AOGの狼人 (ガラクタ山のヌシ)
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プロローグ

 

 

 「フゥ〜。」

 

暗がりに一つ溜息をこぼす声がある。

 

チラリとコンソールの時間を確認するや

 

「楽しい時間が過ぎんのは、はえ〜やね。」

 

と、周りを見渡しながら銀色の毛の狼男がひとりごちる。

 

因みに人間形態ではなく筋骨隆々の獣人フォルムだ。

 

なお、理由はこっちの方がカッコいいから。

 

彼はユグドラシルというMMO RPGのプレイヤーである。

 

友人に勧められ、あれよあれよとハマり、自分の趣味全開でやると決意した。

 

その矢先に異形種狩りなるPK行為に晒され、助けられて流れでギルド勧誘されたので、願ってもないと了承したのだ。

 

キャラ付けや設定も自分なりに色々と用意して、ロールプレイしてみたり、その矛盾点をツッコまれて落ち込んだり、流石にイベントの時は出たほうがいいかなと思って、ギルド長に相談したら変なマスク渡されたり、正義大好きマンと、悪役ロールプレイに信念を燃やすフレンドの論争に巻き込まれそうになったり、本当に色々あった。

 

ただ、それもあとすこし時間が経てば、無くなるのだが。

 

金床にハンマーを置き、キセルで一服する。

 

ゲームの中だが、この所作はもうクセのようなモノだ。

 

お気に入りの丸いサングラスをクイっといじり、ギルド長にメッセージを飛ばす。

 

「モモさん、いいかい?」

 

「ロウさん、ちょうど良かった。」

 

嬉しそうな声色である。

 

 

ロウ、と呼ばれた男は聞き返す。

 

「どしたい?オレっち以外のメンバーが来てくれたのかい?」

 

「はい!ヘロヘロさんが無理して来てくれたんですよ!」

 

(ヘロヘロ…あぁ、あのドロドロか。)

 

とかつて共に轡を並べて戦った思い出がよぎる。

 

(ゲーム内でも出不精はいかんね。)

 

せっかく日常とは違う世界にいるってのに、普段と基本行動が変わらないのは思い返すと我ながら

もったいない気もする。

 

なんやかや、素材集めやら、作品の性能テストなどで、他プレイヤーを追い立ててもらったりなんだり、色々と手伝ってもらった覚えもある。

 

なかなか自室の工房から出ないロウに色々と気にかけてくれた友人達である。

 

極悪ギルドなどと言われつつ、個性派揃いの精鋭たちは色々ありながらも仲はわるくなかった。と思いたい。

 

「んじゃぁ、オレっちもこれから向かうから、ヘロヘロさんの方はサ終まで残れないようなら帰してやってくんな。」

 

どっこいしょ、と立ち上がる。

 

最後くらいは格好をつけたいしな。との考えからだ。

 

メカメカしい腕に、先程立てかけたものとは別の大振りのハンマーを担いで立ち上がる。

 

彼は、らいかん・す・ろうぷ

 

至高の四十一人の、その末席に座った者である。




アニメは見てるんですが、小説は書籍版読んでる途中なので、食い違いがあったらすみません。


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らいかん・す・ろうぷ プロフィール ※ネタバレ注意

そういえば、ロウさんのスペック載せてなかったなぁと(今更)


らいかん・す・ろうぷ

 

種族 異形種(ワーウルフ)

分類 プレイヤー

異名 オオカミの姿をした最高工匠狂(誤字に非ず)

 

役職 至高の四十一人

   ナザリック地下大墳墓No.2(現在)

住居 ナザリック地下大墳墓第九階層の自室

属性 中立      カルマ値 0

種族レベル

ワーウルフ レベル5

ライカンスロープ レベル5

職業レベル

ベルセルク レベル5

鍛治師 レベル10

工匠 レベル10

最高工匠卿 レベル5

 

合計レベル100

 

外見

 

普段は白銀の毛に覆われた筋肉質な大男。

基本的にこの獣人形態を好む。

なお、人間形態は銀髪でヒゲのナイスガイ。

 

右腕及び右足にオリハルコン製の義手義足を着けており、いずれにも仕込み武器を施している。

また、義手義足には現在着けているものの他にもバリエーションがあり、気分と用途によって変えることもある。

何気にワールドアイテム保持者だが、ヌルゲーになると言って基本的に戦闘には使いたがらない。

現在は工房の消えない種火として使っている。

 

職業レベルの最高工匠卿は稀に行われるアーティファクト関連のイベントを最後までこなし、かつランキング3位までが得られる。

 

性格

 

基本的に身内を大事にする。

また、自らの傑作たる水晶獣達に対しては最早親バカレベルで愛着を持っている。

他者に対しては温和というか興味や関心が薄い。

しかし、仕事の都合上とはいえ、引きこもりがちだった自分を構ってくれた仲間たちには感謝しているし、かけがえのない友人とも思っている。

特に何くれとなく気を遣ってくれたモモンガや、初期の痛い設定を笑わずにアドバイスをくれたウルベルト、獣王メコン川には彼なりに恩義と親愛を感じている。

また、一つのことに集中すると時間を忘れる。

それ故に、MMO RPG時代は物静かな人と思われていた模様。

貧乏性でもあり、できるだけ一つのものを長く使いたい人。

ガチ装備はその性能の都合上滅多に使用しない。

弱者をいたぶる趣味はないが、アーティファクトの性能テストの実験台としてなら嬉々として標的を攻撃する。

本人にあまり自覚はないが耳年増でもある。

ただこれは執筆家としての職業病のようなもの。

 

またゲームプレイに際し、攻略サイトなどはギリギリまで見ないタイプ。ゲームは苦労を楽しむものというのがモットー。

ただ、これは彼個人としてであって、流石にギルドで攻略を行う場合はその限りではない。

 

蛇足だが、最近は専属メイドのルプスレギナ・ベータが思い切り世話を焼いてくれるため若干彼女に依存がち。

ハートはともかく、少なくとも胃袋は掴まれかけている。

 

 



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『らいかん』という男

突然だが、ギルド・アインズウールゴウンメンバー、らいかん・す・ろうぷは右腕右脚が義手義足の工匠である。

 

元々は、前線で暴れるのが大好きな戦闘狂であったが、そんな彼が工匠に転身したのは、ある出来事が原因で失った自らの腕と脚の代わりとして、自分で義手義足を調整するため(と言う設定)である。

 

戦闘に参加するのも、あくまで自身の制作したアイテムやら武器、装備品のテストのためという意味合いが強く、まかり間違っても自らすすんで矢面に立つタイプではない。(というか、徐々に工匠の楽しさにズブズブとハマっていっただけだが)

 

 

しかし、その開発品は少なからず、自身の所属するギルドに利益をもたらして来たという自負がある。

 

カメレオンのような迷彩加工を施した偵察ドローンや、魔力感知地雷、気配をかき消す指輪や、ちょっとした火器類、範囲は狭いが簡単な探知魔法をすり抜ける小型ジャミング装置だって作った。通信機…はメッセージがあるから特に出番はなかった。

 

「モモさん。ドリルに爆発、機械は浪漫なんだよ。」とは彼の言である。

 

そんな彼の傑作たるは、アーティファクトと(彼に)呼ばれる代物達。

 

ただのアイテムとは明らかに一線を画する、高レベルプレイヤーの特権。

 

コスト度外視、燃費ガン無視、おまけに複製も自在ときた。

 

彼はそれらに動植物の姿をとらせることを好んだ。

 

そして必ず何かしらの仕込みを施すのである。

 

他メンバーは、新しい開発品を発表される度、フレンドリーファイアが無効になっていることに何度胸を撫で下ろしたことか。

 

さて、なぜ彼が自分の切り札とも言えるアーティファクト達をそういうカタチにしたがったのか。

 

答えは簡単。それはリアルの彼が極度の人間嫌いだから、その反動として幼い頃図鑑で見たような動植物に憧れがあったからだ。

 

リアルでの彼こと大神隼人はそれなりに売れっ子の作家だった。

 

さまざまな資源が足りないデジタルの世にあっても、もしくは、だからこそ紙媒体というのは貴重であり、元々中の上くらいの家に生まれた彼は両親がたまに買って来てくれる本が好きだった。

 

ただ、実際に仕事をして驚いたのは売れっ子でもあまり利益を得られないということ。

 

というか、材料費が高いのだ。

 

先程も述べたように、デジタルばかりの昨今紙というのは貴重だ。

 

だから、結果として売り上げの割には薄給なのだ。

 

(いわゆる、中世ヨーロッパに於ける金細工師のようなものか。)

 

と、誰に聞かれたわけでもないのに思った。

 

もともと他人が苦手で引きこもってできる仕事がしたかったというのもある。

 

何故苦手になったのかと聞かれても、そう育ったから。としか答えようがないのだが。

 

そんな彼にマッチし、且つ縁のあった仕事がたまたま作家業というだけで。

 

ただ、天職でもあったのだろう。

 

彼は良くも悪くも集中するとドップリ集中する人間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

だから今、ギルド長の部屋で正座をさせられているのである。

 

 

 

 

 

 

 




最初は筆が進む(話が進むとは言ってない)って本当ですね。


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玉座の間で

 

 

 

 

時間は少し遡り、円卓のある部屋にてくてくと歩いて向かうと、そこに目当ての人物は居なかった。

 

何故歩いていたのかと言うと、自分たちの足跡をらいかんは少しでも記憶に焼き付けたかったからだ。

 

噛み締めるように、限られた一秒一秒を使って悪い言い方をすれば、お上りさんのようにキョロキョロとしかし、じっくりと見て回っていた。

 

そうこうして、辿り着いた玉座の間。

 

「相変わらず仰々しいやね。」

 

凝った作りの大扉(尤も、このギルド拠点ナザリック地下大墳墓の中で凝ってないところの方が少ないが)を前に、つい苦笑してしまう。

 

(もっと他メンバーと積極的に話してれば良かったなとガラにも無い後悔までしそうだ。)

 

引きこもり気質の自分にとても良くしてくれた自慢のフレンド達を思い出して、自嘲気味にそう思う。

 

扉を開けて中に入ると、シモベたちを侍らせた此処の事実上の主人が椅子に腰掛けていた。

 

(何やら画面と睨めっこしておられる。)

 

かつて多くの仲間達で賑わった頃を思うと随分寂しくなってしまったが、

 

「やぁモモさん。何時間かぶり。」

 

努めて明るく声をかける。

 

然るのち、何となく自分の紋章の入った旗の下に行ってみる。

 

ドリルと槌をクロスさせ、その上に正面を向いた狼という、いつかどこかの海賊の旗のような、何ともミスマッチかつ格好をつけた旗印についつい嬉しくなる。

 

もうちょっと機械っぽさ入れても良かったかなと余計なことを考える。

 

そんな最中、こちらに気づいたのか我らがギルド長殿は

 

「ろろろろロウさん!?あ、いや、これは、その、ですね。」

 

どもったのちに言い淀んでいる。

 

コレは、ネタの香りがした。

 

 

 

さいどモモンガ

 

 

ヤバいヤバい。

 

何がヤバいって、我がギルドのミスター耳年増(本人にはナイショのニックネーム)のロウさんこと、らいかんにイジられそうなネタを投下してしまったことがヤバい。

 

ムキムキの体躯にデカくてゴツゴツとしたオリハルコン製の義手義足を身につけ、しかもその中にはカルバリン砲が仕込まれている。

 

装填とか排莢どうしてんだよとツッコんだら負けである。

 

 

イヤ、悪い人じゃ無いんだけど、ある時突然ヘンなスイッチが入ることがあって、たまにウルベルトさんとタッグを組んで節度あるイジりをしてくるのだ。

 

ちなみに一人の時はちょっと注意すれば素直に謝ってくれる。

 

要するに気心の知れた身内の悪ふざけとわかる悪ふざけである。

 

自称人間嫌いの割に、こういうノリは好きというのだから人というのはわからないものである。

 

って、そうじゃない。

 

コホン、と一つ咳払いをして

 

「いやぁ、会えて嬉しいですよ。あっそう言えばギルド武器最後なんで持って来ちゃいました。」

 

どうだ、ギルド武器だぞぅ。これ以上無い話題だぞぅ。

 

「ま、いいんでない?」

 

アッサリ切り返された。

 

「で、さっきの狼狽え具合はなんなん?」

 

効かないだとぅ?

 

もう正直に話すしか…。

 

 

 

 

 

「だ〜っはっはっは〜!!

そ〜んなこと気にしてたんか〜!!」

 

「で、でも仲間が考えた設定を勝手に書き換えるのは…。」

 

「ヘーキヘーキ、タブラさんだって、ウルちゃんだって、他のみんなだって、アンタだから自分たちの思い出を託したんでしょうよ。無論、NPC達も含めてな。」

 

「ロウさん……。」(ウルちゃん?)

 

あぁ、ギルド長やってて良かった。

 

そう思った矢先の出来事である。

 

「オレっちだって、宝物殿以外の野郎どものアイテムボックス勝手に漁ってたしなぁ〜!!」

 

 

 

 

なんですと?

 

 

その時モモンガは、椅子に座りながら立ちくらみが起きそうという奇跡を体験した。

 

 

「モモンガ様?」

 

 

因みにその時ちょうど時計が0時を回っていたのに、彼らはまだ気づいていないのだった。

 




ほ、ほらキャラは色んな側面あった方が人気出るから(言い訳)


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ギルド長のお説教

突如動き出したアルベドにとりあえず

 

「しばし待て!!」

 

と、指示を出し、ロウを連れて転移したモモンガだった。

 

モモンガが思うに、ロウ…らいかんというプレイヤーは良くも悪くも火薬のような男だ。

 

普段は工房に閉じこもり、時たまキセルをふかしながら武具の調整やらアイテム開発をしている。

 

ギルメンが皆レベル100になってやることも無くなったり、イベントの無い期間などは彼の言う素材集めだったり、要望を言ってアイテムを作ってもらったりしてて、関係性は割とwin-winだったと記憶している。

そしてそのアイテムの数々が、防衛戦に於いて事態を有利に運ぶピースの役割を果たしたことも決して少なくない。

 

蛇足であるが、その時敵陣営のプレイヤーがその性能を見て「変態かよ!」と叫んだのは今でも忘れられない。

 

現にそれでかつて押し寄せて来た、1500人の大連合を相手取った時、その妙な嫌がらせ能力に助けられ、大勝をおさめられた実績だってある。

 

しかし、一度導火線に火がつくとめんどくさくなる一面もあるのだ。

 

見た目の格好良さに対するこだわりがあるが故に色々と試作して、いつのまにか素材を使い切ってしまう事も多く、採集用アーティファクトに注入するためと、魔力の無心をされた事もある(フォローしておくと、もともと肉弾戦ビルドで、途中から興味を持った工匠関係を伸ばしたためにらいかん自身の魔力の総量はあまり多くはないのだ)。

 

「いやだってしょうがないでしょ。オレっちは作業に集中してて、素材取って来てくれる人いなくなったんだから、その内取っといた分も尽きるでしょ。

あと、誓って言うけど流石にガチャ産だったり、課金アイテムは貰ってないからね。コモンとアンコモンとあとはイベントのハズレアくらいしか。」

 

「結構持ってってるじゃないですか!!」

 

「いやぁ、オオカミだからー。」

 

「オオカミ関係ないでしょ。」

 

「オオカミだからー。」テレ

 

「何故照れるんです?

 

っていうか、アナタ自己評価どうなってんです?」

 

「寡黙で朴訥な職人気質?」

 

あー、確かに作業中の彼はそんな感じだ。

 

ぱっと見無骨そうで、表情の表現もアイコンだけだったことから、尚更そう思えても不思議ではない。

 

そして、ログインしているほとんどの時間作業に割り当てているから間違っちゃいない。

 

「っていうか、結構話せますよね?」

 

「ん〜まぁ、話しかけてもらえりゃあ、ね。流石に無反応は失礼だと思うやね。まぁ作業中は生返事になっちまうが。」

 

「勝手に人のアイテムを持ってくのは失礼と思わないんですか?」

 

「いやぁ、悪りぃとは思ってたんよ?

でもまぁ、流石にるしくんみたいにレア素材使うんは憚られるし、ただ、本人もいらねーって言ってたやつだし。」

 

「イヤ、ウチきっての問題児と比較しないで下さいよ。」

 

「まぁ〜すまんね。最終日だったし、ちとハメ外し過ぎちまった。」

 

それを聞いてモモンガは呆れたように、というか呆れて額に手を置き、はぁー、とため息をこぼす。

 

「分かりました。今回は煙に巻かれてあげます。」

で、と続けるモモンガであるが、そう言えば、とらいかんが何となしに告げる。

 

「アルベド喋ってたな。」

 

「そうですね。喋ってましたね。」

 

「っていうか今オレら普通に会話できてない?口も動いてるし。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

何とも言えない沈黙。そしてその意味を両者が理解した瞬間。

 

「「え〜〜〜〜〜〜!!!!!」」

 

 

モモンガの私室にそれはそれは大きな成人男性二人の声がこだました。

 

あ、なんか光った。




決まった曜日に出すのがいいのか
思いつき次第投下すべきか、結構悩みますね。
だからなんだって話ですけど。


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始動

 

 

 

 

「しっかし、不思議な感じがすんねぇ。普通にしゃべれるしコンソールは開けんし、おまけにNPCが話しかけてくるとは驚いた。」

 

らいかんは腰にさしたキセルを抜き、左手でそれをくるくると弄び、右腕を肩からぐるぐると回したり、手のひらを開いて閉じてを繰り返しながら呟く。

 

というのも、彼は元々義手義足などしていなかったにも関わらず、その動かし方がなんとなく理解できていたのだ。特に不安だった痛みだったり、ヘンな感覚もない。少なくとも普通にしている分には本物の腕のように扱えるのは幸いだった。

 

しかし、仕込んだカルバリン砲の撃ち方だったり、ギミックの使い方がイマイチわからない。

 

(動作確認のためにも後で闘技場連れてってもらうか。六階層だっけ。)

 

これまではコンソールにあるボタンいくつかをピッと押せば自然とそうなったのに、それが開けないため、後で試行錯誤が必要になりそうである。

 

因みにらいかんはモモンガのネガティブタッチで少しダメージをもらった。

 

「と、取り敢えず戻りましょう。NPCたちを心配させたり、不安を覚えているかも知れません。」

 

会社で言えば、上役二人がいきなり秘密の話をするためにわざわざ席を外したようなものだ。

 

ヒラや、他の役員(この場合は守護者達や、他NPC達がそれに当たるだろうが)、彼らからすれば不安で仕方ないだろう。

 

「まぁ、そうさな。ついでにどうだい。格好をつけて登場するってのは。」

 

「……具体的には?」

 

「こう、黒い霧を纏って雷鳴と共にドーンみたいな…。」

 

「却下です。」

 

「なしてよ?」

 

「自分とこの拠点でそこまでする人います?普通にリングオブアインズウールゴウンでワープすれば良いじゃないですか。」

 

「ま、そういうもんかいね。んじゃぁ、もうちょい示し合わせてから行こうや。」

 

「そうですね。」

 

 

〜同時刻玉座の間〜

 

守護者統括アルベドは困惑を隠せずにいた。

 

「モモンガ様もらいかん・す・ろうぷ様も一体どうされたのかしら?」

 

そしてそれは、プレアデス達も同様であったようで、皆一様に何かしら粗相をしてしまったのではと顔色を赤くしたり、青くしたりしていた。

 

パンパン。とセバスが手を鳴らすと、静かになったので、そのまま発言する。

 

「落ち着いて下さい。それでも映えあるナザリック地下大墳墓にお仕えするシモベですか。原因が何にせよ、至高の御方々が席を外されている以上、お二方が戻って来られるまで、お待ちしているよりありません。お叱りを受けるにせよ、そうでないにせよ、平静でいなければナザリックの恥となりましょう。」

 

それでようやっと得心がいったのか、騒ぎはやがて小さくなっていった。

 

 

そして、丁度その時

 

「待たせたな。」

 

と、自分たちの主の声が聞こえてきたのだった。

 

 

 




恋愛要素は未だ検討中。

するとしたらルプーかな。

何故なら一番好きだから。



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集合

さいどシモベ達

 

偉大なる方々が戻って来られる。

 

それだけで、玉座の間は大いに盛り上がった。

 

片や、アインズウールゴウンの歴史そのものと言っても過言では無い、最強の魔法詠唱者にして、至高の御方を率いたるモモンガ様。

 

片や、モモンガ様の盟友であり、その膂力と叡智との双方にてナザリックを守護なされた

元狂戦士にして、その気になればゴッズクラス相当のアーティファクトさえ作り出せるという、ユグドラシル最高峰の工匠であらせられるらいかん・す・ろうぷ様。

 

いずれも百人力、いや万人力に値するお二人であると。

 

我々は片膝をついてその方々をお待ちする。

 

「いやぁ、諸君待たせてすまんね。それと面を上げてくれ。」

 

まず姿を現されたのは、らいかん・す・ろうぷ様。

 

種族は人狼であるが、人間形態よりも、獣形態を好み基本的にそちらでいることが多いため自らを狼人と呼称される。

 

そのお姿はまず、オリハルコン製の見事な義手義足が目を引き、ついで同じくオリハルコン製の巨大なハンマーを持つ。

白銀の体毛はまさに月の如き美しさと筋肉質な力強さが同居した、正しく強者のありようといえる、

その周りには、かの御方がお造りになられたであろう。四角い箱のようなアーティファクトが3つ漂っている。

 

その雰囲気は逞しくも知的な印象を持たせ、優しい声音は我々を安心させて下さる気遣いに満ちていた。

 

「なにぶん異常事態だったのでな。話を詰めるのに時間がかかった。詳しくはギルド長から聞いてくれ。」

 

場が少しざわつくが、そうするのと、ほぼ同時にもうお一方現れた。

 

黒い靄の中からズズズと現れるお姿は恐ろしくも、深き叡智を感じる。

ローブを纏った骸骨の容姿でいながら、とてつもない威厳と、支配者の絶対を現すようで、その手に巨大な杖を持ち、こちらを睥睨するように光る赤い目がなんとも神々しい。

 

そのまま玉座に腰掛けられると

 

「皆、先程のらいかん・す・ろうぷの言葉はまことである。故に。」

 

モモンガ様はチラリと戦闘メイド、プレアデスリーダーのセバスに目を向けられる。

 

「セバス。」

 

「はっ。」

 

「外に出て、ナザリック周辺の地形を確認するように。」

 

「畏まりました。モモンガ様。」

 

「プレアデスにはどうしてもらうんだい?」

 

らいかん様がそう言うと、

 

「そうだな。」

 

とモモンガ様は少し顎に手を当てて続ける。

 

「侵入者の警戒に当たってもらう。9階層に上がり、そこを見廻るように」

 

「承りました。」

 

とプレアデス副リーダーにして、長女のデュラハンがそう答え、退室する。 

 

「では、ワタクシはどうしましょう?」

 

「アルベドか。では、今より1時間後6階層の円形闘技場に守護者を集めてもらえるか?」

 

「かしこまりました。」

 

さいどアウト

 

 

「いやぁ、モモさんカッコよかったよ〜。

あと、結局黒い霧の下り使ってたね。

雷鳴のとこは、やんなかったけど。

でもまぁ、威厳ある統治者ってのも疲れるもんやね。」

 

「全くです。らいかんさんはNPC達に対しても普段と全く変わらないから驚きましたよ。あと霧じゃ無くてモヤですけど。」

 

「まぁ、ユグドラシルのときは彼らとはあんま接点なかったしなぁ。あまのまひとつさんのお下がりで工房も、労せず手にできたし、イベントは基本外出てたし。あとゲーム内でのデカい外出はその杖作る時か。みんなモモさんに喜んで欲しかったんやね。」

 

「そっ、そうですか。」

 

おっ、照れてる。

 

「NPCは基本、プレイヤーの指示なしに拠点外に出ることはないしな。部屋に篭るか遠出してるかしか無いんなら接点も減るってもんやね。」

 

「そういえばロウさんは自分のNPCって、作りたがりませんでしたよね。」

 

「ん〜、まぁ知識なかったしな。言えば手伝ってくれる人は居たかもだけど。」

 

そう、NPC達は皆、プレイヤーによって創造され、そうあれと願われた通りに動く。

 

そして、彼らは一様に己の親たるプレイヤーを慕う。

 

だがしかし、らいかん・す・ろうぷの創造したNPCはいない。

 

ちょっと興味はあったが、そもそもの知識がなかった。

 

コンピューターや携帯機器を使えるとは言え、それもあくまで利用者の側としての話。

 

だが、先程の言葉の通り、頼めば手伝ってくれるメンバーもいたろうが、当時の彼は、特に必要性を感じなかったし。そして今は浪漫を追い続けるのに心を燃やしている。

 

まぁ、それはそれとして

 

「そういやモモさん。色々と試したいことあるんで、ちょいっと早ぇけど闘技場行かねぇかい?主にアーティファクトとか仕掛け武器関係で。」

 

「あ〜。それはしといたほうがいいですね。オレもスタッフオブアインズウールゴウンの実験しときたいですし。」

 

そう言って、二人は玉座の間より、姿を消した。

 

 




らいかんくんのステータスって載せといたほうがいいんでしょうか?



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実験

円形闘技場。その歴史は長く、古くは古代ローマに端を発し、剣闘士達が己の自由を、命をかけ、或いは名誉をかけて闘った場所。

 

ここナザリック地下大墳墓に於けるそれは、第6階層にあたり、2名のNPCが守護者として侵入者を出迎えるのである。

 

らいかんは、手にしたハンマーをズシンと地面に置き、

「あ〜、これ地味に重いんだよなぁ。」

 

とぼやく。

 

「まぁ、でも似合ってますよ。」

 

と、モモンガはフォローを返す。

 

「ありがと〜。」とらいかんが軽く返すと、遠巻きに2人の人物がこちらを伺っている様子が見えた。

 

見知った顔に、安堵すると共にどうやら気を遣われている事が分かり、モモンガが声をかける。

 

「アウラ、マーレ、こちらに来てくれるか?」

 

 

よっ、と軽く発して、客席から飛び降り元気に駆け寄ってきた階層守護者のダークエルフの双子の片割れ、男装少女のアウラが不思議そうに聞いてくる。

 

「ご歓談中だったのではありませんか?」

 

「よい。ひと段落したからな。」

 

「うん。ちょっとここを使わせてもらいたくてな〜。お邪魔させてもらった。」

 

「そんな邪魔だなんて!」

 

アウラはあたふたと両手を振って、強く否定する。

 

「お二方はこのナザリック地下大墳墓の支配者。そんなお二方を蔑ろにしたり邪魔に思う者なんて、考えられませんよ。」

 

「そりゃぁありがたいやね。まぁ、支配者っぽいのはどっちかってぇとモモさんのほうだろうけどな。」

 

「あぁ、助かるな。それで、マーレはどうした?」

 

「あっ、そうでしたすみません。」

 

クルリと後ろを向くや

 

「マーレー!お二方に失礼でしょ〜!!」

 

「で、でもぉ。」

 

どうやら飛び降りるのを躊躇しているようだ。

 

しかし

 

「マーーーレーーー!!」

 

そんなん関係ないと言わんばかりに叫ばれてはマーレも堪らなかったようで、

 

「わ、わかったよぉ。」

 

観念したのか、少し躊躇いがちにえぃっと飛び降りた。

 

しかし流石は階層守護者なのか、着地は危なげなくできていた。

 

そして、姉と同じくタッタッと駆け寄ってくる女装少年。

 

そして、改めてと

 

「ナザリック地下大墳墓、第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ罷り越しました。」

 

「ぉ、同じく第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ罷り越しました。」

 

「うむ。先程述べたように、ここを使わせてもらいたくてな。」

 

すると、双子の視線がモモンガの手元に行く。

 

厳密にはそこに握られている杖にだが。

 

「そ、それが伝説のスタッフ・オブ・アインズウールゴウンですか?」

 

「うむ、その通り。先端部のこの蛇の咥えている宝石はひとつひとつがゴッズアイテムでな…………(ペラペラペラペラ)。」

 

「モモさん、触れてもらえて嬉しそうやね。」

 

「ん?ンッンーまあ、そう言うわけで、実験がしたいのでな。」

 

ハッとなって、咳き込んだ。誤魔化したな。とらいかんは思った。

 

「まぁついでに、オレっちも鈍った体動かしたいしな。」

 

それじゃあ早速と召喚魔法をやってみる。

 

「現れよ、プライマルファイアーエレメンタル!!」

炎を纏ったドラゴンのような頭を持った、巨人の上半身のようなモンスターが出てきた。

 

「プライマルファイヤーエレメンタル。レベルは85といったところか。」

 

満足げなモモンガに対し、らいかんはこっそりメッセージを送ってみる。

 

(モモさんノリノリだね。)

 

(まぁ、やってみたかったですからね。)

 

(そんで、やってみて分かったことあるかい?ヒントにしたい。)

 

(うぅん、そうですね。オレの場合杖に意識を傾けたら自然とやり方がわかったって言うか。)

 

(んじゃぁオレっちも、そんな感じでやるわ。早速で悪いんだけど呼び出したアレ、ターゲットにしていい?)

