、レイリーはこう考えているが海軍大将が天竜人に着くようなキッカケになったのはロジャーのせいだ。突如復活したロジャーを危惧した海軍が今までは中将や少将で足りていた護衛を、ロジャーの存在を認知した五老星が万が一の為にと大将を護衛につけたのだ。ただ、護衛つけたとはいえ大将達にロジャーの相手が務まるとは、はなから思っていない。あくまで天竜人が逃げるまでの時間稼ぎとして置いたに過ぎないのだ。しかし、なぜ急に大将が護衛に着くのか天竜人達は知らずにいた。ロジャー復活を知っているのは五老星や海軍上層部のみで天竜人や他の市民、海賊には秘匿にされているからだ。そんな事は露知らず、護衛の厚みが増した事に天竜人達は喜んでいた。

 

 

━━五老星達の会話

「まぁ、大将を護衛につけたと言ってもそうそうロジャーの奴に遭遇はせんやろう。」

「島の数は数えきれない程存在するからな。」

「其れこそ、遭遇する確率なんぞ何百万分の1といった確率だろうしな。」

「大将がいるのだ、遭遇したとしても此方から彼奴の怒りの琴線に触れなければ問題はなかろうて。」

「とにかく、今は気楽にすれば良い。」

「「「「そうじゃな。」」」」

 

 

「お待たせ致しました、天竜人様!此方に並んでいる若い娘たちがこの島にいる全ての若い女性にございます。」

若い海兵が言った通り、天竜人の前に並んでいた女性達は18から35歳までで若い女性特有の可愛さや歳が少し上の女性達は、大人の色気が溢れ出していた。間違いなくそこには、見る人が2度見する程の美女達が数多く並んでいた。

「時間をかけすぎアマスよ!」

30分の時間をかけて集められた女性達。この島はそこまで大きく無いとはいえ、30分という時間は充分な程に迅速だった。

「も、申し訳ございません!」

ただ、謝る事しか出来なくなりそこに居た海兵達は跪き、怒りが収まるのを待つしかなかった。しかし、そこで1人の海兵が息子と言われた天竜人が何も言わない事に首を傾げた。恐る恐ると顔をあげ窺ってみると当の本人は俯いて体をプルプルと揺らしていた。海兵は、歓喜によるものか、はたまた何か機嫌を損ねたのかと顔を青くした。その答えをこれから答えるように俯いていた顔をバッといきよいよくあげ、怒声を響き渡せた。

「な、な、なんだえこれは!!」

「ひ、ヒィッ!」

「わちしが命令したのは、若い女と言ったえ!」

「え、、」

そこに並んでる若い女性がたくさん居るだろ?と多くの海兵は頭の中でそう思った。それは、海兵に限らず集めさせられ心ここに在らずといった女性達や諦観している女性、顔を青くする女性などそこに集められた女性、全員が思った。集められた美人達は、街の評判が良い人達ばかりなので皆が?を頭の上に浮かべている。例にもれず最初から居た若い男性や年老いた男性にレイリー、ギャバンでさえ含まれている。

「なんだえこれは!わちしは、、」

天竜人が並んでいる女性達を指さしながら続けるその言葉にそれ以外の人々は静かに待ち、誰かがゴクンッと喉を鳴らし音がやけに大きく響き渡った。そして語られる言葉.....

 

「10歳を越えた女は全員、年増だえ!!!」

 

「「「「…………」」」」

海兵全てを怒鳴り散らすようにその言葉を言い放った。固唾を呑んで見守っていた周りはそれになんの反応も示さず静まり返っていた。その静まり返った空気を一言で表すなら、唖然と表すだろう。しかし、そのなかで母親だけは息子の性癖を知っているのか堂々としていた。いや違う、放心して虚無的な目をしていた。

「え、あの、え?もう一度申しても貰ってもよろしいでしょうか?」

聞き間違えたのでは無いかと、無礼を承知で聞いた海兵がいた。そして、それはその場にいる人々の総意でもある。

「2度はないえ!とっととそこに並んでいるババア共をわちしの視界からどけるえ!」

「………」

「そして、早くわちしの要望にそった幼児を連れてくるえ!それに、わちしは幼い子供であればそれでいいのだえ!そこに男も女も関係ないえ!」

「は、ハイッ!(聞き間違え、じゃ、ない、のかッ!?)」

もう何も言うまいと海兵は、次の行動に移った。そして、その行動をしている海兵達を含め、街の人々、レイリー、ギャバンが頬っぺを限界まで膨らませて笑いを耐えていた。その体は小刻みに震え何とか耐えようとしていた。ある人は皮膚をつねり、またある人は奥歯を噛み締め、無礼と分かりながらも後ろを向き笑うのを我慢した。

「おいおい、マジか!」

そして、大将青キジも笑うのを堪えていた。人の性癖は人それぞれなので兎や角言うわけもない。ただ、その息子と言われる天竜人は極悪面で厳つい顔をしていた。髭を不精にはやし、目つきが鋭い。とても子供に好かれるような顔では無い。挙句の果て、顔全体を覆うシャボン玉のようなもので守っているため情報が一向にかんけつしない。最初会った時でさえ、青キジは笑いを堪えていたのに、新たにロリコンという情報まで増えたのだ。これは、笑う。本当に笑う。ただ、青キジや海兵達が笑いを堪えることができたのは、偏にその人が天竜人だった事だろう。そう義務づけることで耐える事に成功したのだ。だが、それは直ぐに瓦解する事になる。

 

「ブフッ!ワハハハハハハハハハハ!!!」

 

大声で、それも地面に体を寝かせ平仮名のくの字のように曲げて大笑いする男がいた。何を隠そうロジャーだ。やはり心配になったのかリルの父親の後を寝ているリルを起こし一緒に追いかけたのだ。そして、父親に追いつき3人揃って先程の会話をレイリーとギャバンが並んでる列の逆側で聞いていたのだ。それをしぎりに所々で噴き出す音が聞こえた。だが相手は天竜人、これはマズいと民衆は噴き出すだけで次々に足を天竜人から遠ざけていた。自分が断罪されるのでは無いかと恐れているからだ。

「何がおかしいえ!」

しかし、それに構う事無く当人の天竜人はロジャーだけを睨めつける。

「その顔で幼児が好きとはな!ワハハハハ!!」

睨めつけられたロジャーはどこ吹く風かと立ち上がり、思った事を素直に口にだした。

「だまるえ!んっ?おい、足元に隠れている可愛い幼女は誰だえ?」

やはり、侮辱されたのかと憤った天竜人がロジャーを怒鳴った。しかし、ロジャーの足元で震えている可愛い幼女を見つけ直ぐに興味はそちらに向いた。

「ん?リルの事か?」

足元で震えているリルの頭に手をおきロジャーは確認した。

「ほぉ〜、リルというのかえ。そいつを直ぐに此方に渡せば今の無礼を許してやる事も構わんえ?どうするえ?」

「渡すって、どうするつもりだ?」

上から目線の言葉に少し語尾を強めに言い放ち、威嚇の体勢をロジャーはとった。仁王立ちして、隙がどこにも無い。

「なに、簡単な事え。死ぬ程愛でてやるつもりえ。」

そう言う天竜人の目は、一般的にいる天竜人の様ないやらしい目を向けて居らず、その目は孫の目を見るような優しい目つきだった。

「いや、そん……」

「(あれ?コイツそんな悪い奴じゃ無いんじゃ…)」

言っている言葉だけを聞けば幼児を手に掛ける危険人物だがその言葉とは裏腹に、リルを見る目や震えているリルを落ち着かせようと体をアワアワさせているのを見てロジャーは気づいた。

「(コイツ、天竜人の癖に普通に良い奴じゃね?特別変なことしようって気が全くしねぇし。悪いことしたなぁ…。)」

そう思ったロジャーは先程笑った事とリルを奪い取ってどうする気かと疑いの目を向けた事に謝罪しようとした。人は見かけによらず、身分によらず。そう思ったロジャーは、威圧した雰囲気を収め真剣な表情になった。ロジャーが謝りの言葉を紡ごうとした瞬間、別の所から発せられる声で遮られた。

「おいおい、何でこんな所にお前さんが居るんだよ…。」

そう言い放った青キジは、先程の笑いを堪えた顔ではなくロジャーを牽制する様な顔つきをしていた。その顔は少し青い。

「ん?誰だか知らねぇが、俺ァそこの天竜人様に用があるんだ。(謝るっていう用がな)」

「それは聞けない相談だ。おい、テメェら!さっさと此処から離れて天竜人様を連れて逃げろ!早くだ!」

血気迫る青キジの仕草に他の海兵はたじろいだ。命令される言葉を理解するのに一時の時間が必要な位に。

「え、?」

「早くしろッ!!」

其れを相手が見逃す訳がないと青キジは知っている。だから青キジと中将5人中2人を中に、中将3人と他の海兵、天竜人の間に大きく分厚い氷の壁を作った。

「天竜人様!此方に!」

ロジャーを見た事がある中将が青キジの言った命令に素早く反応した。大将の青キジでさえ勝てる見込みが無い事を誰よりも知っているからだ。犠牲な少ない方がいい。

「わちしは、リルに用が……。」

「急ぎましょう。ここは危ないです!」

殿を務めた青キジに涙しながら天竜人の2人を船まで走らせた。幸い海岸までは遠くもなく邪魔も入らなかったため天竜人と海兵達は恙無く出航できた。

 

「なぁおい!ちょっと待てって!」

「おいおい、ここから先には行かせねぇ。」

氷の壁を背に青キジがロジャーの正面を陣取った。

「だからよぉ!」

何かロジャーが言う前に新たな声が両隣から聞こえてきた。

「なんだロジャー、喧嘩か?」

「斧持ってきてねぇから拳で勘弁だぜ。」

「これは………。ホントに不味くなったなぁ。厄日だこりゃ。」

顔に汗をたらしまくる青キジ。

「いや、だからよぉぉ!」

まだ何かを言うロジャーをおき、戦いの火蓋は切って落とされる。




天竜人は嫌いな筈なのに愛着が湧いてしまった……。


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第8話

最近、某奇妙な冒険にハマり若干、文章がジョ〇ョチックになっているかもしれません。ご了承ください。


「(こっちの人数は3人、でもってアッチも3人か。)」

青キジは、これから始まる戦いに冷や汗が止まらなかった。海軍側には、大将の青キジ、中将2人がいて、一見人数だけで見れば相対する数が同じで互角のように映るだろう。しかしこの内、戦闘経験豊富な中将は1人しか居らずもう1人は少将から上がってきたばかりの青二才である。とても望めるような戦力では無い。これが、一般的な億超賞金首の相手だったならば、問題は無かった。むしろ過剰戦力ともいえる程だ。しかし、ひとたび相手がロジャー達相手ならば心許ない。いや、心許なさすぎると青キジは思っている。センゴク元帥から聞いた話によるとあの海軍の英雄と言われているガープがロジャー相手に簡単にあしらわれたと聞いていた。自分が尊敬してる上司であり、自分が大将になったからと言ってガープに勝てるかと言われればハッキリとNoと答える。それ程までに強い上司のガープでさえロジャーには簡単にあしらわれているのだ。

「なぁ」

海軍側に緊迫した空気が流れるなか、駆け出そうとしていたレイリーとギャバンを宥めたロジャーが場を落ち着かせるように青キジへと話かけた。

「なんだ?(ここから海岸までは5分もかからない。走っていくなら更に時間は短縮され、その時間は約3分といったところか。)」

下手に戦うよりもロジャーとの会話に耳を傾けて、天竜人が逃げ切れるよう時間稼ぎをした方が得だと青キジは瞬時に思った。話すように青キジは見せて、ロジャーの一挙手一投足を見逃さぬようにと何時でも反応出来るよう全神経を研ぎ澄ませた。

「俺ァよ、只あの天竜人に挨拶(謝意)の一言を言ってやりてぇだけなんだ。」

これはロジャーからの本心だった。ただ、ごめんの一言を言いたい。それだけの事だ。

「へぇ、挨拶ねぇ。なら後で俺が言っといてやるから、ここは手を引いてもらえねぇか?」

一縷の望みをかけて、青キジとしては手を引いてくれる様にロジャーへと頼んだ。もしそれで手を引いてくれるならば余計な心配はせずに済む。だが、ロジャーが言い放った挨拶という言葉に青キジの眉毛はピクリと上がった。ロジャー達の後ろで少女の父親と思われる男に抱かれている少女。ロジャーとどんな関係かは知らないが、部下の伝手から聞いた話によるとあの天竜人がその少女に話しかけたと聞いた。それがロジャーのどんな琴線かは知らないが十中八九怒りの琴線に触れたのだと青キジは瞬時に悟った。だって天竜人なのだ。失礼な事をする事に関しては他の追随を許さない。だから、ロジャーの言ったようにそれが天竜人に対する''挨拶''なんだろう。

「嫌だ!俺が自分の口から言いてぇんだ。それが過ちを犯した奴(ロジャーの非礼)が相手に行う礼儀(バカにした天竜人に対する礼儀)ってもんだろう。」

「礼儀ねぇ。じゃあやっぱり此処を通す事は絶対にさせん!おめぇら!海軍としての意地を見せつけるぞ!」

やはりかと、交渉が決裂した事に落胆は禁じ得ない。しかし、元からさして期待出来るような事じゃないので直ぐに気持ちを切り替えた。僅かに震えている部下に、自身も鼓舞するかのように言い聞かせ命令を下した。

「「ハイッ!」」

 

「はぁ~。」

拳を構えて臨戦態勢になる海軍を前にロジャーはため息をこぼした。そんなロジャーに、ギャバンが打開策ともいえなくもない案を話しかけた。

「とりあえず、街への被害は最小限にしてやるぞ。」

「それしかねぇか。リルの街だ、ギャバンの言った通りあまり暴れないようにしとけよ。」

ギャバンは戦う事で起こり得る被害を最小限にするような努力をロジャー海賊団の頃から行っていた。若い頃と年老いた今でもそれは同じで、根が優しく周りを良く配慮する。ロジャーの場合もギャバンとよく似ている。親しい人の住んでいる島であれば多少は配慮する。しかし、レイリーは違う。それが仲の良い相手だろうが無かろうが配慮して戦う事は一切ない。昔からそうだった。レイリーの若い頃?と聞かれたら女と戦闘大好きなヤンチャだったとロジャー海賊団の誰もがそう答えるだろう。ただ、傍から見ればロジャーという変人が居たせいでロジャー海賊団以外からはロジャーの奇行を注意する''常識人''としてレイリーは見える。それは海軍も例に漏れずレイリーの事をロジャー海賊団の中ではまだマシと認知されているほどだ。しかし、レイリーと対峙した事がある者がそれを聞けば、そんな訳ないだろうと鼻で笑っている。対峙した際のレイリーはロジャーに負けず劣らずの鬼だ。なまじ全部の覇気を使えるだけに洗練された全ての覇気を戦う時には常時発動し纏っている。それに加えロジャーに負けず劣らずの戦闘狂。はっきりいって手が付けられない。年老いた事で多少丸くなったように思えるがロジャーと再度出会ったからだろうか、昔に戻りつつあるのだ。あのバレットとも張り合える頃の戦闘狂に。

「といっても、もう既に青キジ君が私達の周りに氷の壁を作った後だがな。」

そうやって、息を吐き、小馬鹿にしたように呟くレイリーにロジャーとギャバンは目を合わせて、小さな溜息をはいた。

「俺が真ん中やるから、あと頼むぞ。」

ロジャーが両隣の2人へと指示をだし、手を氷で纏っている青キジの方へと静かに歩き出す。

「「了解!船長(キャプテン)!」」

 

青キジとロジャーは、氷の壁で覆われた地面のど真ん中に向かい合っていた。片や厳しい表情で、もう片方が涼し気な表情で立っていた。まだ、戦いは始まっておらず互いに攻撃もしていない。しかし、何故厳しい表情をした青キジがいるのかと問われればそれは、偏にロジャーからとめどなく溢れでる圧に押されているからだ。そんな緊迫した空気の中で先に動いたのは、気力を振り絞った青キジだった。

 

「''暴雉嘴(フェザントベック)''!!」

 

青キジの全身から作り出されるそのアイス塊は、巨大なキジの形に変わっていきロジャーへと向かっていく。その温度、約マイナス150度。興味本位で指一つだけでも触ってしまえば凍傷になり、その指が操作不能へと変わっていく。指の表面をはじめ、肉、血へと氷が浸透していき骨すらも凍らせていく。その威力は途轍もなく、青キジが今まで出してきた技よりも力強いものだった。ロジャーを相手にしているからか何時も以上に力を振り絞り技が1段階強化されていたのだ。

「おもしれぇ技だ。だが、」

そう口にしながら鞘から愛剣の''エース''をぬく。足を1歩踏み出し、刀身に覇王と武装色の覇気を纏わせ目前に迫ってくる只、デカい氷塊へと縦に剣を振るい黒い斬撃を放つ。

 

「''神飊(カミカゼ)''」

 

静かな声で呟かれ、繰り出される黒い斬撃。迫り来る、キジの形をした氷塊をプリンをスプーンでとったかのように軽く、嘴の真ん中からキジの胴体、尻尾にかけて真っ二つに斬り裂いた。しかし、それだけでは押し留まらず奥で技を放った青キジの方へと威力の留まることの無い斬撃が、向かっていった。

「ちと、力不足だな。」

「マジかよッ!」

青キジは逃げきれないとすぐさま判断し、態と体を真っ二つに分けてみせた。ロギア系能力者だから出来た事であり、既の所で回避して見せた。

「はぁはぁ……。」

再び体をくっつかせ、額に大量の汗が流れる。青キジ愛用のアイマスクは自身の前の地面に落ちていて、真っ二つに切られている。それを目で見た青キジは驚いていた。アイマスクが切られたことにでは無い。斬撃が通ったあとの地面を見て驚いていたのだ。鉛筆で地面を書いたかのように、幅1cm代の線が浮き出ているのだ。それはロジャーが放った斬撃の後である。何故、そこに青キジが驚いたのか。とても簡単な事である。その線を除いた他の地面が今まで通り綺麗なままだったのだ。

