レジェンズのヒーローアカデミア (HR-H HR-E)
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No.1 プルス・ウルトラ!

ミラージュの一人称視点➡三人称➡一人称視点➡別の一人称視点➡また別の一人称視点➡またまた別の一人称➡またまたまた別の一人称
となっております。APEXをそれなりにやってる人は少しだけ分かりやすいと思いますのでAPEXを知らないまたはやったことのない人はこれを機会にぜひプレイしてみてください!
PC、PS4、Nintendo Switchで基本プレイ無料で遊べます。初心者に優しいFPS(だと思う)!


 よぉ、そこのスマホ見てるお前!そう、お前だ。いや、もしかしたらスマホじゃなくてパソコンで見てるのか…?まさかPS5やVRでこの小説を見てるなんてことは無いよな!?

 

 まあこの際そんなことはどうでもいい。どうでも良くないのかも知れないが…とにかく画面の前のお前達だ。突然だが俺の顔を見てどう思う?

 そう!その通りだ!イケメンでハンサムで……ああ、ええぇと、そう、ダンディだ!まさに【レジェンド】と呼ぶに相応しい顔だろ?

 実は幸運にも俺もその顔が見えている。そう、鏡だ。「ミラージュ様のことだ、きっとデコイを使って自分の顔が見えているのだわ!」と思ったそこのネーさん達!だまされたな!

 

 えぇっと…とにかくだ。俺はこのハンサムな顔をさらにハンサムにしなければならない。何故かって?実は今日は高校の入学式なんだ。待ってくれ!俺のじゃない…いや、俺のではあるんだが…俺たちというか……ああ、そうだ!あれだ!えぇ~っと…ちょっと待っててくれ!

 

 

 どこにやったかな…この資料は違うな…これも…違うな…ん?『まさかの大事件!民衆の英雄フォージ!暗殺される!』だって?……何年前の新聞だこれ!?

 ああ、あったぞお前達!!!

 

 コホン、事の始まりは中国の……か、軽い…市…なんて読むんだ?まぁ気にするな。発光する赤子が生まれたというニュースだった!以降各地で超…常は発見され、世界人口の八割は何らかの特異体質、「個性持ち」である超常社会となった現在!架空の存在だったヒーローは現実の職業となった。まさにヒーロー社会!

 

 ってわけだ…ああ、つまりだ。俺は今からヒーローになりに高校に…違うな、ああ……そうだ俺は「個性」なんだ。「個性持ち」じゃない。俺は「個性」そのものなんだ…

 分かるぜ、悲しいよな。俺は人間でも動物でもない。例えるなら武器だ。R99とかピースキーパーとかモザンビーk…待て、モザンビークは流石に無いな。そうだ、俺はクレーバーだ。ドカンと一発、皆の心を撃ち抜k(

 

 

 

 

『おい、ウィット。いつまで鏡に向かって話している。初日から遅刻するぞ』

 

 

 

 

 鏡に向かって永久的に話し続けてしまうのでは無いかと思えるお調子者(30歳)のエリオット・ウィットまたの名をミラージュに何処からともなく若い男性の声が響いてくる。

 その声にミラージュは少し驚くも鏡から振り返り何もない空間に対して大げさにため息をついてあきれるリアクションを取る。

 

「分かってねぇーな爺さん。人間まずは身だしなみからだ。そしてジョークの具合。身だしなみがだらしなくて不潔でつまらない奴は栄えある雄英には入れてもらえない。おっwちょうどお前みたいなやつだな」

『(ため息)…どうせ校内で行動するのはオクタンかナタリーか苑葛本人のいずれかだ。お前みたいな老け顔の小僧がでしゃばる必要はない。失せろ』

 

「あっ、おい待てクリプ…! まだポークチョップをキメて無い!」

 

 ミラージュは必死に何かから藻搔こうとするも、その甲斐空しくミラージュはその場から完全に消え失せてしまい…代わりに黒いマスクに緑色のゴーグルに黒い革製のヘルメット?の様なものを被った緑と黒をメインカラーとした不思議な服装の義足の青年が現れた。

 

「んぉお? もう時間か?」

 

 男の名はオクタビオ・シルバ。別名オクタン。ミラージュとクリプトと呼ばれた男性とは別人だが…同じ個性そのものという存在。

 

『ああ、さっさと制服に着替えて雄英へ向かえ。個性は使うなよ』

「了解だ」

 

 クリプトの指示に従い、洗面所から移動し寝室へと戻るオクタン。ミラージュのせいで大きなタイムロスをしたが朝食は既に済ませてあるので初日から遅刻なんて事は無いだろう。

 オクタンは制服に袖を通し、メカメカしい義足で苦戦しながらもズボンを履き替えた。

 

__________A P E X__________

 

 

 道中、無性に興奮剤を使って走り回りたくて仕方がなかったが俺は無事にホームルーム前には雄英高校に辿り着いた。流石は日本最高峰のヒーロー高校というべきか、まず思ったのは何もかもがデケェ。

 校舎は勿論、校門や生徒玄関に廊下や扉までもがデカかった。多分巨体を持つ生徒に配慮しての設計だろう。だが流石にここまでデカい異形型個性の人間なんざそうそう居ないだろう。そこにも気を遣えて尚且つ実現する財力…ハハッこりゃあ授業のレベルも期待出来そうだ。

 授業で思い出したが今年度からあの世界No.1ヒーローで平和の象徴とまで言われたオールマイトが教鞭を取るらしい。その年になって入学出来た俺…いや、俺達は本当に幸運だ。

 

 そう思いながら俺は廊下を歩き、1つの教室の前へと辿り着く。1年A組。ここが俺達… 連出堕 苑葛(れでた えくす)とその個性である俺達「レジェンド」が学生生活を送る教室って訳だ。

 

 扉を開け、教室へ入るとまず最初に目に入ったのは勿論広い教室や個性豊かな同級生達………等では無く緑色だった。

 

「うおっ!?」

 

 流石日本最高峰の超名門高校だ!まさか教室の下半分が緑色の毛むくじゃらだとは予想を遥かに越えてオリンパスに届きうるイカれたアイディアだ!!!

 

『シルバ、何言ってんのあんた。どう見ても人の髪の毛でしょうが』

 

 個性を通じてシェのアネキことライフラインが俺の視界の下半分を覆う緑色の毛むくじゃらの正体を教えてくれた。

 人の髪の毛…!?教室の材質に人の髪の毛を使うなんてイカれた殺人ロボットやサイコパスロボット、毒ガス研究者ですら思いつかない…もしかしてここはヴィラン高校だったか!?

 

「え? うわっ! す、すみません!」

 

 なんて考えていると俺の視界の下半分を覆う緑色の毛むくじゃらは180度回転して人の顔が現れる。なんだ、人の髪の毛ってそういう事か。扉の前にこの緑色の毛むくじゃらの髪の毛をした少年が立っていただけだった。少年は俺の進行方向に立っていることで教室に入れない事に気づき、慌てて謝罪すると横に退いてくれた。

 

「ああ、気にすんな」

 

 俺は少年の肩に手を軽く置き、教室へとようやっと入室する。周りを見渡せば人数的にどうやら俺以外の生徒は全員教室に居るようだ。つまり俺が最後の1人って訳だ。1人って言うよりか19人というべきか…

 

 そんな事よりもこの教室に居るヤツらは思ったよりも癖の少ない見た目をしているな。俺はもっと…こう…麦わら帽子を被ったゴム人間とかピンク髪の超能力者とかグラサンをかけた金髪アフロの鼻毛神拳の使い手とかそれくらい癖の強い奴らを想定していたが…異様に小さい紫の丸とカラス頭以外は特に普通だった。外に出れば転がってそうというかなんと言うか…いや、失礼だったな。外見で人を判断しちゃあいけねぇ。

 

「あ、あの…! 僕緑谷出久って言います! よろしく…!」

 

 緑色の毛むくじゃら少年が自己紹介をしてくる。周りばっか見てて自己紹介を忘れていた。

 

「俺は飯田天哉という、よろしく!」

「私は麗日お茶子!」

 

 ついでに緑色の毛むくじゃら……緑谷出久って奴の近くにいた丸顔の少女と眼鏡の少年も自己紹介をしてきた。名前も普通だな。

 

「よぉ、俺はオクタ…… 連出堕苑葛って言うんだ。よろしくな」

「ああ! よろしく!」

 

 手を差し伸べると飯田って眼鏡は握手してくれた。一方麗日って少女は「オク…?」と間違えて俺が名乗りかけた名前を呟いていた。そこら辺も説明しないとだな…

 

「ああ、俺実は…」

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 そんな時、下から声がした。本当に下からだ。

 驚いて俺や緑谷、飯田を含めた全員が声のする下へ向くと俺の背後になんか居た。

 正確には寝袋にくるまってゼリー飲料をチャージする無精髭の小汚いおっさんが居た。

 

「おお、すげぇな! 流石雄英だ! こんな変な生き物を飼ってるんだな!」

 

 思わずそう関心する俺だが…

 

「俺は担任だ。」

 

 まさかの担任だった。

 

 担任を名乗る不審者は寝袋から這い出てくると、名は相澤と名乗り、体操服に着替えてさっさとグラウンドに出てくる事を伝えると颯爽と教室から出ていってしまった。先にグラウンドへ向かったんだろう。

 

「「「……………」」」

 

 残されたA組の生徒20名は思わず無言でその場に立ち尽くす。そりゃそうだ。いきなり担任を名乗る寝袋不審者がグラウンドへ来いとだけ言って消えたら困惑するだろう。しかしそこで飯田天哉がA組全体に向かってひとまず体操服に着替えてグラウンドへ早く向かおうと指示した途端に各々動き始めた。どうやらこいつはリーダーシップが備わっているな。

 

 

 体操服に着替える為に男子更衣室に来たのは良いが、せっかく制服に着替えたのに体操服に着替える…義足の俺にはめんどくさい事だ。どうせ切り替わってしまえば服装は変わるんだから制服も体操服も意味無い様な気がするな…そう思いながら体操服に着替え始めると…俺の義足があらわになって男子クラスメイトの注目を集める。

 だが尋ねてくるやつは居ない。そりゃそうだろう。義足ということは脚に何らかの事が起きて失ったということ。本人にとってはそれはトラウマや嫌な思い出である。そんな事を尋ねてくる無神経な奴は居n

 

「なぁ、なんで義足なんだ?」

 

 ああ、居た。

 

 なんか金髪に黒いメッシュが入ったチャラチャラしてるやつが尋ねてきた。

 

「あ、ああ悪ぃ。答えたくねぇなら答えなくていいよ。ほら、これから俺達クラスメイトだろ?ちょっと気になっちゃって…」

 

 一応申し訳なさはあるようだな。無神経な奴って事は無さそうだ。それよりもクラスメイトの事を知ろうとする良い奴だ。まぁ、良い奴じゃないとヒーローは務まら無いからな。

 

「いや、気にすんな。この義足は俺にとって名誉だから尋ねられても何も不愉快じゃねぇよ、むしろ聞いてくれて嬉しいぜ。この義足は昔やんちゃしてた頃に吹っ飛ばしたんだ、だが代わりに早く走れるこの義足を手に入れたんだ。」

「ふ、吹っ飛ばした…?」

「おう、グレネードでドカン!ってな。ハハッ」

 

 グレネードで両足を吹っ飛ばすなんて相当イカれてる。そんなアメリカに居そうなとんでもないYouTuberみたいな事を自分と同じ高校生が行った事に皆少し引いている様だが、当然の反応だ。

 

「俺は連出堕苑葛だ。」

 

 金髪に手を差し伸べる。

 

「あ、ああ! 俺は上鳴電気!」

 

 上鳴電気と名乗る少年は握手を返してくれた。それに続き、赤い髪の少年、尻尾の生えた地味顔、黒いマスクを付けた2メートルいかないくらいの大男、カラス頭の鳥人間も自己紹介と握手をして来てくれた。

 

「俺は切島鋭児郎だ! よろしくな!」

「尾白猿夫だ、よろしく」

「障子目蔵だ」

「常闇踏陰だ…」

 

 もう既にこの場を去っている男子生徒を除けば先の飯田天哉と緑谷出久含めて全員に自己紹介と握手をしたな。まぁ残りの男子生徒や麗日お茶子以外の女子生徒はいずれ自己紹介しよう。個性の説明もその時にするか。

 

 

 

 

 

「「「「「「個性把握テスト!?」」」」」」

 

 A組ほぼ全員の声、疑問が重なる。

 体操服に着替えてグラウンドへ出てくるとやはり先の担任の相澤が居た。そして全員を確認するといきなり個性把握テストなるものを始めると言い始めたのだ。

 麗日お茶子や切島鋭児郎が入学式やガイダンスについてはどうするのかと抗議するも、そんな悠長な行事出る暇なんて無いよと言われる。曰く、自由が売りの雄英高校は教師も自由だそうだ。そいつは何とも素晴らしい売り文句だ。ますます気に入ったぜ雄英高校!

 

「爆豪、個性を使ってこのボールを投げろ。円から出なければ何でもいい。」

 

 相澤担任はソフトボール投げ用のボールを爆豪という金髪の目つきの悪い少年に渡す。どうやら中学に行った個性禁止の体力テストを個性を使って行わせるつもりのようだな。

 

 爆豪という金髪は円の中に立ち、ボールを構えると…

 

「死ねぇぇ!!!」

 

 おおよそヒーローとは思えない暴言を吐きながら掌を爆発させてボールを大きく吹っ飛ばした。

 すげぇ…感動しちまったぜ…明らかに見た目や言動がヴィランだったがかっこいいぜ…!爆豪…!

 そして何よりも個性を使って体力テストが出来るなんて流石は雄英だ。イカれてる!

 

 俺は無言でワナワナと震え、上鳴電気と切島鋭児郎が楽しそう!面白そう!とはしゃぎ、何人かの生徒も楽しそうな表情をする。分かるぜ、その気持ち!

 

 しかし…反対に相澤担任の表情は暗く…鋭くなっていく。

 

 

「…面白そう…か…。ヒーローになるための3年間をそんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位のものは見込み無しと判断し、除籍処分としよう。」

 

 ……は?

 

 除籍処分という言葉に俺の震えは止まり、歓喜の声も消え失せた。

 

「そ、そんな!? 理不尽すぎる!」

「まだ入学初日ですよ!?」

 

「そういう理不尽を覆してこそのヒーローだ。お生憎だがこれから3年間雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。全力で乗り越えて見せな、更に向こうへ…PlusUltraさ」

 

 代わりに生徒からは沢山の抗議の声が上がるも…相澤担任の言葉に黙る。理不尽を越えてこそのヒーロー…プルスウルトラ…本当にこの高校は………最高だな!

 最下位除籍処分…クラスメイトが確実に1人減るのは悲しいが…仕方ねぇ、俺らは全力でこの理不尽を乗り越えて…そうだな、目指すは1位だ。個性を自由に使えるなら俺らは絶対に負けねぇからな!ハハッ!

 

 そして始まった個性テストの第1種目、50メートル走。

 1回につき名簿順で2人同時に測るため、ら行である俺は最後という事だ。一緒に走るのは…名簿番号が19番の女子生徒だ。

 

「連出堕苑葛だ、よろしく」

「八百万百ですわ」

 

 握手を求めると返してくれた。身長が高くて発育が良く、髪型が変以外は特に目立った見た目はしていない。ここからでは個性が何なのか分からないが…まぁ、関係無い。

 あの飯田が3秒という記録を叩き出して爆豪が4秒13を出した。俺自身はスピードと再生が取り柄の個性にも関わらず最高速の5秒を越えられたのが悔しい。俺以外のレジェンド達なら他の種目で好成績を残してくれるだろうが…1位を目指すならここで少しでも俺が好成績を残さないと行けねぇ。

 

「レース開始!」

 

 計測用ロボットの合図と共に俺は定位置からゴールへ向かって自分に興奮剤を打ち込み、通常よりも早く走り出す。

 

 そしてあとゴールまで10メートルくらいといった所で……突然背中からジェットを生やした八百万が俺を追い抜いてゴールした。

 

は!?

 

 まさかの背中からジェットを生やす個性だとは思わず俺は驚愕した。

 

『ピピッ、八百万百。3秒54。連出堕苑葛。5秒02。』

 

 おいおい、飯田や爆豪、轟っていう奴にも負けたのに八百万にも負けちまったぜ…まだまだ1種目だが先行きが少し不安だぜ。

 いや、大丈夫か…俺達の個性なら

 

 

 第2種目は握力測定。残念ながら俺は握力には自信が無い。だから個性を使う。そう、最初にも見せたクリプトやミラージュに切り替わったあれだ。

 しかし…なんと言うか…切り替わったら完全に別人になる。というかレジェンドの半数がいい歳した中年だ。大丈夫だとは思うが念の為相澤担任に聞いてみたが

 

「ああ、お前の個性ならちゃんと理解している。周りが少し混乱するかも知れないが気にするな。好きにやれ」

 

 流石は自由が売りの雄英だ。なんて寛容的だ。

 という訳でパワーならこいつだな。

 

 握力計を手に持ち、俺は個性を通じてレジェンドの中でも特に力自慢のあいつに切り替わる。

 

「出番だぜ、ジブラルタル」

『おう、俺に任せなブラザー!』

 

 突然俺から聞いた事も無い。ドスの聞いた低い男性声が響き、何人かが驚いた表情でこちらを見る。

 おそらく相澤担任以外全員は俺がスピードの個性だと勘違いしているだろう。間違いではないが…それは俺、()()()()()()()だ。()()()()()()()()は…『レジェンズ』。18人以上のレジェンドを自由に切り替えられる個性だ。

 俺はジブラルタルに切り替わって貰い、連出堕の個性の中で…レジェンズの中にある俺達レジェンズしか立ち入れない空間の中に戻る。そこには先のオクタンやクリプトにシェのアネキ。そして他のレジェンド達も居た。

 

 

__________A P E X__________

 

 

 

 さて、オクタンに切り替わって貰って現れたのは良いが…はははっ!やはり皆混乱しているな!そりゃそうだろうな!先程まで体操服の義足の青年がいきなりアーマーを身にまとった巨漢に姿が変わったら驚くのも無理は無いぜ。

 

「え、れ…連出堕さんですの…!?」

 

 そこに…確か八百万の嬢ちゃんだったか?が驚きながら話しかけてくる。

 

「おう、そうだぜ嬢ちゃん。これが俺様、連出堕の個性だ!ウワハハハ!」

 

「見た目どころか年齢も性格も変わってねぇか!?」

「もはや別人でしょ…」

「さっきのスピードは個性じゃなかったのか!?」

 

 当然の疑問だな。だが説明しようにもそこで担任の相澤が鋭い目つきで睨んでくる。「余計な話をしてないで早く終わらせろ…」とでも言いたげだな。まぁ、俺様達が最後だから早く次の種目に移りたいんだろう。

 さっさと終わらせるとするか…!

 

「ぬぅん!!!」

 

 力を精一杯込めて250kgジャストをたたき出す。ちなみ自慢じゃあ無いが連出堕の個性で切り替わったがこのジブラルタル様自身の個性は使っていないぜ。素の力で250kgだ。残念ながら俺様の個性はパワータイプじゃあ無いからな。

 1位を目指したかったがまさかの障子目蔵ってさっきオクタンと更衣室で握手したブラザーが540kgも出していた。そして八百万の嬢ちゃんは身体から万力を出現させて握力計を破壊しやがった。どうやら…ジェットを身体から生やす個性じゃあ無さそうだ。

 

「まだあと6種目あるが…これじゃあ1位は難しそうだな」

 

 

 第3種目は立ち幅跳び…こいつは俺様では無理だな。しかしどうするか…この手の分野が得意そうな奴はレジェンズの中でもそれなりに居るからな…

 

 そうこう思っているうちに、爆豪って爆発ブラザーが掌を常に爆発し続けて砂場を飛び越えて好成績を残していた。なるほど、いい事思いついちまったぜ。

 

 ひとまず俺様の出番はここまでだ。ここからはあいつに任せるとするか。

 

「出番だぜ、嬢ちゃん」

『任された』

 

 連出堕の個性を使い俺様は…ヴァルキリーと切り替わった。

 

 

 

__________A P E X__________

 

 

「お、おいおい連出堕の奴今度は女になったぞ!?」

「変身する個性にスピードを出す個性に力が強い個性に女になる個性か…!?」

「女になれる………ゴクリ…」

 

 ジブラルタルに頼まれて私に切り替わると切島ってやつと上鳴ってやつが大騒ぎする。そしてなんか紫色の玉みたいなチビが凄い形相でこっちを見ているな。

 めんどくさいけど本当にこの後個性の説明を1からしないと更にめんどくさい状況になりそうだな。

 

「連出堕。始めろ」

「イエッサー」

 

 そしてこの相澤ってセンセーは予め連出堕の個性を知っているとは言え眉一つ動かさないってリアクション死んでんのか?

 

 とりあえず私はVTOLジェットを使い、軽く砂場を飛び越えて見せた。一応念の為、爆豪ってやつより長く飛べますよアピールをする為に長く空中に留まって相澤センセーから「降りてこい」と言われるまでは空中に居続けた。

 

「先生!個性把握テストなのにサポートアイテムを使ってよろしいのでしょうか!?」

「連出堕のコレは個性だ。気にするな。次の種目に移るぞ」

 

 相澤センセーが記録を書き込んでる最中に飯田って眼鏡が私のVTOLジェットにケチを付けて来たが、相澤センセーは軽くいなす。正確にはこのVTOLジェットは私の個性であって連出堕の個性じゃないんだけど…相澤センセーは説明する気無さそうだな。それも後で私達が説明しないとか…めんどくさ。

 

 第4種目は反復横跳び。これはミラージュのデコイで好成績を残そうとしたけど…正直それはズルに分類されるだろうからオクタンに戻して普通に好成績を残した。とりあえず私の出番はこれまでかな〜。

 

 

 

__________A P E X__________

 

 

 第5種目はハンドボール投げ。さっき爆豪って爆発するガキがやってた奴だな。これに関してはどうするか迷ってたが俺達より1つ前の八百万って嬢ちゃんが大砲ってボールをぶっ飛ばしたのを見てこのヒューズ様が抜擢された。

 おいガキども、連出堕が巨漢になったり女になったりした後にただのおっさんになったって陰口聞こえてるぞ。ったく…

 

 とりあえずヴァルキリーのジェットパックが許されたのなら俺のナックルクラスターやマザーロードもOKだろう。1人2回投げられるらしいからまずはナックルクラスターからだ。

 そういやさっき八百万の嬢ちゃんが大砲でボールをぶっ飛ばしたって言ったが記録は500メートル以上だった。なのに爆豪って奴は700メートルを片手爆破させるだけで記録を出していたな。あの爆豪ってガキは才能があるな、爆発の才能がな。わずか0.1メートルの差で緑谷って地味なガキに負けはしたが…あの爆豪ってガキは気に入ったぜ。

 おっと俺様の個性であるナックルクラスターの記録は230メートルだったか…そして本命のマザーロードでは…350メートルか…ッチ、爆豪や緑谷ってガキはおろか八百万の嬢ちゃんにも勝てなかったか…こりゃあ1位を取るのは本格的に難しくなってきたな…

 

 ああ、ちなみにトップは麗日って嬢ちゃんだ。記録は∞だそうだ。馬鹿らしくなってくるな。

 

 

__________A P E X__________

 

 

 

 やぁ!僕はパスファインダー!残りの3種目の持久走、上座体前屈、上体起こしは僕が担当したよ!

 僕は見ての通り。ロボットなんだ!

 連出堕くんの個性でオクタンになったりジブラルタルになったりヴァルキリーになったりヒューズになったりそして今度はロボットになった!もう皆の表情は驚きじゃなくて恐怖だったね!

 

『恐怖の香りがする…!』…あっ、これはお兄ちゃんの真似だよ!かっこいいでしょ?

 

 ロボットである僕は疲れ知らず!持久走は八百万ちゃんがオートバイクに乗って独走しちゃったから1位にはなれなかったけど2位にはなれたよ!バイクに乗る八百万ちゃんかっこよかったね!

 長座体前屈と上体起こしは何と1位!やったね!ここに来てようやっと1位を取れたよ!

 

 そして全種目が終わった事で相澤先生がランキング形式で成績を映し出してくれた。僕達は…2位だ!やったね!

 1位は八百万ちゃんだ…凄いなぁ、ほぼ全ての種目において僕達より上の成績を出していたからね…

 

 逆に最下位は緑谷くん…最下位は除籍処分だから…残念だけど君とはお別れだ。君がクラスで一番最初に連出堕くんと話してくれた事は僕は忘れないよ、データに永久保存しておく。さようなら緑谷出久くん…

 

「ちなみに、除籍処分は嘘な。君達の実力を発揮させる為の合理的虚偽だ」

 

 ワォ!びっくり!

 僕を含め、何人かの生徒も相澤先生の言葉に声を上げて驚く。でも八百万だけは違ったようだ。

 

「あんなの嘘に決まっていますわ、ちょっと考えれば分かりますわ…」

 

 うーむ、僕はそうは思えなかったけど…実際に嘘だし、嘘なら緑谷くんは除籍処分にならないって事だ!うわーい!\(^^)/嬉しいな!

 

 さて、それはさておきそろそろ体操服を来ているオクタンに切り変わろう。流石に雄英も体操服は連出堕とレジェンド1人分しか用意してくれなかったからね。

 

 




連出堕 苑葛(れでた えくす)

プレデターとエーペックスをどうにか名前っぽくしたかった。あと漢字でイメージ付きにくくしたかった。
結果ひどい名前だ。基本的にはレジェンド達はお互いをレジェンド名で呼ばせますので深く覚えなくてもいいと思います。

ちゃんと連出堕の姿や人格はありますが、とある理由で表には全く出てきません。一応本編では登場させるつもりではありますが、基本的に物語ではレジェンドが行動します。
個性は先程言った「レジェンド」。18人以上のレジェンド達の人格や能力を切り替えて使う事が可能。レジェンド達の記憶や見た映像は全レジェンド達に共有されます。

今回登場したのはミラージュとクリプト。オクタン。ジブラルタル。ヴァルキリー。ヒューズ。パスファインダーです。(登場した順番に)
細かい見た目が気になる方は少し調べれば見た目が出てきますので是非調べてみてください!


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No.2 全員に朗報だ、俺との勝負はすぐに終わるぜ?()

とても大事なことを書き忘れていました。A組は20人という事なので、口田甲司くんが不在となります。報告遅れましたことと口田ファンの方々には大変申し訳ございませんでした。

オクタン視点からスタート

相澤先生がイレイザーヘッドだっていう描写前回入れ忘れてたし修正しようにも入れる隙間も作れなかった

あとタイトルは基本的にレジェンド達がゲーム内で発するセリフを元にしてます。前回と今回のタイトルはどちらともオクタンのセリフです


 どうやら初日は午前中だけだったらしく個性把握テストが終わったら同時に俺達の雄英高校初日は終わりを告げた。相澤担任は明日は午後からオールマイトのヒーロー科の授業がある事と教室に置いてある後日のカリキュラムや書類に目を通しておくようにと伝えてその場から立ち去っていった。

 なんかボール投げの時に指を紫色に変色させて怪我をした緑谷は保健室へ向かい、残された俺達は各々更衣室へと戻るんだが…

 

「なんだよ連出堕! お前の個性めっちゃすげぇじゃねぇか!」

「一体どういう個性なんだ!?」

 

 やはりあんな目立ってしまえば気になるのも仕方ねぇな。切島鋭児郎と上鳴電気が高いテンションで話しかけてきた。

 声を出したり同じ様に話しかけては来なかったが他の生徒も興味津々でこっちを見ているな。だが…爆豪ってやつはポケットに手を突っ込んだまま立ち去っていった。

 順位が発表された時、自分の順位が俺達や連出堕より低いと知った時凄い睨みつけて来たから多分上にいないと落ち着かない性格なんだろうな。緑谷がボール投げで好成績を残した時もブチ切れてたし。

 ヒーローとしてどうかと思うが、個人的には悪くねぇ。嫌いじゃないぜ。ああいう奴は!

 

 っと…そういえば個性の話だったな…だが細かく説明するのはめんどくさいし時間がかかるし…そうだな、簡潔に纏めてしまおう。どうせ明日はオールマイトのヒーロー科目だ。その時に個性を説明するチャンスがもう一度回ってくるだろうし一度に説明せずに少しずつ説明した方が分かりやすいなきっと!

 

「おう! 俺の…俺達の個性はレジェンドって言うんだ! 簡単に言っちまえば18人の人格が宿り、各々の個性を使えるって感じだ!」

「じゅ…18人!?」

「ほとんどこのクラス全員分じゃねぇか!」

「強すぎる…!」

 

 ほほっ!いいリアクションすんじゃねぇか!だが…

 

「勿論バカでけぇデメリットやリスクもあるぜ! だが今一気にデメリットやリスクうんぬんや18人分の個性の説明をしちまうとややこしいし、情報が多すぎるからな。明日のオールマイトのヒーロー科目の時とか、順を追って説明するぜ!」

 

「デメリット…そりゃそうか」

「なぁ、せめてお前の…その姿の時の個性は教えてくれねぇか? 多分スピード系の個性だよな?」

「おう! 正解だ。俺の時の個性はこの興奮剤を自分に打ち込むとアドレナリンが大量に分泌されて早く走れる事と傷が少しずつ癒えていくんだ!」

「スピードに再生系の個性か! 強いな!」

「ああ、だがスピードに関しては飯田や爆豪、轟に負けちまったけどな」

 

 俺はどこからともなく取り出した注射器型の興奮剤をペン回しした後にポケットにしまって。更衣室へと向かう。

 

「とりあえず着替えて教室へ戻ろうぜ! 俺着替えるの遅せぇし」

 

 

 更衣室で制服に着替え直し、そこで残りの男子生徒の名前を全員聞けた。なんかキラキラしててへそからレーザーを出してたのが青山優雅、紫色の小さい玉を頭に付けたチビが峰田実…なんかすげぇ個性で女になれることを詳しく聞いてきた。たらこ唇が砂藤力道、特に面白い特徴の無い奴が瀬呂範太だとよ。一言も話してくれなかったけど髪の毛が白と赤の半々の奴が轟だろうな。下の名前忘れたけど、氷を使ってた奴だな。

 あと、そこでとりあえず爆豪を除く男子生徒全員に俺が義足であることは伝わった事と同情はしなくていい事は伝わったな。

 よし、あとは八百万と麗日を除いた女子生徒と自己紹介をすれば全員の名前と顔が一致するようになるな。爆豪と轟にもきちんと挨拶はしておきたいが…なんかあの二人は色々尖ってるから焦らなくてもいいか。

 

 で、下校する時に緑谷と麗日と飯田を見つけた。あの3人は初めてあった時からお互いに近くに居たな。中学が一緒なのか?

 そう考えると下手に近づいて一緒に帰るのはおじゃま虫かも知れねぇからやめておいた。というか教室にあった資料とかカリキュラムを読まずにそのまま鞄に入れちまったから早く家に帰って読まないとだな。

 

『シルバ! 個性を使うんじゃないよ?』

「分かってるよアネキ」

 

 

__________A P E X__________

 

 

 

 2日目だ。

 今回は早めに登校出来て、登校途中で爆豪と出会ったんだが…挨拶しても無視された。おいおい昨日俺達に負けた事をそんなに恨んでんのか?

 ははっ、可愛い所あるな!

 

 さて、今日から普通に授業が始まるんだが…午前中は普通の授業だったな。

 

『おう! エヴィバディヘンズアップ! 盛り上がれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!』

 

 いや、すまねぇ。そうでも無いかもな。授業内容こそ普通だったがとてもうるさいプロヒーローであるプレゼント・マイクの英語の授業だけはうるさかった。それだけだ。

 

 昼食はお弁当か学食を選べるらしいが…ここ雄英の学食はランチラッシュっていうプロヒーローが作る絶品らしいから昼食にしてみたぜ。美味かったな。それだけだ。

 

 そして午後…俺は今日、これを楽しみにしてたと言っても過言じゃねぇ。世界No.1ヒーロー。オールマイトの授業だ!

 

「わーたーしーがー…普通にドアから入って来た!」

 

 うおっ!すげぇぜ!あのオールマイトが普通にドアから入って来た!

 俺達は特にヒーローが大好きって訳では無いけどあのオールマイトなら話は別だ。ヒーロー好きでなくともテンションは爆上がりだぜ!他の奴らだって鳥肌が立っているらしいしな!

 

「今日はヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため様々な訓練を行う課目だ!! 単位数も最も多いぞ! そして早速だが今日はこれ! 戦闘訓練!」

 

 軽くヒーロー基礎学についての説明をしてくれた後に「BATTLE」と書かれた…カード…なんだあれ?よく分からねぇけどなんかを思いっきり掲げる。しかし戦闘訓練か…入試の時のロボットと闘うのか?そういえば、あの巨大な0ポイントロボットヴィラン闘いたかったな…ポイント優先で立ち回ったから無視しちまったけどあいつを倒せば周りに強さを誇示できたな。

 

「そして、そいつに伴って…こちら!」

 

 オールマイトが小さなリモコン…いや、オールマイトがでかいだけでリモコンは普通サイズだ。そいつを押すと教室の壁がガコッと音を立てて横に少しだけスライドして名簿番号の書かれたロッカーが出てくる。こいつはもしかして…?

 

「入学前に送ってもらった「個性届」と「要望」に沿ってあつらえた…戦闘服(コスチューム)だ! 着替え終わったらグラウンド・βに集まるんだ!!」

 

 戦闘服…さて、最大の難関だな。

 皆、各々自分の番号が書かれたロッカーに近づくと1つの違和感に気づく。というよりもこのロッカーが出てきた時点で気づくべきだったな。

 

(((((((なんかでけぇ…!)))))))

 

 そう、名簿番号20番。つまりは連出堕だな。ロッカーが分厚いんだ。

 そりゃあ連出堕と18人のレジェンド達の戦闘服を用意して貰ったら19人分の厚さになるだろうよ。

 

「れ、連出堕さん…そのロッカーの大きさってやっぱり…?」

 

 八百万がおずおずと聞いてくる。

 

「おう、19人分の戦闘服だ!」

「じゅ、19人!?」

 

 緑谷が大きな声を上げて驚く…ああ、そういえば緑谷は昨日保健室だったから俺の個性や連出堕の個性知らねぇのか。

 

「むっ、緑谷くん! 実はだね!」

 

 とりあえず説明しようと緑谷に歩み寄ろうとしたがそこで飯田がわざわざ緑谷に説明してくれた。あいつ便利だな。

 それよりも…この戦闘服どうするか…戦闘訓練っつても何するか分からねぇから備えあれば憂いなし。全員分持っていきたいが…

 

「あ! 連出堕少年! 君の分のコスチュームは私が持っていこう! 君は君自身とオクタンくんの戦闘服だけ持って着替えなさい」

 

 おお!マジかオールマイト!

 

「へへっ、そりゃ助かるぜ! ありがとよ!」

 

 片手で17人分の戦闘服のケースを持ったオールマイトはそのままグラウンド・βまで向かった。流石オールマイトだ、あんな片手でバランス良く持ち運ぶなんてな!

 

 

 

 

 

 

「いや、よく良く考えればダメじゃねぇか」

 

 更衣室に着いて俺はそう思った。よく良く考えれば19人分の戦闘服を運ぶ事よりも着る事の方が大変だと気づいたのだ。しかも連出堕含む19人中女性のレジェンドが何人かいる為、男子更衣室で着替える訳にも行かないし、何よりも時間がかかりすぎる。

 個性把握テスト時の俺の時もそうだったが、レジェンドは切り替えた時、その時に着ていた服装ごと控えのレジェンド達しか立ち入れない個性の空間へ送られる。だから1度戦闘服を着て、切り替えてしまえば勝手にあっちの控えの空間で戦闘服からいつもの服装に着替えたり戦闘服へ着替えたりしてくれるんだが…今からじゃ間に合わねぇな。

 

「仕方ねぇ、俺とジブラルタルだけにするか」

 

 戦闘服があるのと無いのとじゃ全然違うんだが俺達は元から戦闘服の様な性能をしている服装をしている。だから着なくてもそこまで大きな差にはならないとは思うが…その少しの差が勝負の命運を分ける。だからせめてスピードの俺とパワーやディフェンスのジブラルタルにだけ戦闘服を着させた。

 まず俺の戦闘服だが…そもそも元の服装が興奮剤を入れれるポケットに重くない身軽な服装と俺にとっては十分すぎる服装だったんだが戦闘服会社に頼んで小さな動作で興奮剤を注入出来る腕周りの装備を作って貰った。ここに予め興奮剤をセットしておけばすぐに興奮剤を使えるって事だ。いいね!最高だ!

 

 ジブラルタルは元からスピードを捨てた完全防御型の宇宙服のようなアーマーを来ている。そしてあいつの個性はシールド。攻撃を完全遮断するドームシールドやある程度のダメージを防いでくれるアームシールドが使えるって個性だ。実はまだもう1つ能力があるんだがそれは後にな…

 だからジブラルタルは腕に多少の攻撃ならビクともしない強固なシールドを付けてもらった。これでアームシールドの耐久性や攻撃の遮断性が格段に上がるって事だ。殴打にも使えるな!

 ひとまずはこの2人だけで良いだろ。

 

 今思うともっと早く走れる義足に関する戦闘服を申請しても良かったな。

 

 

 着替え終えて更衣室から出て、グラウンド・βに向かうとそれぞれ面影のあるものからもはや誰だか分からねぇ奴らが居た。こいつら全員A組だよな?

 このフルアーマーの奴とか誰だ?

 轟はなんで右半分常に凍ってんだ?

 常闇は黒いマント羽織っただけじゃねぇか?

 八百万、その姿は普通に捕まらねぇか?

 なんか手袋が浮いてるぞ?

 …多分緑谷だろうけどよ…なんだお前の見た目?

 

「先生! ここは入試演習場の市街地ですが、また市街地演習をするのでしょうか!?」

 

 そんな時、フルアーマーの人間から飯田の声がする。お前飯田だったのか、真面目そうな雰囲気からイカしてる戦闘服だなおい。

 というかここ入試の市街地だったのか。

 

「いいや、もう2歩先へ踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ! 君らにはこれから「ヒーロー」と「ヴィラン」に分かれて2vs2の屋内戦を行ってもらう!」

「基礎訓練も無しに?」

「その基礎を知るための実践さ!」

 

 どうやら今度は入試と違ってただロボットを破壊するだけじゃないって事か。しかし2対2か…この中から誰かと手を組み、誰かと戦うのか…そりゃあ楽しみだな!うずうずしてきたぜ!

 

「勝敗のシステムはどうなりますか!?」

「ぶっ飛ばしてもいいんスか?」

「また相澤先生の時みたいな除籍とかあるんですか…?」

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか!」

「このマントヤバくない?」

「へへっ! 早く始めようぜ!」

 

「んんん〜!聖徳太子ィ〜!!!」

 

 

__________A P E X__________

 

 

 

 訓練本番、ヒーローは指定された時間までにヴィランチームを全員捕まえるか、ヴィランチームが守ってる核兵器…のハリボテに触れられれば勝利。逆にヴィランチームはヒーローチームを全員捕まえるか指定された時間までに核兵器のハリボテを守り続ければ勝利ってルールだ。コンビや対戦相手は抽選で即席のチームアップ。

そして俺はBチームで轟と同じチームとなった。こいつとは爆豪の次くらいに会話してないからちょうどいいな。あと個性把握テストでこいつは3位だったしきっと強いはずだ。

 で、相手チームは尾白猿夫となんか浮いた手袋だな。男子生徒にはあんなやつ居なかったから多分女子生徒だな。

 俺達の訓練は第2試合からだったからとりあえず第1試合の緑谷&麗日ペアと飯田&爆豪ペアという中々アツい戦いが見れそうな試合を見物するとするかね。

 

 

 いや、凄かったな!想像よりもアツい試合だったぜ!これが第1試合だとは思えねぇ!

 協調性皆無の完全にヴィランと化してた爆豪と自爆特攻型の絶えず自壊する緑谷の激戦は涙無しには見られなかったな!結果的に麗日のサポートがあってギリギリヒーローチームである緑谷ペアが勝った。

 試合を控える生徒達が居るモニタールームでは自壊してボロボロの緑谷と個性の反動なのかどうか知らないが嘔吐する麗日にドン引きだったな。

 

 さて、続いてはとうとう俺様達の出番だ。戦闘服は俺とジブラルタルの分しか着れなかったが味方が轟なら勝てんだろ。

 尾白猿夫はともかくもう1人の女子生徒…葉隠透って言うんだっけか?俺は覚えてねぇがシェのアネキ曰く個性把握テストでは18位でそう考えるとただの透明化の個性だと考えられるな。いや、緑谷より順位は上だったからもしかしたら身体能力が女子生徒とは思えないほど高いかもしれないが…俺達の敵じゃない。透明で見えなかろうとこっちには索敵のプロが居るからな!

 

「なぁ、連出堕だったか?」

「おう! そうだぜ、よろしくな轟!」

「あんた確か18人分の別々の個性が使えるって言ってたよな? その18人の中に索敵に秀でた個性はないのか?」

「おう、いるぜ! 3人くらいな。味方に敵の人数や細かい座標まで少しの間だけ情報を共有出来る個性と味方には口頭で伝えないと行けないしおおよその場所しか分からないけど常に相手の方角が分かる個性。どっちが良い?」

 

 ブラッドハウンドとシアの2人を提示したが選ばれたのはブラッドハウンドだったな。ちなみにクリプトはやめておいた。あれはEMPがメインだからな!

 

「…少しの間だけでも良い、細かい座標まで教えてくれる個性で頼む。」

「OK…それじゃあ出番だぜ!ブラッドハウンド!」

 

『狩りを始めよう。』

 

 俺は連出堕の個性を使ってブラッドハウンドと切り替わる。

 

 すると俺の肉体はガスマスクを付けた男なのか女のかどちらか分からない人物が現れる。こいつが敵を追跡するハンター。ブラッドハウンドだ。

 

「よろしく頼む、ニヴルヘイムの申し子よ」

「……?」

 

 ああ、轟はブラッドハウンドの独特な呼び名に付いていけてねぇ様だな。

 

『第二試合!スタートだ!』

 

 グラウンド・β全体にオールマイトの声が響き渡る、もう始まった様だな。それを聞き、ブラッドハウンドが自分の個性である「全能の目」を使用した。短い間だけ指定した味方に生命反応や罠、危険物の情報の有無や場所を細かく共有する個性だな。

 全能の目の使用により目の前のビルの最上階の奥の部屋に2人の生命反応が発見された。残念ながら核兵器はハリボテだから危険物と認識されず発見は出来なかったが…守るべき核兵器を捨てて2人で固まる事なんてありえないつまり…あの部屋に核兵器があるって事だ。

 

「便利な個性だな、助かる」

「これも主神のおかげだ。気にするな。して、どう攻め込む?」

 

 ブラッドハウンドが作戦を轟に委ねる。俺らだったらレヴナントやパスファインダー、ヴァルキリーやホライゾンとかで最上階まで登ってコースティックのガスで無力化を狙うな。だがチームワークが大事だし轟は強いから出来るだけ共に行動してぇな。

 だが、轟は不用心にビルに近づき、ビルの壁に触れる。

 

「離れてろ」

 

 そう、ブラッドハウンドに伝えると…

 

 

 

 

 轟は一瞬でビルそのものを凍らせた。

 

 驚きだね、ブラッドハウンドや俺含む全レジェンドが驚愕の表情だったな。

 凍らせる、氷を操る個性だとは知ってたがまさか触れただけでビルを一瞬で凍らせるなんてイカれてる。

 はっきり言って強すぎるな。しかもビルを凍らせれば敵も一緒に凍らせて無力化出来るし核兵器にも刺激は特に無いと思う。

 

「核兵器を回収してくる。また索敵が出来るならしてくれ」

 

 そう言い残し、轟は核兵器の回収へと向かった。その後、すぐに俺達Bチームの勝利が知らされた。

 

 

 

「この勝利も…主神のおかげ…」

『いや、どう考えても轟のおかげだろ』

 

 




控えのレジェンドが喋る時は『』で囲ってます。

だいたいこの手の作品って轟と相対するチームで轟に勝つか、轟相手に善戦するオリキャラ、他作品が多いですが。轟と同じチームになってまともに活躍出来ずに終わるって事中々無いですよね? だからやってみました。
連出堕の個性や細かい事はヒーロー基礎学が終わった後の反省会のシーンでやろうかなと思っています


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No.3 (マスコミの)カメラに向かって。はい、チーズ!

オクタンのセリフ汎用性高すぎる。


 オールマイトによる俺達の初めてのヒーロー基礎学は緑谷という重傷人を除いて無事に終了した。戦闘服は学校側が預かってくれるらしいが…前にも言ったが連出堕の個性的には自分で預かりたいがそうも行かないらしい。しかしどうにかして戦闘服を全員着用出来るようにならないとこれからのヒーロー基礎学は大変になるかもしれないな。

 放課後、1年A組では戦闘訓練の自主反省会が始まった。ただ、爆豪はそのまま真っ先に帰り、保健室から戻ってきた緑谷も爆豪の後をすぐに追ってしまっていなくなった。思うんだか緑谷は爆豪の事を「かっちゃん」と呼び、爆豪は緑谷の事を「デク」と呼んでいるな。わずか2日であだ名を呼び合う中にはならないだろうからきっとあの二人は同じ中学だな。

 さて、戦闘訓練の反省会って言っても最初に自分達の立ち回りや個性が第三者からどう見えたかの意見の出し合いになり…そして昨日の続き…連出堕と俺達レジェンドの個性の話になった。

 

「昨日はどこまで話したっけか…?」

「連出堕くんの個性は18人分の人格と個性があるって話でしょ?」

 

 皮膚の色がピンクの女子生徒、芦戸三奈が答えてくれた。そういや、この自主反省会で残りの女子生徒全員の名前を覚えた。カエルみたいなのが蛙吹梅雨、耳たぶが特徴的なのが耳郎響香だそうだ。男子生徒に比べて女子生徒少なくねぇか?そういうもんなのか?まあいい。

 

「昨日はなんかバカでけぇデメリットがあるって言ってなかったか?」

「おお、そうだ。デメリットの話だったな。」

 

 18人の個性を使えるという聞いた限りでは強すぎる個性の話に、轟や障子といった落ち着いた雰囲気を持つ生徒以外は前のめりになって俺の話を聞こうとする。

 

「まず、18人分の個性を人間1人の身に宿すって言うのは非常に身体に負荷がかかる」

 

 少し話は違うが、緑谷だって似た例だ。あの強すぎるパワーに身体がついていけずに身体を毎回壊して保健室へ行ってる。

 

「だから…まあ少し暗い話になるが、連出堕は個性が現れて…6歳だか7歳くらいの時かな。医者から言われたんだ…20歳を迎える事はありませんってな」

「えっ…」

 

 誰が声出したか分からないが、表情の変化が薄い障子や轟、蛙吹梅雨含む全員が青い顔をした。

 そりゃそうだ。今連出堕は15歳、つまりは長くとも5年でその命は終わりを告げるって事だ。

 

「ああ、だが心配すんな。()()()()()()使()()()()()()()()だ。」

「個性を…使わない…?」

 

 何人かが首を傾げる。

 

「連出堕の個性は18人の個性、人格を切り替えられる。で、今お前らが話してる俺も実は連出堕じゃないぜ?」

「「「「「ええ!?」」」」」

 

 おぉ、やっぱりこのクラスの反応は面白いな!

 

「俺は連出堕の個性の人格の1つであるオクタビオ・シルバって言うんだ。肉体年齢が1番近いから普段は俺が個性で表に出て、連出堕本人の肉体は眠らせてる。肉体が眠っている間は時が止まるらしいからこうすれば5年以上生きられるんだ。」

「肉体が眠る…コールドスリープの様なものか…」

「じゃあ連出堕は…オクタ…シルバ…?になってる間は問題無く生きられるのか?」

「おう、問題無い。まあ、あるとすればこうすると肉体の成長も止まるから連出堕の肉体年齢は10歳だ。身長も10歳程度しか無い。でも肉体は眠っても意識はあるから知能とか知識は15歳相応だぜ。」

 

 実際、俺達レジェンドは自分で考えて行動する事があるが…連出堕の意思を第一に行動すると決めている。あのコースティックやレヴナントも連出堕の意思には逆らうつもりは全く無い。

 

「そんなデメリットが…なんか聞いてすまねぇ」

「何謝ってんだ? どうせこれからまた一緒にヒーロー基礎学とかで学ぶんだからデメリットやリスクを聞くのは当たり前の事だぜ?」

 

 というか自分から話しづらかったから聞いてくれて逆に感謝してるぜ。

 

「連出堕くん、状況が状況だから仕方ないとは言え…つまり君は()()()()()使()()()()()という事か?」

 

 飯田が真剣な顔で聞いてくる。そしてその質問の意図はよく分かる。この個性がありふれてる世界で、個性というのは簡単に人に害を与えられる武器のひとつでもある。だから個性を自由に使っていいのはヒーロー免許を持つヒーローのみ。それ以外は基本的に法律違反だ。私有地以外での使用は禁じられている。

 

「ああ、使っている。だがその点は問題無い。医療機関から許可を貰っている。連出堕の個性による俺達レジェンド達は個性の使用は勿論禁じられているが連出堕自身の肉体や人格の切り替えは延命目的として、認められているんだ。だが…将来ヒーローになる事を約束して…な」

 

 その回答に飯田は納得した様だった。

 ………俺が、俺達がヒーローになる理由は有名になりたいとか楽して稼ぎたいとか個性を使いたいとかじゃあない。ヒーローにならないと成人を迎えずに連出堕が死ぬからだ。

 そもそも18人の個性を持つ奴を野放しにするはずがねぇ、恐らく政府やヒーロー達は近くで見張っておきたいからヒーローにさせたいんだろうな。連出堕本人の命を引き換えに…まぁ、仕方ねぇさ。俺達レジェンドは中には明らかなヴィランみたいな人格が居るからな…

 

「さ、暗い話はここまでにしようぜ!で、どうだった俺達の第二試合…あっ、違ぇ轟が一瞬で終わらせたのか」

 

 無理やり暗い雰囲気から話題を逸らそうとしたが、第二試合はほぼ轟の活躍しか無く、話題はすぐに終わりを迎えちまった。だがそこでなんと轟が助け舟を出してくれた。

 

「いや、お前の個性でヴィランチームの位置が分かったからあれが出来た。お前も活躍したぞ」

「そうそう! あのガスマスクの人…? かっこよかった!」

「会話は聞こえませんでしたが…敵の位置を知らせる個性…ですよね、とても強い索敵だと思いますわ」

 

 更に葉隠と八百万もフォローしてくれた。おお、良い奴ばっかだな。

 

「そう言えばよぉ、個性把握テストの時のおじさんやロボット達も連出堕の個性なんだろ? あの人達の個性は何なんだ?」

「そうだぜ連出堕ァ! 女になれるなんて…! 女になれるなんて!!! うわあああああああああああぁぁぁ!」

 

 峰田実(こいつ)うるせぇな。

 

「おおそうだな、せっかくだ。諸事情で18人全員は紹介出来ねぇがレジェンドを切り替えて自己紹介と個性の説明をするぜ。これから一年以上共に学校生活を送るからな」

 

 まずは俺はジブラルタルに切り替わる。

 

「よぉ、ブラザー。俺様はマコア・ジブラルタルってんだ。別に連出堕と呼んでも良いぜ。間違ってはいないからな…ハハハハハッ!」

「握力測定の時の人か」

「ああ、だが言っておくがあれは個性を使っていないぜブラザー? 俺様の個性は爆撃。上空から爆撃を降らせられる個性だ。そして副次的にどんな攻撃も遮断する円形のバリアとお手軽に攻撃を軽減してくれる腕装着のシールドの2種類も扱えるんだ。爆撃は自分にも被害が及んで危険だからな、シールドを基本的に使うからシールドの個性と覚えてもらっても構わないぜ」

「個性無しで250kg出したのか…!?」

「バリア…スピードの個性に守りの個性…本当に強いな。」

 

 続いて、ジブラルタルはヴァルキリーと入れ替わる。

 

「私は今原カイリ、レジェンド達の間ではヴァルキリーとも呼ばれている。連出堕でも良いし、自由に呼んでくれて構わない。個性はジェット。名前の通りジェットで飛ぶのさ。」

「飛行の個性まで…!」

 

 そして今度はヒューズだ。

 

「俺はウォルター・フィッツロイだ。レジェンド達の間ではヒューズと呼ばれてる。個性はグレネーダー。爆弾を作り出せて飛ばせる個性だ、よろしく。」

 

 なんかめちゃくちゃ適当で気だるそうに説明した後にA組生徒達の反応を待たずに早々にヒューズはパスファインダーと入れ替わった。お気に入りの爆豪と緑谷が居ないからテンションが低いんだろうな。

 

「やぁ! 僕はパスファインダー! 君の友達さ! 僕の個性はグラップル、身体がロボットになって腕からワイヤーを飛ばせる個性さ! よろしくね、みんな!」

「よろしく〜!」

 

 パスファインダーは近くの芦戸三奈と葉隠透と握手してハイタッチをする。無邪気でテンションが高い同士、気が合うんだろうな多分。

 そしてお次は今日ちょっとだけ活躍したブラッドハウンドだ。

 

「我が名はブロスフゥンダル。ブラッドハウンドと呼んでくれ。勿論、連出堕でも構わない。我が個性は全能の目。連出堕が味方と認識した者に自身以外の生命体の反応や細かい座標を共有出来る個性だ。」

「轟さんにはどう見えましたの?」

「ビルの中に赤い…影が透けて見えた。」

「私の透明化意味無いじゃん!」

ブラッド(血の)ハウンド(猟犬)…」

「その通りだ、夜のヨルムンガンドを従える者よ」

 

 なんか常闇踏陰がブラッドハウンドの名前に強く反応を示したな。こいつらもこいつらで感性が似てて仲良くなれそうではあるな。

 

 じゃあお次はシェのアネキを…

 

『HEEEEEEY! リスナー諸君! もうとっくに完全下校の時間だぜぇ! 早くゴーホォーム!』

 

 と思ったがそこで教室にプレゼント・マイクが入ってきた。完全下校の時間は思っていたよりも早かったようだな。仕方ねぇ。

 

「すまない、英雄のたまご達よ。残りのレジェンド達はいずれ説明しよう。」

「おう、気にすんな! というかわざわざ悪いところまで聞いて悪かったな! ありがとうよ!」

「ええ、ありがとうございました!」

「ありがとうよ! 連出堕!」

「感謝する」

 

 切島達は連出堕に感謝を述べると慌てて荷物を纏めて下校を開始する。俺達も帰るとするか。

 

『ブラッドハウンド、変われ』

「ああ」

 

 ブラッドハウンドと切り替わって貰い、俺も荷物を纏めて下校を始める。初めてのヒーロー基礎学。全く爪痕は残せなかったが…楽しかったな。

 

 あっ、緑谷と爆豪にもう一度個性説明するのめんどくせぇな。飯田に任せるか、あいつ便利だし。

 

 

_________A P E X_________

 

 よぉ!お前ら、ミラージュ様のお出ましだ!寂しかったろ〜?

 いきなりだがお前達はマスコミを知ってるか?マスゴミじゃないぞ、マスコミだ。

 基本的に報道の自由を都合のいい捉え方をして相手をストーカーしたり精神的に苦しめたり、被害者を加害者に仕立てあげたり、金の為に世間を不安にして治安を悪くするイメージのあるあれらだが全員が全員そうであるはずがない。善良なマスコミだっているし相手を気遣えるマスコミだっている。

 だが…少なくとも俺達の前にいるマスコミはそうじゃないらしい。

 

 見ろよ、俺達の目の前には…朝っぱらから雄英高校の前に溢れんばかりのマスコミがいたんだ。これじゃあ生徒達の登校の邪魔だ、それに近寄る生徒達を無理やり引き止めて質問を開始する。どうやらオールマイトが今年から教師をやるという情報目当てで集まったようだな。

 

 おっ、よく見れば相澤ティーチャーが対処しているな。ご苦労さんだな!

 

「おい、どう突破する?あれらを対処してたらHRに間に合わなくないか?」

 

 オクタンが不愉快そうな声で控えのレジェンド達に聞いてくる。別にマスコミが原因で遅刻しても許してくれるだろ……いや、除籍処分を振りかざす教師の事だ。許してはくれないかもな…「プロヒーローを目指すならマスコミの対処も完璧にこなしてみせろ」とか言いそうだな。なら仕方がない!

 

『オクタン、俺様に変われ! このミラージュ様のジョークで報道陣を満足さs』

『やめておけ、不審者が雄英高校に現れるって報道されるだけだ』

 

 おいおい相変わらず失礼な事しか言わないな、クリプト!

 

『オクタン、パスファインダーと変われ。パスファインダーなら見た目からして雄英高校のセキュリティロボットと勘違いされて何も問題無く突破出来るはずだ。』

「荷物はどうする?」

『お前が持った状態で切り変わればこちらの空間に持ち込める。気にするな』

「了解」

 

 っち、俺の最高のジョークを全国に見せて一役有名になれるチャンスだったのによ。後悔するぜ、クリプト?

 

 

_________A P E X_________

 

 

 さて、今日も1日が始まるな。始まりのHRで相澤担任がどうやら昨日の戦闘訓練の映像を観たらしく。その事で腕を破壊してまた保健室送りになった緑谷と何故か激昂してた爆豪が注意された。そういえば飯田は俺達の個性を説明してくれただろうか。

 そしてそんな事を考えていると…

 

「急で悪いが今日、君らには学級委員長を決めてもらう」

 

 相澤担任からそう告げられ、クラス全体が盛り上がった。

 皆、各々が挙手を初めて、我こそはと立候補する。最高峰の高校の学級委員長だ、内申点は上がるだろうし将来的にもプラスになるだろうからな。やりたい気持ちは分かる。何だったら俺もやりてぇな。

 ()()()()()()()()()()()

 

 だが、そんな中。飯田が「静粛にしたまえ!」と場を静かにさせ、多を牽引する者は投票で決めるべきだと伝えた。なるほど確かにその通りだ。そして相澤担任の許可もあり、投票制度が採用された。

 だが…どうやら自分に投票も出来るらしく、ほとんどのものが自分に投票し始めた。俺も連出堕自身に投票する。そもそも連出堕はもう既に18人ものレジェンド達を統率しているのだから実績実力共に多を牽引するのに向いているのだ。次点で飯田だな。

 

 だが結果は…

 

「僕が3票!?」

「なんでデクに!?」

 

 なんと緑谷が3票で学級委員長に決まった。次点で2票の八百万、彼女は副学級委員長となった。その事に緑谷は驚き、爆豪は激昂する。

 しかし…飯田が0票…?あいつなら他の奴らに支持されてると思ったが…それに0という事は自分に票を入れなかったのか…

 

 

 

 昼休み、この雄英の学食が気に入っちまってな。ここをよく利用するようになった。そこでちょうど緑谷、飯田、麗日を見つけた。本当にこの3人はよく一緒に行動するな。戦闘訓練第1試合組は全員中学が一緒なのか?

 普段なら邪魔せずに他の席を探すが…そういえば緑谷に個性が伝わってるか確認したいから今日だけ一緒になる事にした。

 

「ああ、連出堕くんの個性なら飯田くんと麗日さんから聞いたよ! 凄い個性だね…そのデメリットとか…は…」

「あーいい、いい、気を使うんじゃねぇ。そういう反応されると俺達も連出堕も逆に困るから。」

 

 どうやら緑谷は既に聞いていた様だった。じゃあ後は爆豪だけだな。

そう考えながら俺は学食のカツカレーを食べる。マジで美味いなここの飯。控えのレジェンド達も食べたいとうるさいけど少しくらい食わせてやるか。明日からだけどな!

 

 ああ、後なんか飯田がヒーロー一家の生まれらしいな。カツカレー食っててあんまり聞いてなかったけど目の前で飯田と緑谷が話してた。流石雄英、家系もエリートが現れるんだな。……もしかして緑谷や麗日も…?

 触れたものを無重力にするという強い個性を持つ麗日とパワーだけならクラス1の緑谷だ…充分有り得る…どこだ…?どこのヒーローだ?緑谷はともかく麗日なら個性から判断が付きやすいぞ……ダメだ!分からねぇ!

 

【セキュリティー3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください】

 

 すると突然…大音量の警報が食堂に響き渡った。俺はびっくりしてカツを落としちまったね、くそったれ。

 しかしなんだいきなり?避難訓練か?っと思ったが…

 

 飯田が周りの雄英高校の先輩に聞いてみたらこれはどうやら雄英高校に何者かがセキュリティを突破して侵入してきた時の警報らしく、3年間でこんな事は初めてだそうだ。そしてヒーロー科ならともかくそれ以外の科が居る中、しかも昼休みに避難訓練をいきなり始めるなんて事は無い。つまりはこれは本物だそうだ。

 パニックになったヒーロー科以外の生徒達は食堂の出入り口に向かって

我先にへと向かい、他を押し退けて脱出しようとする。

 

「やべぇ、あんなんじゃ怪我人が出ちまう!」

『皆を落ち着かせるしか無いぜブラザー! 避難指示を出すぞ!』

『いや、ダメだ。こんな騒ぎじゃ声は届かない』

『なら俺様の出番だな! お得意のデコイダンスで皆の目を惹き付けてやる!』

『…それは…場の雰囲気を悪くするだけだと思うわ』

『ナタリーの言う通りだな』

『クリプトてめぇ!』

 

 控えのレジェンドでジブラルタル、クリプト、ミラージュ、ワットソンが意見を出し合う。誰がそれのどれも得策には見えねぇな。

 というか緑谷達はどこいった!?

