魂の座 凍えた魂 (伊駒辰葉)
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魂の座 凍えた魂 Q&A
自力で避けてもらえると嬉しいです。
地雷などあったら困るので、ざっくり内容を先に説明します。
説明など要らぬ! 何でもOK! という剛毅な方はここは飛ばしてもらって大丈夫です。
!!この先はネタバレなので要注意です!!
改行を入れときますね。
Q.ぶっちゃけ内容って?
A.長いので分割説明します。
1.メカ的な女子(女子しかメカに出来ない設定)が出てきます。
主人公というか、メインキャラの一人が重度のメカフェチです。
機械な女の子がそのメインキャラにいいようにされます。
シリーズ全編を通してそれがメインのテーマのひとつになってます。
ある種のサイドストーリーといえるかも知れません。
2.超常現象とか超常的能力者が大量に出てきます。
人外の方が多いという……。むしろ人間少ない!!
全編通して大体そんな感じになっています。
龍神と呼ばれる連中が主体で、サイドでアレコレ出てきます。
今回はハンターというのが出てきます。
3.過去とか未来とか時間軸ががんがん動きます。
時系列順にはなってるんですが……回想などで過去が出てきたりします。
その辺りの処理がドヘタなのでご容赦下さい。
4.全体的に群像劇みたいな感じです。
これといった根幹がないんですよ……好き放題書いたので。
タイトルは後でつけたり、書いてる時につけたりしてます。
順番としては(ここにあるもの)、
冥界への案内人→マザーハッカー→パペットプリンセス→夢の隙間→魂の座
と、なってます。
その間に他の話もあるんですが、出せるレベルのものではないので無理というか原稿なくしましたw
ないものは出せないのでごめんなさい。
5.魂の座は四つのストーリーに分かれています。
1 凍えた魂
主役のひとりの弟が復活して、再度、逝ってしまいます。
2 緋色の遺言
主役のひとりが惚れた女が復活して、再度、逝ってしまいます。
3 暁の姉妹
主役のひとりの妹が復活して、再度、逝ってしまいます。
4 苺の季節
オールスターズで結婚とか婚約とかアレコレ恋愛系の話です。
……こうして書くとけっこー酷い話ですね……。
Q.R-15指定だけどどーして?
A.エロ満載なのと、人外のために無茶苦茶やったりするためです。
相手が生身の人間なら無理だろ、とか、無茶だろ、というシーンがあります。
手足がバラバラになったりとかもします。
シリーズ通してR-15とR-18指定にするつもりなので、これも同じになってます。
催淫剤的なモノが出てきます。この話的にはお約束です、最早。
ファンタジー的なアイテムです。
主人公たちは高校生です。
煙草とか吸ってますが違法なので真似しないでください。
人外なので実年齢とは違う、と言い訳をしておきます。
(そもそも法律が適用されるか怪しい)
※この作品はフィクションです。実在する人物、団体、法律等とは全く関係ありません。
この話にも財閥とか平気で出てきます。
地雷を感じた人は引き返してください……(汗)
Q.修正はどの程度してるの?
A.しようと思いましたが、出来ませんでした。
一連の話は繋がってるのですが、どれもこれも修正しようとすると虫酸が走り、発狂しそうになるという事態に陥りました。
昔の原稿を読むこと自体が地獄です。ホントにすみません。
なので、ヤケクソでそのままアップします。
ドヘタなので駄目な人は是非回避してください。
Q.タイトルの意味は。
A.たまたまエヴァをみていたんですよね。
ていうか、書いてた当時、ビデオで繰り返し観ていたアニメがいくつかありまして。
その中にエヴァがあって、魂の座、という言葉が妙に頭に残ってたんだと思います。
結局、終わってみたら丁度良いタイトルだったなー、という感じになってる……はずです、たぶん。
Q.エロ濃度はどの程度よ?
A.申し訳ありません。他の方の作品を読んでいないのでクラスとかランクが判りません。
やりまくる時点でエロいのではないかと思いますが、読者様によって感じ方は違うと思いますので……
対機械もありますし……。
エロシーンの有無はエピソードの前書きのところで書くことにしました。
エロオンリーでOKの方はそこで判断してもらえれば、と思います。
Q.文体とか設定とか、古くないですか?
A.書いたのは20年くらい前で……
古くてすみません。
Q.これってどういう経緯で書いたもの?
A.賞獲りレースに疲れて好き放題したもののひとつです。
誰に見せるつもりもなかったので無茶苦茶だったりします。
修正? ナニソレオイシイノ?
……という感じで修正していませんすみません。
Q.メカってどの程度?
A.この時点でそれほどちゃんと書けていません。
すみません。修正は(ry
なお、メカ好きな方が読んだら首を捻るところ満載です。
というか、自分で猛烈に弾けそうです。
すみません。
なお、『魂の座』ではどこかで誰かがバラバラになります。
お待たせしました(謎
(もしかしたら『緋色の遺言』だったかも……)
Q.連載ってなってるけどつまり分割投稿?
A.はい、その通りです。
ですが細々と修正しているので、連載するよりかなりの時間がかかると思います。
お待たせしていたらごめんなさい。
Q.関連のある作品はあるの?
A.はい、あります。
以下がこの話に関連しているものです。
それぞれQ&Aをご確認の上、良かったら読んでみてください。
冥界への案内人
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=235821
マザーハッカー
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=237568
パペットプリンセス
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=245165
夢の隙間
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=250355
危険を回避するためにQ&Aをつけました。
参考にしてもらえると幸いです。
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序章
プロローグ
一際高い声が上がり、指先で触れている部分が小刻みに震える。腰を軽く引くとねっとりとした愛液に塗れたペニスが半分ほど外気に晒される。指先にそっと力をこめると簡単に赤い突起が露出する。青年は目を細めてその様子をしばらく観察した。
指先で細かな振動を与えると突起が更に硬さを増す。青年は触れさせている指先とその突起を比べてみた。その大きさは丁度、小指の爪くらいだ。淡い紅色のひだの隙間で指を巧みに動かすと、また声が上がった。青年は視線を動かして目の前にいる女を静かに見つめた。
その女は頬を染めてしきりに喘ぎ、乱れた髪を直す余裕もないほどに快楽に溺れていた。着ていた白衣は半ば脱げかけており、黒い台の上に裾が広がっている。その内側のブラウスのボタンは全て外れているし、薄いブルーのタイトスカートも腰まで捲れあがっている。だが女にはそんな乱れをまるで気にせずしきりに声を上げていた。剥き出しになった腰が青年の指の動きに合わせて揺れる。青年は指の動きを止めて女から目を上げた。指先を濡らす愛液を舌で舐める。女を焦らす意味も込めて青年は部屋の様子を改めて見つめた。
そこは静かな空間だった。広い部屋の中には幾つもの棚が設置され、家庭では使用されることもなさそうな器具が陳列されている。並んでいる黒い台は実験に用いられるものだ。使い込まれた端末が部屋の隅に据えられ、実験台の一つにはビーカーやシャーレが置き去りにされている。
そう、ここは一般家庭の部屋ではない。とある研究施設の一角にある実験室だ。青年は黙って部屋の様子を見やってから再び女に目を戻した。いつの間にか正気に戻っていたのだろう。女は声を止めて怪訝そうに青年を見つめている。
女が不服の声を漏らす前に青年は再度、女の腰をつかんだ。力強く腰を押し出す。すると女はあっけなく激しい声を上げた。それまでに散々に焦らされていた女は青年が腰を前後するたびに声を上げ、ついには荒く短い息を吐きながら全身を緊張させた。これで何度目の絶頂だろう。青年は変わらず腰を揺すりながら冷静にそのことを考えていた。
果てた女の膣壁が緊張して程よく締まる。大きく脈打つ膣壁を擦りながら出入りするペニスがにわかに硬さを増す。青年は目を細めて腰の動きを速くした。腰に溜まった熱いものをためらいなく放出する。ペニスの先から迸った精液が女の膣に満ちた。
心地のよい脱力感が全身を包む。青年はため息をついて身体の力を抜いた。先に果てた女はいつの間にか失神している。やれやれ、と呟きながら青年は女の腰をそっと台の上に戻した。女の顔には満足そうな表情が浮かんでいる。だがその身体にはまだ快楽が残っているのだろう。剥き出しになった乳首はまだしこっている。青年はそんな女の様子に苦笑しながら腰を引いた。音を立ててペニスが膣から抜けると、その後を追うように女の膣口から白い精液が流れてくる。愛液と混ざった精液は女の肌を伝って白衣の上に落ちた。
不意に耳障りな音が響く。青年は息をついて音のした方を振り返った。青年と同い年くらいの別の男が実験室のドアの横に立っている。男のこぶしがドアに触れているのを見て、青年は初めて男がドアを殴ったのだと気付いた。
「これで何度目かな? 水輝」
水輝と呼ばれた青年は大きくため息をついて身体を起こした。精液に塗れたペニスを傍にあったティシュで拭う。
「さあ? 数えてると思うのか、おれが」
水輝は男を嘲笑うように答えて乱れた服を直した。さっきまでの脱力感は今はもうない。一度や二度、女と寝たからと言って体力が尽きてしまうほどやわではない自覚もある。そもそも、水輝は人とは違う肉体や能力を備えている種なのだ。
視線を少しずらす。所在なげに佇んでいるその存在に気付き、水輝は小さく笑った。男の背後、ちょうど水輝からは死角になっていた場所に一人の年若い女性が立っている。水輝は台の上の女とその女性を比べた。着ているものには大差ない。白衣をまとっているところも同じだ。この研究施設に慣れていない者なら、ここにいる研究員たちをいちいち区別することは出来ないだろう。その程度には二人は似通った格好をしていた。
だが一つだけ決定的に違う部分がある。それは男の後ろに立つ女性はこの施設のどの女性と比べても際立った美しさを持っている、ということだ。そしてそれ故に他の誰を覚えていなくとも、彼女のことだけは記憶しているという者も多い。
吉良由梨佳。それが彼女の名前だ。由梨佳はこの研究施設の所有者の妻でもある。
「何だよ。今日は由梨佳さんまで引き連れて何の実験だ? お前も大概、暇人だなあ。立城」
顎をしゃくりながら水輝はそう告げた。立城と呼ばれた男が苦笑して首を傾げる。水輝は喉の奥で笑って台から離れた。置き去りにされた女を見返りもせず、ドアの方へと歩き出す。だがそんな水輝を二人は止めなかった。
「人体実験なんてあんまりやってると、そのうちどっかにばれるぜ」
立城の手前で足を止め、水輝は低い声で告げた。台の上の女は研究員の一人だ。そして恐らく、今日の素材に決定していたのだろう。だからこそ、休日の筈の研究施設に一人で来ていたのだ。もっとも、女自身はそのことには気付いていないだろう。そうでなければのこのこ一人で来るはずがない。
「僕がそんなへまをすると思うの?」
微笑む立城とは対照的にその後ろの由梨佳は緊張に身体を固くしている。その上、どうあっても水輝と目を合わせるつもりはないらしい。水輝は二人を交互に見つめ、肩を竦めてそれを返事代わりにした。
一歩だけ進む。水輝は今度は由梨佳の前に立った。豊かな胸を覆い隠すかのように両手でファイルを抱え込んでいる。水輝はまじまじと由梨佳を見つめた。初めて出会ってからどのくらいの時間が経っているだろう。少なくとも十年単位で時間は流れている筈だ。なのに二人にさほどの変化はない。そして立城もまた、当時のままの姿でここにいるのだ。
「別にあんたを無理に襲う気なんてないよ。知ってるとは思うけど」
「こちらこそ」
それまで黙っていた由梨佳は水輝にそう即答した。にっこりと笑ってすらいる。だがどうしても水輝を見る気はないようだった。由梨佳は伏目がちなまま告げると、すっと水輝と立城の間を抜けた。無言で実験室の奥へと歩いて行く。もう話はない、という意味だろう。水輝はふうん、と笑って由梨佳の背中を見送った。
魅力的だと思わない訳ではない。由梨佳の肢体は水輝も十二分に興味を覚えるほど整っている。だが二人は出会ったその時からとにかくうまが合わないのだ。最近では由梨佳は露骨に水輝を避ける傾向がある。だがその理由も水輝は知り尽くしていた。
「そんなに気に入らないか? 子供たちを引っ掻き回すのが」
背中に声を投げる。すると由梨佳は水輝の声に振り返った。珍しく水輝を睨みつける。久しぶりに由梨佳と目線が合ったことに少し驚き、水輝は短く口笛を吹いた。
「当然でしょう?」
怒りに満ちた眼差しに水輝はなるほど、と笑った。それが余計に由梨佳の怒りを煽ったのだろう。由梨佳が眉を吊り上げる。だがそれ以上、水輝と会話するつもりがないのか、またすぐに背を向けてしまった。
由梨佳が怒っている理由は明白だ。由梨佳の手がけた子供たちはここ数年、水輝によって随分と痛い目に合わされている。が、その事件に立城が加わっていることを由梨佳は知らないのだ。
ため息をついてちらりと視線を流す。横にいる立城は何も言わない。ただ黙って微笑んでいるだけだ。水輝は軽く肘で立城の肩を小突いてから実験室を後にした。
微妙な長さだったのですが、プロローグなのでこのままアップします。
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一章
出発の日 1
エロシーンありません。前振りだけです。
世間の学校では体育祭などが行われる秋、多輝は学校には行っていなかった。一時的に休学しているからだ。多輝はため息をついて自分の通っていた学校を見上げた。その学校は市立清陵高等学校。小高い丘の上にそびえ立つ校舎が嫌に懐かしく見える。数ヶ月前まであそこに自分がいたのだ。そう、思ってはみるがどうも実感がない。
懐かしいと思えるほどまだ時間が経っていないからではない。実感が湧かないのは当時、通っていた頃には今とは全く別の姿をしていたからだ。あの頃の多輝は紛れもなく男として生きていた。だが、今の多輝はどこから見ても少女だ。それも黙って街の中にでも立っていれば、何人かの年頃の男が必ず声をかけていくような美少女だった。多輝はため息をついて校舎から目を離し、また坂道を下り始めた。
清陵高校へと続くなだらかな坂道には多輝以外に誰もいない。登下校時には賑わうこの道も生徒の姿がなければやけに静かだ。多輝は通学していた頃の事を思い出しながら坂道を下った。クラスメイトたちと時には笑い合った日々が遠いことのように感じられる。そんなに年は食ってない筈なんだがな。多輝は小さな声で一人呟いた。
多輝はとある事件がきっかけで女性の身体になった。しかもその身体は生身ではない。機械仕掛けの身体だ。機体作成者は吉良優一郎。優一郎は現代では世界一の科学者と言われている吉良総一郎の息子にあたる。そんな大人物の息子である優一郎と多輝は同じ学校に通っていたのだ。そうでなければ今ごろおれは死んでいたかも知れない。多輝は心の中だけでそう呟いた。
緩やかなカーブを曲がっていくと短いトンネルがある。このトンネルの上を高速道路が走っているのだ。防音壁に阻まれていても車の走る音は坂道まで聞こえてくる。多輝はふと足を止めてトンネルの上を見た。だがやはりそこには防音壁しか見えない。白と緑のラインの入った壁をしばらく見つめ、多輝は再び歩き出した。
今日は特別な日なのだ。これまで、女性の機体になってからずっと、多輝は清陵高校の地下で暮らしてきた。優一郎が機体のメンテナンスをしやすいようにという理由からだ。だがずっとそのまま隠れている訳にはいかない。何しろ多輝は休学したままで、この半年間というもの、まともに授業を受けたことはないのだ。
そんな多輝を気遣った優一郎がとある提案を持ち出した。多輝が別の人物として転入するのであれば、問題はないのではないか。多輝はその話を最初は断った。どうせこの身体でまともに就職なんて探せない。最初は良くてもいずれ健康診断でもされれば普通でないことがばれてしまう。それなら学業など特に役には立たないのではないか。しかも多輝はそもそも人間ではない。人とは違う能力を有しているのだ。それ故に多輝は優一郎の申し出を断るに至った。だが、優一郎は珍しく何度もその話を多輝に持ちかけたのだ。
結果的に多輝は優一郎に従うことにした。元より、機体作成者の優一郎が本気になれば多輝は逆らうことが出来ないのだ。それが多輝の持つ機体の特性でもある。
機体の特性には種々あるが、中でもそれを欠いては成り立たないというシステムが存在する。それが性感制御システムだ。多輝を始めとする機械仕掛けの身体を持つ者たちを総称してヒューマノイドと呼ぶ。機体と自我とのずれによって生じたストレスを快楽で解消するため、快楽のシステムとも呼ばれている。そして彼らヒューマノイドにはその性感制御システムが絶対不可欠なのだ。
まあ、そんなもんなくても逆らうつもりなんてなかったけど。そう思ってから多輝は慌てて首を振った。火照った頬を手で包み、多輝は周囲に人がいないかを確かめた。だが心配とは裏腹に周辺には誰もいない。多輝はほっとして胸に手を当てた。途端に機体が敏感に反応する。思わず眉を寄せた多輝は乱暴に手を下ろした。乳首が勃ってしまったのが判ったのだ。
舌打ちをして歩き出す。だが多輝はトンネルに入ってすぐのところで足を止めた。驚きに目を見張る。トンネルの壁にもたれて立っていたのは優一郎だった。
「だいじょうぶかい? 顔が火照ってるよ?」
腕組みをして優一郎がそう告げる。多輝は慌てて辺りを見た。確かに人の気配はなかった筈だ。なのにどうしてここに優一郎がいるのだろう。絶句して答えられない多輝の代わりにか、優一郎は言葉を続けた。
「もしかして、緊張してる?」
心配顔で話し掛けてくる優一郎に答えられず、多輝は視線を彷徨わせた。何度、見つめられても慣れない。それに機体は多輝の意志を無視して優一郎に如実に反応している。機体のあちこちがじわじわと火照る。
多輝が冒頭から女性なので、TS警報は出すべきなのか悩みましたが……(汗)
まあ、このままで!w
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出発の日 2
エロシーンありです。
多輝はうろたえて優一郎から顔を背けた。
「べっ、別に緊張なんてしてないさ。屋敷に行くだけだし」
トンネルの壁には派手なペンキで落書きがされている。描かれているのは漫画のキャラクターだったり、アルファベッドだったりと、さまざまだ。多輝の目は意味もなく数々の落書きの上を行ったり来たりした。だがその中に刺激的な単語を発見して思わず悲鳴を上げかける。いつの時代にもそういう落書きはなくならないのだろうか。SEXという単語に目を奪われたまま、多輝は見知らぬ落書きの主に憤りを感じていた。
「ならいいんだけど……」
優一郎の心配そうな声が耳に入る。多輝は焦りの余り、勢いよく顔を戻した。だがそこで硬直する。いつの間にか優一郎が傍に近づいてきていたのだ。
「あ、う、うわ!」
うろたえ過ぎて多輝は優一郎から飛びのいてしまった。他意はない。だが優一郎の目にはそう映らなかったのだろう。心配そうな面持ちが今度は訝りのそれに変わる。
「もしかして、どこか調子悪いの?」
機体を作った本人だからこそのせりふだったのだろう。考えてみれば当り前の疑問だ。そう、優一郎が訊きたくなる程度には多輝の行動は不審だった。だが多輝はそのことには全く気付かず、慌てて優一郎の問いかけを否定した。しかも全力でだ。
「ち、違う! そんなことある筈ないだろう!? 調子悪いなんて、そんなことないってば!」
言葉に力を込めて吐き出した多輝を、優一郎はしばらく唖然とした様子で伺っていた。肩で息を吐きながら多輝は優一郎にちらりと視線だけ返す。だがどう見ても優一郎が納得しているとは思えない。首を傾げて怪訝そうに多輝を見つめている。もしかしたら余計に疑われたかも。多輝は遅まきながら自分の取り乱しように気付いた。
だが取り乱しもする。多輝は機体の反応にどうすることも出来ず困っている最中だった。優一郎の行動にいちいち反応する機体……。それをうっとうしいと感じたことはないが、実際に優一郎に対面している時は困ることも多い。何しろ多輝の意志を完全に無視して勝手に欲情するのだ。しかもどこでもそれが起こるため、今までの多輝は対応できずに慌てることも多かった。
多輝は力なく壁に身体を預けた。目を手で覆って深い息をつく。
「やっぱりチェックしたほうが良さそうだね」
優一郎の声がトンネルに響いた。一瞬、反応が遅れる。多輝が慌てて手を下ろした時には既に優一郎が動いていた。多輝の目の前に迫り、手を伸ばす。おもむろに壁に肩を押さえつけられて多輝は焦った声を上げた。
「おっ、おい、ちょっと待て! 別に大丈夫だって言っただろ!?」
だが優一郎は動きを止めない。今までも多輝がどんなに抵抗しようとしても、優一郎が行動を止めたことはないのだ。それは判りきっていたが、多輝は懸命に優一郎の手を解こうと試みた。
指先が優一郎の手に触れる。途端に電撃でも走ったかのように多輝の機体を激しい何かが貫いた。一瞬、意識がどこかに飛んでしまう。ため息混じりの声を上げた多輝は、そのまま優一郎の手首を握り締めた。
「い、やだってば」
だが言葉とは裏腹に機体は敏感に反応している。さっきまでは辛うじて保っていた平静状態が突如として快楽を導き出すものへと切り替わる。多輝の股間には生暖かなものが生まれていた。
「想像以上にストレス値が上がってるみたいだね。ごめん、僕のセッティングミスのせいかもしれない」
心底、申し訳なさそうな顔で優一郎が告げる。だがその表情を多輝は見ていなかった。声の響きだけでもきちんと聞き取っていれば優一郎の状態は判断出来ただろう。だが、この時の多輝はもう優一郎の状態に気を遣っていられなかった。首を振って言葉だけを否定する。
「だか、ら……平気、だから! や、やだってば! こんなとこで!」
多輝のジャケットの内側に優一郎の手は伸びていた。慣れた手つきでセーターをめくり、次いでその下にある下着のホックを探り当てる。多輝は声を殺して優一郎の手の動きに耐えた。
「大人しくして。とりあえず乳首の勃起状態をチェックするだけだから」
そう言いながら優一郎は下着の下、多輝の肌へと指を滑らせた。壁に押し付けられた格好で、多輝は声もなく仰け反った。喉から熱い息が漏れる。ここは往来だ。人が来たら、という不安感が逆に多輝の快楽を煽る。
だが多輝の感じている快楽とは正反対に、優一郎の手の動きは実に静かだった。半球を描く多輝の乳房の形を確かめるように、ゆっくりと指が滑る。優一郎の指の腹がやがて多輝の乳首を探り当てる。その瞬間、多輝は掠れた声を上げた。
「あっ、駄目だってば……っ!」
「勃起レベル4か……」
嫌がる多輝を押さえつけたまま、優一郎は指の腹で乳首を弄んでいた。こみ上げてくる切なさに耐えかね、多輝の目にはうっすらと涙が浮かぶ。それを見計らったように優一郎は突然、多輝から手を離した。急に刺激が消えたことで余計に身体が焦れてくる。多輝は息を殺して優一郎を見つめた。
ヒューマノイドはエロがなくては動作を続けられないという設定なので、仕方ないですね!(棒
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出発の日 3
エロシーン中です!
優一郎はその場に置いてあった鞄を探り始めた。だが目的のものはないのだろう。優一郎のため息がトンネルの中に響く。多輝は何とか呼吸を整えて目を閉じた。
鞄の中から優一郎は一台の端末を取り出した。携帯用の小型のものだがカメラで映像撮影も出来るものだ。目を開けた多輝はそれを見止めて目を見張った。以前、そのカメラで執拗に女性器を撮影されたことを思い出したのだ。
「あっ、あのな! 別におれ、ほんとに何とも」
「とりあえず、股間の状態を確認して記録させてくれないか? セッティングミスなら修正が必要だから」
多輝の言葉を遮って優一郎が告げる。圧されるようにして多輝は黙り込んだ。確かに機体の異常であれば修正もしなければならないだろう。だが、これは違う。そのことは判っていたが、多輝ははっきりと優一郎に伝えることが出来なかった。言われるままにトンネルの壁に手をつく。
「ちょっとだけだからな!」
投げ捨てるように叫び、多輝はジーンズのミニスカートをめくった。突き出した尻が丸見えになる。下着に包まれたままの多輝の尻を優一郎はしみじみと眺めた。
「ショーツをずらして、女性器ユニットを露出させてくれるかい?」
平然と優一郎が告げるのに対し、多輝は慌てて言い返した。
「おれがかよ!?」
「ごめん。もしかして恥ずかしい?」
あっさりと優一郎が返す。多輝は何事かを言い返そうとしたが、結局思ったことは言葉にはならなかった。何故なら肩越しに振り返った優一郎の両手はきっちり塞がっていたからだ。
渋々と下着をずらす。優一郎の視線を感じるだけで新たな愛液が筋になって多輝の腿を伝った。膝まで下着を下ろしてから改めて壁に手をつく。すると多輝の背後で優一郎が動く気配がした。
「クリトリスの勃起レベルも4か……。合成愛液の分泌も多すぎるね」
優一郎は顔を近づけて多輝の陰部を覗き込んだ。温かい息が股間にかかる。多輝は思わずびくりと身を竦め、声を必死で殺した。どんなに我慢していても、優一郎には機体の状態などすぐにばれてしまう。だったらせめて声だけは出さないようにしよう。的外れな決心から、多輝は懸命に声を殺していたのだ。だがその努力もすぐに続かなくなった。何故なら優一郎が唐突に何かで多輝のクリトリスをつついたからだ。
「ひぅっ!」
ひんやりとした感触に漏れた多輝の声は、本人が思っていた以上によく響いた。トンネルの中に反響した自分の艶かしい声に泣きたい気持ちになる。多輝は片手で口を塞ぎ、涙の浮かんだ目で優一郎を見返った。だが、腰辺りで動いている優一郎が何を持っているのかがはっきりと見えない。
「あっ、そ、そこは駄目……っ! や、やだって!」
手の中で多輝は思わずそう叫んだ。何かが多輝のクリトリスをこねる。決して傷つくような硬さではないがひんやりとした感触には変わりない。背筋を駆け上る不思議な快感に多輝は熱い息を吐いた。
優一郎は手にした器具の一つで多輝の股間を弄っていた。父親によく似ていると言われている面立ちに、薄い笑みが浮かんでいる。反対の手に持った端末のカメラを器用に動かし、優一郎は器具で多輝を弄りながらきっちりと女性器の撮影をしていた。
「この三日間くらい、君との接触をわざと少なくしてたわけだけど」
端末の画面には多輝の女性器が大きく映し出されている。その画面と実際の多輝の女性器を見比べながら優一郎は続けた。
「自慰はどれくらいしてたの?」
喋っている間にも優一郎の右手は動き続け、多輝のクリトリスは真っ赤に勃起していった。つるん、とクリトリスから器具が滑り、陰唇へと辿り着く。その度に優一郎はまたクリトリスに器具を滑らせる。そうやって多輝を徐々に刺激しているのだ。多輝は意図的に欲情させられていることにも気付かず、優一郎にされるがままに快楽に震えていた。
「やっ! 駄目、だって……ううっ!」
器具がゆっくりと滑る。多輝は質問に答えることも出来ず、ただ頭を横に振った。器具はクリトリスを刺激し、陰唇をくすぐり、そして最後に多輝の肛門へと辿り着く。柔らかな器具はやがて執拗に多輝の肛門付近を弄り始めた。
「ん……んっうふ」
「ここ。拡げるよ」
静かな優一郎の声に多輝は夢中で頷いた。既に多輝の肛門は快楽によって拡き始めている。それというのも、優一郎がこれまで多輝のその部位に快感を与え続けていたからだ。決して膣には男性器を挿入せず、あくまでも多輝の尻にのみ快楽を与える。そのことによって、多輝の肛門は快楽を覚えると反射的に男性器を受け入れるようになっているのだ。
だが、生身の身体とは違い、多輝のそれは機械仕掛けになっている。気分次第で機体の部位が別の役割を果たすことはない。多輝が女性器だけではなく、本来は排泄口として機能する部位で快感を得られるのは、ひとえに優一郎が意図的にそう作成したからだ。けれど、そのことを多輝はまだ知らない。
優一郎は手にしていた端末を無言で地面に置いた。端末の側面から伸びるコードに繋がっているのは多輝を弄っている器具だ。それは常日頃、多輝以外のヒューマノイドの機体内をチェックする役割を果たす器具だった。
優一郎くんも変態的というか……後ろを先に覚え込ませるとか……w
あ、でも全編通してこの二人は男同士ではエロは1度もない気がします。
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出発の日 4
ゆっくりとひだを分けるようにして器具の先が肛門を撫でる。多輝は堪えきれずに自分の手で胸の膨らみをつかんだ。セーターの中に入れた手が冷たい。だがその感触に震えるより先に甘い刺激が下半身を襲う。優一郎が指先で多輝を弄り始めたのだ。
「もしかして自慰行為の状況について、答えるのは恥ずかしい?」
多輝の耳元に囁きながら優一郎は肛門をほぐしていく。
「あぅっ! んふぅ」
恥ずかしい、という気持ちと触れられているという悦びが入り混じり、えも言われぬ快楽がこみ上げてくる。多輝の膣口からは愛液がしとどに零れていた。喘ぎながら乳首を強くつまむ。だがそれだけでは到底満たされない。多輝はとうとう、自分から腰を振って優一郎を誘った。
「こうなったら止まらないか」
薄笑いを浮かべ、優一郎は多輝の肛門に指をねじ込んだ。多輝は異物が体内に入ってくる快感に、思わず声を上げた。
「だっ、だめぇっ! あっ、ああぅっ!」
指で弄られる感覚に多輝は翻弄されていた。優一郎が執拗に肛門を攻める傍ら、片手に持った器具で再びクリトリスを刺激し始める。激しい快感と柔らかな快感が同時に襲ってくる。多輝は息を切らせて首を振った。
「あっ……ああっ、ああふっ!」
やがて器具の先が濡れそぼった多輝の膣口に触れる。優一郎は多輝に覆い被さるようにして囁いた。
「ログを取得しながら、ストレス処理のために補助膣を攻めるね」
そう告げたかと思うと、優一郎は器具をゆっくりと滑らせた。同時に多輝の肛門に二本目の指を入れる。弾かれたように多輝は身体を起こした。優一郎の手が多輝の前に回り、器具を膣の奥へと差し込んでいく。半ば抱きしめられる形で多輝は攻められ続けた。
「あはぁっ! あっううあんっ! ああぅふん!」
あられもなく喘ぎながら多輝は懸命に自慰を続けた。だがそうするまでもなく、優一郎は器用に多輝の女性器を刺激している。膣には器具を、クリトリスには愛撫を、そして多輝の肛門には激しく優一郎の指が出入りしていた。愛液が肛門に伝い、優一郎の指の動きをスムーズにする。
快感は得ている。考えることも出来ないほどに快楽に溺れている。だが多輝はどうしても満たされなかった。快楽の頂点はそこに見えているのに、昇りつめることが出来ない。身体は焦れた熱が溜まるばかりで、一向に満足できないのだ。
「あっ、優一郎! もう、駄目! 入れ……て」
多輝はとうとう自分からそう優一郎に頼んだ。だが優一郎は多輝が望む通りにはしなかった。クリトリスを指でこねつつ、反対の手で肛門を押しひろげる。
「何を? 入れてほしいの?」
誰かに見られたら、という危機感はとうに忘れ去っていた。多輝は自分の乳房を揉みしだきながら甘く鳴いた。
「あっんぅっ! 硬いのを……入れて! お願いっ!」
膣に入った器具が微振動し始める。多輝は泣きながら優一郎にそう告げた。優一郎はその顔に嗤いを浮かべ、おもむろに多輝の肛門から指を抜いた。ジッパーを引き下げて勃起したペニスを引きずり出す。多輝は次に来る快楽を待ち受けて目を閉じた。
「それじゃあ、行くよ」
近所におつかいにでも行くかのような気軽さで優一郎が告げる。それと同時に勃起しきったペニスが拡がった肛門に深々と突き入れられていく。多輝はその瞬間に大量の愛液を漏らした。
「あっんっ……あはぁっ! ゆういちろうっ!」
優一郎が挿入した途端、多輝は悦びの声を上げた。同時に機体内に変化が起こる。優一郎のペニスを刺激するよう、多輝の機械仕掛けの直腸が動き始めたのだ。だが機械が動いているにも関わらず、音は全くしない。もっとも音が少々たったところで多輝の喘ぎにかき消されてしまうだろうが。
腸壁が優一郎の快楽を引き出すように蠢く。それと共に多輝の快感も最高潮に達した。
「あっんっ! ゆう、いちろう! あっああぅあはっああんぅっ!!」
今までとは比べ物にならないほどの快感が押し寄せてくる。多輝は優一郎に抱きしめられたまま果てた。次いで優一郎が熱い息を吐き出す。体内に注がれた精液の感触に、多輝は続けざまに二度目の絶頂を迎えた。
アスファルトに愛液の染みが広がっていく。その場に崩れた多輝は肩で息をしながら薄く目を開けた。優一郎も疲れたように壁によりかかっていたが、ほどなくして乱れた着衣を整えた。静かに端末に近づいて行く。
何やってんだ、おれ。ぼんやりとした頭の中にそんな言葉が浮かんでくる。今日は特別な日なのだ。今から久しぶりに養父に会わなければならない。多輝は深い息をついてまだぼんやりとしている頭を強く振った。
「落ち着いたかい?」
酷く穏やかな物言いで問われる。多輝は目を上げて優一郎を見た。優一郎はその場に胡座をかき、その上に端末を乗せていた。いつの間にか多輝に挿入していた器具は納められている。多輝は憮然としてふん、と横を向いた。
「おれは最初っから落ち着いてただろが」
だがそれが嘘であることは多輝自身もよく判っていた。事後の妙な気恥ずかしさは今でもまだある。多輝は優一郎から顔を背けたまま、返答を待った。だが優一郎が答える様子はない。怪訝に思いながらそちらを見る。するとそこでようやく優一郎が口を開いた。
「当分の間、僕はそばにいられないから」
静かなその声に多輝は応えられなかった。
まだまだ機械を書けてません……。すみません……。
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出撃! 強力参号! 1
秋の空は夏のそれに比べて高い。絵美佳は目を細めて空を見上げた。秋風に白衣がたなびく。絵美佳は乱れた髪を押さえて凛とした目でそれを見た。体育祭はもう終了し、生徒たちの一部は片付けに追われている。先ほどまで賑やかなフォークダンスの音楽を鳴らしていたスピーカーは今はしんと静まり返っている。
絵美佳の視線の先にいるのは見慣れた女子生徒だった。数十メートル先にいるにも関わらず、絵美佳はその女子生徒の顔を間近で見ているかのように思い出すことが出来た。腰まで伸びる、艶やかな黒髪。きつい眼差しは母親譲りだそうだ。そんな女子生徒の名前は如月要という。要は絵美佳が想像した通りに厳しい表情で腕組みをして立っていた。
「うーん。ちょっち好みじゃないのよね」
そう呟いてため息をつく。絵美佳が落胆の表情を作ったところで盛大な声がした。どうやら生徒会の機材を利用しているらしい。要の前に一人の男子生徒が跪いている。その男子生徒の手には拡声器が握られていた。
『今日こそ決着をつけますわよ、吉良絵美佳!』
ケッチャク、ねえ。絵美佳は口の中でそうぼやいて頭をかいた。事あるごとに要は喧嘩を売ってくる。だが当の絵美佳は要のちょっかいを喧嘩を売られたとは取っていなかった。絵美佳の目には要のそれは訳の判らない行動としか映らなかったのだ。そして今回の件もそうだ。絵美佳としてはこれは実験の一環に過ぎない。が、要には違うらしい。勝ち誇ったように胸を反らして何事かを語っている。
かつて清陵高校の科学部と生徒会とは様々な場面で対立していた。その当時の科学部の部長は吉良総一郎。今では有名な科学者として人々に認識されている人物だ。だが当時の科学部に所属していた誰もが生徒会と対立していた気はなかったという。要するに今の絵美佳と同じ状況だった訳だ。総一郎も当然、当時の生徒会長と張り合っている気はなかったらしい。
そして事あるごとに総一郎に対立していた当時の生徒会長は如月栄子。何の因果か栄子は要の母親なのだ。傍目には親娘二代に渡る対立とでも映るのだろう。現に二人を遠巻きにするように生徒たちの観覧席まで設けられている。絵美佳は要と観覧席に納まっている生徒たちの顔を順繰りに見やった。
「でも、なんで体育祭の準備に、たかだか汎用人型作業機械を貸そうとしただけで、こんな騒ぎになるかなあ」
忘れもしない数週間前。清陵高校体育祭実行委員会の指示により、清陵高校の生徒たちは体育祭の準備を開始した。今回は記念すべき第五十回目の開催ということで、いつもよりも盛大な体育祭を行うのだと体育祭実行委員長は張り切っていた。その委員長がたまたま科学部に所属していたのだ。
本来、各種行事の実行委員及びその代表は各部活動に参加することは出来ない。生徒会等の役員も同様だ。が、今回の体育祭実行委員長はそのことをうっかり忘れていたのだ。通常はそういう重複があれば生徒会の方が気付いて修正を行う。だが偶然に偶然が重なり、今回の件を生徒会も見逃してしまっていたのだ。
結局、その実行委員長は何らためらうことなく職務をまっとうしようとした。その実行委員長が絵美佳のお気に入りだったのがことの始まりだ。
あんたがいないとあたしが困るから、作業を手伝うことにするわ。そう絵美佳は実行委員長に宣言したのだ。
『あのぅ……。何だか要さん、怒ってるみたいですけどぉ……』
通信用のヘッドセットを通して件の実行委員長である木崎巴の声が聞こえてくる。絵美佳は音声のボリュームを調整しながらヘッドセットの締め具合を直した。ついでに眼鏡のつるに引っかかっていた髪の毛を丁寧に払う。
「まあいつものことだし。あんたのほうは大丈夫? 強力参号とのコネクトは完了したの?」
絵美佳はちらりと隣の壁を見上げた。壁に見えるそれは巨大な機械の足部分だ。絵美佳の設計により作られたそれは、通常はプールの底部分に納められている。メンテナンスなどは地下で行われ、普段は生徒たちの目につくことはない。こうした特殊な場面でなければ生徒たちもこの機械の姿を見ることはないのだ。
体育祭の準備を手伝うためにプールの底を開けた。そこから騒ぎが勃発したのだ。生徒会の諜報部員が飛んできたのがつい先ほどのことのように思える。絵美佳はその時のことを思い出して額を押さえて呻いた。よりによってその部員はこの機械を壊せと命令してきたのだ。
片付けろ、ならまだしも壊せとはどういう了見だ。絵美佳はその諜報部員に食ってかかった。騒ぎのために作業は中断し、予定の半分ほども進まなかった。手伝うつもりでいた絵美佳はそのことに更に怒り狂った。ただでさえ忙しい時間をわざわざ割いて手伝っていたのだ。なのに作業が遅れてしまっては意味がない。
だがそんな絵美佳の怒りを諜報部員は完全に無視した。そこで絵美佳は実力行使することにした。要するにたかだか一人の生徒が止めに入ったところで無意味なのだ。作業を実際に行っているのは絵美佳ではなく、機械仕掛けの巨大人形に乗った巴だ。彼女がその巨大人形を操って作業する分には特に問題はない。邪魔するようなら実力で排除すればいいだけのことだ。現に諜報部員は邪魔をしようとしてグランドからつまみ出されてしまった。
これが更に事態を悪化させた。生徒会長自らがこの絵美佳の行動を自分への挑戦状だと受け取ったのだ。しかも意図的にその噂を全校に流し、あれよあれよと言う間に二者の対立をお祭騒ぎにまで発展させてしまった。
相変わらずかっ飛んでる絵美佳ちゃんですw
まあ、下半身もかっ飛んでるんですけども(おい
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出撃! 強力参号! 2
エロはないです。
『問題ありません。いつでも行けます』
涼しい声が耳に届く。要との諍いの始まりを思い出していた絵美佳はその声ではっと我に返った。
「まあ、向こうにあんたが負けるとは思わないけど、長引かせないように注意して。強力参号はともかく、あんたに壊れてもらうと困るのよ」
コネクトはかなり強引な方法で行われている。巴の動作システムを司る中枢ユニットに巨大ロボットである強力参号を直結しているのだ。それ故、強力参号は他者では決して真似できないスムーズな動きをすることが出来る。しかも直結である故にその反応速度は搭乗者の巴そのもので、今までの実験の中では最速を誇る。
だが、だからこそ搭乗して強力参号を操作する時間はかなり厳密に制限される。巴の機体にかかる負荷がべらぼうに大きいのだ。
そう、巴は正しくは人間ではない。巴はヒューマノイドと呼ばれる機械仕掛けの身体を使っている。そして巴は今現在、絵美佳のメンテナンスを欠かしては生きていけない身体になっているのだ。
『了解しました。速やかに敵を攻撃、行動不能にします』
通常の巴とは全く違う喋り方だ。接続された巴の人格部分に強力参号のシステムが割り込んでいるためだ。絵美佳は慎重に頷いて少しずつその場から離れた。もう、存分に喚いたのだろう。要も先ほどまでの金切り声を収めている。
絵美佳率いる科学部の部員たちは強力参号の背後に控えている。一様に白衣を身につけているのは実験中だったからだ。絵美佳も彼らの列に加わり、強力参号から送られてくるデータに目を落とした。
一方、要の率いる生徒会役員たちはまだ体操服を身につけている。その列の中心でふんぞり返っているのが会長の要だ。彼女は白いシャツに水色のブルマーという、見た目にはなかなかいい格好をしている。が、絵美佳は遠目にその姿を見止めてため息をついた。
「向こうのパイロットはやっぱ、あいつよね……。運動神経はかなり高いから、侮るわけにはいかないわ」
巴の搭乗する強力参号のちょうど正面、数十メートル離れた地点にそれはあった。絵美佳は無言で二体の巨大なロボットを見た。強力参号が少しばかりレトロな作りであるのに対し、生徒会の持ち出したそれは最新鋭のマシンだった。が、それはあくまでも見た目の話だ。実際には戦ってみなければその機能は判らない。見た目のデザインがどんなに優れていても機能が優秀であるとは限らないのだ。過去、総一郎の試作した巨大ロボットは某アニメーションのキャラクターそのままの造形だったという。だが、当時、そのロボットに生徒会の最新鋭マシンはあっけなく敗れ去ったのだ。生徒会に手を貸したメーカー側の驚愕は凄まじく、後に総一郎の元にはたくさんの質問書が届いたという。
生徒会の巨大ロボットが唸りを上げる。そこで絵美佳は目を見張った。予想に反して生徒会のロボットに要は搭乗しない。ロボットの脇、並べられた机の上に乗った端末を操作しているだけなのだ。まさか、遠隔操縦? そう絵美佳が呟いた時、机についていた要が勢いよく立ち上がった。椅子を蹴倒して握り締めたこぶしを天に突き上げる。
『今こそ、今こそ積年の恨みを晴らすとき! 覚悟なさい、吉良絵美佳!』
ご丁寧に要の口許には拡声器が寄せられている。絵美佳は耳障りな音に顔をしかめて耳を両手で塞ごうとした。だがそこには通信用のヘッドセットがある。
「何の恨みかは良くわかんないけど。あんたには負けないから安心しなさい!」
絵美佳は大きく息を吸って声を張り上げた。凛とした声が秋空に響き渡る。それまで騒いでいた取り巻きの生徒たちが驚いたように息を飲む。拡声器を通した要の声より、地で張り上げた絵美佳の声の方が数段通ったのだ。が、当の絵美佳はそのことには気付かなかった。ふん、と鼻を鳴らして再度端末の画面を覗き込む。描かれたカーブを見つめ、絵美佳は静かに息をついた。
清陵高校のグランドは他校に比べて広々としている。その西側に二体のロボットは並んで立った。絵美佳の作ったそれは紫色を基調にデザインされている。対する生徒会のそれはあくまでもシャープに見せるためか、メタリックのシルバーで統一されたデザインだ。
「ストレス値上がってるなあ……。そんなに緊張しなくていいのに」
画面を見つめながら絵美佳が呟いたその瞬間、澄み渡った空に一発の鋭い音が響いた。火薬の発した音を合図に二体のロボットが動き出す。それと同時に生徒たちの歓声が上がった。瞬発力を誇る最新鋭のマシンが真っ先にトラックに駆け出す。が、巴も負けてはいなかった。ダッシュと同時に足元に設えられたブースターをに点火、勢いよく加速していく。
「さすが岩手島駿河重工の最新型ね。機動性もパワーも申し分ないわ」
岩手島駿河重工。通称、ISIと言われるその企業は世界で初めて人型重機の量産化に成功したことで世界に知られている。前回の科学部と生徒会と対決で生徒会側が持ち出したロボットもそこで生産されたものだ。前回の対決後、総一郎からパテントを買い付け、現在では人型汎用機械の品質では世界ナンバーワンと言われている。
だが今回、要が持ち出してきたのは人間が実際に乗り込んで操作するタイプのロボットではなかった。搭乗者に負担をかけるこれまでのシステムを一新、あくまでも遠隔操縦にこだわって試作されたロボットだったのだ。
遠隔操作と簡単に言ってもその方法は様々ある。有線で操作する固定型、無線操作を可能にした可動型。そして要が持ち出してきたそれは衛星で中継を行って遠隔操作される。その最新型にはタイムラグが殆どなく、操縦者にストレスを与えない設計になっている。……筈だ。少なくともそういう設計であるというインタビューは某科学雑誌に掲載されていた。だがそれはあくまでも試作段階のもので、到底、実際に使用できるレベルにまで改良されてはいない。
でも衛星なんて使ったらラグりまくりなんじゃないの? 絵美佳はインタビューの記事を読んだ時と同じ呟きを唇に乗せた。当の企業はひた隠しにしているが、その研究が軍事目的であるのは明白だ。そうでなければわざわざ反応の鈍い衛星中継などする筈がない。広範囲に及ぶ操作を可能にするために開発された技術なのだ。
二体の巨大ロボットのスピードにはほぼ差はなかった。もの凄い勢いでトラックを周るため、周辺に凄まじい風が巻き起こる。時折、上がる悲鳴はスカートのめくれた女子生徒のものだ。そんな観覧者たちの姿に軽く口笛を吹き、絵美佳は画面を再び見つめた。
この時点で巴がヒューマノイドだとうっかり勘違いしてまして(汗)
正しくはロボです。まだ書き分けで来てません……。
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出撃! 強力参号! 3
(声だけですけども)
「……あの……部長」
それまで黙っていた部員の一人が口を開く。絵美佳は端的に何事かと訊ねた。するとその男子部員は困ったような顔で頭をかく。
「何でかけっこなんすか?」
巨大ロボットはわき目もふらずトラックを駆けている。絵美佳はその様子を目で追ってから男子部員に目を戻した。
「今、やってる行事は何よ?」
淡々と告げる。絵美佳のその声はトラックを踏みしめていくロボットたちの足音にかき消されそうになっていた。だがきっちりと絵美佳の返事を聞き取ったのだろう。男子部員が困惑した面持ちのままで、はあ、と力ない応えを返す。
ロボットの競争はそれから五分ほど続いた。生徒たちもさすがに飽きてきたのだろう。ブーイングの声が上がる。だが絵美佳は科学部員たちの作業を止めるつもりはなかった。元々、これは実験の一環だ。正確なデータを入手することに意味がある。要が言っている勝負うんぬんについてはついでであって、本来の目的は全く違う。それ故に絵美佳は不意を討って巴に相手ロボットを攻撃させるようなことはしなかった。同様に生徒会のロボットも巴の乗る強力参号を攻撃することはない。
だが、そんな中で異変が起こった。生徒会のロボットがトラックのカーブを曲がり損ねてしまったのだ。まだ残っていた貴賓席のテントをなぎ倒していく。操縦者の要は悲鳴を上げて立ち上がった。
「あーあーあー……。あのコースだと校舎直撃っすねぇ」
のんびりとした部員の声に絵美佳はしみじみと頷いた。だから遠隔操作は信用出来ないのだ。しかも衛星を使った操縦などこの狭いグランドでどれだけ役に立つか。絵美佳はやれやれとため息をついて立ち上がった。
「巴。あっちのロボットを止めちゃって」
細いマイクを口許に引き寄せて告げる。絵美佳はそうしながら端末を片手で素早く操作した。巴の機体のストレス値は50を越えている。だがここであの暴走ロボットを止められるのは巴だけだ。
『了解しました』
それまでオールグリーンだった強力参号のシステムが一転して黄色く点滅する。その後、信号はまたグリーンに戻った。一瞬の危険信号は巴の意識が強引に強力参号のシステムに割り込んだためだ。
一瞬で巨体がかき消える。次の瞬間、強力参号は高い場所から強引に生徒会のロボット目掛けて着地した。曲芸に近いロボットの動きに生徒たちの歓声が上がる。だがその声には要の盛大な悲鳴も混じっていた。
「強力参号、攻撃態勢に移行」
「コネクト数値がどんどん落ちています」
「部長。搭乗者が武器の使用許可を求めていますが」
それまで静かだった科学部の席が部員たちの報告で溢れる。絵美佳は渋い顔で強力参号を見た。
「許可なんかいちいち求めなくていいから! 早くケリをつけて!」
マイクに怒鳴った次の瞬間、強力参号の胸部の鉄板がせりあがる。中から飛び出したのは巨大な刀の柄だった。それを握った強力参号が大きく右手を振る。最新の技術の結晶である最新鋭のロボットはその一太刀でいとも簡単に両断された。
轟音が鳴り響く。地面に沈んだロボットの残骸の中に強力参号は毅然と立ち上がった。ゆっくりとした足取りで絵美佳たちのいる場所へ歩いていく。その周辺では要たちが悲鳴混じりに騒いでいた。
「巴、大丈夫?」
絵美佳は心配顔で強力参号を見上げた。足を止めた強力参号は絵美佳の問には答えない。が、耳元には搭乗者である巴の声が響いてきた。
『あっ、んふっ! 先輩……あそこが、あっ!』
艶かしいその声が絵美佳の耳に聞こえた途端、席についていた科学部員たちが一様に机に突っ伏した。絵美佳は一人、ため息をついて額をかく。やはりコネクト部分が女性器であるというのは問題なのだろうか。だが、ヒューマノイドである巴と強力参号を接続するとなると、他に方法はない。
『あっ、あぁっ! 先輩、ダメ……。あそこが、熱くて……弾けそう! あっああん、うふぅ!!』
ヘッドセットを通して聞こえる巴の喘ぎ声に科学部員たちは真っ赤になっている。絵美佳はやれやれと肩を竦めて隣の男子部員に目をやった。男子部員が慌てて股間を手で覆い隠す。そして強力参号は巴の反応を受けてその場に内股でへたり込んでしまった。
おもむろに手を上げる。絵美佳は耳元にあるスイッチを切り替え、マイクを口許に寄せた。他には聞こえないよう、早口でマイクに告げる。
「巴、しっかりなさい。あそこっていうのはメカマンコでいいのね? そこがどうなったの!?」
『ん、っ先輩……。凄く熱いです! 弾けるような痛みが……でも、気持ち……いいっ!』
律儀に巴はそう応えた。甘い息遣いが耳元に届くと、それだけで絵美佳の股間に異変が起きかける。だが絵美佳は意識を股間に集中させ、暴れようとするそれを押さえ込んだ。
遠くで要が怒鳴っている。だが絵美佳はそれを完全に無視して部員たちに撤収の準備の号令をかけた。このまま強力参号に巴を入れておけば、じきに巴は意識をなくしてしまう。壊れた機体を直すことは出来るが、それには時間も金もかかるのだ。
「直ぐ行くから。とにかく! コネクトプラグを抜きなさい!」
部員たちは恥ずかしそうにその場を片付けている。絵美佳はマイクに向かって叫んでから一転して声を潜めた。囁くようにマイクに告げる。
「今日は、お疲れ様。夜通しメンテだから、楽しみに待ってなさい」
熱くたぎる股間のそれを思いながら絵美佳は薄く笑っていた。
科学部員はモブぽいですが、けっこうな数いるはずです。
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再び、物語のはじまり 1
説明乙な感じですw
人を模した機械と一口に言っても、その性能にはそれぞれ差がある。優一郎の作成した彼女たちがいい例だ。優一郎が開発資金援助を受け始めたのが高校一年の夏。それ以降、優一郎は数々のヒューマノイドを作り上げていった。
男性の快楽を引き出すことのみを考えて設計された悠波ちなり。彼女は優一郎の作ったヒューマノイドの中でも特異な能力を持つ。その気のない男性をその気にさせるという機能は他のヒューマノイドにはない。それ故、ちなりが本気になればどんな男も陥落してしまう。
戦闘型の泉水カレン。彼女は戦闘型であるが故に性行為に使用する女性器内の機能は少ない。だが敵を排除する、という能力は誰よりも高い。実際、優一郎の研究成果を盗もうとした輩を半殺しにしたのもカレンだ。その犯人は今でも夜な夜なカレンの夢を見てうなされるという。
仁科保美は他の二人に比べて突出した力はない。だがその機体に収められた機能のバリエーションは他の誰にも負けていない。男性の快楽を満たすためのものも勿論だが、保美にはこの他にも日常生活に利用されている機能が搭載されているのだ。コーヒーメーカー、炊飯器、掃除機。あらゆる家電の性能を得た故に保美の動力ユニットが縮小されたのは仕方ない話だろう。だがその改良は保美にとって苦ではなかった。何故なら恋人のカレンとの性行為の回数が増える、という、保美にとっては願ったりの状態になったからだ。
そして名倉玲花。彼女は清陵高校の保険医だ。優一郎の実験意欲を満たす、という理由でだけなら玲花は他の誰よりも貢献しているだろう。少々、間が抜けた性格ではあるが、その機体に施された機能については事実上では現在の最新の技術が注ぎ込まれている。その中でも放尿する、という機能については他のどのヒューマノイドも持ち得ていない。……もっとも、それが当人の望むところであるかどうかは全く別の話だ。
そして最後が雨宮多輝。多輝は他のどのヒューマノイドとも違う。多輝の機体は見た目には全く人との差がないのだ。強いて違いを挙げるとするなら排泄機能がないことだろうか。だがそれですら、見た目には全く判らない違いでしかない。
ため息をついてファイルを閉じる。立城は疲れた目を指で押さえて椅子に深く寄りかかった。何度見ても資料に違いはない。
「それで? 結局はどのくらい出資すればいいのかな?」
疲れを隠さず立城はそう告げた。目の前に立っているのは若々しい姿をした高校生、優一郎だ。制服を着た優一郎は身体の後ろに腕を回し、静かに立城を見据えていた。その目には僅かだけだが怒りの色がある。それも当然だろう。そう、立城は胸の中で呟いた。多輝の教育をしなければならない、と話を持ちかけたのは他ならぬ立城だったからだ。
「出来れば端的に理由を説明願いたいところだけれど」
「新しい機体を作るとある人と約束をしたからです。かなりのクオリティが必要だと思います」
ゆっくりとした立城の喋り方とは対照的に、優一郎は早口でそう切り返した。瞬きを繰り返して優一郎を眺め、次いで立城は苦笑した。頑固なところは誰に似たのだろう。そう思ってからくだらない考えだ、と思考を切り替える。その間に優一郎は立城の執務室を緩やかな足取りで横切り始めた。
「依頼者は立城さんも良くご存知の方だと思います」
そう告げて優一郎はその足を止めた。奇しくもその場所はとある人物が好んで立つ場所だった。一枚の絵の正面、部屋の東の壁の前だ。
「君の機体開発には助力を惜しまないよ。資金も望むだけ提供しよう。そう、僕は約束していたからね」
現在、日本は事実上、二大財閥が支配する形になっている。一つは立城の率いる吉良瀬財閥、もう片方は木村財閥だ。そしてヒューマノイド技術の開発においても二者は対立している。そして今のところは吉良瀬の側が木村を凌駕していると言われている。
だがその力関係はいつひっくり返ってもおかしくない。現に、ある分野では木村が吉良瀬を抜いて日本のトップに位置しているのだ。
「でしたら、前回の機体と同程度の予算をお願いします。あと、YAKSAに関する情報の提供を」
優一郎が絵を見ながらそう告げる。立城も吸い寄せられるようにして絵を見やった。優雅な白い服をたなびかせ、一人の女性が中央に立っている。紺碧の空と実りの秋を象徴する黄金色の大地。その女性の憂いを帯びた眼差しは遠くに注がれ、そしてその足には枷がついている。
この絵をそこで見るのが好きな人がいたっけ。立城は誰にともなくそう呟いた。敏感に聞き取ったのだろう。優一郎が怪訝な顔で立城を見る。
「残念ながら情報は提供出来ないね。その時期ではないし」
告げて立城は机の上のインターフォンを押した。聞き慣れた女性の声が呼び出しに応える。
「例のものを持ってきて」
それだけを伝えて立城は回線を切った。目を上げると不服そうな優一郎と視線が合う。要するに機体開発にその情報が必要だと言いたいのだろう。
諸悪のなんとかの片割れが出てきましたw
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再び、物語のはじまり 2
あ、エロシーンはないです。
「でないと彼女は再現できません。これは僕の予測ですが……」
それまで自信に満ちていた言葉の最後だけが力なく消える。立城はそんな優一郎を黙って眺めた。優一郎はため息をついて言葉の先を濁したままにしている。
「簡単に言い表せるような問題じゃないし、そもそも君は知らなくてもいいことだと思うけれど?」
「知らなければ、彼女を復活させることはできません」
苛立ち混じりの声で優一郎が即答する。立城はやれやれとため息をついて首を振った。次いで指を一度だけ鳴らす。するとそれまで沈黙していたドアが小さくノックされた。ためらいがちなその音に思わず微笑む。何事が起こったのか判らないのだろう。優一郎は訝りに満ちた眼差しでドアを見た。
「今のところ、彼女が世界最新鋭のヒューマノイドじゃないかな?」
ドアが開く。ゆっくりと執務室に入ってきたのは一人の女性だった。懐かしい彼女の微笑みと共に苦渋の過去が立城の胸の内に蘇る。
「紹介しよう。吉良瀬奈月さんだよ」
立城の紹介を受け、奈月は静かに一礼した。美しい長い髪が動きに合わせて肩から滑り落ちる。奈月を見ていると、時間が遡ったような錯覚さえ感じてしまう。立城は笑顔で優一郎を伺った。
「あなたは!」
それまで声をなくしていた優一郎が奈月に叫ぶ。すると奈月は慌てたように頭を下げた。
「えっと、あの……ごめんなさい!」
「まあまあ」
焦って詫びる奈月に立城は笑いながら手を振って見せた。今の奈月は黒いワンピースに白いエプロンをつけている。典型的なメイドの格好なのは、さっきまで掃除を頼んでいたからだろう。立城はまだ詫びようとする奈月を宥め、優一郎に向き直った。優一郎は愕然とした目で奈月を見ている。
「ともかく君の言う彼女の復活とやらは、これで必要なくなったんじゃないかな?」
「どうして……」
まだ信じられないのだろう。優一郎は奈月を見つめながら声を震わせている。それも無理のない話だ。当初の予定では優一郎が奈月を作成する、ということになっていた。だがそんな予定は立城のスケジュール表にはなかった。それだけのことだ。立城は苦笑して執務机に肘杖をついた。
「こう見えて僕はかなり気短でね。君がのんびりと開発してくれるのを待っている余裕がなかったんだ」
にっこりと笑って立城はそう告げた。そこでようやく優一郎の視線が立城に戻る。その目は疑いと怒りに満ちていた。
「つまり、僕の技術力がまだまだ信用できないと、そういうことですか?」
「ありていに言えばそうだね」
苦しそうに告げた優一郎に対し、立城はいともあっさりとそう切り返した。優一郎の目が驚愕に見開かれる。立城はため息をついて肘で机を押した。軽く反動をつけて椅子の背にもたれかかる。それだけで異様なほどに身体が疲れていることが判る。だがそのことを立城は表面には出さなかった。
「前回の件では君にはとても感謝しているよ。多輝の件もそうだけれど、特にもう一方の件についてね」
立城は目で奈月を促した。すると改めて気付いたように奈月が慌てて立城に駆け寄る。その手に握られていたのは小切手の冊子だった。
「もう一方の件?」
訝りのままに優一郎が訊ねる。立城は笑顔で奈月から冊子を受け取り、机の中の万年筆を取り上げた。慣れた手つきで署名する。
「水輝の件だよ。君、翠に言われた通りに動いてくれたんだってね。おかげで僕の手間も随分と省けたよ」
数ヶ月前、その事件の折に水輝の人格が一変した。正確に言えばただ人格が変わった訳ではない。その性別も全く違っていた筈だ。立城が意図するより先に翠が指示した訳だが、その件のおかげで手間が省けたのは事実だった。
「別にあれは、僕にとってはついでに過ぎませんでしたし」
言いにくそうに優一郎が返す。だが立城は笑ってその返事を流した。ついでであろうが、意図的にであろうが、そうなった事実だけは紛れもない現実だ。そして水輝は立城にとっては理想的な状態に追い込まれたのだ。
「とにかくその件のお礼も兼ねてこれを受け取ってくれるかな? 開発費は別途請求してくれて構わないから」
そう告げて立城は小切手を切った。奈月がそれを受け取り、優一郎の方へと向かう。優一郎はまだ戸惑った様子で奈月と立城を見比べていた。
「それは必要ありません。セカンドプランを実行するなら、依頼人からいただけるはずですから」
差し出された小切手を優一郎はやんわりと拒絶した。小切手をつき返される形になってしまった奈月が困惑し
た表情で手の中に目を落とす。その小切手には優一郎から望まれた倍額が記されていた。
「ただ、ひとつ別のお願いがあります」
「なにかな?」
もの問いたげな奈月に目だけで返事をしてから立城はそう問い返した。優一郎が小さく笑って再び壁を見上げる。その口許には今までにはない微笑みが浮かんでいた。
「如月栄子さんを紹介していただけませんか? 父にべったりの姉を……いえ、父を、超えたいと思ってる少年が居ると」
「なるほど。そちら側から絵美佳さんに勝負をかける訳ですか」
奈月という名前の彼女はけっこー重要キャラです。
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再び、物語のはじまり 3
優一郎と絵美佳はれっきとした姉弟だ。優一郎がヒューマノイドの研究に没頭しているのに対し、絵美佳は科学全般における研究を日々進めている。似たような研究をしているとも思われがちだが、彼ら二人の目指すものは方向性が全く正反対なのだ。立城はふうん、と呟いて奈月を目で促した。慌てたように奈月が小切手を優一郎に突き出す。両手を伸ばして頭を下げた奈月に優一郎は戸惑いの表情を浮かべた。
「なら、余計にそれを受け取ってもらわないと困るな。何しろ僕はその条件を飲む代わりに君にお願いしたいことがあるんだよ」
「お願い、とは?」
奈月に出された小切手を受け取るべきかどうか悩んでいるのだろう。優一郎は小切手を見つめたままだ。立城は微笑みを浮かべて首を傾げた。
「早急にヒューマノイドを一体、作成してくれるかな。モデルはこれで」
そう言って立城は胸ポケットから一枚の写真を出した。指先で弾くと写真は宙を滑って優一郎の元に届く。優一郎は指でそれを受け取って視線を落とした。その瞬間、優一郎が息を飲む。
「君には感謝しているんだ。確かにあの方法でなら意外と簡単に意識を引き剥がせるかも知れないからね」
手にした小切手を強制的に優一郎の手に握らせる。奈月がそうしても優一郎は反応しなかった。絶句したまま写真を見つめている。立城は薄い笑みを浮かべて奈月に手を振った。用件が済んだことを理解したのだろう。奈月が慌てたように頭を下げて執務室を後にする。
「わかりました……。仕様的には前作とほぼ同じでかまいませんね? 容姿の調整もほとんど必要ないですし」
しばらくしてから優一郎はそう言いながら写真から目を上げた。立城は執務室のドアがきっちりと閉まっていることを確認してから頷いた。優一郎に手を振ってあの場所から退くように指示する。優一郎は不思議そうにしつつも立城の指示に従った。
「少しだけ教えてあげよう」
立城は一度だけ指を鳴らした。その音を合図にしたかのように空気が揺れる。そしておぼろげに空気が色を持ち、やがてそれは形を取り始めた。優一郎がさっきまで立っていた場所に太い木の幹が現れる。
「本来、僕たちは力という目に見えない不定形なものだ」
力が形をまとうのにはそれなりの条件が必要になる。そう言いながら立城は指先を木の幹に向けた。ゆっくりと床から木の幹がせり出してくる。天井までに届いたところで優一郎が息を飲んだ。木の幹に埋め込まれるようにして一人の女性が姿を現したのだ。
「だがどれだけ強大な力と言えど時の影響は受ける。それが僕たちの、ある意味では枷にもなっているし、生きる条件とも言える」
女性の意識はない。手足を木の幹に巻きついたつるに捕らえられ、俯いたままだ。そして木の根が女性の足を拘束している。その様子をぼんやりと眺めながら立城は続けた。
「けれどね。時に逆らうということも出来るんだよ。もちろんこれは僕たちに限った話じゃない。人もそうだね」
だが力が強大であれば逆らう力も大きくなる。人のそれが些細であるのに対し、力ある者の時への反逆は半ば自殺行為になる。それ故、通常は大きすぎる力を一つの器に収めるのではなく、幾つかに分けているのだ。そう、立城は説明した。
木の幹がかすかに揺れる。ゆっくりと床からせり出した木の根が女性の足を伝ってスカートの中へ消える。立城は目を細めて指先で静かに空気をかいた。その瞬間、女性の身体が大きく震える。
「夜叉はその力のシステム上、止む無く生まれたと言ってもいい。本人にその意識はなかった筈だし、今でも自覚などありはしないと思うからね」
遠い昔、力から切り離された場所に夜叉が生まれた。永遠にも近い命を生きる筈だった夜叉は、だがとある龍神と交わってしまった。それ故、命の殆どを腹の子供に吸い取られ、夜叉は人と同じ程度の時をしか生きられなかった。
そして命は時を流れ、続いていく。本来、あるべき姿に戻ることもなく変化し続ける。それが世界の願いだったのか、それとも夜叉の思いの欠片ゆえだったのかは判らない。結果的に命は続いた先に一つの力としてこの世に現れた。
立城は静かに目を閉じて指を胸に引き寄せた。木の根が意志のままに動いて女性のスカートの奥で蠢く。女性は微かな喘ぎを漏らしながら誰かの名前を呼んだ。根の動きが激しくなるに従ってその名前が明確に聞き取れるようになる。
紫翠。女性の口からその名を聞き取った瞬間、立城は目を開けた。苦笑して優一郎に視線を向ける。優一郎は納得のいった顔でしみじみとその女性を見つめていた。
「これが今の水輝の実態。夢の中で紫翠とずっと交わっている状態だから何を言っても聞きはしないけれどね」
「ありがとうございます」
そう告げた優一郎の表情はどこか吹っ切れていた。もしかしたら夜叉について随分と悩んでいたのかも知れない。立城はぼんやりとそう考えた。
「ご依頼の件、早急にとのことでしたが、予備の機体を調整するだけなので、明後日には納入できると思います」
手にしっかりと小切手を握り締め、優一郎はそう言いきった。その顔に自信が戻っている。立城は苦笑して判った、と頷いた。
段落が長いので三分割してあります。
この話はけっこー分割されると思います。
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謎のルポライター現る
あ、エロシーンはありません。
毛足の長いじゅうたんの上を要は苛立ちに任せて歩いていた。時折、心配顔で使用人たちが足を止める。だが今日の要はそんなことには構っていられなかった。優雅に微笑んで何でもないのよ、と告げれば済むだけのことなのに、そんな余裕すらなかったのだ。
要はまだ体操服に身を包んでいた。着替えるのを忘れたのではない。何故か着替えが更衣室からなくなってしまっていたのだ。その悪戯の犯人を要はろくに調査もせずに特定の生徒に決め付けていた。吉良絵美佳。体育祭の後、いとも簡単に要が負けてしまった相手だ。
おのれ、吉良絵美佳! どこまでもわたくしを愚弄して!
今日の要の横にはいつもの姿はない。ボディガードの役割を果たしている野木と周藤は学校で後始末を続けている。会長である要だけが先に帰宅するのは気が引けたが、何しろ事は学校の中だけではすまない事態にまで発展しているのだ。
生徒会に手を貸した企業から派遣された人物は、先ほど血相を変えて本社に戻って行った。恐らく時をおかずに会議が開かれるだろう。そこで問題になるのは遠隔操作によるロボットの暴走と、対したロボットについてのことだ。暴走はまあいい。企業的に実験の失敗をした、という結論で落ち着くだろう。だが絵美佳の作ったロボットについては違う。彼らは恐らく目の色を変えて絵美佳とコンタクトを取ろうとするだろう。当の企業のロボットを負かしてしまったからではない。その機能について謎の部分が多いからだ。そしてその謎こそが彼らの入手したい情報なのだ。
だがそうなると今度は要の立場が危うくなる。何しろ、無理を通してもらうために色々な方面に頭を下げたのは要自身ではない。要の生みの親である栄子なのだ。
「全く、冗談じゃないわ!」
要は乱暴に怒鳴りながら歩く速度を速めた。半ば走るようにして自室に戻る。一刻も早く手を打たなければ大変なことになる。栄子は普段は穏やかな風貌をした気品のあるご婦人、と言われているが、その実、怒るととんでもなく怖いのだ。
「まずいわ。絶対に回避しないと」
ぶつぶつと口の中で呟きながら要は部屋の中を歩き回った。服を着替えた方がいい。いつもならその程度のことは簡単に思いつく。だがこの時の要は自分の服装にすら構っていられなかった。蒼白になってあらゆる考えを巡らせる。だが、こういう時に限って一つもいい案は浮かんでくれない。
前回、絵美佳に負けた時、栄子はにっこりと笑ってこう宣言した。今日から半年間、要さんのお小遣いはカットしましょうね。愕然とする要を余所に、またうろたえる父親も無視して栄子はそれを実行した。その間、要はありとあらゆるものを購入する資金を自らがバイトするという苦肉の策で捻出しなければならなかった。他の学友たちが当り前にしていることも、要にとっては苦痛でしかない。要は毎日、歯軋りしながらハンバーガー屋でバイトを続けた。
またある時、やはり絵美佳に負けたと報告した要は一晩中、とある部屋に閉じ込められた。お仕置き部屋と名付けられたその部屋での出来事を要は今更ながらに思い出して身震いした。その部屋は通称、虫の部屋。要の大嫌いな虫が山のように詰められた拷問部屋だった。
絵美佳に負けるたびに要は辛い目にあってきたのだ。今回も例外ではないだろう。しかも今回に至っては母親の力を先に借りてしまっている。お仕置きも当然、今までになく強烈なものになる。その不安が要の歩く速度を上げさせた。足早に部屋を歩き回り、ああでもないこうでもないと独り言を呟く。
「あら、要さん。帰ってたの?」
唐突に間近で声がする。要は予期せぬことに驚愕して思わず悲鳴を上げた。頭を抱えつつ振り返る。するといつの間にか背後に母の栄子が立っていた。三十過ぎで会社の重役を務める栄子は、ぱっと見には二十代に見える若さを誇っている。薄いブルーのスーツ姿の栄子を見止めた途端、要はその場に姿勢を正して慌てて頭を下げた。
「もっ、申し訳ありません! お母様!」
「あらあら、物々しいこと。どうなさったの?」
栄子は要の心情に気付かないのか、手を口許に当ててころころと笑っている。要は背中に冷たい汗を感じながら正直に告げた。
「じっ、実は吉良絵美佳にまた負けてしまって」
するとそこで栄子の笑いがぴたりと止んだ。静かに手を下ろして要に視線を送る。だがその目も表情も笑っていた時と変わりない。にこにことした笑みを見ていた要の全身からどっと嫌な汗がふき出す。
「要さんも相変わらずですこと。でも今日はそれよりも先に要さんに会っていただきたい方がいるのよ」
いつものように栄子は怒ったりはしなかった。先ほどまでと変わりない笑みを浮かべている。もしかして今回は大目に見てもらえたのかしら。要の胸にそんな希望の光が宿った時、タイミングを見計らったように栄子が告げた。
「私はそれよりも先に、と言いましてよ?」
きっぱりと告げた栄子の言葉には口を挟む隙はどこにもない。要は頬を引きつらせながら黙して頷いた。が、その瞬間に栄子が軽く手を振る。ぱこん、と景気のいい音を立てて栄子は要の後ろ頭を叩いていた。
「おっ、お母様!?」
「お返事はきちんと。首振り人形ではないのですから」
あくまでも穏やかに栄子は叱った。聞きようによっては叱っているようには感じられないだろう。だが要は心底、栄子の恐ろしさを知っている。ので、慌てて口頭で返事し直した。
着替える暇もなく、要は栄子に連れられて廊下に出た。向かう先はリビングルームとして日頃から要が利用している部屋だ。栄子の専用室に通さなかったのは、客人が花を好んでいるかららしい。歩きながら栄子に説明をされ、要は出来るだけ素直に返事した。少しでも気を抜くと平手が飛んで来るからだ。
花でいっぱいのリビングルームに入る。そこには見知らぬ男がいた。
「ご紹介するわね。こちら、ルポライターの木崎さんと仰って」
栄子がそう告げると、それまで腰を屈めてばらを熱心に見つめていた男が立ち上がった。年の頃は二十代半ば、といったところか。要は礼儀正しく男に一礼した。
「やっ。どうもどうも。はじめまして」
軽い口調で告げながら男が手を差し出す。要は訝りつつも素直に手を出した。強引に要の手を握ったかと思うと上下に激しく振り回す。要は男の奇異なこの行為に目を丸くした。母親が連れてきたのだからそれなりにお堅い人物だと予想していたのだ。なのに男の様子は要の予想を裏切っていた。何より着ているものがアロハシャツとジーンズなのだから、その軽さも伺えるというものだ。
「えっと、要ちゃん、だっけ?」
栄子に紹介される前に木崎は要の事を言い当ててしまう。そうですの、おほほ。栄子はためらいなくそれを肯定して笑っている。要は男をうろんな目で見やってから握られている手をさりげなく解いた。
「今日のかけっこ、見せてもらったよぉ。あっ、そうそう。俺のことは順って呼んでね」
どこまでも軽い口調で順が告げる。要は引きつりながら栄子を見やった。だが栄子はのんびりと視線を返すだけで何も言わない。
「そのカッコ、なかなか素敵だよねぇ。もしかして要ちゃんってそのカッコで登校してんの?」
「……そんな筈ないでしょう」
殴ってやろうかと思ったが、要は何とか激情を堪えてそう言い返すだけに留めた。すると順がえー、という不服そうな声を返してくる。
このばかをわたくしにどうしろと言うの、お母様。
何度も栄子にそう問おうと思ったが、要はどうしてもその質問をすることができなかった。順は要が聞いていようがいまいが構わないらしく、しごくどうでもいいことを喋り続けている。要は頭痛を抑えるようにため息をつき、頭に巻きっぱなしになっていた鉢巻を指先で押さえた。
この話の中で名乗った名前のせいで、後に面倒なことになります。
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多輝と由梨佳の出逢い 1
あ、エロシーンはありません。
その屋敷は清陵町の外れの丘の上に建っている。最近までずっと家主は不在でその管理を使用人がしていたらしい。だが先ごろ家主が帰ってきた。多輝はかつて一度だけくぐった門の前で黙って立っていた。
さっきまで優一郎に抱かれていた身体が熱い。多輝はそっと息をついて自分の肩に触れた。軽く握ってみる。今でもやっぱり肩が細いと感じるのは、男だった時間が長かったせいだろう。数ヶ月が過ぎた今でも自分の身体を酷く頼りないと思ってしまう。多輝は一度、目を閉じて脳裏にかつての自分の姿を思い描いてみた。斜に構えた姿が脳裏に蘇る。度々、姿見を覗いた記憶はないから、もしかしたら瞼の裏に映った自分の姿にも多少の嘘が入っているかも知れない。何しろその姿は多輝の知る、多輝ではない誰かによく似ているのだ。
まあ、いっか。多輝は諦めのため息とともにかつての自分の姿を脳裏から追い出した。どんなに思っても時が戻ることはない。もしかしたら男のままでいれば今のような辛い思いはしなくても済んだかも知れない、というのは過去の自分が優一郎と深く結びついてはいなかったからだ。
決心して手を伸ばす。多輝は門の脇にあるインターフォンのスイッチを押した。ほどなく女性の声が返答する。
「遅れて申し訳ありません。雨宮と申しますが」
本来の約束の時間を一時間も過ぎている。そのことを悔いながら多輝は最初に詫びた。だが応答した女性が機嫌を悪くした様子はない。まあ、使用人だから当り前か。多輝が胸の内でそう呟いた時、重々しい音を立てて門が開いた。
広々とした庭には幾種もの花が植えられている。この時期に咲き乱れているのは色とりどりのばらの花だ。多輝はゆっくりと歩きながら花の群れを眺めた。赤、白、黄色。濃い原色から淡いパステルカラーまで、様々な花が一面に咲き誇っている。風に揺れる花の様を充分に楽しんでから多輝は玄関へ向かった。
ドアチャイムを鳴らすまでもなく扉が開く。待ち受けていたのは見慣れない一人の女性だった。使用人か。そう多輝が思うより早く女性が口を開く。
「ようこそ。あなたが天輝さんね?」
女性がいきなりそう切り出す。多輝は女性の質問に面食らい、反射的に首を横に振った。
「いえ、あの、おれは雨宮多輝、ですけど」
別の誰かと間違えられているのだろうか。多輝は焦りながらそう応えた。すると女性があからさまに顔をしかめる。手にしていた端末を操作する様や、白衣を着ているところを見るとどうしても別の誰かに見える。多輝は、誰だっけと記憶を探った。白衣に端末。口の中で呟くとすぐに答えは出た。この女性は絵美佳に似ているのだ。
吉良絵美佳。かつて多輝と絵美佳はとても近くにいた。知り合ったきっかけは些細なことだった。絵美佳が多輝を使って実験をしたいと言い出したのだ。当時、多輝は科学部を毛嫌いしていたため、最初はその申し出を断った。が、最終的に多輝は絵美佳に協力することとなり、絵美佳も多輝の望む通りに行動することになった。
しかし多輝にそこまでの記憶はない。絵美佳も同様だ。とある事件に関する記憶は事件に関わった者の中では優一郎しか覚えていない。それ故、多輝もどうして絵美佳と親しくなったのかをはっきりと覚えていないのだ。
「雨宮さん? 吉良瀬、天輝さんではなく?」
女性はあくまでも機械的に問い掛けてくる。吉良瀬、という名を耳にした多輝は僅かに表情を険しくした。
「おれ、吉良瀬の姓はもらってねえし、天輝って名前でもない。でもここに来るようにって言われたのはおれだけど?」
このままでは平行線だ。多輝は女性にそう答えながら半ばうんざりしていた。どうして立城が出てこないんだ。不服に感じたが多輝は思ったままを口にはしなかった。すると多輝の表情を読んだのだろう。女性が苦笑して頷く。
「なるほど。だいたい判ったわ。立城さんはあなたを驚かせようとしてたのね」
どうやら意思疎通は何とか成功したらしい。多輝は憮然としたままで頷いた。何が気に入らないかと言えば、立城が多輝を驚かすことなどいつものことだからだ。あいつはいつもいつも。多輝がそうぼやくと女性がまあまあ、と微笑む。その仕草は絵美佳よりも大人びていた。
「私は吉良由梨佳。立城さんから、あなたの教育係を頼まれているの」
吉良? 多輝はすぐにその名前に反応した。吉良優一郎。吉良絵美佳。そして目の前にいる女性が吉良由梨佳……。その名前の一致が偶然とは到底思えない。多輝は恐る恐る訊き返した。
「まさかとは思うけど……その、優一郎……くんのお母さん?」
そう問い掛けてから唐突に気付く。由梨佳から発されている気配が妙なのだ。だが多輝にとっては慣れている気配と言ってもいい。
「……まさか……。ヒューマノイド? なのか?」
震える声で続けた多輝に由梨佳が視線を投げかける。手にした端末を白衣のポケットに収め、由梨佳は事もなげに頷いた。
「最初の質問も、後の質問も、両方ともイエスよ」
優一郎たちの母親が異様なほどに若い、という情報は多輝も得ていた。だがまさか自分と同じヒューマノイドだとは思わなかったのだ。確かに科学者の一家だとは聞いた。だが母親自身がヒューマノイドになっているなどと、どうして想像できるだろう。多輝は絶句して由梨佳を指差した。意味もない行動だったが、何かリアクションせずにはおれなかったのだ。
優一郎と絵美佳の母親、由梨佳が本格的に話に入ってきます。
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多輝と由梨佳の出逢い 2
エロシーンはないです。
「むやみに他人を指差すのはやめなさい」
告げて由梨佳はにっこりと笑った。その笑顔が絵美佳とダブる。多輝は慌てて目をこすって首を振った。そしてはたと気付く。
「そういえば……教育係って? おれの? あんたが?」
礼儀正しくしなければならない。そのことを気遣っていられたのはほんの数分のことだった。元を正せば多輝は昔から粗野なのだ。だが多輝が乱暴に告げても由梨佳は少しも動じない。それどころか困ったような笑みを浮かべて告げた。
「そうよ。まず、最初の仕事を始めるわね。一人称を改めなさい。おれ、なんて使っちゃだめよ」
由梨佳が出した指示を多輝は慌てて否定した。
「い、いや、だっておれ、元は男だし」
どんなに女性の機体を使っていても男だった頃の記憶がなくなる訳ではない。現に今でもついうっかり立小便をしてしまいそうになるのだ。多輝は慌てふためいてそのことを由梨佳に説明した。だが由梨佳は首を振って多輝の言葉をいちいち否定する。
「いいえ。あなたはもともと女性なのよ」
とどめにこのせりふを突きつけられ、多輝はとうとう閉口した。どだい、無理な話なのだ。何しろ多輝が使用している機体は女性型そのもので、どこをどう斜めに見ても男性には見えない。それを初対面の由梨佳に説明しても無意味なのだ。少なくともこの時点で多輝はそう思っていた。
それから多輝は客室に案内された。どうやら今日は立城は別の客人と食事に出かけてしまっているらしい。じきに戻ってくる、と由梨佳は説明した。
「あの。おれ、あんたのことは何て呼べばいいんだ? まさかお母さんじゃないだろうし」
由梨佳の説明が一段落したところで多輝はそう口を挟んだ。注意されても一人称などそう簡単に変えられる筈もなく、多輝は自分の事をおれと言った。そのことが気に入らなかったのだろう。由梨佳が僅かに眉間に皺を寄せる。
「由梨佳、で構わないわ。呼び捨てでも敬称付きでも、あなたの好きにしなさい」
「じゃあ、由梨佳さん、かな」
多輝は確かめるようにそう告げた。試しに何度か名前を口にしてみる。次第に由梨佳の顔が曇っていることに、多輝は気付けなかった。
「で、由梨佳さん。おれってこの部屋を自由に使っていんだっけ?」
それまで俯けていた顔を上げ、多輝は由梨佳にそう問い掛けた。一瞬だけ由梨佳の反応が遅れる。だがすぐに由梨佳は何事もなかったかのように返答した。
「あなたの言う、自由ってどういう行動を指すのかしら?」
聞かれたこともしごくもっともだったので、多輝はストレートに思っていたままを告げた。
「例えばゲームしたりとか。飲み食いしたりとか。あ、そうそう。ベッドで寝るのもオッケーだよな?」
言いながら多輝は当り前だよなあ、と胸の中で呟いた。ベッド、テレビ、電話、冷蔵庫と、必要そうなものは全て揃えられている。ないのはゲーム機か。多輝は部屋をぐるりと見回して確認した。
「朝食と夕食は決まった時間に決まった物を食べてもらうことになるわ。間食は禁止」
「えっ」
淡々と告げた由梨佳に多輝は慌てた声をあげた。朝食と夕食がどんなものなのかは定かではないが、間食を禁じられていると少々きつい。それまで多輝は毎日三食にプラスして二度の間食をとっていたからだ。
「それってもう決まってたり?」
「食事だけじゃないわ。あなたスケジュールはきっちり決まってます。あなたの言う自由時間は一日二時間くらい」
恐る恐る訊ねた多輝に対して由梨佳は酷くあっさりとそう告げた。多輝はそれを聞いた途端、慌てて手にしていた荷物を床に放り出した。一気に間を詰めて由梨佳に迫る。
「何なんだよ、それ! 一体、おれをどうするつもりだ!?」
小学生の修学旅行じゃあるまいし! 多輝は続けてそう喚いた。だが間近で多輝に怒鳴られていても由梨佳に怯んだ様子はない。それどころか困った子供を見るような眼差しで多輝を見つめ返している。
「あなたには吉良瀬の名を背負ってどこに出ても恥ずかしくない女性になってもらいます」
「冗談じゃねえ! ……って、吉良瀬?」
苛立ちを由梨佳にぶつけかけていた多輝はそこで声を潜めた。吉良瀬。由梨佳は確かにその名を出した。だが多輝にそう言われる心当たりはない。首を傾げて考え込んだ多輝を余所に、由梨佳は再び端末を白衣のポケットから取り出した。何事かをメモしている。
「吉良瀬天輝。それがあなたの今の名前よ」
多輝が屋敷に入ってきた時に聞いた名前がまた出てくる。だが今度は多輝の心にその名前が深く刻み込まれた。あれほど望んでいても手に入れられなかった吉良瀬の名がどうして自分に与えられるのか。考えていた多輝は次第に表情を険しくした。
「今更、かよ。何で欲しかった時にはくれなかったのに、こんなことになってから」
「不服なら別の名前にしても構わないよ?」
聞き慣れた声が聞こえてくる。多輝はびくりと身体を震わせ、次にぎこちなく首を回した。いつの間にかドアのところに立城が立っている。
そのうち二人はエロエロな感じになりますw
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多輝と由梨佳の出逢い 3
「おかえりなさい」
満面の笑みを浮かべて由梨佳が立城に駆け寄っていく。立城は笑顔で由梨佳に頷いた。それだけ見ればまるで恋人同士のようだ。だがそんなコメントすら多輝の口にはのぼらなかった。息が詰まって胸が苦しくなる。
「ただいま。それより、随分と遅かったね。何かトラブルでも?」
そう言いながら立城は客室に入った。その後ろを由梨佳が追う。多輝は気を取り直すために咳払いした。
「べっつにー。それよか、久しぶりに会うおれに対して何か挨拶くらいないのかよ?」
本当は立城を正視できなかった。だがそれをごまかすために多輝はわざと悪態をついた。すると立城よりも早く由梨佳が反応する。
「天輝さん」
由梨佳は眉を吊り上げて多輝を叱ろうとした。だがそれを立城がやんわりと手で制す。相変わらず厭味なやつ。多輝はそう呟いて舌打ちをした。
「まあまあ。来たばかりの多輝にその名は馴染みがないだろうし、いきなり教育をはじめても身につかないんじゃないかな」
そう言うと、立城はゆらりと手を伸ばした。右の腕を水平に上げて多輝の目の前に指を見せるように出す。その指の滑らかな輪郭に多輝は思わず目を奪われた。
「まずはそうだね。リンクを切ろうか。僕は黙って誰かに覗かれるのは嫌いなんだよ」
高い指の音が響く。それと同時に多輝の視界が一瞬だけ真っ暗になった。だがすぐに周りの景色が見えるようになる。何なんだよ、と呟いて目をこすってみるが、特に機体に変化はない。
「ついでにマスター登録も凍結しよう。それがあると教育もままならないからね」
ぱちん。もう一つ、指が鳴る。立城が指を鳴らしたと同時に今度ははっきりと多輝の視界がぐらついた。思わずよろけてその場に膝をつく。だが多輝には何が起こったのかさっぱり判らなかった。
「マスター登録? この子、既に主持ちなの?」
驚いたように由梨佳が告げる。だがその質問の意味すら判らない。多輝はこみ上げてくる吐き気を堪えて目を上げた。目の前にいる立城を睨みつける。
「てんめぇ……。何しやがった!」
「その言葉遣い、相変わらずだね。マスターの優一郎くんが聞いたら泣くよ?」
微笑を浮かべてそう告げると、立城は多輝の目線に合わせてその場に屈んだ。その横で由梨佳が息を飲む。
「じゃああなたが、優一郎の?」
「ヒューマノイドにとってマスターは一人きりですが、マスター側の人間は重複可能ですからね。外に作品を出すつもりがあるならともかく、彼は自分で作ったヒューマノイドに別のマスターをつける気はないでしょう」
静かに告げて立城はさらに指を鳴らした。その途端、多輝は弾かれたように身体を反らした。痛みに声も出なくなる。
「この子が優一郎の作品だというのは本当なのね……」
複雑な面持ちで由梨佳はそう呟いた。が、多輝の耳には既にその声は入っていなかった。耳障りな音が耳の奥で響いている。多輝は苦しみに顔を歪めて床に手をついた。肩で息をしながら何とか顔を上げる。すると立城がいつの間にか至近距離にまで顔を近づけていた。
「彼は優秀ですからね」
由梨佳にそう答えながら立城が手を伸ばす。怒鳴り声を上げようと息を吸った多輝は、次の瞬間、目を見開いた。立城に唇を塞がれたのだ。急速に痛みが消えると同時に言いようのない感覚が身体の奥からこみ上げてくる。多輝は自分でも気付かないうちに立城のシャツをつかんでいた。
「んぅ……ん」
唇を割り開いて入ってくる立城の舌を柔らかく吸う。殆ど反射的に多輝は立城の口づけを受け入れていた。甘い快感がこみ上げ、自然と乳首がたつ。立城は多輝の口の中をゆっくりと舌で愛撫していった。
やがて唇が離れる。熱い息をついた多輝は潤んだ眼差しを立城に向けた。だが立城は既に立ち上がり、由梨佳に向き直っている。
「ストレス値が随分と高くなっているようですね。というより、半ば条件付けられているのかな? 後をお願いできますか?」
「わかりました。とりあえずボディの構造を調べてみないとメンテナンスもできませんし」
軽く頷いて由梨佳が答える。それを見て取った多輝は嫌がって首を横に振った。
「や……っ! 優一郎がいいっ!」
多輝の目には立城の姿が優一郎と重なって見えていた。困ったような笑みも、優しい仕草も全てが重なって目に映る。だが嫌がる多輝を宥めたのは由梨佳だった。
「あなたは優一郎に相応しい女性に、なりたくないの?」
静かに問われ、多輝はそこで駄々をこねるのをやめた。由梨佳が言っているということは判らないが、言われたことは理解できる。多輝は悲しそうに俯いてぽつりと呟いた。
「なりたい」
既に登録されたマスターの情報は立城の手によって凍結状態にされている。だがそれでも多輝の頭を占めているのは優一郎のことだった。だが例え優一郎に相応しくなったとしても、彼の横には別の女性がいる。そのことを思い出した多輝の顔は一層暗くなった。
「なら、まず、自分自身がどんな存在なのか? それを知ることから始めましょう。わかるわね?」
子供に言い聞かせるように由梨佳はゆっくりとそう告げた。もし、念願かなって相応しくなったとしても、優一郎には別の女性がいる。そのことを多輝はどうしても口に出せなかった。由梨佳と立城を見比べて頷く。立城はそれを確認したところで客室から出て行った。
こいつらの話ってやたらとキスシーンがあるので、エロ区分にするかどうか微妙に悩む……。
それっぽくなければ告知しないことにしますです。
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だからどーしてナメクジなのかと小一時間
清陵高校の地下には二つの施設が埋まっている。一つは絵美佳の率いる科学部の部室だ。そしてもう一つが優一郎の率いるロボット研究会の研究室だ。そしてそれらの実態を地上にいる生徒はおろか、教師たちも全く知らない。
今日は何曜日だっけ。斎姫はぼんやりとそんなことを考えた。いつからこうして地下で時間を過ごすようになったのだろう。今日は地上では体育祭が行われていたという。だが、それらの行事を最近の斎姫は全て放棄していた。いや、正しくは参加したくとも出来ないのだ。
「ねえさまたち、かえったの?」
あどけない表情で訊ねる幼女を見つめ返し、斎姫はそっと頷いた。その幼女の後ろには巨大ななめくじが一匹、控えている。最初、斎姫はそのなめくじを見た時、ショックのあまりに気絶してしまった。だがなめくじは幼女の命令がなければ決して人には襲い掛からない。
「保美先輩はカレン先輩のマンションへ、行ったみたいね」
斎姫はそう答えながら微かに身体を震わせた。斎姫の動きに合わせたように端末画面のグラフが揺れる。曲線がなだらかに上昇するのを見つめ、斎姫はため息をついた。やはり思っていた以上にストレス値が上昇している。
「どうして、こうなのかな……」
小さな斎姫の呟きに幼女が顔を曇らせる。保美によく似た面立ちを持つ幼女の名は仁科果穂。保美の妹である果穂は本来なら斎姫と同い年だ。だが、とある事情から果穂の身体は小学生程度にしか成長していない。ほっそりとした肩を竦め、果穂は申し訳なさそうに告げた。
「ごめんね。いつもわたしのおもりをさせて。ほんとうはわたしもひとりでだいじょうぶだとおもうんだけど」
優一郎の留守中に果穂を一人きりにさせないように、と部員たちは言われている。それは優一郎の命令だ。だがそれは斎姫の今の思いとは全く別の問題だった。斎姫は慌てて果穂に首を振ってみせた。
「謝らないで。あなたが居てくれなかったら、私のほうがおかしくなっていたかもしれない」
近頃、優一郎はどこか遠くを見る眼差しをしていることが多い。研究室も空けがちだ。それ故、斎姫も優一郎を見ない一日を過ごすことが多くなった。前の優一郎は他の誰かにヒューマノイドのメンテナンスを任せるようなことはなかった。だが今は別の心配事でもあるのか、斎姫の機体チェックを果穂に任せてしまっている。
寂しい。斎姫は誰に聞かせるでもなくそう呟いた。果穂はその呟きを聞き取っていたのだろう。だが微かに目を細めただけで斎姫の言葉に特に反応したりはしなかった。それが果穂なりの気遣いなのだと判るだけに、斎姫の胸には申し訳なさがこみ上げてきた。
「えっと。からだのちからをぬいてらくにしてくれる? すとれすかいしょうのため、きぐをそうにゅうするから」
何事もなかったかのように果穂が明るく告げる。斎姫はそっと頷いて指示通りに身体の力を抜いた。ほどなくして股間が熱くなる。果穂が機械的に愛液の分泌量を増やしたのだ。
ぬるりとした感触の器具が股間に埋められていく。斎姫は僅かに顔を歪めてその器具を受け入れた。果穂がわざと機械的に作業を進めているのは判る。それが斎姫に対する気遣いである、ということも理解できる。だが無感動な快楽は斎姫にとって悲しみ以外の何物でもない。
「びしんどうにせっと。ごめんね、すぐにおわるから」
果穂が慣れた手つきで斎姫の女性器を弄る。斎姫は身体に走った快感に思わずため息を漏らした。次第に快感が深くなり、やがて激しい波のように快楽がこみ上げる。
「んっ……くっ、優、くん……」
これでは自慰をしているのと大差ない。そう思いながらも斎姫は優一郎の名を呼ばずにはいられなかった。出入りする器具に触発され、膣壁から愛液がにじみ出る。斎姫が果てようとしたその時、不意に果穂が声を上げた。
「そうだ! いいことおもいついた! ちょっとまってて。もっときもちよくしてあげるからっ」
そう言って果穂は斎姫を放り出して実験台から飛び降りた。台の上に寝転び、膝を立てた状態のままでいた斎姫には、果穂の動きが見えない。快楽の頂点に駆け上る直前で放り出されたまま、斎姫はしばらく待たなければならなかった。
「おまたせーっ。ちょっとつめたいかもしれないけど、がまんしてね」
果穂がそう告げるのに斎姫は頷こうとした。が、次の瞬間、ひんやりとした感触が斎姫の股間を襲う。身体を実験台に固定されている斎姫はその感触の正体を見てとることは出来なかった。と同時に激しい快楽に襲われる。ひんやりとした何かが斎姫の膣の中へと潜ったのだ。
「あぁんっ! なに? これ、つめた……いっ! ああん!」
「きもちいいでしょ? まえにべつのきたいでじっけんずみだからあんしんしていいよ」
果穂は笑顔でそう告げる。だが斎姫の耳にはその言葉は届いていなかった。さっきまでとは全く違う、艶かしい動きで膣を攻められる。何が一体どうなっているのかも判らないまま、斎姫はあっという間に絶頂を迎えた。
「あぅ! ゆうくん! 好き! もっと、ゆうくん! あっ! ああうふぅん!!」
斎姫を犯しているのはなめくじだった。粘液に塗れた触手が斎姫の膣を深く激しく突き上げる。枝分かれした別の触手が同時に斎姫のクリトリスを刺激する。斎姫は激しい快楽にしばらく囚われていた。
エピタイ通り……
過去の自分、何でナメクジにしたのかと。
触手プレイのためでしょうか……。
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夜の偽物 1
真似しないでくださいー(出来るか!
エロシーン前哨戦です。
窓から差し込む月明かりに手をかざす。いつの世も月の光は変わらずおぼろで、部屋の中の全てを明るく照らし出すようなことはない。立城は無言で空を見上げていた。丸い月が空にかかり、その傍を薄い雲が流れていく。
立城は軽く俯いて少し笑った。どうして優一郎にあそこまで説明してしまったのだろう。そのことを悔いてはいないが、立城は不思議に思っていた。自分の心の動きがどうであったのかを思い出してみる。だが思い出しても特別な要因はどこにも見当たらない。まして、封じ込めていた彼女の姿を見せるなどどうかしている。立城は自嘲を込めて笑った。
優一郎は意気揚々と屋敷を出て行った。恐らく近日中には本人の言の通り、立城の依頼したヒューマノイドが搬入されるだろう。今まで優一郎が約束を違えたことはない。立城はそのことを思って小さく頷いた。余程のトラブルが発生しない限り問題はない。
夜叉は力のシステム上に生まれた、言わば特別変異体だ。本来は生まれるべき存在ではなかったことが、当時の紫翠の命運を分けた。予定表にないその存在は否応なく紫翠を引き寄せ、そして時の流れに従い紫翠をその運命に招き寄せた。だがそれも全て夜叉の望み通りであった筈だ。少なくとも当時、夜叉であった砂夜は自分の存在に疑問を抱く暇もなくこの世から消えてしまった。
あの時。立城はそっと呟いて記憶にある限りのことを引き出してみた。紫翠の力と夜叉の力が混ざったあの時、二者とは全く別の存在が誕生した。砂夜の腹の中で成長した魂は二つ。力を二分した形で魂はそれぞれの肉体を持ったが、その子供たちが力を発揮することはなかった。だが魂が続いた先にとある二つの命が生まれた。二者の力は時と共に濃度を増し、隠し切れない輝きとなってこの世に現れたのだ。それが立城ともう一人、弟の真也だった。
そしてあの時、紫翠はそのことを既に予見していたのだ。木龍神と呼ばれる龍神であった紫翠は時を読む術を持っていた。今生の木龍神は立城だ。立城は紫翠の生まれ変わりと言われているが、当時の紫翠の力のうちの一部は持ち得ていない。それが時に関わる力だ。
木龍神は自然を司る。そして時を司る龍神は別にいる。それが翠龍神だ。
「あの頃……本当は翠は存在してはいなかった。それが僕が得た唯一の答えだったよ」
誰に聞かせるでもなく、立城は小さくそう呟いた。答える声はない。聞かせたい相手はとうの昔に潰えてしまっているのだ。立城は軽く手を握ってこぶしを作った。
たとえどれほど似ていても、立城は紫翠とは違う。全く別の存在だ。それと同様に、例えどれほど似た輝きを持って生まれたとしても、かつての記憶を持っていても、死んだ者が生き返ったことにはならない。どれだけ待ち望んでも死者は生き返ることはないのだ。それが、どんなに力があろうが抗えない世界の理だ。
ゆっくりと歩き出す。月の光の中から部屋の暗がりへと進んだ立城は静かに一点を見つめていた。壁にかかる大きな絵画のまえ、何もない空間に視線を注ぐ。
優一郎はきっと何も考えずにその場に立ったのだろう。だがそこはかつて立城がとある誰かと誓いを立てた場所だった。誓いは未だに生きている。きっと自分が潰えるまで消えはしないのだろう。立城はそう思いながら微かに笑った。
指が鳴る。立城の合図と共に大きな木が床からせり出してきた。その幹に磔になっているのは水輝だ。眠るように目を閉じて静かな呼吸を繰り返している。立城は黙ってそんな水輝を見つめた。
水輝は最初は愕然としていた。何が起こったのかを全く理解していなかった。立城のことは何とか判別出来ていたらしいが、それも最初の内だけだった。嫌がる水輝を無理やり押し倒し、有無を言わせず口づけした。水輝の悲鳴が続いたのはほんの一瞬で、その後は余りにもあっけなかった。優一郎が事前に水輝に特殊な暗示をかけていたのが功を奏したのだ。
死んだ者は蘇らない。だが暗示により水輝は立城を紫翠と誤認した。それ以降、水輝は立城を紫翠と思い込み、立城の意のままに夢の中へとおちていったのだ。
「思い出だけで生きてはいけないのにね」
そう言いながら立城はおもむろに手を伸ばした。水輝のブラウスに手をかけ、ボタンを外して前を開く。白い水輝の肌にはたくさんのつるが巻きついている。根元を軽く締められた乳房を立城はゆっくりと指でなぞった。
「し、すい……?」
褐色のつるが一斉に蠢き始める。立城は口許に薄い笑いを浮かべて指を滑らせた。つるは乳房の上を移動して赤く色づく乳首を愛撫し始めている。もう、本当はいちいち肯定しなくとも水輝には自分のことが紫翠にしか見えていない。それは判っていたが、水輝の喘ぎ混じりの声に立城は黙って頷いた。
指を唇に当てる。立城は目を細めて自分の指先を強く噛んだ。皮膚が小さく裂ける。口の中で血の味を確かめてから、立城はゆっくりとその指先を水輝の胸元へ向けた。それまで蠢いていたつるが一斉に立城の手を避ける。立城は薄笑いを浮かべて水輝の胸の中心に十字を描いた。赤い鮮血がじわじわと水輝の皮膚を伝って流れて落ちる。十字を描き終え、立城は今度は水輝の唇に血の滲む指を触れさせた。びくりと水輝が身体を震わせる。
人外だから無茶苦茶なのです。
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夜の偽物 2
あ、TS警報出し忘れましたね! すみません(汗)
「しすい……?」
「ほら。喉が渇いただろう?」
立城がそう囁くと水輝は口を小さく開けた。舌先で立城の指先の血を舐め取る。立城は小さく笑って指を水輝の口の中に入れた。掠れた喘ぎを漏らす水輝の口の中を焦らすようにくすぐる。
ゆっくりと視線をずらす。立城が次に目を留めたのは水輝の下腹部だった。立城の意志を受けてつるが移動する。めくり上げたスカートの下には下着はない。剥き出しになった水輝の下腹部を撫で、立城は目を上げた。
「処女膜も再生されているね」
そう言いながら立城は指を水輝の口から抜いた。唾液に塗れた指を丹念に舐める。すると立城の身体の中に言いようのない衝動が生まれる。
「もっと……ちょうだい」
喘ぎ混じりに水輝が囁く。立城は口許に笑みを浮かべた。無言で水輝の唇を塞ぐ。甘い香りを嗅ぐだけで激しい衝動が体内に生まれる。立城はそれを抑えて水輝に深く口づけた。飢えていたのか、水輝が夢中で立城の唇に吸い付く。
本来、人は思い出だけを糧に生きていくことはできない。立城たち、龍神もそれと同じだ。が、人と龍神とではその力に異様なほどの差がある。例えば人が僅かに時に逆らい思い出だけにすがりついていても、その影響力はたかが知れている。だがこれがこと龍神になるとそうはいかないのだ。
時に反逆し続ければどうなるか。その思いは歪んだ力となり、世界を揺らがす。さらに悪いことに水輝からかつて分かれていた魂は、悉く潰えてしまった。事実上、水輝の力は今は全く分かれていない状態なのだ。
このまま時が進めば確実に世界は水輝の力の影響を受け、やがては崩壊してしまう。立城は目を閉じて先に訪れるであろう世の終焉を思い描いた。これまで幾度も水輝の思いを覆そうと試みてきた。だが、どれも失敗に終わった。それだけ水輝に対する紫翠の影響力が絶大だったということだ。
舌を絡ませて水輝の口の中を愛撫する。水輝は呻くように喘ぎを漏らして身体を震わせる。そうやって立城と身体を重ねていても、水輝が思い描くのは紫翠のことだけなのだ。
口づけしているだけで水輝の力が体内に入ってくる。立城は思わず眉を寄せて反射的に障壁を作ろうとした。が、すんでのところで思い止まる。防衛本能とも言える反射的行動を事前に食い止められたのは、ひとえにこの行為に慣れてしまったからだ。一度に吸収すれば共に滅びてしまう。だからこそ、立城は幾度もに分けて水輝と交わっているのだ。
緩やかに口づけを滑らせる。立城は水輝の首筋に唇で赤い印を残した。白い肌に口づけの染みが散る。そして立城の唇は血の十字架にまで降りていった。乾きかけた十字架の上をそっと唇でなぞる。すると血の十字架は静かに水輝の肌の奥へと染み込んでいった。
「な……に?」
「僕を感じ続けられるように印をつけたんだよ」
血の刻印は水輝の体内でやがて力を増す。立城はくすくすと笑いながら舌先で水輝の肌を辿った。柔らかな肌の感触を味わいながら乳房に口づける。すると水輝が甘い声を上げた。
「あっ、紫翠! そばに、居て……ずっと!」
立城はその声に答えなかった。返事の代わりに水輝の乳首を口に含む。舌で硬くしこった乳首を愛撫すると、水輝が悲鳴混じりの声を上げた。それまで制止していたつるが再び蠢きはじめる。水輝が反射的に震わせる身体を締め付け、幹にくくりつける。つるの動きを横目に立城はゆっくりと頭を下ろしていった。
剥き出しになった下腹部の翳りを指で分ける。するとそれまで死んだように制止していた木の根がゆっくりと動き始めた。幾本にも分かれた根が水輝の腿を拘束する。水輝は根に括りつけられたまま、片方の足だけを上げた。
「随分と興奮しているんだね。こんなに勃起して」
「あふっ、だって……!」
甘い鳴き声の隙間に水輝が答える。立城は嗤いながら硬くしこったクリトリスに唇をつけた。音を立てて舐め上げる。水輝は肌をひくつかせたが、拘束されているために身体は動かない。立城はじわじわと襲ってくる衝動を制して水輝を吸い続けた。
「あんっ、んふっ! しすい!」
水輝の声がどんどん激しくなる。立城は水輝の足を指でなぞりながら何度もクリトリスを吸った。舌先でくすぐるように陰唇を愛撫すると、水輝が首を仰け反らせる。僅かな動きを受けてひくつく肌をなぞり、立城は静かに指を移動させた。愛液の溢れる膣口にそっと指で触れる。
水輝が紫翠を呼ぶたびに歪んだ力が発生する。立城は全身でその力を受け入れていた。肌から、唇から、そして舌先から力が入ってくる。一つ一つは小さな力でも、体内で凝縮されれば強大になる。そしてその力は立城を否応なく興奮させる。だが力の発生源である水輝はそのことには全く気付いていない。
「まずは指で犯すよ」
静かに宣言し、立城は膣口にあてがっていた指を愛液の中へと浸した。
「あ、しすい……そこ、やっ!」
甘い声で鳴きながら水輝が頭を振る。だが立城はそれに構わず膣の奥へと指を進めた。ぬめって零れる愛液を唇で吸いながら指を上下させる。立城は音を立てて愛液を啜りながら膣壁を弄った。
「んっ、やっ、そこ! だめ、あふ、ああんっ!」
立城の指が上下するたびに水輝が声を上げる。立城は口許に嗤いを刻んで唇を離した。舌先に残った愛液が細い糸を引く。
人外ですからー(棒
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夜の偽物 3
「駄目ならやめようか? それとも」
左手を動かしてもう一方の局所を探る。立城は嗤いながら快感にひくついている水輝の肛門に触れた。
「君はこっちも好きかな? 優一郎くんにもたっぷりと可愛がってもらったんだよね?」
右手の親指の腹でクリトリスをこねながら人差し指で膣を犯す。そうしながら立城は左の手でゆっくりと水輝の肛門を弄り始めた。
「あふっ! そこは、いやあっ!」
だが水輝が嫌がるのとは対照的に肛門は徐々に拡き始めている。ひだの隙間から滲んできた愛液を指ですくい、立城はひだを分けるようにして愛撫を続けた。
「嫌がっている割には感じているんじゃないの? ほら、こんなに拡いてる」
嘲笑うように告げ、立城は膣を犯す指を二本にした。途端に水輝の身体が震える。つるに身体を締められ、根に拘束され、そしてあらゆる場所を植物に愛撫される。そんな水輝を見上げて立城は頬に嗤いを刻んでいた。
「んっ、ちがっ、やっ、あふぅ、うぅんっ!」
しとどに溢れた愛液は水輝の足を伝って根の上に落ちていた。だが落ちた瞬間に根が愛液を吸収する。そしてそれは立城の体内で力となって蓄積されていく。立城はそっと息をついて軽く身体を震わせた。
手首を捻って一気に肛門を拡かせる。立城は指をひだの間に滑らせた。
「そろそろいいかな」
「だめえっ! しすいっ! あっ、そこっやっいい!」
激しい声を上げて水輝がよがる。それを見ながら立城はおもむろに膣に突っ込んでいた指を抜いた。肛門を指で犯しながら立ち上がる。既に立城のペニスは勃起しきっていた。ジッパーを下げて下着をずらす。現れたペニスの先は濡れていた。
「まずは前を犯そうか。欲しいって言ってごらん」
焦らすように膣口に亀頭をあてがい、立城はそう囁いた。小陰唇の間から愛液がどっと溢れてくる。
「しすい、ちょう……だい!」
それを聞いた瞬間、立城はくすくすと笑いながら腰を前に押し出した。一気に障壁を突き破って膣の奥へと到達する。立城は密着させたままの腰を大きく揺すり、再生された水輝の処女膜をきれいに破った。
「つっ! んぅっ! しすい!!」
痛みがあるのだろう。水輝は顔をしかめている。だがそれを上回る快楽に襲われているのだ。立城は深く膣に突き入れたまま、静かに水輝を見つめていた。指を進めて肛門の奥を弄る。
「こうしているだけでどんどん力が入ってくるよ。君は本当に」
罪深い人だね。立城は唇だけでそう刻んでゆっくりと腰を動かし始めた。膣に溢れた鮮血がペニスにまとわりつく。密着した部分の全てから流れてくる力は、どこまでも歪んでいる。立城は強制的にねじ込まれる快感に顔を歪め、思わず熱い息をついた。一瞬でも気を抜くと快楽に囚われてしまいそうになる。
「しすい! しすい! あっ、んふっ! もっと……もっとぉ!」
あられもなく声を上げる水輝は唇の端から涎を垂らしていた。激しく興奮しているために目からは涙が零れている。立城は目を細めてその様子を見取ってから水輝の腰を片手でつかんだ。
「もっと感じさせて欲しい?」
肛門に入れていた指を抜く。立城は改めて両の手で水輝の尻をつかんで肉を両側へと引いた。
「しすいっ、もっと……ちょうだい!」
貪欲に水輝がねだる。立城は小さく嗤って意識を集中した。ほどなく足元に密集した根がざわめきだす。ちょうど、いきり立った立城のペニスと同じだけの太さの根が、一本だけするすると水輝の足に巻きついていく。立城の意のままに動いた根はやがて水輝の尻にたどり着いた。
よじれて拡いた肛門に根の先が食い込む。水輝を根が深々と犯していった。根に肛門を貫かれた水輝が悲鳴混じりの声を上げる。
「そろそろいきそうかな?」
立城はゆっくりと腰を動かし始めた。木の根も水輝の肛門に出入りしている。しこったクリトリスを刺激しつつ、ペニスを出し入れする。そんな立城の動きに耐えかねたように水輝が叫んだ。
「あっ、しすい! いっしょに……いっしょに! ああんふっ!」
一際高い声が上がる。だが立城は小さく笑って首を振った。
「僕が射精したらそれこそ元も子もないよ。ほら、気持ちいいよね? 両方を犯されている気分はどうかな?」
だが既に水輝の耳に立城の声は届いていない。快楽に溺れ、その感覚に酔いしれる水輝は、ひたすらに絶頂を目指してのぼっていく。
「いいっ、いいのぉ! しすいっ!」
やがて短く速い呼吸を繰り返していた水輝が声を上げる。快楽の頂点へと上り詰めた水輝はその瞬間、全身を硬直させた。膣壁がうねって立城のペニスを締める。立城はその感覚に思わず眉を寄せて息を殺した。反射的に射精しそうになる。立城は木の幹につめを立てて懸命に衝動を堪えた。受け入れた力を逆流させる訳にはいかない。
静かに波が引くように水輝の硬直が解ける。立城は肩で息をしながらゆっくりと腰を引いた。ねっとりとした愛液に混ざり、鮮血が水輝の膣口から滴り落ちる。立城は強く頭を振ってその場に膝をついた。快楽の余韻に浸る水輝の股間に顔を寄せる。
赤く流れる血に舌を這わせる。
「しすい……。すき……だいすき」
虚ろな眼差しで水輝が呟く。そうだろうね。立城は胸の中で水輝に答えた。そう、君は決して前を向こうとはしない。そう心の底で呟きながら、立城は水輝の血を啜った。口許が赤く染まる。水輝の血を啜っていくうちに立城の表情は変化していった。笑いたくなるような衝動がこみ上げる。誰かを傷つけたくてたまらなくなる。このまま水輝を吸い尽くしてしまいたくなる。だが立城は瞬き一つでそれらの衝動を胸の奥底へとしまいこんだ。
今ならきっと大事な人を簡単に傷つけられるだろう。そう思いながら立城は水輝を啜り続けた。
人外だから好き放題です!w
触手プレイって難しいんですよね……。
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チェックだけのはずが 1
TS……したままなので、警報は必要ないですかね?(汗)
ボディチェックは入念に行わなければならない。それには女性器のチェックも当然含まれている。何故ならヒューマノイドは性的快感なしでは維持できないからだ。由梨佳はベッドに四つんばいにさせた多輝の股間をまじまじと覗き込んでいた。
「あ、あのさあ。ほんっとにそんなとこ見なきゃなんないわけ?」
多輝が不服の声を上げる。由梨佳は当然、という顔で頷いた。
「今のあなたはヒューマノイドなのよ。ヒューマノイドにとって女性器はもっとも重要なパーツなの」
快楽がなければ機体を維持できない。それ故にヒューマノイドはストレス値が上昇するたびに本能的に快楽を欲する。そのことを由梨佳は丁寧に説明した。が、多輝に納得した様子はない。困ったような顔で肩越しに由梨佳を見つめている。
「そりゃ判るけどさあ。何もわざわざこんな格好でさあ。しかも五分も見られればおれだって不服の一つも言いたくなるよ」
何か質問が、と告げた由梨佳に対して多輝がそう吐き出す。由梨佳はため息をついて肩を竦めた。結局のところ、多輝は何一つ判ってなどいないのだ。メンテナンスを欠かせばそれだけで機体に異常が出る。そのメンテナンスを正確に行うためには機体チェックをしなければならない。ヒューマノイドと一口に言っても機体の構造は一体一体違っているのが普通だからだ。
「あなたの女性器ユニットは、わたしにとって未知のパーツなの。あの子の作品を見るのは初めてなのよ」
由梨佳の目から見ても多輝の機体は素晴らしい作りをしていた。まず人とは全く見分けがつかない。次に種々の反応を見ても申し分ない出来栄えだ。内部の詳しい構造は判らないが、それだけ見ても優一郎の才能が伺える。
だがそれを見ても由梨佳の顔は曇っていた。どうして優一郎は黙っているのだろう。学会に発表しろ、とまでは言わないが、どうして親である自分にも研究成果を打ち明けないのか。由梨佳は一抹の寂しさを覚えて深いため息をついた。
もしかしたら年頃の男の子だからかしら。由梨佳はふとそう考えた。それまで母親に甘えていた子供が急に素っ気なくなる。それも由梨佳の予想していたことだった。現に優一郎はある時期を境に由梨佳に対する態度を一変させた。が、それも特に由梨佳を避けるといった方向性に変化したのではなく、あくまでもそれまでのように甘えたりすることがなくなったというだけだ。
それとも同じ科学者としての立場を考慮して、優一郎は遠慮したのではないか。そう考えると由梨佳の思考は段々と別の方向へと流れ始めた。ヒューマノイドの維持には性的快楽が欠かせない。もしかしたら優一郎は性の知識が豊富であることを由梨佳に悟らせまいとしたのではないか。考える由梨佳の顔はどんどん曇っていった。
「どうでもいいけどまだ? おれ、いいかげん疲れたんだけど」
まだチェックははじめたばかりだ。なのに多輝はいとも簡単に不満を漏らす。そのことも由梨佳の苛立ちの原因だった。軽く咳払いして多輝を睨むように見る。
そう、由梨佳は苛立っていた。それは優一郎が水臭いとか多輝が不服を漏らすとか、そういう理由からだけではない。問題は多輝のその造作にある。人にしては異様なまでに整った容姿。皮肉っぽい笑みのよく似合う顔立ち。それは由梨佳にとある人物を思い出させるのだ。
かつてその人物は由梨佳と同じ高校に通っていた。その名前は池田水輝。当時、水輝は男だったが時折は女の格好で由梨佳の前に現れた。そして事あるごとに水輝はさまざまな事態を引き起こし、挙句の果てに収拾がつかなくなるまでにかき回してくれたのだ。
「それなら、別に電源を切ってもいいのよ」
苦い思い出が自然と由梨佳の言動を冷たくする。冷ややかに由梨佳が告げると多輝は慌てたように首を横に振った。どうやら自分の意志を無視して強制的にチェックを行われるのは嫌らしい。由梨佳は大きなため息をついてチェックを再開した。
多輝の不満はそこで止んだ。
「本当に良く出来てるわ……」
指先には機械的な継ぎ目は全く感じない。それどころか機械だという痕跡が全く見当たらないのだ。先にヒューマノイドであると知らされていなかったら、由梨佳ですら多輝の正体を見抜くことは出来なかっただろう。そのくらい、多輝の機体は出来が良かった。
小さくくすぐるように撫でると多輝がびくりと身体を震わせる。由梨佳は真面目な顔で多輝の女性器を弄っていた。
「感度も、すばらしいわね」
「い、いや、あの、そんなこと、言われても……ひゃぅ!」
由梨佳の指がするりと小陰唇の間に滑り込む。多輝は声を上げてベッドに突っ伏した。零れる愛液には特に香り付けはされていないようだ。濡れた指先を口に含み、由梨佳は納得顔で頷いた。
チェック用の器具の詰まった鞄に手を伸ばす。中身を探りながら由梨佳は深い落胆の面持ちになった。確かに多輝の機体はよく出来ている。由梨佳も感心するほどの出来栄えだ。だがそれに比べて自分はどうだろう。作られた年代も随分と離れているが、それだけでこの差は説明できない。何故なら由梨佳の機体は総一郎の『エコサイエンシズム』に基づいて作成され、機体の素材には出来るだけ金がかけられていないのだ。
そして女性器にもその差は現れている。多輝のそれが人と区別がつかないようにされているのに対し、由梨佳のそれは男性器を効率よく射精させるための、言わば大人の玩具に近い作りになっている。その部品が悉くリサイクル品であるのは、当時、やたらと壊れまくる女性器に金がつぎ込めなかったからだ。
ヒューマノイドの機体構造を決めていない状態で書き始めたのですが……。
書いてるうちに決まった感じです。なのでこの段階ではまだまだ(汗)
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チェックだけのはずが 2
ていうか、由梨佳のセリフが昭和wwww
そして長い年月を経ても、機体製作者である総一郎は由梨佳の機体をバージョンアップしようとはしない。細かい部分については改良が何度も行われているが、機体の構造そのものについては全く変えられてはいないのだ。
黒い鞄から一つの器具を取り上げる。由梨佳はため息をつきつつ多輝に向き直った。機体性能の差は当人の意志とは無関係だ。ヒューマノイドの機体は製作の意図や理念、その他の事項が絡まって出来上がる。だからこそ、多輝の機体の出来が素晴らしいことも多輝自身の意志とは全く無関係なのだ。そう思い直して由梨佳は改めて多輝の女性器を覗き込んだ。
「愛されてるわね」
ぽつりと呟いて由梨佳は器具を多輝の股間へと滑らせた。慌てたように振り返りかけた多輝が短い悲鳴を上げる。由梨佳は生真面目な顔でバイブに似た器具を多輝の膣へ挿入していた。
細く柔らかな器具がゆっくりと膣の奥へと進む。携帯端末に表示される機体の常態を確認し、由梨佳は首を傾げた。確かに多輝の機体は人によく似ている。が、膣に大きな異物……つまり、男性器の入った形跡が全くない。要するに処女膜らしきものがきっちりと残っているのだ。
「やっ、な、なんで!?」
多輝が由梨佳の手の動きに反応して甘い声を上げる。だが由梨佳は厳しい顔で端末の画面を覗き込んでいた。ヒューマノイドには性的快楽が欠かせない。だが多輝はどうもこれまで男性と交わったことがないようだ。それでいて機体状態はほぼベストの数値で維持されている。こんなことがあるだろうか。
「もしかして、あなた、Cはまだなの?」
そう告げて由梨佳は器具で膣壁を刺激した。途端に多輝が息を殺して背中を反らす。由梨佳は多輝の反応に首を傾げた。感度は抜群だ。問題はない。なのにどうしてだろう。疑問が由梨佳の頭の中を巡る。
「い、いやっ、Cって、言われても……っ。んあっ!」
震える多輝の腰を押さえ、由梨佳は淡々と器具を前後させた。
「優一郎はあなたを抱かなかったの?」
今度は言い方を変えてみる。すると多輝は真っ赤になって肩越しに振り返った。その目が快感に潤んでいる。それを見た由梨佳の胸に奇妙な感覚が生まれた。あの頃、水輝は決してそんな目をしたことがない。由梨佳はあり得ないものでも見ている気分だった。
「えっと……そのっ、あ! 駄目っ! そんなにされたら……っ!」
グラフで表された多輝の機体の状態を眺めつつ、由梨佳は一つのことに思い至った。女性器と同様に反応している部位がある。それは多輝の女性器の後ろ、肛門部分だった。由梨佳が膣を刺激するたびにその部位の感覚が鋭くなっている。
「もしかして、後ろもチェックが必要かしら?」
ヒューマノイドの排泄口は人のそれとある意味では同様の用いられ方をする。時には腸そのものがなく、廃棄物の処理に女性器を使用することもあるが、それは稀な例だ。由梨佳は困ったように笑って多輝の肛門に手を伸ばした。より人らしく、という目的からなのか、多輝のその部位は他のヒューマノイドとは違って快楽を覚えるように設定されているらしい。
「あっ、だめ、そこは……」
由梨佳は弱々しく嫌がる多輝の肛門に指先をあてがった。軽く揉むとそれだけで膣から愛液が流れてくる。やはり感じているのだ。そう理解した由梨佳は頷いた。
「ここも性感帯になっているのね?」
膣から器具を引き抜く。由梨佳は愛液に塗れたそれを多輝の肛門にあてがった。快感を覚えているからか、多輝の肛門は拡きつつある。由梨佳はしっかりと肛門を指でほぐしてから静かに器具を挿入した。
「あっ、だめ、だめだってば、あぁっ!」
激しい声を上げながら多輝が腰を振る。同時に画面の中のグラフが一気に跳ね上がる。由梨佳は納得顔で頷きながら、ゆっくりと器具を動かした。
「優一郎とはアナルセックスをしてたのね?」
多輝の機体状態をチェックしながら由梨佳はそう告げた。だが多輝は既に快感に溺れているらしく、返答がない。由梨佳は困った顔で笑いながら多輝に挿入した器具を軽く押し出した。弾かれたように多輝が背を反らし、激しい声を上げる。
「あっ、んっ! だめっ、だめぇっ!!」
よがる多輝を見ているうちに由梨佳の胸にごく小さな欲求が生まれた。水輝の形をしているのも由梨佳の欲求をそそる原因だった。もっと虐めてみたらどうなるだろう。ささやかなその欲望を由梨佳は慌てて心の底に沈めた。
「抜くわよ」
静かに告げて器具を引く。ずるり、と音を立てて器具は肛門から抜けた。脱力した多輝がベッドに身体を横たえる。どうやら由梨佳の知らない内に多輝は達してしまったらしい。そのことに気付いて由梨佳は息をついて苦笑した。
汚れた多輝の機体を洗浄し、寝かしつける。全てのチェックを終えて由梨佳は客室を出た。ドアを閉めるとどっと疲れが押し寄せてくる。由梨佳は鞄を片手に立城の執務室に向かった。
そういえば一週間、してない。由梨佳はふとそんなことを思った。ヒューマノイドが性的快楽を得ないということは自殺行為に等しい。誰かに抱かれていない時、由梨佳は仕方なく自慰に耽った。確かにある程度の快感は得られるが、それでも満たされた気持ちにはなれない。由梨佳はため息をつきながら長い廊下を歩いていった。
広々とした屋敷の廊下には柔らかな光が点々と灯されている。淡い光の下を歩き、由梨佳は大きな扉の前にたどり着いた。立城がいつも使用している執務室だ。とにかくあの子の機体状態を報告しないと。そう思い直して由梨佳は執務室のドアをノックした。
「どうぞ」
僅かな間の後に穏やかな返答が聞こえてくる。由梨佳は静かにドアを開けて執務室に入ろうとした。だが室内は真っ暗で、部屋の主の姿は見えない。驚きに息を飲んだ由梨佳は慌てて執務室に駆け込んだ。
「立城さん?」
由梨佳は立城を呼びながら執務室の中を見回した。いつもと部屋の様子に違いはない。だが立城がいつも座っている執務机の前の椅子は空席だった。焦って周囲に視線を向ける。そして由梨佳は壁際にいる立城を見つけた。立城は壁にもたれて力なく床に座っている。
「立城さん、どうなさったんですか?」
慌てて由梨佳は立城に駆け寄ろうとした。だが近づく直前に立城が俯けていた顔を上げる。
「それ以上、近づかない方がいいですよ」
「えっ、あっ……」
一枚の絵画の下に座る立城の手前で由梨佳はぴたりと足を止めた。目を凝らすとだんだんと様子が見えてくる。薄い月光に包まれるようにして座った立城の服は乱れていた。シャツのボタンは全て開き、ズボンのジッパーは下がったままになっている。そして股間に屹立しているものを見止めた由梨佳は慌てて目を上げた。立城の口許にこびりついている血の跡を見止めて息を飲む。
今時、Cとか言うんだろうか……。
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チェックだけのはずが 3
というわけでエロシーンの続きです。
「さっき今日の作業が終わったばかりなんです」
薄い嗤いの浮かぶ立城の顔を由梨佳はじっと見つめた。立城が何をしているのかを由梨佳は知っていた。そうでなければあらゆる研究を協力して行うことは出来ない。今の立城は普段とは違って凶暴性を増しているのだ。そのことを自覚している故に立城は近づくな、と言っているのだ。
「大丈夫、なのですか?」
立城が何をしているのかは知っている。だが事後の立城の状態を見たのはこれが初めてだ。由梨佳はうろたえながらそう問い掛けた。すると立城が唇についた血を舐めて軽く笑う。
「あまり大丈夫じゃないかな」
歪んだ水輝の力を取り込むのだ。由梨佳は立城からそう説明を受けている。その作業の過程についても説明された。だから今の立城は普段とは違っているのだろう。だが由梨佳は今の立城の様子に混乱した。
「だったら、強がりはやめてください」
止められているにも関わらず、由梨佳はその場から動こうとした。立城を助け起こそうと思ったのだ。だがそんな由梨佳を見て立城が首を振る。
「今、近づいたら壊れるまで犯しますよ?」
乱暴な言葉が立城の口から出る。由梨佳は一瞬、足を止めかけたがすぐに立城の傍に近寄った。
「ちゃんと修理してくださいね」
笑顔でそう告げ、由梨佳は立城の足元に膝をついた。手にしていた鞄を床に置く。立城は最初、戸惑った顔をしていたが、やがて諦めたようにため息をついた。どうやらそれが返事だったようだ。由梨佳は笑って頷くと静かに頭を下げた。硬く屹立したペニスに唇を寄せる。
由梨佳が愛撫をはじめると、すぐに立城の呼吸に変化が現れた。水輝から吸い取った力が出口を求めて暴れているのだ。苦しそうな息を吐き出しつつ、立城が小さく呻く。由梨佳を壊すまいと思っているのだろう。立城は射精の衝動を懸命に我慢しているらしい。そのことに気付いた由梨佳は顔を上げて笑った。
「わたしの膣は壊れることを前提に作られているんです」
その方が膣を頑丈にするよりはるかに効率よく機能できる。由梨佳は笑顔でそう告げながらおもむろにスカートの中に手を入れた。下着を取って床に捨てる。立城はぼんやりとした眼差しでそんな由梨佳を見上げている。
「でも、壊れる時は痛いでしょう?」
膝立ちになった由梨佳の下腹部に立城は手を伸ばした。
「ええ。ですけど……とっても気持ちいいんです。だから気にしないでください」
由梨佳は笑顔でそう告げてから軽く身震いした。立城の指が局部に触れたのだ。いつもより大胆に立城が由梨佳を弄る。強い愛撫に由梨佳は思わず声を漏らした。
「あっ、んっ! きゃっ、ああっ!」
刺激を受けた女性器は敏感に反応する。膣口から零れた愛液を指に絡めつつ、立城は薄く笑った。
「本当だ。気持ち良さそうですね」
「んふ、ええ、とても、いいっ……です!」
執拗にクリトリスを攻められ、由梨佳は熱い息を漏らしながら震えた。立城は嗤いを浮かべて腰を上げた。快感に目を潤ませる由梨佳を壁に押し付ける。由梨佳はされるがままに片足を上げ、次に来る快感を待って目を閉じた。
「服を着たままというのもそそりますね」
濡れた陰部に唇を寄せ、立城は大胆に陰唇を舐めた。膣口からクリトリスにかけてを強く舌で弄られる。由梨佳は小さな悲鳴を上げて自分の胸に手を伸ばした。これまで我慢してきたものが一気に解放される。他者からの刺激はどんな自慰より快感を生む。由梨佳は胸の膨らみを強くつかみ、自分から快楽を引き出していった。
「あっ、もう……制御……できない!」
機体内に低い音がし始める。性的快楽を一定以上感じ取ると自然にシステムが立ち上がる。それは男性器を効率よく射精させるために行われる、膣壁運動の開始した音だった。恥ずかしさに由梨佳は真っ赤になった。思わず顔を背ける。だが立城は気にしていないのか、相変わらず由梨佳の愛液を啜っている。
「準備も整ったようですし、そろそろ入れますね」
「ああんっ! 早く、お願い!」
羞恥心より性的欲求の方が強い。由梨佳は小陰唇に指をかけて自分から膣口を開いてみせた。立城が無言で膣口にペニスをあてがう。腰をつかまれたと思った瞬間、由梨佳の膣にペニスが押し込まれた。
「あっああん! たつき……くん!」
由梨佳ははしたなく喘ぎながら立城の首に腕を回した。夢中で唇を合わせる。立城は激しく腰を前後させながら由梨佳の口づけに応えた。由梨佳の女性器が低い唸りを上げてペニスを扱く。
「ゆりちゃん。気持ちいいかい?」
耳元に囁きが聞こえる。由梨佳は立城の囁きに応えて淫らに腰を振った。
「すごい、すごいわ! あっ、駄目! 出力が、だめぇ! ああぁんぅ!」
既に女性器は由梨佳の意識から完全に離れたところで動いていた。膣壁が機械的に締まっていく。通常であれば痛みを感じる力で膣壁は締まっていた。だが立城はくすくすと嗤いながらその膣壁をペニスで押し退けていく。
「もっと奥を犯すよ? 覚悟はいい?」
由梨佳の腰に腰を密着させ、立城が静かに問う。由梨佳は甘い声を上げながら懸命に頷いた。
「はい……もっと、おねがい!」
そう返答した瞬間、激しい快楽に襲われる。勢いよく放たれた立城の精液が由梨佳の機体を恐ろしい勢いで侵食しているのだ。立城は低く笑って指先を舌で舐めた。いつもと違う、そんな立城の様子すら由梨佳の目には入っていなかった。由梨佳の感じている快楽のままに女性器が動く。
立城が手を伸ばす。由梨佳の胸に立城は手をあてがった。女性器は立城の激しい動きに耐え兼ねて壊れかけている。だが由梨佳は次に来る快楽を待って静かに目を閉じた。
ヒューマノイドとエロは切っても切れない間柄。
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廻る因果 1
今回の話はエロとバトルが多目です。
身体がだるい。多輝は薄く目を開けて疲れたため息をついた。チェックと称されてはいたが、はっきり言っていいなぶり者にされた気分だ。多輝はふて腐れた顔を枕に強く押し付けた。
窓からは嫌に明るい月の光が差し込んでいる。多輝はふと喉の渇きを覚えてベッドを降りた。冷蔵庫を開けるとミネラルウォータが入っていた。一本取り出して封を切る。数口ほど飲んでから多輝は目を上げた。
変な感じがする。多輝は眉をしかめて周囲を見回した。床に胡座をかいて座る多輝を白い月光が照らしている。周辺を見ても特に変わったことはない。多輝は肩を竦めて再びベッドに入ろうとした。
違和感が一層強くなる。多輝はベッドの縁にかけていた足を下ろし、無言で視線をずらした。この部屋ではない。壁の向こう、少し離れた場所に異変が起こっている。人にはあり得ない力を行使し、多輝は屋敷内を探った。厳しい眼差しをしたまま意識を集中する。
不意に多輝の感覚を何かが弾いた。多輝は俯けかけていた顔を上げ、鋭い視線でそちらを見た。ミネラルウォータの瓶を持ったまま歩き出す。伸ばした感覚の触手を辿り、多輝は足音を殺して廊下に出た。
感覚を弾いたのは正体不明の力だった。今まで感じたことのない奇妙な力がとある場所から発されている。その部屋は立城の執務室だ。過去にこの屋敷を訪れた時の記憶を頼りに多輝は黙々とその執務室を目指した。
やがて扉に辿り着く。多輝は目を細めてしばらく室内の様子に聞き耳を立てた。だが特に物音はしない。だが間違いなく奇妙な力はこの部屋から流れてきている。多輝はため息をついて目の前の扉をノックしようとした。だが扉に手が触れる寸前に思い止まる。ここは立城の私室とも呼べる執務室だ。もし本当にこの部屋から力が流れているなら立城に何らかの異変があったと見るべきだ。多輝は自分の考えに頷き、そっとドアノブに手を伸ばした。
薄く扉を開ける。多輝は暗い室内を目だけで探った。扉の隙間から様子を伺っていた多輝は、ある一点を見つめて目を見張った。白い何かが揺れている。そして多輝の耳に微かに音が聞こえてきた。人の息遣いだ。そして多輝が感じた力は間違いなくその白く揺れるものがある付近から流れてきている。
多輝は懸命に目を凝らして次に絶句した。白く揺れていたものは白衣だ。多輝は目を見張ったままその場に釘付けになった。白衣を揺らして由梨佳が犯されている。由梨佳には既に意識がないのだろう。揺すられて身体は動いてはいるが、全く反応していない。そして由梨佳の腰をつかんで揺すっているのはあろうことか立城だった。
嘘、だろ……?
多輝は心の中で力なくそう呟いた。由梨佳は優一郎と絵美佳の母親だ。そんな由梨佳と立城は交わっている。多輝は力なくその場にへたり込んだ。あまりのショックに身動き出来ない。早くここから立ち去りたいと思うのに、どうしても足が動かない。
だが心に受けたショックとは裏腹に、多輝の機体は如実に反応した。他人の性行為を覗き見しているという事実が欲望をそそる。多輝は自分でも気付かないうちに息を殺して食い入るように二人を見つめていた。
不意に立城が動きを止める。ゆっくりと腰を引き、手を離す。すると支えを失った由梨佳の身体は床に崩れ落ちてしまった。それを見下ろしていた立城が急にくすくすと笑い出す。多輝は機体を自分の腕で抱きしめて事の成り行きを見守っていた。
「そんなところで覗いていないで入っておいで」
急に視界が開ける。多輝の目の前にあった扉が勢いよく開いたのだ。驚きに力を抜いてしまった多輝の手から、ミネラルウォータの瓶が転がり落ちる。多輝は慌ててその場から駆け出そうとした。だがどうしても身体が動かない。そこで初めて気付く。何かが多輝の身体を拘束している。多輝は驚きに息を飲んで足元を見た。いつの間にか床から蔦が生えている。
「おいで」
立城が手招きをする。多輝の意志を無視して身体が動き始める。手足に絡みついた蔦が勝手に多輝の身体を動かしたのだ。多輝は焦って蔦を引き千切ろうとした。だが思うように手足が動かない。
立城は全裸に近い格好をしていた。申し訳程度に一枚だけシャツを羽織っている。床に打ち捨てられたズボンを見下ろし、多輝は歯軋りした。一体、何が起こっているのだろう。
「てめえ……。どういうつもりだ!?」
さっきまで由梨佳を犯していた余韻からか、立城のペニスは勃起しきっている。それを隠そうともせず、立城は笑って首を傾げた。そのままゆらりと腕を伸ばす。多輝は自分に伸びてきた手を避けようと、懸命に身体をよじった。だが蔦は頑として外れない。
「多輝を犯そうと思っているだけだよ」
さらりと告げて立城は多輝のセーターをつかんだ。驚く多輝を余所に立城が腕を振る。柔らかなセーターはあっという間に破れてしまった。
「てめえ! さては酔っ払っていやがるな!? いいかげん、正気に戻れ!」
違和感はまだ消えてはいない。多輝が感じた異質な力は立城から漂っていた。それまで感じたことのない残虐性に富んだ力……。多輝はその力に晒されているという恐怖を押し隠して必死で叫んだ。
「そうだよ。僕は酔っているんだ」
事もなげに肯定し、立城は多輝のセーターをつかみなおした。剥き出しになった多輝の肌に唇を這わせる。多輝はその感触に思わず小さな悲鳴を上げた。先ほどまで由梨佳に弄られていた感触がまだ機体には残っている。多輝の意志とは裏腹にその機体はあっけなく欲情していく。
「綺麗な身体だね。本当に生き写しだよ」
多輝は声を殺して顔を背けた。立城が言わんとしている意味は理解できない。だが、今の立城がいつもとは違うということだけは判る。きっと酔っているからだ。多輝は黙って目を逸らしていた。
唇で白い肌を辿っていく。立城の緩慢な愛撫に次第に多輝も平静ではいられなくなった。立城の唇が剥き出しになった乳房に辿り着く。
「そんなに気持ちいい? 僕は優一郎くんではないのに」
そう告げて立城は静かに乳房を両手に包んだ。指先でしこった乳首を撫でながら膨らみを揉む。立城の愛撫に耐えかね、多輝は声を上げた。
「なに、あっ、やめっ……あっ!」
甘い快感が身体を駆け抜ける。多輝は熱い息と共に声を上げ、首を仰け反らせた。伸びた白い首筋に立城が唇を落とす。
不意に多輝の背後で空気が揺れる。多輝は慌てて後ろを振り返った。床から巨木が生えている。多輝はその木に押し付けられるようにして立城の愛撫を受けた。立城の愛撫は執拗に多輝を攻める。
因果応報。
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廻る因果 2
一章はここで終わりです。
「同じようにしてあげるよ。きっと君も気持ちいいと思うから」
「んっ、やめろ! 正気に……ああっ!」
蔦が伸びて多輝を木の幹に拘束する。強制的に片足を上げられ、多輝のミニスカートは自然と腰までまくれ上がった。白い下着の底に愛液が染み込んでいる。嫌がる多輝を幹に押さえつけ、立城は嘲笑を浮かべて下着を弄った。
「だめだって、やっ! ああっ!」
「嫌がっている割にはここはこんなになっているよ」
立城は強く下着の底を擦り、多輝の反応を眺めている。多輝のクリトリスは下着越しに刺激されたことにより、硬くしこっていた。立城の指先が簡単にそのしこりを探り当てる。
「あふうっ!」
思わず漏らした甘い声に多輝自身が欲望をそそられる。下着の底はびっしょりに濡れた。下着の脇から零れた愛液が足を伝って流れ落ちる。その愛液を求めるように木の根は蠢き始めた。多輝の足に取り付いた幾本もの根が愛液を吸い込んでいく。
「んっ、だめだってば、やだ、やだぁ!」
間近で感じる異質な力と、これから来るだろう激しい快楽の予感に多輝は本気で恐怖した。だが立城が愛撫を止める気配はない。それどころか嫌がる多輝を嬲るように陰部をなぞる。
「卑猥な格好だね、多輝」
嘲笑を浮かべ、立城は多輝の下着の脇に指を滑り込ませた。指先を捻ってあっけなく下着を千切る。
「やだ……助けて、優一郎! たすけ……ああん!」
「無駄だよ。リンクは切ったと言っただろう?」
そう告げて立城は頭をじわじわと下げた。次の瞬間、多輝の身体に激しい快感の波が訪れる。立城がクリトリスを吸ったのだ。
「あっあああっ!」
それまで感じていた恐怖が一気に吹き飛ぶ。多輝は膣口から愛液を垂れ流しつつ激しい声を上げた。立城が嗤いながら多輝の愛液を啜る。その音が余計に多輝の快感を煽った。
「処女膜はきれいに残っているね。本当に同じ目に合わせて上げられそうだ」
するりと小陰唇の間から何かが入ってくる。立城は愛液に濡れた唇を舐め、多輝の膣口にゆっくりと指を差し込んでいた。膣内に感じる異物感に多輝の快感が一層増す。
「やあっ! あっ、ああん!」
立城はゆっくりと多輝を指で犯した。その指先に灯る力の片鱗が緩やかに多輝の機体内に入ってくる。多輝はこれまでにない快楽に溺れかけていた。だが得体の知れない不安が多輝の意識を急速に現実へと引き戻そうとする。その度に立城が愛撫を強くする。多輝は溜まらず悲鳴混じりの声を上げた。
「やめっ、そこは、駄目! あっ!」
慣れた快感が一気に襲ってくる。立城が多輝の肛門に手を伸ばしたのだ。膣壁と肛門を同時に嬲られる。そうしている立城の顔には残忍な笑みが浮かんでいた。正気であれば多輝も心底恐怖しただろう。だがこの時の多輝はそんな立城の様子を冷静に見ることが出来なかった。
「あううんっ! ゆう、いちろう……やだ、やだよう! あっ、やだぁ!!」
「こんなにしているのに今更嫌がるんじゃないよ。ほら、いい子だね」
そう言いながら立城が指を動かす。多輝は弾かれたように身体を反らした。立城が肛門に指をねじ込んだのだ。乱暴とも思える愛撫がそれまでにない快感を生む。多輝は僅かに身体を震わせ、半ば反射的に腰を揺らした。
「やだ……あっ、あぁ! やだっ、あんっ、ふう……やだぁ!!」
膣と直腸に激しく指が出入りする。多輝は淫らに腰を振りながら喘ぎ声を上げた。記憶がかすんで遠くなる。それが立城の仕業であることにこの時の多輝は気付かなかった。
「君の記憶は相変わらず美味しいね。僕でさえ眩暈がするよ」
「んっ! あっ、いいっ、あっ! あふん!」
静かな立城の声を激しい多輝の声がかき消す。立城は嗤って膣から指を抜いた。しとどに溢れた愛液を口に運び、目を細める。そしておもむろに手をペニスにあてがった。
「多輝」
多輝の耳元に名前を囁きながら、立城はゆっくりと腰を進めた。いきり立ったペニスが多輝の狭い膣を押しひろげていく。
「んふっ、やあっ!」
強烈な異物感が強い快感を生む。多輝は涙を流しながら激しく頭を振った。その瞬間、長い髪が根元から一気に色を変える。瞬時にして多輝の髪は紺色へと染まっていった。
「後ろも後でゆっくり犯してあげるよ」
「あっ、あっ! ああっ、あああっ!!」
静かな囁きと共に立城が腰を前後させる。声を上げた多輝の唇を塞ぎ、立城は膣の奥を突き上げた。水音が激しくなり、多輝の膣口から鮮やかに赤い液体が散る。立城は激しく多輝を犯しながら、同時に肛門を指で突いた。
何もかもが判らなくなる。多輝は甘い声を上げながら快楽の頂点へとのぼり始めていた。呼吸が荒くなる。
「んっ、ああっ! ああんっ! くふうああん!」
それはずっと前に望んでいたことだった。多輝は心の底から立城を欲しいと願い、結局はだがその願いはかなわなかった。多輝の記憶はゆっくりと昔に遡っていた。絶頂を迎えながら思わずその名を呼ぶ。すると立城がくすくすと笑い出した。残忍な笑みを浮かべて多輝をペニスで突き上げる。
「そんなに僕が愛しい? じゃあ、いいものを注いであげよう」
そう告げて立城は多輝の膣内に一気に射精した。歪んだ力の欠片が多輝の機体に注がれる。防壁も何もない多輝の意識はあっという間に力に晒された。
「いや、あっあっああああんっ!!」
「まだ終わってはいないよ」
口許には残忍な笑みがある。立城は薄く嗤って多輝の足に手をかけた。辛うじて地面についていた多輝の右の腿に手を滑らせる。立城がペニスを膣から抜くと、愛液と共に真っ赤な液体が零れて落ちた。その液体を求めて木の根が蠢く。だが多輝の膣からは一滴も精液は漏れなかった。立城の精液は力に姿を変え、多輝の意識に直接入り込んでしまったのだ。
片足を手で、もう片方の足を木の根に支えられ、多輝は両足を上げた格好になった。淫らに濡れる小陰唇の下でもう一つの局所がひくついている。
「ここも犯してあげるよ。欲しかっただろう?」
くすくすと笑いながら立城が腰を押し進める。拡げられた肛門に立城のペニスが深々と突き立てられていく。その感覚に多輝は掠れた声を上げた。
「あんふっ! ゆう……いち、ろう……」
多輝がそう口にした瞬間、ぴたりと立城が動きを止めた。だがまたすぐに腰を進め始める。直腸の奥に異物をねじ込まれる感覚が、多輝の消えた筈の記憶を呼び覚ます。多輝は掠れ声で何度も優一郎を呼んだ。
「優一郎くんに可愛がってもらっているんだね。でもすぐに忘れさせてあげるから」
立城は静かな笑みを浮かべて多輝に腰を寄せた。深いところにペニスを突き入れられ、多輝は激しい声を上げた。掠れた声が執務室に響く。膣から赤い液体を零しながら多輝はそれからしばらく立城に犯され続けていた。
立城のキャラがブレブレなのは仕様です。
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二章
スペシャルプリンパフェの横綱盛りについて 1
あ、エロシーンはありません。
久しぶりに帰ってみると家の中はもぬけの殻だった。絵美佳はあの由梨佳が家を空けることがあるなど、随分と珍しいと思いつつ床についた。だが目覚めてもやはり由梨佳はいない。怪訝に思ったが、絵美佳は一人きりで学校に行く準備を整えて家を出た。
父である総一郎は絵美佳が物心ついた時から家を空けがちだった。総一郎を心から好いていた絵美佳はそのことを寂しく感じていた。だが家にいれば優一郎がいる。絵美佳は弟である優一郎を総一郎の次に好いていた。けれどその優一郎も最近は家に帰っていないようだ。時折、学校でその姿は見かけるが、特に話し掛けるきっかけもなく、最近では口を利くことすら稀だ。
そして今は由梨佳でさえもが家を空けている。絵美佳は顔をしかめて大股で学校へ歩いていた。歩きながら考える絵美佳の顔が怒りに歪む。
「これがいわゆる家庭崩壊ってやつね!」
自分のことは棚に上げ、絵美佳は憤然とそう叫んだ。道行く人々が突然の大声に驚いたように振り返る。だが彼らは絵美佳の姿を見て取ると、なんだまたか、という顔で過ぎて行く。自覚は全くないが、絵美佳はこの街ではちょっとした有名人なのだ。それ故に人々も絵美佳の奇行を見て見ぬ振りをする。それは清陵高校の教師も同じだ。
だがその日の朝は少々勝手が違っていた。憤然と歩く絵美佳を誰かが呼び止めたのだ。
「やっほー、絵美佳ちゃん。今朝も元気そうだねえ」
軽い口調でそう言いながら一人の男が近づいてくる。絵美佳は怒りの表情のままで足を止めた。きつい眼差しでその男を睨みつける。見知らぬ男だ。少なくとも今まで知り合った覚えはない。絵美佳は二十代に見えるその男のことを試しに思い出してみた。だが、記憶のどこを探ってもやっぱり男のことはない。
「……。見なかったことにしよう」
絵美佳はすっと男の脇を抜けてそう呟いた。男が慌てて後ろから追ってくる。
「そんなっ! ちょっと待ってよ、絵美佳ちゃあん!」
情けない声を発しながら男が懸命に絵美佳を追う。絵美佳は三度目に男が叫んだところで仕方なく足を止めた。始業まであと十分。校門まで全力で走っても十五分はかかる。どうせ遅れついでだ。そんな思いから絵美佳は深く考えることもなく男を振り返った。
男は絵美佳の目の前まで走ってきて肩で息をついた。それほど急いで歩いていたつもりはない。絵美佳は訝りながら男に訊ねた。
「何の用?」
公道で名前を大きな声で呼ばわってくれたのだ。それ相応の理由があるだろう。絵美佳は厳しい目で男を睨みつけたまま腕組みをした。男は肩で息をつきながら顔を上げる。だらしのない笑みが浮かんではいたが、男の顔の作りは絵美佳の美意識から外れてはいない。
「えっとね、絵美佳ちゃんの話をちょっと聞きたくて……あ、オレは木崎順って言うんだ。順って呼んでね」
逃げられてなるものか、と思ったのか順は早口でそうまくし立てた。その勢いに思わず絵美佳は閉口し、続いて呆れた顔をした。
「きざき? あんた、もしかして巴の父親?」
「あ、そっか。絵美佳ちゃんって巴ちゃんと仲がいいんだ?」
どうやら予想は外れたらしい。絵美佳はふうん、と呟いてとりあえず順の質問に頷いた。親にしては若すぎるしね。絵美佳は胸の内でそう呟いて順をまじまじと観察した。
何となくどこかで見た気がするのは気のせいだろうか。絵美佳はうろんな眼差しで順を見つめていた。茶色の髪がぱらぱらと額にかかっている。前髪に隠れかけた目は焦げ茶色だ。手足もまあまあ長い方か。絵美佳は順の頭からつま先までを眺め回した。対照的に順は絵美佳の目から視線を外さない。
「話、聞かせてくれない? そんな難しい質問しないしさ。そこらで茶でも飲みながら」
そう言いながら順はにっこりと笑ってみせた。
「巴はあたしのだから、話すことなんかないわ」
きっぱりとそう言いきって絵美佳は再び歩き出した。今更、返せと言われても無理だ。絵美佳は順が何かを言う前にそう言い切った。今度は焦ったような声を上げて順が駆け寄ってくる。
「い、いや、別にオレは巴ちゃんを返せって言いたかったんじゃなくてさ。ほら、こないだのロボットのかけっこについてのインタビューをだね」
そう言われた途端、絵美佳はぴたりと足を止めた。横に並んでいた順が唐突に立ち止まった絵美佳に驚いて急ブレーキをかける。つんのめるようにして足をとめた順が慌てて振り返る。絵美佳はそんな順に低い笑い声を返した。
「あなた巴の親類か何かなんでしょう? 巴に聞けばいいじゃない」
順は巴と知り合いだと自ら肯定したのだ。それならば巴に話を聞けば済むことだ。絵美佳は勝ち誇ったように腰に手を当ててそう言い放った。だが順は悪びれるどころか困ったように笑って頭をかく。
「いやあ。オレ、巴ちゃんと面識はないしさあ」
「ふうん。とりあえず、信じてあげるわ」
嘘かどうかなんて巴に聞けば直ぐにわかるし。絵美佳が小声でそう付け足すと順がえっ、と不思議そうな顔になる。絵美佳は何でもない、と手を振ってそれで、と切り返した。
「あ、そうそう。こないだのかけっこに出てたあのロボットさ。絵美佳ちゃんが作ったの?」
早速、と順はメモ帳とペンを取り出した。今時、端末を持ち歩かないなんて珍しい。絵美佳は全く別のことに感心しながら無言で頷いた。すると順がやっぱり、と歓声を上げる。
「すっごいかっこよかったじゃん、あれ。デザインも全部、絵美佳ちゃん一人で?」
楽しそうに告げる順にため息をつき、絵美佳は鞄を持たない方の手を差し出した。意味を理解できなかったのだろう。順が不思議そうにその手を見つめる。
「また、その話か。わかったわ。喫茶店、付き合ってあげるから、はい」
そう言って絵美佳は空の手を軽く上下に振った。順が困ったように手と絵美佳の顔とを見比べる。おずおずと手を出した順にその手を握られ、絵美佳は怒った顔で手を振り解いた。
だから色々名乗るから後々面倒くさいことに……w
あ、ここから二章です。
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スペシャルプリンパフェの横綱盛りについて 2
「取材料は前払いよ!」
改めて順に手を突き出す。すると順はようやく理解した、という顔で手を叩いた。それから困ったような顔になる。
「でも、オレ、貧乏ライターだからなあ……そんなに出せないかも」
そう言って順は渋々とジーンズの後ろポケットから財布を抜いた。それを見た絵美佳はきらり、と目を光らせた。貧乏、と言っている割に順の持つ財布は高価な皮製のそれと見抜いたのだ。
「貧乏? 財布も、腕時計も、その手帳も、けっこうなブランド品じゃない?」
財布を開きかけていた順がぴたりと動きを止めて目を上げる。それから順は空笑いした。
「あ、あはは。ばれちゃった?」
順はしばらくごまかすように笑っていたが、絵美佳が腕組みをしてじろりと睨むと大人しくなった。あーあ、と落胆のため息をついて財布の中身を引っ張り出す。それは札束などではなかった。既に切られた小切手だったのだ。
「えっとさ。後で言おうと思ってたんだけど、オレ、ちょっと絵美佳ちゃんに頼みたいことがあるんだよね」
そう言いながら順はさらりと小切手に何事かを書き込んだ。万年筆のインクを息を吐きかけて乾かしている。まさかこんな往来で小切手のやり取りをしているとは思わないのだろう。道行く人が足を止める気配はない。
「さっさとそれ出してれば話は早かったのに。さあ、商談よ!」
絵美佳は素早く順の手を取った。慌てた声を上げる順を意気揚々と引っ張っていく。絵美佳は胸を張って手近な喫茶店を探した。引っ張られる順が困った素振りをしていたが、絵美佳は完全にそれを無視した。
手近な喫茶店は五軒あった。絵美佳はその中から美味い紅茶を入れてくれる店を選んでドアをくぐった。どうせ会計は順持ちなのだ。それなら美味いものを口に入れなければ損だ。絵美佳の内心での決め付けを知ってか知らずか、順が恐る恐ると言った態で後からついてくる。
店内は静かだった。フロアには静かなクラシック音楽が流れ、客たちもそれぞれがゆっくりとした時間を過ごしている。新聞を読むサラリーマン、編物をしている主婦らしき女性、そして仲の良さそうな老夫婦。絵美佳はだがそんなのんびりとした時間を満喫している人々を見もしなかった。どん、と一つのテーブルについて正面に順を座らせる。
「あ、あの、絵美佳ちゃん? この店、ちょっとまずいんじゃあ……?」
紅茶の値段が気に入らないのか。メニューをがっつりと覗き込んでいた絵美佳は視線に怒りを込めて順を睨んだ。だが順は絵美佳とは違い、メニューを見てはいない。うろたえた様子で客たちを見回している。
「失礼なこと言わないの! ここのプリンパフェはさいっこーに美味しいんだから!」
「いや、あのね? そういう意味じゃなくて……あ、ブレンドティください」
いつの間にかウェイターが近づいている。絵美佳よりも早く、順は注文していた。絵美佳もメニューから顔を上げてウェイターを見上げる。
「スペシャルプリンパフェの横綱盛りと、トロピカルティ」
「横綱……。それはそれはとてもとても強そうな名前だねえ……」
感心したような順の言葉にウェイターが困ったように笑う。それから静かにテーブルから離れて行った。
「当たり前じゃない! あの名横綱、大月丸がここの常連だったころ、いつも頼んでいた特製パフェが横綱盛りの由来なのよ!」
絵美佳は真面目な顔でパフェの説明を始めた。乗っている果物の特徴、クリームの産地、砕いたコーンフレークの割合などについて語り尽くした頃、問題のパフェが運ばれてきた。順は何故かテーブルに突っ伏して低く呻いている。
「ああ、絵美佳ちゃんがそのパフェにただならぬ思い入れをしていることはよく判ったよ。だから頼むからもう少し声を落としてくんない?」
殆ど泣きそうな顔で順が告げる。絵美佳は唇を尖らせてパフェのグラスにスプーンを突っ込んだ。零れ落ちんばかりに盛られたアイスクリームを一さじすくって口に運ぶ。程よい甘味を堪能した後、絵美佳は膨れ面で応えた。
「あんたがへんな茶々を入れるからじゃない……」
大人しく忠告に従って小声で告げる。すると順はほっとしたように笑みを浮かべた。そこで絵美佳はあら、と手を止めた。わざとらしい笑い方は好きになれないが、今のような笑みを浮かべると順もまんざらではなく見える。まじまじと順を観察しつつ、絵美佳は目の前のご馳走を口に運んだ。
「ロボットのかけっこについて聞かせてくれるよね?」
カップを傾けつつ順が促す。さじを口に咥えたまま、絵美佳はうーん、と小さく唸った。キウイの酸味が甘味いっぱいだった口の中で弾けて溶ける。
「具体的な質問をどうぞ」
これまでのインタビュアーに対するのと同じ口調で絵美佳は告げた。何度も同じ質問をされている内に身に着いてしまった対応だ。すると早速、と順がメモ帳を取り出した。ページをめくって目を上げる。
「えー、と。生徒会長の要ちゃんとはこれで何度目の対決? あ、ロボットでのってことね」
「初めてよ。ただ、要が言うには過去の因縁とやらがあるみたいだけど」
絵美佳はパフェを崩しながら即答した。迷うような質問ではない。それにこれまでに何度も聞かされた質問でもある。すると順はご丁寧に何事かをメモ帳に書き付けた。一体、こんな質問がどれだけ役に立つのだろう。絵美佳は不思議な気分でさりげなく順の手元を見た。
メモ帳の表紙に木村重工の印があるんだけどなあ。ぼんやりとそんなことを考える。
「えーっと。それじゃ、今回対決した例の最新鋭機についてだけど」
要するに聞きたいのは相手方のロボットのスペックか。それともこちらのロボットの構造そのものに興味を持ったのか。どのみちまともに応えていたらきりのない話だ。絵美佳はため息をついてスプーンの先で順を指した。
「岩手島駿河重工のHA103ASよ。HA103Aの改良型。性能については、岩手島駿河重工さんに聞いてください」
「えー。ケチ」
順が何気なく漏らした言葉に絵美佳はぴたりと手を止めた。それまで揺れていたスプーンのさじ部分が動きを止める。
石○島播○重工業、みたいな名前にしたかった……気が。
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スペシャルプリンパフェの横綱盛りについて 3
「少なくとも木村のKI77T7いや、最新型はT8か。あれよりは全ての面でHA103Aのほうが上ね」
「がーん」
力なく告げた順を横目に絵美佳は再びスプーンを動かし始めた。ストロベリーとバニラとチョコレートの三種のアイスをそれぞれ口に入れる。心地のよい冷たさと甘さが口いっぱいに広がった。
「でもさあ。最新型にはそれまでにない機能をつけてあるじゃん。ほら、追尾システムなんてけっこういい出来だと思うんだけど……」
いつの間にか話がどんどん別の方向へと進んでいる。だが絵美佳はそれを気に留めてはいなかった。元々、主旨が一環していようがいまいが、自分に使える情報が手に入れられれば問題はないのだ。ちらり、と目だけを上げて絵美佳は手にしたスプーン一杯に生クリームをすくった。
「索敵能力が低いから有効に見えるだけじゃない。変な追加機能で誤魔化す前に、基本性能をアップすべきだと思うのよね」
口許についた生クリームを舌で舐め取る。不服そうな順を余所に絵美佳は再び生クリームを口に運んだ。さりげなく一緒にすくっておいたパイナップルとほどよく混ざり、絶妙な味が口に広がる。
「基本性能ってさあ……。まあ、昔の技術にケチつける気はないけど、随分と前に買い取ったもんを地道に使ってるからなあ、うちは」
そう言いながら渋い顔で順がカップを傾ける。絵美佳はぴくりと眉を上げてスプーンの動きを止めた。ずずず、と茶を啜る順を睨むように見る。木村重工の作品には謎が未だに多い。外部に殆ど情報が漏れてこないのだ。
「だからと言ってカタログ受けする機能で客を誤魔化して売っちゃえばOKなんて商売のやり方は感心しないわね」
「だってそうでもしないと買ってくんないんだもん」
子供よろしく唇を尖らせて順がぼやく。絵美佳はため息をついてスプーンで順を指した。順はそのスプーンの先をちらりと見たが、まだふて腐れたままだ。
「基本性能は買い取った理論を元に組み上げられた、言わばウチの財産だそうで? そうそう簡単に変えられるもんじゃないんだとさ。当の開発に当たってるやつらの頭が固いこと固いこと」
半ば愚痴なのだろう。順の口調は苦々しい。絵美佳は顔をしかめてスプーンを下ろした。
「セキュリティを重視し過ぎなんじゃない? 何事も行き過ぎると害になるって典型例ね。もっと風通しよくしないと、成果はでないわよ」
「そりゃそうなんだけどねえ……」
順が頭をかきながら応える。その姿に絵美佳はため息をついた。やれやれ、と肩を竦めて再びパフェを切り崩しにかかる。
「何でもさ。総一郎には負けたくないって言ってるやつがいてさあ」
小声でのぼやきを絵美佳の耳はきっちりとキャッチした。眉を跳ね上げてスプーンを置く。
「パパはまあ、セキュリティの概念自体理解してないっていうか、なーんも隠さないから。そもそも勝つとか負けるとかあんま、考えてないし」
「だろうねえ。傍から見てもそうだろうなあと思うんだけどさ」
それから順はアロハシャツのポケットを探って何かを取り出した。テーブルの上を一枚の紙が滑る。絵美佳は指先でそれを受け止めた。オフホワイトの紙に横文字が印刷されている。裏返すと縦書きで名前が記されていた。
「吉良克俊、三十五歳。木村重工GPHカンパニー開発部部長。未婚」
絵美佳が目で読む前に順が告げる。絵美佳は目を細めて名刺を見下ろしていた。
「親戚付き合いも全然だって話だったから、君も知らないかもね。カレ、吉良総一郎の従兄弟なんだってさ」
昔、幼い頃に一度だけ親戚一同が集まったことがある。ちょうど、正月だったこともあり、絵美佳は幾人もの大人にお年玉を貰った。そんな中でただ一人、奇妙なお年玉をくれた大人がいた。愛らしいお年玉袋の中にはたった一枚きりの紙切れが入っていた。
滅。
そんな一言を書いて寄越した相手に絵美佳は憤然と殴りかかった記憶がある。絵美佳は口許に引きつった笑いを浮かべて名刺から顔を上げた。
「そーいえば、そんな奴いたっけ? もしかして、あのデブ?」
「今は太ってはないと思うけど……まあ、きっと多分、君の想像した男かなあ」
困ったように目を逸らして順が頭をかく。絵美佳は指先で名刺を弾いた。軽い名刺は宙を舞ってテーブルの下に落ちる。だが順はその動きを目で追うだけで拾おうとはしなかった。
「で、こいつがどうしたの?」
「とりあえずさあ。絵美佳ちゃんには悪いけど、次の対戦引き受けてくんない?」
意味が判らない。絵美佳は怪訝な顔で順を見つめつつもスプーンを手にした。残っていたパフェを口に運びながら目で促す。
「要ちゃんが次に持ち出してくるロボット、そいつの責任で製作されることになってるんだけど」
「次って、あのバカ、まだ懲りてないわけ?」
ずず、と茶を啜って順は続けた。
「出来れば絵美佳ちゃんにばーんと派手にやっつけて欲しいんだよね」
「必要経費プラス、これだけもらうわ」
絵美佳は即座に切り返して指を三本立ててみせた。すると明らかに順が困った顔になる。えー、と不服そうな声を上げるが絵美佳は鋭い視線だけでその声を抑え込んだ。
「まあ、いっかあ。その代わり開発過程の取材はさせてよね。あ、金額でかすぎるから振込みにしよっか?」
順は財布を探って先ほどの小切手を出した。それを絵美佳の前に滑らせる。絵美佳は素早くそれを懐に収め、順が握っていたメモ帳を奪い取った。
「確かに、手渡しは危険ね。ちょっとメモ貸しなさい」
絵美佳はさっさと口座番号を手帳に書き込んだ。いつも使用している個人の口座だ。つき返したメモ帳を見た順が苦笑する。
「ここへお願い」
「いいけど、出来ればあと二つほど別口座書いてくんない?」
そう言って順がにっこりと笑う。絵美佳は訝りの眼差しで順を見た。だが順はにっこりと笑ったまま悪びれることなく続ける。
「金の出所がバレたら困るじゃん。もしもの時のために口座は分けておいた方がいいと思うよ?」
「そりゃそうね。それじゃあ、これから銀行まわるから付き合って」
絵美佳は急いでパフェを片付けにかかった。順は相変わらずにやにやと笑いながらそんな絵美佳を見ている。心の中で様々なことを計算しつつ、絵美佳はものすごい勢いでパフェを食べ終わった。
優一郎と絵美佳にスポンサーがそれぞれつきましたw
……という感じです。
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レンズ越しの蜜時
甘い声が響く。官能の声を上げながら指先が白い肌を辿る。たどり着いた翳りを分け、指がその奥へと消えていく。小刻みに上下する指の動きに目を細め、優一郎は静かに息をついた。
大きく開いた足の間で指が忙しなく動く。赤く勃起したクリトリスが指の隙間に見え、優一郎は思わず熱い吐息を漏らした。いつ見ても素晴らしい出来だ。自然と優一郎の股間は膨らみ、服の中でペニスが熱く屹立する。
次第に呼吸が速くなる。一際高い声が上がり、それまでクリトリスだけを攻めていた指がするりと動く。愛液の満ちた膣の中に指が入ると、それだけで陰部がぐっしょりと濡れる。優一郎はため息をついて食い入るようにその画面を見つめた。
いつ見ても飽きない。画面の中で悶えているのは優一郎の母、由梨佳だった。由梨佳は白衣を着たまま、研究室の一室で淫らに自慰をしているのだ。優一郎が仕掛けた隠しカメラの存在にも気付いた様子はない。
その映像は数日前に録画されたものだ。優一郎はこれまで何度もチェックした映像をじっと見つめていた。淫らな声を聞くだけで射精してしまいそうになる。優一郎は苦しげな表情を浮かべて震える手を股間に伸ばした。
二日前、それまで順調に行われていた多輝の機体のログの採取が突如出来なくなった。その原因も優一郎にはよく判っていた。だが今、手元にいない多輝の機体を優一郎が直接にチェックする訳にはいかない。優一郎は憂鬱な気分を解消するためにとっておきの映像を引っ張り出したのだ。
喘ぎ声を上げながら由梨佳が膣を攻める。それを見ながら優一郎はズボンのジッパーを下げた。画面を食い入るように見つめながら自慰を始める。熱く屹立したペニスを指で巧みに愛撫しつつ、優一郎はちらりと視線を動かした。
ここは研究所の更に下、地下三階に作られた優一郎の専用スペースだ。優一郎以外にここに入ってくる者はない。恋人である斎姫ですらここの存在を知らないのだ。並ぶ実験台の上には作りかけのヒューマノイドの機体が寝かされている。優一郎は並ぶ機体を順繰りに眺め、再度画面に目を戻した。目の前にある端末画面の中で由梨佳が激しい声を上げる。
中学生の頃から優一郎は母親である由梨佳に欲情するようになった。実際に触れてみたいと何度も思ったが、結局のところはその姿を見るだけの日々が続いた。由梨佳は人ではない。だからこそ優一郎は由梨佳への情欲をヒューマノイドたちに注ぐようになった。
機械の女性器に欲情し、それでなければ抱きたいとは思わない。そんな自分のことを一時は悩んでいたこともある。だが、優一郎はとある夏にその悩みを解消することが出来た。斎姫という人形の姫を手に入れることが出来たからだ。彼女は優一郎なしでは己を維持することが出来ない。優一郎の意志のままに欲情し、機械的な痴態を晒すことで更に快楽を得る。そして優一郎は斎姫を手に入れることで心の平穏をようやく手に入れたのだ。
だが時折、心に言いようのない苛立ちが訪れる。たとえヒューマノイドの機体を幾つも作っても、斎姫と激しい情欲に溺れても、それは代替行為でしかない。結局のところ、あの機体を抱きたいとどうしても思ってしまうのだ。
母さん。優一郎はそう呟きながら強くペニスを握った。画面の中の由梨佳は優一郎の欲情を煽るように淫らな痴態を晒している。機械仕掛けの女性器を見つめ、優一郎は荒い息をつきながらペニスを扱いた。
あれから何体かのヒューマノイドを作った。そして一番最近に作った機体のことを優一郎は思い出してみた。人と殆ど変わりない女性器を与え、美しい肢体を模し、それでいてなお精神的には男性なのだと言い張っていたあの機体は、今は手元にはいない。何度も交わるうちに優一郎の名を呼ぶようにはなったが、それでも優一郎はあの機体を手に入れたとはどうしても思えなかった。
『あっ、総一郎さん! いいっ! いいです!』
画面の中で由梨佳が叫ぶ。優一郎はその声に手の動きを激しくした。衝動が一気に強くなり、腰に鈍い痛みのようなものが走る。
「うっ……母さん……っ!」
ペニスの先から白い精液が迸る。優一郎は左の手に握っていたビーカーの中に音を立てて射精した。荒い息をつきながら何度も射精する。
やがて優一郎はふらりと身体を起こして椅子から立ち上がった。ビーカーの底には必要量の精液が溜まっている。机にビーカーを置き、優一郎は乱れた服を整えた。ペニスの先に残っていた精液をきれいに拭き取る。
ちらりと画面に目をやる。由梨佳は激しい快楽に溺れ、まだ自慰を続けている。この先は見なくても知っている。自慰をし過ぎた由梨佳は唐突に動きを止める。機体が負荷に耐えられずに壊れてしまうのだ。
優一郎は黙って席を離れた。ビーカーを片手に実験台に戻る。そこには一体の美しいヒューマノイドが横たえられていた。
あ、機械ですけど機械が書けてないのでごめんなさい。・゚・(ノД`)・゚・。
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不倫? 昔の幻影? 1
秋の空は遠い。ぼんやりとそれを眺めながら順は唇に指を当てた。窓の外に向かって指笛を吹く。高い音が空に響くとどこからともなく小鳥が飛んでくる。順はソファから腰を上げてバルコニーに出た。手を伸ばし、指を開く。あらかじめ握っておいたパンくずを求めて小鳥が順の手の先に集まった。
薄い雲が空をゆっくりと流れていく。順はジャケットの内ポケットを探り、一枚の名刺を取り出した。金色の飾り文字で記された社名を眺めて苦笑する。肩越しに指で弾くと、名刺は鋭く空気を切って飛んだ。順の背後、部屋の壁に狙い違わず突き刺さる。それを取り上げたのは一人の女性だった。
「引っ掛けるにしてももう少しマシな方法はなかったもんかね?」
小さく笑いながら告げる。順はそう言いながらゆっくりと振り返った。バルコニーの手すりに背中をもたせかけ、部屋の中に佇む女性に視線を流す。女性は手にした名刺を指先で軽く裂いた。
「あの頃は私もあなたのことをよく存じませんでしたから」
そう応えたのは栄子だった。順は苦笑して手の中のパンくずを叩いて落とした。小鳥が一斉にパンくずを求めて順の身体から飛び降りる。よいしょ、と掛け声をかけて順は部屋の中に戻った。
数ヶ月ほど前のことだった。とある事件の後、順の元には最愛の妹である都子が戻ってきた。だがその件を差し引いても順の食らった痛手は少なくなかった。警備システムのダウン、情報の流出、そして最悪だったのが秘宝の紛失だった。どさくさに紛れて持っていかれた宝は門外不出のもので、木村にとってはなくてはならないものだったのだ。
結果的にその秘宝は吉良瀬に流れたという。だがそれすら順にとっては確認できることではなかった。正面切って返せと言える類のものではなかったからだ。
「今は知ってるって言いたい? オレのことを」
皮肉に笑いながら順は栄子の目の前に立った。栄子が三十を過ぎても尚、若々しさの溢れる肉体を持っているのには理由がある。近頃、若返った気がするわよね、というのが栄子が所属する部署の女子社員の証言だ。現に栄子はここ数日で随分と若さを取り戻している。
「もちろん、私の存じない部分も多々あるでしょうけれど」
ころころと笑いながら栄子がちらりと視線を流す。さりげなく順の身体を見つめる栄子の目には、数日前までは感じることの出来なかった色香があった。順は苦笑してその視線を避けると先ほど座っていたソファに舞い戻った。
木村の血は順で頭打ちになっている。その理由は簡単だ。順が子供を作らないからだ。そして木村の分家は順が認める血ではない。それは単純に木村の姓を継ぐだけの出来そこないだからだ。
都子という妹については順の頭の中では全くの別枠になっている。例えば都子が子供を作ったとしても、それは正式に木村の後継ぎに出来る存在にはならない。木村の頭を支える柱……戦うことだけが生きる術となる。それが木村が吉良瀬とずっと張り合ってこれた理由でもある。
財閥と財閥の戦い方ってのとはちょっと違ってるかな。順は苦笑して胸の中で呟いた。
「まずは経過報告を聞こうか。あ、そうそう。その前にお茶なんていれてくれると嬉しいかなあ」
順の言葉を受けて栄子が深々と礼をする。ドアの向こうに消える栄子の背中を見送り、次に順は床に目を落とした。栄子の捨てた名刺の残骸を見つめる。順が指を鳴らすと紙片は宙を舞い、やがて順の差し出した手の中に集まった。
栄子はその若さで吉良瀬財閥系統の会社を幾つか所有している。今現在、栄子が重役を務めている会社も吉良瀬系列会社だ。中小企業とは言っても幾つも所有していればそれだけ所得も出る。順は手の中に名刺の残骸を握り締めて小さく笑った。次に指を開くと名刺は元の姿に戻っていた。
K2インタラクティブ株式会社 代表取締役 如月栄子
一番最初、順が栄子に出会った時に渡された名刺がこれだ。会社名は順もよく知るK2インタラクティブ株式会社のそれだった。栄子はインタビューを申し込んだ順を木村のスパイと睨み、牽制のためにこの名刺を渡したのだ。だが順は栄子の素性も知り尽くしていた。最初、順は騙された振りをして木村の情報を栄子に流した。が、それらの情報はどれも微妙に細工してあり、結果的には何の役にも立たないように作られていた。だが、それが作り物だと栄子が気付いた頃にはもう手遅れだった。順は栄子の取り仕切る会社に潜り込み、次々に女子社員を手にかけていたのだ。
気付けば泥沼に嵌っていたのは栄子だった。順にいいように操られた女子社員たちは重要な情報をのきなみ漏らしてしまっていたのだ。そして栄子は栄子で順の誘惑に打ち勝てず、その身体を差し出してしまった。
最初はためらいがちに、やがては大胆に栄子は順と交わった。そしてその度に栄子の身体は若い頃の艶を取り戻す。
「まあね。オレもただで情報をもらう気はなかったしねぇ」
数日前のことを思い出して順は笑った。肩越しに見返るとバルコニーにはまだ小鳥がとまっていた。順は再び腰を上げてバルコニーに出た。柔らかな木の色は天然のそれだ。手すりにもたれて順は宙に手を伸ばした。一瞬で手の中がパンくずで一杯になる。小鳥は一斉に順の手に群がった。笑いながら小鳥と戯れる。
ほどなく部屋に栄子が戻ってきた。順は三度目の餌を小鳥に与えてからバルコニーを降りた。部屋にはアップルティの香りが漂っている。
「娘がクッキーを分けてくれたので持ってきてみましたの。いかが?」
順は出された皿からクッキーを一つだけ摘み上げた。口に運ぶと焼きたてのいい香りがする。クッキーの生地には砕いたアーモンドが混ざっていた。
「けっこう美味いよ、これ。要ちゃんの手作り?」
「ええ。娘が明日、お友達に持って行くとかで作っておりますの」
「でもこれ、栄子さんは食べない方がいいよ。睡眠薬が入ってるから」
即座に順はそう切り返した。舌先に人工物の味が残っている。まあ、と栄子は顔をほころばせて口許に手をあてた。
説明含んでいるのでけっこー長いです(汗)
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不倫? 昔の幻影? 2
(エロシーンはありません)
「要さんったら。無邪気ですこと」
「まあ……無邪気っていうか……いや、まあ栄子さんの親ばかは前からだけど」
冷静な順の指摘にも栄子は楽しそうに笑っているだけだ。要するに栄子は親ばかであるという自覚がしっかりあるのだ。それだからこそ指摘しても全く動じない。やれやれ、と肩を竦めて順はソファに戻った。出された紅茶のカップを取る。
いつだったか今の順と同じように紅茶を寄越せといつも言っていた男がいた。懐かしさに目を細め、順はカップを唇にあてた。猫舌だとか言ってたっけ。当時の事を思い出して順は小さく笑った。何ですの、と栄子が訊ねる。順は笑って目だけを上げた。
「うちの屋敷に紅茶好きのやつが泊まったことがあってね」
「まあ、順さんのお屋敷に?」
他愛のない話だ。そう前置きして順は数ヶ月前の話を栄子に聞かせた。
数ヶ月前のことだった。一体のヒューマノイドを巡って木村の屋敷に刺客が送り込まれた。その男の名は水輝。だが水輝は本来の強さを殆ど発揮することが出来ず、逆に順に捕らえられてしまった。
龍神と呼ばれる種である水輝が易々と順に捕まってしまったのには理由がある。順は元々、人ではない。人と龍神との合成体なのだ。人工的に二種を混ぜられた結果、順は龍神にはなれず、かと言って人としても生きられない体となった。龍神たちの持つ命の輝きを狙う、ハンターと呼ばれる存在になったのだ。ハンターであった順はその力を使って水輝を拘束した。
「まあ……順さんに勝負を挑んで負けたということかしら?」
何て無謀な。栄子は目でそう語っていた。だが順は軽く笑ってその言葉を流した。水輝が無謀なのではない。本来、ハンターがどんなに逆立ちしても決して龍神にはかなわない。龍神の輝き……宝珠と呼ばれる宝玉をハンターが狩るにはあらゆる条件が整わなければならないのだ。しかも水輝は龍神の中でも八大と呼ばれる力ある存在だ。少々、ハンターが束になったところでかなう相手ではない。だが順はその説明を栄子にはしなかった。人に説明したところで無意味だったこともあるが、出来れば栄子にそんな裏事情を聞かせたくなかったのだ。
順は屋敷に水輝を閉じ込めた。そして思う存分に水輝を蹂躙したのだ。その話に差し掛かったところで栄子の目が妙な輝きを帯びる。
「水輝ちゃんの身体ってば面白かったよ。男と女の性器が両方ついていてね。どっちもで悦ばせてあげたんだ」
「それはそれは……」
栄子は口許に手を当て、ほほ、と笑った。だがその目に宿る光を順は見逃さなかった。栄子は水輝の話を聞いて嫉妬しているのだ。順は自分の仕掛けが正しく動いていることを見て取り、小さく笑ってみせた。
水輝は順の意図したままに激しい快楽に溺れた。そして採集されたのが水輝の精液だ。それは今でも木村の保管庫にしまってある。いずれ時がくれば使うことがあるだろう。そして今、生物研究所では水輝の精液の分析が行われている。日々、順の屋敷には解析データが送られてくるのだ。
「そんな時だったかなあ。突然、水輝ちゃんが意識を取り戻しちゃってね」
苦笑しつつ順は続けた。次第に栄子は合鎚すら打たなくなっている。だが順は構わず続けた。栄子がゆらりと立ち上がり、静かに場所を移動する。順は隣に座った栄子を横目で眺めながら小さく笑った。
水輝が正気を取り戻した後、順は失っていた片目を取り戻した。水輝が強引に埋め込んだ力の欠片は今でも順の目として機能している。だが、順にとってそれは爆弾を抱えているようなものだ。いつ、水輝の力が弾けるか判らない。そうなれば今度は目が潰れるだけでは済まないだろう。その話をすると、栄子が痛ましさに顔を歪めた。
「実際、今の水輝ちゃんがどういう状況に置かれているのかを知る術がなくてね。オレも困ってるとこなんだ」
だがそう言いつつ順は心の底で笑っていた。困った顔をしてみせた順に栄子が頷いている。順はそっと手を伸ばして栄子の髪に触れた。ここ最近で艶を取り戻した黒髪をゆっくりと指ですく。
水輝は今、その質を二分されようとしている。だからこそ、順の目に嵌った力が強くなっているのだ。順は否応なくその力を外に放出しなければならなくなった。だがそれも順にとっては好都合でしかなかった。水輝の動向が自然と判るのに加え、その力を一部でも使うことが出来る。そうでなければ今回の計画は実行出来なかったからだ。
取り戻すついでに事が成せれば、オレ的にはラッキーだしねぇ。順は心の底でそう呟いて栄子をそっと抱き寄せた。
「調べて、くれるよね?」
耳元に囁きながら順は栄子のうなじをなぞった。細い首筋に指で線を描く。耳たぶを柔らかく噛むと栄子が身体を震わせた。既に術中にある栄子は順の言葉に声もなく頷く。
「こっちも絵美佳ちゃんの了承は取ったよ。要ちゃんも思う存分に暴れてくれるといいなあ」
赤い口紅の引かれた唇にそっと触れる。すると栄子は慌てたように首を振った。弱々しく抵抗する栄子を順は強く抱きしめた。
この話の大半はエロで成り立ってます!