「これは、ないでしょう……。」

ただ1つの斬撃だけであったならば、その威力ゆえ周りにも強い影響を与える。あの世界最強の大剣豪とも噂される鷹の目の斬撃でさえ、その強い斬撃に当たる部分は勿論のこと、近くにいる物も少なからずダメージが蓄積される。この場合、もし鷹の目が斬撃を放っていたのならば他の地面に少なからずヒビや切れ目があっても可笑しくないのだ。しかし、ロジャーの繰り出した斬撃は違っていた。斬撃の周りの地面には台風の目の中に居ると錯覚されるような、静かで風1つ届かないくらいに綺麗だった。これこそが斬撃の極地と言わんばかりに静かな斬撃だった。

「避けたか。まっ、当たってたとしても手加減してたからそれ程ダメージは蓄積されねぇよ。」

ロジャーは、剣を肩に担ぎながらそう、おどけて言ってみせた。

「なんだと!?あれで手加減していたというのか…?」

言われたら言葉を体が、精神が信じられないとばかりに青キジの目ん玉が開かれる。

「おい、ロジャー。まだ、終わってねぇのか?」

「疲れたのなら交代してあげてもいいぞ。」

上からギャバン、レイリーとゆったり歩きながら、青キジと対峙しているロジャーに話しかけた。それぞれの後ろにはボロボロになった中将達がいて、ちょっとした攻防を青キジとロジャーがしていた間に2人の戦いは呆気なく終わっていた。

「「す、スミ、マ、セン……。」」

それぞれ、時間稼ぎをしようとしていた中将達が粘り、体力が尽きる限界まで強く耐えていたが力の差が離れすぎているためか直ぐに終わった。体中に傷や血が流れており、青キジに謝りの言葉を最後に2人は、白目になって気絶してしまった。

「本気で不味い、状況になってしまった。」

名前の通りに青くなった顔でそうぼやく青キジをほっぽり、ロジャーは何ともなしに2人へ話しかけた。

「なんだ、もう終わったのか。終わったんだったら、先に彼奴らの所にいって止めてきてくれねぇか?」

壁の向こうを指でさしながらレイリーとギャバンに言う。

「出来るだけ早く終わらせてこいよ。」

「では、行くかギャバン。」

それを当然だとばかりに了承し、ギャバンとレイリーが背を向けて海岸へと歩き出そうとした。ただ、周りが氷壁で囲まれているためロジャーが剣で壁を壊し、道を作ろうとする。壁の高さが思いのほかある為、そうしないと出れない為だ。幾ら、分厚かろうがロジャーの剣ならばいとも容易く壊せる。それをレイリーとギャバンの2人が分かっていたのか真ん中を開ける。そこへ、ロジャーが剣を振るおうと構えると青キジが3人の前へと割って入ってきた。手を地面におき、体から尋常じゃない程の冷気を纏っている。

「あと少しなんだ!最後にとっておきのぶち込んでやる!」

口から冷たい息を放ち、顔、腕、足といった体の部分が氷へと変わっていく。見るからに途轍もない技を今から放つと言わんばかりに青キジが構えている。

「「「なんだ?」」」

それに少し警戒したロジャー達が構えると、青キジが大声でコレから行うであろう技名を言い放った。

 

「''氷河時代(アイスエイジ)ッ''!!」

 

言葉の通り、周りを凍土と化そうと手だけでなく青キジの全身から氷の冷気を放出し地面、果てや周りの酸素分子や窒素、二酸化炭素を無理やり結合させる勢いで気体から氷という固体へと昇華させ、この場全てを満遍なく凍らせようとする。しかし、それは起こらなかった。何故か!

水ではないと周りを凍らせられないから?

否ッ!

地面を凍らせることが出来ないから?

否ッ!

ただ1つ。ロジャーが青キジの技名を聞きそれに一言、ただ一言の言葉を次に言った事が要因である。

「愛す、園児?何をするかと思えば、この期に及んでお前もロリ…」

放たれる技をゴクリと唾を飲み込んで待っていたのに、手をつきカッコイイ体勢で言い放たれた言葉はまさかの、自分はぺドフィリア宣言。ドン引きである。ロジャーだけではない。レイリーやギャバンも顔を引き攣らせて、ドン引きしていた。特に警戒していたギャバンは肩透かしもいい所で、レイリーなんかはドン引きの他に少し肩が震えていた。

「ちがーう!」

青キジは、手を地面からいきよいよく離しドン引きしている3人に思いっきりツッコミをした。とんだ勘違いである。3人を止めるため死に物狂いで技を放とうとしていた。その時に、エイジのイの部分がンだかイだか分からない位に混じった声なのは青キジも認める所だ。そこは百歩譲って良いとしよう。良くはないが。しかし、アイスを何故、ロジャーは愛すと訳すのか。もし、そう訳されてしまえばとんでもない文章へと変わる。市民を守る正義の兵士から一気に真逆の、市民を攻る性義の兵士と移り変わってしまう。

「エイジだ!イだ!ンじゃねぇ!!」

「いや、いいって。あの天竜人もそうなんだから、別に隠すこたァねぇよ。」

すかさず、相手が敵であろうとロジャーはフォローをした。今さっき、同じ様な事で相手を傷つけたばかりのロジャーは、笑うことは無く菩薩のような顔つきで微笑んでみせた。同じ轍を踏むほどロジャーは馬鹿でもアホでもないから。

「い、いや!だからッ!」

「分かった分かった、もう分かったから。そうだな、お前は普通だ!これでいいか?」

ロジャーは心得てるとばかりに青キジの言いたい事をすぐさま理解し、相手に合わせた。あの、自由奔放で鬼と言われたロジャーが相手を気遣い、あまつさえ敵であろうと優しく扱った。

「おまえ、絶ッ対ッ、分かってねぇよなァ!」

なんという皮肉、海賊王が海軍大将を気遣う。文面だけ見れば誰もが信じ難いとばかりに鼻で笑うだろう。しかし、事実でありバカにされてると青キジは思ったが、ロジャーの顔を見ればバカにしている様子もなく本当にそうであると信じている顔だ。もう何を言っても通じないだろう。そう青キジは悟った。年上のおじいさんが孫の我儘を聞き入れるかの如く、幾ら変な理屈を並べようともそうだなと肯定される。それが例え本当の事だとしても、ロジャーから見ればそれは虚勢を貼ったようにしかうつらないだろう。青キジはもう諦めた。そしてこんな押し問答をしている間に、街の中央にそびえ立っている高い時計塔を見れば既に戦いが始まってから5分がとおに過ぎていた。守るべき天竜人は既に出航し安全圏に居るだろう。ロジャー達がいくら頑張ろうともう見えない所まで船が進んでいるのだから。

「まぁいい。そうこうしている間に、守るべき天竜人様は出航し安全圏にいる筈だ。」

「なにィ!」

青キジが言った言葉に驚いたロジャーが大声で驚いてみせた。

「時計を見ろ。もう5分はすぎている。幾ら頑張ろうともう間に合わないさ。」

「だが、こんなに早く船が進むかね?」

レイリーが現実を俯瞰し、風や大気の動きを省みながらハッタリではないかと青キジを疑う。伊達にコーティング屋をしている訳ではなくそういったところが優れているからこその言である。

「そこはほら。俺の能力さ。」

氷を見せながら青キジはおどけて言って見せた。もうするべき事は終わった。ここに捕まえないといけない犯罪者がいるが自分の実力じゃあ到底かなわない。だから、もうやることは無くなったし戦う必要すらも消えた。

「なんだとぉ!!!」

レイリーの言葉を聞き若干嬉しそうにしていた表情が一転、ロジャーの顔は悲痛な事になり、絶叫が街に響き渡った。




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第9話

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「よっこら、せっと。んじゃまあ、俺はそこで倒れてる2人を抱えて帰るからもう追ってこんでくれや。お前らとやるのは、はっきり言って体がもたん。」

伸びて、白目剥いている中将2人を肩に担いだ青キジはいそいそと帰る準備を始めた。此処で長居をする程青キジの肝っ玉はデカくない。だらける事をモットーにしているだけあって、ロジャー達の相手は元から相手取りたくも無いし、加えて、今回たまたまロジャーを相手にする事になったが、ロジャーと相対する事で自分がロジャーを相手に戦える程強くも無いことを良く実感したのだ。自分も同僚のボルサリーノと同じ様に、どこか自然系(ロギア)という強い能力を得た事で、慢心し頼り過ぎていたのが露呈させられた。早く本部に帰って、上司のガープと同じく休暇届けを提出し、ガープの行っている訓練に混じって、何かに没頭したい気分だった。

「はぁ〜〜〜。(落ち込むなんて柄じゃねぇんだがなぁ〜。だからといって大将が強くねぇと部下に示しつかんでしょうに。)」

ロジャー達に背を向けて、海岸へと歩いていく。歩いていく中でとても長いため息が青キジの口から吐き出された。相当落ち込んで居るのが傍から見ても分かる位に少し、どんやりしていた。ただ、醸し出されているどんやりとした雰囲気とは別に、青キジの目は何かを強く決意した凛々しい目をしていた。それはロジャーに負けて、元帥室でロジャーに勝つ事を決意したガープと同じ様な目付きで、青キジが何だかんだでガープに似た、心情が芽生えた瞬間であった。

 

 

取り残された3人は海岸へと歩いていった青キジを見ながら呆然としていた。

「さて、どうする?ロジャー。」

ニヤリと笑うレイリーがキョトンとしているロジャーに問いかける。決定権は船長であるロジャーが持っており、船長の指示であればどんな事でもレイリーやギャバンは聞く。ロジャーは直ぐに顔を正し、話し掛けられた所で次に起こす行動の考えを既に巡らせていたのか、決定事項とばかりに己の考えを語ろうとする。

「さっきから、後ろで聞いていれば………。」

しかし、そこに待ったがかけられた。それは、そばにいたレイリーでもギャバンでも無く、ロジャー達の後ろでリルを両手でおんぶした状態で立っていた、リルの父親ロイスだった。肩がプルプル震えており、顔が俯いている。そして、バッと顔をあげたと思うと、リルを抱えているにも関わらずロジャーを掴みかかってくる勢いで尋ねてきた。その目は、恐ろしさ怖さよりも目の前で存在する筈のない事を見て、幻を見たかのようだった。

「あなたの名前がロジャーって本当ですか?!それに、お隣のおふた方の名前がレイリーとギャバンだなんて。」

ロジャーという名前は、この世で生を受けている者なら必ず1度は耳にする。この世で唯一、偉大なる航路(グランドライン)走破を成し遂げた男、海賊王。ロジャーという男は世界で最凶最悪の海賊。その名前を聞いただけで市民が震え上がる程だ。そして目の前にいる同姓同名の男。かつ、大将を退ける程の強さ。ロイスは信じたく無くても、目の前で立っているのがあのロジャーだと信じざるを得ない。極めつけは、両隣で立っている人達。名をレイリーとギャバン。この2人の名も又、ロジャーと同じ位世界に轟いている。色々な本に載っている程に。

「言ってなかったか?俺の名前はロジャー。ゴール・D・ロジャー。」

ロジャーと聞いてロイスは、目ん玉が飛び出るくらいに驚愕した。だが続けられた言葉を聞いて、頭に?が浮かんだ。D?ゴールドでは無いのか?と思ったのだ。からかわれたのかと感じて、ついていい冗談と良くない冗談があると、咎めようとした時に決定的な言葉が続けられた。

 

「''海賊王''だ。」

 

海賊王……。この一言を言っていいのはこの世でただ1人。ロジャー本人だけだ。それを目指して、海賊王と口にする人は何万といるが海賊王だと断言出来るのはロジャー本人だけだろう。隣でそれを聞いていた2人もロジャーと同じくニヤリとしていた為本当の事なのだとロイスは、否が応でも思えた。

「…………。えぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

本の少しの間を経て、ロイスは人生で1番の声量を出したと言っても過言では無いほどに、今度こそ目ん玉を飛び出させて驚いていた。リルは何が起こっているか分からずキョトンとしている。

「と、とりあえず、家に来ませんか?ここだと騒がられますし。」

ロイスは、先程から爆音でロイスの体中に激しく響き渡る心臓の鼓動をできる限り鎮め、落ち着ける環境を自分と共にロジャーへと提供する。幸い、今この場所には、大将の青キジが壁を張ったおかげで市民達はこれから起こるであろう出来事に恐怖か、もしくは面倒事に関わりたくないという気持ちであった為かロジャー達を除いて他に居ない。それ以外にも天竜人といった存在が居たのも大きな影響を与えている。しかし、天竜人やロジャーと青キジが行った戦闘が終わった今、家に入った人や逃げ帰った人々が戻ってくるのも時間の問題だ。

「おう!」

ロジャーは、ロイスの提案を笑顔で了承した。ちょうど話し合いたい事がギャバンにもあったのかロジャーの言葉の次に、ギャバンもまた文句無しと言ってロジャーに続き了承をした。レイリーは言わずもがなである。それを聞いたロイスは、ひとまず安心かと一息ついてから家に向かう道へと体を反転させてから歩き出した。

 

ある程度の道を進み丘の上に所在する家へと向かうロジャー達。その間でこれといった問題はなく、歩いている途中で父ロイスの腕に抱えられたリルが降りてロジャーと手を繋いで歩いていた。それにロイスは嫌な顔もせずに受け入れているのを見るに、ロジャーが海賊王だと知ったからといって態度を変える気がないのがロジャーにはわかったし、偏見もなく受け入れてくれるロイスにロジャーはとても好感を抱いた。そして街並みを歩き、ちょうど周りの家が無くなり一本道となる街の切れ目の所でロジャーは歩いている方向とは別の方へと体を向けた。リルの手は既に離れており、その手はギャバンが握っている。ロジャーが前に、それに続きギャバンとリル、ロイス、1番後ろにレイリーといった順番で何処から敵が襲って来ても万全の体制だった。止まったロジャー達にロイスは疑問を生じ問いかけようとすると、ロジャーがそれを遮るように周りの家の外壁へと声を荒らげながら言い放った。

「そこにいんのは誰だ!」

声を荒らげたロジャーだったが、それに反して特にこれといった反応は起こらなかった。しかし、ロジャーには人の気配を感じる覇気である見聞色を習得している為、そこに人が居ないように偽っても何処に誰かが居るかロジャーには寸分たがわず理解できている。頭をガシガシとかいたロジャーが警告の声を再びだした。

「右の家に2人、左に3人。おら、出てこい。」

ギクッと言うような声が右の家から聞こえてきた。それに対し左はやはり反応は無かったが息を飲んでいるような気配が伺えた。

「今なら、なんもしねぇから。出てきな。」

少し覇王の覇気を出しながらそう言えば、ようやく観念したのか隠れていた5人がとぼとぼと歩きながら出てきた。右から出てきた1人はゴーグルのような物がついているシルクハットを被り紳士然とした男、もう1人は女性で同じくゴーグルのついた帽子を被っているショートヘアの女性だった。反対の左からは、右から出てきた2人を大きく上回る身長の魚人で黒帯の道着を着ていた。。その身長はロジャー達と同じ位で目線が平行といって良いくらいだ。残りのもう2人は、灰色のコートを頭まで羽織っていて、出て来た全員が同じく仲間だと言う事は誰の目から見ても理解できた。

「滅茶苦茶、気配消すの頑張ったのになんで分かったんだよ……。」

「覇気の範囲以外に居たと思うのに……。」

「凄い腕だな。」

自分の位置がバレてブータれる男と自分との力量差を感じ全力で警戒している女性、素直にその力に魅了される魚人と怯えている男2人。

「それで、なんの用だ。」

先に切り出したのは、ロジャーだった。もし戦うのであれば2人を守る必要が出てくるため力を抑える必要が出てくる。ただ、勝つだけならばロジャーにとっては赤子の手をひねる位に簡単だった。しかし、リル親子を守る為にはギリギリ影響が出ないくらいにセーブし、守りを主体とした戦い方をしなければならない。少々手こずるかなと思ったロジャーだったが、その心配は杞憂に終わった。

「いやいや、そういう事をしに来たんじゃねえんだ。ただ話し合いをしようと思って来ただけなんだ。」

戦闘態勢に移ろうとしていたロジャーに急いで訂正を加える、シルクハットの男。顔には汗を滴らせていて、緊張したような面持ちだった。それはシルクハットの男に限らず他の4人も同じで、顔には汗を滴らせている。

「なんだ、そうか〜。ならついてこいよ。俺達もする所だったんだ。」

違うと分かればロジャーに戦闘の意思はなく、あっけらかんとした感じで応えた。剣の柄にそえていた手を離し両手を後頭部に乗せながら、ロジャーは簡単に、相対している5人に背をむけ歩きだした。

「いや、いきなり信じてくれって言っ……。えぇぇぇぇぇ!!俺の言った事、信じてくれんのか!?」

何とか信じてもらおうと頭を捻り出しながら言葉にした男だったが、簡単に信じてくれるロジャーに驚きが隠せなかった。その証拠に手をバンザイしながら、大袈裟に驚いている。ショートヘアの女性や道着を着た魚人、顔が薄らぼんやりとしか見えない男2人も目を見開いて驚いている。

「えっ?それだけなの?!」

たまらず、5人の内で女性かつ1番警戒心が高かった者が動揺しながらロジャーに確認をとった。様々な修羅場をくぐってきたのだろう、自分達から戦闘の意思はないと伝えたのにも関わらず、やはりまだロジャーの言葉を信じ切れないでいた。

「だって、お前ら敵じゃねぇんだろう?」

何馬鹿なことを言ってるんだと言わんばかり、ロジャーは呆れたようにそう返した。

「えぇ。話し合いに来ただけで戦う気は無いわ。」

「なら、良いじゃねぇか。ほら、着いてこいよ。すまねえが、ロイスもそれでいいか?勿論、安全面の方は心配しなくていいからよ。」

顔だけを背に向けてそう言うと、続けてロイスに謝りを入れるような姿勢をロジャーはとった。

「別にかまわないが、その、大丈夫なのか……?」

すると、ロイスはチラッと怪しげな5人の方へ目を向けた。ロジャーが警戒はしないで良いと言ったが、ロイスにはそれを真に受ける程キモはすわっていない。ロイスの言い放った言葉に強い警戒心が伴っていると感じたロジャーは更に安心させるような一言で何とか場をおさめた。それにプラスして完全な信頼よりも相手に多少警戒しているという感情を出した方が両方に得策だとロジャーは思った。ロイスの方には安心が芽生え、5人の方に多少の牽制が入れられるだろう。

