ホロライブラバーズ外伝 有り得たかもしれない未来 (アズール)
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雪の城七夜 とある1日

 番外編は初投稿です。

 長いのかいて?と言われたので書いたのですが、編集量多くて禿げそうなので、二度とやりません。

 グロい描写があるので苦手なひとはブラウザバッグ推奨です。


 ココ会長はまじでしゃべり方どう書いたら良いかわかんねぇ!だから違和感は仕方ないので…許してください!

 それと、この話はFGO第2部6章のネタバレを含みます。そちらが無理な方もブラウザバッグ推奨です。

 本文は変更しません!ここで罪を認識するんや…


 

 

 ふと、目が覚める。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。身体を起こし、辺りを見渡す。そこには、見渡す限りの氷、全てが氷で出来ていた。

 

 

 ──夢、じゃないか…これが夢なら、どれ程よかったか…

 

 

 そう言ってベッドに腰をかけた状態になる。全て、氷で作られている…冷たいはずなのに、彼は平然としている…

 

 

 ──はぁ…今日もあの人の相手をしないとな。…嫌なんだが…あそこに居ないと、ここを攻撃されちゃあ困るからな…

 

 

 そう言って立ち上がると…氷のクローゼットから服を取り出し着替え、ある部屋に向かう。

 

 

 その部屋は女の子らしいアイテムや、ベッドの形をしている…全て氷で作られているが…その中央には、大きな氷の塊がある…

 

 

 ──今日も行ってくるよ…またここを攻撃されて、壊されたら大変だ。…君を守るためなんだ…。どうか、待っててくれないか?

 

 

 そう語り掛ける。中央の氷の塊の中心には人が眠っている…その名は…

 

 

 ──起きたら、またデートしよう…。それまで待ってるよ…。…必ず、目覚めさせるから…待っててくれ…ラミィ…!

 

 

 雪花ラミィ…彼の将来を誓い合った存在だ…彼女は、とある戦いの後から、目を覚めなくなっている。…ということになっている。

 

 

 ──絶対に…治して見せる…!

 

 

 大怪我を負い、衰弱している彼女を、彼は氷で包み、この城を一夜にして建てたのだ。彼は今まで持っていた力を全て捨て、今の力を手に入れている…その力は

 

 

 ──あの忌々しい紅赤朱の力を…こうやって使うことになるとはなぁ…

 

 

 紅赤朱…本来は、熱を発生させる。または奪って発生させるなど、熱を発生させるのが、紅赤朱の力である。しかし、彼が手に入れたのは、熱を奪い、凍らせる力…『反転』したのだった…

 

 

 ──さて、少し早いが…何時も待たせているし…今日ぐらいは、早く行って見るか…

 

 

 そう呟くと、氷の廊下を進み、氷の階段を降りて、氷の大扉から外に出ていった。

 

 

 

 ──…太陽は、嫌いだ…氷を溶かして…熱を与えてくる…俺の家が溶けることはないが…それでも…俺に熱を永遠に与えてくるから、そのうち身体が耐えきれなくなって壊れるかもな……有り得ないだろうが…

 

 

 そう呟く。彼は、自身の体を凍らせて、細胞を凍結し、擬似的な不老を作り上げている。体温が上がれば活性するかも知れないのだが、彼は、自身に降りかかる熱は全て吸収して、自身の凍らせる力に変換しているのだ。太陽に当たれば当たるほど、その力は強化されているのだ…

 

 

 ──…さっさと行こう…

 

 

 彼はそう言ってその場を後にする…

 

 

 

 

 

 

~氷と炎の荒れ地~

 

 

 

 

 彼がそこに着くと、見える限り、氷と焦げた後が付いている…まるで、戦争後が凍ったみたいな感じになっている。…しかし、これを作り上げたのは、たった2人の戦いなのだ…

 

 

 ──いつもより遅いんじゃないのか…?なんだ…寝坊したのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ココ会長?

 

 

 

 

 

 

 そう彼がいうと、翼を羽ばたかせながら降りてくる人影…幻想種…ドラゴンの桐生ココである

 

 

 

 「ワタシは何時も通りデス!オカシイのはマキのほうデス!…いつもはモーニングコールしてから来るノニ…」

 

 

 彼女の言うモーニングコール…それは彼の

 

 

 ──そのモーニングコールが激しいから、俺から来たというのに…あれ治すの面倒なんだ…何時ラミィが目覚めるか分からないしな…側に付いていてやらないといけないのに…

 

 

 「…まだ…目覚めまセンカ…」

 

 

 ──…目はバッチリ冴えてるぞ?体もこの通り…

 

 

 「誰もボディの話しはしていまセン!…マインドの方の話デス!」

 

 

 ──…心も正常だと思うけど…?

 

 

 「…あれを見て…正常と言いマスカ…?…そういえば…マキはワタシ以外に会っている人は居ましたカ…?」

 

 

 ──…今は居ないな…60年前にフレアが会いに来たぐらいか…

 

 

 

 

 

~60年前~

 

 

 

 『なぁ魔切!いい加減目を覚ませよ!…そんなことして…ラミィが、喜ぶのか!?』

 

 

 ──…分からないよ…そんなの、だけど、エゴかもしれないが…それでも俺は…助けたいんだ!

 

 

 『…魔切…まさか…お前、分からないのか?』

 

 

 ──…分からない…何が?…まだ、ラミィは眠っているだけだろ?

 

 

 『…そうか…悪いけど、アタシ…森に戻るわ…あんたのこと、見ていられない!』

 

 

 ──…なぁ…俺、なんか間違ってること、してんのかな…?別に、生き返らせる訳じゃないのにな…

 

 

 そう呟く魔切。しかし、その言葉を返す言葉はなく、ただその場を月明かりのみが照らしている…

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

 

 

 

 

 ──…それ以降は誰とも会ってないよ?…冷気が強すぎて近寄れないんじゃない?

 

 

 「…アナタが冷気を押さえレバ、いい話じゃないデスカ?」

 

 

 彼女はそう言いながら悲しい顔をしている..本当に心配しているように。

 

 

 ──…悪いけど、もう俺は冷気を押さえられない…毎日会長の炎を吸収しているせいでな?

 

 

 「ワタシのせいデスカ!?人のせいにするノハ、イケナイと思いマス!」

 

 

 ──…じゃあ、俺に対して炎で攻撃するのを止めてくれ。じゃないとずっと会長の炎だと体内に冷気が蓄積しちまうから。

 

 

 「ムリデスネ!目を覚ますには、そのボディにワタシの熱いハートを与えて、目覚めさせるのが一番デスから!」

 

 

 ──…会長位の炎じゃ…俺を溶かすことは出来ないぜ?…それでもやるなら……来い!

 

 

 「行きマスヨ!」

 

 

 そう言ってお互いに剣を構える…片方は火を纏う剣を、片方は氷で作られた綺麗な剣を。

 

 

 ──いい加減に…その剣じゃなくて、本気で戦ってくれよ。じゃないと、いつまでも経っても決着付かないぜ?

 

 

 「イヤデス。このソードでアナタにカツを入れてあげマス!」

 

 

 そう言うと、彼女は剣を振るってくる。その剣の銘はフランベルジュ…炎を纏いし、かつて魔切が使っていた双剣の片割れだった。

 

 

 「フゥ!ハァッ!トォリャァ!」

 

 

 ──…

 

 

 袈裟斬り、横なぎ払い、そして突き。その全てを魔切は完全にいなす。魔切もやり返すが、それも全てココが防ぎ、お互いがお互いの動きを完全に理解しているから、攻めきることが出来ない。

 

 

 「そろそろ仕掛けマスヨ!龍王炎撃破(りゅうおうえんげきは)ッ!」

 

 

 ─…守護氷槍陣(しゅごひょうそうじん)

 

 

 お互いの技がぶつかり、白煙をあげる。煙が暫くして晴れ、2人の姿が見える。…2人とも傷1つ無い。

 

 

 「…ドウシマシタ?そんなに手加減して…ワタシを嘗めているんデスカッ!?」

 

 

 ──…嘗めているつもりはない…だが…何か可笑しいのは事実だな…すまん、今日は…

 

 

 「…Don't worry、そう言うことなら今日は帰りマス。…明日はちゃんと…付き合ってクダサイネ?」

 

 

 ──…すまん、…出来ればモーニングコールは止めてほしいがな…

 

 

 「それはムリデスヨ!…明日も絶対キマスカラ!GOODBYE!」

 

 

 ──…勘弁してほしいな…

 

 

 ココは翼を羽ばたかせ、その場を後にする…1人残された魔切は帰路に着く。

 

 

 ──…どうしたんだろうな…ココ会長に気を使われたな…

 

 

 そう言いながら暫く無言で歩く…大扉の前まで到着し、中に入る。

 

 

 ──ラミィのところに行かないと…

 

 

 そう言うと、ラミィが眠っている。その部屋に向かう。

 

 

 ──…ラミィ…

 

 

 そう呟き、目を瞑る…そうして見えてくるのは…過去、紅赤朱との決戦の日の記憶だ…

 

 

 

~■■■年前~

 

 

 

 

 ──…喰らえッ!ゼロディバイドッ!

 

 

 「…無駄だッ!炎上ッ!」

 

 

 ──ぐはッ!…まだ…まだやれる…!

 

 

 「魔切さん!」

 

 

 「回復するねッ!」

 

 

 「オーガは…さすがの強さデスネ…」

 

 

 【…耐えてください…もう少しで…】

 

 

 『…耐えろ…耐えるのだ!』

 

 

 彼は今、片方の剣を、折られ、その修復のために、武器を制限して戦っているのだった…しかし、残る武器はもう銃と折れてない双剣の片割れしかなく、非常に、危険な状態であった。

 

 

 「何をするか知らんが…終わるまでに耐えきれるか?」

 

 

 ──…うるさいな…!殺す!

 

 

 「ハァッ!」

 

 

 ──…ぐゥッ!

 

 

 「そろそろ終わらせるか…さらばだ…夜斗の倅!『大炎上』ッ!」

 

 

 「魔切さんッ!危ないッ!」

 

 

 「マキッ!」

 

 

 「魔切君ッ!」

 

 

 …紅赤朱から大量の燃え盛る炎の波が押し寄せる…それが彼を包み込む…

 

 

 「…何…?」

 

 

 「ハァ…ハァ…だ、大丈夫ですか…魔切さん…?」

 

 

 ──ッ!ラミィ!何やってんだよ…セルシウスまで…

 

 

 魔切を包むかと思われたその炎はラミィとセルシウスによって防がれた。しかし、ラミィに火傷はなくても、所々に余波で飛んできた石ころによる生傷がある。そして、セルシウスは…

 

 

 『すまない…私は主の命令に従うのみだ。だからこそ、主を最優先にさせてもらった。…しかし、もう私の体は限界のようだ…』

 

 

 「…すいません、セルシウスを使っちゃいました…」

 

 

セルシウスはからだ半分がなく、もう直ぐにでも消滅し、化石になる直前まで力が消えかかっている…紅赤朱の全力を防ぎきったので、ほとんど力を使い果たしたのだ。

 

 

 『だが、安心しろ…最後の手段を使うだけだ。』

 

 

 ──…そんな…あれは…!

 

 

 『そうだ。私が剣となる…そうすれば…あれの完成は早まる。私の意識や記憶は無くなるが…それでも構わない…この身は…力はお前に託そう…魔切。我が魂…お前に授ける。』

 

 

 そう言って、モルガンのところに近寄る。そして、モルガンの術式に溶け込むように消えていった…

 

 

 『…さらばだ。我が主。そして魔切。2人とも幸せにな…』

 

 

──セルシウスゥゥゥゥ!!

 

 

 「ありがとう…セルシウス…」

 

 

【出来ました。完成です…彼女には感謝を…そして…私もここまでのようです…】

 

 ──…モルガン…

 

 

【私は始めからここで消える予定でした…彼女は私と違って、消えなくても良かった存在でした。…しかし、貴方のために、彼女は自らを捧げたのです。…私と同じです。】

 

 

 「…モルガンさん…」

 

 

 【…いいですか?私は正妻です。…ですが私はサーヴァントの身…消え行く定めでした…あなたが魔切の隣であるなら、私は許容します。…マスターをお願いします…ラミィ。】シュウウン

 

 

 そう言って、 光の粒子となり消える…退散したのだ…全ての力を使い、1つの剣を作り上げた。彼女は妖精の側面の力を使い、剣を作り上げた。折れた彼の武器双剣の片割れ、ヴォーパルソードを作り直していたのだ。銘をアイスコフィン。その剣は美しく、そして強力である。(エクスカリバーを氷属性にして、刀身を水色に光らせる)

 

 

 ──…モルガン…セルシウス…ありがとう………行くぞッ!紅赤朱ッ!

 

 

 「…面白い…かかって来るがいい!」

 

 

 そうして2つの力がぶつかり合う。炎と氷、2つの力を巧みに使い、攻めてくる魔切、そしてそれを己の体1つで捌く紅赤朱。お互いが傷付き合い、致命傷を負わせられないそんな時間が場を支配していた…

 

 

 「魔切さん…」

 

 

 「魔切君…」

 

 

 「マキ…」

 

 

 パーティーメンバーはそれを見守ることしか出来ない…そこに自分達が入れば、間違いなく足手まといになると…あのココ会長ですら思うほど…2人の戦いはそこで完結していた…

 

 

 

 

 

 「ぬぅんッ!」

 

 

 

 

 ──…ッ!しま…

 

 

 

 

 

 「貰ったッ!」

 

 

 

 

 膠着状態を先に解いたのは、紅赤朱の方…泥るんだ所に足をとられた魔切にトドメの一撃を放つ。

 

 

 

 

 

 グシャ…ポタポタポタ…

 

 

 

 「何…?」

 

 

 ──…嘘…だろ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫でした…魔切さん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──…ッ!うおおぉぉぉぉ!?

 

 

 

 

 「…ッ!ぬん!」

 

 

 

 

 ──ッチ!

 

 

 

 「………」

 

 

 雄叫びをあげて、紅赤朱にフランベルジュで攻撃する…それを弾き、大きく後退する。そして、こちらを少しの間見ると、振り向き、奥の平原の方へ歩いていく。

 

 

 フランベルジュは攻撃を弾かれた際に大きく飛ばされてしまうが、ラミィが心配でラミィの方へ駆け寄る。そして、ラミィを抱き抱える。静かにゆっくりと傷が拡がらないように。

 

 

 ──ラミィ!ラミィ!しっかりしろ!

 

 

 「…魔切…さん…」

 

 

 ─ラミィ…どうして!

 

 

庇ったせいで、止めどなく、血が出てくる。胸には大きな穴が空いている。

 

 

 「…勝って…欲しかったんです…」

 

 

 ──…そんな…俺のために…

 

 

 「ここで勝って…それで…」

 

 

 ──もういい!喋ったら傷が開く!

 

 

 ラミィは彼に伝える。魔切はそれを聞きながら、傷口を応急処置しながら、アキ・ローゼンタールを待っている。彼女しか治療出来ないからだ。そして数分後、到着する。

 

 

 「魔切君!治療するよ!」

 

 

 「…行ってください…皆で…築いてきたもので…」

 

 

 ──…わかった。

 

 

 

 そう言って、その場を後にする…

 

 

 

 

 

~平原~

 

 

 

 

 

 

 

 「…もう終わったか?」

 

 

 ──…後はもうお前を殺してからにするよ…紅赤朱ッ!…次で終わらせる。その方が、お互いにとっていいだろう?

 

 

 「構わん。その方が手っ取り早いからな。…来い!」

 

 

 

 

 そう言って、同時に2人の魔力が増幅していく…

 

 

 ──(モルガン…俺に力を貸してくれ!)

 

 

 

──…鳴り響け!巡礼の鐘!

 

 

 

【認証】
 

 

 

 

 

 

 

  

ノリッジ

 

 

 

 

 

  

グロスター

 

 

 

 

 

  

ソールズベリー

 

 

 

 

 

  

オックスフォード

 

 

 

 

 

  

オークニー

 

 

 

 

 

  

ロンディニウム

 

 

 

  

──全てを閉ざせ!冬の玉座!

 

 

 

  

嘆き叫ぶ妖精の剣(エクスカリバー・ルフェ)ッ!』

 

 

 (撃つ時は左腕で、腰を深く落とし、右腕を前に出し、左腕を肩の辺りで突きの構えをする。いわゆる牙突スタイル。そこで魔力を集中させる。左足で一歩踏み込み、突きで放つビーム、放った後は、放った所から扇状に冷気が広がる。後ろには撃ったときの衝撃波が広がっている)

 

 

 

 

   

「『大 炎 上 ッ!』」

 

 

 

 

 2つの力がぶつかり合う。炎が氷を溶かす…かと思われた、その氷は溶けること無く、炎を貫き、突き進む。

 

 

 

 「…なんだと…?」

 

 

 

 

 

 

──行っけぇぇえぇぇ!!

 

 

 その剣のレーザーは炎を全て裂き、紅赤朱の体を貫く。そして、貫いた所から、凍りついていく。

 

 

 「ぐぉぉぉおおぉ!?」

 

 

 雄叫びをあげなから抵抗する。しかし、抵抗虚しく、紅赤朱の全ての体を凍らせ…

 

 

──…はぁ、はぁ、はぁ、…止めを…刺しに行かないと………ッ!

 

 彼の体がゆっくりと紅赤朱近づく。…その時に中心から突如高熱を感じる。

 

 

 

 

 「ぬうぅんッ!」

 

 

 

 

 紅赤朱が氷を内側から砕き、外に出てきた。

 

 

 

 

 「…見事だ…よくぞ俺を倒した…」

 

 

 しかし、傷口から止めどなく血が溢れ出る。放置しても、もう致死量の血液があらゆる所から流れ出ている。

 

 ──…終わりだ…紅赤朱…

 

 ゆっくりと近づく、そして…剣を構える。

 

 「…構わん。やれ。……夜斗よ…お前の倅は…俺を越えたぞ…」

 

 ──…紅赤朱…討ち取ったり!

 

 そして、剣を振るい、頸を刎ねる。そうしてゆっくりとその巨体は倒れる。…完全に行動停止した。

 

 ──…動けない…

 

 そのまま死体に覆い被さるように倒れ込む。体が限界が来て、倒れ込んでしまった。

 

 ──…終わったのか…全部…

 

 そう呟きながら、立ち上がろうとする…しかし力が入らずに再び倒れる。

 

 ──動けん…

 

 何度も立ち上がろうとする度に何度も倒れる。…その度に紅赤朱の血が浴びる…

 

 

『喰らえ…喰らえ!』

 

 ──…ッ!

 

 急に脳内に響く音…死んだはずの紅赤朱の声が響く。しかし確実に死んでいるので、幻聴にしか過ぎない。しかし、確実に聞こえるそれは…彼の思考を蝕んだ。

 

 ──…うるさい…うるさい!

 

 

 しかし…残酷にもその声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

『喰らえ…喰らえッ!』

 

 

 

 

 

 ──…消えない…くそっ!…ダメだ…力が…

 

 抵抗しようにも、体がとうとう動かなくなり、思考が鈍ってきた。

 

 

 

『喰らえ…喰らえッ!』

 

 

 永遠に聞こえてくる声…

 

 

 

 

 

 

   動かないはずの体がゆっくりと動き…

 

 

 

 

 

              そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

   

グチャ…グチャ…バキボキッ…ゴクッ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、身体に激痛が走る…

 

 

 ──…あ、ああ、ああああぁあぁぁぁぁァァァァ!?

 

 

 身体が…自らの異物を排除ようとする…しかし、その異物は、脅威的な速さで身体蝕む…

 

 

 ──…あ…うぐぁ…

 

 

 魔族狩りとも言われる血も…世界を破壊する力も…全てが塗り替えられていく…

 

 

 

 

 身体が勝手に動く…

 

   

 

 

 

      目の前には…紅赤朱の頸…

 

      

 

 

 

 

 

             それを手に取り…

 

 

 

 

 

    

グシャ…グシャ…ポタポタ…

 

 

紅赤朱の眼を抉り取り、自分の眼も抉り取る。

 

 

 

   そしてそれを埋め込む。

 

 

 

 

 

 

 ──…俺は…何を…?

 

 

 

 意識が戻ってきた頃には…自分の状態の違和感に気が付いた。

 

 

 ──…見えない…浄眼が…失くなっている…?それと…時計が…動いていない!?

 

 

 浄眼の喪失、クルスニクの力も喪失、その代わりに、変わったことがあった。

 

 

 …冷たい…?俺の身体から…冷気…?

 

 

 そう、彼の身体から冷気が溢れ出てきている。己の身体の熱を吸収し、冷気として外に放出されていた。

 

 

 ──…動けるなら…行かないと…!ラミィが待ってるんだ!

 

 

 そう言ってその場を後にする…その場にあるはずの…紅赤朱の遺体が無いことに、気づかないまま…

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ラミィの眠る所~

 

 

 「…Was very late。…どうしてソンナニ…oh…その姿ハ…?」

 

 

 ──…なんか変わってるんだな…今は、そんなことより、ラミィの所に行かせてくれ…

 

 

 「…OK、行きまショウ。」

 

 

 

 

 暫く歩くと、傷は塞がって、安らかに眠るラミィの姿が見えた。

 

 

 ──…ラミィ…

 

 

 「…もう…ラミィちゃんハ…」

 

 

 ──…なぁ…1人にさせてくれないか…俺が、ラミィを連れていくから…先に帰ってくれるか…?

 

 

 「…OK、では、ワタシは先に帰ります…辛くなったら、ワタシに会いにキテクダサイネ?」

 

 

  そう言って彼女はその場を立ち去る。1人残された魔切は、1人でその眠っている姿を見る。そして、ゆっくりと膝立ちになり。顔に触れながら、

 

 

 ──ぐっすり眠っているみたいだな…何時になったら起きるんだ…?…俺さ…なんか、変わっちまったみたいなんだ…それでも、俺を愛してくれるか…?

 

 

 そう呟くが、帰ってくるのは静寂。数秒、そのままの体勢で、見つめ、そしてゆっくりと立ち上がり。一言、

 

 

 ──…必ず、俺が、目覚めさせるから…だから…眠っててくれ。

 

 

 彼がそう言うと、その場で氷を操り始めた…一から大きな城を建てていく…内装も、自分が見たことがあるものを形成していく…一晩で築き上げ、そして強固に強化していく。…まるで、その城が、ラミィに捧げる霊廟のように、美しく、そして、儚く、氷で出来た城は築き上げられた。

 

 

 ──…ここで、待っていてくれ…必ず、戻ってくる…

 

 

 そう言ってその場を後にする。ここから何百年と、時を過ごすことになるなど、彼はその時は思ってもみなかった…

 

 

 

 

 

 『………………』

 

 

 

 

そして城の周りには雪が降っていた…その雪は、まるで、何かを、悲しんでいるようなそんな雪がしんしんと降り注いでいた。それを他の人が見たらこう言うだろう…

 

 

 

 

 

 

雪の城と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在~

 

 

 

 ──あの日のことは…忘れないさ、絶対に。

 

 

 目をゆっくりと開きながら言う。その眼は、もう希望もなく、ただ、停滞した世界に嘆いているが、なにも出来ず絶望する。そう思わせるような目をしている。

 

 

 

 ──さて、今日はもう寝よう…また明日、会長と本気で戦わないとな…

 

 

 そう呟くと、ラミィのいる部屋を後にする。…ラミィの目から、少し、涙が流れたかに見える。…それは幻想だ。間違いなく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は、死んでいるのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷たく、停滞した世界…永遠に救われない。ただ1つの世界。この世界を救うのは…遥か未来の話。いまはまだ、ここまでしか語られることはない。

 

 

 

 




 こっちはあんまり投稿しません。本編書かずにこっちに2日掛けたので…

 気が向いたら投稿します。


 追記
 違うんや、ちゃうねん。そのな、ちょっとな?出来ると思ったからやっただけでちゃうねん。ここでこんなことになるとは思わなかったんや…


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竜騎士七夜 とある1日

 番外編を書いてる…死刑確定やな…正直すまんかった。どうしても書きたい衝動は押さえきれない!加速する!

 始めに言っておくと、この次元では、人型に戻るときは、服を着て戻ります。変身する前の着ていた服を着ます。

 見にくいのはご了承下さい。お願いします。


 暗闇に突如、火が灯る。…それは、暖かい日のような物ではなく、全てを焼き尽くさんとする。…破滅の炎だ。その威力は…幻想種を彷彿と思わせるような火力だ。

 

 

 しかし、それを放っているのは、1人の…人間、と思わしき人物から放たれている。

 

 

 ──何年たっただろうか…今の俺には…それすら無意味ないのに、何故考えてしまうんだろう?…やっぱり、忘れたくないからかな…?

 

 

 その人物は、髪がオレンジ、少し重そうな鎧を着こなし、肌が見えるところには、いたるところに爬虫類の鱗が露見している。そして、目の色は青く、爬虫類のような…いや、正確に言えば竜の目のようなものを持っている。不完全な竜種にしては、人の形を保ちすぎている。まるで、人から竜に変わっている状態ではないか。彼はドラゴンの血を一身に浴びて、不死身へと身体が変貌している。

 

 

 ──貴女(アンタ)を止められなかった。それだけは忘れられないのかな…?

 

 

 

 そう言いながら、彼は槍を掲げる。その槍は、剣槍のような形をしている。元々、剣だったものを槍の形まで延ばしたもののようだ。その剣の銘はフランベルジュ。かつて、彼が双剣として使っていた剣の片割れである。しかし、今の武器には双剣で使用していた時には無かったものが存在する。槍のけら首辺りに付いている燃え盛る炎のような宝石。丸い宝石の中に燃え盛るような模様と共に文字が刻まれている。その文字は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

桐生会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、彼が愛した幻想種 桐生ココの設立した風紀委員改め桐生会それが、宝石の中に刻まれている。燃え盛る炎と共に。

 

 

 ──あの時、俺はどうすれば良かったんだろう…彼処で止めなければ、貴女(アンタ)は恐らく、苦しみながら生きていた。

 

 

 愛しきものを手に掛けた。しかし、それは望まれた事なのだ。そうしなければ、学園が、世界が危機に見舞われた。…可能性があった。

 

 

 ──…今さら、終わったことを引きずっても仕方ないな…こんなんじゃ、ココ会長なら、活を入れられるな…

 

 

 『クヨクヨすんじゃねぇ!ワタシが好きなダーリンは、ストレートに行けばいいんデス!ワカリマシタカ!』

 

 

 そういう言葉が、槍から聞こえた気がする。彼はそう思い、身体を奮い立たせる。そうして、彼は暗闇から外に出る。出口はまだ薄い光が出てるくらいの明朝、彼は何時ものように空を翔ける

 

 

 ──…いい加減、馴れたなこの飛行にも、最初は不器用過ぎたけど、馴れればこんなものだな…

 

 

 彼は元々、人である、普通の人とは言えなかったものの、跳躍であれば、馴れていたものを、飛行、しかも翼を使っての飛行など、当時は不可能に近かった。彼は、その飛行を何十年とかけて、練習をした、その結果、翼での滑空や、急降下急上昇も十分可能なまでに成長している。

 

 

 ──…これを、会長と一緒なら、もっと楽しかったかな…?いや、そうだなぁ…空中デートって言って連れ回されてたかもなぁ…

 

 

 彼はそう言いながら頬を弛ませる、しかし、その一瞬後に彼はまた哀しみの表情を浮かべている。

 

 

 ──叶わぬ夢だ。さて、今日もあり得ないとは思うが、ココ会長をどうにかする方法はあるかな~?

 

 

 彼は、そう言って飛び回る。どこへ行く宛もなく。彼は愛するものを、蘇らせたい訳ではない、しかし、もう一度会えるなら会いたい。矛盾の願いを持っている。その願いは、未練と諦観を永遠と引きずっているが故の願いである。二度と蘇らないという諦観を、もう一度一目みたいと願う未練を。彼は一生苦しむだろう。

 

 

 その二つは彼が自分の身体を不死身にした時から、なってしまった時から、ずっと、消えることはない。永遠の呪いであり、愛である。そうなったのは、彼女、桐生ココを殺した時に、消えることの無い、呪い()になってずっと彼を蝕んでいる(見守り続けている)からだ。彼はそう自覚し、生き続けている。

 

 

 ──かなたん、元気かなぁ…生きてるかなぁ…?会長とよくカチコミに行ったときは面白かったなぁ…

 

 

 『Hey!PP天使!一緒にカチコミに行きマスヨー。今回は…』

 

 

 『ちょっとぼくまで戦力に加えるのやめてくれません!?』

 

 

 『おめーのパンチが必要ナンダヨ!』

 

 

 『うがぁぁ!?ぼくは、人はもう殴りません~!』

 

 

 『PP天使が逃げマシタ!オエー!』

 

 

 ──…楽しかったなぁ…あの日々は…何で、続かなかったんだろう…。

 

 

 その問いに答える者は居なく、ただ空しく虚空に消えていく。

 

 

 ──…腕が鈍らないように、ちゃんと練習しておかないとな。

 

 

 そう言いながら、開けたところに降り立った。そこは辺りが焼け焦げていて、そこの周りには木や草が生い茂っているのに、その周りだけ、なにも生えず、只の荒野がそこには広がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

~魔竜決戦場~

 

 

 

 

 

 ここは、かつて、竜になって戻れなくなってしまったココとの最後の戦場となっている。かつては、花畑が存在し、水も綺麗で、精霊たちも踊っていた。今はその影もなく、ただ、焼け焦げ、水は蒸発して渇き、2度と生命を生まれないような環境が出来てしまっていた…

 

 

 ──ふぅ、やっと着いた…ざっと、1時間飛んでたかな?それにしても…ここは馴れないな…

 

 

 脳裏に蘇るは当時の決戦。まさに、愛するものを殺す所ばかり思い出す。故に身体が鈍り、心から叫びたくなる。その衝動を押さえ、彼は練習をする。

 

 

 ──フッ、ハァッ!

 

 

 槍を振り回し、間合いを把握する。そして、幻影…ありもしない物へ、攻撃を繰り返す。何時間も、果てしない時間を、技も繰り出し、魔術も使い、それでも、彼は動き続けた。

 

 

 ──…(消えない…忘れられない。あの時の感触が、哀しみが!)

 

 

 彼はそう考えながら、槍を振るう。自分への戒めのように。

 

 

 

 

 

 

 

~■■■年前~

 

 

 

 

 

 

 

グオオオォォォォ………

 

 

 

 

 悲しみ、嘆き、そういうものが混ざった咆哮を、竜は叫んだ。誰に対してなのか、どういう訳なのかは、本人しか理解できないであろう。

 

 

 ──会長!ココ会長!止まってくれ!貴女(アンタ)がこうなった原因はもういない!だから…目を覚ましてくれよ!

 

 

 「ココ!お願いだから…」

 

 

 「目を覚ましてよ…ココ…」

 

 

 「ココちん!トワの声が聞こえない!?」

 

 

 「ココちゃ…ルーナの声が聞こえないのら…?」

 

 

 魔切、かなた、わため、トワ、ルーナの五人は必死に止まるように叫ぶ。しかし、竜は止まること無く、一直線に何処かに向かっている。

 

 

 

 「何をやってる!早くあの竜を殺してくれ!」

 

 

 「このままじゃ…街が焼かれるに違いねぇ!」

 

 

 「竜なんて恐ろしい…早く死んでしまえ!」

 

 

 何も知らない、街で暮らす人間からすれば、幻想種なんて物は、災害だ。故に解決出来るものがいれば、直ぐに解決を願うだろう。彼らは、何も知らない、善良な市民なのだから。

 

 

 ──ッ!あいつら…!

