異世界ストリップ~俺はレアアイテムをコンプリートして世界を手にする!~ (夏目八尋)
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プロローグ
第001話 ハローヤーヤーニューワールド!


ということで。
待っててくださった方には長らくお待たせいたしました。
オリジナルの異世界ファンタジーストーリー、開幕です!


 コンプリート。

 この言葉に魅力を感じない人間は少ないと思う。

 

 何を隠そうこの俺も、この言葉の持つ魔力に魅せられた(ゲーマー)の一人だ。

 

 あらゆる困難を乗り越えアイテムを集め、称号を集め、キャラを集めた先にあるもの。

 数多のアイテムが整然と並べられたその光景が。

 数多の人々がこうべを垂れ恭しく礼を尽くしながら、得難き称号の数々を口々にするその景色が。

 

 その世界を征服し尽くしたと思わせる実感と共に、俺の心を打ち震わせる。

 

 

 

 コンプリート。

 そんな最高の快感を得るために、俺は幾度となく世界を蹂躙した。

 

 時に裸一貫から始まり、一から道具を作って世界のすべてを踏破しアイテムを回収し。

 時に王から託されたわずかなゴールドを元手に世界を旅し、魔王の手下が低確率で落とす屑アイテムすら余さず集め。

 時に数多の世界線を渡り、様々な美少女との逢瀬を重ねその思い出を完成させて。

 

 多くの世界、多くの時代、多くの物語の中で、俺はコンプリートを重ねてきた。

 

 

 そう。

 

 

 アイテム図鑑があれば埋め尽くさずにはいられない。

 実績解除のトロフィーとかあったら集め尽くさずにはいられない。

 可愛い女の子の仲間ができれば、いちゃいちゃから愉悦までやり尽くさずにはいられない。

 

 それが俺。

 九頭龍千兆(クズリュウセンチョウ)だ。

 

 

 

「親の願望が見え見えの名前じゃの」

 

「じゃかぁしぃわ」

 

 

 青い空、白い雲。

 

 俺は今、雲の上に建つパルテノン神殿みたいなところで神を名乗る爺さんと相対している。

 白磁の椅子に腰掛ける2m超えてそうなビッグな爺さんを前に、俺はこれまでの人生を語って聞かせてやったところだった。

 

 

「うむうむ。コンプリート、素晴らしいのう。わがはい財宝神じゃから、その考え方大好きじゃ」

 

「だろ? 最初名乗られた時から話し合うかもなってちょっと期待してたんだ」

 

 

 サンタみてぇなもっさもさの白髭をなでながら笑う、自称神の爺さんと談笑する。

 なんでこうなったかと言えば、俺が若くして死んだからだ。

 

 前世じゃネット配信者だった俺だが、生放送中にぽっくり逝ってしまったらしい。

 連続120時間休みなしのアイテムコンプ生配信とかさすがに欲張りすぎたようだ。

 

 今頃あっちじゃネットを賑わせているかもしれないが、まぁ死んじまったものはしょうがない。

 

 そうして俺を迎えに来た天使っぽいお姉さんに連れられるままやってきたのが、ここだった。

 んで、財宝神ゴルドバを名乗るこの爺さんと知り合って、今に至る。

 

 

 

「で、来世でも同じような生き方がしたいんじゃったな?」

 

「そうそう。せっかく次の生が選べるってんなら、もっとやりたいこと突き詰めたいってな」

 

「わかる。ひとつの趣味の奥深さは何百年やろうが飽きないもんじゃよ」

 

 

 酒でも用意したらこのまま何時間でも語れそうなくらい、趣味の合う爺様だ。

 そんな爺様がにやりと笑えば、俺に最高の転生先があると言ってきた。

 

 

「モノワルド、という世界がある。そこは人が道具を装備して使う世界なのじゃ」

 

「? 普通じゃ?」

 

 

 装備は身につけないと意味がない。持ってるだけじゃ意味がない。

 これまでプレイしたたくさんのゲームで、口が酸っぱくなるほど言われた言葉だ。

 

 剣は持たなきゃ振れないし、パンツを履かなきゃ大事な部分は隠せない。

 

 

「モノワルドは少し違う。呪文を唱えて装備をすることで、道具の力を引き出せるのじゃ」

 

「……ほほう?」

 

「その名も《イクイップ》」

 

「まんまだな」

 

 

 ゴルドバ爺の言うことにゃ、《イクイップ》と唱えれば、ずぶの素人が包丁で魚の三枚おろしができるようになる程度には補正がかかるらしい。

 モノワルドに住むヒト種と呼ばれる連中全員に備わった力で、一人ひとりに別個の適性があり、それによって得手不得手が存在し、役割が生まれているんだとか。

 

 

「そして道具の力を引き出す能力が一般的ということは、道具そのものの良し悪しもまた重視されるということでの」

 

 

 モノワルドにあるヒトの手が入ったものには、すべからくレアリティが設定される。

 どこにでもある(コモン)から、伝説に語られしLR(レジェンドレア)、世界改変すら起こしえるWR(ワールドレア)などなど、その種類は多岐に渡る。

 

 

「適性なくばイクイップすることすらかなわないレアアイテムもあれば、逆に適性がなくとも代償を支払った者に破滅的な力を与えるレアアイテムなどもある。どうじゃ、疼かんか?」

 

「お、おお、おおお……!」

 

 

 ゴルドバ爺が語るモノワルドとは装備が、道具が、つまりアイテムが重要視される世界。

 

 その世界でアイテムコンプをするということは、即ち、その世界の覇者となることに等しい。

 

 

「す、すげぇ……そんな夢みたいな世界があるなんて!」

 

「分かっておるとは思うが、コンプリートの道は険しい。それでもおぬしは行くのかの?」

 

「当ったり前だろ! こんな面白そうな世界、挑戦しないでいられるかよ!」

 

「ふぉっふぉっふぉ! おぬしならそう言うと思っておったわ。では……」

 

 

 ゴルドバ爺が手をかざすと、やる気満々の俺の前にでっかい図鑑が現れる。

 そこには漢字ででかでかと『財宝図鑑』とタイトルが書かれていた。

 

 

「それにはおぬしが手に入れた、モノワルドに存在するSR(スーパーレア)以上のアイテムを登録することができる道具じゃ。その書物を完成させた時、おぬしはまさしく、モノワルドの支配者とも言える力を手にするじゃろう」

 

「うおおおおお!!」

 

 

 昂りすぎてさっきから獣みてぇな唸り声しか上げられなくなっているが、許して欲しい。

 さんざん遊び尽くして楽しみまくった色々なゲームのような世界に、自分自身がプレイヤーとして生きることができる。

 しかもアイテムコンプがそのまま世界コンプに等しいこの世界なら、それこそアイテムが揃えば揃うほど、俺はその世界でなんだってできるようになる。

 文字通り人生をかけてコンプリートを目指すにふさわしい世界が俺を待っていると言われて、どうしようもないほどに俺は高まっていた。

 

 

「しかも、今ならおぬしに神様特典をプレゼントじゃ」

 

「マジかぁぁぁ!?!?」

 

 

 俺、好き。ゴルドバ、好き。お爺ちゃん、愛してる。

 なんかここまで美味しい話だと裏でなんかありそうな気がするが知ったことじゃない。

 

 神様が何を考えているかなんて人間にゃ分からないし、気にしたところで意味がない。

 だったらせいぜい、貰えるものを貰って最高の状態で異世界転生する。これよ。

 

 そんな装備で大丈夫か? もちろん、一番いいのを頼む。

 

 

「で、何をくれるんだ? ゴルドバお爺様!」

 

「うむ。おぬしに渡すチート、その名は……」

 

「その名は……」

 

「《ストリップ》じゃ」

 

「………」

 

 

 ストリップ。

 

 楽曲に合わせて脱衣するやつ、またはその様態をとっくり鑑賞すること。だいたいエロい。

 

                           byウェキペディア

 

 

「一番いい装備をおくれよぉぉぉ!?!?」

 

 

 脱いじゃダメじゃん!

 むしろ弱体化じゃねぇか!!

 

 

「ほっほっほ」

 

「ほっほっほじゃねぇんだよなぁ爺様よぉぉーーー!?」

 

 

 ゴルドバ爺様のあご肉を髭ごとタプタプしていたら、近くの天使のお姉さんに引っぺがされた。

 

 くそっ、最高の手触りだったぜ。

 

 

 

「まぁまぁ、焦るでないぞマイフレンド」

 

「誰がマイフレンドだ誰が。で、脱ぐ能力がなんでチートなんだよ」

 

「《ストリップ》は確かに装備解除の呪文じゃ。じゃが、それは何もお主自身に限ったことではない」

 

 

 にやりと、ゴルドバ爺が笑った。

 

 

「《ストリップ》はの。指定した相手の装備を強制的に解除できる魔法なのじゃ」

 

「……はっ? ガチのチートじゃねぇかそれ!?」

 

「しかも解除した装備はおぬしの物になるし、部位指定もできる」

 

「うおおおおおお!! 愛してるぜマイフレンドーーー!!」

 

 

 ゴルドバ爺様のあご肉をまた髭ごとタプタプして、今度は天使のお兄さんに引っぺがされる。

 

 

「一番いい装備っていうか、装備が至上のその世界じゃガチ最強技だ」

 

 

 装備することで恩恵を得られる世界において、装備を奪われることの意味、奪えることの優位は、考えるだけでそれがどれだけ恐ろしいものなのか想像に難くない。

 

 コンプリートを目指す上でも、超有能な呪文なのは間違いなくて。

 

 

「まさにチート、神の御業」

 

「ほっほっほ、気に入ってもらえたようで何よりじゃ。もっとも、転生して記憶を取り戻すのは5才になった時じゃがの」

 

「え、なんで?」

 

「あの世界では5才になった時、《イクイップ》を使えるようになるからじゃ」

 

「なーるほど」

 

 

 要はそこをトリガーにして、俺の第二の人生が始まるわけだ。

 

 

「それに、0才児で記憶を継承すると、動けんのまーじで苦痛じゃぞ。拷問じゃぞ」

 

「うっへぇ。確かに勘弁だ」

 

 

 色々と俺の心に優しい仕様なのには感謝しかない。

 

 

「あとはいくらか器用にしておいてやるでの、存分に己の可能性を模索するとよい」

 

「何から何まで至れり尽くせりで助かるよ。何企んでるか知らねぇけど」

 

「ほっほっほ」

 

「はっはっは」

 

 

 触らぬ神に祟りなしだ。

 

 

「ところで、その《ストリップ》ってやつ、試したりできない?」

 

「ほ? そうじゃな。実際に一度やってみるのもよかろう。ほれ、使えるようにしたぞ」

 

「おっしゃ! そんじゃあさっそく――」

 

「うむ、そこの天使の身に着けている腕輪……を?」

 

「――《ストリップ》!!」

 

 

 だが、これくらいの冒険はやらないと、アイテムコンプなんて夢のまた夢だろ?

 

 

「……なんと」

 

「なるほど。これが《ストリップ》か」

 

 

 俺の手にあるのは、長く手触りのいい一枚の布。

 

 

「……見事じゃ、九頭龍千兆」

 

 

 それは、ゴルドバの爺さんがくるくると巻いて身にまとっていた、一張羅だった。

 

 

 

「っっっ!? きゃーーーー!?」

 

 

 天使のお姉さんが叫びをあげる。

 

 そりゃそうだ。

 

 ゴルドバの爺さんは今、全裸である。

 

 2m前後の巨躯に対してとってもかわいい象さんが、丸出しなのである。

 

 

「ほっほっほ。まさかこのわがはいに対して《ストリップ》を行うとは」(U)

 

「ゲーム序盤に会える強いNPCの装備をはぐのは、アイテムコンプの王道なんでな」

 

「なるほどなるほど! それは道理じゃ!」(U)

 

 

 はははと談笑する俺とゴルドバ爺(全裸)。

 そこに声をかけてくる、天使のお姉さんとお兄さん。

 

 

「ゴルドバ様、ゴルドバ様!」

 

「なにかな?」(U)

 

「そのUを、Uをお仕舞いください!」

 

「ほほう?」(U)≡(U)

 

「ああー! ゴルドバ様! そんな体をお振りにならないで! Uが! Uがぶらぶらです! ああー! おやめくださいゴルドバ様! Uが! ああー! ゴルドバ様おやめください!」

 

 

 うわぁ、なんだか大変なことになっちゃったぞ。

 

 

「わがはいに、何も恥じることはない」(U)

 

「「ちったぁ恥じろこのセクハラ親父がぁ!!」」

 

「ぶふぅっ!?!?」(U)

 

 

 ついにはダブル天使の見事なパンチが炸裂し、ゴルドバ爺が床を転がった。

 

 

「えーっと、返そうか?」

 

 

 さすがになんだか申し訳なくなって、奪った布を返そうとしたが。

 

 

「ふっ、それはもうおぬしの物じゃ。来世に持っていくがよい」(U)

 

 

 と、ゴルドバ爺からキメ顔でお墨付きをもらったので、ありがたく頂戴することにする。

 くれるってことはきっと何か力があるに違いないし。

 

 

「それでどうじゃ、実際に試してみての?」

 

「ああ、思った以上に感覚的に使えるし、なんていうか、馴染むな」

 

「モノワルドの人々が《イクイップ》を唱えるのと同じくらい、自然になるようにしたからの」

 

「そっか。本当にいろいろ親切にしてくれてありがとうな」

 

 

 寝そべって象さんを隠したゴルドバ爺(そうしないと天使たちの袋叩きに合うため)に、改めて感謝する。

 もう話すことは尽きたかなと思っていたら、相手もそれを察してくれた。

 

 

 

「さぁ、第二の人生の始まりじゃぞ。覚悟はよいな?」

 

「もちろん。ここまでされた以上、俺は全力でコンプを目指すぜ」

 

 

 この先どんな困難が待ち受けているかわからない。

 

 だが、最強の武器(チート)と生きる目標をもらった以上、俺に進む以外の選択肢はない。

 

 

「ならば行くがよい、九頭龍千兆! 新たな世界、モノワルドを駆け巡るのじゃ!!」(U)

 

 

 立ち上がったゴルドバ爺の叫びとともに、俺の体が光に包まれる。

 

 俺は託された財宝図鑑と奪った神の布を手に、瞳を閉じる。

 

 

(モノワルド……俺はそこで、頂点を目指す!)

 

 

 心の中で覚悟完了したその直後。

 俺の意識は光に溶けて、新たな人生に向かって飛び出したのであった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 イスタン大陸南部のとある孤児院。

 

 

「あらあら、こんな雪の日に。マザー、マザー!」

 

「はーい。ええ? その子、もしかして……!」

 

「うん、捨て子よ。でも、いい布にくるまれてるし、これ、本?」

 

「どこか良家の……訳ありな子かしら」

 

「どうするの、マザー?」

 

「どうするもこうするもないわ。ここに来た以上、私たちが面倒を見ましょう」

 

 

 その日、孤児院の前にゆりかごに入れられ捨てられていた子供がいた。

 

 

「まっ。ネームプレートまであるわ。やっぱりこの子、訳ありの子ね……」

 

「どれどれ、名前は……センチョウ。そう、あなたセンチョウっていうのね」

 

「沿岸部あたりの子なのかしらね。不思議な名前」

 

「きっとご両親に特別な思いがあったのよ。その思い、私たちが引き継ぎましょう」

 

 

 優しい老院長に拾われたこの赤子こそ、後にモノワルドを席巻する伝説となるなど――

 

 

「あ、笑ったわ。そこそこのイケメンね」

 

「ふふ、さぁ、温かい家の中へ入りましょうね」

 

 

 この時には誰も、予想すらしていなかったのである。

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しんでもらえれば何よりです。

高評価、感想、レビューなど、応援をいただけると色々満たされてもっと頑張れます。
どうぞよろしくお願いします!


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第1章 幼少期編
第002話 俺、目覚める!


投稿して数分で感想貰って何事かと思ったぜぇ。
超ありがとうございます!



 

 

「……《イクイップ》!!」

 

 

 それが、俺が九頭龍千兆という前世を思い出した瞬間だった。

 

 手に持っているのは刃の潰れたナイフ。

 この世界、モノワルドにおける通過儀礼で用いる5才児用の『装備』だ。

 

 いかにもお誕生日パーティーといった風情の部屋の中で、俺は俺を取り戻した。

 

 

「どう? 手に馴染むかしら?」

 

 

 そう言って俺の顔を覗き込む老婆は、お世話になっている孤児院の院長マザー・マドレーヌ。

 大丈夫だと頷いてみせると、笑顔でシワシワの顔がますますシワシワになった。

 

 

「……ふむ」

 

 

 試しに手の平でナイフを弄んでみる。

 すると、まるでこれまでの人生で長く慣れ親しんだ物であるかのように、手の上で踊り、俺を傷つけることなく転がすことができた。

 もちろん、前世を含めて生まれてこの方こんな扱い方をしたことはない。

 

 

「あらあら、センはナイフと相性がいいのね」

 

「いいえ、マザー。この扱い方、短剣全般が得意なのかもしれないわ」

 

「だな。もしかしたら刃物全部いけるかもしれないぞ?」

 

 

 ナイフで遊ぶ俺の姿に、マザーと、同じ院で働く大人たちが騒ぎ出す。

 そんな騒ぎを横目に俺は、今日の主役を見つめる院の子供たちへと目を向けた。

 

 

(マッドにリンダ、ポワンゾにノリスタス……分かる。どうやら5年生きた分の記憶もしっかり蓄積されてるみたいだな)

 

 

 名前と、彼らと一緒に過ごした日々が思い起こせたのを確かめてから、俺はナイフを手に椅子の上へとよじ登る。

 そこには重ねたパンケーキにクリームを塗りたくった、ホールサイズのケーキがあった。

 

 

(ナイフとケーキ、そして誕生日。あとはお察しだな)

 

 

 この世界に生まれ、5才の誕生日を迎えた子供に与えられる最初の役割が、これである。

 孤児の俺に正確な誕生日など分からないが、初めて《イクイップ》を使った日を便宜上の誕生日にできるというのは、素敵な文化だと思った。

 

 院の子供たちは、俺が務めを果たす瞬間を今か今かと待ち望んでいる。

 

 

「……とうっ!」

 

 

 気合を入れて刃をふるう。

 刃の入ってないナイフでも、今の俺にケーキを均等に切り分けるなんてのは造作もなかった。

 

 

「……すごっ」

 

 

 ほぼブレもなく人数分に切り分けられたケーキを見つめ、我がことながら驚かされる。

 

 

(これが……《イクイップ》の力!)