 

(え、今のめっちゃフワフワした情報でいいんですか?いいですけど。)

 

(大丈夫大丈夫なんとかなるなる。)

 

試しに意識を傾けてみて、そして感じる。

 

「カルバリン砲、用ぉぉ意!!」

 

肘が回転しながら曲がり、腕が周り、前腕部が収納されたとおもったら、ウィーンと機械音とともに見事な砲身が姿を現す。

 

急に叫び出したらいかんに、ちょっとマーレがビクッとなる。

 

そして、標的を捉え、ピピッと音がした。

らいかんはここだと直感的に理解するや。

 

「発射ァァァァァ!!」

 

 

ズズズドォォォン!!

 

「グオオオオ。」

 

呼び出されて早々に倒されるプライマルファイヤーエレメンタル。哀れ。

 

しかしその直後

 

「ふぉぉぉぉ!!なんですか今の!?」

 

アウラがらいかんに向かって、めっちゃ目をキラキラさせているのがわかった。

 



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発見

 

 

 

 

撃ってみて、思ったより反動が来なかったことに、らいかんは驚く。

 

最悪、腕があらぬ方向に曲がったり、体が吹き飛んだりしないかヒヤヒヤしたものだが、まずは上手くいって何より。と心の中で胸を撫で下ろす。

 

腕のカルバリン砲は戻れと念じれば元の義手に戻った。

ストレージには他にも仕掛け武器が幾らかあるが、それは取り敢えず後回し。

 

「す〜っごいです、らいかん様!」

 

「おぅ、喜んでもらえて何より。」

 

アウラから素直な賛辞を受けたらいかんは満更でもなく、

 

(おぉ〜、アウラにはこの良さが分かるんやねぇ。)

 

などと呑気に同志の誕生に胸を躍らせていたら、モモンガよりメッセージが来る。

 

(それで、この後はどうします?)

 

(この後?守護者達の集合を待てばいいんじゃ?)

 

(いや、体動かしたいって言ってたじゃ無いですか。)

 

(あ〜、そうだったそうだった。)

 

モモンガはこっそりジト目でらいかんを見ると、そう言えば、この人この状況でもほぼ素でいられるってすごいな。と今更ながら思った。

続けて二人はメッセージで会話する。

 

(んで、集合まであとどんなもん?)

 

(20分切ってるくらいですね。)

 

20分、待つとなると意外と長いが、かと言って何もしないと言うのも手持ち無沙汰である。

 

ならばと

 

(モモさん、近接武器っていまあるかい?)

 

(ちょっと待っててください、えぇっと……。)

 

モモンガは徐に空間に手を突っ込んでガサゴソしだした。

 

(あぁ~ストレージってそうなってるんだ。)

 

(えぇ、おれも驚きましたよ。)

 

(あぁ、一応剣士装備が一通り揃ってますね。)

 

(じゃあ、それで模擬戦でもしない?)

 

(うーむ、そうですねぇ、あ、ちょっと待ってください。)

 

(どしたの?)

 

(セバスからメッセージが来てまして、)

 

(あ、じゃあそっち優先で。)

 

(すみません。私だ。どうした?………。なるほど。草原に。人工物は?………。そうか。わかった。戻ってこい。20分後に第六階層の円形闘技場だ。そこで見たことを話せ。以上だ。)

 

(どうだったって?)

 

(現在、ナザリックの周囲には草原が広がっているそうです。)

 

(沼地じゃ無くて?)

 

(えぇ、はい。信じられませんが我々は今、未知の世界にいるようです。)

 

(えぇ〜なにそれ〜?)

 

(ロウさん……。気持ちはわかりますがまずは落ち着いて情報収集とその整理を………。)

 

(そりゃあ………。)

 

(?)

 

(面白そうだなぁ!!)

 

(え、いやいや俺たち右も左も分からないような場所にいきなり放り込まれたんですよ。不安とかないんですか?)

 

(なぁにいってんのよ。俺たちゃ四十一人でユグドラシルっつー天下をほぼほぼ取ったんじゃねーか。それが今やNPC達がいるとはいえ、プレイヤーはオレっちとモモさんの二人っぽっち。最後くらい綺麗に消えようって、しんみり思って気付いたら未知の世界にやって来たなんて、興奮しない方が嘘でしょうよ。)

 

あ、ダメだこの人。ハイになってる。

完全に徹夜明けのテンションです。どうもありがとうございました。

 

(じゃなくて!どう動くにせよまずは慎重になるべきでしょう。)

 

(そらそうよ。遮二無二突っ込んで自滅しましたじゃギャグにもならん。そら見たこともないマップを冒険して見たくないって言やぁ嘘になるが、オレっちはあくまで工匠よ。その辺弁えてるって。どっちかっつーとどんな素材があるのかなって言うワクワクがつよいのな。)

 

(ならいいんですが。)

 

(とにかく、今はセバスの報告待ちやね。いやぁ楽しみだ。)

 

結局、模擬戦の話はきちんと場を整えてからと相成った。

 

そして、間もなくナザリックの誇る守護者達が一堂に会するのである。

 

 




展開引っ張りすぎじゃね?(セルフツッコミ)


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方針

 

ナザリック地下大墳墓、第六階層には諸事情により移動できない一部を除き、守護者達が揃い踏みしている。

 

因みに来た順番は

 

「おや?最初にきたのは私でありんすか?」

 

まずはゲートよりやってきたシャルティア・ブラッドフォールン。

種族はトゥルー・ヴァンパイア。

 

しずしずと歩き、廓言葉で話す様はペロロンチーノの趣味全開といった風であるが、守護者としては第一から第三階層というもっとも多くの階層を任されている。

 

そして、その事実は彼女の並々ならぬ戦闘能力の裏付けとしては十分に過ぎるだろう。

 

なお、今はアウラと仲良く喧嘩している。

ちなみにマーレは戸惑っているようだ。

 

「御方々ノ前デ、騒ガシイゾ。」

 

その二人を諌め、嗜めるように二番目に現れたのはコキュートス。

第五階層守護者であり、種族は蟲王。

 

青い甲冑を思わせる姿形をしており、性格も武人然としている。

 

見た目の通り戦闘面においても優秀で、特に武器を用いた戦闘においては守護者中随一である。

 

 

三番目と四番目はほぼ同時である。

 

守護者統括アルベドと第七階層守護者デミウルゴス。

ちなみに前者の種族はサキュバス、後者は悪魔。

 

どちらもナザリックの防衛に於いて欠かせない存在であり、知能に長け、計略に優れる。 

 

ちなみにセバスはもう少しかかりそうとのこと。

 

特にデミウルゴスなどは、らいかんが最初に打ち解けたメンバーであるウルベルト・アレイン・オードルの作であり、それらが動き、呼吸し、生きている様を見るのは少し感慨深く、思わず感嘆の声をあげてしまうほどだった。

 

(はぇ〜、改めて見るとそうそうたる面子やね。)

 

らいかんとモモンガがそうこうしているとアルベドが

 

「皆、御方々に忠誠の儀を。」

 

と言ったのと同時に、守護者一同が綺麗に整列して跪きはじめた。

 

瞬間、モモンガはメッセージをこっそりらいかんに飛ばす。

 

(え、えぇ〜。ど、どうしましょうロウさん。)

 

(まぁ、とりあえず威厳ある振る舞いでもしてりゃあいいんでない?)

 

(またテキトーな……。)

 

(まぁホラ、玉座の間で出してたような靄とか出せないん?)

 

(え、まぁ出来ますけど………。)

 

(とりあえず、それ出しながら支配者っぽいこと言えばいんじゃね?)

 

(まあ、やるだけやってみますよ。)

 

「守護者一同、面を上げよ。」

 

モモンガがそう言い、守護者達が言われるまま顔を上げるのを見渡すと

 

「まずは皆、よく集まってくれた。礼を言おう。」

と続ける。

 

するとアルベドが

 

「礼だなどと勿体ないお言葉。ですが守護者一同、我らが造物主たる至高の御々に、相応しい働きを誓います。」

 

それに他守護者も「誓います。」と続く。

 

「素晴らしい!それでこそ我らが計画も問題なく遂行されるだろう。」

 

その言葉に守護者達は嬉しそうに顔を綻ばせるが、

さて、と続けるモモンガの言葉に再び顔を引き締める。

 

「現在ナザリック地下大墳墓は原因不明の事態に直面している。現在セバスに命じた地表探索が終わる頃だ。」

 

するとそれを見計らったようにセバスがやって来た。

 

モモンガはセバスに向かってひとつ頷くと

 

「セバス、地表で得た情報を皆に聞かせてやって欲しい。」

 

セバスは「は、」と短く答えると

 

「現在ナザリック周囲1kmは草原が広がっており、人影、建造物はおろか、モンスターや動物の姿も見受けられませんでした。」

 

「なるほど。ご苦労セバス。ふむ、やはりナザリックが何らかの原因でどこかしらに転移してしまったのは間違いないようだな。」

 

「さて、どうしようね我が友モモンガ。」

 

「そうだな。まずはアルベド、並びにデミウルゴス。」

 

「「は!」」

 

「両者の責任のもと、より完璧な情報共有システムの構築を行い、警護を厚くするように。」

 

「「は!」」

 

確認が取れると、二人から視線を外し、隣に立つ戦友に目配せする。

 

「では、次はナザリックをどの様に隠蔽するかだが。妙案はあるか友よ。」

 

「ん〜。ま、出来なくはないやね。」

 

と、アイテムボックスをゴソゴソと探り、目的の道具を取り出す。

 

小さな赤い魔法陣を描いた羊皮紙らしきものを広げながららいかんは言う。

 

「これは死角の結界式つってね。指定した範囲のモノを文字通り不可視にする。ただ、あくまで見えなくなるだけだから、不慮の事故で誰かが迷い込んでくる事もあるかも。」

 

「……まぁ良いか。万一迷い込まれたとしても記憶操作をすれば問題ないからな。どのくらいの期間隠しておける?」

 

「魔力を適宜注いでいけば3年は持つやね。」

 

「3年か。些か短いな。」

 

「まぁ、いうても消耗品だかんね。予備はあるけどポンポン使えばすぐなくなるから、楽観視は出来んね。材料の確保さえ出来ればいいんだけども。」

 

「ではそれを使用する方向でいこう。」

 

「りょ〜かい。」

 

「最後に」と、モモンガは守護者達の方に向かい合う。

 

「お前達にとって私とはなにか、らいかんとは何か。聞かせてもらおう。」

 

 

(え、何その大胆なエゴサ。)

 

と、らいかんが思ったのは秘密である。



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閑話休題

さいどらいかん

 

ヤバいよモモさん。

 

光ってたよ。光りまくってたよ。

 

マジかよあいつらってちょっと引き気味だったのはきっと気のせいだな。

 

闘技場に行く前、話をまとめる際に聞いただけだけども、感情が昂るとああなって気持ちがフラットになるらしい。

 

無論、あのエゴサもモモさんなりに考えあってのことだ。

 

ゲームとは色々と勝手が違う以上、最悪の場合例えばNPCに愛想が尽かされたり、裏切られる可能性も加味してのことだったのは何となくわかる。

 

まぁ、結果あんだけ誉め殺しにされりゃ無理も無かろうが。

 

まあそれはオレっちもだけどさぁ。

 

いやでもまぁ、面と向かってあれだけ肯定して貰えるのなんていつぶりだろうか。

 

面映くはあったが、少なくとも嫌な気はしなかった。

 

あの後、オレっちは小っ恥ずかしくなりながらモモさんと一緒に闘技場を後にした。

それからモモさんは私室に行くと言っていたのでオレっちも自分の部屋に戻ることにした。

 

今は特に呼び出されてもないし、結界用の札を必要数用意してもらえれば好きにしていて良いとモモさんに言ってもらえたため、取り敢えず私室備え付けの工房で使用するアイテムの用意やら、効果の最確認などしている。

 

ちなみに近くにはプレアデスがひとり。ルプスレギナ・ベータが極力邪魔にならないよう、静かに佇んでいる。

アイテムの整理をしていたらドアをノックされたので、開けたら表に居たのだ。

 

何か指示があれば遠慮なく言って欲しいらしい。

 

ルプスレギナ、彼女の生みの親であるメコンさんこと獣王メコン川さんはユグドラシルで知り合い、仲良くなったフレンドのひとりだ。

 

詳しくは知らんが、弐式さんとは共に別ゲーで上位のランカーだったこともあったらしい。

 

ここがまだ拠点じゃなかった頃、同じパーティで戦功を競い合ったっけか。

 

彼女を見ていると、どうにもフレンドがちらつく。

それが良いことなのか悪いことなのかはわからないが。

 

「フゥ〜。」

 

作業用の椅子に腰掛けながら、腰のキセルを引き抜き、火を入れ、一服ふかす。

 

最初はキャラ付けとしてのアクセサリに等しかったが、こうして味もわかり、楽しめるようになったのは僥倖だった。

 

他フレーバーも試してみるか。

 

えぇ〜と、確か色々と買いだめといたのは……。

 

あ、メッセージ来た。

 

 

 

 

さいどルプスレギナ

 

やったっす!やったっす!

 

なんとからいかん様のお世話役におさまれたっす。

 

いやぁ〜、抜け駆けしたみたいで他の姉妹には悪いことしたっすかね。

 

でもこればっかりは譲れないっす。

 

まだ()()御恩も返せてないし何より……。

 

うぇへへへ。

 

なお、この間表情を変えてはいない。

 

いったんさいどアウト

 

時は二人が第六階層を後にして少しした頃にまで遡る。

 

ただでさえ尊いお二方の御身に何かあっては事であると、護衛兼お世話係が必要であるというデミウルゴスの言に端を発し、それに加えてお二人の世継ぎの話があったという。

 

それをセバスより聞いて、らいかん・す・ろうぷ様のお世話係に、我こそはと声をあげたのが他ならぬルプスレギナ・ベータであったのだ。

 

流石に御方のお世話に手を抜く訳はないと信用されているのか、セバスにはルプスレギナ自身が思っていたよりもあっさりその役目を了承された。

 

なお、理由としては

 

まず、同じ種族であること。

 

次に、以前より接点があること。

 

そして最後に、彼女の造物主である獣王メコン川様と、らいかん・す・ろうぷ様の間に親交があったことが決め手となったのだ。

 

なお、モモンガ様の側付きにはナーベラル・ガンマが選ばれ、早々に私室に向かった。

 

再びさいどルプスレギナ

 

 

いやぁ〜。

 

種族的にも同じだし、()()()()意味でも一番適任っすよねぇ〜

 

それに……。

 

あんな御姿見せられたら、気にならない方がおかしいっすよぉ。

 

うぇへへへへ。

 

おっと、失態は晒せないっすねー。

 

 

きりっ。

 



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星空

さいどらいかん

 

 

ふんふん、なるほど。

 

ちょっと息抜きに外でも行こう…か。

 

ええやん!

 

ちょうどオレっちも暇してたし。

 

アイテムもちょうど必要数確認したとこだしな。

 

結界を張るという口実さえあればプレイヤーだけで行動できるかも知れんしな。

 

モモさんに呼び出されたって言えば、ルプスレギナも引き下がってくれるだろうし。

 

「ルプスレギナ。」

 

「はっ!」

 

「結界の準備が出来たから、モモさんとちょっと出てくるなぁ。」

 

「では、すぐにでも行きましょう。」

 

「いや、お前さんには待機していて欲しい。」

 

「しかし、それでは御身に危険が迫った時にお守りできません!」

 

あ〜、まぁ確かにそうか。ここで着いてこなくていいって言い切ると、ルプスレギナは自分の存在理由を否定されることに繋がっちゃうんか。

 

ならば口実を作れればどうだ。

 

「すまんね。今回は結界を張るのと同時に今後の展望について、モモさんと共に極秘の話し合いがあってなぁ。」

 

「……分かりました。では、お気をつけて。」

 

「じゃあ、ルプスレギナ留守は頼んだ。」

 

こう言っておけば体裁は保てるんじゃないかなぁ。

 

「!!はい!お任せくださいっす!」

 

元気になったから多分大丈夫かなあ。

 

「それじゃ、行ってくるやね〜。」

 

えーっと待ち合わせ場所は第一階層のとこの階段だったよね〜。

 

こうしてリングオブアインズウールゴウンを使い、オレっちは何故か戦士姿のモモさんと合流したのだったが………。

 

 

ぬかった。

 

まさかデミウルゴスが第一階層をうろついていたとは。

 

尊き御身が共も連れずにと叱られてしまった。

 

反論の余地もないんだが。

 

結局デミウルゴスが護衛につくことで一応は解決した。

 

しょぼん。

 

しかし、外に出てみると、いい意味で今まで見たことないような光景が広がっていた。

 

辺り一面、満天の星空。

 

工房に籠りっきりだった自分には尚更美しく感じられた。

 

モモさんも感動のあまりフライの呪文効果のあるアクセサリを身につけて、空を飛ぶほど浮かれていた。

 

オレっちもそれに続いて着いてったから、人のこと言えないけども。

 

せっかく護衛を買って出てくれてデミウルゴス、すまんね。

 

「すごいねぇ、モモさん。」

 

「はい、ブループラネットさんにも見せてあげたかったですね。」

 

「ブルー…あぁ、第六階層の星空作った人か。」

 

「そうですそうです。」

 

「しっかし…綺麗やねぇ。」

 

「そうですねぇ、キラキラしててまるで宝石箱みたいですよ。」

 

「お望みとあらば、ナザリックの全戦力を以ってこの宝石箱を献上致しますが。」

 

着いて来てたんかデミウルゴス、本当に健気やねぇ。

 

「フッ、まだどんな戦力がこの世界に居るか分からないうちにか?」

 

「まあ、彼我の戦力分析は大事やもんね。で、仮に出来そうならどうするん?」

 

「そうだな、世界征服ってのも悪くないかもなぁ。」

 

あ、ロープレ入ったな。

 

「お、いっちょやっかい?」

 

まぁ、まだ絵に描いた餅だろうし、現実問題として不可能の方が大きいだろうけども。

 

「んじゃぁ、オレっちはそろそろ仕事に入るわ。」

 

コロシアムでのやり方を振り返るんならアイテムを取り出して意識を傾ける。

 

ナザリック全域を覆うほどの結界。

 

必要枚数確認。OK

 

持続時間確認。OK

 

結界強度確認。OK

 

魔力はユグドラシルの時に予め込めてもらってあるから、その辺は気にしなくて良し。

 

所要時間は10分か。

 

よーし、頑張るど〜。

 

 

 

 

 

 



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食事

 

腹が減っては戦はできぬ。

 

昔の人はうまく言ったものである。

 

集中すると時間の感覚を忘れてしまう性分とはいえ、流石に三日目の昼まで寝ずに作業に明け暮れるものではないと、らいかんも反省する。

 

逆によく3日持ったなと思わなくもないが。

 

ともかく迂闊だった。

 

モモさんも大丈夫そうだから平気だろうと高を括るのは早計に過ぎたと反省する。

 

よくよく考えるまでもなくあちらはアンデッド。こちらは人狼、食事が必要なのは明白である。

 

らいかんはノロノロと作業場から自室の椅子に移動する。

 

ルプスレギナが支えてくれているのがありがたい。優しさが沁みる。

 

側に控えるルプスレギナは己を責めている様子だが、今回は間違いなくらいかん自身の失態である。

 

故に言う。言わねばならない。

 

「ルプスレギナ、心配をかけて申し訳ない。今からで悪いんやけど、食べられるものを持って来てもらえんかね。」

 

「は、はい!すぐにでもお持ちいたします!」

 

それから10分も経たず

 

「お待たせいたしましたっす!」

 

サービスワゴンを押してルプスレギナが戻ってきた。

 

(はやっ!)

 

急いでいたからか、少し言葉が崩れてしまっているがそれは(少なくともらいかんにとっては)問題ではない。

 

「麦がゆか、ありがたいやねぇ。」

 

確か作品を書くときに見た資料に載っていた。

 

あちらでは基本的に味気ない食事ばかりだったから新鮮な気持ちである。

 

空きっ腹には消化に良いもの。

 

すぐに出来るのも嬉しい。

 

(流石はメイド。よく考えられている。)

 

などと感心してしまう。

 

木製のスプーンを手にして口に運ぶ。

 

「んまぃ。」

 

「お飲み物もお持ちしております。」

 

「ありがとう、貰うよ。」

 

満腹時に飲む水は何故かいつもより美味しく感じる。

 

まして、こちらに来て初の食事である。心持ち満足感も違ってくる気がする。

 

平らげるのはあっという間だった。

 

量は少なく感じないこともないが、空っぽの腹にはアレくらいで丁度いいだろう。

 

なんとか人心地つけた。

 

「さて、では再び作業に……。」

 

「………。」

 

「戻ると更に心配をかけてしまいそうだな。」

 

モモさんも外に何があるか分からない以上、軽挙は避けて欲しいと釘を刺されている。

 

ならば、と第九階層のスパリゾート・ナザリックにでも行ってみるかと思い立ったそんな矢先である。

 

「モモさんからメッセージか。どしたの?体調?ヘーキヘーキ。心配してくれてあんがと。え、本題?」

 

なんでも、これから遠隔視の鏡を使うので情報の共有も兼ねて一緒に見ないかと言うことらしい。

 

面白そうだから即OKするらいかんであった。

 




うっかりちょっと素が出ちゃうキャラが好きです。



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村発見

 

さいどらいかん

 

 

モモさんに呼ばれ、ルプスレギナと共に彼の執務室に到着した。

 

早速、遠隔視の鏡を用いて、周辺の確認をしようと思ったのだが、モモさんは何やら四苦八苦しているようだ。

 

因みに彼の隣にはプレアデスのリーダー、セバス・チャンが控えている。

 

やはりゲームの時とは勝手が違うのだろう。

 

拡大も縮小も、コンソール一つでなんとかなったからか、或いは杖などは持てば使い方がなんとなく分かったからか、意外なアイテムが使いにくかった。というなんとも言えない状況になったのだろうか。

 

すると、モモさんはこちらに気づいたようで、

 

「おお、来たか。しばし待っていてくれ。」

 

と言って間もなく使い方のコツが掴めたようで、セバスからも「おめでとうございます。」

と、祝辞を述べられていた。

 

では、ということでワクワクしながら鏡に近づいてみると、何やら騒がしい映像が映り込む。

 

「なんだこれは、祭りか?」

 

と、モモさんが述べるが

 

「いえ、これは違います。」

 

と、セバスが訂正する。

 

実際は鎧を着た騎士風の男たちが、村人たちを容赦無く殺戮しているのだ。

 

しかし、どうにも妙な感じがする。

 

それはモモさんも同じらしく、メッセージが飛んでくる。

 

(ロウさん、気づきましたか?)

 

(まぁねぇ、不思議な感覚。オレっちはあんまこう言うのに耐性無かったはずなんだけども、いい気分はしないけど、かと言って吐き気を催すようなこともないっていう。グロに耐性が付いた感じってーか。)

 

(…そうですか。俺はこれを見ても正直なんとも思いません。)

 

それが悲しみなのか、それとも自失していたのかはわからないが、とにかく沈んだような口調で、

 

(身も心も異形種になってしまったのかも知れませんね。)

 

(何言ってんのモモさん。モモさんはモモさんでしょ。)

 

(え?)

 

(みんなの為になるようなこと一生懸命考えて、ギルド内のトラブルも放置せずにすぐに対処してくれて、結局最終日までギルドにいたような、誰よりもこのギルドを愛してるような、そんないい人は他の誰でもない、モモさんでしょ。)

 

 

(ロウさん……。)

 

(だからモモさん)

 

一拍間を置き、少し溜めて

 

(工房に回す費用増やしてください!!)

 

(ダメです。)

 

(ちっくしょ〜、イケると思ったんだけどなぁ〜。)

 

心の中でちぇー、とぶーたれるが。

 

(でもまぁ、モモさん。ちょっとぐらいワガママになったっていいんよ。

それこそ、スタッフオブアインズウールゴウンを手に取った時みたいにな。)

 

(……考えときます。ってか見てたんですか!?)

 

(で、村はどうするのん?)

 

露骨に話を逸らす。それに少しは文句を言おうとするモモさんであるが、

 

「どうなさいますか?」

 

と、セバスがモモンガに質問する。

 

ルプスレギナはどちらでもいいようだ。

 

「うむ、我が友はどう考える?」

 

「そうだねぇ、結論から言えば放置しても別段問題はないとはおもうよ。」

 

が、しかしと続ける。

 

「ここで村人たちを助けて恩を売れば、この世界に来て初の親ナザリック領に出来る可能性が高い。そうすれば必然、我々の行動範囲も広げられるだろうねぇ。命の恩人、というのはそれだけ信頼もされやすいからね。その分この世界の情報や常識だって知る機会が得られるかも。」

 

「そうか。では、行くとしよう。」

 

「うん。いってらっしゃい。」

 

「?我が友も来るのだぞ。」

 

その言葉を聞いて、オレっちはギョッとする。

 

「い、いやぁオレっちってばどっちかってぇと後衛タイプって言うか拠点でじっとしときたいタイプっていうか。緊急時用にひとりはいた方がいいっていうか。」

 

「いいから来る!セバス、ルプスレギナ、鏡はそのままで、我々に危険が迫ったと判断したらいずれかが来い。それ以外のことはアルベドから指示を仰ぐように!」

 

「あっ、ゲート展開しやがった。きったね!」

 

「ロウさん、言い出しっぺなんですから責任とって着いて来てくださいよ。」

 

「〜〜っ。わ〜ったよ〜っ。もう抵抗しないから首根っこ引っ掴むのはやめてぇな〜。」

 

なんやかんや。ホント退屈しないわこの人。

 

まぁ、試してないアーティファクトのテストと思えばいいか。

 

ちなみにとっさのことながら、ルプスレギナには行ってらっしゃいって言ってもらえた。

 

ちょっと嬉しかった。

 



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襲撃 上

初の上下分けです。

思ったより長くなっちゃった。


ゲートをくぐり抜け、鏡で見た村の近くの森らしき場所に辿り着いた二人を出迎えたのは、奇異なモノを見る目である。

 

こちらを見ているのは鎧を身に纏った騎士のような格好の男二人と、先程切り付けられていた少女と、その妹と思しき幼女である。

 

モモンガとらいかんは、特におかしなところは無いのをそれとなく確認する。

 

(モモさん、どこか変かな?)

 

(いや、別に普通だと思いますけど。)

 

少なくともユグドラシルでは珍しい姿ではなかったし。突然現れたから訝しがられているものと二人は勝手に納得する。

 

「しっかし、大の男が二人がかりで子供追い回すって、側からみればヤバい絵面やね。」

 

「しかし、そのおかげで実験が捗る。その点は感謝だな。」

 

何やら騎士の内ひとりが斬りかかって来たので、らいかんはどんなものかと、義手で受け止めようとするが、剣の方があっさりと砕け散る。

 

「オイオイオイオイ安もんかい?ダメだよ自分の命預ける武器代ケチっちゃぁ。浮いたカネで酒でもかっくらってんのかね?」

 

もう一人が恐慌状態になりながら問う。

 

「お前ら、何者だ!」

 

「オレっちはこの村を助けに来たヒト。」

 

「私も同じくだな。」

 

「クソ!冒険者か?」

 

「とにかく逃げて、隊長に知らせなければ!」

 

といって、兵士二人は異形種二人に背を向け逃げ出した。

 

「ではお先に。」

 

と、モモンガが言う。

 

「ドラゴンライトニング。」

 

「うぎゃあああ!」

 

兵士の片方は黒い煙を上げて倒れる。

 

「弱すぎる。第五位階魔法でこれか。」

 

「うわぁお。女の子の前でエゲツないことすんねぇ。」

 

「むぅ…。」

 

ちょっと気落ち気味のモモンガに、らいかんは慌ててフォロー(といっても、自分で蒔いた種だが)に入る。

 

「いや、責めてるわけではないんだけども。」

 

そうこうしている間にもう一人が走って、徐々に離れてしまう。

 

しかし、急にその足元が爆発する。

 

「あぁ、ごめんねぇ。その辺には爆発蟻(ボマーアント)仕掛けといたから逃げられないんだ。」

 

「ぼ、ぼまー?」

 

「あぁうん。オレっち作のお気に入り。結構爆発の塩梅難しかったんだよ〜?」

 

あっはっは。と笑う狼男を前に騎士は何もできない。

 

その間に爆発蟻はその兵士を完全に包囲する。

 

「んじゃぁ、バイバイ。」

 

周囲の蟻が、連鎖的に爆発する。

熱と爆風が騎士を覆い、後には骨さえ残らなかった。

 

「じゃあ、行くとするかいね?」

 

「ちょっと待って欲しい。中位アンデッド作成。」

 

一人の騎士の肉体が闇に飲まれ、形を歪めながら肥大化していく。

 

やがて、その元騎士は、彼らにとって見覚えのある姿へと変貌した。

 

(うわ、デスナイトとか久々に見た気がする。)

 

(俺も久々に作りましたけど、またユグドラシルとは仕様が違いますね。)

 

「デスナイトよ。村を襲う騎士共を殺せ。」

 

そう命令されたデスナイトは、ドシンドシンと足音を立てて村の方へと一直線に向かって行った。

 

(…どったの?)