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不倫? 昔の幻影? 3
ベタベタな感じの流れですw
「い、いけませんわ。娘が階下に……」
栄子は頬を染めて順の腕から逃れようとする。だがその抵抗は本心からのものではない。形だけの拒絶に順は口許に笑いを浮かべた。大きく開いた胸元へ唇を落とす。栄子は小さく息を飲んで首を仰け反らせた。甘い香水の匂いをかぎながら、順は白いブラウスに手をかけた。
「いいじゃない。声を出さなきゃバレないよ」
「そんな……だって娘はこの部屋の真下におりますのよ?」
だが口先だけでそう言いながら栄子は興奮に目を光らせている。順は栄子のジャケットのボタンを外し、ブラウスの上から豊かな胸に触れた。手触りのよい絹のブラウス越しに乳房を愛撫する。
「要ちゃんに聞かれるかもって思ってる? でもだから興奮してるでしょ?」
ソファの背に栄子の身体を押し付け、順はその乳房を大胆に弄った。次第に栄子の呼吸が速くなる。
「んっ、意地悪いことを」
そう言いながら栄子の手がじわじわと伸びる。栄子は指先で順の股間に触れた。艶かしい動きで順のペニスを愛撫する。順はくすくすと笑って栄子の首筋に口づけた。口づけを滑らせて耳たぶを舌でなぞる。薄いファンデーションの乗った頬を辿り、赤い口紅のひかれた唇を舐める。順はゆっくりと栄子の欲情を引き出していった。
喘ぎかけた栄子の唇を塞ぐ。栄子は唇を開いて自分から舌を絡めた。順の舌を吸う。深く口づけを交わした後、順は静かに顔を上げた。
「先にオレのを舐めてよ」
順がそう告げると栄子は頷いて身体を起こした。ソファにもたれた順の股間に頭を沈める。剥き出しにされたペニスに大胆に吸い付かれ、順は思わず目を細めた。唇を手の甲で拭う。唇に残っていた口紅が手の甲に赤い線を描いた。
あの日を境に順は都子と交わるのをやめた。背徳的だからということではない。それまで眠りについていた都子の精神が別の器に入って戻ってきたからだ。それまで順が交わっていたのは都子の身体……つまりは抜け殻だったのだ。
それまでの都子との交わりで得たものは空しさだけだった。自分のために眠りについた都子を思えば思うほど、悔しさと切なさが胸の奥からこみ上げてきた。都子を失った当初、順は狂ったようにその身体を抱いた。だが眠りについた都子が帰ってくることはなかった。
そして都子は帰ってきた。ただし、その肉体は全く別のものだった。出来すぎた美しい肢体は紛れも無く龍神のそれだったのだ。
「もっと深く咥えてよ。そう……奥までね」
頭を上下させる栄子に指示を送り、順は目元を手で覆った。暗がりの中で目を開くと一つの人影が浮かんでくる。力の主が無意識に求める姿を順は睨みつけた。陽炎のように視界に立つ姿をじっと見ると、それだけで苛立たしい気分になる。
その他は本当にどうでもいいんだねぇ。順は心の中でそう呟いた。
「順さん……」
栄子が小声で呼ぶ。順は手を退けて視線を下げた。栄子はうっとりとペニスを舐めている。赤い舌が屹立したペニスをゆっくりと舐め上げる。真っ赤に濡れた唇が亀頭を含み、ペニスの根元まで滑っていく。それを見ながら順はゆらりと手を伸ばした。
「オレのを咥えて気持ちいいでしょ?」
指でスカートをめくる。赤いタイトスカートを腰までめくり、順は指を栄子の足に伸ばした。黒いストッキングに包まれたふくらはぎをゆっくりとなぞる。柔らかな肉の感触を楽しみつつ、順はその指をじわじわと移動させた。膝の裏をくすぐるように撫でて過ぎ、腿へと辿り着く。
勃起したペニスを栄子の唇が艶かしく愛撫する。舌先で亀頭の縁をなぞり、再びペニスを唇で吸う。順はそんな栄子の動きを見つめながら指を動かした。白い下着の底に触れる。指先に感じた湿り気に順はうっすらとした笑みを浮かべた。
「もう濡れてる」
わざと栄子にそう言いながら順は下着の底を静かに撫でた。すると栄子が軽く身震いして顔を上げる。
「だって順さんのここがこんなに……」
栄子は甘えた声で告げると順の股間を指で弄った。屹立したペニスと睾丸を指で嬲る。もの欲しそうな目をして栄子は再び順の股間に顔を伏せた。指で器用に睾丸を愛撫しながら頭を上下させる。順は苦笑して栄子の下着を少しずらした。下着の脇から指を入れ、触感だけでしこった部分を探し当てる。
「私のも……硬いかしら?」
愛撫の隙間に栄子が問い掛ける。順は笑って頷きながら指の腹でクリトリスを押し潰した。そのままこねるように弄ると、栄子が微かに声を漏らす。
「そろそろ出したいな」
そう告げて順は片手で栄子の頭を押さえた。髪を優しくつかむようにして漉く。栄子は涎に塗れたペニスを唇で上下に強く扱き始めた。強い刺激に衝動が激しくなる。順は声を殺して射精した。栄子が慣れた調子で精液を飲み下す。力のこめられた順の精液を飲み込んだ栄子の目の色がすっと変化する。順は小さく笑って身体を起こした。
「気持ちよかったでしょ? オレのを飲んで」
「ええ。とってもいいわ」
口許に張り付いた髪を指で退けつつ栄子が応える。愉悦の色に満ちたその目を見つめながら、順は栄子をソファに押し倒した。ああん、という甘い声を上げて栄子がソファに倒れる。
何もしなければ順もかなりの美形なので、この手の技が使えます。
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不倫? 昔の幻影? 4
「たまには着たまましよっか」
そう言って順はブラウスのボタンを外さず、裾をスカートのベルトから抜いた。胸元までブラウスを引き上げてブラジャーの上から乳房を揉む。栄子は口許に微かな笑みを浮かべて自分からブラジャーのホックを外した。
「そうですわね。たまにはいいかも知れませんわ」
「だよね?」
順も栄子と同じように笑ってブラジャーの隙間に指を差し込んだ。乳首を愛撫しながら栄子に口づける。栄子は順の背に手を回し、口づけに応えた。
「そういえばさ。要ちゃんの学校に吉良優一郎くんっているでしょ?」
帰ってきた都子はとても嬉しそうだった。そして都子は戻ってきた経緯を順に語った。あろうことか都子は順の最大の敵に助けられたというのだ。それを聞いた順は驚くより先に怒り狂った。よりによってどうしてあいつに。だが順は都子にその怒りをぶつけることはなかった。都子にとっても順にとっても、その生還はある意味では奇跡だったからだ。
そして都子は今では屋敷で静かに暮らしている。順の画策した今回の件を都子は全く知らない。今ごろはティルームで茶でも飲んでいるかな。順はふと都子を思って胸の中でそう呟いた。
「順さん?」
動きが止まったことを訝ったのだろう。栄子がそっと順を呼ぶ。順はごめん、と詫びて再び栄子の身体を弄りはじめた。
訊ねながら順は栄子のブラジャーをそっとたくし上げた。白くたわわに揺れる乳房に顔を埋め、唇で乳首を吸う。順の愛撫を受けながら栄子は考えるように唇に指をあてた。
「確か……そう。吉良絵美佳さんの……弟さん?」
軽く吐息をつきながら栄子が答える。順はそう、と笑って肌を指でなぞった。乳首を唇と舌で愛撫しながらスカートの中へと手を進める。下着を脱がせようとした順の手をふと何かがつかむ。順が目を上げると栄子は笑って首を横に振った。
「着たままでしょう?」
「あ、そっか。じゃあ」
下着の上からするりと指を入れる。順は下着の中で濡れるクリトリスにそっと触れた。ぴくり、と栄子が身体を震わせて息をつく。順は豊かな乳房に頭を乗せ、ゆっくりと栄子の陰部を弄った。
「あの子がもうじき栄子さんを訪ねて来ると思うんだ」
「……んっ……そうなんですの?」
軽く顔をしかめながら栄子はそう答えた。その足は徐々にひらいている。順は巧みに指先でクリトリスを刺激しながら薄く笑った。
「うん。きっとね。だからね」
そう告げて順はするりと指を運んだ。小陰唇の間で満ち溢れていた愛液を指にすくう。すくった愛液をなすりつけ、執拗にクリトリスを攻める。そうしながら順は静かに頭を下げた。
「出来れば優一郎くんに協力してもらおうと思ってね」
下着の底を分け、濡れた陰部を剥き出しにする。順はクリトリスをこねながら目を上げた。興奮した眼差しで栄子がじっと順を見つめている。
「次はオレの番ね」
舌先でクリトリスを舐める。最初は焦らすように少しだけ触れる。そんな順の愛撫を受けながら栄子は小さく頷いた。
「わかり……ました。その子に……出来るだけ……」
「気付かれないようにね」
軽く笑いながら答え、順は大胆にクリトリスに吸い付いた。翳りを分けて包皮ごと口に含むと、微かに栄子が声を上げる。甘い息を混ぜ、栄子は告げた。
「もちろんですわ。順さんの名を汚すような真似、決していたしません。……あっ」
性的快楽に興奮していても栄子はまだ快感に溺れてはいない。真面目に順に答えている。順はそうそう、と笑いながら舌で小陰唇を両側に分けた。舌を細くして膣口に差し入れる。水音を立てて舐めると、栄子が次第に熱い息を漏らし始めた。
「栄子さんの身体なら充分に期待に応えてくれると思うよ」
満足を込めて告げ、順は小陰唇の間に指を滑らせた。焦らすように膣口だけを弄る。耐えかねたように栄子が潤んだ瞳で順を見つめた。
「くあっ、順さんっ」
「声を出したら要ちゃんに気付かれちゃうよ?」
勃起しきったクリトリスを舌でなぞり、順は含み笑いをした。すると栄子が順を睨むように見ながら首を振る。
「また意地悪なことを……くうっ!」
出来るだけ焦らした方が挿入する時の快感が増す。順はこれまでの経験から栄子が好く行為の形を知り尽くしていた。片手で乳房を揉み、もう片方の手で膣口を弄る。そしてクリトリスを唇で攻める。この三点を同時に攻められるというやり方が、栄子がもっとも好む形だった。
栄子が薄い唇を噛む。順は嘲笑を浮かべて膣口を攻めた。時折、愛液に塗れた指で腿を愛撫する。
「オレたち、不倫してるんだよ? もうちょっと静かにしなきゃ、さ」
栄子を嬲るように言いながら順は指を少しだけ押し進めた。興奮に開いた膣口の奥へと指を進める。すると栄子は熱い息をついて胸に手を伸ばした。順の指に絡めるようにして自分でクリトリスを弄る。
不倫とかゆってますけど……まあ……。
旦那がちゃんとしてればこんなことには(棒
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不倫? 昔の幻影? 5
「さきほどの、身体を……使うというのは、こういう、使い方、ですの?」
栄子は自分から膣口を指で開いてみせた。濡れそぼった膣口に順の指が出入りする。順はどうかなあ、と嗤いながら栄子の膣壁を強く擦った。溢れた愛液を時折、唇で啜る。そうしている内にやがて栄子の指が動き始めた。強い快感を求めてクリトリスを弄んでいる。それを眺めながら順はおもむろに指をスライドさせた。栄子の指に自分の指を絡め、クリトリスを刺激する。
「身体を使うのって色んな方法があると思うよ。もちろん、栄子さんが得意と思う方法で構わないんだけどさ」
指の腹で確かめるようにしてクリトリスをこねる。栄子は息をつきながら順の指の動きに合わせて腰を揺らし始めた。
「んっ、私に、息子ほどの年齢の……少年を、誘惑しろと? ああっ!」
「だってさあ」
栄子の腿に手を回し、順はおもむろにその足を上げさせた。栄子が震える指で下着の底をめくる。準備の整った膣口にペニスをあてがい、順は一気に腰を押し出した。ぬめる感触と共にペニスが膣の深いところに到達する。
「優一郎くんってそっくりだよ?」
深くペニスを突き入れたまま、順は腰の動きを止めた。栄子が訝しげな顔で順を見上げる。
「そっくり? まさか、あの人に?」
急に何かが冷めたように栄子が訊ねる。順はペニスを軽く引いて再び膣の奥へと一気に押し進めた。我に返っていた栄子が掠れた声を上げて腰をひくつかせる。
「うん。吉良総一郎って栄子さんが昔好きだった人でしょ? ちょうどいいじゃない。やっちゃいなよ」
困惑する栄子の意識を読み取りながら、順は静かにそう囁いた。好きだったんでしょ? 憧れてたよね。本当は抱かれたかったんでしょ。順は栄子の耳元に続けざまにそう囁いた。するとさっきまで我に返っていた栄子が次第に夢見心地の顔になる。順に誘導されて当時の想いが蘇っているのだ。
「そう、いちろう、さま……。ああっ!」
栄子の膣壁が興奮に震える。順は嘲笑を浮かべながら栄子の腰をつかんだ。奥にペニスを突き入れたまま、激しく栄子の腰を上下に揺する。そうした後、順は栄子を抱え上げた。ソファの背に深くもたれたまま、腰の上に栄子を乗せる。繋がった状態で順は栄子の乳房を強くつかんだ。
「ほら。ここは学校だよ。栄子さんは憧れのあの人に抱かれているんだ。淫らなところをみせてよ」
順は次々に囁いて栄子に強い暗示をかけた。栄子が恥らいながらぎこちなく腰を動かし始める。それはいつもの栄子とは全く違い、そのことが順の情欲を強くそそった。
「あ、んっ! ううん! そういちろうさま! 私を……! 栄子を!」
「もっと乱れてくんないと、つまんないじゃん」
意地悪くそう告げ、順は栄子の乳房を強く揉みしだいた。栄子の腰の動きは稚拙で、とても射精を促されるようなものではない。だがその恥じらいがちな動き方が順にとっては新鮮だった。
「あっ、んっ! うふぅん! そういちろうさま……もっと! もっと突いてくださいまし……。もっと、おくまで! ああっ!」
ソファのクッションを使い、順は一度だけ強く腰を跳ね上げた。激しい声を上げて栄子が頭を強くふる。その乱れた様を眺めながら、順はさらに続けた。
「ほら。カレの硬いのはどこに入ってるの?」
かつて、高校生の頃の栄子がそんな質問をされたら恥ずかしさのため、とても答えられなかっただろう。だが今の栄子は意識は高校生の頃に戻ってはいるが、本来の年齢は三十を越えている。最初、栄子はためらっていたが、やがて恥ずかしさに頬を染めながら小声で答えた。
「わた……くしの、おま……んこに、あはあっ!」
「はい、よく出来ました」
そう言いつつ、順は栄子と繋がっている部分に手を伸ばした。硬くしこったクリトリスを指先で弄る。
「栄子さんのここもいやらしく尖ってるよ。ほら、自分で触ってごらん」
順は栄子の手を取って陰部へと導いた。ためらいがちに栄子の指がクリトリスに触れる。走った快感に軽く首を竦め、栄子は困惑気味に指で何度もクリトリスを撫でた。不慣れな者が確かめるようなその手つきが初々しい。順はその様を眺めながらソファに深くもたれかかった。
何度も交わした口づけのため、栄子の口紅ははげかけている。口許に付着した口紅を見ていると、今の栄子の動きとのギャップにそそられる。順はしばらく栄子の自慰の様子を見つめた。
「ほんとに、硬く……あっ、んふっ!」
クリトリスを触る栄子の腰が時折、微かに跳ねる。その度に強い快感に晒されているのだろう。栄子は自慰をしながらぎこちなく腰を前後に振り始めた。
「もっと気持ち良くなろうね、栄子さん。いったことないでしょ?」
身体はその味を知っていても、今の栄子の意識は未体験の筈だ。順はのんびりとした動きで栄子の乳房を揉んだ。
総一郎さんモテモテだなあ(古
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不倫? 昔の幻影? 6
「あっ、乱暴に、しないで、くださいまし……ああっ!」
「手が止まってるよ。ほら、ここも一緒に愛撫して」
股間で止まっていた栄子の手を順は握って動かした。指を絡めて栄子のクリトリスを強くこねる。すると栄子は短い声を上げながら腰を揺すった。下から腰を突き上げつつ、栄子の快感を煽る。順の思うままに栄子は快楽に溺れていた。
「あふっ、そういちろう、さまも……いっしょに、あっ、あっ!」
「まだいっちゃ駄目だってば。もっともっと気持ち良くなって」
既に栄子の身体は絶頂に登りつめつつある。だが順はふっ、と息をついて指を口許に触れさせた。まとわりつく愛液を舐めながら目を細める。順は力を指先に移してその指を再度、栄子の股間に触れさせた。
「あっ、私、わたくし……あっ、ああっ!」
「凄いなあ。栄子さん、今までで一番、感じてるじゃん。ほら、もっと欲しいでしょ?」
力に満ちた指先で順は執拗に栄子のクリトリスを弄った。そうしながら目を細める。微かな音を立てて栄子の体内に異変が起こる。排泄物が全て消滅したのだ。さてと、と順は身体を起こした。
「優一郎くんはこっちのセックスも好きなんだって。エッチだよねぇ」
悶えながら栄子は腰を振っている。順は小さく嗤いながらその腰を片手でつかんだ。栄子が絶頂に達する瞬間を見計らい、指を強く押す。それまで触れたことのない栄子の肛門に、順は指を突き入れた。
「ああああっ!!」
絶頂の余韻に浸る間もなく、栄子が悲鳴を上げる。一気に栄子の膣壁が締まり、順のペニスを押し出そうとする。だが順は嘲笑いながら栄子の股間を弄った。クリトリスはこれまでにない感覚に激しく勃起している。無理に指を突き入れられたためか、栄子の肛門は縮み上がっていた。
「痛い? そりゃそうだよねぇ。ここは開発してないもんね」
「ひあっ、あっ、んあっ!! 何を!?」
痛みのために暗示が切れかけているのだろう。栄子が涙を零しながら悲鳴を上げる。だが順は容赦しなかった。指に愛液を絡めて初々しい肛門を執拗に攻める。
「オレ、アナルセックスも好きなんだよね。でも、栄子さんってば普段はさせてくんないからさあ」
そう言いながら順は栄子を強く抱き寄せた。有無を言わせず口づけする。十分に栄子の口の中を愛撫してから、順は告げた。
「栄子さん、実はここも好きでしょ? カレに指で攻められて気持ち良くない? ほら、ちょっとずつ拡いてる」
唇を触れさせたまま、順はそう囁いた。言葉に合わせるようにして栄子の肛門が少しずつ拡き始める。切れかけた暗示を言葉で繋ぎつつ、順は嗤った。
「可愛いよ、栄子さん。オレのも膣内で感じるっしょ? オレも気持ちいいなあ、これってば」
「んっ、がまん、しますわ!」
気丈な言い方で栄子が告げる。順は苦笑して指を深いところに差し入れた。ねっとりとした液体が滲んでくる。愛液の代わりになるよう順が施した術が発動したのだ。粘り気があるその液体は順の内包する宝玉の力の欠片が溶けたものだ。
「我慢って……嘘ばっかし。もうこんなになってるくせに」
クリトリスはこれまでにないくらいに硬くしこっている。順は栄子のクリトリスを強く捏ねた。同時に肛門に指を出し入れする。
「意地悪な……方ね、あっ!」
「ほら、もう二本入るようになったよ。凄いね、栄子さん。どんどんいやらしくなってる」
栄子は自然に腰を動かし、順のペニスを刺激している。先ほどまでのためらいがちな動き方ではない。だが今はその動きが順を余計に欲情させた。艶かしい笑みを浮かべて栄子が腰を振る。
「んっ、いやらしくなったのは、あなたのせいですわ」
勃起したクリトリスを擦りつけるように栄子が腰を押し出す。順はクリトリスからそっと手を離し、指を舌で舐めた。その指を栄子の後ろに回す。両の手の指で肛門を刺激しながら順は囁くように告げた。
「栄子さん。オレもいかせてよ」
熱く勃起したペニスを膣壁が擦り上げる。吐息混じりの順の声に応えるように、栄子は腰を激しく振り始めた。次第に快感を覚えるようになったのだろう。栄子は順の指の動きに喘ぎを漏らしている。
順は低い呻きを漏らして身震いした。栄子の膣内に勢いよく射精する。ほどなくして順は栄子の腰を抱え上げた。驚く栄子を余所に立ち上がる。順は栄子をソファに下ろし、まだ脈打っているペニスに手をあてがった。
「入れるよ」
「んっ、順さん、何を!?」
慌てる栄子を押さえつける。ソファに四つんばいの格好になったまま、栄子は焦って肩越しに順を見た。だが順はそれにも構わず、栄子の肛門にいきり立ったそれを突き入れた。
「ひああっ! あふっ!」
掠れた声を上げて栄子がソファにしがみつく。順はまだ熟れきっていない肛門に深々とペニスを突き入れた。皮膚が裂け、血が滲む。
「今日からここも調教しようね。大丈夫。すぐに痛みなんて感じなくなるから」
そうでないと優一郎くんを誘惑できないでしょ。順は嗤いながらそう告げ、栄子の腰を揺すった。痛みと快感を同時に味わっているためか、栄子は泣きながらソファにしがみついている。順は嗤いながらそんな栄子を犯し続けた。
総一郎さんは敬称つけないと呼べない……(汗)
自分でもアレだと思うんですが……。
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朝のあそこチェック開始 1
TSと百合警報だした方がいいのかな……これ。
午後二十一時から午後二十三時までは決して入ってこないように。その日の朝、多輝は立城から執務室への入室時間を言い渡された。要するにその時間以外なら問題ないってことか。そう訊ね返すと立城は苦笑して頷いた。
「もちろん問題ないよ。その時間以外なら君の好きな時に訪ねてくれていいよ」
多輝はその答えに思わずこぶしを握り締めた。立城の目がなかったら目一杯のガッツポーズを決めていたかも知れない。今まで、立城が多輝を真剣に相手することがそれほどなかったためだ。
朝食でございます、と運ばれてきたのはモーニングセットだった。多輝は喜んでそのプレートを受け取った。どうも身体のあちこちが痛み、部屋から出てまともに食事のとれる自信がなかったのだ。だがそれすらも立城に見抜かれていたらしい。多輝はきれいさっぱり朝食を平らげた。
「食後のお茶はいかがですか? あっ!」
多輝に朝食を運んできたメイドが慌てた声を上げる。多輝は驚きに目を見張り、そちらを向いた。テーブルの上でお茶をいれようとしたのだろう。ティポットを持ったまま、メイドが困惑した顔をしている。多輝は痛む身体を引きずるようにしてベッドから降りた。
「あーあーあー……何やってんだよ。貸してみな」
そう言って多輝はメイドの手からさっさとポットを取り上げた。カップ目掛けて注がれるはずだった紅茶がソーサーの上に零れている。多輝は苦笑しつつカップに紅茶を注ぎ分けた。もしかしたら先ほどまでいた立城の分だろうか。カップは二つある。多輝は無言で二つ目のカップも満たした。
「ほら。これ、あんたの分。飲むだろ?」
そう言いつつ、多輝は片方のカップをメイドに差し出した。年頃はちょうど、多輝と同じくらいだろう。メイドの顔がぱっと輝く。
「ありがとうございます!」
自分のカップを取り上げようとしてふと多輝は動きを止めた。そういえば、と顔を上げる。メイドは嬉しそうにカップを傾けている。
「あのさ。おれ、多輝ってんだけど」
先に名乗ってから多輝はメイドの名を訊ねた。すると慌てたようにメイドが頭を下げる。その拍子にカップが傾き、僅かに紅茶が零れる。多輝は反射的に手を出した。その手の上に紅茶がかかる。
「ぅあっちぃ!」
「あっ、自己紹介まだでした。わたし、奈月と申します」
多輝の叫びと奈月の声が重なる。多輝は慌てて手を引っ込めながら奈月に頷いた。奈月はそこで初めて多輝の様子に気付いたらしい。うろたえて視線をあちこちに向ける。どうやら多輝の手を拭くものを探しているらしい。
「あー……。おれの手はいいから。とにかく……ええと、奈月さん? あんたはそこに落ち着いて座ってくれ」
多輝は傍にあったソファを指差して告げた。うろたえていた奈月の手元ではカップが危うく揺れていたのだ。
「あの、ごめんなさい」
奈月は泣きそうな顔で詫びながらソファに腰を下ろした。多輝はそんな奈月に何でもない、と手を上げてみせた。背後に隠した時にこっそり手を治療しておいたのだ。機械仕掛けの身体でも少々の修復なら力を使えば可能だ。多輝はカップを片手にベッドに戻った。
このくらいのドジなら慣れている。多輝はまだ悲しそうな顔をしている奈月に何気なくそう告げた。すると奈月が不思議そうな顔になる。多輝はああ、と笑ってカップをソーサーに戻した。
「昔ね。面白いやつがいてさ」
多輝はそう言いながらかつてよく一緒にいた絵美佳のことを話し始めた。実験と称して散々な目に合わされたこと。そしていつも痛い目にあっていたこと。だがそれも思えば楽しかった日々だった。多輝はそう締めくくって茶を啜った。
だがそう語りながら多輝は少しずつ不安になった。絵美佳と過ごした日々のことは覚えている。だがどうして自分は女の身体になったのだろう。そもそも、何故絵美佳と離れることになったのか。その辺りのことがまるで思い出せないのだ。
「変だな……」
誰に聞かせるつもりもなく、多輝はそう呟いた。
「あの、何か問題ありますか?」
呟きをしっかりと聞き取ったのだろう。奈月が不安そうに問う。多輝は慌てて顔を上げ、次いで首を振った。
「いや、何でもない」
そう、何でもない筈だ。少なくとも自分はこうして立城の屋敷に招かれた。それまで入ったことのなかった屋敷に初めて呼ばれたのだ。この時点で多輝はそう認識していた。そして優一郎と過ごした時間のことをきれいさっぱり忘れてしまっているのだ。そのことに多輝自身は気付けずにいた。
不意にドアが鳴る。開いたドアの向こうには白衣を身につけた由梨佳が立っていた。手には端末を握り、片手は白衣のポケットに入れている。その姿を見止めた多輝は、ため息をついてベッドを降りようとした。だがその寸前に由梨佳が片手を上げて多輝を制する。
「おはようございます。由梨佳先生」
多輝はそう言いながら軽く頭を下げた。今日から自分はここで由梨佳に教育を受けることになっているのだ。少し緊張しながら挨拶をした多輝に由梨佳は頷いた。
「おはようございます」
緊張する多輝とは対照的に奈月が明るい挨拶をする。由梨佳は今度は奈月に目を移し、にっこりと微笑んだ。
「天輝さんも、奈月さんもおはよう」
どうやら自分は天輝と改名されるらしい。だが多輝はまだその呼び名に慣れていなかった。くすぐったいような居たたまれないような変な感覚になる。多輝は困惑したまま由梨佳からそっと目を逸らした。
この天輝という名前がほんっとに定着しなくてw
地の文で多輝と書いているせいでもあるんだと思います。
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朝のあそこチェック開始 2
エロシーンはありません。
それから由梨佳は今日一日のスケジュールを説明し始めた。朝食の時間は午前九時まで。その後にメンテナンス、次いで昼食、その次に学習時間、夕食、風呂、そして睡眠となる。それを聞きながら多輝はいちいち頷いた。まだ二日目で慣れないが、これからそのスケジュールにも慣れていかないとならない。
「奈月さん、これから天輝さんはメンテナンスだから、席を外してもらえるかしら」
優しい微笑を浮かべて由梨佳が静かに告げる。
「はい、失礼します」
元気のいい返事をして奈月が部屋を出て行く。ドアのところで振り返ってご馳走様、と愛らしく告げる奈月に多輝は笑顔で手を振った。
ドアが閉まりきると奇妙な沈黙が二人の間に落ちた。多輝は自分から由梨佳に話し掛けることが出来ず、無言で紅茶のカップを傾けた。対する由梨佳はさっきまで浮かべていた微笑を消し、生真面目な顔で端末を操っている。
「メンテって……何するんすか」
しばらくの沈黙の後、多輝はぼやくようにそう訊ねた。目だけを画面から上げ、由梨佳が苦笑する。多輝の脳裏には昨日のチェックが思い浮かんでいた。チェックと言いながら由梨佳は多輝の女性器を散々弄ったのだ。
「とりあえず、全身の状況チェック。身体の調子がおかしいでしょう?」
多輝が自分から報告出来なかった事を由梨佳は的確に言い当てていた。多輝は息を飲んで黙り込んだ。確かに言われた通りだ。弁解の余地はない。だが一つだけ判らないことがある。何故、これほどまでに自分の身体は痛むのだろう。
「あ、あの。何でおれがこんなになってるか、判ります?」
出来るだけ気をつけて喋ってはいたが、多輝の喋り方はいつもと比べてぎこちなかった。相手が教育担当の先生である、という意識が多輝を無用に緊張させているのだ。
「あなたはヒューマノイドの中でも珍しく、睡眠機能を持っているわ」
端末の蓋を閉じ、由梨佳は改めて多輝に向き直った。告げられる言葉に多輝は無言で頷く。どうも自分の機体はヒューマノイドの中でも特殊であるらしい。そのことは昨日、由梨佳からも説明された。
「あなた、最近、きちんと自慰をしてた?」
だがそれとこれとがどうして関係あるのだろう。睡眠機能について巡っていた多輝の思考にいきなり由梨佳の言葉が割り込んでくる。多輝は驚いて目を見張った。何でそれが関係あるんだよ。反射的にそう言い返しそうになる。多輝は慌てて片手で口を覆ってから首を横に振った。
「いえ、して、ませんけど」
少なくともこれまで自慰をした記憶がない。そのことを多輝は正直に由梨佳に告げた。由梨佳は多輝をからかうためにそんな質問をしている訳ではない。そのことは多輝にも十二分に判っていた。
「駄目じゃない……」
呆れたように由梨佳が告げる。多輝は素直にごめんなさい、と由梨佳に詫びた。そんな多輝の反応に由梨佳が僅かに目を見張る。だがそのことに多輝は気付けなかった。俯いてカップの中の紅茶に目を落とす。
「ヒューマノイド化されたときに、性感制御システムについては説明を受けているわね?」
「でも、あの、立城は何も教えてくれなかったし……」
これでは言い訳にしかならないと思いながらも多輝は呟くようにそう答えた。するとぴくりと由梨佳の眉が跳ねる。多輝は由梨佳の気配の変化を敏感に受け取り、慌てて顔を上げて手を振った。
「あ、あの、でも、ごめんなさい。おれがちゃんと聞いてなかっただけかも」
説明なんて受けたかなあ。心の底ではそう思いながら多輝は口では謝っていた。すると由梨佳が大きなため息をつく。
「いいのよ」
そう言って由梨佳はにっこりと笑った。が、その唇が微かに動いて呟いたのを多輝は見逃さなかった。立城さんにしては珍しい手落ちね。由梨佳の声にならない声がはっきりと多輝の意識に届く。多輝は居たたまれなさに俯いた。
「それでは改めて説明します」
そう言って由梨佳は説明を始めた。
「ヒューマノイドとは、機械の身体に人の精神を組み込んだものだってことはわかるわね?」
「あ、はい」
答えながら顔を上げる。由梨佳は再び端末を見下ろしていた。その指が忙しなくキーを弾く。どうやら説明しながら何かを打ち込んでいるらしい。多輝は大人しく由梨佳の説明に耳を傾けた。
ヒューマノイドは機械仕掛けの身体……つまり、機体に人の精神を半ば強制的に組み込んだものだ。だが、当然、そんなことをすれば無理が出る。どこかに皺寄せが来るのは自然なことだ。そう、由梨佳は説明を続けた。
「試作機が作られて、数年間、その試作機を用いて研究した結果、ある、事実が判明したの」
ヒューマノイド化された精神を維持をするためには、性的快感を定期的に与え続ける必要があること。そしてその条件を満たしても、維持可能なのはある特定の性向を持つ女性の精神だけだということ。その二点を由梨佳は詳しく説明した。多輝は言葉の一つ一つを頭に叩き込み、無言で頷いた。
「簡単にいってしまうと、ヒューマノイドは毎日、自慰やセックスに耽らないと、存在していく事ができないってわけなの」
そう締めくくって由梨佳は顔を上げた。だが多輝は真っ直ぐに由梨佳を見られなかった。恥ずかしさに顔が自然と赤くなる。なのに自慰とかセックスとかいう単語を聞いただけで無性に下半身が熱くなるのだ。
この辺りの設定は前からあったのですが、ちゃんと説明されたのはここが最初かも知れません。
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朝のあそこチェック開始 3
局部が見えたとこまでです。
「恥ずかしいのはわかるわ……。わたしもヒューマノイドだから。今話した試作機というのはわたしのことよ」
「えっ!」
多輝は慌てて由梨佳を見た。由梨佳が人ではないなどとこれっぽっちも思わなかった。多輝は口早に由梨佳にそう告げた。由梨佳はどこか悲しみの漂う笑みを浮かべている。余程辛い目にあったのか。多輝は痛ましさに思わず顔を歪めた。
「でも、あの……その、おれ、やり方とか……知らないし」
かつて男であった頃、多輝はその容姿を利用して色んな女性を抱いた。時にはわざと女性に自慰を要求したこともある。何度も交わる内に当然のように女性の自慰行為についての知識は得ている筈なのだ。だがこの時の多輝はそんな過去のことを思い出すことが出来なかった。ひたすら真っ赤になって照れる。
「あの、ほっ、ほんとにしなきゃ駄目、ですか?」
不安と恥ずかしさのために手が小刻みに震える。多輝の持つカップの中で紅茶がさざなみを立てた。
「絶対しなきゃだめ。実際に、死にかけたわたしが言うんだから確かよ」
生真面目な顔で由梨佳が頷く。その言葉に嘘などないだろう。多輝は由梨佳の言葉にはい、と頷いた。ふと目を落とすとカップの中で紅茶が揺れているのが見えた。慌てて冷めた紅茶を飲み干す。
「わかり、ました。でも、あの」
多輝は俯いて言葉を濁した。由梨佳が優しくそんな多輝を促す。多輝は決意を固めて顔を上げた。
「やり方を教えてください。おれ、よくわかんなくて」
「えっと、そうよね。知らないなら教えないと。今日の授業の予定を差し替えましょう」
一転して由梨佳が慌てたように告げる。多輝は不思議に思いながら首を傾げた。次いで理解する。ヒューマノイドが自慰なしで維持できないなら、当然、多輝もそのやり方くらいは知っていると思っていたのだろう。多輝は納得顔で頷いて素直に由梨佳に頭を下げた。
「すんません、お手数かけます」
そう言ってから多輝は身体の痛みを堪えてベッドから降りた。空になったカップをテーブルに置く。困惑顔で立ち尽くしている由梨佳の前に立ち、多輝は改めて頭を下げた。
「よろしくお願いします、由梨佳先生」
深く頭を下げた多輝の髪が零れて落ちる。紺色のその髪を背中に追いやり、多輝は真面目な顔で由梨佳を見つめた。すると慌てたように由梨佳が告げる。
「こちらこそ……。あっ、立たなくていいのよ辛いでしょ?」
有無を言わせず多輝の背を押し、由梨佳が前に進む。多輝は押される格好でベッドに戻った。だがベッドの縁に足をかけた途端、電撃のような痛みが全身を貫く。多輝は思わず呻いて身体の動きをぴたりと止めた。
「明らかに運動神経系統がおかしくなってるわね」
痛ましさに目を細め、由梨佳が呟く。多輝は懸命に痛みを堪えて何とかベッドに這い上がった。乱れたネグリジェを整えて深く息をつく。
「今朝からずっとこんな感じで。何か身体ん中に変なものでも詰まってるみたい」
多輝の痛みは下腹部を中心に広がっている。そのことを多輝は由梨佳に説明した。由梨佳は黙って頷いている。
「もうしわけないけど、機体ログをチェックさせてもらうわよ?」
「あ、はい」
機体チェックは女性器に専用の器具を差し込んで行われる。多輝は出来るだけ痛む身体を刺激しないように下着をずらした。両足から下着を抜いて仰向けになる。膝を立てて軽く足を開いたところで多輝は由梨佳を見やった。
「お願いします」
「それでは、挿入するわ。力を抜いて」
白衣のポケットから器具を取り出した由梨佳は、その器具から伸びるコードを端末に差し込んだ。それからおもむろに多輝の足元に回る。多輝は言われた通りに全身の力を抜いた。
ひんやりとした感触が敏感な女性器に触れる。多輝は思わずびくりと身体を震わせて目を閉じた。ここで興奮してはいけない。誰に言われるでもなく多輝は自分にそう命じた。
するり、と器具が滑って膣内に挿入される。その異物感に多輝は懸命に声を殺した。膣壁を柔らかく擦られる感覚が快楽となる。多輝はネグリジェをつかんで息を潜めた。
「性感系統は異常無いみたいね。気持ちよかったら声出してもいいのよ」
由梨佳が悪戯っぽく笑いながら告げる。多輝は素直に我慢していた呼吸を楽にした。小さな喘ぎが自然に唇から漏れる。由梨佳はそんな多輝に満足そうに頷き、手元の端末に目を落とした。
「せんせ……い。どう……ですか」
掠れた喘ぎの隙間に多輝はそう訊ねた。すると由梨佳が目だけを端末から上げる。その顔には優しい笑みが浮かんでいた。
「大丈夫よ。故障してるけど、たいした故障じゃないわ」
やっぱり壊れてるんだ。多輝は内心でそう呟いた。この痛み方は普通ではない。きっと機体のどこかに異常が発生しているのだろうとは思っていた。だが実際に由梨佳に故障、と言われると痛みが余計に酷くなった気がする。多輝は落胆した顔になった。
突っ込んで調べる機械的なものは、まだこの頃は曖昧でして……(汗)
何しろ携帯電話が新しかった時代なのでかなり古いです。当然、スマホなんかありませんでした。
携帯端末とか端末って書いてて良かったと今になって思いますねw
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朝のあそこチェック開始 4
機械はまだちゃんと書けていないのですが、機械的エロではあるので……。
生身的なエロシーンはないです。
「ヒューマノイドの神経系統は、運動系、感覚系、性感系の三つに分かれているわ」
落ち込む多輝を励まそうとしているのだろう。由梨佳が機体の説明をし始める。多輝ははい、と素直に頷いた。だが器具に刺激されているために快感が定期的に襲ってくる。自然と多輝の声には甘い響きが含まれていた。
「神経系統を統括して制御しているのが、生身の人間で言えば子宮の下部にあたる部分から、クリトリスに至るまでの部分に設置されている主制御コンピュータよ」
そう言いながら由梨佳はそっと多輝のクリトリスに触れた。指先を滑らせて多輝の下腹部を撫でる。多輝はその指の動きに思わず小さな悲鳴を上げた。
「クリトリスは性感帯だけでなく、コンピュータに直結されたメイン制御スイッチでもあるの」
既に多輝のクリトリスは勃起しかけている。多輝は目を潤ませて由梨佳を見ながら懸命に頷いた。由梨佳の説明を聞かなければならないという思いと、もっと強い刺激が欲しいという欲望が心の中でせめぎ合う。
「状況によって、意思や性的な欲望と関係なく勃起し、制御スイッチとして機能するわ。テレリンク機能のスイッチとして使う場面が一番多いかしら」
そう説明しながら由梨佳は軽く手を捻った。多輝の膣の奥、先ほどとは別の接続口に器具がセットされる。多輝は思わず上げかけた声を何とか飲み込んだ。まだ由梨佳は説明を続けている。それを邪魔するまいと多輝は必死だった。
「子宮の上部から腹部に向けては燃料タンクになっているわ」
多輝は口許を手で覆って頷いた。出来れば早く検査を終えて欲しい。だが多輝のそんな願いも空しく、由梨佳は説明を続けながら検査も同時に行っている。
「だから検査時、制御コンピュータと情報をやり取りしたり、燃料補給を行うには、膣を介して子宮口から内部に接続する設計になっているの」
「んはぅ!」
器具が再度、膣壁を擦る。多輝はとうとう我慢出来ずに声を上げた。だが由梨佳はそんな多輝に目もくれず、説明を続ける。対する多輝も由梨佳の説明をきちんと聞いている余裕がなくなり始めていた。
「あなたが女性器を晒すのを恥ずかしがる気持ちは良くわかるわ。だけど、メンテナンスや機体の制御を行うためには、どうしてもこうやって女性器を露出させてもらわなければならないの」
機体に器具を挿入して機体状態を検査する。本当はそれだけのことだ。多輝は快感に身体を震わせながらも必死で考えた。考えを逸らしておかなければどうにかなってしまいそうだったからだ。
ヒューマノイドに自慰が不可欠であることは由梨佳の言からも明らかだ。それと同様にヒューマノイドの機体は事あるごとにチェックする必要もあるだろう。今回のように機体の使用者当人である多輝に異常の原因が判らないケースも多いだろうからだ。
だが自分は本当にそんなに頻繁に検査を受けていたのだろうか。もしそうなら、その度にこんな風に感じてしまっていたのか。多輝は自分のことながら愕然となった。
「それから、あなたの故障の原因だけど」
淡々とした由梨佳の声が続く。
「初期の研究の結果、ヒューマノイドには、ある緊急時に機能する安全装置が付加されることになったの。それがオナニーコントロール回路と呼ばれる装置よ」
ヒューマノイドが長時間、性的な快感を得られず、ストレスが蓄積し解消しなかった時に、自動的に欲情させ自慰をさせる装置をオナニーコントロール回路と呼ぶ。それは自動であるが故に機体使用者の意志を無視して起動する。そして睡眠することの出来る多輝のその回路は、睡眠中にその機能が発動する設定になっている。どうやらその回路が昨晩暴走したようだ、と由梨佳は続けた。
「その結果、神経系統に過電流が流れてショートして、運動と感覚を司る神経回路が故障したんだと思うわ」
静かに感情が冷めていく。多輝は無言でため息をついてはい、とだけ答えた。感じていた快楽は嘘のように静まり返っていた。恐らく由梨佳が作業の途中で性感系統の接続をカットしたのだ。
多輝は黙って手を伸ばした。試しにクリトリスを自分でつついてみる。だが何も感じない。そうか、機械の身体ってことだもんな。多輝は小さく笑ってそう呟いた。
「ごめんなさい、ちょっと脱線してしまったわね。直ぐに修理にかかるわ」
少し沈うつな面持ちで由梨佳が告げる。多輝はいえ、とだけ答えて手を引っ込めた。天井を眺めながら多輝はこれまでの自分について考えてみた。今まで機械の身体であることを意識したことはなかった。ちょっと不便なだけの身体だと思っていただけだ。それに不便と言っても日頃使う分には特に問題はない。時折、立城のことを思い出すと身体が熱くなって切ない気分になるというだけのことだ。
機械なのでコントロールされまくりな件w
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朝のあそこチェック開始 5
TS、百合注意!
エロシーンありです。機械ですが。
その筈だ。多輝は低くそう呟いた。由梨佳は少しでも早く修理しようとしているのだろう。無言で作業を続けている。多輝の股間部、大陰唇を取り外して内部の修理を行っている。その音だけを聞きながら多輝は考えを巡らせ続けた。
それ以外に変わりはない。多輝は心の中でそう呟いた。だがそう思うのにどうして不安を感じるのだろう。多輝は目を閉じて深い息をついた。感覚の全てがカットされているために股間で由梨佳が作業していても何も感じない。機械の触れる音だけが聞こえてくる。多輝は目を閉じたまま、胸に手をあてた。心臓を模した機関が定期的に脈打つ。知らなければそれが心臓の音と思うだろう。だがその鼓動ですら作られたものだ。
どうしておれ、この身体になったんだっけ。多輝がそう思いを巡らせた時、唐突に由梨佳が声をかけた。
「完了したわ。感覚を戻すわよ」
そう告げられた瞬間、それまで完全に消えていた快感がいきなり多輝を襲った。由梨佳は指先で部品を戻しただけだ。なのに多輝はまるで雷にでも打たれたかのような快感に激しく仰け反った。
「んはぅ! せっ、先生っ! 何したんすか!」
「だいじょうぶ!?」
由梨佳は慌てたように多輝の顔を覗き込んだ。ということは多輝の女性器には何も触れていないということだ。なのに多輝の下腹部を言いようのない快楽が襲っていた。多輝は頬を赤く染め、それまで考えていた全てのことについて思いを巡らせることが出来なくなった。
「しっかりなさい。どうしたの?」
肩をつかんで揺さぶられる。だが多輝はそんな由梨佳の白衣をしっかりと握り締め、頭を強く横に振った。何かが膣壁を擦っている。異物を挿入された感覚に多輝は喘ぎ声を上げた。
「あっ、やっ、せんせぇっ、あそこがぁ!」
多輝は涙を零しながら叫ぶようにして告げた。溢れた愛液がベッドのシーツに染み込んでいく。目に見えない何かが多輝を犯していた。だが由梨佳の目にはそれは知覚出来ない。由梨佳は多輝の様子に戸惑っていた。
「あっ、あっ、ゆりか、せんせぇ! あそこが、熱い、あついのぉっ!」
膣壁を強く刺激され、多輝は甘い声を上げた。勃起しきったクリトリスを何かが撫でる。快楽に溺れる多輝の感覚によく知る何かが引っかかる。だがその正体に多輝が気付く前に、多輝のクリトリスを何かが強くこねた。
「そうか、この子もヒューマノイドだもの。そうよそうよね」
一人、納得顔で由梨佳が頷く。多輝は我慢出来ずに由梨佳にすがりついた。よしよし、と多輝の背を由梨佳が撫でる。その目は慈愛に満ちていた。
「安心しなさい、これはヒューマノイドとして、ごく普通のことだから。いかせて……あげるわ」
多輝の背をゆっくりと撫でる由梨佳の表情はどこか憂いに満ちていた。だが多輝は由梨佳のその表情を見ることは出来なかった。快感がどんどん強くなり、何も考えられなくなる。
「あっ、あっ、いい! いいのぉ!」
細い指先が多輝の股間に辿り着く。多輝は由梨佳の愛撫を受けて激しい声を上げた。由梨佳が静かに多輝のネグリジェをめくる。白い膨らみの先で色づく乳首は、興奮のために硬くしこっていた。
「凄い感度だわ」
ほう、とため息をついて由梨佳が呟く。多輝は直に乳首をつままれ、背中を反らして鳴いた。由梨佳の手がじわじわと多輝を攻める。
「あっ、あっ、ああっ! せん、せぇ! すごい、すごいぃっ!」
激しく鳴きながら多輝は腰を動かした。淫らな腰の動きを見下ろしていた由梨佳が薄く笑う。その手は多輝の乳首とクリトリスを同時に弄っていた。
「乳首の感触も凄く自然……」
そう告げて由梨佳はそっと多輝の胸に顔を埋めた。確かめるように舌先で乳首を舐める。その感覚に多輝は激しい声を上げて腰を震わせた。軽い絶頂が訪れたのだ。
由梨佳は多輝の小陰唇に指を伸ばした。静かに小陰唇の間に指先を進める。かき分けるように膣口を撫で、由梨佳の指はゆっくりと多輝の膣の中へと埋まった。
「あっ、そこ! いいっ……いいのぉ!」
「ここも本当に良く出来てるわ」
声を上げた多輝を弄りながら、由梨佳はうっとりとした声を上げた。それは情欲に溺れた者のそれではなく、あくまでも機体の造作に感心からくる声だ。由梨佳は一つ一つを確かめるようにして多輝の膣内を指で探索していった。
「あっ、あっ! ゆ……ちがう、だめぇ! たつき、たつきぃ!」
多輝は激しく頭を振って叫ぶように喘いだ。由梨佳の指の動きのままに敏感に反応する。だがそんな多輝を見つめる由梨佳の目には、それまでになかった光が宿っていた。口許に笑みが浮かぶ。美しい赤い唇で笑みを刻み、由梨佳はゆっくりと多輝を焦らし始めた。
「そんなに、立城さんが好き?」
愛液が膣口から漏れて落ちる。そんな多輝の小陰唇をゆっくりとなぞりながら由梨佳は微笑んでいた。くすぐるように乳首を指の腹で撫でる。多輝は焦らされていることを知り、甘い声を上げた。
「あっ、あっ! すき! すきなのぉ! ……た、つきぃ!」
だが多輝が素直に答えても由梨佳はうっとりとした眼差しで見つめるだけで、多輝が望む通りにはしなかった。多輝のクリトリスを軽くつまんで優しく撫でる。その指の動きに多輝は悲鳴混じりの声を上げた。
「どうしてほしいの?」
正気であったなら、多輝は由梨佳の顔にそれまでに見たことのない表情を見出すことが出来ただろう。由梨佳は薄く笑いながら嬲るように多輝を弄っていた。指先がくすぐるように多輝の身体を撫でていく。多輝は嫌がるように頭を振り、泣きながら告げた。
エロ描写が甘いのはご容赦ください……。
今でも修行中です。
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朝のあそこチェック開始 6
あと、本性はやっぱり変わらないというw
「んっ、あっ! 入れて! おねがい! いれてぇ!!」
淫らに腰を振りながら多輝はそう叫んだ。由梨佳は微笑みを浮かべて多輝の膣口に一気に指を突き入れた。激しく愛撫され、多輝は一気に快楽の頂点へと上り詰めた。焦らされた分だけ快感が深くなる。
「あっ! ああっ! あっ! ゆっ……いいっ、いいっ! いいのぉ!!」
脳裏に誰かの面影が蘇る。多輝は激しい声を上げながら腰を大きく前後させた。ベッドから浮いた女性器から愛液が滴って落ちる。由梨佳は黙したままで多輝の膣を何度も攻めた。立て続けに襲ってくる快楽に多輝は掠れた声でその名を呼びかけた。だが口にする前に何かが言葉を消し去っていく。
激しい快感がゆっくりと遠のいていく。多輝はぼんやりとした眼差しを天井に向けて肩で息をついた。由梨佳は汚れてしまった手をタオルで丁寧に拭いている。その後に由梨佳は多輝の女性器を洗浄し始めた。
「先生……どうもありがとう」
まだぼやけている目をこすりながら多輝は小声でそう告げた。すると由梨佳がぴたりと手を止める。そして目を上げた由梨佳は戸惑った面持ちで答えた。
「いえ、いいのよ」
どうしたのだろう。多輝はそんな由梨佳の表情を見て不安になった。もしかしたら自分の反応はどこかおかしかったのだろうか。そんな疑問がわいてくる。
「あの、先生。もし良かったら」
そこで多輝は言葉を区切った。なに? と由梨佳が訊き返す。どうしよう、と思いながら多輝は言葉を続けられなかった。由梨佳は自分の望むままに快楽を与えてくれた。それはヒューマノイドの機体には絶対不可欠だ。それなら由梨佳はどうなのだろう。多輝はそこまでを考えて由梨佳に目を戻した。由梨佳は多輝の言葉の続きを待って手を止めたままだ。
「あのっ、先生!」
多輝はそこで勢いよく身体を起こした。急に動いたことに驚いたのだろう。由梨佳が小さな悲鳴を上げる。まだどことなく暗い表情の由梨佳の肩を多輝は強くつかんだ。
「どうしたの? まだ、女性器がうずくの?」
由梨佳が優しく微笑みながら問い掛ける。多輝はその表情を我慢しているのだ、と受け取った。そのまま由梨佳をベッドに押し倒す。たとえ記憶がなくとも多輝の身体はかつての記憶をきちんと持っていた。自然に由梨佳の胸元に手が伸びる。
「先生はおれが嫌いですか?」
真面目な顔で多輝は由梨佳に問い掛けた。だが身体が反射的に動く。多輝は自然な動きで由梨佳のブラウスのボタンを一つずつ外していった。
「ちょっと……やめなさい!」
厳しい声が飛んでくる。多輝は手を止めて由梨佳を解放した。俯いてごめんなさい、と小さな声で詫びる。由梨佳はため息をつきながらブラウスの前を閉じた。
「ごめんなさい。その、あなたの気持ちは嬉しいわ。だけど、その……」
由梨佳は困惑を隠さずそう告げた。多輝は俯いたまま、呟くように告げた。
「ごめんなさい……由梨佳先生も気持ち良くないたいかなって思ったから」
軽率だった。多輝は心底、自分の行動を悔いた。誰もが自分のように欲情する訳ではないのかも知れない。反省する多輝を慰めるように由梨佳はにっこりと笑った。
「安心なさい、これでも子持ちの人妻なんだから」
「あっ」
多輝は慌てて口を押さえた。申し訳なさで胸がいっぱいになる。そうだ。由梨佳は結婚しているのだ。自分がでしゃばらなくてもきっと夫である誰かが由梨佳を気持ち良くさせてくれる。多輝はそのことに思い至らなかった自分を深く反省した。
「いいのよ。あなたが優しい子だってことは良くわかったから。だけど、言葉遣いとかは少しづつ直していきましょうね」
「ご、ごめんなさい。旦那さんを差し置いておれとだなんて、嫌ですよね」
由梨佳の表情に陰がさす。だがそのことに多輝は気付かなかった。俯いて唇を噛む。自分が親切でしようと思ったことが裏目に出たことで、多輝は情けない気持ちになった。
だが多輝はふと思った。それでもしてもらうばかりでは申し訳ない。せめて何かお返しが出来ないだろうか。
「あの、先生?」
おずおずと声をかける。多輝の不安を読み取ったのか、由梨佳は優しく微笑んだ。なあに、と柔らかに問い返される。
「キスだけ、してもいいですか?」
「いいわよ」
そう言って由梨佳は静かに目を閉じた。多輝は膝で由梨佳に寄り、その肩に手をかけた。自然と手が伸びて由梨佳の頬を優しく包む。静かに口づけて由梨佳の唇をそっと舌で割り開く。一瞬、由梨佳の身体が震えたが、そのことに多輝は気付かなかった。
労わるように由梨佳の口の中を愛撫する。由梨佳も多輝の口づけに応え、優しくその舌を吸った。だがしばらくして由梨佳は唐突に多輝の身体を押し戻した。急に拒絶された多輝は驚いて目を見張った。
「もう! いきなりディープキスなんてルール違反よ」
赤い顔をして由梨佳は口許を押さえていた。多輝から顔を背けている。多輝は由梨佳が怒っているのかと不安になった。何かがまずかったのだろうか。うろたえる多輝にだが、由梨佳はにっこりと笑ってみせた。
「あなた、男の子だったら凄いプレイボーイになったかもね」
そう言い置いて由梨佳が部屋を後にする。残された多輝はその言葉の意味を考えて首を捻っていた。
まあ、記憶が飛んでる分、ちょっとは紳士的? になってるかも知れませんがー。
TSしてるのに女を落としにいこうとする辺り、本性がww
相手は機械ですけども!
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なめぞう大活躍★ 1
あ、エロシーンはないです。
一つ、運んで欲しいものがあるんだ。そう優一郎は告げたきり、再び専用の研究室に引っ込んでしまった。何でも今、開発中の新しいヒューマノイドがいるらしい。カレンはしかめ面で頭をかいてため息をついた。
授業もほっぽり出してかよ。カレンは胸の内でそう呟いた。優一郎が優秀であることは、恐らく彼に開発されたヒューマノイドが一番よく知っている。カレンは自分がそんな中の一人であると自負していた。
やれやれ、と肩を竦めてドアに背を向ける。ここより更に地下に作られた専用研究室には優一郎以外が入室することは出来ない。研究施設のあらゆる管理を任されている保美ですら例外ではない。恋人の斎姫も専用研究室の内容は全く知らないと言っていた。カレンは眉間に皺を寄せたまま、大股で研究室に戻った。部室として利用されている研究室は数多くあるが、中でも部員たちが談笑するために作られた部屋は一つだけだ。カレンは機嫌の悪さを満面に表しつつ、その部屋に戻った。
派手な音を立ててドアを開ける。既に中にいた斎姫が驚いたように振り返った。その足元にはなめくじのなめぞうが横たわっている。どうやら斎姫に撫でてもらっていたらしい。
まあ、授業に関してはウチらも同じだけどさ。カレンは不服を込めてそう呟いてから大股で部屋に入った。どすん、と身を投げ出すようにして椅子に腰掛ける。カレンのお気に入りの揺り椅子が反動を受けて小さく軋む。
「どした? 今日は果穂はいないのかい?」
ちらりと斎姫を見やってカレンはそう告げた。訊き方がぞんざいなのは性格からだ。斎姫もそんなカレンの言い方には慣れているのだろう。困った顔に微かな笑みを浮かべて頷く。
「果穂ちゃんは、今日は保美先輩と出かけたわ」
果穂は一人では絶対に研究所を出ない。外に出ると小学生と間違われることが多く、時には誘拐されかけてしまうからだ。かと言ってなめぞうを連れて出る訳にもいかない。なめぞうは気のいいやつだが、ごく一般の人々から見れば化け物に過ぎない。カレンはふうん、と呟いて手を伸ばした。
「仁科も買物かあ。じゃ、ここにいるのはウチと吉良瀬だけ?」
そう言いながらカレンはテーブルの上に盛られたクッキーをつまんだ。いつも保美が部員のために、と焼いてくれるものだ。カレンは口にクッキーを放り込んで周辺を見た。が、目的の茶は辺りにはない。仕方なくカレンは椅子から腰を上げた。
「そうね。あと、保美先輩から、電源の確保は大丈夫だから心配しないで、と伝言よ」
茶をいれるために席を立ったカレンに斎姫が声をかける。なるほど、とカレンは口許を歪めて笑いの形を作った。保美はその電力供給のためにカレンと性交しなければならない作りに改造された。カレンは女性型のヒューマノイドだが股間にペニスを持っている。保美は普段はその亀頭部分から電源を確保しているのだ。
「さっき仁科とはやったからね。まあ、しばらくは持つだろうさ。それより」
カレンは言いながらドアのところで斎姫を振り向いた。斎姫が不思議そうな顔で首を傾げた。なめぞうが甘えるように斎姫の足に擦り寄る。
「吉良瀬は茶は飲むかい? ついでだから一緒にいれるけど」
「ありがとうございます」
微笑を浮かべて応えた斎姫に頷き、カレンは調理室に急いだ。手際よく茶を入れて先ほどの部屋に戻る。すると今度は斎姫がなめぞうの触手に向かって紙風船を放り投げているのが見えた。
「へえ。なめぞうが果穂以外の誰かに懐くなんてねぇ。初めて見たよ」
なめぞうは器用に紙風船をキャッチして斎姫に放り返している。それをまた斎姫が手のひらで軽く叩いてなめぞうに向けて放る。カレンの目から見てもなめぞうは楽しんでいるように思えた。
「こう見えてけっこう器用なのよ」
微笑みを浮かべながら斎姫が告げる。カレンはへえ、と応えて茶を斎姫の近くに置いた。白磁の茶碗からは湯気が立ち上っている。カレンは自分の前にも茶を据え、静かに椅子に腰掛けた。体重をかけるとゆらり、と椅子が揺れる。
「ウチはそいつに嫌われてるっぽいからねぇ。ま、昔に苛めたからなんだけどさ」
そう言いながらカレンはずずっと茶を啜った。程よく入った緑茶が喉に染みる。顔を上げるとどこか不満そうな斎姫と目があった。どうやらなめぞうを苛めていたという言葉が気に入らなかったらしい。ああ、と笑ってカレンはなめぞうの触手を指差した。
「その触手。いっぱいあるけど、中の一本がさぁ」
当時のことを思い出しながらカレンはくすくすと笑った。それまでの苛立ちが消えていく。
「男のアレみたいに勃起するんだよね。それもけっこー、太いやつ」
保美がなめぞうの身体を押さえつけ、カレンは触手の中から特殊なそれを手探りで突き止めた。なめぞうは元々はなめくじだが、今はその性質を大きく変えている。カレンは発情したなめぞうの触手をいいように嬲ったのだ。
「こー……手で扱くとさあ。透明なのが出るんだ。それが面白くってね。ウチら、果穂に怒られるまでずっとやってたかなあ」
説明しながらカレンはなめぞうの触手の太さを手で表した。斎姫にその時のことがよく判るように手を上下させる。だが斎姫はなぜか真っ赤になってカレンから目を逸らしていた。その足元でなめぞうが困惑したように斎姫の膝を触手で撫でている。髪風船は別の触手が器用に操っていた。
この後、なめぞうは出てこなかった記憶が……。
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なめぞう大活躍★ 2
エロ直前です。
「何で吉良瀬が赤くなるのさ」
カレンは不思議に思ってそう訊ねた。なめぞうが当時のことを思い出して怒るのなら判る。だが相手は斎姫だ。カレンはなあ、と言いながら斎姫の顔をよく見ようと首を伸ばした。なのに斎姫は慌てたように目を逸らす。
「ごめんなさい、わたし、そういう話苦手だから……」
「あ、悪い悪い。そっか、吉良瀬ってどっちかって言えば苛められるの好きそうだもんねえ」
豪快に笑ってカレンはぱたぱたと手を振った。熱い茶を一口、飲む。すると真っ赤になった斎姫が頬を膨らませた。
「もう、カレンさんってば!」
拗ねた斎姫の横顔を見つつ、カレンはにやにやと笑った。斎姫は好みではないが、こうして拗ねた顔は悪くない。ようやく気付いたかのように茶碗に手を伸ばした斎姫を見つめ、カレンは人の悪い笑みを浮かべた。
「ねえ、吉良瀬ってさあ」
声をかけると斎姫が目を向ける。カレンはしっかりと斎姫の目を見つめながら続けた。
「部長とセックスしてる?」
ストレートに訊ねたカレンの目からそっと顔を背け、斎姫は悲しそうに俯いた。やっぱり、とカレンは心の中で呟く。さっきの優一郎の様子もおかしかった。あれはきっとまた研究にうつつを抜かして斎姫のことを忘れているのだ。機体の調整は保美が行っているから問題はないだろう。だが肝心の斎姫の心はそれだけでは満たされない。
まあ、あの人のことだからわざとだろうけどさ。カレンは心の中でそう付け足して斎姫に顎をしゃくった。
「してないんだったらさあ。ウチとやんない?」
どうせ暇だし。カレンは言葉の先をきっちりと飲み込んだ。
「えっ!」
カレンが思った以上に斎姫が驚いた声を上げる。どうやら心底、想像外だったようだ。カレンは斎姫が驚いたことに少しの満足感を覚え、笑いながら頷いた。
「だってさあ。吉良瀬ってウチと寝たことないじゃん?」
これまでカレンは斎姫には手を出したことはない。好みではない、という理由もあるが優一郎の恋人だと認識しているからだ。だが優一郎はカレンに斎姫に手を出してもよいと随分前に許可を出している。だがその機会もないままこれまでの時間は流れていた。
「だ、駄目よ!」
慌てたように斎姫が首を振る。その背後で警戒するように触手を伸ばすなめぞうを眺めつつ、カレンは小さく笑った。
「どうしてさ? 吉良瀬って実は潔癖? 部長以外のやつとは寝ないって誓ってるとか?」
「わたしは優くんの物だもの。優くんの命令ならともかく、そうでないならそんなこと、できないわ」
カレンの意地悪い質問に斎姫が即答する。なるほどねえ、とカレンは苦笑いした。確かに斎姫の機体のメンテナンスを頼まれているのは保美であって、カレンではない。斎姫は律儀に優一郎の言葉を守っているのだろう。健気だねえ、とカレンは呟いた。
「じゃ、諦めるかなあ。あーあ、ちょっと残念」
苦笑しつつカレンは再び茶碗を傾けた。困惑したような斎姫の顔をちらりと見る。
「あっ、あのっ」
斎姫はためらいがちに声をかけた。カレンは黙ってそんな斎姫を見ていた。斎姫は頬をうっすらと染めて視線を彷徨わせている。数日以上、優一郎と交わっていないのなら当然だろう。優一郎の名前を自分から持ち出したことで余計に身体が疼いているのだ。
判りやすいねえ。カレンは茶碗の中に小さくそう呟いた。だが斎姫の耳には届いていないのだろう。ためらいがちな目に変わりはない。
「なんだい?」
小さく笑いながらカレンは問い掛けた。斎姫は真っ赤になって指を組み合わせている。もじもじと指を動かしながら殆ど聞き取れない声で斎姫は呟いた。
「口でなら……。以前、許可を貰ってるから……」
「へえ? ウチのを咥えてくれるんだ?」
既にペニスは勃起しつつある。カレンはおもむろに立ち上がって斎姫の傍に寄った。斎姫は小さく頷いて視線を床に落としている。その恥らう様を眺め、カレンはにやりと笑った。
「口ならいんだよね?」
そう告げて、カレンは素早く斎姫の顎に指をかけた。驚いたように上を向いた斎姫の唇を強引に塞ぐ。その隙にカレンは斎姫の身体に腕を回した。勃起したペニスをわざと斎姫の身体に擦り付ける。
「もうこんなになってるんだけど……見たい?」
その耳元に囁くと、斎姫は小さく頷いた。これまで斎姫がカレンの機体を直に見たことはない。きっと興味があるのだろう。そのことをカレンはよく知っていた。スカートを持ち上げて下着を下ろす。床に下着を投げ捨て、カレンはスカートを大きくめくり上げた。
斎姫は口許を押さえて赤くなっていた。だが視線だけはしっかりとカレンの下腹部に注いでいる。カレンはよく見えるようにその場に斎姫に座るように告げた。すると斎姫が大人しく床に膝をつく。
「完全に機械なんですね」
少し安心したように斎姫が呟く。当り前だよ、とカレンは笑い声を上げた。もしかしたら斎姫は本物の男性器のようなものがついているのかと想像したのかも知れない。だがカレンの恥丘に生えているそれは、人の皮膚の色をしてはいない。その部分の全てがシルバーメタリックの光沢を放っているのだ。
「でも心配はないよ。舐めても金属の味はしないから」
口一杯に金属の味がしたら、さすがに誰もが嫌がるだろう。カレンはふとそんなことを思いながら苦笑した。ふむふむ、と斎姫が真剣な顔で頷く。ウチは別に講座開いてる訳じゃないんだけどねぇ。からかうようにカレンが言うと、斎姫は焦ったように口許を覆い隠した。
ちゃんと書き切れてない感がパネエです。
機械がまだまだ下手です……。すみません。
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なめぞう大活躍★ 3
百合? 警報!
エロシーンありです。
「ごめんなさい……」
「いいっていいって。それよりさ。ほら、舐めてくれるんだろ?」
斎姫の詫びを適当に流しつつ、カレンはペニスを軽く手で振ってみせた。慌てたように斎姫が頷く。
「あっ、はい。それでは、失礼しますっ」
ためらいもなく斎姫がペニスを咥える。カレンは斎姫の頭に手を乗せ、その髪をすいてみた。細い髪が指の隙間を抜けて行く。自分のかたい髪とは随分違うなあ。そんなことを思いながらカレンは何度か斎姫の髪を優しくすいた。
斎姫はゆっくりとカレンのペニスをしゃぶっていた。その舐め方はよく知る保美のそれとは全く違う。その新鮮さがカレンの情欲をそそった。ペニスが一層強く反り返る。斎姫はそんなカレンのペニスを熱心にしゃぶり続けている。
「んっ、んふうっ!」
斎姫は次第に熱い息を漏らし始めた。カレンのペニスを舐めながら感じているのだ。カレンは斎姫の髪をすきながらちらりとなめぞうを見やった。なめぞうが触手を宙に彷徨わせている。なめぞうは幾つかの特殊な性質を持つが、これもその性質のうちの一つだ。近くにいる誰かの情欲を感じ取り、発情する。現になめぞうの触手は何かを求めるように蠢いていた。
それに吉良瀬にはよく懐いていたみたいだからねぇ。カレンは心の中で呟いて視線を戻した。斎姫の頭を優しく撫でる。そうしながらカレンはさりげなく指の先で斎姫の耳朶をくすぐった。
「んぅ、くうっ!」
「気持ち良さそうだねえ、吉良瀬。可愛い声出すからウチも出ちゃいそうだよ」
そう言いながらカレンはなめぞうの触手の動きを目で追った。熱を発している部分を求めて触手がゆっくりと動く。その触手の先は違うことなく斎姫の腰の辺りを目指していた。
カレンは静かに手を滑らせた。斎姫の頬を指でなぞって顎の線を辿る。そしてカレンは斎姫の耳と首筋に指先で触れた。ブラウスの隙間に静かに指を入れる。
「きゃはっ、んっ!」
愛らしい声を上げて斎姫が身体を震わせる。カレンは小さく笑って斎姫の肩をつかんだ。まだ熱心にペニスをしゃぶり続ける斎姫の身体をさりげなく固定する。
「我慢できないのはウチだけじゃないみたいだよ」
カレンがそう告げた途端、斎姫がびくりと身体を震わせた。なめぞうの触手が斎姫のスカートの中に潜り込んだのだ。カレンは斎姫が逃げられないよう、しっかりとその頭と肩を支えていた。
「あふっ、んふっ!!」
口一杯にペニスを咥えたまま、斎姫が喘ぐ。カレンはゆっくりと腰を前後させ、斎姫の口の中でペニスを擦った。触手は斎姫のスカートの中で蠢いている。恐らく、斎姫の下腹部に取り付き、敏感な部分を刺激しているのだ。カレンは斎姫のスカートの中の様子を想像しつつ、強く腰を前後させた。
「いい顔だよ、吉良瀬……。もっと苛めたくなるねぇ……」
苦しんでいるかのような斎姫の表情を見ると、背中がぞくりとする。カレンは人の悪い笑みを浮かべて斎姫のジャケットをずらした。ブラウスのボタンを片手で外し、肩を剥き出しにする。するりとなめぞうの触手が動き、動きそうになった斎姫の身体をがっちりと固定した。
「なめぞう。吉良瀬の腰をひきな。ああ、そっとやれよ、そっと」
いつもはカレンを嫌っているなめぞうも、この時ばかりはカレンの言葉に従った。じわじわと斎姫の腰を後ろへと引く。斎姫の膝が滑り、がくん、と上半身が崩れかける。だがカレンも合わせてその場に座り、斎姫の頭を支えた。頭が下がったことで、斎姫のスカートが自然にめくれる。なめぞうの触手はいつの間にか斎姫の下着の中に潜り込んでいた。
「いい格好だねぇ。そそられるよ、これは」
なめぞうの触手の動きは斎姫の下着越しにもよく判った。何本もの細い触手が斎姫の下着の中で蠢いている。あの太い一本の触手は今か今かとタイミングを狙って斎姫の腰の周りをうろついていた。
斎姫は肘をついてカレンのペニスを咥えていた。唇の端から涎が伝っている。カレンは斎姫の両脇から手を回し、ブラジャーの上から乳房を乱暴に揉んだ。
「んくっ! んふ、んふうぅ!!」
快感に震えながら斎姫がペニスに歯を立てる。だがその感触はカレンに鈍い快感となって伝わった。カレンは膝立ちになって斎姫の口にペニスを突き入れながら、ブラジャーのホックを易々と外した。豊かな胸の膨らみを揉みしだく。
「もっといい顔をしてごらんよ。なめぞう。下着、取っちまいな!」
興奮に目を輝かせてカレンはそう告げた。なめぞうが触手を巧みに操って斎姫の下着をずらしていく。剥き出しになった斎姫の股間には数本の触手が出入りしていた。恥ずかしさのためか、斎姫の顔が僅かに歪む。
斎姫がくぐもった声を上げる。口一杯にペニスを咥えているために、声が喉の奥で呻きになっているのだ。カレンは斎姫の乳房を強くつかみ、激しく腰を動かした。斎姫の喉にまでペニスの先が届く。
なめぞうの触手が動く。一本の太い触手がゆらゆらと斎姫に吸い寄せられるように蠢いた。幾本もの細い触手を分けるようにして斎姫の小陰唇へと辿り着く。そろそろ斎姫が絶頂を迎えるのだ。
「んんっ!」
太い触手を受け入れた斎姫が声を上げる。カレンは次第に激しい息をつきながら大きく腰を前後させた。乱暴に斎姫の乳房をつかみ、揉む。
「可愛いよ、吉良瀬……あっ……んっ、ふうっ」
斎姫の痴態を見つつ、カレンは興奮した声を漏らした。なめぞうの触手がずるりと斎姫の膣へと滑り込む。斎姫は上と下の口を両方攻められ、目から涙を零していた。カレンは興奮に満ちた眼差しでそんな斎姫の顔を舐めるように見つめた。
次第にカレンの呼吸が速くなる。カレンは夢中で腰を動かした。剥き出しになったままの膣口から自然と愛液が伝い落ちる。
不意に何かがカレンの股間をくすぐった。驚く間もなく小陰唇の間に何かが滑り込む。カレンは思わず声を上げて腰をひくつかせた。
「あはっ! なにっ?」
それはなめぞうの数ある触手のうちの一本だった。細い触手はカレンの小陰唇を割り、その奥へとじりじりと進む。カレンは唐突な女性器への刺激に思わず仰け反った。興奮が強くなり、衝動もそれと同時に激しくなる。
「あっ、やっ! そこっ!」
一気にペニスが硬さを増す。カレンは斎姫を乱暴に弄りながら激しく腰を振った。斎姫の膣には触手が出入りしている。斎姫の痴態を見つめながら、カレンは一息に上り詰めた。声を上げながら射精する。それと同時に斎姫が呻いた。
「んっ、くふぅっ! んふっうん!!」
斎姫の唇の端から精液が漏れる。そしてなめぞうの取り付いている斎姫の女性器から蒸気が噴出した。カレンは斎姫の口にペニスを扱かせながら力なく笑った。カレンは男性器と女性器の両方で達してしまったのだ。
「覚えてなよ……なめぞう。後でお仕置きだ」
快楽の果てに失神した斎姫を支え、カレンはそう呟いた。だがそんなカレンの膣にはまだなめぞうの触手が入っていた。
なめぞう、いい仕事しました★
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由梨佳との駆け引き開始 1
機械ですがおなにーしーんがあります。
昼食はみんなで外で食べた。バーベキューをしようと立城が言い出したからだ。この涼しいのにバーベキューもないだろう、と多輝は最初は文句を言っていたが、それを一口食べて大人しくなった。奈月が用意したというバーベキューはとても美味かったのだ。
午後の学習時間は由梨佳の解説で始まった。女の子の自慰について、という題目で始まった解説だったが、そんな由梨佳の授業を受けるうちに多輝は恥ずかしさにいたたまれなくなった。由梨佳は自慰についてのテキストを作成し、ビデオの資料を用意し、さらに参考用にと何処かのレンタルショップでそれ系のビデオまで借り出してきたのだ。
一体、どこにそんな暇があったのかと言いたくなるほどの周到ぶりだった。多輝は参考に、とビデオを見せられていた。画面の中では一人の女性が自慰をしている。指での愛撫に続いて器具を用いた自慰、ビデオの女性はとどめとばかりに野菜を持ち出してきて自慰を始めてしまった。
そんなビデオを観ながら、多輝にはいつもとは全く違う感情が芽生えていた。女性器が疼くのはいつものことだ。興奮してくるのも仕方ない。だが、多輝はビデオを観ながらなぜか生唾を飲み込んでいた。女性器とは別の何かが熱を持った気分だ。だがそんなことはありはしない。多輝は妙な感覚に襲われるたびに慌ててそれを否定した。
何本目かのビデオが終了したところで、由梨佳は部屋の電気を点けた。多輝は慌てて居住まいを正し、乱れかけていたスカートを直した。
「どう、簡単でしょ?」
「簡単って……言われても」
まさか全く別のことを考えていました、とも言えず、多輝は視線を彷徨わせた。すると由梨佳がやれやれ、と言ってため息をつく。
「じゃあ、実習してみる?」
百聞は一見にしかずですものね。由梨佳がそう告げて多輝の顔を覗き込む。多輝は慌てて由梨佳に頷いてみせた。要するに自分でやった方が早く理解できる。由梨佳の言った意味を多輝は少々、取り違えていた。
「それじゃ、お手本見せてください」
何本もビデオを観ておきながらそれはねえだろう。多輝も自分でそう思っていた。案の定、由梨佳が眉をひそめて怪訝な顔をする。多輝は赤い顔を伏せて上目遣いに由梨佳を見た。だが由梨佳はにっこりと笑って多輝の手をつかむ。
「わかったわ」
「え、あの?」
ソファに座ったまま、多輝は由梨佳を見上げた。だが由梨佳は微笑んで首を横に振る。
「そんなに力は入れなくていいわ。まず添えるだけでいいから」
そう言いながら由梨佳は多輝の手をスカートの上へ導いた。多輝は由梨佳がスカートを押さえるところまでを見ていたが、次に身体を軽く震わせた。スカート越しに手が多輝の股間に触れたのだ。
いや違う、そうじゃない。多輝はビデオに触発されて頭をもたげた欲望に頭を振った。感じている快楽は確かに本物だ。現に女性器はさっきからずっと疼いていて、何かの刺激が欲しいとは思っている。だがそれとはもっと別に多輝の心を誘惑するものがある。
「どう、スカート越しでも感じるでしょう?」
由梨佳が穏やかにそう言いながら手を動かす。多輝の手がそれに合わせて小刻みに上下する。布越しに柔らかく刺激され、多輝は快感に身震いした。
「ヒューマノイドの女性器ユニットは生身のそれより、ずっと敏感よ」
「ほんと……だ」
自分の股間を弄りながら、多輝は感慨を込めてそう呟いた。柔らかく当たる指の感触がとても心地いい。それに生身よりはるかに敏感であるというのも頷ける。そう自分が思う理由に多輝は自分では気付けなかった。
「さっきのビデオみたいに無茶な刺激を与えなくても、最初はじゅうぶん気持ちいいはずよ」
説明しながら由梨佳はさっきより少し強めに多輝の手を押さえた。軽く押さえられただけで多輝の下半身に快感が走る。多輝は潤んだ眼差しで由梨佳を見つめた。
「気持ち、いい、です」
「逆に言えば、ヒューマノイドの女性器ユニットはとっても繊細だとも言えるわ」
由梨佳は多輝の目の前に膝をつき、スカートを軽く持ち上げた。多輝の下着を静かにずり下ろす。多輝はされるがままに腰を少しだけ浮かせた。由梨佳が下着を足から抜く。その下着の中心には既に愛液の染みが出来ていた。
「直接、弄るときは注意してね、決して、無茶な弄り方はしないように」
それが自慰を開始しろ、という合図だと気付いて多輝は恐る恐る頷いた。心に沸き起こっていた別の欲望に蓋をする。そもそも、何故この身体でそんなことが可能だと思うのだ。自分は男ではないのだから。多輝は懸命にそう自分に言い聞かせた。
ゆっくりと指先でクリトリスを探る。忠告通り、多輝は静かにクリトリスを弄った。えも言われぬ感覚が下半身に溜まる。これが自慰なんだ、と多輝は他人事のように感心した。剥き出しになった陰部は濡れそぼっている。愛液が小陰唇の間から溢れているのだ、という知識はあったが、それを自分の指先で確かめるとなぜか不思議な気がする。多輝は自分の女性器を弄りながら変な感覚に囚われていた。
「濡れてる……」
「ヒューマノイドの女性器ユニットはとても濡れやすく出来ているの」
愛液を指ですくってみる。指を目の高さにかざしてみると、指先に付着した愛液が蛍光灯の光を照り返した。指の間でこすってみる。粘度は低い。多輝は舌先で指を舐めてみた。
「味、しないもんなんだ」
「合成愛液には香料が含まれている場合もあるんだけど、あなたのは無味無臭ね」
へえ、と多輝は感心して頷いた。少なくとも自分の知っているそれは少し味が違っていた。そこまでを考えて多輝は思わず顔をしかめた。なに考えてんだ、おれは。別の味って何なんだよ。だが胸の内で問い掛けても答えは出ない。
記憶がなくなってますが、本性は変わらないということですね!w
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由梨佳との駆け引き開始 2
「あまりに濡れる時は、パンティライナーとか、場合によってはナプキンを使ったほうがいい場合もあるわ」
「それって、誰でも?」
多輝は無意識に問い返した。すると由梨佳が困ったように笑う。
「そうね、少なくともわたしは自分のストレスレベルにあわせて、それぞれ使い分けているわ」
そうか。ストレスがあっても濡れるんだ。多輝はそう呟いて頷いた。再度、指をクリトリスに触れさせる。静かにクリトリスを撫でる。多輝は慣れた手つきで愛撫をし始めた。殆ど無意識にしているにも関わらず、多輝の指の動きはとても滑らかだった。
「んっ……由梨佳先生。こ、こんな感じで、いいんですか?」
「そう、上手よ。優しく弄ってあげてね。女性器ユニットはただでさえ壊れやすいの」
由梨佳の言葉に多輝は黙って頷いた。出来るだけ優しく、と自分に言い聞かせる。すると自然と指の力が弱まり、今度は焦らすように指先が動く。勃起したクリトリスの先端だけをくすぐり、次いで小陰唇の縁をじわじわと撫でる。多輝は自分でしているにも関わらず、思わず熱い息をついた。
「乱暴に弄ったり、さっきのビデオの生身の女性のように野菜とかの異物を挿入するとかの無茶をすれば、簡単に壊れてしまうわ。まあ、普通にしてても週に一度は故障するくらいデリケートなの」
由梨佳はそう言いながら多輝の動きをじっと見つめていた。剥き出しになった陰部を間近で見られることに、多輝は恥ずかしさを覚えた。同時に由梨佳に見せ付けたい、という気持ちになる。何でおれ、こんなこと思うんだろ。多輝は疑問に思いながらも自慰の手を止めなかった。
「どう? 女性器ユニットに異常はない?」
静かに問われる。多輝は頷いて軽く腰をひくつかせた。由梨佳によく見えるように小陰唇を指で割り開く。
「せんせい……これで……いいんですか?」
「ええ、上手よ。でも、あなたのそこって本当に綺麗……」
由梨佳がため息をついている。多輝は言われるままに自慰をしながら由梨佳をじっと見つめた。憂いを帯びた表情がやけに艶かしく見える。濡れた唇はあくまでも赤く、柔らかそうだ。多輝は息を潜めて指を小刻みに動かした。指先で快楽を煽りながら由梨佳の首筋から肩にかけてを舐めるように見つめる。
「せんせいも……綺麗、だよ」
興奮に濡れた目で由梨佳を見つめながら多輝はそう呟いた。勃起したクリトリスを指でつまむ。女性器に刺激を与えながら多輝は視線をゆっくりと下げた。目の前にある由梨佳の胸の膨らみを見る。それだけで多輝の口には生唾が溜まった。
「もう、お世辞いっても何もでないわよ。あなたって本当に男の子だったら女の子にもてたでしょうね」
困ったように笑いながら由梨佳が告げる。その顔がうっすらと赤く染まっていることを見て取り、多輝は苦笑した。由梨佳は多輝の姿を見ながら興奮しているのだ。それにさっきもビデオ観てたしな。多輝は内心で呟いてまじまじと由梨佳を見つめた。
多輝の視線を避けるように由梨佳が背を向ける。そそくさと片付け始めた由梨佳の背中に多輝は苦笑を向けた。そっと手を下ろしてスカートを戻す。女性器への指での刺激より、由梨佳の姿を見ている方がなぜか興奮する。多輝は揺れる白衣を静かに見つめていた。時折、由梨佳が身を屈めると白いうなじが現れる。その白いうなじが誘っているように見え、多輝は思わず唇を舐めた。乾ききっていた唇が赤く濡れる。
やりたいなあ。多輝は心の底からそう感じた。どうしてそう思うのかは判らない。だが由梨佳に欲情していることは確かだ。多輝は息を潜めて試しに股間に触れてみた。さっきまでより愛液が零れている。間違いない。自分は由梨佳を見て興奮しているのだ。
「それでは、そろそろ今日の授業は終わりに……! あっ!」
振り返りかけた由梨佳ががくん、と膝をつく。多輝は慌ててソファから跳ね起きると急いで由梨佳を支えた。大丈夫、と言う由梨佳は酷く苦しそうだ。
「そんな、大丈夫じゃないだろ」
「なんでもな……あっ!」
由梨佳が震えながら多輝の腕にしがみつく。そこで多輝は気付いた。由梨佳を支えるために伸ばしていた腕に、由梨佳の胸が当たっているのだ。多輝はゆっくりと瞬きをした。震える由梨佳の肩から手を滑らせる。白衣に包まれた背中を優しく撫でると、それだけで由梨佳はびくりと身体を震わせた。
「ごめんなさい……、立城さんを、呼んできて……」
弱々しい声で由梨佳が告げる。多輝はさりげなく腕を由梨佳に押し付けた。多輝の腕に由梨佳の胸が軽く押し潰された格好になる。
「あっ、だめ……」
「やっぱり欲情してるんだろ、由梨佳先生」
腕にすがりつく由梨佳を見つつ、多輝は口許に笑いを浮かべた。欲望のままに由梨佳の首筋にキスをする。理由なんてどうでもいい。由梨佳を抱きたい、という欲求に多輝は従うことにした。
「おれ、先生とやりたい」
髪をかき分け、由梨佳の耳に口づける。多輝は唇を由梨佳の耳に触れさせたまま、そう囁いた。すると由梨佳が掠れた声を上げる。
「やめてっ! わたし故障してるの。だから! あっ!」
がくん、と由梨佳の身体が崩れる。多輝は静かに由梨佳の身体を抱き上げた。慌てたように由梨佳が腕を上げる。だがその腕が急にかくん、と落ちる。どうやら由梨佳の言う故障とは、運動機能に関してのもののようだ。身体が麻痺した状態らしい。多輝はふうん、と呟いてベッドまで由梨佳を運んだ。
向かい合っておなにーとかエロいと思うのですがどうでしょう。
機械ですけどね!w
(書けてませんが……)
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由梨佳との駆け引き開始 3
「無理するからだよ。ビデオ観ながら、悶々としてたんだろ?」
多輝はそう言いながら由梨佳にそっと口づけした。性的に満たされていないということが、由梨佳の機体に負担をかけているのだ。多輝はそう判断していた。そしてその判断はあながち間違ってはいなかった。
「無理じゃないわ……よくあることだもの……」
由梨佳は多輝の口づけを受けた後、ぽつりとそう呟いた。どうして、と多輝が問う前に由梨佳が悲しそうに顔を背ける。多輝はそんな由梨佳に深く口づけた。どういう理由からかは判らない。だが由梨佳は満足に快楽を与えられていないのだ。由梨佳を抱きたい、という盲目的な思いと共に、多輝の心の中に別の思いが芽生える。
「先生はおれじゃ嫌か?」
静かに問い掛ける。多輝は由梨佳の目をしっかりと見つめていた。由梨佳の目に一瞬、戸惑いの光が揺れる。だがすぐに由梨佳は口許に苦笑を刻んだ。
「あなた、口調だけじゃなくて、なんだか本当に男の子みたいね」
「そう、かな。でも、本当に先生とやりたいって思ったんだ」
由梨佳の返答が曖昧に濁したものだということに多輝も気付いていた。多輝を教育する、という名目である以上、由梨佳が自分から多輝を受け入れるという訳にはいかないのだろう。少なくとも多輝はそう感じた。だが由梨佳はすぐにこう付け足した。
「あなたみたいな子。わたしは嫌いじゃないわ」
「判った」
由梨佳の微かな笑みが泣いているように見える。多輝は言葉少なに答え、由梨佳の胸元に唇を落とした。きっと男性器がついていたら今ごろは勃起しているだろう。そう思いながら由梨佳のブラウスに手をかける。剥き出しになった白い肌に幾つものキスマークをつけてからブラジャーのホックを外す。多輝は心の望むままに動いていた。
「やめて! きっと……」
弱々しい声で由梨佳が呟く。多輝は黙ってブラジャーをたくし上げた。興奮に勃った乳首を柔らかく吸う。由梨佳が嫌がっていた理由はすぐに多輝にも判った。由梨佳の乳首は人のそれとは違い、機械的な硬さがある。恐らく、内部にばねが仕掛けられているのだ。
「がっかりした? わたしの身体は、あなたほど精巧には作られていないの」
だって試作品だもの。小声でそう付け足した由梨佳に多輝は首を横に振った。指先で優しく乳首をつまむ。それから多輝は由梨佳に軽くキスをした。触れるだけのキスを何度か繰り返す。
「おれは先生がちゃんと気持ちいいかが心配だよ。おれ、こんな風に女の人の身体、触ったことないから」
「だいじょうぶよ。感度だけはいいもの。ほら、勃起レベルがあがるわよ」
そう由梨佳が告げると同時に乳首が指先で硬さを増す。多輝はうん、と頷いて由梨佳の胸に顔を埋めた。舌先で肌をなぞって乳首へと移動する。多輝は思うままに由梨佳の乳首を吸った。
「んっ!」
「でも、おれ、下手じゃない? 大丈夫?」
不安に思っていたことを口に出す。小さく呻いた由梨佳は苦笑して多輝の頭に手を乗せた。女らしい柔らかな手が多輝の頭を撫ぜる。
「気持ちいいわよ。もう乳首の勃起レベルが最大になるわ、今度はもっとはっきりわかるわよ」
多輝の指の下で乳首が硬さを増す。由梨佳の表情に悲しみのそれを見止め、多輝は訝りに眉を寄せた。さっきから由梨佳はなにを気にしているのだろう。多輝は由梨佳を指で弄りつつ、そのことを訊ねた。
「だって、おもちゃみたいでしょ?」
悲しそうな顔をしたまま由梨佳が小さく呟く。多輝はなんだ、と笑って首を振った。そんなことを思ったことはない、と告げる。そして多輝は続けた。
「だってちょっと形が違うだけだろ? 人間だって色々いんだし、問題ねえじゃん」
きっぱりとそう告げると由梨佳の顔から悲しみの表情が消えた。どこかほっとしたように微笑んでいる。多輝はうん、とその笑顔に答えて再び頭を下げた。
「優しいのね」
彼とは全然違うわ。由梨佳の微かな囁きは多輝の耳にしっかりと届いた。多輝は怪訝な顔で手を止めた。めくろうとしていた由梨佳のスカートを静かに下ろす。
「彼?」
「あなたに似てる人が居るの。わたしのことを、出来損ないの玩具としか思って居ない人が」
おれに? 多輝はそう呟いて不快感に眉を寄せた。一体、どんなやつだよ、それは。思わず苦い呟きを漏らす。しかもおれに似てるって? 多輝はそう呟いて頭をかいた。少なくともそれはおれじゃない。由梨佳にそう告げる。
「安心してよ。おれとそいつは別人だからさ」
そう言って多輝は由梨佳に笑みかけた。余程、傷ついていたのだろうか。だから自分は最初、拒絶されたのか。多輝は由梨佳の態度をそう理解した。そんなこと言う奴に似てたら、確かに嫌だよな。心の中で呟く。
「そうよね、ごめんなさい。ほんとうに、ごめんなさい」
由梨佳は顔を手で覆って小声で詫びた。どうやら似ているという事実が由梨佳の心に余計な負担をかけていたらしい。多輝はよしよし、と由梨佳の頭を撫ぜた。似ているという誰かのことを多輝は知らない。だが由梨佳に負担になっているなら、その不安は取り除きたい。そう思った。
そうじゃないと落ち着いてできねえだろ。心の底で声がする。多輝は慌ててその言葉を心の中で否定した。なにを考えているんだ、自分は。多輝は強く頭を振って急に浮かんできた妙な考えを追い出した。
由梨佳の快楽を引き出すのはわけなかった。多輝は無意識に手を動かし、由梨佳の情欲を次々に引き出した。どうして自分がそんな真似ができるのかを多輝は疑問には思わなかった。由梨佳を抱きたいという欲望が勝手にそうさせるのだ、と適当な理由をつけていたのだ。
指を巧みに使って由梨佳を絶頂に導く。満足するまで多輝はあらゆる手を使って由梨佳を攻めた。多輝の意志のままに由梨佳は乱れ、そして何度も果てた。そんな由梨佳の姿に多輝は更に欲情し、結局最後には由梨佳と女性器をすり合わせて互いに絶頂を迎えた。
やがて失神した由梨佳を立城が迎えにきた。修理するのだ、と言って客室を去る。多輝は手を振って見送ったが気分は晴れなかった。抱きたいと思っていた由梨佳を抱くことが出来たのだ。満足できている筈ではないのか。そう自分に言い聞かせる。おまけに自分も絶頂を迎え、身体が震えるほどの快楽を手に入れたのだ。
だがどうしても満足できない。多輝は客室で一人、自分の手を見下ろしながら考え続けていた。
そろそろ欲求不満の多輝w
ここで二章は終わりです。
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三章
吉良瀬邸で昔の話を 1
いくつになるか判りませんが2,000文字くらいずつ分けます。
エロシーンはありません。
その日は前日までとは打って変わって朝から雨が降っていた。暗い空から大粒の雨がアスファルトの上に降り注ぐ。優一郎は傘に当たる雨の音に耳を澄ました。不規則な雨音を聞いていると何故か不安になる。
昨夜遅くにそれは出来上がった。注文には充分過ぎるほど応えている筈だ。これまでに作ったどのヒューマノイドよりも素晴らしい出来栄えになっている。優一郎はそう自負していた。だがそう思う心の片隅に不安が沸き起こる。何度もチェックして性能は確かめてある。なのにどうしてこんなに気になるのだろう。優一郎はふと足を止めて振り返った。レインコートを身に着けたカレンが怪訝そうに立ち止まる。
「なんすか? 部長」
頑丈なロープを袈裟懸けにし、カレンは大きな金属製の箱を引きずっていた。移動を楽にするための車輪がついているとはいえ、優一郎だけでは引きずることすらままならないほどの重さがある。それをカレンは易々と運んでいるのだ。二メートル四方のその箱を満ち行く人が不思議そうに見つめて過ぎる。優一郎は通行人たちをさりげなく眺めてからカレンに目を向けた。
「出力増強後の身体にも充分慣れたみたいだね」
微笑を浮かべて優一郎はそう告げた。するとカレンが微かに頬を染めて指先で鼻の頭をかく。先日の失敗を思い出しているのだろう。カレンは照れくさそうに笑って頷いた。
戦闘型のヒューマノイドであるカレンは人の数十倍のパワーを発揮することができる。だが通常の生活を送る際に出力の設定を間違えると色々な弊害が起こる。自動的に設定を変えるためのスイッチが切り替えられるなら問題ない。だがカレンの機体のスイッチはカレンが直接に切り替えなければならなくなっているのだ。
スイッチの切り替えを間違えるとどうなるか。取ろうとしたコーヒーカップを握り潰す、立とうとして手をついてテーブルを割る、電灯のスイッチを入れようとして壁に穴を空ける。……といった問題が発生する。そしてカレンはそれらの失敗を多々繰り返していたのだ。
「さすがに仁科を抱き潰すって訳にはいかないっすからねぇ。ウチも学習しましたよ」
様々なものを壊したカレンに優一郎は保美相手に練習するように、と命じた。するとそれまでカレンが多発させていたうっかりミスが全く発生しなくなった。優一郎の判断があればこその学習の仕方だったが、カレンに取っては死に物狂いになった教育期間でもあった。
それ以来、カレンが機体の設定ミスによる事故を起こすことはなくなった。優一郎はその時のことを思い出して苦笑した。止めていた足をまた前に出す。目的地に向かい始めた優一郎の後をカレンは黙々とついていく。
清陵高校と目的の屋敷は地図で見ると町の両極端にある。西の端にあるのが優一郎たちの通う学校、清陵高校だ。対する目的の屋敷は東端にある。清陵町はさほど大きな町ではないため、端から端まで徒歩で行っても一時間というところだろう。だがその道のりを優一郎はいつも以上に遠く感じていた。
主人は数ヶ月前までその屋敷を空けていた。その間、使用人たちが屋敷を管理していたらしい。だが、普段は人気が殆どなく、付近の住民たちはお化け屋敷などと噂をしていたという。そんな屋敷だったが、主人が戻ってからというものお化け屋敷であるという噂は消え、今ではどこぞの大富豪が暮らしているのではないか、と付近の住民たちは噂をしているという。全く、現金なものだよね。優一郎は内心でそう呟いてため息をついた。
歩き始めてから一時間が過ぎた時、優一郎は屋敷の門に辿りついた。カレンが横でもの問いたそうな目をしている。しばらく無言で門を見つめた後、優一郎はおもむろにチャイムに手を伸ばした。激しい雨は降り続いている。傘を少し前に傾け、優一郎はチャイムを押した。
女性の声が応答する。優一郎は礼儀正しく挨拶した後、今日の訪問についての件を説明した。女性は愛想良く返事し、続いて門が大きく開いた。
門から屋敷まではまた歩かなければならない。優一郎はカレンを促して先を急いだ。門から玄関に続く小道にも雨は降り注いでいる。咲き乱れるばらの花は雨に濡れて沈んでいるように見えた。
「部長。随分とでっかい家っすねぇ。ホントにここでいんすか?」
屋敷の噂について知らないのだろう。カレンが恐々と周辺を見回している。玄関に辿りついた優一郎は苦笑して振り返った。早く屋根の下に入るようにカレンを促す。カレンは優一郎の言葉に従って大人しく玄関の前に立った。
「吉良瀬の当主の屋敷だからね」
「あー……。これが吉良瀬の実家っすかあ。凄いな」
感心したようにカレンが呟く。本心からの言葉なのだろう。珍しそうに玄関の周りを見ている。そんなカレンを余所に、優一郎は再度、玄関のドアの脇にあるチャイムを鳴らした。ほどなくしてドアが開く。出てきたのは先日会った奈月だった。
「こんにちは、奈月さん」
優一郎はにっこりと微笑みながら挨拶した。メイド服を身につけた奈月がスカートをつまんでお辞儀する。どうやらそれがこの屋敷での正式な挨拶らしい。奈月は笑顔で挨拶を返した。
「いらっしゃいませ」
「こんちは」
二人とは違い、カレンはぶっきらぼうにそう告げて箱を指差す。優一郎はああ、と笑ってカレンに手を振った。カレンはそれを合図と理解したのだろう。奈月に会釈をして身を翻す。奈月が慌てて声をかける前にカレンはさっさとその場を後にした。元々、ここまで荷物を運ぶところまでを頼んでおいたのだ。優一郎は困惑気味の奈月に大丈夫です、と告げた。
だが大丈夫だと言ったところで荷物を優一郎が運び込める訳ではない。かといって奈月にさせるのは酷だろう。元々、奈月はカレンのように戦闘タイプのヒューマノイドではなかった筈だ。中までカレンに頼めば良かったかな。カレンを帰してしまったことを少し悔い、優一郎は箱を目の前にしてうーん、と唸った。
このシーンは登場人物はけっこー多いです。
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吉良瀬邸で昔の話を 2
エロシーンはありません。
とりあえず玄関は通るサイズだ。優一郎は奈月と顔を見合わせ、次いで箱に目を移した。
「大きいですね……」
やはり手に余るサイズなのだろう。奈月が困ったように首を傾げる。優一郎はため息をついて同意した。ここまで運ぶところまでしか考えていなかった。優一郎は正直にそう奈月に告白した。だがそう言われたところで奈月がこの荷物をどうにかできる訳ではない。二人はお互いに困った顔でしばらく箱を挟んでぼんやりと立っていた。
「何してんだ? そんなとこで」
不意に聞き慣れた声が聞こえてくる。優一郎は目を見張って声のした方を見た。玄関の奥、じゅうたんの敷かれた階段の上に誰かが立っている。階段を降りてどこかに向かうつもりだったのだろう。階段の途中で不思議そうな顔をして優一郎たちを眺めている。
「多輝さん、ちょっと、力、を貸してもらえませんか? わたしだけだと、ちょっと失敗しちゃいそうだったから」
助けを求めるように奈月が告げる。優一郎はその間もぼんやりとその姿を見つめていた。前にも同じような格好をさせていたことはある。だが今の多輝のメイド姿は優一郎の目にはやけに新鮮に映った。
身軽に階段の手すりを飛び越える。多輝は一気に階段から飛び降りて奈月の方へと歩いてきた。そして今、気付いたというように優一郎に目を向ける。優一郎は思わず多輝に呼びかけようとした。
「こんにちは。……あのさ、奈月さん。ほんとに使って大丈夫?」
そう言いながら多輝がちらちらと優一郎を見る。優一郎は訝りに眉を寄せた。ログが取れなくなって二日、その間に多輝に何かがあったのだろうか。多輝は優一郎に対して嫌によそよそしい。
「多輝さんが居れば大丈夫です!」
自信満々で奈月が頷く。多輝は困った顔で頭をかき、いや、そういうことじゃなくてと説明している。その間も優一郎は多輝をじっと見つめていた。喋り方が少し変わっているのは、きっと女性らしくなるための教育中だからだろう。もっともその喋り方も完全に女性そのものにはなっていない。時折、おれ、という男言葉も混ざっている。
「まあいいや。えーと、ちょっと退けてくれるかな。ああ、えっと」
そこで多輝は優一郎を指差して眉間に指を当てる。黙している優一郎を見てはいるが、その視線は以前のそれとは全く違う。
「あんた、名前なんてえの? 宅配の人?」
そう訊かれた優一郎は一瞬、顔を強張らせた。軽く俯いて口許に嗤いを浮かべる。なるほど、と小さく呟いてから優一郎は顔を上げた。その顔にはさっき浮かんだ嗤いはない。
「吉良、優一郎と申します。以後お見知りおきを」
そう言って優一郎はにっこりと多輝に微笑みかけた。すると多輝は困ったような顔で頷き、次いで自己紹介を簡単にした。どうやら多輝は吉良瀬という姓をまだ使ってはいないらしい。雨宮多輝、と優一郎は何となく口の中で呟いてみた。多輝がそう、と律儀に優一郎に頷いてみせる。
「あー、と。吉良さん? とにかくちょっと避けてくれるかな。ああ、奈月さん、あんたが運ぶとつまづきそうだから退けて。ほら」
「あっ、はい!」
慌てたように奈月が箱から離れる。優一郎も大人しく多輝の言に従い、箱から離れた。多輝が眉間に指を触れて目を閉じる。次の瞬間、何かが弾けるような音がして箱についていた雨水がきれいに消えた。次いで箱がゆっくりと浮き上がる。
「濡れたまま入れるのはまずいだろ?」
感心して見つめていた優一郎に多輝がぶっきらぼうに返す。紺一色に染まった髪を背中に払い、多輝は箱に向かって指を鳴らした。すると箱が音もなく空中を滑り始める。優一郎は奈月に促されるままに屋敷内に入った。
屋敷内は静かだった。何時来てもここは静かだ。優一郎は周囲を見ながらゆっくりと歩いていた。その先を行くのは箱を操っている多輝だ。奈月は大人しく優一郎の横を歩いている。
「あ、そいえばさ。立城が伝えとけって」
そう言いながら多輝が肩越しに振り返る。その目は奈月を見ている。優一郎は黙って廊下に飾られた絵画を見て歩いていた。
「立城さんが? わたしにですか?」
「もうすぐだからって。おれにはよく意味がわかんないんだけどさ」
それを聞いた奈月の顔がぱっと明るくなる。薄紅色に染めた頬を手で包み、口許に笑みを浮かべる。多輝には理解出来なくても奈月にはその言葉はとても重要だったのだろう。そして優一郎にも立城の伝言の意味が判っていた。さりげなく視線をずらして空を滑る箱を見る。立城に注文されたこれの用途はやはり予想した通りだったのだろう。そのことを優一郎は内心で再確認した。
奈月が荷物の搬入場所に指定したのは立城の執務室だった。多輝は奈月の指示に間延びした返事をする。優一郎は自然と緊張した。立城とはもう幾度も対面している。だがいつ会っても慣れない。毎回、立城の印象が違っているせいもあるだろう。だが優一郎は自分が緊張する理由がそれだけではないことに薄々気付いていた。
人とは違う存在。龍神と呼ばれる彼らは一体、どういう理由でこの世に生まれてきたのだろう。そしてその力の源は一体なんなのか。力で構成されていると立城は言っていたが、じゃあその力の大元はなんなのか。彼らに関してはまだまだ謎が多い。そして優一郎は自然とその謎を解明したいという欲求に囚われていた。
扉が開く。執務室へ続く扉を真っ先にくぐったのはあの箱だった。続いて多輝が執務室に足を踏み入れる。そして奈月、最後に優一郎と続いた。
この時点の多輝は優一郎のことを完全に忘れてます。
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吉良瀬邸で昔の話を 3
エロシーンはありません。
「やあ、随分と早かったね」
屋敷の主は執務机についていた。椅子から腰を上げて三人に近づいてくる。優一郎は儀礼的に挨拶をしようとした。だがそんな優一郎の前に誰かが一歩出る。多輝だ。
「重い!」
仏頂面で多輝が吐き捨てる。すると立城は困ったようにほほ笑みを浮かべて多輝に手招きをした。
「ごめんなさい、やっぱりわたしも手伝ったほうが……」
泣きそうな顔で奈月が告げる。いや、違う、と多輝は慌てて振り返った。
「あんたはいいんだ、あんたは。運ぶ途中で怪我されちゃ困るからな」
そう言ってから多輝は改めて立城に向き直る。立城はいつものことなのか、喚く多輝を穏やかな表情で見守っている。さながらやんちゃな子供を遠くから見守る親のようだ。
「運んでくれてありがとうとか、そゆのはないのか!」
不機嫌そうに叫んでいるが、きっと本心ではないな。優一郎は内心でそう呟いた。立城に向かって大股で歩いて行く多輝の表情は本気で怒っているものではない。どこか嬉しそうに見える。優一郎は目を細めて黙って多輝の行動を眺めていた。奈月一人がおろおろとしている。
「ああ、なるほど。君は僕にご褒美をもらいたい、と」
軽く手を叩いて立城が納得顔になる。多輝は報酬は当然だ、と憤然と言い返した。奈月が懸命な面持ちであの、と声をかけて多輝を止めようとする。だがどうせ多輝は他の誰の言葉も聞いてなどいない。立城と話すので精一杯だろう。優一郎はそっとため息をついて箱に寄りかかった。腕組みをして静かな眼差しを二人に送る。
多輝は肩を怒らせて立城に何事かを怒鳴っている。立城はそれを受けて軽く流しては笑う。きっとこの屋敷では当り前の光景なのだろう。優一郎は冷めた眼差しでその様子を眺めていた。
「せめてゲーム機くらい入れてくれるとかだな!」
「ゲームって……。この間、新しいソフトを買ってあげたばかりだろう? あれはどうしたの」
「あのな! ソフトだけあったってゲームできねんだよ! わざとか、てめえ!」
「だってあのゲームが欲しいって言うから」
いつまで続ける気かな。優一郎は半ば呆れて言い合う二人を横目に眺めた。奈月が涙目になって二人の間に割って入ろうとしている。どうせ無駄だよ、と優一郎はそっと奈月に告げた。すると困ったような顔で奈月が箱の傍に大人しく戻ってくる。
「仕方ない子だね。じゃあ、これで」
優一郎はその瞬間、軽く息を飲んだ。立城が素早く多輝の唇を塞いだのだ。絶句する優一郎の目の前で多輝が硬直する。立城は人目を全く気にすることなく、そのまま多輝をしっかりと腕に抱いた。
「あっ、阿呆か、てめえは! 何てことしやがる!」
しばらく経ってから唐突に我に返ったように多輝が叫んだ。だがまだ立城の腕の中に抱かれたままだ。優一郎は誰にも聞かれないようにそっと息をついた。きっとわざとだな。そう心の中で呟く。その呟きをまるで聞き取ったかのようなタイミングで立城が執務室の入り口に目を向けた。
「奈月さん。彼女を呼んできてくれますか? そろそろ午後の授業の時間ですから」
多輝を腕にしっかりと抱き、立城がそう告げる。奈月は慌てて返事をして執務室を駆け出していった。多輝は立城の腕の中で真っ赤になっている。口では嫌がっているが本気で解放されたいと思っている様子はない。
「けっこう可愛くなっているでしょう? 多輝は」
次に立城は優一郎にそう言葉を向けた。多輝を抱きすくめて軽く口づける。そんな立城を見つめて優一郎は微笑を浮かべた。
「ええ。多輝さんといい、奈月さんといい、可愛らしい人ばかりですね」
多輝は間違いなく記憶を操作されている。だがそれを今、ここで機体チェックをすることは出来ない。何故なら教育期間中は決して手を出さないというのが優一郎に言い渡された条件だからだ。
「って、ばか! そんなとこ触るな! ……うわ! あっ、やめろってば!」
次第に多輝の声には甘い響きが宿りつつある。それを耳にすると何故か多輝と過ごした時間が遠く感じられる。ほんの数日前まで自分と共に過ごしていたのに、その時間がまるで実は幻影だったのではないかという錯覚まで起こる。優一郎はため息をついて頭を強く振った。
多輝と離れていた時間は僅か数日だ。その間に多輝はすっかり優一郎のことを忘れている。そんな短い時間でこうも簡単に記憶を操作出来るのか。優一郎は多輝と立城を見つめながらぼんやりと考えた。
不意に背後から足音が聞こえてくる。次に執務室に現れた姿を見止め、優一郎は愕然とした。当然のような顔で執務室に入ってきたのは由梨佳だったのだ。
「母さん!?」
驚愕のままに優一郎は叫んだ。由梨佳はそんな優一郎を見やって微笑みを浮かべる。久しぶりに見ても由梨佳は若々しい姿をしていた。優一郎は驚きにただその場に立ち尽くした。
「驚いた? 今、立城さんに頼まれて、天輝さんの家庭教師をしているの」
そう言いながら由梨佳が立城と多輝に目を向ける。天輝、と優一郎は口の中で呟いた。そしてすぐに気付く。きっと女として生きるために多輝につけられた新しい名前だ。優一郎はそのことを理解して頷いた。
「あっ……由梨佳、先生っ。こ、このばか何とかして!」
執務室に入ってきた由梨佳を見止めるなり、多輝が喚く。だが立城は特に多輝に何もしてはいない。ただ腕に抱いているだけだ。なのに多輝は目を潤ませて訴えかけるように由梨佳を見つめている。
「立城さん、いい加減にしてください!」
多輝の言葉を受けて由梨佳がぴしゃりと叱る。立城は苦笑して多輝を解放した。途端に多輝がその場によろけて座り込む。当然だな、と優一郎は小さく呟いた。ヒューマノイドの性感機能は人のそれとは異なり、非常に敏感に作られている。しかも多輝は立城を好いているのだ。想い人に抱かれているだけで、その機能はフルに力を発揮する。優一郎は目を細めて多輝を見つめていた。
母子ごたいめーんw
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吉良瀬邸で昔の話を 4
「やれやれ。ちょっとからかうつもりだっただけなんだけれどね」
立城はそう告げて軽く肩を竦めてみせた。そんな立城を多輝が怒った顔で睨む。だがその顔も本心で怒っているそれではない。どこか照れたような、それでいて少し残念に思っているといったところか。優一郎は胸の中で多輝の心情の動きをそう分析した。
「ヒューマノイドにとって、それがどういう意味を持っているか、考えてから行動してください!」
こちらは真剣に怒っているのだろう。由梨佳は必死の面持ちでそう立城に訴えかけた。立城はうん、と素直に頷いて多輝の傍にしゃがみ込む。
「悪かったね、多輝。少し悪戯が過ぎたようだ」
「えっ、いや、あの」
素直に謝られるとは思わなかったらしい。多輝がまともにうろたえる。立城はそんな多輝の頭を撫ぜてもう一度詫びた。その後にさりげなく多輝の耳元に口を寄せて何事かを囁く。途端に多輝の顔が真っ赤になった。
「由梨佳さん。午後の授業は少し早く切り上げて頂けますか?」
立ち上がりながら立城はそんなことを告げた。それまで懸命な面持ちで立城を叱っていた由梨佳が困ったような顔になる。由梨佳は多輝と立城を見比べて返事に窮している。優一郎はため息をついて箱から背中を引き剥がした。
「了解しました。それでは天輝さん、すぐに授業を始めましょう」
「えっ、あの、うわ、ちょっと待って由梨佳先生!」
由梨佳はさっさと多輝の手を取り執務室を出て行った。引きずられるようにして多輝がその後ろに続く。二人が出て行くと執務室は急に静かになった。優一郎は肩越しに二人を見送り、次に立城に目を戻した。
「いつ見ても記憶操作の手際はすばらしいですね」
微笑みながら告げる。立城は緩んだネクタイを直しながら優一郎に微笑みを返した。穏やかなその笑みに一体、今までどれだけの者が騙されてきたのだろう。自分と似た性質の笑みを見つつ、優一郎はそんなことを思った。
「多輝の記憶のことかな? あれは単純にすり替えをしているだけでね。特に難しい術をかけている訳ではないよ」
「なるほど、記憶操作にもいろいろな手法があってそれを組み合わせて効果を発揮させているとそういうわけか」
確かめるように呟くと立城がにっこりと笑う。優一郎は目を上げてそんな立城を見つめた。出会った時と同じ青年の姿をしてはいるが、一体この人は幾つなんだろう。スーツに身を包む立城を見つめ、優一郎は考えを巡らせた。するとまるで思考を読んでいるかのようなタイミングで立城が告げる。
「年齢に興味があるなら君の父上に訊くと判るかも知れないね。もっとも、僕は龍神の中では随分と若い部類に入るんだけれどね」
そう言いながら立城はすい、と優一郎の脇を過ぎた。箱に近づいて手を伸ばす。立城は金属の箱に触れて微かな笑みを浮かべた。金属の厚い壁に包まれて眠っているのは一人の女性だ。優一郎はため息をついて箱の傍に戻った。
「早速、中身を見せてもらおうかな」
「ご期待に沿える出来だといいのですが」
優等生の答えを返して優一郎は箱の隅にある操作盤に触れた。暗号を打ち込むと箱の合わせ目から一気に圧縮された空気が噴出する。それが鎮まると今度は箱の合わせ目がゆっくりと光り始める。やがて箱の上面と側面が自動的に折り畳まれ、執務室の中に一体のヒューマノイドが姿を現した。透明な球体のケースの中でそのヒューマノイドは膝を抱えて丸くなっている。箱の面の内側には緩衝材代わりにクッションが張り巡らされている。球体はそのクッションの中央に静かに据えられていた。
青いクッションの中央に座す球体は淡いブルーの光に包まれている。ケースが発光しているのではない。中に納まっている機体が発光しているのだ。だがその光は熱を持っておらず、たとえ手を翳しても感触は全くない。
機体が光を帯びたのは昨晩のことだった。その説明をしながら優一郎は球体の中に眠る機体を見つめた。立城も興味深い眼差しでその機体を見つめている。
「正確に言えば機体そのものが発光しているのではないことが判りました。測量した結果から考えると、機体を取り巻く空気が発光しているものと思われます」
「そうだろうね」
呟くように応え、立城は目を細めて球体に手を伸ばした。優一郎が止める間もなく、そのケースの表面に触れる。特殊な細工の施されたケースを素手で開けることは出来ない。何物かが接触すると微弱な電流が流れる仕組みになっているのだ。防犯装置のかわりと言ってもいい。だがケースに触れている立城に特に変わりはない。もしかしたら電流の流れ自体を捻じ曲げているのか。優一郎は立城の手元を見つめて、次にケースの中に目を転じた。
指先がケースの表面を撫でる。ケースをなぞる立城の手つきはまるで愛しいものを愛撫しているかのようだった。説明を中断し、優一郎は無言で立城の様子を見守った。何度会っても謎は減らない。それどころか彼らに対する疑問は増える一方だ。一つの謎が解明できたかと思えば、また別のところに疑問が発生する。その繰り返しだ。
説明が続くよどこまでも……
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吉良瀬邸で昔の話を 5
エロシーンはありません。
だがこれほど優一郎の探究心を煽る素材もない。優一郎は黙したまま、立城の手元を眺めた。指先がケースをなぞる。触れて、離れて、また触れる。それを見ている内に優一郎は奇妙なことに気付いた。立城の手つきに惑わされ、その指先が描く軌跡に今まで気付かなかったのだ。そう、立城は何かをケースに指先で記している。最初からそのことに気付かなかったことに優一郎は歯軋りしたい気分になった。
指先がゆっくりと線を描く。
「個体に与えられる名前、というものの意味について考えたことはあるかな?」
名前。優一郎は言われるままにそう呟いてみた。名前。言葉通りならそれは例えば優一郎であれば吉良優一郎というのがその名前なのだろう。だが立城の言っているのは本当にその意味なのだろうか。これまでの経験から優一郎は立城の言葉の裏側を自然と探ろうとしていた。
「例えば多輝には……そうだね。雨宮多輝、という名前がつけられた。これは決して偶然なんかじゃない。雨の宮の巫女、という意味があるんだよ。そして多くの輝きとは龍神たちを指す。……まあ、多輝の名は龍神たちを守る雨の宮の巫女、とでも言ったところかな」
指先の描く線は増えていく。優一郎は立城の言葉を聞きつつその指の動きを目で追いかけた。だが立城のかくそれが何であるのか優一郎には判別できない。もしかしたら日本語じゃないのかも。優一郎がそう思いついたところで立城が続ける。
「だが僕たちの中には例外的に幾つか名前を持つ者がある。それらは名前ごとに違う力を持つ。例えば僕は人間的には吉良瀬立城という名を持っているけれど、仲間の一部からは木龍神と呼ばれる。そしてその名前ごとに発揮される力も違っているんだよ」
立城は指をケースから離した。おもむろに手のひらをケースに翳し、視線だけをそっとずらす。
「名前はその個体を示す記号ではなく、力として存在しているとしたらどうかな」
「名前そのものが力を持つ、ということですか」
名前が力を持つ。受け答えとしてそう言いながらも優一郎にはその意味が今ひとつ理解できなかった。これまで名前とは個体を示すものと単純に考えていた。自分、斎姫、部員たち、それから母親、父親、姉。次々に名前を持つ人々のことを思い出してみる。だがそうしてみても立城のいう意味がはっきりと理解できない。優一郎は眉を寄せて考え込んだ。
「それと同様に言葉も力を持つ。……君は多輝にとある約束をしてしまったね?」
光に照らされた立城の笑みは酷く静かだった。それでいて今までとは違う、別の意志を感じる。優一郎ははっと目を上げて立城を見た。立城は翳した手のひらをゆっくりとケースに近づけていった。手のひらが触れる。すると唐突に甲高い音を立ててケースが粉々に砕けてしまった。ケース内に満たされていた特殊な液体が音を立てて床に零れる。だが不思議なことに機体は宙に浮いたまま、膝を抱えて背を丸めていた。液体の中を漂っていた髪の毛は、そのまま宙を漂っている。
「ずっと側にいる、と。君は多輝に約束をしなかったかい?」
「……あ」
多輝の意識をヒューマノイドの機体に強制的に移した。その後、うろたえる多輝に接した時、優一郎は確かに告げたのだ。ずっと側にいるよ、と。そのことを優一郎は思い出した。
「だが君たち人は僕たちよりずっと早くこの世を去ってしまう」
たとえどんなに努力しても決して自分たちより長くは生きられないのだ。立城は静かにそう告げた。砕けたケースの残骸を踏みしめ、ゆっくりと進む。優一郎は呆然とそんな立城を見守った。
「本当は君に言葉の責を取ってもらおうかと思った。でも、そんな真似をすれば世界がさらに歪みを増す。その程度の歪みは何とでもなるけれど、後々にまで面倒を残すのは嫌だからね」
伸ばした立城の腕の中に機体がおさまる。そして機体はゆっくりと立城に抱きかかえられた。眠るように目を閉じた機体の髪が、静かに降りていく。そして立城の腕の中で機体は発光するのをやめた。光が納まると周辺が急に暗くなった気がする。優一郎は思わず瞼を指でこすった。
「それに君は多輝やこの機体を作ってくれた。水輝を抑えてくれた礼もある。だから僕は君に力を施すのを止めた。そもそも、人の器で耐えられるような術でもないし、ね」
せりふの最後の方は呟きに等しかった。僅かな声をだが、優一郎はきっちりと聞き取った。一体、立城は何を言おうとしているのか。それだけに注意を向ける。立城は両腕に機体を大事そうに抱えてゆっくりと歩き出した。執務室のソファに機体を静かに下ろす。そして立城が軽く指を鳴らすと、それまで全裸だった機体が瞬く間に服をまとった。
「人の器に無理なものを、どうしてヒューマノイドは受け入れてしまうんだろうね」
「え?」
立城の小さな呟きに優一郎は思わず訊き返した。立城は横たえた機体の傍に座り、長い髪を撫ぜている。その指の先からごく僅かな光が漏れているのを優一郎は見逃さなかった。柔らかな青い光が髪の間へと消えていく。
「奈月さんがいい例だよ。彼女はヒューマノイドであったからこそ、あれだけの力を受け入れることが出来た。人の身体には宝珠を埋め込むなんてことは出来ないから」
機体の赤い唇が僅かに震える。優一郎はそれを見て自分の目を疑った。まだこのヒューマノイドは起動してはいない。見間違いだろうか。優一郎は食い入るように横たわる機体を見つめた。
だがそれきり、その機体は動くことはなかった。やはり見間違いだったのだ。そう、優一郎が思った時、立城はおもむろに腰を上げた。
解説とか説明とかしてるつもりで、実はプロット切ってないのでその場で出来てる設定だったりします(ぉぃぉぃ
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吉良瀬邸で昔の話を 6
あ、エロシーンはありません。
「そろそろお茶の時間だね。紅茶は好きかな?」
立城はそう言いながらインターフォンのボタンを押した。はい、と優一郎が答えるのを待ってインターフォンに呼びかける。すると小さなスピーカーの向こうから女性の声が応えた。
「二人分のお茶を用意してくれるかな。ああ、出来れば茶菓子も用意してくれると嬉しいな」
『かしこまりました』
門のところで受け答えした声と同じだ。だが今の女性も優一郎に応えた声の女性はこの場に姿を現していない。明らかに奈月とは声が違っている。一体、この屋敷には何人の人がいるのだろう。
「傍に居る……」
ふと、優一郎は先ほどの立城に言われたことを呟いてみた。口にすると当時のことが思い出されてくる。あの時、多輝は急に女性の機体に入ったことで混乱していた。立城を愛しいと思っているのに、自分が男性であるという理由から、多輝はその気持ちを自覚してはいなかった。そこに優一郎は付けこむ形で刷り込んだのだ。多輝はかつて女であったということを。そして精神的に弱っていた多輝は優一郎の思惑通り、女性の機体の中に精神を安定させた。
だが本当は恐らく違うのだ。優一郎は考えを巡らせた。多輝があの機体に定着した理由は別にある。それがさっき立城の示してみせた優一郎の言葉だ。何の気なしに告げた言葉が多輝にとっては絶対の約束となってしまったようだ。多輝は孤独だった。いや、本当は孤独ではなかったかもしれないがそう感じていた。その不安を解消するためにあの約束が出たのだ。そう、優一郎は理解していた。
「本当に文字のとおりにとるなら、調査を実行してもらった時点で、僕は約束違反ですよね」
ずっと側にいる、という言葉が文字通りなら多輝と少しでも離れた時点で約束は違えられていることになる。優一郎は執務机につく立城にそう告げた。すると立城が苦笑してそうだね、と返す。
「だから、僕はテレリンクを開発したんです。いつでも、話せると、いつでも、見ていると、いつでも、僕が傍に居ると、彼女に安心してもらえるように」
そう、だからこそ物理的に離れても約束を違えたつもりはない。多輝を安心させる、という意味では間違ったことはしていないのだ。優一郎は考えた末にそのことを立城に告げた。立城は優一郎が喋り終えるまで黙っていた。ふと小さく笑う。
「君のいう側というのはそういう意味だったのかい?」
改めて問われて優一郎はもう一度自分の考えを最初から辿ってみた。何度、繰り返しても答えは同じだ。優一郎は頷いて顔を上げた。執務机についたまま、立城は静かに優一郎を見つめている。
「いえ、多輝の思う傍というのは、そういう事だったんじゃないかと」
「なるほど、君の意見ももっともだね」
そう告げて立城は微笑みを浮かべて頷いた。綺麗なその微笑みはだが、優一郎の目にはもっと別の意味を持っているように映る。一見、自分の意見を認めてくれているようにも聞こえるが、実は別の意味がその返事には込められているのではないか。これまでの立城のやり方を考えるとどうしても言葉の一つ一つに疑いを持ってしまう。
「もしかして、あなたが言霊の判定者だとか?」
「いや、僕ではないよ」
優一郎の疑いの問いかけに立城は即答してみせた。そうだねえ、と中空を見つめる。口許に指を当て、しばし立城は黙していた。きっと考えをまとめているのだろう。優一郎はそう理解して立城の次の言葉を黙って待った。
「そうだね。たとえば多輝は君の言う通りに一時的に安心を手に入れたとしよう。きっと恐らく君のことだから、多輝の機体が壊れるまではその責を全うしてくれるんだろうね。けれど、その先は?」
そう告げて立城は息をついた。優一郎は目を細めて息を潜めて次の言葉を待った。
「君を信じて君を頼って時を過ごした後、多輝は君に取り残される。それは恐らく僕でも同じ事が言えるだろう。僕が多輝に永遠を約束することはたやすいけれど、その約束は恐らく先で破られる。そしてその先、取り残された多輝は?」
たった一人になった時、多輝はどうするだろう。思い出だけを胸に一人きりで生きるのだろうか。だが人がそうであるように、彼らもまた別の存在と新たに出会うこともあるだろう。そうして出会いと別れを繰り返し、生きていくものではないのか。
だが、永遠を約束することは誰にもできない。傍に居るではなく、ずっとと約束したことが問題なのだ。出来ない約束はしない。当たり前のことだ。優一郎がそう思い至った時、立城がおもむろに口を開いた。
「君たちの思う『ずっと』という言葉の意味と、僕たちのそれでは意味が違う。まあ、要は受け取り側がどう思うかによるんだけれどね」
それまで多輝は不安の中にいた。立城に引き取られて育てられたというのは書類上のことで、実際に幼い多輝を育てたのは立城自身ではない。そのことが余計に多輝の不安を大きくした。だがそれすら立城が狙ってやっていたとしたらどうだろう。優一郎は唇を引き結んだ。
不安に揺れる多輝を肉体から引き剥がすのは容易かった。多輝に自分を信頼させることも、そして多輝は優一郎なくしては機体を維持することすら難しい状態までになった。だがそれがもし、立城が意図的に行ったことが原因であったとしたら。ひょっとしたら立城は自分が斎姫に対して今、行っている実験のようなことを、スケールを大きくして実行していたのではないのか? そんな疑惑が優一郎の脳裏に浮かぶ。
でもまあ、優一郎くんは抜け道を見つけるのが上手いのでー(棒
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吉良瀬邸で昔の話を 7
エロシーンはないのです(汗)
「多輝の精神はあの時、とても弱っていたんじゃないかな? 誰も自分を見てくれないという不安に怯え、頼るものを探していたのではないかと僕は思うんだけれど」
「そうです。だからこそ僕は、あの作戦を実行に移したんです」
もう隠す必要はないだろう。優一郎は素直に自分の行った作戦について話した。そもそも立城に隠し事をしても無駄だろう。何しろあの一言を知っているくらいだから。優一郎はそう思いながら立城に簡単に当時のことを説明した。立城は何かを考えるように目を閉じている。黙したまま優一郎の話に耳を傾け、時折、納得したように頷く。優一郎は次第に緊張のために額に汗を滲ませ始めた。握った手の中がぬるりと滑る。ため息をついてポケットからハンカチを取り出し、丁寧に手のひらを拭う。そしてまた優一郎は説明を続けた。
「あの時の多輝に約束をしたのは確かに僕です。立城さんの仰る通り、ずっと側にいると言いました」
だが優一郎はその時、それほど深くは考えていなかった。成り行きで口にした言葉といってもいい。優一郎は正直にそのことを告げた。立城が静かに頷いて目を開ける。その顔にはさっきまで浮かんでいた微笑みはなくなっていた。
「そうだね。そして多輝にはその言葉が染み込んでしまった。約束としてね。君にその能力があったのは意外だけれど、誓約として確定してしまったんだよ」
誓約。それを聞いて優一郎は本気で首を傾げた。話がどんどん知らない方向へと流れている気がする。そもそも能力とはなんだろう。自分は特に意識して多輝に言葉を投げかけたつもりはない。
「その顔は判らないという表情だね。じゃあ、一つだけ白状しようか」
そう告げて立城は静かに立ち上がった。ドアへと進んでいく。いつの間に現れたのだろう。執務室の入り口には一人の女性が立っていた。赤く美しい髪が印象的だ。瞳の色は髪よりもなお濃い深紅だ。白い肌が髪に彩られて壊れもののようにはかなく見える。
「ありがとう、紅梅。もういいよ」
立城がそう告げると紅梅と呼ばれた女性は深々と一礼して立ち去った。立城の手にはティセットの乗ったトレイが残される。機体の入っていたケースの残骸を越え、立城は応接セットに近づいた。テーブルにトレイを乗せる。出された茶を受け取り、優一郎は目で訴えた。白状する、というのは何のことだろう。それに誓約とは。訊きたいことは山のようにある。目での訴えに気付いたらしい。立城は苦笑して優一郎に手招きをした。目の前にあるソファを指差される。優一郎は大人しく立城の正面の位置に腰を下ろした。
「僕は君に次代の役を頼もうと思っていたんだ。最初は」
「……はい?」
つまりは吉良瀬を継げという意味か。優一郎は声を返してから事の重大性に気がついた。慌てて首を横に振る。
「ああ、そういう意味じゃなくて……いや、その手もあるのか」
最初は笑って否定した立城が途中で考え込む。優一郎は手を横に振って考える立城に拒絶の意を示した。吉良瀬など継いでしまったら研究どころではなくなる。優一郎はある程度の時間と金は欲していたが、それらは全て研究に注ぎ込むつもりでいた。名声や力など欲しいとは思わない。
小さく笑って立城が顔を上げる。
「そこまで嫌がらなくてもいいと思うけれど? これでも吉良瀬の力を手に入れようとする輩は多い訳だし」
「でも研究に充てる時間がなくなります」
きっぱりと優一郎が告げると立城はそうだね、と苦笑した。そして顔から笑みが消える。ソファに背中を預け、立城は軽くカップを傾けた。優一郎も上目遣いに立城を見ながらカップを口許に寄せた。ほどよく入った紅茶の香りが心地良い。優一郎はしばらく紅茶の香りを楽しんでからカップを口につけた。
「僕の言う次代というのはもう一方の方だよ。君に木龍神の座を継いでもらおうと思っていたんだ」
そこまで聞いた優一郎は思わず紅茶を吹きかけた。慌てて口許を手で押さえる。間一髪で紅茶は口の中に留まった。まだ熱い紅茶を急いで飲み下す。うろたえる優一郎とは対照的に立城は優雅に紅茶を飲んでいる。もしかしたらわざと驚かせているのかも知れない。優一郎がそんな風に疑った時、立城が目を上げた。
「思っていた、と言っただろう? 過去の話だよ」
「どちらにしても、龍神の座を人間に引き継げるとは思えないんですが?」
間の悪い話の振り方だ。優一郎は困惑しながらそう言い返した。一体、この人は何を言い出すんだ。優一郎はあまりの驚いたためにいつもの笑みをすっかり消していた。憮然として言い返した優一郎に立城が軽く頷く。
「そうだね。普通では無理だね」
あっさりと肯定される。優一郎はため息をついて再び紅茶のカップを口許に寄せた。今度は注意深く紅茶を少しずつ啜る。龍神に関することを外側から探求はしたいと思う。だが、その問題に自分が直接介入するのは真っ平だ。得体の知れない落とし穴にはめられた気分で優一郎は恨みがましい目を立城に向けた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫。今の君にはどちらにしろ無理な話だから」
そう告げて立城はカップをテーブルに戻した。空になった白磁のカップに新たに紅茶を注ぐ。優一郎はその手元を見ながら少しだけ口許を緩めた。完全にとはいかないが、いつもの笑みが戻ってくる。
「ですよね。姉さんならともかく」
優一郎の姉、絵美佳はかつて立城の弟であった真也の魂の生まれ変わりだ。どうしてそうなっているのかは優一郎にもはっきりと理由は判らない。だが先の事件で水輝は絵美佳を紫翠と呼んだ。少しでもその魂が似ていなければ水輝はそうは思わなかっただろう。そのことで優一郎は絵美佳が自分とは違う、別の力の影響を受けていることを確信した。
「ああ……彼女は」
小さく笑って立城はカップを手に取った。満たされた赤い茶が手の動きを受けて微かに揺れる。優一郎は無言で立城を見つめた。立城の口許には感情の読み取れない笑みが浮かんでいる。だが優一郎が待っても立城はせりふの続きを口にしない。
絵美佳ちゃんは既にftnrなので!
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吉良瀬邸で昔の話を 8
「
答えを待ちきれずに優一郎は自分から問い掛けた。すると立城がカップから目を上げる。やがてその目にあった笑みが静かに消える。立城は無言でカップを戻し、深くソファに寄りかかった。腕を組んで優一郎に視線を向ける。その目に厳しいものが宿っていることに優一郎は気がついた。
「そう。はるか昔にこの世に生きていた、木龍神の長が紫翠だよ」
それから立城は紫翠にまつわる話を少しずつ語り始めた。この世界が造られてすぐに紫翠は誕生した。紫翠が世界に一番最初に現れた龍神なのだと立城は前置きした。その誕生の際に様々なことが起きたようだが、立城自身ははっきりとその時のことを記憶していないという。
「むらさきにみどりか、不思議な色の組み合わせですね」
「紫翠とは本来、山の緑のことを指す名前だよ。……もっとも、その色の組合せの名前は偶然ではなかったのだけれどね」
紫翠に続いて次々に龍神が生まれた。龍神は元来、親を持たない。強いて言えば世界が勝手に生み出すのだ。そして続いて生まれた龍神の中でも力ある存在は龍神たちのトップとして君臨するようになる。それが紫翠であり、白龍であり、火龍だった。そして力ある者にその他の龍神は導かれ、混沌とした世界を縦横無尽に駆け巡ったという。立城の語る話は優一郎にはお伽噺に聞こえた。幾百、幾千、幾万の龍の巨体が空を舞う。その姿をすぐに想像しろと言われてもスケールが大きすぎて見当がつかない。
「やがて世界は新しい力を生み出した。それまで煮えたぎっていた地表を冷やさなければならなかったからだ。……というのが表向きの理由かな」
「表向きというと。裏があるわけですか?」
その言い回しに引っ掛かりを覚えて問い掛ける。すると立城は息をついて小さく笑った。否定も肯定もしない。怪訝に思ったが、とにかく話を一度全部聞かないと理解はしにくいだろう。優一郎は仕方なく話の続きを促した。
世界が青龍である水輝を生み出した時、龍神たちは一様に驚愕したという。それまで赤く燃えてはいたが平穏だった空が真っ暗になる。そして地表には激しい雨が降り続いた。それは随分と長く続き、やがて地表は湯気を立てて冷えていった。
「僕たちは生まれた時からあらかじめ名前は決められている。そして水輝にもやはり最初から名前が存在していた。紫翠や白は水輝と出会った瞬間にその名前を悟った。輝く水に生きる者。水輝の名にはその意味が込められていたんだ」
水輝の誕生を龍神たちの多くは心から喜んだ。他の龍神たちが誕生した時と同様、生まれたばかりの水輝に彼らは挨拶をした。だがそんな中でただ一人、水輝の誕生の瞬間に嘆いた者がいた。それが火龍である
「火藍は当初、男の性をまとっていた。けれど水輝が誕生したと同時に火藍はその性を変えた。それが当人の意図したところであったかどうかは、僕にも判らない。そして火藍は彼らの前からしばらく姿を消していたんだ」
やがて世界は次々に龍神を生んだ。そして数々の龍神をこの世に送り出し、世界は一見、安定したかに見えた。
「前に話したね。力ある存在はその存在の不安定さ故に己を幾つかに分けることがある、と」
「ええ。半強制的に行われることもあるとも」
「そう。世界がその意志で半ば強制的に力を分けることもある。水輝は典型的なそのケースだった」
生まれた時から水輝はその力を世界に二つに分けられていた。だが世界が急いでいたからかも知れない。水輝は自分の力が二つに分かれていることを全く知らないままで生まれた。そして水輝の魂の双子として生まれた存在は龍神の全てを束ねる者として世界に君臨することになる。それが蒼龍と言われる天輝だった。
「蒼龍、という名の龍神はこの世に彼女ただ一人だけだった。不思議なことに蒼龍は殆ど力を持たない龍神だったんだよ」
全ての龍神の頂点に立ちながら、その力を揮う機会はなかった。もっとも、例えそんな状況になったとしても蒼龍の力は他の龍神に比べてはるかに弱かっただろう。立城はそう、付け足した。
「僕も当時の記憶を完全に持っているという訳ではないからね。ここからは僕の推論になるけれど、蒼龍天輝はその力のなさ故に天空の城に匿われていたのではないかと思う。そうでなければ白がその姿を居城に変える必要はなかった訳だしね」
要するに飾りの主かな。立城は苦笑をまじえてそんな風に告げた。だがその言葉に一体、どれだけの思いがこもっているのだろう。言葉の重さを優一郎は無言で受け止めた。立城が冷えかけた紅茶を飲み干す。優一郎もカップの中ですっかり冷たくなった紅茶を飲み干した。生ぬるい紅茶が喉を通って胃に落ちる。
力ある存在はその存在の強大さ故に不安定な状態になる。そして紫翠にもその時は訪れた。
「……紫翠がそれまでそのままで存在を保てたのは奇跡に近い。今の世界でなら確実にその力は暴走していたと思うよ。あらゆる状況が辛うじて紫翠の力のバランスを保っていたんだ」
「しかし、何かをきっかけにそれが破綻し、紫翠の力は本質から引き離されたうえに二分されたわけですね」
立城がポットを軽く持ち上げる。なみなみと注がれる紅茶を見つめ、優一郎は思ったままにそう告げた。立城が指先でソーサーを押す。目の前に出された紅茶を優一郎は手に取った。一体、どういう仕組みになっているのか、カップに注がれた紅茶はいれたてのように熱い。
紫翠(しすい)
蒼龍(そうりゅう)
火藍(からん)
白(白琅渉 はくろうしょう)
天輝(あまき)
フリガナの方がいいのかな……これ……。
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吉良瀬邸で昔の話を 9
エロシーンはありません。
紫翠は使い魔と呼ばれる存在をつくった。その数は他の龍神に比べてはるかに多く、それだけに紫翠は仲間からも力のある存在であると認められていた。使い魔の数は純粋にその主の力の大きさを示す一つの指標になっていたからだ。
「けれど紫翠がそれだけ多くの使い魔をつくった理由は、力が大きかったからという単純なものじゃなかった。そうしなければ己を保てない理由があったんだよ」
力の均衡を保つために次々に使い魔はつくられた。紫翠は己の力の危険性を理解していたのだ。
「僕たちには感情がある。紫翠にも同じように感情があった。決して、仲間には悟らせないように心がけていたようだけれどね。そして力ある者であるが故に、その感情そのものが力となる。……例えば激情一つで簡単に対象を壊せてしまうようにね」
己の力の危険性を熟知していた紫翠は、一つずつ感情を切り分けた。それが紫翠のつくる使い魔にこめられていたのだ。立城は静かにそう語って横たわる機体に手を伸ばした。慈しむように髪を撫でる。
「そして、感情を制御できない龍神から漏れ出た力が、漂流する力となって、人間に憑いたものが夜叉なんですね?」
「そう。あれは人の器には重過ぎる力だった。人の器は龍神の力に晒された時、大抵は破滅してしまう。けれど稀にその力が定着してしまうケースがあるんだよ。それが彼女だった」
夜叉である
「時と場所、そして想いが揃ってしまった時、主龍神である蒼龍天輝は幾多の龍神に命令を下したんだ」
紫翠を討伐せよ。そしてその瞬間から紫翠は全ての龍神の狩りの対象となった。だが紫翠はなかなか発見されなかった。夜叉の力を無意識に発揮し、砂夜が紫翠を龍神たちの目から隠してしまったからだ。
「彼女は紫翠を守ろうとした。だがそれが逆に紫翠の命取りになったんだよ」
夜叉の力は龍神の想いが凝ったものだ。そしてその想いを人の器に閉じ込めた本人には、夜叉の力の発生源が手に取るように判る。主龍神の命令を受けていた一人の龍神が紫翠の存在を探りあてたのだ。
青龍水輝が紫翠の前に立ち塞がる。そして水輝は己の刀で紫翠を殺害した。紫翠は水輝の力の前にこの世から消えたのだ。
「感情をどんなに切り分けてもその想いは完全になくなったりはしない。記憶を司るという使命だったことも、紫翠が潰えた理由だったかもね」
「消えたというのは正確ではないですよね? 紫翠という存在がなくなっても、力は消えなかったはずです。恒星が爆発しても、星雲が残るように」
龍神の存在は力そのものだ。力は唐突に消えたりはしない。別の形になって残るものだ。優一郎はそう告げた。すると立城が苦笑して頷く。
「そう。紫翠は水輝とある約束を交わして死んだ。そしてその魂は砂夜の血と混ざって続き、力は約束の形となって残った。……水輝は紫翠と誓約を交わしてしまったんだよ」
思いを切り分けたりしなければもっと別の未来があったのだろう。だが紫翠はその方法を選ばなかった。自分が死することで不安定な力を大きく分けることにしたのだ。そして紫翠の思惑通りに魂は大きく三つに分かれることになった。一つは翠龍と呼ばれる時の龍神に、もう一つが立城に、そして最後の一つが立城の弟である
「それだけなら、きっと何も問題はなかったんだ」
そう告げて立城は一度、言葉を切った。ため息をついて視線を落とす。立城はしばらく無言で機体の髪を指ですいていた。優一郎はそんな立城を見つめつつ、やはり黙ってカップを傾けた。
日は既に暮れかけている。執務室の中には赤い夕日が差し込んでいた。
「紫翠はね。水輝に強いたんだよ。ずっと砂夜を見守るようにって。あれは人の身には余りにも強い力だから、危険がないように砂夜を守れって。そして水輝はその約束を守ったんだ。……ずっと、ね」
しばしの沈黙の後、立城は小さく呟くようにそう語った。ずっと、という言葉に優一郎はぴくりと眉を上げた。先ほどまで立城が優一郎に言わんとしていた意味が少しずつ判り始める。
「水輝は続く命をずっと見守っていた。生まれては死に、死んではまた生まれる人の輪廻をずっと見守っていたんだ。その思いがやがて歪んでいることにも気付かずに」
やがて砂夜の生んだ魂の先に力が復活する。それが双子の立城と真也だった。その輝きが生まれた時、水輝はもう一つ別の力を見出す。それが砂夜の生まれ変わりであるだった。
水輝は必死で莢花を守ろうとした。その性を男に変え、莢花に近づく者たちを排除する。それは先々で立城と真也が莢花と出会うことを、水輝が薄々と感じていたからだろう。立城はそう告げて小さく笑った。
「ずっと砂夜を守らなければならない。その約束を水輝は果たそうとした。……だから水輝は莢花さんに近づく僕たちを殺そうとしたんだ」
だがその約束は破られる。戦いの折、水輝は誤ってその力を莢花にぶつけてしまったのだ。元々、不安定だった水輝の精神はそのことで更に追い詰められた。そして立城もまた、真也を自らの刀で貫いてしまったのだ。
「その時の僕はまだどうして水輝があんなに必死で莢花さんを守ろうとするのか理解できなかった。真也を亡くしたこともあったからかな。本気で水輝を殺そうと思ったよ」
それだけが唯一、水輝を止める方法だと思い、立城は水輝に刀を向けた。水輝も立城を屠ることだけを考えていた。元々、女の性をまとっていた水輝が力を捻じ曲げて男の姿をとっていたことが戦いを余計に激しいものにした。互いが力を出し尽くすまで戦いは続いた。
真也は立城の弟で、莢花は水輝の妹です。
ちなみに莢花の方は義妹? なのかな?
血の繋がりはありません。
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吉良瀬邸で昔の話を 10
エロシーンはありません。
長々とした説明は一応、ここで一段落です。
「力は思いにより歪むんだ。水輝も僕も歪んだ力を揮って戦っていた。けれどそんな真似を世界が許し続ける筈がない。それまでなかった紫翠の記憶が僕に戻ったのがそのいい証拠かな」
紫翠の切り分けた思いに気付いた立城は戦意喪失した。紫翠は水輝を好いていたのだ。そして夜叉である砂夜には水輝の思いを注がれていた。水輝もまた、紫翠を本当に好いていたのだ。そんな両者の想いに気付いた途端、立城は刀を納めた。戦う意志をなくした立城を相手に水輝もまた、力を揮うのをやめた。
「真也さんをあなたが傷つけたことは世界の意思だったわけですね。あなたに、紫翠の記憶を伝えるために」
「なんともばかばかしい手順を踏んでいると思うだろう? 最初から記憶があれば、僕もあんな真似はせずに済んだかも知れないのにね」
肩を竦めて立城が告げる。だがだからこそ夜叉に注がれた力は水輝に戻ったのだ、と立城は続けた。
「いえ、龍神の成り立ちが仮説どおりだとすれば、正しいです。感情的に許せるかどうかは別として」
「そうだね。確かにそうだと思うよ」
「ってごめんなさい。あなたにとっては本当に辛い出来事だったに違いないのに……」
優一郎はその時の立城の思いを想像して俯いた。例えば自分であればどうだろう。大切な誰かを世界の都合で殺さなければならなかったら。考えただけでぞっとする。だが立城はそんな優一郎に苦笑を向け、軽く手を振った。
「過ぎてしまったことは仕方ないからね。それに確かに理屈から考えれば当り前の話なんだよ」
世界が水輝と紫翠の思いを元々の魂へと返還する。そして力はあるべき場所へと戻った。だがそれで事は済まなかったのだ。立城は悪戯っぽく笑ってそう告げた。
「それを境に水輝の力は酷く不安定になった。身体は女性のものへと戻っていたんだけれどね。想いが急に戻ってきたことで水輝は立ち止まるようになったんだ」
「さらに、夜叉の危険性を思い知ったあなたは、夜叉を管理しなければならないことに気づいた。水輝さんをめぐって、夜叉がまた生まれることは時間の問題だったから」
それまで前へ、未来へと突き進んでいた水輝が急に立ち止まる。水輝はそれまでは砂夜の未来を考えて前に進むしかなかったのだ。だが紫翠と交わした誓約は事実上、無効となった。そして水輝は紫翠への想いだけに頼るようになった。
そんな水輝の支えとなるように、と世界が気を回したのかはわからない。それから水輝の傍には一人の龍神が現れる。それが金龍神である
「亮は水輝の傍にいるように、という使命を持っていた。本人も気付かなかったようだけれどね。なるべくして二人は恋人同士になった。……形だけの、ね」
だが水輝は結果的には亮を拒絶した。次に世界は火藍を使おうとした。火藍は水輝が生まれたあの瞬間から女性に変質している。だがそれも全て火藍が水輝を愛しいと想っていたからこそだった。そんな火藍はだが水輝に本心を打ち明けることなく、この世を去ってしまう。その事件に深く関わったのはハンターの存在だった。
「どれだけ水輝に誘いをかけても、結局は失敗に終わってしまった。水輝は紫翠を想うことだけを生きがいに、今も生き続けている。だがそれは逆に水輝のゆがみとなっているんだ」
「結果として、あなたが念のためにかけておいた保険が、切り札になったわけですね?」
「そう、保険は使われないのが一番なんだけれどね。この際、なりふりなんて構っていられないから」
龍神の頂点に立っていた天輝はもういない。水輝がその力を取り込んでしまったからだ。今の水輝は一つの器に大きな力を無理に詰めている状態なのだ。そう、立城は説明した。
「断罪の主はいない。今がチャンスだと僕は思った。世界の瞼の閉じている間に事を成し遂げなければならない。ちょうど、研究も進んで新しい可能性が見出されたところだし、ね」
「だからこその、多輝の改名なんですね。そして、あなたと翠のように力のほうも二分する。そうすれば、少なくとも当面の間は、安定が保てるはずだと」
それまで誰も気にしなかった科学の世界に足を踏み入れる。立城はヒューマノイドの機体に龍神の力を分け入れるという、新しい可能性を見出した。その研究をしていたのが総一郎だ。
「いや……多輝は既に水輝の力を分けられているんだよ。だってあれは」
水輝のクローンだから。立城は声に出さずに唇だけでそう刻んだ。優一郎はその唇の動きを読んで愕然とした。
「なるほど、さいしょから、準備されてたんですね」
薄い嗤いを浮かべて優一郎はそう呟いた。孤児だった多輝を立城が引き取った。だが立城は与えるべき愛情を多輝には注がなかった。わざと孤立した状態にしたのは多輝を不安定にするためだ。そうして多輝は自然と身を守る術を覚えていく。言わば、多輝が立城にある意味で放置されていたのは、その教育のためだったのだ。
「様々な可能性を模索し、あらゆる手を打てるだけ打つ。その末に生まれた命にはそれなりに使命をまっとうしてもらわなければ意味がない。自分が潰えた際の保険をかけるのは当然のことだろう?」
そう告げた時の立城の目にはそれまでにない鋭い光が宿っていた。機体の髪を撫ぜていた指の動きが止まる。そして立城はゆらりと手を動かして優一郎を指差した。
「君も例外ではないよ。だからこそ僕は君にあとを継いで欲しかったんだ。けれど君には別の力が宿ってしまったから」
「そうですね。僕はあくまで研究者ですから。父ほどの才能はありませんけど、父よりは使い勝手はいいはずですし」
優一郎は納得顔でにっこりと笑った。話の最後に自分が出てくるとは思わなかったが、立城が一目置いてくれているのなら好都合だ。何より研究には膨大な時間と金がかかる。その資金源を確保しておくことも大切だ。優一郎は立城の話が自分に振られたことをそう受け止めていた。
「そうだね。君は確かに才能のある科学者だよ。この機体も開発してくれたことだしね」
そう告げて立城は口許に深い笑みを刻んだ。その笑みを見止めた優一郎はふと眉をひそめた。次いで息を飲む。立城の笑みが酷く冷ややかなものに見えたからだ。これまで気にならなかった身体の緊張が蘇ってくる。気付くと優一郎はカップを持った手を小刻みに震わせていた。まさか、という嫌な予感が胸を満たす。
「龍神をその言葉の力を用いて従わせる。
赤い夕日がゆっくりと西の空へと沈んでいく。優一郎は愕然と目を見開いたまま、しばし言葉を失っていた。
我ながら、なげえええええええええ!!
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巴の幸せなひととき
エロシーンでは……ないかな?(汗)
腕を伸ばすと白い肌を湯が伝い落ちていく。シャワーの湯が指先から手首に、そして細い腕を伝って脇へと流れている。巴はほう、と感嘆のため息をついて両腕を少し高く上げた。溢れるシャワーの感触に指を晒していると、それだけで心地のよさが全身を包む。
昨日までより感覚が鋭くなっている。そのことを巴は実感していた。新しい部品が手に入ったのだと言って、絵美佳が巴の機体のあらゆる箇所を改造したのだ。中でも、腕は丸ごと二本、付け替えられている。巴はその真新しい腕をしばらくシャワーの水流に晒した。
絵美佳はすっかり眠ってしまっている。機体改良に全力を注いで疲れてしまったのだろう。だがそう考えてから巴は頬を赤く染めた。絵美佳が疲れているのはそれだけではない。先ほどまでのことを思い出して巴は恥ずかしさに頬を包んだ。
メンテナンスのたびに巴は絵美佳に抱かれる。今日のそれはいつもより一層、激しかった。絵美佳は行為の後、疲れ果てたようにベッドに沈んだ。今ごろ、肌触りのよい毛布にくるまって眠っているだろう。巴は眠る絵美佳のことを思って目を閉じた。自然と胸が高鳴ってくる。
女性である筈の絵美佳の身体は近頃ではとても不思議な変化を見せる。どうやら絵美佳の意志で生殖器を変質できるらしいのだ。それ故、巴を抱く時の絵美佳の股間には男性器が生えている。そのことを思い出して巴は慌てて首を振った。先ほどまで自分の女性器に絵美佳の男性器が挿入されていたのだ。思い出すだけでまざまざと感触までが蘇る。そんなことを考え続ければ、また機体が欲情する。巴は懸命に思考の方向を変えようと努力した。
頭をシャワーの水流の中に入れる。巴は髪を手早く濡らして頭を洗い始めた。ポンプからシャンプーを出して髪につける。丁寧に指先で洗わなければ汚れが残る。巴は黙々と頭を洗った。きめ細やかな泡が髪を包む。
巴は手早く身体を洗い終えてシャワールームを出た。バスローブに身を包んで部屋に向かう。絵美佳のものになって以来、巴には私用の部屋が与えられた。科学部の研究室が並ぶ廊下の奥にその部屋はある。巴は静かに廊下を歩いてその部屋に向かった。音を出来るだけ立てないようにして部屋のドアを開ける。
暗い地下のその部屋は青い光に満たされていた。天井には星の煌きが映し出されている。人工の星空を映し出す小さな機械は絵美佳が作ってくれたものだ。巴はしばし、その星空を眺めていた。満天の星空を見ているだけで心が洗われるようだ。部屋の真ん中に座り、巴はそっとため息をついた。
あの日から絵美佳の傍にいる。時には叱られることもあるが、それでも巴は充実した日々を送っていた。絵美佳の研究を手伝えることが心底嬉しい。以前、木村の下で働いていた時にはなかった充実感に満たされている。巴は口許に笑みを浮かべてそっとベッドを振り返った。
大きなダブルベッドには絵美佳が横たわっている。巴は静かに腰を上げ、そろそろとベッドに近づいた。眠る絵美佳の邪魔にならないよう、ベッドの端に滑り込む。すると絵美佳がごろん、と寝返りを打った。そのまま手を伸ばし、巴の身体を腕に抱える。巴は幸せな気分に包まれながら目を閉じた。
下だけTS……w
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要の憂鬱な朝とロボット対決再び?
「だからさあ。一回だけ!」
そう言って拝む格好をする順を要は冷めた眼差しで見た。朝っぱらから何を言い出すのだ、この男は。気分のままに順を睨んでナイフを握り直す。身の危険を感じたのか、順はおおっと、とわざとらしい声を上げて要から少し離れた。
「いいじゃん、一回くらい。減るもんじゃなし」
「あなた、わたくしを何だと思っていらっしゃるの? そんなことを頼まれてはい判りました、と頷くとでも?」
つん、と横を向いて要はそう告げた。本気で殴りかからないのは母親の栄子が間近にいるからだ。だが栄子はそんな要と順を微笑ましいものでも見るかのように眺めている。少しは心配したらどうなのかしら。要は栄子に胸の中で文句を言った。少なくとも愛する娘に対する態度ではない気がする。
「えー。別に要ちゃんが損するってことはないと思うよ? だってオレ、上手いし」
「そっ、そういう問題じゃありませんわ! モラルの問題です!」
要は顔を真っ赤にして思わず椅子を蹴倒して立ち上がった。朝食の時間だから、と我慢し続けていればこの男はどんどんつけあがる。要は片手に握ったナイフを順に突きつけようとした。
「要さん」
静かな声がかかる。要ははっと我に返って振り返った。デミタスコーヒーを傾けながら、栄子は要に視線を送っていた。微笑んではいるが、その目は笑ってはいない。要は順の胸倉をつかんだまま、ぴたりと静止した。
「お行儀が悪いですわよ。今はお食事の時間でしょう?」
ぴしゃりと栄子が告げる。要は渋々と順から手を離した。解放された順が急いで席に戻る。そもそも、隣の席が順であるというのが間違いなのだ。引き合わされてから要は食事のたびにこの軽薄な男と隣の席に座らされている。それがどういう意図からなのかを要は何度も栄子に問うた。食事中にエッチさせてなどという下品極まりない発言をする男なのだ。なのに年頃の自分の横に座っているのは何故か。もっと言えばどうしてこの男はまだここに居座っているのか。だがそれらの質問に栄子は答えをくれなかった。父親が長期旅行に出ているのも要の苛立ちに拍車をかけた。母が駄目なら父が止めるべきだろう。だがそう考えてから要はため息をついた。栄子を父親が止められる筈がない。せいぜい、見て見ぬ振りをするのが精一杯だろう。そんな気弱な父に一瞬でも期待したことを要は悔いた。
「要ちゃん、この手の顔って嫌い?」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべて順が吐き出す。要はきっ、と順を睨んで大きく頷いた。
「当然ですわ! わたくしの理想はあくまでも理知的な方ですもの!」
そう、決して順のように軽薄な男ではない。要は悪びれもせずそうまくし立てた。すると順がそんな、とわざとらしく哀しげな表情を作る。要はふん、と鼻で笑って席に戻った。
ナイフとフォークを持ち直す。ふんわりとしたオムレツを切り分けながら要はそっとため息を零した。多輝様、と胸の中で呟く。要は以前から多輝に思いを寄せていたのだ。
「理知的で? スマートで? 包容力があって? それ、もう何度も聞いたけど」
順が苦笑いしながらそう漏らす。要は鋭く順を睨みつけてからオムレツにフォークを突きたてた。一口大に切ったそれを口に運ぶ。オムレツは口の中でふんわりと溶け、程よいバターの香りが広がった。
そんな美味しいオムレツを食べていても要の心は沈んでいた。多輝はもうここしばらく学校に来ていない。自主的に休学しているようなのだ。そのことを知った要は多輝の居場所を必死に探った。だが多輝は提出している住所にはいなかった。要は未だに多輝の居所をつかむことは出来ずにいるのだ。
どうしてかしら。あの女は学校に来ているのに。そう思う要の顔は徐々に怒りに満ちていった。当時、多輝と交際をしていたという女がいる。それが吉良絵美佳という科学部の部長だ。要は絵美佳の顔を思い出して苛立ちのままにオムレツをフォークでかき混ぜた。
悉くわたくしの邪魔をするあの女に、何とか復讐できないかしら。今日も要の頭はそのことでいっぱいだった。
「ねえねえ、要ちゃん。皿の中がめちゃくちゃだよ?」
横から順が口を出す。要はうるさいわね、と順に呟いて皿に目を落とした。言われた通りに皿の上は混ぜ返されていた。オムレツが潰れ、中身がはみ出している。それが更に盛られていたサラダと混ざり、皿の中はこんがらがっていた。
「わっ、わたくしとしたことが」
これではどんなに美味い料理も食べる気がなくなる。要は落胆のため息をついて皿を遠ざけた。仕方なく食後のコーヒーだけを啜る。
学校に行く段になっても順は要から離れなかった。栄子に言い渡されていたために追い返すことも出来ない。要は歯軋りしながら順を従えたまま登校した。きっと学校でいい笑いものになるだろう。そのことは容易に予測できた。
だが順は校門前であっさりと要に手を振って去ってしまった。どうやら別に用事があるらしい。要は心底ほっとしながら生徒会室に向かった。今日は大事な役員会がある。その前準備をするために早めに登校したのだ。
「おはようございます、要様」
生徒会室で真っ先に挨拶したのは要のボディガードの周藤だった。野木もすぐに要に挨拶をする。要は優雅に微笑んでおはよう、と返すと自分の席に向かった。
生徒会会長の席は生徒会室の一番奥だ。要はいつものようにその席に向かった。だが、途中で何かが行く手を阻む。訝りをこめて要はその邪魔者を見つめた。周藤が何かを要に差し出している。
「これは?」
周藤の手には一枚の封筒が握られていた。真っ白な封筒に表書きはない。
「今朝方、私がここに着きました際にドアに挟まれておりました」
だが珍しく周藤は先に中身を確認しなかったようだ。封は開かれていない。要はふむ、と呟いて何気なく封筒を裏返した。そして小さく名前が記されている事に気付く。その名前を見た要は眉を吊り上げた。
「吉良……絵美佳……!」
差出人は絵美佳だった。事の重大性を知った周藤はだからこそ封を切らなかったのだ。要は珍しく大股で部屋を横切ると、急いで自分の席についた。ペンたてから取り上げたペーパーナイフで丁寧に封を切る。もしもカミソリでも仕込まれていたら怪我をしてしまう。要は慎重に開封し、中に納まっていた一枚の便箋を取り上げた。
「……周藤! 野木! 大至急諜報部員を集めなさい!」
返事をして周藤と野木がすっ飛んでいく。要は便箋を握った手を小刻みに震わせた。その便箋には挑戦としか思えない内容が記されていた。勝負の内容はロボット同士の格闘。場所は学校のグランド。期日は三ヶ月後。そして最後には絵美佳の署名がしてあった。
要的には絵美佳に喧嘩を売られたようですw
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やがて片方は眠る 1
その日は朝から多輝と由梨佳は買物に出かけた。久しぶりに外に出るからだろう。多輝は朝から目に見えてはしゃいでいた。由梨佳もまるで友達が出来たような気分なのだろう。傍目にはそう変わらなくても表情がどことなく緩んでいた。そんな二人が出かけるのを立城は窓から静かに見下ろしていた。
庭にはばらが咲き乱れている。晴れ渡った空の下で楽しそうに水撒きをしているのは奈月だ。奈月はいつも微笑を絶やさず花と接している。もしかしたら花の言葉が判るのかな。あまりにもその姿が楽しそうなので、立城は一度だけ奈月にそう問い掛けたことがある。
だって綺麗に咲いてくれていると嬉しいじゃないですか。確かその時、奈月はそう答えた。その笑みが余りにも眩しく見えたことをよく覚えている。自分にはない純粋な輝きが奈月にはある。……もっともそれも全て仕組まれた末に出来上がったものだが。立城はそう胸の内で呟いてそっと窓から離れた。
昨晩、多輝は立城に抱かれていつも以上に乱れていた。快楽を自分から求め、まるで飢えた獣のように立城と交わっていた。そんな多輝のことを思い出し、立城は小さく笑った。きっと優一郎と会ったことが原因だろう。たとえ記憶を封じられていてもその身体は想い人のことをよく覚えているのだ。
静かに部屋の中央へと歩む。そして立城はいつもの絵画の前に立った。かつてその場で誓約が取り交わされた。ほんの数瞬の間だけの誓約だった。何故なら立城とその誓約を交わした相手は、その後に命を散らしてしまったからだ。
お前は何も気にしなくていい。思った通りに進んで行け。そう言い残して真也は消えた。その強大な力を立城に託して。
あれから随分と長い年月が流れたのに、今でも僕はここに立っている。立城は絵画の前でそう呟いた。未だに悔いは残っている。本当なら死なせずに済んだかも知れないのに、と思い返すたびに考える。だがそれは世界にとってはあり得ない未来だ。恐らく、世界は立城と真也のどちらかをしか生き残らせるつもりはなかったのだ。
「長い年月が過ぎたというのに、僕はまだ迷っているんだ。本当に僕の判断は正しかったのか。ひょっとしたら生き残るべきだったのは君だったのではないかといつも思うよ」
絵画を見上げて立城は一人、そう呟いた。だがどれだけ悔いても、嘆いても、決して真也は戻らない。あの頃の楽しかった日々の思い出だけが立城に唯一残されているものだ。そして立城もまた、そのことは充分に承知していた。
時は流れ思いは深くなり、そしてその果てに歪みを引き起こす。立城は小さくそう呟いて胸に手をあてた。そして軽くこぶしに握る。伏せていた目を上げると絵画の中の女性と目があった。名もない絵画の中で女性は遠くを見つめている。なのに正面に立つと何故か女性と目が合ってしまう。この不思議な絵画を立城が手に入れたのは随分と前のことだ。以来、立城はこの屋敷の中に絵画を飾っている。例え時が流れても決して忘れることがないよう、誓約の地の印にしているのだ。
立城はゆっくりと絵画に背を向けた。そして軽く指を鳴らす。いつものように床から巨木がせり上がって来る。その幹に括りつけられた水輝は眠るように目を閉じていた。
長かったね。立城は小さくそう呟いた。紫翠が滅してから今日のこの時まで、水輝はその想いに縛られてきた。男と女の性で水輝の意識が完全に二分してしまったのはつい最近だ。そして今、水輝は女の性のまま、紫翠の思い出の中に生きている。
力を分ける。それを他者の力で行うのは難しい。本能的に己を守ろうとする力が働き、力添えをしている他者を傷つけることが多いからだ。だから立城はこれまで出来るだけ水輝の力を削いできた。
「水輝。悪いけれど君の半分には眠ってもらう。そうしなければいけないところにまで来てしまったんだよ」
立城はそう言いながら眠る水輝に近づいた。白いブラウスに手をかけると微かに水輝が身じろぎする。立城はゆっくりと一つずつブラウスのボタンを外していった。真っ白な肌が剥き出しになる。その胸元を見つめ、立城は自分の指先を強く噛んだ。
こうして交わるのももう最後かも知れない。ふと、そう考える。だが立城はためらわなかった。皮膚が口の中で裂け、指先から血が流れる。立城は無言でその指先を水輝の唇に触れさせた。
もしかしたら僕は潰えてしまうかも知れない。そうしたらあの子たちは僕の代わりに世界を見ていてくれるだろうか。立城は目を細めて水輝の唇に血で紅を刷いた。閉じた薄い唇の間からちらりと舌が覗く。血の匂いに勘付いたのだろう。水輝は舌で立城の指先を舐めた。
「やあ。喉が渇いたかい? けれどもう、これでは足りないかも知れないね」
水輝は喘ぎながら立城の指を熱心にしゃぶっている。その片足が根に囚われたまま、ゆっくりと持ち上がる。めくれたスカートの中、水輝の小陰唇の間には僅かに淫水がわいていた。
静かに指を引く。物足りなさそうに声を上げる水輝に立城は静かに唇を寄せた。それまでの静かな動きから一転し、立城は貪るように水輝に口づけた。合わさった唇の中で水輝が喘ぐ。そのまま立城は水輝の胸に手を伸ばした。膨らみを手のひら全体で包むように揉む。口づけの合間に立城はそっと水輝の名を呼んだ。
微かに水輝が身体を震わせる。唇の端から血の涎を垂らし、水輝は言葉にならない声を発した。それまでの喘ぎとは全く違う、凶暴な声が喉から漏れる。立城は血の零れる指先をゆっくりと水輝の胸の中央へと移動させた。
刻印を。立城はそう呟いて指で胸に十字を描いた。これまでに描き続けたそれが水輝の肌の上に浮かび上がる。最後に立城は十字架から長い線を血で引いた。水輝の首に伸ばした線が立城の吐息で血の鎖に変化する。血で凝った十字架は水輝の胸に鎖でぶら下げられた。
獣のような唸りが水輝の唇から漏れる。立城は口許に笑みを刻み、静かに頭を下げた。愛液の溢れる膣口へと唇を落とす。
ある者の力が分かれる時、他者がその儀式に介入している場合、他者から身を守るために本能的に力が発動する。立城はもう何度も繰り返してきたことを心の中で呟いた。これまでに何度か試そうと思い、だがその度に諦めた。何故なら水輝の力が一度、暴走すると誰にも止められなかったからだ。
だが今なら。立城は巧みに水輝の女性器を愛撫していた。指先でくすぐるように撫で、舌で舐める。唇で吸い、弄る。そして水輝の身体は立城の愛撫に応えて欲情していく。だがこれまでとは違い、水輝は紫翠の名を呼ばない。既にその記憶が引き出せないほどの欲望に囚われているからだ。
立城は水輝の秘部を指で執拗に弄ってから腰を上げた。水輝の口から白い牙が見え隠れしている。
「入れるよ」
低くそう告げて立城は屹立したペニスを膣に突き入れた。全身から狂った力が入ってくる。交わった瞬間、頭がぐらりと揺れる。立城は熱い息をついて木の幹に腕をついた。もっと深く交わりたいという欲望が頭をもたげてくる。日ごと、再生する水輝の処女膜を突き破り、膣の奥に到達しただけで立城は勢いよく射精してしまった。とても意識がもたない。
「水輝……っ」
掠れた声を上げて立城は水輝の唇を奪った。それがどれだけ危険な行為であるかを知り尽くしていた筈なのに、身体が欲望に囚われて自然と動いてしまったのだ。
水輝の舌が口の中に滑り込む。強制的にねじ込まれる力が立城を奮い立たせる。立城は水輝の口の中で低く呻いて腰をひくつかせた。意識がどこかに飛んでしまいそうなほどの快楽に襲われる。
エロっていうか野獣みたいな感じですね(汗)
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やがて片方は眠る 2
ちょっとだけですがw
「あ……!」
声を上げて射精した瞬間、立城はそれまで感じたことのないほどの快感を覚えた。水輝がゆっくりと頭を下げ、立城の喉に食らいつく。立城は身体を震わせて激しく腰を振った。身体が溶けそうなほどの快感に囚われる。
水輝は立城の喉に牙を立て、その血を啜り始めていた。低いうなり声を時折漏らす。立城はそんな水輝の様子をはっきりと見ることは出来なかった。牙を使って穿たれた穴を舌先がなぞる。流れる血を啜る水輝の目は爛々と輝いていた。
もっと奥にきて。立城の耳にささやき声が届く。立城の意識に水輝の力がねじ込まれる。立城は夢中で腰を揺らした。意識と意識が混ざり、どこからが自分でどこからが違うのかが判らない。次第に立城の目の色は暗く沈んでいった。歪んだ力と快楽に囚われ、肉体には直接、水輝の牙が食い込む。
水輝は音を立てて立城の血を啜っていた。真っ白だった立城のシャツが首の部分から赤く染まっていく。締められたネクタイが目に見えない力によって緩み、ボタンが弾け飛ぶ。立城のシャツはずるりとずれ、その肩が剥き出しになる。水輝は新たな場所に狙いをつけて舌なめずりをした。
瞬間、息が止まるほどの衝撃が走る。水輝が立城の肩に牙を立てたのだ。
「あっ、ああっ!」
立城は掠れた声を上げて仰け反った。痛みと快楽が同時に襲ってくる。水輝はその鋭い牙を使って立城の肉を噛み千切っていた。がくん、と立城の身体から力が抜ける。だが立城は辛うじて水輝の肩をつかみ、何とかバランスを取った。水輝は唸りを発しながら立城の肉を食んでいる。
十字架が揺れる。赤い血で出来た十字架を立城は必死でつかんだ。その瞬間、水輝がびくりと身体を震わせて動きを止める。立城は夢中で十字架の鎖を引き千切った。微かに戻った意識を懸命にたぐり寄せる。手の中に十字架がおさまった瞬間、立城はその場から飛びのいた。傷ついた肩を押さえ、腕を振る。手の中の十字架がその形を変える。
立城は腹の底から怒号を発して右腕を大きく振った。十字架は深紅の刀へと姿を変え、狙い違わず水輝の胸へと吸い込まれていった。胸に刀を突き立てられた水輝が断末魔の叫びを上げる。
全霊をかけた立城の叫びがその声を凌駕したその時、水輝の身体が煌きを帯びる。青い光が執務室を満たしていく。立城はそれと共にがっくりと床に膝をついた。
何かが千切れる音がする。立城は眩しい光の中で薄く目を開けた。
「間一髪、ぎりぎりセーフってとこか? お前にしちゃ、珍しく危ない勝負だったな」
聞き慣れた声に立城は苦笑した。木の根とつるを引き千切って幹から解放される。床に座り込む立城の元に歩いてきたのは水輝だった。血に濡れた口許を乱暴に手の甲で拭っている。
「やあ。何とか成功したみたいだね」
視界が霞む。立城は震える手を床について何とか頭を上げた。動こうとした矢先に水輝が軽く手を上げる。するとそれまで執務室を満たしていた光が嘘のように消え失せた。そして水輝は立城に歩み寄るとその場に膝をついた。
「いま治してやるから待ってろ」
そう言って水輝は乱暴に立城の胸元をつかんだ。唇を合わせて目を閉じる。立城も大人しく目を閉じて水輝の力を受け入れた。それまでとは違う、真っ直ぐな力が体内に入ってくる。それと同時に立城の傷は徐々に消えていった。
水輝の着ていた服は衝撃にはじけ飛んでいた。だがその肌には傷はない。立城が突き立てた筈の血の刀はきれいに消えている。
「これで終わり。ったく、どうせなら女の格好で怪我してろ。おれはノーマルなんだよ」
「そうしたら僕は女性同士で交わらなきゃならないことになっていたんだけど」
唇を離した水輝が不服を漏らす。立城は困った顔で水輝にそう言い返した。立ち上がった水輝の股間には男性器がある。水輝はあの瞬間に力を分けられ、男性に変質していたのだ。
「これがそうなのか?」
水輝がそう言いながらソファに寄る。立城は半分だけ瞼を下ろしてため息をついた。
「そうだけど……ねえ。僕の意見は無視?」
「ああ? ばーか。女同士なら男同士よりまだましだろが」
予想はしていたが水輝の答えは簡潔極まりなかった。立城は苦笑して立ち上がり、乱れた服を整えた。横たえられているヒューマノイドの機体に近づく。機体は力の欠片を注がれ、静かに寝息を立てていた。珍しそうに覗き込んでいる水輝の背後に立ち、立城は声をかけた。
「ところで服は着ないの?」
「どうせすぐ脱ぐし。……奈月!」
唐突に水輝が呼ぶ。その瞬間、空間が滲んで奈月が姿を現した。手にはまだバケツを持っている。何が起こったのかを咄嗟に理解出来なかったのだろう。奈月は驚いたように周囲を見回した。
「ほら、ここだって」
水輝が皮肉な笑みを浮かべて声をかける。奈月は途端に嬉しそうな顔になった。
「水輝さんっ!」
手にしたバケツを床に放り捨て、水輝に駆け寄る。水輝は当り前のようにその身体を強く抱いた。
「まあ、とりあえずは落ち着いたかな……。どうでもいいけれど寝室に移動してからにしてよ。一応、ここは僕の執務室なんだ」
再会の喜びに抱き合い、熱烈な口づけを交わしている二人に立城は苦笑した。水輝がけっ、と喉の奥を鳴らして舌を出す。
「ああ、そういえば」
立城に思う存分な悪態をついていた水輝がふと真顔になる。立城は首を傾げてみせた。水輝の性格ならこのままさっさと寝室に移動して奈月と戯れるに違いない、と思っていたのだ。だが水輝は珍しく考え込むような素振りで告げた。
「あおいってなに?」
「ああ、それは」
笑顔で言いかけて立城は口をつぐんだ。そして改めてにっこりとした笑みを浮かべる。
「内緒」
唇に指をあてて立城はそう告げてみせた。すると水輝が渋面になる。その腕の中では奈月が嬉しそうに顔をほころばせていた。
奈月というのは、水輝がもの凄い執着している女の子です。
彼女というか水輝の女?
