デスゲーム漫画に転生したっぽい (石鹸枠どこ?)
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夢かもしれないけど転生って考えることにした

学園、探索、対モンスター、対人と欲張りでいきます
難しい話は大人の役目としてスキップしていきます
プレイヤーが500人しかいないのでそこまでバッタバッタとは死にません


「そこのお前!」

 

 大声に反応して意識が覚醒する。どうも、授業中は眠くなって仕方がない。小学校六年間で染み付いてしまった習慣は体がデカくなっても抜けてくれないのだ。

 何年か後には社会人だ。このままだと、上司が話してる間だったり、会議中に眠くなったりしそうで心配だ。

 

「今俺が言ったことを復唱してみろ」

「は、はい。えーっと……」

 

 どうやら、怒られたのは俺ではなかったらしい。人の

振り見て我が振り直せ。授業に集中するとしよう。

 ……今はなんの授業中だったっけ? ダメだ。寝ぼけすぎてる。教科書類は……目の前にあるのは謎のハイテク机だけだ。ウチっていつからこんな近未来的になったんだ?

 そうだ。教師を見ればなんの時間かわかる。怒鳴る教師は時代の流れと共に消え去ったと聞いていたが、どうやら怒られた奴はよっぽど授業に集中していなかったようだ。まさか現代の教師が怒鳴るとは……。一体怒られたやつは何をしていたんだ?

 

「NA-ENGを回収することで活動時間が増加するので、作戦行動中はNA-ENGの溜まり場を発見する事も重要であり、ナビゲーターに最低限求められる技能が溜まり場のNA-ENG量の見極めと、回収コストリターンの計算である……です?」

 

 えぬえーえなじー? 一体何を言ってるんだ。ゲームの話か? 思わず生徒のほうに目が向いた。

 流石に授業中にゲームをしていたら怒られるか。これは、教師も大激怒不可避だろうな。

 ……というか、あんなやつウチにいたか? 銀とピンクの中間色みたいな派手な髪をしたやつなんて見たことがないぞ。でも、どこか既視感がある。染髪をした目立たないやつという可能性? 髪の色が変われば話したことがないやつなんて見たことの無い人へ早変わりだろうしな。

 

「ふん……。良いだろう」

 

 良いだろう!? 近くの友人に小さく礼をしている知らないやつから教師に注目先を変える。……眼帯をした教師なんかいたか?

 こいつも妙な既視感がある。眼帯と付け髭で印象を変えて……いや、教師がそんなことをするわけがないか。

 誰なんだこの男は。

 

「NA-ENGを回収することで、お前らはSC-POWを生成出来る。これは、有害物質が至るところにある未開拓領域(フィールド)での活動に必須のものだ。SC-POW残量を監視するのはナビゲーターの役目とはいえ、お前らも常に自分のSC-POW残量には気を配っておけ」

 

 えすしーぱわー? フィールド? 教師が授業中にゲームの話? いや……違う。俺は知っている。これは夢か?

 

「最低限のSC-POW運用——FIT(フィット)が可能となった者から未開拓領域(フィールド)探索任務を割り振ることになる。そこでボケッとしているお前、FIT(フィット)は理解しているな? 説明してみろ」

 

 俺か!? 隣のやつに脇腹を肘で小突かれた。やはり俺のようだ。FIT(フィット)確か——

 

「……FIT(フィット)とはSC-POW運用方のひとつでありFire.Ice.Thunder三種の属性変化の事を指し、このうち一属性への変化が可能になってSC-POW運用が出来ると言える基礎技術です」

「ボケッとしてても本国で理論の勉強は済ませているようだな。だが、複数属性の運用が可能。というような説明ではダメだ。開拓拠点(フロンティアベース)を作った第一陣からSC-POWに触れて戦ってきた奴でも複数属性を扱うことはない」

 

 ふう……なんとかなったか。しかし、やはり知識通りだったか。だとすればやっぱり夢なのか?

 NA-ENGやらSC-POWやら、それらの用語は俺が読んでいたコミックの中に登場するものだ。

 断じて現実に存在するものではない。しかし、夢にしては意識がしっかりしすぎているし、現実感が強い。

 

「それから、FIT(フィット)はそのままスリーマンセル組み方としても扱われている。三属性バランスよく組むことで対応の幅が広がるからな」

 

 確か俺は……何かに衝突した? 降ってきた?

 先程目が覚める前の事を思い出そうとするが、何かにぶつかったということ以外に思い出せることはない。

 状況から考えるに、意識不明中に見ている夢か、あるいは転生ということだろう。

 夢であればどうなろうが問題はない。

 仮に、事故で俺が死んで転生したとしたら第二の人生を兵士として生きることになる。

 とても辛い。どうしてぬくぬく平和に生きていた俺が危険な未開拓領域(フィールド)に出る兵士になる必要があるのだ。しかも一兵卒であるため与えられた任務をただこなす他なく、原作知識はほとんど活かせないだろう。

 兵士として死の恐怖をどうにかする方法を学んだわけでもなく、一回死んだために(仮に転生なら死を経験しているはずである)死を恐れなくなっているわけでもない俺が兵士としてやっていけるのか不安だった。

 

 ひとつ救いがあるとすれば、同期の兵士も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 というのも、この世界、デスゲームもののVRMMO漫画が原作なのだ。

 プレイヤーは500人の兵士。この惑星を開拓するために、初めて本国から大規模な訓練兵が送り込まれるが、星間航行中に本国でクーデターが発生。帰ることが出来なくなったため予定通り開拓惑星で兵士として任務を受けて生きていくというのがゲームのオープニングだ。

 そこで70越えのジジイゲームマスターが現れ、「本国に帰れなくなったようにログアウト機能も切ったよ。頑張って生きてね。あと死んだら現実でも死ぬよ」と言ってデスゲームを開始するのだ。

 

 状況から見るに、今は丁度デスゲーム宣言が終わって、NPC教官の授業を受けている場面。生活していくためには兵士として働かなければならないため、上官に逆らう事は出来ないのだ。

 

「本来はFIT(フィット)の基礎だけではなく、更に訓練をしてから任務を回す予定だったが、お前らも知っているように本国で発生したクーデターによって我らへの支援が打ちきられた。食料、電力の自給自足は出来ているが、いつ破綻するとも限らない。出来るだけ早く未開拓領域(フィールド)でマテリアルの採取を行えるエリアを開拓して資材の確保を行わなければならないのだ」

 

 本国から開拓途中のこの地では入手できない金属等を支援してもらうことで、基地を、装備を用意していたのが開拓拠点(フロンティアベース)である。

 それがなくなったため、俺たちは機械が壊れたりする前にそれらを生産、修理できる素材を入手できるようにしなければならないということだ。

 ガチガチに訓練した後の活動ではないのは、プレイヤーとキャラクターの熟練度のすり合わせのためだとかなんとか。

 本国にはNA-ENGがないため、SC-POW使用を前提としたこちらでの活動訓練はできないらしい。だから、新兵をいきなり活動させる必要があるんだな。

 

「準備が出来たようだ。早速、SC-POWの訓練を行う。それぞれ割り当てられた更衣室で装備を受け取り次第訓練室に集合しろ」




F.I.Tの方がそれっぽいのかな?