 

 

 事前に神様に教えて貰っていたとはいえ、実際目の当たりにするとやっぱり胸が躍る。

 適正さえあれば、ずぶの素人でもここまでの扱いができる。

 これが世界の普通なのだから、我ながらとんでもない場所に来たと思った。

 

 ちなみに装備の解除は思うだけで出来た。

 ナイフは手に握ったままだったが、感覚的な話、結びつきが外れた感じがあった。

 

 

「さぁ、センがケーキを切り分けてくれたわ。みんなでいただきましょう」

 

「はーい!」

 

 

 マザーの呼びかけに子供たちは歓声を上げ、そこからパーティーが始まった。

 

 財政的に慎ましやかな生活を強いられている孤児院でも、出される料理の質は決して悪くはない。

 スープはちゃんと味がするし、ケーキもちゃんと甘い。

 

 

「おかわり!」

 

 

 食べるに多少の余裕もある。

 

 

(……ゴルドバ爺の計らいってやつかな?)

 

 

 どうにも天涯孤独の身の上のようだが、質の高い孤児院で育てられているようだ。

 位置取りとしてはイージーでもハードでもないノーマルなところだろう。

 

 

(ともかくここが、第二の人生のスタート地点……!)

 

 

 クリームで口元を汚しながら、俺は密かに考えを巡らせる。

 

 

(この世界に多数存在するレアアイテムを、俺は人生をかけて蒐集する。だが、本当に人生をかけて集めるばかりじゃ、この世界を楽しむことはできないだろう)

 

 

 なにしろ人生は一度きり、周回プレイはできないのだ。

 

 レアアイテムを集めつつその力を使い、この世界を存分に謳歌する。

 

 俺がやるべきことは、これだ。

 

 

(どんな状況にも対応できるように、今は自分の能力を磨かないとな)

 

 

 鍛えて、学んで、成長する。

 それが成人前の自分のやるべきことだと決定する。

 

 

(んで、鍛えるといったら、この能力も、か)

 

 

 俺は《イクイップ》とは別に《ストリップ》も使えるようになったと漠然と理解していた。

 

 ゴルドバ爺の言い方から察するに、この能力はおそらく俺だけのもの。

 使いどころは考えないといけない。

 

 

(そう、この力は俺のとっておき、切り札なんだからな!)

 

 

 丁寧に生きよう。

 そんな風にふわっとした結論をつけて、俺は自分のケーキの最後の一切れを頬張った。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 ――3か月後。

 

 

「《ストリーーーーーーップ》!!!!」

 

「ばっ! こらーーーーーー!!」

 

「逃げろー!」

 

 

 拝啓3か月前の俺、丁寧は浜で死にました。

 

 誕生日を迎えてからの俺は、自らの力を最大限使って、アイテム収集の練習に励んでいた。

 

 

「セーーーーーーン! 私の下着を返しなさーい!!!」

 

「ひゃっほーぅ! 50連勝ーーー!!」

 

 

 繰り返し、繰り返し、来る日も来る日も練習の日々である。

 そう、技術というのは毎日の積み重ね。繰り返して体に馴染ませていくもの。

 的確な発動。正確な部位狙いを習得するには、常日頃から難度の高い練習が欠かせないのだ。

 

 

「毎日毎日何度も何度も! 今日という今日は反省室に叩き込んでやるんだからねぇぇ!!」

 

 

 決して勝気な従業員のリザさんが、耳まで真っ赤になってキレ散らかす顔が見たいからやっているわけではない。

 一番反応がいいからって狙い撃ちしているわけではない。

 

 

「セン! すっげぇ!!」

 

「今日もリザの下着盗ったの!?」

 

「最強じゃん」

 

「ふっ、手に入れたはいいがただの下着なぞ俺には無用の長物。またお前たちに授けよう」

 

「ははー!! セン様財宝神様ー!」

 

「晩御飯より前には洗面所の籠に返すんだぞー」

 

 

 厳しい修行の過程であらゆるものを獲得し続ける俺は、今や孤児院のスターとなっていた。

 アイアムいたずらキング。

 

 この頃は何かに秀でてかつ利益を生む存在は、人望を集めやすいのだ。

 

 

「ねぇねぇ、ダンデの下着盗ってきてよ」

 

「リンダまたダンデおじさんのもの欲しがってるー」

 

「うっさいわねポワンゾ。欲しいものを手に入れるためなら手段を選んじゃいけないのよ。ねぇ、セン。おねがい~! またお菓子分けてあげるからー!」

 

「はっはっは、お安い御用だ」

 

 

 御覧の通り、ちょっとこの年から性癖のねじ曲がりが心配な女の子とだって仲良しである。

 

 

「お安い御用……じゃ、ないでしょ!」

 

「げっ、リザ! お前ら助け……いねぇ!?」

 

「はーい。反省室行くわよぉ」

 

「ぎゃー!」

 

 

 たまにお灸をすえられたりもするけれど、俺は元気です。

 

 

「まったく。《イクイップ》を覚えたとたん悪戯っ子になって……」

 

「しゅいましぇーん」

 

「その《ストリップ》? っていうのもよく分からないけど、悪用しちゃだめよ?」

 

「はーい」

 

「……はぁ、全っ然反省してくんないわねぇ」

 

 

 当然である。これは来たる日に向けた、れっきとした修行なのだから。

 

 キリっとした顔で反省室に閉じ込められ、俺ははめこみのガラス窓から外を眺める。

 

 

「……あー。今日もいい天気」

 

 

 青い空、白い雲、のどかな平原。

 

 こんな孤児院にもガラスとか普及してるし、この世界の技術レベルは相当に高いと思う。

 道具を重視する世界ゆえに、その開発競争も激しいのだろう。

 

 

(その上、杖とか装備すると魔法までバカスカ打てるらしいし、何でもありだな)

 

 

 今まで見たことはないが、飛行機くらいなら普通にあるんじゃね?

 

「……はぁ、旅に出たい」

 

 世界はきっとものすごく広い。

 今からわっくわくが止まらないぜ!

 

 

 

 未来のことばっかり考えてたら日が暮れて、晩飯前に俺は反省室から出された。

 その後はテキパキお手伝いして、晩御飯タイムだ。

 

 

「……手伝いとかはすっごく真面目にやるのよねぇ」

 

 

 当然である。あれはあくまで修行であって、孤児院のことは大好きなのだ。

 

 

「それでは今日も、日々の糧に感謝して……いただきます」

 

「いただきまーす!」

 

 

 マザーの号令に従って感謝を捧げ、俺はさっそくスープにパンを浸して頬張る。

 こうすると固めのパンが柔らかくなるし、スープの味がじっくり染み込んで美味い。

 

 いつもはこのまま食事に没頭するところだが、今日はちょっとだけ違った。

 

 

「みなさん、今日はお話があります。食べながらでいいので聞いてくださいね」

 

「んぐんぐ」

 

 

 マザーから突然のお話。

 食べながらでいいということなので咀嚼しながら話を聞く。

 

 

「実は明日、この孤児院に新しいお友達がやってきます。ヒト種の中でも純ヒューマを預かる当孤児院ですが、その子は少しだけ、みんなと違う特徴があります」

 

「もぐもぐ」

 

 

 ヒューマというのは前世基準でいうところの、人間。

 純ヒューマというのは異種間交配もあるモノワルドにおいて、特にヒューマとしての血が濃いヒューマのことだ。

 

 

(それを引き合いに出して、違うとわざわざ言うのなら……)

 

 

 ある種の期待感を持って、俺はマザーの言葉を待った。

 そしてマザーは、俺の期待にきっちりと応えてくれた。

 

 

「明日くる子はヒューマとサキュバスのハーフ。ハーフサキュバスです」

 

「んぐもぐ……ごくん」

 

 

 やったぜマザー。明日はホームランだ!

 どう考えても可愛い子が来る流れ。素直に感謝です。

 

 

「多少の種族特性の違いから戸惑うこともあるかもしれませんが、仲良くしてくださいね」

 

「はーい!」

 

 

 マザーのお願いに元気よくお返事しながら、俺は胸躍らせる。

 

 

(エルフでもドワーフでもなく、サキュバスと来たか。いったいどんな子が来るのやら)

 

 

 頭の中で昔プレイしたゲームのサキュバスキャラたちを思い出してはしみじみしていると。

 

 

「あら、セン。食欲ないの? 食べないなら貰ってあげるわ。あむっ」

 

「お゛っっ!?」

 

 

 大事にとっておいたチーズを復讐の悪魔(リザ)に奪われてしまうのだった。

 

 

 

 そして、翌日。

 

 黒い馬車に乗ってやってきたその少女は――

 

 

「……はじめまして。ミリエラです」

 

 

 同い年とは思えない蠱惑的な見目と、愛らしい声。

 

 

「よろしくおねがいします、ねっ?」

 

 

 そして、計算され尽くした小首を傾げて見せる笑みで。

 

 

「は、はい……」

 

 

 出迎えに出てきた俺たちを、一瞬で魅了したのである。



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第003話 魔性の女ミリエラ!?

着実に見てもらえる人の数が増えてきていてとても嬉しいです。


 

 

 ハーフサキュバスの少女、ミリエラ。

 彼女は俺の予想に反して大人しく、清楚で、人付き合いの良い少女だった。

 ここに来るまで相応の教育を受けてきたのか、理知に溢れた優等生だったのだ。

 

 

「マザー、おはようございます」

 

「はい、おはよう。ミリエラ」

 

「リザさん、シーツのお洗濯ですか? お手伝いしますね」

 

「え、ほんと!? 助かるー」

 

「ダンデさん。お野菜の配達、受け取ってきました」

 

「おう、あんがとさん。その年できっちりお手伝いできるとは、賢い子だなぁミリエラは!」

 

 

 ミリエラが来てから、孤児院の様子はがらりと変化した。

 

 

「ミリエラちゃん。一緒に縫い物をしない?」

 

「ミリエラちゃん! あっちにキレイなお花が咲いてたよ!」

 

「ミリエラ、お手伝いありがとうね。おかげで大助かりだわ」

 

「ミリエラ!」

 

「ミリエラちゃん!」

 

「ミリエラー!」

 

 

 誰も彼もがミリエラを放っておかず、あれこれ目をかけ世話を焼き。

 彼女が自分から何かしてみせれば、それに対して何倍もの反響でもって褒め称える。

 

 

「「ミリエラちゃん、最高!!」」

 

 

 一言でいえば、ミリエラはちやほやされまくっていた。

 

 

 

 対して、俺の方はというと。

 

 

「はっはぁー! 今日もリザの下着ゲーット! さぁ者ども、俺を崇め奉れー!」

 

「………」

 

「……あ、うん」

 

「どうした、前は平伏するくらい喜んでたろ? いらないのか?」

 

「いやぁ……なぁ?」

 

「うん。言いにくいんだけど……そういうのもう、ダサいなって」

 

「なにぃっ!?!?」

 

 

 これまで大反響だった行為が、男どもからまさかの「ダサい。」の一言で一蹴される。

 

 そして。

 

 

「ねぇ、そんなことより庭でミリエラがお歌を歌うって言ってたわよ。行きましょ!」

 

「ちょっと待て、リンダ。望むならダンデさんの下着、今日持ってきてやっても――」

 

「セン」

 

「あ? なんだよ」

 

「……そんなことしても嫌われるだけ。ミリエラちゃんみたいに自分を磨いて本物の大人のレディになって、自分の魅力で振り向かせなきゃ意味なんてないのよ?」

 

「は?」

 

「子供のあんたにゃ分からないだろうけど、それが世界の真実なの。……フッ、ごめんね?」

 

「…………はぁーーーー!?」

 

 

 ついには性癖ねじ曲がり予備軍だったリンダにまで、正論叩きつけられ見放される始末。

 

 

(これは……)

 

 

 俺の頭の中でアラームが鳴り響く。

 

 

「孤児院に、いい子ちゃんブームが来てしまっているだとぉ!!」

 

 

 可愛い子が来たやったー!! とか言っている場合ではない。

 世界の覇者(コンプリート)を目指すべく始まった俺の人生、その最初の試練が早くもやってきたのだ。

 

 

 

「これはまずい、まずいぞ……」

 

「何がまずいの?」

 

「孤児院がミリエラによって支配されてしまっている。俺の天下が大ピンチだ!」

 

「なるほどね。でも今はそれ以上のピンチがあんたを待っているわよ」

 

「あ?」

 

 

 リザだった。

 

 

「反省室!!!」

 

「あいーーーーー!!!」

 

 

 侵略者(ミリエラ)により一気にスターの座を追い落とされてしまった俺は、訪れた窮地に早急な対策を求められていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 前世で読みかじったそれっぽい本に曰く。

 

 

「敵を知り己を知れば、百戦危うからず。だ!」

 

 

 いっぱい知ってる奴は強い。だから勝つ。という意味に違いない。

 勝利を確実なものにするためにはまず、相手の情報を集めるところからということだ。

 

 というわけで俺は、ミリエラについて観察することにした。

 

 

「……んっ、しょっと」

 

 

 マザーに頼まれ庭の野菜畑を世話するミリエラを、木の陰から覗き見る。

 

 

(……っかー。じっくり見るとやっぱり美少女だな)

 

 

 サキュバス族。

 あらゆるヒト種と子を成す力を持った女性のみの種族だと、本には書いてあった。

 それはハーフも同じであり、例外としてつがい側の血が濃く出た異種族の純種としてでなければ、男性は生まれないそうだ。

 

 またサキュバス族はそのいずれもが、何かしら魅惑的な力を持っているらしい。

 

 目を惹きつける美貌。

 フェティシズムをくすぐる肉体。

 人心を弄ぶ小悪魔的精神性。

 蕩けるような甘く囁きかける声。などなど……。

 

 あまねくヒト種を魅了して、絡めとり、精を吸い上げる耽美の化身。

 それがサキュバス族であり、そのハーフである。

 

 

「……とはいえ、本の知識と現実は違うよなぁ」

 

 

 本に書いてあったサキュバス情報は、俺の前世知識のどスケベ種族様とそう遠くない内容だった。

 

 じゃあ、今ここで畑に水をやっているミリエラはどうだといえば、半分正解くらいじゃなかろうか。

 

 全体的にピンク色で、毛先あたりだけがクリーム色に染まった髪。髪型はポニテ。

 やや垂れ気味の目には5才という幼さにして色気を感じるまつ毛があり、瞳は金色。

 小顔めに整った美貌はヒューム族における美人ど真ん中を行くもので、将来性も抜群。

 細く華奢な肢体は、栄養不足というよりも肉が締まっている印象を受ける。

 

 この完璧な顔で愛らしく微笑んだり小首を傾げたりすれば、まぁまず男はノックアウトだ。

 実際たまに見せてるその顔で、我が孤児院の男子どもは骨抜きにされている。

 

 

(見た目的には間違いなく、サキュバスオブサキュバスだよなぁ)

 

 

 だが、だがである。

 総じて末恐ろしさを感じるその見た目に反して、その心根は純粋無垢としか思えない。

 

 その美貌で他者をコントロールする様子もなければ、露出の激しい服を好む感じでもない。

 従順で、善良で、まさしく優等生然とした振る舞いは、お色気キャラとは程遠い。

 

 

(サキュバスとしての血が薄めのハーフだから、ってことか?)

 

 

 いっそ今やっているすべてが計算ずくで、オタサーの姫的に動いていると疑ってみるか。

 だがそれにしたってミリエラの普段の動きは利他的に過ぎる。

 

 孤児院すべてに伝播するレベルの可愛く真面目なスーパーいい子ちゃん。

 それが俺の目から見えているミリエラだった。

 

 

「……あっれぇ? 俺、勝ち目なくねぇ?」

 

 

 現状のいい子ちゃんブームを巻き起こしているその当人が、完全無欠のいい子ちゃんである。

 すでに主導権は奪われ、しかもおそらく奪った当人にその自覚がない。

 

 本人はこれからも変わらずいい子であり続け、それに影響を受けたみんなもいい子になる。

 みんないい子で手間いらず、大人もハッピー、子供もハッピー。万々歳。

 

 

(この俺を除いてな!!)

 

 

 ガキ大将的ムーブで孤児院を手にしていた俺とは真逆のベクトルである。

 

 

(何かに秀でてかつ利益を生む存在は、人望を集めやすい)

 

 

 俺よりスター性に富みかつ大人の覚えもいいミリエラがいる限り、俺の天下がないのは明白。

 しかし今だからこそできる鍛錬の機会を、俺は奪われるわけにはいかない。

 

 序盤の効率的な熟練度稼ぎが後々のプレイを左右するなんてのは、ゲーム攻略の王道である。

 

 

(たとえ今、勝ち目がなくても……)

 

 

 俺はふわふわ揺れるピンクのポニーテールを見つめながら決意する。

 

 

(近いうちに必ずお前を追い落とし、俺の天下を取り戻してみせる!)

 

 

 こうして俺は、孤児院にいたずらという悪徳を再び栄えさせるべく、さらなる知恵を絞り始めるのだった。




ひとつ屋根の下に美少女サキュバスなんていたら普通に性癖ねじ曲がると思う。

ここまで読んでくださりありがとうございます!
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この後も区切りのいいところまでは毎日投稿予定なので、よろしくお願いします!


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第004話 ミリエラの真実!

オリジナルの異世界転生ファンタジー。
擦られまくってるネタの中でもこうして読んでくださる方がいることに感謝しまくりの4話をお届け!

このジャンルが好きって人に楽しんでもらえるよう投稿続けたいと思うので、応援よろしくお願いします!


 

 

 ミリエラが孤児院に来てから2か月が経った。

 孤児院はもうすっかりいい子ちゃんの巣窟となってしまい、ほのぼのした空気が毎日を彩る。

 

 

「ぐぉらぁぁぁぁ!! セーーーーーーン!!!」

 

「はーっはっはっは! これで80連勝だぁぁぁぁ!!」

 

 

 だがそんな日常に俺は迎合することなく、変わらず練習と研究の日々を続けていた。

 いい子ちゃんブームのせいで仕掛け時が難しくなったが、それもまた修行と割り切っている。

 

 最近気がついたこととして、神様からパクった布(孤児院に拾われたとき守り布として俺を包んでいた)を《イクイップ》してると、色々と調子が良くなるってのがあった。

 なんかのチートが働いているんじゃないかと思うが、この手のパワーアップアイテムは最初期から装備してもあんまりいいことがないので今は封印している。

 ステータスアップは能力値が低い状態の方が伸びがいい、というのも定石だからだ。

 

 

「センの奴、まーたやってるよ」

 

「学ばないなぁあいつも」

 

「まったく、ちょっとはミリエラを見習っていい子にすればいいのに。ねぇ、ミリエラ?」

 

「え? あ、うん……」

 

 

 モブたちが何を騒ごうが知ったことではない。

 俺は来たるべき未来に向けて、今のうちから必要行動を満たしているのだ。

 

 

(そう、必ずこの状況を打開してみせる! 見てろよ、ミリエラ!!)