「もし、お前らがこの親子に指1本でも手出してみろ。俺は地獄の底まで追い掛けてぶっ飛ばしに行くからな。」

言っている言葉は、とても綺麗とは言えなく安心出来るとは思えない。しかし今のロイスにとっては、ただの綺麗事よりも荒々しくも多少暴力的であろうと守ってくれるという現れをしっかりと聞けただけで、先程よりも安心感が湧いた。

「ええ、分かったわ。」

5人の方になんとも言えない緊張感がわたった。先程の緊張感がなく、のほほんとした雰囲気よりも、こういった多少の警戒心を出される空気の方が5人は慣れている。あまり人を信用しない質なのだろうか5人にとっては多少、周りの空気が吸いやすくなっているようだった。しかし、しばらく経つとロジャーが醸し出したその緊張感は良くも悪くも彼等に影響を与えた。1人はその緊張感に苦手意識を持ち始めたのか先程のような軽い感じを望むような者と、これ位の気迫を常に持って接して欲しいと思うような人達に別れている。そんな奇妙な空気感が漂うなかで、ロジャー一行に怪しげな5人を足した一行は家までの残りの道のりを無言で歩いていった。

 

「さてと、んじゃあ何処から話すとするかねぇ〜。」

家に着き、四角のテーブルを間に挟んでそれぞれロジャー、ロイス、シルクハットの男、帽子を脱いだ女性4人が座った。ロジャーとロイスは隣同士で反対側に見知らぬ男と女性が座っている状態だ。ロジャー達の後ろにはレイリー、ギャバンとリルがおり、手を出すようなものなら間にいるロジャーを越えなければならない位置となる。その中でロジャーが1番に話を切り出した。

「とりあえず、聞きてぇんだが。あんたら、一体何もんだ?」

目の前に座るシルクハットの目を鋭く見る。その後に隣の女性に目線が移ると、後ろの3人も同じように見て、最後に最初の男へと目線を一巡した。

「それを話すには、最初に一つだけアンタに確認を取らせて欲しい。」

少々、攻めたような質問で強気に出た事にロジャーは驚いていた。萎縮しない男の態度を気に入ったのか口をニヤリとさせながら言葉を続ける。

「へぇ〜。んじゃあ、ロイスも確認と思って聞いてくれよな。俺の名はロジャー。ゴール・D・ロジャーで海賊王だ。もちろん、これは嘘偽りなんかじゃあねぇ。生き返ったとでも思ってくれ。それに、アンタらもその確認がとりたかったんだろう?」

ロジャーが目線をレイリーとギャバンの方へ向き、レイリーとギャバンがロジャーの意図が伝わったとばかりに大袈裟に頷いた。

「(あの、噂って本当なのね。)」

「(こればっかりは俺も信じらんねぇぜ。あの人が冗談半分に言うくらいだったから気楽に来たってのに。)」

5人は、再び顔に大量の汗を滴らせた。先程まで確信半分だった感情が今を持ってようやく体と理性が同一し、相手があの海賊王だという認識に至った。たまらず、それをしっかりと聞いた5人の顔は青色となり、それでも何とか振り絞ったシルクハットの男が口をあけた。

「ああ、遅くなってすまなかった。俺達は革命軍。俺の名はサボ、革命軍参謀総長だ。」

その男は、被っていたシルクハットを脱ぎ目の傷と現れた金髪の髪を顕にしながら自分の正体を明かした。



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第10話

「革命軍ねぇ〜。俺ァが生きてた頃にはそんな組織無かったような気がするんだが……。なんの目的で動く組織なんだ?」

ロジャーの言う通り、ロジャーが生きて海賊をやっていた時代に革命軍は存在しない。それもそのハズで、革命軍の頂点の男であるモンキー・D・ドラゴンがまだ青年の時で革命軍を発足していなかったのだ。1度死んだロジャーが知らないのも無理もない。そんな、ロジャーの質問に答えたのはサボだった。

「あぁ、天竜人のせいで苦しんでる人達や無茶な労働を強いる国に、国民と共に立ち向かい、今の世界政府を打倒し新たに世直しをする。俺たちはそれを目標に掲げている組織だ。」

そう言い放つサボの目には確りとした、迸る意志がのっていた。それはサボだけではなく、他の4人もそうだった。

「へぇ〜。それで、その革命軍様は俺に一体何の用なんだ?」

ギラギラな目をしている5人を挑発するかのように言い放つ。ロジャーが生き返ったという事実は直ぐに海軍によって秘匿なものとして扱われる事となっている。そんな、海軍がもみ消した情報を短時間でしり、直ぐにロジャーの所へやってきた革命軍に警戒心が湧くロジャー。嘘は許さないと思えさせるその鋭い目を5人へと向ける。

「俺達は、貴方が本当に生き返ったのかを調べて欲しいと、頼まれたからだ。」

そんなロジャーの気配を感じ取ってか、サボは嘘もなく正直に答えた。しかし、サボの方にも隠すべき事はあるので慎重に言葉を選んで答える。革命軍というのは秘密組織だ。海賊のように表立って行うような事はしない。それはロジャーも然り、誰かにバレたとあれば組織の場所や世直しの準備などが延びるのを懸念したために、サボは慎重に言葉を選んで答えていく。

「頼まれた?一体誰にだ?」

「俺達のリーダー、革命軍総司令官のドラゴンさんに頼まれた。」

ロジャーの疑問に、世間でも名が知れ渡っている自身のボスの名前を正直に答える。これは自身のボスであるドラゴンが万が一を考えて、サボに開示してもいいと許している事なので、サボも迷わず答えられる。

「ドラゴン……。聞かねぇ名だ。」

素直にそうロジャーが言うと、レイリーが忘れているだろうロジャーに思い出させるように説明する。

「航海してるときに良く聞いただろ。勢力を急性に拡大していた若僧の事だ。」

分からないでいるロジャーに、新聞で見た事のあるレイリーが付け加えるかのように言う。

「いたかそんなヤツ?」

「お前も新聞で見たろ。反世界政府を掲げてる奴がいるって。」

「あー、アイツか!ガープの息子の事だろ!」

ギャバンが更に詳しく言うと、ロジャーは思い出したかのように誰も知らなかった情報と共に爆弾発言を言い放つ。

「「「「そうなんですか!?」」」」

「確か前にガープから聞いたような気がするんだよ。息子が出来たってな。」

「初耳だぞ、ロジャー。」

「息子……。」

「ガープと酒飲んでる時に聞いたような気がするんだよなぁ。」

そう頭に指を当てながらロジャーは必死に記憶を探していく。レイリーとギャバンからはロジャーから聞かされた、新聞では書いてなかった情報に目を真ん丸にして驚いている。それは革命軍達も同様だ。

「俺達はともかく、なんでお前らも驚いてんだよ。お前達の頭だろうに。」

目を真ん丸にして驚いてる革命軍に、ギャバンが呆れた顔を向ける。

「「「「いや、知ってるのは名前だけで……。」」」」

「ガープ……。何処かで……。」

革命軍トップのドラゴンは、自身の身元を詮索されるのを嫌っている。前に革命軍の幹部でもあるイワンコフが探ろうとしていたがドラゴンは軽くあしらいながら突っぱねた。それはイワンコフだけでなく他の人も同様で、ドラゴンの姓でさえ知る者もいない。幹部が知らないのだから、さらにその下のメンバーが知らないのも無理はない。

「同一人物かは知らないが、もし俺の知ってるドラゴンだとしたら、ガープの息子のモンキー・D・ドラゴンの事だろ?」

そうロジャーが確認するかのように問うと、先程からブツブツと言葉を漏らしていたサボだったが、ロジャーの言葉をトリガーに突然、頭を抱えだした。

 

「モンキー・D……。ガープ、ロジャー、息子……。何処かで…、うッッ!!頭がッッ!!」

 

その瞬間、サボの頭に膨大な数の記憶がフラッシュバックした。パズルのピースが完成されていくように、所々不明瞭だった記憶がロジャーから言い放たれる言葉により、一つ一つの文字が1つの記憶として繋がりあっていく。それは、軽い頭痛から激しい頭痛へと姿をかえサボに襲いかかる。

「アァァァッッッッ!!!!」

痛みが酷くなり、サボが声を上げて苦しみ出した。

「サボくんッ!!」

「サボッ!!」

「おい!大丈夫か!?」

元々、ロジャーと邂逅した時に感じたことの無いズキズキとした痛みがサボの頭に響いていた。しかしサボは幼い頃の事故で記憶を失っていて、その痛みの正体が分からないでいた。軽い頭痛だと無視したサボだったが、それはドラゴンの名字を聞かされた事で痛みの正体がだんだんと鮮明になっていき、知らぬ間に閉ざされていた記憶の扉を偶然にも開けることとなった。声を荒らげるサボに、幼少のそれも宝とも言える程に、大切な記憶の奔流が脳へとながれ込んで行く。

 

 

『おーい!サボーー!!』

『何やってんだサボ、置いてくぞ!』

静かな森の中で自分に声をかけてくる2人の男の子。1人は麦わら帽子をかぶって、元気溌剌に岩の上から手を振っている。もう1人はあちこちに傷をつけて此方に急げと急かしてくる

 

『食い逃げだー!!』

『『ヤバッ!逃げるぞサボ!』』

今度は一緒に逃げる景色が見えてくる。後ろから追いかけてくる料理人やウェイトレスから3人で逃げる風景が……。2人が笑って声をかけてくる

 

『いいか!お前達は将来、立派な海兵になるんじゃ!』

『『『ぎゃああああ!!』』』

後ろを追いかけてくるジジイに殺されないように、3人で悲鳴を出しながら逃げるが、結局ボコボコにされた面影が映りだす

 

『なんだよエース。ロジャーってエースの父ちゃんだったのか〜?』

『ルフィ、誰から聞いたんだ。』

『サボからだ!なぁ、エース。ロジャーってどんな奴だったんだ?』

『ルフィ!お前、何言ってんだよォ!』

『いいじゃねぇか!』

『二度と俺の前でその名前を口にするな!』

『『イテッ!』』

盛大にルフィとエースと兄弟喧嘩した、あの日の夜。ルフィ…、エース…

 

『お前ら知ってるか、盃を交わすと兄弟になれるんだ。』

『兄弟?ホントかよ!』

『海賊になる時、同じ船の仲間になれねぇかもしれねぇけど、俺達の絆は兄弟として繋ぐ!どこで何をやろうと、この絆は切れねぇ!これで今日から俺達は…』

『『へへっ』』

『兄弟だ!』

ダダンから酒を盗んで盃を交わして、兄弟となった日

 

 

「そうだよ!俺には兄弟がいた!」

次々と溢れだしてくる記憶にサボの脳は耐えきれずにいた。今すぐにでも気絶してしまいそうな痛みの中、サボは笑って大声で叫ぶ。頭に響いてくる痛みなんか忘れたかのようにその顔は笑顔だった。

「サボくん?」

突如苦しみ出したと思えば、今は大声で笑っている。それを見て不安を感じた女性はサボの背中へと手を伸ばして心配するが、それすらも気づけない程に今のサボは昂っていた。

「ルフィ…、エース…。俺はアイツらの兄弟だ!モンキー・D・ルフィ、ポートガス・D・エース。俺は小さい頃にアイツらと盃を交わしたんだ!思い出したんだよ、全てを!!」

笑顔で隣の女性へと最後の言葉を放つとサボはそのまま気を失って女性に凭れ掛かるように倒れた。幾ら昂って痛みを忘れているとはいえ、失っていた記憶を1度に受け止める程、サボの脳の容量に耐えきれていなかった。

「おまえ、エースを知ってッ!?おいッ!」

突如出てきた言葉、"ポートガス"の姓にロジャーは反応せざるを得なかった。それは自分の妻の姓だったからだ。たまらず再度聞こうとするが、その本人は気絶をしているため聞けない。

「サボくんッ!?大変、すごい熱!」

触れたサボの体から、体温が急激にあがっていくのを女性は感じた。額に手をあて、再度確かめると間違いなく熱を出していた。

「とりあえずその青年は私の寝室で休ませるといいよ。」

話を傍で聞いていたロイスが安心させるように女性へと声をかける。話の内容に全くついていけてなかったが、サボに何が起こったのかは簡単に理解出来たため迅速な対応をする。

「そうだな。この話の続きはその青年が覚めてからでいいだろう。とても気になる事をこの子は口にしていたようだからな。」

「だな。お前らも、ロジャーもそれで良いだろう?」

それに、レイリーとギャバンも異論はなく頷いた。

「問題ねぇぞ。何故か、いま俺ァワクワクしてんだ。この出会いはきっと偶然じゃねぇぞ。レイリー、ギャバン。」

目をキラキラさせるロジャーは、この出会いにワクワクが止まらないでいた。

「お手数お掛けして申し訳ないです。」

女性は、ロジャー達に頭をさげ、最後にこの家の家主であるロイスへと頭を再度さげる。

「なに、気にする事ないよ。」

 

女性は、案内された寝室にサボを運ぶ。たとえ女性であろうと、その鍛えてきた体には成人男性を運ぶ位の力は備わっている。苦もなくサボをベットに寝かせると、静かな吐息をはいて幸せそうに眠っているサボを恨めしく見てから、一旦ロジャー達の方へと戻る。

「なんか色々とご迷惑をお掛けして申し訳ないです…。」

「構わないよ。それに、迷惑と言えばこっちにもいるからね。」

と、ロジャーに薄目を向けながらロイスが喋る。その言葉にロジャーは先程までと、うって変わってギクッと肩をあげて申し訳なさそうにした。

「す、すまねぇ……。」

ロジャーを中心に次々と起こるインシデントに、流石のロジャーも迷惑をかけたと思ったのか申し訳なさそうにしている。

「なに、気にしないよ。ははは。」

「そうだぞ、気をつけろよロジャー。」

「全く、リル達に迷惑かけやがって。」

ロイスのちょっとした茶目っ気にレイリーとギャバンがのっかり、ロジャーを責める。

「すまね…、っておい!お前らもだからな!」

謝ろうとしたロジャーだったが、レイリーとギャバンにお前らもだろとツッコミをした。それを聞いていたリルが笑い、ロジャー達もつられて笑う。

 

「そういや、まだ名前を聞いてなかったな。改めて、自己紹介すると俺の名はロジャー。コイツはレイリーでこっちがギャバンだ。そして、家主のロイスにその娘のリルだ。ちょっとした事で知り合いになったんだ。改めてよろしくな!」

ロジャーが手を差し出すと、女性が手を握る。ロジャーにはもう警戒心は殆ど無くなっている。それは一重に先程の発言がロジャーの警戒心を溶かせるほどに強い言葉だったからだ。

「私の名前はコアラです。こっちが魚人のハックで、右からカボ、ダクです。」

「こちらもよろしく頼む。」

「「よろしくお願いします。」」

改めてお互いの自己紹介を終えると、害は無いと分かってか夕食の準備をロイスがする。外の風景を見ると空は赤くなりはじめ影が今にも無くなりかけている。それにレイリーとギャバンも手伝うようにキッチンへといくと、続けて革命軍の2人も手伝うように着いて行った。コアラはサボを看病しにいくのかロイスにタオルと水を貰うと寝室へと歩いていった。リルも気になるのか唯一女性であるコアラの後を追いかけた。

 

「なぁ聞きてんだがよぉ、寝室で寝ているサボっつったか?思い出しとか言ってたけど、記憶でも失ってたのか?」

やる事がなく、残ったロジャーと魚人のハックはやる事がなく雑談に興じていた。

「確か10歳位の時に、船で沖に出たところを天竜人にやられたと聞いた。」

「10歳でか、よく助かったもんだ…。それにしてもここでも天竜人が出てくるのかよ…。」

「倒れて海に流れていたサボをドラゴンさんが拾って介抱したのだ。天竜人にやられたせいか、サボの記憶は無かったんだ。そこから記憶を思い出せずに革命軍の隊員としてサボは育ってきた。」

「へぇ〜。それでそれで?」

「サボの奴は、それはもうとんだ悪ガキだった。怪我がなおるとたちまちその自由奔放な性にみんな振り回されたもんさ。それは今もか…。」

「悪ガキか!ワハハハハハハハ!」

「あぁそうさ、訓練してる時も記憶を失ったとはいえ、体の使い方は忘れてなかった。そうとうやんちゃだっただろうな、身のこなしが唯の子供じゃなかった。」

とても苦労をしたのかハックが顔にシワを増やしたように話す。ただ、疲れている顔とは別に楽しそうにも話していた。

「もし、本当にエースの兄弟だとしたら例え、盃といえど俺の息子も同然だ。それに、エースの兄弟だったらそんくらいしてもらわないと困るぜ。ワハハハハハ!」

上機嫌に自分の息子を語るロジャー。酒を飲んでもいないのに、その顔は真っ赤でとても楽しそうだった。

「ポートガス・D・エースと言えば、ゴールデンルーキと言われたあの男だろう。」

そう思い出すように語るハックにロジャーが素早く食いついた。

「やっぱり、海賊になったのか!」

「新聞で読んでないのか?エースといえば火拳のエースとして名が世に知れ渡っているぞ。」

「それがよ…、俺ァお世辞にも良い父親っていえねぇんだ。世間から見れば俺ァ、嫌われてるし多分息子にも色々迷惑をかけてると思うからなぁ〜。」

目を俯かせて喋るロジャーは、自由奔放の海賊王ロジャーではなく唯1人の父親としてその場にいた。ロジャー自身、親の顔も知らないで1人ですくすくと育ってきた。父親なんてそんな経験した事もなく、果てに肩書きとして海賊王を背負っているだけに犯罪者だ。とても立派な父親とは言えないだろう。

「負い目を感じてるのか。」

「そんなとこだ。それでよ、俺の息子なんだ、誰かの下につくとは思えねぇし船長をやってんだろう?なんて名前の海賊団なんだ?1度位は知っておきてぇ。会うのはまだ勘弁だからな。」

自身満々に息子を語っていたロジャーは何処へやら、今のロジャーはとても情けない事にエースと会うことを怖いと感じている。これを息子を任されたガープが見たら拳骨をしてきそうな程、今のロジャーは弱気だった。