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さっぱりと気持ちのいい主人公属性のやつ

 解散が宣言されてすぐに携帯端末を確認する。

 俺たちは本国から開拓拠点(フロンティアベース)に送られた兵士であると同時に、この惑星での生き方、戦い方を開拓拠点(フロンティアベース)で学ぶ学生でもある。

 所謂生徒手帳のようなそれには、俺の所属が書かれていた。

 どうやら、俺は戦闘、探索を担当し実際に未開拓領域(フィールド)で活動する兵士のようだ。

 そして、ゲーム的に、俺はNPCではなくプレイヤーである事も確定した。

 

 開拓拠点(フロンティアベース)にいる戦える人間は何もない惑星を切り開いたかつてのおっさんである老人と、その弟子であるかつての若者であるおっさんたちしかいないので、バリバリ働ける若者は本国からやって来た500人のプレイヤーだけなのだ。

 プレイヤーと同じ船でやって来た学生にはナビゲーターもいなくはないのだが、こっちはNPC。出来ることなら俺もナビゲーターがよかったが、そうもいかないらしい。

 

「お、いたいた。途中まで一緒に行かないか?」

 

 話しかけられたので顔を上げると、そこには先程眼帯のおっさんに怒られていたピンクシルバー髪の男がいた。わざわざ広い講義室の反対まで来て俺に声をかけてきた理由は何だろうか?

 

「あんたもマサムネ教官に当てられてただろ? なんか親近感沸いちゃってさ」

「知り合いと一緒にいかなくていいのか? 確かフォローされてただろ」

「近くに座ってたやつが助けてくれたけど、別に知り合いって訳じゃないからな。あんたと行くのはなんの問題もないぜ」

 

 マサムネとは眼帯のおっさんの事だ。俺は原作を読んでいるときに眼帯と呼んでいたが、実際に上下関係が出来た今ではコイツと同じようにマサムネ教官と呼んだ方がいいのかもしれない。

 

 そして、どうやらコイツは知らないやつにも助けてもらえる人間らしい。助けた人間が優しいのか、コイツが人に好かれやすい雰囲気をしているのかは謎だが。

 どちらかと言えば後者な気がする。ハキハキと明るい印象だしな

 

「そうか。俺は第八更衣室に行くように指定されてるんだけど、そっちは?」

「オレは第六更衣室だ。場所的には……途中までは一緒に行けそうだな。オレはルベル。あんたは?」

 

 拒否する理由もないので端末に書かれた名前をチラッと確認する。

 

「グライドだ。実際に未開拓領域(フィールド)に出ることになる」

「オレはナビゲーターだ。担当は教官が決めるって話だけど、一緒になれるといいな!」

 

 自己紹介を終え、更衣室へ向かう。初めて歩く施設内だからなのか、集合時間には随分と余裕があるような気がしたが遅刻した場合どんな仕置きが待っているか分からない。学園でもあるが軍隊なのだ。俺は怒られるのが嫌いなので、出来るだけ従順に行きたいと思っている。

 

 さて。俺がコイツと行動を共にする事を了承した理由は、コイツがナビゲーター、つまりNPCだとわかっているからだった。

 

 原作漫画はVRMMOものの癖にプレイヤーとNPCが同じように動き、どちらにも焦点が当てられるというVRMMOものというより普通のSF学園ものなんじゃないかと思える作品であり、NPCにNPCらしさは全く無い。

 プレイヤーたちもそれに驚いている描写はなかったので、この世界のリアルはそういう世界なんだろう。

 

 だろうというのは、原作でリアル側の描写が皆無であるためだ。

 俺は、このゲームの外側の世界を一切知らない。今の国家元首、西暦、流行りのゲーム。プレイヤーならみんなが知っている筈のものを一切。

 なので、俺はプレイヤーとの関わりを出来るだけ減らそうと考えている。チームを組むことはあるだろうが、リアルの話題には一切応じないキャラクターを確立するのだ。

 

 一方で、ルベルは見覚えがあった顔である通り原作キャラクターだが、NPCである。普通にコミュニケーションを取っておけばなんの問題もないだろう。プレイヤーとNPCが普段どう交流していたかは不明だが、普通に会話は成立していたしな。

 

 群像劇作品である原作には明確な主人公はいないのだが、強いて言えば、この快活で人当たりのよく、ナビゲーターという役割上色々な所に出てくるルベルは、NPCの癖に主人公格の一人といえそうな所が若干不安ではあるが、有能ナビゲーターのルベルとは顔をあわせておいた方が絶対いいだろう。

 何より、こういうさっぱりとした人間は滅多にお目にかかれないので打算抜きでも付き合いは持ちたい。

 

FIT(フィット)の話をしてたけど、グライドはもう扱えるのか?」

「どうだろうな。NA-ENGはこの星にしかないからな」

 

 ……早速言葉を濁した。プレイヤーたちにはリアルという共通する世界があり、NPCには本国という共通した背景があるのだ。

 本国の描写も、リアルほどではないが少なかったので困る。

 

「だよなー。シミュレーターで体験した事はあるけど、現実でも直ぐに出来るとは思えないぜ」

FIT(フィット)が出来るようになった奴から任務と言われたが、どれだけの奴が出来るようになるか……。訓練漬けで食いっぱぐれるのは嫌だな」

「まあ、あんたらはSC-POWの扱いが特に上手かった500人だろ? 直ぐに出来るようになるって」

 

 ナビゲーターであるルベルたちは、ナビとしての素質が見込まれたのもあるが、SC-POWのシミュレーターの成績がそこまでよくなかったからナビゲーターであるのだとか。

 それでも、兵士500人に比べてナビは100人を大きく下回っている。沢山いたナビゲーター候補から100人にまで絞りこまれたのだから、倍率としてはそこまで変わらないだろう。

 

 ナビが少ない理由は、元々開拓拠点(フロンティアベース)には無人機を使った調査のナビを行っていた人員がいる他、外に出る俺たちも三人一組が基本になるため沢山いても仕方ないのだとか。

 

「ここまでみたいだな。オレはこっちだから。またな! グライド!」

「また会ったら声をかけてくれ」

 

 廊下の途中で案内を見てルベルと別れる。それにしても、ルベルは凄いやつだった。作品が作品なら間違いなく主人公なキャラクターだろう。

 あれで前線に立たないサポート要員だというのだから驚きだ。

 

 ……さて、FIT(フィット)だが、ルベルにはああ言ったが実は出来るんじゃないかと思っている。

 というのも、俺がプレイヤーと同じ訓練兵だからだ。

 ゲームとして考えると、最初の任務……フィールドにでる前にひたすら訓練というのは楽しくない。

 そもそもMMOのくせに世界全体の時間が普通に経過して、それでストーリーが進んでいくというのは後発のプレイヤーの事を考えるとありえず、普通ならプレイヤー毎に世界の進行度は別であるべきだから、このゲームを一般的なゲームと同じように考えていいのかは謎だが。

 まあ実在するゲームではなく、原作デスゲーム漫画のために用意された箱庭なんでこんなものだろう。

 

 そうこう考えているうちに第八更衣室へやってきた。ルベルと別れて少ししてから、知り合いと話しながら歩いている歩みが遅いやつらに追い付いたからか、講義室を出るのがかなり遅かったにもかかわらず更衣室付近には結構な人がいた。

 少し遅れれば大半が訓練施設に行っていて空いていると思っていたが少し見通しが甘かったようだ。

 

 制服姿の奴らが入り、その横からスーツに着替えたやつらがぞろぞろと出てくるのを眺めていると、不意にホルダーにしまった生徒手帳が震えた。

 生徒手帳は身分証明や上官からの通達などにも使われる重要端末であり、それを無くさないように保持するホルダーが制服には用意されているのだ。

 