 

「やっべぇ! はぐれちまった!」

 

 慌てて周りを見渡すが知ってる顔は全く見当たらねぇ。というか俺も押し退けられて移動がままならねぇ。

 

「このままじゃあ窒息しちまう! パスファインダー!」

『了解』

 

 俺はすぐにパスファインダーに切り替わって貰い、グラップルで天井に張り付く。

 

「うーん、本当に大パニックだ。常日頃から雄英高校は避難訓練をしていないのかな?」

『予め分かっている訓練と突然起こる本物では心構えが違う。本物の災厄を目の前にした時、今まで培って来たものは簡単に崩れ去るのだ。』

 

 なんか博士が言ってるな。

 

「ねぇ! それよりも見て! 窓の外! あれ今朝のマスコミじゃないかな?」

 

 パスファインダーが空いている手で窓の外を指さす。すると外には大量のマスコミ達とそれの対処をしている相澤担任とプレゼント・マイクが居た。

 

『ただの報道陣が雄英のセキュリティを突破したのか?』

『それよりもヴィランかと思ったけど違うじゃねぇか!』

『なら、何もパニックになる事は無いね。』

 

 ヴィランがおらずただのマスコミだから安全なのは分かったが…それに気づいているやつは少ないらしいな。相変わらずパニックだ。どうにかして安全である事を伝えなければ怪我人が出る!

 

『クリプト、どうやって静まり返らせる!?』

『待て、今考えている…』

 

 

 

『簡単だ。皮付きどもを1人残らず黙らせれば良いのだ。その為の力があるだろう?』

 

 

 

『静かにしてろ! 集中してるんだ!』

 

 禍々しい声が響き、クリプトがその声に不快感を露わにする。控えのレジェンド達のいる空間の中で最も後方に座り、鎮座するレジェンドに対して…

 

 そんな時、食堂の出入口の方面から飯田の声が響き渡る。残念ながら何言ってるが遠くて分からないが、そこから「マスコミ?」「入ってきたのはマスコミだって」という言葉が後方まで伝わってくる。どうやら飯田が侵入してきたのはマスコミであり、安全である事を伝えたようだ。流石飯田だな。教師や先輩、他のヒーロー科目の奴が抑える前に1人で場を収めやがったぜ。

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

「やっぱり…委員長は飯田くんが良いと思います!」

 

 マスコミが警察の手によって撤退し、平和になった午後のHR。そこで緑谷は委員長の座を飯田に明け渡した。上鳴や切島の後押しもあり、飯田が学級委員長へと就任した…が、八百万が少し可哀想だったな。まぁ、俺も飯田が委員長に相応しいと思うぜ、あの食堂の時を見せられちゃあな…だが…

 

「頑張れよ非常口!」

「非常口飯田!」

 

 それよりもこの酷いあだ名は一体なんだ!?一体食堂の時に飯田に何があったんだ!?

 




プレゼント・マイクは何となくマイクを通してる雰囲気(実際そうなのか知らない)ですから『』を使ってますがレジェンドと被ってますね。
それとパスファインダーの本名は長いしどうせ使わない設定なのでなしです。そもそもパスファインダーを本名で呼ぶ奴居る?

夜のヨルムンガンドは黒影(ダークシャドウ)の事です。ブラッドハウンドの北欧神話で例えるのめっちゃ楽しいね


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No.4 猛者はスコープを使わないって? 私は大砲よ

これがAPEXの台詞の中で1番有名だと思います

もう評価バーに色が付いてる…!


「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイトとそしてもう一人の先生の三人体制で見ることになった」

 

 水曜日の午後の授業。皆、大好きなヒーロー基礎学の時間でオールマイトでは無く相澤担任がそう告げた。どうやら今日は人命救助訓練だそうだ。そして訓練を行うのはここでは無いらしくバスで移動、戦闘服の着用は自由だと。

 

 あーまた問題が発生したな。でも人命救助訓練だと分かっているなら戦闘服を着る奴らは決まってる。シェのアネキことライフラインとパスファインダーの2人だ!

 まずアネキには別の場所で戦闘服に着替えて貰って…その後パスファインダーで男子更衣室にて着替える。これで準備はOKだ。

 

 シェのアネキの個性はヒール。ヒールドローンを召喚して対象の傷を癒すって個性だ。ただ、一日に瀕死の成人男性3人分を完治させるくらいしか癒せない。そして戦闘服を着用するとヒールドローンに医療用具等を持たせる事と癒してる際に前方に薄い壁を展開して敵の追撃を少しの間だけ免れる事が出来る!……これアネキの戦闘服じゃなくてヒールドローンの戦闘服じゃねぇか?

 そしてパスファインダーの戦闘服は全身が特殊な氷で纏われている戦闘服だ。これはロボットの苦手な熱やオーバーヒートを無効化する役割と多少のダメージ軽減があるぜ。ちなみにパスファインダーは防水が大丈夫だから溶けても問題無し!溶け始めても轟に助けを求めるか!

 

「バスの席順でスムーズに行くように2列で並んでくれ!」

 

 っと、飯田がホイッスルを鳴らしながら皆に指示を出しているな。流石委員長。仕事が早いな。

まぁ、その後バスは向かい合うタイプのバスだった上に自由席だったから2列で並んだ意味はまるでなかったがな。ドンマイだ飯田。

 と言っても全部が向かい合うタイプでは無かったバスの後方はちゃんと並んで座るタイプだったからな。

 俺はせっかくだからそっちに座った。隣は…常闇か。こいつは基本的に無口だから特に話す事無く終わる……かと思いきや突然ブラッドハウンドから変われと言われた。こいつ常闇と感性が似てんな。

 

「夜のヨルムンガンドを操りしレイヴンよ。そなたの個性を聞いてなかったな」

「…血の猟犬…!」

 

 なんで和訳したんだ?

 

「自分とは別の人格を持つ生命体を宿す個性…実に興味深いのだ」

「…良いだろう。俺の個性は黒影。伸縮自在のダークシャドウという魔物をその身に宿し、戦闘、索敵、防御、運搬が出来る」

『ヨロシクッ!』

 

 常闇の背中から鳥っぽい形をした真っ黒な影のようなモンスターが出てくる。喋れるのか…ブラッドハウンドの言う通り、なんか連出堕の個性に通ずる所があるな。

 

「我々はその手のエキスパートがそれぞれ居るが、そなたの個性は1人で汎用性が高く行動が出来る。良い個性だな」

「ふっ、感謝する」

 

 やっぱり感性が似てんなこいつら。

 

 

 数分後、バスが大きなドーム状の建物に到着した。どうやらここで人命救助訓練を行うらしいな。中に入りゃ、炎に水に岩に倒壊した建物に…なんだこりゃ?いや、恐らく色んな災害を再現したものなんだろうが…金かかってるな…流石雄英だぜ。

 

「すげぇ! USJみてぇだ!」

 

 周りの環境を見て切島が歓喜の声を上げる。おいおい、USJって…著作権は大丈夫か?

 

「ここはあらゆる災害を想定して僕が作られた演習場です。その名もU(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)です!」

 

 完全に宇宙服みたいな戦闘服を着た雄英の先生でありスペースヒーロー13号がそう言いながらこの施設を説明した。おいおい、マジでUSJかよ最先端だな!ここで敢えてディズn

 

『シルバ、それ以上余計な事言うと口を縫い合わすよ』

 

 おお、怖ぇ。

 

「それではまず皆さんに小言を1つ…2つ…3つ…4つ…」

 

 おお、ミラージュみたいに小言が増えるな。

 ただ小言と言っても13号先生が言ってる話はとても為になる話だったな。ああ、長くて話が半分抜け落ちちまったけどそれでも為になる話だったな。ようするに…あれだ。個性はその気になれば簡単に人を殺せる。だが個性は人を傷つける為ではなく人命を助けるものだと学んで帰って欲しいと言う話だったな。

 感動的でいい話だ。俺達の所にいる毒ガス博士と殺人ふんどしロボットにぜひもっと聞いて欲しいもんだな。

 13号先生の為になる話が終わった後、しばらく拍手喝采が続いたが俺達は演説を聞きに来た訳じゃない。すぐに各々が人命救助訓練を始める為に相澤担任が呼びかけようとしたが…

 

 

【気をつけて! 貴方達狙われているわ!】

 

「!」

 

 突如俺の頭の中にレジェンドの1人であるレイスの個性の副次的能力である『虚空の声』が響き渡った。これは自分自身に危険が迫ってると自動的に危険を教えてくれるという便利なもの。そのおかげで俺は誰よりも早く身構え、辺りを警戒した。

 

「ん? おい、どうした連出堕……ッッ!」

 

 その事を不思議に思った相澤担任が話しかけてくるが少し遅れて相澤担任も気づいた様だ。この大きな悪意に…

 

「全員一かたまりになって動くな! 13号! 生徒を守れ!」

 

 相澤担任はすぐ様的確な指示を出し、USJにある噴水広場を睨みつける。そこには先程まで誰も居なかったはずだが…突然そこには黒いモヤが大きく広がっていた。そしてモヤからはカメレオンのような男、岩のような男、蜘蛛のような女等明らかにプロヒーローや一般の人間には見えない邪悪な姿をしており…更には脳みそが丸出しの巨漢、全身に手を装着した青年という一際異質な存在が現れた。

 緑谷や飯田、切島達は何が何だか分からず間抜けな顔をしているが、そんな緑谷達に相澤は注意する。

 

「気をつけろ! あれはヴィランだ!」

 

 本物のヴィラン、それに生徒は動揺する。そりゃそうだ。まさかプロヒーローやオールマイトが居る敵本拠地にいきなり突っ込んでくる馬鹿は居ない。だが…相澤担任や13号先生曰く、侵入者用センサーが反応してないとの事。つまり…センサーを無効化してきた。またはそういう個性を持っている奴らが居るかもって事だ。

 

「バカだがアホじゃねぇ」

 

 轟はそう分析した。

 その後、相澤担任は避難する様に指示を出した後1人でヴィランの大群に向かっていった。目で見た者の個性を抹消する個性だから個性に頼りきりのチンピラなんぞに負けるとは思えないから大丈夫だとは思うが…人の身の心配より自分の身の心配をした方が良いかもな。

 何故なら13号先生の後に続いてUSJから脱出しようとしたら目の前に突然先程の黒いモヤが現れたからな。

 こいつ、誰かの個性によるモヤかと思ったらこのモヤ自体が人間なのかよ!

 

「はじめまして、我々は敵連合。せんえつながら、この度ヒーローの巣窟である雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴であるオールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事です。」

 

 オールマイトを…殺す!?

 

『何言ってんだ、無理に決まってんだろ』

 

 モヤの丁寧な宣戦布告に対してのミラージュの言葉に俺も納得した。オールマイトはクソ強い。俺達レジェンドが18人がかりで襲いかかっても絶対に勝てないと断言出来る。だが…ここまで用意周到な奴らだ…何か手があるんだろうな。

 

 そう考えているうちに爆豪と切島が黒いモヤに襲いかかるもモヤには何も効果を成してなかった。爆豪の爆発と切島の鋭利な攻撃を受けて無傷…?どうなってやがんだあいつの身体は…恐らくモヤを使ってあの大量のヴィランを連れてきたからポータルの個性?レイスみたいな感じか?

 

「散らして、嬲り殺す!」

 

 すると突然、モヤはその黒いモヤを大きく広げてA組全員を取り込もうとする。散らす?どういう事は分からないがこのまま好き勝手されてたまるか!

 

「シア!」

『ベールを外します!』

 

 俺は相手の心音を見極め、更にはマイクロドローンを操り、個性を一時的に遅延させる爆風を起こす個性を持つ男性、シアに切り替わった。

 半透明的で電子的な衝撃波を黒いモヤの黄色い目らしき部分に撃ち放ち、黒いモヤを一時的に封じる。

 

「ぐっ…! 何が…! 個性が…!」

 

 シアの個性により、黒いモヤは少しの間停止する。その為、モヤも辺りから晴れていたが…何人かはモヤの中に取り込まれてその場からいなくなっていた…

 

『散らす…おいシア!』

 

 散らすという事はもしかしてここでは無い別のところに散らされたのでは無いかと思ってシアに心音を索敵して他の生徒の場所を知ろうとするも…

 

「静かにしてくださいシルバ…おかしい…心音が多すぎる…? イレイザーヘッドが居る場所以外にも複数の心音があります。明らかにここから居なくなった生徒分より多く居る…?」

『まさか他にもヴィランが!?』

 

 10名ほど居なくなってるから10人分の心音を探せば良いだけかと思いきや。少なくともあと50人分の心音は聴こえたとシアは言っている。まさかまだ相澤担任のところ以外にもヴィランが潜んでいたのか?

 

【気をつけて! 貴方狙われているわ!】

 

 そんな心音の発生源に集中していた為か、俺達は復活していた黒いモヤのモヤ攻撃に気づかなかった。

 

_________A P E X_________

 

 

「ここは…まだUSJの中ですか?」

『シア! とりあえず俺に変われ、いつでも逃げれるようにするぞ!』

「了解…」

 

 黒いモヤに飲み込まれて、吐き出されたと思ったらどうやらUSJ内の別の場所に飛ばされた様だな。散らすってこういうことか…という事はその後は嬲り殺す…なるほど…シアが大量の心音を拾った理由はこれか。各地にヴィランを配置してその場にバラバラに生徒を送って生徒を嬲り殺すってか…舐められたものだな、おい。

 周りを見渡すと明らかに顔や服装からからしてヴィランな奴らが15人くらいは居た。そして後ろには同じくあの黒いモヤに飛ばされて来たのか、八百万、耳郎、上鳴の3人が居る。助かるな、一般人なら邪魔だったがこの3人なら足でまといには絶対にならない。

 

「連出堕さん、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ねぇ。だがこれからだな」

「おいおいおい! 多すぎんだろ! 敵!」

 

 周りのヴィラン共は八百万や耳郎を見て肉欲を抱いたり、個性を使って自由に暴れられる事に楽しみを抱いたり、最高峰の高校に在籍する高学歴に逆恨みを果たせる事を心待ちにしていた様だな。

クズ共が…

 

「耳郎!」

「えっ、何!?」

「お前、訓練の時にその耳で索敵してたよな!? 頼めるか?」

「で、できるけど」

「なら、今から個性を使って敵味方関係無く視界を真っ白にするから索敵の一部は任せた!」

「え、真っ白…え?」

 

「頼んだぜ、お姫様!」

『はぁ……私をお姫様って呼ぶのはやめなさい。私は…

 

 

 

 

 

 

 

 大砲よ

 

 




シアとバンガロールが登場。オクタンは一時期バンガロールをお姫様と呼んでたけどなんででしょうね?


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No.5 マップをよく見ろ、部隊が離れている。

野良とカジュアルマッチ行くとよく聞く台詞ですね()
今回はバンガロール視点からスタート、そしてシアです


 相手は体格差も年齢も上の成人男性約20名。対してこちらは戦闘服を来ているとは言え女子2名に男子1名。職業軍人である私が居るとしても依然として不利なのは変わらないわ。でもこの世界の強さは個性で決まる。個性の使いようによってはどんな不利な状況でも覆せるのよ。見てなさい。

 

「この辺り一面にスモークを炊くわ、八百万と上鳴は耳郎の指示の元、ヴィランを撃退しなさい! 私はブラッドハウンドに切り替えながら戦うから気にしないで!」

「はい!」

「分かった!」

「お、おう!」

 

 いい返事ね。初対面である私に対しての動揺も少ない。

 私は地面に個性であるスモークを使い、辺り一面を真っ白な煙で包んだわ。この煙は肺に悪影響は及ぼさないから吸っても何も問題は無い、息も苦しくならないわ。あくまで視界を阻害するだけのもの。

 

「な、何も見えねぇぞ!」

「この煙に紛れて逃げるつもりか!」

「慌てんな、ゆっくりと囲め! 逃がすな!」

 

 逃げる?随分馬鹿な事を言うのね。まだ育ち切ってない雛とは言え、彼女達はヒーローよ?逃げる事も大事だけど…少なくとも格下のヴィラン相手には逃げる必要なんて無いわ。

 

「ブラッドハウンド、暴れなさい」

 

 私はブラッドハウンドを切り替わる。そしてブラッドハウンドが表に出てきた瞬間、ブラッドハウンドは個性を完全に解放し、己の力を全て発揮する。

 

我が名はブロスフゥンダル!!!!!!

 

 『ハンティング・ビースト』。ブラッドハウンド最大の必殺技ね。己の闘争心や力、全てを解放した上に全能の目を常にひらっきっぱなしにする。この間ブラッドハウンドはジブラルタルを超えるパワーにオクタンに並ぶスピード、そして味方に共有は出来ないけどどんなに視界が悪くても敵が赤く強調表示される。つまりスモークで誰も何も見えない中、ブラッドハウンドだけは全てが見える。

 

 自分より二回りもデカい岩石の巨漢を殴り倒し、身体が凶器の男の腕をへし折り、トカゲの様な仮面を付けた男を死なない程度にお気に入りの手斧【レイヴンズバイト】で斬りつけて薙ぎ倒していったわ。その暴れっぷりはまさに獣……猟犬ね。

 そして八百万や耳郎達の方は…心配なさそうね。

 

「八百万! その場から左に5m先!」

「はい!」

 

 煙幕の中で耳郎が個性の影響でイヤホンジャックになった耳たぶを使い、敵の音を聞き分けて八百万に指示。八百万は自分の個性で創り出した非殺傷武器で少しずつだけど敵を無力化していったわ。

 そして耳郎は指示を出す為、声を大きく出してしまうから敵にもその位置はバレてしまう…けど…

 

「近づけさせねぇ…よ!」

 

 触れた相手に対して大量の電気を流し込める個性を持つ上鳴電気が耳郎のボディーガードとなり、耳郎に近づく輩は一人残らず上鳴電気の電気ショックにやられているわ。

 

『ふふっ、即席なのに完璧じゃない。』

 

 そしてスモークが晴れた頃には、4人以外誰も立っていなかった。

 

「部隊は全滅…我々の勝ちだ」

「無事に切り抜けられましたわね」

「こ…怖かった…」

「ウェイ…やったぜ…!」

 

 ブラッドハウンドが辺りを見渡して立っている敵が居ないことを確認すると耳郎と上鳴はその場にへたれこむ。突然の実戦だもの、まだ子供だし仕方が無いわね。

 

「では我々はもう一度出入口を目指そう。あっちだ」

「ちょ、ちょっと休んじゃダメかな?」

「ウェイ」

「休んでいる暇なんてありませんわ。ここから早く逃げ出しませんと。」

「その通りだ。またいつかヴィランが現れてもおかしくない……このようにな!

 

 そう言うとブラッドハウンドは手に持っているレイヴンズバイトを耳郎と上鳴の合間を通って投擲する。投擲されたレイヴンズバイトはいつの間にか地面から生えていた何者かの手に突き刺さり、手の本体は声を上げる。

 

「気づかないとでも思ったか? 主神は常に見ている。主神を前にして身を隠すなど不可能」

 

 地面から現れた骸骨のマスクを付けた男は舌打ちをして、レイヴンズバイトを引き抜き、遠くへ捨てる。わざわざ武器を捨てたって事は…あいつの個性は攻撃系ね。もしくはただのまぬけ。

 

『ブラッドハウンド、武器が無いのなら変わりなさい。ハンティングビーストも今日は使えないでしょう。』

「ああ、だがまだ伏兵が居るかも知れない。だから私が…」

『では私が行きましょう。索敵も戦闘もどちらも行えますし。敵が個性に頼っているなら尚更私が有利です。』

 

 そう言うのは()()連出堕の個性として新しく現れた人格、シア。

 

『あなたに任せるのは不安が残るけど………()()()()()()()()()()()()()みたいね、しょうがないわ。連出堕の意思を優先して貴方に譲って上げる。』

『感謝します。』

 

 そうして、ブラッドハウンドは下がり、代わりにシアへと切り替わる。

 

「変身する個性か?」

「そんなチープな物ではありません。もっと美しく、末恐ろしい個性ですよ。」

 

 シアは独特な動きをしながら身体の周りに小さなマイクロドローンの群れを放出し始める。これらがシアの個性。マイクロドローン。

 小さな小さなドローンを一つ一つ細かく動かせる事が出来る。

 

「耳郎さん、八百万さんは何やら知能の低下が見られる上鳴さんを連れて下がっててください。ですがあまり離れないでくださいね」

「れ、連出堕さん、助っ人は…」

「要りません。この様なザコ1人に手間取る程弱くはありませんので。」

 

 ザコと呼ばれた骸骨のヴィランは簡単に激昂して両手に電気を纏わせながらシアへと襲いかかる。愚策ね。

 シアはマイクロドローンによる妨害爆風を前方に放ち、骸骨のヴィランの電気の個性と動きを封じ、逆にマイクロドローンを纏った拳で骸骨のヴィランを一撃で気絶させたわ。

 

「耳郎さん、念の為、索敵を。私達以外に動いてるものはこの山岳地帯にいますか?」

 

 シアの索敵は心音に反応する。だから例え気絶していても心臓が動いていればシアの索敵の妨げになる。だから心音関係無く探れる耳郎とは差別化されている個性ね。

 

「え、えっとちょっと待って…………いや、いない。」

「そうですか。ありがとうございます。それでは今度こそ出入口に向かいましょうか」

 

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 

「あ、相澤先生…!」

「そんな…!」

「ウェイ…」

 

 不味いですね。あの後山岳エリアから抜け出して索敵しながら相澤先生が向かっていったのですが…相澤先生はあの後20名ほどのヴィランを1人で殲滅した様です…しかし現在は黒い肉体に脳みそが丸出しの巨漢に頭を掴まれてボロ雑巾の様にボロボロにされていますね…あと、異様な雰囲気を醸し出してる手のヴィランも生き残ってますね。あの2人はただならぬ雰囲気だとは思ってましたがあの2人が主犯格のヴィランですかね?はたまた切り札か…

 とりあえず相澤先生の心音は聞こえるのでまだ生きているようですね…さてどう助けるか…

 …………ちょっと待ってくださいね?

 

 あの脳みそが丸出しの巨漢…心拍がおかしくないですか?

 心臓が動いてますけど…なんというか美しくない…今まで色んな人の心音、心拍を聞いてきましたがこんな不愉快な心拍は聞いた事も無い!

 おぞましい!

 あの脳みそが丸出しの巨漢、何かがおかしいですよ!

 

「シルバ、ライフライン。あれは下手に近づかない方が良いですよ」

『おいおい何言ってんだ! 相澤担任が死んじまうって!』

「そもそも個性を消せるはずの相澤先生がああもボコボコにされたって事もおかしい。あの脳みそが丸出しの巨漢は何か秘密がありますよ。少なくとも情報も無しに無闇に突っ込んではダメです」

『だからと言って相澤担任を見捨てるのか!?』

「そうは言ってません! 私だって助けたいです…しかし…!」

 

「連出堕さん…さっきから何処からかオクタビオさんの声が聞こえるのですが…もしかして会話してます?」

「ええしてますね。」

 

連出堕の個性によるレジェンド達の会話は普通に周りに聞こえます。直接脳内で会話などは出来ませんね。

 

「シルバは相澤先生を助けたいようですが…正直我々ではどうしようも…」

「……ッ…」

 

 悔しそうですね。私だって悔しいです。あの黒い巨漢。本当に見れば見るほど不愉快ですね…

 

『おい、皮付き。変われ、私があの脳みそを殺してやる。』

「殺すなんて言わないで下さい。確かに()()()()()()()()ローリスクで助けに行けるかもしれませんが…トーテムの位置で待ち構えられたら…それに貴方は少し…アレでしょう」

『ふん、初見で我がトーテムの秘密に気づけるはずが無い。あの皮付きを助けたいんだろう? お前もお前達も連出堕も…なぁ? どうだ…? フフフハハハハハハハハ!!!

 

 この人も十分不愉快ですね…

 

「れ、連出堕さん今度はどなたと会話を…聞いた事の無い声とい言いますか…なんというか…」

「ああ、こいつには関わらない方が良いですよ。無視して下さい。」

 

『連出堕…お前もあの皮付きを助けたいんじゃないのか…? 変われ』

「連出堕さん…どうするんですか? 貴方の意思には逆らいませんが…」

 

 

 

 

「SMASSSH!!!」

 

 その時、相澤先生の方角から爆音が響く。振り返ると、いつの間にか緑谷くんが脳みそが丸出しの巨漢に殴りかかっていましたね。巨漢の気持ち悪い心拍に気を取られてて気づかなかった。

 というかあの脳みそが丸出しの巨漢、建物を半壊させる緑谷くんのパワーを食らってもビクともしてない!?やはりあれは普通じゃない!

 いや、それよりもあいつ相澤先生を手放した!今です!

 

「八百万さん! 相澤先生の回収に行きます! 耳郎さんと上鳴くんはそこで待機!」

「はい!」

 

 例え脳みそが丸出しの巨漢がこっちに向かってきても私やジブラルタルで相手をして、その隙に八百万さんが相澤先生を回収。どちらにせよ相澤先生は無事になるはず。

 

「あ…なんだ? あいつ?」

 

 巨漢に気を取られててあまり気にしてなかったですが手を身体中に装着したヴィランがこちらに近づきましたね。しかし…何かさせる前に封じる!

 

「八百万さん、相澤先生を抱えて逃げてください! ベールを外します!」

 

 あの脳みそが丸出しの巨漢もギリギリ巻き込む形で妨害爆風を巻き起こし、手の男は膝を着く…しかし脳みそが丸出しの巨漢は少し身体が震えただけで膝すらつかなかった。だが反撃はしてこなかった。

 

「緑谷くん! 蛙水さん! 今です! 逃げて!」

「……くっそ、脳無! 逃がすな! 誰でも良いから生徒を1人でも殺せ!」

 

 手の男は脳みそが丸出しの巨漢…脳無にそう伝えると拳を構え、私の方へ向かい……目にも止まらぬスピードで相澤先生を抱えた八百万さんへと向かった。

 

「なにぃ!?」

『速えぇ!』

 

 想像を軽く上回るスピードにまさかの私では無く遠い八百万さん狙いだとは…もしかして私が生徒として認識されていなかった?

 どちらにせよ、状況は最悪!今からどうしたってこのスピードで動く脳無とやらは止められない!

 私ではどうしようも無い…!

 

 

 

 そう、私では…ね

 

 

 

「CAROLINA SMASH!」

 

 突如、脳無が八百万に届く前に横方向へ押し出されて転倒する。先程まで脳無が居た場所、そこにはとあるヒーローが居た。

 

 

「もう大丈夫だ。私が来た。

 

 レジェンドすら安心させるヒーローがそこには居た。

 

 




個性だけならレヴナントが1番強いかもしれない。次点でレイスかジブラルタル。
さすがにUSJ脳無は強すぎる。序盤に出てきて良い相手じゃない。

上鳴はまだギリギリアホになってません。しかし特に意味はありません。


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No.6 僕が皆を救う救世主になる…のかも!?(なりません)

タイトルはパスファインダーのリスポーン時のセリフだった気がする。


「オールマイト…!」

 

 見るものを安心させる大きな背中、聞くものを安心させる声、絶望を打ち砕くパワー、そして全てのヴィランを恐れさせるその存在が俺達を護る様に脳無と呼ばれる巨漢の前に立ちはだかる。

 マジで安心がすげぇな…身体が震えて来ちまったぜ…あのシアですら心の底からほっとしているぜ。

 

「よく相澤くんを助けてくれた! 君と八百万少女の行動は素晴らしい! そしてよく持ちこたえてくれた! 後は任せなさい!」

 

 オールマイトの攻撃を不意打ちで尚且つモロに喰らったにも関わらず脳無は平然と立ち上がり、オールマイトと対峙する。

 

「はぁ…ようやっと来たかゴミの象徴め…黒霧! 戻ってこい!」

 

 手を身体中に引っ付けた青年はやけにイライラしながら首を掻きむしり、黒霧と呼ばれる何かを呼び戻す…名前からしてあの黒いモヤの事なのか?

 

「すみません死柄木弔…生徒を1人逃してしまったが為にこんな事に…」

「いいさ…どの道こいつは殺す予定だったし…他のヒーロー共が来る前に終わらせてしまえば良い。脳無! オールマイトを殺せ!」

 

 生徒を1人逃した…?誰か逃げれたのか!個性からして飯田か爆豪か?いや、爆豪は無いな。とにかく、逃げれたのなら援軍が来る。相澤担任を保護してもらって残りのプロヒーローが戦えばこの不気味な奴らも一網打尽だ…

 だが…この後に及んでまだオールマイトを殺す事に執着してるのか…この脳無って奴。相澤担任を倒した上にオールマイトの攻撃を耐えたから少なくともマジで強いんだろうな。

 というかあの黒霧とか言うやつも厄介だな。オールマイトがこの脳無を倒しても、プロヒーロー達が援軍に現れても逃げられる可能性がある。ならば…

 

『シア、やるぞ』

「ええ。オールマイト! あの黒霧という黒いモヤは私達が倒します。その脳みそは任せます!」

「!? ダメだ連出堕少年! 君も逃げるんだ! ここは私1人で充分だ!」

「しかし、彼らは何か貴方に対しての秘策がある様です! 現にあの脳無という奴は緑谷くんの攻撃をくらっておきながら平然としている! それにあの黒霧と言う奴も逃走経路をいつでも確保出来る可能性のある個性…先に捕えなければ!」

「ヴィランの確保よりも君達の安全が第一d____」

 

【貴方達、狙われているわ!】

 

 瞬間、脳無がオールマイトに殴りかかりオールマイトを大きく吹っ飛ばした。

 

「オール…マイト…?」

『………シア。』

「なんです…シルバ?」

『変われ、逃げるぞ』

「……了解」

 

 俺より速いスピードにオールマイトや緑谷の攻撃を耐える防御力、そしてオールマイトをぶっ飛ばす攻撃力!?無理だ!オールマイトがあいつの気を引いてる間に黒霧としがら…なんとかかんとかっていう手の野郎を倒そうとしたけど巻き込まれて死ぬ未来しか見えねぇ!こうなったら仕方ねぇ、撤退だ!爆豪や轟を呼んだり八百万に実弾銃を作って貰うとかしないと黒霧を捕まえる前に俺らが死ぬ!

 

「……黒霧、あいつ捕まえろ。姿が変わった、面白そうな個性だ。まるでゲームのキャラクター選択みたいだ。脳無をくれた先生に対するお返しのプレゼントにしよう」

「ですが死柄木弔。あいつは身体を痺れさせ、一時的に個性を封じる個性を持っているようです。貴方も喰らったでしょう? 無闇にこちらから近づくのは…」

「ガキに2度も遅れを取るって事か? 黒霧?」

「……分かりました。しかし脳無と私がオールマイトを仕留めてからでも良いでしょう? 1番の危険因子は消しとか無ければ。」

「あ? 早くしないとプロヒーロー共が来るだろ。それにオールマイトはもう死んだだろ。あれ」

「いいえ…ご覧下さい」

 

 瞬間、お返しとばかりにオールマイトが脳無を思いっきり殴り飛ばす。先程の不意打ちよりかは脳無は後退したがやっぱりダメージ喰らって無くないか?あれ?

 

「全く…手加減ってものを知らないのか!(くそ、なんてパワーだ!)」

 

 オールマイトは少し出血している。まずい、オールマイトなら脳無に勝てると思ってたがまさかあの脳無ってオールマイトよりも…いや、そんなはずは無ぇ。それよりも早く爆豪と轟達だ!

 俺は個性を使って猛スピードでその場から離れる。

 

 

 広場から離れてとりあえず出入口付近に集合してるかと思ってダッシュする。相澤担任を連れた八百万もそこにいるはずだ。すると出入口では無い別の方向から爆豪が掌を爆発させてこっちに飛んできた。

 

「おい、十八面相野郎!」

 

 面白いあだ名だな。というかお前いつ俺の個性知ったんだ?説明の時居なかったろ。

 

「あの黒いモヤモヤ野郎は何処にいやがる! おめェの個性でわかんだろ!」

「個性使わなくても分かるぜ、あっちの広場だ。既にオールマイトが駆けつけてるが黒いモヤを相手にする余裕は無さそうなバケモンと戦ってる。ちょうど援軍でお前を呼びに来たところで良かったぜ! 轟は?」

「あぁん!? 知るかぁ!」

 

 何でこんなにキレてるのか分からないが…爆豪はそのまま広場の方面へと凄い速さで飛んでいった。流石に脳無には勝てないだろうが黒霧って奴をあいつなら抑えられるだろ。

 

「連出堕!」

 

 そして今度は轟もやってきた。ちょうど良いな。飛んで火に入る夏の虫ってこういう事か!いや、違うな。

 

「よう轟!」

「八百万から聞いたがオールマイトが来たって本当か?」

「おう、向こうで真っ黒な化け物と戦っている。とりあえず俺達を散らせたあの黒いモヤを爆豪と協力して捕まえてくれねぇか? あいつがヴィラン共の脱出経路になるはずだ」

「…ああ、分かった」

「くれぐれも脳みそ丸出しの黒い化け物には喧嘩売るなよ!?」

「………」

 

 おい、あいつ無視しやがったぞ!

 

『ああいう歳頃の子供はよく無茶をする。私達も行った方がいいんじゃないかい?』

『言っても私達も無茶をしようとしていましたけどね』

「……八百万と合流したかったが…もう別にいいか、確か緑谷がまだあそこら辺に居たからあいつでも充分黒霧捕獲には役に立つだろ。また自壊してもシェのアネキが居るし」

 

 …少し悩んだが戻る事にした。連出堕自身はオールマイトを殺せるという自信のあるあのヴィラン共が気になってしょうがないらしい。いざピンチになったらコースティックやレヴナントも使用するとの事だとよ。

 

『そうか…私の出番か…』

フフハハハハハハハハ!』

 

 興奮剤を注入して、広場へ戻ろう…とした時に興奮剤のデメリットが発生した。

 

「やべぇ…もう体力が…!」

 

 俺の個性は骨折程度なら数時間で完治するほどの自己治癒力とアドレナリン注入だが…その2つはどちらも体力を大きく使う。HP的な意味の体力ならシェのアネキのヒールドローンで回復出来るが疲労的な意味合いでの体力は回復しない。あの脳無から逃げて援軍を呼ぶ為に間隔を置かずに興奮剤を使ってずっと走りっぱなしだったのは良くなかったな。失敗した。

 

「すまねぇ、パスファインダー。変わってくれるか?」

『勿論! 僕がみんなを救う救世主になるんだ! いくぞ!』

 

 パスファインダーはグラップルを使って、施設内の木に引っ掛けたりしてスパイダーマンの様な移動をする。俺と違ってグラップルは多用出来ない様にクールタイムがあるんだが、俺と違ってデメリットは無い。スピードは少し落ちるが…体力が減る事も無い。

 

『悪ぃシェのアネキ。少し仮眠を取る』

『了解、逃走時はレイスやバンガロールに切り替わるから安心して寝てな!』

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 さて、爆風で移動した爆豪くんや氷で地面を凍らせてその上を移動する轟くんと違ってクールタイムのある僕のグラップルだとだいぶ出遅れてしまった。

 

「連出堕!」

 

 おや、前から耳郎さんがやってきたよ!峰田くんや上鳴くん、蛙水さんも一緒だ!

 

「やぁ、みんな! あっちの状況は今どうだったかな?」

「あっちは爆豪と轟がやってきて状況が一変した。爆豪が黒い靄を押さえて、轟が脳みその化け物を凍らせた!」

「ふーむ。思っていたよりも状況は良くなっている様だね。僕達が行く必要は無いかも。分かった、君達は出入口に避難して。相澤先生も八百万さん達もそこにいる。そろそろ多分飯田くん辺りが呼んだ先生達が迎えに来る頃だ」

「わ、分かった…」

「お、おい、連出堕はどうする気だよ?」

 

 峰田くんが恐る恐る聞いてくる。多分もうオールマイトが全部片付けているだろうから大丈夫かもしれないけど…

 

「連出堕くんの個性には拘束するのに向いた個性が何個かある。それを使ってヴィラン達が逃げないようにするだけ」

「ウェイ…気をつけろよ〜…ウェイ…」

 

 少し顔に変化と知能指数に変化が見られる上鳴くんがそう言う。さっきからずっとこれだけどなんかあったのかな?山岳エリアを抜ける時からそうだった気がする。

 

 

 

 ドガァン!

 

 

 

 

「うぉっ、何今の音!?」

「オールマイト達の方からだね…爆豪くんが戦闘訓練で見せた爆発よりも大きい音だ。オールマイトかな? とりあえず僕はもう行くよ」

 

 クールタイムが過ぎたグラップルで近くの木を起点に大きく飛躍する。やがて見えて先程の広場が見えてきた。脳無は見当たらない。見えるのは…一歩引いた所に居る轟くん、爆豪くん、緑谷くん。ボロボロになってもなおヴィラン達と相対するオールマイト。膨張し始める黒霧に確かシガラキトムラという男が明確な殺意をオールマイトに向けていた。

 あの脳無が居ない。先程の音はオールマイトが脳無を倒した音かな?少なくともあの脅威が居ないのなら…

 

「シア、頼んだよ」

『ええ、ベールを外します』

 

 先程と同じ様にシアに切り替わり妨害爆風を前方へと飛ばす。オールマイトの個性が何か分からないけど念の為、ダメージを避ける為にオールマイトに当たらないように黒霧とシガラキトムラに当てる。

 

「ぐっ……また、貴方ですか!」

「くそっ、ウザったいなぁ…!」

 

 膨張していた黒霧は身体中が痺れながら元の人間のサイズまで縮小する。

 

『オールマイト! 助けに来たよ!』

「個性さえ封じてしまえば貴方達は脅威ではありません」

 

 と言ってもシアが相手の個性を封じれるのは3秒から5秒程度。すぐに効果は切れて黒霧が黒いモヤを動かす。でも動かした先はシガラキトムラ…攻撃の意思は無い…?

 いや、違う。

 

「逃げるつもりか!」

『シア! 俺様に変われ!』

 

 黒霧に呑み込まれて少しずつ闇に消えていくシガラキトムラ。こいつの個性が未だに分かって無いけどあの脳無に命令していたということはそれなりの大物。こいつだけは絶対に逃してはならない!しかしシアの個性は間に合わないし「お兄ちゃん」の個性も上手く当たらなかったらみすみす逃してしまいかねない。だから…少しでもダメージを与える。次の行動を封じる為に。

 

ナックルクラスターでも喰らえ!

 

 ヒューズに切り替わり、その右手から1つの球体を消えゆく黒霧の闇の中に放り込んだ。

 

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 

 黒霧が展開した個性「ワープホール」によるワープする黒い靄で繋がれた先は窓が全く無い、外からの光が皆無の1つのバー。

 そこに無傷の死柄木弔が現れる。こここそが彼の…敵連合の拠点である。

 

「ああ、お帰りなさい。死柄木弔、黒霧」

「…ただいま」

 

 帰還して来た死柄木弔にバーに不自然に設置されているモニターの近くに座る…多分女性が話しかける。

 多分…というのは声こそは女性だが見た目が完全に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。性別の判断は難しい。

 

「弔…その服に着いてる球体は何ですか? 発信機でも付けられました?」

「あ?」

 

 女性ロボットに指を指され、死柄木弔は自分の衣服に付着してる球体を発見する。女性の言う通り、発信機だと面倒なので死柄木弔は自身の個性である「崩壊」を使って球体を破壊しようとするも…

 

 球体は爆発を起こして死柄木弔の右腕と胴体に火傷と裂傷を与えた。

 

「がぁぁ!?」

 

「あら…フフッ。とんでもないプレゼントを貰ったようですね…」

 

 その時、モニターから音声が響く。声からしてそれなりのお年寄りである。

 

『プレゼントと言えば弔よ。ワシと先生の共作脳無はどうした? 回収してこなかったのか?』

「オールマイトに吹き飛ばされてしまいました…正確な座標が分からなければ回収出来ませんので」

『そうか…残念じゃ』

 

 黒霧がそう答えるとモニターの老人はほんのり残念そうな声を上げる。逆に言えばあの脳無はその程度なのだ。

 

「今から()()()()で回収に向かわせますか?」

 

 ロボットの様な女性が右手を掲げると何も無い所に何処からともなく現れた金属が人型に組み立てられていく。

 

『いや…必要無いさ。ヒーロー側に君の個性を知られるリスクの方が大きい。あの程度のパワー型の脳無はいくらでも作れるさ』

 

 今度は同じモニターから年寄りの声ではなく、威圧感のある、どこか優しく、どこか恐ろしくおぞましい男性の声が響く。

 

「パワー…そうだ、1人オールマイト並のパワーを持つガキが居たな。」

 

 裂傷のダメージで床に伏せながら死柄木弔を話す。

 その言葉にモニター越しの男性は興味深い声を出す。

 

『オールマイト並の…ほう…』

「あと…姿が色々変わるヤツが居た…黒人の成人から義足の青年になったり、途中でロボットになっててまた黒人の成人になって…おっさんになってた…」

「何ですか? それ?」

『おかしな個性じゃな、先生と同じく複数個性か?』

『もしくは…ドクター、君の理論を裏付ける複雑化した個性…かもしれないよ?』

「個性終末論…個性の特異点でしたっけ…? あの世代を経る事に個性は何とかかんとかの…」

『うろ覚えにも程があるじゃろ』

 

 女性は興味無さそうに学会から取り合ってすら貰えなかった異常者の理論をうろ覚えで語る。

 

『複雑化した個性は興味深いのう、分かったそれはわしが調べておこう。』

『弔、まずは傷を癒そう。そして今度こそ…このヒーロー社会に教えてやるんだ…『君が来た!』ってね!』

 

 モニター越しの男性はとても愉快そうな声で床に伏せる弔に伝えるのだった。

 

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

「凄い…完治しています」

 

 シガラキトムラ、黒霧が逃走しプロヒーローや警察、救急車が到着しUSJを巻き込んだヴィラン侵入事件は終わりを迎えた。約100名あまりのチンピラがお縄に付き、USJから離れた遠い森の中で停止して全く動かない脳無が発見されて捕縛された。

 そんな中、ボロボロにされていた相澤担任はシェのアネキの個性で傷一つ無くなっていて駆けつけた救急隊員に驚かれていたな。あと黒霧によって個性を利用されて同じくボロボロにされていた13号先生も完治している。そして残りのシェのアネキの回復容量は重傷のヴィランに使われて生徒、担任、ヒーロー、ヴィラン共に軽傷者は多数だが命に関わる重傷者はゼロ。勿論死者なんて居ないぜ!俺も30分くらい仮眠したら元気いっぱいだ!

 

「すまないな連出堕。感謝する」

「ありがとう連出堕くん!」

「気にしないで」

 

 完治した相澤担任と13号先生が連出堕とシェのアネキに感謝する。へへっ、感謝するのはこっちだぜ。真っ先に生徒達を避難させるために数多のヴィランを立ち向かい、直接見ることは無かったが黒霧に立ち向かったのかっこよかったぜ!

 

 そしてこの日は勿論全員即下校、念の為警察やプロヒーローが家まで同行してくれた。更に次の日は臨時休校だとよ。当たり前か…

 しかも念の為、自宅待機。そいつは暇だな!どうするか。今回攻め入ったヴィランについてレジェンド全員で少し気づいた事を話そうとしたが特に大きな情報は無く、1時間程度で終わっちまった!

 ああ!うずうずする!外で全速力で走り回りてぇよ!

 

「こういう時、電話する相手が居ると退屈しないんだがな!」

『A組の生徒と誰か連絡先交換した?』

「してないぜ! 今度学校で出会ったら緑谷や上鳴、八百万辺りと連絡先交換しておくか!」

 

 そして臨時休校の次の日。登校日。

 

 全員登校してきてるな!あんな事件の後だと怖くて登校して来ない奴が居るかと思ったが…杞憂だったな!こいつらは皆未来のヒーローだ!あんな程度じゃビビる訳もない!むしろより強靭な心が育ったかもな!

 

「皆、おはよう」

 

 つい2日前まで死にかけだったとは思えない相澤担任が始まりのHRを始める。だが、HRを始めるや否やいきなり「気を抜くな戦いはまだ終わっていないぞ」と言い始める。

 は?どういう事だ?確かにシガラキトムラ…ああ、漢字で死柄木弔って書くらしいな。かっこいいぜ。それと黒霧は逃がしたが…

 

「雄英体育祭があります」

 

 体育…祭…!?

 

「「「「「「「「「「学校っぽいの来たー!!!」」」」」」」」」」

 

 これには思わずクラス中が大盛り上がりだ。俺も楽しみだな!祭か!へへっ、へへっへへへへへへへ!

 と言っても最近ヴィランの襲撃があったばっかりなのに呑気に体育祭を開催して良いのかと言う声もあった…だが相澤担任曰く、ここで確固たる姿勢を見せないとヴィランに屈したと思われるらしい。その代わり例年より警備を厳重にしてくれるそうだ。こりゃ安心だな。というかスカウト目的のプロヒーローも沢山来るからそこに突っ込む馬鹿は居ないな。

 ああ、そうそうスカウト目的のプロヒーローってのは雄英体育祭で活躍するとプロヒーローからサイドキックとしてスカウトが来る事がある。もちろんサイドキックになるのは3年生とかそこら辺からだけどな。でも一応この雄英体育祭の後にある職場体験でヒーロー事務所からお声がかかるかもしれねぇ。オールマイトは教師だからありえないとして、他にはエッジショット、ホークス、リューキュウ、ベストジーニスト、ギャングオルカ等の超有名なプロヒーローからお声がかかるかもしれない!

 あ〜、あとエンデヴァーとミルコは無いだろうな。

 

 体育祭の競技は何があるか分からねぇけど目立ちやすさと活躍しやすさなら連出堕がダントツだ、ついでに優勝もして大活躍してやるぜ!

 いや〜2週間後だっけか?雄英体育祭が楽しみだぜ!

 

 そんなこんなでテンションがぶち上がったこの日も終わり、放課後…雄英体育祭に向けて連出堕の家でレジェンドの作戦会議やら、A組の生徒と連絡先交換しようとしたが……A組の教室前の廊下に数え切れない程の生徒達が集まっていた。なんだ?また避難訓練か?

 

「出れねぇじゃん!何しに来たんだよ!」

「敵情視察だろザコ。ヴィランの襲撃を乗り越えたクラスだからな。ここは」

 

 喚く峰田に辛辣な言葉を一突きする爆豪。おお、流れるような罵倒だったな俺でなきゃ見逃しちまうね。

 

「意味ねェからどけモブ共」

 

 おおっと、流れるような罵倒は止まることを知らないようだな!初対面で尚且つもしかしたら先輩も居るかも知れねぇってのに他人をモブと呼べるその精神力はすげぇな!本当に15歳かこいつ?

 

『俺も15の時はこのくらいやんちゃだったぜ〜…酒瓶やグレネード、挙句の果てにはロケットランチャーで周りのガキ共とやんちゃしてたな〜』

 

 おいおい、ヒューズのとんでもねぇ過去を聞いちまったな…流石は治安最悪のサルボ出身だぜ。

 だがここはサルボじゃねぇ、日本の雄英高校だ。サルボ流の15歳の立ち回りはヒーローを志すモノとしてちょっとまずいんじゃねぇのか?

 ほら、見ろよ。隣のB組の奴がなんかいちゃもん付けてきたぜ。というかB組もヒーロー科だったんだな。ヒーロー科ってA組だけかと思ってたぜ。

 そして今度はなんか陰湿そうな奴が出てきたな。

 

「ヒーロー科に在籍するのってこんなのしか居ないのか? 何だが幻滅するなぁ…」

 

 なんか紫の髪色のやつが現れて勝手にサルボ系日本人を見て幻滅したな。どうやらこの紫曰く、普通科の奴らは体育祭で活躍するとヒーロー科への編入が認められるらしい。逆も然りだってよ。

 という事はヒーロー科からヴィラン科やサルボ科へ編入される場合もあるのか?

 おい!その場合だったらピッタリな奴がここに居るぜ!

 

「おい十八面相野郎、今なんか言ったか?」

「何も言ってねぇぜ〜?」

 

 爆豪はこっちをめっちゃ怖ぇ顔で睨みつけた後、ズカズカと大衆を押し退けて下校していった。

 あいつ強気だな……正直な話、雄英体育祭においてはあいつや轟、八百万と激戦を繰り広げる事になりそうだな。個性の使い方も立ち回りのノウハウも無い普通科は敵では無いし、B組も…強いやつは居るだろうけど警戒のしようが無いからさっき言った3人を警戒だな。あと次点で飯田、常闇と…緑谷や障子あたりだな。

 

 さて、俺も帰るか。

 

 

 

 




ロボットの様な女性についてですが、APEXにも登場しているキャラです。大ヒントを与えるとすればアリーナというモードをやれば絶対に出会う人?です
そして彼女の個性が明らかになった時、私はこの作品のタグに「TitanFall2」のタグを付けます。これで彼女の正体が分かった方がもしかしたら居るかも知れませんね。多分。


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シーズン2:雄英体育祭
No.番外編 連出堕苑葛の危険性


相澤先生視点。物語開始前です。
あと非常に短いです。番外編ですので


 ヒーロー科B組を担当する同僚であるプロヒーローブラドキングとその正体は謎に包まれているこの雄英高校の校長、根津校長と共に俺は今年度のヒーロー科に合格した生徒名簿を見ていく。

 ヒーロー科の入試試験は筆記試験と実技試験の2つ。実技試験の方は時間内に迫り来るヴィランロボットを倒し、何ポイント稼ぐかという実技だ。一応ヒーローの本質である人助け…言うなれば怪我人の救助とかを評価するポイントもある。正直言って生半可な気持ちな奴らが受かるから非合理的な実技だが…それを1人前にするのが俺達教師の仕事だ。

 

「入試実技試験首席の爆豪勝己と8位の緑谷出久はA組で担当します。」

「そうだね、レスキューポイント0ともう片方はヴィランポイント0。きっと相当癖の強い生徒だろうね。君に任せるよ」

「すまないなイレイザー」

「気にするなブラド」

 

 俺の個性を抹消する個性は癖の強い生徒達を抑えるのにとても適している。適材適所だ。その方が合理的だ。それに癖のない真っ直ぐな生徒はブラドに任せた方が良い。

 まぁ、後にブラドの方にめちゃくちゃ癖の強い生徒がいる事が判明したが…

 

「そして…入試実技試験2位の連出堕苑葛…」

「ヒーロー委員会や政府からヒーロー科へ確実に入学させろと命令が来た生徒ですか…」

「そうだね、一応実技、筆記共に高得点。実技の方はヴィランポイント56ポイントにレスキューは20ポイントの計76ポイント!真っ当な実力者さ!」

「個性を除いて…ですね」

「………そうだね」

 

 俺は連出堕苑葛という生徒の資料に目を通す。すると個性欄の説明が他の生徒と比べて20倍くらいの文章が書かれていた。総括すると18人分の個性と人格、肉体を切り替える個性(成長とともに増える可能性あり)。更に個性で他の肉体を維持しないと数年で死ぬ。

 実技試験では様々な姿、個性を使い分けてヴィランポイントとレスキューポイントを稼いだ…だがその個性はあまりにも危険。公安にも目をつけられており、ヒーローになる事をほぼ強制している。というかヒーローにならなかった場合個性の使用を禁じて見殺すか、直接消すつもりだろうな。

 特に危険なのはこの人格という部分だ。彼の個性に潜む人格がこと細かく書かれているが…おおよそ善人と呼べる、または一般人と呼べるとは思えない人格が居るようだ。

 

 ウォルター・フィッツロイ。別名ヒューズ

 爆発物をこよなく愛する爆発信仰者。言い方を変えれば爆破テロリストって事だ。個性も爆破に関する個性で危険な代物だ。

 

 アレクサンダー・ノックス。別名コースティック

 人を人だと思わぬ危険思想のマッドサイエンティスト。毒ガスの開発に勤しんでいるらしいが…普通に犯罪だ。しかし連出堕の個性の中でのみ作成して持ち出しては居ないらしいし個性によって作った物だから個性と言い張ればそれは個性だ。違法な物では無くなる。

 個性は毒ガス。成人男性を10秒で死に至らせるガスをほぼ無限に作成出来る個性。人の多い市街地で使われれば数多の死者が出る。また本人にはその毒ガスは勿論、ミッドナイトの眠り香等の匂いやガス系の個性は一切効かない。

 

 レヴナント。本名不明。

 殺人ロボット。全身が凶器になりうる。人を殺す事を何の躊躇いも無い根っからのヴィラン。むしろ積極的に殺害を行う癖に殺害する事に快楽を覚える様な殺人鬼でも無い。ただ目障りだから殺す。目の前に命があるからその命を散らす。そんな悪魔だ。だが、一応まだ誰も殺してないし殺人未遂も1度も起こしていないようだ。だとしたらこの情報はどこからだ?

 個性名は不明。決まっていない。相手の個性を30秒間無効化する投擲物を発射する…俺と似てる個性だ。そして更に死すら無かった事にする効果を1度だけ触れた者にもたらすひし形の造形物を作り出す個性…

 公安やヒーロー委員会、政府が最も恐れている連出堕の人格だそうだ。こんな危険な人格が潜んでいるのにヒーローにさせようとしているのか…?それとも更生させようとしているのか…

 

 この様な奴らが潜んでいる個性。更にこの先増えていくかもしれない。そんな危険な個性が連出堕苑葛の個性だ。

 

 

「相澤くん、すまないけど彼も君が担当するA組で頼むよ」

「分かりました」

 

 最悪、この連出堕苑葛とは生徒や教師の関係では無く。ヴィランとヒーローとの関係になるかも知れないな…

 




ヒューズはともかくコースティックとレヴナントは危険。そしてそれらを司る個性を持つ連出堕はかなり危険で警戒されているという話でした。ただヒーローになれ無ければ20まで生きられないのでヒーローに反する行動は取らないと思います。
だったら好き勝手生きれるヴィランになった方が良くね思うかも知れませんね。私もそう思います。


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No.7 あんたは負ける。勝つのは俺だ

タイトルはオクタンのセリフ「敗者と勝者」です

一昨日の二次創作日間ランキング…14位…!?
皆様、ありがとうございます!


 時が経つってのは本当に一瞬だな。もう2週間が経っちまった。今日は雄英体育祭当日。A組皆控え室にて待機している。

 あとどうやらヒーロー科以外も参加するからという理由でヒーロー科はコスチュームの着用を禁止されている。一部は事前に申請すれば良いらしいけどな。まあ俺らは元から戦闘服みたいなものを着てるし、それらは個性由来だから俺達レジェンドは圧倒的に有利だな。

 

「緑谷」

 

 パイプ椅子にぐったりと座り込んでる俺の背後で轟が緑谷に話しかける。そこ接点あったか?…記憶にねぇな。

 

「客観的に見てもお前より俺の方が実力が上だと思う。だけどお前はオールマイトに目をかけられてるよな。」

「!」

 

 おお?なんだなんだ?

 

「別にそこは詮索するつもりはねえけどよ…お前には勝つぞ」

 

「おお、宣戦布告か。かっけぇな」

 

 正直パワーならともかくそれ以外においては緑谷は轟にさほど及ぼない様な気もするが…まさかの爆豪や俺じゃなくて緑谷に宣戦布告か。というか緑谷ってオールマイトに目かけられてんのか。知らなかったぜ。

 

「轟君がなんで僕に勝つって言ってるのか分からないけど……けど! 僕も…本気で、全力でトップを獲りに行くよ…!」

 

「ひゅー! かっけぇな!」

 

 その通りだ。全力でトップをねらえ。後悔の無い様に全力でな!終わった後からじゃ何もかもが遅ぇんだ!

 普段控えめな雰囲気の緑谷が大胆に轟に宣戦布告返しをする中、爆豪がすげぇ不機嫌そうだった。ははっ、構って貰えなくてドンマイだったな!

 

 さて、どうやらそろそろ1年A組が雄英体育祭の舞台となるスタジアムの様な雄英体育祭会場へと整列して入場する。どうやら12万人の観客を収容出来るらしく。その全てが満席となっていた。警備は強くするけど入場制限は設けないんだな。

 

『雄英体育祭! 繰り広げられるのは、ヒーローのたまご達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!! どうせてめぇらアレだろ!? こいつらだろぉ!? 敵の襲撃を受けたにも関わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星…ヒーロー科、1年A組だろぉぉぉ!!!?? あ、続いてB組に普通科のC組、D組、E組やサポート科の____』

 

 会場全体にプレゼント・マイクのアナウンスが響き渡るが完全にA組を持ち上げて他のクラスは引き立て役みたいになってるな。まあ仕方ねぇ。今世間は俺達A組に傾いてんだ。悪いがお前らも目立ちたいのならそれ相応の実力と活躍を見せてみるんだな。

 

 全1学年が整列を終えると、前方の朝礼台にヒーロー科の教員にして18禁ヒーローと呼ばれるミッドナイト先生が立っていた。おいおい、大丈夫なのかこの先生の衣装?とても口で言うのに抵抗のある衣装をしているぜ…連出堕に良くない影響を与えちまうよ。

 

「高校なのに18禁が居て良いのか?」

 

 ご最もな意見だな常闇。

 

「選手宣誓!選手代表、1年A組爆豪勝己くん!」

 

 ミッドナイト先生がムチで地面をしばくと選手宣誓として爆豪を指名した。なんであいつが選手代表なんだと思ったが…瀬呂範太曰く、あいつがヒーロー科入試の実技1位らしい。マジか俺達は実技は76ポイントって言われてたけど…爆豪はそれ以上のポイントを獲得してたって事か…

 爆豪は台の上に乗り、ポケットに手を突っ込んだままマイクの前に立ち選手宣誓を誓う…

 

「せんせー。俺が1位になる」

 

 こいつ最高だな!

 

「せいぜい活きのいい踏み台になってくれよ」

 

 爆豪は親指で首を掻き切る仕草をしてA組含む全クラスを敵に回す。そして全クラスからブーイングや罵倒や文句が垂れるが俺だけは拍手していた。

 

『ワハハハハハ! 最高だぜブラザー! そうでなくちゃ面白くないな!』

『単純にヘイトを買うだけでなく、自身を追い込む意味合いもあるんだろぉけどよ、まさか全国放送の雄英体育祭でやるとはなぁ!』

『他の有象無象のモルモット共と違ってやはりアレは特別だな、興味深い』

『活きのいい皮付きだ。あれくらいやって貰わないと入試実技試験1位は相応しく無いな』

 

 おっ、他のレジェンド達からも好評の様だな!

 爆豪が列に戻ると早速雄英体育祭の第一種目が発表される。種目は…

 

 障害物競走!よっしゃ、勝ったな。飯に入って風呂食ってくる。

 ただ障害物競走っつても全11クラス同時に行い、一定順位以上の者だけが次の種目に参戦出来るらしい。11クラス同時って事はごちゃごちゃしてて走りづらいかもな。でも関係ねェ、パスファインダーと俺にヴァルキリーが居ればNO問題だ!それにコースさえ守れば何しても良いと言ってたから後続に妨害する為にワットソンのフェンスとかクリプトの遠隔リブートとかとありだな。コースティックのガスは流石に死人が出るからダメだ。

 

 スタート地点となるゲートの前に有象無象の生徒達が並ぶ。ゲートの広さ的にこりゃすぐに詰まるな。という事は……上だな。コースさえ守れば…コースと定められた道の上空もコース内だろうな…よっしゃ決まった!

 

 俺は敢えて始まりのゲートから少し後方へと下がる。そしてレース開始のランプが光るのを待ち…

 

 

『スターーーーーート!!!』

 

飛べ! ヴァルキリー!

 

 開始の合図、ランプが点滅と共に俺はヴァルキリーと入れ替わり、その場から大きく空へと飛んだ。

 生徒達によってぎゅうぎゅうになっているスタート地点のゲートを見下ろし、ヴァルキリーを悠々とゲートの上を飛び越えて暫定1位となる。

 

《さーて! 実況していくぜ! 解説よろしくイレイザーヘッド!》

《………》

 

 おっ、どうやらプレゼント・マイクと相澤担任がこの障害物競走の実況解説を担当してくれるらしいな。相澤担任はやる気なさそうだけど。

 

《さあいきなり1年A組の連出堕苑葛! 個性を使って姿を切り替えてすし詰め状態のゲートを見事に突破! おおっと! 後ろからは同じく轟焦凍も躍り出た!》

 

 プレゼント・マイクの実況を聞いて振り返ると確かに地上では地面を凍らせて轟が1番にゲートを抜けて、続いて1年A組の面々が続いてる。皆轟の個性を知ってるから対策出来てるんだな。

 

「おいおい、なんか入試試験で見た事のあるロボットが居るぞ」

 

 空を飛び…というか前方に少しずつ降下し始めているヴァルキリーの前に入試実技試験の超巨大0ポイントヴィランロボットが5体ほど現れる。地上にもチラホラと3ポイントヴィランロボットや2ポイントヴィランロボットが居る。

 あれら地上のやつらは俺達に手出しは出来ないだろうけどこの巨大ロボットは別だな。高度が下がっている今、0ポイントの攻撃は当たりかねない。かと言ってまた高度を上げるために上昇しようとするとその間は無防備で垂直にゆっくりと浮かぶわけだから隙だらけ、更には轟に抜かれかねない。

 

『ヴァルキリー、ロボットの上に着陸しろ。俺とパスファインダーで飛ばす!』

「了解」

 

 ヴァルキリーは0ポイントヴィランの装甲の上に見事に着陸すると俺と切り替わる。そして俺は装甲の上で興奮剤を使用して猛ダッシュ、からの大ジャンプ!

