異世界超加速   ~異世界と魔王と超加速~ (Ryuu65)
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第一章   異世界冒険者!
異世界と職業と冒険者


 俺の名前は加弥《かや 》政人《 まさと》。
ゲームやラノベが好きで健康な普通の高一の十六歳。
俺は今何故か、異世界にいます。
活気溢れる街の中です。
 街人の中には鎧や盾、武器を装備した人やエルフみたいな人、ましてや獣顔をした人までいるんです。
 俺は別に、そこら辺の小説にある記憶が無いだの伝説の武器だの勇者の末裔《まつえい 》でもない只の日本人です。
特にスポーツや部活をやっている訳でもなく引きこもっている訳でもない友達いない訳でもない純度百パーセントの人間です。
それが何故か寝て起きたら異世界に居ます。
 いや、異世界には憧れてましたよ?でも何か違くないですか?
まだ何の説明もチュートリアルも何の目的も言われてないんですが。
 ていうかそもそも異世界に来るやつって、一回死んだやつとか引きこもってるやつとか友達いないやつとか暗いやつとかでしょ?
俺、死んでません。寝てただけです。
俺、引きこもってません。皆勤賞《かいきんしょう 》ですよ?
俺、友達います。クラスの奴らと大体喋れます。
俺、暗くないです。どちらかと言えば明るい方ですよ?
 それなのに何故俺が異世界に?誰か説明して⁉



 ひとまずこの状況を受け入れた俺は、この異世界を楽しむべきか慌てふためくべきか悩んでんでいた。

 こっちにとっては日本が異世界なわけだし、いっそこの街の交番てきな所に行って異世界からきて迷子なんですとでも助けを求めようか………。

…いや、そんなこと俺が言われたらなめんな!とか、酔ってます?とか言って相手にしないな…止めておこう。

 あらゆるゲームやライトノベルを渡り歩いた俺は、この街の冒険者ギルド的な所を探すことにした。

とは言いつつも、ギルドがどこにあるかなんて知らないので近くいたお婆さんに訊《き》いてみることにした。

「すいません、この街の冒険者ギルド的な所ってどこですかね?」

「ギルドの場所なら、この先の角を曲がった先よ」

そんなに近くだったのか。

「ありがとうございました」

俺はお婆さんにお礼を言うとその場を後にした。

 ギルドについた俺は、さっそく冒険者として登録することに―――

「お前、見ない顔だな」

いきなり絡《から》まれた。

よくいる大柄で肩パットなどを付けた俺は戦士だと言わんばかりの男。

「あんたの防具終わってるな、その着てる意味のなさそうな防御力のない格好」

ここはなめられないように屁理屈《へりくつ 》と言い訳が得意な俺が先手を打つ。

これでも俺は今までで一度も口ゲンカで負けたこと無いんだぞ。

「へっ!面白いこと言うじゃねえか!気に入ったぜ‼」

………どこが? 

「冒険者ギルドにようこそ新入り!その様子じゃこの街の事分かんねえんだろ、俺が教えてやるぜ!戦士のバイエルだ。よろしくな!」

「マサトだ」

何が何だか分かんないけど…………ありがとうございます! 

 

 

「何だお前、この世界のことも分かんねえのか?記憶喪失《きおくそうしつ 》か?…まあいい、そこら辺は掘り起こさないでおこう」

記憶喪失はまあ良くない気がするが。

「いいか?この世界の脅威《きょうい》は二つだ。魔王と、竜王。まあ脅威になるモンスターはいっぱいいるが、こいつらは冒険者の最終目的だとも言える。魔王は七人の幹部を仕え、竜王軍の頭はエンペラードラゴンとシャドードラゴンの二体だ。こいつら両軍を倒せば、天から使者が来て、何でも願いを一つ叶えてくれるって話だ。ま、噂だし絶対無理だがな。世界の事は簡単に言うとこんなもんだ。街についてはそんなに言う事も無いが、国の名前はエテルネル国。この街の名前はプレロイ、駆け出し冒険者の街だ。こんなもんでいか?」

「ああ、十分だよ。ありがとう」

始まりの地が駆け出し冒険者の街はほっとしたけど、俺のストーリーの説明とかはないんすかね?

やっぱり魔王討伐なのかなあ…しかもこの世界じゃ二組もラスボスいんのか。

何でも願いを一つ……元の世界に帰せとかでもいいって事か。

「冒険者登録ならこの先だぜ」

俺はもう一度お礼を言いバイエルが指すギルドのカウンターに向かった。

「あの、冒険者になりたいんですけど………」

ギルドの職員であるお姉さんにそのことを聞くと。

「あ!新規登録の方ですね?かしこまりました、では冒険者について簡単に説明を」

そう言い職員は丁寧に話始める。

「冒険者とは人々に害を与えるモンスターなどを討伐する人の事ですが、それ以外の仕事もこなす何でも屋みたいなものです。レベルと言うものがあり、レベルを上げると手に入るスキルポイントと言うもので、魔法やスキルを習得することができます。簡単な説明はこのくらいですかね。ではさそっく、冒険者になるための手続きを済ませましょか。といってもこの石碑に触れるだけなんですけど」

 職員が指した先には、カウンターの隣に当たり前のように置いてある岩があった。

「これに触れるだけでいいのか」

そう言いながら俺はその石碑に触れた。

すると石碑はいきなり青白い光を放ち、すぐに石碑の横に不自然に空いていた穴から茶色く小さいカードが出てきた。

「これは冒険者カードと言い、ここには自分のステータスやレベルが記録されます。他にも、魔法やスキルの習得もここから出来るので、さすがに無いとは思いますが、なくさないようにお願いします。冒険者カードの再発行は出来ませんので。では早速、自分の技能・技術を活かした職業に就きましょうか」

「じゃあさっそくなんですが、俺におすすめの職業って何ですかね?」

そう聞くと職員は俺の冒険者カードを眺め……。

「カヤ…マサトさんですね。……ああ⁉ちょっとまっ……ええ⁉」

その反応は非常に不安なんだが………。

「あの、どうかしましたか?」

恐る恐る尋ねると。

「あなたのステータスなんなんですか⁉知力が少し高いだけでそれ以外は普通かと思っていましたが、あなたの敏捷性《びんしょうせい 》がバグっています!まさか人間に生まれるとは…。こんなのは見たことがありません!」

 なるほどな、俺が凄いって事か。

「…で、結局俺に合う職業って何ですかね?」

俺がもう一度尋ねると。

「えーっと…残念ながら敏捷性だけが高いと合う職業はありませんね……。自分に合わない職業に就くとステータスの成長を妨《さまた》げてしまうので……職業を聞かれたら冒険者と答えるのが……あ!でも、職業に就けなくても魔法やスキルの習得は可能なので…い、色々と頑張って下さい…」 

 職業なし⁉そこら辺のライトノベルですら最弱職に就けるぞ⁉

しかもその職業聴かれた時の答え方って、俺フリーターって言う職業ですって言ってるのと同じじゃない?

「せめて盗賊とか駄目なんですかね、敏捷力を活かせると思うんですが…」 

「確かに盗賊職は敏捷力を活かせますが残念ながら器用度が足りていないので…」 

俺が凄いって話は何処にいったのだろう。

 これはもう、出鼻をくじかれたというより、鼻を根こそぎとられたな……。

…まあでも、ここで止まってちゃしょうがない!

 一応冒険者になれたわけだし、この世界で人生やり直すにしても、元の世界に戻るためにしても今俺はここにいるわけだし、この世界で生きていくしかないって事か。

「じゃあさっそくクエストだな!」

そう言い俺はクエストが貼ってある掲示板に向かった。

 




はじめましてRyuu65です!
まず始めに、感謝と謝罪をさせていただきます。
感謝は、私の小説読んでくれてありがとうございますということです。
【異世界超加速】は、自分が一番気に入っている物語です。
謝罪は、この小説が「なんかあの小説と展開とか似てる」と思われるかたが多いことです。
一応反省はしていますが、実は異世界係の小説は一種類しか(完結して)読んだこと無いんです。(第二章までを書き終えたときは)
「そんなら書くな!」とは言わずに目をつぶっていただけると幸いです。
話が進むにつれ、()()展開が似てるなど思われない内容にしますので、どうかまだまだお付き合い下さい。
 それでは、こんな日陰小説を見つけ、読んで下さった皆様に、
笑顔と感謝とドキドキを!


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異世界とお金とニート

 クエストをやると言ったものの、ロクなクエストが無い上にそもそも武器が無い。金が無いから武器買えない。武器買えないからクエスト出来ない。クエスト出来ないから金が無い。金が無いから武器買えない。武器買えないから…………無限ループ。

ムリゲー…………。

 ちなみにこの世界は一円=一ベクタらしい。

「はぁ、千ベクタでいいから欲しい」

俺がそんなため息を吐きながらギルドの職場のテーブルに突っ伏しっていると…。

「どうした?スピード、そんなため息なんて吐いて」

バイエルが来た。 

「おい、何だよそのスピードって俺はお前に名前言ったはずだぞ」

するとバイエルはヘッと笑い。

「お前さん、噂になってるぜ。職業無しのニートスピーダーってな」

「ニートじゃないから!俺に就ける職業が無かっただけだから!」

誰だよ、そんなひろめたの。しかも俺は働こうとしてない訳じゃないし。

「まあそう興奮すんなって。どうしたんだよため息なんて吐いて」

悩みを聞いてくれるらしいが聞いてくれるだけじゃ何も解決しない。

まあ言うけど。

「………金が無いから武器買えない。武器買えないからクエスト出来ない。クエスト出来ないから金が無い。金が無いから武器買えない。武器買えないからクエスト出来ない。クエスト出来ないから金が無い。金が無いから武器買えない」

「わ、分かった!もういいよ…ループにはまったってわけか。お!じゃあ俺のお古の斧でも使うか?安物だしあげるけど」

「本当かっ‼」

もうこのさい、何でもいいから武器が欲しい。

「重くて持ち上がらないんだけど……」

バイエルのお古を装備してみたのだが重くて持ち上がらない。

「お前、その斧持ち上げられないのか?いったいどんな筋力値なんだよ。ちょっとカード見せてくれ」

そう言われたので素直に冒険者カードをバイエルに貸す。

「お、おいマサト!この筋力値じゃ斧どころか強めの片手剣すら持てねえぞ!」

………は⁉

「いやいや、さすがにそこまでじゃないだろ」

強めの片手剣すら持てないのはまずい。

マジでまずい。

「お前さんは敏捷性がずば抜けて高いから、軽い武器しか持てないってことか…。とするとお前さんが持てるのはダガーかナイフ、あとは普通の安物片手剣ぐらいだな。……ま、まあすばやさを活《い》かすんだからどっちにしろ持つ武器はダガー位だ。残念だが、色々と頑張れ……」

それ、職員のお姉さんも同じこと言ってたんですけど…。

追い打ちを喰らい俺がひどく落ち込んでいると…。

「まあそんな落ち込んでんなよ、いいニュースがある。この冒険者ギルドの端の方でスピード勝負がされてる。勝った方が自分と相手が賭けた金を両方もらえる。お前さんには最強に有利な勝負じゃないか?」

つまりかけっこ勝負か。そんなので稼げたら苦労しないがどっちにしろ今の状況はどん底ぬかるみだ。ダメで元々やってみるか。

「良い事を聞いたよ。もし俺が買ったら情報料として四分の一やるよ」

「おっ!気前がいいな」

「お前には色々教えてもらったからな」

そう言い俺とバイエルはギルドの端のスピード対決場に向かった。

 ギルドの端の方には確かに冒険者の人だかりがあり、凄く盛り上がっていた。

その中でも、バイエルより二回りも大きい男が人だかりの中心で叫んでいた。

「俺より速い奴はいねえのかあああああ‼」

「「「「うおおおおお‼」」」」

その大男の一言で、周りの冒険者は何倍も盛り上がった。

「アイツが今一番速い奴か…」

「ああ、アイツははこの街で一番速く、今ので百連勝した。その名も、〔疾風ボーグ〕だ」

疾風ボーグ……速いから疾風を使うのは分かる。でもボーグって?確かにあの見た目はボーグ感あふれるが…。

「で?お前さんはアイツと走んのか?あの百勝無敗の疾風ボーグに」

「ああ、金がないしやるしかないだろ」

「そうか…なら、ほらよ!」

そう言ってバイエルは俺に千ベクタを渡してきた。

「何だよこれ」

いきなり理由もなしに金を渡されるのは初めてなんですが……。

「儲ける勝負には掛け金が必要に決まってんだろ」

……お前、本当に良い奴だな。

「本当に何から何まで悪いな」

「へっ、どうせこの後賞金の四分の一もらうんだ、そんなはした金くらいやるよ」

俺が勝つ気でいるのか…。これは負けられないな。

「誰か俺に挑戦するやつァいねえのか?勝ったら俺の今まで貯めた賞金の三十万ベクタはそいつのもんだぞ!!」

「俺がやろう」

そう言い俺は一歩前に出る。

すると周りの冒険者たちが……。

「おい!ありゃあニートスピーダーだぞ!」

「おいおい!見ものだぞ!ニートスピ―ダーと疾風ボーグの好カードだ!」

「ほんとだ!あのニートか‼」

 おい…ニートスピーダーいうな。

しかも最後の奴何つった、ただのニートじゃねーか。

「そうか!お前が次の敗者か!丁度いい!異名高いお前に勝てば百一勝目だ!!コースを長くして表でやろう!」

………お前で何勝目とかお決まりだな…。

 ギルドの外に出て俺達はスタート位置に立つ。

「金は…そうだな、そこのお前が持っておけ!そのまま逃げたらどうなるかわかってるな…」

指名されたのはバイエルだった。

「おう、やってやるよ」

それは俺が言うセリフだと思う。

俺と疾風ボーグはバイエルに金を預ける。

「なあ、勝ったらほんとに三十万くれるんだよな。よくあるお約束の負けたら死ねええとか言って襲ってきたりしねえよな」

「はっ!何だよそのお約束。男に二言はねえ、ただしお前は俺に勝てねえがな!」

 調子乗ってられんのも今の内だ。俺の取り柄は速さ()()なんだ。

ここで勝てなきゃ取り柄とは言えない。

「じゃあいくぞ!位置について…よーい……ドン‼」

「「‼」」

スタートはミスることなくダッシュできた。

こうなったら久しぶりに本気で走ってやる。

「三十万は…………」

 喋っていたボーグの声が聞こえなくなったので後ろを見るとボーグの姿がどんどん遠のいていった。

かけっこ勝負は俺の圧勝に終わった。 

 疾風ボーグは泣きながら帰っていき、冒険者の野次馬も最初はすごく盛り上がっていたものの、飽きたのか皆ギルドの中に戻って食事を始めた。

「まさかお前さんがあんなに速かったなんてな!まばたきしてるあいだだぜ!もうやっべえ‼」

興奮するバイエルの気持ちも分かる。なんせ俺の()()のとりえだもんな!

「まばたきしてる間は盛り過ぎだろ。じゃあ四分の一の約束だからな、七万五千ベクタやるよ」

そう言い俺はバイエルに金を渡す。

「お、おい、いくら四分の一とはいえこんなにもらえねえよ」

「良いって良いって、お前が情報と金をくれなきゃこの金はなかったんだから」

流石にここで、なら五千ベクタだけねとは言えるわけがない。

「そうか悪いな…。ところでお前さんこれからどうすんだ?」

「もう暗くなってきたし、金もあるから今日は宿屋で寝るとするよ」

金なしにありがちな馬小屋寝泊りにならなくてよかった…。

「じゃあなマサト」

「ああ、おやすみ」

ギルドでかるく夕食を済ませた俺は近くの宿を借り、深い眠りについた。



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異世界とスキルと悪夢の始まり

 「う…もう朝か…」

少しだけ目が覚めたがまだ眠い。

いつもなら早起きするとこだが今日は日曜日だ。学校に行かなくていいから遅くまで寝れ…………。

俺はすばやくガバッとお起き上がる。

学校とか日曜日とか考えてる場合じゃない……。

「そうだった……ここ、異世界だったっけ……」

まあだが異世界でも日曜日でもやる事は変わらない。

俺はもう一度横になり二度寝する。

何故異世界という状況なのに二度寝ができるのか…。別に図太い神経をしている訳じゃない。

そんなのは簡単だ。只々眠いから。

俺の二度寝を邪魔する奴は誰もいねーぜ!ひゃっほう‼

俺は天国の安らぎへと身を任せた。

 

                

 時刻は昼の十二時を少し回った頃。

俺は朝食という名の昼食をとり、金があるので昨日バイエルに教えてもらった武器屋に向かった。

「いらっしゃい!お?あんた初めてだね。この武器屋をどうぞごひいきに!」

やはり武器屋の店主はおっちゃんだった。

「あの、冒険者のすばやさ重視系の武器を探してるんですけど…」

「お!そうかい。ならダガーがおすすめだよ!」

そういやバイエルも同じ様な事言ってたな。

「そうですか。ならこの店にあるダガーを全部見せてくれませんか?」

「あいよ!」

 かけっこ勝負の賞金を少しバイエルにあげたからといってもまだ二十二万ベクタもある。

大金があるから無駄使いするって訳でもないが、武器をケチっても仕方ないだろう。するとおっちゃんは店のカウンターの上に六種類のダガーを置いた。

「左から、銅.鉄.鋼.魔法鉄.ミスリル.オリハルコンだ。右にいくほど高くなるからな」

どれもこれもRPGでよくある素材でできてるな。

「魔法鉄とミスリルの差って何ですか?」

「魔法鉄はそのまんま上級魔法使いが魔法をかけた鉄で、ミスリルは魔法鉄と違って元から自然に魔法がかかってるんだ。しかも魔法鉄より断然軽い」

なるほどな…まず鋼以下はないな、早めに強い武器を持っておきたいし。

オリハルコンは攻撃力は高いだろうがすばやさを活かしにくい。

ならもうミスリルで決まりだな。

魔法鉄よりも軽いから俺の速さも活かせるだろ。

「じゃあおっちゃん、このミスリルダガーで頼むよ!あとそこの服も!」

武器屋に服が売ってたのが驚きだがジャージのままじゃ流石にまずいだろ。

「まいどあり‼最近は高い装備を買ってくれる奴が居なくてね。服はおまけだ、タダにしてやんよ!十二万ベクタだ」

「ナイスおっちゃん!太っ腹!」

「俺は太ってねえ‼」

 ファンタジーでよくある片手剣を持てないのは残念だがこういうのもありだろう。

服も武器も手に入ったし、これでようやくクエストができる。

 情報通のルイってやつと仲良くなり、最初は戦闘に慣れるためスライム狩りが良いと聞いたのでそのクエストを受けたのだが、不安だからってバイエルもついてきた。

でもこいつらは、ただのスライムではなかった。

とても現実的なスライムだった。

 一応ザコモンスターではあるが、ある程度のスピードか威力が無いと倒せない。

それが無いとあのぶよぶよした体に物理攻撃は効かない。

手っ取り早く倒すなら魔法で倒すらしいが俺は魔法を覚えてない…が、ある程度以上のスピードがある。

「よ……し!これで二十匹目だ!」

「お前相変わらずはえーな。普通の奴はまだ半分程度だぞ」

「あいにく俺は普通じゃないんでね…おっ!レベルが五になった!」

やはり初心者ほどレベルは上がりやすいらしい。

「レベル五か、ならそろそろスキルくらいは習得できんじゃねえのか?魔法はポイント高いからまだ無理だが」

スキルか…。

俺は自分の冒険者カードを取り出し習得できるスキルを確認する。

俺のスキルポイントは四。習得できるスキルは…。

「千里眼とカウンターと洞察ってのがある」

「うーん…どれも初期スキルだな。ここはスキルポイント貯めといた方がいいんじゃねえか?」

……初期スキルか。

だいたいこういうのが強かったりするんだよな。

俺はスキルの説明覧を見る。

 

『千里眼』二ポイント・・・遠くを見ることができ、相手が装備している武器や装飾品の能力も分かる。

 

『カウンター』一ポイント・・・相手の物理攻撃を一・五倍にして跳ね返す。

 

『洞察』一ポイント・・・相手の焦りや嘘などをなんとなく洞察できる。

 

これで初期スキルなの?結構使えそうじゃん。

「結局習得したのかよ。初期スキルなんてそうそう習得する奴いないけど、お前が決めたことだし別に良いけどさ」

「なんだよその言い方……ん?なあ、なんかゼロポイントで習得できるスキルがあるんだけど……」

そこには『電光石火』ゼロポイントと書かれていた。

「お!これって一部のステータスが一定値を超えないと習得できないスキルだぞ!お前のすばやさのステータスが高いからか」

 

『電光石火』ゼロポイント・・・三歩走ると速度が一.三倍になる。

 

俺にうってつけのスキルだな。

 

 

 クエストを終わらせ報酬を受け取っていると……。

「マサト、そろそろ始まるぞ!」

「…何が始まるんだ?」

「お前この事も知らねえのか。この国の王女様が十二歳になるからパレードすんの」

流石王族やることが違うな。

「でも始まるって言ったてどうやって見るんだよ?テレビがあるわけじゃないだろ?」

「なんだよてれびって、ホログラム魔道具が配布されんの!みんなで誕生日祝えるように!」

流石王族やることが違うな。

「おっ!ほら、言ったそばから王女様だぞ」

 ホログラムには金髪の小さく大人びた少女が作り笑いをしながら手を振っていた。

……ん?

作り笑い?

さっき習得した俺の『洞察』スキルか?でも何で王女様が作り笑いなんか?

少し気になった俺は『千里眼』スキルを発動させホログラムの先の王女を見る。

…!

――――⁉

まずい!てかこのスキル超役に立つじゃねーか‼

でもなんで⁉

「おいバイエル!この街の転移屋はどこだ⁉」

「あ?なんだよ急に、転移屋ならギルドの真ん前だけど…」

 ゲームやラノベ好きの俺はテレポートの魔法が使える人がやっている一般人やテレポートが使えない人を街や王都などに送ってくれる店がある事くらい知ってる。

「そうか!なあ、この映像は生放送か⁉」

「何だよ…なまほうそーって…うおっ‼」

急いでんのに!

俺はバイエルに詰め寄る。

「今やってるやつかって聞いてんだ!」

「あ、ああそうだけど…」

「そうか‼」

俺は急いでにギルドを出て目の前の転移屋に入る。

「おっちゃん‼王都まで飛ばしてくれ!」

「あいよ、王都までなら五千ベクタだ」

「それでいいから早く!」

俺は財布から五千ベクタを取り出しおっちゃんに渡す。

「せっかちだねえ、『テレポート』」

一瞬世界が歪《ゆが》んだと思うと景色が一瞬にして街よりもにぎやかな場所に変わった。

「スゲェ!ここが王都か!」

中央には大きな洋風の城があった。

まあそりゃそうか。もし和風の城だったらファンタジー感ぶち壊しだ。

「って見とれてる場合じゃねえ!」

あのホログラムを見た奴の中に『洞察』と『千里眼』スキルもってる奴はいないのかよ⁉

 千里眼で王女を見てみると、付けているネックレスが呪いのアイテムで、外すと爆発する魔道具だった。

おそらくその魔道具で王女を脅迫して、何かをさせるつもりだろう。

 もしかしたらもう手遅れかもしれない。

けど、いつ首が飛んでもおかしくない人間が手の届く所にいるのに、見捨てるなんてできるわけがない。

 俺は人ごみをかき分け王女のいる場所へと向かう。

速く!急げ!

俺は無意識に電光石火のスキルを発動させていた。



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第二章   異世界王女様!
異世界と救出と一つのお願い


 何とか王女の所まで来た。

だけど今行動に出るのはまずい。

民衆や冒険者達が見ている前で王女の首に爆発物が付いてるなんて知られたら評判はがた落ちだ。

 魔道具を取る方法はもう決まってる。

さっき俺がクエストを終わらせた帰り道の途中でスライムが何匹か出てきた。

そいつらを倒した時にまたレベルが一つ上がったのだ。

その時に俺は新しく『窃盗』という初期スキルを習得した。

『窃盗』は、相手の持っている、または装備している装飾品か武器を一つランダムで奪い取るスキルで、王女の首に付いてる様な外したら作動する魔道具などの能力も無効化することができる。

 でもこれって、奇跡的すぎないか?

作り笑いを見抜いた『洞察』魔道具だと分かった『千里眼』そして外すための『窃盗』あまりにも誰かが仕組んだとしか思えない。

だがバイエルは初期スキルと言った。

只の偶然か?

 別に俺は、知らない所で知らない奴が苦しんでいても気の毒だなくらいにしか思わない。

そいつらを命や金をはってまで助けたいと思うイケメン勇者系でもない。

でも、目の前で困っている。命が危ないと分かっていて、それを助ける術《すべ 》があるのに見捨てるようなクソでもない。

…………これって、普通の事だろ?

 パレードが終わり、皆が帰っていく。

やるなら今だ。

俺は帰っていく王女達の集団の前に立つ。

「どうしましたか?私に何か御用ですか?」

王女様の声は、微《かす 》かに震えていた。

この魔道具のせいじゃないかもしれないが、その可能性がありそもそも首に爆発物が付いている。

迷いもしない。

「王女様に一つ祝福のスキルを使わせてせていただきたく思います」

ここで一気にそれって爆発物ですよねときりだすのは危険だ。

するとずっと王女の隣にいた大臣みたいな男が。

「いけません!もしも呪いや死の魔法だったらどうするのです!信じる根拠がありません!」

…こいつが王女に魔道具を付けた奴か。

まあだいたい予想は衝いてた。

王国の裏切りやスパイっていったら大臣か側近《そっきん 》って相場《そうば 》は決まってる。

 一見王女を心配している様に見えるが、そんなんじゃ俺の『洞察』スキルはごまかされない。

何故か大臣は王女を心配するのではなく焦っている。そしてしばらく洞察で大臣を見ると………嘘とでてきた。

決まりだな。

「もしもこの魔法が王女様に不快な思いをさせたのならこの場で俺をお斬り下さい」

そう言って俺は窃盗スキルを発動させた。

武器も装飾品も合わせて一つしか装備してないので確実に首の魔道具を取った。

「ひいいいいー‼」

いきなり隣にいた大臣が逃げ出した。

俺は一瞬にして大臣に追いつき取り押さえ…こいつ、軽すぎだろ。

俺ですら軽々と持ち上げられる。

俺はこいつを、パレードに打ちあがる花火に魔道具ごと投げ捨てた。

何も落ちてくる物が見当たらないところを見ると、あの一撃で仕留められたようだ。

ふう、これで一件落着ってやつだな。

 俺が一息つくと。

「うわあああああああんっ…………!」

いきなり王女が泣きだした。

「あり…がとうございましたっ!王族は十二歳までパレードをするのでっ…ひくっ…パレードをやらなくなる十二歳になったらっ……こ、殺すってっ!」

日本じゃまだ六年生だもんな、そりゃなくわ。

てか俺ギリギリ!

……ん?