 ホルダーから生徒手帳を取り出して画面を見ると、何も操作していないというのに画面の上に立体映像が表示された。そこに映るのはメガネをかけたスーツ姿の、クールな印象を受ける少女だった。

 

開拓拠点(フロンティアベース)へようこそ! 皆様の補助を行っているW()hispering I()deal S()ageと申します。気軽にWIS(ウィズ)とお呼びください』

 

 その声は若干機械音声感があるものの、スピーカーのせいだと言われれば納得できるほどには人間に近い。抑揚に至っては完全に人間そのもので、紙面からは読み取れなかったそれに驚いた。

 

『混雑しているため、速やかにタスクを完了できるように説明を致します。準備はよろしいですか?』

「ああ」

『それでは説明を開始します』




これもWISじゃなくてW.I.S.のほうがいいのだろうか

導入すら終わってないけどお気に入りください
感想もください
評価は新着一覧以外のどこかのページのしたの方ににギリギリ載るくらいでいいです(謙虚)


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バトルスーツはラバースーツでも全身タイツでもなかった

奴隷やAIに優しくするのは主人公の基本技能


 生徒手帳の上に浮かぶウィズの説明によると、更衣室は本当に着替えるための部屋のようだ。着替えながら雑談なんて時間が発生しない、大変効率的な設備が用意されている。

 

 主な機能はロッカーに端末をかざすと、一瞬で着替えが完了するというもの。

 制服に着替えるときはもう一度端末をかざして着替える衣装を選択すればいいらしい。

 ちなみに、今回着用するのは作戦行動中も使うバトルスーツだ。

 実際の作戦行動中はスーツの上から更に色々の装備を身に付けるため印象が変わるのでスーツだけを見る機会はほとんどなかったが、原作で装備が破損した時なんかにはその下にチラッと見えてた気がする。

 

 勝手な印象だが、インナースーツとなるとピッチリとした体のラインが出る服だと思っていたが、更衣室から出てくるやつらを見るに極度に生地が薄いという印象はない。

 また、単色のデザインというわけでもなく、部位別に若干色が違ったり、脇腹と背中を通って両手両足を繋ぐような白い線が書かれていたり、胸元や手の甲にはエンブレム的なデザインがあったりと見た目も悪くなかった。

 

『以上で説明を終了します。ベース内でご不明なことがありましたら是非呼び出してください。囁き補助することが私の楽しみですので』

「また何かあったら頼む」

 

 説明をを終えたウィズが消える。声をかけろと言われたが、生徒手帳に呼び掛ければ今のようにもう一度ウィズが現れるのだ。

 ウィズはSegeの名に負けない高性能AIなのだ。囁きなんて付いていることから対人補助AIという印象があるが、実際は施設内すべての設備と情報の管理を行う開拓拠点(フロンティアベース)の中枢のような存在である。

 俺たちのような新米を個別にサポートするくらい負担にすらならないということだ。

 

「ロッカーは三つだけか」

 

 入り口が空いたので更衣室に入ると、中はそこそこ広い部屋だった。

 しかし、設置されている大きな箱があるためスペースとしてはそこまで広くない。

 着替えるために体を動かす必要がないからスペースを確保する理由がないのだろうか。

 

 空いているロッカーに生徒手帳をかざすと、一瞬の認証のあとに制服からバトルスーツに衣装が切り替わった。

 体をひねって確認してみるが、体に張り付くような不快感はない。全裸とは違うが、それに近い解放感。ピッチリとした服なのに部屋着として利用していたフリーサイズの服よりも快適なのは少し不思議だ。

 許されるのなら制服の下にもこれを着ていたいとすら思う。

 

 しばらくバトルスーツの調子を確認していると、手足を繋ぐ白いラインがわずかに光りだした。水色の光は明らかに異質で、更衣室の光源を反射したものではなく、明らかにこれ自体が発光している。

 

「ウィズ、この光っているのはなんだ」

『SC-POWを循環させることで消耗を少なくするスーツの機能ですね。不具合ではございません』

 

 更衣室から出てきたやつらのスーツは光ってなかった。何か問題があるのではと早速ウィズを呼び出すと、即座にロッカーにあるモニターに現れて解答してくれた。

 どうやらウィズが出てこれるのは生徒手帳の上だけではないらしい。

 

「インナーにそんな機能も付いているのか。オンオフはできないのか?」

 

 常に光っているとしたら、制服の下に着るのは難しそうだ。

 

『SC-POWの制御を行うことで可能となります。制御方法を読み上げることは可能ですが、訓練兵の皆様にはこのあと訓練施設でSC-POWの扱いについての説明がありますので、そちらを優先した方が良いでしょう』

「そうか……ならこのまま訓練施設にいくことにする。問題はないんだよな?」

『スーツの補助によりSC-POWの効果が現在の訓練兵の平均の約1.8倍ほどになり、身体能力が向上しているため反乱分子として拘束される可能性がありますが、スーツの機能に問題はありません』

「問題おおあり!」

 

 光ってると目立ちそうでイヤだなと思っていたら、実害すらあった。

 確かに、スーツを着る前よりも更に力が増している感覚がある。非戦闘職員を殴り倒すくらいわけないだろう。

 

「教官とかに事情を説明してなんとかならないのか?」

『少々お待ちください……。ツルッパ職員を呼び出すことに成功しました。ツルッパ職員の誘導に従って訓練施設へ移動してください』

「助かる。俺はしばらくここで待っていればいいんだよな?」

『問題ありません』

 

 新兵が武器を持って一人で施設を歩いているよりも職員に案内されている方が億倍いいだろう。理想は武器を預けることだが、スーツを着ていくように言われてる以上それはできないしな。

 

「待っている間暇だし、もう少し聞いていいか?」

『なんでしょう?』

「更衣室って結構狭いだろ? 今はスーツだからいいけど、この上に装備をごちゃごちゃつけたらすれ違うことすら難しいんじゃないか?」

 

 キャラクターによって装備はデザインから配置から様々だったが、最低限統一されていたものに肩と腰か太股辺りにつける装備があったはずだ。

 当然横幅が広がるので、すれ違うのは厳しくなる。

 

『更衣室は戦闘用の装備を装着することを想定されていません。大規模出撃の際には新設の専用のドッグが利用されるので、更衣室の窮屈さは問題にならないかと』

 

 じゃあ更衣室はなんのためにあるんだと聞いてみると、以前からここで暮らしていた職員のための施設だったようだ。色々施設があるので、着替えが必要な機会は少なくないらしい。

 

 ……確か、開拓拠点(フロンティアベース)は二十年以上前から存在していると考察していた奴がいたはずだ。

 当初から訓練兵を派遣して実地で訓練させることで開拓の手とすることが考えられていたとしても、開拓拠点(フロンティアベース)の中心部に近い空間に何十年後のための施設を用意している訳がないか。

 

「君がウィズの言っていたグライド・エフィルくんだね。僕はツルッパ。早速訓練施設に行こうか」

「よろしくおねがいします」

 

 ウィズの解答によって更衣室への疑問が解消すると、スキンヘッドの青年が現れた。白い歯を光らせて笑うその姿は、禿げコラ被害にあったイケメンそのものだった。

 

 訓練兵と職員の上下関係がわからないが、とりあえず施設に従事している期間の大小で言えばこっちが格下なので頭を下げる。

 別に下の立場には威張り散らすというわけではないが、年が近そうなツルッパ相手だとつい気楽に接してしまいそうなので改めて意識し直した形だ。

 

「ウィズ、色々ありがとう」

『仕事ですので』

 

 ロッカーのモニターに浮かぶウィズに別れを告げて更衣室を出る。ツルッパは俺の行動を感心したように見ていた。

 

「本国でもAIの扱いは改善されたのかい?」

「……どうなんでしょう」

 

 本国の話はしないでくれ! 俺が困っているのに気づいたのか、ツルッパはそれ以上追求することなく話を続けた。

 

「第三世代に君のような人が良かったよ」

 

 第三世代……俺たち訓練兵とナビゲーターを引っくるめた呼称だろうか? 第一世代が開拓拠点(フロンティアベース)を作り上げた人たちだとして、第二世代はなんだろう?