 

(…守ってもらおうと思ったんですが。)

 

どうやら命令ミスらしい。

 

(ま、まぁ切り替えてこう。今は怪我人の手当が先だし。)

 

(そうですねぇ。)

 

二人がくるりと振り返ると何故かヒッと短い悲鳴が上がった。

 

モモンガが治癒のポーションを差し出しても受け取りたがらない。

 

話している内容的に、どうやらこの見た目が怖いらしい。

 

まあ、結構リアルな骨とか、ホラーが苦手な子にはキツいものがあるのかもしれない。

 

が、背に腹はかえられなかったようで、モモンガが強く言うと、恐る恐るという感じで受け取り、飲んだ。

 

切りつけられた傷が少しずつ塞がり、やがて何事もなかったかのように完全に消えた。

 

少女たちはどうやら、ポーションの効果に驚いているようだ。

 

しかし、そのおかげか警戒心は先ほどより幾分マシになったように感じる。

 

モモンガが魔法を知っているかという質問を投げかけた時も、最初の怯えが嘘のように返答していた。

 

この人間が慣れるのが早いのか。

 

それとも親切にされたから警戒心を解いたのか。

 

おそらく後者であろうが、いい傾向なのは事実。

 

なんでも彼女の友達が魔法を使えるらしい。

 

ならば話は早いと、モモンガは彼女に防護魔法を幾重にもかけ、その上で念のためとアイテムを与えた。

 

礼を言われたが。その際に名を聞かれた。

 

元々恩を売る為に来た以上、これはチャンス。

 

問題はどう名乗るかだ。

 

(どうしようね。アバター名そのまんま名乗る?)

 

(いやぁ、流石にモモンガはちょっと可愛すぎでは。)

 

(だねぇ。あ、そうだ。いっそギルド名を名乗るってのはどうかね?宣伝も兼ねて。)

 

(宣伝?)

 

(そうそう、サービス最終日に他のフレンドもログインしてたかもだし、一緒に飛ばされてる可能性も無くはない。……と思う。)

 

(えぇ……、でも勝手に名乗っていざ会った時に変な感じになりません?)

 

(大丈夫だと思うけどなぁ。最悪怒られてもゴメンって一緒に素直に謝ればいいっしょ。)

 

(軽いなぁ〜。)

 

モモンガ的には、表舞台に上がること自体、本当は抵抗があったし、上がるにしても、もう少し後がよかったと言うのはある。

 

こちらが持っている情報はほぼ皆無。そんな中で未知の土地で未知の敵と戦うなど正気の沙汰ではないだろう。

 

しかし、彼は言ったのだ。言ってくれたのだ。

 

この友人はモモンガこそ、誰よりもこのギルドを愛していると、そう言い切ってくれた。

 

ならば、それに応える意味でも今は多少の無茶を承知で前に出るしかない。

 

どうせ通る荊の道ならば、放っておいても結局変わらない。

 

何よりフレンドとの共闘など本当に久々で、少し胸が躍っているのも事実。

 

故に彼は名乗るのだ。

 

 

「いいだろう。ではよく聞け!我が名は………」

 

 

 

 




アーティファクト説明

爆発蟻

偵察と奇襲の双方が可能な、らいかんの自信作。
一匹ごとの爆発の威力、規模は小さいが、基本的に群れで動くため結果的に近づかれた者たちの被害は自ずと甚大となる。
そこにロマンがある。気がする。


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襲撃 下

 

さいどナザリック

 

「何をやっていたのですか!あなたたちは!」

 

ナザリック地下大墳墓、モモンガの執務室では叱責の声が飛んでいた。

 

声の主は守護者統括、アルベドである。

 

「しかし、待機せよというのは他ならぬモモンガ様からの命令。あなたはそれを無視せよ。と仰るのですか?」

 

セバスはあくまでも冷静に返す。

 

危機になった時以外の指示を仰ぐため、アルベドを呼び、事情を説明したら先の叱責が飛んできたと言うわけである。

 

「だからといって、共も連れずに行くなどと。」

 

「ですから、御二方が危険と判断したら、加勢するよう我々にお命じになられました。」

 

「なんでも、恩を売って情報を手に入れるとかおっしゃってたっすよ。」

 

「ならそうシモベに言いつけて、御自身はナザリックで高みの見物をされていれば良いだけではないの。」

 

その言葉に、いつの間にかやって来ていた更にもう一人が言葉を投げかける。

 

「案外、御二方が直接出向くことに意味があるのではないかな?」

 

その正体はデミウルゴスである。

 

その言葉にルプスレギナが反応する。

 

「意味っすか?」

 

「そうとも。アルベド、君の懸念も理解できるが、冷静になって考えればすぐにわかることだ。」

 

「……。」

 

その言葉を聞き、アルベドは顎に手を当て考え出す。

 

「恐らく、まずは布石なのだろうね。御二方はご自身の力を示しつつ、こちらの世界での橋頭堡を得ようと言うお考えなのだろう。現にご覧よ。その気になればあっさりと皆殺しにできるだろう敵を前に色々と試すような事ばかりなさっている。きっと実験も兼ねているのだろうね。そして何より、我々を安心させたかったんじゃないかな?」

 

「安心…ですか。」

 

「そうとも、我々のあるじはこうも強大で偉大なるお力を持っているという安堵を得させようというご配慮だよ。無論、私としてはもっと我々を頼って欲しくはあるが。なに、その点は今後の働きで示せばいいだけのことさ。」

 

「では、どうしろと?」

 

「それをわざわざ言わずとも分かるだろう?守護者統括殿?」

 

 

 

さいどカルネ村

 

騎士たちは怯えていた。

 

その恐怖の原因である対象は今まさに自分たちの目前に迫る甲冑を身に纏ったアンデッドである。

 

村人たちを村の中心部に集め、誰を生かすか決めようと言うところで急に割り込んできたのだ。

 

しかも誰彼構わず襲っているのでは無く、明確に自分たちを狙っているのだからタチが悪い。

 

しかも剣は通じず、鈍重そうな見かけのわりに動きも速く、決死の覚悟で向かっていく騎士を何のこともないように、一撃で絶命させる。

 

完全に予想外の想定外。

 

これまでの任務と同じように、とある人物を釣り出すために幾人かを残して村人を屠るだけのはずだったのに。

 

隊長なんぞは最早勝機がないと見るや、自分だけ逃げる腹づもりを隠すことすらなく、部下を肉盾にしようとする。

 

しかし、皮肉なことにギャアギャアと喚いていたからか、次のアンデッドの標的がその隊長に向かい、あっさりやられてしまった。

 

そして混乱にざわめくなか、ひとつの声が響くのである。

 

「デスナイトよ、そこまでだ。」

 

上空に浮かぶ二つの人影に自然と衆目が集まるのであった。

 

「諸君、はじめまして。私の名はアインズ・ウール・ゴウンと申します。こちらは我が友人であるロウ、以後お見知り置きを。」

 

(人型形態とか何気に久々だわ。)

 

適当に肩のあたりで切られているボサボサの銀髪に顎の無精髭、だるそうな銀眼の姿は、設定上作った、本人もほぼ忘れていた人型時の姿である。

 

なお、服装は適当なレジェンド級防具を身につけ、義手義足を覆うような形となっており、かといって、変に膨らんだりしていない。

 

まぁ、これは見た目を変える課金要素である、所謂スキンのお陰といえるが(モンハ○で言う重ね着みたいなやつ)。

 

キャラクリエイトと、いくつかのイベントに参加して以来であろう人型の姿になんとも言えない感慨のようなものを感じるらいかんである。

 

ちなみにアインズは手甲をつけて、クリスマスに強制配布される通称嫉妬マスクを付けている。

 

さて、と続けるアインズ。

 

「お前たちには生きて帰ってもらう。そしてお前たちの飼い主に伝えよ。この辺りで騒ぎを起こすようならば、今度は貴様らの国に死を告げに行くとな。」

 

ほうほうの体、という様子で騎士は逃げ出す。

 

アインズは敵兵が視界から一人も居なくなったのを確認すると、村人たちの方を振り返り

 

「これで君たちは安全だ。」

 

と話す。

 

しかし村人たちは訝しむように二人を見るだけで、動こうとする様子がない。

 

無理も無い。突然よくわからない者たちに襲われた後、同じくよく分からない者たちがやってきて急にもう安全と言われても、その目的がわからなければどうしようもない。

 

関与すべきか、そうでないか。

明確に襲ってくる敵がいなくなった分、少し冷静になりつつあるのだろう。

 

狼の群れに襲われていたところを、より強い他の獣が撃退したとて、次は自分たちが標的にならないとも限らないのである。

 

「まぁ、流石にタダというわけにはいかんがね。」

 

と、らいかんが言えば利益目的と思ったのか割とあっさり警戒は解けたようだ。

 

(さて、まずは情報収集やね。)

 

(そうですね。今はかなり立て込んでいるので、質問することなんかはまとめておきましょう。)

 

(まぁそうやね。)

 

と、二人がメッセージで会話していると、再び騒がしくなっていた。

 

村長の話を聞く限りによると、先ほどとは違う鎧をつけ、武装した集団がこちらにやってくると言う。

 

(さて、敵の新手か、それともこの村に差し向けられた救援の軍か。)

 

(オレっちとしては前者であって欲しいがね。その分実験も捗るしな。)

 

(久々にスイッチ入ってますね。)

 

(ま、工匠だからねぇ。)

 

二人はそんな話をしつつ、まだ見ぬ人物がどのようなものか、少しばかり楽しみにしているのであった。



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いっときの平穏

果たしてやってきた集団は村人を喜ばせる存在。つまりは味方であった。

 

しかもその彼らを率いるのは

 

「私は王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。村を襲う賊の討伐に来た。」

 

「ストロノーフ……あの?」

 

村人が皆驚きの表情を浮かべているのでどうやら大物らしいと、アインズは少し警戒し、らいかんは少し残念そうにしながらも、その話に耳を傾ける。

 

やがて、二人の存在に気付いたガゼフは

「そちらの御二方は何者か?」

と村長に問うていたので

 

「はじめまして戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が襲われているのが目に入ったので、助太刀に入った魔法詠唱者です。アインズと呼んで頂きたい。そしてこちらは私の友人で……。」

 

「おぅ、ロウと呼んで欲しいやね。」

 

ガゼフはその言葉を聞き、驚いた様子で急ぎ馬から降り

 

「村の者達を助けていただき感謝いたす。」

と二人に頭を下げる。

 

「よして下さい。では、村長。いつまでも戦士長殿を立たせっぱなしというのも悪いので、椅子の用意をお願いできますか。」

 

「こ、これは気が利きませんで。ささ、こちらにどうぞ。」

 

と自宅に案内する。

 

とりあえず一息つこう、と少しばかり話したところで、今度はガゼフの部下が伝令にやってくる。

 

なんでも村が包囲されているというのだ。

 

壁に背をつけ、そっと窓から外を伺うガゼフは

 

「あれだけの召喚天使を用意できるのは、スレイン法国、その中でも選りすぐりとされる特殊工作部隊、六色聖典のひとつか。」

 

と言うと、アインズとロウの二人に目を向け

 

「御二方、よければ雇われないか? 報酬は望むまま、如何様にでも用立てる。」

 

と依頼して来た。

 

悪くない話だとらいかんは考えるが、アインズは

 

「お断りします。」

 

とほぼ即答する。

 

(え、意外。受けると思った。)

 

らいかんにしてみれば、それほど強くないと見られる敵を仕留めてこの世界の通貨がある程度まとめて手に入る好機でもあるうえ、うまくいけば王国戦士長という、それなり以上の地位であろう人物とのツテまでできる。正直受けない理由は思いつかなかったが、

 

(しかし、そうすると必然的にひとつの国を贔屓する形になります。まだ他国の情勢や、この人物の国内での明確な立場も分かっていない中で、報酬に飛びつくのは早計かなと。)

 

正直、いくらか話す中で彼自身の人柄は良さそうとは思う。

 

裏表なく、コキュートス辺りと話が合いそうなほどの生粋の武人であろうことも。

 

しかし、だからこそアインズには解せない。

 

それほどの人物が話を聞く限り辺境であろうこのあたりにわざわざやって来ると言うことが。

 

というのも、村々を荒らされているならば、まずそこの責任者で領主たる貴族が黙っていないだろう。権力者が面子を潰されたわけなのだから。

 

とするならば、領主はわざわざ見逃したか、他に問題が起きてそれに兵力を割いているなど、報復できない事情があったと考えられる。

 

しかし、ひとつふたつの領地ならばいざ知らず、複数の村々で襲撃があったとすれば、そんな偶然が重なり続ける事自体異常。

 

まさかとは思うが、自領を他国の兵に踏み躙られてなお、派閥闘争を繰り広げているとか。

 

あわよくば、実力者たるガゼフを追い落とすために。

そう考えついた途端に、流石にそこまで愚かではないだろうと首を振ってイヤイヤないないと思い直した。

 

話し合った結果、戦力不利は明白であるためガゼフは自身が敵を引きつける旨を伝え、村を出る。

 

その際、アインズは、とあるアイテムを預けた。

 

村から兵達が引き上げるように見えた村長が

 

「アインズ様、ロウ様何故兵士の方々はこの村から出ていくのですか?」

 

と、不安そうに問うのでアインズは先のガゼフの言葉を伝えて、然るのちに逃げる準備をする様にと促す。

 

そうして、避難先の村の倉庫でらいかんは気になったことをメッセージで聞く。

 

(で、何あげたのん?)

 

(課金ガチャのハズレアイテムですよ。持っているとお互いがお互いのいる場所に転移するやつです。)

 

(へぇ〜意外だねぇ、まぁたしかに色々と惜しい男には見えたけどもさ。)

 

(いや、俺からすれば、あんなに獣人フォルムにこだわってたロウさんが、まさか人型をとることのほうが意外でしたけど。)

 

(あ〜それ。まぁ確かに今でもイヤはイヤだけども、流石にこの状況で言えるワガママじゃねぇことは流石のオレっちでもわかるって。)

 

そう言いつつ、自然と腰のキセルに手を伸ばしそうになるが、流石に自重する。

 

お気に入りの丸サングラスを外し、キュッキュッと拭き始める。

 

少しばかり手持ち無沙汰を感じているようだ。

 

(で、戦況はどうだい?)

 

(……正直かなりキツそうですね。彼も、彼の部下達も天使型モンスターの前に劣勢の様子です。)

 

(は?モンスターって、ユグドラシルの?)

 

てっきり召喚天使というくらいだから、この世界にはそう言う神的な存在でもいるものと勝手に解釈していたらいかんだが

 

(ええ、どうやら何者かが彼らか、彼らの祖先に使役方法でも教えたんですかね?)

 

(そんじゃあ、最悪熾天使も警戒しといたほうがよさそうだなぁ。)

 

(そうですね。相手は選りすぐりの特殊部隊ですから、そのくらいの奥の手があると見るのが正解でしょうね。)

 

(モモさん大丈夫?熾天使相手って。)

 

(まあ、その時は選手交代してもらいますよ。)

 

(え、オレっち?ま、いいけどさー。)

 

そうして、頃合いになりアインズは言う。

 

「そろそろだな。」

 

「おぅ、いってらっしゃい。」

 

「だから、ロウさんも来るんですよ!」

 

「あれー」

 

ちなみにルプスレギナは人型のらいかんを見て、

 

「やばいっす!激レアっす!」

 

と、テンションを上げていたそうな。



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実戦

さいど法国軍

 

スレイン法国六色聖典がひとつ、陽光聖典隊長ニグンを襲った感情は困惑であった。

 

自分達は確かに排除対象であるガゼフ・ストロノーフを追い詰め、あと少しで目的達成のところまで行っていたはずなのだ。

 

だと言うのに、目の前に現れたのは見たこともないような二人の男。

 

片方は奇妙な面を被り、もう片方は覇気というかやる気があまり感じられない銀髪の男。

 

「貴様ら何者だ。ストロノーフをどこにやった?」

 

ニグンは問いを投げかけるが

 

「うわ、ホントにモンスターだわ。これは確かに面倒かもなぁ。」

 

「だが、一体一体は大したことはないだろう。私にとっても我が友にとってもな。」

 

と、突然現れた二人は、どこ吹く風といった感じでまるで気にしていないようだ。

 

しばらくすると、その二人は思い出したかのように自己紹介をし出した。

 

「はじめまして、スレイン法国の皆さん。私はアインズ・ウール・ゴウン。魔法詠唱者です。そしてこちらが我が友のロウと申す者です。」

 

と挨拶が帰ってきたのち、

 

「彼でしたら、村の中へ転移させました。」

 

と、仮面の方の男が答える。

 

デタラメを、とニグンは苛立つ。

 

それはそうだろう。 

 

任務達成を目前にして、それをお預けになったのだ。

 

聖人君子でもなければ誰でも腹が立つところだろう。

 

それにそもそも、ガゼフ自身が転移の魔法を用いたならまだしも、遠く離れた地点から転移させると言う芸当をニグンは知らない。

 

そして、ガゼフは良くも悪くも純粋な戦士であり魔法など使えないことが分かっている。

大方近場に隠して煙に巻こうと言う腹づもりだろうと憶測する。

 

「そうか、では貴様らを始末した後村人を殺して回るついでにじっくり村を捜索してやるわ。」

 

ピクリ、と仮面の男が反応する。

 

「今、なんと言った?」

 

「うん?」

 

「そういえば先ほどもお前は、我々が態々出張ってまで守った村人を皆殺しにするとか宣っていたな。それが私には些か不快だ。」

 

「不快とは、大きく出たな魔法詠唱者。」

 

それはこちらの台詞だと言わんばかりにニグンの苛立ちはさらに増していった。

 

その後すぐ、己の発言を悔いる事になるとも知らずに。

 

さいどらいかん

 

うわお、モモさんちょっと分かりやすいくらいの挑発やね。

 

目的は言うまでもなく、敵の実力を測ることだとは思うけども。

 

今更ながらになるけど、その役目は魔法詠唱者と比べて、まだタンク寄りビルドのオレっちに任せて欲しかったけどなぁ。

 

しかしまぁ、幸いと言うべきか拍子抜けと言うべきか、思ったより骨のない連中やねぇ。

 

モモさんの上位物理無効で防げるって、その時点でかなりのレベル差があるってことだもんなぁ。

 

何してくるかと思ったらただ天使を突っ込ませて来るだけとか芸がないやね。

 

あとは支援魔法とか、状態異常系か。少なくともオレらには意味ないけどな。

 

まあ、裏を返せばそれが彼らの必勝パターンだったのかも知れんが。

 

しかしそれも真正面から破られた以上、どうしようもないだろうけども。

 

ただ、その割には彼らの隊長の戦意が衰えないというか、眼に諦めが浮かんでないっていうか、明らかに奥の手がありますよみたいな。

 

しかし、このままじゃあ埒があかないからなぁ。

 

(モモさん。)

 

(なんです?)

 

(敵、明らかに切り札を出し渋ってる感じがするんだけども。どする?)

 

(まあ、それも時間の問題でしょうけどね。)

 

(あ、じゃあそれまでちょっと実験しててもいい?)

 

(え、まぁ構いませんけど……。)

 

(そんじゃちょっと選手交代やね。)

 

さてどれにしようかなぁ〜。

 

「隊長!こ、今度はもう一人が動き出しました!」

 

「げ、迎撃準備だ、早くしろ!」

 

「これでいっか。」

 

初の実戦だし、出血大サービスだ。

 

手のひらくらいの大きさの水晶塊を持って意識を集中する。

 

アーティファクト・水晶猪(クリスタル・ボア)起動。

 

瞬間、地面の一部に水晶が広がり、そこから魔結晶で出来た猪がノソノソと姿を表す。

 

大きさはデスナイトより一回り大きいくらいかな。

 

現れ方はアンデッドとは違う感じか。

 

まぁ、あっちは見た感じエグいしなぁ。

 

現れた水晶猪(クリスタル・ボア)はオレっちの指示を待っているようで、動き出す様子はない。

 

「あぁ〜命令ねぇ。じゃ、アレらを蹂躙して来て。」

と、敵兵を指差しながら命じる。

 

了解した様子で水晶猪(クリスタル・ボア)は敵に突っ込んでいく。

 

魔法には耐性があるように作ったからあちらの妨害などあってないようなもんよね。

 

ひと通り敵を倒してきたが、思ったより時間がかかったようだ。

具体的には想定の1.5倍くらい。

 

もうちょい調整が必要かなあ。それか慣れの問題か?本来ならもうちょい突破力が出るはずなんだけども。

 

「く…、法国の誇る精鋭たちがこうもあっさりと…。」

 

やがて彼らの隊長は意を決したようで

 

「最高位天使を召喚する!」

 

やっと来たねぇ切り札。

 

アレは確か魔封じの水晶。レア度が高かった割に、ガチ勢はドバドバ使ってたっけ。

 

懐かしいなぁ。

 

超位魔法以外なら何でも込められたから使い勝手は良かったしなぁ。

 

最高位ってくらいだから、熾天使かそうでなくとも智天使くらいは警戒しないとなぁ。

 

(モモさんとうとうだねぇ。)

 

(ええ、この世界の精鋭の切り札、警戒してかからなければですね。)

 

そうして、オレっちとモモさんは警戒と、ある種の期待を込めて敵を眺めていたのだった。




アーティファクト紹介

水晶猪

らいかんの傑作たる水晶獣の中でも抜群の突破力、破壊力を有する。

なお、性格は大人しめ。


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天使

 

 

さいどナザリック

 

遠隔視の鏡で偉大なる御方々を見守っている中、ルプスレギナ・ベータが疑問を投げかける。

 

「なんなんすか、アレ?」

 

それに対してデミウルゴスは静かに、しかし力強く答える。

 

「アレこそは、らいかん・す・ろうぷ様がユグドラシルでも指折りの工匠たる所以だよ。」

 

「どう言うことですか?」

 

と、セバスが問いかける。

 

「アレを構成しているのは鉱石ではなく、純粋な魔力だ。しかも火や水、風といったエレメントが複雑に絡み合ったね。」

 

通常、魔力というのはそれぞれのエレメントが集まって形成される。

 

火は火のエレメント同士、風は風のエレメント同士と言った感じにだ。

 

逆に他のエレメント同士を無理に組み合わせようとすると却って分離や崩壊を招いてしまい、その結果暴走した魔力に呑まれてしまう。というようなことも珍しくない。

 

それを成し得たのがらいかん・す・ろうぷというプレイヤーのまず持って特筆すべき点である。とデミウルゴスは述べる。

 

なぜ、そんな危険で手間もかかる方法を取ったかといえば

 

「恐らくは応用性や汎用性の拡大のためだろうね。」

 

とデミウルゴスは言う。

 

らいかんはそのステータスの都合上、適宜アーティファクトを強化するというのは手間であるし、目まぐるしく状況の変化する戦場において、その戦法は合理的でも現実的でもない。毎回それをするとなれば、いざと言うときに展開した際、何の強化もされていないただの壁を呼び出すだけで、同格以上が相手である場合、心許なさすぎる。

 

ならば、はじめから魔力源を一つに纏め、魔力核として作品に埋め込むことで呼び出した瞬間に自らで強化出来るようにすれば無駄も少なくなる。と言うことだ。

 

「こうすることにより、らいかん・す・ろうぷ様御自身の魔力消費は最低限で済み、かつ状況に応じた柔軟な展開を可能にされた、という訳さ。無論、モモンガ様…いや、アインズ様もその開発に携わっておられるだろうけれどね。」

 

得意げにそう話した後、デミウルゴスは満足げに「まあ、それだけが狙いではないだろうがね。」

と語り、言葉を締めくくった。

 

さいどカルネ村

 

「さあ、刮目するが良い!大いなる神の威容を!」

 

魔封じの水晶が割れ、中から天使が現れる。

 

光が現れ、収縮し、現れたのは大いなるいくつもの光の翼。

 

威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!!」 

 

法国軍からはおおっという歓声が聞こえるが、

しかしそれは、アインズとらいかんの二人を感動させしめるものではなく

 

(えぇ…。)

 

( はぁ?)

 

(モモさん、モモさんや。)

 

(なんです?)

 

(ユグドラシルの最高位天使って、熾天使じゃなかったっけ?)

 

(ええ、そのはずですけど。)

 

(主天使って、確か天使内の位階的に四番目くらいの強さだったような?)

 

(そうですね、俺もそう記憶してます。)

 

(え、じゃぁ何で敵さんドヤってんの?)

 

(理由は分かりませんが、恐らくそれを最高位と勘違いできるくらいには、この世界の魔法のレベルが低いか、もしくは現状扱える最高位天使ということなのかなと。憶測ですけど。)

 

(あぁ、なるほど。)

 

(しかし、どの道拍子抜けなのは否めませんね。)

 

(まぁなぁ、熾天使と比較しちゃうとどうもなぁ。)

 

しかし、そんな二人の気落ちをどうやら戦意を失ったと勘違いしたのか、敵将は余裕を取り戻したようで。

 

「そちらが切り札を切ったのだ。ならばこちらも相応の手を打たせてもらった。」

 

と言っている。

 

褒めるニュアンスであることは何となく分かるが、どうやら水晶猪(クリスタル・ボア)と主天使が互角と見ているようだ。

 

しかし、それが大きな間違いであることを彼らは思い知る。

 

「ヘェ〜……。」

 

突然、ロウことらいかんの声が低くなる。

 

(あっヤバ。)

 

「うん?」

 

「オメェはアレか。ウチの可愛い可愛い水晶猪(クリスタル・ボア)がそのお粗末なモンと同等だと。そう言いてぇのか。」

 

「なに?」

 

「あぁいいよ、喋らなくて。じゃあ見せてやる。この子らがオレの最高傑作たるその力をよ。」

 

すると、らいかんは先程の水晶塊を手にし、そして発する。

 

水晶猪(クリスタル・ボア)、強大化、そして複製。」

 

パキパキと水晶が地面を侵食し、水晶猪(クリスタル・ボア)の自己強化のリミッターを外し、更に強化する。

 

そして、溢れんばかりの魔力を有したそれが、他に五つ現れた。

 

(モモさんすまんね。後はオレっちがやるわ。)

 

(分かりましたけど、あの隊長と他何人かは殺さないで下さいね。尋問と実験台で使うので。)

 

「!!ホーリースマイトを撃て!」

 

天使の持つ笏が砕け、発動する。

 

第七位階魔法。この世界の人間では到達すらできないとされる必殺の一撃。

 

それは水晶猪(クリスタル・ボア)達を襲い、跡形もなく消し炭とする

……はずだった。

 

「なんだと?」

 

「悪りぃね、ウチの子らはそこまでヤワじゃねえんだわ。」

 

全て片付けるどころか一体も倒れていない。

 

「まぁ、聞きたいことは後でたっぷり聞かせてもらうとしてだ。」

 

らいかんはスッと主天使を指差し、命令する。

 

「アレを壊せ。」

 

先程以上の速度で、先程以上の質量が突っ込んでくる。その恐怖は計り知れない。

 

法国軍の或いはという淡い期待も、崩れゆく天使の姿を目にして徐々に失われてゆくのが分かる。

 

(ブラックホールあたりで一瞬で片をつけてやったほうがまだ慈悲深いんじゃないか?)