なのですが、奈月は水輝大好きなのですが、ちょっと変わってます。
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時の彼方にさらっていくよ
文字数が足りなかったので、説明が足してあります。
ごくごく小さな弱い光が地上に生まれる。それは決して分かれることのなかったはずの力の欠片だ。歪みかけていた力はだが、その欠片を放出したことで再び安定した。欠片ははじき出されてもなお、その力が歪んではいるが、それも些細な力だ。さして気に留めるべき事柄ではない。
地上では幾つもの命が今日もまた生まれ、そして死んでいく。欠片もそんな中の一つと言えた。放っておけばその内に自然と力は消滅する。欠片の放つ、ごくささやかな光もまた力と共に消え失せる。それが幾つも積み重ねられる世界の理だ。
だが放置できない輝きというものもまた存在する。たった一つの欠片であっても、放置すればまたきっと歪んだ力を増幅させる。折角、切り分けられていてもそれでは無意味だ。
静かな光が地上に到達する。決して人の目に触れない光はやがて一つの部屋へと届いた。欠片の傍らに光が降りる。
「……まさかあなたが直接に出てこられるとは思いませんでしたが」
手にしていた雑巾をバケツに引っ掛け、立城が立ち上がる。閉じていた瞼を開き、翠はその室内を無造作に見回した。
「暇だったのでな」
無愛想に告げて翠はソファに横たわるそれに手を伸ばした。触れずともその欠片の輝きが消えかけていることが判る。翠は目を細めて無言でそれを抱き上げた。立城は腕まくりを下ろしながら翠を見てはいたが、止めない。
完全に消えてしまう前に処置しなければならない。翠は挨拶もせず欠片を抱えたままその場から消えた。
*****
1,000字を切ってしまったので、蛇足ですがここまでの説明です。
翠というのは時を司る龍神です。
時……だけでなく、時空を無茶苦茶に出来るので、自由気ままに動いてるように見えます。
しかも無愛想なので必要なことすら言いません。
奈月というのは……まあ、ネタバレすれば機械です。
本来は崩壊している予定でしたが、水輝が助けたという経緯があります。
そのため、奈月は水輝しか見えてません。水輝も奈月には半端ないこだわりがあります。
誘拐された時にその辺り一帯を崩壊させる程度にはw
前のシーンに出てきた真也というのは立城の双子の弟で、立城を庇って亡くなっています。
見た目は立城によく似ているのですが、中身が全く違うというかw
性格は全然違ったりします。
他にも名前だけですが、キャラががんがん出てきてます……。
カオスですみません。
お付き合い頂いている方には感謝を。
出来れば今後ともよろしくお願いします。
蛇足ですみません……。
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ロボット研究会非常事態 1
エロシーンはありません。
誓約者。優一郎は何度目かの呟きを口に乗せてみた。だが幾ら考えてもその存在の意味が判らない。試しに端末を操作して調べてはみたが、目ぼしい資料は手に入れられなかった。
優一郎は不機嫌な顔で軽くキーを弾いた。該当する単語を片っ端から検索してみたが、目ぼしいものはヒットしない。最後の一つを画面に開いてはみたが、やはりそれも優一郎の求める情報ではなかった。ため息をついて優一郎は検索を中止した。
情報処理の教師はまだ年若い男性が務めている。どこかの会社から雇われた臨時教師なのだ。優一郎は教卓の前に立つ教師をぼんやりと眺め、次いで画面に目を移した。表計算ソフトの使い方を教える授業なのだが、その内容の多くを生徒の大半は知り尽くしている。結局、課題を早々に終えた生徒たちはオンラインゲームにいそしんでいる最中だ。教師も特に授業を前倒しで進める気もないのだろう。のんびりと雑誌を読んでいる。
清陵高校では修得分野別にクラスが分けられている。その種類は様々だが、教室と教職員の数の都合により、クラスは一学年で十に分けられている。大きく分けると芸術コース、体育コース、理数コース、文系コースの四つに分類されるが、その中でも、生徒は特に学びたい分野を選ばなくてはならないことになっている。
そしてそのクラス分けは純然たる成績順で行われる。クラス名が若い方から理数コース、文系コースと割り振られる。だがそんな中で更に成績が優秀な者は、三年に上がる際に特別クラスと呼ばれるクラスになる。この特別クラスはほんの数名ほどしか該当者がいなくても作られるクラスだ。そして高校二年の秋、この時期には既に優一郎はそのクラスへの編入が決まっていた。
だが優一郎はそのことを担任に知らされた時、すぐには返答しなかった。自分が特別クラスになるのはいい。だが、そのクラスに斎姫が入らなければ意味はない。何より優一郎は斎姫と別クラスになることを望んではいなかったからだ。
結局、斎姫は優一郎と同じ特別クラスへ編入することが決定した。優一郎はそれを聞いて安心して担任に承諾の意を示した。成績的には申し分ないと先に判っていたとは言え、少し不安はあったのだ。
キータッチの音だけが室内を満たす。さぼって騒いでいる生徒は一人もいない。それも当然だろう。そんな真似をすれば即座に教室からたたき出される。他の学習している生徒の邪魔になるからだ。そして教室をたたき出された生徒は課題を終えなければ授業に復帰することは出来ない。優一郎が今いるクラスはそういうクラスなのだ。
軽くキーを弾く。優一郎は出された課題を全て終えて暇を持て余していた。立城に示されたあの言葉の意味も、学校に備え付けられている端末で調べたところで何かがつかめる筈もない。同じ端末を使うなら自前のそれを使った方がよほど頼りになる。気紛れに開いた画面を閉じ、優一郎は小さくため息をついた。
この情報処理室の端末同士は有線で繋がれている。外部から侵入することの出来ないネットワークが築かれているのだ。そしてそのケーブルを通して生徒たちは互いに文字で会話を楽しむことが出来る。優一郎は表示されたコール画面に目を向け、キーボードに向き直った。とある生徒から端末操作についての質問が飛んできたのだ。
こなれていない文章をざっと読んで軽くキーを叩く。簡潔に質問に応えてから優一郎はそっと目を上げた。質問してきた男子生徒が後ろを向いて手を上げる。礼のつもりらしい。優一郎もそれに手を上げて応えた。
今度は違う生徒からメッセージが飛んでくる。ロボット研究会の部長を務めているからだろうか。どうやらクラスの全員が優一郎が機械に強いと思っているらしい。優一郎はやれやれ、とため息をついてメッセージを開いた。
優くん、侵入者がいるみたい。今、地下二階よ。
簡潔な文章に優一郎は僅かに目を見張った。どうやら斎姫は地下にある警備システムを介して異常を察知したようだ。
直ぐ行く。
そう返答して優一郎は端末の電源を落とした。唐突に立ち上がる。地下の二階と言えば該当する場所は一箇所しかない。絵美佳の科学部の部室、ロボット研究会の研究室等は全て地下一階に作られている。問題のその場所は間違いなく優一郎の私室とも呼べる特別研究室なのだ。
「どうした? 吉良。まだ授業中だぞ?」
担当教諭が怪訝そうな顔でそう告げる。生徒たちは優一郎の行動に驚いたようだが、騒ぎはしない。キータッチの音が幾分か早くなっただけだ。端末を通して生徒同士で話しているらしい。だが優一郎はそんな彼らのことを気にも留めなかった。事は一刻を争う。あの部屋にはまだ作りかけの機体が幾つもあるのだ。それに外部に漏らせない情報もある。簡単に突破できる防御壁を築いたつもりはないが、それでも万が一のことがあれば大変だ。
この頃の清陵高校の設定がブレブレ……。
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ロボット研究会非常事態 2
「すいません。ちょっと体調が良くないので、保健室へ行っていいですか?」
そう告げた優一郎の顔色は当人が言う通りに青ざめていた。体調を崩しているからではない。緊急事態が発生したためだ。そのことを優一郎は自覚していた。だが担当教諭を納得させるにはいい理由だったようだ。男性教諭は慌てて頷いた。
情報処理室を静かに退室する。優一郎は後ろ手にドアを閉めると急ぎ足で廊下を進み始めた。こんな時に多輝がいれば簡単に対処できるのに。今はいない多輝のことがふと思い出される。だがいない者に頼っても仕方ない。優一郎は急いで階段に向かった。
特別教室のある四階から一気に一階まで駆け下りる。授業中であることを考慮して優一郎は出来るだけ足音を立てないようにした。校長室や事務室のある廊下を抜け、保健室に辿り着く。とりあえずはいないよりはましだろう。優一郎は乱れた呼吸を整えて保健室のドアをノックした。
静かに扉を開く。室内には数人の生徒がいた。調子を崩した生徒を気遣っているのは保険医の玲花だ。その様子を見た優一郎はしまった、と内心で呟いた。そう、今は授業中だ。体調を崩した生徒たちが保健室にいることもある。そしてどうやら今日は保健室を利用している生徒が多いようだ。見ればカーテンをひかれたベッドが三つ。全部のベッドが埋まっているらしい。
「あ、あら。どうしたの? 吉良くん」
この場で会うとは思わなかったのだろう。玲花の声は僅かに上ずっている。だが他の生徒たちは玲花の様子に気付かなかったようだ。優一郎は目を細めて彼らの様子を見てから保健室に入った。
「先生、体調が悪いので休みに来たんですけど、ベッドは一杯みたいですね。部室で休んでいていいですか?」
そう告げた優一郎はさりげなく玲花を観察した。玲花が慌てて白衣のポケットから手を出す。生徒たちの具合を看ながら玲花は欲情していたらしい。白衣のポケットに入れた手で股間を刺激していたのだ。優一郎はドア近くでそんな玲花を見つめ、微かに口許に笑みを浮かべた。玲花の頬が赤く染まる。
「あっ、そ、そうね。その方がいいわね」
顔を赤くしたまま、玲花は優一郎に近づいた。その背中を手で押す。優一郎は殆ど追い出される形で廊下に出た。同時に玲花も廊下に出る。他の生徒たちの前で優一郎が玲花を叱るとでも考えたのだろう。優一郎は思わず苦笑して振り返った。
「一緒に来てください。緊急事態です」
声を落として告げる。すると玲花が困惑した顔になる。
「え、だって具合の悪い生徒たちがいるのよ? 放り出して行ける筈がないでしょう?」
それが保険医の仕事だから。そう言われれば普通は納得するのだろう。だが優一郎は玲花の白衣を無造作につかみ、殆ど音にならない声で告げた。
「部室に侵入者が居ます。顧問としての責任を果たしていただきたいのですが」
それも教師の仕事だろう。優一郎はそう告げて白衣から手を離した。玲花の顔は強張っている。まさか、と呟く玲花の手を優一郎は強くつかんだ。早く、と急かして走り出す。困惑した面持ちのまま、玲花は優一郎に従った。
地下に降りるための扉を開けるには暗号を打ち込まなければならない。優一郎は素早く鍵を開き、ドアを開けた。暗かった廊下に明かりが灯る。今度は優一郎も遠慮なく廊下を駆けた。後ろから玲花が慌てた様子で追いかける。
果穂のいる研究室を横目に走る。優一郎は本来なら誰も近づけさせない地下の二階に続くエレベーターの前に辿り着いた。玲花が息を切らしている。
パスワードを素早く打ち込む。だがエレベーターは応えない。優一郎は苛立ちに任せてもう一度パスワードを打った。何度も出入りしているのだ。パスワードを今更間違える筈がない。だがいつも応答する女性の声はない。優一郎は驚愕に目を見開き、エレベーターの扉に目を向けた。
肩で息をしている玲花に命じ、優一郎は扉から一歩だけ下がった。玲花は不安そうに優一郎を見てから命令通りに腕を伸ばす。玲花の指先がエレベーターの扉に触れた途端、対侵入者用のシステムが作動した。玲花が雷に打たれたように身体をひくつかせる。指先から電流を注がれ、一瞬で機体が故障してしまったのだ。やはりシステムは正常に作動している。優一郎は床に倒れた玲花を一瞥して扉に目を戻した。
システムは正常だ。なのに何故、扉が開かないのだろう。優一郎は歯軋りしたい気分でもう一度、パスワードを打ち込むためのキーに向かった。小さな液晶画面は暗く沈んでいる。優一郎の指がキーに触れるたびに、その画面には*というマークが記されていく。パスワードは受理されている。なのにエレベーターは反応しない。
これは一体どういうことだ。優一郎は厳しい眼差しでエレベーターを睨みつけた。これが開かなければ地下二階にはたどり着けない。
まだまだ機械娘が書けてませんな!!(自省
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四章
再会の兆し
ちょっとだけ長めです。
エロシーンはありません。
鼻歌を歌いながらキーボードを叩く。唇に挟んだ煙草を揺らしながら、順は画面を上から下へと流れていく文字を素早く読んだ。今すぐに読まなくともディスクに記録はとってある。だがやっと手に入れた情報を後でゆっくり確かめるまで見ないのも勿体無い。順は続く文字の流れを出来るだけ目で追いかけた。自然と口許が緩む。
ずっと裏で調査し続けていたものの、欲しい情報はこれまで一切、手に入らなかった。吉良瀬側の防御壁は木村側にとって余りにも高すぎたのだ。
でも、坊やの端末はこうもあっさり入っちゃうんだもんなあ。順は感心してディスプレイの横に据えられたデスクトップを見つめた。酷く頼りないとも思える大きさのそれは今、吉良瀬のメインコンピュータに接続されている。これまで難関だった吉良瀬の防御壁をあっさりと越え、順の欲しい情報をふんだんに提供してくれている。もっとも、吉良瀬側もすぐに侵入に気付くだろう。幾ら許可をしているIDを持つ端末でも、内部の情報を根こそぎコピーしていれば不審に感じられる。順は手早く情報をディスクに写し取った。
次は、とキーを叩く。今度は画面が切り替わって画像が現れた。ふうん、と呟いて順はそのデータもコピーした。唐突に現れたのはヒューマノイドの性能についての説明書きだった。
誰もいない研究室で一台の端末だけが可動している。横たわっている機体の幾つかも実際には起動待ちの状態を維持されているようだ。順はボタン一つで情報をコピーを仕掛け、待ち時間を読んだ。コピー終了まで十分。それで全ての情報が手に入る。
そっと右の目を押さえる。そこには水輝の力が息づいている。順は苦笑して椅子から立った。微かに軋みを上げて椅子がゆっくりと順を追いかけるように回転する。順は目を押さえたまま、実験台に近づいた。
結界にはさっきからずっと何かが引っかかっている。恐らくそれが吉良優一郎だろう。順は結界の外にいる優一郎の気配を読んで片方の唇の端をぴくりと上げた。煙草の伸びた灰が床に落ちる。
右目をあける。閉じた時と同様、研究所の中の風景はごく普通だ。順はほっと胸をなで下ろした。最近、こうして時折確かめないと不安になる。いつ、どこで水輝の力が暴発するか見当がつかないからだ。試すように右の瞼だけを何度か開閉する。変化がないことを充分に確かめてから、改めて順は一体の機体に向き直った。
その機体は優一郎の作品にしては珍しく髪が短かった。そして他のそれとは違い、顔立ちも少々きつい。例えば機体が起動し、服でも着れば男にすら見えるだろう。凛々しい面立ちと締まった身体を持っている。順は薄い笑みを浮かべてその機体を見つめた。
まるで用意されてたみたいだねぇ。内心でそう呟く。順はおもむろに右の手で自分の左の胸に触れた。心臓のある位置にゆっくりと指を移動する。シャツ越しに鼓動を感じ取ったその時、順は一気に手に力をこめた。ずぶり、と指がシャツを抜けて皮膚へと食い込む。そして順の手は静かに左胸の奥へと入っていった。
激しい痛みに襲われる。順は身体を二つに折り曲げて歯を食いしばった。フィルターが噛み千切れ、火の点いた煙草が床に転がる。だがそれでも順は身体を起こさなかった。手探りで体内に収まっているそれをつかみ取る。
長い息をつきながら順は手を胸から抜いた。その手には深紅の宝玉が握られている。手が抜けたはずの胸はまだ痛んでいる。順はシャツの胸元を強く握り、手の中の宝玉を見つめた。深紅の輝きはあの時と全く変わりない。違っているのは持ち主がいないということだけだ。
刀を交えて戦ったあの日のことがついさっきのことのように思い出される。あの日、深紅の煌きを帯びた刀を携えていたのは火藍だった。順はその時のことを思い出して目を閉じた。胸の痛みはまだ酷かったが、火藍のことを思い出しただけで少しだけ痛みが薄れた気がする。
立城と水輝に対する力として火藍は懸命に戦っていた。だがその戦いの最中に火藍はその刃を順に向けた。順が火藍を騙していたからだ。
怒りに満ちた火藍の一撃は、あらかじめ順が施した術により繰り出した当人へと弾き返された。その一撃が火藍の致命傷となった。そして火藍は想い人にその想いを打ち明けることもなく、この世から去ってしまったのだ。
だってそうでもしなきゃ、ずっと囚われたままだったじゃん。順は小さな声でそう呟いた。あの輝きがこの世に現れた瞬間から、火藍はずっと囚われ続けていた。誰にも解放してもらえず、あまつさえ世界はそんな火藍の想いすら利用しようとした。水輝の意識を逸らすためとは言え、それが順には許せなかったのだ。
順は薄く目を開けた。深紅の輝きを強く握る。器が滅びてもなお輝き続けている宝玉を目の高さに翳す。それから順はおもむろに宝玉を握り直した。静かに機体に向き直る。
ヒューマノイドの機体がどうして膨大な力を易々と受け止めてしまうのかは判らない。だがその事実は順にとっては好都合だった。失われた力が少しでも世界に戻れば。そうすればある場所で進められている実験は中断せざるを得なくなる。
左の胸に宝玉を触れさせる。順は意識を集中して体内に渦巻く力を手のひらへと終結させた。黒い闇の力を帯びた手がゆっくりと機体の肌へと近づいて行く。それと共に深紅の輝きはずぶりと音を立てて機体の胸へと沈んでいった。
端末がコピー終了を知らせる音を鳴らす。だが順は気にせず手を進めた。宝玉が触れた瞬間から、機体は僅かずつ光を帯びている。深紅のその光は懐かしい時を思い出させる。順は口許に嗤いを浮かべていた。宝玉が胸に納まる。そして順は宝玉と共にその手を機体の胸へと突き立てた。
機体の内部にはたくさんの機械が詰まっている。だが順の手はそのどれにも触れていなかった。ねっとりとしたものが順の手に絡みつく。順は息を潜めて機体の内部を探った。それまで何も意識などしたことのない機体の精神部分に直接触れているのだ。それは混沌とした闇に触れているようなものだ。次第に順の額には汗がにじみ始めた。自然と腕が震えてくる。
「もう少し……かな。もっと力があれば簡単なのになあ」
愚痴混じりに言いながら順は軽く舌打ちをした。闇の中に漂う深紅の煌きを再びつかみ取る。ヒューマノイドの機体はその瞬間にびくりと揺れた。
不意に警告音が鳴る。順は驚きに目を上げた。端末と繋がれた画面に危険を知らせる文字が表示されている。鋭く舌打ちをして順は機体から手を抜いた。それまでまとわりついていたものがすんなりと順の手を解放する。順は苛立ち紛れに大きな足音を立てて端末に近づいた。
「うわ……やられた」
コピーした方のディスクの中身をチェックして順は思わずそう呟いた。優一郎が外部から端末を操作したのだ。コピーした筈の情報は半分に減っている。順はため息をついてディスクを端末から抜いた。ポケットにしまって頭を軽く振る。とにかくこれ以上の長居は無意味だ。
「また会える日を楽しみにしてるよ」
そっと笑って順はそう告げた。その視線の先にはあのヒューマノイドがいる。順は額に指をあてた。本来なら一日に二度も行使したりしない力を発動させる。それがどれだけ危険かを順は知り尽くしていた。これまで何度も実験し、その度に失敗しているからだ。
「じゃあね」
順の姿が研究室からかき消える。端末だけが空しく動いていた。
今回の話、順が割と活躍します。
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これってデート?
3,000字でちょっと長めです。
あ、エロシーンはありません。
手を上げて合図する。嬉しそうに微笑んで由梨佳は多輝の元に駆けて来た。手にはたくさんの荷物を抱えている。多輝は苦笑して由梨佳の腕から荷物を取り上げた。
「うわ、またたくさん買ったなあ。これって何? ケーキ?」
そう言いながら多輝はデパートのフロアを歩き始めた。さっきまで買物をしている由梨佳を待って椅子に腰掛けていたのだ。由梨佳は急いで戻ってきたからだろう。軽く息を弾ませている。
「外れね。だけど限りなく正解に近いわ」
唇に指を当てて由梨佳が片目を閉じる。多輝は中空を向いて考えた。そして握ったビニールの袋を覗き込む。そこに入っていたのは生クリームや卵だった。どうやらケーキ屋でトッピングの材料を買ったために袋がケーキ屋のものだったらしい。
昼食はデパートの地下で簡単に済ませた。久しぶりの外出に多輝は少々浮かれ気味だった。いつもは欲しいと思わないものまで欲しくなる。
「あっ、あれ。ちょっと見ていい?」
多輝は店内に飾られたモデルガンに目を留めて由梨佳に訊ねた。すると由梨佳が渋い顔になる。
「それ、欲しいの?」
多輝がそう言いだしたのはこれで八度目だ。由梨佳は困った子供に訊ねるようにそう告げた。多輝はだが、そんな由梨佳の様子に全く気付かなかった。目を輝かせて見るだけだから、と言う。そして多輝は由梨佳の返事も待たずに駆け出した。
「ほんとに男の子みたいなんだから」
遅れて多輝に追いついた由梨佳が苦笑して告げる。多輝はだが熱心にモデルガンを見つめていた。硝子ケースに入ったそれはとても精巧に作られている。玩具屋の片隅で二人はしばらくモデルガンについての意見を交わした。多輝は興味があったこともありモデルガンには詳しかった。だが由梨佳がそんな多輝と同等かそれ以上の知識を披露する。そのことに多輝は内心で舌を巻いた。
「由梨佳先生ってほんとに何でも知ってるよなあ。凄いかも」
二人が並ぶと友達同士に見える。多輝は大きな荷物を両手に抱えて由梨佳の横を歩いていた。先ほどのモデルガンは結局、買わなかった。店員が呆れるほどの知識を披露してみせた由梨佳の方に関心が移ってしまったからだ。
「わたしの取り柄は知識だけだから」
ごく小さな声で由梨佳が告げる。そんな由梨佳を多輝は睨むように見た。辛うじて自由になる左手を上げて指を振る。
「凄いって言ってんだからさあ。もうちょっと素直に受け取った方がいいと思うよ、おれ」
暗く沈みがちになった由梨佳に向かって多輝はわざと明るくそう告げた。すると由梨佳がはっとしたように顔を上げる。
「先生は美人だし物知りだし、それにおれをちゃんとみてくれてるだろ? それだけが取り得ってことないじゃん」
隣を歩きながら由梨佳の目を覗き込む。多輝は困惑したような由梨佳の耳元に素早く唇を寄せた。殆ど聞き取れない声で囁く。
「それに由梨佳先生とのエッチも最高だし」
悪戯っぽい多輝の囁きに由梨佳が焦ったように耳を押さえる。多輝はにやにやと笑いながら首を傾げてみせた。驚きのために足を止めた由梨佳を振り返る。
「もうっ!」
由梨佳が頬を膨らませる。その顔は赤く染まっている。照れ隠しに拗ねてみせる由梨佳を多輝はしばらくからかった。勉強の名目以外で由梨佳と接することが滅多にないからか、こうして一緒にいることがとても新鮮に思える。多輝は心の底から由梨佳と共に買物を楽しんだ。
三時のお茶をしましょう、と由梨佳が選んだのは洒落たイタリアン風の喫茶店だった。チーズの風味がよく効いたティラミスを向かい合わせの席でつつく。紅茶を飲みながら交わす言葉の端々にも由梨佳の知性が光る。ティラミスの作り方を熱心に語る由梨佳を多輝は微笑みながら見つめていた。
だがそうしていても時折、不安になる。由梨佳と交わる時に抱く不満は日に日に強くなっている。例え絶頂を迎えてもどこかが満たされていない気がするのだ。多輝は由梨佳を見つめながら時折そのことを思い出した。だがその不満について由梨佳に話した事はない。
やがて日が傾き外が暗くなる。多輝は人の大勢いるデパートの入り口を抜けて大きく伸びをした。久しぶりの買物はとても楽しかった。横を歩く由梨佳も満足そうな顔をしている。多輝は由梨佳と共にのんびりと歩き出した。たくさんの電車が走る上にかけられた橋を二人で並んで渡る。
不意に多輝は足を止めた。橋を行く人々の流れに混じって見えたその姿に多輝は絶句した。忘れたくても忘れられない。
どうしたの、と由梨佳が多輝に声をかける。その目が多輝の視線を追い、由梨佳も同様に愕然と目を見開いた。人ごみに紛れて歩いているのは水輝だった。人々の流れに混じって多輝と由梨佳の横を過ぎる。様々な思いに身体を強張らせた多輝の脇を過ぎる時、水輝は微かに口許に嗤いを浮かべていた。
行過ぎる水輝を由梨佳は鋭い眼差しで睨んでいた。多輝も厳しい面持ちで水輝の背を見送る。水輝はそんな二人に構わずデパートの中へと消えて行った。
「あいつ……どうしてこんなところに」
多輝はそう呟いてからはっと息を飲んだ。由梨佳は水輝のことを知らないだろう。自分のことに精一杯だった多輝は由梨佳の様子にまで気を回せなかったのだ。だから由梨佳の様子がいつもと違っていたことにも気付かなかった。多輝は取り落としかけていた荷物を抱え直した。何事もなかったかのように由梨佳に笑みかける。
「そろそろ帰らないと。行こうか」
だがそう多輝が声をかけても由梨佳は黙ってデパートの方を見ていた。その視線がいつになく鋭いことに多輝はそこでようやく気付いた。どうしたのだろう。多輝はこの時点でもまだ由梨佳が自分と同じように水輝を見ていたことに気付いていなかった。訝りをこめて由梨佳に再度、声をかける。するとようやく由梨佳が反応した。慌てたように多輝を振り返り、ごめんなさいと詫びる。だがどこかぼんやりとしていていつもの由梨佳の様子と違う。多輝は少し躊躇した。由梨佳と向き合ったままかけるべき言葉を捜す。けれど上手く言葉が出てこない。
「あー……。えっと、帰る?」
結局、多輝は思っていたことを全て口にすることもせず由梨佳にそう告げた。由梨佳が小さく頷く。
きっと先生はおれと同じやつを見ていたんだ。多輝はそう思いながら荷物を抱えて歩き出した。電車の駅についても二人は無言だった。反対車線の電車が行過ぎる。それと共に地下鉄の駅の中には強い風が吹きぬけた。
皮肉に嗤った水輝のことが脳裏に蘇る。水輝は多輝とそう大差ない年齢のように見えた。前に会った時は立城と同じくらいの年だった筈だ。どうして水輝はいきなり若返って見えたのだろう。そしてそんな考えを巡らせる多輝は気付かなかった。優一郎のことは忘れているのに多輝は水輝のことはしっかりと覚えていたのだ。記憶をなくす前よりさらにはっきりと、だ。そしてこの時の多輝は水輝が立城や自分と同類であることを見抜いていた。
気に食わねえな。由梨佳と歩きながら多輝はずっと考え続けていた。その横で由梨佳が沈んだ顔をしていることにも気付けない。
やがて二人は屋敷にたどり着いた。だが多輝は荷物をキッチンに置くと挨拶もそぞろに部屋に戻った。客室だった筈のこの部屋は、今ではすっかり多輝の部屋と化している。置かれているベッドに乱暴に身体を放り、多輝はため息をついて天井を見た。腕を頭の後ろに回して枕代わりにする。
暗い部屋の中で多輝は鋭い目つきで天井を睨んだ。その身体が淡い光を放っていることに多輝自身は気付かなかった。
最後が不穏なのは仕方ないですね……。
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これはデートではなくナンパ 1
エロシーンはありません。
「ああ? そりゃ、どんな理屈だよ」
細い携帯電話を持ち直して笑いながら吐き出す。唇に挟んだ煙草にライターの火を近づけると赤い火が灯る。水輝は深く煙を吸い込んで目を細めた。壁にもたれた背中を少しだけ離して小さく笑う。改めて壁に背中を預け、水輝はちらりと視線を流した。
「まあ、びっくりしてたはしてたけどさ。……あんだよ。おれが出かけたのが気に入らないのか?」
電話の向こうで立城がため息をついている。それはそうだろう。まさか今日の内に水輝が動くとは立城も思っていなかったのだ。そして水輝は人の悪い笑みを浮かべて囁くように告げた。
「長いことお預け食らわされてたせいでさ。けっこうあっさり体力なくなったみたいだぜ。……って、そこで嘆くなよ」
水輝は立城と話しながら別の人間を見つめていた。こちらもやはり誰かと話しているのだろう。携帯電話を握り締めている。だが水輝とは違い、どうやら深刻な話をしているようだ。顔が強張っている。
相変わらずだね。という喜んでいいのかどうか判らない立城のコメントに水輝は慣れた調子で軽口を返した。人々の流れは止まっている水輝から見れば酷く忙しない。水輝は目的の人物から目を逸らし、人々の流れを追いかけた。だが意識だけはきちんと目的のそれをトレースする。
「大体なあ。何で今更、携帯電話?」
そんなものがなくとも力を行使すれば離れた場所にいる相手との会話など造作もなく出来る。水輝はため息混じりに訊いた。だが立城は意外にもその質問に小さく笑ってみせた。
『君が良くても今の僕の状態では力を使うことは無理だからね』
「だから携帯? まあ、退屈しのぎになっていいけどさ」
顎で携帯を挟んで煙草を指に挟む。近くにあった灰皿に灰を落としていると、急に近くで女の声が聞こえた。どうやら目的のそれが話しながら少し移動したらしい。水輝は一メートルほどしか離れていない彼女をちらりと見やった。小さな声ではあるが、その会話の断片が聞こえてくる。
『水輝?』
いつもなら言わなくてもこちらの状態を察する立城が呼びかけてくる。水輝はああ、とだけ声を返した。力が使えなくても水輝の行動は読んでいるらしい。それだけで立城は無言になった。
どうして、とかなんでという言葉が彼女の口から漏れる。水輝は目を細めてそっと息をついた。意識を集中すると簡単に彼女の思考が読める。
「そうだな。後始末くらいは頼むかも知れないな」
『……出来れば一週間待ってくれないかな。せめて僕の力が回復するまで』
だがそう言いながらも立城は水輝がきかないことを知っているのだろう。喋る声は少し沈痛な響きを伴っている。水輝は口許に嗤いを張り付けた。
「無理だな。獲物がそこにいるのに我慢できる訳ないだろ」
壁にもたれて話し込む彼女を眺めながら水輝は小声で告げた。つま先から頭の先までを視線だけで探る。身長は160くらい。体重はまあそこそこ。スリーサイズは、と水輝は続けて彼女の肢体を舐めるように見つめた。上から八十四、六十、八十三ってとこか。胸の中での呟きは自然と声になっていたらしい。電話の向こうで立城が深々とため息をつく。
人にしてはまあ顔は整ってるかな。水輝は立城のため息に笑ってそう応えた。目的の彼女の電話を握りしめる指先が白くなっている。余程、力をこめて電話を握っているのだろう。それだけでも話している内容が知れるというものだ。水輝は彼女からするりと視線を外して再び人の流れを見やった。
『君の性格は本当に変わっていないね。僕の都合はお構いなしかい?』
ため息と共に返って来た声に水輝は声に出さずに笑った。きっと立城も自分がどう答えるかを知っている。何度も交わされた会話の内の一つだからだ。水輝は空を見上げながら告げた。
「おれがお前の都合に構ったことがこれまで一度でもあったと思うか?」
空は次第に暗くなっている。行き交う人々の手にぶら下がっている荷物の中には夕食の材料が入っているものもあるだろう。夜はどんどん近づいている。水輝は小さく身じろぎして苦笑した。どうなんだよ、と立城を急かしてみる。だが立城はいつもと同じように落ち着いた声で応えた。
『ないね』
意外にもあっさりと否定される。水輝は判っていたその答えに頷いた。それ以前に立城は自分の都合を本気で考慮しろと言ったことはない。立城もその自覚はあるのだろう。確信的に話を振ってくることはあるが、そんな時水輝は決して立城の都合を考えたりはしない。結局のところ、水輝は常に思うままに進み、立城がそのフォローをする。それがこれまでずっと続いてきた二人の関係なのだ。
「っと。そろそろかな。んな訳だから晩飯は食って帰る。奈月にそう言っておいてくれ」
そう告げて水輝は電話を切った。切る直前に立城が何かを言っていたような気がするが気にしないことにする。どうせ壊れた奈月を修理するのが先だ、と文句を言っていたのだろう。水輝は小さく笑って壁から背中を引き剥がした。
彼女は肩を小刻みに震わせている。手に握られた電話はもう耳には触れていない。通話は終わっている。そんな彼女が深いため息を数度零し、だるそうに電話を再びかけようとしたその時、水輝はすい、と近づいた。
「ねえ、お姉さん。おれと遊ばない?」
唐突に声をかけられた彼女が驚いたように目を上げる。水輝は口許に笑みを浮かべて軽く首を傾げてみせた。彼女が慌てたように周囲を見る。どうやら自分が声をかけられていると思わなかったらしい。思わず吹き出して水輝は彼女を指差した。
こういうヤツなんですよ……(棒
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これはデートではなくナンパ 2
エロシーンはありません。
「お姉さんだってば。こんな近くにいて別の女に声かけてる訳ないじゃん」
「わっ、わたし?」
彼女は驚きに目を見張ったまま自分を指差してみせた。今日は特別な日だ。何しろ彼女の誕生日なのだ。だから彼女は彼氏である男とここで待ち合わせていた。だが男は急に都合が悪くなったとかで約束をキャンセルしたのだ。急に電話をしてきた男の相手をしていた彼女が次に電話をしようとした先はレストランだった。そう、今日は彼女の誕生日だからということで、二人はわざわざホテルのレストランに予約をしていたのだ。
それだけのことを水輝は既に知り得ていた。だが顔には少しも出さない。戸惑いながら俯く彼女に再度、声をかける。
「そ。第一、おれノーマルだしさあ。ここらへん、お姉さんの他には野郎しかいないじゃん」
そう言いながら水輝は軽く顎をしゃくった。確かにこの時、彼女の周辺にいたのは男性ばかりだった。水輝は同意を求めるために彼女にな、と声をかけた。すると彼女が緊張に強張っていた顔に微かに笑みを浮かべる。
そう、あんたで間違いないんだよ。お姉さん。だっておれの声を聞いただろう? 水輝は内心でそう呟きながら彼女に笑いかけた。
「で、でも、あの……わたし」
「それともおれがガキだから嫌?」
さりげなく近づいて彼女の頭のすぐ脇に腕をつく。囁くように告げると彼女が真っ赤になった。確かに年の差は少しあるだろう。だが気にするほどではない。彼女がどこかの会社に勤めている事はわかっているが、年齢が二十歳過ぎだということも水輝は理解していた。
赤いルージュがどことなく浮いて見えるのは、きっと彼女が愛らしい顔の作りをしているからだ。薄く施された化粧はよく似合っている。
「そんなこと……ないけど」
「じゃ、いいじゃん。付き合ってよ」
彼女は困惑した面持ちで電話と水輝を見比べる。その間にも傍を行く人々が興味深そうに二人を眺めて過ぎる。水輝は自分の容姿が人の目を惹き付けることをよく知っていた。彼女も自分たちが注目されていることには気付いているらしい。戸惑ったような目で通行人を見ては慌てて電話に目を落とす。
渋る彼女に水輝はねえ、と笑いかけた。
「それとも彼氏と待ち合わせ?」
淡いピンクのセーターが微かに揺れる。彼女は強く電話を握り締めて俯いた。彼女が先ほどの会話を思い出していることが水輝には手に取るように判った。それと共に彼女の心の中に小さな闇が生まれる。水輝はそれを見止めて口許に嗤いを刻んだ。彼女が顔を上げる直前に嗤いを消す。
「いいわ。付き合う」
小声で彼女が応える。水輝はやった、と指を鳴らして嬉しそうに笑った。照れたように彼女が微笑む。だがその心には彼氏である男に対する復讐したいという気持ちが芽生えていた。背中がざわつくような感覚が水輝を襲う。だがそ知らぬ顔で水輝は彼女を促した。
彼女は未亜と名乗った。水輝は歩きながら未亜ちゃんかあ、と笑った。
「あなたは?」
未亜に訊ねられて水輝はああ、と応えた。
「おれ? おれは水に輝くって書いて水輝ね」
そう言いながら水輝はさりげなく未亜の手を取った。驚いたように目を見開く未亜の手のひらに指を乗せる。水輝は自分の名前をその手のひらに指で書いてみせた。ね、と笑いかける。すると未亜は何故か顔を真っ赤にして手を握り締めた。
「水輝くん、ね。可愛い名前」
「よく言われる」
照れ隠しの未亜の言葉に水輝は事もなげに笑ってみせた。未亜はまだ水輝がさっき触れた手をしっかりと握っている。水輝はそれを見て口許を微かに歪めた。煙草を咥え直して未亜の手をさりげなく取る。驚く未亜を余所に水輝はその手をしっかりと握った。
「手、繋ぐの嫌い?」
驚きと恥ずかしいという気持ちが手を通じて流れてくる。未亜のほっそりとした手をしっかりと握り、水輝は人の流れに合わせて歩いていた。未亜は困ったような笑みを浮かべて水輝の横を歩く。
未亜は水輝をとあるホテルへと促した。そこは未亜が男と約束していた場所だった。だが水輝は知らん顔でわざと驚いてみせた。
「こんな高そうなとこでいいの?」
食事をしに行こうと持ちかけたのは水輝だった。だがその場所を未亜は特定してきたのだ。確かに食べたいって言ったけど。水輝は言葉尻を濁して呟くように未亜に告げた。だが未亜は少し大人びた笑みを浮かべて水輝を促す。
「いいの。予約してあるから」
そう言って未亜は水輝の先を進む。ホテルのドアをくぐってためらいなくエレベーターに向かう。そんな未亜を水輝はうろたえる振りをしつつ追いかけた。こんなとこ入るの初めてだし。どうしたの、と問う未亜にそう応える。すると未亜は水輝ににっこりと笑みかけた。最初に見せたためらいは今の未亜にはない。
「ほんとはね。彼氏と来ることにしてたの」
エレベーターに二人きりで乗り込んだ後、未亜はぽつりとそう告げた。無言で頷く水輝を見つめ、未亜が照れたように笑う。だがその笑みには哀しい思いが込められていた。
「だからいいの。一人きりじゃ寂しいから水輝くん、付き合って」
「そりゃ、おれは嬉しいけど、でもいいの?」
ホテルの中ではまあまあかな。水輝は内心でそう呟きながら当り障りのない答えを口にした。一度、立城が街のど真ん中に建つ高級ホテルを丸ごと借り切ったことがある。その時は会社のパーティか何かだったような気がするが、水輝はその会場にこっそりと紛れ込んだのだ。
ホテルのレストランのどこに入っても飲食は無料。文字通り食い放題、飲み放題だった。しかもパーティが終了した後、参加者たちは各自土産と称して一つの箱を持たされた。その中に納まっていたのは金のカトラリーが一式、ついでのように添えてあったのは銀のスプーンだった。幸運を呼ぶとかなんとか言ってたっけ。水輝はぼんやりとその時のことを思い出した。
「水輝くん?」
呼び声に我に返る。水輝は慌ててエレベーターを降りた。ドアが閉まる直前に駆け出した水輝を未亜が困ったように笑っている。水輝は照れくさそうに頭をかいた。
水輝は食欲大魔神な感じなので食い放題は嬉しかったと思いますが……。
躾けに厳しいのがいるから煩かったと思いますw
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風のとてとて
作者用のタイトルです!
あ、エロシーンはありません。
慌ただしく駆け込んだ研究室は既に荒らされた後だった。壊れた玲花を放り出してエレベーターに飛び乗った優一郎は、その惨状を目にして落胆の息をついた。外部から端末にアクセスしてある程度の行動は阻止したつもりだが、それにしても被害が大きい。何より痛かったのは並んでいる機体に手をつけた跡があることだった。
「データはいい。問題はこの機体か……」
侵入者が奪おうとしたデータの内、どうしても渡せないものにだけはブロックをかけてコピーディスクからその内容を消去した。それ故に侵入者は優一郎がどうしても奪われたくないデータは持ち逃げできなかったのだ。だが、並べられた機体には明らかに手をつけられた跡があるものが数体あった。
床に目を落とす。リノリウムの床には幾つかの吸殻が残っていた。見慣れない煙草の銘柄だ。優一郎は茶色のフィルターを見下ろしてじっと考えた。身近な者ではない。例えば立城や水輝は煙草を吸うが、この銘柄のものではないし、第一彼らは吸殻を無造作に床に捨てたりはしない。それに彼らであれば正面から訪ねて来るような気がする。優一郎はゆっくりと研究室の中を歩きながら考えを巡らせた。
だとすればそちら方面ではない別の者と考えられる。優一郎は吐息をついて研究室の一角に向かった。万が一ということもある。優一郎は金属製の棚の奥を探って目当てのものを取り出した。対龍神用の残留力を測る器具だ。一見、携帯端末にしか見えないそれは、優一郎に一度でも関わり力を発揮した龍神に関してであれば残留している力の大きさと種類を特定できる優れものだ。ちなみに作成者は優一郎の父、総一郎だ。まだ幼かった優一郎に玩具としてこれを与えた総一郎の真意は判らない。だが優一郎は器具を手にして総一郎に感謝した。
優一郎は器具のスイッチを入れて研究室の中をゆっくりと歩き出した。微弱ではあるが器具は研究室内に残留する力をキャッチしたようだ。だが軽い電子音が鳴るだけでその種類までは特定できないらしい。優一郎は眉をひそめて器具の液晶画面を見た。NO DATA。つまり、これまで検出したことのある力の種類の中に、今回の侵入者の残した力は当てはまらないということだ。やれやれ、と肩を竦めて優一郎は器具に今回のそれをデータとして打ち込んだ。名前を未確定にして日付と時間を正確に記入する。そんなことをしている間にも器具の測定していた力の残留濃度は下がっていく。
優一郎は無言で端末に近づいた。有線で器具と端末を接続する。手早く端末を立ち上げて優一郎は器具内部のデータを端末に移した。これまでに接触したことのある龍神たち、水輝、立城、翠、そして多輝に関する情報を登録してあるデータベースを用いて分析を行う。
PowerType : Wind
Intensity : Very very Strong
殆ど間をおかずに画面にはそう表示された。優一郎は画面を睨んだまま腕組みをして椅子の背もたれに深く寄りかかった。
「風……。力はかなり強い」
だが優一郎の知る限り、風の能力を強く表面化させた者は八大と呼ばれる者の中には含まれていない。もちろん、それも立城に聞いただけの話だから一概に信用できるものではないだろうが。
立城や水輝、翠は話にも出てきた通りに八大と呼ばれている。彼らの力を分析すると測定不可能と表示される。それから考えても今回の侵入者は八大ではない。優一郎は厳しい顔をしたままで椅子を軽く回した。視界が動いて機体が目に入る。
今回、侵入者のデータが取れたことは後々に何かの役には立つだろう。意図的にヒューマノイドの基礎理論についてもデータを持ち帰らせたから、きっとそれを元にどこかで新しくヒューマノイドが作成される。その点についても問題ない。何故なら優一郎は自分と総一郎の手がけたヒューマノイド以外で出来のいいそれを見たことがなかったからだ。どこで作られたにせよ、更に技術が進んで素晴らしいヒューマノイドの機体が作られれば目にするチャンスも出来る。優一郎は自分の考えにそっと頷いた。
だが侵入者が手をつけていった数体の機体に関しては笑って許すことは出来なかった。何故ならその内の一体が既に起動状態に入っており、優一郎の命令を受け付けなくなっているからだ。他の数体に関しては機体内部を探られた形跡があるが、セキュリティシステムを一新すれば外部からのアクセスは出来なくなる。
優一郎は立ち上がって問題の機体に近づいた。問題の機体はカレンの戦闘能力のテストを行う際に使用する実験機だ。もちろん、実験に使用するという意味でだけなら別の機体を作成すれば問題は解消される。だが優一郎はどんなヒューマノイドの機体でも自分が手がける以上、手抜きはしていない。絶対の自信を持って作る故にいいかげんな作り方が出来ないのだ。そのため、たとえ実験機であろうとも被害は大きくなる。誰かに手をつけられました、はい、捨てました。などと簡単に消去することが出来ないのだ。
ため息をつきながら優一郎は何気なく白衣のポケットに手を入れた。手に計測器が触れる。優一郎は無意識にそれをポケットから出した。残留している力の濃度は落ちる一方だろう。そうは思ったが、優一郎は習慣でその辺りの残留力の計測を始めた。
「……? 残留力の反応が違う?」
問題の機体に計測器を翳し、優一郎はその反応に目を見張った。先ほどとは違う測定結果が表示される。優一郎は慌ただしく端末に寄り、急いで計測器を接続した。
画面を切り替えて測定器のデータを移す。すると先ほどとは全く違い、測定された残留力の濃度は計測器の許容量をオーバーしていることが判った。余りに力が強かったために計測器の警告音が鳴らなかったのだ。
「炎? いや、これは残留力じゃない!?」
Type : Fire
Intensity : incalculable
画面に表示された測定不可の文字に優一郎は愕然と目を見開いた。これまでの考えが正しければこの力の正体は八大のそれとなる。だが、残留力にすれば余りにも力が強すぎる。となると、答えは一つしかない。
「つまり、この機体に何かが、宿った……のか?」
よろけながら立ち上がる。多輝で実験済みだと言えば言える。だがその機体内部にこめられた力の強さは多輝のそれとは桁違いだ。優一郎は頼りない足取りで問題の機体に近づいた。
多輝のそれは精神と言う形のないものに依存して力の移し変えが行われた。それ故に失敗する危険も多々あった。多輝があれほどまでに精神的に追い詰められていなければ、恐らく失敗しただろうという確信が優一郎にはある。だが侵入者が優一郎の研究室に入っていた時間は正味、一時間強。その間に機体に何らかの処置を施したということだ。だが、実験機であるこの機体の調整は万全に行われていた。それにヒューマノイドとは違い、この実験機には意志はない。考える頭がない故に効率的に実験できるのだ。故に、機体の意志を介して力を移したということもまずあり得ない。
そうなると考えられる可能性はただ一つ。侵入者が何らかの方法を用いて強制的に機体内部に侵入、力を安定させてしまったということだ。もし、侵入者が失敗していれば機体は簡単に破壊されていただろう。少なくともこの機体に込められているのは、その程度のことはしてのける強さの力なのだ。
機体を見つめる優一郎の口許に嗤いが浮かぶ。侵入者の力の属性は風。この機体に込められたそれは炎。全く違う属性を持つそれを、どうして侵入者がこの機体に施したのかは判らない。だが優一郎には少しだけ事の次第が理解できた。風の力を持つ誰かは何かを意図して機体に炎の力を埋めた。そして恐らくはその力が覚醒する時をどこかで待っている。
このままではこの機体は力に耐え兼ねて壊れてしまう。優一郎は薄い笑みを浮かべて静かに機体を見つめていた。
つよ
とてつよ
とてとて
とか言ってた記憶があるんですが違ったかな……(謎
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伝染するモノですの 1
エロシーンはありません。
激しい音が部屋に響く。その音にまず驚いて飛び上がったのは要の飼い猫だった。タマ、というなんともオーソドックスな名前をつけられたその猫は、慌てたように部屋を駆け出した。首輪につけられた鈴の音が部屋から廊下に続いて消えていく。
「じょっ、冗談じゃありませんわ! この忙しいのに何を言い出すんですの!?」
これから関係者たちにメールを送って、返事を待って、その間に試作機の立案をして、出来れば夕食をとって……と、頭の中で立てていた計画は順のその一言で微塵に崩れ去った。あろうことか順は朝に続いて要に不躾なことを言って来たのだ。
「えー。だってさあ。こういう時だからこそ息抜きをしなきゃとオレは思う訳だよ」
要に殴られた頬を押さえて唇を尖らせる。順は不服そうに要にそう言い返した。その口調もまた要の癇に障る。今朝と全く同じ、軽薄な物言いがどうしても許せない。要は再度、腕を振り上げた。
「わたくしはあなたほど暇じゃありませんの! あなたもいいかげん、お帰りになったらどうですの!?」
私室に母親の栄子はいない。要は今朝は飲み込んだ言葉を思う存分に吐き出した。ついでに腕を振る。だが今度は順が要の手を素早く掴み取った。その瞬間に要の背中にざわりとした嫌なものが走る。
ゆったりとしたクラシック音楽の流れるその部屋で二人は向き合っていた。順は哀しげな顔を作って要の手をやんわりと握り直す。両手に手を包み込まれ、要は短い悲鳴を上げて順の手を振り払った。スカートから出したハンカチで丁寧に手を拭う。それでも足りずに、要はさっさと部屋の隅にある水差しを取った。がたん、と窓を開けて水差しの水で手をすすぐ。その後ろで順がため息をつく。
「何もそこまでしなくても」
「軽薄な性格というものはいつの間にか伝染するんですのよ! わたくし、いい事例を知ってますわっ」
いつの間にか科学部に寝返った数人の諜報部員のことを思い出す。どういう訳か真面目だった男性部員に限って科学部に入部してしまうのだ。きっと絵美佳の性格が伝染したに違いない。実態を知らない要はそう信じて疑っていなかった。
水差しの水がなくなる。もしも、下に誰かいたら二階の窓から水が降って来たことを何事かと思うだろう。だが要は窓の下の様子に全く気を留めなかった。さっさと窓を閉めて水差しを戻す。
「伝染って……そんな、病原菌みたいに言わないでよぉ」
情けない顔で順が不平を口にする。要は手をタオルで拭いながら順を睨みつけた。今朝にも増してその顔には軽薄さがにじみ出ている。
「病原菌に失礼ですわ!」
「うわ、要ちゃんってさらっと酷いこと言うなあ」
真顔で返した要に順は心底、情けない顔になった。要はふふん、とそんな順を鼻で笑った。そしてふと我に返る。そう、こんなことをしてはいられないのだ。関係者たちにメールを送らなければならない。何故なら絵美佳が指定してきたのはロボット同士の戦いだ。先の間抜けな負け振りを見た企業はもう協力はしてくれないだろう。そうなるとやはり、新しく協力してくれる会社を探さなくてはならない。
母に頼ればいいのではないか。そんな考えも頭には浮かんだ。だが要は栄子には頭を下げる気になれなかった。いつもなら甘えて何とかしてくれと頼んでいたかも知れない。要はきつい目で順を睨んだ。そう、今の栄子に頼ろうとは思わない。こんな胡散臭い雑誌記者を居座らせている母なのだ。順がいることで大いに気分を害していた要は、何とか栄子の手を借りずに済む方法を模索していた。
「もー。そんなだから要ちゃんってカレシいないんだよ。嫌われるよ、そゆのって」
やれやれ、とため息をつきながら順が告げる。それを聞いた要は両の眉を吊り上げて順に迫った。肩を怒らせて順を正面から睨みつける。
「残念でしたわね! わたくし、そんなものを作っている暇はありませんの! こう見えても生徒会業務が忙しいので!」
彼氏、と順に言われた時、本当は少し胸が痛んだ。多輝のことを思い出したからだ。どれだけ想っても多輝は見つからない。会えない日々がずっと続いている。そんな要の気持ちを知ってか知らずか、順は呑気に笑いながら告げた。
要と順の掛け合いは割と面白く書いた記憶がありますw
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伝染するモノですの 2
エロシーンはありません。
「でもさあ。やることはやってるじゃない? 知ってるよ。要ちゃんってけっこうエッチだもんね」
さらりと順が告げる。再び怒鳴ろうと構えていた要はそれを聞いて絶句した。どういう意味かと問い返さなかったのは、その内容に心当たりがあったからだ。順は言葉を失った要を人の悪い笑みを浮かべて面白そうに眺めている。
「色んな男を下僕扱いしてるんでしょ? 学校でもやってるなんて、ホント、要ちゃんってエッチだよねえ」
硬直した要の耳元に順がそう囁く。要はしばし呆然と俯いていた。何故、この男が知っているの。まさか見られていた? そんな考えが頭を巡る。
「だからさあ。別にオレとやってもいいじゃん? オレ、けっこう上手いよ?」
「……じゃありませんわ……」
要は殆ど声にならない声で呟いた。え、と順が問い返す。その顔には人の悪い笑みがまだ浮かんでいる。要はこぶしを固めて毅然と顔を上げた。
「冗談じゃありませんわ! わたくしがそうと思う男でなければそんな真似をする訳がないでしょう!? あなたのような最低軽薄男は、それに見合う女性を探せばいいんです!」
叫びざま、要は思い切り腕を振り上げた。順の顎にこぶしがクリーンヒットする。悲鳴を上げて倒れる順の前で要は憤然と胸を張った。足を振り上げて順の肩を踏む。かかとに力を込めて踏みにじると順が情けない声を上げた。
「まだなにか、他に言いたいことがありますの?」
「いやっ、あの、ごめん! オレが悪かったから、うわ、だからその肘は……っ!」
要は問答無用で肘に体重を乗せた。順のわき腹目掛けて要の肘が落ちる。順は声にならない悲鳴を上げて床の上で悶絶した。のた打ち回る順に冷ややかな微笑を浴びせ、要は満足を込めて頷いた。所詮、軽薄男の末路はこんなものですわ。声にしてそう呟くと順が涙目で要を見上げた。
「まだ死んでないんですけど」
「あなたのような男の末路は決まっている、と言ったんですわ! 軽薄男はさっさと部屋から出て行きなさいな」
要はそう言いながら口許に手を当てて高く笑った。順が何事かを呟きながら身体を起こす。まだ痛むのかわき腹をさすっている。そんな順に冷たい眼差しを向け、要はすかさずドアを指差してみせた。さあ、と目で促す。だが順は一向に出て行こうとしない。苛立ちに任せて要がもう一発、と肘打ちを見舞おうとした瞬間。
「オレさあ。実は栄子さんに伝言頼まれてたんだよねえ」
「……何ですって?」
要は肘打ちの構えをゆっくりと解いた。訝りを込めて順を見下ろす。順は痛いなあ、もう、と不服を零している。そんなことはいいから続けなさい。要はあくまでも高飛車な態度で順にそう命じた。
「だからあ。要ちゃんにちょっと聞きたいことがあるんだって」
「言って御覧なさい。ただし」
悪趣味な冗談にはこれ以上は付き合う気はない。要は先にしっかりと順に釘をさした。さすがに懲りたのだろう。順は降参の印に手を上げて要に頷く。
「要ちゃんのガッコに吉良優一郎くんっているでしょ? どんな子かってさ」
「吉良……優一郎?」
頭に詰まっている記憶を素早く引き出す。吉良優一郎。あのにっくき吉良絵美佳の弟であるが、姉とは全く違い、その容姿は酷く整っている。学年一の出来の良さを誇るが、残念ながら彼女持ちだ。もし、彼女がいなければ手に入れていたのに。要は優一郎を見るたびに悔しさに唇を噛むのだ。ああ、と手を叩いて要は頷いた。
「知ってますわ。成績は学年トップ。容姿もまあまあですわね。それがどうかしまして?」
「だから知りたいのはオレじゃなくて栄子さんなんだってば。判った。じゃあ、そう伝えとくね」
力のこもらない笑みを浮かべて順が立ち上がる。だが不思議なことにその時にはもう、順は一人できちんと立っていた。要はそんな順に訝りの目を向けた。おかしい。全力で打った肘が入った筈なのに。本当は肋骨が折れていても不思議はないのに。だがそんな要の疑問を無視するように順はゆらりと歩き出した。すり抜けざまに囁く。
「やっぱ、要ちゃんっていいなあ。今度、マジでオレとしようね」
「だっ、誰が!」
低音の囁きが心地良くて一瞬、反撃するのが遅れた。などとは絶対に口が裂けてもいえない。要は順が去った部屋の中で、一人こぶしを震わせた。
これでも順は本気なのですよ……w
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儚い命を 1
良い子は真似しないでね!
エロシーンは……えーとまだないです。
食事は名前の読み方もよく判らないフランス料理だった。一応、前もってメニューは説明されたのだが、どれも水輝にはぴんとこなかった。だが未亜は説明に頷き、更に質問を返している。どうやら未亜はこんな料理に慣れているらしい。水輝は説明の間は大人しく口を噤んでいた。
あー。奈月の肉じゃが食いてえ。食事中に何度もそう思った。だが水輝はそんな思いを一切、表には出さなかった。器用にカトラリーを操って皿の上の料理を口にする。慣れているであろう未亜もそんな水輝には驚いたらしい。どこでマナーを覚えたの、と何度か訊かれた。その度に水輝は曖昧に笑って内緒、と告げた。
食後のコーヒーが運ばれてくる。行儀の良い店員がいれてくれたコーヒーは少し濃かった。元々、コーヒーを苦手とする水輝はおっかなびっくりでデミタスコーヒーのカップに口をつけた。だが意外にもそのコーヒーは水輝の喉に引っかかることはなく、すんなりと通って胃に落ちる。そのことに驚いた水輝は未亜にコーヒーが飲めたと嬉しそうに告げた。そんな水輝を見つめる未亜の眼差しは優しく、仲の良い弟でも見ているかのようだった。
やがて食事が終わる。その頃になると未亜はそわそわし始めた。払うから、と言って料金を支払いつつもちらちらと水輝を見る。水輝はそ知らぬ顔で店先にある花瓶を見つめていた。真っ白な地肌に藍で模様が描かれている。水仙の花だ。
花、かあ。水輝はぼんやりと花瓶の花を見つめて呟いた。そう言えば、今日は未亜の誕生日だ。意識を探るだけでなく、水輝は未亜の口からその情報を得ていた。彼氏に約束をキャンセルされ、寂しさが募ったのだろう。その話をした時の未亜は涙ぐんでいた。
「お待たせ」
未亜が店から出てくる。それを見計らって水輝は背に回していた手を前に出した。その瞬間、両手一杯の花束が現れる。仰天して目を見張る未亜にその花束を差し出しつつ、水輝は片目を閉じた。
「誕生日、だろ? これはおれからのプレゼント」
「でっ、でも、こんな……高そうなお花……」
そう言いつつも花束を抱える未亜の顔はほころんでいる。水輝は嬉しそうに礼を言う未亜の背を押してエレベーターに乗った。
エレベーターの中は二人きりだった。同じエレベーターに乗り込もうとしていた男性の足元に軽く力を飛ばし、邪魔者を排除したのは水輝だ。廊下の角を曲がる前に足を取られたその男性は、まんまとエレベーターを逃がしてしまった。そんなエレベーターの中で水輝はジャケットのポケットに手を入れて壁にもたれていた。未亜は花束を見つめて嬉しそうに笑っている。
「ねえ、未亜ちゃん。この後どうするの?」
何気ない素振りで水輝はそう訊ねた。すると未亜がぴくりと肩を震わせる。食事をしようとは言ったが、その先の約束を交わしてはいない。未亜もそのことを気にしていたのだろう。言葉を濁して俯いてしまう。水輝はその間に手を伸ばした。俯く未亜の顎を指で捕まえて素早く顔を寄せる。硝子張りのエレベーターが下る。煌びやかなネオンを背に、水輝は未亜の唇を塞いだ。
未亜は一瞬、目を見張ったが抵抗しなかった。花束がゆっくりと下を向く。水輝は無防備に立つ未亜を両腕にしっかりと抱きしめた。
「部屋も予約してるんだろ?」
未亜が彼氏と泊まる予定だった部屋はまだ予約が入ったままだ。水輝は未亜の耳元に囁いて答えを待った。そっと未亜を解放する。タイミングよくエレベーターの扉が開く。水輝は未亜の手を引いてエレベーターを降りた。
「おれと泊まらない?」
ホテルのロビーを歩きながら水輝は未亜にそう耳打ちした。途端に未亜が真っ赤になる。水輝は未亜の肩に手を回して細い身体を抱き寄せた。よろけるようにして未亜が水輝の腕の中におさまる。
「で、でも」
ためらう素振りをしながら未亜が顔を背ける。その両腕に抱えられた花束は微かに震えていた。水輝は未亜の肩を握る手に軽く力を込めた。
「折角の誕生日じゃん。二人で部屋でお祝いしようよ」
水輝はさりげなく歩く方向を変えた。出口からフロントへと歩く。未亜は困ったような顔をしつつも拒絶はしなかった。
二人でフロントの前に立つ。未亜は震える手でサインをした。出されたキーを水輝が横から素早くさらう。驚いた顔になる未亜に笑いかけ、水輝は再び未亜の肩を抱いて歩き始めた。今度はホテルの部屋のある階層へ向かうエレベーターに乗る。周囲を意識し、水輝は今度もまた同乗しそうな相手を悉く邪魔した。ロビーのカフェでテーブルの茶が急にひっくり返る。何もないのに男性がフロント前で転ぶ。大きな荷物を抱えたホテルマンが唐突に現れた猫を避け損ねて壁に激突する。その間に水輝は未亜と共にエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターからは街の夜景が綺麗に見える。今日は特に晴れているからだろう。エレベーターから見るその光景はいつもより煌いている。水輝はそれを見つめて少し笑った。隣に立つ未亜も飲まれたようにその景色を眺めている。
水輝はそっと未亜の手を引いた。両腕に未亜を抱きしめて目を閉じる。未亜は抵抗せず黙って水輝に抱きしめられていた。ホテルの部屋へ直通のエレベーターは勢いよく上の階層を目指している。そんなエレベーターの中で水輝は未亜に唇を寄せた。今度は驚きはないのだろう。未亜が自然と水輝の口づけを受け入れる。
エレベーターが四十階へと到達する。その直前に水輝は顔を上げた。深い口づけを交わしていたためか、未亜は心持ち上気している。エレベーターを降りる水輝の後に続いた未亜は、ふと気付いたように水輝の腕を引いた。
「口紅ついてる」
小声で告げてハンカチを取り出す。水輝は未亜に言われるままに腰を少し屈めた。口紅の残る唇に未亜がハンカチをあてがう。
「ハンカチが台無しになったな」
真っ白な絹のハンカチに赤い口紅が残っている。水輝は苦笑して未亜に手を差し伸べた。バッグにハンカチをしまった未亜がためらいがちに手を出す。その手を握って水輝はキーナンバーの示す部屋へ向かった。
今ごろ、立城は奈月を修理してんのかなあ。ぼんやりとそんなことを考える。ポケットから出したキーで開錠し、水輝は部屋に滑り込んだ。真っ暗だった部屋に仄かな明かりが灯る。照らされたその部屋はこのホテルの中ではかなりいい部類に入る部屋だった。奥の部屋には大きなベッドが一つ、据えられている。その脇にはテレビと冷蔵庫が設えられ、ソファセットも用意されている。ゆったりとくつろいで夜景が見えるように、と窓際にはそれとは別にテーブルと椅子が用意されていた。
具体的に書くとこう! みたいな感じの水輝の生活の一部です。
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儚い命を 2
今回は六分割してあります。
エロシーン前哨戦。
「うわ、いい部屋じゃん」
立城の執務室の半分くらいのサイズかな。目で部屋の広さを確かめながら水輝は胸の内でそう呟いた。未亜が照れくさそうに微笑んでみせる。早速、と窓際に寄った水輝はカーテンを引いて感嘆の声を上げた。エレベーターから見たのとはまた違う角度からの夜景が見える。
「綺麗……」
水輝に手招きされ、窓辺に寄った未亜は小さくそう呟いた。暗い闇の下に幾つもの煌きがある。だがそれらも全て人工の光だ。何色もの光を見つめ、水輝はそっとため息をついた。どれだけ時が流れても人の光は消え失せない。なのに何故、自分たちの輝きは失われてしまうのだろう。
ふと、隣の気配が変化する。気付くと未亜は水輝の真横に立って緊張した面持ちになっていた。水輝は苦笑してそんな未亜から花束を取った。驚く未亜に笑ってバスルームに向かう。
「水に浸しておいた方がいんじゃないの? その方が長持ちするよ」
「あ、ありがとう」
困惑した面持ちで返答する未亜に片手を上げ、水輝はバスルームの扉を開けた。身体半分だけバスルームに入ってから顔を出す。ぼんやりと窓から夜景を眺めていた未亜に届くよう、水輝は少し声を張った。
「あ、ついでにシャワー浴びてくる」
「えっ」
驚いた声を上げた未亜に笑い、水輝はバスルームの扉を閉めた。言った通りに洗面台に水を張り、花束の根元を浸す。うん、立城のところの玄関から持ってきたにしては上出来だ。自分の力がきちんと働いていたことに頷き、水輝は服を脱ぎ始めた。傷一つない身体を手で触って確かめる。
何もない闇の中に眠っていた時間が長かったのか短かったのかは判らない。そして自分が眠っている間、器だけが滅びへと向かっていたことを水輝は知っていた。だが眠るだけの水輝にはどうすることも出来なかった。自分の半分である女性を持った水輝が滅びたいと願えば、自分に抗う術はない。共に滅びよと世界が言っているのだと納得するしかなかっただろう。
だが立城はそんな水輝を闇から引き揚げた。女性である水輝は眠りについてしまったが、代わりに男性を持った水輝は光の中へと戻ることが出来たのだ。
たとえそれが人の作り出した模造品の光の中でも、な。シャワーを浴びながら水輝はそう呟いた。水流が勢いよく頭に当たる。だがそんな些細なこと一つでさえ、水に命じなければかなわない。水輝は小さくため息をついて熱いシャワーの中に頭を突っ込んだ。
「立城、笑うかな」
小さく呟く。どうせ全てを食い尽くしてしまうのなら、最初から情などかけるな。そう言って笑うだろうか。そんなことを思いながら水輝はシャワーを浴び終えた。バスタオルを頭に乗せて目を閉じる。
「散れ」
力ある一言を発すると同時に水滴が水輝の身体の表面から消える。水輝は息をついて傍にあったバスローブを身につけた。どっちが前だっけ、と考え込む。
「ねえねえ、未亜ちゃん。これってどっちが前?」
バスルームのドアを開け、水輝は部屋の奥にいた未亜に声をかけた。未亜は慌てたようにバスルームまで駆けてきたが、水輝の姿を見て躊躇したらしい。ドアの手前で立ち止まる。
「なに?」
水輝は不思議に思ってそう問い掛けた。次いで理解する。どうやらバスローブの隙間から裸の状態が見えていることがまずいらしい。水輝は苦笑して適当にバスローブの前を合わせた。すると未亜が真っ赤になったままで頷く。どうやら合わせは洋服と同じだったようだ。反射的に左前にしていた水輝は納得顔で頷いた。
バスルームから出ると二人分の茶がいれられていた。どうやらコーヒーが飲めないという水輝の言葉をしっかりと覚えていたらしい。カップの中に満ちていたのは薄目の紅茶だった。
「未亜ちゃんも浴びてきたら?」
椅子に腰掛けながら水輝はさりげなくそう告げた。すると未亜が微かに息を飲む。水輝はカップを口許に寄せて少しだけ笑った。
「でないとそのまま抱くぞ?」
「あっ、えっと、はいっ」
低い水輝の声に慌てて返事し、未亜は素早くバスルームに駆け込んだ。口づけを拒否しなかった時点で未亜は水輝を受け入れる覚悟が出来ているのだ。どうせね、と水輝は小声で呟いて熱い紅茶を注意深くすすった。下手をすると舌を火傷してしまう。だが思っていたよりも紅茶はぬるかった。
三分が過ぎた時、水輝はそっとテーブルにカップを戻した。窓の向こうの光景に微かな嗤いを向ける。どんなに儚くとも人の光はずっと残り続けている。自分たちと比較するとそのしぶとさはどんなものにも負けないのではないかと思える。そんな夜景に水輝は嗤いを残し、静かにバスルームに滑り込んだ。勢いのある水音の立つバスルームの硝子扉は真っ白に曇っている。ローブの紐を解き、水輝はその扉に手をかけた。気配を殺していたからだろう。水輝がシャワー室に入っても未亜は髪を洗い続けている。
水輝は黙って手を伸ばした。シャンプーを流している未亜の髪に触れる。未亜は驚きにびくりと身体を震わせ、慌てたように頭を頭を上げた。シャワーの流れに晒された髪を丁寧に指ですく。
「みっ、水輝くん!?」
驚いた未亜の声は完全に裏返っている。水輝はそんな未亜をシャワー室の壁に押し付けた。バスタブの中に一緒に入ってシャワーノズルを動かす。
「そんな大声出すと隣の部屋に聞こえるぜ?」
そう言いながら水輝は素早く未亜に唇を寄せた。唇の中に未亜の声が消える。シャンプーの残った髪が壁に張り付く。水輝は未亜の頭を片手に抱え、その腰をもう片方の腕でしっかりと抱いた。形のよいバストが水輝の肌に当たって軽く潰れる。
シャワーのシーンはお約束だと思うんですが……
乗り込む辺り、気短ですねー。
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儚い命を 3
「なっ、何でここに」
軽い口づけの後に未亜は慌てたようにそう告げた。化粧が取れてもその顔の愛らしさには変わりない。水輝は笑ってその頬に指を滑らせた。
「だって未亜ちゃん、化粧し直してきそうだったから」
図星だったのだろう。未亜が真っ赤になる。水輝は小さく笑って再び未亜に唇を寄せた。今度は深く口づける。唇を割り開いて舌を忍ばせると、未亜は軽く息をついて水輝の口づけに応えた。
じわじわとした欲望が心に生まれる。未亜はここで今日、彼氏である男と初めての夜を迎える筈だった。だが現実にはまだ知り合ったばかりの男に抱かれている。その背徳感が水輝の意識に流れ込んできたのだ。
「未亜ちゃん、今まで男に抱かれたことないだろ?」
水輝が未亜を選んだのには幾つか理由がある。条件が揃わなければ抱いても仕方ない。水輝は未亜が処女であることを知っていた。純粋な血が保たれていること。声を聞き取れること。器に耐性があること。それらの条件を満たしているのが未亜なのだ。
水輝の言葉に未亜が声をなくす。水輝は薄い嗤いを浮かべて未亜の耳朶に口づけした。優しく噛むと未亜がびくりと震える。舌先で耳を舐める。すると微かに未亜が声を漏らした。
剥き出しになった肌が触れ合う。それまで緊張に身を硬くしていた未亜は水輝の愛撫に目を細めた。熱い息が唇から零れる。水音にかき消されたその息遣いを水輝はしっかりと感じ取った。未亜を壁に押し付けたまま、耳にだけ愛撫する。
「はっ、初めてなの……。お願い、優しくして」
水輝に耳を執拗に愛撫され、未亜は降参したようにそう呟いた。水輝は顔を上げてにっこりと笑った。その顔を見た未亜がほっと息をつく。
「やだ」
「えっ!?」
微笑んだまま告げた水輝に未亜は驚きの声を返した。だがそれを聞き取る前に水輝は動いていた。未亜の乳房を強くつかむ。半ば勃っていた乳首は唐突な刺激を受けて水輝の手の中で硬くしこった。
「ここまで優しくしてやっただろ? しかもおれには珍しく精一杯、出来るだけ」
「え、あの、だって、でも!」
口許にはっきりとした嗤いを刻んだ水輝はうろたえる未亜の乳房を強く揉んだ。水輝の変貌ぶりに戸惑っているのだろう。未亜は泣きそうな顔で水輝を見つめている。
「大丈夫。狂うくらいいいから」
嗤いを浮かべてそう告げ、水輝はするりと手を動かした。まだ誰も犯したことのない部分へ指を滑らせる。未亜は唐突な刺激に息を飲んだ。
「あっ、いや! やめてっ!」
指先で翳りの中を探る。水輝はじりじりと指先で未亜の秘部を辿っていた。恐怖に歪んだ未亜の顔を眺めながら指先で敏感な部分を探り当てる。硬くしこったクリトリスに中指をあてがい、水輝はその指で未亜の身体を支えるように手を持ち上げた。
「やだ! 痛いっ」
痛みに悲鳴を上げる未亜の股間を強く握る。未亜は懸命に水輝から逃れようと暴れ始めた。腕を振りまわす。だが水輝は身体で未亜の動きを封じた。身体が密着すると未亜の乳房が水輝の身体に強く押される。
未亜の声がほんの僅かの間、途切れる。その瞬間を狙って水輝は指の力を抜いた。強く握っていた未亜の小陰唇をそっと割り開き、中で熱くしこっているクリトリスを優しく撫でる。先ほどとは全く違う、柔らかな水輝の指の動きに未亜が吐息をついた。
「ほら、気持ちいいだろ? 未亜ちゃん」
水輝は未亜の耳元に低い声でそう囁いた。全身から未亜の暗い意識が入ってくる。先ほどまではっきりと浮かんでいた復讐心が恐怖へとすりかわり、未亜の心は不安に苛まれている。水輝は注ぎ込まれる意識を吸い込んで唇を舐めた。これほど美味いのは久しぶりかも知れない。
未亜は声もなく身体を震わせている。水輝は優しく秘部を弄りながらじわじわと頭を下げた。押し潰されていた乳房が解放され、大きく揺れる。
「きゃっ! や、やだ! そんなとこ見ないで!」
それまでぼんやりとしていた未亜が急に我に返る。焦った声を上げて未亜は水輝の頭を押さえた。だがその手の力はささやかなもので、水輝の動きを止めるまでには至らない。水輝は翳りを分けて未亜の秘部に軽く口づけた。閉じていた未亜の足の間に手を入れ、強く左の腿だけを押す。
「足、ひらいてよ。でないと舐められないじゃん」
「やっ、嫌! 離して、水輝くん!」
弱々しく未亜が抵抗する。だが水輝はそんな未亜の小陰唇の間に指を入れた。軽く指を折り曲げて溢れていたそれをすくう。指先ですくった未亜の愛液は糸を引いてバスタブに落ちた。目の当たりにしたのだろう。未亜が真っ赤になる。
「こんなに濡れてるのに? 未亜ちゃん、実はそんなに嫌じゃないだろ?」
恥ずかしさに頬を染める未亜の腿を水輝は強く押した。何なく片方の足が浮く。だが未亜は全力でその力に抵抗しようとしていた。力を込めた左の足が震える。水輝は嗤ってそんな未亜の陰部に唇を寄せた。
同意の上ではあるんですが……
やり方がアレです(棒
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儚い命を 4
エロシーンの続きです。
「やだあ! 嫌っ、こんなの酷い!」
未亜は必死で水輝の頭を押さえている。だが水輝はそれを無視して未亜の秘部を舐め上げた。シャワーが水輝の背に注がれる。水輝は目を細めて意識を集中した。するとシャワーノズルから落ちていた水流がいきなりうねりを上げて方向を変える。未亜が息を飲む間もなく、水流は枷と化して未亜の手足に取り付いた。水輝の頭を押さえていた未亜の手が浮く。頭の上で未亜はその両手首を水流に固定された。左足は宙に吊り上げられている。
未亜はこの時点で真っ青になっていた。恐怖が強すぎて悲鳴すら出せなくなっているらしい。水輝はそんな未亜を見やり、口許に嗤いを刻んだ。未亜は唯一自由になる右足を必死でばたつかせる。だが水輝はそれを自分の手でしっかりと押さえた。
「大人しくしろよ。気持ち良くしてやってるんだから」
「い……いや……。怖いっ。離して!」
本気で怯えていることは水輝にもよく判った。未亜は泣きながら水輝から目を逸らしている。この不思議な現象を起こしているのが水輝だと理解しているのだ。水輝はそんな未亜に嗤いを向け、改めて秘部に顔を寄せた。
誰も犯したことのない膣の奥にそっと指を滑らせる。だがそこで水輝は小さく笑った。
「未亜ちゃん。自慰するの好きなんだ?」
それまで恐怖に顔を歪めていた未亜が慌てたように水輝を見る。だが水輝は未亜の秘部を見つめていた。男のそれが通った形跡はない。だが未亜の秘部は水輝の愛撫に応えて愛液を漏らしている。その膣口を弄りながら水輝は軽く肩を竦めた。それまで力のこもっていた未亜の右足ががっくりと脱力する。
「そうそう。大人しく……あーあ。こんなとこまで弄っちゃって……。も少し奥だったらおれ怒ってたぜ?」
そう言いながら水輝は一気に未亜の膣の奥へと指を突っ込んだ。未亜が声にならない悲鳴を上げる。緊張に強張った膣が水輝の指を締める。水輝は急激な刺激に反応したクリトリスを舌で弄りつつ、指をゆっくりと上下させた。
「やっ……あ、嫌あ!」
「そんなこと言いながら段々感じてるだろ? ほら、指の通りが良くなった」
未亜の膣からどっと愛液が溢れる。未亜自身は気付いていないだろう。指や舌を通して水輝が発した力は確実に未亜の体内へと注がれている。水輝は舌先でくすぐるようにクリトリスを舐めた。
「やだあ! やめてえっ!」
未亜の悲鳴がシャワー室に響き渡る。水輝は軽く指を鳴らして結界を強化した。こんなところでばかな邪魔者に入って欲しくない。水輝たちのいる部屋は目に見えない強力な壁で覆われていた。未亜の悲鳴も他の部屋には全く届かない。
「まずは処女の血をもらおうかな。ほら、これが未亜ちゃんの中に入るんだぜ? 嬉しい?」
そう告げて水輝は立ち上がった。未亜の目の前でペニスに軽く触れる。するとそれまで何ともなかった水輝のペニスは一気に勃起した。未亜がその光景に息を飲む。
「い、嫌……。水輝くん、やめて」
弱々しく未亜が首を振る。だが水輝は容赦しなかった。未亜の右の腿に手をかけて足を大きくひらかせる。宙に浮いた格好になった未亜は恐ろしさのためか盛大な悲鳴を上げた。
ペニスの先が小陰唇を割り開く。たっぷりと溢れた愛液の中にペニスがゆっくりと入っていく。水輝は焦らすようにわざと時間をかけて未亜に挿入した。悲鳴が徐々に消えていく。水輝を拒絶するように強張っていた膣壁は、次第に包み込む形へと変化する。やがて未亜の膣は水輝のペニスを根元までしっかりと咥え込んだ。
「あ……あっ、いやあ……」
未亜が頭を振って弱々しく呟く。水輝は小刻みに腰を揺すって残っていた未亜の処女膜を破りきった。血が溢れる前に素早くペニスを抜く。水輝は頭を下げて未亜の秘部に唇を寄せた。嫌がる未亜の目から涙が落ちる。
「出てきた」
水輝は小さく嗤って小陰唇の間に舌を差し込んだ。痺れるほど甘い香りを胸一杯に吸い込む。事の異常さに恐怖したのだろう。未亜は声を殺して泣いていた。だが水輝はそれにも構わず一心不乱に未亜の血を舐めた。頭がくらりと揺れるほどの快楽がこみ上げてくる。
全ての血を啜り、立ち上がる。水輝は真っ赤に染まった唇の端を舌で舐めた。丁寧に指で唇を拭って残った血を口に運ぶ。愛液に混ざったそれはどんなものより甘く感じられる。
「お願い……もういいでしょう? 帰らせて」
震えながら未亜がそう告げる。水輝は指についた血を舐めながらにやりと嗤った。甘い香りに触発され、ペニスは痛いほどにいきり立っている。今更、やめることなど出来ない。
「狂うくらい良くしてやるって言っただろ?」
そう告げて水輝は指を鳴らした。枷が一気に力を失い、水流へ戻る。いきなり解放されたことで未亜は反応出来なかったようだ。がっくりと身体から力が抜け、バスタブの中に落下しかける。その身体を水輝は両腕にしっかりと抱いた。
対人間ってあんまりないので貴重なシーンかも?
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儚い命を 5
エロシーンの続きです~。
暴れる未亜を抱え、水輝はベッドのある部屋へと戻った。濡れた未亜の身体をベッドに放り出す。
「やっぱ、ベッドじゃないと痛いし」
「……え?」
急に優しい言葉をかけられたことに驚愕したのだろう。未亜が暴れるのをやめる。僅かな期待を込めて未亜は水輝を見つめている。水輝はそんな未亜に柔らかな微笑を向けた。
「だって未亜ちゃん、良すぎて悶え狂うと思うしさ。そうなると身体に傷つきそうだったから」
そう言って水輝はいきなり未亜の両足をつかんだ。勢いよく足をひらかせる。ひっ、と息を飲んで未亜は首を横に振った。
「未亜ちゃんの身体に傷ついたらおれが嫌なの。だから移動しただけ」
「それってどういう……あっ!」
ためらいなど微塵もなかった。水輝は未亜の乳房を両手で押さえ、強引に身体を前に進めた。未亜の足の間に割って入る。
「大丈夫だって。すぐ怖くなくなるからさ」
「嫌っ! 離して!」
「……そんなに暴れるなら手足をまた縛るぜ? それともそういうプレイが好き?」
返事も待たずに水輝は未亜の両手をつかんだ。未亜の頭の上へと腕を上げる。未亜は暴れようとしたが手足の動きがままならないため、無駄にもがいただけだった。
「ベッドに拘束っと」
そう水輝が告げただけで未亜の手首には硬い金属の枷が嵌った。鎖が伸びて枕の下へとその先が入っていく。未亜は自分の手を見上げ、本格的に悲鳴を上げた。だがどれだけ暴れても水輝が施した枷が壊れることはない。もちろん、外れもしない。水輝は満足をこめて頷き、未亜の足に手を伸ばした。
「次はこっちか。足首に枷、かなあ」
考えるように水輝が呟くと未亜の足首に手首と同様に枷が嵌る。長い鎖はベッドの下へと伸びた。
「いやあ!」
未亜はベッドの上で惜しげもなくその肌を晒している。淡い電光に照らされた肌は、ところどころが光っている。水滴が付着しているからだ。水輝はやれやれ、と肩を竦めると改めて未亜の乳房に触れた。
「ほんとはおれさ。嫌がったらすぐに止めるんだけど」
屹立したペニスでゆっくりと秘部をなぞる。それまでとは打って変わった水輝の優しい声音に未亜は悲鳴を上げるのをやめた。疑いの眼差しで水輝を見つめている。水輝はその視線に応えてにやりと唇を歪めた。
「そう、未亜ちゃんが想像した通り、今日はやめる気はない」
「どうして……どうしてわたしなの? どうしてこんなことするの。何で?」
水輝が聞くだろうと思ったのだろう。未亜が必死の面持ちで訊ねる。本当は彼氏と楽しいデートをする予定だった。その予定の先にほんの少しいつもと違う経験をする筈だったのだ。
だが現に今、未亜が共にいるのは水輝だ。しかも水輝は未亜を逃す気はない。心底、恐怖している未亜の心の動きが手に取るように判る。水輝は喉の奥で笑って応えた。
「未亜ちゃんの大事な幸弘くんには代わりの女が幾らでもいる。けどおれには未亜ちゃんの代わりはいない。それだけのこと」
「……まさか……あなた」
それまで未亜の口から幸弘の名前が出たことはない。そのことに気付いたのだろう。未亜が愕然と目を見張る。水輝は人の悪い笑みを浮かべて片目を閉じた。
「そう。幸弘くんにトラブルを押し付けたのはおれ。今ごろ、知らない女に泣かれて困ってるだろうな」
幸弘は未亜に残業になったとだけ告げた。まさか別の女とトラブルを起こしているなどとはとても言えなかったのだ。そしてそのことをも水輝は知っていた。嗤って告げた水輝に未亜が鋭い眼差しを向ける。
「いい顔してるよ、未亜ちゃん。凄く綺麗だぜ」
「……絶対に許さない!」
その時だけは確かに未亜の恐怖感は吹き飛んでいたのだろう。憎しみのこもった眼差しを受け、水輝は小さく嗤った。人の感情は世界に垂れ流しになっている。感情は垂れ流しにされたままでは済まない。それは次第に積もり積もっていく。龍神たちはそれらの感情を処理する命を帯びている。もちろん、それは仕事の一端に過ぎない。それでも時折は人の力に感心するのだ。
なぜ、これほどの力を携えながら、人は無防備に感情を流し続けるのだろう。
だがその疑問に未だ応えた者はない。
「いいよ、許さなくても。今更、おれの罪が許されるとは思っていないから」
真顔で水輝はそう呟いた。えっ、と未亜が驚いた顔になる。その隙に水輝はペニスに手をあてがい、一気に未亜に挿入した。途端に未亜が身体を震わせる。
「嫌っ! あっ、あっ、いやあ! やだ! あっ、んふぅ!」
水輝は静かな眼差しで未亜を見下ろした。乳房に触れていた手で線を描く。指先で乳首をつまみ、弄る。水輝の力を注がれた未亜は、次第に声を掠れさせた。
人は脆くて儚いというイメージらしいです。
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儚い命を 6
エロシーンありです。
腰を強く押し出す。膣壁を擦る感覚に水輝は少しだけ目を細めた。その瞬間、ペニスの先から精液が迸る。
「あっ、あっ、んぅ!」
「おれのってけっこういいでしょ。ほら、未亜ちゃんの身体に染み込んでくよね。気持ちいい?」
それまで嫌がっていた未亜は水輝の言葉に触発されるように甘い声を上げた。水輝の力に無防備な意識が晒され、一気に快楽に囚われたのだ。水輝のペニスを根元まで咥え込んだ未亜の腰がひくつく。水輝の精液は力と化し、文字通り未亜の体内に浸透していった。
声もなく未亜が仰け反る。鎖が揺れて音を立てた。
「名前、何にしよう」
声を上げて悶える未亜を余所に、水輝は真剣顔で考え込んだ。幾つかの名前を心に浮かべてみる。だがどれもしっくりこない。その間にも未亜は悲鳴のような声を上げて身体を緊張させた。確かに水輝の言った通りに快楽に晒されているのだ。ただそれは、未亜が望む形ではなかっただろうが。
水輝はため息をついて頭をかいた。
「まあ、どうせそのうち思いつくか」
そう言って口に指先を入れる。水輝は目を細めて自分の指先の皮膚を噛み切った。口から出した指先に丸く血が膨らんでいる。水輝は慎重にその指を宙に掲げた。指先で盛り上がった血の雫が一滴、落ちる。だがその雫は中空で静止して綺麗な球体になった。
「未亜ちゃん。心臓、頂戴ね」
水輝は何でもないことのようにそう告げた。快感に震える未亜の身体を押さえつけ、左の胸に狙いをつける。指先でその位置を探り当てると、水輝は短く鋭い息を吐いた。それと共に指先が未亜の身体へと潜っていく。
「きゃああっ! あぅああああっ!!」
膣壁が締まり、ペニスを擦ろうとする。水輝はそんな未亜を見下ろして微かに嗤った。胸に潜らせた指を軽く動かす。それだけで未亜の身体はびくりと跳ねた。
「何度でもいかせてあげるよ。この日の記念に」
指がゆっくりと沈んでいく。骨をくぐり、肉をすり抜けて水輝の指先は未亜の心臓へとたどり着いた。激しく脈打つそれを探り当て、水輝は目を細めた。宙に浮かんでいた血の雫に空いた手を差し伸べる。それは段々と膨れ上がり、最後には手のひら大の輝く球体へと変化した。
一気に手を引き抜く。血だらけになった水輝の右手にはまだ動く未亜の心臓が握られていた。腰をひくつかせて未亜は喘ぎ続けている。水輝は心臓を高く掲げ、上を向いて大きく口を開けた。ゆっくりと手を下ろして心臓を口に運ぶ。未亜の心臓は吸い込まれるように水輝の口の中へと消えた。
未亜の喘ぎ声と咀嚼する音だけが響く。口一杯に広がった甘い香りを楽しみながら、水輝は少しずつ心臓を飲み込んだ。真っ赤に汚れた口許を腕で拭う。
「っと、忘れるとこだった」
左手に握った真紅の珠を右手に持ちかえる。その珠は水輝が未亜の心臓を抜いた瞬間から、光を帯びて脈打っていた。未亜の呼吸の速さに合わせるかのように、激しく脈を打つ。
水輝は静かに珠を未亜の胸に近づけた。珠の鼓動が激しくなる。ゆっくりと肌に近づけると珠は吸い寄せられるように未亜の皮膚に埋まった。指先で珠を静かに胸の奥へと進める。血に塗れた指が全て胸の中に潜った時、未亜は雷に打たれたように身体を大きく震わせた。
「ふあっ!! あぐっ、んんぅう!!」
未亜が首を激しく振って腰を揺らす。快楽に溺れ、自ら激しい刺激を求めているのだ。水輝はそんな未亜の腰をつかんだ。血だらけの手が白い未亜の肌を汚していく。水輝は未亜に覆い被さり、その首筋に唇をつけた。
「ばいばい、未亜ちゃん」
囁きで告げ、水輝は腰を動かし始めた。狂ったように悶えていた未亜が水輝に合わせて腰を振る。その動きは艶かしい。水輝は少しだけ笑って未亜の首筋に唇で触れた。おもむろに口を開く。水輝の歯はいつの間にか尖っていた。白いうなじに鋭い牙を立てる。
人はしぶといから。誰かがそう言っていた。だが人はこんなにも脆い。己を守る術も持たず、簡単に力に晒される。けれどそれでも人は自己を保とうとする。そしてそれ故に結局は儚く散ってしまう。
水輝は誰かが言っていたことを思い出した。未亜の首筋から零れる甘い血を啜る。舌先で確かめるように傷をなぞる。未亜の腰をつかみ、水輝は強く腰を押し出した。ぬめる膣壁の感覚がペニスから快感となって伝わってくる。
不意に空気が弾ける。それまでとは一転し、未亜は呻きのような声を上げて全身を緊張させた。手足の先が震え、鎖が触れ合って音を立てる。水輝は顔を上げておもむろに腰を引いた。ペニスを吐き出した未亜の股間から女性器が消え失せる。次の瞬間、水輝は疲れたため息をついてがっくりと肩を落とした。
長い髪が根元からその色を変える。未亜の髪は薄い青色へと変化した。開かれた目が水色に染まる。そして手足からは枷が弾けて消えた。
「どーしてこうかなあ……。おれって、絶対くじ運が悪いと思うんだ」
それはベッドに正座して水輝の命令を待っている。やれやれ、と肩を竦めて水輝はそれにちらりと目を向けた。明らかにおれは運が悪い。心の底からそう告げるとそれは訝るように首を傾げた。
「仕方ないなあ。おい、蒼。お前がおれの使い魔だってことは判るよな?」
「判ります。ありがとうございます」
元は未亜だった者は蒼と呼ばれて深々と頭を下げた。水輝は血のついた口許を拭ってふん、と横を向いた。全く、冗談じゃないぜ。そんな水輝の呟きを聞き取ったのか、蒼が顔を上げて不思議そうに水輝を見る。水輝は頭をかきむしりながら喚いた。
「おれが作ると、どーしてこう、男ばっかりになっちまうんだ!」
「ですが水輝様。そうは言われましてもわたくし共も性の別は選べないわけでして……」
主である水輝に意見するのがためらわれるのだろう。蒼の声はどこか揺れている。だが言っていることはしっかりとしている。水輝は新しい使い魔に鋭く舌打ちをし、指を鳴らした。忌々しい蒼の股間に生えているものを早急に隠したかったからだ。一瞬で二人は服を身にまとっていた。
「いいから元の器の持ち主にとっとと化けろ。それじゃ、ここから出られやしねえ」
悪態をつきながら水輝はベッドから飛び降りた。深い深い後悔の念が押し寄せてくる。それを振り払うように水輝は大股で部屋を出た。
蒼は「そう」と読みます。
まあ、水輝は悪運だけは強いので……w
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くじ運の悪さと察しの悪さ 1
あ、エロシーンはないです。
ふて腐れた顔をした水輝が屋敷に戻ったのは夜の十一時を過ぎた頃だった。先に戻った多輝や由梨佳は既に眠りについている。立城は執務室で一人、水輝を出迎えた。そして水輝の背後にひっそりとついて歩いているそれに目を移す。
長い髪に濡れた唇、そして白い肌。立城は首を傾げてそれを眺めた。黒髪に黒い瞳をしたそれは困惑気味に視線を泳がせている。
「疲れた」
そう一言告げて水輝がソファにどっかりと腰を下ろす。手を上げて茶、と短く告げる。立城は肩をすくめて宙に手を伸ばした。が、いつものように力を使おうとして出来ないことに気付く。
「あ、そうか。ごめん。ちょっと待ってくれる? お茶をいれてくるから」
きっと水輝が連れているということは成功したのだろう。立城はそれににっこりと笑いかけてから執務室を出た。本当は使い魔に任せても良かったのだが、自分で茶をいれるのもまた新鮮だと思ったのだ。
湯がわくまでの間に立城は様々な可能性について考えてみた。水輝が不機嫌な理由についてだ。誰かを連れていたということは使い魔を作ることに成功したのだろう。だがそれなら水輝が不機嫌になる理由がない。ああでもない、こうでもない、と立城は一つずつ可能性を挙げては消去していった。
やかんの笛がなる。立城は丁寧にポットに湯を注ぎ分け、ティセットを乗せたトレイを持ち上げた。キッチンを出て執務室に進む。そこでは水輝がふて腐れた顔で文句を言っていた。
「ただでさえ体力を使うんだぞ? おれの身にもなれってんだ」
立城は出来るだけ邪魔をしないようにそっと執務室に入った。気配に気付いていたのだろう。水輝は立ち上がってドアのところまで歩いてきている。立城からさっさとトレイを奪い、水輝は再びソファに戻った。どん、と乱暴にトレイをテーブルに乗せる。
「……僕がいれるよ」
ポットを取ろうとした水輝を制して立城は手を伸ばした。相当に不機嫌なのだろう。水輝の手つきは乱暴で、それこそポットを握り壊しかねない。何があったか知らないけど、と立城は胸の中で呟いた。その瞬間、水輝がテーブルを殴る。だが理性は辛うじて残っていたのだろう。いつものようにテーブルが割れることはなかった。
「おれはくじ運がべらぼうに悪いことに気付いた!」
「……? まあ、水輝はくじ運はあんまり良くないかも知れないね」
少なくとも運が良ければ避けられたことは多いだろう。立城は素直に同意してカップに紅茶を注ぎ分けた。三つのカップに茶が満たされる。それを見た水輝があからさまに顔をしかめた。
「こいつの分はいんだよ。やんなくて」
「それは酷いんじゃないかな。はい、どうぞ」
立城はカップをソーサーに乗せてそれに差し出した。戸惑ったようにそれが水輝と立城を見比べる。だが主の命令は絶対だ。それは立城に申し訳なさそうに首を振る。ため息をついて立城は水輝に目を向けた。
「……水輝」
「ああもう、判ったよ! 好きにすればいいだろ!」
投げやりな言い方だったが、どうやらそれは水輝が許可を出したと理解したらしい。立城に深々と頭を垂れてソーサーを引き取る。立城はにっこりと笑って頷いた。
まだ水輝は膨れている。そんな水輝に立城はカップを押し出した。テーブルを滑って目の前に届いたそれを無言で水輝が取り上げる。やれやれ、と立城は呆れたため息をついて自分のカップを取った。力を使わずに紅茶をいれたのは久しぶりだ。
「ところで名前は?」
茶を一口だけ飲んで立城はそう訊ねた。水輝が渋面で呟くように吐き出す。
「蒼」
それを聞いた立城は何度か瞬きをした。蒼と呼ばれた使い魔と水輝を見比べる。次いで立城は何気なく告げた。
「随分と凛々しい名前にしたんだね」
深く意図した訳ではない。思ったままを述べただけだ。立城は口許に柔らかな笑みを浮かべてカップを傾けた。心地良い紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。味わいつつ紅茶を飲む立城とは対照的に水輝はカップを持った手を小刻みに震わせていた。ソーサーと触れ合うカップの音に気付き、立城は目を上げた。
「ああ、そーだよ! 悪かったな!」
どうやら本気で拗ねているらしい。何事かと立城は目を見張った。いつもとは違い、水輝の意識は無造作に流れてはこない。いや、確かに流れてはいるのだろう。立城の感知する力が弱まっているのだ。立城はいつもとはどこか勝手が違うことを楽しんでいた。水輝の顔色を読んで目を閉じる。紅茶の香りを満喫している立城に業を煮やしたのか、水輝は頼みもしない内に話し始めた。
これ書いてる時、ティーカップとかティーセットの『ー』を入れるの忘れてるんですよね。・゚・(ノД`)・゚・。
あるものと思って読んでもらえると嬉しいです。
(修正するときりがないので諦めた件)
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くじ運の悪さと察しの悪さ 2
仕方ないこともあるというかー。
エロシーンはありません。
「第一な、おれだって博打してたようなもんだろ!? そもそも、誰だってそんなもんは勝手に決められなくてだなあ」
「さっきからね。不思議に思っていたんだけど」
立城はそう言い置いてカップを唇から離した。赤い紅茶を見つめて小さく笑う。水輝は立城の力が今は使えないことを全く気にしてはいない。いや、それどころかすっかり忘れてしまっているのだ。それ故に説明をしなくても立城が全ての事情を知っているのだと思っている。心の内側が読めなくてもその程度のことは立城にも理解できた。
「水輝、君は僕が何でも知っていると思っていないかな? 残念ながら僕には全く説明されていないんだけれど」
そう告げると初めて水輝が得心のいった顔になる。次いでその顔は不機嫌極まりないものへと変化した。説明しなくていいことなら説明したくない。そんな思いが顔ににじみ出ている。
「いいよ、別に。説明しなくても。その代わり、僕は愚痴には付き合わないよ」
「あー! 判ったよ! 説明してやる! おい、蒼。元の姿に戻ってやれ!」
半ばやけ気味に水輝が喚く。立城はカップをテーブルに置いて蒼を見やった。まだ口をつけていなかったらしい。蒼ははあ、と力ない返事をして紅茶が満ちているカップをテーブルに置いた。
空気が鳴り、長い髪が一瞬で薄青に染まる。そして現れたその姿を見止め、立城は思わず吹き出した。声を殺して腹を押さえる。だが笑いの衝動はなかなかおさまらない。予想もしなかったことに立城は本気で笑っていた。
「……くそう。やっぱり笑いやがった」
不服そうに水輝が呻く。だが水輝の機嫌は少しは良くなったようだ。さっきまでの噛み付くような勢いはない。要するに立城に何事かを言って欲しかったのだろう。そのことを立城は理解したが、どうにも笑いが止まらない。懸命に声を殺してはいるが、立城の唇からは少しだけ笑いが漏れていた。
「いつまで笑ってやがるんだ」
「だ、だって……ごめん、止めるの、しばらく無理かも」
これまでに水輝は数えるほどだけだが使い魔を作ったことがある。だがその悉くは男性だった。通常、使い魔は姫と呼ばれるくらいだから圧倒的に女性の数の方が多い。そんな中で何故か水輝の作るそれは男性ばかりなのだ。
蒼だけが不思議そうに立城と水輝を見ている。きっと生まれたばかりでまだよく理解していないのだ。立城は何とか笑いの衝動を堪え、紅茶のカップを手に取った。どうぞ、と目ですすめると、蒼もカップを取り直した。ついでに立城は自分の横を目で示した。水輝の横を示さなかったのは、まだ膨れ面をしているからだ。蒼は一瞬、困ったように眉を寄せたが、意外と大人しく立城の横に腰掛けた。
「くそー。絶対、今回は大丈夫だと思ったんだよ、おれも」
「何事にも絶対はありえないと思うけど」
簡単にコメントして立城は口許にカップを寄せた。だがまだ笑いの余波が残っていて、不自然にカップが震える。立城は何とかそれを抑えてカップに口をつけた。
「大体なあ。何でお前のとこばっかり女が集中してるんだよ。その運、少しはおれに分けてくれようとは思わないのか?」
どうにもならないことを水輝が口にする。立城は苦笑して首を振った。
「そもそもその性の別は使い魔には選べないし、僕たちにも当然指定できない。それは水輝がよく知ってるでしょ?」
指定できるなら水輝はきっと使い魔の全てを女性にしている。力の差は女性も男性も使い魔に関しては差はない。だがきっと水輝は女性を欲するだろう。そう思いながらコメントした立城の言葉に水輝は予想通りに落胆したため息をついた。
「そうなんだよなあ。おい。お前、生まれる時に男になりたいとか思ったんじゃあるまいな?」
今度は矛先が蒼に向けられる。蒼はここに来るまでに何度か同じやり取りを水輝としていたらしい。うう、と力なく呻いてため息をつく。
「何度聞かれましても、わたくしには生まれた瞬間の記憶などありませんし、そもそも主が望まないことを望む訳がないじゃありませんか」
涼やかな声が応える。こちらの方が水輝よりよほどしっかりして見えるのは気のせいだろうか。立城は胸の内でそう呟いて紅茶を啜った。あー、と声をあげて水輝が立城を指差す。
「お前、いま不穏なことを考えやがったな!?」
「……あのね。いまの僕が君への防御壁を完璧に築くのは無理だって判ってる?」
再び立城の力が弱くなっていることを忘れていたのだろう。立城がため息と共に吐き出した言葉に水輝がぽん、と手を打つ。やれやれ、今日は長い夜になりそうだ。そう呟いて立城は紅茶のおかわりをカップに注いだ。
テレパシーとかそういったものは、龍神の場合はデフォルトで持ってる奴が多いです。
感知されたくない場合、防御が出来ます。
中にはとても不器用というか、その手の能力を使いこなせないのもいますw
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絵美佳先輩、授業が始まってます! 1
ちょっとだけエロシーンです。
四分割されてます。
窓の下を賑やかな声が過ぎる。秋の青空の下で準備体操をして元気に走っていく女子生徒たちの姿をその窓から見ることが出来る。冷たくなってきた風にも負けず、彼女たちは白い半袖の体操服を身につけ、下には短いパンツをはいている。随分と前までは女子生徒は青いブルマをはくことになっていたらしい。その話を思い出しながら絵美佳は窓から覗かせていた顔を引っ込めた。
いいわねえ。絵美佳はそっと呟いてうっとりと頬を手で包んだ。可憐な女子生徒たちの体操服姿はいつ見てもいいものだ。特に素足が剥き出しになっているのがいい。大きく揺れる胸など特に見たいとは思わないが、いつもはスカートで隠れている剥き出しの腿を見るのは最高の気分だ。同じ女としてちょっと問題があるのではないかと思われることを、絵美佳は平然と考えていた。
「えっ、絵美佳せんぱぁい。まだこうしてなきゃいけないんですかぁ?」
恐る恐るといった様子で巴が弱々しい声をあげる。絵美佳はふっ、と口許に笑みを浮かべて振り返った。女子トイレの一番奥の個室の中に納まっている巴を見やる。巴はスカートを腿まで捲り上げた格好で下腹部を剥き出しにしていた。真っ白な下着は足首までずらされている。スカートを握り締め、巴は周囲を伺うようにトイレの個室から顔を覗かせる。
「もう! あんたがせかすから、スプリングがずれたじゃない!」
唇を尖らせて絵美佳は手の中のそれを巴に突き出してみせた。途端に巴が真っ赤になる。絵美佳特性のばね付きバイブはその先端を開かれ、中の機械が剥き出しにされていた。特殊な下着で巴の下腹部にセットできるという画期的な代物だ。性交渉時に男性器が出入りするその動きと同等の刺激が膣に与えられる。しかも遠隔操作機能付きだ。絵美佳は真っ赤になった巴の目の前からそれを手の中に戻した。
「なに赤くなってるのよ?」
巴に人の悪い笑みを向けてから絵美佳は手の中に目を落とした。精密ドライバーを差し込んで修理を再開する。そもそも、巴が膣圧の調節に失敗しなければ壊れることなどなかったのだ。絵美佳はそう巴に文句を言いつつ手早く機械の内部をこじ開けた。やはり思った通り、内部の細いコードが一部、焼きついている。
しばし巴はうろたえていた。だがすぐに我に返る。巴は周囲を気にした様子で絵美佳に声をかけた。だが実際にはこの女子トイレには二人しかいない。
「でもお……。もう、授業始まっちゃってますよぅ」
それは言われなくても絵美佳も承知していた。何と言っても窓の下を体育の授業中の女子生徒が楽しそうな声をあげて走っている。きっと持久走なのだろうが、どうやら授業態度として彼女たちの態度は良くないらしい。時折、男性教諭の叱る声が響く。絵美佳はちらりと窓を見やって巴に目を戻した。巴は絵美佳の命令通り、律儀にスカートをつかんだままだ。
「あんた、次は何の授業だっけ?」
そう訊ねると巴が困惑気味の面持ちになる。
「えっと……げ、現代文ですけど」
数学ならともかく、現代文となると巴の苦手科目だ。何しろ教師は作者の気持ちがどうだの、主人公の気持ちはどうだのと訳の判らない質問ばかりしてくる。作者の気持ちは作者でなければ判らないし、それこそ物語の主人公の気持ちなんてその主人公になってみなければ判る筈がない。そして巴はそんな絵美佳の考えを完璧に受け継いでいるため、現代文の時間は頭を抱える羽目になるのだ。
「そんな授業出る必要ないわ! どーせワケわかんないだけでしょ?」
そう言いながら絵美佳はドライバーを器具から抜いた。スプリングをはめ直して蓋をする。巴は戸惑ったような面持ちで視線を彷徨わせた。ぱちん、と音を立てて蓋は完全に口を閉じた。淡いピンクのその器具を絵美佳は目の高さに掲げて頷いた。
「で、でもぉ。わたし、あの先生に目をつけられてるみたいでぇ……」
「誰?」
絵美佳は掲げていた器具を下ろして不機嫌に訊ねた。誰だ、自分の物に勝手に目をつける奴は。絵美佳の怒りの方向はどこかずれている。だが本人はそれと気付かず憤慨した。
「え、あの、江藤先生ですけど……」
江藤。その名前を聞いた絵美佳は懸命にその教師の事を思い出そうとした。だがどういう訳か思い浮かばない。実は同じ教師に現代文を習っているのだが、そのことをも絵美佳はすっぱり忘れていた。いや、元から興味がないから覚えていないのだ。
「そんな奴、気にすることないわ。なんか文句付けて来たら、あたしが相手するから言いなさい」
教師という立場を絵美佳は完全に無視して学生生活を送っている。大人しく教師の言葉に従うということはまずない。そうする時は教師の言に納得できた時だけだ。そんな絵美佳のことを教師たちは恐れている。だが絵美佳にその自覚はない。反論すべき時は反論すべきなのだ。そう、人の持ち物に勝手に手を出してはいけないのは当り前の話だ。そう、心の中で結論付けて絵美佳は力強く頷いた。
「いや、あの、そうじゃなくて」
言いにくそうに巴が呟く。絵美佳は器具を持ったまま腰に手をあてた。巴の話は要領を得ない。目をつけられるということは、特別に文句をつけられるという意味ではないのか。絵美佳は思ったままを巴に告げた。だが巴は赤くなって俯いてしまう。
ロボ子がちゃんと書けてませんね……(涙
あと、そろそろ現代文とかいう授業はなくなったのか、なくなるのかも?
昔はあったんだけどなぁ……。
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絵美佳先輩、授業が始まってます! 2
「ええと、その……こ、個人授業とか……言われて」
それを聞いた絵美佳はぴくりと眉を上げた。巴のその言葉で初めて江藤というその教師が男性であることを理解したのだ。
「あんたは何? 誰のもの?」
低く不機嫌な声で絵美佳は問うた。巴が顔を上げて即答する。
「絵美佳先輩の助手で、絵美佳先輩のものです」
それは厳然とした二人の間で交わされた約束だ。その約束はたとえ誰でも絶対に覆せない。絵美佳はしっかりと頷いて巴の目を覗き込んだ。さっきの答えを口にした時は自信に満ちていたのに、絵美佳に見られると急に巴が困った顔になる。
「で、でもぉ。個人授業だから残れって言われて、特に疑問には思わなくて」
「で、何したのよ?」
眉間に深い皺を刻んで問い掛ける。怒りを丸出しにした絵美佳の様子に怯えたのか、巴がしばし迷ったように口を噤む。絵美佳は舌打ちをして巴を睨んだ。腕組みをして顎をしゃくる。すると巴はためらいがちに口を割った。
「あ、あの……。ちょっと胸とか触られて……いえ、その、ボールペンでつつかれたんですけど……」
江藤というその教師がどんな男なのかは知らない。だが絵美佳の胸には強い怒りが生まれた。ボールペンでつつく。それは江藤にとって些細な行為のつもりだったのかも知れない。だがそんな行為に巴が感じたのだとしたら。絵美佳は唇を震わせながら続けた。
「そのほかには?」
ことの他、絵美佳の怒りが強いことに気付いたのだろう。巴がびくりと恐怖に身を竦める。だが絵美佳はかまわず巴を促した。
「何度かつつかれて気持ち良くなっちゃって……あっ。で、でも、挿入はしてません! ほんとです!」
巴の容姿は絵美佳のそれに比べて幾分か愛らしいものになっている。絵美佳がきつい印象を伴っているのに対し、作り自体が可愛らしいのだ。それ故にその男性教師が触発されたというのも気分的には理解出来る。だがそれはそれ、これはこれだ。人の物に手を出すなんて死刑ね。絵美佳は内心でそう呟きながらため息をついた。
「胸にどうやって挿入するのよ? メカマンコもいじられたってこと?」
「はう!」
巴は見た目にもはっきりと狼狽した。次いであはは、とごまかすように笑う。そこで絵美佳の頭のどこかの血管がぶちっと切れた。
「あんたね! メカだってばれたらどーするのよ! それに!!」
絵美佳は勢いに任せて巴に大股で近づいた。便座に膝を揃えて座る巴の前に仁王立ちになる。
「あんたの胸も、メカマンコもあたしのものなの! あたし以外の奴がどうこうしていいものじゃないのよ!」
「きゃうっ! はっ、はいぃ! ごめんなさいー!」
怒鳴られた巴は悲鳴を上げて首を竦めた。口許に手を当てて涙目になっている。絵美佳はふん、と鼻を鳴らして巴の顎をつかんだ。上を向かせて目を覗き込む。
「それとも、あんた、やっぱ、男のほうがいいの? 女のあたしじゃダメなの?」
一段と低い声で絵美佳は問うた。巴は自分のものになった筈だ。なのにどうして他の男に触られなければならないのだ。その怒りが抑えられない。そもそも、そんな教師の愛撫に巴が感じたというところが許せない。確かに巴の機体は生身のそれよりはるかに感度がいい。だからといって、自分以外の誰かが巴を感じさせたということを許せる筈がない。絵美佳は自然と睨むように巴を見つめていた。
巴は怯えた目で絵美佳を見上げて首を横に振った。
「絵美佳先輩がいいですっ。ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません」
殆ど泣き出す寸前の状態で巴が告げる。絵美佳は少しだけ怒りが消えるのを感じた。そう、巴は自分のものだ。他の男が触っていいものではない。よし、今度は防犯装置をつけよう。絵美佳は心の中でそう呟き、自分の考えに深く頷いた。
だがそんな真似をした巴にはお仕置きが必要だ。絵美佳はにやりと口許を歪めて改めて巴を見つめた。
「これは、もともとあんたの訓練のために作ったの。コネクトしたとき、力んで膣が壊れることがないようにね」
そう告げて絵美佳は手にしていた器具を巴によく見えるように目の高さに持ち上げた。途端に巴が頬を染める。ピンクの壁に取り囲まれた巴は、何かを求めるように視線を壁に向けた。そこには赤いマジックで小さな相合傘がかかれている。絵美佳はふ、と巴に薄い笑いを向けて白衣のポケットに手を入れた。
取り出したのは器具を装着する特殊な下着だった。黒い金属製のそれは巴の機体サイズに合わせて作られている。その下着の底部分に器具を取り付ける。試しにスイッチを入れると器具は音を立ててうねった。更に絵美佳は白衣から別の機械を取り出した。小さなそれは器具を遠隔操作するものだ。ボタンを押すと器具が小刻みに振動する。
「あっ、あのっ、絵美佳先輩?」
それまで巴の訓練にはこの手の器具を使用したことはない。先ほど、実験的に挿入をしていたのは器具の耐久度を調べるためだ。絵美佳の手にしたそれが機体内に挿入されるということに気付いたのだろう。巴が不安そうな眼差しになる。
巴は前の話に出てきたキャラクタなのですが、この後もぼちぼち出てきます。
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絵美佳先輩、授業が始まってます! 3
機械なので生身のエロではないです★
「一日一時間で済ませてやろうと思ってたけど、気が変わったわ。あんたには、今日からずっとこれを装着してもらうことにする」
そして自分がリモコンで巴に快感を与える。お仕置きと言いながら絵美佳はぞくぞくとするような快感を覚えていた。自然と下腹部が熱を帯びる。巴はどんな時も絵美佳に操作され、授業中であろうと何であろうと絵美佳のことを思うだろう。それは絵美佳にとって理想的な状態だった。
絵美佳は黒い下着を手にし、巴の下腹部に手をかけた。巴は快感の予感からか小刻みに震えている。巴は絵美佳とはいつも交わっているが、こんな風に強く支配されることはないのだ。そして絵美佳もまた、これまでとは違う状況を心から楽しんでいた。
巴の尻の下に下着を敷く。そして硬く反り返る器具を絵美佳は巴の膣に入れようとした。だが、巴の膣は緊張のためにか狭くなっている。
「深呼吸して、膣の出力を下げて」
絵美佳は巴の膣口に器具の先端をあてがいながら低い声で告げた。はい、と弱々しい声を返して巴が深く息を吸う。静かにそれを吐き出した時、絵美佳は巴の股間に顔を近づけた。強引に腿を開かせて秘部に口をつける。
「んっ、せんぱぁい……」
巴が上気して掠れた声を漏らす。絵美佳は瞼を半分閉じ、強めに巴の秘部を舐めた。膣口に舌を差し入れて唇でクリトリスを刺激する。次第に巴の腿は大きくひらき、小陰唇の合わせ目からは愛液が漏れ始めた。
「もう合成愛液でどろどろじゃない?」
小さく嗤って絵美佳はそう告げた。舌先で硬くしこったクリトリスを転がすように弄る。巴は恥ずかしさに頬を染め、スカートを持ったまま口許に手を当てがった。
「や、やだあ……っ。先輩、恥ずかしいですぅ」
興奮に巴の膣が徐々に緩んでいく。絵美佳はそれを見計らって器具の先端を膣口に入れた。挿入感にひくつく腰をしっかりと押さえ、焦らすようにゆっくりと器具を奥へと進めて行く。そんな絵美佳の顔には凶悪な嗤いが浮かんでいる。
「何恥ずかしがってんのよ。あんたのここはあたしが作ったメカなのよ、ほら」
ずぶり、と少しだけ器具が奥に進む。短い声を断続的に漏らし、巴は足をばたつかせた。足首に絡まっていた下着がトイレのタイルに落ちる。絵美佳は薄く笑いつつじわじわと器具を押した。
「気持ちいいならもっと声出してもいいのに」
便座の中に溜まった水が跳ねる。巴の膣から零れた愛液が次々に水音を立てて数滴ほど落ちた。絵美佳は下着の脇から漏れる愛液を指にすくい、口に運んだ。既に器具は半ばほど挿入されている。
「やっ、だ、だって、誰かに聞かれたら……っ!」
「別にいいじゃない」
巴の恥ずかしさを煽るため、絵美佳は嗤ってそう答えた。少しだけ手を引く。ずるり、という生々しい音を立てて器具が少しだけ抜ける。絵美佳は巴が嫌がって首を振るのを見ながら、手を小刻みに上下させた。下着の脇についた金属のホックが便座に当たって硬い音を立てる。膣に溜まった巴の愛液がぱたぱたと音を立てて便座の中へ消えた。
「んっ、せんぱいっ、せんぱぁい!」
殆ど声にならない声で巴が喘ぐ。絵美佳は巴に圧し掛かるように身体を被せ、一気に手を前に押し出した。男性器を模した器具が音を立てて膣の奥へと進んでいく。絵美佳の胸の膨らみに顔を埋め、巴は声もなく果てた。
下着の脇のホックを留める。暗証番号を打ち込んでロックする。小さな黒い下着を身につけ、巴は小さく身体を震わせた。赤い頬と濡れた唇が絵美佳の欲情をそそる。絵美佳は興奮に目を光らせてトイレの個室から出た。少し離れて巴の全身を眺め回す。スカートを持ち上げた手を震わせ、巴は俯きがちに顔を伏せている。
「授業に戻っていいわよ」
それまでとは一転し、絵美佳はそっけなく巴に告げた。慌てたように巴が顔を上げる。その目はまだ潤んでいる。
「え……そ、そんなあ」
巴はまだ頬を染めている。一度は果てたがその程度のことで巴が満足できないことは絵美佳にもよく判っていた。現に巴の膣からはまだ愛液が溢れている。先ほどより強い刺激を受け続けているために、焦れているのだ。
「それとも、まだ、お仕置きされたい?」
巴の淫らな格好を見つめたまま、絵美佳は口許に深い嗤いを刻んだ。さりげなく白衣のポケットに手を入れてリモコンのボタンを押す。静かに器具が微振動を開始する。急に巴が身体をびくりと竦めたことで絵美佳は器具が正常に作動していることを確かめた。
「んっ、ふるえてるぅっ!」
掠れた声で巴が告げる。絵美佳は個室の入り口に寄りかかり、そんな巴を見下ろした。スカートを握った巴の指先は真っ白になっている。軽い刺激が継続的に加えられると、それでは次第に物足りなくなる。喘ぐ巴を嗤って眺めつつ、絵美佳は器具の振動の設定値を更に下げた。
「どう、コネクト訓練には使えそう?」
潤んだ目を上げて巴が唇を震わせる。腿を合わせているのはきっともっと強い刺激を求めているからだ。絵美佳はふっ、と唇を歪めた。腕を組んで巴の姿をじっくりと眺め回す。
「せっ、せんぱぁい……。意地悪いわないでくださいよぅ」
時折、甘い声を混ぜて巴が告げる。だが本人は誘っているという意識は全くないだろう。巴は絵美佳と同じ年頃に見えるが、経験していることは段違いに少ないのだ。色目を使って男を誘うなどということは思いつかない。絵美佳は巴の性格を知り尽くしていた。
しかしなんでトイレ……w
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絵美佳先輩、授業が始まってます! 4
エロシーンはアリです。
ただしTS気味です。
淫らなその痴態に欲望が激しくなる。巴を犯したいという欲望は次第に強くなり、絵美佳の下腹部には鈍痛にも似たものが生まれていた。自然と下着が濡れる。同時に女性器が焦れてくる。だが絵美佳は女性が抱くそれとは全く別の感情を覚えていた。巴をもっと焦らしてみたい。自分のこと以外を決して思わないようにしてみたい。それが独占欲であることを絵美佳はこの時にはまだ自覚していなかった。
「じゃ、問題ないって理解でいいわね?」
そう告げて絵美佳は無造作に白衣を広げた。大胆にスカートをめくり上げる。濡れた下着をずらすが、絵美佳の恥丘には当人の望むものは生えていなかった。鋭い舌打ちをして絵美佳は眉を寄せた。最近判ってきたことだが、それはいつもいつも望めば簡単に生えてくるものではないらしい。
気合が足りないのよ、気合が! 絵美佳は心の中で自分を叱咤した。眉間に皺を寄せて息を殺す。
「気合入れるしかないわね!」
絵美佳は力を込めてそう叫んだ。その声がトイレの中に響く。だが絵美佳自身はそのことに構っていなかった。喝! と叫んで自分の恥丘を見下ろす。すると絵美佳の恥丘の翳りが微かに動いた。
何かが弾けるような感覚が生まれる。それと共に絵美佳は熱い息をついた。翳りが揺れ、恥丘からそれが伸びてくる。巴はそれを潤んだ眼差しで見つめている。絵美佳は大きく息を吸って下腹部に力をこめた。
「まだまだぁ!!」
絵美佳の気合のこもった声がトイレ内に響き渡る。きっと教室で授業を受けている生徒たちは何事かと思っただろう。教師たちはまたかと頭を抱えていたかも知れない。だが絵美佳はそんな周囲のことはお構いなしでそれを睨みつけていた。ひたすらに気合を入れて叫ぶ。
「あ、あの、絵美佳先輩。もういいみたいですけど」
さすがに絵美佳の形相に我に返ったのだろう。恐る恐る巴が告げる。絵美佳は肩で息をしつつ頷いた。絵美佳の恥丘には反り返ったペニスが生えている。
「あっ、ごめーん。なんかこいつ、根性足んないから」
そう言いながら絵美佳は笑ってペニスを指で弾いた。屹立したペニスが大きく揺れる。それと同時に絵美佳の心の底に不服のような不満のようなものが生まれる。だが絵美佳はきっぱりとそれを無視した。いつも気合を入れた後に聞こえてくる声がある。そんなものを聞いているようではまだまだね、と絵美佳はずっと声を無視してきた。今もまた、絵美佳は心に生まれたそれらの感情を気のせいだということであっさり片付けた。
「とゆわけで、さっさとしゃぶりなさい」
興奮に既にペニスは硬く張りつめている。絵美佳は腰をずい、と前に突き出してペニスを巴の前に晒した。巴は真っ赤になりながら腰を屈める。スカートを持っているように、という絵美佳の命令をしっかり守り、巴は器用に唇と舌だけでペニスを愛撫した。
巴が頭を小刻みに振る。それを薄笑いで見守りつつ、絵美佳はリモコンのボタンを指先で弾いた。器具が遠隔操作を受けて激しく振動し始める。
「んくっ、くふうっ!」
喘いだ巴の口からペニスが飛び出す。絵美佳は嗤ってそんな巴の頭を押さえた。自分から巴の口にペニスを押し込む。背中がざわつくような快感が絵美佳の心を満たす。器具を通して操られ、巴は絵美佳の意志のままに欲情している。そのことが絵美佳をさらにそそった。
口にペニスを押し込まれた巴がとろけるような目をする。快楽に溺れかけているのだ。喉の奥で喘ぎながら巴は熱心に絵美佳のペニスをしゃぶり続けた。舌と唇が強くペニスを吸う。絵美佳は思わず眉を寄せ、巴の頭を腰に抱え込んだ。
「もっと奥まで咥えなさい」
激しい欲望が絵美佳を支配する。気付くと絵美佳のペニスの下、翳りに隠された女性器も熱い愛液を漏らしていた。絵美佳は自然と手を伸ばし、ペニスの下へと指を入れた。翳りを分けると硬くしこったクリトリスに触れる。巴にペニスをしゃぶらせながら、絵美佳は女性器にも刺激を与え始めた。
絵美佳は興奮に震えながら個室の壁に寄りかかった。壁に身体が当たると耳障りな音がたつ。腰をひくつかせ、絵美佳は巴の頭を押さえた。白衣が揺れる。自分でも気付かないうちに絵美佳は小さく喘ぎ始めていた。夢中でリモコンを操作する。巴が絵美佳の意志のままに果てるのを見つめ、絵美佳は指先でクリトリスを強く押し潰した。巴がペニスの根元までを咥えて吸い上げていく。
「くふっ! 巴! いいわぁ!」
甘い声がトイレに響く。巴はうっとりとした目をして絵美佳のペニスを唇で扱いていた。舌先が亀頭を焦らすように舐める。絵美佳は夢中で腰を振った。指先で乱暴にクリトリスを弄る。それは女性器に与えるには強すぎる刺激だった。絵美佳はペニスを扱くようにクリトリスを上から下へと擦った。
快感が最高潮に達する。絵美佳は声を上げて射精した。同時に膣口から愛液が漏れて零れる。絵美佳は激しい動悸を鎮めるため、深々と息を吸った。壁に寄りかかったまま、巴の頭を撫ぜる。
「さあ、今度こそ、授業に戻りなさい」
絵美佳の放った精液を飲み下し、巴が小さく頷く。まだ器具による刺激は止めていない。きっと機体の欲情は止まっていない。それを思いながら絵美佳はにっこりと笑った。
根性と気合いでどーにかする絵美佳さすが。
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素うどんでもどうぞ
エロはありません。
ふと順は顔を上げた。あれ、と口の中で呟く。今、何か感じた気がした。順は違和感の原因を探り出そうと周辺を無防備に見回した。その瞬間、要の手が順の左の頬にヒットする。
「いてえ!」
隙をついた攻撃に順は思わず声を上げた。防御するのをうっかり忘れ、目一杯食らってしまったのだ。ひりひりする左の頬を押さえて順は唇を尖らせた。何事かと周辺の生徒たちが足を止める。彼らを追い払ったのは要のボディガードの二人だった。どうやら彼らは始終、要に付きまとってるらしい。順が追い払われないのは、たとえ怒り狂っても要がその相手をきちんとしているからだろう。
「ちょっとキスしようとしただけじゃん。あー、もう全力で殴ってくれちゃって」
「病原菌以下な軽薄男はさっさと学校から出てお行きなさい! 目障りです!」
要の言を受けてさすがにまずいと思ったのだろう。ボディガードの二人がゆらりと動く。順の視界を塞ぐように立った二人はどちらも威嚇を込めて順を睨んでいる。だが順はまあまあ、と笑ってそんな二人の肩を軽く叩いた。
学生食堂は大勢の生徒たちで賑わっている。だがそんな中で要と順の周辺にいる者たちは示し合わせたように無言でいた。順はだらしない笑いを浮かべて二人の肩を握ったまま体重をかけた。二人の間から要を見やる。
要は今日はA定食を注文していた。横には別の定食が二人分並んでいる。きっとボディガードの彼らのものだろう。うんうん、と順は頷いて要に目を戻した。無視を決め込むことにしたのだろう。要は順を見もしない。
「あのさあ、オレ、そんなに変なこと訊いた? そりゃ、キスはしようとしたけどさぁ」
せりふの後半で声を落とす。そんな順を要は無視し続けている。順は軽く手に力をこめて二人のボディガードの肩を押した。するとまるで合図したかのように、同時に二人の生徒が床に崩れる。本人たちも何が起こったのかが理解できていないようだ。唖然とした顔でへたり込む。
「第一さあ。オレって何も食ってない訳よ。ちょっとくらいご馳走してくれたってさあ」
しくしく、とわざわざ言葉にしつつ順は目元を手で覆った。指の隙間からこっそりと要を見る。だが要はまだ順を見ようとはしない。その手が小刻みに震えているところ以外は変わりない。
貴様、と喚いて順の背後でボディガードたちが立ち上がる。順はやれやれ、と呟いて肩を竦めた。そんな順の腕をボディガードが両脇から取る。順は半ば宙にぶら下げられた格好で要にねえ、と声をかけた。
「要ちゃあん。そんなつれなくしないでよぉ」
ボディガードたちは懸命に順を食堂から引きずり出そうとしていた。だが順の足は括りつけられたように床からはがれない。騒ぎを聞きつけたのか、慌てたように教職員たちがその場に飛んでくる。だが彼らは凍りついたように食堂の入り口で固まってしまった。順は彼らを振り返り、やあ、とだけ声をかけた。
結構、面倒なトコに好んで通ってたんだねえ。ここにはいない誰かの顔を思い浮かべながら順はだらしない笑いを浮かべた。ボディガードたちの額には汗が浮かんでいる。
ぱちん、と音を立てて要が箸を置く。それからゆらりと首を回し、要は静かに告げた。
「食事くらいはいいでしょう。野木。素うどんでもふるまってやりなさい」
学生食堂で一番安いメニューを指定される。だがそれを聞いた順はやった、と嬉しそうに告げた。野木と呼ばれたボディガードの一人が不承不承といった態で離れていく。もう片方はまだ順の腕にぶら下がったままだ。
「ねえ、要ちゃん。これ、振り解いていい?」
のんびりともう片方のボディガードを指差し、順は訊ねた。すると要が口許を押さえて笑い出す。これ、と呼ばれたボディガードの男子生徒は順の言い方が気に入らなかったのか不機嫌に顔を歪めた。
「振りほどけるものならかまいません。ただし! わたくしから五メートル以内には決して近づかないように」
体格はまあまあ、かなあ。格闘技とかにもけっこう精通してる感じかな。筋肉のつき方もそんな気がするけど。
順はそんなことを考えながら軽く腕を振った。その瞬間、順の腕をつかんでいたボディガードが傍のテーブルに突っ込んだ。派手な音を立ててテーブルがひっくり返る。さすがに仰天したのだろう。テーブルについていた女子生徒たちはひっくり返った食事の残骸を片付けもせず、目を丸くしている。
要の笑いはそこで途切れた。
「ふう。全く、乱暴なんだから。あ、ここいいよね? うわあ、要ちゃんってけっこう食べるんだねえ」
順はいつもの調子で言いながら当り前のように要の横の椅子を引いた。要は絶句して床に転がるボディーガードを見つめている。腕に相当の自信があったのだろう。順の腕を捕らえていたボディガードは受身も取らずに床で目を回していた。
「あ、オレも茶が欲しいなあ。いれちゃえー……って、どしたの?」
各テーブルに置かれたアルミのやかんを取り上げ、順は茶碗になみなみと茶を注いだ。今気付いた、という風を装って要に声をかける。そんなことをしている間に倒れたボディガードを誰かが助け起こす。だが順はそんな周囲の喧騒を全く無視していた。
「周藤を子ども扱いするとは、ただの軟弱者ではなかったようね」
順に振り解かれた周藤は生徒会の別の役員によって引きずられていった。それと同時にその役員は周辺の生徒に何でもないのだと言って回っている。やれやれ、難儀なことだねえ。順はそう呟いてから要に目を戻した。にやにやとした笑いを口許に貼り付けたまま茶を啜る。
「そりゃあ? オレだってこの年まで生きてますから? 少しは体術くらい心得てますが?」
本当は体術など全く知らない。力を軽く乗せた腕をただ単に振っただけだ。だがそのことを順は言わなかった。ほう、と目を細めて要が頷く。だが次に要はゆらりとその場に立ち上がった。
「しかし、五メートル以内には決して近づかないように。と言いましたわよね!?」
素早い身体の動きに順は慌てて茶碗を放り出した。だが要は既に動いていた。すうっ、と身を屈めて足払いをかける。順は座っていた椅子ごとその場にひっくり返った。よろけながら身体を起こし、順は要に文句を言おうとした。
「って、うわ!」
きっと要は攻撃する際には周辺のことには一切、構ってなどいないのだろう。順は飛んできた掌底を辛うじて受け止めた。だが要はまだ止まらない。椅子を蹴倒しながら素早く身体を反回転させる。
要の裏拳が順の顔面にきまった瞬間、食堂の中は生徒たちの歓声に満たされた。教師たちが一様にほっとした表情になる。傍目には外部の悪質な者を要が退治したと見えるのだろう。
「ひでえ……ああああ、オレのお気に入りのサングラスがぁ」
順が頭にちょこんと乗せていたサングラスは要の足の下で粉々に砕けていた。要はふふん、と笑って上履きで更にサングラスを踏みにじった。じゃり、という嫌な音がして硝子が更に砕ける。
「まだまだ、精進が足りませんわ。出直してきなさい」
おほほほ、と要は口許に手をあてがって高く笑った。生徒たちが要を賞賛するように声を上げる。やれやれ、悪者扱いかよ。順はそうぼやいて苦笑しながら立ち上がった。軽く首を鳴らして乱れた髪を指ですく。要は順がちっとも堪えていないことに気付いたのだろう。笑うのを止め、訝りに満ちた目で順を見る。
「五メートルかあ。もちっと縮まらない?」
順は何事もなかったかのように笑いながら要を拝む真似をした。要が目を細めて順を眺める。頭の先からつま先までを舐めるように見つめ、やがて要は口許に微かな笑みを刻んだ。
「男を磨きなおしてくれば、考えないこともなくてよ」
腕組みをし、胸を張って要が答える。順はやれやれと肩を竦めて諦めのため息をついた。そんな順の肩を誰かが後ろからがっしりとつかむ。順はうろんな眼差しを背後に向けた。右手に素うどんの乗った盆を乗せたボディガードが立っている。確か野木と呼ばれた生徒だ。
「この始末をつけてもらおうか」
野木は素うどんを片手に真顔で順に迫った。順は嫌な予感を覚えて周辺を見回した。ひっくり返ったテーブルが二台。床に散乱した生徒たちの食事多数。その他、ばらばらになった椅子も倒れている。順は口許を引きつらせてもう一度、野木を振り返った。野木は厳しい目で順を睨んでいる。
「えーと……オレ?」
「貴様以外に誰がこの責任をとる? 賠償金額の見積もりを出さなければならないから、食事はそこでしてもらおう」
生真面目な野木のその表情と片手のうどんの誘惑に負け、順は仕方なくその場から引きずられていった。
ここで4章は終了です。
野木もなかなか……w
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五章
栄子との駆け引き 1
優一郎の父母、総一郎と由梨佳の話も出てきます。
エロシーンはここにはないです。
電話の声はとても穏やかだった。例えるなら自分の母親によく似ていただろうか。声音は優しく、そして話し方もとても柔らかかった。とある会社の会長と言われてもすぐにはぴんとこない。優一郎は目を細めて前にある大きなビルを見上げた。
K2インタラクティブ。それが栄子がオーナーをつとめる会社の名前だ。大理石に掘り込まれたその名前を横目に優一郎は玄関に向かった。硝子張りの回転扉をくぐって受付に向かう。優一郎が名前を告げ用件を言う前に受付嬢が立ち上がる。
「吉良優一郎様でいらっしゃいますね? ご案内いたします」
受付嬢は二人いた。その片方が優一郎を促してエレベーターに向かう。優一郎は残った受付嬢に会釈をしてエレベーターに乗り込んだ。
最上階の七階に辿り着く。エレベーターのドアは軽い音を立てて開いた。受付嬢に促されるままにフロアに出る。七階のフロアは広々とした間取りだった。広い廊下の両脇にそれぞれ二つずつの部屋がある。白い壁に仕切られたその部屋を優一郎は横目に見ながら歩いた。
やがてフロアの最奥へと辿り着く。そのドアを受付嬢は神妙な面持ちでノックした。受付嬢が直接にここに来ることはもしかしたらないのかも知れない。そんなことを考えながら優一郎は返事を待った。
どうぞ、という女性の声が聞こえてくる。受付嬢はドアを開いて優一郎に室内を手で指し示した。入れ、ということらしい。優一郎は素直に指示に従った。受付嬢は深々と一礼しながら静かにドアを閉じた。
随分と広い部屋だ。床には濃い茶系のじゅうたんが敷かれている。壁に飾られているのは何かの表彰状とトロフィーだ。会社の業績を称えてのものだろう。優一郎は並ぶ表彰状をちらりと見やりそう見当をつけた。
部屋のあちこちに観葉植物が置かれている。そして部屋の奥には衝立が二枚、並んでいる。優一郎を呼び出した人物はその衝立の前に立っていた。
「ようこそ。お呼びだてしてごめんなさいね」
そう告げて栄子がにっこりと笑う。栄子は優一郎の通う清陵高校の生徒会長の母親だ。だがとても要を生んだとは思えない若さを保っている。優一郎は丁寧に頭を下げた。
「いえ、おまねきにあずかり光栄です。吉良、優一郎です」
それから栄子は優一郎にソファを勧めた。優一郎は大人しく栄子の言に従いソファに腰を下ろした。
確かに自分は立城に栄子を紹介してくれと言った。それはヒューマノイドとは別の分野で姉である絵美佳と実力を競ってみたかったからだ。それには要の側にサポートとしてつき、ロボットを開発するのが手っ取り早い。だがそんな優一郎の目論見とは裏腹に、栄子は自分から連絡を取ってきたのだ。優一郎が作業中であったこともありすぐにとはいかなかったが、栄子との面会はこうしてあっさりと実現した。
しばらくは栄子に合わせて学校の話をした。今の生徒会の動きについて二、三の意見を述べると、栄子は関心深いといった顔で聴き入っていた。その顔は紛れもなく母親のそれだった。とても一会社のオーナーとは思えない穏やかな顔をしているのだ。優一郎はそのことに戸惑いながら先の体育祭の話をした。
「ええ、私も拝見させて頂きました。要さんがみなさんにあんなはしたないところを見せてしまって」
沈うつな面持ちで栄子が言葉を濁す。どうやら要と絵美佳のロボットが戦った場面を見ていたらしい。優一郎は保美がカメラに収めたあの戦いのことを思い出した。優一郎当人は多輝を送り出すために体育祭には出席していなかったのだ。
「姉のせいであのような事になってしまい。もうしわけありません」
優一郎は丁寧に頭を下げた。絵美佳のために頭を下げることになるとは思わなかったが、これで心証が良くなるなら安いものだ。すると栄子はそんな優一郎を見て慌てて首を振る。
「そんな、要さんのあの失敗は自らが招いたものですもの。謝って頂くようなことではありませんわ」
そう告げて栄子は少し目を細めて優一郎を見た。言葉を探していた優一郎は視線に気づき、目を上げた。視線が出会う。
「……本当に総一郎様によく似ていらっしゃること」
「父のことをご存知なんですか?」
初めて聞いた、という顔をして優一郎は息を飲んだ。もちろん、栄子がかつて総一郎と同じ学校に通っていたことは知っている。その当時、栄子が生徒会長をつとめ、ことあるごとに総一郎に無謀な勝負を挑んでいたことも、そしてその理由についても優一郎は心得ていた。だがそれを栄子に悟らせてはいけない。何も知らない振りをしている方が、逆に情報を得やすいものだ。そして優一郎はこの時も知らん振りを決め込んだ。
「ええ。総一郎様は大変に良く出来た方で……私、こう見えましても総一郎様と同じ高校に通わせて頂いておりましたの」
出されたコーヒーに口をつけ、優一郎はへえと感嘆の声を上げてみせた。栄子は懐かしいものを見るように優一郎を見つめている。一つ一つの行動をチェックされているような気がするほど、栄子は執拗に優一郎を眺め回す。それも仕方のない話だろう。当時、栄子は総一郎のことをとても好いていたという。だが栄子は由梨佳がいたために諦めざるを得なかったのだ。
栄子は続けて総一郎の話をした。二人が同学年だったというくだりで優一郎は伏せていた目を上げた。
「父と同学年なんですか? とてもそうは……あ、いえ失礼しました」
優一郎の顔が少しだけ赤くなる。そんな照れた素振りに栄子は口許に手を当てて小さく笑った。笑うともっと若く見える。そんな栄子を優一郎は胸の中で由梨佳と比べてみた。若々しさを保っている栄子と比べても、やはり由梨佳が若さでははるかに勝っている。由梨佳のそれは一種、異常ともいえるほどの若々しさだ。当然だ。ヒューマノイドの機体は老いを知らない。由梨佳は高校生の時のままの姿でずっと時を過ごしているのだ。
栄子と総一郎、由梨佳は同学年です。
優一郎や絵美佳と同じ清陵高校に通ってました。
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栄子との駆け引き 2
エロシーンはまだですww
今の優一郎と由梨佳が並べばクラスメイトと言っても通じる。恋人同士だと言っても知らない者はきっと疑わない。そしてそんな母親に優一郎は隠れて欲情しているのだ。昔ならともかく、今の優一郎はそれが異常なこととは思っていなかった。何故なら由梨佳は人ではない。そして本人にそうと言わなければどう思おうと伝わらない。そして由梨佳は今でも優一郎の気持ちには少しも気付いていないのだ。
いつの間にか優一郎は自分の思考に没頭していった。そんな優一郎に話し掛けるのをやめ、栄子が黙って見つめる。優一郎は考えにのめり込むあまり、その視線の変化にも気づかなかった。子供を見つめる目から男を見るそれへと栄子の視線が変わる。栄子はねっとりとした色香の漂う目つきで優一郎を静かに見つめていた。
「優一郎さんもきっと賢いのでしょうねえ」
うっとりとした目で優一郎を見つめ、ため息をつくように栄子がそう呟く。優一郎は顔を上げて何事もなかったかのようににっこりと笑った。
「いえ、父ほどではありませんよ。もちろん。いつかは越えたいと思っていますが」
栄子の目線に含まれる感情の変化に優一郎はその時に気付いた。だが気付かないふりを続けて人好きのする笑みを浮かべる。栄子の目的が判らない以上、簡単に罠に嵌るのはいただけない。それにそもそも手の中に握った小型のそれは驚くべき結果を優一郎に伝えていたのだ。
それは優一郎が急遽作成した小型の残留力チェッカーだった。音を発さないそれは手の中にすっぽりと納まるサイズで、簡単にその場の残留力を調べることが出来る。そして優一郎が持つチェッカーは風の力の反応を示していた。
あの機体に炎の力を埋めていった侵入者と同じ反応だ。そして栄子は明らかに精神的に操作されている。その力をチェッカーは読み取っているのだ。優一郎はちら、と手の中に視線を落とし、次いでにこやかに顔を上げた。栄子は潤んだ眼差しで優一郎を見つめている。
「偉大すぎる父を持つ、という苦しみはもしかしたら栄子さんならおわかりいただけるかもしれません」
そう告げて優一郎は自嘲気味に笑った。それは全てが演技ではなかった。父の総一郎は優一郎が追いつけないほど遠い場所にいる。ヒューマノイド技術でようやく足元に近づけた、というところだ。だがそれでも優一郎は決して総一郎に近づいたとは思えなかった。少し近づいたかなと思うと総一郎はあっという間に別の場所へと駆けていってしまう。もしかしたらずっと近づくことは出来ないのかという不安すら覚えることもある。優一郎はそっとため息をついて栄子を見た。すると栄子が納得顔で頷く。
「判りますわ、そのお気持ち。私も……家の話でお恥ずかしいのですけれど、私も若い頃は随分と親の七光りだとかで周りから指をさされましたもの」
そう告げると栄子は悲しそうに目を伏せた。当時のことを思い出したのかも知れない。深いため息をついている。優一郎はそんな栄子に微かに笑いかけた。
「あなたもさきほど、僕が父に似ている、とおっしゃいましたよね? みんなそうなんです。母や姉でさえ、いえ、彼女たちは特に、僕を父の代用品程度にしか思っていない」
それはもしかしたら本音だったのかも知れない。言っている優一郎にも自分が演技をしているのか、それとも本心を吐き出しているのか判らなくなっていた。由梨佳は優一郎を見るとき、どこか遠い眼差しをすることがある。姉である絵美佳は幼い頃から総一郎に似ているという理由で優一郎を好いていた。これは他者から得た情報だが、まず間違いないだろう。先の一件で絵美佳は優一郎を想いながら自慰をしていたと判明しているからだ。
教師の中にはやはり総一郎を知っている者がいて、彼らは悉く優一郎と総一郎を比べて話をする。そんな時、優一郎は感じるのだ。一体、誰が僕自身を見てくれているのだろう。そして思った後に自問する。似ているというのはそんなにいけないことなのだろうか、と。ただその容姿が似ているというだけで、能力まで似ていなければならないのか。
ふと、顔を上げる。栄子は優一郎を見つめて目を潤ませている。痛ましさに顔を歪めている。だがそれすら本人が優一郎を思ってのことではないかも知れない。かつての総一郎の面影を優一郎の中にみているだけなのかも知れないのだ。
下らない感傷だな。優一郎は自分の考えにため息をついて苦笑した。次いで微笑を浮かべる。
「すいません。ちょっと愚痴ってしまって」
言っても仕方のないことだ。優一郎はにっこりと笑って栄子に告げた。栄子は戸惑ったような顔をする。決して彼女に悪意はなかっただろう。だが次の一言で優一郎は表情を凍りつかせた。
「こちらこそごめんなさい。あなたが総一郎様にそっくりだから」
だから。優一郎は胸の内で呟いた。だからそっくりだと言われるほど似ていたとして、それでどうしたと言うのだろう。苛立ちが大きくなりかけたその時、不意に優一郎は気付いた。そう言えば栄子は優一郎がこの部屋に入室した時に驚かなかった。もし、先に入手した情報の通りに栄子が総一郎を好いていたなら、造作が似ているだけでも驚かないだろうか。しかも栄子が繰り返し言うほどに似ているのなら余計にその可能性は高いだろう。
しかも優一郎は僅かにだが不愉快に感じているという顔をしてしまった。一会社のオーナーになるほどの実力の持ち主なのだ。優一郎の表情の変化に気付かない筈がない。人の機微に敏感にならなければ企業を支えていけないだろう。無情に人を切り捨てる時にも上の人間は人々の機微をきちんと把握している筈だ。そうでなければ企業内で反乱が起きかねないからだ。
栄子が正気なら良かったんですけどねー……(棒
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栄子との駆け引き 3
だが栄子は優一郎の変化にも全く頓着せず、しかも不愉快に感じる語句をわざわざ選んで口にした。これは明らかに誰かに操作されている結果なのではないか。昔の恋物語で簡単に眩む目なら、今の栄子の地位はない。そして優一郎は彼女の後ろに風の力を使ったあの侵入者がいることを確信した。
口では詫びながらも栄子は熱っぽい眼差しで優一郎を見つめている。風の力の主がどう考えているのかは正直、判らない。だが丁度いい機会だと優一郎は判断した。新作のあれが試せるチャンスだ。内心でそう呟く。
「あっ、如月さん、もしかして、栄子さんとおっしゃるのですか?」
今ごろ気付いた振りをして優一郎はそう告げた。えっ、と栄子が息を飲む。優一郎はそれを肯定の意と取ったことにした。ぽん、と膝を叩いてにっこりと笑う。
「すいません。父から栄子さんのことは伺ったことがあります」
「総一郎様が……私のことを?」
あの頃の記憶が蘇っているのだろう。栄子は目を輝かせている。例えそれがどんな話でも総一郎が自分のことを覚えていてくれるのは嬉しい。と、言ったところか。優一郎は栄子の反応を冷静に分析していた。手の中のチェッカーの針の振れが強くなる。総一郎の話をし始めたことを栄子の後ろにいる者が気付いたのだろう。それに便乗して栄子を操作するつもりなのだ。
「ええ。父は栄子さんのこと、結構あこがれてたみたいなんですよ。母には決して話せないですが」
そう言いながら優一郎はにっこりと笑った。本当は総一郎から聞いた話は全く違う。高校生の頃、自分の作ったロボットはこんな偉業を成し遂げたのだ! と、総一郎は当時の写真を優一郎に見せながら語ったことがある。その時、優一郎が見たのは壊れたロボットの操縦席で顔に落書きをされて泣いている栄子の写真だった。どうやら総一郎にとっては実験の一環に過ぎなかったらしいのだが、栄子は確かにロボット同士の対戦で総一郎に敗れているのだ。
栄子は目を潤ませながら静かに立ち上がった。胸の前で両手を組み合わせ、うっとりと優一郎を見つめる。優一郎も自分自身で感じ取れるほど、栄子の雰囲気は一変した。漂う色香にあてられそうになる。優一郎は手の中にしっかりとチェッカーを握って冷静さを保った。
「総一郎様が私のことをそんな風に……あの、もっとお話を聞かせてくださる?」
そう言いながら栄子は滑るように優一郎の隣に腰を下ろした。最初はためらいがちに、次第に大胆に栄子が優一郎の膝に触れる。優一郎は左手にしっかりとチェッカーを握って話し始めた。総一郎がかつて栄子を憧れの眼差しで見ていた最中に廊下で誰かと激突した話。体育の授業をしている栄子の姿をこっそりと写真に収めた話。そしてとどめとばかりに優一郎は話した。総一郎は栄子を思って眠れない夜を過ごしていたのだと。そんな話を聞かせるうちにやがて栄子はそのしなやかな肢体を優一郎に寄せた。傍にいると仄かな甘い香りが漂ってくる。高級そうな花の香りが優一郎を誘惑しようとする。だが優一郎は左手のチェッカーを握り締め、何とか冷静さを保つことに成功した。
「ですけど結局、父は母を選んだ。いや、選ばざるをえない状況に追い込まれたわけなんです」
「そうなんですの?」
驚いた顔をしつつも栄子はさりげなく優一郎の右手を取った。両手にその手を握って目を上げる。優一郎はそんな栄子に少し陰のある笑い方をしてみせた。
「ヒューマノイドという存在をご存知ですか?」
そう告げて優一郎はそっと栄子の手を撫ぜた。チェッカーは既にズボンのポケットに忍ばせた。もうとっくにチェッカーの針は振り切られている。今、栄子の精神は強い力に操られているだろう。そして恐らく、栄子の後ろにいる誰かも優一郎の話に聞き耳を立てているのだ。そのことを知りながら優一郎は続けた。
「ヒューマノイドとは機械の身体に人間の脳を組み合わせた機械人間です」
潤んだ栄子の目を見つめながら優一郎は噛み砕いて説明した。事故等で肉体の殆どを失っても機械の身体に組み込むことが成功すれば生き長らえることが出来る。そして現在、その技術は開発途中にあり、現段階では抵抗力のある女性にしかその技術は適用できない。その辺りのことを話している時、栄子はまるで死んだような目をしていた。どうやら裏側にいる誰かが本気で優一郎の話を聞いているらしい。そのことに気付いて優一郎は更に続けた。
「実は母は、そのヒューマノイドの試作機作成のために自らの肉体を差し出す事で、父から結婚の約束をとりつけたんです。ある意味卑怯ですよね」
当時、総一郎はヒューマノイドの研究に明け暮れていた。だがどれほど理論を組み立ててみても、実際に試作してみなければその理論が正しいことは実証できない。そして総一郎は止む無く由梨佳の出した条件を飲んだ。優一郎はそう話して聞かせた。優一郎の手を握る栄子の手に僅かに力がこもる。次いで栄子は胸に優一郎の手を引き寄せた。涙ぐんだ目に見つめられ、少しだけ優一郎の胸が痛む。
由梨佳がどうしてヒューマノイド化したかの説明がここで入ります。
実はこの時まで設定出来てなくて(爆
設定は作るものではなく出来るもの!!(ぉぃ
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栄子との駆け引き 4
あっ、不倫警報とか出すべき!?(汗)
「お気の毒な総一郎様……。あの女に騙されていらっしゃったのですね」
豊満な栄子の胸に優一郎の手が触れる。優一郎は微かに眉を上げた。だがすぐにいつもの微笑みを顔に貼り付ける。大きく開いた胸元から目を逸らす。そんな優一郎の様子は栄子でなくとも照れて困っているように見えた。
「父は研究一筋の人ですからね。恋よりも科学をとったと。栄子さんも、そういう父だからこそ、好きになったんじゃないですか?」
色気に耐えかねたという振りで優一郎はそっと栄子の手を解いた。指先が離れたと思った時、栄子が優一郎に身を乗り出した。肘当てに優一郎の腕が当たる。栄子は殆ど優一郎に圧し掛かるようにして頷いた。
「そうなんですの。私、総一郎様のそういうところが大好きで……ああ、本当にあなたは総一郎様そっくり……」
「えっ栄子さん!」
優一郎は慌てた声を上げた。だがその声はすぐに消える。栄子が優一郎にしなだれかかり、その唇を塞いだからだ。むせるような花の香りに包まれ、優一郎は思わずきつく目を閉じた。母のそれとは全く違う。だが栄子の色香は何故か由梨佳を思い出させる。優一郎は引きずられそうになる意識を懸命にたぐり寄せた。
艶かしく動いた舌が優一郎の唇をそっと割り開く。滑り込んだ舌が口の中を弄り始める。優一郎は震える腕を栄子の腰に回し、その口づけに応えた。栄子はすっかりその気になっているのだろう。貪るように唇を合わせている。優一郎はそっと目を開け、静かに左手をずらした。ポケットからチェッカーを取り出して見える高さに翳す。針はやはり力の強さを示し、振り切られたままだ。
総一郎様、と栄子が呟く。優一郎はされるがままで目を閉じた。栄子の手が優一郎の頬から首筋に滑り、シャツのボタンを外していく。綺麗にマニュキアの塗られた指先がシャツの内側へと潜っていく。栄子は優一郎の首筋に口づけを滑らせ、指先で愛撫をし始めた。慣れた手つきで優一郎の肌を弄る。
これで一応は風の主の罠に嵌ったことになるのかな。ぼんやりと優一郎はそう考えた。恐らく、背後にいる誰かは栄子にその身体を用いて優一郎を誘惑させようとしていたのだ。意図はまだ判らない。だが優一郎にとってはいい機会だった。栄子はその意志を誰かに操られている。それが風の力の持ち主だ。龍神の力と見て間違いない。その力を物理的に遮断できる、という画期的な兵器を開発したばかりなのだ。
「えっ栄子さん、ちょっと、うわっ」
慌てた声を上げて優一郎は身をよじろうとした。まだ女性経験の少ない男性ならば当然の反応だろう。少なくとも演じた優一郎はそう思っていた。栄子の手が優一郎の股間に伸びている。
「総一郎様……ああ……こんなに」
栄子は勃起した優一郎のペニスを服の上から弄った。他者の刺激を受けて優一郎のペニスが張りつめる。指と手のひらで巧みに愛撫しつつ、栄子はじりじりと身体を下げた。ブラウスのボタンを外して胸を露にする。
勃起しきったペニスが剥き出しにされる。栄子はブラジャーのホックを片手で外し、優一郎の股間辺りで屈み込んだ。豊かな膨らみが両側からペニスを柔らかく挟む。その先端を栄子が口に含む。優一郎は思わずため息をついて目を細めた。天井を見つめてその感触をじっくりと堪能する。栄子は乳房でペニスを巧みに弄りつつ、唇と舌でその先端を執拗に攻めた。
「んっ!」
低い呻きを発して優一郎は腰をひくつかせた。迸った精液を栄子が舌で受け止める。栄子は息をついてペニスを口に咥えた。そのまま唇で優一郎のペニスを根元まで扱く。再び先端へと唇で吸い上げられた時、優一郎は思わず眉を寄せた。ペニスに残っていた精液を吸われたのだ。
「美味しい」
口の端に残っていた精液を赤い舌が舐め取る。優一郎は妖艶な栄子の姿にしばし見とれていた。力を失いかけていたペニスが頭をもたげてくる。栄子は艶やかに笑うと優一郎の身体から離れた。大胆にスカートをめくり上げて下着をずらす。黒い下着を床に放り捨て、栄子は改めて優一郎に迫った。
ソファの肘当てに寄りかかりながら優一郎は放心した顔をしていた。豊満な胸の膨らみが目の前に迫ってくる。優一郎は恐る恐る乳房に手を伸ばした。ためらいがちに乳房を揉む。
ヒューマノイドの質感とは明らかに違う。栄子の胸は大きさに比例して少し垂れていた。だが感触そのものは悪くない。吸い付くような肌に指を滑らせ、優一郎は心の中で比較していた。人の身体は左右対称には出来ていない。栄子のそれもやはり同じだった。ごく僅かに左の乳房の方が右のそれより大きい。乳首の感触も斎姫のそれとはまるで違う。柔らかな乳輪の真ん中で一部分だけがしこっている。だがそれもごく自然だ。中にばねが仕込まれているといったことは決してない。
「んっ、あっ! いいわっ!」
つい、いつも斎姫にするように優一郎は栄子の乳首を口に含んでいた。声を耳にして、あ、と気付く。だが栄子に気付いた様子はない。まあ、いいか。優一郎はそう思いながら目を細めて舌で乳首を転がした。自然と手が動いて栄子の腿を弄る。ここまでくれば演技の必要もないだろう。誘惑目的でしなだれかかってきた女性を愛撫するのはごく普通の行為だ。
「栄子さんのここ、見たいな」
指先をじりじりと進め、優一郎は栄子の秘部にそっと触れた。壊れものを扱うようなその手つきに栄子が艶やかに笑う。そして栄子は優一郎をまたいでソファの上に膝で立った。だがそれでははっきりと陰部を確認することは出来ない。優一郎は困った顔で周囲を見回した。ソファセット、観葉植物、そして最後に優一郎は大きな執務机を見つけた。
「もっとはっきり見たいんだけど、だめかな?」
そう告げて優一郎は執務机を指差してみせた。すると栄子は優一郎の手を引いて立ち上がった。ソファを離れて執務机に近づく。優一郎は手を引かれながら栄子に従った。
「私のあそこはどう?」
執務机に座り、栄子は大胆に足を開いてみせた。黒いストッキングに包まれた足が宙に揺れる。腿を手で支え、栄子は潤んだ目で優一郎を見つめている。優一郎の姿は栄子の脳裏で完全に総一郎と重なっているのだろう。上気してはいるが照れた様子はない。それどころか栄子は陰唇を自分から割り開いてみせた。
「可愛いですよ」
女性の秘部が見たい、というのは年頃の男性であれば当然の欲求だ。だからきっと誰も不審には思わない。優一郎はそう思いながらも栄子の秘部をヒューマノイドたちのそれと比べていた。栄子の陰唇は斎姫たちのそれとは違い、少し褐色味を帯びている。生きた人間らしくその形も整ってはいない。爪の赤く塗られた指先が開いた陰唇は微妙に歪んでいる。優一郎はまじまじと栄子の秘部を観察した。
筋金入りのメカフェチなので、優一郎はとっても冷静です。
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栄子との駆け引き 5
愛液の滲んだ秘部にそっと触れる。優一郎は目を細めて軽く栄子のクリトリスをつついた。赤く勃起したその部分は思っていた以上に弾力がある。優一郎は丹念に指先でクリトリスの周辺を弄った。小陰唇もクリトリスも、そして包皮にも繋ぎ目はない。一枚の皮膚がその部位を作っていることがよく判る。感心しながら優一郎は更に指を進めた。栄子の唇から熱いため息が零れる。
意外と作りは雑だなあ。優一郎は呑気にそんなことを考えていた。画像で見たよりも生身の女性器は雑多な作りに見えた。触れる強さの些細な差で反応を違えるヒューマノイドとは大違いだ。優一郎が微妙に指の力に強弱をつけても栄子の反応にさほどの差はない。そうしてみるとヒューマノイドの方がよほど繊細に出来ている。
「あっ、そこ! 上手よ……ああっ!」
しかもどうやら栄子の膣内には感じるつぼのようなものがあるらしい。その部分を弄る時に反応がより強くなる。ふむ、と優一郎は納得顔で頷いた。試しに指先に触れた愛液を口にしてみる。生身らしい独特の匂いときつい塩の味が口に残る。
これが人の雄を触発するのかな。優一郎は口許に微かな嗤いを刻んで内心で呟いた。だが優一郎にとって栄子の女性器は観察の対象にはなるが欲望をそそられるそれではない。それでも優一郎は出来るだけ自然に見えるよう、脳裏にヒューマノイドの女性器を思い描いた。萎えかけていたペニスが力を取り戻す。
そっと右腕を振る。優一郎は左手だけで栄子の女性器を弄りながら右手でジャケットの袖口を探った。仕込んでおいたそれが指先に落ちてくる。カプセルに入ったそれを右の指に挟み、優一郎は静かに立ち上がった。
「そろそろ、入れてもいいかな?」
我慢できない、といった風を装って優一郎は告げた。視線を彷徨わせる。その様子を照れている、と理解したのだろう。栄子は艶やかに微笑んで優一郎の首に腕を回した。
「いいわ……来て」
囁いて栄子が唇を合わせてくる。優一郎は口づけに応えながらペニスを左手で握った。右手で陰唇を割り開きながらカプセルをそっと膣口に挟む。その上からペニスをあてがい、優一郎は一気に腰を前に進めた。
ペニスに押され、カプセルが膣内深くに潜り込む。優一郎は栄子の腰をしっかりとつかみ、ペニスを膣の奥へと突き入れた。カプセルが飛び出して来ないよう細心の注意を払いながら腰を軽く上下させる。
「んっ! そうよっ! もっと……来てぇ!!」
栄子が淫らに喘ぐ。だが優一郎はペニスの抜き差しはしなかった。激しく動けばまだ溶けきらないカプセルが出てくる恐れがある。優一郎は小さく笑って栄子の股間に手を伸ばした。勃起したクリトリスを指で強めに弄る。
膣壁が緊張に僅かに締まる。優一郎のペニスを包み込み、膣壁がひくつく。だがその刺激は優一郎には少し物足りなかった。ヒューマノイドの膣にはあらゆる機能をつけてある。ただ突き入れているだけでヒューマノイドの機体は快楽を感じることが出来るし、それだけで優一郎も達することが出来る。激しい運動をしてしまえば機体が壊れる恐れがあるのだ。もっとも、壊れるほど快楽に溺れたいとヒューマノイド自身が望めば優一郎もそうすることがある。そんな時のヒューマノイドの膣壁は艶かしく優一郎のペニスを扱く。そのことを優一郎はふと思い出した。
「あっ! そこっ……、もっと、突いてぇ! ああっ、んんふぅっ!」
にじるようにペニスに膣の奥を突かれ、栄子がはしたない声を上げる。優一郎はゆっくりと腰を引いた。栄子の腰をつかみ直して腰を前に押し出す。
まあ、これもいいか。優一郎は栄子の絡みつく膣の動きを感じながらひっそりと笑った。最初はゆっくりと腰を前後させる。焦らされていることに気付いたのだろう。栄子は甘えた声で優一郎に快楽を求めた。徐々に腰の動きを激しくする。優一郎は欲求のままに栄子を犯した。
カプセルが溶けきるまで二分。それから仕込んだナノマシンが作動するまで二分。計四分だ。優一郎は壁にかかった時計にちらりと目をやった。挿入してから三分が過ぎている。
「んっ、出るっ!」
掠れた声を上げて優一郎は栄子の腰を強くつかんだ。衝動が一気に身体を駆け抜ける。栄子は声もなく仰け反った。熱い精液が迸り、栄子の膣に満ちていく。優一郎は何度か腰を前後させてペニスに残った精液を全て扱ききった。
かちり、と時計の針が動く。その瞬間、栄子がびくりと身体を震わせた。目から一気に生気が失われる。優一郎は無言でそんな栄子を見守った。ずるりと音を立ててペニスが膣から抜ける。栄子は膣口から愛液と精液の混じった液体を零しながらがっくりと脱力した。
優一郎は片手で栄子を支えながら服を整え始めた。机に置かれたティシュで精液に塗れたペニスを拭う。幸い、服には付着しなかったようだ。優一郎は汚れたティシュをくずかごに放り込み、手早く服を整えた。シャツの外れたボタンをかけ、ネクタイを締め直す。
「……え?」
不意に間近で声がする。栄子は震えながら身体を起こした。慌てたように周囲を見ている。目の前に立つ優一郎に目を留め、改めて栄子は驚きの声を上げた。
「ええ!?」
意識を取り戻した栄子は明らかに取り乱していた。それは当然だろう。知らない間に下着を取り、あまつさえ大股を開いているのだ。しかも秘部は濡れそぼり、今まさに性交していました、と言わんばかりの状況なのだ。これで取り乱さない方がおかしい。
優一郎は冷めた眼差しでチェッカーを見つめた。さっきまで振り切っていた針は今は振れていない。完全に力は遮断できたようだ。
「総一郎……様?」
正気に戻った栄子が恐る恐るそう呼びかける。優一郎は僅かに眉を上げて栄子を見た。栄子はそんな優一郎を見てはっとしたように目を伏せる。ごめんなさい、という苦しそうな栄子の詫びを聞きながら優一郎はチェッカーをポケットに戻した。どうやら完全に正気に戻っているのは確かなようだ。些細な自分の変化をきちんと栄子が見取ったことが何よりの証拠だ。そう思いながら優一郎は小さく笑った。
「ご要件を承りましょうか? 如月さん」
ポケットに手を突っ込んだまま、優一郎は栄子に向き直った。この時、優一郎と栄子の立場は完全に逆転した。
栄子が正気に戻りました。
某スカウターとか作ってしまう総一郎博士って……
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野木と賠償金額交渉中
足りなかったのでちょっと要らんものを書きました(汗)
床に当たった箸が乾いた音を立てる。
「ですから賠償金額は……え?」
「やられた……」
野木と順の声が重なる。順は唖然とした顔で中空を見つめていた。
「高いですか? 被害を考えれば随分と格安と思いますが」
野木の不服そうな声は順の耳に届いていなかった。順は取り落とした箸を拾いながらぎり、と歯軋りした。まさかそういう手で来るとは思わなかった。
「あなたが壊したテーブル、椅子、それから引っくり返した生徒たちの食事代、ああ、それから周藤の治療費も含まれているんですよ? これでもかなり割り引いた額なんですけどね」
「あ、ああ。いや、ごめん。そだよね」
それまで順は野木に執拗に値引きしろとごねていた。野木は渋い顔をしたが何とかそれだけの金額にまで下げてくれたのだ。そのことを順は遅まきながら思い出した。まだ残っている素うどんを見つめつつ、口の中でそうだよね、と呟く。
完全に糸が途切れてしまった。これではトレースはおろか、周辺の様子を探ることすら不可能だ。順は自然と口許に皮肉な笑みを浮かべていた。
「木崎さん?」
反応の鈍い順に業を煮やしたのだろう。野木が少し声を荒らげる。順は慌てて愛想笑いしつつ野木の手元を覗き込んだ。
「わお、このテーブル代、もちょっとまけてくんない?」
「駄目です」
外では生徒たちの楽しそうな声がしている。生徒会室には順と野木の二人きりだった。順は情けない顔で落とした箸を目の高さに翳した。あーあ、と力なくうなだれる。すると呆れたように野木がため息をついた。立ち上がって壁際に設えられた棚に向かう。野木は棚を探って真新しい割り箸を順に差し出した。
「サンキュー。ここってほんとに何でもあるねえ」
感心しつつ順は割り箸を割った。軽い音を立てて箸が二つに分かれる。だがどうも力のかけ方がおかしかったらしい。順は情けない顔で割り箸を見た。偏った割れ方をした箸を見やり、野木が深々とため息をつく。
「……我慢してそれで食べてください」
「だって縁起悪いじゃあん。も一本ちょうだい」
「話を逸らそうとしても駄目です」
今度はきっぱりと告げ、野木は再び見積書に向き直った。つくづく真面目な男だ。順は内心でそう呟いてじっと箸を見つめた。
******
まさかの1,000字足らず!><
蛇足ですがここに何か書かないとアップ出来ませんね。
野木と周藤のコンビはこの先もちょいちょい出てきます。
現在進行形で書いてるブツにも出てきているのですが……
未だに周藤には下の名前がありませんw
惜しかった……900字でした。
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目覚めたけど調子が悪い
これも足してあります……。
爽やかな朝だった。その日も立城はいつもと同じ時間に目が覚めた。窓から差し込む明かりはカーテンを通っているために柔らかい。大きなベッドの中で身じろぎし、立城はゆっくりと身体を起こした。
寝室にはクラシック音楽が流れている。立城は腕を上げて大きく伸びをした。
「おはようございます、立城様」
静々と紅梅が入ってくる。立城は朝の挨拶を交わし、差し出された新聞を手に取った。ぬるめに入ったハーブティを片手に新聞にざっと目を通す。素早く株価計算をしつつ立城はベッドサイドに手を伸ばした。小皿に盛られたチョコレートを一つつまむ。それを口に放ってから立城はあれ、と首を傾げた。
「これ、もしかして多輝が作った?」
「はい。昨日、奈月様とご一緒にキッチンで」
「へえ。けっこう上手いじゃない。うん、美味しいよ」
二個目を口に入れて立城は頷いた。何事もない平穏な朝の始まりだった。紅梅が静かにカーテンを引き、日差しを寝室に招き入れる。窓を開けると少し冷たい秋の風が寝室に入ってきた。紅梅はいつもこの窓から小鳥に餌を与えているのだ。今日も紅梅はパンくずを片手に小鳥を呼んだ。
高い指笛の音に呼ばれ、小鳥たちが集まってくる。立城はそれを横目にのんびりと新聞をめくった。記事を頭に叩き込む。特に必要という訳ではないが、それは立城の習慣になっていた。
朝の時間はゆっくりと過ぎる。姿見に向かってネクタイを結び、立城はよしと頷いた。力は大分戻ってきている。今まで早く回復するために力を使うことを控えていたのだ。だがさすがに一週間も経てば問題はない。立城は姿見から視線を外し、ドアの横を見た。丁度、その位置に花瓶に活けられた花がある。
おもむろに手を伸ばす。立城は狙いをつけて極度に絞った力を指先から放った。力は過たず花目掛けて飛んでいく。だが力が弾けた瞬間、立城は目を見張った。
花瓶が粉々に砕けて散る。活けられた花の一輪、しかも花弁の一片だけを飛ばすつもりだった立城はその光景に絶句した。
「……立城様?」
姿見を支えていた紅梅がため息混じりに呼びかける。立城は力なく笑いながら姿見に向き直った。
「何だか嫌な予感がするなあ」
鏡に映った立城は困惑気味な笑みを浮かべていた。
*****
また900字!