 まあいい。今後は俺も第三世代という呼称を使わせてもらおう。

 

「着いたよ。教官たちに話は通ってるし、スーツの機能を発動させたのは君だけじゃないようだ。安心するといい」

 

 訓練施設に到着すると、そこには沢山の第三世代がいた。講義室の時は後ろに座っていた人間も多かっただろうから気にならなかったが、この人数は圧巻だ。しかもその大半がバトルスーツ姿である。

 

 ツルッパがスーツを光らせたのは俺だけではないと言ったので入り口から探してみると、確かに何人かスーツを光らせている奴を発見出来た。俺の光は水色だが、赤や紫、黄色とそれぞれ光の色が違うのはどんなカラクリだろうか。

 バトルスーツは原作で注目されたことはなかったし、この訓練エピソードも殆どカットされていた気がするので俺にはわからなかった。

 

「ありがとうございました」

「仕事だからね。また会おう」

 

 入り口でツルッパと別れて広い訓練施設の端の方で時間を待つ。軍隊としての側面もあるので、キチンと整列しているのが当然だと思っていたが、それぞれグループを作ってまばらに散らばっているようなので、これでいいのだろう。

 

「それでは、SC-POWを実際に扱うための訓練を始める!」

 

 少しすると、五人の教官がやって来てそう告げた。

 その中には、講義中に俺とルベルを指したマサムネ教官の姿もあった。というか、マサムネ教官は横に並んだ五人の真ん中に立っていた。

 マジで無礼は許されなさそうな立場だな。




ツルッパは二十代前半くらいの爽やかイケメンです
マサムネは四十代くらいのイケオジです
ルベルは十代半ばくらいの熱血入ってそうなイケメンです


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好みの異性は?

お気に入り、評価ありがとうございます
お陰で新着以外のところに載る事ができました


「以上で説明を終了する。このあとは仮組みのチームで纏まって訓練を行え」

 

 SC-POWについての説明が終わった。教官がうまくSC-POWを扱えるようになるとスーツが発光すると言ったときは、こっちに視線が集まって煩わしかった。

 俺以外にも何人か光ってる奴がいるが、人数が人数である。等分されていたとしても五十人以上には見られていたんじゃないだろうか。

 

 生徒手帳が震える。他のやつらも同時に通知があったようで、端末を覗いている奴が結構いたので俺も開いてみると、そこには仮チーム番号と、俺を含めて四人の名前が書かれていた。

 それと同時に、訓練施設内に複数の番号が投影される。自分の番号を探して集まれということか。番号は規則正しく並んでいるので、探すのに手間はかからないだろう。

 

「アリス、シグマ、グライド、レオ、ユート……名前を呼ばれた奴はこっちに来い!」

 

 全部で十人の名前が呼ばれた。俺も入っているので教官のところに移動すると、集まってきたのは全員がスーツを光らせている奴だった。中には見覚えのある顔もある。

 その二人、シグマとユートは原作キャラの中でもかなり強かった奴だ。

 他はの顔は知らないが、コイツらにこんなところで接点があるとは思わなかった。なんでこのシーンが原作にはなかったのか不思議なくらいだ。

 

「お前らは他のやつらとは違う方式で訓練してもらう」

「才能がある俺らだけの特別訓練っすか!?」

 

 マサムネ教官がそう言うと、お調子者っぽい奴がそう言った。上官の話を遮るとか度胸あるなお前。

 

「特別……。確かにそうだな。レオ、こっちに来て背中を向けろ」

「了解っす!」

 

 お調子者——レオが呼ばれ、マサムネ教官がその背中に手を当てると、レオが膝から崩れ落ちる。見れば、レオのバトルスーツのラインから光が失われていた。

 

「SC-POWの流れを阻害した。最初からスーツが機能する才能は結構だが、オンオフが出来なければ宝の持ち腐れだ。お前たちにはSC-POWの流れが阻害された——つまり扱いにくい状況で他のやつらと同じことをやってもらう。再びスーツを光らせれば、FIT(フィット)も扱えるようになるだろう」

 

 その後、SC-POWの流れが阻害されると脱力してレオのように倒れてしまうので、二人ずつ並んで座るように言われる。

 俺たちがそれに従うと、五人の教官がそれぞれ二人の背中に手を当てて処置を行った。

 それは一瞬で、触られたと思った次の瞬間には体が重くなり、バトルスーツのラインが元の白色に戻った。

 

「SC-POW出力を調整するのは必須事項だ。未開拓領域(フィールド)にあるNA-ENGは有限。徒に消費していればすぐに活動限界を迎えるぞ」

 

 講義室でルベルが言っていたように、未開拓領域(フィールド)には有害物質が存在し、その影響を受けないようにSC-POWを消費する。

 有限のNA-ENGを使ってSC-POWを生み出す以上、スーツのコントロールができなかった——SC-POWを常に消費していた俺たちは他の奴等とほぼ変わらない位置にいたのかもしれない。

 

 マサムネ教官が俺達にチームの元へ行くように指示すると、俺たちは重くなった体を引きずって移動を始めた。

 

 13番。ちょっとばかり不吉なチームナンバーの下にやって来たが、そこにはまだ白髪の少女一人しかいなかった。

 少女は制服はそのままに、チョーカーとヘアバンドを付けている。その二つには白い線が引かれていて、訓練兵のバトルスーツと似たものであることがわかる。

 13番チームのナビゲーターだろう。

 

「アカリ・ヒナタか?」

「そういうあなたはグライド・エフィル」

 

 生徒手帳に書かれたチームメンバー名からナビゲーターの名前を読み上げると、顔を上げたアカリは俺の名前を当然のように言い当てた。

 こちらを向いてから言い終わるまでの流れが洗練されていて、映画の世界に迷い込んだ気分になった。

 

 生徒手帳に書かれたチームメンバーのうち、訓練兵は三人まとめて訓練兵なので、当てずっぽうでは三割でしか当たらない。

 だとすれば、俺が教官呼び出されているのを聞いて、そして呼び出された十人の顔を覚えていたということだろう。

 そうすれば、13番チームにやって来る知っている顔は「グライド」になる。

 ナビゲーターとして必要な技能かはわからないが、情報処理は得意そうだ。

 

「好みの異性を教えてください!」

「は?」

「人を知るなら好みの異性を知れ。常識ですよね? 私のタイプは性善説を信じていて、目の前に困っている人が居たらそれが敵対している勢力の人間だとしても手をさしのべる中性的な銀髪のイケメンです。グライドさんは?」

 

 第一印象はキュートな顔立ちとは違ってクールで育ちが良さそうな印象。その直後にはっちゃけたことを言われたので、頭が混乱した。

 最初の言い回しは格好つけたかっただけで、本性はこっちなんだろうか?