 

とアインズは思うが、言わぬが花である。

 

結果として、天使が破壊された時点で敵軍は投降。

 

ほぼ全員が特別情報収集官ニューロニストの元へと送られた。

 

それとデミウルゴスが幾人か欲しいと言ってきたのでそちらに譲ったくらいか。

 

なお、その後

 

「で、後始末はどうするんですか?」

 

「ごめんなさい。」

 

と、友人に土下座するらいかんの、なんとも締まらない姿があったとか無かったとか。

 



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後始末

 

 

 

らいかんはあれから後始末が大変であった。

 

水晶化した地面は水晶猪を戻した時に元通りになりはしたが、あれだけの大質量が最大六体駆け回ったものだから地面はもうグチャグチャのしっちゃかめっちゃかになってしまっていた。

 

なんとかマーレの力を借り、不自然でない程度にまで修復を終えたのち、村まで引き返して状況が落ち着いたことから、やっと村長夫妻から聞きたいことが聞けた。

 

まず、ユグドラシルでの金貨は貨幣として流通していない事。

 

ただ、彫り物が見事なため芸術品としては高く売れるかもしれないという事。

 

次に、ここはリ・エスティーゼ王国の領土であり、周辺にはバハルス帝国や先程戦闘に至ったスレイン法国があるという事。

 

そのバハルス帝国とリ・エスティーゼ王国は毎年小競り合いを繰り返しているという事。

 

更に、冒険者と呼ばれる魔物討伐の専門家がいて、彼らのおかげで街道沿いは比較的安全であること等々。

 

当初の予定通り、なかなか良い情報ばかりであった。

 

さらに言えば、法国軍を退けたことにより、カルネ村は事実上の親ナザリック領となったと言っても過言ではなく、少なくともアインズとらいかんが通れば、皆が挨拶をしてくれる程度には馴染んだと思う。

 

それでこそ助けた甲斐があったというものだ。

 

欲を言えば、王国戦士長たるガゼフ・ストロノーフからも話を聞きたかったが、今回の襲撃のことを急ぎ国王に伝えねばならないのでと、あまり時を置かず村から出て行った。

 

他にも犠牲者を弔うために墓が建てられ、村の男手は村の復興のために忙しなく資材を運んでいた。

 

そうしてしばらく客分として滞在したのち、二人はナザリックへの帰還を果たした。

 

 

さいどらいかん

 

帰還してすぐに行われたのは守護者を玉座の間に集めること。

 

そして、皆を玉座の間に集め、今回の行動の詫びと名を改めた旨を伝えた。

 

アインズウールゴウンの名を、世に知らしめるということも。

 

ただ、オレっちには「ロウさんは変わらずモモさん呼びでお願いします。」といわれた。

 

「んで、話って何よ?」

 

玉座の間を後にしたオレっちはメッセージでモモさんの自室に呼ばれ、相談を受けていた。

 

「ロウさん、実はですね、俺冒険者というものをやって見ようと思ってます。」

 

「ほぉん、いいんでない?実力的にもバッチリだし問題ないやね。」

 

「え、怒らないんですか?仮にも組織の長が拠点を開けるなんてって。」

 

「まぁ、防衛とかその辺はアルベドやデミウルゴスがいるしな。プレアデスの誰かを護衛兼仲間役として同行させれば問題ないんでない?」

 

「それなんですがねぇ、どうにも適役を選ぶのが至難でして。」

 

「ってぇと?」

 

「何というか、その…当たり前ですけどウチって異形種ギルドじゃないですか?しかも極悪で知られた。」

 

「まぁそうやね。」

 

「で、同行する者を選ぶにあたり、戦闘にある程度以上優れ、人型でかつ最低限ことを荒立てない人選になるんですが…」

 

「まぁ〜そうなるだろうねぇ。」

 

ユリはプレアデス副リーダーであるためナザリックを離れられず、ルプスレギナはオレっちの専属、シズは武器がオーバーテクノロジー過ぎて目立ちすぎるし、エントマは食欲の面で不安が残る。

 

「ってぇなると、候補は今現在モモさんの世話役もやってるナーベラルか、ソリュシャンてとこやね。」

 

「ええ、そうなりますね。」

前者は専属ということでそのまま動かしやすいし、後者は索敵や探知が出来るので、冒険者っぽいと言えばぽい。

 

ただ、どちらも人間に対してどう反応を示すか分からない不安定要素がある。

 

反応を確認しようにも、この前の人間はニューロニストの元へおくり、もはや絞りカスの死体であるためどうしようもない。

 

極悪ギルドのNPCは、当然そう言うコンセプトの元作られることが多いため、明確なカルマ値などは反応を見て確かめるしかない。

 

結局二人は、ああでもないこうでもないと、うんうん唸って結論を翌日に持ち越したのだった。

 

 




アイテム説明
魔結晶

文字通り結晶化した魔力であり、作り上げるには例えるならば、色のついた水を色を混ぜずに攪拌するような器用さが必要。

らいかん・す・ろうぷ特有の技術であり、これをもってらいかんはアーティファクトの変態的性能を引き出すに至った。協力者はモモンガ様やウルベルトさんなどがいる。


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見送り

 

 

さいどらいかん

 

悩みに悩んだ結果、モモさんが連れて行くのはナーベラル・ガンマとなった。

 

まぁ、妥当っちゃあ妥当やね。

強いて問題点をあげて言うならパーティ構成が魔法職二人というところだが、そこは剣士装備を身につけたモモさんが前衛となるらしい。

 

黒いフルプレートを身につけたモモさんを、ゲートの前で見送る。

 

「んじゃぁ、モモさんいってら。」

 

「ええ、留守は頼みましたよ。」

 

「ナーベラルも、モモさんを頼むなぁ。」

 

「はい、私の命に変えましてもお守りしたします。」

 

(忠誠心が重いなあ。)

 

(まぁ、なんかあればメッセージくれりゃぁ相談くらいは乗れるから、身構え過ぎないくらいが案外ちょうど良かったりするんでない?)

 

(相変わらず軽いですねえ。)

 

(まぁオレっちだかんね。)

 

(もう、軽過ぎて逆に安心してる自分がいますよ。)

 

(ま、マジメな話これからはこないだのカルネ村みたいに、ちょっと出てくるみたいなんは難しくなりそうやね。)

 

(冒険者とは依頼を受けて魔物を討伐する者たち、つまりは有名になるほどに依頼主に行動を左右されかねないですからね。無論、断ろうと思えばできるとは思いますが、その場合名声に傷がつくのは避けられません。)

 

そのため、モモさんは守護者達が少しでも仕事がしやすいようにと、階層間の自由な行き来ができ、またギルドの証でもあるリングオブアインズウールゴウンを配布した。

 

守護者達は至高の御方々の証たる指輪は受け取れないと言っていたが、「ならばそれに見合うだけの働きをもって報いるように。」とモモさんが言ったことで、とりあえずは何とかなった。

 

(寂しくなったらいつでも駆けつけるかんね。)

 

(……ええ、頼りにしてます。)

 

(何、今の間?)

 

(気のせいでは?)

 

で、二人を送り出して少し経った頃、オレっちは闘技場に来ていた。

 

以前アウラにカルバリン砲の試射を見てもらって以来、何度か実験にこの場所を借りているのだ。

 

「さぁ、見てろよ〜アウラ。」

 

「はい!見てます!楽しみです!」

 

オレっちは腰を低くし、右拳を突き出す。

 

左手で横から右腕を抑え、そして叫ぶ。

 

「ロケットパ〜〜ンチ!!」

 

ドシュウという音と共に右手が発射され用意された的に当たる。

 

刹那、的は爆風と共に粉々になったのだった。

 

「かぁ〜っ!やっぱロケットパンチは浪漫やねぇ!」

 

「凄かったです、かっこよかったです!」

あいも変わらずキラキラとした目でこちらを見ている

「おうおう、あんがとなぁ。」

 

他にも武具類の強度や動作の確認だったり、なんだりして闘技場を後にし、自室に戻る。

 

ルプスレギナの用意してくれた食事を済ませ、工房に入りしばらくすると、モモさんからのメッセージが来たのだった。

 




アーティファクト説明

ロケットパンチ

説明不要、機械義手ならまず付けたいギミック。

ある意味男子の憧れ。


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冒険者

 

 

さいどらいかん

 

なぜ、初日からいきなりメッセージを送られたのか、モモさんの話をまとめると、ナーベラルが思った以上に人間嫌いであったと。

 

で、アルベドに相談しようとメッセージを送ったら、アルベドも同じような感性の持ち主で頭を抱えていたらしい。

 

オレっちは確認も兼ねて現状整理を行う。

 

(んで、冒険者登録自体はもう済んでるんだっけ?)

 

(ええ、思ったより早く済んで、今は組合に紹介された宿屋に居ます。本格的に依頼を受けるのは明日からですね。)

 

(しっかし冒険者ねぇ〜、モモさんくらい強けりゃいきなり一番上とかなれないん?)

 

(いや、最初は誰でも一番下の銅のプレートかららしいです。一番上、つまりアダマンタイト級はこの国でも2チームしかいないとか。)

 

(ほーん、先輩の顔を立てろってことかね。にしても2チームって、もしかしたらどっちかのチームにユグドラシルの元プレイヤーがいるかも知れんね。)

 

(まあ、望み薄かもしれませんが。)

 

(望みゼロよりは良いじゃんよ。)

 

(それもそうなんですが…。)

 

(なに?他にも悩みがあるん?ついに出先でもアルベドから愛のメッセージが飛んでくるようになったとか?)

 

(……面白いものを期待しているならすみませんけどそれは無いですね。)

 

ま、仕事とプライベートは分けるタイプみたいだしなぁ彼女。

基本モモさん絡まなきゃ優秀だし、守護者総括に相応しい実力だってある。

だからこそナザリック地下大墳墓からあまり離れられないってのもあるんだが。

 

(まぁせっかくの外なんだし、楽しんだ方がモチベも上がるんでない?ローマは一日にして成らずって言うし、何をするにも焦ったってしゃーないでしょ。)

 

なんてモモさんみたいな慎重派に言っても釈迦に説法かもしれないが。

 

ただ冒険と聞いてワクワクする感覚はきっと誰もが持つものだ。モモさんもそうなんじゃないかなんて勝手に推測する。違ったら怒られるだろうけど。「そこまで子供っぽくありませんよ」なんて。

 

(そう言うものですかね。)

 

(そーそー、案外気楽に考えたほうが上手くいくこともあるって。じゃ、おやすみ〜。)

 

(ええ、おやすみなさい。)

 

オレっちはメッセージを切ると、キセルをふかしながら自室のソファーに腰掛ける。

義手と義足は手入れしたばかりでピカピカだ。

 

ついでに部屋にもゴミどころかチリ一つ落ちていない。ほんと、メイド様様やねぇ。

 

そんなことを考えた数秒後、オレっちは影のように近くにいたルプスレギナに驚かせられたのだった。

 



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メイド

 

パチン パチン

 

らいかんの私室、正確には工房に隣接する居間に爪を切る音が響く。

 

しかし、切っているのは彼自身ではなく赤毛のメイド、ルプスレギナ・ベータである。

 

「しっかし、爪の一つで何か変わるもんかねぇ。」

 

ルプスレギナは完璧なメイドを演じながら

 

「至高の御方には常に相応しいお姿でいて欲しいものですので。」

 

と、至極理性的に接する。

 

カルネ村よりナザリックに帰還して、すぐに私室に戻ったらいかんは獣人フォルムに戻り、専属のメイドであるルプスレギナに食事を頼んだ。

 

運ばれてきた食事を食べて、さあ作業だと意気込んで工房に行こうとしたら、ルプスレギナが待ったをかけた。

 

珍しいので

 

「どしたい?」

 

と尋ねると、爪が伸びているのが気になったので無礼を承知で切らせて欲しいと申し出てきた。

 

そう言えば爪の手入れなどこの姿になってからあまり、というか全くしていない。

よく気づいたなと感心しつつ、やってもらえるならありがたいと

 

「じゃあ頼むなぁ。」

と返事をするなり、「ではお手を」といつの間にか手にしていた爪切りを取り出し冒頭に至るのである。

 

 

アタシはアルベド様やシャルティア様みたいに焦らないっすよ。

 

と、ルプスレギナ・ベータは心で呟く。

今あのお方にすべきは、猛アタックを仕掛けることではなく、身の回りのお世話を一身に引き受け、『お側に居て当たり前』の立ち位置を確立すること。

 

ギルド長であるアインズウールゴウンが、守護者二人にグイグイ来られて若干引き気味なのを見て学んだのだろう。

 

無論、そのままではただの数いるメイドと変わらないが、しかしそれは一般メイドを極力あのお方の部屋に入らせなければ問題無い。

 

とは言っても、何も強引なやり方をしているわけでは無い。

 

ざっくり言えば、「こっちはやっておくからあっちをやっといて」というのを何度もやっているだけである。

 

ただ、別件で手が離せない事もあるかもしれないし、他ならぬらいかん・す・ろうぷ様のご命令で所用を申しつけられる事だってあるのだからそこはある程度割り切っている。

 

ルプスレギナにとって色恋とは早い者勝ちの競走ではなく、最後に意中の相手の隣にいればいい、いわば持久戦。

 

オオカミ(意味深)になるのはもはや勝利が確定した時だけで良い。

 

とある妹から聞いた話では、アインズ様の()()()に関してアルベド様派かシャルティア様派かで姉妹間で分かれていると言う。

 

ただ、現状は自分のようにどちらにもつかない者もいるとか。

 

ルプスレギナ的にはどちらでも至高の御方が決めた方で良いという考えであり、ぶっちゃけてしまえばその争いは不毛とすら思っている。

 

とするならば、仮にどちらかにつくとして、問題なのはどちらに恩を売ればらいかん・す・ろうぷ様との仲にプラスになるかだろう。

 

どちらが勝った方がより便宜を図って貰えるか、

立場で考えればアルベド様である。

 

守護者総括として、常にアインズ様のお側にいる分有利であるし、立場的にも相当の信頼を賜っているのは想像にかたくない。

 

ただ、実績や功績、実力で見た場合はシャルティア様も決して劣るわけでは無い。

 

それは第一から第三階層を任されるほどの戦闘能力からすればまず間違い無い。

 

ある種、現場を知っている分こちら寄りの人物とも言える。

 

血の狂乱によって理性がぶっ飛ぶこともあるが、それもまた造物主たるペロロンチーノ様によって付け加えられた大切なものだ。それを否定するつもりはない。

 

(まぁ、まずはナーベラルに確認っすかね〜。)

 

頼れる妹がいることに彼女がこれほど喜んだことは多分ないだろう。

 

どちらに着くにせよ、或いは傍観するにせよ、愉快なことになるのは違いない。

 

そう思い、ルプスレギナは心中に笑みを浮かべるのであった。

 



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信頼

 

フレンドとのメッセージを終え、駆け出しの冒険者モモンもといアインズはため息をつく。

 

(まさかいきなりうっかりで先輩冒険者のポーション割っちゃったなんて言えないよなあ。)

 

アインズは頭を抱えていた。トラブルに巻き込まれた事に、ではなくそれをどう伝えたものかと言うことについてである。

 

エ・ランテルに到着し、冒険者組合で登録を済ませたはいいものの、組合に紹介された宿屋に泊まろうと店主に話しかけた際、ガラの悪い先輩冒険者に絡まれ、その対処をしていたところ、誤って他の絡んで来なかった(というかアインズが目に入っていなかった)先輩冒険者のポーションを割ってしまったのだ。

 

まあ、そのトラブル自体はもう解決したからいい。と思う。

 

絡んできた先輩冒険者は返り討ちにしたし、ポーションの件も所持していた治癒のポーションを渡す事で後腐れなく終わった。

 

(ただなあ、ロウさんだしなあ。)

 

言ったら面白がって揶揄われる事請け合いである。

 

或いはそう言うトラブルも良い思い出だとフォローをもらえるだろうか。

 

確率的には五分五分だと思う。

 

ただ、思わぬところで思わぬ助言をしてくれる友人を信用していないわけではない。

 

むしろかなりの部分頼りにしている。

 

(せっかくの外なんだし楽しんだ方が良い……か。)

 

元々冒険者となったのはユグドラシルプレイヤーと、この世界の更なる情報収集のため。

 

自分たちはまだまだ知らないことの方が多いのだ。

 

ただ、少し期待というか楽しみにしていたところがなかったかと言われればそんな事はないわけで。

 

ロウさんにはあくまでバックアップに徹してもらい、必要とあらばアーティファクトを借り受ける。若しくは、ある程度名が知られたのち、自身の紹介という形で、冒険者稼業を手伝ってもらうことも視野に入れている。

 

無論、当人からの了承も得ているからその点に関して何か言われることはないだろう。

 

周辺の地理を確認がてら散歩して気を紛らわそう。そう思い、プレアデスのひとりナーベラル・ガンマに告げる。無論、散歩の部分は省いて。

 

この時間ならば酒場もやっているだろうし、ある程度有益な情報もあるかもしれない。

 

「しかし、初日からメッセージを送ることになるとはなあ。」

 

夜の街を彷徨きながらひとりごちる。

 

「ん?」

 

キラキラと、青い光がアインズの前に現れる。

それは、魔結晶で作られた彼の友の傑作の一つ。

 

「これは、水晶梟(クリスタルオウル)か。」

 

水晶梟(クリスタルオウル)、優れたステルス性能と複雑な命令も実行可能な高い知能を有した水晶獣の一体である。

 

現に、こうしてアインズが知覚するまでその目立つ蒼色の羽根は誰の目にも触れていない。

 

ふと、足を見ると通信筒がついている。

 

メッセージで伝えてくれれば良いのにと思わなくはないが、しかし、らいかん・す・ろうぷという友人はロマンを求める男だ。

 

というかこれはロマンなのか疑問に思って、アインズは深く考えるのをやめた。

 

ジッとこちらを見つめる水晶梟(クリスタルオウル)の足から伝書筒を外して中身を見る。

 

暗がりだが、暗視持ちのアインズには問題なく読めた。

 

『その子が行きたそうにしていたので、役立ててあげて下さい。』

 

「ロウさん……。」

 

確かにこの子ならば情報収集や、偵察にうってつけだろう。

 

なんやかんや言いつつ、結局フレンド想いな友人に感謝の念を覚える。

まして、我が子も同然の水晶梟(クリスタルオウル)を預けてくれるのだから嬉しくもなる。

 

なんなら少しジーンと来た。

 

しかし

 

『追伸』という文言を目にして「ん?」となる。

 

何かあったのだろうか。

 

『最近ルプスレギナがこっち見るたび、スキルの野生の勘(危機察知)が働くんだが何か知らん?』

 

アインズは見なかったことにした。

 

「こちとら二人相手にどうしたもんかと頭を悩ませてるってのに」なんて私情はきっと無い。

 

無いったら無い。

 

一方その頃、ナーベラルは

 

(でねー、らいかん・す・ろうぷ様ったらアタシの料理を今日も残さず食べてくれてー……)

 

(はいはい。)

 

いつも通り姉の惚気話を聞かされるのだった。

 



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初依頼

 

 

文字が読めない。

 

それは通常、真っ先に気づくべきことではあったが、しかしアインズはどこか楽観視していた所もあった。

 

昨日の冒険者登録の際は口頭で十分であったし、言葉が通じるのだから文字ももしかすれば読めるかもと少なからず期待していた部分もあった。

 

しかしその淡い期待は脆くも崩れ去ってしまったわけだが。

 

カルネ村の村長に聞くにしても、山奥に住んでいた魔法詠唱者が、基礎とも言える教養を受けていないとなると不自然に過ぎるため聞けず、かと言ってどんな文字も読めるモノクルは、現在別件で任務を与えているセバスに預けてあるため手元には無い。

 

(ロウさんならどうするんだろうな。)

 

邪魔にならないよう、依頼の貼り出されている掲示板から少し遠目の椅子で腕組みをしながら考える。

 

掲示板の前には既にお目当ての依頼を見つけたのだろう先輩冒険者が群がっている。

 

隣にいるナーベラルは、己の指示を待っているようだ。

 

引きこもりを自称しているが、ヘンなところで思い切りがいい友人のことだ。

 

こういう状況も割とすんなり解決しそうではある。

 

しかしまあ、何とかするしか無い。

 

そうでなくとも、流石に二日連続でロウさんに相談するのもどうかというのもあった。

 

思案に暮れてどれほど経ったか、既に掲示板の前から人の群れはほぼいなくなり、パーティ毎に集まって武具の確認や消耗品の整理を行なっているようだ。

 

適当な依頼は最早取り尽くされたと見えたが、それはそれで却って都合がいい。

 

おそらく残った依頼は難易度がこの世界基準で、それなり以上に高いか、あるいは報酬があまり美味しくない初心者向けのものかどちらかだろう。 

 

アインズはその中から目に付いた紙を取り、受付に持って行く。

 

「この依頼を受けたい。」

 

とアインズが告げると、受付嬢は困惑した様子で

 

「申し訳ありません。こちらはミスリル以上の冒険者の方しか受けられない依頼なのですが…。」

 

と言うが。

 

「知っている。だから持ってきた。」

 

と自信家のように振る舞う。

 

受付嬢は困り顔になるが

 

「我々は我々に相応しい仕事を斡旋してもらいたいだけだ。実際、私の連れは第三位階魔法の使い手で、私もそれ相応の使い手と自負している。」

 

と続けて告げる。

 

場がざわつくがアインズは特に気にしない。

 

「申し訳ありませんが、規則ですので…。」

 

本当に申し訳なさそうに受付嬢が言う。

 

「そうか、わがままを言ってすまなかった。では、銅のプレートで一番難易度の高い依頼を見繕って欲しい。」

 

そう言うと、受付嬢はやっと安心したように、その注文を聞き入れ、依頼を探し始める。

 

アインズはこの時、心の中でよしっとガッツポーズをしていた。

 

その時

 

「でしたら、私達の仕事を一緒にしませんか?」

 

と、後ろから声をかけられた。

 

振り向けば声の主と、その近くに三人の冒険者がいる。

 

恐らくパーティなのだろう。

 

我ながらやっと上手くやれたと思った矢先だったので、少し不機嫌になりかけたアインズであったが、話だけでも聞いてみようとその四人組と同じテーブル席に腰掛ける。

 

どうやら彼らは漆黒の剣という冒険者パーティでプレートは銀だという。 

 

メンバーはリーダーのペテル、野伏のルクルット、森祭司のダイン、魔法詠唱者のニニャの四名。

 

なお、ニニャはタレント持ちだという。

 

タレントというのはユグドラシルには無かったもので、その名の通り生まれ持っての才能らしい。

 

だが、それでも玉石混交らしく、また肝心のタレントと当人の気質や性格が合わないことも珍しくはないという。

 

それ故に、自身にピッタリと合ったタレントを保持することは本当に運がいいことらしい。

 

有名どころで言えば、ンフィーレア・バレアレという人物がそれに当たるらしい。

 

なんでも、名の知れた薬師の孫だとかで、マジックアイテムを何でも使えるという破格のタレントを持っているらしい。

 

これは流石にこの世界に疎いアインズでもすごく、また危険なタレントであると分かる。

 

些かの注意と警戒が必要と感じたアインズだが、話はそのまま続ける。

 

最後に軽い自己紹介を終え、依頼の話に入る。

 

しかし厳密には誰かからの依頼ということではなく、エ・ランテル周辺のモンスターを討伐して、街から出るその報奨金を貰おうということのようだ。

 

なお、目的地は南の森。

 

以上を踏まえて協力してもらえるか、と問われアインズは了承したのだった。

 




なお、水晶梟はステルス性能を活かして、モモンさんの近くに待機してます。


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薬師

 

 

話がまとまり、受付にそのことを伝えるため、窓口に向かうと何と、冒険者モモンへの指名依頼が入っていた。

 

これは、冒険者にしてみればとても名誉なことらしく、少なくとも、昨日今日冒険者になったばかりの新人はまず縁のない話のはずだった。

 

現に当のアインズも若干困惑していた。

 

しかも、運命というべきか何というべきか、依頼主は先ほど話題にも上がった張本人ンフィーレア・バレアレその人であった。

 

「はじめまして、ご紹介に預かりました。ンフィーレア・バレアレです。この街で、薬師をやっています。」

 

彼は線の細い少年で、目元は前髪で隠れている。

 

有名人なためか、組合施設内はちょっとした騒ぎが起きている。

 

「すみませんが、こちらの方達との先約がありますのでまたの機会にお願いできますか?」

 

そう言ってアインズが断ると、周囲の冒険者達は真っ二つに分かれた。

 

せっかくの指名を断るなんてもったいないと非難するような声と、冒険者たる者信用が第一であり、目先のツテでは無く先約を大事にするのは立派なことだと称賛する声だ。

 

どちらも至極最もな言葉だとアインズは感じる。

 

しかしペテルはどちらかというと前者寄りの意見だったようで、驚いた様子である。

 

「モモンさん、いいんですか?せっかくの指名依頼を断って?」

 

「既に約束を取り交わした身でありながら、その舌の根も乾かぬうちにそれを違えたくはありませんから。」

 

「しかし…。」

 

ペテルはどこか納得していない様子だ。

 

恐らくは善意なのだろう。

 

実力を見てはいないが、少なくとも冒険者モモンは未だ駆け出し、それがいきなり名を売る千載一遇の機会を逸するのが勿体無いという考えなのだろう。

 

このままでは埒があかないと判断したアインズは

 

「でしたら、これから依頼を聞いて、それから判断するというのはどうでしょうか?」

 

それならとペテルは納得してくれた様子で、ンフィーレアを彼らが元々腰掛けていたテーブル席に案内する。

 

幸い、テーブルの上のコップなどは片付けられていたが、イスは空いていた。

 

パーティの皆が席についたのを見届けると、ンフィーレアは

 

「依頼というのは、近くの森への警護と、森の中での薬草採取のお手伝いをお願いしたいんです。」

 

と申し出てきた。

 

森は自然の恵みの宝庫であると同時にとても危険な場所でもある。

 

視界が悪く、野盗やモンスターとの遭遇戦になりやすいため余程腕に自信があるか、地理に詳しくなければただの自殺行為。そのため警護をつけたいというのは理解できる。

 

薬師という仕事柄、自分で薬草の状態を確認したいとか、常に薬草が入りようというのはわかるが、しかし彼ほどの有名人が、世に知られていないどころか、ぽっと出も良いところの冒険者であるモモンをわざわざ指名してまで依頼することだろうか。

 

少し悩んだが、アインズは了承する事にした。

 

そして、「漆黒の剣の皆さん。良ければ私達に雇われませんか。」

 

と提案する。

 

「森に入るのならば、森祭司であるダインさんや、隠れた敵を見つけ出す野伏のルクルットさんの出番だと思いまして。」

 

「うむ、モモン氏は分かっているであるな。」

 

ダインは上機嫌な、しかし矜持を感じさせる言葉に良い感触を覚える。

 

「ま、このオレがパーティの目であり耳であるからには、斥候は任せときなよ。」

 

ルクルットも満更でも無さそうで、悪い気はしていなさそうだ。

 

話に挙げられた二人が乗り気出会ったのも手伝って、リーダーのペテルもそれではと、意外と快諾してくれた。

 

あとは依頼主に確認するだけだが、これもクリアできた。

 

それではとンフィーレアはこれからの予定を話す。

 

まずはカルネ村まで行って、滞在拠点を設けた後、森へ向かうという。

 

採取日数は長くて三日。

 

馬車はあるが薬草の壺を乗せるためアインズ達を乗せる余裕は無い。

 

その他、粗方聞き終えたアインズは

 

「なぜ私なのでしょう?私はつい先日この街にやってきたばかりで親しい友人もいませんし、知名度もプレートを見ての通り銅です。それにンフィーレアさんほどの方ならば、腕の立つ冒険者にツテもあるのでは?」

 

「実は、宿屋での件を聞きまして。」

 

宿屋での件。恐らく絡んできた先輩冒険者を返り討ちにした一件だろう。

 

「それに、そんな方が銅の分の金額で雇えるならお得でしょう?」

 

この少年はアインズが思う以上に強かなのだろう。

 

その後、いくつかの質問を終え、準備が終わり次第出発することと相成ったのだった。



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一方その頃

 

 

「っかし、ままならんねぇ。」

 

らいかんは金床の上のものを見てぼやく。

 

それはいわゆるロングソードと呼ばれる武器であり、そのまま見れば店頭に並んでいそうであるが、彼にしてみればまだまだ出来が甘い習作に過ぎない。

 

義手に持った槌を見やり

 

「まっさか、モモさんにとっての遠隔視の鏡がオレっちにとっての鍛治だったとは。いやまぁ、厳密にはオレっちは工匠であって鍛治師じゃないんだけども。」

 

と、らいかんはぼやく。

 

ここのところ、らいかんが工房に篭り切りになっていた理由は、勘を掴むためにユグドラシル時代の武具や、アイテムのレシピを総当たりしているからだ。

 

なお、理由は同じレシピばかりでは飽きるから。

 

しかし、量が量である。

なにせ運営が十年以上の歳月をかけて作り上げたアイテム数、レシピ数であり、期間限定イベント等も加味すると更に増えるため、全て消化するのは流石に骨が折れる。

 

ついさっき、やっと2%ほど終わったところである。

 

ぶっちゃけて仕舞えば、ごく一般的な人間やモンスター相手の戦闘で武器として使うなら今出来上がったばかりのコレで十分だ。

 

また、使用に耐えるというだけならば、既存のアーティファクトだけでも事足りる。

 

というか、アーティファクト作成に関してはなんの問題もない。

 

それこそ、腕の仕込み武器と同じように意識を傾けるだけでなんとなくやり方がわかる。

 

しかし、スキルによる作成というのは彼的にあまりに味気ないのと、何より大切なフレンドから譲り受けた工房で半端なモノを作るのはらいかんの(あまりない)矜持が許さなかった。

 

「モモさんだって頑張ってんのに、オレっちだけダラダラはできんやね。」

 

らいかんは己に、ひいてはアーティファクトに足りていないものが何か自覚している。

 

それは、どんな優れたアーティファクトであっても結局魔法で代用できてしまう、あるいはアーティファクトというもの自体が、ことユグドラシルに於いては、プレイヤーが魔法を覚えるまでの繋ぎとしての側面が強いのだ(だからこそ、彼の作品であるアーティファクトが変態性能扱いされてもいるのだが)。

 

極論、レベル100の大体の魔法詠唱者が使う魔法の方が、並のアーティファクトよりも派手な上実用性も高い。

 

別にそれは良いのだ。悲しくない訳ではないが、そういう風に作られているのなら、それはそれと割り切るより他ない。

 

しかし、ここはゲーム世界のモンスターが跋扈し、ゲーム世界の魔法こそ存在しているが、それ以外があまりに異なる世界。

 

青空があり、動植物があり、それらが動くし触れる。

 

らいかんは歓喜した。否、狂喜した。

 

ここでなら、ゲームという枷の外されたここでなら、並み居る魔法詠唱者を飛び越えるような作品を生み出せるかもしれない。

 

見たこともないような未知の素材があるかもしれない。

 

或いは未知のアイテムがあるかもしれない。

 

そして、それによって至上の浪漫アーティファクトが作り出せるかも知れない。

 

何より自慢の水晶獣達を更なる高みへ連れて行けるかも知れない。

 

そう思うだけで、自然と体が動くのだ。

 

別に強力な兵器が欲しいわけではない。

 

というか、進んで戦いに出たい訳でもない。

 

ただ、らいかんの掲げる至上の浪漫アーティファクトがそれであるならそれを作るだけのことだが。

 

「らいかん・す・ろうぷ様。」

 

ふと、影のようにそばに立ったメイドが話しかけてくるが、らいかんは最早慣れたもので

 

「ん、ルプスレギナか、どしたい?」

 

と答えるまでに心の余裕ができた。

 

食事の時間にはまだ早いとらいかんは思う。

 

「お水をお持ちしました。」

 

「おう、すまんねぇ。水くらい自分で持ってこられりゃぁいいんだが。」

 

「いえ、私は貴方様の専属メイドですので。」

 

「でもまぁ、こういう暑苦しい場所に態々持ってきてもらうってのも悪いやね。」

 

入り口のところに水の入ったピッチャーとコップでも置いといてもらえれば適当に飲む、と言うようなことを以前言ったがルプスレギナの答えは「大丈夫です。」の一点張りだった。

 

見上げた忠誠心だと感心したのをらいかんは覚えている。

 

因みに現在野生の勘は作動していない。

 

やはり杞憂だったかとらいかんは安堵しルプスレギナに了承を取ってキセルを吸う。

 

一息ついたらいかんは、再び槌を手にするのだった。



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失態

エ・ランテルを出立し、カルネ村に向かってしばらくした頃、一行は森に沿って歩いていた。

 

漆黒の剣と、モモン、ナーベは馬車の周囲を歩いて警護についている。

 

御者を務めるのは依頼主であり警護対象のンフィーレアである。

 

ペテルがアインズの方を向き言う。

 

「モモンさん、ここから少し危険地帯になるので念のため注意を。」

 

アインズは頷き、警戒を厳にする。

 

元々アインズは魔法詠唱者であり、それに比べれば前衛にはあまり自信はない。

 

しかも現在はその魔法もほぼ唱えられないため、不安もひとしおといえる。

 

(いざと言うときは、ナーベラルが第五位階魔法で対処する手筈になっているが……。)

 

アインズはカルネ村の時よろしく、らいかんに半ば無理矢理でもついてきてもらったほうがよかっただろうか。などと少し後悔する。

 

(いや、水晶梟まで借りておいてそれは贅沢か。)

 

今のところ、漆黒の剣の面々に水晶梟のことは話していない。

 

これまでの言動を考えても、善良な冒険者だと思いたくはあるが、万が一水晶梟を盗まれましたでは、それこそらいかんに合わせる顔がない。

 

考え込んでいるアインズを見て、不安になっていると思ったのか、ルクルットが声をかけて来る。

 

「ヘーキヘーキ、奇襲でも無けりゃ危ない事にはならねえよ。」

 

何故ならオレがいるからな。と得意げである。

 

なお、そのあとナーベラルに同意を求めてすげなく返された模様。

 

ナーベラルに言動を注意しようか否か悩んでいるアインズをみて、ンフィーレアは

 

「この辺りは森の賢王のテリトリーなので、滅多に魔物はでませんよ。」という。

 

「森の賢王…ですか。」

 

「はい。数百年の時を生きると言われる魔獣で、カルネ村がモンスターに襲われなかった理由でもあります。」

 

つまるところ、トブの大森林のヌシと言ったところだろうか。

 

(ロウさんが聞いたら飛びつきそうな話だな。その話が本当なら俺も会ってみたいし。)

 

何せ数百年である。

 

ならば、アインズの知らないような、或いは驚愕に値するような叡智を有しているかも知れない。

 

(しかし、ルクルットという奴の口はよく回る。チームのムードメーカーというやつか。)

 

何事にもへこたれないメンタルというのは何気に貴重な素質だ。躊躇せず、臆面もなく人との距離を詰めようとするのは楽天的なのか、考え無しなのか。

 

現に今もナーベラルに何度悪態をつかれようとも話しかけているのだから恐れ入る。

 

彼なりに新人を気にかけているのか、それとも本当に惚れているのか、それは当人のみの知るところ。

 

ただ、それ故に爆弾を放るのも無自覚なようだ。

 

あれ?どこかの狼男かな?