当時は字数とか考えずに段落切ってたので、当然短いのもあるんですが……。
狙ったように二話!!><
立城のしもべ? 的存在の使い魔ですが。
前に水輝が愚痴ってたように女性しかいません。
紅梅というのも女性の使い魔です。
900字……。
すみません、これもちょっと足しました。
ネタバレというほどではない小ネタです。
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朝のチョコレートと喧嘩 1
エロシーンはありません。
白い皿に乗せたチョコレートを落とさないよう、注意深く階段を昇る。多輝は片手にティセットの乗ったトレイを支え、もう片方の手にチョコレートを乗せた皿を持っていた。レストランの給仕のように手のひらでしっかりとそれらを支えて階段を昇りきる。
今日は珍しく朝から由梨佳の姿が見えない。使用人の話だとどうやら休暇を取って家に戻っているようだ。まあ、ずっとここにいる訳にもいかないか。多輝は使用人からその話を聞いた時にそう思った。由梨佳はあくまでも夫持ちの主婦だ。いつもいつも泊り込みで働く訳にもいかないだろう。そう考えると少し気分が沈む。多輝はため息をついて立ち止まった。
今日は朝から空は快晴だ。秋晴れの空は澄み切っている。廊下の窓から覗く青い空を見ても多輝の心は晴れなかった。由梨佳がいないということがとても寂しく感じられる。もう一つため息をつき、多輝は再び歩き出した。
昨日はとても楽しかった。多輝は元々、料理をするのは嫌いではない。昨日は多輝と奈月、そして由梨佳を加えた三人で菓子を作った。それは多輝にとって初めての経験だった。これまで料理をしたことはあるが、わざわざ菓子類を作ろうとしたことはない。一度だけ、ケーキを焼こうかなと考えたことはある。だがその理由を多輝は思い出せなかった。どうせ大した理由じゃないか。どれだけ記憶を辿っても思い出せなかったため、結局多輝はその理由について考えるのをやめた。
角を曲がって進む。多輝は目的の部屋にたどり着いてドアを軽くノックした。だが返事がない。首を傾げて多輝は再度、ドアを小さく鳴らした。だがやはり中から声は返ってこない。きっと疲れて寝てるんだな。多輝は苦笑しつつそっとドアを開けた。きっと急に姿を現したらびっくりするぞ。そんな悪戯心から多輝は黙ってその部屋に入った。
窓にはレースのカーテンがかけられている。窓枠に小鳥が数羽、とまっている。きっと餌でも貰いに来ているのだろう。多輝はそっと微笑を浮かべて部屋を見回した。愛らしい色合いの壁にはパステルカラーの絵がかけられている。小さな本棚に詰まっているのは料理の本だ。机の隅には一台の端末がある。愛らしい部屋に何だかそれが不似合いな気がして多輝は思わず顔をほころばせた。
部屋の一番奥にベッドがある。真っ白なシーツにくるまって眠っているのは奈月だった。多輝は起こして驚かせてやろうと足音を忍ばせて奈月に近づいた。眠る奈月の顔を少しの間、見つめる。そして多輝はサイドテーブルに静かにティセットを置いた。皿を片手にそっと奈月の肩に手をかける。
「奈月さん?」
声をかけつつ多輝は奈月の身体を軽く揺すった。どうやら目が覚めたのだろう。奈月が瞼を擦りながら片目を開ける。
奈月はゆっくりと身体を起こして乱れた髪を手櫛で整えた。
「んっ、おはようございます……。あれっ?」
多輝は絶句して吸い寄せられるように奈月を見つめていた。手から皿が自然と滑り落ちる。奈月は多輝の顔をしばし見てから慌てた声を上げた。ずり落ちていた毛布を焦りながら胸元に引き寄せる。
「ごっ、ごめん!」
奈月は何も着ていなかった。多輝は慌てて背を向けて目を硬く閉じた。白い肌が瞼の裏に焼きついている。顔が勝手に熱くなる。奈月も頬を真っ赤に染めて毛布に顔を埋めてしまった。
「多輝さん! 早く逃げてください!」
白い肌と魅力的な乳房、淡く色づいた乳首。それらの事を思い出していた多輝はそんな奈月の叫びにすぐには反応出来なかった。え、とゆっくりと振り返る。それまで照れていた奈月は一転して心配顔になっている。毛布からほっそりとした肩がはみ出している。多輝はそれに見とれて言われている意味を理解することが出来なかった。
「くそがき……。てめえ、そこで何してやがる」
不意に聞いたことのある声が背後から届く。多輝は嫌な予感を覚えつつも振り返った。開きっぱなしにしていたドアのところにいつの間にか水輝が立っている。多輝は思わず水輝と奈月を見比べた。
「あの、水輝さん! 多輝さんはその! きゃっ!」
唐突に毛布が浮く。それは懸命に訴えかけようとしていた奈月の頭に被さり、彼女の姿を完全に隠した。多輝はその有様に言葉を失い、毛布の中でもがく奈月をただ唖然と見守った。
「おれのいない間に奈月の身体を見ようなんざ、いい度胸だ。その度胸だけは誉めてやるぜ」
そう言いながらゆっくりと水輝が近づいてくる。肩にタオルをかけているところを見ると、きっと顔でも洗いに行っていたのだろう。そう理解して多輝は慌てて首を振った。まずい。絶対にやばい。それだけがはっきりと判る。
「い、いや、おれは別にそういうつもりじゃ」
「つもりがあろうがなかろうが、見たってことには変わらんだろが!」
一気に間を詰め、水輝が多輝の胸倉をつかむ。避ける間もなく多輝は床に叩きつけられた。その衝撃を受け、散らばっていたチョコレートが一瞬、宙に浮く。顔面を強烈に殴打され、頭が一瞬ぐらつく。だが多輝は素早く身を起こして水輝から飛び離れた。反射的に身構える。
名前がそっくりなので見間違う方もいらっしゃるかと……(汗)
すみませんすみません。
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朝のチョコレートと喧嘩 2
「いきなり殴るこたねえだろ! 大体、てめえが何でここにいる!」
「何でおれがわざわざくそがきの質問に応えなきゃなんねんだよ。阿呆」
そう吐き捨てるなり、水輝は急に姿を消した。え、と息を飲んだ多輝の真横に唐突に現れる。鋭い息遣いが聞こえた瞬間、多輝は壁に叩きつけられていた。
多輝は訳が判らなかった。奈月は前から自分と友達として接してくれている。そんな友達の部屋を訪ねることがそんなにいけないことだろうか。多輝は水輝が何故この屋敷にいるのかを全く理解していなかった。
血の滲んだ唇を拭う。多輝は歯軋りして立ち上がった。水輝はのんびりとそんな多輝を眺めている。口許に浮かぶ嗤いを見止めた多輝の心に言いようのない怒りがこみ上げた。
「……やりやがったな! てめえ!」
床を蹴って多輝は一直線に水輝に飛び掛った。水輝がシャツの胸のポケットから煙草を取り出し、のんびりと唇に挟む。多輝は怒号を上げて水輝に殴りかかった。勢いをつけてこぶしを繰り出す。
「相変わらず真っ直ぐすぎるなあ、くそがき」
口許に嗤いを浮かべ、水輝は片手で多輝のこぶしを受け止めた。空いた手でライターの火を灯す。
「余裕くれてんじゃねえぞ!」
今度は負ける気はない。多輝はふわりと身を屈めて足払いをかけた。だが水輝は多輝の脛をきっちりとかかとで踏む。それだけで多輝はあっさり動けなくなった。
「終わりか? つまんねえなあ、相変わらず」
やれやれ、と肩を竦めそう吐き出した瞬間、水輝は足に力を込めた。激しい音がして多輝の脛の骨が砕ける。煙草を歯で挟み、かかとで砕けた多輝の足をにじる。多輝は声にならない悲鳴を上げて仰け反った。
水輝がゆっくりと手を開く。解放された多輝は砕けた足を抱えて歯を食いしばった。意識を集中すると一瞬で傷が回復する。それを見た水輝が口笛を吹いた。
「へえ……。少しは成長してるじゃねえか。くそがきの分際で」
嗤いながら水輝が吐き出した時にはもう、多輝は動いていた。相変わらず水輝からは絶大な力を感じることが出来る。そしてその強大すぎる力を多輝は本能的に恐れていた。だがそんな恐怖を凌駕するほどの怒りに支配される。多輝は強く床を蹴り、水輝の懐に飛び込んだ。水輝の胸倉をつかみ、身体を沈める。素早くかけた多輝の足払いが水輝の足にヒットする。
「甘いなあ」
耳元に囁きが聞こえたと思った途端、多輝は床に転がされていた。水輝が多輝の軸足を絶妙のタイミングで払ったのだ。だが多輝には何がどうなったのかが判らない。再び身体を起こし、今度は水輝の足目掛けて腕を伸ばす。だが届く一瞬前に水輝は片足を振り上げていた。勢いのついた多輝の身体は止まらない。飛び掛かる多輝の肩を目掛けて水輝は踵を落とした。
嫌な音が身体の中に響く。多輝は激しい痛みに叫び声を上げた。水輝の踵は多輝の肩に食い込み、肌を裂いて機体内部に食い込んでいた。
「どうせ体術じゃおれにかなわないんだ。全力で来いよ」
煙草をふかしながら水輝はのんびりと告げる。多輝は機体にめり込んでいる水輝の足を力任せに振り払った。床に倒れこんで震える手を壊れた肩に伸ばす。
「……ぶっ殺す」
多輝は低い声でそう吐き捨てた。痛みが酷すぎて視界が揺れている。歯軋りをして壊れた肩に力を注ぐ。そんな多輝を嘲笑いつつ見下ろし、水輝が告げた。
「やれるもんならやってみろ。くそがき」
嗤い混じりの声だけで水輝の表情が見えてくる。多輝は額に汗を滲ませながら懸命に傷を修復した。僅かの間、部屋に静けさが流れる。乱れた呼吸を整え、多輝は手の中に力を集めた。淡い燐光が多輝の身体を包む。
「伏せてろ、奈月!」
水輝の怒声が飛ぶ。その一瞬後に多輝は水輝目掛けて力を放出した。紺の光が一直線に水輝に襲い掛かる。だが水輝は煙草をくゆらせながらゆらりと光に手のひらを向けた。
水輝を貫く筈だった多輝の光は手のひらの直前で静かに止まってしまった。多輝はその光景を声もなく見つめた。力を放った手が震え始める。水輝は片手一本で易々と力の塊を受け止めてしまったのだ。加減した覚えはない。それは紛れもなく多輝の渾身の一撃だった。
「この程度の力でおれに向かってくる度胸は認めてやるよ」
水輝は小さく笑って呟くように告げた。次の瞬間、その顔に狂気じみた嗤いが刻まれる。それを見た多輝の全身は急に凍えた。かたかたと耳障りな音が聞こえる。それが自分の歯の鳴る音だと気付いた時、水輝は腕を軽く振った。
手の先に留まっていた紺色の光が輝きを増して収縮する。
「力ってのはなあ!」
叫びが部屋を揺らす。激しい音が鳴って水輝の姿がかき消える。高速で移動しているため、多輝の目には水輝の動きが見えないのだ。多輝は愕然と水輝の消えた場所を見つめていた。
唐突に肩をつかまれる。水輝は多輝の真正面に出現した。多輝は目を見張って息を飲んだ。煙草の先に灯る赤い火が揺れる。
「こう使うんだよ!」
何かが機体を破壊する。多輝は激しい衝撃に絶叫した。水輝は左手にした紺の力を多輝の機体にねじ込んでいた。次の瞬間、多輝は壁に向かって吹き飛んだ。窓が破れ、壁が砕ける。奈月の悲鳴と共に多輝の力は機体内で爆発した。
まだ機械娘が書けてません!(自白
すみませんーー!!><
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現実逃避したいなあ
足りない分は水増ししました(汗)
「いい天気だよね……」
「……はあ」
立城はにっこりと笑った。ばらで埋め尽くされた庭先には真っ白なテーブルと椅子がある。そこについて立城と蒼は茶を飲んでいた。立城はテーブルの上に零れたチョコレートをつまみあげ、包みを丁寧にむいた。
「あの……立城様。お茶が零れています」
テーブルの上で二つのカップは見事にひっくり返っていた。それをぼんやりと見つつ蒼が告げる。立城は微笑みを浮かべてああ、と返事した。倒れたカップを起こし、新しく茶を注ごうとポットに手を伸ばす。だがポットはテーブルからなくなっていた。先ほど置いていた場所から視線を動かしてポットを探す。どうやらこちらはテーブルから落ちたらしい。立城は困った顔でテーブルの下からポットを取り上げた。
「新しくいれないと駄目だね」
心底残念そうに立城は告げた。高価なポットは真っ二つに割れている。蒼は立城の手から壊れたポットを引き取り、深々とため息をついた。
「お気持ちは判りますが、早く処置した方がよろしいのでは?」
「うーん」
立城は眉を寄せて返答してから空を仰いだ。雲一つない綺麗な空を鳥が横切る。蒼は心の底から疲れたため息をついて立城の背後を指差した。立城は仕方なくそちらを振り返った。
地面に半ば埋まるように多輝が倒れている。その機体は半壊していた。
「僕、出来ればもう少し現実逃避していたいな」
「……」
蒼が言葉もなく首を振る。立城は駄目? と目で蒼に問い掛けた。蒼は困った顔で上を向く。屋敷の二階のその場所は窓が割れ、壁が壊れ、その瓦礫が今もまだ時折、崩れ落ちている。
「主に代わってお詫びいたしますので、何とぞ多輝様の手当てを」
蒼は疲れたようにそう告げて深々と頭を下げた。立城はため息をついてやれやれ、と肩を竦めた。仕方なく立ち上がる。嫌な予感が当たったかな、と内心で呟きつつ、立城は多輝に歩み寄った。
*****
まさかの700字!!!><
これは前のやつにくっつけるべきでは!!
……とか思ったのですが、別シーンなので分けました。
蛇足がまたつきます。すみません。
この時点で立城の様子はちょっと変です。蒼は通常営業なんですけどねw
この二人がやり取りしてる時って大抵、不穏な感じでして(汗)
今後も出てきますがろくなシーンはありません。
(エロシーンも確かあった気が……うろ覚えですが)
そもそも蒼は水輝の使い魔として造られたモノですが、実際には微妙というかー。
水輝が使い魔をまともに使ってることってあんまりなくて。
昔の話で一度くらいはあったかな……??
という感じです。
長いシーンに短いシーンを挟むことはよくあります。
こういう発表の機会を得るとは、当時は思っていなくて。
なーんも考えずに書いたらこうなりました。
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自覚した劣等感 1
エロシーンはありません。
とりあえずは栄子を落ち着かせるのが先だろう。そう考えた優一郎は話の続きを別の日にしよう、と栄子に提案した。慌てていた栄子は優一郎のその提案に即座に賛成した。
その日は朝からとてもいい天気だった。秋空は高く、澄んでいる。優一郎は窓からそんな空を見上げ、次いで部屋の中を振り返る。あれから数日が過ぎている。少しは栄子も落ち着いたのだろう。あの時とは違い、優一郎を熱い目で見ることもない。優一郎は出された紅茶を礼を言って受け取った。栄子は頷いてソファに戻った。花の香りがする紅茶を一口味わう。ソーサーに触れたカップがかちりと音を立てた。
「力は便利なものです。ですが、力の行使にはリスクが伴います。しかし、力を持つ龍神の中でも、そのリスクをきちんと認識している者はあまり居ないのが現状なんです」
全てを説明すれば栄子はもしかしたらパニックに陥るかも知れない。本来であれば信じがたい話だろうが、栄子は実際にその力に晒されたのだ。優一郎が素直にありのままのことを話せば、納得は出来なくとも本当のことなのだと思うだろう。少なくともその程度の衝撃はあの時に受けている筈だ。
栄子は優一郎がそう話を切り出した時に静かに俯いた。龍神、という言葉の意味を理解できなかったのだろうか。優一郎はそう感じて説明をしようとした。が、それを制するように栄子が口を開く。
掠れた小さな声で栄子は一人の男性の名前を言った。木崎順。順はルポライターと称して栄子に接触してきたのだという。栄子は当初、順を木村財閥系企業のスパイと睨んだ。そして順を騙して有益な情報を手に入れようとしたのだという。だが順は栄子より先に動いた。順は騙された振りをしつつ、K2インタラクティブの女子社員全てを陥れ、栄子側の情報を欲しいだけ先に手にしていたのだ。
気付いた時にはもう、栄子は順の罠に嵌ってしまっていた。そして順はとある話を栄子にしたのだという。その話を耳にした時、優一郎は僅かに表情を歪めた。順は栄子に龍神やハンターにまつわる話をして聞かせたのだという。だがどれほど信憑性のおける話なのかは正直なところ、栄子にも判らないらしい。
栄子にその時、自覚があったかどうかは判らない。だが順の力は確実に発動した。少なくとも優一郎を誘惑した件については栄子もはっきりとした意志を保ってはいなかったらしい。話し終えた栄子はそっとため息をついた。心のどこかにつかえていたものが取れた顔をしている。
「力を使用することで、彼は栄子さんを操ることに成功しました。逆に言えば力を使わねば目的を達成できなかったということですが」
順の本心がどこにあったのかはこの際、問題ではない。その力を使ってしまったことが問題なのだ。優一郎はそう言い置いて再びカップを取った。栄子は戸惑った面持ちをしつつも優一郎の言葉に頷く。
「それは力を使わなくても可能だった。きちんと栄子さんの事を理解し、きちんと手順を踏んで相互理解を深めれば、力を行使せずとも可能だったはずのことなんです」
栄子は総一郎と優一郎を同一視した。もし、例えば順が力を行使しなかったとして、栄子が偶然にでもいい、優一郎と出会うことがあったとして、それなら同一視しなかったかどうかは優一郎にも判らない。力を行使するかどうかを決めたのは紛れもなく風の主である順だ。そして順は実際に栄子に力を使った。それは必要であると判断したからだ。
力を行使するにはリスクが伴う。それは龍神たちであろうが人であろうが変わりない。力、とはエネルギー等を指す。それらを用いる際に何らかの現象が起こるのは自然なことだ。
力は目に映らないものも全て物質界に影響を及ぼす。力を行使することとは、とあるエネルギーを別の形に変化させるということだ。単純に力の移動を行うだけでも周辺には影響を及ぼすだろう。
そして彼ら龍神の用いる力が周囲に与える影響は絶大だ。例え彼らにとって小さくとも、その力は人々にとっては脅威でしかあり得ない。そんな力を乱雑に行使したらどうなるか。そこまで考えて優一郎は深いため息をついた。
「力を行使した理由もあるのでしょうが、軽率だったと思います。栄子さんの行動は明らかにおかしかった。それは今、力から解き放たれた栄子さんが僕をきちんと理解し尊重してくれていることを考えれば明白です」
言っていることに嘘はないつもりだった。だが全てが真実であるという保証はない。優一郎は栄子に説明しながら、ふと順のことを考えた。木崎順。その姓には覚えがないが、順という名にだけなら覚えがある。いつだったか届いたメールの最後に記されていた名前がそれだ。
木村、順。木村財閥の当主が一体、どうしてここになって関わってきたのかは判らない。だが優一郎はそれなりに順に反発を覚えていた。力を用い、栄子を操る。そして順はまんまと優一郎の口から本音を引き出してしまったのだ。それが順が意図したことではなかったにせよ、優一郎は自分で気付いてしまった。そう、優一郎は総一郎に激しいコンプレックスを感じているのだ。それまでずっと目隠しし続けていた思いが、あの瞬間に流れ始めてしまった。
設定は書いてたら出来るモノ~!!w
というくらい、プロットなしで書いてます。
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自覚した劣等感 2
幼い頃から家族であった由梨佳と絵美佳は優一郎をとても可愛がってくれた。彼女たち同士の仲は悪かったが、個別に優一郎に接する時の彼女たちはとても優しかった。家族である彼女たちから惜しみない愛情をたっぷりと注がれて優一郎は育った。……少なくともあの瞬間まで、優一郎はそう信じていた。
だが彼女たちがもしも総一郎の代替品として自分を見ていたのだとしたら。あの時に優一郎は自身でそう言いつつも内心で驚愕したのだ。そう、確かに彼女たちは総一郎をとても好いている。そして自分はそんな総一郎に似すぎるほどによく似ている。もし、彼女たちの愛情が歪んだものだったとしたら? いや、あの時の優一郎は確信したのだ。間違いない。由梨佳も絵美佳も優一郎自身ではなく、優一郎を通して総一郎を見つめていたのだ。
あの瞬間、優一郎はそれまでに感じたことのないほどの激しい感情を覚えた。それはきっと怒りなのだろう。後に優一郎は抑えきれない感情をそう自覚した。そして今、優一郎は怒りを抱いたまま栄子に接していた。
だが栄子に怒りをぶつける気にはならない。彼女もまた、力の被害者なのだ。
「彼と栄子さんの関係がどのようなものだったかは僕にはわかりません。栄子さんが彼を信頼していたかどうかはわかりません。ですけど、彼が栄子さんを信頼していなかった事は明らかですよね」
栄子はずっと俯いている。もしかしたら泣いているのかも知れない。時折、顔に手が触れる。優一郎は目を細めてそんな栄子を見た。手にしていたカップをそっとソーサーに戻す。
「ごめんなさい……。あなたを傷つけるつもりはなかったんです……。けど」
がむしゃらに働いて家に戻る。だがその家には夫はいない。栄子はもうずっと長い間、そういう生活をしてきた。きっと寂しかったのだろう。順が現れたことは栄子にとっては救いの手に等しかったのかも知れない。優一郎は栄子の心情を思いながら痛ましさに顔を歪めた。
「この事を知らせないまま、放っておくこともできないと、そう判断しました」
「……そうですわね。どうもありがとう」
まだ栄子は俯いたままだ。だが揺れる声が礼を述べる。そして栄子はきっちりと面を上げた。その頬は涙に濡れている。それでも栄子は微笑を浮かべた。それがきっと精一杯だったのだろう。口許は震えている。
「本来の用件については、また機会を改めましょうか?」
感情の昂ぶった状態では話しにくいだろう。そう思って優一郎は告げた。だが栄子ははっきりと首を横に振る。気丈なその態度は本当は栄子の虚勢だったのだろう。優一郎は無言で答えを待った。
「いいえ。二度も出向いてくださったのにそういう訳には参りません」
白いハンカチで顔を拭い、栄子は立ち上がった。部屋の片隅に据えられた端末に寄る。栄子が何かを手にして戻ってくる。
「娘の話で申し訳ないのだけれど、ぜひあなたのお力をお借りしたくて」
そう言いながら栄子は優一郎に一枚の光ディスクを差し出した。タイトルも何もないディスクケースを優一郎は受け取った。引っくり返してみる。だがケースの裏にも何も書かれていなかった。
「やはりその件だったんですか……姉と、要さんとのトラブルについては僕も知っていて、ずっと懸念してきました」
要と絵美佳は事あるごとに衝突している。いや、絵美佳に言わせれば一方的に要が絡んでくるらしい。そして要は勝負を持ちかけた末に悉く惨敗しているのだ。絵美佳にとっては実験の一環だそうだが、要は勝負を持ちかける度に母親である栄子に泣きついているようだ。栄子の話から優一郎はそのことを知った。
優一郎にとって栄子の申し出は願ってもないことだった。栄子と総一郎はかつて今の彼女たちと同じように事あるごとに戦ってきたらしい。だがその度に総一郎が勝利している。
「ごめんなさいね。……今回は実は要さんにはお願いはされていないの。ですけど……親ばかかしら。要さんの助けになれればと考えるのは」
「あのその件なんですけど、実は僕のほうからも、要さんへの協力を申し出ようと思っていたんですよ」
申し訳なさそうにしている栄子に優一郎は笑顔で告げた。恐らく栄子は自分が協力していると要に知られたくはないのだろう。そしてその条件は優一郎にも好都合といえる。
栄子は言葉をなくして優一郎を凝視した。その目は総一郎を見るそれではない。あくまでも優一郎個人を相手にしている。そのことを確認して優一郎はにっこりと笑った。
「姉に勝つために。そして父に少しでも近づき超えるための第一歩を歩き出すために」
我ながら無謀だと思うけどね。優一郎は心の中でそう付け足した。栄子がそんな優一郎を感心したように見つめる。その目にはそれまでにない何かがこもっている。優一郎はだがそれに気付かないふりをした。
昼食をご一緒にどうかしら。そんな栄子の誘いを丁重に断り、優一郎は部屋を出ようとした。だがドアを開けて廊下に出る寸前に栄子がためらいがちな声をかけてくる。
「あの……もし宜しかったらまたいらしてくださるかしら?」
栄子のその目には覚えがある。いつだっただろう。多輝がそんな目をしてみせたことがある。優一郎は懐かしさにそっと笑い、次いで栄子に頷いた。
「ええ、いつでも、というわけにはいきませんけど、機会がありましたら、ぜひ」
名残惜しげな栄子を残し、優一郎は静かにドアを閉めた。
栄子さんはこいつらの中では真っ当だと思う……
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欲しいものは欲しいから
青空を一羽の烏が横切る。目深に被った帽子のつばを上げ、順は苦笑を浮かべた。硬いコンクリートの感触が背中に心地いい。
「これはもう戻れないなあ」
順はくすくすと笑って左の耳をそっと押さえた。まだあの心地良い声は耳に残っている。軽く勢いをつけ、順はコンクリートの屋上で身体を起こした。耳に入っていたイヤホンがその拍子に抜ける。
グレーのコンクリートの上には小さなラジオのような機械が置かれている。イヤホンのコードはその機械から伸びていた。順は腕を伸ばして機械を拾い上げた。もう、用はない。電源を落としてそれをポケットにしまいこむ。
思い出すと心地のよさに背中がざわめく。独特の声だった。順はしばらく目を閉じてその声を思い出した。柔らかな響きをしているのに、強い意志を感じる。
「まあねぇ。タダモノじゃないとは踏んでたけどさ」
そっと目を開ける。屋上を囲むフェンスが真っ先に目に飛び込んでくる。順は口許に嗤いを浮かべて帽子のつばを下げた。目元に影が落ちてくる。
高性能の盗聴器は栄子の部屋の中で交わされた会話を全て拾っていた。片方は聞き慣れた栄子の声だった。もう片方の声に聞き覚えはない。だが順はその声の持ち主を知っていた。
吉良優一郎。順は口の中で優一郎の名を呟いた。以前から目をつけておいた立城の関係者だ。順は何度か優一郎の名を呟いて軽く俯いた。全身がぞくりとするような快感がこみ上げてくる。
「いいなあ、優一郎くんかあ。……いいなあ」
心底、嬉しそうに順はそう呟いた。軽い足取りでフェンスに近づき、手を伸ばす。つかむと金属の硬さが指に伝わってくる。
ああいう子、嫌いじゃないんだよねえ。内心で順はそう呟いた。耳の奥にはまだはっきりと優一郎の声が残っている。しかもどうやら優一郎は怒っていたようだった。その感情が僅かにこもった声を聞いているだけで、順は自分が興奮していることを知った。
声に宿った強い力に晒されたくなる。順は少し舌を出して唇を舐めた。
「欲しいなあ、あれ」
フェンスをつかむ手に力をこめる。ぎり、と音を立ててフェンスは順の指に食い込んだ。痛みが襲ってくる。強い力を受けたフェンスが指の皮膚を切り裂いていた。血の雫がフェンスに沿ってゆっくりと流れていく。
口許に嗤いを浮かべて順はフェンスから手を離した。両手をそっと開く。指は十本、全て傷ついていた。
「痛いだろうなあ。強いだろうなあ。……欲しいなあ」
血に塗れた手を見下ろしながら順はくすくすと笑い出した。手のひらに血が溜まり、コンクリートに赤い染みが一つ、また一つと出来る。順は出血にも構わずシャツのポケットに手を伸ばした。煙草を器用に一本だけつまんで引き抜く。ライターをつかむ手が自然と震えて上手く火が点かない。だが何度か石を弾くとライターに赤い火が灯った。
炎が揺れる。順はしばらくライターの炎を見つめていた。
「いいこと考えた。そうだ、そうしよっと」
煙草の先を炎に触れさせる。小さな音を立てて煙草に火が灯る。順は血だらけになったライターを軽く放り投げた。
「あの声で鳴いたら最高だもんねぇ」
言いながら軽く腕を振る。順が受け止めたライターは手の中で粉々に砕けていた。
これも短すぎるかも、と思ったら1,000字は何とか超えてました(汗)
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軽い手合わせのつもりが 1
あ、エロシーンはありません。
「そりゃ、相手するのは構わないんだけどさ」
眉を寄せて水輝はこめかみを指で強く押さえた。屋敷の中にどう組み込まれているのだろう。畳が何枚も敷き詰められたその部屋で水輝は低く呻いた。何故、格技場なのだろう。どうして格闘なのだろう。そして何故自分はわざわざ付き合っているのだろう。色んな疑問が頭を巡る。
「うん、ちょっと調子が悪くてね。力の調整が上手くないんだ」
傍目にも立城の様子がいつもと違っていることは判る。何しろ身体から常時淡い光が零れているのだ。人の目には映らないだろうが、その光は水輝にとってははっきりとよく見えた。
立城は常時、その力を完璧に隠している。例えば何も知らない龍神を立城の元につれてきたとしよう。恐らくその龍神は立城の正体に気付かない。それがもし八大と呼ばれる自分たちであったとしても、まず間違いなく判らない。少なくとも立城は水輝がそう認めるほど注意深く気配を殺しているのだ。
「さっきもテーブルを一台駄目にしてしまってね」
「……お前がか?」
聞いてすぐに水輝はその話を信じなかった。自分ならともかく立城がそんな真似をするとは到底思えなかった。だが立城は困ったように笑いながら頷いてみせる。
「どうも食べ合わせが良くなかったらしくて。多輝を抱いたのがまずかったみたいなんだよね」
真顔で立城が続ける。水輝は片頬を引きつらせて息を殺した。
「君でしょ。由梨佳さんでしょ。で、多輝。……相性が悪そうじゃない?」
「おれじゃないだろが! それは! いや、おれなんだけども!」
水輝は頭をかきむしりながらそう喚いた。生真面目に指を折って数えていた立城がえ、と顔を上げる。その反応がいつもと違うことも水輝を苛立たせた。
立城はあの時、女性である水輝から歪んだ力を吸収していた。少しずつ、ゆっくりと水輝の力を削いでいたのだ。だがある夜、吸収した直後に由梨佳が執務室に現れた。歪んだ力を正常化させ、その後に然るべきところへと力を移し変える。だがその作業にはある程度の時間を要する。もちろん、立城の体力そのものが回復した後に作業は行われる。
その作業が完全に終わる前に由梨佳が現れる。立城は歪んだ力の望むままに由梨佳を抱いた。壊れるまで由梨佳を犯し続けたことにより、歪みが強くなる。そして立城はその後に欲望の赴くままに多輝を抱いたのだ。
「思うにあれがいけなかったんだよね。まあ、多輝の記憶処理は出来たようだからとりあえずは問題はなかったんだけれど」
立城は思案顔でそう告げる。その言葉はどこか自信がなさそうだ。水輝はそんな立城を見て少し目を細めた。どこかで何かが狂っている。その原因は恐らく女性である水輝の残したあの力だ。
口許に指をあてがい、立城は黙した。水輝は無言で立城から離れた。驚いたように顔を上げる立城を余所に、壁際まで移動する。
「いいぜ。相手になってやる」
そう言いながら水輝は静かに振り返った。ポケットに突っ込んでいた手を抜き、目を閉じる。次に目を開いた時、水輝は立城を鋭い眼差しで睨みつけていた。
「ただし、手加減はしない。お前もそのつもりでかかってこいよ」
「もちろん」
立城が頷く。いつもの余裕を感じないのは気のせいだろうか。水輝はしばし立城とにらみ合ってからおもむろにこぶしを握り固めた。
二人の距離は十メートルほどだ。水輝は静かに息を吸いこんだところで呼吸をぴたりと止めた。床を蹴る。身構えた立城の懐に飛び込み、身体を屈める。水輝の鋭い回し蹴りを立城が身軽に飛んで避ける。
「まずは、準備体操な!」
そう言い放って水輝は床に手をついた。腕で身体を支えて足を大きく振る。立城は飛んできた水輝の蹴りを大きく一歩退いて避けた。短く息を吐き出して身体を反転させる。腕で床を突いて飛び上がる。立城の繰り出した裏拳は鋭い音を立てて宙を切った。
互いに飛び離れて息をつく。今度は立城が先に動いた。床を蹴って水輝に飛び掛る。顔面に飛んできたこぶしを片手で受け止め、肘を飛ばす。だがその時にはもう、立城の姿は視界から消えていた。
「ここだよ」
耳元に囁きが聞こえる。水輝は反射的に首を逸らした。何かが頬を掠めて過ぎる。水輝の頬にはうっすらと血が滲んだ。立城の手刀が掠めたのだ。
半ば強引に水輝の手を振り解き、立城は身軽に飛んだ。宙に身体が浮かび、空に弧を描く。気合のこもった声を発して立城が飛び掛ってくる。水輝は繰り出された肘を片手で受け止めた。
「……遅いって」
呟いて水輝は奥歯を強く噛んだ。立城の身体が着地しきる前に水輝は動いた。身体を半回転させて腕を振る。宙に浮かんだままだった立城はまともに水輝の攻撃を食らった。顔面を強打する。衝撃は一瞬だった。水輝が息をついた時、立城は壁に向かって吹き飛んでいた。
激しい音を立てて立城が壁と激突する。水輝は軽く肩を回して首を鳴らした。
「お前、かなり弱くなってないか?」
「そうかな」
困ったように笑いながら立城が身体を起こす。特に怪我はしていないようだ。立城が激突寸前に結界を展開したことは水輝にもわかった。やれやれ、と息をついてポケットに手を伸ばす。水輝は真新しい煙草を咥えて火を灯した。紫煙が立ち昇る。
不意に立城の姿がかき消える。水輝は目を見張って息を飲んだ。
「じゃあ、僕も本気で行くね」
背後で声が聞こえる。振り返ろうとした水輝は背中を襲った激痛に歯を食いしばった。立城が水輝の肩をつかんで背中を膝で打ったのだ。
「不意討ちは君の得意技だっけ?」
ふわりと立城の身が宙に浮く。水輝の背中を軽く蹴り、立城は身体を大きく逸らして床に手をついた。殆ど一瞬の内に身体を反転させる。水輝は煙草のフィルターを強く噛み、振り返りながら肘を突き出した。
何が起こったのか一瞬、理解できなかった。気付いた時には既に立城の足が顎に当たっていた。肘うちのために繰り出した腕が失速する。水輝はその場によろけながら顎を押さえた。素早く力を送り込んで回復する。
「……問答無用で砕きやがって……」
逆立ちの格好から腕で床を強く押して反転する。立城はにっこりと水輝に笑いかけた。
「手加減なしって言ったじゃない」
再度、立城の姿が消える。立て続けに攻撃するつもりだ。水輝は煙草を咥え直して真横に飛んだ。床を蹴る音が大きく響く。
「何度も同じ手に引っかかるかよ!」
水輝の背後に回ろうとしていた立城が動きを止める。水輝の肘は立城のわき腹に食い込んでいた。肘の下で耳障りな音が鳴る。立城は目を見張って力なく床にへたり込んだ。
バトルシーンはたまに発作的に書きたくなります。
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軽い手合わせのつもりが 2
エロシーンはないです。
変だな。水輝は内心でそう呟いた。立城は肩で息をしながら砕けた肋を回復している。その僅かな間に水輝は立城をじっと見つめた。肺が傷ついたのだろう。立城の呼吸音には雑音が混ざっている。
「ほら、さっさと立てよ。まだ終わってねえんだろ?」
返事はなかった。立城がゆらりと身を起こす。立ち上がった立城は俯いていた。
「……そうだね」
立城が小さな声で呟いて軽く腕を振る。宙に生まれたその輝きを見止めた水輝は慌てた声を上げた。
「ちょっ、ちょっと待て! 格闘戦っつったの、お前じゃないか!」
応えはない。立城はゆらりと腕を上げてその輝きを水輝に放った。強烈な紫の力が飛んでくる。咄嗟の判断で水輝は結界を展開した。だが力の全てを防ぎきれない。結界を越えた力の破片が刃となって水輝の身体を切り裂いた。
「……てんめえ。豪快にやりやがって」
肩と首、足と顔。それぞれに深い切り傷が出来る。水輝は苛立ちに任せて煙草を吐き捨てた。どうやら立城は傷を治す時間をくれる気はないらしい。水輝は歩み寄ってくる立城を睨みながら身体を立て直した。
紫の輝きが形をまとう。立城は手に刀を握り締めていた。
「仕方ねえなあ」
立城は何も言わない。俯いたままだ。水輝はため息をついて宙に手を掲げた。何もなかった空間に眩しい光が生まれる。翠の輝きが一瞬で形を為す。水輝は素早く刀を取り、鞘から抜いた。
床を蹴ったのはほぼ同時だった。水輝は突っ込んでくる立城の刀を刀で受け止めた。片手で振った刀が宙で止まる。力が均衡し、二本の刀は合わさったまま小刻みに震えた。
近づくと立城の表情が見えた。目がいつの間にか色を変えている。京紫の瞳は静かに水輝を見つめていた。
短く鋭い呼気が喉を素早く通り抜ける。水輝は刀を強引に弾き、膝を繰り出した。ほぼ同時に立城が床を蹴る。空振りした足を戻して水輝は天井を仰いだ。天井を蹴って立城が刀を振りかざす。
本気、か。水輝は小さく笑って刀を持ち上げた。降りかかる刃を両手で受け止める。刀身を握り締めた水輝の手のひらから血が流れ落ちる。
立城は一声も発しなかった。刀が触れ合って甲高く鳴る。立城のまとう輝きはより一層強くなっている。水輝は口許に嗤いを浮かべ、手のひらに舌を這わせた。
「殺すぞ、てめえ」
元より立城はその気でかかってきている。それは対峙する水輝にはよく判っていた。飛び離れた立城が再び切りかかってくる。水輝は血だらけの左手を立城に向かって翳した。
一瞬で意志が力と化す。凄まじい轟音を立てて水輝の手から光が放たれた。それは空中で一瞬、姿を消し、次に立城の目前に現れる。
音はなかった。空気が痛いほどに震え、床が僅かにたわむ。立城は刀を水輝に向けたまま静止していた。その周囲を強固な結界が覆っている。それを見た水輝は鼻を鳴らして嗤った。どうやら読み間違いではなさそうだ。
「防御は完璧か? 相変わらず嫌な野郎だ」
結界の中の立城の髪が染まり変わる。瞳と揃いの京紫の髪が揺れる。水輝は両手に刀を握り直して床を蹴った。青い光が水輝の身体を包み、それと同時に瞳と髪が色を変える。
「殺す気で来い! でなきゃ死ぬぜ!」
刀身が翠の輝きを帯びる。水輝は立城の胸を狙って刀を突き出した。立城の服が薄く切れる。触れたその一瞬に立城は水輝の刀に紫の刀をあてがっていた。
音を立てて刀が肩に突き刺さる。翠の刀の上を滑り、立城の刀は水輝の肩に深々と突き立てられていた。激しい痛みが全身に広がる。水輝は痛みを堪えて紫の刀に手を伸ばした。刀身を素手でつかむ。
立城が声もなく仰け反る。水輝は痛みに身体を震わせながら唇を歪めた。
「……学習……しろよ。ちったあよ!」
刀を通して立城の体内に水輝の意識がねじ込まれたのだ。立城が絶叫を放つ。内部から立城を食い破るその力を水輝は以前にも使ったことがある。水輝はゆらりと顔を上げて手に力を込めた。じりじりと刀が肩から抜ける。
深く暗いやるせなさと同時に激しい感情が生まれる。水輝は肩から刀を抜き、それを立城に放り投げた。血だらけのそれを立城が震えながら取る。
「今日は治してくれる奴はいない。おれの意識を追い出せなければお前はそのまま滅びちまうぜ。さあ、どうする?」
きっと立城はそれでも立ち上がる。そしてまたあの時と同じように死に物狂いでかかってくる。水輝はこの時点でそのことを知っていた。立城が予想通りに立ち上がる。懸命に自分の中でも戦っているのだろう。額にはびっしりと汗が浮かんでいた。
「……立城」
その呟きを聞き取って水輝はぴくりと眉を上げた。立城自身がそう呟いたのだ。それを聞いたと同時に水輝の胸の中に奇妙な感覚が生まれた。既視感と呼ぶにはその感覚は余りにも強い。
立城が刀を振り上げる。畳に刀身が突き立てられる。その直後、畳にはびっしりと蔦が生えた。驚きに息を飲む間もなく蔦が水輝の足を捕らえる。
鋭く舌打ちをして水輝は唐突に刀を消した。空手になった水輝に立城がよろけながら近づく。その目には明らかに怒りがこもっている。水輝はため息をついて宙に腕を伸ばした。
あんまり使いたくないんだけどな。心の中でそう呟いて水輝は目を閉じた。瞼を上げ、立城を睨み据える。
「奈月!」
空気が弾ける。悲鳴のような甲高い音を立ててその場に一振りの刀が現れる。水輝は静かに柄を握った。目の前に現れた刀は輝いている。青い輝きを放つその刀は奈月そのものだ。水輝の意志に従って奈月は青い刀へと姿を変えていた。
ごめんな。心の中で呟く。次の瞬間、水輝は俯けていた顔を上げて鞘から刀を抜いた。青く輝く刀身を大きく振り下ろす。刀から打ち出された光は過たず立城の身体を撃った。
ほんの僅かの変化だった。足元の蔦の力が少しだけ緩む。水輝は強引に刀を蔦と自分の足の間に突っ込んだ。刃に触れた足が大きく切れる。だが水輝はそれにも構わず周囲にはびこった蔦を切り捨てた。
静かな紫の光が生まれる。床に転がった立城の身体は光に包まれていた。柔らかく暖かな光が立城を癒していくのが判る。水輝は目を細めて立城をじっと見つめた。送り込んだ意識が解けていくのが判る。
「貴様に負ける気はない」
そう吐き捨てて立城は立ち上がった。ほんの僅かの間ですっかり身体は元に戻ったらしい。水輝は無言で立城に切っ先を向けた。転がっていた刀を手に取り、立城が水輝に向き直る。
刀身が微かに震えてつばを鳴らす。もの問いたげなその様子に水輝は静かな笑みを浮かべた。刀身にそっと口づける。
「それでおれが譲ると思うのか?」
畳に広がった蔦の隙間から一斉に何かが茎を伸ばす。それはコスモスの花だった。紫の力を受けて咲いたコスモスを水輝は目を細めて見やった。色とりどりの花が立城の力が起こした風に吹かれて揺れる。
奈月は水輝の刀でもあるのです。
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プロなら当然! 1
エロシーンはありません。
「えっ、みっ、かっ、ちゃあん!」
ぶんぶんと大きく腕を振りながらそれが寄ってくる。絵美佳はうろんな眼差しを向けてため息をついた。嬉しそうに笑いながら駆けてくるのは順だ。
今日は休日だ。が、絵美佳はいつものように研究室に泊り込んでいた。絵美佳は啜りかけていたうどんをちゅるん、と吸い込んだ。絵美佳は今、食堂にいる。順は手を振りながら食堂に入ってきたところだった。
「見なかったことにしよう」
そう呟いて絵美佳はうどんに向き直った。呟きは順に届いたらしい。ええー、と情けない声を上げて順が寄ってくる。
「そんなあ。絵美佳ちゃんって冷たいなあ」
順はちゃっかりと絵美佳の正面の椅子を引いた。するりと滑るように椅子に腰を下ろす。その動きはしなやかな猫を連想させる。絵美佳は試しに頭の中で順と猫を比べてみた。神出鬼没なところも似てるかな。内心でそう呟く。
「あんたはいいわねー。いつも気楽そうで」
呆れた目で順を眺めつつ絵美佳はそう告げた。順はだらしなく肘杖をつきながら笑っている。その笑い方もどことなく締まりがない。
今日は巴には休みを言い渡してある。幾らヒューマノイドだといっても休息は必要だ。今日一日は機能停止して機体そのものを休ませている。専用ポッドで休む巴の姿を思い出し、絵美佳はほうっ、と息をついた。裸でポッドに横たわるその姿もまた絵美佳にとっては情欲をそそるものだった。
「気楽じゃないよう。これでも真面目に働きたいと思ってはいるんだよん」
子供のように唇を尖らせて順が主張する。だが絵美佳はそれを鼻で笑い飛ばした。思っているだけで出来れば苦労はない。思考を巡らせるだけで全てのことが実現するなら、絵美佳の思い描いているロボットはとうに完成している。
対戦予定のロボットの図面は既に出来上がっている。CGで作り上げた設計図は完璧ともいえる。現にそれを見た部員たちも今回のは凄い、と口を揃えている。絵美佳は自然と誇らしげに胸を張った。
「見なさい! 強力四号このかんっぺきさを!」
「見なさいってゆわれても。見えないよぉ、絵美佳ちゃん」
いつの間にか絵美佳は胸を張って立ち上がり、誰もいない食堂に手を向けてそう告げていた。だが順の困ったような言い草に絵美佳ははっと我に返った。いけない。ここは研究室ではないのだ。絵美佳は取り繕うために咳払いをして椅子に座り直した。
いつも賑わっている食堂は今日は静まり返っている。絵美佳のうどんを啜る音が妙に大きく響く。
「まあとりあえず、そんくらい強力四号は凄いってことよ!」
うどんを食べながら絵美佳はどん、と胸を叩いてみせた。順が不思議そうに絵美佳の胸元をみる。絵美佳の握った箸は偏った割れ方をしている。絵美佳は慌てて首を振って否定してみせた。
「これは、箸が悪いのよ! 安物の材木を使ってるから!」
「そうだよねぇ。箸が悪いんだよ」
力を込めた絵美佳の言葉を順は真顔で肯定した。腕組みをして目を閉じ、うんうんと頷く。
「こうさあ。意識してちゃんと割ろうとしても、どーしても偏っちゃうことってあるよねえ。バランスが悪くてさあ。食いにくいったらないの」
それからしばし、絵美佳たちは箸談義を交わした。順もきちんと割れない箸には相当に不満を抱いていたらしい。絵美佳が箸が綺麗に二つに割れないあらゆる可能性を挙げると、納得顔でそうそうと合鎚を打つ。
「そう、バランスよ! バランスが重要なのよ!」
いつものように絵美佳は箸を握ってそう力説した。左右が大きく偏っているとどうしてもうどんがつかみにくい。だがそれは絵美佳の箸の持ち方に問題があった。が、絵美佳はそんな自分のことは棚に上げ、ひとしきり箸のバランスについて語った。そもそも割り箸のように短い箸ならまだ我慢できる。だがとある国等で使用される長い箸ならどうなのか。話は次第に全く別の方向へと展開した。
「大体さあ。ホントはちゃあんと二つに割れるはずのものが、大幅に偏るってだけでいろんなバランス崩れてるよねえ?」
「そういうわけでもないわ。箸なら等分が最強バランスなのは当然だけど」
そう返しながら絵美佳は再びうどんに取り掛かった。汁は半ば冷めかけている。だが意外にも順と話をすることは絵美佳にとっても面白いものだった。いつもなら大声をあげて憤慨し、うどんを詰っていたところだろう。絵美佳はそう思いながら目を上げた。そうかなあ、と順が考え込んでいる。
「偏ってた方がバランスが取れることもある?」
困惑気味に順が問い返す。絵美佳は軽く頷いてちゅるん、とうどんを啜った。
「単純化して考えるわよ? 五項目に十点を割り振らなければならないとするわ」
そう言って絵美佳は箸の先を軽く振った。箸の間に溜まっていた汁が小さな音を立てて丼の中に落ちる。
「そして五項目の能力値によって、ロボットの勝敗が決まるとする」
そう言いながら絵美佳は左手を順の前に突き出した。五本の指をしっかりと見せる。順は興味深い顔をして絵美佳の話に聴き入っていた。
「五項目に全部二点、等分に割り振ったロボットはまあ、最弱ではないにしろ、最強には決してなり得ないわ」
均等に力を配分したロボットは逆に言えば量産するのには向いている。力が均等であるということは、突出して金をかけた部分がないということなのだ。それ故に使用される材料もそれなりのものになってくる。性能を上げようとすればするほどに材料も吟味しなければならない。そうするには当然時間もかかる。そして得てしてそういう材料は手に入れにくいものなのだ。
「等分に適当に割れば丁度いいバランスだなんで思ってる馬鹿は、いいカモになるだけよ」
「うわっ、何か痛いせりふっ」
いたたた、と順は顔を歪めて頭を押さえてみせる。絵美佳はふふん、と笑って箸を丼に突っ込んだ。残っていたうどんを箸でつかもうとする。だがうどんはするりと箸の間をすり抜けた。絵美佳は無言でもう一度、箸を操った。今度は何とかうどんが箸に絡まる。
「木村のKI77なんか特にそうね。なんでも出来るように見えて何もできない。開発のコンセプト決めてる奴自体が頭悪いのよ」
「うーわー。まあ、その通りなんだけどさあ。でもあれってばすぐに廃番にしたんだよお? さすがにオレもまずいと思ったからさあ」
順がぼやくように告げる。そしていつものように順はポケットからメモ帳を取り出した。何かをそこに書き付けている。どうやらインタビューも兼ねていたらしい。だが絵美佳はそんな順の態度を気にしなかった。うどんをかきこむ。
「改良型を八つ目まで作っておいて直ぐはないでしょ、すぐは」
「うはっ。ばれてるっ」
絵美佳は笑いながら順を箸でさした。順は情けない顔でテーブルに顎を乗せている。
「ふふんっ。プロなら当然よ!」
何のプロとは言わず、絵美佳はそう告げて胸を張った。ははは、と順が力なく笑う。だが順は急に慌てたように顔を上げた。そうだ、と手を叩いてテーブルに身を乗り出す。絵美佳は最後の一本のうどんを啜りつつ目だけを順に向けた。
割と良いコンビだと思いますw
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プロなら当然! 2
あ、エロシーンはないです。
「そうそう! ロボットで思い出した!」
言いながら順は素早く腕を前に出した。手を合わせて目を閉じる。絵美佳は急に拝まれて怪訝な顔をした。
「絵美佳ちゃんにお願いがあるんだけど……」
弱気な声で告げながら順が片目を開ける。絵美佳は目を細めて箸を置いた。この様子では順は相当にやっかいなことを言い出してくるに違いない。だがそれは逆に絵美佳に好都合だった。先日、ちょっと張り切りすぎて巴の女性器を壊してしまったばかりなのだ。修復は先に行ったが、予算的にかなり厳しい状況だ。
「契約外の仕事は割増し料金がかかるわよ」
「ええと」
恐る恐るといった態で順が手を下ろす。そしてポケットに改めて手を入れ、今度は電卓を取り出す。順は素早く金額を入れて表示された数字を絵美佳にみせた。
「こんなもんでどうかなあ」
「依頼次第ね」
冷静に切り返す。すると順は途端に困った顔になった。どうやらすぐには言いにくい内容のようだ。絵美佳はどうなのよ、と順に顎をしゃくった。順がしばし考え込んでからようやく口を開く。
「じゃあ、まずは物を見てもらってからってことでもいいかなあ?」
「わかったわ。さっそく見せてもらおうじゃないの」
絵美佳は言いながら立ち上がった。順が嬉しそうに声をあげる。絵美佳が運ぼうとした空丼をさっさとテーブルから取り上げる。順は絵美佳が何も言わないうちに自分から丼を片付けてしまった。まあ、いいか。絵美佳は食堂のカウンターの中で食器を洗い始めた順をぼんやりと眺めた。
どうやら順が見せたいものというのは余程、大きいものらしい。食堂を出た順は待ってね、と言い置いてどこかに行ってしまった。戻ってきた順が引きずっていたのは大きな金属製の箱だった。一辺が二メートルほどもある。それを見て絵美佳は呆れたため息をついた。
「あんた、そんなもんどうやって持ち込んだのよ?」
「え。ちゃんと搬入用にトラック借りたんだよ? これ、借り物だから壊すとまずいと思ってさあ」
そう言いながら順がだらしない笑みを浮かべる。しかも外で開封するとまずいという。絵美佳は周囲を見回して誰もいないことを順に告げた。だが順は困ったような顔で首を振る。食堂から研究室に戻るまでの道は外にある。だが休日でもあり周囲には誰もいない。誰にも見せたくないという理由ならばここでも問題ないだろう。絵美佳は渋る順に腕組みをしてそう告げた。
「見せてもらうわよ!」
絵美佳は強引に箱に寄って操作盤に手を伸ばした。が、届く寸前に順が絵美佳の手首をやんわりと握る。それだけで絵美佳の動きは止められてしまった。
「でもぉ……ほら、やっぱり精密機械だからさあ。外はまずいよぉ」
順はのんびりと言いながら静かに絵美佳の手を解放した。絵美佳はちっ、と舌打ちをして携帯電話を取り出した。
「わかったわよ。ちょっと待ちなさい!」
せめて片付けなければこの箱は研究室には入らない。絵美佳は仕方なく巴を起こそうとした。が、携帯電話の番号のボタンを押す直前に順が慌てて首を振る。
「何よ?」
絵美佳は訝りのこもった目で順を見た。順は力なく首を振りながら肩を竦める。その仕草が何故かふと懐かしく見えた。どうしてだろう。絵美佳がそう考えていると順は喋りだした。
「人なら呼ばなくてもオレが運ぶからさあ。だいじょぶだよ」
どうやら順は勘違いをしているようだ。そのことに気付いて絵美佳は思わず笑い出した。違うわよ、と説明をする。だがそう説明している間にも順は不安そうな顔をしていた。そして気付く。絵美佳はぽん、と手を叩いてにんまりと笑った。
「あたしにしか、見せたくないって理解でいいわね?」
「うー。まあ、そういうことなんだけど」
頭をかきながら順が肯定する。外では駄目、というのは精密機械だからという理由もあるだろうが、万が一別の誰かに見られるかも知れないという危惧をしていたのだ。絵美佳はそのことに改めて気付いた。
順は空を仰いで困ったような顔をしている。そうしていると随分と若く見える。絵美佳は小さく笑ってぽん、と順の肩を叩いた。
「わかったわ。とりあえず、それ持ってこっちに来て」
きっと掃除をしなくても何とかなるだろう。絵美佳はそう思いながら順を促して歩き始めた。底に車輪がついているらしい。順がロープを引くとアスファルトの上を箱が静かに滑り出す。
校舎に入ってすぐのところに地下に続く入り口がある。絵美佳は慣れた手つきでロックを外した。音もなくドアが開く。真っ暗だった地下へ続く廊下に点々と明かりが灯っていく。絵美佳は白衣を翻らせて地下へ進んだ。恐々とした様子で順がそれについていく。
確かあんまり使ってない部屋があった筈。絵美佳は素早く全ての研究室の状況を思い浮かべた。最奥の巴の部屋、続いて自分の私室。そして残る研究室の中でも一番、片付いているところは第6研究室だった。
そこは第1研究室がもしも使えなくなった場合の非常用に作られた部屋だった。間取りは第1研究室とほぼ同じだ。絵美佳は戸惑い気味の順を促した。
「こっちよ」
静かに廊下を進む。順は何故か足音を忍ばせて絵美佳について歩いた。よほど人に見せたくないのね。絵美佳は順の様子をちらりと顧みて苦笑を浮かべた。
箱をそのまま研究室に入れるのは無理だ。絵美佳は先に第6研究室に入って順を振り返った。入り口にぴったりと箱をつけ、順も研究室に入ってくる。物珍しそうに周囲を見やり、順は感嘆の声をあげた。
どんだけの重さのモノを引きずってるのか聞いてみたいところw
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プロなら当然! 3
「すごいなあ。絵美佳ちゃんたちっていつもこういうところで研究してるんだ?」
真っ白なその部屋には様々な器具が設えてある。実験台は大きいのが二台。それよりも一回り小さいものが三台、備わっている。だがそれらの道具は殆ど使用されたことがない。言わば、予備の部屋だからだ。
「ここは予備の研究室だから設備はたいしたことないわよ」
いつも絵美佳たちの使う端末は全て別の研究室に入れられている。絵美佳はそっけない素振りでそう告げた。だが順は嬉しそうに研究室の中を見て回っている。子供みたい。絵美佳は心の中でそう呟いた。
「あっ、こんなことしてる場合じゃないよね。ごめんね」
一つの実験台を触って眺めていた順が慌てて顔を上げる。絵美佳はそうよ、と胸を張ってみせた。
「あんた、ここまで引っ張っておいて、それがしょぼかったらただじゃおかないわよ!」
依頼料はどれだけふんだくれるかな。そんなことを考えながら絵美佳は強気でそう吐き出した。順が力なく笑いながら入り口に取って返す。そして順は絵美佳をちらりと見返った。
「多分、オレが知る中じゃまともな方だと思うんだけど」
そう言いつつ、順が箱に向き直る。操作盤を触ると箱が静かに分解し始めた。面が畳まれて沈んでいく。そして現れた物を見て絵美佳は絶句した。
完全な人の形をした物が静かに膝を抱えて座っている。順は注意深く周囲を見回してから箱の底部分を探った。クッションの脇に手をいれて何かを取り出す。
「えー、と。まずはこれを装着して、と」
順は何事かを呟きながらヘッドセットを装着した。何度か声を出してマイクの調子を確かめる。絵美佳は無言でそんな順を見守っていた。クッションに座っているそれは絵美佳より少し、若く見える。年頃で言えば中学生くらいだろうか。そんな女の子が眠るように膝を抱えて丸くなっているのだ。
「あっ、こうだった。ええと、ここのスイッチを入れてぇ」
順が何かを操作する。順の手には黒い小さな機械が握られていた。
不意に女の子が目を開く。瞬きをすると、長い睫毛が揺れる。瞼を上げた女の子の目はぱっちりと大きく愛らしい。
「これをこうして……と」
順が呟きながら指先で何かを弾く。すると女の子はすうっと立ち上がった。成長途中の乳房が小さく揺れる。絵美佳は目を細めてそれを見つめていた。髪の毛は軽くウェーブしており、肩にかかっている。細い身体つきは強く抱いたら折れてしまいそうだ。小ぶりな胸も彼女の愛らしい面立ちによく似合っている。絵美佳はじっくりと女の子を観察していた。
肩から胸、そして細い腰に目を向ける。翳りはまだ薄い。
「こんにちはあ、絵美佳さん。アタシ、ノアっていいますぅ」
女の子の薄い唇が開いて声を紡ぎだす。顔によく似合う、鈴を鳴らしたような可憐な声だ。何も知らずに話し掛けられたらその愛らしさに思わず振り返ってしまうだろう。もしかしたら余りの可愛さに言葉をなくすかも知れない。
……もっとも、その脇でノアと同じように手を組み合わせ、瞳を潤ませ、しなを作っている順がいなければ、だが。
「……あんた、ヘンタイ?」
「えええっ! オレ、こーして頑張って紹介してるだけなのにぃ!」
耳元に手を当てて順が嘆く。どうやら今度はリンクしてはいなかったようだ。ノアは胸の前に手を組んだまま絵美佳を見つめている。
「なるほど、これは面白いかも!」
これは完全なロボットだ。ヒューマノイドとは全く異なるが、見た目そのものは人と違わない。絵美佳は好奇心満々の顔で順に手を突き出した。
「あたしにも貸して!」
「えっ! だって借り物なのにぃ……」
そう順が告げるとノアも同じように言って泣く真似をしてみせた。やはり思った通り、これは順の動きを直接読んでいる訳ではない。順の思考を読んで動いている。ますます興味をそそられ、絵美佳は大股で順に近づいた。
慌てて逃げようとする順に手を伸ばす。絵美佳はジャンプして順の頭からヘッドセットをもぎ取った。情けない顔で順が取り戻そうとする。だが絵美佳はすましてヘッドセットを装着した。
「あああ、借り物だからあんまり無茶しないでねぇ」
殆ど半泣きになりながら順が告げる。絵美佳はごほん、と一つ咳払いをしてマイクを口許に寄せた。
「あーあー。ただいまマイクのテスト中」
おもむろに告げる。するとノアが絵美佳と同じように喋った。二人の声がほぼ重なる。絵美佳はにんまりと笑った。ノアがくるりとその場で一回転する。爪先立ちで回って見せたノアは最後ににっこりと笑った。絵美佳の思考を正しく読んでいる。
絵美佳は近づいてノアの髪に触れた。手触りのいい髪が指の間を抜けて肩に落ちる。髪の感触も人そっくりだ。ノアはそんな絵美佳にされるがままになっていた。肩に触れ、指先で肌を確かめるようになぞる。すると驚いたことにノアが頬を染めて微かに顔をしかめた。
「うあ、ちょっ、ちょっと絵美佳ちゃん! そんな触り方したら駄目だってば!」
「ある程度、自動で動作するのね。ここはどうかな?」
絵美佳は順の慌てた声を無視して指先を滑らせた。淡く色づく乳首を指先でつつく。するとノアはぴくん、と身体を震わせた。
「あああああああ。絵美佳ちゃあん、ちょっと勘弁してよぅ。オレ、怒られちゃうよお」
そう言いながら順が絵美佳の手首を握って動きを止める。だが絵美佳は人の悪い笑みを浮かべて反対側の手を伸ばした。
好奇心旺盛ですw
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プロなら当然! 4
あ! 一応、TS警報です!
「あんたね、そんな風に懇願されたらもっと試してみたくなるじゃない」
ノアが静かに足をひらく。絵美佳はためらいもなくノアの股間に指を伸ばした。薄い翳りの奥に指を進める。するとノアは熱いため息をついた。
「あう。スイッチ入っちゃったよぉ……」
「やらしーわね。これ」
愛らしい顔を歪め、ノアは絵美佳の指の動きに反応している。その様は人のそれとほぼ変わりない。絵美佳は次第に大胆に指を動かし始めた。順は情けない顔で呻いている。それを余所に絵美佳は小さくしこるクリトリスを指の腹で弄んだ。
「それねぇ。接待用に開発されたロボットなんだけどさあ。まだ試作段階だったから絵美佳ちゃんの意見を聞こうと……思ったんだけどぉ」
順はぼやくように説明している。だが絵美佳はそれを殆ど聞いていなかった。新しい玩具を与えられた子供のように、触ってノアの反応を確かめる。絵美佳の思考を素早く読み取ったノアが震える手で自分の乳房に触れる。つたない指使いでノアは乳房を弄り始めた。
「おもしろーい! これ、いいじゃない!!」
嬉々としてそう言いつつ、絵美佳はするりと指を滑らせた。まだ幼いノアの陰唇に触れる。するとノアは掠れた声をあげて強く乳房をつかんだ。薄い唇が弱々しい声をあげる。それを見ている内に絵美佳の下半身が段々と熱くなってきた。
「ちょっとお……絵美佳ちゃん? なんかやばーい顔してるけど……」
「これを試験すればいいってことね? 引き受けたわ!」
「いや、あの、絵美佳ちゃん? もしもし?」
絵美佳は一方的に順に告げるとノアに向き直った。潤んだ目をしたノアの膣からは愛液が滲み始めている。指先に触れたそれを絵美佳は試しに口許に寄せた。匂いはない。舐めてみるが味もない。どうやら特に香り成分を配合されている訳ではなさそうだ。かと言ってそれは純粋な水ではないだろう。その証拠にノアの愛液は絵美佳の指にねっとりと絡まっている。
「試験代金はあの金額でぜんぜんかまわないわ! いろいろ試したげるから安心なさい!」
「ええー! これじゃ、あの金額はたか……あああ! 絵美佳ちゃんってばあ!」
順が情けない声で喚く。絵美佳はそ知らぬ顔でノアの股間に顔を寄せていた。心の中に芽生えた欲望は強くなりつつある。大きく足を開いたノアの秘部に唇をつける。唇と舌で弄ると、びくん、と強くノアの身体が震える。
次第に欲望が強くなる。股間がまるで心臓になってしまったように強く脈打っている。絵美佳は幼いノアの秘部を執拗に弄った。クリトリスを舌先で転がし、膣を指で攻める。
「あっ、あんっ」
頬を染めてノアがため息混じりに声を上げる。絵美佳は口許に嗤いを刻み、じっくりとノアを焦らした。恥らうノアを見ているだけで欲望が深くなる。
やがてノアは力なく床にへたり込んだ。開脚しつつ乳房に触れている。絵美佳は我慢出来ずにノアの唇に吸い付いた。まだ狭い陰唇の間に人差し指を少しだけ入れる。舌を絡めて絵美佳の口づけに応えながら、ノアは腰をひくつかせた。
「ほんっとに良く出来たダッチワイフね」
顔を上げて絵美佳は小さく呟いた。自然と身体をノアに摺り寄せる。絵美佳は無意識のうちに股間をノアの腿に押し付けていた。ずきん、と痛みにも似た快感が走る。
この時にはもう、絵美佳は順の存在をすっかりと忘れていた。順はやれやれ、とため息をついて絵美佳の背後に回った。実験台に寄りかかり、静かに二人を見つめる。その目に異様な光が浮かんでいたことにも絵美佳は全く気付かなかった。
絵美佳はうっとりと目を潤ませるノアをその場に押し倒した。まだ成熟しきっていないノアの秘部が剥き出しになる。ほっそりとした腿に自分の股間をあてがいながら、絵美佳はノアの膣に入れた指をゆっくりと出し入れし始めた。
「奥までほんとに丁寧に作ってあるのね……。ちょっと悔しいかも」
指先で膣壁の感触を確かめながら絵美佳はため息をついた。絵美佳に弄られるノアは敏感に反応する。それを嗤って眺めながら絵美佳は無意識に腰を上下させた。熱くたぎったそれをノアの腿に擦りつける。
薄い唇が小さく喘ぐ。絵美佳はにんまりと嗤ってスカートをたくし上げた。下着をずらしてペニスを露にする。絵美佳自身、何故ペニスが生えたのか判らなかった。だがそれを気にする余裕はない。絵美佳はノアにまたがり、張りつめたペニスをその口に押し込んだ。
無心で腰を振る。絵美佳はしっかりとノアの頭をつかみ、腰を前後させた。背後でかちり、と小さな音がする。だが絵美佳はそれに気を留めなかった。いや、留めることが出来なくなっていた。絵美佳の背後で順が煙草に火を灯す。ビーカーを灰皿代わりにし、順は嗤いながら二人を眺めていた。
「んっ、上手いわ! もっと!」
もっと吸って。その先の絵美佳のせりふは声にならなかった。ノアが巧みに舌を使ってペニスを弄る。唇で吸われた絵美佳は声を殺して仰け反った。弾けるような快楽が襲ってくる。絵美佳は掠れた声を上げて腰を震わせた。射精と同時に膣から愛液が零れる。絵美佳の愛液はノアの胸に落ち、その幼い乳房を伝って床に落ちた。
まだ足りない。絵美佳は欲望にぎらつく目をしてノアに圧し掛かった。狭い膣口に強引に指を突っ込む。ノアは掠れた悲鳴を上げて腰をひくつかせた。それが余計に絵美佳の嗜虐心を煽る。
「いくわよっ!」
そう告げて絵美佳は二本目の指をノアの膣内に埋めた。強引に膣口にねじ込んだ指を上下させる。ノアは小さな悲鳴を上げて涙を流す。唇の端からは精液が零れ、胸元には愛液が散る。その卑猥な姿は絵美佳の欲望を更に深くする。
「あんっ、あんんっ、あんっ」
愛らしい声でノアが鳴く。その様が誰かと重なる。絵美佳は指を抜き、興奮のままにノアの膣にペニスを突き立てた。激しい衝動が絵美佳の思考を支配する。気付かないうちに絵美佳は自分とは別の意識に囚われていた。
エロシーンのたびに色々警告が必要だという……。
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狂気の呼び声 1
エロシーンありです。
かつてその魂は激しい輝きを伴って地上に現れた。激情を表すその光とは対照的に魂の持ち主はいつも穏やかな顔をしていた。
仲間から慕われ、平和に時が流れていく。だがある日、それが目の前に現れる。どうして拒絶しなかったのだろう。後戻り出来ないところに踏み込めば、もう二度と平穏な日々は戻ってこない。
それでも彼は拒絶しなかった。その先に潰える運命が待っていたことを知っていながら、彼女を受け入れたのだ。
どうして拒絶できただろう。そう語った時の翠の目は不思議と穏やかだった。自分を想う心を、その願いを、そして破滅的な衝動を彼は受け入れたのだ。
世界はそれを境に魂の輝きを二つに割った。片方は天に、片方は地に、そして魂はそれぞれ時を紡ぐ予定だった。……そう、その予定だったのだ。
『例えその身体が抜け殻に近くとも、輝きが欠片でしかなくとも、それでも彼女は叫んだ。……もっとも、その叫びは心の中のそれだったがね』
天空の王と呼ばれた翠がその声を聞いたのは殆ど偶然に近かったという。いつものように世界を見つめていれば聞こえる筈がなかった声なのだ。だがその時に限って翠は天を仰いでいた。高く、広い空から彼女の叫びが降りてくる。
叫びは翠をがんじがらめに惹きつけた。翠はその拘束を彼女の願いだと称した。
龍神の禁忌が天空の果てで破られる。翠は天の城で子供を為した。彼らはそれぞれ、地上に送られる。
『彼らをなんと呼ぶか知っているか?』
そう訊ねた時の翠は嗤っていた。
誓約者。そう、翠は静かに告げた。天空の王は彼女の願いを聞き入れて、その力の一端を誓約者と呼ばれる者たちに託したのだ。決して止まることのない時の流れに紛れ、龍神たちを見守るように。そして彼らが間違いを犯しそうになった時、その力を解放して世界を救うように。
だが世界は翠と彼女の禁忌を見逃さなかった。そしてそれまでほぼ均等に分けられていた二つの輝きは更に分かれることとなる。
「オレごときに教えるなんて、最初は狂ったのかと思ったけどねぇ」
煙草が揺れる。順は嗤いを浮かべて視線を移した。絵美佳は狂気じみた勢いでノアを犯している。いや、実際に狂気に囚われているのだ。かつて潰えた魂が死に損なったままで叫んでいる。その叫びは順の心にも酷く冷ややかに流れてくる。
「あんっ! ああんっ! しん……やぁ!」
ノアが高く鳴く。順はせせら笑いながらその様子を見下ろした。プログラムは既に起動している。絵美佳がその機体に触れた瞬間にノアのプログラムは走り始めた。絵美佳の興奮の度合いを読み取り、忠実に動く。そして愛液や唾液を通じて絵美佳はノアに侵食されたのだ。
「今度は力は使ってないからねぇ。足跡は辿れないよ?」
順は軽くテーブルを突いて床に飛び降りた。煙草をビーカーの中でもみ消す。順は静かに二人に歩み寄った。絵美佳がびくりと震えて腰をひくつかせる。
「たつき……たつき!」
意識が混ざる。順は流れてくる激しい思いにそっと目を細めた。
かつてその魂は二つに分かれた。そしてそのうちの片方が更に二つに分かれた。そのために紫翠の力はバランスを失った。本来の姿を取り戻す筈だったのに、それは出来なかったのだ。
死に損なった魂は未だに力を携えている。順は絵美佳の背後に回り、膝をついた。腰を強くノアに打ち付ける絵美佳の胸に手を這わせる。
「キミの望みはなんだい? 願いはなに?」
絵美佳の耳元に順はそう囁いた。覆い被さるようにして絵美佳の乳房を揉む。それだけで絵美佳は掠れた声を上げて腰をひくつかせた。達してしまったのだ。
「たつきっ、たつきがいいっ!!」
「彼が……欲しい?」
順は絵美佳の髪をそっと分け、うなじに唇を這わせた。片手で絵美佳のシャツのボタンを外す。絵美佳は頭を激しく振って身体を起こした。その拍子にペニスがノアの膣から抜ける。ペニスの先からはまだ白い精液が流れている。順は嗤ってペニスに手を伸ばした。
「会いたい! あわせて!!」
狂気の叫びが部屋の中に満ちる。順はぞくぞくするような快感を覚えた。絵美佳を膝の上に抱え込む。シャツの合わせ目から手を滑りこませ、肌をなぞる。
「会うだけでいいの? ホントに? でもここは彼を欲しがってない?」
そう囁いて順は絵美佳のペニスをゆっくりと扱き始めた。同時に胸の膨らみを揉む。そんな二人の前でノアが静かに身体を起こす。うっとりとした目で絵美佳の股間に擦り寄る。
「真也……」
ノアは絵美佳にそう呼びかけてペニスの先を口に咥えた。順は嗤って手を滑らせる。ペニスを指先でなぞり、翳りの奥の女性器に辿り着く。そこに触れると絵美佳はびくりと身体を震わせて叫んだ。
「だって会えないっ! たつきぃ、たつきい!!」
「それはホンキで欲しいと思っていないからだよ、きっとね」
絵美佳のクリトリスは勃起しきっている。順は焦らすようにそれを嬲った。断続的に声を上げて絵美佳が首を振る。ノアは音を立ててペニスをしゃぶり続けている。順は絵美佳の身体を思う存分に弄っていた。
「立城……好きぃ! たつきがいい! たつきぃ!」
腰をひくつかせて絵美佳が叫ぶ。順は黙って絵美佳の陰唇を指で弄った。愛液の溢れる膣口に少しだけ指を入れる。
「物足りないでしょ? ここに欲しくない?」
興奮に開ききった絵美佳の膣口に指を出入りさせる。絵美佳は身体を震わせて叫んだ。
「たつきぃ! ここに来てぇ! たつき!」
歪んだ力に晒される。順はだが嗤っていた。ジーンズのジッパーを下げて下腹部を剥き出しにする。現れたペニスに手をあてがい、順は絵美佳に圧し掛かった。
一気に突き入れる。それと同時に絵美佳の身体を強く抱く。順は薄笑いを浮かべて絵美佳を膝に抱え直した。ノアの口からペニスが飛び出る。順は絵美佳のうなじに舌を這わせてペニスを強く扱いた。勃起しきった絵美佳のペニスは激しく脈打っている。
いやーw
これだけ呼ばれればそれはもうw
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狂気の呼び声 2
BL警報! TS警報!
苦手な方は避けて下さい。
「あっ、たつき、たつきぃ! 来てえ! お願い!」
「ようやく開いたね……」
真っ黒な紙に針先で穴を空けたように一点の輝きが意識に留まる。順は目を細めてその輝きを探った。絵美佳の放った力が結界に僅かな隙間を生んだのだ。
「ほら、気持ちいい? 彼の気配を感じるでしょ?」
そう言いながら順は絵美佳のペニスを強く握った。悲鳴じみた声を上げて絵美佳が射精する。順はゆっくりと手を上下させてペニスを扱いた。
「たつきっ、たつきぃ! 俺、ここにぃ!」
たっぷりと噴射された精液を手に絡め、再び絵美佳を焦らしにかかる。絵美佳の呼びかけは空気を裂いて一点の穴を目指して駆けて行く。それと同時に隙間から漏れていた力に異変が起こる。歪みを帯びた力が真也の魂の絶叫をつかみ取る。
「オレもそろそろ出したいなあ。ねえ、真也くん。もっと気持ち良くなろうか」
順はおもむろに絵美佳の身体を抱え上げた。その頭からヘッドセットを取り上げる。顎の下でヘッドセットを留め、順は目を閉じた。ノアが自然と床に横たわる。順は目を開いて絵美佳の身体をノアの上に下ろした。
「んっ、立城! どうして、たつきぃ!!」
「でも気持ちいいでしょ? リンクしてるもんね」
薄笑いで絵美佳の叫びに応え、順は腰を前に押し出した。絵美佳のペニスがノアの膣に埋まっていく。ノアは歓喜の声を上げて絵美佳を受け入れた。
「見えない、聞こえない、やだっ! たつきぃ! なんで! なんでぇ!!」
それがキミに与えられた唯一の罰だから。順は心の中だけでそう応えた。
かつて一つだった魂が分かれる。だがその魂は互いに惹き合っていた。立城は真也を、そして真也もまた立城を求めていた。もしかしたらそれは世界の意志だったのかも知れない。だが断罪の主はそれを許さなかった。
共に世にいても決して交わることが出来ぬよう、その魂に枷をつけよう。
その言葉を聞いたのがいつだったのかはもう覚えていない。順は目を閉じて過去に思いを馳せた。
結界は静かに溶けつつある。だが中にいる彼らはそのことに気を留めている余裕はない筈だ。順は薄く嗤ってゆっくりと腰を引いた。次いで、絵美佳の胸をつかんで激しく腰を打ち付ける。
「もっと、呼んで。もっと求めないと駄目だよ」
順はこみ上げてくる欲望を抑えて熱っぽい声で囁いた。狂った力に酔う。そして順は自分の胸にそっと手を伸ばした。
「たつきっ! たつきぃ! たつきぃいい!!」
胸に指を突き入れる。絵美佳から発された力が痛みを快楽へと変える。順は吐息をつきながら自分の胸に手を埋めた。腰が無意識に動く。絵美佳を犯す順の目には狂気じみた悦びが宿っていた。
「こんなに気持ちいいのは久しぶりだなあ……ほら、もっと呼んでよ。真也くんも気持ちいいでしょ?」
手が一つの輝きを握る。順は低く呻いてそれを胸から取り出した。その瞬間に激しい快感が走る。順は絵美佳の膣内に勢いよく射精した。
「んっ、だめだ! たつきぃ! たつきでないと、やだぁっ!」
「……そんなこと言わないでよ。これでも……かなり頑張ってるんだからさあ」
歪んだ力が真也の意識を捉える。そしてその力は真也の力と強引に混ざり始めた。順は手にした闇色の宝珠に唇を寄せて苦笑した。
「たつき! どこっ? たつきぃ! 来て! たつき……たつきぃい!!」
真也にはきっと立城の姿は見えないだろう。そして恐らく立城にもその姿は見えない。だが互いの意識は混ざりつつある。順はふ、と口許に笑みを浮かべて目を上げた。ノアに突き入れながら絵美佳が仰け反る。だがその頬には涙が伝っていた。
静かに宝珠を絵美佳の背中に触れさせる。順は目を閉じて一気にその手を絵美佳に押し付けた。闇色の宝珠が絵美佳の体内に埋められていく。
「たつき、たつきぃっ!!」
欲望を司る力の欠片が絵美佳の体内で発動する。順はその瞬間に絵美佳からペニスを抜いた。しっかりと腕で絵美佳を抱きしめる。そして順はおもむろに絵美佳の服を脱がせ始めた。白衣を取り、ネクタイを外す。スカートを引き千切ったところで順はにやりと唇を歪めた。
絵美佳の髪が一瞬で染まり変わる。そしてその髪が長さを変えた。抱いた身体から胸の膨らみが消える。順は絵美佳の胸板を指先で確かめるようになぞった。
「ほら、気持ちいいよね。彼とキミの意識、今ひとつになってるよ」
歪んだ力が狂った叫びを捕えている。順は低く喘ぐ絵美佳の尻に手を伸ばした。絵美佳に突き入れられているノアは今はもう、声もなく横たわっている。完全に動力が尽きてしまったのだ。
「居ない、居ないよ! 立城、たつきぃ!!」
「大丈夫。もう少ししたらそれも判らなくなるから」
そう告げて順は絵美佳の肛門を指先で弄った。びくりと絵美佳が身体を震わせる。力なく嫌がる絵美佳を押さえつけ、順は指を肛門に押し込んだ。ねっとりとした液体が肛門から滲んでくる。どうやら女性器の名残らしい。
「たつき、たつきぃ! たつき、たつき、たつきぃ!!」
「キミ、随分とここ使い込んでない? うわあ。すごいなあ。もうこんなに開いちゃったよ」
緩んだ肛門を二本の指で弄る。声を上げて絵美佳は身体を起こした。力なく横たわるノアの膣からペニスが抜け出る。順は嗤いながらそれをつかんだ。
「やっ、たつき! たつきがいい! たつき。どうして? やだっ! たつきぃ!!」
「狂うほどよくしてあげるから。だからもっと呼んでごらん」
屹立したペニスを絵美佳の肛門に突き入れる。細身の少年の身体が大きく震える。絵美佳はこの時には完全に性を男のそれへと変えていた。
「ぐっ、やっ、立城! たつきぃいい!!」
腸内を順のペニスが擦りたてる。次第に絵美佳の呼吸が速くなる。順は同時に絵美佳のペニスを扱き始めた。剥き出しになった細い背中に口づけを散らす。
「たつき、俺、もう! やだ! あいたい! たつきぃいいい!」
細い身体が大きく反り返る。順は絵美佳が達したことを知った。手の中に生暖かい精液が注がれる。
「オレが動かなくても大丈夫そうかな。もう、あっちも訳わかんなくなってるみたいだし」
順は小さくそう呟いて手の中に舌を這わせた。若々しい精液を啜る。まだ絵美佳は立城を呼んでいる。その力は狂気を伴って結界を越え、立城の元に届いている。だがそれを例え感知しても水輝はすぐに動くことは出来ないだろう。
そっと絵美佳を抱え直す。順は欲望のままに絵美佳を犯し続けた。
損な役回りなのはデフォルト(謎
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おれはノーマルだ!! 1
エロシーンは今のところありませんw
風が流れてコスモスを揺らす。それはいつかみたあの時の景色と同じだった。あの時と同じ情景に記憶が混乱しそうになる。水輝は歯軋りをして刀を振った。切っ先が傍らに咲いていたコスモスの花を切り裂く。
立城は軽々と飛び上がり、水輝に刀を振りかざした。
「どうしてこうなるかな!」
そう叫んで水輝は刀で刀を受け止めた。高い音が発したと同時に立城がくるりと宙で反転する。立城の目の前には三つほどの力の塊が生まれた。速い。水輝は呟いて蔦を避けて畳に手をついた。
轟音と共に畳から水柱が生える。立城はだがそれに構っていなかった。宙返りをしつつ短く息を吐き出す。三つの力は高速で空気を切り裂いた。
小さな輝きが一瞬で巨大化する。真正面と左右の二手に分かれた力は一気に水輝に襲い掛かってきた。床を強く蹴って飛び上がる。力は水輝の足元でぶつかり合い、破裂した。
格技場全体が揺らぐ。水輝は舌打ちをして刀を構え直そうとした。だが貫かれた肩に力がまるで入らない。
その一瞬の隙に立城は動いた。壁を蹴って水輝の懐に一直線に飛び込んでくる。声にならない叫びを上げた水輝の手から刀が滑って落ちる。立城の紫の刀は水輝の腹に深々と突き刺さっていた。
一つだけはっきりしたことがある。水輝は歯軋りして両手で立城の手首をつかんだ。力を込めて手を握る。はっとしたように立城が息を飲んだ。
「てめえが……日ごろ手加減してるってことがよく判ったぜ」
立城が自制心をなくせばこうなるのだろう。水輝は奥歯を噛みしめて握る手の力を強くした。耳障りな音がして立城が仰け反る。反射的に繰り出したのだろう。紫の鋭い刃が降り注いでくる。全身にそれを浴びながら水輝はそれでも立城の手を離さなかった。
立城が震える指を開く。立城の手から刀が離れた時を狙って水輝はその場から飛び離れた。腹に突き立てられたそれを力任せに引き抜く。血の溢れる傷口を乱暴に手で押さえ、とりあえず止血する。その間に立城は床に手をついていた。
「貫け!」
力ある言葉が響く。水輝は目を見張ってその場から離れようとした。畳から尖った木の根が生えて来る。あっという間に伸びたその内の一本が水輝の左の腿を貫いた。よろけた水輝の肩を別の根が貫く。水輝は激しい痛みに絶叫した。
「……俺の勝ちだな」
ぽつりと立城が呟く。その手首は既に癒えている。元々、立城と力を分けていた真也は防御と治療を得意としている。今、立城の意識は真也に完全に囚われているのだ。水輝は片目だけをゆるゆると開けた。
小さな呟きは声にはならなかった。だが水輝の呟きは力となって走る。手の中に感触を確かめて水輝は力任せに腕を振った。視界はもう殆どきかない。だが水輝は戻った刀に力を乗せ、床に向かって放っていた。
コスモスが宙に舞う。水輝の放った氷の刃はその場に生えていたものを全て切り裂いた。立城の展開した結界内にだけ植物が留まっている。
音を立てて血が畳に散る。水輝はだが傷の手当てもろくにせず、畳を蹴った。怒号を発して駆ける。立城はそんな水輝に向けてゆらりと片手を上げた。
結界の輝きが一際強くなる。水輝はそれにも構わず立城目掛けて走った。刀を両手にしっかりと握る。そして水輝は腹から声を上げて結界に刀を振りかぶった。青い光をまとった刀が結界と激突する。
結界が砕け散る。紫のベールは粉々になって宙に散った。立城が驚愕に息を飲む。だが立城の手には刀はない。水輝は一気に踏み込んで刀を突き出した。
「これで、終わりだ!」
「……お前がな」
水輝の叫びに立城は静かに答えた。振り下ろされた刀を素手で受け止める。そして立城は背中に回していた手を水輝の胸に繰り出した。
全ての音が消える。水輝は目を見張って何が起こったのかを理解しようとした。一瞬遅れて激痛に見舞われる。立城の手は過たず水輝の左胸に食い込んでいた。思わず咳き込んだ水輝の口から血が落ちる。
立城は薄い笑いを浮かべて手を動かした。体内に潜んだそれをわしづかみにされる。水輝は例えようのない痛みに叫びを上げた。
宝珠をつかまれた瞬間、水輝の手から刀が落ちた。がっくりとその場に膝をつく。立城は素手につかんだ水輝の刀を離れた場所へと放り投げた。刀身に傷つけられた手のひらを舐める。それだけで立城の手からは傷が消えた。
閉じていた目を静かに開ける。次に更なる衝撃が襲ってくることを予測していた水輝はそれを見止めて眉を寄せた。立城が水輝の宝珠をつかんだまま、俯いている。
「……とどめ……さすんじゃ……ねえのかよ」
掠れた声で水輝はそう訊ねた。肩は両方砕けている。全身は傷だらけだ。もう、動く気力は残っていない。唯一、あの刀が使えることは使えるが、それだけはしたくない。水輝はちらりと畳に転がった刀に目をやってから立城に視線を戻した。
その場に膝をつき、立城は何かを呟いていた。水輝は片目を僅かに細めて耳をすました。
「立城……」
立城がそう呟いている。水輝はため息をついた。宝珠をつかまれているために身体の自由は殆どきかない。水輝はだが口許に皮肉な嗤いを浮かべた。
「そりゃ……お前だろ……阿呆」
そう告げた瞬間、立城が顔を上げた。憎しみのこもった目が水輝を射抜く。視界が急に揺れて水輝は思わず慌てた声を上げた。立城が水輝の身体を畳に倒したのだ。
おや? 立城の様子が。
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おれはノーマルだ!! 2
BLとTS警報!
水輝は覚悟を決めて目を閉じた。立城が左手を構えて水輝の胸に打ち下ろす。予想していた激しい痛みを堪え、水輝は歯を食いしばった。体内を立城の手が探る。一つずつ宝珠を確かめ、そして立城は水輝の胸から手を抜こうとした。
不意に立城の動きが止まる。水輝は半ば呆れて目を開けた。どうせやるなら一思いにやれよ。そう言いかけて黙る。立城は水輝の胸に両手を突きたて、肩を小刻みに震わせていた。俯いているために表情は見えない。
唐突に立城が笑い出す。乾いた声でひとしきり笑い、立城は顔を上げた。そこで水輝は異変に気付いた。立城の様子が変なのはあの歪んだ力だけが原因じゃない。水輝は残った力を必死でかき集めて周辺を探った。
結界に穴が空いている。そのことに気付いた水輝は絶句した。立城はまだ笑っている。
「……おい……。おいってば!」
狂気に満ちた力が結界の隙間から流れ込んでいる。そしてそれを立城は全身で受け入れているのだ。水輝は懸命に立城に呼びかけた。だが立城は返答しない。ひたすら笑い続けている。
急に笑い声が止む。立城はそのまま水輝に覆い被さった。
「ちょ、ちょっと、待て!」
水輝は慌てて動こうとした。だが身体の自由が効かない。そうしている内に立城に唇を塞がれる。立城は水輝に口づけながら胸に入れた手を動かした。頭を振って立城を払おうとしていた水輝は目を見開いて硬直した。
「たつきぃ……」
潤んだ目で立城が告げる。その瞬間、水輝は股間が熱くなるのを感じた。立城が胸の奥で宝珠を探る。強制的に欲情させられる。水輝は興奮を何とか鎮めようとした。だがそうすればするほど余計に欲望が深くなる。
「立城は……てめえだろが……」
阿呆。水輝は掠れた声で呟いた。刀に切り裂かれたシャツの隙間に立城が口づける。血だらけの水輝の肌を立城は舌先でなぞり始めた。その感覚に水輝はため息をついて身体にこめていた力を抜いた。
触れてもいないのにベルトが外れ、ジーンズのジッパーが下がる。立城は水輝の胸から下腹部へと手を移動させた。音もなく体内を手が滑る。そして露になった水輝のペニスを立城は口に咥えてしゃぶり始めた。
おれ、ノーマルなんだけどなあ。水輝はぼんやりとそんなことを考えながら息をついた。立城の名を呼びながら立城が口一杯にペニスを咥えているのだ。それは水輝にとってとてつもなく奇妙な光景だった。だがそんな思いに反してペニスは硬く勃起している。
立城が手をひねる。水輝は目を見張って声もなく仰け反った。強制的に射精させられたのだ。立城は水輝の精液を口に受けとめ、喉を鳴らして飲み下した。
不意に理解する。今、立城の意識は真也のそれと繋がっている。だが、水輝が戦っていたのはあくまでも立城だ。それ故に水輝には色濃く立城の気配が残っている。だからこそ真也は水輝と立城を見間違えているのだ。
「ばかが……。そんな真似……したところで……どうしようもないだろが」
精液に塗れた水輝のペニスに立城が舌を這わせる。強い快感に襲われ、水輝は静かに目を閉じた。まあ、気持ちいいからいっか。身体が言う事をきかないためにそんな考えまで浮かんでくる。
唐突に痛みが消える。水輝は驚きながら目を開けた。立城が水輝に突っ込んでいた手を抜いたのだ。その場に静かに立ち上がる。水輝は伺うように立城を見ながらそろそろと手を伸ばした。砕けた肩にそっと触れる。急いで治療しなければまた立城に押さえ込まれるかも知れない。自由になった僅かの間に水輝は両肩を何とか治すことが出来た。
「いきなり脱ぐな!」
やっと治ったと思いながら顔を上げた水輝はそう喚いた。立城が無言でズボンを落とす。露になった立城の下腹部を見やり、水輝は真っ青になった。立城のペニスは張りつめている。
「まて! 早まるな! おれはノーマルだ!」
「立城……動かないで」
「立城はお前だ! って、うわ!」
まだ身動きの取れない水輝の腰に立城がまたがる。水輝は本格的に焦った。立城はうっとりとした眼差しをして水輝を見つめている。勃起した水輝のペニスに軽く腰を乗せ、前後に腰を揺すって愛撫しているのだ。水輝は懸命にその場から逃げようとした。だが力はすっかり使いきっている。とても転移できるほどの余力はない。
「よせ! ばか! ……って、あれ?」
何故か快感がある。水輝は不審に思って立城の下腹部で揺れるペニスを見た。確かにそれはある。だが水輝のペニスを愛撫しているその感覚には覚えがある。水輝は慌てて身体を起こそうとした。が、先に立城に肩を押さえ込まれる。
「立城、俺に挿れて」
「……ちょっと待て。お前、もしかして」
濡れた陰部の感触は紛れもない女性器のそれだ。だが立城は水輝の焦りを余所に少しだけ腰を持ち上げた。濡れた水輝のペニスをそっと手で支える。
水輝は思わず目を硬く閉じて低く呻いた。柔らかく温かなものがペニスが包んで擦る。その感覚は水輝にとって慣れ親しんだものだ。間違いない。立城は女性器に水輝のペニスを挿入したのだ。そのことをはっきりと理解した水輝は言葉もなく立城を見つめた。甘い声を上げて立城が腰を揺する。水輝はため息をついて全身の力を抜いた。
「あっ、立城、たつきっ!」
淫らに腰を振りながら立城が喘ぐ。水輝はやれやれ、と肩を竦めて身体を起こした。まだあちこちに痛みはあるし、傷は完治していない。だがせっかくの機会を逃すつもりはなかった。
歪んだ力、か。水輝は内心で呟いて腰が合わさっている辺りへ手を伸ばした。二人の肌に立城のペニスが挟まれている。硬く屹立したそれを水輝はそっと握った。
水輝はいつも大体こんな感じの役回りです。
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おれはノーマルだ!! 3
BLとTS警報は出しておきます!
「……後ろからの方がやりやすいかな。あ、そうか」
自分の考えに水輝は指を鳴らした。なぜ、今まで気付かなかったのだろう。自分の力を使おうとするから無理があるのだ。それなら立城の力を少し借りればいい。
「悪いな、立城。こういう状況だから勘弁な」
聞いているかどうかは判らない。だが水輝はそう言うなり立城の頭をつかんだ。強引に唇を合わせる。立城の中に渦巻いている力を少しだけ吸収する。それだけで水輝の傷は綺麗に癒えた。
「よし、復活。次は、と」
水輝はペニスを握る手に力を込めた。射精の衝動に駆られつつあったのだろう。立城が切ない声を上げて首を振る。だが水輝はしっかりとペニスを握って離さなかった。空いた手を立城の胸に伸ばす。
「おれはノーマルだからな。まあ、真也の分くらいは残してやるが」
そう告げて水輝は立城の胸に手を突きたてた。立城がびくりと身体を震わせて仰け反る。強い快楽が立城を捕えているのだ。
「大人しくしろよ。……これだな」
立城の体内を探り、水輝は一つの宝珠を手に取った。不思議と体内の闇は暖かい。ねっとりとまとわりつく感触に水輝は嗤いを浮かべて手を捻った。
一瞬で立城の姿が変わる。髪が伸び、背中に零れる。そして平らだった胸には二つの豊かな膨らみが生まれた。水輝はよし、と自分に頷いて視線を動かした。
「おーい、奈月。ちょっと来い」
畳に転がった刀が燐光を帯びる。そして刀は変質した。
「あっ、はい」
慌てたように奈月が駆けて来る。水輝は立城を後ろから抱え直した。
「あの、ゆかりさん、ですか?」
恐々と奈月が訊ねる。紫というのは立城が女の性をまとった時の名前だ。そして奈月は立城よりも紫のことをよく知っているのだ。水輝はにやりと人の悪い笑みを浮かべて頷いた。
「そ。今は変な力に影響されて訳判んないこと言ってるけどな」
「あの……もしかして、さっきの本気で?」
不安そうに奈月が訊ねる。水輝はああ、と苦笑した。奈月には立城と手合わせするとしか言っていなかった。だから心配しているのだろう。水輝は奈月に軽く頷いた。
「大丈夫だ。ちょっと力入っただけだから気にするな」
「びっくりしました。でも、立城さんが紫さんだったなんて……」
奈月は胸に手を当てて頬を染めている。水輝はそんな奈月に片手で手招きをした。立城の股間のペニスはまだ残っている。奈月は水輝の指示通り、大人しく立城の正面に正座した。
「くっん……」
立城が切ない声を上げる。水輝は笑って立城のペニスを強く握った。握る指を滑らせてペニスの根元を締める。立城はびくりと震えて再び切なそうに鳴いた。
「奈月。こいつのこれ、しゃぶってくれる?」
「あっあの、はい! 両方あるんですね」
頬を真っ赤に染め、奈月は素直に頷いた。屈みこんで怒張した立城のペニスを口に含む。それを見届けてから水輝は立城の胸に手を滑らせた。膨らみを片方だけ弄る。そしてもう片方の手はしっかりとペニスの根元を握っていた。
「あっ、くっ、ふん……」
掠れた声で立城が喘ぐ。水輝は薄く笑ってその場に膝で立った。前かがみになっている立城に腰を押し付ける。
「おれに手を出したらどうなるか、身体で覚えてもらおうか。奈月。いかせてやれ」
声をかけると奈月が小刻みに頭を振り始める。水輝はゆっくりと腰を前後させ、わざと刺激を緩やかにした。立城が首を激しく振り、声を上げる。
「あっ、ああっ! んくっ! たつ……んっみず、き??」
立城が焦ったように振り返ろうとする。だが水輝は嗤って立城の胸を弄った。はじけそうなほどに張りつめたペニスから手を離す。すると立城は掠れた声を上げて身体を震わせた。奈月が口一杯に精液を受け止める。
「んっ、水輝さん! これ!?」
喉を鳴らして精液を飲み下した奈月が目を見張る。水輝はのんびりと奈月を見やった。立城のペニスからはまだ精液が滴り落ちている。
「カプセルに詰めとけよ? 後で殴りに行くことにしてるんだ」
「わかりました。これ危険です。全て、吸っていいですか?」
真顔で奈月が告げる。水輝はああ、と頷いた。奈月が真剣になるのも当然だ。元々は水輝の力だが、それは歪みきっている。しかもどこかの誰かが影響を及ぼしたらしく、歪みの力は最早、洒落にならないレベルにまで増幅されていたのだ。
慌てた声を上げる立城の股間に奈月が再び顔を埋める。念入りにペニスをしゃぶり始めた奈月を見つめ、水輝は薄い嗤いを浮かべた。射精を促す意味も込め、立城の膣の奥にペニスをねじ込む。
「あっ、ちょっ、ちょっと、水輝!?」
「大人しくしろって。それともこっちも弄られたいのか?」
言いながら水輝は立城のクリトリスに手を伸ばした。硬くしこったクリトリスを指先で嬲る。
「紫さん、大丈夫です。全て処理できますから」
奈月が顔を上げてにっこりと笑う。すぐにまた立城のペニスは奈月の口の中に消えた。何が起こっているのかを全く理解していないのだろう。立城は本気でうろたえている。だがやがて立城の声が変化する。
「あっ、だめ、だってば、んっ! みずき!」
「久しぶりにおれも本気でやろっかな。奈月。そっち、頼むな」
そう声をかけて水輝は立城を抱え直した。奈月が目で返答する。それに頷き、水輝は立城の胸の膨らみを弄り始めた。腰の動きを少しだけ速くする。前と後ろの両方から攻められ、立城が甘い声を上げる。
「あっ、やっ、だめ! だめだってば、ああん!」
水輝は立城の耳元に口を寄せた。舌で耳をなぞる。立城は掠れた声を上げて腰をひくつかせた。射精したのだろう。奈月が目を閉じてそれを飲み下している。
「紫さん、歪みは全て処理できます。安心してください」
にっこりと笑って奈月は唇についた精液を舌で舐めとった。そしてまた立城の股間に顔を埋める。そんな奈月を見ていた水輝はふと思い出した。丁度いいか。そう内心で呟いて立城の耳元に囁く。
「なあ、あおいって、なに?」
それを訊ねた途端に立城の膣壁が柔らかく締まった。おお、と感嘆の声を上げて水輝は再度、同じ事を立城に訊ねた。すると今度は奈月が慌てたように手を振り回す。どうやらいきなり射精してしまったらしい。先ほどの精液の処理がまだ済んでいなかったのか、奈月は零してしまった精液を懸命に手で受け止めている。
あおい、ねえ。ぐったりと脱力した立城を抱えて水輝は胸の中で呟いた。
ここで五章は終わりです。
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六章
喧嘩を売りたいのに出来ない
エロシーンはありません。
橙色の光が見える。多輝は眩しさにもう一度目を閉じた。薄く瞼を開ける。じわじわと目が慣れてくると、そこが自分に与えられた部屋であることが判った。
「お目覚めになられましたか?」
聞き慣れない男の声に多輝は慌ててはっきりと目を開けた。瞼をこすって寝ぼけた気分を追い払う。多輝の眠るベッドの傍らに立っていたのは一人の青年だった。空色の淡い髪と瞳を持っている。そして多輝は青年から流れてくる波動を読んで深い息をついた。
「人……じゃないな?」
確かめるように多輝は訊ねた。すると青年が深々と一礼する。その仕草は誰かを思わせる。誰だったかな。多輝が思いを巡らせている間に青年が口を開く。
「蒼、と申します」
静かに告げながら蒼が面を上げる。多輝はそこで気付いた。この蒼と名乗った青年は立城の秘書である桜に似ているのだ。心の中で二人を比べていた多輝は次いで慌てた。蒼は人ではない。それなら桜は? 多輝の動揺を読んだのか、蒼は黙している。多輝は額を押さえて懸命に記憶を辿った。
これまで多輝は立城の傍らにいるその女性のことを疑ったことはなかった。人だとばかり思っていたのだ。が、今ここにいる蒼の気配はどう考えても人のそれではない。何故、今はそれが判るのだろう。桜のことは全く判らなかったのに。
多輝は額を押さえたまま目を閉じた。まざまざと脳裏に蘇ってくる光景がある。嘲笑を浮かべた水輝の姿が瞼の裏に蘇る。その瞬間、多輝は目を大きく開けてベッドから飛び降りた。
「あいつはどこだ!」
水輝にこっぴどくやられたことをはっきりと思い出し、多輝はそう怒鳴った。蒼は多輝を見つめて静かに頭を垂れる。
「水輝様は現在、お手すきではありません。代わりにわたくしが御用件を承ります」
どこまでも穏やかな声だ。だが顔を上げた蒼の面立ちからは優しいものが失せていた。多輝は一瞬、その表情に飲まれて声を失った。だがすぐに思い直す。苛立ちに任せて足音も高く蒼に歩み寄り、その首をつかむ。多輝は蒼に顔を寄せて吐き捨てた。
「ぶち殺す。そう伝えてくれ」
低音で告げて多輝は蒼から手を離した。蒼はぴくりとも表情を動かさない。乱れたシャツの首を整え、蒼は静かに頭を下げた。
「多輝様には不可能かと存じますが」
「ああ?」
蒼に背を向けていた多輝は怒りを込めて言いながら振り返った。静かな双眸に冷ややかな光をたたえ、蒼がもう一度同じ事を繰り返す。多輝は思わず怒りに肩を震わせて再度、蒼に向き直った。
「多輝様は水輝様がどういった存在であられるかをご存知ですか?」
後ろに回した手を組み合わせ、蒼は静かに多輝に対峙している。多輝は苛立たしさに任せてそんな蒼を睨みつけた。自然と手がこぶしの形になる。力を込めて手を握る。腕を震わせる多輝に構わず、蒼は静かに続けた。
「ご存知ではないご様子ですね。それでしたらなおのこと、多輝様には無理かと」
さらりと蒼が告げる。多輝は怒りに任せて蒼の胸倉をつかんだ。蒼が多輝に引き寄せられたように腰を少し屈める。だが抵抗する様子もない。
「喧嘩売ってんのか、てめえ」
どすの利いた声で多輝は告げた。それでも蒼の様子に変化はない。しれっとした顔で告げる。
「客観的に事実を述べたまでです。今現在、多輝様が水輝様に勝負を挑まれるのは無謀、無茶、自殺行為としか言いようがありません」
そう言いながら蒼は多輝の手に軽く触れた。すると驚いたことに多輝の指は本人の意志とは無関係に蒼から離れた。身体を起こして蒼が息をつく。多輝は勝手に動いた手を引き寄せ、言葉を失った。
「主に代わってわたくしがお相手しましょう。先ほどの主との乱闘で多少は多輝様の感知能力が開発されたようですから、まあ退屈はしないでしょうし」
緩んだネクタイを蒼が引き抜く。多輝は絶句して蒼を見上げた。
ここから六章です。
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独り相撲な親戚の人
エロシーンはありません。
ちょっとだけ長めです。
その日の男の機嫌は最悪だった。男の名は吉良克俊。木村重工GPHカンパニー開発部部長を務めている。克俊は肩を怒らせて大きな足音を立てて廊下を歩いていた。通りすがった女子社員たちがこそこそと廊下の脇に避ける。克俊に関わるといいことがない、というのが開発部の定説になっているのだ。だが克俊はそんな噂を全く知らない。そもそも自分以外の社員たちのことを全く見ていないのだ。
以前、克俊は女子社員をいきなりくびにしたことがある。その理由はごく単純だった。克俊に出された茶がぬるかったのだ。それを克俊は自分に対する反発と決めつけた。結果的にはその女子社員は自分から退社願いを出した。とてもそんな上司の下で働けないと思ったのだろう。だが未だに克俊はそんな女子社員の気持ちには全く気付いていない。
そもそも克俊がこの木村重工GPHカンパニーに入社したのには訳がある。当時、克俊はかなり悪質な手法で強引に木村重工GPHカンパニーに入社した。当時の人事部部長の不倫問題をねたに脅迫まがいの手を使ったのだ。
克俊はそれからも裏側で様々な手を駆使し、昇進した。その悪質な手に辟易し、辞めていった社員もいる。だが克俊はそんなことは全く気にしなかった。何故なら克俊にはある目的があったからだ。
かつて学生だった頃、克俊は事あるごとに従兄の総一郎と比べられた。進学先に選んだ高校ですらランクに差があったため、克俊は両親に酷い厭味を言われたのだ。が、どう足掻いても克俊は総一郎と同じ高校を受験することは出来なかった。担任が最後まで渋っていたのだ。
だが、例え同じ高校を受験していても克俊は不合格だっただろう。それは当時の克俊の学力がそのレベルに満たなかったからだ。だが克俊は別の高校を受験せざる得なかったことを担任のせいにした。そして当時の担任に克俊は陰湿な嫌がらせを繰り返した。担任はノイローゼに陥り、結局は学校を辞めていった。
総一郎は今や世間的にも有名になった。科学雑誌には毎号のように総一郎の発明品の特集が組まれている。市場にも総一郎の発明品の様々が出回っている。画期的だと世間は総一郎の作り出した品々を評している。が、その一方で克俊の開発したあらゆる品は悉く世間には認められない。
許さん。克俊は苛立ちを込めて壁を蹴った。プラスティックで出来た壁が衝撃を受けてへこむ。新たな企画が倒れたばかりで克俊は気が立っていた。が、同じ職場で働く者はたまったものではない。何もしていないのに克俊に怒鳴られ、ありもしないことをねたに叱られる。克俊の陰湿ないじめに耐え兼ねて辞めていく社員も多い。それでも克俊が会社を追い出されないのは、そのやり方が狡猾だからだ。決して上の役員たちにばれないやり方で克俊は日々、鬱憤を晴らしていた。
そんな克俊は今、とある企画に関わっている。巨大ロボットの製作というのがそれだ。開発部の克俊としては何としてもこの企画はやり遂げなければならない。何しろ巨大ロボットといえば、あの総一郎がかつて高校生の頃にあっさりと作り出してしまった代物だからだ。
奴に出来て俺に出来ない筈がない。克俊は恨みや怒り、憎しみを動力源に日々、企画に取り組んでいた。だが提案する意見が悉く却下される。苛立ちは日々強くなり、克俊の陰湿ないじめは度を増していた。
そんな日々の中、克俊は更に追い詰められる。企画に新しい誰かが関わるというのだ。それは開発部の克俊にとって最悪の状況だった。その誰かは外部の者で、克俊の手の届かない場所にいる。もしもその誰かが克俊を出し抜くようなことになったら。克俊の苛立ちは最高潮に達した。だが企画は着々と進んでいく。
「あ、あの……吉良部長。お客様……なんですが」
ためらいがちに言った女子社員を克俊はぎらりと睨みつけた。女子社員が焦ったように手で部屋の入り口を示す。だが克俊が目を凝らしても誰かがいる様子はない。
「君は今、うちの部がどういう状況になっているのかを理解しているのかね? アポイントメントのない客に私が会う暇がある訳がないだろう。帰ってもらいたまえ」
「で、ですが……その……ぶ、部長の親戚の方とかで……」
それを耳にした克俊は椅子を蹴倒して立ち上がった。憤然と机を殴る。親戚と言われて克俊の脳裏に浮かぶのはただ一人。総一郎のことだった。克俊は女子社員が慌てた声を上げるのも無視し、入り口に駆け寄った。閉じたドアを乱暴に開ける。
高校の制服に身を包んだ総一郎が立っている。克俊は苛立ちに任せてドアを叩きつけるように閉めた。
「貴様! うちの社に何の用だ!」
すっかり取り乱した克俊は怒りのままにそう喚いた。が、総一郎は不思議そうな顔をして克俊を見ている。次に総一郎はああ、と納得顔になった。
「お久しぶりです。優一郎です」
そう言って総一郎がにっこりと笑う。そこで初めて克俊は自分が勘違いをしていることに気付いた。総一郎が高校生である筈がない。幾らなんでも少年の姿をしている筈がないのだ。そして気付く。優一郎と名乗った少年を睨みつけ、克俊は顎をしゃくった。
「あいつの息子か」
見れば見るほど優一郎は総一郎に似ている。克俊は苛立ちを込めて優一郎の胸倉に手を伸ばした。だがつかむ寸前に優一郎がひらりと身をかわす。そのことが余計に克俊のしゃくに障った。
「はい。今日はご挨拶にあがりました」
克俊に微笑みかけたまま、優一郎が軽く頭を下げる。一体、何の用だ。克俊がそう告げる前に優一郎は更に続けた。
「いえ。プロジェクトのほうが停滞してるようですので。如月さんにちょっとこちらの様子を見てくるように頼まれたんです」
きっぱりと告げた優一郎を克俊は凝視した。如月といえば今回の企画の依頼者だ。何故、優一郎がそんなことを言い出すのか克俊には理解できなかった。だが優一郎は唖然とする克俊を無視し、更に続ける。
「企画書のほうには問題ないようですのに、何故、停滞しているのかが不思議でしたので、如月さんに代わって確認に参りました」
「……何故、お前のようなガキが」
そう言いながら克俊は自然と震えていた。これまでばれなかった様々なことに土足で踏み込まれているような気分になる。克俊は優一郎から目を逸らし、ポケットから煙草を抜いた。そもそも、こんなガキに企画のことなどわかるもんか。そう内心で呟くと少し落ち着いた。
「今回のプロジェクトでパイロットを努める要さんと同じ学校に通っている縁から、雑用のお手伝いをしてるんです」
あくまでも優一郎は穏やかに喋っている。克俊は乾いた笑い声を放って優一郎を煙草の先でさした。肩を軽く煙草でつつく。優一郎は不思議そうな顔をしてつつかれた肩を見た。
「雑用? ご苦労なことだ。だが企画については問題なく進んでいる。お前に話すことは何もない」
まさか上から強引にコンセプトを変えろと言われたとは言えない。それはイコール、克俊の提案が却下されたということだからだ。
「企画のほう拝見しました。汎用性に優れていて素晴らしいと思います。操縦性に多少の難がありますが、たいした問題ではないかと」
まさに克俊の思っていた通りのことを優一郎が告げる。克俊は途端に機嫌が良くなった。うんうん、と頷いて優一郎の肩を軽く叩く。そう、素晴らしい企画なのだ。それをどうして上の連中は判らないのだ。克俊はだが気付かなかった。優一郎は総一郎ではない。例え優一郎が企画を認めるような言葉を吐いても、それは総一郎が克俊を認めたことにはならないのだ。
不意に視界を何かが過ぎる。凄まじい勢いで誰かが駆けて来る。それが人であることに克俊が気付いた時、それは優一郎の肩を強引に抱いて笑い声を上げた。
「あははははは! 優一郎くんってばもう、お茶目さんなんだから!」
そう言いながら見知らぬ男が優一郎を強引に連れ去ろうとする。克俊は唖然として男を指差した。
「……何だ、貴様は」
「ええと、通りすがりの謎の遊び人ですぅ。そんじゃ、またー!」
そうまくし立てると男は優一郎を脇に抱えるようにしてその場を走り去った。克俊は一人、ぽつんと廊下に残された。
途中で切っても良かったのですが……。
このワンシーンしか出なかった気がしますので、一括でアップします。
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自称、通りすがりの謎の遊び人! 1
エロシーンはありません。
何が起こったのか、最初判らなかった。見知らぬ男に抱えられて口を手で塞がれる。気付いた時にはもう、優一郎は男に抱えられるようにしてその会社から出てしまっていた。玄関を出た男が優一郎を解放し、深々とため息をつく。
「酷いよ、優一郎くぅん。折角、企画ストップしてたのにぃ」
「あなたは?」
不信感が出来るだけ顔に出ないように務めつつ、優一郎はそう告げた。すると男がだらしない笑みを浮かべて自身を指差す。
「オレ? ただの通りすがりの謎の遊び人だよぉ。そう言ったじゃん」
髪を手でなでつけながら男が告げる。優一郎はさりげなく制服のポケットに手を入れた。残留力チェッカーは無反応だ。どうやら龍神関係ではないらしい。内心で安堵のため息をつき、優一郎はにっこりと笑った。
「なら、僕とは無関係ですよね。では」
優一郎はその場から去ろうとした。が、背中を向けた瞬間に何かに腕をつかまれる。見ると男が情けない顔で優一郎の腕をつかんでいた。
「そんなあ。折角、出会えたんだからさあ。もちょっと知り合いになろうよう」
男がしなを作ってそう告げる。何とも変わった性格だ。優一郎は自分の周囲にいないタイプの男に少々、面食らっていた。が、すぐに平静さを取り戻す。
「僕にそういう趣味はありませんので」
きっぱりと言って優一郎は歩き出した。男が慌てた声を上げて追って来る。時折、つまづいているところを見ると、基本的にそそっかしいらしい。優一郎は呆れたため息をついて階段の途中で振り返った。地下鉄に続く階段の上で男が大きくよろける。焦った声を上げて男の身体が傾く。さすがに優一郎はこれには驚いて反射的に手を伸ばした。
男が階段から転げ落ちる。その寸前に優一郎は何とか男を支えることに成功した。男の身体が傾ぐのに合わせて何気ない素振りで腕を捻り上げる。すると男は情けない声を上げて手足をばたつかせた。
「うわっ、痛い痛い、いたいってばあ!」
「危ないところでしたね」
そう言いながら優一郎はにっこりと笑った。だが男の腕をまだ捕えたままだ。男は半泣きになりながら必死で詫びている。優一郎は男の余りの痛がり方に苦笑して腕を解放した。肩を庇うように抱きながら男が涙目で礼を述べる。
「でもさあ。何でわざわざ企画煽るようなことゆうんだよぉ」
愚痴のような響きで男が告げる。優一郎は階段を降りながらああ、と笑った。どうやら男は先の優一郎の行動が気に入らないらしい。
「仕事の話でしたら、お伺いしますが。そこの喫茶店でどうですか?」
階段の途中で足を止め、優一郎は男を振り仰いだ。すると男が顔を輝かせる。わーい、と言いながら男は優一郎の肩を抱こうとした。どうも感情がストレートに行動に出るタイプらしい。優一郎は伸びてきた手をぴしゃりと叩き落とし、にっこりと笑った。
「名刺、いただけますか?」
当然のように優一郎は告げた。すると男があ、と慌てた声を上げる。
「ごめんごめん。渡してなかったよね。はい」
軽い口調で詫びながら男がポケットに手を入れる。出された名刺を受け取って優一郎は紙片に目を落とした。ルポライターと肩書きには書かれている。だが引っくり返すとそこには木村財閥系の会社名が記されていた。
「神崎葵ね。よろしくぅ」
葵と名乗った男がだらしない笑みを浮かべて身を折る。その礼の仕方だけはやけに洗練されていた。優一郎はふうん、と口の中で呟いて目を上げた。
「葵、さんですね。ルポライターとありますが、取材はお断りします。守秘義務がありますので」
当り前と言えば当り前だ。優一郎は常識的なことを口にしながら階段を昇り始めた。地下鉄の入り口には二、三軒の喫茶店があった筈だ。すると葵は軽薄な笑い声を上げて優一郎の後を追った。
「うん、ルポライターってのは世を忍ぶ仮の姿でねっ。実はそんな仕事はしてないのさ!」
自信満々で葵が告げる。優一郎は半ば呆れつつも名刺をポケットに納めた。葵は嬉しそうに笑いながら優一郎の横に追いつく。ジャケットを着てはいるが、中に着ているのは極彩色のアロハシャツだ。しかも下にはジーンズを穿いている。とても会社勤めとは思えない。だが世の中には様々な会社がある。もしかしたら葵のところは服装にはそう煩くないのかも知れない。優一郎は葵の格好をそう納得した。
喫茶店に入るとさすがに葵もそれまでよりは大人しくなった。どうやら状況を見ることはできるようだ。出されたコーヒーを傾け、優一郎はそう考えた。葵は注文したチョコレートパフェに小さな歓声を上げている。品物を持ってきたウェイトレスに軽い誘い文句を吐いたが、あっけなくかわされている。
「ちぇー。可愛かったのに」
そう言いながら葵は長いスプーンでパフェの山を切り崩しにかかった。
「あのさあ。あの企画、どーしても進めなきゃ駄目?」
スプーンが生クリームをすくい上げる。優一郎はカップを戻して口許を指先で拭った。
「ルポライターの神崎葵さんに、答えるべき質問ではないと思いますが?」
「うええん、優一郎くんがイジメるよう」
泣き真似をしつつ葵が告げる。見た目には葵は二十代半ばだ。優一郎は半ば呆れた気分でため息をついた。が、優一郎の気持ちを少しは理解したのだろう。だってさあ、と葵が続ける。
「ボスが煩いんだもん。あの企画は通すなって」
「名刺をもう一度いただけますか?」
甘えるように告げた葵に切り返す。すると葵は拗ねた顔でポケットを探り始めた。その口許には生クリームがついている。優一郎は指で口許をさして見せた。すると葵がもう、と言いながら指先で生クリームを拭う。
この話では、偽名にしてはいけない名前w
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自称、通りすがりの謎の遊び人! 2
エロシーンはないです。
一枚の紙片がテーブルの上を滑る。優一郎は指先でそれを受け止めた。先ほどの真っ白なものとは違い、こちらは淡い黄色をしている。金色の飾り模様が名刺を縁取っている。そして優一郎はそれを見て目を見張った。
「えっとねぇ。いちお、これでも秘書なのだ」
そう言って葵が笑う。だらしないその笑みを見てから優一郎はもう一度、名刺に目を落とした。木村総研株式会社 社長室付き。その文字が小さく記されている。どうやらそれが葵の正式な肩書きらしい。
これが? 優一郎は驚愕に目を見張ったまま葵を見た。今度は大きなパイナップルを切ろうとしている。だがスプーンでは到底切れない。葵は何度もパイナップルにチャレンジしている。その様は子供のようだ。優一郎はため息をついた。
「木村総研の神崎葵さん。で間違いはありませんね? 真実だと誓えますね?」
「うんっ。あっ! えーん、落としちゃったよぅ。とほほ」
背の高いパフェのグラスからパイナップルがテーブルに落ちている。その様子に優一郎は思わず苦笑した。それまでの緊張感が自然と緩む。優一郎は微笑を浮かべて葵に備え付けのペーパーを差し出した。
「それでは質問にお答えしましょう」
「わーい。ありがとう!」
嬉しそうに笑う葵の表情は無邪気そのものだ。少々、だらしないイメージはあるが何らかの画策をしている様子もない。まあ、これだけでそう判断するのも危険だけど。優一郎は内心で呟いて告げた。
「別にあの企画に拘っているわけではありません。さらに優れた企画がスケジュールに間に合うのであれば、問題ありません」
そう言いながら優一郎はカップを取った。コーヒーを半分ほどまで飲んで息をつく。ふんふん、と言いながら葵が身を乗り出す。不用意に身体をテーブルにはみ出させたために、葵は身体でパフェを倒しそうになった。さりげなく手を伸ばし、優一郎はパフェのグラスを支えた。すると慌てたように葵が椅子に舞い戻る。
「ご、ごめん。……えっと、でもさあ。あのおやじに作らせたらまた粗悪品にならない?」
葵は今度はしっかりとグラスを支えてスプーンで大きくバニラアイスをすくった。溶けかけたアイスを口に運ぶ。しっかりと口許にアイスが付着している。優一郎はやれやれとため息をついてまた口許を指差して見せた。焦ったように葵が口許を拭う。どうしてこれで秘書がつとまるのだろう。優一郎は話している内容とは全く別の疑問を抱いていた。
「そんなことはありませんよ。決してベストではありませんけど、充分な性能はあります」
「えー。そうかなあ。だって、オレの目から見ても出来は良くない気がするよ? そもそも勝負に使うんでしょ? 勝てなきゃ意味ないし」
すかさず葵が言葉を挟む。優一郎は内心で感嘆の声を上げた。少なくとも葵は企画内容を把握しており、更にその企画で作られた商品が何に使用されるのかを知っているのだ。
「いくら凄い機種が完成しても、こちらのスケジュールに間に合わなかったら無意味ですし」
淡々と返す。すると葵が唇を尖らせて不服の声を上げる。困ったなあ、と口の中でぼやきながら椅子を前後に揺らす。
「それだったらさあ。優一郎くんが力を貸してくれるってのはどう?」
がたん、と椅子を戻して葵が告げる。名案を思いついたと言わんばかりの表情だ。優一郎はため息をついて苦笑した。アイス、零れてますよ。そう指摘してみる。すると葵は焦ったようにスプーンを見た。スプーンの先に残っていたアイスが溶け、テーブルにバニラの雫を垂らしている。
「既に僕は勝利を目指して全力を尽くしていますよ」
にっこりと笑って優一郎は告げた。すると葵が不思議そうに首を傾げる。そうなの? と目で問われて優一郎は頷いた。
それから葵は二個のパフェを追加注文した。葵は食べながら優一郎が勝利する方法を懸命に聞きだそうとしていた。が、優一郎は頑として口を割らなかった。もしも葵がスパイであったら。そう考えたからだ。
「要さんは、訓練期間および調整期間の不足が前回の敗因だったと分析しているようです。僕もその意見には賛成です」
「うん、まあそうかもねぇ。ロボットってさあ。動かそうと思っていきなりできるってもんでもないんでしょ?」
「だからこそ、こちらとしては納入スケジュールは譲れません。企画の差し替えは結構ですが、本来のスケジュールに間に合うことが前提条件となります」
「じゃあさあ」
エスプレッソを傾けていた葵が目を上げる。優一郎はコーヒーのお代わりを注文してから目を向けた。葵はテーブルに身体を乗り出して口許に手をあてがう。
「優一郎くんが直に企画に参入するってのでどう? あのおやじをぶちのめすチャンスだしぃ」
ぴくり、と優一郎は眉を上げた。葵に克俊との関係を喋った覚えはない。もちろん、総一郎の話もしていない。優一郎は不信感を込めて葵を見返した。が、葵は優一郎のそんな態度に気付いていないようだ。声を落としたまま続ける。
「実はさあ。うちのボスもあのおやじには煮え湯を飲まされてるらしくってさあ。あの会社の社長、ボスとオトモダチなんだよ。で、ボスとしてもオトモダチを助けたいわけね」
それから葵は潜めた声で話し始めた。克俊の勤める会社の社長は何度か克俊のくびを切ろうとしたらしい。だがどういう方法でか、克俊は社長である男性の浮気現場の写真を撮ったそうだ。確かに浮気していたのは社長自身だし、それは反省すべきだろう。だが会社に害を与えているのが判っていながらくびを切れない状態で困っているらしい。
そこで社長は葵のボスに相談した。友達であることもあり、ボスも出来るだけ協力しようとした。が、そんな折、ボスの家族に嫌がらせをする輩が現れた。家族が執拗に付回される。ボスは慌てて警察に駆け込んだ。が、どうしても証拠を握ることが出来ない。しかもただ単に付けられた程度では警察は動かない。結局、ボスは友達である社長に協力することを諦めて現在に至るのだ。
色々あるので企画をボツにしたい側と、納期を守れば問題ない側。
説明が足りてないのがバレバレですね!
すみません!><
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自称、通りすがりの謎の遊び人! 3
あ、エロシーンはないです!
「だからさあ。出来れば今回の企画で失敗して欲しいんだよぅ。そりゃあさ。オトモダチの不注意だってことは判るよ。でもねぇ、オレ的にはそいつってばちょっとやりすぎだと思うし……」
そう話を締めくくって葵は口を噤んだ。哀しそうにため息をついている。優一郎も同時にため息をついた。確かに同情はする。実際に克俊が押しつけようとした企画にはかなりの問題点はある。が、スケジュールを考えると今から全く新しい企画を起こすのは無理だ。
「彼の仕様書には一通り目を通しました。さまざまな問題点はありますが、今回の勝利に必要充分なスペックを持っていると判断しました」
「うううう。やっぱ、ダメ? あうー。ボスに怒られるぅ」
情けない声で嘆き、葵がテーブルに突っ伏す。優一郎は深々とため息をつき頷いた。スケジュールの遅延はそのまま要の敗北を意味する。相手はあの絵美佳なのだ。きっともう設計図は完成し、実際に組み上げ作業に入っているだろう。
考えた末に優一郎は一つの提案をした。
「いえ。そちらがどうしても出来ないと仰るなら、こちらとしては違約金を払っていただいた上で、契約を破棄していただくという手もあります」
前回、要は絵美佳に惨敗してしまった。その際に使用された機体自体は悪くなかったのだ。が、当の企業は要の失態に愛想を尽かし、今後は手を貸さないと言ってきた。もし、違約金が手に入ればその企業との関係修復も可能になる。
「ただ、その場合でも、こちらとしてはあの企画に致命的な問題があったとは思えません。あくまで御社の中の問題として、処理していただくことになりますが」
そう告げながら優一郎はにっこりと笑った。半ば、身体を起こしかけていた葵ががっくりとテーブルに伏せる。
「やっぱムリかあ……。まあ、何の痛手も負わずに一人の人間をクビにするってのも難しいだろうしなあ……」
そもそも全然関係ないヒトに頼もうってのも変か。葵は力なく笑ってそう続けた。まるで見捨てられた猫のようだ。優一郎は肩を竦めて苦笑した。頼んだコーヒーのお代わりが運ばれてくる。だが今度は葵もウェイトレスに声はかけない。どうやら相当に落ち込んでいるようだ。
「まあ、そこまで仰るなら、僕も直接設計に参加してもかまいませんよ。企画レベルでの修正は今更無理ですけど」
あくまでもさらりと優一郎は告げた。すると葵が目を見開いて勢いよく身体を起こす。その勢いで立ち上がった葵は嬉しそうに目を輝かせていた。
「ホント!? ホントに!? うわ、ありがとお、優一郎くん!」
店内にいることも忘れたのか、葵は嬉しそうに騒いで優一郎の手を取った。そのまま上下に大きく振る。どうも葵にとってはそれが握手のつもりらしい。優一郎はまあまあ、と葵を制した。そこで我に返ったのだろう。葵が慌てて着席する。
「あっ、も一つ思い出した」
有頂天に騒いでいた葵が慌ててポケットを探る。優一郎はのんびりとコーヒーを啜った。設計に参加する旨については後日正式な打ち合わせが行われるらしい。
「あのねぇ。実は優一郎くんに折り入ってお願いがあるんだよねぇ」
言いながら葵は一枚の写真を指で押した。優一郎はさして気にせず写真を受け取った。目の高さに上げて驚愕に息を飲む。
「ボスの息子なんだけどさあ。……ほら、なんてゆうの? カノジョいない歴十六年?」
優一郎は写真を食い入るように見つめていた。そんな優一郎を余所に葵は手を口許にあてがって声を潜める。内緒話をするようにテーブルに身を乗り出して続ける。
「でさあ。登校中に一目見たカノジョに惚れちゃったはいいけど、根性なしらしくてさあ。もう、部屋にこもっちゃって鬱々じょーたい」
噂話を楽しむ主婦のように葵が手をぱたぱたと振る。だがそれを優一郎は全く見ていなかった。遠目に映されたその姿を見つめる。写真を握るその手が小刻みに震え始めたことにも優一郎は全く気づかなかった。
「さすがのボスも呆れたんだけど、まあ? 親だから? 心配じゃあん。んなもんで、ゼヒゼヒ、息子くんを憧れのカノジョに会わせてやりたいと。まあ、こゆ訳なんだけど」
ぱちん、と目の前で音がする。優一郎は呆然としたまま目を上げた。葵が優一郎を拝むようにして目をかたく閉じる。
「おねがいっ。ゼヒ、情けない息子に要ちゃんを紹介してくんないかな? いや、もちろんタダとは言わないからさあ!」
葵は必死でせがんでいる。だが優一郎はすぐには返答できなかった。写真に写されていたのは紛れもなく多輝だったのだ。いや、本人かどうかははっきりと判らない。それでも写真の中に立つその姿を見た優一郎は呆然となっていた。
それからの葵の話を優一郎はきちんと聞き取れなかった。とりあえずまた会う約束だけを交わして研究室に戻る。写真は優一郎のポケットにある。優一郎は夢遊病者のような足取りで私室である地下二階に向かった。
電話を取る。優一郎は震える手で番号を押した。それは木村総研株式会社の社長室に直通の電話番号だった。ほどなくして女性が応答する。優一郎は名前だけを告げた。女性は不審そうにしていたが最後には教えてくれた。どうやら今日は社長は早目に帰宅したらしい。優一郎は自宅の番号を教えてもらって礼を述べた。
コール五回で相手が出る。穏やかな男性の声がした。どうやら社長本人らしい。優一郎は名乗ってから二、三の質問をした。男性が快くそれに応えてくれる。時折、声が途切れたのはきっと言葉を選んでいたからだろう。
『……そう、息子が一人いるよ。ああ、親の私がいうのも何だがあれで女の子にはもてるらしい』
そう言って男性が小さく笑う。なのに女の子一人、口説けないのだ。そう告げた男性の口調は優しい。優一郎はそうですか、と言って電話を切った。深々とため息をつく。どうやら葵の言っていたことは本当らしい。少なくともそれは確認できた。
一体、どういうことだ。優一郎はしばし、佇んだまま考えを巡らせた。
多輝似の少年と要は出会えるのでしょうか(棒
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電話の向こうで
男同士が駄目な方は逃げて下さい!
超短いです。
(600字しかありませんでした……)
震える手が受話器を置く。汗ばんだ手が電話を切ったのを見届けて順は口許に嗤いを浮かべた。
「ご苦労さん。なかなかいい対応だったじゃん」
白髪混じりの頭をうなだれ、男が荒い息をつく。順はくすくすと笑って男の腰に足を乗せた。踏まれた男が掠れた声を上げる。順は靴の底で男の尻をにじるように踏みつけた。
「じ……順様っ。もう、お許しください……」
「ああ? 誰に向かって口きいてんだよ? オレに指図できるとか思ってんの?」
口許を歪め、順はそう吐き捨てた。踵で強く男の尻を踏む。男の尻の間には黒々としたバイブが突き立っている。激しく肩を上下させ、男は涙目で振り返った。
「少年と話しながらいっちゃってたじゃん。汚いもん、出すなよなあ」
嗤いながら告げ、順は足で強く男の尻を蹴った。もんどりうって男が床に転がる。その首につけてあるのは真っ黒な首輪だ。順は首輪から伸びた鎖を手で勢いよく引いた。すると男が悲鳴を上げて身体を起こす。
「おらおら。お前は何なんだよ。言ってみな」
順は男の肩を踏みつけて告げた。煙草の先で伸びた灰がじゅうたんに落ちる。男は悲鳴を上げて首を振った。ロープで強く拘束された体は汗で濡れている。そして男のペニスは真っ黒なカバーで覆われていた。
「ひぃ! 私は順様の……! ああっ! 下僕ですぅ!」
「そーだよ。お前は汚い豚なんだよ。オレに指図するなんて百万年早いっての」
左手に握った黒宝珠を翳す。するとああ、と男が目を潤ませる。順は嗤って黒宝珠に力を叩き込んだ。男の身体がびくりと跳ねる。激しい声を上げて反り返った男の目は歓喜に満ち溢れていた。
*****
まさかの600字!!><
すみません、蛇足ですが追加します。
ここに出てるのは木村順というキャラクターです。
この場面ではドS仕様になってますが、どっちもいけるクチです。
一応、『冥界への案内人』の主人公です。あれがこーなると思うと同情できないかも……w
この、苛められてるヒトは今後は出てこないと思います。たしか。
エロシーンはエロシーンなのかもですが……微妙ですね、これ。
ここまでで順が何回か偽名を使っているのですが、これが後々面倒な展開のきっかけになります。
本人は別にその辺りは気にしていないというか……リスクは判っててやってる的なところがあるんですよね。
道化みたいな感じの役回りな気がします。でも貧乏性w
この話でもなかなか痛い目にあうのですが、他の話でも似たような感じなので、そういう性格なのかも知れません。
がんばって1,000字にしました。・゚・(ノД`)・゚・。
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神江羅木、登場★
目が覚めると身体がだるかった。ベッドの中で身じろぎをして絵美佳は当然のように傍にある温もりに手を伸ばした。抱き寄せると腕の中で小さな悲鳴が上がる。相変わらず感度は抜群らしい。絵美佳は口許に笑いを浮かべて両腕でしっかりと巴を抱きしめた。
今日は学校も休みだ。絵美佳は大きく欠伸をして瞼を擦った。片目だけを開ける。すると見慣れた光景が見えた。巴の部屋は愛らしく飾ってある。巴がそうしたいと言ったからだ。絵美佳は部屋の様子に苦笑して再度、巴をしっかりと腕に抱いた。
「おはよ、巴」
掠れた声で絵美佳は告げた。うーん、我ながら渋い声。そんなことを思いながら巴の髪に口づける。すると唐突に巴が慌てたように毛布から顔を出した。
「えっ、えっ、だっ、誰!?」
「俺だよ、俺。わかんない?」
絵美佳はにやりと口許を歪めて巴の頭に手を回した。焦る巴に口づける。すると巴は慌てたように手を振り回す。どうして夢なのに巴は嫌がるのかなあ。ぼんやりとそんなことを考える。夢なら夢主の意志に従うものではないのだろうか。
夢の中で絵美佳は男になっていた。欲しかった男の身体を手に入れたことを絵美佳はとても喜んだ。しかも男になってみるとその容姿は総一郎にとても良く似ていた。そのことが絵美佳を更に喜ばせた。
きっと夢の続きだ。絵美佳は巴に口づけながら楽観的にそう思っていた。が、腕に抱いた巴が必死の面持ちで絵美佳の胸を押す。
「お前だって、俺が男のほうがいいだろ?」
そうすれば巴は他の男性にその身体を触らせることもない。絵美佳は欠伸をかみ殺しながらそう告げた。すると巴が真っ赤になる。
「どっ、どーしてそんなこと知ってるんですかあ! さては盗み聞きとかしましたね! いやあ! 恥ずかしいよう!」
真っ赤になった巴が腕の中で暴れる。さすがにそこで絵美佳も状況を少しずつ把握し始めた。まだ巴は自分が絵美佳であると気付いていないのだ。
「お前のために、男になってやったのにつれないな」
腕の中で暴れる巴の感触はやはり心地よい。絵美佳は唇を歪めて笑ってから巴の胸に手を伸ばした。短い悲鳴を上げて巴が身をよじる。
「もっ、もっ、もしかしてっ、えっ、絵美佳先輩!?」
胸を弄られて巴が目を見張る。どうやらその手つきに覚えがあったようだ。絵美佳はそんな巴を笑い飛ばした。
「そうよ。俺……じゃなくて、あたしよ。あたし。あんたねー。せっかくこっちが気分出して演技してるんだから、言わなくても気づきなさい!」
笑い混じりに告げて絵美佳は巴に圧し掛かった。巴が愛らしい悲鳴を上げる。だがそれまでの不安な様子はない。嬉しそうに微笑んでいる。
夢はやっぱ、こうでなくちゃ。絵美佳は満足感を込めて頷き、改めて巴の身体を弄り始めた。巴の反応がとても新鮮に見える。きっと夢だからね。絵美佳はそう考えながら巴のネグリジェをめくった。
「可愛いぜ。巴」
白い肌に唇をつける。巴は恥じらいに頬を染めている。絵美佳は早速、巴を焦らしにかかった。艶やかな肌に指を這わせて巴の欲情を誘う。巴は次第に愛らしい声で鳴きはじめた。小さな唇が快楽に震えて声を紡ぎだす。それを見た絵美佳の下半身が熱くなる。
「あっ……あっ、絵美佳せんぱぁい!」
「絵美佳じゃない。俺は……そうだな。俺はラキ。神江羅木だ」
羅木、と巴が口の中で呟く。そして次に巴は納得顔になった。さかさまに読むと絵美佳先輩なんですね。嬉しそうに告げた巴の頭を絵美佳は小突いた。指先で額を弾く。
「違うだろ、ちゃんと呼べ」
少し低い声で絵美佳は告げた。すると慌てたように巴が頷く。
「はい、羅木先輩っ」
「よし、いい子だ」
口許に笑いを刻み、絵美佳は巴の胸に顔を伏せた。淡く色づく乳首を口に含む。すると巴が声を漏らし始めた。一度、命令すれば巴はその命令に従う。呟くように巴の唇から羅木の名が漏れる。よしよし、と頷き、絵美佳は手を巴の股間に滑らせた。
朝一番のメンテナンスは順調に終わった。が、そこで絵美佳ははたと気付いた。射精の感覚を思い出す。そう言えば巴と交わっている間、嫌に生々しい感触があった。もしかしてこれは夢ではないのではないか。そんな疑問が頭をもたげてくる。
巴はシャワーを浴びに行っている。絵美佳は静かにベッドから降りた。姿見に自分の姿を映してみる。確かにこれは男の身体だ。顔立ちは総一郎に良く似ている。もしかしたら優一郎よりも総一郎に似ているかも知れない。絵美佳は試しに自分の顔に触れてみた。ついでに頬をつねる。途端に痛みが走った。
「さすが、あたしの気合ね! 男になるなんて! すごい!」
鏡に向かってそう叫んだ絵美佳は続いて思い切り顔をしかめた。どうも女言葉を発していると自分がおかまになった気分になってくるのだ。絵美佳は低く呻いて額を押さえた。
「やっぱ、俺だな。俺。言葉使いには気をつけないとな」
この時の絵美佳の記憶からは何故男になったのかということは完璧に抜け落ちていた。いや、その前に順と話したことすら絵美佳は覚えていなかった。衝撃が強すぎて記憶が飛んでしまったのだが、その自覚は絵美佳にはなかった。うんうん、と頷いて腕組みをする。
そしてふと気付く。
このままでは学校には行けないのではないか。いや、家に帰ることも出来ないのではないか。優一郎や由梨佳はまあいい。が、総一郎に男になったと知られるのは何故か気が引ける。絵美佳は腕組みをしたままうーん、と頭を捻った。
「まあどーせ家には帰ってなかったからいいにしても、要の奴に逃げたと思われるのは嫌だな」
そう、ロボット同士の対戦のこともある。絵美佳は髪の短くなった頭をがりがりとかいた。しばらく呻きながら考えを巡らせる。その間に巴が部屋に戻ってきた。裸で部屋の中に立つ絵美佳を見止め、頬を染める。そして巴は心配そうに絵美佳に近づいた。
「あ、あの。風邪ひきますよぅ。そんな格好でいたら」
ガウンに包まれた巴の身体をじっと見つめる。巴は正確に言えばヒューマノイドではない。ヒューマノイドはヒトの脳を機械仕掛けの身体に組み込んだものだ。だから厳密に言えば巴はロボットなのだろう。
「男子部員の服、頂くしかないか」
考えを巡らせながら絵美佳は何気なく答えた。さすがに裸のままではいられない。すると巴が目を輝かせて頷く。
「ちょっとロッカー覗いてきますね!」
そう言ったかと思うと巴は慌ただしく部屋を出て行った。が、絵美佳は返事もせずにずっと考えを巡らせ続けた。ヒューマノイド、ロボット……。口の中で何度かそう呟く。そして絵美佳は顔を上げた。その顔にはうっすらとした笑みが浮かんでいた。
地の文で『羅木』とほとんど書いていなかった気がします。
なので、口調が男でも『絵美佳』になってるかもです。すみません(汗)
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都子と順のじゃれあい 1
エロシーンはありません。
けたたましい音がして食器棚が揺れる。中から数点のティセットが落ちてくる。それらは違うことなく順の頭に命中した。慌てたように順が手を振る。待て、と言う制止の声を無視して都子は右手を繰り出した。こぶしが順の頬を掠めて食器棚に突き刺さる。順の頬に一筋の傷がつく。
「い、いや、あの、ね? ちょっと、都子ちゃあん!」
ひゅっ、と息を吐いて都子は身体を反転させた。左の肘が食器棚にめり込む。今度は食器棚が大きく揺れた。キッチンにいた数名の使用人が悲鳴を上げる。間一髪で都子の肘を避けた順はそのまま後ろに大きく飛んだ。
「待て! 話を聞け!」
だが都子は順の制止を無視して床を蹴った。身軽にテーブルを乗り越えて膝を突き出す。が、今度は順の手がそれを受け止めた。
「お兄さまのお話はろくでもないものばかりでしょう!」
作りかけだったクッキーの生地が跳ねる。都子は軽く床を蹴り、続いてテーブルを蹴って順の顔面に左足を飛ばした。げ、と目を見張った順の頬に都子の膝蹴りがきまる。テーブルをなぎ倒して吹き飛んだ順を尻目に都子はふう、と息をついた。髪を背中に払って腕組みをする。
木村の当主である順は殆ど屋敷には帰って来ない。何をしているのかは都子も薄々は知っていた。が、決して口は出したことがない。そして順も何故都子が口を出さないかを知っている。都子は胸を反らして順をじろりと睨みつけた。順は情けない笑い声を漏らしながら身体を起こす。
「……それでも加減したのよ?」
「判ってるって。いたいなあ、もう」
苦笑いしながら順が立ち上がる。使用人たちは恐々と二人の様子を見守っている。都子は彼女たちの視線に気付き、ため息をついた。次いで順に手招きをする。
「とにかく。私の部屋に行きましょう。話の続きはそこで伺います」
そう告げて都子は順の脇を過ぎた。順がぼやきながら都子の後に続く。きっとさっきの使用人たちは兄妹の仲が最悪なのだと認識を改めただろう。それを考えると都子は憂鬱になった。
夢の世界に閉じ込められていた間のことを都子は覚えていなかった。気付いた時にはもう、この屋敷に帰っていた。が、僅かにだけ記憶に残っていることがある。鮮やかなばらの花と、そして柔らかな微笑を浮かべる人物。そして都子はその人物のことを知っていた。
吉良瀬立城。都子は現実の世界に戻った後、その話を順に聞かせた。順が何を思ったのかは判らない。が、順はその話をした後に都子に告げた。出来るだけ屋敷にいるように、と。
どうしてなのかを都子は問わなかった。その時の順があまりにも真剣で問えなかったのだ。けれど薄々は知っていた。順は立城を恐れているのだ。そして同時に憎んでいる。
龍神に成りきれなかった者。自分たちがそう言われているのは知っている。都子はため息をつきながらドアを開けた。部屋の中に順を促す。順はまだ頬をさすっている。都子は呆れて顔をしかめた。
「そんなに強く蹴ったつもりはないのだけれど?」
「だってさあ。おもっきり入ったから……うう、痣になりそう」
わざとだろう。順は涙目になっている。やれやれと都子は肩を竦めて順に歩み寄った。本当は順が自分のためにそう言っているのも知っている。だがそ知らぬ顔で都子は順の首をつかまえた。ぶら下がるようにして順の首に抱きつく。
「何故、私がわざわざ治さなければならないんです? そもそもの原因はお兄さまにあるのにっ」
憎まれ口を叩きつつ、都子は目を閉じた。淡い空色の光が都子の身体を包む。その光ごと包み込むように順が都子の腰に手を回す。
都子の力は日に日に強くなっている。こうして少しでも消費しなければ力はやがて無尽蔵に世界に吐き出される。そもそも、都子の力は使ってこそ意味があるものなのだ。抱きすくめられた都子はそっと息をついて目を開いた。
「どうでもいいですけど、わざとらしく触るのは止めていただけます!?」
そう言いながら都子は素早く順の頬に平手を飛ばした。順が都子を抱きしめながら尻を撫でたのだ。慌てた声を上げて順が逃げようとする。が、一瞬早く都子の手が順の頬にヒットした。
「全く。お兄さまの馬鹿者さ加減は全く変わりませんわね! 木村の当主として情けなくないんですの!?」
「えー。だってオレ、財閥とか興味ないもん」
唇を尖らせて順が拗ねる。呆れ果てたため息をついて都子は順から離れた。いつまでもこの兄は。苛々としたものが心に溜まっていくのを感じる。
二人が直接、話をしたりするシーンは少ないかも。
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都子と順のじゃれあい 2
エロシーンはないです。
今の都子の器は本来の都子のものではない。とある誰かの肉体に都子の精神が宿っているのだ。元々の都子の体は今、静かな眠りについている。そしてこの新しい器が問題なのだ。
造作が水輝に似ているのはまあ我慢できる。都子はかつて知り合った水輝をさほど嫌ってはいなかったからだ。そして水輝本体でないことも判る。なのにこの器は恐ろしいほどに力に順応してしまうのだ。
都子は日々、器と共存できる方法を模索している。この器が万が一、失われてしまえば意識は今度は完全に消えてしまうだろう。それでは困るのだ。考えを巡らせつつ都子は親指の爪をぎり、と噛んだ。
「その上、私に男装をしろと? 先日、写真を撮ったばかりでしょう?」
順は数日前に都子に男になってくれと拝み倒した。この器は元々、龍神のそれだ。性別を変えることも可能ではある。が、都子はずっと渋っていた。冗談ではないというのが本音だった。それでも都子は最後には仕方なく順の要望に応えた。はっきり言って不本意極まりなかったが、写真の一枚くらいならと我慢出来たのだ。
だが今度は男になってどこぞに付き合えと言う。都子はぴくぴくと片頬を震わせた。順がそろそろと都子から離れていく。
「だ、だってさあ。力使ったらバレそうなんだもん」
「それは私の正体が知れるということではないの? 男になるにしろこのままにしろ、この器では到底、力は抑えられませんし」
結局、都子は順の目的も聞かないままでそう訊ね返した。順が珍しく弱気になっているところに気が向いてしまったのだ。はっとした時にはもう遅かった。順がうんうんと頷きながら都子に近づく。都子は反射的に身構えた。
「べ、別に協力するとは言っていませんから!」
「だいじょぶだよお。心配しなくても力を抑える方法はあるし」
にっこりと順が笑う。だがその笑みはどことなくだらしない。都子は苛々しながら頭をかいた。順はいつも都子のペースを崩す。それがわざとなのだと判っているのに、どうしても自分のペースに持っていけない。そもそも順がどれだけ都子に真実を打ち明けているのかも判らない。深々とため息をついて都子は伏せていた目を上げた。
「とにかく、そのお話はなかったことに」
「ええ! だってさっきおっけーしてくれたじゃん!」
声を裏返らせて順が喚く。都子は順に出て行けと手を振った。が、順は振っていた都子の手を取って目を潤ませている。どこまでが本気なのだろう。都子は呆れた思いで順の手を振り払った。ふて腐れて順が床にしゃがみ込む。まるで子供のようだ。
「……お兄さま。その手は私には通用しませんことよ? 何度も引っかかったりはしませんっ」
都子はそう言い捨ててそっぽを向いた。やれやれ、とため息をつきながら順が立ち上がる。その顔には先ほどよりは幾分かまともに見られる笑みが浮かんでいた。久しぶりに見る順の表情に都子はあら、と目を丸くした。
「まあ、真面目な話、都子のその身体はどうにかしなきゃなんないだろう? いつまでもそのままでいられるとも思えないしね」
「確かにそうですけど」
それは都子にもよく判っていた。器が全くの空であれば問題はなかったのだ。が、それでは龍神としての器は逆に保てなかっただろう。そもそも龍神の器は力そのもので構成されているのだ。
都子は数少ないフェイクの成功例だ。それ故に力の大きさだけなら下手をすると順を上回る。そんな都子だったからこそ、どうしても力のある器にしか入れなかったという理由もある。
けれどその器は今も刻々と変化しているのだ。時折、有り余った力に都子自身が傷つけられることもある。大抵はそうなる前に力を放出してはいるのだが、間に合わない場合があるのだ。
このまま器が保てるとは到底思えない。都子は自然と俯いてしまった。そんな都子の肩を順が軽く叩く。
「心配するな。きっと何とかするから」
「でも」
順の元に戻れたことは嬉しい。素直に良かったと思う。都子は兄に対するより激しい想いを順に抱いている。それ故に順と離れたくないと思う。そして順もまた、都子を手放す気はないのだ。
それが例え人形としての私でも。都子は内心でそう呟いた。
「まだオレは諦めない。絶対に。覆す方法はある筈だから」
囁き声で順が告げる。もしかしたら誰に聞かせるつもりもなかったのかも知れない。都子が驚いて見ていることに気付いたのだろう。順が顔を上げて笑う。
「都子は何も気にしなくていいんだってば。ほら、そろそろお茶の時間だよん。オレ、クッキーもいいけどアップルパイも食べたいなあ」
言いながら順がバルコニーに向かう。都子は苦笑して頷いた。
都子、苦労性です。
そう考えるとこの兄妹はよく似てるかもです。
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暗がりの中で苛めてみる 1
暗いその部屋では甘い息遣いが響いていた。衣擦れの音と共に水音が立つ。部屋の灯りは最小にまで絞られている。白い靴下が床を滑る。つま先で床をかき、腿を震わせて斎姫は喘いでいた。
切ない声を上げて斎姫が身体をひくつかせる。つま先が浮き上がり宙をかいて震える。その様を優一郎は椅子に腰掛けて眺めていた。背もたれを腕に抱えるようにして背中を丸める。斎姫はだがそんな優一郎を見ることはない。目隠しをされているからだ。
斎姫は硬い椅子に縛り付けられていた。機体が傷つくような縛り方はされていないが、上半身は身動きが出来ないようになっている。腕は背後に回され、やはり手首は縛られている。胸は露にされ、乳房の周囲にもロープが取り囲んでいる。
静かに優一郎は視線をずらした。斎姫のめくれたスカートの中を見つめる。斎姫の女性器はぐっしょりと濡れそぼっている。そして陰唇の間では細いバイブが振動しているのだ。
優一郎は目を細めてそっと手の中のリモコンを操作した。すると斎姫が高く鳴いて頭を振る。斎姫の足は自由にされている。その足が宙を強くかく。バイブの振動が急に強くなったために達してしまったのだ。
五度目だな。優一郎は胸の中で数えて口許を歪めた。斎姫はこの部屋に優一郎がいることを知らない。斎姫を縛るように命令したのは優一郎自身だ。そして保美はその命令を受けて斎姫を椅子に縛り上げた。何が起こっているのかを理解してなかったのだろう。斎姫は慌てていたらしい。だがそんな斎姫も優一郎の名を出されると大人しくなった。そんな光景を優一郎は私室で確かめていた。そして斎姫が目隠しをされたところでこの部屋に入ったのだ。保美と入れ替わりで入ってきた優一郎のことを斎姫はまだ気づいていない。
縛られてすぐの斎姫は恐々と周囲を伺っていた。が、目隠しをされているために当然、周囲の様子は判らない。そんな斎姫の身体を優一郎は無言で弄った。斎姫は最初、正体の判らない優一郎に愛撫されて激しく抵抗した。
ある期間、自慰以外で快楽を得ないように。それが先日、優一郎が斎姫に下した命令だった。そして斎姫は今日までしっかり命令を守っていたのだ。
背後から斎姫の胸を弄る。そんな優一郎の愛撫に斎姫は心底、嫌がった。だがそれも最初の内だけだった。斎姫はヒューマノイドだ。しかも優一郎には斎姫の機体のことを誰よりも詳しく知っている。当然のように斎姫は優一郎の愛撫に感じ始めた。いけないという思いが余計に斎姫の感覚を刺激し、快楽をより一層強くしたのだ。
ぴったりと閉じていた斎姫の腿が徐々に開く。その様は優一郎を興奮させた。嫌がりながら感じているところも優一郎の欲望を煽った。そして優一郎は斎姫のスカートをめくり上げて下腹部を露出させた。腿を開かせてバイブを膣に挿入する。斎姫は抵抗しようとしたが、バイブのスイッチが入ると途端に大人しくなった。それも優一郎の思った通りの反応だった。
だが斎姫に挿入されたバイブは細く、それだけに振動による刺激も弱い。斎姫は今も焦らされ続けているのだ。クリトリスの下にある小さな電光パネルがそんな斎姫の気分をはっきりと示している。ライトが忙しなく明滅し、色を変える。優一郎は無言でライトの示す斎姫の感情を読んだ。不安、罪悪感、そして快楽。大きくはその三つの感情が斎姫を支配していることがわかる。
優一郎は目を細めてリモコンを斎姫に向けた。じわじわとバイブの振動を弱くする。すると斎姫が切ない声で鳴いた。
あれからずっと写真について考えていた。写っていた男は多輝に見えた。もしかしたら他人の空似かも知れないじゃないか。優一郎はそうも考えたが不安は消えなかった。皮肉な笑みがどうしても脳裏に焼き付いて離れない。
葵にも会った。どうやら葵は本気で写真の男を優一郎に引き合わせようとしているらしい。だが優一郎はもう少し待ってくれと葵に告げた。何しろ優一郎当人がまだ要と正式に話はしていないのだ。優一郎がこれまで企画うんぬんに関わってきたのはあくまでも栄子の依頼によるものだ。操縦者の要とはこれからきちんと会わなければならない。
苛立ちが募る。優一郎は鬱憤を晴らすために斎姫に痴態を演じさせているのだ。が、斎姫はまだ優一郎の存在には気付いていないらしい。時折、嫌がるように首を振る。
焦らすようにバイブの振動に細かい強弱をつける。
「あっおねがい! やめて……ください!」
そう言いつつも斎姫の足は震えている。優一郎はひっそりと嗤い、静かに椅子から立ち上がった。斎姫に挿入していたバイブを素早く抜き取る。すると斎姫は短い悲鳴を上げて身体を震わせた。
白衣に手を入れて優一郎は別のバイブを取り出した。今度は先ほどのものよりも数段、太いものだ。
「ああっ!」
斎姫の背後に回り、開いた腿の間にバイブを押し付ける。優一郎は顔に深い嗤いを刻んで斎姫の膣口をバイブで弄った。
これは……何プレイ、ですかね?
斎姫の扱いが段々とアレになってる気がします……w
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暗がりの中で苛めてみる 2
エロシーンの続きです。
「やめてっ! これ以上、約束を、命令を、破ったら私……わたし……」
悲鳴じみた声を上げて斎姫が懸命に腿を閉じようとする。だが優一郎は腿の間に手を入れて強引にそれを開かせた。黒い目隠しの下を涙が伝う。嫌がる斎姫の膣口にバイブの先端を入れる。凶悪な笑みが優一郎の口許には浮かんでいた。
優一郎は斎姫の膣口をバイブで捏ねた。斎姫が泣きながら首を振る。
「いやっ、優くんっ、だめっ!」
それを聞きながら優一郎はにやりとした嗤いを浮かべた。嫌がる斎姫の姿がいつも以上に情欲をそそる。優一郎はしっかりと斎姫の腿を押さえてバイブをじりじりと膣内に進めた。
膣壁をバイブで弄る。斎姫は足を大きく広げて声を上げた。
「ああっ! 大きい! だめ、壊れる! 壊れちゃう!」
腰がひくついている。それを見ながら優一郎はゆっくりとバイブを押した。それと共に愛液が押し出されてくる。優一郎は膣の奥にまでバイブを進めてから斎姫の前に回った。
自然と股間に手が伸びる。優一郎は斎姫の目の前で白衣を開いた。静かにズボンのジッパーを下げる。その音は斎姫の喘ぎ声にかき消された。
「あっ、んふっ! だめええっ! 壊れてく……壊れてるぅっ! いやああぁ!」
勃起しきったペニスが露になる。優一郎は斎姫のバイブにそっと触れた。じわじわと抜き差しし始める。そうしつつ優一郎は自分のペニスを握った。斎姫は嫌がりながらも最高レベルで快楽を得ている。感情を示すパネルのランプを読み取りながら優一郎は息を潜めてペニスを扱き始めた。
「痛い! やっ、ああっ! 優くん、助けて、壊れるっ! 壊れちゃう!! あそこがだめぇ!」
斎姫の足が宙で引きつったように震える。優一郎は嗤いながらバイブのスイッチを入れた。微振動にセットして腰を上げる。黒々としたバイブに犯される斎姫を見ながらペニスを扱く。
斎姫が一際高い声を発してつま先で宙をかく。優一郎は強くペニスを扱いて射精した。迸った精液が斎姫の顔や胸にかかる。
「優くん……捨てないで」
そう呟いたと同時に斎姫がぴたりと動きを止めた。快楽が強すぎて壊れてしまったのだ。
優一郎は肩で息をつきながら斎姫に近づいた。目隠しをそっと外し、脱力した斎姫の口を開かせる。動きを止めた斎姫は絶頂に到達した時のままの表情を保っている。くすくすと笑いつつ優一郎は精液に塗れたペニスを斎姫の口に押し込んだ。
斎姫を中心に微かな匂いが広がる。機体の部品が焼き切れたのだ。独特のその匂いを優一郎は胸一杯に吸い込んだ。味わうようにゆっくりと吸い込んで静かに息を吐き出す。壊れた斎姫の頭を押さえ、優一郎は腰を振り始めた。斎姫がヒューマノイドの本性をさらけ出すたびに欲情する。
彼女たちは優一郎を必要とする。決して他の誰にも優一郎の代わりは出来ない。ヒューマノイドたちは作り手である優一郎の意志のままに操られるのだ。優一郎は次第に呼吸を荒くしながら斎姫の唇でペニスを扱いた。
だがそう感じる心の裏側では小さな不安も生まれていた。どうして自分はヒューマノイドに拘っているのだろう。何故、彼女たちを支配したいと思うのだろう。そしてそう考えるたびに優一郎は簡単に答えに辿りついてしまう。
脳裏に由梨佳の姿が浮かぶ。優一郎は目をかたく閉じて眉を寄せた。
「母さん」
呟きと共に優一郎は射精した。斎姫の口に溢れた精液が唇の端から漏れてくる。優一郎は力なく笑いながら斎姫の頭を揺すった。
全身で息をしながら優一郎は斎姫から離れた。汚れたペニスを乱暴に拭う。服を整えて優一郎は携帯電話を取り出した。ほどなく保美が応答する。指示すると保美はすぐにその部屋に現れた。
「保美先輩、後はお願いします。女性器ユニットの修理は最低限でいいです。それから、斎姫に伝言お願いします」
そう言って優一郎は斎姫に背を向けた。使用した器具を投げるようにトレイに放り込む。
「僕だって気づかなかった事には失望したよ。罰として、女性器ユニットのメンテを最低限に抑える事にしたから。こうお伝えください」
苛立ちをぶつける方向が恐らく違っている。だが優一郎は淡々と保美に指示を出していた。保美が静かに頭を下げる。了解しました。いつもと変わらない保美の声を聞いて優一郎は頷いた。
これでも気持ち良いのがヒューマノイド(棒
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バトルの訓練中
エロシーンはありません。
冷たい水を浴びせられ、多輝は焦って飛び起きた。水に濡れた頭を強く振る。衝撃に気を失っていたのだとこの時に気付く。多輝は慌てて身体を起こし、その場に立ち上がった。
「目が覚めましたか?」
少し離れた場所で蒼が腕組みをしている。多輝は濡れた髪を背中に追いやって蒼を鋭く睨みつけた。0勝三敗。しかも多輝はここまで一度も蒼に触れていないのだ。舌打ちをして多輝は手のひらを合わせた。
体内に渦巻くそれをイメージする。まずはそこからだと蒼は言った。多輝は三度ほど蒼にぶちのめされたおかげか、随分と楽に力を集めることができるようになった。が、それでも蒼に比べればまだ不器用だ。
「今度こそ!」
そう叫んで多輝は畳を蹴った。格技場の中には多輝と蒼しかいない。畳は随分と荒れているし、あちこちの壁には亀裂やへこみがある。だがそれでも戦うには充分な広さがある。多輝は畳の上を素早く移動した。ぎりぎりまで蒼に迫ってから畳を強く蹴る。
「遅いですね」
そう告げて蒼がその場から姿を消した。多輝は一瞬、蒼を見失った。が、感覚が鋭くなっているためにすぐにその居場所を感知する。
「こっちか!」
多輝は畳を蹴って無理に走る方向を急転換した。が、手が空を切る。蒼は多輝の手を避けて身体を沈めていた。
「読みは当たっていましたが」
残念ですね。そう告げて蒼が足元に力を炸裂させる。多輝は叫びを殺して身体を丸めた。壁に背中から激突する。衝撃に息が止まる。多輝はそのまま落ちるように床に倒れた。激しく咳き込む。その咳音に微かに雑音が混じっている。どうやら肺が傷ついたらしい。多輝は力なく笑いながら胸に手をあてた。
不思議と怒りはない。それどころか爽快感すらある。きっと憎しみに駆られて動いていないからだ。それ故に蒼の言うことも素直に理解できる。
「感覚は鋭くなってきているようですね。ですが、力の織り方がそれでは余りに稚拙です」
淡々と蒼が告げる。稚拙、と多輝は口の中で呟いた。はい、と頷いて蒼がゆらりと腕を上げる。多輝は目を細めて蒼の手先に意識を集中した。淡い水色の光が蒼の手の先に集まっている。
「本来、力はこうした単純なものです。このままの状態で放てば」
そう告げて蒼が手にした力を多輝に放つ。高速で移動したそれはだが、多輝の手前で跡形もなく弾けた。無意識に展開した多輝の結界に阻まれたのだ。
「本能的に作られた結界にあっさりと弾かれてしまいます」
うん、と頷いて多輝は身体を起こした。その場に胡座をかく。蒼はこうして一つずつ多輝に教えながら戦っているのだ。蒼の手先に再び集まり始めた力を見つめ、多輝は息を潜めた。今まで誰も多輝には力の使い方を教えはしなかった。身体で覚えろと言わんばかりの水輝のやり方は少しは役に立ったが、それでも多輝の能力を完全に引き出すには足らなかったのだ。
蒼が手の先に集まった光を見つめる。
「極小の光と思えば織り易いかも知れません」
「光?」
「そう。小さな点である光を寄せ集め、形を作る。それが力を織るということです」
言って蒼は少しずつ手の先の力を変化させた。やがて光が分裂し、また集合する。そして蒼は幾つもの光の刃を作り出した。光の刃が照明を反射して煌く。つい見とれていた多輝は次に焦った声を上げた。蒼が予告もなく刃を放ったのだ。
光。点。咄嗟に多輝はそれらをイメージした。瞬間、轟音が鳴る。多輝の目の前に立ちはだかるように水の柱がそそり立つ。放たれた刃は次々と水の柱に突っ込んで消えた。柱の外にはみ出したものだけが多輝の脇を抜けて壁に突き刺さる。肩越しにそれを見た多輝の背中が一気に冷えた。あんなものをまともに食らったらただでは済まない。
「力を織る、というのはそういうことです」
静かな蒼の声が聞こえてくる。それと同時に多輝を守っていた水の柱が消えた。多輝は驚きに声をなくして周囲を見回した。何が起こったのか判らない。
「今、多輝様は結界を展開されました。それは先ほどのような本能的なものではない。現に多輝様を守ったでしょう?」
「え? あ、あれ? もしかしてさっきの?」
巨大な水柱は音もなく消えた。だが多輝にはそれを作り出したという実感はなかった。さしてしたことはない。強いて言えば光の点をイメージした程度だ。唖然とする多輝に蒼はほんの少し、ごくささやかな笑みを見せた。
「わたくしがお相手させて頂いているために水輝様の属性が色濃く出てしまったようですが……慣れればどんな属性の力でも織ることが可能になります」
穏やかに言いながら蒼が再び力を集め始める。多輝は立ち上がって手を合わせた。手の中で紺色の光が膨れ上がる。目を閉じると光が瞼の裏に見える。戦っている最中に視界を閉ざすことが危険だということは判る。が、目を閉じたことで多輝はこれまでよりはっきりと力を見ることができた。
霧のように細かな光の粒が渦を巻いている。きっと本当はもっと細かいのだろう。それを思いながら多輝は一つの形をイメージした。目を開く。多輝の手の中で収縮した光が一瞬で展開する。
幾つもの鋭い刃が蒼を目掛けて走る。それは空中で極細の針となって蒼に襲い掛かった。それまで沈黙していた蒼の真正面に何かが現れる。蒼はそれを片手に一気に空を薙いだ。
凄まじい風が巻き起こる。多輝は姿勢を低くして床に手をついた。でたらめに風が室内を走る。そして多輝の飛ばした針は全て蒼に蹴散らされた。舌打ちをして風を切って走る。蒼が手にしているのは一本のリボンだ。
空にリボンが踊る。そしてそれは一瞬で変質する。多輝は手の中に握った力を床に叩きつけた。リボンが無数の鎖に姿を変える。一方、多輝の力は鋭い氷の柱となった。畳から巨大な氷が生えてくる。
鎖が氷を打ち砕く。多輝は怒号を上げて蒼に飛び掛った。その手足を鎖が捕える。だが蒼も氷を避けていたために自由が利かないらしい。多輝はまとわりつく鎖を引き千切って床を蹴った。
「もらった!」
高く飛び上がりこぶしをふりかぶる。それを狙いすましたように一本の鎖が多輝の肩を貫く。だが多輝は構わず蒼に殴りかかった。
光が交錯する。多輝のこぶしは蒼の頬を掠めて畳にめり込んだ。同時に多輝もそのまま畳に突っ込む。脱力した多輝の影響を受けて氷は跡形もなく消えた。
「何とか当たりましたね」
頬に出来たうっすらとした傷を指で押さえ、蒼が微笑む。多輝は畳にひっくり返って全身で息をした。視界がぼやけている。きっと深手を負ったためだ。多輝は顔をしかめて肩に手を伸ばした。その手に何かが触れる。
「今日はここまでに致しましょう。わたくしで宜しければまたお付き合い致しますので」
急に痛みが消える。蒼が鎖を消したのだ。が、多輝は目でそれを確認することは出来なかった。深い息をついて全身に入っていた力を抜く。それだけで体力を激しく消耗していることがわかった。
不思議な気分だった。水輝に滅多打ちにされた時とは全く別の感覚が身体を満たしている。多輝は自然と口許に笑みを浮かべた。気分がすっきりと晴れた感じがする。それに疲労感や痛みも何故か心地いい。
「失礼致します」
ふわりと身体が浮く。蒼が多輝を抱き上げて歩き出す。多輝は力を抜いたまま身体を預けた。視界はぼやけているし、耳の奥では雑音が鳴っている。疲れすぎたためだろう。多輝は大人しく抱えられて目を閉じた。
視界がぼやける=カメラがぶれてる
なのですが、書けてないですね!><
すみません!
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治療のはずなのに 1
エロシーンはありません。
目を閉じていると周囲のことがよく判る。これまで多輝は無意識に感じることを拒絶していた。かつて水輝が解放した力が無尽蔵に周辺の気配を多輝に押し付けようとし、そのために多輝は一種のショック状態に陥った。それ故に無意識に感覚を閉じる癖がついていたのだ。戦い方を少しずつ学習したため、今、多輝の感覚は徐々に開きつつあった。
一気に視界が開けるように感覚が開ける。それで多輝は蒼が自分を抱えて外に出たのだと知った。屋敷に続く庭を歩いているのだ。手に取るように周囲の様子が判ることをこの時の多輝は恐れなかった。
庭一面に花が咲き乱れている。鋭く研ぎ澄まされた感覚が気配で花を見る。それは多輝に酷く新鮮な印象を与えた。間近にいる蒼の気配を静かに避ける。すると一気に感覚の景色が開けた。思わず多輝はその光景に息を飲んだ。
まるで花の中に埋もれているようだ。目を閉じて深く息を吸うとばらの香りが全身に染み込んでくる気がする。
「おや。多輝様は植物と相性がおよろしいようですね」
そう告げて蒼が微笑む。多輝は感覚を切り替えて蒼の表情を読んだ。すると一面の花の中にぽっかりと蒼の姿が浮かぶ。口許に笑みを見止めて多輝も満足そうに笑った。
やがて静かに花が遠ざかる。どうやら屋敷に入ったらしい。多輝は今度は蒼に意識を集中してみた。人のように胸で脈打っているものがある。だがそれは人の心臓の形をしていない。注意深く感覚を絞ると蒼の気配が遠ざかる。そして多輝の感覚の真ん中に一つの珠が浮かび上がった。
血のように紅い珠が静かに闇に浮かんでいる。多輝はするりと感覚を動かして珠に触れてみた。熱い触感と共に珠の脈動を感じる。
不意に蒼が足を止めた。多輝を抱く腕に僅かに力がこもる。
「……多輝様。それ以上は……」
そう告げた蒼の息遣いは少しだけ速くなっている。多輝は慌てて意識を切り替えた。珠から感覚が遠くなる。そして感覚の視界に現れたのは苦しげに顔を歪める蒼の姿だった。
「あっ、ご、ごめん」
焦りつつ詫びる。すると蒼は不安になるほどそっけなくいえ、とだけ返した。再び静かに歩き出す。多輝はそれから大人しく蒼の腕に納まっていた。
階段を昇りきる。その時、不意に何かが多輝の感覚を叩いた。慣れない気配が見えてくる。
「あれ? もしかして知らない奴が屋敷にいる?」
気配に意識を集中したまま多輝は呟くように告げた。すると蒼が困惑した面持ちになる。そのまま蒼は足を止めてしまった。
「いえ、多輝様もよくご存知の方なのですが、今は少し気配を違えられているかも知れません」
どうしますか、と蒼は続けた。どういう意味だろう。多輝は首を捻って考えた。特に害意のある気配でないことははっきりしている。ただ気に食わないのはその傍に蒼に良く似た、けれど強大な力の持ち主がいることだ。
水輝。多輝は口の中で呟いて眉を寄せた。ここで逃げるのは癪だ。そう結論を出して蒼の胸に頭をもたせかける。驚いたように蒼が腕を震わせる。だが多輝は構わず告げた。
「いいよ。行こう」
近づくにつれて気配が濃くなる。そうして多輝の感覚には三人の気配が引っかかった。知らない誰かと水輝、そして奈月の気配が見える。その時に多輝は初めて気付いた。奈月は人ではない。その身体は機械仕掛けだが、内部に大量の力を持っている。普段、気付かないのは恐らく巧妙に力が隠されているからだ。そして力を隠しているベールは同時に奈月が人ではないことも隠している。
なるほどね。多輝は内心でそう呟いて少し笑った。奈月は元々、多輝ととても仲のいい友達だ。が、これまで多輝は奈月に対して少し距離を持っていた。奈月はあくまでも人だと思っていたからだ。だが本当はそんな必要はなかったのかも知れない。そう思うとそれまで奈月に対して無意識に張り巡らせていた多輝の警戒心が解けた。自然と口許がほころぶ。
「開けますよ。本当に宜しいのですか?」
伺うような蒼の声に多輝は小さく頷いた。直後、激しい痛みのような感覚に囚われる。多輝は思わず呻いて全身に力を込めた。油断していたために感覚が吸い込まれるように気配に絡みつく。
「あっ、んふぅ! やっもう、やめっ! だいじょうぶ……ああっ!」
濃い紫の気配が多輝の感覚を襲う。衝撃に一瞬、息が止まる。多輝は見えない目を見張って声もなく仰け反った。慌てたように蒼が多輝をしっかりと抱きしめる。だがそのことすら多輝には判らなかった。
多輝の感覚が捉えたのは膨大な光だった。突き刺さるような激しい痛みに晒される。同時に強すぎる快楽に襲われ、多輝は蒼の腕の中で一気に果てた。
「ようやくいったか……。あれ? 蒼? 何してんだ、お前」
水輝の声が遠い。多輝は全身で息をしながら何とか感覚を閉ざそうとした。が、一旦開いてしまった感覚はなかなか閉じてくれない。
「えっ、あの……きゃあ!」
奈月が愛らしい悲鳴を上げる。多輝はここでようやく理解した。知らない誰かが水輝に犯されている。同時に奈月に快感を与えられて絶頂に達したのだ。それを知った多輝は震える声で怒鳴ろうとした。が、その寸前に蒼が口を開く。
「申し訳ございません。多輝様の手当てをお願いいたしたく」
蒼が静かに頭を垂れる。次いで多輝の感覚を弾いたのは水輝の気配だった。やれやれ、と言いながら腰を上げる。ずるり、という艶かしい音と共にペニスが引きずり出される。それと共に多輝はびくりと身体を震わせた。
「そんなもん放っとけば……ん?」
水輝の声が近づく。多輝は何とか目を開けて水輝を睨もうとした。が、視界は相変わらず暗いままだ。そうしている内に何かが多輝の顎を捕える。水輝が指で多輝の顎をつかんで上向かせたのだ。
視界を閉ざされた状態ってエロいですよねー。
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治療のはずなのに 2
色々警報出しときます!
