インセクター羽蛾「え?オレが聖杯戦争に召喚されたんだって?」 (妖怪もやし)
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1話 オレの伝説の始まりだよ。ヒャッヒャッヒャ
side 雨生龍之介
「閉じよ(みたせ)。 閉じよ(みたせ)。 閉じよ(みたせ)。 閉じよ(みたせ)。 閉じよ(みたせ)。 繰り返すつどに五度。 ただ満たされる刻を破却する」
俺は前から目をつけていた家に忍び込み、その両親を殺し終え、ふとした興味から、魔術の儀式ってヤツを試していた。
「――告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーーー!!」
うんうん、良いねぇ。
テンションが上がるオシャレな口上だ。
人を殺したあとのハイな気分の俺は、ノリノリで決められた言葉を述べていた。
…なんだ?
緑色の服を着たメガネのチビが、召喚陣から現れていた。
こんなガキが悪魔?
なんかテンション下がるなぁ…。
まぁ良いや、ここは呼び出した者として、コミュニケーションでもとるとするか。
そうして口を開きかけた時、俺が見たのは、人間ほどのサイズの虫だった。
食われる。
そう確信した。
…あ。
い、やだ、死にたくない。
それが、今まで多くの人間を殺してきた俺が最後に抱いた、ごく平凡の感想だった。
side インセクター羽蛾
「つまんない場所だねぇ~。 オレはこんなトコに居たくないよ」
生理的に嫌悪感が走るような場所に呼び出された俺。
なんでこんなコトになってるのかなぁ~?
とりあえず、この惨劇を起こしたと思われるヤツは、「レッグル」のエサにしておいたよ。
生きていても周囲に害しか与えず、反省も償いもしない、どうしようもないヤツな気がしたからさぁ。
「な、なんなんだよコレ…。 お前も人殺しの仲間なのかよ!」
「あ~ん? なんだお前は」
「こっちが聞きたいよ! 返せよ! 俺の父さんと母さんを返せよ!」
「うるさいなぁ~。 オレが殺したワケじゃねぇっつうの。 これでも喰らっときな!」
詰め寄ってくるガキの顔に、なぜか手元にあった虫型のウォーターガンを放つ。
アニメ順序だよ。
原作のアレは、真似する子供が出たら危険だからねぇ。
見たところ、いまレッグルのエサにした男に殺されたと思われる死体の、息子って感じか。
ま、カワイソーだけど、俺にはどうすることもできないなぁ~。
なにか喚いているガキの元を離れ、家の外にでる。
あのガキ、そこそこ正気は保てているみたいだし、落ち着いたら通報でもするだろ。
さーて、俺の一先ずの目標はっと…。
「マスターが必要だな。 でも、なんかウザかったから殺しちゃったしなぁ~。 新しいマスターでも探すか…。 ん?」
なんか強力なデュエル・エナジーを感じる。
オレは直観の赴くままに深夜の街を歩き、目的の街にたどり着いた。
お高そうな洋館だなぁ~。
今日からここが俺の拠点になると思うと、良い気分になるよ。
ウッヒャヒャヒャ。
門を壊し、堂々と中に入る。
途端に、得体のしれない連中が襲ってくる。
この「間桐家」の使役する使い魔ってトコか。
ま、オレの可愛い蟲モンスターたちの敵では無かったよ
ヒーヒャヒャヒャ!
地下室に入ると、怪しげな儀式をしている連中が。
「な、なんだこのガキは!」
「構わん雁夜。 殺せ」
「死ぬのはお前らだよ。 ヒャーヒャッヒャッヒャ!!!」
俺は女王様を召喚し、蟲じじいと、サーヴァントを召喚したばかりで疲れ切っている男を食い殺させた。
ソイツのサーヴァントは俺に挑みかかってきたが、調子でも悪かったのかなぁ~?
女王様の敵じゃあ無かったよ。
コイツラを食べることができて、女王様が喜んでるみたいで、俺も嬉しいよ。
ヒャヒャヒャ!
蟲じじいは女の子の身体の中に潜伏してるらしいねぇ。
小賢しいマネを使うじじいだ。
嫌がる少女を押さえつけ、俺の「トゲトゲ神の殺虫剤」を口から噴射したら、始末できたよ。
あっけないなぁ~。
良い読者の諸君は絶対に人にやっちゃダメだよ。
この日本チャンピオンのインセクター羽蛾様との約束だ!