 

まあ、あちらは本人曰く、長年の執筆生活をしていた反動のようなものらしいが。

 

「なーなー、ものすごくモモンさんを信頼してるみたいだけど、やっぱナーベちゃんとモモンさんって恋人同士だったり?」

 

「こっここ恋人などと!そもそもモモンさんにはアルベド様という方が!」

 

「ちょ、おい!ナーベ!」

 

ナーベラルは己の失言にハッとし、咄嗟に口を押さえる。

 

アインズは努めて冷静な声色で

 

「ルクルットさん。すみませんが詮索はやめていただけますか?」

 

彼としても、すこしからかうだけのつもりだったようで、すぐに謝罪の言葉が返ってきた。

 

場の空気の重さを感じ取ったのか、ペテルが無駄話をやめるよう注意してくれ、彼から改めて謝罪の言葉がきた。

 

「仲間がすみません。誰であれ、過去の詮索は御法度だというのに。」

 

「いえ、次から気をつけて頂ければ。」

 

その後はニニャやペテルに魔法について質問し、他にも武技や、タレント、周辺の国家についてなど、あらゆる情報を思いつく限り聞いていた。

 

自分自身のためにもなるし、ナザリック地下大墳墓にいる友人への土産話にもなるだろう、というのもある。

 

場がなんとか持ち直した安堵からか、色々と解答が返って来るのが楽しくなってきたアインズは、己の失態に今なお落ち込んでるナーベラルをどう持ち直させようと悩むのだった。




今回もあんまり話が動かなかったなぁ……(遠い目)


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チームワーク

 

 

歩きながら、しばらく警戒を崩さない程度に三人が話しているとルクルットがピタッと足を止める。

 

「動いたな。」

 

と、ルクルットがいつになく緊張感のある声で言って、視線で森の一角を見やる。

 

ペテルがどこからかと尋ねるとチョイチョイと指差して場所を知らせる。

 

非戦闘要員のンフィーレアには下がってもらい、一同は警戒を厳にする。

 

やがてモンスターの群れが姿を表した。

 

ゴブリンとオーガ、合わせて二十いるかいないくらいだろうか。

一度に相手にするには少なくない数がこちらに向かってやって来る。

 

しばらくすると、彼らの視界にもアインズ達が入ったのか明確な敵意をもって走り出した。

 

「こりゃあ戦闘は避けられなさそうにないな。」

 

「みなさんはンフィーレアさんについていて下さい。丁度いい機会ですので私の実力を直接その目で見て知っていただきたい。オーガごとき容易く屠るって見せましょう。」

 

冒険者モモンの自信に満ちた声色にペテルとルクルットは頷く。

 

「分かりました。しかし、出来る限りの支援はさせて頂きますよ。」

 

その後、漆黒の剣は短めの作戦会議をその場で行い、所定の位置につく。

 

いつもの、という言葉が聞こえたことから、いくつかのパターンがあるのだろ

うことが分かる。

 

はじめにルクルットがわざと矢を手前に落としてゴブリン達の油断を誘う。

 

そうして遮二無二突っ込んできたゴブリンを今度は的確に射抜いていく。

 

ペテルはニニャに防御魔法で支援をしてもらい、ダインは植物を操る魔法で足止めを行う。

 

アインズその横を悠々と歩き、向かって来るオーガを両手に一本ずつ持ったグレートソードで真っ二つにする。

 

それにびくついたのか、アインズの目の前のオーガは最初の勢いはどこへやら、及び腰になりつつある。

 

ならばと、ペテル達の方のゴブリンが襲いかかるが、チームワークの違いかなかなか思うように攻めきれていない。

 

(いいパーティだな。)

 

とアインズは素直に思う。

 

互いの長所、短所、得意な武器やその適正距離、習熟している魔法など互いに互いを知り、理解しているからこそ安心して背を預けられる。

 

思えば自分たちもそうだった。

 

作戦立案を嬉々として行ってくれた人、とにかく突っ込むのが大好きだった人、作戦中だと言うのにケンカをやめない二人や、一撃必殺に全てを賭ける人、ヒャッハーと言いながらなかなか無茶な実験を始める人もいたっけなぁ、と。

 

ノスタルジーな思いが胸に去来するが、今は戦闘中。意識を目前の敵に向け、そうして再び敵を狩る。

 

オーガ達は自分たちの形成不利を悟ったのか、皆武器を捨ててなりふり構わず逃げ出す。

 

「ナーベ。」

 

「はい。」

 

短い応答を済ませ、ナーベラルは背を向けるオーガに指を向けてライトニングの魔法を放つ。

 

魔法はオーガを貫通し、前を走っていたもう一体も貫く。

 

それによって今度は完全にゴブリン達の戦意が失われたのか、モンスターは皆が皆我先にと駆け出す。

 

そうして初任務の初モンスター襲撃は、漆黒の剣とモモン、ナーベの勝利と相なった。

 

傷ついたルクルットとペテルをダインが回復させ、ニニャはゴブリン達の死体から耳を切り落とす。なんでもこれを組合へ提出することによってモンスター毎の報酬を得られるのだとか。

 

「しかしモモンさん凄いですね。」

 

「その剣はどっかの逸品?羨ましいねー。」

 

「噂に名高い王国戦士長並の強さであるなあ。」

 

「分かっては居ましたが、上には上がいると実感させられましたよ。」

 

漆黒の剣の一同は、みな冒険者モモンを称える言葉を口にする。

 

それにアインズは謙遜気味に

 

「皆さんもその内、あのくらいは出来るようになりますよ。」と言う。

 

その言葉を聞いて、ペテル達は苦笑いを浮かべるより無かった。

 

 

 

 

 



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懐古

さいどアインズ

 

オレは用意された食事の乗った盆を手に、漆黒の剣から少し離れ、かつあちらからあまり見えない所でちょうどいい切り株に腰掛ける。

 

なおナーベラルはその側に立って待機している。

 

というのも、アンデッドのこの身では食事は出来ず、それを不審がられないよう適当に理由をつけて距離を置いたのだ。

 

報告がてら、メッセージを使用し、見聞きしたことやその中で気になったことをロウさんに話す。

 

中でも取り分け関心を引いたのが

 

(森の賢王ねぇ。)

 

ロウさんはメッセージ越しにも分かるくらいに好奇心を刺激されたようだ。

 

(ええ、何せ数百年を生きる魔獣です。オレやロウさんが知らないことも知っているかも。)

 

(そうだなぁ、興味深くはあるなぁ。)

 

(蛇の尾を持つという特徴から推察するに、オレはその正体を鵺だと踏んでるんですが。)

 

(あぁ〜いたねぇ、イベントボスかなんかだったっけ?)

 

そう言われてふと思い出す。

 

(そうですそうです。いつだったかのお月見イベントのレイドボスですよ。)

 

確か和風なテイストのイベントで、城郭の一番上に鎮座していた記憶がある。

 

なお、戦いの度に苦手属性などが不規則に変化するクソボスだった。

 

(いやぁなついねぇ、そういやあのイベントの時だっけ?)

 

(何がです?)

 

(ほら、ヘロヘロさんが珍しく有給取れた〜って言ってベロベロに酔っ払いながら入ってきて……。)

 

(あー、ありましたねえ、それでボス戦百連戦しようぜって珍しく勝気なこと言い出して…。)

 

(まさかの三連戦目での寝落ちですよ!)

 

うん、あれは驚いた。酒の勢いなのか、いつになくグイグイ行こうとするフレンドにみんなして心配してた。

 

(……まあ、お疲れだったんだと思いますよ?)

 

(なー。でも後になってした言い訳が一、十、百できちんと百連戦したでしょって、オレっち今でもそれツボなんだけどさ〜。)

 

あーこれこれ、この身内同士で取り留めもない会話してる感。

 

最近はすっかり忘れてたなあ。

 

(それで、ですね。時間的にも当然と言えば当然なんですが、ついさっきこの世界の食事を出されまして…。)

 

(この世界の料理?なにそれスッゲー気になる!)

 

凄い食いつきだな。まあ、食べられないからって食事をそのまま地面に埋めるのも後味が悪いし、どうしようか悩んでたから渡りに船だけど。

 

(………食べます?)

 

(もらう!)

 

即答だった。ロウさんってここまで食い意地張ってたっけ?しかし言ってから思い出したがこの装備ではゲートは使えない。

 

それを伝えようとすると

 

(んじゃぁ今から取り行くなぁ〜。)

 

え。

 

その瞬間、木の上に隠れていた水晶梟が地面まで降りて来る。

 

くりっとした大きい目が何かと共鳴するように青く光り、オレとナーベラルの周囲を結界で覆う。

 

何度か見たことがある。これは認識阻害の結界だ。

 

確か元々は気付かれず敵拠点に潜入するためのものだったな。重宝したっけなあ。

 

そして次の瞬間

 

「よっと。」

 

ロウさんが目の前に、厳密には水晶梟の眼の光の前にワープしてきた。

 

「うっす。で、メシどこ?丁度夕飯前でさぁ。」

 

……後でルプスレギナにフォローを入れるよう言っておこう。

 

 

さいどナザリック

 

「♪〜♪〜」

 

ナザリック地下大墳墓内、第九階層の厨房に鼻歌が響く。

その主は戦闘メイドプレアデスがひとり、ルプスレギナ・ベータである。

 

「あら、ご機嫌ねルプー。」

 

その様子を見て、彼女に声をかけたのは彼女の姉であり、プレアデス副リーダーにしてメイド長、ユリ・アルファである。

 

「あっ、ユリ姉。いやぁ〜分かっちゃうっすかぁ?」

 

「そこまで分かりやすいとね。そろそろらいかん・す・ろうぷ様にお夕飯を持って行く時間だものね。」

 

「そ〜なんすよ、今度のは自信作で…。」

 

「はいはい。」

 

同じ姉妹ということで、ルプスレギナは隠すこともなく上機嫌にノロケる。

 

元気で気まぐれ過ぎる妹が至高の御方に懸想しているのは分かってはいたが、正直ここまで変わるとは思いもしなかった。

 

叶う叶わぬは別として、姉として応援してやりたい思いもある。

 

「じゃあ、私はこれで。」

 

「?食べていかないんすか?」

 

「あのね、つまみ食いに来たみたいに言わないで。食べるときは普通に食堂使うわよ。」

 

ユリは呆れ気味に言う。

 

「そっすか。それじゃアタシはもう少ししたらこれ持ってくっす!」

 

「はいはい、頑張んなさい。」

 

その後、らいかんからのメッセージで、後で食べるという旨を伝えられ、落ち込むかと思いきや、「それもそれでアリっすねぇ。」とニヤニヤしていたのだった。

 

 

 

 

 



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一時合流

 

 

 

翌朝、アインズはたまたま会ったと言う体でらいかんを漆黒の剣に紹介する。

無論人間形態である。

 

「しかし驚きました。まさかモモンさんのご友人とは。」

 

「ええ、少し問題児なところもありますが。」

 

「お〜ぅ、そう褒めんなって。たまたま近くを通りがかってなぁ。別にメシの匂いに釣られたわけじゃねぇよ。」

 

「ハハハ、で、アンタはどんな得物使うんだ?」

ルクルットが気になったことを問うと

 

「おぅ、これよ。」

 

そう言うなり、ズシンと音を立ててらいかんは背中の布から大型のハンマーを取り出す。

ちなみにオリハルコン製の物だと騒がれそうだったのでミスリル製のものである。

 

「これはまた……。」

 

「凄いですね……。」

 

「え、そう?」

 

「モモンさんといい、重い武器をぶん回すのが流行ってんのか?」

 

「知らね、けど長年使い込んだもんだからこれが一番しっくりくるってだけやね。」

 

まぁ、嘘はついていない。

「しかし、ロウさんという冒険者には聞き覚えがありませんが。」

 

ニニャが疑問に思ったことを口にする。

モモンといい、彼と対等に話している様子から、彼に引けを取らないであろうロウといい、冒険者の間で実力者の名というのは嫌でも広まるもの。

 

本人が黙っていてくれと頼んだとして、人の口に戸は立てられないものだ。

 

まして、名が売れるようになるのは冒険者にとって基本的にメリットなのだ。

 

「まぁ、冒険者じゃねぇかんね。」

 

「え、じゃあ普段は何を?」

 

「あぁ、それはーーー。」

 

時は前の晩に遡る

 

「良いですかロウさん。漆黒の剣に会っても、ポロッと言っちゃいけない事を言うのはやめて下さいよ。」

 

ナーベラルがうっかりミスをしたばかりのためか少しばかり神経質になっている冒険者モモンことアインズ。

 

ちなみに当のナーベラルは、念のため少し離れたところで漆黒の剣の動向を見張らせている。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ。」

 

それに対してらいかんはいつもの調子である。

 

「身内にはそれで良いですが、第三者、しかも現地の人間相手にナザリック地下大墳墓のらいかん・す・ろうぷの情報は劇薬過ぎますって。」

 

「まぁなぁ。」

 

そもそも彼がやって来て、腹を膨らましたのにそのまま居座っているのは話に聞いた森の賢王とやらを直接見たいだけで、その後はすぐに撤退する気満々なため、その時不自然すぎない程度に漆黒の剣と親睦を深めるか、逆に空気に徹しておいた方がよかろうというくらいの考えである。

 

それに、情報の重要さと言うのはらいかんも色々と理解してはいる。

 

例えばユグドラシルでもどの時間にどのマップでレアドロップするモンスターが沸くだとか、ギルド間の戦いでもどこを取れば有利になるとか逆に不利になると言うことは頭に入っているのだ。

 

その解決方法があまりにぶっ飛んでいるだけで。

ユグドラシル時代も

「あそこの丘の上が有利だって?じゃあそこに集まった敵を敵を丘ごとぶっ放せばいいじゃない!」

とか言って過剰火力を撃ち込んだり

「なあなあ、対人戦で囲まれた時とか敵が生理的に嫌なもんけしかけりゃいんじゃね。」

とか言って普通に恐怖公のカタチをした追尾爆弾作り出すという。

 

ちなみにどちらもウルベルトの協力があったのは余談である。

 

「そんじゃあ、どうやって口裏合わせるん?」

 

アインズはユグドラシルでもかなりの少数派であった工匠といっても通じないだろうことを想定し

 

「そうですねえ、まず普段の仕事とか聞かれたら鍛治職人とかいいんじゃないですか。それからーーー。」

 

という風にして夜はふけていったのだった。



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再びのカルネ村

「さて、そろそろカルネ村に着きますよ。」

 

ンフィーレアが冒険者達の方を見てそう言い、再び前を向いてしばらくすると

 

「あれ?」

 

と少し間の抜けたような声をあげた。

 

「どうしました?」

 

「いえ、カルネ村の周りに見たことのない柵があるんですが…。」

 

カルネ村は森の賢王のテリトリーであるため、滅多なことでは魔物に襲われない。

それがいきなり柵で囲まれているのだ。それもかなり頑丈そうである。

 

少なくとも良いことが起きたのではあるまい。

例えば誰か村人が畑仕事の最中に魔物に襲われたとか、或いは野党に襲われてその時の怪我が元で亡くなったりしたのかも知れない。

 

実際は陽光聖典が攻めてきたからであるのだが。

 

なお、アインズとらいかんはその時含めて二度目の訪問であったが、アインズは冒険者モモンとしては初めて来たことになるためそれを口には出さない。

らいかんも必要以上に不安を煽るのは得策でないと考えたのか、特に何を言うでもない。

 

ンフィーレアが急にそわそわし出したことから、漆黒の剣のメンバーたちは事情を聞く。

 

「実は、知り合いが村に住んでまして…。」

 

それを聞くなり、少し足を速める一行。

 

しかしその途中、目の前に現れた小さな影に呼び止められる。

 

「すみませんねぇ、武器を置いてもらえますかい。」

声の主はゴブリンであった。

 

しかし、前日に戦闘になったよく言えば野性味あふれる、悪く言えば理性などまるで無いかのようなゴブリンとは打って変わって、こちらは比較的理性的であり、装備も整っている。

周りを見回せば同じようなゴブリンが幾匹か居り、中には弓に矢を番えて警戒する者までいる。そして、彼らはいつの間にか一行を取り囲むような形をしていた。

 

どうやら草むらに紛れて回り込んできたらしい。

 

(ロウさん、これは…。)

 

(まぁ、あの時モモさんが村娘にくれてやった角笛でやって来た連中っぽいやね。)

 

「こっちも手荒な真似はしたくないんでねぇ、少なくともアネさんが来るまでは大人しくしててもらわないと。」

 

そう言うや、チラリとアインズ達の方を見やり「特にそっちの人らにはね。」

と釘を刺す。

「心配しなくても、そちらから危害を加えてこなければこちらも何もしないとも。」

ねぇ?とアインズがいえばらいかんも頷く。

ナーベラルも同様に大人しくしている。

 

すると少しして、見慣れた顔がこちらにやってくるのが見えた。

「ゴブリンさん達どうしたの?何かあった?」

それはいつだったか、アインズ達がたまたま命を助けた少女、エンリ・エモットであった。

訳を話すとエンリは一行を快く村の中に入れてくれた。

 

あのゴブリン達は?という問いが当然出たが、話を聞く限り、彼らが柵を作ったり村人に戦闘訓練を施したり、村内の警備などを請け負っているらしい。

 

そのお陰か村の中で彼らは自警団のような位置付けをされているようだ。

ただ、モンスターということで少し敬遠する人もいるようだが。

 

エンリの無事な姿を見たンフィーレアは、側から見ても分かりやすく安堵していた。

 

その後、昔なじみ同士水入らずで積もる話もあるだろうと、漆黒の剣は気を遣って事前に伝えられた滞在拠点へと荷物を運ぶ。

アインズとらいかんも彼らに続いた。

 

因みにモモンはロウとアインズの共通の知り合いということを話すと、村人達からは肯定的な反応が返って来た。

 

それからしばらく後、翌日の薬草採集に向けて色々と準備をし、拠点にやって来たンフィーレアから再度採取する薬草の種類や入る場所の確認の説明を受け、翌日に備える一同なのだった。

 



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ズーラーノーン

 

 

秘密結社ズーラーノーン

 

それは盟主とその高弟、そして更にその弟子から成るアンデッドを扱う魔法詠唱者の結社であり、かつて都市を一つ落としたこともあるという。その思想や行動の過激さから周辺諸国から敵対視されているテロリスト集団でもある。

 

エ・ランテルの集合墓地、その地下深くに拠点を構えるはその幹部たる高弟がひとりカジットである。

 

禿げ上がった頭に痩せこけた頬、目の下のクマがあまりに不健康そうである。

 

「まったくクレマンティーヌめ、厄介事を引き込みおって。」

 

先日この拠点に突如としてやって来た、同じ組織の幹部である女について語るその口調はあまりに忌々しげである。

カジットはクレマンティーヌに対して、剣の腕前以外は信用していない。

というのも彼女は自他共に認める人格破綻者であるからだ。

 

己も狂人であることは自覚しているが、彼女に比べればまだマシに思えるくらいである。

 

ただ、スレイン法国漆黒聖典第九席次、その看板に偽り無しと分かっているからこそ招いた覚えも無い客から話を聞き、そして協力する旨を伝えた。

 

叡者の額冠、法国の至宝にして装着したものを高位魔法を吐き出す道具と化す非人道的装置。

無理に外せば精神に異常をきたして発狂は免れない。

明らかな犠牲を強いておきながら人類救済などと片腹痛い。

しかもその適合者は極めて稀でそのままでは何の役にも立たないガラクタに過ぎない。

それだけならまだしも、そのガラクタが原因で万一にもクレマンティーヌの追手がここらをうろつくことにでもなれば、せっかく五年もかけて練りに練った計画を更に先延ばしにするか、最悪凍結させねばならなくなる。カジットにはそれが我慢ならない。

 

彼女の話を聞くに、どんなマジックアイテムも扱えるタレント持ちを利用しようと言うことらしいが、普通に考えて、それだけの才覚を有しているなら都市での影響力とて少なくない。

しかもその祖母はこの街で知らぬ者のいない程の名声を有する識者。手を出す方がイカれている。

 

口車に乗ってやったフリはするが、彼は警戒を怠るほど馬鹿でも呑気でも無いつもりだ。

尤も、本当に連れて来たならば多少は見直すだろうが。

 

そもそも彼はクレマンティーヌの加入自体反対だったのだ。

目立つ行動をし過ぎるし、逃げ切る自信があるのか分からないが現場隠蔽も最低限度、というか雑なのだ。実際彼女の気まぐれで殺された者は決して少なくは無く、その度にヒヤヒヤさせられる。

 

ハァッとひと息着いて、カジットは赤黒いローブの懐からゴソゴソとあるものを取り出す。

死の宝珠、つるりとしていそうな名とは裏腹にゴツゴツとした原石のように見えるが、実際は人間の負の感情を吸い蓄えることが出来るインテリジェンスアイテム。

通常であるならば自我を奪われ、宝珠の傀儡となるだろうがカジットにそのような様子は無い。それは曲がりなりにも彼が実力者であることの確かな証左だろう。

これによってカジットは死の螺旋の儀式を行うのが目的。

エ・ランテルを死者の街にすることで、得られる負のエネルギーは計り知れない。

悲願成就を思い、カジットはニヤリと笑う。

 

闇が、迫っていた。

 

 

 




べっ、別にコイツらのこと忘れてたわけじゃ無いんだからねっ!(聞かれてない)


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真意

ンフィーレアの様子がおかしい。

いつからかと問われれば、昨晩自分たちのところにわざわざやって来た頃くらいからか。

今思えば様子を伺っていたのだろう。

 

そしてその疑念の正体は思いの外すぐに判明した。

 

依頼のために森に向かう前、訓練をしている村人達の様子を眺めていた己とナーベラルの元にンフィーレアが駆けて来た時は何事かと思ったアインズであった。

 

まして

「あ、あの、モモンさんはアインズ・ウール・ゴウンさんなのでしょうか?」

なんて聞かれた日には思わず仰天してしまったくらいだ。

「いや…。」

最初は否定しようとしたが、

「この村を、エンリを助けてくださってありがとうございました。」

などと言われて仕舞えば、最早否定する訳にもいかず。

「……どうしてわかった?」

アインズは努めて冷静に問う。

 

曰く、はじめは単に未知のポーションの製造法を知ることが出来ればと思い近づき、そして聞く限り全く同じものをエンリに使ったことが分かったと。

はじめはごくごく稀な偶然かとも思ったが、ロウという人物もまた、アインズ・ウール・ゴウンと同じくどこからともなく現れたとエンリが言っていた事。そして再び現れては身元不明のモモンの友人を名乗ったことが不自然に思えたと言う。

 

であれば、アインズは何かしらの訳があってモモンと名乗り、ロウはその手助けをしているのではと思い至ったらしい。

 

「すみませんでした」と頭を下げて謝って来たが

 

「別に謝る必要もないだろう。」

 

「え、でも。」

 

「コネクション作りの一環であるなら何も悪くはないだろう?それにポーションの製造法を知ったとして、それをどうするつもりだったんだ?」

 

「あ、いやそこまでは。単に未知のポーションを前に知的好奇心が先走ってしまったと言うか。」

 

「なら何も問題はない。悪用するつもりだったならともかく、いたずらに広めたりしなければ問題はない。」

 

「あ、はいそうですか…。」

そしてンフィーレアはキョロキョロと周りを見渡し、「ところで」と問う。

「なんだ?」

「ロウさんは今どちらに?」

「ああ、何でも食材を調達してくるとか。流石に自分が合流することは想定していなかったろうからと。」

ああなるほどとンフィーレアが思った次の瞬間。

村の入り口辺りからざわめきが起こる。

 

「おぉ〜い、美味そうなクマとって来たんで捌いて欲しいやね。」

 

両腕で胴体を持ち上げ、そのまま脚を引きずるような形で村に入って来た男がいた。

噂の張本人ロウこと、らいかんである。

元々小綺麗な衣服に身を包んだ男が血まみれになりながらワイルドに獲物を掲げる様は色々とツッコミたいところであるが

しかしなかなかの大物だったようで、村の人たちは何やらいたく感心している様子だ。

 

本気かあるいは冗談なのか、もうここに住まないかなんて言われている始末である。

 

(エンジョイしてるなあ……。)

 

出発したのはそれから一時間の後であった。

 

トブの大森林に足を踏み入れ、ンフィーレアに目的の薬草の群生地に案内される。目標地点に到着すると、採集に勤しむンフィーレアと漆黒の剣。

 

モモンとナーベ、ロウは周囲の警戒という建前のもと殿を買って出て、森の賢王とやらと相対するために動き出す。

 

モモンがふと立ち止まり

 

「もういいぞ。」

というと、木の上に人影が現れる。

 

ナーベラルは咄嗟に身構えるが、その正体を見るや困惑と共に脱力した。

 

「アウラ様?」

 

「お久しぶりですアインズ様、らいかん様。」

 

「お〜うアウラか。久しぶりやねぇ。」

 

「アウラ、お前にやってもらいたいことがある。森の賢王と呼ばれる魔獣を探して貰いたいのだが。」

 

するとアウラには思い当たる節があったようで

少し考える素振りを見せた後

「ああ!たぶんアイツのことですね!」

と、笑顔で言う。

 

「では頼む。」

 

アインズがそう言うと

 

「分かりました、アイツをアインズ様とらいかん様の御前に誘導すればいいんですね?」

それにらいかんが「おぅ。」と頷いて肯定すると、アウラはその巣穴に向かって走っていった。

 

さて、伝説の魔獣とやらとのご対面である。

 

この時プレイヤーの両者は期待を込めて、年甲斐もなくワクワクしていたのだった。



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森の賢王

 

さいど????

 

ホー、ホー。

 

何でござるかこの鳴き声。

 

ホー、ホー。

 

聞いたことがない鳴き声にそれがしは最初驚き、次第に苛立ち、キョロキョロと周囲を見ても声の主の影すらなく、

 

ホー、ホー。

 

辺りの木々を手当たり次第に攻撃して、炙り出そうとしても不埒者の姿は見えず、

 

ホー、ホー。

 

ただ、この観察されている感覚が、確実に見られているのに何処にもその主がいない不気味さが、ただただ不安を駆り立てるのでござるよ。

 

ホー、ホー。

 

ああもう!鬱陶しいでござる!