 

「……?」

 

 

 目が合ったミリエラが不思議そうに小首を傾げる。可愛い。

 っていうかちょくちょく目が合うんだよな。俺のことを見てくれてる?

 

 え、マジ? 俺の溢れる魅力に気づいてる? ヤバいな、これは照れちまうぜ。

 

 

「…………ハッ! ぬおおおおおお、負けるかぁぁぁ!!」

 

 

 天然(ミリエラ)、恐るべし。

 

 

「はぁ、はぁ、ヤバかった。だが、笑ってられるのも今のうちだぞ」

 

 

 強烈な精神攻撃から全速力で撤退しつつ、俺は近々実行する作戦を思いほくそ笑む。

 

 

(クックック、もはや勝利は目前だ。情報は、集まったのだから!)

 

 

 ミリエラ攻略大作戦。

 勝利の鍵は、大人たちの会話の中にあった。 

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 それは1か月ほど前のこと。

 孤児院の廊下で立ち話をする従業員たちの会話を、俺はたまたま耳にした。

 

 

「――でも、ミリエラちゃんも可哀想ね」

 

「!」

 

 

 なかなか聞き捨てならないフレーズに、俺は即座に物陰に隠れ聞き耳を立てる。

 

 

「不義の子、っていう奴でしょ? 立場のある者同士の間に生まれた子供なんて……」

 

「ええ。それもかなりの権力者同士の子だから、表沙汰にはできないとかで、ここに来る前はお屋敷の外にもほとんど出されたことがなかったそうよ」

 

「えぇ……そんなことあるの?」

 

(……不義の子、お屋敷から出されない。ねぇ?)

 

 

 センシティブな単語の数々に、俺は自然と眉根をひそめていた。

 

 

「それでも愛されてなかったわけじゃなくて、厳しく教育してたのも表沙汰になった時に堂々と振る舞えるようにってことだったらしいけど……」

 

「それだって大人の都合じゃない。いい子に育ったのは、悪いこととは言わないけどさ」

 

「まぁまぁ。そして今は、一人でも生きていけるように社会勉強としてここに預けられたってわけ」

 

「うげぇ、それって後々手放す気満々ってことじゃない」

 

「でも、そう悪いことではないと思うわよ、私はね。それに結構な額がここに入ってきたらしいし!」

 

「結局金かい! もぅー、そんなことより聞いてよ。この間ダンデさんが……」

 

 

 話題が切り替わったところで、俺はその場からこっそりと立ち去った。

 

 

(なんとも複雑な事情でここに来ていたようだな。ってか託児業までやってたのかここ)

 

 

 お偉方の秘密の子供を受け入れるあたり、思った以上にここはすごい場所なのかもしれない。

 あの底抜けに優しいマザーのことを思えば、それくらいの懐深さはありそうだが。

 

 だが今は、そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。

 

 

(考えるべきは、ミリエラについてだ)

 

 

 彼女の人となりを知る上でとても価値のある情報を俺は得た。

 前提条件が変われば、人を見る目は変わる。見えてくる物も違ってくる。

 

 最初は意味不明だった言動も、後々回収された伏線を見たら理解できたりするものなのだ。

 

 

(改めて、あいつのことを観察してみるとしよう)

 

 

 こうして俺は、手に入れた情報をもとに再びミリエラを注視し始めた。

 すると案の定、見え方が変わったおかげで、新たな気づきを得る。

 

 

「ミリエラちゃん! 一緒にお人形遊びしよっ!」

 

「うん、いいよ」

 

「ちょっと、ミリエラは私と一緒に遊ぶのよ! ね、ミリエラ!」

 

「え、あ、その……」

 

 

 ミリエラは頼みごとを断らない。否、断れない。

 頼まれごとに優先順位をつけられず、頼まれた先から向き合っていく。

 だから今みたいにブッキングするとオロオロとしてしまう。 

 

 

「あ、手伝います」

 

「えぇ? いいのよこのくらい」

 

「いえ、手伝います。手伝いたいです」

 

「……そう? じゃあお願いね」

 

 

 大人の手伝いを積極的にするのも、そうするべきだからしているのであって、心から手伝いたくてやっているのではない。

 むしろ、手伝わないことのリスクの方を気にしている節すらある。

 

 

「……というか、そもそもだ」

 

 

 言葉遣いだってキッチリしすぎているし、振る舞いも大人びすぎている。

 5才児なんてケツ出してダンス踊ったり、嫌いなものペッて吐き出したりがデフォルトだ。

 

 もっとわがままで、自由で、良いも悪いも知ったこっちゃない年頃のはずなんだ。

 

 

「真面目ないい子のミリエラちゃん、ね」

 

 

 第二の人生を送っていても、人の心の機微を理解するのは難しい。

 

 だが少なくとも、こんなバカな俺でも分かることはある。

 

 

「……窮屈そうな生き方してんだよなぁ」

 

 

 親の教育のたまもので、実際それに力があって機能して、孤児院は変わった。

 だが、変えた本人が過ごしやすい場所じゃないのなら、それに価値はあるのだろうか。

 

 

「へっ。純粋培養のいい子ちゃん、上等だ」

 

 

 こうして俺はミリエラ攻略の糸口を発見し、打開計画を練り上げていったのである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 そして、作戦決行の日。

 

 

「ミリエラ。おい、起きろ、ミリエラ……」

 

「ん、んん? ……だぁれ?」

 

「俺だ。センチョウ、センだ」

 

「……ふぇ?」

 

 

 俺は空に星が瞬いている時間に、ミリエラのいる寝室に侵入し、彼女を目覚めさせた。

 

 

「お前に俺のとっておきを見せてやる。来い」

 

「え? え?」

 

 

 戸惑うミリエラの手を掴み、寝間着姿のまま外へと連れ出す。

 薄手の生地で出来たパジャマが月明かりに照らされて透き通り、華奢なラインを影に映した。

 

 

「あぇ、ちょ、待って……」

 

「待たない。ほら行くぞ!」

 

 

 俺はろくに事情も説明せずに、孤児院の敷地からもミリエラを攫っていく。

 

 

「だ、だめ……!」

 

 

 悪ガキである俺は何度となく繰り返してきた行為だが、善良な子供であるミリエラにとっては信じがたい出来事のようで、彼女はいざ脱出する段階でわずかな抵抗をみせる。

 

 

(だが、わずかだ)

 

 

 俺は自分の読みが正しいことを確信し、彼女の手をより力強く引っ張る。

 

 

「いいからいいから、そら!」

 

「ひゃあ!」

 

 

 するとあっさりミリエラも敷居を跨ぎ、孤児院の外へと飛び出した。

 

 

「行くぞ!」

 

「あ、ぅ……」

 

 

 何が起こっているのか分からない。

 だがそうやって困惑しながらも、これ以降、俺が握った手を振り解こうとはしなかった。

 

 

 

(……計画通りだ!!)

 

 

 俺は自分の立てた作戦の完璧さに内心で自画自賛しまくっていた。

 

 真面目でいい子、だけど窮屈そうな女の子にするべきことは、決まっている。

 

 

(ちょっとロマンチックで悪いことをする。これ以上の作戦は、ない!)

 

 

 俺が前世でプレイしまくったギャルゲーに登場してきた真面目系ヒロインとちょい悪主人公のカップリングなんて、あげだしたら枚挙にいとまがないほどの王道である。

 

 生真面目に生きてきた子がちょい悪シチュエーションを体験し角が取れる、あるいは肩の力が抜ける。

 そうすれば潔癖な世界に余裕が生まれ、濁りが混じってもそれを受け入れるようになる!

 

 

(いける、いけるぞ……!)

 

 

 俺はこの計画を完璧に遂行するための完璧なプランを用意した。

 

 これからミリエラを、今の俺が用意することのできる最高のロマンチック空間へ連れていく。

 そしていざその景色を目の当たりにさせたところで、明確に上下関係を確立させる。

 

 そうすればもう、俺がいたずらしようがそれをミリエラが目こぼしし、その弛緩した空気が再び悪を許容する世界へと孤児院を舞い戻らせる!!

 

 

「どこ、行くの?」

 

「もうすぐだ!」

 

 

 ミリエラの手を引き俺が向かったのは、孤児院の近くにある一番背の高い丘の上。

 

 

(時間も完璧だ。もう、夜が明ける……!)

 

 

 星が、その姿を隠し始める。

 空が、白みがかって世界を塗り替えていく。

 

 

「ほら、ミリエラ。あれを見ろ!」

 

「え? ……わぁ!」

 

 

 指さした方向に、それはある。

 

 

「あれが世界の、朝の産声だ!」

 

 

 視界の先に広がっているのは遠い山並み。

 そしてその隙間から顔を覗かせる、輝きに満ちた朝日である。

 

 

「……キレイ」

 

 

 俺の用意したとっておきの景色に、ミリエラの瞳に輝きが満ちる。

 今、彼女はおそらく人生初の絶景に、その心が感動の渦に包まれていることだろう。

 

 ――だからこそ、それをトラウマに変える!!

 

 

「悪いな。俺の人生のために、犠牲になってくれ」

 

「え?」

 

 

 俺のつぶやきにミリエラが振り返った、その瞬間。

 

 

「――――《ストリーーーーーップ》!!」

 

 

 俺は呪文を発動し、ミリエラの着ていた装備を“すべて”剥ぎ取ったのだった。

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とかしてもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。
今の時代、まず見てもらえるのが大事だってばっちゃんが言ってたんで。

次回、どうなってしまうのか。よろしくお願いします!


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第005話 世界はこんなに美しい!

全裸、好きかい? ああ、大好きさ! な5話をお届け!

しおりとかお気に入りとかありがとうございます!
じわじわ増えている読者さんの数を見るのがめちゃくちゃ楽しいです。
一緒にこのお話楽しんでもらえたらこれ幸い!
よろしくお願いします!


 

 

 全裸である。

 太陽の光に照らされ影になっているが、俺の目の前にはミリエラの全裸があった。

 

 

「……え?」

 

 

 下着も、パジャマも、モノワルドに住む5才以上のヒト種は基本的に装備している。

 装備とはつまり《イクイップ》であり、そうすることで着心地や眠りの質が向上するからである。

 

 ゆえに、俺の全力の《ストリップ》でミリエラの服はすべて剥ぎ取られ、裸になった。

 

 

(……恨んでくれていいぜ、ミリエラ。俺はコンプのため、悪魔に魂を売った男なんだからな)

 

 

 俺は、俺の望む形で孤児院を変えたい。

 ゆえに、ここでミリエラに寄り添い俺が折れることは……ない!

 

 

(俺が望むのは悪徳がはびこる環境であり、いたずらが日々横行する世界だ)

 

 

 それを成立させるには孤児院の根っこ、根底から前の悪ガキどもの世界へと戻す必要がある。

 

 

(そのためにはふんわりとした関係を作るより、明確なマウントをとることが必須!)

 

 

 だから俺は、ギャルゲーを拒絶する!

 今の俺に必要なのは、他者を蹴落としてでも自らの領土を広げる、国盗りゲーなのだ!

 

 

(最高のシチュエーションで全裸にされるという最悪の出来事は、ミリエラのトラウマになる)

 

 

 そんな最悪のことをした存在を彼女は恐れ、その者の行いを恐怖から許容するようになる。

 取り繕っただけの善は意志を持った悪の前に無力。抑止力にもならなくなる。

 

 ウェルカムバックトゥいたずらワールド。

 

 そして世界は再び、いつ誰にいたずらされてもおかしくない戦乱の世となるのだ。

 

 

(さぁ、泣け。叫べ。最悪の絶望を前に恐怖の汚声をあげろ!!)

 

 

 たとえどれだけ嫌われようとも、俺は俺の道を行くことを止めはしない!!

 

 

 

 そうして覚悟ガンギマリの俺は、ミリエラを見る。

 

 すべてを剥ぎ取られ生まれたままの姿になった彼女は、太陽を背に立ち尽くし――

 

 

「……は」

 

「は?」

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぅうううううあううんんんんんんんん!!!」

 

 

 

 

 

 叫びと共に全身をびくんびくんさせて、その場に膝をついて崩れ落ちた。

 

 

「……は?」

 

「あ、あひぇ……あひへぇ…………」

 

 

 草っぱらの上で仰向けに倒れるミリエラの表情は恍惚に染まり、蕩けきっている。

 頭と腰にそれぞれ蝙蝠のような1対の羽が飛び出て、それもまたビクビクと震えている。

 

 

「……え?」

 

 

 今もなお、びくんっ、びくんっ、と全身震わせる彼女を見下ろし。

 

 

「……ホワッツ?」

 

 

 何が起こったのか分からない俺は、ただ目の前の出来事に戦慄するしかなかった。 

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 わたしにとって世界のすべては、2階建てのお屋敷のことだった。

 生まれた時から一度たりとも、両親にお屋敷の外へ連れ出して貰ったことはなかった。

 

 そもそもパパとママにとって、わたしは予定にない子供だった。

 

 

「………」

 

 

 この世界で避妊することは容易い。

 様々な避妊具が開発されているし、避妊魔法も避妊薬だってある。

 

 だから楽しむための交わりに対するハードルは低いし、奔放な人もそれなりの数がいる。

 

 だからきっと、わたしを作った時の両親は、気の迷いでも起こしたんだろう。

 それは酔狂だったのか、はたまたどちらかがどちらかを化かしたのか。

 

 いずれにせよわたしは生まれ、公にできないからと屋敷に閉じ込められた。

 両親ともによく顔を見せてくれたけど、家族3人で団らんする時間なんてほとんどなかった。

 

 不義の子。

 それがわたしに貼りつけられたレッテルだった。

 

 

 

「ミリエラ、この本を読みなさい」

 

「ミリエラ、お稽古の先生がいらっしゃったわよ」

 

 

 パパはわたしに読み書きを教え、ママはわたしに色々な習い事を経験させた。

 よくできたなら褒められて、できなかったら何もなし。

 

 何もないまま終わるのが、そのままお別れみたいに感じて、わたしは必死に練習した。

 練習していい子になるたび、両親はホッとした顔を浮かべていた。

 

 

 

 一度、外に出たいと駄々を捏ねたことがある。

 読んだ本の中に、キレイな景色を描いた絵があったからだ。

 

 この風景を見に行きたいとおねだりしたら、パパもママも、悲しそうな顔をした。

 そしてわたしの頭を撫でて「ごめんね」とだけ口にした。

 

 

(ああ、わたしはきっと。ずっとこのお屋敷から出られないんだ)

 

 

 その時わたしは、自由という言葉と、不自由という言葉の意味を知った。

 

 

 

 5才の誕生日を迎えた時、メイドがわたしに近々孤児院へ連れて行くのだと言った。

 そこは屋敷の外なのかと尋ねたら、くしゃりと顔を歪ませてから「そうですよ」と答えた。

 

 窓の黒い馬車に乗せられて、わたしは長いこと揺られたと思う。

 

 到着した場所にあったのは知らない顔たちと、新しい不自由だった。

 

 

 

 新しいお屋敷は、前よりも少しだけ自由で、前よりももっと不自由だった。

 家の外に出られるようになって、でも、たくさんの人の前でいい子でなければならなかった。

 

 ちょっと年上の女の子と一緒にお裁縫をしたり。

 とっても年上の人のお仕事のお手伝いをしたり。

 優しそうなお婆さんの号令の後にいただきますをしたり。

 

 寝る時も一人じゃなくて、ずっといい子じゃないといけなくて。

 

 

(……疲れる)

 

 

 正直言って最悪だった。

 

 

(もう帰りたい。おうちに帰りたい)

 

 

 そんなことを思いながら眠りについた、夜のことだった。

 

 

 

「ミリエラ。おい、起きろ、ミリエラ……」

 

「ん、んん? ……だぁれ?」

 

「俺だ。センチョウ、センだ」

 

「……ふぇ?」

 

 

 わたしはこの場所で一番のいたずらっ子に無理矢理揺すり起こされた。

 とっておきを見せるとか言って、着替える間もなくわたしを外へと連れ出していく。

 

 いけないことだ。悪いことだ。

 そんなことをしたら、パパとママがいなくなる、ここに迎えに来てくれなくなる。

 

 怖いって、そう思ってたはずなのに。

 

 

「いいからいいから、そら!」

 

「ひゃあ!」

 

 

 気がついたらあっさりと、わたしはお屋敷から飛び出していた。

 

 

 

 連れてかれたのは丘の上。

 なんにもない、ただちょっとだけ他よりも高いところ。

 

 何を考えているのか分からない男の子の隣で、わたしは彼の言うままに待たされた。

 どうしてだかずっとドキドキしていて、ちょっとだけワクワクもしていた。

 

 そんな彼が、突然騒いで指をさす。

 

 

「ほら、ミリエラ。あれを見ろ!」

 

「え? ……わぁ!」

 

 

 男の子の見せたかった、とっておき。

 それは、お山の向こうから顔を出す、朝の太陽のことだった。

 

 キラキラで、真っ白で。

 

 

「あれが世界の、朝の産声だ!」

 

 

 男の子の言う通り、世界がおはようって言ってるみたいで。

 

 

「……キレイ」

 

 

 わたしの中のドキドキが、いつか見た本の景色に憧れたときみたいなわくわくが。

 

 世界が、自由が、ここにある気がして。

 

 

「悪いな。俺の人生のために、犠牲になってくれ」

 

「え?」

 

 

 突然の声に振り返った、その直後。

 

 

 

 

 わたしは裸になった。

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 着ていた服が、男の子の手に剥ぎ取られていた。

 

 

「……は」

 

 

 何にも身に纏ってない体に、太陽の光がピリピリと突き立って。

 素足で踏みつけた草が、土が、なんだかとってもくすぐったくて。

 吹き抜ける風が冷たいような温かいような、とにかく不思議な気持ちがして。

 

 そして何より、目の前でわたしを見る男の子の目が、あまりにも真剣で、鋭くて。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぅうううううあううんんんんんんんん!!!」

 

 

 

 

 

 その気持ちよさに耐えられなくて、崩れ落ちながら。

 

 

 

 

(…………あ、そっかぁ)

 

 

 

 

 わたしはこれが、自由なんだなって理解した。

 

 

 

 

「あ、あひぇ……あひへぇ…………」

 

 

 

 

 そして彼に。

 

 

 セン君に。

 

 

 生まれて初めての恋をした。

 

 

 

(……パパ、ママ。ありがとう)

 

 

 わたし、運命の出会い、しちゃったよ。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 時間にして1分くらい後。

 戦慄のフリーズから復帰した俺は、慌ててミリエラを抱きかかえ声をかける。

 

 

「おい、おい。大丈夫か!?」

 

 

 頭や腰から羽が生えたり、びくんびくんしてたり、明らかな異常が発生している。

 羽生えてサキュバスっぽさが増したとか言ってる場合じゃないのは明らかで。

 

 過度なストレスに対し、彼女の身に何か良くないことが起こった可能性があった。

 

 

(トラウマになれとは言ったが、ぶっ壊れられちゃ困るんだよ!!)