「知らないのか?火拳のエースといえば白ひげ2番隊隊長だぞ。」

「ニューゲートの船に乗ってんのか!?」

昔のライバルの名前が出てきてロジャーは心底驚いている。息子を任せたガープに続き、白ひげの仲間となって今は海賊をしている。白ひげは仲間を大切にする海賊なのでたいした心配はしてないが、白ひげは仲間に親父と呼ばれている事をロジャーは知っている。

「よりによって、ニューゲートの船かよ……。」




評価是非、お願い致します


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第11話

「……。ここは…?」

午前11時の昼前、窓から射す光がサボの顔を照らし、寝ているベットからゆったりと上半身を起こしながらサボは起きあがる。サボの意識は寝起きでまだ覚醒しておらずぼんやりとしている。寝ぼけ眼で辺りを見渡すと近くには水の入ったボウルとタオルがあり、その隣には椅子に座り看病してくれていただろう仲間のコアラが眠っていた。

「確か、ドラゴンさんに言われた任務の途中で俺は記憶を…。そうだよ!俺は思い出したんだった!」

寝ぼけ眼だったサボだったが、段々とその意識は覚醒していった。熱をだして酷い頭痛にサボは三日三晩、魘されていたなか失われた記憶を全て思い出していた。覚醒していく意識の中、サボは次々と子供の頃の楽しい記憶を自然と思い浮かんでいた。エースとルフィという兄弟を持っていた事、日が暮れても遊んでいた事。その全てがサボにはとても大切な記憶であり大切な宝だった。

「フフっ。ありゃあ、いつの頃だったか…。」

過去に思いを馳せていると、その顔には自然と笑みがこぼれていて凛々しかったサボの顔は消え弛みまくっていた。目元は下がり、口元はニヤニヤとしている。

「んん……、あっサボくん!起きたの!」

サボが起きた事でベットの軋む音を聞き、眠っていたコアラは目を擦りながら目覚めた。目を覚ましたコアラは眠っていたサボが起きている事に気づき、目を大きく開けてサボへと駆け寄った。

「ああ、看病してくれてたみたいだな。ありがとう。」

「気絶した時は本当にビックリしたよ!凄く心配したんだからね!」

とても心配していたコアラはサボの元気そうな顔をみて安心したのか、目に少しの涙を含ませてサボをポカポカと布団の上から叩く。

「悪い悪い」

軽く笑いながらサボはコアラへ謝りを入れると、コアラは大した事のなさそうに笑っているサボを見て溜息を吐いた。

「ねぇ、記憶が戻ったの?」

「あぁ…。全部思い出した…。自分が何者で、なんで家を捨てて海に出たのかも…な。そんで俺の大切な兄弟も…。」

失っていた記憶について尋ねてきたコアラにサボは神妙な顔付きで、自分の事を語っていった。自分が貴族の出である事、そしてそれを恥じている事。最初は思いたい様な話をしていたが、次第にそれは兄弟の話へと変わっていき、明るくなったサボを見てコアラも笑っていた。

「そっか、良かったね!あっ、じゃあ革命軍やめるの!?」

「安心しろ、やめたりしねぇよ。これが終わったらドラゴンさんに話したい事ができた。」

心配するように尋ねてくるコアラに、安心させるようにサボは言う。今のサボにはすべき事がある。それはこの世の腐った部分を世直しする事だ。ドラゴンの思想でもあり、革命軍の目的でもある世界政府の世直しは元々、サボもしたがっていた事だった。過去を思い出した事で、貴族の汚い部分までもが蘇っていたサボはその思いがより強くなっていた。それに、こんな自分をここまで育ててくれた革命軍にサボは報いたいと思っていた。

「良かった……。それはそうとうさっきから、顔気持ち悪いよ。」

それを聞いて安心したのか先程からニタニタとだらしのない顔を浮かべているサボに、心配させた腹癒せなのか口元に小さな笑みを浮かべ、ちょっとした意地悪を吐いた。

「えぇッ!?」

 

 

「3日も寝てたのか!?俺は……。」

寝室から出たサボとコアラはロイス家の廊下を歩きながら、サボは3日も寝ていた事をコアラから聞かされて驚いていた。

「そうよ。まぁ、サボ君が3日も寝てたからロジャーさん達とは結構打ち解けて、仲良くなったのよ。」

「へぇ〜!そりゃあ、良かったじゃねぇか。」

自慢げに語るコアラにサボは、軽くはしゃいだような口調でコアラを嗟嘆した。海賊王としてのロジャーだけでなく、エースの父でもあるロジャーと仲良くなる事はサボには大事な事で、仲良くなったとコアラから聞いてとても喜んでいる。

「まぁね。サボ君が気絶する前に言ってたでしょ?ポートガス・D・エースって。」

「言ってたなぁ〜。」

気絶する前の事を思い出し、ウキウキとお腹の底から迫り上がるような気持ちになった。あの時の衝撃は、これからサボが生きていく人生の中でどんな事があろうとも忘れる事は決して無いだろう。

「まさか海賊王に息子がいたなんて、本当にビックリしたわよ。それがまさか、うちのサボ君と知り合いどころか兄弟なんだもん。確認なんだけど、サボ君の言ってたエース君ってやっぱりロジャーさんの息子なの?」

「おうッ!昔、ロジャーさんと親子なのかって聞いた時に殴ってきたからなぁ〜。それに、自分でもロジャーの息子って言ってたから間違いないと思う。」

鼻歌を歌いながらコアラからの質問に上機嫌で答えていると庭の方から楽しそうな声が響いてきた。

「なんだ?」

気になって声のする庭の方へ歩いていく。聞こえてくる2つの声にサボが何事だろうと思っていると、その理由をコアラが何処か呆れてくるように説明してきた。

「あぁ、さっき言ったでしょ?仲良くなったって。ハックがさぁ、ロジャーさんに稽古つけて欲しいって頼んだんだよ。勇気あるわよねぇ〜。海賊王に稽古頼むって正気とは思えないわよ…。武道家の性かしら。」

「いや、良く受けてくれたな!?ってことはまさか、あそこに居るのって……。」

庭へ続く縁側へとサボとコアラが着くとサボの予想通り、声の主はロジャーとハックで、庭で稽古をしていた。その近くでは風にゆらゆらとたなびく干されている洗濯物と、レジャーシートの上でサボとコアラを除いた人達が寛いでいた。その上にはサンドウィッチの入ったバスケットが置かれていて丁度ランチタイムの時間だった。

「当たり。見ての通り、ロジャーさんとハックだよ。まさか私もハックのお願いをきいてくれるとは思ってなかったよ。けど、ロジャーさん暇そうにしてたから結構乗り気だったのよねぇ。」

「へぇ〜。」

目の前で行われる、長閑な景色とは場違いな程の激しい稽古にサボが目を奪われていると、稽古中のロジャーが気配を感じて縁側に立っているサボを発見する。激しい稽古とはいえ、激しいのはハックの方でロジャーに関しては軽くいなすだけだった。

「ん?」

「はぁはぁはぁ…。」

「起きたか!ワハハハハハ!よし、少し休むぞ!」

稽古をしているロジャーは楽そうにしており、反対のハックは息切れをおこしていた。ロジャーはハンデとして覇気を使っておらず、ハックには使用を許可している。覇気を混ぜたハックの攻撃は一向にロジャーに当たる事はなかった。見聞色の覇気を使う迄もなくロジャーには長年培った経験があり、目で追うだけで避ける位造作もないからだ。

「はぁはぁ……。サボ!ようやく起きたようだな。」

荒い息を吐くハックは開始前から一歩も動いていないロジャーを見て、自分の弱さを改めて感じていた。修行をし直そうと心に決めたハックは、起きて元気な様子のサボを見て安心した。

「おう!頭ん中、スッキリしたぜ。ロジャーさん達とロイスさんには迷惑かけたな…。」

「ワハハハハハ!気にすんな!」

「そうですよ。とりあえず、皆でランチにしましょう。サンドウィッチを沢山作ったんです。是非食べてください。」

頭を下げて謝るサボに軽く笑いながらロジャーとロイスはサボをランチへと誘った。3日も寝ていれば腹を空かせているのは当然の事であり、より多くの人と食べる方が賑やかで楽しいからとロイスはサボを優しく誘った。

「あぁ。ありがとう。」

そう感謝を言った後、サボとコアラは庭のシートへと座り皆で楽しくランチタイムを楽しんだ。

 

「やっぱり、お前が言ってた兄弟ってのは俺の息子のエースだったか…。……恨んでたか?」

誰をとロジャーは言わなかった。しかし、ロジャーが言わずとも誰の事を恨んでるのかサボには簡単に理解出来た。海賊としてのロジャーを嫌っている輩は世界中に多くいる。そいつに息子が居たとなれば憎悪の対象になるのは必然と言えた。なんて応えればいいか言いあぐねていたサボだったが真剣な眼差しを向けてくるロジャーに覚悟を決めて正直に言った。

「………はい。」

「そうだよなぁ〜。」

心の何処かでは好かれているのでは?と思っていたロジャーだったが、自分が質問したとはいえエースの兄弟に確証ついた事を言われてしまうと素直に落ち込んでしまった。薄々とロジャーは気づいてはいた。だが息子に嫌われているなど親として信じたくなかったのだ。

「なんか、意外です。」

落ち込んでいるロジャーを見てサボは驚いていた。自身がイメージしていた海賊王の姿と全く異なっていたからだ

「意外?」

「はい。俺はてっきりエースの事なんて気にもかけてないのかと……。」

「仮にも父親だぞ、俺ァ。それに、世界でたった1人の息子だ。気にかけて当然だし、今まで出来なかった事はしてやりてぇと思ってるよ。」

そう言って困ったように頭をかいて笑うロジャーにサボは嬉しそうにしていた。エースを嫌っていなく、むしろその逆の様子のロジャーを見て素直にエースにこの事を伝えたい気持ちだった。ただ、この事を素直に言ったところで殴られるか蹴飛ばされる様子しかサボには思いつかなく、その事を想像して静かに笑っていた。

「会うの怖くて出来ねぇ癖に……。」

「なんか、言ったかギャバン!」

「図星なんだろう。」

「てめぇら!」

「「ははははは。」」

巫山戯あう3人見て、サボは昔の記憶が映し出されたようだった。いつも馬鹿をするルフィにエースとサボはからかったり、一緒に笑いあっていた。今は任務で直ぐに会いに行けないサボだがいつかはロジャー達みたいにまた3人で笑いたいと……、そう感じていた。

 

「それで、お前達はこれからどうすんだ?」

「1度、本部に帰ろうかと思います。色々、ドラゴンさんにも言いたい事が出来たので。」

ご飯も終わり、縁側で寝転がっていたロジャーは軽い口調で聞いた。それにロジャーの隣で座っていたサボが空を見ながら、ロジャーと同じように穏やかに答える。

「そうか。しかし、結局の所お前らはなんで俺のところに来たんだっけ?」

「本当に生き返ったのかを見に来たんですよ。」

「そういやそうだったな。色んな事が起こりすぎて、忘れてたわ。ワハハハハハ。」

笑って誤魔化すロジャーだったが、その出来事の内の1つにサボ自身も入っているので、サボは苦笑を禁じ得なかった。

「あはは…。所で、俺達はもうロジャーさんが生き返ったって分かって任務完了してるから帰るつもりですけど、ロジャーさん達はこれからどうするんですか?」

「俺達か?俺達なら、今からマリージョア行ってきてちょっくら、天竜人に挨拶しにいく。名前知らねぇけど、まぁ向こう行けば分かんだろ。」

そう言ってロジャーが思い出すのは、最近やってきた天竜人の事だ。典型的な天竜人だと思ってバカにしていたロジャーだったが、蓋を開けてみればそこに居たのはただの子供好きの天竜人だった。その事で一言謝りたかったロジャーは、その天竜人に会うために聖地マリージョアまで行く気でいた。海賊に良い奴も悪い奴もいる。その反対で天竜人にだって悪い奴が居ればその逆、良い奴だって居るのも当然。その事を良く痛感したロジャーは自分が勝手に決めつけていたイメージの中で件の天竜人も入れていた事に謝りたかったのだ。仁義を通すのが海賊王ロジャーとしての在り方であり、そういった素直な所が仲間に好かれる所以でもある。

「「「マリージョアッッッッ!?!?」」」

「「天竜人ッッ!?」」

だが、そんなロジャーの気持ちは露知らずサボ達は別の意味で解釈していた。ロジャーの言う挨拶をマリージョアへと攻めに行くと勘違いしていたのだ。

「たしか…、つい先日この街に天竜人が来ていたな。まさか、それか!」

そこでサボは見当違いの方へと思考を凝らしていた。何も、それはサボだけでなく他の人も同じだった。

「なんだ、知ってんのか。」

「はい。人伝で耳にしました。」

そして、サボが想像した事は天竜人が何かをやらかしロジャーの触れてはいけない逆鱗に触れて怒らせたのではないかと考えていた。これからロジャーがマリージョアで派手に暴れる想像を膨らませるサボ達をたいして気にすること無く、ロジャーはばっと起きて立ち上がった。

「そういう事だ。んじゃあ、ちょっと休んだ事だしそろそろ俺達は行くとするか。ロイスには悪いがレイリー、ギャバン急いで行くぞ。お前らも元気でやれよ!」

「やっとか。」

「準備は出来てるぜ。」

いそいそと出ていこうとするロジャーは、ロイスとリルに別れを告げる気は一切ない。これから起こる事に2人を巻き込みたくなかったからだ。これからもロジャーは冒険をしていくだろう。その際に2人がロジャーの関係者だとバレてしまえば危ない目にあうのは目に見えてる。幸い、ロイスの家は街から遠く誤魔化せる距離だがそれも時間の問題だ。それを分かっているからこそ2人に別れも告げず、ロジャーは走り出そうとする。

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

しかし、準備を追え出ていこうとするロジャー達にサボが待ったをかける。サボだけでない、傍で耳にしていたコアラ達もロジャーの口からでたマリージョアに行くという言葉に驚きを隠せないでいた。

「ん?どうした。」

手短に終わらせて欲しそうな目で見てくるロジャーにサボが凄い剣幕でロジャーへ近づき、肩を両手で強く掴んだ。

「これからマリージョアに行くって正気ですか?」

「そうですよ!たった3人でなんて!」

「無謀だぞ。」

サボ、コアラ、ハックに続けて他の2人も頷いている。世界政府の数ある土地の中、マリージョアとは厳重かつ神聖な場所である。その警備は海軍本部と同等に堅牢であり、海賊が簡単に行けるほどやわな場所じゃない。たとえロジャーが海賊王で強い実力を持っているとはいえ目的の天竜人に会う事はおろか、厳重な警備を突破するのはとても難しいのだ。それを革命軍No.2の男、サボはよく知っている。いつか来る日に向けて準備をしているサボにはとてもよくそれが如何に困難か理解している。だからこそロジャーの実力を見てみたかったのか、肌で感じたかったのか、はたまたロジャーの無謀すぎる性格を子供の頃のやんちゃなエースと重ねてしまったのかサボは無意識のうちに口にしていた。

「もし、行くのであれば!俺も…、俺も一緒に行かせて欲しい!」

 

「いいぞ!」

 

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」



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第12話

読んでくださりありがとうございます。感想、評価を頂き作者は元気がモリモリです!


とある島にて、電伝虫から突然やってきた一報の報せによりそこは混乱の渦の真っ最中であった。上の役員から下の役員までその情報が出回っており、落ち着きがなく慌ただしい。その白土の島、名をバルティゴ。革命軍総本部が置かれている島であり、中央で聳え立つ建物こそ各地に散らばっている革命軍支部の本拠地である。その建物の奥の部屋にて、全革命軍の隊員達が全幅の信頼をおいている男、革命軍総司令官モンキー・D・ドラゴンは頭を抱えていた。

『ドラゴンさん!聞こえてる?』

電伝虫から鳴り響いてくる怒号にドラゴンの周りにいた革命軍の隊員達も困った表情をしていた。各々がドラゴンの指示を待つなか、ドラゴンは努めて冷静に言葉を返す。

「ああ、聞いているぞ」

『なら、止めてよ!サボくん、記憶が戻ったと思ったら何故かロジャーさん達と一緒にマリージョア行くってきかないのよ!』

怒りと心配するコアラの声にドラゴンが落ち着くように諭す。

「今、サボは何処にいるんだ?」

『ロジャーさん達の船よ、出航の準備をしてるわ』

「変わってくれ」

コアラだけでなく焦っている自分の心をも周りに悟らせないように落ち着かせる。今までドラゴンは、世界政府打倒のため緻密に計画を重ねてきた。それをロジャーというイレギュラーが出た事で計画を練り直す必要が出た事はまだ何とか修正できる。しかしその計画の要でもあり、何より仲間でもあるサボが自ら危険に飛び込むのは上司として、命をあずかる総司令官としてドラゴンはサボに一言()()をとりたかった。

 

 

『サボか…』

「すみません…、けど俺、行ってみたいんです!」

サボはそう言ってロジャー達を見る。今から行う事に一切の躊躇も、恐れもない目をそれぞれが宿している。そして無意識にロジャーについて行きたいと言った、自分の中に眠る感情の正体をサボは知りたかった。ドラゴンさんを知り、その志に心をうたれた時とはまた違った感情をロジャーからひしひしと感じている。もうサボには、誰にどんな事を言われようと止める気は一切なかった。例えそれが自分が敬愛してる上司のドラゴンさんであろうと。

『だろうな…。だから、確認をしただけだ』

ドラゴンはよく知っている。なんせ、サボを子供の頃から見てきたからだ。人一倍仲間を思いやり、仲間の為に行動をしてきた男が今まさに自分の思うがままに歩み出そうとしている。1人の育て親としてドラゴンはサボの我儘に嬉しさを感じていた。それに、今サボにはロジャーというこの世で1番強い仲間がいる。いくらサボに危険が及ぼうともそれを軽く捻る程の実力を有しているロジャーがそれを許さない。これ程までに安全と思える戦いは、そうは無いだろう。