 

「好みか……」

 

 驚いたものの、俺はアカリの質問に答えることにした。先に言われているというもあるし、アカリがチームとして親睦を深めようとしているのならそれを無下にするのもしのびない。

 しかし、俺は外見と性格がある程度良くて、俺のことを好きな女子ならだいたい好きになれる雑食だ。その基準に好みのフィルターが多少かかるとはいえ、これを正直に話したとしてもシラけるだけだろう。

 なので、アカリも言った存在するか怪しい理想的な異性を思い浮かべる事にした。

 

「背が高くて綺麗な長い髪。肉感的というよりはスラッとした体型で、クールで冷たい印象があるものの意外と優しく、人形や小動物が好きだったり幽霊が怖かったりとギャップが可愛い美女だな」

 

 俺の答えを聞いたアカリは目を見開いて口は半開き。完全にドン引きしてる。まあ、当然だろう。言ってて有り得ないと自分でも思ったし。

 

「そんな人いるわけ無いだろって思う気持ちはわからなくないが、でもそれはアカリの銀髪イケメンだって同じだろ?」

「なっ!? 居ます! 『性善説を信じていて、目の前に困っている人が居たらそれが敵対している勢力の人間だとしても手をさしのべる中性的な銀髪のイケメン』は実在します! ……じゃなくて! 後ろ!」

「後ろ?」

「……ごめんなさい」

 

 振り向くと、そこには背が高い黒髪ロングのスレンダー美少女がいた。少しばかり耳が赤いが、それでもクールな印象だ。内面はわからないが、まさか実在するとは。

 そして、目が合うなり速攻で謝られた。

 ……謝罪というよりはお断り?

 まあいいけどね。理想は理想。存在しないと思っていたからツラツラと言えたわけで、いきなり目の前に出てくるとこっちも困るし。なにより、目の前の黒髪ロングの美少女は訓練兵(プレイヤー)だし。

 あまり仲良くしないという方針は変わらない。とはいえ、いきなり黙ると雰囲気が悪くなってしまうだろうから適当に話は続ける。

 流石にここからリアルの話に繋がる事はないだろう。

 

「……聞いてた?」

「『好みか……』って考え込んだところから」

 

 問いかけると、気まずそうに視線を逸らされながら答えが返ってきた。

 全部じゃん! アカリもチームメイトが来たことに気づいたなら一旦中断させてくれれば良かったのに。

 

「アカリ・ヒナタです。お名前と好みの異性を教えてください」

 

 俺が送った視線を無視して、アカリが黒髪ロング美少女に突撃した。まさか……続けるのか! この状況で!?

 

「エルザ・アインホルン。好みの異性は……わたしよりも強くて背が高い人」

 

 え、どうなってんの現実世界。普通に自分より強い人が好きと言える女子がいる世界観ってヤバくない?

 少なくともモンスターとかが存在する世界じゃ無いはずだけど。エルザが特殊なだけなのか?

 ……やっぱりプレイヤーとは話が合わなさそうだ。




実際異性のタイプを話させると、初登場でもどんなキャラか分かりやすくなると思う
……なったかな?
恋愛中心にはならないので、なってなかったら無駄になっちゃいますね


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こんなチームで大丈夫か?

「残念でしたね、グライドさん。でも完全に脈が無い訳じゃないですし、仮チームでの活動中にイイ所見せればワンチャンありますよ!」

 

 エルザに振られた形になる俺をアカリが慰めてきた。

 突飛な発言もあるが、アカリは気配りが出来る優しい性格なんだと思う。

 アカリの言う通り、一応俺はエルザが異性に求める自分より背が高い人という条件は満たしている。エルザも女性としては背が高いが、俺はそれより十センチ弱、背が高いのだ。

 

「いや、まあいきなり理想の異性が出てきて付き合えるって方が困惑するから別に慰めないでいいぞ。そもそも、今は恋愛なんてしてる場合じゃないからな」

「確かにその通り」

「そうですかね? 中性的な銀髪イケメンが出てきたら私は嬉しいですけど」

 

 俺の言葉にエルザは同意した。

 デスゲーム開始直後だしな。何ヵ月か経ったらデスゲーム中でも恋愛はアリかもしれないが。

 ちなみに、俺としてはデスゲームに参加させられたというよりもこの惑星に訓練兵として転生したという考えのほうが強いので、本国からの援助がなくなったことで資材が枯渇する可能性を考えての発言だ。

 システムウィンドウみたいなゲーム的な要素が薄い原作が悪い。ゲームの中にいるという実感がないのだ。

 

 今三期生が急いで訓練を受けている理由も、FIT(フィット)という最低限の技術を会得したら未開拓領域(フィールド)の探索に駆り出される理由も本国からの援助がなくなったためである。

 何も補給できなければ機械は朽ち、服はボロくなってしまうので、金属、その他色々な素材を回収できるエリアを未開拓領域(フィールド)から見つけて、そこを安全地帯にする必要があるのだ。

 

「やあ、遅くなってごめんね。僕はアーサー・アルビオン。よろしくね」

 

 最後にやって来た自分をアーサーだと名乗るやつが現れると、雰囲気が完全に凍った。

 アーサーは中性的な銀髪イケメンだったのである。

 こんなことがあり得るのかと俺もとても驚いている。

 

「あれ、ここ13班だよね? 僕間違えちゃったかな?」

「いや、あってるぞ。早速で悪いが、好みの異性を教えてもらえるか?」

 

 アカリがフリーズしているので、俺が問いかけた。

 

「……答えないとダメかな?」

「アカリが相手を知るなら好みの異性を知るのが一番だと言ってな。ちなみに俺は、背が高くて髪も長い美人がタイプだと答えた」

 

 困ったような表情のアーサーに先制攻撃を仕掛けると、アーサーは俺とエルザの間で視線を行き来させた。

 該当者がすぐそこにいるからその反応も仕方ない。

 

「わたしは、わたしより背が高くて強い人が良い」

「もしかして、二人は付き合ってるの?」

「いや、俺がアカリに好みを話している所をあとからやって来たエルザにちょうど聞かれてな。その時に振られたばかりだ」

 

 エルザも先制攻撃を仕掛けると、アーサーは俺の方がエルザより背が高いことに気づいたようでそんなことを聞いてきたが、さっさと否定した。

 

「アカリ・ヒナタです。好みの異性は中性的な銀髪イケメン! よろしくお願いします!」

「ごめんね。僕の好みは背が高くて筋肉ムキムキの男の人なんだ」

「そ、そんなー」

 

 そうこうしているうちにフリーズから回復したアカリが前言通り直ぐ様モーションをかけたが、あっけなくかわされる。振られた二人と振った二人って、結成直後からこのチーム大丈夫か?