「ああ、居た居た。 キミだよ、ボクの目当てはさぁ。 会いたかったよ、お姫様」
「こ、来ないで…」
「怯えるコトは無いよぉ~。 オレ、女の子には優しいから。 特に君は…オレのマスターなんだからさぁ。 ヒャーヒャッヒャッヒャ!!」
「何なの…あなた、あなたは一体なんなの!?」
「オレはインセクター羽蛾! 最強のデュエリストであり、君のパートナーさ。 ヒャーヒャッヒャッヒャ!!!」
俺は少女と平和的な話し合いを終え、契約を結ぶことで合意した。
この女の子からは、強大な魔術の素質を感じるからねぇ~。
実を言うと、今までカードを使ってきたせいで、もう存在を保っているだけで精一杯だったんだよね。
この子がマスターなら、俺の力を最大限に使えるってわけさ。
「さぁ、この聖杯戦争…勝ちに行くよ! ヒャーヒャッヒャッヒャ!!!!」
「うん…。 分かりました…。 私、間桐桜は、貴方と共に勝利します!」
「良い宣言だ! 嬉しいねぇ~、オレ達、相性バツグンってヤツ? ウヒャーッヒャッヒャ!」
続く
☆バーサーカーのマスター 間桐雁夜 死亡
バーサーカー(真明ランスロット) 消滅
間桐臓硯 消滅
雨生龍之介 死亡
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2話 ライダー君の呼びかけに応じて、参上してあげたよ。ヒャッヒャッヒャ
side インセクター羽蛾
「ひょ? ☆5以上のモンスターを召喚するには生贄が必要?」
「はい。 知らなかったんですか?」
「や、やだなぁ桜ちゃんってば。 知っていたに決まってるだろ? ジョークだよジョークゥ~」
「はぁ…」
し、知らねー…。
くそう、デッキを組みなおすか…。
「ん? なんか倉庫街で戦いが始まってるじゃないか。 騎士と騎士の戦いなんて、なんかロマンを感じるねぇ~」
「そうですね…」
「ひょひょ? なんか変なヤツが現れたぞ?」
「良いトコロだったのに、空気が読めない筋肉デブさんですね」
「そうだねぇ~。 あれ~。 なんかウザい事を言い始めたなぁ、コイツ」
「下らない…。 こんな呼びかけに応じるバカなんて居ませんよ」
「ここに居るよぉ~」
「え?」
「じゃ、行ってくるから。 魔力供給は頼んだよ」
「ちょ、ちょっとインセクター羽蛾さん!? 行っちゃった…。 あの人で大丈夫なのかな…」
side 衛宮切嗣
「聞けぇい! 日和見を決め込んでいる英霊共よ! 貴様らはこの誉れ高き騎士たちの戦いを見てもなお、姿も見せず、その力も振るわずにいると言うのか! 情けない、情けないのぅ! この征服王イスカンダルから見れば、貴様らの姿は実に小さく見える!」
僕は狙撃銃を構え続けながら、苛立ちを抑えるのに懸命になっていた。
ランサーのマスターを始末したいところだが、アサシンの暗躍が鬱陶しい。
それに、アサシンが居なかったとしても、あのエルメロイを仕留めるのは簡単なことでは無い。
まぁ、あの手段を使えば、典型的な魔術師であるヤツを葬る事も可能だがな。
ライダーの妄言など論外だ。
まともな性格のマスターとサーヴァントなら、あんな見え透いた挑発に乗る筈がない。
下らない。
これは戦争。
そこにあるのは、石器時代から何も変わらない、血なまぐさい殺し合い。
エゴの通し合いだ。
それに、僕が召喚したサーヴァントの語る下らない騎士道や、征服王を名乗る侵略者のいう美学などはありはしないのだ。
…その筈、なのだが…。
「ヒョーッヒョッヒョ! では、お言葉に甘えてきてあげたよ」
馬鹿な…。
正気か、あの男…。
「…セイバーにランサーよ。 この結界には不備があったようだな。 子供が迷い込むとは」
「いや…ライダー。 そう思いたい気持ちは分かるが、あれは本当にサーヴァントのようだ」
「…世も末だな」
「子供? 子供がこの戦争に迷い込んだのかい? それは大変だなぁ~。 一刻も早く保護してあげないと! ヒャッヒャッヒャ!!」
「「「お前のことだ」」」
「ぴょー!!」
…頭痛がする。
目の前でコントのようなやり取りをしている連中が、歴史に名を遺した英霊だと?