 更に地面に着地する瞬間にパスファインダーと切り替わりルートの左右に見栄えとして植えられている木にグラップルを使い、スピードを落とすどころか逆にスピードを上げて地面に着地する。そしてまた俺様に戻って興奮剤だ!

 

 どうだ?完璧だろ?今俺は暫定1位継続中だ!

 っと思ってたが…

 

「待てや十八面相野郎!」

 

 この呼び方と態度の悪さは爆豪だな。少しだけ振り返って後方を確認すると掌を爆発させながら爆風を操り俺よりも速いスピードで近づいてきた。やっぱりあいつ速いな。その真下には轟も居るな。

 

《さあ先頭は次の難関が現れたぞ! 落ちたら地面に真っ逆さま! 落ちたくなきゃ這いずりな! ザ・フォール!》

 

 マジか…次の難関を目にして引いたな。崖だ。点々と地面はあるがそれ以外は真っ暗闇の奈落がある。移動手段は綱渡りのみだな。

 ヴァルキリーの上昇からの前方への移動はクールタイムがあるし尚且一日において使用回数制限がある必殺技だ(ウルトと呼ぶ)。次使うまでは時間がかかる。ヴァルキリーはウルト以外では前方へ飛ぶ手段は無い。

 そうこうしているうちに爆豪は爆風で飛び越えて、轟はロープを凍らせてその上をスライドする事で難なくザ・フォールを突破した。

 

『あら、私に任せなさい。私なら…簡単に越えられるわ。』

 

 レジェンドの1人が語りかけてくる。なるほど、確かにそれなら行けるな。

 俺はここでとあるレジェンドと入れ替わる。雄英では初の登場だな。

 ヴァルキリー、バンガロールに続いて切り替わった女性のレジェンド。ローバ。彼女の個性は自分と指定した物の場所を入れ替える。または指定した物を自分の所まで引き寄せる個性(自分以外の生命体の場所は動かせない)。この個性は盗みにとても特化しているな。レヴナントやコースティック程でも無いけど彼女の個性もだいたいヴィランっぽいな。

 

 ローバは片手を前に向け、ザ・フォールの終着点の所にある石ころに意識を集中する。場所を入れ替えるのには集中する時間が必要だ。と言ってもグラップルや地道に移動するよりかは数倍も速いけどな!

 

「…ジャンプドライブ」

 

 すると目の前の景色が一気に変わる。成功だな。一気にザ・フォールのゴールまで辿り着いたぜ。

 

《おぉっーと! 連出堕苑葛! 轟や爆豪に抜かれたのに個性を使いまた1位に躍り出た! 何の個性だあれ!?》

《お前あいつの個性が書いてある資料を年度始めに読んでなかったのか…?》

《めっちゃ長くて5行読んで寝た》

《…………》

 

 どうやら爆豪や轟はまだ突破していないようだな…っと言っても振り返れば割と近くにいる。これは下手すればすぐに追い抜かれるぜ。

『ローバ、切り替われ!』

 

 すぐにローバに切り替わって貰ってもう一度興奮剤でダッシュだ。だがあまりもう乱用出来ないな…疲労がまた溜まってきたぜ。

 

《次はもう最終難関! 一面地雷原だ! 威力は高くないけど音と爆発の見た目だけは派手だぜ!》

 

 何?地雷原?

 

 確かに目の前の地面をよくよく目を凝らせば何か埋まってるが…数が多いし、これを1つ1つ避けるのは時間がかかるな。ローバの個性もクールタイムに入ってるし、パスファインダーのグラップルは掴むものが周りに無い。ヴァルキリーやホライゾンは変わらず上昇スピードはともかく前方への移動は不得意だ。なら地雷に関係無く俺で突っ切るしかねぇな!

 

『いや、オクタン。まずはレイスに変われ。虚空を通ってから突っ切るんだ。最初から爆発に手間取ってたら追い抜かれる!』

「おお、いいアイディアだな!」

 

 クリプトの助言に俺は頷く。そしてすぐにレイスに切り替わる。レイスの個性は虚空。こことは別の空間を通ったり出入り口を作れる個性だ。だがそんなに長い距離は使えないな。あとクールタイムが長い。

 

「虚空を行くわ。」

 

 レイスは右手を握りしめると虚空の世界へと立ち入る。周りの景色は変わらず雄英高校だし周りにも変わらず地雷原があるが…世界の色合いが白黒に淡い青となっている。そして、地雷をいくら踏んでも地雷は爆発しない。皆と同じ世界には居るが、別の空間を通して今俺達は移動をしているんだ。

 だが30歩くらい歩いた先で虚空の世界から現実世界へと戻される。ここからは地雷原無視の一点突破だ。

 

 懐かしいな、1歩踏むと足元が爆発して足元からぶっ飛ばされる。確かに威力は無いが…グレネードで脚をぶっ飛ばした事を思い出すぜ。

 なーんて、思い出に浸っていたら真横に変わらず爆風で飛んでいく爆豪と氷で地面を凍らすことで地雷を無効化する轟が現れた。やべぇ、単純なスピードで負けてるのに地雷の妨害を含めたら俺が圧倒的に不利だ!

 こうなったらパスファインダーのグラップルで前に躍り出た爆豪か轟のどちらかを後ろに引っ張ってその反動で俺が前に出るしか無ぇ!

 

 

BOOOOOOM!!!

 

 その時、後方で今までの地雷からは考えられない大爆発が起きた。それに思わず俺と爆豪と轟は振り返る。するとそこには…緑谷が飛んできた。

 

「ッ!?」

「なっ!」

「くっそ…!」

 

 大爆発を起こした緑谷は地雷原のスタート地点から一気に俺達3人の前に片手になんか盾みたいな機械片を持って飛んでいく。

 一気に追い抜かれた…だが、まだ勝負は決まった訳じゃねぇ、また追い抜かせば良い!

 

「パスファインダー! 緑谷にグラップルだ!」

『了解』

 

 パスファインダーに切り替わり、グラップルの狙いを緑谷に定める。そしてグラップルが発射される直前…

 空中に居る緑谷は盾の様な鉄板の機械片で地面を叩きつける。そして再び、爆発…しかも今度は俺達の後方では無く目の前で巻き起こった。

 

『マジかよ…!』

 

 爆風によって爆豪、轟、パスファインダーは仰け反る。その隙に爆風で更に前方へ進んだ緑谷はゴールへと一直線。もうグラップルが届く距離じゃあ無い。

 

 

 

 へへっ、なるほど。なんで轟が緑谷を警戒していたか分かったぜ。こりゃあ恐ろしいな。いつもの腕を破壊してしまうパワーの個性を全く使わずに俺らを…追い抜いた…訂正しないとだな。今1番恐ろしいのは爆豪や轟や八百万じゃねぇ。

 お前だ、緑谷出久!まさか俺達が負けるとはな、最高にテンションが上がって来たぜ!

 

 

 




オクタンはジャンプパットはありません。個性として説明が難しかったので。
代わりに彼の自己治癒能力を強化する事と興奮剤にはクールタイムが無い事と疲労が取れやすい体質にする事でバランス調整をしています。
似たような理由でバンガロールもローリングサンダーはありません。タイマンでの近接戦闘を最強クラスにする事と司令塔として活躍出来る事でバランス調整をします。

それと今までお話を書き溜めていたのですが今回でストックが尽きたので今までの様な毎日投稿はこれから難しくなります。


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No.8 私達が釣り合うか見て見ましょう?

ローバのセリフ、「品定め」です。
今回は騎馬戦の前半戦です。


 第一種目の障害物競走は1位が緑谷、2位が轟、3位が爆豪、で俺が4位だった。緑谷が先頭に出てから轟と爆豪の追い上げが凄かった。追いつけなかったな。

 ちなみに予選順位は42位までが次の種目に参加出来るとよ。そしてA組、B組のヒーロー科40名は全員突破。残り2名はヒーロー科じゃない奴らだ。

 残った42名はまたグラウンドの真ん中に並ぶ。そして第一種目の時のようにミッドナイト先生が朝礼台の上に立ち、次の種目を紹介する

 

 

「さあ続いての種目はこちらよ! 騎馬戦!」

 

「騎馬戦?」

 

 不思議だな。あれは最低でも3人か4人の競技じゃないのか?

 

「1回戦の上位42人が2~4人が自由にチームを組んで騎馬を作る! そこで先程の第一種目の成績に合わせて1人1人にポイントを割り振らせて貰うわ。42位は5ポイント、41位は10ポイント、42位は15と、1順位上がる事に5ポイント刻みでその生徒の持ち点が増えていくわ!誰と組むかによってそのチームの合計点が変わる!」

 

 ほほう!それは面白いルールだな!という事は点数の高い奴らで徒党を組めば真っ先に狙われる…だから敢えて先の障害物競走でドベだった奴らと組んで点数を抑えるのもありか!

 

「そして第1位の緑谷くんに与えられるポイントは…1000万!」

 

「え?」

「は?」

 

 なん…なんだって?1000?1000万?まてよ?下から5ポイント刻みだよな?…どう考えても1000万にはならないぜミッドナイト先生!?

 

 思わず俺は緑谷の方を見る。すると皆同じ考えなのか皆、緑谷の方を向いていた。驚きだったり、哀れみだったり、ちょうど良いカモを見つけたと言わんばかりの視線など様々。

 実質、1位の緑谷の点数を狙えば確実に勝ち上がれるな。

 

 その後ミッドナイト先生から時間制限とポイントの獲得方法がハチマキ制、騎馬が崩れてもOK(しかし騎馬が崩れた状態で取ったハチマキポイントは無効)。崩し目的の攻撃はアウト(崩しじゃなければOK)。など説明を受けた。

 

「上位4チームのみが次の種目へ進めるわ! さあ! さっそくチーム決め…開始!」

 

 さっそくチーム決めが始まる。と言っても…もうミッドナイト先生の説明の最中にチームは決まっている後はその人が俺達に付いてきてくれるかだが…

 組む気は元から無いが念の為爆豪と轟を見ると、爆豪には切島。轟には八百万や上鳴が行っていた。おっと、八百万は俺の脳内の中で欲しかった選手だが取られちまったか。なら、残り2人を早く取りに行こう。

 そして俺は1人の男に話しかける。ブラッドハウンドに姿を変えてから。

 

「漆黒のヨルムンガンドを従えしものよ。共に行こう」

 

 連出堕の指示のもと、ブラッドハウンドは常闇踏陰に話しかける。ハッキリいってこいつの個性もだいぶ強い。攻撃、防御、索敵が出来る上に騎馬戦は最大4人なのにこいつのダークシャドウって言う個性があれば実質5人分のアドバンテージが出る。18人の個性があっても同時に使えない俺達と違ってこのルールの騎馬戦においては常闇踏陰は強い。

 

「血の猟犬よ。お前に俺達を扱えるか?」

「無論だ、我らはヴァルハラにおいて仲間と狩りを行う。共に戦う事に関しては誰にも負ける事は無い。」

「…いいだろう。よろしく頼む。」

 

 ブラッドハウンドと常闇は握手をする。交渉成立だ。よし、これで有望株は1人ゲットだ。そしてお目当てのもう1人は…おお、いたいた。

 やっぱりチームが組めていないな。そりゃ爆豪や轟と比べて個性を使っていないのに1位になっている。個性が分からなきゃ信用出来るか分からないからな。

 ブラッドハウンドから俺に切り替わり。話しかける。

 

「よぉ、緑谷。組もうぜ」

 

「れ、連出堕くん!? 良いの!?」

 

 緑谷と隣にいた麗日お茶子はまさかの他からのスカウトに驚く。まさか絶対に狙われるであろう1000万の緑谷に話しかけにくるお人好しが居たとは思わなかったのだ。麗日は多分そのお人好しの1人だな。

 

「おう、1000万をかっさらって勝つよりも最初から最後まで1000万を他の全てのチームから守りきった方が目立つしかっこいいだろ? それに奪うのではなく、護るのがヒーローの本質だ。だろ?」

「連出堕の言う通りだな。緑谷、俺もダークシャドウもお前を護る剣となり盾になろう」

 

「連出堕くん! 常闇くん! ありがとう…!」

 

 おいおい泣く事は無いだろ。別にお前の為じゃなくて目立つ為が第一の理由なんだからな。

 

「麗日は緑谷のチームなんだよな?」

「うん…デクくん。色々な人にライバル視されちゃって組む人おらんかったから…」

 

 ああ…飯田か。

 轟のチームを横目に見ると、そこには普段緑谷と仲が良いはずの飯田が居た。仲が良いからこそ超えたいんだろうな。悪くねぇ考えだ。

 さて、チームは終わったし…多分このチームの司令塔は緑谷と連出堕だろう。今のうちに緑谷に教えられるだけ個性を教えておこう___

 

「おっと、ごめんよ!」

 

突然、誰かと肩がぶつかる。振り向くと知らない奴だ。

顔立ちは良いけどそれ以外には特にこれと言った特徴の無い奴だな。多分普通科の奴か?

 

「すまない、中々チームが決まらなくて慌ててたんだ。本当にすまないね。」

 

知らない男子生徒は俺に謝った後にB組の生徒に話しかけていく。B組のさに話しかけてるって事はB組か?いや、チームが決まらなくて焦ってるって事は仲が良いやつが居ない普通科の奴か。

 

まぁ、いいか。とりあえず俺は緑谷にレジェンドの個性を伝える事にしようとしたが…もう試合開始が近いらしい。

 

 

 

 

 

 

「どうだ? コピー出来たか物間?」

「ああ、触れたよ。でも、ここから騎馬を作ったりハチマキが配られたりするから時間切れになっちゃうね…でも警戒心は薄そうだったから隙を見てもう一度試合中に触れるしか無いね」

「1000万の騎馬だぜ? 近づけるのか?」

「だったら触れるのは1000万が取られてからでも良い。とにかくあいつの個性をコピー出来れば良いからね。」

「とりあえずよ…今のうちに個性使ってみたらどうだ? どんな個性か使ってみようぜ!」

「ダメだ、姿と個性が変わる個性みたいだからここで使えば姿が変わった事で警戒される。ぶっつけ本番で使うよ。それに使えない個性だったり、スカだったりしたら使わずに他を触れれば良い。僕達は1000万を狙わない。狙うのは上位4チームだ、いいね?」

「「「おう!」」」

 

 

 

 

俺達のポイントは1000万500ポイントになった。

騎手は緑谷、騎馬は残りの3人だ。

 

そして今回も実況のプレゼント・マイクの合図と共に第二種目、騎馬戦は始まりを告げた。

 

「ま、やっぱりそうだよな。」

 

全騎馬が1000万を狙いにこっちに走ってきたのだ。もちろん、全員が1000万じゃなくてどさくさに紛れて他の騎馬のハチマキを取ろうとしてるんだろうけど…

 

「緑谷、どうする?」

「もちろん逃げの一手!」

 

流石にこの数を全員捌くのは無理がある。緑谷が逃走の意思を表明するととりあえず動こうとするが…足が動かない。

 

「え!? 沈んでる!?」

 

地面が沈んでいやがる。ただの地面なのに沼みてぇだ。こんな強い個性、A組には居ない…という事は…B組か

 

「あの人の個性か!」

 

知らない4人組の騎馬がこちらに近づいている。

 

「連出堕くん! ジェットで抜け出して!」

「了解だ、ヴァルキリー! 交代だ!」

『コピー。』

 

この時間の間に既にヴァルキリーのウルトは使える。ヴァルキリーのジェットパックから安全ベルトが現れ、ややアンバランスになるが、緑谷達3人をがっしりと掴むと…そのまま4人全員で沼から抜け出して上空へと高く飛び上がった。

 

おお、下々の奴ら慌ててるな。耳郎が個性のプラグを伸ばすが全く届かない。さてさて、ヴァルキリーは騎馬戦の想定されたエリアの上空から出ないように上空をゆっくりとぐるぐる回っている。このままやれば地面に着くまでは3分くらい稼げるだろう。制限時間15分の間の3分も安全に稼げるなら御の字だ。

 

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞクソデク!!!」

 

っと思ってたがこんな上空でもこいつはお構い無しにやってきたな。

爆豪だ。

 

まさかの騎馬を置いて爆風でこんな上空まで1000万を取りにきやがった。残念ながらウルト中はヴァルキリーは何も出来ない。防御は常闇とダークシャドウに任せる形になるが。

 

「オラオラオラァ!!」

 

ダークシャドウが身を呈して爆豪の爆破から守ってくれているが、爆豪は一向に地面に落ちない。こいつ、攻撃と空中に維持する為の爆破を繰り返して落ちないぞ!化け物か!?

 

「緑谷、ダークシャドウがもう耐えられないぞ!」

 

常闇がそう緑谷へ告げる。騎馬戦が始まる前に少し常闇の個性を教えてもらったが、どうやらダークシャドウは光を食らうと小さくなり、気弱になり、更に攻撃力もかなり低下するそうだ。爆豪が爆破する毎に光が現れる為、ダークシャドウは爆豪の攻撃を食らう度に弱くなっていく。

 

「こうなったら…連出堕くん! 地上へ降りて!」

「コピー。」

 

3分くらい稼ごうとしたがこのままでは危険だと判断し、少し勿体ないが地面をすぐさま降りる事にした。ヴァルキリーは地上へ急降下した後にジェットパックの強さを弱めて地面へゆっくりと降り立つ。地面が一定距離近くなれば地面に脚を着くことが許されない爆豪は騎馬へと戻る。そして自由になったダークシャドウは地上へ着地する俺達へ襲いかかる他の騎馬へ牽制し始める…が…

 

『…!? フミカゲ! 何かオカシイ! 何か俺の中にイル!』

 

突然、常闇のダークシャドウが硬直したり動き始めたりを繰り返し、まるで自分のコントロールが出来ていないようだった。

 

「どうしたダークシャドウ!?」

「常闇くんどうしたの!?」

「分からない…ダークシャドウの様子がおかしい!」

 

暴走しているのかしていないのか分からないが動きが確実におかしくなったダークシャドウは周りの騎馬を追い払ったりはしてくれるが途中で静止したり、こっちに向かって襲いかかって来ようとして止まって他の騎馬へ向かったりとおかしくなっている。

 

とりあえず他の騎馬は近づいてこれないから常闇はダークシャドウの制御に集中しようとするが…そこで俺達はダークシャドウはただ一つの騎馬を牽制しない事に気づいた。そしてその騎馬が、真っ直ぐと…緑谷のハチマキでは無く、連出堕に向かっていた事に…

 

「借りるよ、君の個性。黒色、戻っておいで!」

 

先程の特徴の無いやつがヴァルキリーの肩に触れて、ハチマキも取らずに去っていった。

そしてその瞬間、ダークシャドウから黒色の人間が這い出て来た。

 

「え!?」

「え、何?」

「あいつの個性か!」

 

黒色の人間はダークシャドウから突然出現した後に特徴の無いやつの騎馬に戻り、騎馬を組み立てなおす。

おい、あれ何しに来たんだ?騎手ならともかく、騎馬が離れたらそれは騎馬が崩れている判定。つまりその状態でハチマキを取っても点数にならない…いや、だから緑谷のハチマキを取れたのに取らなかったんだろうが…ヴァルキリーに触れに来た…?そういえばあいつ俺にもぶつかってきたな…なんか借りるって言ってたが…

 

俺はふと麗日お茶子を見て、とんでもない予想をする。

 

「まさか借りるって!?」

 

麗日は触れた相手を無重力状態にする、触れた時に発動する個性。つまりあいつも似た個性である可能性がある。そして個性を借りるという言葉…相澤担任の様に個性に直接何かしらの影響を与える個性もある。

この2つから連想出来る言葉は、個性を奪う…だが1度あいつに触れられたけど個性は奪われていない…連出堕の個性じゃなくて俺の個性が奪われた?じゃあ今の2度目はヴァルキリーの個性を奪った?

 

『ヴァルキリー! 個性は!?』

「…問題無く使える、ジェットパックも動くよ? 奪う個性じゃないんじゃない?」

 

最悪の事を想定したがヴァルキリーは問題無く個性を使える。そして個性を通じて会話が出来るという事は連出堕の個性を奪われていない…つまり…あと借りるという言葉で想像出来るのは…

 

『真似る個性か!?』

「さっきからどうしたん連出堕くん?」

 

触れた相手の個性を使える個性…十分に有り得る。個性を封じる個性があるくらいだ。珍しいがこの雄英なら有り得る。そんな個性が居ても!

 

「個性を真似られたかもしれないってさ。私の個性か、連出堕の個性のどちらを真似られたかは分からないけど…私ならミサイルやジェットパック。連出堕なら…最高18人分の個性が使われる!」

 

「「「え!?」」」

 

ヴァルキリーが代わりに説明してくれたな。あのコピー野郎は俺達を無視して爆豪の騎馬へと向かっていく。どうやら1000万を狙う気は無いのか…もしくは爆豪の個性もコピーしに行ったのか。

どちらにせよあいつが今1番厄介な存在になりやがった!

 

『下等なモルモットが我々の個性を使うなど度し難いな』

『使った瞬間に殺してやるか…その時は変われ』

「な、なんか連出堕くんから凄い物騒な声が聞こえるんだけど…」

 

…今緑谷が恐れた2人の個性、人格を使えば最悪、死人が出る。コピーする個性なんて初めて見るから想像もした事も無いから連出堕の個性をもしも使ったらどうなるか分からない。頼む、ヴァルキリーであってくれ!

 

「さて、じゃあさっそく1位宣言しておきながら1位から程遠いヘドロ事件くんにこの個性を試してみるか。」

 

B組のコピーの個性を持つ、物間寧人はコピーによって手に入れた個性を発動させる。すると、物間寧人の姿形が変わり始める。

 

『最悪だ! 連出堕の個性だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪の目の前にはダミー人形が現れた。

 

「あ?」(爆豪)

『え?』(オクタン)

「え?」(緑谷)

《え?》(プレゼント・マイク)

「「「え?」」」(回原、円場、黒色)

「………」(物間)

 

 

その瞬間、俺を含むレジェンド達はきっと人生の中で1番の大笑いをした。

 

『ハハハハハハッ! 見ろよクリプト! こいつぁ傑作だぜ! ハハハハハハハハ!!!』

『…集中しろ…ぷッ、笑ってる場合じゃ…ククッ無い…グフッ』

『凄い! ダミー人形だ! 連出堕くん以外が使うとこうなるんだね!』

『はっはっはっはっはっはっ。所詮ただのモルモットがレジェンドの力を扱うなど無理だったという事だ。しかし実に興味深いな』

『(笑い声)』

『(不気味な笑い声)』

 

くっそwwwあんだけ警戒させておいてダミー人形なんて有り得るかよ!こんな緊迫した空気感だったのによ!

見ろよ!爆豪も目の前にダミー人形を抱えた騎馬が現れて間抜けな顔を晒してるぜ!しかもしかも!あのコピー野郎、意識の存在しないダミー人形になっちまったから元に切り替えられないぜ!どんなに命令に順序なレジェンドでも意識が存在しないダミー人形は切り替わる事が出来ない、考えられないぜ!

何せ双方のレジェンドの合意と連出堕の認証が無いと俺達レジェンドはそう簡単に切り替わる事が出来ない!それがあいつには今出来ないからずっとダミー人形なんだ!

流石に一生ダミー人形は可哀想だから後で元に戻るの手伝ってやるよ。この試合が終わった後でな!ははっ!

 

「おいしっかりしろ物間!」

「何してんだ物間!」

「物間…起きろ…」

 

「…………」

 

 

 




これ普通にホラーですよね。
オクタン達は大爆笑してますけど、これ5分でコピーした個性が無くなる個性じゃなかったら、個性破壊とかでもしない限り一生ダミー人形ですよ。(イレイザーヘッドの抹消、レヴナントのサイレンスでも、切り替えや個性を使えないだけで本来の姿に戻る訳では無い。発動型と異形型の半々なので)

物間くんは5分間、誰も居ないレジェンドの控え部屋で1人で閉じ込められます。5分で元に戻るのは確定だから良いですけど、もしこのまま一生ダミー人形なんじゃないか?って少しでも思った瞬間、精神崩壊は免れませんね。
自分で書いててちょっと怖くなって来ました。こういう一生何も出来ない状態になるお話がなんだかんだ一番怖いですよね。


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No.9 気をつけて、私は全てを奪うから

タイトルはローバのセリフ、「身も心も」からのセリフです
騎馬戦後半。そろそろこのセリフをタイトルにするの厳しくなってきた()
とても短め。


「酷い目にあった…」

「おかえり物間、良かったぜ。一生あのままかと思って気が気じゃなかった…」

 

 あれから5分たった。残り時間は8分。どうやらダミー人形くんは元に戻れたようだな。良かった良かった。

 だがこっちは良くない。今まで全部ヴァルキリーのゆっくりとした垂直飛行やジブラルタルのドーム、常闇のダークシャドウで防いで来たが…今目の前に轟、八百万、飯田、上鳴というとんでもない組み合わせの騎馬と出会っちまった。

 

「そろそろ獲るぞ…1位を」

 

 光が弱いダークシャドウにとって上鳴と轟は相性最悪、実質連出堕である俺がこいつらを相手しないと行けない。しかも時折突っ込んでくる爆豪にも気を遣わないと隙を見て奪われる。こいつは厳しいな。

 そうこうしているうちに何やら八百万が分厚いマントと長い杖の様な物を創り出した。なんだあれ?杖と分厚いマント…?なんだ、ホグワーツにでも行くつもりか?

 

【危険よ、そこから離れて!】

 

 すると、脳内にレイスの虚空の声が響く。何がどう危険なのかさっぱり分からないが少なくともここで様子見してて言い訳では無さそうだな。虚空の声は俺以外には聞こえないから俺はすぐさま緑谷達に少しでも後方に下がる様に伝えた。この状況下においての危険は間違いなく何かをしようとしている轟の騎馬だ、こいつらから少しでも離れないと行けない。

 

「無差別放電! 130万ボルト!」

 

 そして予想通り、少しでも離れて正解だった。八百万が創った分厚いマントは絶縁シート、長い杖は上鳴の無差別放電で動けなくなった周りを完全に拘束する為に轟の凍結が地面を介して周りに行き渡る為だけの杖だった様だな。これで妨害してくるやつは…騎手だけで飛んでくる爆豪以外は居ない…これをラッキーと捉えるかアンラッキーと捉えるか…轟とのサシ対決が始まっちまったな。しかも、轟は俺達の周りをぐるりと囲む様に氷を作った為、退路はほとんど無い。ヒューズのマザーロードで氷を溶かそうにも囲む様に作られた氷には他のクラスメイトがくっ付いてる。マザーロードなんて使えば死人が出るな。

 虚空も緑谷を連れて行けない…ポータルもダメだな…ジャンプドライブは自分以外の生命体は連れて行けない…引く事は出来ないってか…だが、プレゼント・マイクの実況曰くあともう1分だそうだ。

 ダークシャドウで牽制しながら何とか時間を稼ぐしか無さそうだな。

 

 緑谷は必要に轟の左側を取るように立ち回るよう言ってきた。どうやらこれで無闇に轟は凍結が使えないらしい。飯田が巻き込まれるからだ。

 なるほど、よく見てるな緑谷。だが…何と言うか轟のやつなんかさっき左側を…よそ見して見つめたりしてたけどどうしたんだあれ?

 まぁ、良いか。とりあえずこのまま行けば向こうがヤケを起こさない限り勝t_____

 

「レジプロバースト!!!」

 

 その瞬間、俺では絶対に辿り着けない領域…それ程までの速さで轟の騎馬は接近し、緑谷の1000万のハチマキを奪い去った。

 

「は?」

 

 速すぎる。見えなかった。攻撃ではなかったから虚空の声も響かなかった。俺達がハチマキを取られた事に気づいたのは轟の騎馬が俺達の隣を過ぎ去った後だった。

 

「まずい! 取られた!」

「待て緑谷! 1000万を奪い返すよりも他の騎馬の点数を取った方がよいのでは!?」

「ダメだ、他の人の点数の散り具合が分からない、それに見て! 今かっちゃんが轟くんと戦っている! 奪うなら今しかない!」

 

 確かに…今目の前で爆豪が1人で轟と争っているが…あの中に割り込むのは無理があるな…

 くっそ…あともう少しだったのにな…残念だ。

 

「諦めちゃ駄目! 獲りにいくよ!」

 

 と言っても取られちまったもんは仕方ないだろ…はぁ、くそ

 

 

 

1()0()0()0()()()1()()()()()()()()()()が1番かっこいいからそうしたかったが、仕方ないな。

 

「取れ、ローバ」

『いいものゲットしちゃったわ』

 

 そしてローバと入れ替わり、その手には轟が奪っていったはずの1000万のハチマキが握られていた。

 

「は!?」

「なっ!?」

「え!?」

 

 轟、爆豪、緑谷は驚愕する。そうか、あの障害物競走の時はプレゼント・マイクが解説しなかったし俺も俺達も誰も説明しなかったからローバの個性は瞬間移動やワープだと思われてんのか。そうか、そりゃそうか。知ってたらローバをとても警戒するはずなのに全くと言っていいほど警戒してなかったからな。

 まあ、どちらにせよ。俺達は1度もハチマキを取られずに1000万保持で勝利したかったんだが…それは叶わなかったな。1位で突破には変わらないが、俺達を出し抜くなんて流石だな。轟、上鳴、八百万、そして飯田。あのスピードはお前なんだろ?震えたぜ、俺じゃあ一生出せないスピードだ。

 

《終〜了!!!!!》

 

 15分たった、騎馬戦は俺達が1位、轟が2位、爆豪3位で…心…操?ってやつが4位だ。いや〜本当に悔しいぜ、勝手に自分達でルールやこだわりを作ってそれに従ってただけだがそれも出来ねぇとは…障害物競走の様なレースじゃなくて騎馬戦の様な戦闘向きな競技でこそ活かせる俺達の個性なのに…それがあってもハチマキを1度取られちまうとはな…

 この悔しさを忘れずに次の競技こそ1本取られずに勝ちたいな。

 第1種目では緑谷、第2種目では轟達に1本取られちまってるからな。

 

 連出堕の個性のアピールは出来てるだろうけど…こう1本取られ続けたら爪も脇も甘いと思われちまいそうだな…

 




セリフのみでの参戦だったり全く本人が登場していないレジェンドはあと半分以上も居ますかね。第三種目はオクタン以外のレジェンドを使う予定です。


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No.10 君を殺す事になるかもしれないパスファインダーだ!

※こちらのタイトルはヒーロー志望の方のセリフです。


 第2種目の騎馬戦が終わったあと、ひとまず午前の部が終わり午後の部が始まるまで昼休みの時間となった。

 そこで俺は緑谷と轟が2人揃ってスタジアムの学校関係者専用の通路に向かって行くのが見えた。なんか気になるな……

 俺はそんな小さな好奇心で2人にバレないように2人の死角で話を聞こうとしたが…なんか先に爆豪が居た。

 こいつも隅に置けないな、人の話を盗み聞きとはな!もしかして俺がクラスや個性把握テストで連出堕の個性を話した時も実は帰るフリして何処かに隠れて聞いてたのか?

 俺はニヤニヤしながら爆豪を見つめるが、爆豪は特に反抗したり声を荒らげてキレる様な事はせず、緑谷と轟の話に耳を傾けていた。

 そんな気になる話してんのか?あの二人。

 俺も2人の話に耳を傾ける。

 

「俺の親父はエンデヴァー、万年No.2ヒーローだ。知ってるよな」

 

「っ!?」

 

 最初に届いたのは轟の言葉、おいおいマジかよ。轟の親父ってエンデヴァーなのか!?世界でオールマイトに次ぐプロヒーロー。ヴィランを捕まえた数、撃退数ならオールマイトよりも上を行くかも知れない炎系最強のプロヒーローだ。なるほど、轟がそこまで強い理由は分かったぜ。というか飯田の兄がインゲニウムで轟の親父はエンデヴァー…探せばそのうちミルコの妹弟とかヨロイムシャの孫とか居るんじゃねぇか?

 というか待てよ…なんで轟は氷の個性なんだ…?いや、一応氷を熱で溶かしているから炎の個性は受け継いでるんだろうが…

 

 そこまで考えたところで、轟は話の続きを話していた。

 それは個性婚の話。個性が発現してから少し立ったある時期に流行った倫理観の問題。自身の個性をより強く後世に残す為に配偶者を個性で選ぶという種としては間違ってないが人としては間違っている発想。なんとあのエンデヴァーはその個性婚に基づいて氷の個性を持つ轟の母を配偶者としたのだ。金や実績で轟の母方の親戚を丸め込んで…

 より強い個性を持つ子供を作るための配偶者だ。そこに愛なんてある訳も無く、轟の母は気を病んでしまい、轟の左側…つまりは赤い髪…熱を出す方だな…左側が憎いと煮え湯を浴びせたという。あの轟の左の赤い模様って火傷のあとなのか…個性の影響かと思ってた。

 轟はエンデヴァーの力…左を使わずに右の力…母の力だけで1位になるという事で、エンデヴァーを完全に否定する為に……

 

 エンデヴァー………特別好きなヒーローでは無かったが…それでも敬意は評していた。しかし…あまりにも轟が可哀想だな。

 個性にコンプレックスや問題を抱えて本人に何らかの問題や弊害が起こってしまうのは少なくはない。連出堕だってそうだ、俺達個性が発現さえしなければこいつは無理にヒーローにならずとも自由に未来を選んで自由に暮らせるはずだったからな。

 轟も轟の母も個性による被害者だな…

 

 …戻るか。

 

_________A P E X_________

 

 

 昼休みが終わり、午後の部。第3種目…最終種目の発表がされる事となった。

が…その前に…

 

「なあ八百万、耳郎。なんでチアリーダーの服装してんだ?」

 

 俺は近くに居たチアリーダー服のA組女子に話しかけた。

 

「…聞かないで下さい……!」

「上鳴と峰田のアホが…!」

 

 何かよく分からんがとりあえず上鳴と峰田が悪いって事は分かった。

 さて、そんな事よりも最終種目が発表された。最終種目はトーナメント形式の1対1のガチバトルだそうだ。これ体育祭だよな?なんでそんな武術大会みたいな事をしないといけないんだ?確かにヒーローには戦闘能力は必要だが…レスキュー能力とかをアピールする種目は用意しなくていいのか?

 盛り上がればそれでいいのか、もしくは個性をよりアピールしやすい争い事にしたのか。どちらにせよ俺達レジェンドの得意分野だから文句は言わないでおこう。

 あと、なんか尾白猿夫とB組のチビデブが辞退した。理由はなんか記憶が無いらしい。どういう事か分からないがミッドナイト先生がその2人の辞退を認めて、代わりにB組から全身が鉄みたいな男子生徒と髪の毛が茨の女子生徒が繰り上がりで最終種目に参戦だそうだ。

 今更なんだが…16名中13名がA組って偏りすぎじゃないか?あのUSJで本物のヴィランとの戦闘があったおかげでそれ程までにA組とB組で差が生まれたのか……もしくはB組がヒーロー科の落ちこぼれが集まるクラスなのか知らないが…B組のヒーロー科生徒の個性もよく見て見たかったな。今のところ、地面をドロドロにする奴とダミー人形とダークシャドウに潜り込む個性しか知らないぜ。

 

 っと、そこでミッドナイト先生から組み合わせが発表された。俺の初戦の相手は……飯田!?おいおい最初から中々の強敵だな。負ける気は無いが…爆豪や轟、緑谷じゃなくて良かったぜ。

 ほかの組み合わせを見ると…八百万と常闇が初戦でぶつかる。これはラッキーだな、厄介な奴らが初戦で潰しあってくれる。あとは轟と緑谷はどちらか片方しか俺とぶつからない。あちらも潰し合う。爆豪は…麗日と!?おいおい麗日可哀想だな。

 

「連出堕くん、共に全力で戦おう」

 

 飯田が話しかけてきた。何気に1対1で話すの久しぶりだな。

 

「もちろんだ、スピードでは俺はお前に適わないが戦闘なら別だ。俺達は全力でお前を倒す。」

 

 俺は飯田と握手して宣戦布告をする。ああ、最高だな。さっきこのガチバトルトーナメントに少し不満をもたらしたが共に歩んできた仲間、好敵手と戦えるなら最高の最終種目だ。少しエンデヴァーの話で落ち込んでいた心が少し軽くなったぜ。

 ひとまず、この後は予選敗退者が活躍する為のレクリエーションがあるらしい。最終種目に参加する予選突破者の参加、不参加は自由だそうだが…俺は不参加だ。レクリエーションはあくまでお遊戯、そこで個性を見せびらかしてもあまり注目されないし、手の内を最終種目前に広めるのは得策じゃない。俺は控え室で連出堕と他のレジェンド達と作戦会議に入るとするかね。

 

 

 

 そして…レクリエーションはあっという間に終わり、最終種目が始まりを告げた。俺は第4試合からだから第3試合直前までは試合を見学する事にした。

 第1回戦第1試合は緑谷対心操。辞退した尾白曰くあいつは人を洗脳する個性らしい。なるほど、尾白が記憶が無いって言ってたのはアイツに洗脳されたからなんだな。しかし、洗脳か…俺が洗脳されたらどうなるんだ?連出堕が洗脳されるのか、俺だけが洗脳されるのかレジェンド含む全員洗脳されるのか…とにかく洗脳されたらレジェンドの切り替えは封じられそうだから危険な個性だな。

 この試合は緑谷が勝った。なんか知らないけど自力で指を破壊して洗脳を解いて心操を場外へ投げ飛ばした。

 

 そんで第2試合。これは凄かったな。

 轟対瀬呂範太。どうせ轟が勝つだろうと思っていた。その通りではあったんだが…轟がとんでもない出力で氷を作り出して瀬呂を凍らせたのだ。とんでもない出力の氷ってのは……今俺達が居るスタジアムの半分くらいの大きさの氷を一瞬で作り出しちまった。

 はっきりと言わせてもらうぜ、化け物だ。

 15歳でこの大きさの氷を一瞬で作り出すなんてありえねぇ、何トンという大きさの氷だぜ?ありえねぇ。

 っと、とりあえずこれで第2試合が終わって次は第3試合だ。第4試合の俺は控え室に向かう。第3試合は上鳴電気対B組の茨髪の女子生徒だが…まあ上鳴電気の圧勝だろう。これは見るまでも無いと俺はその場からあとにした。

 

 

 しかしその後、第4試合でスタジアムに向かう途中の廊下で俺は救急ロボットに搬送されるアホ面の上鳴電気を見かけた。どうやら負けたらしい。 

 

「嘘だろ…?」

 

 上鳴電気は強い。確かに俺達レジェンドや轟、爆豪よりは弱いと思うがそれでも触れた相手に130万ボルト程の電撃を流し込める個性は恐ろしく強い。触れなければならないが逆に触れれば勝てると言っても過言では無い個性だ。そんな上鳴が負けた…

 訂正しよう、B組は落ちこぼれの集まりなんかじゃねぇな。ちゃんと強い。

 

「油断は出来ねぇな。元からするつもりなんて無いが…」

 

 俺は準備運動をする。もしかしたら俺の出番は無いかもだが雰囲気作りだ。そして俺はパスファインダーと入れ替わった。

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 第4試合。飯田天哉対連出堕苑葛の試合。今のところ、飯田はインゲニウムの弟として話題を集め、連出堕はその様々な姿、様々な個性で臨機応変に対応する個性が話題を呼んでいた。両者に対する評価はどちらも高かった。だからどちらにも期待していたしどちらが勝ってもおかしくなかった。

 

《さァー! 次の試合に行くぜ!》

 

 プレゼント・マイクの選手紹介が始まる。

 

《ザ・中堅って感じ!? ヒーロー科飯田天哉! VS なんでもありなビックリ箱! 同じくヒーロー科の連出堕苑葛!》

 

 雄英の教師であり、プロヒーローでもあるセメントスが己の個性で作ったコンクリートの闘技場の上に飯田とパスファインダーは上がる。

 最初からパスファインダーに切り替わってるのは試合前に個性を既に使用してるのと同義であるがどれが連出堕として判断するか曖昧なのか審判も実況も誰も文句は言わない。

 

(…彼は確か、パスファインダー…だったか。腕からフックを飛ばす個性、そして身体は金属製のロボット…下手に殴り合い等に持ち込めば痛い目を見るな)

 

 飯田はパスファインダーとなっている連出堕をよく観察している。ここで知らない姿で現れる事を想定して、何百通りのデモンストレーションを行ったが、杞憂に終わったようだ。しかしだからといって油断はしない。個性の切り替えが自由な連出堕であるから試合の最中に知らない個性を使うかも知れない。

 

(…最速で終わらせる!)

 

 そう飯田は判断した。使われる前に終わらせる。飯田の個性だから為せる事を行うのだ。

 

「両者、用意!」

 

 ミッドナイトが鞭を振り上げる。飯田は少し姿勢を低くしていつでも最高速度を即座に出せるようにする。パスファインダーは両手をグーにして構え、まるでボクシング選手の様な構えだ。

 

「START!」

 

 審判のミッドナイトが鞭を振り下ろすと同時に飯田は自身の最高速度を出す為に、後々1分ほど個性のエンジンが使えなくなってしまう諸刃の剣であるレジプロバーストを使用して一気にパスファインダーとの距離を詰める。オクタンですら絶対に出せない速度、連出堕自身が見るのは2度目だが1度見たから対処できるスピードでは無い。

 飯田はそのスピードに任せ、パスファインダーに強力な蹴りを入れる。飯田の予想通り、パスファインダーはそのスピードに対処出来なかったのか、思いっきり後方へと吹き飛ぶ。鉄の塊であるロボットのパスファインダーだが実は思っていたよりもだいぶ軽い。そういう特殊合金で出来ているからだ。それが仇となり、パスファインダーは宙に浮いて場外へと吹っ飛ばされるが…

 

 突然、飯田の身体が()()()()()()

 

 

 パスファインダーのグラップルだ。

 

「しまっ…!」

「君がスピードで決着を決めに来るのはわかっていた事だ。だから利用させて貰うよ」

 

 飯田が個性の強みの問題で、早期決着を望むのは誰でも予想出来る事だ。それも多種多様な個性を持つ連出堕相手に長期戦など不利であるから尚更である。

 そして何事にも本気で望む飯田なら騎馬戦で見せたあのエンストしてしまう超スピードを行うと踏んでいた。そしてエンストすれば飯田はまともに動けない。自慢のスピードもない。

 そこにグラップルを当てて飯田を引っ張ることなんて造作も無い事であった。

 

 飯田は場外空中に居るパスファインダーの方へ引き寄せられ、パスファインダーは場内地面に居る飯田に引き寄せられる。ちょうどその中間地点で2人は殴りあえる距離へとなるが…飯田は空中に引っ張られる経験などした事が勿論無く、ただもがく事しか出来ないが空中機動がお手の物なパスファインダーはその長い金属製の脚で空中ドロップキックを飯田の腹部へと直撃させた。

 

「がはっ…ッ!」

 

 そのままパスファインダーは飯田の上を取り、全体重を飯田に乗せて地面へと叩きつける。

 着地地点は場外判定となる白線ギリギリ、飯田の半身とパスファインダーの半身も場外判定だが、パスファインダーは飯田の上に乗っているため、場外の地面に触れていない。対して飯田は右手や右足が場外の地面へと触れている。

 白線の外、場外でも地面に触れていなければ数秒間はセーフとなる(数秒間セーフの理由は空を飛べる個性で場外の空中にずっと居られたら困るので)

 なのでこの場合は地面に触れていないパスファインダーがセーフ、触れている飯田は場外判定である。

 

「そこまで! 勝者連出堕くん!」

 

 ミッドナイトは鞭を振り上げて連出堕の勝利を宣言する。

 

 そこで、パスファインダーはようやっと飯田の上から退いて、飯田に手を差し伸べる。

 

「ごめんね、痛かったかな?」

「ゲホッ…ゴホッ…い、いや、大丈夫だ。ありがとう。」

 

 飯田は咳き込みながらもパスファインダーの手を受け取り、立ち上がる。腹部にドロップキックをくらい、受け身もまともに取れずに背中からコンクリートの地面に思いっきり叩きつけられたら誰だって激しく咳き込む。むしろまだ立ち上がれる飯田はまだ高校生だと言うのに凄いとしか言いようが無いだろう。

 

「連出堕くん…ゴホッ、全力で戦ってくれて感謝する…」

「どういたしまして!(^^)!」

 

 胸部にある液晶画面に嬉しい顔を表示させながら、パスファインダーは飯田に肩を貸しながら保健室へと向かっていった。念の為、頭をぶつけているかもしれないので検査を受けさせた方が良いからだ。

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 飯田は特に脳とかに問題は無かった様だったな。パスファインダーから俺に切り替わり、俺と飯田は観戦席へと向かおうとするが…飯田は控え室へと戻った。どうやら爆豪と当たる麗日お茶子が気掛かりの様だ。確かにな…相手はA組の中で最も暴力的な爆豪だ。命までは取られないだろうが…無事では済まないだろうな。良くて火傷、酷くて四肢欠損とかだろうな。

 あいつの性格上、女だからといって手加減するとは思えない。そこがあいつのいい所ではあるんだが…

 

 おっと、次の第5試合が始まったな。青山優雅と芦戸三奈だ。どちらもA組の中だったら下から数えた方が早いという弱い実力者だが…この試合は芦戸に軍配が上がった。

 そして次の試合は常闇対八百万だ。八百万は女子生徒の中だったら間違いなく最強だろう。常闇も連出堕や轟、爆豪を除けば男子生徒最強だ。というか爆豪や轟は個性の出力が異常に強いのに対して常闇は個性そのものが強すぎる。

 試合結果としては常闇の圧勝。八百万の個性である『創造』をほとんど使わせずに一方的に場外へ押しやった。

 そこで緑谷が麗日の様子を見てくると言って控え室へと移動しようとしていた。

 

「おい、緑谷。せっかくだから爆豪の弱点とか麗日に教えてやったらどうだ? お前爆豪と同じ中学なんだろ?」

「う、うん。かっちゃんとは同じ中学だけど…」

「教えてやりな、別に相手の情報共有や作戦を考える事は卑怯ではない。こういった交友関係も大事だからな」

「うん…だから対かっちゃん用の作戦をこのノートにまとめてみた! 付け焼き刃だけど…麗日さんならきっと勝てる…!」

 

 おお、自分の立てた作戦に自信があるんだな。いや…違うな、それ程までに麗日の実力を信じて評価してるって事か…いいね。

 緑谷は控え室へと向かい。俺は引き続き、次の試合を見る。次は切島とB組の鉄の男子生徒、名前は…鉄哲徹鐵?面白い名前だな。名付け親の顔が見てみたいぜ。

 そいつらの殴り合いだった。2人とも個性が同じ硬化系の個性だからか、中々決着が付かずに引き分け。後々腕相撲で決着を決めるとの事。

 引き分けだと腕相撲なんだな。

 

 そして…第8試合。麗日お茶子対爆豪勝己。

 

 どうやら麗日は緑谷のアドバイスを聞かずに自力で作戦を立てて戦うつもりのようだ。おお、意外と熱い性格してるな。

 試合が始まると、爆豪は右手の大ぶりで躊躇無く麗日に爆撃を入れた。対して麗日は爆撃をもろに食らっても退くこと無く爆豪に個性を発動させようと触れようとしている。

 だが…はっきり言って爆豪は化け物だな。麗日が囮や不意打ちで近づいてもとんでもない反射神経で麗日に爆撃を与えている。無傷の爆豪にボロボロの麗日…こりゃあ勝ち目は無いな…

 

 そう思っていたが…

 

「おっ」

 

 俺はふと、爆豪と麗日の上空に瓦礫が浮いているのに気づいた。なるほど、爆豪の爆撃で産まれた瓦礫に片っ端から触れていたのか…そして爆豪は麗日を警戒していて全く気づいていない。こんな量の瓦礫が降り注いできたのなら…少なくとも連出堕ならジブラルタルのドームシールドかレイスの虚空、ワットソンのパイロン等の守りの個性を使わないとどうしようもなくやられてしまう。つまり…攻撃しか出来ない爆豪の勝ち目は薄いって事だ!

 

 それに気づかず爆豪を女の子をいたぶってる嫌な奴だと判断してブーイングしたプロヒーローは恥ずかしいな。いや、もうプロじゃねぇな。俺達のような生徒ですら気づいたってのによ。

 

 麗日は個性を解除して浮かせていた瓦礫を流星群のように降り注がせる。どう足掻いても避けるのは不可能、そして爆豪が流星群の対処をしているうちに麗日は爆豪に急接近する。なるほど、流星群で倒すんじゃなくてあくまで浮かせて場外へ連れていくつもりか。

 

 

 だか…爆豪は片手で、一撃で流星群を全て粉々にした

 

「……マジかよ」

 

 轟のあの巨大な氷もそうだがどうやってこんなえげつない火力をわずか15歳の身で出しているんだ?これに関してはもうプロヒーローも真っ青の超火力だ…下手すれば戦車よりも火力が出ている。マジモンのバケモンだ。

 もし俺が緑谷または轟を倒して勝ち進めば確実にあいつと当たる事になるだろうな。怖ぇな。

 

 結果、麗日は決死の作戦が打ち破られてもまだ爆豪に向かおうとしたが…蓄積していたダメージと個性の副作用で倒れてしまった。やはり爆豪の勝利となったな。

 これで第1回戦の全試合が終了(切島と鉄哲の腕相撲は切島の勝ちとなった)。第2回戦までは少し休憩の時間だ。

 …あ、そういえば次の俺達の試合。上鳴じゃないんだよな。

 

 茨の髪の毛の個性の少女だったか…茨の髪の毛になるだけの個性か?身体の部位を茨に出来る個性か、または茨の化け物を生み出す個性か…俺はとりあえず上鳴に尋ねてみた。

 

「あの塩崎って茨の女子生徒はどんな個性だった?」

 

「あー…髪の毛の茨を伸縮自在に操る個性だったな。俺の電力を全部防いでぐるぐる巻きにされた」

「何も出来ずにやられててマジで情けなかった…ブフッ!」

「うるせぇ」

 

 どうやら上鳴は完封されたらしいな、耳郎にバカにされても強く言い返せて無い。しかし上鳴の個性を完全無効化して尚且つ伸縮自在か…

 

「まるでシンリンカムイの様な伸縮自在の植物系の個性でリーチは勿論、攻撃や防御に使える。常闇くんのダークシャドウの様に猛攻は出来なくとも炎でもない限りは絶対的な防御力を誇る。しかも伸びるだけじゃなくてその圧倒的な量、質量を無視した……ブツブツブツブツ…」

「お、おい。どうした緑谷?」

「連出堕くんの個性は全部明らかになって無いけどもし炎系の個性が居るのならだいぶ強気に出れるけど下手したら大惨事になりかねない。だからここは会えて炎ではなくグラップルによる拘束、またはあの個性を無効化する攻撃で……ブツブツブツブツ…」

 

 な、なんかよく分からねぇけどすっごい考えてるんだな。うん。まぁ、いいや。

 対策を考えてくれるのはありがたいが、連出堕自身の個性を知るのは連出堕自身。最適解は連出堕本人が出せる。

 リーチと防御力が凄い茨の個性だったな?ならばマザーロードを扱えるヒューズか斬撃を使えるブラッドハウンド辺りだな。シアでも問題なさそうだ。

 

 そうして俺は連出堕に判断を委ねるが………

 

「_______」

 

 連出堕の判断は想像だにしていないものだった。

 

 

はぁ!? 嘘だろ!?

 

 俺は思わずその場に立ち上がって叫ぶ。

 

「え、え? どうしたの連出堕くん!?」

 

 いきなり1人で叫んで立ち上がる俺に緑谷や耳郎達は驚いて引いてるようだった。傍から見たらそうだろうな。

 

「いや、すまねぇ。今連出堕本人と会話をしていたんだ。」

「そうか、連出堕は個性を通じて連出堕本人と会話出来るんだもんな。」

「レジェンド達は連出堕の指示に従うんだっけ?」

「ああ、その通りだ……」

 

 上鳴と耳郎の言葉に適当に相槌を打って、俺は連出堕との会話に戻る。レジェンド同士の会話は口に出さないとだが連出堕本人とレジェンドとの会話に関してはその限りでは無い…俺は無言で空を見つめて連出堕と会話する。まるでテレパシーの様な光景に周りのA組のクラスメイトが何人か顔を輝かせて興味津々だが…

 

 反対に俺の顔色は悪くなってきた。

 

 そして、連出堕との会話を終えて。俺は座席の背もたれに全体重を乗せる。

 

「連出堕くん…大丈夫?」

「連出堕は大丈夫だ。だがこのオクタビオ・シルバ自身はそうでも無いな。」

「な、何があったの?」

「なに…次の試合はとあるレジェンドに任せるってよ。」

 

 心配する緑谷に俺は素っ気なく答える。

 

「もしかして出番が無いからって落ち込んでるんでしょ!」

 

 耳郎はニヤつきながらいたずらっぽく聞いてくる。だがそんなしょうもない理由じゃない。確かに出番は無いのは確かだが…どうでもいい。

 

「いや…次の試合、下手すれば……………いや、何でもない。忘れてくれ」

 

「え!? そこまで言われたら気になるぜ!何があるんだよ!」

 

 これは言うべきじゃないかもな…尋ねてくる上鳴を無視して。俺は空を見つめる。

 ついさっき、連出堕に言われた指示。従うしか無いが…俺は次の試合に当たるまだ会話もしていない、親しくもない、名前もよく知らないB組の茨の女子生徒に同情した。

 

 

_________A P E X_________

 

 ~約1分程前~

 

「おい、連出堕。結局次の試合は誰にするんだ? ヒューズか? ブラッドハウンドか? それとも俺か?」

 

「次の試合は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レヴナント、君だよ。

 

 

「ッ!?」

「レヴナン…!?」

「嘘だろ……?」

「おお! お兄ちゃんなら安心だね!」

「はははっ! おいブラザー、勢い余って殺すんじゃねぇぞ! なーんてな!」

 

 レジェンド達が揃っている連出堕の個性によって出来たレジェンド達の為だけの空間。連出堕の一言で全レジェンドが一斉に空間の最後尾に鎮座する…その存在に目を向けた。

 その存在の選出に驚く者、狼狽える者、激励する者、茶化す者、賛成する者、反対する者、危惧する者。

 

 その存在…『人工の悪夢』は…口を開ける…否、口に当たる部分が少し動く。喋る訳でも無く…

 

フフフ…フファ…フハァゥフハハハハハハハハハァハハ!!!

 

 ただ、悪夢は笑った。

 それだけだった。

 




次回、塩崎茨VSレヴナント
流石に殺しは無しです。安心してください。
それと何気に連出堕くんの初台詞かな?


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No.11 命乞いをしてみろ。お互いに楽しめるぞ?

レヴナントのセリフ「命乞い」です。
こいつのセリフどれだけ探してもヴィランみたいなセリフしかありませんでした。ヴィランだからそりゃそうだけどね


 第1回戦の休憩時間が終わり、最終種目の第2回戦が始まった。第2回戦の第1試合はあのエンデヴァーの息子である轟焦凍と第1種目第2種目ともに好成績の緑谷出久。結果は轟焦凍がまさかの今まで使わなかった左の炎を解放して戦闘。緑谷の場外負けとなった。

 おおよそ生徒が出しうる威力では無い個性のぶつかり合いで緑谷がボロボロになった事を除けば最高の試合だったと言えるだろう。

 

 そして次の試合。上鳴電気を完封して瞬殺したB組の塩崎茨とインゲニウムの弟を瞬殺した不思議な個性を持つ連出堕苑葛の試合である。

 

《さァー次の試合だ! B組からの刺客じゃなかった…えっーと綺麗な薔薇には刺がある! B組塩崎茨VSマジでビックリ箱! A組の連出堕苑k______ッ!?》

 

 瞬間、プレゼント・マイクは言葉が詰まった。

 隣に居る相澤消太ことイレイザーヘッドも気だるそうな表情から一気になにか強く警戒するような表情となった。

 自分の息子の活躍をわざわざ見に来たNo.2プロヒーローのエンデヴァーもただならぬ気配に思わず興味の無い試合なのに選手入場の方を見た。

 あのNo.1プロヒーローのオールマイトもその真の姿であるトゥルーフォルムで少し不安を感じる表情をしていた。

 

 ここから遥か離れた九州では休憩時間がてらにスマホで雄英体育祭を観ていたNo.3ヒーロー。ホークスは少し笑みを浮かべた。

 更生しがいのあるヒーローの雛鳥を探していたプロヒーローのベストジーニストとギャングオルカは自身の事務所のテレビ越しに顔を少し顰めた。

 街を跳びまわる女性プロヒーロー。ミルコは普段あまり興味は無いのに、街中の大きなモニターで中継されている雄英体育祭を思わず観てしまった。

 

 会場の外回りをしていたシンリンカムイ、デステゴロも思わず会場の方を見つめた。

 会場内の科問わず全生徒、歴の長さを問わずプロヒーローは全員。震えた。

 

 闘技場の審判とストッパーの役割のミッドナイト、セメントスは連出堕が入ってくる選手入場口を見つめた。

 塩崎茨も自身の向かい側にある選手入場口を不安げな表情で見つめた。

 

 

来る

 

 

 皆、そう思った。

 

 

来た

 

 

 皆、そう思った。

 

 

 話には聞いていた者、噂には聞いていた者、何も知らない者。全てがその存在に…様々な負の感情を抱いた。ただ…皆1つだけ共通してとある確信が頭によぎっていた。

 

 あれは…ヴィランであると。

 

 

 現れたのは高身長の存在。

 性別は…分からない。そもそも映ったのは人間ではなかった。

 骸骨、スケルトン…いや良く見るとただのスリムなロボットであった。

 赤いバンダナや赤いマフラー、そして腕や脚には赤いカラーが入っている。赤にそんなイメージを抱いていた訳でも無いのに、何故か返り血を予感させる色だった。

 

 放つオーラはヴィランそのもの、A組はUSJで感じた死柄木弔から感じたあの明確な悪意に匹敵すると感じた。

 

 事実、彼は…この存在は。

 ヒーロー殺しステイン、血狂いマスキュラー、死刑囚ムーンフィッシュ、ヴィラン連合死柄木弔。それらに匹敵する悪意の持ち主であった。

 

「……レヴナント…」

 

 相澤がそう呟いた。

 

 連出堕苑葛が持つ人格の中で最も危険な人格。快楽でも無く趣味でも無く、ただただ無意味に人を殺す。ただ視界に入ったから殺した。人に対する殺害意識は人間が蚊や蟻に対する殺害意識より低い。凶悪なヴィラン。

 

 

 人工の悪夢 レヴナント

 

 

 その存在が闘技場へ上がり、塩崎茨に相対した。

 

「どうした? 震えているぞ?」

 

 レヴナントは嗄れているのかがなっているのか分からない…少なくとも人が出せる声ではない恐ろしい男性声で塩崎茨の震えを指摘する。

 塩崎茨本人は気づいていなかった様だが…確かに震えていた。

 

 A組とB組には大きな差異は無い。A組はただヴィランに相対しただけで別に実力が上な訳では無い。これはB組の物間寧人が言っていた事であり、B組のほとんどがそれに同意した。

 しかし…塩崎茨は知った。ヴィランに相対するとはどういう意味なのか…?

 

 これはただの試合、目の前にいるのは同い歳の連出堕苑葛という少年…そのはずなのに…塩崎茨は明確に…自分が惨殺される予感が…未来が見えてしまっていた。

 

「塩崎さん、無理しないで」

 

 その時、ミッドナイトが塩崎に話しかける。

 塩崎はハッとした様子でミッドナイトを見た後、深く深呼吸をする。

 

「失礼しました。もう大丈夫ですわ」

 

 そして、目の前のヴィラン…同い歳の生徒に改めて相対する。

 

「まだ逃げる時間ならあるぞ?」

「………」

 

 レヴナントが恐怖を煽ろうとしても言葉ではもう目の前のヒーローは狼狽え無い。レヴナントはそれを見て、少しだけ関心した。

 だが…決して敬意を評したり、褒めたりした訳では無い。ただ、少し面白くなりそうだから期待しただけである。

 

「両者位置について! 構え! 」

 

 塩崎は神に祈るように手を合わせて、茨の髪を蠢かせる。一方でレヴナントは特に構えもしない。

 

「START!」

 

 

 ミッドナイトが鞭を振り下ろした瞬間、塩崎の茨の髪は瞬時に伸び、おおよそ人1人分の毛量とは思えない量でレヴナントへ襲いかかった。

 どれくらいかと言われれば、レヴナントを背後から見る形の観客席はともかく、実況席や緑谷達の席、ミッドナイトがレヴナントを全く目視出来ないくらいの毛量であった。

 

 勝負あったか

 一部のヒーローと生徒がそう思い、安心したが…

 

 ズバッ

 

 

 たった一振。

 レヴナントは指先を結合し、鋭くさせて片腕を横に薙ぎ払った。それだけで…レヴナントを覆い尽くしていた茨は全て切断された。

 

 塩崎からレヴナントは見えていなかった。レヴナントも塩崎が見えていなかった。しかしその邪魔となっていた茨が切断され、次の茨の髪がレヴナントを覆い尽くす…その僅かの間…レヴナントは塩崎を捉えて塩崎もレヴナントの姿を見た。

 

 振るった腕とは真反対の腕…左腕を真っ直ぐ伸ばして掌を塩崎に向けて…ロボットであるが故に表情が全く変わらないはずのレヴナントは笑っていた。

 

「黙らせてやろう。サイレンス!