 

「全員揃って自己紹介も終わったし、そろそろ訓練を始めるか」

 

 近くのチームも自己紹介を終えたのかSC-POWの訓練を始めている所がいくつかある。あまり遅れるわけにはいかない。遅れて落ちこぼれだと判定を受ければ、限りある資材の優先順位が下がって食いっぱぐれる可能性があるのだから。

 チームに不安はあるが、振られた側、好意を向けている側の俺は気にしてないし、アカリはナビゲーターだ。仮に本チームがこのままだとしても、未開拓領域(フィールド)での活動に問題が起こる可能性は低いだろう。

 


 

「アカリの装備はどういう装備なんだ?」

 

 自己紹介を終えて三十分程経ち、俺以外の三人がSC-POWのコツを掴みはじめて、バトルスーツやチョーカー等の白いラインを発光させることが出来るようになった所で沈黙を破り、聞いてみた。

 アカリの装備はチョーカーとヘアバンド、光ってから気づいたが薄手の手袋の三つだ。

 俺たちのスーツは線が全身を一周することでSC-POWを効率的に循環させ、消耗を少なくするというものであるというのはウィズから聞いているが、それぞれが独立しているアカリの——ナビゲーターの装備はどういうものなのだろうか。

 

「まだできてないのに話してて良いんですか?」

「まあ、教官も話しながら、体を動かしながら出来るようになれって言ってたし問題ないんじゃないか?」

 

 俺も無駄に三十分過ごしていた訳じゃない。教官にSC-POWの流れを阻害される前との落差からSC-POWの存在は感じとっている。あとは教官にやられたのをどうにか解除するだけなのだ。

 

「そうですか。私の装備はSC-POWによる思考能力や身体能力の強化幅を増やして少量で求める効果を得るというものです。皆さんが着ているスーツはどういう効果なんですか?」

「俺たちのはSC-POWを循環させる事でSC-POWの消耗を少なくする効果があるらしい」

「グライド君はどこでそれを知ったの?」

 

 SC-POWに集中していたアーサーが話に参加してきた。あ、スーツの光が消えた。

 アカリは話しながらも維持していたが、全身に効果があるスーツはその分難しいのかもしれない。

 

「スーツに着替えた後、勝手に光り出したからスーツの不具合かどうかウィズに聞いたんだよ」

「ウィズ?」

 

 今度はエルザだった。言葉が短かったからか、一瞬ラインの光が暗くなる程度にとどまっている。

 

「更衣室前でAIに説明を受けなかったか?」

 

 俺が聞き返すと、三人は「ああ」と言った感じで頷いた。どうやらウィズの知名度は低いらしい。

 アカリはAIの扱いが悪いという本国出身のNPCだからわからなくないとしても、アーサーとエルザは何故だ? AIに対するスタンスはアカリとそこまで変わらないように見える。

 やはり不明な現実世界側の問題だろうか?

 俺的にはAIでも自立思考ができて意思疎通が出来る存在なら人と変わらないと思うんだが。

 

 と、そうだ。ウィズだ! 教官が俺たちに施した処置について知ればそれを乗り越える近道になるかもしれない。

 既にSC-POW操作の取っ掛かりは掴んでいるのだ。あとは流れが阻害されているためにうまく扱えないのをどうにかするだけだ。

 

「ウィズ。他人のSC-POWの流れを阻害する技術について教えてくれ」

『かしこまりました。資料の読み上げを開始します』

 

 ウィズが読み上げたものによると、どうやら他人のSC-POWの流れを阻害するのに使われるのは雷属性のSC-POWのようだ。

 ということは、今日来ている教官五人は全員FIT(フィット)でいうThunder、雷属性ということか。

 FIT(フィット)の割合が等しいとして、教官は五人の三倍で十五人。勿論もっといる可能性はあるが、そんなにいるなら訓練兵を急いで育てる必要もないし、その程度しかいないのではないだろうか。

 

 話が逸れたが、俺の体に残留した教官の雷属性SC-POWが悪さをしていて、それを取り除くにはSC-POWで押し流す必要がある。

 しかし、FIT(フィット)を行わない無属性のSC-POWでは属性変化したSC-POWに干渉することは難しいため、俺が自力で解除するならFIT(フィット)による属性変化を行うのが一番早いらしい。

 

 ……確かに、教官は「阻害された流れを正常化出来ればFIT(フィット)も扱えるようになる」と言っていたが、「FIT(フィット)を扱えるようにならないと正常化出来ない」の間違いじゃないか!

 

「ウィズ、FIT(フィット)についても教えてくれ」

『かしこまりました』

 

 流れが阻害されているだけで、SC-POWへの理解レベルとしては俺もエルザやアーサーとそこまで変わらないはずだ。そう信じて、FIT(フィット)に取り組むことにした。

 チームで一人だけ落ちこぼれとか流石に嫌だぞ。

 というか、全体解説ではFIT(フィット)の前段階、スーツのラインに光を灯すための方法しか解説してなかった気がする。

 もしかして、俺たちスーツピカピカ組ってしばらく放置されるはずだった?

 




主人公振られたことめっちゃ気にしているように見える

アカリ・ヒナタ
白髪少女 13番チームで一番背が低い 丁寧に喋るが普通に毒も混ざる 

エルザ・アインホルン
長身長髪美少女 二番目に背が高い 無口ではないが自発的にはあまり話さない

アーサー・アルビオン 
男 中性的銀髪イケメン アカリよりは背が高い 髪めっちゃサラサラ 長身マッチョが好き


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VR訓練は人が死なない施設です

「なるほどね」

 

 ウィズによるFIT(フィット)の説明が終わってから二十分。今までの停滞がなんだったのかと思うほどの早さで俺はSC-POWとFIT(フィット)を扱えるようになっていた。

 最初からウィズにFIT(フィット)について聞いていれば、三十分もかからずに教官の雷属性のSC-POWを取り除けたのではないだろうか?

 

「ウィズを頼ったのか」

「マサムネ教官……。不味かったですか?」

「いや、ウィズが教えたのならば問題ない。単純に驚いただけだ」

 

 扱えるようになったSC-POWを試していると、眼帯——マサムネ教官が音もなく現れた。

 マサムネ教官もツルッパ同様に第三世代がウィズを積極的に頼るとは思っていなかったのだろうか?

 とはいえ、実際に頼ってQ&Aを行ったのは俺だけで、アーサーとエルザは俺がウィズに聞いている内容を近くで聞いていただけなのだが。

 それでも二人は直接聞いていた俺よりも早くFIT(フィット)を習得したのだが。

 

「十三班は合格だな。個人でFIT(フィット)を済ます奴は何人かいたが、チームで揃って済ませる所が出てくるとはな。本来ならば個人単位で合格を言い渡し、FIT(フィット)に照らし合わせて合格者で新たにチームを組むのだが……」

 

 マサムネ教官は俺たちのスーツの色を確認して言葉を続けた。

 

「これも運命か……。バランス良く振り分けられているようだな。お前たちは暫く十三班として活動するといい」

 

 本来、段階を越えてFIT(フィット)を習得できた者たちは仮組みのチームを抜けてFIT(フィット)を習得できた者同士で新しく組ませるらしく、既に相方を待っている者も何人かいるらしいが、俺たち十三班はFIT(フィット)の三属性が揃っていた。

 火のエルザ、氷の俺、雷のアーサーである。

 そのため、ここをバラバラにする必要はなくそのまま次のステップに進ませることをマサムネ教官は決めたようだった。

 

「ウィズ、十三班を計測室に案内しろ。そのあとはお前の裁量で進めていい」

『了解しました。十三班の皆様はこちらへ』

 

 マサムネ教官がウィズを呼んでポケットから何かを取り出すと、それは空中に浮遊してその上面にウィズを投影した。ウィズは自由にそれを動かせるようで、着いてくるように俺たちに言うと、こっちを向いたまま計測室とやらに移動し始めた。

 

「グライド、お前は十人の中で一番早くSC-POWを扱えるようになった。期待しているぞ」

「ぐぅ……! 頑張ります」

 

 マサムネ教官が発破をいれるように俺の背中を叩くと、背中だけではなく全身に痺れが広がった。

 全身から力が抜けるような感覚を受けるが、SC-POWの流れを意識する事で崩れ落ちそうになるのをなんとか堪えて返事をした。SC-POWにはSC-POWで抵抗する。学んだばかりのことだ。

 

「反応は悪くない。体を動かせなくなるというのは致命的だ。常にSC-POWで対抗できるように意識しておけ」

「……ありがとうございます」

 

 今のビリビリは特に意味はなかったってことか? ただ試しただけ? 