エロシーンの触りです。
(まだガチではありません)
「おんやあ? 蒼、てめえこいつに何した?」
確かめるように水輝が指を捻る。多輝は思わず水輝の手を振り払おうとした。が、思った通りに身体が動かない。それでも多輝の感覚は何とか平常に戻りつつあった。紫の輝きが次第に遠くなる。
「少々、お相手させて頂きました」
そう告げて蒼が一礼する。さりげないその動きで水輝の指は多輝の顎から外れた。ほっと息をついた多輝は今度は無造作に頭をつかまれた。抵抗も空しく水輝の手が多輝の頭を押さえる。多輝は呻きながら首を反らした。白い首筋が露になる。
「ごまかそうとしても無駄だぜ。てめえ、これ以上くそがきに染まりやがったらただじゃおかないぞ」
喋っている内容とは裏腹に水輝はくすくすと笑っている。次いで多輝は唐突に解放された。伸び上がっていた首が戻ると激しい咳の衝動が襲ってくる。何度か咳き込むとどうにか胸のつかえが取れた。
「面倒だなあ。お前、代わりにやれよ」
心底、面倒そうに水輝が吐く。多輝は息を吸い込んで喚いた。
「おれだっててめえに何かされたかねえ!」
叫んだ多輝の声を追いかけるようにおずおずとした声が続く。
「あの、治療ならわたしでも……」
そう言ったのが奈月だということは多輝にも判った。すると水輝が途端に不機嫌になる。水輝の気配が多輝の感覚を強く弾く。水輝は奈月に向かって軽く手を上げると憮然として告げた。
「駄目」
きっぱりと言い切る。そこで多輝はやっと理解した。水輝は奈月をとても大事にしているのだ。もしかして奈月さんって水輝の? そこまで考えを巡らせた時、水輝がにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「そっか。こいつも確か歪み入ってるんだっけ」
「……水輝様」
静かな蒼の声が耳に直接届く。多輝はいつの間にか蒼に強く抱きしめられていた。密着した胸の奥から蒼の声が聞こえてくる。
「治療はわたくしがさせて頂きますので」
「却下」
はっきりと告げて水輝が腕を伸ばす。あっという間に多輝は蒼の腕から水輝の腕に抱きかえられた。慌てて暴れようとするが、どうしても身体が動かない。歯軋りをする多輝は水輝の腕の中にしっかりとおさまってしまった。
「……水輝。いいかげんにしておかないと。多輝が恐がっているのに」
それまで沈黙していた誰かの声が聞こえてくる。多輝ははっとして目でその声の主を探そうとした。けれどどうしても見えない。多輝は止む無く閉じかけていた感覚をそっと開いた。
「紫さん!」
奈月が嬉しそうな声を上げる。どうやらそれが声の主の名前のようだ。それを聞いて多輝はああ、と納得した。名前の通り、静かな紫の光が見える。感覚の視界に開けたその光景に多輝は思わず見とれてしまった。
次いで我に返る。多輝は慌てて声のする方を向いた。
「ちょ、ちょっと待て! お前、まさか立城なのか!?」
女の声だった筈だ。それに感覚に映ったその姿も紛れもない女性だった。その女性は床に横たわり苦しそうに息をついている。股間に屹立したものだけが気になるが、ブラウスの隙間からちらりと見えるそれは胸の膨らみだ。細い肩と長い髪。だが多輝は次いで女性の顔を捉えて息を飲んだ。その面立ちは立城に似ている。
だが視界を開かなくとも多輝にはそれが立城であるとよくわかった。何故なら立城と同じ紫の輝きをまとっていたからだ。それまではっきりと意識したことのない光のベールが見える。
「とにかく、多輝を放してあげて」
そう告げた立城の声はいつもと違っていた。何だろう。女だからだろうか。少し考えて多輝は理解した。いつも見える余裕がないのだ。対して水輝はそんな立城をせせら笑う。
「無理すんなよ。現に立ち上がれないだろうが」
急に身体が揺れる。水輝は多輝の身体をしっかりと抱いたまま歩き出した。床に横たわる立城の傍に近づく。多輝は慌てて身体を捻った。が、その瞬間に激痛に襲われる。
「まずはくそがきを剥かなきゃな。おい、奈月。そっち頼むぞ」
「はいっ!」
耳の奥に声が届いたと思った瞬間、多輝は唐突な落下感に襲われた。慌てる多輝の身体を何かがやんわりと受け止める。一体、何がどうなってるんだ。唖然とした多輝の呟きは、次に焦った声に転じた。
「おい、ちょっと待て! ばか! やめろっ!」
だが多輝は声を張り上げるのが精一杯だった。一気に水輝が多輝の服を引き裂く。悪寒が背中に走る。それと同時に立城が厳しい声を放った。
「水輝! いいかげんに」
不意に身体が揺らぐ。多輝は気付くと別の誰かの腕の中に納まっていた。柔らかな感触が顔に当たっている。多輝は慌てた声をあげて飛びのこうとした。奈月の胸に頭から抱えられる格好になってしまっている。
「ちょっ、ちょっと、水輝! いいかげんにしないと僕も怒るよ!?」
「何言ってやがる。一回いったくらいで満足なんてまさかしてないだろ?」
無造作に水輝が手で何かをつかむ。その途端に立城の声がぴたりと止んだ。多輝は驚いて肩越しに振り返った。感覚が強制的に開ける。多輝の感覚をこじ開けて入ってきたのは真っ青な光だった。直線的なその光が多輝の感覚を束にして捕えようとする。
「てんめえ……」
いつか見た光景が蘇る。為す術もなく強大な力に晒され、狂気じみた快楽に囚われた。感覚を無理にこじ開けられて体内を好き放題に弄られた。あの時の屈辱が生々しく多輝の心に蘇った。
位置関係がややこしいですね……。
描写が甘い(自分に突っ込み
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治療のはずなのに 3
色々警報出しときます!
エロシーンです。
「ぶっ殺す!」
急速に力が集まってくる。多輝は無意識に周辺の力をかき集めていた。体内で混ざり合った力が一気に膨れ上がる。だが力を放とうとした瞬間、何かが後ろから多輝を抱きすくめた。
「水輝さんの力、返していただきますね」
何かが首筋を這う。剥き出しになった多輝の胸の膨らみをゆっくりと何かが弄る。多輝は唐突に襲ってきた柔らかな感覚に思わず仰け反った。奈月が多輝を愛撫し始めたのだ。
かき集めていた力が霧散する。多輝は懸命に奈月の腕から逃れようとした。怒りで我を忘れてしまう。壊れかけた機体が軋みをあげた。
「み……ずきっ! 放せ!」
立城の叫びが間近に聞こえる。だがその声には甘い響きがこもっていた。多輝ははっとして声のする方を向いた。紫の輝きが次第に大きくなっている。
「くそがきも治るし丁度いいじゃん。……あ。さっきより感じてるだろ、お前」
ずぶり、と何かが水音を立てる。水輝は立城の膣口に無造作に指を埋め、膣内を愛撫し始めていた。立城の感じている快楽が波のように多輝の感覚を撫でていく。多輝は無防備にそれを受け入れた。
「んっ、ちょっと……ああっ!」
紫の光が感覚に絡みつく。多輝は無意識のうちに腿をひらいた。破れた下着の隙間に奈月が手を伸ばす。
「あっ、ああっ! そこ……だめぇ!」
細い指先が多輝の翳りの奥へと進む。奈月の指先は多輝のクリトリスを探り当てて小さく動き始めた。胸を揉みしだかれ、唇で首筋や耳を愛撫される。多輝は悲鳴混じりの声を上げて足を大きくひらいた。愛液に濡れた陰部が晒される。
「おっ。少しは素直になったじゃねえか。ほら、お前も鳴けよ。さっきみたいにさ」
「だっ……誰が!」
苦しそうに立城が叫ぶ。立城は多輝と同様に水輝に後ろから抱きしめられていた。水輝の腕の中で懸命にもがいている。水輝は薄笑いを浮かべて立城の股間を弄っている。けれどそんな二人の様子を多輝ははっきりと認識できなかった。開いた感覚を叩くのは強い快楽だけだ。
引き寄せあうように感覚が吸い込まれていく。多輝の理性はその瞬間に弾け飛んだ。膣から愛液が溢れて零れる。奈月がそっと指先で多輝の陰唇を開く。
「すぐに楽になりますから」
耳に声が届く。
「あっ、なに……? ああっ!」
開いた陰唇の間に硬くいきり立った立城のペニスが入ってくる。多輝は身体をひくつかせて悦びの声を上げた。立城は声を殺して目をかたく閉じている。
「ちゃんと入ったな。んじゃ、おれも」
多輝の胸の膨らみに柔らかなものが触れる。それが立城の乳房だということに気付いた時、触れ合った肌が強く擦れあった。立城が声を上げて仰け反る。それと同時に多輝と立城の身体はぴったりと密着した。
「ちょっ、あっ! んぅ、だめっ!」
多輝の耳に立城の甘い声が飛び込んでくる。水輝に膣の奥を突かれ、次第に立城の肌が汗ばんでくる。水輝が動くたびに立城の腰が揺れ、自然と多輝の膣内をペニスが出入りする。多輝は声を上げて腰を動かそうとした。が、身体の動きが殆ど取れず、それが逆に多輝の欲情を深くする。
「……奈月。そいつ、後ろもいけるみたいだから攻めてやれよ」
嗤いながら水輝が告げる。すると奈月は素直に多輝の尻に手を伸ばした。
「えっ、あの? ここ、ですか?」
細い指が捏ねるように多輝の肛門を弄る。多輝は強く頭を振って息を殺した。慣れた快感が全身に広がる。
「じっくり弄ってやれよ。すげえ感じてるみたいだし。っと、こっちも大分、出来上がってるなあ」
そう言いながら水輝が立城の手をつかむ。その手を多輝の腰にあてがうと、立城は多輝の腰をしっかりと抱えて自分から腰を振り始めた。突き抜けるような快楽が多輝の全身を襲う。奈月が大胆に指を肛門に入れたのだ。
「あふっ!! そこっ、だめ! そこはっ、ああっ!」
奈月の指が直腸の奥を探る。多輝は悲鳴混じりの声を上げて仰け反った。次第に機体の壊れた部分が修復されていく。だがそのことにすら多輝は気付かなかった。無意識のうちに膝立ちになり、立城の腰に手を回す。腕を絡め、立城の手を探り当てて指を絡める。
「んっ、水輝……やめっ、ああっ! くふうっ!」
立城が高い声で鳴く。多輝は夢中で立城の唇に吸い付いた。貪るように口づけを交わす。唇を触れ合わせたまま、多輝は更に深い快楽を求めて立城を抱きしめた。立城の胸を弄っていた水輝の指が、同時に多輝の乳房を弄る。
「んっ、くううっ! あっ、ゆ……んっ」
快感が激しい波になって多輝に襲い掛かる。感覚が開いたまま、現実の光景がその景色に重なっていく。そして多輝の脳裏には一人の面影が浮かんでいた。
「あふっ! み……ずき、ああっ! あうん!」
淫らに腰を振りながら立城が喘ぐ。その背後で水輝が薄く笑って立城に腰を強く押し付けた。立城のうなじに舌を這わせながら多輝を見つめる。その目には不思議と柔らかな光が浮かんでいた。
「出すぞ」
低く宣言して水輝が腰を振る。次の瞬間、立城が仰け反って高く鳴いた。多輝の膣内にも熱い精液が迸る。それを見計らったように奈月が指で強く肛門を突いて多輝の絶頂を促す。
「んっ……あっ、ゆ、ゆういち……ゆういち……ろう! すきぃ!!」
瞼の裏に火花が散る。多輝は叫ぶと同時に一気に絶頂に達した。だが一度果てた程度では水輝は赦してくれなかった。多輝はされるがままに激しく悶え、そして立城もまた何度も絶頂へと導かれた。
静かに蒼が一礼する。淫らに交わる四人に頭を垂れ、蒼は音もなく部屋から出て行った。
多輝、元は男なんですけどね………………w
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消息不明 1
エロシーンはありません。
その日、珍しく早く帰宅したのは仕事がなかったからではない。月末には生徒会役員会が開かれる予定になっているし、絵美佳との対戦用のロボットのプロジェクトも遅延している状態だ。現に昨日まで要は毎日、九時過ぎてから帰宅していた。その根の詰めようは、いつもは何も言わない栄子が要を気遣って心配したほどだ。
だが今日は違う。要は急ぎ足で帰宅した。何しろ今日は特別な日なのだ。朝、食卓についた時に栄子は告げた。せっかく特別な日なのだから、今日くらいは早く帰っていらっしゃい。その言葉に従い、要は出来るだけ仕事を片付けた。本当は途中になっていた仕事もあるが、栄子が嬉しそうに告げたことを思うとどうしても時間を延ばせなかったのだ。
足取りも軽く門を開ける。要は玄関に駆け込むように家に入った。いつもより随分と早いからだろう。使用人は出てきたが、栄子の姿はない。要はさして気にも留めず自室に向かった。
不思議なことに、あれだけ付きまとっていた順はある日を境にぱったりと姿を見せなくなった。きっとお母様が追い帰したのね。要は順がいなくなったことをその程度に考えていた。だがあれだけ煩く付きまとわれたからか、いなくなってみると妙に寂しいような気がする。だがそんな自分の寂しさを要は気のせいだと片付けていた。
着替えて姿見に向かう。今日はいつもの普段着とは少し違う格好にしてみた。要は髪に結わえたリボンの歪みを直し、唇には淡いルージュを引いた。耳に飾ったパールのイヤリングは以前、栄子がプレゼントしてくれたものだ。要は姿見に全身を映してつま先でくるりと一回転してみた。淡いピンクのスカートが広がる。
ケーキは前から目をつけておいた店のものを買ってきた。本当は使用人が買いに行く予定だったのだが、要が自分で行くと言い張ったのだ。机に乗せたケーキの箱を手に、要は急いでキッチンに向かった。
予定が立てこんでいなければパーティの一つも催しただろう。何しろ今日は要の誕生日なのだ。キッチンで忙しなく働く料理人たちを避け、要は急いで料理長の元に向かった。部下に厳しい指示を出していた料理長が要を見止めて破顔する。
「お帰りなさいませ、要様」
「準備は出来ていて?」
だがきっと訊くまでもないだろう。そうは思ったが要は伺うように軽く首を傾げて見せた。すました態度で訊ねた要に料理長が微笑みかける。この初老の料理長は要の母、栄子が幼い頃から如月家で働いている。栄子の誕生日にもたくさんのご馳走を作ったのだと、かつて料理長は語っていた。
料理の準備は整っている。食卓もいつもより煌びやかに飾られ、後は栄子が戻るのを待てばいい。要は食卓について栄子の帰りを今か今かと待った。要に早めに帰るように告げたということは、栄子もそれなりに仕事を早く切り上げて帰宅するということだ。きっといつもより早く帰ってくる。両腕に一杯のプレゼントを抱えて。
刻々と時間が過ぎる。要は食卓についたまま次第に苛々とし始めた。既に九時を回っている。テーブルを指先で弾きながら要はため息をついた。窓やテーブル等につけられた飾りが何だか空しく見えてくる。
だがそれでも要は待っていた。使用人の大半が定刻だからと帰っても、それでも要は待ち続けた。もしかしたら急な仕事が入ったのかしら。それとも渋滞かしら。色々なことが要の頭を巡る。
壁にかかった時計が十一時になったことを報せる鐘を鳴らした時、要は静かに立ち上がった。食卓には空の皿が並んでいる。それを静かに見つめてから要は振り返った。食堂の入り口には執事が控えている。
「ちょっと見てくるわ」
「要様。それでしたら私が……」
困惑した面持ちで執事が告げる。だが要はそれを制して食堂を出た。コートを羽織って玄関を出る。
冷たい風が吹き抜ける。要はぼんやりと玄関先に佇んだ。空を見上げると月に雲がかかっていた。薄い雲が流れ、濃い雲が月に差し掛かる。切ない気分で要はしばらく空を見つめていた。月明かりが雲に遮られて周囲が一段と暗くなる。
冷ややかな風に目を細めて要はふと門を見た。いつの間に立っていたのだろう。門の傍に人影が見える。
「お母様!」
要は目を輝かせて門に駆け寄った。だがそこで要は目を見張って足を止めた。人影の正体は栄子ではなかった。
「やっほお、要ちゃん。はっぴばーすでー」
両手一杯の花束を抱え、順が呑気に笑う。要は絶句して順を凝視した。
「遅くにごめんねぇ。近頃、仕事が立て込んでてさあ」
相変わらずのだらしない笑みを浮かべて順が頭をかく。だが要はいつものように順を張り飛ばさなかった。不安と緊張が一気に解け、その場にへたり込む。慌てたように順がその場に屈みこむ。
「ど、どったの? 要ちゃん」
心配そうに順が要の顔を覗き込む。要は寒さに凍えた身体を自分の腕で抱き、震え始めていた。腕に巻いた時計を見やる。もう、十二時近い。こんな時間まで何の連絡もなく戻らないのは幾らなんでも変だ。
「お母様が……」
力なく告げて要は頭を上げた。順のジャケットを無意識につかむ。
「お母様が帰ってこないの!」
不安を満面に表して要は叫ぶように告げた。すると順の顔から笑みが消える。順はこれまで要に見せたことのない真剣な顔で訊ねた。
「詳しく事情を話してごらん」
その前に、と順は要の腕を取って立ち上がった。玄関に促され、要はよろけつつ家に戻った。寒さに凍えた身体が玄関をくぐるとじんわりと痺れてくる。それほど冷えていたのか、と要はのろのろと理解した。
たまにはシリアスもあるんですよー(棒
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消息不明 2
エロシーンはありません。
部屋に連れられて熱い紅茶を押し付けられる。要は順が差し出したそれを震える手で受け取った。要自身が思うより、その身体は冷え切っていた。手際よく花束を花瓶に活け、順が部屋に戻ってくる。
「それで?」
要を落ち着かせるためにか、紅茶には少量のブランデーが落とされていた。要はため息と共に熱い紅茶を一口すすった。じんわりと身体に温かさが染み込んでくる。
それから要は今朝からの栄子の様子を話した。気が動転していたため、話は何度も前後する。だが順は根気よく要の話を聞いていた。
「とりあえず栄子さんの会社に電話してみよう」
言われるまで要はそうすることに気付かなかった。慌てて頷いて携帯電話を取り出す。メモリーを探って目当ての番号を液晶画面に表示させる。
だが要の期待も空しく、栄子は会社にはいなかった。本格的に動揺した要はその内容を聞いてからまともに話をすることが出来なくなった。涙ぐむ要の手から順が携帯電話を取り上げる。
「それで、栄子さんは今朝は出社されたんですよね? ……ああ、正確な退社時間とか判ります?」
順は要に代わって残業中の社員と話し始めた。要は紅茶のカップを両手に握り、俯いた。何が起こっているの。不安が心を占め、どうしていいか判らなくなる。いつも傍にいてくれる野木と周藤は今日はいない。栄子と二人きりの誕生日を過ごすために、二人とは学校で別れている。
「はい、どうもありがとうございました」
小さな電子音が鳴る。要は頭を上げてすがりつくように順を見つめた。が、順は力なく首を振る。
栄子は今朝、いつもと同じように出社した。退社時間はいつもより早く、定時過ぎには会社を出たのだという。順の話を聞くうちに要は真っ青になった。恐らく、帰宅途中で何かがあったのだ。順が要の思った通りのことを告げる。
「栄子さんが行きそうな場所に心当たりは?」
電話を差し出しながら順が告げる。要はあれこれと思い浮かべて首を振った。仕事絡みならともかく、栄子が帰宅途中に寄り道するとは思えない。
今日は私も早く帰るわね。二人でお祝いしましょう。
そう告げた時の栄子はとても嬉しそうに微笑んでいたのだ。今日に限って余計な寄り道をするとはどうしても思えない。なのになぜ、栄子は戻らないのだろう。様々な考えを巡らせる要は自然と黙り込んでいた。
「要ちゃん」
少し強い口調で呼ばれ、要はびくりと身体を震わせた。学校内のトラブルであれば冷静に対処できる。だがこの時の要は冷静さを取り戻すことが出来なかった。厳しい順の眼差しに怯えるように目を背ける。
「とにかくお父さんに連絡した方がいいよ。今、家にいないんでしょ?」
言われて要ははたと気付いた。そうだ。父親に電話すれば何か助言をしてくれる。要は急いで父親に電話をかけた。要の父は今、海外に出かけている。国際電話の接続を待つ間、要は苛々と爪を噛んだ。
寝ぼけた声の父親が電話口に出る。要は咳き込むような勢いでまくし立てた。
「お父様! お母様が帰っていらっしゃらないの!」
だが焦る要の気持ちとは裏腹に父親の応答は実にのんびりしたものだった。栄子は幾つかの会社のオーナーをつとめている。それだけに急な予定変更はよくあることだ。いい大人なんだから一晩くらい帰らないこともあるさ。そう告げた父親は絶句する要に笑いかけて電話を切ってしまう。要は呆然と電話を片手に立ち竦んだ。
「要ちゃん。とにかく落ち着いて。ほら、まず座って。電話はそこに置かなきゃ」
受話器を握って佇む要に順が声をかける。要は操り人形のように順の言葉に従った。淹れ直した紅茶を押し付けられる。黙っていると順は強引に要にカップを握らせた。要が座った椅子の前に膝をつき、顔を覗き込む。順は無言で要の手を包むように握り、カップを持ち上げた。
「ほら、飲んで。熱いから気をつけてね」
熱い紅茶を一口飲むと、要の目には涙が浮かんできた。声を殺して目を伏せる。
父親はどうして栄子が今日に限って早く帰宅するのか判らないといった様子だった。要に事情を説明する余裕がなかったことは確かだ。だが要はそれ以上に哀しい気持ちになった。
娘の誕生日すら覚えていないなんて。唇を噛んで俯く。
「じゃ、オレちょっと行ってくるから」
そう言って順が腰を上げる。要はえ、と顔を上げた。涙に濡れた頬が光る。順は苦笑してそんな要の頬を指で拭った。呆然とする要に片目を閉じ、順はおどけた調子で両手を広げた。
「とりあえず、栄子さんの会社からここまでの道、辿ってみる。キミは大人しくオレの連絡を待ってるように」
「どうして! わたくしだってお母様のことは心配なのよ!? 一緒に行くわ!」
慌てて要は立ち上がった。が、順が意外にも強い力で要の肩を押さえる。沈むように椅子に戻され、要は目を上げた。順が真剣な目で要の顔を覗き込む。
「キミはダメ。女の子がこんな時間にちょろちょろしたら危ないでしょ?」
そう言いながら順が部屋の入り口に向かう。要はぼんやりと順の背中を見送った。片手を上げて順が去る。部屋に一人きりになると要の不安は一層、強くなった。
一晩中、順はあちこちを探し回ったらしい。朝になって要の家に戻ってきた順は疲れ果てたように玄関に倒れこんだ。夜が明けても連絡の一つもないため、さすがに使用人たちも栄子のことを心配し始めた。屋敷全体が騒然とする。
警察に届けた方がいんじゃないかな。順が力なく告げた。が、その提案は電話越しに父親に却下された。如月家の恥になると言われた要は父親にそれまで溜まっていた怒りをぶつけた。それでも父親は如月家の主だ。使用人たちは主の意向に逆らう訳にはいかない。
「要ちゃんは学校に行かなきゃ」
こんな時に行ってられますか。要は順の言葉にすかさずそう言い返した。が、順はそんな要の頭に手を乗せ、言い聞かせるように告げた。
「大丈夫。オレが代わりに探すから。何かあったら連絡も入れるから。だから行っておいで」
本当は疲れ果てているのだろう。順の顔色は悪い。だが要はそんな順にそれ以上、言い返すことが出来なかった。
だがこの日を境に栄子が家に戻ることはなかった。
栄子さん大ピンチです。
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実験場にて
エロシーンはありません。
硝子張りのケースが部屋の中央に据えられている。丁度それは水槽のような格好で面と面の合わせ目に金属の枠が嵌められている。天井部には金属の蓋が被られており、蓋の部分には幾つものコードやパイプが繋がっている。
三メートル四方の硝子の箱を囲んでいるのは数人の子供たちだ。彼らは一様に手にスケッチブックを持っている。
「今のところは問題ありません。一号から八号まで順調に生育しております」
淡々と告げる白衣の男に頷き、順は口許に笑みを浮かべた。一人の子供のスケッチブックを後ろから覗きこむ。真っ赤なクレヨンが殴るように紙に線を描く。
「拒絶反応は全く出てないの? それだったら今回の実験はかなりいい感じで進んでるよねえ」
順は笑いながら告げて子供のクレヨンに手を伸ばした。あー、と不服そうに声を上げて子供が振り返る。少年の頭には真っ黒なヘッドセットが嵌っている。これは生まれてすぐに嵌められる特殊な装置だ。
「もうっ、お兄ちゃんっていつもボクの邪魔するんだからあ!」
「えー。だってさあ。いっくんが可愛いから」
いっくん、と順が称したのは実験体一号のことだ。ぷっと頬を膨らませて少年がそっぽを向く。順はごめんごめん、と軽い口調で詫びてクレヨンを箱に戻した。
「ねえねえ、あたしのも見てっ。可愛くかけたでしょ?」
少年の隣で声を上げたのはほっそりとした身体つきの少女だ。こちらは実験体二号。順はいつも少女のことをにゃあちゃんと呼んでいる。順ははいはい、と返事して少女のスケッチブックを覗き込んだ。
「うん、にゃあちゃんのもいい感じだねぇ」
「順様。次の報告、よろしいですか?」
脇に立っていた白衣の男が告げる。順はああ、と笑って屈めていた腰を伸ばした。促されるままに部屋の隅に移動する。そこには二脚のパイプ椅子が据えられている。悠然と腰を下ろし、順は組んだ足の上に肘をついた。手に顎を乗せて子供たちを眺める。
「知能的に優れているのはやはり一号ですね。八体の中でも突出しています」
携帯端末を操作しつつ、男が告げる。ふうん、と口の中で呟いて順は口許に笑みを浮かべた。子供たちは楽しそうにスケッチを続けている。
「ですが、能力的には七号が優れています。これは先の実験におけるデータなのですが」
言いながら男が携帯端末を傾ける。順は液晶画面を覗き込んで感嘆の声を上げた。予想以上の結果だ。
「なるほどねぇ。ななちゃんかあ」
呟くように言いながら順は視線を動かした。賑やかに笑い合う子供達の中で、一人黙々とスケッチを続けている少女がいる。その少女が男の告げた七号だ。淡い茶色の髪を腰は腰まで伸びている。面立ちはどことなく少年を思わせる凛々しさがある。ふうん、と順はしばし少女を観察した。
「拒絶反応を示した個体はありません。性格的にも問題はないでしょう。ただ」
そう告げて男が顔を曇らせる。年若いこの男は子供達の教育を担当している。学校で言えば先生のようなものだ。現に子供たちはこの男を先生と呼んでいる。
「性的刺激を反射的に拒絶する個体も若干名おりまして」
「えー。それじゃつまんないじゃん」
順はすかさず不満を述べた。唇を尖らせて拗ねた顔になる。男はハンカチでしきりに額を拭いながら続けた。
「ぜ、全力を尽くしておりますが、何しろまだ生体データが完全には揃っておりませんで」
男がハンカチで額を拭う。順はそんな男を横目に少し笑った。するとびくりと男が身体を震わせる。その顔は次第に青ざめていった。
「無能な部下って嫌いなんだよねえ、オレ。何だったら交替する? ほら、新しいコがこないだ入ったんでしょ? あのコもなかなかいい感じだったし」
言いながら順はにやにやと笑った。すると一気に男が蒼白になる。この研究所から追い出されるということは、死を意味する。順はからかうように男を肘でつついた。
「もっ、申し訳ございません。早急に対処いたします」
「うん、明日までにね」
返事も待たず、順は立ち上がった。椅子に腰を下ろしたまま男が愕然と目を見張る。順は白衣のポケットに両手を突っ込み、再び子供たちに近づいた。
「ねえねえ。これから新しい遊び、しよっか」
声高に告げると子供たちがわあ、と歓声を上げる。順は子供達に笑いかけながら硝子ケースを指差した。子供たちが一斉にケースを覗き込む。
「一等賞を取ったらプレゼントを買ってあげるよ」
すると間近にいた少年が順を振り仰ぐ。その目はきらきらと輝いていた。
「あのね! ボク、このあいだ観たのが欲しい!」
少年が欲しがったのは流行りのアニメーションのキャラクターを模したロボットだった。精巧に出来たその玩具は関節部が自由に動かせる上に、遠隔操作することも可能だ。うんうん、と順は少年に笑ってみせた。
じゃあボクは、あたしは。続けて子供たちが口々に欲しい物を言う。順ははいはい、と彼らにいちいち頷いた。
「判った判った。じゃあ、一等賞のコには一番欲しいものをあげるから」
一斉に子供たちが嬉しそうに声をあげる。だがその中で一人、俯いて黙している少女がいた。順は周りに集まった子供たちを避け、少女の元に近づいた。視線を合わせるために少女の傍に屈みこむ。
「どしたの? ななちゃん。欲しいもの、ないの?」
順は優しい声音でそう訊ねた。七の番号を振られた少女は頬を染めて俯いている。順は笑みを浮かべて少女の手を取った。柔らかな子供特有の肌を指で撫ぜる。すると少女は決心したように顔を上げた。
「あのね、私」
小声で告げて少女が首を傾ける。少女に合わせて順は耳をその口許に寄せた。小さな声が順の耳の奥をくすぐる。
少女の願いを聞き、順は苦笑した。正面から少女の目を覗きこむ。
「いいよ。ななちゃんが一番になったら」
抱いてあげるよ。順は唇だけでそう刻んだ。すると少女がぱっと表情を輝かせる。順は笑って少女の肩を叩き、腰を上げた。子供たちは夢中で自分の欲しいものについて話を続けている。軽く手を鳴らし、順は子供たちを制した。
「はいはい。じゃあ、今からアレを使って遊びまあす。みんな、自分の椅子に座ってアレを見てねぇ」
言いながら順は硝子ケースを指差した。そのまま子供達一人一人の顔を見やる。どの顔も真剣そのものだ。
「一番にアレをいかせたコの勝ちね。じゃあ、よーいどんで始めようか」
子供たちが硝子ケースの中に視線を向け、右手を上げる。八人分の小さな手が硝子ケースにしっかりと触れる。順は笑って子供たちに合図を送った。一斉に子供たちの身体が淡い光を帯びる。
順は静かに硝子ケースに目を移した。完全防音のため、ケース内の音は全く漏れてこない。ケースの中で座り込んで引きつっているのは栄子だ。一糸まとわぬ姿で栄子は怯えるように視線を彷徨わせている。栄子にはケースの外の様子は全く分からないのだ。
人の目には映らない細く頼りない力の触手が無数に伸びている。順はその様を眺めながら薄く嗤った。
木村関連は割とえげつねーことになってますw
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初めて? の遊び方 1
颯爽登場! 男絵美佳ですw
エロシーンはありません。
少し背が伸びただけで随分と景色の見え方が違う。絵美佳はのんびりと街の中を歩いていた。ヘッドホンに似せたそれを頭に被り、人の波を避けて歩く。
今、教室の中は授業中だ。それ故に喋ることもない。絵美佳は学校に自分の代わりにロボットを通わせている。昨日から試しているのだが、どうやら誰にも正体はばれなかったようだ。絵美佳は自分に似せたロボットを遠隔操作しているのだ。
思考を読み、唇の些細な動きを読んでロボットは行動する。フォローも兼ねて毎時間の授業の間には巴がロボットの様子を伺いにくる。絵美佳はその様を思い浮かべて小さく笑った。戸惑う巴の姿が脳裏に浮かんでくる。
世間はいつの間にか冬になっているらしい。ここ最近、ずっと地下室にこもっていた絵美佳は人々の服装を見て何となく新鮮に思っていた。派手な配色の多かった夏に比べ、人々の服は暗く沈んでいる。行き交っているのは会社員たちだろうか。コートの襟を立てて過ぎていった集団を見送り、絵美佳は微かに笑った。
普段、したことのないことをしてみよう。そう思い立った絵美佳は繁華街にあるゲームセンターに入った。力任せに殴るだけでいいらしいバッグを右手で殴りつけてみる。すると何故か液晶画面にエラーの文字が表示された。傍にいた少年たちが絵美佳を恐々と避けていく。どうやら測定可能な数値を大幅に振り切ってしまったらしい。
続いて絵美佳はレースゲームをやってみた。数人で対戦できるそのゲームを絵美佳はしばらく繰り返した。アクセルとブレーキを巧みに踏みかえる。やっているうちに絵美佳は見知らぬ少年たちをかわしてぶっち切りでゴールすることに成功した。
慣れるとゲームの操作も絵美佳には酷く簡単だった。三時間ほどで全てのゲームを試すと飽きてしまう。絵美佳はやれやれ、と肩を竦めてゲームセンターを後にした。外に出ると急に冷たい風が吹き付けてくる。
教室内のざわめきが耳に入ってくる。昼休憩に入ったのだ。絵美佳は急いでビルとビルの狭間に身を隠し、ロボットを操作した。教室の中で座りっぱなしにしている訳にもいかない。絵美佳が操作するとロボットは立ち上がって教室を出た。時折、誰かが声をかけてくる。適当に返答させて絵美佳はロボットを地下に導いた。その後を追うように巴が駆け込んでくる。
『ふうっ。今日も大丈夫みたいですねっ。絵美佳先輩』
巴の明るい声が聞こえる。絵美佳はビルの狭間で小さく笑った。耳に当てられたイヤホンを指で触る。口許に伸びた細いマイクを手に包み、絵美佳は告げた。
「あったりまえじゃない!」
絵美佳は背中をビルの壁にもたせかけて自信満々の笑みを浮かべた。巴が嬉しそうに笑う。
『ですよねっ。ああ、でもどきどきしちゃう。あたしから見ても絵美佳先輩のロボットってとってもよく出来てるんだもん……』
巴がうっとりと絵美佳のロボットを見つめる。その様を遠隔操作用のヘッドセットが伝えてくる。直に絵美佳の脳に働きかけ、ロボットが見ている景色が脳裏に浮かぶようになっているのだ。
「そーいうアンタだってロボットじゃない」
微かに笑って絵美佳は告げた。すると巴が動揺したようにロボットから飛びのく。巴はいつものようにロボットに抱きついていたのだ。絵美佳はくすくすと笑いながらロボットを操作した。巴を引き寄せて胸に抱く。その触感はヘッドセットを通じて絵美佳に伝わった。ぞくりとするような感覚が背に走る。
それから巴と時間を過ごし、ロボットはまた教室に戻った。絵美佳はビルの狭間から街へと戻り、とりあえずは何か食べようと歩き始めた。立ち並んだ店を眺めながらゆっくりと歩く。気付くと絵美佳は繁華街の外れにたどり着いていた。それまでの賑やかな雰囲気が一転し、嫌に暗い気配が周囲に漂っている。へえ、と呟いて絵美佳は周辺の店を見て歩いた。ピンク色の看板がやたらと目に付く。
「あら、坊や。こんなところで何してるの?」
「俺のこと? 坊や呼ばわりはないんじゃない?」
相手にしなければそれで済んだだろう。だが絵美佳は律儀にそう答えた。すると声をかけた女性が不思議そうな顔になる。体型のはっきりと出る服に身を包み、高そうな毛皮のコートを着ている。絵美佳はそんな女性を睨むように見た。派手な化粧をしているところを見ると、もしかしたら夜の商売をしているのかも知れない。
「坊やみたいなのがこんなところに一人で来たら危ないわよ。もしかして道に迷ったの?」
絵美佳の外見は年のまま高校生に見える。それ故に女性も心配したのだろう。声を落としてそう告げる。絵美佳は女性と自分の姿を見比べた。興味本位でこの界隈に入ったなら気をつけなさい。女性の目は言葉よりはっきりと告げている。
「このあたりに来るのは初めてだけど、迷ったわけじゃない」
「あらあ……。じゃあ、余計にまずいわよ」
そう告げて女性は周辺を手で示した。絵美佳もつられたように女性の手の先を目で追う。辺り一体にあるのはピンクやブルーの鮮やかな看板ばかりだ。それもブティックホテルのものが殆どだ。絵美佳はそれらを見てああ、と笑った。
大分前の原稿なので……
まあ、昔風の、くらいに思ってもらえれば。
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初めて? の遊び方 2
エロシーンはありません。
「ちょっとお。笑い事じゃないわよ。坊や、高校生くらいでしょ? 昼間っからこんなところに来ないほうがいいわ」
女性は絵美佳の目には三十前くらいの年齢に見えた。真っ赤な口紅が酷く印象的だ。絵美佳は真っ直ぐに女性を見つめて微笑んでみせた。
「おねえさん、いい人だね」
すると女性は困惑したように視線を彷徨わせ、次いで頬を微かに染めた。
「べ、別に私はそんな上等なもんじゃないわ。とにかく、ほら」
ほっそりとした手が絵美佳の背を押す。だが絵美佳はその場から動かなかった。女性が困ったように首を傾げる。きっと彼女はこの辺りで一晩を過ごしたのだろう。どこか疲れたような表情を見る限り、仕事の帰りなのかも知れない。
「ちょっと坊や? 本当にこの辺はまずいのよ」
念を押すように告げ、女性はさりげなく絵美佳の左に回った。見ると女性の背後を一人の男が過ぎて行く。獲物を狙うように周辺を見ている男の様子から、絵美佳は納得した。どうやら自分の容姿は男女問わずもてるらしい。
「俺、実はおなか空いてて食事がとれる店を探してただけなんだけど。おねえさん、いい店知らない?」
「それなら余計にこの辺じゃダメね。いいわ。私が案内するわ」
そう言って女性は絵美佳を促して歩き始めた。全く、たまに街に出るといろいろと面白いことがある。
「ありがとう。おねえさん、やっぱいいひとじゃん」
歩きながら絵美佳は告げた。すると女性が照れたように笑う。聞けば女性には絵美佳と同じ年頃の弟がいるらしい。たまに街に出ると面白いことがあるもんだ。絵美佳はのんびりとそんなことを思いながら女性と並んで繁華街に戻った。
女性は絵美佳に気前よく食事を振る舞ってくれた。絵美佳も遠慮なく女性の好意に甘え、腹を満たした。だが絵美佳が何度名乗っても女性は坊やの呼びかけを変えてくれない。
「そうそう。坊やがもう少し大きくなったらお店に遊びに来てね。うんとサービスするから」
そう言って女性が出した名刺はとあるピンクショップのものだった。絵美佳は答えを濁しながら名刺をポケットにしまった。
絵美佳は不思議な気分だった。女の時には味わったことのない奇妙な時間だと思った。女性が特に絵美佳に色目を使っている訳ではない。だがもしも絵美佳が女であれば、対応が違っていたのではないか。そんなことも考える。
「今度、俺のほうがおごっていいかな? おごられっぱなしだと悪いし」
何気なく絵美佳は告げた。すると女性が困ったように笑う。
「いいわよぅ。高校生にたかる気はないもの。これでも売れっ子なのよ?」
そう言って女性がにっこりと笑う。きっとそれは営業用の笑みなのだろう。それまでとはどこか違い、笑みには艶やかさが含まれている。絵美佳は笑って首を傾げた。なるほど、確かに女性は店では人気があるのかも知れない。そう思う程度には女性の顔立ちは整っていた。
だが楽しい会話を交わしていても女性は名乗ろうとはしなかった。名刺に刷られた名前はアケミ。きっとこれは本名ではないだろう。そして絵美佳もまた、自分の本当の名前は口にしなかった。
ロボットを操作する間だけ、絵美佳はトイレに立った。そんな時、アケミは気軽に絵美佳に手を振った。
「じゃあ、そろそろ私、お暇するわね。坊やはどうするの?」
「どうしよっかな」
椅子から立ち上がりかけたアケミは考え込む絵美佳を見つめ、静かに腰を戻した。顎に手を当てて目を閉じる。絵美佳は頭の中で色々なことを考えた。アケミとの縁は何故かここで切る気になれない。かと言ってアケミが言うように店に遊びに行くわけにはいかない。
「アケミさん。ひとつ賭けをしない?」
絵美佳はそう言いながら伏せていた目を上げた。アケミが不思議そうに首を傾げる。
「どんな賭け?」
「もし、またアケミさんと偶然街で出会えたら。その時は大人しく俺に奢られてよ」
絵美佳は人差し指を立てて微笑んだ。するとアケミが驚いた顔になる。次いでアケミは小さく笑った。絵美佳の立てた指に自分の指を触れさせる。赤いマニュキアが店内のライトを受けてきらりと光る。
「いいわ。その時を楽しみにしているわね」
そう告げてアケミは席を立った。ハンガーにかけていたコートを羽織る。鞄を取り上げたアケミはにっこりと笑って絵美佳に手を振った。その手がさりげなく伝票をつかんでいく。
「アケミさん、これ」
テーブルを離れようとしたアケミに声をかける。アケミは絵美佳に呼ばれて振り返った。絵美佳はポケットから一つの瓶を取り出した。茶色の小瓶は市販のドリンク剤のそれだ。が、封は既に切られている。
「なあに? これ」
アケミが小瓶を取り上げる。絵美佳は笑ってアケミを振り仰いだ。アケミは珍しそうに瓶を見ている。だが絵美佳がにっこりと笑いかけると何も言わずにバッグにそれをしまった。片手を上げて去っていく。
絵美佳は一人、席に残って腕を組んだ。目を閉じて呼吸を潜める。そう、きっと気にしなければいいのだ。街で偶然すれ違うだけの人間などごまんといる。その容姿が例え多輝に似ていたとしても、気にしなければいいだけのことなのだ。
えろ、と入力すると……「エロシーンはありません。」か、「エロです! 直してません!(居直り」が出てくる悲しさw
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強さと弱さのバランスを
エロシーンはありません。
あ! 閑話休題の使い方間違ってますね!><
余談みたいな話です。
……いや、ある意味使い方あってるんか……。
(読み方によってはこっちが本筋)
結界の綻びは修復することは可能だ。が、それには立城の力の回復を待たなければならない。水輝は低く呻いて髪を指ですき上げた。指の間を通り抜けた髪がはらりと額にかかる。
「んでも、そんなに待ってられないだろ? おれだけでも直した方が良くないか?」
一人の力でもないよりはましだろう。そんな考えで口にした水輝の言葉を立城は首を振って否定した。
「僕自身が綻び具合を見ていないから何とも言えないけれどね。でも、見ていないから尚のこと、ちょっと待って欲しいんだよ」
長い髪を背中に払い、立城は窓辺に立った。執務室は夕暮れが過ぎて薄暗くなっている。水輝は黙って目を細めた。先ほどまで淫らに喘いでいたとは思えないほど、立城は穏やかに笑っている。
「この結界は二人分の力を編んであるからね。壊れたからと言って単純に力を繋げば直るというものでもなくてね」
そう言いながら立城は大きな窓に寄りかかった。暮れた空に一つ、また一つと星が瞬き始める。水輝はソファに深く寄りかかってため息をついた。今更、力の使い方を教わる気にはなれない。判ってる、と水輝が低く告げると立城が小さく笑った。
「うん。だから僕が見えるようになるまで待ってくれる?」
本音を言えば今すぐにでも穴は塞ぎたい。けれど水輝はその言葉を飲み込んだ。どちらにせよ、自分一人で結界を織ったとしても無意味だ。その程度のことは水輝もよく判っていた。
焦りだけが募る。水輝は膝の上で手を握り締め、歯を食いしばった。自分でも酷い有様だと思う。奈月に危害が及ぶのが恐い。それだけははっきりと自覚できる。水輝は伏せていた目を上げて睨むように立城を見た。
立城は静かに窓の外を眺めている。その横顔が暗がりの中に浮かんで見える。
「本当に君は弱くなってしまったね。まあ、だからこそ今がある訳だけれど」
水輝は応えなかった。黙したまま立城を見据える。立城はそんな水輝の視線を避けるように歩いた。窓に沿ってゆっくりと歩く。水輝はそんな立城の姿を目で追った。
「そのままでいるなら許さないよ?」
にっこりと微笑んで立城はぴたりと足を止めた。窓と窓の間にある細い壁に背中を預け、水輝を正面から見つめる。水輝はため息をついて肩の力を抜いた。天井を仰ぐように伸びをする。
「んな訳あるか。いつまでも不変のものなんざ、あれっきりで充分だ」
僅かに険を込めて水輝はそう吐き捨てた。勢いをつけてソファから降りる。窓辺に近づく水輝に立城は何も言わない。水輝は立城の横に並んで外を見た。暗くなった夜空に幾つかの瞬く星がある。薄い雲が流れ、星を隠す。
死してなお、紫翠の誓約は生き続けている。夜叉を守れと水輝の魂に叫び続けているのだ。そして水輝はその叫びを無視することが出来ない。その誓約は性の別に関係なく水輝を縛る。
「矛盾してるよなあ。守ればおれは弱くなるし、でも守るには強さがいる。結局、おれはどこまで行ってもこの矛盾からは抜け出せないんだ」
ふと呟くと間近で立城が小さく笑う。水輝は横目に立城を見やって苦笑した。ただの愚痴だ、と告げると立城が肩を竦める。
空が静かに濃くなっていく。水輝は無言で雲の流れを目で追った。風、と小さく呟く。すると立城が壁から背中を引き剥がして水輝の右手に回った。窓から空を眺めて少しだけ笑う。その笑みはどこか冷ややかだった。
「とにかくお前は歪みを抜くのが先だな。……一体、どれだけ吸いやがったんだか」
ぼやくように告げると立城が意外そうな顔になる。水輝は頭をかいてため息をついた。元々は自分が原因なだけに文句もつけられない。不機嫌になった水輝の肩を軽く叩き、立城はにっこりと笑った。
「大丈夫だよ。僕が還元してあげるから」
「……阿呆。どうせお前も力を戻さなきゃなんないんだからそのままとっとけ」
言いながら水輝は窓から離れた。どこに行くの、という立城の言葉を無視して片手を上げる。ドアまで歩いてから水輝は振り返った。
「あのくそがきもいるからここは大丈夫だろ? ちょっと出かけてくる」
そう告げて水輝はドアを閉めた。
若干説明気味ですかね。
あ、この話で六章は終わりです。
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七章
捜索開始 1
エロシーンはありません。
その日の朝、優一郎が教室に入るのを見計らったかのように全校放送がかかった。生徒会名義のその放送で呼び出され、優一郎は生徒会室に向かった。登校してくる生徒たちで廊下や階段は賑わっている。それを尻目に優一郎は最上階に続く階段を昇りきった。
四階に上がって廊下を進む。途中から生徒たちの声は次第に遠くなった。足早に歩く優一郎の足音だけが廊下に響く。
「お待ちしておりましたわ」
生徒会室で待ち受けていたのは要だった。だがいつもいるボディガードの姿がない。優一郎は挨拶をして生徒会室の奥に進んだ。勧められるままに椅子に腰掛ける。
「ちょっと諸事情がありまして、母の日記を拝見いたしましたの。そうしたらそこに吉良君の名前がありましたものですから」
どこか疲れた顔で要が告げる。優一郎は訝りに眉を寄せた。ボディガードの不在といい、要の疲れた様子といい、普通ではない。要と言えばいつも高飛車な態度ではなかったか。優一郎は内心で首をひねった。
「栄子さんの日記? なぜあなたがそれを? いや、それをあなたが見なければならない事態になったと?」
探るように訊ねてみる。だが意外にもあっさりと要は肯定してみせた。力なく頷いて目を伏せる。そして再び目を上げた要は真剣な面持ちで告げた。
「これは私的な事情ですのでご内密に願いたいのですけれど」
そう前置きして要は語った。数日前から栄子の行方がわからなくなっているのだという。それを聞いた優一郎は心底、驚いた。何故なら要が告げたその日付は紛れもなく優一郎が栄子と会った日だったからだ。午後、学校の授業が終わってから優一郎は栄子の会社を訪ねた。かつてから協力している企画についての話をするためだ。何事もなく栄子との面談は終わり、優一郎は研究室に戻った。たったそれだけのことだが、まさにその日、栄子が行方をくらましたという事実に優一郎は言葉もなく呆然となった。
「誘拐、あるいは失踪されたと、そういうわけですね?」
「ええ。ですから母の日記に何か手がかりがないかと探してみた訳ですの。……もっとも、見つけたのは吉良君の名前だけでしたけれど」
そう告げて要はため息をついた。道理で疲れている筈だ。きっと要は数日の間、ずっと気の休まる時がなかったのだろう。
「わかりました。僕の知る事実は全て話しましょう」
それが手がかりになるならば、と優一郎は自分の知る栄子に関わることについて話し始めた。まず、信じられない話かも知れないがと前置きする。わらにもすがる思いなのだろう。そう告げた優一郎に要は真剣に頷いた。
超常的な力を持つ存在について。栄子に暗示をかけた者の存在。栄子の総一郎への思慕。そんな栄子の思慕を利用し、優一郎を誘惑するように仕向けた暗示について。それらの話をする内に次第に要が青ざめる。だが優一郎はあえて要の様子を無視して続けた。
それがきっかけで栄子と知り合ったこと。そして栄子から要のロボットの企画に協力するように頼まれた経緯を語る。
「日記の内容と、矛盾はありますか?」
最後に優一郎はそう締めくくった。要が力なく首を振る。
「いいえ。吉良君の言った通りですわ。ですが、母の日記にはそこまで詳しいことは書かれていなかったから」
少し驚きました。要はそう告げて微かに笑みのようなものを浮かべた。もしかしたら本人はそれでも笑っていたつもりかも知れない。優一郎はため息をついて背もたれに背中を預けた。要も疲れたように椅子に深く沈み込む。
「先ほど話した、暗示に対抗する薬品というか実態はマイクロマシンなんですが……それには副作用があるんです」
言いながら優一郎は身体を屈めて膝に肘をついた。両手を軽く組んで顎に当てる。言うべきかどうか少し迷ったが、優一郎は心を決めて続けた。
「実は、トレースが可能になるんです。そして、非常事態だから結果オーライとして許してもらいたいんですが、足跡はずっとうちのコンピュータに記録されてるはずです」
要が椅子を蹴飛ばして立ち上がる。机に乗り出し、要は優一郎につかみかからんばかりの格好になった。
「ほっ、本当ですの!?」
「ええ、研究室へ来て頂けますか、事情が事情ですから、すぐに解析にかかります」
そう言って優一郎は立ち上がった。要が慌てたように優一郎に駆け寄る。動揺していたのだろう。要は生徒会の誰にも連絡することなく優一郎についてくる。優一郎もこの時は純粋に栄子の身を案じていた。例えば自分の身内が急に姿を消したら。そうしたら自分はやはり要と同じように動揺するだろう。そして恐らく出来る限りいなくなった者を探す。それこそ使える手は全て使う。要はきっとそういう状態になっているのだ。優一郎にはそのことがすぐに理解できた。
階段を駆け下りる。無言で階段を降りる二人を登校してきた生徒たちが不思議そうに見る。実際、彼らにとって優一郎と要という組合せは珍しかっただろう。その上、要はいつものボディガードを連れていない。彼らの好奇の目を余所に二人は一気に一階まで階段を下りた。
地下のその施設に要が入るのは初めてだった。優一郎はしばし扉の前に佇んだ。要に晒して問題のあるものは放置してはいない。見せられないものは全て地下二階にある。解析だけなら地下一階のコンピュータでも可能だろう。
長いので四分割してあります。
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捜索開始 2
エロシーンはありません。
「……この奥、ですの?」
ためらいがちに要が声をかける。優一郎は肩越しに振り向いて頷いた。
「ええ。この奥です。どうぞ」
扉を開けてから優一郎は振り返った。地下に入ろうとする要を手を上げて制する。優一郎はポケットから携帯端末を出してスロットに真新しいカードを入れた。二秒ほどでIDカードが出来上がる。
「仮IDパスカードを発行します。これを身に着けてください」
要にカードを差し出す。要は優一郎とカードを見比べてそれを取った。優一郎が指し示した胸にカードをつける。優一郎は頷いて地下に進んだ。後ろから要が入ってくる。扉を閉めると急に周囲は暗くなった。要が小さな悲鳴を上げる。
一つ、また一つと明かりが灯る。全てのライトが灯ると地下に続く廊下は真昼のように明るくなった。要が眩しそうに目を細める。優一郎は静かに先に進んだ。
「いらっしゃいませ」
出迎えたのは保美だった。メイド姿の保美に驚いたのだろう。要が廊下で足を止める。だが優一郎は軽く保美に頷いて要を促した。驚愕と不安を満面に表しつつ要がついてくる。
優一郎は研究室の一つに入った。第四研究室は今、無人だ。機体の調整中である斎姫は別の部屋にいる。カレンは地上だ。そしてちなりは今は外出中。ここにいるのは先ほどの保美とその妹の果穂だけだ。果穂は優一郎の与えた部屋から普段は出てこない。要と鉢合わせになることもないだろう。
「凄い施設ですわね。……いつの間にこんなものを」
それまで忘れ去られていた生徒会長の顔が要に戻ってくる。優一郎はにっこりと微笑んで部屋の隅のロッカーに向かった。特に必要という訳ではない。殆ど習慣になっているだけだ。ロッカーから白衣を取り出して袖に手を通す。そんな優一郎を要は訝しそうに見つめている。
「姉に負けたくはないですからね」
そう告げて優一郎は僅かに表情を緩めた。すると要が途端に怒りの形相になる。
「そうですわ! おのれ、吉良絵美佳! 見てらっしゃい!」
どんな時も絵美佳への怒りは忘れられないらしい。そんな要に苦笑して優一郎は端末に近づいた。スイッチを入れて立ち上げる。要は憤慨しつつも優一郎の傍に寄った。腕組みをして端末を見る。
「そういえば吉良君は吉良絵美佳とは仲が悪いの?」
優一郎が端末に向かい操作しているのを眺めながら要が訊ねる。そうですねぇ、と優一郎はぼやくように呟きながら軽くキーを弾いた。
「特に、仲が悪いということはないと思いますけど。やはり、負けたくはないですよ」
「だからお母様に協力することにしたの? つまりはわたくしに力を貸してくれるという意味ですけども」
背後で告げる要の声にはよどみはない。もしかしたら絵美佳のことを思い出して少しはいつもの調子が出てきたのかも知れない。要は興味深そうに周囲を見回している。優一郎は小さく笑って目当てのトレーサーを立ち上げた。画面にこの近辺の地図が表示される。
「姉に勝ちたいというよりも、父に勝ちたいという気持ちが強いかもしれません」
栄子に告げたのと同様のことを口にしながら優一郎は頷いた。肯定の意だと認識したのだろう。要がなるほど、と口の中で呟く。
「あの女に勝てばあなたの父上に勝てる、と? こう理解して構わないかしら」
恐らく要は総一郎のこれまでの業績を知らないのだろう。不思議そうな面持ちで告げる。優一郎は言葉を濁して解答を避けた。キーボードを叩いて入力画面を表示する。
「行方不明になったと思われる日時をインプットします」
言いながらキーを弾く。要は優一郎の腰掛ける椅子の背をつかみ、優一郎の肩越しに画面を覗き込んだ。まるで睨むようにして画面を見つめる。
日時を入力してスタートボタンを押す。すると画面上の地図に点が一つずつ記された。その点の上には小さな文字で時間が記されている。目標の捕捉は五分単位で行われる。その時間を表示しているのだ。
「……これがそうですの?」
要が点の一つを指差す。優一郎は頷いて次に表示された点を見た。ここから大分、離れている。地図で場所を確認するとそこは栄子の会社から少し遠い街だった。時間は七時。どうやら会社帰りにどこかに寄り道したらしい。
「ええ。栄子さんはこの日時にはこの地点に居たことを示します。暗示をかけた相手の再干渉を警戒して念のための措置として記録をとっておいたんですが」
まさか役に立つことになるとは。そう付け足しながら優一郎は次に表示された点の場所を確かめた。唐突に点が大きく移動している。目を細めて優一郎はキーを操作した。一時的に表示をストップさせる。
「……ル・ファーブル」
要がぽつりと呟く。優一郎はえ、と振り返った。要は目を見張って画面を見つめている。その目尻に光ったものを優一郎は見逃さなかった。
フランス語とかわかんにゃーい!wwwww
(名前をつけた時は何も考えてなかった)
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捜索開始 3
エロシーンはありません。
「わたくしがよく行くジュエリーショップですの。……お母様はわたくしにプレゼントを買おうとしていたのだわ」
娘にプレゼントを買いに行く。きっと要が喜ぶだろうと想像しつつ、店内で買物をする。そして栄子はそこで誰かにさらわれたのだ。その店から次の点はかなり離れている。とても人が移動できるスピードではない。優一郎は画面に目を戻して目を細めた。口許に指をあてがって思案する。
通常なら車や何かで移動したと考えるだろう。が、そもそも車が乗り入れられるほど大きな道は店からずっと離れた場所にある。しかも車や何かで移動できる距離とは思えない。ヘリコプターなどが着陸できる場所ではないのも確かだ。
「瞬間移動?」
「何ですって?」
微かな呟きを聞き取ったのだろう。要が素っ頓狂な声をあげる。少なくともその言葉の示す意味だけは理解しているようだ。優一郎はため息をついて要を見やった。要は半ば呆れたような顔をしている。言葉では理解できていても実際に見た訳ではない。そのために要は優一郎の話をまだ信じきれていないのだろう。
「暗示や洗脳だけでなく、そのような力も持っているんです」
やはり、あの風の主の仕業か。優一郎は内心で呟きながら画面に目を戻した。現に店から離れた場所にある点の次に表示されるべき点が画面の地図上にはない。つまり、画面に表示されない地図にまで一気に飛んだということなのだ。
「じっ、冗談でしょう!?」
しばしの間の後に要は叫ぶようにして応えた。優一郎の肩をつかみ、力任せに引く。椅子が自然と回り、優一郎は正面から要と向き合う格好になった。
「瞬間移動なんて、そんな、小説や映画じゃあるまいし!」
どうして暗示や洗脳には反応しなかったのに、それには反応するのだろう。優一郎は不思議な気持ちでまあまあ、と要を制した。実際に目にしていなければ確かに信じがたくとも無理はない。人の形をしたものが目の前で消えるのだ。実際に目にしたことのある優一郎にとっても彼らの能力のことはまだ理解しきれていないのだ。
「存在すると言っても信じられないのはわかります。でも今は、存在することを前提に、この情報を見てください」
「だってあの男がそんなことできる筈がないわ!」
優一郎の言葉に要の叫びが重なる。優一郎は目を見張って要を見上げた。あ、と呟いて要が口許を手で覆う。優一郎はすっと目を細くして要を見つめた。
「要さんも、栄子さんに暗示をかけた相手と接触したことがあるんですね?」
悠然と足を組み、優一郎は静かにそう訊ねた。要は目を逸らして黙している。が、それが何よりの返事だった。間違いない。要は風の主を知っているのだ。
「とりあえず、栄子さんの行方を追うほうが先ですね。その人物が誘拐したと決まったわけではありませんし」
そう告げて優一郎は画面に向き直った。要が無言で頷く。優一郎は画面を切り替えて別の場所の地図を表示させた。三度目の切り替えで次の点を発見する。それは清陵からはるかに遠い場所だった。清陵が俗に吉良瀬の地と呼ばれているのに対して、その場所は木村のそれと呼ばれている。巨大な学園都市を中心にした土地だ。
「ここは……!?」
優一郎は手を伸ばして内線電話を取った。コール二回で相手が出る。
「保美先輩、すいません。果穂さんと一緒に、こちらに来ていただけませんか?」
それだけ告げて優一郎は電話を切った。どうしたの、という要の声に手をあげる。今は考えを中断されたくなかった。木村の地。それは巨大な実験場とも言われている。独特の自治体を持っており、あらゆる権力から切り離された場所だ。
殆ど待たずして二人が現れる。白衣に身を包んだ果穂の姿を見止めた要が目を丸くする。果穂はそんな要に小声で挨拶してから優一郎に近づいた。保美は黙ってドアのところに控えている。
「……なにごとなの」
愛らしい声で果穂が告げる。優一郎は画面を指差してみせた。それを見た果穂が僅かに眉を上げる。見覚えのある地図なのだろう。
「この場所、わかりませんか?」
言いながら優一郎は画面の点を指で押さえた。空色の点を果穂はしばし黙って見つめていた。ため息をついて腕組みをする。その顔は緊張に強張っていた。
「しっているわよ」
小さな声で果穂は告げた。それを聞いて優一郎は要を手で示した。要が慌てたように頭を下げる。果穂はそんな要と優一郎を見比べた。
要はここから巻き込まれていく感じですかねw
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捜索開始 4
エロシーンはないです!
「こちらは如月要さん。彼女の母親が、ここに囚われているようなんです」
「それはにんげんなの?」
優一郎の言葉を果穂は素早く切り返した。戸惑った様子はどこにもない。優一郎は頷いて告げた。
「ええ、普通の人間の女性です」
「……おんな」
そう呟いて果穂は目を細めた。次いで要を見る。その目には冷ややかな光が宿っている。果穂は画面に目を戻してため息をついた。
「ころされるわね、まちがいなく」
淡々と吐き出した果穂を要が凄まじい目で睨みつける。が、それが問題解決にならないと気付いたのだろう。要はすぐに目を逸らした。
「そこまで、するのか……?」
栄子を利用した挙句、拉致し、さらに殺す。あまりにも酷いやり方に優一郎は激しい怒りを覚えた。何が目的かは判らない。だが相手は生きた人間なのだ。
「そのくらいはへいきでするわよ。あなた、これまできむらをなんだとおもっていたの? まさかわたしがいのちをねらわれるというのを、じょうだんやなにかとおもっていたの?」
流れる口調で言いつつ果穂は画面に指を触れさせた。
「いえ、すいません。僕が甘かったようですね」
そう応えた優一郎を横目に果穂は無言で表示された点を指で示した。続けて小さな指が別の場所をさす。次々に果穂は指を移動させた。
「わたしがすうねんまえにすてられるまえ、いましめしたばしょにけんきゅうしせつがあったの。いわゆるせいたいじっけんじょうね」
今も変わらなければ点の位置にも実験場がある筈だ。果穂はそう告げて手を下ろした。白衣のポケットに手を突っ込んで斜に構える。優一郎は黙って画面に目を移した。果穂が指し示した位置をチェックする。続いて示された点を線で結ぶ。すると地図上には巨大な星が現れた。
「何、これ」
それまで黙していた要が掠れた声で呟く。子供の姿をした果穂の言ったことを要が信じたかどうかは優一郎にも判らなかった。目を細めて腕を組む。線で描かれた星が何を意味するのか。そう考えていた時、横で果穂が口を開いた。
「ごぼうせい、ね。なにがしかのちからをぞうふくさせるということくらいしか、わたしはみみにしたことがないけれど」
五芒星。優一郎は口の中で呟いた。点を繋いだ線が赤く輝いている。果穂はそれだけ告げるとその場を去ってしまった。何も言わなくとも用が済んだことを理解したのだろう。
優一郎は無言で考え込んでいた。いつかどこかで書物で読んだことがある。画面に表示された逆さまの星を睨むように見つめ、優一郎は懸命に記憶をたぐった。エネルギーを蓄積するという意味がある程度のことしか思い出せない。
「何だか不気味なところね。この星がないにしても作りが妙だわ」
え、と優一郎は伏せていた顔を上げた。だって、と要が地図を指差す。指を目で追った優一郎は思わず声をあげた。
「全体がすり鉢状になっているのよ? ほら、高低差があるでしょう? これじゃ、災害の際に被害が大きくなるわ。それに土地の周辺。この地図だと随分と高くなっていない?」
逆五芒星が土地の全体に描かれている。それによって集められたエネルギーはすり鉢状になった地面を滑って中央に集められる。集めたエネルギーが逃げないよう、土地の周辺にはわざわざ丘の連なりが築かれているのだ。改めてそれを理解した優一郎の背中に冷たい汗が流れた。
「わざと、作ったとすれば。破壊することを前提に作っているとしか」
「そんな! だって、ここにはたくさんの人々が住んでいるのよ!?」
要が悲鳴のような声をあげる。優一郎は鋭い目で画面を睨みつけた。そう、この土地で集めているのは人々から発される目に見えないエネルギーだ。俗に言えば生気だろうか。そうでなければこの土地の成り立ちは説明できない。
「先ほどの果穂さんの台詞ではありませんけど、木村に対するときは、甘い願望は捨てるべきでしょう」
それまでの笑みを完全に消し去り、優一郎は冷ややかな口調で告げた。要が目を見張って絶句する。次いで要はがくん、と崩れ落ちた。優一郎は慌てて立ち上がり要を支えた。要は床にへたり込んで呆然となっている。
優一郎は要を何とか立たせ、椅子に座り直した。要はすがるように椅子につかまり全身を震わせている。
「時を現在まで進めます」
緊張に知らない間に顔が強張る。優一郎は震える指でキーを弾いた。瞬間、描かれていた星が消え、表示されていた点が消失する。優一郎は目を見張って急いで検索をかけた。が、地図のどこにも点はない。それどころかあらゆる場所を探ってみたが点は表示されなかった。
痛いほどの沈黙が部屋に満ちる。間を空けて空しいエラー音が鳴る。
「いや、待てよ、感度を!」
優一郎は素早くキーボードを叩いた。入力画面が表示される。出来るだけ感度を上げた状態で再度、トレースを開始する。現在時刻にセットして地図を睨むように見る。すると次々に地図に点が表示された。それを見た優一郎は愕然と目を見張った。
「な、なに? 何なの。どういうことなの?」
点は地図上のあらゆる場所に散っている。それも同時刻でだ。優一郎は息を潜めて画面をしばし見つめ、それからおもむろに振り返った。痛ましさに顔を歪めて首を振る。
要の身体が傾いた。
まあ、ショックですよね……。
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ちなりの夜散歩 1
ロボット研究会の一員です。
エロシーンはないです。
趣味と実益を兼ねて、という単純な理由でちなりは街に出かけていた。目ぼしい店は全部覗いた。昨日までに稼いだ金はまだ残っている。ちなりは嬉しそうに微笑んで開いていた財布を閉じた。
唇を尖らせてリップクリームを塗る。ちなりは優一郎の手かげたヒューマノイドだ。が、身体は人とそっくりに見えるし性行為も可能だ。そしてちなりは優一郎の作ったヒューマノイドの中でも滅法、それが好きだった。
だってえ。好きなんだもん。唇の端にはみ出したリップクリームを小指で拭いつつ、鼻歌混じりに呟いてみる。デパートの最上階のトイレには今は誰もいない。閉店間際でデパートにいる人そのものが少ないのだ。
もう一度、鏡に向かって唇を突き出してみる。右に左にと顔を傾けて今日のご機嫌を伺う。うん、今日も可愛い。ちなりは満足そうに笑って頷いた。
今日はどんな男の人を誘おうかなあ。昨日のおじさまみたいにたくさんお金くれるといいけどなあ。そんなことを考えながらちなりはデパートを出た。
街に出ると一気に周辺が賑やかになる。ちなりは慣れた足取りで街の中を歩き始めた。胸元の大きく開いたシャツにジーンズのミニスカート。上にコートを着てはいるが、ボタンは全開で身体のラインがしっかり見えるようにする。髪は耳の上で二つに結わえ、ゴムを隠すようにピンクのボンボンがつけられている。そんなちなりに道すがら声をかけてくる男は多い。が、ちなりは自分の眼鏡にかなう相手以外は全く構わない。人の波に乗って歩を進める。
「ねえねえ、おじょうさあん。俺と遊ばない?」
「ビンボーそうだから、嫌」
また一人、そうきっぱりと叩きつけてちなりは知らん顔で歩き続ける。その背後でばかやろう、という怒鳴り声がしたがちなりはそれを無視した。ちなりにとってはよくある話だ。いつだったか忘れたが、集団で取り囲まれたこともある。その時、ちなりは優一郎に持たされた防犯グッズを駆使して集団をやり過ごした。騒ぎを聞きつけた警官に補導されかかったが、ちなりはその愛らしさを巧みに使い、結局はおとがめなしで解放された、ということもある。
道の途中で肉まんを買ってかぶりつく。口許についた餡を指ですくい、ちなりは道に目をやった。もしかしたら厄日かなあ。道行く男たちを品定めしつつ内心で呟く。いつもならものの五分もすれば目当ての男にありつける。なのに今日は三十分経ってもちなりのお気に入りは現れない。
あちこちの店から漏れる賑やかな音楽が道の上ででたらめに混ざる。ちなりは手の中で肉まんの包みを握り潰してごみ箱に放り込んだ。すとらーいく、と一人ではしゃぐ。そんなちなりを道行く人々が眺めていく。ちなりはコートのポケットに手を突っ込んで再び歩き始めた。
近頃ガッコがつまんなくてさあ。そんな話し声がちなりの耳に入って来る。見知らぬ通行人の会話にちなりはそうだよねえ、と内心で合鎚をうった。近頃、優一郎が構ってくれない。理由は判っている。忙しいからだろう。だがそれが何よりちなりにとって不満だった。
「ほんっと、つっまんないよねぇ」
言いながらちなりは足元の小石をかつん、と蹴った。小石は頼りなく転がって道端の溝に落ちる。あーあ、とため息をついてちなりは肩を落とした。今日はもう、かえろっかな。そう思いかけて頭を振る。
ちなりが帰る場所は学校だ。そしてそこには優一郎はいない。きっと今日もまた地下二階にこもっているに違いないのだ。ちなりはぷっと頬を膨らませて止まっていた足を動かし始めた。
店先に飾られた指輪を衝動的に買う。ちなりは店を出て指に嵌ったそれをじっと眺めた。背後で店員がありがとうございました、と礼をする。ちなりは適当に手を振ってまた道を行き始めた。
ばっかみたい。こんなの買っちゃって。歩きながらちなりは不機嫌に呟いた。店先で見た時はどれよりも輝いて見えたのに、暗がりで見るとただの石にしか見えない。ちなりは低く呻いて右の指から指輪を抜いた。発作的に指輪を放り投げようとする。が、そこでちなりはふと気付いた。
やば。まずいとこに入り込んじゃった。内心で呟いて周囲を見る。辺りにはピンク色に輝くネオンがひしめいている。普段、ちなりが避けている歓楽街だ。あちゃー、と額を手で覆ってちなりは急いで取って返そうとした。
不意に何かが目に留まる。ちなりは瞬きして足を止めた。見慣れたそれは確か清陵高校の制服だ。ちなりは急いで周辺を確認してダッシュした。ちなりには全速力だったが、それは傍目にはふらつきつつ早足で歩いているようにしか見えない。ちなりはヒューマノイドの中でも髄一の運動オンチなのだ。
「ちょっ、ちょっとあんた! こんなとこで何してんの! 補導されるよ!?」
言いながらちなりはその少年の肩をつかんだ。振り返った少年の顔を見てちなりは息を飲んだ。瞬きを数回繰り返す。
「なんだよ?」
不機嫌そうに少年が告げる。ちなりは驚きの余り、言葉に詰まってしまった。少年の肩をつかんだままうろたえる。
短めですがギリギリ4,000字弱だったので分けました。
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ちなりの夜散歩 2
あ、ちなりはTSはしません。
エロシーンはないです。
「俺もマズイかもしれないけど、そっちこそマズイんじゃないの?」
目を細めて少年が告げる。顎をしゃくられてちなりは頬を膨らませた。
「ちなりはいーの! あんたは制服じゃないのよぅ。あ、やばい」
そう呟いてちなりは近づいてきた男を見た。体格はあくまでも男だ。が、その格好は派手な女性のそれだった。顎には髭の剃り跡が青々と残っている。男は舐めるように少年を見つめ、しなを作った。
「あらあん。可愛い坊や、アタシと遊ばなぁぃ?」
ひっくり返った声も男のものだ。怪訝そうに眉をひそめる少年を庇うようにちなりは一歩、前に出た。
「えっと、その、あたしのカレだから! 知らずにこの辺ふらふら入っちゃって……その、ごめんね!」
そう男に言い置いてちなりは少年の腕を取った。おい、と慌てた声をかける少年を無視して脱兎のごとく駆け出す。背後から残念ねぇ、という声が聞こえたが、ちなりは必死で道を逆戻りした。
「もう! だから言ったでしょお? あそこら辺ってヤバイの! マズイの! ちなりだって入らないの! だから制服なんて着て入っちゃダメなの!」
ある程度、ピンクのネオンから遠ざかったところでちなりはそう言いながら振り返った。全身で息をしているちなりとは対照的に少年は落ち着き払っている。
「えっと、とりあえず、ありがと」
困ったように笑いながら少年が告げる。更に怒鳴ろうとしていたちなりはそこで口を噤んだ。突きつけていた指が自然と折れる。いかん、と思いながらもちなりは精一杯恐い顔をして見せた。
「あんた、自分のカッコがすっごくあの手のヒトに好かれるって知らないでしょ?」
「そ、そうなんだ」
ちなりに押されるように一歩下がり、少年はまじまじと自分を見下ろす。ちなりはふん、と鼻で息をついて胸を反らした。腰に手を当てて出来るだけ威厳が出るように心がける。だがそんなちなりは傍目には子供が虚勢を張っているようにしか見えない。
「そうよっ。あんた、とってもカッコカワイイんだもん!」
きっぱりと言い切ると少年が不思議そうな面持ちになる。次いで少年はにっこりと笑った。
「ありがと」
「……う。素直にそう言われると困るんだけど……」
ちなりは困惑しつつ頭をかこうとした。が、手の中に指輪を握っていたことを思い出す。あー、と力ない声をあげてちなりは手を開いた。すると急に視界が暗くなる。驚いて見ると少年が手を伸ばしてちなりの頭を撫ぜていた。
「ちなりちゃんだって可愛いじゃない」
「ちなりが可愛いのはとーぜんなの! あー、子ども扱いしてるでしょっ、あんた!」
そう言いながらもちなりはうっすらと頬を染めていた。ヒューマノイドの中でも抜群の感度を誇るちなりの機体が、無条件に少年の手の動きに反応する。自然とちなりの目は潤み始めていた。
「ふうん。子供だと思ったけど、そうでもないのか」
少年の手がさりげなくちなりの耳を撫でる。ちなりはうっ、と目を閉じて首を竦めた。ぎこちなく少年の手から逃れる。ちなりは触られた耳を押さえて泣きそうな顔で呟いた。
「見かけによらず、手が早いんだぁ。あんた、けっこうエッチね」
「そっちこそ」
くすりと笑って少年が返す。その笑顔はちなりが今までに見てきた男の中でも最高級のものだった。きっと、部長に似てるから。ちなりは内心でそう呟いた。少年の面立ちは優一郎によく似ている。そう思えば思うほど、ちなりはこの少年のことが気になっていった。
少年が腰を屈めてちなりの耳元に口を寄せる。ちなりは吐息を耳にかけられてびくりと身体を震わせた。
「セックス好きなんでしょ? やりたい?」
低く心地のいい声で囁かれる。ちなりは深い息をついて傍にあった電柱に背中を預けた。とろけるような快感がこみ上げてくる。少年はそんなちなりに笑いかけつつ一歩、前に出た。殆ど身体が密着する。ちなりの頭の上に腕をつき、少年はねえ、と耳元に囁いた。
気持ちいいよう。ちなりはうっとりと目を潤ませて自分の身体を腕で抱きしめた。目を閉じて息をつく。
街の外れは喧騒から少し遠い。人の行き来の少ない場所で二人は殆ど抱き合うような格好で向き合っていた。人のざわめきが遠い。
「公園で、デートってことでどう?」
言いながら少年は有無を言わずちなりの肩を抱いた。ちなりはよろけつつ少年の腕に納まった。逞しい胸が頬に触れる。
「んっ……。ダメ、そんなところ触っちゃ……んぅっ」
少年がさりげなくちなりの耳を探る。ちなりは出来るだけ小声でそう告げた。少年に合わせて歩き出す。時折、よろけるちなりを支えて少年はゆっくりと歩を進めた。
最後のあたりはビミョーにエロっぽいですけど、エロシーンまではいかないので警報は出しませんでした。
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どちらさまですの!?
エロシーンはありません。
点が唐突に飛んだ場所からその場所に辿り着くまでには車で約半日。鉄道を使えばもっと早いのかも知れないが、小回りが利くという理由から要は車を出した。優一郎もそれに同意し、要と一緒に車に乗っている。
突拍子もない話に続いて不穏な話を聞いた。結局、要は優一郎の無言の応えに卒倒した訳だが、それから意識を取り戻すまでにはさほど時間はかからなかった。すぐに打ち合わせを行って学校を出てから既に九時間が経過している。
何度も疑い、その度に優一郎に説明された。だが、人にはあり得ない力を有した存在が実在しているとはどうしても信じられない。けれど栄子が行方をくらましたという事実には変わりない。要は無言で窓の外を見た。流れる景色はすっかり闇色に染まっている。
あの日。何気ない風を装って現れた順のことを思い出してみる。あれから順は率先して栄子の行方を探ってくれた。が、それらの行動が全て偽りだったのだとすると。そう考えると要の心は暗く沈んだ。栄子に暗示を施したのは紛れもなくその男なのだと優一郎は断定した。確かめるまでは順と栄子を拉致した人物が同一であるかどうかは判らないとも言われた。けれど要は内心では順の仕業であると信じていた。本当は信じたくないのに、それ以外の可能性をどうしても肯定できないのだ。
やがて車は大きな道から狭い山道に入った。ここからは街灯も少ないという。要は無言で運転手に頷いた。ぎりぎりで離合できるかという道を車は走り続ける。
要はこの時にはもう、自分が順に惹かれつつあることに気付いていた。相手は栄子を拉致したかも知れない人物なのだ。どう考えても常識的にそんな想いを抱ける相手ではない。が、あの真剣な眼差しがどうしても忘れられない。弱っていた自分を抱えて起こしてくれたのは、たとえ偽りだったとしても順だったのだ。
そんなことを考えていた要の顔は自然と暗くなった。ため息が零れる。優一郎はそんな要を時折、横目に見たが何も言わない。
不意に視界が開ける。車はいつの間にか広い場所へと出ていた。ゆっくりと停車する。そこは山の中にあるドライブインだった。ここから木村の地がよく見えるという。要は運転手に待つように告げ、急いで車を降りた。同時に優一郎も降りてくる。
ガードレールの向こうに暗闇が広がっている。その先に小さな光の点が散りばめられている。こんな状況でなければ綺麗だと素直に感嘆できたのかも知れない。要は食い入るようにその明かりを見つめた。
「罠かもしれません。僕は覚悟はできていますけど」
隣に並んだ優一郎が静かに告げる。要は目を動かして優一郎を見た。真っ直ぐに光を見つめるその目は真剣そのものだ。栄子のために、いや、要のために優一郎はここまで付き合ってくれている。要は毅然と胸を張って頷いた。
「わたくしにも覚悟は出来ていますわ」
そう告げて要は光に目を戻した。丸い円を描くように光が並んでいる。そして所々にある大きな輝きは、きっと企業のビルのそれだろう。赤、青、白、そして緑。様々な色の光がそこにはあった。
「おや? また妙なところで会うじゃないか」
知らない声が聞こえてくる。要はびくりと肩を震わせて振り返った。見知らぬ青年が近づいてくる。警戒心を露にする要とは対照的に優一郎は微笑を浮かべてその青年に会釈をした。
「まさか、来て頂けるとは思いませんでした」
「ふうん?」
そう告げて青年は口許に嗤いを浮かべた。それを見た要の背に悪寒が走る。何故だろう。これと同じものをいつか見た気がする。そんな要の動揺を余所に優一郎は青年に近づいた。紙コップを片手に青年が立ち止まる。
「へえ。全部知ってるのか。じゃ、別に隠すこともないか」
薄く笑いながら告げた青年の眼差しは真っ直ぐに要に注がれている。要は何故か一歩、下がった。ガードレールが腰に当たる。
「木崎と名乗った男は、やはり、彼、ですか?」
伺うように優一郎が訊ねる。だが青年は優一郎に答えない。どうだろうなあ、と笑っている。そんな青年を見た要は猛然と肩を怒らせた。大股で青年に近づいて指を突きつける。確かにちょっと格好いいですけど、と内心で断って目を吊り上げる。
「あなた、下手な隠し立てをするとただではすみませんわよ!?」
「おお、なかなか威勢のいい女だな」
青年がわざとらしく手を打つ。が、紙コップを握っていたために音はなかった。ばかにしたその態度に要はさらに食ってかかった。
「そんな風にごまかそうとしても無駄ですわ! さあ、知っていることを全て白状なさい!」
「そうか。誰かに似てると思ったんだ」
ぽん、と青年が膝を叩く。要は不信感一杯だったが一応、答えを聞くまではと口を噤んだ。困った顔で優一郎は要と青年を見比べている。
「都子そっくりだなあ、お前」
「は?」
うんうん、と青年は一人で頷いている。はねっ返り方がそっくりだ。そうも言っている。だが要には何のことか判らなかった。首を傾げて目を細める。青年はそんな要の頭を無造作に撫ぜ、次いで優一郎に目を移した。
「おれはちょっと変な気配を追ってここまで来ただけだ。お前の言った木崎ってやつはおれも知らないぞ?」
言って青年はのんびりと紙コップを傾けた。何ですって、と要が声を裏返らせたところを優一郎が制する。要は渋々押し黙った。苛々しながら青年を睨む。が、青年は少しも堪えるところがないらしい。それも余計に要の癪に障った。
「変な気配、とは?」
あくまでも穏やかに優一郎が訊ねる。要は気が気ではなかった。青年が何がしかの手がかりを持っていることは間違いない。現に青年は優一郎がこの場にいる訳を一つも訊ねていないのだ。それは優一郎がここに何をしに訪れたかを知っているということだ。
「絶滅種」
それだけ言って青年はまたコップを傾ける。意味が判らない。要は苛立ちに任せて青年に飛びかかろうとした。とにかく知っていることを全部吐かせたい。そんな思いでつかみかかろうとした要を優一郎が慌てて止める。
「龍神の? ですか?」
暴れようとする要を羽交い絞めにし、優一郎はそう告げた。要は懸命にもがいたが、意外にも優一郎の拘束は強い。放せ、と怒鳴ろうとしたその瞬間、青年がゆらりと動いた。息を飲む間もなく要の額に指が触れる。その一瞬で要の意識がぐらりと揺れた。
「ちょおっと眠っててくれ。話が済んだら起こしてやるさ」
それを境に要の意識は途切れた。
要視点だと「どちらさまですの!?」なんですよね……w
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人前はイヤ★
(意味:ちらっとだけエロいけど、本番はありません)
ちょっと長めですが一気にアップです。
その公園は薄暗かった。繁華街の脇にあるにしては人の声も遠い。昼間なら子供達の遊ぶ声が響いているのかも知れないが、今は誰の声もしない。ちなりは伺うように周囲に視線を走らせた。その視線を遮るように猫が一匹、走り抜ける。
悲鳴を慌てて飲み込んだちなりの肩を抱く手に力がこもる。どきんどきん、とちなりは少年の胸の鼓動に合わせて心の中で呟いてみた。自然と頭を傾けて耳を胸にぴったりとつける。
「ねえ、どきどき言ってる。おっきな音で」
鼓動が耳の鼓膜を一定間隔でノックする。ちなりはその音に耳を傾けて目を閉じてみた。視界を完全に閉ざすと音が余計にはっきりと聞こえる。
「どれどれ」
くすくすと笑って少年はふわりと手を放した。ちなりは慌てて目を開けてその場に立ち止まる。暗がりに放り出された気分になる。だが少年はちなりの思惑とは反対に目の前にしゃがんでいた。
つきん、とした痛みのような感覚が身体に走る。少年はちなりの左胸に耳を当てていた。少年の体温が服を通して伝わってくる。はっきりと少年の存在を間近に感じると、それだけでちなりの鼓動は速くなった。
「ほんとだ、どきどきいってる」
細いちなりの背中に少年の手が回る。ちなりは懸命に声を殺して目を固く閉じた。柔らかな乳房を押さえていた少年の頭が少しだけずれる。ちなりは小さな掠れた声を上げて少年の頭を押さえた。
「や、やだあ。こんなとこでっ。見られちゃうよう」
ちなりは俯いて少年にそう囁いた。足が自然と震えてくる。周囲を見ると数は少ないが人が行き来しているのが判る。ちなりは真っ赤になって少年を引き剥がそうとした。が、意外にも強い力で少年はちなりを抱いている。
「見られたほうが、感じるんじゃない?」
言いながら少年がまた少しだけ頭をずらす。ちなりは涙ぐみながら懸命に声を殺した。胸の膨らみの先で色づく乳首が少年の頭に巧みに擦られているのだ。
「やっ、やだってばぁ。意地悪っ」
頬を膨らませてちなりは少年の頭を強く押した。くすくすと笑いながら少年が頭を胸に擦り付ける。うっ、と息を飲んでちなりは唇を噛んだ。
「嫌なら、やめてもいいよ」
公園の路地にはぽつんぽつんと外灯が光っている。ちなりは焦ったように視線だけで周囲を伺った。抱き合う二人を妙なものでも見るかのように人々が眺めていく。ちなりは強引に少年の腕から抜け出して胸を隠すように腕を回した。
「こ、こんなところ、人がいっぱい通るのにっ」
ちなりは出来るだけ平静を保って少年に告げた。少年は困ったように笑って周囲を見回している。人の通りがあることには少年自身も気付いていたのだ。頭をかきながら身体を起こし、少年はちなりに笑いかけた。
「じゃあ、人のいないところならオッケー?」
悪戯っぽい笑い方にちなりはすぐには答えられなかった。優一郎は絶対にそんな顔をしない。どちらかと言うといつも穏やかで、時折、ちなりとの会話で楽しそうに笑う。そんな笑いしかちなりは見たことがなかった。
へんなの。この人は部長じゃないのに。ちなりは自分の考えを否定するように頭を振った。すると少年が不服そうに声を上げる。ああ、とちなりは慌てて手を振る。どうも少年はさっきのを返事だと思ったらしい。
「ちっ、違うのっ! ええと、お、おっけー」
いつもなら照れることなく案に乗る。その程度にはちなりは男と過ごす時間に慣れている筈だった。なのにこの少年にはペースを崩されっぱなしになっている。これじゃあ、いつもみたいに出来ないかも。不安になるちなりに少年はにっこりと笑って手を伸ばした。
「じゃ、行こうか?」
ちなりの手を取った少年が歩き出す。ちなりは慌ててついて歩いた。
公園の奥に入ると段々と人気がなくなっていく。うっそうと茂った木々が小道を挟んでいる。外灯が時折、明滅する。蛍光灯、切れかけてる。ちなりは明滅する外灯を発見するたびに、そう内心で呟いた。
優一郎が構ってくれない学校はちなりにとって酷くつまらないものだった。でも、と内心で呟いてちなりはこっそりと少年を見た。少年は真っ直ぐに前を向いて歩いている。
不意に何かが指の間で蠢く。ちなりは驚きに目を見張って足を止めた。少年がちなりの指に自分の指を絡め、巧みに撫ぜているのだ。
「あっ、んっ……ふぅっ」
自然と声が漏れる。ちなりは目を潤ませて少年を見つめた。空いていたちなりのもう片方の手も握り、少年は両手の指を動かし始めた。
「どしたの?」
ちなりと向き合ったまま、少年が告げる。ちなりは声を殺して目を固く閉じた。そうすると余計に指の感覚が鋭くなる。
気持ちいいよう。こんなの、初めてかも。ちなりは潤んだ瞳で少年を見つめ、一歩傍に近づいた。二人の繋いだ手が挟まれるようにちなりと少年の胸の間に納まる。
「ねえ……ちなり、捨てられちゃうのかなあ」
少年の指に指を絡め、ちなりはぽつりと呟いた。切れかけた蛍光灯のように、そのうちに捨てられてしまうのだろうか。そんな不安がこみ上げてくる。少年は不思議そうにちなりを見つめ、次いで苦笑した。
「捨てられるって? 彼氏に?」
「ううん……あっ。そこ、気持ちいい……」
「じゃあ誰に? ちなりちゃん、こんなに可愛いのに」
くすぐるように指を撫でられ、ちなりはうっとりとため息をついた。部長は彼氏じゃないもん。少年の胸に頭をもたせかけて呟く。すると少年がぴたりと指を動かすのを止めた。慌てて顔を上げる。
「遊びの関係ってこと?」
急に真顔になって少年が訊ねる。ちなりは慌てて空笑いしながら少年の手を解いた。違うの、と手を振ってみせる。
「ご、ごめんねぇ。判んないことゆって。えっと、今の、ナシ。忘れて」
どのくらい優一郎に触れられていないだろう。そう考えると余計に辛くなる。だからちなりは暗い考えを振り捨てるように笑った。だが少年は真剣な面持ちを崩さない。変だなあ。ちなり、笑ってるのに。ちなりはそう思いながらどしたの、と少年に訊ねた。
「別に、捨てられてもいいじゃん」
ぼそっと殆ど聞き取れない声で少年が告げる。ちなりは驚きに目を見張った。ぴたりと笑いが止む。
「なんでそんなことゆうの? ちなり、捨てられたら……捨てられちゃったら」
死んじゃうのに。ちなりはその先の言葉を飲み込んだ。力なく俯いて息をつく。すると少年はちなりの肩をそっと抱いて励ますように告げた。
「新しい男見つければいいじゃない。もっと甲斐性ある奴」
そっと頬に何かが滑る。ちなりははっとして顔を上げた。いつの間にか泣いていたことにようやく気付いたのだ。ちなりは照れ隠しに精一杯の笑顔を見せた。が、ちなりが思った通りに笑みにはならない。半泣きの顔になったちなりを見つめ、少年は呟くように言った。
「ごめん。そいつの事、そんなに好きなの?」
「……判んない。ちなり、そういうこと考えたことないから」
好きってどういうことだろう。前ははっきりと優一郎を好きと言うことが出来たのに。今はどうしていえないのだろう。ちなりはぼんやりと考えていた。するとちなりを抱く腕に力を込め、少年が不機嫌そうに顔を歪めた。
「なんかむかつく、ちなりちゃんこんな風に泣かせて、平気で居る奴、許せないな」
「えへへ」
ちなりは顔をほころばせて少年の胸に抱きついた。驚く少年の胸に顔をすり寄せる。ちなりは嬉しそうに微笑んで腕に力をこめた。ぎゅっ、と少年を抱きしめる。
「ちなり、嬉しい。そんな風に言ってくれたヒト、初めてだよぅ」
ちなりのことを思って本気で怒った者は今まで一人もなかった。優一郎はちなりにはとても優しいが、それだけだ。例えばちなりを本気で怒ったり、または心配して感情を剥き出しにしたりはしない。そういう意味で言えば少年はちなりにとって初めての存在だった。
「じゃあさ、逆転の発想してみない? ちなりちゃんから、そいつを捨てちゃうの」
耳の奥で声が聞こえる。ちなりは心地のいい低音に耳をすまして目を閉じた。鼓動の音に少年の声が重なると、それだけで綺麗なハーモニーに聴こえる。今まで聴いていた街中のあのごった煮のような喧騒とは全然違う。
何だかいいなあ、このヒト。すっごく安心する。
するりと腕を伸ばし、ちなりは少年の首にぶら下がった。まだ憤っていたのだろう。少年がちなりの急な動きに驚き、目を見張る。ちなりは背伸びして少年に軽く口づけた。ちゅっ、と音を立てて唇が離れる。
「そうしたら、俺が貰ってやるからさ。そんな甲斐性無し振っちまえよ」
ちなりの耳元に少年が囁く。その手が腰に回り、ちなりの細い身体を強く抱く。ちなりは嬉しさに満面の笑みを浮かべ、うん、と無邪気に返事した。
ちなりはかなり切羽詰まった状態です。
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ちなりと絵美佳と夜の公園 1
TS警報! 生っぽい警報!(謎
嫌に広く感じる公園だった。うっそうと茂った木々が外灯に照らされた空間を圧迫しているように見える。絵美佳は目を細めて木陰を見上げ、息をついた。間近にある小さな肩をそっと抱きしめてみる。
「う、あの、ちなり、外でするのって初めてなの。だから……」
絵美佳は苦笑を浮かべてちなりを抱き寄せた。木の幹にそっとちなりの身体を押し付ける。力をこめれば壊れてしまいそうなほど、ちなりの身体は細く頼りない。
「大丈夫。俺も初めてだし」
耳元に囁くとちなりがひゃっ、と声を上げて首を竦める。絵美佳の目から見てもちなりの感度は異様に優れていることが判る。巴も相当なものだが、ちなりのそれは一種、別物にすら思えるほどだ。
二人は小道を外れて木立の中に移動していた。暗がりに微かにちなりの息遣いが響く。絵美佳は笑って再度、ちなりの耳に唇を寄せた。
「とりあえずさ、服脱がずにパンツだけ脱いでやればいいんじゃない? 何かあっても取り繕えるし」
「う、うん。判った。脱ぐね」
素直に頷いてちなりがスカートをめくる。現れた白い腿を絵美佳はじっと見つめた。ちなりの反応といい、幼さの残る身体つきといい、何もかもが巴と違う。そのことが絵美佳をいつもとは異なる欲情に導いていた。
細い指が下着の隙間に入る。ちなりは恥ずかしそうに顔を赤らめて下着をずらした。大きく下着を開いて足を抜く。続いて左の足が下着から抜けた時、絵美佳は素早く腰を屈めてちなりからその下着を奪った。
「いやあん!」
「いいじゃない」
焦ったようにちなりが手を伸ばす。だが絵美佳は器用にちなりの手を避け、下着を広げてみた。底の部分に触れてみる。にやりと口許を歪め、絵美佳は目を上げた。薄い外灯の光に照らされたちなりの顔は真っ赤に染まっている。
「もうびしゃびしゃじゃない? それに思ったより大人っぽい下着だね」
そう言いながら絵美佳は制服のポケットに下着を丸めて突っ込んだ。あー、と声を上げてちなりが手を伸ばす。
「返してようっ!」
「気にしない、ほら」
喚いたちなりの手を避け、絵美佳は間近にあった胸に手を伸ばした。途端にちなりの手が下りる。絵美佳はにやにやと笑いながらちなりの胸を服越しに弄った。
「きゃんっ!」
甘い掠れた声で鳴いてちなりが震える。絵美佳が思った通り、ちなりの感度は抜群だった。次第にちなりの呼吸が速くなる。
「思ったよりもボリュームあるんだな」
確かめるように乳房を握る。するとちなりはびくりと腰をひくつかせた。声を殺して震えている。絵美佳はちなりの乳房をゆっくりと揉みながら視線を落とした。白い素足に何か光るものがある。腿の間をゆっくりと流れたそれを見止め、絵美佳は小さく笑った。
「すごいね。ラブジュース」
「やっ、やだぁ……恥ずかしいよぅ」
笑い混じりの絵美佳の声にちなりが小声で答える。絵美佳は首を傾げて試すように乳房を揉む手の力を緩めた。
「やなら、じゃ、やめよっか?」
指先で乳房の縁を撫でる。するとちなりは慌てたように首を振った。
「い、やぁ……いじわるぅ! 焦らしちゃやだあ!」
駄々っ子のようにちなりが頭を振る。絵美佳は薄く笑って再び乳房をなぞった。今度は少し強めに服を擦る。ちなりが身体を震わせ、熱い息をつく。
「じゃあ、どうしてほしいのか、言ってよ」
「ち、ちなりの、ちなりのおっぱい、いっぱい触って」
泣きそうな顔でちなりが告げる。絵美佳は服の上からちなりの乳房を弄りながら身体を傾けた。圧し掛かるようにしてちなりの耳元に口を寄せる。剥き出しになった耳に少し息を吹き込むだけで、ちなりは熱い息を漏らした。
「乳だけでいいんだ」
焦らすように乳首を指の腹で探る。ちなりは喘ぎながら足をがくがくと震わせた。いつの間にかちなりの手は絵美佳の制服の隙間に伸びている。シャツのボタンを数個だけ外し、ちなりは絵美佳の肌を弄っていた。
「あっああんっ! だめえっ! 他も、弄って!」
ちなりの指は巧みに絵美佳の胸を撫ぜている。乳首をくすぐられ、肌をなぞられる。絵美佳はそんなちなりの手つきに微かに笑い、ちなりの腰に手を回した。
「おっけ……って、細っ」
ちなりの腰をまず確かめ、次いで手を動かして胸元を探る。そしてまた絵美佳はちなりの腰に手を戻した。
「幼児体型だと思わせて、実はかなりスタイルいい?」
「だっ、だってちなり、セックス好きなんだもんっ。スタイル、良くないと……してくれないもん!」
喘ぎ混じりにちなりが答える。一瞬、ストレートな答えに驚いた絵美佳は次にくすくすと笑い出した。そうだよなあ、と同意してみる。確かに同じ抱くならスタイルがいい方がいい。めりはりのあるスタイルの方が燃えるというものだ。それにちなりのスタイルはその顔の作りとのギャップがあり、余計にそそられる。
「正直でよろしい」
笑いながら告げて絵美佳はするりと片手を動かした。幼さの残る薄い翳りの中に指を進める。途端にちなりは小さな悲鳴を上げた。
「でもさ、なんでちなりって、こんなにスタイル良くて可愛いのに、捨てられるわけ? 納得いかないな」
「そっ、それは……はぁん! あっ、あっ、そこっ、気持ちいい……」
指の腹に触れるクリトリスの大きさは、巴のそれより幾分か小さい。絵美佳は最初は焦らすように指の腹で撫ぜた。既にちなりのクリトリスは硬くしこっている。
「はふぅっ! あっんっ、いいっ、いいのぉ!」
周囲を気遣ってか、よがるちなりの声はごく小さい。だがそれが余計に艶かしく感じられる。絵美佳は薄い笑いを浮かべてゆっくりと指にかかる力を強くした。クリトリスを上下に細かく捏ねる。
「次はどうしてほしい?」
言いながら絵美佳は指の動きを遅くした。ちなりの腿がひくつく。短く喘ぎながらちなりは涙の浮かぶ目を上げた。
「もっと……もっと……ちなりの中にきてぇ」
「じゃあとりあえず指入れてみるね」
二人のやり取りはごく小声で交わされている。時折、小道を人が行く気配がする。それを背に絵美佳は静かにちなりに覆い被さった。半ば開きかけたシャツの合わせ目にちなりが唇をそっと這わせる。
小さな舌先が肌をなぞる。仄かな快感に目を細めつつ、絵美佳は人差し指を股間に運んだ。濡れそぼった小陰唇を指で分け、膣口を確かめてそっと膣内に指を進める。
「んっ、ちなりちゃんの中、きつきつだね」
ちなりはうっとりとした面持ちで頷いた。絵美佳のシャツはボタンを全て外されている。いつの間に。絵美佳は内心で驚愕してちなりを見下ろした。
この頃の地の文で羅木と書かずに絵美佳って書いてるので、紛らわしくて……すみません。
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ちなりと絵美佳と夜の公園 2
TS警報!!(このまま男になるなら要らないんですけどねえ……)
地の文まぎらでごめんなさい!
「う……ん。気持ちいい……。もっと……奥に」
「じゃ、力抜いて」
囁きで言葉を交わし、絵美佳は静かに指を進めた。ちなりが絵美佳の肌に吸い付く。絵美佳は走った快感に微かに身体を震わせた。ちなりは掠れた声で喘ぎながら巧みな愛撫を続けている。
「うわっ、すごっ」
絵美佳は潜めた声で告げた。ちなりは音を立てて絵美佳の胸に幾つかのキスマークを刻んでから顔を上げた。目と目が合う。とろんとしたちなりの目を見つめ、絵美佳はくすくすと笑った。
「気持ち、良くない? ちなりは……すごぉくいいよぉ」
「うーん、下半身がちょっち寂しいかな?」
悪戯っぽく笑いながら絵美佳は片目を閉じた。ちなりが艶やかな笑みを浮かべる。ゆるゆると頭を下げると共に、ちなりの膣から絵美佳の指が抜けた。
「えへ。いっぱい出してね。ちなり、お口で飲むのも好きなの」
「んじゃ、お願い」
慣れた手つきでジッパーを下げ、下着を分ける。現れた絵美佳のペニスにちなりはまず口づけをした。絵美佳のペニスは既にそそり立っている。
舌が絡みつく。小さな口がいっぱいにペニスを咥えて吸う。絵美佳の呼吸は次第に速くなった。指先で睾丸を弄られ、亀頭を舌先でくすぐられる。絵美佳はちなりの巧みな愛撫に熱い息をついて目を閉じた。
射精の衝動はすぐに訪れた。鈍痛にも似た快楽が腰に溜まる。絵美佳は無意識にちなりの頭を腰に抱え込んだ。
「すげえ。上手だよ、ちなりちゃん」
甘い響きのこもった声で囁き、絵美佳は低く呻いた。ちなりが迸った精液を吸う。音を立てて飲み込む様は、顔の作りとのギャップを余計に強くする。絵美佳は大きく息をついてちなりの頭を撫ぜた。
「すごぉい。いっぱい出たね。美味しかったあ」
白いものの残る唇を小さな舌が這う。唇についた精液を舐め取る姿を絵美佳はじっと見つめた。吐息をついて唇の端を指で拭う。その指先に舌を這わせ、ちなりは絵美佳に笑いかけた。
「本気で良かったよ。ちなりちゃん、本気で俺のものにしちゃうよ?」
「うん、いいよ。あ、でも」
そう告げてちなりは視線を彷徨わせる。
「なに?」
もしかしたらまださっき言っていた男が気にかかるのだろうか。絵美佳は僅かに眉間に皺を刻んだ。ちなりは困ったように笑っている。
「あのねぇ。いま、気付いたんだけどお」
ちなりは何故か嬉しそうに笑っている。絵美佳は理解できなくて首を傾げた。
「ちなり、あなたのお名前、知らないんだよぅ。教えてくれる?」
くすくすと笑ってちなりが片目を閉じる。ああ、と苦笑して絵美佳は頭をかいた。いつの間にかペースがちなりのものになっている。
「ごめん、まだ言ってなかったっけ? 俺、神江羅木って言うんだ」
「神江羅木くん、かあ。カッコいい名前だね。羅木くんって呼んでいい?」
そう言いながらちなりは絵美佳に抱きついた。萎えかけていたペニスにするりと指が絡まってくる。
「もちろん。んっ」
細い指が柔らかくペニスを握る。ちなりはうっとりとした眼差しで絵美佳を見つめ、巧みに指を操り始めた。瞬く間にペニスが力を取り戻す。
「羅木くぅん……ちなり、欲しいよぅ」
「おっけ。いくよ?」
絵美佳はちなりの腰に手を回した。ちなりが片足を上げる。絵美佳はちなりの腰を抱え上げて膣口にペニスをあてがった。宙にちなりの足が浮く。
「ふはぁ! んっ! ああん!」
膣口にペニスの先だけを入れる。絵美佳は薄く笑って焦らすように腰を揺らした。ちなりが掠れた声を上げて絵美佳の首に抱きつく。
「やっ……! あっ、焦らしちゃやだあ!」
ちなりが腰をひくつかせながら喘ぐ。絵美佳は片手でちなりの身体を支え、空いた手をペニスの入っている膣口にあてがった。小陰唇は濡れそぼり、口一杯にペニスを咥えている。
「んっ、あ、弄っちゃ……うふぅ!」
確かめるように陰唇をなぞる。ペニスの先だけを咥えているのに小陰唇は張りつめている。絵美佳はじりじりと指を動かしてクリトリスに触れた。その瞬間、ちなりが大きく背中を反らす。
「あふぁんっ! うふぅん!」
ちなりの両足が宙をかく。絵美佳は嗤いを浮かべてクリトリスを弄った。悲鳴混じりの声を上げ、ちなりが頭を振る。絵美佳はちなりの様子に満足しつつ、小さなクリトリスを充分にいたぶった。
「うふぅん! らきくんっ! すごぉい! いいっ!」
両腕でしっかりと絵美佳の首に抱きつき、ちなりは耳元でそう喘いだ。ペニスの侵入を妨げていた膣壁が僅かに緩む。絵美佳はクリトリスを弄りながら注意深く腰を進めた。
「ふあっ! もっとぉ、奥まで……おねがぁい!」
耳元に甘い囁きが届く。絵美佳はちなりを深く犯したいという衝動に駆られ、一気に腰を押し出した。剥き出しの下腹部が密着する。
「んっ。すげー締まるっ!」
「ふああんっ! らきくぅん! すごいっ! すごいのぉ!」
ちなりの足が揺れて絵美佳の腰に絡みつく。絵美佳は夢中で腰を振った。ひくつくちなりの腰を抱え、衝動に任せて激しく動く。ちなりの膣壁がペニスを強く擦る。
「ちなりちゃんも、すげーよ。俺も、さらに、気合!」
低く呟くと絵美佳のペニスが一際硬さを増す。同時にちなりが悲鳴混じりの声を上げた。膣内でペニスがその太さを増したのだ。
噛み付くようにちなりが絵美佳に口づける。絵美佳もそれに応えて舌を絡めた。口づけしたままちなりの腰を激しく揺さぶる。絵美佳の口の中で呻き、ちなりが腰を大きくひくつかせる。それと共に膣壁がペニスを扱くようにうねった。
ちなりが絶頂に達したことを知り、絵美佳は腰を前後に強く振った。一気に衝動がこみ上げてくる。絵美佳はちなりの名を呼びながら射精した。膣壁が脈打っている。全身で息をしつつ、絵美佳はペニスに残った精液をちなりの膣壁で扱ききった。
絵美佳って書いてるから妙な感じすると思います。
ホントすみません(汗)
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割れないコップ 1
エロシーンはありません。
要の身体が傾ぐ。腕の中で脱力した要を抱え、優一郎はため息をついた。あの一瞬で要は眠らされてしまった。もし、自分がその力を食らったらやはり同じように眠りについてしまうのだろう。そう思うと今更ながらに水輝の力の強さに驚いてしまう。
「別にさ。教えてもいんだけどな。でも、知らない方がいいってことも世の中にはあるし」
言いながら水輝は片手で器用に煙草を取り出した。ポケットから一本だけ抜いて唇の間に挟む。優一郎はぼんやりとそんな水輝を見つめていた。ライターを灯して煙草の先に火を点ける。そんな些細な光景が何故か新鮮に見える。
「ですね。知るべき事は、嫌でも耳に入ってしまうものですし」
そっと呟くように言いながら優一郎は腕の中に目を落とした。きっと要はこれから龍神たちとは全く関わりのない人生を歩んでいくだろう。そんな要をあえて巻き込むことはない。
それから水輝は要を車に戻してくるように告げた。優一郎が要を抱えて戻った時、運転手は蒼白になっていたが、ついでだとばかりに水輝が運転手まで眠らせてしまった。車の中は暖かい。眠っていても風邪をひくことはないだろう。笑いながら告げた水輝になにか納得できないものを感じつつ、優一郎は再びあの景色の見える場所に戻った。
「さっき言った絶滅種な。氷の龍神なんだけどさ」
短くなった煙草を吐き捨て、水輝はまたポケットに手を伸ばした。優一郎は水輝に目をやって首を傾げた。
「それって水輝さんの担当分野だと思ってました」
「ああ、管轄的にはおれだな。氷龍神はおれの配下的立場だった龍神だ」
その昔、龍神たちの間で大きな戦いが繰り広げられた。その際に滅びた一族なのだと水輝は告げた。
「その絶滅種が復活をとげた、と?」
優一郎は出来るだけ言葉を選びつつ訊ねた。以前、立城に言われたことがどうしても頭から離れない。言葉の持つ意味と力。それについては常に考えなければならない。言葉一つが様々な事柄を動かしてしまうと優一郎は理解していた。
「そう思ってな。気配がまるっきりそれだったから追っては来たものの……なーんか、やな感じすんだよなあ、この辺」
そう吐き捨てて水輝は周囲を見回した。空のコップに灰を落とす。優一郎は無言で水輝の動きを見つめていた。氷の気配。考えを巡らせるが心当たりがない。
「やっぱり、罠なんでしょうか?」
「罠? ああ、さっき言ってた奴か。どうだろうなあ……あいつ、変態だからな」
顔をしかめてそう告げ、水輝は頭をかいた。せりふの最後の部分に不穏な言葉を見つけ、優一郎は思わず眉間に皺を寄せた。どういう意味だろう。そうは思ったが問い返すのもなんだか怖い。
「で? おれはそっちの事情はぜんっぜん知らないんだけど? まさか知ってるつもりで話してるんじゃないだろな」
悪戯っぽく笑って水輝が片目を閉じる。それを聞いた優一郎は目を見張った。水輝といえばセットで思い浮かぶほど、あの立城が深く関わっている筈だ。その立城が知らないということはあり得ないだろう。そう思ったのだ。
「ということは、本当に偶然だったんですか?」
目を丸くしたまま問う。水輝はああ、と笑ってガードレールにもたれかかった。身体を預けて視線を前方に飛ばす。
「そもそも偶然はあり得ないってのがあいつの言い草だがな」
「いや偶然も必然も一緒ですね。こちらの事情を、お話ししましょう。無謀だと言われてしまうと思いますが」
そう前置きして優一郎はこれまでにあった出来事を話し始めた。優一郎自身は淡々と話しているつもりだったし、水輝も特に変わった反応はしない。無言で煙草をくゆらせながら聞いているだけだ。
やがて優一郎は全てを話し終えて息をついた。ふうん、と水輝が呟く。
「つまりあれか。まんまとかき回されてるってことか」
情け容赦なく水輝が切り返す。優一郎は一瞬、呆然として次いで苦笑した。どんな話をしても水輝には容赦なく要約されてしまうのかも知れない。優一郎は口許に笑みをたたえたまま告げた。
「ですね。地雷原に突入するのは一人で充分でしょう。氷の龍神の件。承りました」
「無理だなあ、それ」
のんびりと煙草をふかしつつ、水輝が呟くように応える。優一郎は不思議な気分で水輝を横目に見た。ガードレールに上半身を預け、水輝は静かに街の明かりを見つめている。
「ですよね」
切り返されるか、それとも合意されるか。どちらかの応えを待っていた優一郎は感情の失せた声で応えた。水輝は変わらず街を見つめている。
「あそこに行くんだろ?」
そう告げて水輝は煙草の先で街をさし示した。優一郎は頷いて肯定する。
「ええ」
出来れば行かない方がいいのではないか。そんな思いはずっとある。そもそも、栄子の居場所を示す点があちこちに散っているということは、要するに既に身体がばらばらにされている可能性が高い。それを要に言わなかったのはひとえに傷を深くしたくなかったからだ。
「お前、見えないかなあ。見えそうなんだけど」
ぼやくように水輝が告げる。何のことだろう。優一郎は素直に水輝に言葉の意味を訊ねた。あー、と低く呻いて水輝が頭をかく。
水輝ってものすごく言葉が足りないんですよね……。
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割れないコップ 2
エロシーンはありません。
「こう、例えばコップが一個、あるとするじゃん?」
唐突に話が切り替わる。優一郎は瞬きを数度繰り返し、言われる意味を噛みしめつつ頷いた。水輝は話を判りやすくするためなのか、空の紙コップを目の前に翳している。それを軽く振って水輝はいいか、と続けた。
「このコップに一杯の水を入れたとする。普通、それ以上は入らないよな?」
目の前に翳されたコップを見つめ、優一郎は考えた。口まで満たされたコップに更に水を注ぐのは無理だ。当り前のことなのに優一郎は素直に頷けなかった。普通、という水輝の言葉に引っ掛かりを覚えたからだ。
「そう、普通は入らない。けど……例えば水が形を変えたら? 容量以上の水を入れることが出来るんじゃないか?」
「ですね。少なくとも、例えば一般に知られてる物理法則に従っていてさえも可能です。例えば氷点ぎりぎりまで温度を下げれば、水の体積は縮みます。そうすれば、あと少し水をいれられるでしょう」
「そしてそれを一気に凍らせるとどうなるかな?」
水輝は笑いながらコップを軽く振ってみせた。クイズだろうか。いや、この設問にはもっと別の答えが隠されている筈だ。そう思いながら優一郎は伏せていた目を上げた。
「今度は膨らんで、コップが割れる可能性もありますね」
「かたいコップならそうかもな。でも紙コップならどうだ?」
「あっ、膨らんで、受け止めますね。そうしてからまた水にもどせばさらに水を入れられますね」
優一郎はぽん、と手を叩いてそう答えた。水輝がにやりと笑う。不意に飛んで来た紙コップを優一郎は慌てて受け止めた。困惑に駆られつつ水輝を見る。水輝は先ほどまでと同じく街に目を向けている。
「つまり、そういうことだ」
じん、と手に冷たさが染みる。いつの間にか水輝の持っていたコップの中にはいっぱいの氷が入っていた。
「わかったようなわからないような」
苦笑しながらコップを両手で包んでみる。膨らんだコップと口許まで満たされた氷。それを見つめていた優一郎の顔からゆっくりと笑みが消える。
「簡単だろ? 詰め物を増やした分だけ器には無理が出る。だから無理して壊れないように中身を固めてある。それだけのことさ」
ちらりと優一郎を一瞥し、水輝は呟くように告げた。ささやかな風にも流されてしまいそうな声だった。だがそれをしっかりと聞き取って優一郎は微かに笑った。
「ありがとうございます」
「だから見えそうなんだけどなあ……。お前、痛いのは嫌だろ?」
優一郎の声を追うように水輝が呻く。訝りながら優一郎は水輝を見た。コップと氷の例え話は風の主の話ではなかったのか。優一郎は思わずコップと水輝を見比べた。
「痛くても、行かなければならない時もあるかと。というか誰かは行かなければ、ならないでしょう」
誰かが行かなければ栄子の安否は判らない。例え、先に罠が待ち受けていても、だ。優一郎は静かに告げてコップを水輝に差し出した。が、水輝は困ったように顔をしかめている。どういうことだろう。優一郎が疑問に思った直後、水輝は低く呻いた。
「うう、おれ、説明苦手なんだよな……いや、遠回しにするのがまずいのか。でも立城にはこれで通じるんだけどなあ」
口の中で水輝がぶつぶつとぼやく。優一郎は本格的に首を傾げた。苛立たしそうに水輝が煙草をふかす。その煙が吹いてきた風に流れていく。
「あー、もう! だから、コップはお前! 痛いのはそれとは別件!」
そう喚きながら水輝はコップと優一郎を交互に指差した。その勢いに飲まれた優一郎は僅かに反応が遅れた。その隙に水輝が貸せ、と言いながらコップを引ったくる。その様はまるで子供のようだった。
「譲る気はありませんよ」
そう告げて優一郎はにっこりと笑った。それを見た水輝が片頬を引きつらせる。コップを両手に包み込んだ水輝はため息をついてがっくりとその場に座り込んだ。
「この場でそのせりふはないだろが。力、抜けたぞ」
うなだれながら告げた後、水輝は恨みがましそうに優一郎を見た。水輝はゆらりと身体を起こして片手でコップを天高く放り投げた。唐突に辺りが暗くなる。何事かと目をむいた優一郎を余所に、水輝は再びガードレールにもたれてぼやきはじめた。どうやら誰かに文句を言っているらしい。
「ちょおっと見えるようにしてやろうと思っただけなのに、その仕打ちかよ。お前、さては判ってやってるな?」
言葉は時に力を持つ。意味が力となって対象を縛り得る。優一郎は微笑を浮かべたまま首を傾けた。
「見えるようになったら、見えなくなるものもあるんです」
「へえへえ。その通りだろうよ。……恨むぞ、立城」
そう告げるなり水輝はその場から唐突に消え失せた。息を飲む暇もなく、優一郎の元に声が届いてくる。その声には苛立ちがこもっていた。
結界はといてやる。お前は好きにしろ。
その声を合図にしたかのように、周囲には小雨が降り始めた。曇天から小さな雨粒が落ちてくる。優一郎は天を仰いでひっそりと笑った。
説明が下手すぎる、と書いてる当時も思ってました。
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機械の走馬灯は 1
当時は自分的には実験のつもりだった書き方でした。
時系列ががんがん動きます。
読みづらかったらすみません。
エロシーンですが、読みづらいかもです。
(機械ですけども)
あの頃はまだ機械仕掛けの身体のことなど全く知らなかった。そもそも、そういう世界とは無縁に生きていた。日々、友達同士で笑い合い、時には怒って喧嘩をしたりもした。人に言わせればささやかな時間だったのかも知れない。けれどちなりにとってはそんな時間はとても大切なものだった。
好きな男の子の話。帰り道に食べたおいしいアイスの話。他愛ない会話を交わしては友達と笑い合っていた。あの頃は学校がつまらないと思ったことはなかった。毎日が楽しくて、時々は嫌なこともあったけれど、それでも学校が嫌いだと思ったことはない。
「ここの毛、産毛みたいだ」
薄い翳りを羅木がなぞる。ちなりは微かに喘いで眉間に皺を寄せた。目尻から涙が零れる。
勉強も嫌いじゃなかった。判らないところは勇気を出して質問に行った。試験前にみんなで集まって勉強していると、いつの間にか脱線してアイドルグループのビデオを観たり……でも、そんな時に限って親に見つかって小言を食らったりした。
何か一つ、打ち込めることがあればいいね。父親のそんな言葉に従ってちなりはバスケット部に入部した。いつまで経ってもレギュラーにはなれなかったけど、部活をするのも好きだった。苦しくて、辛くて、辞めたくなった時もあるけど、それでも試合に勝った時の爽快感が好きだったから辞めなかった。
バスケット部の先輩たちはみんなちなりに優しかった。特に女子部員の中でもちなりはかなり上級生に好かれていた。そのために同級生の部員たちにやっかまれたこともある。が、結局はちなりの愛嬌の良さが同級生たちの頑なな心をとかした。
「すげー肌、すべすべ」
めくり上げたシャツの裾から羅木が手を入れる。木に押し付けられた背中が少し痛い。ちなりは声を殺して目を閉じた。
給食の時間にクラスメイトの一人が笑いの衝動を我慢できず、牛乳を吹いたことがある。ちなりは正面からその牛乳を食らった。教室は騒然となったが、ちなりは一人、きょとんとしていた。いやあん、顔がぬとぬとするよぅ。そう言いながら顔を指で拭うちなりの姿に、クラスメイトの男子の数人が慌てたように股間を押さえる。教室内は一気に大騒ぎになった。担任が困った顔をしていたのをよく覚えている。
初めてセックスの話を聞いた時、ちなりは胸がどきどきするのを自分の耳で聞いた。身体の中の音をはっきりと聞いたのはそれが最初だった。どきんどきん。ちなりは自分の鼓動の音に合わせてそう呟いてみた。すると一緒に話をしていた友達に笑われた。もう、ちなりってばうぶなんだから! はしゃぎ立てられてもちなりの胸の鼓動は速くなったままなかなか落ち着かなかった。
楽しかった日々はあっと言う間に過ぎた。気がつくとちなりは中学三年になっていた。そんな頃、初めてちなりに彼氏が出来た。同じバスケット部の男の子だった。恥ずかしくて手を繋ぐことも出来ないカップルだったが、ちなりはとても幸せだった。二人して同時に照れることも多かった。
「胸、さわっていい?」
耳元に羅木の囁きが聞こえる。ちなりは小さく頷いた。肌を滑った羅木の指がブラジャーの中に入ってくる。
遊園地、ボーリング、動物園。ちなりは彼氏と一緒に色んなところに出かけた。だがちなりの友達はそんな話を聞くと不機嫌そうに言うのだ。いつまでもお子様なんだから! もっとカレの喜ぶことしなきゃ! そう言われた時、ちなりは意味がよく判らなかった。首を傾げているちなりに友達は赤い顔で告げた。
せめてキスくらいしなさいよね! 照れながら告げた友達にちなりは素直に頷いた。そっかあ。カレ、キスが好きなんだ。友達に吹き込まれたことをちなりは次のデートで実践しようとした。手も繋いだことのない彼氏にちなりはいきなりキスしたのだ。動転して慌てまくる彼氏とは対照的にちなりは不思議と冷静だった。
なあんだ。キスって気持ちいいんだあ。唇に残る温かな感触を確かめるように指で触れる。彼氏は目を丸くしてそんなちなりを凝視した。ちなりちゃん! と喚きながら抱きつかれる。だがちなりは冷静にそんな彼氏の身体を押しのけた。
「Bカップあるじゃん。この体型でこれは極悪というか卑怯な!」
「やぁん。羅木くぅん……そんなに握ったら痛いよぅ」
「あっごめん」
慌てたように羅木が手の力を抜く。ちなりは痛みを堪えるために全身にこめていた力を抜いた。指先で乳首をつままれる。
キスしたデートの翌日、ちなりは彼氏に振られた。どうしてなのかはちなりにも判らなかった。が、噂では彼氏はちなりの反応を嫌われていると取ったらしい。うう、嫌いな人とデートなんかしないよぅ。ちなりは自分の部屋で声を殺して泣いた。
やがて夏が来る。その頃、ちなりには新しい彼氏が出来ていた。部活動のある午前を避け、二人はデートを重ねた。今度の彼氏は他校の生徒だった。練習試合でちなりに一目惚れしたという。強気なアタックに似合わず外見は大人しそうな彼氏だった。
あの日、彼氏との待ち合わせをしていた。遊園地の入り口に三時ね。前の日に何度も何度も待ち合わせ時間と場所を確認した。電話口で彼氏は困ったように笑っていた。そんなに何度も確かめなくても大丈夫。俺、ずっと待ってるから。
「ふふ、右だけ硬くなってる。というわけで、こっちを重点的に攻めてみたり」
含み笑いをしながら羅木がするりと指を動かす。ホックの外れたブラジャーがずれ、左の乳房が露になる。ちなりはうっ、と声を飲んで腰をひくつかせた。快感がこみ上げてくる。羅木の舌の動きに反応し、左の乳首が勃つ。
現在と過去のシーンを交互に持って来てます。
当時、この手法で別の話を書いたりしました。
設定書みたいなものかも? ですね。
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機械の走馬灯は 2
長いので五分割されてます。
エロシーンが入ってます(間に過去シーンがあります)
待ち合わせ場所にちなりは行けなかった。急いで渡った信号が点滅から赤になる。横断歩道は長かった。ちなりは焦って走っていた。足をもつれさせて転んだ瞬間、目の前に大きなものが迫っていた。
視界一杯に赤いものが広がる。次に気付いた時、ちなりは真っ白な部屋にいた。パパ、ママ。一番に見えた顔に話し掛けようとする。でも声が出せない。ちなりは心配そうに見つめる二人に今度は手を振って見せようとした。なのにどうしても身体が動かなかった。
「ちなりちゃんってさ。これまで何人くらいの男とやった?」
しこったクリトリスを指で攻められる。ちなりは上げた片足を震わせて息をついた。羅木は触るか触らないかという動きでクリトリスを撫ぜている。
「んぅ……わっ、わかんない……いっぱい……」
喘ぎ混じりにちなりは答えた。腿の間に愛液が流れる。じりじりと筋になって落ちていく愛液の動きすら、ちなりには快感になった。
「セックス、そんなに好きなんだ?」
「うん……あっ……好き……なのぉ。だって」
だって繋がっている間は寂しくないから。
待ち合わせ場所にちなりは行けなかった。見知らぬ男性が近づいてくる。眼鏡のその人をちなりはちょっとかっこいいと思った。端正な面立ちがとても印象的だった。だが男性の言っていることをちなりは全く理解できなかった。男性はちなりの両親と会話していた。その会話の中で一つの言葉だけがちなりの心に刻まれる。
ひゅーまのいど。ちなりは頭の中でその言葉を何度か繰り返した。意味は判らなかったが、それが自分を示す言葉だということだけが理解できる。
それからちなりは身動きできない日々を過ごした。父親と母親は交互に訪れてくれる。だがちなりはたった一つのことを気にしていた。カレ、どうしたんだろう。ちなり、行けなかったから怒っちゃったかな。だってずっと待ってくれるって言ってたのに。
そこが病院であることをちなりが知ったのはそれから数日後だった。ちなりには質問する自由もなく、ただベッドに拘束されている日々が続いたのだ。
「俺、どう? これまでの奴と比べて」
指が膣内を出入りする。膣壁を擦る羅木の指の動きはあくまでも優しい。ちなりは快感に震えながら閉じていた目を開けた。視線を落とすと羅木の頭が見える。
「んふっ、羅木くんはぁ!」
事故から数日経ったある日、ちなりは別の場所に移された。その時までにちなりに判ったことは、どうやら自分の身体がかなり損傷が激しいということだった。なんでこんなに簡単に運んじゃうの? どうしてちなりの足はないの? だがそれらの疑問をちなりは口にすることが出来なかった。見知らぬ白衣の男たちに運ばれて車に移される。
黒い黒い空が見える。雲に覆われた空が車の窓に切り取られたように見えた。
「で、俺、どうなの? 結局」
クリトリスに唇を触れさせたまま、羅木が苦笑する。ちなりは目を潤ませて首を振った。
ちなりは目を動かして周囲の様子を探ろうとした。けれど何故か出来ない。困り果てていたちなりの傍に誰かが近づいてくる。白衣に身を包んだ少年はちなりより少し年上に見えた。緊張した面持ちでちなりに手を伸ばす。
あ、この人、このあいだのかっこいい人に似てる……。ちなりはぼんやりとそんなことを考えた。少年はしばらくちなりを触っていたが、その感覚はちなりにはなかった。
次に目が覚めたとき、ちなりは瞬きをした。あっ、目が閉じられるっ。驚きと喜びが心に満ちる。試してみると手も動かすことが出来るようになっていた。次いで足を動かしてみる。ベッドの上でちなりはささやかな身じろぎをした。
機体と上手く適合したみたいだね。良かった。
知らない声が聞こえる。ちなりは慌てて振り向いた。あの少年が近づいてくる。ちなりは不思議そうに少年を見つめた。ちなりに言ってるのかな。そう思いながら口を開く。
あなた、だあれ?
それまでとは全く違う声が出る。ちなりは驚いて何度か試しに声を出してみた。やっぱり違う。これ、ちなりの声じゃないよう。ちなりは驚きの余り泣きそうになった。
僕は吉良優一郎。君の主治医みたいな存在、だと思って欲しい。
そう言いながら優一郎と名乗った少年が近づいてくる。慰めるようにちなりの背を手で撫ぜる。ちなりは嗚咽を堪えて頷いた。
あなた、お医者さんなの? ちなり、カレにまた会える?
ちなりは懸命にそう訊ねた。これまで喋ろうと思っても声も出せなかった。その不満をぶつけるように優一郎に訊ねる。ねえ、カレ、ずっと待ってるってゆったの。だからちなり、行かなきゃ。怒られるかも知れないけど、行かなきゃダメなの。
ベッドの中から訴えるちなりに優一郎はしばし答えなかった。
「うーん、自信あったんだけどなあ。まだまだ精進が足らないか」
そう呟いて羅木が唇を強くクリトリスにあてがう。吸われた瞬間、ちなりは身体を大きく反らした。下腹部を中心に快感が一気に広がる。
「あっ、羅木くんっ! そこぉ!」
弱々しい声で鳴いてちなりは羅木の頭に手を伸ばした。髪を指の間に絡めて羅木の頭を抱える。
震える手を伸ばして優一郎の白衣をつかむ。それだけでもちなりには重労働だった。気を抜くと指先から力が失せてしまいそうになる。
僕は医者じゃない。エンジニアと言ったほうがいいかな? 後、その彼という人物は誰?
そう告げた優一郎の目は穏やかだった。が、ちなりは何故かその目を恐いと思った。どうして。この人、怖いよぅ。ちなりは優一郎の白衣から手を離した。布団を頭から被ろうとする。だが優一郎の動きの方が早かった。ちなりの手を押さえて耳元に唇を寄せる。
教えてくれれば、調べるよ。その、彼、のこと。
耳元に吹き込まれる吐息がくすぐったい。それと同時にちなりは今まで経験したことのない妙な感じを覚えた。下腹部がじん、と熱くなる。ちなりは思わず目を閉じてそっと息をついた。
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機械の走馬灯は 3
エロシーンなのですが、過去の話が絡んでるので見辛いと思います。
すみません(汗)
経験したことのないその感覚に流されるようにちなりは彼氏のことを打ち明けた。優一郎はそんなちなりを笑うことなく話に頷いていた。時折、思い出したように耳元に囁く。そうなの。ふうん。それだけの言葉なのに、囁かれるたびにじれったさが強くなる。
彼については明日までに調べておくよ。彼のほうも望むなら、一月後あたりには会わせてあげられるかもしれない。
だが優一郎の言葉は後にちなりの予想しなかった結果をもたらした。彼氏はとっくにちなりに愛想をつかして新しい彼女を作っていたのだ。そしてちなりはいつの間にか転校したことになっていた。両親が気遣ってくれたのは判る。ちなりはだがそれを聞いた時に愕然とした。
うそつき! ずっと待っててくれるってゆったのに! パパもママも、ちなりに黙ってそんなことするなんて! 嫌い!
泣きじゃくるちなりを優一郎は慰めた。ベッドの中でカラフルなコードに繋がれたまま、ちなりはしばらく泣いて過ごした。友達との楽しかった日々を思えば思うほど切ない気持ちになる。
「ちなりちゃんのここ、見たいんだけど、その。えっと……。ライトで照らしてもいいかな?」
羅木はちなりの耳元に囁きながらそっと膣口をなでる。ちなりは甘い吐息をついて頷いた。
「いい……よぉ。羅木く……んになら……」
やがて身体が起こせるようになる。その頃になるとちなりは自分が置かれている状況を少しずつ理解できるようになった。自分の身体は既に治せないほどに潰れていたこと。そしてそんなちなりを救う為、生きた脳を機械の身体に組み込んだこと。両親たちは莫大な金をかけてちなりの命を繋いだのだ。
どうして、どうしてそこまでするの! なんで死なせてくれなかったの!
事態の大きさに混乱したちなりは何度もそう叫んだ。部屋を訪れる優一郎に八つ当たりもした。あなた、ちなりを笑ってるんでしょう!? こんなになったら、誰もちなりのこと相手にしてくれないもん!
だが優一郎はそんなちなりの叫びを穏やかに受け止めた。八つ当たりを繰り返したちなりはふと気付いた。何でこの人はちなりに呆れたりしないの? どうしていつもここに来てくれるの?
僕を信頼して。君の新しい身体を作ったのは僕なんだ。君の人生はまだ終わってない。以前と全く変わらなくすることはできないけど、可能なかぎり人に近づけるように努力したつもりだ。だから僕を信頼して。
優一郎に真顔で告げられてちなりは頷いた。うん、わかった。ちなりもがんばる。そう応えて。
本当に心から優一郎が心配してくれていたのだと思った。何故なら他の誰もちなりの許を訪れないのに、優一郎だけは何度も現れたからだ。うん、きっとこの人はちなりのことをいっぱい考えてくれてるんだ。だからこんなにちなりの身体をみてくれる。
やがて季節は過ぎて秋が来る。その頃にはちなりは自由に身体を動かせるようになった。部屋を好きに歩き回れた時、ちなりははしゃいで優一郎にそのことを報告した。優一郎はとても嬉しそうにちなりに頷いて見せた。
だが異変が起こる。機体の調子がどんどん悪くなっていったのだ。最初は些細なことだった。腕を上げて髪を指ですこうとしたのだ。その時、がくん、と腕が途中で止まった。だがすぐに腕は上がってちなりの思う通りに動いた。
そのことを話した時、優一郎は思案顔になった。ちなりは段々と不安になった。日々、身体のあちこちに支障が現れている。今日は足が唐突に止まって転んでしまった。明日はもっと酷くなるかも知れない。
「うわあ、こうやって見るとかなりえっちくさいなあ」
小陰唇を指で分けられてちなりは身体を震わせていた。吐息がかかってくすぐったい。ちなりは頬を染めて目を閉じた。
困惑するちなりに優一郎は静かに告げた。もう、限界かも知れない。その意味をちなりは理解できなかった。もしかしてちなり、壊れちゃうの? 半泣きになりながらちなりは訊ねた。
大丈夫、壊れないよ。だけど……。
今なら判る。優一郎はその時、ちなりが幼い容姿を持っていたためにためらっていたのだ。ヒューマノイドの機体を維持するには性的快楽をインプットしなければならない。だがちなりはその感覚を経験したことはなかった。
教えて! どうすればちなり、壊れないの!?
生きるということを必死で考えたのは、多分この時が初めてだった。ちなりは優一郎の白衣を握り締め、懸命に言った。ちなり、出来ることならなんでもするから! だから見捨てないで!
その、自慰って、知ってるかな?
じい? って、なあに?
ちなりは涙を拭って優一郎に訊ねた。セックスの知識は何とかあったが、それが優一郎の言った自慰と関係しているとは思わなかったのだ。そもそも、ちなりの知識は友達に吹き込まれた程度で詳しいものではない。すると優一郎は少し考えるように天井を向いた。そして決心したように顔を戻す。
じゃあ、セックス、はわかるかい?
訊ねられたちなりは真っ赤になった。え、えっと。あの、男の人の……その。そこまで言って口ごもる。だがちなりの答えを聞いた優一郎はにっこりと笑った。
優一郎は何も知らないちなりに根気よく説明を続けた。ちなりは優一郎の白衣をつかんだまま熱心にその話を聞いた。
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機械の走馬灯は 4
エロシーンはあるのですが、過去シーンがあるので読みづらいかもです。
胸がどきどきする。気付くとちなりは潤んだ目で優一郎を見上げていた。話を聞いているだけなのに下腹部が熱い。
せんせぇ……。キスしてもいい?
胸が痛む。締め付けられるように苦しい。ちなりはそんな痛みを堪えて小声で訊ねた。優一郎はだが苦笑して首を振る。
好きな人のために、とっておいたほうがいいよ。
静かに告げられてちなりは目を見張った。この時初めて気付いた。自分は優一郎なしでは生きられない。誰よりも優一郎に傍にいて欲しい。ちなりは泣きながら優一郎に好きだと告げた。
「走馬灯って……ホントに……んぅ!」
背中がぞくりとする。狭い膣口に羅木のペニスがねじ込まれる。ちなりは目を閉じて羅木に抱きついた。羅木の手が確かめるようにちなりの腰をなぞる。
「縁起でもないことは言わない」
苦笑しながら羅木が告げる。ちなりは懸命に答えた。
「だって……壊れそうな……くらい……気持ちいいからぁ」
しばしの沈黙が訪れた。ちなりは声を殺して泣いていた。優一郎はきっと別の誰かを好きなのだろう。だからキスしちゃダメなんだ。そう思った。
ごめん。僕には他に好きな女性が居るんだ。だけど、君が僕を求めないなら、行為だけならしてあげられる。
優一郎はそう言いながらちなりの耳元に唇を寄せた。心地のいい声が耳に入ってくると、それだけで下腹部が熱くなる。ちなりは目を潤ませて優一郎に抱きついた。驚きに息を飲む優一郎の胸に顔を埋める。
胸の音がする。ちなりは目を閉じて優一郎の胸に耳をあてた。
うん、ちなり、がまんする。先生がちなりを好きじゃなくてもがまんする。だからちなりをなおして。
呟きが終わる前に優一郎がちなりの頬を手で包む。ちなりは目を閉じて優一郎の口づけを受けた。柔らかな唇の感触に震える。
その夜、ちなりは初めて優一郎に抱かれた。だが不思議なことにちなりの身体は自分が思っている以上に器用に動いた。したことないのに。こんなこと、初めてなのに。疑問に思う一方でちなりは優一郎に与えられる快感に溺れていた。経験のない感覚が一気に開いた気分だった。
だがそれっきりだった。優一郎は二度とちなりを抱こうとしなかった。切なくなったら自慰をするようにと言われる。ちなりは大人しく優一郎の言うことに従った。そうじゃなきゃ壊れるもん。時には切なさに泣きながらちなりは自慰を繰り返した。
優一郎のいるその場所がロボット研究会の研究室だということを知ったのは季節が冬になる頃だった。
「無駄毛、きっちり処理してるんだね」
感心したように羅木が告げる。ちなりはえへへ、と笑った。膣に納まったペニスが脈打っている。その感覚に震えつつちなりは片目を閉じた。
「だって……裸になった時に……幻滅されちゃ……ヤ、だから」
ちなりはロボット研究会の特別部員ということになった。優一郎は部長、そして副部長である斎姫の存在を知った時、ちなりは納得した。そっか。部長は吉良瀬先輩のことが好きなんだ。だがそう思うと同時に切なさを覚えた。だから部長はちなりを抱いてくれないんだ。
新しい仲間であるカレンと保美が入部する。ロボット研究会は一気に賑やかになった。ちなりは中学生の頃と同じ楽しい日々が過ごせると胸を躍らせた。実際、カレンはちなりを可愛がってくれたし、保美はとても優しかった。斎姫もちなりの嫉妬を受けながらも優しく接してくれていた。
でも部長は抱いてくれない。賑やかな日々を過ごしているちなりの胸に不満が積み重なっていく。仲のいい優一郎と斎姫を見ると、不満はもっと強くなった。時々、ちなりはわざと斎姫の邪魔をした。そんな時、決まって優一郎は困った顔をする。
ちなりは清陵高校に入学した。新一年になったちなりをロボット研究会の彼らは喜んで迎えてくれた。ちなりもしばらくははしゃいだ気分で研究会の活動を楽しんだ。
そんな矢先だった。ちなりは唐突に優一郎に呼び出された。これまでにも呼ばれたことは何度もある。だがその時は何故か優一郎の様子が変だと思った。ちなりは電話を切って首を傾げた。どうしたのかなあ。ちなり、なんか悪いことしちゃったのかなあ。そう思いながらちなりは指定された研究室に向かった。
「あっ……! あぅん! やっ、激し……っ!」
強く腰を揺さぶられてちなりは声を掠れさせた。羅木は嗤いながらちなりを突いている。
「まだまだぁ! いくぜ!」
ちなりの腰を抱く手に力がこもる。ちなりは目を閉じて歯を食いしばった。機体の中で音がする。どきんどきん。ちなりは震える唇でそう刻んだ。
研究室には斎姫がいた。斎姫は椅子に座って頬を染めている。ちなりは首を傾げながらドアを閉めた。そして驚愕する。ドアのすぐ脇に優一郎が立っていたのだ。ど、どうしたんですかぁ? 部長。ちなりは慌ててそう声をかけた。
優一郎は答えなかった。無造作にちなりの腕をつかんで歩き出す。ちなりはよろけながら優一郎に従った。一体、どうしたんだろう。そうは思うが何もいえない。優一郎がこれまでにない雰囲気をまとっていたからだ。
研究室には実験台が幾つも並んでいる。斎姫の目の前にある一つの台にちなりは押し上げられた。何も判らないまま、台の上に乗る。あのぅ、部長? そんなちなりの声を無視して優一郎が台にのぼる。
その後のことをちなりはあまり覚えていない。ただ、優一郎の腕に抱かれていたことだけははっきりと判る。ちなりは感じるままに激しく喘ぎ、欲求のままに優一郎を求めた。
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機械の走馬灯は 5
エロなのですが過去話が入るので、多分、集中無理だと思います……(汗)
気付くとちなりは一人、研究室に取り残されていた。脱がされたままになっていたブラウスをのろのろと取り上げる。身体を起こすと酷くあちこちが痛んだ。優一郎に抱かれたのだということは理解できる。その証拠に機体の中には優一郎の精液が残っていた。膣から零れたそれを指先にすくい、舐めてみる。
ぽつり、とブラウスに染みができる。ちなりは気付かないうちに泣いていた。その内に嗚咽がこみ上げてくる。ちなりは手にしたブラウスを口許にあてがい、声を殺して泣き続けた。
優一郎は斎姫に見せつけるだけのためにちなりを抱いたのだ。ちなりは泣きながら台を降りた。ふらつく身体を引きずるようにして研究室を出る。廊下に斎姫の甘い声が響いている。ちなりはそちらを一度だけ振り返って歩き出した。
ちなり、セックス好きだからぁ。外でいっぱいしてきてもいい? 次の日、ちなりは片目を閉じて優一郎に告げた。一瞬、優一郎の反応がなくなる。だがすぐに優一郎は微笑みを浮かべた。ちなりの頭を撫ぜて頷く。
君がそう望むなら、かまわないよ。
本当は止めて欲しかった。たとえ嘘でもいい、嫌だと言ってくれれば良かったのに。ちなりは息を潜めて腰をひくつかせた。羅木の息遣いが耳元に聞こえる。まだ、平気かな。熱い快楽を感じる心の隅で冷静に呟く。
「んあっ! もっとぉ、ちょうだぁい!」
甘い声で喘ぐ。ちなりは機体の中の異質な音を耳の奥で聞き取っていた。ざりざりという、何かが擦れる音がしている。だが羅木の耳には届かないだろう。それも判っていた。
その日を境にちなりは外に出るようになった。それまで行ったことのない場所に行くのは怖かった。けれど毎日、街に立った。時折、研究室に戻って保美にメンテナンスをしてもらう。その度に保美は顔をしかめて言うのだ。駄目よ、ちなりちゃん。きちんと直さないと。
そんな保美に申し訳ないと思った。ごめんね、と心の中で詫びながらちなりはえへへと笑った。えー、だってえ。セックスするのに忙しいだもおん。昨日はねぇ、こんな男の人とやったのぉ。お金もいっぱいくれたよ。
保美はそれ以上、ちなりに何も言わなかった。ちなりは笑って保美に手を振ってまた夜の街に繰り出す。次第にちなりは研究室に近づかなくなった。優一郎と鉢合わせになるのが怖かった。もう二度と抱いてくれないだろうな。そう判ってしまうのが辛かったのだ。
日に日に機体の調子は悪くなる。時には行為の後で動けなくなった。そんな時、決まって相手の男は言う。なんだよ、気持ち悪い。おまえ、病気なのかよ。それなら先に言えよ。ちなりにけちをつけ、散々罵倒する。だがちなりはえへへ、と笑ってごめんねぇ、と男に告げる。
お前、頭よわいんじゃねえの? 何度もそう言われた。うん、そうかも。ちなりはその度にそう答えた。だってちなり、もう壊れかけてるんだもん。アタマも壊れかけててもおかしくないもん。そう思って。
でも壊れたくない。だって壊れたら捨てられちゃう。もう二度と見てもらえない。会いたくないと思う心のどこかが優一郎を求める。ちなりは声を殺して仰け反った。深い快感がちなりを絶頂に導く。
壊れたくない。捨てられたくない。心の中で呟くちなりの身体が次第にぎこちなく震え始める。腰を抱いていた羅木が驚愕に目を見張る。
「ちなりちゃん、大丈夫!? 俺、激しくしすぎた!?」
慌てたように羅木がペニスを抜く。膣に満ちていた精液が音を立てて零れる。ちなりはえへへ、と笑って羅木の首に手を回した。
「すごぉい……。羅木、くん……良かった……」
全身に震えが広がる。両腕に抱えられたちなりは目を閉じて羅木の胸に耳をあてた。機体内の雑音が羅木の心臓の音に隠れていく。羅木はちなりを気遣うようにその場に腰を下ろした。
いざという時に使って。そう言われていたことを思い出す。ちなりは震える手をスカートの中にそっと入れた。緊急連絡用にと言われていた回線が開く。
『どうしたんだい?』
聴こえてきた声は冷ややかだった。ちなりは震える唇に微かに声を乗せた。羅木には聞こえないほどの小さな声が唇から零れる。
「壊れ……そう……なの」
本当は優一郎に言えば呆れられるだろうと思った。けれどちなりは勇気を出してそう告げた。
『セックス中? 女性器故障かい?』
その声にちなりは頷いた。はい、と小声で返事する。羅木はよほど慌てているのだろう。懸命にちなりの名を呼んでいる。
『女性器故障なら、なんとか誤魔化して自力で部室に帰れるね? こっちは今、手を離せないんだ』
それだけ言って優一郎は一方的に通信を閉じてしまった。ちなりはそっと目を開いて小さく笑った。反応したからだろう。羅木がちなりの顔を覗き込む。
「大丈夫、なのか? 顔色悪いぞ? 救急車呼んだほうがいい?」
真剣な面持ちで羅木が告げる。えへへ、と笑ってちなりは首を振った。捨てられちゃった。そんなちなりの呟きに羅木がぴくりと眉を上げる。ちなりはまた力なく笑って空を見上げた。
真っ黒な空が見える。ちなりの呼吸は次第に速くなっていった。機体内で何かが暴れている。胸部に組み込まれたシステムが悲鳴を上げて崩れていく。機体内のエラー音が一気に羅木の心臓の音を上回る。
「俺がついててやる。大丈夫だから! しっかりしろって、おい!」
「うん……ありがと……う」
羅木がちなりの手を握る。機体の中のエラー音が別の何かの音になる。ちなりはびくりと大きく跳ねて目を見張った。
捨てないで。殺さないで。だがその願いは優一郎には届かない。ちなりは震える手で羅木の手を握り返し、笑おうとした。だが機体が思うように動かない。
ちなりの目が次第に光を失う。羅木の叫びを最後にちなりの意識は暗闇へと落ちていった。
まだまだ機械が書けてません!!!(自己評価
ごめんなさいー!(どこかに向かって
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潜入して捜索 1
エピタイセンスゼロですね!w
あ、エロシーンはないです。
かなり長いので5か6分割します。
二つ折りの携帯電話を閉じて舌打ちをする。優一郎は鋭い眼差しである一点を見つめていた。
ここまではヒッチハイクで何とか来ることが出来た。が、木村の地と呼ばれるこの辺り一帯は大きな壁で覆われており、出入りするにはある一箇所を通らなければならない。そこはどうやら出入りする人間のチェックを行っているようだ。優一郎は道端に並ぶ木々の間に身を潜め、そっと息をついた。
恐らく見つかればただでは済まないだろう。が、誰にも見咎められずにあの壁の向こうに行く方法が見つからない。運んでくれたトラックの運転手は怯えたようにこの付近で優一郎を降ろしてしまったのだ。あんなとこ、いけるわけない。そう吐き捨てられた男の声がまだ耳に残っている。
この地は丘で囲まれているらしい。要の言葉を思い出す。だが実際には丘の麓に壁が立ちはだかっている。降りしきる雨が優一郎の視界を遮る。優一郎は目を細めて出入り口を睨んだ。壁伝いに進めば別の出入り口があるのかも知れない。が、ここまで余所者を排除しようとする姿勢から、別の出入り口もここと似たような状況だということは簡単に判った。
どうするかな。優一郎は口の中で呟いた。雨は容赦なく優一郎の体温を奪っていく。このままここに張り付いていれば確実に身体を壊してしまう。そう考えてから優一郎はふと眉を寄せた。ちなりの震える声が何故か心の奥底に蘇る。壊れそうなの。そう告げたちなりの声はいつもとどこか違っていた気がする。
だが今はそんなことを考えている場合じゃない。優一郎は首を振って思考を切り替えた。時折、車が道を走って過ぎて行く。一刻も早く。優一郎は次第に焦り始めていた。栄子の居場所を示す点はもしかしたらこんなことをしている間にも動いてしまうかも知れない。そうしたらまた最初から探し直さなければならないのだ。
不意にライトが優一郎の姿を照らし出す。優一郎は眩しさに目を細めて目元に手を翳した。夜に一人、しかも雨に濡れている優一郎のことを不審に思ったのだろうか。車が路肩に寄って停まる。優一郎は反射的にその場から逃げようとした。
「あっれぇ? どしたの、優一郎くぅん。おーい」
駆け出そうとした優一郎の背中に声が飛んで来る。優一郎は驚愕に目を見張って振り返った。傘をさして一人の男が手を振っている。
「葵さん?」
優一郎はそう声をかけて瞬きをした。どうしてここに葵がいるのだろう。葵は笑いながら手を振って寄ってくる。ガードレールを越えて近づいた葵は持っていた傘を優一郎にさしかけた。
「こんなトコで何してんの? まさか散歩じゃないっしょ?」
雨が傘に遮られて音を立てる。優一郎はしばし葵を凝視してから我に返った。そうか、と内心で呟く。葵は木村系列の会社に勤めている。しかも社長付きの秘書だ。もしかしたら葵は木村の地に用事があるのかも知れない。
「重工のプラントを見学しようと思って来たんですが、まさかあそこまでセキュリティが厳重だとは思わなかったので」
「あー……。あそこねぇ。変だよねー。あーんなに厳重にしなくてもいいのにさぁ。作った奴、なに考えてるんだか」
そう言いながら葵はポケットから煙草を取り出した。優一郎に煙草を示して目配せをする。どうやら吸ってもいいかという意味らしい。優一郎は苦笑して頷いた。
ふわり、と生暖かい風が吹いてくる。紫煙が風に流れていく。
「ええ。例の件もあって叔父に頼るわけにもいかなくて、直接見に行こうと思ったんですが」
「だからってずぶ濡れになることないのに。んでもまあ、急に降り出したからねぇ」
呟いて葵が空を見上げる。それから葵はため息をついて目を戻した。唇の端に咥えた煙草が揺れる。揺れる赤い火を優一郎は静かに見つめた。
「んー。見学できるかどうかは知らないけどさあ。とりあえず、乗ってく?」
「お願いします」
優一郎は軽く頭を下げて告げた。葵はうん、と答えて歩き出す。唐突に放られた傘を慌てて受け止め、優一郎は目を上げた。葵が車の傍で手招きをしている。優一郎は慌ただしく車に近づいた。
タオル、後ろにあるから。まず髪を拭いて。そっから上着脱ぐ。葵の言葉に優一郎は無言で従った。そうしているうちに出入り口が近づいてくる。優一郎は自然と緊張に身を固くした。
「上着、後ろに隠せ」
葵がぼそりと告げる。優一郎は頷いて制服の上着を後部座席に隠した。葵が窓を開けてだらしない笑みを警備員らしき男に向ける。
「ういっすー。毎度ぉ」
言いながら葵はダッシュボードから何かを取り出した。どうやらIDカードらしい。警備の男は顔をしかめてカードを受け取った。手にしていた携帯端末のスロットに入れ、画面を確認してからカードを葵の手に戻す。
「そっちの子供のはどうした?」
警備の男が顎をしゃくる。優一郎は膝の上に乗せたこぶしに力を込めた。緊張に身体が震えそうになる。だがそれを懸命に堪えて優一郎は目を上げた。まともに警備の男と目が合う。
「それがさあ! 聞いてよ、もう! あんまり戻らないから迎えに行ったんだけどさあ! コイツ、あそこの池にはまっちゃっててさあ! もー、オレがどんなに大変だったか!」
不機嫌そうに言いながら葵が後ろを指す。優一郎は出来るだけ不自然に見えないように警備の男ににっこりと笑いかけた。警備の男はああ、と言いながら車の後方に目をやる。
ここぞという時に出てくる葵です。
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潜入して捜索 2
今年もよろしくお願いします!