 

 腕から謎の禍々しい球体が飛び出すと、レヴナントは左腕の人差し指と小指が球体を捕え、パチンコの様に前方へと撃ち出した。

 禍々しい球体…またの名をサイレンスボムは茨の合間を縫って塩崎へ触れて…禍々しい小さな雷を周りへ発生させた。

 

 塩崎に鋭い痛みが走るが…ダメージとなる程でも無い…見た目に反して弱い攻撃ではあった。

 そう思っていたが…

 

 

「えっ…?」

 

 塩崎は絶句した。

 全身にとんでもない違和感…何かがおかしい。それは目の前を見れば分かることだが…塩崎は思わず否定したかった。

 

 先程まで伸ばしていた茨、レヴナントを捕らえる為に出していた茨は…塩崎の意に反して元の長さに戻っていた。

 それだけでは無い。塩崎は違和感の正体が…髪の毛を動かせない、伸ばせない…つまりは個性が使えないと悟ってしまった。

 

「こ、個性が!?」

 

 その隙を…暗殺者は見逃さない。10年以上も連れ添った、もはや身体の一部である個性が使えなくなり動揺する塩崎茨に一気に距離を詰めて、その女の子らしい細くて綺麗な首を片手で掴む。

 そして、片手のみで塩崎を持ち上げた。

 

どうした? もうおしまいか?

 

 レヴナントは敢えて不思議そうに疑問を覚えた声色で尋ねる。首を掴まれている塩崎は苦しそうに必死に抵抗するも個性も使えぬ女子生徒が自分より大きいロボット相手になにか出来るわけでも無い。だだ、呻き声を上げるだけ。だが、未だ屈しぬ強い目でレヴナントを睨む。

 

「恐怖に怯える顔を見たかったが…志だけは立派な様だな。無駄だがな……そうだ教えてくれ、今はどんな気分だ?

 

 レヴナントは片手に力を込める。塩崎の呻き声がより強く、より苦しくなるが以前強い目は変わらない。

 

「…もう飽きたな。」

 

 レヴナントはそう言い、塩崎を前方へと投げ出す。

 場外へと投げ出された塩崎は激しく咳き込んで呼吸をする。僅か十数秒であるが久しぶりに呼吸が出来た様子だ。

 

「…勝者、連出堕くん!」

 

 ミッドナイトがそう宣言するも会場は最初から最後までずっと静かだ。誰も拍手しない誰も喝采しない誰も声をあげない。

 

「…悪魔…!」

 

 誰が呟いたのか…塩崎か、ミッドナイトか、相澤か、プレゼント・マイクか、緑谷か、オールマイトか、観客か…それともこの世界が呟いたのか…

 ともかく、その声ははっきりと全員に聞こえた。勿論レヴナントにも

 

 退場しようとしていたレヴナントは振り返る。誰か特定の人物に対してでは無い。ただ、今から発言する事を周りに察しさせる為だけに振り返っただけだ。

 

 悪魔、化け物、ヴィラン、悪夢。レヴナントを表す、例える言葉は沢山ある。しかしどれも正解だがどれも不正解である。彼を正しく表す言葉は1つ。

 

 

 

I'm Death(私は『死』だ)

 

 

 

 レヴナントはそう言い放ち、その場を去った。

 …が最後まで拍手は起こらなかった。

 

 

 




レヴナントのサイレンスって掌からじゃなくて指先でパチンコの様に飛ばしてるんですね。知らなかった。
あとサイレンスのあの石の名前ってサイレンスボムって名前なんですね。知らなかった。


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No.12 そうだ!個性を使ってくれ、その方がおもしろい!

準決勝。短め。オクタン視点から
タイトルはオクタンの「張り合い」を少し改変したもの。


 あれから第2試合は全て終了、ベスト4が揃った。轟、連出堕、常闇、爆豪の4人だ。

 それはそうと席に戻ったらめちゃくちゃドン引きされた。

 仕方ねぇな。あんなもん見せられたらよ。

 

「お前…爆豪よりもヴィランだったぞアレ…」

 

 瀬呂がドン引きした様子で言ってくる。ああ、俺もヴィランだと思うぜ。

 

「俺は女の子に手を出せないから手加減したってのによ…」

 

 上鳴、それは絶対に嘘だろ。

 

「連出堕、お前…そういう趣味(リョナラー)だったのか…!?」

 

 違う…………待て、そういう趣味ってなんだ!?

 

「俺の顔色が悪かった理由が分かっただろ?」

 

 俺は席に腰掛けて、ため息を付く。全く酷い気分だったぜ。未成年の女の子の首を絞めて脅して恐怖に陥れるなんて…まるでキルリーダーになって浮かれた瞬間にクレーバーで頭を撃ち抜かれくらい不愉快だったぜ。

「連出堕くん、あの…骸骨の人の個性って一体? 塩崎さんは個性が使えなくなった様だけど…もしかして相澤先生の様な個性?」

 

 第1回戦で重傷になった緑谷がノートを片手に聞いてくる。よくこんな状況であんな奴の個性聞けるな。それほど勉強熱心なだけか。

 ……答えるの嫌だけど使った以上、こいつらには知る権利は当然あるし教える義務も俺達にはある。

 

「あいつの名前はレヴナント。個性名は決まってない。個性の詳細は…あー死に関する個性。」

「死に関する個性…?」

「ああ、あいつが塩崎に投擲した禍々しい球体は相手の個性因子を一時的に死なせる効果を持つ。だいたい20秒から30秒は個性が使えなくなるけどその後は問題無く普段通りに使える。」

 

 個性因子ってのは…なんかあれだ…人間が個性を使えるきっかけになる細胞だ。この細胞があるから人間は個性が使える。逆に個性がないやつはこの個性因子が無かったり極端に少ない。

 で、サイレンスはその個性因子って細胞を一時的に死なせる。

 

「もう1つ死に関する個性の応用としてあるんだが…詳細を話すとゲロ吐きそうだから大雑把に言うぞ」

「う、うん」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり死を回避出来る。自分自身にも他者にも。」

 

 その瞬間、俺の話が聞こえる範囲は凍りついた。

 轟も爆豪も驚愕の表情でこちらを見る。

 

「死を…」

「無かった事に…?」

「ああ、だが条件次第だ。そして死と言っても病気や寿命は回避できない。傷ついたりダメージによる死だけだ。」

 

 その条件ってのが…レヴナントが創り出すデストーテムってやつなんだが気持ち悪いから話したくない。

 そんな時、1つ隣の枠の席であるB組ヒーロー科の生徒が居る席に塩崎茨が現れる。目立った怪我は無かったが、ド悪党のヴィラン野郎に首を絞められたから念の為保健室で休んでいたそうだ。

 

「よう、塩崎だっけか。さっきの試合は悪かったな。レヴナントはああ見えて見た目以上に悪いやつで良い奴じゃないんだ。」

「そこ悪いやつじゃないんだ。とか言わないんだ…」

 

 事実だから仕方ないな。連出堕もレヴナントの踏み台にした事は申し訳ないと思っているそうだ。

 レヴナントと戦わせた事は申し訳ないとは思っていないようだがな…だが仕方ねぇ。いつかレヴナントの様なヴィランと戦うんだから…実際A組は既に差異はあるだろうがヴィランと対峙した。今のうちにヴィランと対峙出来たのは貴重だと思うぜ…

 

「気にしないで下さいませ。貴方は全力で挑んでくれた。例え悪しき悪魔であろうとも、それが貴方の個性なら私は悪いとは思いません。個性に罪はありませんので」

 

 塩崎は特に嫌悪感を全く出さず、むしろ敬意を込めて返してきた。良い奴だな。レヴナントの恐怖に最後まで屈しなかったし本当に15歳なのかこいつ?

 

ほう…ならばもう少し強く絞めても問題無さそうだったな…

「ああ! くっそ! 黙れレヴナント! おい連出堕、そいつ二度と喋らせるな!」

 

 突如、レヴナントの最悪な声が辺りに響き、何人か恐怖に怯える。俺はレヴナントを黙らせてさっさと席に着く。

 いくら自身の危険性を先にプロヒーローに伝える為とは言え、こいつはやっぱり間違ってるだろ…!誰も職場体験に呼ばないぞこんなヴィラン!

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 第3回戦、つまりは準決勝。

 

《さァー!行くぜ行くぜ! 準決! 轟焦凍VS連出堕苑葛!》

 

 ベスト4の戦いであり、轟VS連出堕と常闇VS爆豪。まずはその第1試合である轟対連出堕だった。

 今回連出堕はオクタンやパスファインダー、勿論レヴナントではなく。シアで来ていた。

 

(…確か…相手を痺れさせる個性だったか…?いや、個性も一時的に無効化させる効果もあったような…)

 

 USJ事件の時にヴィラン連合の黒霧に対してシアは常に優位に回っていた。その中で黒霧を逃がすまいと常に封じていたのは轟は近くに居たので見ていたが…思い返せば黒霧は個性が使えなくなって苛立っていたような気がする。

 あの個性がどんな個性なのかあくまで見た様子でしか情報が分からないが…

 何かホログラム的な空間を前方に広げてその中に入った物は痺れて個性が使えなくなる。

 そう轟は結論づけた。

 

「両者構えて!」

 

 ミッドナイトが鞭を振り上げると轟の目の色が変わり、シアは戦闘において意味の無さそうな構えを取る。

 

「轟さん…我々は本気で貴方に勝ちます。くれぐれも右だけで勝とう等と思わない様に…」

「ッ!」

 

「START!」

 

 瞬間、闘技場の半分…シアもとい連出堕が立っていた場所が全て氷で覆われた。瀬呂の時に見せた大きな凍結だ。しかし規模は瀬呂よりやや小さい。轟は凍結を使いすぎると身体が悴んで動きが鈍くなる。これで決着が着くならば良いが…付かなかったら動きが鈍くなるのは良くない…それを警戒して敢えて少し凍結を弱めた。

 

 シアこと連出堕は完全に氷の中で轟からは何も見えない。一見決着が付いた様に見えるが…

 

「まだだ…!」

 

我が名はブロスフゥンダル!!!

 

 膨大な氷を一撃で破壊し、ハンティングビースト状態のブラッドハウンドが現れる。ちなみに武器は流石に殺害しかねないので例え個性による武器であっても使用は自ら禁止した。

 つまりは素手で破壊したのだ。

 

 次の一手で右側をブラッドハウンドになった連出堕に向けようとするも、ブラッドハウンドのスピードはその動作を上回った。左手で轟の顔を右手で轟の炎の左側を掴み、そのまま地面へ思いっきり叩きつける。

 おおよそ人とは思えぬ獣のパワーで地面に叩きつけられた轟は地面をバウンドしながら場外へ跳んでいくが…右手が少しでも地面に触れた瞬間、跳ばされる方向に氷の壁を作って場外行きを回避する。

 だが安心する余裕も無い。轟の目の前に鋭い刃物…否、手刀が迫っていた。

 

「くっ…!」

 

 慌てて轟は左へ転がって回避すると先程まで轟が身体を預けていた氷に悪魔が深々と腕を突き刺していた。もし回避が遅れれば…あの氷ごと串刺しにされていた。

 しかしそれよりも…

 

我々は本気だと言ったはずだ。おい、皮付き。いつまでこだわっているつもりだ?

 

 目の前にレヴナントが居た

 

 先程からオクタンが悪態をついていたからもう体育祭では使わないと思っていたが…そんな事は無かった。それほどまでに連出堕は本気なのだ。

 それなのに轟は…

 

「エンデヴァーがなんだ? 左がなんだ? 個性がなんだ? お前の個性は母親のでもましてや父親のでも無い。お前の個性はお前の個性だ。そう深く考えるな。さもければ…死ぬぞ」

 

 レヴナントは轟へ飛びかかる。対して轟は未だに炎を使わずに右手から氷をレヴナントに差し向けて凍結させようとするも…レヴナントは腰から上を90゜綺麗に真横に折り曲げて氷を回避する。そして、轟の首と右手首を掴んで持ち上げる。

 レヴナントは身長が本当に高い。細かく測っては無いがなんとそのおおよその身長はだいたい200cm前後。つまりは2メートルである。

 対して轟は175cm程度。高い身長ではあるが、レヴナントに持ち上げられると足が地面につかない。

 

サイレンスウェーブ

 

 レヴナントの左手からサイレンスボムに流れていた禍々しい電力が少しずつ轟の右側を蝕んで行く。

 そして轟は右側に違和感を覚える。

 

「右から氷、左から炎。部分的に発動する個性ならその部分の個性因子だけ殺してしまえば良い。さて…お前は炎しか使えないがどうする?」

 

 レヴナントは塩崎の時のように轟の首を絞め付ける。そして塩崎よりも強い目でレヴナントを睨み付ける……が、どこかレヴナントでは無く別のものに対して怒りを抱き、強い目をしているようだった。恐らく左側…炎…エンデヴァーに対する憎しみがここでも出ているのだろう。

 

「言っておくが、私のサイレンスウェーブは無尽蔵だ。止まることは無い。お前が左を使うまで、一生このままだ。」

 

 轟は必死に右手で個性を発動させようとしたり、足でレヴナントを蹴るがどれも無意味。ただレヴナントの首を絞める力が少しずつ強くなるだけ。

 

「さあ…使え! 皮付き!」

 

「こ……」

 轟は左手でレヴナントの腕を掴む。そして炎を…

 

 

「降参だ…」

 

 出さなかった。

 

「勝者! 連出堕くん! 決勝進出!」

 ミッドナイトが鞭を振り下ろして勝者を宣言する。レヴナントは轟を無造作に放り投げ、そのまま控え室へと引き返す。後ろで轟が咳き込む声が聞こえるがレヴナントは一切振り返らない。また拍手が起こらないが気にしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの皮付き(緑谷)の様な事は我々には出来ないという事だな、連出堕」

 

 レヴナントは、控室に戻る際にそう連出堕に対して呟いた。

 

 君の力じゃないか!

 あの緑谷の言葉は轟を強くつき動かした…しかし、まだどこか…轟は引っかかっていた。それを取り外す役目を…生半可にヒーローに憧れた連出堕達が行おうとしたが。所詮に彼らには無理な事であった。

 

_________A P E X_________

 

 

 

 

《さァいよいよ決勝戦! この試合で1年の頂点が決まるぜ! 爆豪勝己VS連出堕苑葛!》

 

 轟の作り出した氷が撤去され、常闇と爆豪が準決勝を行うも個性の相性のせいか常闇が負けてしまった。相性が無ければ常闇に軍配が上がっていただろう。

 そして現在、闘技場に2人の男が立つ。爆豪とヒューズ。どちらも爆破に関する個性だ。

 

「両者構えて!」

 

 麗日、切島、常闇と確かな実力者ではあるものの大きくライバル視していた緑谷や轟と結局対決する事は適わなかった爆豪がその事に少し腹が立っている。だが、一方で部分的に何度か負けている連出堕を本気で叩き潰せるこの状況に少し爆豪は楽しみを抱いていた。

 特にあのヴィラン…レヴナント。あれを叩き潰せれば爆豪は文句無しの完膚なきまでの1位になれる。

 

 爆豪はおおよそヒーローとは思えないヴィランの様な笑みを浮かべて、ヒューズは余裕そうな表情で爆豪を見下す。どちらも傲慢不遜。

 

「START!!!」

 

 そんな中、雄英体育祭最終決戦が始まった。

 

 

 




サイレンスウェーブはレヴナントの左手からサイレンスの効果を流し続ける技です。触れている限り、30秒と言った制限無く相手の個性を無効化できますが離した瞬間個性無効化の効力は無くなります。

Q.これ触れ続けている限り個性因子を無力化出来るってこの場合なら葉隠といった異形系の個性にも触れ続けていたら少しずつ元に戻るのでは?
A.レヴナント「(唸り声)」

Q.つまり触れ続けていたら少しずつ葉隠の全裸が!裸!おっpが見えるって事ですよねーーーー!?!?
A.レヴナント「黙れ皮付き」


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No.13 プルス・ウルt「お疲れ様でしたァーー!!!」

決勝と表彰式。


 準決勝が終わって、爆豪が常闇に勝ったすぐ後の事である。突然ヒューズが爆豪が勝ったと知った瞬間、すぐに連出堕やオクタン達に次の試合は爆豪とのタイマンは俺一人にやらせて欲しいと頼み込んで来たのだ。

 

 原因としては恐らくヒューズが爆豪を気に入ってるからだろう。野蛮人である事で有名なサルボ人その中でもヒューズは大の爆発好きだ。性格も個性も気に入っている爆豪とのタイマンなどヒューズからしたら避けたくないビッグイベントだ。それに個性に関して相性も良い。

 連出堕の回答は「OK」。連出堕に…本気で爆豪と戦い、手加減は許さないと最後に告げられて。

 

「ってな訳で俺が本気でお前を倒す」

「ナメてんのか!」

 

 今回の戦いにレヴナントやオクタンが参戦しないとヒューズは爆豪に説明するが返ってきたのは罵声と爆発だった。

 最初は右手の大振り。爆豪を気に入っているヒューズだからこそ、それを予期し、見事に交わした。

 

「なめちゃいないさ。レヴナントの野郎やオクタンを使わない=舐めプや手加減とはならない。何故なら俺が1番お前に対して強いからな。レジェンドを切り替えれば切り替えるほど、切り替えに時間がかかる。だから下手に切り替えるよりも1人で特化した方がお前さんに勝てんだよ。」

「じゃあどうやって俺に勝つんだ!?」

 

 爆豪は爆破を使わずに素の身体能力でヒューズの真上まで跳躍し、頭上から両手の爆破を喰らわせる。

 今度の爆破はヒューズは避けきれず…否、あえて避け無かった。

 

「てめェの個性は爆発物を投擲する個性だ! 遠距離ならともかくこの距離なら俺の方が圧倒的有利だ。だったらあのガイコツヴィランで個性封じるかやガスマスク野郎で殴りあった方が良いってそれくらいも分かんねェのか!? 俺をバカにすんのも___ッ!?」

 

 突然、爆破による煙の中から爆豪が対処出来ない程の速さで義手が爆豪の首根っこを捕らえる。

 

「バカにする? そりゃこっちのセリフだ。」

 

 煙が晴れれば、そこに多少の汚れ後や軽い火傷の痕はあるものの特に気にしていないヒューズが爆豪を捕らえて立っていた。

 

「俺ぁ赤ん坊の頃にはおしゃぶりじゃなくてグレネードを咥えてた。飲んでたのも粉ミルクの哺乳瓶じゃなくて火炎瓶だ。お前が何歳の頃から爆発と付き合ってたか知らねぇけどよ。そんな弱っちぃ爆発じゃあ俺は倒せねぇ。もっと派手に来な、ガキ」

 

 爆豪の首根っこを捕まえているヒューズはそのまま、背負い投げの要領で半円を描いて爆豪を背中から地面に叩きつける。しかし、地面に叩きつけられる直前に爆豪は右手で受け身、左手でヒューズの顔面に爆破を浴びせた。

 顔面に爆破を喰らったヒューズは反射的に少し仰け反り、爆豪はその隙を見逃さずに飛び上がって両手で連続で爆破をヒューズの全身に浴びせる。

 爆豪の爆破の個性は使えば使う程に少しずつ威力が上がっていく。勿論使いすぎがあるにはあるが…ビルが倒壊する程の火力を連続で出さない限りは使いすぎにはならずにただ爆破が強くなるという使い勝手の良い戦闘向けの個性だ。

 左右交互に爆破を浴びせる爆豪。もう目の前は煙で何も見えないが確かにそこにヒューズは居る。爆破がヒューズに当たっている感覚があるのだ。しかし…

 

「効いてねェのか…?」

 

 煙の向こうのヒューズは連続爆破です少し怯むくらいで、すぐ様臨戦態勢を取り直す…未だに爆破を喰らいながらもだ…

 

「…ッ」

 

 煙の向こうから素早い右ストレートが飛んでくるも、予めヒューズが臨戦態勢を取っている事を知っている爆豪はギリギリで交わす…が、代わりに足元は警戒出来なかった。

 上半身だけを動かして拳を避けた爆豪にヒューズは足払いをかけて爆豪のバランスを崩す。

 そしてバランスを崩して後ろ向きに倒れようとする爆豪に対して上から左手で拳を叩き込む。それに対して爆豪は回避は断念。ガードよりも攻撃…攻撃よりもとある手を取った。

 両手の掌を少しだけ重ねて指先だけ離れさせ、威力よりも見た目を優先した爆破…閃光弾(スタングレネード)を発動させる。

 常闇との戦いで使用した、とても強い発光と爆音で相手を目眩しさせる技。調整次第では相手を失神させられるが…爆豪はヒューズが成人してる中年の見た目である事を考慮して常闇よりも強い発光と爆音をヒューズに浴びせる。

 

 しかし、ヒューズの拳は止まる事無く躊躇無く爆豪の腹部に叩き込まれ、更には右の拳、そして終わりに鋭い蹴りが爆豪の脇腹に刺さって爆豪は少しぶっ飛んでいく。

 だが、場外の白線から余裕を持った距離で踏みとどまった。

 

「お〜なんだなんだ、今のは…サプライズのクラッカーにカラオケボックスのミラーボールか何かか?」

(…閃光弾が効いてねェのか……さっきの爆破があんまり効いていない事といい。こいつの個性は爆発物を投擲するだけじゃなくて爆発に関するあらゆる耐性があるってことか)

 

 個性に由来して、身体の耐性も常人から変異するのは珍しくない。かのエンデヴァーも炎を出力する個性だが己の炎で身体が暖まっても火傷する事は無い。同じA組のクラスの芦戸三奈も己の酸で身体が溶けにくい皮膚になっている。だからこのヒューズも爆発に関する個性だから爆発や爆破に耐性があるのだろうと爆豪は予想した。

 

(下手に切り替えるよりもこいつ1人で相手をする。確かに切り替える事にデメリットが出てくるなら爆破に耐性があるこいつ1人で相手をした方が良いかもしんねェが…)

 

「納得行かねェ!!!」

 

 飯田ならともかく、名も知らぬB組の塩崎や轟相手にはレヴナントという観客やプロヒーローを戦慄させる戦いを繰り広げたのに爆豪との戦いは冴えないおっさんとのエキシビションの様な戦いなのがどうも舐められている気がして爆豪は許せなかった。

 勿論これはただの彼の感じ方なのだが…事実、生半可なプロヒーローや生徒達は連出堕はこれ以上あのヴィランを出さない様にあえて()()()()()()()()()()()()()()()()。という認識である。

 つまり、第三者からして爆豪はレヴナント…連出堕より下に見られている。無論、イレイザーヘッドやエンデヴァー等のちゃんとしたプロヒーローはヒューズに対して爆豪の個性がイマイチだからヒューズを使っているのだろうというちゃんとした認識である。

 

「俺ァ完膚なきまでの1位を取りてェんだよ! あのヴィランを倒して、てめェの所の18人全員倒さなきゃ完膚なきまでの1位にはならねェだろ!」

「随分理想が高いな…だが無理だな。お前は…連出堕に勝てねぇよ。俺様に負けるんだからな」

 

 ヒューズは何処からともなく、両手で抱える程の大砲を取り出す。個性把握テストでも少しだけ見せたヒューズのウルト。マザーロード。

 

「こいつを使えば下手すれば死ぬかもしれないが…死んでくれるなよ?」

「だから…俺を舐めんなァ!」

 

 ヒューズがマザーロードを爆豪に向けると爆豪は両手を思いっきり地面に振り下ろして大きく空へ飛翔する。すると、両手の掌を別々の方向に爆破させてその反動で回転し始める。

 爆破の反動で空を飛ぶ、推進力として利用する。よく彼がやっている事だがこれは相当の鍛錬を必要とする。彼は勿論個性に恵まれ、才能にありふれているがそれに劣らぬ程に努力している。そしてこの大技が彼の努力と才能の結晶となる。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!」

 

 爆破による反動で回転力と推進力を高めて爆豪はヒューズへ一直線へと突っ込んでいく。ヒューズが明らかに見せかけでは無い大砲を抱えているのにも関わらず。

 

「真っ向勝負ってか…本当に面白ぇ野郎だ。いくぞ! マザーロード、最高出力だァァーー!!!」

 

 ヒューズの抱えるマザーロードからおおよそ1つの大砲から出るとは思えない。弾道ミサイルかと思う爆音で炎を纏った砲弾が発射される。

 爆豪と砲弾。それらが接触する直前……突如コンクリートの壁が3枚ほど砲弾と爆豪の間に割って入ってくる。

 セメントスの仕業だ。この威力でぶつかり合えば観客にも被害が及ぶ。だから最低限威力を殺す為に少しだけ壁を貼ったのだ。その回あって、爆破の影響が観客席に害を与える事は無かったが…

 

「高校1年生が出せる威力じゃないでしょ」

 

 セメントスがそう呟くと、闘技場はボロボロ。ミッドナイトは寸前のところでセメントスのコンクリートで守られたから無傷。

 そしてボロボロの闘技場の上に、闘技場に負けないくらい血まみれで火傷だらけのボロボロの爆豪が立っていた。

 

 

 

 ヒューズは場外はおろか、壁まで吹っ飛んでいた。

 

「連出堕くん場外! 爆豪くんの勝ち!」

《決まったァー! 今年度雄英体育祭1年優勝は〜A組爆豪勝己ィィィーー!!!》

 

 ミッドナイトがそう審判し、プレゼント・マイクが決着を宣言する。

 そしてミッドナイトがボロボロの爆豪に、セメントスがヒューズに駆け寄る。

 

「爆豪くん、大丈夫?」

「…余裕だわ… 、はァ、クソが…」

「この指何本?」

 

 目が虚ろになっている爆豪の前にミッドナイトは3本の指を立てる。

 

「…3本。」

 

 どうやら視覚は大丈夫のようだ。

 次は脳である。

 

「メキシコ等からアメリカ合衆国へやって来たスペイン語が母国語の移民はなんて言う?」

「ヒスパニック…」

「重厚な武装からユーモアあるコスチュームが重要視され、更にコスチュームの多様性が生まれた事をなんと言う?」

「クラウン・ショック…!」

「18禁ヒーローで知られるミッドナイトのスリーサイズは?」

「……………知るかァ!!! どさくさに紛れて何質問してんだ!」

「よし、問題ないわね。」

 

 ミッドナイトは片手で緊急搬送ロボットを手招きして呼び寄せる。細かい検査や治療は保健室のリカバリーガールの役目だ。一方でセメントスとヒューズは…

 

「連出堕くん、大丈夫かな?」

「ああ、連出堕は無事だな。俺も無事だ」

「いや〜実に惜しかったね…歩けるかい…ん?」

 

 そこでセメントスは気づく…ヒューズの両足がありえない方向に曲がっている事。それに義手でない生身の左腕も大火傷している事に。

 

「はっ、惜しくなんか無ぇな。ここがサルボだったら…場外なんて生易しいルールが無ければ俺は死んでた。爆発にある程度の耐性がある俺がこんなザマだ。完敗だな…本当におもしれぇ…なぁ、マギー…」

 

 ヒューズはそう言い、目を閉じるとオクタンへと切り替わった。

 

「セメントス先生、ヒューズは俺の脚でリカバリーガールの所へ連れていく。それにシェのアネキの個性でも回復すれば完全に完治するから気にすんな」

「ああ、分かった。気をつけて行ってらっしゃい」

 

 セメントスに見送られて、爆豪が搬送された入口とは別の方向からオクタンは保健室へと向かっていった。

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 あの後リカバリーガールの手を借りずに結局シェのアネキの個性だけでヒューズは完治した。1日に回復出来る量は限られているけどそれを差し置いてもシェのアネキの個性はリカバリーガールの個性の上位互換だそうだ。個性を無効化するレヴナントに瀕死の人間を完治させるシェのアネキ…改めて本当に俺たちレジェンドって凄えな。

 まあそんな事よりも表彰式だ。セメントス先生が作ってくれた表彰台に同率3位の轟と常闇。2位に俺。1位に包帯まみれで凄い形相の爆豪が居た。爆豪はシェのアネキの治療を受けずにリカバリーガールの応急手当だけで済ませた。どうやら連出堕の個性を使われるのが不愉快の様だな。

 そして、表彰式にメダルを授与してくれるのは…なんとオールマイト。わざわざ1年のメダル授与式にこの人とな…3年は最後の体育祭なのにオールマイトに見て貰えなくて可哀想だな。

 

「さて、連出堕少年。2位おめでとう! 実に惜しかったね! だが、君は間違いなく強い、誇って良いんだよ!」

 

 常闇、轟にメダルと労いや褒めの言葉を上げた後、オールマイトは俺達にも言葉を投げかけてくれた。

 

「ありがとう、オールマイト。18人全員使わなかったとは言え、本気で戦って優勝を取れなかったけどな」

「いや、18人程居るからと言ってその分有利とは限らない! 18人もコントロールしながら戦うということはその分色々な事に気を使ったり配ったりしないと行けない。ある意味ハンデともなりうる。そんな中君は2位となった! 落ち込まなくてもいいさ!」

 

 首に銀メダルを掛けてオールマイトは肩に優しく手を置いて言ってくれる。

 …その時、連出堕からとある指示が来た。

 

「……オールマイト。20秒だけだ」

「…え?」

 

「20秒だけ、()()()()()()()()()()()()()。手短に、あいつを褒めてやってくれ。」

 

「え!?」

 

 その驚きの反応は主にA組のクラスメイトから響いた。爆豪、緑谷を除く全員には伝えたが…俺達レジェンドが前面に出ている間、連出堕の成長や寿命は止まる。20歳までしか生きられぬ連出堕の唯一の延命方法だ。

 ただ、連出堕苑葛が前面に出る…つまり連出堕苑葛本来の姿になれば、寿命までのタイムリミットが起動する。現在、連出堕苑葛を前面に出さずに普段生活することで連出堕苑葛は今年15歳のところ、9歳や10歳辺りの年齢、姿となっている。

 

 24(時間)×365(日)=8760時間。

 8760(時間)×10(年)=87600時間。

 

 閏年の関係や少しの差異はあるだろうが、大体あと87600時間、連出堕苑葛の姿を前面に晒せば…連出堕苑葛は死ぬ。

 87600時間なんて長いじゃないか!なんて思うやつがいるかもしれないが…自分の残りの寿命が87600時間と考えるととても短いと俺は思うね。

 逆に自分を前面に出さずに、レジェンド達で偽り続ければ無限に生きられるが…連出堕は果たしてそんな事までして永遠に生きたいとは思うかな?友達、家族、憧れの人、恋人。それらを前にしても自分を出す事が許されない。そこまでして永遠に生きたいか?

 連出堕の答えは「NO」だから今、連出堕は87600時間の中、その限られた命の中の20秒を今ここで使用するのだ。

 

「い、いや。無理しなくても良いんだよ連出堕少年!」

 

 このオールマイトの焦り具合から多分オールマイトも連出堕の個性による寿命やそこら辺の問題は知ってるんだろうな。そりゃ先生だから当たり前か…

 

「オールマイト…連出堕が決めた事だ。」

 

 俺は目を閉じて、意識の中から連出堕苑葛と切り替わる。この感覚は…久しぶりだな。この切り替えはコースティックやレヴナントと切り替わるよりも危険な切り替えなのに…何故か落ち着くな。気のせいかも知れねぇけど。

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 表彰台を眺める緑谷達がまず思ったのは、普通…であった。

 この個性が当たり前となった社会で普通とは従来の普通とは異なる意味となるのだが…それらを差し置いても普通という感情を…2位の表彰台に立つ。連出堕苑葛という入学して仲良くなって数ヶ月経つ、()()()()()()()に対する印象だった。

 身長は小学生並み、流石に峰田実より身長は高いが…女子の誰よりも低かった。髪色は黒。顔立ちは可もなく不可もなく、幼さがあるからか、どちらかと言えば一般的にはイケメンやカッコイイでは無くかわいいという印象が出てくるだろう。

 

 あの少年が…同い年でありながら、自分達より歳下。オクタンの様な歳上からヒューズやジブラルタルの様な中年以上の男性、ヴァルキリーやライフラインの様な女性にパスファインダーの様なロボット、そしてレヴナントという凶悪なヴィランを束ねる。連出堕苑葛だ。

 

「連出堕少年…初めましてかな?」

 

 オールマイトは連出堕が台に乗っているのにも関わらず、自分の方が目線が上なので少し屈んで、初めて出会う連出堕苑葛に目線を合わせる。

 

「2位おめでとう…数多くの個性や人格、仲間達を率いてよく頑張ったね」

「オール…マ、イト…ありがと…ござぃます…」

 

 きっと、言葉を話すのもとても久しぶりなのだろう。常にレジェンド達を指揮したり指示する立場であっても、個性の問題上連出堕苑葛のみは声を出さずとも指示を出せる。その為かとてもたどたどしい日本語で、幼い声で言葉を返す。表情筋を動かすのも久しぶりなのだろうか…その笑顔もどこかぎこちなかった。

 

 オールマイトは無言で彼を抱き締め、そして連出堕苑葛の20秒の時間制限が訪れた為、オクタンへと切り替わる。

 

「まあ、まだ何千時間も寿命は残ってるが…この20秒はきっと連出堕にとって素晴らしい20秒になったと思うぜ、ありがとうな。オールマイト」

 

 時間制限…それはオールマイトにもある。平和の象徴としての寿命はそう長くない…更に、かつてのサイドキックに言われた言い表す事も出来ない悲惨な死が遅くとも来年にはやってくる。

 だがオールマイトは自分はもう充分生きたと思っている…しかし目の前の幼い少年は自分よりも遥かに若いのにより過酷なより悲惨な時間制限が設けられている。

 笑う事も自分を出す事も出来ない少年…それが目の前に居るのにどうしようも出来ない自分にオールマイトは少し苛立ち、悲しくなった。

 だが、それをこの晴れ舞台で出す訳には行かない。彼は変わらない素敵な笑顔で今度は優勝した爆豪へと金メダルを渡した。

 

 

 

 

 が、爆豪は中々金メダルを受け取ろうとせずにしばらくオールマイトは苦戦を強いられた。

 

 

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

「…ッチ」

 

 1つ、小さな舌打ちをしてヴィラン連合の死柄木弔はテレビのリモコンの電源を切る。

 

「死柄木弔? 私まだ見ていたのですけれど」

「あのオールマイト(ウザいの)が出てきたからもういいだろ。お目当てのモノはもう見たしな。」

 

 テレビが消されたのを不満げに文句を言うロボットの様な女を無視して、死柄木弔はテレビとは別のモニターの方を向く。

 

「先生、どうだった。あの連出堕苑葛ってやつ。沢山個性あるし、脳無にピッタリじゃないか?」

『…連出堕苑葛くんか…ふむ、確かに面白いのに目を付けたね。弔…だが、()()()()()()()

「ダメ?」

 

 モニター越しの恐ろしい程に威圧感があり、優しい声が死柄木と会話をする。

 

『あれはね…()()()()()が既に目を付けているんだ。それを横からかっさらって改造したり手を出したりしたら僕はその大親友から嫌われてしまうよ』

「大親友…?先生、友達居たのか」

『ああ、もう100年くらいの付き合いになるかな…今はタルタロスの中だろうけど、きっとこの雄英体育祭も観ているよ。だから…そうだね、君の恩返しはとても嬉しいけど…連出堕(アレ)はいらないよ。すまないね、弔。』

「そっか……じゃあ先生、その先生の大親友の為にもアイツは殺しちゃいけないのか?」

 

 程々に治りかけではあるが、かつて連出堕によって与えられた裂傷と火傷の痕を死柄木弔は苛立ちながらなぞる。

 

『ふーむ…いや、問題ない思うよ。僕や大親友が関係無しに殺される様ならそこまでの存在であった。大親友ならきっとこう言うさ』

「じゃあ壊すか…連出堕(アレ)オールマイト(コイツ)も全部、全部…!」

 

 死柄木弔は手に持つテレビのリモコンを握りしめて崩壊させ、歪んだ笑みを浮かべた。

 

 




ロボットの様な女「テレビの続き見たかったのに…(´・ω・`)」

大親友くんは一応、APEXに登場してます。設定やセリフを聞く限りだとめちゃくちゃ強いと思います。でも一時的にしか登場していないので覚えている人、知ってる人はとても少ないと思います。
でも…私の予想ならば近いうちにまた大親友くんはAPEXに登場すると思います。これから数ヶ月、APEXに登場してくるキャラクターにきっと大親友くんが登場すると思います。(登場しなかったらごめんなさい)

連出堕本人初登場ですね。13話でようやっと初登場。このくらい頻度でしか彼は登場しません。だからレジェンドがほぼ主人公なんですね。


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シーズン3:職場体験
No.14 ヒーロー名はなんと言う? 知っておかねばならない。


あれ?映画って期末試験の後なの?
職場体験の後じゃなかった…あれ?(混乱)

タイトルはレヴナントの「名を聞かせてもらおう」を少し改変したもの。しかし今回レヴナントは二言しか喋りません。
それとミラージュスタートです。


 よおお前ら!俺だ、このミラージュ様の登場だ!

 先日の雄英体育祭の俺様の活躍、凄かったろ〜?

 え?「お前何もしてないだろ」って?おいおい、冗談キツイぜ〜それともそれがお前の渾身のギャグだったのか?ハハハッ、あ〜45点だな、100点満点中な。

 昨日の体育祭の俺の活躍で連出堕のやつは1日にして有名人!…正確には2日くらい振替休日があったから3日にして有名人だな。この事をなんて言うか知ってるか?そう!三日天下だ!(※違います)

 だから今、連出堕はテレビに映っていないレジェンドで登校している。ワットソンだな。歳はまあそんな離れてないし若いしギリギリ未成年と言われても通用するだろ。

 でもよ、プロヒーローを目指すならやっぱりファンサービスってのは必要だよな?な?

 俺様に切り替えてみろ、一躍かわい子ちゃん達が集まってきて握手やファンサービスを求めてくる。そこで俺様が最高のジョークで更n

 

おい、いい加減に黙れ皮付き

 

 ヒィィィィィー!わ、分かった!黙る、黙るから殺さないでくれ…!頼む!

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 雄英体育祭から休日を挟んで、その後の登校日。どうやらクラスメイトの話を聞く限り、登校中にめっちゃ話しかけられた様だ。俺達も変装して良かったな。変に話しかけられると対応がめんどくさい。レヴナントに切り替わってファンサービスしてくれなんて言われた日にはどうしようもないからワットソンで登校して正解だったな。

 

「おはよう」

 

 そこで、相澤担任が教室に入室して来て、今日のHRが始まる。が…

 

「今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だ」

 

 相澤担任が言う特別はだいたいろくな事じゃないな。と言っても最高である事には変わりない…なんだ、抜き打ちテストか?除籍か?

 

「『ヒーロー名』の考案をして貰う」

 

「「「「「「「「「胸膨らむの来たああああ!!!」」」」」」」」」

 

 ヒーロー名…つまりはオールマイトやエンデヴァー、シンリンカムイと言った、本名では無い、ヒーローとしての名前を決めるって訳だ。確かに胸が膨らむな、俺も声をあげようとしたが相澤担任の目が怖かったからやめておいたぜ。普通に相澤担任の目はレヴナントよりも怖いな。

 

 それと、ヒーロー名を決めるのは雄英体育祭を見て職場体験のドラフト指名が俺達ヒーロー科にやってきたからだ。職場体験では、ヒーローの元でプロヒーローの仕事を見る(殆ど見るだけ)。その際にプロヒーローから興味を持たれたら卒業後はそのままサイドキックなんて事もある。だから今のうちに顔と個性とヒーロー名をプロヒーローや世間に覚えてもらおうって事だ。

 

「で、これが今年の指名結果だ。」

 

 すると、いつの間にか黒板にはプロヒーローから指名を受けた生徒の名前と指名件数が表示される。

 

 轟が3104件

 爆豪が2771件

 連出堕が1823件

 常闇が452件

 飯田が220件

 上鳴が195件

 八百万が159件

 切島が68件

 麗日が20件

 瀬呂が14件

 

 という結果だ。

 

「例年はもっとバラけるんだが…殆どを3人に偏ってるな」

 

 こいつぁ偏り過ぎじゃねぇか?常闇から瀬呂を合わせても連出堕に並ばないぞ。だが…それよりも…

 

「1位と2位の2人が轟より下?」

「順位通りになってねぇな」

「そりゃ…あんな怖いのと凶暴な爆豪を見たらビビるっしょ」

「ビビってんじゃねェよプロヒーロー!」

 

 まさか3位の轟が1位か…エンデヴァーの息子って言うアドバンテージありにしても圧倒的な差だな。というか連出堕と爆豪の間にも900近くの差がある…爆豪はあの凶暴性がテレビに出たから轟に負けたんだろうが…レヴナントを地上波に流した俺達はそれよりも酷い差だな。まだ指名自体が1000以上あるのが救いか。

 

 まあ、数よりも誰に指名されたが大事だな。そんな事よりもヒーロー名だ。

 程なくしてミッドナイト先生が相澤担任の代わりに教師を務めてヒーロー名に関する授業を行ってくれるそうだ。ペンとフリップが全員に行き渡り、各々が書き始める。

 

「じゃあ完成した人から目の前に出て発表してね」

 

 え?おい、まさかの発表形式かよ。

 俺含む他の生徒も驚いた表情でミッドナイト先生を見る。発表形式は少し気恥しいのだろう。ペンを置いて完成してる人が何人か居るのに中々前へ行こうとしない。

 そんな中…青山優雅がフリップを持って前に出た。あいつがトップバッターか…

 

「それじゃあ行くよ✩ 輝きヒーロー『I can not stop twinkling.(キラキラが止められないよ☆)』!」

 

 

 短文じゃねぇか

 トップバッターから大喜利みたいな事を始めるな。面白くて最高だが、後続の事を考えろ…いや、でも特に気にすることは無いか。大喜利をやりたければ勝手にやってろ。俺達はもう既に完成している。

 というか青山にやらせる前に俺達がトップバッターに出るべきだったな。

 なんて、考えてると次から次へと発表されていく。蛙吹梅雨のフロッピーという可愛らしいヒーロー名。耳郎はイヤホン=ジャック、障子はテンタコル、上鳴電気はチャージズマ…おお、かっこいいな。

 そして今度は爆豪がフリップを前に持って出てきて…

 

「爆殺王!」

「ブホッ!」

「おい十八面相野郎! 笑うんじゃねェ!」

 

 小学生じゃないんだからよ…もうちょっと…なんかこう…くwww

 ダメだ、やっぱりこれ大喜利大会だろ。爆豪が優勝だ!

 

 爆殺王くんの爆殺王はミッドナイトから却下されて爆殺王くんは渋々別の名前を考え始めている。さて、爆殺王くんの次は俺達が行くかな。

 

 俺はフリップとペンを持って、前に出る。フリップに書いてあるのは英語。

 

 

 

「APEX PREDATOR」

 

 

 

「APEX PREDATOR....頂点捕食者という意味ね。良いわね〜肉食系ね〜♡」

 

 なんか興奮しているミッドナイト先生は置いておいて、俺はそこに「でもこれは連出堕苑葛だけのヒーロー名だ」と付け加えて言っておく。

 

 俺はその場でフリップに1つの文字を付け足す。

 俺らは18人…19人で1人。これから増えるであろうレジェンド達も受け入れて生きる。

 

 

 

 

「APEX PREDATORS」

 

 

 

 

「…なるほどね、個性の仲間達18人全員含めて複数形のsを付ける…良いじゃない! 良いじゃない!」

 

 ああ、最高だろうな。様々な分野の頂点に立つに相応しい実力者18名。その18人の頂点に立つ連出堕苑葛はApex Predatorで俺達全員を指す場合はApex Predatorsだ。

 この場合だと、俺やシェのアネキなどレジェンド単体を呼ぶ時は困るかもな…Apex Predatorは連出堕苑葛専用で、Predatorsだと全員だからな。でも問題無い。俺らは既に本名とは別のコードネームで呼びあっている。俺はオクタビオ・シルバって本名だが…コードネームはオクタン。シェのアネキはライフラインってな感じでな。これを俺達以外にも使って呼んでもらうんだ!

 その場合だと18人全員相手に覚えてもらわないと行けないが…まあ頑張れとしか言う他無いな!

 

 

 

 

「爆殺卿!」

「ブホッ!」

「だから笑うんじゃねェェェェ!!!」

 

 俺達のカッコイイヒーローネームで終わったのにその後にハイレベルな名前出すなよ爆殺卿くん…

 

_________A P E X_________

 

 

 

「全員のヒーロー名が決まったところで話をこれからの職場体験に戻す。期間は1週間。肝心の職場だが指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ」

 

 そう言いながら、相澤担任は個別にヒーロー事務所の名前が載ったリストを皆に渡していく。指名のなかった者は学校側が用意してくれた受け入れ可能の事務所のリストが渡されている。

 さて、俺達は1800件だからリストはそこそこ厚かった。轟は俺達の2倍くらいあるけどな。それでも俺達はここから一つだけ決めるのか…

 とりあえず1限目のヒーロー情報学が終わり、休み時間。指名の入った者は己の指名を確認し始めた。指名の入らなかった者は使命の入った生徒に近づいて、指名を覗き込んでいた。

 俺のところだと、峰田と障子が見に来たな。そういえば言い忘れてだが俺の隣の席は爆豪だ。あの雄英体育祭の一件以来、よく睨まれる。

 

「なあ連出堕は誰から来たんだ!?」

 

 何故かはしゃぐ峰田を片手で抑えながら、俺はリストを取り出す。一度に全部は見切れないから何枚か障子や峰田に見して俺はその間他のリストに目を通す。

 このリスト…名前順で並んでるな…アークスター事務所、イグアナマン事務所、ウワンガ事務所に…ん?エッジショット…?

 

 え、エッジショットだと!?エッジショットってあのエッジショットか!?

 ヒーロービルボードでNo.5のエッジショットか…凄いところから来たな…だが、エッジショットの次はカ行のヒーローが並び始める。エンデヴァーは無かったか。まあ当たり前か。しかしエッジショットか…

 

「お、おい! 連出堕!」

「なあ連出堕…」

 

 そんな時、障子と峰田が同時に俺に話しかけてくる。峰田は興奮気味に、障子はいつも通り落ち着いた雰囲気で。

 話しかけてくるのが同時だったが、峰田が障子に先を譲り、障子が改めて話しかけてくる。

 

「お前のところにマジェスティックとヨロイムシャにリューキュウから指名が来ている。」

「…マジか」

 

 マジェスティックは…確か今は13位だったかな?ヨロイムシャが8位で

 リーキュウが9位…全員エッジショットよりランキングは下だがとても有名なプロヒーローだ…!

 

「で、峰田はなんだ? 何を見つけた?」

 

 この反応からすると、峰田も恐らく俺のリストにビックネームを見つけたのだろう。

 すると峰田は血涙を流しながら…

 

「お前…お前! ミルコって…ミルコってお前ぇぇぇ!」

 

 峰田が指すリストにはミルコと書いてあった。ミルコ事務所ではなく、ミルコ…と。

 ミルコと言えば流石に有名だ。確かヒーロービルボードランキングが6位…これは女性陣の中で1位だ。常に全国を跳び回って事件解決してるプロヒーローだな。確か…事務所もサイドキックも持っていないんだっけな?だからミルコだけ事務所表記じゃないのか…

 

「ミルコ!? ミルコだって!?」

 

 そんな時、前の席から緑谷が目を輝かせてやってくる。そういえばこいつ重度のヒーローオタクだったな。飯田の兄、インゲニウムの事もめっちゃ詳しかったし………あぁ…そういえばインゲニウムは…

 

「うるせぇぞクソナード!」

 

 緑谷が反応して俺に近づこうとすると隣の席の爆豪がキレる。本当に緑谷に対する執着凄いな。戦闘訓練の時も体育祭の時も…

 

「騒ぐんなら昼休みに騒ぎやがれ! テメェもだ玉野郎!」

 

「ご、ごめんかっちゃん…」

「お…おぅ悪ぃ」

「すまないな爆豪」

「悪ぃな騒がしくて」

 

 緑谷、障子は爆豪に謝罪した後、席へと戻る。峰田は怯えた反応をしながら席へと逃げ帰る。俺も爆豪に軽く謝罪した後に障子と峰田から受け取ったプリントをしまって2限目の準備をする。爆豪の言う通り決めて騒ぐのは昼休みだ。

 

 

 さて、昼休みだ。隣の席の爆殺王くんは緑谷が寄ってくるのが嫌だったのか、それとももう体験先を決めたのか。俺達が食堂から帰ってきた時にはもう教室に居なかった。

 ともかく、腹が膨れた俺は自分の席に着く。俺の席の周りには緑谷と耳郎、上鳴に切島と前の席の八百万が見に来た。

 あれからリストを全部確認したが…とりあえず有名どころのヒーローはある程度確認した。

 

 オールマイト、エンデヴァーは当たり前の様に無いとして…ホークス、クラスト、ウォッシュも無かった。

 ベストジーニスト、エッジショット、ミルコ、ヨロイムシャ、リューキュウ、ギャングオルカ、マジェスティック、シシド。俺が知ってる有名どころはこれくらいだろうか。

 

「す、凄いヒーロービルボードチャートの上位勢がこんなに…凄い…!」

 

 緑谷が俺のリストを見て感激してるが…よく人の指名で感動出来るな。それ程に凄いんだろうな…いや、凄いな。オールマイトが身近に居すぎて感覚が麻痺してるな。最近の俺。

 

「で、連出堕はどこにするか決めたの?」

 

 耳郎がイヤホンジャックを弄りながら尋ねてくる。

 

「そうだな…これから決める。この目の前の緑谷を使って」

「ぼ、僕?」

「そうだ、俺達は最低限の知識はあるが…それ以上ヒーローについての知識は無い。でもお前は別だろ? だからお前にヒーローの詳細を聞いてそこから決める。」

 

 俺らが知ってるのはあくまでテレビに映ってるヒーローのみだ。教育方針や立ち回り、個性の細かい相性で決めたい。だが俺達はそんな事を知らない…だが目の前のヒーローに詳しい男なら別だろう。

 雄英体育祭の時も外回りにシンリンカムイ等のプロヒーローが居ると知った時、凄い速さで外に出ようとしてたし。相澤担任がプロヒーロー、イレイザーヘッドだと唯一気づいてたのも緑谷だし、雄英高校の教師であるプロヒーローも1人1人名前を当ててブツブツ呟いてたし。

 

「俺らは「このヒーローが好きだから」とか「ランキングが1番高いから」では決めない。1番よく学べそうなのを選びたい…いや、学ぶものが1番多いかな…流石に18人のレジェンドが全員色々学べるプロヒーローなんて居ないか…」

「確かにプロヒーローについてなら緑谷だな!」

「うちも緑谷と相談して決めようかな…」

「あ〜先に提出しちまった…!」

 

 各々、俺が緑谷に頼る理由に納得しているようだ。

 

「わ、分かった。ちょっと待ってね…」

 

 頼まれた緑谷は俺の指名リストを眺めてブツブツと凄い勢いで呟く。凄いな、こいつの独り言…なんか視覚化されてる気がする…

 

「…連出堕くん。このNo.4ヒーロー。ベストジーニストの事なんだけど…」

「おう」

「多分…この人は、前雄英体育祭で見せたあの…レヴナントって人が目的だと思う」

「レヴナント…?」

『…何?』

「なんであんな怖いのを…」

 

 おいおい、レヴナントのせいでこんなに件数が減ったってのにそのレヴナントに惹かれてベストジーニストは指名してきたのか?

 もしかしてベストジーニストって危ない奴なのか?

 

「ベストジーニストはヴィランや非行学生、個性を不正利用する人を矯正させるんだ。それに彼の個性は繊維を操る個性…少なくとも雄英体育祭を見る限り、どう考えても個性関連で呼んだとは思えない…」

「…つまりレヴナントを矯正、更生させたいって理由で呼んだ…」

「…かもしれない。あ、でも! その…レヴナントって人格を矯正したいなら…」

「いや、大丈夫だ。ありがとう。」

 

 俺の中でベストジーニストの選択肢が消える。いや、俺達と連出堕の選択肢からだな。レヴナントを矯正、更生なんて無理だ。俺らがそれをよく知っている。わざわざ意味の無いレヴナントの更生に職場体験を浪費するのは勿体ないからな。

 

「あ、あと…ギャングオルカも…」

「更生系?」

「うん…彼の場合は体育系だね…」

「レヴナントやコースティックと相性が最悪だな。更生や矯正するはずも無いな。」

 

 そういったやり取りを繰り返し、相性や方向性を考慮しながらヒーローを絞っていき…昼休みが終わる直前に俺達の…連出堕の職場体験先は決まった。

 

 迅速のスピードで解決し、単純な近接格闘ならオールマイトに次ぐプロヒーロー。個性云々の強さではなく、ただ単に戦闘の強さを上げるという単純で癖の無い理由で決めた。

 

 

 

 

 俺達レジェンドと連出堕苑葛の職場体験先は…ミルコで決定だ!

 




ヒーロー名はAPEX PREDATORSに決定!大文字か小文字かは気分で変えます。Apex Legendsでも良かったけどプレデターに憧れがあったので(いつもプラチナ帯)
頂点捕食者という意味合いで最初は海の頂点捕食者で有名なシャチの個性のギャングオルカでストーリーを考えてましたがギャングオルカのサイドキックや事務所やらの描写が分からなかったりめんどくさかったのでミルコに変更しました。
食物連鎖において底辺である兎の個性なのにめちゃくちゃ強いって素敵ですよね。

でも本音を言うと
肉食系褐色つよつよ兎お姉さん×草食系頂点捕食者よわよわショタ(10歳)
を書きたかっただけです!


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No.15 ウサギはいつだってカメに勝つ

職場体験

APEXからタップストレイフが消えるんですか…私には無縁の技術なので特にノーダメですが。他の方はそうでも無いらしいですね。

タイトルはオクタンのセリフ、「ウサギの勝ち」から


 とうとう来た、職場体験初日だ。

 俺は今回、俺のみの戦闘服を持って駅を集合している。というよりもA組全員が集合しているな。ここから各々が職場体験先の場所へ電車移動するのだ。常闇なんかは九州まで行く。

 

「くれぐれも体験先のプロヒーローに失礼のないように。じゃあ行け」

 

 相澤担任がそう言うと、俺を除く全生徒が各々移動を始める。そんな中、緑谷が飯田に話しかける…飯田の兄であるターボヒーローインゲニウム。彼が雄英体育祭日に、ヒーロー殺しステインというヴィランの手によってヒーロー活動が二度と出来ない身体にされたらしい。

 それ以来…飯田の目が恐ろしい…ローバとクリプト曰く、復讐する目だそうだ。だから先日、ステインについてはきっとヒーローが捕まえてくれると伝えた…遠回しにお前が手を下す必要は無いという意味だ…

だが効果があるかは分からない。あとは彼の良心を信じるしか無いな。

 

「おい連出堕。お前は移動しなくていいのか?」

 

 保須市へと向かう飯田を見つめていると、後ろから相澤担任に話しかけられる。

 

「ミルコからこの駅で待つように今朝、家の玄関前に跳んで来て言ってきたからここで待つ」

「…家に跳んで来たのか?」

「ああ」

「…そうか…」

 

 そりゃあ朝起きて支度して学校に向かおうとしたら登校経路に褐色筋肉バニーが跳んで来たからめちゃくちゃ驚いたな。敵意が無いから虚空の声も無かったからいきなり目の前に現れて死ぬかと思ったぜ。

 相澤担任も特に追求しない辺り、きっとミルコのあれはプロヒーローの間でも普段通りなんだろうな…

 

 そんな時だった。

 

 ガシャーン

 

「グルオオオオオォォー!!!」

 

 ガラスが割れる音が響き、何か重い物が倒れ、獣の様な遠吠えが駅前で聞こえる。確実に何か事件が起きたのだろう。

 相澤担任と俺はすぐに目の色が変わる。

 

「連出堕、そこで待機してろ!」

 

 相澤担任がそう俺に伝えると、首に巻いた捕縛布を掴んで物音のした方向へ向かう。

 待機…って言われても…ミルコが近くにいるかもしれない状況でこんな騒ぎが起これば確実に騒動の原因でミルコと出会えるだろう。

 連出堕から待機の指示が来なかったから俺は歩いて騒動の中心へと向かう。

 

 

 すると、駅前と駅前の建物の合間の道路にて白いモフモフのバニー服の様な戦闘服を来た筋肉ある褐色の女性が、自分の何倍もデカいライオン…多分そういう個性だろうな。ライオンを蹴りで撃沈させていた。

 ライオンはスルスルと小さくなっていき、ただの中年のおっさんに戻ると見覚えのある捕縛布に包まれる。

 

「流石ですね、ミルコ」

「おお、イレイザーヘッドか! 遅かったな! だからこいつの後始末頼む!」

 

 

 あれこそがラビットヒーロー…ミルコ。

 相澤担任と少し会話した後、そのままミルコは大きく跳んでどこかへ去っていった。

 

 

 あれ?置いてかれた?

 

「……連出堕。個性の使用を許可する。ミルコに追いつけ。」

 

 こちらを見ずに相澤担任が俺にそう伝える。

 待て、本気で言ってるのか?こんな事の為に個性使うのか?というか個性使ってもあれ追いつけるのか?飯田や爆豪よりも速いぞあれ!?

 ヴァルキリーでも追いつけやしないぞ…

 俺はもう見えないくらい遥か遠くに行ったミルコを見つめる。が…

 

「すまん! 忘れてた!」

 

 不意に、後ろにミルコがいつの間にか居た。

 

「うおっ!?」

 

 音も無く、あんな遠くにいたのに背後にいつの間にか現れる…流石ヒーロービルボードチャート上位勢…!格が違う…!

 

 …思ったんだが…ミルコって俺より小さいんだな。いや、流石に連出堕よりは大きいが…A組の女子達とそこまで身長変わらない…?八百万より身長低い…?個性が兎だからその影響か?

 

「…なんかお前、私の事馬鹿にしてないか?」

「い〜や? さっきの迅速のヴィラン退治を見てバカにするはずが無いぜ」

 

 野生の勘ってやつか…俺はマスクやゴーグルしてるのに表情を読み取られたか?

 

「まあいいか。で、お前…連出堕だったか。ヒーロー名はなんだ?」

「Apex Predators」

「頂点捕食者達か…」

 

 思うんだが、Apex Predatorsから頂点捕食者をすぐに和訳出来るって中々凄くないか?日常会話では絶対に使わない英語だぞ?

 

「…兎である私への当てつけか!?」

「違う」

「私を喰らおうってのか!?」

「No」

「喧嘩か!? 買うぞ!?」

「やめてください」(必死)

 

 俺は自分で脚をぶっ飛ばした男だ。自分がイカれてるなんて事は分かる。だが目の前のこの人は別ベクトルでイカれてるな。対応を誤ったら殴られると本能が言ってる。

 

【貴方ミルコに殴られるわよ、言動に気をつけて】

 

 ほら、虚空の声もこの通りだ。

 

「さて、知ってると思うが私は事務所を持たない! だから座学などは無い! ただひたすらヴィラン退治だ!」

「ああ…」

「ついてこい! 個性の使用を許可する!」

「ミルコ、そんな簡単に個性の使用を許可しないでください。」

 

 俺達の個性使用を許可して跳び跳ねようとするミルコに相澤担任が止める。あんたもさっき個性の使用を許可しただろうが…

 

「…じゃあ仕方ないな! こうするか!」

 

 するとミルコは俺の首根っこを掴む。おお、これは嫌な予感がするな!俺からしたら最高に楽しいだろうがごく一般的な観点からでは絶対に間違ってる事がこれから行われるな!

 

 そして俺は…ミルコに掴まれて街を跳んだ…というか跳ばされた。

 

_________A P E X_________

 

 

 

 しばらくして俺はミルコから解放される。ああ〜変な体勢だったから身体が痛いぜ…でも楽しかったな!ってかそれよりも…

 

「ミルコ…ここ何処だ?」

 

 あまりにミルコのスピードが速すぎて分からなかったが…だいたい30分くらいか?そのくらい跳んだ気がする。

 

「静岡」

「へぇー静岡…静岡!?

 

 時計を確認すると、駅へ現地集合してから30分程度…東京から静岡まで30分で跳んで来たのか?200キロメートルは距離はあるんじゃないか!?

 時速400キロなのか…待てよ、しかも俺を抱えた状態だろ!?