 

 

 俺は何度も何度もミリエラに声をかけ続ける。

 すると焦点が合ってなかった彼女の目が次第に整い、ゆっくりと俺の顔に目線を合わせた。

 

 

「大丈夫か、ミリエラ?」

 

「………」

 

「なんだ、どうした? どこか痛むのか?」

 

 

 無言で俺を見つめるミリエラにまた声をかけるも、相手はどこか上の空で。

 

 

「大丈夫なのか? ミリエラ?」

 

 

 かなりヤバいと思えてきた、その時。

 

 ミリエラが口を開く。

 

 

「……セン君」

 

「なんだ!?」

 

「世界って」

 

「え?」

 

「……世界って、こんなに美しいんだね」

 

「は?」

 

 

 意・味・不・明!

 

 ミリエラの言葉の意味を考える、そんな間すらなかった。

 

 

「セン君っ!!」

 

「うおぁっ!?!?」

 

 

 突如として起き上がったミリエラに押し倒され、そして。

 

 

「んー!」

 

「んぐーーーーーー!?!?」

 

 

 俺は第二の人生初のキスを、彼女に奪われた。

 

 ファーストキスは朝日の下で、ハーフサキュバスな全裸の幼女に蹂躙されるキスだった。

 

 




脱衣。

ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とかしてもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。
今の時代はヒトの目につくのが大事だよって存在しない記憶の爺ちゃんが言ってました。

次回、新たな展開に……レディ、ゴー!


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第006話 昨日の標的は今日の恋人?

前回の話の投稿以降、読んでくれる人がさらに増えました。つまりはそういうことだな?
まったく、みんな大好きだぜ!

ということで6話です。
またお気軽に楽しんでってください。とっても嬉しいので!
それではよろしくお願いします!


 

 

 結論から言おう。

 

 俺は、失敗してしまった。

 

 

「セン君、セン君っ!」

 

 

 栄えある治安世紀末な孤児院を取り戻すべく、ミリエラに最高の体験をさせてから最悪のトラウマを植えつけよう大作戦を実行した――その結果。

 

 

「セン君、セーンーくーんー」

 

「………」

 

「……返事しないと、チュー、しちゃうよ?」

 

「はーい。っていうか、俺の膝の上にのって抱き着いて、返事も何もないだろうが!」

 

「えへへー」

 

 

 どういうわけだかミリエラの好感度が天元突破、なつき度1000%になったのである。

 

 つまり、ハーフサキュバス幼女を全裸に剥いたら、その日から好き好き言い出した件。

 

 ……うん! わけがわからないよ!

 

 

 

「セン君、セン君!」

 

 

 ミリエラはあの日以来、四六時中俺の後ろを付いてくるようになった。

 この付いてくる先が本当に場所を選んでなくて、ヤバい。

 

 

「セン君セン君、どこいくの?」

 

「トイレ」

 

「はーい」

 

「……って、一緒に入ろうとするんじゃない!!」

 

 

 さらに、事あるごとに絡んできては、ハーフサキュバスの名に恥じない猛アタックだ。

 たとえば俺の日課である技術研鑽の時間にひょっこり顔を出した場合――。

 

 

「セン君セン君、なにするの?」

 

「《ストリップ》の練習だ」

 

「……脱がすの?」

 

「そうだ……って、え?」

 

「セン君なら、……いいよ?」

 

「ばっ! 自分からスカートたくし上げるなぁ!!」

 

 

 ご覧の有様だよ!!

 

 

「セン君だったら、わたし、何されても……」

 

「しない! しないから! っていうか《ストリップ》は奪うための技であって、そんな望んで捧げられても困るってのー!!」

 

 

 桃色全開のミリエラの振る舞いに、俺はすっかり振り回されていた。

 

 

 

 正直かなりやばい状態になってるミリエラだが、幸いその原因についてはすぐに知ることができた。

 彼女に突然生えた頭翼と腰翼を見たマザー・マドレーヌが、その答えを知っていたのだ。

 

 

 曰く、ハーフサキュバスの“覚醒”。

 

 

 サキュバス族が生まれ持った執着心の発露、魅了向上、精力増強などの種族特性が後天的に発現する現象で、本来は心がある程度整った12歳頃に発生し、思春期の始まりとして扱われるものらしい。

 

 元々早熟気味なミリエラだったが、大きな精神的衝撃から5才にして覚醒してしまい、その結果、育ちきってない体と心のバランスが大きく崩れ、乱れ、今みたいに感情の歯止めが利かない状態になってしまった。

 本来出し入れ自由なはずの頭翼と腰翼が、ずーっと出しっぱなしになっているのもそのせいだとか。

 

 つまり、俺が《ストリップ》でトラウマを植えつけるはずが、逆に彼女の覚醒を促し――。

 

 

「セン君、セン君。だーい好きっ」

 

 

 この、超ド級えちえち美幼女俺のこと大好きハーフサキュバス幼馴染ミリエラ大・爆・誕っ!

 

 ……へと、繋がったわけである。

 

 

 

「今、彼女の口から語られている言葉は本音だよ。だから、センがちゃんと向き合っておやり」

 

 

 マザーの鶴の一声で、事態が落ち着くまでのミリエラの相手は俺が務めることになった。

 ただ、みんなの前で言われたマザーの言葉と、当のミリエラ自身の言動から、孤児院での俺の立場は大きく変化することになった。

 

 

 

 即ち、ミリエラ対処班……ではなく、ミリエラの“いい人”。

 

 それこそが孤児院で与えられた俺の、新たな役割だった。

 

 

 

「あらー、今日もいちゃついてるわねぇ。可愛いカップルさん」

 

「くぅ! どうしてオレじゃなくてセンなんだよミリエラちゃーん!」

 

「……目の毒」

 

「ぐぬぬぅっ。やっぱり愛は言葉にしなきゃ、行動で示さなきゃ、伝わらないのね!! ダンデー! アイラービュー!!」

 

 

 そこはかとなく桃色雰囲気に染まった孤児院のみんなは、俺たちを温かく見守り始めた。

 

 

「お、ミリエラは一緒じゃないのか?」

 

「ミリエラ、センならそこだよー」

 

 

 事あるごとに気を利かせては、俺たちをひとまとめにするようになり、結果。

 

 

「セン君、セン君っ!」

 

「ぐおおおおっ、昼寝タイムにまでひっついてくるな! 暑苦しいぃ!」

 

 

 俺の自由はべたべたしたがるミリエラの行動も相まって、完璧に封じられてしまったのだ。

 

 

 

(どうして、どうしてこうなったーー!?)

 

 

 完全に予想外の展開に、俺はどうにか打つ手がないかともがき続ける。

 

 だがしかし。

 

 

「好きー!」

 

「がぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 覚醒して身体能力が向上したミリエラから、まだ未成熟なヒューマである俺は逃れることができない。

 しかも覚醒すると一部装備適性もあがるとかで、ミリエラもその効果を存分に発揮しているらしかった。

 

 サキュバス族の特性。下着全般に適性高めって、かなりズルいのではないかと思う。

 毎日穿くじゃん! 絶対穿くじゃん! チートだよ、チート!!

 

 

 

「センく~ん」

 

「ぐぎぎ……はぁ、やめやめ。引き剥がせん」

 

 

 今日も今日とてべったりくっつくミリエラを見る。

 

 

「あ、えへへ……」

 

 

 試しによしよしと彼女の頭を撫でてみれば、ミリエラはふにゃりと蕩けた笑みを浮かべた。

 

 ピンクの髪が揺れて、金の瞳が揺れて。

 

 5才にして将来性抜群のビジュアルを誇るハーフサキュバスの微笑みは、やはりというかとんでもない破壊力で。

 

 

(……これはもう、結果オーライってことにしておこう)

 

 

 仕掛けたのは俺の方だ。ならば、この結果は甘んじて受け止めなきゃいけないだろう。

 

 それに、やっぱり、その、あれだ。

 

 

(美少女に好かれるってのは、すっごく嬉しいからなぁ……ふへへ)

 

 

 ピコン!

 破棄されていたギャルゲー脳が、無事帰還しました。

 

 

 

「よーしよし」

 

「うぇへへぇ……セン君もっとぉ~」

 

 

 溶けてるミリエラをさらに撫でつつ、俺は計画の練り直しを始める。

 

 

(こうなった以上は、ミリエラも巻き込んでしまうか)

 

 

 見方を変えれば、ミリエラは強力な味方だと言えなくもない。

 賢く、将来性もあり、何より俺のことを好いてくれている彼女は、得難い存在ではないか。

 あと可愛いし。

 

 

(そうと決まれば、さっそく俺の未来絵図を語って聞かせねば!)

 

 

 脳内会議で計画変更!

 ミリエラをガッツリ仲間にして、レアアイテムコンプへの道に大いに役立てる!

 

 作戦決行即相談! 勧誘してパーティーINだ!

 

 

「ミリエラ、話がある」

 

「なぁに、結婚式の日取り?」

 

 

 おや?

 

 

「それは……後々の課題ということで」

 

「うんうん、そうだね。まずは婚約からだね!」

 

 

 おやおや?

 

 

「よし、ミリエラ。まずは落ち着こう」

 

「大丈夫だよセン君。今のわたしはこの上なく冷静だから!」

 

 

 おめめぐるぐる、吐息はぁはぁ。

 

 

「……Oh」

 

 

 ハハッ。まいったねこれは。

 

 もしかしてキミ、新属性(ヤンデレ)追加されてないかい?

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 あくる日。

 普段から寝泊まりに使っている4人部屋、にて。

 

 

「レアアイテムコンプリート?」

 

「そうだ。それが俺の生涯を賭けて目指す大目標だ」

 

 

 俺はミリエラに、『財宝図鑑』と『神の布』を見せながら事情を説明した。

 もっとも、転生やら神様やらって話は言っても混乱させるだけだから、両親から託された物を見てそう志した、という話に変えておいたが。

 

 

「財宝図鑑……この表紙、読めるの?」

 

「ああ、そのまんま財宝図鑑って書いてあるぞ?」

 

「へぇ……」

 

 

 ミリエラは興味深そうに財宝図鑑を手に取って開けようとするが、本は開かない。

 どうにも財宝図鑑は俺専用のアイテムらしく、俺以外の誰にも開くことができなかった。

 

 ちなみに神の布は普通に布だから、今はミリエラが首に巻いている。

 布に髪がもふっと乗っかってて、まるで純白のマフラーをしてるようでとても愛らしい――。

 

 

(……あれ、待てよ? あれって確か神が全身に巻いてた……)

 

 

 神が、全身に、巻いていた。

 

 

「ミリエラ、脱げっ!」

 

「えっ、セン君いきなり大胆……でも、いいよ?」

 

「待て待て! その布。布だけな!? スッとかはらり……とかしなくていいから!!」

 

「ぷぅー」

 

 

 俺は頭の中に浮かんだUの字を振り払いながら、着ているもの全部脱ぎ始めたミリエラを止めつつ、神の布だけ回収した。

 

 

(いやまぁ、ばっちぃってことはないとは思うが……)

 

 

 これも、俺専用だな(決意)。

 いざって時を除いては、まだまだタンスの肥やしである。効果もまだ未知数だしな。

 

 謎のアイテム『神の布』。

 装備するとなんか調子が良くなる以外は、未だ不明のままだ。

 

 

 

「ふーむ……」

 

 

 脱衣チャンスを逃したミリエラが、開くことのできない財宝図鑑を手に、俺のベッドに寝転びながら口を開く。

 

 

「セン君にしか使えない秘密のアイテムかぁ……すごいね」

 

 

 素直なお褒めの言葉がとても心地いい。

 ミリエラの声はいつまでも聞いていたくなる甘い声だ。

 

 

「だろ? だから俺はこの本に、世界中のレアアイテムを集めてやるんだ」

 

 

 得意げに鼻を鳴らす俺に、ミリエラが身を起こし、ずいと顔を寄せてくる。 

 密着することに迷いがない彼女は、そのまま俺の腕を掴むとピッタリとくっついた。

 

 

「ねぇねぇ。だったらセン君……大人になったら、孤児院を出て世界を旅するんだ?」

 

「そうなるな」

 

「じゃあ、わたしも付いてっていい?」

 

「ふむ……」

 

 

 こちとらミリエラ仲間に入れようキャンペーン中の身。渡りに船な提案だ。

 だがそれを顔に出すと負けた気がするので、俺はわざとらしく咳をして間を持たせる。

 

 

「うおっほん。……アイテムコンプの道は長く険しい。ミリエラにその覚悟があるか?」

 

「あう……うー」

 

 

 仰々しく問いかければミリエラの顔に戸惑いが浮かぶ。

 だが、俺が何かを言うよりも早く、彼女の瞳は真っ直ぐに俺を見返した。

 

 

「……あるよ。セン君が目指す道なら、わたしだって諦めないもん」

 

「そうか」

 

 

 思った以上に固い決意表明を速攻でぶちかまされた俺は、そうか、としか言えなかった。

 どうやらなつき度1000%は、きび団子貰った犬並みの付いてく指数を持ってるらしい。

 

 決意に燃える金色の瞳が、なんとも頼もしい限りだ。

 

 

(まぁ、この分なら安心して連れ回せるな。こんなに可愛い仲間なら、多少愛が重くても大丈夫だろう。ギャルゲーあるあるだし)

 

 

 なんて、思っていた矢先だった。

 

 

 

「……それに、セン君の初めては絶対にわたしが貰うんだから、逃がすわけには」

 

「え、なんだって?」

 

「ううん、なんでもないよ?」

 

「そうか」

 

 

 

 

 …………うおっほん。

 

 

 

 

 ……聞ーこーえーたーよーーー!?!?

 

 おもっくそ聞こえたよ!?!?

 

 

(なに、初めてを貰うって? それってあれでしょ? ピーでピーな奴でしょ!?)

 

 

 覚醒ハーフサキュバスってそこまでなの!?

 弱冠5才が何言ってるの!?

 大人になったらどんな怪物(レディ)になるの!?

 

 こんな子と一緒に旅して、俺の体はもつの!?

 なんかもう最初の町で骨抜きにされてずっとそこに居座って冒険終わりそうだよ!?

 

 ハッピーだけど何も始まらないで終わるバッドエンドだよ!!

 

 

「……セン君?」

 

「えひゃいっ!」

 

 

 ミリエラの甘ったるい呼び声ひとつが背筋を震わせる。

 これから大人になるまでの10年、俺はこれに耐え続けなければいけないのか!?

 

 

(や、ばい。やばいやばいやばいやばい!!)

 

 

 これはギャルゲーじゃない!! エロゲーだ!!

 しかも前世じゃ発禁物のやべー奴だ!!

 

 

(対策が……対策が必要だ!)

 

 

 最初の仲間が持っていた、最初のバッドエンドフラグ。

 

 冒険が、始まる前に終わるエンド(R-18)!

 

 大人になるまでに、あるいは大人になる前に、なんらかのミリエラ対策をしなければ。

 

 

(俺のアイテムコンプの旅は、そこで終了してしまう……!!)

 

 

 まだミリエラが、俺の夢に協力的である内に。

 サキュバスとしての力を100%発揮できないでいる、成人するまでに。

 

 

「……うおおお。俺はやる、俺はやるぞーーーー!!」

 

「うんうん。わたしも頑張るぞー、おー!」

 

 

 この超絶可愛いハーフサキュバス幼馴染とのバッドエンドフラグを、折る!!

 

 

「あ、そうそうセン君。好きです、わたしを彼女にしてください」

 

「はい」

 

 

 バッドエンドフラグを……折るんだ!!

 

 




ゲーム序盤にある大目標を捨てて目の前の幸せを得るやつ。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。
今の時代はまず目立つのが大事だと数多の先人たちが語り継いでいるので、ぜひとも協力お願いします!

次回7話も、見るばなし。


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第007話 町へ行こう!(切実)

異世スト、7話をお届け!

ここまで見に来てくださって本当にありがとうございます!
投稿するたびに増えていく読者さんの数と、どうやら楽しんでもらえているっぽい雰囲気に、めっちゃニコニコしています!

今回のお話も楽しんでもらえたなら何よりです。
私の好きなものが、誰かの好きであったら超嬉しい。

それでは、よろしくお願いします!


 

 

 どうも。

 九頭龍千兆(くずりゅうせんちょう)改め、センチョウです。

 

 3か月ほど前に無事8才になりました。

 

 

 

 今は春の始まり。

 桜に似た花が咲き始め、裏庭のコッコハウスで元気に卵が量産されています。

 

 暖かな空気に誰の心にも余裕が生まれ、新しい何かが始まりそうな予感に胸をときめかせていることでしょう。

 俺も孤児院では節目の年を迎え、近々最寄りの町へ連れて行って貰えるということで、今からワクワクが止まりません。

 

 

「………」

 

「セン君セン君。はい、あーん」

 

「あーん」

 

 

 可愛い彼女の作ってくれるサンドイッチが、今日も美味しいです。

 

 

「あ、パン屑ついてるよ。ちゅっ」

 

「っ!?」

 

「えへへ。食べちゃった」

 

 

 彼女のこのパーフェクトな愛嬌はほぼ俺にだけ振る舞われており、目を合わせればその美貌にため息が零れるほどです。

 5才で恋人になった日から3年。彼女の、ミリエラの成長は圧倒的でした。

 

 

「………」

 

「んー、ひっついちゃお」

 

「………」

 

「んっふっふ。ドキドキしてる」

 

「………」

 

「セン君、セン君」

 

「………」

 

「………………大好きっ」

 

「う……がぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 俺はミリエラを力づくで振り払い、距離を取る。

 

 

「魅了禁止! 魅了禁止つってるだろぉ!?」

 

「あっはっは。やーだもーん」

 

 

 ふざけてペロッと舌を出すミリエラに、俺は改めて警戒しつつ荒く息を吐く。

 

 

(3年。3年は気合で耐えた……が、そろそろヤバい!)

 

 

 この3年間を思い出すだけで、俺は自分の精神力を褒め称えたい。

 

 好き好きちゅっちゅ攻勢はまだ序の口で、一緒にお風呂や一緒に添い寝は週5以上。

 食事は必ず隣の席で、隙ありゃさっきのように「はい、あーん」が実行される。

 

 昼寝してると耳元で、優しく「好き」と囁かれたり。

 人気のないところに俺が一人で行こうものなら、こっそり付いてきて二人きりの淫靡な空気を作り始める。

 

 あの孤児院治安リトマス紙であるリンダをして――。

 

 

「ミリエラは大人すぎて参考にならない」

 

 

 と、言わしめたセクシャル攻撃に、俺は3年ものあいだ耐え続けたのである。

 

 

 

(いっそ、骨抜きにされて全部ミリエラに委ねられたらどんだけ幸せだって話だ!)