 

 

 「ダメだよ魔切ちん!トワ様達がやらないといけないのは…ココちんを止めること…だから…」

 

 

 「…何も分かってないから…そんなこと言えるのら。…まっきが気にすることはないのら。」

 

 

 「…止まらないね、ココ…一体…どうすれば…」

 

 「わため…解んないよ…もう、止める方法が…」

 

 

 ──…会長は…(この先は…まさか?)

 

 

 「魔切、もしかして何か分かる感じ?」

 

 

 あの竜が飛んでいく場所。とある町外れの、森の中。恐らく、彼女はそこへ向かうのだろう。彼はそう思うと…

 

 

 ──ッ!行かないと…会長はまだ、自我を持ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~安らぎの湖~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らは魔切のナビゲートのお陰で、一直線に目的地に着いた。先に到着していた竜が湖のそばで佇んでいた。まるで、誰かを待っているように…

 

 

 ──会長…

 

 

 その声を聞くように、竜がこちらに振り向く。その顔は、悲しみ、それを表している顔だ。

 

 

 ──俺は…どんな会長でも、愛する。それは…誓える。ここで誓ったもんな…お互い、どんな姿であろうと、愛することを、誓うってな。

 

 

 竜はその言葉を聞き、安心した様な顔を見せる。言葉は通じてるようだった。一同はそれを理解して安堵の表情を浮かべた。

 

 

 「良かった~、いつものココのままだったんだー。」

 

 

 「なんか、安心したよ。ココは何にも変わってないの。…でも、わためを食べないよね?」

 

 

 そう聞くと、なにやらドヤッとした顔をする。どうやら、食べて欲しいの?みたいな感じで聞いているらしい。

 

 

 「…いつものココだ…良かった。」

 

 

 「ココちん無事で良かったよ!トワはそれだけで嬉しいもん。」

 

 

 「良かったのら、ココちゃはココちゃのままだったのら。」

 

 

 ──何にせよ、ここを見つけられない限りは…大丈夫かな?それまでに、元に戻す方法を考えなければ…

 

 

 魔切がそういうと…パーティーメンバーは一同に頷き、案を出していく。

 

 

 「許せないのは…ココちんをこうした奴だよね!そういえば、そいつはどうなったの?」

 

 

 ──会長が焼き払ったよ。塵も残さずね。

 

 

 「でも、色んな案を出したけど…どれも直ぐに出来そうに無いしなぁ…」

 

 

 「でも、一旦帰るのは…怖いよね?」

 

 

 「誰か1人だけ残るのら?」

 

 

 ──それなら、俺が残ろう。皆は…準備が出来たら、ここへ。道は…分かるよな?

 

 

 「大丈夫だよ。…多分」

 

 

 「問題ないよ。あれならわため案内するから皆でまたここに来ようよ。」

 

 

 「そうしよう!それじゃ魔切ちん、ココちんの事、お願いね!」

 

 

 「仲良く待ってるのら、直ぐに戻ってくるのら。」

 

 

 「多分ここには来れないでしょ!あんだけ複雑だったんだし!」

 

 

 「それじゃあ…準備が出来た子は森の前で集合だよ~」

 

 

 4人がそれぞれ戻り準備のためにこの場を離れる。2人しか今はいない空間になった。

 

 

 ──ここへ来たのは…やっぱり、あの事を思って…とか?

 

 

 彼がそう言うと、竜は頷く。あの事とは、先ほど言っていた誓いの事だ。そう彼女は正気に戻り、今一度彼の意志が変わっていないかの確認をするために、彼の気を引きながら目的地に向かっていたのだ。

 

 

 ──何時もなら…会話も出来て、元にも戻れるのに…出来ないんだろ?…辛いよな、俺にはそういったことは理解出来ないから…別の意味で俺も苦しい。助けに成れない。悔しいってずっと思ってる。

 

 

 彼がそう呟くと、心配するな、みたいな感じでこちらを見てくる竜の顔があった。

 

 

 ──ッアハハ、そりゃないぜ、会長。その顔でやられると…笑っちまうよ。

 

 

 竜はその言葉を聞くと、少し不機嫌そうな顔をする。

 

 

 ──いやぁ、悪かったって。…何にも変わってない会長見てさ。俺も安心したよ。…暴走した時は…本当に心配したんだぞ?

 

 

 彼がそう言う。竜はその言葉に少しだけ申し訳無いような顔をして答える。

  

 

 ──いや、会長が悪かった訳じゃないし、それにさ、こうなっちゃったけど、元に戻ってくれたんだ。自我だけでも、俺の知ってる会長にな。

 

 

 竜は、その言葉を聞き思わず彼に抱きつこうとするが、身体が大きいせいで、顔のみを彼に近づける形で、彼に寄り添った。

 

 

 ──…お帰り、会長。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か、刺さるような音がした…

 

 

 

 

 

   

嫌な予感がした…そう思いつつ、(彼女)の方を見る。

 

 

 

 

     

      

     

 (彼女)の背中辺りから…矢が生えている。つまり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「見つけたぞ!」

 

 

 「竜だ!俺たちの街を守るんだ!」

 

 

 「覚悟しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

善良なる市民からの攻撃(何も知らない者達からの侮蔑)を受けた。愛するものが、それを理解するのに、時間は要らなかった。

 

 

 

 

 

 

──オマエラァァァァァ!!?

 

 

 

 

 

 

 彼は気がつけば、発砲していた。それは、本来善良な人(守るべき対象)ではなく、悪しき者(世界を脅かす者)を打ち倒さんとする武器を、今は、善良な人間(愛するものを傷付けた奴ら)に撃ってしまった。それをもろに受けた善良な人達(無能で無価値な人間共)は耐えられるはずもなく、全滅した。

 

 

 

 

 ──会長!大丈夫か!?すまない!俺が気を弛めてたばっかりに…

 

 

 彼がそう言いながら声をかける…しかし、竜の容態はどんどん変化していった…自我を失いかけているのである。

 

 

 ──何で……これはさっきの矢…?…ッ!毒だ!しかも、普通の毒じゃない。対幻想種用の神経毒だ!?

 

 

 矢の先に浸けられていた毒。それは、幻想種にすら効くとされる毒。しかも、造れるものは少なく、希少価値の高いものだった。魔族殺しの彼は、それを学んでいたので直ぐに判断出来たのだ…

 

 

 ──そんな…解毒薬は…造れない。

 

 

 そう、この毒に解毒する。というものはない。ただ、永遠に苦しみ続けるだけ、苦しみ、悶え、死んで行く。そのように造られていたからだ。この毒の特徴的なのは、魔術的治療ですら、完全に無効なので、死ぬまで苦しみは続くように造られている。別名、現代のヒュドラの毒とも言われている。ヒュドラの毒と違うのは、毒性が弱く、直ぐには死なないというところだ。

 

 

 

 

 

 

グオオオォォォォ!?

 

 

 

 

 

 竜は苦しみの咆哮をあげる。いくら幻想種の頂点である竜種とはいえ、毒を食らえば苦しむのも当たり前。故に苦しむ様を彼は見守るしか無くなっていた。

 

 

 ──会長…そんな…折角、元に戻ったのに…

 

 

 そして、苦しみに耐えきれなくなった(彼女)は辺りに攻撃を仕掛け始めた。彼はいち早くその場から離れて範囲外に逃げた。そして全てを焼き尽くすブレスが、その場に放たれ、美しかった湖も、咲き乱れてた花も、全て、焦土と化した。

 

 

 

 

 

 

グオオオォォォォ!!!

 

 

 

 

 

 彼女は苦しみから解放されるまで、(彼女)は止まることはないだろう。苦しみながら、永遠に生き長らえるかもしれない。…止められるのは、今、彼しかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──……………………会長、今、助けるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼はそう言うと、焦土の中に足を入れる。敵も味方も分からない今、竜はそれに反応し、攻撃をする。

 

 

 ──ハァァッ!セイッ!

 

 

 彼は二振りの剣で、ブレスを切り払いつつ、前に進んでいく。

 

 

 ──行くぞッ!

 

 

 彼はそう言うと、竜の所まで跳躍する。

 

 

 ──…ごめんッ!会長!ハァァッ!!

 

 

 彼は双剣を構え、トドメを刺すように斬り付けに行く。しかし、竜の方もブレスで対抗する。ブレスと剣がぶつかり合う。

 

 

 ──ッ!うおおおぉぉぉぉぉぉ!?

 

 

 彼の身体は、その豪炎を一身に受けた、しかし、彼の火耐性の上がる防具のお陰で、火傷すら身体にはつかない、しかし、武器は耐えきれず、片方の武器が蒸発してしまった。

 

 

 ──まだッ!終わらないッ!はあああァァァァァ!!

 

 

 残りはフランベルジュのみになり、それでも前に、ブレスを引き裂こうとする。…そうすると、突如、ブレスが止んだ、竜が毒のダメージに耐えきれず、よろけてしまった。

 

 

 ──今だッ!ハッ!断空牙(だんくうが)ッ!会長…安らかに…眠ってくれッ!

 

 

 彼はまず横に払って翼を斬り、地に叩きつけるように縦一閃をし、竜が地面に落ちた後、落下しながら、胴体に、突き刺すように上から剣を突き刺した。

 

 

 ──……会長…

 

 

 血飛沫は止まらず、彼はその血を一身に浴びている。その血飛沫が止んだと気づいた時には、ココは人の身体に成っていた。

 

 

 ──会長…元に…!?

 

 

 そういいながら、抱き抱える

 

 

 「…ソノ…声は…マキの声デスネ…」

 

 

 ──あぁ…そうだよ…

 

 

 「…フフフ、ワタシ…強かったデスカ?」

 

 

 ──あぁ…強かったよ。俺1人じゃ、絶対に…敵わないくらい…

 

 

 「…ソウイエバ…マキには、渡さないと…イケないものガ…アリマシタネ…」

 

 

 そう言って彼女は懐から、綺麗な宝石を取り出した。

 

 

 「これは…ワタシの…桐生会デノ…特別な人ニシカ…渡サナイって決めてた物ナンデスヨ…?」

 

 

 ──何で、それを…?

 

 

 「ワタシのダーリンである…マキに…これを渡シマス…」

 

 

 そう言ってココは、魔切の胸ポケットに宝石を仕舞い込んだ。

 

 

 「これで…ワタシとマキは…一緒に…成れマシタネ…?」

 

 

 ──…あぁ…成れたよ。ありがとう…

 

 

 彼の顔から涙が溢れ出てきている。

 

 

 「…泣いた顔はbatデスヨ?…ほら、スマイル、スマイル…」

 

 

 ──…ごめんッ!助けられなぐて…俺が…守れなぐて…

 

 

 彼はそう言いながら、笑おうとした顔で、涙を流しながら、言葉を発する。

 

 

 「…ワタシ…幸せデシタヨ…マキが…ワタシの…タメニ…自分の体質すら…克服してくれたノハ…」

 

 

 彼女は、今も苦しみながら、しかし、愛を伝えるために、言葉を紡いでいく。

 

 

 「ダカラ…ここでワタシが…死んじゃうノハ…正直に言うト…イヤデスヨ?」

 

 

 ──会長……ココ…会長…ッ!

 

 

 「でも…そろそろ…限界…デス……最後に…耳を 貸してクダサイ…」

 

 

 彼は涙を拭い、耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Thank You My Dear(ありがとう、私の愛しき人)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言うと、彼女は力なく崩れる。呼吸も止まり、死んだことが分かる。

 

 

 

 

 

 ──…卑怯…だよな…自分ばっかり…愛を伝えてさ…いくら時間がなかったとは言え…一言くらい…俺にも言わせてくれよッ!愛…してるってさッ!

 

 

 

 彼の嘆きは虚空へ消え去る…。…その数分後に、自宅に、学園に戻っていた組が到着し、そこで泣き崩れる。魔切と血を流して抱き抱えられているココの二人を発見する。その空間に…入ることさえ出来ずに…他の人間は、ただ、彼が泣き止むのを、見守るしか出来なかった。

 

 

 

 日が暮れる、その直前に起きたこの悲劇は、後に後世に物語としてそれは語られる。それは彼を竜殺し(ドラゴンスレイヤー)として讃える者達によって語り継がれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜騎士 七夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このように語り継がれていくことになる。その語り部は…今は触れないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が過去に思いを馳せながら気が付くと夕暮れに成っていた。あの時と、同じ夕暮れに。

 

 

 

 ──…帰ろう。まだ人間であるうちは…ご飯を食べて、寝て、色んな事を…しないといけないもんな…

 

 

 彼はそう呟くと、翼を広げ、帰路に着く。

 

 

 ──明日も、その次の日も、俺はこうやって、生きていくんだろうな…ありもしない。奇跡を信じて…

 

 

 

 人と竜。二人の愛を裂いたものは、無知な人であり、人の業とは、ここまで無惨にもなるのだと、彼は実感した。彼はそれを気づかぬ振りをして、過ちを、自分達以外にも、見つけた場合には、恐らく彼は滅ぼしにかかるだろう。いまはまだ、眠れる竜の騎士。人として生きている限り、その世界を滅ぼすことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2度と救われない、愛と哀しみの竜騎士。その苦しみを取り払うのは、もう少し、未来の話である。それまでは、永遠に苦しみ、嘆くしか、方法はないのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ここのPP天使は『パンチのパワーがイカれててる天使』でPP天使です。

 悶え苦しみながら書きました。
 
 ちょっとした読者にヒント。矢が刺さっているのに街の人は「見つけた」と言っている。


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『フブキ』 とある1日

 推しが本編で出てくるので、こっちも衝動で書きました!何でこっちの方が早く書くんだよ!(ガチギレ)やっぱり…曇らせるのは…主人公ではなく、こっちなんだよなぁ…

 フブキちゃんが酷い目に会うので…苦手な方は即ブラウザバックをお願いします。

 何も…全てが主人公の曇らせを書くとは言ってないからなぁ…


 ふと、視界に光が飛び込んできた。その影響で、彼女は目を覚ますことになった。正座をしていて、髪が毛先が黒く、生え際に向かってグラデーションのように白くなっている髪を持つ。そして、獣人特有の耳を持ち、そちらも基本は白いが先が黒くなっている。

 

 恐らく狐の獣人だろう彼女はゆっくりと目蓋をあける。その目は青い目と赤い目のオッドアイ。瞳の中に光がなく、虚ろを見るような感じで空を見上げる。

 

 

 「…あぁ…今日も、何もない平和な日ですね…」

 

 

 彼女の名は…『フブキ』。かつては苗字があったかもしれないが、今は彼女が名乗れるのは、名前のみとなっている。

 

 

 「今日も、このまま平和に終われば、私は楽なんですよね~」

 

 

 彼女はそう言って、立ち上がる。

 

 

 「さぁてと、ちょっとだけ伸びをしましょー。」

 

 

 彼女は寝るときは基本、正座で寝る。いや、そもそも、彼女はもう睡眠や食事をあんまり必要とはしない。彼女は周りの魔力を吸収すれば、もう生命活動に問題はない身体になっているのだ。しかし、彼女が寝るのには、理由がある。

 

 

 「…ったく、ようやく動けるのに、何でアタシがこんなことしねぇといけねぇんだよ…」

 

 

 ふと、彼女が呟く、その口調は先程とは違い、荒々しく、冷たさを感じさせる喋り方になっている。

 

 

 「…いい加減、目を覚ましやがれよな…お前の振りをするのは苦手なんだよ…」

 

 

 これが、彼女がかつて白上フブキと名乗れないもののひとつである。彼女の名は…ここでは黒上としておこう。

 

 

 その彼女は、とある原因で白上フブキの中で誕生した人格なのだ。誕生した原因は後に語るとしよう。

 

 

 彼女はもう一度、伸びをした後に正座をして、身を瞑る。そうして、自分の中にいるもう1人の自分…いや、この身体の本体の人格である。白上に声をかける。

 

 

 「(おい、調子はどうだ。いい加減に…はぁ…)」

 

 

 「(許して下さい…許して下さい…私は…あなた達を…)」

 

 

 心の世界、そこで二人は会話をする。片方はずっとなにかを謝るように、懺悔をしているように手を前で組合せ、祈っている。それを見ているのが、先程までは現実世界を行動していた。黒上である。

 

 

 「(まだやってんのかよ。いい加減目を覚ましやがれ!そんなこと言ってもお前が好きだった奴らなんて戻って来ねぇんだよ!)」

 

 

 「(黒ちゃん、私は悪いことをしたんだよ?だから謝ってるだけ、どれだけ届かなくても、私は皆を手にかけた…あの人にも…あれ?あの人って…誰だっけ…?)」

 

 

 白上は急に頭を抱える、まるで思い出さないようにしていたものを、思い出す時みたいに…頭痛が起こっている。

 

 

 「(不味いッ!おい思い出すなッ!ちくしょう!口に出すべきじゃ…)」

 

 

 「(あ…あぁ…私は…彼を、殺…し、た?う゛あ゛あ゛あ゛ァァァァァ!?)」

 

 

 「(くそッ!眠ってろッ!)」

 

 

 「(うっ………魔切…くん…)」

 

 

 「(…ふぅ…なんとかなったな。しかし、一体誰なんだ…その魔切って奴は…恋人だとは分かるが…何かアタシが生まれる前に何があったんだ…)」

 

 

 彼女の周りが突然、魔力の衝撃波が発動しようとしていた。白上の感情の暴走による、魔力の放出が原因になっている。

 

 

 しかし、発動する直前に、黒上が寸前で気絶させることにより集まった魔力は霧散していく。

 

 

 「(また眠っちまった…こうなるとしばらく起きないぞ…また、目が覚めるまでアタシはここで待たないといけないのか…次は何時目覚めるかねぇ…?)」

 

 

 彼女はそう言うと、その場から動けなくなっている。本体の白上の意識がなければ、彼女は身動きが取れないのだ。

 

 

 彼女が起きて、行動しているときは必ず、彼女に行動許可を貰ってから行動する。帰ってくる返事はなくとも、そうしなければ、行動できないのだ。

 

 

 「(また…あの夢でも見てるのかねぇ…)」

 

 

 黒上は、何度も白上の夢を見ている…いや、見せられている、が正しいのだろう。

 

 

 白上は気絶をすれば、同じ夢を見るのだ。白上にとっての悪夢を毎回見続けるのだ。

 

 

 そのせいで黒上は何度もそれを見てしまっているのだ。同じ身体に存在する人格でも、産まれかたが特殊な黒上は同じ夢を見てしまうのだ…

 

 

 「(…アタシが産まれる原因になった事件…あいつが暴走したあの日、ここが廃墟になっちまった…らしいんだけど、そんなのアタシが見ても、なんも分かんないしなぁ…ま、今回も上映が始まるらしいし…飽きてるけど、見るか…)」

 

 

 彼女はそう言うと、その場で腰を降ろし、正座になって夢を見る。…悪夢の事件の全貌を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~■■■■年前ホロライブ学園~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ァァァァァ!?」

 

 

 ──フブキッ!落ち着けッ!何をされたんだッ!

 

 

 「無駄ですよぇ…その小娘はもう既に理性を失くしている…何をしても暴走は止まらない!加速していくのだ…ッ!破滅へとッ!では、私はこれにて失礼します。せいぜい、足掻いてくださいな。アッハッハッハッ!」

 

 

 ──お前ェェ!!待てッ!逃げるなッ!卑怯者ッ!

 

 

 男はそう言うと姿を消す。魔切は罵るが、その声は虚しく、ただ虚空へと叫ぶことになった。

 

 

 そして、声をあげた魔切に対して、白上が攻撃を仕掛ける。

 

 

 ──ック!…フブキ…どうしたんだよ…

 

 

 「ヴアァァァ!!」

 

 

 ──ッ!危ない…気を抜けば…やられるな…!

 

 

 白上は理性はない、しかし、身に付いた戦い方は、理性がなくとも本能で使うことができる。

 

 

 白上の戦い方は、主に抜刀術を使う。抜き身で使うのはほとんどなく、鞘を使って、非殺傷の戦いかたをするが、今回は本当の抜刀術を駆使して襲い掛かってくる。

 

 

 彼女との手合わせがなければ、魔切は始めの一撃で胴が二つに分かれていたであろう。

 

 

 「ウガァァァ!?」

 

 

 ──うっ…傷付けることは…出来ないッ!…でも手加減も出来ない…皆が来るまで、俺が何とか食い止めないと…

 

 

 彼はそう言って武器を構える。しかし、武器は刃が潰れていて、切ることは出来ないようにしている訓練用の武器を、全ての武器を訓練用の武器に替えて戦闘をする。

 

 

 ──多少の打撲は許してくれよ…!蒼破刃(そうはじん)ッ!戦迅狼破(せんじんろうは)ッ!

 

 

 「ヴッ…ガァッ!!」

 

 

 彼が技を使って攻撃を仕掛けるが、白上はまず、始めの技を切り捨て、その後に相殺するように技を繰り出した。彼女が得意とする技…裂震孤砲(れっしんこほう)である。それを使い、相殺した。

 

 

 ──マジかよ…流石だな…フブキは、一筋縄じゃあいかないよな…

 

 

 魔切は武器を変えることは出来ない、唯一、彼女と互角に戦えるのが、双剣の時だけなのだ。なので下手に変えると隙を付かれて死ぬ可能性がある。だからこそ、本来の戦い方が出来ずに苦戦を強いられている。

 

 

 「ウウッ…わ、たし、は…」

 

 

 ──ッ!フブキッ!俺だ!分かるか!?

 

 

 「魔切…くん?うぅ…頭が…痛い…!」

 

 

 白上は、少しだけ意識を取り戻す。理性を失わされたが、腐っても神性持ち、ちょっとは抵抗出来るだろう…しかし、その性質を持つからこそ、狂ったのだが。

 

 

 ──(そういえば…いつもの刀じゃない!あの刀が原因か…?)

 

 

 「うぐっ…誰…?貴方は…誰、何ですか!」

 

 

 白上は刀に向けてそう言う、恐らく、呪われた刀…妖刀の類いなのかもしれない。それを白上が使ったことによる。暴走が事の発端だった。

 

 

 白上は、それを貰っただけなので、あまり記憶が無いが、手に取った瞬間に、その妖刀は神性と干渉し、その身体を乗っ取ろうとした。

 

 

 しかし、白上はそこそこ高い神性を持っているので、お互いに抵抗しあい、暴走していたのだ…

 

 

 白上を探していた魔切がその妖刀を貰う瞬間を見ていないので、始めは理解が出来なかったが、今、それを理解し、刀を手離すように説得をする。

 

 

 ──フブキッ!その刀を離せ!じゃないとお前が苦しむッ!

 

 

 「分かり…ましたッ!…離れて…離れてッ!」

 

 

 「(無駄だ!もう貴様はこの刀を手離すことは出来ぬッ!我が名はラムダッ!その手に持った時点で我との契約は成された。2度と逃れることは無し。その身を我に捧げよ。そして、私は神の力を手にし、この世界を征服するッ!)」

 

 

 白上は必死に抵抗するが、刀の意思により、手離すことが出来なくなっている。

 

 

 「離…れないッ!…うぅ…魔切…くん…貴方、だけでも、逃げ…て…!」

 

 

 「(この娘…まだ抵抗するかッ!ええい!こうなればもう一度狂ってしまうがよい!)」

 

 

 ──出来るかよそんなことッ!…大丈夫だフブキ…覚悟は出来た…お前が狂っても、直ぐに元に戻してやる!…来いッ!

 

 

 「あ、う、ウウッ…ウグアァァァ!?」

 

 

 白上は刀の力によって、また狂ってしまった。彼はそれを止めようと奔走する。

 

 

 再び、狂ってしまった白上を魔切は気絶を狙って、攻撃を仕掛ける。意識を失えば、フブキが苦しむことが無くなり、その間に刀を回収すれば、もしくは破壊すれば、彼女を救えると、魔切は隙を狙い続ける。

 

 

 ──………………ッ!今だッ!そこッ!蹴り穿つッ!

 

 

 魔切は白上が動き止めた一瞬に懐に入り…蹴りを喰らわせる。本来はあまり力を加えないが、気絶させるために本気の蹴りを入れた。

 

 

 「ガハッ!……」

 

 

 ──…動かないか…?今のうちに…ッ!

 

 

 魔切が近づこうとした時に、白上は抜刀した。それに僅かに反応が遅れたせいで、服を少しだけ斬られてしまう。常人であれば、反応はすれど、気付いた時には斬られているだけだが、白上と一応は互角に戦える魔切は、油断したがゆえに傷はしなくても、斬られたことに生命の危機を感じていた。

 

 

 ──理性がある時よりも…頑丈だし、強い!ちょっとやそっとじゃあ、気絶はしないか…

 

 

 「ウウ…ウガァァァ!!」

 

 

 「(素晴らしいな!この身体は!是非とも我はこの身体を手にし、世界を血染めにしてくれようッ!)」

 

 

 白上は起き上がり、構えた後に、突っ込んでいく。そして白上が得意とする抜刀技、葬刃(そうじん)という技を繰り出す。刀のバフも乗り、その力は増幅していく。

 

 

 ──ッ!疾いッ!…フブキは、苦しんでる…絶対に、だから早くしないと…!

 

 

 魔切は構えるが、あまり力が入らない。恋人を傷付けなければいけないと考えてしまうから、魔切は籠める力が全力ではないのだ。

 

 

 何処かで、セーブを掛けるせいで、魔切は十分に戦闘をすることができないのだ。防戦一方になっているのは、そのせいなのだ。

 

 

 何度目かの攻防の末、魔切は覚悟を決めたかのような顔をする。…決意は、(みなぎ)ったようだ。

 

 

 ──…終らせようッ!いくぞッ!

 

 

 「ウグアァァァァ!!」

 

 

 「(終らせてくれるッ!我が征服の(かて)となれッ!)」

 

 

 お互いに駆ける。そして、二人がぶつかる寸前…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔切が武器を手離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

グサッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ア、ア、…え?…魔切…くん…?」

 

 

 「(バカなッ!奴は何を考えてるッ!?)」

 

 

 ──…どうやら…これが、正解かな…?ゴホッ!

 

 

 魔切は今腹部に深く妖刀が突き刺さっている。そこから止めどなく、血が流れ出ている。

 

 

 「え…あ、あの…ちりょ…」

 

 

 白上が最後まで言いきる前に、唇に柔らかいものが触れた感触をした、口づけをしたのだ。しかし、その味は、甘酸っぱい初恋の味ではなく、鉄の味が、血の味がしていたのだ。

 

 

 「…あ、え?はにゃ?にゃにを…?」

 

 

 ──…ごめんな?…こうやって、眠り姫を起こさないと、いけないと、思ったからさ…この通り、元に、戻ってくれた…だろ…?

 

 

 「…あ!治さないと…でも、これ、治癒魔術…どうしようッ!」

 

 

 「(くそッ!なぜ自由が効かないッ!こちらの干渉を…遮ってるだとッ!生意気な…!)」

 

 

 ──フブキ…俺は止められなかったよ…お前を、ちゃんと、恋人として…救いたかった…ゴボッ

 

 

 彼は言葉を紡ごうとする。しかし、傷は深く、早く治療しなければ、魔切は死ぬだろう。しかし、誰かが来る気配はなく、白上も治療の術を持っていない…

 

 

 「喋らないで下さいッ!今、これを…」

 

 

 ──…もう良いよ。…俺はもう、ダメだからさ…

 

 

 「そんな…諦めちゃ駄目ですよッ!もっと…私と…生きてくださいッ!」

 

 

 彼女は泣きながら、彼に懇願する。…しかし、時というものは残酷で、魔切がもう助かる範囲のことは、出来なくなっていた。

 

 

 ──俺も…一緒に、生きたかった…遊んで、愛し合って、それで一緒に暮らせば、俺は幸せだった…だけど、もう無理かな…?

 

 

 「そんな、私の、せいで…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

 彼女は自分のせいだと嘆き、懇願し始める。それを見て、魔切は涙を拭いながら頬を撫でる。

 

 

 ─フブキ、フブキは悪くないよ、悪いのは、…そうだなぁ…確実に、悪いのは…アイツだけど、こんな選択をした、俺も悪いよ…。絶対に、フブキが…ガハッ…悲しむって…分かってたのに、死ぬだろう攻撃を、受けたんだからさ…ケホッケホッ

 

 

 「魔切…くん…。」

 

 

 ──だからさ…フブキ…あの日の…誓いは守れなくても…俺が、ずっと、お前の傍からは、離れないよ…

 

 

 口元は血で汚れ、目が霞み、意識も朦朧とする中、彼は最期に言葉を届ける。

 

 

 ──そうだなぁ、改めて…ここで、誓うよ…俺は、永遠の愛を…君に、誓う、よ。愛、して…る。だか…ら…生き…て…く…

 

 

 彼はそのまま目を瞑る。そして、2度とその目が開く気配は、ない。白上はその言葉を泣きながらも、全て聞き逃さずに、黙って聞いていた。

 

 

 「…はい、その言葉、しっかり、聞き届けました…」

 

 

 「(恋愛ごっこは終ったかよ…こんなもん見せやがって…下らねぇッ!)」

 

 

 「ピクッ…恋愛ごっこ…だと…?」

 

 

 刀の言葉を聞いた瞬間、空気が変化した。そこには、白上では到底出せない雰囲気を醸し出していた。

 

 

 「(…!?なんだッ!この力は…!こいつ、こんな力をどこにッ!…?)」

 

 

 「…どうやら…よほど自分の存在を消し去りたいようだなぁ…?」

 

 

 白上の辺りの魔力が変化していく…神性の満ちたものからどす黒く、歪んだ魔力が辺りに満ちていた。

 

 

 「(こいつ…雰囲気が変化した…!不味いッ!早く乗っ取らなければッ!)」

 

 

 「無駄だッ!もうてめぇが逃げる術はねぇんだよ!大人しく成仏しなッ!」

 

 

 「(バカなッ!我の存在が…喰われている!?くそッ!逃げれんッ!何なのだこの娘はッ!)」

 

 

 周りの魔力が、刀を覆う。それは、刀の意思を奪うもの、存在を消し去り、喰らい尽くす暴威。その魔力は全てを喰らい尽くすと、霧散していった。

 

 

 「…ハッ!口程でもなかったな。…ったく、アイツ…ムカついていたが…何にムカついていたんだ…?ま、いっか!どうせアイツは消えて良い奴だと思うし、…なんだ…?ずっと泣く声が聞こえる…?」

 

 

 「(…生きないと…生きないとッ!私を…不幸にした奴らを…許さないッ!)」

 

 

 「ッ!なんだ…?急に…意識が…」

 

 

 彼女はその場で急に意識が暗転する…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …気がつけば、辺りは瓦礫の山に成っていた。自分が通っていた学校は見るも無惨な姿にそしてあらゆる施設、いや、建物が自分の目の前から消え去っていた。あるのは、コンクリートや木材の残骸のみ。これは、1人の獣人により巻き起こったことである。

 

 

 「私…何てことを…」

 

 

 白上は、目の前の惨状が自分で起こしたことを理解した。故に、好きだった友人、慕ってくれた後輩、安らぎの場所、そして彼の亡骸。それらを全て喪ったことになる。

 

 

 「……あ、あそこは……」

 

 

 彼女の目線の先にあるのは一本の木。春には桜が咲き、恒例のデート、告白スポットとして有名で、ここで誓った愛は必ず叶う。とまで言われるぐらい。有名処だった。

 

 

 「…護ろう。私は…何もなくなったけど…この木だけは…護らないと…ッ!」

 

 

 彼女は、ここで、彼との誓いをし、見事に結ばれた。しかも、上級生と下級生という異例のカップルなので有名になるのも早かった。そして、彼女も彼とここで誓いをたてていた。別の場所であったが、先程の物も含めて、彼女はここを護ることを決意した。

 

 

 「そういえば…今まで、私って何をやってたんだっけ…?」

 

 

 彼女は、ここで心因性の記憶障害が起きていた。ここで何をやっていたか、誰かと遊んでいた。誰かと付き合っていた。その記憶があれど、明確な記憶は完全に忘れてしまっている。

 

 

 …短期のではなく、これは何かきっかけが来ない限り、思い出せないだろう。一時的に思い出せても、直ぐに忘れる。そういう…いわば彼女の罰である。彼女が、己に罰した結果。記憶を喪ってしまった。

 

 

 「…どうしよう…私って何をやれば…」

 

 

 「(うるせぇなぁ!少しは寝かせろッ!)」

 

 

 白上があわてふためいていると、何処かから声が聞こえてくる。それが自分の身体の中から聞こえてくることがわかった。白上は目を瞑り、なんとなく、気配を探る。

 

 

 「(…誰ですか!?)」

 

 

 「(あん?てめぇこそ誰だよ?)」

 

 

 自分が心の世界に入ると、自分に似た存在を見つけ、思わず声をあげてしまった。心の世界を見れる時点で人外ではあるのだが、彼女は自然とそれを受け入れている。

 

 

 「(私ですか…?私は…あれ?フブキですけど…あれ?苗字…苗字って…何でしたっけ?)」

 

 

 「(…こいつ…まさか…!忘れたのかッ!くそッ!不味いぞッ!あの時みたいにやられたら…)」

 

 

 彼女が存在を忘れる。それは、自身の危険も兼ねている。存在を忘れれば、何をしでかすかわからない。意識を失う前に自分が感じたあの感触を、2度と起こさないように、彼女は説得する。

 

 

 「(お前はフブキだッ!それ以上でも以下でもねぇ!何かいろいろあるだろうが、今は生きることだけ考えろッ!」

 

 

 「(生きることだけ…そうですね。私は生きないといけないですもんね…。では、よろしくお願いします!…え~っと…黒ちゃん!)」

 

 

 「(あん?誰だよ黒ちゃんって…)」

 

 

 「(黒ちゃんは貴女ですよ!だって、名前無いんですよね?)」

 

 

 「(なんてそんなところは敏感なんだよ…まぁ良いや、黒ちゃんで良いよ。よろしくな、フブキ。)」

 

 

 こうして彼女達は二人でこの木を護っている。この木は1000年以上経つ今でも、桜が満開する。不思議な木。違和感を持つものは誰もおらず、ただ、2人は護っている。…2人とも、本当の意味も分からずに、ただ、記憶のもと、そこを護っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(ったく、ようやく終ったかよ…長ぇし、自分の所も何でか見れるし、気持ち悪いんだよなぁ…アイツはここから、幸せな記憶を見れる。アタシはそれを知ってるけどあいつには言わない。言ったらさっきみたいにぶっ壊れるからな!)」

 

 

 彼女は、長い上映を終えた客みたいに、立ち去ろうとする。しかし、どこにも逃げ場はなく、ただ、白上が目覚めるのを待っている。

 

 

 

 

 

 幸せな夢、過去の夢、それを今だけは…彼女に見せておこう。彼女達はもう現実を見れない(見ない)、希望を感じれない(抱かない)、周りを聞けない(知りたくもない)

 

 

 

 

 

 

 

  だからこそ、もう2度と助からない。救われない物語。これを救ってくれるのは…もう少し未来の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 番外編に力を注ぎ過ぎた…不味いぞ?本編全然かいてねぇ…

 誰かこのフブキを幸せにしてやってくれ…設定送るので…


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遊星七夜 とある1日

 番外編に力を注ぐので初投稿です。ちょっと追い付いてないということを言われたので先にこちらを埋めていこうと思います。気になる方のみ見ていただけたら嬉しいです。


 先に言っておく、フレアは一切喋らない。………先にイチャイチャ書くから許して!