「ッッ!!」

『いいかサボ、よくきけ。後のことは俺に任せて、革命軍の代表として世界政府共に喧嘩売りに行ってこい!派手に暴れてこい!!』

「はいッ!!」

ドラゴンに最大の敬意と感謝を込めてサボは返事をした。話を終えたサボは電伝虫をコアラに返そうとするとそれを奪いとるようにロジャーが電伝虫に出る。サボを一時期の間、預かる身として一言言っておきたかったからだ。

「話はついたみたいだな」

『ロジャーか…』

ロジャーが電伝虫に出た事でドラゴンの声から緊張する声が聞こえてくる。ドラゴンの後ろでも慌ただしい音が聞こえるに、ロジャーが出るとは思ってもいなかったのだろう。しかし、その音も次のロジャーの一言で静まり返った。

 

「金髪坊主の事は任せろ。アイツは良いもん持ってるぜ」

 

海賊王の男が任せろと言ったのだ。なら、ドラゴンが心配する事はもう無いだろう。ただ一言、ドラゴンは力強くロジャーに言い放った。

『よろしく頼む!』

ドラゴンがロジャーを信頼し、サボを任せた瞬間だった。

 

 

「サボのやつ、海賊王の目に適ったか……。ハッハッハハハ!!」

『どうしてですか!なぜ、サボ君を止めないんですか!マリージョアですよッ!?マリージョア!!本当に行かせていいんですかッ!?』

サボがロジャーに認められた事が嬉しく豪快に笑っているドラゴンの元に電伝虫から怒声が響きわたる。その主は、サボから再び電伝虫受け取ったコアラだ。ドラゴンが止めてくれると思っていたコアラは、止めるどころか発破をかけるようなドラゴンに憤りを感じていた。

「あぁ、問題ない」

『そんな……』

「確かに、マリージョアは危険な所だろう。しかしだ、あのサボが行きたいと言ったんだ。決して生半可な気持ちで、危険地に行くような奴じゃないのはお前も知っているだろう。それに、アイツはちゃんとした覚悟をもっていた。それをロジャーは気づいていたのだろう…」

『……』

行きたいと言ったサボの顔を見た時、コアラもうっすらと気づいていた。絶対に曲がらない性格のサボがロジャーについて行くと言ったあの時、サボは既にマリージョアに行くと覚悟を決めていた事に。だからこそ、コアラは一縷の望みをかけてドラゴンに掛け合った。どうにか止めてくれと……

「サボの事を心配する気持ちはよく分かる。ここにいる俺達もお前達と同じ気持ちだ。だが、ロジャーが任せろと言ったんだ。俺の親父からもよく聞かされてた。ロジャーは仲間を大事にするってな。俺はロジャーを信じる。もし、アイツがサボを傷つけようものなら革命軍全隊員で倒しに行く覚悟も持っている。まぁ、そんな心配は全くしてないがな」

『……はい』

しぶしぶだが、本当にしぶしぶだが納得したコアラの声音を聞いたドラゴンは電伝虫をしまい、部下へと指示を出した。時間は限られているいるのだ。迅速かつ丁寧に指示を出していくドラゴンに周りの隊員もそれに瞬時に対応していく。

「聞いただろう。サボはロジャー達と共にマリージョアに行く。その前に俺達は出来る限りのサポートをする。いいな!」

「「「「はい!」」」」

「あと、モーリーに連絡を通せ。アイツの能力はきっと役に立つ」

「モーリー隊長にですか?」

モーリーとは革命軍の西軍軍隊長のことだ。超人系(パラミシア)オシオシの実の能力者である。色々な物体を粘土のように柔らかくし、攻撃にも防御にも展開でき、果てにはそれを活用し地中に空間を作り自在に動く事ができる。

「あぁ。マリージョアは赤い土の大陸(レッドライン)の上にある。そこに行くだけでも大変だが、もっと大変なのはその前にある。」

「マリンフォード!!」

「そう、マリージョアの近くには海軍本部が置かれている。しかし、電伝虫を代わる際にロジャーからそこは問題ないと言われた。」

そう、マリージョアの近くには海軍本部が立っている。マリージョアには常に海兵が駐屯しているほか、CPという世界政府きっての最強警備部隊がしかれている。それだけでも厳重なのに、その周りを警備する海軍本部があるのだ。マリージョアに一般人、ましてや海賊が行く事すら困難極まりない。

「えっ、問題ないの?……」

他の革命軍の隊員達がマリンフォードの存在に頭を悩ましていたが、特に何ともなしに言ったドラゴンに全員がコケた。難関な筈なのにロジャーには関係ないらしい。どこまでも規格外だと全員が思った。

「問題は、どうやってあの高い壁を乗り越えるかだ。」

「だから、モーリー隊長なんですね!」

地中に空洞をつくる事ができるモーリーがいれば、あの大きな壁の外側からではなく内側から登ってマリージョアへと辿り着ける。誰にも見つからず、内密に行けるという算段だ。

「ロジャーにも話はつけてある。決行は半年後ッ!それ迄に準備を進めるぞ!」

半年で出来る事はそこまで多くは無いだろう。しかし、ドラゴンは半年後に間に合わせる為に急ピッチで急ぐ。ロジャーのマリージョア進行は世界の流れを変えるキッカケとなる。世界の流れに身を投じるドラゴンとしては、この流れに乗らない手はない。これからの未来に思いを馳せてドラゴンは計画を立てていく……

 

 

不満たらたらだったが最後には折れてくれたコアラとハック達に別れをつげたサボは船の上からコアラ達に手を振っていた。我儘な自分を最後は笑顔で送ってくれた仲間に感謝をしながら、船の向かう先の海へ視線を移した。そこには見慣れている筈の海があるにも関わらず、サボには違って見えた。水平線まで続く海がサボを航海へ誘っている。それを肌で感じるサボは、幼き頃のようにキラキラと目を輝かせていた。

「気持ちいだろう、海はよ……」

サボの頭に手をのせロジャーはサボと同じく海を見る。初めて航海に出た様なキラキラとした顔をするサボに、ロジャーが若き日の頃と重ねて感慨深くなる。

「はい」

「これから、お前は俺達ロジャー海賊団の船員(クルー)だ。これからビシバシ働けよ?ワッハハハハハハハ!」

「……はいッ!」

ニヤリとサボにロジャーが笑いかける。ロジャーに船員(クルー)として認められたサボは嬉しくなり、これからの事に思いを馳せて興奮が止まらかった。そんな子供の様なサボを見てロジャーだけでなくレイリー、ギャバンまでもがニヤリと笑う。

「お前ら!新しい仲間も入った事だ!次の目的地、水の都ウォーターセブンへ向かう!」

「「「了解、船長!!」」」

小さい船の帆をはり、旗を掲げる。そのマークはかつてロジャー海賊団の使っていたマークであり海賊である事を表す死の象徴だ。それを掲げたロジャー達はログをたどり、ウォーターセブンまで最短の道のりで航海して行った。

「ウォーターセブンに行くんですね」

ウォーターセブンと聞いて、最初にサボが思った事はこの船の事だった。ウォーターセブンとは船の造船会社ガレーラカンパニーが設立されてるとこであり政府御用達の造船都市である。また、金を払えさえすれば海賊にだって船を売る都市でもあり政府、海賊に愛用されている発展都市だ。

「この船では心もとないからな……」

それに答えたのはギャバンだった。ロジャー達がウォーターセブンに行く目的として、マリージョアまでの道程を安全に航海できる大きく頑丈な船の調達の為だ。ロジャー達が乗る船は多少の嵐には耐えられるがマリージョアへ行くまでの偉大なる航路(グランドライン)前半を渡りきる力がない。だからこそ造船都市であるウォーターセブンに隠しておいた、かつての船をロジャー達は取りに行くのだ。誰にも知られることの無く隠されてきた船、名を海賊船''オーロ・ジャクソン''。唯一その船の在処を知る者とすれば、実際にオーロ・ジャクソン号に乗っていたかつてのロジャー海賊団の船員(クルー)の他存在しないだろう。政府の人間がその船を見つけようと躍起になるも見つける事は叶わなかった。それは一重にその船が厳重に隠されていたのに加え、その船を影から守ってきたある男のおかげにある。その男の名は、船大工''トム''。オーロ・ジャクソン号を作った本人でもありガレーラカンパニーをつくるきっかけとなった人物だ。トムは死ぬ寸前までその船の事を政府から隠し続け、その存在を守ってきた。今も尚、その船が壊されること無くあり続けられるのはトムのおかげであり、ロジャー達の最愛の仲間だ。

「トム……、俺たちの事しっかり見とけよ……」

 

 

━━霧深く、闇夜渦巻く島にて

その島にとある便りが渡った。偉大なる航路(グランドライン)前半にある島。島と島を取り囲む濃霧は入ったら最後、再び出てくる事は出来ない。前半の海にあるにも関わらずその島の危険度は後半の海、新世界後半に匹敵する。その島にて、1人細々と暮らしていた1人の男に便りが送られてくる。

「なんだ?」

その男の名は、ユーイ。元ロジャー海賊団の船員(クルー)であり、元ロジャー海賊団アサシン''霧隠れの兇手・ユーイ''。懸賞金10億8千万ベリーの男。ユーイは浜辺に意図して流れて来た手紙を拾うとその中身を確認する。

-------ユーイへ

よぉ、久しぶり!元気に暮してるか?突然だがよ、これから俺達はマリージョアに行くんだよ。そこでユーイ、お前の力を貸してほしい…。集結は半年後、クオレマ島にて待つ

ps.鈍った体ちゃんと鍛え直して来いよ!

-------ギャバン

「マリージョアだと?ギャバンめ、一体何を考えてる…。それに、俺達だと?」

ユーイはロジャー海賊団解散から、ずっとこの島で過ごしてきた。世から離れひっそりとした生活を送っていたにも関わらず、突如としてやってきた手紙に混乱が隠せなかった。その手紙について幾らかの思考を巡らせても世情に疎いユーイでは、あまり意味が無かった。がしかし、流石は元ロジャー海賊団船員(クルー)なだけあって次の行動は迅速だった。

「フフッ、考えても仕方ない。久々の再会と洒落込むか…」

そう言うと、ユーイは島の奥へと歩いていった……

 

 

「おっ、そろそろ見えてきたぞ!」

「あれが水の都ウォーターセブン!」

サボの視線の先には、水で溢れる綺麗な街並みが広がっている。大きく目立つ所にコップのような大きな噴水があり、それを中心として各地へ繋がる水路がおかれている。その水路は街の住人が住むのに欠かせない移動手段として使われ重宝されている。今、その水路へとロジャー達は船を進めていく。

「久々に来たが、相変わらず綺麗な所だなぁ」

「だが、前に来た時より幾許か水位が上がっているな」

「ほんとだな……」

景色を見渡しながら水路を進み、ロジャー達がやって来たのは近くの海岸だった。そこには、ロジャー達の船の他様々な船が止まっている。そこへやって来たロジャー達は錨を下ろし、荷物を纏め出かける準備をしていた。

「そういや、ギャバン!お前、結局何人に連絡したんだ?」

「6人さ。それ以外の奴らは全員、新世界にいるから連絡も集める事もできねぇ」

「6人か!誰にかけたんだ?」

ふと荷物を準備していたロジャーは、ギャバンが何人に連絡をしたのか気になり訊ねていた。久々に会える仲間に心を踊らせるロジャーにギャバンが親指を立てて笑顔を持って答えた。

「ハハッ!それは会ってからの楽しみって奴だよ!」

「ケチな奴め!ワッハハハハハハハ」




あれだろ?みんなもうマリージョアに行って欲しいんでしょ?分かるよ?俺もそうだからね。でもさぁ、今のロジャー達だけで行ったら多分その前の航路でお陀仏やし圧倒的に数たりなくね?まぁ、ロジャーの力を考えれば行けそうなのが憎い...!それに、ロジャー海賊団のメンバーも書きたいのよ 。だからもう少し長い目で読んで欲しい...。


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第13話

「次はここか……」

船を求め、無事にウォーターセブンに着いたロジャー達は荷物を持って酒場へとやって来た。ウォーターセブンに昔から住んでいるとある人物に会う為だ。その人物とはロジャー達の船を作ったトムの秘書である、ココロという名の女性だ。昔からお酒が大好きな女性であり、そのココロがお気に入りな酒場を手当たり次第に街の住人から情報収集をして、何件か探し回った後、''BLUENO'S BAR''という酒場にロジャー達はやって来た。

「んががが!!おら、ブルーノもっと酒を持ってきなぁ〜」

酒場に入ってきたロジャー達が最初に聞こえた言葉だった。昼間にもかかわらず飲んでいる陽気な声音と、元気な緑髪の女性がカウンターで飲んでいた。それをロジャーが発見すると嬉しそうにその女性の方へと歩みをすすめた。

「ばあちゃんばあちゃん!こっちになんかやって来るよ?」

ココロの孫であるチムニーがココロに連れられ、その隣でジュースを飲んでいると真っ直ぐこちらにやって来るロジャー達をいち早く発見する。街では見たことも無い男達にチムニーは少し怖がり、ココロの服を掴んでいた。

「なんらぁね〜?」

チムニーからそう言われ、昼間から飲んで陽気なココロは後ろを振り向くとひどく懐かしい顔馴染みの顔をみて、目をまん丸にして驚いていた。

「元気にしてたか?ココロ…」

「あんた!いや、でもアイツは……。それにお前らまで…」

そんな訳ないと……、アイツはもう死んだんだと、酔っ払っていても残っている小さな理性がそう訴えかけているのに、目の前の男の存在がそれを壊していく。笑顔で語りかけてくる男こそ、トムが全身全霊で作った船の乗船者であり、世界一周を唯一成し遂げた男。

「ロジャー……」

かつて、自分達に船を作って欲しいとせがんできた若き日のロジャーが今、目の前にいた。

 

 

「あんらぁが、生き返ったとはねぇ〜。長生きはするもんらねぇ〜、悪魔の実を食べてれぇらのにこんな事が起きるらんて。んがががっ!!」

「俺も驚いたもんさ。ワッハハハハハハハ!」

カウンターに座っているココロの隣にロジャーは座り、これ迄の経緯を話した。信じられない現象にとても驚いていたココロだったが実際にロジャーが目の前にいて、生き返っているのだから信じざるおえなかった。それに、一緒にいたレイリーやギャバンまでもがそこにいる男をロジャーたらしめんとする証拠になるのもロジャーと信じる一手のなった。そこから一転、ロジャーが生き返った事実があるのならばココロのする事はただ1つ、昔のように一緒に笑って酒を飲む事だった。それに、レイリーやギャバンも乗っかり近くのテーブル席に座って、サボに寄りかかって悪酔いしていた。それを見たチムニーが口には出さ無かったが、心の中で不憫な兄ちゃんと認識されるようになった。

「ばあちゃんばあちゃん!この兄ちゃんと知り合いなの?」

「にゃ〜」

「ばあちゃんの昔の友達らよ!すっごく強いんらよぉ〜?」

そう自慢げに言うココロは本当に嬉しそうだった。今まで酒を飲んで楽しそうにしていた事はあったが、今日程ココロの顔が笑顔だった事はない。トムと酒を飲んだ時以来の心の軽さがロジャー達にはあった。

「へぇ〜!兄ちゃん、強ぇんだ!」

「まぁな!ワッハハハハハハハ!」

ロジャーは酒を片手に持ちながら、腕を曲げチムニーに筋肉をみせる。そのはちきれんばかりに表に顕る筋肉にチムニーと猫(ホントはうさぎ)のゴンベが大はしゃぎし、その上がった腕にぶら下がった。喜ぶ2人をみて、調子に乗ったロジャーは2人を更に喜ばせるかのように勢いよく腕を上げ下げしながら酒場を走り回った。酔っ払っているせいか近くにあるテーブルに当たりそれを吹き飛ばしているがロジャーは一切気にしなかった……

「おめぇらがここに来たってころはよ、あれを取りに来たんらねぇ?」

「おおともよ!預けてた船を取りに来たんだ」

尚も走り続けるロジャーに、ロジャー達が来た目的を理解したココロが酒を飲みながら胸を張り、ココロが肌身離さず持っているとある鍵をネックレスから取り外した。それは、ロジャーの目的である船オーロ・ジャクソン号が眠る、ウォーターセブンに存在する隠し倉庫の鍵だった。

「おめぇらがまた、この時代で旗あげるとはねぇ。世界が荒れるらよォ!ンがががっ!」

そう言って鍵を握りしめまた、豪快に笑った。ロジャーが船を取りに来た、それはつまりこれから世界が荒れるという事を意味するにほかならない。それでも尚、ずっと豪快に笑うのはトムの秘書だからか、世界の行く末が楽しみなのか……。

「それでよぉ、トムと同じ位の腕のある知り合いの船大工紹介してんくねぇか?」

「任せときなぁ!あんらたちの為だ。とっておきの奴、紹介してやるらよぉ〜」

「助かるぜ、ココロ!ワッハハハハハハハ!」

そう言うと、ロジャーは走るのをやめてBARのマスターであるブルーノにココロの飲んだ酒の酒代も含め渡す。いくら、ロジャーが海賊であろうと無銭飲食はしない。ただ、ギャバンがロジャー海賊団のお金を管理しているため、お小遣いが無くなればロジャーは偶に無銭飲食をする。ロジャーは自由に生きる男だ。お金を払うのも払わないのもその時の財布次第なのだ。

「んらぁ、行くよ!チムニー、ゴンベ!」

「はーい!」「にゃ〜」

ココロやレイリー達が立ち上がると、BARを荒らすだけ荒らしてBARから出ていく。そう、BARを荒らしたのはロジャーだけではない。レイリー達もなのだ。ロジャーが走り回った事でテーブルは大きく吹き飛び、近くにいたお客さんも一緒に吹き飛んだ。それにレイリーやギャバンも便乗して酒場を宴の如く荒らして飲んだいったのだ。ちなみに、気絶したお客さんも多数出て、レイリーがちゃっかりとそのお客さんの財布の中身をとったのを猫のゴンベはしっかり見ていた。

「いい酒だったぜ〜!」

「アハハは。」

勘定を払うため最後に残っていたロジャーは、ブルーノへ酒の感謝をした。そして、その時にロジャーは先程から気になっていた事をなんて事もないかのように最後の一言を言い放って帰ってしまった………

 

「あと、お前。政府の人間ならもうちょっと隠れる努力した方がいいぞ。動きが分かりやすいからな!ワッハハハハハハハ!」

 