前の続きです。
ちなりはどーなったかは、次のエピソードで。
エロシーンはありません。
「あそこはなあ。柵がないから危険なんだが……いつになったら柵を作るのかなあ」
どうやら警備の男にも苦い経験があるらしい。もしかしたら釣りのポイントでもあるのかな。優一郎はぼんやりとそんなことを考えた。
「だもんで、悪い! 上着にカード入ってたらしいんだけどなくしちゃったんだ」
頭を下げつつ葵が片手を上げる。拝むようにされて気分も悪くなかったのだろう。警備の男が苦笑して頷く。
「仕方ないなあ。おい、ぼうず。早く再発行してもらえよ」
窓から車内を覗きながら警備の男が告げる。優一郎は首から下げたタオルを取り、警備の男に会釈をした。その間に葵が警備の男に軽く手を上げる。開けられていた窓がゆっくりと閉まり、それと同時に車が緩やかに進み始める。
「あっ、おい! ちょっと待て!」
微かに開いた窓から警備の男の声が飛び込んでくる。優一郎は思わずぎくりと首を竦めた。葵が舌打ちをして車を停める。窓を開けて振り返りながら何だよぉ、と情けない声を上げる。
「ブレーキランプ、壊れてるぞ。早く直せよ」
「あっちゃあ。そりゃ、気付かなかったよぉ。どもありがとねぇ」
そう告げて葵はもう一度、警備の男に手を上げた。窓を閉めてアクセルを踏む。緩やかに車が走り出し、やがて出入り口が見えなくなる。
「っぶねぇ……。ばれたかと思った」
信号で停まったところで葵が情けない声で笑う。優一郎もほっと息をついて胸に手をあてた。思った以上に緊張したらしい。脈拍がかなり速くなっている。
「ありがとうございました」
優一郎は葵に頭を下げつつ礼を述べた。すると葵があはは、と気の抜ける笑い声を上げる。どうやら照れているらしい。優一郎もつられたように微笑みを浮かべた。
「でもさぁ。見学もいいけど、先に着替えた方がいいよ。そのカッコでいつまでもいたら風邪ひくだろうし」
ハンドルを切りながら葵が告げる。優一郎は困った顔で自分の格好を見下ろした。確かに言われた通りにずぶ濡れだ。けれど着替えなど持ち合わせていない。それに急がなければならない。
「着替えありませんし、これ以上、ご迷惑をおかけするわけには……」
「えーっ。迷惑ってひょっとしてオレのことぉ? そんなあ。オレ、けっこうキミのことは気に入ってるし、できれば力になりたいのにぃ」
おどけた調子で言いながら葵が笑う。真面目に告げた優一郎は葵の態度に面食らって絶句した。葵はにやにやと人の悪い笑みを浮かべて優一郎を見ている。
「いえ、そういう意味ではなく。迷惑なのは僕の……いえ、わかりました。お言葉に甘えましょう」
思わず苦笑しつつ優一郎は告げた。すると葵が声を上げて嬉しがる。一気に車がスピードを上げる。優一郎は葵に合わせて笑いながら心の中でそっと呟いた。事態は急を要するが、あせってチャンスをふいにしては元も子もない。ひょっとしたらこれが栄子の行方を知る最初で最後のチャンスかも知れないのだ。
車は細い路地に入り、それと共にスピードが落ちる。住宅街に入ったのだ。優一郎は出来るだけ色々なものを見ておこう、と窓から外の様子をじっと見つめていた。葵はそんな優一郎の気持ちを察しているのかいないのか、黙っている。
やがて車が停まる。そこはとあるアパートの前だった。随分と年季の入った作りのアパートの前に葵は車を停めた。降りるように言われ、優一郎は素直に車から降りた。雨を避けるように小走りで葵の後を追う。葵はのんびりとアパートの階段を上がり始めた。
「ここねぇ。オレの別荘? っていうか、非常用に借りてるんだけど」
そう言いながら葵は一つのドアの前で足を止めた。ドアに書かれた205という文字がかすれて見えなくなりかけている。優一郎は促されるままに部屋に入った。
薄暗い部屋だった。葵は部屋の中を珍しそうに見る優一郎に笑いかけ、部屋の明かりを灯した。きっと元々は白かったのだろう。壁はくすんで灰色になっている。窓にかけられたカーテンも暗い色をしているため、部屋全体が暗く見える。畳の敷かれた部屋に上がりながら優一郎はへえ、と声を漏らした。
家具が極端に少ない。あるのは一つのたんすとテーブルだけだ。
「あー、これでもいちお、ガスと水道と電気は通ってるんだよ? ちょっと待ってね。今、風呂をわか……うお! しまった! ひぃぃ! ゴミが怖いことになってるぅ!」
キッチンから悲鳴が聞こえてくる。優一郎はため息をついてキッチンに向かった。うろたえる葵に近づいて手を伸ばす。葵はゴミ袋を片手に固まっていた。
「僕が片付けますよ」
苦笑しつつ葵の手からゴミの袋を引き受ける。葵は呻きながら頷き、その場を後にした。だがすぐにとって返す。葵は不思議そうな顔をする優一郎の手を握り、有無を言わせぬ力でひいた
「キミは先にそれを脱ぐ! タオルはこれね。ああ、そうだ。ゴミはいいから。とにかく風呂を入れるよ」
着替えはこれ、と葵は一揃いのパジャマを優一郎の手に押し付けた。ついでにゴミ袋をひったくる。それをキッチンに放り投げ、葵はバスルームに消えた。賑やかな人だ。そう呟きながら優一郎は言われた通りに濡れたシャツを脱いだ。
生ゴミは怖い。
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潜入して捜索 3
エロシーンはありません。
ほどなく大きな水音が聞こえてくる。優一郎は髪を拭きながらそちらを見た。バスルームからよいしょ、と言いながら葵が出てくる。優一郎はあの、と葵に声をかけて片手に握っていた濡れたシャツを示した。
「それ、ここに入れて。キミが風呂に入ってる間にダッシュで乾かしてくるから」
「ありがとうございます」
礼を言いながら優一郎はシャツを差し出されたかごに入れた。それも、と指差されたズボンを脱ぐ。続いて下着を取ってかごに入れる。葵はよし、と頷いてバスルームを顎で示した。
「今、湯を入れてるからシャワー浴びながら待ってるといいよん。んじゃ!」
そう言い残して葵は本当に部屋を駆け出していった。実に慌ただしい。優一郎はそんな葵の動きに一瞬呆気に取られた。が、すぐに我に返る。そう、まずは落ち着かないと。そう自分に言い聞かせて大人しくシャワールームに向かう。
シャワーコックを捻る。出てきた湯に身体を突っ込んだところで優一郎は少し震えた。雨に打たれ続けていたために全身が冷え切っている。しばらくシャワーの水流で身体を流す。そうすると少しだけ身体が温まる。
車のタイヤが派手に軋む音がする。湯の溜まった湯船に身体を沈めていた優一郎は慌てて目を開けた。うっかり眠りかけていたのだ。
「おっまたせえ! 乾いたよん!」
声が聞こえてくる。優一郎は頭を振って完全に目を覚ました。気が緩みすぎていた。頬を軽く叩いて気合を入れなおす。そうだ。早く栄子の居場所を突き止めなければ。そう自分に言い聞かせる。
「あれえ? まだ入ってるの? だいじょぶ?」
軽いノックと共に葵がバスルームに顔を覗かせる。
「はい。おかげさまですっかりリフレッシュできました」
優一郎は頷いて湯船の中に立ち上がった。それと同時に何かが飛んで来る。受け取るとそれは大きなバスタオルだった。
葵は言葉通りに優一郎の服を乾かしてくれていた。ご丁寧に上着まで乾いている。ぴったりと折り目がついたズボンを指で持ち上げ、優一郎は驚嘆のため息をついた。どうやらアイロンまでかけてくれたらしい。
ありがたく制服を着込む。優一郎がそうしている間に葵はビニール袋を探って何かを取り出した。見ると温かい缶入りの茶とおにぎりが数個ほど畳に並ぶ。どうやら寄り道をして買ってきたらしい。
「まずは腹ごしらえね。うおっと、もしかして優一郎くんてインスタントのメシって嫌い?」
「いえ頂きます」
葵にならって優一郎は畳に座った。葵が嬉しそうに笑って茶を差し出す。ありがたくそれを受け取り、優一郎はプルトップをひいた。
「で? どこに行くの? ホントは」
おにぎりを片付け、茶を飲みながら葵は告げた。その目はさっきまでのように笑ってはいない。優一郎を真っ直ぐに見つめている。
「ばれてましたか」
にっこりと笑って優一郎は両手の中で缶をもてあそんだ。ぬるくなりかけた茶が缶の中で音を立てて揺れる。葵はうん、と短く答えて缶で優一郎をさした。
「だってさぁ。こんな時間だよ? 見学ったって、真っ暗だし何も見えないんじゃないかなってさ」
それにホントならアポイント取ってオッケーでれば仮ID発行してもらえるしさ。葵はそう続けて缶を傾けた。優一郎は浮かべていた苦笑を消し、葵を見据えた。ここで葵に協力してもらえれば成功の確率は高くなるだろう。もし、それで失敗するようなら自分一人でも栄子の足跡は辿れない。
「ひとを探しています」
告げると葵がぴくりと眉を上げる。優一郎は腹をくくって事情を話すことにした。栄子がいなくなった経緯を簡単に説明する。話をしている間、葵は無言だった。
「つまり? その誘拐されたヒトを探してここまで来たってことだよねぇ? で、そのおっきな反応だけはとにかく確かめたい、と」
栄子を捜索した時、一気に拡散した反応のうち一箇所だけが大きく光った。あれは恐らく栄子の脳の部分だろう。優一郎はそう見当をつけていたのだ。反応があるということは栄子は生きている可能性が高い。たとえそれが罠だとしても、だ。
「そうです」
「その場所って正確に判るんだよね? んじゃ、いこっか」
そう告げて葵は腰を上げた。優一郎は瞬きをして、え、と声を上げた。まだ協力を頼んではない。だが葵は当然のような顔で顎をしゃくった。
「なーに驚いてんのぉ。探しに行くんしょ? そのヒト」
「これで、何度目かわかりませんけど、本当にありがとうございます」
優一郎は立ち上がって葵に深く頭を下げた。一人ならとてもあの壁は越せなかっただろう。葵が手伝ってくれたおかげでここまでこれたのだ。優一郎は素直に感謝していた。
玄関に向かっていた葵が振り返る。その口許には人の悪い笑みが浮かんでいた。
「いいよん。そのうちに貸しを返してもらうから」
そう言って葵は玄関を出た。優一郎は慌てて葵の後を追った。ドアをくぐったところで傘を押し付けられる。
「例の紹介の件ですね? あと、叔父の件も、なんとかしましょう」
「わぁい。ありがとう。楽しみにしてるよん」
階段を降りて車に乗り込む。これでようやく栄子の行方がはっきりする。優一郎は緊張しながら窓から外を見た。空は暗い。雨はまだ落ち続けている。
この二人もなかなかいいコンビだと思います。
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潜入して捜索 4
前の続きです。
エロシーンはありません。
不意に地面が大きく揺れた。葵が急ブレーキを踏む。ダッシュボードに突っ込む形で優一郎は頭を打った。額を押さえて顔を上げる。不服を込めて横を見る。だが葵は愕然と目を見開いて前方を見つめていた。
火の手が上がっている。それを見た優一郎も言葉をなくした。震える手で上着のポケットを探る。急いで出したそれは携帯電話だった。ポイントの位置を表示させる。
「とにかく、行ってみよう」
低く呻くように葵が告げる。優一郎は緊張に身体を強張らせて頷いた。
車が走る。途中、立ち入り禁止だと言われたが葵が無理に話を通して車を敷地内に乗り入れてしまう。広大な敷地の真ん中で燃えている建物がある。赤い火が揺れて空を焦がす。
電話の画面のポイントの位置と優一郎の立っている場所はぴったりと一致していた。空を見上げる。だがそこにあるのは黒い雲だけだ。絶え間なく雨は降り続いている。
「……随分と……豪快に燃えてるねえ……」
ぼんやりと葵が呟く。煙草に火を点けようとするが、その手が震えて上手く着火できないようだ。優一郎は静かに歩み寄って葵の手からライターをとった。変わりに火を灯す。葵は無言でライターに煙草を寄せた。
葵の手にライターを押し付け、優一郎はその近くをうろつき始めた。どこかに入り口がある筈だ。そう思いながら探して歩く。その後を慌てたように葵が追ってくる。
「上には何もありませんから、今、この場の真下です」
「え、だって優一郎くんの言ったポイントってあの建物じゃないの?」
驚きに目を見張って葵が炎を指差す。優一郎は入り口を探しながらちらりと葵を振り返った。葵は顔を強張らせている。
「ですから、先ほどGPSで確認しました。ここの真下です」
「えっ、ここって地下あるの?」
そう叫んだかと思うと葵は優一郎を走って追い越した。焦ったように周辺を探し始める。
「上には何もないですから」
それから十分後、二人は地下に続く入り口を見つけることが出来た。人が一人、ようやく通れるほどの狭い階段が続いている。敷地の真ん中周辺は大騒ぎになっている。消防車が何台も集まり、懸命の消火作業も続けられている。それを尻目に優一郎は地下に続くドアをくぐろうとした。が、その寸前に肩をつかまれる。
「オレが先に行くよ。キミ、後ろからついてきて。それってポイントの位置がわかるんしょ?」
優一郎は葵の言葉に神妙に頷いた。それから後ろでナビお願い、と言われる。優一郎は判りましたと告げて葵の後に続いた。
扉を閉めると階段は真っ暗になった。葵がライターの火を灯す。頼りないその明かりだけを目印に二人は進み始めた。ゆっくりと階段を降りる。優一郎は電話を開いて捜索用の画面を呼び出した。ポイントの位置を葵に説明する。葵は判った、と頷いて階段を降りて行った。
まるで地獄に堕ちていくようだ。感慨に浸る場合ではないと知りつつも優一郎はそんなことを思った。ゆらゆらと揺れる小さな火だけを頼りに進んでいるからだろうか。どうしても不安になる。
どこまでも続くと思われた階段はある地点で途切れていた。今度は廊下が続いている。葵が小さな火を翳して先を照らそうとする。が、ライターの火は僅か先を照らしただけで奥がどうなっているのかは判らない。
「とにかく行くしかないかな。見えないしね」
言いながら葵は右の壁に手をあてがってゆっくりと進み始めた。優一郎は後を追いながら電話を閉じた。地下に入ってしまってはポイントを捕捉することは出来ない。だが、あの時表示されたポイントは間違いなくこの先にあった。
「そうですね。確かにポイントはこの先です」
受信側の機能をもっと充実させなければならない。優一郎は改良点を心の中で思い浮かべながら廊下の先を睨むように見た。暗い廊下には変わったところはない。ごく普通に前に伸びているだけだ。
だが次第に廊下は広くなっていった。人一人がようやく通れる幅から二人並んで歩ける程度にまで広がる。優一郎は自然と葵と並んで歩き続けた。葵は伺うように前方を見つめている。
不意に視界が遮られる。二人は扉の前にたどり着いて足を止めた。葵が優一郎に目配せする。優一郎は黙ったまま頷いた。この先に何があるのか判らない。自然と身構える。
軋みを上げてドアが開くと一気に視界が明るくなった。眩しさに目を細める。優一郎は手を翳してその部屋の様子を伺った。真っ白な部屋だ。
「……なに、ここ。気持ち悪いなあ……」
隣で葵が呟く。だが優一郎はその声を聞き終わる前に駆け出していた。部屋の中央に据えられた硝子のケースに飛びつく。葵がその後から駆けて来る。
部屋の中には小さな椅子が幾つか散乱していた。壁際にはロッカーが並んでいる。硝子で仕切られた壁が一枚、その向こうには何やら操作盤のようなものが設えてある。もしかしたら部屋のどこかを外部から操作するためのものかも知れない。
部屋の中央には硝子の壁に覆われたケースがあった。優一郎は懸命に硝子を殴った。が、びくともしない。
「この人? もしかして」
葵が低い声で訊ねる。優一郎は返事をする間も惜しんで硝子に肘をぶつけた。ケースの中には栄子が横たわっている。身体中傷だらけになっているが、ごく小さくその肩が動いているのだ。きっと呼吸しているに違いない。
「退いて!」
鋭い声が飛んで来る。優一郎は反射的に身体を伏せた。葵が手近にあった椅子をつかみ、硝子に向かって叩きつける。だがそれでも硝子はびくともしなかった。
「コンソールから、操作できるかもしれません」
叫ぶように告げて優一郎は来たのとは別のドアに飛びついた。が、鍵がかかっているのか開かない。葵が先ほどと同じように硝子の壁に向かって椅子を叩きつける。だがこちらも傷一つつかない。
「仕方ないな。ちょっと待ってて」
そう言ったかと思うと葵は硝子のケースに手をあてがった。金属の枠を指先で握って強く床を蹴る。唖然とする優一郎を余所に葵は身軽にケースに飛び乗った。ポケットから煙草を出して火を点ける。ふと、その仕草が誰かを連想させる。優一郎は目を細めて葵を見上げた。
そういえばこの話には携帯電話がよく出てきます。
今でいうところのガラケーです!w
書いてる当時はスマホはなかった……。・゚・(ノД`)・゚・。
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潜入して捜索 5
エロシーンはありません。
「ここなら分解出来そうだよ。ほら」
そう言って葵が身を乗り出して手を差し伸べる。一瞬だけ迷ってから優一郎は手を出した。つかまれた、と思った途端に身体が浮く。あっという間に優一郎はケースの蓋まで引っ張り上げられた。
「おもったより腕力あるんですね」
感心しつつ呟いた優一郎に葵が苦笑する。煙草を唇の端に咥え直し、葵は肩を竦めて足元の蓋を指差した。金属製の蓋には幾つものナットがはまっている。確かに分解はできそうだ。優一郎はズボンの裾に手を伸ばした。隠してあった工具を取り出す。
「んじゃ、こっちはお願いするね。オレは他に使えそうなもんがないか探すから」
そう告げて葵が蓋から飛び降りる。優一郎は目でその姿を追った。ケースは二メートル以上ある。その上から飛び降りたというのに葵は何ともない顔で歩いている。運動能力がよほど優れているのだろうか。優一郎はその様子に首を傾げたが、すぐに気を取り直して分解作業を再開した。
葵はまずロッカーに目をつけたらしい。次々に扉を開いて中を確認している。優一郎は時折、葵の様子を伺いながら黙々と作業を続けた。一つずつナットを緩めていく。が、たとえ全てのナットを緩めてもこの蓋を持ち上げなければケースは開かない。作業しながら優一郎は次にどうすべきかを懸命に考えていた。蓋をずらして重みで床に落とすのが早いか。それとも何かで叩いて少しずらし、ケースの中に入って栄子を救出する方がいいか。
「なんだ? これ。絵、かなあ」
聞こえてきた声に優一郎の思考は途切れた。顔を上げて声のした方を見る。葵が一枚の画用紙を手に奇妙な顔をしている。
「何かヒントになりそうな内容が?」
もしかしたら参考になるのかも知れない。期待を込めて優一郎は声をかけた。が、葵はまだ思案顔をしている。少し間を置いて葵はああ、と呟くように答えた。
「いや、ごめん。ヒントになるかは判らないけど……こんなの出てきた」
優一郎によく見えるように葵が画用紙を引っくり返す。そこには真っ赤なクレヨンで絵が描かれていた。幼い子供が殴り描いたような絵だ。が、それを見た優一郎は思わず目を見張った。つたない描き方ではあるが、紛れもなくそれは女性の裸体だったのだ。
硝子のケースに閉じ込められた栄子。子供の稚拙なクレヨンの絵。優一郎は唇に指を当てて少しの間、思案した。それが栄子を救い出すためのヒントになるとは思えない。だが優一郎の脳裏に閃くものがあった。そうか、この施設は。脳裏に果穂の姿が過ぎる。
とにかくそれは保管しておいてください。優一郎は葵にそう告げて作業に戻った。葵は不思議そうに優一郎を見たが、判ったと答えて画用紙を折り畳んだ。ジャケットのポケットにしまいこんで再びロッカーを探り出す。
ロッカーからは目ぼしいものは出てこなかった。数枚の白衣と雑貨、それに折れたクレヨンなどが床に並ぶ。それを横目に優一郎は最後のナットを緩めにかかった。
「うーん。何か不気味だなあ。なんなの、ここ」
床に並んだものを見つめて葵がぼやく。優一郎は作業を続行しながら答えた。
「僕の推測でよければ、後でお教えします」
言いながら力を込める。最後のナットはやけに固く締められていた。ちょうど、ケースの角だから頑丈になっているのかな。そう思いながら優一郎は強引に力をかけた。じりじりとナットが動く。
「うん、オレにはわかんないからゼヒ聞きたいなあ」
だって気持ち悪いんだもん。その葵の言葉に重なるように優一郎の手元で妙な音がした。かちん。硬質な音が部屋に響く。
唐突に足元が揺れる。
「危ない!」
何かが砕ける音が聞こえる。優一郎は傾いだ身体を懸命に支えようとした。蓋が一気に落下する。
「うあっ!」
ふわりと浮き上がるような感覚と共に優一郎は蓋に叩きつけられた。頭をしたたかに打ち付ける。痛む頭を押さえて優一郎はのろのろと身体を起こした。床に硝子の破片が散乱している。傾いた蓋から慌てて降りた後、優一郎は目を剥いた。
葵が蓋の下に身体を入れている。背中から血を流しながら低く呻く。その身体の下には栄子が倒れていた。
「は……やく、この人、引っ張って」
優一郎は慌てて栄子を蓋の下から引きずり出した。幸い、今の蓋による怪我はなさそうだ。優一郎が栄子を引きずり出した後、葵は苦笑してみせた。優一郎は硝子の破片を避けて栄子を床に横たえ、葵の許に取って返した。
「すいません、焦っていて思慮不足でした」
そう言いながら優一郎は蓋を退けようと手をかけた。葵がそれを見て苦笑する。口許にぶら下げられた煙草が微かに上下する。
「ちょおっと……無理だと思うよ。コレ、一トンくらいあるっぽい」
唇が歪む。優一郎は息を飲んで葵を見た。蓋の下に咄嗟に突っ込んだためか、葵は頭からも血を流している。
「葵さん? あなたはいったい?」
「あー……まあ、特殊なの、かなあ……判んないけど……」
いつもの情けない笑いを浮かべて葵が呟くように答える。続いてやれやれと呟き、葵はちらりと優一郎の後ろに視線を飛ばした。そこには栄子が横たわっている。優一郎は視線を追いかけてから葵に目を戻した。
「とにかく……そのヒト、先に、連れて……逃げて」
それを聞いた優一郎は慌てて首を振った。すると葵が呻いてじりじりと手を動かす。蓋の下敷きになりながら煙草に手を伸ばす。蓋が軋みを上げてゆっくりと傾いた。
「ですけど、大丈夫なんですか!?」
優一郎は叫ぶように告げて蓋に手をかけた。何とか動かそうと力を入れる。だが葵の言った通り、蓋は重すぎて動かせない。葵は蓋の陰で苦笑した。
煙草をつまんで唇に挟み直す。そして葵は優一郎を見た。頭から流れた血が頬を伝って落ちていく。
「いいからキミはさっさと行く。そんで、こっから出る方法を考えるように」
「わかりました……お言葉に甘えます」
そう告げた優一郎に葵が唇を歪めて笑ってみせる。優一郎は葵に一礼して栄子に駆け寄った。全身に傷があるがまだ息はある。優一郎は栄子を抱えてドアに向かった。とりあえず地上に出よう。そう思いながらドアを開ける。
一度だけ振り返る。同時に蓋が不気味に傾ぐ。優一郎は目で葵に礼を述べて廊下を駆け出した。その直後、激しい物音が背後で響く。優一郎は目を閉じて歯を食いしばった。
最後まで笑っていた葵の姿が脳裏を過ぎる。優一郎は栄子を抱えて階段を昇った。一段ずつ踏みしめて歩く。真っ暗な階段にすすり泣く優一郎の声が響いていた。
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ちなりの正体
エロシーンはありません。
懸命に呼びかけるがちなりは全く反応しない。絵美佳は真っ青になってちなりの身体を揺さぶった。絵美佳の手を握っていたちなりの手から力が抜け、するりと落ちる。それを目にした絵美佳は目を見開いた。
ちなりの口許には笑みが浮かべられている。捨てられると呟いた哀しそうな気配はそこにはない。絵美佳は叫ぶようにしてちなりを呼んだ。だがそれでもちなりは全く反応しない。絵美佳の手に揺すられるままになっている。
「しっかりしなさいってばぁ!」
絵美佳は半ば泣きながらちなりの胸に耳をあてた。耳には何の音も聞こえない。静けさがそこにあるだけだ。愕然と目を見開き、絵美佳はその場にぺたんと腰を降ろした。膝に抱えたちなりの髪が風にそよぐ。
どうして。もしかして重い病気か何かなの? 絵美佳の頭の中をぐるぐると考えが巡る。自然と涙が零れ、絵美佳は乱暴に頬を拭った。
「しんじゃった……の? いや、違う、これは!」
異臭をかぎつけた絵美佳は驚きの声を上げた。間違いない。これは電子回路の焼ききれた匂いだ。余りにも嗅ぎ慣れていたためにすぐには気付けなかったのだ。絵美佳はその場にちなりを横たえ、スカートをめくりあげた。壊れものに触れるようにして足を開かせる。
細いキーライトを取り出して絵美佳は明かりを点けた。口に咥えてちなりの股間を覗き込む。微かな異臭はちなりの股間から漂っている。絵美佳は歯でライトを挟み、両手を使ってちなりの秘部を観察した。
「見た目はかわんないわね。っていうか見てわかるならとっくに気づいてるか」
ライトを口から外し、絵美佳は小さく呟いた。もう一度、ちなりの股間に顔を近づけて匂いを確かめる。間違いない。ちなりは人ではない。人そっくりに作られたヒューマノイドなのだ。
いや、もしかしたらロボットかも。その可能性も考えてはみた。が、どうしてもちなりの捨てられるという言葉が引っかかる。捨てられる、壊れる、そしてちなりは殺されると言った。ロボットは壊されるという表現はするかも知れないが、殺されるとは言わない。それは巴を見ても明らかだ。彼らは機械仕掛けの身体を持つ者という意味では似ているが、根本は全く違う。思考形態がまるで異なるのだ。
絵美佳はその場に胡座をかいた。めくれていたちなりのスカートを戻す。とにかく何とかしないと。だが、どうする。焦っているためか、絵美佳はなかなかいい案を思いつけなかった。ロボットであれば自分が修理できる。が、ヒューマノイドとなると話は別だ。彼らは外見上は人そっくりだし、同じ機械仕掛けの身体でもある。だが生きた脳を組み込まれたヒューマノイドとロボットの構造は全く異なっている。絵美佳の今の知識では残念ながらヒューマノイドを作ることは出来ない。ロボット工学とヒューマノイド工学は方向性が全く違うのだ。
低く呻きながら絵美佳は頭をかいた。ちなりの製作者に問い合わせる。そんな考えも浮かぶ。だが連絡先が判らない。ちなりの持ち物をあさってみたが、それらしいものは持っていなかった。強いて言えば清陵高校の学校名の入ったプリントが一枚出てきた程度だ。
落胆しつつ絵美佳はそのプリントを取り上げた。ライトを照らして文面を読んでみる。体育祭のおしらせ。保護者にあてられたそれは随分と前のものだ。ちなりは清陵高校の生徒なのだろう。だがどういう訳か保護者にプリントを渡さなかったらしい。そこまで考えて絵美佳ははっと目を上げた。
「あっ。このコ、うちの学校の!」
思わず口をついて言葉が出る。ヒューマノイド、清陵高校。それらの単語から絵美佳は一つの答えをはじき出した。間違いない。ちなりは優一郎が手がけたヒューマノイドなのだ。世界広しと言えど、このレベルのヒューマノイドを作れる人間は二人しかいない。一人は絵美佳の父、総一郎。もう一人がその息子であり絵美佳の弟の優一郎だ。
プリントを握った手に力がこもる。絵美佳は知らないうちにプリントを握り潰していた。
「あいつ、何、やってんのよ!」
一気に怒りが爆発する。ちなりは懸命に絵美佳を求めていた。が、そうしながら捨てられたくないと呟いていた。ヒューマノイドを捨てる。それは優一郎がちなりを放置していたという意味だ。
セックスが好きなの、とちなりは笑っていた。だが本当は誰とでも性行為がしたかった訳ではないだろう。ヒューマノイドにとって、性的な快楽は機体維持のための絶対条件だ。ちなりは外でそれを求めなければならない理由があったのではないか。そしてその理由を考えた時、絵美佳は歯軋りをした。ちなりは優一郎を好いていたのだ。だが優一郎には斎姫という彼女がいる。それ故にちなりは優一郎に快楽を求めることが出来なかったのではないか。
ヒューマノイドは人間の脳を組み込まれていても基本は機械だ。他者から管理され、定期的なメンテナンスを施してもらわなければ、存在を続けることはできない。計画的な実験ならともかくとして、ちなりは現にこうして動けなくなってしまったのだ。優一郎がちなりを放置した、ということは、つまりちなりを殺してしまったという意味に等しい。
「とりあえず、あいつには任せられないってことね」
ちなりを早急に直さなければならない。だが絵美佳にはちなりを直す術はない。しばし迷ってから絵美佳は決心してちなりを抱き上げた。悔しいが自分にはちなりは直せない。が、直せる人物はいる。
公園を猛スピードで駆け抜け、絵美佳は路上でタクシーを拾った。金はかかるがこの際そんなことは言っていられない。運転手を半ば脅して絵美佳は一路、自宅に向かった。
ちなみにこの時はまだ絵美佳は男性体ですw
ここでこの章は終わりです。
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暗がりの中で蠢くもの
少し長めです。
暗闇の中で真っ白な包帯を解く。頭に巻いたそれをゆっくりと解きながら順は薄い笑いを浮かべた。小さなため息をついて目を細める。鏡に映る順の頭に傷はない。
「もう、消えたか。さすが、化け物の身体」
喉の奥で笑いながら順は包帯を床に捨てた。シャツのボタンを一つずつ外して胸を開く。そこにも包帯が巻かれていた。胸元が真っ赤に染まっている。赤い染みを指でなぞり、順は目を閉じた。背中がぞくりとする。
順の背中には深い傷があった。頭のそれとは違い、背中に受けた傷は大きすぎた。何とか出血は止まったが、それでも深手には違いない。あの金属の蓋は紛れもなく一トン近い重さがあった。しかも硝子を支えるために蓋の角は鋭く尖っていた。それが順の背中を直撃したのだ。さすがの治癒力でもまだ完全に傷は塞がっていない。
「痛かったなあ……。でも、あのコの顔、すっごく良かったなあ」
呟きながら順はシャツを脱いだ。背中の傷痕は包帯に隠れている。縦に二本走るそれを目を閉じて確かめる。
まるで羽根でも生えてくるみたいだ。順は内心でそう呟いて笑った。その瞬間に微かな声がする。順は手を伸ばして長い黒髪を手に取った。柔らかな髪を指に絡めて口づける。
シャツを床に落とす。順は薄笑いを浮かべて胸に巻かれた包帯を解き始めた。生々しい傷はまだ血を流している。赤い包帯が順の手に合わせて床に垂れ下がる。
「……痛くないの? 先生」
暗闇の中で一対の瞳が光る。順は柔らかく笑って幼い少女の頭を撫ぜた。唇に残っていた精液を指で掬い取る。
「痛いよ。でも気持ちいいから」
言いながら順は包帯を全部解いた。指についた自分の精液を舌先で舐める。鏡に映った順の胸には大きな傷が出来ていた。これはあの時、蓋zにつけられた傷ではない。今もまだ、傷は進化を続けている。
刀で切られた時のこと、思い出すなあ。呟きながら順はその場に胡座をかいた。かつて水輝と戦った時、青い刀が胸に大きな傷を残した。あの時とそっくりな傷が今の順の胸に刻まれている。
うっとりとした目をして少女が順に寄る。七号と呼ばれる少女を腕に抱え、順は目を閉じた。小さな舌が傷口を這う。震えるほどの快感と痛みが身体を駆け抜ける。順は少女の頭に手を伸ばし、そこにはまっているヘッドセットを取り去った。
黒い装置が形を変える。順の手の中で集束したそれは黒い宝珠になった。
「ななちゃん。美味しい?」
耳元に囁きながら順は手を少女の背にあてがった。少女は唾液の音を立てながら夢中で順の血を啜っている。そんな少女の背中に順はそっと黒宝珠を押し付けた。
かつて風龍神の長が潰えた時、その器だけが地上に残された。龍神の器が魂の消滅後、地上に残ることは通常はあり得ない。だがその風龍神は残った。そしてその器から作られたのが順と都子だった。
「せんせぇ……気持ちいい」
順の腕の中で小さな頭を振り、少女が呟く。順は嗤いを浮かべて少女の体内に黒い宝珠を埋め込んだ。そして手を滑らせて少女の下腹部を弄る。開いた腿の間を順の手が艶かしく動く。
だが順は出来そこないといわれた。都子が本当の完成品だとも言われた。順は龍神に為りきれない者となった。そして都子は順の人形となった。それらの事象を木村の血筋の者は知らない。何故ならとうに順が滅ぼしてしまったからだ。
「大分、開いてきたね。そう……もっとオレの血を飲むといいよ」
幼い少女の秘部を順は焦らすように弄った。狭い膣口に指先を入れて刺激を与える。少女は細い身体をひくつかせて微かに喘いだ。
為りきれない者が辿る道はただ一つ。一生、飢えを満たされないまま龍宝珠を狩り続ける。一度、手にしてしまった輝きの味はそいつの理性を狂わせる。そしてまた龍宝珠を求める。それがハンターと呼ばれる者たちだ。
かつて水輝はそう言った。それが唯一、ハンターの生きる道なのだと言われた。だが順はそんな水輝に刃を向けた。力の差は歴然としていたし、勝てる気もなかった。ただ、力に晒されて一瞬で滅ぼされるだろう。そうも思っていた。
だがオレは生きている。順はそう呟きながら小さな身体に手を伸ばした。片手で秘部を弄りながら、もう片方の手で細い胸を弄る。小さな乳首を指先で撫でると、少女はびくりと身体を震わせた。
力と立場を駆使して龍神を狩る。それは順の生きる術だった。何度も龍神を屠っている内に、次第に力は器の中へと溜まっていく。だがその大半は器の維持のために使われる。それは判っていた。それでも順は飢えを満たすために夜毎、龍神を手にかける。
「今日は奥まで入れようね。さあ、力を抜いて」
声をかけると少女の身体からふっ、と力が抜ける。順は嗤いながら膣の奥へと指を運んだ。肉が軋みを上げて順の侵入を拒絶する。だが順は容赦しなかった。血の滴る膣に指を出入りさせる。少女は声を殺して順の胸に顔を埋めた。
たった一つの輝きを手に入れたかったから。順はふと、口許に浮かんでいた嗤いを消した。少女は夢中で血を舐めている。その頭を静かに撫ぜ、順は目を閉じた。
手段は何でも良かった。それを手に入れるためになら何でも出来ると思った。だから罠を張って陥れた。例え罵られると判っていても、順はそれでも輝きを求めたのだ。
「ほら。もう二本も入ったよ。ななちゃん、痛い?」
痛みすらきっとわからないのだろう。飢えた獣のように少女は順の血を啜っている。順はその様子に目を細め、次いで鏡を見た。幼い少女を抱えた自分が見える。その顔には狂気じみた笑みが浮かんでいる。
空色の目が細くなる。少女は小さく喘いで順の傷口に舌を差し込んだ。肉の裂け目を舌でなぞる。順は思わず吐息をついて眉間に皺を寄せた。心地良い痛みと快感が襲ってくる。
生きててもつまんないし。ずっとおなかが空いてるし。それならもう、生きてても仕方ないじゃん。順はその思いをだが誰にも打ち明けなかった。内側に秘めたことで更に思いは強くなる。
死んじゃおっかな。何度もそう思った。あの輝きが別の誰かを見ていることを知っていたから、だからそう思った。それでも諦めなかったのは、輝きの求めるそれが全く別の者を追っていたからだ。
「あ、出そう。入れるよ、ななちゃん」
そう囁いて順は膣から指を抜いた。そそり立ったペニスを狭い膣にねじ込む。溜まっていた快感が狭い膣壁に擦られて一気に外に溢れる。順は薄く嗤いながら少女の膣の奥に射精した。だが衝動はまだおさまらない。順は細い少女の腰を抱えて無造作に上下に揺すった。
「きゃふっ!」
少女が声を上げて股間を押さえようとする。だが順は構わず少女を揺すった。短く断続的に声を上げて少女が仰け反る。細い身体がしなって反り返る。順はそのまま少女の腰を落とした。膣の奥にペニスが届く。
「こっちにもあげる。ほら、もっと舐めて」
既に腸内の排泄物は飛ばしてある。順はすぼまった少女の肛門に手を伸ばした。膣をペニスで突いたまま、指先で肛門を捏ねる。少女は高い声で喘ぎながら順の胸に舌を這わせた。最初はぎこちなかった舌の動きが次第に艶かしい蠢きに変化する。
「あっ! せっ、先生っ! そっちは、だめえ!」
高い声で少女が鳴く。順は嗤って少女の肛門に小指の先を挿れた。少女が嫌がって暴れようとする。順は片手に少女の身体をしっかりと抱えて小指を動かした。
「おもらししちゃいそうなんでしょ?」
順が肛門から小指を抜いた途端、少女が泣きながら頷く。口許に指を寄せ、順は自分の人差し指を舐めた。唾液を充分に絡めて再び少女の腰に伸ばす。
「あっ、いやっ、やだ! 先生! もれちゃ……ああ!」
元々狭かった膣が更に締まる。順は嗤いながら少女の肛門を人差し指で犯した。生暖かいものが腿を流れる。少女は泣きながら漏らしていた。それでも順の血を求めて舌は胸を這いまわっている。
背中がぞくぞくする。順は脳裏に優一郎の姿を思い浮かべていた。あのコ、どんな声で鳴くかなあ。きっといい顔するよね。そう内心で呟く。
「ほぉら。だんだん良くなってきたでしょ? 顔が違うよ、ななちゃん」
既に少女の肛門は順の指を二本、咥えこんでいる。少女は甘い声で喘ぎながら順の血を舐めた。時折、先生と思い出したように呼びかける。
「順だよ、ななちゃん。オレのこと順って呼んでごらん」
そう言いながら順は膣内に射精した。少女の快楽に歪んだ顔と優一郎の顔が重なる。息をついた順の胸の中で少女が名を呟く。その瞬間、少女の体内で黒宝珠が弾けた。
「そう、順だよ。……ななちゃん。いい顔してるね」
肛門から指を抜く。順はその手を少女の胸に運んだ。狙いをつけて指を胸の中へと潜らせる。少女は腰をひくつかせたが無言だった。
小さな輝きが指に触れる。順は指先で輝きをつまんだ。まだ幼いその輝きを少女の胸から抜き取る。その瞬間、少女の身体が大きく跳ねた。
「大丈夫。残さず食べてあげるよ。キミもそれを望んでいたでしょ?」
口に輝きを運ぶ。順は嗤って少女の身体を大きく揺すった。脱力した少女の身体が揺れる。
前に『冥界への案内人』という順が主人公の話を公開したのですが……
その頃からは想像出来ない感じに性格が変わりました。
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八章
突撃! 要の根性
エロシーンはありません。
要は運転手の首を半ば締めるようにして叫んだ。
「いいから突っ込みなさい! わたくしが突っ込めと言っているのが判らないの!?」
目の前にはゲートがある。あと数メートルというところで運転手は車を停めてしまったのだ。
「でっ、ですが、要様! この先は余りにも危険です!」
悲鳴じみた声を上げて運転手が頭を横に振る。要は目を吊り上げて運転手を前後に揺すった。路肩に停めた車が大きく揺れる。ぐえ、という呻きのようなものを漏らして運転手は手足をばたつかせた。
いつの間に眠ったのか判らない。気付いた時、要は運転手と二人、車の中に取り残されていた。優一郎の姿はなかった。要は急いで車を回し、何とか木村の地に近づいた。だが要の予想をはるかに上回り、警備は厳重だった。木村の地の周囲を大きな壁が取り囲んでいる。そして出入り出来るのは検問のようなゲートのみだ。
「か、かなめ、さま! おやめください!」
涙目になって運転手が叫ぶ。要は舌打ちをして運転手から手を離した。これでは埒があかない。優一郎がいなくなっていた、ということはここに入り込んでいる可能性が高い。母親のことを他人に任せて自分だけのうのうとしていられるものですか! 要は憤慨しつつ乱暴に後部座席のドアを開けた。
無言で運転席を開ける。運転手は訳がわからないという顔をしている。雨を全身に受けながら要はきっぱりと言った。
「変わりなさい」
「は!?」
運転手が素っ頓狂な声を上げる。要はだが厳然とした態度で同じことを繰り返した。途端に運転手が慌てて首を振る。
「いっ、いけません、要様! 要様は運転免許が」
「うるさいですわ! ええい、降りないのなら引きずり降ろします!」
言うが早いか要は運転手をドアの外に引きずり出した。悲鳴を上げて要にすがり付こうとする運転手を振りきってドアを閉める。要はきっちりドアにロックをかけてハンドルを握った。
「アクセル、ブレーキ、クラッチ。大体は判りますわ!」
「だ、大体って! 要様!」
窓を叩きながら運転手が喚く。だが要はそれを無視した。ギアをローに入れてアクセルをふかす。右足でブレーキも同時に踏んでエンジンの回転数を上げる。これまで運転などしたことはない。だが人間、その気になれば何でも出来る。根拠のない自信を胸に、要は踵でアクセルを踏み込んだ。タイヤが軋みを上げて回転する。
「いきますわよ!」
クラッチを離しながらブレーキを一気に解除する。すると車は甲高い音を立てて急発進した。要はハンドルを握り締め、気合の声を発しながらアクセルを一杯に踏んだ。周囲の車を蹴散らしてゲートに一直線に向かう。
ギアを一気にサードに入れる。途端に凄まじいGがかかる。要は歯を食いしばってゲートに突っ込んだ。車を遮るための黄色と黒の遮断機が激しい音を立てて根元から吹っ飛ぶ。ゲートに構えていた警備員たちが慌てたようにゲートから離れる。
「邪魔したらひきますわよ!」
叫びながら要はハンドルを切った。スリップしながら車が道を曲がる。最後に示されたポイントの位置は覚えている。要はギアをトップに入れてノンストップで目的地に向かった。信号を全て無視し、とにかく突っ走る。
ふと、目の端に何かが引っかかる。要は急ブレーキを踏んで車を停めた。周辺の車が慌ててハンドルを切ったのか、スリップして路肩に突っ込む。だが要はそれを無視してギアをバックにいれた。一気にアクセルを踏んで車を走らせる。要の乗った車は既にあちこちを激しくぶつけ、元の美しい車体は見る影もない。その車が全力でバックしてくるのだ。目にした者たちはとにかく避けようとあちこちに散り散りに動いた。
軋みを上げて車が急停止する。要は急いでドアを開けてさっき見かけた人影に駆け寄った。優一郎が愕然と目を見開いて要を凝視している。
「さっさと乗りなさい!」
要は尊大な態度で吐き捨てた。優一郎は腕に誰かを抱えている。白衣で覆われたそれが栄子であることは、要もはっきりと判った。が、今は一刻を争う。破壊工作にも似た無茶な要の行動を聞きつけ、周囲にはサイレンの音がし始めているのだ。
運転席に戻って乱暴にドアをひく。へこんだドアは大きな音を立てて閉まった。後部座席に優一郎が飛び込むようにして乗り込む。ドアを閉めるか閉めないかという所で要は再びアクセルを踏んだ。
「歯を食いしばって! 座席に足をかけて踏ん張りなさい! でないと死ぬわよ!」
言いながら要は慌ただしくギアチェンジをした。追いついてきたパトカーの数台の中に車を突っ込ませる。激しい音を立てて車は何とかパトカーを振り切った。が、今度はゲート前にパトカーが並んでいる。要は舌打ちをしてアクセルを踏み込んだ。停まると思っていたのだろう。パトカーに乗っていた警官たちがこぞって車から降りて逃げて行く。要は歯軋りしながらハンドルを握り締めた。
ボンネットに乗り上げる。要の運転する車はパトカー飛び越えてゲートを破壊しつつ道に落ちた。激しい衝撃が襲ってくる。要はハンドルを頼りに何とかそれに堪えた。慌てて後ろを見る。優一郎は何も言わなくても栄子を庇って後部座席に伏せていた。
無茶しやがる。てめえ、後で覚えてろ。
不意にどこかから声が聞こえてくる。何、と要は前を向いた。車は走り続けている。だが要の車を追って幾台もの車が唸りを上げて近づいてくる。追いつかれる。そう、思った瞬間、要を追っていた車が一斉にスピンした。
「え? ……ええ!?」
要は声を上げてブレーキを踏んだ。スピンした車と車がぶつかり、あちこちに火の手が上がる。要は後ろを振り返ってその様を呆然と見つめた。炎のこちらを誰かが駆けて来る。
「かっ、要様!」
泣きながら走ってきたのは運転手だった。要は息をついてハンドルから手を離した。壁際は騒然となっている。要の車が一台だけ、そんな騒ぎから少し離れた場所にいた。手を膝の上に下ろす。今更ながらに震えてくる。要はだが、そんな震えを隠して運転席から優雅に降りた。
「帰りましょう。ここは危険ですわ」
言いながら要はさっさと助手席に乗り換えた。運転手が恐る恐る運転席に乗り込む。そんな運転手を余所に、要はそっと後ろを向いた。炎に照らされた優一郎の横顔を見る。優一郎は栄子を庇ったまま眠りについていた。
当時はオートマチック車は主流じゃなかったんですよ………………
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三つ子の魂百まで 1
そんな感じのエピソードです。
エロシーンはありません。
久しぶりに自宅に戻ると酷くほこりっぽい気がした。立城から言い渡された休暇は一週間だ。その間に由梨佳は出来るだけ掃除をしようと思い立った。まずは玄関から掃除を始め、次にはキッチン、ゲストルーム、リビング、バスルームと次々に掃除をする。そうしてみると意外にも汚れていることに気付く。
しつこい汚れを落として顔を上げる。バスルームの中で由梨佳はため息をついた。誰も家にはいない。数日間、由梨佳はたった一人で家の中で過ごした。研究所に時折は行くが、そこに夫の総一郎はいない。
由梨佳はこの数ヶ月、総一郎に一度も会っていなかった。それでも機体を維持できているのは快楽を別の誰かに与えられているからだ。自慰だけではとても物足りなくて壊れかけていただろう。由梨佳は磨かれたバスルームのタイルを見つめて深い息をついた。
次は子供達の部屋ね。由梨佳はバケツに新しく水を汲み替えて二階に続く階段に向かった。ほこりの溜まった階段を途中でちらりと見やる。階段も掃除しなきゃね。そう呟いて二階に上がる。
誰もいない家はちょっと見ない内に随分と汚れているように見えた。人がいないからごみは出ない筈なのに。何度か由梨佳はそう考えた。もしかしたら家そのものがほこりを吐き出すのかしら。そんなことも思った。
まずは絵美佳の部屋に入ろうとする。だがドアにはべったりと張り紙がされている。許可なく立ち入りを禁ず。その文字を読んで由梨佳はため息をついた。でも掃除はした方がいいと思うの。絵美佳に内心で告げて由梨佳はドアのノブに触れた。
瞬間、指先から電流が走る。ごく些細なものだったが由梨佳にはかなりの痛手になった。思わず悲鳴を上げて手を引っ込める。
昔から絵美佳は気難しい子供だった。とにかく由梨佳が寄ろうとすると噛み付くように文句を言い放つ。その内容が大人びていたせいもあり、由梨佳はなかなか絵美佳と打ち解けられずにいた。もっとも、今でもさほどその関係に違いはない。が、ある時を境に絵美佳は一方的に由梨佳に攻撃しようとすることはなくなった。
あれは絵美佳が高校生になったばかりの頃だった。どうしてそうなったのかは由梨佳には判らない。由梨佳はドアの前で首を傾げて考えを巡らせた。反抗期が終わったからかしら。浮かんできた甘い考えに由梨佳は首を振った。あり得ない。何しろ絵美佳は生まれたばかりの時から由梨佳を拒絶し続けていたのだ。
ミルクをセットした乳を含ませると噴水のように口から吐き出す。それも何故か毎回、由梨佳の顔を狙ってミルクが飛んで来る。一体、赤子のどこにそんなことを考える知能があるだろう。由梨佳も何度かそう言い聞かせた。が、絵美佳のそれはどう考えても由梨佳を敵視しているとしか思えなかったのだ。何しろ総一郎がミルクを与える時はとても大人しく飲むのだ。由梨佳の母親としてのプライドは絵美佳が生まれてからすぐにずたずたになった。
嫌われているんだろうな。由梨佳は絵美佳が幼稚園に行くようになった頃にはすっかり諦めきっていた。それなら出来るだけ絵美佳が興奮しないよう、触らないようにすればいい。だがそうは思っても幼稚園から呼び出しを受ければ行かなければならない。そして事あるごとに由梨佳は幼稚園の先生から愚痴を聞かされた。
あのぅ、えみかちゃんはどうも言うことが大人びていて……その、他の園児に……。
由梨佳はその度にため息をついて頭を下げた。お母さんも大変でしょうけど頑張って。頭を下げるたびに同じ言葉が飛んで来る。だがそれが何よりも由梨佳の苦痛になった。
小学校に上がって絵美佳は一段と激しく由梨佳に反抗するようになった。言葉は元々多いほうだったが、小学校で絵美佳の語彙は更に増え、稚拙ないいがかりにも近い言葉で由梨佳を貶すようになった。由梨佳はその度に絵美佳を叱ったが、効果はなかった。
ある日、小学校で授業の中で観察日記を書くことになった。おうちにある、みぢかなものを観察しましょう。担任の言葉に子供たちは声を揃えて返事をする。珍しくその中に絵美佳の姿があった。
六月六日 晴れ
今日もあの女は我慢できなかったようだ。昨日に引き続き、部屋にこもって自慰をしている。変な声が廊下まで聞こえてくる。うるさいったらありゃしない。
六月七日 曇り
自分で見るのは面倒なので、部屋にビデオをセットした。あらゆる角度から映せるようにセットするのは結構大変だった。九時十五分、自慰。十三時四十三分、自慰。一体、一日何回したら気が済むんだろう。
六月八日 雨
廊下にまで変な声が聞こえる。うんざりする。パパが帰ってるからもっとうんざりする。早く壊れればいいのに。
延々とそんな調子で絵美佳は日記をつけたらしい。しかもそれをクラスで堂々と発表したという。担任は直ちに絵美佳にストップをかけ、授業を中断して家にすっ飛んできた。
ミルクを顔に吹く!
みたいな感じだったんだと思います。
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三つ子の魂百まで 2
TS警報!(今さらですが
あの、絵美佳ちゃん、何とかしてください!
悲鳴にも似た担任の訴えに由梨佳はただ頭を下げるしかなかった。本来、学校における子供たちの教育については担任がその責任を負わされている。昨今の風潮もあり、普通は担任が子供に文句をつけるために家に駆け込むことはない。だからその担任はよほど動転していたのだろう。
由梨佳はとうに絵美佳に近づくことを諦めていた。私の手には負えない。だからといって母親であることを放棄することも出来ない。誰かに泣きつくことすら許されない。何故なら最初からそういう約束だったからだ。
由梨佳は自分の手を見つめて大きなため息をついた。力なく首を振る。自分は明らかに拒絶されているのだ。それを思い知る。
絵美佳の部屋の掃除を諦め、由梨佳はもう一つの部屋の扉に手をかけた。こちらは難なくドアが開く。優一郎の部屋だ。由梨佳はほっと息をついてバケツを片手に部屋に入った。
壁に一枚の写真がピンで留められている。いつだっただろう。以前、家族で撮った写真だ。由梨佳は懐かしさに目を細めてバケツを床に置いた。しばらく写真を見つめる。中学生になったばかりの優一郎がはにかむように笑っている。
あどけない笑顔にほっとする。そして由梨佳は目を移してため息をついた。あれからそれほど時間は経っていない。だがいつの間にか優一郎は家を空けがちになった。今はもう、殆ど家には戻ってこない。由梨佳は優一郎の部屋を見つめて力なく肩を落とした。
おかあさん、おかあさん! ボク、きょう、いっとうしょうになったよ!
小学生の頃の優一郎は無邪気に優一郎に懐いていた。由梨佳は絵美佳のこともあってそんな優一郎を出来るだけ可愛がった。絵美佳に注ぎたかった愛情を優一郎に代わりに全部注ぐ。それはだが、自己満足でしかないと由梨佳は自覚していた。
もしかしたら総一郎さんに似ているからかしら。何度もそう思い、その度に由梨佳は自分の考えを否定してきた。違う。可愛い子供だから。不安がこみ上げるたびに自分に言い聞かせる。だが由梨佳の不安は段々と大きくなる。成長するにつれ、優一郎は総一郎にさらに似始めたのだ。
だが優一郎はとある日を境に由梨佳と距離を取り始めた。そのことに一番、安心したのは誰でもない由梨佳だった。優一郎が急に素っ気なくなった理由は判らない。だがあのまま傍にいたらどうなっていたか判らない。
そして今にいたる。由梨佳はのろのろと顔を上げて窓に寄った。カーテンをひいて大きく窓を開ける。掃除しなきゃ。そう呟いて由梨佳は優一郎の部屋を掃除し始めた。主のいない部屋は酷く冷たく見える。次に帰ってくるのはいつだろう。そう思いながら由梨佳は念入りに優一郎の部屋を掃除した。
掃除を終え、複雑な心境で由梨佳は階段を降りた。今日はここまでにしよう。そう決めて掃除用具を片付ける。それから由梨佳は誘われるように連絡用の端末に近づいた。
それは総一郎の書斎にある。由梨佳はふらふらと扉に近づいて書斎に入った。椅子に腰を下ろして端末の電源を入れる。しばらく待つと画面一杯にアニメのキャラクターの絵が表示された。
由梨佳は慣れた手つきでパスコードを打ち込んだ。総一郎と連絡を取れる唯一の道具がこれだ。他の手段では総一郎を捕まえることは出来ない。由梨佳はそわそわしつつ画面が切り替わるのを待った。
黒い画面に白い文字でしばらくお待ちください、と表示される。次第に由梨佳は視線を彷徨わせ始めた。憂鬱な気分がストレスとなり、機体が欲情し始めているのだ。切ない気持ちを我慢しているために手が勝手に震えてくる。
やがて黒い画面がゆっくりと白くなっていく。だがそこに由梨佳の望む文字はなかった。連絡不能と書かれた文字が浮き上がって見える。由梨佳は顔を歪めて机に肘をついた。額を押さえて落胆の息をつく。
駄目……我慢できない。由梨佳は情けない気分で手をゆらりと下ろした。そっとスカートをめくる。既に股間には愛液が溢れている。泣きたい気持ちとは裏腹に機体の欲情レベルだけが上がっていく。
震える指先がストッキングに包まれた足を撫ぜる。由梨佳は熱い息をつきながら股間を弄り始めた。下着の底はすっかり濡れそぼっている。
「総一郎さん……」
ため息と共に呟いて由梨佳は欲求のままに自慰を始めた。固くしこったクリトリスを指先で捏ねる。頬がうっすらと染まる。艶かしく指先を動かしながら、由梨佳は片手を胸にあてがった。ブラウスの上から乳房をやんわりとつかむ。
疼きが激しくなる。由梨佳の呼吸は自然と速くなった。スカートの中に入れた手の動きが徐々に激しくなる。
不意に扉が激しい音を立てて開いた。由梨佳はぎくりと身体を震わせて振り返った。見知らぬ少年が書斎の入り口に立っている。
「あんたってほんとにオナニー好きなのね……」
呆れたように少年が告げる。由梨佳は慌ててめくれていたスカートを戻した。次いで少年をまじまじと見る。見覚えはない。その筈だ。が、どうしてだろう。少年は総一郎にとてもよく似ている。
ちなみに由梨佳はヒューマノイドなのですが……
機械がちゃんと書けてません(泣)
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三つ子の魂百まで 3
エロシーンはないです。
「総一郎……さん? いや違う、あなた、誰?」
震えながら由梨佳は呟いた。言い当てられた恥ずかしさと屈辱が同時にこみ上げてくる。そして絶頂寸前で放り出されたために由梨佳の身体は欲情したままの状態になっていた。
「自分の子供もわかんなくなったの? あんたもとうとう壊れちゃったの?」
やれやれ、と肩を竦めながら少年が告げる。その目は明らかに由梨佳を侮蔑している。由梨佳は訳が判らず額を押さえた。自分の子供は絵美佳と優一郎の二人きりだ。もう一人子供がいた覚えはない。
「わかんないなら、いいわよ。オナニーくらいいくらでもやってていいから、そこどきなさい」
少年はため息をついて無造作に由梨佳に近づいた。慌てて机の前から退いた由梨佳に代わり、端末に手を伸ばす。由梨佳は慌てて少年の手をつかんだ。懸命に少年を端末から引き剥がそうとする。
「邪魔するなら、ぶっこわすわよ?」
少年が剣呑に言ってのける。だが由梨佳は別のことにも納得できなかった。何故なら少年の遣っている言葉がどうしても女の子のそれに思えるのだ。しかもその言葉遣いには聞き覚えがある。
「絵美佳? あなた、絵美佳なの?」
声を裏返らせて由梨佳は告げた。目を見張って少年を凝視する。すると少年は不機嫌そうに眉を寄せた。邪魔しようとしていた由梨佳の手を振り解いて再び端末に手を伸ばす。その独特のキータッチを見て由梨佳は確信した。間違いない。姿形は違っているが、確かにこの少年は絵美佳なのだ。
少年が鋭く舌打ちをする。画面を見たからだろう。由梨佳は理解して慌てて少年の腕をつかんだ。もう一度、絵美佳なのかと問う。すると少年は煩そうに由梨佳の腕を解いた。
「他に誰がって、そうか、俺、男になってたんだった」
そう告げて少年がくすくすと笑う。その様子に由梨佳は呆然となった。絵美佳、と力ない声で呼ぶ。目を上げた絵美佳の面立ちはどう見ても総一郎そっくりだ。由梨佳は自然と頬を染め、絵美佳から視線を外した。
「どんな理由があったのか知らないけど、どうして相談してくれなかったの?」
きっと絵美佳は深く悩んだに違いない。誰にも内緒で性転換する理由など一つしか思いつかないが、それでも由梨佳はそう訴えた。すると絵美佳が怪訝そうに顔になる。由梨佳は情けない気持ちで絵美佳に迫った。
「はっ?」
そう言ってから絵美佳は急にくすくすと笑い出した。由梨佳はそれを見て憮然となった。本気で母親として心配したのに。内心で絵美佳に文句を言ってみる。絵美佳はそんな由梨佳を余所にあさっての方を向いて頭の後ろで手を組んだ。
「ある日起きたら、いきなりこうなってたんだから仕方ないじゃない。それに、もし自分の意思で性転換するにしてもアンタにだけは相談しないよ」
楽しそうに笑いながら絵美佳が告げる。その目が斜めに由梨佳を見下ろす。由梨佳は絶句して身体の前で手を組み合わせた。自然と俯く。
「義理で母親ごっこしてやろうなんて考えてる機械人形なんか、母親だって思えるほうがおかしいだろ?」
それを聞いた由梨佳はびくりと身体を震わせた。慌てて目を上げる。絵美佳はいつの間にか顔から笑いを消し、鋭い眼差しで由梨佳を睨むように見つめていた。どうして、という呟きが由梨佳の唇から自然と漏れる。
「あんたは俺も、優一郎も見てなかった。見てるのはパパだけ。違う?」
違う。そう答えたかった。だが由梨佳はどうしても答えられなかった。言葉をなくして下を向く。絵美佳が手を伸ばして由梨佳の顎をつかむ。強制的に上向かせられ、由梨佳は息を飲んだ。
「別にそのことを責めてるわけじゃない。あんたはヒューマノイドだから仕方ないじゃない? ヒューマノイドってのはそういうモノなんだから」
由梨佳は声もなく目を見張った。ヒューマノイドだから。絵美佳に言われた言葉が胸に突き刺さる。
すっ、と絵美佳の目が細くなる。唇を歪めて絵美佳は薄い嗤いを刻んだ。
「変に取り繕おうとしてるから、むかつくんだよ。パパの事が恋しくて欲情したなら胸張ってオナれよ。それに」
そこまで言って絵美佳は一段と声を低くした。
「パパの信頼を裏切るな。あんたは研究者として信頼されてるんだ。妻だとか、母だとか、自分勝手に作った虚構の世界に浸ってるんじゃねーよ」
吐き捨てるように告げて絵美佳は由梨佳を振り払った。よろけて床に座り込んだ由梨佳は俯いたまま、頭を上げることが出来なかった。とても絵美佳を直視できない。これまで懸命に逃げ続けていた現実を突きつけられた気分だった。
「落ち込むのは後にしろ。研究者であるアンタに依頼したいことがあるんだ」
言いながら絵美佳が無造作に由梨佳の腕をつかむ。引き上げられて由梨佳は力なくその場に立ち上がった。なに、と呟くように問う。目を上げると絵美佳の真剣な表情が見えた。
「ヒューマノイドを一体、診て欲しい。残念ながら、俺には修理できないんだ」
絵美佳の顔が総一郎と被って見える。由梨佳は目を伏せて判ったわ、とだけ応えた。
厳しいようですが事実だったりします。
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墓参りと桔梗の花
エロシーンはありません。
緑がいっぱいに広がっていたあの光景が瞼の裏に蘇る。風が吹くたびに竹の葉が擦れあって微かな音を立てる。柔らかな日光が竹林の隙間を縫って地面に落ちる。葉が揺れる度に丸い光が地面を泳ぐ。
懐かしさを込めて立城はその光景を見つめた。幼い頃のことを思い出す。だが優しい景色とは裏腹に当時の立城の心は重く沈んでいた。だがそれでも一人で朽ち果てるならそれでいいと心に決めていた。
そっと目を開く。立城は墓の前に立っていた。墓標に刻まれた文字を一つずつ目で拾い読む。SHINYA KIRASE。立城は無言でその文字を見つめた。風がそよいで立城の髪を揺らす。
そっと腰を屈めて手にしていた花を供える。ちらりと目をやると一輪の桔梗が墓の前に供えられていた。詮索しなくても誰が供えたかは判る。真也の墓は吉良瀬の屋敷の敷地内にあるのだ。
裏庭の隅にしばらく立城は座り込んでいた。ふと視線に気付いて腰を上げる。振り返るとよく知る顔が見えた。
「やあ、やっぱり君だったの?」
「悪いかよ」
憮然として言い放ち、水輝が近づいてくる。その手には一輪の桔梗が握られていた。墓の前にあった先の桔梗を取り上げて新しいものを供える。
かつてこの地で立城と水輝は死力を尽くして戦った。戦いは決着がついたとは言い難かった。いや、もしかしたら先に刀を下ろした自分が負けたのかも知れない。そう思いながら立城はにっこりと笑った。
「どうでもいいけど、水輝。墓に向かって拍手はまずい気がするよ」
「ああ? そっか? 気分的にこんな感じなんだが」
二回拍手を打った水輝が肩越しに振り返る。その顔はやはり憮然としたままだ。一体、どうしたというのだろう。立城は不思議に思いつつ首を傾げた。水輝はまた墓に向かって今度は何事かを呟いている。立城は本格的に訝りの表情になった。眉を寄せて耳を澄ます。
「……水輝。どうしたの? そんなこと言わなくても真也は蘇ったりしないよ」
半ば呆れて立城は告げた。ついでにため息をつく。だが水輝は立城の言葉を無視して更に呟く。それを耳にした立城は深々と息をついて額を覆った。
歪んだ力を取り込み始め、本来の力を失ってしばらく経つ。だが未だに立城の力は元には戻っていない。例えば結界の微かな緩みは何とか判るようになった。が、それを修正できるまでには至っていないのが現状だ。実際のところ、立城自身もこれは意外だった。
どうしてかな。何度か立城は自分に問い掛けてみた。だがその原因が判らない。可能性がある、というものなら幾らでも思いつく。だがそれと確信できる理由が見つからないのだ。
成仏しろよ、真也。間延びした声で水輝が呟くように告げる。立城は大きく息をついて肩を落とした。そんなことを言われなくとも一度死んだ者は蘇らない。何度言っても聞かない水輝に業を煮やし、立城はそう告げようとした。
「ったく、マジで気付いてねえんでやんの」
それまでとは違い、はっきりと水輝は告げた。立城は目をしばたたいて開きかけていた口を閉じた。軽い掛け声をかけて水輝が身体を起こす。その横顔を見た立城は顔から笑いを消した。水輝が真顔で墓を見つめていたのだ。
「どういうこと? 真也がまた現れるって言うの? まさか」
あり得ない。立城は小さくそう呟いた。紛れもなく真也は立城が刀でその胸を貫いたのだ。それが事実だ。だが水輝はそんな立城の言葉を鼻で笑い飛ばした。それから笑いを納めて立城を横目に見る。
「そう、確かに真也は死んだ筈だ。じゃあ、お前を混乱させてるその力は何だろうな?」
混乱? 立城は小声で訊き返した。確かに自分の力はまだ戻ってはいない。だが謂れのないことを言われる筋合いはない。自然と立城の目は鋭くなっていった。得意の言いがかり? 微かに笑って告げる。
不意に視界から水輝が消える。次の瞬間、立城はその場によろけた。身を屈めた水輝が立城の鳩尾をこぶしで打ったのだ。衝撃に息が止まりかける。
「気付いてないなら言ってやる。てめえ、おれとしながら何て言ったか覚えてないだろ?」
こぶしは鳩尾に埋まったままだ。立城は目を伏せて水輝の腕を握った。力をこめて振り払う。数回ほど咳込んで立城は顔を上げた。
既に奈月による歪んだ力の除去作業は終了している。それ故に立城の身体は男のものへと戻っていた。だがそれでも水輝の攻撃は酷く堪える。立城は腹を押さえて力なく笑った。
「僕は覚えていないんだけどな。それにあの時のことを今更言われてもね」
恐らく水輝が言っているのは手合わせをした後のことだろう。少なくともその後に立城の身体は女のそれへと変わってしまった。何事もなくそうなったとも考えがたい。しかも気付いた時には既に水輝に犯されていた。立城はそう考えながら微笑もうとした。
水輝が怒りを露にして立城の胸倉をつかむ。立城は驚いて目を見張った。
「ちげえよ! ばーか!」
唐突にこぶしを見舞われる。立城は頬をいきなり殴られ、地面に転がった。頬を押さえて顔を上げる。水輝は腕組みをして立城を見下ろしていた。
どうやら怒り狂っているらしい。そのことだけは立城にも理解できた。が、理由が判らない。水輝の言葉から予測すれば、大方の理由は察しがつく。だから立城は先日の件を引き合いに出したのだ。なのに水輝は余計に怒ってしまった。
「そんなに会いたきゃ会いに行け! 真也を肴におれとやってんの、お前自分で判ってないのか!?」
立城は驚愕に目を見張った。そんなことをした覚えはない。だが近頃の自分の行動に今ひとつ自信が持てないのも事実だ。それでもそんなことはあり得ない。まさか、と立城は呟いた。
よろけつつ立ち上がる。何故か殴られた腹や頬より胸が痛い。
「どうせまた真也を切りたくないとか何とか言いやがるんだろ!? 生憎だったな! おれはもう二度とあんな真似はしない!」
自分でも気付かない内に立城は水輝につかみかかっていた。振りかぶってこぶしを繰り出す。だがそれを水輝は避けなかった。水輝の左の頬に立城のこぶしがまともに入る。
「あ」
気の抜けた声を上げて立城は慌てて手を戻した。水輝は殴られた頬を手で撫で、ふん、と鼻を鳴らした。
「それだけ元気がありゃ動けるだろ。さっさと行って来い」
手を上げて水輝が背を向ける。そんでとっとと振られてこい。そう吐き捨てて水輝はその場を去った。
仲がいいですね(笑)
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ひとときの別れを
エロシーンはありません。
怒りがゆっくりと鎮まっていく。水輝はため息をついてふと振り返った。墓の前に佇む立城はまだ動かない。やれやれ、と肩を竦めて水輝は屋敷に戻った。
主の様子がおかしいからだろうか。使い魔たちはどれも不安そうな顔をしている。そんな中で呑気なのは多輝くらいか。水輝はすれ違った多輝の鳩尾にきっちり一撃見舞って笑いながら階段を上がった。傍にいた蒼が困惑した顔で自分を見ていたが気にしなかった。
あてがわれた部屋に戻る。ドアを開けて入ると奈月が嬉しそうな顔をして振り返った。が、すぐにその顔が曇る。
「顔、どうしたんですか?」
奈月は相変わらずメイドの格好をしている。どうやらそれが落ち着くらしい。水輝はうろたえる奈月に小さく笑った。笑いかけた拍子に頬が引きつれたように痛む。思わず頬に手を当てて水輝はため息をついた。
「これか? 立城に殴らせた」
そう言って水輝はソファに身体を投げるように腰を下ろした。おずおずと奈月が近づいてくる。
「あの、治療していいですか?」
不安そうな面持ちで奈月が問い掛ける。もしかしたら水輝がどう応えるか判っていたのかも知れない。水輝は仏頂面で真正面を見据えながら低く呟くように告げた。
「いらない」
奈月が悲しそうな顔になる。水輝は奈月をちらりと見やってから息をついた。ごめん、と詫びて目を伏せる。奈月ははい、と小声で返答して困ったように視線を彷徨わせた。
優一郎たちと鉢合わせした昨日のことを思い出す。まず間違いなく裏で動いているのは順だろう。だがそのことを立城に知らせるのはためらわれた。今の立城の様子がおかしいことは傍目にも明らかだ。そんな立城に知らせたところで事態はさらに混乱するだけだろう。それなら自分一人の方が気が楽だ。
かと言って自分一人の力でどうにか出来る状態を越えてしまっていることも事実だ。水輝には根本的に物事を解決する能力はない。思うままに動いて結果的に解決したように見えることはあっても、それは常に誰かが裏側でそうなるように仕向けているからだ。水輝は無意識に考えながら唸っていた。
だとしたら放置してみるのはどうだろう。だがそう考えてすぐに水輝は心の中で否定した。氷龍神が関係しているかも知れない以上、放置しておける問題ではない。
考え込む水輝の邪魔をすまいと考えたのだろう。奈月が足音を忍ばせて部屋を出ようとする。ドアにたどり着いたその時、水輝は急に声をかけた。
「奈月」
「はい!」
嬉しそうに返事をし、奈月が駆け寄ってくる。だが水輝は前を向いたまま続けた。
「ごめん。おれ、しばらくいなくなるから」
「わかりました」
奈月は素直に頷いた。その顔が歪んでいる。もしかしたら笑おうとしたのかも知れない。水輝は横目に奈月を見つめ、もう一度ごめん、と詫びた。
この二人、仲が良いはずなのですが……
すれ違うことがかなり多いです。
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病室と病院と正気と狂気 1
エロシーンはありません。
栄子の記憶はかなり退行していた。医者の見立てでは要と同じ年頃にまで戻ってしまっているらしい。だがそれを聞かなくても優一郎には栄子の状態がすぐに理解できた。見舞いに行った優一郎を見て栄子は真っ先に総一郎さま、と嬉しそうに呼びかけたからだ。
だがそれ以外の点では栄子は元気そうに見えた。身体に受けた傷もすぐに回復するでしょう。医者は栄子の前で要と優一郎にそう保証してみせた。
それから要は医者に入院の手続きなどについての話があると呼び出されていった。個室に残されたのは優一郎と栄子だけになった。優一郎は最初、戸惑ったがどうやら栄子は自分にとって見知らぬ要よりも優一郎と話をしたがっていたらしい。医者と要が出て行くと、途端に栄子の口は滑らかになった。
「あの時はごめんなさい。わたくし、本当は総一郎さまに勝負を挑むつもりなどございませんでしたのに」
そう告げる栄子の頬がうっすらと染まる。栄子は優一郎を総一郎だと思い込んでいる。だがそれが単なる思い込みだと知らせるのは得策ではないと思えた。元より、栄子は心に深い傷を受けている。そうでなければ記憶が高校の頃にまで戻る筈がない。優一郎は出来るだけ違和感がないよう努めつつ、栄子に頷いてみせた。
「あら……? 総一郎さま、お身体の具合でもお悪いんですの? 何だかお顔の色が優れませんわ」
ベッドに上半身を起こした栄子がそっと首を傾げてみせる。優一郎は困ったような笑みを浮かべて首を振った。
それから栄子は次々に色々なことを語った。優一郎はその話を聞きながら真剣に総一郎の話し方を思い出した。次に仕草や癖を思い出す。とどめに総一郎が高校の頃に何をしていたかを思い出して優一郎は無理だ、と内心で呟いた。どう考えても真似など出来ない。
総一郎はある意味、奇天烈な行動を得意としていた。いや、本人に自覚はないのだ。が、その行動は人が聞けば奇行とも言われるものばかりだった。しかも優一郎が知る世間の常識を凄まじいほどの非常識で簡単に乗り越えてしまうのだ。
そう考えると今更ながらに総一郎という人物が凄いのだと思ってしまう。実際、総一郎は世間に認められる発表を次々に行っている。が、その実、当の本人はそんな名誉はどうでもいいらしい。自分でも気付かない内に優一郎は俯きがちになっていった。
「そういえばあのロボット、お名前はつけていらっしゃいませんの?」
ふと思い出したように栄子が問う。どうせ奇行満載の総一郎の高校時代の話だ。少々、口調が違っても総一郎だからと納得してもらえるだろう。そう腹を括って優一郎は口を開いた。
「あれは強力壱号と名付けられました」
生真面目な顔で優一郎は応えた。まあ、と栄子が口許に手をあてる。そして小さく笑ってそうですの、と栄子は頷いた。
「やっとお話してくださいましたのね。わたくし、少々心配しておりましたの」
栄子は心底嬉しそうに笑っている。優一郎ははあ、と曖昧に答えて頭をかいた。どうしたって優一郎にとって栄子は栄子だ。要の母親以外の何者でもない。そして総一郎はやはり自分ではない。そっとため息をついて優一郎は俯けていた顔を上げた。
「こっちこそ、栄子さんが事故に巻き込まれたと聞いて、とても心配しました。無事で本当に安心しました」
昨日の晩、要の車がこの病院に滑り込んだ。清陵中央病院。ここは総一郎の研究所とも繋がりの深い病院だ。ここであれば少々の無理は通る。結局、優一郎は要と共に栄子をここに運び込んだ。
幸い、栄子は命に別状はなかった。そして詳しい診断結果が出たのはつい先ほどのことだ。仮眠を取れ、と要に強要され、優一郎はさっき起きたばかりだった。
栄子が無事でよかったというのは本心からの言葉だった。だが栄子には今回の件はただの交通事故と説明されている。
「ご心配いただきありがとうございます。ごめんなさいね、こうしてお見舞いにきて下さっているのに何のお構いも……」
困ったように栄子が周囲を見回す。まだ入院したばかりで個室には殆ど物がない。どうやら優一郎に茶を淹れようと思ったのだろう。ポットを見止めた栄子が立ち上がろうとする。だが優一郎は肩を押さえてそれを制した。
「そんなことありません。こうしてお話を伺うだけでも楽しいですよ。今は気を楽にして、身体を大事に養生してください」
ありがとうございます、と栄子が深々と頭を下げる。それから二人はしばらく他愛ない話をした。とは言っても優一郎にとっては十数年前の話だ。確かに栄子の話は聞くだけでも面白かった。
ドアが小さく鳴る。栄子の返事を受けて開いたドアの外に立っていたのは要だった。
「申し訳ないのですけれど、ちょっとこの方、貸していただけます?」
そう言いながら要は後ろから優一郎の肩をつかんだ。優一郎は振り返ろうとしてやめた。肩に乗った要の手は小刻みに震えている。
「え、ええ。わたくしは構いませんけれど」
「栄子さん、ごめんなさい。ちょっと席をはずします」
にっこりと笑いかけて優一郎は席を立った。静かに個室から廊下に出る。ドアを閉めて要が先に歩き出す。それを優一郎は早足で追いかけた。
「ちょっと来て。あなたに聞いて欲しい話があるの」
言われて向かったのは先ほどの医師の部屋だった。どうやらここは診察室とは少し違うらしい。優一郎は部屋に記された医師の名前のプレートを横目にドアをノックした。優一郎の後ろには要が腕組みをして控えている。
更にキャラが増えますw
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病室と病院と正気と狂気 2
エロシーンはありません。
「丁度よかったわ。……ああ、悪いけど彼女は遠慮してくれる? 面倒な話になるから」
優一郎が部屋のドアを開けた途端、中から声が飛んで来る。先ほどの医師……女医の吉良呉羽はてきぱきと指示をして、さっさと優一郎を部屋に引っ張り込んだ。え、と目を丸くする要の鼻先でドアを閉めてしまう。ちょっとお! という要の声が廊下から聞こえたが、どうやら呉羽はそんなことを気にする性格ではないらしい。まあ、座って。優一郎に椅子を指し示して手早くコーヒーを淹れ始める。
「要さん、後できちんと説明しますから、この場はすいません!」
廊下に向かって優一郎は少し声を張った。するともう、という声を残して足音が遠ざかる。どうやら要は先の一件もあって優一郎のことを全面的に信頼しているらしい。文句も言わずに要が去ったことにほっとしつつ、優一郎は呉羽に目を戻した。
「なかなか女の子の扱いも上手い、と。総一郎とはちょっと違うタイプみたいだけど」
そう言いながら呉羽はにんまりと笑った。ずれた眼鏡を指で押し上げている。呉羽は総一郎の従妹にあたる。優一郎とは親戚なのだ。
「呉羽さん、それで面倒な話、とは?」
声を潜めて優一郎は訊ねた。するとああ、と呉羽が真顔になる。そして呉羽は端末の電源を入れてディスプレイに何かを表示させた。椅子に腰掛けた優一郎に見えやすいよう、ディスプレイの向きを変える。
「これが如月栄子さんのCT画像。特に問題はなく見えるわよね?」
次々に呉羽は画面を切り替えた。部位ごとに写されたそれが上から順番に表示される。優一郎は目を細めて映し出された画像を注意深く見た。確かに問題なく思える。損傷の激しい部位はない。
「ところがね。栄子さんの手足、あれってば自分のじゃないわよ」
さらっと言われて優一郎はすぐにはその意味を理解できなかった。呉羽がコーヒーを淹れるために立ち上がる。カップ二個分のコーヒーを満たしたところで優一郎は慌てて目を上げた。
「それってどういう!?」
「つまりね。あの手足、見事な技術でくっつけてあるんだけど、実は別の誰かのなんだよね。それもちょおっと特殊なやつ」
音を立ててコーヒーを啜りつつ、呉羽は無造作に手を優一郎に突き出した。その手にはコーヒーカップが握られている。優一郎は小さく礼を言ってカップを受け取った。手のひらに包むと熱さが染みる。
「以前お渡しした、あのサンプルとの類似性は?」
優一郎は慎重に訊ねた。以前、巴の機体を作成した後、オリジナルの巴の機体はこの呉羽に引き渡した。組み込まれた生体部品の分析を頼んだのだ。結果的に巴の臓器やその他の生体部品はそれから間もなく朽ち果てたと言う。どういう意味かと優一郎はその時に問い掛けた。だが呉羽は言葉を濁して解答を避けた。
「タイプは酷似していると言えるわね。ただ、先の検体よりも今回の方がより難物だけど」
「具体的に、このまま栄子さんに何もしなければ、どうなりますか?」
コーヒーカップに口をつけないまま、優一郎は問い掛けた。呉羽のこの物言いも気になる。出来るだけストレートな答えを聞いた方がいいだろう。優一郎のそんな考えを読んだように呉羽は肩を竦めて頷いた。
「全身が腐敗するわね。ほぼ間違いなく。それが一ヶ月先か一年先か、それとも十年先なのかは私にも判らないわ」
それから呉羽はディスプレイの画面を切り替えて別の画像を示した。どうやらそれは呉羽の言う、別の誰かの手足を解析した結果らしい。それを見ていた優一郎は眉をひそめた。
栄子の手足は接合部がどこかは全く判らないらしい。が、とある場所から先は栄子のそれとDNA情報が全く異なるのだそうだ。そして日々、その境目は身体の中心に向けて徐々に進んでいるという。
「先の検体の部品はそれぞれが小さかったからね。まあ、進行もそれなりにゆっくりだったと思うのよ。でも今回のは違う。手足が全部だからね。それこそのんびりしてたら手足だけじゃすまなくなるわ」
優一郎はディスプレイから目を移し、呉羽を見た。呉羽は真剣な顔で優一郎を見つめ返す。
「切断して義手義足に置き換える、部分サイボーグ化で対処できませんか? 内臓は大丈夫なんですよね?」
「出来るよ。ただし、充分なリハビリ期間が必要になるし、そうするには本人が納得しないと駄目ね。いつものように騙し半分なんて出来ないわよ」
優一郎の問いかけに呉羽は即答した。確かに全身を機械にしてしまうヒューマノイド化とサイボーグのそれでは意味が違ってくる。ヒューマノイドは脳以外が機械で出来ていることもあり、動かすのにさほど苦労はしないのだ。だが今度のそれは身体の一部のみを機械化するのだ。当然、当人がそれを操るのにも慣れが必要になってくる。優一郎は難しい顔で考え込んだ。
吉良呉羽という人物が登場しました。
これでも医者です。
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病室と病院と正気と狂気 3
エロシーンはありません。
「いえ、逃げですね……。僕を呼んだという事は、ベストな解決策はそうじゃないと呉羽さんは思ってる。そう理解していいですよね?」
呉羽はしばし黙っていた。これまで優一郎の研究に呉羽はずっと協力してきた。そうでなければちなりやカレン、そして保美は作れなかった。この清陵中央病院は総一郎の研究室とも縁が深いため、優一郎もすぐに呉羽と協力体制を整えることが出来たのだ。そうでなければ親戚付き合いのない呉羽と知り合うことすら出来なかっただろう。
「今更だけどね。私も少しはためらうのよ。あんたみたいな子供がどうしてそうなっちゃったのか、とかね。考えたりもするし」
ふう、と呉羽はコーヒーに息を吹きかけた。もしかしたらため息だったのかも知れない。医者として優一郎の精神状態を案じているのだろう。そのことは優一郎にもよく判った。だがそれこそ今更だ。優一郎は苦笑してコーヒーを一口、飲んだ。
「ですよね。こんな事態になったことを喜んでさえいるんですから、正直、おかしいですよね」
栄子に会った時から感じていた。彼女を自分のコレクションにしたらどうだろう。それはどんな女性が相手でも思うことではない。所謂、ヒューマノイドを作り続けてきた優一郎の直感だった。
そして栄子は拉致された。とりみだす要とは対照的に優一郎は別の意味で心臓を高鳴らせた。もしも、事故が発生したら。そうしたら栄子を手に出来るかも知れない。それはある種の独占欲とも言えた。あの栄子の脳だけを残し、身体を機械仕掛けのそれに変えられたら。そうすれば栄子はある意味では自分のものになる。自分だけがその構造を知り、そして自分だけが栄子を操ることが出来る。
そう思う心の裏側で優一郎は苦悩していた。どうして栄子が大変な時にそんなことを考えてしまうのだろう。葛藤は常にあった。だが優一郎が心のどこかで願っていたことは現実になった。栄子の居場所を示すポイントが一気に散った時、優一郎は愕然とした。栄子を心配してのことではない。もしかしたら自分の望みが叶うかも知れない。そんなやましい気持ちを優一郎はすぐに否定した。だが、一度火がついてしまった欲求は止められなかった。
悩まない訳ではない。気持ちのギャップが強すぎて辛いと思う時もある。だがどうしても優一郎は望まずにいられなかった。脳だけの状態で栄子を発見出来るよう、優一郎はいつの間にか強く思うようになった。
だが実際に栄子の元に辿り着くと、彼女は五体満足でいた。せめて呼吸が止まってくれていればいいのに。硝子ケースを前に優一郎はそう思った。辛うじて思いを顔に出さずには済んだが、葵がいなければ正直に落胆していたかも知れない。
そんな自分がとても嫌だった。なのに欲望はおさまらなかった。いつもそうだ。ちなりの時も、カレンの時も、保美の時も、優一郎はいつも思い悩んでいた。栄子が助かって良かったとほっとしている筈なのに、心のどこかが暗く深く沈む。そんな自分の葛藤を誰に打ち明ければいいのだろう。
周囲の人々は優一郎がとても優秀な科学者になるだろうという。優一郎も勿論、そのつもりではいる。が、彼らの言うそれは総一郎と優一郎を重ねて見ているからだ。決して、優一郎個人を評価している訳ではない。あの総一郎博士の息子だから。常にその噂は優一郎につきまとう。
「おかしかないさ。そんなこと言ってたら、解剖できるって喜んでる私はどうすんの。医者として当り前の好奇心や興味が世間一般的には非人道的と言われるのよ? このギャップはやっぱ、いつまで経っても埋められないわね」
笑いながら告げて呉羽はカップを傾けた。優一郎はため息をついて苦笑した。もしかしたらこの呉羽は自分の心をよく知っているのかも知れない。そう思う。だが呉羽は微塵もそんな気配は見せない。いつも呉羽自身が当り前と思い、受け入れている現実の話をしてくれるだけだ。
「それでは、早急に彼女をヒューマノイド化する方向で手配を整えます。要さんを含めた家族の方の同意も必要ですし」
そう告げて優一郎は席を立った。カップを呉羽に渡す。呉羽はそのカップを見てから眉間に皺を寄せた。相変わらず可愛げのない。そう小声で言われる。優一郎のカップにはまだコーヒーが半分以上残っている。呉羽の淹れるそれは濃すぎて優一郎の口には今ひとつ合わないのだ。
「どうでもいいけど何かあったら相談くらい、しなさいよ。これでもあんたのパートナーのつもりなんだからさ」
呉羽はため息と共にそう吐き出した。優一郎はにっこりと笑って呉羽に片手を上げた。ドアを開けて廊下に出る。半開きになったドアから顔だけを覗かせ、優一郎は小さな声で礼を述べた。驚いた顔をした呉羽が唇に咥えていた煙草を落下させる。優一郎は今度こそドアを閉め、栄子の病室に向かった。
今のところ血縁的な感じでは甥と叔母になってますが……。
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★ここまでの人物紹介
長い話なのでここまでの登場人物紹介を入れてみます。
★吉良優一郎関係者
○吉良優一郎(きら ゆういちろう)
ロボット研究会の部長。
(研究会なのに部長……今さらですが変ですね(汗))
生身よりメカ娘が好きな性質。
今のところは斎姫と多輝を手込めにしている。
生身の女の子をヒューマノイド化するのが好き。
父、総一郎が開発したヒューマノイド技術を受け継いで、更なる改良や開発に勤しんでいる。
独自の研究室みたいな地下を所有。
(学校の許可などありませんw)
容姿はかなり整っている。
けど、性質がアレなので告白されてもスルーしているだろうと思われる。
○吉良瀬斎姫(きらせ いつき)
ヒューマノイド。
ロボット研究会に所属している。
一応、優一郎の彼女。
おじさまと呼ぶ、養父が吉良瀬立城である。
なので、吉良瀬の姫とか言われている。
ヒューマノイドの性質などを全面的に受け入れられるタイプ。
優一郎の玩具であることに誇りがある。
○雨宮多輝(あまみや たき)
元々は男子だったが今は女子化している。
女子化してヒューマノイドになっている。
優一郎大好きなのと、優一郎にも気に入られている。
無意識に斎姫の立場を食いまくっている。
男性体の時は女性泣かせのナンパ野郎である。
現在は記憶を封じられて優一郎のことは忘れている。
由梨佳とらぶらぶ? 中。
○仁科保美(にしな やすみ)
ロボット研究会の部員。
優一郎を部長と呼んで慕っている(はずである)。
病弱だった故にヒューマノイド化された。
ヒューマノイドを気に入っているので後悔とかは全くしていない。
むしろノリノリで斎姫を弄っている感じである。
他の部員の管理もしている。
新しいヒューマノイドの製造責任者? みたいな立場。
○泉水カレン(いずみ かれん)
ロボット研究会の部員。
優一郎を部長として信頼している。
保美は恋人。真性のレズである。
(ただし優一郎は除く)
事故ってヒューマノイド化された。
保美大好きなのでむしろヒューマノイド化されたことを喜んでいる。
バトル仕様。
○悠波ちなり(ゆうは ちなり)
ロボット研究会の部員。
部長としてだけでなく、優一郎が好き。
……なんだけども、優一郎はちなりにはそういった好意は抱いていない。
完全に片想いである。
事故ってヒューマノイド化された。
無断でヒューマノイド化されたため、当初は反発していた。
優一郎を好きになることで受け入れられた感じ。
ただいま危機中。
○名倉玲花
ロボット研究会の顧問。
ということになっているが、清陵高校の保健医。
その立場を利用して割と好き放題している。
いつもどじを踏んでは生徒にからかわれる。
他のヒューマノイドと違い、被支配欲は薄い。
(そういう仕様)
○仁科果穂(にしな かほ)
保美の妹。今のところロボット研究会に匿ってもらっている態。
高校生には見えない小柄で華奢な体格をしている。
喋り方もつたない。
明峰女学園生物部の唯一の部員だった。
趣味で色んな生物を作り出している。なめぞうの飼い主。
★吉良絵美佳関係者
○吉良絵美佳(きら えみか)
科学部部長。
自分の研究のためにはアレコレと無茶をする。
巴の所有者。
今のところは巴だけ囲っている感じだが、ちなりももしかしたら?
TSすると『神江羅木』と名乗る。
(本名をひっくり返しただけw)
羅木の状態だと女性にもてまくる。
○木崎巴(きざき ともえ)
科学部部員。絵美佳のことが大好きである。
元々は潜入捜査のために清陵高校に転入してきた。
だが潜入捜査にはむかない。ドジというか勘違い子である。
全身がメカ子。
つまりロボである。
(たまにヒューマノイド的な記述があるのはミスです……)
巨大ロボの操縦者。
★吉良家関係者
○吉良由梨佳(きら ゆりか)
吉良絵美佳と優一郎の母親。
ヒューマノイド。
総一郎という夫がいるのだが、絵美佳にあれこれ言われて落ち込んでいるなう。
多輝が惚れているのだが、本人は多輝の使用人か玩具程度にしか考えていない。
(多輝はそれが気に食わない)
○吉良総一郎(きら そういちろう)
ヒューマノイドを最初に作った科学者。
絵美佳と優一郎の父親。
名前しか出てきていないので謎に包まれている。
○吉良呉羽(きら くれは)
総一郎の従姉。
優一郎の大事な協力者でもあり、医師でもある。
★如月家関係者
○如月要(きさらぎ かなめ)
清陵高校生徒会長。
如月家ご令嬢ではあるんだがかなりぶっ飛んでいる。
絵美佳を何故か敵視している。
吉良家全体を敵視していると言ってもいいかも知れない。
(ただし優一郎は除く)
従者が常に二人ついている。
○如月栄子
如月要の母親。
こないだまでアレな感じのヤツに嵌められていた。
ただいま危機中。
○野木 周藤
野木の方は名前があるんだが面倒なのでこれでw
生徒会執行部員。
二人は要の護衛も務めている。
真面目な性格。
★超常系関係者(言い方……w
○池田水輝(いけだ みずき)
青龍王と呼ばれるとんでも龍神である。
色々と無茶をする。
基本的に女好き。
奈月という彼女持ち。
BL展開に巻き込まれること多々。
○吉良瀬立城(きらせ たつき)
吉良瀬財閥当主。
木龍神の長(ということになっているはず)
真也という弟がいた。
真也はかなり前に亡くなっている。
こいつもけっこーなとんでも龍神。
○翠(みどり)
時空を司る龍神。
その能力で無茶苦茶している感はある。
○木村順(きむら じゅん)
ハンターと呼ばれる存在のひとり。
フツーの人間に比べたら充分とんでもである。
都子という妹がいる。
昔はあんなにマトモだったのになあ……(遠い目
順の過去は、詳しくは『冥界への案内人』を参照下さい。
○木村都子(きむら みやこ)
第一部には出てこないかも知れない。
順の妹で、かなりのとんでもである。
今のところはこんな感じでしょうか。
抜けがあったら後で修正します。
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母親じゃないし。 1
今さらですがTSしてます!
ぎりぎりエロシーンはありません。
不満をぶちまけたら少しはすっきりした。絵美佳は研究室の壁に寄りかかって大きく欠伸をした。ちなりの機体の構造を調べるだけで日付が変わってしまった。今はもう昼近い。絵美佳は二度ほど続けて欠伸をしてから瞼を擦った。
実験台に乗せられたちなりは何も身につけていない。だがあの時のような色気はいまのちなりにはない。何しろちなりは関節部で手足をばらばらにされ、しかも女性器もばらされているのだ。台に乗ったそれは機械の部品にしか見えない。絵美佳は三度目の欠伸をしてから台に向かっている由梨佳に声をかけた。
「あんたは眠くないのよね?」
当然、由梨佳は眠くない筈だ。そう思いながら問い掛けた絵美佳は腕組みをして改めて壁に寄りかかった。由梨佳が作業を止めて肩越しに振り返る。
「絵美佳、あなたは休んだほうがいいわ。解析だけでも、まだまだ時間かかると思うから」
こちらも当り前のような顔をして応える。絵美佳はため息をついて目を細めた。すると明らかに由梨佳がぎくりと首を竦める。さっきから由梨佳の手が変なところで止まるのは絵美佳も知っていた。自慰行為を途中で中断したからだろう。そのことも判る。だがそのために作業を遅らせてもらうのは困る。絵美佳は不機嫌に由梨佳に顎をしゃくった。
「ちなりちゃんが生きるか死ぬかの瀬戸際に眠ってられるもんですか! あんたのほうこそ、ストレスは大丈夫なの? 合成愛液が股から垂れてるわよ?」
由梨佳は慌ててスカートを押さえた。台に背中が当たって音がたつ。絵美佳はやれやれと肩を竦めて由梨佳の足を見た。スカートを押さえたところで腿からふくらはぎにかけて流れているそれを隠すことは出来ない。
どうしてこんなのに欲情できるかな。絵美佳は内心で呟いてみた。優一郎が由梨佳を母としてではなく女として慕っていることを絵美佳はよく知っていた。優一郎が中学生だったあの時、由梨佳を壊そうとして絵美佳は優一郎をけしかけたことがある。その時の由梨佳はストレス値が限界まで上昇しており、優一郎を総一郎と誤認していた。それゆえ、絵美佳は由梨佳を直すのだ、という名目を利用して優一郎に命令した。ママに性的快楽を与えなさい。だがその時、逆に優一郎の方が欲望に囚われてしまった。絵美佳の思惑とは裏腹に優一郎は由梨佳を犯してしまったのだ。
その日の事を優一郎は覚えていない。だがそれ以来、優一郎はヒューマノイドについて学ぶようになった。そして結果的にはちなりを作り上げるに至ったのだ。
「わよ! じゃないって。オカマじゃないんだし! ああ、まだ慣れない!」
苛々しながら絵美佳は頭をかいて叫んだ。男になってみても、やっぱり由梨佳には欲情できない。こんな機械に欲情できる優一郎の気が知れない。改めてそう思う。絵美佳は苛立ちのままに由梨佳を指差し、唇を歪めてみせた。
「あんたも、メカマンコ汁たらすくらいはいいけど、作業をしくじったりしたら承知しないぜ?」
淡々と告げた絵美佳の言葉を受けた由梨佳がかっと頬を染める。絵美佳はばーか、と呟いて台を指差した。慌てた様子で由梨佳が実験台に向き直る。
「良かった! 無事よ!」
数分後、由梨佳は声を上ずらせてそう告げた。絵美佳は歓声を上げてガッツポーズを作った。これでちなりは助かる。絵美佳は喜び勇んで実験台に駆け寄った。実験台の隅に据えられた端末画面を見る。エラーを起こしていたちなりの機体内のシステムはオールグリーンになっている。これなら脳との接続も問題なく行えるだろう。絵美佳はほっと息をついて台の上を見た。ちなりは眠るように目を閉じたままだ。ばらされた頭部を持ち上げ、絵美佳はその小さな唇に軽く口づけした。柔らかな髪を撫ぜる。
ふと横を見る。さっきまで満面に喜びの笑みを浮かべていた由梨佳が真っ赤になっている。怪訝に思いながら絵美佳はそっと視線を下げた。由梨佳は恐らく無意識なのだろう。両膝が擦れている。
「これで生命維持には何の問題もないわ。ただ、機体のオーバーホールにはまだ時間がかかるけど。とりあえず、休息は取れるわね」
ほっとした顔で由梨佳は告げた。だが絵美佳は由梨佳のスカートをじっと眺めていた。不自然にスカートが揺れる。腿を擦り合わせて女性器を刺激しているのだ。
「あんたもお疲れ様、結構しんどかっただろ」
そう言いながら絵美佳は慎重にちなりの頭部を台に戻した。首の切れ目から下がった幾本ものコードがたわむ。そして絵美佳は由梨佳に向き直った。にっこりと笑ってみせる。すると由梨佳は息を飲んで目を逸らした。
「どうしたんだよ?」
絵美佳は自分の容姿がかつての総一郎によく似ていることを自覚していた。わざと由梨佳に顔を寄せてみる。すると絵美佳が思った通り、由梨佳は慌てたように一歩下がった。へえ、と口の中で呟いて絵美佳は何気ない仕草で由梨佳の白衣をつかんだ。驚いたように由梨佳が俯けていた顔を上げる。
「あんた、もしかして俺に欲情してる?」
言った途端、由梨佳は慌てたように首を横に振った。違うわ、と力なく呟いている。絵美佳はうっすらと笑みを浮かべて由梨佳の白衣の合わせ目をつかんだ。焦って逃げようとする由梨佳に構わず白衣の前を開く。きっと休日で油断していたのだろう。ブラジャーをつけていないため、乳首が勃っているのがシャツ越しにも見て取れた。
目を閉じて眉間に皺を寄せる。そして由梨佳は力任せに絵美佳の手を振り払った。外れていた白衣のボタンを留める。だが由梨佳の顔はまだ赤い。それに由梨佳のふくらはぎには愛液の筋が何本も伝っていた。
憑依警報とか出すべき?
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母親じゃないし。 2
ぎりぎりエロシーンではない気がします。
かつて優一郎は由梨佳に欲望を叩きつけた。息子であると判らないまま、由梨佳は優一郎と淫らに交わった。それを思い出しながら絵美佳は無言で由梨佳を見つめた。
「絵美佳、おねがい……休憩させて、もう限界なの」
由梨佳が涙を目に浮かべて訴える。だが絵美佳はすぐに返答しなかった。こんな機械に欲情できる優一郎の気が知れない。が、何かが引っかかる。絵美佳は無言で唇に指をあてた。何がこんなに気になるのだろう。絵美佳にとって由梨佳はあくまでも機械人形に過ぎない。
また一筋、由梨佳のふくらはぎを愛液が伝う。由梨佳は泣きそうな顔でお願い、と絵美佳に訴え続けている。絵美佳は目を上げて由梨佳をじっと見つめた。由梨佳は特に妙な格好をしている訳ではない。この反応もヒューマノイドなら当り前の筈だ。
「なんで、わざわざ俺の指示をあおぐわけ? それって俺に命令して欲しいって意思表示だってとっていい?」
心の奥底で声がしている。絵美佳は口許を歪めて嗤いを浮かべた。一歩、由梨佳に近づく。由梨佳は絵美佳に合わせるように一歩だけ下がった。途端に由梨佳が顔をしかめる。恐らく陰唇が擦れて刺激されたのだ。
前は由梨佳と目線は変わらなかった。が、今は絵美佳の方が背が高くなっている。絵美佳は由梨佳を見下ろしつつまた一歩、歩いた。今度は由梨佳が数歩ほど下がって絵美佳から離れる。
「まず命令その一。俺、男になっちまったから、名前変える事にしたんだ。男が絵美佳じゃおかしいだろ? 俺のことは羅木様と呼べ」
かつん、と小さな音がして由梨佳がよろける。一歩ずつゆっくりと歩み寄る絵美佳に対して由梨佳は少しずつ逃げていた。ヒールに弾かれた何かのねじが床を転がっていく。
「絵美佳は絵美佳よ……。たとえ性別が変わったとしても、わたしは……」
絵美佳は薄笑いを浮かべて由梨佳をゆっくりと追い詰めていた。一歩、また一歩と由梨佳に近づく。由梨佳は胸元を手で押さえ、懸命な面持ちで逃げている。だがその目は欲望に潤んでいた。絵美佳は逃げる由梨佳の肢体をじっくりと眺め回した。
「だから、機械人形の分際で母親ぶるなってば。あんた、俺に欲情してるんだろ?」
手を伸ばして由梨佳の白衣をつかもうとする。由梨佳は慌てたように後ろに大きく下がった。絵美佳の手が空を切る。だが同時に由梨佳の背が壁に当たる。驚きに目を見張り、由梨佳は慌てたように後ろを向いた。その間に絵美佳は由梨佳との間を詰めた。
いつの間にか絵美佳の心の中に欲望が生まれていた。変だとは思った。さっきまで何とも思わなかった由梨佳に自分が欲情してしまうなどあり得ない。だが絵美佳の身体は意志とは裏腹にはっきりと欲望に従った。由梨佳の肩を両手でつかんで耳元に唇を寄せる。
「俺の名前を呼べよ。呼ばないなら、オナニーさせてやらねーぞ」
耳元に囁きながら絵美佳は嗤った。由梨佳が身体を震わせて首を振る。力ないその仕草に絵美佳の心に生まれた欲望が強くなる。
「俺は、お前の子供なんかじゃねーんだよ。俺は神江羅木。さっさと、俺の名前を呼んで、次の命令をねだれよ」
意地悪く笑いながら絵美佳は由梨佳の耳元にまた囁いた。由梨佳が涙を零しながら伏せていた顔を上げる。絵美佳は由梨佳の髪を指で分け、唇を耳に触れさせて繰り返して囁いた。俺の名前を呼べ。数度ほど囁いた時、とうとう由梨佳は頑なに閉ざしていた口を開いた。
「羅……木さま。命令を、お願いします……」
涙が頬を伝い落ちる。絵美佳は由梨佳の頬に伝った涙を指ですくった。舌先で濡れた指を舐めてみる。味のない純水に目を細め、絵美佳は唇を歪めた。
「涙も作り物かよ」
喉の奥で笑う。すると由梨佳は顔を背けて肩を震わせた。絵美佳は由梨佳の反応に満足しつつ、目を細めた。肩から胸、細い腰、そしてスカートに包まれた下腹部を眺め回す。
何故、こんな機械人形に欲情しなければならないのだ。絵美佳は自分の心の動きに少し腹を立てていた。心の奥底から声が聞こえている。はっきりとした言葉にはなっていない。だがその声は何かを懸命に訴えている。いつもなら無視するその声に絵美佳は耳をすませてみた。
何を言っているのかは判らない。だがどこかでかちり、と音がする。それと同時に絵美佳は衝動的に由梨佳を壁に押さえつけた。急に絵美佳が動いたことに驚いたのだろう。由梨佳が目を見張って息を飲む。
「ご休憩、していいぜ。まず、寝室まで連れってってやるよ」
硬直している由梨佳の身体を絵美佳は軽々と抱き上げた。腕に抱かれた途端に由梨佳が暴れだす。
「やめて! 一人で行けるわ!」
以前なら腕力はきっといい勝負だったのだろう。だが今の絵美佳は由梨佳が暴れた程度では大して気にもならなかった。腕の中で由梨佳が喚いて手足をばたつかせる。懸命に絵美佳の胸を押しのけようとする。だが絵美佳は平然と歩き始めた。
「あんたのオナニー、いや、セルフメンテナンス作業だっけか? 見せてくれよ」
どう言い換えてもオナニーはオナニーなのにな。そう付け足しながら絵美佳は嗤った。由梨佳が短い悲鳴を上げる。絵美佳が乱暴にドアを足で開けた音に驚いたのだ。驚きに身体を竦めた由梨佳を抱え、絵美佳は研究室から出た。ここは自宅と繋がっている。絵美佳は研究所と自宅を繋ぐ渡り廊下を歩いた。
どこまでいってもヒューマノイドは機械……なのですが、ちゃんと書けてないような。
すみません……。
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母親じゃないし。 3
憑依状態注意!
エロシーンが入ってます。
「それに、俺が見てたほうが作業効率が良くなるだろ? 絶対」
嘲笑を浮かべて絵美佳はそう吐き捨てた。腕の中で由梨佳がびくりと身体を震わせる。再び暴れようとしていた腕を力なく下ろし、由梨佳は唇を噛んで横を向いた。喉の奥で嗤い、絵美佳はずれた由梨佳の身体を抱え直した。
腕の中の由梨佳を見下ろす。由梨佳は懸命に欲望を堪えているようだ。それでも由梨佳は無駄な努力を続けている。腕を振り、絵美佳の腕から必死で逃れようとしている。その様は絵美佳にとって笑えることだった。
なのにどうして。絵美佳は内心で苛立ちの声を上げた。どうして自分はこうまで欲情しているのだろう。何故、由梨佳を抱きたいと思ってしまうのか。そして次第に疑問を感じる心は鈍くなりつつある。
廊下を渡りきって靴を脱ぐ。自宅の二階に続くドアをくぐり、絵美佳は真っ直ぐに寝室を目指した。由梨佳が絵美佳の腕の中で悲鳴を上げる。
「いやっ!」
由梨佳は頭を振って絵美佳の胸を叩いた。絵美佳はだが足を止めなかった。二階の自分と優一郎の部屋を過ぎて角を曲がる。廊下の奥にあるドアを開ける。
「ほら、寝室についたぞ。下ろしてやるから暴れるな」
そう告げて絵美佳は由梨佳をベッドに放り投げた。小さな悲鳴を上げて由梨佳がベッドに倒れる。絵美佳は嗤いながら後ろ手にドアを閉めた。由梨佳が慌ててベッドから降りようとする。絵美佳は大股でベッドに近づき、由梨佳の肩を押さえた。
「ほら、さっさと脚開いて、メカマンコを晒せ」
「お願い……許して……」
嘲笑混じりの絵美佳の声に由梨佳が涙を流して訴える。だがその足はさっきからずっと震えている。絵美佳は舌打ちをしてめくれかかったスカートを一気にまくりあげた。由梨佳が悲鳴を上げて身体をよじる。
抱け、と心の底から声がする。欲望に駆られた絵美佳の身体が無条件に声に従おうとする。嫌がる由梨佳の身体をベッドに押し倒し、絵美佳はその腰にまたがった。歯を食いしばって白衣に手をかける。
「メカマンコをウィンウィン言わせてアイドリングさせながら、何、かわいこぶってるんだよ」
深い嗤いを頬に刻み、絵美佳は一気に由梨佳の服を引き裂いた。白い肌が露になる。由梨佳は真っ青になって暴れようとした。その腕を押さえつけ、絵美佳は少しだけ腰を浮かせた。破れかけた服を握った手に力を込める。由梨佳の上半身は剥き出しになった。
平静であったなら絵美佳は違和感に気付いただろう。幾ら男の身体になったと言っても服を簡単に引き裂いてしまうことなど、通常の絵美佳には出来ない。だがこの時の絵美佳はそんな違和感を覚える暇もないほどの欲望に晒されていた。悲鳴を上げて逃げようとする由梨佳の下着に手をかける。
「おまえが自分で脱がないからこうなるんだよ!」
そう叫びを叩きつけて絵美佳は下着を引き裂いた。本格的に恐慌状態に陥ったのだろう。由梨佳は先ほどまでより激しく暴れている。絵美佳は力ずくで由梨佳の身体を押さえ込んだ。
「おまえがぶっこわれたら困るから、協力してやってるんだろ? そっちがその気なら、さっさとぶっ挿してやる」
腿を強引に開かせて足を入れる。由梨佳の腿は絵美佳の身体に押されて宙に浮いた。絵美佳は素早く自分のベルトを外し、いきり立ったペニスを晒した。悲鳴を上げて由梨佳が身体をよじる。
「いやああああああああああああっ、きゃあっうふううん!」
由梨佳の身体が弓なりに反る。絵美佳は由梨佳の腰を強く握り、一気にペニスを膣内に突き入れた。
絵美佳の意識は挿入の瞬間、真っ白になった。何かが遠くで手を振っている気がする。待ち侘びて、待ち続けて、けれど決して叶わない夢だった筈なのに。時間だけが過ぎ、街がその様相を変え、人々の魂が流転する。
一気に視界が開ける。そこは緑の生い茂る竹林の中だった。ひっそりと建った小さな家で驚きの表情を浮かべる子供がいる。窓から見える子供の頭には小さな角が二本生えている。紫の髪が風に流れ、紫の瞳が見開かれる。
時が急速に流れてゆく。その子供が周囲の全てを滅ぼして一人残った時、決めた。決して離れない。何があっても守ろうと。子供が秘めていた力を放出してまで助けてくれたのが判ったから。
再び意識が切り替わる。夜の情景の中に一人の青年が佇んでいるのが見えた。遠く、月を仰いでいる。京紫の髪が風になびく。気付いたように青年はこちらを向いて微笑みを浮かべた。
一瞬で全てが流れた。気付くと絵美佳は由梨佳に覆い被さって涙を零していた。身体に染み込む気配を感じて目を閉じる。奇妙な達成感が心に満ちている。
「……き。俺……」
由梨佳は挿入の瞬間に果ててしまったらしい。身体を震わせて喘いでいる。絵美佳は涙を拭って無造作に由梨佳の腰を抱え直した。強く腰を揺すってペニスを抜き差しする。絵美佳の表情は冷たく、一片の笑みも浮かんでいなかった。
「あっ、んっ! そういちろう……さぁん! ああっ!」
腰をひくつかせながら由梨佳が高く鳴く。絵美佳は揺れている乳房に手を伸ばした。膨らみを強く握って揉み始める。すると由梨佳が艶かしく腰を振り始めた。同時に由梨佳の膣壁がうねってペニスを擦り始める。
「もう、ないのか? 俺、もっと……ほしいのに」
絵美佳は唇を舐めて横たわっている由梨佳を見た。静かに目を閉じる。少し気配を吸ったことでそれまで狂ったように暴れていた欲望は僅かだが鎮まっている。
構図的には近親相姦ではあるんですけども。
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母親じゃないし。 4
エロシーンです~。
絵美佳の意識はその時、闇に沈んでいた。由梨佳の機体に残っていた立城の気配を感じ取った別の魂が表面化しているのだ。立城をずっと求め続けていた魂の持ち主の名前は真也。立城の双子の弟だ。
自分の魂が真也の生まれ変わりであると絵美佳は信じていた。だが厳密に言うとそれは違う。正確に言うと、一つの器に二人分の魂が同居している状態なのだ。絵美佳の意識を抑え表面に出てきた真也は冷ややかな眼差しで由梨佳を検分した。
ねじこまれた時は痛かったっけな。絵美佳の魂の隙間に無理やり魂をねじ込まれた。その時のことを思い出して真也は小さく笑った。つかんでいた由梨佳の乳房をゆっくりと弄る。
「悪いが記憶を読ませてもらうぞ。宿主」
そう言って真也は目を閉じた。一瞬で絵美佳の記憶が脳裏をかける。ざっと記憶を読んだ真也は目を開けて由梨佳を見下ろした。道理で膣の中が不自然に蠢いている筈だ。なるほど、と真也は呟いて由梨佳の腿に手を伸ばした。由梨佳を横倒しにして片方の足にまたがる。
由梨佳の右腿を抱えて腰を突き出す。ペニスが膣の奥深くに届いた瞬間、由梨佳が声を上げて仰け反った。
「ああっ! そういちろうさん! いいっ! いいですっ!」
唇の端から涎を零し、由梨佳が喘ぐ。真也は嗤いながら由梨佳の髪をつかんだ。白い首が剥き出しになる。
「宿主が不服そうだぜ? 羅木様、だっけ? そう言えってさ」
狂った歯車がゆっくりとかみ合っていく。真也はくすくすと笑いながら由梨佳の髪を更に引いた。細い肩に舌を這わせ、鎖骨のくぼみから首筋を舌先でなぞる。
「んっ、いやっ! そういちろうさん! もっと、もっとぉ!」
「娘にぶっ挿されていっちまうなんて、あんたも相当の変態だな。ほら、もっと欲しいならねだり方ってもんがあるだろ?」
耳元に囁きながら由梨佳のクリトリスを探り当てる。真也は嗤いながら由梨佳を弄り続けた。
「ちがうっ! ちがうわっ! ちがうのよ!」
涙を流しながら由梨佳が悲鳴混じりに訴える。だがその声には甘い響きがこめられ、到底嫌がっているようには思えない。真也は由梨佳の片足を身体で押さえて腰を小刻みに振った。片手につかんでいた由梨佳の髪を離す。
「何が違う? ほら、またいっちまうぜ? 鳴かなくていいのかよ」
急に嫌がり始めた由梨佳の身体を押さえつけ、真也は唇を耳に触れさせた。耳の形に沿って舌を這わせる。それまで声を殺していた由梨佳が唐突に高い声を上げる。真也は軽く由梨佳の耳たぶを噛んで腰を前後させた。衝動が一気に大きくなる。
「あなた、ちがう! たっくん? たつきくん、なの?」
不意に目を見張って由梨佳が声を上げる。膣内にぶちまけられた精液が膣口から漏れてくる。真也は嗤いを納めて顔を上げた。目を細めて由梨佳を見下ろす。
「人形の分際でその名を軽々しく口にすんじゃねえよ! 何様のつもりだ!?」
どうしてこんな人形が。真也は胸の中で苛立たしく呟きながら由梨佳の身体を引っくり返した。うつ伏せになった由梨佳の腰を乱暴に引き寄せる。由梨佳の陰唇の間からは白い精液が垂れている。真也は舌打ちをして膣に指をねじこんだ。
「ちがうっ! だれ、あなた? だれ、なの? ああっ!」
力任せに膣壁をなぞる。由梨佳は声を途切れさせて布団に突っ伏した。呻きのような声が漏れてくる。真也は冷ややかな眼差しで由梨佳を眺めつつ、両手の指で強引に陰唇を開いた。
「さっさと処理しろよ。あんた、ダッチワイフの癖に要領悪いな」
「きゃふっ! やめてっ無理にしたら、壊れ……ああっっ!」
小陰唇を左右に開いて膣にペニスを突き入れる。真也は由梨佳に圧し掛かりながら一転して優しい声音を出した。
「幾らでもやってやるぜ。あんたの望み通りにな」
立城の気配は既に由梨佳の中にはない。全てを吸収できた。真也は由梨佳の胸に手を伸ばし、くすぐるように乳首を弄った。
「だから俺の質問に答えろ。あんた、立城の何だ?」
絵美佳の記憶にはその情報はなかった。が、由梨佳の中にあったのは間違いなく立城の気配だ。待ち望んで、求めて、それでも手に入れられなかったものが手に入った。だが同時に真也は怒り狂っていた。何故、人形ごときが立城に。その怒りが収まらない。
「立城……くん、たつきくんは」
掠れた声で由梨佳が呟く。真也は目を細めて由梨佳の乳房を柔らかく揉んだ。同時に腰をゆっくりと動かし始める。
「気持ちいいだろう? いきたいだろ? 答えたらいかせてやる」
「わからない……。たつき、くんっ! たっくんっ! ああっ!」
枕を抱えて由梨佳は甘い声を上げた。ぶちん、と真也の中で何かが切れる。歯軋りをして真也は由梨佳を引き起こした。腰をつかんで動きを止める。駄々っ子のように首を振る由梨佳の髪をつかむ。
「宿主が困るだろうと思って壊さないようにしてやったのに。あんた、よくよく俺を怒らせるのが好きらしいな!」
一気に空気が染まる。真也は紫に染まった目を吊り上げ、由梨佳の髪をさらに引いた。由梨佳の喉が反り返る。白い首に手をかけたところで由梨佳が苦しい息の下で答えた。
「わたしが、壊れたら、たつきくんが、困るわ……。だから、やめてっ!」
「人形が俺に指図するな!」
怒りに任せて真也は由梨佳の首をつかんだ。由梨佳が声を途切れさせて手足をばたつかせる。だがふと気付く。そうか、こいつは人形だ。息をしなくても壊れることはない。真也は手から力を抜いて唇を舐めた。
真也は基本、ドSです。
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母親じゃないし。 5
憑依状態注意!
TSとか注意!(今さら
力の大半は立城に渡してある。残っている力はほんの一欠片だ。だが真也はそれをかき集めて目を開けた。咳き込んでいる由梨佳の腰をつかむ。
「あんたのあそこって壊れやすいんだって? オナりすぎても壊れるって?」
真也はくすくすと笑いながら由梨佳の腰を上下に揺すり始めた。集めた力を慎重に編む。もしかしたらこれが最後のチャンスかも知れない。
「俺が念入りに壊してやるから安心しろ。どうせ娘に欲情してたんだ。知らない俺にやられるくらい、どってことないよな?」
「おねがい、やめてっ! 乱暴にしないで……」
「人形が指図すんなって言っただろ。ダッチワイフはダッチワイフらしく、もっとしっかり腰振れよ」
そう言って真也は由梨佳の腰を無造作に前に押した。陰唇を分けて挿入されたペニスが膣壁を強く擦る。
「ダッチ……ワイフじゃない、わたし、わたしは、ああっ!」
強い快楽に触発され、由梨佳の腰が動き始める。淫らに腰をくねらせ、由梨佳は再び甘い声で鳴き始めた。総一郎の名を呼びながら膣でペニスを扱く。真也は薄い嗤いを浮かべて唐突に由梨佳を抱え上げた。音を立ててペニスが抜ける。
急に刺激を断たれた由梨佳が甘えた声でねだる。真也は嗤いながら由梨佳をベッドに放り出した。仰向けに倒れた由梨佳の唇に吸い付く。
微かに気配が残っている。真也は目を閉じて由梨佳に深く口づけた。精液と愛液に塗れたペニスがびくりと震える。由梨佳の唇を貪るように吸いながら、真也は熱い息をついた。
「だめ、止まらない……あそこが、止まらないの! お願い、壊れる、壊れちゃうぅっ!」
由梨佳の機体内から低い音が聞こえてくる。真也は薄い嗤いを浮かべたまま、身体を起こした。由梨佳が腰をひくつかせて股間に手をあてがおうとする。真也はだがその手を強い力で掴み取った。
「いく直前で放り投げられた気分はどうだ? すげえ焦れるだろ?」
「やめて、おねがい! こわれちゃう! あそこが、こわれちゃう!!」
悲鳴を上げる由梨佳の手を布団に押し付ける。真也はすっと嗤いを消し、冷たい眼差しで由梨佳を見下ろした。擦り合わせようとした由梨佳の腿を無造作に踏む。上から顔を覗き込みながら真也は囁くように告げた。
「壊れろよ。見ててやるよ。それとも直に覗き込まれるのがいいか?」
由梨佳の両手首を片手に握り直す。その手を由梨佳の頭上で固め、真也は空いた手でペニスをつかんだ。由梨佳を見ながらペニスを扱きはじめる。由梨佳は悲鳴じみた声を上げて涙を流した。
「いやっ、見ないで……!」
由梨佳が顔を背けて肩を震わせる。真也は足を進めて由梨佳の腹にまたがった。豊かな膨らみの間にペニスを押し付ける。
「口開けろ。パイズリくらいできるんだろ? 俺のを出させたら下にもぶち込んでやる」
言って真也は由梨佳の手を離した。その手を乳房に導く。由梨佳はうっとりと目を潤ませて乳房でペニスを両脇から挟んだ。首を傾けてペニスの先を口に入れる。
「その間にメカマンコすりやがったらやんねえからな」
真也の脅しが効いたのか、由梨佳は足を震わせながらも腿を合わせなかった。乳房でペニスを柔らかく扱き、唇と舌で亀頭を吸う。真也はしばらくその感触を楽しんだ。
「……へえ。あんた、息子にも欲情してるんだ?」
唐突に真也はそう告げた。由梨佳の思惟が自然と読める。ぎくり、と肩を震わせて由梨佳が動きを止める。真也は嘲笑を向け、続けた。
「駄目とか思いながら息子をさかなにマスかきか。あんた、ホントに変態だなあ。宿主が母親と思ってないのも頷けるぜ」
嘲笑いながら真也は由梨佳の頭をつかんだ。強引に引き寄せる。由梨佳は目を閉じて呻いた。その口の奥にペニスを入れる。すると由梨佳の機体が自動的に動き始めた。口の中が振動し始める。
「んうっ!」
「じゃあ、息子にぶっこんでくださいって言えばいいじゃないか。わたしのいやらしいメカマンコに挿してくれって」
機体内の音が重なって響く。由梨佳の膣はまだ動いているのだ。真也は由梨佳の苦しそうな顔を見ながら目を細めた。唇が歪んで嗤いの形を作る。
「……はあん? なるほどねぇ……。何だ、俺が言うまでもなくやってるんじゃないか、あんた」
「んうっ?」
由梨佳が目を見張って呻く。真也はくすくすと笑いながら由梨佳の口からペニスを抜いた。唾液に塗れたペニスが水音を立てて現れる。真也はしばらくそのまま声を殺して笑い続けていた。
「あっ、あっ……ああああっ」
嗚咽を漏らしながら由梨佳が泣き崩れる。真也はそんな由梨佳を横目にベッドから降りた。編み上げた力は既に由梨佳の中に送り込んである。恐らく立城の許に辿り着くだろう。そうすれば手がかりがつかめる。
何だ。覚えてたのね。心の奥底から声が聞こえてくる。真也は舌打ちをして額に指をあてた。もうちっとだけ貸せよ。そう交渉してみる。だが宿主は断固としてそれを拒絶した。
やれやれ、仕方ないか。真也は肩を竦めて目を閉じた。
「ふんっ! 悪霊退散!!」
真也の意識が闇に沈むと同時に絵美佳の意識が表面化する。絵美佳は腰に手を当ててふんぞり返った。
「あーあーあ。もう……」
打ちひしがれる由梨佳を見ながら絵美佳は頭をかいた。面倒なことをしてくれる。そう思いながらベッドに寄る。まだ由梨佳の機体は低い音を立てている。本人の意志とは裏腹に機体は欲情したままなのだ。
「ねえ、ほっといたら、メカマンコ壊れるわよ。さっさとオナりなさい!」
だが由梨佳は絵美佳の声に反応しない。俯いて嗚咽を漏らし続けている。絵美佳は鋭く舌打ちして腕組みをした。由梨佳をぎろりと睨みつける。
「しかたないなあ。さっさと脚広げなさい!」
心底、うんざりした顔をして絵美佳はベッドに這い上がった。泣き崩れている由梨佳の身体を無造作に押す。ゆらり、と揺れた由梨佳の身体が倒れる。絵美佳はため息をつきながらペニスを握った。
悪霊退散されてしまいましたが、真也はまだ中に居ますw
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ぼんくらこくよ 1
エロシーンはありません。
珍しくその日は暖かかった。のんびりと手足を伸ばして日光を全身に浴びる。そうするといつもは感じなかった風の香りまで判る気がする。立城は微笑みを浮かべて空を見上げた。
空には薄い雲が流れている。秋の高い空はすがすがしい。にっこりと笑みを空に向けて立城は傍にあった茶を取った。奈月が淹れてくれたそれを啜る。香りのよい緑茶が喉を通って胃に落ちる。
「おい」
気持ちいい秋晴れだね。立城はのんびりと告げてまた茶を啜った。布団を干したら気持ち良さそうだ。そう思いながら下を覗き込む。思った通り、庭には布団が並べられている。楽しそうに布団を叩いているのは奈月だ。
「おい!」
秋と言えば栗ご飯も美味しいよね。立城はにこにこしながら呟いた。両手で湯飲みを包んで頬にあてがう。じん、とした痛みにも似た温もりが伝わってくる。
「おいってば!」
間近で叫び声が上がる。立城はにっこりと笑いながらようやくそちらを向いた。
「嫌だなあ。聞こえているよ、黒妖牙」
傍で肩を怒らせていた青年がため息をつく。青年が黒妖牙というフルネームで呼ばれることはまずない。その名を口にしているのは立城くらいのものだ。仲間内では黒妖牙は黒と呼ばれている。
「てめえ、こんなところで接客とはどういう了見だ!?」
立城と黒は屋敷の屋根の上にいた。立城はあはは、と軽く笑って湯飲みを傾けた。やっぱり奈月さんのお茶は美味しいなあ。そう呟いてみる。すると隣にいた黒がふるふると肩を震わせた。
「だって気持ちいい天気だったから」
にっこりと笑って言うと、黒はいきなり立城につかみかかった。胸倉をつかまれて締めかけられる。立城は器用に手を動かして湯のみの中の茶をキープした。
「犯すぞ、てめえ」
「いいよ、別に」
脅し文句ににっこり笑って切り返す。すると黒が肩を落として手の力を抜いた。立城は何事もなかったかのような顔で再び空を見つめた。
ほころびた結界は修復しなければならない。が、今は水輝は留守にしている。立城自身もまだ力は完全に戻っていない。となると、別の誰かの力を用いなければならない。
「だから呼んでみたんだけど、何だか機嫌が悪そうだね」
「だからって、おい、それって説明のつもりか!?」
どうしてこう、反応がわかりやすいかなあ。そう内心で呟いて立城は茶を啜った。ほら、ともう一つの茶を黒に差し出す。黒は舌打ちをして立城の手から湯飲みを取り上げた。
今朝方、水輝は屋敷を出た。極力、気付かれないようにしたつもりだが、本当のところはまだ判らない。が、屋敷を出たということは行く先は決まっている。立城はのんびりと湯飲みを傾けてちらりと隣に目をやった。黒は不機嫌な顔で茶を啜っている。
「報酬はどうしようかな。何がいい?」
先手を打って訊く。すると黒はぴくりと眉を上げた。それから鼻を鳴らして横を向く。
「女」
「判りやすいなあ、本当に。いいかげん、飽きないの?」
苦笑しつつ立城は応えた。すると黒が眉間に皺を寄せて横目に立城を睨む。はいはい、と立城は片手を上げた。
黒は欲望を司る龍神だ。通常は現界には出てこない。冥界の王と別名で呼ばれる理由がそこにある。立城は茶を全部飲みきって立ち上がった。少し声を張って庭にいる奈月に呼びかける。
「すみません、奈月さん。お茶をもう一杯お願いしてもいいですか?」
「はい」
嬉しそうに答えて奈月が屋敷へと駆けて行く。それを見て立城はうんうん、と頷いた。水輝の不在が悪影響を及ぼすかと思ったが、今のところは問題ない。最悪の場合は機能停止するしかないと考えていた立城は奈月の様子に満足そうに頷いた。
「どーでもいいが、さっさと要件を言え」
不機嫌そうな声が飛んで来る。ああ、と立城は苦笑して屋根の上に腰掛け直した。風に吹かれてそよいだ髪を指で押さえる。
「火藍の魂と真也の魂の行方。まあ、真也の方は大体判っているから、主に火藍かな」
「……それをいつまでに調べろって?」
「今日中」
そう立城が答えた瞬間、黒の動きがぴたりと止まる。硬直した黒を余所に立城は口許に指を当てて空を仰いだ。
「そもそも、管轄なのにちゃんと見てないのが悪いと思うんだよね。だから間で別の人にさらわれたりすると思うんだ。僕は」
ぴくぴくと黒の眉が動く。そのことは判っていたが立城は更に続けた。
「おかげで僕はしなくていいことまでしている訳だし、そのことは判ってくれるよね? 幾ら君でも」
湯飲みを持つ黒の手が小刻みに震える。立城はにっこりと笑って顔を戻した。首を軽く傾げて黒を見つめる。
「僕、本当はかなり忙しいんだけれど、今の状態を保っているんだよね」
ぎこちない動きで黒が頭を動かす。立城をその目が捕らえる。黒が口許にあてがった湯のみはまだ揺れている。立城は駄目押しとばかりに微笑みを浮かべた。仲間内から恐れられている極上の笑みを黒に向ける。
「どこかのぼんくらが欲にかまけて遊んでいたからこんなことになっているんだけど、知ってるよね?」
「……それって……八つ当たり……?」
「こうでもしないと動きが取れないだろうからと思って、僕はわざわざ状態維持しているんだけど、わかってるよね?」
「で、でもな。あの」
黒の顔色は徐々に悪くなっている。立城は微笑みを浮かべたまま黒の顔を覗き込んだ。正面から見つめる。すると黒がまともに引きつった。
「僕がこの状態を維持し続けるとどうなるか、知らない訳じゃないよね?」
「う」
「ちなみに僕はとても怒っているんだけど、それもよく判るよね?」
黒の手から力が抜ける。落下しかけた湯飲みを立城はタイミングよくキャッチした。再度、黒の手にそれを握らせる。指が触れ合うと黒の体温が下がっていることが判る。立城は微笑んだまま、その冷たい指を指先で撫でた。
不意に空気が揺れる。立城はゆっくりと身体を起こして空の湯飲みを握り直した。急須を片手にした奈月が現れる。奈月は見知らぬ黒にまず頭を下げた。
この頃に書いた黒妖牙は、今よりちょっと元気ですw
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ぼんくらこくよ 2
まあ、他の連中にもそーとー美味しそうに見えるというか。
あ、エロシーンはありません。
「はじめまして。吉良瀬奈月と申します」
それまで硬直していた黒が急に動き出す。感嘆の声を上げ、黒は身を乗り出した。奈月を検分するように見つめる。奈月は不思議そうな顔をしてそんな黒を見つめ返した。
「すっげえ上物! どうしたんだ、これ!」
嬉しそうに黒が喚く。立城ははいはい、と黒の身体を押し戻そうとした。が、黒は立城の足に身を乗り出したまま、頑として動こうとしない。
「あっ、あの……?」
困惑しつつ奈月が立城に目で訴えかける。立城は小さく笑って湯飲みを奈月に示してみせた。すると奈月は素直に立城の湯のみに茶を注ぐ。
「こっ、これ、オレにくれるのか!?」
目を輝かせて黒が喚く。立城はすっと目を細くして横目に黒を見た。手の中の湯のみが少しずつ重くなる。立城はにっこりと黒に笑いかけながらゆらりと動いた。左の肘が黒の背中を直撃する。
「どこまでも無礼だね、君は。最後には張り倒すよ?」
「もう殴ってるじゃねえか!」
立城の足の上で唸っていた黒が勢いよく頭を上げて叫ぶ。立城はそれを余所に奈月に微笑んでみせた。満たされた湯飲みを軽く持ち上げて頷く。
「ありがとう、奈月さん」
「あ、あの、この方は?」
困ったような顔で奈月が問う。その目は黒に注がれている。ああ、と笑って立城は肩を竦めた。
「冥界を取り仕切る筈なのに遊んでいて僕の手間を増やしてくれたぼんくら黒龍神ですよ」
「お、お前……八つ当たりもたいがいに」
「ぼんくらこくさん?」
黒の声と奈月のそれが重なる。奈月は特に厭味を言ったつもりはないのだろう。小首を傾げてきょとんとしている。立城は思わず口許に手を当てて声を殺して笑った。立城の足の上から身体を起こし、黒が喚く。
「違う! オレはこくよ」
「うん、ぼんくらなんです。これが」
最後まで言い切る前に立城はそう告げて奈月ににっこりと笑った。奈月が立城と黒を見比べて首を傾げる。
「えっと、ぼんくらこくよさん??」
「ぼんくらこくの方が語呂がいいかな」
真剣に考え込みながら立城はそう呟いた。すると真横で黒が苛立たしそうに頭をかきむしる。奈月は何度かぼんくらこく、と口の中で呟いてにっこりと笑った。
「ぼんくらこくさん、よろしくおねがいします!」
嬉しそうに言いながら奈月が軽く頭を下げる。黒はあああ、と情けない声を上げて奈月に手を伸ばそうとした。が、届く寸前で立城はその手を叩き落した。ついでに黒のその手を力任せに握る。
「だからすぐに手を出そうとするその悪癖を何とかしないと駄目だってば」
「うあああ、お、おい! 本気で握るな! 骨が砕ける!」
そうして黒が騒いでいる間に奈月は平然と黒に近づいた。屋根の上に置かれた黒の湯のみを満たし始める。立城は片手に握っていた茶をのんびりと啜った。黒はまだ目をむいて呻いている。
「あ、そうだ。奈月さん」
ふと思い出して声をかける。奈月は黒の湯飲みを満たし終えて腰を上げたところだった。
「あの、なんでしょう?」
首を傾げる奈月の顔からは微笑みが絶えない。だがその微笑みはいつもよりどこか曇っている。立城はにっこりと笑った。
「あのですね。今度、おつかいを頼みたいんですが」
まだ呻いている黒の腕を無造作に引く。すると黒は奇声を上げて立城の足の上に身体を乗せた。体重が足にかかると同時に手を離す。そして立城は流れるような動きで黒の背中を肘で打った。先ほどと全く同じ位置に肘打ちがきまる。
「おつかい、ですか? どちらへ?」
黒の悲鳴の向こうで奈月が不思議そうな顔をする。立城は微笑みながら頷いた。
「清陵高校へ」
途端に奈月の顔が輝く。満面に笑みを浮かべて奈月は頷いた。
「はいっ!」
再度、茶のお代わりを要求して立城はのんびりと茶を啜った。奈月は既に布団たたきに戻っている。先ほどより嬉しそうに布団を叩いているのはきっと気のせいではないだろう。
「……いつの間にあんなに上物になったんだか……」
いいかげん、叫び疲れたらしい黒が立城の足の上でそう呟く。立城は苦笑して湯飲みを傾けた。熱い茶に息を吹きかけて啜る。黒はそんな立城をちらりと見た。
「そりゃあね。色々あったし」
「まあな。でも、あれは目立つだろう? 幾らなんでも黙ってないと思うが」
誰、と黒は言わなかった。立城はぴくりと手を止めて無言で黒を見た。黒はじっと奈月を見つめている。その横顔がどこか憂いを帯びて見えるのは気のせいではないだろう。悲しみに叫ぶ魂の声は黒に直接届く。たとえ離れていても、黒は死に行く魂の声を聞き分けてしまうのだ。
なのに判らないなんてね。よほど遊びが過ぎていたんだよ。立城は内心でそう呟いてため息をついた。ああ、と黒が不機嫌そうな眼差しを立城に向ける。
「本当の名前をとられなかっただけでもありがたいと思ってくれる? 君、けっこう無防備なのに名前晒してるから」
「余計なお世話だ」
言いながら黒がゆらりと身体を起こす。乱暴に屋根の上の湯飲みを引ったくり、黒は茶を一気に飲み干した。空になった湯飲みを立城に放る。立城は片手でそれを受け止めてにっこりと笑った。
「じゃあ、早く行って来てね。ぼんくらこくさん」
黒がまともにひきつる。立城は極上の微笑みを浮かべて空になった湯飲みを屋根に置いた。待て、という黒の声は震えている。立城は微笑んだまま指を鳴らした。悲鳴を上げて黒の姿がかき消える。
「ふう、結界はこれで大丈夫かな。黒妖牙も無防備に垂れ流してるから」
呟いて立城は左手を軽く持ち上げた。手の先に溜まった黒い力を丁寧に編む。立城はしばらく鼻歌を歌いながら力を編み続けた。
奈月というキャラクターは本当に水輝しか見えてないのです……。
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栄子の延命計画 1
エロシーンはありません。
誰もいない病室に入って要は勢いよく振り返った。優一郎が静かに扉を閉める。誰もいないこの部屋を貸してくれたのはあの女医だ。どうやらあの女医は優一郎と顔見知りらしい。が、この際それはどうでもいい。要はつかみかかるようにして優一郎に迫った。
「それで!? 何でしたの!?」
目を吊り上げて肩を怒らせながら要が優一郎に近づく。優一郎は自然と壁際まで後退した。今にも飛び掛りそうな勢いとはこのことかも知れない。小さくため息をつきながら優一郎は要を制した。
「要さんはどこまで聞いてらっしゃいますか?」
そう言いながら無人の病室を見回す。栄子のいる個室と作りは同じだ。優一郎は要の脇を抜けて丸椅子をベッドの下から引っ張り出した。一つを要に勧め、そう一つに腰掛ける。
「記憶がないっていうことは聞きましたわ。ショックが大きいとかで、回復するかどうかも判らないとか」
憮然として答えながら要は足を組んだ。こうして見ると要はどこにでもいる女子高生に見える。容姿は本人が自信を持っているだけあり整ってはいる。が、それはあくまでもこの年頃の女の子にしては、という話だ。優一郎は自然と自分の周囲にいる彼らと要を比べてみた。
彼ら、龍神と呼ばれる種は優一郎が見た限りでは抜群の容姿を誇る。どんな姿も思いのままだとは言え、あれほどまでに整っているのは恐らく彼らの美的センスが高いからだろう。彼らも無意識にそういう姿をとっている節がある。ヒューマノイド化された多輝の機体が徐々に姿を変えていったのも、恐らくそこに原因がある。
そこまで考えて優一郎は慌てて首を振った。今はそんなことを考えている場合ではない。
「要さん。検査の結果、さらにある事実が判明しました」
そう告げて優一郎は呉羽がしてくれた話を判りやすく噛み砕いて説明した。栄子の両手両足が別の誰かのものであること。このまま放置しておけば拒絶反応が酷くなり、じきに本体の方が腐敗する恐れのあること。そう話していくうちに要が青ざめる。
「栄子さんは、木村の施設において、既に人体実験の素材にされてしまっていたんです」
優一郎はその時の悔しさを思い出して唇を噛んだ。木村の実験場の情報は殆ど入手出来なかった。判った事と言えば、その場に子供らしい者がいたということだろうか。だがあの時の絵は葵に渡したままだ。そしてその葵も恐らくはもう生きてはいまい。様々なことに思いを巡らせた優一郎は、自然と俯いてこぶしを握り締めた。膝の上に乗せていた手が震える。
対する要は蒼白になっていた。目があてもなく周囲を泳ぐ。
「まさか」
殆ど聞き取れないほどの小声で要が返す。優一郎はゆっくりと顔を上げて要を正面から見据えた。
「だって、そんなこと……お母様はあんなに元気なのに!?」
だがその身体につけられた傷はまだ完全には消えていない。要も薄々は優一郎の言う事が本当だと判っているのだろう。喚いていても視線は頼りなく泳いでいる。
「今はそうでしょう。しかし近い将来、拒絶反応が出始めたら、生きながらにして身体が腐敗し、死に至るのです」
信じがたい話であるのは頷ける。もし、優一郎が何の前知識もなくその話を聞いたら、やはり呉羽を疑っていただろう。一口に拒絶反応と言ってもその症状は様々だ。しかも栄子は外見上は何らの問題もないように見える。それで信じろというのはまず無茶な話だ。優一郎はだが、ゆっくりと要に言い聞かせた。
「木崎、智美という少女のことを覚えてらっしゃいますか?」
かつて巴は木崎智美という名で清陵高校に潜入した。木村の諜報員として、だ。が、巴本人が思っているような諜報能力は皆無だった。だがそれを知らずに要は巴と接触、絵美佳率いる科学部を調査しようとした。
巴は木村の作成した実験体だった。機械仕掛けの身体のあらゆる箇所に生体部品を組みこみ、その耐久度を測る実験を行っていたのだ。そのことは巴当人も全く知らなかった。結局、科学部の調査は失敗に終わった。が、同時に巴自身の身体も崩壊に向かっていた。
「え、ええ。知っているわ。木村の諜報員かと最初は思ったのですけれど」
憤りのためか立ち上がりかけていた要が力なく答えて椅子に腰掛け直す。優一郎はそう、と要に頷いた。
「彼女も木村の実験体でした」
静かな優一郎の声に要が目を見開く。優一郎はゆっくりと判りやすいように要に説明した。巴の置かれていた状況について話すと要の顔が次第に歪んでいく。要は巴のことを全く知らなかったのだろう。やがてその顔が俯いた。
「でも! 彼女はまだ元気に学校に通っているではないの!」
そう言いながら要が助けを求めるように優一郎を見つめる。優一郎はため息をついて首を振った。
「寿命が尽きかけていた生体部品を全て機械に交換したんです。彼女は完全な機械人形と化すという代償を払って、存在を続けているのです」
「う……そ」
目を見張ったまま、要は掠れた声でそう呟いた。優一郎は静かに要を見つめていた。俯いていた要が顔を上げて首を激しく横に振る。だが優一郎はそれを受けて本当です、と告げた。
巴(『夢の隙間』では智美と名乗ってました)の話がちょっと出てきてます。
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栄子の延命計画 2
エロシーンはありません。
要が歯を食いしばって立ち上がる。蹴られた椅子が音を立てて倒れた。
「嘘よ! そんなことある筈がありませんわ! だって彼女は他の人と何ら変わりなく学校生活を送っているんですのよ!? 機械人形ですって!? そんな話、信じられませんわ!」
そう喚いた要のこぶしが小刻みに震えている。優一郎は黙って要を見上げた。要は半ば睨むように優一郎を見ている。
「冗談は大概になさいませ!」
「本当ですよ。強力三号の動きを見たでしょう? 姉は彼女をロボットのパイロットとして最適化改造することで、あなたに勝利したんです」
叫んだ要に優一郎は冷静に切り返した。はっと息を飲んで要が言葉をなくす。きっと先の戦いのことを思い出したのだろう。要は次第に怒りの表情になっていった。優一郎は怒りに震える要を眺めながら心の中でだけ笑った。
「あの女……! まさかそんな事をしていたとは……!」
少し前、全校を挙げて性格判断テストというものが行われた。これは生徒が普段、どんなことで思い悩んでいるか、またその解決法はないか、教師が少しでも生徒のことを理解しようという目的で行われたものだ。学校内、ということもあってか教師たちの端末のセキュリティは子供だまし同然だ。優一郎にとっては防壁にもなっていなかった。優一郎が教師たちの所有する端末のネットワークに侵入し、生徒たちの性格データを入手するのは造作もないことだった。
その結果を基に調べた。間違いなく要はヒューマノイドの機体に対する適合性が高い。怒りに震える要を眺めながら、自然と優一郎の気分は高揚していった。
「許せませんわ! あの女、彼女の弱みを握って脅したんですのね!?」
怒り狂う要の思考は独自の方向に突き進み、極論をはじき出したようだ。
「巴さんは自発的に姉に協力しているようですよ? 孤独だった彼女にとって姉は初めてまともに接してくれた人間だったようですし」
「そんなことある筈がありませんわ! あの女がまとも!? 吉良君、あなた、姉という立場のあの女を過大評価しすぎですわ! あの女はアクマ! ゲドウ! 言いようのない悪代官に決まっているんです!」
一体、何が要にそう思わせてしまうのだろう。優一郎はやれやれ、と肩を竦めて苦笑した。要はまだ絵美佳に対する罵詈雑言を吐きながら怒り狂っている。
「そもそも多輝様を陥れた辺りが最悪ですわ! よ、く、も、わたくしの多輝様を!!」
ぎりぎりと歯軋りの音を立てながら要がこぶしを震わせる。優一郎は多輝の名にぴくりと眉を上げた。次いで冷たい汗が背中を流れる。要はまだ知らない。多輝は既に女性の機体に納まっている。かつての多輝はもういないのだ。
要は絵美佳を罵りながら病室の壁にこぶしを入れた。要の打撃を受けて壁にひびが入る。相当に怒り狂っている証拠だ。それを見ながら優一郎は微かに頬を引きつらせた。きっと優一郎がしたことを聞けば、要の怒りはもっと激しくなるだろう。きっとただでは済まないな。そう思いながら優一郎は引きつった頬をさりげなく手で押さえた。
だが一つ、判ったことがある。要が多輝を思った以上に好いていたということだ。要が多輝を狙っていたということは、優一郎も噂程度には聞いたことがある。何しろ要は見目のいい男性を周囲にはべらせるのが好きだともっぱらの噂だ。ボディガードの採用の折にも、まずはその姿形で第一次審査が行われたという。
優一郎の想像していた以上に要は多輝に拘っているらしい。そのことを知り、優一郎はなるほどと心の中で呟いた。
「見てなさい、吉良絵美佳! 今度こそ必ずジゴクを見せて差し上げますわ! そして必ず多輝様を奪還してみせます!」
怒りに燃えながら要が天井に向かってこぶしを突き上げる。だがそうしていた要がふと気付いたようにこぶしを下ろした。まだ怒りの残った目で優一郎を見る。
「ところで、それとこれがどう関係ありますの?」
「話を戻していいですよね」
にっこりと笑いながら優一郎は首を傾げた。するとあら、と要が恥ずかしそうに頬を染める。失礼しました、と小声で詫びて要は倒れていた椅子を戻した。静かに腰を下ろして目を上げる。
「つまり、栄子さんの四肢に用いられているクローン合成された生体パーツを機械のパーツに交換すれば、死に至るような致命的な拒否反応は発生しないというわけなんです」
だがそうするためには栄子を説得しなければならない。リハビリなしでは機械のパーツを動かすことが出来ないからだ。本人の覚悟とやる気がなければ無理な話だ。が、当の栄子は自分が拉致されていたことを知らない。優一郎は淡々とそう説明した。要が再び顔色を青くする。
「もうひとつ、方法があります。それは機械で組み上げた身体に、脳を移植するという方法です」
言いながら優一郎は要を真っ直ぐに見つめた。要が目を見張って優一郎を凝視する。何か、言おうしているのだろう。唇が何度か開きかける。だがその度に要は首を微かに横に振って唇を閉じる。
「この方法は既に実績があります。木村の生体実験の結果、失敗作として誕生し、死にかけていたある女性を救うことに僕は成功しています」
要の混乱を鎮めるために優一郎は出来るだけゆっくりと話した。要はだが殆ど反応をしない。顔色を悪くして目を伏せている。
要にとって絵美佳は『悪』みたいです。
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栄子の延命計画 3
エロシーンはありません。
「……その話をわたくしに信じろとでも?」
ヒューマノイド工学を全く知らない人間にとって、その話はただのお伽噺に聞こえても不思議はない。実際にその学問を志した人間ですら、最初は疑心暗鬼になるものだ。だがそれでも優一郎はこのチャンスを逃す気はなかった。今、余計なショックを栄子に与えるよりもその方が確実に救うことが出来る。
だが自分は本当に栄子を救いたいと思っているのだろうか。心の底では喜んでいる自分も存在する。栄子がかつて高校に通っていた頃にまで記憶が退行していることも、優一郎にとってはチャンスとしか思えなかった。そんな自分に嫌気がさす。
「吉良君。わたくしはお母様を救ってくださったあなたのことを信頼しています。ですが、その話を鵜呑みに出来るほど人間は出来ていないわ」
そう告げながら要が目を上げる。その目は真っ直ぐに優一郎を見つめていた。これまでに見たことのないほどに真剣な眼差しだ。
「とりあえず、話を最後まで聞いてください。信じるか、信じないかはそれから判断しても遅くないでしょう?」
少なくともヒューマノイドについての説明はまだしてはいない。優一郎は真っ直ぐな視線を正面から見つめ返した。
「機械の身体に人間の脳を組み合わせた、それらの機械人間のことをヒューマノイドと呼びます」
知識のない要に判る範囲で説明するのは困難だった。だが説明なしで納得など出来る筈がない。優一郎は根気よくヒューマノイドについて話を続けた。時折、要が言葉を挟む。その度に疑問点について優一郎は判りやすい答えを提示してみせた。
その機体の強靭性。人と見分けがつかない外見。エネルギーの補充は一日に一度。機体は老いを知らないこと。つまり、若く美しい姿を保っていられる。その辺りのことを説明してから優一郎は告げた。
「もちろん、ヒューマノイド化に伴うのはメリットだけではありません。デメリットも数多く存在します」
まずはストレス値の上昇について説明する。本来、ヒューマノイドは生きた人の脳とそのシステムを直結している。だがそれ故に記憶のギャップと呼ばれる現象が発生するのだ。脳で覚えたそれとシステムで記録されたそれはあらゆる面で違ってくる。システムは紛れもなく機械だ。それ故に感情などの曖昧な記憶が出来ない。逆に脳のそれは感情などのことを記憶できる上に、忘れるということが出来る。その忘却という生身独特の能力が問題なのだ。
機械は正確にあらゆる事象を記録する。だがそこに改ざんの余地はない。人の記憶が……殊に思い出と呼ばれるそれらは時と共に姿を変え、やがては記憶している当人も気付かないままで風化することがある。機械ではそういうことはあり得ない。そこにギャップが発生するのだ。
日々、ギャップは蓄積される。そしてそのギャップこそがストレスとなって溜まっていく。ストレス値が上昇する、というのはそのギャップの積み重ねのことを指しているのだ。
ストレスを解消するためにはどうするか。生身の人間であればあらゆる解消法があるだろう。だがヒューマノイドのそれは一点に集約される。それこそが女性しかヒューマノイドの機体に適合できない理由だ。
「ヒューマノイドを維持するためには性的な快感を定期的に与える必要があるんです。人間が食事や睡眠を必要とするように、ヒューマノイドは自慰やセックスと必要とします」
要が唖然となって口許を押さえる。その頬は真っ赤に染まっていた。
「せっ、性的な、快感って……でも、それは」
それまで平静だった要が見た目にもはっきりとうろたえる。優一郎はだが真面目な顔で頷いた。これまで幾度となくこの説明はしてきた。ちなり、カレン、保美、そして多輝。彼女たちもやはり、話を聞いた時に要と似たような反応をした。
「それだけじゃありません。ヒューマノイドは人と違って完全に自律して行動することができません。彼女達が身体を維持するためにはメンテナンスなど、他者からの奉仕行為を必要とします」
要は常に周囲に男性をはべらせている。ボディガードたちも含めて彼らを無駄に集めている訳ではないだろう。間違いなく要は彼らに性的な奉仕をさせている。優一郎はそう確信していた。先の性格診断テストでもその結果は如実に現れている。だがその反面、要は何者かに支配されたがっているのだ。
説明を聞いた要は真っ赤になったまま呟いた。奉仕、と口の中で告げる。
それから優一郎は別のデメリットについても説明した。機体維持には性的快感が不可欠だ。が、それ故に女性器はよく故障する。人を模していてもヒューマノイドには治癒能力がない。壊れたら修理が必要になる。もっともそれは、他のパーツについても同様だ。
「ヒューマノイドの制御装置は性器です。ヒューマノイドが完全にその能力を発揮するには度々性器を晒して各種の制御スティックを挿入したり交換したりしなければなりません。故障したら修理も必要です。もちろん性的な快感を入力する必要もあります」
聞いていた要の目が次第に興奮してくる。きっと自分の女性器にスティックを挿入するところを想像しているのだろう。優一郎と目が合うと慌てて視線を避ける。優一郎は微かに口許に笑みを浮かべた。
「もちろん、全てのヒューマノイドがそのような理想的な状態におかれているわけではありません。奉仕作業を受けられる状況は限られますからね」
「だっ、大丈夫ですわ! わたくし、それには自信がありますの!」
声を裏返らせて要が即答する。優一郎は瞬きをして要を見た。次いで苦笑して首を振る。
「もし、必要なら要さんのご相談にものりますけど、今は栄子さんの今後について、話合いましょう」
慌てたように要が周囲を見回す。そして要は真っ赤になって顔を伏せた。スカートを強く握り締めている。その手が小刻みに揺れている。優一郎は口許に微かな嗤いを浮かべ、要を見つめていた。
栄子と要の運命はいかに!
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九章
面倒だっただけなのに 1
汗を拭ったタオルを洗濯用のかごに放り込む。多輝は鼻歌を歌いながら結わえていた髪を解いた。ゴムを別のかごに放る。頭を振ると一まとめにしていた長い髪が肩に零れて落ちた。
今日は蒼から一本取れた。この間のようなおまけのようなそれではない。きっちりと蒼を倒すことが出来たのだ。蒼もそんな多輝を手放しで誉めた。多輝はそのことを思い出しながらにやにやと笑った。機嫌よくシャツを脱ぐ。機体には幾つかの痣がある。多輝の機体は他のそれよりはるかに金をかけられている。そのため、機体は殆ど人と同様の働きをするのだ。動けば汗もかくし、酷く打てば痣になる。だが多輝はそれがヒューマノイドとしては特別なのだと気付いていなかった。あー、と言いながら痣を触る。
「あの時かあ。派手にぶつけちまったからなあ」
腕に出来た痣を手でそっと包む。目を閉じて意識を集中させる。すると見る間に多輝の痣は消えた。龍神としてのばかげた治癒能力が機体を修復したのだ。
胸を覆うブラジャーを取る。軽くかごに放り込んで続いてジーンズに手をかける。多輝の服は刀であちこちが破れていた。蒼に付き合ってもらうようになってから毎日のように服が駄目になる。だが多輝はそれを気にしていなかった。大きな裂け目の出来たジーンズを脱いでかごに放る。
不意に扉が鳴る。多輝は間延びした返事をしながら最後に残っていた下着を取った。ドアが静かに開く。
「失礼致します、多輝様。そろそろ夕食の準」
そこで蒼が言葉を途切れさせる。多輝はあー、と言いながら振り返った。どうしたんだろう。そう思いながら蒼を見る。蒼はドアのところで硬直していた。
多輝は夕闇の中で白い裸体を晒していた。ひきしまった身体が窓の向こうの夕日に映える。固まってしまった蒼に近づき、多輝は顔の前で手を振ってみた。
「おーい、蒼? どうした? 大丈夫か?」
「……お召し物はどうなされました」
強張った顔のままで蒼が呻くように告げる。もしかして怒ってるのか。そう思いながら多輝は部屋の中を指差した。するとなるほど、と蒼が呟く。だがその顔は納得している様子がない。怪訝に思いながら多輝は顔をしかめた。
「これから風呂に入ろうかなって思ってさ。脱いだんだけど?」
「何ゆえ、お部屋で」
もしかしてバスルームで脱げと言いたかったのか。多輝はぽん、と手を打って笑った。
「ごめん。面倒だから脱いで行こうって」
「多輝様」
多輝の言葉を遮って蒼が低い声を出す。多輝は不思議な気分で蒼を見つめた。蒼の顔にいつもの静かな表情が戻ってくる。優雅に身を折って蒼は告げた。
「いつ、お客人がこられるかもわかりません。次からはバスルームでお脱ぎになるのがよろしいかと」
「あ、そっか。悪い悪い。今度から気をつけるってば」
笑いながら多輝はすれ違いざまに蒼の肩を軽く叩いた。裸のままで廊下に出る。が、その時、後ろから多輝の肩を何かがつかんだ。訝りながら振り返る。するといつの間にかそこには立城がいた。にっこりと笑いながら多輝の身体を眺めている。
「多輝。行儀が悪いね。怒るよ?」
言われた多輝は引きつりながら後ろに下がろうとした。が、意外な力で肩をつかまれているために動けない。立城はにこにこと笑いながら多輝と蒼を見比べた。蒼が恭しく立城に礼をする。にっこりと笑ったままで立城は蒼に軽く手を上げてみせた。
「だってさあ。面倒くさくて」
唇を尖らせて多輝はそうぼやいた。どうせ破れた服はごみにしかならない。それなら部屋で始末した方が早いというものだ。立城の笑顔に押される格好で多輝はそう説明した。だが立城の笑みは頑として崩れない。
「そ、そんなにまずいか?」
多輝は胸を腕で隠して周囲を見た。が、屋敷は平穏そのもので特に変わったことはない。階段の下を奈月が買い物かごを片手に小走りに駆けている。それを見てから多輝は立城に目を戻した。
背筋が寒くなる。多輝は立城の絶妙な笑み加減に硬直した。
「それは僕に抱けと言っていると判断するけれど構わないね?」
「いや、あの、違う!」
確かにヒューマノイドの機体の維持にはある程度の性的快感が必要だ。だが今はストレスが溜まっている訳ではない。多輝は慌てて首を横に振った。だが立城はそんな多輝の両肩をしっかりとつかんで笑っている。
「蒼。僕と多輝の夕食は後回しにしてくれと料理長に伝えてくれる?」
「かしこまりました」
蒼が静かに一礼して背を向ける。多輝は蒼に必死で助けを求めた。が、蒼は振り返らない。
「ふうん。少しは成長したのかな? 以前より垂れ流し度が下がっているね」
耳元で声がする。そう思った瞬間、多輝は声を上げて仰け反った。立城が唐突に機体の中に手を突っ込んだのだ。多輝の胸に立城の手首までが埋まっている。なのに機体は全く傷ついていない。
「蒼も気長に付き合ってくれているようだから、僕が特にすることはないかな」
言いながら立城が手をひねる。多輝はがっくりとその場に膝をついた。痛みと快楽が同時に襲ってくる。じゅうたんの赤い色が目に飛び込んでくる。多輝は荒く息をつきながらじゅうたんに手をついた。立城はあわせるように屈んで多輝の胸の中を弄っている。
蒼が微妙に不憫で……w
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面倒だっただけなのに 2
あ、エロシーンはないです。
唐突に激しい欲望が心の底からわいてくる。多輝は声を上げて廊下に座り込んだ。さっきまでは何ともなかった下腹部が熱を持っている。多輝が座ったその場所のじゅうたんが色濃く染まっていく。強制的に欲情させられ、多輝は膣口から愛液を大量に漏らしていた。
「半分くらいは使えるようになっているかな」
立城の声が遠い。多輝は目を潤ませて手をゆるゆると上げた。立城のシャツをつかんで肩に頭をもたせかける。近づいたことで立城の手は肘まで多輝の機体の中に埋まった。
それからのことはよく覚えていない。気がつくとベッドの中だった。多輝はぼんやりとしていた目をこすり、周辺の様子を伺った。天井の明かりは煌々と灯っている。窓には分厚いカーテンが引かれ、外の様子は全く見えない。が、恐らくは夜になっているのだろう。
何だか身体がだるい。多輝は深々と息をついて枕に頭を乗せ直した。ベッドの脇には蒼がいる。
「おい、いま何時だ?」
「夜の十二時前です」
淡々と蒼が答える。まるで何事もなかったかのような顔だ。そりゃそうか、と多輝は心の中で呟いた。苦笑して目を手で覆う。
多輝は龍神だが今の身体は紛れもなくヒューマノイドのそれだ。機体維持のためにはどうしても性的快感が必要となる。多輝の機体も他のヒューマノイドと同様に欲情しやすく作られている。
だがその説明を誰から聞いたのかを思い出せない。多輝は息をついて手の中で目をあけた。指の隙間を通った光が見える。すけた手のひらの縁がオレンジ色になる。
ふと前に訪ねて来た優一郎のことを思い出す。一度会っただけなのに近頃妙に思い出すことが多い。立城を思わせる穏やかな笑い方が印象的だった。だが言葉はさほど交わしてはいない。せいぜい、荷物を入れるために二、三の質問をした程度だ。ごく日常的なそれだけの会話をしただけなのに、どうしてこんなに今になって気になるのだろう。多輝は顔をしかめて手を退けた。一気に明かりが目に飛び込んでくる。
「なあ、蒼。一目惚れって信じるか?」
多輝のために茶を淹れようとしていたのだろう。蒼はテーブルに向かっていた。呼ばれて振り返る。
「さあ、わたくしには判りかねますが……」
困ったように首を傾げている。そうだよなあ、と多輝は同意した。蒼は使い魔だ。使い魔は作り主である龍神に絶対の忠誠を誓う。そしてそれは死ぬまで続く。それが使い魔というものだ。そんな蒼に訊ねたところで答えは出ないだろう。
「だよなあ。でも、おれも変だと思うんだ。一目惚れなら見た時から気になるもんだろうし」
誰に聞かせるでもなく多輝はそう呟いた。のろのろと身体を起こす。蒼が差し出したカップを手に取る。多輝は熱い紅茶を一口啜り、傍に立つ蒼を見上げた。
「ですが、見た瞬間はそう気にならなくとも、後にその方のことを思い出して一目惚れだと気付くこともあるかと」
蒼が静かに告げる。それはまさに今現在の多輝の心境を言い表している。そうか? 多輝は眉間に皺を寄せてそう答えた。腕組みをして唸る。
だがたとえ気になったとしてもまた会う方法が判らない。多輝は真剣に頭を抱えて悩み始めた。先の一目惚れかどうかという疑問すら気にならなくなる。会えないと思うと余計に会いたくなる。
「それより多輝様。お食事はどうなさいますか? おとりになるのでしたら運ばせて頂きますが」
「あ、うん。頼む」
蒼に返事しつつも多輝は全く別のことを考えていた。優一郎が訪ねてきた時のことを思い出してみる。優一郎を連れて立城の執務室に荷物を運び入れた。ここまではいい。その後、立城がいらぬちょっかいを出してきたため、多輝は優一郎のことを気にする余裕がなかった。
静かに蒼が部屋を出る。だがそのことに気付かないほど多輝は自分の考えに没頭していた。確か、誰かが入ってきて。そこまで考えた時、短い声を上げて多輝は顔を上げた。そう、由梨佳があの時に現れたのだ。
「母さんって言ってた。もしかして、あいつってば由梨佳先生の子供なのか?」
それならもしかした会えるかも知れない。由梨佳に頼んで引き合わせてもらえばいいのだ。問題は学習期間がまだ終了していないことか。多輝は自分でも気付かないうちに爪を強く噛んでいた。ぎり、と奥歯が嫌な音を立てる。無意識に多輝は歯軋りしていた。
「失礼いたします。お食事を持って参りました」
静かにドアが開いて蒼が戻ってくる。多輝は目だけで返答した。すると蒼が眉を寄せる。食事の乗ったワゴンをテーブル脇に据えて多輝の傍に近づく。
「いけません、多輝様。爪の形が悪くなってしまいますよ」
多輝の右手をそっと握り、蒼は首を横に振った。多輝は慌てて手を布団の間に隠した。考え事をしている時に爪を噛む癖は前から蒼に注意されている。多輝は反射的にごめん、と詫びた。すると蒼が柔らかな微笑を浮かべる。
主とえらい差だよなあ。食事の準備をし始めた蒼の後姿を見ながら多輝は感心して頷いた。蒼の主は水輝だ。多輝は水輝のことをよく思っていない。だが蒼は主とは全く正反対の性格をしているように思える。でなければわざわざ多輝に戦い方を教えてくれる筈がない。
「準備が整いました。お起きになれますか?」
「大丈夫」
軽く答えてベッドから飛び降りる。多輝は空腹を満たすためにテーブルについた。
記憶がなくなってるので仕方ないですね!w
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こんな時でも要は通常営業
エロシーンはありません。
その日の夜、如月家の電話機はものの見事にぶっ壊れた。要が怒りに任せて電話機を叩き割ったのだ。要はその時のことを思い出しながら苛々と通学路を歩いていた。今日は車で出る気分ではなかった。早朝、道を行く人たちは少ない。要は胸中で文句を言いながら信号を渡った。
あの夜、要は父親に電話を入れた。栄子の容態を知らせるためにかけた電話に父親はそれ以上はないほどのんびりと出た。そもそも、妻が拉致され、さらに怪しげな研究所らしい場所に監禁され、助けた時には記憶が退行していたというのに、この父親はそんな栄子を一切、心配しなかった。それだけでも要には許しがたかった。一体、あなた方は何のために夫婦になったんですの。油断するとそう言ってしまいそうだった。
栄子の手足は別の誰かのものになっている。要は苛々しながら父親に今の栄子の状態を説明した。殆ど優一郎の受け売りとなってしまったが、それが一番わかりやすいだろうと判断したのだ。
さすがにこれはお父様も心配なさるに違いないわ。家族の同意が必要だという優一郎の言葉は忘れてはいない。が、せめて心配くらいしてもいいではないか。そう思いながら要は父親の返事を待った。
いいんじゃないか? その方が栄子にもいいんだろう?
父親の返事は驚くほどあっさりしていた。ヒューマノイドのメリットとデメリットについて要はきちんと話をした。それなのに父親は動揺することもなく、栄子のヒューマノイド化にすぐに同意したのだ。
「まったく……お父様もお父様ですわ! そりゃ、わたくしだってお母様が生きている方がいいと思いますけれど」
苛立っていた要は自然とそう呟いていた。幸い、傍には誰もいない。要は思う存分に父親に対する文句を呟いた。電話を壊したあの夜、執事は飛び上がるほど驚いていた。すぐに新しい電話機が用意されたが、執事はくれぐれも壊さないようにと要に注意した。あの執事が要に意見するのは珍しい。よほど要の出血が気になったのだろう。要はふん、と鼻を鳴らして包帯の巻かれた手を見た。
何事もなく要は学校についた。今日はどうしても外せない用事があるので栄子の見舞いには優一郎に代わりに行ってもらっている。要はため息をつきながら生徒会室に向かった。
そろそろ冬も本格的になってきている。北の方では雪も降っているらしい。要は飛んで来る挨拶に応えながら生徒会室に入った。既にボディガードの周藤と野木が生徒会室に控えている。
「おはようございます、要様」
二人が同時に頭を下げる。要はおはよう、と答えて席についた。傍に寄ってきた周藤に鞄を預け、野木にコートを差し出す。二人は手際よく要の荷物を片付けた。
いつから夫婦の間が冷え切ってしまったのだろう。先日の会議の議事録に目を通しながら要はふと考えた。父と母がすれ違うようになってから随分と経つ。父は一年のうち、殆どの日を海外で過ごしている。対する母はずっと会社で働き詰めだ。要はここ数年というもの、二人が会話をしている姿を見たことがない。
だが父は父、母は母だ。要は二人に干渉は一切しなかった。母がたとえ外で別の男と逢引していようと、父が複数の女性と生活していようと、気にしないようにした。自分には自分の人生がある。それと同様に彼らにも彼らなりの人生がある。そう思ったのだ。
でも、こんな時くらい心配したっていいじゃない。要はいつの間にか怒りの形相になって手にした議事録を握り締めていた。怯えた表情で野木があの、と声をかける。要は反射的に野木を鋭い眼差しで睨みつけてしまった。
「あ、あの、要様。そろそろお時間でございますが……」
「はっ! そうね! うっかり忘れるところだったわ」
そう言いながら要は握り潰した議事録を野木に差し出した。野木が恐々とそれを受け取る。要は机の引出しを開けて双眼鏡を取り出した。
近頃、側近たちの顔ぶれは全く変わっていない。様々なことが立て続けに起こったため、選んでいる余裕がなかったのだ。それに第一候補であった多輝は行方をくらましたままだ。要はため息をついて窓に向かった。
双眼鏡を覗き込む。生徒会室からは校舎の入り口がよく見える。生徒たちはここを通らなければ登校できないのだ。要は真剣に生徒たちの顔を見つめた。これは駄目、あれも駄目、と次々に男子生徒を検分する。
こうして思えば順が訪ねてきた日々はそれなりに退屈しなかった。要はまだこの時に至っても順が原因で栄子がああなってしまったのだと確信できなかった。優一郎の言っていることは確かに間違っていないのだろう。現に栄子も大変な状態になっている。そして栄子が拉致された時に姿を現したきり、順はまた要の許を訪れなくなった。
いつものだらしない笑みと、あの夜の真剣な顔の差は激しかった。そして要はそんな順をずっと気にしていた。だが例えもう一度会ったとしても前のように接することは出来ないだろう。きっと自分は順に真っ先に噛み付き、例の件の犯人として警察なり何なりに突き出すに違いない。だがそう判っていても要の目は自然と順を探していた。
もう少し、話をしておくんだったわ。そうしたらお母様はあんなことにならなかったかも知れない。先に自分が順の正体に気付いていれば。だがそれらは全て要の妄想に過ぎない。例え話す機会が多かったとしても、正体が判ったかどうかは定かではない。ひょっとしたら更に目を曇らされていたかも知れないのだ。要はため息をつきながら双眼鏡を下ろした。
「……要様?」
心配そうに周藤が声をかけてくる。要は何でもないのよ、と微笑んでから双眼鏡を再び目にあてがった。一人の男子生徒を見つめる。これは確か去年、見切ったのでしたわね。要はそう口の中で呟いた。次の生徒を探そうと双眼鏡を動かしかける。だが要はその寸前で眉を寄せた。先の生徒が目を見張って何かを見ている。要は怪訝に思いながらその生徒の視線の先へと双眼鏡を向けた。
それを見た瞬間、要は息を飲んだ。一人の少年がプリントを片手に歩いている。その少年の容姿は驚くまでに整っていた。これまでに要が見てきたどんな生徒より整った容姿だ。端正な面立ちはどこか皮肉な印象がある。強いて言えば多輝に雰囲気が似ているだろうか。要の手は自然と震え始めていた。
「野木! 周藤!」
要は声を張って二人を呼んだ。はっ、と声を揃えて二人が要の足元に跪く。要は双眼鏡を下ろして振り返った。
「即刻、脱靴場に向かいなさい! 学生服の違う男子生徒を捕まえてくるのです!」
「はい!」
二人が同時に生徒会室を駆け出していく。要は双眼鏡を片手に低く笑い始めた。ひとしきり笑ってから口許に手をあてがって高笑いする。
見つけましたわ! わたくしの王子様!
要の高笑いが廊下まで響く。廊下を歩いていた生徒たちがそれぞれ、顔をしかめて生徒会室の前を過ぎる。
いつでもどこでも要ですw
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問題児(?)の転入
エロシーンはありません。
プリントに目を落として水輝は小さく笑った。相変わらず清陵高校のシステムは変わっていないらしい。転入手続きは事務室で行われるが、説明等は生徒会役員が行う。転入した生徒がどのクラスに入るかを決めるのは生徒会の仕事だ。そしてその生徒に最適と思われるスケジュールを組む。立城がかつて作り上げた独自のシステムはまだ生きている。
水輝はかつて通ったことのあるこの高校の制服を持っていた。が、今回は転入生ということになっている。幾種類か持っている制服の中から水輝は黒い学ランを選んで着ていた。転出先を適当に決めて書類を作るのは造作もない。
真っ白な校舎が目の前にそびえたっている。硝子張りの脱靴場は生徒たちの声で賑わっている。水輝は軽い足取りで硝子の扉をくぐった。鞄からスリッパを出して履き替える。
学年は三年だったな。呟きながら水輝は真っ直ぐに事務室を目指そうとした。だがそんな水輝の目の前に生徒たちの波をかき分けて二人の生徒が立ちはだかる。水輝は片方の眉を上げて彼らを見た。
二人は並んで水輝を検分するように見つめている。男子生徒の二人連れの片方は鍛え上げられた体格をしていた。一方は細身ではあるが、こちらもしなやかな体躯をしている。どちらも格闘には自信があるのだろう。当り前のような顔をして水輝の行く手を阻んでいる。
「遊んでいる暇はないんだけどな。退け」
周囲には通りかかった生徒たちの輪が出来上がっている。どうやらこの二人は学内でもよく知られているらしい。ふうん、と水輝は呟いて周囲を見回した。今から何か起こるのではないかと思っているのだろう。生徒たちの顔はどれも期待に満ちている。
「一緒に来てもらおう」
水輝の身長は一七〇と少しだ。そんな水輝を腕組みをして見下ろしながら片方の生徒が言う。ゆうに一八〇センチは越えているだろう。筋肉質な体格の方の生徒を見上げて水輝は微かに唇を歪めた。
「嫌だって言ったら?」
観客が増えてきたなあ。のんびりとそんなことを考えながら水輝はもう一方の男子生徒を見た。細身の生徒が即答する。
「無理にでも来て頂きます」
予鈴が鳴る。水輝は小さく舌打ちをして鞄を片手に抱え直した。プリントをポケットに突っ込む。空いた片手を軽く振ってから握る。
「やれるもんならやってみろ」
生徒たちの輪から歓声が上がる。よくよくトラブルが好きだなあ。水輝は内心でその声に返してから目の前の二人に一歩、近づいた。二人が顔を見合わせて同時に動く。水輝は両側から伸ばされた腕を軽く身体を捻って避けた。
「悪いな。ちょっと持っててくれ」
二人の間を抜けて水輝は見知らぬ女子生徒に鞄を差し出した。群集の中の一人だった女子生徒が頬を染めてそれを受け取る。水輝の背後でよろけた二人が一斉に飛び掛ってくる。
「ついでに電話番号とか教えてくれてもいいぜ?」
鞄を渡した女子生徒に笑みかけながら水輝は右の肘と左のこぶしを同時に放った。肘が筋肉質な方の生徒の鳩尾に、左の裏拳が細い生徒の胸部に命中する。水輝は女子生徒に笑いかけたまま、どう? と訊ねた。女子生徒が慌てたように水輝の背後に視線を飛ばしている。二人の男子生徒はものの見事に床にひっくり返っていた。
「あの、後ろ……」
女子生徒が震える声で告げる。水輝はため息をついて振り返った。倒れた二人がよろけながら立ち上がる。水輝は舌打ちをして二人に向き直った。
「トンファー、か」
黒い鋼の武器を手に細身の生徒が身構える。もう片方の生徒はナックルを嵌めている。やれやれ、と肩を竦めて水輝は軽く床を蹴った。黒い影が身体を沈めた水輝の頭上を行過ぎる。水輝はトンファーの描く軌跡を見切って細身の生徒の左腕をつかんだ。同時に左の肘を強く打ち上げる。
一方の生徒には水輝の足刀がきまっていた。口を大きく開き、目を見張った生徒が崩れ落ちる。水輝と殆ど密着していた生徒の方は寄りかかるようにして意識を失っていた。
「全く……。武器を出すくらいならもう少しちゃんと攻撃して来いよ」
言いながら水輝は寄りかかっていた生徒を床に放り出した。振り返ってゆっくりと歩く。生徒たちの輪は静まり返っている。水輝は無言で女子生徒の腕の中から鞄を取り上げた。
本鈴が鳴る。水輝は平然と輪を横切って事務室に向かった。手続きを済ませて先ほどの輪の中に取って返す。二人はまだ倒れている。水輝はため息をついて鞄を背負った。空いた両手でそれぞれの襟首をつかむ。
階段を上がる水輝を生徒たちは遠巻きにしていた。早く教室に行けよ。本鈴聞こえなかったのか。水輝は周囲にいる生徒たちに何度かそう声をかけた。やがて生徒たちが散り散りにいなくなる。二人の生徒を引きずって水輝はそのまま四階に上がった。
足でドアを開ける。水輝は真っ先に二人を生徒会室に放り込んだ。生徒会室には女子生徒が一人いた。窓辺に立った女子生徒が唖然とした顔になっている。床に転がされた二人が微かに呻く。水輝は顎をしゃくって不機嫌に告げた。
「で? おれってどこのクラスだ? 生徒会長さん」
元々、水輝は清陵高校の生徒会役員だった、という過去があったりなかったりします。
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ちなりと巴のバトル開始? 1
エロシーンはありません。
これまでに遣ったタクシー代のことを思い、絵美佳は財布を覗き込んでため息をついた。その隣でちなりが目を潤ませる。
「ごめんね、ごめんね、ちなりのせいでお金いっぱい遣わせて!」
ちなりは今にも泣きそうな顔で絵美佳に迫った。狭い後部座席で擦り寄られ、絵美佳は必然的に窓の傍に追いやられた。タクシーの運転手があはは、と気楽な笑い声を上げる。
「気にしなくていいぜ」
にっこりと笑いながら絵美佳は内心で優一郎を罵倒していた。絶対に必要経費は後で請求してやる! そう、心の奥で誓う。だがまだ気が治まらないのか、ちなりはごめんなさい、と詫びている。
「ははは。こんな可愛いお嬢ちゃん相手じゃ、見栄の一つも張りたくなるわなあ。坊主」
呑気に笑いながら運転手がそうコメントする。絵美佳は困ったように笑ってちなりをさりげなく押し戻した。このまま接触していたらちなりは欲情してしまうだろう。現に絵美佳に迫りながら陰で手が動いていた。もう少しで股間を握られるかと思った。絵美佳は愛想笑いを運転手に返し、ちなりに視線を向けた。
「よかったな、ちなり、可愛いってさ」
手を伸ばしてちなりの頭を軽く撫ぜる。ちなりはえへへ、と笑って頷いた。
昨日、由梨佳は絵美佳に思う存分に快楽を与えられて正気に戻った。作業の手は止まらなかったから恐らく機体の方は充分に満足していたのだろう。だが由梨佳はそれから殆ど喋らなかった。真也に真実を言い当てられたことがよほど堪えたのか、それとも絵美佳に犯されたということがショックだったのかは判らない。絵美佳は窓から外を眺めながらその時のことを思い出していた。
ちなりは無事に修理され、こうして意識を取り戻している。それは単純に良かったと思う。だが絵美佳は複雑だった。ちなりのことはいい。修復作業は大成功だったと言える。だが当の作業にあたった由梨佳の方はずっと落ち込んでいる様子だった。
事実を言い当てられたことがそんなにショックだったのか。絵美佳は作業中の由梨佳にそう訊ねた。が、答えはなかった。由梨佳は力なく笑っただけで解答を避けたのだ。
「ところでもうこんな時間だが、お嬢ちゃんたち遅刻じゃないのかい?」
運転手がそう言って笑う。するとちなりが運転席に乗り出して頬を膨らませた。途端に運転手が息を飲む。室内ミラーにちなりの胸の谷間が大写しになる。
「えー。ちなり、学校に行くだけでも凄いんだもん。ずっと行ってなかったんだもん。だからいいの!」
答えになっているんだかいないんだか判らない返事をする。そうしながらちなりは横から運転手の顔を覗き込んだ。にっこりと笑いながら運転手の肩に手をかける。やれやれと苦笑して絵美佳はシートに深く沈みこんだ。疲れがどっと押し寄せてくる。
あの変態空耳野郎のせいだ。絵美佳は内心でそう呟いた。すると心の底で不服そうな声が上がる。前は気のせいで済んでいたその声は、あの時を境にはっきりと聞こえるようになった。
変態はないだろ、変態は。そう声が告げる。絵美佳は大きくため息をついて心の奥底にその声を沈めた。すっかり慣れてしまっているのだろう。声は絵美佳の意志に従って大人しくなる。
「ねぇ、運転手さぁん。サービスするからぁ、タクシー代、おまけしてよぅ」
甘い声で言いながらちなりが運転席と助手席の間に身体を滑らせる。さっきまで呑気に笑っていた運転手が生唾を飲む音がはっきりと聞こえた。
「お、お嬢ちゃん、冗談言っちゃいけないよ。ほら、彼氏が見てるじゃあないか」
力なく笑いながら運転手が室内ミラーを覗く。絵美佳は不機嫌に腕組みをして膝でちなりの尻を軽く叩いた。
「ちなり。いいから、やめろ」
「えー、だってぇ。ちなり、こういうの得意なのにぃ」
拗ねた顔でちなりが振り返る。運転手がほっとしたような残念そうな顔になる。絵美佳は舌打ちをしてちなりのミニスカートを引っ張った。後部座席に座らせて細い肩を抱き寄せる。
「お前は俺のだから、ダメなの」
ちなりの耳元にそう囁く。するとちなりは嬉しそうに顔をほころばせて絵美佳に擦り寄った。腕の中でうっとりと目を閉じるちなりを見た後、絵美佳はミラーに再度目をやった。困ったような顔をしている運転手に薄い笑みを向ける。
「お嬢ちゃん、あんまりおじさんをからかわないでくれよ」
情けない顔で笑いながら運転手がハンドルを切る。どうやら完全に諦めたようだ。それを見取った絵美佳は改めてちなりの肩を強く抱いた。腕の中でちなりが猫のように丸くなる。
タクシーが校門の前で停まる。絵美佳は支払いを済ませてちなりの手をつかんだ。手を繋いだまま歩き出す。窓を開けて運転手がちなりに声をかけた。
「お嬢ちゃん。あんまり彼氏を困らせないようにな」
元々、人がいいのだろう。運転手はそう言って手を上げて去っていった。ちなりがはーい、と元気に返事をしてタクシーに手を振る。絵美佳はやれやれと肩を竦めてまた歩き出した。
休憩時間に入ったためか、生徒たちの声が校舎内から聞こえてくる。絵美佳はさりげなく教師たちの目を避けて地下室に向かった。今日はロボットも学校を休んでいる。ちなりの修理のためにそちらに気を払うことが出来なかったからだ。
地下へ続く扉をくぐって研究室に向かう。ちなりは珍しそうにあちこちを見回している。あんまりうろちょろするなよ、と言い残して絵美佳はちなりの手を離した。
気の毒な運転手さん……。
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ちなりと巴のバトル開始? 2
エロシーンがちょっとだけあります。
「ねえ、羅木くーん。そういえば」
「あっ、羅木先輩! おかえりなさい!」
同時に前と後ろから声がかかる。絵美佳は交互に彼女たちを見てああ、と手を上げた。が、彼女たちは互いの顔を見合わせて硬直している。ちなりはうろんな眼差しで巴を見つめ、巴は驚いた顔でちなりを見ている。
「ちょっとぉ……。何なの、あんた!?」
先に反応を示したのはちなりだった。不機嫌そうに顔を歪めて大股で巴に近づいていく。研究室から出たばかりだった巴は目を丸くしてうろたえた。
「あの、え!? ええっと、あなた、誰?」
「訊いてるのはちなりなの! あんた、羅木くんのナニ!?」
言い合いを始めた二人をのんびりと横目に眺め、絵美佳は研究室のドアを開けた。まさかしょっぱなから鉢合わせになるとは思わなかったが、丁度いい。どうせこれから二人は始終、顔を合わせることになるのだ。
ドアを静かに閉める。廊下ではちなりの金切り声が響いている。どうやら巴も応戦することにしたらしい。それに応えて上ずった声が響く。やれやれ、と肩を竦めて絵美佳は端末に向かった。
生徒たちの出欠状況は生徒会の管理するメインコンピュータに入力されている。毎朝、ホームルームを終えた担任たちが各自の端末に入力、そのデータは逐一メインコンピュータに送られる設定だ。そして絵美佳は生徒会のメインコンピュータへ不正アクセスする経路を確保している。絵美佳はのんびりと端末の電源を入れ、キーボードを叩いた。
見慣れた画面が切り替わる。生徒たちの出欠表がずらりと表示される。その中から絵美佳は優一郎のクラスのそれをピックアップした。画面に二列の表が出る。絵美佳は目を細めて優一郎の名前を見た。
吉良優一郎、病欠。絵美佳はそれを見て目を細めた。廊下からはまだ言い争いの声が聞こえている。絵美佳はドアをちらりと見やってから画面に目を戻した。
とりあえず今日はいないのか。それとも研究室にこもっているのか。どちらにしろ、学校に出て来ない優一郎と会うことは難しいだろう。絵美佳は低く呻いて胸のポケットに手を伸ばした。無意識に伸ばした指がポケットの中を空振りする。そこで絵美佳は我に返った。どうやらもう一人の方の癖が出てしまったらしい。
「羅木くぅん! 夕食は何がいい?」
言いながらちなりが研究室に飛び込んでくる。そのすぐ後から巴も入ってくる。
「鍋が食いたいな」
「鍋ですね! 判りました!」
今度は巴が返事をする。二人は互いに顔を付き合わせて同時にそっぽを向いた。そのまま研究室を駆け出して行く。二人の後姿を見送りながら絵美佳は小さく笑った。きっと今日の夕飯は二食分が目の前に並ぶのだろう。一体、誰がそんなに片付けるんだか。そう呟いて画面に目を戻す。
これ以上、出欠表を眺めていても仕方がない。絵美佳はキーボードを弾いて別のウィンドウを開いた。兼ねてから実験しようと思っていたのだ。表示された設計図と画面の隅の時計を見比べる。これなら何とか間に合うだろう。
昼の休憩が終わり、巴が教室に戻る。ちなりは今日は地上に戻るつもりはないらしい。絵美佳の傍で嬉しそうにしながら手伝っている。絵美佳は白衣を着たちなりに指示をしながらとあるものを作っていった。
部員の人数分のそれが出来上がったのは放課後になってからだった。科学部の部員たちが次々に地下に入ってくる。その中に巴の姿もあった。絵美佳はさりげなく巴だけを呼んでこっそりと実験内容を耳打ちした。途端に巴が真っ赤になる。が、巴は判りましたと返事をして研究室を出て行った。
科学部の部員たちは絵美佳が男になってしまったことを知っている。知らせた当初、彼らはとても動揺した。が、すぐに納得した。何故なら絵美佳の奇行は今に始まったことではないからだ。故に絵美佳は地下ではわざわざロボットを使う必要がない。白衣に身を包んだ部員たちを眺め、絵美佳はにやりと笑った。
部員の数だけ椅子を並べたのはちなりだ。部員たちは見慣れないちなりに不思議そうな顔を向ける。その度にちなりは愛想よく笑って自己紹介をしていた。科学部に新しく入った悠波ちなりでえっす。何度かその声が聞こえてくる。
やがて椅子が並んで部員たちがそれぞれに座る。絵美佳が着用を命じた特殊機能付きの下着を各自は身につけている筈だ。ちなりは出しっぱなしになっていた試験管などを洗っている。巴は研究室の隅の端末に張り付いている。準備は整った。絵美佳は窓辺から離れて部員たちの前に立った。
「今日の実験内容はわかってるわね? 決して、早漏君コンテストではないので注意するよーに」
そう告げると椅子に腰掛けた男子部員たちが顔を見合わせて困ったように笑う。女子部員たちは一様に真っ赤になった。だが笑っていられるのは今のうちだ。絵美佳は巴に目で合図を送って静かに歩き出した。鼻歌を歌いながら試験管を洗っているちなりに近づく。
後ろから近づいてちなりを抱きしめる。ちなりは驚いたように手を止めた。えっ、と声を上げて肩越しに振り返る。
部員たちには下着の着用と同時にある指示を出している。絵美佳の作った試薬を飲むこと。カプセルに入ったそれはもうすっかり胃で溶けている筈だ。絵美佳は薄く嗤いながら部員たちを眺めた。落ち着いた顔をしている男子部員たちと困ったような顔で見ている女子部員たちを見比べる。
「あ、あの、羅木くん? どうしたの?」
ちなりには何も知らせてはいない。部員の数だけ椅子を並べてくれと頼んだだけだ。ちなりはうろたえながらも試験管洗いを再開した。絵美佳は小さく笑ってちなりの白衣に手をかけた。ボタンの外れた白衣の内側に手を入れる。
科学部の部員たちはこうした絵美佳の行動に慣れている。だがそれでも動揺したのだろう。巴が静かに彼らの状態を報告する。彼らの身につけた下着からは細いコードが伸び、それは絵美佳の作った箱状の機械に繋がっている。そしてその機械は有線で端末と接続されているのだ。
「あっ、ちょ、ちょっと、羅木くん! みんなが見てるよっ」
それまで平静を装って試験管を洗っていたちなりが慌てた声を上げる。絵美佳が唐突に胸を弄ったからだ。
さわっとだけエロですw
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ちなりと巴のバトル開始? 3
エロシーンありです。
「見られるのは嫌?」
ちなりの耳元にそう囁きながら絵美佳はにやりと笑った。するりとブラウスの隙間に指を忍ばせる。肌とブラジャーの隙間を探り当て、絵美佳はちなりの乳首をつついてみせた。びくりと震えたちなりの手から試験管が滑り落ちる。
「あっ、や、やだぁ。みんなが見てるのにぃ……」
小さな甘い声が研究室に響く。絵美佳は口許に笑いを刻んで横目に部員たちを見やった。それまで落ち着いていた男子部員たちの顔つきが変化しつつある。一方、女子部員は頬を染めていた。ちなりもそんな彼らを見たのだろう。恥ずかしそうに俯いてしまう。
「嫌なら、やめてもいいぜ」
ブラウスの内側に入れていた手を引き、絵美佳はそう囁いた。すると目を潤ませてちなりが振り返る。
「だ、だって……でもぉ、何でこんなところで……」
ちらちらと部員たちの顔を伺いながらちなりは小声でそう呟いた。だが指先で確かめたちなりの乳首は固くしこっていた。興奮している証拠だ。絵美佳は薄笑いを浮かべてちなりの顎を捕らえた。唇を合わせて舌を絡める。ちなりは目を閉じて絵美佳の口の中で呻いた。
そっと白衣をたくし上げる。絵美佳はちなりのスカートをめくって小さな下着に手をかけた。同時にズボンのジッパーを下げる。洗剤の泡だらけの手でシンクをつかみ、ちなりは身体を震わせた。
「あっ、やん! いきなりなんて……あぅ! みんなが見てるのにぃ!」
下着をずらして指で小陰唇を割り開く。絵美佳は嗤いを浮かべて背後からちなりに挿入した。狭い膣をこじ開けるようにしてペニスが奥深くまで入っていく。
「だから、嫌ならやめてもいいんだってば」
右手には部員たちが並んで座っている。それを横目に見ながら絵美佳は下腹部をちなりに密着させた。掠れた声を上げてちなりが仰け反る。
巴が淡々と状況を読み上げる。部員たちの興奮の度合いは順調に大きくなっているようだ。それを聞きながら絵美佳はちなりの胸をつかんだ。服越しに弄りながらどうなんだよ、と問う。ちなりの足が片方だけ浮き上がる。
「んっ、羅木くんっ……! やめちゃ、やだぁっ」
動きを止めた絵美佳の下腹部に触れていたちなりの尻がひくひくと蠢く。絵美佳は嗤ってちなりを抱え起こした。
「じゃあ、いくぜ!」
そう宣言して絵美佳は腰を揺すり始めた。ペニスに突かれ、ちなりの腰が上下する。ちなりは絵美佳と交わりながらちらちらと部員たちを見ている。見られているためにいつもとは違う快楽を得ているのだろう。膣壁はちなりの感じている快楽を表すかのように蠢いている。
「大木くん、限界に到達しました」
静かな巴の声が聞こえてくる。巴はすっと立ち上がって一人の男子部員の背後に立った。その部員は俯いて肩を震わせている。巴が接続部に触れる。するとその男子部員は脱兎のごとく研究室を駆け出した。
「大木、早過ぎ! おまえ今日から早漏王子な」
絵美佳の声が研究室から廊下へと響く。その声に呼応するようにうわーん、という哀しげな声が廊下から聞こえてきた。
「あっ、んっ! 羅木くん……いいっ! すごく、いいよう!」
ちなりが腰を揺さぶりはじめる。そろそろ絶頂が近い。それを読んだ絵美佳は急に腰の動きを止めた。その途端にちなりが切なそうに鳴いた。
「春日さん、限界です。接続解除します」
再び巴が立ち上がる。絵美佳は舌打ちをして春日と呼ばれた女子部員を見た。春日は真っ赤になって俯いている。
「春日、あんたは次の実験の検体に決定!」
「いやあ!」
泣きながら春日が研究室を駆け出していく。絵美佳はため息をついて改めてちなりを抱え込んだ。絶頂寸前で放り出されたちなりが掠れた声を上げる。
次々に部員たちが脱落していく。それは絵美佳が思っていた以上に早かった。試薬の効き目が強すぎたかな。冷静にそう思いながら絵美佳はちなりの股間に手を伸ばした。喘ぐちなりのスカートをめくって股間を晒す。
「あっ、うぅん! ら、羅木くぅん! おねがい、いかせて!」
ちなりが泣きながら懇願する。すっかり濡れそぼった女性器を弄りながら絵美佳はくすくすと笑った。何度も絶頂に駆け上がりかけてその度に放り出されているのだ。ちなりは先日の夜より激しく悶えている。
「いっていいぜ」
そう囁きながら絵美佳は小さなクリトリスを指で捏ねた。同時にペニスを抜き差しする。ちなりは高く鳴きながら身体を大きく反らした。泡だらけの手がシンクを握り締める。
残った部員は二人。巴は画面を見つめながら目を細めている。だがこの二人はなかなかしぶとかった。歯を食いしばって懸命に耐えているらしい男子部員と、スカートを握り締めて震えている女子部員を眺め、絵美佳は更に強くちなりを突いた。
「ふあっ、あんっ! ああんっ! 羅木……くぅうん! いくっ、いっちゃう!!」
高い声で鳴きながらちなりが腰をひくつかせる。絵美佳はちなりの腰をつかんで大きく腰を前後させた。一気に衝動が強くなる。自然と呻きが漏れる。絵美佳は存分に膣内へと射精した。
「データ収集、完了しました。小河原先輩、畑中先輩、それぞれ限界です」
それを聞いた絵美佳は大きくため息をついた。巴が残っていた二人に近づいて行く。接続を離れた二人はそれぞれがゆらりと立ち上がった。頼りない足取りで研究室を後にする。それを見送ってから絵美佳は巴を見やった。
「巴、お疲れ」
そう声をかけると巴が嬉しそうに笑う。対照的に絵美佳の腕の中ではちなりががっくりと脱力していた。強い快感を与えられ、意識を失ってしまったのだ。
「あんたもセックスしたいでしょ? さっさとパンツを脱いで、メカマンコを晒しなさい」
床にちなりを横たえて絵美佳はそう告げた。巴が小さな声ではい、と告げて下着を取る。廊下の向こうからは複数の声が響いている。薬の効果がまだ続いている部員たちが交わっているのかも知れない。それを思いながら絵美佳は巴を抱き寄せた。
TS警報を出すべきかどうか迷う……。
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風の主との邂逅 1
エロシーンはありません。
昼食を挟んで栄子は眠りについてしまった。優一郎はそれからすぐに呉羽の部屋に向かった。今後の打ち合わせをするためだ。呉羽も慣れているのだろう。打ち合わせは何の支障もなく進み、夕方までには大体の作業過程を決めることができた。
あとは本人の承諾があれば事は進められる。栄子の夫はあっさりと承諾したらしい。その話をした時の要は怒り狂っていた。だが要自身も反対はしなかった。彼女も栄子が生きることを望んでいる。要の気持ちは優一郎にも痛いほどよく判った。
だがその最後の本人の承諾が問題だ。栄子の記憶はまだ戻っていない。高校生の頃のままだ。そんな栄子にいきなりヒューマノイドになりませんかと言ったところで簡単には納得出来ないだろう。優一郎は何度か話を切り出そうとしたが、その度に言葉を飲み込んだ。
今の栄子であれば優一郎の言うことには大人しく従うだろう。栄子が総一郎を好いていた事実を利用すれば、思っている以上に簡単に事は進みそうな気はする。だが本当にそれでいいのだろうか。優一郎は思案しながら中庭に出た。ひなたぼっこをしている患者たちに混ざってベンチに腰掛ける。
父の総一郎の存在は栄子の中ではある意味で絶対だ。総一郎のふりをして話を進めれば、最初はためらっていても栄子は最後に頷くだろう。総一郎を心から好きな栄子だから、きっとそうなる。それは優一郎にも判っていた。話を聞いているだけで栄子の気持ちは伝わってくる。きっと高校に実際に通っていた頃もそうだったのだろう。ただ総一郎はそう言った感情には全く興味がなかったようだ。現に今、伴侶に迎えている由梨佳に対してもその方面ではさほど興味を抱いているようには見えない。まあ、陰では知らないけど。優一郎はぼやくようにそう呟いた。
「あっれえ? 優一郎くん? どしたの、こんなとこで」
のんびりとした声が後ろから飛んで来る。優一郎はぎょっとして振り返った。慌てて立ち上がる。驚愕に目を見開いた優一郎に近づいてきたのは葵だった。包帯だらけの身体を引きずるようにして歩いてくる。優一郎は我に返って慌てて葵に駆け寄った。ぐらついた葵の身体を支える。
「あっ、葵さん? ご無事だったんですか!」
驚いた優一郎の声はひっくり返っていた。葵は支えられながら情けない顔で笑う。
「なんかねぇ。助かってたみたい。気付いたらここにいたんだけど」
そう言いながら葵がちら、と病棟を振り返る。優一郎は目を見張って葵の包帯だらけの身体を見つめ直した。頭にも包帯は巻かれている。
「良かった……」
葵はあのまま死んでしまったのだと思っていた。優一郎はほっとして息をついた。すると葵が力なく笑う。だがすぐに顔をしかめて胸を押さえる。どうやらあんまり笑うと痛むらしい。優一郎は葵を気遣いながらゆっくりとベンチに戻った。
「すいません。手伝っていただいばかりにこんな事になってしまって……」
命は助かったかも知れないが、葵は明らかに重傷を負っている。パジャマに隠れて判らないが、きっと全身に包帯は巻かれているのだろう。歩く時のぎこちなさがそれを物語っている。ははは、と力なく笑い、葵は優一郎を横目に見た。
「あのヒト、助かった?」
栄子のことを言っているのだろう。声を潜めた葵の問いに優一郎は小さく頷いた。葵が良かった、と息をつく。だが優一郎の顔は自然と曇っていった。先に考えていたことを思い出したのだ。
「どったの? 何か問題があったり?」
もしかしたら葵は自分が思っているよりは鋭いのかも知れない。そう思いながら優一郎は伏せていた目を上げた。
「記憶のほうが混乱されてるらしくて……。僕もくわしいことは……」
言葉を濁しながら告げる。葵は痛ましそうに顔を歪めて頷いた。
「そっかあ。何だか大変そうだねぇ。それ考えるとオレはまだ全然ダイジョブかも」
言いながら葵が力なく笑う。包帯を巻かれた手が痛々しい。胸を押さえる葵を見つめ、優一郎は目を細めた。
あの日、葵の協力なしでは栄子を助け出すことは出来なかった。その葵は今、こうして怪我をしている。それが自分の責任であることは優一郎も自覚していた。迂闊な自分の行動が招いた事態だ。だが葵は一切、その件について優一郎を責めなかった。どうやって木村の地を抜けたの、と気軽に訊ねてくる。
「いろいろ混乱してましたので、なんとか脱出できました」
そう告げて優一郎は葵の手からライターを取り上げた。火を点けるために苦労していた葵の代わりにライターを灯す。葵はありがと、と呟いて火に煙草の先を近づけた。
「なんらかの、補償ができるように、如月さんと相談します。ご迷惑でなければ、ですが。どうでしょう?」
「えー、そんな、かえって悪いじゃん。オレは好きにしただけだしさ」
紫煙が風に流れていく。優一郎は目で煙を追いかけた。風に流れた紫煙が消える。葵は煙草を唇に挟んで手を伸ばした。乱暴に頭を撫ぜられ、優一郎は慌てて目を上げた。葵がにこにこと笑っている。
どこまでも人が好いらしい。そう思いながら優一郎は苦笑した。様々な悩みもこの時だけは忘れていられた。後に優一郎はこの時の葵との会話を思い出すことになる。
このエピソードはまだ続きがあります~。
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風の主との邂逅 2
エロシーンはありません。
「そういえばさあ。優一郎くんって清陵高校だよね?」
「あっ、はい」
慌ててそう返事して優一郎はライターを葵に戻した。葵は包帯だらけの手でそれを受け取り、ポケットにしまう。その手つきは妙に滑らかだった。あれ、と目を細めた優一郎の耳にまた葵の声が届く。
「ちょっと別件で調べて欲しいことがあるんだよねぇ、オレ」
「なんでしょうか?」
実は小耳に挟んだんだけど。そう言ってから葵は続けた。清陵高校という場所そのものがとても特殊なこと。高校の建つ丘は、地形的にあのサイズの建築物を支えられる土地ではないという。
「前にね。仕事であの辺りに行ったんだけど……どう考えても変なんだよ。普通、学校の周辺って人が集まるから色々と開発されたりするじゃない? でも、あの一帯にはそれらしいものがない」
あの辺りの土地を所有しているのは吉良瀬財閥だ。もしかしたら立城はわざと学校を街から孤立した状態にしているのだろうか。優一郎は葵の話を聞きながら口許に指をあてた。
なんのために? 今更ながらに素朴な疑問がわいてくる。
「でね、噂に聞いたんだけどさぁ。……まあ、これは信じなくてもいいんだけど」
長く伸びた灰を地面に落として唇に煙草を咥え直す。そんな葵を優一郎は無言で見ていた。
「あの学校、人外がけっこう集まるって噂。ウチの社内でもごく一部の役員しか知らないんだけどさぁ。まあ、オレもいちお、社長付きじゃない? 情報は仕入れときたいかなあ……って、どしたの?」
ふと葵が優一郎に訊ねる。優一郎は慌てて目を上げた。いつの間にか俯いてしまっていたのだ。
「人外?」
葵の言うその意味を図りかねて優一郎は訊ね返した。ただ単に人間以外と言われてもその種類は様々だ。正確に言えばヒューマノイドも人ではない。それに絵美佳の科学部で作り出されたロボット等もそうだ。果穂のつれた巨大ななめくじも、実験で使用される動物たちもそうだ。そして龍神も。優一郎の頭に素早くそれらが浮かび上がる。
「ああ、そっか。一口に人じゃないってゆってもねぇ。色々だよねぇ」
そう言って葵は困ったように口を閉ざした。その目が泳ぐように周囲を見る。病棟に入院している患者たちだろう。のんびりと歩いている姿が目に留まる。
風が流れる。ふと優一郎は瞬きするために瞼を下ろした。次に目を開けた瞬間、優一郎は絶句した。あれだけいた患者たちの姿がない。優一郎は驚愕に息を飲んで周辺を見渡した。だが前方はおろか、後ろにも誰もいない。いるのは横の葵だけだ。
「うおおおお!?」
葵が奇声を上げて慌てて立ち上がる。だが勢い余ってその場に崩れてしまう。優一郎は周囲を警戒しながら葵を支えた。
「なにこれ、なにこれ、なにこれ! 誰もいないよう!」
半ば泣きそうな顔で葵が喚く。人々の姿が消えたあの一瞬、優一郎は葵のことを疑った。が、どうやら違うらしい。優一郎は周囲に目を配りながらポケットを探った。手のひらに納まるサイズのそれを取り出す。
素早く操作して周辺の残留力を計測する。針は振り切られている。間違いない。風の主の仕業だ。
「うええん。なに、それ。オレ、なんか悪いことしたのかなぁ」
試すように優一郎はチェッカーを葵に向けた。混乱している葵がなに、と慌てた声を上げる。だがチェッカーは葵に特に反応している様子はない。優一郎はため息をついてそれをポケットに戻した。
「いったい、どうしたんでしょう?」
平然と告げる優一郎とは対照的に葵は騒いでいる。何も知らない葵なら当然の反応だ。優一郎は葵を慰めるように背を支え、再びベンチに座り直させた。不安一杯の面持ちで葵は周囲を見ている。
風が吹き抜ける。優一郎は風上を何となく見た。そして目を見開く。誰もいなかった中庭に一人の少年が立っている。学生服に身を包んだその姿を見た優一郎は絶句した。
「多輝? いや、違う」
呟きが自然と口から漏れる。え、と葵が顔を上げる。その瞬間に少年が軽く手を上げた。轟音と共に強い風が吹いてくる。優一郎は葵を庇いながら懸命に足を踏ん張った。落ちた木の葉が風に煽られて天高く舞う。
風が止む。閉じていた目を開けた優一郎は思わず息をついた。誰もいなかった中庭に人々の姿が戻っている。
「なっ、何が何なんだか……」
ベンチに座った葵ががっくりと肩を落とす。その唇からは煙草がなくなっていた。どうやら風に巻かれた時に飛ばされたらしい。改めて煙草をポケットから取り出している。だがその手は小刻みに震えていた。
「葵さんは僕以外の誰かを見かけましたか?」
静かに訊ねる。すると葵は力なく首を横に振った。見えないよう、と弱々しい声で答える。優一郎は目を細めて少年が出現していた場所をじっと睨んだ。
「集団幻覚、だったんでしょうか? 葵さん以外、誰も見えなくなってしまって」
「オレも優一郎くんしか見えなかったよ」
あの時、優一郎の目には確かに少年の姿が映った。だが葵にはどうやら見えなかったらしい。まだ震えている葵の肩を慰めるように叩き、優一郎はベンチに腰掛けなおそうとした。
動きを止める。ベンチにはいつの間にか封筒が挟まれていた。葵は気付いていないようだ。優一郎はそっとそれを上着の中にしまった。
「な、何か間が悪そうだから話はまた今度……ううう、何でこうなるんだよぅ」
すっかり動揺しきっているのだろう。葵が力なく告げる。優一郎はええ、と頷いてベンチに腰掛けた。風の主、と胸の中で呟いてみる。
「あの、葵さん、以前お話を頼まれました社長令息の件ですけど。直接、話を進めてしまっていいですか?」
「え、あ、ああ。社長の息子ね。うん、よろしく頼むね」
言いながら葵がのろのろと立ち上がる。まだ混乱しているのだろう。咥え煙草のままで病棟に戻ろうとする。優一郎は慌ててそれを引きとめた。幾らなんでも病棟内は禁煙だ。それを告げると葵は力なく笑って煙草を灰皿に押し込んだ。
人外っても色々なんですよね……w
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存在価値はあるの?