 ……やはり現代の教育とは違う。一回痛い目に合わせるスパルタ方式だ。今後も気を抜かないようにしよう。

 俺みたいな平和ボケした人間だと注意しすぎて丁度いいくらいだろうしな。

 

「グライドさーん!」

「失礼します」

「……残りカスが無かったとはいえ、他がそうであるとは限らない。一人が解除できたのなら残りも早めに回るべきか」

 

 ウィズに着いていったアカリに呼ばれたのでマサムネ教官に礼をして立ち去る。なんか言ってた気がするけど俺に対しての言葉じゃないっぽいし大丈夫だろう。

 俺じゃなくてシグマやユートたち、教官のところに集まった他のメンバーの話だろうからな。

 

「遅いですよ」

「悪い。マサムネ教官と話してたんだ」

「なにを話したの?」

「なんかビリビリってされて、体が動かなくなるのはヤバいからSC-POWで常に対抗できるようにしろって」

「グライド君は期待されてるのかもね。僕も負けないように頑張らないといけないな」

 

 アカリとエルザの質問に答えると、アーサーが勝手に気合いを入れ始めた。

 エルザもそうだが、この状況に結構前向きのようだ。訓練兵(プレイヤー)の中には現実を受け止められずに気力がないやつもいるだろうに。

 

「ウィズ、案内を頼む」

『かしこまりました』

 

 待っていてくれたウィズにそう言って、俺たちは計測室とやらに向かった。

 俺以外誰もウィズに声をかけないってヤバくないか?

 開拓拠点(フロンティアベース)内ならめっちゃ頼りになるAIだぞ。

 


 

 計測室にやって来た俺たちは、一人ずつ円形の台に立たされ、あらゆる方向から変な光を当てられた。その結果、あらゆるデータが解析された俺たちは、俺たちのまま電脳世界へと立つことになった。

 エルザやアーサーからすればVRMMOのなかでVR空間に入ったことになる。

 

「本国のはSC-POWの再現がなんとかって話だが、これで訓練になるのか?」

 

 ルベルがそんなことを言っていた気がするので、ウィズに聞いてみた。現実世界に肉体を持たないウィズだが、電脳世界では話が別なのか俺たちと同じように電脳世界の地面に立っている。

 モニターやホログラムに映っていた時は物理的に小さく、身長もあまり高くないような印象があったウィズだが、こうして対面すると思っていたより背が高く、優秀な秘書染みた雰囲気がある。

 身長はエルザと俺の中間ほどだろうか?

 

『問題ありません。VR訓練の有用性はマサムネ教官他職員たちにも認められています』

「本国のシミュレーターでもNA-ENGやSC-POWの完全な再現はできなかったはずです!」

NACURE(ナチュル)-ENERGY及びSCICHIC(サイキック)-POWREの定義はわたくしが行いました。実際のものとは消費・変換の方式が異なりますが、使用感としては現実のものと同じになるように調整しております』

 

 アカリは本国を基準に考えたらしい。まあ無理もないか。アカリからすれば本国は都会で、開拓拠点(フロンティアベース)は田舎どころか離島の限界集落みたいな認識なんだろうし。

 開拓拠点(フロンティアベース)にあるものの方がハイスペックってのが考えにくいのかもしれない。

 

 そして久しぶりに聞いたな、NA-ENGとSC-POWの正式名称。

 NACUREは自然を意味するNATUREと、キラキラした、虹色のものを意味するNACREOUSを合わせた造語で、SCICHICは分かりやすくサイエンスとサイキックを合わせた造語である。

 自然界にあるキラキラしたエネルギーと、科学的な手段で補助を行って始めてマトモな出力に出来る超能力の源であるので、結構分かりやすいんじゃないだろうか。

 

「教官たちが使っているなら問題ない」

「ここで試してみた感じ、現実でSC-POWを使ってるのと違いがわからないしね。原理はどうでもいいかな」

 

 エルザとアーサーはそれぞれ火と雷を使ってみて、特に問題ないと判断したようでどうでも良さそうな感じだ。

 どうやらVRシミュレーターの詳細について興味はないようだ。

 

「VR訓練が有用なのはわかったが、俺たちは何をすればいいんだ?」

『実際の任務をなぞったミッションを受けつつ、武器の選択を行っていただきます』

「武器? SC-POWだけで戦うんじゃないんだ」

 

 未開拓領域(フィールド)にはTS(サーマルシーカー)という原生生物がいる。こいつを倒すのに手っ取り早いのはSC-POWを使うことだが、SC-POWを使えば未開拓領域(フィールド)での活動時間が減ってしまう。

 そのため、消耗を最低限に抑えながら戦闘をこなすために武器は必要なのだ。

 

 NA-ENGを空気中の魔力、SC-POWをMPと考えると分かりやすいありふれた世界観になるが、ゲームチックに考えるのならNA-ENGは制限時間を延長するアイテム、SC-POWは制限時間で、制限時間を消費することで技を繰り出すシステムであると考えればそれが大体正しいことになる。

 

 ウィズがそんな感じに武器の必要性を説明すると、辺りに素振り用のカカシと大量の武器が現れた。

 

『暫定的な武器を選択してください。実際の任務では携行する必要があることもお忘れなく』

 

 ウィズの言葉で、自分の身長の三倍以上もありそうな槍に興味を持っていたエルザが手を引っ込めた。仮にそれを扱う技量があったとしても、木々が生い茂るエリアなんかもある未開拓領域(フィールド)で持ち運ぶのは不可能だろう。

 

『訓練が始まってからも武器の変更は受け付けますので、気楽に選んでしまっても問題はございません』

 

 武器の海を前に悩んでいると、ウィズが話しかけてきた。実際の任務じゃ選んだ武器を変えることなんて出来ないが、これはVR訓練。あまり考えずにやってみるか。

 実際に未開拓領域(フィールド)に出たり、TS(サーマルシーカー)と戦ってみて気づくこともあるだろう。

 エルザとアーサーが思ったより早く武器を選んだので、判断の基準にしやすいだろう片手剣をとりあえず使ってみることにした。




ようやく冒険・バトルができるよ!
本当は用語詳細はもっと自然な感じで出すつもりだったんだけど、いつまでたっても出来ないから無理矢理入れました


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in to the VR

「ここが未開拓領域(フィールド)……。仮想の舞台なのにプレッシャーを感じる」

「SC-POWが削られていく。アカリ、どっちにいけばいいの?」

『目標地点は北西十五キロメートル地点です。真っ直ぐ行くと途中で大地の割れ目に突き当たるので、まずは北に進んでください』

 

 俺たちはウィズが構築したVR世界の未開拓領域(フィールド)に立っていた。

 アーサーの言う通り、データでしかないはずの偽物の未開拓領域(フィールド)は、ゆっくりと俺たちのことを溶かす酸に浸かっているかのような焦燥感を俺たちに与えてくる。

 エルザが俺たちのナビゲーターであるアカリに指示を仰ぐと、アカリは特に緊張した様子もなく答えた。

 