「十二歳になったらってことは、昔から脅迫されてたってことですか⁉」

「は、はい。私は十歳から捕らわれでした……ぐすっ」

王女もそれなりに落ち着いてきたようだ。

ていうか十歳からか……。

「あの、今日は本当にありがとうございました。明日、この城に来て下さい」

お礼的なやつか…。別にそんなことしなくてもいいんだけど。

いや、欲しいけどね。

「はい。では明日、王城に参りますので」

テレポート屋を使いプレロイの街に帰り、バイエルには適当な理由をつけた。

 

               <翌日>

 

「相変わらずでけーなあ」

城のデカさに圧倒されながら、王女に部屋を案内された。

するとその部屋には大人びた女の人がいた。

「では改めまして、昨日は本当にありがとうございました。自己紹介がまだでしたね。私はラフィネ・フォンルート・エテルネルと申します。で、こちらが私の側近のレーナです」

「初めまして。先日はラフィネ様を助けていただき本当にありがとうございました。私は地下の牢に囚われていたもので」

「いえいえ、俺は加弥政人と言います」

めっちゃ緊張する。

「あなたを城に呼んだ理由は二つあります。一つは先日のお礼です。お金というのもどうかと思いましたので…あなたは家をお持ちですか?」

レーナという人が唐突にそんな質問をしてきた。

「いえ、持ってないですが…」

「そうですか。では、あなたが住んでいる街に屋敷を進呈します」

ふーん何だ、只の屋し…。

「屋敷⁉」

住むところがない俺にとっては十分嬉しいけど!

これからは寝るのに金が掛からないのか。

「あともう一つ。神器エクスカリバーを進呈します」

「エクスカリバー⁉……いいんですか⁉そんな物貰っちゃって!」

「王女の命を助けていただいたのですからこのくらいは当然です」

やばいやばい。この世界始まってまだ一週間も経ってないのに屋敷とエクスカリバーって!

…………あ!

俺、片手剣持てないや。

いや、それでも嬉しい!家の家宝にしよ‼

俺が色々驚きすぎて王女はクスクスと笑っている。

「理由のもう一つと言うのはですね……あなたはソロですか?」

また唐突にそんな質問をしてくる。

「はい。そうですが…それが何か?」

いや、ボッチじゃないよ。

いずれはパーティ組もうと思ってるけどね。

「ではおねがいがあります。ラフィネ様をあなたのパーティに入れ、一緒に冒険をしてくれませんか?」

「…は?」

何言ってんだこいつ。

「ラフィネ様は王族。王族は魔王軍やドラゴン軍に対するこの国の最後の要《かなめ 》。しかし、王女は二年間捕らわれの身だったため、実力が足りてないのです。この意味がお分かりですね?」

なるほど。

実力が足りてないから冒険に慣らせてレベルも上げるってことか。

「で、でもだったらもっとレベルが高くて優秀な人と冒険すればいいんじゃないですか?」

俺の回答にレーナが悔しそうに答える。

「あのパレードにいた大勢の兵士たちはこの国でも選りすぐりの兵士たちを集めたのです!…なのに、なのにあの兵士たちは今回の脅迫事件に何一つ気付かなかった!」

……え?いやいや。

「あの大臣に口止めさせられてたんじゃなくて?」

「…………はい」

「だからあの状況を見抜いた俺ってわけですか。でも他にも見抜いてたやつがいたのかもしれないですよ?」

「そうかもしれない。けど、行動に移したのはあなただけです!」

そういう事か…。それなら仕方ないんだろうけど…………。

「でも見抜いたのはスキルのおかげですよ?第一俺は冒険者始めたばっかで職業にも就いてないレベル六です。とても王女様を守り切れるとは……」

職業に就いてないというか就けないんだけどね。

「そうなのですか…。しかし、信頼できるのは彼方しかいません!あなたが断ってしまえばそれまでですが………それにこれはラフィネ様が言い出したことなのです」

その言葉に王女は少し赤くなる。

王女が自ら⁉

そう言われるとますます断れない。

逃げ道が塞がれた。嫌じゃないから逃げ道というのもおかしいけど。

こりゃ無理だ。

「そこまで言われちゃ断れないだろ、引き受けるよ。よろしくお願いします王女様!」

王女は顔をパアッと輝かせ。

「よ、よろしくお願いします!あの、マサト様は命の恩人ですので私の事はラフィネと呼び捨てにして、いつも話してるようにくだけた感じで構いませんよ?」

本当に?いいの?マジで?……じゃあ。

「じゃあラフィネも俺のこと様付けて呼ばなくていいよ。好きな呼び方で。流石に王女がくだけた感じの喋り方ってのは駄目だろうけど」

するとラフィネは少し悩み…。

「では、よろしくお願いします。お兄様!」

「「お兄様⁉」」

俺とレーナがハモる。

「ラ、ラフィネ様なぜお兄様なのですか?」

レーナが慌てて質問する。

「マサト様は、何となく雰囲気が昔のお兄様に似ていて…でも今のお兄様は前線で戦っていて大人になってしまったのでなかなか……あ!でもマサト様が嫌でしたら変えますが…」

「いや、俺は別に好きな呼び方でいいって言ったからいいけど…」

「そうですか!では、よろしくお願いします!お兄様!」

「ああ、よろしくラフィネ」

そう言ってお互い笑いあった。



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異世界と紹介と始まりの料理

 「で、でけえ…」

プレロイの街に帰ってきた俺は、ラフィネと共に報酬で貰った屋敷に着いたのだが………。

俺の住んでいた一軒家とは比べ物にならない大きさに圧倒されていた。

「えっと、ラフィネもここに住むの?」

俺にとっては広すぎるが、王女にとっては狭すぎるんじゃないだろうか。

「ここに住まなかったらどこに住むのですか?私は当分お城には戻りませんよ」

そう言って笑いかけてくる。

本当にいいのか………?

 まあでも、王女ってのは庶民の遊びや飯に憧れるもんだしな。

「なあ知ってるかラフィネ、庶民のご飯は、城の飯よりも美味いんだぜ?」

…多分。

それがお約束ってもんだろ!

「それは本当ですか?お城のシェフが作ってくれるお料理はとても美味しいのですが、それよりも美味しいのですか?」

「ああ!」

…多分きっと。

それがお約束ってもんだろ!

「そうなのですか!それは早く食べた…って!それじゃあ私が食いしん坊みたいじゃないですか‼」

少し怒ったようでほっぺを膨らませる。

……可愛いな。

いやっ!俺はロリコンじゃないぞ‼ただ妹として可愛いと思っただけで…。

それもロリコンか………?

「ではお兄様、早速冒険者ギルドに行きましょう」

 

 

 俺がギルドの扉に手を掛けたときあることを思いだした。

「な、なあラフィネ、やっぱり違う所で夕飯にしよう。ここは絶対に王女には食べさせられない物しかないから…」

「お兄様!私はもう王女ではなく冒険者です。そういう扱いもしなくていいのです。それに庶民のご飯は美味しいと言ったのはお兄様ではないですか」

いやまあそうだけど。

「ラフィネがそう言うならいいけど…」

いや良くないいんだけどね。

 扉を開けると、そこは数々の冒険者で賑わっていた。

その数々の冒険者が俺の事を凝視《ぎょうし》してくる。

「ど、どうしたの皆」

するとバイエルがやって来る。

「マサト!ルイから聞いたんだが魔道具から王女を救ったって本当か⁉」

さすが情報屋、話が早い。

「本当だけど…」

「「「「「「おおおおおおお‼」」」」」」

「…ん?その後ろにいる嬢ちゃんは誰だ?」

「紹介するよ、俺のパーティメンバーで王女様のラフィネだ」

「お兄様のお友達ですか?ラフィネと申します、よろしくお願いします」

あ!……説明してから紹介するべきだったか。

「「「王女⁉」」」

「「「「パーティーメンバー⁉」」」」

「「「「「お兄様⁉」」」」」

やっぱりか、まあそれが普通の反応だけどね。

「おいマサト!これはどういう事だっ!」

「あ、ああ、ちょっとカクカクシカジカあってな…」

俺は皆にお兄様からなぜ王女がここにいて一緒にパーティ組んでいるのかなどのカクカクシカジカを説明した。

 「まじかよ…いつの間にかお前さんがそんなデケェ事してたなんて…」

「このことは他言無用だぞ」

「では改めましてラフィネです。私のことはラフィネと呼び捨てにして、皆さんがいつも話しているような感じで話しかけて下さい」

「い、いや、いくら王女様の頼みでもそりゃできませんよ…」

俺はすぐに出来たんだが。

「これは頼みごとではなく命令です!じゃないとお父様に言いつけちゃいますよ?」

そういたずらっぽく言う。

さすが王女、言う事が違う。

「そ、そこまで言うなら…。プロレイの街の冒険者ギルドへようこそ!ら、ラフィネ?」

「はい!よろしくです先輩!」

「「「おおっ!」」」

この街の冒険者達は、ラフィネから先輩と呼ばれるようになった。

 挨拶を終えた俺達は、適当な席に座り夕飯を決める。

「お兄様、この街は何の料理が名物なのですか?」

うっ…やはりそこをついてくるか。

「い、色々あるぞ?ゴブリンステーキとかスライムゼリー、コボルト酒にコボルトジュース、内臓のフライとか…」

「そ、それはすごい名前ですね…。そのように再現されているのですか?」

「いや、全部本物を使ってる」

「ほ、本物⁉それは大丈夫なのですか?特にゴブリンとかは…」

「ああ、それなら大丈夫。俺も初見はビビったけど、プリーストが浄化魔法というか神聖魔法を使ってるから。この前なんか便秘の人がいたんだけど、ゴブリンステーキを食ったら直ったんだよ」

「そ、そうなんですか…ならそれにしましょう。便秘というわけじゃありませんが」

王女がゴブリン肉を食うなんて前代未聞だ。

まあ俺が進めたんだけど。

後で首切られたりしないよな。………しないよな?

「こっちにゴブリンステーキとスライムゼリー二つずつ!あとコボルト酒とコボルトジュース!」

注文を頼み料理が来るのを待っていると。

「お兄様、気になっていたのですが、どうしてお兄様は職業に就かないのですか?無職だとお兄様の事を良く思わない人も出てきてしまいますよ?」

そんな質問をしてきた。

「あーあれな、まあ簡単に言うと、俺は職業に就かないんじゃなくて就けないんだよなー。これを見てくれ」

そう言いながらラフィネに冒険者カードを見せる。

「……⁉敏捷性のステータス表示がバグってます!…ということは敏捷性のステータスが表示できないほどに高いってことですか…。なるほど、このステータスに合う職業は存在しませんから、そして自分に合わない職業に就くとステータスの成長を大きく妨げてしまいますからね。まさかお兄様がステータスバグりだったなんて…流石です!」

ギリギリのフォローありがとうございます。

「お待たせしましたー」

そんな会話をしている間に料理が来た。

「す、すごいです!このステーキ、全然ゴブリンのお肉じゃないみたいです!あっ!スライムゼリーも美味しそう!」

庶民の料理が珍しいラフィネはとてもはしゃいでいる。

そりゃそうだ。ゴブリンだもんな、スライムだもんな。

そんなはしゃぐラフィネを見つめていると。

「はっ、ごめんなさい取り乱してしまいました。お兄様、冷めないうちに早く頂きましょう」

「「いただきます!」」

「んぐっ‼」

一口食べたところでラフィネの手が止まった。

やっぱり王族にゴブリンはまずかったんか⁉

「無理するなラフィネ!不味かったら残してもいいんだぞ」

「残すなんてとんでもないです!何ですかこの美味しさ!どうしてお城に出されなかったんでしょう!」

ゴブリンだからだよ。

「んんっ!このゼリーも美味しい!本当に何故お城に出されなかったんでしょう!」

スライムだからだよ。

「わわっ!」

「どうした⁉」

「お兄様、何ですかこのジュース。口の中でシュワシュワしてます!口の中がすごいです!」

それは俺も不思議に思う。

何故かコボルト系の飲み物は、まさに炭酸の如《ごと》くシュワシュワするのだ。

コボルトの何を入れたんだ?

まさかコボルトのボルトで電気でシュワシュワとか、そんなノリじゃないよな?

しょーもないぞ。

「どれもこれも美味しいです!お兄様‼」

「だから言ったろ?庶民の飯は美味いって」

「全くです!」

どんな料理も美味しく食べるラフィネに周りの冒険者はニマニマしている。

おい…こっち見ても俺はラフィネみたいにはやらないぞ。



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異世界と恩恵と盗賊

 屋敷に帰って道具の整理や部屋の割り当てを済ませた。

「お兄様、一段落したのでお風呂に入りましょう。あちこち整理したのでホコリまみれです。それにこのお屋敷の浴槽はとても広いみたいですよ?」

ホコリまみれになるなんて生まれて初めてだろうな。…………ん?

…………入りましょう?

……………浴槽は広い?

…つまり……?一緒に入るって………こと⁉

顔に出ていたのかラフィネが顔を赤くしながら急いで訂正する。

「一緒に入るというわけじゃありませんよ⁉私の言い方が悪かったのかもしれませんが変な事を考えないで下さい‼」

まあ、そりゃそうだよな。そりゃざんね………俺が悪かったからそんな目で見ないでくれ。

 お風呂入りましたー。

「いやーさっぱりさっぱり。ラフィネどうする?少し早いけどもう寝ちゃう?」

「うーん…あ!では、あの時お兄様が私を助けるまでのお話をしてくれませんか?」

「いや、全然大した話じゃないぞ?それでもいいなら聞かせるけど……」

「はい、どんなお話でも構いません」

俺はあの時のことを思いだしながら話し始める。といっても、昨日の事だけど。

「あれは俺が初めてクエストを受けてスライム狩りをして帰ってきたとき、バイエルが王女様の誕生日パレードをやるって言うからホログラムで見てたんだよ。そしたらさっき習得したばっかりの洞察スキルが反応したから、同じくさっき習得したばっかの千里眼スキルで見てみると、何とビックリ爆発物が首に付いてるじゃないですか。そこで俺はテレポート屋で王都にとんで助けたって事だ」

「凄い偶然ですね。そのスキルを習得していなければ私はとっくに死んでいました。それもお兄様の行動あってのものですし」

「…短い話だったけどもう寝ようぜ。俺は今日色々ありすぎて疲れたし、明日は初めてのクエストだろ」

「そうですね。お兄様と一緒に冒険ができるなんて夢みたいです」

「じゃあおやすみー」

 真っ暗な自分の部屋のベットに横になりながら考える。

俺も変だと思ってたんだ。あれはあまりにも偶然過ぎる気がする。

色々なことを考えているうちに俺はいつの間にか眠りについていた。

 

               〈翌日〉

 

「よし、準備は出来たし行くか」

朝の支度を終えクエストに向かう。

………おっと忘れてた。

「ラフィネ、お前にプレゼントだ」

そう言ってラフィネに金色に青いラインの入った鞘《さや 》を渡す。もちろん中には剣が収まっている。

「これは……片手剣…ですか?どうして私の得意装備が片手剣だと知っていたのですか?」

「たまたまだよ。まあいいから、早く剣を抜いて見ろよ」

俺の言葉にラフィネが剣を抜く。その剣はもちろん……!

「エ、エクスカリバー⁉どうしてこの剣を?これはお兄様が貰った大事な物ではないのですか?」

「別に俺が持ってても装備できないから役に立たないし、王族と神器《エクスカリバー 》ってなんか最強そうなコンビじゃん?俺からのプレゼントだから、遠慮《えんりょ 》しなくていいから」

元々城にあったから返しただけなんだけどね。

「ありがとうございますお兄様!大事に使わせてもらいますね!」

そう、年齢に合った可愛く無邪気な笑顔を見せた。

「じゃあ行くぞ‼」

 そんな元気フラグを立てたからなのか。

俺がこんな目に合っているのは

「わああああ‼ちょっラフィネ!早くー‼」

ゴブリンの群れに追いかけられてまーす。

ゴブリン…実際見るとかなり気持ち悪い顔で群れで行動してる…けど!

「多過ぎんだろこれえええ‼」

十体くらいが基本と聞いたのに三十はいる。

「ま、任せて下さい!『スラッシュ』‼」

 王族は初めから上級スキルや上級魔法を教えられるのだが、ラフィネはまだ中級くらいまでしか使えない。それでもゴブリンには十分だろう。

剣の斬撃が横に放たれ追いかけてきたゴブリンの半分くらいが倒れる。

よし、このくらいの数なら今の俺でも…………!

俺は電光石火のスキルを発動させダガーを持ち素早くゴブリン達ののどを切る。

「お兄様!危ない‼」

運よくのどを深く切られなかった一匹のゴブリンが木の棍棒を俺に振りかざす。

「『カウンター』!」

振りかぶった体制のままゴブリンの首が落ちる。

「いやー危なかった。スキルの力は偉大だなー。どうするラフィネ?ゴブリン肉持って帰ると食材として売れるから持って帰る?」

「私としてはゴブリンには触りたくないです…」

「だよなー。しょうがない、少し売り金減っちゃうけどギルドに回収頼むか」

そんな日本じゃあり得ない普通な話をしながら街に帰ると………。

「はーなせ!離せよ‼クソヤロー!」

ん?

声の方に行ってみると路地裏で水色短髪の女の子が取り押さえられている。

……なんか気になるな。

俺はその女の子を取り押さえている人に話を聞く。

「あのーその子が何かしたんですか?」

「ん?何だ君は?…まあいい、こいつは泥棒だよ。貴族である俺の家から八万ベクタもする宝を盗みやがったんだ!これから刑務所に突き出すところだ」

「離せって言ってんだろ!あんなうっすーい警備で捕られたお前が悪いんだろーが!」

「黙れ!一ベクタの価値もないお前は牢屋から出たら体でも売ってな!」

なるほどな。状況は理解した。

てかこの世界にも刑務所あったんだ。……まあ牢屋があるしな。

「どうしましょうお兄様、確かに泥棒はいけませんが、助けてあげたいです」

まあそうだよなー。

「なあ貴族の人、その盗賊俺にくれない?」

「「はあ⁉」」

貴族と盗賊がハモった。

「あんた俺の話聞いてたか?俺の家から八万相当の宝を盗んだんだから刑務所に送るの」

「分かってるって。タダでとは言わない、九万ベクタだ。つまりあんたはこの盗賊が盗みを犯したおかげで一万ベクタ儲かるってわけだ。悪くないだろ?」

俺って結構以外に頭いい気がする。

「う……でも!それは宝の代金だろ⁉この泥棒娘の代金はどうする⁉」

「その盗賊には、一ベクタの価値も無いんだろ?」

俺ってやっぱり頭いい気がする。

貴族の人は、九万ベクタだけをを持って帰った。

 戦略勝ち!

「あたしを助けてどうするつもりだ?奴隷商人にでも売り付けるか?野良ウルフの群れに放すってのもいいんじゃねえか。どっちにしろ、あたしは逃げるけど。助かったぜ!じゃあな!」

そう言って走って行く。

「お兄様!」

…まあ想定内だけど。

 あの子は盗賊だからまた盗みを犯すだろう。案外上手くいくかもしれないが

いつかは捕まって牢屋行き。あの口調だし運が悪かったら殺されるだろう。

前にも思ったが、目の前の拾える命を見捨てるほど俺はクズじゃない。

「仕方ないか」

本日二度目である電光石火のスキルを発動させた。 

 名前も知らない盗賊の女の子の背中が近づいてきた。



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第三章   異世界勇者とバグ幹部!
異世界と仲間と大事さ


      〈冒険者ギルド〉

 

 「さっきから聴いてんだろ。何であたしに追いつけた!あたしの俊敏性は、そこらの冒険者の二倍以上はある。なのに何で何の能力もなさそうなお前が電光石火のスキルもってて、あたしに追いつけんだよ!まともじゃないだろ!」

 …まあ何の能力もなさそうに見えちゃうのは仕方ないけど、思ったことを口に出すと人を傷つけることがありますよ?

「そんなのは簡単なことだ。俺がまともじゃないだけ」

そう言いながら自分の冒険者カードを見せる。

「何だよ…マサトって名前なのか………ん⁉俊敏性表示がバグってる⁉何で…何でコイツなんだよ‼」

…?そういえばステータスバグりについてあんまりよく知らなかったな。

「何でコイツってどういう事だ?」

「はあ?そんなことも知らねえのかよ。あのなあ、この世界には必ずのステータスの表示がバグってる奴がいんだよ。筋力だけ、魔力だけ、生命力だけ、知力だけ、器用度だけ、幸運度だけとかな。まあでも、その表示がバグってるほとんどが魔王軍にいるけどな。だから!なんでそんなひょろっちい奴が表示バグってんだって話だ」

 俺が特別ってのは分かったが……思ったことを口に出すと人を傷つけることがありますよ?

「ま、まあその話は置いといて、何か食おうぜ」

「ワニ鳥のチキンとコボルトジュース!」

 ニワトリではなくワニに羽が生えたワニ鳥というモンスターの料理を頼む。

勿論ワニ鳥は飛べません。

「おまちど!」

テーブルの上に結構デカいチキンとジュースが置かれる。

「相変わらず美味しそうですね!」

「何だお前、あたしの前で自慢げに食ってやろうってか?そうやってお前も………」

「何言ってんだ?この料理はお前のだぞ?」

その言葉に盗賊の子は驚いた顔をする。

「いや、腹減ってるだろ?奢りだし食えよ」

「腹は減ってねえ。あと名前はルリテだ」

 ふーん…腹減ってないんだ。

「ちなみに、最後の食事は?」

「……四日前のスープ一杯」

やっぱりな。どーぞたんとお食べ!

 目の前にあったチキンが一瞬とはいわないスピードで無くなっていく。

「別に誰も盗ったりしないからゆっくり食べろよ」

単に腹が減ってただけなんだろうが。

「何であたしを助けた。あたしを助ける事でなんかメリットでもあんのか?」

すぐそういう風に考えるのは良くない。

「メリットが無いと誰かを助けちゃダメなのか?少しの損も許さないで、全て特に生きてかなきゃダメなのか?」

「っ……!別にそういうわ訳じゃ…」

「…で?何でルリテは宝を盗むんだ?ただ盗賊だからって訳なのか?」

「…………何か、お前はあたしの話を聞いてくれそうだから少し昔話をしてもいいか?」

なんとか少し心を開いてくれたみたいだ。

「ああ」

 

 

 「見つけた!これがお宝だ!」

ルリテを初めとした五人の盗賊が、有名な貴族の金庫にいた。

「誰だ!そこにいるんだろ!」

「まずい、見つかったぞ!隠れろ!」

監視に見つかった五人は皆天井の通気孔に隠れる。

「何処にいる!隠れても無駄だ!出てこなければ殺すぞ‼」

今までにない恐怖を味わった五人は、一人の劣《おと》りを出すことにした。

そこでルリテが立候補する。

「あたしが見つかるから、その間に逃げろ」

「分かった。後で助けに来る」

四人の盗賊は通気孔の奥に。ルリテは通気孔を出た。

「お前が泥棒か。……こんな娘が…!よくここに来ようと思ったな。お前は一人か?まあいい安心しろ、殺しはしねえ。俺のストレス発散のサウンドバッグになってもらうぜ‼」

その監視はルリテを殴り、蹴り、痣ができたんこぶができた。

四人の盗賊は悪魔のように微笑みながらお宝を持ち外に出て闇に消えていった。

 

 

「あたしは待った。来てくれる、助けに来ると思って。でも来なかった!牢屋はすごく寒くて腹が減る。あんな思いはもうしたくないと思った。だから、宝があれば暖かい家があり飯も食える。てとこかな」

 少し考えてたことだけど、話を聞いて決意を持った。

「なあルリテ、俺達のパーティーに入らないか?屋敷もあるし、お前の宝の返済でまた振り出しに戻ったけど、ルリテも信頼できる仲間が欲しいだろ?今はまだ無理かもしれないけど、いつかは背中を預けられる同士になろうぜ!いいだろラフィネ?」

「勿論大歓迎です!ルリテさん、よろしくお願いします!」

急な誘いにルリテが戸惑う。

「何であたしを?お前の金盗んで逃げるかもしれないぞ?」

「それならそれで構わないよ。ルリテが俺達のパーティーに入りたくないって事だし。…でも結局のところルリテも気づいてるだろ?宝と仲間、金と優しさ、何が一番大事かさ」

気のせいかもしれないけど、ルリテの瞳が潤っている気がした。

「………まだ全部信用した訳じゃないけど、…よろしくな」

「よろしく!じゃあルリテのパーティー加入を祝って、王都で夕飯でパーっとしようぜ!」

「金ねえんじゃなかったのかよ!」

「お祝いは大事ですよ。それに私、王都の美味しいお店知ってますから!」

流石ラフィネ、ナイスフォロー。

「じゃあ決まりだな!」

テレポート屋に行き王都に飛ぶ。

ルリテは王都に来たことはないらしく最初は驚いたいたものの、今はすっかり落ち着いている。

 ラフィネいちおしの店のオススメ料理を頼み乾杯の準備。

どうかこのお祝いの食事がルリテにとって今までで一番驚く食事になりますように。

「金は無くなっちゃうけど、クエストで稼ごうぜ。じゃあ…かんぱーい!!」

「「かんぱーい!」」

『魔王軍襲撃!魔王軍襲撃!王都にいる冒険者、騎士各員は至急戦闘態勢で西の壁門前に集まって下さい‼繰り返します。王都にいる冒険者、騎士各員は至急戦闘態勢で西の壁門前に集まって下さい‼』

 こんな小説とかアニメみたいなシチュエーションになるなんて…………。

ルリテだけじゃなく、俺にとっても今までで一番驚く食事となった。

 



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異世界と魔王軍とイケメン勇者

 壁門の前に複数の冒険者が集まる。その目線の先には、冒険者の数を超える大量のモンスター達。

 この世界の事を良く知らなくても、今がどんな状況か分かる……が、一応隣にいる全身赤い鎧を身にまとった戦士に聞いてみる。

「なあ、ちょっと聞きたいんだがこれって魔王軍が王都を潰しに来たって事だよな?」

「何だよマサト、お前そんなことも知らなかったのか?たまにあるんだよ、王都の威力偵察だかあわよくば落ちると思ってんのか知んないけどな。…今日のは何か少し多い気がするが、基本的には強いモンスターはいないから大丈夫だろ」

知らない奴だと思って声を懸けたらバイエルだった。

「お前バイエルか!姿違うし気づかなかったわ。てか何でお前が王都にいて、何で鎧変えてんの?」

「たまたまこの鎧を王都に取りに来たところだったんだよ。お前と初めて会った時言ってただろ?着てる意味のない格好ってさ」

気にしてたのね。…まあこれで生存力は上がっただろう。

「ラフィネ、ルリテ、行けるか?無理だったら来なくてもいいんだぞ?」

ラフィネは大丈夫そうだがルリテはどの位戦えるのかは知らない。

「はい!大丈夫です。お兄様の背中は私が守って見せます!」

「人の事より自分の事を心配しろよ。あたしはいつも人間と戦ってんだ。それより下級のモンスターなんかに負けるわけねーだろ」

二人とも頼もしい…。けど何かルリテの最後の方がフラグっぽい……。

「その子がマサトの新しいパーティメンバーか?盗賊か…いいね!俺はバイエルだ。よろしくなルリテ」

「おっ!お前盗賊の良さがわかんのか!お前は長生きするぜ」

何か感動的な話をした俺よりも意気投合してるんですけど。

そんな事を話している内に魔王軍が近づいてきた。

 すると冒険者達の先頭にいる俺と同い年位のイケメン?が叫ぶ。

「僕たち冒険者は、こんな所で負けはしない!誇りをみせろ!行くぞ‼」

その掛け声に皆叫び魔王軍に向かって走っていく。

……………何かあのイケメンムカつくな。

 いきなり後ろからルリテが言う。

「マサト、勝負だ!どっちが多く狩れるか!」

「いいぜ!よいドン!」

「あっ!ずりーぞ!速すぎる!」

「元からでーす」

ルリテは別行動し、俺とラフィネは共同で魔王軍と戦う。

「『スパラグモス』!」

ラフィネが放つ光の魔法。目くらましかと思ったが、ある程度のザコモンスターは消滅していく。

やっぱり魔法は良いよなー。でも、俺だって初級魔法は覚えたんだからな!