それがしは巣穴に戻るでござる。

 

ホー、ホー。

 

距離を離したのに撒いた気がしない。それどころか巣穴まで着いて来たでござるよ!?

 

ホー、ホー。

 

もう勘弁して欲しいでござるぅ。

 

ホー、ホー。

 

それがしが巣穴の入り口に尻を向け、前足で耳を塞ぎながらどうにかこうにか昼寝でもして気を紛らそうとしたでござるが

 

その寝入り端

 

「おっ、ホーちゃん張り付いててくれたんだ。ありがとー。って、フェンもクアドラシルもそんなにヤキモチやかなくってもいいでしょ〜?」

 

あまりに緊張感に欠けるその声が聞こえた刹那、それがしの体は一目散に逃げ出していたでござるよ。

 

さいどあうと

 

らいかんとアインズは暇だった。

 

(それで、アウラ命じたのはトブの大森林内の地理の把握と、オレっち達に迎合する魔物の確認及びナザリックの倉庫の建築だったっけ?)

 

(まあ、そんなところですね。とは言っても倉庫というよりはいざと言うときの緊急避難場所と言った方が正しいですね。)

 

確かに、森というのは同じような景色が広がり迷いやすい。

 

万一のための目印としても、そう言った建築物はあると無いでは安心感が違うだろう。

 

(とは言え、まだまだ始めたばかりの計画ですから、まだ幾ばくか時間がかかるのが現状ですが)

 

(まぁ、いんでない?少なくとも急いで焦って突貫工事になるよりはええやね。)

 

尤も、守護者達がそのような手抜き工事をするとも思えないが。

 

そうしてアインズとらいかんがナザリックの今後についてメッセージで話していたら、森の奥の方から大きな音が近づいてきているのが分かる。

 

ルクルットが真剣な表情で

「何かデカいものがこっちに向かって来てる。こりゃあこっちに来るのもすぐだな。森の賢王かどうかまでは分からないが。」

 

「撤退を。モモンさん殿を任せても?」

過日の先頭を見ているからか、漆黒の剣のモモンへの信頼は短期間でうなぎ上りなようだ。

 

「ええ、お任せを。あとは我々で対応しますので。」

 

「あの、モモンさん。」

「何でしょうか?」

「森の賢王は出来れば殺さずに追い返すだけにしてもらえませんか?」

「え、いやいやそんな無茶な。」

ルクルットはそう言うが

「構いません。善処しますよ。」

 

当のアインズは自信満々である。

ンフィーレアと漆黒の剣が居なくなった森の中、こちらに迫る足音は徐々に大きくなりつつある。

 

「さあ来るよ〜。」

 

「ええ、油断はできませんね。」

 

強敵ならばよし。

賢王の名に恥じぬ未知の知恵を有しているならなおよし。

 

瞬間、アインズはグレートソードを盾のように構える。

 

鈍い金属音と共に何かがアインズの剣を打撃した。

 

「なるほど、蛇の尾とは言い得て妙だ。」

 

鞭のようにしなる尾。なるほど少なくともその辺の獣よりは知恵はある。

 

「ほう、それがしの初撃を防ぐとは大したものでござる。」

 

(それがし?)

 

(ござる?)

 

なんで侍言葉?と二人が思っていると

 

「侵入者よ、今逃げるのであれば、先程の防御に免じて追わずにいてやるでござるよ?」

未だ尾以外見せない森の賢王は己の力に自信があるのか、それともこの森のヌシとしての矜持かやけに上から目線である。

「愚問だな。お前を倒し、利益を得るためにここに来たんだ。しかし残念だ。森の賢王様は自らの姿も見せられない臆病者と見える。」

 

「…言うではござらぬか侵入者。ならばそれがしの偉容をその目にしかと焼き付けて死んでゆくがよいでござる!」

 

ゆっくりと、しかし確実に森の賢王をがこちらに向かって歩いてくる。

 

それは絶対者が己を見せつけるが如く。

 

そしてその姿に二人は驚きを隠せなかった。

 



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決着

 

「えぇっと……。」

 

「………。」

 

らいかんとアインズの二人は言葉を失っていた。

 

ふさふさとしたグレーの毛皮、クリッとした小さな目、齧歯類特有の前歯。しかし一般的なネズミとは明らかに一線を画する愛らしさ。

 

荒れ果てた世界での心のオアシス、ペットとして人気のあった小動物、ハムスターの姿。しかし今目の前にいるそれは少なくとも熊くらいは大きい。

 

「なぁ、一つ聞きたいんだが。」

 

「なんでござる?」

 

質問はいいのか。と思ったが指摘してやっぱり無しにされると面倒なのでそのままアインズは問う。

「お前の種族名は、ジャンガリアンハムスターと言うのではないか?」

 

「ほう、そなた達人間はそれがしの種族をそう呼ぶでござるか。」

声色に若干の喜色が混じる。それはなぜかと思った矢先

「であれば、同族を知らぬでござるか?生物として子孫は残さねばならぬでござる故に。」

なるほど、仲間が欲しかったらしい。

「いや、残念ながらそれは無理だな主にサイズ的に…。」

それを聞き、森の賢王はガックリしているが、しかし話が通じそうなら都合がいい。

 

今度はらいかんが質問を投げかける。

 

「お前さんはいつ頃からここにいる?」

 

「さあ、何せもう長い時を生きたでござるからなぁ、それにそれがしは人間のようにいちいち日にちを数えたりしないでござるよ。」

 

「じゃあ、言語を話せるのはなぜだ?」

通常、ハムスターというのは言語を話さない、しかしカルネ村の呼び出されたゴブリン達が普通に話せているのを見るとこの世界のモンスターが人語を話せるというのは案外珍しい話でもないのかもしれないが。

「う〜ん、それもいつの間にかでござるなあ。要領を得なくて申し訳ないでござるが…。」 

どうやら曖昧な返ししか出来ないことに更にシュンとしているようだ。

 

「そうか。すまなかったな。」

「構わないでござるよ。」

意外にも穏やかな声でそういうと、森の賢王は再び身構え

「ではお喋りもここまでにして、殺し合いの続きと行くでござる!」

と言い、アインズに向かって駆け出す。

 

アインズはそれをかわし、グレートソードで斬りつけるが、異常な硬度を誇る毛皮には傷すら付かない。

「これでお互い一撃ずつでござるな。しかし嬉しいでござるよ、そなたさぞや名のある武人なのでござろうな。」

 

「……戦士にしか見えないのか?」

 

「?何か変なことを言ったでござるか?少なくともそれがしにはそなたは戦士にしか見えんでござるが。」

 

(ロウさん……。)

(お、どしたい。)

(これは、ハズレですね。)

(お、おう…。)

(鵺じゃなかっただけならまだしも、オレの本職が戦士では無い事すら気づけないとは。百歩譲って違和感とか感じてくれたりすればなあ。)

期待したのにとメッセージでぶつくさ言ったと思ったら、アインズは不貞腐れたようにやる気を失ってしまった。

 

「何をしているでござる?よもや、ことここに来て決着も付かぬうちに敵前逃亡でも図る気でござるか?それとも降伏の算段でもつける気でござるか。」

えらく的外れであるが、声色から憤っているのは分かる。

 

(打ち合わせじゃあ、確実にモモさんの手柄とする為に手出しは無用ってことだが……。)

 

らいかんは一応、アーティファクトの起動準備だけでもしておこうと行動するが

 

「もうやめだ下らん。」

無感情に発せられるその言葉と共にアインズは手にしたグレーソードを森の賢王に向ける。

 

森の賢王はやっとやる気を出したかと少し身構えたが、それを無視してアインズはスキルを発動する。

「絶望のオーラ、レベル1。」

 

瞬間、森の賢王の全身を寒気が走り、仰向けにひっくり返る。

 

「降参でござるぅ。それがしの負けにござるよ〜。」

 

「さて、どうしたものか。」

「どうするん?命だけでも助けるかい?」

「そうですねえ、ンフィーレア少年達の様子を見るに森の賢王を直接見たことがある訳ではなさそうですし。」

「まぁ、態々強力なモンスターと対面しようと言う奇特さは彼らには無いだろうがねぇ。それってほぼ自殺だし。」

ならば、ペットや実験台として連れ帰り、代わりに適当なモンスターをその座に置いていくのも手か、などとアインズが考えていると

 

「殺すんでしたら毛皮を頂けませんか?結構良さそうなので。」

といつの間にかやって来ていたアウラが明るく声をかけてくる。

「そんなぁ…。」

と森の賢王は涙目になっているが

「おーうアウラ、さっきぶり。」

「はい!さっきぶりですらいかん様!」

「またお互いひと段落したらまた第六階層で世話んなるなぁ。」

「お待ちしてますね!」

元気だなぁ、とらいかんが思っていると 

アインズはその会話に毒気を抜かれたのかため息をひとつつくと

「そう怯えるな、私に仕えると言うのならその者をわざわざ殺したりはせん。」

その言葉を聞くと同時にパァッと表情が明るくなる森の賢王。

「あ、ありがとうでござる。この御恩は我が忠義にてお返しするでござるよ!」

 

「そうか。では私の真の名はアインズ・ウール・ゴウン。そして彼が我が友であり私と同等の強さを持つ者。」

 

「いやぁ、モモさんと同等なんて言われると気恥ずかしいけども、名はらいかん・す・ろうぷ、仲良くして欲しいやね。」

 

こうしてナザリックに一匹の魔物が加わったのだった。

 

 

 



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覚悟

 

「こ、これが、森の賢王ですか。」

漆黒の剣リーダーのペテルは顔を引きつらせて目前の魔物を見る。

(まあ、そう言う反応だわなあ。)

(ハムスターですからねえ。)

(嘘ついたとか思われたらどする?)

(いやでもそれは無いかと…。)

冒険者モモンの信用は漆黒の剣相手にはそれなり以上と信じたいが。

コケ脅しだったと言われれば、はいそうですとしか言えない。

実際、アインズにかかればあっさりだった訳だし。

「すごいです!」

(え?)

「ええ、見るからに強大な魔物と分かりますね!」

「モモン殿もその友人殿も、並々ならぬ使い手なのは最早疑いようも無いであるな。」

 

「いや、オレっちは特に何も…。」

「そう言う謙虚さもモテる秘訣だったり?」

 

「なっ、ナーベはどう思う?」

突然の誉め殺しにタジタジになったのかアインズは側にいたナーベラルに問う。

「強いかどうかはともかく、凛々しく力を備えた良い目をしているかと。」

お前もか、と話を振る相手を間違えたアインズ。

謙遜しようとも思ったが、ここまで持ち上げられている以上それはともすると嫌味にしかならない悪手だろう。

「皆さん、森の賢王は私の支配下に入りました。もう安全ですので、危害を加えてくることもありません。」

 

「えっ、それは本当なんですか?」

「誠にござる。これからはこの森の賢王。殿と歩み、殿に生涯尽くす所存。」

 

その言葉に漆黒の剣は賞賛を述べるも、ンフィーレアは顔色が変わり

「で、でもそうなったら森の賢王がトブの大森林から離れるということでしょうか?もしそうだとしたら、カルネ村はモンスターの被害に遭うようになるんじゃ…。」

「あぁ、そこんとこどうなん?賢王くん。」

らいかんが問うと

「まあ、それはそうなるでござろうな。ただ、今は森の中も大きく勢力のバランスが崩れつつあるでござる故、正直それがしがいてもいなくてもそう大きくは変わらないと思うでござるが。」

その言葉を聞き、ンフィーレアは更に顔を青くする。そんな…と少し放心状態になったと思ったら、今度は意を決したように

「モモンさん、僕をあなたのチームに入れてはもらえませんか?」

「は?」

「へぇ〜。」

「僕はエンリを、カルネ村を守りたい。でも今の僕は正直強いとは言えません。そのための知恵や力をモモンさんやロウさんからわずかでも、それこそ欠片であってもご教授願いたいんです!」

アインズが困惑し、らいかんが微笑ましいものを見る目で見つめる。

「薬学でなら少しはあなた方の役に立てると思います!雑用でも何でもしますから、どうかお願いします!」

青くも必死で真剣で、本気の目だ。

そして、それをアインズは嫌いにはなれなかった。

(ロウさん。)

(何モモさん。この子気に入ったの?)

(まあ、はい。)

(でも流石にギルドにまで連れては行けないよなぁ、モモさんの決定ってことでゴリ押しも出来なくは無いだろうけど。)

守護者達やその他NPC、特にアルベドなどは基本的に人間というものを格下として見る傾向がある。

それはこの場にいるナーベラルとて同じだ。

たまに手解きをする程度なら問題はなさそうだが、それ以上となると些か厳しい。

「少年。」

「はっ、はい!」

「気持ちは十分に伝わったとも。」

「で、では!」

「だがすまんな。残念ながら今は君を我々のチームに迎え入れることはできない。」

「そうですか…。」

「だが、君のことは覚えておくとも。村を守ることについてもささやかながら手を貸そう。君の協力はその時にさせて貰うとするさ。」

「あ、ありがとうございます!」

礼には及ばないさ、とアインズは軽く言う。

その後、森の賢王の案内で手付かずの薬草の群生地を見つけ、依頼終了が予定よりもかなり早まったのであった。



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ひとまずの帰還

 

「ふぅ〜、楽しかった。」

 

森の賢王に会うと言う目的を達成したらいかんは、あの後アインズにカルネ村からナザリック地下大墳墓の入り口までのゲートを開いてもらい、ホクホク顔で戻って来ていた。

 

「おかえりなさいませ。らいかん・す・ろうぷ様。」

 

声をかけて来たのは、らいかんが先に帰る旨を告げられ、入り口で帰還を待っていた専属メイドのルプスレギナ・ベータである。

 

ちなみに守護者一同はそれぞれアインズの命令によって、一部を除きここを離れているため、姿はない。

 

シャルティアは使えそうな武技を扱う者を探しに、デミウルゴスはスクロールに出来るような羊皮紙の確保、生産するために、アウラとマーレはトブの大森林の地理の把握や拠点の設営に、セバスとソリュシャンはリ・エスティーゼ王国を内部から情報収集するために王都へと言ったふうに、それぞれがそれぞれ己のこなすべきことをやっている。

 

「おぅ、ただいま。」

ルプスレギナはスタスタと優雅に歩み寄り

「お荷物をお持ち致しましょうか?」

と、らいかんに問う。

「おぅ、すまんね。」

 

トブの大森林で手に入れた薬草や石ころ、水、木の実や木材など、小さくまとめたとは言えそれなりに持ち帰って来ているため、らいかんの手は塞がっている。

 

ストレージにしまうのも良いが、どうせ帰りがてらに拾い集めたもの。手に持っていた方がすぐに実験に使えそうだと思って横着し、そのままにしておいたのだ。

「ではお預かり致しますね。」

ニッコリと微笑みながら手にした荷物を受け取るルプスレギナであった。

「あぁ、あとそうだルプスレギナ。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「お前さんにはいつも世話になっているからな、仕事を円滑にするためにも合鍵を渡しておくなぁ。」

 

チャリ、と小さな金属音がして紐に通された小さな鍵と指輪がルプスレギナの首にかけられる。

彼女の手が塞がっていたため、らいかんは直接首にかけたようだ。

ルプスレギナは一瞬固まったが

 

「あ、ありがとうございます…。」

と、何やら緊張している様子だ。

「あ、いやすまんね。配慮のつもりだったんだが、恥かかせちまったかい?」

まずかったかと心配になるらいかんであったが

「い、いえそう言うわけでは…。」

とルプスレギナが言った事で安心する。

「そうかい。んじゃぁ、一番大きいのが部屋自体の鍵、中くらいのが工房の鍵で、小さいのが水晶樹の森の鍵やね。一緒になってる指輪はオレっちの部屋まで直通で行ける奴だから何かあったら使ってな。」

 

らいかんの部屋は入ってすぐ右手に工房があり、左手には水晶獣達の憩いの場である水晶樹の森と呼ばれる空間が広がっている。

トブの大森林ほどでは無いが、それなりに広いスペースを確保してある為窮屈さは無い。

ちなみに入り口から真っ直ぐ進めば休憩のための居間になっており、その奥がらいかんの寝室となっている。

 

そんな私室の鍵を預かると言うことは、絶対の信頼と期待の現れと言っても良い。

 

まあ、らいかんの部屋の鍵は専属メイドのルプスレギナが訪れる際はほぼ開けっ放しな為、形式だけの事となるのだろうが。

そうして、らいかんとルプスレギナはそのまま荷物を部屋に持って行った。

 

 

さいどルプスレギナ

 

うぇへへへへ、やったっすよ!また一歩前進っす!し・か・も!らいかん・す・ろうぷ様から直々に首にかけて頂けるだなんて、危うく昇天しかけたっすよ〜。

 

それに指輪まで頂けるなんて、お前はオレのものだってことっすか?

もう喜んで!

 

ハッ待て、待つっすよルプスレギナ・ベータ。

ここで事を急いでらいかん・す・ろうぷ様に引かれたら元も子もないっすよ。

 

それで嫌われようものなら、死んでも死に切れないっす…。

 

淑女は焦らない。メイドは慌てない。

 

プレアデスたる者ただ侍り、影に徹し、冷静で、あるじに尽くす。

であるならば、お相手に選ばれるのはあくまでも結果でなくてはならないはずっす!

 

ガツガツし過ぎて、却って膠着状態になってしまっている様な、アルベド様やシャルティア様の二の舞だけは避けねばならないっす!

 

べ、別にビビってる訳じゃないっすよ。

 

ただ何事にも順序があるってだけで…。

 

で、でも指輪をこっそりはめるくらいなら…。

 

 

 



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休息

 

らいかんは工房に籠り、トブの大森林で拾ったアイテムで実験をしていた。

それというのも、ユグドラシルの同様のアイテムとの効果の比較をするのが目的だ。

 

例えば、それぞれの土に同じ植物の種を植えてその生育具合を見たり、石や木材の強度、また魔力を流した際の変化などなど、見たいものは多岐に渡る。

 

あわよくば、作品へのインスピレーションでも得られれば上々。

とは言え、その結果はこれから長い目で見なければ何とも言えない。

他にも、この世界のものでもユグドラシルのレシピに対応できるのか、できないにしろこの世界の同様の物で代用できるのか、自身は趣味の延長からやっていることとは言え、ちょうど友人であるアインズもその辺りを気にしていた様だし、ある程度結果が出たら知らせようと思うらいかんである。

 

「フゥ〜。」

 

とは言え、ある程度時間が経つと少しばかり疲労も溜まる。

 

らいかんはいつものようにキセルを咥え、一服し一息つく。

 

「ま、根を詰め過ぎても良い結果は出ないやね。」

 

ふと、友人は今どうしているだろうかと思う。

 

荷物の整理やら何やらがあるのと、らいかんが獲って余った分を譲った熊肉も残っているため、念のために村にもう一泊して翌日の朝早くに出立するような事を言っていたが、メッセージが来ない事から特に問題は起きていないのだろう。

 

「ルプスレギナ。」

と、そばに控えるメイドに言う。

「はい、お呼びでしょうか、らいかん・す・ろうぷ様。」

するとススッと慣れた動きでルプスレギナが近づいて来る。

「少し息抜きにスパリゾートナザリックに行ってくるやね。」

そういうと、ルプスレギナは

「はい、行ってらっしゃいませ。」

と、恭しく一礼する。

 

らいかんは座っていた椅子から立ち上がると、寝室にあるクローゼットからバスローブを取り出す。

 

備え付けの浴室も十分に広くていいが、今は何となくそれ以外の湯に浸かりたい気分である。

それに人間の頃の名残か、風呂に入りたい欲求というのはあるもの。

まして鍛治仕事など汗をかく仕事をすれば風呂が恋しくなるは必然。

 

故にらいかんにとって入浴は食事と同じく、大事な習慣である。

何せこのためだけに全ての義手義足を防水仕様にしたくらいだ。

 

桶とタオル、それに着替えを持ち、鼻歌を歌いながらスタスタと第九階層の廊下を歩くらいかんに、シモベ達は立ち止まり深々と頭を下げてくる。

 

それに「お〜うお疲れさん。」と手を振っているうち、目的のスパリゾートナザリックに到着する。

 

今日は古代ローマ風かなぁなどと考えながら脱衣所で衣服を脱ぎ、籠に入れる。

桶とタオルを手に、さながらかつての銭湯のようなスタイルで堂々と浴場に入って行く。

 

「かつてローマの市民は、一日の内数時間を大浴場で過ごしたというが、こうして入ってみると、その気持ちも分かるってもんやねぇ。」

 

ローマの皇帝は、外国人に「なぜ毎日風呂に入るのか。」と問われ、「一日に二回行くだけの時間を取れないからだ。」と返したという。

日本人としてなんとなくシンパシーを感じてしまう話である。

 

のんびり湯船に浸かりながら、そんな事を考えているとなんとなくお湯を吐き続けるライオンの像に目が向く。

言わずと知れたギルド内の大問題児、るし★ふぁーの作たるライオン型ゴーレムである。

なかなかに傍迷惑なヤツではあったが、らいかんは別に彼のことは嫌いにはなれなかった。

だからと言って好感情を抱いていたわけでも無いが。

そんな旧友に想いを馳せつつ、「次はサウナかなぁ。」とスパリゾートナザリックを満喫するらいかんであった。

 

ちなみにらいかんの元々着ていた衣類は、一般メイドが洗濯するために持っていこうとしたら、突如現れたルプスレギナが「アタシがお洗濯するから大丈夫っす。」と笑顔で謎の圧を放ちながら持っていったという。

 

 

 



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ズーラーノーン 2

なんやかんや40話続きました。

それとお気に入り登録200件ありがとうございます。



カジットのいるズーラーノーンの拠点に再びやってきたクレマンティーヌは、目に見えて不機嫌であった。

 

どうやら標的であるンフィーレアが店になかなか帰ってこないらしい。

 

「せっかく面白いことになりそうなのに…。」と言う声色は分かりやすく恨めしそうである。

 

それというのも、どうやらクレマンティーヌが彼を拐うと決めたちょうどその日に、冒険者を護衛につけてどこかに行ったらしい。

いくらエ・ランテルでの情報収集は欠かしていないズーラーノーンとは言え、各国に指名手配されていては流石に大っぴらに動けないのと、おまけに冒険者組合の信用の面でどこに行ったのかまでは分からないときた。

実際、彼女が利用した情報屋もその旨は分かっていなかったようだ。

辛うじて手に入った情報というのも、どうやら突発的に新顔の冒険者に依頼を出した。と言う眉唾な話が出てくるくらいがせいぜいだ。

その情報の真贋はともかく、かなりの噂になっていたくらいだから調べればすぐに来る。

 

カジットが直接対応しなければ、恐らく彼の弟子の何人かはこの虫の居所の悪い獣に殺されていただろうことは想像に難くはない。

 

現にその情報屋はこうして死体になっている。

 

「クリエイト・アンデッド。」

 

カジットが呪文を唱えると、死体が動き動き出し彼の軍勢に加わった。

ゾンビの保管場所に行くよう指示を出すと、ノロノロとその方向に向かって歩いて行く。

 

「相変わらず死の宝珠の力はすごいねー。」

 

おどけたような、あるいはこちらを小馬鹿にしたような軽い物言い、カジットはやはり彼女を好きにはなれない。

 

「おぬしが遊んだせいだろうが。」

カジットは舌打ち混じりにそう言う。

 

そして予想通りごめーんと口先だけの詫びの言葉が飛んでくる。

 

「いい加減、一般人で憂さ晴らしをするのはやめよ。おぬしのせいでここまで足がついたらどう責任を取るつもりだ。」

 

「わーかった、わかった。わかりましたー。もうしないから勘弁してー。」

 

ここまで誠意の無い謝罪ができるのはむしろ才能か?などと考えるカジットである。

無論、戦闘において相手を自分のペースに巻き込むのは有効だが、目の前の女は明らかにそれ以外の理由から挑発的な行動を繰り返している。

「クレマンティーヌ、ワシが数年がかりでこの街を死者の街とする計画を練っていることは以前話したな。ワシはそれを邪魔されるのは我慢ならん。」

 

重々しくそう言うカジットの目はギラリと光り、殺気が込められている。

 

「これを聞いてなお、徒に騒ぎを起こすなら本気で殺すぞ。」

 

その言葉を聞いてクレマンティーヌは、んー。と考えるような素振りを見せ

「死の螺旋だったっけ?」

と問う。

「そうだ。失敗は出来ん。分かったらこの街で人を攫うのはやめよ。」

 

瞬間、クレマンティーヌの纏う雰囲気が変わったのをカジットは肌で感じ取った。

 

鋭い殺気と共に動き出す暴力の風と化したクレマンティーヌをカジットは巨大なアンデッドの手で防ぐ。

 

「へぇー、流石カジッちゃん。よく防いだねえ。」

 

「阿呆が、つまらん事をしおって。お陰でこやつ以外のアンデッドの支配が緩んだではないか。」

カジットは忌々しそうに吐き捨てる。

「まぁそう怒んないでよー。ただのかわいい悪戯でしょー。ちゃんとギリギリで止めるつもりだったってー。」

 

「ふん、白々しい。おぬしはそんな人間ではなかろう。」

 

殺しを愛しているとまで言い切る破綻者が、そんな半端な真似をするとも思えない。

現状、一応は仲間内だが、こいつにだけは心を開くべきで無いとカジットの生存本能が警報を鳴らす程度には目の前の女は危険だ。

 

「なーんでわかっちゃうかなー。まぁ殺す気がなかったのはホントだってー。せいぜい肩を貫くくらいかなー。」

 

それもどこまでが本音やら。

 

興が削がれたのか、あるいは気が済んだのか、クレマンティーヌは手にした得物を納めると、クルリとカジットに背を向ける。

 

「んじゃあ、この街でもう人は攫いません。これでいい?」

 

「ふん。」

 

カジットがそう返すと、クレマンティーヌは拠点から再び姿を消したのだった。

 

 



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変化

 

 

まだ日も高いエ・ランテルの街中を、のしのしと大きな獣が歩いている。

 

街の住民たちは皆遠巻きに、しかし興味深そうに獣とその背に乗るフルプレートの男を観察する。

 

フルプレートの男、冒険者モモンことアインズはこれから冒険者組合に依頼の達成の報告と今現在乗っているこの獣、つまりは森の賢王を登録しに行く所である。

 

(ヤバい、すっごい見られてる。)

 

普段は特段饒舌では無いが、かと言って寡黙でも無いアインズが事更に黙っているのは、堂々と自らが打ち倒し、屈服させた森の賢王を見せつけるためではなく、ただ単純に羞恥からである。

言うなればいい年した大人が遊園地ではしゃいでいるような感覚である。

(でもまあ、ロウさんに見られてないだけマシかなあ。)

正直、元の価値観を共有している友人は、その違和感に間違いなく突っ込んでくるし、なんならこの状況を見たら、まず間違いなく爆笑する。

多分腹を抱えて15分は笑い転げる。

結果論だが、らいかんを先にナザリックに帰したのはアインズとしては英断だったようだ。

 

なお、森の賢王の隣を歩くナーベラルはどこか誇らしげである。

一行は組合に着くと、受付で依頼達成の旨を伝える。

そして、ペテルとンフィーレアがその確認と、報酬について話している。

「ありがとうございました。これで間違いなく依頼は完了ですね。」

そう言うと、ンフィーレアは

「既に規定分の報酬はあるんですが、追加分は店にあるのでこのまま来ていただけますか?」と言う。

その言葉に従い、漆黒の剣は報酬を受け取るためバレアレ薬品店に赴く。

なお、アインズはモンスター登録のため少し遅れてから向かうと伝えた。

 

漆黒の剣が薬草を詰め込んだ壺を運んでいる間に、アインズは水晶梟を羽ばたかせる。

目的はもちろん情報収集だ。

通常ならば夜にすることではあるが、昼の情報も知っておいて損はない。

 

すると、意外なことにすぐ通常ではあり得ない痕跡が見つかった。

バレアレ薬品店の2階の私室の窓が空いていたのだ。

 

普通の家庭であっても、防犯面から出かける時は戸締りは気にするだろうに。まして、エ・ランテル随一の薬師とされるリイジー・バレアレの薬品店がそんな無用心なマネをするとも思えない。

少なくとも貴重な器具や、ポーション作りの資料など、売ればそれなりの値になるだろう物をわざわざ泥棒に盗られるような甘さは無いだろう。

 

壺を運んでいたペテルが「おかしいなあ?」と首を傾げるンフィーレアに声をかける。

 

「ンフィーレアさん、何かありましたか?」

 

「あ、ペテルさん。いえ、多分ボクの勘違いだと思うんですが…。」

 

ンフィーレアがそう言うや、明かりがなく薄暗い部屋の奥の扉がキィ…と開いた。

 

 

 

 

 



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危機

 

 

(おかしいなあ…。)

 

ンフィーレアは、今日は店が定休日の筈と思い、そして祖母であるリイジーは、次の定休日は少し出かけるような事を言っていたことを思い出す。

 

予定が思ったより早く済んだのかなとも思ったが、それにしては店の鍵がかけっぱなしなのは妙だ。

 

中にいるなら、日中祖母は基本的にポーション研究に勤しんでいる。

 

まして、先日神の血と呼ばれる伝説の赤いポーションを目にしてやる気が十全に満ち満ちていた祖母が、今日に限ってそれを怠っているとも思えない。

それほどに彼の祖母はポーション作りに心血を注いでいるのだ。

それこそ、ちょっとやそっとの物音では反応しないくらいに。

 

そして、そういった器具はまとめて一階にある。

であれば作業中の祖母は必然的に一階にいるということ、しかしそれにしては物音がしない。

 

かと言って、泥棒に入られたにしては表から見た感じ、店内が荒らされた形跡は無いのが妙だ。

 

(知らない誰かが勝手に出入りしている?でも、目につく限り何か盗られたようには思えなかった。)

 

ポーションというのは得てして高価なもの、適当に棚のものを掻っ攫うだけでもまとまった額にはなる。しかしそれもされてはいない。

 

ならば侵入者の目的は自分か祖母、もしくは双方の身柄か?