 飯田や爆豪が凄い速いと思ってたが…井の中の蛙ってやつか…これが。

 

「静岡に何しに来たんだ? ヴィラン退治か?」

「い〜や。目的自体は愛知だ。少しお前が疲れたろうと思って休んだだけだ。」

 

 愛知まで跳んで行くつもりだったのか…?ミルコでこれならオールマイトや最速のホークスは一体どれくらいのスピードなんだ…!?

 決めた、俺は次からスピード自慢はしない事にするぜ。再生力を売りにする!

 

「そろそろ昼だしなんか食べるか…お腹は空いてるか、頂点捕食者?」

「和訳しないでくれ。空いてるな。」

「そういえば…お前色々切り替える個性だったよな? 他の姿の奴らはお腹すいてんのか?」

 

 他の姿の奴ら…レヴナントやヒューズとかだろう。だがあの空間にいる間はお腹は空くことは無い。レヴナントやパスファインダーに関してはお腹が空かないし…連出堕は……もう5年くらいは何も食べてない気がする。

 

「他の奴らは気にしなくていいさ。前面に出てない間は空腹を感じない。」

「そうか…静岡はうなぎが美味いんだっけか? 喰いに行くぞ」

 

 今度は普通に歩いてミルコは移動をする。おお、跳ねないと移動出来ないデメリットがあるかと思ったけどそうじゃないんだな。

 

「ああ、そうそう移動してるとプロヒーローは握手やファンサービスを求められるんだ。」

 

 ミルコはこっちに振り返り、やっと職場体験らしい説明を受けさせてくれた。

 

「キャー! ミルコ〜!♡」

「こんな感じにな?」

 

 反対側の歩道を歩く2人組の女性の片方がミルコに黄色い声を上げて手を振る。それに対してミルコはかっこいい笑顔で手を振り返す。すると女性は大はしゃぎしている。

 ミルコはかっこいい側面もあるからな、女性からも支持されている様だ。

 女性が騒いだ事によって、周りの人もプロヒーローミルコがその場にいることに気づき、ミルコの大ファンもそんなファンでも無い者も集まってくる。

 

「ファンサービスの対応は大事だが、そんな時間をかけるのは駄目だ。最低限のファンサービスで相手を満足させろ。」

 

 小さい子供からお年寄りまで満遍なく凄いスピードでミルコはファンサービスをこなして行く。戦闘力、スピード、ファンサ。さすがだな…完璧だ。

 

「あれ!? 君は雄英体育祭2位の子じゃないか?」

 

 そこで俺達…連出堕の正体がバレる。というよりも今までバレなかった辺り、ミルコの存在感がそんなに強かったんだな。

 今の姿はレヴナントじゃなくて、種目自体にはそんな参加してないがそれ以外の時間…間の時間や第2種目の騎馬決めの際にはこの姿だったからか連出堕だと認知されているようだった。

 

「おお、本当だ…なんで静岡に?」

「ミルコの所で職場体験でしょ。」

「凄いな、雄英だとミルコに指名されるのか!」

「あんな姿だっけ?」

「姿が変わる個性じゃなかった?」

「握手してくれ!」

「…怖い」

「将来有望だな!」

 

 様々な所から声がかけられて握手も求められる。だが…一部、恐れや恐怖を抱いている人が居る。

 レヴナント…いや、ヒューズの大爆発もあるのか?…少なくともあれらのせいだろうな。確実に…

 

 そのせいか、近づいてくる人は居たが、俺…というよりも連出堕の個性を恐れてファンサは予想してたよりも少なく、俺達はすぐに移動を再開できた。

 そして向かった先の鰻屋へ入店して昼食を済ませた。美味かったな。

 

「そういえば目的は愛知だよな。愛知には何をしに行くんだ?」

「ヴィラン退治だ…正確には私が愛知付近で活動している事を知らしめる。」

「知らしめる…? 誰に?」

 

 ミルコに首根っこを掴まれてまたもや跳びながら移動する俺達。一応最低限の会話ができるようにスピードは先よりもだいぶ遅い。

 

「異能解放軍って知ってるか?」

「知らないな」

「そうか! 異能…つまり個性は人間の基本的人権…決して法律で縛られていいものでは無いと言う個性を自由に使いたい思想団体だ」

「自由に個性ね…」

 

 理解出来なくも無いな…連出堕の様に個性を使わないと生きていけない奴が居るから、何がなんでも個性を一括りにして縛る事については俺も反対だ。だが、全ての個性を自由に使う事は反対だ。それは連出堕の個性の中のコースティック博士が立証済だ。コースティック博士の様な個性が自由に使われれば人類は滅亡の危機に瀕するからな。

 

「その思想団体を威圧する為に…彼らが居る愛知で活動を?」

「ああ、泥花市に小さな異能解放軍の団体がうろついてるらしい。今のところ泥花市の住民に被害が無いが…何か事を起こす前に牽制しておく。今日はそれを行った後、東京へとんぼ返りだ!」

「…今日で東京と愛知を行き来するつもりか…?」

「おう!」

 

 ほー(納得)

 へー(関心)

 ふーん(理解)

 うん…(思考放棄)

 すげえな(諦め)

 

 この後、ミルコのスピードはとても上がった。

 俺の胃の中のうなぎがリスポーンする所だった。

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 その後、無事に胃の中がリスポーンする事無く泥花市に着いた俺達とミルコだったが…しばらく、2時間くらい市内を歩いてパトロールした。

 泥花市はそんなに大きい場所じゃない…かと言って田舎って訳でも無いが…そんな場所に2時間もパトロールがかかったのは、ファンサービスだ。この泥花市は凄かったな、ミルコのファンは勿論、連出堕のファンまで沢山居た。どれくらい多いかと言うと、やってきたミルコのファンと同じくらいの数の人間が俺に握手を求めてきた。

 ここの住民は意外だったな、静岡に居た時は俺達を恐れる人が多かったのにここは全くと言っていい程俺達や連出堕を恐れていない…

 あの雄英体育祭のレヴナントやヒューズを見ても怖くなかったのか?

 ただ…まあ悪い気分じゃなかったな。

 

「………」

 

 ミルコが何やら泥花市の中心にある大きな塔…タワー?なんだろうなあれ…そのタワーを何やら見つめていた。

 が、すぐにファンサに戻った。

 なんだ…?あのタワーに何か……まさかのあのタワーに異能解放軍が?

 

 結局、それ以降ミルコは一切タワーを見ずにファンサービスとパトロールを終えて泥花市のパトロールは終了となった。この泥花市…パトロールしてて一切ヴィラン騒ぎや事件が無かった。至って平和だった。

 

「ミルコ…あの市内に本当に異能解放軍とやらが居るのか…?」

「ああ、というかお前や私に話しかけてきた民間人の中に紛れてたな」

「!?」

 

 民間人の中に…!?異能解放軍が!?

 わざわざ向こうからヒーローに接触しに来たのか!?

 

「気づいてなかったのか?」

「…全く気づかなかった…というかなんでヒーローに接触しに来たんだ? そんな事すれば…」

「異能解放軍はある信条の元、個性を自由に使いたいだけ…別にヒーローや民間人に害を与えたり犯罪を犯したい訳じゃない。だから異能解放軍の中に普通にヒーローの大ファンとかも居るぞ?」

 

 …そう…か、なるほど…。いや、よく分からないがとりあえずは個性の使用が目的であって個性の悪用が目的じゃないから…そんじょそこらのヴィランとは違うからヒーローを恐れたり敵対視しないって事…なのか?

 よく分からねぇな。個性の無断使用も個性の悪用と同じだからヴィランと同じな気がするが…

 

「難しい事考えんな! とりあえず、何か泥花市で行動を起こそうとはしてないって事が分かっただけで充分だ。ヒーロー委員会に連絡して適当にプロヒーローを何人か設置すれば問題無い程度の脅威だって事だな!」

「…おう」

 

 ミルコに再び首根っこを掴まれて跳んでいく俺。

 俺はずっと泥花市の方面を見ていた。USJで出会ったヴィランとは全く別物のヴィラン…個性の使用を求める以外は俺達プロヒーローが守るべき民間人と何ら変わらない悪…いや、悪なのか?

 連出堕の様な個性を使わないと生きていけない奴がしょうがなく異能解放軍に属している可能性だって充分にある。それを悪と捉えて良いのか?それなら今…レジェンドに切り替わってる連出堕も…

 

 

 いや、変な事を考えるのはやめよう。

 

 




オールマイトが確か5キロメートルを1分以内で移動してたので…(10秒くらい?30秒くらい?)ミルコはそれより少し遅めにしました。

泥花市は異能解放軍とヴィラン連合が争った場所ですね。今放送しているアニメのヒロアカで絶賛登場中の街ですよ!
そして異能解放軍ですね。まさか泥花市に居る全市民が異能解放軍だとは流石のミルコも気づきませんでした。更に派遣や配置されるヒーローも異能解放軍の息がかかった者でございます…


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No.16 LMGって最高に気持ちいいんだよね!

職場体験続き。
今回はオリジナルプロヒーローが出てきます、と言ってもミルコが居るので活躍しません。ミルコが強すぎる。

追記:日間総合ランキング6位…!?誠にありがとうございます!


「ゼェ…ゼェ…居た!」

 

 個性を使わずのダッシュで俺は愛知県のメイン…名古屋市の建物の路地裏に来ている。

 

「おう! 遅かったな!」

「いきなり何も言わずに飛び出すなよ…」

 

 路地裏にはミルコとボコボコにされて床に伏してる悪役面の男性3人と涙を流してミルコに感謝する女性が居た。

 どうやらこの女性は男性3人に路地裏に連れていかれて乱暴されかけた様だった。そこにミルコが現れて、俺が到着する前に決着を付けた…って事か。

 泥花市から去った俺達はそのまま東京へ戻らずに愛知県の中心、名古屋へと向かった。ミルコ曰く人口が多ければ多いほど犯罪は増える。そして有名なプロヒーローがやられたというニュースが流れれば一時的にヴィラン発生率は分かりやすく上がるらしい。今回で言えばターボヒーローインゲニウムがやられた事できっと犯罪が増えるだろうと予期して近くの都市に来た。

 そして名古屋に来て、早1時間…もう5件の事件をミルコは1人で解決している。近くで見ようにもミルコは速すぎる。しかも個性の使用を許可されてないから興奮剤はもちろん、パスファインダーやヴァルキリーも使えない。

 

「ミルコ! 個性の使用を許可してくれ!」

「もう個性使ってるじゃないか?」

「違う! 連出堕の個性じゃなくて俺達個人の個性の使用だ。これじゃあヴィランの索敵も迅速な移動も出来ない!」

「ああ、そうだったな! よし、名古屋のヴィラン退治が一通り片付くまで許可する!」

 

 最初からそうしてくれ!!!!!

 

「…むっ!」

 

 すると、ミルコは突然その場から跳び去る。無言で何処かに行くのはやめて欲しい…だが6回目ともなると慣れた。ミルコがいきなり目の前を去るのは何処かで事件を察知したからだ。

 騒ぎになる前から事件を察知出来る…虚空の声の様な個性でも無いのにそんな事が出来るのはプロヒーローとして長年活動しているからだろうか…待てよ、ミルコっていくつだ?

 

「ヴァルキリー、切り替わって空からミルコを探してくれ。クリプト、ミルコの年齢をネットで調べてくれ」

 

 俺はヴァルキリーに切り替わるとヴァルキリーはその場からジェットで飛翔して空から周りを見渡す。すると、ちょっとした騒ぎが視覚に入る。

「このまま直行する」

 

 騒ぎに向かってヴァルキリーが降り始めるが…騒ぎの原因が近くになってくると、そこには締め上げられた不良と不良を締め上げるミルコが居た。もう終わったのか…先の場所から近いとは言え、個性を使っても間に合わなかった!

 

『おい、ミルコの年齢が分かったぞ。今年で26だそうだ』

『若ッ!?』

 

 俺ことオクタンは24だ。個性ありきにしても、肉体的身体能力にそこまで差は無いはずなのにな…一体どれ程自分を追い込んであんなスピード、パワーと判断能力の速さを手に入れたんだ…

 

「連出堕! ここから真後ろに1.1キロメートル先! 着いてこい!」

 

 ヴァルキリーで着陸して、最初にミルコに言われた事はそれだった。すると、すぐに俺達の真後ろに向かって大きく跳んで行く。おいおい、たった今ヴァルキリーのウルト使ったばっかだぞ!

 

『俺とパスファインダーの個性を交互に使って最高速度でミルコの後を追う、ヴァルキリー代われ!』

「コピー」

 

 ヴァルキリーから再び俺に切り替わり、興奮剤を使って一気に加速し街灯に向かってパスファインダーへ切り替えからのグラップルで凄い距離を一瞬で移動する。それでもなお…ミルコには全く追いつかない。

 

『なあ、これだったらファンサービスしまくって色んな人に顔を覚えて貰った方がいいんじゃねえのか?』

『駄目だ。今のところ全くミルコの仕事ぶりを見れていない! ファンサービスと異能解放軍の事だけで肝心の戦闘については学べてない』

「その通りだな」

 

 単純な戦闘能力、効率的または迅速なヴィラン退治。個性や立ち回りでは無く敢えてそこを学ぶ為にここに来たのに…まだ初日とは言え、一目でも見ておきたい。

 しかしたどり着いた時にはもう…あ〜状況的に轢き逃げか?解決していた…これは戦闘では無いとは言え、またもや間に合わなかった。

 速い…ミルコでこの速さならホークスとかどうなるんだ…

 確か常闇がホークスの所だったか…今度会ったら聞いてみよう。

 

 結局、夜までミルコの事件を解決する瞬間や始まりを見る事は無く…終わりの部分や後始末だけしか見れなかった。

 

 全く何も学べなかったわけじゃない。ファンサービスやヴィラン連合とは別の異能解放軍、そして…自身が井の中の蛙だって言う事が職場体験初日に気づいた事だ。

 そうして俺は名古屋の宿泊先で眠りについた。と言っても…個性の問題上…起きているけどな。

 

 

 

 次の日、朝5時半にミルコが部屋に入ってきた。この部屋オートロックなんだが?というよりも思春期の男子の部屋に勝手に入ってくるな。

 部屋に入ってきた瞬間、何人かは起きてるので難無く対応する。

 

「うむ! 寝起きの襲撃を迅速に対応して臨戦態勢を取れるのは素晴らしいな! USJ襲撃がタメになったな!」

「あ〜ミス・ミルコ。それだけの為にわざわざこんな朝早くから部屋に…?」

 

 この時俺は寝ぼけていたからな。対応は主に電気系の個性を持っている比較的まともなワットソンがしている。

 

「違う! ヒーローの朝は早い! 今日はお前にチームアップについて教えてやる!」

「チームアップを…?」

「雄英ならもう習ってんだろ。チームアップが何かは」

「ええ、難解な事件、凶暴なヴィラン討伐の為にプロヒーロー同士や事務所同士が手を組んで解決に取り掛かるものね。だいたいは即興で組むけど、大きな事件の場合はヒーロー公安委員会と話し合って相性を考えてチームアップよね?」

「そうだ!」

「…ミス・ミルコはサイドキックも居ないのにチームアップをするの…?」

「いや、いつもならしないな! お前の為にわざわざ組んできた! 午後に東京で合流する。午前は名古屋を見回りだ!」

 

 わざわざ俺達の為にチームアップの予約をしてくれたとはありがたいな…昨日は散々だったからな。戦闘においての行動は何一つとして見られなかった。だが、今日はチームアップを見られる。

 授業の通りならプロヒーロー活動において確実に必要らしい。あのメディア嫌いの相澤担任もチームアップはそれなりに組んでいたらしいしな。それらを今日、一足先に経験出来る。

 そう思うと昨日の遅れで沈んでいた気持ちが昂ってきたな。

 

 

 俺へと切り替わった後、名古屋でパトロールを行い、午後はいつも通りミルコの手によって跳んだ…と思いきや、今回は普通に新幹線などの交通機関で移動した。だから今朝が早かったんだな…そして俺達は東京で2人のプロヒーローと合流した。

 片方はクリーム色の髪色にクリーム色の翼を生やした女性。戦闘服は全体的にクリーム色で特にこれと言った特徴は無い。どうやらミルコの学生時代の後輩だそうだ。

 もう1人は全身甲冑の人。声質的に男だ。何故戦闘服が甲冑なのか尋ねたら頭の兜だけ外して顔を見せてくれた…すると、そいつは骸骨だった。レヴナントの様な骸骨みたいな顔じゃない。完全な骸骨だ、目玉は無かったし肉も全く無かった。そういう個性なんだそうだ。

 

 女性のプロヒーローは「セラミックリーマー」。個性は鶏。鶏っぽい事なら何でも出来る。

 骸骨男性のプロヒーローは「がしゃ☆くどろ」。個性はがしゃどくろ。巨大な骸骨に変身出来るらしい。普段は人間サイズの骸骨だ。

 

「今回はこいつら2人とチームアップを組んで保須市へ向かう!」

「… 保須市…」

 

 俺は聞き覚えのありすぎる地名を呟く。レジェンド達の中でも1部のレジェンドがざわめく。間違いない。飯田の兄を再起不能にした…あのヒーロー殺しステインが出没している場所で飯田の職場体験先だな。

 

「もう気づいているだろうが、あの場所にはヒーロー殺しが現れた! そして、多分まだ居る!」

 

 ああ、まだ居るだろうな。だから飯田が保須市へ行ったんだ。

 

「そこで私達3人でヒーロー殺しを捜索して、組んで、倒す! 他の2人が居る分、私はゆっくりと進めるから今度はちゃんと私に着いてこいよ!」

 

 …他のプロヒーロー2人がどれくらいの実力者なのか俺は分からねぇが…ミルコが動き出したとなると、ステインは今日でおしまいだろうな。問題はそのステインとの戦いを本当に見れるかどうかだ。

 ミルコはゆっくり進んでくれると言ってくれているがいざステインを見つけたら俺を置いて凄いスピードでステインの後を追いかねない。

 

「…ミルコ、念の為俺の個性使用を許可してくれ」

「いいぞ!」

「えっ!? 良いんですか先輩!?」

「なにか文句あるか!?」

「な、無いですぅ…」

 

 可哀想に、きっとあのセラミックリーマーは学生時代からミルコには逆らえ無かったんだろうな…

 ミルコに顔を近づけられてオドオドするセラミックリーマーとそれを見てケタケタと笑うがしゃ☆くどろ。

 

 その光景を見て…その時は本当にステイン捕獲は簡単…問題はその現場を見れるか……そう考えていたんだ…まさか予想外の乱入者が現れるとはその時思わずに…

 

_________A P E X_________

 

 

 

 

 名古屋を新幹線で出たのが12時半、東京に着いて、その後保須市へ着いたのは15時だった。そして30分ちょっとのブリーフィングを行い、15時半に見回りを開始。ミルコと俺、セラミックリーマーとがしゃ☆くどろの2:2で別れた。

 そして保須市をパトロールしてる最中…

 

「よう! エンデヴァー!」

「…ミルコか」

 

 No.2ヒーローであり轟焦凍の父親であるエンデヴァーと出会った。

 あの轟の話を聞いて以降だ…ミルコは気さくに接しているが。それはきっと轟の事情を知らないからだろう。知ってる俺からすれば……こいつは…

 

「連出堕」

 

 ふと、その時…エンデヴァーの後方に居た轟に話しかけられた。

 

「轟!?」

 

 意外だった…あれだけ左…エンデヴァーの個性を憎む程エンデヴァーを嫌っていた轟が新しい戦闘服でエンデヴァーと並んで歩いて居たのだから…

「もしかしてエンデヴァーの事務所に…?」

「ああ、職場体験先はコイツだ」

 

 轟は無造作にエンデヴァーを指さす。

 

「親に対してコイツとはなんだコイツとは!」

「お前の息子生意気だな! 良いぞ!」

「良くない!」

 

 怒るエンデヴァーに何故か喜ぶミルコ…こう見るとエンデヴァーは普段の厳格そうな見た目からは思えないコミカルさが見受けられたな。

 

「そういえば…あの準決勝の時…俺は左側が嫌いすぎて、ずっと使わなかった。緑谷に言われるまではな…それで思ったんだが…もしかしてあのヴィラ…レヴナントが左側を強要したのって嫌がらせじゃなくてあいつなりの優しさなのか?」

「え? 気づいてなかったのか?」

「…? ああ…完全にヴィランだったから俺に左側を使わせた上でボコボコにするつもりなのかと…」

 

 何処の爆豪勝己だよそれは…と、言っても塩崎茨をあんなバイオレンスに倒した後だとどうしても悪印象だよな…

 

 待てよ、レヴナントじゃなくてあのままシアやブラットハウンドで説得してくれれば使ってくれた可能性あったか…?

 

「どうせヴィランに折られて負けるくらいなら…って思って降参したが…思い返すと間違ってると…お前も緑谷も俺の事を思ってくれてたのに…俺はそれを無下にしちまったから…」

「あ〜。まあレヴナント使ったこっちも悪かった。とりあえず追い詰めれば何とかなると思ったこっちも悪いさ…気にすんな。それよりも…エンデヴァー事務所を選んだってことは…?」

「ああ、俺は左側()と向き合う。左も右もどっちも使って、俺は今度こそトップを目指す。お前にも緑谷にも爆豪にも負けねぇ」

 

 轟の瞳からは強い意思が感じられる…うーん、最高だな!

 結果良ければ全て良し!あのレヴナントの下りは黒歴史だな!二度とレヴナントを使わねぇ!

 

『使え』

 

 使わねぇ!

 

『使え』

 

 使わねぇ!!!

 

 そうして、轟とエンデヴァーは去った。途中、エンデヴァーが俺をじっと見つめたが…レヴナントのことで警戒しているのか?

 轟とは個性の話しかしてなかったが、ミルコは俺が轟と何話してるのかイマイチ分かって無かったらしい。ここで轟の過去やエンデヴァーのやって来た事を…いや、良いか。多分ミルコが知ると余計ややこしくなりそうだからな。

 

「そういえばエンデヴァーもステインを探しているらしいな! あいつに取られたら悔しいからセラミックリーマー達に捜索ペースを上げるように伝える! 私達も急ぐぞ、絶対に置いていかれるなよ!」

 

 今はもう17時半…

 日も暮れて来たが…職場体験の終わりは18時半だ…あと1時間で見つけられるのか…?

 

 そんな時、ミルコの携帯に着信が届く。セラミックリーマーからの様だ。

 ミルコはセラミックリーマーからの電話をスピーカーにして、俺にも聞こえるようにしてくれた。

 

「よう、セラミックリーマー! ちょうど良い、今エンd____」

「先輩! ヴィランが…ロボットの姿をした性別不明の集団が銃火器を装備して街中で発砲を始めました! 今がしゃ☆くどろが応戦! 私と現地に居た他のヒーローは市民の避難誘導に当たってます!」

「あ? 銃火器を持ったロボット?」

 

 なんだそのアーノ〇ド・シュワ〇ツェネ〇ガー主演のターミネーター映画みたいな状況は…

 

「…セラミックリーマー、方角は?」

「保須の真ん前です! 敵の数は8人! 市民やヒーロー関係無く乱射してて非常に危険なんです! 撃たれた市民の救助も行わな…え?」

 

 その瞬間、通話が途切れる。

 

「セラミックリーマー! 瀬羅!?」

 

 切れている通話にミルコは叫ぶも無意味。あまりの慌てようにセラミックリーマーの名前まで叫んでいる。

 

「救援に行く! Apex Predators! お前は避難誘導や怪我人の救助! 個性の使用は引き続き許可する!」

「OK!」

 

 そう言って、いつも通りミルコは俺の首根っこを掴んで移動しよう…とした瞬間。

手を離した…

 

「ミルコ?」

 

 顔を見上げて、ミルコを見ようとするが…当のミルコは俺を見ずに周りを見ていた。

 そのミルコが見る方向に釣られる様に俺も同じ方角を見る…すると…

 

 USJで見た…黒いモヤ…あの忌まわしき黒霧の個性が開いていた。黒いモヤからまたもや死柄木弔、脳無が現れるのではと怯えていたが…現れたのは…4体のロボット。パスファインダーやレヴナントと違ってスリムでは無く、凸凹としたやや太めのロボット。どれも同じ見た目をしており、量産型と言えばしっくり来る見た目だった。

 持っているのは銃…明らかにヒーローには見えないな…というよりも…

 

「セラミックリーマーが言っていたロボット…」

 

 黒いモヤは消え、ロボットだけが残る。そして、銃を構えた瞬間…

 4体のうち、半分がミルコの蹴りで破壊された。

 

 残り2体が慌てて銃をミルコに向けようとするも、それよりも早くミルコは残り2体も破壊した。早いな、たった今シアやブラットハウンドに変えようとしたのに…間に合わなかった。

 

「…やっぱりな、こいつら人間じゃないな!」

 

 破壊されたロボットの残骸を見て、ミルコは言う。俺も近づいてロボットの残骸を見ると…導線やらネジやら金属片やら…明らかに人間の異形系の個性では無い…もしかしたらロボット系の個性のただの人間の可能性も万が一に有り得たからミルコが破壊した時、少し冷や汗を書いたが…杞憂の様だったな。ミルコがやっぱりなと言っていた辺り、野生の勘とやらでこいつらが人間じゃないと予め分かっていたのかも知れないが…

 

「Apex Predators! 市民の避難誘導を始めろ! 次あの黒いモヤが出たらまた私が潰す!」

「OKだ!」

 

『待って!』

 そうして俺が慌てたり、歓声を上げる市民に近づこうとした時…バンガロールが声を上げる。

 

『ちょっとそのロボットが持ってる銃、近くで見せてくれねぇか?』

 

 続いてランパートも声を出す。

 今避難誘導しないとダメなんだが…何か彼女たちは気づいた様だな。ランパートに関してはただの銃オタクだから無視しようとしたが…バンガロールはきっと違う。きっと銃について何か気づいたんだな。

 

 俺はバンガロールに切り替わり、バンガロールはロボットが持っていた銃を拾い上げてまじまじと見つめる。

 

「ねえ、ランパート…これってもしかしなくても…」

『ああ、間違いないね。』

 

 2人の声が重なる。

 

『「スピットファイア」』

 

 

 アメリカの大企業。ハモンド・ロボティクス。個性を持たぬ、または個性を使えない一般人が個性を悪用するヴィランやチンピラから身を守る為に正規の手続きをすれば子供から老人でもヒーローじゃなくても扱える武器や装備を製作して売ってくれる、武器やサポートアイテム、警備システムなどの製作企業だ。今、バンガロールが抱えている銃…スピットファイアはそのハモンド・ロボティクス製の武器なのだ。

 もしや、このロボットも…?と思ってロボットの残骸を漁るもハモンド・ロボティクスのマークは見つからない…というかこのスピットファイアも構造や形から判断しただけで、よくよく見ればハモンド・ロボティクスのマークは見つからない…

 

「だけどこんな精密な武器はハモンドじゃないと造りようが無いわ。過去に盗作しようとした企業が多く居たけど結局形が歪だったり、粗悪品だったり発砲するのも困難で使い物にならないけど…これは違うわ」

『モデルは少し古い…けど、全然使い物になる。というかセラミックリーマーが言ってたロボットが乱射してるって…もしこれと同じ銃ならまともに発砲出来ずにお縄だよ』

「新たな企業がハモンド・ロボティクス社の武器盗作に成功した…って所かしら。しかもこんな精密な量産型ロボットが居て、尚且つ持たせるなんて…相当技術が高いわね…」

『というか普通にハモンド・ロボティクス社が襲って来たんじゃないの〜?』

「それは無いわ、アメリカの大企業がわざわざ自社だと一目見れば分かる武器をロボットに持たせてわざわざ日本のこんな街を襲う意味が無いわ。それにあの黒いモヤは確実にヴィラン連合の黒霧…ありえる可能性は…ハモンド・ロボティクス社に罪を擦り付けて……いや、でも何故…?それにあんなチンピラ集団にこんな技術があるとは…」

 

 バンガロールとランパートが意見を出し合うが、そんな中でも街中はパニックだ。連出堕の指示でバンガロールとランパートの話し合いは中断されて、シェのアネキに切り替わり、もしかしたら出てしまった怪我人の治療と避難誘導に向かった。

 

 だが…またもや黒いモヤが、今度はミルコとアネキの間に現れる。

 2度目ともなれば、ミルコの行動は早かった。真っ先に黒いモヤに跳びかかり、出てくるであろうロボットに蹴りを入れようとした…が、現れたのはロボットではなかった。

 

 現れたモノは、ミルコの蹴りを腹部に食らった。しかしよろめきすらしないし、苦痛な表情すらしなかった。否、出来ないんだろうな。

 灰色の体色に、脳みそ丸出しの頭部、眼は脳みそについているが何処か朧気な目付き…

細かな身体付きと体色は違うが…間違いない。間違えようもない。

 あれは…

 

「脳無…!」

 

 USJでオールマイトとほぼ互角だったあの化け物が保須市に現れた。

 

 




セラミックリーマー。24歳。本名は瀬羅庭里ヒーロービルボードチャートランキング。92位。個性は鶏。鶏だけど飛べる。卵を産めるかどうか過去にインタビューしたらセクハラだと怒っていた。その怒り具合が可愛くてファンは増えたという。

がしゃ☆くどろ。31歳。ヒーロービルボードチャートランキングは171位。ヴィランっぽい見た目ヒーローランキング9位。個性はがしゃどくろ。巨大な骸骨になれ、パワーもその分上がるが…骨である為、ダメージを負えば直接骨にダメージが行く。戦闘時は毎回何処かしら骨が折れてるかヒビが入っている。戦闘服の甲冑は伸縮自在なので巨大化しても纏える。Mt.レディの登場で人気は下降中。

そしてついに登場、APEXの銃! スピットファイア!
ランパートが言ってますが、古いモデルのスピットファイアです。
また、ハモンド・ロボティクスが出てきましたね、APEXの世界と違ってロボット兵を作ったりしてるのでは無く、一般人に護身用の銃火器や行き過ぎたサポートアイテムを見境無しに配るアメリカのでは一般的に知られているやや危険な企業です。
日本には流通はそこまでしてませんので、日本では一般的に知られている企業ではありません。バンガロールとランパートは銃火器に詳しいのでハモンド社をよく知っています。連出堕は名前だけ知っているだけです。
では…原作においてはハモンドに改造されたレヴナントはどうなんでしょうね…?
そしてヴィラン連合とどんな関係が…?

追記 ストーリーの少し変更に伴い、ハモンド・ロボティクスを世界的大企業という設定に変更致します。また、ロボット製作も警備サポートアイテムの一環で制作しているという事にします。


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No.17 俺達を探していたんだろ…違うのか?

クリプトのセリフ「ある種の成功」からです。
職場体験、脳無戦

小説書くペースがガタ落ちしてる。アイディアも少し思い浮かばない。


『脳無…』

 

 身体の色合いや首が少しヒョロりとしているが脳みそ丸出しの奴なんざそんな沢山居ない…USJで現れた脳無…きっとそれの兄弟か家族か…クローンかそんなところだろう。

 

『ミルコ! そいつはUSJでオールマイトとほぼ互角に渡り合った化け物と同じ個性か血筋かなんかだ! 気をつけろ!』

 

 こんな事ならオールマイトや緑谷とか爆豪からあの脳無の個性とか詳細とか聞いとけば良かったな…あんまりヴィランが襲ってきた事件を掘り返すのは良くないと思って聞かなかったが…まさか脳無に親戚が居てそいつもヴィラン連合だとは!

 

 俺がミルコに注意するとミルコは片手で親指を立てただけだった。あの脳無とやるつもりだ…

 確かにミルコは強い…きっと相澤担任よりも強いだろうな…だがあの脳無は…オールマイトとほぼ互角だ…!だとすればエンデヴァーでようやっといい勝負だろう。

 

 援軍に行きたいが…周りに人が多い。あの脳無とオールマイトのぶつかり合いを見て、俺は既に介入出来る戦いじゃないと察している。俺が今出来る最高のアシストは…周りの避難!

 

「みんな! ここは危険な場所になるから避難して! 慌てずにゆっくりと!」

 

 シェのアネキが周りの人に避難を促す…が、やはりというべきか何人かはミルコなら勝てる…ミルコが居るから大丈夫と楽観視して逃げるスピードが明らかに遅い人に、避難が聞こえておらずにウロウロしている人が居る。

 そんな中、ミルコと脳無がとうとうぶつかり合った。

 

『ん…!?』

 

 俺は目を疑った。

 脳無の腕から火が出てるからだ。

 脳無の両腕の肘から先が炎を纏い、ミルコの蹴りを防いだ。

 

『炎を纏う個性…!?』

 

 USJではオールマイトと互角のパワー、スピード、耐久力だったからそれ関連の異形型個性かと思ったが…どうやらあの脳無は少し違う…ミルコの蹴りを腕を交差して防いだだけでなく、炎を纏った。

 

 なんだ…?炎を纏う肉体的強さを得られる個性…!?

 

『ライフライン、俺に代われ! 街中にあるあらゆるモニターをハッキングして避難勧告を出す!』

 

 だが、シェのアネキが脳無の方をよそ見して、俺がそんな事考えているとクリプトから切り替えるよう指示が飛んだ。

 クリプトはハッキングの天才…個性はまた別物だから素の頭脳でハッキングが出来る。

 

 シェのアネキは切り替わり、一見若々しく見える男性クリプトに切り替わる。そしてクリプトは何処からともなく、個性の一部であるドローンを取り出し、街中にある電光掲示板に向かわせる。

 クリプトの個性はドローン。シアと似た名前だが用途は全く異なる。

 ドローンを起点に、ドローンから敵味方問わず、ロボットや人間問わずに痺れさせる妨害電波を出したり、ドローンから見える景色を任意の相手に共有出来る。更にドローンはあらゆる電化製品やインターネット、セキュリティに接続出来てそこからある程度の遠隔操作が出来る。これに関してはクリプトの頭脳があるからこその業だけどな。

 クリプトのドローンが電光掲示板に近づくとCMがエンドレスで流れていた電光掲示板は「避難してください。 落ち着いて安全にこの場から避難してください。」と表示された。更にそれだけでなく、周りの小さな店の小さな電光掲示板を使った看板にもその文章が表示される。

 

 脳無がミルコと互角の戦いを繰り広げた事でミルコが居るから大丈夫だと楽観視していた者は不安を感じて避難を開始、電光掲示板が見えた者も避難を初めて、少しずつミルコの周りから人が居なくなっていた…

 

「よし…!?」

 

 一仕事を終えたクリプトはミルコへ報告しようとミルコの方向へ振り向くと…無傷の脳無と腕や脚を火傷したり、髪の毛が少し焦げているややボロボロのミルコが居た。

 

「はぁ…はぁ…めんどくさい個性だな…なんだコイツ!」

 

 ボロボロであるにも関わらず、ミルコは俺達すら視認が難しいスピードで脳無の頭部を思いっきり蹴る。しかし、脳無はビクともせず…逆にミルコが少しふらつく。そこに炎を纏った腕がミルコに襲いかかり、ミルコは間一髪避ける。

 やっぱり…あのオールマイトの攻撃を防いだだけある…ミルコのパワーじゃ太刀打ちが出来ない…

 

 どうする…あの時と違って黒霧や死柄木弔は居ない…少し癪だがレヴナントを使ってミルコと協力すれば勝てない相手ではない…

 いや、行けるのか!?当たるのか…?サイレンスは…!?

 

「…攻撃を和らげる個性、炎を腕だけに纏う個性、攻撃してきた相手の身体能力を奪う個性…!」

『え?』

 

 ミルコは突然、そう叫ぶ。何を…言ってるんだ?

 

「見てろApex Predators…! 瞬きすんなよ…!」

 

 瞬間、ミルコが大きく飛翔する。跳ぶ…というより飛んだ?

 クリプトや俺達と同じように脳無も大きく飛翔したミルコを眺めるが…突然、興味が薄れた様に、その目線を市民に向ける。

 それに気づいた俺達は飛んだミルコから視線を外して、脳無を止めようとするが…

 

月墜蹴(ルナフォール)!」

 

 飛んでいたミルコが空中から強烈なかかと落としを脳無の背中に当てる。まるでミサイルが落ちたかのような爆音に、思わずしゃがみこんでしまう暴風。おおよそ人が出せる威力では無い…あのUSJで聞いた…オールマイトのパワーに匹敵していた。

 

「お、おい! こんな威力出したら脳無が…!」

 

 過去にシアから聞いた心拍等であの脳無がまともな人では無い可能性があるが、まともでなくても人は人。殺してしまえば殺人罪となる。

 

「大丈夫だ、こいつは物理威力を緩和させる個性だ。常人なら死ぬが…こいつなら気絶で済む。さっき蹴って分かった。」

 

 さっき動いていた時と全く変わらない表情、顔色こそしているものの全く動かなくなった脳無の上にミルコが胡座をかいて座っている。

 すげえ…勝った。

 

 っと…その前に!

 

「ライフラインに切り替わる。治療をしてくれ!」

『了解!』

 

 クリプトはシェのアネキに切り替わり、シェのアネキはヒールドローンを召喚する。

 現れたヒールドローンはミルコに管を繋いで、ミルコを治癒させる。そしてみるみるうちにミルコの怪我や火傷は治っていく。焦げた髪の毛も治っていく。

 

「おお! 回復まで出来るんだな! 便利な個性だな!」

 

 そういえばシェのアネキはカメラが回ってる所では使わなかったな…

 完治したミルコは立ち上がって脳無から降りると、ちょうどそこに他のプロヒーローが到着する。セラミックリーマーやエンデヴァーでも無い、ステイン目的でやってきたヒーローか現地のヒーローかまたは援軍で他の場所からやってきたヒーローだろう。

 

「ヒーローミルコ、大丈夫ですか!?」

「おう、こいつのおかげで大丈夫だ! 悪いけどこの脳みそ野郎の捕縛よろしく私はもう行くから!」

 

 ミルコはシェのアネキの頭を撫でた後、アネキの首根っこを掴む。おっと、それは俺の仕事だな。俺はアネキと切り替わる。

 ああ、そうそうこの感覚だ。やっぱりこれは俺じゃないとな。

 

「セラミックリーマーは駅方面に居るって言ってたな! 行くぞ! 最高速だ!」

 

 最高速…深くは言わないが…凄かったな、今までのスピードとは比にならない…もう一度やりたかったな…

 

 俺達が駅前に着いた時…その時にはロボットはもう居なかった。居たのはロボットらしき残骸とプロヒーロー数名、緊急手当をしているセラミックリーマーだった。

 

「おう! 無事だったかセラミックリーマー!」

「あ、先輩! ついさっきエンデヴァーさんが助けてくださって、私もがしゃさんも無事です!」

 

 エンデヴァー…轟も一緒……あれ、待てよ…思い出したけど飯田はどうなった!?脳無やロボットだらけ…いや、待てよ。USJの脳無や黒霧が居るなら…!?

 その時、色々な事が1つに繋がった。

 

 黒霧と脳無はオールマイトを殺すためにA組を襲った。しかしそれは失敗に終わった。

 何故オールマイトと無関係な保須を襲ってきた?

 何故脳無やロボットを色んな箇所に設置した?

 

 撹乱…?陽動…?

 

 まさか、A組の生徒をまだ狙ってる!?

 

 轟にはエンデヴァー、俺達にはミルコが付いてる…だが飯田には誰が付いてる?飯田はステインに会いたいが為にここを選んだ…当然職場体験先のプロヒーローの強さや順位なんて見てない…

 銃火器を持ったロボット軍団やあの脳無クラス、死柄木弔やワープ出来る黒霧が現れた時に対応出来るプロヒーローがそばに居るのか!?

 避難誘導や他の場所の援軍で生徒の監視が疎かになってるのでは!?

 

 俺は慌てて携帯で飯田に連絡を取ろうとする…どうせこの緊急事態だ、反応は無いかも知れないがしないよりマシだ。そう思い、携帯を開くと…いつの間にか緑谷からメールが来ていた。

 保須市の細い裏道…というより路地裏か?そこの住所情報だけが送られてきた。

 

 まさか緑谷も保須市に居る!?

 オールマイトを確実に殺す為に今度はA組の生徒を人質に取る、または危険に晒す為に生徒を狙ってきた。普通に考えれば無理そうだがあの量産型ロボットや黒霧が居るなら誘拐は不可能じゃない。むしろ黒霧は過去にUSJでA組をバラバラに分散させたから誘拐は容易い事だろう。

 何故飯田なのかは全く分からないが、きっと誰だっていいんだろう。だから緑谷が…ここに居るのが最悪だ。

 特に理由も無くA組の中から飯田を狙うなら、緑谷も特に理由も無く攫われる可能性が高い。

 

「ミルコ、この座標…保須市のこの場所に人通りの少ない場所にクラスメイトから座標だけ送られてきた。特になんの文章も無く…もしかしたらロボットに襲われてピンチなのかも知れねぇ!」

「何!?」

 

 ミルコは携帯の画面の座標を見て、座標位置を呟いた後、屈伸する。

 

「連出堕、お前はセラミックリーマーと行動…いや、やっぱりセラミックリーマーは不安だから私に着いてこい!」

「先輩!? 私を信頼してください!」

 

 哀れ、セラミックリーマー。

 

「がしゃ✩くどろはセラミックリーマーと一緒に居てくれるか?」

「ええ、おまかせを」

 

 銃創で怪我しているセラミックリーマーの後をがしゃ☆くどろに任せて、ミルコは俺を掴んで跳ぶ。

 頼むぜ緑谷、無事で…というかあの送信がなんの事件とも関係ないであってくれ…!

 

 

「居た…! あれは…あの見た目は、ヒーロー殺しだ!」

 

 速い移動で細かくは見えないが…俺の視界の隅に、緑色の髪の毛の少年に動かない脳みその化け物、そして赤いマフラーや包帯だらけのよく分からん奴が居た。

 緑色は緑谷だ!脳みそは…まさか脳無か!?そして包帯だらけのやつは知ってるぞ。ニュースで何度も見た、ヒーロー殺しステインだ!

 

「正さねば…誰かが血に染まらねば…! ヒーローを取り戻さねば! こ来い、来てみろ贋物共! 俺を殺して良いのは、本物の英雄オールm」

月墜蹴(ルナフォール)!!!」

 

 何やらヒーロー殺しステインは動かぬ脳無の上で何か叫んでいた様だが…きっと緑谷を人質に取って脅していたんだろうな。残念ながら真上のからやってきたミルコと俺には気づかず、ミルコの蹴りを食らって倒れ込んだ。

 

「ええぇ!? ミルコ!? 連出堕くん!?」

 

 突然上から現れたミルコと俺に緑谷は驚く。だがそんな事を無視してミルコは動かないステインを取り押さえ、俺はジブラルタルに切り替わって脳無を警戒する。

 

「ブラザー、この脳無は死んでいやがる。」

 

 ジブラルタルの言う通り、USJでもさっき出会って脳無ですら無い。脳みそ丸出しのヒョロガリの翼の生えた脳無は頭部から血を流して絶命していた。いや、元から死んだ様に感情や動きが歪な脳無だが…頭部に深い刺傷があって、これで生きてるなら本物の化け物だ。

 

 お、よく周りを見てみると飯田や轟にエンデヴァーも居る…良かった。全員無事だったな!

 

_________A P E X_________

 

 

「帰る」

 

 保須市全体を見渡せる、建物の上の給水タンクの上で死柄木弔はそう呟いて脳無やロボットの暴れ具合を見る為だけに買った双眼鏡を崩壊させる。

 

「納得行く結果でしたか? 脳無も私のロボット兵も全員やられちゃいましたが」

 

 死柄木の後方に立つロボットの様な女性が話しかける。

 

「それは明日次第だ。明日になれば皆ヒーロー殺しの事なんざ忘れてるさ。」

 

 黒霧が黒いモヤ、ワープゲートを展開して、死柄木弔とロボットの様な女性は黒いモヤの中に消えていく。最終的にはまるでそこには誰も居なかったのかのようになっていた。

 

 この日、ヒーロー殺しステインの他に脳無が4体が逮捕。そして銃火器を持ったロボットが20体とハモンド・ロボティクス製らしき銃、ショットガンが累計20丁が回収された。

 




まさか死柄木弔がステインに腹が立ったから脳無達を暴れさせただけとは思わず、物凄い深読みをするオクタン達。
飯田や緑谷とか誘拐とか全く関係ないただの癇癪って知ったらどう思うんでしょうね。

原作では3体の脳無でしたが今回は4体。
そのうちの1体は「ショック吸収」「腕に炎を纏う個性」「触れた相手のパワー少しだけを奪う個性」の3つです。この個体はUSJ脳無の対オールマイト用の失敗作なんですが…ミルコと絶望的に相性が悪いです。
物理パワータイプのミルコの攻撃を吸収するだけでなく、ミルコのパワーを少しずつ奪うので物理攻撃をすればする程効かなくなります。更に炎を纏ってるので攻撃を防がれれば火傷のカウンターです。ただし代わりに再生の個性が無いです。

クリプトようやっと登場したのに出番短い。


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No.18 信者は近くに居るのか? 知り合えるのが楽しみだ。

保須事件後。
タイトルはレヴナントの「新たな獲物」の改変版。

最近ヴィジランテ読んだんだけど凄いなあの作品は…


 ヒーロー殺し、脳無、ロボット軍団などが保須を暴れ回った事件。保須事件の次の日の午後。俺達はヒーロー殺しステインと接触して怪我をした飯田、轟、緑谷のお見舞いに行ってやろうとした。ミルコから許可を得て同伴しながらな。

 だが、病院前でなんか黒いスーツを着た怪しい奴らが居た。

 でも俺やミルコは少なくとも怪しいとは思ったが敵だとは思わなかった。こいつらは…ヒーロー公安委員会。その中でも割と…まあ、なんというか黒い部分を消したりする奴らだ。物理的にも情報的にも。

 

 俺らはそいつらに呼ばれて病院の会議室の一室に入った。

 

「まず、連出堕くん。君がくれたロボットについてや武器についてだがね…ハモンド・ロボティクス社からの関連性は見受けられなかったよ」

 

 まさか病院で会うとは思わなかったが近々こいつらとは会う予定だった。公安とはレヴナント関連でよく話す事が多い。向こうからの一方的な接触だけどな。でも今回はアメリカの大企業があの保須事件に現れたヴィラン連合の後ろにいるかも知れないとメールを送ったらこうやって反応が返ってきたな。

 

「じゃああの武器は盗作か?」

「ああ、だが…何処の盗作かまでは分からなかった。というよりも作り方がハモンド社と全く同じだ」

「…じゃあハモンド社が…」

「あらゆるルートを洗ってみたが…アメリカからハモンド社の武器の密輸、ロボットの密輸は無かった。」

「それだけでハモンドがシロだと?」

「……もちろん、これからも我々は強く監視する。だが、今はシロだと伝えておこう。」

 

 だいぶ適当な報告だな。

 

「それと…脳無は人間じゃなかった。色んな個性に適した動く改造人形だ。実はこれは既にUSJ事件解決後にわかっていた事だが…どうやら君は知らなかったようだから話しておきたかった。今後の君との信頼関係的にもね」

「随分反吐が出るジョークだな」

 

 人の将来の夢の選択肢をヒーローか公安の犬かヴィランかの3択に狭めて詰めて来た奴が言う事じゃないな。

 そして脳無のことはもう聞いた。昨日轟が軽くだけど話してくれた。どうやらUSJの時に死柄木弔が自慢げに脳無の秘密をバラして居たそうだ。俺はその時ギリギリ居なかったな。

 

「そして最後に…職場体験においてレヴナントやコースティックは使っていないだろうね?」

「あー使ってねぇよ。」

 

 確かにレヴナントはクソ野郎でヴィラン野郎だけど連出堕の命令に反して殺人は起こさねぇよ。過失致死は起こすかも知れないが。

 

「ステインが捕縛された後、彼の思想や言葉がインターネット上にありふれている。ヒーローは見返りを求めては行けない。悪い思想ではないがそれで殺人を起こされては敵わない、なのに今ネット上ではそのステインを信仰、真似事をしようとする馬鹿がいる。」

「へー」

「そして…ステインを盾に堂々とヴィラン行動を起こそうとする犯罪者予備軍が増えた。」

「ああ…」

「……雄英体育祭高校1年の部、準優勝はヴィラン」

「は?」

 

「知らないのか? ステインが捕まって以降、たった半日で君も…正確にはレヴナントもステインと同類とされ始めている。ヒーローを育てるべき場所に完全なるヴィランが居る。ヴィランもヒーロー思想を持てば合法である。あれぞステインの化身。見返りを求めるヒーローよりもあれが正しきヒーローである…とこちらはまだまだ意見は疎らで完全とは言い難いが、少なくともレヴナントはステインと同様にヴィランに餌を与えた。」

 

 俺は押し黙る…というより連出堕も押し黙る。職場体験先のプロヒーロー達に「俺達はこんな爆弾を抱えている。それでも指名してくれる人は居るか!? 指名してくれるか?」という意味合いでやったのだが…まさかヴィランやヴィラン予備軍の餌になるとはな。

 当のレヴナントは話をちゃんと聞いているが特に気を悪くしていないようだ…むしろ、やや不気味に笑ったからどうせろくな事を考えてない。そしてコースティック博士は興味深そうな反応をしている。

 

「一方でヒューズの評価は良い。爆豪勝己くんとの一騎打ちはレヴナントの闇の雰囲気をそれなりに打ち消してくれた。レヴナントはともかく、他のレジェンドや連出堕くん本人がステインの様に見られる事は無いだろう。」

 

 公安の多分お偉いさんは席から立ち上がる。

 

「前からレヴナント、コースティックの使用は最小限と伝えていたが…今後は学業や雄英高校内の敷地や一般人の目に入らないならともかく、それ以外の使用は一切禁ずる。ただし、責任者が責任を取ってくれるなら話は別だ。彼らの思想や個性はこのヒーロー社会においては危険極まりないが個性に関してはヴィランからしても危険極まりない。是非ヒーローに役立ててくれ。話は以上だ。」

 

 

_________A P E X_________

 

 

「悪いなミルコ。なんか変な話を聞かせちまって…」

 

 公安との話が終わったあと、緑谷達の病室へ移動しながら俺はミルコへ謝罪する。

 

「気にすんな! お前を指名した時からヒーロー公安委員会やイレイザーヘッドから色々言われてたし! ほとんど無視したけど!」

 

 無視したんか。

 

「緑谷達の病室は…ここか」

 

 緑谷、飯田、轟の病院へ着き、俺達はノックしてから中へと入る。ミルコは3人と絡みがゼロだしミルコはあくまでも俺達の付き添いで来ただけだから病室へ前で待機してくれた。

 一応緑谷が喜ぶだろうから入っても良いと思うが…緑谷の病的なまでのヒーロー好きだから彼の安静を大事にする為にやっぱり入らなくていいか。

 緑谷達にお見舞いの品として適当なフルーツの盛り合わせを渡し、少しだけ会話をした。主にステインの事とかだけどな。

 ヒーロー殺しステインは緑谷、轟、飯田が3人がかりで戦って何とか勝てた様だ。ステインの個性は相手の血を摂取すると血を摂取された相手は血液型での違いはあるが身体の自由が奪われるという一対一なら勝ち目が薄くなるかなり悪質な個性の様だ。

 …血がそもそも通ってないパスファインダーやレヴナントなら余裕で勝てるな。

 

 それとヒーロー殺しステインはあの時、ミルコがトドメを刺さずともその前に緑谷達の手によって半分気絶している状態であったから…ステインの捕縛の功績は緑谷達に渡されるのだが…

 緑谷達は許可無く個性を使ってステインを倒したから緑谷達も重罪になるそうだ。しかしこれはステイン捕縛の功績をエンデヴァー、ミルコに明け渡さなかった場合だ。ステインを倒したのはエンデヴァーとミルコであったという事にすれば警察や公安が緑谷達がステインを許可無く個性を使って攻撃した事を隠蔽してくれるそうだ。

 

 なんか俺から色々警察や公安に文句を言いたい気があるが…それで本人達が納得したのなら俺は何も言わない。

 緑谷達のお見舞いが終わり次第、俺達は病院を後にした。緑谷達はもう少し検査入院だが…未だ職場体験は続いている。俺達は職場体験へ戻るんだ。

 と言っても職場体験3日目の午後で、いつも通りの軽いパトロールで終わった。

 

 続く4日目と5日目もいつもとさほど大きな差異は無い。

 小さな差異は…4日目は軽い負傷したセラミックリーマーに会いに行った事だろう。彼女はロボットによって掌を撃ち抜かれたが緊急手当のおかげで大事には至らなかった。ただ、物を持つ時に少し痛いらしいが…これも時間経過で治るとの事。

 5日目の午後は広島に行った。ミルコの出身地だそうだ。だが…特に広島に行ったからといって広島特産の珍しいヴィランなど居るわけなく、ありきたりな何処にでも居るチンピラヴィランをミルコが秒速で倒したのをギリギリ見逃したりを繰り返しただけだ。

 

 そしてこの辺りになると、ニュースではステインとヴィラン連合、ロボット軍団の新しい情報…というより警察が隠してた情報を公開して話題が沸騰していた。

 どうやらステインはヴィラン連合の一員という情報が合った。なるほど…もしかしてステインが今まで捕まらなかったのは黒霧が居たからなのか…いや、でもUSJの時にはステインは何故か居なかったな。なんでだ?

 それと横領されたロボット達の銃はハモンド・ロボティクス社と何ら関係無いとも報道されていた…これに関しては俺達は特に何とも思わない。真実か嘘か…まだ判別するには難しいからな。

 

 6日目…この時、いつも通りミルコに首根っこを掴まれて跳んでいる最中にミルコは何かを聴き付けて、近くの建物に着地し、その付近にいたプロヒーロー数名に話しかける。俺は知らないプロヒーローだな

 

「よう、デステゴロ! この建物の中に人質有りの立て篭り事件か?」

「シッー! 静かにしてくれミルコ…今から突入なんだ…」

 

 ミルコはバカなのか考え無しなのか…いや、多分脳筋何だろうな。立て篭り犯人が居ると思わしき建物の近くで大声で内容を話すのはとても危険だぞ。まあ彼女なら犠牲を出さずに事件を解決出来るって気持ちなんだろうが…

 

「ちょうどいい! お前にはまだ屋内のヴィラン退治は見せてなかったな。デステゴロ、私達も混ぜろ!」

「は…?…い、いや。ミルコが参加してくれるのは願っても無いが…その隣の生徒は確か雄英体育祭の?」

「おう!」

 

 ミルコがそう答えるとデステゴロと呼ばれる筋肉モリモリの男はふと、背後を振り返る。すると、デステゴロの背後からひょっこりと耳郎響香が現れる。実に5日ぶりだ。

 

「連出堕…あんた何で首根っこ掴まれてるの?」

「何故だろうな、6日目にして俺も第三者に言われてようやっと首根っこを掴まれてる事を疑問に思ったよ。」

 

 その後の会話で、職場体験の指名が無かった耳郎は学校側の紹介でデステゴロの事務所に職場体験しに行ったそうだ。俺は常にミルコに首根っこを掴まれての移動だったから気にならなかったが耳郎はパトロールや移動も基本的にダッシュであったからとてもキツかったらしい。付いていけてるだけマシだ。

 

「そういえばあんた見た? 緑谷達がヴィラン連合とヒーロー殺しに襲われたってメール。」

「おう、何だったら先日お見舞いに行ったし…何だったらミルコが脳無と戦闘した。俺は避難誘導してたけどな」

「うげ…脳無ってあの相澤先生をボコボコにしてオールマイトと互角に戦った奴でしょ? 確か…なんか個性を複数混ぜてるとかUSJで聞いたけど」

「ああ、今思うとミルコが戦ったやつもだいぶ個性がごっちゃだったな。」

 

 マジで脳無の詳細知らなかったのA組で俺達だけの可能性が出て来たぞ。恥ずかし!

 

「イヤホン=ジャック、そろそろ突入するから索敵の準備をしろ」

「Apex Predators! お前は私の後に付いてこい! 戦闘の許可はしない! 自衛や人質の安全確保の為だけに個性の使用を許可する!」

 

 デステゴロ、ミルコに呼びかけられて俺と耳郎は気持ちを戦闘に切り替えてミルコ達の後ろに付く。

 今この場に居るプロヒーローは近辺のプロヒーロー達含めて、7名。

 中の人の数は耳郎の個性による索敵によると立ってる人5人に座って動かない人が10名だそうだ。

 

 座ってる人が人質で立ってる奴らがヴィランか?

 

 ブラッドハウンドで細かい位置を皆に共有する事を提案したがミルコに却下された。彼女曰く、自分の聴力で細かい位置も理解しているそうだ。

 

「突入!」

 

 そしてデステゴロの合図で一斉に中に入るが、大きな差を付けてミルコが先導した。

 いや、屋内でも速くて追いつけねぇと思ったが…犯人や人質が居ると思わしき扉の前でわざわざ立ち止まって待ってくれてた。

 俺やデステゴロ達が追いつくと、ミルコはそのまま扉を蹴破る。

 驚いた覆面を被っているヴィラン達は銃を構えるが…遅すぎる。

 ものの一瞬で全員蹴られた。

 

 あのロボットの時と一緒だ…敵に何もさせずに一瞬でケリを付けた…!

 

 この6日間、ミルコのヴィランとの戦闘はロボットと脳無とこの覆面ヴィランだけしか見れていないが…そこそこ成果は得られそうだ。

 俺達レジェンドの中であの様な動きを出来る奴は居ない…だが、誰か1人。またはこれから発現する新たなレジェンド達に似たような力を持つレジェンドが居れば…ミルコの動きを模倣するのもいいかも知れない。

 

 人質を連れて安全な場所へと誘導しながら、俺達の中で新たな可能性が生まれた事を実感する。

 

 

 7日目…職場体験最終日だ。

 この日の午後には職場体験は終わり、現地解散となる。だから俺は午前のうちに少しでも、もう少しでも技術を得たいと思いミルコにあの蹴りや跳びのノウハウやコツを聞いたが…

 

「私も知らん! やりやすいからあのスタイルにした!」

 

 ウサギの個性だから跳んだりする事がアドバンテージであるからあのスタイルで、突き進めた結果ああなったという事だろう。

 

 午前中だけのパトロールでは大した事件は起こらず、ミルコの動きを模倣したくとも特に何も成果は得られずに職場体験は終わった。

 

 帰りは普通に電車で帰ろうとしたが…ミルコに首根っこ掴まれて家から雄英までの登校経路の途中まで運ばれた。

 

「それじゃあ! この一週間、中々楽しかった! インターンの時も私の所に来いよ! 今度は私に追いつけるくらい強くなってからな!」

「あ、待ってくれ、ミルコ」

「ん?」

 

 俺達を離した後にそのまま跳び去ろうとするミルコだったが…せっかくだ、わざわざアレを見ても俺達を指名して、だいぶ適当だったが職場体験の責任者として活動してくれたし、ヒーローの頂点の世界を見せてくれた。

 

 俺は連出堕苑葛と切り替わる。

 

「ミルコさ…ん。この1週間。ぁりがと、ござぃました…」

 

 上手く聞き取りづらい日本語で連出堕苑葛は感謝を伝え、頭を下げる。

 

 すると、ミルコは連出堕苑葛に近づき、しゃがんで連出堕苑葛と視線を合わせる。雄英体育祭表彰時のオールマイトと同じだ。

 だが、オールマイトと違ってミルコは何も言わない。ただ、連出堕苑葛の頭を撫でてやる。そして…何も言わずに跳び去った。

 

 苑葛から俺に切り替わり、ミルコが跳び去った方向を見る。ギャングオルカやシシド、マジェスティックにすればもう少し丁寧な教育で得られるものや知識も確実に多かっただろう。だが…まあ、ミルコで良かったと連出堕は思っている。

 ミルコの動きが模倣する第一歩になったから…とかじゃなく、ロボットや脳無との戦闘を見れたからとかでも無く……なんだろうな。

 

 この時だけはよく連出堕の考えは分からなかった。

 

 

 

 

 

 




頂点捕食者のショタくん、ミルコに惚れちゃったのかなァ…? カァイイねェ…(ニッコリ)…
残念ながらカップリングなんて存在しないけどね!
あくまで師弟関係です。
緑谷はオールマイト、轟はエンデヴァー、爆豪はベストジーニスト、常闇はホークスの様に師となりうる、信頼出来るプロヒーローを付けて上げたかったので連出堕苑葛くんにはミルコにしました。(本当はギャングオルカのつもりだったけど)


Q.レヴナントがステインと同等に見られてるってどういうこと?
A.これに関しては私の描写が下手でしたね…分かりやすく例を下に書きます。
原作のトガちゃん「ステ様素敵…! 殺したい!」

この作品のトガちゃん「ステ様もレヴ様もどっちも素敵…! 殺したい!」

こういう事です。レヴナントもステインも思想や考え方は全く別物ですが、ステインはその思想や行動から。レヴナントはステインの思想から繋がって、ヒーローであるのにその完膚なきまでのヴィランっぷりからステインを象徴する者だ!とステインありきで崇拝されているという事です。
ステインからしたらレヴナントは真っ先に殺さなければならない対象ですし、レヴナントもステインの事は気に入らないでしょうから2人からしたらとても良い迷惑ですね。
感性が一般的な人からすればステインが倒された現場にレヴナントこと連出堕が居るからそういう考えにはならないですけどステイン信者は元々感性が異常だと思いますので。


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No.19 神々に己の成長を示すのだ。

しばらくミルコ出てこないからもしかしたら期待されているかもしれないショタくんとミルコの絡みは多分もう無い。
あるとしてもインターンかな?