「『アクアボール』!」

俺の手のひらから球体の水の塊が勢いよく飛ぶ。

 初級魔法だからちょっと強い威力の水がかかるだけだが、魔力値の高い人だと、ゴブリンの頭。規格外だとオークの頭も飛ばせるらしい。

だが俺は魔力値はそんなに高くない、いたって普通。だが、初級魔法を戦闘でうまく使うには工夫さえあれば役に立つ。

俺の魔法がゴブリンの顔にかかる。その一瞬が命取りだ。

顔を拭ったところを倒す…事が出来た。

いやーアニメとか小説の力って偉大だなー。読んどいって(見といて)よかったわ。

 魔法を使うと少しはカッコよく、強く見える……はず。

 初級魔法は全て、手のひらから水や炎。風などを飛ばすものだった。

それぞれ飛んでいく形も違うし、工夫や用途も変わってくる。

それぞれの魔法をいか戦闘で役立てるかが大切だ…………って見たことがある。

「『ウインドショット』!」

あらゆる初級魔法を使い、モンスターを倒していく。

皆の方を見ると、バイエルは斧を持ち戦い、ルリテは敵を魔法の縄で拘束した後に倒している。

 そんなに時間はかからずに魔王軍を退けたが、いつもの二倍時間が掛かったらしい。

 せっかくの飯も冷めてしまい、日が沈みかけてきた頃、テレポート屋で帰ろうとすると。

「君達、ちょっと待ってくれ」

さっきのムカつくイケメンに止められた。

「何の用ですか?」

「君がパーティリーダーだろ?何故君が王女様を連れているのか教えてもらおう。事と次第によっては首が飛ぶぞ」

いきなりなんだコイツは。マジでムカ…………そうか!

こいつがよくライトノベルや漫画で出てくるイケメンの出来るライバルか。

 俺はこういう勇者気取りのイケメンナルシストは真正面からぶつかって潰して論破してやろうと思う。

 ラフィネに小さい声で訊《き》く。

「なあ、コイツってラフィネのパレードの護衛に呼ばれてたやつか?」

「はい、この方はこの国で一番強いと噂されている方です」

一番強い……か。

「あんた名前は?」

「僕の名前はコンドウだ」

「勇者気取ってんのにのに名前だっせえな」

ちょっとルリテ!そう言うのは思ってても行っちゃダメだって!顔引きつってんじゃん。……プッ!

 ん……ちょっと待てよ?…コンドウ…………近藤⁉…え⁉コイツって日本人なの!?

「お前、日本人か⁉」

その言葉にキョトンとして答える。

「ニホンジン?ニホンジンとは何だい?僕をからかっているのかい。…そんな事より、何故ラフィネ様を連れているのか答えてもらおう!」

日本人じゃなかったのか……偶然名前がコンドウになったって事か。凄いな。

「ラフィネの首に付いてた爆発魔道具を見つけて外したのが俺。ラフィネのレベルが低いからいっしょに冒険頼まれた。それだけ」

「ありがとうございます。お兄様」

「ラフィネ様を呼び捨て……!しかもお兄様…!王子でもないのに⁉ラフィネ様、こんな男ではなくこの僕と一緒に冒険しましょう!」

「ラフィネが脅されてんの気づかなかったくせに何言ってんだお前」

「ぐっ……!だが、君なんかと一緒にいるよりは安全だ!」

それを言われると言い返せないのが悔しい…!

「ラフィネ様、この男と一緒に冒険しているという事は、一体どこに住まわれておられるのですか⁉もし馬小屋や宿屋なら私と一緒に来ていただければ、家で休むことができますよ」

「い、いえ。私はもう既にお兄様の屋敷に住んでいますから大丈夫です」

「や…屋敷!」

おおっと、流石のイケメン勇者様でも屋敷はお持ちでないようですね。

「な、なら装備の方は…?」

「それも、お兄様からエクスカリバーを頂いています」

「え……エクスカリバー⁉」

おやおや、流石の勇者様も魔剣、聖剣は持ってないようですね。

「そもそも、私はお兄様と冒険がしたいので大丈夫です!」

「あーあ、言われちゃったな兄ちゃん。もう無理じゃね?」

ルリテの追い打ちに根負けしたのか、後日また来ると言って悔しそうな顔をしながら帰っていった。

 俺にとっては、イケメンがボコされるという大変極まりない祝福の時間だった。

…もう、ニヤニヤと思いだし笑いが止まりません。



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異世界とプレーン勇者と幹部

 魔王軍の襲撃から数日後。街をぶらつきながら俺はラフィネとルリテがどんなスキルと魔法を覚えているのか聞いてみた。

「私は神聖魔法と光属性魔法、剣技魔法です。最近は少しだけ回復魔法を使えるようになりました。残念ながらスキルは特に……」

神聖魔法はダンジョン行くときに役に立つし、回復魔法は普通にありがたい。

「あたしは闇属性魔法と盗賊系スキル。バインド系魔法はレベル一だけど全部習得した」

バインド……この前使ってた縛るやつか。

「てか魔法にもレベルってあるの?」

「知らねーのか?基本魔法にレベルは無いがバインド係や回復魔法係にはあるんだ。だけどスキルにはほとんどレベルがあって、何回か同じスキルを使ってるとレベルが上がってスキルの能力が上がるんだよ。ちなみに、スキルの上限レベルは二か三だ」

 なるほどなー。スキルをたくさん使うと強くなるっていうそのまま設定なのか。

「見つけたぞ。ラフィネ様を返せ!」

 道を塞いだのはこの前合ったコンドルだかモンドウみたいな名前だった奴。

「返せも何も俺は預かっただけだし。でもお前がそれでおとなしく下がるわけはないよな」

「当たり前だ!」

預かっただけって言ってんのに何で下がらないんだろ。

「じゃあ俺とお前で勝負をしよう。俺が勝ったら何でも言うことを聞いてもらおう。だが、お前が勝ったら俺のパーティメンバーを持っていけ」

俺の提案にコンドウは勝ち誇った顔で誘いに乗る。

「は?何言ってんの⁉あたしこいつと一緒に行くの嫌に決まってんだけど!」

だが俺には最高の必勝方法がある。

「勝負内容は俺が決めていいよな?だって俺レベル八だし?お前何だよ?」

「二十六だ。………分かった。勝負内容は君が決めていい。何にするんだい?」

レベル高いなー。だがこうなりゃもうこっちのもんだ。

「ルールは簡単、かけっこ勝負だ。ここから三十メートル先のあの場所まで先に着いた奴の勝ち」

その言葉を聞き、ラフィネとルリテが顔を見合わせ少し笑う。

「いいだろう。じゃあ早速始めようか」

ゴールにはラフィネ。スタートにはルリテが立つ。

「じゃあいくぜ。位置について、よーい………どん!」

スキルを使うと後で文句言われそうだし、実力で走る。

 

 

 フラグ回収されると思われたかけっこ勝負は、俺の圧勝に終わった。

だが負けたくせに往生際が悪いこいつは、ラフィネに勇者系セリフを発した。

「ラフィネ様!こんな男より僕と一緒に行きましょう!僕は必ず、あなた様の勇者になってみせます!」

聞いてるこっちが恥ずかしくなる。

「あ、え、えっと……ごめんなさい。お気持ちはありがたいのですが、私にとっての勇者はもう存在しています」

「だ…誰でしょうか?」

「マサト、顔がにやけてるぞ」

「私にとっての勇者は、命を救ってくれた………人生をくれた。マサト様…いえ…今の私のお兄様です‼」

今ここに、特に強くもない普通の、ラフィネにとっては勇者の、プレーン勇者の爆誕。

俺はこんな妹をもって幸せです!

 コンドウは根負けして帰ってった。願い事は、また今度合ったときにでもお願いしよう。

「おーいマサト!」

遠くから走ってくる奴に名前を呼ばれた。

「バイエルか、どうした?」

「王都に魔王軍が攻めてきやがった!何でも、相手は一人なんだが魔王軍の幹部らしい‼」

魔王軍幹部⁉

「そうなのか…それは大変だな」

とうとう幹部の出現か。

「そうなのかじゃねえよ!お前は行かないのか⁉」

 は?俺が行く?

「いやいや、何で俺が行くんだよ?王都には俺より強いのがゴロリといるだろ?そんなとこに行っても足を引っ張るだけだろ?しかも相手は幹部だ」

残念だけど勝てる気がしない。

レベル八で幹部を倒せるほどこの世界はイージーじゃない事はとっくに分かってる。

「確かにその通りだが…良いのか?」

バイエルはラフィネを見る。

ラフィネの国だから行かせるべきなのか、この国の王女だから行かせないべきなのか。

「お兄様、私は大丈夫です。ただ、この国に危機をもたらす存在をこの目で見たいのですが…」

危険だけど、行くしかないか。

「大丈夫だぜ、ラフィネはあたしとマサトが絶対守るから。な、ラフィネにとっての勇者様?」

「当たり前だろ。ほら行くぞ」

王都に飛び壁門に走る。そこにはすでに多くの冒険者が集まっていた。

 幹部は⁉

「やあ、まだいたの。こんにちは」

 魔王軍幹部と言うからゴテゴテの超強そうな奴を想像してたのに、俺達の目線の先には優しそうな只の人間が立っていた。

「僕のためにこんなに集まってくれるなんて、嬉しいなあ」

 



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異世界と力と血溜まり

 「新しく来たそこの君、僕にかかってきてくれよ。こんなにいるのに皆来てくれないんだ」

残念そうにその人は言う。

何なんだこいつ。人間だろ…闇落ちした系か?

「てか何で皆行かないんだよ?幹部が怖いのは分かるけどしょうがないだろ」

俺の質問に何度か見かけたことのある冒険者が答える。

「簡単に言うけどな、幹部相手のトップバッターは守備力高い奴か敏捷性の高い奴じゃなきゃ即死かもだろ?」

敏捷性での回避は分かるけどどんなに守備力高くても幹部の攻撃は防ぎたくないな。

「ちょっと、僕の事忘れないでくれる?…あ!そうか、自己紹介がまだだったね。僕はエティオン。魔王軍幹部で感情バグり、人間に見間違えられるけど魔人のエティオン、よろしくね」

感情バグ⁉りこいつがルリテの言ってた魔王軍幹部のステータスバグのある奴か。

魔人っていったらデカくてムキムキを想像するけど魔族の人間もある意味魔人だな。

 ……感情バグりってそんなにヤバイ気がしないのは俺の気のせいだろうか。

「気を付けろよマサト。感情バグりは魔王軍幹部で一番強いと噂されてる奴だ」

やはり俺の気のせいだったらしい。てか俺が相手する前提なのね。

俺防具着てないから攻撃食らったら即死だろうな。

「お兄様、あまりに危険すぎます。ここは私が行きます!」

「気持ちは嬉しいけど、誰がやっても危険度は同じだろ?ここは俺の速さを活かすときだ」

そう言いながら前に出るとエティオンは嬉しそうにしながら言う。

「どうして魔王軍幹部がいきなり王都に来たか知ってる?最近今年で王女を殺すはずだった幹部の知力バグりから連絡が途絶えたんだ、だから僕が来たって訳」

知力バグりから連絡が途絶えた?まさか俺が花火に投げたあいつのことか?あんなのが魔王軍の幹部なのか?………いや―――

「そのとうり、彼は生きてるはずだよ。彼が簡単に殺られるはずもないし、僕には到底倒されたたとは思えないよ」

俺もさすがに花火で倒せたとは思えないが……。

 やるだけやってみるか。 

先手必勝!俺は素早く剣を抜き地面を蹴って電光石火を発動させエティオンに近づく。その時間は一秒にも満たない。

「っ‼」

急いで踏みとどまり後ろに戻る。

あいつ、俺が突っ込もうとしたところに片手剣を向けた。あのまま突っ込んでいたら俺の顔と胴は泣き別れだった。

「あれ?今のを避けられる⁉絶対死んだと思ったのに……ん?」

エティオンはぶつぶつ言いながら悩む。

「……!そうか!君が敏捷性バグりの人か。ステータスバグりはモンスターに生まれやすくなってるんだけどたまに例外もいるんだよね。モンスターにステータスバグりが出たら魔王軍やドラゴン軍にスカウトされるて喜ぶんだけど、何故か人間はどっち側にも就かずに僕たちの仲間を殺し、死にそうになったら逃げるか仲間にしてくれっていう。ほんと、ズルくて自分勝手で醜《みにく》い生物だよね。でもステータスバグりの君は違うだろ?魔王軍に来なよ。僕が魔王様に幹部にするよう頼んであげるからさ!」

 闇落ちのお誘いが来た。『竜のたのみごと』っていうゲームなら仲間になってたけどこんな所で闇落ちストーリーは歩みたくない。

「誘ってくれて嬉しいけど、俺は───」

「なら、あたしを仲間にしてくれよ」

 俺の言葉を遮《さえぎ》りルリテが前に出てきた。

きっと何か考えがあるのだろう、俺にしか分からない様にウィンクしたから。

「あたしもコイツほどじゃないがそれなりに速いんだ。コイツが断ったんだから代わりにあたし、良いだろ?」

「んー…魔王様には敏捷バグりを連れてこいって言われてるけど、仲間は多い方がいいしね!いいよ。じゃあ行こうか」

そっけない返事をしルリテはエティオンに近づく。そしてルリテとエティオンが並んだとき――――!

「『バインド』‼」

それはきっとルリテの魔力をほとんど使った為この前の縄よりも太い縄がエティオンを巻き行動不能にする。

「今だ!やっちまえ‼」

誰かが放ったその一言で周りの冒険者が一斉にエティオンに向かう。

俺は魔力を使い果たし倒れたルリテを担いで離れる。

エティオンは⁉

「『マジックキャンセル』」

 エティオンがその魔法を使ったとたん体に巻き付いている縄が消滅した。

これはマズい‼ラフィネもそれを察したのか急いでエティオンから距離を取る。

「皆行くな!戻れ‼」

その言葉で数人の冒険者は戻ってきたものの、聞こえてないやつは突っ込む。

「戻れ‼」

一人の冒険者が「え?」といった瞬間に悲劇は起きた。

エティオンが勢いよく剣を横に振る。

良かった、剣は届かず空振りになっ………た?

瞬き《まばた》をすると、突っ込んでいった皆が倒れていく。

俺達が意味もわからず立ち尽くしていると。

「今日はもういいや。バイバイ、また今度ね」

汚れ一つない魔王軍幹部は、その言葉を残し退いた。…いや、退いてくれた。

「おい大丈夫か⁉」

急いで倒れた冒険者に駆け寄ると………。

「あ、あああ、」

「ラフィネ、お前は見ない方がいい」

モンスターなら大丈夫だが、人間だとこたえる。

「酷すぎる。あたしのバインドは効かなかったのか……」

「ああ、アイツの魔法らしい」

「お前が止めたから何人かは助かったが、殆どが死んじまった。」

 奴の放った一撃は全て、冒険者達の上半身と下半身を離ればなれにさせていた。そしてそこには、水溜まりではなく血溜まりができた。

「これが幹部の力…か」

 何故運悪く一番強い幹部が来たのだろう。他の幹部だったら、勝敗は変わっていたかもしれないのに。

 多く冒険者の死を嘆くかのように、大雨が降った。

 異世界だから、手に汗握る戦闘。異世界ならではの料理。仲間との絆、恋。激戦のはてのラスボス討伐。そんなもんじゃない。

異世界だから?いや、異世界だからこそ人は死ぬ。異世界だからこそ日本より死ぬ。そんなこと考えてなかった。ゲームみたいだとしか思ってなかった。

人が死んだからって、教会で、金で生き返る訳はない。

当たり前が大事だと知った。俺の生きている間は絶対に仲間は死なせないと誓った。

生きるためならクエストも大事だ、もう戦わないとかそういう訳じゃない。

でも、ゲームで一度も仲間を死なせないより難しいけど、ゲーム感覚で生きる訳じゃないけど、ゲームで出来ることは現実でも、異世界でもやってやる‼

 初めて目の前で人の死を体感した。異世界での人の死を体感した。生を誓った………。そんな日だった。




 お久しぶりです。Ryuu65です。この小説も十話となりました。
ここまで読んでくれた方、()()()ありがとうございます。
まだまだお付き合いいただけると幸いです。
 今回は、身知らず人の死についてという暗い話になってしまいました。
エティオン強いですよねー。次期魔王になるかもしれませんw
今回の話は暗いので、ちょっと無理かもしれませんが失礼して。
 それでは、こんな日陰小説を見つけ、読んで下さった皆様に、
笑顔と感謝とドキドキを!


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第四章   異世界幹部討伐!
異世界と修行と迫る幹部


 「修行しないといけないと思う」

エティオンの事件から二日後、いきなりの言葉に二人はポカンとする。

「だって剣技が上手くなればクエストの効率も上がるし、魔王軍幹部にだって少しは対抗出来るかもだろ?」

剣技が上手くなった程度で、アイツに勝てるとは思わないけど…。

 俺は剣の振り方をバイエルに教わったがあくまでそれは初歩的なことだ。もっと異世界にあるソードスキルだの剣《つるぎ》の舞《まい》だのを使いたい。

「だからさ、この近くに修行にうってつけの場所とかない?」

「うーん……修行かー。あ!この街の近くに古い村があるんだけど、その村で魔法を使った剣技を教えてくれるらしいぜ?今はもうそんなに有名じゃないけど…」

流石は盗賊。色々な所を回っているのかこの国に詳しい。

俺が世間知らずなだけか………?

「確かに修行は大事ですし、たまにはちょっと遠出するのも良いかもしれません。お兄様、どうしますか?」

「そういうのを待ってた。早速明日早く起きて行くか!」

「「やったー!」」

おい、遠足じゃないぞ。

それぞれ自分の部屋に戻り支度始める。

「一泊じゃすまなそうだな…。てか魔法の剣技とかまさに異世界!まさにRPG!」

 

「家来《けらい》無しで仲間との初めての遠出……楽しみ過ぎて眠れません!」

 

「村がピンチだと良いなー。そしたら助けたお礼にお宝貰えるし!ピンチ求む!」

 

                 翌日

 

「村の場所は覚えたし、そろそろ行くぞ」

「はぁーい…んー楽しみです」

ラフィネ…ちゃんと寝れてないな。

「ふぁーあ……もう行くの?早くない?もう少し寝かせてよ…」

お前もか!

 古い村とはいっても道は馬車が通る為かしっかり整備されていて、特にモンスターも出ずに二時間ほどで着いてしまった。

二時間もかなり長いけど……。

 村に着いたので早速魔法の剣技とやらを教えてもらう。

「最近は魔法を使ったの剣技なんて教わる人も少なくての、ヘイトン村になんかは誰も来ないと思っていたが、まさか来てくれる人がいるとは……このオールド、精一杯お教えいたしますぞ」

では早速教えて下さい!

「魔法を使った剣技と言うのは、火・水・風・雷・氷・光、六つの属性の魔法の中から一つを魔力を少し使って剣に流し込む。これをマジックシェードと言う。昔は良く使われていたが、魔法なんていう強くてカッコイイのができればな、覚える人も少なくなる。今ではこの国に二十人もと思うくらいじゃ。して、おぬしらはどのような魔法を覚えているのか?今言った属性の魔法を習得しとらんとマジックシェードは使えんぞ?」

俺は光以外の属性の初級魔法は全部覚えたから問題ない。ラフィネは光属性。ルリテは闇…あ!

「あたし闇魔法しか覚えてないから無理じゃん!」

ガッカリしたルリテは短剣の素振りを始めた。

「じゃ、じゃあさっそく始めるとしようか…。マジックシェードとは少し魔力を使って手から魔法を流す。金属などでもできるが基本は剣に流して使う。火の魔法を剣に流して敵を切れば敵が燃える。風は切れ味が上がり氷なら凍る。そんな感じじゃ」

か、かっこええ!是非教えて下さい!

 しかし修行はとてつもなく酷く辛いものだった。

マジックシェードを使えないルリテも入れて剣の素振りを一時間以上。魔力が無くなり倒れるまで剣に魔力を流す練習。一番キツイのは剣を使った戦闘練習。そもそもの戦闘力を上げるためにオリの中に入れられてゴブリンと戦わさせられる。

最初は一体二体位だったけど最近じゃ五、六体。辛いけどラフィネも俺もルリテも、強くなっているのが段々と実感できるようになっていった。

 

 

修行をしてから五日経った朝方、とうとう免許皆伝の日が来た。

オリの中でラフィネと俺対ホブゴブリン。大きさは二メートル近くある。

「よしラフィネ、行くぞ!」

「はい!」

「『スパラグモス』!」

ラフィネが魔法を唱えるもホブゴブリンは消滅しない。

「そんなヤワな魔法じゃそいつは倒せんぞ!」

「分かってます。お兄様!」

「任せろ!」

ラフィネの魔法によって消滅はしなかったものの少しは怯むし目眩ましにもなる。

「『マジックシェード・ウインドショット』!」

「『マジックシェード・スパラグモス』!」

 習ったとおりに剣に魔法を流す。良い装備ほど魔法は通りやすいので高価なミスリルと最強のエクスカリバーはとても魔法を通しやすい。

当たり前だろうけど初級魔法より中級魔法。中級魔法よりも上級魔法を剣に流した方が強い。

 ホブゴブリンの拳をかわしまずはラフィネが剣を振る。

中まで魔法が届いたためか斬った所が消滅していく。

「ウゴオオオ!」

ヤバい!見とれてたらこっちに敵意が向いた。

「お兄様!」

「マサト!」

「早く逃げるんじゃ!」

俺に向かってデカイ拳が向かってくる。剣を振るが間に合わない!

…死ぬ!死ぬ!…………死…ぬ。

 …………何でホブゴブリンの腕が切れてるんだ?振るスピードも切れ味も足らないはずなのに…。

ホブゴブリンのもう一方の腕がまた俺に向かってくる。

また振るスピードが足らないはずなのにもう一方の腕も切れた。

……!もしかして風の魔法を流したから振る速度も切れ味も上がったってことか!?確かに、オールドのじいさんは風魔法を流すと切れ味が上がるっていってたし、そういうことにしておこう!ていうかそういう事だろう‼

 瞬時にホブゴブリンの後ろにまわり体を挑発的にツンツンと突く。

「ウガガ、ガアアアアアア‼」

とてつもなく怒ったホブゴブリンが頭突きをしてくる。

それを待ってたんだ!

ホブゴブリンをの周りを剣を立てながら高速で一周する。

二周目に入ったときにはもう、ホブゴブリンの首と体は繋がっていなかった。

 

 

「いやーおめでとうおめでとう!免許皆伝した人が出てくれてワシも嬉しいよ」

緊張の糸がほどけた俺は地面に座り込んでいる。

「マジで死ぬかと思ったー。……よし、今日はパーティーだ!俺がメチャクチャ美味しいカレーライスを作ってやるよ!」

俺の言葉に皆キョトンとしている。

「かれーらいすとは何ですか?料理というのは分かりますが聞いたことありません」

「あたしも初耳だよ。なんなんだその料理」

「まあ待てよ。その料理はできてからのお楽しみだ。それよりスパイスとかカレールーをどうにかしないとな」

と言いつつも準備の良い俺はカレールーの作り方は何となく知ってるし材料もどこで採れるか勉強済みだ。家庭科の調理実習Aの力を見せてやる!

「まずは材料集めからだ!」

「「おー!!」」  



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異世界と筋力バグりと兜の人

 村の近くの草原で材料を確認しながら。

「ふー…。あとは肉だけだな」

村の近くには色々な材料が揃っていたためスパイスの元などはすぐに集めることができた。

「ですがお兄様、お肉といってもここら辺には生き物がいませんよ?」

「いやいるじゃん。倒したての奴がさ」

そう言って檻の中のホブゴブリンを指す。

「え……あれを食うのか…」

「料理次第で美味くなるから大丈夫だって!……でも回復魔法がなー。ラフィネのレベルじゃあまだな……」

「それでは、私がお手伝いしましょうか?」

いつの間にか近くにいた怪しい女の人が言ってくれた。

 首から下は普通にそこらの冒険者と同じような防具なのに頭に錆びかけの鉄の兜を被って背中には片手剣を背負っている。

兜のせいでよく分からないが、声からすると年齢は俺と同じかそれ以上か。

「あなたは?」

「この兜は気にしないで下さい。一つ言えることは怪しいものじゃありません」

すごく兜が気になるけど、女の人のファッションは分からないことだらけだからな、口にしたら負けだろうな。

「じゃお言葉に甘えさせてもらいます」

「分かりました『ヒール』」

余程魔法レベルが高かったのか俺でも肉が浄化されたことがわかる。

これなら料理できそうだ。

 スパイスを調合しニンジン、ジャガイモ、肉といった材料を食べやすい大きさに切る。

まさか異世界でもカレーを食べることができるとは思いもしなかった。

美味しそうなカレーの匂いが辺りに広がる。

「後は少し待てば完成だな」

「いい匂いですね、食欲をそそられます」

「こ、この匂い!まさかあなたは────⁉」

兜をかぶった女の人がそう言いかけたとき、茂みからデカい音が鳴ったと思うと。

さっきのホブゴブリンよりもデカいゴブリンが出てきた。

 「なんかいい匂いがすると思ったら、まさか人間がいるなんてなぁ」

声が低くやけに上手く喋るゴブリンだ…。しかも首に紫色の魔王軍のマークが入ったネックレスをかけている。

俺の目線にきずいたのかネックレスを触りながら言う。

「うん?こいつが気になるのか?こりゃあ魔王軍幹部しかつけることを許されない紋章みたいなもんだ。俺はキングゴブリンの筋力バグり、ブリッシュってえ名前だ」

……………筋力バグり?

………………魔王軍幹部?

いきなりの事に皆も固まったままでいる。

 とてつもないほどの動揺を隠しつつそのブリッシュとやらに聞く。

「その…魔王軍幹部がこんなところに何の用だ?」

「……まあ確かに魔王軍幹部がこんなへんぴな所にいるのは気になるよなあ。俺もこんなところには来たくなかったんだがよ、エティオンが言うんだよ。ボロボロになったあとは必ず一組は修行に行くってな。古い街だから見落としそうになるところだったよ。あと、エティオンが言ってたぜ…修行に来るなら俊敏バグりのマサトって奴達だってな。……お前の名前は?」

エティオンには全部おみとうしだった訳か……。

流石としか言いようがない。

「カヤマサトだ…」

その返事にブリッシュが大声で笑いだす。

「フッハハハハハハ!いやー流石お前だよ!ドンピシャじゃねえか!こりゃあお前を魔王様ん所に持っていったらどれ程の褒美が貰えるかな」

その言葉に俺以外の三人が身構える。

俺は前を向いたまま三人に手を出すな…みたいな感じのサインを贈る。

「さっきアンタは、良い匂いがするって言ったよな。そこでだ、その匂いの正体はこの鍋の中なんだが、これを全部やる。その代わりにアンタは黙って退いてくれ」

こんな交渉しか思い付かない。

今の俺たちじゃ、とてもじゃないが勝てる気がしない。

望みといえばこの兜の人がどこまで戦えるか、だ。

一人で魔王とかドラゴンを倒せるくらいの力の持ち主なら普通に反撃するが、そんな可能性は全くといっていい程いや、悪いが全くないだろう。

「フッ……ハハハハハハ!おもしれえこと言うなあ!けど、なんか勘違いしてねえか?」

………?