くらいな感じです。
のろのろと扉を開く。ゆらりと部屋に入って由梨佳は目を上げた。執務室の窓辺に立城が立っている。振り返った立城はにっこりと笑った。
「休暇はどうでしたか? ゆっくり休めました?」
まるで何も知らない素振りで立城が告げる。いや、実際に知らないのかも知れない。だが由梨佳はゆらりと動いて立城に近づいた。その動きはまるで夢遊病者のようだ。由梨佳は頼りない足取りで立城に歩み寄る。立城はそれを見て目を細めた。
「ほとんど家の掃除だけで終わってしまいました」
淡々と告げる。すると立城がにっこりと笑った。由梨佳は勧められるままにソファに腰を下ろした。立城が正面に腰掛ける。
絵美佳の身体を使って現れた知らない誰かのことがずっと気になっている。彼は立城のことに酷く拘っていた。由梨佳はちらりと立城を見、目を伏せた。彼の存在が気になるのは立城と関わりのある者だからという理由だけではない。言われたことの一つずつが由梨佳の心を深く傷つけたのだ。
そして絵美佳自身に言われたことを思い返す。お前は母親ではない。面と向かって言われた時、由梨佳は答えられなかった。母親、家族、そんな関係を保っていたいと願うのはそんなにいけないことなのか。
「どうしました? 何か気になることでも?」
「あのっ……いえ」
言いかけて由梨佳は唇をかみ締めた。絵美佳が男になっていたこと。知らない誰かが絵美佳の身体を使っていたこと。そして突きつけられた事実。それらが由梨佳の頭の中を巡る。
ふと考える。立城は自分にとって何なのだろう。ただのストレスを解消してくれる相手でないことは確かだ。だがはっきりとどんな関係とも言いがたい。
「何でもないという顔ではありませんよ」
そう言って立城は微かに笑った。穏やかなその微笑みに由梨佳の緊張が解ける。ほっと息をついて由梨佳は頷いた。そう、立城は今でもこうして悩みを聞いてくれる。決して身体だけの関係ではない。現に互いが協力しなければあらゆる研究は進められなかった。
「あの……女性器ユニットを検査していただけませんか? いま、直ぐに」
きっと立城にならあの知らない誰かの正体が判るに違いない。由梨佳は立ち上がりながらそう告げた。立城が不思議そうに首を傾げる。だがすぐに立城は頷いてみせた。
地下に行きましょう。そう告げて立城は由梨佳を伴って執務室を出た。屋敷の地下には研究室が幾つか作られている。ヒューマノイドである多輝の機体の調整もそこで行われる。
秘密の通路を抜けて研究室に辿り着く。眩しいほどのライトが室内を照らしている。由梨佳は自分から実験台の上に乗った。下着を取ってあお向けになる。
「これは……随分と手荒に扱われましたね。由梨佳さん自身ではないのでしょう?」
言いながら立城がそっと陰唇に触れる。ぴくりと身体を竦めて由梨佳は頷いた。
「はい」
「失礼、先に修理します。痛みがあったら仰ってください」
そう言われた途端、由梨佳の身体を心地良いものが包んだ。立城が手から力を少しずつ注いでいるのだ。由梨佳はため息をついて目を閉じた。立城は生真面目な顔で丁寧に指先で由梨佳の陰部を辿っている。
「あっ……立城くん!」
「辛かったでしょう? 身体の力を抜いて、楽にしてください。声は出しても構いませんから」
囁くように告げて立城が膣の中に指を入れる。由梨佳は熱い息をついて目をあけた。眩しいライトの明かりが目に飛び込んでくる。真っ白な光に目を細め、由梨佳は作業をしやすいように自分から小陰唇を指で開いてみせた。
「いつも、すいません。あの……」
立城が手を止めて目を上げる。由梨佳は数瞬ほどためらってから口を開いた。
「わたし、迷惑じゃないですか? こうして立城さんの手を煩わせて、メンテナンスをしていただける価値、ありますか?」
もし、誰にも必要とされていないなら。不安が由梨佳の心を締め付ける。絵美佳は由梨佳を母ではないと言った。絵美佳の言葉に間違いはないだろう。きっと絵美佳は最初から由梨佳を母とは思っていなかったのだ。だからこそ、必死で母親を演じる由梨佳を滑稽だと思ったのだろう。そう思えば絵美佳の数々の仕打ちは頷ける。
そして知らない誰かは言った。娘に犯されて感じるんだろ? そう、その時、確かに由梨佳は快楽を得ていた。激しい自己嫌悪に苛まれていたのに、それでも機体はさらに強い刺激を求めていた。それだけではない。その誰かは優一郎と由梨佳が交わったことを示してみせた。その言葉に由梨佳は深く傷ついた。それまで忘れてしまっていた光景が蘇る。あの時、由梨佳は優一郎に犯されながら激しく悶えていた。それを思い出してしまったのだ。
総一郎はかつて由梨佳に告げた。吉良瀬氏に協力したまえ。総一郎の言は由梨佳にとって絶対だ。そして総一郎は立城を由梨佳に紹介した。今でも覚えている。出会った時の立城は穏やかに微笑んでいた。
あれからしばらく経つ。互いに変わらない姿で今も由梨佳と立城はこうして生きている。だが本当に自分は立城の力になっているのだろうか。由梨佳は不安に息をついて立城を見た。
微笑みが見える。立城は穏やかに由梨佳を見つめながら頷いた。
「心配はありません。僕には由梨佳さんが必要です。それに迷惑だと思ったことは一度もありませんよ」
「ありがとう、ございます」
自然と由梨佳の目に涙が浮かぶ。由梨佳は目元を覆って肩を震わせた。そっと指で涙を拭う。指先で光る涙を見つめ、由梨佳はまた涙ぐんだ。涙も作り物か。そう言って笑われたことを思い出す。
「辛ければ記憶を封じますよ。どうしますか?」
「いいえ。記憶を封じても解決しないことはわかっています」
かつて優一郎が中学生だった時、由梨佳は激しいストレスに苛まれた。だがその時、何故か自慰行為が出来なくなった。目の前に優一郎がいる。由梨佳はいけないと思いながらも優一郎の前で痴態を晒してしまった。そして優一郎は訳も判らないまま、由梨佳の身体を弄った。その時のことを思い出し、由梨佳は自嘲気味に笑った。優一郎の記憶が混乱し、そのことを覚えていないと知った時、由梨佳は自身の記憶を封じてくれるように立城に頼んだのだ。
だが結局はこうして記憶は戻ってしまった。由梨佳は落胆のため息をついた。立城がそうですか、と小声で答えて作業を再開する。
「くぅっ!」
膣壁をなぞられ、由梨佳は声を殺して背中を反らした。自己嫌悪により、ストレス値がぐんぐんと上昇していたのだ。機体は当り前のように立城の指の動きに敏感に反応する。
「大丈夫ですか? 傷は大分、修復しましたが」
「大丈夫です……ああっ!」
声を震わせて答える。由梨佳は出来るだけ冷静になろうと努力した。今は欲情している場合ではない。絵美佳のこと、あの誰かのこと、様々なことを立城に知ってもらう必要がある。だがそう考える心のどこかがもっと激しい刺激を求めるのだ。全く違う思いが同時にわき、由梨佳の機体はさらに欲情した。
「だめ、あそこが! また……止まらなくなるっいやあっ!」
壊れるかも知れない、という恐怖に駆られ、由梨佳は悲鳴混じりに叫んだ。驚いたように立城が手を止める。由梨佳は身体を自分の腕で抱き、がくがくと震え始めた。怖い。心が冷え切ってしまうような恐怖に襲われる。
「立城くん、たっくん、助けて、あそこが、止まらないの! 壊れちゃう! 嫌っ!」
由梨佳は頭を振って泣いた。下腹部で低い音がし始めている。自分の身体を抱きしめて震える由梨佳の目元に何かが触れる。びくりと首を竦めた由梨佳の頬を、立城がそっと指で撫でた。
「僕で良ければ」
そう告げて立城が台にのぼる。由梨佳は夢中で立城に抱きついた。優しく抱きしめられて口づけられる。由梨佳はうっとりと目を閉じて腿をひらいた。
「助けて……くれるの? こんなダッチワイフみたいな、わたしを? ほんとに……いいの?」
再び目を開いた由梨佳は涙を浮かべていた。立城が口許に柔らかな笑みを浮かべる。軽い、触れるだけの口づけをして立城は由梨佳の耳元に唇を寄せた。
「呪いを解いてあげますよ。大丈夫。あなたは人形ではありません。僕の大切なパートナーです」
突き上げるような快感が訪れる。由梨佳は挿入の瞬間に身体を震わせた。立城のペニスが撫でるようにゆっくりと膣壁を擦る。
「ああっ、立城くんっ!」
声を上げて由梨佳は立城の首に腕を回した。貪るように唇を合わせる。立城は口づけに応えながら徐々に腰の動きを速くし始めた。ペニスを抜き差しする音が室内に響く。艶かしい水音を立ててペニスが膣の奥を強く突く。由梨佳は立城と口づけたまま、一気に果てた。
機械なので色々と思うところがあるのです……。
まあ、ちゃんと書けてませんけど!!!><
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要がんばる! 1
エロシーンはありません。
不機嫌に顔をしかめて水輝は振り返った。誰もいない教室に一人の女子生徒が入ってくる。水輝はその姿を見止めて目を細めた。生徒会長の要だ。ふうん、と呟いて水輝は軽く手を広げた。
「残念ながらみんな帰ったけど? 何か用?」
今朝、生徒会室を訪れた水輝は会長である要から各種の注意事項を聞いた。だがそれらはかつて水輝が聞いたことのあるものと全く同じ内容だった。立城の作り上げた独自のルールは未だに生きている。そのことが水輝にとって不思議だった。結局のところ、時が流れても使えるものは残るということだろう。
要はごほん、と咳払いをして腰に手をあてた。生徒会室で見た時に感じたままの尊大な態度だ。水輝は内心で苦笑して要に顎をしゃくった。
「用があるなら早く言ってくれないかな。これでも忙しいんだ」
水輝のクラスは多輝や絵美佳のそれより離れている。だが幾ら感覚を研ぎ澄ましたところで多輝の気配が読めないのは当り前だ。多輝は今、立城の屋敷にいる。こちらには休学の届けが出ているが、それももう少ししたら退学届けになる。多輝は全く別の人間としてこの学校に来ることになっているのだ。
だが絵美佳は違う。絵美佳はまだ学校に在籍しているのだ。なのに気配がつかめない。欠席という届けが出ていたが、家にいないことは明らかだ。何故なら学校に来る前、水輝はわざわざ絵美佳の自宅を回っている。無人の家をくまなく探してみたが、絵美佳の姿はなかった。色濃く残っていた気配から察するに、今朝まではいたのだろう。結局、水輝はそのまま学校に来た。が、ここにも絵美佳の気配はなかった。強いて言えば校舎の外と地下にそれらしい気配があった程度だろうか。どうやら絵美佳は教室を素通りして地下にこもってしまったようだ。
地下に飛ぶことは可能だった。が、水輝はそれをしなかった。地下に絵美佳とは全く別の気配があったからだ。
「池田水輝さん、ですわよね? わたくしに付き合って頂きたいのですけれど」
どこまでも偉そうに要が告げる。水輝はふうん、と口の中で呟いて鞄を取り上げた。水輝が従うつもりだと思ったのだろう。要が当然のように笑う。だが水輝はそのまま要の横を通り抜けてさっさと教室の扉に向かった。
「ちょ、ちょっと!?」
「悪いな。おれ、先を急ぐから」
片手を上げて水輝は教室を出た。要の相手をしている暇はない。そもそもどうしてわざわざ目をつけられている相手について行く必要がある? 水輝は内心でそう呟いて廊下を行き始めた。
慌てたように要が教室を駆け出す。歩く水輝に小走りで追いつき、要は声を少し張った。
「この学校ではわたくしがルールですのよ!? 生徒は従う義務が」
「違う。生徒会長がルールなんじゃなくて、生徒会長にはあらゆる事柄を決めるという権利があるだけだ。そして生徒には反論の自由がある。従わない自由ってのもあるわけ」
水輝はそう言いながら廊下を曲がった。とにかく地下に行ってみるか。気は進まないが直接調べるしかない。そう考えながら階段を降りる。
「ちょっとお待ちなさい! あなたにとっても悪いお話ではない筈! って、待つ気はないんですの!?」
後ろから要の声が追って来る。水輝は不機嫌に顔をしかめて足を止めた。どいつもこいつもわがままな、と口の中で呟きながら肩越しに振り返る。
「ああ? おれはあんたに用はないんだがなあ」
頭をかきながら水輝は一段だけ階段を戻った。要が息を切らせながら追いついてくる。そんなに早く歩いたつもりはないんだが。内心でぼやいた水輝に要がずい、と迫る。鬼気迫るその表情に水輝は一瞬、気圧された。
そういえばこいつ、車で暴走してゲート破壊したんだったな。のんびりと水輝がそんなことを思い出している間に要が水輝の傍に寄る。
「わたくしが自ら声をかけるなど滅多にないんですのよ?」
誰が後始末をつけたと思うんだ。要の暴走にまつわることを思い出していた水輝は次第に苛々とし始めていた。クラッシュした車から運転手たちを移動させる。出来るだけ死人が出ないようにしたつもりだが、中には重傷を負った者もあったようだ。だが優しく丁寧になどと言っていられる状況ではなかった。水輝は出来るだけ早くという条件だけを満たすことに何とか成功はした。だが当の要たちは後始末は全くつけず、そのまま逃げてしまった。水輝は思い出しながら片頬をひくつかせた。
おれは確かにあいつを逃げやすいようにしてやったよ。でも断じてこいつのためじゃない。水輝は自然と鋭い目で要を見た。要は何を勘違いしたのか、そんな水輝の腕に腕を絡めてくる。おい、と水輝が止めるのも聞かず、要はそのまま身体を水輝の腕に密着させた。
第一、要と会ったのはこれが初めてではない。あの夜、水輝は要の前に姿を現していた。だがその時の要はこんな風には反応しなかった。もしかしたら動揺していたためか。そうだとしても要の様子は水輝には理解出来なかった。
胸の膨らみが腕に押し付けられる。水輝はやれやれとため息をついて要を無造作に引き剥がした。じゃあな、と言い残して階段を再び降り始める。
「わ、わたくしに恥をかかせる気ですの!?」
素っ頓狂な声で要が叫ぶ。水輝はため息をついて踊り場で足を止めた。要が顔を輝かせて寄ってくる。だが水輝は伸ばされた手を無造作に払った。鞄を脇に抱えてポケットに手を突っ込む。
「恥もなにも、あんた、何がしたいのかわかんねえよ。まずは目的を言え」
要の積極的とも言える行動の意味を理解していない訳ではない。だが水輝はあえてそう訊ねた。途端に要が困ったような素振りをする。水輝に払われた手を反対側の手で包み、視線を彷徨わせる。
「つまり、わたくしの男になれと言っているんですわ!」
しばしの間の後に要が尊大に告げる。水輝はにっこりと笑った。
「間に合ってます」
そう言い残して階段を降りる。取り残された要が喚くのを余所に水輝は早足で階段を下りた。背後から要が何事かを喚きながらついてくる。肩越しにそれを見やり、水輝は鋭く舌打ちをした。しつこい女は嫌われるぞ、と声を投げる。だが要は猛然と水輝を追い続ける。
要を落とすのは大変なんですけどね(棒
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要がんばる! 2
エロシーンはありません。
そのエネルギーを別のことに使えよ。内心で呟いて水輝は階段の手すりに手をかけた。軽く踏み切って手すりを飛び越える。すると要も水輝と同じように手すりを身軽に飛び越えた。へえ、と感嘆の声を上げてしまってから水輝は慌てて残りの階段を降りた。
「お待ちなさい!」
「いいかげん、諦めろよ。あんたも大概、しつこいな」
息を切らしている要とは対照的に水輝は平然とそう言い放った。要は必死で水輝を追って来る。水輝は半ば呆れてスピードを上げた。一気に要を引き離しにかかる。だがその直後、要が水輝の背後で叫んだ。
「それなら、わたくしのどこが気に入らないのか、教えてくださいまし!」
それを耳にした水輝はぴたりと足を止めた。廊下の真ん中で立ち止まる。ああ、と笑って水輝はのんびりと振り返った。走ってきた要が慌てたように手を振り回す。水輝は片腕を伸ばしてよろけた要の身体を抱きとめた。
「十把一絡げってのがなあ」
ぼやくように告げながら水輝は要を解放した。要はまだ息を切らしている。その顔に苦痛を感じているような表情が浮かぶ。水輝はじゃあな、とまた手を上げて去ろうとした。
「お待ちなさい!」
「今度はなんだ?」
水輝は呆れた面持ちで振り向いた。要は肩で息をしながら水輝を睨むように見ている。どうやら相当に傷ついたらしい。そのことだけは心の内側を読まなくても判る。水輝はやれやれとため息をついて要の言葉の続きを待った。
「つまり、わたくしに信奉者が居るのが気に入らないという理解でいいですわね?」
「そうだなあ。あんたが侍らせてる男共を切るんだったら少しは考えてもいいかなあ」
どうせそんなことは出来ないだろう。そう思いながら水輝は小さく笑った。要がぜいぜいと息をしながら水輝に一歩、迫る。走っていたために要の髪は乱れている。しかも鬼気迫る顔で近づいてくるのだ。水輝は眉を寄せて一歩だけ下がった。
「そのような事ができると思いますの? わたくしに忠誠を捧げている者を裏切るなど!」
「じゃあ、今のままでいいじゃないか。おれ、あんたを崇拝する気はさらさらないぞ?」
要が絞るような声で告げた言葉を水輝はあっさりと切り返した。要がまともに言葉に詰まる。だが要は苦しむような顔で水輝のジャケットをつかむ。どうやらこのまま行かせてくれる気はないらしい。水輝は深々とため息をついて次の要の言葉を待った。いつまでこの問答が続くのだろう。そう考えてみる。
ふと思いついたように要が顔を上げる。
「恋人と従者は違いますわ!」
名案を思いついたという顔で要が告げる。水輝ははいはい、と笑いながら要の手をやんわりと解いた。ジャケットから簡単に手が離れたことが不思議だったのだろう。要は何度か手を握ったり開いたりしている。
「いや、あんたはきっと同じに見てるよ。だから却下」
第一、好みじゃないし。そう付け足して水輝は身を翻らせた。要が後ろから何かを喚く。だが今度は水輝は足を止めなかった。知らん顔で廊下を進む。
角を曲がる。すると水輝の行く手を数人の男子生徒が阻んだ。要が一人でむきになって水輝を追っていたのにはこういう訳があったのだ。なるほどね、と水輝は小さく呟いた。各自が手に武器を持っている。どうやら言ってきかなければ脅迫するという手筈らしい。
「おれは機嫌が悪いんだ。とっとと退け」
足音が後ろから近づいてくる。水輝は舌打ちをして肩越しに振り向いた。要はまだ諦めていなかったのだろう。水輝の後ろに迫る。
「好みじゃないというのは、どのようにですの?」
要は目を潤ませている。演技ではないだろう。水輝は要から流れてくる思惟を読んでそう判断した。が、泣かれたからと言って譲る気はない。
「顔が」
きっぱりとそう言い返す。すると要がぴくりと眉を上げた。水輝にじわじわと近づいてきた男子生徒たちが一斉に色めき立つ。要はふん、と鼻で笑ってふんぞり返った。胸を反らしている。90D。水輝はそう内心で呟いた。
「わたくし、容姿には自信がありますわ!!」
本人が言うだけあり、要のスタイルは整っている。水輝はふうん、と呟いて要の全身を眺め回した。だから顔がっつってんだろ。そうぼやく。だが要はそんな水輝の声を全く聞いていないらしい。捕まえようと水輝に手を伸ばす。
「自信があろうがなかろうが、おれの好みとは関係ないだろ」
言いながら身体をひねる。伸ばした要の腕は水輝のいた空間を薙いだ。思っていたよりは動きが速い。水輝は感心しながら続けざまに三度ほど要の手を避けた。
「では、どのような女性が好みですの!? 間に合ってると言ったからには、いまつきあってる女性がいらっしゃるのでしょう!?」
水輝がつかまらないことに相当苛立っているのだろう。要が肩を怒らせて叫ぶ。やれやれ、と水輝は肩を竦めた。鞄を軽く宙に放る。それと同時に水輝は床を蹴った。たむろしていた男子生徒たちの中に突っ込む。手刀と肘、膝を同時に繰り出す。続いて身体を反転させて回し蹴りを放つ。最後に裏拳を飛ばしてから水輝は一歩だけ前に出た。落ちてきた鞄が腕の中に落ちる。
「女はいるよ。でも何でそれをあんたに教えなきゃなんないんだ?」
要は放心したように床に倒れた男子生徒たちを見つめていた。水輝は床に転がったトンファーを一本拾い上げて要に放った。要が慌てたようにそれを受け止める。
「まあ、でもあんたの気概に免じて……おれから一本取ったら教えてやるよ」
「わかりました。手加減はいたしませんわよ!」
要はトンファーを構えて水輝に突っ込んだ。どうせ何言っても諦めないだろうしな。のんびりとした気分で水輝は要の攻撃を避けた。要の肩に手をかけて身軽に飛ぶ。要の背後に降り立った水輝はごく弱い手刀を放った。要の身体がぐらりと揺れる。
「あんたの負け。じゃ、そゆことで」
水輝は鞄を抱え直して歩き出した。倒れた要が呻いている。どうせまた、明日になれば別の方法で迫られるだろう。うんざりしながら水輝はその場を去った。
そもそも彼女持ちな時点で諦めろというかw
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風の主の贈り物
エロシーンはありません。
白い封筒は机に乗せられている。優一郎は手にした便箋に再度、目を向けた。短い文章がそこに記されている。何度読んでも意味が判らない。ただ、最後の署名だけは見たことがあるものだった。順の名前が記されていたのだ。
木村順。優一郎は静かにそう呟いてみた。先の事件からずっと関わっているというのに、その正体については全く判っていない。優一郎は苛立ちをこめて便箋を指で弾いた。
天と地の混じるところ。雷と炎が混ざった時、風が生まれる。
便箋に書かれているのはそれだけだ。意図もはっきりしないし意味も判らない。だが優一郎はどうしても便箋から手を離せなかった。不穏なことが書かれている気がしてならないのだ。
だがこの封筒を残したのは恐らく順ではない。あの時、現れた多輝によく似た者は別の誰かなのだろう。となると、あの時にチェッカーで測った残留力も風の主のものではないことになる。現にあの少年は風を操ってみせた。チェッカーが読み取ったのはその力だろう。
風の主とは別にもう一人、風の力を操る者がいる。優一郎は目を細めて机の上に乗せた一枚の名刺を取り上げた。葵から貰ったその名刺の裏には社長の自宅の電話番号が書かれている。葵を秘書として雇っている社長なる人物は息子の件を肯定した。写真の少年がこの封筒を残した少年と別人なら何ら問題はない。それを確かめるためにも会う必要がある。
もし、封筒を残したあの少年が多輝の身体を使っているなら、取り戻さなくてはならない。多輝は今、ヒューマノイドの機体に納まってはいるが、いつ何が起こるか判らないのだ。その時のために肉体は確保しておきたい。
ただ、写真の少年を要にすぐに会わせる訳には行かない。要は多輝をとても好いている。もし、多輝にそっくりの少年に惹かれてしまったら目も当てられない。折角、その気になりつつあるのに、その時点で計画は全て白紙になる。もちろん、ロボットの件についても同様だ。少なくとも要を改造してからでなければ会わせられない。
とりあえずこれは覚えておくしかないか。そう呟いて優一郎は封筒に便箋をしまおうとした。が、何かがひっかかる。怪訝に思いながら優一郎は封筒を逆さまにして振ってみた。すると小さな石のようなものが転がり出る。
机の端から落ちそうになったそれを受け止める。指の間に挟み、目の高さに翳す。優一郎は丸い空色の石をじっと見つめた。
石を見た優一郎が真っ先に考えたのは龍神たちの持つ宝珠と呼ばれる宝玉のことだった。だが宝珠は全部で八色しかない。青、緋、金、銀、紫、翠、黒、白。その八色以外に龍宝珠と呼ばれるものはないのだ。
じゃあ、これは何だろう。風の主の送ってきたものだ。意味のない筈はない。優一郎は眉を寄せて白衣のポケットからチェッカーを取り出した。いつ、いかなる時もこのチェッカーを優一郎は持ち歩いている。一度、測定すれば力の質を記録できるからだ。
一気に針が振り切られる。優一郎は驚いて指の間に挟んだ石を凝視した。タイプは風と表示されている。優一郎は慎重に石をシャーレに入れた。蓋をして机の上に置く。便箋を戻した封筒とシャーレ、そしてその隣には一枚の名刺があった。優一郎はその三つを順繰りに見つめた。
ふと頭の中に閃くものがある。優一郎はシャーレに目を留めて口許に薄い笑みを浮かべた。もし、あの少年が多輝の身体を使っているなら。考えを巡らせながら優一郎は立ち上がった。私室である研究室の中を見回す。実験台の上には真新しい二体のヒューマノイドの機体が横たえられている。片方は栄子、もう片方は要のために作ったものだ。栄子のそれはすぐにでも使用することが可能だ。が、要のそれは一応作ったものの、無難な出来栄えになってしまっていた。改めて作り直そうと思っていた矢先だったのだ。
仮宿ならこれで充分だよね。優一郎はそう呟きながらくすくすと笑い出した。要は多くの男たちにかしずかれるのを好むらしい。周囲に侍らせた男たちに奉仕をさせることに悦びを感じるのだ。それであればその性質に合わせた機体が必要だろう。
知らず知らずのうちに優一郎の顔は喜びに歪んでいた。
優一郎は趣味に走る時に本性が出ますねーw
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恋する乙女? 1
(TSとかいろいろ)
エロシーンはありません。
蒼とのトレーニングの時間を考慮すると勉強する時間は前より随分と短くなっている。そのことを気にしているのだろう。由梨佳は以前よりかなり熱をいれて多輝に様々なことを教えている。多輝はうんうん、と頷きながら由梨佳の話を聞き、判らないところはストレートに訊ねる。時折、欲情するがその際には由梨佳が手際よくメンテナンスを施してくれる。
だが一つ、問題があった。由梨佳に言われた言葉遣いについてだ。多輝は今日も頭を抱えて懸命に拒絶しようとした。どうしても女言葉に慣れない。出来ればこのままでいたい。だがそんな多輝の訴えを由梨佳はあっさりと却下する。その度に多輝は必死で由梨佳の口真似をしなければならなかった。
「あのー、どうしてもしなきゃ駄目か? おれ、別にこのままでもいいと思うんだけど」
多輝は呻きながら頭を抱えた。どうしても慣れない、だが由梨佳はぴしゃりと多輝を叱った。
「わたしや立城さんと話すときはかまわないわ。だけど、他の人と接するときに、その言葉遣いでは失礼よ」
あくまでも由梨佳は冷静に告げる。温度の感じられない言葉が逆に多輝の胸に突き刺さった。確かに吉良瀬を名乗る以上、立城が恥をかかないようにしなければならないだろう。それは判る。
「いつも丁寧な言葉で喋れとは言わないわ。TPOにあわせて使い分けられるようになってほしいの」
「そ、そんなこと言われても」
自分の喋り方がまずいと思ったことがないのだから直しようがないではないか。多輝はそう言い返そうとした。が、思ったより由梨佳の目が厳しかったので断念する。多輝は渋々とテキストを持ち直した。
言葉遣いについての授業が終わる。休憩ね、と言われて多輝は大きく息をついて肩の力を抜いた。
「まだまだ時間はあるわ。あせらずにいきましょう」
にっこりと笑いながら由梨佳が告げる。励ましてくれているのだ。多輝は素直にそう受けとめて由梨佳に礼を言った。由梨佳はそんな多輝を見て嬉しそうに笑う。きっと息子と同い年くらいだからだろう。由梨佳の顔は母親のそれに見えた。
多輝はカップを両手に包んでじっと紅茶を見つめた。揺れていた水面が静まる。どうしても由梨佳に訊きたいことがある。だがこれまでずっと訊けずにいた。
「あ、の、由梨佳先生……」
ためらいながら声をかけた多輝を由梨佳は見つめた。その顔が次第に曇る。
「何、どうしたの? 身体に異常でも?」
心配そうな面持ちで訊ねられ、多輝は慌てて首を横に振った。迷ってるから由梨佳先生に心配かけちまうんだろうが。そう、自分を叱咤する。
「えーと、その、優一郎……くんって、由梨佳先生の息子、なんだよな?」
だが自分を叱った割には多輝はしどろもどろになったままだった。由梨佳が不思議そうな顔になる。
「そうよ。優一郎は、わたしの息子よ」
告げた由梨佳は複雑な表情をしていた。が、多輝はそのことには気付かなかった。とにかく意志を伝えようと必死になって考えていたためだ。
「えーと! あの、おれ、あいつにもっかい会いたいんだけどっ」
考え抜いた末に多輝は一気にそうまくし立てた。スカートを握り締めて俯いた多輝の頬が染まる。だがすぐに由梨佳は応えない。怪訝に思いながら多輝は顔を上げた。由梨佳は口許を押さえて笑っている。
「もしかして、一目惚れでもした?」
くすくすと笑いながら由梨佳は告げた。由梨佳自身は冗談のつもりだったのだろう。楽しそうに目を細めている。が、多輝はそれどころではなかった。一気に顔が熱くなる。赤くなって言葉を濁した多輝を見ていた由梨佳が驚きに目を見張る。
「からかうような事いって、ごめんなさい。もしかして、本気で一目惚れしたの?」
それまでの笑いを納め、一転して由梨佳は真面目な顔になった。多輝はうろたえつつも小さく頷いた。こうなったらやけだ。多輝はカップを握り締めたまま息を大きく吸った。
「最近、あいつのことよく考えるようになって、夜も眠れない時があるんだ。考え事とかしてる時も思い出すし、そのこと言ったら蒼はきっと一目惚れだって言うし、でもおれ、あいつに会う方法判らないし、もしかしたら由梨佳先生なら何とかしてくれるって思ったんだ」
一気にそうまくし立てる。それから多輝は深々と息をついた。思いを吐露したことで少し気が楽になる。
「つまり、優一郎のことを考えると、欲情して自慰がしたくなるのね?」
「うっ」
ストレートな訊き方に多輝は思わず言葉に詰まった。視線を泳がせて必死で言葉を探す。だが上手い言い回しが浮かばない。何故なら由梨佳が言ったことは図星だったからだ。
「恥ずかしがらなくてもっ……て恥ずかしいわよね」
そう言って由梨佳が微笑む。多輝はさらにうろたえた。もしかして変なことを言ってしまっただろうか。段々と不安になり、多輝は助けを求めるように視線を彷徨わせた。だがこの部屋には今は二人の他に誰もいない。
「でも、それはヒューマノイドとして普通の動作よ。恋しい相手を想えば自動的に身体が反応するように、わたし達は作られているの」
由梨佳はこれまでに何度か繰り返したことを再び口にした。が、その言葉はいつもより重く聞こえる。多輝は真面目に頷いた。言われていることは判る。確かに優一郎のことを思うと身体が疼くからだ。
でも、と多輝は心の中で呟いた。本当にそれだけだろうか。多輝は先日のことを思い出した。狂うほどに快楽に溺れさせられたあの日のことがまざまざと蘇る。あの日、水輝は立城と多輝をいたぶるように抱いた。その時、確かに多輝は欲情していたのだ。相手は水輝だ。とても恋しいなどと思う相手ではない。
考えをめぐらせていた多輝は自然と俯いていた。それがヒューマノイドの本性なのだと言われれば納得せざるを得ない。欲情しやすいよう、機体は設定されている。だがだとすれば恋しい相手でなくとも欲情するという意味ではないのか。確かに優一郎のことを考えると夜も眠れないが、優一郎以外の相手にも欲情してしまう自分はどうなんだろう。
乙女扱いされたらこの頃の多輝ならキレてるだろうなあ……。
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恋する乙女? 2
定着しない訳ですけども!w
エロシーンはありません。
自然と顔が曇る。それまで淡々とヒューマノイドのシステムについて説明していた由梨佳がふと気付いたように目を上げる。多輝はのろのろと顔を上げ、そんな由梨佳を黙って見つめた。
「どうしたの? 悩みがあるなら言ってごらんなさい」
あくまでも由梨佳は優しい笑みを浮かべている。言えば母親のような面持ちだ。多輝はため息をついた。例えば自分の考えたことをここで言ってしまったら。由梨佳は多輝と同じヒューマノイドなのだ。恐らく自分と同じことが原因で悩むこともあっただろう。もしかしたら上手い解決法を教えてくれるかも知れない。
だが、まだ由梨佳が多輝と同じことを悩んでいるとしたら。その可能性がないと言い切れない限り、とても言えない。多輝は首を力なく横に振って何でもない、と応えた。
「性に関することで、悩むのは仕方ないことよ。でも、あまりくよくよ考えないほうがいいわ」
年頃の息子を持つ母親らしい意見だ。多輝は苦笑して判った、と答えた。由梨佳がにっこりと笑う。
「悩み、も欲情のトリガーのひとつだから。悩むことでもわたしたちは欲情するわ。そうして欲情してしまう自分に嫌悪感を感じてさらに悩む」
そう告げた由梨佳の顔がどことなく曇っている。多輝はしまった、とごく小さく舌打ちをした。例え口に出さなくとも聡い由梨佳のことだ。多輝が何を考えて悩んでいるのかを見抜いたらしい。
何か別の話題を探さないと。多輝は懸命に考えた。が、こういう時に限ってなかなかいいことを思いつかない。
「無限ループよ。そうなったら外部から誰かに制御してもらわないと、立ち直ることはできないわ」
由梨佳の指が空中で線を描く。多輝は焦っていた。由梨佳の顔がみるみる内に曇っていく。それは先生のことじゃないの。多輝は口にしかけた言葉を慌てて飲み込んだ。余計に負担をかけてどうすんだ。内心で自分を叱り飛ばして顔を上げる。
「そうよ、わたしなんて、オナニーが止まらなくなって、壊れてしまったことも何度もあるわ。恥ずかしいわよね」
言いながら由梨佳が力なく笑う。多輝は口の中で舌打ちをしてカップをテーブルに戻した。ソファから腰を上げ、由梨佳に歩み寄る。
由梨佳は沈んだ顔に哀しそうな笑みを浮かべている。多輝は無言で由梨佳を抱き寄せた。驚いた声を上げる由梨佳の唇を強引に塞ぐ。
「んっ……」
深く口づけながら多輝は由梨佳を強く抱きしめた。腕に納まった身体が微かに震える。
「もういいよ、先生。そんなに自分を責めるなよ。おれ、先生を泣かせたかった訳じゃないんだ」
多輝は由梨佳の肩に額をつけ、呟くように告げた。由梨佳が吐息をつく。
「責めているわけじゃないの。わたしあなたの事が好きよ。娘みたいに思ってるつもりだったんだけど。見て」
静かに告げて由梨佳は白衣を開いた。そっとスカートをたくし上げる。多輝は無言で由梨佳の身体を離した。下着を見ろという意味だろう。が、見なくてもどうなっているのかは判る。由梨佳の下着は濡れ始めていた。
「濡れてるでしょう? 欲情してるのよ。あなたに」
そう言いながら由梨佳は涙を流した。哀しそうに笑っている。多輝は歯を食いしばって俯いた。ヒューマノイドの機体は確かに便利だ。壊れても修理すればすぐに元通りになる。いつまでも年を取らないままで美しい姿を維持できる。その気になればあらゆる機能を取り付けられる。
だがこの悩みからは絶対に抜け出せない。性的な快楽がなければ機体を維持できない以上、欲情しやすく設定されているのは理解できる。が、何故、ここまで自分たちは悩まなければならないのだろう。多輝は涙を流す由梨佳を抱き寄せた。
口づけて舌で由梨佳の唇を開かせる。多輝は貪るように由梨佳の舌を吸った。きっと根本的な解決など出来はしないのだ。そう思いながら由梨佳の身体を弄る。胸を開かせると由梨佳の腕がゆっくりと多輝の背中に回った。
「天輝くん……。ごめんなさい、悩んでいるのはあなたのに……」
熱い息の下で由梨佳が呟く。多輝は由梨佳を抱き上げてベッドに運んだ。ゆっくりと由梨佳を横たえ、露になった乳房を弄る。
「おれのことはいい。今は何も考えるな」
囁きで告げて多輝は由梨佳に圧し掛かった。こうして交わっても決して悩みは解決しない。そんなことは判りきっている。だが多輝は無言で由梨佳の身体を弄り続けた。胸元にキスマークを散らし、スカートの中に手を入れる。
「ありがとう……天輝くん、ああっ!」
震える由梨佳の身体を押さえ、多輝は下着の中に手を入れた。由梨佳は多輝の愛撫によって何度も絶頂に達した。
その日の授業が終了する。由梨佳が退室してから多輝はベッドに横になった。もう少ししたら蒼とのトレーニングを開始しなければならない。今日は二本取れるかな。三本の勝負のうち、多輝は最近は確実に一本は取れるようになっている。わたくしがお役ごめんになるのもそう遠くはないですね。蒼の言葉を思い出す。
悩んでても仕方ない。多輝は跳ねるように身体を起こした。動きやすい服に手早く着替える。その時にふと目に留まるものがあった。ベッドに隠れるかどうかというところに何かが転がっている。
「何だ? これ」
多輝は呟きながらそれを拾い上げた。指先でつまんでライトに翳してみる。それは真っ青な小さな石の嵌ったピアスだった。
エロシーンに入るかってところで切っちゃったので……(汗)
ヒューマノイドはその辺りは見境がないので、けっこー省略してあったりします。
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盛ってはいけない危険物
エロシーンはありません。
二日目は見知らぬ男子生徒が教室に大挙して押し寄せた。三日目は授業中に全校放送で呼び出された。四日目は……。指を折って思い出していた水輝は奥歯を噛みしめた。ぎり、という嫌な音が口の中に響く。
「ど、どしたの? 池田君。何だか怖い顔、してるけど」
傍にいたクラスメイトの女子生徒が話し掛けてくる。水輝はああ、と手を上げて苦笑した。何でもないと呟いてみる。するとその生徒は頬をうっすらと染めてそう、と答えた。
誰にも聞こえない程度のため息をつき、水輝は席を立った。とにかく腹が減った。ポケットに手を突っ込んで教室を出る。水輝が向かうのと同じ方向に生徒たちの流れが出来ている。食堂にまで流れは続いていた。購買部でパンを買う者と食堂で食券を買う流れに分かれていく。水輝は片方の流れに乗って食堂に入った。
いつまでも変わらないなあ。そんなことを思いながら食券のボタンを押す。食堂内の雰囲気は以前、水輝がここにいた頃と全く変わっていない。腹を減らした生徒たちの賑わいを横目に水輝は券を片手に歩き出した。
カウンターに食券を乗せて待つ。調理場で働く女性が出してくれた定食を片手に水輝は空いているテーブルを探した。カウンターに近いところからテーブルは埋まっている。どうやら少し遅れたのがまずかったらしい。やれやれ、と肩を竦め、水輝は辛うじて空いているテーブルに向かった。カウンターから一番離れた席だ。
音を立てて椅子を引く。一人でテーブルについて水輝は食事を始めた。黙々と定食を片付けていく。これじゃ全然、足りねえし。次は何を食うかなあ。呑気に考えながら水輝は素早く定食を平らげた。空になった食器を片手にカウンターに戻る。食器返却口にトレイごと食器を突っ込み、改めて食券を買い求める生徒の列に加わる。
次は丼かな。水輝は結局、テーブルと食券販売機の往復を五回ほど繰り返した。最後にプリンを自動販売機で買う。さすがにその頃になると食堂内の生徒の数も徐々に減ってきた。空いたテーブルが目立ち始める。
生ぬるい茶を湯のみに注ぐ。水輝はプリンの蓋を開けてスプーンを手に取った。それまでとは違い、ゆっくりとプリンを食べ始める。
食堂の中で賑わっていた生徒たちが次々に外に出て行く。水輝はそれを横目に見た。唇の端にぶら下げたスプーンの柄が揺れる。出て行く生徒たちの中に目的の姿はない。まあ、当然か。水輝は内心でそう呟いた。
氷龍神の手がかりをつかむこと。立城を狂わせた力の許を探ること。順が何を画策しているのか調べること。やることは山積みになっている。考える水輝の機嫌は次第に悪くなっていった。地下にある妙な気配も気にかかる。
こんな時、立城がいたらなあ。自然とそう考えてしまい、水輝は強く頭を振った。今更、頼る訳にはいかない。立城は立城で、自分のことに手一杯だろう。そうでなくても蘇る筈のない者の気配がしているのだ。
先の事件で立城は密かに夢を渡った。元々、水輝は夢使いの力を持っている。その力を利用して立城は都子を救出したのだ。それは水輝も判っていたことだった。が、立城は都子を救出した後、しばらく現実世界には戻ってこなかった。
夢の世界でもいい。一目会えたら。立城が思ったのは恐らくそんなところだろう。だが夢を渡る術は恐ろしく力を消耗するのだ。仲介した水輝の力を食い、実際に夢に潜っていた立城の力も食う。だがそれでも立城は夢を渡った。
理由なんて一つしか思いつかないがな。水輝は内心でそう呟きながらスプーンをプリンの容器に突っ込んだ。
食堂の硝子窓は広々としている。真昼の明るい日差しを硝子越しに見つめ、水輝はスプーンを置いた。空になったプリンの容器をつかむ。湯のみを同時に取り上げ、返却口に向かう。
空容器とスプーンをゴミ箱に放り、湯飲みをカウンターに突っ込んで振り返る。水輝はポケットに手を入れて歩き出した。真っ直ぐに目的のテーブルに近づく。包帯を巻いた二人の男子生徒が水輝を見止めて身構える。
「随分なものを盛ってくれるじゃねえか」
テーブルの脇に立って水輝はポケットから手を出した。手の中に握ったそれをテーブルに乗せる。要の目の前に五つの錠剤が転がる。真っ白なそれを要は見つめ、次いで鋭く舌打ちした。
「さすがですわね……」
そう告げた要が水輝を斜めに見上げる。水輝は呆れたため息をついて錠剤を指差した。二人のボディガードはいつでも飛びかかれるよう、中腰になっている。
「阿呆。そんなもん、固形のまま入ってたらおれじゃなくても気付くぞ」
きっと調理場の女性を買収して混ぜるように頼んだのだろう。水輝は再びため息をついてちらりと調理場を横目に見た。調理場の中で一人の女性が手を振っている。転入してすぐに水輝と仲良くなった女性だ。彼女は恐らく、わざと固形のままで錠剤を食事に混ぜ込んだのだろう。要から金を受け取る。それと同時に水輝が出来るだけ気付きやすいように固形のまま睡眠薬を混ぜる。女性にとってはそれでも仕事をこなしたことになるから、金を戻せとは言われない。水輝は苦笑して女性に手を挙げて応えてみせた。
「あのおばちゃんも逞しいなあ。相変わらず」
殆ど声にならない声で水輝はそう呟いた。改めて要に目をやる。要はテーブルに転がった錠剤をハンカチに包んだところだった。
「今回は負けを認めましょう! でも次はこうはいかなくてよ!」
きらり、と要が目を光らせる。水輝は肩を竦めてテーブルから離れた。どこまでもしつこいやつめ。内心でそう呟く。
例えば一度きり、抱けば気が済む相手ならためらいもなくそうしている。が、要はそんな程度では恐らく納得はしない。水輝は食堂から出て教室に戻りながら考えた。どのみち、要は諦める気はないのだろう。最初は珍しく思って相手にしてきたが、いささか飽きた。次に仕掛けてきたら叩きのめすかなあ。不穏なことを考えつつ、水輝は教室に入った。
「ん?」
ドアをくぐったところで水輝は足を止めた。目を細めて振り返る。水輝は無言で廊下に取って返した。予鈴が響き渡る。だが水輝はそのまま廊下を進んでいった。
真似は出来ないとは思うんですけど一応。
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最後の忠告
エロシーンはありません。
午後から早退することに決め、絵美佳は早々にロボットを引き上げさせた。今日は優一郎が学校に来ているのだ。研究室にロボットを戻し、それと入れ替わるように絵美佳は地上に出た。
真っ直ぐに優一郎のクラスを目指す。ちなりには研究室で待っているように命じてある。もし、優一郎に直接会わせてしまえばまた暗い顔をしかねない。ちなりに会わせてしまえば、折角、優一郎のことを思い出させないようにしている絵美佳の努力が台無しになる。
急ぐ絵美佳は自然と小走りになっていた。階段を駆け上がって優一郎のクラスに辿り着く。本鈴が鳴り、授業の開始を報せる。だが絵美佳はそれにも構わず勢いよく教室のドアを開けた。
「優一郎! ちょっと来なさい!」
居丈高に叫んだ絵美佳に教室内にいた生徒たちがぎょっとしたように一斉に顔を向ける。が、絵美佳は憤然と窓際に座る優一郎を睨みつけた。優一郎も教室内の他の生徒と同様、絵美佳に驚いたらしい。だがすんなりと立ち上がって近づいてくる。絵美佳は怒りと苛立ちに任せて傍に来た優一郎の胸倉をつかんで引っ張った。
「もしかして、姉さん?」
間近で優一郎が小声で訊ねる。絵美佳はそれを無視して叩きつけるように教室のドアを閉めた。優一郎を引きずったまま、廊下を歩く。とにかくここで話は出来ない。かと言って科学部の研究室に戻る訳にもいかない。あそこはちなりが待っている。絵美佳は優一郎を引きずるように廊下を進んだ。
「とりあえず屋上に行くわよ!」
優一郎の首根っこをつかんだまま、絵美佳は大股で廊下を進んだ。優一郎が困ったように声をあげる。自分で行ける、という優一郎を絵美佳は肩越しに鋭く睨みつけた。ふん、と鼻で笑って手を離す。しばし咳き込む優一郎を腕組みをして睨み、絵美佳は再び歩き出した。
屋上には誰もいなかった。金属製のドアを開け、絵美佳は屋上に出た。後から優一郎がついてくる。
「あんたに、質問したいことがあるの。悠波ちなりって娘、知ってるわよね?」
優一郎が扉を閉めると同時に絵美佳は振り返った。怒りに満ちた目で優一郎を睨みつける。
「ちなりがどうかしましたか?」
冷たい風になびいた髪を押さえながら優一郎が平然と告げる。絵美佳は鋭く舌打ちをした。優一郎は知らないとしらを切るつもりはなかったようだが、返事を聞いても絵美佳の怒りはおさまらなかった。
以前は総一郎の面影のある優一郎を無条件に好いていた。総一郎と優一郎さえいれば、他に何も要らないとまで思ったこともある。だがこの時の絵美佳はかつてのそんな思いなどなかったかのように怒り狂っていた。
「ちなりちゃんって、あんたが改造したヒューマノイドよね? そのコ、今、どうなってるかちゃんと把握してる?」
唇の端を吊り上げ、絵美佳は優一郎に顎をしゃくった。ぴくり、と優一郎が眉を跳ね上げる。だが表情の変化はごく僅かで、すぐにその顔は平静のそれへと戻っていく。
「彼女の管理は保美先輩に任せていますけど。なにも問題はないと思われますが?」
応える優一郎はあくまでも平然としている。絵美佳は奥歯を強く噛みしめた。以前はそんな優一郎のことをとても好きだと思った。いつの間にか大人びた雰囲気をまとうようになった優一郎を誇りにさえ感じていた。
だが今は違う。絵美佳はぎらりと優一郎を睨みつけて静かに歩き出した。優一郎の目の前で足を止める。女の身体だった時には見上げなければならなかったのに、今は視線の高さが殆ど変わらない。
「じゃあ、端末で呼び出してみなさい。できるんでしょう?」
絵美佳は怒りを堪えて出来るだけ淡々と告げた。優一郎が不思議そうな顔をしつつもポケットから携帯端末を取り出す。指先が小さなボタンを押す。ほどなく二人の間近で音楽が鳴り始めた。絵美佳は半分だけ瞼を下ろし、ジャケットのポケットに手を突っ込んだ。着信音を鳴らしている携帯電話を取り出す。
優一郎が愕然と目を見張る。絵美佳は携帯電話のボタンを押して音楽を止めた。
「もしもし」
皮肉な笑みを浮かべて絵美佳はそう告げた。優一郎の手の中で携帯端末が小さな光を点滅させる。
ちなりの哀しそうな笑みが脳裏に蘇る。捨てないでとちなりは泣いていた。傍にいない優一郎に殺さないでと懇願していたのだ。絵美佳はふっ、と笑って電話を切った。優一郎は呆然と絵美佳を見つめている。
「姉さん? ちなりにいったい何を!?」
我に返って優一郎が慌てて絵美佳に迫ろうとする。その瞬間、絵美佳は歯を食いしばって右手を握り締めた。目を見張る優一郎の頬にこぶしを飛ばす。殴られた優一郎はよろけてその場にへたり込んだ。
「それはあたしの質問よ。あんた、ちなりちゃんに何をしたのよ!」
言いながら絵美佳はへたり込んだ優一郎に一歩、近づいた。ポケットにしまっておいた紙の束を無造作に優一郎に放り投げる。それはちなりが壊れた際のデータをプリントアウトしたものだ。機体各部の破損状況があからさまに記されている。
頬を押さえて顔をしかめていた優一郎が紙の束を手に取る。そして目を見開いた。震える指が一枚ずつ紙をめくっていく。
「そんな、まさか……!? どうして、こんなになるまで……」
掠れた声で呟きながら優一郎は紙面を凝視している。絵美佳はゆっくりとまた一歩、優一郎に近づいた。目を細めながら優一郎を見る。
「今更なに寝ぼけたこと言ってるのよ。ヒューマノイドの性質はアンタが一番良く知ってるでしょ?」
ヒューマノイドはシステム上、性的な快楽を必要とする。それは絶対不可欠な機体維持の条件だ。それ故にヒューマノイドは欲情しやすいように設定されている。そして効率よく機体を欲情させるために恋愛感情がそのシステムに直結されているのだ。
優一郎が息を飲む。絵美佳は腕組みをして優一郎を斜めに見下ろした。
「ヒューマノイドは人形よ。他人に支配されなければ生きられない。その事を一番良く知ってるのはあんただと思ってたんだけど」
機械仕掛けの身体で命を繋いだ後、ヒューマノイドは絶対の支配者を必要とする。それが人形であるヒューマノイドがマスターと呼ばれる存在の登録を行う理由だ。あらゆる事柄において、ヒューマノイドはマスター登録の行われた存在の安全を最優先する。言わば、ヒューマノイドはマスターを一生慕っていかなくてはならないのだ。
どんなヒューマノイドにも例外はない。あの由梨佳でさえ、総一郎をマスターとして登録しているからこそ、これまで機体を維持することが可能だったのだ。
ヒューマノイドのシステムの記録は劣化しない。人のように勝手に心変わりすることは出来ないのだ。羅木である絵美佳のものになる、と告げたちなりはある意味ではシステムに逆らった行動を取った。それ故、壊れかけていた機体は更に軋みを上げた。結果的にはちなりは必死で生きる術を探しながら、自分自身で機体の崩壊を早めてしまったのだ。
「要らないから、飽きたから、放置してたんでしょ? ちなりちゃんがどれだけ真剣にあんたを思ってたか気にもせずにのうのうと新しいオモチャで遊んでた。違う?」
言いながら絵美佳は優一郎の手にしていた紙の束を蹴った。震えていた優一郎の手から飛んだ紙の束がコンクリートに落ちる。
「ヒューマノイドを玩具扱いするのは別に構わないわ。でも、それならきちんと玩具扱いした責任をとりなさい!」
低い声で言いながら絵美佳は優一郎の胸倉をつかんだ。優一郎は言葉もなく絵美佳を見ている。
心の底から優一郎の幸せを願い、慕ってきた。時には隠れて優一郎を想いながら自慰をしたこともある。優一郎を欲しくてたまらなくて、それでも絵美佳はそんな想いを表面には出さなかった。総一郎と優一郎を見比べてしまっていることがたまらなく嫌だったから、だから想いを隠していた。
おねえちゃん。無条件に絵美佳を慕ってくれた幼い優一郎のことを思い出す。絵美佳は歯軋りをして優一郎の胸倉をつかむ手を震わせた。二度と、あの頃は戻らない。
「甲斐性無しが、人形遊びなんて十年早いってこと!」
振りかぶってこぶしを繰り出す。絵美佳のこぶしは優一郎の鳩尾に吸い込まれた。低く呻いて優一郎が俯く。どこまでも人が好いんだから。決して避けようとしなかった優一郎から絵美佳は手を離した。崩れ落ちた優一郎に背を向ける。
風に吹かれて紙の束が音を立ててめくれる。
「あんたに贈る、姉としての最後の忠告よ」
背中を向けたまま、絵美佳は掠れた声で告げた。背中越しでもわかる。優一郎は落胆したまま俯いているに違いない。絵美佳は頬を伝っていた涙を乱暴に袖で拭った。毅然と顔を上げる。
「というわけで、ちなりは今後俺が責任をもって面倒みてやる。文句は無いな?」
肩越しに振り返る。だが優一郎は返答しない。絵美佳はふん、と鼻で笑ってから屋上を後にした。
絵美佳って男らしいんですよねぇ……。
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狩る者と狩られる者
エロシーンはありません。
指先につまんだそれを日差しに翳す。立城はのんびりと庭でお茶を飲んでいた。傍にいるのは蒼だ。蒼はすっかりこの屋敷に慣れたらしい。最初のように戸惑うことも少なくなったようだ。まあ、水輝の使い魔という時点で貧乏くじをひいていると思うけど。立城は内心でそう呟いて微かに笑った。
「主はそのことは?」
静かに蒼が問い掛ける。立城は笑って手の中にそれを握った。笑顔のままで首を横に振る。
「気付いていないんじゃないかな。もし、気付いていたら拾っていくだろうし」
手の中の青い石はひんやりとしている。立城は再び指を開いて手のひらの上でそれを転がした。水輝のピアスの片方だ。蒼が静かにそれを見つめる。
「蒼はハンターについてどの程度、知っているの?」
ピアスをテーブルに乗せて立城はそう訊ねた。はあ、と曖昧に返答して蒼が指を折る。
「龍神に為れない者がなる、龍宝珠を糧としており、龍神を殺傷する能力があるということくらいでしょうか」
自信なさそうな声に立城は微笑んでみせた。蒼の言ったことは間違ってはいない。だがそれらは表面上の話だ。
「狩る者というのが正式な名前だよ。狩りをしなければ生きられない血をハンターと呼ぶんだ。それは龍神に限った話じゃない。主な糧は龍宝珠だけれど、ハンターにもやっぱり力に差があるんだ」
龍神を屠ることの出来るハンターは限られている。だからハンターは群れる。群れを為して龍神を襲うことで、平均的に龍宝珠が行き渡るようにする。それがハンターたちの生き方だ。現存するハンターの正確な数は判らないが、今こうしている間にもどこかで狩りが行われているだろう。立城はそう告げた。
「集団で狩りを行うことで力なき者にも糧が渡る、ということですか」
考えるように蒼が呟く。何かが引っかかっているのだろう。立城はにっこりと笑って肯定した。
「そう。力のあるハンターは力のない仲間を養う。そうしてハンターたちは生きているんだよ」
「ですが、龍神に限った話ではないと……?」
神妙な顔で蒼が訊ねる。ああ、と笑って立城は頷いた。
ハンターは狩りをしなければ生きられない。それはある種、本能的なものだ。狩り続けることで自己を保とうとする習性があるのだ。だが龍神を狩るチャンスはごく限られる。そうそう発生するものでもない。罠に嵌めるにしても、それなりの準備が必要になる。その準備期間はどうしても長くなる。例えば力の弱い龍神でも、探知能力そのものは人とは比べ物にならないほどに高い。罠を張るにも細心の注意を払う必要性があるし、自然、その罠も周到になる。
一般的に人の口にする食料を取ることも可能だ。が、ハンターの根本的な飢餓感はそんなもので満たされるほど生易しくはない。
「人をね。狩るんだ」
そう言って立城はひっそりと笑った。自分を責め苛む飢餓感を払拭するため、ハンターたちは少しずつ人を狩る。その心臓は僅かだが彼らの飢餓感を埋める。
「もちろんそれは龍宝珠に比べればごくささやかな力かも知れない。だがそれでもハンターたちは飢えを凌ごうとして人を狩る。欲求を抑えられないハンターは特にその傾向が強いんだ」
人の使用するドラッグとは桁違いの力の中毒症。そう、立城はハンターを表現した。蒼が次第に顔を曇らせる。
「力に支配され、やがてそれを取り込むことだけが生きがいになる。やがて器の中に溜まった力に食いつぶされる時まで、ずっとね」
ハンターの末路はほぼ二種類に分けられる。龍神を襲って返り討ちにあうか、力に食いつぶされるかのどちらかだ。立城はそう言いながら二本、指を立ててみせた。はい、と蒼が力なく返答する。
「龍神もただ黙ってやられている訳じゃない。ハンターの多くは返り討ちにあって命を散らすんだ。もっとも……最近はその数も減っているようだけれどね」
龍神そのものの力が衰えていることがその所以だ。立城はその言葉をそっと胸の奥にしまった。蒼は静かな眼差しをテーブルの上のピアスに向けている。
「……どうしてその話をわたくしに」
静かな声が聞こえる。立城は微かな笑みを浮かべて蒼の肩を軽く叩いた。蒼がのろのろと顔を上げる。不安を押し隠しているのだろう。穏やかな面立ちに微かに陰がさしている。
「水輝は中毒に陥っているんだ」
ハンターが飢えを満たすために人を狩るように、水輝はたびたび人を狩る。それは龍神の間では禁忌とされる行為だ。何故ならたとえ力のある龍神でもその甘い蜜から逃れられなくなるからだ。
水輝の力を受けて蒼は誕生した。が、主の歪みを使い魔である蒼は無条件に受け入れることになる。使い魔には元々、主に絶対の忠誠を誓うという性質がある。ありていに言えば、主以外はどうでもいいというスタンスを取るようになるのだ。それが使い魔が使い魔でいられる理由だ。
立城は指先でピアスをつまんだ。いつからか水輝が常に身につけるようになったものだ。どうして多輝の部屋でそれが発見されたかは理解できる。水輝は立城に隠れて多輝の記憶を解放しようとしたのだ。
「よくよく、僕のすることが気に入らなかったのかな。相変わらず無茶をする人だよ」
そう言いながら立城は小さく笑った。今、世界のバランスは大きく崩れている。もし、そのバランスが一気に戻ってしまったら、恐らく水輝はただではすまないだろう。断罪の主が水輝の所業を看過するとは思えない。
「奈月さんを呼んでくれるかな?」
にっこりと笑って立城は告げた。蒼が静かに立ち上がって一礼する。
この頃の立城の判断力はちょっと……w
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コスプレ少女現る
窓に手をついて息を殺す。要は唇を軽く噛んで窓枠を指先で強く握った。腰を揺すられるたびに心地のよい快感がこみ上げる。
要のスカートをめくり上げてペニスを抜き差ししているのは周藤だ。一方、野木はそ知らぬ顔で雑誌を読んでいる。要は掠れた声を上げて腰をひくつかせた。周藤に腰を抱え上げられているため、要の足は宙に浮いている。揺れる度にそのつま先が頼りなく壁を蹴る。
「か、要様……そろそろ……」
苦しげな声が背後から聞こえてくる。要は肩越しに振り向いて首を横に振った。甘い快感が下腹部に溜まりつつある。だが絶頂にはまだ遠い。
「まだ、まだだめよ! もっと……突きなさい! あうんっ!」
潜めた声で要は命じた。視線を動かして野木を見つめる。野木は要の視線に勘付いたのか、静かに雑誌を閉じた。音もなく立ち上がって近づいてくる。
「要様。私にもご奉仕させていただけますか」
足元に跪き、野木が頭を垂れる。
「かまわなくてよ……さあ、来なさい」
艶やかな微笑みを浮かべて要は周藤に合図を送った。周藤が要の腰を抱えたまま身体の向きを変える。ペニスを挿されたまま、要は半ば宙吊りの状態で野木と向き合う形になった。野木が静かに頭を上げる。
「失礼いたします」
そっと囁いて野木は要のスカートを持ち上げた。露になった要の股間に顔を寄せる。要はクリトリスに吸い付かれて必死で声を殺した。
あれほどわたくしが声をかけているのに振り向かないなんて。要は先日、転入してきた水輝のことを思い浮かべた。どんな方法を用いても水輝はなびこうとはしない。それどころか日に日に水輝の態度は冷ややかになっていく。
あの男に奉仕させたらきっととてもいいのに。要は唇を噛んで息を殺した。自然と水輝に抱かれる自分の姿を思い浮かべる。
野木が要の乳房を優しく弄る。同時にクリトリスを舌先でくすぐるように愛撫する。要は前と後ろから攻められて思わず掠れた声を漏らした。目を閉じて水輝を思う。それだけでこれまでとは違う、強い快感を得ることが出来た。
「要様……失礼します」
そう呟いて野木がクリトリスに強く吸い付いた。要は激しく頭を振り、野木の肩を強くつかんだ。周藤の動きが徐々に速くなる。
「んっ、周藤、いって良くてよ!」
はっ、という掠れた声と共に周藤は激しく腰を前後させ始めた。一気に快感が増す。要はペニスに突かれながら絶頂に達した。周藤が荒い息をつく。
疲れた面持ちで要は床に降りた。周藤がペニスに装着していたコンドームを素早く片付ける。野木は足を開いて椅子に腰掛けた要の陰部を丁寧に洗浄し始めた。人肌に温められた純水が要の愛液を洗い流していく。
野木が立ち上がって一礼する。要は下着を身につけて深く椅子に寄りかかった。洗浄の器具を片手に野木が部屋を出て行く。入れ替わりに戻ってきたのは周藤だ。すっかり平静に戻った周藤が一枚の紙を要に差し出す。要は気だるい面持ちでそれを受け取った。
今日一日の食堂の売上状況にざっと目を通す。特に問題はないだろう。要は机の中から印鑑を取り出して所定の場所に捺印した。周藤が頭を下げて退室する。一人きりになると急に生徒会室が広く感じる。要はため息をついて印鑑を戻すついでに双眼鏡を取った。
せめて体育の授業を受けている男子生徒の姿を見て自分を慰めよう。そう思いながら要は双眼鏡を片手に窓辺に寄った。いつものように双眼鏡を覗き込む。グランドでは確かこの時間、マラソンをしている生徒がいる筈だ。そう思いながら要は何気なくグランドに双眼鏡を向けた。
見慣れないものが目に留まる。水色のスカートが風に翻る。んー? と眉を寄せて要は目を細めた。
一人の少女がグランドを無邪気に横切っている。体育の授業を受けていた生徒たちが放心したような顔で少女を見つめている。が、少女自身はそのことに気付いていないらしい。見たところ、要と同じくらいの年だろうか。なのにその少女の足取りは頼りない。手にした紙を覗き込み、周囲を見回している。そのうちに少女は気付いたように一人の男子生徒に近づいていった。放心していた生徒が真っ赤になって頭をかいている。
「ああっ、もう!」
見ているうちに段々と腹が立って来る。少女は嬉しそうに顔をほころばせて頭を軽く下げた後、再びグランドを横切り始めていた。時折、つまづいては慌てて身体を起こす。要は苛々と唇を噛んで少女の行く手を双眼鏡で追った。
メイドというものを形にしたら、きっとああなるに違いない。少女は水色のワンピースにフリルのついたエプロンを身につけていた。頭にはフリルつきのカチューシャをつけている。風に翻るスカートはあくまでも柔らかく、ふんわりとしている。きっと中にペチコートを重ねているに違いない。要は少女を見守りながらコスプレ? と呟いた。
要が命名したコスプレ少女はそのまま校舎に入ってしまった。要は眉を寄せて双眼鏡を下ろした。端末を立ち上げる。該当する生徒がいないかチェックする。だがどのクラスにも少女のような愛らしい外見を持つ生徒はいなかった。
校舎内に生徒たちのどよめきが走る。だがそのことをこの時の要はまだ知らなかった。
このエピソードで九章は終わりです。
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十章
被虐の蜜の味
エロシーン……なんですけども、機械相手なので微妙な方は微妙かもです。
ゆらりと人影が現れる。廊下を掃除していた斎姫はびくりと身体を震わせた。人影を見止めて驚きに目を見張る。
「優くん! どうして……あっ!」
掠れた声を上げて斎姫は廊下にへたり込んだ。しばらく会っていなかったためだろう。優一郎の姿を確認しただけで欲情してしまったのだ。斎姫は唇を噛んでそっと俯いた。恥ずかしくて優一郎を直視できない。
「優くん……だめ、あそこが!」
斎姫の切ない声を無視して優一郎が近づいてくる。斎姫は泣きそうになりながら壁際に寄った。床に放り出した足が勝手に震えている。斎姫の下腹部の内側では低いモーター音がし始めていた。
「優くん……わたし、もう要らないの?」
ここ最近、ずっと斎姫は優一郎にメンテナンスを施してもらっていなかった。最初は保美が快感を与えてくれていた。その次は果穂に。だが優一郎はそんな斎姫に自慰以外で快楽を得てはいけないと命じた。壊れそうなほどに切ない思いを抱えながら、斎姫は自慰をし続けている。
だがどうしてだろう、と考えを巡らせた時、決まって斎姫は暗い考えに辿り着く。もう、要らなくなったのかな。だがそう考える度に機体は斎姫の意志に反して欲情する。結局、斎姫は悩みを誰にも打ち明けることが出来ないまま、自慰によって事務的に性的な快楽を得る日々が続いていた。
俯いた斎姫の視界に黒い靴が割り込んでくる。斎姫は潤んだ目を上げて優一郎を見つめた。優一郎は斎姫の傍に無言で立ち、じっと見下ろしている。
「優くん……いいのよ。要らないなら、わたし……」
自嘲気味に笑い、斎姫は目を逸らした。ぴくりと優一郎が眉を跳ね上げる。だが斎姫はそのことに気付かなかった。
「優くんに必要とされないなら、わたしが存在してる意味ないもの……」
優一郎が斎姫の全てだった。他の誰でもない、優一郎が必要としてくれているならと思っていた。だがもしかしたら優一郎は自分を必要としていないかも知れない。そう思った斎姫の目から大粒の涙が零れる。
優一郎は無言で斎姫を見下ろしていた。だが急に腕を伸ばして斎姫の肩をつかむ。斎姫は驚きに目を見張って顔を上げた。優一郎は冷ややかな眼差しで斎姫を見つめ、次いで斎姫の腕を取って強く引き起こした。そのまま斎姫を腕に抱く。斎姫は驚愕に息を飲んだ。
「優くんっ?」
間近に優一郎の息遣いを感じる。斎姫は呼びかけてはみたものの、その先に続く言葉を見つけられなかった。優一郎は斎姫を強く抱きしめて腕を震わせている。一体、何があったのだろう。
「優くん……」
おずおずと斎姫は腕を上げた。そっと優一郎の背中に腕を回す。こうして抱きしめられているだけで幸せな気分になれる。なのに機体はそんな斎姫の仄かな希望を打ち砕くかのように如実に反応した。膣壁がうねってペニスの挿入を待ち受ける。クリトリスと乳首が最高レベルで勃起する。斎姫は泣きたい気分で優一郎の胸に顔を埋めた。
「だめ……! あそこが……」
愛液が溢れて腿を伝う。斎姫は半泣きになりながら優一郎の背中を抱く腕に力をこめた。下腹部が疼いてたまらない。斎姫の哀しい気分を打ち消すほどの強い欲求がこみ上げてくる。斎姫は声を殺して泣きながら優一郎にすがりついた。
「君は、本当にただの機械人形なんだね」
静かな声が降って来る。斎姫は震えながらはい、と答えた。我慢が限界に達して欲求が抑えられなくなる。
「僕は、正直、君を玩具扱いしてきた。そんなことされて不満は感じないの?」
優一郎の声には何らかの感情がこもっている。だがこの時の斎姫はそれを聞き取る余裕がなかった。快感が欲しい。切ない場所を埋めて欲しい。そう願いながら斎姫は目を閉じた。
「僕は壊れるまで自慰をする君の様子をビデオで撮影して、楽しんでたんだよ? そんなことされても、まだ僕が好き?」
だって見られるのが気持ちいいんだもの。そう思いながら斎姫は強く優一郎に抱きついた。零れた涙が優一郎のジャケットに染み込んでいく。
「見てくれてたのね……。優くん!」
優一郎を思いながら自慰をする。切ない気持ちを埋めるために快感を機体に与える。その光景を優一郎が録画していたことは承知の上だった。が、優一郎がわざわざその録画された斎姫の状態を確かめているとは思わなかったのだ。斎姫はこみ上げてくる衝動に任せてしゃくりあげた。涙がどんどん溢れてくる。
「優くん、いいの。玩具で構わない。優くんが必要としてくれてるなら、なんでもいいの!」
泣きながら斎姫は叫ぶようにして告げた。ぴくりと優一郎の腕が震える。やがて優一郎はそっと斎姫を解放した。斎姫は泣きじゃくりながらその場に座り込んだ。これまで心の中で重ねられてきた思いが一気に込み上げてくる。
不意に笑い声が聞こえてくる。斎姫は驚いて目を上げた。優一郎が斎姫を見下ろしながら笑っているのだ。その声が次第に大きくなる。怪訝に思いながら斎姫は涙を拭いた。
「君に命令。立ち上がって、第二実験室へ移動すること」
額を覆って笑いながら優一郎が告げる。斎姫はよろけながら壁伝いに何とか立ち上がった。性的興奮を最大レベルで求めている機体は、とても動かしづらい。だが斎姫は壁伝いにじりじりと進み始めた。ゆっくりと斎姫の後を追いながら優一郎はくすくすと笑っている。
「女性器ユニット、擦り切れてるんでしょ?」
言いながら優一郎は無造作に斎姫のスカートをめくり上げた。斎姫はびくりと身体を震わせ、危うくその場に倒れかけた。見られているということが快感になる。斎姫は息を切らせながら懸命に身体のバランスを取った。
「ぼろぼろだね」
優一郎の命令により、斎姫は下着を身につけていない。剥き出しになった股間を覗き込み、優一郎が笑う。斎姫は恥ずかしさを堪えて懸命に前に進もうとした。だが足がなかなか動かない。
「ごめんなさい、わたし、わたし……」
肩越しに振り返って斎姫は潤んだ目で優一郎を見た。優一郎が笑いながら斎姫の腰に手を回す。あっという間に斎姫の膣内に何かが入ってくる。斎姫は驚愕に目を見張り、次いで激しい快楽に仰け反った。
「これで、楽になったでしょ?」
優一郎が屈めていた腰を上げる。その手には携帯端末が握られていた。細いコードが斎姫の股間まで伸びている。斎姫は喘ぎながら壁伝いに床に崩れかけた。その途端に膣内で何かが振動する。びくり、と跳ねるように斎姫は身体を起こした。
「内部もぼろぼろだね」
まだ優一郎は笑っている。斎姫は強い快感に翻弄され、眩暈を起こしかけていた。そんな斎姫の腰を何かが強く押す。優一郎が端末で斎姫を押したのだ。斎姫は再びのろのろと廊下を進み始めた。
「ほんとに君は、いいね。凄くいい」
呟きながら優一郎はくすくすと笑った。膣内に挿入された検査用のスティックが波打つように振動を繰り返す。斎姫は快感に晒されたままで懸命に進んでいた。時折、強い快楽に囚われて足が止まりそうになる。その度に優一郎が斎姫の腰を押す。
「セックス、早くしたくないの? 修理しないとできないよ」
意識が遠のきかける。くすくすと優一郎が笑って斎姫の腰に手をかける。斎姫は沈みかけていた身体を懸命に立て直した。壁に手を当てて必死で前に進む。優一郎は笑いながら斎姫の腰にあてた手を軽く動かした。
痺れるような快感に襲われる。斎姫は声を上げて仰け反った。優一郎に触れられたことで一気に絶頂に達してしまったのだ。
「自力で、移動は無理?」
床に崩れてしまった斎姫を見下ろしながら優一郎は笑っていた。だが斎姫ははっきりと優一郎の様子を見ることが出来なかった。これまで禁止されていた異物の挿入により、膣内の感覚が異様に鋭くなってしまっているのだ。
「質問に答えて」
優一郎の指先が動く。携帯端末を指先が弾くと同時に斎姫は声を上げて背中を反らせた。とてもまともにものを考えることが出来ない。
「答えられない? そんなにこのスティックがいいんだ? 僕とはセックスしたくない?」
笑いながら優一郎が指先で端末を操作する。斎姫は頭を激しく振って口を開いた。何を訊かれているのか、自分は何を言えばいいのかが判らない。ただひたすらに快楽を求め、斎姫は床に座り込んだ。唇の端から涎が垂れる。
「あははっ、そうだよね。ヒューマノイドってこういうモノだよね」
優一郎が腹を抱えて笑い出す。斎姫は無意識の内に足を大きく開いていた。膣に挟まったスティックを握って出し入れする。
「いいよ、とてもいい」
微かにジッパーの音が響く。斎姫は淫らに腰を振りながらスティックで膣内を攻めた。ボタンのようにしこったクリトリスを乱暴に弄る。とろけるような顔をしながら斎姫は甘く鳴いた。
「ほら、咥えて。ほしいんでしょ?」
口の中にペニスが突き入れられる。斎姫は艶かしい動きで優一郎のペニスに吸い付いた。優一郎が嗤いながら斎姫の頭を押さえる。
「壊れたら、オーバーホールしてあげる。明日から、働いてもらうよ。って聞こえてないか」
喉の奥に屹立したペニスが届く。優一郎は嗤いながら斎姫の髪を乱暴に握った。両手で斎姫の頭を支えて揺する。斎姫は喉の奥に届いた精液を音を立てて飲み下した。
十章はノーマルなエロシーンがあんまりありません。
章全体にBL警報を出さねばならないほどです。ヤバい。
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水輝と真也の再会 1
BL系苦手な方は気をつけてください。
憑依警報!
一応、エロシーンはありません。
気配が近づいてくる。水輝は咥えていた煙草を指で挟んだ。気配を読みながら小さく笑う。これまで、地上に出てこなかった絵美佳がようやく学校に姿を現したのだ。
今は授業中で周囲は静まり返っている。水輝は外と校舎を繋ぐドアの前に立っていた。校舎の外側につけられた階段には誰もいない。どうやら絵美佳は人目を避けてこの階段を使うことにしているようだ。ゆっくりと気配が階段を降りてくる。
水輝はそっと耳元に手をあてた。指先が空振りして耳たぶに触れる。水輝はため息をついて指で軽く耳たぶをつかんだ。右の耳のピアスがない。気付いたのはつい先日のことだ。なくした場所の見当はつく。が、今更取りには戻れない。今、戻ってしまったらここに来られなくなる可能性が高いからだ。
あの時か。水輝は目を細めて手を下ろした。多輝の封じられた記憶を溶かすため、一度だけあの部屋に入ったことがある。その時に寝ぼけた多輝と半ば揉みあいになってしまったのだ。なるべく気配を殺そうと努めていた水輝は、多輝を冷たくあしらうことが出来なかった。大人しくさせるために何とかベッドに組み伏せた。結局、多輝はそのまま眠ってしまったのだが、その時にピアスが外れてしまったのだろう。やれやれ、と息を吐いて水輝は伏せていた目を上げた。
思えばあの時から歯車が狂っているんだ。水輝は遠く沈みかけていた記憶を引っ張り出してみた。明るい笑顔のよく似合う少女だった。兄と慕い、少女はいつも水輝の後をついて歩いた。時折、転びかける少女に水輝は手を差し伸べた。小さなあの手は何の疑いもなく水輝の手につかまった。
成長する少女を見守っているだけで何故か安心できた。安らぐ日々がずっと続けばいいのにと願った。だがその日は長くは続かない。それも判っていた。
あの日、水輝は少女に手をかけた。不可抗力だったとはいえ、少女を自分の刀で刺し殺してしまったのだ。
生きていて……お兄ちゃん。紫翠の分も、生きてね。
忘れられない言葉が心の中に響く。水輝は鋭く舌打ちをした。今更、思い出したところで死んだ少女が帰ってくる訳ではない。そして紫翠にも同じ事が言える。水輝は喉の奥で小さく嗤って煙草を咥え直した。
ゆっくりと気配が降りてくる。水輝はゆらりと壁から身体を引き剥がした。一歩、横に出る。階段を降りていた絵美佳がぴたりと足を止める。水輝は検分するように絵美佳を眺めた。階段の途中で止まった絵美佳が不審そうに眉を寄せる。
絵美佳は水輝を見て止めていた足を再び動かし始めた。ゆっくりと階段を降り始める。水輝は無言で傍を通り過ぎようとした絵美佳の腕を無造作につかんだ。
「わざわざ出向いてやったんだ。無視することはないだろう?」
皮肉に笑いながら水輝は絵美佳の腕をつかむ力を少し強くした。絵美佳が顔をしかめてその手を振り払う。
絵美佳はその肉体を男の性へと変えている。原因は間違いなく真也だろう。それに絵美佳は当初から男としての器を持っていた筈だったのだ。生まれた魂はとても頼りなかった。弱々しいその魂が長く生きられるとは思えなかった。それが絵美佳が誕生した時の立城の感想だったらしい。が、ちょっと目を離した隙に絵美佳の魂は輝きを増した。そして傍にあった斎姫の魂を食ってしまったのだ。
斎姫の女としての性を取り込んだ絵美佳はその性を変えた。これまで絵美佳が女の性であったのはそういう理由がある。そして今、絵美佳は男の性をまとっている。本来の絵美佳の性と真也の性が斎姫のそれを上回ったのだ。
水輝を見る絵美佳の目は鋭い。
「こんなところで話なんて出来ないだろ?」
そう言って絵美佳は顎をしゃくった。水輝は片方の眉を上げて絵美佳を見た。が、絵美佳は水輝の視線を無視して先に進んでいく。ため息をついて水輝はその後を追った。
地下には行きたくないんだがなあ。水輝のぼやきに絵美佳が振り返る。けっ、と喉の奥で吐き捨てて絵美佳は息を吐いた。
「こう見えても俺はこの学校の生徒じゃないんでね。呑気に地上で話なんてできねんだよ」
ぞんざいに告げられて水輝は顔をしかめた。いま、絵美佳の表面に出てきているのは間違いなく真也だろう。だが真也は水輝を見てもすぐには襲い掛かってこなかった。何故だろう。即座に戦いになると踏んでいた水輝は内心で首を捻った。直接的にではないが、真也は水輝に殺されたと言っても間違いではない。結局、立城と真也を引き離したのは水輝だ。
だが今の真也からは恨みや憎しみの感情は流れてきてはいない。水輝は真也の後ろを追いながら目を細めた。淡々とした、つかみどころのない感情で満たされている。意識を研ぎ澄ましてみても水輝には真也の意図がつかめなかった。
階段を降りきったところで真也が振り返る。いつか見た鋭い目が水輝の姿を捉える。水輝は黙って階段を降りた。真也が無言で水輝の煙草を指し示す。唇から煙草を引き剥がし、水輝は手の中でそれを潰した。微かな力を受けて煙草が散り散りになる。再び指を開いた水輝の手から煙草はなくなっていた。
「心配するな。別に取って食いやしねえ」
口許を歪めて真也は校舎に入った。地下に続く扉を手慣れた調子で開ける。水輝は目を細めて気配を読んだ。地下で息づくそれの気配は日増しに大きくなっている。出来るだけ近づきたくないんだがな。水輝は内心でそう呟いた。
地下に続く廊下はとても明るかった。水輝の背中でドアがゆっくりと閉じる。ふうん、と呟いて水輝は真也の後を追った。
「あっ、羅木くぅん。おかえりなさいっ」
唐突に声が飛んで来る。水輝は咄嗟に身構えようとした。が、次いで肩にこもった力を抜く。廊下を駆けてきたのは一人の少女だった。嬉しそうに真也の腕に飛びついている。真也はそんな少女に微かに笑みかけ、何事かをそっと耳打ちした。
あの真也がねえ。水輝は二人の様子を見ながら内心で呟いた。きっと少女はいま話しているのが絵美佳ではないとは気づいていないだろう。肉体だけは絵美佳なのだ。気付かなくても当然だ。
「頼むな。ちなり」
ちなりと呼ばれた少女の頭を真也が軽く撫ぜる。するとちなりは嬉しそうに笑って頷いた。そのまま廊下の向こうへと駆けていく。水輝は無言でそれを見送った。壁に預けていた背中を引き剥がす。
真也がまた歩き出す。水輝は仕方なくついて歩いた。気配は少しずつではあるが近くなっている。これ以上、接近するとまずいな。そう思ったところで真也が振り返った。
「まあ、入れ」
ぶっきらぼうに言いながら真也がドアを開ける。水輝はちらりとドアの上を見た。研究室の一つなのだろう。番号が振られている。ドアの向こうを見るとそこは絵美佳が普段使っているのか、ベッドや家具が揃っていた。広々とした部屋の隅には大きな机が据えてある。へえ、と呟きながら水輝はその部屋に入った。
絵美佳なら良かったんですけどね……。
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水輝と真也の再会 2
ちゅーはあるけど、ぎりぎりだからエロシーンじゃないことにしてます。
「随分とシンプルな部屋だな。飾り気がないというか」
モノトーンの部屋の中央で水輝は物珍しさに任せて周囲を見回した。真也が小さく笑ってソファに転がっていたクッションを取り上げる。顔を上げた水輝に軽くそれを放り、真也はソファを指差した。どうやら座れという意味らしい。水輝は肩を竦めて指示に従った。
黒いテーブルの上に硝子製のチェス盤が置かれている。擦り硝子と透明な硝子のコマを見つめ、水輝は苦笑した。どうやら誰かとゲームをしている最中のようだ。
「はーい! お待たせしましたあ。お茶でぇす」
明るい声と共にちなりが部屋に姿を現した。トレイを両手で支えてテーブルに寄ってくる。近づきざまににっこりと笑われ、水輝は反射的にちなりに微笑んだ。
「ありがと。あ、おれ、砂糖要らないから」
「手ぇ出すなよ。俺のお気に入りだからな」
即座に声が飛んで来る。水輝は憮然としつつ振り向いた。真也が仏頂面で水輝を睨んでいる。えへへ、と笑ってからちなりはトレイを抱えて部屋を去った。
「誰が手を出すって?」
ちなりがドアを閉めたのを確認してから水輝は呻くように呟いた。すると真也が当然のような顔で水輝を指差す。
紅茶の満たされた真っ白なカップを口許に近づけたところで水輝は手を止めた。甘い、不思議な香りがする。真也は水輝の正面に陣取り、知らん顔で紅茶を啜っている。水輝は目だけを上げて真也を捉えた。
「これ、紅茶、だよな?」
「お前に出してやる義理はないが、特別に茶っ葉を混ぜて作ったやつだ。ありがたく飲め」
そう言いながら真也が水輝を睨む。水輝はふうん、と呟いて一口ほど紅茶を啜った。じんわりとした温かさが喉を滑って落ちる。どうやら真也はわざわざ猫舌の水輝に合わせて紅茶を淹れるように指示したらしい。気が利くじゃん。水輝は微かに笑ってそう呟いた。
紅茶を半分ほど飲んだところで水輝はカップを置いた。真也と仲良く茶を飲むためにここに来た訳ではない。真也もそのことは理解しているのだろう。黙って顔を上げる。
「お前、こないだ立城に変なもの飛ばしやがっただろう?」
真也の飛ばした意識が結界の一部を綻ばせ、立城の意識と混ざり合った。水輝はその時のことを思い出しながら真也を睨みつけた。真也が無言でカップを傾ける。
「おかげで立城の精神状態は不安定に……って、聞いてるのか? おい」
目を閉じてカップを傾けていた真也が片目だけを開ける。水輝はふと眉をひそめた。妙な思惟が流れてくる。何かを数えている? そう、水輝が思惟を読んだ時、真也がカップを唇から離した。
「さーん、にー、いーち」
唇が嗤いの形に歪む。水輝ははっとしてテーブルに置いたカップを見た。赤い茶はカップの半分ほどの位置まで減っている。
「ゼロ」
立ち上がりかけた水輝の身体から一気に力が抜ける。ソファに崩れ落ちた水輝は力を振り絞って頭を上げた。視界がぐらついている。
「特別製だっつったろ?」
だが薬の類を使われればすぐに判る筈だ。水輝は歯を食いしばって真也を睨みつけた。真也はソファにゆったりともたれかかって水輝を眺めている。
「一つ忘れているようだから言ってやるが、俺を誰だと思ってるんだ?」
そう告げて真也はゆらりと立ち上がった。水輝はその間に全身に力をこめて何とか起き上がった。ソファに深く寄りかかる。
「絵美佳……ちゃん、か」
「当たり。俺の宿主はてめえが思う以上に天才なんだよ。てめえを嵌めるヤクの調合くらい朝飯前って訳だ」
薬、か。これが。水輝は内心でそう呟いた。人々の使用するあらゆる薬剤は龍神である水輝には通用しない。薬物の混入された食品を口に含んだだけでも酷い違和感を覚えるほどだ。
だがさっきの紅茶にその違和感はなかった。せいぜい甘い香りがした程度だ。水輝はふらつく頭を手で支え、もう一度テーブルのカップに視線を飛ばした。赤い茶が微かに揺れている。
「それにてめえに盛ったのは普通のヤクじゃねえ」
立ち上がった真也が近づいてくる。反射的に水輝は力をかき集めようとした。とても身体の動きでは抵抗できないと思ったからだ。真也が何を考えているにせよ、動きを制約されるのは困る。
「っと。あぶねえなあ。まだそんな力、出せるのか」
にやにやと嗤いながら真也が立ち止まる。水輝は震える腕を上げて真也に手のひらを向けた。集めた力を収縮させる。
「でもなあ、のろすぎんだよ」
不意に衝撃が襲ってくる。水輝は息を殺して呻いた。伸ばしていた腕が自然と下がる。身体を締め付けるような何かが自分を覆っている。同時に水輝の放とうとしていた力が逆流する。水輝は両腕で自分の身体を強く抱きしめた。
「……へえ? ちったあいい顔すんじゃねえか」
水輝の正面に回った真也がソファに足をかける。無造作に指で顎をつかまれ、水輝は歯を食いしばりながら顔を上げた。水輝自身、気付いていなかったが頬が微かに赤く染まっている。
「遅効性にしてもらったからな。じわじわ味わいな。てめえはただじゃ逃がさねえ」
身体の中で何かが暴れている。水輝は片目を開けて真也を見た。滲んだ視界一杯に真也の姿が映る。全身を震わせながら水輝は唇の端を微かに吊り上げた。
「お……まえこそ……ただで、済むと……思うなよ」
「あー、ただじゃ帰さねえつもりだが?」
震える腕をのろのろと上げる。水輝は真也の胸倉をつかもうとした。つかんで離さなければ、多少動きが遅くても攻撃は当たる。
「あまーい。てめえ、自分が力を垂れ流してんの、判ってねえだろ? 思考が丸見えなんだよ!」
不意に視界が暗くなる。水輝は目を見張って硬直した。何をされたのか、一瞬、理解できなかった。唇に温かく柔らかなものが触れる。口の中に甘い香りが一杯に広がる。抵抗する間もなく、生ぬるいものが喉の奥に落ちる。
水輝は大きく呻いて頭を振ろうとした。だが真也はがっちりと水輝の頭をつかんで離さない。
「ん……んぅっ!」
強烈な衝動がこみ上げてくる。下腹部の熱が全身へと広がる。水輝は自分の意志とは全く無関係に強制的に欲情させられた。何もかもが判らなくなるような激しい欲求がこみ上げてくる。
「けっ。手間取らせやがって」
間近で声がしたことだけは理解できた。真也が唇を袖で乱暴に拭って立ち上がる。冷ややかな眼差しで水輝を眺め、真也は口許に嗤いを刻んだ。
それにしても水輝はよくはめられるなあw
色んな意味でw
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コスプレ少女が行く
エロシーンはありません。
要がコスプレ少女と命名した奈月は明るい表情でグランドを横切っていた。グランドには授業中の生徒たちがいた。奈月は手近な生徒に目的の教室の場所を聞き、会釈をして別れた。
おつかいに行って頂けますか。立城に頼まれたことを思い出して奈月は嬉しそうに笑った。片手に下げた買い物かごは帰りに醤油を買うためのものだ。水輝に渡さなければならないものは奈月のポケットに大切にしまってある。
硝子張りの入り口はとても広々として見えた。かつて通っていた学校の事を思い出し、奈月はしばし入り口の手前で足を止めた。何枚もの硝子窓が組み合わされたその入り口からは校舎内に明るい日差しが入っている。懐かしさに目を細め、奈月はまた歩き出した。途端に何もないのにつまづいてしまう。恥ずかしさに頬を染め、奈月は気を取り直して入り口をくぐった。
一つだけ注意してください。清陵高校に着いたら力は使わないでください。奈月はかごからスリッパを出しながら首を傾げた。立城は力を使ってはならない理由については説明しなかった。が、きっと何か訳があるのだろう。奈月は小さく頷いてスリッパを履いた。
意識して力を機体の内部に封じ込める。この学校にたどり着く直前に奈月はそうした。安全のために幾重にも鍵をかける。そうしなければふとした拍子に力が零れてしまうからだ。奈月はぺたぺたと自分の身体を触り、力の漏れがないかを確かめた。うん、大丈夫。そう内心で呟いてまた歩き出す。
事務室の前を過ぎる。事務室内で働いていた人々がぎょっとしたように奈月の姿を目で追う。余りにも姿に驚いたのだろう。事務員たちは誰も出て来ない。奈月は自分がそんな注目を集めていることにも気付かず廊下を歩いていた。続いて校長室、教頭室、保健室を過ぎる。
奈月は楽しい気分で校舎の二階に上がった。教室で授業を受けていた生徒たちが徐々に騒ぎ始める。だが奈月は自分が騒ぎの原因であることに全く気付かなかった。賑やかな学校だと呑気に認識する。楽しそうだなあ、と呟いて奈月はかごから一枚の紙を取り出した。水輝のクラスが記されたそれと教室に書かれたクラス名を確かめる。
首を傾げて立ち止まった奈月の姿を教室内の生徒たちが凝視する。紙と教室を見比べていた奈月はあっ、と小さな声を上げて口許を手で覆った。しまった。水輝の学年はこの階ではない。そのことに気付いて奈月は真っ赤になった。
慌てて別の階に移動する。だが奈月は生徒たちの邪魔にならないよう、極力足音を立てないように努めていた。つまづいた時も、奈月は器用に機体を操って足音を殺した。その器用さをつまづかないようにする、という方向に持って行けばいいのではないか。という点については全く考えが及ばない。奈月は一つずつの階を確かめながら水輝の教室を探した。
陰に隠れて奈月を見つめる目に、奈月自身はまだ気付けなかった。
可愛い格好をしているので余計に目立つ件w
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薬に沈んで見る幻 1
現実にはないものですが、苦手な人は回避して下さい。
BL警報! 憑依警報! です!
エロシーンです。
優一郎の腕の中で淫らに喘ぐ水輝の姿が脳裏に映る。真也はくすくすと笑って机の中からビニール袋を取り出した。赤と白のツートンカラーのカプセルがビニール一杯に詰まっている。
記憶を読むことは造作もなかった。水輝が力を抑制するピアスを片方でもなくしていなかったら、こうも事は簡単に進まなかっただろう。真也は薄い嗤いを浮かべて水輝を振り返った。垂れ流しになった力が床を這って水輝を中心に広がっている。
力の大半は立城に委ねた。が、今の真也は着々と力を取り戻しつつあった。流れる水輝の力が全身に染み込んでいく。
ソファで力なくうつ伏せになっている水輝に近寄る。真也は嗤いながらビニール袋を翳してみせた。ざら、とカプセルがビニールの中で音を立てる。
「てめえが中毒になっててラッキーだったぜ。作っといて正解だったな」
カプセルに込められた試薬は元々はちなりから採集したものだ。ちなりの機体を修復する際、絵美佳は機体内に妙なものを見つけた。合成愛液が仕込まれたタンクが二つあったのだ。由梨佳もそれを見て首を捻っていた。結局、絵美佳は一回り小さい方のタンクを機体から取り外し、中身を分析した。
それは強度の催淫剤だった。が、人間に使うのはとても無理だろう。絵美佳は分析結果からそう判断した。つまり、ちなりの機体に込められていたそれは対人用のものではなかったということだ。
人間にとって劇薬になるそれを使う相手となると限られる。絵美佳はちなりが復活したのち、ちなり自身にこれは何だと問い掛けた。機体ログにはその液体の正体については一切、記されていなかったのだ。
「あ、それねぇ。前に部長がひじょーようにってつけてくれたの。えっとね、前に一度、雨宮先輩に使ったことがあってねぇ」
機体のログをどれだけ消しても人の生身の脳は当時のことを記憶している。絵美佳はちなりから話を聞きだして納得した。ちなりは多輝を陥れた時のことをよく覚えていた。その後にちなりはすぐに外に出かけるようになっている。つまり、優一郎はちなりの機体ログだけを消し、ちなり自身の記憶については特に問題ないと判断したのだろう。先のようなことが発生するとは、優一郎自身も思っていなかったに違いない。
多輝は紛れもなく龍神だ。そのことは真也も熟知していた。絵美佳の心の奥底に閉じ込められていた時も、多輝の輝きだけははっきりと見えた。そんな多輝の意識を翻弄するために作られたのがあの試薬だったのだ。
それは特殊な液体だった。何故、多輝が口にした時にすぐに気付かなかったのか。その理由を真也はすぐに理解した。絵美佳が笑って言ったのだ。この試薬には生身の人の体液が使われている、と。多輝はその人の香りにごまかされ、薬を口にしてもすぐにそれとは判らなかったのだ。
龍神は人を食うことを禁じられている。それは龍神にとって人そのものが甘い果実となるからだ。一度、口にしたら甘い蜜の虜になり、なかなかその味から逃げられなくなる。それゆえ、あらかじめ龍神間では人の営みには干渉しないという取り決めがなされている。……いや、為されていたのだ。
断罪の主が消えた後、禁忌を犯す龍神が後を絶たない。そして人の力を取り込む一方で、龍神の種としての力はどんどん衰えているのだ。
真也はかつて翠から聞いた話を思い出していた。翠は淡々と真也に地上の様子を語ることを常としていた。魂だけになってしまった自分にどうしてそんな話を聞かせるのだろう。当時の真也は翠の行動が全く理解できなかった。こうして絵美佳の身体に入った時、初めてその意味を理解したのだ。翠は最初から真也を地上に戻すつもりでいたのだ。それがどんな形であったとしても。
カプセルが袋の中で音を立てる。真也は嗤いながら水輝の顔を覗き込んだ。水輝は苦しそうに呼吸しながら目を閉じている。
「苦しいよなあ? 半端にヤク入れられたせいで、すげえ焦れるだろ?」
言いながら真也は足で水輝の肩を突いた。押されて水輝が身体を捻る。苦しげな顔がよく見える。真也は水輝の苦しむ様を見て嗤った。歯を食いしばって何かを堪えるような顔を見ているだけで気分が高揚してくる。
「ここはあいつに近いからな。そうそう邪魔は入ってこねえ。てめえにはとことん苦しんでもらうぜ」
手にしていたビニール袋をテーブルに置く。次いで真也はもう片方の手に握っていた首輪を取り出した。腰を屈めて水輝の首に嵌める。水輝は殆ど抵抗もしなかった。真也は指先で水輝の髪をつまんだ。髪は既に青く染まっている。きっと目も同じ色になっているだろう。
深く息を吸い込んで目を閉じる。真也は水輝から流れている力を思う存分に吸収した。一気に髪が紫に染まる。そして瞼をあげた真也の瞳も紫に染まっていた。
「そのかっこ、よく似合うぜ。おら、立てよ」
嗤いながら真也は手を引いた。鎖が音を立てて現れる。真也が握った太い鎖は水輝の首輪に繋がっていた。水輝が引っ張られて苦しそうに呻く。真也は構わず鎖を強く引いた。
「て……め、後、で……覚えてろ」
「へえ? まだ喋れるか。意外としぶといな」
嘲笑を浮かべ、真也は空いた手をテーブルに伸ばした。袋の中からカプセルを一掴み取り上げる。薄く目を開けた水輝の瞳の色は青く染まっていた。真也は鎖を引いたまま、カプセルを握った手を水輝の胸に押し付けた。嫌がるように水輝が頭を振る。
「どっちがしぶといか、器と精神体の根競べと行こうぜ!」
そう告げて真也は強引に手を押した。遮っていた水輝の器が真也の力に影響されて一部分だけ綻びる。真也の手が胸に埋まった瞬間、水輝の身体が大きく跳ねた。見開かれた目の色がゆっくりと沈んでいく。真也は水輝を引き起こして胸の中で手を捻った。指の間から少しずつ、カプセルが零れていく。
肌に手が食い込んでいる。力を乗せた真也の手が直に水輝の精神体に触れているのだ。喉の奥から呻きを発し、水輝は目を見開いたままだ。手にまとわりつくのは水輝の形を構成するものの正体だ。真也は目を細めて鎖を強く握った。金属の触れ合う耳障りな音がたつ。真也は水輝の身体を首輪で支え、腕を更に奥へと進めた。
脳裏にとある情景が蘇る。緑に覆われたその場所には青く輝く湖があった。湖畔で寄り添いあっているのは水輝と紫翠だ。二人は何も言わず、ただ湖面を眺めている。強烈な印象に思わず目を閉じ、真也は脳裏からその情景を追い出した。
「立城の匂いをぷんぷんさせやがって……。てめえは昔っから気に入らなかったんだよ!」
叫ぶように言いながら真也は肘まで水輝の胸に埋めた。腕に何かが触れては過ぎる。真也は乾ききった唇を舐め、ゆっくりと指を開いた。開かれた真也の手からカプセルがこぼれて落ちる。
その瞬間、水輝が絶叫する。反射的なものだろう。水輝は周辺の力を一気に燃やした。青白い炎がその身体を包む。真也は薄く嗤って生み出した力で炎をねじ伏せた。
「どうだ? こっちには直接食らったことねえだろう」
カプセルの最後の一つを真也は指先で握り潰した。ねっとりとした空間に液体が溶け込んでいく。水輝が叫びながら頭を振る。その目からは完全に意志の光は失せていた。
真也はけっこー容赦がないです。
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薬に沈んで見る幻 2
現実にはないものですが、苦手な人は回避して下さい。
BL警報! 憑依警報! です!
エロシーンの続きです。
「おっと。そう簡単にいってもらっちゃつまんねえだろ」
真也は水輝の胸から素早く手を抜いた。水輝のジャケットをめくってベルトを外す。勃起しきったペニスを引っ張り出し、真也は無造作にそれをつかんだ。悲鳴のような声を上げる水輝を膝で押さえつける。
「いいもの嵌めてやる。おっ勃てたままで当分は苦しめよ」
張りつめたペニスの根元を強くつかむ。真也は指先に力を集め、丁寧に編んだ。力が形となっていく。真也は水輝をソファに強く押し付けた。反り返ったペニスの根元にそって指をゆっくりと動かす。真也の指の動きを追うように、その部分には黒い輪が嵌った。
「すげえな、おい。脈打ってんぞ? びくびく動いてら」
嗤って言いながら真也は指で水輝のペニスを弾いた。水輝が震える手でペニスに触れる。指先が根元に嵌った輪をつかもうとする。
「ばーか。外れる訳、ねえだろ。……へえ。けっこう色っぽい顔すんじゃん。やっぱてめえ、伊達に容姿がいい訳じゃねえな」
暗い青の瞳が潤んでいる。水輝はソファの上に力なく座り、頼りない指先でペニスの輪を外そうとしている。唇は唾液に濡れ、時折、苦しそうな喘ぎを漏らす。
「出したいだろ? でも残念だなあ。とーぶんは無理だぜ」
ビニールの袋から一つだけカプセルを取り上げる。真也はしっかりと握った鎖を軽く引いた。俯きかけていた水輝が呻いて顔を上げる。
「これ、欲しいよな?」
水輝の目の前にカプセルをちらつかせる。暗い瞳が真也の指先を追う。真也は手にした鎖を強く引いた。水輝の唇の端から唾液が一筋、流れ落ちる。喉の奥で笑いながら、真也は半開きになった水輝の口にカプセルを入れた。
よろける水輝をソファから引きずり下ろす。真也は鎖を引いてベッドに歩み寄った。足元をふらつかせていた水輝を乱暴に蹴る。掠れた声を上げて水輝はベッドに倒れこんだ。
真也は片手にビニール袋を握っていた。鎖をベッドの支柱に固定して腰を上げる。袋の口を開くだけで水輝は切なそうな声を上げた。手がしきりにペニスに触れている。真也は舌打ちをして袋をベッドの片隅に置いた。
弱々しく抵抗する水輝の両腕を背中に回す。両方の手首を握り、真也は目を閉じた。一瞬で力が形になる。水輝の手首に枷を嵌め、真也は満足そうに嗤った。
「勝手に弄ってんじゃねえよ。ペットの分際で」
言いながら真也は水輝のジャケットのボタンを外した。続いてネクタイを緩める。シャツのボタンも外して水輝の肩を剥き出しにする。真也が思っていた以上に水輝の肩は細かった。ゆっくりと唇を近づけて肩に触れる。水輝は肩に口づけられた瞬間に腰をひくつかせて掠れた声を上げた。鎖が耳障りな音をたてる。
「勝手に動くな。……すげえな。身体中に立城の気配が残ってやがる」
目を細めて真也は水輝の首筋に唇を這わせた。全身に暖かなものが満ちていく。自然と真也は目を閉じ、残っている立城の気配を唇で啜った。首の付け根に大き目の気配を感じる。真也は水輝の肩をつかみ、首の付け根に吸い付いた。
水輝は立城と交わっている。それも一度や二度ではない。真也は感じる心地良さとは別に激しい怒りを覚えていた。舌と唇で水輝の首筋を愛撫しつつ、真也はゆっくりと手を下ろした。水輝は苦しそうに喘いでいる。欲情はどんどん深くなっているのに射精できないためだ。
剥き出しになった肌をなぞりながら指を滑らせる。片手で鎖を握り、真也は水輝の唇を貪るように吸った。水輝が呻いて身体を震わせる。真也は片手で水輝のズボンと下着を引きずり下ろした。
「んっ、やめ、ろって、ああっ!」
悲鳴じみた声を上げて水輝が腰を持ち上げる。真也は笑い声を発しながら水輝の肛門に指を突っ込んだ。強引に指を出し入れする。
「ケツも随分使い込んでるじゃねえか。いつもぶち込まれてんだろ?」
水輝が激しく頭を振る。真也はベッドに這い上がって後ろから水輝を抱えた。動けないように腕で押さえながら指を根元まで突っ込む。水輝は腰を震わせながら苦しそうに息を吸った。
「……っしょに、すんなっあああっ!」
「っと。まだ思考能力生きてるか。そうでなけりゃ、つまんねえからなあ」
足の間に水輝を抱え込んだまま、真也は指を肛門から抜いた。その手でビニール袋を探る。ざらり、とカプセルがビニールから零れる。真也は指の間につまんだそれを水輝の肛門に押し込んだ。同時に指を突き入れる。
「思考が吹っ飛ぶまで入れてやる。どうだ? 腹の中が熱いだろ?」
叫んだ水輝の声は言葉にはなっていなかった。カプセルが溶ける時間を見計らい、真也は次々に水輝にカプセルを与えた。次第に水輝の声が弱くなっていく。
弾かれたように水輝が身体を起こす。ペニスの先から透明な液体が流れて落ちる。真也は嘲笑いながら肛門から指を抜いた。血に塗れてひらいた肛門にペニスをあてがう。水輝の両肩をつかみ、真也は一気にペニスを挿入した。
「んぁっ、あふっ! たすけて! たつき……。はあんっ!」
「その名前を呼ぶな! てめえ、殺すぞ!」
真也は乱暴に水輝の口を押さえた。呻く水輝の尻に腰を叩きつける。水輝の体内に残っていた立城の気配が密着した肌から伝わってくる。真也は深い息をついてカプセルを探った。四つんばいになった水輝の口に手のひら一杯のカプセルを押し付ける。水輝はくぐもった声を上げて腰をひくつかせた。
「んぐっ、んふうっ!」
「出せないもんなあ? 苦しいよなあ?」
嗤いながら真也は衝動に任せて腰を振った。いきり立ったペニスがぬめる音を立てて出入りする。苦しげに喘ぐ水輝の頭を押さえ、真也は勢いよく射精した。
「とっととケツ振れよ! オレはまだ足りねえんだよ!」
水輝を嗤いながら真也はベッドに腰を下ろした。鎖を握って水輝を引き起こす。低く呻いて水輝は上半身を起こした。肌にはびっしりと汗をかいている。水輝は苦しさに顔を歪め、ゆっくりと腰を動かし始めた。血に塗れた肛門が真也のペニスを扱く。
立城の気配を吸いながら、真也は思う存分に水輝を犯した。カプセルは半分以上、消費した。既に水輝は意志を失っている。真也に言われた通りに口を開き、血と精液に塗れたペニスをしゃぶっている。真也はそれを見下ろして薄い嗤いを浮かべた。
容赦なく水輝の口の中に射精する。真也はその瞬間、笑い声を上げた。この水輝が八大の中でも鬼神と恐れられる水輝と同一人物とは到底思えない。真也は笑いながら水輝に唇でペニスを扱かせた。水輝の唇の端から精液が伝っている。
「大分、上手くなったじゃねえか。ほら、餌をやるよ」
言って真也はカプセルを水輝の口に押し込んだ。水輝が目を潤ませてカプセルを咀嚼する。幾つものカプセルを噛んだ水輝の唇の端から透明な液体が伝う。
「いい顔するじゃねえか。ぞくぞくするぜ」
真也は水輝の傍に膝をつき、無造作に手を伸ばした。水輝のペニスの根元を締めていた拘束具を外す。その瞬間、水輝は悲鳴のような声を上げて大量に射精した。喘ぎ声を上げながら腰を上下させる。迸った精液が宙に軌跡を描いてベッドに散った。
「すげえ良かったろ。もっと欲しいよな?」
肩で息をする水輝に真也は柔らかな声で語りかけた。水輝が震えながら顔を上げる。小さく頷いた水輝に真也は頷き返してみせた。耳元に口を寄せ、囁く。水輝は焦点の合わない目をしたまま、黙って頷いた。
相変わらずやられまくる水輝……w
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それはデビュダントドレスですの! 1
エロシーンはありません。
壁に手を当てて要は苛々と唇を噛んだ。コスプレ少女が呑気に廊下を行くその少し後方に要は隠れていた。その後ろには野木がついている。野木がコスプレ少女と要を見比べて潜めた声で告げた。
「要様。あのメイドらしき少女がどうかなされましたか?」
コスプレ少女は周囲を見回して首を傾げている。要は微かに舌打ちをして野木を見返った。
「あの娘はメイドじゃないわ! もしかしたらメイドのコスプレのつもりかもしれないけれど」
「こ、こすぷれ……? ですか?」
野木は要領を得ない顔で首を捻っている。要は眉を寄せてため息をついた。野木はどうやらコスプレという言葉の意味を知らないらしい。おかしいわね。先日、教えたと思ったのに。コスプレ少女とは全く関係ないところで苛立ちが増す。
「コスプレというのはコスチュームプレイのことよ! 好きなキャラクターの衣装を着て、仮装することを指すの。プレイと言っても性行為ではないから注意なさい」
小声で解説しながら要はそろそろと廊下を進んだ。その後ろを野木が足音を殺してついていく。コスプレ少女は手にした紙を見つめながら廊下を進んでいた。
唐突に壁に激突する。その場に屈んで顔を押さえたコスプレ少女の少し後ろで要は壁に張り付いた。野木が同様に身を潜める。
何故、わざわざ斜めに歩くの! 要は内心でコスプレ少女に喚いた。コスプレ少女はいたたた、と小声で呟きながら額を押さえている。どうやら壁に打ち付けたらしい。要はそれを見てこぶしを握って震わせた。
ひとしきり痛がってからコスプレ少女は立ち上がった。恥ずかしそうに頬を染めて周囲を伺っている。要はさらに壁にべったりと張り付いた。柱の陰に隠れている二人には全く気付かなかったのだろう。コスプレ少女は再び廊下を行き始めた。
何かを探しているらしいことは判った。すぐにでも飛び出して手を貸したい。そう思わせる何かをコスプレ少女は持っている。だが要はそれをぐっと堪えてコスプレ少女の様子を伺っていた。他校の生徒であることは間違いない。メインコンピュータで検索してもコスプレ少女のような容姿を持つ生徒はヒットしなかったのだ。
かと言ってコスプレ少女のことを調査するために、わざわざ諜報部員を使う気にはなれなかった。要するに要は自分でコスプレ少女の正体を確かめたくなったのだ。
「あ、要様。こすぷれさんが曲がりましたよ」
野木はどうやらコスプレ少女のことをそう呼ぶことにしたらしい。要は頷いて小走りに駆けた。野木も要の後ろに続く。教室内でざわめく生徒たちの声を余所に、要たちは足音を殺してコスプレ少女を追った。
廊下を曲がって真っ直ぐに進む。コスプレ少女は特別教室のある棟へと向かっていた。要は曲がり角に隠れてコスプレ少女を見つめた。窓から外を見て嬉しそうに微笑んでいる。だがそのまま横に進んだため、コスプレ少女はまたも柱にぶつかった。今度は肩を押さえて涙目になっている。
「……こすぷれさんは異常に視野が狭いんでしょうか?」
背後で野木が呆れたように呟く。要はため息をついてさあ、と応えた。だがこれだけは言える。コスプレ少女はどういった訳か、とても浮かれているのだ。そうでなければここまで間抜けな醜態を晒すことはないだろう。幾らなんでも。要は内心でそう呟いた。
「しかし、何ゆえメイドなのでしょう? ああいった服はどこにでもあるものなのですか?」
不思議そうな野木の声を聞きつけて要は鋭く振り返った。壁に張り付いていた野木がぎょっとしたように目を見張る。
「そんじょそこらの庶民が着れる服ではありませんわ!」
要は憤慨をこめて小声でそう告げた。野木がえ、と呟いて要とコスプレ少女を見比べる。コスプレ、という意味が判らなくとも着ている服に似たものは見たことがあったのだろう。野木は眉を寄せて困った顔になった。
「メイド服というものは、作業着なのではありませんか? ええと、あれを身につけて掃除をしたり洗濯をしたりすると私は記憶しているんですが」
再びコスプレ少女は歩き出した。よろよろと壁伝いに進んでいく。まだ痛むのだろう。片手は肩を押さえている。要はコスプレ少女を指差して眉を吊り上げた。
「あのドレスはデビュダントドレスといって、清楚さを演出したフォーマルドレスのひとつよ。デビュダントとはフランス語でデビューの意味。もともとは上流階級の娘が、社交界デビューの時に着ていたドレスなの」
「どっ、どれす……なのですか、あれが」
驚きに目を見張って野木がコスプレ少女を見る。要はコスプレ少女の後をこっそりつけながら無言で頷いた。あまり近寄りすぎては気付かれる。少女が立ち止まったところで要は手近な柱に潜んだ。野木が要の足元に屈みこむ。どうやら消火栓に隠れているつもりらしい。
「エプロンをコーディネートしているからメイド服のように見えるだけよ! どこの世界に銀糸で縁取ったフリルのブラウスやら、プラチナ台のサファイアのカフスやらをメイドに着せる馬鹿が居ると言うの!」
しかもドレスの素材は恐らくシルクだ。光沢とすんなりした布の動きを見ながら要は歯軋りをした。野木が怯えたように要から少しだけ離れる。要はコスプレ少女を睨むようにして観察した。タイの留め具部分に使用されているそれも、驚くことにサファイアだ。しかもカフスのそれと同様、やたらとサイズがある。
「し、しかし、ドレスで買物かご……ですか」
まだ野木はコスプレ少女の着ているのがドレスだとは信じられないらしい。疑いの眼差しでコスプレ少女を見ている。要は思わず舌打ちをした。野木は見慣れないからわからないのだ。コスプレ少女の着ているそれにどれだけ金がかかっているか。要は憤りに任せて傍らの野木にヘッドロックをかました。
「いったい、何者なの!」
「か、かな、め、さま」
苦しそうに野木が呻く。要は仕方なく野木の首から腕を外した。コスプレ少女は浮かれた足取りで進んでいく。要は苛立ちと同時に言いようのない悔しさを味わっていた。コスプレ少女の着ているドレスだけではない。その少女自身の愛らしさが要のプライドを刺激した。
要、説明ありがとう!(棒
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それはデビュダントドレスですの! 2
エロシーンはありません。
そのドレスはコスプレ少女にとてもよく似合っているのだ。
「ああっ、もう、どんくさいわねえ!」
コスプレ少女は困ったように周囲を見回している。廊下をまた曲がって姿を消す。要は口の中で呻きながら素早く追いかけた。困惑した面持ちのまま、野木もその後を追う。
特別教室の並ぶ校舎にたどり着いたコスプレ少女は途方に暮れた顔をしていた。その校舎の二階には理科系の特別教室がずらりと並んでいる。化学室、物理室、生物室……。そして各特別教室とセットになっているのが教職員の使用する準備室だ。コスプレ少女は化学室を眺めながら涙目になっている。要は我慢ならずに廊下の角から駆け出した。
「ちょっと、そこのあなた!」
要は腰に手を当てて憤然と告げた。コスプレ少女が驚いたように振り返る。次いで、コスプレ少女は顔を輝かせた。嬉しそうに微笑んで要の傍に駆け寄る。
「わたくしの学校に何の用ですのっ!」
「あの、すいません、三年四組はどちらでしょうか?」
同時に二人が口を開く。コスプレ少女は不思議そうに首を傾げ、要は眉を思い切りしかめた。要の背後で野木が困ったように二人を見比べる。
間近に見るとコスプレ少女が愛らしいことがよく判る。要は悔しさに唇を噛んで舐めるようにコスプレ少女を眺め回した。困惑したようにコスプレ少女が要にあの、と声をかける。だが要はそれを無視して野木を振り返った。野木は要の傍に跪き、いつでも命令を受けられる体勢を取っている。
要は無造作にコスプレ少女の手を取った。カフスにつけられたサファイアを指し示す。小さめに見積もっても三カラットはあるだろう。要に声をかけられた野木が顔を上げる。要は野木によく見えるよう、コスプレ少女の腕を強く引いた。よろけたコスプレ少女が小さな悲鳴を上げる。
「ごらんなさい。ただの使用人がこのような高価な宝石を身に付けているわけがないでしょう?」
「は、はあ……」
野木が曖昧に返答する。要は続いてコスプレ少女の襟首をひっ捕まえた。可愛らしい悲鳴を上げてコスプレ少女が要の腕の中に納まる。要は襟元でタイを留めているそれを指し示した。
「くっ。素晴らしい、サファイアですわ……」
要はコスプレ少女の胸元に光る青い宝石を食い入るように見つめた。これほどまでに美しい宝石を要はまだ手にしたことがない。母親の栄子であれば、もしかしたらサイズが小さいながらも似たような宝石は持っているかも知れない。が、要には到底、手の届かないものだ。要は悔しさに唇を噛み、しばし宝石の美しさに見とれていた。
「あなた。お名前をきかせていただいても、よろしくて?」
要はしばらく後にコスプレ少女から手を離してそう告げた。腕組みをして憤然と胸をそらす要とは対照的に、コスプレ少女はにっこりと微笑を浮かべて優雅に一礼した。その身のこなしに要はぴくり、と眉を上げた。どう見てもその動きは洗練されたものだ。
「あの、わたし……吉良瀬、奈月と申します」
奈月と名乗った少女を凝視し、要は廊下に響き渡る音量で喚いた。
「きらせ!?」
要は恐れるように奈月から一歩、退いた。野木が絶句して奈月を見つめる。奈月はだがにっこりと笑って首を傾げている。ことの重大さが全く判っていないらしい。要は歯軋りして再び奈月の前に一歩出た。
吉良瀬という名が示すのはただ一つ。吉良瀬財閥のトップであるその人物と何らかのかかわりを持っている、ということだ。
「あなたもまさか立城様の養女だとか言い出すのではありませんわよね?」
要は絞り出すような声でそう訊ねた。すると奈月がええと、と唇に手を当てる。赤く熟れた果実を思わせる唇が笑みを刻む。要はうっ、と思わず声を詰まらせた。奈月は嬉しそうに笑いながら要の手を取る。
「立城さんをご存知なんですか?」
さん。要は頭の中でそう呟いた。立城のことを親しげに話す様子といい、この少女は只者ではない。要は奈月の手をやんわりと解いて一つ、咳払いをした。野木はあまりのことに驚きすぎたのか、唖然と奈月を見つめたままだ。ちらりと野木を見やって要はもう一つ、咳払いをした。すると野木が慌てたように頭を垂れる。
「あなた、どのような用向きで、ここに?」
慎重に訊ねる。奈月はぱっと顔を輝かせて嬉しそうに微笑んだ。どうやら警戒心が殆どないらしい。要は半ば呆れた気分で奈月を見た。
「あの、三年四組の、池田水輝さんってご存知ですか?」
言われた瞬間、要はぎらりと奈月を睨んだ。吉良瀬財閥とかかわりのある少女だということもすっかり頭から吹き飛ぶ。何ですって、と低い声で発した要は更に一歩、奈月に迫った。その後ろで野木が慌てて立ち上がる。
「あなた、水輝様のなんなの!」
要は猛然と喚いた。奈月が少しの間、不思議そうに瞬きを繰り返す。だがすぐにその頬が赤く染まる。それが何よりの答えだ。要は歯軋りしながら野木を振り返った。野木は困ったような、だが照れたような顔をしている。奈月の微笑みを間近に見たためらしい。そのことに要は余計に腹を立てた。
「まさか、水輝様の婚約者だとか、そういうことはありませんわよね?」
野木の頭を景気よく叩いてから要は奈月に向き直った。冷ややかな笑みを浮かべる要を奈月が困ったように見つめる。だが恐れおののいている様子は欠片もない。単純に返答に詰まっているようだ。
「あの、わたしは水輝さんのものですけど、その……」
赤くなったままで奈月が告げる。要は目を吊り上げて奈月の声を遮った。
「なるほど、納得がいきましたわ!」
要はそう叫んで奈月から顔を背けた。自然と涙が浮かんでくる。間違いない。水輝が付き合っている女性というのが奈月なのだ。要はため息をついて目尻をそっと拭った。それから静かに告げる。
「……野木、この娘を案内してあげなさい。わたくしは……生徒会室に戻ります」
野木がどんな顔をしているのかは判らなかった。だが要はそのまま二人に背を向けた。
奈月の服は水輝が趣味で着せていますw
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ブルーグレイの制服を着て
エロはありません。
風が窓から入ってくる。冷たい風に目を細めて順は読んでいた本を膝に乗せた。既に怪我は完治している。だが順はまだ病院から出てはいなかった。栄子の周辺の様子を探るにはこの方が都合がいい。それにここにいれば必然的に優一郎に会えるという寸法だ。順はくすくすと笑って窓に目をやった。
「いいかげんになさいませ、お兄さま」
空気が揺れて人影が現れる。順の個室の窓から入ってきたのは都子だった。ふわりと宙から舞い降りるその姿は小鳥にも似ている。順は小さく笑いながら口許に手をあてた。
「よく似合ってるじゃん。そのカッコ」
今の都子は男の性をまとっている。都子と順、二人分の力を合わせて性を男に固定させているのだ。都子は憮然として腕組みをした。目に見えない力が勢いよく窓を閉める。あーあ、と順は小声で呟いた。力任せに閉じられた窓にひびが入っている。だがそれすら見もせず、都子は憤然と順に迫った。
ブルーグレイの学生服のよく似合う容姿だ。順は都子を見ながら何気なくそう考えた。都子の今の姿はかつての多輝とそっくりだ。それも当然だろう。都子は龍神である多輝の器にそのまま精神を移しているのだ。
多輝の精神は今はヒューマノイドの機体の中に納まっている。が、都子は逆に器に現存していた力の大きさに影響され、本来なら流出する筈のない力まで垂れ流している状態になっているのだ。今はまだ、順の力も使って抑え込んではいるが、その状態をいつまでも維持できる訳ではない。結局、術はいつか途切れ、その度にまた改めて施しなおさなければならないのだ。
だがそんな状態をいつまでも続けられない。順と都子の力は本来は全く異なる質のものだ。それを無理に混ぜ合わせて術を編み上げる。それはただのその場しのぎ的な方法でしかない。しかも続ければ続けるだけ、都子にも負担がかかる。
「似合っている、ではありませんわ! 一体、いつまで続ければいいんですの」
呆れ果てた、といった様子で都子がそう吐き出す。順は笑ってまあまあ、と手を振った。するとぎらりと都子が順を睨む。ここが病院でなければ都子はきっと順にすぐさま飛び掛っていただろう。順もそのことは判っていた。
「だからさぁ。優一郎くんに会ってってゆってるじゃん。まだ連絡ないの? あのオヤジから」
間延びした言い方で告げる。都子は首を横に振ってポケットから携帯電話を出した。無造作に順に放り投げる。順は片手でそれを受け止めた。操作して着信履歴を見る。自分以外から電話がかかった形跡はない。
順は苦笑して携帯電話から目を上げた。が、都子はまだ肩を怒らせている。どうやらこのまま帰る気はないらしい。やれやれ、と順はため息をついた。
「用事をさっさと済まさせてくださいな。この姿のままだと疲れるんです」
苛々とした声がそう告げる。順は力なく笑って携帯電話を本の上に置いた。都子は慣れない男の身体を使っていることに相当の違和感を覚えているらしい。それは当然か。順は胸の中でだけそう呟いた。
だがこのままでいてもらわなければ困る。それが順の本音だった。相手が別の誰かなら今はいいよ、と言うことも出来る。思案する順の顔から少しずつ笑みが消える。都子はそれまで怒らせていた肩から力を抜き、順にそっと声をかけた。順はふたたびだらしない笑みを浮かべて頭をかいた。
「とりあえず、オヤジ締めに行くかなあ」
順が面倒くさそうに呟くと都子が途端に渋面になった。都子は順のすることに基本的には口を挟まない。だが順が何をしているのかを薄々理解してはいるのだ。それ故、時折はこうして嫌悪感を露にする。順はやれやれ、と呟いてベッドから降りた。
「もう少し事が早く進むと踏んでいたんだけどなあ。意外とみんな消極的だから」
「……お兄さまの計画に穴があるだけではありませんの? 誰にも心があるのですから」
都子が低く呟く。順は顔をしかめてパジャマを脱ぎ始めた。包帯だらけの身体が剥き出しになる。都子にわざとつけさせた傷はもうすっかり癒えている。残っているのは胸の傷だけだ。順は手早くシャツを羽織り、ジーンズをはいた。都子は腕組みをして壁に寄りかかり、そんな順を斜めに見つめている。
「こだわりとか? 好きだの嫌いだのってさ。そーんなに大切なもんかねぇ」
言いながら順は頭に手を伸ばした。巻かれた包帯を取る。真新しい包帯を丸め、順は都子に軽く放った。都子が片手でそれを受け止める。そして思い切り嫌な顔をした。言わなくても次に何をしろと言われるか理解したようだ。
「お兄さまには大切なものはないんですの?」
手の中の包帯に目を落としながら都子がぽつりと告げる。順は笑って都子を指差した。すると都子が真っ赤になる。じゃあね、と手を振って順は病室を出た。顔見知りに会わないよう、いつも行く方向とは逆に歩き出す。
直接、優一郎くんにあてがった方が早いかなあ。順はのんびりと歩きながらそう呟いた。
男装……ではなくて、TSになりますかね。
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目覚めの時は近い
エロシーンはありません。
電話を切ってため息をつく。よくもまあ、毎日飽きもせずかけてくる。優一郎は半ばうんざりしながら電話機を見つめた。
要さんはまだ落ち着いていらっしゃいませんので。今日も優一郎は無難にそう答えた。電話の相手は葵の雇用主である社長だ。優一郎はやれやれとため息をついて机に肘をついた。
確かに葵に恩はある。出来るだけ早く恩返ししなければならないとも思う。だが、写真のあの息子と先の封筒の配達人が同一人物である可能性が否定できない限り、そう簡単に会う訳にはいかない。その上、相手は要だ。要が多輝を見たらきっと全ての計画は倒れてしまうだろう。
机から身体を起こし、優一郎は静かに立ち上がった。この研究室には優一郎しかいない。あとは修理中の斎姫が横たわっているだけだ。優一郎は無言で並ぶ実験台の間を抜け、静かにその部屋を後にした。
毎日、決まった時間に電話はかかってくる。優一郎はため息をついてドアを閉めた。いっそ、居留守でも使おうかな。そんな考えまで浮かんでくる。だが優一郎は強く頭を振ってその考えを追い出した。
地下一階にある部屋を一つずつ覗く。幾つかの研究室の中に果穂のいる部屋がある。優一郎は静かにそのドアをノックした。ほどなく中から声が返ってくる。
「あら、めずらしいわね。どうしたの?」
ドアを開けて優一郎は微笑みながら部屋に入った。果穂がどことなく嬉しそうに顔をほころばせる。幾ら部屋を提供しているとは言っても、部員たちは一日をずっとこの地下で過ごす訳ではない。果穂は学校のある半日近くをたった一人で過ごすことが多いのだ。
「いえ。斎姫がお世話になったお礼がまだでしたので。ありがとうございました」
優一郎は軽く頭を下げてそう告げた。果穂がにっこりと笑っていいのよ、と応える。斎姫というヒューマノイドの貴重なデータを入手できたのだ。果穂にしてみればお互い様というところだろう。
「それより、せんじついらいされたぶんせきけっかがでたわ」
言いながら果穂は机の上に手を伸ばした。椅子に乗って器用にバランスを取っている。優一郎は頷いて果穂に歩み寄った。今は眠っているのだろう。部屋の隅でなめぞうが微かに触手を上下させている。
「いちおう、これにまとめてみたからもっていって。ああ、それとれいのけんはもうすこしまって。きむらそうけんのがーど、さらにかたくなっているから」
細く小さな指が一枚の光ディスクを挟んでいる。優一郎はケースに納まったそれを無言で受け取った。続いて果穂が机の引出しを開ける。出されたのはシャーレに入った空色の石だった。
「みためはあくあまりんにそっくりね。ほうせきといってもしんじるひとはおおいとおもうわ」
優一郎の受け取ったシャーレを覗きながら果穂が小さく笑う。優一郎も頷いてシャーレの中を見た。小さな石が一つ、脱脂綿の上に乗っている。
「ということは、やはり、ただの宝石ではないということですか?」
目を上げて優一郎はそう訊ねた。椅子に座り直した果穂が微かに苦笑する。椅子を少し回し、果穂は優一郎と正面から向き合った。細い足を組み合わせる。
「ほうせきではないわ。それはだんげんできるとおもうの。でも、ふめいなてんがおおすぎて、ぶんせきけっかもかなりあいまいよ」
そう告げて果穂は優一郎の持つ光ディスクをさした。つまり、その中にデータが入っているということだ。優一郎はなるほど、と呟いてディスクケースを引っくり返した。ケースの中に一枚の紙が入っている。果穂がよく利用する、パスワードが書いてある。どうやらそのパスワードを入れなければデータを開けないらしい。
優一郎は果穂に礼を言って部屋を出た。白衣のポケットにシャーレとディスクを入れる。廊下を歩いていると今度は保美とすれ違った。
「あら、吉良部長。これから地下二階ですか?」
にっこりと笑いながら保美が頭を下げる。優一郎は頷いて手を上げた。保美がまた一礼して静かに廊下を歩いて行く。その背中を見つめ、優一郎は小さく笑った。きっと今から保美はカレンのところに行くのだろう。カレンは先ほど、地上に出たばかりだ。
廊下の突き当たりに辿り着く。優一郎はカードをスロットに入れて規定の場所に立った。網膜パターン照合が行われ、軽い電子音が鳴る。ほどなく頑丈な扉が開く。優一郎は扉をくぐって地下二階へのエレベーターを目指した。
エレベーターを動かすのもやはりあらかじめ登録された者でなければならない。優一郎はいつもの手順でエレベーターを作動させた。ほどなく扉が開く。
地下二階は静まり返っている。優一郎は無言で廊下を進んだ。私室である研究室の扉を開く。中に入った優一郎は並んだ実験台を眺め、薄く笑った。台に乗せられた機体は全部で四体。一体は修理中の斎姫、二体目は栄子、三体目が要の試作機だ。そして優一郎は次の四体目に目を移した。要によく似合うよう、作り直している最中の機体が横たわっている。
それらを横目に優一郎は歩き出した。台の間を抜けて部屋の奥に移動する。最奥には一基のカプセルが設えられている。丸い透明なカプセルの中で身体を丸めている機体を眺めつつ、優一郎はそっと手を伸ばした。カプセルの表面を優しく撫でてみる。背中を丸めた機体は眠るように目を閉じている。
ふと優一郎はカプセルを撫でていた手を止めた。昨日までは何ともなかった筈なのに、機体が微かに動いている。優一郎は目を凝らしてカプセル内の様子を伺った。起動していない筈の機体が呼吸をしている。
「とうとう、ここまで……」
うっとりとした目で機体を見つめ、優一郎はそう呟いた。カプセル内に満たされた特殊な液体の中を短い髪が揺らいでいる。優一郎は両手をカプセルに張り付け、じっと中を覗きこんだ。
引き締まった身体つきに小さ目の乳房。腰は細く、だが決して頼りない印象はない。優一郎が作った機体は徐々にその姿を変えている。口許に深い笑みを刻み、優一郎はカプセルの中に浮かぶ機体を見つめた。膝を抱えて丸くなっていた機体が微かに身じろぎをする。
「目覚めの時は、思ったよりも近いかもしれないな」
風の主が手をつけた機体は静かに目覚めの時を待っている。優一郎は満足をこめて笑い、腰を屈めた。機体の下半身を舐めるように見つめる。機体の秘部は丸見えになっている。腿に隠れている翳りはあくまでも薄い。
この機体もヒューマノイドのそれである以上、きっと誰かに管理されていくのだろう。そして淫らな快楽に溺れる日々を送るようになる。その時、機体にこめられた魂はどうするのだろうか。優一郎は唇を歪めて目を細めた。自然と心臓の鼓動が速くなる。
その事実を知った時、彼女はどうするだろう。優一郎は内心でそう呟きながらしばらく機体を見つめていた。
機械が書けていない!(自省
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まどろみの中で 1
苦手な人は逃げて下さい!
エロシーンです。
ふらりと水輝が姿を現したのは、その日の夕方近くだった。執務室にいた立城は驚きに顔を上げた。まさか一度、屋敷を出た水輝がそう簡単に戻ってくるとは思わなかったのだ。
声をかけようと口を開きかける。だが立城は目を細めて声を喉の奥に押し留めた。水輝はジャケットを羽織ってシャツの裾をだらしなく出している。水輝がそんな格好をしていること自体が珍しい。しかも水輝のシャツやジャケットには何かの染みがついていた。
「……水輝? もしかしてまた人に手をかけたの?」
言いながら立城はゆっくりと腰を上げた。ため息をついて椅子から降りる。だが水輝は執務室の入り口付近に立ったまま、一言も発さない。
不意に立城の傍で空気が揺れる。立城は軽く息を飲んで一歩だけ退いた。空気が甲高い音を立てて振動する。その場に現れたのは蒼だった。屈み込んだ状態で姿を現した蒼が、慌てたように顔を上げる。
「お逃げください! 立城様! 早く!」
蒼が叫ぶ。立城は目を見張って蒼を見下ろした。身体のあちこちに深い傷がある。蒼の身体から流れた血がじゅうたんに染み込んでいく。立城ははっと我に返って顔を上げた。水輝の服を染めていたのは蒼の血だ。
「立城様! 多輝様も既に主に倒されているのです! お早く!」
蒼の叫びは最後まで聞き取れなかった。立城の目の前が突然、真っ白になる。気付くと立城は水輝の腕に捕らえられていた。蒼が懸命に体を起こし、水輝を止めようとする。水輝はそんな蒼に容赦のない力を放出した。窓硝子をぶち破って蒼の身体が外に投げ出される。
「水輝! 一体、どうして」
立城は拘束から逃れようと身体をよじった。だが水輝は強い力で立城を抱いている。立城は再び水輝に呼びかけようとして息を飲んだ。間近に見える水輝の目がいつもと違っている。
甘い香りが漂う。立城はぐらりと揺れそうになる意識をすぐに立て直した。香りは水輝が発しているのだ。近づくと余計にそのことがはっきりと判る。立城は目を細めて水輝を押しのけようとした。
不意に目の前が暗くなる。立城は驚愕に目を見開いた。水輝が立城の首筋に腕を絡め、唇を合わせたのだ。硬直した立城の唇を温かいものが割り開く。立城は濃く匂うその香りに思わず目を閉じた。
「……ん、ふぅ……た、つきぃ」
甘い声で囁きながら水輝がうっとりと目を潤ませる。立城は頭の芯がぐらりと揺れるのを感じた。水輝の体内に満たされた気配に酔いそうになる。立城は顔を逸らして何とか水輝の口づけを避けた。すると今度は首筋に何かが触れる。立城は歯を食いしばって水輝の胸に手を押し付けた。だが拘束が頑として離れない。
「水輝っ、いいかげん止めないと」
だがその先の言葉は続けられなかった。水輝の舌が立城の首筋を艶かしくなぞっていく。立城は思わず息を飲んで固く目を閉じた。触れ合った場所から甘い気配が入り込んでくる。
唇が肌に跡を残す。立城は注がれる気配に徐々に酔いつつあった。駄目だと思うと余計に酔いが深くなる。立城は自分でも気付かないうちにその場に膝をついていた。水輝がシャツを開いて唇と舌で立城を愛撫する。
「……あっ」
掠れた声を上げて立城は身体を震わせた。胸の奥深いところに気配が入り込んでくる。水輝は立城の乳首を唇でくすぐるように弄っていた。舌先が小さな乳首を撫でる。立城は理性を懸命にかき集めて身体をよじろうとした。
水輝はとろんとした顔つきで立城を弄っていた。呼吸が次第に速くなる。立城の身体を両手に抱きかかえ、愛撫を繰り返す。立城の抵抗する力は徐々に弱くなっていった。緊張の解け始めた立城の体内に気配がどんどん入ってくる。気がつくと立城は床に押し倒されていた。
艶かしい動きで手が服越しに股間を弄る。立城は小さく呻いて片目を開けた。滲んだ視界の向こうで水輝がとけそうな目をしている。普通じゃないということは立城にも理解できた。が、理性を圧倒的に上回る甘い気配が立城の心を支配しつつあった。されるがままに欲情していく。
唇と舌が立城の肌を這い回る。立城は荒い息をつきながら懸命に衝動を堪えた。いつの間にかズボンの中に水輝の手が入っている。だが立城はそのことすら理解出来なかった。激しい欲求が生まれる。
金具の触れ合う音が響く。水輝がその場に立ち上がりズボンと下着を落とす。続いて水輝は立城のズボンに手をかけた。つたない手つきでベルトとボタンを外し、ジッパーをさげる。立城は無言で身体を起こし、水輝の手にそっと触れた。導くように指を絡める。
現れたペニスは勃起しきっていた。脈打つそれを水輝が手にそっと握る。立城は深い息をついて首を振った。指を絡めて水輝の手をペニスからはがす。
「……口に咥えて」
立城は水輝の耳元にそう囁いた。ゆるゆると水輝が股間に顔を埋める。立城は自分の口に絡めた水輝の指を入れた。軽く指先を噛む。立城は水輝の指を舌で舐め始めた。熱い息をつきながら指に舌を這わせる。その度に水輝が小さく身体を震わせた。
やがて衝動が強くなる。立城は目を細めて水輝の頭を両手でつかんだ。唇と舌がペニスをなぞっていく。立城は俯いて上半身を屈めた。水輝に覆い被さって掠れた声で告げる。
二人ともフツーじゃない状態です♪
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まどろみの中で 2
エロシーンです。苦手な人は避けてください!!
「出すよ。全部、飲んで」
唇がペニスを吸い上げる。その瞬間、立城は呻いて射精した。水輝が喉を鳴らして精液を飲み込む。立城は荒い息をつきながら何度か水輝の頭を上下させた。衝動は一度射精しただけではおさまらなかった。数回、続けてペニスから精液が迸る。その度に水輝は立城のペニスに吸い付いた。
視界は既にぶれている。立城は息をついて水輝を引き起こした。精液の残る唇を舌で舐める。水輝は潤んだ眼差しをしながら立城の手を自分の股間に導いた。屹立したペニスの先から透明な液体が垂れている。立城は水輝と深く口づけながら手でペニスを弄り始めた。貪るように水輝の唇を吸い、口の中を舌で弄る。水輝は掠れた呻き声を上げ、立城のペニスを再び握った。
「気持ちいい……? 真也も出したい?」
立城は唇を離して水輝にそう囁いた。ペニスを指で刺激された水輝は甘い声で喘いでいる。シャツのボタンを片手で外し、立城は水輝の肌に唇を落とした。唇と舌で愛撫しながらゆっくりと頭を下げる。絡めた足の間で水輝のペニスは張りつめていた。
「ださせて……おねがい……」
掠れた声で水輝が呟く。下腹部に唇をつけていた立城は少しだけ顔を上げた。水輝のペニスを扱きながら睾丸を手の中で転がす。すると水輝がびくりと身体を跳ねさせた。手の中でペニスが硬さを増す。立城は舌先で亀頭を焦らすように舐めた。
「あっ! んぅ! やっ、出させてっ」
水輝が頭を振りながら甘い声で鳴く。立城は頭を上げて水輝の唇を塞いだ。舌を絡めて甘い気配を堪能する。
「うん。僕にも飲ませて」
熱い息をつきながら立城はそう呟いた。頭を沈めて水輝の股間に顔を伏せる。口を大きく開き、立城は水輝のペニスを咥えた。ゆっくりとした動きでペニスを愛撫する。水輝の喉を通った息がひゅっ、と音を立てる。立城は静かに水輝の腰に手を回した。強く腰を前に押す。すると水輝は自然と膝立ちになった。
「こっちにもあげるね。ほら、力を抜いて。深く息をして」
そう告げて立城は再びペニスを咥えた。唇で上下に扱き始める。その直後に水輝は悲鳴のような声を上げて腰をひくつかせた。立城は指で水輝の肛門を弄った。口ではペニスを、指で水輝の肛門を刺激する。
立城は夢中で水輝のペニスにしゃぶりついていた。視界は殆ど利かない状態だった。濃い気配が体内に蓄積していく。この時点で既に立城は水輝を真也と誤認していた。甘い真也の気配を求め、もっと深く交わりたくなる。
水輝が声を上げて立城の頭をつかむ。一瞬後、立城の口に精液が飛び込んできた。目を閉じて喉に流れてきたそれを飲み下す。立城は頭をゆっくりと上下させ、水輝のペニスに残った精液を全て吸った。水輝が掠れた声を発しながら腰をひくつかせる。
立城はゆらりと頭を上げた。唇に残っていた精液を舌で舐め取る。背中にぞくりとしたものが走る。立城は欲望に満ちた眼差しを水輝に向けた。射精後の脱力感を堪えているのだろう。水輝は床に手をついて肩を大きく上下させている。
「真也。挿れていい?」
囁いて立城は水輝の肩に手をかけた。のろのろと水輝が頭を上げる。濡れた唇が挿れて、と言葉を刻む。立城は頷いて水輝の後ろに回った。ペニスは刺激を待ち望んだまま、大きく反り返っている。立城は水輝の肛門にペニスをあてがった。
「深呼吸して……そう。目を閉じて。痛くないように挿れるから、そんなに身体に力を入れないで」
緊張に身体を強張らせている水輝の背中に立城はそっと手を乗せた。宥めるようにゆっくりと撫ぜる。しばしの後、水輝の全身からふっと力が抜けた。立城は水輝に触れていなかった片方の手に力を生んでいた。丁寧に編みこんだそれを水輝の腰に近づける。
静かに力が水輝の腰に染み込んでいく。全ての力が水輝の身体に入ったのを見計らい、立城はそっと腰を前に押した。ひだを分けるようにしてペニスが肛門に食い込んでいく。
「ほら、もう入ったよ。気持ちいい?」
水輝の肛門は立城のペニスの根元までをしっかりと咥え込んでいた。水輝はだが、床に伏せてまだ震えている。立城は息をついて静かに水輝の背中を撫で続けた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。痛くないから起きてごらん」
優しく言いながら立城は水輝の腕を軽く引いた。水輝がのろのろと身体を起こす。立城は水輝を後ろから抱きしめて微かに笑った。身体を密着させて真也の気配を吸う。甘い香りが全身に広がり、それだけで立城は射精の衝動に駆られた。
立城は水輝の身体の前に手を伸ばした。萎えかけていたペニスを柔らかく握る。すると水輝はびくりと身体を震わせた。消えていた喘ぎが戻ってくる。甘い喘ぎ声が立城の衝動を更に強くした。
「ごめん……真也。僕、もう我慢が」
続かない。立城は掠れた声でそう続けて腰を強く前後させた。荒い息をつきながら腰を水輝の尻に叩きつける。
「真也……真也……っ!」
熱に浮かされたように立城は真也の名を呼びながら一気に果てた。水輝の直腸に勢いよく精液が注がれる。それと同時に水輝が悲鳴のような声を上げた。立城の手の中に熱いものが生まれる。体内に射精された水輝もそれと同時に果ててしまったのだ。
立城は甘い気配を吸い尽くそうと何度も水輝と交わった。暗がりの中で狂いそうなほどの快楽を浴び、立城は幾度も果てた。
真也の名を呼びながら水輝を抱きしめる。立城は自分でも気付かないうちに涙を流していた。
憑依……とは違うんですよね……。
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遠い日の面影を追いかけて 1
ここはエロシーンはありません。
一人、真也は佇んでいた。地下室で電気を落とすと殆ど視界が利かないほどの闇になる。真也はその闇の中に静かに立っていた。手探りでなくとも周囲の様子は判る。力が僅かながらでも戻ってきたために闇の中でも目が利くようになっているのだ。
絵美佳の意識が心の底で怒り狂っている。人の身体を勝手に使っていることが相当に気に入らないらしい。真也は苦笑して額を押さえた。同じ身体に入っていても絵美佳と真也は全く別の人格を持つ。魂が違うのだからそれも当然だ。絵美佳にとって真也の存在はただの侵略者に過ぎない。
「今までずっと我慢してきたんだ。少しくらいいいだろ?」
試しに真也はそう呟いた。すると凄まじい勢いで絵美佳が反論する。真也はやれやれと肩を竦めて息をついた。
そりゃそうだよな。生きてる奴には少しの時間でも貴重だろうよ。真也は投げやりにそう呟いた。僅かの間、絵美佳が黙る。だがすぐに怒りの声は復活した。お前のことなどどうでもいい。とにかく身体を返せ。絵美佳の主張はその一点張りだ。
後のことなどどうでもいい。立城に一目会えればそれだけでいい。真也は目を閉じて器の内側で力を編んだ。喚く絵美佳の意識に蓋をする。聞こえていた絵美佳の怒鳴り声は次第に小さくなった。強制的な眠りについてしまったのだ。
魂と器の隙間にねじ込まれる。真也は軽く俯いて手を握った。指を強く握ると手のひらが少し痛む。感覚は確かにあるのにこの器は自分のものではない。絵美佳の器に仮に宿されているだけだ。真也はため息をついて手を開いた。
何のためにそんな真似をしたのか、と翠に問いたかった。翠には質問することが出来なかった。数度ほど翠は絵美佳の前に姿を現したが、その時の翠は立城の姿をとっていた。真也はそれを見て疑問より先に怒りを覚えた。翠にすぐにでもつかみかかってやりたかった。だがその時の真也はまだ絵美佳にすら知覚されておらず、到底、器の表面に出ることなど出来なかった。結局、翠には真也の手は届かなかったのだ。
絵美佳が生まれてからまだ十数年しか経ってはいない。だが、その時間は真也にとってとてつもなく長い時間に感じられた。それまで魂のままで翠に保護されていた時とは時間の流れそのものが違っているとすら思えた。同じ地上にいるはずなのに、どうして会えないのだろう。その思いだけがいつも胸にあった。
どうして判ってるのに会いに来てはくれないのだろう。立城を思う気持ちの裏で真也はそんな疑問も感じた。立城は八大の中でも凄まじい力を有している。そんな立城が真也の魂に気付かないはずはない。なのに立城はこれまで一度たりとも姿を現したことがないのだ。
真也は小さく笑って息をついた。始めからこうなることなど判っていた。どんなに呼んでも立城はきっと来ない。もし、会いにくるつもりがあるなら、魂が地上に戻された時に来ているだろう。だが真也はそう考えてから頭を振った。まともに考えたところでどうにもならない。それなら心を占める欲望を満たす方がいい。
闇がゆっくりと紫の光に照らされる。真也は自然と力を光に変えて放ち始めていた。器の表面がぼんやりと光る。真也は紫色の淡い光の中でくすくすと笑った。考えることを止めているとそれだけで気分が良くなる。どうせ考えたところで事態が変わる訳ではないのだ。
紫色の光を一筋の青い光が分ける。真也は笑いを止めて目を上げた。部屋の中にふらりと現れたのは水輝だった。服は乱れたままだ。真也はゆっくりと水輝に歩み寄り、開いたシャツを手につかんだ。水輝が無言で軽く上向く。真也はテーブルから首輪を取り上げて水輝の首に嵌めた。
水輝は青い光をまとっている。その光は柔らかく紫の光と混ざり合う。真也は互いの光を見つめ、静かに目を細めた。水輝から発されている光には立城の気配が混ざっている。真也はゆっくりと深く息を吸い込んだ。身体の中に気配を取り込むと、それだけで背中がざわめく。
今の自分の状態が普通ではないことは判っている。いつからこうなったのかもはっきりしている。あの時、立城の傍から離れた瞬間から何かが狂ってしまっているのだ。だがそれを真也自身がどうすることも出来なかった。
この話の前に別の話があるはずで、それはかなり前に投稿したものなのですが……
原稿がなくてどーにも!w
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遠い日の面影を追いかけて 2
とにかく警報です!
エロシーンあります!
鎖が微かに音を立てる。水輝の首輪につけられた鎖は真也の手首に巻きついていた。決められた通りに水輝が真也の唇に触れる。真也は無言で目を細めた。合わせた唇から温かな気配が流れ込んでくる。目を閉じると立城の面影が脳裏に浮かぶ。草原の中に佇む立城が真っ直ぐに月を見上げている。
赤く、丸い月を見つめる立城が何かを呟く。だが真也には立城の唇が刻んだ言葉が読み取れなかった。風が吹き、草原がさざなみのように揺れる。風に流れた京紫の髪を押さえ、立城が静かに視線を動かす。
真也は静かに水輝を引き剥がした。水輝が不思議そうに瞬きをする。
「そこに座れ。先に嵌めなきゃ出しちまうだろ、てめえは」
言われるままに水輝がベッドに腰掛ける。既に水輝の目には意志はない。真也の言うままに動く人形と化しているのだ。ベルトを外し、ズボンの前を開く。微かに震えつつも水輝はじっと何かを堪えるように目を閉じた。
勃起しきったペニスが露になる。真也は無言でペニスの根元に拘束のための小さな輪をはめ込んだ。大分、慣れて来たのだろう。水輝は一声も発さない。時折、苦しそうに顔を歪めるだけだ。
立城の気配を真也に伝え尽くさなければ、あの香りは手にすることが出来ないと判っているのだろう。水輝が目を潤ませて真也に手を伸ばす。真也は黙ってベッドを降りた。水輝の目の前に立つ。ベルトに手がかかる。真也は静かに水輝を見下ろしていた。
唇がペニスを咥え込んだ瞬間、真也は掠れた声を上げて目を固く閉じた。水輝と触れている場所から勢いよく気配が流れてくる。同時に瞼の裏側に情景が浮かぶ。月を見上げていた立城の傍にいつの間にか真也自身が並んで立っている。それを見た真也は息を飲んだ。
震える手を立城に伸ばす。だが立城は黙って月を見上げているだけだ。傍らに立つ真也には全く気付いた様子はない。真也は眉間に皺を寄せて更に手を伸ばした。立城の肩先に触れる。だが指先は立城の身体を通り抜け、感触は全くない。真也は驚いて手を引っ込めた。何度か試してみるがやはり立城には触れられない。
どうして、と真也は苦しみに満ちた声で叫んだ。何故、こんなに近くにいるのに触れられないのだ。意識の下の情景の中で真也は夢中で腕を伸ばしていた。真也の器が何かを探すように腕を伸ばす。実体の方の腕はそのまま水輝の頭をつかんだ。
それが僕たちに与えられた罰だよ。どんなに近くとも決して触れ合うことのないよう、断罪の主が世界に祈った結果なんだ。だから。
声が頭の中に響く。真也はその場に硬直して目を見開いた。情景の中の立城は遠く、月を見つめたままだ。だがその唇だけが動いていた。
もう、おかえり。
「嫌だ! 折角、動けるようになったのに! 立城に会えなかったら、地上に来た意味なんてねえじゃねえか!」
真也は腹の底からそう叫んだ。後にどんな罰を受けてもいい。立城に一目会えればそれでいいと思ったのに。真也は水輝の頭を強く抱え、震えながら俯いた。
「お前は俺に会いたくねえのかよ! ずっと待ってたのは俺だけだったのか!?」
叫びながら真也は水輝の頭を揺すった。こみ上げてくる切ない思いとは裏腹に衝動だけが強くなる。真也は歯を食いしばって水輝の頭を抱え込んだ。痛みにも似た快感が迸る。低く呻きながら放った真也の精液を水輝が無言で飲み下した。
「……俺は知ってるぞ。お前、泣いてたじゃないか。会えないって、寂しいって、そう思ったからなんだろ?」
呻き混じりの呟きに応える声はない。舌打ちをして真也は水輝の頭を解放した。ペニスにまとわりついた精液を水輝が丁寧に舐め取っていく。
「ほら、さっさとケツ向けろ。アレ、欲しいんだろが」
言いながら真也は乱暴に水輝を蹴った。ベッドに倒れた水輝がのろのろと腰を上げる。自分からうつ伏せになった水輝は膝を立てて腰を少し上げた。震えながら腕に顔を伏せている。
立城は黙って月を見上げている。真也はその情景を頭から叩き出し、水輝のズボンを一気に引き下ろした。緊張に狭くなった肛門に強引にペニスを突き入れる。掠れた悲鳴を聞きながら真也は笑い始めた。たまらないほどの欲望と寂しさと、水輝を組み伏せているという爽快感が同時にこみ上げてくる。
力任せにねじ込んだペニスが音を立てて出入りし始める。血に塗れたそれを見下ろし、真也は高く笑った。
それにしても水輝はやられすぎ。
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要、ロボット研究会を訪ねる 1
このキャラ、ホント個性が強くて他を食うんですよね……w
エロシーンはありません。
呼び出しに応じて優一郎が地上に出たのは夜の九時を回った時だった。用務員室に真っ先に行って断りを入れる。すっかりおなじみになってしまったからだろう。用務員は優一郎に笑って頷いてみせた。
廊下は薄暗かった。が、月明かりが窓から差し込んでいるために明かりを灯す必要はない。優一郎は静かに廊下を進んだ。時折、足を止めて窓から空を仰ぐ。赤く丸い月が酷く不気味に見えた。
巨大ロボットのプロジョクトは優一郎が参入したことにより、ほぼ順調に進行している。このまま行けばあと一週間ほどで試作段階にまでこぎつけるだろう。叔父である克俊には今回だけは痛い目を見てもらわなければならない。凝り固まった頭で幾ら考えたところでうまい案は見つかる筈がない。結局のところ、克俊の提案は悉く却下された。
柱の陰からまた月明かりの中に出る。優一郎はふと立ち止まって月を見上げた。赤いその色が何故か地下に眠るあの機体を思わせる。優一郎は薄く笑ってまた歩き出した。
優一郎を呼び出した要は生徒会室にいるらしい。業務が長引いたのかな。優一郎はこの時まだそう考えていた。要はあれで生徒会業務にとても熱心だ。生徒たちからは変わった生徒会長だと言われてはいるが、今の清陵高校の内部が一応は安定しているのは要の尽力によるところが大きい。奇異な行動が目に付くため、多くの生徒はそのことに気付いていないのだ。
教職員の管理も要が行っている。先に退職した教師はどうやら女子生徒たちにわいせつな行為をしていたらしい。生徒たちはだが、その教師が退陣した本当の理由を知らない。優一郎にしても要から聞かなければ実態を知ることは不可能だっただろう。生徒会と生徒会の抱える人材は決して無能ではないのだ。
階段を昇る。生徒たちのいない学校は静まり返っている。今日は居残って活動する生徒もいないようだ。優一郎は静かな階段をゆっくりと昇った。硝子張りの窓から外の様子がよく見える。斜めに差し込む月明かりが長い影を作る。優一郎は白衣のポケットに手を入れて無言で進んでいった。
四階に辿り着く。優一郎は生徒会室のドアを軽くノックした。中から要の声が応える。静かに扉を開き、優一郎は生徒会室に入った。
珍しくボディガードの姿がない。優一郎は不思議に思いながら要に挨拶した。要が軽く頷くようにして声に応える。
茶を出され、優一郎は椅子に腰掛けるように勧められた。素直に椅子に座る。要はふう、とため息をついてティカップを傾けた。ほどよく淹れられたそれを優一郎も手に取る。ばらの香りのする赤い茶が満たされている。
何らかの業務中だったという様子はない。生徒会室の中は整然としている。要の端末だけが低い機械の音を発しているだけだ。優一郎は不思議に思いつつも栄子の経過報告をした。容態そのものは悪くない。精神的にも安定しているだろう、というのが呉羽の見解だった。
だがいつ爆発するか判らない爆弾を抱えていることには変わりない。優一郎は慎重に言葉を選びながらそのことを告げた。
「早急に栄子さん本人の最終意思確認を済ませて、今週末に改造手術を実行したいと考えています」
だがその最終の確認こそが優一郎の頭を悩ませている原因だった。栄子自身はまだ優一郎のことを総一郎と認識している。総一郎と偽ったまま計画を進めることは容易いだろう。だがどうしてもそれはためらわれる。栄子が総一郎を慕っていることを利用することそのものは問題はない。が、この先のこともある。いつ、栄子の記憶が戻るか判らないのだ。
それに、と優一郎は心の中で呟いた。自分はあくまでも自分だ。決して総一郎のコピーなどではない。その自負が優一郎の決心を鈍らせていた。
深々と要がため息をつく。紅茶のお代わりを注ぎながら要は目だけを優一郎に向けた。何故かは判らないがとても疲れた顔をしている。
「改造の前に、栄子さんには現在置かれている状況をある程度認識していただこうと思っています」
それは優一郎にとっても栄子にとっても必要なことだ。少なくとも栄子の現在の容態は悪くない。表面上だけでも栄子はそう思っている筈だ。無用なショックを与えないようにと呉羽が気遣っているからだ。だが例えばこのまま黙って改造したとしたら。栄子はその事実を後に知った時どう思うだろう。恐らく、そんな真似をせずとも健康体だったのにと思うのではないか。それ故にある程度の現状説明は必須だ。優一郎は要が判りやすいようにそう説明した。
要はしばし、口を挟まずにその説明を聞いていた。時折、力なく頷く。もしかしたら激務で疲れているのかも知れない。優一郎は説明の途中で口を噤み、大丈夫ですかと要に声をかけた。
「要さんも、栄子さんに誤解されたままでは、あまり気分が良く無いでしょう? 記憶はないとしても、娘だと自覚してもらって、もう一度関係を築き上げるべきだと思うのです」
大丈夫だと応えた要に優一郎はそう告げた。そうね、と要が頷く。だが要の目はどこか遠いところを見つめている。話そのものは聞いてはいるのだろう。その方がいいわね、と呟いている。優一郎は訝りに眉を寄せ、要の顔を覗きこんだ。
一応、今のところは真面目シーンです。
長いので五分割します。
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要、ロボット研究会を訪ねる 2
……機械ですけども(汗)
「要さん、どうされました? もしかして、体調でも崩されましたか? 最近、激務が続いてましたし」
試すように優一郎は告げた。心配そうな顔をした優一郎に要が微かに笑う。だがその笑みにはいつもの高飛車な印象はない。
「大丈夫ですわ。心配させてしまってごめんなさいね」
言いながら要は椅子に深く腰掛けなおした。ほつれた髪を耳にかける。優一郎はしばらく黙って要を見つめていた。しばしの後、要が意を決したように顔を上げる。
「一度、ヒューマノイドとやらの実物を見てみたいの。できれば、直ぐにでも」
真剣な面持ちで言われ、優一郎は返答に詰まった。いきなりこんなことを言われるとは思わなかったのだ。が、どのみち要には実物を見せて説明するつもりだった。優一郎は小さく笑って席を立った。
「それでは、今日はうちの研究室に泊まっていかれますか? ゆっくり説明ができますし」
そう告げて優一郎は要に手を差し伸べた。要が無言で手を取って立ち上がる。二人は連れ立って生徒会室を出た。優一郎は要を連れて来た道を戻り始めた。静かに階段を降り、廊下を行く。途中で要が用務員室に寄り、生徒会室の鍵を預ける。その間、優一郎は窓から月を見上げていた。
赤から白へと色が変わっている。優一郎は月明かりに目を細めて微かに笑った。ドアが閉まる音がして要が廊下に戻ってくる。優一郎は要を伴って再び歩き出した。
地下に続くドアをくぐる。地下への廊下には淡い明かりが灯っている。優一郎は無言で廊下を進んだ。要も二度目だからか特に変わった反応はしない。時折、感嘆のため息をつく以外は普通に優一郎について歩いている。優一郎は要を研究室の一つに案内した。
「改造が完了したら、当面の間、栄子さんはうちの研究室で預かろうと考えています。必要でしたら、要さんや生徒会の方のために、地下に部屋を提供しても構いませんよ」
そう言いながら優一郎はドアを開いた。途端に声が響いてきた。硬直した要に笑いかけ、優一郎は研究室の中を手で示してみせた。要がぎくしゃくとした足取りで研究室のドアをくぐる。
「あ、れ? 部長? お客さんっすか?」
上がった息をつきながらカレンが振り返る。優一郎は頷いてカレンの乗った台を行過ぎた。要はまだ入り口のところで固まってしまっている。やれやれ、と肩を竦めて優一郎は研究室の入り口にとって返した。
広い実験台の上ではカレンと保美が交わっている最中だった。保美の身体には申し訳程度に下着が絡み付いている。カレンはそんな保美を両腕に抱えて腰を艶かしく前後させている。優一郎はちらりと二人を見返ってから要に目を戻した。要は目を見開いたままで台の上の二人を凝視している。
「要さん、彼女達については後で詳しく説明しますので、こちらへどうぞ」
そう言って優一郎はさりげなく要の手を取った。よろけるようにして要が優一郎に導かれて歩く。台の横を過ぎる時、保美が一際高い声をあげた。びくり、と要が身体を震わせる。
「ヒューマノイドのシステムについては以前に説明しましたよね?」
足を止めた要を肩越しに見て優一郎は告げた。要が慌てたように頷く。優一郎は台の上で交わる二人を眺めてから口許に微笑を浮かべた。カレンがさりげなく優一郎に片目を閉じる。軽く頷くとカレンの腰の動きが更に激しくなった。
「あっ! カレン! もっとっ! もっと、ちょうだい!」
カレンに組み敷かれた保美が艶かしく腰を突き上げる。淫猥な二人の交わりを間近で見ていた要の顔は真っ赤に染まっていた。
「ヒューマノイドには性行為が必要不可欠です。さらに、この二人は特殊なヒューマノイドとして、エネルギーをやりとりするためにセックスが必要なシステムになっています」
要の手を離し、優一郎は台の上の二人に向き直った。カレンに軽く手を振ってみせる。するとカレンは頷いてゆっくりと腰を引いた。恥丘にそそり立ったメタリックのペニスが半分ほど姿を現す。要は吸い込まれるように二人の繋がっている部分を見つめた。ごくん、と喉を鳴らして唾液を飲む。優一郎はそんな要を横目に口許に笑みを浮かべた。
「何だったら触ってみるかい? かなりリアルに出来てるんだよ、コレ」
言いながらカレンがにっこりと要に笑いかけた。その目はカレンの感情をよく表している。カレンは元々、男には欲情しない。それは生身だった頃からの性癖だ。きっと要の容姿を気に入ったのだろう。狩る者の目をしている。
「カレン。とりあえず、保美先輩とのセックスに集中したほうがいいんじゃないかな」
動揺する要の代わりに言いながら優一郎は苦笑した。カレンがちぇっ、とつまらなそうに唇を尖らせる。だがカレンはすぐに腰を動かし始めた。快感から一時的に放りだされていた保美が声を上げてカレンの腰に足を絡める。
カレンが狙ってましたが、優一郎に釘を刺されましたw
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要、ロボット研究会を訪ねる 3
エロシーンはありません。
「セックス終了後、連絡したら、二人で奥の研究室まで来てほしい。要さんにヒューマノイドについての説明を行いたいんだ」
了解、というカレンの声を聞いてから優一郎はまた要の手を取った。この部屋の奥にはもう一つ、小さな研究室がある。優一郎はカレンに片手を上げて部屋の奥に向かった。よろけながら要がついてくる。
ドアを開ける。表側の研究室より一回り小さな部屋がそこにはある。優一郎は壁にあるスイッチを入れて部屋の明かりを灯した。要を部屋に導いてからドアを閉じる。するとそれまで聞こえていた保美の喘ぎ声がぴたりと聞こえなくなった。
その研究室はとてもシンプルに作られている。机とベッド、それに端末が設えられているだけだ。優一郎は椅子を要に勧め、自分はベッドに腰を下ろした。要が困惑しつつも椅子に腰掛ける。
「ようこそ、ロボット研究会へ」
にっこりと笑いながら優一郎は告げた。要が困ったように視線を彷徨わせてから小さく頷く。優一郎はゆったりと足を組み、要を見つめながら首を傾げてみせた。要の顔はまだ赤い。
「ヒューマノイドについて基本的なことは、先日お話ししたわけですが、特に疑問点や興味を感じていることはありますか?」
要は頬を手で包んでため息をついている。先日の説明では要は熱心に話を聞いていたが、こんな反応はしなかった。どうやら自分の知らないところで要になにかあったらしい。そのことは優一郎にもよく判った。
「その、ヒューマノイド化にあたって、あの、容姿に手を加えることとかは可能なのかしら? あと、肌の感触や、その……」
言葉を濁しながら要が視線を彷徨わせる。優一郎は瞬きを数度ほど繰り返し、次いでにっこりと笑った。よくは判らないが要はどうやら今現在の自分の姿に満足していないらしい。先日まで容姿に絶対の自信を持っていた要からは想像できないことだ。
「容姿については変えようと思えば完全に変えてしまうことも可能です。身近な例をお見せしましょう」
立ち上がって机に近づく。優一郎は手際よく端末を立ち上げた。目当てのフォルダを開いて二枚の写真を画面上に並べる。片方は現在の栄子のもの、もう片方は栄子によく似た若い女性の機体の写真だ。
栄子の機体を優一郎はわざと若々しくした訳ではない。栄子がこの清陵高校に通っている当時に引かれた設計図を基に作り上げたため、必然的にそうなってしまったに過ぎない。だが要にはこの写真が充分に効果的だったらしい。食い入るように画面を見つめている。
かつて総一郎は全校生徒にそれと判らないよう、性格診断テストを行った。当時、研究していたヒューマノイドに最適な性格の生徒を探し出すためだ。そしてテストの結果、二名の生徒が選出された。片方は由梨佳、そしてもう片方の生徒が栄子だったのだ。
結局、二名のうち一名だけがヒューマノイド化された。それが由梨佳だ。栄子自身は総一郎がそんな計画を立てていたことにすら気付かなかった。当時、引かれた設計図は二種類あった。そしてどういう訳か現在までその設計図は残っていたのだ。
総一郎の描いた栄子の機体の設計図は寸分の隙もない作りになっていた。最近になってその設計図を発見した優一郎が舌を巻くほどの出来だった。当時、総一郎は優一郎と同じくらいの年だった。由梨佳の機体と異なり、栄子のそれは現在の優一郎が手がけるヒューマノイドの機体とほぼ同等、もしくはそれ以上の機能を持つように設計されていたのだ。
「これはお母様? 右の写真は完成予想CGか何かかしら?」
興味深そうに要が訊ねる。優一郎は穏やかに笑みを浮かべて別の写真を開いてみせた。栄子の機体の背面写真を表示する。
「いいえ、これは実在する栄子さんの機体の写真です。ヒューマノイドは機械の身体と人間の脳を組み合わせた存在ですから、週末に改造手術を行うためには、既に機体は完成していないといけませんから」
そう告げて優一郎はにっこりと笑った。要が驚いたように画面を覗き込む。栄子の実物写真と隣の機体の写真を懸命に見比べている。優一郎は微かに笑って机から離れた。白衣のポケットに手を入れて通信機を取り上げる。軽く指先で触れるとすぐに返答がくる。了解のサインを読み取って優一郎はドアに近づいた。
要が焦ったように振り返る。優一郎は軽くお辞儀をしてドアを静かに開いた。ドアの向こうにはきちんと服装を整えた保美とカレンが控えている。
「失礼致します」
保美がそう挨拶してドアをくぐる。その後ろからカレンが入室した。優一郎は微笑を浮かべたままドアを閉じ、要を振り返った。要は唖然とした様子で二人を見比べている。保美とカレンはユニフォームであるメイド服に身を包んでいるのだ。
この頃からメイド服か……(どこか遠くを見ながら
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要、ロボット研究会を訪ねる 4
エロシーンはありません。
……あ、あるか……ある意味……。
下ネタぽいので嫌な人はにげてー!