「ッッ!!!!」

目の前で起こる酒場の惨状に一切の動揺をしてこなかったブルーノが初めて顔に出して動揺を露わにしていた。ロジャーが生き返っている事は政府の人間として知らされていたので、ロジャーが来ても動揺はしなかった。しかし、細心の注意を払い努めて冷静に振る舞っていたはずの自分を意図も簡単に看破された。看破されてなおあの振る舞いをしていたと考えるとブルーノは、政府の人間である自分に背中を向けて出ていくロジャーに体の震えが止まらなかった。そして、出て行くロジャーのニヤッとした一言にブルーノは背筋が凍った。

「あばよ、CP9さん」

 

 

「おい、ココロ。俺は船大工を頼んだんだぞ?ここには、造船会社はおろか大工のだの字もねぇじゃねぇか」

ココロの紹介する船大工に会う為、ココロに連れてこられたロジャー達が来た場所はウォーターセブンの市役所だった。中心に建つ市役所は街の風物詩とも言われ、島の観光客やこの島をまとめる重要な役割を担っている。

「安心しなぁ〜。おめぇらも見たことあるはずらねぇ」

そう言って市役所に入っていくココロをロジャー達は追い、やって来たのはこの市役所の市長室だった。途中に市役所内の役員から胡乱な目を向けられたロジャー達だったが、ココロと一緒に歩いていたおかげで特に憚られることなくたどり着けた。

「邪魔するよぉ〜!」

「ンマー、いきなりどうしたんだココロさん」

積み上がった紙に囲まれて出てきたのはこの街の市長であるアイスバーグだった。アイスバーグとココロは昔、トムズワーカーで一緒に働いていた事があり、トムの一番弟子でもあったアイスバーグは秘書であったココロと旧知の仲である。

「お前に頼みがあってねぇ。今すぐ来てくれるかい?」

「随分急だな。それはココロさんの後ろの人達が関係してるのか?」

アイスバーグが見るのはココロの後ろに並ぶ4人の男達だった。一人一人が只者ではない雰囲気を醸し出し、広い筈の市長室が狭く感じる程に圧迫感があった。

「そういうことらぁよ」

ココロが脅されている可能性を少し考えたアイスバーグだったが、親しげに話すココロ達を見てそれは無いと直ぐに悟った。それに、酒を片手に持って酔っ払っている事から余計な心配だったとアイスバーグは心の中で苦笑した。

「分かった。カリファ、後の仕事は全部パスしてくれ」

「分かりました。では、行きましょう」

「ンマー、カリファはここに残ってくれ。俺だけで行く」

出て行こうとするアイスバーグに秘書のカリファが当然のようについて行こうとするがそれ止めたのはアイスバーグだった。これ迄のアイスバーグは、どんな事があろうと秘書と離れて仕事をする事は無かった。船大工の仕事然り市長の仕事然りだ。カリファにとって、ついて行こうとする自分を初めて止めるアイスバーグに、秘書という仕事に就いて初めて少しの動揺を示していた。

「承知しました」

ただ、その目に見えて動揺をした事はCP9のスパイであるカリファにとっては他人を騙す演技に他ならず本気で動揺はしていなかった。アイスバーグ達が部屋を出るのを最後まで見届けると懐に持っていた電伝虫に手をかける……

 

 

「それでココロさん、頼みってのは?」

「その頼みってのは俺達の事なんだ」

ココロが答えるまでもなく先に答えたのはすぐ近くにいたロジャーだった。

「そういや、名前を聞いていなかったな。ココロさんとは随分仲が良さそうに見えたが……」

「それは、後で教えてやるよ。俺達からの頼みってのもな。とりあえず、ついてきてくれて」

市役所を出たロジャー達が次に向かったのは町外れにある小さな海岸だった。木材やゴミが散乱しており綺麗な街の景観を破壊するほどに汚く薄汚れている。市が綺麗にしようと掃除をした事もあったがゴミが減った事は無かった。

「ここ臭ーい!!」「にゃっ!にゃ〜!」

ロジャー達はそのゴミ溜まりの上を歩いていくと、目的地であったゴミ溜まりの中心までへとたどり着いた。

「??」

その中心でロジャーが手で積み上がったゴミをものすごい速度で払い除けると、約1分程で地面へと到達した。そこから、シャベルを持ったレイリー達も加わり更に地面を掘り進めていく。それに終始?を頭に浮かべていたアイスバーグだったが、掘り進めることで浮き彫りなってきた大きく頑丈な下扉に絶句した。土に埋もれていたせいか扉は余り錆び付いておらず綺麗な状態で出てきている。

「ンマー!こんな下扉がウォーターセブンの、それもこんな小さい海岸にあったなんて!」

「扉だ!ばあちゃんばあちゃん、扉だよ!」

「んがががっ!アイスバーグ、お前には教えていらかったねぇ〜」

何十年もウォーターセブンに住んでいて、初めて目にする扉にアイスバーグは驚きが隠せなかった。そんな驚いているアイスバーグを横目にココロは持っていた鍵を下扉の鍵穴に挿すと扉は、ガチャンと大きな音を立ててゆっくりと開いていった。そして出てくるのは海岸の更に下へと続く暗い階段だった。

「よし!」

ロジャーは持っていたシャベルを勢いよく投げると元気に階段を降りていき、レイリーやギャバンもそれに続けて子供のようにはしゃぎながらロジャーへと続いた。

「ほら!アイスバーグ、私らもいくらよぉ〜」

恐る恐る、ロジャー達に続いてアイスバーグ達も暗く長い階段を降りいていく。暗い階段を慎重に降りていくアイスバーグだったが、半分位経つと階段の奥からボンヤリと蒼白い光が見えてきて、その蒼白い光の帯が少しずつ太くなっていった。

「すげぇなぁ〜」

「ンマー!ウォーターセブンにこんな所があったなんて」

「わぁー!綺麗!!」

そこでアイスバーグ達が階段を降りていって、見たのは蒼く光る神秘的な洞窟だった。いくつもの鍾乳石が垂れ下がっており、蒼く発光する貝や虹色に光る石などがこの洞窟を照らしており幻想的な景色が広がっていた。それに、サボ、アイスバーグ、チムニーが感嘆の声をもらして感動していた。広がる幻想的な景色に見蕩れているアイスバーグの肩をココロが叩き、洞窟の先へと視線を促した。

「ほら、アイスバーグ!あれを見てみな」

「あれは!」

ココロの視線をアイスバーグがたどると、洞窟の更に奥に大きな湖が広がっていた。その中央には、デカデカと赤を基調とした1隻の海賊船が浮かんでいる。

「お、オーロ・ジャクソン号…。こんな所にあったのか…」

それはまさしく、かつてロジャー海賊団が使用していた船だった。ふと、アイスバーグが湖の辺りを見渡して船の出入口なるような所を探してみるが、それらしい所は見当たらなかった。ならばどうやって来たのか…。それは、とても簡単な事だった。アイスバーグは湖の水を舐めてみるとそれは淡水ではなく海水だと言う事を理解した。湖の水に頭を突っ込み目を開けてみると湖のさらに奥深くに続く穴が見つかった。そう、ロジャー達が船を地上から運んだのではなく、海の中から潜水艦のようにこの湖まで運んできていたのだ。

「分からないわけだ………」

まさに、ここの湖は自然に隠された天然の隠れ場だった。政府がどれ程の時間をかけて、オーロ・ジャクソン号を探しに来ようが海の中をつたって行くことでしか辿り着けないこの場所には、どうしたってたどり着く事は出来なかったのだ。

「これが俺達の依頼だ!」

「依頼……」

「20年近く放ったらかしにしていたこの船の整備をお前に頼みたい」

「この船を俺に整備しろってのか……」

「あぁ!ココロがどんな奴を紹介すんのかと思えば、お前。大人になってて気付くのに遅れたが、トムの弟子のアイスバーグだろ?なら、この船の整備を任せられるのはトムの弟子のお前しかいねぇ!」

「………」

暫く会う船に気分が高揚して、話しかけてくるロジャーだったがアイスバーグはそれを静かに聞いていた。

「俺はこの船の船長、ロジャーだ。訳あって生き返ったんだ。これから俺達はマリージョアにいく!その為にこの船が必要だ!だから、頼む!」

「お前がロジャーだって?ココロさん、あいつの言ってる事は本当なのか?」

「間違いねぇらよ。あたしが保証する」

人が生き返るなど、ありえないと思っていたがココロが言うのではあればアイスバーグは信じるおえなかった。悪魔の実が存在する世界なのだ。多少の不思議な事があったとしてもそれをドーンと受け取る器量をアイスバーグは持ち合わせていた。ならば、アイスバーグのロジャーに対する返答は1つだった。

「そうか、なら俺はその頼みを受けない!」

「……え?」

「話は終わりだ、俺は帰る。この場所は誰にも言わないから安心してくれていい。ではな」




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第14話

住民が寝静まった真夜中、街中をコソコソと動く影があった。ひっそりと動き誰にもバレずとある大きな民家へと侵入を果たした。その影の正体とは、

「こんな、夜中に何の用だ。ロジャー」

「分かってんだろ?」

ロジャーである。真夜中に侵入した家とはアイスバーグが住んでいる部屋だった。夜中にも関わらず明かりが灯っている部屋の窓からロジャーは侵入していった。寝もせず仕事をしていたアイスバーグは、仕事用紙からは目を離さず、入ってきたロジャーに話しかけた。

「それならもう、断っただろ。それに、もう一度頼むってんなら何故こんな時間なんだ……」

「昼間にお前んとこ行ったさ。でもそん時は、お前の部下から門前払いを受けたのさ」

1度、アイスバーグに断られてからというものロジャーは何度もアイスバーグに船の整備を頼むために会いに行った。しかし、アイスバーグに頼むどころか会う事すらかなわない始末だった。アイスバーグの仕事場に行こうとすれば、その前に必ずと言っていいほどアイスバーグの部下達がロジャーの前に立ち、門前払いをしてきた。無理矢理にでも通ろうとしていたロジャーだったが、船の整備を依頼する立場として何よりトムの弟子の部下がアイスバーグを思って行動しているのだ。その気持ちをロジャーは無碍にはできず帰るしか無かった。しかし、どうしてもアイスバーグ以外の奴にトムの船の整備を任せたくなかったロジャーは何とかアイスバーグに会おうとしていた。

「それで、こんな夜中の1時に来たってのか」

「そんな所だ」

「で、言ったと思うが俺は受ける気は無い」

話を戻そうとアイスバーグは仕事用紙から目を離し、入ってきたロジャーにようやく目を向けた。

「そこなんだよなぁ〜。俺も色々考えたんだが結局のところ分からなかった。なんでお前はそんなに受けたくねぇんだよ」

頭を抱えながらそう言うロジャーにアイスバーグは青筋が薄らと浮き出てくる。

「理由は2つだ。1つ、俺はオーロ・ジャクソン号が嫌いな事。2つ、ロジャー、お前が嫌いだって事だ。」

「……え?お前、俺の事嫌いだったのかよ……」

ロジャーは思いもよらなかった理由にガックリと肩を落とした。

「あぁ。元々、トムさんが死んだ原因はてめぇだからな」

アイスバーグは心に秘めていた憎悪を顕にしながらロジャーへと言い放った。それをロジャーは睨みつけてくるアイスバーグに笑って返す。

「フッ、ワッハハハハハハ!」

「何がおかしい!」

「いや、なに。トムの事を思い出して笑ってたのさ。アイツはいつもドーンと構えてて気のいい奴だったからなぁ〜」

「お前は、何を言っている?」

「昔を懐かしんでいたんだよ。楽しかったなぁ〜。特に俺のトムと飲む酒は格別に美味かった!」

「だから……、何を言っているんだ!何故、てめぇはトムさんが死んだ事を笑っていられるんだ!」

ずっとヘラヘラしているロジャーにアイスバーグは頭の青筋が表にくっきりと出るほどに怒っていた。死んだ人を弔い、思いやってやる事もしないロジャーにアイスバーグは更に口激しようとし、ロジャーはそれを遮るようにあっけらかんと言い放った。

「ん?俺は別にトムが死んだ事に笑っちゃいねぇぞ。俺はアイツとの楽しい思い出を笑ってたんだ」

「……」

「ひとつ聞くが、死ぬその瞬間までトムは己の人生を後悔してたか?」

「……」

「してねぇだろ。アイツは自分のした事に一切の後悔なんざしてねぇんだよ。それは、てめぇがよく分かってる筈だ」

「あぁ!そうさ!トムさんは政府に連れてかれるその瞬間まで笑ってた」

強く握りしめるアイスバーグの手には一筋の血が流れていた。

「ならよ、俺がトムを悲しむ事なんて出来ねぇよ。悲しんだらアイツの人生を否定する事になっちまうからな」

そう笑って返すロジャーにアイスバーグは何も言えなかった。否、言いたくなかった。トムの事をロジャー以上に思っているアイスバーグだからこそ、嫌いなロジャーの言葉であってもそうであると心の内で肯定していた。

「……」

「だがな、トムの死を悲しむ事とは別によ、俺ァ物凄く怒ってんだ。俺の友達に手を出したんだ。アイツらにはそれ相応の事をしてやる」

そう言ったロジャーの顔は初めて海賊の顔らしい残忍な顔をしていた。さっきまで笑っていた雰囲気は何処へやら、拳を強く握りしめ、薄く笑うロジャーの怒気は、傍から見てもくっきりと分かるようにふつふつと表に湧いて出てきていた。

「アイツら……」

「世界政府の奴らさ!言ったろ?マリージョアに行くって」

「本当なのか?!」

ニヤッとロジャーが笑うとそれが答えとばかりに、それ以上は何も言わなかった。静寂な空気が部屋を支配するなか、ロジャーはゆっくりと入ってきた窓へと近づいた。

「俺はもう、お前の所には行かねぇ。けど、ずっと待ってやる!気持ちの整理がついたら俺ん所に来い!何日でも何ヶ月でも待ってやる」

そう言うと、話は終わったとばかりにロジャーは家を出ていこうとする。ハッとなったアイスバーグが何かをロジャーに言おうとしていたが喉に言葉がつっかかって出てこなかった。

「……」

「あと、オーロ・ジャクソン号嫌いって言ったよな?それこそ、有り得ねぇだろ。ワッハハハハハハ!」

ロジャーはアイスバーグに背を向け笑って、夜の闇へと消えていった。出ていったロジャーを呆然と見ていたアイスバーグは自然と自分が立っていた事に気づき、椅子へぐったりしながら座った。

 

 

ロジャーがアイスバーグの家に侵入してから約1ヶ月が過ぎた。ロジャーはもうアイスバーグに1度もあっておらず、船の隠し扉がある港で待っていた。その間、暇になったロジャーは金髪坊主のサボや衰えて体が鈍っていたレイリーやギャバンを鍛えながら暇を持て余していた。

「ロジャーさん……、グェッ!!」

「なんだ?」

ロジャーはダウンして寝ていたサボの上に座ると、いつからか気絶から解けたサボが話しかけてきた。

「本当に行かなくていいんですか?もう1ヶ月ですよ?」

「心配すんなって!必ず来る」

「……本当に来ますかねぇ〜」

「まぁ、アイスバーグが来るまで時間はあんだ。その間にもっと鍛えてやるからよ!」

そう、キラキラした目をサボに向けるとサボの顔と目が死んでいった。この1ヶ月、ロジャーに遊び半分で鍛えられたサボの実力は前より格段に上がっていた。最初の方は海賊王が直々に師事してくれる事にサボは楽しみと期待を抱いていたがそれは1週間の内に呆気なく無くなった。毎日やってくる地獄に憂鬱にしていたが、ある日その鍛錬にレイリー達も一緒にやると言い出してサボは仲間ができたようで嬉しかった。これで自分の鍛錬する時間が減って少しは楽になるだろうとその時、サボは思っていた。しかし、サボの目の端で死体のように横たわっているレイリー達を見て、''そんな事はなかったな…''とその日の内に現実を見せられた。

「……、早くアイスバーグさん来ねぇかなぁ〜」

そう言って空に希望の光を捧げるサボに、ロジャーが不意に頭をコンコンと叩いた。

「どうやら、その心配は無用のようだぜ?」

サボがロジャーの目線を辿ると此方にやってくる3人の影に気づいた。歩いてくる影がくっきりとしてきて、ようやくサボもそれが誰か分かった。歩いてきた人物とはアイスバーグとココロさんだった。しかし、もう1人の大柄な男にサボは見覚えがなく頭に?を浮かべていた。

「来たか!」

「嫌々だがな!」

「んがががっ!素直じゃないれぇ〜」

「おい、馬鹿バーグ!コイツが例のアイツか?」

すると、黙っていたフランキーがアイスバーグに確認をとった。ここに来る前にアイスバーグはフランキーの方へと寄っていたのだ。あのアイスバーグが態々、自分に頼みにきたと知ったフランキーは目ん玉が飛び出る程に驚いていた。

「そうだ」

「話には聞いてたが、まさかほんとうに……」

ロジャーが生き返ったと来る途中で知らされたフランキーだったが、実際に見るとその覇気と見覚えのある姿に驚きが隠せなかった。

「紹介が遅れたな。コイツの名はフランキー、俺と同じトムさんの弟子だ」

「あぁ覚えているさ。あの時のちっこい子だろ。でよ早速、やってくれんだろう?」

そうフランキーを見るロジャーの視線は暖かく、その視線を受けるフランキーは身体中が鉄で出来ている筈なのに何処かむず痒かった。

「あぁ、やってやる。ただし、」

「……」

「やるのは俺じゃない!俺達、トムズワーカーがその依頼を引き受ける!」

「フッ、ワッハハハハ!!!!!最高だぜ!」

そう言うと、ロジャー達は船の方へと向かった。

 

 

「オーロ・ジャクソン!!流石トムさんの船だ!スーパーな造りに最高のデザインだぜー!!!」

「そうだろ?ワッハハハハハハ!!」

船大工として成長したフランキーは久しく見るオーロ・ジャクソン号に興奮が隠せなかった。子供の時には分からなかった船の部分が今のフランキーには良く理解でき、自分の師匠であるトムの船大工としての実力に再び強い尊敬の念を抱いた。