「俺の言ったいい匂いってのはよお……………お前ら人間の事だよ!」

そう叫んで腰についてたまさにキングゴブリン専用の大剣を構えた。 

 魔王軍幹部、筋力バグり、キングゴブリンのブリッシュが襲ってきた‼

俺達も瞬時に武器を構える。

だがどうやって戦えば良いのか分からない。

まずは相手の動きを─────‼

早速ブリッシュが大剣を振りかぶる。

「回避っ!」

こいつは筋力が高いだけですばやさはない、回避すること事態はたいしたことないのだが……。

 ブリッシュの振った大剣が地面に落ちたとたん、ものすごい地響きが起きた。

全く立っていられない程という訳でもないが、少しの体勢は崩してしまう。

しかも、あいつが切った地面にはドラゴンの爪痕かと思うくらいの切れ目が入っている。

筋力バグりやべええええ‼

あんなの喰らったら粉砕《ふんさい》骨折の百倍ヤバい!

「こいつは筋力が高いだけですばやさはない!攻撃した後の隙を狙うんだ!」

俺の言葉に全員が頷《うなず》く。

「懸命《けんめい》な判断だな!まあ頑張れよ‼」

頑張るよ!

 「…おらよ!」

ブリッシュの目の前にいた兜の人を標的にしたらしいが、難なくそれを回避する。

あの人も結構やるな。

……あの人()じゃなくて()()()()だな。

って、そんなこと考えてる場合じゃない!

今の攻撃で隙ができた!

「今だ‼自分の持てる最大の攻撃を当てろ!」

四人が一斉にブリッシュに攻撃する。

「分かりました!『マジックシェード・ライトクロニクル』ッ!!」

マジックシェードを使った先程覚えたばかりらしいラフィネの上級魔法が当たる。

「グオオオッ!」

流石は上級魔法、魔王軍幹部のも絶大なダメージを与える。

更に隙を見せたブリッシュに今度はルリテが突っ込む。

「『ポイズンシャボン』!」

紫色のシャボン玉がブリッシュを包む。

ポイズンシャボンと言うくらいだから、名前のとおり毒のシャボン玉なのだろう。

ブリッシュが立とうとすると毒のシャボン玉に触れて割れる。

「グワッッ!」

ブリッシュには確実にダメージを与えられている。

案外いけるのか?

兜の人がブリッシュの弱ったところを見て前に出る。

するとブリッシュがにやついた。

「ダメだ!行くな‼」

そう言うが時既《ときすで》に遅し。ブリッシュが元気よく立ち上がり勢いよく兜の人を突き飛ばす。

やられた!ゴブリンに毒系が効きにくいことを考えとくんだった!

 ゴブリンは日頃腐った場所や濁《にご》った場所を好んで生息する。だから毒はあまり効かないかもしれないとは思ってたんだ。

わざと弱ったふりをされた!

「おいおい、よええなお前ら!上級魔法は正直ビビった、お前らの実力も悪くはない、だが戦い方が悪い!俺は勇者気取ってる奴と()()バトルがしたいんだよ。と、いうわけで話のわかる俺は待ってやる!三日間だけな。三日経ったらまた来るぜ!それまでに鍛えとけよ‼」 

そう言ってゴブリンキングのブリッシュは森の中に戻っていった。

 また勝てなかった。力の差なのか?でもあいつは実力は悪くないと言った、修行の成果も出てる。一体何が足りないのだろうか。

 「おいお前、大丈夫か⁉しっかりしろ!ラフィネ、マサト、急いで運ぶぞ!」

その言葉に俺は正気に戻る。

あの一撃を喰らったとはいえ命に別状はないはずだ。

急いで兜の人の元に駆け寄ると、その人の兜は砕け散っていて気になっていた顔が露《あらわ》になっていた。

 綺麗で鮮やかな茶髪。流れるようなロングストレートの髪。俺と同じような歳。

「おいマサト!何やってんだよ手伝え!」

────────‼

「この人………俺の彼女だ………!」



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異世界と引きこもりと彼氏

 私は中学二年生までは普通の女子だった。

だけど三年生になってから、何故かいきなり友達に避けられ一人も友達がいないという理由で、頻繁《ひんぱん》にイジメをうけるようになった。

 噂話や陰口などは日常茶飯事《にちじょうさはんじ》で、お父さんがいなくお母さんは忙しく会社に寝泊まりしてばかりで帰ってくるのは一年に五回あるかないか。

どこでも一人ぼっちの私は、日に日に学校に行くことも減ってきて、ついには不登校となってしまった。

 不登校を初めて一週間。その時学校は夏休みに入っていたが、私にとってはいつもと変わらない日常だった。

そんなとき、毎日暇で寂しくてしょうがなかったのを少しでも紛《まぎ》らわす為にネットゲームというものをやってみることにした。

幸いパソコンはあったし、評判の良い無料のネットゲームがあったので早速プレイしてみることにした。

ディスプレイネームに悩んだが、本名の波村優菜《なみむらゆうな》の名前をもじって『YUNA』にした。 

 そのゲームは異世界系ロールプレイングで、少しだけ自分が強くなった気がした。

だけど、初めてボスに勝てなくなった時の表示に、また自分がとても弱くなった。    

 『一人で難しいなら、協力できる仲間と倒そう!』

こっちの世界でも、仲間や友達がいないという事実を突きつけられた。

 寂しくなった私は、いつの間にかネトゲの掲示板に、『私は孤独』と書き込んでいた。

それを少し勘違いして受け取ってしまった人がいた。

『うちのギルドに入る?』

最初はためらったが、元々友達や仲間が欲しかった私は、そのギルドに入れさせてもらった。

そのギルドには沢山の人がいて、気兼ねなく話せてまるで本当の友達のようだった。勝てないボスにも勝てて強くなって、ゲームの中だけは元の自分に戻れた気がした。

そんなときに最高のパートナーと出会った。

その人は『Masa』といい、私と同じ中学三年生で、自分でギルドを立ち上げ私を誘ってくれた人。このゲームの中で凄く有名な強プレイヤーらしい。

そして私は聞いてみた。

どうして私をギルドに誘ってくれたのかと。

しかしその答えはあまりに単純なことだった。

『誰でも、現実でもゲームでも一人は寂しいだろ?特にゲームなんかつまらなかったらゲームじゃないじゃん』

確かにその通りの言葉に感激し、ゲームの中なのに私はその人を少しだけ好きになってしまった。

そこからギルドの中でタッグを組むことになりMasaと組むことになった。

 Masaは私に丁寧にゲームのコツを教えてくれて、異世界系が好きならこの小説やアニメおすすめだということまで教えてもらった。

 ………そしてとうとう、私は言ってしまった。

『リアルで会えませんか?』

無理だと思っていたのに、返ってきた答えは意外なものだった。

『いいよ。やっとそっちから会いたいって言ってくれたね』

その言葉に私の心臓はずっとドキドキしていた。

相手も私の事を好きだったのだろうか。

そしてなんとこれを奇跡というのか、彼の住んでいた場所が私と同じ地区だった。

 質問をしてから三日後。以外に早く、今日近くの公園で会うことになった。

朝から、いや昨日の夜から心臓がドキドキしぱなっしだ。

とても久し振りにおしゃれをしてとても久し振りに外に出てとても久し振りに外の空気を吸った。

公園に着くと彼は先にいて待っていた。

「久し振り」

久し振り?そう思って彼の顔を見ると、見覚えのある顔だった。

彼の正体は同じクラスの政人《まさと》君だった。

凄く恥ずかしくなった。政人君は知ってたんだ…YUNAが私だったってことを。

政人君は私が学校に行かなくなった最初の頃、家が近いから溜まってた手紙を届けに来てくれた人。

 『優菜、学校に来なよ。責めて人に合わないと』と言われて私は、『私は自分が学校に行きたいときに行き、人に会いたいときに会う』そう返すと彼は『分かった』と言って、手紙を届けてくれることはあっても、外に出ようと話しかけてくることはなくなった。

 相手が政人君なら『やっとそっちから会いたいって言ってくれたね』という言葉もつじつまが合う。

恥ずかしくて走り去りたい気持ちでいっぱいだったけれど、自分で読んでだ訳だし私が勘違いしただけで政人君に悪気はないので我慢した。

「どう?学校に行く気になった?」

「…………まだちょっと」

「そうか…」

 暗い空気を感じ取ったのか、政人君は話題を変えてきた。

「それよりもさ、俺のおすすめした小説は買ってくれた?今日外伝が発売されるんだよね」

「……ごめん、ちょっと買いに行く時間がなくて…」

一日中家にいてゲームをしてるというのに私は何を言っているのだろう。

「じゃあさ、今から買いにいこうぜ!俺も丁度外伝買いたかったし」

「い、今から?」

「もしかして予定あった?」

「いや、別に予定はないけど……」

「じゃあ行こう!」

そう言って彼は本屋の方へ歩き出す。

幸い背負ってきたバックの中にお財布が入っていたので本は買えそうだ。

他人《ひと》と買い物に行くのなんていつぶりだろう。まあ外に出たり他人と話すのも久し振りなんだけれど。

 色々な事を考えているうちに本屋に着いてしまった。

「いらっしゃいませー」

同じシリーズの小説なので同じ本棚で本を探す。

「お、あった!…そっちは?」

「あ、うんあったよ」

目的の物も見つけたので素早く買い物を済ませ店を出る。

「付き合ってくれてありがと」

「いやいや誘ったのはこっちだし」

優しい…こんな人はとても久しぶりだな――――

「どうした?」

しばらく黙って固まっていた私に声をかけてきた。

「な、何でもない」

意味の分からない恥ずかしさに顔が赤くなる。

「今日はありがと。じゃ、じゃあまた」

何故か駆け足でその場を離れ家に帰った。

おかしな奴だなと思われただろうか。そもそも学校に行ってない時点で常識的におかしな奴だけれど。

すぐにパジャマに着替えてベットに潜るという行動を私はいつの間にかしていた。

 ……………………………………。

……………………………好き?

一時間と言うほどでもない時間一緒にいただけなのに。

学校に通《かよ》ってたときはイジメのせいなのか気にもとめなかった。

でも何故か、彼のそばにいると安心するというか落ち着くというか。イジメにあってボロボロだった私の心を癒してくれている気がする。

それが好きってことなんだって気がする。

 ……………私は彼が………………政人君が好き、だと思う。

でもだからといって、告白したところでフラれて終わり。

 自分では気づいてないみたいだけど結構モテてるし、そもそも不登校で引きこもりの私が選ばれるはずがない。

今のところは今まで通りに普通に接して普通にゲームしよう。

 そこから、私のネトゲはいっそう楽しくなった。

夏休みにだから夜更かしも出来る。

政人君とタッグを組んでるから二人でクエストに行ってボスを倒して、素材集めて腕を磨くために決闘して。そんな私にとって一生で一番楽しい期間だった。

けれど楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもの。

 とうとう夏休みが終わってしまった。

夏休みが終わってしまえば、ゲームは夜の少しの間だけ。

政人君は毎日も学校があるからそこまで夜更かし出来ない。

いっそ夜中の学校に小さい隕石が落ちてきて、学校を潰してずっと休みになればいいなんて幼稚《ようち》な事を考えてみたけれど、そんなことが起きる訳もなくただただ寂しいだけだった。

 寂しいままゆっくりとした月日が流れ、その間に政人君に気持ちを伝える覚悟が決まらず、二月になってしまった。

そしてタイミングよく、私はやっと決めた。

二月十四日、バレンタインの日に彼に気持ちを伝えようと。

料理は下手だけれど頑張ってチョコも作った。

「え、えっと……ごめんなさい」

「…バレンタインの日にそのセリフは俺がフラれた様にしか聞こえないんだけど…どうしたの?」

 私が呼び出したのに口が動かない。

いざとなると恥ずかしくて全然告白できない。

「ご、ごめんなさいってのはそういう事じゃなくて……」

やばいやばいやばいやばいどうしよう。

「じゃあさ、俺の要件から言っていいかな?」

「え?あ、うんいいよ」

言うタイミングを逃した…もう無理…言えない…。

「優菜が好きだ……付き合ってくれ」

…………………え?

この人は何を言っているの?

「何…で?」

「あ…いや、優菜が嫌ならいいんだ」

「そんなことない!私も…政人君が……好き…だから」

…言えた。

その言葉を聞いた政人は凄い笑顔になる。

「でも、私なんかと?」

「……うん」

「引きこもりなのに?」

「それはイジメた奴が悪い」

「ゲーム好きの女で、料理も出来ないのに?」

「しってるよ。でも料理は関係ないし、ゲームが好きなのはお互い様だろ?ていうか俺は優菜がどんな姿でもその優菜が好きなんだ」

そう真剣に言ってくる。

そんなストレートに言われたら。

………………私の瞳から熱いものが流れた。

「あ、あれ?何でだろう?涙が…悲しくないのに」

そう言いながら涙を拭《ぬぐ》う。でも拭っても拭っても何故か涙が止まらない。

「嬉…しいのかな?うん、嬉しいんだ。自分の好きな人に好きって言われたら誰でも嬉しいよね。それに、誰かに必要とされてるなんて……」

ずっと泣いている私に政人君が優しく両手で包み込んでくれた。

「…大丈夫。俺がずっと、一生優菜を必要とするから。……いや、俺には優菜が必要だ」

「………本当に………ありがとう。……それで、その…政人君、か、彼女として…よろしね」

「ああ!でも、君じゃなくて政人でいいよ」

「わ、分かった。………政人」 

お互い顔が一瞬にして赤くなるのが自分でもわかる。

 そこから私と政人君……政人の日常が始まった。

頑張って学校に行ったり、二人で色々な場所に出かけたりした。

最初の頃は回りの女子達に恨まれイジメにあったが、政人が守ってくれた。

一貫《いっかん》学校だった為回りの人達も変わらずに高校一年生になった。

このまま大学に行くか社会人になるかと思っていたら、やはり楽しい時間はすぐに終わってしまい、大好きな政人のいる世界とお別れすることになってしまった。

 ……………いつも通り寝て目が覚めたら…………異世界にいた。

 



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異世界と再会とカウンター

 時刻は夜中の四時を少し回った頃。皆は寝てしまったが俺は眠れるはずもなく優菜の寝ている部屋でずっと座っている。

幸い軽い脳震盪《のうしんとう》ですぐに目が覚めると言っていた。

「………ん」

「優菜!大丈夫か⁉」

「……ん……え?…ま……さと?」

俺の顔を認識した優菜の顔からゆっくりと涙が流れる。

「どう…して?何でこの世界にいるの?」

「寝て起きたらこの世界にな」

「…そう。私も…同じ」

「そうなの──」

言いかけている時に優菜が俺の背中に手をまわし、自分の方へ引き寄せた。

まあまあ大きな声で泣きながら。

「良かった!また…会えて!もう二度と…会えないかと思って……私頑張ったよ!政人に教えてもらった事で、一人で…頑張ったよ!」

「………ああ…よく頑張った。俺達はここで生きていくしかないんだ。……勿論、また俺のパーティーに入るだろ?」

「うん‼」

涙で溜まった目をゴシゴシと腕で雑に拭きながら、前と変わらない笑顔を見せた。

 

 

「俺のパーティーメンバーだ」

朝になったので二人を起こして紹介する。

「ラフィネです。お兄様…じゃなくて、マサト様に命を救われました」

「ルリテだ。あたしも救われた様なもんかな」

「ユウナです。よろしく!命を救ったのと、お兄様について詳しく。…まさか、そういうシュミじゃないよね?」

やっぱりそこをついてくるか‼

「違う違う!何から話せばいいのか…。まずラフィネはこの国の王女で…」

「「ええええええ⁉」」

まあそれが普通の反応だよな。だけど……。

「ルリテは気づいてただろ?」

「まあね。でもこういうのってお約束じゃん?」

気づいてて普通に対応出来るの凄いな。

 そこから、俺の今までの説明が始まった。

この世界のステータスバグりや俺の敏捷性バグり。王女救出や盗賊を買い取るなど。特に誤解の多いお兄様については十分の十二までしっかり説明した。

「なるほどねー。王女様、ルリテ、よろしくね」

「あ、あの…私のことはラフィネで良いですから。しゃべり方もいつも通りで……」

「じゃあ………ラフィちゃんで!」

自分より年下をちゃん付けするのかと思ったが、年が近いからかルリテは呼び捨てのままだ。

まあ、ルリテちゃんってのは少し無理があるしな。……性格上。

 「ところで気になってる事が二つあるんだけど。この世界に来たのっていつ?あと何で兜だけ装備してたの?」

「えーっと…。ここに来たのが二週間くらい前かな?装備は、初めの頃は強い装備を買おうと思って全身鉄の装備を買おうと思ったんだけど重すぎてね。だから責めてもの情けで兜だけ買ったの」

気持ちは分かるけど兜だけ装備したってあんまり意味がない気がする。

「あ!今兜だけ装備したって意味ないって思ったでしょ!」

「い、いやいや!決してそんな事はないはずだ!」

変な回答をしたため二人で笑いあう。

するとさっきから不安そうな顔をしていたラフィネが。

「あの…ユウナさんはお兄様の…彼女さんなんですか?」

「えっ!う……んまあそうなのかな」

ストレートに聞かれたので少しの恥ずかしがる。

「まあこの世界の事はよく分かんないからそういうのがないのかもしれないけどな」

「もう!そういうこと言わなくていいの!」

ユウナの返事にラフィネが今度は目が少しだけつり目になる。

「ユウナさん!私、まだ負けてませんから!私にだってチャンスはまだあるんですからね!」

「え⁉」

いきなり怒ったラフィネにユウナは戸惑《とまど》う。

どういう事?

「良かったなマサト」

……?

「それってどういう意味だ?」

「分かんねえなら良いんだよ」

…………?

 

 

 「で…どうやってあのブリッシュとか言うキングゴブリンを倒す?」

「毒は効かなかったんだよな」

「私の上級魔法は結構効きました」

「力じゃ押し負けちゃうしねー」

お前ら……以外に呑気《のんき》だな。

だがどうしたもんか。

ゲームだとこういう力がバカ強い奴ってどうやって倒してたっけ……?

……………………………………。

真面目に考える。

……………………………………上級魔法は効いた。

……………………………………三日間待つ。

……………………………………力じゃ押し負ける。

……………………………………………………………⁉…………‼

そうか‼だからか!…そうすりゃ良いのか!

「攻略方法が分かったかもしれない」

 

 

 ブリッシュが退いてから三日間経った昼。

前に戦った場所で四人はキングゴブリンが来るのを待つ。

遠くから大きな足音が聞こえて来た。

次第に足音が大きくなり、巨大な体が再び俺達の前に姿を現した。

「よお!よく逃げなかったな。今度こそは楽しませてくれよ?」

「任せろ」

ブリッシュを含めた皆が一斉に武器を構える。

 ブリッシュが大剣を降り下ろす。

今だ!

降り下ろされた大剣を刀身《とうしん》の短いダガーで受け流す。

重い‼……けど!

「セヤアアッ!『マジックシェード・ウインドショット』!」

受け流したところでがら空きになった胴《どう》にひたすら斬り込む。

力じゃ押し負けるなら攻撃を流してからカウンターすれば良い。

「グアアッッ‼いてえじゃねえかああああ!」

楽しませろって言ったのそっちじゃん!

でも、カウンターは上手く効いてるようだ。どこかの漫画で『激流を制するは静水!』ってのを読んだことあったのが役に立った。

 

 

 「いいか?あの筋肉バカはカウンターに弱いはずだ。俺がまず試しにやってみるから、上手くいったらお前らもやってくれ。あと、あいつにラフィネの上級魔法は凄い効果的だと思う。多分あいつはあの魔法が結構痛かったから回復のために三日間待ったんだと思う。だから、あいつとの戦闘の肝《きも》はカウンターとラフィネの上級魔法だ」

 

 「さっさと……死ねえええ‼」

今度はユウナとルリテの二人を狙って大剣をで突き技をする。

やはり相手の動きは極端《きょくたん》だ。

「ルリテ!」

「おう!」

二人で向かってきた大剣を片側ずつ剣で流していく。

勢いがなくなってまたもや胴が空いたところを。

「「ハアアアア‼」」

見事に斬り込む。やはりカウンターの効果は絶大だ。

「調子にのんじゃねええええ!」

しまった!

 いきなりの行動に対応が遅れたため俺はブリッシュの手に捕まれる。

「お前ら!こいつがどうなっても良いのか?俺にとっちゃあこいつを握り潰すなんてわけないぜ?」

まずったな…。

 するとラフィネが声を上げた。

 

 

 「離しなさい!私は───!」

そこまで言ったところで息を飲んだ。

私はお兄様と冒険した一番最初の頃に言われた言葉を思い出す。

「いいか?自分の命が危なくならない限り、ラフィネは只《ただ》のラフィネだ。どんなに仲間が危険な目に会おうとも、自分が王女ということをばらすな。王女としての権力は使うな。権力を使って自由するのは魔王くらいで十分だ」

……。どんなに仲間が危険な目に会おうとも、権力を使ってはいけない……。

「私はその方の仲間です!それ以上するなら、容赦はしません」

そう言って右手を前に突き出す。

 

 

 「おいおい、その手はなんだ?少しでもお前が俺に攻撃したら、内臓と血がこいつの体から溢れるぜ?」

やだー!幹部の手に納められてるわりには冷静だが、内臓血をスプラッシュマウンテンにされるのは絶対やだ。

「…なら、容赦はしません『ライトクロニクル』ッ!」

ラフィネの突き出した右手から光の長方形が、光の速さで俺を握っていたブリッシュの左手を切り落とした。

「グオオオオオオ‼」

「ナイスだラフィネ!」

急いで近くに落としたダガーを拾いブリッシュに向かう。

「ふざけんなああ‼」

今度は先程よりも速い動作で、渾身《こんしん》の力で俺に大剣を降る。

今しかない!ここを逃したら……!

俺も出来る限りの弱い力を振り絞る。

「さっさと死ねえええ!」

「ッ!『マジックシェード・ウインドショット』ッ‼………アアアアアアアアアッ!カウンター‼」

渾身の一撃をスキルでカウンターしたことにより、一・五倍にして跳ね返したため俺のダガーが太いブリッシュの胴体を切り裂《さ》いた。

「グ……アアアアオオオオオオオ‼」

 とてつもない雄叫《おたけ》びを上げた後に、魔王軍幹部のブリッシュは、魔王軍の紋章が入ったネックレスや装備していた大剣と一緒にボロボロと崩れ、死体も残さず消滅した。

「……終わった…のか。でも…なんで…死体すら残さず消えたんだ?」

俺の質問にラフィネが答える。

「魔王軍幹部が装備している魔王軍の紋章が入った装飾品を装備すると、魔王の呪いにかかるらしくその装飾品を外せず、魔王軍の重要な証拠を残さないよう死んだときに死体や紋章の装飾品、幹部が装備していた物や持ち物まで消滅するんです」

紋章入りの装飾品……あのネックレスか。

「終わった…終わったよ!私達、魔王軍幹部を倒したんだよ!」

「倒したのはマサトだけどな」

「お兄様の作戦は大成功でしたね」

ふう……何とかなったな。

…………まあ終わってみれば、熱いボス戦だったな。

「じゃあマジックシェードも覚えたし幹部も倒したし、今日はここに泊まって明日プロレイに帰ろうぜ」

その言葉に皆返事をし、村に向かって歩いた。



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第五章   異世界二人の幹部!
異世界と称賛と宴会


 まあまあ久し振りにプロレイの街に帰ってきた。

街の中に入ると冒険者の人だかりができていた。

「皆どうしたんだ?」

そう訊《き》くと。

「何でもねえよ」

一人の男がぶっきらぼうそう言うと、人だかりも解散した。

………俺、なんかやらかした?

俺がやった事といえば新米冒険者に飯を奢《おご》ったくらいですが。

あれか?お前も新米冒険者のくせして熟練《じゅくれん》冒険者みたいなオーラ出すなとかそんな感じか?

それともまさかルリテが他人《ひと》の物盗んだとかなんかやったのか?

……全く思い当たる節《ふし》がない。

人だかりと皆のそっけなさに俺達の頭の上にハテナマークが出現する。

するとバイエルが俺の肩をガシッと掴《つか》み結構強めに言ってくる。

「おいお前ら!…今夜絶対にギルドに来いよ?」

「…お、おう」

返事をするとバイエルも帰ってしまった。

…………俺、なんかやらかした⁉

「お兄様、私達何かやりましたでしょうか?」

「なんか怖かったんだけど」

「なに?マサトって嫌われてるの?」

「いや、嫌われてないし思い当たる節が全くない。今夜ギルドに行けば分かるんだろうけど……」

 おじいさんにお礼を言いゆっくり帰ってきたため時刻は夕方、すぐに夜になるだろう。

 

 

 ユウナに街を紹介しているとあっという間に夜になってしまった。

俺達はギルドのドアの前に立つ。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い超怖い。マジで何されんの?

なんかしらの原因である俺達以外の冒険者と一緒に来たかったが他の冒険者が街に見当たらなかった。

緊迫《きんぱく》した状態に唾を飲む。

「い、行くぞ」

俺のビビっている台詞《せりふ》に皆もドキドキした状態で返事をする。

いつもよりやけに重く感じるギルドのドアを開けた。

その瞬間に大きな歓声が起きた。

「「「「「魔王軍幹部討伐、おめでとう‼」」」」」

…………え?