 風が吹き荒れ、森をざわめかす。しかし、その森に生命の気配は少なく、淀んだ空気が、漂う。そんな中、森の奥から、声が聞こえる。争う音、悲鳴、怒号。

 

 

 ──まとめて死ねぇッ!"精霊装填(リロード)、精霊共ッ!その命、燃やし尽くせッ!"『精霊分解(ディスインテグレイト)ッ!』

 

 

 「精霊様を…人間ごときがッ!ぐはぁッ!」

 

 

 超大型の拳銃を持った青年が、そこら辺に居た小精霊を取り込み、黒色の光に、中央が血のような赤い光を放ちながら、それは一直線に敵に向かう(某ビームみたいな感じ)。それと同時に、取り込まれた精霊の存在も消滅し、その一撃は耳の長い一族に当たる。彼らはエルフと言われるもので、精霊と共存し、森の中でひっそりと暮らす一族だ。

 

 

 彼らは今、青年によって、攻撃を受けていた。当たったエルフ達は、その場から影も形もなく消滅する。周りの妖精も、悲鳴をあげながら消滅していく。掠り傷で消滅する。それがこの銃の特徴だ。

 

 

 ──はぁ、はぁ、ようやく、この辺りの奴らは全滅したか…次に里周辺を警備してる奴を誘き寄せたら、今日は終わろう。少し疲れた。

 

 

 彼はエルフを憎んでる。その理由は後程明かされるが、憎んで仕方がない。絶滅する勢いで、彼はエルフを狩り殺してる。現状、彼がエルフの人口の7割を絶滅させている。たったの半年で、殺し回ったのだ。時折妨害も受けたが、大半は一度の襲撃の時に刈り取ったのだ。

 

 

 ──…里を発見。やっぱり居るよな、気配でわかる。全く、懲りもしないでよく俺を止めるよ。…アキ先輩。

 

 

 

 「…魔切君…もうやめてよッ!なんでこんなことを…!」

 

 

 ──わかるだろ…?エルフは皆殺さないと、あんな奴らが居たから、彼女は…彼女が犠牲になったんだろッ!?

 

 

 青年は魔切と言い、かつては優しかった青年。しかし、とある事件から、絶望し、怒り、この世のエルフを殺し尽くさんとする災害になってしまった青年だ。

 

 

 彼は、こうなったのは、ひとえに愛するものを失ってしまったから、そしてそれが、エルフが原因だということを知り、全てをエルフを殺すととある星の元に誓ったのだ。

 

 

 「それは、何かの間違いだよッ!だって…」

 

 

 ──何故、そう言いきれる。あいつらは…フレアが犠牲になって、喜んでいたんだぞッ!陰でそんなことを言っているのは、俺が知っている。だからこそだ。自分の身を絶対だと信じる奴らに、俺は制裁を味わってもらってるのさ。そんな存在は、この世に居ないってことをなッ!

 

 

 「魔切君…」

 

 

 彼は息を荒くしながら、そう叫んだ。その目は憎しみの炎を宿してギラギラしている。そしてまた、口を開いた。

 

 

 ──そこを退いてくれ、俺はハーフエルフを殺すつもりはないんだ。殺すのは、純粋なエルフのみ。…混じっているという理由だけで迫害する高貴なエルフ様には理解してもらわないとな…お前らが下劣という人間に惨たらしく殺されるのを。

 

 

 「…ダメだよ。私は退かない。これ以上、魔切君を、傷付いてほしくないから。」

 

 

 ──傷付く…?ハッ!もうあれ以上の哀しみや傷は、増えないよ。だから…そこを退けッ!

 

 

 そう言って、彼はそこら辺に漂っていた精霊を吸収する。そして、それをアキの後ろに隠れていたエルフに向けて、放つ。

 

 

 ──"精霊装填(リロード)、精霊共ッ!その命、燃やし尽くせッ!"精霊分解(ディスインテグレイト)ッ!

 

 

 「なにッ!?ぐあぁぁ!?」

 

 

 「そんなッ!なんで…」

 

 

 それは、アキを通り過ぎ、後ろに隠れてたエルフに直撃した。そのエルフは先程のエルフ同様消滅する。

 

 

 ──ふんッ!所詮はエルフ。先輩を囮にして俺に攻撃を仕掛けようとしたんだろ?下らねぇ!だから嫌いなんだよ!エルフって言うのは、自分を絶対だと信じ、誇りだのなんだの言って、結局は無駄に何にもしないで長生きするだけの種族なんだよ!

 

 

 「ッ!そんな言い方…ッ!」

 

 

 魔切がそう吐き捨てると、アキは涙ぐみながら睨み付ける。そうすると、バツが悪そうに顔を反らし、黙り込む。

 

 

 ──俺を、そう思わせたのは…あいつらだ。…世界樹は、そんなに大切なものなのかよ…ッ!人の命を使ってでも静めないと行けないものだったのかよッ!フレアが…生贄になる価値が、あの木にはあるのかよ…

 

 

 「魔切君…それは、」

 

 

 ──…良かったな。興が削がれた。今宵の狩りはここまでだ。また、邪魔だけはするなよ?…全部終わらせるまで、俺は止まれないんだ。

 

 

 そう言って、魔切は立ち去る。それをアキは彼の姿が見えなくなるまで、憂いを帯びた表情を浮かべながらずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数刻歩いて、とある建物が見えた。それは、木製の家屋であったが、辺りには花が咲き誇り、一つ一つ丁寧に手入れされている。彼の拠点であり、フレアとの思い出の場所でもある。

 

 

 ──…ふっ、ここまで、侵食されているとはな。力を使っても居ないのに、なんでここまで侵食されてるんだろう?…いつか俺は、侵略者になるだろう。

 

 

 彼はそう言って服を少しはだけさせる。そうすると、普通の人間ではあり得ない紫色に黄色い線が入った、まるで、バグに侵食されているような状態の右腕になっていた。それは胸の辺りまで広がっており、すでに首の辺りまで届きそうな速さで侵食されているようだ。

 

 

 ──力を使う代償とはいえ、随分と早いじゃないか。そんなに適合しやすかったのか…?俺が、侵略の尖兵としての適正が、…この星を滅ぼすのに、そんなに都合がいいのかよ…まだ、俺はこの身体を渡すわけにはいかない。終わったら潔く渡してやるから、少し待ってろ。■■■■■■■。

 

 

 彼が、この身体になったのは、今から数か月前。とある事件により、この身体になり、エルフを皆殺しにすると誓った時でもある。   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~約半年前~

 

 

 

 

 

 

 

 ここは学園の研究室。教授と言われる先生が特別に設けている教室だ。不人気の黒匣(ジン)を取り扱ったり、研究するための教室で、この学園では、1人の生徒しか、この教室に入っていない。

 

 

 ──教授、荷物はこの辺りでいいですか?

 

 

 『おお、その辺りで大丈夫ダヨ。いつもすまないネ。』

 

 

 ──いえ、それよりも、今日こそお願いしますよ?黒匣(ジン)をみんなのために使えるようにするって、テロやそう言ったことを騒いでる人達を捩じ伏せて研究している、そんな教授に感銘を受けて手伝ってるんですから。

 

 教授は、基本は数学を教えている初老の男性なのだが、黒匣(ジン)の医療や介護への転用。共存のための改良も、研究として行っている。《精霊のための家というものを作りたい》と言っていた教授に憧れて、魔切はその研究を手伝っている。

 

 

 実際、まだ研究段階なのであまり成果は出ていないが、少しずつ精霊が苦しまない方法が産み出され、今度医療用の黒匣(ジン)を試作し、それを論文にして発表するというところまで来ているのだ。

 

 

 

 『ハハハ、勿論だヨ。私が彼らのような凶悪な犯罪を犯さないように、医療や共存のために研究している。それを片時も忘れた事はないヨ?魔切クン?』

 

 

 ─えぇ?本当ですかぁ?前は娘が寄り付かないようにするにはどうすれば良いか全力で悩んでたじゃないですか?

 

 

 教授には中等部の子供が居る。その子は大変モテて、最近気になる男子が居るかもしれないと、親バカを発動しているのだ。そのせいで、研究を放り投げて、1日付き合わされたこともあったぐらいだ。

 

 

 『私の大切な娘に寄り付くクズ共など星を数えるほど居るのは仕方ない。だからこそだヨ。私が守らなければならないのだヨ!それぐらいは許して欲しいんだけどネ!?』

 

 

 ──はいはい、また後で考えてあげますから、医療黒匣(ジン)の論文の発表の方が早いんですから、早く纏めますよ?…あれ?これは何ですか?拳銃…にしてはかなり(いびつ)な…

 

 

 魔切は資料を纏めるために棚から色々な資料を手に取っていると、棚から拳銃のようなものが出てきた。それは、普通の拳銃ではなく、少し、マグナムよりも大きくて、そして、特徴的なのは、カートリッジが存在しない。まるで、弾を使わない銃だと、魔切は感じた。

 

 

 『それは触らない方がいいヨ。失敗作だ。君が持つには相応しくないヨ。それは破壊しか出来ない代物だ。今度破棄しておくから、資料を纏めておいてくれないかネ?』

 

 

 ──…わかりました。早く終わらせて、フレアのところへ帰らないと、今日はさっさと帰りますよ。いつも遅くなって、怒られるの俺なんですから…

 

 

 魔切は、そう言うと、銃を元にあったところに戻し、再び資料を纏め始めた。教授もそれを横目に資料を纏め始める。そして、ふと、教授は何かを企むような顔をして

 

 

 『…!それにしても、君達もお熱だねネェ…熱々だネ!何処まで関係を進めてるんだい!良ければ私にも教えてくれないかネ!』

 

 

 ──ちょっ!?なんでそれを今思い出したかの様に聞くんですか!?そんなことより!!早く仕上げますよ、じゃないと今日も明日まで延長コースなんですから!!

 

 

 彼は、顔を真っ赤にして、照れながら、怒りながら、資料を纏めあげている。教授はその反応が面白かったのか、笑いながら、資料を纏めた。

 

 

 

 『ハッハッハ、すまないネ。それじゃあ始めるとするヨ。まず、この回路が…』

 

 

 そして、講義の練習や、ミスがないかの確認しながらリハーサルをしている。ようやく、悪い印象しかない黒匣《ジン》を(おおやけ)に出せる様になった。それを証明する。大事な事なのだ。失敗は許されないため、念入りにチェックしているのだ。

 

 

 『…ということで、これを新たに《精霊匣(オリジン)》として我々人間と共存のための第一歩をここに発表したいと思う。…どうだったかネ?私の演説は?』

 

 

 ──…特に問題はないと思います。…しかし、エルフは良い顔をしないでしょう。彼らしか扱えないと言っていたのに、そんな物が出来れば、何をして来るかわかりません。…最悪、圧をかけてなかったことにされるかも…

 

 

 『…確かに、そうかもしれないネ。でも、私は諦めないヨ!どれだけ掛かろうとも、必ず、これを広めて見せる。協力してくれるかネ?魔切クン?』

 

 

 ──ここまで乗っかった船です。フレアとも一緒に協力させて貰いますよ。…フレアも、これでようやく、魔術が使えるんですから。ちゃんと、良い報告出来そうだ…

 

 

 『フフフ…嬉しそうだネ?当然だネ、君の恋人のフレアクンもハーフエルフとはいえ、魔術を使えない、そんな体質の彼女が魔術を使えるようになるのだ。キミにとっても、これ程嬉しいことはないだろうネ!』

 

 

 そう、彼の恋人、フレアはエルフの血が入っているが、魔術を使えない、いわゆる、回路があっても、魔術を行使できない身体になっている。

 

 

 ──はい!フレアがこれで自分に自信を持ってくれたら嬉しいです。…って、もうこんな時間!?急いで帰らないと…

 

 

 時刻を見ると、7時を回っており、夜の帳も落ちて、街は街灯がポツリと照らし始めてた時間帯になっていた。

 

 

 『大事な彼女さんが待ってるぞ?早く帰ってあげなさい。心配しなくても、後片付けはやっておくヨ!』

 

 

 ──すいません、教授ッ!。お先に失礼します!

 

 

 『気を付けるんだヨ~!』

 

 

 彼は研究室を出て、夜の街を駆けていく。全速力で帰るため、屋根やビルを飛び越え、一直線にエルフの森のはずれの方へ駆けていく。

 

 

 ──フレア、怒ってるだろうなぁ…早く帰るって言ったのに、こんなに遅くなってしまった…急いで帰るぞッ!

 

 

 魔切が、フレアの家に着くのに、そこから30分位であった。木造家屋の花が一面に咲いている家は、彼とフレアが今、共存している家だ。

 

 

 ──着いた…あれ?明かりが付いてないな…?何処かへ行ってるのかな?…心配だな…フレアはこんな時間に留守にするはずもないしなぁ…

 

 

 家へと着いた魔切であったが、明かりが付いておらず、人気もないので、おそらく留守にしているというのがわかった。

 

 

 

 ──取りあえず、中に入ろう。もしかしたら寝てるだけかもしれないしな。

 

 

 そう言いながら、ドアを開ける。明かりを灯し、中を見渡すが、あるのは机の上の1通の手紙のみ。書き置きにしては、封に入っていて、きっちりとしていた。…魔切の脳裏に、嫌な感じがよぎった。

 

 

 

 ──…何故、こんな所に手紙が…俺宛か?…違うな、これは…フレア宛だ。…誰からだろう?

 

 

 少し怪しかったが、封は切られていたので、取り出し、拝読し始めた。

 

 

 

 《当然の手紙、誠に申し訳ない。私はとある族長を勤めている者だ。これは全てのエルフ、ハーフエルフに送っている。…世界樹様の怒りを我々は買ってしまった。それを沈めるには、この世に生きるエルフ族の血を引くものを、1名、世界樹様に捧げるというものだ。

 

 しかし、木元で暮らすもの達は自身の保身しかしない。なので、私が身を捧げようにも、反対が多く、どうにも身動きが取れなくなってしまった。…元を辿れば、貴様らのやったことなのにッ!…愚痴っぽくなってしまったな。

 

 本題を伝える。その御身を捧げる…もしくは世界樹様の怒りを、別の方法で止められるものが居るのなら、どうか、我々に力を貸してほしい。…君達には、愛するものも居るだろう。だから、無理にとは言わない。

 

 

 よく、考えてから行動してほしい。長くなってしまったが、エルフの存命に掛かっていることだ。よく、考え、悩んでから来てほしい…》

 

 

 彼は、その手紙を読むと、一目散に世界樹の元へ向かった。フレアはもしかして自分を…そう思い、夜の森を駆ける。嫌な予感を胸に抱えながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~世界樹の広場~

 

 

 

 

 

 彼が、その場に付くと、何事もなく、佇んでいる世界樹の姿があった。怒りを買っているのであれば、なにか変化があるはずの物が、何も変わっておらず、ただそこに悠然と構えている姿しかない。

 

 

 ──…(どういう…ことだ…?なにかあったからだと思ったのに…ドッキリか?イタズラであんなものを入れられたのか…?いや、そんなことはない。あの文章を書いたものは、そんな感じはしなかった。…じゃあこの現状は、一体…)

 

 

 彼が思考を巡らせていると、不意に声が聞こえた。耳を澄ませて、その会話を聴くことにした。

 

 

 「一時は、どうなるかと思ったが、案外、早く解決したな…」

 

 

 「全ては、あのハーフエルフが身を捧げると言ったからだな…」

 

 

 片方は煌びやかな格好をしたエルフ。もう一人は、ハーフエルフの男性のようだ。

 

 

 「無能なハーフエルフも、その身を使えば、多少の価値はあったというわけだな。素晴らしい。名誉ある行動だったじゃないか。死ぬ瞬間に、価値を作るとは…」

 

 

 「おい!その言い方は…」

 

 

 「何を言う?当然のことではないか!エルフのような高貴な血を、別の種族を入れて汚したものに、何の価値がある?世界樹様の贄になれたのなら、私達のために身体を張ってくれたのなら、罪を償ったのと変わりはない。だからこそ、感謝を述べているだけと言うのに…」

 

 

 「…これだから…エルフ至上主義派は…」

 

 

 「何か?」

 

 

  「…なんでもねぇよ…ほら、警備を続けるからどっか行けよ…」

 

 

 「あなたも、下賎なもの達の1人なのですよ?…生まれを恨みなさい。下賎な者のリーダーとして、あなたはここを任されたのですから…」

 

 

 エルフの方は、そう言って立ち去る。おそらく、ハーフエルフであろう男は、世界樹の前で膝をおろし、祈るように佇む。

 

 

 「すまねぇ…フレア、俺は止められなかった。お前も…愛するものが居たのに…何で…あいつらの為なんかに…」

 

 

 ──リーダーさん、こんばんわ。

 

 

 魔切は、自然と身体が動いていた。その顔は、まるで、何も感じさせない顔だった。

 

 

 「君は…フレアの…すまない!俺が、俺があんな手紙を出したからッ!フレアが来ちまったッ!ただでさえ、彼女は責任感が強いのは知っていた!だがッ!エルフの連中は、それを嬉々として利用したッ!実際に、手紙を出したのは、住所の分かるエルフとハーフエルフだけ、あんなの…ほぼ狙い撃ちみたいなものなんだッ!なのに…フレアは来ちまったッ!」

 

 

 ──それは、そうですね。…一つ、言っておきます。リーダーさんは悪くありません。…悪いのは…エルフ、ですね?

 

 

 魔切は、淡々と話す。まるで感情がないように、

 

 

 「違うッ!俺だ!俺が反対を押しきって犠牲になっておけばッ!こんなことには…!」

 

 

 ──それこそ、ダメですよ。リーダーさんはハーフエルフ達の纏め役、それこそ、死んではいけないじゃないですか?

 

 

 魔切は、無表情だった。しかし、目からは、僅かに、涙を流していた。ショックは受けている。でも感情が整理できず現実は見れていない。しかし、悲しいという感情は、止めどなく彼の中で、蠢いていた。

 

 

 「すまねぇ…すまねぇ…」

 

 

 ──リーダーさん、俺、ちょっと帰りますね。…まだ、整理が付いてないので…

 

 

 魔切はそう言ってその場を後にする。後ろで、懇願しているのを聴きながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宛もなく数時間、彼は歩いている。そうすると、見覚えのある所に来てしまった。彼が、通っている学園。それが見えてきていたのだ。なんとなく中を覗いてみると、数刻前まで手伝いをしていた研究室にまだ明かりがあった。

 

 

 彼は、それに誘われるように、歩みを進める。

 

 

 ──教授…少し、良いですか?

 

 

 『おや?どうしたのかネ?こんな時間に……酷い顔だ。何かあったのかネ?』

 

 

 ──…実は…

 

 魔切は、ここで先程何があったかを、説明した。説明しているとき、彼の目からは、涙が流れていた。説明も途切れながら、でも、きちんと何があったかを説明した。

 

 

 『…まさか、そんなことが、仕方ないとはいえ、それは許されざる行為だ。冒涜といっても良いだろう。』

 

 

 ──…おれは、もう、フレアに、会えない…約束も…あったのに…ッ!

 

 

 彼が、俯きながら泣いていると、教授は、とあることを話し出した。

 

 

 

 『もし、先程の君の話が本当なら、生贄は、無理やりだったのかも知れないネ…きっと、彼女は抵抗したのかもしれない…可能性の話ではあるのだがね?』

 

 

 ──どういう…ことですか…?

 

 

 魔切は、教授の言葉を聞くと、泣き止み、真剣な眼差しで教授を見る。

 

 

 『簡単な話だヨ。手紙を見た、つまりは、手紙を届けた人間が居るわけだヨ。その人物が、無理やり従わせて…という可能性もある。約束がある人間がその約束を破ってまですることじゃいはずだ。』

 

 

 ──望まずに行った可能性が…?

 

 

 『そうかもしれない。実際、操られていれば、彼女に自由意思などないに等しい。だからこそ、エルフに取って扱いやすく、価値がそこまでないと彼らは言っているハーフエルフ。そして、一番犠牲にしやすいフレアクンが狙われた可能性が高い』

 

 

 ──…許せない…ッ!そんな理由でフレアをッ!

 

 

 教授は、可能性の話をしているが、その話は信憑性が高く、それ魔切は完全に信じてしまっている。教授は、そんな彼を見て、一つ提案をする。

 

 

 

 『…もし、報復をするのなら…エルフは厄介だヨ。…だから、君が、今日触った銃を持っていきなさい。あれは、失敗作だが…それは人に役に立つという点においての話だヨ。』

 

 

 

 教授はそう言って、銃を取り出す。そして、彼に見せるように1つの紙を渡す。軽く見ると、それは、取扱い説明書だった。

 

 

 『これは、簡単に言えば、精霊を吸収し、その吸収した精霊の命を最大限に利用し、強力な魔力弾を生成して放つ拳銃型単発ビーム砲みたいなものだよ。大精霊なら一発分なら生命活動を維持するくらいの魔力を保てるけど、それ以下の精霊なら間違いなく、命を落とす凶悪な武器だよ。

 

 

 名付けて、簒奪者の銃(ガンズ・オブ・クルスニク)かつて精霊の呪いを受けた一族の怨念の塊とも言われる銃になる意味も込めてネ!

 

 

 使うも使わないも君の自由だよ。…使う時には、君はもう普通の生活に戻ることは出来ないヨ。それだけは伝えておこう。もし君が戻ってこなかった時のために、今伝えておこう。…私の研究に、よくぞ付き合ってくれた。それは選別だ。また、君が会おうと思えば会えるが、…お互いに、頑張ろう、さらばだ、魔切クン。君の武運を祈ってるよ。』

 

 

 教授は、そう言うと、彼を研究室から出して、背中を押す。そして、その後扉を閉めて何事もなかったかの様に電気が消えてしまった。

 

 

 魔切の手には先程の銃と説明書。そして、教授から激励を受けた彼は、目が据わっていた。彼はゆっくりと歩き出す。彼が愛していた、彼女のもとへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~世界樹の広場~

 

 

 

 

 

 

 

 ここには、先程のハーフエルフの姿はなく、エルフが警備をしている。

 

 

 「全く、何故私達が警備など…」

 

 

 「仕方ありません。彼が体調を崩されたのです。元より、この素晴らしい世界樹を目の前で拝めるのです!それだけでも良いではありませんか?」

 

 

 「それもそうですね。いやはや、あの醜いハーフエルフは、ようやく我々の役にたてたのです。誇りをもって死んでほしいですね。ハハハ…ガフッ!」

 

 

 「!?何者だッ!」

 

 

 突如、目の前で話していたエルフが倒れ、気が動転する。冷静に判断すれば、精霊の力を使い、敵を索敵していたであろう。だからこそ、背後に居る存在に気が付かなかった。

 

 

 「うぐっ…かはっ…」

 

 

 ──あんた、俺の顔は見たことあるか…?

 

 

 「い、息が、でき、…」

 

 

 ──いや、覚えるわけないか。高貴なエルフは、下賎で野蛮な人間を覚えるわけないもんな。…死ねッ!

 

 

 魔切は今、弓の弦の部分を使い、ゆっくりと手元に引くように首を絞めている。そして、力一杯首を刎ねた。

 

 

 ──案外、こういう森では、弓の方が何かと動きやすいな…よし、それじゃあ次に行こう。

 

 

 彼は、警備の二人を殺すと、里のある方へ向かう。そこには、エルフしかおらず、至上主義が蔓延っている里だ。

 

 

 彼はその里に忍び込み、外警備は弓を使って、家屋の中で寝てる住人は全てナイフで首を切って回っていった。女子供関係なく、その里に居る全てのエルフは、一夜にして全滅したのだ。

 

 

 エルフが無防備だったのではない。ただ、警備を精霊に頼らせたのがいけなかった。警備システムを運営している精霊を吸収し、そして、侵入して殺していった。

 

 

 彼は、もう何十人とエルフを殺している。幸せに生きていた夫婦も、元気に駆け回っていた子供達も、1人も残さずに、殺していった。

 

 

 ──…さて、後は、これだな。精霊装填(リロード)、精霊よ。その命を燃やし尽くせ。…だっけ。…これ、精霊を殺すんだよな……いや、フレアを殺したエルフを皆殺しにするんだ…ごめん、精霊達、俺はお前達を犠牲にして前に進むよ。だから、許せとは言わない。恨んでくれ。

 

 

 彼はそう言って、その銃を構える。手は震えてる、足もおぼつかない感じ、でも、眼だけは、その眼だけは完全に里に向かって、睨み付ける。彼がトリガーに指を置き、先程の言語トリガーを発する。

 

 

 ──……"精霊装填、精霊共ッ!その命を燃やし尽くせッ!精霊分解(ディスインテグレイト)ッ!

 

 

 彼は苦悶の表情を浮かべながら、無慈悲にも、その銃口を、里に向けて引き金を引いた。その威力は里に居た全ての家屋の精霊分貯まっており、一撃でその場を更地に…いや、クレーターが出来ていた。

 

 

 ──流石にやり過ぎだな…今度からは、一匹の精霊で撃った方が…いや、家ごと消すなら、これ位…必要か?

 

 

 等と、言いながら、その場を後にする。何もなかったかのように。そして、その虐殺は、何度も繰り返し行われていった。ある時には、

 

 

 

 ──赤ん坊…なるほど、こいつの子供か…一応調べておくか…

 

 

 いつも通り、侵入してエルフを殺害をした彼であったが、ふと、傍らから泣き声が聞こえた。どうやら、その殺したエルフの赤ん坊のようだ。

 

 彼は眼を凝らす、エルフか、ハーフエルフかの判断をするためだ。彼の浄眼は、色の濃さでどっちか判断する。そして、色を見てみると、その色は濃く、間違いなく純種のエルフだった。それを理解すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──例外なく、皆殺しだ…一匹残らず…ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その赤ん坊に凶刃を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 幾度となく、鏖殺を繰り返してきた彼であったが、その心は段々と壊れてしまっていた。彼に、道徳や慈愛の心が残っていたのであれば、その赤ん坊は助かっていたかもしれない。

 

 

 しかし、彼の中に住まう憎悪が、殺戮を繰り返す。それはもう、エルフを滅ぼすだけの機械に、成り始めていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、月日は流れて、彼はとあるエルフの里に来ていた。フレアの父親が居た里だ。この里には、エルフの里と言われているが、全て、エルフと関わった人間や、ハーフエルフのみが滞在する里だ。そこで、彼はフレアの父親と対面していた。

 

 

 

 「連続殺戮犯、やはり君だったんだね。魔切君…」

 

 

 ──親父さん、俺は、あなたが愛したエルフを殺していきます。これは、フレアの為とかじゃないんです。…これは、俺の、ただの八つ当たりですから。でも、誓って、人間やハーフエルフを殺すつもりはありません。ただ、俺はもう許せないんです。あいつらが、生きていること事態が、もう…。

 

 

 そう言った魔切の目には、光はなく、機械的な表情をしていた。それを見た父親は、少し悲しそうにするが、すぐ顔を真剣な表情にし、話し出す。

 

 

 「…少なくとも、エルフの決断をとやかく言える立場ではないが…私から言えることは、1つだけだ………ありがとう、そしてすまない。本来は私はこんなことを言える立場ではない。だが、君の行動に、とても感謝しているんだ。…行きたまえ、私は、ここにいるもの達は皆、誰も訪問してないことにする。」

 

 

 ──御配慮、感謝します。では、失礼します。

 

 

 「彼は、もう止まれないだろう。…エルフを滅ぼしたら、次は我々が終わる。そうなるだろう。…あれは、破滅の尖兵だ…フレアよ、彼はここまで狂ってしまった。君は、何故、私に相談せずに、あんなことをしたんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 それから、幾つか時が経ち、エルフの7割を死滅させた彼だが、2つの里に避難され、途中からアキとラミィが噂を聞きつけ、防衛に入ったせいで、そのどちらかの里を滅ぼすのを攻めあぐねてた。2つの里を交互に防衛していた。アキのルーチンをしばらく観察し、ラミィはハーフエルフ達の里の奥を防衛している事を理解した、。…エルフしか狙わないが、一様魔切の気が変わって攻撃してきたら不味いとの事…その判断は、彼の自我がなくなれば必要になっていたであろう。

 

 

 

 

 ──残り、2つ…きっと、今日、こっちにははアキ先輩はいないはず……今がチャンスか…行くか。

 

 

 

 彼は駆け出した。アキのいない里の方へ。里の近くまでつくと、警備は厳重で、とてもじゃないが侵入は不可能だった。

 

 

 

 ──…仕方ない。正面から行くかッ!