「すげぇ船だ。とても20年も放置してたとは思えねぇ……。この木の造りに腐り防止用の技、それだけじゃねぇ!この船にあるものは、一つ取ったら全てが瓦解する程の考えられた部品配置……、とても丁寧で精密な船だ。まさに奇跡の船だ!整備するだけでも手が震えてきやがる…!」

先に船に入ったアイスバーグは、船の整備をするため一通り船を診ていた。20年経ったこの船のどれが欠けて、どれを修理すべきかといった様々な事を確認する為だ。しかし、心配するのも烏滸がましい程に船にこれといった損傷か見受けられない。それどころか新品と言っていいほどに綺麗だった。唯一、直すべき所があるとするなら帆の布や縄といった消耗品だった。

「アイスバーグ!どれ位でなおる?」

「これなら1週間もあればすぐだ!」

「そうか!なら、俺達は食糧、衣類、ベッドや食器やらを街から買ってくる。トムズワーカー、その船頼んだぞ!」

「あぁ!」

「俺達にスーパー任せとけっ!!」

街へと出ていったロジャーを送った2人は再び船へと視線を移す。船に体を向けた2人の体はプルプルと震えており、これからこの船の整備をする事を考えると興奮が抑えきれずにいた。そんな2人の昔のような景色をみて、ココロの目に少し涙が溜まっていた。

「さぁ、行くぞフランキー!」

「スーパーに楽しみだ!!」

その時、ココロは背を向けて船へと向かう2人の背中をトムが押してるように見えた。

「懐かしいらねぇ〜」

 

 

街のとある路地裏にて秘密裏に話しているシルクハットの男がいた。その男の用意周到さの性もあって周りに話しが漏れるような事は一切ない。

「こちら、ルッチ」

『何の用だ……。手短に話せ』

「この、ウォーターセブンに例の男がやってきた」

そうルッチが思い浮かべるのは、先日突如としてやってきた1人の男。CP9のスパイとしてウォーターセブンの船大工に偽装して潜入捜査を行っていたルッチだったが突如やってきたその男に、今迄のような表立った行動が起こせなかった。今迄なら少し派手な事をしようが長年積み重ねてきた信頼が今のルッチにはある。

『それは、本当か!?』

「カリファが直接見たので間違い無いでしょう」

しかし、ルッチが表立って行動が出来ない原因はやって来たその男にある。酒場で働いているルッチの仲間、ブルーノの正体がバレた件もルッチの耳にはまだ新しい。

『そうか……。なら間違っても、アイツには手を出すな!』

「もとより、そのつもりです。こちらにも任務がありますから…。それに、遠くから見ても分かる程に俺と奴の間の差は信じがたい程に広がっていますので……」

ブルーノの正体がバレた事で1度CP9でその男を暗殺しようと企んだ事があった。1度、尾行し奴をおってみるも隙などさらさらなく暗殺どころか気配を消すのでさえ大変だった。そして、奴を追っていく内に嫌でも奴との実力差をルッチは感じとっていた。潜入しているCP9の中で1番の実力をもつルッチだからこそ感じとれた事であり、直ぐに撤退という正しい判断が出来たのだ。

『お前にそこまで言わせられるか……』

「ブルーノの正体を知った奴がまた呑気にブルーノの酒場に行くような男だ。腹ただしい事この上ないが手を出すのは悪手の他でも無いからな」

『そうか。引き続き任務の方は頼んだぞ』

 

 

「おぉ!!これが海賊船オーロ・ジャクソン号!!」

「前までは帆がなかったからな。それに、今はロジャー海賊団の海賊旗もある」

そう興奮して声を出すのはサボだ。整備する前のオーロ・ジャクソン号には腐っていた帆の布や海賊旗がなかった。しかし、整備が終わり帆や縄、ロジャー海賊団の海賊旗が新しく張られると20年前に活躍したあの海賊船オーロ・ジャクソン号が再びこの現世へと姿を現した。

「お前ら、船のことありがとな!」

頭を下げて感謝するロジャーの返答にフランキーが変なポーズをとって応えた。

「良いってことよ!むしろ、こんなスーパーな船の手伝いが出来たんだ。お礼を言いたいのは俺の方さ!」

「そうか!」

船を褒められ素直に嬉しがるロジャーにアイスバーグが近づいてきた。

「これで、俺達の仕事は終わりだ」

「あぁ、ホントに助かった!それで、金の方なんだが……」

ロジャーがそう言うとレイリーが宝箱の様なものを持って此方へとやって来る。その中には海賊時代に貯めていたお金であり、前から船代の為に取っておいていたのだ。

「いらん。ココロさんとフランキーもそれでいいだろう?」

「あぁ、スーパーにいらん!」

「んがががっ!問題ないらねぇ」

「お前ら!!」

感極まって3人に抱きつこうとしたロジャーをアイスバーグが手をかざして止めようとしたが力の強いロジャーに適うはずもなく抱きつかれてしまった。顔は嫌そうにしながらも、その口元は緩んでいた。

「その代わり、俺からお願いがある」

「なんだ?」

「俺の分まで、世界政府の奴らをぶっ飛ばしてきて欲しい!」

それに対する答えをロジャーは既に持っていた。力強く言い放つロジャーの次の言葉を聞いてアイスバーグは心から笑った。

「ワッハハハハハハ!!任せろ!」

 

トムズワーカーと別れをすましたロジャー達は船へと乗り込んだ。久しぶりに踏み込むその足音は''プニッ''だった。そう、船の出口が海の底にある為、海底の水圧に耐えられるようレイリーがコーティングしてくれたのだ。船を囲むシャボン玉がだんだん大きくなると、船の先端にロジャーが立ち後ろの3人に声を張り上げる。

「野郎共!」

「「「……」」」

「イカリを上げろ!帆を張れ!出航だぁ〜!!行くぞ、マリージョア!!」

「「「おぉぉ!!!!」」」

ロジャー海賊団のドクロが書かれた船が今、世界をぶち壊しに出航する!まさに、政府にとっての大後悔時代!




高い評価や感想の数々、本当にありがとうございます。いよいよですね、ロジャー達がマリージョアで暴れるのは!


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第15話

クオレマ島、通称''死の島''。偉大なる航路(グランドライン)前半に存在するその島は、海賊の中で降りてはならないと忌避される程に危険を持つ。島を囲む暗い雲は人の正気を奪い、精神を破壊させる効果を持つ。現在その危険な島にて、伝説のロジャー海賊団の元船員(クルー)達が集まろうとしていた。

「ふむ、うらが最初のようだな」

浜辺に降り立った影の薄い男は辺りを見渡し、そう口にする。船が無いのを確認し最初にやってきたのが自分であると分かったその男は、まだ来ていないであろうかつての仲間に勝ち誇ったようなニンマリ顔を浮かべた。しかし、それは上から落ちてくる人物によって直ぐに否定される事になる。

「ギャハハ!!残念だったなぁー!お前は6人目だぞ、ユーイ!」

「な、なんだと……!!」

笑ってユーイを馬鹿にするのは元ロジャー海賊団船員(クルー)が1人、ロジャー海賊団斥候'' デビルハンター・ドリンゴ ''。13億ベリーという懸賞金が掛けられ、頭に巻くバンダナと背中から生えているコウモリの翼が特徴のお調子者である。ドリンゴはかつて世界政府によって滅ぼされた種族、コウモリ人族の末裔であり、さまよっていたドリンゴを面白がったロジャーが仲間にしたのだ。

「ムフォッフォッフォ!ちなみに1番は私であーる!」

「分かったから!もうお前が1番なのは分かったから!」

ユーイが1番ではないことにガッカリしてその場で打ちひしがれてるいると、浜辺のすぐ近くに太い真っ黒な血管のようにうねり生える木から、これまた騒がしい声がユーイの耳へと届く。特徴ある笑い方に貴族のような服装をした男こそ、ロジャー海賊団狙撃手'' 死のキューピッド・ピータームー ''である。懸賞金13億8千万ベリーがかけられているピータームーは、自尊心が高くなんでも1番を好む性格でどんな事でも1番になる為の努力を惜しまない。しかし、そんな1番に固執するピータームーだが、自身の船長であるロジャーに対しては別である。ロジャーを誰よりも信頼し尊敬しているからこそ彼はロジャーを1番にする事に、躊躇いや自身のプライドなどもかなぐり捨てている。強い忠義の持ち主である。

「よぉ!ユーイも来たか!」

そんな、ピータームーの隣でうんざりしながら歩いて来るのは、大きな身体に似合わない苦労人の気配を感じさせるロジャー海賊団仲介人'' <質問者>・ミュグレン大佐 ''である。老いてなお、その体に宿る筋肉は衰えを見せず現役の時のようにパンパンに膨れ上がっている。彼が岩を握ろうものなら覇気を纏わずして簡単に砕け散る。そんな常人離れの怪力を持つ男だが、世間からはロジャー海賊団きっての苦労人と呼ばれていた。しかし、苦労人と呼ばれているだけでその実力はロジャー海賊団でも上の方である。そのせいか、苦労人である彼に関わらずかけられている懸賞金18億1千万ベリーという破格の額である。

「でも、こうやってまた皆と会えるなんて嬉しいねぇ〜」

そう言ってのけるのは、いつの間にか浜辺で日光浴に勤しんでいた2人のうちの1人だった。小柄な彼は、ロジャー海賊団知将'' 凍てつく支配者・エリオ ''という策略家である。馬鹿ばかりをするロジャー海賊団がまともに海を航海できたのは彼のお陰といっても過言ではない。彼の頭脳と緻密に練られた作戦を行えばどんな人物であろうと成し遂げられると、海軍きっての知将センゴクに言わせる程、彼の頭脳に適う策略家はこの世にいない。ちなみに、懸賞金の額は集められた6人のうち最も高い20億ベリーである。

「そうダスなぁ〜」

特徴ある語尾で同調してきたのは、隣でサングラスをかけ一緒に日光浴に勤しんでいた、ロジャー海賊団槍使い(スピアラー)'' 海血刺し・魚人サンベル ''である。懸賞金10億ベリーをかけられる彼は、自身の異名に似ても似つかない程に朗らかな性格の持ち主である。誰にでも優しく気遣いのできる彼はロジャー海賊団の癒しでもある。そんな個性がありすぎる彼等はエリオとサンベルの近くに行くと同じようにサングラスをかけ日光浴にいそしんだ。コイツらは、雲が出ていて太陽の光が指して来なかろうが関係なしだ。現に、雲行き怪しくなり雨が降り始めても変わらず日光浴を楽しんでいる。老人だという事に自覚が無いのだろうか⋯⋯

「なぁ、エリオ」

「どうしたんだい、ドリンゴ」

「ギャバンから送られてきたあの手紙ってなんだったんだろうなぁ〜」

それは、ドリンゴだけに関わらずエリオを除いた4人も気になる事だった。困った事があればエリオに聞くのが1番と言われているエリオにドリンゴが聞くと他の人も耳を傾けた。

「私もそこが気になってね。この半年間、調べてみたよ。そしたら、驚くべき事に気づいてね!いやー、知った時は喜びすぎてはしゃぎ回ってしまったよ」

そう言って語るエリオは目を輝かせていた。傍目からでも分かるほどに喜びを表しているエリオに皆が続きの言葉をゴクリとして待っていた。一刻も早く聞きたいのだ。自分達が何故こんな所に集められ、マリージョアに行くのかを⋯⋯

「もったいぶってねぇで教えろよ」

「まだ、言わないよ〜。楽しみはとっておかなきゃね」

雨に打たれニヤニヤしているジジイほど気持ちの悪いものは無い。ドリンゴがエリオに馬乗りになってキャメルクラッチを決めようとするもエリオは笑うだけだった。ちなみに、周りにいたメンバーはドリンゴにやれやれ!と笑って言葉を飛ばしエリオを心配するものはいなかった。

「聞かせろよー!!」

「ははははは!ちなみに、何故呼ばれたのかは直ぐに分かるよ」

「何故分かるのかね?」

聞いてきたピータームーの問いにエリオは目線を視界の悪くなってきた海へと向けた。雨が降り荒れ狂う海に皆も同じように遠くに映る景色へと目を向ける。

「ほら、あそこを見てみなよ」

エリオが指を指し、見えてきたのは大きな影だった。船の形をした影に皆が?を浮かべ静かに臨戦態勢に移る。しかし、それに対しエリオは尚も無反応だった。

「「「「「……船?」」」」」

「おーい!みんなぁ〜〜!!!!」

遠くにいてあまり聞こえてこなかったが、こちらを知っている様な声が6人へと届けられる。だんだんと近づいて来る影の正体に6人は目から目ん玉が飛び出して驚き、オーバーリアクションを行った。

「「「「「「オーロ・ジャクソン号ッ!?!?」」」」」」

「これは、私にも想像つかなかったねぇ〜」

流石に見えてくる影がオーロ・ジャクソン号だとはエリオも思いつかず同じように笑って驚いていた。荒れ狂う海の中近づき、浜辺へと船の錨をおろしてきたオーロ・ジャクソン号に皆が警戒を解かない中、船から全員の見覚えのある人物が勢いよく降りてきた。エリオは予想が当たったかのように嬉しそうにその人物へと駆け寄ると、他の皆もキョトンとした目を浮かべた後、舞った砂埃が消えその影の正体を知ると、涙をたらし年甲斐も無くその人物、ロジャーへと抱きついた。

「元気にしてたか、おめぇら!」

「「「「「⋯⋯」」」」」

抱きついたにも関わらず、確証が欲しかった5人はエリオをウズウズとした目で見る。それにエリオは、仕方ないなぁ〜とでも言うかのように皆の期待していた言葉を言い放った。

「元気にしてたよ、ロジャー船長」

「「「「「おぉー!!!!!!!」」」」」

 

 

「お前がドラゴンの言ってたモーリーか」

ウォーターセブンの出航から幾許かの月日を経て、ロジャーの船には革命軍''西軍''軍隊長モーリーが乗っていた。マリージョア突撃までの時間が間近に迫っているためである。オーロ・ジャクソン号を囲うのは革命軍の船でありロジャー達と一緒にマリージョアへ突撃する人員達である。その中には、別れたはずのコアラやハックがモーリーと共に船に乗ってきてサボを大いに驚かせた。

「なんで、来たんだ!」

「サボくんが行くって言うからね。部下である私達が行かない訳には行かないよ」

サボが幾ら、帰るようにと催促しようがコアラとハックは耳をかさず無視を決め込んでいた。強情なコアラとハックにサボがごうを煮やして怒鳴ろうとするもそれを図っていたかのようにドラゴンからの電伝虫で許可をもらっていた。それもサボの前である。

「正気ですか?ドラゴンさん!」

「もう1つの作戦も絡んでるんだ。それに、ロジャーとの取り決めで戦うような事にはならないから安心しろ」

「⋯⋯わ、わかりました」

「一杯食わされたな!ワッハハハハハ!!」

「みたいですね⋯⋯」

恨めしそうな目でコアラとハックを見るとプイッと視線を避けてくる。上司が我儘なら部下もまた上司に似るのも組織ならではかもしれない。

「とりあえず、革命軍の人数は揃ったな!」

「はい!作戦はどうするおつもりですか?」

3隻の船を見渡したロジャーにコアラがマリージョア突撃の作戦を聞くとロジャーはコテンと傾ける。

「えっ?」

嘘でしょ?と顔が青くなっていくコアラを安心させるかのようにギャバンが肩を優しくたたいた。

「安心しな。そういうのが得意な奴がもうすぐこの船に乗ってくる」

「おい、ギャバン!それってまさか!」

今にもウズウズして興奮が止まらないロジャーにギャバンが親指を立てて肯定を示した。

「さてと、その為にも私は少し用意をしなくてはな。ロジャー!少し船を空ける。早くアイツらを連れて戻ってこい!」

そうレイリーは言うと、オーロ・ジャクソン号から革命軍の船へと降りた。マリージョアまでの道のり、海軍本部マリンフォードを避けるためコーティングする為だ。此度の騒動の最初の作戦として侵入も撤退するときも赤い土の大陸(レッドライン)の壁中を通り海中に忍ばせてあるコーティング船へと乗船する。表には船を一切出さず忍べるように、また海軍達に船を取り押さえられないようにする算段である。

「任せとけ」

そいういとロジャーは、ギャバン、サボ、モーリーを連れてクオレマ島へと向かった。

 

 

「おいおい!なんだよ!なんで、ロジャー船長が若返って生き返ってんだよ!」

涙を流しながら、嬉しそうに強く言い放つドリンゴにロジャーは嬉しそうに頓珍漢な事を言い放った。

「天国の神に嫌われたからだ!」

キョトンとした顔をした後、彼等は吹き出して大笑いした。皆が思ってる事は一つである。船の上から聞いていたギャバンも6人と同じ気持ちである。

「「「「「「アッハハハハハハ!」」」」」」

「「船長は」」

エリオとサンベルが

「「天国じゃなくて」」

ピータームーとミュグレン大佐が

「「地獄な!」」

ドリンゴとユーイが笑ってロジャーに言葉を返す。ロジャーに指を指して砂浜に笑い転げる6人にロジャーの目は点となる。

「⋯⋯なんだと、てめぇら!!」

剣を浜へ投げ捨て暴力に走ろうとするロジャーに呼応するかのように拳を構えた6人はニヤつきながら向かってくるロジャーへと走る。この悪ノリが皆、楽しくて懐かしくて⋯⋯、誰もが笑顔だった。残忍な顔でなければ尚更⋯⋯

 

 

「なるほどねぇ。それで私に作戦を立てろってことかな?」

あちこちに怪我を負ったロジャー海賊団の面々はオーロ・ジャクソン号へと乗り、円形に座っていた。これ迄の経緯をギャバンが説明し、革命軍と協力をとったとロジャーが言ったところで事の成り行きを察したエリオが口をはさんだ。

「話が早くて助かる」

「じゃあ、この金髪君は革命軍って事かな?あと、聞きたいんだが革命軍は此度の作戦にどれだけの人員を出せるのかな?」

サボを見ながら値踏みするエリオの目は鋭かった。エリオには人には無い能力がある。それは見た人の能力値を正確な数値まで読み取れる。長年培った経験により得た能力であり、ロジャーやレイリーが持つ当て勘とは別の絶対的推察をその目に宿している。