「ハハハハハ!ビビったか?何か怒られるかと思っただろ」

…………このドッキリはシャレにならん。ドア開けた瞬間土下座する気満々だったんだけど。

「……ありがとう」

何とかお礼の言葉は形にできた。

というか幹部を倒してから一日しか経っていないのに情報が早いな。

ということは…………。

「お前の仕業《しわざ》か……ルイ」

すると俺より一つ程小さい年で俺より二回りほど小さい体をしたルイがバイエルの後ろから出てきて得意気に話す。

「オイラの情報網《じょうほうもう》を甘く見ない事だね」

「いやあまさか駆け出し冒険者の中から幹部を討伐する奴が出るなんてな!勿論お前の倒した幹部に賞金がかかってるから貰ってこいよ」

賞金!?…………そんな事考えてなかった。

言われるがままに受付に向かう。

すると受付のお姉さんが大きな袋を持っていた。

「では魔王軍幹部、筋力バグりのブリッシュを討伐されたマサトさん一行に、四億ベクタを差し上げます‼」

「「「「「うおおおおおおおおおお‼‼」」」」」

多額の賞金にギルド内が盛り上がる。

四…億?……四億⁉ヤバいヤバいヤバいていうかなんか怖い。さっきとは違う意味で怖い。

「四億⁉すごすぎる!屋敷が買えちゃうよ!」

二つ目の屋敷を想像する金額。

「お兄様!四億ですよ⁉毎日豪華な食事ができます!」

王族ですら驚く金額。

「よ……四億……もうお宝要らないじゃん……」

若干《じゃっかん》引きつつも盗賊が職務《しょくむ》放棄《ほうき》する金額。

そんな金額を、俺は手に入れた。

「きゃああああカッコいい!マサトさん奢《おご》ってえ!」

「おいおい奢れよ!俺達ダチだろ⁉」

「「「「「マサト!マサト!マサト!マサト!マサト!」」」」」

こんな歓喜に見舞われたら、俺も気分が上がっちゃう。

そして俺はライトノベルで有名な台詞を口にした。

「よーし、お前ら!今日は俺の奢りだ!盛り上げろー‼」

「「「「「うおおおおおおおおおお‼」」」」」

再びギルドは大きく盛り上がった。

 うちのパーティーメンバーは、幹部を倒したからか人気者になっている。

「ラフィネちゃん可愛いねえ。金髪で小さくて礼儀正しくて」

ラフィネは女性冒険者の虜《とりこ》に。

「よろしくね!ユウナ」

「新人さんか?この街について色々教えてやるぜ」

ユウナは年が近いのか可愛いのか仲良くし、男女関係なく早くも打ち解けあっている。

「盗賊職なのに幹部と渡り合えるなんて凄いね!」

「なあ、今度いろんな戦い方教えてくれよ!」

ルリテは盗賊職なのにということで冒険者達に戦闘方法を得意気に話している。

ルリテも、ようやくどんな人ととも分かち合えるようになったな。

「ぷっはあ!あー疲れた。一歩間違えてたらこっちが死んでたぜ」

「お前が〔疾風ボーグ〕に勝った時から何かデケえ事をやるとは思ってたけどまさか幹部討伐たあな!」

「どうやって倒したのか千ベクタで買うよ」

「もう俺にはもうそんなはした金要らないんだよなー!」

「あはははは!お金手にしたとたん調子のり始めたよこの人!」

「「「「かんぱーい‼」」」」

生きてきた中で一番楽しい。

 

「ラフィネちゃーん…かわいいねえ…」

そう言って女性冒険者はラフィネに頬擦《ほおず》りする。

「ちょっと…痛いです。酔ってますね?」

 

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」

バイエル達と飲んでいた俺にユウナが聞いてくる。

「この世界って十六歳からお酒のんで良いの?」

「ああ、その事か…。この世界じゃあお酒は何歳から飲んでも良いらしいぞ?ただし、アルコール中毒で死んだりアルコール依存性になったりとか、どんなことになっても自己責任になるけどな」

「ふーん…。まあRでのお酒は基本だしね。じゃあ私はあの人達と飲んでくるから」

……もう友達できたのか。

この世界じゃ、いじめなんてないしユウナに嫌な思いする奴はいないもんな。

「お兄様、私もちょっとだけお酒を飲んでみたいです」

「ん?ダメダメ!何歳から飲んでも良いって言ってもラフィネはまだ十二歳だし、王女なんだから」

王女様が酒に酔うところなんて見たくない。

「私は王女ではなく只のラフィネです!」

「王女じゃなくても十二歳だからとにかくだーめ!」

それを聞くとラフィネは口を尖らせながら自席に戻った。

「ていうかお前のパーティー女しかいねえな」

「ハーレムしてんの?」

………。

「あれでハーレムって言えるかなあ………」

 ライトノベルとか読んでて主人公以外全員女で『実際そんな事なるわけないだろ』とか鼻で笑ってたけれど成り行きでそうなっちゃうんですね。すいません。

「ラフィネは妹だしルリテは仲間、ユウナは彼女だけど、一人だけじゃハーレムとは言わないだろ。っていうか飲もうぜ」

「「「かんぱーい!」」」

「………あの、マサトさんのパーティーにクエストをお願いしたいのですが」

盛り上がっているところに職員のレネさんが唐突に言ってきた。

「クエスト?」

「はい。最近近くの洞窟から異臭がしているとの事なので調査していただきたいのですが」

「クエストですか…。俺はもうお金には困ってないので…」

止めときますと言おうとしたとき。

「幹部を倒したから職員じきじきにお願いされてるよ。すげえなあ」

え?

「流石マサトさんだよねえ」

ちょっと。

「ああ、マサトにやらせれば間違いなしだもんな」

待てよ。

「「頑張れよ!」」

あかん…これは詰んだ。

「何々クエスト?このパーティーで初めてじゃん」

「精一杯頑張ります!」

「よっしゃ!早速明日行くぞ!」

皆やる気なんですが………。

「じゃ、じゃあ引き受けます……」

「ありがとうございます!」

そう言って蔓延《まんえん》の笑みを見せた。

まんまと乗せられた。流石ギルドの職員だ。



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異世界と異臭と閉め忘れ

 先日、調子にのってギルドで騒《さわ》いでいると職員からクエストを頼まれ断ることもできず洞窟の異臭を調査するはめに…。

特に大したこともなく洞窟に着いたのは良かったのだが。

「臭いな」

嘔吐《おうと》するほど臭いという訳でもないが、確かにまあまあな異臭がしていた。

「この洞窟には何があるんでしょうか?」

「何があるかじゃなくて何が()()かもしれないわね」

「まあ中に入れば分かることだろ」

三人は異臭がする洞窟に入ることに躊躇《ちゅうちょ》しない。

「じゃあ行くぞ」

洞窟の中は薄暗かったが何も見えない程ではなく、目が慣《な》れてくると完璧とまではいかないが、普段と変わらず行動する事が出来た。

「奥に行くに連れて異臭が強くなってるな…」

「前はマサトが幹部討伐したんだし、私が討伐する!」

「あっ!ちょまっ…」

 一人で突っ走るユウナを追いかけると広い場所にでた。

奥の方にぐにゃぐにゃとした物体が見える。

それは泥のようで結構な異臭を放っており、洞窟の異臭の原因がこいつであるかのような……!

「異臭の原因はこいつか!」

異臭を放つ物体はギルドが予想し教えてくれたヘドロスライムだった。

そしてその周りにを取り巻くコボルト。

「じゃあさっさと倒しちまおうぜ」

「ああ、だけどあいつは…」

俺の指示を聞かずにユウナが剣を構え突っ込んでいく。

「たああああ!」

汚いスライムに斬り込むがもちろん刃はとどかない。

「え⁉」

ユウナは隙を見せた為スライムに弾き飛ばされる。

電光石火のスキルは走ってから三歩で発動するが、元の敏捷性が高いため、何とかユウナを受け止める事が出来た。

「知らないのか?この世界のスライムは雑魚モンスターじゃなくてある程度の攻撃力か敏捷力がないと倒せないんだぞ。次は活躍させてやるから、今回は俺とルリテに任せろ。ユウナとラフィネは、スライムの周りにいるコボルトを頼む」

「…分かった」

「お任せください」

「俺達はスライムだ。行くぞルリテ!」

「おうよ!」

 だが、持てる力と敏捷力を使ってスライムを斬ることは出来るのだが、すぐにまとまりもとの状態に戻ってしまう。

ある程度バラバラにすれば倒せるだろうがスライム自体が大きいためバラバラに出来ない。

「はあ…はあ…。どうすんだ?何か攻略方法はねえのかよ…マサト」

………………。

「実を言うとあることにはあるんだけど…。怒らない?」

「あたしはこいつが倒せれば何でもいいよ」

「私もお兄様がやることに異論はありません」

「何か嫌な予感がするけど…私はコボルトの死体を盾にするからいいよ」

多分ユウナの嫌な予感は的中してると思う。

「じゃあやってくるわ」

そう言い電光石火を発動させヘドロを飛ばす巨大なスライムに近づき手を突っ込む。

汚いし臭いし汚いし臭いからさっさと終わらせよう。

「『ウェーブ』ッ!」

スライムの内側から初級の爆発魔法を放つ。

その瞬間、初級魔法とはいえ内側から爆発を受けたスライムは爆散し、辺りに汚い物体を撒《ま》き散らした。

 「うええーくっせえ!」

俺はスライムの目の前にいたのでもちろんばっちい。

「………。怒らないってのはこの事か」

「何故でしょう…。こんなに汚くなって嫌なはずなのに楽しい気持ちがあります」

「やっぱり私の予感は的中したね」

皆泥だらけで異臭を放っているのにコボルトを盾にしていたユウナは変化がない。

「あー臭い臭い。早く帰って風呂に入ろう」

「あたしはこの洞窟を漁《あさ》ってから帰るから先帰っといて」

流石は盗賊。金持ちになっても基本は捨てない。

「そうか。じゃあ俺とラフィネは帰るから、ユウナは報告よろしく」

「えー何でー」

「いやいや。俺達この姿でギルドに行けるわけないだろ。それに、次は活躍させてやるって言ったしな」

「そっちじゃない!」

 

 

「ただいまー。ラフィネ、先に入っていいぞ」

「いえいえ、ここはスライムを討伐されたお兄様からどうぞ」

本当に良い子だな。だけど流石にここはラフィネから入らせるべきだろう。

「いいってば。先に入ってこいよ」

「……そうですか。ありがとうございます」

少し戸惑《とまど》いながらもラフィネは風呂場に向かった。

 俺は玄関に座り込みながら今までの事を思い出す。

金なくてかけっこして、ラフィネ助けて。パーティーメンバーが増えて、駆け出し冒険者にはハード過ぎる幹部にやられ、マジックシェード覚えて、筋力バグりにやられ、ユウナに再開しリベンジで倒す。賞金もらってからの洞窟調査。

……………………色々ありすぎじゃね⁉異世界には憧《あこが》れてたけどボリューム満点過ぎる気がする。

そんな事を考えていると今更ながらまだ自分が汚く臭い事に気がついた。

 風呂に入んないとな。

脱衣場を開けなかに入る。湯加減はどうだろうか?

俺は湯加減はを確かめるべく風呂の扉を開ける。

すると俺の目に気持ち良さそうに湯に浸かるラフィネが映った。

もちろんいきなり扉が空いたのでラフィネも気付き、俺とラフィネの目が合い………。

「「おわああああああああ‼」」

急いで扉を閉める。

大丈夫!見えなかった!残念…じゃない!見えてない!

「本当にごめん!入ってること忘れてて脱衣場の鍵がかかってなかったから…」

「…………」

返事がない。怒ったのか?いや、そりゃ怒るよな。て言うかこんなありがちなやつが起こるとか⁉

「………いいですよ」

「へ?」

何がいいんですか?

「…私はお兄様の妹ですから家族です。さっきはびっくりしただけです。なので一緒に……一緒に…は、入りませんか?」

最後の方は蚊の鳴くような声だったが聞き取れた。

 どうしてこうなってしまったのだろう。

俺とラフィネは一緒に風呂に入っている。…勿論《もちろん》タオルを巻いて。

「そういえばお兄様と二人でゆっくり話すのは久し振りですね」

「確かにな。パーティーメンバーもいつの間にか増えてるしなー」

時間が経つに連れ何とか落ち着くことが出来た……。けど改めて何やってんだろ俺…。

傍《はた》から見たらロリコンが風呂に入ってるようにしか見えない。

本当に何やってんだろ…………。

 

 

 そのままゆっくり湯に浸かっているとまた風呂場の扉が開いた。

もちろん俺達と扉を開けた本人と目が合い…。

「「「おわああああああああ‼」」」

ルリテだ!あいつの事すっかり忘れてたけどルリテも汚れてたんだった!

でも大丈夫!見えなかった!残念……………………じゃない!見えてない!

扉を閉めてから少しすると向こうから話してきた。

「わ、わりい!脱衣場の鍵がかかってねーから…。あとまさか二人で入ってるなんて…!邪魔してわりいな、あたしは向こうで待ってるから。今の事は忘れるよ」

ちょっと待ってくれ‼

 何とか二人でルリテの誤解を解く事が出来たのだが。

どうしてこうなってしまったのだろう。

俺とラフィネとルリテは一緒に風呂に入っている。…勿論タオルを巻いて。

「そういやこうやって三人でゆっくり話すのも久しぶりだな」

「確かにそうですね」

「忙しすぎてボリューム満点過ぎる生活だからなー」

時間が経つに連れ何とか落ち着くことが出来た。

本当に慣《な》れと言うのは恐ろしい。

 今までなら、こうやって異性と風呂に入るなんてあり得ない事だな。

「そうですか?私はとても楽しい冒険でしたよ?」

「思い出に浸るにはまだ早いと思うけどなあ…。もうレベル上げは終わりでいいのか?」

「いえいえ。私はまだレベル二十三ですのでまだまだ足りません。そうですね……レベル百くらいにならないと駄目かもしれません」

そう無邪気に笑いかける。

百ってマックスじゃん。…まあ俺もラフィネがいなくなると寂しいからな。

て言うかレベル二十三なんだ。幹部倒した俺ですら十八なんだけど。

「ちなみにあたしは二十だよ」

マジかよ…。もしかしてパーティーの中で一番低いの幹部倒した俺じゃないだろうな。

後でユウナレベル聞こ。

 「さてと…。そろそろ出ようぜ。ユウナにこんなとこ見られたら誤解されちゃうし」

そう言いながら俺は浴槽《よくそう》からでる。

「うわ⁉おいマサト!」

ルリテは急いでラフィネの目を隠す。

どうした?タオルは巻いてるぞ?そう思い自分の体を見ると………‼

当たり前かのように、サービスかのようにタオルがお湯でスケスケでした。



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異世界と手伝いと幼女幹部

 「なあマサト、手伝ってくれよ。一日でいいからさあ」

「そうそう、マサトがいるだけで安心感が違うんだよ。こいつらはあんまり強くないし…」

女性のその言葉に男二人がぎゃあぎゃあ抗議している。

 俺は特に用もなく朝から冒険者ギルドに来たのだが、名前も知らない三人組に面倒を頼まれた…が、こうやって頼りにされるのも懐かしい。

まあ幹部倒して、洞窟調査も大したことなく終わったんだから頼りたくなるのも普通だよな。

「で?どんなクエストなんだ?」

「ありがとう!えっと、ダンジョン探索なんだけど…」

ダンジョン探索か…特に問題はないな。

「しょうがない。手伝ってやるよ」

 

 

 ダンジョンに向かう道すがら、俺は彼女らの名前も知らないので自己紹介された。

「私はエレノ、付き合ってもらって悪いね…。こいつらだけじゃ不安だからさ」

「おい、俺達もそれなりに活躍してるぞ?…俺はリアム、こいつはダランだ」

「今日はよろしくな。頼りにしてるぜ!」

 このまま何事もなくダンジョンに着くかと思いきや、遠くに何かいる。

千里眼スキルを発動させて見ると猫耳少女……というより幼女が魔物に追われているのだ。何か気になる。

「なあ、ちょっと気になることがあるから先行っててくんない?」

「え⁉マサトがいないと不安なんだけど!ちゃんと後から追い付いてきてよ!?」

「大丈夫。分かってるって」

電光石火のスキルを発動させ幼女のところに急ぐ。

「ニイガセンジャネエゾ!」

「カコメカコメ!」

 幼女はウォーグという獣に乗ったゴブリンに追いかけられていた。

あれが有名なゴブリンライダーってやつか。

森や洞窟に生息するウォーグが平原にいるなんて珍しい。

俺は追いかけられている幼女を庇《かば》うようにして立つ。

「ナンダアオマエ」

「シニテエノカ?」

「ソイツヲカバウナラコロスゾ」

よく喋るゴブリンだ。こんなやつ幹部を倒した俺には倒すなんて楽勝だ。

 

 

「大丈夫か?」

「はい。ありがとうございました」

ゴブリンにしては強かったが、カウンターで大体を倒すと引き返してしまった。

「ご主人様!一生付いて行きます!」

「え⁉」

いきなりどうした?

…………命の恩人だからとかそんな感じだろうか。

「驚かしてしまい申し訳ございません。私は亜人族のソニアと申します。訊きたいことがございましたら何なりとお訊きください」

沢山ありすぎて何から訊けばいいのか…。

「…じゃあ、一生付いて行くってのはどういうこと?」

「はい。亜人族は人間でありながらも獣なため、人間に奴隷や召使《めしつか》いとして使われています。ですがそれは、誰しもが喜んでやっているわけではありません。自分達は亜人族だからと仕方なくなのです。しかし、亜人族にも誇《ほこ》りはございます。亜人族は誰かに命を救われた場合、一生をかけて恩返しをし、命を救っていただいたご主人様のご命令、お望みは全て反論することなく遂行《すいこう》いたします」

なるほど。俺がこの子を救った事で、亜人族の掟《おきて》みたいなものに当てはまったから一生かけて付いて行くって事か。

 何処の世界でも亜人族は妨げられてるのか。

「ちなみに俺の命令で付いてこなくていいって言ったらどうなるの?」

「そのような命令には従《したが》えません。ですが、どうしてもというのなら、自決します」

自決⁉…亜人族誇り高すぎだろ。

「じゃあ何で追いかけられてたの?」

「…私は、亜人族でありながら器用度バグりとして産まれました。なので魔王軍に幹部のお誘いがきました。『自分勝手な忌々《いまいま》しい人間に復讐しないか』と。その時の私は両親を人間に売られたばかりだったため、魔王軍幹部になりました。ですが何の罪もない一般市民にまで危害を加える魔王軍のやり方に不快を持ち逃げてきました」

ま…魔王軍幹部!?

この子が⁉

器用度バグりの⁉

落ち着け落ち着け落ち着け。

「……り、理由は分かった、俺はマサトだ。これからよろしくなソニア」

「よろしくお願いいたします、ご主人様!」

そう言ってソニアは、子供ながらも大人びた笑顔を見せた。

 

 

 「だから悪かったって!今度何でも好きなの買ってやるから機嫌直してくれよ」

「本当に⁉今度は嘘じゃないよね?」

「今度こそは本当だ」

細かい内容が多すぎたためエレノ達のダンジョン探索をすっかり忘れ怒られていた。

「じゃあ許すけど、…忘れたらどうなるかわかってるよね?」 

マジですんません。

お願いだから指の骨を鳴らしながら近づいてこないでください。

防御力は高くないのでおびえていると。

『魔王軍警報!魔王軍警報!冒険者各員は直ちに武装し、街の正門前に集まってください!民間人の方は家の中に避難を!…繰り返します!冒険者各員は直ちに武装し、街の正門前に集まってください!……魔王軍幹部です‼』

 ……え?今なんて⁉

 



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異世界と頭脳と三回

 「ご無沙汰ですね、敏捷バグり君。この前は不覚をとりましたが今回はそうはいきませんよ」

「よう!久しぶりだな」

城門の前には多くの冒険者と、あの見た目からしてヴァンパイアであろう魔王軍の紋章の入った指輪をつけた知力バグりの魔王軍幹部が立つ。

「安い挑発ですね。…私はシングラと言うもの。皆さんの未来形は死ですので、良いことを教えてあげましょう。私は知力バグりとして生まれたため戦闘能力はありません」

戦闘能力は無くてもそれを補えるほどの知力があるからな…。

「戦えねえなら俺でも勝てる。マサト、俺に行かせてくれ」

大剣を持った一人の戦士が言ってくる。

 魔王軍幹部を倒した俺達は、この街の戦闘指令を皆から任された。

戦闘の切り札も俺達らしいがあまり買い被るのはやめて欲しい。

「んー…別にいいけどお前フラグ立ってるぞ。気を付けろよ」

「オウ‼」

大きな返事をしながらシングラに切りかかる。

「『シールド』」

相手がその魔法を唱えたとたん、シングラの前に体を隠す長方形の障壁が現れた。

「ウオッ!」

大剣は障壁に当たり隙ができたためシングラが戦士に触れる。

その瞬間、戦士の持っていた大剣が吹っ飛び近くの地面に刺さった。

「脳筋ですね。三回自分の武器を吹っ飛ばされた瞬間その方の未来形は死なのでお気をつけて」

…脅しにしては下手すぎる。

「多分今のは本当だな。ハッタリじゃない」

「マジかよ⁉どうすんだ?」

マジでそんなに頼りにされても困るんすけど。

「四人であいつを囲んで一斉に斬るしかないな。あの魔法は自分の正面にしか発生しないから」

「よっしゃ!囲め囲め!」

「せーのっ!」

「『シールド』」

一斉に斬りかかったはずなのに、四人全員武器を弾かれた。

「複数人で囲ってくるなんて予想するに決まってるでしょ、先読みが大事ですよ。一斉に攻撃したってほんの一瞬くらいずれてるんですから」

この前に比べて全然強い。

「おいマサト、もうお前さんたちが戦うしかねえんじゃねえのか」

そういわれても俺そんなに強くないし…。

こんな時にルリテは盗賊の仕事に呼び出されたとかでいないし…。

ユウナたちの方を見ると覚悟を決めたような眼差しをしていた。

「やっとあなた達が戦うんですか?でも私はあなた達のデータはとってありますので無理ですよ」

………データ。

俺とユウナは顔を見合わせクスリと笑う。

 データ……それは相手が超えられるためにとるもの。『バカな!データを超えるだと⁉』や『こんなのデータにないぞおお!』とか言いながら死んでいくのがお決まりだ。

「なあラフィネ、あいつに勝つ方法はデータを超えればいいんだ。そしたら相手はそれを驚いてやられるから」

「なるほど…たしかにその通りですね。常識すぎて見逃していました」

…さてと、データを超えればこっちの勝ちだ。

……………あれ?

…これ、どうやってデータを超えるの?

ここはアニメや漫画じゃない、現実だ。都合よく力に目覚めたりはしない。

しかもあいつの事だから今までで一番良い時だったデータを録ってるに決まってる。

 俺たちは純度百パーセントの人間だからコンディションというものがある。

前できた事が今も出来るとは限らない、一生その記録を抜けないことだってある。

…むしろそっちの方が多いかもしれない。

例えば前まで泳げたのに今は無理とかそんな感じだ。

…………マジでどうしよう。

 相手はポンポンフラグ立てまくってるくせに死ぬ気がしない。

「どうしたんですか?この街の要《かなめ》はあなたなんじゃないんですか?」

「しょうがない…か…ハアアッ!」

腰からダガーを抜き斬りかかる。

「はあ…『スローシールド』」

 その新しいスロー魔法は連続攻撃をさせないように武器がゆっくり空を舞いゆっくり落ちてくる。

 敏捷バグりが相手に効果的なのかを確かめるために斬りこんでみたが、案の定武器は弾かれる。

やっぱり駄目か…なら遠くからラフィネの魔法でやるしか……。

「言っときますけどどんな魔法も無効化できますからね。あと魔力切れを狙うのも無理があるでしょう」

「マサト、どうする?」

 「皆さんの未来形を救う方法ならありますよ?さっきからあなたの後ろに隠れている器用度バグりを返してもらいましょうか。その子は器用度バグりのくせに知識量が豊富なのですよ。この世の事は私以上に知り尽くしている。…さっさと返してください」

その話を持ち掛けられた俺の服をソニアが引っ張る。

「ご主人様、ご命令を。私一人でご主人様のお知り合いが助かるなら安いものです。

本当に短い間でしたが、お世話になりました」 

そう言って目の端に涙を溜める。

 クソ……マジでそれしかないのか?

「お兄様、どうしましょう?」

……………。

───────あった。

でも、これを使ったら俺は死ぬかもしれない。この一撃で倒せないかもしれない。

……………信じるか。

「ソニア、命令だ」 

俺の言葉にソニアはとても悲しい顔をする。

「俺はお前を見捨てないから……信じてくれ」

 

 

 『マグネット』・・・自分の使う魔力の量によって、金属の物を自分のもとか自分が一つだけマーキングした方向に引き寄せることができる。

 

 これは、俺が楽して生活したいと思い、前に覚えた魔法だ。

 魔法に使う魔力は、自分の魔力量が魔法に使う使用量を超えていない場合、生命力を削って魔法を放つ。

つまり、魔力量の低い者が膨大《ぼうだい》な魔力を使う魔法を放とうとした場合、魔力・生命力を削っても足りないため()()

俺の魔力は高くない。いたって普通だ。だから、死ぬかもしれない…けどやるしかないな。

「皆、後は頼むよ…」

「マサト?お前何するつもりだ⁉…まさか死ぬ気じゃねえよな?」

「死ぬ気⁉どういうこと?まだ私達この世界での生活始まったばかりじゃない!」

「…死ぬ気はないよ。ただ、希望が見えたから賭けてみるだけだ」

これから死ぬかもしれないのに、すごく落ち着いている。

「お兄様…」

とても不安そうな顔をしたいるラフィネ。

「信じろよ。…皆!まだ武器が一回しか弾かれてないやつは全員シングラに突っ込め‼」

「「「「「オ───‼」」」」」

掛け声と共に全員がシングラに斬りかかる。

「この量はちょっと本気を出さないとダメかな…『スローバリア』!」

結構な量にもかかわらず、冒険者全員の武器が弾き飛ばされゆっくり空を飛ぶ。

今しかない───!