 

 

 魔切はわざとその身を晒した。そして、彼らはその姿を確認すると、怒りを(あらわ)にして、魔切に叫んでいる。

 

 

 「貴様かッ!我らが同胞を殺しまくっているのはッ!何故そのようなことをするッ!」

 

 

 

 ──…しいて言えば、駆除だよ。虫が家に集っていたら、駆除するのと同じだろ?…世界樹に集る(お前ら)を駆除するのに、理由とかあるのか?

 

 

 

 「ッ!貴様…ッ!やはり野蛮で愚かな…」

 

 

 

 ──…後、お前らが、その道を選んだんだ。俺は、それを執行しているだけだ。…お前達の破滅を、終焉を望んだんだ…

 

 

 「誰がそんなこと望んだんだ!誰も望んでいないぞッ!狂人めッ!」

 

 

 ──(あれ?そうだ。誰がそんなのを…望んだんだ?…フレア?世界樹?…違う、違う、違う!誰だ!誰が望んでるんだ!)

 

 

 彼は急に、頭がぼやけ始めた。何故、こんなことをしているのか、理解が出来なくなってしまった。そして、その隙が、とある星の、とある力を覚醒させてしまった。

 

 

 ──…目標、破壊する。エルフは、皆、滅ぶが良い…

 

 

 彼はそう言うと、弓を構える。金属製の装飾が施されていた弓は、血で染まったような赤の線が施され、全体が黒く、変貌していき、おぞましい弓の形になっていた。ゆっくりと、それを構えるが、何もせずに、ただそこに立っているだけになっている。

 

 

 「ッ!なんだ…様子が変だ…総員ッ!早くあの狂人を…」

 

 

 

 そして、彼らは隙と見たのか号令を掛ける。しかし、彼は隙なのではなく、もう、発射準備に入っていた。

 

 

 

 ──…そうか、お前が俺に…力をくれるのか…わかったよ。■■■■■■■。それなら、俺も、お前に従ってやるよ。…刮目しろ、これはいずれ文明を、人間を、地球上のあらゆる生命を滅ぼすだろう。しかし、今は俺が担い手、俺はまず、エルフを滅ぼす。故にそれを今から証明しよう。『■■■■■ッ!』

 

 

 彼は、淡々と独り言をつぶやくと、黒い弓に、謎の魔力が集中した。それは、全てを破壊し尽くさんとするほど、高濃度の魔力だった。そして、彼は以前戦ったサーヴァントの宝具を模倣して、その弓を放つ。

 

 

 「ッ!総員ッ!退避ッ!全力で逃げろッ!」

 

 

 

 彼らは、その弓が放たれる前に避難しようとした。しかし、その矢は、流星の如く、里に降り注いだ。逃げた先に救いはなく、里周辺は、何もない更地へと変貌していった。…否、何かに、侵食され、毒々しい見た目へとその土地は変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──生きてる…?何故だ?撃った時に体は爆散したはず…

 

 

 そう、彼の体は、一度爆散した。かの大英雄の真似事は、そう簡単に出来ることではないが、それに相応しい力を使えば、それ相応のデメリットが帰ってくるはずだった。…しかし、それに待ったを掛けたのが、彼に交信したとある星だったのだ…

 

 

 ──なるほどな、それで、俺は今後死ねないって訳か…随分と迷惑な…いずれその体は使うからってか?なるほど?それなら今後は撃ち放題ってことか。…だが、エルフのみがいるところはもう此処ぐらいだ…後は、アキ先輩が守るだろう。…ラストは、どうも、面倒だ。

 

 

 彼はそう言いながら歩き出す。その日から、彼は毎日、その星の尖兵として、彼の体を蝕むようになってしまった。彼は、毎日、エルフを殺しながら、自身を蝕む者と戦っている。

 

 

 

 

 『ごめん、アタシ。間違えちゃったのかな……魔切。ごめんな?止められなくって。』

 

 

 

 

 

 

 

 現在まで戻らなくても、もうわかるだろう。彼はもう、心は壊れ、体は蝕まれ、しかし、愛だけはその体に、魂に刻まれている。故に彼がまだ、完全に、侵食されていないのは愛ゆえだった。

 

 

 

 彼はもう、救われない。救おうにも、もう手遅れになった。エルフを8割死滅させ、森にいた精霊を道具とし、とある星の影響で、人間としての機能を幾つか喪った彼は、ただの殺戮兵器と化していた。

 

 

 …全ては、1つの勘違いから始まった悲劇。勘違いは、止まらず、誰にも指摘されず、全てを台無しにしていった。犠牲になった彼女の決心は全て無駄にしたとは知らずに。彼女は、今も、見守っているだろう。愛するものの愚行を。

 

 

 この世界は救われず、しかし、その世界を壊すのは彼らではなく、別の存在だとわかるのは、もう少し先の話になる。今は、破滅へのカウントダウンをゆっくりと進めよう。

 

 

 

 




 長いッ!長過ぎるッ!編集辛い…二度と此処まで書きません!…あー書きたいこと一回で終わらすのは辛いなぁ…前編後編で分ければ良かった…

 難産過ぎて他のが書けなかった。ので頑張って他も投稿しようと思います。


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海賊七夜 とある1日

 誰がバットエンドだけだと言った!今回は書いてて恥ずかしいと思いながら書いた…訳ではない。とあるアニメのリスペクトです。消されたら、仕方ないかも…そのままじゃないから…許して?


 主人公に今は色を付けなくてもいいと思ったから今回から付けません。…本編に出たら付けます。

 因みに、番外編の主人公は、かなり本編に近いものから、本編の性格や、世界からかなり乖離した世界も存在します。

 主人公の一人称、我(おれ)と読んでも良いですし、(われ)とそのまま読んでもどちらでも良いです。(作者はわれ)


 海とは、全ての生命始まりともされ、命の母といわれるものだ。その海に、一際目立つ存在があった。それは、海というものを人間が自由に移動するために作られたもの…船。その船に乗っているのは…………

 

 

 「それでは、宝鐘海賊団、出港準備~!」

 

 

 海賊、海を荒らすものともされるが、彼女等は、お宝を求める。つまり、船は狙わないとしている。慈善行動もしているため、名だけの海賊団なのだ…

 

 

 「おい、見ろよ、あれが船長の宝鐘マリン船長だ。」

 

 

 「へぇ~、あれが噂の…相手はどこにいるんだ…?」

 

 

 「俺、この海賊団に入ってて良かったー、と思うわけ。だってあれを間近で見られたんだぜ?」

 

 

 「よ、流石は世界中に広がった告白を受けた女。格が違うぜ!」

 

 

 彼等は、新人も居れば、もう長い…と言っても、結成して半年しか経っていないが、それでも、最初は二人だけだった海賊団を、彼等はここまで大きくしたのだ。

 

 

 「ちょっと!あの時の事を振り返したの誰ですか!?帆に吊るしますよ!?」

 

 

 彼女達はとある事件に巻き込まれ、その時のとある行動により、解決したのだが、それは、彼女に全世界の人間が聞いている前で、告白するという、詳しくは後程話そう。その元凶は…

 

 

 ──良いではないか…また、聞きたいなら我がいつでも…

 

 

 「うわぁぁぁあ!?魔切さん!止めてください!ここでは流石に…」

 

 

 「良いじゃねぇか!もう全世界の人間が、宝鐘マリンは全世界が聞いてる前で愛してると告白されたイカれた男がいる、ってことはもう忘れられない記憶なんだからな。」

 

 

 「俺達に聞かれて恥ずかしいことはないよなぁ?だって…」

 

 

 「うがぁぁぁあ!?止めてください…それ以上、船長の事いうと、海に放り投げますよ…」

 

 

 彼女は、強がってはいるが、顔は真っ赤で、帽子で顔を覆わせて、恥ずかしいを全面に出してる時点で、威厳はもう無く、ただの乙女がそこにいるだけになっている。

 

 

 ──くくく、まぁいい、愛は後で語れば良いだろう。ほら、出港は済んでいないだろう?さっさと持ち場に付け!…よし、マリン。戻ってこい。

 

 

 「はっ!すいません。っていうか!魔切さんも!悪ノリしないでくださいよー!」

 

 

 ──くくく、すまんな、照れる顔が愛しいから、つい口が出てしまったようだ…

 

 

 彼は、マリンから怒られているが、軽くあしらうようにしながら、さらに口説いていく。

 

 

 「もぅ~直ぐそうやって船長を口説くのイケないと思います!」

 

 ──くく、善処するよ…だが、油断してると、後ろから囁くのは忘れるなよ?ほら、船長なんだから、みんなの所に行ってこい。

 

 

 「魔切さん!後で覚悟しておいてください!良いですね!」

 

 

 そう言って、マリンはそそくさとその場を立ち去る。ポツンと1人になった彼は、マリンが見えなくなるまで、見守ると、船の方を眺める。

 

 

 ──まさか…この船が変形するとは思うまいさ……可変できる船『アイフリード』かつての大海賊の遺産…マリンのお祖母さんの遺物。俺とマリンの二人の…そして、宝鐘海賊団の船に成ってくれたのは…何でだろうな…?なぁ…『アイフリード』…なんで俺達を選んでくれたんだ…。

 

 

 その問いに、答えるはずもなく、船はただそこにたたずんでいる。

 

 

 突然だが説明しよう!この船はかつて、世間を騒がせた『アイフリード海賊団』が所持していた。そして、何を思ったのか、当時の船長であるマリンの祖母が改良し、変形するロボットに成ってしまったのだ。その名も、『アイフリード』。海賊団に基づいて名前を付けたそうだ。

 

 

 武装は、剣、魔力のビームガン、胸部の大砲、小型の大砲による爆裂パンチ、推進力を使ったキックなど様々な武装が施されている。そして、水中でも戦えるように様々な所に推進力として、ブースターを設置という、水上、水中どちらでも戦える。そして、全ての武装に撥水加工しているという…何故ベストを尽くしたのか…

 

 

 更に魔力タンクも常備しており、先代ウンディーネの化石により、空中での戦闘も可能という…しかし、陸上では、あまり戦えない。水中や空中での戦闘を想定して作られているため、陸上だと、部品が壊れてしまうからだ。流石に宇宙ではまだ、戦うことは出来ない。

 

 

 ──選ばれただけでも、我は感謝している。ありがとう。『アイフリード』…さて、我も怒られる前に準備をしなければな…

 

 

 彼はそう言って準備に取り掛かった。『アイフリード』はその姿を、ずっと、先程の彼のように、見守っている……かもしれない。

 

 

 

 ~数刻後~

 

 

 「行ってらっしゃい~ここは、団長達で守るから!」

 

 

 「なんか絶対に取ってくるぺこよ!手持ち無沙汰で帰ったら承知しないぺこよ。」

 

 

 「が、頑張ってください…」

 

 

 「絶対に見つけて帰ってこいよー。」

 

 

 「あ、なんか魔道具はシオンにちょうだい!絶対に損させないから!」

 

 

 彼女達は、マリンや魔切の同級生で、この航海を後押ししてくれた友人だ。マリンや、魔切は休学扱いで、復学するのは、目処が出てないが、帰ってきたら、復学するとの約束の元。航海に応援してくれた者達だ。

 

 

 「出迎えご苦労様で~す。これから船長たちは、長い航海に出るから、寂しくても連絡出来ないぞ~?」

 

 

 「えぇ?団長は大丈夫だよ?それよりも、夫婦で航海旅行なんて羨ましいな…?(良いなぁ…マリン。魔切くんと二人で旅行なんて…悔しい…なぁ…)」

 

 

 「はぁ?誰が心配なんてするぺこか!リア充の心配なんて…さっさと財宝持って帰ってこいぺこ!(ぺこらが、あの位置に居れば…こんな嫉妬しなくても良かったのかもしれないけど…選んだのは魔切ぺこ…羨ましいぺこ…)」

 

 

 「…そうですね…少し、寂しいかもしれないですけど…るしあは大丈夫です!(魔切さん…るしあは…まだ、諦めません。…ですけど、傷は付けたくないのです…心にも、体にも。どうすれば…)」

 

 

 「ほら、バカ言ってないでさっさと行きな!皆、これから用事有るんだからさ…(…マリン…早く行ってよ…ようやく、魔切への想いを…整理できるんだからさ……やっぱり出来ないや…アタシ…諦め悪いからさ…)」

 

 

 「また下らないこと言ってないで、さっさと行きなさいよ!この元山賊!(んー、魔切が居ないのは、ちょっと寂しいけど、2度と会えない訳じゃないし、さっさと見つけて帰ってきて欲しいんだけど…)」

 

 

 彼女達は、それぞれの想いを、密かに隠しつつ、彼等の航海を応援する。それが、最善だと思っているからだ。報われなくても、彼女たちには、きっと、幸は訪れるだろう…

 

 

 「え?なんかメチャクチャ辛辣なんですけど…?るしあぐらいなんですけど?」

 

 

 そんな想いを露知らず、彼女は、応援にしては辛辣だと、若干傷心状態に成ってしまった。

 

 ──それだけ、信頼されているということだ。…さぁ、号令をかけるんだ……皆、すまんな!見送り感謝するぞ!また、皆で会えるのを楽しみにしておく。それまで…元気でな。

 

 

 魔切はそう言うと、マリンと共に、舵の所に向かう。

 

 

 「「「「(そういう所なんだよなあ…)」」」」

 

 

 と、一同が惚れ直した?のであろう。ジト目をしながら、その出港に立ち会う。

 

 

 ──いいか!我らはこれより、アイフリード海賊団が残した遺産を見つける。それまでは帰ってこれないと思えッ!…船長、一言言ってやりな…

 

 

 「ここまで、集まって貰って…物凄く嬉しいです。…船長。お祖母  ちゃんが残したものを…回収しに行くのに…いろいろ有ったんですけど…」

 

 「おい、話長いぞッ!幸せ船長!旦那を見習えよ!」

 

 

 「早くあれを聞きたいんだ!俺達はあんたらに着いていくぜ、そのために乗ってんだからなッ!」

 

 

 「「「「おう!」」」」

 

 

 「皆さん…分かりました!こんなうじうじ言うのは船長らしく有りませんね!では皆さん、ご一緒に…アイフリードの遺産求めて…」

 

 

 

 

「「「「出港~!」」」」

 

 

 

 彼女達は航海に出る。果てしない旅路か、はたまた直ぐに終わってしまう旅行かは、彼女達の運次第。しかし、その航海も、道半ばで潰えるとは、誰もそのときには、分からないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、本来なら、ここで終わりも良いだろう。…しかし、その告白シーンを見たくはないかね?ならば、この先を見るが良い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前回までのあらすじ!

 

 

 心の声が聞こえるロボットを使う相手と悪戦苦闘。

 

 

 ──くっ…我の声も分かるとは…どうすれば…

 

 

 「焦ってますねぇ!私にはこの世界の全ての声が聞こえます!貴方の事も、そこらへんに隠れてるスナイパーの小娘の事も丸分かりなんですねぇ!」

 

 

 「どうしようかな…」

 

 

 絶対に外せない、その状況の中で、一つ、彼の中で閃きが生まれる…

 

 

 ──そうか!この方法なら…

 

 

 そして、魔切が取った行動とは…

 

 

 ここから本編

 

 

 

 「貴方方の無様な姿を全世界の人間に届けてあげますよぉ!!」

 

 

 ──くっ…やはり、心を読まれるというのは…辛いものがある。我は読まれても良いが…ぼたんの心まで丸見えとなると、狙撃のタイミングが…

 

 

 「今の貴方の声も全世界に丸聞こえですよぉ?良いんですかぁ?そんなことを言ってしまっても…?大人しく屈辱を味わってください!」

 

 ──ちっ、面倒な…仕方ない、これを利用するか…ここで言うのは…本来は向き合って伝えたかったものだがな…

 

 

 「何をするつもりですか?下等民族が…うぐおあぁぁ!?」

 

 

 ──さぁ、全世界の人類よ!今から我は、告白というものをする!心の声が聞こえると言うのなら、存分に聞かせてやるッ!………多分、聞こえているだろう!我が愛しの君よ。全世界に、その名を轟かせてあげよう。我は!宝鐘マリンが、大好きだああぁぁぁぁぁ!

 

 

 「このガキ…何を考えているのです!?ここは、戦場ですよ!」

 

 

 ──好きと言っても、信じてくれないかもしれない。だがッ!いつ、どこで、どのように好きに成ったかを!説明する!始めは、クラスで隣に成ったあの日。あの時に、マリンに見惚れてしまった!あの時から、我の中で、好きという感情が生まれていた!

 

 

 これは、全世界が、世界の命運を掛けて戦っている場面で、あろうことか、魔切は告白を始めたのだ。実際に、その甘酸っぱい告白を聞いていると、聞いている側は、たまったものではないだろう…

 

 

 ──それだけじゃない!我がバトルロワイヤルでピンチの時も、メリットも無いのに我を助け、我と共に戦った初めての共闘も、その後での一対一の戦いも、我はずっと忘れない!

 

 

 「この声…すごいなぁ…皆に聞こえてるって分かるのに、それをここで言っちゃうんだ…」

 

 

 思わず隠れておかないといけないぼたんですら、この反応である。

 

 

 「うわっ、魔切くん。すごいことしてるね?」

 

 

 各地でも、やはりこの声は聞こえてるらしく、他の学園のメンバーも、その告白に唖然となっている。

 

 

 ──そこから、マリンのお祖母ちゃんの財産である。この船を狙ってくる奴らからの逃走劇の時も、二人でこの船で航海に出た時も、ずっと、ずっと!マリンの事を見てたんだ!マリンと二人で居たのが楽しかったんだ!

 

 

 「へぇー、そんなことをやってたんだ…シオンも混ぜて欲しかったなぁ…絶対に面白そうだったのに…」

 

 

 「あ、これ、マリン死んだぺこね。確定ぺこ。きっと今、顔真っ赤にして、魔切の所に突撃しに行ってるぺこ。」

 

 

 「はわわ…魔切さん…すごいのです…」

 

 

 魔切達を知らない人からすれば、イカれた人間だが、全世界に聞こえているのに、告白する度胸は、誉められるものだと、後に語られた。

 

 

 ──我は、好きという言葉じゃ足りない。愛しているんだ!もっとマリンの事を知りたい。愛故に、全てを知りたいのだ!マリンがこれを聞いて、どんな気持ちかも知りたい。マリンの全てを聞きたいんだ!

 

 

 「うわぁ、やるね。魔切君。皆、祝福してくれるよ。戦いに勝ったらね。絶対に私たちは祝福するよ!」

 

 

 「こんなことやるとは…魔切、アンタ、相当なバカだね……それを好きになった、アタシもバカって事だけどね…」

 

 

 彼の告白は、今も全ての、聞こえる人間に聞こえてしまい、もはや、ただの公開処刑になっている。

 

 

 ──もし、マリンが、好きな奴がいれば、そいつから全力で奪い取って見せるッ!もし、この告白に、異議がある奴が居るなら受けてたつッ!俺は絶対に、マリンの事を諦めたりはしない。マリンを譲ったりなんか…絶対にしない!

 

 

 「こんなことをされれば、受け手は当然羞恥にまみれてるはず…」

 

 

 彼は、すぐさま、告白を受けている当人の声を聞いてみた…

 

 

 「…うわぁぁぁあ!?何やってるんですか!?あの人!え?マジですか!?え?ホントに!?全世界に?この告白聞こえてるんですか!?…やっべ、今すぐ止めに行かねぇと…」

 

 

 そう言いながら、マリンは魔切の居る戦場へ駆けた。

 

 

 マリンが、この告白を受け取ってくれると言うのであれば、我は正面から抱き締めます。絶対に、逃がさないつもりだ!生涯を共にするって誓っても良い。俺と一緒に、永遠の航海に付いてきてくれないかッ!

 

 

 「あれがマリン?」「幸せにねー」「こんな告白する人奴、絶対に逃がすなよー。」「旦那にいっぱい抱き締めて貰いなよー」

 

 等と、ヤジを飛ばされる。その度に、顔は真っ赤に染まり、羞恥で心臓が止まらなくなっていた。…羞恥だけでなく、嬉しいという感情も混じりながらではあるが…今の彼女は、もはやそれすら気付かないぐらい、錯乱していた。

 

 

 返事はいつでも良い!覚悟が決まるまで、我の心は絶対に揺るがない!だからこそ、もう一度言わせてくれッ!マリィィィィン好きだぁぁぁぁ!お前が、欲しいッ!

 

 

 「ええい!青春もほどほどにしなさい!…そうだ!心の声を、まわりの音をカットすれば良いんだ!…………ふぅ、これでシリアスに戦闘が出来る…」

 

 

 彼は、余りの甘酸っぱさに耐えきれず、思わず、心の声を、周りの声を集める機能をカットしてしまった。…それが、致命傷になるとも知らずに…

 

 

 「さぁて、おや?…スナイパーの小娘の声が……聞こえない?」

 

 

 彼は、目の前のことに集中しすぎて、大事な、警戒というものをしていなかったのだ。故に…この好機を、ぼたんは逃すはずもなく…

 

 

 「悪いけど、今だね?」

 

 

 ロボットによく効く、一発で全ての機能を低下させる弾丸を、彼女は真っ直ぐに標的に放った。無警戒だった敵に、避ける術もなく、呆気なくクリティカルヒットした。

 

 

 「ぐぉぉぉぉあ!?しまったッ!つい、気を取られて…全機能低下だと!?」

 

 

 「今だよ、魔切!」

 

 

 ──ッ!了解ッ!行くぞ、『アイフリード』ッ!喰らえぇぇぇえ!

 

 

 そして、全ての機能が低下した相手に、全力で、制圧にかかり、乗っていた奴を確保し、事件は解決した。

 

 

 その後、マリンは怒りながらも、告白を受け取り、見事カップルが出来たのだ…しかも、全世界の人間公認という、すごい規模のカップルがここに誕生した。この告白は、ニュースにもなり、瞬く間に有名人になってしまったのだった。

 

 

 「どうして…こんなことに…」

 

 

 ──すまんな、相手の心を惑わすには、こうするしかなかったと思っていた…実際によく効いたから…だが、あの時に言ったことは全て心から言った言葉だ。…いつでも聞きたいなら今すぐにでも…

 

 

 「ああー!止めてください、これ以上船長は恥ずかしくなりたくありません…」

 

 

 これが、大告白の真相である。

 

 

 

 ここからは、少し余談である。

 

 

 

 

 「ダーリン大好き。ちゅっちゅ!」

 

 

 ──ハニー我も当然だぞ。さぁ、愛し合おうではないか!

 

 

 「すいません。やっぱり無理です。ダーリンとハニーは無理っすわ…」

 

 

なんて会話があったそうな…

 




 ししろんは、ロボットに致命傷を与えられる弾丸を、一発のみの状態で当てないといけない…と言う盤面でした。

 告白シーンでの使ったキャラは皆分かるかな?分かったら君もネット老人だ!


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騎士七夜 とある1日

 取りあえず、連続投稿だ!おらッ!重いのはこっちだッ!愉悦部集合ッ!

 完成したから投稿します。今度からは一つに絞って書いた良いかもしれないっすね。

 


 ここは、魔界。姫森ルーナの住まう城。ここでは、一人の騎士が、大扉の奥で未だに眠っているルーナの眠りから覚めるのをずっと待ちわびていた。

 

 

 ──姫、当方は心配です。いつお目覚めになられるのですか…?当方は、今でも、姫の目覚めをお待ちしております。

 

 

 しかし、扉の先からは返事はなく、沈黙がその場を支配していた。やがて彼はまた、口を開いた。

 

 

 ──…今日も、駄目みたいですね。当方に、こちらから姫と顔を逢わせることは、出来ません。どうか、お目覚めになり、当方とまた会話する権利を戴かなくては、当方は許しを乞うことも、出来ません。

 

 

 彼は、ルーナの騎士…いわゆる"ルーナイト"の称号を持っている。しかし、今は彼はルーナイトとしての資格を自ら剥奪している。だからこそ、謁見の権利を所有していないのだ。…理由は後程、彼…魔切の回想でわかるだろう。

 

 

 ──…この身はすでに、ルーナ姫に捧げると決めた…こういう事でしか、愛を示すことが出来ない当方を許して欲しい…っ……!過ちは…もう繰り返さない…

 

 

 彼は、そう呟き、その大きな扉から背を向け、その場を守るように立っている。

 

 

 「おーい、魔切ちん!」

 

 

 魔切が、再び門番をしようとしたときに、遠くから声をかけられた。それは、学生時代に知り合った魔族。ルーナの友人でもある常闇トワである。

 

 

 「うーん、その様子だとまだ目覚めてないっぽいね。」

 

 

 ──ええ、今も、眠っております。…どうされますか?貴女ならここを通しますが…

 

 

 彼は一歩下がって、扉から身を引く。しかし、トワは首を横に振り、

 

 

 「いいよ。目覚めてるかの確認と…魔切ちんの確認。まだ正気なんだね?」

 

 

 彼女はそう言いながら、魔切をじっと見つめてる。何かを確認したいようだ。

 

 

 ──…問題ないですよ。当方、姫がその命尽きるまで共にすると決めましたので、その時には、当方も腹を切って姫の後を追いますから。

 

 

 「…相変わらず、だね。そのルナちん好き。」

 

 

 魔切は異常なまでに、ルーナを好いている。元々、ルーナだけでなく、他のかなた、ココ、わため、トワとも関わっていたか、ルーナをある日好きに成った時から、彼の第一での優先順位が、ルーナになってしまった。

 

 

 「…昔はトワも狙ってたんだけどなぁ…ルナちん強いわぁ…」

 

 

 ──…まぁ、当方、あまり鈍くないので好意には気づいていましたが…今は姫一筋なので…

 

 

 

 「うん、分かってるよ。トワも諦めてるけど………もし、心変わりするようなことがあったら………いつでもいいよ?」

 

 

 彼女はそう言うと、その場を立ち去った。残された彼は、先程の言葉を受け止め、少し、悲しみの表情を浮かべながら…

 

 

 ──まだ、諦めきれて無いじゃないですか…当方の心は、変わらぬ愛であるのに、割りきれずに当方にばかりかまけていたから、貴女は…まだ、1人のままだと言うのに…

 

 

 彼はそう呟くと、顔を引き締めた顔をして、再び門を守る騎士になっていた。

 

 

 ──トワ…貴女は優しい。当方が罪から逃れたい…そう願えば、貴女のところへ行ったら叶うでしょう…しかし、我が愛は不滅。いかにして当方を陥落させようとも、それは、姫への愛に勝るものなし。故に、当方に構わずに、さっさと結婚なり、彼氏なりを作れば良いものを…

 

 

 先程の事を思いだし、思わず、昔の口調が出てしまうほど、緊張が解れてしまったようだ。

 

 

 ──いや、これは失礼か…彼女は私に好意を抱いている。…それは当方が騎士を目指してた時から、変わらないというのなら、それを侮辱する発言は許されない…まだ、未熟ですね。精進せねば…

 彼はそう言って再び気を引き締めた。その後、誰も訪問すること無く、彼はずっと門を護っていた。彼の罪とは…それはずいぶんと前の事である。彼がまだ、学生であった頃に、1つの事件が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

  

~■■■年前~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ルーナ姫を御守りするべく、この学園に参上した!ルーナ姫を虐げる者共ッ!覚悟しろッ!」

 

 

 彼は、ルーナイトといわれるルーナ直属の騎士である。しかし、基本は不干渉であり、命令されない限り、表舞台には出ることすら許されない。しかし、彼はいきなり現れて、彼女を連れ戻そうとしている。はっきり言うと、命令違反なのだ。

 

 

 「なんでルナちんを連れ戻しに来たの?誰の命令?」

 

 

 「もちろん騎士団長からだッ!それ以外誰がいる!?」

 

 

 ──…騎士団長は当方だが…

 

 

 

 「は?貴様のような人間が騎士団長な訳無いだろ!それより姫ッ!早くこの場から…」

 

 

 そう、騎士団長は魔切である。それはルーナと彼が大衆の前で誓いを交わし、それを認められている。にもかかわらず、彼は、騎士団長は魔切ではないと、言い切ったのだ。

 

 

 「…うるさいのら…」

 

 

 「はい?今なんと…?」

 

 

 「その口を慎めといっているのらッ!」

 

 

 「あが…っ……!」

 

 

 ルーナは、低い声で、本気の怒りをルーナイトにぶつけた。それは周りが1回も見たこと無いくらいに、彼女は怒っていた。

 

 

 「お前なんか…ルーナイトの風上にも置けないのら!今すぐ…」

 

 

 ──落ち着いてください!姫、これは…何かあったかもしれませぬ。部下の不祥事は上である当方が処理します。ですので、今一度、怒りをお収めいただけるよう…

 

 

 彼女の怒りを収めるよう、説得をしたのは、騎士である魔切だった。主が過ちを犯さないようにするのも、騎士の勤めなのだから。彼の説得が届いたのか、先程まで激情を抱いていたルーナから、いつもの穏やかな顔へ変わって、少し反省した顔になっている。

 

 

 「ごめんなのら…ちょっと冷静さを欠いた行動をしてしまったのら。」

 

 

 ──姫が謝る必要はございません…全て、当方の不始末です。ですので、姫が気に病む心配は御座いません。…しかし、このような騎士は見たことありません…しばらく戻っていない内に、誰かが、勝手に雇用するものでしょうか…?