 

 

 超絶美少女ハーフサキュバス幼馴染といちゃらぶ生活。

 はい最高。はい幸せ!

 

 

(うおおおお! 正気になれ俺ぇぇぇぇぇぇ!!)

 

 

 人生の目標であるレアアイテムコンプリートにおいてそれは、バッドエンドだ!

 

 

(圧倒的なミリエラアタックに対して、俺は未だに苦戦を強いられている)

 

 

 この3年で、何も俺は耐えるばかりではなかった。

 俺なりにできることはないかと孤児院内の資料を読みふけり、対策を練ったのだ!

 

 これは、大いなる壁に挑み続けた一人の勇者の物語である!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 まず、魔法。

 モノワルドには魔法がある。ならば抵抗力を上げる魔法とかあるんじゃないかと調べ、俺は答えを探し当てた。

 

 

「木の枝を削って作った杖を《イクイップ》! そして《レジアップ》!!」

 

 

 幸い俺には魔法系アイテムの装備適性があったらしい。

 マザーの部屋にあった杖を装備したとき、ふんわりと魔法が使えそうな感じを覚えたのだ。

 

 その後は耐性アップの魔法を学び、練習に練習を重ねて技術を磨き、ついに使いこなせるまでに至る。

 

 

「はっはっは! ミリエラの天然魅了(ナチュラルチャーム)、何するものぞーー!!」

 

 

 こうして魔法の力で耐性を得た俺は、満を持してミリエラに立ち向かったのだが――。

 

 

「見て見てセン君。わたしも魔法を覚えたよ!」

 

「は?」

 

「《ファシネイト》!!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁー! ラブリーーーー!!」

 

 

 新たに魅了魔法を習得したミリエラに耐性をぶち抜かれ、あえなくメロメロにされた。

 

 

 

 次に、防具。

 装備は重ねることができる。そこに抵抗力向上の鍵があるに違いないと確信した。

 

 

「パンツを《イクイップ》! シャツを《イクイップ》! ズボンを、上着を、靴下を手袋を、ついでに腕輪とベルトとバッヂと帽子と耳飾りを《イクイーーップ》!!」

 

 

 今の俺に装備できるすべてを装備し、その上で。

 

 

「視界攻撃防御力が上がるという、目隠しを《イクイップ》だぁぁぁぁ!!」

 

 

 タオルを頭に巻きつけ目隠しとして装備し、パーフェクト俺を作り上げた。

 

 が。

 

 

「……隙だらけだよ、セン君」

 

「んひぅっ」

 

「もしかして、誘ってる? 誘ってるよね? ね? 好きって言っていいよね。言うよ。好き、好き、好き、好き」

 

「あっ、あっ、あっ、あっ……」

 

「大好き。好き。大好き。大大大大大大大好き、セン君。ちゅっ」

 

「ぐわぁぁぁぁぁー!!」

 

 

 圧倒的手練手管を持ったミリエラに、突破されてしまったのだ。

 

 

 

 最後に、説得。

 なりふり構ってなどいられない。誠心誠意想いを伝えれば、きっと理解して貰える。

 

 

「ふぅん、好きって言ったらダメなんだ? なんで?」

 

「なんでって、あんなに年がら年中言われ続けたら、頭がおかしくなるだろ?」

 

「ふぅーん?」

 

「それにああいうのは言うタイミングが大事で、ここぞという時に言わないと効力が……」

 

「やだ」

 

「え?」

 

 

 ハッキリとした拒絶の言葉に、俺が改めてミリエラを見た――次の瞬間。

 

 

「えいっ」

 

 

 俺はミリエラに、押し倒されていた。

 上からのしかかる彼女の体の、育ち始めた柔らかな部分が俺の胸板を押していた。

 

 

「うおあっ!? ミ、ミリエラ!?」

 

「ここぞっていつ? わたしはずっとここぞだよ?」

 

「っ!?」

 

「セン君のことが大好きで、大好きが止まらなくて、溢れてるから口にしてるだけ。今だって言いたい。隙あれば言いたい。聞いてくれるならずっと言いたい。好き、好き。セン君大好き」

 

「ばっ、ほら、また!」

 

「セン君はわたしを自由にしてくれたの。自由を教えてくれたの。だからわたしは自由にするの。絶対、絶対にセン君とわたしは添い遂げるんだから。縛る。縛る。好きで縛る。初めてできた大好きなもの、逃げないように……逃がさないように……ね?」

 

 

 その時に見せたミリエラの笑みが、子供と思えないくらいに蠱惑的で。

 

 

「だから、これからもずーっと、好きって言うよ。わたしはセン君が、好き」

 

 

 そう言ってまた強引に唇を奪われて。

 

 俺は、ミリエラへの言葉による説得を断念した。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「………」

 

 

 ほらね。俺、頑張ったよ?

 今もまだ、一線は越えてませんよ? 越えられるほど育ってないのもあるけど。

 

 

「んっふっふー」

 

 

 今は俺の膝枕に寝転がり、ご満悦のミリエラである。

 彼女に対してはむしろ、下手に刺激しないで普通にイチャイチャしている方が安全、という説もある。

 

 

(とにかく、今日まで俺は耐え抜いてきた。すべては明日の勝利のために!)

 

 

 もはやミリエラの攻勢の前に狩られる時を待つだけだった俺だが、光明があった。

 それは、孤児院で8才を迎えた子供に与えられる、新たな使命。

 

 

(……町へのお使い、お手伝い任務!!)

 

 

 保護者一名と12歳以上の子供三名。そして、8才以上のお手伝い二名による買い出し。

 町デビューにして買い物デビュー。

 

 つまり。

 

 

(町をうろついて、ミリエラ対策用のアイテムを探すことができる!!)

 

 

 希望の光がそこにある。

 魅了に負けない賢者の日々よ、ようこそおいでくださいました!!

 

 

「んんー、むにゃむにゃ」

 

「よしよし……」

 

 

 気持ちよくて寝てしまったミリエラの艶々の髪を撫でながら、俺は決意を新たにする。

 

 

「……町に行けるようになったら、全力で対抗できるアイテムを探す」

 

 

 ミリエラの魅了魔法にもぶち抜かれない、超強力な抵抗アイテムを。

 最悪、あくどい手を使おうが、俺は俺の身を守れるようになる!

 

 

(すべては、レアアイテムコンプリートのために!!)

 

 

 

 そして。

 決戦の地へと向かう日は、すぐにやって来た。

 

 

「みんな、荷馬車に乗ったかー?」

 

「「はーい」」

 

 

 保護者のダンデと年上組のモブ三人。そして8才以上枠は俺と――。

 

 

「……えへへ。お買い物楽しみだね、セン君!」

 

 

 当然のように、ミリエラだった。

 

 




一途な女の子ってかわいいですよね。
ミリエラちゃん可愛いって言って。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
感想でミリエラちゃん可愛って言ってくれたら嬉しいです。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
読んでもらえる母数が増えるともっとたくさんの人と楽しいが共有できて最&高なので、よろしくお願いします!

次回8話、町へ行こう! に、フェードインッ!


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第008話 町デビュー、俺!

気づけばUAが500を越えてた!
500回も見てもらえたというのはやっぱりすごいと思います。
ありがとうございます!

お気に入り、評価などもいただけていて、見た瞬間「ひぇっ」てなりました。
めっちゃ嬉しいです。ありがたやありがたや!!

そんなわけで、第8話をお届けします。デート回です!
よろしくお願いします。


 

 自然豊かな環境に建てられた孤児院から荷馬車でのんびり1時間。

 そこに、ここ3年のあいだ俺が望みを抱き続けた場所がある。

 

 

「おお……!!」

 

 

 石畳の道の先、レンガ造りの家が立ち並ぶ、どことなくヨーロッパ的な何かを思わせる建物たち。

 

 

「はーい、今日はみんな大好き、コーンが安いよー!」

 

「あの有名ブランド、ライラサンカンパニーの新商品だよ! そこのお姉さん、寄っといで!」

 

「見てくれこの輝き! 若くて腕のいい剣職人が作った未来のプレミア品、初放出だ!」

 

 

 居並ぶ出店通りから響く、商人たちの声。

 

 

「ねぇねぇ、私お腹すいたー」

 

「広場で昨日見た吟遊詩人のエルフが超美人で……」

 

「へぇ、いい剣だ。支払いは……これくらいでどうだ?」

 

「わんわん!」

 

「これ試着してみても? じゃあ《イクイップ》! ……へぇ、いいじゃない!」

 

 

 この町に住む人々が作り出す、賑やかな喧噪。

 

 

(海外旅行とか行ったことないが、まさか今世で似た体験をできるなんてなぁ!)

 

 

 孤児院最寄りの、俺にとって初めての町。

 

 

「連環都市同盟第5の町……パルパラ!」

 

 

 待ちに待った町デビューに、俺は荷馬車の上で揺られながら、瞳を輝かせていた。

 

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「セン、それ重くないか?」

 

 

 到着後、みんなでぱっぱと孤児院の買い物を終えたところで、ダンデに声をかけられた。

 彼が指さす先にあるのは『神の布』で腰にグルグル巻きつけてある俺の『財宝図鑑』だった。

 

 

「重い。でも、これを手放すわけにはいかないんだ」

 

「ふぅん。まぁ、形見の品だもんな」

 

「そうそう」

 

 

 センって意外とおセンチだな、なんて言いながらもダンデは納得して、全員を呼び集める。

 俺を含めた子供たちは「待ってました」と彼のそばへと集まった。

 

 

(いよいよだ!)

 

 

 そう。頼まれたお買い物が終わればさぁ帰ろう。というわけではないのだ。

 

 むしろここからが本番。勝負の時、フリータイムである!

 

 

 

「……じゃあ、ここからは自由時間だ。遅くとも広場の大鐘が鳴ったら、戻ってくるんだぞ」

 

「「はーい」」

 

 

 引率のダンデから色々と街歩きについての注意を受けてから、俺たちは自由を与えられた。

 8才以上ともなれば、自分で考え自分で動くことを期待され始めるのがこの世界だ。

 

 勝手に動いて勝手に学んで来いというこのスタンスは、今の俺にはありがたい。

 

 

「ねぇねぇ、お手伝いのお小遣い何に使う?」

 

「カフェ行きたい」

 

「お菓子買い貯めようぜ!」

 

 

 12歳以上組は手慣れたもので、さっそく目的地を定め動き出す。

 今回が町デビューとなる俺とミリエラは、荷馬車の前で残される形となった。

 

 

「ねぇねぇ、セン君。セン君はどこか行きたいところある?」

 

「そうだな……」

 

 

 ダンデに温かく見守られながら、俺は事前に大人たちから聞いていた情報を思い出す。

 

 考えるのは当然、レアアイテムについてだ。

 

 

(行政機関があるのはここの北側、そっちへ行けばいわゆる貴族街だ。必然価値の高いもの、レアアイテムとの遭遇率も高くなるだろう。物の多さが欲しければ東側の商業区画、南側の居住区にも掘り出し物があるかもしれない。俺たちが入ってきたのは南西門。子供の足でうろつくのに効率的なのは……)

 

 

 事前に立てていたプランを、実際に目に入れた景色と照らし合わせて修正していく。

 アイテムコレクターとしては、効率のいいアイテム回収はマストだ。

 

 

「セーンーくーんっ!」

 

「おわっ!?」

 

 

 そんな思考の高速回転を、ミリエラに抱き着かれて止められた。

 ぷにっと柔らかい腕のお肉の感触と、鼻にふわっと香るいい匂いが、俺をダメにする。

 

 今日はすっきりレモンの香り。

 どういう仕組みでミリエラは、自分の匂いをコントロールしているのだろうか。

 

 

「ここでボーっとしてても始まらないし、まずは近くをお散歩しよ?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 

 結局、ミリエラに押し切られる形で彼女の散歩に付き合うことになった。

 

 年々彼女に押し負けることに慣れてきているせいか、割と腹の底に危機感が沸いている。

 

 

(ダメだ。このままだとバッドエンドまっしぐらなのに、ミリエラに逆らえん……!)

 

 

 ああでもこの将来有望ボディが! 甘い声が! 好き好きアタックが!

 

 

「セン君とデート、セン君とデートっ」

 

「……くぅぅ」

 

 

 純粋無垢に嬉しそうな笑顔が、俺を惑わすんだ!!

 

 

 

 俺とミリエラは町の東側、商業区へと足を運んだ。

 

 

「ふおおおおお……!」

 

 

 南西門の先にあった屋台市よりもより本格的な店の並びに、俺はまたもや瞳を輝かす。

 

 

「ガラス製品に時計やらの精密機械。マジですごいな」

 

 

 食器はもちろん、店の窓がそもそも透明ガラスで店内が見えるとかいうヤバさ。

 

 喫茶店なんかも複数あるし、思わず心がぴょんぴょんしそうなおシャレなお店ばかりだ。

 ってかあれ、コーヒーと紅茶両方あるの? 食文化も豊かすぎない?

 

 

「見て見て、セン君。こっちの魔法堂、個室用の魔法冷蔵庫とか売ってる!」

 

 

 下手すりゃ自分が生きてた時代より先に行ってそうな、そんなとんでも便利家具まで平然と並ぶそこは、まさしく異世界。

 一応一般に広く出回るアイテムは大体が(コモン)UC(アンコモン)(レア)HR(ハイレア)の4種類らしいが、何がレアで何がレアじゃないのか、モノワルド歴8年の俺じゃまだ、さっぱり分からない。

 

 ただただ今は、興味のままに見て回る。

 

 この思いだけは、止められねぇ!!

 

 

「セン君、こっちこっち! 記録水晶が機動飛行船の宣伝映像流してる!」

 

「ヴぉおおお、すげぇぇぇぇ!!」

 

「セン君、あれあれ! 最新型の魔法水洗トイレだよ!」

 

「ヴぉおおお、すげぇぇぇぇ!!」

 

「セン君、見て見て! 1/1エルフ族伝説の勇者、ソマリソンの裸像! 股間も完全再現!」

 

「ヴぉおおお、すげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! ……いや、ソコはそんなすごくないな?」

 

 

 ミリエラに導かれながらのウィンドウショッピングは、モノワルド驚異の技術力(ファンタジー)を前に驚き通しの時間だった。

 

 

「はぁ、はぁ、すごすぎる……」

 

 

 異世界のなんかよくわからない技術発展、俺好き。

 

 

「あはは。はい、これ」

 

「お、ありがとう」

 

 

 ミリエラから屋台売りされてた氷入りのジュースを受け取り、喉を潤す。

 遠くから見ていたが、店主のおじさんが自然な動作で杖を振って氷を出していた。

 

 

「……装備適性と《イクイップ》か」

 

 

 改めて、自分の前世にはなかった要素がこの世界に息づいているのを感じる。

 

 正直な話、今日はゾクゾクしっぱなしだ。

 

 

(ああ、早く俺も世界をめぐって、もっともっと色々なものを見て回りたい)

 

 

 見上げれば青い空、白い雲。

 前世と同じ見た目の空の下、まったく違う世界に今、俺は立っている。

 

 

「あ、鑑定屋さんだ」

 

「えっ?」

 

 

 未来ロマンにうっとりしていたところで耳に入ってきた、ミリエラの言葉。

 彼女の視線を追って目を向ければ、そこにはいかにも占いの館ですよ風の家が建っていて。

 

 

「……鑑定屋、ルーナルーナ?」

 

「行ってみよう、セン君!」

 

 

 店の看板に書かれた文字を読むころには、すっかり興味を惹かれた様子のミリエラに腕を掴まれ、ずりずりと移動を開始させられていて。

 

 

「ごめんくださーい!」

 

「っさーい」

 

 

 あれよあれよという間に俺は、鑑定屋の中へと足を踏み込んでいた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 鑑定屋。

 それは、モノワルドにおいては欠かすことのできない役職である。

 

 彼らは総じてある装備の適性をB以上保持し、またあるアイテムを所有している。

 

 

「はーい、いらっしゃーい」

 

 

 俺たちの挨拶に返ってきたのは、若い女性の声だった。

 

 

「ルーナルーナさんの鑑定屋へようこそー。ちっちゃなカップルさん?」

 

 

 その声の主は、人懐っこそうな笑顔で俺たちを迎えてくれた。

 

 魔法使いっぽい格好をした、美少女ドワーフだった。

 

 

「初めて見る顔だねー? 旅の商隊の子かな? それとも……孤児院の子かなぁ?」

 

「!?」

 

「お、後者かぁ~。だったら今後ともご贔屓にね~……っとと」

 

 

 ドワーフの鑑定屋ルーナルーナは、俺たちの素性をあっさりと看破し、へらへらと笑った。

 その拍子に彼女が掛けていた大きな丸メガネがずるりとズレて、慌てて元の位置に戻す。

 

 

「あれが……」

 

 

 そんな彼女の愛らしい動作に目もくれず、俺の視線はルーナルーナの童顔に乗っかっている丸メガネへと向いていた。

 

 まぁそれも、仕方のないことである。

 

 

「あれが……!!」

 

 

 何を隠そうあの装備こそが、彼女を鑑定屋足らしめているレアアイテム!

 

 

 そう――――レアアイテム!!!

 

 

 

SR(スーパーレア)アイテムの……鑑定眼鏡!!)

 

 

 

 穴が開くほど確認した『財宝図鑑』にも名前が掲載されているレアアイテムとの出会いに、俺の体が熱を持つ。

 

 

(やっと、やっと出会ったぞ! モノワルドのお宝!!)

 

 

 わくわくの興奮で、鼻の穴が開きっぱなしになる。

 

 

「? どったの?」

 

「セン君?」

 

 

 急に黙った俺を不思議そうに見つめる二人をよそに、俺は震える拳を握り締め、吼えた。

 

 

「いよっしゃああああああ!!」

 

 

 俺は齢8才にしてついに、ついに、人生初のレアアイテムと巡り会ったのである。

 

 




初めて見つけたレアアイテムは、眼鏡でした。

ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
実際にもらえるとヤル気に直結します。助かります。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
もっともっとこの手のお話が大好きな人の元へ届いて欲しいと思うので、ぜひぜひよろしくお願いします!


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第009話 鑑定屋ルーナルーナ!

書き溜めが順調に減っていてやっべってなりつつ、9話をお届けです。

投稿するとお気に入り数が増えていって、心がほっこりします。
応援いただけてるおかげで頑張れてます。


今回のお話も楽しんでもらえたなら何よりです。
ドワーフのお姉さんは好きですか? 私は好きです。

それでは今回もよろしくお願いします!