「このふたりは、あなたの従者なのですか?」
要が不安そうに訊ねる。きっと従者になるつもりはさらさらないと思っているのだろう。自尊心がその顔に表れている。優一郎は苦笑して再びベッドに腰を下ろした。柔らかなクッションが優一郎の重みを包むように受け止める。
「カレンは戦闘用途に、保美先輩は家事用途に特化した、特別なタイプのヒューマノイドです。一般的なヒューマノイドとは異なっています」
説明しながら優一郎は保美に頷いた。保美がゆったりと一礼し、スカートをめくり上げる。要があっ、と口を覆う。保美が手にしていたカップを股間にあてがい、コーヒーを淹れ始めたのだ。
「な、なんですの!?」
素っ頓狂な要の声が響く。その間にも真っ白なカップにコーヒーが満たされていく。それに伴って香ばしいコーヒーの香りが部屋に漂った。保美がにっこりと笑ってコーヒーカップを股間から持ち上げる。続いて機体の吐き出したカプセルにはコーヒーを淹れる過程で出来た紙くずなどが詰まっている。保美は隣のカレンにカップを渡し、何事もない顔でカプセルをエプロンのポケットにしまった。
要は呆然としていた。出されたコーヒーカップを見てはいるが手に取ろうとしない。どうやら淹れ方が気に入らなかったようだ。
「ちょっと下品ですわ! まるで、お……」
そこで口ごもって要は真っ赤になった。保美が小さく笑ってカップを引く。優一郎は微笑みながら保美に頷いた。保美の手からコーヒーカップを受け取り、優一郎はそ知らぬ顔でコーヒーを啜った。
「できるだけ人間の身体を再現しつつ、家事機能を内蔵するために、このような設計になっています」
優一郎は目を上げて要の反応を見た。要はうろたえるように視線を優一郎に飛ばしている。優一郎は不思議に思いながら要の前に立つ二人に目をやった。保美は変わらないが、カレンが腕組みをして鋭く要を睨んでいる。どうやら保美の淹れたコーヒーに手をつけなかった要に怒っているらしい。優一郎は小さく笑ってまあまあ、とカレンに手を上げた。
「だって部長。仁科が折角淹れたのに」
「いいでしょう、いただきますわ!」
カレンがぼやくと同時に要はそう告げて腰を上げた。そのままベッドに近づいてくる。優一郎の手からカップを取り上げ、要はコーヒーを啜った。好奇心でも刺激されたかな。優一郎は内心でそう呟きながら小さく笑った。
要が唐突に目を見張る。恐る恐るカップを覗き込み、要は次に保美を見た。
「キリマンジャロ……ですわね。なかなか美味しかったですわ!」
言いながら要は空になったカップを保美に無造作に突き出した。淹れたての熱いコーヒーを一気飲みする豪快さも勿論だが、要の順応性の高さに優一郎は内心で驚いた。保美は嬉しそうに微笑んでカップを受け取る。
「恐れ入ります」
そう告げて深々と頭を垂れる保美に要は満足そうに頷いた。傅かれることに慣れているからだろう。悠然とした要の態度を見て優一郎はなるほど、と呟いた。カレンはわかりゃいいんだよ、としたり顔で頷いている。
「フィルターや豆は、どうやって、身体の中にセットするんですの?」
興味津々といった様子で要が保美に質問を投げかける。保美は丁寧に説明をしながら時折、優一郎を伺った。だが保美が説明するなら優一郎も言葉を足す必要がない。機体のことを十二分に知っていなければ機能をフル活用など出来ない。保美は優一郎を除けば誰よりも自分の機体について知り尽くしているのだ。
要の興味は尽きないらしい。続いてカレンに色々な質問をし始める。カレンは困ったような顔で優一郎を振り返った。保美と異なり、カレンの機体についてはカレン自身にが理解していない機能がつけられている。というより、カレン本人は機体が充分に戦闘能力を発揮すればいいだけなのだ。つまり、説明できるほどに内部構造を把握してはいない。優一郎はカレンの機体についての質問にだけは自分から口を挟んだ。要が時折、感心した声を返す。
この二人は一般的なヒューマノイドではない、と優一郎は再三念を押した。要も特殊な機体に対する興味から質問はしているが、実際にその機体に入ることを望んではいないのだろう。優一郎が念を押すたびに判っている、と返答する。
どうしても試してみたい。そう要が言い出したため、四人は再び小さな研究室から表の研究室に移動した。要が部屋の中央まで進んでくるりと振り返る。
「試させて、いただきますわよ!」
要が一気にカレンに迫る。放たれた回し蹴りをカレンは片手でがっちりと受け止めた。要はそのまま身体を捻って次々と攻撃を放った。肘を飛ばし、こぶしを繰り出し、足刀を放つ。だがそれらをカレンは悉く受け止めた。カレンの機体のテストにもなるか。のんびりと思いながら優一郎は二人を見物した。
「遅いですわ!」
叫んで要が身体を反転させる。裏拳がカレンの顔面に飛ぶ。カレンは軽く頭を倒して要の手を避けた。その瞬間に要が身体を沈める。足払いがカレンの脛に見事に命中する。
「ありゃ。当たっちまったねぇ」
のほほんとカレンが呟く。だが要はその場に凍りついたように静止していた。カレンの脛に当たっている要の足がひくひくと動いている。
「卑怯……ですわよ!!」
通常の攻撃など本当は避けるまでもない。その程度にはカレンの機体は頑丈に出来ている。涙目で言う要にカレンがやれやれと肩を竦める。その場から動けなくなっているらしい要の腕を無造作につかむ。カレンは悲鳴をものともせず、軽々と要を引っ張り上げた。
初代コーヒーサーバー……(遠くを見ながら
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要、ロボット研究会を訪ねる 5
エロシーンはありません。
「だから勝負にならないんだってば」
笑いながら告げ、カレンは要の身体を宙に放った。要が手足をばたつかせて宙を泳ぐように上下する。落ちた要は伸ばしたカレンの腕の中にすっぽりと納まってしまった。
「わたくしにあなたと同等の身体能力があれば、わたくしが勝ちますわ!」
怒りに肩を震わせながら要が喚く。だがカレンははいはい、と言いながらまるで子供をあやすように笑っている。優一郎は我慢出来ずにそこで吹き出した。口許を押さえて懸命に笑いを堪える。
「せっかくそんな美人なんだからさあ。べっつにうちに格闘なんかで勝たなくてもいいじゃん?」
カレンがそう言いながら要の目を覗き込む。どうやら身体に直に触れているためにカレンの欲情に火がつきつつあるらしい。優一郎は軽く手を上げてカレンに頷いた。カレンが渋々といった態で要を解放する。
「保美と申しましたね。あなた、先ほどわたくしに躊躇いも無く性器をさらけ出しましたが、恥ずかしくはないのですか?」
くるりと振り返って要がそう声を飛ばす。保美はにっこりと笑って軽く頷いた。
「ええ、特に恥ずかしいとは思いません」
さらりと保美が答える。すると要が考えるように沈黙した。優一郎は黙って三人の様子を見守っていた。要が二人に興味を抱いていることは間違いない。その理由は恐らく一つに絞られる。それは要が自身をヒューマノイドに当てはめて考えているからだ。そしてそれは要がヒューマノイドの機体を望んでいるということに他ならない。
「それでは、服を脱ぎなさい。わたくしがじっくり、検分してさしあげてよ!」
胸を反らして要が命令する。保美はうっすらと頬を染めて実験台に昇った。カレンが短く口笛を吹く。にやにやと嗤いながらカレンは手近の椅子を引っ張った。優一郎の傍に椅子を二つ開く。優一郎はカレンに笑みかけてありがたく腰を下ろした。隣の椅子にカレンがどっかりと腰を落ち着ける。
保美は無言で服を脱ぎ始めた。エプロンを取り、続いて黒いワンピースのジッパーを下ろす。下着姿になった保美はうっとりとした眼差しで要を見た。これもですか、と小声で訊ねながらブラジャーをつまむ。
「もちろんよ。あと、わたくしの言うとおりのポーズをとってもらうわよ!」
そう告げる要の頬もうっすらと染まっている。保美ははい、と頷いてブラジャーを取り去った。既に股間は露になっている。ガーターベルトとストッキングだけという格好になり、保美は要を見つめた。
「要様。どのようなポーズをとればよろしいですか?」
保美がそう告げる。相手の反応を誰よりも楽しむ保美らしい言い回しの選択だ。優一郎は薄く笑って背もたれに深く寄りかかった。台の上に座る保美を見つめ、染み一つないんですのね、と要が呟く。
「とりあえず、そのままで構わないわ。胸を触ってもいいですわね?」
そう言いながら要が保美の乳房に触れる。保美はぴくりと肩を震わせて小さく息をついた。乳房を触っていた要が眉間に皺を寄せる。
「思った以上に柔らかいですわ、型崩れしていないのにっ!」
独り言のように要が呟く。対して触れられている保美はうっとりと目を潤ませている。優一郎は小さく笑って白衣のポケットから携帯端末を取り出した。素早く操作して保美の機体の状態を表示させる。横からカレンがその画面を覗き込んだ。
不意に電子音が鳴る。優一郎は訝りに眉を寄せてカレンに断りを入れた。立ち上がって部屋の隅に移動する。手にした端末を操作し、優一郎は届いたメールをチェックした。今ごろの時間にメールが来るのは珍しい。もしかしたら例の社長が痺れを切らしてメールを送ってきたかな。そう思いながら優一郎は何気なくそのメールを見た。
差出人を確かめて優一郎は微かに息を飲んだ。立城の名前が記されている。ここしばらく立城からメールが届いたことはない。大抵は電話で話した方が事が簡単に進むからだ。なんだろう、と呟いて優一郎はメールを開いた。
『君がこのメールを読んでいるということは、恐らく僕は屋敷から出てしまった後でしょう』
書き出しの部分を読んで優一郎は怪訝に思った。この書き出しではまるで遺書か何かだ。優一郎は三人を余所にそっと研究室から出た。廊下に出てから画面をスクロールさせる。
『多分、いま屋敷の中は荒れています。きっと由梨佳さんと多輝も壊れていることでしょう。申し訳ないのだけれど修理をお願いします』
メールの文章はそれだけだった。優一郎は呆然としつつ携帯端末を操作した。メールが発信されたのは先ほどだ。優一郎は携帯端末をポケットに突っ込み、地上に走った。
急展開です。
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奈月のはじめてのおつかい
エロシーンはありません。
見知らぬ街で奈月は途方に暮れていた。水輝の行きそうなところ、という貴重な情報を元に探索を続けていたのだが、それらしい手がかりはまるで見つからない。付き合ってくれている野木も奈月と同様に途方に暮れている。
清陵高校にお使いに出かけた奈月は結局、未だに水輝に会えていない。水輝のクラスを覗いてみたが、その姿はなかった。クラスメイトの話では昼からいなくなっているらしい。奈月はそれを聞いて反射的に力を使って水輝を探しかけた。が、寸前のところで思い止まる。立城が何度か繰り返して念を押したからだ。
校内では決して力は使わないでください。奈月はきっちりその言いつけを守り、クラスメイトたちの力を借りて何とか水輝を探そうと試みた。が、協力を得たにも関わらず水輝は見つけられなかった。
結果、いまに至る。奈月はため息をついて街を行く人々の流れを見つめた。見知らぬ街だからだろうか。街そのものが嫌に広く感じられる。外に出たら力を使ってもいいのではないかと思い、奈月は何度か力を飛ばして水輝を探そうとした。だが今まで悉く空振りしている。道端に座り込む奈月を人々が珍しそうに見ては過ぎる。奈月は何度目かのため息をついた。
「大丈夫ですか? あの、これをどうぞ」
言いながら野木が缶入りのコーヒーを差し出す。奈月は軽く会釈をしてそれを受け取った。じんと手のひらに温もりが伝わってくる。
「ありがとうございます」
にっこりと微笑んで奈月はありがたくプルトップを引いた。野木が遠慮がちに奈月の隣に腰を下ろす。縁石に座る二人を人々が眺めては過ぎる。だが奈月は自分の格好が人目をひいているのだとは気づかなかった。ハンカチを出して缶コーヒーを包む。直に握って火傷でもしたら大変だ。奈月は久しぶりに飲むコーヒーの味にふわりと微笑を浮かべた。こうして缶入りのコーヒーを飲むのはとても久しぶりだ。
「先ほどの店にはいらっしゃいませんでしたね。有力な情報ということだったのですが」
面目ない、と野木が頭を下げる。野木は要に命じられた時からずっと奈月の世話を焼いてきた。さすがの奈月も学校外を探す段になった時、遠慮して野木に声をかけた。が、断固として野木は奈月についてくる。奈月は慌てて首を振ってみせた。
「そんな、野木さんは手伝ってくださったのに、謝られたらわたしの立場がありません」
言いながら奈月はありがとうございます、と頭を下げた。すると今度は野木が慌てて手を振る。そんな勿体無い。そう告げる野木に奈月は首を傾げてみせた。何が勿体無いのか今ひとつ理解できない。が、問い返すのも野暮かも知れない。奈月は困惑しつつも黙っていた。
先ほど、奈月が野木と共に向かったのはコスプレパブという場所だった。その名はもちろん、商売の内容などのことを奈月はさっぱり理解していなかった。なのにどうして店員たちはあんなにも機嫌が良かったのだろう。奈月は首を傾げて考えを巡らせた。どうも、野木に始終庇われていた気がする。
「一度、家に帰ります。水輝さんも戻ってるかもしれないし」
にっこりと笑って言いつつ奈月は腰を上げた。野木が慌てて立ち上がる。
「お役に立てなくて申し訳ありません。それではご自宅までお送りさせて頂きます」
どこまでも生真面目に野木が告げる。頭を丁寧に下げられ、奈月は心底うろたえた。とにかく野木が家に帰れないのは申し訳ない。かと言ってここで遠慮してしまうのも気がひける。
「はい、ありがとうございます」
奈月はにっこりと笑ってそう答えた。
それから野木に連れられて奈月は大きな通りに出た。どうやらここで野木はタクシーを拾うつもりらしい。奈月は慌てて野木を止めようとした。タクシーなど、今まで数えるほどしか乗ったことがない。そんな、お金がかかるのに。奈月は内心で呟いて野木の腕をひいた。すると野木が困ったように笑う。
「生憎、この辺りから奈月様のご自宅まではかなりの距離があります。お代の方はこちらで持たせて頂きますのでご安心を」
そう言われて奈月は思わず呻いた。確かに今、自分は金を殆ど持ち合わせていない。学校までのバス代と帰りのそれを持っていればいいと踏んでいたのだ。奈月は困惑顔で野木を見つめた。その面持ちが他人に対してどう作用するのかを奈月は全く理解していなかった。正面からまともに奈月を見た野木が顔を赤くしてそっぽを向く。
「あの、お金についてはしっかりしないといけません。請求書をいただけましたら、後からお返しします」
真面目な顔で奈月はそう告げた。だが野木も簡単に譲るつもりはないらしい。首を横に振って駄目です、と告げる。
「女性に払わせたとなれば後で要様に叱られてしまいます。しかもその女性が奈月様とあっては、わたくしは半殺しにされかねません」
どこまでも真顔で野木が告げる。さすがに奈月は野木の迫力に押されて黙ってしまった。とにかく今は遠慮をするのは得策ではないらしい。奈月はそのことを悟って仕方なく頷いた。
「わかりました。お言葉に甘えます」
今度、お礼がてらお菓子でも持って生徒会室を訪ねよう。そう心に決めて奈月はにっこりと笑った。野木が困ったように頭をかく。そこで初めて奈月は気付いた。どうやらずっと気になっていた野木の態度は照れからくるものらしい。どうしてだろう、と思いながら奈月は首を傾げた。
タクシーを拾って屋敷へ急ぐ。奈月はタクシーの後部座席で大人しく座っていた。窓から流れる景色をぼんやりと見つめる。野木もそんな奈月に特には話し掛けなかった。
景色が過ぎていく。奈月はふと目を見張って窓に手をあてがった。素早く行過ぎる景色の中に見知った姿があった気がする。奈月は驚いて後ろを振り向いた。頼りない足取りで歩いていたのは立城ではないだろうか。奈月は困惑しつつも声は上げなかった。ともかく今は野木が早く帰れるようにしなければ。そう思いながらシートに沈みこむ。
「どうかしましたか?」
律儀に野木が訊ねてくる。奈月は微かに笑って首を横に振った。
「なんでもありません。ちょっと知っている方に似ている人がいらしたので」
他人の空似ととても言えないだろうことは判っていた。他の誰かならともかく、水輝や立城を見間違える筈がない。何故なら彼らは一様に常人の目には映らない淡い光を放っているからだ。奈月はだが、不安を隠して野木に笑いかけた。野木がそうですか、と押し黙る。
車の波から抜け出したタクシーが狭い路地に入っていく。そしてタクシーは立城の屋敷の前で停まった。奈月は一人、タクシーから降りてありがとうございました、と頭を下げた。窓を開けて野木が会釈をする。
「本日は誠に申し訳ありませんでした。それでは、おやすみなさいませ」
そう言い残して野木はその場を去った。奈月は小さくなるタクシーをしばらく見送り、屋敷の門の前に立った。周囲を注意深く伺う。誰もいないことを確認してから奈月は屋敷の敷地内へと転移した。
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夢遊病のように
エロシーンはありません。
「あっれー? 何でまた、んなとこに」
そう呟いてしまってから順は慌てて口を手で覆った。ビルの陰に隠れるようにして通りを見やる。スーツを身につけた立城がふらふらと頼りない足取りで歩いているのが見える。順は頭をかいて低く呻いた。立城がこちらに気付いた様子はない。
ここまで腑抜けになるとは思ってなかったんだがな。順は内心で呟いて出来る限り心の防壁を強化した。だがそんなことをしなくても、今の立城は順の気配を察知することは出来ないだろう。虚ろな眼差しが求めるのは真也の姿だけだ。順は小さく笑ってから陰から人工の光の中へと姿を現した。
病院には都子を身代わりに置いてきた。だが都子は長時間の身代わりは出来ない。元々、都子は不器用なのだ。だから久しぶりの外の空気を吸うだけ吸ったら戻ろうと思っていた。順はやれやれ、とため息をついてのろのろと立城を追い始めた。行く先はどうせ決まっている。煙草を咥えて歩きながら順は人の波を器用に避けた。
真也の魂が絵美佳の器に入れられていることを順に教えたのは翠だった。一つの器に無理に二つの魂を宿したのには理由があるのだとも聞いた。生まれたばかりの時、絵美佳の魂はとても脆弱だった。それ故に到底、生きていられないだろうと翠は判断したという。それならば、と翠は手中に握っていた真也の魂を地上に戻すことにしたのだ。
どうせ長くは生きられないだろうがね。翠は順に真也のことを告げた後、そう言って笑った。微かな笑みはあくまでも冷ややかで、それ故に翠が真也のことを思っているとは到底感じられなかった。いや、実際に翠は真也のことを慮っていた訳ではないのだろう。
たとえ地上に共にあったとしても、決して交わることが出来ぬよう、その魂に枷をつけた。断罪の主、火藍がかつて順にそう告げたことがある。立城と真也は世界の意志により、互いを求めながらも決して手に入れられないという状態になってしまったのだ。
夢遊病者のような足取りで歩く立城から濃い思惟が漂っている。恐らくは無意識で流しているそれを順はこっそりと盗み読んだ。どうやら今の立城の頭を占めているのは真也だけのようだ。まあ、そうだろうね。順は小さく笑って目を細めた。
断罪の矛は今なおその枷を二人に嵌めたままだ。順は薄く笑ってこちらに向かって歩いてくる人間をひらりと避けた。唐突に障害物が消えたことに驚いたのだろう。数人のサラリーマンが足を止めて振り返る。だが順はそれに構わず立城を追い続けた。
ホントは判ってるんだろうにねえ。順は内心でそう呟いて立城の後姿を見つめた。二人は数メートルほどしか離れていない。なのに立城は順の気配に全く気付く様子がない。それどころか歩く人々に足を取られ、時折よろけては立ち止まる。
断罪の主、と呼ばれる火藍はこれまでにも数えるほどしかその力を発揮したことはない。あの紫翠討伐の折にもその力は封印していたという。何故か。火藍に一度、順はその理由について訊ねたことがある。が、火藍は答えなかった。答えられなかったのか、それとも答えたくなかったのかは判らない。順は唇に挟んだ煙草を揺らしてビルの壁に寄りかかった。立城が肩で息をしながら少し離れたところに寄りかかっている。
真也が死んだあの時、火藍は冥界の狭間へ降りた。そこで真也の魂に矛を揮ったのだ。その事実を知る者は意外に少ない。龍神と言えど、空間の狭間で起こったことまで把握は出来なかったのだろう。八大の中にもその事実を知らない者がいる。順は指で煙草をつまんで唇から剥がした。乾いた唇に張り付いたフィルターの欠片を指ではがす。
順がその事実を知ったのは翠から教わったからだった。翠が一体、何を考えて様々な情報を提供したのかは判らない。だがどんな方法にせよ、手に入れた情報を使わない手はない。結局、それが罠だったとしても、だ。
どのみちオレたちは先が長くないからねえ。目を細めて順は煙を細長く吐き出した。よいしょ、と小さく声をかけて壁から離れる。立城は再びよろけながら街の中に歩み出したところだった。
翠が何を思って真也を地上に戻したのかはわからない。が、この機会を逃す気はなかった。幸い、真也は順の存在には気付いていなかった。それも当然だろう。一度、真也が地上から消えた後に順は生まれたのだ。しかも真也相手であれば水輝はもしかしたら躊躇するかも知れない。その打算もあった。
基本的に水輝は一度奪った命に対して後悔など抱かない。男の性をまとった今ならその傾向は更に顕著になる。ためらいなく屠ることが出来るからこそ、水輝は最強と言われてきたのだ。だがそんな水輝も間に立城が関わるだけでいとも簡単にためらってしまう。真也を真っ先に始末できなかったのがそのいい証拠だ。
もっとも、それも水輝が男の性をもって戻ってこなければ出来なかった。が、こちらの条件も順の予想通りに立城があっさりとクリアしてしまった。
「まあ、美味しすぎる展開だから罠だって思うんだけどさ」
そう呟いて順は短くなった煙草を地面に吐き捨てた。雑踏に紛れて煙草が潰れていく。順は微かに笑ってそれを眺めてから立城をまた追い始めた。
水輝が男に戻り、真也が表面化する。火藍の魂は機体の中で息づき、立城は真也を求めて彷徨っている最中だ。着々と進む自分の計画を思い返しながら、順は新しい煙草を咥えてポケットに手を入れた。
不意に立城がよろけて壁にぶち当たる。さすがに順は呆気に取られて足を止めた。慌てたように通行人の何人かが立城に声をかける。立城は力なく手を上げてからまた歩き出した。
「ほんっきで腑抜けになってる……ってことか」
誰にも聞こえないくらいの小声で順は呟いた。立城は頼りない足取りで進んでいく。そこいらの小学生の方がよほど早く歩くだろう。のろのろと進む立城を順はゆっくりと追った。
空には丸い月がかかっている。
説明乙な感じのとこです。
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崩壊した吉良瀬邸 1
エロシーンはないです。
屋敷にたどり着いた優一郎は息を飲んだ。立城の屋敷の門が開きっ放しになっていたのだ。コンピュータ制御されている筈の門が開いたままになっていたことも異常だが、敷地に入った優一郎はもっと異常な光景を見た。
あれだけ咲き誇っていたばらが無残になぎ倒されている。それもちょっと踏み外して転んだというレベルの倒され方ではない。残っているばらを数える方がよほど早いだろう。優一郎は愕然としつつ、辛うじて倒れたばらの間に見える小道を歩いた。
いつもなら灯るのだろう、小道の脇に点々とたてられた外灯もあちこちに捻じ曲がっている。優一郎は訝りながらゆっくりと進んだ。立城のメールから予想できることはただ一つだ。恐らく、立城の身に何らかの異変があったに違いない。だが立城はその異変をあらかじめ予測していたと考えられる。そうでなければあのメールの文章は説明できない。どうしても立城が無意味に仮定の話ばかりを羅列するとは思えないのだ。
優一郎は静かに小道を曲がった。重なったばらの残骸を越えたところで妙なものが目に入る。眉をひそめて足を止め、優一郎は目を凝らした。
外灯が一本だけぽつんと光っている。淡い橙色の光に照らされて一本の木が幹の半ばで折れていた。優一郎は息を飲んで周囲を見た。屋敷の陰になっていて先ほどまで見えなかった景色が否応なしに目に飛び込んでくる。
無残に千切れた白く大きなパラソルが転がっている。きっと元はテーブルだったのだろう。折れた木の幹の下に白い残骸がある。二脚の椅子は塀に当たったのか、へしゃげた形で落ちている。一体、何が通ったらこんな風になるのだろう。恐らく、台風クラスの災害でなければお目にかかれないのではないか。優一郎はしばし呆然とその場に佇んだ。
不意に何かが視界の中で動く。優一郎は慌ててそちらに目をやった。転がったテーブルの残骸の傍で何かが微かに動いた。驚愕を拭い去り、優一郎は動いたものに駆け寄った。近づいて絶句する。そこには人の形をしたものが倒れていた。だが間違いなく人ではない。それは青い液体を血のように流しながら微かに呻いていたのだ。
優一郎は自分を落ち着かせてそれを助け起こそうとした。だが木の幹に身体が挟まっているらしく、起こすことはおろか、動かすことすら出来そうにない。逸る気持ちを堪え、優一郎は手ごろな棒が落ちていないか探した。だが付近にそれらしいものはない。折れたパラソルの軸があるにはあったが、とても幹を退けられそうにはない。真っ二つに折れた木の幹の太さは優一郎の腕で一抱え以上のサイズがあるのだ。
困惑しつつ優一郎はそれのところに戻った。いつの間にか意識を取り戻していたらしい。それは近づく優一郎を生きている片目で見つめ、小さく息をついた。
「……わたくしは……大丈夫、です。それより……多輝様を」
苦しそうに告げるそれに優一郎は懸命に声をかけた。どうやらそれの名前は蒼と言うらしい。しかも蒼は水輝の使い魔だと名乗った。それを聞いた優一郎は黙って頷いた。とりあえず、龍神の使い魔であるなら蒼は大丈夫なのだろう。
「多輝はどこに?」
蒼を気遣いながら優一郎は訊ねた。蒼がゆらりと腕を上げかける。だがその腕は途中で力なく地面に落ちた。蒼が息をついて目を閉じる。優一郎は慌てて蒼を呼んだ。どうやら単純に力が入らなかっただけのようだ。ゆるゆると瞼を上げた蒼を見て優一郎はほっと息をついた。
「多輝様、は……お屋敷の……入り口に」
「わかりました……」
静かに答えて優一郎は屈めていた腰を上げた。蒼がお気をつけて、と告げる。優一郎は無言で声に頷いて小道を急いで進んだ。元は玄関だった筈の場所には大きな穴が穿たれている。優一郎は迷うことなくその穴をくぐった。
嵐のような破壊ぶりは庭だけに留まらなかったようだ。玄関の穴に始まって屋敷に入った辺りも凄まじく荒れていた。敷き詰められていたじゅうたんは千切れて飛び、床材が露出している。階段と手すりは途中で切断されていた。壁にかかっていた絵は一つ残らず吹き飛んでいる。床に転がった幾つもの破片は花瓶のものだろうか。優一郎は眉間にしわを寄せてゆっくりと歩いた。靴の下で破片が床に擦れて嫌な音をたてる。
真っ白なリボンが真っ先に目に留まる。優一郎はそれを見止めるなり駆け出した。青いワンピースはざっくりと切れている。優一郎は震える声で呼びながら倒れた多輝の身体を起こしかけた。
驚愕に震えて優一郎は手を止めた。抱え起こそうとした多輝の胸にこぶし大の穴が空いている。
「あ……れ。あんた……来て、くれたんだ?」
苦しそうに息をつきながら喋る多輝の声には雑音が混ざっている。内部機関が大破しているためだ。
まだ多輝の記憶は戻ってません。
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崩壊した吉良瀬邸 2
この章はこのエピで終了です。
「修理しますから、大丈夫です。安心してください」
言いながら優一郎は笑顔を作った。少しでも多輝を安心させようと思ったのだ。すると多輝はほっとしたように目を閉じて微かに頷いた。優一郎の胸に頭を預け、それきり沈黙してしまう。もしかしたら最後の力を振り絞っていたのかも知れない。優一郎は顔から笑みを消して多輝を抱えて立ち上がった。とにかくこの場所では修理することも難しい。立城のことだ。由梨佳や多輝を修理するための部屋くらいは作っているだろう。優一郎は多輝を抱えたまま歩き出した。
立城の屋敷には階段が三箇所ある。とにかくどこかの階段を昇ろう。そう思いながら優一郎は壊れた階段を横目に見つつ、屋敷の奥へと向かった。屋敷の内部構造は詳しくは判らない。が、立城の執務室ならば見取り図くらいはあるかも知れない。緊急事態なのだ。少々は勝手に探しても文句は言われないだろう。優一郎はそう思いながら破壊され尽くした玄関を過ぎた。
屋敷の内部は玄関と同様に破壊し尽くされていた。キッチン、リビング、応接室……。並ぶ部屋のどれも被害を受けている。それらを見て優一郎はふと妙なことに気がついた。どの部屋も入り口を中心に破壊されたようだ。しかも隣り合った部屋が同時に破壊された形跡はない。
何かを探していたのか? 屋敷内部を荒らした誰かについて考えながら優一郎は屋敷の奥に向かった。廊下もあちこちの壁に穴が空いている。屋敷全体が崩れるような壊し方でないとは言え、被害はかなり大きい。優一郎は多輝を腕にしっかりと抱え直して先を急いだ。
瓦礫を踏み越えて階段に辿り着く。どうやらこの階段は無事のようだ。優一郎はほっとしながら慎重に階段を昇った。一見、何事もないようだが、他の破壊された部分の影響でいつ崩れるか判らない。点々と灯る明かりの下を優一郎はゆっくりと進んだ。
二階に辿り着く。優一郎は注意深く辺りを伺いながら先に進んだ。が、一階に比べて二階は嫌に被害が少ない。入り口が壊れていない部屋は内部の破損もない。優一郎は並んでいるドアを見ながらゆっくりと歩いた。
角を曲がって立城の執務室に近づくと周辺の有様が一変した。玄関と同様に壊れた部屋が続く。優一郎は瓦礫を何とか避けながら執務室に急いだ。確か立城は端末を持っていた筈だ。その中にならこの屋敷のデータがあるかも知れない。
執務室のドアは不思議と壊れていない。優一郎は怪訝に思いながらドアを開けた。部屋の内部を見て硬直する。壁に大きな穴が穿たれている。それ以外の被害らしいものはないが、逆にだからこそ奇妙な気がする。優一郎はそっと声をかけて多輝をソファに横たえた。机の脇を回って壁際に寄る。
床に散乱した服と染みが示す意味を優一郎はすぐに理解した。目を細めてポケットからチェッカーを取り出す。だが残存するエネルギー量が余りにも多く、正確に計測できない。針は振り切ったままだし、残留力のタイプも判別できないようだ。優一郎は小さく舌打ちをしてチェッカーをポケットにしまいこんだ。
複数の力が残っているのは間違いない。優一郎はそう判断を下して端末に向かった。そこで気付く。端末の電源が入っているのだ。スクリーンセイバーが消えるとメール送信画面が真っ先に見える。どうやらメールを優一郎に送ったのはこの端末らしい。優一郎はしばし、画面を見つめたまま考えを巡らせた。あらかじめメールを送るように設定されていたのか。そう呟いてキーボードに手を伸ばす。
検索をかけて屋敷内部の構造図をチェックする。幸い、それはすぐに見ることが出来た。どうやら地下に実験室を兼ねた修理室があるようだ。優一郎は頭に構造図を叩き込んでからディスプレイの電源を落とそうとした。
不意に水の音がする。静かな水面に一滴の水を落としたような音に優一郎は慌てて顔を上げた。暗がりの中に淡い光が生まれる。
「あっ、あなたは!?」
瞬く間に光が形となり、執務室の中央に奈月が現れた。動揺した優一郎の声に奈月が驚いたように声を上げる。
「あの、どうして、こちらに? あれ?」
言いながら奈月が困惑した面持ちで周囲を見回す。壁の穴に視線がたどり着いた時、奈月の顔色は一気に真っ青になった。短い悲鳴を上げて壊れた壁に駆け寄る。
「いったい、何が? 水輝さん? どうして?」
泣きそうな顔で奈月がその場にへたり込む。優一郎はディスプレイの電源を落として奈月を振り返った。哀しげに壁を見つめる奈月に声をかける。奈月は涙に濡れた目をして肩越しに振り向いた。
聞くところによると奈月は今まで外出していたらしい。使いに赴いていたというのだ。行き先は清陵高校。それを聞いた優一郎はぴくりと眉を上げた。どうやら自分が学校にいた間、奈月も同じくその場にいたようだ。が、結局は水輝を捕まえられなかったという。それも当然だ。水輝は奈月が出かけている間に屋敷にいたのだから。
屋敷をここまで壊してしまったのは水輝だ。奈月の言葉の中から優一郎はそう理解した。確かに立城が防げないほどの力を炸裂させられる者となると限られる。水輝ならそれも可能だと思ったのだ。
事後処理が怖い……w
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崩壊した吉良瀬邸 3
エロシーンはありません。
だが奈月はそう告げた優一郎に首を振った。
「違います。立城さんは今は」
力なく告げて奈月は壁の穴から外を見つめた。つられるようにそちらを見つめ、優一郎はどういうことかと問い返した。
立城はいま、力を使うことが出来ない。淡々とした奈月の説明に優一郎は軽く息を飲んだ。どういう意味だろう。奈月は優一郎の疑問に静かに答えた。立城の今の状態は通常ではない。歪んだ力を一度、無防備に受け入れてしまったために本来の力を用いて辛うじてバランスをとっていたのだという。歪んだ力は元は水輝のものだったのだが、それをそのまま水輝に戻す訳にはいかない。そうすれば水輝はまた再び女の性に立ち戻り、終には正気を失ってしまう。
だからこそ立城の内部で暴れていた歪みの力を奈月は全て吸収した。だが同時にバランスを取るために用いられていた立城の力も器から吸い出されてしまったのだ。
「立城さんを助けてください! お屋敷から万が一、出るようなことがあった時は止めてくださいと言われていたんです!」
懸命に言いながら奈月が優一郎の白衣の裾を握る。その目から大粒の涙が零れ落ちる。だがどうすることも出来ない。優一郎は力なく首を振ってやんわりと奈月の手を解いた。
屋敷には強固な結界が張り巡らされていたという。それは屋敷内部にいる者を外敵から守るという効果と同時に、立城自身を外に出られなくするという意味もあったのだ。だが水輝がこの屋敷を破壊した時に結界は破れてしまった。それ故に立城は自由に外に出られるようになってしまったという。優一郎は震えながら語る奈月を静かに見下ろしていた。
だが本当にそれだけだろうか。優一郎は奈月を見つめながら考えを巡らせた。理由は判らないが、立城が外に出ると何がしかの問題が発生するということなのだろう。が、もし、立城が外に出ないようにするとすれば、もっと確実な方法を選びそうなものだ。奈月に頼んだところで立城が本気で外に出ようとすれば止めたところで無駄だろう。
それにメールのこともある。優一郎は自然と考え込んでいた。顎に手を当てて思考を巡らせる。
「この場にある力が誰のものなのか判りますか?」
チェッカーの針を振り切り、さらに判別のつかないほどに混ざってしまっている力の源が判れば、立城の意図も少しは判るかも知れない。そんな思いから優一郎はそう訊ねた。奈月が涙を拭って顔を上げる。
瞳の色が音もなく変化する。奈月はブルーグレイの瞳を上げ、部屋の中を見回した。うっすらと髪に青みがかかる。
「水輝さんと立城さん、それともう一人」
何かを探るように奈月の目が細くなる。優一郎はじっと黙ったまま答えを待った。彷徨っていた奈月の視線が壁際に向かう。ある一転で視線の動きが止まる。そこは最初に優一郎が見止めた場所だった。服が散乱し、じゅうたんに染みが出来ている。
「立城さんとそっくりな色の……でも全然違う力が見えます」
どうやら奈月の目を通すと残留力は色に見えるらしい。優一郎は小さく頷いて目を凝らした。だがどうやっても優一郎にはその場に残された力を見分けることは出来ない。
お前、見えそうなんだけどなあ。ふと、優一郎の脳裏にかつて聞いた水輝の言葉が蘇る。あの夜に言われていることを全て理解できたとは思わない。半信半疑といったところだ。だがあの時の水輝は冗談を言っている顔ではなかった。
コップの中の水を凍らせて固める。いつの間にか優一郎は思ったことを口に出していた。奈月が不思議そうに優一郎を見つめる。ああ、と苦笑して優一郎は首を振った。何でもありません。そう告げる。
立城と酷似した色の力の本性は歪みだと奈月は告げた。その力を歪み、捻れた人の心だと奈月は表現した。人、と呟いて優一郎は目を細めた。
「はい。間違いありません。この力の源は人間の心、誰かを守りたいという強い思いです」
その思いが歪んだ経緯は判らない。奈月は困惑した面持ちでそう告げる。だが優一郎はそれを聞いて確信した。立城は恐らくその歪んだ心によって外に連れ出されたのだ。そして立城は最初からそうなることを読んでいたのではないか。奈月に止めるように言ったのは言わば保険だ。そうでなければわざわざ奈月に使いを頼む必要性がない。本気で止めて欲しいと思うなら、最初から奈月を外に出す必要がないからだ。
勿論、立城が予測しなかったことも発生しているのだろう。だからこそ、優一郎の元にメールが届いたのだ。優一郎は巡る考えに結論をつけて顔を上げた。
「とにかく多輝を修理しましょう。詳しい事情はそれから」
「あ、待ってください。多輝さんもですが、由梨佳さんも」
それを聞いた優一郎は顔を強張らせた。まさか、という思いがこみ上げてくる。通りがかりに由梨佳を見なかったから安心していたのだ。きっと立城は保険の意味でメールに由梨佳の名を記したのだ。が、由梨佳は偶然、居合わせなかったのだろう。優一郎はそう踏んでいたのだ。
瞬きをして目をあける。その時の優一郎の顔からは一切の表情が消えていた。
壊れた機体が書けてないんですよね(´Д⊂ヽ
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十一章
再度の目覚めを
この話はこの章でラストです。
エロシーンはありません。
暗い闇の中に赤い光が灯る。優一郎の研究室のカプセルの中でそれは静かに目を開いた。身体に絡み付いている液体に眉を寄せて頭を振ろうとする。が、思った通りに身体が動かない。何度か試していくうちに辛うじて瞬きは出来るようになる。それは数度ほど瞬きをしてからゆっくりと頭を上げた。
酷い夢を見ていた気がする。生きたままで身体を裂かれたような思いがしたことだけは憶えている。それは腕に顔を伏せてじっと考えた。周囲を覆う液体は温かく、うっかりすると眠りこんでしまいそうなほどに心地いい。それは自然と目を閉じた。慣れてくると身体の感覚がつかめるようになってくる。ここは腕、ここは足、ここは胴。首や頭、そしてそれは試しに手を動かしてみた。
細い指先が透明なケースに触れる。その瞬間、それは目を見張った。何かの流れがはっきりと見える。炎の揺らめきのように揺らぎながら青い光がゆっくりとケースに流れているのだ。
これは、一体なんだ? 心の中でそう呟いてそれは両手をケースにあてた。青い光がケースを通り抜けて自分の身体に吸い込まれる。
目を開く。火藍はゆらりと身体を動かして腕を引き戻した。右手を握ってこぶしを作る。次の瞬間、火藍の入っていたケースは粉々に砕け散った。満たされていた液体が音をたてて床に散る。火藍は破片を飛び越えて床に降り立った。
深く息を吸う。意識すると肺の中に留まっていた液体が一気に消滅した。そのことを確認してから火藍は歩き出した。だがすぐに立ち止まる。冷たい床の感触が気持ち悪い。火藍は無造作に宙に手を伸ばした。意識を集中して服をイメージする。
「つっ!」
激痛が身体を走る。火藍は舌打ちをして腕で身体を抱きしめた。どうやらまだ身体が力についてきていないらしい。
仕方なく火藍はその部屋の中を探った。着られるような服を探す。一着だけ見つけたそれは男物の制服だった。自分の身体と服を見比べ、火藍はしばし考え込んだ。よくは判らないが、どうもこの身体にこの服が似合わない気がする。だが他に着られそうなものはない。火藍は仕方なくその制服を身につけた。余った袖と裾を折り返すとどうにか格好がつく。
随分と可愛らしい依代に納まってしまったものだ。火藍は情けない気分でそう呟いた。試しに鏡に自分の姿を映してみる。勝気な面持ちをしてはいるが、火藍の姿はどこから見ても少女のそれだった。赤い小さな唇に触れ、火藍は深々とため息をついた。
自分が龍神だということは判る。そしてこの身体がかりそめの器だということも理解できる。だが、今まで自分がどこで何をしていたのかがどうしても思い出せない。火藍は考えながら無意味に部屋の中をうろついた。
目の端に青い光がひっかかる。火藍は顔をしかめて足を止めた。光の流れてくる方向を見る。どうやらそれは壁をすり抜けてこちらにたどり着いているらしい。火藍は息をついてその部屋から飛ぼうとした。が、まだ力に器がついてこない。仕方なく火藍はその部屋から歩いて出た。
まずは光の正体を探らなければ。火藍は心の中で呟いて廊下を進んだ。途中、何度か妙な声に足止めをされたが気にしなかった。エレベーターの手前で降りてきた金属製の檻を強引に殴って壊す。どうやら自分がいる場所があまり普通ではないことは理解できた。
エレベーターは開かない。火藍はため息をついてエレベーターの扉に直接手をかけた。息を吸って止める。一気に力をかけて火藍は無理やりに扉を開いた。壊れた扉の片方が千切れて廊下に落ちる。もう片方は開いた穴へと落下した。
薄暗い縦穴が空いている。火藍は黙々と縦穴に入った。緊急用のはしごを軽々と上る。少し行ったところで今度は分厚い金属の板にぶち当たる。どうやらこれがエレベーターの本体らしい。火藍は片手と片足ではしごにぶら下がり、右腕を大きく振った。一度の衝撃で金属が大きくへこむ。二、三度ほど殴りつけて火藍はエレベーターに穴を作った。ぎりぎりだが、一人くらいなら何とか通れそうだ。
穴にぶら下がってよじ登る。エレベーターの中は薄暗い。火藍は目を細めてエレベーターの扉に手をかけた。強引に扉を開く。すると一気に視界が明るくなった。
ふと、誰かと目が合う。火藍は反射的に床を蹴った。驚いた顔をする少女に一気に迫る。
そろそろ壊れますw
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近付いてくる気配
エロシーンはありません。
ぐったりとベッドに沈んだ水輝を見つめ、真也はため息をついた。既に立城の気配は吸い尽くしている。水輝も望むものを手に入れ、今は死んだように眠っている最中だ。
もう、おかえり。立城の声を思い出す。真也は深々と息をついてベッドから立ち上がった。帰れと言われるのは心外だ。それに言われたところでどこに帰ると言うのだ。真也は苛立ち任せに椅子を蹴倒した。派手な音を立てて椅子がテーブルとぶつかる。
力は身体の中で膨れ上がっている。真也は暗い部屋の中で目を細めた。意識を懲らすと地上にある立城の気配が読める。低く笑って真也は気配の方を向いた。立城はゆっくりと、だが確実に真也に近づいている。
ほら、やっぱりお前も会いたいんだろ? 真也はそう呟いて気配を意識で追った。自然と意識が糸のように伸び、立城の気配まで一直線に駆けて行く。たどり着いた意識は立城の気配に絡まり、直接に真也に感触を伝えてくる。真也はぞくりとする身体を自分の腕で抱きしめ、意識を懸命に辿った。
ゆらりと身体を起こして真也はその部屋から出た。廊下に出ると明るい光に包まれる。真也は無言で歩き出した。とにかく早く会いたい。直に目で立城を見たい。そして一刻も早く腕に抱きしめたい。真也は高鳴る胸を押さえて廊下を歩いた。時折、意識に捉えた立城がよろける。その度に真也は薄く笑って深く息を吸い込んだ。意識の糸を伝って気配が流れ込んでくる。
一気に引っ張っちまおうかな。そう思ってから真也は自分の考えを否定した。頭を振って浮かんだ考えを追い払う。立城が自分の足で来るからこそ意味があるのだ。そうでなければ互いに会いたいのだという思いは確認できない。真也はくすくすと笑ってゆっくりと廊下を歩いた。
帰れっつってたの、やっぱ嘘なんじゃん。糸を伝って流れてくる立城の思惟を読んで真也は嬉しそうに呟いた。心の底から真也を求めて立城はこちらに向かっている。そのことが手に取るように真也には判った。暗い道を一歩ずつ、確実に立城は進んでいる。
途中、ちなりとすれ違う。だが真也はそのことに気付かないほど、立城の気配を探ることに没頭していた。ちなりが驚いたように目を見張って真也の背中を見送る。その唇が羅木くんじゃない、と呟いていたことにすら真也は気付けずにいた。
他人のことなどどうでもいい。立城に会いたいという思いだけが今の真也を支えていた。地上に続くドアを開けて外に出る。真也は空にかかった月を見止めて足を止めた。
丸い月が天頂に近づいている。
そろそろたたみに入っているので色々速いです。
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血だらけでも頑張るもん! 1
エロシーンはありません。
震える手でドアノブを握る。もしかしたら後で怒られるかも知れない。いつも勝手に入ってはいけないと言われているのだ。でも、とちなりは口の中で呟いた。でも、さっきの羅木くん、羅木くんじゃなかったもん。心の中でそう言ってちなりは頷いた。
だからいいんだもん! ちなりは覚悟を決めてドアをそっと開けた。羅木の部屋はいつもながらシンプルだ。廊下の明かりを頼りにちなりは部屋の様子を伺った。シンプルなことには変わりない。だがいつもと様子が違う。テーブルや椅子が倒れ、色んなものが散乱している。ちなりは恐々と部屋の明かりを探った。
もしかしたらドロボーでも入ったのかなあ。不安に思いながらちなりは壁のスイッチを入れた。急に明るくなる。眩しさに反射的に目を閉じ、ちなりは少しずつ瞼を上げた。
白と黒の床に赤い何かが散乱している。ちなりは震えながら床に散ったカプセルを避けた。それが何を意味するのかさっぱり判らない。テーブルの上にあった筈のチェス盤は無残に割れている。乗っていた駒も方々に散っており、揃っているのかいないのかすら判らない。ちなりは半泣きになりながらゆっくりと歩を進めた。
羅木くんとゲームしてたのにぃ。恐怖とは別に不満がこみ上げてくる。テーブルに乗っていた筈のチェスは羅木とちなりの対戦中だったものだったのだ。一日に一度だけ駒を動かす。黒が羅木、白がちなり。今のところ羅木が優勢だったのだが、ちなりはそれをひっくり返す作戦を考えている最中だった。羅木が真剣に相手をしてくれていることがとても嬉しくて、だからこそゲームを誰かに駄目にされたことが悔しい。ちなりは唇を尖らせてしばらく散った駒と割れたチェス盤を見つめていた。
「ひどぉい……」
ちなりは目に浮かんだ涙を拭ってぽつりと呟いた。すると唐突に別の声がした。ちなりはびくん、と身体を竦めて恐る恐る声のした方を向いた。ひょっとしたらドロボーがまだいたのかな。そう思いながら目をむける。
ベッドの上に誰かがいる。ちなりはあのぅ、とそちらに声をかけた。どうやらさっきの声はベッドの誰かが呻いたらしい。だがちなりが呼びかけても誰かはすぐには反応しない。ちなりは困った顔で床を見つめ、手ごろなものを探した。柔らかなクッションを発見して慌てて拾い上げる。えい、という掛け声と共にちなりはそのクッションをベッドに軽く放った。横たわる誰かの背中に当たり、クッションが落ちる。
「酷いな。物、投げんなよ」
それまで黙っていた誰かが喋る。それを聞いてちなりはあっ、と口を押さえた。先日、羅木が連れていた水輝の声だ。ちなりは見知った相手と気付いてほっと胸をなで下ろした。が、すぐに思い直す。もしかしたら水輝がこの部屋を荒らした犯人かも知れない。警戒しつつ、ちなりは再び投げられるものを探した。今度は割れたチェス盤を手に取る。
水輝は殆ど全裸に近い格好をしていた。ごろん、と仰向けになって顔をしかめている。ちなりはチェス盤を片手にベッドを覗き込んだ。あっ、と息を飲む。ベッドは何故か血だらけになっていた。一体、どうしたんだろ。なんでかな。疑問に思ったちなりの手から力が抜け、チェス盤が落ちる。
「ここまで離れれば大丈夫だと思うが……それにしても、いってえな。無茶苦茶しやがって」
疲れた顔でため息をつきながら水輝が額を覆う。どうやら誰かに聞かせるつもりで喋った訳ではないらしい。だがその様子を見ていたちなりは水輝が部屋荒らしの犯人ではないと気付いた。水輝の身体にはたくさんの血がついている。きっとベッドの血も、水輝が流したのだろう。部屋を荒らしにきてわざわざ怪我をするとはどうしても思えない。
「あ、あのぅ。だいじょぶ?」
遠巻きにしながらちなりは水輝に声をかけた。それまで目を閉じていた水輝が片目だけ開ける。口許に浮かんだ力ない笑みを見てちなりはほっとした。どうやら見た目ほどに身体が傷んでいる訳ではないらしい。
「ちなりちゃん、だっけ? 悪いな。怖がらせて」
言いながら水輝がゆらりと身体を起こす。傷は深くないかも知れないが、体力そのものは減っているのかも知れない。一つ一つの動きがとても重そうだ。ちなりは恐々と水輝に近づき、そっと手を伸ばした。ぐらつく水輝の身体を横から支える。
そこでちなりはふと気付いた。前に水輝と会った時、羅木に言われたことを思い出す。水輝のカップにだけ例の試薬を入れてくれと頼まれたのだ。何のためか、その時の羅木は説明してくれなかった。が、思えばあの時から羅木の様子はおかしかったのではないか。考えるちなりの顔から次第に血の気が失せていく。
「ちなりちゃんの方が大丈夫じゃなさそうだな。んでも心配は要らないぜ。すぐに……ええと、羅木だっけ。あいつ、戻ってくるから」
水輝はそう言いながらちなりの頭を軽く撫ぜた。だがすぐにその手を引っ込める。どうやら血がついていたことに気付いたらしい。困った顔をしながら水輝はごめん、と詫びた。
それからちなりは言われるままにタオルとお湯を部屋に運んだ。水輝が犯人ではないとわかった以上、無意味に警戒しても仕方がない。それに水輝は怪我をしているのだ。怪我人に親切にしなければならないのは当り前だ。
「ありがと。ちょっと見苦しいかもだけど、身体とか拭いていいか?」
湯を張った洗面器とタオルを受け取りながら水輝が告げる。だがどう見ても手は震えているし、身体はまだ本調子ではないようだ。ちなりはしばし考えてから水輝の手から洗面器を取り上げた。驚いた顔をする水輝を余所に、床に洗面器を据える。タオルを浸して絞ってからちなりは顔を上げた。
「ちなりが拭いたげる。だって見てて危なっかしいんだもん」
頬を膨らませてちなりはそう主張した。困ったように水輝が頭をかく。
「い、いや、でも、おれ、後で殴られるのはちょっと……」
「いいから言うこときくの!」
訳のわからないことを言う水輝に言い返し、ちなりは猛然と胸を張った。やれやれ、とため息をついて水輝が軽く手を上げる。降参の印らしい。ちなりは力強く頷いてさっさと水輝の足に手を伸ばした。腰にかけてあって毛布を引っぺがす。
そこでちなりは目を丸くした。水輝の股間が血だらけになっているのだ。
「だーかーらー、ほら、そこで引くくらいなら貸せってば」
呆れたように言いながら水輝が手を伸ばす。だがちなりは膨れ面をして水輝の手を避けた。こら、と水輝が声を上げる。ちなりは舌を出してそっぽを向いた。
「ちなり、平気だもん! 子供じゃないもん!」
そう言い張ってちなりは改めて水輝に向き直った。疲れたようなため息をついて水輝が手を引っ込める。勝手にしろ、とぼやいている。ちなりはささやかな勝利を噛みしめながら水輝の身体を拭き始めた。
触れると思った以上に身体が細いことが判る。首から肩にかけてを丁寧に拭きながらちなりは感心して頷いた。
「何だよ」
不思議そうに水輝が訊ねる。ちなりはえへへ、と笑って首を振った。
「なんでもない」
変なやつ、と水輝が呟く。だがそれ以上は何も訊いてこない。ちなりは出来るだけ血に塗れた股間を見ないようにして水輝の上半身を拭き終えた。こびりついていた血は綺麗に落ちている。
頑張ってるのはちなりですw
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血だらけでも頑張るもん! 2
エロシーンはありません。
ちょっとお湯、変えてくる。そう言い残してちなりは部屋を出た。手早く洗面器のお湯を張り替えてタオルをすすぐ。慣れていないせいもあり、ちなりの作業は実に遅かった。ちなりもそのことをしっかりと自覚していた。だが水輝は一言も文句を言わなかった。されるがままになっていただけだ。
変なの。ちなりはそう呟いて洗面器を抱えた。感じていた不安は綺麗に拭い去られている。そのことにすら気付かず、ちなりは足取りも軽く部屋に戻った。
水輝はシャツだけを羽織った格好でベッドに腰掛けている。幾分かは気分も良くなったのだろうか。先ほどまでのように身体を重たそうにはしていない。ちなりは水輝を少し見つめ、よし、と気合を入れた。次は血だらけの部分を拭わなくてはならない。一体、どんなことをしたらこんなになるのか判らないが、とにかく拭くのだ。ちなりは何度か自分に気合を入れてから水輝に向かった。
「……気合、入れすぎて握り潰してくれるなよな」
「そっ、そんなことしないもん!」
笑いながらの水輝の言葉にちなりは即答した。やっぱり変な人。どうしてちなりのこと、子供みたいに扱うのかなあ。ちなりは不服に思いながらも片手に持ったタオルを水輝の股間にそっとあてがった。
数分後、ちなりは何とか水輝の股間を大まかには拭き終えることが出来た。どうやら傷は残っていなかったらしい。だが逆にどうして残っていないのかが気にかかる。これだけの出血をしたのだ。そんなに傷は浅くはなかったのではないか。ちなりは何度か水輝にそう問い掛けた。が、水輝は曖昧に言葉を濁すだけで答えてくれない。
「それに、何でたたないの?」
ちなりは不服をこめて告げながら水輝のペニスを軽く握った。確かにタオルで拭くだけしかしてはいない。そのつもりだ。が、ちなりの機体は元々、相手の男を欲情させやすく設定されている。直接、男の股間に触れれば当然のように機体はペニスを刺激する。ちなりは半ば拗ねた顔で水輝のペニスを指で撫ぜた。
「なんだ。欲情して欲しかったのか?」
くすくすと笑いながら水輝が告げる。ちなりは膨れ面を上げて首を振った。
「羅木くんに怒られるもん」
「じゃ、いいじゃないか」
「でも、なんだかちなりに魅力がないって言われてるみたいっ」
さらに頬を膨らませてちなりは低い声で答えた。特に水輝を意識した訳ではない。単純にプライドが傷ついただけだ。悔しいなあ、と呟くちなりに水輝が苦笑を向ける。そうやって笑うと水輝は何故か羅木に似て見える。顔は全然似てないのに。ちなりは目をしばたたいて水輝を見つめた。
「ふうん。ちなりちゃんの魅力って誰にでも振りまいていいもんなんだ?」
言われて気付く。ちなりは目を見張って首を横に振った。そうだ。羅木はちなりのことを自分のものだと言った。それはきっと別の男に媚びを売るのは止めろ、という意味なのではないか。それを考えると水輝が欲情しないのはごく自然なことなのかも知れない。ちなりは自分なりにそう答えを出した。
「うん、わかった。がっかりしないことにする」
嬉しそうに笑ってちなりはタオルを洗面器に浸した。血に塗れたタオルが湯の色を染め替えてしまう。あー、と力ない声を上げてちなりは洗面器を抱えた。
「ちょっと待ってて。すぐに替えてくるから」
洗面所と部屋とを四度ほど往復した頃には水輝の身体はすっかり綺麗になっていた。一番、手がかかったのはやはり血に塗れていた股間だった。が、水輝に言わせれば傷は残っていないらしい。ちなりが部屋に戻った時にはもう、水輝は服を整えていた。それを見たちなりはあっ、と息を飲んだ。水輝は見慣れた清陵高校の制服に身を包んでいたのだ。
「っと、格好も何とかついたし。ありがとな」
水輝はいつの間にかベッドから降りている。部屋に入ってきたちなりに近づいて頭を撫でる。ちなりはうん、と笑ってみせた。
「そうだ。ちょっと伝言を頼まれてくれないか?」
「えっと? 羅木くんに?」
だが今、羅木はいない。姿が同じ者は見かけたが、あれは恐らく羅木とは違う。ちなりは急に不安になり顔を曇らせた。
「でも、羅木くん、いまちょっと……」
「だから戻ってくるって言ったじゃん。心配は要らないって」
ちなりの不安を拭うように水輝が笑う。ちなりは眉間に皺を寄せてでも、と俯いた。確かに水輝の言う通り、羅木が戻ってくるなら嬉しいと思う。だがそう言われても簡単には信じられない。
何しろ、廊下ですれ違ったあの時の羅木の目は完全に死んでいたのだから。
「あ、いけねっ。のんびりしすぎちまった。おれ、急ぐから行くよ」
慌てた声を上げて水輝が部屋から出ようとする。ちなりは我に返って傍を行き過ぎようとした水輝の腕をつかんだ。唐突につかまれた水輝がつんのめったように足を止める。
「伝言。ちなり、羅木くんになにいえばいいの?」
水輝が振り返る。そして素早く水輝は指を伸ばした。微かに額に触れられる。ちなりは瞬く間の出来事に目を丸くした。水輝はもう手を引っ込めている。
「え? え?」
「あと、これ。渡してくれれば判るから」
そう言いながら水輝は制服のポケットから何かを取り出した。手の上に乗ったそれは透明な珠だった。まるで水晶のようなそれをちなりは不思議な気持ちで見つめた。どおしてこの人、こんな宝石とか持ってるのかなあ。心の中で呑気に呟く。水輝はそんなちなりの手を強引に取り、珠をその手に押し付けた。両手でやっと包めるほどの大きさのそれをちなりはじっと見下ろした。
そういえばこのヒト、制服なんてどこから出したのかな。ちなりははっと目を上げてドアをくぐった。だが廊下には既に水輝の姿はない。足、速いんだあ。ちなりは力なく呟いて羅木の部屋に戻ろうとした。
振り返って顔を上げる。ちなりは部屋を見て絶句した。先ほどまで荒れていた部屋の様子が元の通りに戻っている。壊れたテーブルと椅子、それにチェス盤まで元通りだ。ちなりは驚きの声を上げながら部屋に駆け込んだ。途中になっていたチェスのゲームまで再現されている。
「う、そお……」
何がどうなっているのか判らない。ちなりはその場にへたり込んでチェス盤を見つめた。そしてちなりの顔は本人が気付かないうちにほころんでいた。
最後が水輝らしい……w
女たらしめ。
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破壊と本能 1
メカ破壊シーンが入ってきます。
あ、このエピにはありません。
若干エロシーンがあります。
まだ熱っぽい身体を腕で抱きしめて保美はそっと目を閉じた。服を着ているというのに、身体はまだ剥き出しになっている気がする。保美は小さく笑って唇を舐めた。唇の端に僅かに残っていたカレンの合成精液の味を舌先で確かめるようになぞる。
実験台にぐったりと横たわっているのは要だ。二人に同時に攻められた要は激しく悶えていた。少し時間が経っているというのに、まるで今現在そうであるかのように要の様子が思い出せる。最初は高慢に二人に命令を下していた要も、行為が深まるにつれてそれが出来なくなっていった。最終的には二人に嬲られていたというのが正しいかも知れない。くすり、と笑いを漏らして保美は実験台に近づいた。
「いかがでしたか? 要様」
そっと囁くように訊ねて保美は優雅に身を折ってみせた。要が疲れきった顔に微かな笑みを浮かべる。
「なかなかの……お手並みでしたわ」
答えながら要が僅かに眉を寄せる。汚れた女性器をカレンが静かに洗い流しているのだ。恐らくその手がどこかに触れたのだろう。要は眉を寄せたまま、声を殺している。保美は再び腰を折って頭を垂れた。
温められた純水でカレンは丁寧に洗浄を続けている。カレンも行為に熱中していたようだ。要を犯していたカレンの眼差しを思い出し、保美はほうっ、と息をついた。機械仕掛けのペニスによる射精は三度までが限界だ。それ以上は部品の交換が必要になる。だがカレンはその部品交換を行為中に三度も行った。それほどまでにカレンが熱中するのはごく稀なことだ。
「すごいねぇ。まだウチのが出てくるよ。随分と奥まで入っちまったんだねえ」
感心したように呟きながらカレンが口許に笑みを浮かべる。足を開いて横たわる要が頬を染めて目を閉じる。保美は傍に寄ってカレンの手元をしみじみと覗き込んだ。カレンは指先を器用に使って膣内を流している。
鼻歌を歌いながら要の恥部を流すカレンに目で合図を送り、保美は静かにその部屋を出た。廊下に出ると急に疲れが押し寄せてくる。燃料補給はされている筈だし、性行為そのものは食事のようなものだから疲れる筈が無い。なのに気だるい感覚が機体内にこもっている。保美はしばしドアにもたれて目を閉じた。
たぶん、少し不満なのね。保美は倦怠感を覚えている理由をそう結論付けた。生身の人間であるからこそ、要にはある程度以上の無茶は出来ない。本当は壊してみたかったのに。保美は不満をこめてそう呟いた。出来るだけよがらせて、女性器が擦り切れるまで擦って、あられもなく悶える要が見たかったのに。そんなことを考えてみる。
でももう少しでその願いは叶うかも知れない。要がロボット研究会の研究室にいるということは、先々で要も自分たちのように機械の身体を持つ可能性があることを示している。そうでなければ優一郎がわざわざ地下に要を招く筈がない。関係のない者を地下に入れれば無駄に騒がれるだけだからだ。
保美は静かにドアから身を引き剥がして廊下を進んだ。広い地下には幾つもの部屋がある。シャワールームやキッチンも完備されており、その気になれば地下で生活も出来るほどだ。が、保美たちヒューマノイドは一応、帰る家を持っている。地下にこもっているだけでは外の世界から次第に孤立してしまう。ここにいれば便利なことは確かだが、外のことも見聞きしなければならない。それ故に戻れる時は家に戻るように、というのが優一郎が彼女たちヒューマノイドに下した命令だ。
もっとも、外の世界に出すぎて戻らなくなってしまったヒューマノイドもいる。悠波ちなり。保美はふとちなりのことを思い出して足を止めた。ちなりはあれからどうしただろう。最後に保美がメンテナンスをしたのはもう随分と前だ。
ちなりは恐らく優一郎を慕う余りに地下にいられなくなってしまったのだ。そのことだけは保美にも理解できた。気丈に笑ってはいたが、ちなりの機体は最後のメンテナンスの時点で既に壊れかけていた。幾度か優一郎にオーバーホールしてもらいなさいと告げたが、ちなりはそんな保美の言葉には従わなかった。
あの子、組み伏せたら楽しそうだったのに。保美は心の中でそう呟いてまた歩き出した。
この地下にはだが例外的に外には出ない者がいる。優一郎が外出を禁じている訳ではない。優一郎はあくまでも干渉なしという立場をとっている。それが保美の妹である果穂だ。
保美と果穂は木村の研究室で生まれた。二人とも失敗作だったことが両親を必要以上に落胆させた。保美はヒューマノイドの身体を得るまでずっと病院通いの日々を送った。そして果穂は肉体的には健康ではあったが、ある程度以上は身体のサイズが成長しなかった。
二人の両親は怒りを直接に果穂にぶつけた。幸いと言っていいのか、保美が両親と顔を合わせる機会はとても稀だったのだ。果穂は面と向かって何度も詰られたという。失敗作。どうしようもない子供。あの大人たちは事あるごとに果穂にそんな言葉をぶつけた。その度に果穂が傷ついていることなど、彼らには関係なかったのだろう。
やがて果穂の顔から表情が失せた。保美の許を訪ねて来る時だけ、僅かに表情が戻る。だがそれも次第に薄れていった。
結局、保美は清陵高校に進学し、果穂は別の高校に進学した。果穂の場合は身体が成長しなかったため、どうしても通常の学校には通うことが出来なかったのだ。木村財閥が直接的に管理している女子高校に入学した。
本来なら二度と会うことはなかったのだろう。だがとある事がきっかけとなり、果穂は優一郎に保護された。そして今に至っている。
小さく笑って保美は軽く首を傾げた。きっと今に果穂も機械の身体を望むようになる。機械の身体を手に入れる……つまり、ヒューマノイドになるということは、永遠にも近い命を手に入れるということだ。それは果穂の計画上、恐らく絶対の条件だ。限られた短い命の間に果穂の計画が実行できるほど、木村は生易しくはない。それは誰よりも果穂が判っているだろう。
脳裏にそうなった時のことを思い描きながら保美はくすくすと笑った。きっと果穂も激しく悶えながら壊れるのだ。その時のことを思うだけで欲情してしまう。保美はうっとりと目を潤ませて息をついた。
廊下を曲がる。その瞬間、保美の耳に奇妙な音が飛び込んできた。何かが破れるようなけたたましい音がする。その直後、廊下の奥で高い悲鳴が上がった。
「果穂!?」
保美は声のした方に向かって走った。何かがあったに違いない。
廊下の奥には地下二階に続いているエレベーターがある。そこは通常、優一郎しか立ち入ることが出来ない場所になっている。保美はその場に駆けつけてあっと息を飲んだ。果穂の小さな身体がぐったりと壁に寄りかかっている。そしてその傍には見慣れない少女が立っていた。年頃は丁度、保美やカレンと同じくらいに見える。
メカエロシーンが未熟で恥ずかしいです……。
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破壊と本能 2
エロシーンはありません。
壊れます!
注意!!
一部、グロと思われるかも知れないシーンがあります。
あなたは誰。保美はそう訊ねようとした。が、少女と目が合った次の瞬間、保美の身体は宙を舞った。廊下の天井に激しく機体がぶつかり、その後に床に叩き付けられる。
「あなた……は……だれ」
音声に雑音が混ざっている。保美はのろのろと身体を起こして少女を見た。少女は静かな眼差しで保美を見下ろしている。
「わたしの名は火藍だ」
そう言うなり、火藍は床を蹴った。保美に一気に迫る。保美は機体を襲った衝撃に声を上げようとした。が、それより早く火藍のこぶしが機体の中心を貫く。機体内にエラー音がこだまする。それを聞きながら保美はうっとりと目を閉じた。
手足が千切れていくのが判る。保美は火藍に腕と足を引き千切られた。機体にかかる負荷が一気にストレス値に変換される。壊されている痛みが快感になり、それが余計に保美の機体を欲情させた。断続的な声を上げながら保美は無意識に腰をひくつかせた。
「情報を貰うぞ」
そう告げたかと思うと、火藍は保美の頭を片手でつかんだ。反対の手が保美の胸を貫く。保美は唇から涎を垂らして声を上げた。ここまで壊されたのは生まれて始めてだ。しかもこんなに壊れているのに自分はまだ感じることが出来る。与えられた快楽と痛みが保美を一気に絶頂へと導いた。
ふと、痛みが消える。保美は壊れたまま、床に投げ出された。視界がぐらりと揺れて自分が倒れたことが理解できる。保美は絶頂の余韻に浸りながら、保美は自由になる視線を動かした。
火藍は静かな眼差しを廊下に向けている。保美は火藍の視線を追ってようやくその存在に気付いた。廊下の向こうにカレンが立っている。
「てめえ! 仁科に何しやがる!」
そう叫んでカレンは床を蹴った。一直線に火藍に迫っていく。その背後で動いたのは要だ。もみ合う二人を警戒しながら要が保美に寄ってくる。
「仁科さんっ! 気を確かに!」
必死な面持ちで要が声をかける。だが保美はうっとりと目を潤ませていた。要が慌てたように千切れた手足を集めようとする。保美はそっと制止の声をかけた。
「にげて……くだ、さい。ここ、は、きけ、ん……です」
要は生身だ。自分たちのように壊れたら修理すればいい訳ではない。要が幾ら格闘戦に自信があると言っても、火藍と名乗るあの少女と戦えばきっと無事ではいられないだろう。
頭だけを残して死ぬのならいいが、火藍のあの容赦のないやり方では頭すら潰されるかも知れない。そうなれば要をヒューマノイド化するのは無理だ。
「わたくしに逃げろと!?」
憤ったように告げつつも要はカレンたちを怯えた目で見ている。カレンがこぶしを繰り出す。が、火藍があっさりそれを避けて逆に裏拳を放つ。顔面を強打されたカレンが壁に激突する。そんな戦い方を見ていた要の顔からは血の気が引いていた。
「ぶ……ちょう、に……れ、んらく……を」
雑音が入りすぎて保美の言葉は殆ど判別できない。が、要はその中から何とか音声を拾ったのだろう。困惑した面持ちで保美を見つめる。部長と保美が言った相手が優一郎のことかと確認される。保美は力なく笑って頷いた。
「わかったわ。わたくしが居ても、足手まといになるだけでしょうし」
心底悔しそうな顔をしつつ要はそう吐き捨てた。だが理性では納得しているのだろう。嫌がる素振りはない。お願いします、という意味を込めて保美はもう一度だけ頷いた。少し動かすたびに機体は激しい悲鳴を上げている。
「大丈夫よね? 直せるわよね?」
不安そうに訊ねる要に保美は出来るだけの笑みを向けた。それが答えだと理解したのだろう。要が立ち上がる。戦う二人を横目に見つめ、要は廊下を駆け出した。火藍が要に腕を伸ばしかける。だがその手はカレンの足刀に阻まれた。カレンも要を逃がさなければならないことに気付いているのだ。
「カレンさん! 後は頼みましたわ!!」
そう叫んで要が脱兎のごとく駆けて行く。だがカレンは返事をする暇がなかった。次々に繰り出される火藍の攻撃を止めるのが精一杯というところだ。
きっとカレンもかなわないでしょうね。保美は冷静にそう判断した。カレンは今のところは攻撃を何とか止めてはいる。だが火藍がまるで試すように一撃一撃を放っているのが判る。何故なら攻撃のスピードが少しずつ上がっているからだ。
止めそこなった膝がカレンの背中を強打する。カレンは声もなく吹き飛ばされた。衝撃に壁に亀裂が走る。
「な、めやがって……。てめえは絶対に許さない!」
よろけながらカレンが立ち上がる。保美は微かに目を細めた。次いでしっかりと瞼を閉じる。音だけでカレンが何をしているのか、保美には理解できた。カレンは乱暴に服を引き裂き、腹を露にする。機体内に格納された銃火器を取り出し、素早く火藍に向ける。そこまでにかかる時間はほんの一瞬だ。プログラムされた動きに迷いはないし、何よりカレンの反射速度はヒューマノイドの中でも群を抜いている。
音を頼りに保美は頭の中でカレンの動きをシミュレートした。次いで瞼の向こうが一気に明るくなる。目くらましの照明弾が炸裂したのだ。
激しい音が立て続けに響く。保美の頭の中で出来上がったカレンの動きは悉く火藍に阻まれている。ぶつかり合う音の源はカレンが攻撃を止められた際に生じた衝撃音だ。そうしている間にゆっくりと光量が落ちていく。保美はどうにか目を開けられる頃になってから瞼を静かに上げた。
機械は壊れても……ですので、容赦ありません。
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破壊と本能 3
エロシーン……はあるのですが、機械なので……。
壊れます!
注意!!
一部、グロと思われるかも知れないシーンがあります。
飛び離れたのだろう。カレンは少し遠くに立っている。右腕が力なく垂れ下がっている。保美は僅かに目を細めた。どうやらカレンの右腕は完全に折れているようだ。肩に繋がっているのは、辛うじて皮膚が折れた腕を吊るしているからだ。保美は素早くカレンの状態を見取ってから視線を移した。
火藍は冷ややかな目をしてカレンを見つめている。その目に感情らしいものはない。あくまでも標的としてカレンを見ているに過ぎないのだろう。それを知った保美はぞくりとするような快感を覚えた。子供が易々と小さな虫を千切って殺してしまうように、火藍は容赦なくカレンを壊すだろう。その様を想像するだけで保美の胸は躍った。実際、今までカレンは腕を折られるようなことは誰にもされたことがないだろう。現に保美もこれまで見たことがない程、カレンの顔は痛みに歪んでいる。
あのカレンをここまで痛めつけられるなんて。保美は内心でそう呟いた。直接的には何の刺激もされていないのに、保美の陰部から新たな愛液が零れて落ちる。自慰すら出来ないもどかしさも保美の快感を増していた。
無意識のうちに保美は潤んだ目をして二人を見つめていた。ぎこちなく保美の胴が動く。廊下に横たわったまま、保美は快感に震えていた。がくん、と音を立てて何度も腰が前後する。
カレンが舌打ちをして左手に銃を持ち替える。開いた腹に銃のグリップを突っ込み、弾を装填する。恐らく次は照明弾などではなく、実弾を使用するのだろう。それを見つめながら保美は小さく声を上げた。
空気が揺れる。カレンが銃を向けるまでに要した時間は僅かだった。その間に火藍が動く。発砲と火藍の姿が消えるのはほぼ同時だった。
「遅い」
低い声と破壊音は同時だった。火藍は唐突にカレンの背後に出現していた。廊下の天井に被弾する。そしてそれに続いてカレンが絶叫した。火藍のこぶしがカレンの胸を貫いたのだ。
カレンを串刺しにしたまま、火藍は次にカレンの腕をつかんだ。銃が廊下に転がり落ちる。嫌な音が響いてカレンの腕が肩から千切れてしまう。保美は興奮に満ちた目でその様子を見つめていた。
次第に呼吸が速くなる。カレンはまだ痛みに悲鳴を上げている。だが火藍は容赦しない。折れてぶら下がっていた腕を千切り、カレンの胴に腕を回す。保美は自分でも気付かない内に喘ぎ始めていた。強い性的興奮に自然と口許が緩む。
火藍は無言だった。火藍が腕に力をこめた瞬間、カレンが悲鳴を上げて仰け反る。カレンの胴体は紙でも千切るかのように真っ二つにされた。
「あっ、あっ……あはぁ」
声を漏らしながら保美は腰を揺すった。膣に実際にペニスを突き入れられるより、もっと激しい快楽が襲ってくる。保美は緩んだ唇から涎を垂らしながらカレンを見つめていた。
二つにされたカレンの胴体が力なく床に転がる。悲鳴を上げた時の形相のまま、カレンの機体は機能停止していた。システムの中枢と脳との接続が断絶されたのだ。一度、システムを離れてしまった脳の部分は強制的に保護されることになっている。そのために機体の活動は停止してしまうのだ。そうでなければ酸素不足で脳そのものが死んでしまう。
火藍はカレンを見下ろして小さく息をついた。カレンをここまで壊したのに息すら乱していない。だがこの時、既に保美は火藍を見てはいなかった。床に転がったカレンの残骸を見ながらひたすらに腰を揺する。胴と共に残った肘と腿を使い、保美は廊下を這い始めていた。がくがくと腰が揺れ、床に当たるたびに酷い音が鳴る。動くたびに機体の破損状態が一層激しくなる。だが自分が壊れる音すら保美にとっては快感だった。
無言で火藍が保美を見つめる。だがその目はもう標的を捉えるそれではない。火藍は静かに保美に背を向け、その場を去った。保美はだが火藍の去る足音にすら注意を払うことが出来なくなっていた。一心不乱に壊れたカレンの元に寄る。
どのくらいの時間が過ぎただろう。保美は半壊した機体を引きずるようにしてカレンの元にたどり着いた。断末魔の悲鳴を上げたまま停止してしまったカレンの目には光はない。
切断された機体の胴の中には機械が詰まっている。断たれたコードの切れ端や無残に千切れた金属などが覗いている。保美は甘い声を上げながらカレンの残骸を間近に見つめた。じりじりと這いずって、カレンの下半身に擦り寄る。
保美は歯でカレンの服を引っ張った。機体と共に千切れた服は易々と剥がれていく。現れた下着を噛み、少しずつ引き下ろす。恥丘部分が露出したところで保美は貪るように翳りに顔を埋めた。通常、カレンのペニスは機体内部に格納されている。保美は舌先でカレンの恥丘を探った。ほどなく細かなひだに覆われた部分を見つける。
甘い声で鳴きながら保美はカレンの恥丘部分を刺激した。口内に滲んできた唾液をひだの中心部に注ぐ。カレンのペニスは保美の膣内に挿入することにより、燃料を補給するシステムになっている。何らかの問題が発生した時のためにカレンのペニスは外部から起動させることが出来るようになっているのだ。
カレンの腿の間に胴を納め、保美はひたすらに愛撫を続けた。機体保持システムは既に立ち上がっている。それと同時に保美の唾液にはナノマシンが混入されている。保美は肘まで残った腕を強引に床につけ、無理やりに自分の胴体を持ち上げた。真上から唾液をひだに注ぐ。
しばらく後、カレンの下半身が低いモーター音を立て始めた。じわじわと恥丘にペニスがせり上がって来る。保美は夢中でカレンにしゃぶりついた。根元まで咥え込んで軽く歯を当てる。カレンの恥丘部に完全に姿を表したペニスはそそり立っていた。
動くたびに崩壊していく機体を引きずり、保美は何とか自分の向きを変えた。自分の壊れていく音を聞きながら、保美は壊れたカレンのペニスを膣内に強引に挿入した。腰を振るたびにカレンのペニスが膣壁を破って機体内部に食い込んでいく。それでも保美は狂ったようにカレンと交わっていた。
バトルとエロは基本ですよね。
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役立たずの烙印
エロシーンはありません。
夢中で駆けていた要は校門をくぐったところでようやく我に返った。慌てて振り返る。だがそこにカレンや保美の姿がある筈もない。要は苦しい息をつきながら何とか平静の状態に戻ろうとした。が、あそこで見た光景がどうしても脳裏に焼き付いて離れない。
保美の四肢は無残にばらされていた。胴体にも穴が空いていた。なのに保美は喋っていた。きっとヒューマノイドだからだろう。人なら重傷どころか死に至っている筈だ。その異質な光景を思い出して要は軽く身震いした。気持ち悪いとは思わない。だが保美の姿はとても痛々しかった。
なのに自分が逃げなければならなかったことが悔しい。たとえあの場に残ったとしても足手まといになっていたことははっきりしている。それでも要はあの二人を置き去りにしてしまったことを激しく悔いていた。保美はあれではきっと反撃など出来ない。それどころか下手をすればあれ以上に壊される。
でも、と要は目を上げた。きっとカレンなら大丈夫だろう。何しろカレンは易々と要の攻撃を避けてみせた。しかもあの機体の硬さは半端ではない。幾らあの乱暴な侵入者でもきっとカレンを倒すことは出来ない。要はそう考えを巡らせて頷いた。そう自分を納得させなければ先に進めない。きっと大丈夫ですわ、と要は小さく呟いて顔を上げた。
とにかく電話をしなければ。要は制服を探って携帯電話を取り出した。無事に勝ったとしても、保美には修理が必要だ。そしてそれを出来るのは優一郎だけだ。要はメモリーに入っている優一郎の番号を慌ただしく表示させた。通話ボタンを押して電話を耳にあてがう。そうしながら要はゆっくりと歩き出した。
コール音が耳の中に響く。五回ほど鳴らしたところで相手が出る。要は咳き込むようにして優一郎の名を呼んだ。
が、相手のはずの優一郎は無言のままだ。苛々しながら要は声を張った。
「ちょっと、吉良君!? 聞こえていますの!?」
要は無意味に胸を張りつつそう喚いた。するとやっと気付いたかのように、電話の向こうでああ、と声がする。どこで油を売っているのかは知らないが、こちらは非常事態なのだ。要は苛立ちも含めて怒りの声を優一郎に叩きつけた。
微かに優一郎が笑ったような気がする。事態の説明をしていた要は中途で口をつぐんだ。保美に頼まれたからこそ説明をしていたのだ。なのに笑うなんてどういう了見だ。要は大きく息を吸って電話を耳から離した。口許に送信口を寄せる。
「いいから、とっとと戻りなさい! 緊急事態ですわ!!」
要は怒りに任せてそう叫んだ。それからおもむろに耳に電話機をあてがう。電話の向こうで優一郎が微かに呻いているのを聞き取り、少しは要の気も晴れた。
『わかりました。そちらに向かいます』
穏やかな声で優一郎が告げる。要はふん、と鼻を鳴らして当然ですわ、と告げた。だが優一郎は要の声に特には反応しない。先ほどと同じ口調で要に家に帰れと言う。それを聞いた要は目を吊り上げた。
「それは、わたくしに対する侮辱ですの!?」
確かに先ほどの戦闘では戦力にならなかっただろう。だが、壊れた保美の修理の手伝いくらいなら出来る。それに最終的に事態がどう落ち着くのか見たいというのが要の本音だった。何も知らないままでいたのなら問題ない。が、現に壊れたのは一度は関わってしまった保美なのだ。ここで知らん顔をするのはプライドが許さない。
だが憤慨する要の文句をひとしきり聞いても優一郎は意見を翻さなかった。とにかく帰れの一点張りだ。
「わたくしが役立たずだとでも!?」
『正直に言いましょう。足手まといです。あなたを保護する余裕が無くなる可能性があります』
すかさず優一郎が切り返す。要は唖然として言葉を失った。優一郎は決して激している訳ではない。あくまでも穏やかに喋っている。が、その内容がいつもより厳しく思えるのはどうしてだろう。そう考えて要は唐突に気付いた。厳しく思えるのは言われていることが真実だからだ。要は自然と俯いて唇を噛んだ。悪い予想はもしかしたら当たっているのかも知れない。そんな考えまで浮かんでくる。
もし、カレンまでもが壊れていたとしたら。そうしたら確かに自分は足手まといにしかならない。カレンが戦って勝てるという保証は今現在のところはない。かといって要にはその勝敗の行方を確認する術もないのだ。
「了解、したわ。ただし、後で、事の顛末をきっちり説明していただくわよ?」
悔しさを堪えて要はそう吐き出した。ついでに通話を切断する。何か言いかけていた優一郎の声が中途で消える。
要は唇を噛んで俯きかけていた顔を上げた。暗い路上を点々と灯る街灯が照らしている。明るい時は生徒の姿で賑わっている小道も今はしんと静まり返っている。車道を避け、要はその小道に入った。所々にある椅子を横目に坂道を下りる。
ふと、要は足を止めた。小道を上がってくる人影がある。要は注意深く目を凝らした。淡い緑色のスーツに身を包んだ青年がぼんやりとした面持ちで歩いている。立ち止まっている要に気付く様子もない。今時分、こんなところで何をしているのだろう。気にはなったが何故か声をかける気にならない。要は怪訝に思いながら何気なく青年の横を過ぎた。
急に冷たい風が吹き付けてくる。要は思わず目を閉じて息を殺した。乱れた髪を押さえて風に背を向ける。
吹いて来た時と同様に風は急に止んだ。何だったの、いったい。そう呟きながら要は乱れた髪を指ですいた。とにかく言われた通りに家に帰ろう。待っていればきっと優一郎は連絡をしてくるだろう。事の次第を聞くのはそれからだ。
何気なく振り返る。だが小道にはもう誰の姿もない。要は静かにため息をついて家路を急いだ。
要は強い方なのですが、相手が悪いですね(泣)
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断罪の主の復活 1
エロシーンはありません。
背筋が冷たくなるほどの悦びがこみ上げる。順は薄い嗤いを浮かべて暗い丘の上を見上げた。緋色の光が学校の敷地全体を包んでいる。その光は目的のものが目覚めた証だ。しばし立城を追うことも忘れ、順は光に見入っていた。
以前のようなためらいはその光にはない。真っ直ぐに標的を射抜く力が見て取れる。目覚めた最初に見つけるものを、火藍は容赦なく断罪するだろう。幸運にも獲物は近くにいる。順は声を殺して笑いながら再び歩き出した。
立城の足取りはかなり遅い。しかも坂道だからなのか、人ごみの中を歩いていた時よりも随分と進み方がゆっくりになっている。順はのんびりと煙草をくゆらせながら立城を追った。だが幾ら通常の状態ではないとは言え、相手は立城だ。用心するに越したことはない。順は辛うじて立城の姿が見える程度に離れて歩いていた。
断罪の主が目覚めたなら、いずれ天空の煌きが覚醒する。そうなった時、天と地が対していれば言うことはない。いや、元より天と地は離れているが故に近いのだと言っていた。順は思いを巡らせてひっそりと笑った。
天と地の混ざるところ。翠がかつて順に告げた言葉だ。闇に紛れたその時に天と地は果てで混ざる。その言葉の意味を順はずっと考え続けていた。翠はあの時、ハンデは少ない方がいいだろう、とも告げた。つまり、翠の言葉は順がハンディキャップを負うような事態が発生するということを示していると考えられる。
要するにオレはどれだけ逃げても戦いに巻き込まれるって訳ね。順は改めてそう呟いた。天と地が混ざる。その言葉が示す意味も本当は一つきりしかない。龍神の多くが望み、だがそれは決してあり得ないと信じていることだ。
紫翠の再来。順はそう呟いて息をついた。世界に分かたれた力が再び一つになる時、間違いなくその力の所有者は紫翠と名乗る。紫翠という名は単に個体を示すものではない。名前そのものが力なのだ。
そうなるのだとしたら、世界は間違いなく鳴動する。龍神たちもただでは済まないだろうが、それはハンターである順にも同じ事が言える。しかも翠はわざわざそのことを順に報せに降りてきたのだ。他の龍神ならいざ知らず、あの翠が無駄にそんな真似をするとはどうしても思えない。
阻止して欲しいのか、それとも事態を面白がっているのか。多分、後者だな。そう呟いて順は苦笑した。たった一人のハンターに情報を与えたところで事態が到底解決できる筈はない。順は自分の使える力について冷静にそう判断を下していた。
だが周囲を巻き込めば面白くは出来る。その役を翠が望むのなら引き受けるのも悪くない。順は小さく笑いながら天を見上げた。
「都子を戻してくれた恩もあるしねぇ」
かつて人形と化した都子の精神は人の夢の狭間に飲み込まれてしまった。だが、だからこそ都子の器はあれだけの力を発揮できたのだ。結局、都子を失ってしまったが、そのことを順は後悔したことはない。耐えがたい喪失感を埋めるために器を狂ったように抱いたが、そのことも悔いてはいない。人としての性質を失っていなかった二人の間に子供が出来たとしても、だ。
歪んだ情事の果てに生まれた子供には不思議なことに風の力が宿っていた。元々、順と都子は風龍神の肉体から生み出されたコピーだ。それ故に龍神の血を色濃く引く都子が子供を為すことがあるなど、順は考えたことはなかったのだ。
器のみとなってしまった都子に子供を育てることは出来ない。いや、それ以前に都子は子供を産み落とすことすら出来なくなっていた。だが異質感だけはあったのだろう。命が胎に宿ってからというもの、都子の器は何度も自分の腹を殴りつけた。それで順も初めて都子の異変に気付いたのだ。
都子の胎から宿ったばかりの子供は順の部下の手で取り出された。その後、研究所に預けられた子供を順はたびたび見にいった。が、順にはどうしてもそれが自分の分身だとは思えなかった。何故なら子供は人の形を為してはいなかったのだ。
異形の子供は少しずつ成長していく。ケースの中に閉じ込められているのに、その子供は周辺の人々の生気を次々に吸っていった。部下たちが倒れていくのを間近に見た時、初めて順は気付いたのだ。龍神に為りきれなかった自分から分かれた子供は、やはり人にも龍神にもなれない。出来そこないの子供はやっぱり出来そこないだね。倒れる部下たちを眺めながら順は感慨を込めてそう呟いた。
形すら人でない子供の体内には小さな輝きがあった。順はケース越しにそれを見つめ、嗤った。人でもない。龍神でもない。形は化け物と呼ぶに相応しい。だが、その子供は生まれながらにして龍宝珠の欠片を持っていたのだ。
変態は仕様。
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断罪の主の復活 2
エロシーンはありません。
結局、子供はケースの中で半年ほど生きた。子供の命を絶ったのは順自身だった。飢えが限界に達してしまったからだ。だが龍宝珠の欠片は僅かだが順の飢餓感を埋めた。欠片はそれなりに力を有していたということだ。
それから都子の器から卵子が定期的に摘出されることになった。人為的に順の精子と掛け合わせる。幾度も繰り返された実験の結果、二人の間に出来た子供には常に龍宝珠の欠片が宿った。
特殊な研究施設を設立し、順は意図的に欠片を持つ子供たちを作ることにした。研究者たちは熱心に日々、研究を繰り返した。失敗作は順の元に運ばれ、例外なく糧にされた。
研究の結果、子供たちは形だけは何とか人として見られるまでになった。最初はなかった知能も有するようにまで至った。宿った力も使う器用さを兼ね備えた実験体も中には生まれるようになった。そうした子供たちは隔離された場所で育てられている。
おかげさまで餌には事欠かないよねえ。そう内心で呟いて順は笑った。空にかかる月を見つめてみる。
だがハンターの主食となるのはあくまでも龍宝珠そのものだ。欠片では決して満たされることはない。それはハンターの誰もがみな承知していることだ。だが、知ってはいても実際にそれを成せるかどうかはまた別だ。現実に一度でも満たされたことのあるハンターはごく少ない。そんなハンターたちに比べれば、順の今の状況は恵まれている方だとも言える。
それでも飢えは完全に消えることはない。順は息をついて目を細めた。前を行く立城の後姿をぼんやりと見る。ふらつきながらも立城は着々と前に進んでいる。先に何があるのかを知っているのに、それでも立城は立ち止まることはない。虚ろな視線はただひたすらに真也を求めているのだ。
誰かの言いなりに動くのは好きではない。が、翠には多少なりとも恩がある。それにもし、自分が動くことで彼らが混乱するというのなら、従ってみるのも悪くない。立城を見ながら順はくすくすと笑った。少なくとも立城のこんな姿が拝めるなら、面白くない筈がない。今のような立城が見られるとは順も正直なところ思っていなかったのだ。
短くなった煙草を吐き捨てる。新しい煙草に火を点け、順は感慨を込めて呟いた。
「これで役者が揃ったって事かな」
「そうですね」
不意に真後ろで声がする。順は目を見張って身体の動きを全て止めた。反射的に気配を殺す。だがそうしてみても背後の気配を感じることが出来ない。順は煙草を指でつまみ、唇から引き剥がした。ゆっくりと振り返る。
人好きのする笑みが真っ先に目に留まる。
「なるほど、さすがにそこまでは僕も判りませんでしたよ」
「どういう……ことかな?」
視界の隅には確かに頼りなく歩く立城の姿がある。では、この目の前にいるのは誰だ? 順は半ば混乱しかけていた。
「簡単なことですよ。あれを僕たち以外の誰かが……そうですね。例えば優一郎くんが見れば、僕ではないと判ると思いますよ」
楽しそうに笑いながら告げたのは間違いなく立城だ。順は無言で立城を睨むようにして見つめた。そうしている間に歩いていた立城の姿が遠ざかって行く。
なるほどねぇ。順はそう呟いて煙草を咥え直した。煙を細く吐きながら嗤う。
「確かにまんまと騙されたかもね。でも、それってかーなり危険技じゃないの?」
例えばここでオレに殺られる可能性もある訳じゃん。順は嗤いながらそう告げた。だが立城は事もなげに肩を竦めて苦笑する。
「事の成り行きを見逃すような方でもないでしょう? あなたは」
話しながら立城は歩き出した。どうやら言わなくても順がついてくると思っているらしい。やれやれ、と順はため息をついて立城の後ろをついて歩いた。確かに言われた通り、ここで立城と事を構えて成り行きを見逃すつもりはない。答えの判りきった二択だ。
一度は視界から出てしまっていた立城の背中がまた見えてくる。二人の立城は全く同じ格好をしていて、ぱっと見にはどちらが本物か判別できない。だが力を完全に閉ざし、器の視力のみで捉えると僅かな違いが見えてくる。見てすぐには単によろけながら歩いているようにしか思えない。が、よくよく見ると前方を行く立城の動きがどことなくぎこちないことが判る。
出来の悪いコピーと言われた当時のことを思い出す。苦い気分で順は前方の立城を見た。いや、正確には立城を模したもの、だ。本当の立城は順の少し前をゆっくりと歩いている。その足取りに迷いやためらいは微塵もない。
背後をとられることは滅多にないのですが……。
この頃の順だからなあ……。
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久しぶりの邂逅
気配をたぐり寄せるように指を握り締める。伸ばした意識の糸に絡まれたまま、それはゆっくりとだが真也に近づいていた。月明かりの下、真也は薄く嗤いながら手に握った意識の糸を引いた。
空気の冷たさすら感じなくなる。真也は身体を引きずるように歩く立城の姿を意識でだけ捉えていた。柔らかな面立ちに苦しむような表情を浮かべ、立城はよろけながら校門にたどり着いている。真也ははやる心を抑え、グランドの中心に一人で立っていた。
意識の糸を両手につかみ、強く引く。すると捉えられた立城がよろけてその場に膝をついた。あ、と真也は小さく声を上げて思わず糸から手を離した。立城はすぐに立ち上がってまた歩き出している。真也は頭を強く振って地面に落ちた糸を拾い上げた。
今度はお前が迎えにきてくれるよな。そう呟いた真也の顔には冷ややかな笑みが浮かんでいる。だが真也自身、自分が笑っていることを自覚してはいなかった。立城以外のものは何も要らない。狂気にも近い思いだけが真也を支えていた。
校門をくぐり、立城が歩いてくる。真也は糸を手繰るのを止めて目を凝らした。やがてグランドの隅に小さな点のように人影が見えてくる。
「立城!」
真也は我慢できずに駆け出した。それと同時に意識の糸がかき消える。頼りない足取りの立城の元へ、真也は一直線に駆けて行った。近づいて行くにつれて立城の姿がはっきり見えてくる。叫ぶようにして名を呼ぶと、立城が足を止めて顔を上げる。真也は腕を伸ばして立城を抱きしめた。
両腕に立城を抱きしめ、真也は安堵の息をついた。ずっと待ち望んでいたものがようやく手に入った。充足感がいっぱいに心を満たしていく。
「真也」
掠れた声で立城が呼ぶ。強く締めすぎてしまったかも知れない。真也は慌てて腕の力を緩めた。腕の中で立城が身じろぎする。ほっとしたように息をついた立城を見つめ、真也は小さく笑った。顔を見合わせて改めて互いに笑う。
懐かしい思いが胸に蘇る。共に過ごした日々は短かったが、とても幸せだった。出来ることならずっとそのままいられたらと望んだ。けれどそれは叶わない夢でしかなかった。
けれど今、こうしてまた会うことが出来た。もう、二度と離れない。真也は立城の肩に額を乗せ、そう囁いた。立城がゆっくりと真也の背中に手を回す。
「うん……」
耳元に聞こえた微かな返事に真也は心の底からの笑みを浮かべた。
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1,000字を切ったので蛇足ですがあれこれと。
この章でこの話は終わりです。
でも続きがけっこう長くて……この話は『魂の座』の1/4です……(汗)
長すぎるのは承知しているので、お付き合いくださる方も大変なのでは、と思ってます。
今後もよろしくお願いします。
真也も実はなかなかのくせ者なので……。
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魂は覚えている
エロシーンはありません。
風が冷たい。火藍は目を細めて吹き付けてくる風を手で遮った。火藍の背後では壊れたドアが軋みを上げて揺れている。
青い光は次第に濃くなっている。火藍は無言で光の源を目指して歩き出した。だが数歩ほど歩いたところで、光源の方が今度は動き出してしまう。火藍は顔をしかめて足を止めた。
校舎の屋上に光が瞬いている。火藍は舌打ちをして地面を蹴った。高く飛び上がった火藍は一気に校舎の屋上に舞い降りた。光の主が腕組みをして待ち構えている。火藍は黙って青い光の中心に近づいた。
「……これはまた……随分と可愛い器になったな」
言いながら青年が嗤う。火藍は息をついて手に握っていた宝珠を目の前に翳した。一瞬で緋色の光が火藍を包み込む。現れたそれを火藍は両手にしっかりと握り締めた。
「いかような理由で人を屠っているのか、まずそれをお聞かせ願おう」
矛先を青年に突きつけながら火藍は淡々と告げた。青年が小さく嗤って指で矛先を払い退ける。その瞬間、音と共に青年の指が灼ける。火藍は眉間に皺を寄せて青年を睨みつけた。
「相変わらずくそ真面目なことで」
灼けた指先を舐め、青年は笑い声を上げた。だが火藍は青年を睨んだまま微動もしなかった。断罪の印はまだ現れてはいないが、青年からは人の香りが漂っている。それは人に手をかけた証だ。じきに印は現れるだろうが、いま断罪して早すぎるという訳ではない。龍主なき今、断罪の責を負わされているのは自分なのだ。少なくとも火藍にはその自負があった。
違う、と青年の唇が音のない言葉を刻む。それを読み取った火藍はぴくりと眉を上げた。
「龍主には断罪の許しはない。印を刻むのはもっと別の誰かだ」
勝手に思惟を読まれた腹立たしさを火藍が感じる間もなく、青年は言葉を続けた。なぜその語り方が天の龍神に似ていると思うのだろう。火藍はぼんやりと青年を見つめ、自然と矛先を下ろしていた。
「そう、おれもお前も、みんな誰かの罠にきっちり嵌ってるんだ。そうと知らないうちからな」
断罪の主と呼ばれているが、火藍はその判断を自分では下さない。断罪の印が宿ったものにその矛先を向けるに過ぎないのだ。火藍は無言で青年を見つめていた。かつて誰かも同じようなことを言っていたような気がする。
断罪者は天のみ。世界がその印を刻まなければ、お前とて誰も裁けまい?
脳裏に蘇った言葉に火藍は目を見開いた。力なく腕が下がり、矛先が屋上のコンクリートを穿つ。
「そういう訳でお前に理由を教える気はさらさらない。教えたところで今更許されるとも思ってないしな」
しかもお前ときたらここに至るまで気付きやしなかったんだからな。青年がそう付け足したのを火藍は愕然とした思いで受け止めた。だが衝撃を受けたからといって簡単に過去の記憶が戻るという訳ではないようだ。火藍は言いようのない苛立ちを感じ、頭を押さえた。
垂らした右腕を持ち上げる。火藍はためらいながらも再び矛先を青年に向けようとした。真紅の切っ先が青年の喉に触れるかどうかというところで、火藍は僅かに目を見張った。矛先を見つめていた火藍の視界に不思議な笑みが引っかかったのだ。
皮肉そうな面立ちからは想像できないくらいに穏やかな微笑みが浮かんでいる。しかも青年は矛先を避けようともしていない。微笑を浮かべたまま火藍を見据えている。火藍は硬直したまま、しばらく動けなくなった。
しばしの間、二人は無言で見つめ合っていた。少しでも青年が動けばその喉を矛が貫くだろう。一歩、前に進むだけでいいのだ。火藍はだが、その一歩を踏み出せずにいた。緊張だけが高まり、手の中に汗が滲んでくる。
不意に視界の隅に何かが割り込んでくる。火藍ははっと我に返ってそちらを向いた。青年が急に厳しい顔になって火藍と同じところを見やる。
暗い空にその位置を示す印が浮かび上がっている。天に届きそうな真紅の細い光の柱を見つめ、火藍は息をついた。静かに手を下ろす。断罪せよ、という声なき声が心の奥深いところに届く。
「行かなくていいのか? 断罪の主なんだろう? お前は」
声をかけられて火藍は矛を引いた。青年は真っ直ぐに光の方向を見つめている。が、青年の目に印が見える訳ではない。青年は火藍とはまた別の目でそれを見ているのだ。火藍はそのことを知り、深くため息をついた。
「わたしは火龍、火藍。貴公のお名前をお聞かせ願えるかな? 青龍神殿」
青年はきっと自分のことをよく知っているのだろう。だからこんな質問はもしかしたらばかげているのかも知れない。そうは思ったが火藍は型どおりに名乗った。青年はだがそんな火藍を笑ったりはしなかった。へえ、と感慨深そうに呟いてからポケットを探る。青年の指がポケットからつまみ出したのは一本の煙草だった。
「おれは水輝だ。お前と同じで八大に名を連ねる者、かな。……まあ、おれなんかと一緒にされるのは心外だろうがな」
そう言いながら水輝が招くように指を振る。どうやら火を点けろという意味らしい。火藍は顔をしかめて水輝の煙草の先を見つめた。ほら、と示すように水輝が煙草を揺らす。
「……ライター代わりに使われる謂れはないのだが」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
笑って告げると水輝は火藍に無造作に近づいた。驚く間もなく腕をつかまれる。火藍は何故か慌てて水輝の手を振り払った。不思議そうな顔で水輝が払われた手を眺める。火藍は舌打ちをして指を鳴らした。水輝の顔にほど近いところに小さな炎が生まれる。
奇妙な感覚だった。どうして覚えていない筈の水輝の行動の一つ一つが気になるのだろう。使命通りに目の前の相手を断罪すればいいだけのことではないのか。なのに今の火藍は水輝の言動に囚われて躊躇していた。
ばかばかしい。火藍は自分の心の動きを胸の奥で否定した。今はとにかく印のところに急がなければ。そう呟いて顔を上げる。まともに目を合わせてしまった火藍は水輝からさりげなく顔を背けた。水輝がにやにやと人の悪い笑い方をしていたからだ。
小さな炎が煙草の先で揺れる。炎が吸い込まれるようにして煙草の先に触れた後、火藍は無言で指を再び鳴らした。現れた時と同じように唐突に炎が消える。
黙ったまま火藍は印の許に歩み出した。その直後に水輝に名を呼ばれる。
「火藍」
胸の奥に生まれた妙な感覚を無視して火藍は水輝を振り返った。皮肉な笑みを浮かべて水輝が顎をしゃくる。つられたように火藍は印を見た。
「少しは待ってやったらどうだ? どうせ先は短いんだ。ちょっとの間くらい再会の喜びとかってのに浸らせてやれよ」
「断る」
即答して火藍は再び歩き出した。今度は水輝の声が飛んで来ることはなかった。
この二人は実は昔からずっと一緒にいたのですが……。
みたいな事情があったりします。
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電話と修理と転移
エロシーンはありません。
優一郎は一方的に切られた電話を見つめ、小さく息をついた。これで要は現場から退避するだろう。少なくとも話を聞いた限りでは要は足手まといにしかならない。
応急処置は終了している。優一郎は実験台に横たわる多輝と由梨佳を交互に眺めた。奈月が手際よく手伝ってくれたこともあり、作業は優一郎が考えていたよりはずっとスムーズに進んだ。恐らく奈月は優一郎の気付かないところで力を使っていたのだろう。作業中、優一郎は何度か不思議な気持ちになった。ささくれていた心を包み込むような穏やかな気持ちがこみ上げてくる。そんなこともあったからこそ作業は順調に進んだのだ。そうでなければ激情のために手元が狂ったかも知れない。
由梨佳の機体は大破していた。多輝と違い、由梨佳には攻撃を防ぐ手段はない。恐らくは圧倒的な力に無防備に晒されたのだろう。そのことは由梨佳の機体の状態から一目瞭然だった。
四肢が吹き飛び、胴には大きな穴が穿たれていた。あの状態で脳を正常なままで維持できたのが不思議なほどだ。緊急用のシステムが辛うじて立ち上がり、由梨佳の脳を守ったのだ。
脳さえあれば機体など幾らでも修理できる。壊れる前の由梨佳の姿を完全に再現することが可能だ。が、それを頭で判っていても優一郎の怒りは収まらなかった。一体、何がどうして水輝をそうさせたのかは判らない。事態がどう進んでいるのか、そして自分がそこにどう組み込まれているのかすら判らない。それでも優一郎は無差別に力を放出した水輝に対して言いようのない怒りを覚えていたのだ。
そして怒りと同時に欲望がこみ上げる。機体の大半を壊されてしまった由梨佳のシステムは辛うじて動いているに過ぎない。いま、ここでシステムのプログラムを完全に書き換えてしまうことすら自分には可能なのだ。奈月は自らが機械の身体を持つためにある程度はヒューマノイドの特性について理解もし、機体の構造もそれなりに判ってはいる。だがシステム面となると話は別だ。例えば優一郎が奈月の目の前で由梨佳のそれを完全に書き換えても、奈月には何をしているのか理解出来ないだろう。少なくとも優一郎には奈月にそれと知られず作業する自信があった。
マスター登録を替えるだけで由梨佳は自分のものになる。そうすれば由梨佳は総一郎ではなく、優一郎の命令に服従する。それを考えると自然と優一郎は興奮した。怒りと性的な欲望が同時にこみ上げ、激しい高揚感が心に満ちる。
だがそんな優一郎を鎮めたのが奈月だったのだ。壊れた由梨佳を見た直後、優一郎は発作的に奈月を壊そうかと考えた。水輝が大切にしていることはよく知っている。きっと奈月を壊してしまえば水輝は怒り狂うだろう。現に以前に水輝が長い眠りについた原因は奈月が壊れたことにある。己を破滅させるほどの力を放出した結果、水輝は深く長い眠りにつかなければならなかったのだ。
人ならぬ力がなくとも奈月を壊すことは可能だ。奈月の身体は機械仕掛けだ。それ故に優一郎には奈月を壊す方法を幾つも思いつくことが出来た。
早く、早く修理しないと! このままでは由梨佳さんは!
由梨佳を発見した時、切羽詰った奈月の声に我に返らなければ、優一郎は恐らくそのまま延々と奈月を壊す方法について考えを巡らせていただろう。そしてその考えはただの八つ当たりでしかないことにも気付けなかった筈だ。
人を超える力を持つ奈月には人の思惟が読めるという。そうでなければ由梨佳を発見出来なかったとも聞いた。だが奈月はそんなことを考えている優一郎に何も言わなかった。我に返った優一郎は、それが奈月なりの気遣いなのだということに初めて気がついたのだ。
もしかしたら単に読んでいなかっただけなのかも知れないけど。そう呟いて優一郎は手の中の電話を見下ろした。一応の処置が終了したからだろう。奈月は放心した顔で椅子に腰掛けている。
「どうやら学校で問題が発生したようです」
優一郎は要から聞いたことを端的に説明した。もっとも、要も説明を中途で止めてしまったので、詳細については判らない。そのことも優一郎は付け加えた。疲れた表情をしていた奈月が次第に顔を曇らせる。
「赤い……人、ですか?」
「要さんの表現ですとそうなります」
赤い女が暴れてたのよ。要は電話で優一郎にそう喚いた。そして要によれば、その女は保美の機体を破壊したらしい。そこまで聞けば優一郎には大体のことは理解できた。赤い女、と要が称したのは恐らく地下の二階にいたあの機体だ。風の主が火の力をこめた少女がとうとう目覚めたに違いない。火の力が表面化し、髪と瞳が赤く染まり変わっていたのだろう。だから要は赤い女と表現したのだ。
優一郎は手早く工具を片付け始めた。修理中の二人には悪いが、先に学校に行った方が良いだろう。それにどのみち、本格的な修理は部品を調達してからになる。優一郎は台に乗った二体を交互に見つめた。穏やかな寝息を立てているのが多輝だ。対する由梨佳は死んだように静止している。本来、ヒューマノイドに眠りはない。由梨佳の機体が調子が悪いのではなく、多輝が異質なのだ。
工具を片付け終え、優一郎は毛布を多輝の身体にそっと被せた。機械の身体は剥き出しにしておいても風邪などひかない。が、どうしても眠っている多輝を見ていると裸のまま放置しておくのは忍びない気がする。眠る多輝を少しの間だけ見つめ、次いで優一郎は由梨佳に目を向けた。
頭部、胸部、腹部、そして四肢が分かれた形で台に置かれている。各システムは修理用の端末に直結されており、脳は正常に維持されている。特に問題はない。優一郎は薄く笑って由梨佳の髪をそっと撫ぜた。長く細い髪が指に絡みつく。
このまま僕のものに出来ればいいのに。そう思う心のどこかではそれを酷く恐れる自分がいる。優一郎は不思議な気分で由梨佳の髪から手を離した。離れ際に名残惜しくなり、このままずっと触れていたいという気になる。が、優一郎はそれをぐっと堪えて由梨佳に背を向けた。
「とにかく学校に戻ります」
そう告げて優一郎は屋敷の地下にある実験室から出ようとした。すると慌てたように奈月が腰を上げる。胸の前でしっかりと両手を組み合わせ、奈月はすがるように優一郎を見つめた。
「あの、わたしもお供していいでしょうか?」
訊かれて優一郎はすぐには答えられなかった。奈月を学校に連れて行くことそのものは構わない。もしも火の力を持つあの機体が攻撃を仕掛けて来ても、奈月がいればある程度は凌いでくれるだろう。最悪の場合、その隙に逃げることも出来る。そんな打算をしなかった訳ではない。優一郎にとっては得としか思えない申し出だった。
けれど何故か即答できない。逡巡した後、優一郎は困惑したままで奈月を見つめ返した。
「ですが、多分かなり危険ですよ? それでも構いませんか?」
注意深く優一郎は訊ねた。奈月はだがためらいなく頷いてみせる。
それから二人は学校に向かうことにした。が、夜も遅い。こんな時間にわざわざタクシーが住宅地を巡回している筈もない。仕方なく優一郎は徒歩で学校に行こうとした。が、それを奈月がおずおずと引きとめる。
「えっと、もし良かったら転移しましょうか?」
一瞬、その言葉が何を意味するのか理解できなかった。次いで納得する。奈月は学校まで瞬間移動するかと言っているのだ。優一郎はしばし迷ってから頼むことにした。龍神たちのとある想いが機械の身体にこめられているのが奈月の意識を形作っている。根本が龍神の想いであるからこそ、奈月はその力を使うことができるのだろう。が、まさか空間を渡ることまでしてのけるとは、優一郎も思っていなかったのだ。
貴重な体験になるかも知れない。少し緊張しつつ優一郎は言われるままに奈月の手につかまった。
「校内は危険かも知れませんので、校門の前付近にお願いできますか?」
告げた優一郎に奈月が小さく頷く。そして二人は実験室から姿を消した。
奈月は実はかなり強いのです……。
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立城のひとりごと
エロシーンはありません。
赤い光が細く長く天に向かって伸びている。細い光の根元には抱き合う二人の姿がある。立城は遠くそれを眺めながら微かに笑みを浮かべた。隣で不機嫌そうに顔を歪めていた順が訝りをこめた目で立城を見やる。立城は視線に気付いていたが、そ知らぬ振りでジャケットを探った。
細身の煙草を咥える。どうやら煙草を取り出したことがかなり意外だったらしい。順が正直に驚いた顔をする。立城は苦笑しながらライターで火を点けた。
「何か妙な感じだねぇ。こーしてオレとアンタが並んでるとこなんて、想像もしたことなかったよ」
疲れたように笑いながら順が告げる。それはそうでしょうね。立城は内心でそう答えた。実際に口に出さなかったのは、少しでも声を出すと気付かれてしまいそうだったからだ。
声にしない立城の返事をしっかりと読み取ったのだろう。順が嫌そうに眉を寄せる。立城は微笑みだけを返して再び抱きあう二人へと目を転じた。
これまで順は巧みに身を隠し、決して立城の前に姿を現そうとはしなかった。それは立城も同様だ。出来ることなら関わりたくない。それが正直な気持ちだった。少なくとも数ヶ月前までは。
翠が介入してきた時点で事情は一変した。それまで内々だけに留めておこうとしていた計画が、そのままでは進められなくなってしまったのだ。断罪の主が目覚めるまでに済まさなければならなかった事柄の多くは未だ手付かずのままで放置されている。翠の目を盗むなどという真似は決して出来ないだろう。それが痛いほど判っていただけに、立城は止む無く計画を変更せざるを得なかったのだ。
本来、龍神とハンターは敵対関係にある。その理由は簡単だ。龍神の持つ龍宝珠がハンターの主食だからだ。それ故、古来から二者は敵対してきた。もっとも、圧倒的な数の差のため、ハンターの存在そのものが滅多に目にすることが出来ないものだった。だが龍神の間ではその手の情報は光の速度で伝達する。瞬く間にハンターの噂は広まり、龍主天輝によりハンターの討伐命令が下された。それは随分と昔の話だ。
紫翠がまだ生きていた頃の話だ。当時、ハンターの数は今よりずっと少なかった。彼らは龍神の多くに逆に狩られ、種そのものが絶滅したかに見えた。
ここに一つの問題があった。ハンターは龍神と同じく、ほぼ百パーセントの確率で血を継げないということだ。例えハンターが次の世代に血を繋ごうとしても、まず間違いなく子供はできない。それは龍神にも同じことが言える。龍神同士で子供を成してはならない、という禁忌があるが、それは龍神自身もどうやっても犯すことの出来ない取り決めなのだ。
少なくともハンターが壊滅したと言われた時はそうだった。だがだからこそ、ハンターは決して絶えてはいないだろう、というのが当時の一部の龍神たちの意見だった。現に今、立城の横にはこうして順が並んで立っている。そして翠が天輝と子供をなしてしまったことも、当時からすれば考えられなかったことだった。
時は容赦なく流れていく。それこそ、地上に生きる者たちが気付かぬ内に、時は流転する。あの頃、常識と言われていたことは既に覆っているのだ。
ハンターは血で継ぐものではない。それでは何故、この現在の地にハンターたちはこうして生きているのだろう。絶滅したと言われたにも関わらず、彼らはどうして未だに地上にいるのか。
それは龍神の間に子供が出来てしまったことにも起因する。時は流転する。状況は刻々と移り変わる。そして世界がどんな気紛れを起こしたのかは地上にいる者たちには判らない。知らぬ間に事は進み、そして気付いた時にはもう事態は一変しているのだ。少なくとも立城は何度もそのために痛い目を見てきた。
生まれる筈のない夜叉が生まれた時から、既に歪みは存在していたのだ。歪みは一つずつ、だが着々と別のゆがみと混ざり合う。そしてその力は次第に強くなり、最終的には世界の状況が大きく変化する、という結果になる。
絶滅したと言われたハンターたちは血では継げない。そしてそれは龍神たちにも同じことが言える。龍神と争い続けるべく定められた種として、ハンターは世界に偶然かつ故意に生み出されたのだ。
龍神の力が今より強大であった頃、ハンターはその必要性が殆どないためか、絶対的に数が少なかった。それ故に龍神に先に狩られることも多く、大抵のハンターは龍宝珠を一度も糧とすることが出来ず、死んでいった。だからこそ、龍神たちは天敵のいない状況で世界に君臨することが出来た。それがある意味では龍神たちにとって一番幸せな時期だった。
そんな折、龍神の主である天輝に反旗を翻す龍神が現れる。それが黒妖牙だった。本当ならあり得ない事象が起きたのだ。その原因になったのは数多くの誓約者たちの存在だった。
だが後に大戦と呼ばれるようになったあの戦いの中で、誓約者たちは殆どその力を使うことが出来なかった。特殊な輝きを帯びる誓約者たちはその力を恐れる龍神たちの手によってあらかた狩られてしまったのだ。
絶対の存在として君臨しなければならない、という履き違えた使命感により、龍神たちは誓約者たちの殆どを葬った。人としても生きられず、龍神たちにも受け入れられない。そんな彼らが何も思わないままで死んでいっただろうか。否、きっと天を呪ったに違いない。望んでそう生まれた訳ではないのに、なぜこんなに早く命を取られなければならないのか。しかも一度も揮っていない力を持っているという理由だけで。
恨み、後悔、絶望。多くの思いは誓約者たちの意図せぬままに力となって世界に満ちた。龍神という存在は元々、力が形をなしたものだ。それ故に誓約者たちの残した力に否応なしに影響される。
かつて龍神にははっきりとした感情はなかったという。それは真っ白な状態で生まれた白琅渉を例にすれば納得できる。天の居城を守る白龍神、白琅渉は生まれた時には何も感じることが出来なかった。世界が一つずつ白琅渉に感じることを教え、そして彼女には感情が徐々に備わったという。
一つずつ、感じるように。彼女と同じように龍神は各々が学習していく。だが力で構成された龍神は世界の意図を無意識のうちに読もうとする。そして世界の成り立ちを、やがては見えてはならないものが見えるようになってしまうのだ。
誓約者たちの残した力を学習した龍神たちが世界に蔓延しかけた時、唐突に大戦は終結した。あれだけ龍神たちを翻弄した黒妖牙の陣があっさりと白旗を上げたのだ。黒妖牙は龍神の手によって捕らえられ、天の居城の奥深くに幽閉された。黒妖牙は身柄を拘束され、龍神の誰もがほっと息をついた。
大戦で犠牲になった者は数知れない。その犠牲者には金龍神、識晃も含まれていた。八大の一人である彼の死を龍神たちの多くは悼んだ。そして龍神たちは識晃の魂を湖の奥深くに沈めたのだ。
それが間違いの元だとは気付かないままで。
設定は後から出来る物!!w
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龍神とハンターと世界 1
エロシーンはありません。
狩る者と狩られる者は常に対立する。それが食物連鎖というものだ。そして頂点に立つ者には天敵はいない。少なくとも頂点に立つものには命を積極的に狩る、という目に見える存在はないのだ。
食物連鎖は一般的にピラミッド型に築かれている。つまり、狩る者の方が少なく狩られる者の方が多い。それはだが逆に言えば狩られる者たちは様々な意味で進化した子孫を残せるという可能性が高いとも言える。何故なら狩られる分だけ多くの子孫を残すからだ。
そして通常、狩る者と狩られる者とでは力の差がある。弱肉強食という訳だ。数の問題はいいとしても、ハンターと龍神ではこの力のバランスが悪すぎるのだ。
ハンターと龍神の関係は最初から実に奇妙だった。狩られる者である龍神の側が圧倒的に力で勝っていたのだ。これではハンターは最初から滅びろと言われているようなものだ。しかも数で勝っているならともかく、それすら龍神にはかなわない。では何のために世界はハンターを生み出したのだろう。
龍神の数を調整するにはハンターは余りにも非力すぎた。それ故、当時、討伐命令を下された龍神たちはハンターたちを絶やしてしまえばいいと考えたのだ。だからこそあの悲劇は起こった。ハンターの可能性のある者全て、つまりその疑いのある者は根こそぎ殺されたのだ。
人の輪廻に決してかかわってはいけない。無用に人に手をかけてはいけない。この取り決めは龍神が生まれてからこの時まで守られてきた。だがその禁忌を龍神たちはある意味では破ってしまったのだ。
龍神たちの多くは自分たちの存在の意味を考えない。世界が望み、世界が願った故に我がある、と考える。だからこそ自分に疑いを持ったりすることはない。決められた通りに働き、天寿を全うするその時まで世界の意志に従おうとする。
だが龍神には犯さざるべき禁忌というものが存在する。これは厳密に言うと龍主である天輝が決めたものではない。天輝が生まれるより以前から決められていたことだ。誰が、と訊かれれば答えられる者はないだろう。世界に一番最初に生まれた紫翠ですら、その答えは持ち得なかったかも知れない。
では、誰が決めたのか。禁忌と指定した存在は誰なのか。だが龍神たちはまずそれを疑わない。例えばここで立城が龍神の誰かに同じ問いかけをしたとしても、恐らく答えは決まっている。
天が決めたのだ、と。全ては世界の意志なのだと答えるだろう。
それが不服だと言ったら世界はどうするのかな。木龍の頂点に位置する立城はそう考えた。そもそもハンターの存在からして奇妙な点が多すぎる。そしてその疑問点を遡っていけば、当然のように龍神の禁忌の存在にぶち当たるのだ。
バランスの悪い弱肉強食の関係性と、誰が定めたのかも判らない禁忌の存在。唐突に世に現れた誓約者たち、そしてその悲惨な末路。考えればきりがない。だが他の龍神たちは何故かそのことを疑問にすら感じていないのだ。
一つずつ疑問点を解決しようと試みた立城は、悉くそれを邪魔された。何故か狙ったように計画は常に狂わされ、結局ははっきりした答えを得ることも出来ないまま終わることが多かった。
天が望み、世界が願った末に生まれたハンターたちの存在意義は何だろう。結局、ハンターたちは一度は滅ぼされてしまったのに、また新しく生まれている。それが人の手による命だとしても、存在に変わりはない。順もそんな中の一人だった。
そもそもの発端は恐らく龍神たちが無関係な人間に手をかけたことにある。そして次々にゆがみは重なり、あり得ない事象が引き起こされる。龍神と龍神の間に子供が生まれてしまったのだ。そして彼らは地上に下ろされた。特殊な能力を持つ誓約者として。
黒妖牙の反乱に伴って起こった大戦。あり得なかったはずの金龍神の死。挙げればまだ歪みはそこここにある。
そして龍神たちの命を奪うハンターたちの存在。彼らは龍神の命を屠るという目的とはまた別に、はっきりとした疑問を持っている。ハンターたちは己の存在理由を疑問に感じているのだ。そこが龍神と決定的に違う。
ある意味では龍神たちは盲目的に世界の意志を信じている。それは力が龍神そのものであり、それ故に世界にばら撒かれたあらゆる力に反応する故に起こる現象ともいえる。龍神たちは力を過信し、己に疑問すら抱かない挙句、世界の意志を少しでも理解しようとする。そして……世界の理、成り立ち、意志を理解した気になる。だからこそ世界を信じ続けられるのだ。
生まれる筈のなかった夜叉が生まれたのも、恐らくはハンターを一度根絶やしにしてしまったからだ。何故なら、世界の意志がハンターを生んだのなら、龍神たちはそれを根絶やしにする必要はなかったのだ。まして、ハンターの疑いが少しでもあるからと、罪のない人々に手をかける必要などどこにもない。
人々の感情は、抑制力が欠けているために垂れ流しにされている。龍神たちに無残に殺された者たちが何も思わず死んでいった筈がない。そこには大なり小なりの感情が芽生えた筈だ。それも決して明るいものではなく、どちらかといえば闇に近い感情が。龍神たちは力で全てを測るが故に、それらの感情に無防備に晒され、少しずつ、だが確実に歪みを器の中に取り込んでしまったのだ。
一度、死に絶えた筈のハンターが再び世に現れた時、その増え方はそれまでとは大きく異なり爆発的な勢いだった。数にすればささやかなものだとしても、加速度的にハンターは増えている。こうしている今もなお、どこかでハンターは生まれているのだ。
説明長いのですみません……。
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龍神とハンターと世界 2
エロシーンはありません。
だからこそ、関わりあいたくなかった。立城はそう胸の中で呟いた。だからこそ、順に会う訳にはいかないと思ったのだ。それまで決して表には出したことのない疑問が溢れてしまいそうだったから。
ハンターたちは自分たちがどうして存在しているのかを必死で考える。考えずにはいられないのだ。その狂気にも似た飢餓感のために。思い悩み、苦しみ、けれど仲間たちの多くが同じ思いをしているという奇妙な安堵感を得る。だからこそハンターたちは自ら死を選ばずに済む。少なくともたった一人で苦しんでいる訳ではないのだから、とささやかな希望を胸に狩りを続けるのだ。
狂信的に世界を思い、己の力を過信し続ける龍神と、今日生きる糧を得るために懸命に生き続けているハンターたち。立城はその両者を比べた時、どちらが真剣に生きているだろうと考えてしまうのだ。決して、これまでの龍神たちが考えなかったことを考えてしまうが故に、立城はハンターたちとは隔絶した生き方をしてきた。ある時期まで。
禁忌を取り決めたのは天だと龍神は言う。それならば大人しくハンターに狩られろというのが世界の意志ではないのか。絶対に口には出せない考えがどうしても頭に浮かぶ。だからこそ立城は試したのだ。
大きく分割された力を合わせた時、世界はどうするのだろう。立城はまず、そこから確かめようとした。世界がその意志で力を分けたとするなら、わざと一つにしようとしたらどうなるのか。だから立城はわざわざ翠を地上に招き、戦いを強いた。両者の力がぶつかった際の世界の反応を確かめようとしたのだ。
結果的には一度分かれた力が一つに戻ることはなかった。まるでそのことを読まれていたかのように、一つにするにはピースが足りなかったのだ。
そのピースを握っていたのが、死んだ筈の真也だった。たった欠片ほどのものだったが、真也は木龍の力を持ったままで死んでしまったのだ。そしてその魂は冥界にも行けず、かといって地上に戻ることも出来ないまま、袋小路に嵌ってしまった。それを救い出してくれた翠には感謝しようと心から思う。が、その方法は決して立城が感謝できるものではなかった。
翠は死に損なった真也の魂を凍らせて固めてしまったのだ。輪廻に戻すこともなく、ただ時空の狭間で生き長らえさせる。そうなったことが判っても、立城には手を出すことが出来なかった。翠は伊達に時空を司る龍神なのではない。翠がその気になれば、誰にも介入できない空間を作り上げることなど造作もない。それが翠の属性なのだ。
力を一つにすることは出来ない。時間を遡り、紫翠に邂逅したが、それでも疑問は解けない。結局、立城の計画は中途で放り出されることになった。もっとも、立城にも何も得るものがなかった訳ではない。天輝が滅したことにより、水輝が本来の力を取り戻したのだ。
その頃からだ。ハンターたちが集団で龍神を襲うようになった。が、今度は討伐命令を下す天輝はいない。断罪の主はある意味では天輝よりも世界の意志に忠実である故に、ハンターたちを狩ろうとはしなかった。
戸惑う龍神たちとは対照的に、ハンターたちは狡猾に罠を張るようになった。そこに誰かの入れ知恵がなかったとは言わない。が、ハンターたちは懸命に生きる術を手に入れようとしていたのだ。弱いから群れる。食べたいからみんなで狩る。みんなで狩ったのだから、糧はみんなで分ける。決して満たされることはないが、これなら死ぬことはない。
主を失った龍神たちはそこで焦り始めた。それまで天輝の言うままに動いてさえいれば良かったのに、ここで初めて現実に直面させられることになったのだ。
力のない龍神たちは次々にハンターたちに狩られていった。順という、生きる術の一つを手に入れたハンターたちに対するほどの力がなかったのだ。順の率いるハンターたちは次々に龍宝珠を狩っていく。
世界を信じ、世界の意志を読み、見てはならないものを見てしまったために、龍神たちはとうとうハンターに抗する術すら見失ってしまった。
わたしたちは世界に選ばれた存在だったのに。どこかで死に行く龍神が漏らした声を思い出し、立城は微かに笑った。違う。龍神は選ばれていた訳ではない。最初から世界は誰も選んでなどいないのだ。もし、声の主が生きていたら、傍に飛んでいってそう告げただろう。だが、悔しそうに漏らした声の主は立城が気付いた時には既に絶命していた。
この星は青い。それは水が星の大半を占めているからだ。そこで龍神たちは気付かなければならなかったのだ。水輝の存在の意味に。
「……ちょっとお。不穏なこと考えつつ、それ、垂れ流しにしないでくんないかなあ、もう」
どこか苦しそうに告げて順が頭をかきむしる。立城はふわりと笑って首を傾げてみせた。だが決して声は出さない。
「いや、あのさ。わざとオレに聞かせてるってのは判るけど、もちょっと……その、オブラートに包んでみたりとかさ。そゆ表現、出来ない?」
言葉を柔らかくしたところで、事実は事実だ。何も変わらない。立城がそう考えたところで順が深々とため息をつく。立城があえて順に向かって思惟を流しているのとは逆に、順の感情は器の中でぴったりと閉じている。だがそれでも立城は意識をわざと順に向けるのをやめなかった。
死ぬはずのなかった金龍神が死んだ時、龍神たちはその魂を解放するべきだったのだ。そうすれば少なくともあれほどまでにハンターたちは増えなかった。何故ならハンターたちは世界の歪みそのものだからだ。
あくまでも立城視点の話なので、確定情報という訳では……。
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龍神とハンターと世界 3
エロシーンはありません。
「お、おい、ちょっと待て。どういう意味? それ」
順が上ずった声で言葉を挟む。立城は真っ直ぐに前を向いたまま、黙っていた。視線の先には抱き合う二人がいる。
本来、龍神には一つの使命がある。それは龍主が存在しているかどうかに全く関係なくまっとうされるべきものだ。が、いつからか龍神たちの多くはその使命を忘れているのだ。
世界に凝った汚濁を焼き、流し、清めるという絶対の使命を龍神たちの多くは忘れ去っている。その力は世界の自浄作用として働くべきものであるのに、龍神たちは自分たちの力が世界に与えられた特別なものだと過信しているのだ。
龍神は世界に選ばれている訳ではない。誰もが当り前に持っている、生まれながらの使命というものを全うするため、あえて力で構成されているだけだ。生きている意味も、理由も、それらは全て世界に生きる誰もと同じだ。決して龍神だけが特別なのではない。
ハンターは世界の歪みそのものだ。世界が歪むたびに新しいハンターがどこかで生まれる。それは言わば世界が溜まりに溜まった汚濁に耐えられなくなり、排除する意味も含めて誕生したものなのだ。
龍神たちが世界と呼ぶもの。それはすなわち、天の頂きそのものだ。少なくとも多くの龍神たちはそう思っている。世界の意志とは地上に生きる者たちを含める、この世全体が思うことを示しているのだ。
だが本当に世界に意志があるのだろうか。
立城がそこまで考えた時、順が頭を抱えて地面に屈み込んだ。ごく小さく、低く呻いている。
「なるほど、そりゃあ確かに変な話かも知れないねぇ。意志とかってものがあるとなると、世界ってものが生きているとかそういうことになるし」
苦悩しつつ順が呟く。その声は殆ど聞き取れないほどささやかなものだった。立城は正面を見据えたまま、微かに笑った。
「僕がとある答えに行き着きそうになると、必ず何らかの障害に突き当たってしまうんです。それも例外なく」
学校にたどり着いてから初めて立城はそう声に出して答えた。真也たちの身体は何らかの力に包まれている。既にもう、真也がその力から逃れることは出来ないだろう。立城はじっと彼ら二人の様子を見つめながら続けた。
「龍神たちが本来の力を揮う時、必ず器は滅します。だからこそ、龍神たちは本来の使命を忘れているんです」
世界がそれほどまでの力を龍神に与えた理由はただ一つだ。汚濁を焼き、洗い流し、そして清めるために世界は龍神を最初から使い捨てるつもりで作ったのだ。決して、龍神たちが特別なのではない。本当は必要だからこそ生まれ、そして死に行く運命だったのだ。
使い捨てだからこそ、龍神は大量に生み出された。そして死んだ後も必ず代わりの者が生まれる。龍神の輪廻は永遠に続くのだ。少なくとも作られた時にはそうだった筈だ。そうでなければ計ったように金龍神は生まれ変わったりしなかった。そして立城と真也も紫翠の生まれ変わりだと自覚することもなかった筈なのだ。
力が転じて天を貫く光の柱になる。立城は二人を包む力の変化を静かに眺めていた。真也は立城を模したものを抱いたまま、微動もしない。
「食物連鎖の底辺にいる筈だったんですよ、僕たちは。力の強弱には関係なく、ハンターに大人しく狩られる予定だったんです」
だが龍神たちは使命を忘れた。いや、意図的に使命を捻じ曲げることにしたのだ。生まれながらにして携えたその強大な力を利用して。
「……だからってアンタはここでいまオレに、狩られて下さい、はいそうですかって狩られたりはしないんじゃないの?」
「しませんね」
嘲笑うかのような順の問いかけに立城はきっぱりと即答した。
生きている者たちの根本的な願い、思いを本能と呼ぶ。使い捨てられる予定だった龍神たちにも本能があった。生きたい、生き続けたい、死にたくないという生存本能だ。
世界の予定を覆すほどの思いがあったからこそ、龍神たちは本来の使命を捻じ曲げた。いや、彼らに捻じ曲げるつもりはなかったのだ。だがつもりがなくとも、彼らが生きたいと思った時、使命は歪められてしまった。
その本能は立城にもある。
「必要であればいつでも命を賭けますが、ね」
だが誰かに摂取されるために命を投げ出す気は毛頭ない。予定がどうであろうと生きることを自ら投げ出すつもりはない。そう立城は付け足しながらちらりと順を見た。それまで完璧に築かれていた防壁が僅かに緩んでいる。流れてくるのは憎悪の感情だ。それを見やってから立城は微かに笑った。
黒々としたもやのような形をとった順の思惟が立城に向かって流れている。立城はだがそれまでのように無防備に受け入れたりしなかった。氷のように冷ややかな防壁を展開して思惟を遮る。
「……長々と講釈賜り、恐悦至極に存じます、とでも言えばいいのか?」
それまで被っていた人の良さそうな仮面を取り去り、順が剣呑に告げる。立城は無言でそれを流し、煙草の灰を地面に落とした。メンソールの煙をいっぱいに吸い、細長く吐き出す。それだけの挙動の間に視線の先に異変が起こる。
真紅の光が飛ぶ。立城は黙って二人の元に歩き出した。
「必ず後悔させてやる。覚悟して待っていろ」
苦しむような低く震える声に立城は足を止めて振り返った。極上の笑みを作って首を傾げる。
「楽しみにしていますよ」
それだけを残して立城はグランドに向かった。背後で順が殺気を放っている。それも当然か、と立城は呟いた。それまで決して気付くことのなかったことを、唐突に他者に告げられたのだ。しかもその相手が立城だということも順の怒りに拍車をかけた原因だろう。そのことを立城ははっきりと自覚していた。
相変わらず仲悪いw
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龍神とハンターと世界 4
エロシーンはありません。
自分たちは何ゆえに存在し、今からどこに向かって行くのだろう。これからの未来が闇なのか、それとも光なのか。激しい憎悪を伴う飢餓感を払拭する方法を見出すことは出来るのか。順を始めとするハンターの誰もが疑問に思うことに、立城がある一つの答えを与えたのだ。
世界の意志。それは紛れもなく世界が生きていることを示している。立城が得たある一つの答えを順も得てしまったのだ。
たった一つ、ごく当り前のことを龍神もハンターも考えない。世界の意志とは名ばかりで、そこにいるのは別の誰かだ。そう、誰か、なのだ。そこにいるのは世界という曖昧な存在ではない。自分たちと同様に意志を持ち、考え、答えを弾き出し、玩具を扱うような気軽さでこの世界を動かしてしまう誰かだ。
翠の時空を越える力でも決してたどり着けない場所に、それはいる。紫翠と言えど、その存在の許にたどり着けるかどうかは怪しいところだ。が、試してみる価値はある。
静かに歩み寄る。真也は立城の作ったロボットと抱き合ったまま真紅の矛に貫かれていた。ロボットは機能を完全に停止して真也の腕の中で目を見開いている。真也の背後には一人の少女が厳しい目をして立っている。
「……邪魔だてするなら貴公に攻撃を加えなければならないが、それでも宜しいか?」
いつの世に生きていてもやはり生真面目な性格は不変らしい。立城は苦笑して首を振った。
「邪魔をするつもりはありませんよ。ですが、その前に彼と少し話をさせてもらえませんか?」
少女がぴくりと眉を上げる。その挙動すら以前と同じだ。立城がにっこりと笑ってみせると少女は無言で矛を引いた。胸から引き抜かれた矛に引き寄せられるように真也の身体がぐらりと揺れる。
力尽きたロボットの機体が地面に音を立てて崩れ落ちる。立城は片腕で真也を抱きとめ、その顔を覗き込んだ。青白い顔色をした真也がゆるゆると目を開ける。
「……おっせえ……ん……だよ……」
身体に見える傷は全くない。だが真也は確実にダメージを受けている。いや、正確に言えば真也の魂が息絶える直前なのだ。立城は静かにその場に屈み、地面に膝をついた。両腕にしっかりと真也を抱える。
力なく伸びた手が立城の唇から煙草を引き剥がす。唇に細身の煙草を咥えた真也は微かに笑って目を閉じた。
二度と同じことは繰り返すまいと心に固く決めていた。もし、真也がこの世に蘇るようなことがあれば、二度と死なせないと思ってきた。だがそう思いながらそんなことはあり得ないと心のどこかで諦めていた。一度死んだ者は決して蘇ったりはしない。たとえもう一度、肉体をまとってこの世に現れたとしても、それは蘇ったことにはならない。死に変わり、生まれ変わって行く中で似た魂の輝きを持っていたとしても、それは全くの別人だ。世の理とは決して抗うことの出来ない世界の法則だ。それ故に立城はずっと真也の面影をこの世のどこかに探しながら、けれど決して真也は現れないと思ってきたのだ。
だが現実はこうして目の前に横たわる。しかも決して望んだことなどなかった無情な形で。
紫煙が風に流れていく。赤い光の中で真也は少しだけ唇を歪めた。きっと笑っているのだろう。立城は黙って真也を見下ろしていた。
歪んだ力の果てにこの世に現れた真也の魂の存在にはすぐに気付いた。翠が仕組んだということもはっきりと理解できた。だからこそ会うつもりはなかった。翠が何を考えているにせよ、真也の魂を無理やりに絵美佳の身体にねじ込んだと判っていても、たとえ真也が心から自分と再会を願っていると知っていても、それでも会うつもりはなかったのだ。
なのにこうしてここに自分がいる。
泣いてんじゃねえよ、ばーか。
心の中に声が聞こえる。立城は伏せかけていた目をはっと開いた。既に喋る気力がないのだろう。真也の声が直接心の中に届いたのだ。
「僕が泣く筈がないじゃないか」
微かに笑って立城はそう告げた。腕の中に抱いた真也が唇を僅かに動かす。苦しみを堪えるような面持ちをしつつ、真也は深く息を吸った。しばしの間の後に唇の端から細い煙が吐き出される。
言ったろ? お前はお前の道を迷わずに歩いて行けって。
狂おしいほどの思いの込められた呼び声は立城の魂を引き裂くほどの強さがあった。だが呼んだ本人である真也はいま、狂気の思惟を放ってはいない。真也がまるで嘘のように穏やかな心持ちでいることは、接触しているだけで感じ取れる。
まさか、と立城は息を飲んだ。
「もしかして気付いていたの? 僕が何をしようとしているのか」
自分でも気付かないうちに立城の声は震えていた。真也はただ煙草をくゆらせつつ思惟を飛ばす。実際に喋っていない分だけ、横たわる真也の姿が嘘のように思えてくる。
俺はお前の足枷になるのだけはごめんだ。これも前に言わなかったか?
軽く肩を竦めて斜に構えながら口許を歪める真也の姿を思い浮かべ、立城もつられたように苦笑した。
「そうだね。前にも言われたね」
そう言いながら立城はさりげなく少女を見やった。それまで黙して微動もしなかった少女が小さく頷く。そろそろ時間切れか。立城がそう内心で呟くと、タイミングよく真也の心の声が飛んで来た。
それにしても立城、趣味が悪くなったな。
にわかに曇った空から小さな雨が落ちてくる。張り出した雲はあっという間に月を隠し、周囲を闇に包んだ。一つ、二つとグランドに雨の雫が落ちたと思ったところで、瞬く間に雨は強くなった。立城は口許に微かな笑みを刻み、真也を地面に横たえた。辛うじて火の点いている煙草を真也の唇からはがす。
「これでも君へのはなむけのつもりなんだと思うよ。不器用だけれどね」
立城はそう告げて少女を見た。矛を携えた少女がゆっくりと真也に歩み寄る。その顔には感情はない。こうして断罪するたびに相手を悼んでいてはきりがないのだろう。いや、もしかしたら相手を思いやる心が顔に出ていないだけかも知れない。
ゆっくりと矛先が真也に向かう。立城は黙って立ち上がった。雨の形をとった結界の中には立城と真也、それに少女の三人きりだ。ちょうど到着した優一郎たちは結界内には入って来れないだろう。
じゃあ、またな。
それが真也の最期の言葉だった。
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穏やかな道へ行こうよ
ちょっと長めですが一気にアップしました。
エロシーンはありません。
真紅の光の柱が天に向かって伸びていく。順はぼんやりとその様子を眺めていた。降り始めた雨を避けるために手を翳す。
「あーあ。煙草が湿気ちゃったじゃん」
ぼやきながらポケットから潰れかけた煙草の箱を引っ張り出す。軽く息をついて順は自分の周囲に結界を張ろうとした。が、寸前で思い止まる。張り巡らせていた警戒のための網に、見知った気配が引っかかったのだ。
一瞬でそれまで張り巡らせていた力を回収する。背後から駆けて来たその人物に初めて気付いた顔をして、順はゆっくりと振り返った。
「あっれー? どしたの? こんなとこで会うなんて奇遇だねえ」
順はだらしない笑みを優一郎に向けた。息を切らせて駆けて来た優一郎が慌てたように足を止める。
「葵さん? どうしてここに?」
先日、優一郎とは病院で会ったばかりだ。しかもその時の順はまだ身体中に包帯が巻かれた状態だった。優一郎が驚くのも無理はない。順にしても優一郎と外で会おうとは思っていなかったのだ。
やれやれ、と呟いて順は手にしていた煙草をポケットに戻した。ここで下手に力を使って優一郎に疑われるのは楽しくない。まあ、どのみちもう疑ってるかもだけどね。そんな順の気持ちとは裏腹に、優一郎は心配そうに気遣う言葉を発している。もう大丈夫なんですか。何度か念を押されて順は苦笑いしながら片手を上げた。
「ぜぇんぜんだいじょぶ。ほら、この通り」
軽い口調で言いながら順は大袈裟に手を振ってみせた。優一郎が安堵の息をつく。どうやら優一郎は危惧したほどは疑ってはいないらしい。順はそのことに気付いて改めて不思議な気分になった。
純粋培養だねえ。順は内心でそう呟いて小さく笑った。何故、順が笑ったのかを理解できないのだろう。優一郎が怪訝そうな顔になる。
ハンターの苦悩をあっさりと当ててみせた立城のやり方には腹が立つ。隠している訳ではないが、敵側である龍神にわざわざハンターの事情を思ってなど欲しくないというのが本音だ。しかもその相手が立城であればなおのこと、だ。その上、立城はハンターの存在を悲観的に捉えているのではない。あくまでも現在の世界の成り立ちを分析する上において、引き合いとしてハンターの事例を出したに過ぎないのだ。
気に食わないよねえ。順は優一郎の脇に立ってそう考えた。しかも立城の計画にはどうやら優一郎も関わっているらしい。当の優一郎は何かには勘付いているだろうが、立城が何を考えているのかを深くは知らない筈だ。
立城は恐らく自分の弟である真也の存在すら、計画の過程に踏みつけにしている。現に順の目の前で真也の魂の灯火は消える寸前になっているのだから。
「何が気に入らないって、あんな優しい顔してそゆことするってことだよねぇ」
順は微かな声でそう呟いて口許を歪めた。俯いた順のその表情を見てはいなかったのだろう。優一郎は眉間に寄せた皺を深くしただけだった。ああ、と笑って順は顔を上げた。
「違うよ。キミじゃなくて」
いつものだらしない笑みを浮かべて順は手を振った。そろそろ雨は冷たい風に吹かれて雪に変わろうとしている。戸惑いの表情を浮かべた優一郎を余所に順はゆっくりと歩き出した。目の前には恐らく結界がある。それを知りつつも順は歩きながら手を伸ばした。
痺れるような感覚と共に手が何かに遮られる。そこで順は振り返って肩を竦めた。意味が判ったのだろう。優一郎が慌てたように寄ってくる。自然な動きで優一郎がポケットから小さな機械を取り出す。
「それ、なに?」
優一郎の手の中を覗きこむようにして順は問い掛けた。ああ、と頷いて優一郎が濡れた髪を指ですく。何気ないその仕草が新鮮に思え、しばし順は優一郎を見つめていた。その間に優一郎は機械を片手に説明を始める。どうやらそれは龍神の力の残留量を調べる装置らしい。しかもその装置は力の種類を判別できる優れもののようだ。
「何かすごいっぽいねえ。でもさあ」
順はひとしきり感心してから笑って優一郎を指差した。
「りゅーじんって何?」
空惚けて告げると優一郎が慌てたように詫びを口にする。どうやら相当に優一郎も気が動転しているようだ。それはそうだろう。真っ赤な光は既に人の肉眼でも捉えられるほど強くなっている。結界内に展開している真紅の光は断罪の証だろう。順はその光に目を細めてから優一郎を見やった。
ぎこちない笑みを浮かべてから優一郎は話し始めた。龍神の性質などについて語る優一郎の口調はどこか頼りない。それはそうだろう。優一郎にしても、はっきりと目で見て全てを確認した訳でもないし、しかも語っている内容にははるか昔の話も含まれている。それでも優一郎からすれば無関係とも思えるだろう順に話しているのは、きっと気が納まらないからだ。
天から落ちていた雨が雪に変わる。白い雪を見止めたのだろう。ふと、優一郎が言葉を切って天を見上げる。順は腕を伸ばして雪を手のひらで受け止めた。白い雪が手の上で溶けて消える。
弟を事に巻き込んだ立城は、優一郎をも巻き込もうとしているのだ。そうでなければ順は優一郎と知り合うことはなかった。可哀想に、と順は胸の内で呟いた。龍神などと知り合うことがなければ、優一郎の人生はもっと穏やかだっただろう。が、逆に言えば龍神がかかわっていなければ、優一郎はこの世に生まれていなかったかも知れない。
「ええと、どこまで話しましたっけ」
寒さに身震いしつつ優一郎が眉を寄せる。そんな仕草を見ているだけなら、優一郎もどこにでもいる高校生に見える。だが立城はそれ以上のものを優一郎に期待しているのだろう。それが順には痛いほどよく判った。
あれだけの情報をオレに垂れ流すにはそれなりに意味があるんだろうし。順は優一郎に曖昧に声を返しながらそう考えた。
だから欲しいと思う。立城が生贄に選んだ優一郎だからこそ、順は心の底からその存在を手に入れたいと望んでいるのだ。それを考えるだけで震えるほどの高揚感が心に満ちる。
「ですから、龍神には八大と言われる存在が」
説明を続けていた優一郎がそこで言葉を切る。その目は訝るように順を見つめていた。が、順は真っ直ぐに目の前の紅い光を見ていた。優一郎の言葉の一つ一つは胸に突き刺さる。今も優一郎に呼ばれるだけで、鋭い痛みが身体に走るのだ。それでも順は優一郎を見てはいなかった。言葉の一つ一つは、あえて優一郎を見ないことで更に鋭さを増し、心を抉ろうとする。順はその感覚に小さく笑った。
「葵、さん?」
ためらいがちな呼びかけに順は軽く肩を竦めるだけの返事をした。既に真也の魂は冥界へ旅立っている。なのにこの場所にはこれだけの力が残っているのだ。結界越しにも断罪の名残ははっきりと読み取れる。順は結界に手をあてがって息を潜めた。間近にいる優一郎から発される容赦のない冷ややかな力と、結界内から漏れてくる火藍の熱い力の両方を存分に浴びてみる。日光浴でもするかのような気軽さで、順は己の身を二つの力に晒していた。
塞がりかけていた傷が開く。見る間に順のシャツは胸元から血に染まった。
「あ、ごめん。ちょっと無理しすぎたかも。話、また今度聞かせてね」
順は血の流れる胸を手で無造作に押さえて踵を返した。
天の龍神はもういない。代替品を作ろうとした立城の真意は判らない。そして代替品の楔となるよう、生贄を用意したやり方も理解できない。順は数歩ほど歩いて天を仰いだ。
オレとあいつ、どっちが残酷なんだろうねぇ。
そう呟いて振り返る。優一郎は心配そうに順を見つめている。本気で順を気遣っていることが、その表情からもはっきりと読み取れる。
「だいじょぶだよ。心配しなくても」
心配は要らない。少なくとも生贄になるよりははるかに穏やかな道を用意しているのだから。順は言葉にしない思いをこめて手を軽く上げてみせた。
まだ葵という名前問題があるんですよね……w
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紫翠の誓約は始まっている
エロシーンはありません。
冷たい風が吹き抜ける。水輝は雪を手のひらで受け止めて舌打ちをした。空を焦がしていた紅い光は納まりつつある。
優一郎と共に奈月が学校に現れた時、水輝は奈月だけを自分の傍に引き寄せた。あの時の悪夢がまた蘇るような気がしたからだ。今、奈月は傍で静かな寝息を立てている。水輝が力を割り込ませて奈月をさらったのだとも気付いていない。
今度こそ真也の魂は冥界に旅立つだろう。黒妖牙の迎えが来ていたことから見ても、それは明らかだ。しばしの間、魂の浄化が行われ、その後に真也は転生の輪廻に加わることになる。
強い雨に晒されていても、水輝の身体は少しも濡れていない。意図的に水輝が降らせた雨だったからだ。小さく息をつき、水輝は煙草を取り出した。白い巻紙に包まれた煙草をしばらくぼんやりと見つめる。
誰もが間違えていたのだと立城はかつて水輝に告げた。紫翠に決して想いを打ち明けようとしなかったかつての水輝も、その想いが凝ったものと知りながら砂夜を受け入れた紫翠のやり方も、そして生まれかわった後も砂夜を追い求めた立城も。全ては歪みの果てに作られた行動なのだと立城は言った。
そして世界は決して望んでいなかったのだと。
お伽噺を語るような穏やかさで立城は水輝に語り聞かせたことがある。世界の理など、本当は勝手に決められたルールに過ぎない。その気があれば、力があれば、いつでも覆せるのだと。
必要なのはたゆまぬ努力と、決して諦めない気概だよ。そしてそれに伴う行動力さえあれば、大抵のことは可能なんだ。
そう言った時の立城は穏やかな微笑を浮かべていた。が、その実、内心には得体の知れない思いが燃え盛っていた。恐らく、立城自身も気付いていなかったに違いない。それに気付いた水輝はだが口を閉ざしていた。
龍神の長として全ての頂点に立つ筈だった紫翠は、その座をあっけなく放棄した。だからこそ世界は紫翠を『要らない』と判断したのだ。そうでなければあれほどまでに力に満ちた紫翠が殺される筈がない。例えそれが惚れた相手だったとしても、だ。水輝は苦い思いをしながら顔をしかめた。
許せ。私はお前に全てを背負わせてしまうのだ。
水輝の刀に貫かれた時、苦しい息の下で紫翠は告げた。それまで見たことのない辛そうな表情は、今でも胸にはっきりと焼き付いている。
私は永遠を見つけるのかも知れない。
まだ、砂夜が生まれていなかった頃、紫翠はそんなことを水輝に打ち明けたことがある。その時の表情もまた、水輝が見たことのないものだった。穏やかな、それでいて内に激しい思いを秘めた顔をしていた。何気ないつもりでの言葉ではないことは理解できた。あれはわざと水輝に聞かせるために告げられた言葉だったのだ。
自分は永遠を見つけて幸せになるってか。でもって、後のことはよろしくって、おれに全部押し付けて死ぬって? そういうのを我侭って言うんじゃないのかよ。
今なら幾らでも紫翠に言い返せる。だがあの時、紫翠の言葉を聞いた水輝は何も言えなかった。
そしてあの時の紫翠と同じ顔を立城がしているのだ。
「笑い話にもならない」
呟いて水輝は頭をかいた。つい、無意識に煙草のフィルターを噛み潰してしまう。だが一度、思い返し始めたことはそう簡単には止まってくれなかった。
だから水輝に協力して欲しいんだ。さらりと告げた立城のことを思い出し、水輝は苦々しくため息を吐いた。どっちが我侭だ、とぼやいてポケットの底からライターを引っ張り出す。そこでオイルが切れていたことを思い出し、水輝は舌打ちと共に指を鳴らした。
指先に炎が灯る。その色は青白い。火藍の生み出す真紅の炎とは全く色が異なっている。水輝は指を近づけ、煙草の先に火を灯した。
冷たい雪は降り続いている。一度、雨を降らせと命じた雲は分厚く空を覆い隠している。空を仰いで水輝は煙を吐き出した。
断罪の光がゆっくりと消えていく。後に残ったのは微かな緋色の輝きだけだった。グランドの中央に近いところに火藍が立っているのだろう。その様を水輝は校舎の屋上から眺めていた。眠る奈月が横たわっている。その隣に座っていた水輝は無言で腰を上げた。奈月を両腕に抱え上げて立ち上がる。
穏やかな寝顔を見下ろしながら水輝は微かに笑った。
「なあ。おれはどうしたらいいと思う?」
立城は緩慢な自殺中だ。火藍は蘇りはしたが、恐らくこれから順にいいように操られるだろう。優一郎は予定通りに進まないだろうが、どのみち多輝とは無関係ではいられない。
唐突に現れた氷龍神の件も考えない訳にはいかない。水輝の支配下に置かれていた彼らは大戦の折、全滅した。だが彼らもやはり水輝たちと同様に世界が生み出した存在だ。もし、その存在が今必要と判断されて生まれたのなら。
世界は何を凍りつかせてしまおうとしているのだろう。そう思う水輝の胸の片隅には既に答えは浮かんでいた。疑問に感じる余地などない。本当に氷龍神が蘇ったのなら、世界の目的などただ一つだ。
あの時と同じようにか。水輝は低く吐き捨てた。
この辺りから水輝が完全に別行動になります。
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燃える怒りの炎 1
すみません……。ちょっと思い出して……。
エロシーンはありません。
見えない障壁が消える。優一郎は寒さに震えながらゆっくりと歩を進めた。今は光も殆ど見えない。淡い仄かな灯火のように紅い光が残っているだけだ。優一郎は誘われるように光を目指して歩いた。
やがて人影が見えてくる。ぼんやりとした光に包まれるようにして立っていたのは立城とあの機体だった。そして立城の腕には誰かが抱えられている。どうやら少年らしい。誰だろう。そう考えてから優一郎は目を見張った。少年の姿をしているが、それは紛れもなく絵美佳だ。そのことに気付いて優一郎は慌てて立城に駆け寄った。
立城の腕に抱えられ、絵美佳は寝息を立てている。優一郎は思わず胸に手を当てて息を吐いた。
「大丈夫。今は眠っているだけだから」
立城が微笑みを浮かべて頷く。優一郎も何とはなしに頷き返した。どうしてここに絵美佳がいるのかは判らないが、とりあえず命に別状はなさそうだ。
「いったい、何があったんですか? 揮われた力の量が異常です」
チェッカーは針を振り切るどころか、その力の大きさに耐えかねて壊れてしまった。少なくともこれまで計測しようとしたことのない大きさの力が揮われたことは間違いない。優一郎は訝りをこめて立城を見た。続いて少女を見る。この少女は地下に眠っていた機体だ。目覚めの前とは少し顔つきが変わっている。作った時のままの優しげな面立ちではあるが、視線はあくまでも冷たい。浮かんでいる表情も決して穏やかとは言いがたいものだ。実際の顔形が変わらなくても、それだけで機体の持つ印象は以前とは全く異なっていた。
苦笑のようなものを浮かべ、立城が空を仰ぐ。降りしきる雪にその身を晒している立城を見ていると、何故か落ち着かなくなる。質問をしたのは自分なのに、その答えを聞きたくなくなってしまう。優一郎は自然と俯き、彼らから視線を外した。
「転生の輪廻から外れて彷徨っていた魂をね。断罪したんだよ」
事もなげに立城が告げる。弾かれたように顔を上げ、優一郎は立城の腕の中で眠る絵美佳を凝視した。紅い光に照らされているからはっきりとは判らないが、絵美佳の顔色は余りよくない。もしかして断罪されたのは絵美佳なのだろうか。
口には出さなかった優一郎の疑問に応えるように立城が首を振る。
「肉体的には絵美佳さんだったんだけれどね。……その点については詫びなければならないかな。それなりの負担はかかっただろうし」
それから立城はここであった出来事を語り始めた。意外なほどそっけない言葉の連なりで構成されたその話は、実に端的に事実だけを述べていた。それ故に優一郎も自分がまるで機械になってしまったかのように錯覚しそうになった。淡々と必要事項だけを入力されている気分とでも言えばいいだろうか。そう感じさせるほど、立城の言葉には温度がなかった。本当に感情のこもらない言葉を聞いたのはこれが始めてだ。優一郎は話とは全く別のところに感心していた。
立城の弟の真也の魂は、絵美佳の魂の隙間に無理にねじ込まれた。それが始まりだったのだと立城は語った。だがそうしなければならない理由が絵美佳の方にもあったいう。絵美佳は誕生した時、とても魂が脆弱でそのままでは生きてはいられなかったという。絵美佳を生かすため、という表向きの名目で真也はこの世に降ろされた。
話を聞きながら優一郎はようやく理解できた。絵美佳が急にペニスを生やしてみたり、性別が変わったりしたのは、彼女が紫翠の魂の一部を持っていたからではない。その肉体にねじ込まれた真也が原因だったのだ。
真也は既に冥界に旅立ったという。だがそれならどうして絵美佳の身体は女性のものに戻らないのだろう。優一郎は思った通りに疑問を口にした。すると今度は立城ではなく、少女の方が反応する。
「これは元々、男だった。肉体的にも魂も男性だったのだが、補填の意味でこめられた別の魂の影響を受け、性の別を変化させたようだ」
脆弱な魂が最後の希望を求めて肉体の質を変化させる。その過程の説明をした少女の表情はぴくりとも動かない。優一郎は疲れたため息をついてそうですか、と返した。実際、様々なことが重なり過ぎて優一郎は肉体的にも精神的にも疲れ果てていた。それでなくとも巨大ロボットの製造は遅れている。期日が迫っているという焦りも加わって、優一郎は疲れている上に珍しく苛立っていた。
さらにこの始末だ。優一郎は歯軋りしたい気分に駆られながら息をついた。確かにこの緋色の彼女の目覚めは望んだ。絵美佳が変質してしまった理由についても知りたいとは願っていた。だが、決してこんな形での答えを求めていた訳ではない。
不意にぐらりと視界が揺れる。気付くと優一郎はその場に腰を落としていた。濡れた地面に胡座をかいて二人を交互に見やる。
「優一郎くん?」
柔らかな立城の呼びかけに優一郎は唇を歪めるだけの返事をした。その腕にはまだ絵美佳が納まっている。
たまにキャラがぶれます。すみません。
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燃える怒りの炎 2
エロシーンはありません。
「大丈夫かい?」
問われて優一郎は小さく頷いた。濡れた地面は嫌に冷たく、冷え切った身体を更に冷やそうとする。風邪をひくかも知れない。そんなことを考えつつも優一郎は腰を上げようとはしなかった。身体のだるさも手伝って、考えることすら億劫になる。深い息を吐いて優一郎は二人に力ない笑みを向けた。
追い越そうと真剣に考えているのに総一郎は未だ、優一郎の手の届かないところにいる。父親が自身の最大のコンプレックスであると気付いた時から、優一郎は精神的に少しずつ疲れていた。父親を追い越そうとしている本当の理由が嫌でも判ってしまったからだ。
由梨佳と絵美佳が自分の中に総一郎をみていると知ったとき、憎悪にも似た激しい感情が優一郎の心に芽生えた。だがそのことに優一郎はずっと気付かないままでいられたのだ。風の主に本音を引き出されるまでは。
「そんなところに座っていると風邪をひいてしまうぞ。ただでさえ濡れているんだろう?」
意外にも優一郎にそう声をかけたのは少女の方だった。
「そうですね。部室に戻って一眠りさせてもらいます」
口ではそう言いつつも優一郎には既に立ち上がる気力がなかった。少女がため息をつきながら近づいてくる。腕を取られた瞬間、優一郎は反射的に少女の手を払いのけた。
「……手を貸そうとしただけなのだが」
間近に見てもその機体の出来栄えは素晴らしい。見た目にはとても機械とは思えないくらい、人に近い姿をしている。そんな少女は優一郎の傍に片膝をつき、伺うような目をしている。払われた手をちらりと見つめる様も人と何ら違いない。
だがこの機体にこめられているのは人とは全く別の力だ。立城は前に龍神は力で出来たものだといった。入れ物は違っていても、やはりこの少女も力で構成されているのだろう。
人と龍神を差別し、対応を変える気はない。生きている存在という意味では人も龍神も、そしてハンターと呼ばれる彼らも同じだからだ。が、この時の優一郎は疲れきっていた。自然と少女に対する態度もきつくなる。
「部室荒らしの張本人の手を借りるつもりはありません」
要が赤い女、と称したのがこの少女だということは判っている。優一郎は冷ややかにそう言いきって地面に手をついた。なけなしの気力を奮い起こして何とか立ち上がる。
地下にある優一郎の私室とも言える研究室から地上に抜けるには、幾つかのセキュリティシステムを解除しなければならない。その方法をこの少女が知っていたとは思い難い。となると、少女は少なくとも二箇所以上の防壁を実力で突破したに違いないのだ。その際に何も壊れていなければ問題はない。だがどう見てもこの少女がそんな穏やかな方法で地下から脱出したとは思えないのだ。
優一郎の厭味に少女は殆ど反応しなかった。僅かに眉を上げただけだ。
「一応、これでもわたしには名前があるのだがな」
「それはそうでしょうね」
そっけなく告げて優一郎は少女の横を過ぎようとした。呆れたようにため息をついた少女がささやかな声で名乗る。優一郎はふと立ち止まって振り返った。
火龍神、火藍。少女の名前は確かに耳に入った。その筈なのに優一郎の胸の奥には全く別の名前が思い浮かんでいた。
「僕は吉良優一郎です。一応、あなたの作り主ということになりますね。ですが、マスター登録はしていません。どのみち、僕に設定していたとしてもあなた方は勝手に変更してしまうのでしょうし」
苛々しながら優一郎は解説してみせた。そんなこと、本当はどうでもいいのに。少なくともこの時の優一郎は何もかもが嫌になっていた。これから部室に行って被害状況を調べなければならない。多輝や由梨佳の機体の修理もする必要がある。ロボットのこと、栄子のこと、要のこと。葵のことも無視する訳にはいかない。考えを素早く巡らせた優一郎は苛立ちに任せて息を吐いた。濡れた髪をなでつけて伏せていた目を上げる。
無意識のうちに優一郎は鋭い目つきになっていた。
「その上、この騒ぎですか。実に不愉快ですね。今くらい、僕の目の前から消えてくれませんか」
そう言った後、優一郎は胸に浮かんだ名前を無意識に口にした。その瞬間、耳の奥で甲高い音が鳴る。耳障りな音に驚き、優一郎は伏せがちになっていた面を上げた。反射的に周囲を見回す。
さっきまで確かにいたのに。優一郎は唖然として火藍がいた場所を見た。そこには火藍はいない。
「参考までにどうしてその名を知り得たのか訊きたいところだけれど、また今度にするよ。とにかく君は早く休んだ方がいいだろうしね」
淡々とした声が背後から聞こえてくる。優一郎はゆっくりと肩越しに立城を見返って微かな嗤いを浮かべた。立城は相変わらずの微笑みを浮かべている。だがどうしてだかそんな立城は無表情に見えた。何の感情も表していない気がする。優一郎は唇だけで嗤ってから、そうですね、と答えようとした。
ぐらり、と視界が揺れる。滲んだ視界の向こうから真っ白な雪が飛び込んでくる。優一郎はその場に力なく崩れ、意識を失った。
優一郎は意識なくしたまま終了というね!w
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凍える魂 さよならのあとで
少しながいですが一気にアップです。
エロシーンはありません。
真っ白な天井が目に留まる。しばしぼんやりと天井を眺めてから絵美佳は飛び起きた。真っ先に自分の身体を腕で抱きしめる。間違いない。意識が肉体に戻ってきている。そのことを確認し、絵美佳は深々と息を吐いた。
ほんの一日、二日のことなのに随分と長く感じられた時間だった。夢なのか現実なのか、その境界の曖昧な場所で絵美佳は眠るように丸くなっていた。自分の代わりに表面化していた真也の心情が手に取るように判った。自分では見ていない筈のことが見え、聞こえる筈のない声が届く。絵美佳は疲れた息を吐いて目を覆った。
他の何も要らないと狂気じみた思いを吐き出していた真也のことを考えてみる。既に真也の魂は自分の中にはない。だが、あの時に感じたものは生々しく絵美佳の胸に残っていた。本当の思いを隠すため、残ったなけなしの力を集め、真也はあえて自分の心に蓋をしたのだ。
そんなことをしても意味がないのに。そこまですることなんてないのに。夢と現実の狭間で絵美佳はそう思った。真也にとって立城がどれほどの存在なのか、正直なところを言えば判らない。そして立城が真也に何を求めていたのかも、彼らがどんなつながり方をしていたのかも理解は出来ない。そもそも、彼らが実際に生きていた時代に絵美佳はまだ生まれていなかったのだ。理解しようにも出来る筈がないし、当人でない自分が例え彼らと直接に知り合っていたとしても、事情は恐らく一端しか判らなかったに違いない。
それでも絵美佳は真也に言いたかった。そんなことをしても無駄なのだと。
最初は真也の存在を疎ましく思った。絵美佳にとって真也は単なる邪魔者でしかなかったからだ。事情がどうであれ、自分の行動を妨げる者に好意など持てはしない。絵美佳は真也の魂に気付いていながら、あえて知らん顔をした。どのみち無視し続けていればいつか諦めるだろう。実際、死に損ないなのだから、早々に出て行ってもらわなければ困る。最初は絵美佳はそう思っていたのだ。
だがある時、ふと気付いた。絵美佳が真也の存在に気付いたのはここ最近のことだ。何年も前ではない。不思議に思った絵美佳はいつもは無視していた真也に訊いてみた。
あんたさあ。俺が気付くまで何してたんだよ。
すると真也は笑う気配だけを絵美佳に伝えてきた。つまり真也は絵美佳が気付くまでの十数年、無言を貫き通していたのだ。決して自分から絵美佳に働きかけるようなことはせず、ただひたすら絵美佳が気付くまで待っていたのだ。それに気付いた絵美佳は呆れ果てた。龍神にとってどうなのかは知らない。が、人の十数年は短くない。同じ時間があれば色んなことが出来る。
呆れた気長さだな。真也の答えに絵美佳はそう返した。
それからだ。真也は少しずつ絵美佳に情報を明かし始めた。最初は穏やかな当り障りのない程度のことだった。最初に龍神が生まれた時の話や、群れを成して空をゆく話。それらは絵美佳が一人で眠りに落ちる前や、ふと気を抜いた時に語られた。感情のない話し方だったからだろうか。真也の話は最初はお伽噺にも似ていた。
やがて話が現在に近づいてくる。知らない内に絵美佳は真也の話に引き込まれていった。八大と呼ばれる龍神について聞いた時、ふと絵美佳は問い掛けた。龍神たちの頂点に立つ、その八人を誰が選択するのだろう。そう訊いた時、真也は初めて困ったような思惟を返してきた。
強いて言えば世界、かな。
それが真也の答えだった。が、言葉以外の意味がその答えにはこめられていた。真也自身もその疑問についてははっきりとした答えを持ってはいないのだ。
真也の魂が内に入っていたからなのか、絵美佳もある程度の事情は先に知り得ていた。気付いていない間も真也の記憶が自然と少しずつ漏れていたからだ。だから真也の話も理解しやすかった。
なのにその一点がわからない。どうしてだろう、と絵美佳は自問してみた。龍神の持つ龍宝珠と呼ばれる宝玉も全部で八色。そして八大の名の通り、頂点に立つ者たちも八人だ。
その数字に特殊な意味があるのだろうか。そう考えを巡らせている間、真也は絵美佳に話し掛けなかった。今から考えるとまるでわざと絵美佳に考えさせていたようだった。だがその時の絵美佳は真也の意図には気づかなかった。
様々な話を聞いた。次第に物語は現実味を帯びてくる。真也が生まれた頃にまで話が進むと、絵美佳にとってそれは他人事ではなくなった。何しろ、話を聞いている最中も真也の魂は自分の中にあるのだ。どんな経緯があってこんなことになっているのかを知りたいと思うのは当然の成り行きだった。
そうだ。あんたに謝んなきゃなんないことがあるんだ。
ふと、話を中断して真也がそんなことを言い出したのは数日前のことだ。
俺のせいであんた、生まれた時に女になっちまってたんだ。けっこう生き難かったんじゃないか?
詫びた真也に絵美佳は苦笑した。真也が言ったことが真実ではないと知っていたからだ。自分が女で生まれた原因の一端は確かに真也だろう。だが本当はそれだけではない。
女の身体でなければ耐えられなかったからだ。絵美佳が女として生まれたのは、ある意味では絵美佳自身の魂が選択した結果だ。だから謝る必要などどこにもない。絵美佳は思ったままを真也に伝えた。すると真也は困ったように笑った。
目の前にいたらいい友達になれていたかも知れないのに。その時のことを思い返しながら絵美佳は小さく息を吐いた。
世界と名付けられたそれには明確な意思があるのではないか。八という定められた数字には何らかの意味がある。だがそれらのことをはっきりと解明するには、時間がかかる。
絵美佳が考えた末に出した答えを真也は求めなかった。もしかしたら最初から真也は別の誰かのために答えを出させたのかも知れない。あくまでもそれは仮説でしかない答えだったから、絵美佳も真也に告げようとは思わなかったのだ。
誰に聞かせるつもりだったのかな。絵美佳は手の中で目を開いて掠れた声で呟いた。息を吐き、目を覆っていた手を退けると天井の白さが目に染みる。思わず顔をしかめて瞼をこする。それだけの動きをしただけなのに、身体がまるで他人のもののようで変な気分だ。
ゆっくりと身体を起こす。一心不乱に立城だけを求め、狂った叫びをあげ続けていた真也はもういない。絵美佳は俯いて何気なく両手を見下ろした。少し前までこの手が立城を抱きしめていたのだ。身体は機械仕掛けのものであっても、中にこめられたものは本物だった。立城は自分の意識の大半を機械の中に封じ込めていたのだ。そうでなければ、たとえ真也が心に蓋をしていたとしても、本人と勘違いをすることはなかっただろう。そして器が違っていても中身が本物だったからこそ、真也は最期まで騙された振りをし続けられたのだ。
最後に真也は絵美佳に詫びた。魂が真紅の光に貫かれる直前、ごめん、という言葉だけが絵美佳の胸に届いた。恐らく、あの紅い断罪の主や立城は気付かなかっただろう。同じ器にいたからこそ絵美佳にだけ聞こえたのだ。
その一言にこめられた思いを考えるとやるせない気分になる。全てを無視し、敵に回すやり方で真也は立城との再会を果たした。確かに真也が器の表面に出ている間、絵美佳はそのやり方に怒り狂っていたのだ。絵美佳の怒りを買い、さらに真也は水輝に手を出した。剥き出しになった狂気に任せて水輝を道具として使ったのだ。当然、水輝もあの瞬間は怒っていただろう。
本当は黙っていれば決して判らなかっただろうに、最後の最後で真也は立城に声をかけてしまった。そのことで立城は真也の真意に気付いた。断罪の主は迷うことはなかっただろうが、少なくとも真也が何を考えていたのか、ほんの一端でも知ってしまっただろう。その上で断罪ということについて考えずにはいられなかった筈だ。
それら全てのことを踏まえた上で出た言葉だったのだ。それが絵美佳には痛い程によく判った。だから言いたかったのだ。どんなに偽っていても結局は全てが明らかになるのだと。
「無駄だって言ったのに」
短い髪を指ですく。髪の長かった時の癖がまだ抜けない。絵美佳は思わず苦笑して再び手を見下ろした。細かった指は少しだけ太さを増している。何気なく絵美佳は手を隣のベッドに翳してみた。真っ白なこの部屋は恐らく病院内にあるのだろう。そして隣で穏やかに眠っているのが優一郎だということも、絵美佳は知っていた。
手を下ろし、絵美佳はベッドから滑り降りた。今日が何日で何曜日なのかが全く判らない。一体、あれからどのくらいの時間が経っているのだろう。急がなければ予定に間に合わなくなる。
そうだ、と絵美佳は部屋を出る直前に振り返った。足音を殺して優一郎に近づく。眠る優一郎をじっと見つめ、絵美佳は目を細くした。
残り香のように気配が読み取れる。今までは真也が封じていたのだろう。絵美佳はいつの間にか、これまで意識したことのなかった様々な気配を読むことが出来るようになっていた。
火龍神と木龍神、ついでに風龍神ね。内心で呟いて絵美佳はひっそりと笑った。どんなに彼らが意識して気配を消していても、匂いまではなかなか消せないものだ。同族のそれをかぎ分けた絵美佳は静かに優一郎から離れた。
壁にかかった鏡に絵美佳の姿が映る。鏡の中の絵美佳の髪の色は青みかかった白色へと変わっていた。そんな自分の姿を目で確かめ、絵美佳はふん、と鼻で笑った。総一郎の血のためだろう。目の色は少し薄くなってはいるが、さほど前と変わらない。
そういえば、戸籍も何とかしないとならないかな。鏡を見つめて絵美佳は小さく呟いた。性転換しましたと言えば大抵の者は納得するかも知れないが、どこから足がつくか判らない。先々のことを考えると、やはり新しく戸籍を用意する方が無難だ。悪事を働く気はないが、どうせごちゃごちゃとした法律のどこかに引っかかることくらいにはなるだろう。
額に手を伸ばす。眠る優一郎を振り返ることもなく、絵美佳はその場から消えた。
ここまでお付き合い下さった方々ありがとうございます!
次の話も長いです!w
良かったらお付き合いください。
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番外
魂の座 凍えた魂 番外
蛇足かと思いましたがー。ネタバレいってみたいと思います。
削除対象になったらごめんなさい。いきなり消えるかも知れません。
(Q&Aが削除されていないので大丈夫とは思うのですが一応……)
まずは登場人物の紹介から。
ここでかよ、という突っ込みはなしでお願いしますw
■吉良優一郎関係
○
本編主役のひとり。
とある事情からメカ子大好きで仕方ない性癖の持ち主。
今回は生身とエロってますが、基本的にはメカのが好き。
ヒューマノイドの研究者のひとりでもある。
父親は吉良総一郎。母親は吉良由梨佳。姉は吉良絵美佳。
後々、家庭は崩壊するけども、今はまだギリギリ大丈夫!★
ちょー能力戦によく巻き込まれる。
龍神の存在を知ってるひとりでもあったり。
○
本編主役のひとり。
本編初期でいきなりアナルセックスとか、けっこうヤバい感じにキテるキャラである。
身体はヒューマノイドで言葉遣いは男なんだが、心は乙女?w
龍神という種族? のひとりでもある。
TSしたら残念な性格というか、おっちょこちょいというか、優一郎にはそこが可愛く見えるぽい?
段々と斎姫の枠を食ってる感がパネエ。
吉良瀬立城が育ての親。
今回は天輝という名前を定着させようと、立城や由梨佳が頑張っているのに、地の文と本人がそれを裏切っているというていたらく。
○
段々と可哀想枠になりつつある。
ヒューマノイドのひとり。
今回も色々大変である。なめぞうに好かれているぽい。
吉良瀬の姫とも呼ばれている。
周囲が完全にモブ化しているので書かれてないけども。
○
主役のひとり。優一郎の姉。
前作ではアヤシイのが生えただけだったが、今回は完全にTSしている。
一歩間違えればマッドサイエンティスト。
男の時の名前は神江羅木。
研究者ではあるのだが、優一郎とは違ってヒューマノイドだけではない。
アレコレ手を出してるらしい。
今作では巨大ロボを製作している。
○
絵美佳の作ったロボの操縦者。
作者もうっかり忘れがちだが、心も体も機械のアンドロイドである。
絵美佳のお気に入り。
■如月要関係
○
もう一体の巨大ロボの搭乗者。清陵高校の生徒会長である。
その地位を利用して好き放題しているように見えるが、実は文武両道のお嬢様。
いつも付き人をつれている。
○
要の母。
今回は順に嵌められて色々と酷い目に遭う。
○
○
二人とも要の従者。
エッチの手伝いもするw
■龍神関係
○
ほぼ諸悪の根源。
青龍王とも呼ばれているヤバい強さの龍神のひとり。
TSするのは龍神の仕様。
本作でほぼ完全復活している……はずである。たぶん。なのに立城と手合わせで負けかけてるのは、気のせい。
ていうか、中身立城じゃなかったし!(逃げ
今回も派手にBL的にやられている。最早、お約束になりつつある。
○
吉良瀬財閥当主。見た目は20代前半って感じの好青年。
龍神のひとり。この時点では木龍神……のはず。
多輝や斎姫の育ての親。
水輝を完全に男に戻すために無茶苦茶したのだが、そんな真似するからヤバい目に遭うんである。
本作では多輝を何とか天輝にするために色々しているのだが……。
木村順とは腐れ縁なのに敵対関係にある。……はずである。
○
『冥界への案内人』の主人公。木村財閥当主。
ハンターのひとり。
都子の兄。
今回は偽名を使いまくって無茶をしている。
好きに動いているのだが、周囲から見ると意味不明で何をしたいか全く判らないキャラ。
○
復活! したのはいいのだが、順に相変わらずこき使われている。
風龍神のフェイクである。
順を敬愛しているので他の男は目に入らない。
○
龍神のひとり。
翠という名前の通り、髪とか目とか翠色。
そういえば龍神にはそれぞれカラーがあったりする。
水輝は青、立城は紫。こいつは翠。
時を司る龍神。
言葉が足りないので水輝の怒りをよく買う。
○
ぼんくらこく。
○
龍神のひとり。
火を司る。髪とか瞳が緋色。
断罪の主とも言われている龍神。
ヒューマノイドの機体に入ってる状態。
■ストーリーとか
前回の夢の隙間同様、好き放題書いたものです。
超カオスなので言い訳はしません!w
投稿生活に疲れて云々、は前に書いたので……。
今回は巨大ロボの出番がちょっとしかなくてすみません。
魂の座のどこかでバトルのでご安心を。
多分、最後辺りじゃなかったかな……。
途中で何度か実験とかでロボットは出てきます。
操縦方法がえげつねーですけども。はい。
■エロ足さないの?
……これ以上足すのは色々と無理が……。
割とマックスで入っていると思います。
あ、でもBLというか、カオスのならエロが酷いのが後々出てくるかも知れません。
ずーっと先になりますが。
■この後
魂の座は四部構成なので、今後もまだ続きます。
『魂の座 凍えた魂』で1/4です。本当に長いのでお付き合い頂けるものなのかどうか、自分でも判りません。
でも更新は続けたいと思います。
今のところはこんな感じでしょうか。
後に何か出てきたらまた付け足します。
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