 

 

 魔切は、一応人間ではあるのだが、特例として、ルーナイトにしかも騎士団長に任命されたのだ。その彼は、ある程度ではあるが、団員の顔や特徴などは記憶していたが、今回やってきたルーナイトは鎧こそ着ているものの、記憶にない騎士だったのだ。

 

 

 「あり得ないのら…ルーナに通さないと、絶対に受諾されないシステムなのら。つまり…」

 

 

 ──鎧だけ着た一般人…ですか。……姫、どうやら、当たりのようですね。彼は、ルーナイトの鎧こそ着ているものの、鍛えられた様子はなく、また、正気ではない…洗脳状態にあります。…魔族であれば着れる…というのも、やはり問題点があるようですね。今後は、個人ナンバーでも刻んでおきましょう。

 

 

 兜を取って確認してみると、ひょろっとした体躯に、いかにも一般人ですと、いうような、衣服を着ていた。ルーナイトは基本的に、裕福な者が多い。だからこそ、例外以外は、何処かの貴族の次男、三男位でしか、ルーナイトは勤まらないのだ。だからこそ、魔族なのに、みすぼらしい衣服を着るのは、断じてあり得ないことなのだ。

 

 

 「はっ……!ルナちん!大丈夫だった!?もしかして…ルナちん…怪我してる!?何処か痛い!?」

 

 

 トワは突然激情を露にしたルーナに呆気を取られていたが、再起動し、ルーナの心配をしだした。

 

 

 「大丈夫なのら、トワトワこそ、ルーナのあれ見て怖くなかったのら…?」

 

 

 大事な友人に、いつも見せない姿を見せ、少し戸惑っているルーナ。しかし、トワはにっこり笑って、

 

 「トワ様も、さっきのあれにはムカついたから、逆にスッとしたよ!ルナちんの新たな一面を知れたから、大丈夫だよ?」

 

 

 「ッ!ありがとう…トワ…」

 

 

 ルーナは少し泣きそうになりながら、感謝を伝えた。そして、それをにっこり笑って返したトワは、魔切の方に振り返り、話し出した。

 

 

 「それにしても、こいつ…何が目的だったの?誘拐?」

 

 

 ──……なるほど、誘拐…ですか。ルーナイトに扮して、誘拐して、脅迫や交渉材料にするつもりなのでしょうか…。当方のが居る限り、そのようなことは、あり得ない。…では何故…

 

 

 彼は、推測した。何故、ルーナイトとして来たのか、それはルーナイトで騎士団長である自分も居るのに、バレないと思ったのか、それとも、別の意思があったのか…

 

 

 「…一回、お城に戻るのら。そうすれば、こんなことは起きないのら。」

 

 

 「そうだね。お城で何かあったかもしれないし、トワもついていくよ。魔切ちんも、当然行くよね?」

 

 

 ──当然です。私は、姫の…騎士ですから。

 

 

 二人が、魔界に戻ると言うと、トワも、二人と一緒に、魔界についていく。それが、この3人の、お約束みたいなものになっている。今回も例外はなく、何か帰る用事ができれば、必ず3人で帰るのが、定番になってしまったのだ。

 

 

 「じゃあ、明日の朝に、魔界行き列車に集合ね。ルナちんの事、守ってね。魔切ちん!」

 

 

 

 ──えぇ、任せてください。当方の全力をもって守って見せます。

 

 

 「ん!よろしくね。じゃあね。ルナちん、魔切ちん。」

 

 

 「トワトワ、またね。」

 

 

 ──…トワも十分気を付けてくださいね。また明日。

 

 

 彼らは別れを告げ、お互いに帰路に着く、そして、明日に備えて、準備を進める。ルーナの身支度は、基本的に魔切が整えることになっており、もはや、恋人というより、召使いや従者のそれと何らかわりない事をやっている。

 

 

 ──姫、明日の準備は……やはりまだ終わっていませんか…服は御自分で用意してください。それ以外は当方がやっておきます。

 

 

 「んなぁ~わかったのら。……魔切。我がルーナイト。明日は…ルーナを守ってくれる?」

 

 

 ──姫、我が主…明日だけではありません。未来永劫。貴方を御守りする。それが、ルーナイトです。

 

 

 これは、ルーナが、心配事が有る時には、毎回やってるやり取りで、これをやることにより、不安などが解消されるらしい。…無自覚惚気がよぉ…

 

 

 「…満足したのら…!明日もよろしく。魔切」 

 

 

 ──えぇ、お任せください。では姫、よい夢を…

 

 

 そうして、二人は眠りにつく。

 

 

 

 

 ~次の日~

 

 

 

 十分に眠りについた彼らは、予定通り、早朝の列車に乗ることが出来た。

 

 

 「よかった~。流石は王族だね?こんなプライベート列車持ってるなんて…」

 

 

 「ルーナは一応王族だから当然なのら。感謝するのら!」

 

 

 そう言って胸を張る。それを微笑みながら見守る魔切とトワ。そして、列車が発車すると、約3時間掛けて、魔界のルーナの城に着く。

 

 

 ──着きました。トワ、姫。足下に気をつけてください。

 

 

 彼はそう言って、先に降りて、手を差し伸べる。ルーナは慣れた手でその手を取るが、トワは、少し照れながら、その手を取る。

 

 

 「ありがとう…魔切ちん…(やっぱりカッコいいなぁ…)」

 

 

 「お父様に会いに行くのら。そうすれば、なんか分かるかもしれないのら。」

 

 

 ──かしこまりました。馬車は既に用意されております。では、また足下に気を付けてお乗りください。僭越ながら、私が御者を勤めます。…準備は宜しいですか?

 

 

 「…あ、うん。よろしく!魔切ちん!」

 

 

 「出発するのら。」

 

 

 ──では、失礼します。ハイヤッ!

 

 

 彼らの馬車は、更に駅から2時間掛けて、城に向かう。道中でショートカット出来るが、ルーナやトワに負担が掛かるので、安全なルートで進む。

 

 

 ──(…おかしい。駐屯している騎士が、いない。駅にも、1人は必ず居るはず…しかも、道中で今のところ、1人もすれ違わない。…何かあったかもしれない。ルーナイトだけなら、まだ当方の騎士団が可笑しくなったと思うだけだが…何かあったのかもしれない。)少し飛ばしますよ!

 

 

 

 彼は、1時間、馬車を走らせているが、すれ違うどころか、過ぎた町に、騎士が存在せず、不安な顔をしている町の人間ばかり、城で何かあったのではないかと、思った彼は、嫌な予感がして、速度を早めた。

 

 

 「…どうしたのら?」

 

 

 ──駐屯している騎士の姿が見えません!恐らく王城で何かあったのではないかと。

 

 

 「ッ!お父様に何か有ったのかもしれないのらッ!急いでッ!」

 

 

 「…大丈夫かな…トワ…心配になってきちゃった…」

 

 

 皆、不安を募らせながら、予定より、少し早めに城下町に着き、城に走らせるが、町の人間は1人も外出しておらず、閑散としていた。そして、城に着き、門番も居らず、門は開きっぱなしになっていた。

 

 

 「お父様ッ!お母様ッ!」

 

 

 ──姫ッ!御待ちくださいッ!…トワ、貴女を信頼して、1つ、御願いがあります。もし、この先に何かあれば、当方を置いて逃げて欲しい。

 

 

 「!嫌だよッ!トワも戦う…」

 

 

 彼女は戦うと言った。しかし、彼は静かに横に首を振り、

 

 

 ──…貴女は優しい…故に、もし、当方が思っていることが正しければ、まず姫は動けない。貴女はショックを受けるだろうが、まだ動ける。…これ程の状況だ。中は悲惨なことになっているだろう。だからこそ、姫を頼みたい。

 

 

 と、真剣な口調で、トワに頼んだ。それを聞いて、観念したしように、首をかしげて、首を縦に振った。

 

 

 「…魔切ちん。勘は良いもんね…わかった。トワ。頑張るよ。」

 

 

 そして、二人はルーナを追いかけ、

 

 

 

 

 ~城内~

 

 

 ルーナは少し入っていた先で、立ち止まっていた。何か、ショッキングなものをみた時の硬直みたいに、その場に立ち止まっていたのだ。2人はこの先の光景を見たら、同じ様に、硬直した。

 

 

 中は、とても悲惨な状態だった。壁、床、天井。ありとあらゆる所におびただしいほどの、血、血、血床や壁には、死体が転がっていたり、壁に倒れ掛かったり、壁に埋まっている死体までもある。

 

 

 ──アルマーニ、ハゼット、ピオネロ…

 

 

 今言った名前は、彼と同じルーナイトの仲間。人間である自分とも仲良くしてくれた。数少ない友人だった。それだけではない。王直属の騎士や城下町を守っていた騎士まで、無惨な姿になって、そこに転がっていたのだ。

 

 

 「そんな…ひどい…っ…!」

 

 

 「…お父様…お母様…もしかして…」

 

 

 ──姫、それは早計です。確認しに行きましょう。

 

 

 「魔切ちん………っ…」

 

 

 「魔切…?……」

 

 

 ──行きましょう。彼らは、今はまだ、弔うことは出来ません。彼らのために、早く。

 

 

 彼はそう言っていたが、目からは止めどなく、涙が流れていた。2人は見て、気付いたが、なにも言えなかった。王の間そこまで死体は、レッドカーペットのように敷かれていた。魔切は、その道を進む度に、恐らく名前をずっと呟いていた。

 

 

 ──…タルラック、ヴァンクリーフ、貴方は…ロザンですか…こんな…醜い顔になってしまって………すいません。先に進みましょう。

 

 

 

 ルーナイトは、分かりやすい鎧をしている。緋色の騎士団とも言われ、ピンクを基調としているが、今はその鎧は、どす黒い赤に染まってしまっていた。

 

 

 ──カナリア、ザック、マレット、ヨークス、…ッ!

 

 

 呟いていた彼が、急にとある死体に駆け出した。2人は、遅れながらも、追い付くと、彼は、死体を抱え、今にも泣きそうな声で、その名前を言う。

 

 

 ──アレクサンド、ルーナイト騎士団。副団長です。……彼は立派に勤めを果たしました。…せめて、安らかに、来世でまた会いましょう。闇の精霊の祝福があらんことを…

 

 

 「魔切…」「魔切ちん…」

 

 2人が見ていても、いてもたってもいられず、ついやってしまったという顔をして、再び、衣服を整え、

 

 

 ──お時間を取らせました。すいません。…行きましょう。

 

 

 涙は、止まらず、枯れてもなお、流れ続けている。彼をみて、何か出来ないか悩むが、今は進むしかないと理解し、何も言わずに前に進む。

 

 

 そう進んでいると、大扉、王の間までたどり着いた。

 

 

 ──騎士、七夜魔切!ここにッ!城の異変に駆け付けましたッ!入室の許可をッ!

 

 

 

 彼は、扉の前から、声をかける。しかし、帰ってくるのは、静寂。中に人が居るか、その確認だった。…暫くしても返ってこない。つまり…

 

 

 ──無礼をお許しください。ッ!

 

 

 

 扉を勢いよく開け、中を確認する。

 

 

 

 中は先程の廊下と変わりがない、しかし、1つ違うとするなら…玉座に、磔にされている。ルーナの両親だろう。そして、後ろの壁に、文字が書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『血を求める…もっと血を…まだ足りない…魔族の血を寄越せッ!』

 

 

 

 

 魔族の言葉で書かれたそれは、まさしく、快楽殺人(狂人のそれ)だった。革命でもなく、ただ、殺したかったら、皆殺しにされたのだ。そして、新たな血を求めて、獲物を探すため誘き寄せるため、あの騎士モドキを自分達の所に寄越したのだろう。

 

 

 「新しい獲物ぉだぁ!」

 

 

 ──赦さない、許さない!

 

 

 背後から奇襲された彼だが、盾をその奇襲してきた所に構え、そのまま地面に叩き付けた。

 

 

 「ぐへぇ!?」

 

 

 ─粗末な、ただの快楽のために…我が同胞を…我が忠誠を…侮辱したなッ!許さない!赦さないッ!只では殺さないッ!

 

 

 そう言いながら、彼はその犯人に自らの剣を突き刺した。何度も、何度も突き刺した。

 

 

 ─アルマーニは真面目だった!ハゼットはお調子者だったが良い人だった!ピオネロは優しい人だった!

 

 

 「がぁ……ぎぃ…うげぇ………」

 

 

 ──タルラックは兄貴分で年下から慕われていた!ヴァンクリーフは寡黙でしたが、面白い人だった!ロザンはナルシストだったが、誇りをもって仕事をしていたッ!

 

 

 「………ぁ……ぅ………」

 

 

 ほとんど息の根を止めるぐらい、致死量の出血は、もう過ぎているが、彼は止まらない。

 

 

 ──カナリアは女性であったが、勇敢で、可憐だった!ザックは人当たりが良かったからいろんな人に好かれていたッ!マレットはよくお菓子を作って皆に配るくらい、人が良かったッ!ヨークスは人見知りだったが人一倍努力していたッ!

 

 

 もう既に息はなく、骸になっているのに、激情は止まることなく、剣を突き立てる。

 

 

 

 ──アレクは…奥さんがいた…幸せの絶頂だったのに…どうして…どうして!あなたのような狂人に殺されなくてはならないのですかッ!

 

 

 そして、首をはねて、ようやく、自分が冷静でなかったことに気付く。

 

 

 ──ッ!つい冷静さを欠きました。姫ッ!

 

 

 「魔切ちん…ルナちんが…起きないの…!」

 

 

 ──眠っている…?起きてくださいッ!姫ッ!姫ッ!!!

 

 

 その声に答えることなく、静かに眠っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、医者に見せたところ、心因性の昏睡状態。目覚める確率は低く、目を覚ますには、自ら以外に方法はなく、彼は、守ると言ったのに守れなかったことを、後悔した。

 

 

 騎士の遺体は、丁寧に弔われ、一人になってしまった彼は、闇の精霊のとの契約により、不老となり、1人門番をすることになった。

 

 

 

 彼は未だに、過去に後悔している。約束を守れず、苦しみ続けるようになった彼女を、未だに守るしか、彼の贖罪は存在しない。

 

 

 

 救われない世界。ルーナは永劫の苦しみに囚われ、騎士は守れなかった贖罪のために、今もその城を、彼女を守っている。

 

 

 この世界を、救われるのは、もう少し先の話。

 

 

 

 




 では、テイルズと古戦場と夏イベがあるので暫く投稿出来ません。許して?


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るしあとふぁんでっと七夜 とある1日

 番外を出したくなったので書きました。

 アライズ楽しすぎィ!なんか身内で実況しながらやっていますけど、もう面白すぎて、死にそう(語彙力)

 本編はアライズクリアしたら本気だしますので…今暫くお待ちください!

 一人称…ムズいな…やっぱり三人称のほうが書きやすいな。今回は、お試しでやってます。


 あ、るしあは、好感度あげやすいって攻略サイトに書いてあったので、チョロインって訳ではないです(大嘘)


 

 

 ああ、許して欲しいのです。…もし、償えるのなら、死んで償いたいのです…。でも、そんなこと、許してくれませんよね?…魔切さん、どうして、るしあを置いて、先に逝ってしまったんですか?…全部、あの紅赤朱が悪いのは、分かっているのです。…でも、それでも、るしあは…

 

 

 「寂しいのです…魔切さん。」

 

 

 るしあは、目の前にいる。魔切さんに語り掛けました。…当然、答えられる筈がないのです。だって、その顔に、生気はなく、白く、虚ろな瞳をしているから…。もう、死んでしまっているのです…。

 

 

 「魔切さん。また、魔切さんの声が聞きたいです…るしあを褒めてくれる。るしあを愛してくれた。その顔を、綺麗な瞳を…もう一度見たいのです…」

 

 …神様でもない限り、そんなことは出来ません。分かっていても、るしあは願ってしまうんです。あの時に、もし、るしあがあんな危ない目に合わなかったら、魔切さんは、生きていたかもしれないのに、毎日、後悔しているのです。

 

 

 「うぅ……魔切さん……ごめんなさい…るしあが…るしあがあの時に動けていれば…魔切さんは…」

 

 

 自分でも、分かっていても、何度も何度も同じことを言ってしまいます。魔切さんが、それで戻ってくる筈もないのに、ずっと、るしあは、魔切さんに謝り続けてます。

 

 

 罪を軽くするため…違うのです。どれだけ謝ろうとも、帰ってくるわけではないので、もう、戻らないことを、只、嘆いてるだけなのです。

 

 

 「戻りたい…何もかも…もうあの時に戻りたいのです。」

 

 

 あの頃、それは平和だった学園生活。…るしあが、学校を嫌いから好きになって、楽しい時間を送っていた。遥か昔の話なのです。

 

 

 実は、るしあの体は、もう成長することはありません。だから、るしあの年齢は…1600歳位なのです。もう、立派な魔族になってしまいました。今も交流できる当時の学園の人が居るとしたら…メル先輩とココ会長位なのです。

 

 

 でも、魔切さんが亡くなった後は、誰ともあっていなかったので、心配させたかも知れなかったなぁ…と少し思ってしまったのです。

 

 

 ……でも、魔切さんが死んでから、誰にも、魔切さんを、見せたくなくて、るしあ以外に、悲しんで欲しい人が、増えないように、すぐに魔界の実家に戻り、不老の存在になりました。……本当に、本物の死霊使い(ネクロマンサー)になったのです。

 

 

 るしあの家系は、倒した敵の魔獣を戦力として、再利用したり、死体を漁っていた。ということをしていたから云われていた称号みたいなもので、本当に、死霊を扱って、不死の存在は…今のところ、るしあしかいないのです。

 

 

 不死になったるしあは、魔切さんが復活する方法も探しました。もしかしたら、禁忌の書物の中に、蘇生する方法があるかもしれないと、…現実は甘くありませんでした。

 

 

 「なんで…なんで!全部!蘇生じゃなくて、死霊にするものしか無いのです!」

 

 

 今思えば、当たり前の事に、怒っていたと思うのです。るしあの家系は死霊を扱うのに長けてる家系で、蘇生が在るとは、考えにくかったのです。それでも、あの時のるしあは希望を捨てきれなくて、お家の書物のだけでなく、魔界の図書館まで行って、そこの文献を探りましたが…一切蘇生の方法を書いている本なんてなくて…

 

 

 …るしあはそうやって過ごしていくうちに、長い月日を消費していました。親はもう人間のまま、そのまま寿命で亡くなりました。周りの親しかった学園のクラスメイトも、どんどん亡くなったと聞いて、るしあは…諦めました。

 

 

 魔切さんは生き返らず、ふぁんでっととして、一緒に、過ごすことを決めました。…そうすれば、傷つくのは、るしあだけで済みますから。

 

 

 魔切さんは、今日も、るしあの事を見てくれます。…虚ろな瞳で、何も無い、空っぽの体で、るしあの事を守ってくれます。

 

 

 るしあが、何故、魔切さんがこんなにも好きになったのか、それは、やっぱり、入学の時のバトルロワイヤルの時なのです。

 

 

 あれがなければ、るしあは灰色の学園生活を送っていたのかもしれないのです…今思えば、感謝しかありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 るしあは、始めて、恋をしました。るしあは昔っから、霊が見れたので、変な子供扱いされ、同級生からも、いじめなどを受けてました。魔界中学校では、もう、一回くらい死んでても可笑しくない攻撃を受けたこともあります。でも、全部守ってくれる存在がいました。それが、るしあの唯一のお友達だった、ふぁんでっとさんなのです。

 

 

 ふぁんでっとさんは、その攻撃を受け止め、さらに、その打った子供に呪いを掛けたりと、るしあの事を人一倍に心配してくれました。ふぁんでっとさんにも、いろんな人達がいて、るしあは、その時は寂しくありませんでした。

 

 

 しかし、その事件が原因で、るしあは魔界学校を出ていかなくてはならなくなりました。来年には、高校生なのに、どこもるしあの事を入れてくれる学校なんて、存在しませんでした。

 

 

 その時に、両親に、るしあを引き取りたいって言った学校があったのです。その学園が、るしあと魔切さんを出逢わせてくれた。るしあの赤い糸…ホロライブ学園でした。

 

 

 

るしあは、学校に行くのが憂鬱でした。だって、「霊が見える、死霊を操っている」…なんて知られたら、また苛められる…そう思っていました。

 

 

 そんな時に、るしあは、1人の男の子に出逢いました。バトルロワイヤルがあって、るしあは、なにもせずに、脱落する予定でした。だって、知られたら、今度こそ自分の居場所が失くなると…当時はそう思っていました。だからなにもせずに居れば、何処からか攻撃が飛んできて、脱落すると思っていました。

 

 

 ──どうしたんだ?そんなところで棒立ちになってたら、誰かにやられるよ?

 

 

 初めは…放って置いてほしくて、無視してました。だけど、何を思ったのか、ずっとるしあの事を構って来るので、つい、ふぁんでっとさんに頼んでしまったのです。攻撃を。そうしたら

 

 

 ──おっと、霊を使うのか。油断できないな…もしかして、今まで黙っていたのって、わざと隙を作ろうとしてやった事?…じゃ無さそうだな。その顔見れば分かるよ。そんなに霊が見える人間は珍しい?君だって見えてるんだ。だから、ボクが見えてても、不思議じゃないだろう?

 

 

 彼は、るしあに安心させるような、優しい顔を、そして、綺麗な青い目をして、こちらに笑顔を向けました。

 

 

 るしあは、驚きで開いた口が塞がりませんでした。今まで、霊が見える人間は、自分の家系だけだと思っていたので、彼が見えていたのが、とても信じられませんでした。そして、それだけじゃありませんでした。

 

 

 ──そうだ、ボクと組まないか?ちょうど誰かと組みたくてさ、なんかボクも誰も仲間居ないし、今ならボクと君で霊見えるコンビで強くなれるよ!…お?なんだい、これ?君の使役してる霊か?なんか可愛いな。

 

 

 そんなことを言ってくるとは思わず、その言葉を深く理解せずに頷いてしまい、結局、最初のバトルロワイヤルで生き残ってしまい。一応るしあが辞退したので、魔切さんが優勝という形になりました。

 

 ですが、るしあも一応、準優勝だったので、注目を浴びるようになってしまい、また何かを言われると、絶望していたら…彼方から、件の人間がこっちに誰かと歩きながら、来ていました。

 

 

 ──ボクが勝てたのは、彼女…ええっと…?

 

 

 「潤羽るしあ、なのです。そういえば、お互い名乗ってませんでした。今さらでしたね。」

 

 

 あの時、色々あって名乗らずに優勝まで行ってしまっていて、キチンと自己紹介していませんでした。るしあが先に名乗ったら…

 

 

 ──…ごめん、生き残ることばかり考えていたからさ、名前聞くの忘れてたよ。ボクの名前は七夜魔切だ。よろしく、るしあ!

 

 

 と、あっちも挨拶を返してくれました。

 

 

 「ふーん、彼女。ネクロマンサーですよね。」

 

 

 その声に、るしあは反応してしまいました。ビクッと体を震わせ、また苛められるのではと、身構えていました。

 

 

 ──あぁ、とても優秀なんだ!使役してる使い魔も賢く強くてさ、ボクが居なくても、彼女だけで勝てるくらい、優勝だって本当は彼女が居なければ不可能だったと思うんだ!

 

 

 「いや、それはないですワ。だって貴方だって敵を掴んで、投げて、殴って蹴って、それで最後は関節技?魔術師多いこの世界で何してるんです?刃牙の世界の人間って言われたほうが、船長信じれますよ?」

 

 

 そうなのです。るしあは最初、目を疑いました。だって、ふぁんでっとさんが引き付けてる間に、横や後ろや上から奇襲して、確か、『アイアンクロー』というものをしていたり、十字固めや…

 

 

 ─CQCだ!

 

 

 …何て言って首を絞めていたり、相手を掴んでいないないのに投げていたり、明らかに逸れたパンチが相手の顔面に綺麗に入っていたり、キックも…

 

 

 ──…ライ◯ーキック。

 

 

 …って言って後ろ回し蹴りした後に、相手が爆発していたり、色々おかしいことをやっていました。…今でも、あの時の原理は理解できていません。

 

 

 ──ちょっとだけ悪ふざけでやったこともあるけどさ、それでも彼女が居なかったら、ボクは勝つこと処か、戦うことすら出来なかったよ。

 

 

 多分、戦えていたと思うのです。だって、魔術を目視で避けて、更に相手が武器を持っていてもそれを壊して、強制的に素手にしたりしてましたから、間違いないと思うのです。

 

 

 「後、船長の見間違いじゃなかったら、剣を指で折ってたと思うんですけど…」

 

 

 それも事実なのです。魔切さんは、剣を持った人と戦っていたときに、

 

 

 ──ねぇ、君知ってる?剣っていうのはね。とある3つの点に力を籠める方向を別々にして力をいれれば、簡単に折れるんだよ?

 

 

 って言って目の前で物凄く高そうな剣をボロボロにしてしまいました。その後に、容赦なく心の折れている相手に、心臓を素手で抉ってました。流石のるしあも味方だったのですが、怖かったです。

 

 

 ──ま、相当な達人じゃないと折れないけどね。昔から素手で戦ってたせいで、武器持ちとはあんまりまともに戦いたくないんだよね。

 

 

 なんて爽やかに言ってましたが、物凄く怖かったです。…血塗れだったので尚更怖かったのです。でも、一緒に居ると、嫌なことを忘れて、凄く心地よかったのです。

 

 

 るしあが、当時を思い出していたら、話がかなり進んでいて、優勝のお祝いをしようという話になっていたのです。

 

 

 ──とにかくさ、るしあ、お祝いしようよ!ボク、料理作ってくるからさ、何が好き?

 

 

 「あ、船長も参加させて貰いますね!後、他のクラスの人も何人か呼びますからよろしく!」

 

 

 そう言って、海賊のコスプレ?をしていた人は立ち去って行きました。

 

 

 ──えー…まぁ、いっか、大勢の方が楽しいかな?苦手だったらごめんね?

 

 

 「大丈夫なのです。後、中華料理が好きなのです。」

 

 

 今思えば、物凄くぶっきらぼうに言ったと思うのです。でも、そんなことを気にしていないように、ニッコリと笑って…

 

 

 ──わかった。中華料理色々作ってみるから、また連絡するね………連絡先教えて貰っても?

 

 

 

 ちょっとだけ抜けてて、でも、るしあの事を考えてくれて、初めての体験でした。誰かから、優しくされて、そこから彼に惹かれ始めたのです。

 

 

 日常を過ごしていくなかで、魔切さんに惹かれ、るしあ自身びっくりするくらい、早く告白しました。

 

 

 魔切さんも、るしあが告白した時には、るしあの事を好きになっていたらしく、電撃的な早さで付き合いしました。…大体1ヶ月位なのです。他の人もびっくりしてました。どうやら、狙っていた人は多かったらしいのです。

 

 

 それでも、るしあの事を誰も悪くは言わず、むしろ祝福してくれました。…いいクラスメイトを持てたことは、本当にるしあの宝物の1つなのです。

 

 

 魔切さんも、るしあと付き合っていくうちに、お料理を教えてくれたり、るしあとで、デートに行ってくれたりと、お互いに、いい恋人だったのではないかな?って今思い返してみて、そう思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切な、楽しい時間でした。……あの時までは……。

 

 

 

 

 

 

 

 るしあは、魔切さんのお父さんの仇である、紅赤朱との戦闘に、参加しました。…いえ、違うのです。るしあは…傍観者でした。魔切さんは相手の炎を、まるで熱くないかのように受け流したり、消したりして、直撃を浴びず、自分の攻撃を相手に与えてました。

 

 

 ──えいっ!行くぞっ!連牙弾(れんがだん)っ!飛燕連脚(ひえんれんきゃく)っ!空破絶掌撃(くうはぜっしょうげき)っ!

 

 

 「無駄だッ!ぬぅん!炎上ッ!」

 

 

 

 お互いに、致命傷を与えられずに、攻防を続けているうちに、…紅赤朱が、唐突にるしあの事を見ました。…直感で、るしあを狙ってくるのは、解ったのですが、睨み付けられた時に、体が、蛇に睨まれた蛙のように…動かなかったのです。

 

 

 るしあの方に飛んできて、るしあは逃げようとしても、あっちの方が速くて…

 

 

 「済まんな、許しは乞わん。ぬぅん!!!」

 

 

 るしあは、死んだと思いました。目を瞑って、痛みが来るのをずっと待っていました。…暫くしても、痛みが来ないので、目を開けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で、体を貫かれた…魔切さん(愛しの人)がいました。

 

 

 

 

 

 

 

 「ぁ……ぇ……魔切…さん…?」

 

 

 ──ごはっ……大丈夫…だった?るしあ……まったく…ボクだけ……見てれば……良いものを…

 

 

 目の前の光景が、衝撃過ぎて、言葉が耳に入ってきませんでした。

 

 

 「こうもすれば、本気を出すかと思ったが、まさか庇われるとはな…お前も、お前の親も、同じというわけか…」

 

 

 ──生憎、…このまま、終わるわけには、いかないんだよ…るしあ、ボクに…ボクを、死霊に、してくれないか…?

 

 

 頭が真っ白になってました。しかし、その言葉だけ、クリアに耳に入ってきて、るしあの思考が、現実に戻ってこれました。まさか、魔切さんから、そんな言葉が出てくるなんて、思ってもいませんでした。

 

 

 「…何を、言っているのですか!?早く治療しないと…」

 

 

 ──無駄だよ…もう、手遅れだ…だからさ、お願いだ…ボクは、君と共に…最後まで戦いたいからさ…

 

 

 見るからに、心臓を貫かれ、生きてるのが不思議な位の傷を、魔切さんが負っていると、改めて見て、思わず、叫びたくなりました。…声に出なかっただけなのですが…

 

 

 「そんな…無理なのです!まだ……治るかもしれないのに…!」

 

 

 るしあは魔切さんにそう伝えますが、首を横に振り、

 

 

 ──自分で、解るんだよ…もう、駄目だってな。…だからさ、せめて、一矢報いたいじゃん?…だから、ボクの…最後のお願いだ。

 

 

 そう言って、魔切さんはどんどん瞼を閉じようとしてました。

 

 

 「!?しっかりしてください!」

 

 

 ──…限界だ…るしあ…ボクの……お願い……ちゃんと……遂行……し……て……ね……あ…い………し……て………

 

 

 そこから、魔切さんは動かなくなり、瞼も完全に閉じていました。…ずるい人です。勝手に、一方的に、約束させられました。…だからるしあは…

 

 

 「……"汝、屍よ、その身を我に捧げるか?"」

 

 

 るしあは、約束を守るため、詠唱します。この最初の一節は、否定する屍もある時やそもそも死体がないときはは、此処で発動しません。…でも、発動したので、続けていきます。

 

 

 「"沈黙を肯定とし、死霊使い(ネクロマンサー)の名の元に契約する"」

 

 

 あぁ、この術が目の前の魔切さんの体に適応するというのは…そういう事なんだろうと、理解しました。だけど、約束なので、るしあは泣きません。術を止めません!

 

 

 「"汝は、我と共に、我が尽きるまで、我に尽くせその身を犠牲にしてでも"」

 

 

 この節は嫌いなのです。だって、るしあは犠牲にしたくありません。今いるふぁんでっとさんたちも、犠牲にしたくありません。だけど、勝手に犠牲になる子もいます。それは…この契約のせいなのです。だけど、これを言わないと、契約は成立しないので…仕方なくやっています。

 

 

 「"此処に、新たな契りを結ぶ、汝はふぁんでっと。我と共に、戦い、壊れていくことを、此処に誓わせる"」

 

 

 るしあが誓う訳ではなく、一方的になので、こんな詠唱になっています。…ゆっくりと光が収まると、先程まで、ピクリとも動かなかった魔切さんの体は、ゆっくりと立ち上がり、目を開きました。やはり、その瞳に光はなく、死んでいて、そして、パスが繋がっていることから、契約が成立していることが分かりました。

 

 

 「ほう…死霊術を使うとは…だがそれは、ぬ!?」

 

 

 魔切さんは、一目散に、紅赤朱に飛びかかりました。紅赤朱は炎を使いますが、生きている時と、同じように躱して、攻撃してます。…むしろ、生きている時より、状況が優勢になるくらい…

 

 

 「読めぬ…行動の全てが…なるほど、雑念を捨て、自らの思考を失くしたがゆえに、純粋な技術のみで俺を翻弄するか。更に炎まで効かぬとは…面白い!」

 

 

 そこから、魔切さんが、紅赤朱を倒すのに、時間は掛かりませんでした。体のリミッターが外れて、人では出せないような怪力で、紅赤朱の心臓を抉り、倒しました。

 

 

 「魔切さん…魔切…さん…」

 

 

 全てが終わった後に、るしあは気づいてしまいました。愛するものが、愛していた人が、もう、この世に存在しないことを、るしあは1人泣き崩れました。…魔切さんの体に抱きつくように、涙が枯れるまで、ずっと泣いていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、るしあの罪、魔切さんが死んで、るしあが生き残っている。これが、るしあの罪であり、罰なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、誰か…早くるしあを、……救って(殺して)ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、此処まで見て貰えば分かる通り、この世界は救われない世界、愛しい人は帰らぬ人となり、それを悲しむ少女が1人、この世界はもう停まってしまった世界だ。

 

 

 この世界が動き出すのは、もう少し先の話である。

 

 

 

 




 ココ会長は、どの世界でも、桐生会っていう名前がとても立派な風紀委員を作っています。みんな親しみを籠めて、会長って呼んでいます。


 ごちゃごちゃしてて見辛いけど…許して…許して…

 一人称…いやーキツイっす!だからもう三人称しかやらないからな!