確かに、優れたポーション職人が攫われることは無いことはないが、ポーション職人とは同時に魔法詠唱者でもある。

というのも、ポーションを作る過程で魔法が必要となるからだ。

 

それを連れ去るなら、連れ去る側もそれなりにリスクを負うものだ。

生半可な者ならば、返り討ちにあうことも少なくない。

ましてや白昼堂々立ち入るなど、見つけてくれと言っているようなもの。

 

自分でも祖母でも連れ去ろうなどとすれば、騒ぎになればすぐに見つかるし、それこそ依頼を受けた冒険者が多数駆けつける。それほどにバレアレの名はエ・ランテルでは大きい。

 

「ペテルさん。」

ンフィーレアは、壺を運んでいた漆黒の剣のリーダーに小声で話しかける。

「おや、どうしましたか?」

「誰かが店に出入りしているかもしれません。」

 

「…本当ですか?」

 

ペテルの声色が穏やかなものから真剣なものになったからか、他のメンバーも張り詰めたような空気になる。

 

注意深く周囲を警戒する一行。

 

そして、奥の扉が僅かに開いているのに気がつく。

 

後ろのンフィーレアを守るように各々武器を手に扉に近づき、ペテルがドアノブに手をかける。視線を合わせ、頷き、そして勢いよく開ける。

 

「あっれー?お早いおかえりですねー。」

 

目の前にいたのは面識もない女性だ。

 

しかし、その雰囲気というか、纏う空気は何やら違和感を覚えるものだ。

 

現に今、冒険者四人に囲まれて少しも動揺していない。

 

「ンフィーレアさん、お知り合いですか?」

ペテルが視線を女から外さずにンフィーレアに問う。

「い、いえ初対面です…。」

 

「いやー、だいーぶ待たされちゃっててちょーっとイラついてんだけどねー。」

女は余裕の態度を崩さずに、そして続ける。

「ンフィーレア・バレアレくん、ちょーっと人助けだと思って攫われてくんない?」

瞬間、空気がざわつく。

「ンフィーレアさん、下がって!」

「ニニャ!お前もガキ連れて逃げろ!」

「なに、モモン殿ほどでは無いにせよ、殿くらいは務めてみせるのである!」

ペテルとルクルット、ダインの三人は女の前に立ち塞がる。

間違いなく、ここで死ぬ覚悟だ。

「いやー、御涙頂戴とは感動的だねー。」

その覚悟を嘲笑うようにおちょくるような口調でいう女。

「ま、人が集まんなきゃ遊んでもいいよねー。」

 

そう言って舌なめずりをする様は、正しくネズミを前にした蛇そのものであった。

 



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取引 上

さいどらいかん

 

(ロウさん、今大丈夫ですか?)

(うおぅ、モモさんどうかしたん?)

 

モモさんが焦りながらメッセージを繋いでくるとは珍しい。

 

(実はですね…。)

 

なるほど。

 

念のために放った水晶梟が不穏なもんを映し出したと。

 

(しかしまぁ、意外やね。モモさんが人間に執着を見せるとは。)

 

(ええ、どちらもこの世界に来てからの数少ない取っ掛かりですから。)

ふぅーん、とキセルをふかしながら、らいかんは言う。

(ま、でもしばらくは平気だと思うがね。)

 

(え?)

 

(だって、あの場にはもう一体水晶獣はいるかんね。)

 

(え、いつの間に。)

アインズが驚いたように言うが

(薬草の壺に隠した。)

それを聞いた瞬間、鳥肌が立った気がした。

 

さいどあうと

 

チチチチチチ

 

チチチチチチ

 

チチチチチチ

 

「ん?」

 

足元から何やら音が聞こえる。

ネズミでも入り込んだかとクレマンティーヌは最初気にも留めていなかったが、こうも群がられると流石に気になる。

 

その正体はネズミはネズミでも水晶鼠(クリスタル・ラット)

 

兵站破壊特化型水晶獣である。

 

突破力、破壊力は他の水晶獣には及ばず、サイズも手のひらサイズより少し小さめと一見頼りない。

 

しかし同時にアインズをして、最も敵に回したくない水晶獣と称される。

 

その真髄は圧倒的な食欲と強い好奇心。

 

大抵のものは噛み砕く歯に、気になるものはとりあえず口に入れるという幼子のような探究心を兼ね備え、多くのコレクターの所有物を破壊し尽くしたまさに収集家の天敵とも言える。

 

更に、この水晶鼠(クリスタル・ラット)、食べれば食べただけ増殖する特性まで有している。

 

カリカリカリカリカリ

 

「あーもう、鬱陶しい。ベルト齧んな!ちょ、その武器特注なんだけど!」

 

何故か自分の周りにのみ、群れる鼠にさしものクレマンティーヌも苛立ちを隠せないようだ。

 

漆黒の剣はそれを呆然と眺めるしか出来ない。

 

「お〜う、水晶鼠(クリスタル・ラット)もう良いぞ〜。」

その言葉が聞こえた瞬間、鼠の群れは引き潮の如く現れた男の方へ集まる。

 

「よ〜しよし、だい〜ぶ集まったなぁ。」

腰をかがめてよしよしと撫で回す男に、ンフィーレアは見覚えがあった。

「あ、貴方はロウさん。」

いつの間にか現れた見知った顔に一同は驚愕する。

 

「おぅ、久しいやねぇ。」

 

「冒険者組合の増援?にしちゃあ早くない?」

クレマンティーヌは忌々しそうに言うが、

しかし、それを無視するようにらいかんは言う。

 

「キミら、救援を呼んでもらえる?できればモモさんね。」

 

「ヘェー、そんなに死にたいんだー?」

 

「ロウさん、我々も加勢しますよ。」

 

「いいっていいって、キミらの覚悟は見届けさせてもらったし、それにキミらにはモモさんにこの事を伝えてほしいのさ。」

 

「そうですか、ではお気をつけて。」

「ンフィーレアさん?」

 

「行きましょう。きっと僕らでは足手まといになるだけです。」

 

その言葉を聞くと、後ろ髪を引かれているような表情で、渋々と言った風に部屋を出て行った。

 

「いやぁ〜、将来性あるね彼ら。部屋から出る瞬間までオレっちの心配してくれるなんてさ。」

 

「それで?死ぬ順番が変わっただけだよねー?」

 

「まぁ待て、取り引きがしたいのさ。」

 

「取り引きぃ?」

 

そうそう、とその言葉を聞いたらいかんはニヤリと口角を上げるのだった。

 

 



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取引 下

「そう、キミの知っている限りの情報が欲しい。出来れば貴重なアイテムなんかに関してのね。」

 

「そんな馬鹿げた話にあたしが乗ると思ってんの?英雄の領域ナメてる?」

その言葉を聞き、らいかんはクレマンティーヌにズズイと近寄る。

「ほう!英雄!なるほど、君は特別優れた戦士と言うわけだねぇ。」

テンションが上がったせいか、口調がややおかしくなっているが当の本人は気にしていない。

 

「で、キミと互角に打ち合える戦士はどのくらいかな?分かっている範囲でいいよ。」

「なーんで答えなきゃなんないわけ?」

「対価は払うさ。」

 

コトリ、と鞘に収められた細身の剣が置かれる。

「…これは?」

「ヒヒイロカネで出来たスティレット。」

ピクリと反応する。

「うっそだー。だってそれは伝説上の鉱石でしょー?」

 

「しかし現にここにある。何なら手に取って確認してもらっても構わないさ。」

 

クレマンティーヌは半信半疑といった様子で鞘から刃を引き抜く。

 

彼女はヒヒイロカネの現物を見たことがないため、嘘くさく感じていたが、実際に手に取ってみるとどこか普通の武器とは明らかに異なることに気がつく。

 

「…どこで手に入れたのこれ?」

訝しげに聞くクレマンティーヌだが。

「聞きたかったら情報だ。」

と、にべもなく言われる。

「…この国で言えば、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフと青の薔薇のガガーラン、朱の雫のルイセンベルグ・アルベリオン、それとブレイン・アングラウスくらいかなー。」

 

「それで、レアアイテムについては何か知らないかな?」

 

「アイテムねぇ。ま、扱えないとは思うけど死の宝珠なんてのは知ってるけど。」

 

「死の宝珠!聞いたこともない!どこに行けば手に入るね?」

 

「いや、だから無理だって。そもそもカジッちゃんが肌身離さず持ってんだから。」

 

「カジッちゃん?」

 

「そ、ズーラーノーンって知ってるっしょ?そこの幹部。」

 

「…聞いたこっちが言うのもなんだが随分とあっさり喋るねぇ。」

 

「別に組織に忠誠があるわけじゃないからねー。隠れ蓑として使わせてもらってるだけで。モチロンある程度義理というか上からの命令には従うけどさー。」

「それで、他には?」

「他ー?」

「わざわざ人攫いしてまで使わせようとしたとっておきがあるんじゃないのか?」

「……。」

「黙秘するならコレはなしだなぁ。」

切りつけようにも所持している武器はボロボロ、本当ならとっくのとうにズーラーノーンの拠点で高みの見物のための準備と洒落込んでいた筈なのにとクレマンティーヌは歯噛みする。

 

伝説の武器は正直欲しい。

戦うものにとって武器は必須。

かと言ってお楽しみを明かす訳にもいかない。

 

「ああ、言っておくが逃げられると思わないことやね。」

 

「はぁ?」

 

「出口見てみ?」

 

チョイチョイと指差す方向、男が入って来たドアを見れば、男同様にいつの間にか入ってきていた赤毛のメイドがそこを塞いでいる。

 

ニコニコと口元は笑ってはいるが、目は全く笑っていない。

そして、今まで一言も発していないことで、クレマンティーヌにより威圧感を感じさせていた。

仮に、目の前の男をこの武器で殺し逃走を図ろうとすれば、瞬時にそれを止めるのも容易いと思わせるほどの。

 

かと言って窓には先程の鼠の大群で塞がっている。

(あー、積んだかこれ。)

 

さいどらいかん

 

いやぁ〜、我ながら上手くいきそうやねぇ。

まぁ、漆黒の剣の面々は今後重宝しそうだし、彼らを生かしておけばモモさんの名声の手助けになる可能性は大やね。

 

その彼らにさらに恩を売って、さらに(話が本当なら)この世界屈指の実力者の首を手土産にすれば、冒険者モモンの名が広まるのは確実。

そのためにも今ここでその下地を作っておくのが裏方の面目躍如やね。

 

「まぁ、こっちからの注文はそう難しくはないやね。カジっちゃんとやらから死の宝珠を奪取してオレっちに渡す。ただそれだけ。」

 

「…だから、それがムズイんだっての。そもそもそんだけの危険犯させて、報酬が剣一本ってケチくさくない?」

「あぁ、それはさっきの情報分の報酬。死の宝珠を持って来てもらえれば追加でいくらか支払うやね。それに…。」

 

「それに?」

 

疑問符が浮かびそうなほど見事に小首を傾げる目の前の女にオレっちは最高の策を伝える。

ルプスレギナの方から舌打ちが聞こえた気がするが、恐らく多分きっと気のせいだろう。

 

「オレっちもカジっちゃんとこ行くからなんとかなるっしょ。」

 

「はぁ?」

 

えっちょ、何その反応何気に傷つくんですけど。

 



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下準備

 

 

「んで、カジっちゃんとこに行くってどうすんの?」

 

「コレを使う。」

 

らいかんが取り出したのは、燻んだ色のぱっと見よくある水晶のネックレスだ。

 

「何それ。」

「説明するより見てもらった方が早いやね。」

そう言うや、らいかんはネックレスを装着する。

 

すると、らいかんの姿はンフィーレアのものへと変化した。

 

歪んだ水晶(クリスタル・オブ・ディストーション)。まぁ、簡単に言えばコレをつけてる間、装着者を特定の人やモノに見える幻術をかけるもんやね。」

とは言っても、その幻術は第四位階相当であることや、他にも人間種は着けられないなどのデメリットはあるがそれは今回は関係ないので割愛。

そもそも前者は漆黒の剣からの情報で、この世界では第三位階が人類の限界とされることを知っているため、そこまで破られるデメリットでも無いと考えるのが妥当なのだろうが。

 

「これでンフィーレア少年を連れてった体にすれば問題ないんじゃない?これから駆けつけるだろう凄腕の冒険者には口裏あわせてもらうよう言っとくからさ。ンフィーレア少年自身には保護という名目でしばらく出てこないよう言い含めてもらって世間には連れ去られたことにすれば良い。」

 

聞けば、彼もまた祖母に似てポーション作りに熱意を燃やす少年であるという。

ならば、レシピの一部を明かす事を条件にすれば否とは言うまい。

言いふらすような不誠実な人物でないことも分かっているし漏洩の恐れもあるまい。

それに、この世界の素材でもユグドラシルのポーションができるかどうかと言うのも興味がある。

 

すでに身バレしている人間がいると、こういう時便利なのだなとらいかんは思う。

 

無論、細心の注意を払うのは忘れてはいけないが。

 

そして、クレマンティーヌはそういえばと

 

「っていうかー、けっこー時間経ってるけど全然来ないのはなんでー?」

 

「あぁ、それは内外での時間差を生む結界を張ってるからやね。」

ウチの子の能力なんだーと自慢げにらいかんが言うと、「なんだそれなんでもありか」と、もう観念したのかめんどくさくなったのか、叡者の額冠やアジトについて話すクレマンティーヌ。

 

「なるほど。装備者に高位魔法を使えるようにする代わりにその自我を奪うのか。しかも無理に外せば発狂…出来ればコレクションしたいが、それだけ危険極まるなら破壊が妥当やね。」

 

何よりそれだけ強制力が強いだろうアイテム、我が子たる水晶獣に使おうものならどんなデメリットがあったか分かったものじゃない。

 

「でもさー、アンタ第七位階魔法なんて使えんのー?適合もしてない、タレントも無い奴がただ頭に載っけるだけじゃー効果なんてないんだけど。」

 

正直、流石の法国の秘宝たる叡者の額冠とは言え、効果が得られなければただのガラクタである。

せいぜい散りばめられている宝石を売ればそれなりの額にはなるだろうが、それだけだ。

 

「そこはほら、キミらもよく知るアイテムの力を借りるのさ。」

そうしてらいかんが取り出したのは魔封じの水晶であった。

 

らいかんはメッセージをアインズに送り、アジトの場所を告げる。

 

クレマンティーヌはもうどうにでもなれと諦めムード全開なのであった。

 

 

 



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墓場

 

 

(モモさんはもっと上手くやるんだろうなぁ。)

 

などと思いつつ、らいかんはメッセージをアインズに繋げる。

 

しかし気になったアイテムを手に入れるため、らいかんなりに切れる手札は切ったつもりだ。

 

撒き餌として用意したヒヒイロカネ製のスティレットもそのひとつで、あとあと回収するにしろ、交渉相手に持たせたままにするにしろ、対応は容易い。

元々持っていたものであるため、エンチャントもそれ程強力なものでは無いと分かっている(モンハ○でいうハズレの高レアお守りみたいな感じ)。

 

作戦のほどを聞いたアインズは

(そうですか。ではオレが扉の前に着いたら合図を出すので、その時に結界を解除して下さい。)と言っていた。

と言うのも、時間の流れに干渉する結界は内側からしか解除ができないからだ。

逆にいえば内側からなら簡単に解除しやすいため、内部に入ってさえしまえれば、尤も与し易い結界であるともいえるが。

 

なお漆黒の剣は、アインズとらいかんとの実力差を痛感していたようで、待機をするよう頼んだらあっさりと了解したと言う。

 

直接墓地に向かわないのは、ンフィーレア及び漆黒の剣と別れた際に、ンフィーレアの祖母であるリイジー・バレアレと鉢合わせたかららしい。

 

孫がいなくなっていることに慌てるリイジーは、モモンことアインズに孫の探索及び救援を依頼した。その際、アインズは少しばかり吹っかけたそうだがそれは受け入れられたらしい。

 

合図と同時に結界を解除して、入れるようになった部屋ももぬけの殻だったのがこたえたようだ。

 

さいどらいかん

 

にしても暇やねぇ…。

 

クレマンティーヌを名乗る女に連れられて、墓地の地下神殿?とかいうのにやって来て、叡者の額冠なるアイテムを頭に載せられる。

 

ちなみにカジっちゃんとやらは儀式の準備で忙しいらしく、少なくとも用意された場所に案内されるまで行き合うことはなかった。

あとここってカビ臭いかと思いきや意外と快適なことに驚いた。

空調とかどうしてんだろ〜。

 

…………。

 

何も起きん。

 

まっっったく何も起きん。

 

まぁ、当然と言えばそうなんだけども。

 

あとはテキトーにタイミングを見て、アンデスアーミーが込められた魔封じの水晶を割れば良いだけの簡単なお仕事やね〜。

 

ちなみにルプスレギナは付かず離れずの距離で万一がないか見張ってくれている。

こうまで連れ回して申し訳ないやねぇ。あとでご褒美の一つもあげた方がいいかね?

 

あとは〜、水晶梟の視界を共有して、下級モンスターを従える追従の腕輪を使って、人間たちの危機を煽りつつ、墓地からアンデッドを溢れない塩梅に操って〜、おっモモさん墓地の入り口付近にまで来たやねぇ。

 

よし、パリンとな。

 

その時、アンデッドの大軍が墓地に出現したのだった。

 




装備品説明

追従の腕輪
下級モンスター限定で一定時間数を問わず操れる。

消耗品。


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友人

 

さいどアインズ

 

まったく、ロウさんは相談も無く突飛なことをする。

ゲームでもたまにあったことだが、しかし、それがギルドの利益に繋がっていなかったことはあまり無く、それに加え彼以上の問題児がいたからこそあまり取り沙汰されたことも無かった。

 

オレはハムスケと名付けた森の賢王と、ナーベラルを連れて墓地に向かい歩いていく。

 

「それでも、懐かしさの方が勝つんだからなあ…。」

 

我ながら身内には甘いのかなあ…。

 

ゲーム内でのこととは言え、伊達に十年来の友人をしていない。

向こうもそう思ってくれていれば嬉しいけど。

ただ話を聞く限り、今回の件はロウさんが気になったアイテムを手に入れる筋書きの、その上に冒険者モモンの栄光を無理やり後載せしたような…。筋書きとしては少し雑な感じがした。

 

先日言ってくれた焦らなくて良いとは何だったのだろうか。

怒りより呆れの方が先に来るが、ロウさんだしなあ。

まあ、そのロウさん曰く、今回は相手が犯罪者集団であることと、本当にテロを目論んでいたようなので、利用させてもらったとして言い訳も立つだろうとのこと。

 

あーだこーだ考えているうち、墓地の入り口らしき場所で、王国軍の兵士たちが何やら忙しそうに右往左往しているのに気がつく。

 

どうやらアンデッドの大軍がこちらに向かって来ているらしい。

近場にいた兵士に

「すまない。依頼を受けて来た冒険者組合の者だが。」

と、声をかけるとその言葉に反応したのか、隊長格らしき人物がこちらにやって来る。

しかしその反応はイマイチで

「銅か…。」

と明らかに落胆の色がこもった声色に、ナーベラルが殺気を飛ばしそうになるが視線でそれを止める。

 

「すまないが中に入りたいのでそこの扉を開けて貰えるか。」

 

「いや、しかしそんなことをすればアンデッドが溢れ出てくるぞ!」

 

「そうか、では強行突破するしか無いな。」

ナーベ。とオレが声をかけると

「はい。」

とナーベラルが返答する。

兵士たちは何やら身構えていたが、オレ達はフライの魔法で扉を文字通り飛び越えて墓地の中へ向かう。

上空から墓地を見下ろして思うのは

(ロウさん、張り切りすぎじゃ…。)

ということだった。

 

アイテムを使うとは言え、大多数のモンスターを操るには当然集中力が要る。

尤も、適当に誘導するだけならその限りでは無いが。

まして千や二千をゆうに超える数を思うがままに操るには常人のそれを遥かに超えるそれが必要だ。

 

まあ、襲い来るアンデッドの大軍を次々に打ち破る英雄という偶像を作るにはそれくらいがちょうど良いのだろうが。

 

ナーベラルも適度に戦い、ハムスケもビビりながらも近づく敵を追い払うくらいは出来ている。

 

(確か、金髪の女に話を通してあるそうだけど。)

煮るなる焼くなりお好きにどうぞ。と言われているが、どうしたものか。

 

勧誘するにしても犯罪者、それもテロリストを組織内に抱え込むのはデメリットでしか無いが、しかし優れた武技の使い手ならば、その指南役に欲しいと言うのはある。

何より、戦士の戦い方と言うのをオレはよくわかってないため、その辺のレクチャーもして欲しいところだが。

 

ただ、それほどの実力者であるなら、所属組織としても生死は問わず回収はしたいはず。

死を操る組織というのなら蘇生魔法も心得ていると見ていいだろう。

その過程でナザリックが人間達に発見されるのは避けたい。

 

やはり、犯罪者として差し出すのがベストか。

 

適度に襲って来るアンデッドをあしらいつつ歩いて暫したつ。

墓地の奥に巨大な霊廟らしき建物が見えればそこがアジトらしい。

 

……まあ、会ってから考えるか。

 

ロウさんの少々お気楽なところが、オレにも少しばかりうつってしまったようで、なんとも複雑な心境だった。



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すり合わせ

 

さいどらいかん

 

オレっちは水晶梟を旋回させながら外の様子を伺う。

というのも、呼び出したアンデッドはあらかた倒されていて暇になったからだ。

 

外はもうすっかり暗くなり、夜の帳が周囲を覆っている。腹減ったなぁ…。

 

この建物の前で一心不乱に呪文を唱えてるローブ姿の集団が話に聞いたカジっちゃんとやらとその弟子か。

 

確か大事な儀式だとか何とか。何でも死の螺旋が〜とか言っていたが、言った本人もよくわかってなさそうだった。まぁどんな事情があれ、それももう関係なしやね。

 

未だ慣れない戦士職とは言え、モモさん相手だからね。

人目もないし、最悪魔法詠唱者に戻るのもありっちゃありか。

カジっちゃんとやら本当にご愁傷様やねぇ。

 

あ、モモさんに気づいたみたい。

 

さいどあうと

 

アインズが墓地を奥へ奥へと進んでいくと、霊廟を目に捉える。

そして、その前で円陣を組み何やらやっているのが見える。

 

やがて、その内の一人がその中心人物と思われる男に耳打ちする。どうやらアインズ達が来たことを伝えたようだ。

その男が顔を上げフンと不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「全く、厄日じゃわい。あの狂人に加え二人も招かれざる客が来るとはな。」

 

「良い夜だな。つまらん儀式をするには勿体ない気がするが?」

 

「それはワシが決めることよ。それで、わざわざあのアンデッドの群れをくぐり抜けて何の用だ?」

 

「なに、私は依頼を受けた冒険者でね。ある人物を連れ帰るのが目的さ。名は言わずとも分かるだろう?」

 

男は舌打ちを一つすると

「クレマンティーヌめ、また遊びよったな。」

と愚痴るように言う。

 

「それでわざわざここまで来るとは、無謀なのか勇敢なのか計りかねるな。」

 

「それは後から分かることさ。それで、お前達以外にはいないのか?他にもいるはずだが。」

 

ハァ…と一息つくと男は暗がりに向かって言う。

「クレマンティーヌ、どうせ見ておるのだろう。お主に客だぞ。」

 

「もー、カジっちゃんたらひどいんだー。せーっかく隠れてたのにー。」

 

「自分の尻くらい自分でふけ。ワシは知らん。」

無愛想どころか、険のある物言いだがクレマンティーヌは特に気にした様子はない。

 

「んじゃー自己紹介といこうかー。私はクレマンティーヌ。よろしくー。」

 

「…モモンだ。」

そう名乗るも、アインズからすれば当たり前だがクレマンティーヌとカジットは知らないようだ。

 

「ナーベ。お前はカジットとその取り巻きを相手にしろ。」

 

「了解しました。」

 

「クレマンティーヌ。私たちは場所を移すとしよう。」というと

「いいよー。」

と軽く返事が返ってきた。

 

(さて、ここからが本番だ。)

 

アインズは己に喝を入れる。

 

しばらく歩いてのち、クレマンティーヌが切り出す。

「で、あのロウってのは何が目的なわけー?」

 

「何がとは?」

 

「だーって、死の宝珠なんて適応できなきゃ自分が乗っ取られるだけだよー?インテリジェンスアイテムだからねー。カジっちゃんはうまく適応できてるみたいだけどー。」

 

「さてな。実際今回の件は、恐らくはロウさんも思いつきだろうけどな。」

 

「思いつきでヒヒイロカネ製の武器交渉に出すかねー。ま、私としては儲けだけどー。」

 

「それで?目的のアイテムは持ってないのか?」

「だいじょーぶ。そっちのお仲間との戦いで消耗したところをドスッとやってあげるよー。」

戦士のサガか、新しく手に入れた武器を試したそうにしている。

「なんだ、不意打ちしなければ勝てないほどあの男は手強いのか?」

「ま、曲がりなりにも幹部だしねー。多分私でも三回に一回は負けるかなー?」

 

「そうか。ところで武技と言うのは誰かに教えるのは可能か?」

「なにー?それも取り引きの内?」

「まあ、内容によっては追加報酬も考えよう。」

「……まー、素質にもよると思うけど、覚えられる人は覚えられるんじゃない?私は教えたこと無いから断言は出来ないけどねー。」

「覚えられる数や一度に使える数に制限は?」

「覚えられるのはさっきも言った通り当人の素質次第だねー。一度に使える数は、多くてもガゼフ・ストロノーフの五個…いや六個?だったと思うけど。」

 

やはり有名人はそれだけ手の内も知られているのだろう。

それだけ警戒に足る人物であるとも言えるし、知られたら知られているなりに対策もしてはいるだろうが。

 

「それに、武技は自分で組み合わせたり編み出したりも出来るみたいだねー。」

 

「なるほど、勉強になるな。」

 

やはり知識というのは覚えておくだけ得である。

 

「それよりもさー、大丈夫連れの人?魔法詠唱者っぽいけどー?」

「なに。抜かりはないさ。」

「ほんとかなー?」

 

夜は、まだ長い。

 



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骨の竜

ズーラーノーンが拠点とする地下神殿。

重要な儀式で構成員はみな出払っているその奥深くで、らいかんは夕飯と洒落込んでいた。

とは言っても、ナザリック地下大墳墓にいる時よりは質素なものだが。

どこから取り出したのか、テーブルと椅子も完備されている。

モグモグ ゴクゴク ムシャムシャ

パッと見、線の細い少年がガツガツと料理を食べている様はある種シュールではあるが。

 

現在らいかんがすることは無いでは無いがしかし、生理現象には勝てないのでこればかりは仕方ない。

「ルプスレギナの料理は今日も美味いやね。」

らいかんは素直な賛辞を自身の専属メイドに告げ

「恐縮です。」

と、いつものように淑女然としたルプスレギナが答える。

敵地のど真ん中で悠長に味わっているあたり、肝が座っているのか暢気なのか。

(まぁ、少なくともここのズーラーノーンとかいう連中はどう転んでも詰みやね。)

普段は出不精な自分がここまで動いたのだ。

死の宝珠とやらが何の役にも立たないガラクタだったら、クレマンティーヌは処分すれば良い。

無論、アインズが彼女をナザリックに必要と判断し、勧誘すればそれには従うが。

何より、あのスティレットには契約不履行に際し、持ち主を数分ほど拘束する呪いが付与されていてどうせ逃げられない。

彼女には告げていないが、元よりすばしっこそうな奴に拘束具を付けますよ。と言って素直に従うはずも無い。

彼女自身も訝しむ様子をしていたから何かある、くらいには思っていそうだが。

だからこそ、何か使い道が無いかと思案、模索している内にボックスの肥やしになっていた訳だ。

 

ひとごこちついたらいかんは再び水晶梟の視覚を共有し、外の様子を見る。

 

「お〜ルプスレギナ、君の妹はここのお偉いさんを圧倒してるやねぇ。」

「プレアデスならば当然かと。」

「ま、そういうもんかいね。」

カジっちゃんとやらの取り巻きを魔法で一撃。

しかし、当の中心人物は生きていた。

「ふ〜ん。弍式さんに魔法特化されたナーベラルの攻撃を一発耐えるとはやるねぇ。」

するとカジっちゃんはおもむろに懐から何かを取り出す。それはゴツゴツとした黒い物体である。

「おっ、アレが死の宝珠かね?」

次いで、近くに転がっていた自分の部下をゾンビとして使役しナーベラルにけしかける。

 