それに、あのいかにも小物という雰囲気の小男…。
僕自身、戦場の中で少年兵を幾度も見てきたが、あの男からはそういった迫力が微塵も感じられない。
「我を差し置いて王を名乗る不埒者が居たと思えば、道化が現れたか。 この聖杯戦争も底がしれたものだな」
「ほう、役者がさらに一人現れたか」
「ピョピョー? 道化なんてドコに居るんだい? オレさぁ、サーカスとかあんまり行ったこと無いんだよねぇ。 その道化さんに会って、一つ芸でも見せてほしいモノだよ」
この眼鏡をつけた子供にしか見えないサーヴァントは、どこまで本気なんだ…。
全てを投げだしてしまいそうになるのを懸命にこらえ、狙撃銃を構え警戒を続ける。
「道化、あまり調子に乗るな。 王の不興を買った道化がどうなるか、この極東の島国の者でも知っているだろう」
「あれあれー? 道化ってもしかしてオレの事なのかなー? 酷いことをいう金ピカさんだよ。 ヒャヒャヒャ」
「…貴様」
「…で、眼鏡の小僧と、金色の王よ。 一つ名乗りでもあげては貰えんか? コレでは話が進まぬ」
脱線に脱線を重ねる展開にうんざりしたように、ライダーが問いかける。
「貴様ら雑種ごときに、我が名を名乗る必要はない」
「ケチな金ピカさんだなぁ~。 オレは堂々と名乗っておくよ。 オレはキャスターのサーヴァント、インセクター羽蛾サマだ! ヒャーヒャッヒャッヒャ!!! 恐れ入ったか!!」
「…知ってるか?」
「知るわけないだろ」
顔を見合わせるセイバーとランサー。
戦の最中に、さっきまで剣戟を繰り広げていた相手と知識の確認か。
反吐がでるよ、騎士王サマ。
「キミ達さぁ~。 オレの事、舐めてない? オレさぁ、この国のチャンピオンなんだよね。 ヒャッヒャッヒャ! サインでもあげようか?」
「こんな小男が王か…。 この国も終わりだな」
「失礼だなぁ~。 良いよ、イケメンの騎士クン。 君を倒して、俺の存在の素晴らしさってヤツを証明してやるよ」
「やれるものならばやってみろ。 我が剣の錆にしてくれる。 セイバー、この戦い預けたぞ」
「ああ、構わないランサー。 場に相応しくない小物を排除してくれ」
すっかり仲良しモードだな。
だが、まあ良い。
これでランサーがあの男を排除すれば、サーヴァントが一騎、脱落する。
先日、アイリスフィールから一騎のサーヴァントが脱落したと知らされた。
退場したのはバーサーカー。
察するに、魔力量の多さによるマスターの自滅か…。
だとすれば、あのキャスターを倒せば、合計で二騎のサーヴァントが消えることになる。
これ自体は僕にとって理想的な展開。
サーヴァント同士のなれ合いは目に余るがな…。
そんな僕の想像は、半分だけ実現することになる。
確かに今夜、さらに一騎のサーヴァントが脱落した。
だが、そのサーヴァントはキャスターではなく…。
「ら、ランサーが死んだ!」
「ヒャーヒャッヒャッヒャ! 君たちさぁ~、歴戦の英霊の割には大したコト無いね。 『人は見かけじゃない』。 そんなコトさえ知らないんだからさぁ~! ピョピョー!!」
事の流れを、再確認する。
キャスターは「代打バッター」とかいうふざけた名前の蟲を呼び出し、ランサーはそれを容易く切り伏せた。
途端に、代打バッターの死体から巨大な蟲が召喚されたのだ。
ランサーは果敢に立ち向かったが、その強靭な皮膚に攻撃は通じない。
その間にキャスターはさらなる蟲「ビック・アント」を呼び出し、巨大な蟲にそいつを食べさせたのだ。
共食いによって力を増した巨大な蟲「インセクト女王」により、ランサーはあっけなく首を噛みちぎられ、絶命した。
血しぶきが舞い、ランサーの身体が巨大な蟲にくわれていく。
それを僕たちは呆然と見ていることしかできなかった。
「ひょひょー! これでバーサーカーに続き、ランサーまで倒しちゃったよ。 いやぁ~、オレって本当に強いなぁ~!!」
「ランサー…! ランサァー!!!」
「お、おいライダー、これって…」