「革命軍参謀総長'' サボ ''です。よろしくお願いします!」

「よろしく頼むよ」

「革命軍でマリージョアに直接出せるのは1人だけです。革命軍西軍軍隊長モーリーさんって人です。」

「そうか。それ以外は奴隷解放の為に船で待機って所かな?」

「⋯⋯はい。まだ何も言ってないのに⋯⋯」

そう、今回のマリージョア侵攻の革命軍最大の目的として暴れるロジャー海賊団に注目を集めさせる事で天竜人に捕まっている奴隷を革命軍が極秘に解放する事なのだ。これはロジャーが最初にドラゴンに頼まれた事である。元々、目的の天竜人に会うこと以外に暴れる事も予定に入ってるロジャーとしては注目を集めるなど朝飯前なのだ。

「それ位分かるさ。ならば、チームを分けるとしよう。それと、一様聞いておきたいのだが、君はマリージョアに行って暴れるつもりはあるかい?」

「最初からそのつもりです!」

「そうか!それは良かったよ。じゃあ、4つのチームに分けるとしようか。第壱団はロジャー船長、サボ君、ピータームーの3人。第弐団にレイリー副船長、ドリンゴ、サンベルが。第参団をギャバンさん、ミュグレン大佐、モーリー君に任せるとしよう。」

「任せろ!」

「ムフォッフォッフォ、久しぶりですなロジャー船長とするのは」

皆が皆、伝えられたメンバーと闘志を燃やしていると呼ばれなかったユーイがエリオに自分を指さして悲しい目で見る。元々、影が薄い自覚がユーイにはあるがせめて、どれかのチームに入れて欲しいと思っている。ユーイだって暴れたいのだ⋯⋯

「⋯⋯うらは?」

「私達、第肆団は残った革命軍と共に奴隷の確保とその護衛さ。それに第肆団はこの作戦の頭と言ってもいい。ユーイ、君には期待しているからね!」

第肆団はこの作戦の要と言っても差し支えない程に重要な役割を担っている。革命軍の最大目的の奴隷解放は第肆団の頑張りにかかっていて、解放された奴隷の護衛にユーイが、全ての指揮をとるエリオが第肆団の中核を担う事でその目的の成功率は大幅に上がる。

「フッ、うらに任せろ!」

「そうかそうか!では、後は革命軍と合流してから話すとしよう。私もまだ作戦が練りきれてないからね」




感想、評価ありがとうございます


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第16話

時刻は太陽が真上の位置に昇った頃、赤い土の大陸(レッドライン)付近の海中にて、およそ5隻のコーティング船が壁に船繋りされていた。壁に錨を差し、海流に流される事の無いようしっかりと固定されている船は安全且つ逃げるのに最適な位置だ。また、壁に差さっている錨は特注品で出来ており、大きな鉄のトンネルの様な形をしている。錨の中の空洞を通れば船から直接赤い土の大陸(レッドライン)の壁中へと行けるようになっていて、これは革命軍西軍軍隊長モーリーの能力を用いた事でなし得た事だ。海を泳ぐことなく、トンネルを通り船へと直接走って行けるように工夫された造りは解放される奴隷達に大いに役立ち、時間の大幅な短縮となる。

「じゃあ、作戦を見直すよ」

縦に掘り進められた赤い土の大陸(レッドライン)の中部地点にてロジャー達は、マリージョア進撃の最終確認を行っていた。中部地点に設けられたそこは、革命軍幹部のイワンコフが侵入している世界一の海底大監獄インペルダウンのレベル5.5フロアと似たような造りになっており、大きなスペースとなっている。

「大まかな指示は、この場所から随時伝えるから各自配られた電伝虫には気を配るようにね」

エリオがそう言うと円卓のテーブルに大きな地図を出した。それは、マリージョアの地図である。本来、海賊や革命軍がマリージョアの地図を手に入れようとしても簡単に手に入れることはそう簡単じゃない。ましてや、今広げられた地図は細かな裏路地や抜け道など抜かりなく描写されている。

「これを、一体どこで⋯⋯」

「秘密さ」

目を見張るサボ達にエリオがお茶目な反応を返し、円卓を囲うメンバー達に視線を一巡すると、エリオの纏う雰囲気が一転する。

「では、これから最終確認を行う。これから我々は世界に攻撃を仕掛ける。皆、準備できてるかな?」

皆が静かにエリオを見る。その視線には不安な気持ちが大部分を占めていた。しかし、ロジャー海賊団の面々や革命軍の幹部達は違った。興奮する者もいれば武器を手に持つ者もいた。ただ、皆の抱える思いはひとつ⋯⋯

「出来ているようだね。では、ロジャー船長」

皆の真剣な視線がロジャーへと移る。ニヤリと笑った後、ロジャーは覇王色の覇気を出しながら皆に暴れる許可を出す。

「あぁ!てめぇら、思う存分暴れて来い!」

先頭を歩くロジャーを筆頭に各々が武器を手に持ちマリージョアへ歩き出す。革命軍悲願の為の先手が今、マリージョアへ打たれる!世界政府をぶち壊し、世界を変えようとする革命軍と虚の玉座を守り世界政府中心とする世界意志との戦いの火蓋が切って下ろされる。

 

 

━━序幕<混乱>

闇夜ではなく、あえて昼に侵入したロジャー達は3つのチームに別れて行動を開始した。それぞれ、地図に記された裏路地を使い、最短で3つのポイントへと向かう。地図にて記されたそのポイント点とはマリージョアの中心部分に建造されているパンゲア城を中心として、正三角形に取り囲んだ頂点である。

「こちら、サボ。目的のポイントへ着きました」

エリオが推測するマリージョアの手薄な警備網を掻い潜り、見回りをする海兵や世界政府の警備が薄いその場所へとロジャー達はたどり着く。その間、昼間な事もあり天竜人が奴隷に跨ったり、公衆の面前で奴隷をいたぶるといった好き勝手をしていた事がロジャー達の隠密行動に拍車をかけた。

『では、始めるとしようか!船長、ピータームー準備を!』

「出来てる!」

「任せなさい!」

『よし、聞けみんな!これから船長達がマリージョアを混乱の渦へと変える!第弐、第参団の人達用意を!』

『『さぁ、やろうか⋯』』

「いくぞ⋯⋯」

ロジャーは、腰にさしてある剣''エース''を抜き放ち、両手にて構える。全身から溢れ出る覇王と武装色の覇気を剣に込めると、パンゲア城のある一点を狙う。黒と紫の紫電がロジャーの周りに鳴り響き、強い暴風がロジャーの周りを囲む。あまりの風圧と圧力にサボは吹き飛ばされないよう、踏ん張る事に全力で力を注いだ。

 

「派手に吹きとべッ!神木脈(クグノチ)!!

 

木の脈の様にうねり広がる紫色の斬撃はただある一点とその周りを巻き込んでぶつかる。ロジャーが狙うは、パンゲア城の城壁の核の部分。その核を壊す事でパンゲア城の壁は綺麗に崩壊するだろう。

「たった、一撃でッ!!ここまで⋯⋯」

鍛錬をつけてくれた時のロジャーとは違う。初めてみるロジャーの全力の斬撃はパンゲア城の城壁を全て壊す事に成功した。壁の核を壊す事はもちろんだが、核にぶつかった斬撃は木の脈のようにうねり広がっていき瞬く間に壁全部を壊す事に成功した。

『す、すごい⋯⋯』

『け、桁違いッ!』

『人間業じゃ、ない⋯⋯』

『おれ、ロジャーさん達と仲間で良かった⋯⋯』

電伝虫越しから革命軍達の伝わる絶句した声にロジャーはしたり顔をした。ロジャーは褒められたと思っている。それは半分正解であり、半分間違いである。ロジャーの全力の攻撃を見た革命軍達の面持ちは''引いた''が正解である。とても、人間とは思えないその実力に恐怖する者やその実力者が仲間だという事に安堵している者もいる。中には、これからロジャーと相対するであろう海兵やCP達に憐れみを送るものまで出る始末。マリージョアにいる海兵達を混乱させるつもりで放った攻撃は

、その威力に味方さえも少しの混乱を招く事態となった⋯⋯

『ほらほらー!ぼっとしてないで皆も直ぐに取り掛かれ〜!もう作戦の第1段階は成功してるんだよ!』

ロジャーの攻撃に少なからず混乱した味方に安心を与える声音でエリオが指示をだすと、呆けていた人達が正気に戻る。

『混乱してる今がチャンスだ!』

今、マリージョアは突如おとずれたパンゲア城の城壁崩壊によって混乱の渦にいた。中心に建造されている故に、ドゴンと崩れる重圧のある重低音と目に見えて崩壊していく城壁に、外に出ていた天竜人や家の中で寛いでいた天竜人達を一瞬で混乱させるに至った。天竜人故に他人に攻撃される、ましてやその住処であるマリージョアが攻撃されるなど思ってもみない事である。鳴り響くサイレンの音、海兵やCP達が忙しなく動き、そこには上官が統制を取れないほどに天竜人の奴隷含め、カオスな事態となっていた。

『第弐団のレイリー副船長は、そのまま目的の天竜人の捜索を頼みました』

『了解したよ、エリオ』

『第参団のギャバンさんは、革命軍の人達と一緒に奴隷解放を!』

『あぁ。予定通り進める』

『第壱団のロジャー船長は、自由にやって下さい』

「流石エリオ!分かってんじゃねぇか!」

 

━━第1段階<成功>

 

 

パンゲア城の広間にて、世界政府の中心と言われる五老星達が突如やってきた襲撃者の対策会議を開いていた。五老星の他に海兵の上官である海軍中将や世界政府の守り人のCPもいる。

「襲撃者は誰だ?」

「ロジャー一味だと思われます!」

分かりやすく頭を抱える五老星にその場に集まっていた海軍中将達の1人の内の男は憐れむ目で見ていた。正直、海軍という職に就き天竜人の悪行を見てきた彼からするとこの出来事はストレス発散になっていた。自分の正義を貫く彼はどうしても天竜人の悪行が正当化される日々に納得が行かなかった。

「現在の状況は?」

「大まかに3つの場所にてロジャー一味が暴れ回っております」

「ふむ。ロジャー一味の誰がそれを取り仕切ってる?」

誰が作戦を仕切っているのか、五老星達の心の内はこれでいっぱいだった。暴力だけに走るロジャーならば頭を使い、食い止める事も出来なくはないが、ここに知性が入るのではこの襲撃を抑えるのは容易じゃなくなる。

「ハッ!海賊王のロジャー、ロジャーの両腕レイリー、ギャバンを確認しました!」

「それだけではありません!革命軍参謀総長の男もロジャーと一緒にいる所を目撃した部下がいました。奴らは革命軍と手を組んでいます⋯⋯」

ここで予想外の人物に五老星達は目を見開いた。いつかやってくるであろう革命軍に五老星は気を配ってはいた。しかし、まさかこんな早く来るとは考えもせず、それに加えて海賊の、それもロジャーと手を組んでいた事に五老星の1人は腰が抜けていた。

「革命軍だと!?」

「それに⋯⋯」

「それに⋯⋯?なんだ、早く言え」

「ロジャー海賊団解散と共に消息を絶っていたロジャー一味の精鋭達を4人ほど目撃したと⋯⋯」

「誰だ」

「斥候のドリンゴ、狙撃手ピータームー、仲介人ミュグレン大佐、槍使い(スピアラー)の魚人サンベルの4人が確認されました」

「ふむ、奴は居ないようで安心した」

奴とは、ロジャー海賊団一の頭脳派であるエリオの事だ。エリオにはロジャーと同じ位の苦渋を飲まされた。奴の危険度はロジャーやロジャー海賊団両腕のレイリーとギャバンに匹敵する程だ。

「ならば、至急海軍本部マリンフォードの海兵をマリージョアに集めさせろとセンゴクに伝えろ」

「ロジャーの進撃にマリージョア駐在の海兵だけじゃ正直いって話にならん!」

「ハッ!了解致しました!」

「それまではお前達中将が何とか食い止めろ!こちらから兵は出すつもりだ」

そう言って出てきたのは集まってきた中将達の中でも一際大きな体を持つ男。仕込み刀を携えた藤色の着流しに下駄を履き、和装の上に海軍コートを羽織っている。

「ならば、あっしに任せてもらいやす」

「おいおい!お前だけじゃねえんだぜぇ〜海軍ってのはよぉ!ここは俺に任せて下さい。俺はロジャーを食い止めて赤犬さんに褒めてもらうんだ!」

ズシズシの実の能力をもち、自身の正義を貫く任侠のような慇懃無礼な口調で話す大男、名を藤虎。中将でありながら大将にも劣らぬ実力を持ち、海賊にさえも仁義を通す男だ。そんな藤虎に負けじと出てきたのは胸に書かれた'死川心中'の文字が目立つ、たらこ唇の軽い口調で話す男。藤虎と同じ位の強さを持つ、モリモリの実の能力者である。海軍大将の赤犬を心底心酔しており、海軍の中でも自由人な人物である。

「全員、全員でかかれ!」

 

 

「直ぐに兵を集めて、マリージョアへ向かう!今いる大将にもこの事態を伝えて呼んでこい。あと、胃薬も頼む⋯⋯」

海軍本部マリンフォードの元帥室にて、てきぱきと指示をだすこの男は海軍元帥センゴクである。急遽、情報部から知らされる伝令にセンゴクは頭が痛くてしょうがなかった。

「この半年間、何をやっていたかと思えば!ロジャーの奴め⋯⋯、こんな大それた事をしよって!」

「そこで弱音ばっか吐いてないでシャキっとせんか!」

「分かってるよ、おつるちゃん。それで、今マリンフォードに居る大将共に連絡はしたか?」

指示を受け、息を切らしながら元帥室に戻ってきた海兵にセンゴクが確認をとる。ちなみに、その海兵の腕にはしっかりと胃薬が握られており、速やかにセンゴクの手へと渡った。

「ハッ!現在、任務を終えたばかりの黄猿(ボルサリーノ)大将と赤犬(サカズキ)大将が直ぐに動けると連絡を受けました!」

「そうか⋯⋯。なら、直ぐにソイツらの部隊をマリージョアへ行かせろ!あとは⋯⋯」

「失礼ですがセンゴク元帥!」

「なんだ⋯⋯」

「マリージョアに出たのがロジャーなら、ガープ中将を呼ばない手はないかと!」

若い海兵にも知れ渡る程にガープの英雄伝説は海軍に浸透している。その英雄伝説の中でも、ガープといえば長年ロジャーを追ってきた最強の海兵であり、''ロジャーに太刀打ちできる唯一の海兵''というのが全海兵の共通認識である。若い海兵も例外ではなく、何故ガープ中将を呼ばないのかが不思議でならなかった。

「それは、無理だよ」

「何故ですか、つる中将!」

「ガープの奴は天竜人を嫌ってるからじゃ。それだけで行く理由は消える」

「それに、彼奴の行方は不明だ。あのバカを呼ぼうと思うても、呼ぶ手段が存在しない」

「そう、ですか⋯⋯」

ガープが居ないのが心許ないのか、元帥室に来ていた若い海兵はガープが来ない事に不安を感じていた。別に大将の実力を信じていないわけでない。ただ、それ以上にロジャーという大海賊に恐れを抱いているのだ。何故なら、この海兵は大将青雉(クザン)と共にロジャーと1度、応戦した事のある海兵だったからだ。そんな不安を感じていると、突如元帥室の扉が開かれる。

「面白い話を聞いた⋯⋯」

「お、お前は!鷹の目ッ!?」

 

 

「おいおい、いきなりなんだってんだッ!?」

マリージョアの離れで、生まれてからずっと世界政府に監視をされ続けられた1人の女の子がいた。桃色の髪に丸い帽子を被り、身に合わないダボッとした服を着ている小さい女の子。その子が今、厳重な監視を逃れマリージョアから脱出しようとしていた。それは、その子が前から練っていた作戦であり慎重に脱出の機会を伺っていたのだ。昼頃の午後1時、それは警備兵達が昼食の為に、その女の子から目を離す時間が僅かにできる時間帯。

「今日は、絶好の脱出日和だってのに!何処のどいつだよ!俺の計画を邪魔した奴は!」

彼女は監視され続けられる生活に嫌気がさし、何時も見える広い海へと出たい欲があった。そして、その欲を満たすため小さい頃から練っていた作戦の決行日が今日であり、運が良くか悪くか、その決行日とロジャーのマリージョア進撃日が重なってしまったのだ。

「ん?あれは!」

そして、茂みから顔を出した彼女は見てしまう。マリージョアに駐在する海兵でも警備兵でも無い人達が、天竜人の家から奴隷を解放している姿を⋯⋯

「ラッキー!」

 

 

「ドリンゴいたか〜?」

マリージョアの上空を自身の翼を使い飛んでいるのはドリンゴである。第弐団チームがエリオから言い渡された、指令というのは奴隷解放の手伝いと襲ってくる海兵達の相手をするというものである。ただ、それはあくまで本作戦の副産物でしかなく、本当の目的というのは、とある天竜人を探すというものだ。それは、以前ロジャーが笑った天竜人の事である。

「なぁ、副船長ー!探してる天竜人って毛むくじゃらで厳つい顔の奴であってるかー?」

「あってるぞー」

「ここより、数キロ西にそれらしき人物発見ー!」

「聞いたか、ロジャー」

『あぁ!直ぐに向かう!』

電伝虫でロジャーにドリンゴから伝えられた情報をロジャーへと伝えると、向こうからロジャーとは違う声が2つ聞こてくる。ドスの効いた声と能天気な声がレイリーの持つ電伝虫から響き渡る。

『あんたがロジャーでござんすね。みすみす、あっしが行かせるとでも?』

『らはは!俺も居るのを忘れんなぁ!』

『今度は強そうな奴らが来たな!ワッハっハハハ!!』

「⋯⋯早く、片付けておけよ」

レイリーは溜息でロジャーに言葉を返すとそのまま電伝虫をしまい、向かってくる海兵の相手をはじめる。ロジャーが楽しそうに戦っているのだ。なら、レイリー達も派手に暴れなければロジャー海賊団の名折れである。

『分かってるって!』




感想と評価本当にありがとうございます!筆者はそれが嬉しくて涙が出そうですよ、、、


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