 

 

 レアアイテムコレクター、センチョウ。

 第二の人生を謳歌する舞台、モノワルドにて初めてのレアアイテム遭遇。

 

 雄叫びを上げた俺を見つめる、ミリエラとドワーフの鑑定屋ルーナルーナ。

 

 

「……《ストリ》――んむぐ!」

 

 

 ルーナルーナに向かって《ストリップ》を使おうとしたのを、口を塞いで中断する。

 ギリギリのところで、俺の理性が衝動を押しとどめた。

 

 

(……っぶねぇ! 犯罪者になるところだった!)

 

 

 どういう手段であれ、他人の所有物を強引に奪うことは犯罪としてカウントされる。

 やるにしたって目立たず、バレずに実行するべきことだと、自分に言い聞かせる。

 

 そう、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ。バレなきゃ……な!

 

 

「……ほんとにどったの?」

 

「いえ、つい。ルーナルーナさんがあんまりにも可愛くって叫び声がでました」

 

「んまっ! お上手!」

 

 

 心配そうに声をかけてくれたルーナルーナに軽口を返せば、ポッと彼女の頬が朱に染まる。

 速攻でミリエラが「わたしはー?」って聞いてきたので、そっちも可愛い可愛いと撫でておいた。

 

 

「俺、鑑定屋に来るの初めてなんだ。よかったらここで何ができるのか、教えてくれ」

 

「ほぁー、私を褒めたと思ったらいきなりのため口。心の距離の詰め方がエグい。でもお姉さんそういうの好きだからOKしちゃうー」

 

 

 どこかふわっとしたノリで受け答えするルーナルーナだが、鑑定屋については快く教えてくれた。

 

 

この世界(モノワルド)における重要な情報、道具のレアリティと人物の装備適性については知っているかな?」

 

「もちろん」

 

 

 モノワルドにおける人の能力を大きく左右する2つのシステム。

 

 (コモン)UC(アンコモン)(レア)HR(ハイレア)SR(スーパーレア)UR(ウルトラレア)LR(レジェンドレア)WR(ワールドレア)、そして物語上の存在と言われるGR(ゴッドレア)を加えた9種にアイテムを分類するレアリティ。

 G、F、E、D、C、B、Aまで遡るほどに装備の力をより強く引き出し、その頂点をSとする装備適性。

 

 これらの組み合わせにより、この世界の人々は自分の役割を定めている。 

 

 

「鑑定屋のお仕事は大まかにふたつ。レアリティ鑑定と、装備適性鑑定。どっちもその名の通り、前者は道具のレアリティを鑑定して、後者は人物の装備適性を鑑定します」

 

「えっ、人の鑑定もできるのか?」

 

「できますとも。ルーナルーナさんが持つ眼鏡適性Bの実力と、この『鑑定眼鏡』があればね」

 

 

 ドヤ顔で眼鏡のつるを持ったルーナルーナが、レンズをキランッと光らせる。

 高い装備適性とレアアイテムの組み合わせが織りなす奇跡こそ、この世界の専門職の真骨頂。

 

 俺は素直に感心し、目を輝かせた。

 

 

「ふおおおお……すげぇ!」

 

「そうでしょうそうでしょう。ルーナルーナさんキミみたいなリアクションいい子好きだよー」

 

 

 俺の反応に気を良くして、ルーナルーナがどんどん調子を上げていく。

 カウンター越しにない胸を張って、えっへんと鼻息フンスフンスする姿が愛らしい。

 

 

「ふっふっふ。今ならキミたちの装備適性、ルーナルーナさんが無料で見てあげよう~」

 

「え、いいのか!?」

 

「いいよぉ。お姉さんの機嫌は今、いい感じにいい感じだからねぇ」

 

 

 マジかよやったぜ!

 正直ここもウィンドウショッピングで終わるだろと思ってたからいいチャンスだ!

 ぶっちゃけ俺の手持ち4(ゴル)10(シール)しかないしな! 薬草も買えねぇ!

 

 

「ミリエラ、やったな!」

 

 

 俺は喜色満面にミリエラを見て。

 

 

「ちゅー」

 

「ふぐぅっ!?」

 

 

 何の脈絡もなくいきなり唇を奪われた。

 しかも頭翼、腰翼全開の、サキュバススペックフルバーストの本気のキスだった。

 

 いや、なんでそれしたかは予想できるよ?

 ちょっとルーナルーナの方ばっかり見て楽しそうにしてたからね!?

 

 だからってお前、お前ぇー!!

 

 

「ちゅー……ん。うん、よかったね、セン君!」

 

「ぷぁっ!? は、はぁ!?」

 

「ほぉー、彼女さんはサキュバスちゃんだったかー。眼福眼福~」

 

 

 まさか初対面の人の前でまでこんな真似をするなんて、あんまりにも予想外すぎて。

 なんかもういきなりすぎて俺の脳みそは爆発した。

 

 

「ば、ちょ、ま……何すんだミリエラ!」

 

「えっへっへ~」

 

「かぁー! そうやって可愛い顔すれば何とかなると思ってるなお前ぇー!!」

 

「ほらほらセン君。鑑定して貰えるんだからして貰お?」

 

「かぁー!」

 

「ヒューヒュー、お姉さんそういうの大丈夫だから。イケるから。ねっ」

 

「かぁー!」

 

 

 頭ボカンとなってる俺じゃミリエラを問い詰められるわけもなく。

 しかもルーナルーナまでなんかそれを平然とスルーしているのもあって話が進んでしまう。

 

 なに、この世界のサキュバスって治外法権的にセクシャル許されてるの?

 もはやあれか? 見染められた時点で負け確定の奴なのか!?

 バッドエンド回避不可な奴?

 

 うおおおお、俺は抗う! 諦めんぞぉーーー!!

 

 

「ほいじゃ、装備適性鑑定するよー」

 

「はい」

 

 

 脳内スイッチ切り替えON!

 俺は勧められるまま椅子に腰かけ、背筋をピンと伸ばした。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 準備万端整っていたが、最初の鑑定はミリエラに譲る。

 ここに連れてきてくれたのが彼女だし、何よりまずは観察してみたいと思ったのだ。

 

 

「はーい、それじゃリラックスして~。心の壁があると鑑定し辛くなるからねー」

 

 

 鑑定は《アプライ》という魔法で、『鑑定眼鏡』を装備した、眼鏡の装備適性B以上の人が使えるようになる特殊な呪文である。

 ぶっちゃけ自力で《アプライ》を発動できるなら、適性だ装備だとかは知ったこっちゃないのだが、まぁそんな事例は歴史上数えるほどしかないのだと、ルーナルーナが教えてくれた。

 

 

「いいねぇ、力が抜けてるねぇ。それじゃ、いくよー……《アプライ》!」

 

 

 ルーナルーナが呪文を唱えると、彼女の眼鏡がキラリと白く光を放つ。

 

 

「ほぉー、なるほどなるほど。へぇー、これはこれは」

 

 

 今、彼女の眼鏡にはミリエラの装備適性が映し出されているのだろう。

 ルーナルーナはそれをしげしげと眺め、手早く紙にペンを走らせていく。

 

 やや待たず作業を終えたルーナルーナが、ミリエラに適性を書き記した紙を突き出した。

 

 

「ほい。こんなん出ました~」

 

「どれどれ」

 

「あ、キミ。ヒト様の適性見るのは許可を貰ってねー? マナー悪いよー」

 

「おっと。ミリエラ、見ていいか?」

 

「うん! セン君になら……いいよ?」

 

 

 妙に艶めかしく許可をくれるミリエラと一緒に、紙に書かれた内容を覗き込む。

 

 

「えーと、なになに? 鞭適性がBで……」

 

 

 以下、ミリエラの持っている適性をここに羅列する。

 

 鞭:B 鎖:B 短剣:D 杖:D 指輪:C 化粧品:C 媚薬:B

 露出服:B 下着:B ブラジャー:A パンツ:A

 

 

「……ん?」

 

 

 まぁ、ハーフサキュバスらしい適性の数々の名前については置いておいて。

 

 

「んんー??」

 

 

 なんか多いし、高くない?

 それに確か、モノワルドにおける一般的な適性有りのラインってのは――。

 

 そこんとこどうなんです? 解説のルーナルーナさん!!

 

 

「適性基準のDより下のE以下は、お姉さんの実力じゃ分からないんだけどぉー。ミリエラちゃん、だっけ? ぶっちゃけー、超天才児じゃない?」

 

 

 そう。モノワルドで「キミぃ、それ使えるんだねぇ!」と言われる適性は、Dからだ。

 そいつを生涯かけて、つまりお年寄りになるころまでにBまで磨くのが、モノワルド一般ピープルあるあるである。

 

 

(……つまり、だ)

 

 

 ミリエラの持つ適性は……質も、量も、どっちもヤバい。

 

 

 

「一般人が人生注ぎ込んでようやく至るような適性がいくつもある、間違いなく超天才児。いや、もしかして年齢偽ってる? 見た目変える魔法使ったりしてない? 寿命の倍生きてますとかないよね?」

 

 

 ルーナルーナも現実を受け入れきれてないのか、疑いの目を向け始めている。

 っていうか鑑定魔法って年齢とか本名とかもっと色々パーソナルな部分も見れるんだと思ってたが、適性Bじゃその辺も見れないのか。道具のレアリティが足りない?

 

 

「ふぅーん。これいいの? いいんだ? えへへー」

 

 

 疑惑の目を向けられている当の本人は、良い結果に嬉しそうにしながら俺に体を擦りつけている。

 

 まぁ、俺としても疑いようもなく彼女は俺と同じ8才児だと主張するところであります。

 ちょっと5才のころに覚醒しちゃっただけで。

 

 

「ん? あ、ああー翼! 覚醒済かぁ……って、いやいやぁ? それでもお姉さんこんなの見たことないよぉ? 普通に成人してる人で、なんかひとつでも適性Bあったら人生勝ち組よー?」

 

 

 あ、覚醒してるだけじゃ片付かない奴でしたか。

 つまり才能。ミリエライズジーニアス。いや、ギフテッド?

 

 

「ひゃー、世の中広いねぇ。ミリエラちゃん。キミには輝かしい未来が待っている」

 

「えへへ。セン君がいるから、それは絶対的に保障されてます!」

 

 

 またもやぎゅーっと腕に抱きつかれながら、俺は能面を顔に張りつける。

 

 ミリエラが才気溢れる存在だったことは喜ばしいが、俺のハードルはだだ上がりである。

 

 

(この状態で凡才だったら、いよいよもってミリエラに蹂躙される未来しか見えない!)

 

 

 なんか媚薬とか書いてあったし! 使われたら即終了じゃん!!

 毎日アヘアヘバブバブさせられて思考能力全部溶かされていいようにされる未来しか見えない!

 

 

「えへへ……お薬かぁ」

 

 

 ほら御覧なさい! もう悪いこと考えてそうな顔をしていらっしゃる!!

 っていうかなんか適性の高さを知ったせいで余計にミリエラの下着とか気になるんですけど!?

 魅了! 魅了されている!!

 

 (あぶ)い!

 

 

 

「たははー。彼氏君ごめんねぇー、ハードル高いねぇ」

 

「はい。正直胃が痛いです」

 

「あはー。リラックスリラックス~。口調が固くなってるよ~」

 

 

 いよいよ俺の適性鑑定となったが、今の気持ちは死刑宣告を受ける前の被告人である。

 

 

(適性なしはイヤだ適性なしはイヤだ適性なしはイヤだ!)

 

 

 神様仏様財宝神様。

 なんかいい感じにしてくれるって言ってたよなぁ! お願いしまーっす!!

 

 

「……それじゃあ行くよぉ~。《アプラ~イ》」

 

 

 呪文を唱えたルーナルーナの眼鏡が輝き、映し出された情報を紙に書き記……しる……

 

 

 

 あれれぇぇーーー? おっかしいぞぉぉーー?

 

 

 

 なんかちょろっと書いただけで、速攻終わってないかい?

 一行? いや、一文?

 

 

「……ふぅ」

 

 

 あ、なんかやり遂げた顔してる。追加はなし。

 

 

(終わった……)

 

 

 隣でミリエラがニコニコしているが、なんかもうそれが「たとえどんなにクソ雑魚ナメクジでもわたしがセン君の全部を管理するよ」って言ってるようにしか見えない。

 

 

「……こんなんでました~」

 

 

 絶望である。

 

 現実逃避しかもう残ってない。

 いや、どんな現実でも俺は向き合わないといけない!  

 

 

(俺は、俺はこの世界のレアアイテムをコンプする男! センチョウだぁぁぁ!!)

 

 

 差し出された紙を、見る。

 

 そこにはたった一文だけ記されていた。

 

 それが俺の適性のすべてだった。

 

 

「いやぁ~。お姉さん、人生でこんなこと二度とないと思うよ」

 

 

 ルーナルーナの頬に、一筋の汗が滴り落ちる。

 

 

「“同時に二人も、超天才児を鑑定しちゃう”なんてねぇ」

 

「……これ、マジか?」

 

 

 紙に記されていた俺の装備適性はC。

 一般的に使えるってレベルのDよりも高い、いい感じってくらいの適性だ。

 

 だが、その隣に書かれている言葉が、何よりも異質で。

 

 

 全部:C

 

 

 全部、オールアラウンド。

 それは、誰の目にも分かるほどに圧倒的な、可能性を示す言葉だった。

 




センチョウの才覚、判明!


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
ルーナルーナです。伸ばし棒を忘れると大変なことに(詳しくは検索してください)。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
まだ見ぬ需要のある場所へ供給できれば、それに勝る幸運はないと思います。


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第010話 狂気! 全裸三兄弟!!

ついに話数2桁目に突入します!
これまで読んでくださっている方、これから読んでくださる方、ありがとうございます!

今回も楽しんで読んでもらえたら幸いです。

では、10話。
よろしくお願いします!


 

 鑑定を受けた、その後。

 

 ルーナルーナの鑑定屋を後にした俺とミリエラは、タイムリミットの鐘がまだ鳴ってないのを理由に、もうしばらくのあいだ商業区画のウィンドウショッピングを続けることにした。

 

 だが、店に並ぶ珍しい商品を見ても、さっきほどには俺の心はときめかない。

 それもそのはず、今の俺は鑑定屋で知った事実について、深く考え込んでいたのだから。

 

 

「それにしても、さっきのセン君すごかったね。全部だよ、全部!」

 

「ああ、そこはすごいよな」

 

「うんうん! セン君ならこの世界、本当に何でもできちゃうね!」

 

「そう、だな……」

 

 

 自分のこと以上に俺の才能を喜んでくれているミリエラの隣で、しかし俺の表情は渋い。

 

 

(全部に装備適性有り、か……)

 

 

 装備適性、全部C。

 あらゆる装備をいい感じに使える。不足なく道具が扱え、その効果を必要十分に発揮する。

 

 素晴らしい力だ。類稀なる才能だ。

 だけど。

 

 

(C、なんだよなぁ~~~!!)

 

 

 その適性ランクに対して、俺は大いに不満を抱いていた。

 

 

 

(なぜだ、どうしてなんだゴルドバ爺! どうしてB以上じゃないんだ……!!)

 

 

 モノワルドにおける装備適性CとBには、実を言うと結構な隔たりがある。

 ルーナルーナの『鑑定眼鏡』なんかがまさにそれで、あれを眼鏡適性B未満の奴が装備したところで肝心要の鑑定魔法《アプライ》は使えない。

 

 他にも絵本や歴史書で学んだ事実として、LRに分類される伝説の武具などは使用者に高い装備適性を求めるらしく、装備できるを越えてその伝説的な力を振るえる最低ラインがB、大体はA以上を要求するらしいのだ。

 

 

(つまり、Cじゃそれらが、装備はできても使えない!!)

 

 

 装備適性Cは確かに万能だが、それは一般人レベルでの話だ。

 レアアイテムをゴリゴリ使いこなすには、B以上の適性が必要不可欠なのである。

 

 いい感じでは、足りない領域がここにはある。

 

 

 

「セン君、ずっと難しい顔してるよ?」

 

「むー」

 

 

 ミリエラに指摘されても、寄った眉根は離れない。

 一応最低限通りすがりの人や物にぶつからないようにしつつも、俺は考え事を続ける。

 

 

(このままじゃ、ミリエラ攻略すら夢のまた夢だぞ)

 

 

 ミリエラが持っていた装備適性こそ、とんでもないものだった。

 複数の適性Bに、Aがふたつ。ハーフサキュバスの持つ適性傾向を超えた天才児だ。

 

 

「んっふっふー」

 

「ぐぬぬ」

 

 

 無邪気に俺の腕へとしがみついて甘えているこの美少女が、未来の俺の貞操を狙っている。

 俺より高い適性を持つ鞭や、鎖や、お薬や、エッチな下着で追い詰められたら、いよいよもって最初の村の宿屋でハッピーバッドエンドを迎える未来しか見えない!

 

 だが、だがである。

 

 

(今の俺に、それらをひっくり返す武器も、腹案も、存在しない……!)

 

 

 適性CをBへとひとつ上げるのに、モノワルドの人々は普通、数十年の時を費やす。

 成人するまでに残された時間は、あと7年。

 そして当然、俺が成長するあいだにミリエラだって成長する。

 

 

「……つ、詰んだ?」

 

「んうー?」

 

 

 俺の心に満ちていく、脱力感と絶望感。

 リセットボタンのないこの世界で、俺のたった一度の人生の未来が閉じようとしていた。

 

 

 

(……ああ)

 

 

 

 夕方時刻の、けれど赤味が遠い空の下。

 

 

 

(……目が、眩みそうだ)

 

 

 

 どうしようもない無力を感じて、俺は何か、気だるげな感情に絡め取られていく。

 前世を自覚してから3年。あれやこれやと実験を重ねて色々な道具を使い慣れようとしてきたが、それでも変わらずオールC。

 

 それはつまり、成長チートなんてものはなく、俺も例外なくこの世界の住人と同じ規格だということで。

 

 

(ゴルドバ爺、この才能設定したの多分あんただよなぁ?)

 

 

 さすがにここまで極端な才能を用意されたなら、俺だって察する。

 あの神様は俺に、この世界で何かをさせようとしている。

 

 

(だったら、だったらせめて、もっと派手な能力チートくらいよこせやぁぁぁぁ!!)