そもそもインターンもミルコの所になるかどうかも決まってないけど。
タイトルはブラッドハウンドのセリフの「力の証明」の改変版


 ステインやらヴィラン連合やら色々あったが職場体験は無事に終わり、だいたい1週間ぶりの雄英高校の授業だな!

 緑谷、轟、飯田、耳郎は職場体験中に出会ったが…残りの奴らは久しぶりに会うな!

 

「よう、連出堕!」

 

「おう、1週間ぶりだな。瀬呂、切島!」

 

 登校中、瀬呂と切島に出会って3人で教室に入る。既に教室にはあの後退院していた飯田に他には芦戸、青山、常闇に…

 

 髪の毛を8:2分けされている爆豪勝己が居た。

 

 

「「「アハハハハハ! マジかよ爆豪!」」」

 

「クセが付いちまって洗っても直らねェんだよ…!」

 

 俺と瀬呂と切島は爆殺王くんを指さして涙を流しながら大爆笑し、8:2爆殺王くんはワナワナと怒りに震えている。

 ヒューズに関しては過呼吸になる程笑っている。

 

「おい、笑うんじゃねェ…ぶっ殺すぞ!」

「出来るもんならやってみろよ8:2坊やw」

「「アハハハハハ!!!」」

 

「クソがァァァァァアアア!!!」

 

 いつものように威圧してくる爆豪だが、あの髪型では怖さは半減どころかむしろ返って面白いので瀬呂がどんどん煽って切島と俺が大爆笑する。

 しかし、怒りが爆破に達した爆豪は頭皮が爆破するように膨らみ、いつもの爆破した様なトゲトゲヘアーに戻ってしまった…

 ああ、俺達の8:2ヘアーの爆殺王坊やくんが居なくなっちまった…!

 

 ま、いっか。

 

 俺は怒り狂う爆豪から逃れる様に1人で瞑想している常闇に話しかける。

 常闇は確かホークスの所だったからな。

 

「よお常闇」

「む、連出堕か…」

 

 思うとこいつとはいつもブラッドハウンドで会話してるから俺で会話するのは初めてか…だいぶ久しぶりか?

 

「お前ってホークスの事務所に職場体験行ったんだよな? どうだった?」

「……速すぎたな…何もかも。移動、戦闘、ヴィラン捕縛の一連の流れを追いかけて、否、見る事すら叶わなかった」

 

 俺と同じか…いや、ホークスは恐らくミルコよりも速いだろう。それに常闇の個性はヴァルキリーやパスファインダーの様な移動個性じゃない。きっと俺達がミルコに引き離された時とは比べ物にならない程に引き離されただろう。ホークスが常闇を思ってスピードを落とさない限り。

 

「俺達もだ。ミルコが屋内で気を利かせてくれなきゃ、保須の時でしか見られなかったからな」

 

「ああ! 保須と言えばよ!」

 

 突然、後ろから上鳴電気に話しかけられる。こいつはいつも元気だな。こいつに限った話じゃないが。

 

「そうそうヒーロー殺し!」

「心配しましたわ」

「エンデヴァーとミルコに助けられたんだよな」

 

 上鳴が声を上げるとそれに続いて瀬呂がステインの名を出し、八百万と砂藤力道も話に続く。

 あんなでかいニュースになれば勿論話題にはなる、その中でクラスメイト4人が巻き込まれたとなれば必然的に全員が知る話題となった。

 

「そうだな…助けられた。ミルコに」

 

 轟はそう呟く。嫌でもエンデヴァーに助けられたとは言わないんだな。

 

「でもさ〜確かに怖えけど動画見ただろ、ヒーロー殺しの。アレ見ると一本気っつーか執念っつーか…かっこよくね? とか思っちゃわね?」

 

「か、上鳴くん!」

 

 まさかの上鳴の爆弾発言に、俺は思わず上鳴を凝視する。そして緑谷が上鳴の失言に注意を促す。己の失言に気づいた上鳴は慌てて飯田に対して謝罪をする。ステインの信念や本気や執念など関係無く、奴は飯田の兄を二度とヒーロー活動出来ない重傷を負わせたのだ。その加害者の事を被害者親族の前でかっこいいと発言するのは無礼というか失礼というか…なんというか…

 

「…確かに信念の男ではあった。クールだと思う人がいるのも分かる。ただ奴は信念の果てに粛清という手段を選んだ。どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ。… 俺のような者をこれ以上出さぬ為にも!改めてヒーローへの道を俺は歩む!」

 

 対して飯田は落ち着きながらも真っ直ぐとした雰囲気で話した。職場体験前のあの憎しみに囚われた表情、目は…もうどこにも無かった。ステインとの戦いで、緑谷や轟と共に戦って…迷いが消えたか、気持ちが晴れたか。

 …飯田はどうやら1歩ヒーローに近づいたみたいだな。

 きっとこの職場体験の中で1番成長したのは真っ直ぐとなった飯田か左側()と向き合った轟だろうな。

 

 

_________A P E X_________

 

 

「はい私が来た」(ヌルッ)

 

 ヌルリと始まった今日のヒーロー基礎学にヌルリと現れたオールマイト。どうやら今日のヒーロー基礎学はこの入り組んだ迷路の様なパイプだらけの工業地帯をテーマにした演習場で救助訓練レースを行うそうだ。

 レース…という事は勝負事だ。5人4組で別れて、1組ずつでレースを行い、先に指定された場所に居るオールマイトにたどり着いた者が勝ちだ。

俺達の所の組は俺、切島、砂藤、耳郎、葉隠だ。

 機動力において、残りの4人に遅れを取ることは決して無い…だとすれば…あれの練習に持ってこいだな。

 2つ前の組…緑谷達の組では超パワーという個性のはずの緑谷がミルコと比べたら勿論劣るものの、ミルコと同じ様にビルや建物、パイプの上を跳んで跳躍しながら速いスピードでゴールに向かっていた。しかし恐ろしい急成長だな…まさかのパワーに加えてスピードも得るとは…

 まあ結果的には途中で緑谷は落っこちて、最下位となったな。俺達はああならない様に気をつけよう。

 

 

「連出堕、スタート地点に行こうぜ」

「ああ」

 

 緑谷の動きを思い出していると切島に呼ばれ、俺はレースのスタート地点に立つ。だが…立つのは俺じゃなく…ブラッドハウンドだ。

 

「あれ…その姿って確か索敵用の個性だよね」

「スピードやグラップルで飛んでいく個性じゃなくて良いのか?」

 

 興奮剤によるかつてはスピード自慢していた俺の個性、パスファインダーのグラップルの個性、空へ飛べるヴァルキリーの個性じゃなくて索敵や獣の力を持つブラッドハウンドである事に耳郎と砂糖は不思議に思って尋ねてくる。

 

「何…成長したのは緑谷だけでは無い…我々もまた、ミルコの元で新たな成長を遂げただけの事…」

 

 

《少年少女諸君! 準備はいいかな!?》

 

 演習場全体にオールマイトの声が響き渡る。もうそろそろ始まりそうだな。

 ブラッドハウンドと切島達はスタートラインに立ち、スタートの合図を待つ…

 始まった直後に各々が持っている端末に要救助者役のオールマイトの場所が示される。

 

《START!!!》

 

 合図と共に、端末にオールマイトの顔がこの演習場の地図のとある場所に映し出される。ここにオールマイトが居るって事だ。

 

 

 ブラッドハウンドがハンティングビーストを解放する。この間なら純粋な身体能力は全レジェンドの中でトップだ。この状態で…思い出せ、戦いこそはあまり見れなかったが…移動は何回も見た…あの背中をな!

 

「脱兎のごとく!」

 

 そしてブラッドハウンドは地面を力強く蹴り、大きく飛翔する。そしてこのゴチャついた演習場のパイプ、ビル、壁を次々に力強く蹴って、一切スピードを落とす事無く最高速でオールマイトが居る場所へと向かう。

 ミルコは移動する際、ビルや壁を蹴って跳んでいた。そのスピードは…俺やパスファインダー、ヴァルキリーでは出せない。別次元の速さ。

 流石にミルコには到底及ばないスピードだが…今までこんなスピードは自力で出せた事が無い。

 幸い、獣の力を解放しているブラッドハウンドは己のスピードにちゃんと付いていけている。

 

 すぐにブラッドハウンドはオールマイトが居る、屋根の無いちょっとしたビルの間の小部屋に辿り着いた。

 圧倒的だな。1位だ。俺達がチャンピオンだ。

 

「…おめでとう、君が1位だよ。連出堕少年」

 

 オールマイトは拍手して辿り着いた俺達を賞賛…している様には見えなかった。いや、確かに賞賛はしているが。何やら顔が暗い。元から目元は暗いが…表情が暗いという意味だ。

 

 不意に、オールマイトが背後を指さす。俺達が通ったルート…スタートからゴールまでの道のりだ。

 そこで俺達は…ビルやパイプが大きな音を立てて崩れていくのが見えた。

 

「なっ…!」

『まずい!』

 

 具体的な細かい位置は分からずとも、そこには砂藤や葉隠達が居るのは分かっていた。

 巻き込まれる…そう思った時に…

 

 シュバ!

 

 オールマイトが耳郎、葉隠、砂糖、切島…全員を抱えて戻ってきた。

 あの一瞬で4人を回収して戻ってきた…?速すぎる…ミルコよりも速い…!

 

「大丈夫かい? 少年少女達」

 

「…え? な、何が起こったの!?」

「あれ? 俺なんでオールマイトに抱えられてるんだ?」

「何か大きな音がしたと思ったら…」

「いつの間にか…?」

 

 抱えられた本人達も何が起こったのか分かっていないようだが…全員無事な様だ。俺達は大きく安堵する。

 

「連出堕少年、君は確かミルコの所へ職場体験に行ったんだったね。」

 

 オールマイトは抱えていた耳郎達を降ろしながら言う。

 

「君の動きは確かにミルコの様だ。大きく学んだね…ただ、大きな問題点があるね。それは何か…分かるね?」

 

「……スピードやそれについていけるだけの反射神経に力を注ぎ…着地や飛翔の際のパワーを考えていなかった。結果的に…被害を大きくしてしまった」

 

 ブラッドハウンドは倒壊したビルやパイプ群を見ながら答える。それにオールマイトは頷く。

 

「戦闘での被害なら私もミルコも周りに最低限影響を与えてしまう。しかし要救助者の救助に、その移動するのに周りに被害を与えてしまうのは絶対に駄目だね。今だって、君の移動で新たな要救助者を増やす所だった。」

 

「…申し訳ないオールマイト…そしてすまない、切島、耳郎、砂糖、葉隠…」

『…すまなかった。職場体験で学んだ事を早々にやりたかったが…やるべきじゃなかった。連出堕もそう思っている。』

 

 ブラッドハウンドは綺麗に90°の腰を前に曲げて謝罪の意を示す。俺も姿は見えないが謝罪を示す。連出堕苑葛も責任を感じている。声は皆には伝わらないが…「ごめんなさい」と確かに言ってるぜ。

 

「いやいや、気にしなくて良いぜ。無事なんだからよ!」

「そうそう! それにあの動きかっこよかったよ!」

 

 切島と葉隠は謝罪を受け取り、むしろ励ましてくれている。耳郎と砂糖は何も言わないが、何も怒っておらず謝罪に少し困惑しているようだった。

 

「連出堕少年、失敗は誰しもするさ。それに動き自体は悪くなかったし君はすぐ様、問題点と反省点を見つけた。今回はダメだったが君は優秀だ。ミルコの様に一切の被害無く今の動きをこなせる様に頑張れ!」

 

 オールマイトはブラッドハウンドの肩に優しく手を置いてくれる。

 それに続いて、切島達も励ましの言葉をくれながら駆け寄ってくれる。

 

 …そう上手くは行かないか…まさかクラスメイトを危険に晒すなんてな…

 ある意味さっきの落下した緑谷よりも致命的なミスだ。

 ミルコのあの動きが単純そうに見えて実はとても細かな技術と実力が伴うものであったと分かったが…プロはすげえな…

 

 そして今回のレースだが、甚大な被害を起こしたブラッドハウンド、連出堕は点数無し。他の4人は平等に低点数だそうだ。

 まあ…点数無しで構わない。自分のせいでクラスメイトを傷つけちまう可能性があったという精神的ダメージが中々大きくて連出堕は全く気にしてなかったし。

 

 

 ヒーロー基礎学終了後。

 俺達は更衣室で戦闘服から制服へ着替える…と言っても戦闘服を着てるのはいつも通り俺だけだけどな。

 毎回思うんだが…本当にレジェンド全員一瞬で着替えれるシステムとか戦闘服に入れられないか?無理か…

 

「お、おい…見ろよこの穴!」

 

 そんな時、峰田が慌てた様な様子で壁に貼ってあるポスターを指さす…いや、ポスターの裏側にあるとある穴だ。

 

「この穴…! きっと先輩方が頑張ってくれたんだ! 隣は分かるだろ! そう、女子更衣室さ!」

 

 もうこの言葉でこの紫球体クソ野郎が何するのか察した。

 男子の着替えを見ないように視界を共有せずに顔を伏せていた女性レジェンド達も峰田の言葉に不快感を表しながら反応した。

 だがここで止めてくれるのが我らが委員長様だ。

 

「やめたまえ峰田くん! 覗きは立派な犯罪行為だ!」

「うるせえ! オイラのリトル峰田は立派なバンザイ行為なんだよぉぉぉぉー!!!!!」

 

 しかし飯田の静止は意味をなさず、訳の分からない事を言い放ちながら峰田は覗き穴へと瞳を近づけて女子更衣室を覗き込もうとする。

 

 よし、レヴナント。殺せ。

 

「八百万のヤオヨロッパイ!! 芦戸の腰つき!! 葉隠の浮かぶ下着!! 麗日のうららかボディ!! 蛙吹の意外おっぱァァァァァアアアアアア!!」

 

 そして…峰田の眼球に穴の向こうからやってきたイヤホンジャックが突き刺さる。

 更に追い討ちに、イヤホンジャックを通して爆音が峰田の眼球から全身へと響き渡る。

 

「ぎゃああああああああああああぁぁぁ!!!!」

 

「な、なんてやつだ。」

『お、恐ろしい』

『100:0で峰田が悪いとは言え…これは同情する』

『まさか私が皮付きの小娘に畏怖を感じるとはな…』

 

 あまりの正確と残虐ある反撃とは…耳郎響香…恐ろしい女だ…!!!

 たまらず俺達男性レジェンドに加えて常闇や緑谷達も震える。

 

 おっと…そんな事よりも…

 

「悪い、八百万! コンクリートやら創造してこの穴を塞いでおいてくれ!」

 

 未だに苦痛に悶えているが、あの峰田の事だ。すぐに復活するだろう。俺は目だけで障子と砂糖に指示を出して峰田を取り押さえる様に伝え、八百万に覗き穴を埋めるように頼む。すると、すぐに穴は塞がった。仕事が早いな。

 

「うわあああああああああああぁぁぁ!!! オイラのエデンが〜!」

「落ち着け峰田。これで良かったんだ」

「瀬呂、こいつを縛ってくれ!」

 

 …なんかあのバカを見てたら暗い気持ちも幾らか戻ってきたな。

 

 ありがとう峰田。そしていい加減捕まってしまえ峰田。

 

 




今更なんですが…口田くんが居なくなって、代わりに連出堕くんが来た事でクラスの席順が原作と変わってるんですよね。(だから爆豪の隣に連出堕が居る)
すると耳郎響香の隣も上鳴電気じゃなくなるんですよ…

耳郎の隣が上鳴じゃない

絡みが少なくなる

原作程仲良くならない

上鳴×耳郎のCPが無くなる。

上鳴×耳郎のカップリングファンの方々、大変申し訳ございませんでした。
まさか原作での活躍がほぼ皆無な口田甲司くんが1人居なくなるだけでここまで影響が出てしまうとは…流石は堀越先生…恐れ入ったぜ…!

上鳴くん、ごめんね (´>∀<`)ゝエヘヘ✩


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No.20 林間合宿に行きたいか相棒? 行こうぜ!

ステインのところ、もうちょい上手く書きたかったな…
そもそもステインの意志のとか思想を完璧に理解しないと難しかった…!
投票ありがとうございました。連出堕について、軽く書きます。
と言ってもレジェンド達の個性がメインですけどね。


「そろそろ夏休みだが、君達が1ヶ月間休んでいられる道理なんて無い。夏休み、林間合宿やるぞ」

 

 次の日、朝のHRで相澤担任からそう告げられた。

 

「知ってたよ〜! やった〜!」

 

 芦戸の歓喜を皮切りに、クラス全体が盛り上がる。

 

「肝試そ〜!」

「風呂!」

「花火…」

「行水!」

「カレーだな!」

「覗き!」

 

 何やら1人だけ犯罪行為宣言してるブドウ野郎が居るが、無視しておこう。しかし林間合宿か…行ったこと無いから聞きかじりの知識しか無いが…ヒーロー科の林間合宿だ。ただの林間合宿とは確実に何かが違うだろうな。

 一体どんな林間合宿なのか…ワクワクしてきたな!

 

「ただし!」

 

 俺含め、騒ぎ出すクラスに…相澤担任が目を赤く光らせて皆を黙らせる。こっわこの人。

 

「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は学校で補習地獄だ、いいな?」

 

 うーわ。まじかよ。

 皆が林間合宿で楽しんでる間に学校で補習ですとか本当に文字通りの地獄だな。

 期末テスト…ヒーロー科なら実技テスト…またの名を演習試験もあるはずだ。筆記テストは問題無い。この間の中間テストの時、俺達は9位だったからな。だが実技テストが…何なのか分からない。

 HRが終わった後に俺は相澤担任に実技テストの有無と内容を聞いたが…一学期の総合としか答えてくれなかった。

 

 前回のヒーロー基礎学の件もある…少し自信が無いな。嫌だぜ…学校で補習なんてよ。少しでも連出堕に楽しい学校生活を送らせてやりたいし…

 

「どうすっかな〜」

 

 食堂にてカレー喰いながら俺は悩む。オールマイトやプレゼント・マイクに聞いたところで答えてくれるかどうか…一応尋ねては見るが…多分相澤担任に口止めはされているだろう。口止めされているってことは実技テストはあると見て良い。

 

「演習試験の事か?」

 

 俺が悩んでいると左隣の席でざるそばを食ってる轟が話しかけて来た。ちなみに向かい側には耳郎で耳郎の隣は葉隠、更にその隣には蛙吹梅雨と麗日が並び、轟の隣は飯田、緑谷と並んでいる。

 緑谷、飯田、麗日、轟、耳郎はいつも通りだが蛙吹と葉隠はあまり話した事無いな…葉隠は先日の件があるが…蛙吹とは…待てよ。もしかして俺蛙吹とは1度も会話して無いか?…少なくとも記憶に無いな。

 …これを機に後で話しておこう。それよりも先に轟の質問に対してだ。

 

「おう、内容が分からねぇと不安なんだ」

「内容…確かに演習試験は何するんだろうね…」

 

 チャーハンを食ってる耳郎が賛同する。

 

「一学期でやったことの総合的内容!」

「としか相澤先生は教えてくれなかったわ。」

 

 葉隠と蛙吹が相澤担任から聞いた話を答えてくれたが…俺が仕入れた情報と全く同じか…

 一学期の総合…?戦闘と避難、救助の総合演習か?いや…流石にそれは難易度が高すぎる…と言いたいが雄英ならやりかねない。それにあの相澤担任の事だ。「プルスウルトラで超えてこい」とか言いかねないぞ。

 

「とにかく、試験勉強に加えて体力面も万全にしておくのが無難__あ痛ッ!」

 

 緑谷の言葉が痛みによって遮られる。緑谷の方を見ると…

 これまた…特に特徴の無いやつが食事のトレーを持っていた。あれが緑谷の後頭部に当たったのか。

 

「ああごめん。頭大きいから当たってしまったよ」

 

 悪いとは全く思ってなさそうな表情でヘラヘラと謝ってくる…なんだこいつ。初対面なのに失礼だな!

 

「き、君はB組の! えっ〜と……も、物間くん! よ、よくも!」

 

 え?B組?という事はヒーロー科?

 こんなやつ居たか?

 ……駄目だ、塩崎茨と鉄哲徹鐵以外覚えてない。あとあれだ…常闇のダークシャドウに入り込んでたやつ。

 

「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね、体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくよねA組って。…ただその注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引き付ける的なものだよね? あぁ怖い!いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らまで危険な目に遭うかもしれないなぁ! あぁ怖___ブッ」

「シャレにならん、飯田の件知らないの?」

 

 モノマって言う初対面クソ野郎が突如、後ろからオレンジ髪の女子生徒から手刀を食らって気絶する。

 このオレンジ髪の女子生徒は知ってるな。名前は知らないが、確か体育祭で決勝進出する権利を鉄哲徹鐵に譲ってた人だ。

 …マジでこのモノマって誰だ?

 

「悪いねA組…こいつちょっと心がアレなんだ」

「け、拳藤さん!」

 

 拳藤と呼ばれるオレンジ髪の女子生徒が代わりに謝罪する。

 心がアレ…?ああ、なるほど心がアレだからさては体育祭にはこのモノマってやつ。参加してなかったな?だから見覚えが無い訳だ。スッキリしたぜ。

 しかし…まさか雄英体育祭に参加出来ずに飯田の件を無闇に掘り返す程のクソ野郎がヒーロー科にいるなんてな…こんな程度の奴が居るから雄英はレヴナントやコースティックを受け入れられるんだろうな。

 

「それよりもアンタらさっき期末の演習試験不透明とか言ってたね。演習試験は入試の時みたいな対ロボットの実戦演習らしいよ?」

 

 拳藤が突然、俺達が悩んでいた演習試験の事を教えてくれる。な、なんで知ってんだ…?確か…B組の担任はブラドキングって厳格そうなヒーローだったよな。まさか情報を漏らすポンコツヒーローなのか?

 

「先輩から聞いた!」

 

 拝啓ブラドキング先生、ポンコツとか思ってごめんなさいだぜ。

 しかし…こいつの情報は信頼して良いのか?先輩が誰なのかは知らないが…今年からオールマイトが教師としているし…あのUSJの事件があったから例年通りとは思えない。それにロボットの実演練習なんて本物のヴィランと対敵したA組からしたらぬる過ぎる。

 

 緑谷と拳藤は会話を続けているが…俺は常に疑問を抱いて思考し続ける。

 そんな時…会話を終えた拳藤がモノマを連れてその場から立ち去る時…俺達は思い出した。

 

 

「あぁ! 物間ってあの体育祭のダミー人形くんか! ギャハハ! 心がアレって言われてやがる!」

 

「今気づいたの!?」

「というか忘れてたの!?」

「君にだけは心がアレって言われたくないね!!!!!」

 

 指指して笑う俺に困惑する緑谷、拳藤とキレる物間。

 あ〜思い出した、思い出した。あいつそういえばあんな特徴の少ない見た目だったな。

 

 

 そして翌週。試験三日目…演習試験当日で、筆記試験の最終日。

 演習試験はこの日の最後に行われる。まずはその前に筆記試験だ。

 意外に思われるかも知れないが…あの中間テストの9位って俺ことオクタンの頭脳で取った成績だ。足を吹っ飛ばした俺だが、育ちは良いんでな。そもそもレジェンド達は全員学が合って、博識で地頭は良い…ミラージュを除いて。

 で、今回の期末テストは本気だ。ミラージュと非協力的だったレヴナントを除いたレジェンド全員が連出堕に解答を教え、連出堕が俺に解答を教える。こうすることで俺の分からない問題がテストに出ても声を出さずにレジェンド全員で取り組む事が出来る。ずるいとは思わないでくれよ。これも連出堕苑葛という1人の少年なんだからな!アハハッ!

 

 そうして…バスに乗って場所を移動し、全員戦闘服に着替えた後…実技試験会場中央広場。名前からして雄英の実技試験、演習試験の為だけに作られたエリアにて俺達A組と…何やら雄英高校に居る教師のうち半数以上が集まっていた。

 

「それじゃあ演習試験を始めていく。この試験でも赤点はある。林間合宿に行きたけりゃみっともねぇヘマすんなよ」

 

 相澤担任が話しているうちに俺は相澤担任の周りにいる先生方を見る。スナイプ先生、セメントス先生、エクトプラズム先生、13号先生、パワーローダー先生、ミッドナイト先生、プレゼント・マイクに相澤担任…

 

「やけに先生多くね?」

「確かに」

「…ああ」

 

 瀬呂が小声で話しかけて来て、俺と障子も小声で返す。これは…やっぱり拳藤が仕入れた情報を信じなくて正解だったかもな。

 

「諸君なら事前に情報を仕入れて何するか薄々わかってるとは思うが…」

「入試試験の様なロボット無双だろー!」

「花火! カレー! 合宿〜!」

 

 相澤担任の言葉に上鳴と芦戸がハイテンションで返す。芦戸に至ってはもう受かった気満々だな。だが…確実に違うだろうな。

 

「残念!」

 

 ほらきた。

 相澤担任がいつも首に巻いてる捕縛布の中から一体その正体が何なのか未だに分からない小さい根津校長が顔を覗かせる。

 

「諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

 今回から…ね。運が悪いな。

 根津校長のその言葉に、上鳴と芦戸は完全に固まる。まるで石のようだ…というか石化してないか?ああ、完全に石になってる。

 

「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するのさ! というわけで諸君らにはこれから2人1組でここにいる教師1人と戦闘を行ってもらう!」

 

 まあ、その方が合理的だな。レヴナントやパスファインダーの様なロボットならともかく、入試や雄英体育祭のロボットじゃあぬる過ぎる。成長も見込めないし、採点も難しい。

 現役高校生に小3のテストをやらせて、その高校生の知能指数を測れと言っている様な物だしな。

 

 しかし…相手が教師か…ブラドキング先生、ハウンドドッグ先生、オールマイト、リカバリーガールは見当たらないが…あの4人は不在か…

 まあ流石にリカバリーガールは非戦闘員だし、ブラドキング先生はB組の担任で忙しいだろうし…ハウンドドッグ先生は…なんでだ?採点係か? で、オールマイトは言わずもがな。オールマイトと戦闘なんざ採点基準になる訳が無い。ここに居る全員でかかっても3分持たないくらいだろうな。アハハハハハ!!!

 

「緑谷と爆豪は…」

私が相手をする!

 

 …おや?

 目の前に何故か筋肉モリモリマッチョマンの平和の象徴が居る気がするな。幻覚か?幻術か?写輪眼か?

 

 だが、何度目を擦っても目の前には確かにオールマイトが…平和の象徴が居た。

 

 おいおい、死ぬわこいつら

 緑谷と爆豪はオールマイトと戦うのかよ…さようなら緑谷、爆豪。お前達の居ない林間合宿は少し寂しくなりそうだな。

 俺は両手を合わせて爆豪と緑谷に対して「南無三」と呟く。

 

「テメェ勝手に殺そうとするんじゃねェ!」

 

 おお、爆豪は元気だな。それともこれから死ぬから最後の気力を振り絞ってるのかな…?

 

「それで、連出堕。お前は耳郎とペアだ。」

 

 相澤担任に言われると俺は耳郎と視線が合う。

 おお、耳郎か。癖のない個性だしそれなりに交流があるからお互いに足を引っ張る事は無いな…まずは安心だ。これで青山、蛙吹とかの交流皆無な奴らだったら危なかったな。

 

「で、お前達2人の相手は…」

《俺が相手だぜリスナァァァー! URYYYYYYYY!!!》

 

 今まで不気味なくらい静かだったプレゼント・マイクが急に騒ぎ出す。うるさ

 

「マ、マイク先生が相手…?」

「勝ったな、風呂入って食って寝てくる。」

 

 相澤担任やオールマイト、セメントス先生が相手ならとても厳しい戦いだったが…プレゼント・マイクなら楽勝だな。サイレンスを当ててブラッドハウンドで終わりだ。牽制で耳郎も居るからサイレンスを当てる隙なんざいくらでも作れる。

 しかもその後校長からなんと教師陣にはハンデとして超圧縮重りなる物を作ってもらったそうだ。これを装着すると体重の約半分が身体に負担を掛けてくるそうだ。機動力もこれで削がれるな…プレゼント・マイクは元から俊敏なイメージは無い。決定打だな。

 

「試験の制限時間は30分!君達の目的はこのハンドカフスを教師にかけるorどちらか1人がステージから脱出することさ!」

 

 …プレゼント・マイクにカフスをかけて、尚且つ耳郎を逃がす。これだな。迅速にヴィラン役を捕縛して味方に援軍や警察を呼ばせる。

 100点満点の作戦が出来た。そしてこの作戦は容易く実現出来るだろうな。もちろん、だからと言って舐めプなんざはしない。全力でレヴナントも惜しまずに使って、ウルトも使って戦うさ。非常事態を想定してな。

 俺達は教師対生徒の試合のうち、第7試合だそうだ。それまでの待機時間は作戦会議やら他の組の対戦の見学に回れるそうだ。

 

「耳郎、念の為だ。作戦会議をしよう。どう立ち回るか、個性の相性云々とか」

「分かった」

 

 出番があるまでは俺達は作戦会議をする事にした。他の組達の戦いも気になるが…非常事態には備える。レヴナントやブラッドハウンドの細部までを耳郎に伝えよう。

 

「おい、連出堕」

 

 その場から耳郎と共に立ち去ろうとした時…相澤担任に呼び止められる。

 

「…マイクは手強いぞ」

 

 ニヤつきながらそれだけ伝えると相澤担任はその場から去っていく。忠告か…?いや、俺が慢心している、勝ちを確信している事を注意しただけか…

 にしても忠告の仕方がなんと言うか…いつもの相澤担任らしく無かったな。あんな最小限の言葉で、あんな表情をしながら伝えるなんて珍しい。

 

「連出堕、何ボッーとしてんの?」

「…悪い、すぐに行く」

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

《切島、砂藤ペア。両者気絶によりリタイア》

 

 控え室の自販機近くで耳郎と細かな打ち合わせやもしもの時の想定を話していると、会場全体にアナウンスが響き渡る。

 砂藤、切島ペアは確か第1試合で相手はセメントス先生だ。

 

「まじ… ?…切島と砂藤やられたの?」

「切島も砂藤と確かな実力者のはずなんだが…やはりプロには敵わないな」

 

 コンクリートがある限り、ほぼ無敵であるセメントス先生。当たらなくて良かったな。レヴナントのサイレンスを防がれる可能性があるし、ブラッドハウンドやジブラルタル、ヒューズで破壊しても次々にコンクリートが現れてジリ貧になってただろう。空中に逃げれるヴァルキリーやホライゾン。一定時間無敵になって懐に潜り込めるレイスが居るから負ける可能性は高くは無いが…

 

《蛙吹、常闇ペア。条件達成》

 

 続いて、第2試合の2人。この2人の相手はエクトプラズム先生だったか…確か分身の個性だ。

 蛙吹の実力は未知数だが…常闇は確かな実力者だ。個性が本当に強いからな。レヴナントのサイレンスは個性に当ててもあまり意味が無い、効果が薄い。個性を操る本人に当てるのが1番効果的だから死なないダークシャドウでずっと戦われるととても厄介だ。

 ちなみに同じ理由でエクトプラズム先生の分身もサイレンスの効きが悪い。分身に当てればその分身を消したり動けなくさせたりは出来るが…エクトプラズム先生本人による分身生成を止めることは出来ないからな。

 

 続いて第3試合、第4試合の合格もアナウンスで知らされる。この辺りになると、耳郎との話し合いも終わり、他の試合を見学出来るリカバリーガールの居るモニタールームへと向かう。

 

 そこには蛙吹と緑谷が居た。入れ替わりで麗日は青山と第5試合に向かったそうだ。その後、飯田と八百万も入室してくる。この2人も無事合格だな。

 飯田は落とし穴を仕掛けるパワーローダー先生、八百万は個性を消してくる我らが相澤担任が相手だったが…無事に勝ったようだ…

 待てよ?スピード自慢の飯田に落とし穴…個性が強い八百万に相澤担任…?

 

「もしかして相性が悪い先生が相手なのか?」

「おや、自分で気づくとは大したものだね」

 

 俺のつぶやきにリカバリーガールが答える。1試合目の切島ペア対セメントス先生や2試合目の常闇ペア対エクトプラズムも相性を考えての組み合わせだそうだ。

 

「じゃあなんでうちらプレゼント・マイク先生なんだろ?」

「耳郎は個性が似てるから…いや、それじゃあ相性関係無いか? だとすると俺達レジェンドの弱点か?…でもそれなら相澤担任だよな…」

 

 俺と耳郎が悩んでいると緑谷が何やら言いたげだったが…リカバリーガールに止められる。何が己の弱点なのか己で気づかないとダメだからな。リカバリーガールはそう判断して緑谷を止めたのだ。

 

 やがて第6試合が始まり、俺と耳郎は移動を始める。

 

「耳郎さん、連出堕さん! 頑張ってください!」

「応援しているぞ連出堕くん、耳郎くん!」

「プレゼント・マイク先生は強敵だから…油断しないでね!」

 

 八百万、飯田、緑谷に応援されながら俺達はモニタールームから退出する。途中、轟にも出会い軽く応援された。本当に…なんか雰囲気変わったなあいつ。丸くなったというかなんと言うか。

 

 そして場所を大きく移動して、演習試験場森林エリア…大自然が広がり、人工物がゴール以外何も存在しない場所で…

 

《連出堕、耳郎ペア。スタート!》

 

 俺達にとって初めてのプロヒーローとの戦闘が開始された。

 

 




というわけでVSプレゼント・マイク先生です。

口では油断しないとか慢心しないとか言ってますが心の底からプレゼント・マイクを格下だと思っています。これはオクタンだけでなく、他のレジェンド達も思ってますし(ブラッドハウンドやシア等、一部除く)、連出堕苑葛くん本人も思ってます。
しかし相澤先生は連出堕にプレゼント・マイクは強敵だと注意します。
そして今回は伏せられたプレゼント・マイクとの相性が悪い理由とは…?

でも本当は口田くんの代わりだからプレゼント・マイクと戦わせた方が楽というのが1番の理由です。
正直相性の悪さならプレゼント・マイクよりも相澤先生やセメントス先生の方が相性最悪です。
(逆に13号先生、ミッドナイト先生を相手にするなら有利です)


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No.21 黙れ皮付き(騒音的な意味で)

現在シーズン12から追加されるレジェンドがレジェンドなのでこの小説のこれからの展開が不安になるかもしれませんが…そこら辺は一応解決策は考えてるには考えてあります
それよりも皆さん、10月27日(今日)から始まる1週間限定のAPEXのイベントである「シャドウロワイヤル」を是非やって下さい。
細かい事は大きいネタバレなので言えませんが…林間合宿編以降、このシャドウロワイヤルのとある事情が絡んで来ますので…!ぜひ…!


 他の生徒や先生の試合を見学する事が出来、リカバリーガールが待機している出張保健室兼モニタールーム。

 まだまだ試合を控えている緑谷と試合を既に合格で終わらせた緑谷、麗日、蛙吹、八百万に後からやって来た轟、常闇はモニタールームから連出堕、耳郎ペアVSプレゼント・マイクの試合を見ていた。

 試合を行っている場所は森林エリア。人工物が一切無く…場所的有利はプレゼント・マイクにも連出堕にもどちらにも無い。せいぜい火災の危険性を危惧してヒューズが使えない事くらいだろう。

 

「そういえば緑谷くん、さっきリカバリーガールに止められていたが…連出堕くん達に何か言うつもりだったのか?」

 

 先程連出堕ペアがこの場に居た時に緑谷は何か連出堕に言おうとしたが、ヒントは連出堕達の成長を阻害しかねないのでリカバリーガールに止められていた。飯田に尋ねられ、緑谷は答える。

 

「うん…多分だけど連出堕くんや耳郎さん相手にプレゼント・マイク先生という事は…耳郎さんは単純に個性としての出力がプレゼント・マイク先生の下位互換だから、そして連出堕くんは…多分____」

 

 そこまで言った所で、森林エリアを映し出す画面に…奴が映し出された。

 先程まで画面を見ていなかったものはその存在の放つ威圧感、不快感に驚いて画面を凝視する。一方でリカバリーガールは対して何も感じていない様だが…

 

「出た…レヴナント…」

 

 麗日が言う通り…森林エリアにはあのレヴナントがプレゼント・マイクに襲いかかっていた。さながら完全にヴィランとヒーローの構図であった。

 

_________A P E X_________

 

 

「おいおい…いきなりかよ!」

 

 ゴール手前で仁王立ちしていたプレゼント・マイクはその場から延々と個性ヴォイスの音波攻撃を繰り返してやろうと意気込んでいた所…いきなり要注意人物のレヴナントが赤黒い、メカメカしい大鎌を振り回してやってきた。

 デッドマンズカーブ。レヴナントが扱う武器…もちろんこれはヴィラン制圧などでは無く、虐殺目的で使うもの。使う場面は無いかと思われたが…

 

さあ、私を楽しませてみろ…!

 

 機械である為変わらない表情だが…声質は完全にこの状況を楽しんでいる。一応、教師側がヴィラン、生徒側がヒーローという想定で戦っているのに完全にレヴナントがヴィランである。実際にヴィランではあるのだが…

 

「黙らせてやろう…」

 

 大鎌を横に振り回し、プレゼント・マイクが少し距離を取った所でレヴナントは左手を前に突き出してサイレンスボムを雄英体育祭の時と同じ様に打ち出す。左手を突き出してからサイレンスボムを放つまでの時間は2秒未満。流石の早業である…が

 

 プレゼント・マイクは超圧縮おもりを付けているのにも関わらず、発射されたサイレンスボムが着弾してから迸る個性を無効化する赤い稲妻をジャンプして避けた。

 

「…(唸り声)」

 

 サイレンスボム自体を流石にプロヒーローに当てるのは困難である為、サイレンスボムが何処かに着弾した際に爆発して周りに拡散して迸る赤い稲妻を当てようとしたが…それすらも避けられてしまう。

 プレゼント・マイクは過去に雄英体育祭でレヴナントの個性や戦い方を見ているだろう…しかしあの時はサイレンスボムを直接当てる使い方であり、サイレンスボムを着弾させて拡散させる技は今初めて見せた…のにも関わらず彼は避けた。

 レヴナントの個性をよく調べたのか…だとしてもあの業は提出した資料には載っていないはず…ならば、初見で避けたという事になる。超圧縮おもりを付けているのにも関わらず俊敏な動きで情報皆無の初見を避ける…

 

『なるほど、相澤担任がニヤつく訳だ。確かに強いな…こりゃ』

 

 オクタンがあの時のらしく無かったイレイザーヘッドの言葉を思い返す。

 

《YEAHHHHHHHHHH!》

 

 そこで距離を取ったプレゼント・マイクはレヴナントが再び左手を構え直した所を見て、先制でヴォイスの超音波攻撃を繰り出す。耳郎とは比にならない強さを誇る音波攻撃…レヴナントは左手を突き出そうにも左手がブレる。サイレンスボムは左手を綺麗に前に突き出さないと発射出来ないのだ。

 

『レヴナント、ここは引け。連出堕の判断だ。』

「…クソ…忌々しい。」

 

 クリプトから連出堕の指示を聞き、レヴナントは嫌々大きく後方へ跳ぶ。後方には大きな岩がある、レヴナントの大きさすら隠せる岩だが…プレゼント・マイクのヴォイスで粉々に出来るだろう。しかしレヴナントは岩に隠れるつもりで岩に近寄ったのでは無い…予めそこにポータルが置いてあるからだ。

ポータルに触れたレヴナントは瞬時にその場所から消える。だがプレゼント・マイクは特に深追いはしようとせず、耳郎がこの隙にゴールに向かってないか辺りを警戒するだけだった。

 ポータルに入ってレヴナントを深追いしようにも出入口で待ち伏せされる可能性が非常に高い。それにどうせ、ゴールはここ1つしか無いのだから個々で待機すればいずれ向こうからやって来るのだから。

 

 

 そしてポータルが繋がった先、スタート地点にレヴナントが戻ってきてすぐにオクタンと切り替わる。オクタンと切り替わったのはポータルで待ち伏せしていた耳郎と円滑にコミュニケーションを取るためだ。レヴナントでは絶対に上手くいかない。

 

「上手くいった?」

「いや、ダメだ。レヴナント使っても五分五分だな。」

 

 第一の作戦、レヴナントでプレゼント・マイク制圧はサイレンスが避けられて反撃された時点で失敗だ。あのままならレヴナントなら勝てるかも知れないが…他にも作戦があるならそれを遂行する事にしたのだ。どうせ向こうからはやってこない。時間は30分とたっぷりある。

 

「第二の作戦で行く?」

「いや、悪いがどうやら俺らはプレゼント・マイクの実力を相当舐めてたみたいだ。あの音波攻撃…第二の作戦の要であるヴァルキリーの飛行も撃ち落とせるな。」

「じゃあ第三の…」

 

《FOOOOOOOOOOOOOO!!!!!》

 

 予め立てていた作戦を虱潰しにやって行こうとしていた所でプレゼント・マイクの音波攻撃がここまでやって来た。思わず耳郎とオクタンは耳を塞いでしゃがみ込む。

 

「うっそ…ここまで届くの…!? 私じゃ絶対に届かない距離なのに…!」

「どうやら立てていた作戦のほとんどが実現不可能になりそうだな…まさかここまでの個性の強さだとはな…」

 

 ブラッドハウンドのハンティングビーストを使っても接近する前に音波攻撃を食らう。レイスの虚空でも音波攻撃の範囲の広さ的に間に合わない。パスファインダーのグラップルも飛距離の問題上、音波攻撃の範囲内。ヴァルキリーは撃ち落とされる、ホライゾンのブラックホール…は恐らくプレゼント・マイクは連出堕の生徒情報から既に知っている為初見殺しにはなり得ないから簡単に対処されるだろうな。ローバのジャンプドライブは繊細なコントロールと集中力を必要とする為、あの爆音の中では使えない。ヒューズのマザーロードはこの場では使えないし…そもそも打ち出す前に音波の餌食。レヴナントのサイレンスは失敗している。シアの爆風も飛距離の問題上、プレゼント・マイクの音波が先だ。

 

 成功しそうなのはジブラルタルの空爆やクリプトのリブート、バンガロールのスモークで撹乱している間にレイスで突破…ミラージュのデコイパーティで騒ぐ。危険だが…耳郎と共にレヴナントのデストーテムやランパートのシーラで正面突破もなしでは無い。

 

「デストーテムは使いたくねぇな…」

「ですとーてむ?」

 

 死すらも無かった事にする禁断のウルト。デストーテム。しかし、連出堕的には耳郎をデストーテムに巻き込みたくはない。

だとすれば…撹乱作戦だ。

 

「耳郎、今から作戦を伝える…」

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

「来たか…」

 

 ゴール前で待機していたプレゼント・マイクは前からやってくるパスファインダーと耳郎を見て、最大限警戒する。

 

(あの機械リスナーはグラップルの個性…いや、ブラフか?)

 

 連出堕のレジェンドを切り替える速度はとても早い。切り替えれば切り替えるほど切り替える速度は落ちるが、少し時間を置けば元通りとなる。先はあんまり切り替えていなかったのでレジェンドが切り替わる事をプレゼント・マイクは最大限警戒しないと行けなかった。勿論耳郎も警戒する。プレゼント・マイクは下位互換と見くびっているとは言え、彼女も確かな実力者だ。

 

「さあ、どう来るリスn!?」

 

 突然、パスファインダーのグラップルがプレゼント・マイクの顔面に向けて発射される。パスファインダーの腕から発射される鋭いグラップルの先端は刺されば痛いでは済まされないだろう。

 その為、プレゼント・マイクは反射的に避けてしまった。

 

「しまった…!」

 

 避けなかったらプレゼント・マイクの顔は大惨事になってたから避けて正解ではあったが…避けてしまったが故に…グラップルはプレゼント・マイクの背後にあるゴールの看板に突き刺さった。

 伸ばされたグラップルはすぐに収縮を始め、パスファインダーとパスファインダーに荷物の様に抱き抱えられている耳郎はかなりのスピードでゴールへと引っ張られる。

 だがみすみす見逃すプレゼント・マイクでは無い。伸ばされたグラップルのワイヤーを思い切り踏みつけて、無理やり収縮を止める。

 だが、収縮が止まった所でパスファインダーは抱えている耳郎を前方目掛けて放り投げる。片手で投げた為、対して距離は飛んでないが…プレゼント・マイクよりかは少しゴールに近い。

 

(…まずい!)

 

 足元で踏んでいるとは言え、少しずつグラップルは縮小を初めてパスファインダーをゴールへ運ばんとする。ここで足を離せばパスファインダーは一直線でゴールだ。

 だが、耳郎をどうにかしなければ耳郎がゴールにたどり着いてしまう。

 故にマイクはその場からヴォイスを放つしか手段は無かった。

 

《YEAHHHHHHHHHH!!!》

 

 今までの中で1番近い距離からヴォイスを喰らう耳郎はまともに歩く事すら出来ず、耳を思わず塞いで蹲りそうになる。というよりも耳から少し血が滲んできている。

 

 そんな時、プレゼント・マイクは足元からグラップルを踏んでいる感覚が消失する。

 

 グラップルが引き戻されたり、マイクの足から逃れた訳では無い。文字通り、足の裏からグラップルのワイヤーが消失した。

 

 つまり、パスファインダーが居なくなった。

 連出堕がパスファインダーから他に切り替わったという訳だ。

 

 足からグラップルワイヤーの感触が消えた瞬間にマイクはそう判断し、ヴォイスを中断。連出堕の方を向くと…眼前に鎌が迫っていた。

 

「あっぶねぇ!」

 

 後ろに転げる様にマイクは回避をし、ゴール前まで距離を取る。パスファインダーから切り替わった相手は勿論レヴナントであった。いくら本番を想定した訓練とは言え、先生に本気で鎌を振るって来る奴などこいつしか居ない。「死ね」が口癖な爆豪ですらそんな事しないだろう。

 

「……おい、小娘! 何をしている、ゴールまで走れ!」

 

 レヴナントが鎌を構え、マイクと対峙している時。未だにうずくまっている耳郎にレヴナントは痺れを切らして怒鳴り声を上げる。

 プレゼント・マイクは基本的に距離を保って攻撃を仕掛けてくる上にヴォイスを一方向にしか放てない。だからどちらか一方が本来ならマイクの相手をして、もう片方がゴールまで逃げる。マイクがゴールへ向かう方へ邪魔しに行くならマイクの妨害とゴールまでの逃走を交互に切替える。

 おおよそ、その手筈だったのであろうが……

 

 耳郎はうずくまったままである。

 

「おいおい無茶言ってやるなよスケルトンリスナー。ありゃ鼓膜が完全に破れている。周りの音が全く聞こえないし激痛で何も出来ねぇよ。」

 

 相手を必要以上に傷付けないように遠距離攻撃として使われているヴォイスをあの中距離以下で喰らえば、鼓膜は破れるだろう。

 破れたところで、この雄英にはリカバリーガールが居るので勿論後遺症も無く学生生活を送れるが…この試験は終わるまではきっと何も聞こえないだろう。

 

「…ッチ、役立たずめ。ならば私がお前を殺してゴールへ向かうとしよう。

 

 鎌から赤黒い稲妻が迸り、レヴナントはマイクが大鎌のリーチから大きく離れているのに大鎌を振りかぶり…

 

サイレンス・カーブ!

 

 振り下ろしたと同時に大鎌…デッドマンズカーブからサイレンスの斬撃を撃ち放った。

 

「嘘だろ!?」

 

 大鎌を振り上げた時に何となく予想は付いたがまさかの完全な遠距離攻撃にプレゼント・マイクは横に転がる。

 

(連出堕は()()()()()()()()()()だって言ってたじゃねえかイレイザー! 話が違うぜ!?)

 

 数多の分野のエキスパートであるレジェンドを率いる連出堕苑葛の弱点。それは遠距離攻撃の少なさである。

 彼の持つレジェンド達の能力を思い返して欲しい。登場済みのレジェンドだけでも良い。

 

 ブラットハウンド、ライフライン、レイス、パスファインダー、ミラージュ、オクタン、ワットソン、ローバは遠距離攻撃を何一つ持っていない。

 

 コースティック、ホライゾン、クリプト、ジブラルタルは自分から離れた所に何かしらの害は与えられるがそう何回も使えるものでは無いし、ウルトに限った話である上に、数十メートルちょっとの距離である。

 

 シアとレヴナントは確かに遠距離攻撃らしきものは使えるが、相手にはダメージにはならない。シアは動きを封じ、レヴナントは個性を封じるという利点はあるが…攻撃とは言えない。あくまで相手の妨害や自身の補助の1部に過ぎない。

 

 という事はまともな遠距離攻撃を持つのは爆弾を投擲するヒューズとガトリングガンをぶっぱなせるランパートにミサイルを使えるヴァルキリーだけなのだが…ヒューズは命中の不安定性とランパートは隙が大きすぎる、そしてヴァルキリーは命中と威力は丁度よく遠距離攻撃としては申し分無いが…何故弾速が遅い。初見でも簡単に避けられる。牽制としては有効…と言いたいが、雄英教師レベルの強さになるとそうそう効果的とは思えない。無訓練の一般人ですら見てから避けられるくらいには遅いからな。それに天井があったり、屋内だと本当に使い物にならない技だ。故に皆が思う様な便利で牽制から攻撃まで簡単に扱える遠距離攻撃は無い。

 

 それにこの場において人を確実に殺めるガトリングガンや森に被害が行きかねないマザーロードや爆発は使えない。故に実質連出堕は遠距離攻撃を全て封じられた訳だが…

 

 なんと、レヴナントは難なく遠距離攻撃を放って来た。こんな情報は連出堕苑葛の生徒資料にも担任である相澤からも聞いた事も無い。そもそも遠距離攻撃手段を持たぬ連出堕が遠距離攻撃相手にどう対処するのかが今回の採点の1部であったのだが…

 

 というよりも実はこの能力はヒーロー公安委員会も知らない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 レヴナントは確かに連出堕の命令には逆らわないだけで、自分から連出堕に協力してやろうとはあまり思わない。思ったとしてもそれは善意や連出堕を助ける為では無く、自分が楽しみたいだけであろう。故に連出堕がレヴナントに個性の説明を求めた時に個性の発動条件や効果、デメリットは話しても、その個性をこう応用すれば遠距離攻撃が出来たり、他の事が出来ると言った部分は伏せている。

 この後、遠距離攻撃について詰め寄られた際に「サイレンスを大鎌に纏わせて遠距離攻撃出来ますか?」と聞かなかったお前達が悪いのだとレヴナントは反論している。

 

「虫けらの様に地べたを這いずり回るが良い!」

 

 レヴナントは再び、大鎌を振り下ろして斬撃を放つが前動作が分かりやすい為にプレゼント・マイクは普通に先のように転がる事無く、横に移動する形で簡単に避けられる。

 むしろ、反撃すら出来る余裕もある。確かに遠距離攻撃ではあるし脅威にはなり得るが…1度見てしまえばなんて事は無かった。

 

《YEEEEEEEEEESSSSSSSSSS!!!》

 

 反撃の隙を手に入れたマイクは思いっきりレヴナントにヴォイスを叩きつける。レヴナントには鼓膜が無い為に耳郎の様に鼓膜が破れる激痛に苦しむ事は無いが…あまりにも大きな爆音は衝撃波となりレヴナントの全身に衝撃を与えている。

 

「…(唸り声)…またこれか…」

 

 サイレンスボムもサイレンスカーブも使う為の構えも取れず、レヴナントはただ爆音の中立ち尽くすのみ。蹲るほどでは無いが1歩も動けない…むしろ少しずつ後ろへ後退しかねない…はずの中…

 

 

 プレゼント・マイクは横から爆音を喰らった。

 

「なっ…耳郎リスナー…!」

 

 耳から止めどなく血が溢れ、顔色が分かりやすく悪くなっている上に何処と無くややフラフラしている耳郎がイヤホンジャックを自身のヒーローコスチュームにあるスピーカーに繋げて自分の心音を爆音として放ったのだ。

 耳郎の放つ爆音はプレゼント・マイクと比べると出力は劣る…だが、プレゼント・マイクは口から大きな声量を出す個性…対して耳郎は自身の心音を出力する個性…

この違い…

 

 プレゼント・マイクは大声を出さなければ個性を発動出来ないし、息継ぎをしなければヴォイスを継続出来ない。

 対して耳郎は心臓が動いてる限り、永遠に継続して音波を出せる。

 

 音波による衝撃波もヴォイスと劣っている為がプレゼント・マイクのヴォイスを中断させてヴォイス発動を遅らせる事は出来る。

 そんな好機…見逃すはずも無い。

 

 

 

 影の残像を残す程のスピードで悪魔はその細く鋭利で冷たい大きい手でプレゼント・マイクのやや細長い顔を鷲掴みにする。鷲掴まれたマイクはいよいよ声が出せない。せいぜい呻き声をあげる程度だ。

 つまり…チェックメイト。

 

更に混沌へ(プルス・ケイオス)

 

 プレゼント・マイクの顔を掴みながらレヴナントは思いっきり地面へと叩きつける。地面に叩きつけた時に生じた衝撃波、爆音は確実にマイクのヴォイスと並ぶ程の物であり、鼓膜が破壊されている耳郎にも聞き届いた。

砂煙が舞い、晴れた頃にはグラサンもいつも首に巻いている指向性マイクも粉々になり完全に気絶しているマイクにカフスを掛けるレヴナントが居た。

 

「連出堕から殺すなと言われているからな…運が良い事だな」

 

 カフスをマイクに掛けた後、軽くマイクを蹴り飛ばしレヴナントは今度は耳郎へと近づいていく。

 鼓膜が破壊され、音も何も聞こえずクラスメイトとは言え目の前にはあの悪魔が居る。試験合格の嬉しさが先まであったが…その不安要素のせいで耳郎は試験合格を喜ぶ顔からやや恐怖心を抱く顔となる。

 だがレヴナントはそんな事を気にする様な者では無い。ある程度近い距離になるとそこで歩みを止める。

 

 

 

 

「…及第点だな。役立たずという言葉は取り消してやる、小娘。」

 

「え…? なんて?」

 

 鼓膜が破壊されている耳郎にレヴナントの言葉が届くはずも無い。だがレヴナントはそんな耳郎の為にわざわざ言葉を繰り返してやるほどは優しくは無い。まだ鼓膜が破れている事を自覚出来ていないからレヴナントがなんと言ったかもう一度尋ねる耳郎を無視してレヴナントはさっさとライフラインに切り替わる様に連出堕に伝えて姿を消した。

 

 




みんな大好きツンデレヴナント

サイレンス・カーブ………デッドマンズカーブにサイレンスの稲妻を纏わせて斬撃を放つしか技。簡単に言えば月牙天衝。当たると勿論サイレンスの効果が付与されるがダメージを与える事がメインなのでサイレンスの効果と効果時間は薄め。

レジェンドの詳細をまとめている時、ふと
「あれ?遠距離攻撃とても少なくね?」と思ったのでそれを弱点にしようかと思いましたが戦闘面においては連出堕達は弱点無いですよ〜!(あるとしても相手との戦闘能力の差だけ)という回です。

だから遠距離攻撃主体のプレゼント・マイク先生とぶつからせたかった。
APEXやってると気づき辛いですが。APEXのメイン攻撃は銃なのでレジェンド達のスキルやアビリティはだいたい支援や妨害、限定的なダメージなんですよね。だから銃が縛られた以上、レジェンド達は遠距離攻撃を著しく失う事になりました。
でも今回の様にハッキリとした遠距離攻撃を持つのはランパート、ヒューズ、レヴナントだけなのでどのみち遠距離攻撃に対する課題は連出堕達には課せられますよ。

彼らも緑谷や轟達の様に強くなれます。(個々の強さの上がり幅は低いけど)


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No.22 慈悲無き扇動家

ヒーロービルボードってあくまで日本国内だけでヒーロービルボードのTOP10=世界のTOP10という訳じゃないのか…!?
確かによくよく考えたら世界のTOP10が全員日本人っておかしいか!大きい勘違いしてました!
AFOが国外を直接進撃しなかったり若き時のオールマイトがアメリカに渡った時も追いかけなかった辺り…実は海外のヒーローはAFOですら手を出しにくいくらいにとても強いのかな?
少なくともアメリカNo.1は強いですね…


 応急処置はしたものの念の為に保健室へ運ばれた耳郎とプレゼント・マイク先生を見送った後俺はマイク先生にどう謝罪しようか考えながらモニター室へと戻る。

 

 リカバリーガールは本格的な治癒の為に保健室へ向かった為、モニター室には蛙吹、轟、八百万、飯田、麗日、常闇が居た。緑谷が見当たらないから少し辺りを見渡すと、ちょうど峰田と瀬呂のペアが試験をクリアしたアナウンスが響き渡った。

 峰田と瀬呂は確か緑谷の前の組…という事は緑谷はもう移動したという事だ…

 ペアは協調性皆無の爆豪…そしてヴィラン役の試験官は世界最高のトップヒーローのオールマイト。

 

 いくらハンデがあるとは言え、オールマイトは強い。とても強い。恐ろしく強い。爆豪も緑谷もA組の中で最上位の強さだが…正面から戦ってオールマイトに勝てる確率は0だ。

 だとすれば取る選択は逃げ…だが、あの勝ちに強くこだわりを持つ爆豪が逃げを選ぶとは考えにくい。そう思いながら、モニターにて始まった緑谷、爆豪ペアの試験を観ていたが…

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 

「想像以上だな…酷すぎる」

 

 俺の言葉に常闇が無言で頷き、飯田や麗日は顔色を悪くする。

 

 協調性が無くとも爆豪が勝手にオールマイトに攻撃している間に緑谷が逃げる。この手段であれば一応形式上試験はクリアとなるのだが…

 

 ヒーローらしく心優しい緑谷は爆豪を置いて逃げるという選択は無い。2人で逃げようと爆豪に逃亡を提案するが爆豪は緑谷の意見を否定するだけでなく、緑谷を突き放して勝手にオールマイトに挑みかかる。勿論爆豪が勝てるはずもなくピンチに陥るが…緑谷がそこで助けに入るも…オールマイトを前に戦意喪失してしまっている。

 

 まさに水と油だな。

 

 片やオールマイトからの逃亡なんて絶対にしたくない。絶対に倒すという思想で固まっており

 もう片やはオールマイトと戦闘なんて絶対にしたくない。絶対に逃げるという思想で固まっている。

 更にそこにチームワークの悪さが噛み合って、分かりやすくお互いがお互いの足を引っ張っている。

 

 単体がいくら強かろうといつかは限界が来る。オールマイトだって彼一人で全てがどうにかなるものでは無い。彼と、エンデヴァー、ミルコ、エッジショット、相澤担任…色んなヒーローが協力しあって今のヒーロー社会が築き上げられ、保たれている。爆豪の様にいくら自分が強いからと言って周りを突き放したら…いつかは終わるぜ。

 レヴナントですら協調性は皆無だが…周りを突き放したりはせずに利用という形ではあるが、他のレジェンドの力や助けを借りたりする。

 

「そんなんじゃいつまで経ってもそれ以上は望めないぞ…」

 

 

 そんな時、モニター映像で緑谷が爆豪をぶん殴る形で爆豪をオールマイトからの追撃を回避させてそのまま爆豪を連れて路地裏へと隠れた。

 先までうろちょろと逃げ回る事しかしてなかったが…緑谷は何か覚悟を決めたようだな。少なくとも最初の弱腰感は薄れていた。

 あとは…爆豪。お前だけだ。

 

 

 

 

 その後…路地裏に隠れた緑谷と爆豪の行動は

 

 俺は………俺達は非常に驚いた。

 

 先まで酷い有様であったのに…爆豪と緑谷の連携は完璧になっていた。

 

 路地裏からいきなりオールマイトの目の前に飛び出して即席で戦闘からの逃げ、爆豪の爆破や緑谷のパワーを考慮しても最低限の建物の被害…即席でこんな判断出来るのか?いや、仮に出来るとしてもついさっきまで水と油だった2人が?