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断罪者七夜 とある1日

 今回は、バットでもトゥルーでもないいわゆる、ノーマルっぽい終わり方をした世界の話。

 まぁ別の意味で愉悦できるかもしれないのでよかったら見ていってください


  現在は夜更け、明かりの無い家は真っ暗で、真夜中にも働かなくてはならないものは、闇夜に怯えながら、仕事をしている。中世ヨーロッパみたいな建物が多く、電線や機械類の類いも見ない。故に明かりは原始的な物か、機械ではなく、魔道具で光を灯す家が多い。この中で、一際輝いている家がある。

 

 

 そこは、とある貴族の屋敷。豪華な飾りや、大きな魔道具の明かり、所謂豪邸という感じの家だろうか。そこに、とても華やかな服装で着飾った存在がいる。領主だろうか、手にはワインを持っており、優雅に窓から下を見下ろしている。

 

 「んっふっふ、私の領民(奴隷)どもよ。こんな時間まで御苦労なこった。あんなに働くなど…精が出るのぉ…ま、わしは此処でぞんぶりかえって、王に媚を売るだけで、楽なもんじゃい!」

 

 

 彼はそう言うと、グラスのワインを一気飲みする。そして、グラスを机におき、再び見下ろす。…いや、見下しているが正しいだろう。

 

 

「わしはお前らのために、この金を使うなど…あり得んなぁ…!上にたっているものは、下から搾取する。弱肉強食とは、良く言ったものよ!」

 

 

 彼はそう言うと、ベルを鳴らす。従者を呼ぶためである。彼は外に出ることはせず、一日中部屋の中で仕事をしている振りか、王にゴマをすりにいく位だ。故に、何かあればベルを鳴らして従者を呼んでいる。

 

 

 「……なんじゃ…誰も来んではないか!まったく!」

 

 

 しかし、すぐ来るはずの従者は、一向に来る気配がない。彼は、気が短く、怒りっぽい。なので直ぐに行かないと、こうやって直ぐに怒る。所謂面倒くさい上司の古典的な例だ。故に従者は飛んでくるはずなのに、今回は誰も来なかったのである。

 

 

 「此処から動きたくないしのぉ…来るまで鳴らしてやる!」

 

 

 彼はそう言うと、ベルを鳴らし続けた。そうすると、廊下から足音が聴こえてきた。

 

 

 「ようやく来たのか!遅いぞッ!何をやっているッ!」

 

 

 ドア越しに怒鳴り付けるが、一向にドアが開く気配がなく、疑問を持った。すると、再び足音が聞こえ、ドアを開ける。

 

 

 ──………

 

 

 「…!?誰だ貴様ッ!」

 

 

 ドアを開けたものは、黒い外套を身に纏い、手には、刀を持っている。

 

 

 ──あんたが、クラベリーク伯爵で間違いないか…?

 

 

 「貴様ッ!無礼だぞッ!様を付けろ、様を……ひィィ!?」

 

 

 彼がそう怒鳴たが、黒い外套を着た男が、一気に間を詰めて、首に刀の刃の方を向けて再度語り掛けてくる。

 

 

 ──あんた、状況理解できてないようだなぁ…今は俺が質問していて、あんたは俺の質問に答えるしかないんだ。ま、その反応だと、あんたはクラベリーク伯爵で間違いないな。噂通りだ…なら次の質問だ。あんたの汚職の証拠。何処にあるんだ?

 

 

 「貴様…一体、何が目的だッ!」

 

 

 貴族は、男に怯えながらも、質問する。学ばない奴とはこういうことを言うのだ。しかし、男は怒った様子もなく、逆にその質問に答えたのだ。

 

 

 ──目的…目的ねぇ…今言った通り、あんたの汚職の調査と、汚職を手伝った奴の洗いだし、あとは…ま、後は、追々分かるさ。

 

 

 「そうか!なら金をやる!それで此処は勘弁しろッ!何もなかったことにしてやるから、さっさと立ち去ってくれ!」

 

 

 彼は、金で男を釣ろうとした。所詮は、金で雇われたのだろうと、そう思ったからだ。しかし、そんな提案をしても、彼は退かずに、再び、貴族を睨み付けながら、脅す。

 

 

 ──今まではそれで逃げれただろうがなぁ…今度こそ、終わりだ!えっと、こういうの、年貢の納め時って言うんだっけ?まぁ良いや、あんたは別に、居ても居なくても、俺のやることは代わり無いからさ…

 

 

 「(バカめッ!今すぐ、このボタンを押せば、衛兵が来る。その隙に逃げて、証拠を消せば…)」

 

 

 等と、腹の中でも黒いことを考えていたら、彼が思い出したかのように、言葉を出す。

 

 

 ──おっと、伝え忘れてたが、あんたがどんなことをしても、衛兵は来ねぇぜ?道中にいた奴は気絶させたし、寝てる奴も一応起きれなくしたからな。来るのは、一般人…いや、奴隷くらいだぜ?しかも非戦闘用の、それに…こんなところ、奴隷に見られたら、どうなるんだろうなぁ…?

 

 

 貴族は、その言葉を聞くと、顔を青ざめ、体から汗という汗が吹き出てきている。理解してしまったのだ。自分はもう助からないのだと。

 

 

 ──ようやく、理解したらしいなぁ…ま、今さらだけどな。質問に答えて貰おうか。…汚職の証拠、何処にある?

 

 

 「だ、誰が言うもんかッ!わしはなんも知らんッ!言い掛かりはよせッ!」

 

 

 ──まぁ、そう言うと思った。だから、質問を変えよう。その、汚職の書類は、どの引き出しの何番めにとか、そう言うことを聞きたいんじやぁない。どの家にあるんだ?この家か?…それとも、あの貴族様には似合わない小屋か?

 

 

 男がそれを言ったら、まるで、隠していたものがバレた時のような顔をして、更に青くなった。もう少しで白くなるのではないかと言うくらい、顔から生気が無くなっている。

 

 

 ──はっ、そう言うのもバレバレなんだよ。なるほど此処には無ぇ、って事か、なら、あんたにもう用はないな。

 

 

 そう言って、男は刀を首から離し、そのまま背を向ける。

 

 

 「何だと……?逃がしてくれるのか…!?」

 

 

 貴族は、床へへたりこみ、男に疑問をぶつける。それに答えるように首だけ貴族の方へ向き、疑問に答える。

 

 

 ──まぁな、別に、殺せって言われた訳じゃねぇから、汚職の証拠探し出せって言われただけだからな。

 

 

 そう言って男は扉の方へ歩き出す。貴族は、それを見て、安堵し、そして、同時に屈辱を味わった。何故、一般の人間にここまでの事を許してしまったのか。それに気づき、もう一度、男の姿を睨む。無防備に背中を晒している姿をみて、貴族は思ってしまった。

 

 

 「(今ならば、わしのこの剣で、下賎な者を成敗できるということか!ならば…)……死ねぇぇぇぇぇい!?」

 

 

 そう言って、そのふくよかな体からは考えもしない早さで、男を襲う。しかし、男は、ふと、立ち止まり、こう呟いた。

 

 

 ──ああ、一つ忘れてたましたわ…そういや、大事なお願いをされてたんだった……

 

 

 男は先程まで、完全に無防備な背中を見せていたのに、此方に元から気づいていたかのように振り向き、手に持つ獲物で、貴族を切り捨てた。胴体袈裟斬り。綺麗にそれが決まり、貴族は血を流した。

 

 

 「がはぁ!?……ば、…バカな………何故……?殺さない、はずじゃ……?」

 

 

 

 そう言って、貴族は倒れ伏す。なにもしなければ、そのままの垂れ死ぬだろう。その貴族に対して、男は説明するように語った。

 

 

 ──おいおい、敵襲うのに殺気丸出しで、声まであげられたら、そりゃ分かるでしょ?ついでに、思い出したって言っただろ?あれな?…クラベリーク伯爵を殺して復讐してくれって奴。依頼とか関係なしに、頼まれてたからすっかり忘れてたわ。

 

 

 だから、ちょうど殺せたから、これで良いだろうさ。残念だったな。余計なことしなけりゃ、生きてたかも知れねぇのにな。

 

 

 男はそう言って、血を払い、その場を後にする。貴族はそのまま息絶え、絶命したのを確認してから。

 

 

 外に出て、敷地を後にし、外套を脱ぐ、素顔が明かされる。

 

 

 

 ──ふぅ……これで良いだろうさ。死体は…まぁ朝には見つかるだろ?それに、後はあの"白銀騎士団"がどうにかするだろうしな。俺は、さっさと部屋に戻りますか…っと。

 

 

 彼の名は魔切。権力による弾圧に負け、自身の無力さから、法で裁けない悪を裁く…断罪者。それこそが、今の彼であり、彼のそれは、完全に慈善ではなく、独善的な行動だと理解して、行動している。救い用の無い偽善者なのである。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 【白銀聖騎士団、またまた汚職を発見。元凶の汚職貴族は何者かに殺害された模様。口封じか!?】

 

 

 

 ──へぇ…まぁそうなるよな。さて、今日もちまちま働きますかぁ…

 

 

 彼は下町…城下町に住んでいる。といっても、宿屋の一室をずっと借りて、持ち家はなく、細々と生活している。決まった仕事をやらず、何処かの困った人間を助ける…所謂何でも屋をやっている。

 

 

 

 宿屋から出ようとすると、後ろから急に声をかけられる。振り向くと、その声の主は、この宿屋の店主からだった。

 

 

 

 「よう!魔切。暇なんだろ?だったらうちの手伝いしろよ!給料安いかも知れねぇがよ!」

 

 

 そう言って、ニコッと笑いかけてくる。それを見て、しまったっ!という顔をしてしまう魔切。枯れがその言葉を自分に掛けるときは、いつも、とある人物からの呼び止めがあるからだ。しかし、世話になっている以上、その言葉を無碍に出来ず、結局承諾してしまう。

 

 

 ──あー、はいはい、分かってますよ。どーせ、また騎士団長様が直々に来るってことだろ?それまで拘束時間のために、わざわざ俺を働かせてくれるとは……

 

 

 「仕方ねぇだろ?美人の言うことは、絶対!俺ァそういう質なんでね。ま、ノエルちゃんはまだ可愛いだけどな。ハッハッハ!」

 

 

 ──…それ、ノエルの前では絶対に言うなよ?じゃねぇとあのおっかないメイスが飛んで…

 

 

 「ん?何がおっかないメイス飛んでくるって?」

 

 

 魔切が冗談交じりで注意しようとするところで、急に後ろから圧が襲い掛かりながら、言葉が聞こえてくる。後ろを向くと、黒いオーラを纏ったノエルが、いかにも此方をすぐにでもミンチにする勢いの圧を出しながら、此方を見ていた。

 

 

 ─(そこまで言いきってなかっただろ…)あはは……優しくな?

 

 

 しばらく、ジト目で睨んでくるが、慣れた。みたいな反応をし、ため息を付きながら話しかける。

 

 

 「はぁ…別に今回はここを壊したくないからしないよぉ?だけどさ、今回の事でちょっと事情聴取を……ね?」

 

 

 そう言って、オーラを消しながら、宿屋の食事場で、席に座る。それに続いて、向かい側に黙って座る魔切。いかにも知らないですよ。という顔をしながら、魔切はノエルの話を聞く態勢をとる。此方から話す気はないと言わんばかりの態度で。

 

 

 「………はぁ…仕方ないね。はじめから説明するよ?今回の被害者は、クラベリーク伯爵。汚職しているって有名だったね。何回か調査に入ろうとしたけど、権力を行使されてなかなか調査に入れなかった所の1つだね。」

 

 

 ──へぇー、んで、なんで今さらそんな話を俺に?言っときますけど、騎士団長様に言えることなんて…

 

 魔切は言葉を言いきる前に、ノエルの顔を見て、黙り込む。その顔はニコニコしているが、物凄く怒った顔をしており、絶対に逆らったら容赦無しで攻撃されると思ったからである。

 

 

 「……それでね。朝、団長達が、出勤する時にさ、急に出動命令が出たんだよね。それも何回交渉しても、応じなかったあのクラベリーク伯爵の所にね。」

 

 

 ──へぇ…良かったじゃねぇか。調査に行けたんだから、それで汚職が分かったんだろ?最高じゃねぇか!流石は期待の騎士団長様。人気に答えるねぇ…?

 

 

 そう魔切が煽ると、青筋を浮かべ、いかにも直ぐに暴れだしそうな雰囲気を出し始め、周りが騒ぎ出す。それを見て、イタズラ成功みたいな顔をしてから、本題を切り出す。

 

 

 ──そんで、俺に何が聞きたい?ある意味昨日はアリバイがあるんだ。何聞いても……

 

 

 「ミリアナお嬢様から全部聞聞いたよ!依頼したって。だからそのアリバイは嘘だよ!」

 

 

 魔切がシラを切ろうとすると、ノエルが畳み掛けた。ミリアナとは、公爵家の令嬢。王家の血を引くものの家系で、極秘で暗殺やら密偵やらを担当する家系でもある。魔切は実際、そこから頼まれており、逃げることが出来なくなったのである。

 

 

 ──…ったく、なんで喋っちまうかな……仮にも極秘暗殺部隊の長かよ……

 

 

 「それで、なんで殺したの?別に殺さなくても良いって言ってたんだけど!魔切くんはなんで、"また"殺したの!!」

 

 

 ノエルが怒っているのは、殺さなくても良い人間を殺したからである。この国にも、当然法がある。罪を犯せば捕まり、罰せられる。しかし、魔切は肩をすくめ、こう話す。

 

 

 ──"法"ねぇ……それで、"あいつ"に逃げられ、立場が危なくなったのにか?それでよくマトモでいられるよな。尊敬するわ。ノエル。

 

 

 「ッ!!………」

 

 

 "あいつ"とは、過去に関わることなのでここで触れられ、思わずノエルは苦悶の表情を浮かべる。それを見てため息を付くと、魔切は謝る。

 

 ──わりぃ、忘れろ。あれはノエルは全く悪くないんだ。悪いのは…

 

 

 「魔切くんは悪くないもん!!だってあの時は!」

 

 

 ──落ち着けって!話振った俺も悪いけど、ここは公共の場だ。取りあえず、続き言いたいなら、俺の部屋でしろ。でないと、"あいつ"は何処にでもいるからな…

 

 

 魔切はそういうと、店主におことわりを入れて、部屋に戻る。そして、話の続きを始める。

 

 

 ──あの話は、ここの奴らには聞かせらんねぇからよ。わりぃな。だけど仕方ないだろ?あの時は…

 

 

 そう言って、彼は数ヶ月前の話を思い出す。彼は白銀聖騎士団の団員であった頃。ようやく馴染んできて、実績を積んでいた頃だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数ヶ月前~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──行くぜッ!蒼破刃(そうはじん)ッ!

 

 

 ギャウン………

 

 

 ──ざっとこんなもんだな。さぁて、次は何処だ。ノエル。

 

 

 

 魔物に技を当て、その魔物はたまらず絶命。城の外周警備の任務を受けて、魔切とお目付け役(という名のデート)のノエルは、順調に城の外の魔物を蹴散らしていく。

 

 

 「もう今日の外周警備はいいよ。この辺りは団長達が全部片付けたっぽいよ。お疲れ様。それでね、魔切くん。」

 

 

 ──なんだよ…折角ノエルとの初任務っていうのにさ、こんな緩いので良いのかよ?

 

 

 

 魔切は不貞腐れながら言う。それを見て、少し微笑みながら、ノエルは説明する。

 

 

 「だって、それほどここは危なくないもん。だからゆっくり出来るし、それに……」

 

 

 

 そう言うと、ノエルは魔切に近づき、そのまま後ろから抱き締めた。

 

 

 「……こういう時間だって取れるし……ね?」

 

 

 ──……ったく、職権乱用だっての。そんなことして良いのかよ、騎士団長様?

 

 

 「──今は…ノエルだよ?」

 

 

 そう言って後ろから囁かれる、照れ隠しをまさかの追撃で、魔切は思わず、顔を赤くしてしまう。それを見て満足したのか、抱擁を解除して、笑いかけてくる。

 

 

 「まだまだだね。魔切くん♪︎それじゃ詰所に戻ろっか!」

 

 

 そう言って駆け出す。そのノエルの顔も、また赤かったという。見られないよう、追い付かれないように先に駆ける。

 

 

 ──まったく、ノエルめ……ま、そこに惹かれたってのも事実だしな……誰より高潔で、綺麗な白い騎士。──白銀ノエルってか?ま、俺はアイツの隣で居れば、それで良いしな。……さて、追いかけますか!

 

 

 

 魔切が詰所に着くと、何やら騒がしい様子、どうやら、最近財政が操作知れており、横流しが発生しているとの噂があり、その原因が、マカブル公爵(ミリアナとは別の爵位持ち)の息子。ハイドンが、原因とのこと。マカブル公爵は、知らぬ存ぜぬとの一点張り。故に、捜査をお願いされたらしい。

 

 

 ──なるほどねぇ……怪しいんだろ?そのマカブルって奴も。

 

 

 「マカブル公爵様だよ。それ本人達の目の前でやらないでよね?そんなことしたら……」

 

 

 魔切は、昔から権威を奮う貴族があまり好きではなかった。騎士になったのも、ノエルと一緒に居れるからで、忠誠心や愛国心などは、まったくなかった。

 

 ──分かってるって!そんなヘマはしませんよっと!そんで、俺はどうすれば良いんだ?

 

 

 魔切がそう言うと、ノエルも暗い顔をして、状況を説明する。

 

 

 「今はね、捜査に入ることは出来ないよ。貴族は、基本王国の調査には受けないといけない義務があるけど、それがギリギリ一週間。送っていてから、返事が来るまでの時間の猶予があるの。だから…」

 

 

 ──なるほどねぇ……その間に、隠蔽工作してから返事を送っても、全然猶予があるってことなんだな。ったくこれだから、ずる賢い貴族は…

 

 

 「しかもね。伯爵以上は、忙しい場合は、その調査、捜査すら、あまり応じなくても、良いって感じで……」

 

 

 ──……なんだそりゃ……つまり、逃げられ続けるってことか!?

 

 

 「簡単に言えばそうなるかな……?」

 

 

 驚くべき事に、この貴族社会では、王族の言うことは絶対ではあるが、事あるごとに、逃げて、逃げて準備が整ったら、その命令を受諾するというふざけたことが、横行している。

 

 

 男爵や騎士爵の人間は問答無用で入れるのだが、伯爵、公爵になってくると、公務や遠征などで度々不在の場合があるため、猶予を半年まで最大延長出来るのだ。

 

 

 つまり、どれだけ疑わしくても、直ぐに調査することが不可能ということだ。

 

 

 ──なんだよ、それ!そんなんで良く国が動かせるなッ!なんで俺たちはこんなに立場が低いんだ!

 

 

 「……魔切くんは低くないじゃん……私たちより……ずっと…」

 

 

 魔切は貴族であるフルネームにすると、マキ・クルスニク・ナナヤ。暗殺部隊七夜の父とクルスニク公爵息女の息子だったのだ。継承権はないが、血は繋がっているため、純粋な平民生まれではないのだ。

 

 

 ──……すまねぇ…今のは悪かった。だけどさ、ノエル。そう落ち込むなって!

 

 

 「──団長こそごめんね?ちょっと弱気になりすぎてたかも!よーし、今は、この名前に恥じないように!頑張るぞ~!」

 

 

 ノエルはそう言うと、再び笑顔になり、団長としての仕事の処理に行った。

 

 

 ノエルはというと、代々白銀騎士団を継いできた家系で、苗字を持っている。しかし、血統としては何処までいっても平民なのだ。それによる劣等感が、たまにノエルの心の闇として、顕現する時がある。

 

 

 魔切はなるべく、身分の話をしないようにしているが、たまに許せなくて、こういう事故が起きる。なので、会話の時は毎回注意しなければならないが、今回は、まだマトモだが、酷いときは、物凄く建て直しが一日使わないと不可能な位落ち込む時もある。

 

 

 ──(ノエルのそう言うところを、分かってそれでも好きになったんだ。俺が頑張って支えていかないとな。)

 

 

 彼は胸の中でそう誓い、次の任務が来るまで、部屋で待機しようとした。振り向こうとした時、後ろから肩に手を置かれた。そちらに振り向くと、鎧を着た騎士がいた。

 

 

 「よ、お疲れ様。相変わらずお熱いことで…」

 

 

 ──なんだよ。キザール。お前だったのか!お前、見回りはどうしたんだよ。

 

 

 「こっちも終わって、部屋で休もうとしたら、目の前でラブコメ見せられてたんだよ!羨ましいぜ!うぉりゃ~!」

 

 

 ──茶化すなって!お前だって婚約者居るだろうに!

 

 

 彼の名はキザール・トーテンツ。魔切の同僚で、仲が一番良い友人である。おそらく騎士団内では、唯一心を許している存在である。今、そのキザールから絡まれ、少しだけ鬱陶しいが、心地よい友人関係を築いてると実感している魔切。絡んでいたキザールが、突然、離れ、ある提案をして来る。

 

 

 「あ、そうだ!お前、今から暇だろ!だったら下町行こうぜ!勿論、私服でだぜ?」

 

 

 ──わかった、わかったって、どうせおんなじ部屋なんだから帰ってから部屋に戻ってからでも良いだろ?

 

 

 実は、部屋割りも同じ部屋に居るので、もう親友と言っても過言ではないくらい、仲良くなっている。誤解して欲しくないのは、そこまで深い仲ではないとだけ言っておこう。(二人とも彼女持ちだぞ?)

 

 

 「それじゃ、先行ってるぜ!」

 

 

 ──まったく、落ち着きがねぇ奴だ。

 

 

 魔切はそう言って後を追いかける。平和な1日の様子だった。下町では、老人から子供まで、幅広く愛される二人。家を飛び出して、騎士になったキザール。教育ということで、家から出されて、騎士の道に行くことになった魔切。(ここは単に邪魔だったからってだけです。メイドのあくたんは激怒した。)

 

 

 騎士とは、普通は貴族などを守る存在であるが、2人は下町で育ち、下町を守る存在であった。故に、騎士になっても、この2人だけは、下町へ出てみんなの状況を知る。仕事を終わっても、下町を守る事だけは、やめられなかった。

 

 

 「キザ兄!マキ兄!おれもきしになれるかな!」

 

 

 

 「あぁ、勿論なれるさ!その心があればな!」

 

 

 「うん!がんばる!」

 

 

 ──よし、良い子だ。俺達がここに来たのは黙っておいてくれよ?じゃないとお祭り騒ぎになるからな!

 

 

 「わかった!じゃーねー」

 

 

 普通、騎士になるには、貴族しか成れない…訳ではないが、とても苦労するだろう。2人は貴族という立ち位置を使わずに、騎士になったがゆえの励ましだが、少年は、その励ましが一番嬉しくて元気に去っていった。

 

 

 「……さて、俺等は少し歩いてから帰るか!」

 

 

 ──ったく、心配性なのか気まぐれなのか…お前。俺はお前がここで住んでたなんてまったく分からなかったが、教えてくれりゃあ良いのによ!みんなさ。そうしたら俺等もっとやんちゃやってたかも知れねぇな!

 

 

 「………そうだな。俺も早く知りたかったよ。こんなに気が合うならさ!」

 

 

 ──だよな!ま、過去の事なんて置いといて、さっさと行くか!ほら、お前から言い出したんだぞ?行くぞッ!

 

 

 一瞬だけ、暗い顔をしたキザールであったが、魔切は気づかなかったのか、そのままスルーされ、安堵している。そのまま1日が過ぎ、次の日になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「魔切、すまんな。これも、俺が悪いんだ。なんとでも言ってくれ、だけど、俺の邪魔だけは……しないでくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──………キザール?

 

 

 何か、キザールが言ったのかと、目を覚ます魔切。隣を見ると、既にキザールの存在はなく、身体を起こし、キザールを探そうとした時、急にドアを叩く音がした。

 

 

 「魔切くん!大変。起きて!」

 

 

 ──起きてるぞ?どうしたんだよ。

 

 

 「マカブル公爵が……禁忌に手を出してたの!……今、街中に魔物が沢山居るの!」

 

 

 ──なんだって!?わかった。直ぐ行くッ!

 

 

 ノエルから、その報告を受け、直ぐに騎士の制服に着替える。戦い方で、制服が決まるので、魔切はスピードを駆使して戦う戦闘なので、金属製の物はなく、軽装で頑丈な防具をしているので、余り時間を掛けず、出撃できる。

 

 

 ──っ……はぁっ……くっ……

 

 

 全力で駆けて、街がよく見えるところまでかける。何がどうなっているか、確認するためだ。

 

 

 ──……はぁ…はぁ……──なんだよ……これ……

 

 

 目的地に着き、街を見渡すと、街中に魔物が出現し、住民は家から出られず、騎士が対応しているが、何人かやられてる姿を見える。又、住民に手を出そうとする魔物もちらほら出てきて、最早、平和とは掛け離れた状況になっている。

 

 

 ──…畜生!……そうだ…下町の所に行かねぇと!あそこは……一番危ねぇ!

 

 

 下町は、ほとんど騎士が立ち寄らず、守るのも自警団がやっていることが多い。キザールはいち早く到着しているとは、考えにくく、自分しか行かないと理解すると、魔切は下町へ向けて走り出す。

 

 

 

 数分後、下町に着くと、いつもは活気溢れている場所が閑散としており、皆、家の中へ避難しているようだった。安堵したが、逃げ遅れている人が居ないか、魔切は全力で下町を周った。辺りを探ったが、人気はなく、皆、避難していると考え、貴族街へ戻ろうとした時。1人の鎧を着た人間に出くわす。

 

 

 ──……キザール?お前が避難させてくれたのか……?

 

 

 その鎧の主は親友のキザールであり、魔切は避難させていたのは、いち早く察知して逃がしたのだと理解した。しかし、帰ってきた返答は、予想外の答えだった。

 

 

 「避難等手伝ってない。俺は、邪魔者を排除しに来ただけだ……」

 

 

 ──邪魔者……?キザール、お前何を……ッ!なにすんだ!

 

 

 戸惑う魔切に対して、有無を言わさないような感じで、魔切を槍で攻撃をするキザール。辛うじて避けるが、魔切は納得しないように話を続ける。

 

 

 

 ──どうしたんだよキザール!なんでお前がこんなこと……

 

 

 「………マカブル公爵様のため、この王国を、粛清する。改革するのだ。我ら、トーテンツ家はマカブル公爵様直属の騎士部隊を作るため、様々な環境で育つことを義務付けられ、下町で育ったに過ぎん。故に、ここに思い入れはなく、またお前は、マカブル公爵様の邪魔をなす危険因子と判断し、粛清する。」

 

 

 ──そんな……お前、本当にキザールなのかよ!俺の知ってるキザールは……ッ!くそッ!

 

 

 魔切は、親友の裏切りを知り、動揺する。一方キザールはそれに漬け込まんとして、追撃を止めない。魔切は、キザールがこんなことをする人間ではないと、思い込んでしまい、身体が鈍る。

 

 

 「フンッ!ハァッ!」

 

 

 ──っく……キザール……なんで……

 

 

 「言ったであろう?お前の知るキザールは、作り物であると、私が作った人格(ペルソナ)だ。割り切れなければ…死ぬぞ?」

 

 

 ──……うおぉぉぉ!!蒼破刃ッ!円閃牙(えんせんが)ッ!

 

 

 魔力を込めた剣撃を飛ばし、直ぐに追い討ちをかけるように、刀を回転させながら切る技を使う。

 

 

 

 「やはり、危険だ、排除する!」

 

 

 ──キザールゥゥゥ!!

 

 

 

 

 しばらく打ち合いを続けているが、既に、キザールの鎧は、ボロボロで、生身が見えた状態になっている。一方魔切は、服が少し裂けているくらいで、余り血が流れておらず、実力差と相性が分かる。

 

 

 

 「うぐっ!ここまでか……」

 

 

 ──キザール、降伏しろ、今なら独房で……

 

 

 「我が忠誠は……不滅だ!」

 

 

 ──!?おい!ま……

 

 

 魔切は、降伏を促すが、キザールにその気はなく、魔切の制止を聞かず、キザールは持っていた槍で自害する。それを見て、魔切は全力で殺しあいをしていた相手にも関わらず、側に近寄る。

 

 

 ──キザール!なにやってんだよ!何でこんなことを!

 

 

 「魔切……すまん、これは俺の家の掟なんだ。マカブル公爵に何かあれば、必ず味方になり、擁護せよ。ってさ……嫌だけど、そうしないと、生きていけないんだ。……俺、もう死んでてさ、心臓の代わりに、魔道具で生きてるんだけど、それを持っているの、マカブル公爵なんだよな。」

 

 

 ──そんな……だからって!

 

 

 「……魔切、俺さ、お前が下町(ここ)で早く会いたかったって言ってくれてさ……嬉しかったんだ。……だから、お前と戦いたくなかった。」

 

 

 キザールは、自身に置かれた状況や、心境を説明していく、魔切はそれを聞いて、涙を流すが、黙って聞くことにした。

 

 

 「だって、初めて、仲良くなってさ、他人と……それで、バカやって……本当に楽しかったんだよ……死んでるのが、嘘みたいだった……」

 

 

 治療はもうやっても不可能な傷を負いながら、キザールは話を続ける。

 

 

 

 「現実は、許してくれなくてさ、結局、命令されたんだ。……騎士団長、白銀ノエルを、殺せってさ、………無理だよ……親友の好きな奴……殺すのなんてさ……」

 

 

 ──キザール……

 

 キザールからも涙が溢れ、そして、魔切にしがみつくと、そのまま警告するように伝えてくる。

 

 

 「いいか!マカブル公爵は絶対に捕まえても、死刑以外にするなッ!その場で殺せッ!じゃないと……あいつ等は……死なないし、消えることはない!だから……あいつ等を……殺してくれ……魔切……俺からの……最後の……頼みだ……!」

 

 

 ──……わかった。だからもう、お前は休め。頑張ったな。

 

 

 キザールはその声を聞き、安心したかように微笑んだあと、力なく手が離れ、息を引き取った。魔切は、キザールの身体をゆっくりと持ち上げ、詰所に戻る。辺りの騒ぎも、ノエルにより鎮圧されており、元凶のマカブル公爵も捕らえられていた。魔切の姿を見て、駆け寄ろうとするノエルだが、キザールの姿を見て、唖然とし、魔切も涙を流しながら、ゆっくりと、キザールを埋葬した。

 

 

 

 

 

 

【マカブル公爵無罪!事故であると主張し、証拠不十分にて無罪を証明!】

 

 

 

 ──……キザールが言っていたのは……こういう事だったのか……

 

 

 「魔切くん……大丈夫?」

 

 

 ──やっぱり、貴族って奴は……

 

 

 ノエルの声も届いていない位、魔切は怒っていた。マカブル公爵は現在、屋敷でこちら、白銀聖騎士団を、起訴すると意気込んでおり、そのため、騎士団は皆、待機命令を出されていた。

 

 

 「ごめんね?魔切くんが大変なの分かるけど……」

 

 

 ──こっちこそ悪ぃな、構ってやれなくて。

 

 

 魔切はノエルの声を聞き苛立ちを顔から消し、にこやかに笑う。そして、暫くして、急に魔切が、ポツリとノエルに質問する。

 

 

 

 ……ノエル、法で裁けない悪ってさ、お前ならどうする?