 

 

 拳を強く握り、心の中で叫ぶ。

 だがそんなことじゃ、俺の胸の内に沸いたモヤモヤしたものは全然晴れやしなかった。

 

 

「……はぁ、ん?」

 

 

 深いため息を零しながら見た、滲んだ視界の奥で。

 

 

「ふむ……」

 

 

 小さく路地へと入っていく複数の人影を見た。

 

 

「あれ、セン君どこ行くの?」

 

 

 なんだか妙にそれが気になって、戸惑うミリエラを放り出し、俺の足は自然とふらふら、路地へと向かい歩き始めるのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 果たして、人影を追って入った路地の奥では、30代くらいのガラの悪そうなヒュームの男が3人、何か小さいものを囲んでいちゃもんをつけていた。

 

 絵に描いたような治安わるわる路地裏イベントである。

 

 

「おうおう、オレの装備に変な目向けてただろ。ああん?」

 

「兄貴の装備バカにしてっと、ガキだろうが容赦しねぇぞ、おおん?」

 

「そうだそうだ!」

 

 

 どうやら小さい何かが兄貴という人の装備を見てたから、それを理由に絡んでいるらしい。

 背後からは頭巾を被りマントを羽織った兄貴らしき人物の、詳しい装備は分からない。

 

 だが変な目で見られているって文句が出るということは、それなりにみすぼらしいか面白い装備をしているのだろう。

 頭巾の時点でそうだって? バカ野郎頭巾さんはヒーローだって装備してんだぞ! 時代劇とかで!!

 

 あれは面白いじゃなくカッコいいに分類される装備なんだ、オーケイ?

 

 

「あ、あの。見てたのはすいません。その、どうか許してくださ……」

 

「お前の視線でオレの心は傷ついたんだよぉ!」

 

「ひぅぅっ」

 

 

 まぁ、その頭巾被ってる奴の人柄は、ヒーローとはおよそ縁遠い感じっぽいが。

 

 

(……どうあれ、ちょうどいい存在であることに違いはないな)

 

 

 今の俺は、生憎と心がとてもムシャクシャしている。

 行き場のないモヤモヤとした感情が、俺の体にバリバリに影響を及ぼしているのだ。

 

 この無限に湧き出す感情をどうにかぶちまけてしまいたい。

 

 そこに来て現れた、一見するといかにもなカツアゲ現場である。

 

 

(俺の目から見てあいつらは悪。それでよし!)

 

 

 自分がこの路地に吸い込まれるように足を向けた理由を自覚する。

 

 相手の事情とか真実とか、どーでもいい。

 

 今の俺はただ、暴力を振るいたいだけだった。

 

 

 

「おうおう、慰謝料だ。お前の持ってる有り金全部ぅ、寄越せガキぃ!」

 

「詫び入れろやガキぃ!!」

 

「そうだそうだ!」

 

「ひっ……」

 

 

 いよいよ恫喝し始めた兄貴とやらに狙いを定め、俺は手の平を向け、静かに呟く。

 

 

「《ストリップ》」

 

 

 呪文と共に振るう手に、何かを掴む確かな感触を得れば、それを一気に引き寄せる!

 

 

「さぁ、大人しく言うことを聞きやがれ!!」(U)

 

 

 結果。俺の手に握られていたのはマントと頭巾、グローブ、そして……ホッカホカのビキニパンツ。

 

 

(なるほど。頭巾にマントにビキニパンツは、見事な不審者3点セットだ)

 

 

 なんでこんなあからさまな装備を、と考えたところで、思い至る。

 

 

(そりゃ、一番いい性能引き出せるのを装備するよな……)

 

 

 ちょっとだけ、装備適性世界の闇を見た気がした。

 

 

 

「おうおう、兄貴のビキニパンツ適性はBなんだぞ! 兄貴のビキニパンツ……」

 

「そうだそう、だ……」

 

「おう、どうした。もっと言ってやれお前たち」(U)

 

「…………」

 

 

 すべての装備を剥ぎ取られた兄貴とやらは今、まごうことなき全裸だった。

 

 

「あ、あ、兄貴のビキニパンツが象さんにぃ~~~~~!?!?!?」

 

「そうだそうだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「はぁ? お前ら何言って……おああああああなんじゃあこりゃあああ!?!?」(U)

 

 

 驚きの声と同時にぶるんぶるんと揺れる兄貴の象さん。

 今彼はパンツという名の密林から脱出し、自由にサバンナを駆け抜けているのだ。

 

 ミリエラがキャッて言ってこっちをチラチラ見てくるのはスルーあるのみ。

 今はそれより、俺のストレス発散の方が先だった。

 

 

 

 闘争衝動は、なにも拳による対話だけが解消手段ではない。

 というか、装備を剥ぎ取ったとはいえ大の大人に素手で挑んで勝てる気はしない。

 いや、勝てるかもしれないが試したことがないのでここでは頼らないと言った方が正しいか。

 

 

(他にやりようは、たくさんあるんだからな!)

 

 

 まだまだ未熟な8才児でも、成人済みの大人を気持ちよくぶちのめす、必殺技がある。

 

 それは――――言葉だ。

 

 

「……ほいっと」

 

 レアでもないおっさんの脱ぎたてホカホカ装備など《イクイップ》したかない。

 俺は手にした装備一式を地面に投げ捨ててから、大きく息を吸い。

 

 

「……ご町内のみなさぁぁぁぁぁぁぁん!! ここに全裸の変態がいまぁぁぁぁぁぁぁす!!」

 

 

 大音量で、通りを行く皆々様に向かい、声を張った。

 

 

「ええ、全裸の変態!?」

 

「な、なんだってぇ!?」

 

「どこ! 全裸の変態どこ!!」

 

「シャッターチャンスだ!!」

 

 

 ざわめき、この装備至上主義の世界で非常にレアリティの高い変態がいるという抗いがたい魅惑に誘われ、一気に野次馬が集まってくる。

 っていうか妙に全裸の変態に対して関心高くないか町の人。普通に怖いっ!

 

 

「兄貴! あそこに兄貴の服が!!」

 

「そうだそうだ!」

 

「まじか! っていうかあのガキが何かやりやがったんだな!?」(U)

 

 

 ぶるんぶるんぱおーん。

 

 

「セン君、あっちは任せてね」

 

「よろしく」

 

 

 混乱に乗じ囁き声だけ残して動き出すミリエラを見送る。

 何を任せたか実はよく分かってないのだが、ミリエラは有能なので気にしない。

 

 

「さぁて、どうしてやろうかな?」

 

 

 俺は男たち3人と向かい合い、にんまりと笑ってみせる。

 

 そして。

 

 

「兄貴さん一人だけが裸なんて、不公平だよな?」

 

「は?」(U)

 

「へ?」

 

「そうだそうだ? ……あ、ちょっと待っ」

 

 

 同意も得られたし、俺はやる。

 

 

「おおおおおお! 《ストリップ》! 《ストリィィィィップ》!!」

 

「「ぎゃーーーーーー!!」」

 

 

 全裸三兄弟、一丁上がり!

 

 だがしかし、俺のターンはまだ続く!!

 

 

「みなさぁぁぁぁぁぁん! あそこでぇぇぇぇぇぇす!! 全裸三兄弟がいまぁぁす!!」

 

 

 奪った装備を捨てながらもう一回声を上げ、ダメ押しに野次馬連中を呼び込んでやる。

 こうなったらもうお祭りだ。1分もしないで彼らの全裸と象さんは衆目の的である。

 

 

「やばい、やばいよ兄貴ぃ!」(U)

 

「そうだそうだ!」(U)

 

「ちぃっ! どうしてこうなった!? ず、ずらかるぞ!!」(U)

 

 

 顔面蒼白になった男たちは慌てて自分の装備を回収すると、三人仲良く路地の奥へと一目散に逃げていく。

 

 

「おお、あれが全裸の変態! いい体してるなぁ」

 

「ああん! お尻しか見えなかったわ!!」

 

「ひゃー、やっぱり春って季節は人を狂わせるねぇ」

 

「いいお尻をありがとう! 全裸三兄弟ーーーー!!」

 

 

 そんなゴロツキたちの遠ざかるプリケツを見送る、やっぱりどこか全裸の変態に対する関心が高い町の人々のあいだを縫って、俺も退散する。

 

 人の群れを抜けて通りに脱したところで、俺は一仕事終えた心地で大きく伸びをした。

 胸のモヤモヤは晴れ、健やかな心地だった。

 

 

(あぁー、大声出してスッキリした。《ストリップ》の精度も上々だったな)

 

 

 プリケツ全裸兄貴たちには申し訳ないが、俺の八つ当たり相手にされたのは不運な事故だったと思ってもらいたい。コラテラルコラテラル。

 おかげで俺の頭はだいぶんスッキリし、さわやかな気分になった。

 

 

(とりあえず、ゴルドバ爺にまた会う機会があれば、パンチの一発でもくれてやる)

 

 

 おそらくだが、適性に関しちゃバランスギリギリのところにしてくれたんだろう。

 真実がどうあれ、今の俺はそう結論付け、それを信じることに決めた。

 

 

(そうだ。悩んでいても始まらない。コンプの道も一歩から、行動あるのみだ)

 

 

 途方もなく高い山だってのは元より承知のコンプ道。

 俺はまだ、この長い坂道を上り始めたばかりなんだ。止まるんじゃねぇぞ、俺!

 

 

「装備適性Cがなんだ。速攻でB以上にしてやらぁ!!」

 

 

 ミリエラの魅了対策と同じくらい問題解決の糸口がないが、それでも俺は意気高く覚悟完了する。

 

 

 

「セン君、こっちこっち」

 

 

 俺を別の路地へと手招きするミリエラと、その隣に立つ小さな……同い年くらいの女の子。

 

 ミリエラに手を振り返しながら、俺も二人が待つ路地裏へと足を進める。

 

 

「セン君セン君。この子がさっき絡まれてた子だよ。どさくさに紛れて助けてあげたの」

 

「あの、その、ありがとうございますっ」

 

「……ほぉー?」

 

 

 礼儀正しく頭を下げる女の子を目にしながら、俺は違和感を覚えた。

 

 

(これは、まさか……?)

 

 

 

 今の俺が抱えている、ミリエラの魅了対策と装備適性の向上という、2つのミッション。

 それらの問題解決へと至る筋道は、意外にも、すぐ近くに転がっていた。




男だって、全裸にするさ!


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
感想いただけて元気が出ました。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
嬉しいばっかり言ってますけど実際嬉しいので仕方がない。

お話は転がっていきます。続きもよろしくお願いします!


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第011話 俺、演じる!

いつも前書きまでご覧くださってありがとうございます!
ここまで読んでくれている、楽しもうとしているって思えて嬉しいです。

読んでくれる人、お気に入りや感想などの評価をくれる人、何より楽しんでくれている人。
そんな人にとってこれがいい物でありますように。

さてさて、11話をお届け!
よろしくお願いします。



 

 

 騒動を起こした場所とは別の路地裏。

 俺はミリエラが救助した、全裸三兄弟に絡まれていた女の子から事情を聴いていた。

 

 

「……つまり、物珍しさからあの兄貴って奴の装備をついジロジロ見てしまい、それが原因で絡まれた、と」

 

「はい。お屋敷ではあのような方、見たことがなくて……」

 

「なるほど、気持ちは分かる。俺もビキニアーマーの美女がいたら目が行くし」

 

「セン君、ビキニアーマーが好みなの?」

 

「レア装備なら大体好きだぞ」

 

「セン君セン君、平然と言ってるけどそれも立派な変態性癖だと思うの」

 

 

 ミリエラからのツッコミをスルーしつつ、俺は助けた女の子に注目する。

 

 

「……?」

 

 

 そこそこ長い緑髪がウェーブ入っててもじゃもじゃしている、ふんわりとした印象を受ける可愛い女の子だ。

 パッと見目に入る薄汚れた外套の内側には、ちょっと仕立てのいいフリル付きのシャツがチラチラと見えた。

 両手に抱える紙袋いっぱいに入っている、実にこの年頃の女の子らしいチョイスの食べ物や、愛らしいデザインの小物たち。

 

 なるほど絡まれやすそうな無防備さだと、少し見ただけでよく分かった。

 おかげで最初に感じた違和感の正体、彼女の事情についても色々とお察しする。

 

 

(これは十中八九、いいところのお嬢さんだな)

 

 

 おそらくは北の貴族街に住んでいる子。

 お忍びで商業区まで足を運んで、初めての冒険にキャッキャとはしゃいでたって辺りか。

 

 8才、冒険したいお年頃だもんな!

 

 

「あの、えっと……」

 

「おっと、ジロジロ見てごめんな」

 

 

 女の子が居心地悪そうにしてたのに気づいて謝罪する。

 だが、謝りながらも俺の頭の中では、まったく別の思考が働いていた。

 

 

(この子、上手いことすればかーなーり俺の役に立ってくれるのでは?)

 

 

 むしゃくしゃしてやった、反省はしていない。というただの八つ当たりのゴロツキいじめ。

 その先でたまたま保護した、身なりのいいお嬢さん。

 

 

(このシチュエーション。利用しない手は、ない!)

 

 

 俺の中のゲーム脳が、これはチャンスだとビンビンに訴えていた。

 

 

(数多のゲームをプレイし、そして配信しまくってた前世の俺のコミュ力よ、覚醒しろ!!)

 

 

 脳内スイッチを切り替える。

 手に入れた情報から最適の仮面を用意して、俺の顔面に張りつける!

 

 

「……どこにも怪我がないかどうか、確かめてたからな」

 

「えっ?」

 

 

 俺は少しだけ身を屈めて、女の子と目線を合わせる。

 心配そうな顔を浮かべてからフッと口元に小さく笑みを作り、そして。

 

 

「でも、無事で何より。女の子に無意味な傷なんて、似合わないだろ?」

 

「……!」

 

 

 さらににっこり微笑めば、ちょっとだけ大人びた、同い年の優しい男の子の完成だ。

 たとえリザたちに「将来的にはそこそこのイケメン、好きな人は好き」と言われる程度のイケメン力しかなくとも、シチュエーションが追い風になる。

 

 

「あ、あの、あの……っ!」

 

 

 女の子が頬を染めあわあわしだしたのを見て、俺はこの路線で合っていることを確信。

 そこからは一気に畳みかける。

 

 

「俺の名前はセンチョウ。みんなにはセンって呼ばれてる。町の外の孤児院の出で、ここには買い物に来てたんだ。よければ俺に、帰り道の護衛をさせてくれないか?」

 

「え、へっ、へぁ!?」

 

「あと、よかったらでいいんだが。名前、教えてくれるか?」

 

「ふえぇぇあ!? か、カレーン、ですっ!」

 

「カレーン。いい名前だな」

 

「なひぃっ! ぽぽぽっ」

 

 

 いちいちいい反応を返す女の子、もとい、カレーンがちょっと面白い。

 っと、いかんいかん。これを顔に出すとせっかくの追い込みが無駄になるな。

 

 ここからは慎重に詰めていく。

 

 

「なぁ、カレーン。これもよかったら、なんだけど」

 

「な、なんでしょう?」

 

「俺と、友達にならないか?」

 

「!?!?」

 

 

 驚くカレーンの前で、俺は悩ましげな表情を作り、目をそらす。

 

 

「ほら、孤児院の奴とは違う、町の友達っていなくてな。もちろん、カレーンが嫌じゃないなら、なんだが……」

 

 

 ついでにほっぺをカリカリ掻いて、照れくささをアピール。

 

 

「あ、あっ、嫌だなんて。そんな! よ、喜んで!!」

 

「………」

 

 

 よし、掛かった。

 

 

「ありがとう。この町に来て初めての友達だ。よろしくな」

 

「~~~~っ!! は、はいっ!」

 

 

 満面の笑みを浮かべ、カレーンの手から袋を片手で奪い取り、もう一方の手を彼女へと差し出す。

 差し出した手は拒まれず、おずおずと伸びてきた手と重なり、静かに握りあった。

 

 

「……ってことでミリエラ。俺はこの子をおうちに送ってから合流するって、ダンデに」

 

「もちろん付いてく。セン君一人じゃ放っておけないもんね?」

 

「そうか」

 

 

 ですよねー!

 

 もう顔が「そうは問屋が卸さないよセン君」ってドヤ顔になってるもんな!

 

 

(とはいえ、これは想定内だ)

 

 

 ミリエラが付いてこようとするのは当然。帰れと言っても無駄に時間を浪費するだけだ。

 むしろ途中で邪魔してこなかった辺りにこそ、ミリエラからの作為を感じる。

 

 こんな時、心を読める魔法とか装備があれば、小説みたいに地の文で読み取れるのにな。

 

 

「カレーンちゃん! わたし、ミリエラ。よかったらわたしともお友達になってくれる?」

 

「えっ、うん! うん! よろしくね!」

 

 

 俺の作り上げた空気を利用して、サクッと自分もお友達になるミリエラ。

 カレーンの反対の手を握り、俺と同じ立場にしっかりと並び立つ。

 

 いや、この辺もミリエラの下着適性で上がった魅力のなせる技かもしれない。

 

 

「さ、カレーンちゃん。暗くならないうちにおうちに帰りましょ?」

 

「は……はいっ! ミリエラ……さん。ぽっ」

 

 

 ってあっれー!? すでにもう仲良し上書きされてないか!?

 

 対人戦でサキュバスって本当にチートだなおい!?

 

 

「どっちに行けばいいか分かるか? カレーン」

 

「あっ、えと。あっち、です。セン様……ぽぽぽっ」

 

「そうか。じゃあ行こう」

 

 

 よし、よし!

 まだ大丈夫。まだ行ける!

 

 

(ここでカレーンの好感度を稼いでおけば、その後ろの貴族さんとお近づきになれる芽が出てくるんだ)

 

 

 貴族。

 俺視点で言えば、お金持ちだ。

 

 金は力だ。

 欲しいお菓子を買うにも道具を揃えるにも必要になる。

 

 そしてなにより、金を持っている存在ならば。

 

 

(レアアイテム入手のツテや、それその物を持っている可能性が高い!)

 

 

 正直行き当たりばったりもいいところだが、ガキの身分に選択肢なんてものはない。

 

 

(おまけに俺には時間もない)

 

 

 降って湧いたこのチャンス。何をもってしても必ずモノにしてみせる!

 

 

(……ふ、ごめんなダンデ。俺は、今は帰れないんだ)

 

 

 中央広場の大鐘が帰って来いと鳴り響くのを背に受けながら、俺は行く。

 

 そうして向かった貴族街。

 カレーンの案内を受けて辿り着いたその場所は。

 

 

「……ここが、私のおうち、です!」

 

 

 連環都市同盟パルパラにおいて一番の邸宅。即ち。

 

 

「……Oh」

 

 

 都市長の家だった。

 

 




浦島太郎から続く伝統芸能。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

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あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
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第012話 時には手段を選ばないのがコレクター!