「…ああ、あのキャスター、見た目通りの小物では無いようだな」
「つまらない戦力分析は終わったかい? さぁてと…」
緑の服を着たキャスターは、眼鏡の位置を指で直し、サーヴァントたちに向き直る。
「女王様がまだ食べ足りないってさぁ! さーて、次は誰がエサになってくれるのかな? ヒャッヒャッヒャ!!」
不敵な高笑いをするキャスターに、僕は自分の分析が甘かったことを再認識するのであった…。
つづく。
ランサー(真名ディルムッド・オディナ) 消滅
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3話 昆虫王の末路
side羽蛾
「まったく、シケた王様たちだよなぁ~。 あの後はあっけなく解散しちゃうし、城で何かコソコソとやってたみたいだし」
「貴方は行かなかったんですか?」
「カワイイ虫たちに探らせたけど、酒の臭いがしたらしくてさぁ。 遠慮したんだよね。 ほら、俺ってこう見えても決まりとかは守るタイプだし。 オレって未成年じゃん」
「…そうですか」
なんか傷つくなぁ、この子の反応。
ま、別に構わないけどね。
さーて、あの立派なお城で色々あった後、状況が動いたようだねぇ~。
ま、俺は静観させて貰おうかな…。
「おやおやぁ~? ライダーが逃げていくよ」
「羽蛾さん、どこに行くんですか?」
「ちょっと野暮用でね。 なぁに、すぐ済むさ」
オレは可愛い昆虫たちを引き連れ、その場を去った。
残された少女の思惑に気付くことも無く…。
「どけキャスター、今は貴様ごときに構っている暇はない!」
「ひょひょ~? 貴様ごとき? 驚いたねぇ。 相手を正確に評価できないなんてさぁ。 とても王サマの言葉と判断とは思えないなぁ~」
「っ…!」
「俺はさぁ、既に二騎のサーヴァントを葬っているんだよ? 騎士王サマ」
今、俺はお友達の救出に向かってるセイバーの前に立ち塞がっているよ。
何故って?
何となく気に入らないからさ。
ヒャーッヒャッヒャッヒャ!
「こりゃマスターをさらわれたのがよっぽど堪えてるみたいだねぇ。 まあ無理もないかぁ。 自分の不手際のせいで、何てさ。 どっかの出来事を思い出したりしてるのかな? セイバーちゃん?」
「黙れ!」
「おっとぉ!」
セイバーの剣により、俺の可愛い「カマキラー」が破壊される。
「ごめんねぇ、余計なコト言っちゃったかな? 聞き流してよ」
「安い挑発で相手をかき乱すか。 そう簡単に術中にいれられると思うなよ、キャスター!」
「まるで正義のヒーローだねぇ。 でもさぁ、俺たちはこうして召喚されて争ってる時点で同じ穴のムジナ。 本質のトコは変わらないくせに、正義のヒーロー面するんじゃねえ。 …なーんて、コレも言うつもり無かったんだよなぁ~」
煽り続けているうちに違和感を覚える。
俺が今している言動も行動も、どこかで行ったモノである気がする。
そんなコトとは関係なく、口も手も動いていく。
「セイバー、今日でお前には退場して貰うよ。 なぁに、安心しろって。 お前のマスターちゃんも、ライダーだかアーチャーだかも、俺がみんな殲滅して同じトコに送ってやるからさぁ。 ヒャッヒャッヒャ!」
「カマキラー」がやられている間に二体の生贄を用意して召喚した「インセクト女王」。
俺が信じるモンスターは、かつてランサーにそうしたように、セイバーの首を掻っ切った。
はずだった。
「ひょひょー!? な、何で攻撃が通じてないんだよ!」
「なにを勘違いしている?」
「ひょ?」
「お前がそんなに強いわけが無いだろう!」
その後、俺はセイバーに惨殺された。
俺のマスターだった少女は、俺が消したバーサーカーを再召喚して契約し、優勝。
聖杯を起動させ、なぜか冬木は滅んだらしい。
ま、俺はもう退場したから、関係は無いけどねぇ~。
ヒャーッヒャッヒャ。
おわり
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