 

 

 「……どうも出来ないかも、だって法が絶対なのに、それで裁けないなら、どうしようもないよ……」

 

 

 ──そっか、そうだよな……

 

 

 魔切の問いに真剣に答えるノエル。魔切は、納得したかように頷く。

 

 

 

 

 

 

 数日後、魔切は、騎士団を辞め、姿を消す。その次の日に、マカブル公爵が、遺体となって発見される。裁判の前日の話である。又、マカブル公爵家から、革命のための計画書や、前日の事件の計画書も見つかり、白銀聖騎士団は、無実となり、マカブル公爵の遺体は反逆者の名の元に燃やされた。

 

 

 

 ──これで良いんだ。キザール。俺は、騎士を止めちまったよ。お前と、一緒に、上へ駆けようって言ったけど、俺は、俺なりの正義を、見つけたから、法で裁けない悪は………俺が、断罪する。だから、お前も見守ってくれよ?間違ってるのは俺だが、もう、止まれねぇから。

 

 

 魔切は、この日から、断罪者として生きていくことを決意。ノエルには暫く黙っていたが、とある日に見つかり、泣きつかれ、今の関係になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在~

 

 

 

 

 ──下町の奴らには、キザールは昇格してお城に行ったって言っちまったんだ。辞めたのは、ちょっと騎士は合わなくなったって冗談混じりで言っちまったし、不自然なことあんまり言うなよ?じゃねぇと心配かけちまうからな。

 

 

 「団長の事は心配掛けまくったのに?」

 

 

 上目遣いで睨まれ、たじろぐ魔切。それを見て、元気が出たのか、少し笑顔になり、甘えるように抱きつく。

 

 

 「………もう、居なくならないでね、魔切くん」

 

 

 ──ノエル……

 

 

 「よし!そろそろ戻らないと、でもね!もう殺しちゃ駄目だよ!また殺したら、今度こそ許さないから!」

 

 

 そう言って、離れると、ドアの方に行きながらノエルが叱ってくる。

 

 

 ──…それは約束できねぇな!俺のやることは変わりねぇからな!

 

 

 2人は暫く見つめ合い、少し笑い合い、お互いの居場所へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 この世界は、お互いの事を、今一度踏み切れず、幸せとは程遠い普通の世界。二度と動かない世界が、時の刻みを歪ませるのはもう少しあとの話である。

 

 

 




 あくたんは激怒した、必ず、かの邪智暴虐な領主に抗議しようと決心した。あくたんには相続争いなど分からぬ。あくたんは魔切のメイドだ。家事はあんまり出来ないし、ドジをする。しかし、人一倍、忠誠心が強かった。


 等ととある構文使いましたが、これ下手したらあくたんルートってのが怖いですねぇ……あ、本編(この話)ではまったく影も形もないんですけどね。


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正義の味方七夜 とある1日

 アライズ楽しいので初投稿です。



 今回も愉悦かな?愉悦が多くなるのは……悪くないよねぇ?


 ※これは、まつりちゃんのシナリオです。決して他の人ヒロインのシナリオではございません。後、苦手な描写があるかもしれないので、ご了承下さい。


 ビルの屋上に、黒いスーツを着た人間がいた。髪は長く、目は、死んだ魚のような、濁った目をしている。その少年の名は魔切、銃を構えており、標的を待っている。その姿は、かつての少年を知るものからしたら、想像出来ないくらい、冷酷な姿であった。

 

 ──やっぱり、目標は結界を貼っている……か。狙撃では、対処できないな。……仕方ない。目標(ターゲット)に接近に変更。

 

 

 『了解。気をつけてね。私はここから狙撃出来るよう準備しておくね。』

 

 

 

 ──待機了解。こちらは目標(ターゲット)に接近する。オーバー

 

 

 彼等は今、とある任務を受けており、今回はとある魔術師の暗殺が命じられ、バディと2人での任務となっている。バディの相手は、獅白ぼたん。銃使いでは、一番信頼でき、なおかつ、実力を持っているのは、彼女だけだからだ。

 

 

 ──(さて、奴は僕の存在に気付いているだろう。その上で、あそこにいるのは、間違いなく誘っている。余程自信がある奴のようだ。笑えないな。やはり魔術師というのは、傲慢で、強欲で、どうしようもない奴らばかりだ。)

 

 

 魔切はそう心の中で思いつつ、目標(ターゲット)になっている魔術師の元へ歩き出す。近くに寄ると、不敵な笑いをしながら、こちらを品定めするように、見つめてくる。

 

 

 「凄腕の暗殺者を雇ったと聞いたが、この様な小僧に私がやられると思っていたのだろうか!嘆かわしい。小僧、さっさと私の前から失せろ!」

 

 

 ──僕を侮っているな。さしずめ、結界を信頼しているから、一方的な、下らない戦いになると思っているのだろうが、その考えは改めた方が良い。

 

 

 

 魔切は、淡々とそういうと、魔術師の方は青筋を浮かべ、激怒している。

 

 

 「小僧、言うではないか…それは、私のこの最高傑作と言える結界を破れると言うのかね?」

 

 

 ──(どうやら、噂を耳にしていないらしい。もしくは、信じていないのか。ま、そのまま油断してくれた方が、僕としてはとてもやりやすい。)

 

 

 魔切は、そう思いながら、ある銃を構える。トンプソン・コンテンダー。簡単に言えば、様々な種類の弾丸を撃てる拳銃である。彼は、その銃を構える。中に込めている弾丸は……

 

 

 ──(起源弾。自分の起源を込めた弾丸。作るのに、幾つか肋骨を失ったが、それ相応の価値はある。)

 

 

 「ほう、何かするようだが、その様な玩具で私の結界を破れるとは……愚かな!」

 

 

 ──……今に解ることだ。魔術師にとって、この玩具がどれだけ恐ろしいものか。理解できるさ。

 

 

 魔切はその銃口を、魔術師の方へ向ける。魔術師はふてぶてしく笑いながら、結界を信頼し、なにもしていない。そして、コンテンダーから、銃弾が放たれ、真っ直ぐ魔術師の方へ放たれる。

 

 

 「無駄だッ!私の結界は何重にも重ねてあるから突破など………ぐぇぁ!?あがぁぁぁぁぁぁァァァ!?」

 

 

 ──(この起源弾は、相手の結界を術式から崩壊させ、再構築出来ないほどボロボロに崩す。いくら重ねても、当たった地点から崩壊させる。だから、減衰せずに、相手の結界を壊し、直接弾丸を浴びせれる。着弾すれば、その人間は、結界を貼ることすら出来なくなる。これだから、魔術師相手には扱いやすい。絶対を崩さない。魔術師相手にはね。)

 

 

 撃ち込まれた弾丸は、結界に当たり、止まるはずだった。しかし、弾丸は威力を衰えさせず、そのまま魔術師の肩にヒットした。魔術師は目の前で自身の結界が破られ、撃たれた事による混乱が起こり、のたうちまわっている。

 

 

 ──どうやら、ご自慢の結界とやらは、意図も簡単に壊れたな。あの程度であれば、コンテンダーで事足りる。

 

 

 魔切はそう言うと、その場から立ち去ろうとする。すると、後ろから悲痛にも似た叫び声が聞こえる。

 

 

 「私は……ッ!必ずお前を……殺すッ!今ここで殺さなかったことを…………………」

 

 

 最後まで言いきる前に、魔術師は頭を撃ち抜かれる。狙撃ポイントの方を見てみると、ぼたんが狙撃を終わり、連絡しようとしている所だった。

 

 

 目標沈黙(ターゲットダウン)だよ。お疲れ様。』

 

 

 ──君も、よく頑張ってくれた。報酬は……

 

 

 次の言葉を言おうとすると、「しぃー……」と囁かれ、

 

 

 『……いつもの、だよ。』

 

 

 と言われる。魔切は少し動揺するが、諦めたように頷く。

 

 

 ──それは……わかった。……すまない。いつもの場所で落ち合おう。

 

 

 2人は、意味深なやり取りをし、夜の街に消える。そして、特に騒がれることもなく、夜が明けていく。初めから何もなかったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「また依頼?最近多くない?」

 

 

 ──仕方ないさ、ある意味、今の時代、粗悪な魔術師が多くなっている。早めに潰して、神秘を秘匿するのも、魔術協会の意向だろう。

 

 

 2人は、喫茶店で食事を取っている。食後のコーヒーを楽しみながら、魔切の方から、依頼がまた入ったということで、打ち合わせをしている。

 

 

 ──今回も2人までならという依頼だが、別に断ってくれても……

 

 

 魔切がそういうと、ぼたんは首を横に振り、返答する。

 

 

 「まさか、当然付いていくよ。今さらでしょ?」

 

 

 自信満々に言われて、少し微笑む(目が死んでるけど)が、直ぐに真剣な表情をし、説明しだす。

 

 

 ──毎度すまない。ぼたん。さて、今回は、目標(ターゲット)は複数いる。……まつりを…操った奴らと、関係があるらしい。

 

 

 「!?」

 

 

 魔切の言葉を聞いて、驚くぼたん。まつりとは、彼の元恋人で、今はとある事件により、魔切に殺されてしまった、ぼたんや魔切にとっては先輩であった人だ。

 

 

 ──信憑性はあまり無いが、確かめる必要がある。あの事件を2度と起こさないためにも、まずは情報を集めてから殺害するのが、今回の目的だ。決行は5日後の夜だ。そこで集会があるらしい。

 

 

 「……わかった。それじゃ、私は準備してくるから、またね。」

 

 

 ──あぁ、わかった。集合場所は近くのホテルだ。そこで落ち合おう。

 

 

 支払いを済ませ、お互いが別れていく。ぼたんの姿が見えなくなったら、自分の家の方へ歩き出す。

 

 

 ──(何故、こんなことになったんだろうな………まつり、君が生きていてくれたら、僕は、こんな生活を送らなくても良かったのかも知れないな……)

 

 

 魔切は、歩きながら、過去へ想いを馳せる。

 

 

 

 

 

 

 

 ~数ヶ月前~

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて愛した少女、まつり。彼女は、とある儀式により、連続殺戮犯として、活動していた。その儀式は、とても卑劣で、残虐なものであった。

 

 

 彼女は、望んで殺しをしているわけでなく、自我が壊れる寸前で、ずっと殺しを続けていた。悲鳴をあげながら、悲鳴を受けながら、殺しを楽しんでいた(嘆いていた)

 

 

 それを相談しに、呪いを解除出来ないか、魔切は教会へ行き、綺礼の元を訪れた。

 

 

 「残念だが、彼女のそれは、私が解くことは出来ない……」

 

 

 「…!何でだよ!神父だろう!?毒や呪いなら……」

 

 

 「君の思っているよりも、私に出来ることなど少ないものよ。現に、私はまだこれでも修行の身でね。八極拳ならまだしも、そちらの方は高等な技術はまだ身に付けて居なくてね。我が父も、こちらに戻るのは到底後だと言っているが、その父でも解けるかどうか、それ程までに、あの呪いは強力だ。討伐隊が来るとしても、被害は止めることは出来ない………君を除けば、な。」

 

 

 魔切はそう言われ、動揺する。自分がどうにか出来る状況でもないのに、自分にしか解決出来ないと言われて、頭の中が混乱する。それを説明するように、綺礼は次の言葉を放つ。

 

 

 「君が、あの夏色まつりを殺害し、この連続殺人を止めなければ、被害は広がると言っているのだ。」

 

 

 ──なんだって……何を言っているだ!僕がそんなこと出来るわけ……

 

 

 「出来るか出来ないかではない。やるかやらないかで、この街の住民の命が掛かっているのだ。当然、やらなければ、私もただでは殺られぬが、相当な深傷を負うだろう。しかし、君なら既に彼女との付き合いが長く、癖なども知り尽くしているだろう。」

 

 

 その言葉を聞き、一瞬たじろぎ、でも、諦めずに、綺麗に対抗する。

 

 

 ──それでも、僕は彼女を殺すなんて……やれるわけが……

 

 

 「そうか、君は夢を諦め、そのまま朽ち果てるのを待つというのか、愛するものと共に。その道を選ぶというなら、私から言うことは何もあるまい。」

 

 

 ──なんだって……?

 

 綺礼に夢の話をされ、反応してしまう。その姿を見て、ニヤッと笑い、話し始める綺礼。

 

 

 「君の夢は、"正義の味方"であるのだろう。それであるならば、今、彼女のやっていることは、悪そのものではないかね?それを止めないと言うのであれば、君は夢を諦め、彼女が苦しむのを見届けるということであろう?君は、"正義の味方"になれない。愛人すら殺す(助ける)覚悟がなければな。」

 

 

 ──僕は……

 

 

 

 綺礼の言葉を受け止め、窓の外を見る…窓の外は、先程まで曇っていた天気が悪化して、雨が降り注いでいた。しんしんと降り注ぐ雨を見て────魔切は、決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~とある路地裏~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨がザーザーと降り注ぐ中、傘を差さずに立っている人影が2つ、いずれも、学生服を来ており、片方には、染み付いているのであろう血が付いており、そのシミの持ち主こそ、夏色まつり本人であることを証明してしまった。

 

 

 

 

 

 「あは☆久しぶりだね?魔切君。まつりの事心配で迎えに来てくれたの?」

 

 

 ──…………

 

 

 「つれないね……そんなんじゃ、まつりの心は奪えても……」

 

 

 ──まつり、やはり、やめられないのか……殺しを。

 

 

 まつりが楽しそうに会話を始めようとするのを遮り、本題を繰り出す魔切。それを聞いて、一瞬真顔になるが、直ぐに笑顔に戻し、話し出す。

 

 

 「何?まつりが辞めたいと思ってるとか?ないない。だってこれほど楽しいことは……」

 

 

 ──僕は、お前に聞いているんじゃない。夏色まつり本人に聞いているんだ。部外者が口を挟むな。

 

 

 そう言うと、まつりは笑顔を顔から消し、殺気を此方にぶつけてくる。魔切は、それをもろともせずに言葉を続ける。

 

 

 ──お前は、まつりじゃない。お前は今、作られた人格で話している。僕が知っているまつりは、お前みたいな快楽殺人を犯す人間ではない。今も、まつりは苦しんでいるはずなんだ。だから、僕は断じてお前をまつりとは認めない。

 

 

 魔切がそう言うと、先程よりも更に強く殺気を振り撒き、こちらを仇のような目で睨む

 

 

 ──(一応、これで元の人格のまつりが出れば、一番楽だったんだが。そう簡単に上手い話があるわけないか。殺人を楽しんでいるこの人格を、徹底的に叩きのめさないと、出てこれないのかもしれないな。)

 

 

 「へぇ……まつりの事を否定するんだ……」

 

 

 ──いや、まつりの事は否定しない。お前のような、作られた人格が、まつりの真似をするのを、否定するだけさ。

 

 

 魔切の言葉を聞き、魔切に向けて駆け出すまつり。近づき、剣を振るうが、それを読んでいたと言わんばかりに、懐に隠してある幅広のナイフで、それを受け流す。そして距離をとって、ベレッタで応戦する。しかし、弾はすべて見切られ、弾かれる。

 

 

 ──まさか、作られた人格にも、怒りという感情を持っているとは驚いた。こちらの言葉に、耳を傾けるのは、僕がまつりの恋人だから、という理由からか?

 

 

 ──(動きの癖は、全く同じだ。しかし、狙うところが全く違う。幼稚な部分が多い。狙いが解りやすいところばかり狙ってくる。まつりならば、あえてそこを狙うふりして、別の所を不意で狙ってくる。その思考がないということは……)

 

 

 「ねぇ、なんでさっきからまつりの事を偽物扱いするの?まつり、そろそろ怒っちゃうよ?」

 

 

 ──まさか、偽物扱いか、僕は元からお前は偽物だと言っているんだ。狙いも甘い、考えも甘い、まつりに似ているのはその容姿だけの存在だ。

 

 

 「……………殺すッ!」

 

 

 まつりが、そう呟くと、先程と同じように、距離を詰めてくる。魔切は、それを躱すと、再びベレッタを発砲するが、すべて弾かれる。魔切は、観念し、背中の銃を使う。

 

 

 ──(ハープーンガン。銛を装填し、発射する銃。この銛に魔術的付与を行っており、起源弾の代わりに撃つことも出来る。ま、今装填している銛には、何も付与していないが、十分に活躍する。ロープ付きだから、切られない限りは何回でも使える優れものさ。)

 

 

 魔切がその銃を持つと、まつりは何かを察したのか、全力で此方に接近してくる。

 

 

 「その銃は使わせないよ!」

 

 

 ──使うつもりはない。本命は……こっちだ!

 

 

 「うぅっ………がはぁ!?」

 

 

 

 魔切はその銃を再び背中にしまうと、近付いてきたまつりに対して、ナイフで振るった剣を弾き、蹴りを入れる。蹴られたまつりは、そのまま壁に激突した。

 

 

 「……………………うぅ、わ、私……」

 

 

 しばらく、動かなかったが、気絶はしておらず、ゆっくりと顔をあげるが、その顔から狂気の色はなく、いつものまつりの顔をしていた。

 

 

 ──!まつり!まさか意識が……?(いや、油断させて僕を襲おうとしている可能性がある。迂闊に近寄ることは、よそう。)

 

 

 魔切はある程度近寄るが、対処できる位置から、様子を伺う。まつりは、その姿を見て、少し笑いながら話しかけてくる。

 

 

 「はは……心配しなくても、大丈夫だよ。今は、私を、まつりを演じているあいつじゃないよ。」

 

 

 まつりの言葉から嘘を感じなかった魔切は、いつ先程の人格に替わるか、警戒しながら、まつりに話しかける。

 

 

 ──まつり、君は、もう………

 

 

 「あー……うん。もう、ダメみたい。私自身耐えられないから……」

 

 

 魔切は、その言葉を聞き、僅かに抱いていた希望を打ち砕かれる。

 

 

 「もうさ、私がいっぱいの人間殺してるわけじゃん?後、こんな事をされる前も、犠牲なった子どもだっていっぱい居て……私、もう無理だよ……」

 

 

 まつりは、そう嗚咽しながら、語った。その涙は、雨なのか、本物なのかは、見分けがつかないくらい。しかし、本当に流しているように見えた。

 

 

 ──(今のまつりは、確実に本物が言っているのだろう。だけど、僕は……君を抱き締めることすら、出来ない。油断から、命取りになる。残酷だが、君を救うために、僕は……)

 

 

 心のなかでそう自分を戒めていると、まつりが泣き止み、ポツリと呟いた。

 

 

 「……ねぇ魔切君。夢、叶えてよ。」

 

 

 ──…………夢……?

 

 

 「そう、魔切君の夢。"正義の味方"になるっていうの。」

 

 

 ──…………!

 

 

 

 魔切は、突然言われたことに、動揺を隠せず、思わず銃口を下げてしまう。

 

 

 「だってさ、もうまつりは元に戻れないよ?これ以降は多分、あいつがずっと私の真似をして生きて、死んでいくの……だから、お願い。まつりを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────殺して。」

 

 

 

 ──まつり!?まだ助かる可能性が……!

 

 

 まつりの言葉を聞き、思わず対抗してしまう魔切、しかし、まつりは首を横に振り、否定する。

 

 

 

 「言ったじゃん。もうまつりの真似事するあいつしか残んないって、今私を殺さないと、魔切君だって危うくなるよ?だからさ、私の最後のお願い…………魔切君。(まつり)(まつり)のまま、殺して。」

 

 

 

 ──僕は………僕は………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

雨が降り注ぐ中、路地裏から、日常では聞くことないはずの、とても大きな雷鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、雨が止み、月明かりが路地裏を照らす。そこには、壁にもたれ掛かったまま血を流している少女と、それを見てなのか、膝から崩れ落ちた少年の姿が、照らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは教会。事のすべてを報告しに、魔切は訪れたのだった。

 

 

 「見事だ少年。君のお陰で、この街に平和が訪れ、君は無事、"正義の味方"として称えられるであろう。」

 

 

 綺礼はそう言ってこちらを祝福してくる。魔切はというと、面は完全に生気を感じさせないほど、腐り果て、死んだ魚のような目で、項垂れている。

 

 

 「だというのに、君はさほど喜んでいない様子。無理もない。恋人を殺すのはとても苦しいことだ。しかし、なすべき事をする君は……"正義の味方"そのものであろう?」

 

 

 と、綺礼はニヤニヤしながら、魔切をずっと誉めている。さすが愉悦部。

 

 

 ──僕は、彼女の願いを叶えてあげただけさ。彼女が苦しんでいたから、その痛みを解放しただけ。僕は、まだ"正義の味方"とは言いきれないよ。

 

 

 「謙遜は美徳だが、あまり度がすぎるのも良くない。故に好意は素直に受けて取っておくと良い。私は報告しなければならないのでね。これにて失礼する。」

 

 

 綺礼はそのまま奥に消える。魔切は、ふらふらと歩きながら、帰路につく。そのまま歩いていると、誰かにぶつかってしまう。

 

 

 「っと、すいま………あれ?魔切じゃん?どうしたの……ってその顔……酷い顔してるけど…?」

 

 

 ぶつかったのは、同じ学園で同じクラスの獅白ぼたんだった。魔切の顔を見て、心配そうにこちらを見てくる。

 

 

 ──ぼたん……か?大丈夫だ。

 

 

 大丈夫だと振り切って去ろうとするが、逃さないと云わんばかりに腕を掴まれる。

 

 

 「いや、大丈夫じゃないでしょ?……良くみたらびしょ濡れだし……ほら、家近いから行くよ!話は後で聞くから。」

 

 

 魔切は、そのまま強制的に、ぼたんの家に連れていかれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂などを借りて一段落した魔切は、事の経緯を、搔い摘まんで話し、説明する。

 

 

 ──僕は……彼女を……殺した。この手で、間違いなく。

 

 

 「そっか……まつり先輩。駄目だったんだね。そりゃあ辛いよね。……でも、私は、まつり先輩の気持ち、分かるな。」

 

 

 ──…………

 

 

 魔切は、その言葉を聞いて、更に聞こうと、顔を上げ、ぼたんを見つめる。

 

 

 「だって、自分の意志がなくなるんでしょ?だったらさ、意識がある内に、愛している人にさ、最後を看取って欲しいじゃん?そのまま消えるよりはさ。」

 

 

 ──そうか、そうか………

 

 

 魔切は、納得したように、でもまだ振り切れてないような感情が身体の中で渦巻いてる。それを見て、ぼたんが提案する、

 

 

 

 「……今さ、私しか居ないから、弱音。吐いちゃいなよ。」

 

 

 

 魔切はそれを聞き、しばらく悩んだが、顔を上げ、礼を言う。

 

 

 ──すまない。

 

 

 「ほら、気にしないで。」

 

 

 

 ──……!ふざけるな!ふざけるなッ!馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ!!うわあぁぁぁぁ!?

 

 

 

 先程まで、冷静に、感情が死んでいるような、そんな魔切が、泣き叫んでいる。溜め込んだ悲しみ、ぶつけることが出来ない感情が、今、すべてここで吐き出される。

 

 

 魔切はこの後、呪いをかけた魔術師達を探すため、魔術師を殺すのを特化した仕事を始めた。相棒のぼたんと共に、各国を渡り歩き、今もまだ、見つかっていない奴らの痕跡を探しながら、今日も仕事をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、残酷にも、恋人を殺すことになった主人公。この世界はもう、救われることはない。もし、この世界が動き出すとするなら、それはまた、少し先の話になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 




 知ってるか?これ、まつりちゃんの話なんだぜ?ドロドロな昼ドラしちまってるのはZEROの特権だからさ。


 あ、綺礼は嘘付いてませんよ。この世界では、璃正さんの方がまだ上の神父として、健在して、教えてもらっている身なので…愉悦の片鱗は見えてますがね?


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大魔導士七夜 とある1日

 今回は過去のお話はありません!なので現代の事しかほとんどないです。(回想はある)

 過去話は、本編で明かされますので、期待しててね。(血反吐)


 とある場所にて、2人の少年少女がいた。片方はローブを纏い、片方はいかにも魔法使い、のような格好をした2人だ。片方には杖が、もう片方には本とブローチが特徴的な持ち物だろうか?何やら2人は旅をしているらしく、今日も1日、歩きっぱなしのようだ。

 

 

 「ねぇー、シオンもう疲れたんだけどー!」

 

 

 ──もう少しじゃ、後もう少し歩けば、儂らの目的地に到着する。

 

 

 「えぇー、シオンもう休みたいんだけどー?」

 

 

 そう駄々こねるのは、紫咲シオン。ある日突然、魔術が使えなくなり、落ちこぼれになってしまった少女。今は、精霊匣(オリジン)というものを使い、雷の魔術だけ使えるようになっており、擬似的な神子としても、有名だ。

 

 

 ──別に休んでも構わぬが、到着も1日遅れ、野宿することになるのじゃぞ?それでも構わぬと言うなら………

 

 

 「あー!待って待って!やっぱり元気出てきちゃったなー?なんかもっと歩きたいんだよなー!」

 

 

 ──全く、扱いやすい奴じゃのぉ……

 

 

 先程から古臭い喋り方をしているのは、毎度お馴染みの主人公、魔切君である。シオンの代わりに大魔導士になるという夢を叶えるため、また、シオンを、再び魔術が使えるように出きるかもしれないという希望を持って、旅に出ている。

 

 

 「ねぇ!次の街って、どんな街なの?」

 

 

 シオンは駆け出した足を止め、後ろにいる魔切に向けて振り向く。魔切は、鞄から資料を取り出すと、それを読み上げる。

 

 

 ──えー……っと?魔術都市オラシオン。別名『全世界図書館』この都市には、存在しない本以外はほとんど揃っていて、まだ見ぬ本を求めて、様々な世界からこの都市へ流れ着く魔術師も多いとか。儂らもこの都市で情報を集めて、お主の魔術が何故使えんくなったのか、それも検査も出来る場所という訳じゃな?ちなみに、ここにない本を贈呈すると報酬が貰える。

 

 

 「えー!検査!?ちょっと聞いてないんだけど!!」

 

 

 

 シオンは、検査という言葉を聞き、露骨に嫌な顔をする。それを見て、肩をすくめる魔切。やれやれと言いながら、魔切は説明をする。

 

 

 ──あのな、お主の今の状況を調べるだけで、別に注射やレントゲンなんかはやらぬ。安心せぇ。じゃがな、痛みは生ずるかもしれぬのは覚悟しておけ。

 

 

 魔切の言葉に、シオンはうー……という顔をしながら、呟く。

 

 

 「むぅ………それで、使えない原因がわかるかも知れないから……?だけどさ!」

 

 

 ──心因性……まだその話を信じておるのか?お主の夢は!その程度の戯れ言で惑わされるほど、軽いものなのかッ!

 

 

 

 魔切は、弱気になったシオンに対して叱る。こうしなければ、シオンはどんどん卑屈になっていき、いつもの可愛らしさがなくなるとかいう、自分の都合だが、それ以上に元気な姿を見たいという、魔切自身の願いもあり、魔切はシオンが弱気になると、叱る。

 

 

 「──!……ありがと。落ち着いた。」

 

 

 ──……そうか、お主は見ておらぬとすぐそうやって卑屈になるのは、表のお主しか知らぬ者からすると奇怪なものじゃな。

 

 

 「えー!シオンはそんなにいつも可愛い~?やだなーそんなに当然なこと言われても~?」

 

 

 ──………全く、こやつは……!

 

 

 そう言って、少し微笑みながら、街へと目指す。無事に街に着けた2人は、宿を取り、街を散策することにした。目的地は、今回は2つあり、1つ目は、シオンの体を調査するための研究室。2つ目は、大図書館だ。

 

 

 「シオンは~図書館に行きたいなぁ…って?」

 

 

 ──だめじゃ、検査の研究室から探し出すぞ。お主は早く治りたいのか治したくないのかどっちなんじゃ……ったく。

 

 

 「うぇ~やだなぁ……」

 

 

 シオンはあからさまに嫌そうな顔をしながら、魔切の後へついていく。魔切は色んな研究室を見て周ったが、どれも魔術の研究ばかりで、人体などの解析を行っていない研究ばかりだった。

 

 

 「ねぇ~!もうやめようよー!後でも良いでしょ!」

 

 

 ──うーむ、もう少し周ってからじゃな。……お?

 

 

 

 魔切が目に止まったのは、とある研究室。そこは、魔術の研究と周りと変わらない様な研究室だったが、彼は、そこではなく、名前の方に覚えがあり、つい凝視してしまう。その研究室はこう書かれている。

 

 

 『天才モルディオの研究室』

 

 

 ──……(モルディオ……かの有名な魔導士が、ここに研究室を構えておるとは……そうじゃなぁ……一か八か、行ってみるか?)

 

 

 「?どうしたの?………あの研究室が気になるの?」

 

 

 ──おん?そうじゃのぉ。ちと聞いたことある名での。つい見てしまっておったわ

 

 

 魔切は、そう言って歩き出す。勿論、その研究室に、だ。

 

 

 「え!?そこに行くの!?怪しさバリバリじゃない!?天才って自分からいってるし!」

 

 

 ──心配せんでも、おそらく本人でやった訳じゃなさそうじゃがのぉ……むしろ、本人は付けられて怒っているじゃろ。まぁ、早く来んかい。シオン。お主の原因を、ようやく理解できそうな奴が見つかったからの。

 

 

 魔切は、そのまま研究室の扉の前へ行き、ノックした。しかし、反応はなく、留守の様であった……が、魔切はそのまま扉越しに話しかける。

 

 

 ──心配せんでも、魔術協会の奴らでも、ここの住人の奴でもないわ。それとも、旧友の事はもう忘れたか?モルディオ()()

 

 

 「はぁ……あんた、次その名前で言ったらぶっ飛ばすからね?()()()ぁ?」

 

 

 扉を開けて出てきたのは、おそらく同じくらいの年の少女だった。彼女は魔切に向けてジト目をしながら、反論してきた。

 

 

 ──お主だって言っておるではないか……いや、儂から喧嘩売ったから当然ではあるがの。

 

 

 「………むぅ(誰なの?しかも女の子。シオンの知らないところで吹っ掛けてきたのかぁ魔切?)」

 

 

 2人は、そう挨拶を交わす。関係を見れば、悪友同士の再開のような挨拶であるが、置いてきぼりになったシオンは、その2人の関係を見て、少し拗ねてしまった。

 

 

 ──…おっと!すまんすまん。拗ねてしまったのぉ。シオン、こやつはモルディオ。リタ・モルディオじゃ。昔、ちぃとばかり知り合っての?約2年、こやつの助手をやってたんじゃ。

 

 

 「?あぁ、連れ添いが居たのね?気付かなかったわ。リタよ。こいつとは腐れ縁ね。よろしく。」

 

 

 魔切は、学園に入るおよそ2年前に、リタと共に各地の遺跡や洞窟に調査をしに行き、リタが調査、魔切が敵の殲滅を主にしていた。(リタがキレたり、魔族の文字になったら魔切が調査をしてたりとか自由にしてたが。)

 

 

 「ふーん、そうなんだ。それで?何でそんな人がここに?」

 

 

 シオンがムッと膨れっ面しながら問いかけると、リタがため息を吐きながら説明する。

 

 

 「あたし嫌って言ったんだけどね~?協会の人間が"是非此処で学びを極めて下さい!"とか言ってあたしを幽閉したのよ。しかも断ったら封印指定ですって、脅しも良いとこよ。」

 

 

 そう言うと、魔切は目をキラッキラの少年のような眼をしながら、リタに聞いた。

 

 

 ──おぉ、ついにそこまで至ったか!!お主は!何を極めたのじゃ?