そうして幾らか経った頃、死の宝珠は暗く妖しく光り出した。

 

面倒だと思ったのか、ナーベラルが動きを見せようとした瞬間、大きな影がカジッちゃんの上に出現する。

 

その正体は竜。厳密には純粋な竜種では無く、竜の姿をした人骨の塊だが。

名をスケリトルドラゴン。

正直それなりにレベルを上げていればそこまで強いわけでは無いが、魔法職には厳しい相手だ。

因みにカジっちゃんはイキイキとしている。やはり墓場が彼らにとってのホームグラウンドなのだろう。

手を貸しても良いが、これはアインズが冒険者モモンとして正式に受けた依頼。

冒険者組合の外部の者が手を貸せば、その実力を疑われかねないため迂闊に手助けはできない。

 

「まぁ、モモさんが放って置いてるってことは問題ないってことだろうけども。」

 

実際、両者は一進一退を繰り返しているもののナーベラルは危なげ無く事を運んでいる。

剣の鞘でスケリトルドラゴンを殴打してたのはらいかんも驚いたが。

 

一方でアインズの方は、ナーベラルを見守りつつ情報の収集に勤しんでいるようだ。

やはり一般冒険者と、それなり以上の実力者では持っている情報の質も量も違うのだろうか。

 

しばらくしてスケリトルドラゴンがもう一体現れた折り、そろそろか。とアインズが命令を発する。

 

どうやらお遊びの終わりの時が来たようだ。

 

ここからは冒険者ナーベでは無く、戦闘メイドたるプレアデスが一人、ナーベラル・ガンマの戦い、もとい蹂躙がはじまるのだろう。

 

ルプスレギナはそれを聞き、羨ましそうにしていた。




次回は50話記念に過去編(例の件)について書こうかなぁと思ってます。
…このままだと設定だけで出す機会無さそうとかそう言うんじゃないよ(聞かれてない)


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50話記念 

サブタイの通り、今回は本編ではないです。
過去編を紐解いていく感じで読んでいただけたら嬉しいです。


 

 

夢を見た。

 

己の起源たる始まりの夢を。

 

戦いの声が聞こえる。

 

そもそもの発端は通りがかった森で7、8人の人間種のプレイヤーが寄ってたかって、ひとりの異形種を痛ぶっていたのを見てしまったことだ。

 

買い物ついでの散歩がてら、偶然に通りがかってしまった修羅場。

 

異形種狩りという忌まわしい因習。

 

憂さ晴らしか、それともアイテム目当てか。

あるいはその両方が目的なのか。

なんにせよ、見ていて気分の良くなるものではない。

 

彼はそれに割って入ったのだ。

 

「オメェさんは離れてな。」と、護衛のはずのアタシに言いつけて。

 

最初は不意打ち気味に攻撃が決まり、驚いた敵の隙を見て囲まれていた異業種を逃がす。

しかし戦力は多勢に無勢。

時間が経つほど徐々に劣勢になるのは明白。

そのうえ不運なことに、相手の一人がワールドアイテムの所有者であったのだ。

 

アタシは無礼を承知で彼の手を引き、必死に逃げて、隠れて、どうにかアタシが回復魔法で手当てをする。そして右側が血の滲む包帯まみれの彼が言うのだ。

 

「慣れねぇこと…するもんじゃ、ねぇ、やね。」

 

ごめんなさいと謝るアタシに彼は言う。

 

「自業自得なんだよこの腕は。この、脚は」

 

あの人は自嘲気味にそう言った。

 

「テメェの力を過信したバカが、自惚れた結果がこのザマなんだよ。」

自分が助けられたように自分も助けられると思ったと、それをバカだと彼は言う。

倒れても、意識を失ってもおかしくないのに、あの人はそれでも真っ直ぐに向こうを見据えていた。

空気がひりつく。

 

敵が、来る。

 

プレイヤーを殺すプレイヤー。

 

アタシじゃ絶対に勝てない。そう、分かる。分かってしまう。

 

それに、彼は立ち上がり、向き合って啖呵を切る。

 

「さぁ、いい子だから見せておくれよ。その剣で、その槍で、或いは矢でも魔法でだってかまわねぇ、このオレを殺しうるモノをよォ!!」

 

間一髪、救援は間に合った。

けれどそれ以来、彼は戦いの最前線から姿を消した。

 

右腕も右脚も、もう使い物にならなくて。

 

ごめんなさい。

 

アタシが守るはずだった。

 

そう告げると、彼は困ったように笑う。

 

いつものキセルを口に咥えて、ふかしながらゆっくり吸って、ゆっくり吐く。

 

煙が傷に染みるのもお構いなしだ。

 

「謝んねーの。たまには逆の立場ってぇのも悪かねえ、悪かねえのさ。」

 

それに、と彼は続ける。

 

「オメェさんをキズモンにしちゃぁ、同朋に、メコンさんに合わす顔がねぇのよ。」

 

ひび割れたサングラスをかけ直して、ニヤリと格好良く、格好をつけて笑う彼を、らいかん・す・ろうぷ様を見てアタシは、ルプスレギナ・ベータはおかしくなってしまった。

 

 

さいどらいかん

 

懐かしい夢を見た気がした。

そういえば、そんな設定もあったなぁ。なんてことを夢を思い返して思う。

 

いや、起こったこと自体は事実だから丸っ切り嘘では無いんだけども。

あの当時はまだ普通に前衛職やってたから当然工房もなくて、特にその日はイベントなんかもなく暇だったから、たまには街に繰り出してみるのも悪かない何て思い立って、他ギルドもなかなか攻めて来なかったもんで、このままじゃプレアデスも持ち腐れだ〜ってんで、時たま巡回してもらうようになって、たまたま自室の前を見回りしてたルプスレギナを見て、たまには外に連れ出すのも乙かなぁなんてふわふわした考えで、親であるメコンさんに相談したらメコンさんは割りかしあっさり了承してくれた。

 

まぁ出かけると言ってもRPGで言うお決まりの最初の街だし、その近辺の森ならついでに散歩してても絡まれないかなぁなんて思ったりして。

何せ大人気MMO RPGであるからして、自然の再現度も凄まじくてリフレッシュになるんだよね。

散歩中に鬱陶しい雑魚敵掃除してくれればいいや〜なんて考えもあって。

モモさんに頼んでゲート開いてもらって、そしたらそこで異形種狩りなんていう胸糞見ちゃったもんで、でも最初のダンジョンだし低レベルの初心者狩りかなぁ、なんてたかを括って攻撃してみたら何故かレベル100がひとりいて、しかも当時実装されたばかりのワールドアイテム持ち。

 

おかげでちょっとピンチになりかけた。

誰だよレベル上げサボってたやつ。

オレっちだけども。

でも向こうもたまたまアイテムを手に入れたばっかしだったみたいで、使い方もよく分かってなかったみたいなんであんま関係なかったけど。

 

その隙に即メッセージで応援要請したね。

ダサいとか言わないで、必死だったんだから。

まぁあとは時間稼ぎをチャチャっと済まして、ハイおしまいって感じで。

 

ついでにワールドアイテムも頂いてホクホクでしたわ。

うわっはっは、ザマーミロ。

腕だの脚の下りは完全に後付けだねうん。

 

酒を飲みながらそん時の話をしてたらメコンさんその場でコンソール開いてなんかしてたけど何だったんだろ?

 

後になって、というか今になってメコンさんがルプスレギナに何かしらの変更を施してたことに気づいた。

オレっちに女っ気がないからって、同族には優しくなるようにしてくれたんかね?

いつもの息抜きの散策中、小腹が空いたなぁなんて呟いて、気づいたら隣でニコニコしながら芋を差し出してくるルプスレギナを見て、オレっちは静かにそれを受け取りながらそんな事を考えていた。

 

さいどあうと、

 

「えっへっへ〜。」

プレアデスが一人ルプスレギナ・ベータはご機嫌で廊下を歩いていた。

「あら、ルプー姉さん、何かいいことでもあったの?」

すると、同じくプレアデスのナーベラル・ガンマが話しかけて来る。

「いやぁ〜、今朝素敵な夢を見られて幸せを噛み締めてたっすよ〜。」

「夢?どんな?」

「ナ・イ・ショっす〜。」

それを聞いてナーベラルは、ああ、らいかん・す・ろうぷ様関係の夢なんだろうなと察したのであった。

 



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看破

お久しぶりです。
こっちの方は忘れられてないか、戦々恐々している次第。



 

 

ナーベラルとカジットの戦闘は案の定と言うべきか、ナーベラルの圧倒的な勝利で幕を下ろした。

 

しかしカジットは、驚くことにほぼ消し炭も同然の真っ黒になってもかろうじて生きていた。最後の最後、なんとか防御魔法を展開できたのだろう。それでも死に体であることに変わりはないが。

「その若さでよくぞそこまで……。」

「あら、やっぱり虫ケラはしぶといのね。」

「ククク、ワシを虫呼ばわりとはな。言ってくれる。だが……ゴホッ、返す言葉もないのも事実だな。」

「意外とあっさりしてるのね。」

「まあ、お主ほどの使い手に負けたのだ。力量を測り違えていたのはワシの方だったというだけのこと。ズーラーノーンの魔法詠唱者としては寧ろ誉れよ。褒美をくれてやりたいが、生憎と渡せるものはなくてな。」

「別にいらないわ。」

「では……。」

「とっとと殺そっかー。」

カジットの後ろに立つのはクレマンティーヌ。

しかし、カジットは最後の力か鬼の形相でグワっと後ろを振り向くと、アンデッドを呼び出しクレマンティーヌに襲い掛からせる。

「ようやっと尻尾を出したかキツネ。」

「へー、まだ力残ってたんだー。」

クレマンティーヌが挑発的に言うが

「なに、燃え尽きる前の蝋燭のようなものよ。」

と、カジットはなんでもなさそうに返すと続ける。

「ズーラーノーンのため、我らが師のために、貴様だけは地獄に連れてゆく。」

 

無明孔(ダークホール)、死体が欠片も残らねば蘇生魔法でも生き返れまい。終いだクレマンティーヌ!」

空間がひび割れ、虚空に穴が開く。

「このっ…スケリトルドラゴン二体出して、まだそんなに力が…。」

「切り札は取っておくものよ。例えば…組織に仇なす不届き者を処分するためにな。」

アインズの暗黒孔と、似て非なるソレは

らいかんはその執念に強い関心を示した。

クレマンティーヌは暴れるものの、その吸い寄せる力には敵わない。

虚空より現れた孔は二人の人間を吸い尽くすと、再び虚空に消えて行った。

ことの一部始終が終わったのを確認すると、らいかんは首飾りを外して人間形態に戻り、ルプスレギナと共に地下神殿から出て来た。

そして、カジットのいたあたりからヒョイと目的のアイテムを拾い上げる。

「さぁて、これで死の宝珠とやらはオレっちの手に入ったやねぇ。」

禍々しく脈打っていた死の宝珠は、しかし今となっては本当にその辺の石ころと変わらなかった。

そして、聞いていたことを思い出して呟く。

「人間の負の感情を集めて力にする…。なかなか使えそうやねぇ。」

 

上手くすれば、貴重な魔結晶を用いない簡易的なエネルギー機関としてゴーレムやら、色々な装置を動かせる動力源にもなるかもしれない。

と言うか魔結晶に関しては水晶獣にしか使いたくないというらいかんのこだわり故だが。

ただ、問題点はその充填期間だろう。

ハッキリ言って数年がかりでスケリトルドラゴン二体がやっとと言うのは、レベル100のプレイヤーの感覚からすれば微妙もいいところだ。

仮にユグドラシル内で、そんな半端なアイテムがレア枠で実装されようものなら運営は色々な意味でフルボッコになるだろう。

最後の最後で未知の魔法を使っていたのは気がかりだが、あれはカジットが身につけていたアイテムなりに魔力を込めていたと考えるのが妥当。

 

ぶっちゃけエネルギーが欲しいなら何かしらアイテムを用いた方が早いし、確実だ。

無論、集める場所や死の宝珠を扱う者のレベルなどによって違いはあるかもしれないが。

それは要検証として後回し。

 

他にもアインズから聞いた話によれば、ユグドラシルの治癒のポーションだけでもオーバーテクノロジーらしく、必要以上にケチることもしたくは無いが、ゲーム内のように消耗品としてポンポン使うのは些かもったいないとのこと。

そう言った意味では優秀なエネルギー源かもしれない。

ポーションの材料はあるかどうか分からずとも、人間なら都市部にたくさんいるのだから。

 

そしてアイテムの消費を最低限に抑えると言った意味でも、今のところは表に出るのはアインズだけの方がいいだろう。

 

そもそも今回のらいかんの参加自体、漆黒の剣の救援という目的があり本来想定外。らいかんがそれに乗っかってクレマンティーヌと交渉しアイテムを手に入れ、或いは手放し、ついでに冒険者モモンの冒険譚に少しばかり花を添えただけだ。

ヒヒイロカネのスティレット自体、その武器の性能や大きさの都合上、それほど莫大な鉱石を要するものでも無い。

それに、取り戻そうと思えばいつでも出来る。

ただ、結果として色々とわかって来たことや、今後の展望が少しばかり見えて来たのはナザリック地下大墳墓としては好都合だった。

結果としてプラスに働いたと言っていい。

供回りを遠ざけ、静かになった墓場で2人になったのを確認するとアインズは問いかける。

 

「ロウさん、なにをそんなに焦ってるんですか?」

それは怒っていると言うよりは、諭すような優しい聞き方だった。

「アッハハ焦ってるように見えた?モモさんがそう思うんならそうなんやろうね。モモさん、仲間のことよく見てるし。」

そう言ってらいかんは、フルプレート姿のギルド長を困ったように見つめる。

「いやぁ〜ごめんねぇ、ちょっと現状でオレっちがどこまでやれるか試してみたかったのと、モモさんの脛かじってばっかなのもアレだと思ってやね。」

らいかんは後ろ手で頭をかきながら苦笑する。

流石にここまで見抜かれてはすっとぼけるのも不誠実と思ったのだろう。

確かにNPC達は今回の件に関して好意的に受け取ってくれるだろうが、らいかんが色々と独断専行したのもまた事実だ。アインズとしても、特にそれを強く咎めるつもりは無いがこればかりはらいかんの気持ちの問題なのだろう。

「適材適所ですよ。そりゃあ一緒に戦ってくれれば心強いですし、嬉しいですけど。」

アインズもそれを汲んでいるからこそ、こうして言葉を選んでフォローしている。

「いやすまんね。気ぃ遣わせて。」

「いえ、気持ちはわかりますから。」

アインズこと鈴木悟とて仕事で功を焦り失敗したことくらいある。

しかしその度にリカバーし続けて来た。

だからこそ失敗は成功で塗り替えられることも知っている。

「今後、こう言うことをするときは一言でも良いので相談してください。仲間なんですから。」

「…ああ、ありがとなぁモモさん。」

 

その時の日の出が、アインズとらいかん、二人の行く先を照らしてくれているように思えたのは都合が良すぎるだろうか。

 




ウマ娘に浮気とかじゃないんですよ?
ただ、ウインディちゃんのキュートさに気がついたらお話書いてたっていうか…(言い訳)。


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序列

お久しぶりです……


ナザリック地下大墳墓。その玉座の間にて、ひとつの裁きが下されんとしていた。

 

玉座に腰掛けるアインズの目の前には獣人形態に戻ったらいかんがいつになく神妙な面持ちで片膝を突いている。

「そういうわけだ。今回、我が友らいかん・す・ろうぷの独断専行はその功績を持って取り消すものとする。」

「はっ!」

玉座の間は今喧騒の最中にある。

一同に集った守護者達は皆疑問に思う。

らいかんのすぐ隣に控えるルプスレギナに至っては今にも泣きそうである。

何せ、この度の作戦のサポートを請け負っていたらいかん・す・ろうぷがアインズの裁きを受けているのだから。

アインズが静かにスッと片手を上げる。

「静粛になさい。」

アルベドがそういうと、今度は水を打ったように静まり返った。

皆、アインズの意図を測りかねているようだったが、しかし静寂を破るのは至って冷静な声色だった。

「なるほど、そう言うことですか。」

デミウルゴスが何かを悟ったように発言する。

「ドウイウコトダ?」

コキュートスが問う。

「アインズ様、らいかん・す・ろうぷ様。差し出がましいようですが、宜しければわたしが考え至った御二方のお考えを述べてもよろしいでしょうか。」

(え、モモさんなんか考えあったの?)

(え、いや、特に言った以上のことは……。)

そうこうしている間にもデミウルゴスがウッキウキな表情でプレイヤー二人を見て来る。

「まあ…良かろう。デミウルゴス、皆に分かるように説明してやれ。」

「はっ、ありがとうございます。本来、こう言ったことは黙すが華とは思いますが、このデミウルゴス。非才ながら説明をさせて頂きます。」

そういうとデミウルゴスはクルリと反転し、守護者一同を視界に収める。

「どういうことですか?」

おずおずとマーレが挙手し、デミウルゴスに問う。

「なに、御二方の描いた絵図は、我々の予想を遥かに越えていたと言うことだよ。」

メガネをくいっと上げながらデミウルゴスはそう述べる。

「まず、アインズ様が、皆を集めた上でらいかん・す・ろうぷ様を御叱責なされた。これは我々に要らぬ心配をかけまいとすると同時に、意識の引き締めも狙ってのことだろう。」

「要らぬ心配、ですか?」

「即ち、内部分裂さ。」

その言葉を聞き、一同は固唾を飲む。

「アインズ様とらいかん・す・ろうぷ様、お二人の関係性はあくまで対等。されど今回のようなことが無いとも言い切れない。だからこそ、非常時においての命令系統はアインズ様の下、一本化すると言うことさ。」

 

(え?)

(ん?)

 

「アインズ様は罰を与えないことでらいかん・す・ろうぷ様の顔を立て、またらいかん・す・ろうぷ様も報酬を受け取らないと言うことで二心がないことをわざわざ我々の目の前で示された。

これは平時は対等なれど、ナザリックの危機となれば、らいかん・す・ろうぷ様も大人しくアインズ様の指揮下に加わると言う意思表示だろう。」

 

(そうなの?)

(いや、正直そこまでは……。)

 

当人たちが置き去りで話が進む進む。

 

因みにルプスレギナは目をキラキラさせている。

ヘンに否定できない事この上ない。

「それに加え、我々にナザリックに貢献する機会をも与えてくださったのだよ。」

ナザリック地下大墳墓に所属するシモベ達にしてみれば、当たり前過ぎるほどに当たり前のことをさせてもらう、という言葉に皆一様に首を傾げる。それもさもあろう。とデミウルゴスは頷くと

「御二方のお力を持ってすれば、この世界の支配などあっさりと達成できるでしょう。しかし、それでは我々の立つ瀬が無くなってしまう。御二方はそれを懸念され、我々にも力を振るう機会をお与えになって下さったのさ。」

 

おおー!!と盛り上がる玉座の間。

 

(いや、それって舐めプ野郎ってことじゃ……。)

(ロウさん。それ以上いけない。)

メッセージでプレイヤー二人がそんなやりとりをしているとくるりと振り返るデミウルゴス。

どうやら合っていたかどうかの確認をして欲しいようだ。

(どうするのモモさん。)

(え、いや、やるっきゃないですよそれは。)

少し咳込んでアインズは言う。

「流石だなデミウルゴス。まさかそこまで私の考えを理解していたとはな。」

「勿体無きお言葉です。」

そう言うデミウルゴスは正に感極まっていた。

「すまんね。皆のことを信頼してないわけじゃあ無かったんだが。」

らいかんがそう言うと

「ええ、分かります。ですが、もう少し我々に頼って頂きたいです。」

デミウルゴスが恭しく言う。

「うん。今後も期待してるやね。デミウルゴス。」

そう言い、らいかんはキセルをふかす。

どうやら心持ちが幾分か軽くなったようだ。

「それでは、私とロウさんはこれより内々の話があるのでな。何かあれば私の自室まで来るように。」

そう言うとアインズは、ゲートを開いてらいかんと共にゲートの向こうへ消えて行った。

 




忘れないでいて下さった方々には感謝です。


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監視

またまた時間がかかってしまった…


ナザリック地下大墳墓、第九階層にあるアインズの自室。

そこに現れたゲートより二人の人物が出てくる。

「で、モモさん話って言うのは?」

一人は至高の四十一人が一人らいかん・す・ろうぷ。

「ええ。実はカルネ村に関してのことなんですが………。」

そう言うのは事実上の此処の主人アインズ・ウール・ゴウン。

古い呼び名のモモンガから取って、友人のらいかんにだけはモモさんと呼ばれている。

「カルネ村…最初にオレっち達が行って今も比較的友好的な事実上のナザリック領ともいえる重要な場所やね。」

らいかんがそう言うと、アインズは満足そうに頷き「ええそうです」と返す。

「それで……」と続けようとするアインズに、らいかんは義手の方の手で待ったをかける。

「ちょっと待ってくれ。考えるやね。」

そう言うと、顎に手を当て思案顔になるらいかん。さほど長くは無い時間考え、やがて思い当たることがあったようで

「ああ、トブの大深林の件かい?」

そう言うと、アインズは頷き

「ええ。ハムスケが居なくなり、あそこは今不安定な状況と聞きます。」

「まぁ、アイツが居たところで争いが起こるのは時間の問題だったみたいだけどなぁ。」

確か『東の巨人』と『西の魔蛇』だったか。で、ハムスケは『南の大魔獣』だったとか。

「そこで、です。」

そう言うとアインズは本題に入る。

「ロウさんとルプスレギナにはカルネ村に滞在してトブの大深林の様子や、また他の国に狙われないか等の動向を探って貰いたいんですが…。」

重々しく言うアインズに対し

「いいよー。」

と、らいかんはいつも通りに軽く返す。

「相変わらずあっさりしてますねえ。」

若干呆れ気味にアインズは言うが

「まぁ、動かせる人員はそれくらいだろうしねぇ。」

「それなんですよねぇ。」

と、切実な現状を互いに認知し合う。

警護に回すだけならばモンスターの数自体は問題ないのだが流石に人型が取れる者で、かつそれなりに知性ある者となるとその数は一気に限定されてしまうのがナザリックの難点だ。

そして、そう言った者たちはナザリック内部、もしくは他の任務で出払っていることも珍しく無く、結果かゆいところに手が届かないもどかしさがあるのは否めない。

かと言ってイチから教育するにしても時間がかかり過ぎる。

小さな村とは言え、仮にもこの世界の足掛かりである親ナザリック領を手放してしまえばその損失は大きい。

それこそわざわざ二人が出張ってまで好感度を上げておいたくらいなのだ。

そこをモンスターの餌場であったり、他勢力の戦場とする訳にはいかない。

ナザリックの面子という点に於いても、実益的な面に於いてもだ。

「それと水晶樹の森も()()()()()いい?」

「ええ。バレないで下さいよ?」

「ヘーキヘーキ。テキトーに家でも作ってそこで暮らしますって言えばプライベートにまで口出しはして来んでしょ。そんな余裕も無いだろうし。なにより村の恩人様だかんねこっちは。後は空間を地下室にでも繋いでおけばバレる可能性もグッと下がるって。」

そういう幻術が得意な水晶獣に守らせれば地下室への入り口自体悟られることもないだろう。

「んで、いつから行けばいいのん?」

「可能ならば明日にでも。それとリイジー・バレアレの出迎えも頼みます。」

「おーう。んじゃぁ、ルプスレギナに声かけて来るやねー。」

そう言って、らいかんはアインズの私室から出て、自室へと向かった。

部屋の入り口には既にルプスレギナが待機しており、「お帰りなさいませ。」と声をかけてくれる。

「お〜う。ただいま〜。」

そう言って自室に入り、食事を済ませ話がある旨を伝える。

「な、なんでしょうか?」

ルプスレギナは何やら戦々恐々としていたが

「いや、別にルプスレギナを専属のメイドから外すとかそう言う事じゃ無いやね。」

苦笑しながらそう言うと、彼女は明らかにホッとしていた。

続けてらいかんは新たに出た指令について伝える。

「なるほど。かしこまりました。そういうことでしたら私の方でも準備を整えておきます。」

「おう。また後でなぁ。」

そう言うと足早に退室するルプスレギナ。

どこか浮かれているように見えたのはきっと錯覚だろう。

廊下の方から「やったっすーー!!」とはしたない声が聞こえたが、きっと幻聴に違いない。

「さて……。」

そう言うとらいかんは寝室へ向かい、ナイトテーブルから小さな鍵を取り出す。

「アイツら元気かねぇ。」

(まぁ、あそこの時間の流れは通常とは異なるし、週一度は顔を見せているから、変わりないとは思うけど)

そう思いつつ、らいかんは自室にある水晶樹の森へと繋がる扉へ向かった。

 

さいどルプスレギナ

 

指輪を頂いた上、今度は二人で一緒に自然豊かな場所にだなんて

しかもひとつ屋根の下〜〜!?

これはもう、ハネムーンっすか?

婚前旅行っすか〜〜!?

「でへへへへ。」

「ちょっとルプー?休憩中だからってだらしないわよ?」

ヤバ、ユリ姉のお説教長いんすよねー。

「でへー、ごめんっすユリ姉。」

「全く…。」

ユリ姉は呆れながらも背中を押してくれるから好きっすよー。

「しっかりなさい。」

それはドッチの意味なのか。

或いは両方なのか。

いずれにせよ、アタシはカルネ村でらいかん様の好感度爆上げしてやるっす〜!!

うぇへへへへ。




更新頑張るます!


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水晶獣達の森

前回の投稿から一月以上…。
待っていてくださった方々。すみません。


らいかんは水晶樹の森に足を踏み入れる。

そこかしこに魔力を宿した樹木の群れが赤や緑、紫に黄色などなど神々しく光る。

水晶樹というだけあって木々は皆水晶で出来ており、初見の者はさながら黄昏時のような不思議な感覚を覚えるだろう。

元々は、水晶獣達が元気に駆け回る姿が見たかったがためのジオラマ的要素が強かったのだが、どうせならと言うことでアインズウールゴウンのギルメン皆でちょっとしたダンジョンのように手を加えたのだが、こうして実際に見ると何度来ても感動を覚えるものだ。

ここの主人だというのにお登りさんのようにキョロキョロと見回すと、それに反応したのか木々の間から水晶鹿(クリスタルディアー)がヌッと顔を出した。

「おーう、久しぶりやねぇ」

らいかんが明るくそう言うと水晶鹿は顔を寄せてスリスリと身を寄せる。

なお、モデルはヘラジカであるため結構大きい。

「アイツのとこに連れてってくれるかい?」

そう言うと水晶鹿は身を低くする。

どうやら乗ってくれと言っているようだ。

「そんじゃあ乗っけてもらうやね」

よいしょっ、と乗ると水晶鹿はのそのそと歩き出す。

「しっかし、いつ来ても壮観やねぇ…」

木々に紛れてギルドメンバーの像が立ち並び、岩や樹木、実際に水の流れる輝く川や湖。細部までこだわった橋や自然の再現にらいかんは改めて感動を覚える。

思えば仲間たちは皆センスの塊であった。

それこそ世が世ならその道で食っていけたろうと思えるくらいには。

まぁ、その所感には多少の身内贔屓もあるんだろうが。

アインズウールゴウンのメンバーは襲われないよう設定していたため呑気に出来ているが、しかし侵入者にして見れば貯まったものでは無いだろう。

のしのしと水晶獣たちが闊歩する道中であったが、らいかんに気づくと皆一様に寄って来る。

巨体を揺らす水晶灰熊(クリスタルグリズリー)やカルネ村で世話にもなった水晶猪(クリスタルボア)の群れ、逆に小さな水晶栗鼠(クリスタルスクワール)などもわざわざ木から降りて来てこちらに寄って来ては構って欲しそうにしていたので、らいかんはその度に嬉々として相手をしていた。

やがて辿り着いた森の最深部。巨大な切り株の玉座とも呼べるそれに、一頭の水晶獣が寝そべっていた。

あるじに気づいたのか、その水晶獣はムクリと起き上がりらいかんを見つめる。

「ご主人、如何な御用向きで?」

低く、しかし透き通った声で彼は聞いてくる。

整ったたてがみにトパーズを思わせる瞳。全長にして五メートルをゆうに超えるだろう巨躯を誇り、頭上にはこの森を象徴した七色の冠を戴いており、また戦闘面においても全水晶獣内随一の実力を持つ。

その名を水晶獅子(クリスタルレオ)

美しくも雄々しき、知性持つ水晶獣達の王…つまりは記念すべき水晶獣第一号というわけだ。

「おぅ。実を言うとなぁ…」

らいかんがそう言い、続けて事情を説明する。

「ふむ。なるほど」

水晶獅子は相槌と共にひとつ頷くと

「ではあとで座標をお示しください。そこにポータルを開きますので」

と言う。

「おーう。あんがとなぁ」

「いえ」

水晶獅子は短くそう答えると再び寝そべる体勢になった。

「相変わらずストイックなヤツやねぇ…」

まぁ、そう作ったのは誰あろうらいかん自身ではあるが。

「そんじゃあ戻るとするかい」

らいかんが一言そう言うと、水晶鹿は再び身をかがめてらいかんに背を貸したのだった。

 




次はもっと早く上げられればいいなぁ…。


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