俺は全力の電光石火シングラに触れた後素早く離れる。

「先読みしすぎたお前は、足元の小さな石に気づかずに転ぶんだ!」

「はあ?一体何を…」

「『マグネット』‼」

渾身の魔力を込めて俺は魔法を放つ。

 すると空を飛んでいた冒険者たちの武器が刃を向け勢いよくシングラに引き寄せられる。

「何っ⁉」

いくら頭が良くたって相手が初めて使う魔法なら先読みも無理だろう。

それにこの武器の引き寄せられる速度にはコンマ一秒の差もない。

「お前の生《せい》は、過去形だ‼」

「………くっ……クソがあああああああ‼」

倒れながらギリギリ空いている俺の目には、シングラの体に無数の刃が刺さっているのが確認できた。

 これで無理なら、皆に託すしかない。

俺は遠のく意識の中、シングラ討伐を祈った。

 

 

 シングラの体は消滅し、冒険者たちの武器が地面に音を立てた。

「や、やりましたよ!お兄様‼」

「「「「「うおおおおおおお‼」」」」」

辺りは歓喜に包まれる。

「おいおい、やったぜマサト!」

バイエルはマサトの方を見る。

そこには横たわったマサトの姿。

「お兄様!お兄様っ‼」

涙を流しながらラフィネはマサトを呼んでいる。

「マサト⁉」

「ご主人様!」

マサトのパーティメンバーもその場に近寄る。

「おい…やべえぞ…!…お前ら!急いでマサトを運べ‼」

 歓喜をあげていた冒険者たちは急いでマサトを担《かつ》ぎ始める。

「マサト!死ぬなよ‼お前さんはもう英雄みたいなもんなんだから‼」

「そうだよ!まだ好きなの買ってやるって約束果たしてもらってないよ!」

 しかし、今現在ではその少年が返事をすることは無かった。

 



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異世界と目覚めと口撃力

 何の見えない暗闇の中、声がしたんだ。

声のする方を頼りに進むと、視界が明るくなってきた。

────気づくと俺は自分の部屋のベットで横になっていた。

「お兄様、朝ごはんですよ」

ラフィネは俺と目が合うと、持っていたおかゆを落とし泣きながら俺にしがみついてきた。

 

 

 「極めて危険な状態です。怪我をしているわけではないので回復魔法は効きませんし、死んでいないので蘇生魔法も効きません」

倒れたマサトを急いで街に運び、神父に見せるとそんな答えが返ってきた。

生命力を削ってまで魔法を放ってしまったものの命はとりとめたのだが、いつ目を覚ますのか分からず、一歩間違えれば一生目を覚ますことがないという。

「残念ながら、私には出来ることがありません。一応食事はしますので自宅で介護されるのがよろしいかと…」

マサトと同じパーティ―メンバーである二人は絶句した。

それをほかの冒険者たちに伝えると、魔王軍幹部を倒したといえども喜ぶ人は誰もいなかった。

屋敷に戻った二人は、部屋にマサトを寝かせ今後の事を考えていた。

「ルリテはいないし、ルイにも頼んでみたけど十中八九駄目だろうし…」

「…こんな時お兄様なら簡単に解決したくれるのでしょう……。もし、もし目覚めなかったら…!」

「絶対そんなこと考えちゃ駄目よ!絶対マサトは目覚めるから、毎日変わりばんこでご飯あげましょう」

だがそんな二人の願いも虚しく、一ヵ月経ってもルリテは帰ってこずマサトが目を覚ますこともなかった。

  

 ある日のラフィネが食事担当の日。

部屋に入った彼女は返事をしない少年に向かって話しかける。

「お兄様、そろそろ起きてくれてもいいんじゃないんですか?…もうお兄様の大切さは私達にも先輩たちにも伝わりましたよ。……お兄様がいないと…寂しいです、つまらないです。…だから起きて、目を覚ましてよ…!………お兄ちゃん…………!」

少女は少年に抱き付き静かに泣いた。

 それから三日後に奇跡は起きた。

────泣きながらしがみついてくるラフィネの頭を優しく撫でながら言う。

「ごめん…心配かけたな。自分でもまあまあ長い間寝てたのが分かるよ」

「全然まあまあじゃないです!でも本当に…本当に良かったっ…!」

「ラフィちゃん?どうしたのー?」

ラフィネの泣き声が聞こえたのかユウナが下から上がって来た。

「久しぶり…ユウナ」

俺と目が合ったとたんユウナも涙を流し飛びついてきた。

「うわああああん!よがった!目を覚ましてくれてっ……!」

「ごめん。……あれ、ソニアとルリテはいないのか?」

俺の質問にラフィネとユウナは困った顔で見合わせる。

「実はマサトが倒れた日にどこかに行ったきり帰ってこないの。ご主人様が目覚めると信じて次こんなことが起きないよするって言ってたけど」

「あのお方はどなたなのですか?」

器用度バグりの魔王軍幹部だけど、抜け出してきて追いかけられたところを俺が助けて、亜人族の掟に触れて今の状態というわけです。

「また命の恩人か」

「別に悪いことじゃないぞ。っていうかまだルリテはまだ帰ってきてないのかよ…」

二人が心配だがどこに行ったのか分からないからどうしようもない。

「そうだ!ギルドの皆もすごく心配してたから顔出しに行った方がいいよ!」

「そうですよ。ルイ先輩はお兄様を目覚めさせるためあちこちまわったのですから」

確かに心配させたままじゃ悪いな。

皆の不安を解くため冒険者ギルドに向かうことにした。

 

 

 久しぶりにギルドの扉を開けると中が騒がしかった。 

「返しやがれこの泥棒が‼」

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。俺は良かれと思ってやったんだぜ?」

バイエルと男性冒険者が喧嘩していた。

「バイエル、これはどういうことだ?」

「マサト⁉よかった!再開を喜びたいところだが助けてくれ。あいつが俺の酒を盗みやがったんだが…口がうまくて言いくるめられちまってよ」

おい、感動的な再会じゃないのかよ…。

「やべっ!あいつ屁理屈の得意なニートスピーダーじゃねえか。ここで言いくるめられんのは不味いな……よし」

チンピラがボソボソと独り言を言っているが何を言っているかは聞き取れなかった。

「あんた俺と勝負してくれよ。石をお互い二回ずつ投げてキャッチできればいい。あんたが勝ったら酒代を払うが、俺はちゃんと理由があって良かれと思ってやったことだからな。俺が勝ったらもう一杯奢ってもらうぜ」

いきなり何だこいつ…?

俺の感動的な再会を邪魔しやがって…。涙目にしたるわ。

 ギルドの外に出てお互い石を二つ持つ。

「最初はニートスピーダーさんからでどうぞ」

忘れられてたと思ったのに!煽り散らかしてやるわ。

「…ふっ‼」

投球は全く上手くないが変な回転がかかり相手のチンピラ野郎は捕れなかった。

「あーっ!今の俺なら絶対捕れたわー。俺なら絶対捕れた」

俺の煽りにチンピラは歯ぎしりする。

「今度は百七十キロ出してやるよ!おらっ!」

そういいつつも投げるのはチェンジアップという遅い球。投石《とうせき》はチンピラの手前で落ちた。

 良かった…地味に野球に詳しいのが役に立った。

「あーあっ!今のも俺なら絶対捕れたわー。俺なら絶対捕れた」

チンピラの頭に血が上る。俺って結構煽るの上手いのか…⁉

 チンピラのターン

「おらよっ!」

チンピラの投げた石にはカーブがかかっていたためギリギリ捕れなかった。

「今の捕れないの⁉あーあっ!今の俺なら絶対捕れたわー」

さっきの俺の煽りをパクって反撃してきた。

そっくりそのまま返されるのは想定内だ。

 「でも俺はお前じゃない」

「⁉」

「人には個人差というものがあるんです。それを他人に共有させるってどういう事だか分かってんのか?わざわざ俺なら捕れたとか言ってるけどそんなもん自慢にもなんねーから。マジでなんなんですか?まさか自分が出来ることを人に共有させないと生きていけない人なんですか?本当に個人差を分からない人ってマジでやだわー」

俺の即答からの反撃にチンピラはオロオロしている。

「いや、そのセリフはお前が最初に───」

「そもそもだ!相談に乗ってやるから酒奢れって言ったくせに相談に乗らない?まあお前は良かれと思ってやったんだよな?俺のパーティメンバーにこの国の王女様がいるから頼んで裁判してもらおうぜ。裁判に負けたら死刑な!まあ大丈夫だろ⁉お前は良かれと思ってやったんだもんな?テレポート代は俺が払ってやるから王都に行こうぜ!…な?」

そう言いながらチンピラと肩を組むと。

「すいませんでしたあああああ‼」

財布を地面に投げ捨て泣きながら走って逃げってった。

 

 

 「いやースッキリしたぜ!ありがとな」

「無事に目覚めてくれて良かったよ。なんの解決情報もなかったからさ」

「よかったよおお‼私、男友達少ないし、頼れる人もいないからさあ」

「まだ約束守ってもらってないからね。死なれたら困るよ」

「エレノ…お前そんなことどうでもいいから目覚めてって教会にお祈りに行ってたじゃんか」

「それは言わないで‼」

 …………そうだよ。これが異世界だよ!

職業に就けなくてニートとか、スライムが全然斬れないとか、ゴブリン美味しいとかそういうことじゃない。

幹部倒して頼られて、死にかけたらいろんな冒険者に心配される。それが異世界ファンタジーってもんだろ‼

「皆、心配してくれてありがとう!せめてものお礼として……今日このギルドのメニューは全部俺が払うから、どんどん食べて飲んで盛り上げてくれ‼」

「「「「「うおおおおおおおおお‼」」」」」

 

 

 「なあ、なんかこのギルドぼろくない?」 

最初はこんなもんかと思っていたが、今思うと結構ぼろい。

「こんな駆け出し冒険者の街のギルドなんて誰も支援したがらねえよ。こういうのは本来この街の領主様がやることなんだが…一体何やってんのかねえ」

そんなたわいもない話をしながらギルドで騒いでいると、ラフィネとユウナがやってきた。

「うわ!すっごい盛り上がってんじゃん。ちょっとマサト、そういうことなら呼んでよね!」

「悪い悪い。…で、俺を迎《むかえ》えに来たのか?」

「それもだったんだけど、王都から手紙が来てたんだよね。マサト様ご一行へってあったから開けずにとっておいたんだけど」

「手紙…?」

俺はユウナから手紙を受け取り中身を見る。

 

 

 拝啓、カヤマサト殿

娘が世話になっているな。魔王軍幹部を二体も葬《ほうむ》ったと聞きとても嬉しく思う。

そこでだ、娘の話やマサト殿の武勇伝などを聞きたい。

いつでも良いので王都においで願いたい。

わしの仕事である最前線は幹部を倒され魔王軍の圧力が抑《おさ》えられているため息子に任せてきた。

娘の命を救ってくれたとも聞いた。先日のような守りの薄いことは無いから心配には及ばない。

いつでも豪華な食事を用意して待っている。今、そなたは英雄だ。

 

  ガドーレ・フォンルート・エテルネル

 

 

 …………マジですか?

この国の王様…キング直々《じきじき》に?

「お父様がこんなにもお兄様の事を気に入っているとは」

「すごい!早速 明後日《あさって》行こうよ」

「明日じゃないのか?」

「今日は朝まで盛り上がるから明日は無理かな」

可哀そうな王様…宴会に負けるなんて。

でも俺が英雄ですか、無双しませんよ?

「朝まで飲むぞ!」

「「「「「おおおおおおおおお‼」」」」」

 



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第六章   異世界王様と娘!
異世界と野良と片手剣


 俺はとうとうこの国の王様から直々に招かれた。

思い返してみれば無職で、ギリギリの戦いで偶然にも幹部を二人も倒した。

俺にチート能力は無い。

敏捷性がチートだって思うやつは体験してみてから言え。

皆はハーレムって言うけど、そんな目で見ない大事な仲間も出来た。

幹部を二人も倒したんだから呼ばれちゃうのは分かるけど…。

というか手紙が来てから一ヵ月も経ってしまった。

 俺は強くない。

王様の満足にいくかは分からないけど、呼ばれたら行くしかない。

こっちとしては嬉しいんだけど…嫌な予感がする。

そんなフラグを立ててしまった。いや、実はもっと前から立っていたんだ。

 俺は強くない…だからこそ強くなって、ピンチになりながらも進む。

だけど俺たちはまだ知らなかった、ずっと先の事だ。

神の敷《し》いたレールの上を歩いていただけだった事を───

 

 

「準備はできたな?行くぞ」

「ご主人様が目覚めてくれて本当に良かったです」

 ソニアはこの前の宴会の翌日に全支援魔法を習得して帰って来た。

次こんなことが起きないようにするってのは分かるし支援魔法もありがたいけど一ヵ月間何してたんだ?

初めて会った時のレベルは十だったのに帰って来た時は三十だった。

「私は王都初めてなんだよ!」

「それでしたら私が案内したあげます」

安心する一人と盛り上がる二人を引き連れて王都にテレポートする。

こう何度もテレポート屋に頼むなら早くテレポートの魔法を覚えたい。

「いきますよお客さん、『テレポート』」

目の前の景色が一瞬にてにぎやかに………。

 「早く東門に行くぞ!」

「やべーよ!てか何で魔王軍じゃなくて竜王軍が⁉」

「いいから急げ!」

別の意味でにぎやか…というか騒《さわ》がしかった。

「ご主人様、今の情報を整理すると東門に竜王軍が攻めてきてるようです」

「そうみたいだな、俺たちも行くぞ」

 城門前には一匹で勝手に暴れているドラゴンがいた。

あれがモノホンのドラゴンか!まじかっこええ‼

「あれはドラゴン軍ではなく野良ドラゴンですね。でも一体何故こんなところに…」

「……あれ?ドラゴンになにか刺さってない?ほら、背中のところ」

そう言われたので千里眼スキルを発動させ背中を見る。

「剣が刺さってる」

俺の一言に城門に集まっていた人たちも状況を把握した。

「あれを抜けば帰ってくれるってことか…」

「でもあいつは暴れまわってて近づけないぞ!敏捷力がよほど高い奴じゃなきゃ…」

なんかまた俺が行く雰囲気になってるんですが…?

この人たちとは初対面なのに。

…………俺が行くしかないか…。

電光石火を発動させドラゴンの背中をめがけて走る。

迫《せま》りくる爪をギリギリで回避してドラゴンに摑《つか》まる。

「「「おおお!」」」

でこぼこした背中をよじ登り剣の持ち手を掴む。

ここまで来たら後戻りできないけど、これ俺の筋力値で抜けるのか?

「ぐぐぐぐぐぎぎ‼」

ちょっとしか抜けない……そうだ!

「ソニア、俺に筋力増加魔法を!」

「かしこまりました!『パワード』」

実感はわかないがもう一度剣に手をかけて抜く。

「うおおおおおおおおおりゃああ‼」

「「「「「抜けた‼」」」」」

「おわっ!」

抜いた瞬間俺の体はドラゴンから振り落とされた。

地面に尻をつくとともにドラゴンの鱗《うろこ》に挟まっていた物も落ちてきた。

それは所々に模様のある深い緑色の剣の鞘《さや》だった。

ドラゴンは俺に向けて頭を下げるとどこかへ飛び去った。

「やりましたね!お兄様」

「この剣どうしよ…もらっちゃっていいのか?」

「マサトが抜いたんだし良いでしょ。なんか王道っぽかったよ」

俺の抜いた剣は緑色を白色と言っていいくらいに薄めた色だった。

今じゃ重いだろうけど、いつか使える時が来そうだから持っておこう。

剣を鞘にしまい背中に背負った。

 

 

 「止まれ!お前たちは何者だ?」

「王様に食事に呼ばれたカヤマサトだ。王にとりあってくれ」

言いながら閉まっておいた手紙を見せる。

「カヤ…マサト…あのニートスピーダー!?失礼しました!しばらくお待ちください」

ニートスピーダーって名前王都にまで広がってんの⁉誰だよ広めたやつ…。

「こちらです、どうぞ」

兵士に部屋を案内され中に入る。

「おお!よく来てくれた!座ってくれ。さあさあ、どんな話でも良いから聞かせてくれ」

テーブルに並ぶ豪華な料理。

久しぶりに見るレーナの姿、目が合うと俺に向けて一礼した。

俺たちは椅子に座り王様のお望み通り…!

「お招きありがとうございます。では早速───」

 



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異世界と別れと廃品魔道具

 「そこで俺は思ったわけですよ、こうなったら仲間を信じてやるしかないと。そのおかげで幹部は倒せましたが、一ヵ月も遅れてしまったんですよ」

「なるほど、それなら仕方ないだろうな。幹部討伐ご苦労であった。先ほどはドラゴンを追い払ってくれたようだな。……それと、おぬしらを呼んだのにはもう一つ理由があってな」

「王女様の話でしたらそれはたくさんの───」

「そのことではない」

 いきなり空気が変わった。

何か気にさわることでも言ったか?

「幹部を二体も葬ったのならばそれはすでに魔王に対する実力をつけたということだ。ならばもう、危ない冒険などする必要はないだろう」

それって……俺が言うより早くラフィネが答えた。

「お父様、私はまだ…!」

「そんな遊び半分で国が救えると思うのか‼お前は王女だ、本来ならば城にいなければいけないものを目をつむってやっているのだ。そもそも、マサト殿は敏捷性バグりではないか!だとすれば危険も増える。もし経験が足りないのならばいくら命の恩人といえどもコンドウ殿にお願いするのが当たり前だろう‼」

……ですよねー。

 いくら魔王軍幹部を二体倒したとはいえ俺は無職で敏捷性バグり、コンドウのところに行った方がよっぽど安全だ。

「率直に言う、娘を返してくれ。でなければこの国の城には王族が一人もいないことになる。食事は終わりだ、早く別れの挨拶をしたまえ」

そう言われ俺達四人は個室に移る。

「急すぎるよ…しかもあの態度ひどすぎる。なにがそなたは英雄だ、よ。私ちょっと王様に言ってくる」

「そんなことしたって意味ないのは分かってるだろ。思っているよりずっと早かったが、元々そういう約束だったんだ」

「食事のお誘いにのらなければこのようなことにならずに済みましたのに」

ユウナとソニアはラフィネに別れを告げ、気をきかせたのか部屋を出た。

「お兄様……」

「そんな顔するなよ、きっとすぐに会えるから。もしかしたら魔王を倒してるかもしれないぜ?」

顔は笑ってはいるが、多分ラフィネの心の奥は笑っていないのだろう。

すぐ会えるって……だからさ。

「泣くなよ、その涙は再会したときにとっとけって」

「私っ……お兄様と…もっと冒険、したかった!……いつか、こんな日が来るとは…思っていたけれど……こんなに早くっ!」

「俺もラフィネがいないと寂しいよ。初めてのパーティメンバーだったんだし」

その言葉で、ラフィネの溜まっていたものが爆発した。

「やっぱり私、お兄様ともっと冒険したいです!こうなれば、王族の名を捨ててでも…!」

「そんなこと言うなって…!ラフィネは俺が誇れるような妹なんだから、そのまま頑張れよ。いつか俺も、ラフィネが誇れるような兄になるからさ」

ラフィネはたまらず俺に抱き付いてきた。

「お兄様は…もう十分……私が誇れるお兄様です…!逆にお兄様が私の兄であることを誇れるように………短い間でしたがお世話になりました…お兄様」

「おう!」

兄弟がいない俺には、年の離れた少女に対してどうしてやればいいのかよく分からない。

でも、泣いている人に対して肩を貸して、頭を撫でてやることくらいは出来る。

 

 

 「マサト、よかったの?」

「良いか悪いかで言ったら超悪いけど、どうしようもないからな…こればっかりは」

「ご主人様のことですから何か皆が良い形で終われる方法を思いつくのではないですか?」

そう言われてもそんな都合よく…。

「一応ルイに聞いてみるか」

プロレイのギルドに戻りルイに事情を説明する。

「そんなことがあったのか…」

「王様に直接言いに行っても断られるだけだから、俺なりにいい考えを思いついたんだけど材料が足らなくてなー」

「アニキの言ういい考えってのはもしかしなくても死刑になるくらいやばいことだろ?そこまでの価値はあるのか?」

「ある。……でさ、なんかいい情報ない?」

そう言いながらルイに二万ベクタを渡す。

「オイラがアニキが寝てる間に集めた分子レベルの情報があるからまかせな!」

頼もしい…が、分子レベルは盛りすぎだ。

 「この街からそう遠くない場所にまあまあデカい研究所があるんだよ。そこで魔道具が作られてるんだ。まあ……使えるものから使えないものまで取り揃えてるから、アニキの作戦に役立つかもしんないぜ?結構いい値段するけど、金には困ってないだろ?」

俺達は急いでその研究所とやらに向かうことにした。

 

 

 「いらっしゃい!こんなところに来るなんて中々の物好きね?」

「ちょっとやりたいことがあってね、それに役立ちそうなものを探してるんだ」

そう言うと眼鏡をかけ白衣を着た女性は店の奥から小さなビンを持ってきた。

「これなんてどうだい?ドラゴンの香水!これを自分につければ大抵のモンスターは怯えて寄ってこなくなるよ!」

おお!それを聞く限りじゃすごく使えそうだ。使えそうなのだが……。

ルイに言われた言葉を思い出す。

『メリットだけを聞けば凄くよさそうなものばかりだけど、ちゃんとデメリットも訊いておかないとヤバいことになるからな』

…………。

「その香水のデメリットは?」

「…その匂いにつられていつもの百倍気性の荒いドラゴンに巡り合いやすくなることです」

あぶなっ‼ルイの情報もなしにこれ使ってたら死んでたわ。

その後も出てくるのは使えない魔道具ばかり。

 ……まあ、あんなことができるのは奇跡に近いからな。

死刑覚悟でやったとしても逆効果かもしれない。

というかそもそも自分に合った都合のいい魔道具なんてあるわけないよな。

「ラフィネ…ごめん」

俺は一言つぶやくとその店を出た。



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異世界と侵入と王女誘拐

 「見つけたぞ!追え!」

「何としても見つけ出せ!殺しても良いと言われているのだ」

この会話でなんとなく察せると思いますが、俺は今兵士に追いかけられています。

自分に向けて解説をしてしまうほどヤバい状況です。

すると俺にお姫様抱っこされている少女が。

「お兄様、私を置いて逃げてください!このままでは捕らえられて死刑になってしまいます!私の事はもういいですから‼」

「置いて逃げてもどっちにしろ死刑だし、それじゃあここまで来た意味がないだろ。こうでもしないと父ちゃんと……」

俺は疾風迅雷を発動させ無我夢中で走った。

 

 

 お兄様たちと別れてから何日経ったのか。

そう思い数えてみると一週間しか経っていなかった。

私の感覚ではもう一ヶ月も前の事のように思える。

あの時は一日がたつのがすごく早く感じたのに、今では一日が長い。

 私は王家だからしょうがない、一緒に冒険できていたことが奇跡。少しの間でも冒険できたんだからありがたいと思う。

そうやって自分に言い聞かせると逆に悲しくなって涙が出てくる。

「王女様、お時間です」

「分かりました」

今日は実のお兄様の誕生日。

だけれど実のお兄様は前線にいるため妹である私がパレードに出ることになった。

 パレードをするとあの時の事を思い出す。

前回はお兄様が作り笑いだと見破ってくれたけど、今回も見破ってくれるかな?

たくさんの人の中からお兄様を探すと見覚えのある女性、ユウナさんを見つけた。

その隣にはもちろんお兄様とソニアさんが。

お兄様と目が合うと、私に向かってウィンクした。

 

 

 「良かった、ラフィネは城にいるな」

この後の作戦の為、ラフィネには城にいてもらわないとまずい。

「でもさ、本当にやるの?」

「ご主人様危険ですよ!」

「でもやるしかないだろ。危険なのは俺一人だし、お前らもラフィネがいないと寂しいだろ?」

 魔道具研究所を出た瞬間に、白衣の女性に呼び止められ売られている魔道具全種類を見せてもらった。

その中に一つ役立ちそうな物があったので高値を出して買ってきた。

初めからそうしてくれれば良かったのに…。

 夜が更け道具や装備の確認をする。

王様は二日後に前線に戻るらしいので実行するなら今夜しかない。

「ソニア、俺にかけられるだけ支援魔法を頼む」

そう言うとソニアは分かりました、と返事をし俺にいくつもの支援魔法をかける。

「じゃあ行ってくる」

 この日の為にハイドという潜伏スキルを覚えてきた。

このスキルを発動させている間は少し身を隠しただけで敵は相手の姿を八十パーセントから九十パーセント程捉えられなくなる。

完璧ではないのでそこは注意したいところ。

 ラフィネの部屋を再確認しベランダにフック付きロープをかける。

結構な見張りの数だったが、ハイドの効果は絶大だ。

支援魔法で筋力を強化されているため、ロープを上るのもわけない。

ベランダに上がり窓をコンコンと叩く。

しばらくするとカーテンが開き、中にいる少女がとても驚いた顔をした。

少女は急いで鍵を開け上って来た少年を部屋の中に入れる。

「お兄様‼何をしているんですか⁉見つかったら大変なことになりますよ!」

「ちょ、声がでかいって!…だから言ったろ?すぐに会えるって」

「それは凄く嬉しいのですが…どうしてここに?」

そんなのはもちろん……。

「王女様を誘拐しに来ました」

 

 

 「王女様が攫《さら》われたぞ!侵入者を探せ!」

早いな、もうバレたのか。

俺はラフィネをお姫様抱っこしながら逃げる。

すると場内に大きな声が響いた。

「場内にいるものに告ぐ!侵入者を捕らえよ‼殺してもよい‼」

今の声って王様だよな、計画通りだ!

 俺は電光石火を発動させ思い切り走る。

すると自分の冒険者カードからピコンと小さな音が鳴った。

「こんな時に何だよ⁉」

急いで冒険者カードを確認すると、電光石火のスキルがレベルアップしていて、

『疾風迅雷』という名前に変っていた。

 

『疾風迅雷』・・・スタートダッシュが付き、三歩走ると速度が一.五倍になる

 

何で今って思うけどありがたい。

「見つけたぞ!追え!」

「何としても見つけ出せ!殺しても良いと言われているのだ」

「お兄様、私を置いて逃げてください!このままでは捕らえられて死刑になってしまいます!私の事はもういいですから‼」

「置いて逃げてもどっちにしろ死刑だし、それじゃあここまで来た意味がないだろ。

こうでもしないと父ちゃんと……。スピード上げるぞ、カリバー落とすなよ」

俺は疾風迅雷を発動させ無我夢中で走る。

 一階の窓を割って外に出て城の近くの平原に向かうと、後から一人で王様が追いかけてきた。

王様はポケットからある物を取り出し使用する。

すると俺とラフィネと王様を結界が覆った。

これで俺たちは逃げられない。

「貴様!自分の欲望のままにこんなことをして、タダで済むと思ってんじゃないだろうな‼国家反逆罪にあたるぞ‼」

国家反逆罪…か。どの口が言ってんだ。

「確かにそうかもしれないけど、王様、アンタだってそうだろ。はたから見たら娘思いなだけかもしれないが、手元に置いておきたいだけでラフィネの自由を奪った」

「王族なのだから当たり前だろう!」

「だからって、何故俺とラフィネが会うことも手紙をやりとりすることも拒む?」

その言葉に王様は口ごもる。

俺はラフィネを誘拐する前に城の金庫から盗んできた紙を突き出す。

買ってきた魔道具のおかげだ。

「コレがなんだか分かるか?魔王とのやり取りの手紙だよ!アンタは娘と魔王の息子を結婚させ、和平を結ぼうとした。俺とラフィネが会うことも手紙をやりとりすることも拒んだのは、ラフィネが魔王の息子に集中できるようにだろ!」

真実を知ったラフィネはその場に崩れ落ち、王様は大剣を抜いた。

「仕方がないのだ!人類は魔王軍と竜王軍両方を相手にできん!」

「だからって魔王と手を組むのか?魔王の言うことは信用するなって事は子供でも知ってることだぞ!」

すると王様は大剣を構え…。

「貴様には関係ない、幸いここには誰もいぬ。知られてしまったのなら…国家反逆罪とし、わしが処刑する‼」

「お父様‼」

王様が斬りかかって来た!

「ピンチになったら実力行使って恥ずかしくないのかよ…オッサン‼」

短いダガーで大剣を受け止める。

そこから鍔迫《つばぜり》り合いやの剣の戦闘、口論が続いた。

 そろそろ支援魔法の効果時間が危うくなってきたころ。

「何故そこまでする?命を懸けてまでやる価値があるのか?」

「価値はあるし、この国の頭が魔王軍とつながってるのをほおっておけるわけないだろうが‼」

…体力が…もう限界だ…。

「大体この国の奴らは、平和の大切さというものを知らん‼」

平和の…大切さ…?

「……それで良いんだよ…」

「何?」

「平和は…誰にとっても……特別であっちゃいけないものだ‼」

「それを屁理屈というのだああ‼」

俺のダガーが弾かれ遠くに落ちた。

武器が無ければ…………いや…ある…。

もう、支援魔法は切れた。

俺の筋力で足りるのか?

頼む…抜けてくれ!

俺とラフィネ…いや、皆の!この国の為に‼

「なあ、知ってるかオッサン。屁理屈ってのは……正論の事を言うんだよ‼」

背中にある片手剣を勢い良く抜き大剣と鍔迫り合う。

その瞬間王の持っていた大剣が半分に折れた。

勝っ……………た……。

あと一歩のところで、俺の限界が来て、その場に崩れた。

「……ふっ。惜しかったな、これも定めよ」

王は少年に折れた大剣を構えた。

「だめええええええ‼」

そこに王女が剣を抜いて飛び出した。

 

 

 俺が目覚めると場所はそのままで、俺はラフィネの膝枕、目の前には王様がいた。

「目覚められたか」

何で俺は生きてるんだ?