 

 緑谷も爆豪も2人とも先とは違う、畏怖や憎しみ、恐れとは程遠い…強い意志を持った目をしていた…

 

 

 

 

 数分後…モニター映像に爆豪を抱えた緑谷がオールマイトから逃げ切り、緑谷爆豪ペアの試験クリアの放送が流れてモニタールームは歓喜の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかしましたか? 死柄木弔?」

 

 とある薄暗いバーの一室にて…雄英体育祭にて撮影された1人の雄英生徒の写真を眺めるヴィラン連合の死柄木弔にロボットの様な女性が話しかける。

 しかし、死柄木弔は何も答えず…ただ写真を、緑谷出久の写真を眺める。

 ロボットの様な女性は死柄木弔にシカトされても特に気を悪くした様子も無く、自分も雄英体育祭で撮影されたA組生徒の写真を何枚か眺める。

 

 そんな時、バーの扉が開き…1人の男性が入ってくる。

 

「よお、死柄木さん。こっちじゃ連日あんたらの話で持ちきりだぜ。何かでけぇ事が始まるんじゃねえかって」

 

 男はマフラーに薄オレンジのグラサンとなんかのテレビ局のお偉いさんの様な見た目をしているが…何処か胡散臭い。というか胡散臭い(確定)

 

「…その2人は誰だ」

 

 死柄木弔は写真を置き、グラサンの男…の後ろに居る男女に目をやる。

 グラサンの男、義爛はUSJ事件前からの知り合いではあるから死柄木弔は義爛に注目しない。

 義爛の後ろの男女のうち、男の方は中々高身長の青年…なのだが顔がツギハギで尚且つ火傷だらけの醜い姿をしていた。一方で女性の方は…女性というよりも女子というべき見た目年齢で、セーラー服を来ている。鋭い牙を持っている以外は普通に可愛らしい女の子だ。

 

「あんたがそうか…生で見ると気持ち悪いな」

 

 ツギハギの男、荼毘は何を考えているのか分かりにくい感情の無いような目付きで死柄木を見やる。

 

「わあ! 手の人! ステ様の仲間だよね!? 私も入れてよヴィラン連合に!」

 

 一方で女子の方、トガヒミコは感情豊かに死柄木に話しかける。

 

「……黒霧、こいつら飛ばせ。俺の大嫌いなものがセットで来やがった」

 

 ため息を付いた死柄木は荼毘とヒミコから視線を外して黒霧のワープでこの礼儀知らずとガキという死柄木の大嫌いなセットを消す様に指示する。

 だが、そこに義爛が待ったをかける。

 

「話だけでも聞いてくれよ。まずこちらの可愛らしい女子高生…名前も顔もしっかりメディア様が守ってくれちゃあ居るが連続失血死事件の容疑者として追われている。」

 

「トガです! トガヒミコ! 生きにくいです! 生きやすい世の中になってほしいものです! ステ様になりたいです! レヴ様を殺したいです! だからヴィラン連合に入れてください弔くん!」

 

 トガは鋭くも綺麗な歯並びが見える様にニカッと笑ってみせる…が、逆に死柄木弔は笑顔とは程遠い暗い顔になる。

 

「意味が分からん、破錠者か?」

「会話は成立するよ。きっと役に立つ。」

 

 何を言っているのか全く分からない…いや、意味は分かるが理解する事は不可能であろう言動に死柄木は呆れるが義爛も苦笑いを浮かべている。

 

「次、こっちの彼。目立った罪は犯してないが…ヒーロー殺しの思想にえらく固執してる」

 

 次にツギハギの男、荼毘。

 

「不安だなこの組織…本当にステインの大義はあるのか? まさかこのイカレ女を入れるんじゃねぇよな?」

 

 無感情…というか何を考えているのか全く読めない表情で、軽蔑の眼差しでトガヒミコを睨む。あくまで表情や雰囲気からのみ読み取ったものだが…ステインの思想に固執しているようには一見見えない。

 

「おいおい…その破綻イカレJKすら出来ることがお前は出来てない。まず名乗れよ、大人だろ」

「今は荼毘で通してる」

「本名を名乗れ!」

「出す時になったら出す。とにかくヒーロー殺しの意志は俺が全うする。」

 

 礼儀知らずの荼毘に強い不快感を表す死柄木弔だが、そんな死柄木に対して荼毘もトガヒミコも態度を改めようとしない…そんな中、死柄木の…ステインに対する逆恨みが…爆発した。

 

「どいつもこいつもステインステインと…気分が良くない…ダメだお前ら」

 

 死柄木はのっそりと席を立ち、両手を伸ばす。触れたものを全て崩壊させる。その個性で…殺意で…

 そんな殺意を向けられて黙っている程、トガも荼毘もヤワなチンピラでは無い。死柄木が殺意を持った瞬間、表情が切り替わり(荼毘は変わらない)。トガはナイフを、荼毘は掌から焦げ臭い香りを出し…

 

 

 

 

 銃口を突きつけられた事で動きを止めた。

 

 

「お待ちください、弔…」

 

 一方で死柄木弔は黒霧に諭され、動きが止まっている。

 

(私が動かなくても良かったですね…)

 

 ロボットの様な女性は慌てて対立する死柄木弔と荼毘、トガを止めようと動こうとしたが…死柄木は黒霧に止められ、トガと荼毘は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()動きを止めている。

 

 そして、荼毘もトガも攻撃の意思は無いと両手を軽く上に挙げると新人はウィングマンをしまうと、バーの隅っこトボトボと戻る。

 

(…あんな所から一瞬で…)

 

 バーの隅っこに気配を殺して座り込む新人に荼毘は視線を向ける。いくら気配を消していても荼毘程の実力者ならこのバーに入った途端に見破っていたが…荼毘がその存在の接近を認知するよりも早くあんな重そうなマグナムを2丁も持って突きつけてくるとは思わなかったのだ。

 あれがヒーロー殺しステインと何らか関係あるのか、無関係なのか…少し荼毘は気になっていた。

 やがて、黒霧の死柄木に対する説得は終わると死柄木は何も言わずに荼毘もトガヒミコも無視してバーから立ち去る。行先も伝えずに…

 

「顧客に対してとやかく言うつもりは無いんだが…いくらなんでも若すぎるよ。」

 

 感情的に、子どもの癇癪のように動く死柄木に義爛は呆れたように言う。その言葉に対し、黒霧もロボットの様な女性も少し申し訳ない気持ちになる。

 

「すみません…返答は後日でよろしいでしょうか?」

 

 このトガヒミコと荼毘…そしてこの場にはまだ居ないが義爛が連れてくるつもりでいる残りのヴィラン連合の加入希望者を受け入れるかどうか、そして仲介料の支払い。それらに対する返答はリーダーである死柄木弔不在の今決める訳には行かない。

 

「彼も自身がどうすべきか分かっているはず。分かっているからこそ何も言わずに出て行ったのです。」

 

「…でも、顔が割れている今、1人で何処かに行くのは危険ですね…サクラティクス。弔の護衛をお願いします。」

 

 1人で考える時間が必要な死柄木弔の後を黒霧もロボットの様な女性もそうそう追う訳にも行かない。そもそも黒霧も姿が割れているし、ロボットの様な女性もやる事がある為、外に出たくない。

 ならば…期待の新人にもう少し働かせるだけだ。

 

 先生…AFOから送られて来た、きっと弔の役に立つヴィラン連合の新人。サクラティクス。

 

 新人サクラティクスはロボットの様な女性から指示を受け、肯定の意を示すかの様に、ただ頷いて弔を追う為にバーから立ち去った。

 

 

 

 

 




未だに連出堕達による緑谷に対しての評価が描写出来ない…

そして、サクラティクスはオリキャラです。個性はAPEXと深い関わりがありますが…このキャラクター自体の設定はAPEXと無縁です。(ちょっっっっとだけ関係あるかもしれないけど、ロボットの様な女性よりは断然薄い)
そして姿の描写をしなかったのは敢えてです。

ロボットの様な女性は本来なら初登場で名前を出すつもりだったのに引っ張り過ぎた感はあるね。もう察していると思いますが、今回のシーズンで新しく追加されたレジェンドですね。まさかレジェンドとして登場するとは思わなかった。
さて、そろそろ映画版僕のヒーローアカデミア、2人の英雄編です!(次回の次回辺りを予定)
予定ではクリプトがレヴナント、オクタンの次くらいに活躍………させたいです。無理だったらごめんなさい。


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No.23 キャリーバッグを発見!レベル3だ!

バッグパックを装備しても速度は落ちないけど(オクタン曰く)。キャリーバッグの場合なら速度落ちそう。
そもそもキャリーバッグを引っ張りながらワールズエッジやらストームポイントを走り回るレイスとかレヴナントとかバンガロール達なんて見たくないわ()


「お土産話…楽しみにしてるぜ…!」

 

 演習試験が全て終了した次の日、残念ながら不合格となってしまった上鳴と切島から半泣きされながら肩を掴まれ、告げられる。

 この2人含め…あとは砂糖と芦戸が残念ながら不合格となってしまった…可哀想だがルールはルールだ。この4人は残念ながら合宿の参加は無し。合宿期間は学校での居残り補習となってしまった。

 

 そんな上鳴達に対して…俺がしてやれること…それは…

 

「おう! お前達の分まで全力で合宿を楽しむぜ!!!」

 

 合宿を楽しもうぜ!!!!!

 

 

 

「馬鹿野郎ォォォォー!!!」

「ひでぶっ」

 

 上鳴のベリーストロングな右フックが俺のみぞおちを捉えた。痛ぇ、クレーバーで撃ち抜かれたくらいの痛みだ…!

 

「そこは慰めろ!!! せめて頑張れの一言くらい送れよ!!! 何満面な笑みで、幸せそうな笑みで……うわあああああああ!!!!!」

 

 荒ぶる上鳴と切島を瀬呂と障子が抑える。

 くっ…善意から言った言葉なんだが…何か悪かったのか…!?

 

『問題しかなかったと思うわ』

 

 そんなレイスの言葉が聞こえた。

 

 そして、教室に予鈴が鳴り、あれ程騒がしかった教室は急に静かになり皆おのおの自分の席に着き始めた。さっきまで号泣しながら暑苦しいうるさい奇声を上げていた切島と上鳴もまるで何事も無かったかのように真顔で席に着いている。

 これは相澤担任の指導の賜物だな。あの人、予鈴が鳴った後に教室が騒がしかったら静かに怒ってとても怖いからな…ああ、本当に試験の時にあの人と当たらなくて良かったぜ。

 

 

「席に…着いてるな。よし、おはよう。」

 

 教室の扉が開き、相澤担任が入ってくる。

 

「さて、今回の期末テストだが…筆記試験は赤点無し。だが演習試験は赤点が出ている。」

 

 その言葉に、上鳴、切島、砂糖、芦戸はこの世の終わりみたいな顔をしている。失礼だが…面白いな。

 

「よって林間合宿は…全員で行きます!」

 

「「「「どんでん返しだああああああああぁぁぁ!!!!!」」」」

 

 予想外の言葉に脱落者4名は恐らく一生かけても表現出来ない衝撃の喜びの表情を浮かべて勝利のガッツポーズを取る。

 まじかよ…結局赤点も合宿へ行けるのか!

 

「この林間合宿は強化合宿だ。赤点こそこの合宿で力を付けて貰わなければならん。」

 

 ああ、そうか。そういえば合宿ってあくまで学校の授業の1つか。完全に遊びや娯楽と誤認していたな…しかしそうか…

 ん?演習試験の赤点が尚更強化合宿…そういえば合宿内容ってなんだ?

 個性の強さを伸ばす強化訓練を合宿しながら行うって事か?だったらこの雄英高校の敷地内でもいい気が…というかその方が良い気がするんだが…なんか考えがあるのか?

 

 まあそこら辺は合宿に行けば分かる話だな。しかしクラス全員で行けるなんて楽しみだな…生まれて初めての合宿…クラスメイトとの旅行…やべえ、今日から眠れないぜ!

 

_________A P E X_________

 

 

 そしてその日の放課後…

 

「ねえねえ、明日休みだしさ。皆で買い物に行こうよ!」

 

 葉隠からいきなりそう伝えられた…何やら林間合宿に必要な品物を明日ショッピングモールで買い揃えようと言うのだ。確かに…物資は色々必要だな。具体的に何が必要か全く分からないがきっと何か必要だ。

 家にあるものでは足りない可能性もあるしな。

 

「なあ…林間合宿で必要なものってなんだ?」

『トモダチ!』

『被検体』

『主神への信仰』

『爆発だろ』

『芸術です』

『死』

『大砲よ』

「OK、ショッピングモールで買えそうな物は無いな。」

 

 こいつらに聞いたのが間違いだったな。

 まあ金を持って明日誰かについて行けば良いだろ。

 

 

 そして明日となった。

 他とつるむのが大嫌いな爆豪と休日は何かしらの予定が入ってる轟、蛙吹、青山達等などを除いたA組の半数近くが木椰区ショッピングモールというだいたいの物なら何でも揃ってる県内最多店舗数の大型ショッピングモールだ。

 

「皆買うもんも目的もバラバラだし、時間決めてここに集合するか…じゃあ3時間後にここに集合な!」

 

 珍しく飯田ではなく切島が仕切り、各々が欲しいものや必需品を買いに移動する。

さて…どうするか…

 

「なあ、林間合宿に必要なものってなんだ?」

 

 今度は前回と違ってレジェンド達ではなく、上鳴と障子に質問する。この2人なら安心な答えを得られる…上鳴はちょっと疑問だが…

 

「必要なもの…か…人によるが、虫除けとか…動きやすい靴とかじゃないか?」

「動きやすい靴…か。登山用の靴とかか」

「登山…?……ってか海じゃねえの?」

「え? 林間なんだから海じゃないだろ」

「いや、林間合宿でも海の場合もあるぜ?」

 

 林間合宿という単語に引っ張られたが…そうなのか?それなら臨海合宿じゃないのか!?

 

「場所って書いてあったか?」

「いや、しおりにも場所は伏せられている。多分、USJの様なヴィランの襲撃を警戒して情報を漏らさないようにしているんだろう」

「海だった場合…水着とか必要だよな…サンダルも」

 

 海なんざ行ったことはあるにはあるが…泳ぎはしなかったな…というか別に泳がないなら買わなくても…いや、強化内容に水泳がある事を備えて買っておくか?

 

『なあ、そもそも俺達ってキャリーバッグとか無くないか?』

 

 ふと、ミラージュが話す。確かに、盲点だった。

 今まで旅行に行ったこと無いから大量の荷物を運ぶ鞄なんて無い!…家を探せばあるかもしれないが…せっかくショッピングモールに来たんだ、お下がりじゃなくて新品を買おう!

 

「キャリーバッグが無いからキャリーバッグから見に行く事にするぜ」

「そうか、なら俺もついて行こう。俺もあまり大きな鞄が無いからな。」

「じゃ、俺もついでに行くか!」

 

 水着等などはひとまず後回し、先に大量の荷物を入れる為の鞄を買いに向かおうとするが…

 

「おっ、連出堕達もキャリーバッグ買いに行くの?」

「なら、一緒に回りませんか?」

 

 耳郎と八百万もキャリーバッグを買いに行くつもりだった様で、ついでだから同行した。どういった鞄が良いのか、耳郎や八百万にも意見を聞きたいからな。

 それで、1階の奥の店舗へと移動するとキャリーバッグから手持ち鞄、バックパックまでから財布まである店を見つけたからそこでキャリーバッグ等を探すとした。

 

「うーん、余分に大きくて持ち運びづらくても連出堕の個性なら格納出来るし…ここは1番大きいキャリーバッグにするか。」

「格納なんて出来たのか…」

 

 1番大きい紫のキャリーバッグと金のキャリーバッグを見比べながらそう呟くと、自身の背丈に合う大きさのバックパックを手に取りながら障子は尋ねてくる。

 

「流石に上限があるが…だいたいの物は俺達レジェンドが待機している連出堕の個性の特別な空間に持っていくことが出来る。まあ、17人の共有スペースだから連出堕の指示でも無い限り格納する事なんて滅多に無いけどな。」

 

 あの空間にいる間は特に退屈を感じる事は無い…いや、そう脳が錯覚しているだけなのか…時間が完全に止まってるから退屈心も進まないだけなのか…ともかくあの空間にはその気になれば私物は持ち込める。だからヒーローの戦闘服をあの空間に持ち込みたいんだよな。未だに許されないけど。

 

「とりあえず紫のバッグにしておくか…」

 

 バッグの値段は…まあ、なんて言うか…家が家だからな。全然許容範囲内の値段だな。

 紫のキャリーバッグの値段を確認した後に店員へこれを購入する意を伝えようとした時…

 

 

【気をつけて! 貴方銃口を向けられているわ!】

 

 虚空の声が聞こえた。

 

「ッ!………」

 

 俺はゆっくりとその場に止まり…近くの鞄を見るふりをして、視線を店の外へと向ける。

 少なくとも店内に居るのはクラスメイト以外だと店員だが…この店員はシロだろう、こちらに背中を向けているし…虚空の声の発生条件的に今更はありえないからだ。

 

 虚空の声が聞こえる場合…それはかけられる言葉によって意味が異なる。狙われていると言われた場合、殺気や敵意を明確に向けられている場合に言われる…だが今回は銃口を向けられていると言われた。つまり…この場に誰かが俺に対して銃口を向けている。

 殺意だけではなく、完全に俺達を殺そうとしている。

 

 何故…?

 雄英生に対する恨みか?

 だが、この場所に来たのは昨日の雄英高校内で決めた事。前々から知ってないと分からない場所に居る俺達を、非銃社会のこの国で銃を持って俺達を襲撃しようだなんて…恨み程度で起こせる行動力じゃない…もっと組織的な…

 

 その瞬間、俺の中で1つの憶測がでてきた。

 

 居るじゃねぇか…なんの前触れも無く、突然銃口を突きつけられる存在が…!

 黒霧と保須市でのロボット!

 

 という事は…ヴィラン連合!?

 俺は…俺達は今ヴィラン連合に銃を突きつけられている!?

 

 店の外に居る数多の一般人…そこから銃口や殺意は見られない…だが確実に、そこには居る…ヴィラン連合が…

 今のところ黒霧もロボットも見られない。だが、必ずしも黒霧やロボットである必要は無い。USJで襲って来た時は数多のチンピラ達が居た。そのチンピラ達の様な人間の姿をした構成員に銃を持たせて黒霧がこの場に送り込んで来た可能性がある。というかロボットや脳無といった目立つ存在を置くとは思えないから恐らく人間だろう。

 

 しかし…

 

 店の外に居る奴らから未だに殺気は感じられない…銃口も見つからない…だが未だに虚空の声は引き続き、頭の中で響く。今も尚進行形で向けている…

 殺意も銃も隠すのが上手い…相当のプロだ。ヴィラン連合め…プロの暗殺者でも雇ったのか?

 

 店の外、少なくとも俺が居る位置に対して銃口を向けれそうな場所に居る人は数名。

 山羊の姿の老紳士、緑の服を着た茶髪の青年、オレンジのしっぽが生えている学生、フード付きパーカーを着たピンク髪の少女、黒い片角の生えた紫髪の女学生、腕だけが樹木となっている人相の良い黄緑髪の青年、身長の高い高貴な淑女、赤色の円形の顔をした性別不詳の人物…ダメだ、どいつもこいつも怪しいと思えば怪しいし普通と思えば普通だ。

 

「連出堕、キャリーバッグ買わないのか?」

 

 そんな時、障子が近寄ってきた。いいタイミングだ。

 

「障子…そのまま黙って、もしくは大きな声を出さずに聞いてくれ。今、俺またはこの場の全員が何者かに銃口を向けられている。多分…ヴィラン連合だ。」

「ッ!?」

 

 非常に驚きはしたものの障子は顔が隠れているので動揺しているか傍から見たら分からない。そして声を上げないように全力で声を抑えたようだ。

 

「…ヴィラン連合だと言う確証は無いが…銃口を向けられているのは確実だ。俺達の個性の1つが、そう反応している。USJの時にも発動した。」

「……どうすればいい」

「そのまま、自然に耳郎、八百万の元へ行け。そして伝えろ。念の為、店の外から見えない場所…棚の後ろとかでな。一応店員も警戒しておけ。俺は上鳴を呼ぶ。」

「了解」

 

 障子はゆっくりとバッグを持って耳郎達の居るレジの方向へと向かう。傍から見たらお会計で不信感は無い。

 俺はとりあえず上鳴に「この鞄どうだ?」と適当に話しかけて、こちらに上鳴を寄せる。

 そして、店の外側が上鳴の背中で見えない…つまり店の外に居る奴らは上鳴で俺が見えない角度で俺は上鳴に障子に伝えた事と同じ事を伝える。

 

「マジでッ!」

「声がでかい」

 

 上鳴は慌てて口を手で押さえて、顔を真っ青にする。まさかこのショッピングモールでヴィランに狙われるとは思わなかったのだ。

 とりあえず、少しずつ…ゆっくりと違和感の無いように鞄のお会計に行くふりをして俺達2人も外から見えない場所へ移動した。

 そして…棚の後ろへと移動すると…ひとまず銃口の射線が途切れたので虚空の声が途切れた。つまり…このレジに居る店員はやはりシロだ。

 

「店員はシロだ。店の外に居る奴らで確定だな」

「ど、どうするんだよ…!? そうだ、携帯で誰かに助けを求めようぜ!」

「いや、助けを求めた所で誰が銃口を突きつけているのかまでは分からなかった…銃口も殺意も隠すのが上手すぎる…プロの暗殺者かなんかだろうな。またはそういった個性か…誰か呼んだ所で解決はしない。」

「け、警察は!? ヒーローは!?」

「警察やヒーローが現れた時点で犯人も犯人じゃないやつも大きく移動するだろうな。こんなショッピングモールに警察がゾロゾロと来たら皆、何事かと移動するだろう。俺達の身の安全は確保されるが…犯人には逃げられる。」

「そもそも連出堕さんの個性だけで警察が来てくれるかどうか…」

「来てくれはするが…信用はされないだろうな。…仕方ない。」

 

 俺はとりあえず商品の鞄を置いて、店の外側へ向かおうとする。

 

「俺が相手が見えるであろう範囲をウロウロする。銃口を向けられているかどうかは個性で分かるからな、俺が携帯で合図を送るからそうしたら1人ずつ…ショッピングモールから避難しろ。」

「え、それ連出堕が危険じゃない!?」

「問題無い。銃口を向けられている事が分かっているなら超至近距離でも無い限りかわせる。そして超至近距離なら…誰が犯人か分かる。だから____んぉ?」

 

 その時、その場の全員の携帯が震えたり、鳴ったりする。クラス全員のグループチャットにメッセージだ。

 今はメールを返すなんて、そんな場合ではないが…他にもヴィランが居るかも知れないから警戒するようにメールを送り返そうと携帯を開くと…

 

「「「「「え!?」」」」」

 

 5人の声が重なる。

 

 グループチャットにメールを送ってきたのは麗日お茶子。

 彼女曰く…

 

 緑谷出久がヴィラン連合リーダーの死柄木弔と接触した。緑谷出久に怪我は無い。

 

「ヴィラン…」

「まじかよ!」

「…という事はやはり…」

 

 俺は店の外側…を棚の後ろから睨む。外に居る銃を持つ人物はヴィラン連合である可能性が非常に高くなった。

 だが、それよりも…

 

「死柄木弔と接触したなら警察やプロヒーローがもう間もなくやってくるだろう。それまでここで待機しよう。死柄木弔が居るなら恐らくあの黒霧というワープの奴も居るから俺達にできる事は身の安全の確保だけだ」

「…ですわね…」

 

 程なくして、警察やプロヒーローがショッピングモールにたどり着き、ショッピングモールは閉鎖。A組は皆1階広場に集合との事なのでグループチャットにヴィラン連合の仲間らしき者に銃を突きつけられていた事を説明すると、プロヒーロー数名がやって来てくれたので護衛の元、銃口を向けられる事無く広場へ向かえた。

 

_________A P E X_________

 

 

 プロヒーローと警察の合同捜査の結果、死柄木弔とその仲間らしき人物は見つからず。ショッピングモールの客に荷物検査を行ったが銃を所持している人物は全く居なかった。勿論、銃が何処かに捨てられているなんて事も無かった。恐らく黒霧が銃を持っていた敵、もしくは銃そのものを回収したのだろう。と、すれば銃口を突きつけてきた人物はヴィラン連合の仲間でほぼ確定だ。

 夕方まで行われた捜索は打ち切られ、死柄木弔と接触した緑谷と銃口を向けられた事に気づいた俺はそのまま警察署へ事情聴取となった。

 伝えた事と言ったら銃口を向けられている事に気づいた理由と、その時に居た一般人の人相を伝える事くらいだったが…

 終わる頃には夜になってた。

 緑谷の前から消える際、死柄木弔は緑谷に対して次会った時は殺すと殺害予告していたらしい。それが緑谷に対してなのかA組全員に対してなのかは分からない…しかし用心に越した事は無いので俺は特別に警察の方に家まで護送してもらった。

 そして…休み明けの登校日。

 

「安全面を考慮とヴィランの動きを警戒し、例年使わせて頂いている合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった。」

 

 朝のHRで相澤担任からクラス全員にそう告げられた。中には合宿を中止しないのを喜ぶ者もいれば不安になるもの、行先が変わった事を残念がるものが居た。俺は行先は変わったけど、合宿が続行なのは嬉しいな。中止にならなくて良かった。

 

 だが…確実に合宿は少しややこしいものとなったな。くっそ、ヴィラン連合め…面倒な奴らだ。

 

 

 その日は特に何か大きな出来事は無く、終了。翌日もヒーロー基礎学等は座学で何か目新しい事も無く…無事に終業式も迎えて一学期の全課程を終了して、俺達は夏休みへと入ったのだった。





今回描写されたモブ一般人の中にヴィラン連合の新メンバー(オリキャラ)が居ます!
分かるかな!?(林間合宿のヴィラン襲撃辺りで答え合わせになります)

連出堕くんは旅行には行ったことはありません。修学旅行もです。
オクタンは成人ですが、まだ障子の様な高身長キャラが居るので高校生として活動しても違和感ありませんが…小学生、中学生は無理があります。だからと言って連出堕本人が出るわけには行かないので…彼は小学校と中学校行ってないです。通信教育ってやつですね。
雄英の入学試験の時とかの描写が皆無なのはそのせいです。中学に形式上行っていないので描写が難しかったのです。


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DUO MODE:2人の英雄
No.DUO 招待状


お久しぶりです
休載してる間にレジェンドが3人も追加されたとか…どういう事だ…?(マッドマギー、ニューキャッスル、フェード)

*フェードはモバイル版限定キャラです


 夏休みが始まって数日が立った。

 

 まず思ったのは退屈だな。

 

 数日前に緑谷達が学校のプールに誘って来てくれたから夏休みの最中も退屈しないだろうと思ってたが…何も毎日雄英のクラスメイトと遊べる訳じゃあ無い。

 誰も遊びに誘わないならこちらから誘えば良い話かも知れないが…携帯に手が伸びなかった。遊ぶと言っても案が思い浮かば無いからな。

 

「連出堕に今まで友達なんて居なかったからな…なんて誘ったものか…」

『海にでも誘ってみたらどうだ?』

 

 ジブラルタルから海に行くという案が出た。確かに林間合宿は場所が変更されたらしい、具体的に山なのか海なのか林なのか森なのか分からないから今のうちに海を満喫するのもいいが…

 

「もし林間合宿が海だったら嫌だな…」

『誘うとしたら林間合宿が海では無かったかつ、林間合宿が終わった後だな』

 

 残念ながら、ジブラルタルの案は潰えた。

 

『じゃあカラオケはどうかな?』

 

 すると今度はパスファインダーが案を出す。カラオケか、悪くない。上鳴とか切島とか芦戸とかなら全然来てくれそうだな!

 

「どうだ連出堕? カラオケで良いか?」

「____」

「OK! じゃあ早速連絡を…」

『待て…ヴィラン連合に殺害予告されたのにおいそれと遊びに行くのは危険だ』

 

 連出堕がパスの案に肯定したから携帯を手に取り、皆に予定の確認をしようとしたらクリプトに止められた。

 

『そういえば…相澤先生がむやみやたらと遊びに行くのは控えろ…と言っていましたね…』

「あ〜そんな事言ってた気がするな…」

 

 終業式が行われた数日前の週末、ショッピングモールにて緑谷がヴィラン連合のリーダー死柄木弔に接触、殺害予告され、俺達はヴィラン連合の一員と思わしき野郎に銃口を向けられた。それ以降、雄英は生徒に対して夏休み中の自粛を命じた。

 勿論、雄英に許可を取ればその限りではないが…簡単に許可が降りるとは考えにくい。

 

「クソッ…退屈で仕方ねえ…」

 

 やや広めのベッドの上に寝転がりながらあまりの退屈さに苛立ちが出てくる。もし無闇な外出が禁じられて無かったら腹いせに走り回るのにな…

()()()()()()()()

 

 

__________A P E X__________

 

 

 連出堕苑葛はとても裕福な家庭に産まれた。

 裕福と言ってもA組に居る八百万百には大きく劣るが…それでも世間一般的には大金持ちという分類になるくらいの豪邸に住んでいた。

 部屋も広いし、装飾も煌びやか、使用人も雇用していた。代々続く薬品会社を衰退させる事無く、日本支部の最高責任者として常に会社を発展させ続けていた。

 轟家の様な闇深い家庭でもなく、親と子の関係も良好であった。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 もし、貴方に子供が居たとしよう。

 とてつもなく愛らしく、一家の宝でもあるかわいい子供…

 

 突然、その子供に訳も分からぬ人格、姿、能力が宿ったら貴方はどうするか?…

 

 

 連出堕の両親は何気無い1日にその質問が突如として突きつけられたのだ。

 4〜5歳くらいの我が子が、突然ロボットに、女性に、大男に、ガスマスクになり、人格まで変わってしまったら…

 

 当然、これまで通りに接するなど不可能に近かった。

 両親は例えどんな卑しい個性が発現しても我が子を愛そうと誓っていたが…我が子に発現したのは突然変異型の個性…しかも前例が一切無い…世にも珍しい等という表現を越え、個性社会の均等を崩しかねない異常な個性であった。

 しかし、この個性は発動、切り替え型。使用しなければ愛らしい我が子は我が子の姿と人格のままである事は可能であった。

 それに気づいた連出堕の両親はとてもとても安心した。息子は消えた訳では無い。変な個性ではあるし、息子はこれから苦難の道を行くだろうが…それでも息子が居るだけで両親はひとまず安心した。

 

 

 だが、次に…()()()()()()()()()2()0()()()()()()()()()()と伝えられた。

 個性を常に発動し続けていれば、常に連出堕苑葛以外の姿や人格のままで居れば、寿命を永遠に伸ばせると伝えられた。

 

 

 息子は奪われた。

 我が子は奪われた。

 個性によって愛らしい子供である連出堕苑葛の時間も姿も人格も未来も…全てが奪われた。

 しかしそれでもこの個性は連出堕苑葛である。

 

「もう…分からない、何も…かも…」

 

 連出堕苑葛の名と戸籍を持つ、全く別人である個性の人格が間違いなく息子である連出堕苑葛である。

 

 この事実は誰にも理解出来ぬものであり、当然連出堕両親も受け入れようにも理解が及ばずに受け入れられぬものなった。

 今でこそ、A組の皆や担任の相澤、オールマイトは「()()()()()()」で片付けているが…それは連出堕苑葛がまだ連出堕苑葛だった頃の連出堕苑葛と共に暮らした事が無いから割り切れるのだ。

 両親には…出来ぬ事であった。

 

 

 それから、連出堕両親は連出堕苑葛…否、連出堕苑葛を名乗る個性から距離を置いた。絶縁した訳でも無いし、今も同じ家に住んでいるが…きっとそれは連出堕苑葛を名乗る個性が連出堕苑葛である事に間違いないからだろう。

 ただ顔を合わす事は無いし、合っても会話は無い。他人行儀な会釈で済まされるし、食事も一緒に取ることは無い。

 学費も出すし、差別したり冷遇する事は無いし、雄英に進む時も一切否定せずに後押しはしたが…連出堕両親は決して連出堕苑葛とは直接関わろうとしなかった。

 

 流石に轟家ほど劣悪で最悪な親子関係ではないが…確実に緑谷家、八百万家、爆豪家、耳郎家などよりよろしくない親子関係だろう。

 

 

__________A P E X__________

 

 1人で食事するには広くて寂しい食堂で遅めの朝食を取った俺は使用人から1つの手紙が渡された。

 手紙には連出堕の親父を招待したいという内容であったが…どうやら連出堕の親父さんは日程的に参加出来ないから代理で息子である連出堕苑葛に行って欲しいそうだ。

 

「I・アイランド…I・エキスポの招待状か…」

 

 連出堕の親父が責任者をしている薬品会社は世界的にも有名だ。まあ、親父さんは日本支部の最高責任者ってだけで流石にトップじゃあ無いんだけどな。

 それでも、この世界中の個性研究者や才能者達が集うI・アイランドにて行われる展覧会、I・エキスポに呼ばれるくらいにはお偉いさんだ。

 

 手紙には招待状が同封されていて…最大3人まで一緒にI・エキスポの展覧会に参加出来るそうだ。

 

「I・エキスポ…楽しそうだな。」

 

 連出堕の親父は毎回招待される度に行っているが…連出堕苑葛と俺達は行った事がない。まあ…公安からの圧力があるし、それに数年前から個性の人格にコースティック博士とレヴナントが居るから行く訳には…って待てよ…じゃあどちらにせよ、俺達も行けなくないか?

 

「保護者から許可経ても公安から許可降りないと行けないって…面倒だな」

『同伴者に公安を連れていけば行ってもいいんじゃないか?』

「何が悲しくて怪しい黒服着たおっさん二人連れて行かなきゃならねえんだよ…クソ」

 

 別に公安職員が全員黒服のおっさんである訳が無いが…どちらにせよあれら同伴じゃないとI・アイランドの立ち入りすら俺達は出来ないだろうな。この招待状を無駄にしない為にも俺は公安へと電話を掛けた。

 

 

 

 

「…で、オールマイトが現地に居るから公安の同伴は必要は無しだとよ。でもあと2人誘えるから一緒にI・エキスポに行かないか?」

 

 公安に連絡を取ったが、どうやらその日にはI・エキスポにはオールマイト、まだ未確定だが予定ではエンデヴァーが居るらしい。ならば万が一、億が一、レヴナントやコースティックが暴走しても何も問題は無いとの事だ。

 だから俺は気が楽になり、A組の友人達に連絡を掛けた。

 I・エキスポに誘ったのは障子目蔵と常闇踏陰だ。最初は耳郎と上鳴を誘ったが…耳郎は八百万と共にI・エキスポに来るらしい。一方で上鳴はこちらが話す前に予定日は忙しいからと断られた。何かウキウキしていたしきっと何か楽しい予定が入っているのだろう。

 

 招待状を持つ者のみが参加出来る一般参加前のI・エキスポが開催される日を楽しみに…俺はベッドへと飛び込んだ。

 

 さっきの異常な退屈さが嘘のように吹っ飛んだ気分だぜ!




個性がやばいから我が子を捨てる毒親が多いヒロアカ二次創作ですが、連出堕両親はそんな酷い親ではありません。しかし、パスファインダーやブラッドハウンド、ジブラルタルが息子の寿命代わりに発現してもいつも通りに接する事が出来る程、柔軟で異常な親バカでもありません。
同じ家なのにほぼ別居という状態が普通になるだろうと想像してこの通りにしました。
あと現在のAPEXのイベントで登場しているオクタンの父親であるエドゥアルド・シルバは全く関係ありません。連出堕苑葛の父親のモデルはエドゥアルド・シルバにしましたが、まさかエドゥアルド・シルバがあそこまで本編でド派手にやらかすとは作成時には思ってもいませんでした。

このお話で連出堕苑葛というワードがゲシュタルト崩壊しました()

いつも通り誤字があったら遠慮なくご指摘ください。


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No. DUO② 皮付きの姿


ワンピースもヒロアカも最終章…この2つ終わったらジャンプどうなるんだ…



「ふむ…見えてきた。あれが1万人以上の聡明なる科学者が住居する人々の手によって造られし島…I・アイランドか…」

「大いなる人工島…!」

「大きいな…これ全てが人工なのか。」

 

 I・アイランド行きの飛行機の窓からブラッドハウンド、常闇、障子は海に浮かぶ移動式人工島、I・アイランドを見下ろす。

 

 常闇達を誘って数日経ち、I・アイランドに開催されるI・エキスポのプレオープン日に俺達3人は雄英高校の夏服を着てI・アイランドに来ていた。といっても常闇と障子は島に着いたらヒーローコスチュームに着替えるし、俺は制服来た所でレジェンドを切り替えたら無意味なんだけどな。

 動く歩道に乗り、搭乗口から出ると俺達3人は入国審査用のスキャンで全身くまなくスキャンされる。これがパスポート代わりって事だな。ちなみにこの時だけ、ブラッドハウンドは連出堕苑葛に切り替わってる。そのせいで寿命がリアルに3秒くらい削れたな。

 そしてその後はこの俺、オクタビオ・シルバに切り替わる。

 

 やがて入国審査が終わり、俺達はI・アイランドへと足を踏み入れる。

 

「「「おおっ…!」」」

 

 I・アイランドのエキスポ会場に入場すると俺達3人は思わず感激の声を漏らす。雄英以上の膨大な広さの会場に楽器をモチーフとしたパビリオンが最初に目に入り、次にどういった原理か分からないが完全に宙を飛んでいるジェットコースターに水が自由自在に動いているウォーターアトラクション、実体化して弾む音符等、遊園地よりも面白そうなアトラクションの数々が視界に入った。

 今すぐにでも遊びに行きたいが…その気持ちをグッと堪えてまずは荷物を置きに予約したホテルへと向かった。

 

 

「…おい…連出堕、常闇。あれを見ろ」

 

 ホテルへ余分な荷物を全て置き、最低限の荷物…財布や携帯、ガイドブックを持ってアトラクションエリアへと戻ってきた俺達。どのアトラクションに行こうか迷ってた時に障子が何か見つけた様でとある方向を指さす。

 そこには個性を使ってヴィランを模したロボットを次々と倒して点数を競うヴィラン・アタックというアトラクションなのだが…

 

 そこに見覚えのある金髪ツンツン爆発頭が地味目な緑髪の少年、眼鏡の青年、赤い髪のツンツン頭に取り押さえられていた。

 もしかしなくても…爆豪だ…取り押さえているのは緑谷、飯田、切島だな。

 

「何してんだ…あいつら」

 

 周りには一般人ではなく、そこそこの有名人だとは言え、他人の目には中々やばい風景が映っている。

 大方、爆豪が暴走して他が取り押さえている感じだろうな。

 

「あっ、連出堕さんに常闇さん、障子さんも!」

 

 そんな時、ヴィラン・アタックの観客席に居た八百万がこちらを見つけて話しかけてくる。連れには麗日と耳郎も居る。まあ、この3人がこの場所に居るのは耳郎から聞いたが…約1人。見覚えの無い金髪の眼鏡をかけた美人な女性が居た。多分、麗日達より歳上だろうが…誰だ?

 

「この方達もクラスメイト?」

「はい、クラスメイドの連出堕苑葛くんに常闇踏陰くん、そして障子目蔵くんです」

 

 女性の質問に麗日が答える。

 

「初めまして、私はメリッサ・シールドです!」

 

 人懐っこい笑顔で手を差し伸べてきた、メリッサという女性に俺達は各々軽い自己紹介…というか名乗りながら握手を交わす。

 

「なあ、麗日…アレなんだ?」

 

 俺はヴィラン・アタックのど真ん中で騒ぐ爆豪と取り押さえる緑谷達を指差す。

 予想は着くが…念の為聞いておきたかった。

 

「…いつもの」

「…把握した」

 

 なるほど、爆豪の爆発(いつもの)だな。I・アイランドに来て変に浮かれてる訳でもなく、いつも通り雄英で振る舞う聡明な姿で俺は安心したぜ俺は安心したぜ。(白目)

 そんないつも通りの雄英生徒の恥部を見て、メリッサという女性は「雄英高校って楽しそうだな…」と呟いていた。

 ああ、確かに楽しいな……

 

 俺は常闇や障子を見て、麗日や耳郎達を見て、まだ騒いでる爆豪、緑谷達を見る。

 

 …この個性…最初は確かにA組のみんなに引かれてたし、レヴナントの時もドン引きされていた…だが、なんだかんだ…みんな受け入れてくれてるな。俺達(連出堕)を…

 

 

 

『本日は18時で閉園となります。ご来園ありがとうございました』

 あれから数時間後、I・アイランドのエキスポ会場に閉園のアナウンスが流れる。あれから緑谷達含む皆で色んなパビリオンを見て回ったり、アトラクションに乗ったりした。途中でなんかゴジラ居たけどな。

 皆と言っても、爆豪と切島と轟は独自の理由で一緒に行動しなかったがな。

 本来なら俺も、連出堕も親父さんの代理として様々な場所に顔を出して置かないと行けない立場かも知れないが…この個性だ。顔を出す必要は無いと予め言われている。あくまで俺達が代理でやってきたのはチケットとレセプションパーティの招待を無駄にしない為らしいからな。

 

 そういえば、あの後爆豪が遊んでいた(?)ヴィラン・アタックというアトラクションをやってみたんだが…俺達はタイムは20秒だったな。爆豪が15秒、緑谷が17秒、轟が14秒、常闇が19秒という結果だから…この結果に満足しちゃあ行けねぇな。いくら身体能力が高く、中距離攻撃も出来るレヴナントを使用しなかったとは言え、それなりにタイム差が出てしまったのは中々悔しいな。

 さて、とりあえずは今日のエキスポは終わった為後はこの後にあるつまらなさそうなレセプションパーティに参加するだけで終わり…の予定だったんだが…なんと緑谷達も来てくれる上にメリッサが常闇達の分の招待状を用意してくれたから1人で行くはずだった退屈そうなレセプションパーティは仲の良いクラスメイトと共に行けるようになった。また、轟や爆豪達には緑谷達から連絡を入れてくれるそうだ。あの3人も来れるんだな…

 

「では、18時半に会場入口前に集合だ!」

 飯田がそう告げると、各々が大きな祭典のレセプションパーティに相応しい正装に着替える為にホテルやらに戻る。勿論、俺らも戻る…しかし、それよりも常闇と障子の正装について考えなければならねぇな…

 

 

 

__________A P E X__________

 

 19:03

 セントラルタワー7番ロビーに正装姿の緑谷出久の2人が大慌てでロビーのドアから入ってくる。予定の時間よりも30分も遅れる大遅刻だ…しかし、緑谷がロビーを見渡すとそこには集まる予定人数の半数も集まっていなかった。飯田、峰田、上鳴、轟は来ているが他にも麗日、八百万、耳郎、爆豪、切島、常闇、障子、連出堕、メリッサも居るはずが居なかったのだ。

 

「あれ…他の人は?」

「まだ来てない。全く、団体行動をなんだと思っているのだ!」

 緑谷が飯田に尋ねると、規律を重んじる彼は雄英生でありながら時間も守れぬ人達(なお、メリッサは雄英生では無い)に憤怒しながら緑谷に現状を伝える。

 そんな時、慌てた様子でエントランスから大胆なドレスを着た麗日お茶子がようやっとやってきた。

 

「ごめん!遅刻してもーたぁ!」

 続けて、同じくドレス姿の八百万と彼女の後ろに恥ずかしそうに隠れるシックなドレス姿の耳郎響香も居た。

 その3人の美少女の姿に大盛り上がりする峰田と上鳴だが…何故か3人の中で唯一耳郎に対してだけ「馬子にも衣装ってやつ」「女の殺し屋みたい」という少し素っ気ない感想を呟き、耳郎からイヤホンジャックの制裁を食らうのであった。

「お、俺は峰田と違って褒めたじゃんか〜!」

「褒めてない!」

 爆音攻撃にぐったりしながらも抗議する上鳴だが、耳郎は不機嫌そうに言う。

 すると…

 

 

 ロビーのエントランスから、1()()()()()がやってきた。

 緑谷達は連出堕達か爆豪達がやってきたのかと振り向くが…そこに居たのは赤いスーツの正装姿の金髪ツーブロックのイケメン外国人であった。

 身長はとても高く、飯田や八百万よりも高い。年齢は恐らく20代だろうか…体格も細身ながらもがっしりとしており細身ながらも頼りになる印象。目付きは少し悪いが、その分とても頼りになる印象を更に強くさせていた、女性が求める男の強さというものだろう。顔も外国の有名俳優の様な素敵な顔立ち。赤い正装も着こなしており、だらしない要素が何処にも見当たらない…まさに女性が思う完璧な男性だ。

 I・アイランドに招待され、レセプションパーティにも呼ばれた海外のとても有名な俳優だろうか…その場に居る誰もが思った。

 男はエントランスから出てくるとゆっくりと歩み…耳郎と八百万の前で止まる。

 

「………」

「えっ…え、何…」

 

 男の完成された完璧な姿に耳郎や八百万が動揺して戸惑っている所…そこで唯一非モテとしての嫉妬心でいち早く動けた峰田と上鳴が動き出した。

「おいおい、兄ちゃんよォ!俺らの連れになんか用かぁ!?」

「ちょっっっっっっとイケメンだからって人の連れに易々と近づいて良い訳ねぇだろぉ!?」

 

 もはやヒーローではなく、ただのチンピラと化した2人に苦笑いしながらも耳郎と八百万は何とかイケメンの外国人の男性から少しだけ距離を取れた。

 しかし………イケメン外国人の男が口を開いた。

 

 

 

 

 

うるさいぞ、皮付き共

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の喉から出た、恐ろしくおぞましく酷く嗄れた禍々しい声。1度聞いたら脳脊髄に残る不愉快な声。その声を聞き…全員がその外国人の正体に気づき、その外国人に絡んだ峰田と上鳴はこの世の終わりの様な表情をした。

 

「「れれ、レレレレレレ、レヴナントォォォォォォォ!?!?!?」」

 

 峰田と上鳴はお互いに抱き着き合い、恐怖で飛び上がり、先程までの威勢の良さは完全に消え失せて耳郎達の後ろに隠れた。

 そして当の耳郎と八百万も、麗日や緑谷達も蒼白した顔で、信じられないものを見た様な顔でレヴナントであろう外国人を見る。

「れ、レヴナント…という事は連出堕くん…何だよね…?」

他に私と同じ存在など存在しない。

 その見た目から想像も出来ない不愉快な声で金髪イケメン外国人のレヴナントは言う。しかし、それでもなお皆は信じられない様子。それ程までに驚きなのだ。そもそも、レヴナントの個性は死に関する個性と連出堕から聞いている皆はこの姿になるのも何かの個性なのか、それとも連出堕の個性の一部なのかと色んな考えが頭を駆け巡り、理解が追いついて居なかった。しかし、この中でも1番クールで冷静な轟はすぐに落ち着いた表情になり、連出堕ことレヴナントに話しかける。

「レセプションパーティはわざわざその姿で行くのか?」

何やら不服そうだな。フフハハハ…

元よりパーティには連出堕1人で行く予定だったから他を寄せつけないこの姿しか準備していなかったそうだ………会場にはオールマイトが居るから万が一も大丈夫だろうという連出堕の判断でなぁ

 その万が一…が()()()()()()()()()()()。その万が一が怖くてしょうがないのがこのレヴナントだからだ。

 

「すまん、正装を借りれる所を探してたら遅れた!」

 ちょうど、レヴナントが入ってきたエントランスから正装姿の障子と常闇もやってきた。2人は途中まで人間姿のレヴナントと共に行動して居たからなのか、特に人間姿のレヴナントを見て驚く様子も無く周りに謝罪していた。

あとは…シールド博士の娘にあの皮付き2人か。

 レヴナントがそう言うも、誰も返答しない。否、返答しようにも返答しづらい空気だ。出来る限り、この化け物と言葉を交わしたくないのだ。連出堕であるのは分かっているが、それを差し置いてもこのレヴナントという存在は怖いのだ。

 だが、そんな空気感を壊す様にエントランスからまた新しく誰かやってきた。

「デクくん達、まだここに居たの?もうパーティは始まってるわよ?」メガネを外し、大胆で華やかなドレス姿のメリッサ・シールドだ。彼女が現れた途端、場の空気が少しだけ明るくなり、何人かは明るい表情でメリッサを迎えた。恐怖で震えていた峰田と上鳴もメリッサの登場をまるで女神の降臨を見た古代ギリシャ人の様に涙を流しながら跪いた。

「この馬鹿ども…」

 そんな涙を流すバカ2人に少し呆れた様子の耳郎響香であった。

 

ヴゥゥゥゥゥーーーーー!!!

 

 すると、突然緑谷達が居るエントランスは勿論。建物の外、島全体に巨大なサイレン音が響き渡る。エントランスに設置されてる情報モニターや、島中沢山設置されてる電光掲示板にも緊急事態を知らせるEMERGENCYの赤い文字が映し出され島内放送も流れ始める。

『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポシステムに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました』

「爆発物…!?」

『今から10分後以降後の外出者は警告無く身柄を拘束されます。くれぐれも外出は控えてください。また、主な主要施設は警備システムによって強制的に封鎖します』

「(唸り声)」

「…まずい!」

 気づいたのはレヴナントと轟。しかし彼らが気づいた時には時既に遅く、窓には防火シャッターが降ろされ、レヴナント達が入って来た扉は防火、対爆シャッターで固く閉ざされてしまっていた。

 轟は次に携帯を取り出すが…何回か弄った後に耳に当てたりするも…すぐに携帯を降ろす。

「だめだ、携帯も圏外だ。閉じ込められちまった。」

「えぇ〜!?マジかよ!」

 峰田は青ざめる。

 耳郎もレセプションパーティ会場行きのエレベーターのボタンを押すも何も反応は無い。

 

「爆発物が設置されただけでこんなに過剰な厳重体勢を取るなんて…」

 そんな中、メリッサは爆発物が設置されただけでタルタロス並の厳重限界体制になる警備システムを不審に思う。そもそも、厳重体制状態にならなくともあのタルタロスに引けを取らない防犯システムを潜り抜けてこんな厳重体制になる程の場所に爆発物を仕掛けるなど不可能である。恐らくあのワープ個性の黒霧ですら無理だろう。

「…どうにかパーティ会場に行って、オールマイトと合流しよう」

 しばらく考えた後に緑谷がそう告げる。この違和感、緊急事態ならばもう既にオールマイトは何かしらの行動を起こしているだろう。それに、この場に留まるよりもオールマイトの近くに居れば安全である。その場に居る全員が納得し、早速どうにかしてパーティ会場へと向かう手立てを探す。エレベーターは先程使えない事は確認した。

 しかし、メリッサは非常階段がある事を伝えると、皆は非常階段がある重そうな扉に近づき…顔を合わせる。

…連出堕の指示だ。()()()()()手伝ってやる

 レヴナントは難なく重そうな扉を片手で開け、先頭で階段を登る。その後ろに戦闘と索敵が出来る障子と耳郎、案内役のメリッサ、戦闘能力が特に高い緑谷が続く。

(味方だと心強いんだけどなぁ…)

 1度味方として共に戦った耳郎はとても強い個性と戦闘能力なのに爆豪よりも癖があるヴィランの様なレヴナントの背中を見てそう思うのだった。

 





耳郎をヒロインにしたい欲望が漏れ出てしまいました。すみません。(本誌見てる人なら分かってくれるはず…あの興奮を抑えられなくてとりあえず何かしら「何か」を書きたい衝動に駆られた。ネタバレになるから話せないけど)

服装的には他にも正装キャラが居たけど人間姿のレヴナントを見せたかったのでわざわざ人間姿のレヴナントにしました。レヴナント本人も言ってますが、会場にはオールマイトが居るのでレヴナントで行動しても問題ありません。
(実際は不可能でしょうけどサイレンスをオールマイトに当てれば、強制的にトゥルーフォルムに戻すことが出来ます。当てられればの問題ですけどね。絶対に避けますけどね、あの平和の化け物筋肉ダルマ)


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No. DUO③ 予想外の襲撃



本編始まります。オクタン視点でスタートです


 

 不本意形ではあるが、レヴナントの姿に切り替わってる俺達を先頭に皆とオールマイトが居るであろうパーティ会場に向かう。だが…その途中で音による索敵を行っていた耳郎が不審な音を聞き付けたと警戒し、一時的に階段の途中で全員止まる。

 

「皮付き…何の音か分かるか?」

「…悲鳴、金属音…それに誰かが倒れる音!」

 

 その言葉に少しだけ表情が強ばる。やはり何かが変だ…!警備システムがパーティ参加者に襲いかかってるんじゃねぇか?

 緑谷は立ち上がり、悲鳴を上げた人達を助けようとパーティ会場の扉に近づき、扉を開けようとするが…レヴナントに止められる。

 

待て皮付き。今行くのは得策では無いな。」

 

 レヴナントは片手で緑谷の肩を掴むと耳郎の方に振り返る。

 

「皮付き、足音は何人分だ?」

「えっ、…え、ええっと…5人…だね…」

「心音は?」

「…沢山、少なくとも30人より上。」

「オールマイトの声は?」

「…聞こえない。というか誰も喋ってない。」

「30人以上居るのに歩いてるのは5人だけ、そして誰も喋らない。明らかに怪しい。考え無しに突っ込むのでは無く、様子見をするべきだな」

 

 その言葉に緑谷は納得したのか、扉から離れる。その間にレヴナントやメリッサ達は何か音以外で中を確認する方法は無いか考える…すると、メリッサが何かを思い出したかの様に言う。

 

「そういえば、パーティ会場には吹き抜けの天井があるわ、1つ上の階なら上からパーティ会場を見下ろせるかも」

「それだ」

 

 メリッサの提案に緑谷達は頷き、レヴナントも少しだけ考えてから頷く。

 

「念の為少数精鋭で行った方が良いかも知れねぇ、メリッサさんと緑谷に耳郎、障子に連出堕で良いんじゃねぇか?」

 

 轟が少数精鋭提案を出す。確かに、索敵と案内と戦闘が区分出来ているから悪くない。万が一にも絶対に対応出来るメンツだ。それにここに残るメンバーも轟と常闇に上鳴が居るからこっちも何か起こった時は絶対に大丈夫だろう。

 轟の言う通りのメンバーに別れて、引き続きレヴナントを先頭に階段を掛け上る。そしてパーティ会場の2つ上の階に付くと、扉を開けて室内にそっと侵入する。

 メリッサの言う通り、吹き抜けで2つ下のパーティ会場が見える…が…

 

予想していたよりも楽しそうな状況だな…フフハハ

「言ってる場合か…!」

 

 愉快そうな声を出しやがるレヴナントは無視して、俺達が下を見下ろすとそこには金属の様な拘束具を付けられたオールマイト含むプロヒーロー数名にドレスや正装を着た一般の方も居た。更にそれらを取り囲む様に目出し帽を付けて統一された暗い服に銃火器を持った男が数名立っていたり歩いていた。

 どう考えてもありゃヴィランだな。

 

「ヴィラン…!」

 状況は最悪。まさか…I・アイランドにヴィランがやってくるなんてな、しかもここは主要施設だぞ。

 

「…オールマイトとコンタクトを取ってみる、耳郎さん、イヤホンジャックでオールマイトの声が聞き取れる様にお願い。僕はオールマイトに気づいて貰える様にするから」

 携帯を取り出した緑谷はそう告げると、光の反射でオールマイトの目に光を当てる。すると、オールマイトは少しだけ顔を傾けてだが、こちらを見やり、驚いた表情をする。

 

「オールマイトが気づいた!耳郎さん、イケそう?」

「問題ないよ!」

 

 耳郎がイヤホンジャックを地面に突き刺し、オールマイトの声が聞き取れる様になる。耳郎が返事を聞くと、緑谷は吹き抜け下のオールマイトに向かってジェスチャーで小声で喋るように伝える。するとオールマイトに伝わったのか、オールマイトは小声で何かを地面に喋りかけ…耳郎がそれを全部聞き取った。本当に便利だな、一応シアで出来なくもないが、あいつは少し目立つからな。色々と。

 

 その後、オールマイトの声を聞き取った耳郎は少し焦った様子でオールマイトから聞いた状況を伝える。

 曰く、ヴィラン達がタワーを占拠、警備システムを掌握。この島の住民が全員人質でヒーローも捕らわれたとの事。だから逃げろ。

 その事を聞き、更に待機していた飯田達にも伝える。

 はっきり言うと…やべぇな。本当に詰みじゃねぇか。

「…俺は雄英教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出する事を提案する」

 皆が集まる中、飯田はそう提案し、近くの八百万もその意見に賛同した。しかし、ここはあのヒーロー殺しステインが投獄されているタルタロス程の警備システムを誇っている、外からは侵入は勿論、中からも出られない。

「じゃあヒーローが助けに来るまで待つしか無いか…」

 上鳴はそう気落ちし、落ち込んでいたが、そこで話を黙って聴いていた耳郎が立ち上がった。

「上鳴、それでいいわけ?」

「ど、どういう事だよ」

「助けに行こうとか思わないわけ?」

 

 いつもならこんな積極的な意見を言わない耳郎だが…きっと直接自分の目と耳で現場にて囚われる人質の怯える姿や声を聴いた為に彼女の正義感が燃え上がっているんだろうな。

 

『どうする…連出堕?』

「_________」

『そうか…まぁ、お前らしい意見だな…おい、レヴナント』

「聞こえていた…ふん、回りくどい奴だ。私が第二のヴィランに扮してヴィラン共に襲いかかればヴィラン共もヴィラン相手に人質を取るわけも無く、無様に立ち向かって死んでいったものを…そっちの方が単純で簡単だろう?

『ヴィランと言えど、殺しちゃダメだ。たった数ヶ月だが、雄英で習った事だ』

 

 こちらの意見は完全に纏まった。そしてどうやら、緑谷達もある程度意見は固まった様だな。峰田と上鳴が正気を疑う様な顔、八百万と飯田は責任感と心配で表情が少し歪んでるが…彼らも人質を助ける為に、何かしら行動を起こす事にしたようだな。

 

「…システムを元に戻せれば、人質やオールマイトが解放されて状況は一気に逆転するはず…」

「デクくん、行こう! 私達に出来る事があるのに、何もしないで居るのは嫌だ。そんなのヒーローになるならない以前の問題だと思う」

 

 覚悟を決めた麗日の表情と言葉に緑谷、耳郎、轟に常闇や障子も麗日の意見に同意し、立ち上がる。

 その後、飯田と八百万も危険と判断したらすぐに引き返す事を条件に頷き、賛同した。

「連出堕、あんたはどうするの?」

 

 耳郎が俺達に尋ねてくる。ここまで来て反対は無いだろうが…連出堕の意見をレヴナントが伝える。

 

「連出堕は何もせずに待機などするつもりはない…との事だ。つまり、貴様らの意見に賛同したという事だ。」

「分かった」

 

 レヴナントがぶっきらぼうに返答し、これで事実上峰田を除く全員が出来る限りの範囲でヒーローや人質を救出する作戦へと移行する。まあその後峰田も半泣きで作戦に加わったけどな。

 さて、肝心のシステムだが…こっちにはクリプトというハッキングにおいては公安すら出し抜ける可能性がある天才がいる。警備システムも取り返せるが…不測の事態を備えてメリッサも付いてくる様だ。正直、守るべきものが増えて動きづらくなる可能性があるから付いてきて欲しくないのが俺や連出堕の本音なのだが…決心したその瞳を見ると、どうも言いづらいな…

 結局、緑谷はメリッサと共に行くと言い、誰一人として文句は言わなかった。(レヴナントは文句言いかけたが、連出堕が止めた)

 

 

 

 

 

 

 十数分後…

 

 レヴナントからジブラルタルに代わり、一同の先頭として階段を登っていく。ジブラルタルの後ろには飯田と索敵要因の障子が続く。そして轟、八百万、耳郎と続いてく。

 索敵が2人も居る以上、連出堕がシアやブラッドハウンドになるメリットはあまり無ぇ。むしろ突然警備ロボットが飛び出して来て戦闘になる事を考慮して皆の壁になれるジブラルタルになっておいたって事だ。

 最後尾付近には後ろからの迎撃を任せられる常闇と緑谷…なのだが、流石にこの30階まで休まずずっと階段で登った為か最後尾には疲労した峰田とメリッサが居る。

「メリッサさん、最上階までは?」

「ハァ、ハァ…200階よ…」

『なっ!?』

「200階!?」

 メリッサの言葉にミラージュと上鳴はゲッと驚き、峰田は無言で絶望する。俺もびっくりだ。

 しかし、文句を言おうが絶望しようがしょうがない。これ以上にまともな道は存在しないからな。各階は封鎖され、エレベーターも使えない。この非常用階段で地道に登っていくしか方法は残されてないな。

 レイスのポータルを使おうが、せいぜい3階くらいしか楽が出来ない。ヴァルキリーは室内だから論外、ローバは1人用。

 俺達レジェンドは18人居るから疲労を大きく感じても切り変われば済む話だから俺達としては構わないがな。

 

 そう思いながら、40階、50階、60階と続いていき…80階付近となった。ここまで来るとほとんどの者がダウンしかける。ジブラルタルはご覧の通りの肉体派だから顔色何一つとして辛くなさそうだが…飯田や障子、緑谷と言ったA組の近距離型3人も辛い表情になっている。

 

「そろそろまずいな…まだ半分にも到達してないのに、厳しそうだぜ」

 

 ジブラルタルとしては全員抱えて運んでやりたいが、流石に無理がある。シェの姉貴のヒールドローンは疲労に対して効果が薄い、それに万が一の事を考慮してヒールドローンは取っておきたいしな。

 しかし…ここまで疲労が祟ると索敵も疎かになりそうだし戦闘時の際に本領発揮出来ない可能性があるな…

 後方を振り返りながらそう思う俺達だったが…そこで前を向き直るとなんと80階へ続く道がシャッターで閉ざされていた。

「おいおい冗談キツイぜブラザー」

 

 ここまで来ておいて行き止まりとは…とジブラルタルは言葉を零す。ちょうどその時に飯田達もシャッターの存在に気づく。

「どうする? 壊すか?」

 轟がそう言うが、飯田がその意見を否定する。

 

「危険だ。ここまで来ておいてシャッターを破壊なんてしたら警備ロボットが駆けつけて来るだろう」

『そうしたらヴィラン共にも気づかれるな…』

 まずい、ここまで来て道が閉ざされたか…!