 

 

 「……別に?あいつらあたしの魔導器(ブラスティア)を見て一気に顔色を変えたわ。"これを作られたら不味い……"って顔しながらね。」

 

 

 リタにそう言われると、魔切は残念そうな顔をしながら不貞腐れる。

 

 

 ──なんじゃつまらん………いっそ、儂の血筋みたいに擬似的第二魔法の呪いを受けて命狙われる方が面白いわ。

 

 

 「いつ聞いてもそれは面白いわね。呪いもそうだけど、何人退いたんだっけかしら?」

 

 

 ──100から数えておらんわ。学園に入ったらピタリと来なくなったがの。

 

 

 魔切とリタはそう言い合って笑い合う。シオンも、不貞腐れていたが、自分の知らない魔切が知れて、実は得をしているという。

 

 

 「んで?何にも無いのにうちに訪ねるなんて無いでしょ?用件は何よ?」

 

 

 ──察しが良くて助かるのぉ………シオン、こやつが最近、魔術が使えなくて悩んでおる。その原因を調べて欲しいんじゃが………

 

 

 「……ま、良いわよ。今別にやることなんてあんまり無いから暇してたし、それに、あんたに貸しが出来るのが良いわ。」

 

 

 そうニヤニヤしながら言われ、経験上、頼みごとをさせられると踏んだ魔切は仕方ないと諦め、用件を聞く。

 

 

 ──………仕方ないのぉ、シオンのためじゃ、無茶振りさえしなければ叶えてやる。

 

 

 「あら、そっちも察しが良いわね。それじゃ、明日にはその子含めて出発ね。」

 

 

 ──おい!いきなりじゃのぉ!しかもシオンも同伴させろとな?なかなかに言うではないか……!

 

 

 つい驚いて声をあげた魔切。まさかシオンも巻き込んで依頼してくるとは思っていなかったらしく、理由について言及を求めた魔切。それを平然とした顔で、リタは答える。

 

 

 「当然じゃない。もしかしたらショックを与えたら治るかもしれないのよ?荒療治も視野に入れておいて、本音はもしかしたら荷物が増えるかも知れないからそれを持たせるための人員も確保しておきたいのよ。」

 

 

 ──ぶっちゃけたのぉ…お主。……シオン。無理ならこやつに付き合う必要はないんじゃぞ?ぶっちゃけ、荷物持ちを欲しがっておるだけだしの。

 

 

 魔切はシオンに慣れてるような感じを出しながら、シオンにどうするか訪ねるために振り向く。シオンは、先程とは売って変わって、キラキラとした目で、こう答えた。

 

 

 「行く!シオンも遺跡の中とか入れるかも知れないんでしょ!?行くよ!」

 

 

 ──……しまった。シオンの癖が出た……

 

 

 魔切は忘れていた事実に頭を抱えた。シオンは、昔の歴史物や、文明を知ることが好きな珍しい人種なのだ。だからこそ、今回の勧誘は断る所か、無理やりついていく可能性もあったのだが、相手からの誘いもあって、行く気満々になってしまった。

 

 

 「ふーん。見所が有るわね。シオンだったかしら?荷物はコイツに任せて色々見せてあげるわ。」

 

 

 「ホント!?絶対だかんね?魔切。荷物持ちよろしく!!」

 

 

 先程まで膨れっ面のシオンが、満面の笑みをして、魔切の方へ顔を向ける。魔切はそれを見て、観念したように頷き、諦めた。

 

 

 魔切の姿を見て、シオンは小躍りしながら、リタの方へ行き、プランを話し合っている。魔切はそんな姿を見て、心の中で、こう思った。

 

 

 ─(これが、惚れた弱みかのぉ?全く、困ったもんじゃ…)

 

 

 そう思いながら、口は少し微笑みを浮かべ、2人を見守る魔切。

 

 

 「ねぇ、もしかして、あんたさ…あたしの事が好きだった?」

 

 

 ──何世迷い言言ってんじゃ、はっ倒すぞ、お主?

 

 

 魔切は真顔でそう答えると、リタは更にこう言った。

 

 

 「だってこの子、完全にあたしと似てるから、ついそう思っちゃったわけ。……ま、決定的に違うところもあるけどね。(……地味に素直な所とかね。)」

 

 

 ──確かに似ておるが、そうじゃな、お主と決定的に違うところかある。

 

 

 

 

「「修羅場の経験の差(よ)(じゃ)」」

 

 

 

 「シオンは……そういうのあんまり経験してないのはさぁ……普通の生活してたから当然じゃない?」

 

 

 2人の息のあった意見に、ついきょとんと首を傾げてしまう。しかし、2人は、まるで打ち合わせをしていたかのように、どんどん喋り出す。

 

 

 ──経験の1つ目は行った場所じゃな。こればっかりは仕方ない。最近までずっと魔術の研鑽と云わんばかりに缶詰されておったからのぉ、その点、リタは色々飛び回っておったから、経験豊富な天才じゃからなお主。

 

 

 「ハイハイ、褒めてんのか貶してるのかどっちなのよ。まぁ、そうね、普通ならあたしのあの時の年なら完全に缶詰にされてても不思議じゃないわ。普通ならね。」

 

 

 ──シオンよ……こやつはな?両親が無能じゃったがこやつが天才だったから、両親は使い潰そうとしたんじゃがな、その両親は返り討ちにあったんじゃ。こやつのファイヤーボールでの。

 

 

 「当然じゃない?正当防衛よあんなん。それで絶縁したけど清々したわ。お陰でまさか、此処までの事が出来るようになったんだから。その点だけ感謝してるわ。」

 

 

 ──っと、脱線しすぎじゃ。話を戻そうかの。

 

 

 2人は、シオンに喋らせる暇もなくどんどん話していく、シオンは2人の話しに必死に食い付いて置いてかれないようにしているが、いつ爆発するかわからない状態になっている

 

 

 

 ──2つ目は、1と少し似ておるが……

 

 

 「修羅場の数かしら?」

 

 

 ──まぁ、そうじゃの。探索だけでなく、戦闘……魔物やゴーレム、たまに人間。すべて、相手の対処法が変わるから、慣れていないともう苦労ものじゃな。特に人間は加減をせねば死ぬと思えば尚更じゃな。

 

 

 「その点ならあんたの方が上手いじゃない。毎日狙われてたんでしょ?」

 

 

 ──お主よりかはな。シオンには何回か遭遇されたが、お主と程ではない。じゃからこそ、完全に手加減を覚え、撃退出来る状態は、お主の方がまだ上じゃ。シオンにはこれからここも頑張って貰うからの。

 

 

 魔切は、そう言ってシオンの方を向くが、そこには、理解が追い付かずぐるぐる目をしたシオンがパンクしていた。それを見て、微笑みながら、介抱する魔切。

 

 

 ──仕方ない。少しここで休ませて貰うぞ?

 

 

 

 そう言うと、床で倒れているシオンに膝枕する魔切。リタはそれを見て、ニヤニヤしながら話しかける。

 

 

 

 「んで?なんでこの子を気に入ったの?相当ベタ惚れじゃない?」

 

 

 ──なんで……か。簡単じゃ。

 

 

 魔切はそう言って、少しだけ、当時の事を思い出す。シオンが、泣きながら、宣言するあの時を。

 

 

 

 

 

 

『魔術が使えなくなっても!シオンは絶対に!大魔導士になってやるから!後悔しても遅いんだかね!』

 

 

 

 

 泣きながら、とある家の前で、叫んでいる彼女を見て、彼は、その手助けをする事を決めた。自分は持っていたものを、彼女は、何故か使えなくなって、それが自分の心だと、そう言われ、弱気なのに、なっていた彼女に喝を入れ、奮い立たせるくらい。彼女にその時惚れてしまったという。その記憶は、今でも鮮明に思い出せるのだろう。

 

 

 目を開け、再び語る魔切。

 

 

 ──あの時、シオンと出会ったあの時から、儂はこの子を完全に強くしたい。そして、儂と共に歩んでいける人生を、出来てから、改めて告白する。儂がどれだけ好きかを、な。それまでは……どうか、早く改善させ、健やかに生きて欲しいんじゃ。

 

 

 魔切はそう言って、ショートしてるシオンの頭を撫でる。そして起き上がって来るまで、床で寝かせるのはしのびないなぁと思っていた。

 

 

 当のシオンはというと……

 

 

 「(え!なに!今の告白!?しかもめっちゃ嬉しいし!!しかも何!?付き合うだけじゃなくて、もう既にこの先まで考えてるの!?はー、好き!!しかも膝枕固いけどなんか安心するし、めっちゃ良い!!お父さんっぽい感じだったけど、どうしよう……なんか話を聞いてて嬉し過ぎて死にそう!!!)」

 

 

 等と限界オタクみたいな感じに壊れてしまった。おそらく、一時的な混乱が混じっているので、直ぐには復帰は出来ないが、それでも元には戻るだろう。

 

 

 ちなみに、リタは起きているのを知っているので、その姿を見て、リタは肩をすくめながら、ため息をつく。

 

 

 「はー、こりゃ完敗だわ。あんた達のバカップルさにはあたしついていけないわ。さ、シオンが復活したらとっとと帰ってイチャイチャしてなさい~。」

 

 

 リタは手をヒラヒラさせながら、奥の部屋に入っていった。2人だけになり、まだ起きてると気付いていない魔切は、シオンに対して、追い討ちを掛けるように語り掛ける。

 

 

 

 ──シオン。これから先、儂はお前に苦労を掛けさせると思う。儂は、正直、あの事がなければ、お主には、無理をさせたくない。それくらい、お主は、脆く、儚い。

 

 

 魔切はシオンに対し、そう言う。魔切からすれば、無理してまで、魔術を使わなくても、自分がすべて補える。そう思うくらい、彼は魔術師としては完成していた。

 

 

 ──……それでも、儂は、お主の戦い、抗う姿に惚れたのじゃ。お主の心の底では諦めない不屈の心が、儂の心に響いたんじゃ……

 

 

 魔切はニコニコ笑いながら、シオンにずっと語り掛ける。周りから見ると、まるで、愛を語り掛けてるように、言葉を紡いでいく。

 

 

 

 ──シオン。お主が儂をどう思っておるかはしらん。じゃがな、儂はお前を厳しくしておるが、本当は無茶をして欲しくない。大切にしたいくらい想っておる。……本当じゃぞ?

 

 

 魔切は優しく語り掛けた。シオンはずっと俯いており、起きないシオンをゆっくり眺めている。ちなみにシオンの心の中はというと………

 

 

 

 

 「(好きーーーーーーーーー!!!わーーーーーーーー!!!!?)」

 

 

 

 

 という状態でとてもじゃないが復活は出来ない。シオンがあまりにも起きないので、魔切は起こさないようにゆっくり頭をおろし、離れる。

 

 

 ──さて、あまり起きぬ様じゃし、これ以上リタに迷惑は掛けられんの。よっと。リタ。儂らは帰るぞ。迷惑掛けたな

 

 

 魔切はシオンを背中に抱え、別れの挨拶をすると、研究室を後にした。リタはそれを確認すると、一言呟いた。

 

 

 「……リア充これ程燃やしたいと思ったこと無いわね……。せいぜい仲良くしてなさい。」

 

 

 リタはそう呟き、再び奥に戻る。魔切は何も語らずに、黙々と宿に行っているが、シオンは背中の感触に悶えている様子。

 

 

 

 「(うわー!!?抱っこされてる!あんまりがっちりとはしてないけど、不思議となんか安心する………)」

 

 

 ──んお?寝てしまっておったか……帰ったら部屋まで寝かせに行かねばな………

 

 色々あって、シオンは完全に寝入ってしまった。それを見て、魔切は微笑みながら、宿へと足を進める。

 

 

 

 シオンは何故魔術が使えなくなったのか?シオンの過去とは、真実は、今は語られることはない。真実はいずれ語られる。

 

 

 

 その語られるのは、果たして何時になることやら。もう少しかもしれないし、遥か先かもしれない。

 

 

 

 

 ──さて、明日のために、色々準備でもするかの……どうせ、ろくでもないボス魔物だっておるじゃろう。久々に暴れまくるかの。

 

 

 

 余談だが、彼は戦闘狂である。

 

 

 




 イチャイチャ疲れた……シオンはなにもしてないのに壊れたよ。これが、キャラ崩壊だ!


 次の話が出たら、アンケートします。どうかご協力お願いします


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ヒーラー七夜 とある1日

 皆!!お待たせ!これで取りあえず番外編は投稿しません!!次々投稿されるのは、攻略した後、書いていこうと思います。



 ※この作品は、TOVを基にして作りました。多少のネタバレが含まれています。苦手な方は、お引き取りください。


 

 「行くよッ!天狼滅牙(てんろうめつが)ッ!」

 

 

 爪から繰り出される一撃で、魔物は、消滅する。それを見た少女は笑ってある人物の元へ駆け寄る。

 

 

 ──駄目ですよ、ミオ。あまり怪我しすぎると、跡が残って、女の子なのに傷だらけの姿になっちゃうんですよ?

 

 

 少女の先に待ってたのは、棒のようなものを持った少年で、少し華奢な感じの少年だ。丁寧な言葉の彼は、少女……ミオに対して少し怒りながら治療をする。ミオはその場で腰を下ろし、治療を受ける。

 

 

 「えー、でもさ、ウチが怪我しても、マキが治してくれるじゃん。」

 

 ──私にも限度はありますよ?ミオが考えを改めないと、今後間に合わなくなって、大怪我を負うハメになるかも知れないですよ?

 

 

 2人は、お馴染みの魔切……いや、マキとミオ。ミオの方は替わりないのだが、マキはセミショートほどの髪になっており、柔らかい表情をしている。

 

 

 「うーん。ウチがそんなんになるのは、マキが連れ去られた時か、マキが危ない時やと思うんよ。だから、まずその前提を排除すれば、ウチが大怪我する可能性はないよ?」

 

 

 ──だから!私が言ってるのは、そう言う事じゃなくて!あんまり前に出過ぎてミオが怪我して欲しくないってことです!

 

 

 マキはへらへらしてるミオに対して、頬を膨らませながら、反論するマキ。それを見て、ハハハ。と笑いながらごまかすミオ。二人のやり取りがある程度終わると、マキが諦めたようにため息をつき、話し出す。

 

 

 ──ミオ。私を守ってくれるのは、義務感からですか?それとも、他に何か後ろめたいことでも?

 

 

 「どした?急に。ウチはマキと一緒に居るのが好きやから居るわけで。マキはウチの事好きじゃないんか?」

 

 

 ──……昔はあれでしたけど……今は、好きじゃなきゃ、城を出てまで貴女についていきませんよ……

 マキは少し照れたようにミオに伝えると、ミオは笑って、立ち上がる。

 

 

 「良かったぁ!実は嫌々城を出たくて着いてきたって言われたらどーしよーって思ってたからさぁ……」

 

 

 ──………確かに、始めは……城を抜け出す口実に使いましたけど……

 

 

 マキは少し気まずそうに口を尖らせながら言う。ミオは、それを見て、笑いながら謝る。

 

 

 「ごめんて!ちょっとからかいたかっただけ。マキはウチと今も旅してるっていうことは、それだけウチを気に入ってくれたんでしょ?王子様?」

 

 

 ──あーもう!その王子様はやめてください!今はただのマキとして旅してるんです!私はもう今は王族ではありませんー!

 

 

 マキは恥ずかしそうにしながら、否定するが、彼は王族として、たまに活動する。街中では、騎士からの近況を聞いたりして、またこちらの近況も報告する義務を果たしながら、旅をしている。

 

 

 「そろそろ日も暮れるし、宿屋に戻るよ。マキ。」

 

 

 ──そうですね。そろそろ私も報告に向かわないと、お母様に怒られそうですから。

 

 

 2人は、そう言いながら、街へ歩き出す。街に着く頃には、日も沈み夕暮れが街を照らしている。2人は、騎士の駐屯所へ出向き、報告をしに行く。

 

 

 「これは……マキャフリィ王子。お目にかかれて光栄です。本日はどの様なご用件でしょうか!」

 

 

 騎士はそう言って跪く。仕えるべき主に対して、正しい礼儀作法である。マキに向けて、それをする騎士に対して、マキは苦虫を噛み潰したような表情を少しして、元の普通の顔をして礼を言う。

 

 ──……面を上げて大丈夫です。報告です。現在、王国付近の魔物は、ある程度私とミオが撃退させました。ですので、警戒の強度を下げて貰って構いません。この戦闘で私が受けた傷は全くありません。……その様に伝えて下さい。

 

 

 そう伝えると、騎士は跪いたまま、しかし、顔だけは上げた状態で返答する。

 

 

 「はっ!御用件を拝聴致しました。それでは、マキャフリィ王子。御武運を!」

 

 

 再び、頭を下げ、見送る状態になり、そのまま、騎士の見送りを受けつつ、その場を立ち去るマキ達。宿屋に着くと、真っ先にもてなしされ、ようやく解放されたら、ミオの部屋に行くマキ。

 

 

 ──はぁ……疲れました……!

 

 

 「やっぱり王族は大変だねぇー。ウチはそんなんないから楽だけどね。」

 

 

 ──羨ましいは、持たざる物の贅沢なので私はしませんが、恨みますよ……ミオ……

 

 

 後程語るが、王族であるマキは現在両親の許可を得て、旅をしている。少し前までは家出みたいなのをしていたが、ミオが指名手配され、それを見て怒ったマキが王城に寄るときに、親と(母親と)の口論の末、許可を手に入れたのだ。

 

 

 「あはは~ごめんて。ほら、明日も早いし、さっさと部屋に戻ったら?ウチはもう寝るけど……まさかこの部屋で寝るんか!?」

 

 ──違います!!もう少しだけ愚痴に付き合って下さいよ~本当に大変だったんですから~。

 

 

 そう子供みたいに駄々をこねるマキ。それを見てミオは、面白いな~と思いつつ、相手をする。少し夜が更けたとき、疲れから眠くなったマキを帰して、二人は眠りにつく。明日の予定も確認せずに。

 

 

 ──そういえば、ミオに王城にそろそろ戻らないとって言うの忘れてましたね。……明日でも良いですよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改めて、マキ改めマキャフリィ・ウィル・クルスニクは第一王子で一人息子。母親から溺愛されており、その愛が重く、嫌気が差して、又、騎士であったフブキを命が狙われていることを知らせるために外に出ようとする。一方、ミオは下町の大切な物を盗まれ、それを取り返しにわざわざ王城に忍び込み、取り返そうとした。その時の騒動だ。

 

 

 「お前が白上か?資料には獣耳をした奴が白上だと書いてあった……そしてここには探し回ったが、お前しか獣耳はいない。つまりお前が白上フブキだなぁ!!!」

 

 

 「え?ウチ!?真っ黒だけど!?白くないけど!?……って話聞いてくれない系だ!」

 

 

 ミオはいきなり襲いかかってきた男の剣を、爪で弾きながら、応戦する。男は狂った目でミオを見つめる。狂ったように笑いながら、男は笑っている。

 

 

 「ハッハッハッ!面白ぇ!!さぁ殺し会おうぜ?白上!!」

 

 

 「ウチはフブキじゃないって!!あーもう!こいつ、うざい!」

 

 

 「つれねぇこと言うなよ!白上!!俺は今猛烈に楽しいぜぇ!?お前を殺すのがなぁ!!」

 

 

 高笑いしながら、鋭い剣撃を繰り返す男。その攻撃をさばいているが、防戦しか出来ていないミオ。ミオの生傷がどんどん増えて、少しボロボロになってしまう。

 

 

 「良い感じだぁ!!そろそろ大詰めに……」

 

 

 ──ラクタ!

 

 

 「ぐへあっ!?」

 

 

 相手が距離を取り、もう一度詰めようとしてくるタイミングで、横から棒が回転しながら、男に向けて飛んでいく。その棒はおそらく、持ち主の手に戻っていく。その方向を見ると、華やかな服装を身に付けた青年が、いた。

 

 

 ──襲われていたようでしたので攻撃したのですが……大丈夫でした?

 

 

 「うん。むしろ助かった!ありがとー。」

 

 

 ──いえ、……おや?傷ついてらっしゃいますね。今、治して差し上げます。"癒しよ"『ファーストエイド』

 

 

 青年は、ミオに対して治癒を使う。治癒使いは少なく、しかも、使ったのは男だという、その事実を知り、驚愕する。

 

 

 「え!嘘~!治癒術使えるの!?」

 

 

 ──えぇ、まぁ、はい。使いますよ?何か可笑しいことでも?

 

 

 《color:#45461》「あれ~?ウチがおかしいんか?……あー、なるほど、これは……ダメですね。教えられることはないねぇ……」《/color》

 

 

 マキは昔から治癒魔術を昔から見てたので、城の中でしか暮らしていない彼からすると、治癒魔術は、使えて当然、全員使えるものだと思っていたのだ。その事実を、ミオはなんとなく察し、頭を抱える。

 

 

 

 ──私の事は良いです。それよりも、私を外へ連れていって下さい。

  

 

 「………え?外に行くの!?君を連れて!?無理だって、ただでさえ……」

 

 

 「ハァッ!!良いねぇ!!そっちの男も掛かってこい!まとめてぶち殺してやるよぁ!!!」

 

 

 「あー、なんか復活してきたし、取りあえずこいつ倒したら考えるよ!」

 

 

 ──あ、言質取りましたからね!私も手伝います!

 

 

 マキは、背中に背負っていた六尺棒を構え、男に向ける。それを見て、男は、狂気が宿った目でマキを睨む。

 

 

 「いいねぇ!!お前もまとめて相手してやるよぉ!!」

 

 

 「危ないから、君は下がって!!ウチが前に出るから。」

 

 

 男に啖呵を切られたマキ。ミオは、それを見て危ないと言ってマキを下がらせる。マキは、それをなんとなく察し、少し後ろに下がる。そして、数秒の静寂が訪れ、それを破ったのは、当然男だった。

 

 

 「いくぜぇ!!オラァ!!」

 

 

 「うっ!こいつ………狂ってる割には、結構やるね…………」

 

 

 ──それなら…………ヴォルト!!

 

 

 マキは、そう叫ぶと、紫色の球体が背後から現れる。電気を帯びているそれは、雷の精霊の『ヴォルト』。彼が契約している精霊で、相性がとても良く、彼の手伝いを快く請け負ってる。

 

 

 『マキ?どうしたの?』

 

 

 ──ちょっと厄介事に巻き込まれて…………力を貸してください!

 

 

 『いいよ。マキ!』

 

 

 ヴォルトがそう応じると、マキに雷を纏わせ、強化した。

 

 

 「面白ぇな!優男!来いよ!その雷………見せてみろぉ!!」

 

 

 ──いきます!!

 

 

 マキは、そう言い放つと、男に向かって駆け出す…………マキが居たところから一直線に稲光を走らせながら、男に攻撃するマキ。

 

 

 ──ルナータフラッシュ!ファーラクス!ロタティオネ!イラマアクィラ!

 

 

 彼の攻撃は六尺棒による棒術で、攻撃をする。その攻撃一つ一つに雷を纏わせるという、ヴォルトがいなければ到底不可能な御技を、マキは披露した。

 

 

 

 「ぐへぁ!?…………いいねぇ!お前も殺してやるよぉ!白上と一緒になぁ!!!」

 

 

 ──!?………やはり、狙われてましたか…………なら!ここで倒しておけば…………

 

 

 マキはそう言って、再び駆けようと、構えるが、男の背後から急に人が現れる。

 

 

 「ザギ様、ターゲットは不在のようです。撤退を。」

 

 

 部下らしい存在は、そうザギと呼ばれた男は、狂った笑いを辞め、部下の方に振り向き、真顔で見つめてる。

 

 

 「………………」

 

 

 「ザギ様…………?ぐはぁ!?」

 

 

 少しの沈黙のち、ザギは部下と思わしき男を切り伏せ、こちらを睨む。

 

 

 「……女………名は?」

 

 

 「………ウチは、大神ミオ………覚えとかなくていいから。」

 

 

 「ミオ………覚えたぜ……?ミオォ!!テメーを殺すのは俺だぁ!ついでにそっちの優男もなぁ!!また会おうぜ!」

 

 

 ザギはそう言い残し、去っていく。ミオはしばらく警戒していたが、気配が完全に無くなると、緊張を解す。そして立ち去ろうとしたが、マキに捕まってしまう。

 

 

 ──約束……ですよ。私を早く出してください。

 

 

 「しまった………忘れてた………」

 

 

 マキとの約束を完全に忘れ、逃げようとしたミオであったが、捕まってしまったせいで、全てを思い出してしまい。頭を抱える。

 

 

 ──私は早くフブキに会いに行かないといけません!

 

 

 「会いに行って……どうするん?」

 

 

 ──……それは………危険を知らせるためですよ。

 

 

 少し、目をそらしながら言うマキに対し、じとっと睨み付けるミオ。

 

 

 ──………外に出たら教えますよ。

 

 

 しばらく睨み合っていたが、最初に折れたのは、ミオのほうだった。

 

 

 「はぁ……わかった。でもその格好だと目立つからもっと地味なの来てきてよ。」

 

 

 ──えぇ!?これ結構地味なの来てきたんですけど……

 

 

 そう言いながら、自分の服を確認するマキ。良く見ると、とても装飾も施されており、どこかの貴族がお忍びで……みたいなことに成りかねないと思い、注意したのだが、これでまだましとは……と、心の中で思ったミオなのであった。

 

 

 「あー、もういいや、さっさとここから居なくなるよ!衛兵来たら困るでしょ!」

 

 

 ──あぇ!?待ってください!

 

 素早い移動だったため、衛兵に見つからずに地下水路から外に出た二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──うわぁ……すごい……城の外はこうなっていたんですね……

 

 マンホールから外に出て、第一声が、感嘆であった。おそらく、一度も外に出たことが無いせいで出た言葉なのだろう。田舎から都会に来た人間みたいに周りをキョロキョロしているので、それを見たミオが不審がられる前に止めに入った。

 

 

 「ほら、お忍びで来てるんだからあんまり不審な挙動しないで。行くよ、多分フブキは外征に行ってるんでしょ?」

 

 

 ──ぁ……そうでした!早くフブキの所に行かないと!

 

 

 思い出したかの様に直ぐ様駆けようとするマキ。しかし、それを制止する手がある。……ミオだ。ミオがその駆けようとする体を制止し、話し掛けてくる。

 

 

 「それで、外に出たんだけど、王子様が出た理由ってなんなん?」

 

 

 先程の出たらと言う言葉を覚えていたらしく、質問してくる。マキはそれにあ……という顔をしながらも、返答する

 

 

 ──マキで良いですよ。マキャフリィは言いにくいですし、王子様なんて身バレしちゃいますから。出る理由でしたよね?それは………フブキが、命を狙われています。

 

 

 おそらく、そんなに地位もないのに、騎士団長だから……見たいな事を噂をされてたので、もしかしたらと思って……実際、狙われていたのは本当でした。

 

 

 ですので、私がフブキの所に行かないといけないんです。私が言えば、どうにか……

 

 

 「ならないよ……フブキなら尚更ね。」

 

 

 マキが、希望を話してる時、ミオはそれを遮るように、否定した。まさか、否定されるとは思っておらず、困惑するマキ。それを見て、ミオは軽くため息を吐きながら説明しだす。

 

 

 「フブキはそれなりに恨まれる覚悟でやってるし、そうなることも想定内。だから気を抜かずに仕事してたはずだし、そもそもフブキ倒せる奴なんて……あんまり居ないね。」

 

 

 遠くを見つめながら、そう言うミオ。それを聞いて感嘆するマキ。ふと、何かを思い付いたのか、質問してくる。

 

 

 ──……もしかして、ミオさんとフブキってお知り合いなんですか?

 

 

 「ミオでいいよ。そうだね。ウチらは下町時代から一緒に居たよ。元々、ウチも騎士だったしね。」

 

 

 ──えぇ!?そうだったんですか!

 

 

 ミオの突然の暴露に、動揺を隠せないマキ。それを見て笑いながら話す。

 

 

 「だって、そうじゃなかったら地下水路とか、侵入口とか分かんないじゃん?」

 

 ──……あ、そうですね。だから知っていたのですね……。

 

 

 「さぁ、分かった?取りあえず、マキだっけ?ここから早めに逃げないと、面倒な人達に捕まるよ。」

 

 

 ミオは、そう言って歩き出す。マキは、─待ってください!という言葉と共に、二人で歩き出す。そこから、様々な体験をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──……本当は、外の世界を見たかった。なんて、言えませんよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中で出会った、新たな戦友。モンスターに襲われる街を救ったりなど、そして、何より、勘違いと指名手配が一番の見物だろう。

 

 

 

 とある事情から闘技場に参加するミオ一行。しかし、決勝で待ち受けるのは、あのフブキだった。ミオとフブキはお互いの刀と爪を鍔迫り合いの様にしながらも会話する。

 

 

 

 「ミオ、いい加減にマキャフリィ様を返して貰えませんか?危険な旅に、これ以上付き合わせないでください。」

 

 

 「いや、ウチも返したいけどあの王子様、意外と意思が強いよ?ウチはマキのやりたいことをやらせる。そう決めたんだよ。それを邪魔するなら………フブキでも許さないよ?」

 

 

 「………それでも、返して貰います!」

 

 

 そう言って、お互いに力を込め、距離を取る。そして、仕掛けようとする。しかし、それを邪魔する存在が居た。……あのザギである。

 

 

 

 「よぉ!!ミオぉ!そして、そっちが白上だなぁ?ヒャハハハハァ!!!まとめて殺れるなんて最高だなぁ!!」

 

 

 そう叫びながら、モンスターと共に突っ込んでくる。それを見たマキ達も、どんどん闘技場に乱入する。フブキは避難を指示しながら、共闘する。

 

 

 「あー、闘技場が目茶苦茶だなぁ……」

 

 

 「フラストレーション溜まってたし、シオン的には別に嬉しい誤算だよ!」

 

 

 「ちょっと!これやばくないですか!?なんか雪崩れ込むように来てるんですけど!?」

 

 

 「ま、どれだけ来ようが余裕でしょ?」

 

 

 「さっさと終わらせよー。」

 

 

 ──……行きましょう!

 

 

 

 その後、ザギは撤退し、闘技場はある程度復旧。フブキが復旧作業中に、ミオ達は途中離脱し、フブキはまた逃げられたと肩を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 他にも、ミオが指名手配された時は、マキが激おこになり、親に直談判しに行ったり、ギルドを結成したりと、始めての事が多かった。途中で他の仲間とも別れ、今はミオと二人で旅をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………さて、残された時間も少ない。早く、対策しなければ、この世界は消えるだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、ミオに戻ることを伝えると、凄い剣幕で、マキに話し掛けている。

 

 

 「あのさぁ………もっと早く言ってよ!?下町行く準備しないといけないじゃん!おじいさん達煩いんだよ!?」 

 

 

 ミオが下町の人達に愛される理由は、ここにある。彼女は面倒見がとても良いので、つい色んな人に絡まれる。故に、こうやって帰るときには、それなりの準備をしてからじゃないと帰れないのだ。

 

 

 ──いやぁ……すいません。私がうっかりして、早く帰ってこいと言われてるの、忘れてました☆

 

 

 「はぁ……いいよ。それじゃあここからなら……一週間だね。それまでにはある程度買えるかなぁ……?」

 

 

 そう言って二人は王城に向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、ある物語に似た世界。波乱万丈ではあったものの、もう既に平和な世界。二人の物語は続くだろう。

 

 

 

 この物語が再び動きだし、一難去ってまた一難、となるのは、これより少し後。

 

 

 その後にも、平和が訪れ、そして、彼らが到着する。

 

 

 

 その彼らとも色々あるのだが、それはかなり未来。

 

 

 

 それを知って、彼らはどうするのか、答えを知れるのは、大分後の物語である。

 

 

 

 

 

 




 そろそろ本編リハビリしますか。感想とか待ってますよ!!是非!!


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