すると王様はいきなり頭を下げた。

「すまなかった。……実はあの後娘が飛び出してきな、私の剣を飛ばして色々言われたのだ。わしも最初からおぬしらが正しいと気づいていたはずだった…それなのに認めず、自分の正しさを強情に張り続けていたのだ。だが、わしは負けた」

そうか…ラフィネがやったのか。

「いきなり言われても信用できないと思うが、わしは諦めない。魔王軍とも竜王軍とも戦う。だから、娘を…頼む」

「任せてください」

結果オーライか…。

「本当にすまなかった。わしに出来ることがあれば何でも言ってくれ」

…………。

「では一つ、お願いしたいことがあるのですが───」



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異世界と約束とリニューアル

 「ただいまー」

ユウナとソニアは屋敷で待たせていた。

「遅いよ!心配したじゃん」

「無事で何よりです。それでラフィネ様は…?」

その言葉に俺の後ろからラフィネが顔を出す。

「えっと……た、ただいま…です」

「ラフィちゃああん!」

ユウナは喜びのあまりラフィネに抱き付く。

「よく許してもらえましたね」

「まあ、ひと悶着《もんちゃく》あってな。これからも今まで通りで大丈夫だ」

 時刻は午前三時を回ったころ、十一時頃に出発したのに気絶などでもうこんな時間になってしまった。

「本当に良かったよ…。私達心配でまだ寝てないんだからね」

「ふわああ……。ラフィネ様のお祝いをしたいところですが、今日は寝かせてもらってよろしいでしょうか?」

ソニアの言葉にラフィネが慌てて言う。

「もちろんです、どうぞごゆっくりお休みください。皆さんにはご迷惑をおかけしました」

挨拶をすると二人は自室に戻った。

「じゃあ俺達も寝るか。お休みー」

俺も自室に行こうとしたところを…………ラフィネに抑えられた。

「どうした?」

「お兄様……今夜は…一緒に寝てもいいですか?」

…………え?

「別にいいけど…」

妹はたまに兄ちゃんと寝たくなるもんなのかな?

 俺の部屋のベッドに俺とラフィネが寝転がり布団をかける。

このベッドはもちろん一人用なため二人で寝ると結構な距離だ。

「でもいきなりどうしたんだよ?この状況が恥ずかしくないって言ったら噓になるけど結構落ち着いてる方だぞ、俺」

「ごめんなさい。けど……またこうして一緒にいられるのが夢みたいで……嬉しくて…ありがたくて……」

 

 

 急に私の中にある気持ちが爆発した。

何故か今だけはいつもよりお兄様の事が大事に思える。

私は涙を流しながらお兄様に抱き付いた。

すると何も言わずお兄様も優しく抱き返してくれた。

「お兄様、もう…どこにも行かないで…ください!もう、あんな思いはしたくないです‼」

 

「ああ、俺はどこにも行かないよ、兄弟なんだからさ。それに王様も褒めてたぞ、娘がこんなに強くなってくれて嬉しいってさ」

「ふふふっ……お父様から褒められるなんて…。それに、やっぱりお兄様とお話しするのは楽しいです。一緒にいるって、約束しましたからね」

そう言うとラフィネは俺の頬に顔を近づけ…………。

「⁉」

「メインは…ユウナさんの為にとっておいてあげますけど…あんまり遅いと、私が盗っちゃいますからね?」

 その時のラフィネの顔が嬉しそうな、泣きそうなような顔だったことを…俺は忘れないだろう。

 

 

 俺が王様に頼みごとをしてから数日、王様の手際の良い手配により俺の願いは叶えられた。

「えー…ではただ今より、リニューアルギルドをお披露目《ひろめ》します。では職員の皆さん、扉を開けてください!」

職員たちが扉を開け、たくさんの冒険者たちが中に入っていく。

 この通り俺の頼んだ事とはプレロイのギルドの改装だ。

 テーブルやイスは冒険者な感じを残しつつ王都から取り寄せた座り心地バツグンの高い木材を使っている。

三つしかないおかげで列ができてしまう受付の数を増やし、中には職員の休憩スペースなど職員に優しい仕様に。

料理室は駆け出し冒険者にはもったいないくらいのキッチンを取り付け食材を集めて置ける倉庫には足りなくなったら王都から良い食材を取り寄せることができる。

まあ、取り寄せる金は俺が出すんだけど。

ギルドの端の方には売却場やポーション、薬草など冒険者に役立つものが少し売っている。

冒険者たちが大好きな酒やおつまみの種類を豊富にし、バーカウンターを取り付けた。

 そして何と言っても冒険者ギルドに欠かせない腕相撲をする台もまとめて三つ取り付けた。

 もはやリニューアルじゃなくて建て替えたかのようなギルドの姿に冒険者と職員は興奮しぱなっしだ。

「やべええ!すげええ!こりゃ王都のギルドと同じくらいなんじゃねえか⁉」

「うお!このキッチンめっちゃ良いやつじゃん!こりゃ俺の腕が鳴るぜ!」

「俺…バーテンダーに憧れてたんだ…!これからはマスターとしてやってくよ!」

「酒の種類多っ‼こんなにあるなんて結構な金かかったんじゃねえか⁉」

「クエストの掲示板もめっちゃ分かりやすくなってる!」

「何だこのイス⁉木じゃねえだろ⁉」

「まさか職員にまで気を使ってくれるなんて……」

 いやーこんなに喜んでくれるとは思わなかったわ。

今は夜だし、こりゃ朝まで騒ぐな。

「では、職員代表のレネが、このギルドリニューアルに大きく関わったと噂のマサトさんにお話を伺いたいと思います!」

え…?そんなの台本にないんだけど。

酒を飲み始めた冒険者を見るとやはりルイがウィンクした。

「では、まず初めにどうしてギルドがリニューアルされたのでしょうか?」

「えっと…あまり掘り下げないでほしいけど王都でひと悶着《もんちゃく》あった後に王様に頼んでリニューアルしてもらったんだ」

俺の言葉に冒険者が盛り上がる。

「さすがマサト!俺たちの事考えてくれてる‼」

おうおう、嬉しいなあ。

「そうなんですね。ではギルドに調達される食材やお酒などの消耗品は王都からタダでお取り寄せされているんですか?」

「いやいや、流石にタダじゃないです。俺が払って取り寄せてあるんですよ」

その言葉を聞いた瞬間冒険者たちの飲食の手が止まった。

「そうだったのか…。つまり俺たちが食ったり飲んだりするたびにマサトの金が減ってくって事か」

「命を懸けて稼いだお金で私たちは騒いでるんだね」

……ヤべー何か変な空気になっちゃった…。

「でも俺の四億は先払いしちゃったし、もう戻すこともできないから皆が食べたり飲んだりしてくんないともったいないんだよ。四億もあれば大丈夫だから、逆に俺の為に皆食べて飲んで騒いでくれ‼」

「「「「「…うおおおおおおおおおお‼」」」」」

ギルドは再び歓喜を取り戻した。

「まったく…マサトはお人よしすぎるよ」

「でも、そんなところがお兄様の良い所なんじゃないですか?私やソニアさんも、そのおかげで今を楽しく生きてますから」

「そうだけどさー…あんなことばっかりしてて他の女性冒険者にマサト盗られたらどうしようって思っちゃって」

「確かに!それは一大事ですね…」

ユウナとラフィネの言葉にソニアが安心している声で言う。

「大丈夫ですよ、ご主人様は私たちの事を一番に想っていますから」

「そうだね…でも明日からクエストかー」

 ギルドの売り上げが俺にくるわけじゃないから儲かっても関係ないし、ギルドは特にお取り寄せする必要はないから当分黒字経営なわけだ。

 

 

 「おいマサト、お前財産全部使っちまったのか?」

ユウナたちと飲んでいた俺にバイエルが訊いてきた。

「まあしょうがないだろ」

「しょうがなくねえよ!お前たちこれからどうすんだよ」

「大丈夫だって、まだアレがあるから」

「「「「アレ?」」」」

何でお前らまで驚くんだよ…。

「それではマサトさん、こちらへどうぞ」

レネさんに呼ばれたので受付に向かう。

「それでは少し遅れてしまいましたが魔王軍幹部、知力バグりのシングラの討伐により、五億ベクタを差し上げます‼」

「う……?…おおおおおおおおおお‼」

五億か…ブリッシュより一億も高いのか。てか俺、大金にも驚かなくなったな…。

「「「「あ‼」」」」

思い出したか。

「すっかり忘れてた!マサトが二体目の幹部倒したんだった」

「あの後色々ありすぎましたね」

「ですがこれでお金には困らないですね」

「そういうことか…それじゃ心配いらねえな」

そう言うとバイエルはほかの冒険者の元に戻っていった。

 「これで一件落着だね」

「そうですね。ですがルリテ様はまだお戻りにならないのですね」

確かに遅すぎるとは思うけど、どうしようもないからな。

多分幹部を倒した盗賊とかで人気者なんだろう。

「お兄様、お兄様」

ラフィネが小さい声で話しかけてきた。

「昨日の約束、絶対に守ってくださいね?」

「もちろん。俺はラフィネを追い抜かないし置いてかない、隣で一緒に歩いてあげるよ。…ていうかむしろこっちが頼みたいね」

俺の世界一の妹は世界一可愛い笑顔を見せた。



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第七章   異世界盗賊!
異世界と馬車と盗賊の里


 そういやそうだった…。

俺、敏捷力バグりだったわ。

自分の唯一のとりえでありながらそれをほとんど活かさずに戦っていた。

せっかくのバグなんだからこれからはもっと活かそ…。

 「アニキー!」

宴会の数日後、今までの行動を反省しているとルイがやって来た。

「ルイか、またいい情報を持ってきたのか?」

「今回は結構な情報だからね、十万ベクタもらおうか」

十万⁉……いくら俺が金持ちでもそれは高すぎる気が…いや高すぎだろ‼

「あ、この情報はルリテの情報だぜ。もちろんアニキのパーティメンバーのな」

俺はすぐに財布から十万ベクタを取り出しルイに握らせた。

「ルリテは幹部を倒したパーティーにいるから力が認められて盗賊の里に呼び出されてるらしいんだ。帰ってくるのが遅いのは、その街に悪徳貴族がゴロリといるからさ。…行くなら気をつけろよ」

盗賊の里…か。

俺たちが行って出来ることはあるのだろうか。

どっちみち心配だし、何か少しでも手伝ってやりたい。

「…………ルイ、この街からその里までどのくらいだ?」

 

 

 「ねえ、本当に行くの?盗賊の里って言うくらいだから治安が悪いのは目に見えてるんだけど」

それはそうなんだろうけどなー。

「じゃあ行くのやめるか」

「行きます行きます!」

  時間的にはまだ朝なので荷造りをして馬車の待合所に行く。

「盗賊の里に行きたいんですけど…」

「盗賊の?……ああ、カゼンナの事かい?」

………カゼンナ?

「お客さん、カゼンナを知らない人ですかい?カゼンナは貴族が多く住む街でしてね、だけど住んでいるのは悪徳貴族ばかり。だから盗みが多いので、盗賊が集まる場所があるんです。それが盗賊の里ですよ」

なるほど…じゃあルリテたちは悪徳貴族から盗んでるから義賊みたいなものなのか?

「じゃあおっちゃん、そこまで送ってくれ」

 馬車は景気よく走り出す。

時々の振動が長らく乗っていない電車のようで心地いい。

「そういえば、ここしばらく他の街に行ってませんでしたね」

「修行してマサトと再会したのがもう一か月も前か…早いね」

俺が思いついた作戦が賭け事だったおかげで、一ヵ月を無駄にしてしまった。

「っていうかユウナもマジックシェード使えたのか」

「せっかくあの町にいたんだからね。オールドのおじさん、元気にしてるかなー?」

「ここにいる皆様はっマジックシェードを使えるのですか…」

オールドじいさん、あなたの教えてくれたマジックシェード、今のところあんまり使ってません。でも頑張って活躍させたいです。

 街を出て数時間、馬車から見える変わる景色を眺めながらボーっとしていると。

「うおっ!こりゃいけねえ。お客さん、馬車止めますよ」

何かあったのかと気になり馬車の外に出る。

外にはシャープクックと言われるニワトリが列を作っていた。

「すいませんお客さん、いくらモンスターでもひき殺すのは可哀そうですからね」

ひき殺すのは可哀そう…。

時刻は昼近く、そろそろお腹が空くころ。

シャープクックはトサカが刃物になっていて頭突きで攻撃してくるが基本は臆病。

そして卵がうまいと評判だ。

「なあおっちゃん、ここらでお昼にしよう」

 

 

 昼食を済ませもう数時間馬車を走らせると街が見えてきた。

中に入ると街は活気にあふれていた。

「お客さん、ここですよ。盗賊の里はこの路地をまっすぐ行けばつきます」

「ありがとうおっちゃん。これはとっといてくれ」

そう言いながら普通の値段よりも高いお金を渡す。

「ありがとうございます。お客さんもご武運を」

なんて優しい人なんだ…。

今度馬車に乗ることが会ったら、同じ人に頼もう。

 狭くて暗くじめじめした路地を進むと。

「おお!」

そこには街の中にあるとは思えないほどの田舎なまさに里があった。

「この中にルリテさんがいらっしゃるんですよね」

「早く探そうよ」

ルリテを探すべく里に入ると………⁉

「何者だ?」

俺達の首に冷たいものがあたった。

「お、俺たちはルリテのパーティ仲間だ。最近帰ってこないから心配できたんだ」

すると首に刃物をあてていた三人は素早く手を戻し。

「本当か?……いや、本当ですか?」

おっとここではかなり偉いようで、ルリテ様。

 「あの…ルリテ様のお客様がお見えになられていますが」

「あたしに客?たっくこんな忙しい時に誰だよ…?」

家の前で待っていると、ルリテが出てきた。

「久しぶりだな」

ルリテは俺たちの姿を見ると凄く驚いた顔をする。

「お、お前ら何でここに?」

「ルリテあんまり遅いから来ちゃったのよ」

「ルリテさんがいないあいだ大変だったんですからね」

「このお方がルリテ様ですか?よろしくお願いします」

「え?あ…、うん?」

混乱しているルリテに俺達の今までを説明した。

 「そんなことが……悪かったな、大事な時にいなくて。お前らだけは巻き込みたくなかったんだ」

「何で俺らだけは巻き込みたくなかったの?」

俺とユウナはニヤニヤしながらルリテをつつく。

「それは、その…………だあああああっ!もうっ‼ここに来たからには、手伝ってもらうからな!」

「もちろん、そのつもりで来たんだ」

そう言ってお互い笑いあった。

 狙うはこの街一番の悪徳貴族の宝である王冠。噂では神器と言われている。

神器と言われるものは王都で保管しなくてはならないにも関わらず、それを持っている貴族から盗んでくるというわけだ。

「やっぱり義賊だったのか」

「うるせー、続けるぞ」

その貴族の屋敷には俺とルリテとラフィネで行く。

ルリテは本業だから当たり前。ラフィネは戦闘があった時の為。俺は…特に高くない知力を活かせとのこと。

足が速いからバレにくいというのも理由の一つだ。

「今夜おこなうから、仮眠とっとけよ」

そう言われたので俺は用意されたベッドに向かう。

「お前らは寝ないのか?」

「私たちは馬車の中でほとんど寝てたからね。女子会ってやつだよ」

「ほら、ソニアさんもですよ」

「え?私もいいんですか?じゃあ喜んで」

久しぶりの再会だ。積もる話もあるんだろう。

「そうか。じゃあお休み」



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異世界と流しと恐怖の再会

 「マサト、おい!起きろってば。おい!」

「んあ……?」

「寝ぼけてんじゃねえよ。時間だ、行くぞ」

眠い目をこすりながら辺りを見回す。

目に入ったのはこの前手に入れた剣。

 …そういえば何故俺はあの時剣を抜けたのだろう。支援魔法は切れていたしレベル的にも足りないはずだ。

 ふと気になり自分の冒険者カードを見る。

この前はゆっくり見てる暇なんてなかっ………?…⁉

俺の筋力と知力がレベルに比例していなく大幅にステータスアップしていた。

どうしてだ?

…………俺が今考えられる一番の仮説としては、ステータスバグりにとどめを刺したやつはそのステータスが大幅に上昇する。

簡単に言えば今俺がソニアにとどめを刺せば俺の器用度が大幅に上昇するって事だ。

いや、兆が一でもそんなことはしないけど。

 「何やってんだよ。早く行くぞ!」

ルリテに呼ばれたので外に出る。

 「知ってるか?スキルってのは使ってるやつに触れるとその恩恵を受けられるんだ。例えば千里眼を使ってるやつに触れると触れた本人がそのスキルをもってなくても千里眼が使えるって事だ。この意味分かるよな?」

なるほど…それは便利だな。

つまりハイドスキルを覚えていないラフィネがスキルを使っている俺やルリテと触れることでラフィネにもハイドスキルが適用されると。

「じゃあルリテとラフィネとが手を繋ぐと…守りは任せろ」

俺の言葉にラフィネが少し怒った顔をする。

「何言ってんだよ…ラフィネの勇者のくせに。いざって時にラフィネ担《かつ》ぐんだからマサトとだろ?ラフィネもそっちの方が良いだろうし…な?」

ラフィネは顔を赤くしながら高速で首を縦に振る。

「良かったなマサト」

……?

「それってどういう意味だ?」

「分かんねえなら良いんだよ」

…………?

 準備も整ったので貴族の屋敷に向かう。

「…で?どうやって侵入するんだ?」

「さあどうしようか?こういうのを考えるのがマサトの仕事だろ」

マジかよ。ノープランで来たんか。

………あ!簡単に入れる方法があるじゃん。

「よし、ついてこい」

俺達は屋敷の見張りに話しかける。

「あのー今からここに侵入してもよろしいですかね?」

「泥棒だ!捕らえろ‼」

俺達はあっという間に捕らえられ屋敷の中にある地下の牢屋に入れられる。

「入れたぞ?これからどうする?」

「ふざけんな‼どーすんだよ、出られねーぞ!おい、出せ‼」

ルリテが騒いでることに気づいたのか地下に一人しかいない見張りが来る。

「何だって?おっと悪い悪い、この牢屋は外からの声は届くけど中からは届かない特注品なんだよなー」

そう言って見張りは笑いながら戻っていった。

 マジかよ…!まさかここまで脱獄対策がされてるとは思わなかったわ。

どうにかして見張りを金で買収するつもりだったのに…。 

 しばらくすると太った男がやって来た。

「わしがこの屋敷の主のエルカリーだ。……ほう、女が二人に男が一人。そっちの暴れている方に興味はないがもう片方の金髪、お前は美しいな。後でゆっくり遊んでやるよ。ははははは‼」

そう言うとおっさんは帰った。

 あいつ…………殺してもいいかな?

「どうすんだよ!このままだとラフィネが……!」

 この牢屋は外からしか開けられず鍵がない。

電気を流した棒を外側についているパネルに当てることで開閉するという最新式だ。

つまり…………?

「こうすれば開くって事か?」

鉄でできている扉に手を当てる。

「『マジックシェード・サンダー』」

鉄は電気を通すため、向かい側のパネルまで電気が届き…。

「開いたぞルリテ!」

「な!お前ら一体どうやって⁉」

「『バインド』」

見張りを縛って牢屋に入れ扉を閉じる。

すると中にいる見張りだった人が何かを訴えかけている。

「何だって?おっと悪い悪い、この牢屋は外からの声は届くけど中からは届かない特注品だったんだっけなー」

俺はわっはっはと笑いながらその場を後にした。

 

 

 「絶対ここだろ」

牢屋を出て一階に上がりしばらく進むと頑丈過ぎるほどの扉があった。

「『マジックシェード・サンダー』」

ここも最新式だったおかげで楽に開けることができた。

 「あったぞ。……この王冠、どこかで見たような…?」

宝物庫の中央にはガラス消すで覆《おお》われている王冠があった。

「まあいい、こんなガラスは一撃で───‼」

ルリテが持っていたダガーで勢いよくガラスに刃を立てると、ガラスではなくダガーが粉々になってしまった。

「いっつう…!こいつ硬すぎんだろ。…どうする?」

どんなに強度の高いガラスでも、この世界なら簡単に割る方法がある。

「『フレイムバレッド』『フリーズショック』」

熱してから急速に冷やすのを何度も繰り返すことで初級魔法でも硬いガラスも綺麗に割れる。

「おお!さっすが」

王冠をバックに入れてその場を立ち去る。

 「待ってくれ…」

屋敷を後にしようとしていた俺達をルリテが止めた。

「どうした?」

「この屋敷のおっさんを倒せばこの街の悪徳貴族たちはほとんど死んだようなもんになる。今が絶好のチャンスなんだ……」

ケリをつけたいって事か。

「俺も丁度そうしたいと思ってたところだ。悪いなラフィネ、危ない橋を渡らせちゃって」

「いえいえ、私には何の問題もありません。お兄様と一緒ならなおさら…」

最後の方は小さくて聞き取れなかったが、優しいいラフィネは快く了承してくれた。

 

 

 ハイドで見張りをかいくぐりながら階段を上がるとまたもや大きな扉があった。

「気をつけろ、開けるぞ」

重い扉をゆっくり上げると大広間に出た。

「すごく広いですね───⁉誰かいます‼」

ラフィネの言葉に俺とルリテが身構える。

「ようやく来たかい。早く王冠とその少女を私によこしたまえ」

「黙れ。それ以上近づいたらぶっ殺すぞ」

俺の物騒な即答にその場の全員が驚く。

「おっと怖い怖い、落ち着きたまえ。目には目を歯には歯を、盗賊には……盗賊を」

そのセリフと共に四人の人影が見える。

 「その王冠は魔王様にあげるものだから返してもらおうか」

「──っ!てめえ、魔王軍の関係者か‼」

確かこの街はどちらとも関わらない中立の街だったはず…。流石は悪徳貴族と言ったところか。

 「王冠を渡せば幹部にしてくれるらしいのでね。さっさと冠と少女をよこせ‼」

二つのもどかしさにエルカリーはキレる。

「………ラフィネは下がっててくれ。ここは俺たちでやる」

一発あいつをぶん殴らないと気が済まない。

「お兄様、私は───!」

「いいから下がっててくれ!……お前が大切なんだ…」

そう言うとラフィネは静かに下がった。

「ルリテ、行くぞ」

言いながら俺のダガーをルリテに渡し背中から剣を抜く。

「ああ任せろ」

「くっ…‼お前ら分かってるんだろうな‼さっさと金髪少女以外を殺っちまえ!王冠は無傷でな。そうしたら報酬は倍だ‼」

その言葉で四人の人影が前に出てきた。

 「…おいおい、倍だってよ?」

この時は、思いもよらなかった。

「こりゃまじめにやるしかねえな」

まさかこいつらが人殺しに慣れていて。

「人殺しなんて懐かしいね」

あいつらだったなんて事を。

「久しぶりね…………ルリテちゃん」

 



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異世界と覚悟と義賊

 「何で…お前らがそこにいるんだよ…?何で……何であの時あたしを置いていったんだよ‼」

ルリテの叫びに盗賊たちはクスクスと笑う。

「まだ分かんねえのか?俺たちはあの時から魔王軍の関係者だった。その王冠を持ってくるように言われたんだ。助かるチャンスを逃すわけねえだろ」

「ごめんねー。ルリテちゃんの命は保証されないから殺さないといけないの」

……こいつらがルリテの昔話に出てきたやつらか。

「…だったら、あたしもタダでやられる訳にはいかねえ。マサト、いくぞ…」

「ああ!」

二人で四人に突っ込む。

ちゃんとした人間との戦闘は初めてだがしょうがない。

「『アクアボール』!」

「うわっ!何だこれ……ただの水…?」

「今だルリテ!」

「『バインド』!」

初級魔法で牽制《けんせい》し、一人捕らえることができた。

「なっ⁉」

その間に俺はもう一人の後ろに回り背中に触れる。

「『マジックシェード・スパーク』!」

「ぐあああああ!か、体がっ…動かねえ‼」

「『バインド』!」

唯一覚えた中級魔法を相手の体に流しなんとか二人目も捕らえることに成功した。

あとは二人、とうとう同じ人数になった。

 「くっ…!おいルリテ!こんな奴らとつるんでるうちに忘れちゃったんじゃねえのか⁉おとりになった時の痛み!苦しみ!寒い!」

「ひっ…………!」

あいつらルリテの弱点を突いてきやがった。

一人の男の言葉にルリテは怯え、知らない、知らないとつぶやいている。

「そうだよなあ!もう怖くない、しっかりあの世へ送ってやるよ‼」

その男は武器を構えルリテに斬りこみに行った。

「やめろ!」

そう叫ぶが男は止まらない。

雷属性の中級魔法じゃあいつは止めることはできない。

どうする…いや、迷ってる場合じゃない!

 俺は…仲間を守る。

俺の生きている間は……仲間を殺させないと…誓った‼

仲間を守る為なら俺は…………人を殺す‼

「うおおおおおおおおおお‼」

 しまいかけていた武器を素早く抜き疾風迅雷を発動させ全力でルリテのもとへ。

間に割り込み男に向かって剣を突き出す。

「ああああああっ‼」

鋭い俺の剣は、柔らかい男の体を勢いよく突き抜き貫通した。

「ぐっ……ゴハッ!…やっちまったなあ……人…殺……し……」

吐血をしながらその言葉を残し倒れ、死んだ。

あとはエルカリーを…。

「きゃああああ!」

その悲鳴に振り向くと、最後の一人がラフィネを担いで逃げていく。

「待て!おいルリテ、うなだれてないで追いかけるぞ」

俺が一瞬目を離した隙《すき》に女盗賊は消えてしまった。

 

 

 「やっと連れてきたか。さあさあ、こっちへおいで」

「私はあなたのモノにはなりません。既にお兄様のものです」

エルカリーはうるさいと呟くとラフィネの頬に殴りかかる。

「王族を、甘く見ないでください!」

ラフィネはそれを簡単に受け止めエルカリーを突き飛ばした。

「この…小娘が!やってしまいなさい‼」

そう言うも誰も反応しない。

さっきまでいたラフィネを連れてきた女盗賊は縛られてた。

「俺はお前を許さない」

こいつは悪徳貴族の親玉だ。情けなんて一ミクロも無い。

「ルリテから聞いたぞ。お前はいろんな場所から女をさらって弄《もてあそ》び、最後には殺す。今まで何人の人たちを殺してきた……?」

「そんなことは関係ないだろ!」

関係ない?