「先頭は僕が行くよ。といっても、暫くは平原みたいだから隊列は関係無いかもしれないけどね」

 

 アーサーを先頭に北を目指して歩いていく。

 未開拓領域(フィールド)に存在する有害物質を弾くためにSC-POWを活性化させているからか、徒歩の感覚で歩いているにも関わらずぐんぐんと距離が稼がれる。

 十五キロ先が目的地と聞いたときは遠いと思ったが、実際はそうでもなさそうだ。

 そもそも、開拓を行うためにはもっと広い範囲の探索が必要になる。十五キロなんて子供のお使いレベルかもしれない。

 

『アーサーくん、ストップ。グライドさんはフラッグを立ててください』

「了解。結構重いから序盤で減らせてよかったよ」

 

 アカリの指示で地面に機械を突き刺す。フラッグは直径三十センチ、長さ五十センチほどの筒状の物体で、俺は今までこれを背負って歩いていた。バトルスーツだけではなく、SC-POWの効果を増幅・拡張する様々な装備を身に付けた上でなお重いと感じるので、実際はかなりの重さなのだろう。

 

 地面に刺さったフラッグが起動すると、フラッグを中心に特殊な生地で作られた小さなテントが現れた。このテントは原生生物であるTS(サーマルシーカー)からフラッグを守るためのものだ。

 

『フラッグ、正常に機能しています。周囲の地形情報の収集が終わるまで待機してください』

 

 テントの中でフラッグが地形や地層などを調べていく。俺たちの役目は基本的に色々な場所にフラッグを立てて地形を調べることである。

 

 また、開拓拠点(フロンティアベース)を中心としてフラッグを増やしていくことでNA-ENGが溜まっている場所を効率的に発見することが出来るようになり、より遠い場所まで探索できるようになる。

 フラッグはとても大事なものなのだ。

 

『フラッグが南東にTS(サーマルシーカー)の反応を検知しました。近いです。目視できますか?』

 

 俺たちのナビをするアカリだが、景色の共有は行われていない。俺たちの装備のひとつに、機能を縮小して小型化したフラッグのようなものがあり、そこから送られる情報をもとにアカリは俺たちに指示するのだ。

 当然、本物のフラッグの範囲内ならば情報の精度は高くなり、指示はより具体的かつ正確なものになる。

 

「何もいないみたいだけど」

『……TS(サーマルシーカー)反応、遠ざかっていきます。早いです! 反応、ロストしました』

 

 アーサーが双眼鏡片手に南東を探すと、アカリが情報を更新した。どうやらすごい速度でフラッグ範囲内から消えたらしい。

 

「そんなに早く動いたら砂煙のひとつでも上げそうなものだけど」

「雲の上かも」

 

 地面を見ていた俺とは逆に、空を見上げるエルザの視線の先には分厚い雲があった。確かに、雲の向こう側にいたとすれば黙視は不可能だ。

 

『フラッグによる探査が完了しました。西側にNA-ENG溜まりが複数あるみたいですね』

「回収しにいくか?」

 

 俺たちのSC-POW残量はまだ七割近くある。だが、回収出来るときに回収した方がいいのかもしれない。

 

「戦闘になったとき、どれくらいのSC-POWを使うのか僕たちにはわからない。出来るだけ貯めておいた方がいいと思う」

 

「西に行っても道は平気?」

『割れ目は斜めに存在しているので、西に行った場合はそのまま北上することはできません。少し東に戻る必要があります』

 

「そっちにフラッグの設置ポイントはあるのか?」

『いえ、フラッグの範囲は割れ目まで届いているので、設置ポイントはないです』

 

 本当なら、この判断はナビゲーターであるアカリが行うものだ。しかし、アカリは実際にナビゲーターとして動くのは初めて。

 すべてを丸投げするのはチームとして無責任だし、俺たちがどのような判断をするのかというのもナビゲーターには重要な情報だと思う。

 

「北にはNA-ENG溜まりはないのか?」

『あっ、フラッグ範囲内ギリギリにひとつだけあります』

 

 フラッグ範囲は狭くはないが、広大な未開拓領域(フィールド)と俺たちの移動速度を考えるとそこまで広くもない。西へいく往復の手間を考えたら、北でNA-ENGを回収したあと、範囲外でも見つけるのがいいんじゃないだろうか。

 

「平原だし、TS(サーマルシーカー)はこっちが先に見つけられるだろうから戦闘はあまり考えなくていいかもな。このまま北に行こう。アカリはNA-ENG溜まりの捜索をよろしく」

 


 

「SC-POWが五割を切ったか……。西にいかなかったのは判断ミスだったかもしれない。すまん」

「NA-ENG溜まりから回収できるSC-POWの量が思ったより少なかったのが原因だし、気にしないで」

「三人だから仕方ない」

 

 北へ進み、二つ目のフラッグ設置を済ませて待機しながら判断ミスを謝った。NA-ENG溜まりでSC-POWが思ったより回復できなかったのが原因だ。

 一人で行動しているなら十分な量だったかもしれないが、三人一組で行動するとなると消費量は三倍、回復量は1/3である。NA-ENG溜まりの規模にもよるのかもしれないが、ひとつでは賄いきれないわけだ。

 

「それにしても、敵が出てこないね。現実もこんな感じなのかな?」

「もっとたくさん出てくると思ってた」

 

 アーサーの言う通り、俺たちはまだ一度もTS(サーマルシーカー)に遭遇していなかった。それどころか、TS(サーマルシーカー)反応があったのも雲の上を移動していたと思われるTS(サーマルシーカー)一匹だけだ。

 俺も原作の戦闘シーンからしてもっと出てくると思っていたので拍子抜けだ。ただ、よく思い出してみれば原作では大体何らかの事件があった。なので、何もない平時ならばこんなものなのかもしれない。

 

『うーん……』

「どうかしたかい?」

『NA-ENG溜まりを発見したんですけど、その近くにTS(サーマルシーカー)反応が複数あるんです』

 

 TS(サーマルシーカー)との戦闘はSC-POWの消耗と怪我のリスクがある。できるだけ避けるべきなんだろうが、NA-ENG溜まりの存在も無視できなかった。

 

「初戦が複数ってことになるけど、僕は行った方がいいと思う。消耗が三倍というなら殲滅速度も三倍だよ」

「じり貧になって退却はイヤ」

「そうだな。消極的な選択ばかりというのも良くないか。アカリ、NA-ENG溜まりの規模はどんなもんだ?」

『さっきのNA-ENG溜まりから得られたSC-POWから考えると、ほぼ全快出来ると思います』

 

「やるしかねぇか……」

「各々自分の武器を確かめる感覚でいいのかな? あとで回復できるとはいえ、SC-POWの消耗は避けるべきだし、訓練の趣旨からしてもSC-POWでごり押しってのは違うしね」

 

 ああそうか。SC-POWを回復できるなら使えるだけ使って楽に倒してしまえばいいと思っていたが、それも避けた方がいいのか。

 片手剣……。とりあえず選んでみたが、俺に武器が扱えるんだろうか? 武道なんてまともにやったことないぞ。

 

「楽しみ……」

 

 俺の不安をよそに、エルザは自分の武器であるショートスピアを手に好戦的な笑みを浮かべていた。やっぱり何か世界観がおかしい気がする。

 VRMMOが一般的になった世界だとこれが普通なのか?



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