 そこで、フロアへ通じる扉を見る。峰田がそれを開けようとしたので緑谷は間一髪で止めた…

 メリッサ曰くフロアへの扉を開けてもヴィランへバレるだろうと。

 

『フロアも駄目、階段も駄目…か…』

 

 どうする…?

 俺達レジェンドの中で会議が行われるが…どう足掻いてもバレる事は必須だ。ならばバレた上での最善策か…?

 飯田や八百万の要求を破る事になるかもしれんが…ここまで来たんだ、許してくれよ。

 とりあえず、俺達の中で出た意見と作戦でジブラルタルから俺に切り替わる。

「なあ、メリッサ……さん。聞きたいことがあるんだが、この80階は何の階だ?」

「え?し、植物プラント…個性による影響を受けた花や植物が飾られてる部屋よ」

「上から下へ通じるエレベーターはあるか?」

「…た、確かあるけど…で、でもエレベーターは認証を受けた人にしか動かせないわ。警備システムを操作してるヴィランが居る限り…」

 

 ほう、()()()()()()…ね。

 

「認証システムさえあれば動かせるんだな?」

「え、ええ…」

「連出堕君、何をする気だ…?」

 よし、思った通り。いや、思った以上にこちらに都合が良いな!

 実行するか…俺が立てた作戦を…!

 

 

 

 

 

 

 

 

『作戦を立てたのはお前じゃないぞ!』(クリプト)

 

 

 




これ実際の映画だと何階スタートか忘れましたけど少なくとも100階以上を非常階段だけで登りきってるんですよね、緑谷達。
肉体どうなってるの?


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NO.DUO④ EMP


連載初期「ここはレイス…いや、ブラハかシアだな!そしてここはオクタンで戦おう!」

今「全部レヴナントでおk」

じ、弱体化する予定ですから…オールマイト引退前後にレヴナントを弱体化させますから…大丈夫です…!



 

 80階でシャッターで区切られているという事は、80階はこのタワーの施設にとって何か重要な意味合いがあるかも知れない。

 ただ単に警備システムを乗っ取ってる奴がガバガバ管理なだけだったらそれまでの話なのだが…もし本当に何か重要な意味合いでの80階ならここに何かタワーに関する何らかのシステムがあるだろうな。

 実際はただの植物プラントの階層だが…中には認証システムによる特別なエレベーターがあると聞いた、これは想定外のラッキーだ。

 俺達が行おうとしている事…それは…

 

「連出堕、来たよ!」

 

 おっと、どうやらご到着の様だな。

 クリプトの立てた作戦はこうだ。

 メリッサの言ってる認証システムのエレベーター、それをこの階に呼び寄せる。そして認証システムがあるという事はどこかしら警備システムと繋がってるという事、そこから逆探知でクリプトが警備システムに影響を与えるなり認証システムを奪い取るなりして200階まで目指そうって事だ。

 エレベーターをこの階に呼び寄せる方法は簡単。カメラに映らない範囲で騒げば良い。

 カメラに映る範囲で暴れると奴らは警備ロボットを差し向けて来るだろう。しかし、カメラに映らない範囲ならば、何が起こっているか奴らは誰も理解出来ない。だとすれば奴らは1部の仲間を引き連れて様子を直接確かめる為にエレベーターでやってくるって事だ。流石に警備システムの200階やオールマイトが居る階層から階段で登ってくるはずはない。確実にエレベーターを使うはずだ。

 そして予想通り、エレベーターはやってきた。上からでは無く、下から…つまりオールマイトの階層からだが…関係無い。奪えればな…!

 

 エレベーターがポーンと音を鳴らし、この階層に止まる。

 そして重厚なエレベーターはその2重の扉を開き…中からオールマイトを捕らえていた奴らと同じ服装の悪人面ののっぽとチビの2人組が出てきて…………!

 

 

 

 

「ブラックホールを展開するよ!」

 

 

 

 扉が完全に開ききったタイミングでホライゾンはウルトのブラックホールを発生させるニュートを自分とヴィランの間に放り込む。ニュートはブラックホールを発生させ、ヴィラン達が状況を理解する頃には2人ともあっけなくニュートに強い引力で引き付けられていた。

 

「ぬ、ぬわあああぁぁぁぁ!? な、なんだこりゃあああ!?」

「う、動けねぇ!!! くそ! 何なんだ!」

 

 ホライゾンの個性、重力だ。

 麗日お茶子と似た様な個性だが…大きな点がある。まず、出来ることが一直線に重力を下げるか、重力を上げるか、そして強い引力で引き寄せるだけのブラックホールを発生させる、最後にどんな高所から落ちても大丈夫という点だ。

 ブラックホールという点では13号先生とも似てるな。

 ともかく、これで30秒くらいはヴィラン共はニュートから動けないその隙にエレベーターに近付きたいがこのニュートのブラックホールは敵味方本人関係無く引き寄せる。今エレベーターに近づけば自分もブラックホールに巻き込まれちまう。

だから…先に手を打っておく!

 

 ホライゾンからレヴナントに切り替わり、レヴナントは左腕をニュートに引き寄せられて身動き出来ない2人組みに向ける。

 ブラックホールは後12秒程度で切れる。だから今のうちにあの個性を封じるクソ玉のサイレンスを当てるんだ。

 サイレンスの効力はおおよそ30秒。つまり今当てればブラックホールが切れて、状況を理解しようとする無個性同然のヴィランを18秒程安全に捕縛出来るぜ。

 

サイレンス

 

 レヴナントから放たれたサイレンスボムはブラックホールに吸い込まれ、ニュートに直撃しサイレンスの効力を発揮させる。無論、ニュートに密着している2人にも個性因子の仮死状態が適用され始める。

 しかし、ブラックホールに吸い寄せられている2人は気づくはずも無く…ニュートが解除され、レヴナントが襲いかかって抑え込まれてからようやく気づいた様子だった。

 

「ぐ…は…!」

 

 のっぽとチビはレヴナントに首を片手ずつ掴まれ、地面に叩きつけられる。無論、レヴナントに掴まれたら最後、サイレンスを流され続けて個性はレヴナントが触れてる限り絶対に使えない。レヴナントが触れてる事により発生するサイレンスは長時間触れてると異形型にも影響を及ぼす。この2人は異形型では無さそうだから関係無い話だがな…

 

このまま窒息死させるか…首の骨を折るか…選べないのが残念だ。

 連出堕に不殺を命令されてる以上如何にレヴナントと言えど殺しは出来ないな。レヴナントはそのままのっぽとチビを持ち上げ…再度地面に強く叩きつけて2人を気絶させた。

 本当にヴィランだな、こいつ…

 

「よし、凍結させろ」

 レヴナントから俺に切り替わった後、轟に頼んでこののっぽとチビは壁まで運んで壁ごと氷で捕縛する。こいつらが一体何の個性か知らないがしばらくは動けないだろうな。

 轟がヴィランを凍らせているうちに俺はクリプトに切り替わって、エレベーターに乗り込む。このままだと警備システムのやつに閉じ込められちまうかも知れないが…クリプトなら大丈夫だろ。

 

『おうとも! うちのクリプちゃんは最高だからな! 勿論このミラージュ様にはだーーーーいぶ劣るかも知れないが、それでもこの俺様が認めるくらいの……さい……最……そう、最強だ! いや、まてよ。最強は1番強いって事だから最強はおかしいな、最準強? いや、準最k』

「静かにしてくれ! 集中してるんだ!」

 

 クリプトはエレベーター内部の階層ボタンを指定する液晶画面からドローンを繋ぎ、ホログラムのタイピング画面でまずエレベーターのドア開閉の権限を警備システムから奪い、次にエレベーター内部のカメラ、認証システム、階層指定と次々と奪っていく。

 ハッ!警備システムで狼狽えてるヴィランの姿が目に浮かぶぜ!

 まさかエレベーターの階層を指定するだけの液晶画面から警備システムのエレベーターの操作権限を奪ってくるなんて思いもよらないだろうな。しかもここはタルタロス並の警備システムだぜ!

 

「よし、エレベーターはひとまず完全に乗っ取り返した! 皆乗るんだ!」

 一応エレベーターは…いや、残念ながら全員は乗れそうに無いな。

 

「俺達は別の道が無いか、探して見る。緑谷、お前は乗れ!」

「委員長として誰かを置いていく事なんて出来ない! 麗日くん!乗りたまえ!」

「八百万、お前の個性から不慮の事態に備える事が出来る、乗れ!」

「で、でも常闇さん…戦闘においては貴方の方が…!」

「お、俺は乗るぞ! もう階段なんてゴメンだ!」

「上鳴、お前も乗れ。俺は歩きで行く」

「そ、そう? 悪いな障子!」

 日本人特有の譲り合いの精神によって誰が乗るか中々定まらなかったが時間も限られてるからかすぐに決まった。

 エレベーターに乗るのは連出堕、緑谷、メリッサ、麗日、耳郎、上鳴、八百万。

 飯田、常闇、轟、障子、半泣きの峰田は別の道で上を目指す様だな。

 正直戦闘要員がだいぶ居なくなったのがキツイが…緑谷と八百万が居るだけ取れる選択肢が多くなるから良しとするか。

 エレベーターの2重の扉は閉まり、以上の7人でエレベーターは上へと上がっていく。

 

「流石に200階までこのエレベーターで行く事は不可能だ。即席のハッキングで向こうは警備システム本体の権限を一部持ってるからせいぜい160階まで奪え続ければ御の字だ。念の為、今の階層に近いボタンに手を置いてくれ緑谷。俺が合図を出したらすぐにそのボタンを押してその階層に全員飛び出るんだ。」

「わ、分かった」

「う、うん…!」

 

 いくらハッキングの大天才でもこんな1部からタルタロス並の警備システムの一部を奪うなんて不可能だからな。いや、ここまで出来る時点で凄いんだけどよ。

 80階から乗ったこのエレベーターは90階、100階へと登っていく…そして130階を超えた辺りで…

「むっ…権限の奪い合いが押され始めたな、タルタロスのオート防衛システムもあちらに回ったか…緑谷、150…いや、145階で止まる! ボタンを押せ!」

「わ、分かった!」

 緑谷は手を当てていたボタンから少し位置をずらして145と書かれた液晶ボタンを押す、そして少し経ってから145階で止まり、2重の扉が開かれた。

「よし、皆エレベーターから出るんだ!」

 クリプトの合図で皆、エレベーターから飛び出し145階のフロアへと飛び出す。警備システムを管理してるヴィランはエレベーター権限を巡る戦いで他が疎かになってるのか、この階に警備ロボットが設置されてたり、起動してたりする事は無かった。

「今のうちに200階まで突っ切るぞ! 俺に続け!」

 

 とりあえずここまでがクリプトが立てた作戦だ、ここからは完全にアドリブ行動になるな。

 クリプトからスピード全開で尚且つ円滑にコミュニケーションや意思疎通が取れる俺に切り替わり、俺が戦闘で非常階段へと向かった。

 よし、80階の時の様に非常階段はシャッターで閉じられてない。やっぱり80階で一区切りって感じなのか…とりあえずこのまま200階まで突っ切るしか無ぇ!

 80から145階…つまりは65階層分も楽が出来たんだ、そう思うと200階も大した数字に感じないな!

 

 そう思った矢先…150階で行き止まりにぶつかった。

 また行き止まりだ。だが…80階とちょっと違うな。

 シャッターじゃねぇ。階段そのものが無いんだ。151階へ続く道がそもそも無いんだ!

 

「おい、どういうことだ!? 150階より先の階段が存在しねぇぞ!」

 俺は数テンポ遅れてやってくる緑谷やメリッサ達に階段が無い事を伝える。耳郎や上鳴はその事に顔が真っ青になるが…息も絶え絶えなメリッサが言うには…

 

「151階…からの道は…反対側にあるわ。この150階のフロア…を…通って反対側の非常階段から151階へ向かえるわ…」

 

 なるほどな、そういう事か。ひとまず先へは進めるから一安心…したいが…

「フロアへの扉を開けるとバレんだよなぁ…」

『しかも、俺達は80階で奴らの仲間を倒している。奴らはそれを警戒して警備ロボットを差し向けてくるだろうな。ここまで非常階段で何も妨害が無かったのはこの先の階層にある警備ロボットのシステム掌握に力を入れてると考えれば納得は行く。』

 

 おお、なるほどな。

「耳郎、この扉の向こうの音を聴いて見てくれ」

「了解」

 耳郎はフロアの厚い扉に近づき、イヤホンジャックを扉に突き刺してフロア内の音を正確に聴き取っている。

「…めちゃくちゃ機械音や駆動音が聴こえる…確実に警備ロボット居るよ、これ。少なくとも100はくだらないね」

「まじかよ〜!」

 耳郎の言葉に上鳴は絶望する。だが、俺達からしたらそうでも無い。

 そもそもの話…俺達からしたら警備ロボットは全く何も脅威じゃ無いからな。むしろ、今こうしてる間に人質が腹いせに殺されてないかの方が心配だ。

「連出堕、緑谷、ヤオモモ。どうする?」

「……」

「……」

 耳郎に問われ、緑谷と八百万は何か作戦を考える。だが、出来る限り…何だがこの2人には個性を使って欲しくは無い。

 何故かと言うとこの2人は個性を使った時のリスクが無視出来ない程大きいからだ。緑谷は個性を使えば身体を壊し、八百万は詳しくは知らないが沢山は一度に作れない。だからこの2人に個性を使わせるなら俺達レジェンドがリスクの少ないウルトや個性を使えば良いだけだからな。

 

「緑谷、八百万。ここは俺達に任せな。お前達の個性はここぞという時に使え」

「え、ああ……。う…うん!」

「で、でも連出堕さん…100体以上の警備ロボットをどうするのですか?」

「丁度良い奴がいるんだよ…さっきも登場したけどな!」

 俺はクリプトとまた切り替わる。やっぱりロボットやらシステム関連はこいつだな!一応ロボットならワットソンやパスファインダーも居るが…この状況ならこいつだな!

「この部屋の中にドローンを放り込む、俺が合図をしたらフロア内を全力で走れ。さっきも似たような事したから大丈夫だな?」

 

 クリプトは自分のドローンを片手で掴み、もう片方の手でフロアへの扉を少しだけ開けるとドローンだけ放り込んで扉をすぐに閉めた。そして扉の向こうに居るドローンを遠隔操作で操作をする。

「ふむ、フロア内は機械パイプ…重要そうな機器は見当たらないな。そして耳郎の言う通り…100体…正確には125体も居るな。この辺りなら全て巻き込めそうだ。」

 クリプトは視覚共有しているドローンをフロア内を自由に飛ばす。警備ロボットはドローンを侵入者と判断出来ないのかそれともヴィランがそう設定出来てないだけなのか知らないが、ドローンに見向きもしてないな。

 ドローンは150階フロアの丁度中央の空中に留まり…そこでクリプトが念の為、少し扉から離れる。

「リブートコマンド送信…EMPを使う!

 クリプトはドローンに何かしらの信号を送り、ドローンとの視覚共有を遮断する。そして俺達の視覚には先の非常階段へと戻る。

 ちょうどその時くらいかな。扉の向こうから重低音のある音が響く。爆発音とはちょっと違う、何やらブゥーンって音だ!

「よし、今だ! 全員フロア内を突っ切れ!」

 クリプトは重い扉を蹴破り、先頭でフロア内に走り出す。少し休んでた緑谷や八百万達はいつでも動ける準備は出来てたが、いきなりフロア内へ走り出すクリプトに少し困惑した様だな。だが、そこから更に大困惑した様だな!!!

 

 

 

 何せ…フロア内の警備ロボットが全てショートして動けなくなってるからな!

 

 

 クリプトのウルト…EMP波だ。

 ドローンからのみ発生する強いEMP波で敵味方本人問わずに痺れさせ、機械類なら一定時間お陀仏だ。この150階のフロアが重要機器のある部屋じゃなくて良かったぜ。運が良いな、俺ら!

 クリプトのおかげで難なく俺達は150階を横断し、真反対の非常階段へと辿り着いた。よし、このまま登るぜ!!!

 

 

 

 

 

 

__________A P E X__________

 

 

 

 

 

 一方その頃……

 

 

 

 

「なぁ爆豪…レセプションパーティ会場って何処なんだろうな?」

「俺が知るかァ!!!」

 

 

 

 

 切島と爆豪は80階辺りで道に迷っていた。

 




レジェンドが切り替わった時に残る
ヒールドローン、ミラージュのデコイ、ドームシールド、ジブの空爆、増幅バリケード、シアのウルト、ガス、ワットソンのフェンスとウルト、ドローン、スモーク、ニュートとグラビティリフト、ポータル、ナックルクラスターとマザーロード、ジップライン、サイレンス。
(ただし、上記の物はほぼ全て該当レジェンドが切り替わってから一定時間で自然消滅する為、一生残る訳では無い)

残らない
デストーテム、シーラ、マザーロードを発射する大砲(マザーロードの炎は残る)、グラップル(ジップラインは残る)


レヴナントの影に隠れてるけどクリプトもかなりチートな気がする。これに関してはヴィランのハッキング担当がクリプトと比べて大きく劣ってるから出来た話ですけど、根津校長とかが相手だったらこうは上手く行きませんでした。


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No.DUO⑤ 目指せ、最上階

 クリプトの活躍もあって、無事150階の非常階段から151階行きへの非常階段に辿り着いた俺達はそのまま180階へと駆け上がって行った。

 今更なんだが…緑谷達(こいつら)の体力と脚力凄いな。

 増力個性の緑谷はともかく、見た目的に体力少なそうな麗日や耳郎はよく耐えられるな…だがそれよりもメリッサ・シールド…

 彼女は特にヒーロー志望の生徒でも何でもない、ただの研究者の一人娘だ。そんな娘さんが100階分の階段を駆け登るなんて普通無理だろ…

 そういう個性なのか…?

 それとも人質を助けたい、その一心で気合いだけで乗り切ってるのか…

 後者だったらヒーローは利益を求めないうんぬんかんぬん言ってたステインが大絶賛するヒーロー心だぜ。

 

 さて、180階まで駆け登った俺達だがメリッサの案内で180階の大きな扉の前に立った。とりあえず耳郎の索敵とジブラルタルのアームシールドを展開しながら警戒して扉を開けるとすげぇ風が全身に浴びせられた。

 うおおっ、しばらく室内だったから風が懐かしいぜ。

 

「ここは…?」

「ここは風力発電システムよ」

 

 俺達は周囲を見渡す。

 180階だってのに壁は無く、ここからならシャッターが閉まってないからI・アイランドの夜の街並みが見える。

 ここには他の階層と違ってコンピュータやプラントも無い。あるのはデカいプロペラに…中央にあるエレベーターか。またクリプトでエレベーターの権限の取り合いするのはリスクがあるな。

 

「メリッサさん…どうしてここに?」

 

 緑谷がメリッサに尋ねると、メリッサはエレベーターでは無く上層階までの吹き抜けを見上げた。

 180階から200階まで吹き抜けが存在するのか…

 

「これ以上タワーの中を移動し続ければ、さっきよりも比にならない程の量の警備マシンが待ち構えてるはずだわ。だから、ここから一気にあの上層階の非常口まで向かうの」

 

 メリッサは20階分上にある、小さな非常口を指差した。おいおい高ぇな。

 

「お茶子さんの触れたものを無重力にする個性ならあそこまで行けるはず…」

 

 俺達はヴァルキリーの個性で慣れてるからともかく、20階分の高さを無重力で飛ぶなど恐怖そのものだな。考えただけでも恐ろしいのか上鳴、耳郎はその言葉に少し顔を青くする。

 言ったメリッサ本人もな。

 

「だが、嬢ちゃんの個性は確かキャパがあったよな? 何人まで上に運べるんだ?」

 ジブラルタルが言った通り、麗日の個性には無重力に出来る上限があったはずだ。どれくらいの人数をどれくらいまで無重力に出来るのか忘れたが…体育祭の爆豪との戦いではだいぶ無理して倒れてたな。

 

「私含めて7人…ちょっときついかもしれ無いけど…やってみせる!」

『いや、4人だ。連出堕含め、あと2人はヴァルキリーで』

 麗日はプルスウルトラ精神で乗り越えようとしたが、個性による負担でダウンされると困るのはこっちだ。戦力が減り、守る対象が増えちまう。だから麗日の負担を減らす意味合いも込めてクリプトが提案し、特に誰もその意見に否定はしなかったから可決された。

 麗日の個性、無重力は触れたものの重量によって負担が生じる。だから比較的小柄な耳郎、緑谷、そして恐らくヴァルキリーの上昇飛行に耐えられないメリッサを麗日の個性で浮かせる。八百万と上鳴はヴァルキリーのウルトで飛ぶ方向で決まった。

 麗日は1度緑谷達を200階まで届けてから少し遅れて自分に無重力を発動させて合流すると言った形だ。

 早速麗日は緑谷達に肉球で触れて無重力状態にさせ、緑谷達は麗日にゆっくり押される事で上方向にゆっくりと中央のエレベーターの柱に沿って上昇していく。

 よし、エレベーターの柱に沿ってれば変な方向に飛んでいく事は無さそうだな。麗日も顔色は悪いが、プルスウルトラ精神で何とか耐えれてそうだな。

 

「さて、私達も行くか!」

 緑谷達を変な方向へ吹き飛ばしてしまわないようにヴァルキリーはエレベーター中央から少し離れた所でジェットパックを起動させる。体育祭の時に騎馬を組んだ緑谷や常闇、麗日はともかく八百万と上鳴はヴァルキリーのウルトで飛ぶのは初めてなので少し不安そうな顔だな。特に上鳴。

 

「な、なあ? 本当にこれ大丈夫なんだよな!?」

「大丈夫だって。当機は安全飛行がモットーだから、事故なんてハイジャックされるくらいの超低確率だよ」

「現在進行形でレセプションパーティ(ここ)がハイジャックされてるけど!?」

 

 ヴァルキリーは騒ぐ上鳴と静かな八百万に安全ベルトと接続線を繋ぎ、今飛び立とうとしたその時…

 俺達が入ってきた、扉。また180階にある奥の保管室の様な部屋の2つの部屋からゾロゾロと警備マシン共がやってきやがった。

 

「マジかよ!?」

『麗日が危ない! ヴァルキリー! ジブラルタルと入れ替われ!』

「コピー!」

 

 扉を壊す様にやってきた警備マシン共だが、すぐに俺達はヴァルキリーからジブラルタルに切り替わり警備マシン迎撃に備える。八百万と上鳴を上に連れて行けなくなっちまったがこいつらをぶち壊してから安全に行った方が楽だ。

 それに、麗日の個性で既に緑谷達が現在進行形で上に向かってるし迎撃しても問題ねぇな!

 

「上鳴さん、麗日さんこれを!」

「サンキュー!」

「ありがとう!」

 

 八百万は個性で鉄パイプと盾や鉤爪等を創造し、武器を持ってない上鳴と麗日に投げ渡す。ジブラルタルは持ち前の斧と怪力があるから問題無いしな。

 少し、チラッと上空方向を見やる。そこには必死に何かを叫んでる緑谷達が居るが…麗日に個性を解除して逃げてやら、自分達も戦う等言ってるんだろうな…。だが戦闘は緑谷、索敵は耳郎、制御室のコンピューターはメリッサが担当すればあっちは問題は無い。ここで全員で迎撃して時間を掛けるよりもこちらの方が効率的…いや、合理的ってやつだな!

 

『EMPは溜まっていない! 俺のウルトは期待するなよ!』

『残念ながらタルタロス並の性能を誇るというならばこのロボット共には俺様のデコイも効きそうに無いな! 俺様にも期待しないでくれ!』

『このヒューズ様はいつでも行けるぜ!』

『僕も戦えるよ!』

 

 圧倒的数の不利に、相手はUSJのチンピラ共と違って最新鋭の警備マシン。俺達レジェンドは戦えるやつと戦えないやつを予め報告し合い、戦えるやつで切り替えながら倒していくしかないな。ちなみに俺は時間稼ぎくらいなら出来るから一応戦えるレジェンドだな。

「奴らが来るぜ! ブラザー!」

 

__________A P E X__________

 

 

「いい気味だ…」

 

 セントラルタワーの200階、I・アイランドの警備システムや制御システムを管理する管制室ではこのセントラルタワーを乗っとったヴィランの一味である刃物の男と実際に制御システムを乗っ取っているメガネの男が監視カメラの映像で絶望的な数の警備マシンの群れと対峙している八百万達を見て愉快そうに見ていた。先程まで仲間がやられ、一時的とは言えエレベーターの権限を奪われて辛酸を舐めさせられた彼らだが彼らのリーダーであるヴォルフラム指示と、この警備システムをより深くまで乗っ取れる様になった事で少しずつ立場が逆転して行ったのだ。ヴォルフラムの指示は151階以降の警備マシンを全て停止させておいて、緑谷達が目標地点に着いた時点で一斉起動。そうする事で油断したところを付ける他、耳郎の索敵を掻い潜り、更には30階層分のマシンの数には流石のクリプトもEMPの範囲の問題上、全部は止められない。

 実際、耳郎やクリプト関係無く上に登るために気を抜いていたところを付かれた事で連出堕達は少し苦しい立場で戦う羽目になってしまっている。

 

 更に…警備システムをより深く乗っ取る…それはこの群れを成してワイヤーを飛ばして拘束する他、ある程度の耐久値のある案内ロボットの様な警備マシンだけでなく、このタルタロス並の性能を誇るセントラルタワーの真骨頂である、真の警備マシンの権限も掌握したという事である。

 真の警備マシン…それは群れを成して扉から飛び出して連出堕達に襲いかかる警備マシンよりも後方からゆっくりと連出堕達を狙って180階へと上がってきている。

 

 捕縛目的の警備マシンとは違い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 




アッシュがレジェンドとして実装された事によるストーリー変更が思ってたよりも影響大きかった。
次回は「アレ」が出てきます


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No.DUO⑥ タイタン

あの要素がまさかの登場!!!
三人称→オクタン視点


 

 ジブラルタルで皆を守りつつ、ブラッドハウンドやレヴナントで敵を破壊し、レイスで敵の捕縛を掻い潜る。

 連出堕自体、戦闘経験はA組の中では皆無に等しい。そもそもA組生徒全員、まだヒーローのタマゴなので戦闘経験は皆無なのは当たり前だが…センス含め、連出堕は決して高くは無いだろう。

 爆豪の様な天才的センスも無ければ、緑谷の様に勉強と研究を重ねた訳でも無いし、轟の様に教え込まれてもいない。しかし、連出堕に潜むレジェンド達は違った。

 あくまでも異質な個性であり、連出堕の1部でしか無い彼らだが戦闘センスや経験値等は軍人や並のプロヒーローに劣らない。

 連出堕がレジェンド達の適切な切り替えだけを担当して、レジェンド達は存分に警備マシン相手に実力を振るう事が出来た…

 

 はずだったが…

 

「…くっ…!」

 

 たったの2分程度の戦闘だが、激戦に激戦を重ねて八百万や上鳴達は疲労が強く見える。

 そもそも彼女達は今、ドレスやら正装などといった非戦闘向けの服を着ている。とても動きづらいだろう。

 その上八百万はともかく、上鳴と麗日は既に個性の反動で半分キャパオーバーに陥りそうであった。

 八百万はそこまで個性を使用していないので見た目は問題無いが、彼女の個性も使用すれば使用するほど脂質などを消費して最後は動けなくなる。

 連出堕の個性は切り替えれば切り替えるほど切り替え時間が長くなったり、時差が発生するが倒れたり戦えなくなるものでは無い。つまり、長期戦になればなるほど連出堕達は常に増えていく守るべき対象を守りつつ無限とも思える警備マシン達を相手しなければならない。

 戦闘経験が皆無で尚且つ無個性なメリッサ・シールドが既に麗日の個性で上に行ってるおかげで守るべき対象が1つ減ったのは幸いだが、その分A組最強候補の緑谷も上に行ってしまっているのが相当な痛手だと連出堕のレジェンド達は少し思った。

 

(緑谷が居なくとも俺達だけで何とかなると思ったんだがな…!)

 

 オクタンに切り替わり、警備マシンから放たれる丈夫な拘束ロープを掻い潜り、1体蹴りで破壊するとオクタンは先程の自分の判断を少し悔やんだ。

 しかし、上に行った緑谷達が何とか警備システムを取り返せれば最悪負けても問題は無い。

「…だからと言って負けるつもりは無いけどな!」

 

 警備マシンをまた1体蹴り飛ばし、反動で後ろに下がる。

 入れ替わる様に鉄製の槍を持った八百万が前に出て、警備マシンを突き刺して破壊する。

 

「警備マシン、前衛はこれで最後ですわ! 入り口から20近くやって来ます!」

『よっしゃ! それくらいの距離があれば「こいつ」の出番だ!』

『八百万、俺達より後方に下がれ! そして出来れば耳を塞いでおけ!』

 

 八百万が警備マシンの位置と数を伝えると、好機と見たレジェンドの1人ランパートが声を上げる。そして彼女が何をするのか察したのか、クリプトは八百万に後方に行くよう伝える。耳を塞ぐ事も…

 

 連出堕はオクタンから狂喜の改造職人ランパートへと切り替わる。20歳前後の見た目の少女なのに似合わない大きなガトリングガンを背負い、ランパートはるんるんとそのガトリングガン「シーラ」を構える。

 

「派手に暴れな! シーラ!!!」

 

 その瞬間、絶え間ない鋼鉄の弾丸達がまるで1つの長い爆音を奏でて警備マシン達を蹂躙していく、八百万が伝えた20の警備マシンだけでなく、警備マシンの後ろからやって来た援軍の警備マシンすらも粉々に破壊し、蹂躙していった。

 ランパートのウルトであるモバイルガン「シーラ」。あまりにも危険すぎるその力を中々使えずに溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのようにランパートは狂喜を浮かべてシーラを暴れさせていた。

 

 ランパートの個性は「改造ローダー」

 触れた機械類を意のままに…とまでは行かないが、ある程度自由に改造出来る個性である。しかし改造出来るのは見た目や構造だけでパソコンのデータやらシステムを書き換える事は出来ない上にランパート自身、あまり銃火器以外に強い興味を示さないので、主にそこそこの耐久性を持ったモバイル防壁を建てる時にしか使わない。

 日本は非銃社会だ。防壁以外に役立てるならばまずは銃免許を取るところから始まるだろう。

 なお、シーラに関しては個性だからと言う言い訳をさせて貰おう。

 

「やっぱりシーラは気持ち良いね!」

 

 およそ300近くの弾丸を撃ち切ったランパートはシーラをコンパクトに改造してしまい込むと後方で耳を塞いで蹲ってる八百万の肩を叩く。

 

「ほら、終わったよ!」

「み…耳が…」

「ウェイ…」

「耳が…耳が…」

 

 近距離でガトリングガンの銃声を聞いたのだ、耳郎の様に鼓膜が破れる事は無いだろうが、耳鳴りはしばらく収まらないだろう。

 そんな彼女達にランパートは「ドンマイドンマイ」と軽く声をかけて、弾丸の雨を食らった警備マシン達の方向を確認する。撃ち漏らしが無いかの確認だ。

 シーラの弾丸は警備マシンだけでなく、セントラルタワーの扉や壁にも大きなダメージを与えた為に警備マシン達が居たところには砂塵が舞っており、視認しづらかったが…やがて砂塵が全て晴れた。

 

 ()()()()()()1()()()()()()、全てシーラの弾丸で穴だらけになるか粉々になっていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 警備マシンは……だが…

 

 

 

 

 ランパート達が見たのは炎だった。最初はそこには轟または爆豪が居て、シーラの巻き添えを食らったのではないかとレジェンド達はゾッとしたがブラッドハウンドのスキャンでロボット類の非生命体しか居ないのを確認した上でのシーラだったので轟や爆豪では無い。

 

 事実、次の瞬間ソレが轟や爆豪()()()()()()()()()()

 そして…ソレが轟や爆豪()()()()()()()()()()

 

「おい…あれって…」

 ランパートが驚愕する。

 

『冗談…いや、このセントラルタワーだ。むしろ今まで接敵しなかったのが不思議なくらいだった!』

 クリプトがどうしよう無い怒りを叫ぶ。

 

『最悪、ここから飛び降りてでも逃げる事を考え方が良いわね』

 レイスは戦闘するのを選択肢に入れなかった。

 

『撃ち落とされるね』

 ヴァルキリーは上空に逃げるのは厳しいと判断した。

 

『………』

 流石のレヴナントですら、余裕が無い雰囲気であった。

 

 

 

 

 

 バンガロールが口を開く。職業軍人であり、戦場に関する知識は人一倍ある彼女がアレの名を言う。

 

『……タイタン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハモンド製I・アイランド無人防衛機スコーチ型タイタン

 

 

 左手から半透明の炎を纏う盾を起動し、シーラの攻撃を全て防ぎきったタイタンと呼ばれる無人兵器は左手を降ろし、何やらデカい口径の武器を背負って自分には小さ過ぎる非常階段の入口を無理やり破壊して現れた。

 ハモンド・ロボティクスによって特別に造られたI・アイランドの防衛を任されたタイタンの1つ。炎を操るスコーチ型のタイタンが自身が撃退すべきヴィランに操られるとも知らずにヒーローのタマゴに今牙を向こうとしていた

 

 

 

 

 

「タ、タイタン!? タイタンですって!?」

 家がお嬢様である上、個性の為に豊富な知識を持つ八百万百もタイタンの知識はある。というか、世界的有名なハモンド・ロボティクスの目玉商品の1つなので名前くらいならヒーローを目指す者関係無く聞いた事はあるだろう。

 耳鳴りがする中、八百万は立ち上がって連出堕達が見やる方向を見ると確かにそこには居るスコーチ型のタイタンを見て絶望する。

 先程も言ったが、八百万は知識が豊富だ。通常の人よりもタイタンについては知っている。その為、タイタンにより深く絶望しているのだ。

 型番も違うし、造られた時期も違うが同じハモンド・ロボティクスが造ったタイタンは演習実験でアメリカのヒーロービルボードチャート上位ランキングヒーロー数名VSバンガード型タイタン1体と戦ったのだが、結果はヒーロー側のギリギリの辛勝だったと言う。

(ちなみに後日、同じバンガード型でスターアンドストライプと実戦演習を行ったがスターアンドストライプの圧勝だった)

 アメリカのプロヒーローですら、複数人で掛かっても大苦戦するタイタン。確実にUSJで出会った脳無という化け物より強いだろう。

 

「に…逃げませんと…!」

 

 副クラス委員長として、皆を守る。八百万は恐怖を抑え込み、何とかタイタンから逃げ切れる何かを創造しようとしたその時…

 

 

フレイムコアオンライン

 

 

 無機質な男性の声がスコーチ型タイタンから発声され、タイタンの両腕から前方…つまりは連出堕達が居る方面へ、爆炎の竜巻が放出された。

 

「なっ!」

『不味い! ジブラルタル!!!』

「ドームシールド展開!」

 

 八百万は咄嗟に防火服を出そうとするも、確実に間に合わない。

 しかし代わりにクリプトの指示の元、ジブラルタルが切り替わり、自身の足元を起点としたドームシールドが張られた。

 スコーチ型タイタンのフレイムコアは地面を焦がしながらドームシールドに激突したが、ドームシールドを突破する事は無く鎮火していった。

 

「ひとまずは窮地を脱したな…だがシールドを使っちまったぜ」

 

 あの規模の爆炎を毎回出せるとは思えないが、少なくともランパートの防壁でどうにかなる生ぬるい攻撃などとんでこないだろう。

 つまり、ドームを使いっ切った今、もはや防御手段はほぼ皆無であった。

 ジブラルタルは空を見上げる。そこには未だに空中を漂い、タイタンを見て青い顔を浮かべてる緑谷達がいる。

 

「空爆は使えねぇな…」

 

 上から超火力の爆撃を降らせるジブラルタルのウルトも緑谷達に被害行きかねない。シーラも効かない上にクールタイムに入った今…明確な攻撃手段も防御手段も無い。

 

「タイタンに降伏の意味伝わるか?」

『いきなりあんな炎を出してくる奴に降伏なんぞ無意味だ。』

「ガハハッ、そりゃ良かった! 性にあわない事はしたくないから助かったぜ!」

ジブラルタルはウォーハンマーをアームシールドに叩きつけ、自分を鼓舞する。

「嬢ちゃん、下がってな! ここはこのジブラルタル様に任せておけ!」

「れ、連出堕さん!? まさか1人でタイタンと戦う気ですか!?」

 

「いや、1人じゃあ無い」

 

 

 

 

「『俺たちで戦う』」

 

 

 

 

 瞬間、連出堕はジブラルタルからオクタンへと切り替わり高速でスコーチ型タイタンへと距離を詰めて行く。スコーチ型タイタンは一瞬大口径の銃を構えて八百万達とオクタンどちらを狙うか迷ったが、近寄ってくるオクタンを優先排除と決め、大口径からテルミット弾を発射させる。

 しかし、口径を向けて、放つ。そんな動作はオクタンからしたら遅すぎる。難なくアピールしながら避け、続くテルミット弾もかわしながらタイタンへと近づいた。

 ここまで来るとタイタンは近接格闘に切り替えるが、変わらずオクタンはいとも簡単にかわす。

 そしてタイタンの股下を滑り抜け、背後に回るとヴァルキリーへと切り替わる。

タイタンが背後にいるヴァルキリーを視認する為に180度方向転換するよりも早く、ヴァルキリーはスコーチ型タイタンの背中に向け…ミサイルをありったけぶち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無意味であるが

 

「がハッ!!」

 

 背後からのミサイル全弾集中攻撃。確かにダメージは大きいだろう。しかし相手は世界的大企業が世界的人工島の防衛の為に造らせた特注のタイタン。恐らくロケランをぶち込まれても大したダメージにならないだろう。

 タイタンはミサイル攻撃を難なく耐えた後に高速で振り返り、右手で小バエのように飛ぶヴァルキリーを捉え、握り締めた。

 

 すぐ様ヴァルキリーはレイスへと切り替わり、虚空で脱出した為大事には至らなかったが…

 

『まずいな、シーラと爆撃以外の火力と言えばこの手しか無かったんだが…』

『耐火性のタイタンである以上俺のマザーロードも効かないと思うが…駄目押しにやってみるか?』

 

 先程の警備マシンとの群れで残念ながらブラッドハウンドのウルトは使い切っている。耐火性の強いスコーチ型タイタンにはマザーロードの効果は絶望的。ジブラルタルの爆撃は使えず…タイタンは個性を使わないただの機械なのでレヴナントも意味を成さない。

 ローバやホライゾンの個性で無理やりタイタンのパーツを少しずつ破壊していく事も出来なくは無いが…隙が大きい。1発でも当たれば即座に戦闘不能に持っていかれる可能性があるのにそんな賭けは危険だろう。

 

『本当に八方塞がりじゃねぇか…』

 

 オクタンが吐き捨てる。もはや安全に目の前のタイタンを倒す方法など、存在しない。

 

 

 

「連出堕! 後ろに避けろ!!!」

 

 

 

 その時、聞き覚えのある声が響く。

 この声は誰だったか…なんて悠長に記憶を思い巡らせるわけも無く、連出堕達はそのまま大きく八百万達が居る後方に飛び転がる。

 それと同時に声のする方向に振り向いたスコーチ型タイタンは…自分をはるかに上回る大きさと質量の氷塊に飲み込まれてしまった。

 

 

 

__________A P E X__________

 

「すげぇな…相変わらず」

 

 連出堕はレイスから俺へと切り替わり、こちらに走りながらやって来たバカ強ぇタイタンを氷塊で飲み込んだ人物達と再会した。

 轟焦凍、常闇踏陰、飯田天哉、障子目蔵と障子に運ばれてる気絶した峰田だ。峰田に関しては…なんで気絶してんだ?

 

「連出堕、大丈夫か?」

 

 轟はいつもの無表情とは違って少し真剣な表情で心配してくれたが俺は至って無傷だ。何名かのレジェンドが軽傷だがな。

 飯田や常闇達も俺や八百万達を心配してくれた。俺はともかく八百万や上鳴達はもうまともに戦えないだろう。プルスウルトラの精神で向かえばもう少し戦えなくもないだろうが、無茶させる必要は無い。

 

「緑谷や耳郎は?」

「メリッサ・シールドさんも見当たらないが?」

 

 常闇と飯田が残りの3名の行方を聞いてくるが、俺は無言で真上を指指した。

先の戦闘、俺達には数十分の戦いに思えたが、実際は10分程度の戦いだったようだな。丁度緑谷達が200階の非常口に手を届かせていた所だった。

 

「麗日、そろそろ解除の準備を」

 常闇達が結構無茶な方法で200階に向かう緑谷達に呆然としてる中、俺は座り込む麗日に無重力解除の指示を伝える。

 

 そして緑谷、メリッサ、耳郎が非常口から室内に入ったのを確認して麗日は手の肉球を合わせる事で無重力を解除させた。

 

 よし、これで緑谷達は200階に到達したな。

 だが、タイタンが動き出してる以上、緑谷達に丸投げは危険だ。流石にアネキのヒールドローンじゃあ個性の反動は消せないだろうから上鳴のアホ面や麗日の酔いは治せない…今動ける何人かと、麗日達を保護する何人かにまた別れるしか無いか…?

 

 パキッ…

 

「ん?」

 

 バキキッ…!

「………」

 

 なんか…嫌な音がするな。

 そうだ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「「氷が破られる! 来るぞ!」」

 

 轟と飯田の大声と共に、俺達の後ろに出来たスコーチ型タイタンを閉じ込めていた氷塊は粉々に砕け散り、中から火炎を纏っていた健在なスコーチ型タイタンが現れていた。

 こいつ…中から氷を溶かして馬鹿力で抜け出したか…

 

【損傷率1.2% 自動戦闘システムグリーン。フレイムコア0%。戦闘シーケンス、再起動

 やけに聞き取りやすい機械的な男性声でスコーチ型タイタンは両拳に炎を纏わせて叩きつけようとするも、轟の氷がそうはさせない。またもや大きな面積の氷がタイタンを包み込み、また動きを封じる。

 だけどまた動き出すだろうな…さっきみたいに氷を溶かして…

 

 

 

黒影(ダークシャドウ)!!!」

『グルオオオオオォォォォォ!!!』

 

 

 その瞬間、俺は聞いた事も無いおぞましい化け物の声を浴びせられた。

 何事かと俺達がそちらを向くとそこには通常よりも5倍くらいバカデカくなってた常闇のダークシャドウが居た。

 

 

「有難い…生半可な炎が黒影をギリギリコントロールしやすくしてくれる…!」

 

 ああ、()()()()()()()()()()()()常闇の個性…ダークシャドウ。今時間帯は夜。真っ暗闇だ。しかしタイタンが撒き散らした僅かな炎とセントラルタワーの非常灯、そして街からの光でギリギリ常闇が制御出来る最高出力が出せているようだな。

 

 

『ワウオオオオオオオォォ!!!』

 

 

 もはや、タイタンと互角ほどのでかさになったダークシャドウは先程より早めに氷をぶち壊したスコーチ型タイタンにまずは大きなテレフォンパンチを喰らわせる。

 ヴァルキリーのミサイル全弾すら焦げ跡が付いたかどうかの耐久力を誇っていたタイタンだったが…ダークシャドウの一撃で目に見えて凹んでいるのが分かった。おい、攻撃力どうなってるんだ?

 続いてダークシャドウは拳を2度、3度、4度と喰らわせていく、途中でタイタン側が落ち着いて炎で対処しようとしたが…轟のアシストはそうはさせなかった。慣れた氷を上手く操り、轟はスコーチ型タイタンの両腕を氷で包み込ませる事で炎を一時的に出せなくさせた。

 これが決定打となったな。

 ダークシャドウは怒号をあげてスコーチ型タイタンの凍った両腕を掴むと力任せに引きちぎる。そして少し小さくなったスコーチ型タイタンを持ち上げ、力任せに両サイドから押し潰してしまった。

 

 スコーチ型タイタン、完全破壊…勝者は轟と常闇にダークシャドウ…

 

「俺達があんなに苦戦したタイタンを一瞬で倒しやがった…」

 

 流石A組最強と相性が無ければA組無敵の2人だ…軍事兵器としての側面すら持つタイタンをいとも簡単に破壊しやがった。

 

「八百万、上鳴、麗日。動けるか?」

 轟は炎を軽く出してやる事で常闇が半ば化け物と化してるダークシャドウを制御しやすくしてやり、その合間に八百万達にまだ動けるか聞く。

 あんなバケモンタイタン倒したのに特に全く余韻に浸らない…俺達だったら大はしゃぎするんだが…いや、ヒーローとしては正解なんだけどよ…俺なんかお前らが既にヒーローとして出来すぎて怖えよ!

 




対スコーチ型タイタン
ジブラルタルの空爆があったら→ヒートシールドである程度軽減される。でもけっこうのダメージにはなる。
マザーロード→実は思ったよりもダメージを喰らう。でも倒す事は出来ない。
ブラッドハウンドのウルト→結構良いダメージになるかもしれない。
レヴナント→爪楊枝で刺したくらいのダメージしか入らない。個性無効化が効かない相手には大した活躍は出来ない。むしろ今まで活躍し過ぎてるよこのロボット

轟→実はスコーチ型タイタンには勝てない。(物語終盤の強さなら全然勝てる)
常闇→同じくまともに戦えば相性の問題上炎を操るスコーチ型タイタンに勝てない。
轟がアシストし、常闇が不意打ちダークシャドウで襲いかかったから勝てた戦いです。本当にこの二人強い。

※No.16辺りでハモンド・ロボティクスの話を出しましたが、あの後該当話と設定を変更しました。


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No.DUO⑦ VSウォルフラム

2022年最後の投稿です!




あれ…2023年…???

三人称視点→オクタン一人称視点です、どうぞ



 

「そうだなぁ、博士の未練は断ち切って置かなければな…!」

 

 セントラルタワー最上階。

 

 この世界の根幹から常識まで変えてしまいかねない様な発明品の数々が保管され、管理されている保管室にて今回の騒動であるヴィランのリーダー、ウォルフラムはこの保管室に保管されていた【()()()()()()】とその発明品を作ってしまったデヴィット・シールド博士を連れ出そうとしていたが…

 本当にデヴィット博士の未練を断ち切るためか、またはここまで子供達に出し抜かれた事に対する苛立つを晴らす為か、ウォルフラムは拳銃をメリッサ・シールドに向けて今まさにトリガーを引こうとしていた。

 

 しかし、ウォルフラムがトリガーを引き、弾丸が弾き出されるよりも早くウォルフラムは顔以外を氷で覆われる事となった。

 

「な、何ィ…!?」

 

 首付近も凍らされた今、ウォルフラムは自身を氷漬けにした人物を視界に入れる事が出来ない。

 そして、先程まで視界に居たメリッサ・シールドはいつの間にか眼前から居なくなっていた。

 

 

 突然の乱入者、そして形勢逆転にウォルフラムは驚きを隠せない。

 圧倒的な有利な状況。メリッサ・シールドは脚を撃たれ、デヴィット博士とその助手は気絶。緑谷出久、耳郎響香はウォルフラムの個性で壁に拘束されていた。

 まさしくチェックメイトであった…

 ()()()()()()だが‥

 

 轟焦凍、彼の個性でウォルフラムとその部下は逆に拘束。

 常闇踏陰、彼の個性のダークシャドウでメリッサ・シールドとデヴィット博士とその助手をウォルフラムから引き離し、緑谷と耳郎の拘束を破壊した。

 

「ば…馬鹿な…!」

 

 オールマイトが拘束されているパーティ会場から通信を聞いている時からそうだった。

 ウォルフラム達ヴィラングループは先から毎回毎回このヒーローですら無い子供に出し抜かれていた。

 

「こ、こんなはずでは…!」

 

 冷静なウォルフラムに怒りがふつふつと湧いてくる。しかし、彼の怒りを嘲笑うかのように…突然、セントラルタワー全体の照明が復旧する。彼が居る保管室の非常用照明もちゃんとした明るい照明灯に切り替わったのだ。

 電力の復旧…これはすなわち…セントラルタワーの()()()()()()()()()()()()()()()を意味する。

 

「なっ…!」

 

 またもや予想外。セントラルタワーのセキュリティシステムをハッキングしていた仲間は今、ヴォルフラムと同じく氷に包まれて気絶している為、今セキュリティシステムを弄られたら取り返されるのは時間の問題であったが…それにしても()()()()とウォルフラムは驚いた。

 何もかもが予想外…彼の思い描かない展開に事は進んでいた。

 

 

 

「セントラルタワーを始めとしたI・アイランドのシステムは全て正常に戻った。すぐさまお前達の犯行は島全体に知れ渡り、パーティ会場に居たオールマイトは自由になる。人質も全員開放される。」

 

 ウォルフラムの視界からは見えていないが、保管室の入り口からはものの数秒でセントラルタワーのメインシステム端末からセキュリティシステムを正常に戻したクリプトがやってくる。

 

お前達の負けだ、ヴィラン共。既にここにもプロヒーローがやってくる」

 

 クリプトは勝ち誇った様な、それでいて調子に乗り過ぎず最後までウォルフラムを警戒している声で降伏を諭してくる。

 

 クリプトの隣には自由になった緑谷。

 そして背後には常闇と轟。

 更に人質に取られないようにメリッサ・シールド達の前に耳郎…個性を使い、他に敵が来てないかも完全に索敵している。

 

 もはや、隙は無い。完璧な体勢を緑谷達は築いていた。

 ここからのウォルフラムの逆転はまずありえない。

 自身のチェックメイトが一気に自身へのチェックメイトに持ってかれてしまったのだ。

 

 

 

 

「……ククっ…クク…」

 

 そう…思えた。

 

ッ!? 轟、氷だ! 常闇はダークシャドウを!

 

 ウォルフラムの不敵な笑いを、余裕、反抗的な意思はまだ残ってるとすぐ様判断したクリプトは轟達に追撃を要請する。轟達もすぐ様それに応えて個性を発動させるも…ウォルフラムの()()()()()が先に自身を拘束していた氷を全て粉々にし、元から持つ個性で床の分厚い金属板を天井まで覆い尽くす高い壁と変形させた。

 

「まずい、下がれ!」

「いや、大丈夫!」

 

 分厚い金属板が今にもこちらに向かってくる事を予想したクリプトは保管室からの撤退を指示するが、緑谷はクリプトより前に飛び出して壁に向かって拳を振り下ろす。

 彼が今装着しているメリッサ・シールド製の特別なガントレットで一時的に無反動でワンフォーオールを自由に使える。流石に保管室だからか、最高出力で放つ事は無かったが、緑谷はかなりの出力でワンフォーオールを発動させて分厚い金属板の壁を難なく破壊して見せた………が…

 

「……ッ!?」

 

 その時、緑谷は見た。

 

 

 分厚い金属板の壁を破壊し、その向こうに居る()()()()()()を…

そこには先程まで居た憎たらしいウォルフラムでは無く、先までと違って2倍ほど大きくなり、赤いオーラを纏っているウォルフラムを…

 

(な、なんだ…こいつ…金属操作の個性じゃないのか!?)

 

 緑谷は轟達がやってくる直前の少しの小競り合いでウォルフラムの個性は一定範囲内の金属を自由に操る個性だと断定した。しかし、今目の前に居るウォルフラムは金属操作とは程遠い肉体強化系の個性の恩恵を受けている様にしか思えない程に姿が変わりかけている。

 

(他の仲間からの支援系の個性を受けた?…いや、全員気絶してる! デヴィット博士の個性増幅装置を使った…? いや、装置はあそこに転がってる! じゃあなんだ!? 連出堕君みたいに複数の個性持ち!? それとも…ヴィラン連合の脳無みたいな改造人間…!?)

 

 恐ろしく早い頭の回転で目の前のウォルフラムの状況を整理しようとする緑谷だが、完全に整理する前にその思考はとんでもないスピードで殴りかかってきたウォルフラムのパンチで遮られた。

 

「ぐ…ぐふふふ…グフフフフフフ!!!」

 

 ()()()()()使()()…常人では耐えられない負荷である。ウォルフラムは理性のほとんどが消し飛びかけていた。

 一応、デヴィット博士の誘拐と個性増幅装置の強奪計画は頭に残っている。しかし…それよりもこの貰った2つの個性で、目の前のガキ共をぐちゃぐちゃにしてやるという破壊衝動が彼を蝕んで行った。

 

 しかし…冷静さを失ったウォルフラムは…

 3つある強個性を使って蹂躙を実行するその計画は…

 

 

 

 奴にとっては格好の獲物であった。

 

 

 

 

サイレンス

 

 

 

「ッ!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()、目の前に飛んできた得体の知れない球体は金属操作で何かしらの金属を盾にして防いだだろう。しかし、与えられた個性、数多の個性で精神や肉体が限界の縁に立たされているウォルフラムにそんな発想は無い。個性に物を言わせて暴れようとする彼にサイレンスを避けるという発想では無く、あらゆる攻撃を耐えた上で更にその上の力で相手を徹底的に叩き潰すという思考が優先されてしまった。

 

 その為…彼は…消え去った。

 ()()()()()も、元から持つ個性も…彼の元から…

 

「なっ、こ、個性が…!?」

 

 肉体強化系の個性を2つ同時に使った超強化が一瞬で消え去れば彼は嫌でも個性が使えなくなった事に気づく。そして、冷水をぶっかけられたかの様に冷静になる。

 しかし、無意味。

 もう、ウォルフラムはこの時点で何も個性を持たないただのチンピラに成り下がった。

 

「死ね」

 

 吹っ飛んでいく緑谷と入れ替わる様に前から高速でやってくる人間の姿をした死神に金属操作を使おうとするウォルフラムは案の定個性は使えずにレヴナントの金属の拳を顔面に喰らう。

 通常サイズに戻ったウォルフラムはレヴナントの右ストレートに体勢を崩し、後ろに倒れ込む。しかし、悪夢は決してその程度では無い。

 全身金属で出来た人工の悪夢は己の金属の硬さを最大限に活かした高い攻撃力から放たれる猛攻を止めはしない。

 

 倒れ込むウォルフラムの身体を脚で思いっきり踏み付け、両拳で顔面が凹む程に交互に殴る。更に首を掴み、ウォルフラムを持ち上げると上空に放り投げ、重力に従って落ちてきた所をみぞおちに膝蹴りを喰らわせる。そしてトドメに背中にダブルスレッジハンマーを叩き込んだ。

 

「…………ッ……ッ…」

 

 もはや、ウォルフラムの意識など無い。

 本来ならレヴナントはここから更に追撃する所だが…生憎彼はレヴナントであると同時に連出堕苑葛でもある。連出堕苑葛の指示でレヴナントはこれ以上の追撃は行えなかった。(そもそも、踏み付け辺りでやめる様に指示は来ていた。)

 

 

「ふん、運の良い奴め…」

 

 

 念の為、意識無きウォルフラムにもう一度サイレンスを流し込み、未だにレセプションパーティ用の皮付き姿のレヴナントは用無しと別のレジェンドへと入れ替わる。

 

 こうして、悪夢は驚く程あっさりと消えていった。

 

 

 

 

「…………」

「………ま、まさに悪夢…」

 

 その光景を見ていた轟と常闇は味方でありながらも戦意喪失寸前になっていた。

連出堕苑葛とレジェンド達がタイタンを難なく破壊する轟や常闇を友でありながらA組屈指の化け物と評する一方で轟達もまた、()()()()()()()()()無類の強さを誇るレヴナントや準ずるレジェンド達を操る連出堕苑葛を友でありながらA組の恐るべき力と畏怖していたのであった。

 

 

 

 

_________A P E X_________

 

 

 

 

「うーわ、そんな事があったのかよ!」

「クソが! 俺が居りゃ一瞬でケリが付いたのによ…!」

 

 レヴナントがヴィランの親玉ウォルフラムをボコボコにし、クリプトがシステムを復旧させた後、事件はすぐに収束した。残った残党は正常に戻ったセキュリティーシステムと自由になったオールマイトに抵抗虚しくお縄だ。

 そして、ウォルフラムとヴィラン一行が連行され、次の日の夜。俺達A組はI・アイランドにある湖近くのテラスでオールマイトとバーベキューをしていた。

 ちなみにA組…と言ったが、今ここにA組生徒全員居る。まさか全員I・アイランドに来ているとは…相澤先生は居ないけどな。

 それで、今ちょうどあの日同じレセプションパーティに来ていたのに結局出会わなかった爆豪と切島にあの日の事件の細かい詳細と()()()()を話していた。一部真相…って言うのは…あの日の戦いは俺達、緑谷や轟は何も関わってないという形で世間に好評される。()()()()個性を使ったからな。だが、爆豪達には個性を使ってヴィラン達と戦闘した事は伝えた。切島は参戦出来なかった自分の不甲斐なさ、そして爆豪は暴れられなかった事に怒りをあらわにしている。

 しかし…爆豪が居れば本当に簡単に事が運んでただろうな。タイタンの時とかも。

 あの日…タイタンを倒した時の事だ。タイタンを倒した俺達はすぐにヴァルキリーのウルトで常闇と轟だけを連れて最上階に向かった。八百万や上鳴はもう戦えそうになかったし、飯田や障子達に任せてな。

 道中タイタンや他のヴィランに出会う事無く、俺達は制御室、轟達は真っ直ぐ緑谷達の援護へ向かったら思いの外、簡単に事件はケリが付いた。少しレヴナントが暴走気味だったが…まぁ、タイタンの時に何も出来なくて鬱憤が溜まってたんだろうな。もしくは一方的な戦いに気分がハイになってたか…どちらにせよ勘弁して欲しいぜ、あいつが暴走すると責任取るの連出堕と雄英なんだぜ?

 

 

 

 それと…こいつらには語らなかったが…あのセントラルタワーの乗っ取り…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 デヴィット・シールド博士が奪われた己の発明品である個性増幅装置を奪い返す為に偽ヴィランを呼んで騒ぎを起こしたそうだが…助手はそこでデヴィット博士を裏切り、本物のヴィラン…つまりウォルフラム達を呼んだそうだ。結局ウォルフラムもその助手を裏切り…あんな形になったそうだ。これは緑谷と耳郎から伝えられた。一足先に現場に着いた2人はこの話を聞いていたそうだ。

 初めて聞いた時は耳を疑ったぜ…

 あと…デヴィット博士曰くオールマイトの()()()()()()()()()()()()これも耳郎から聞いた。オールマイトの個性……が何なのかは知らない…オールマイトの個性は日本の七不思議の1つだからな。

 

 しかし…オールマイトが衰えてる…か…嫌だな…。

 オールマイトがもし前線を退くなんて事があれば世の中のレヴナントみたいな奴らが揃いに揃って騒ぎを起こすしヴィラン連合も何しでかすか分かったもんじゃない。

 

 

 キレる爆豪、悔しそうな切島、苦笑いする上鳴を見ながら俺はよく焼かれた肉を口に運ぶ…が、その途中で勝手に身体がヒューズと入れ替わる。

 

『!』

「!」

 

 すぐに俺に入れ替わるが…ん〜…やはり()()()()

 

「ちょっと失礼するぜ」

 

 肉を一口で頬張ると俺はその場から立ち上がって、一時的に誰も居ない方へと立ち去る。

 

 

 テラスから見る空は良いな。

 おっと、また勝手に身体がヒューズと入れ替わりやがった。

「こりゃ間違いなく来てるな…」

()()()中学3年生の三学期くらいに私でしたね。そう考えると結構期間が開きましたね』

『次はどんな奴が来るか…』

『お友達になれると嬉しいな(^-^)』

 

 夏休みの期間…来週辺りには林間合宿がある。そこで鍛えられるし、ちょうど良いタイミングかもな!

 

 個性の不安定…これは今に始まった事じゃあ無い。数ヶ月に1回、起こりうる現象だ…そしてこの不調が収まった時…俺達は新しい力を手に入れる。

 

 そう、()()()()()()()()が…連出堕苑葛に加わるぜ…!

 

 




映画編終!
ライジングとかワールドなどの映画もやる予定です!次回はいよいよ林間合宿ですかな!

個性持ってる相手ならばだいたい勝てるレヴナントさん
ミルコ、エンデヴァー、ミリオ辺りは初見でもサイレンスの危険性に気付いて確実に避けるだろうけど逆に言えばあのくらいの強さじゃないとレヴナントに初見で負ける可能性が高い…という事です。
え?なんでこいつAPEXの使用率ワースト3なの?(無関係)

以上の強さと今までの暴れっぷりから林間合宿辺りでレヴナントはとある方法で事実上の弱体化をさせます。このままレヴナント放置で物語進めると俺TUEEEEになっちゃう...

ウォルフラムの個性・金属操作【元から持ってる個性】。筋力増強【AFOから渡された】。身体能力上昇【AFOから更に渡された】。
ウォルフラムって触れなくても金属操作出来るのかよく分からなかった(映画観たの昔過ぎて)

あと、次回は新レジェンドも来ますよ。アッシュ以外の誰かです。


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