同じ種族でありながら魔王並みに、魔王よりもクソな事をしている奴に関係ないなんて言ってること自体関係ない。

「俺の最終的な目標は魔王討伐だからな。こいつも殺すか……何人殺した⁉」

そう言いながらエルカリーの両腕を斬り落とす。

「ひっ…ひゃあああああああああ‼頼む!殺さないでくれ、答えるから‼…きゅ、九十人くらいだ!」

 「マサト、あたしにやらせてくれ。自分の手で決着をつけたい」

「ああ」

ルリテはダガーを構えエルカリーに向ける。

「殺さないでくれ!もう悪さはしないから!神に誓ってもいい‼」

その言葉にルリテはためらいを見せた。手も震えている。

ルリテは人を殺したことが無い。だからしょうがないんだろうが、先程人を殺したばかりの俺は殺す前から非情になっているためためらいはない。

俺は自分の冒険者カードを取り出し貯めていたポイントで中級魔法を習得する。

 「うわあああああ‼」

隙を見せたルリテにエルカリーのかかとに付いていた刃物をルリテに振る。

「『フレアブレス』」

「ああああっ!熱い!ああああ!ああああああああああああ‼」

新鮮な俺の魔法がエルカリーの体を焼き払った。

「俺はお前を殺すことに…何のためらいもない」

 

 

 俺たち三人は無理やり働かされていた人たちと屋敷を出て、盗賊の里に戻った。

「お帰り!大丈夫だった?」

「なんとかな」

「マサト、ちょっと話がある」

ルリテに二人で話したいと言われ、ルリテの家らしき場所に入った。

 「ごめん……本当にごめん」

「急にどうしたんだよ?すぐにラフィネを追いかけられなかった事なら気にしなくていいぞ」

そう言うとルリテは首を横に振る。

「本当は…お前が手を汚す必要なんてなかったんだ…二回とも!あたしが…私が覚悟を決めていれば…!しかも二回目なんて、あたしが自分からやらせてくれって頼んだのにこのザマだ!……本当にすまない。許してくれとは言わない、でも───⁉」

言い終わる前にルリテの頭をなでた。

「そんなこと気にしてたのか?俺は絶対に仲間を殺させないって心に決めてたんだ。俺はルリテを守れた。それだけで十分…ていうか、むしろ良かったよ」

「でも───!」

泣きそうな顔で言うルリテの言葉をさえぎって言う。

「誰にだって、忘れたい過去や決められない覚悟だってある。それはしょうがないことだ。もちろん俺にだってある。でも出来ることと出来ないことは人それぞれ違うから、それを補い合って進んでいくのが仲間だろ?俺たちはもう、信頼しあいながら背中を預けられる仲間なんだからさ!」

「……うっ……っうわあああああああん‼ああああああああん‼」

ルリテは、俺の胸に飛びつきしばらくの間大声で泣いた。

 

 

 「…マサトありがとうな。おかげでいろんなことが吹っ切れたよ、あたし」

「そうか…。それなら俺が今までやったことは無駄じゃなかったってことだ…!」

そう答えるとルリテは先程から何かを言いたそうにしていた内容を話した。

「あたし、この街を発展させようと思うんだ。マサトと冒険して、大事なものがハッキリとしたよ。ここにはあたしを頼りにしてくれる人が沢山いるから、その期待に応えようと思う!だから……マサトとは……」

寂しいけどルリテの決めたことだ、止めるつもりはない。

「頑張れよ!プロレイにも、ルリテの事を頼りにしてるやつは沢山いるからな。特にその街に住んでる四人は…な?」

「っ…へへへ。たまには遊びに行くからさ。本当に……ありがとうな、マサトと会えて良かったよ」

こいつ…良いこと言うじゃんか!

最初に会った時とは大違いだ……でも、それが成長って言うんだろうな。

 他の三人とも別れの挨拶を終わらせ、プレロイへの馬車に乗り込む。

「それじゃあ出発しますよ、お客さん」

「またな」

「ああ、また」

朝日を背にどんどんカゼンナの街が離れていくなか、ルリテが大声で叫んだ。

「マサト───!大好き───────‼」

「…ありがと──────‼」

他の三人と同じ()()がいつの間にか俺にも流れていた

 優しい水色短髪で義賊の少女は、俺たちが見えなくなるまでずっと手を振った。



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第八章   異世界悪夢!
異世界と音とナイトメア


「私にはマサトなんか必要ない!マサトなんて…大っ嫌い‼」

 

「悪いなラフィネ、お前よりも大切なものが出来ちまったんだ。だからお前とは一緒にいられない」

 

「暴れるのをやめろ!シングラがいなくなった今、その知識を魔王軍の為に存分に活かしてもらうぞ」

 

「おいユウナだ、気持ち悪っ!こっち来るな汚い…!」

 

 

 「「「うわあああ‼」」」

「──どうした、火事か⁉」

大きな悲鳴により目が覚めた俺はリビングに走った。

「「「うあああああん‼」」」

声をあげて泣いていました。

三人そろって別々の怖い夢を見たそうです。

「私はっ、お兄様が…ひっく…遠い所に行っちゃって…もう二度と会えなくて…」

「私はご主人様たちが魔王に連れてかれて…無理やり人殺しをさせられて…!」

なるほど…二人の一番嫌なことをピンポイントに射抜いた悪夢だな。

ってことはユウナも……。

「私はバイエルやルイとか、大勢の冒険者ににいじめられて、最終的にはマサトにも見放されてっ!ねえ、あれは夢だよね⁉マサトは本当にそんなことはしないよね⁉」

やはり的中している。

「何言ってんだよ、当たり前だろ」

そう言いながら落ち着いてきた三人の頭を撫でる。

「ナデポとはやるわね…」

 「ご主人様は…何か怖い夢を見なかったのですか?」

怖い夢…?

そういや俺も何か見たような…………あ!

「ユウナにマサトなんて必要ない、大嫌いって言われた夢見たわ」

俺の夢もドンピシャではあるな。

「じゃあ何で驚かないのよ。私にそんなことを言われても気にならないってこと?」

「いやいや、そんなわけないだろ!ただ、同じことを前にも現実で言われたことがあるから…」

俺達が中二の時にそういわれて、めっちゃ傷ついたことを今でも覚えてる。

二回目だし、あんなことがあったからあんまり気にならないな。

「でも、四人揃って自分の一番の悪夢を見るなんておかしいよ。……あれじゃない⁉『ナイトメア』!」

 ナイトメアとは、ラノベやRPGが好きな人は知っている、ピエロのような仮面を付け相手に悪夢を見せることができるというモンスター。

「でもこの世界にナイトメアっているのか?」

「はい、ナイトメアは国に多額の賞金を賭けられている特別指定モンスターです」

特別指定モンスター…基本的にはロールプレイングゲームで有名なモンスターで魔王軍幹部並みに強いらしい。

そんなモンスターが駆け出し冒険者の街にいたらたまったもんじゃない。

「じゃあ他にも悪夢を見てるやつがいないかギルドに行くぞ」

 

 

 四人揃ってギルドに行くと、既に中が騒がしかった。

「おい、うるさいぞ。これは本当にナイトメアなんじゃないか?」

ギルドの作戦会議室に向かうと多くの冒険者と職員が話し合っている。

「やっと来たか。お前さんたちも見ただろ…悪夢を」

「この街にナイトメアが潜伏してる情報を手に入れたぜ。どうやって倒す?」

結局ナイトメアか…。

 ナイトメアはゲームによって種族が違う。

それがゴーストだったり人間だったりと倒し方が違う。

「ナイトメアってゴーストなんですか?」

「いいえ人間です。今わかっている情報では仮面を付けた人間が、持っているベルを鳴すと音を聞いた人のほとんどが悪夢を見ます」

 ほとんどの人って事は見ないやつもいるのか。

多分昨日の夜に聞こえた音は街内放送で鈴の音を鳴らしたんだろう。

ベルの音を聞いただけで悪夢を見るって事は…。

「神器だと思います。ご主人様」

……だよなー。

「今日はマイクの前で待ち伏せして捕まえるしかないな」

「やっぱりそれが一番だよねー」

 俺達を含めた冒険者はナイトメアが来るのを待つべく夜中まで待ち伏せをしていたのだが…。

「…ん?おい、何かいるぞ」

小声で皆にそういうと何もいないという人と赤い光が見えるという人がいた。

「ご主人様、あれはゴーストです。ゴーストは基本、自立行動をしないので近くに指示を出しているものがいるはずです」

「そいつがナイトメアか…!」

赤い光はゆらゆらと俺たちに近づいてくる。

「ゴーストに触られると生命エネルギーを抜かれます!離れてください」

皆急いでその場から離れる。

 その途端に─────

『リ───ン、リ───ン』

ベルの音が鳴った。

「皆、耳を…」

言い終わる前にそばにいた冒険者が倒れていく。

起きているのは俺とバイエルとソニアと数人。

マイクのところに行くと立ち去ろうとしている黒い布を羽織った人影が見えた。

「おい待て!」

あいつ意外に早いな…。

相手は逃げながらゴーストを召喚してくるためかわしながら疾風迅雷で追いかける。

やっと……おい…ついた!

筋力値は上がっているのでしっかり取り押さえることができる。

「…っ!」

やはりピエロの仮面をつけていた()()()は腕をもぞもぞして俺から抜こうとする。

何をするつもりだ……⁉

気づいたときには既に腕は抜けていて、ベルを手に持っていた。

まずい─────!

『リンリン』

さっきよりも短い音色を聞いた俺は、浅い眠りへと落ちた。



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異世界と欠点と終わらない悪夢

 「っう………!」

頭痛と共に目を覚ました俺は、ギルドの長椅子でユウナに膝枕という状態だった。

軽く頭を押さえながら起き上がる。

「もうちょっと寝てても良かったのに…」

残念そうなユウナの顔を横に当たりを見渡すと既に皆目覚めていた。

「ナイトメアは…?」

俺の質問にソニアが暗い顔をして答える。

「私たちが着いた時にはご主人様が地面で寝ていて、誰の姿もありませんでした」

「お兄様が殺されなかったのが本当に幸いでしたね」

確かに……ゴーストを操っていて相手を眠らせたのに殺さないとは、逃げることが最優先だったって事か…。

「それで、ナイトメアの正体は分かったの?」

「いやそれが、やっぱり仮面を付けてて顔は見えなかったよ」

 さて、どうしたもんか…。

対処しなければならないのはナイトメアの操るゴーストとベルの音だ。

どうにかしてこれを防がないと…。

…………大金はたいてやるしかないか。

本当に金がかかる討伐とかやだなー。

 「わ、私達は手伝えない…よ…」 

皆の方を向くと震え、怯えた顔をしていた。

「もうあんな悪夢はごめんだ…悪いが手伝えない」 

「もうマサトが…皆がひどい目に合うところなんて…見たく…ない!」

「お兄様は平気なのですか?」

いや、一応俺も悪夢を見たんだけど…。

「俺のパソコンのデータが全消去されるっていう悪夢を…」

なんかしょうもなかった。

確かに一大事だし悪夢だけど、今の俺には関係ないからなー。

ユウナ以外はぱそこん?と首をかしげていた。

「っていうか、そんな心配いらないよ。俺に心当たりがあるから」

 

 

 目覚めてから一時間後

 この街からさほど遠くない場所にある研究所に、足を運ぶのは二度目だ。

「いらっしゃ…おや?あんたか、こんな時間に。今度は何をしようってんだい?」

前と変わらずボサボサの髪の毛に白衣と眼鏡、そんな女性にナイトメアとゴーストについて相談してみた。

それならいいものがあると言って奥から一見普通の耳栓とポーションを持ってきた。

「このポーションは飲むと三十分間ホートン(幽霊のような実体のないもの)に近寄られなくなるというこの研究所で珍しく成功したポーションさ!」

おお、そりゃすごい!……今珍しいって言った?

「こっちの耳栓はつけると音が何にも聞こえなくなるんだ。何故かというと、この耳栓が自分の周りの空気の振動を抑えるからさ。でももし持ってるベルが特別なやつだったらむりかもなー」

何にも聞こえなくなるって事は指示が出せないって事か。

まあ方法はこれしかないからしょうがないが。

 「っていうことで数千万払ってきたから」

「おま……また大金を…!金の使い方が荒いぞ。そんなんじゃ五億なんてすぐだ………すぐ…か?」

「別にいいだろ、他人《ひと》の為に使ってるんだから」

 あとはナイトメアの居場所だが。

「居場所なら分かるぜ。この街からそう遠くないところにある廃墟屋敷にいるらしい。ここ最近の目撃情報からルイが絞った場所だ」

それはありがたい。俺は財布から五百ベクタほどを取り出しルイに渡す。

 ナイトメアは昼に攻めるのと夜に攻めるのはどちらが効果的なのだろうか?

夜に攻めればバレにくいがベルを鳴らされたら意味がなく、目覚めにくいという欠点がありゴーストにも有利だ。

昼に攻めれば目覚めやすいがバレやすく操られているゴーストは暗い屋敷の中なので行動できるだろう。

「夕方に攻めるのは……」

その言葉を聞いたユウナが少しムッとした後、本当に元ゲームプレイヤ―?と聞いてきた。

「夕方は逢魔時《おうまがどき》って言って、読んで字の如く『何やら妖怪、幽霊など怪しいものに出会いそうな時間』、『著しく不吉な時間』を表していて、昼間の妖怪が出難い時間からいよいよ彼らの本領発揮といった時間となることを表し、昔から他界と現実を繋ぐ時間の境目って伝われてきてるから、この時刻に魔物や妖怪がうごめき始めて災いが起きるって言われてきてるのよ!」

「ってことはホートン系が一番強い時ってことか。黄昏時《たそがれどき》しか知らなかったなー。じゃあ夕方は無しだな」

ゲーム内で夕方にホートン系モンスターがよく出てきたのはそれが理由か。

こういうことはユウナ詳しいなー。

「ゴーストはポーションで無効化できるけど、俺たちの最優先はナイトメアだ。攻撃があたらなかったら元も子もないから、昼になったら行くぞ」

「被害が増える前に今日行っちまうってわけか。皆、準備しろ!」

「「「「「お───‼」」」」」

 

 

 時刻は正午、廃墟となっている屋敷に冒険者たちが入る。

意外にも日の光が入ってくるため中は明るかった。

「これじゃあゴーストは活動できないな。ナイトメアを探すぞ」

「探す必要なんかないよ」

声の方を見ると階段の上に仮面を付けた人が立っていた。声からすると男だろう。

「さあ、僕の前で眠れ!」

そう言って勢いよくベルを振るが音は聞こえない。

「何にも聞こえないなー。耳栓っていいなあ」

「僕のベルは神器だぞ⁉何故たかが耳栓に防がれる⁉」

そこからしばらくナイトメアがベルを振るも全く効果はない。

作戦はしっかり立ててあるので、俺は複数の冒険者に合図を送る。

「『    』!」

合図を受けた冒険者はバインドの魔法を唱えるはずが発動しない。

どういう事だ?

何かに気づいたソニアが訴えかけてくるが何も聞こえない。

何が言いたい?何も聞こえない!耳栓を外したら………!

 …ふと思った。この世界の魔法はどのように発動するのか、と。

スキルと同じで頭で考えただけで発動するのか…?

俺は周りがやっているのを見よう見まねで真似をしていて、声を出していた。

もしもこの世界の魔法が声に反応するものだとしたら………⁉

自分の周りの空気の振動を抑えられたら魔法は発動しない。

 俺は、前にルイが言っていた言葉を思い出した。

『メリットだけを聞けば凄くよさそうなものばかりだけど、ちゃんとデメリットも訊いておかないとヤバいことになるからな』

この耳栓のデメリットは………!

魔法が使えなくなることか‼

その瞬間、冒険者たちが次々に倒れていく。

「ハハハハハハ‼効果が出てきたみたいだな!」

おかしい…さっきまで防げたいたのに皆寝始める。

………まさか⁉

デメリットはもう一つあって、効果が短いって事か…!

それに気づいた瞬間、俺の意識も遠のいた。

 

 

 数時間後、目が覚めるとナイトメアは何かを小声で言っていた。  

「起きたか。今回は悪夢を見せないでやった。何故ならその悪夢を現実で起こすんだからな」

現実…?

傾いた太陽の光が屋敷に差し込み辺りをオレンジに染めた。

「……時間だ。逢魔時のな」

ナイトメアの足元にある魔法陣から赤い光が複数出現した。

その光は雄たけびを上げながら鎌を持った実態へと変化した。

「さあ、悪夢の始まりだ‼お前の持っていた妙なポーションは捨てておいたぞ」

そう言ってナイトメアは奥の部屋に向かっていった。

「このゴーストは実態があるし見える。マサト達は行け!どうせ俺らじゃナイトメアを倒せない!ゴーストは足止めしておくから行け‼」

「…分かった。頼んだぞ」

俺達四人は階段を駆け上がりナイトメアを追いかける。

目の前に一体のゴーストが現れ行く手を阻《はば》むがラフィネが片手を前に出す。

「『スパラグモス』!」

ゴーストを消滅させ奥の部屋に走った。

「さっさと寝てろ!」

ベルを鳴らそうとしているところを疾風迅雷で懐に飛び込みナイトメアを押し倒す。

その隙に手から離れたベルをラフィネが音が鳴らないようキャッチする。

「おとなしく刑務所に行きな」

「うるさい!僕が負けるはずないんだ!お前が速くなければ……!くそっ………僕が魔法を使えない訳ないだろ!一人だけでも、一生分の悪夢をくれてやるさ‼」

こいつ…まだ何かする気か!気絶させるしか…………。

「『サンダ…』」

「『ナイトメア』ッ‼」

放たれた魔法は黒いモヤで、ちょうど目の前にいたユウナを覆った。その瞬間…。

「いや…やめて…!この世界の人は優しいの…汚さないでっ…!いや…いや…やめてマサト…やめて‼」

ユウナはその場に倒れこんだ。

ナイトメアに何をしたのか訊こうとしたが俺の魔法で気絶していた。

 ナイトメアが気絶したことによりゴーストたちは消滅した。

皆無事に街に帰ってこれ、ナイトメアは刑務所に引き渡し、俺は屋敷に戻りユウナをベットに寝かせる。

「ん……あ…え」

ユウナに大したダメージは無く、すぐに目覚めた。

「大丈夫か?」

「いやっ‼」

顔を覗き込むと突き飛ばされた。

「私はマサトに必要ないんでしょ?そうやって結局私のことイジメて…!」

「何言ってんだよ?何のことだ?」

ナイトメアという魔法は闇属性の上級魔法。トラウマができ、悪夢と現実の違いが分からなくなるそう。

「あっち行って……一人にして。この関係を終わらせないだけありがたいと思いな」

ナイトメアの作り出した俺たちの悪夢はこれからなのかもしれない。

 



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異世界と情報とファースト

「あっち行って……一人にして。この関係を終わらせないだけありがたいと思いな」

唐突にそんなことを言われ、俺たちはその場に固まった。

「ユウナさん、どうしたんですか?相手はお兄様ですよ?」

ラフィネの言葉にユウナは苦虫を嚙み潰したような顔をして続ける。

「そうよ、マサトだからよ。さっさと部屋から出て行って」

どうすることもできない俺はラフィネと共に部屋を出た。

ユウナの事はしばらくはいろいろ詳しいソニアに任せよう。

「お兄様、あまり気を落とさないでください。あれはナイトメアの魔法でそうなってしまっているだけですから…」

「ああ、分かってるよ。ありがとう…でもこのままにしておけないだろ……」

 魔法を解く方法を聞き出すため、俺とラフィネは王都にある最重要留置所に向かった。

最重要留置所とは死刑にするには惜しく、人々に大きな害を与えるものが収容されている場所だ。そこにナイトメアは囚われている。

 「失礼、冒険者カードの提示をお願いします」

言われるがまま無言でカードを渡すと、受け取った二人の兵士はみるみる顔を青ざめさせた。

「大変失礼いたしました‼まさか王女様とは知らず…!」

「ニートスピーダー様にもとんだご無礼を…」

おい、そろそろその呼び方止めない?自分で言ってておかしいって気づけよ。

「ナイトメアに会いたいんだが」

怒りを抑えつつ兵に従いナイトメアと一枚のガラスを挟んで対面する。

「よう、久しぶり……でもないか」

ナイトメアは仮面を外していて、その姿は人間だった。

「お前のおかげで俺はまずい飯食らいだよ…。で、何が知りたい?」

こいつ、なんで俺たちが────

「何かを知りたがってるか分かるんだって?今はそんなことどうでもいいんだろ?」

「……っ!仲間にかけた魔法の解き方を教えろ」

そう言うとナイトメアは顔をすくめて口を開いた。

「…さあね?あれは魔王からもらった魔法だから解くことはできないんだよ。自分の力で心を開かせるしかない」

 こいつも魔王軍の関係者か……。

すると一人の兵士が俺の耳元でささやいた。

「最近なぜか魔王軍の動きが減ってきているのです。このまま情報を引き出してはくれませんか?」

俺は無言でうなずきもう一度ナイトメアに向き直る。

「じゃあこのまま魔王軍について話してもらおうか」

「…このまま情報を聞き出せと言われたか。まあいい、どのみち終わる人生だ。僕が世界を変えられるチャンスだしね。教えてあげるよ」

 ナイトメアは情報を引き出せるだけ引き出したら死刑にされるのだろうか?

今までどんなことをやって来たかは知らないけど、いろいろ思うことがある。

「今、魔王軍は驚いてるのさ。一ヵ月も経たないうちに幹部が二人もやられ、一人には逃げられたと来たもんだ。魔王軍は血眼《ちまなこ》になって新たなバグりを探してるけど、そんなに早く生まれないからね…。魔王軍は領地で修行とバグ探しだからここ最近の動きが少ないのさ」

 幹部討伐にバグ探しか……。

もう俺たちが幹部を倒しているのは魔王にバレてるんだろうか。そうなると魔王軍から集中的に狙われることになる。

バレてないといいけど、相手にはエティオンがいるしなあ。

あいつの頭はバグり並みだ。

 そしてソニアについても大事《おおごと》になりつつある。

いや、魔王軍にとっては最初から大事か…。

「魔王本体の能力については、強力な魔法をほかの者に与え使わせることができることしか知らない。残りの幹部については……二人がバグりで残りが変な特性がついてる。俺が知ってるのはこれくらいかな」

エティオンともう一人バグりが……てか変な特性ってなんだよ。

情報を得た俺たちは屋敷へと戻った。

 

 

 「ユウナさん、あなたは今ナイトメアの呪いにかけられているんです。だからご主人様が悪いことをした夢を見たんですよ」

ソニアの説明にユウナは納得せず反論を続ける。

「私だってマサトがそんなことやるなんて信じたくなかった!でも事実なんだからしょうがないじゃない!」

ユウナはナイトメアの夢を現実と思い込みマサトを拒絶した。

すると扉が開きマサトが入って来た。

「…何の用?さっき出てって言ったはずだけど」

「ソニア、少しだけ二人にしてくれ」

返事をするとっソニアは部屋を出て行った。

「ユウナ、信じてくれ…俺は何もやってない。ソニアからも聞いただろ?あれはナイトメアの見せた夢だって」

マサトが相手になったことにより、ユウナは激しく反論した。

「謝るのならともかく、そもそも無かったことにするとか最低!あれが夢?それ本気で言ってんの⁉」

ユウナは激高し、マサトのことを突き飛ばした。

「いって……。……思い出してみろよ、一年前の事を。相合傘をしたり、一緒に映画を見に行ったりしただろ。俺にはユウナを必要だって言った!」

その言葉に少し押し黙るが、それでもユウナは信用しない。

「…私もあの時は嬉しかった…楽しかったよ。でもそれはただの幻、マサトは結局周りと同じで、皮を被った化け物だった」

自分で言っていることに気持ちが高ぶっていくユウナ。

 

 このまま本当にごめんと謝った方が良いのかもしれないし早いかもしれないけど、俺はやっていない罪を被る気はないし前科を持つつもりもない。

勢いに乗せられやっていないことをやってしまったと罪を被るのは得策ではない。

「私……マサトなんか……!……大っ…嫌いっ‼」

 その言葉と共にバタンと勢いよく扉が開き、ラフィネが入って来た。

ラフィネは涙を流しながら、ユウナの頬をひっぱたいた。

ユウナは何が起こったのか理解できずに叩かれた場所を押さえた。

ラフィネはユウナに向かって泣きながら叫んだ。

「どうしてっ…!どうしてお兄様の事を信じてあげられないんですか…!ユウナさんはお兄様の彼氏さんで……好きな人の事を…信じてあげてくださいよ……!」

その言葉を聞いたユウナも涙を流して反撃する。

「もう…私はマサトの事は好きじゃない!…聞いてなかったの⁉私はマサトの事は大っ嫌いなの‼」

「……大っ嫌いならっ…どうして涙なんか流すんですか…。お兄様はユウナさんの事が好きで!……信じ切っている…私の思いはっ……まだお兄様はユウナさんのことが好きなんですよ‼なのに…なんでっ…えっ…っ…」

俺もユウナも黙ったままだ。ソニアは先ほどから扉の前で立っている。

「……じゃあ、お兄様は私がもらいますからね!…私だって()()()()()お兄様のこと好きですから…!」

「………やだっ!マサトはあげない!……私だってマサトが…好き…だから‼」

ユウナがそう叫んだ瞬間、眩い光があたりに広がり、目を開けるとユウナはその場に眠っていた。

「良かった…です。魔法は解けたみたいですね。それじゃあ私は部屋に戻りますので」

そう言ってラフィネは部屋を出たが、俺は追いかける。

「ユウナには明日説明しよう」

時刻は十一時を回ったところ、もう寝る時間だ。

 ラフィネが自分の部屋に入るにつれ、俺も後に続く。

「お兄様?どうしたのですか?」

「……ありがとう」

そう言いながらラフィネをハグする。

「お、お兄様、どうしたのですか」

「……ラフィネが俺の事を好いてくれるのは嬉しい、けどごめん。俺に二股は出来ないからさ…」

そう言うとラフィネは悲しそうな顔をしながら。

「分かってます…。私もそんなお兄様が大好きですから…私はお兄様の事が好きな()です。一緒にいるだけで、いろんなことができるだけで嬉しいですから」

「あのさ……今日一緒に寝てもいい?」

そんな俺の要求を、快く受け入れてくれた。

 月明りしか光がない暗い部屋の中、今回はラフィネの部屋での添い寝だ。

「言っておかなきゃって思ったけど…この前ラフィネはメインはとっておいてあげるって言ってくれたけど実はもう」

「知ってますよ?お兄様たちはこの世界に来る前から知り合いだったのですよね?気づいてますよ」

俺が言い終わる前にそんなことを……え⁉

「ラフィネ、俺たちが…」

「その話はまた今度です。私にとってのお兄様は変わりませんから」

またもや俺が言い終わる前にそんなことを言ってくれた。

 今まで我慢していたものが俺の目から溢れた。

「ごめん…俺はっ…!…ずっと怖かったんだ…!でも…強がらないと、俺のせいで…皆が…。しかも…!俺を好いてくれる人がいるのにっ…それに応えることもできない…!」

ラフィネはうんうんと頷きながら俺を慰めてくれた。

「お兄様……大好き…です」

「……俺もだよ」

 そして俺は決めた。

「…ラフィネ、これは遊びじゃないし簡単に振りまいてるわけじゃない。ロリコンじゃないし、俺が本気で大好きだからだ。そしてもう…二度と俺はラフィネにしないと思う」

「お兄様…?一体何を──!」

俺は目を閉じてラフィネの唇に自分の唇を重ねた。

その時間は一瞬だったが、どんどん体が赤くなるのが分かる。

ラフィネは驚いた顔をして両手で口を押さえ、またもや目から涙が…。

「ご、ごめん!勝手にこんなことして!」

「ふふっ…違いますよ、嬉しいんです。私のファーストキスがお兄様で。確かに…もう二度とないかもしれないので────」

ラフィネは涙を拭いもせず目を閉じ、俺と唇を合わせた。

その時間は長いようにも短いようにも思えた。

 



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