12話のお届けです!
冒険とは、危険を冒して何かを求める行為だといいます。

なのでセンチョウ君の行動は、間違いなく冒険だと思います。
そんな事を思いつつ、今回もよろしくお願いします。


 

 

 俺とミリエラ、そしてカレーンお嬢様が到着したとき、都市長の家の前はちょっとした騒ぎになっていた。

 

 

「お嬢様ー! カレーンお嬢様ーーーー!!」

 

「どちらにいらっしゃるのですかー! お嬢様ー!」

 

 

 門前では複数の使用人らしき人たちが、必死にお嬢様を探し声を張り上げていて。

 

 

「お嬢様……げふっえふっ、お嬢様ーーーーーー!!」

 

 

 中には涙を流しながら、声が枯れるほどに叫んでいるメイドさんなんかもいた。

 背も高く、黒髪の綺麗な見た目の人が、その身を崩すのも構わずに声を張っている姿は、なかなか心に来るものがある。

 

 

「あぅ……」

 

 

 それを目にしたお嬢様はようやく自分のしでかしたことの大きさを理解したらしく、しょんぼりと俯き、震える両手でスカートを掴んだ。

 その姿をちょっと可愛いなんて思うのは、さすがに邪な感性かもしれない。

 

 でも可愛い。

 

 

「家に帰るまでが冒険、だぞ。カレーン」

 

 

 縮こまられても困るから、軽く背中を押してやる。

 

 

「ちゃんと顔を見せて、安心させてあげないとね」

 

「セン様、ミリエラさん……はい」

 

 

 続くミリエラの言葉にも勇気づけられて、カレーンがむんっと気合を入れた。

 

 

「みんなー! ただいま戻りましたわ~~!!」

 

「あっ! お嬢様! お嬢様~~~~!!」

 

 

 カレーンの声にいち早く反応を返したのは、さっきの喉かれメイドさんだ。

 大急ぎでお嬢様の元へと駆け寄って、ふわふわで小さなその体をぎゅうっと抱きしめる。

 

 他の使用人たちも一斉に駆け寄って、いかにもめでたしめでたしな構図が完成した。

 

 

「よくぞご無事で、お嬢様!」

 

「あぅ、ノルド……力が入りすぎています」

 

「力だって入りますとも! いったいどちらへお出かけなさっていたのですか! 一人で出歩くのは危険だと、あれほど申し上げておりましたのに!」

 

「っ……ああ、ああ、ノルド。ごめんなさい。カレーンは世間を知らなすぎました」

 

 

 ノルドと呼ばれたメイドさん含め、使用人たちが心の底から安堵している姿を見るに、カレーンは相当に愛されているようだ。

 そんなお嬢様が行なった小さな大冒険という名の脱走には、そりゃもう肝を冷やしたに違いない。

 

 はじめてのおつかい(保護者不認知非同伴)は、さすがにやばいと俺も思う。

 

 

「カレーン! 帰ってきたのか!!」

 

「ああ、カレーン! 本当に心配したのですよ」

 

 

 おっと、ここにきて本命のご登場だ。

 門を越えて出てきたのは、豪勢な刺繍の施されたいかにもな服をまとった太っちょの中年と、シルクっぽいローブを上品に着こなした、背筋のすらっとした女性。

 

 まぁその正体は語るまでもなく。

 

 

「お父様、お母様!」

 

 

 カレーンのパパとママ。つまりはパルパラの都市長と都市長夫人である。

 二人はメイドたちに代わってカレーンを抱きしめると、泣きこそしてないが潤んだ瞳で愛しの娘を見つめていた。

 

 

「まったく、いかにこの街は私が管轄していて平和だとは言え、一人歩きはならんと言っておっただろうに」

 

「せめてノルドを連れて行きなさい。いえ、まぁ、彼女に言えば止めたでしょうけど……」

 

「申し訳ございません、お父様、お母様……」

 

 

 叱られ再びしょんぼりしながらも、心から反省した様子で謝るカレーンに、二人の顔にも安堵が浮かぶ。

 

 

「……いい景色だね。セン君」

 

 

 優しい家族の繋がりを見てか、俺の隣でミリエラが微笑む。

 

 

「ああ、いい景色だな」

 

 

 そんな彼女の言葉に頷きながら、俺は都市長の指に填めてある複数の輪っかを見つめていた。

 

 

(あれ、ぜってぇ高いだけじゃなくてちゃんと効果ありそうな指輪だよなぁ。欲っしぃー)

 

 

 カレーンに紹介され孤児院仕込みの目上向け挨拶を披露しながら、俺はこのチャンスをどう活用するか必死に頭を回転させていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 それから俺とミリエラは都市長の家に招かれ、今夜は泊っていくように言われた。

 娘を助けてくれたお礼と言っていたが、その実、より詳細な話を聞いておきたいって気持ちが見え隠れしていた。

 

 もちろん俺に断る理由はない! しっかりと都市長の家を探索させてもらうぜ!

 

 

「……なるほど、カレーンに絡んだ悪漢たちが脱ぎだしたところをセン君が大声をあげて牽制し、その隙にミリエラちゃんが動いてカレーンを救い出してくれたのだな。幼いながらも賢い立ち回りだ」

 

「二人ともありがとうね。おかげでうちの大事な娘が傷物にならなくてすんだわ」

 

「居合わせたのはたまたまでしたが、助けられて本当に良かったと思います」

 

「セン君が気づかなかったら、わたしは見逃していたかもしれません。だからセン君のおかげです」

 

「いえ、ミリエラさんが私を逃がしてくれたじゃないですか。感謝してます!」

 

「はっはっは! さすがはマザー・マドレーヌ。いい子を育てているということだな」

 

 

 まずは食事をご一緒に、ということで、事情説明がてら晩飯をごちそうになる。

 ってかやっぱ貴族の家の食事うめぇな。料理道具のレアリティも料理人の適性も高いんだろうな。

 

 路地裏の出来事については、俺の《ストリップ》に関しては伏せ、嘘を使わず『お嬢様を助けた勇気ある子供たちの話』を語って聞かせた。

 カレーン自身が特にこれをトラウマには思っておらず、むしろ大冒険だったと興奮しているのもあって、都市長夫婦は特に疑いもなく、どちらかというと興味深げに耳を傾けてくれていた。

 

 ちなみに俺たちを待っているだろうダンデたちには都市長が使いを出してくれている。

 一晩泊って翌日送るという内容だが、今頃はまたやらかしたなあいつらとか思われているかもしれない。

 これについては今後ともやらかす予定なので、この機会にますます慣れておいて欲しい。

 

 

 

「しかし、カレーンがまさか全裸三兄弟の現場に居合わせていたとはな。あれのおかげで私の職場が大騒ぎになったんだぞ」

 

「路上で全裸だなんて、本当に恐ろしいわ……」

 

「ええ、セン様たちが助けてくださらなかったら……ぽぽぽっ」

 

「ははは……」

 

 

 全裸に剥いたの俺なんだが、なんか思っていた以上に周囲へ影響を及ぼしているみたいだ。

 

 あれか、全裸ってなんか特別な罪状でもあるんだろうか。でも町の人の騒ぎ方はかなり面白がってたよな?

 モノワルドにおける全裸の立ち位置が、まだよく分からない。

 

 

「やれやれ。つい最近も機密文書が保管されていた書庫が荒らされたりと、心が休まらんときだというのに、全裸三兄弟……度し難い連中が出てきおって」

 

 

 マジでどういう立ち位置なの全裸三兄弟!? なんかごめんね!!

 

 

「あなた、お仕事の愚痴はこの席にはふさわしくありませんわよ?」

 

「おっとっと、すまんな」

 

 

 ううむ。都市長をたしなめる夫人の落ち着きっぷりよ。

 都市長とそう年も変わらないだろうに若々しいし艶っぽさもある見た目もあって、人妻熟女の魅力がたっぷりと醸し出されている。

 隣に座ってるミリエラがめちゃくちゃ観察してるし、あれが本物の淑女というものか。

 

 この人を見る限り、カレーンも将来有望だな。

 

 

「……さ! 今日は遠慮なく飲み食いし、我が家の浴室やベッドを堪能するといい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 手を叩き、やや強引に話題を変えた都市長に合わせて、俺も脳内から全裸三兄弟を含む諸々の雑念を放り投げる。

 

 

(そんなことより俺には今、もっとやるべき重要なことがある)

 

 

 こうして談笑している今だからこそ、探りを入れる好機!

 俺は口の中でとろっとろに溶けるビーフシチューの牛肉を味わってから、都市長に問いかけた。

 

 

「都市長様、その手に填めている指輪って、何か特別な装備だったりするんですか?」

 

「おお? セン君は私の装備に興味があるのかい?」

 

 

 お、悪くない反応。ここは……。

 

 

「はい! すっごく興味あります!! 俺、アイテム大好きです!」

 

「おおーほっほっほぅ。元気のいい返事、大変結構だ。よかろう、少し説明しよう」

 

「はい! ありがとうございます!!」

 

「おーおー。カレーンは大人しいから、元気な子供の反応は新鮮だなぁ」

 

「うふふ、そうですね。あなた」

 

 

 よっし、成功!

 やっぱり好奇心旺盛で純粋な子供の視線ってのは便利だな!

 

 

「セン君セン君。悪い顔してる」

 

「おっと。へへっ……じゅるり」

 

 

 ミリエラのナイスフォローで表情を繕って、俺は都市長の装備のご高説を賜る。

 

 

「これでも人と話すのが仕事だからね。性能はそれに特化したものを装備しているんだ。この赤い石の指輪が滑舌上昇、緑の石の指輪が交渉力上昇、そしてこの、青の石の指輪がSRの品でね、真意看破の力が向上するんだ」

 

「おおー!」

 

 

 出た出た、SR以上のレアアイテム! 欲しい、欲しいぞ!!

 

 

「で、この紫の石の指輪が、ハニートラップなどに対抗するための魅了耐性向上の指輪だ。政治に携わる者にはほぼほぼ必須の装備なんだよ」

 

「………」

 

 

 ………………。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「うーん、むにゃむにゃ」

 

「うぇへへへ、センく~ん」

 

「………」

 

 

 深夜。

 俺はひとつのベッドで左にカレーン右にミリエラの、両手に花の状態から抜け出した。

 

 三人一緒にお風呂入ったり今も二人からふわふわ超いい香りがしたりもしているが、俺の心はそれどころではない。

 

 

「………」

 

 

 靴下を《イクイップ》して足音を可能な限り消し、用意されてるスリッパは履かずにこそこそと部屋を出る。

 

 目指す場所はもちろん、都市長たちの寝室だ。

 

 

(魅了耐性向上の指輪! これだけは、これだけは絶対に手に入れる!)

 

 

 泥棒? 盗っ人? だから何。

 

 

(俺のアイテムコンプ人生において、これは必要なんだ。ここを逃して明日は、ない!)

 

 

 それにゲームじゃ夜中に家に侵入してアイテムを漁るなんて日常茶飯事だ。

 言うなればこれは勇者行為。世界を救うために必要な行動なのである。

 

 

(そう。俺という世界を守るために、な!)

 

 

 そうして俺は夜盗行為……もとい、勇者行為をするべく、暗い廊下を静かに前進するのだった。




彼は勇者ではありません(断言)。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
しおりが最新話にピッと挟んであると、読んでもらえてる! って喜んでたりします。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
しょうがねぇなぁ、感謝しろよって感じで広げてもらえると、ありがてぇありがてぇと言いながらべちゃっとなります。

次回、勇者行為は成功するのか。続きます。


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第013話 悪党は一人とは限らない?

書き溜めた分がもうなくなってきてるぜ。
書き溜め分がなくなったあとも最低週1投稿はしたいと思っていますので、変わらず応援のほど、よろしくお願いします。


ということで、13話をお届けです!


 

 

 抜き足、差し足、忍び足。

 深夜の都市長邸を、俺は気配を殺しながら進む。

 

 

「ふぁ~あ……」

 

「!? ……っぶね」

 

 

 見回りのメイドさんから身を隠したりしながら、少しずつ、少しずつ。

 目的地である都市長たちの寝室へと向かっていく。

 

 

(さぁ、待っててくれ。俺の魅了耐性向上の指輪ちゃん!)

 

 

 都市長が装備するほどのものならば、間違いなくミリエラからの魅了には耐えられる。

 

 俺は野望のため、未来の安全のため、悪の道を邁進していた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「……ここが、都市長たちの寝室か」

 

 

 俺はそろっと、音を立てないように気をつけながら扉を押す。

 

 

「んごごごご……ぴゅるるるる……」

 

「すやすや」

 

 

 豪奢な作りの部屋の奥、キングサイズのベッドの上で、都市長夫婦が眠っていた。

 

 

(よしよし、安眠してる。より良い装備でより質の高い睡眠体験を、ってやつだな)

 

 

 貴族様なんだからいい物着てぐっすり寝ているに違いないという俺の読みは当たっていた。

 おかげでもうちょっと派手に動いても大丈夫そうだと、俺は部屋の物色を始めた。

 

 

(とはいえ、目当ての品以外は興味なしっと……)

 

 

 目的の物である魅了耐性向上の指輪を探す。

 部屋にある机の引き出しの中、クローゼットの中とあれやこれやと探し回り。

 

 

「……やっぱあそこか」

 

 

 最後に視線を送ったのは、夫婦が寝ているベッドについた、枕元の小さな収納スペース。

 目覚まし時計や魔法のランタンがある場所の、隣に置かれた豪奢な飾り箱。

 

 箱のサイズや手に届きやすい場所にあることからも、ほぼ間違いない。

 

 

(あの中に、俺の目指すお宝がある)

 

 

 俺はゆっくりと、最大限に足音を殺してベッドに近づいていく。

 

 逸る気持ちを抑えて一歩ずつ、ゆっくり、ゆっくり……。

 

 

「ん、んん……」

 

「!?」

 

 

 夫人が寝苦しそうな声を上げたところでビタッと動きを止めて様子を見る。

 布団を払った夫人は薄いネグリジェ一枚だけを纏った姿で、柔らかそうな肉付きの二の腕や太ももを惜しげもなく星の光の下に晒している。

 

 つい数時間前まで楽しく談笑し、言葉の端々から知性を感じさせていた女性の、あまりにも無防備な肢体がそこにはあって。

 

 

(……エッッッッッッ)

 

 

 俺は、思わず傍へと近づいて、まじまじと見てしまう。

 

 

(体が勝手に……って奴だな)

 

 

 これはあれだ、ギャルゲー共通ルートで手に入るちょっとセクシーなCGだ。

 

 

「うっわぁ、これが熟した女性の体か……すげぇな」

 

 

 だが俺の目の前にあるのは本物の女体だ。2Dでも3Dでもない実体である。

 モチモチしてそうな腕の肉はもちろん、あられもなく晒されている太もものムチムチ感ときたらもう、8才の体であっても否応なくドキドキしてしまう。

 それに濃い生地で作られたネグリジェの向こうには、今も呼吸に合わせて上下する、豊満なバストが隠されているのだから、これはもう魅力という名の暴力だ。

 

 こんな女性の旦那に選ばれた都市長さんは、間違いなく幸せ者である。

 

 

(……しかし、当然といえば当然だが、ミリエラやカレーンとは違うなぁ)

 

 

 さっきまで、部屋のベッドで二人に抱き着かれていた感触を思い出し、改めて女体の神秘を実感する。

 

 ぷにぷにの柔らかさと、むっちりとした柔らかさ。

 正直どっちも魅力的であると言わざるを得ない。

 世の大多数の男がこれらを秘宝だと断言するのも納得である。

 

 レアアイテム蒐集を人生の大目標に掲げた今世の俺ではあるが、やっぱり、ギャルゲーみたいな恋を楽しんだりするのもいいんじゃないか、なんて思い直したくなってくる。

 

 

 

「……って、そうだ。アイテム……!」

 

 

 ハッとして、正気に戻った。

 恋愛も何も今その流れに従えば、俺の人生ハッピーバッドエンド確定なんだっての!

 

 

(あくまでメインはレアアイテム蒐集! ヒロインの恋愛スチル回収は、その次だ!!)

 

 

 夫人の傍まで来ていたおかげで、小箱まではもう目と鼻の先だった。 

 

 

(あと少し……!)

 

 

 ベッドの縁に膝を乗せ、身を乗り出して箱に手を伸ばす。

 あとほんのちょっとで手が箱に届く、その瞬間だった。

 

 

「んうー……」

 

「は? うおっ……!?」

 

 

 ぬるっと伸びてきた腕に絡めとられて、俺の体が一瞬で引き寄せられる。

 直後、背中に感じるモチっとした柔らかさと、人肌特有の温かさ。

 

 

 

「んー、あなたぁ……」

 

「!?!?!?」

 

 

 俺は、都市長夫人の抱き枕にされていた。

 

 

「温かいわぁ……それに、抱きしめやすいサイズ感……むにゃ」

 

(ひ、人違いでーーーーす!!)

 

 

 下手にジタバタすることもできない!

 起こしてしまえばこのたった一度のチャンスが無駄になる!

 

 

「んふぅ」

 

(うおおおおおお!!)

 

 

 決して、この柔らかさと心地よさをもっと堪能したいわけではない!

 

 

(やばいやばいやばい。どうする? これ見つかったら将来的なミリエラどころじゃなく即バッドエンドじゃねぇか!)

 

 

 ここまで深く入り込んだ状態では言い訳のしようがない。

 夫人も、都市長も、どっちも起こさないでこの状況を突破しなければ、俺に未来はない!

 

 

「う、おおお……」

 

「ダメよあなた、逃げたらダメ」

 

 

 ぎゅううう。

 

 

「ふん、ぬぅぅぅ……」

 

「うふふ。いつもは自分からいっぱい抱き着いてくるのに、今日は私を誘っているの?」

 

 

 ぎゅっぎゅっ。

 

 

「押してダメなら、引いて……」

 

「そう、そうよ。身を委ねて。あなたはいつもいっぱい頑張ってるんだもの。私で癒されて、ね?」

 

 

 むぎゅーー。

 

 

「………」

 

 

 やだー!

 あのぽっちゃり中年の裏の顔なんぞ知りとうないーーー!!

 

 二人っきりの時は嫁さんに甘えまくってるとかそんな情報は知りとうなかったーーー!!

 

 

 

 色々と限界が来た俺は、最終手段を試みた。

 

 

(うおおおおおおお!!)

 

「あんっ!」

 

 

 体を捻り、その勢いを利用して拘束を抜ける!

 押しても引いてもダメなら、多少のリスクを覚悟しての強硬策だ!

 

 

「ん、ンン? ん? あら?」

 

 

 刺激の強さに、夫人が目を覚ます。

 俺は彼女の視線から、床にべったり寝そべることで辛くも逃げおおせた。

 

 

「んん、あなた……ん」

 

 

 布団を自分で剥いでいたことに気づいた夫人は、それを被ると同時に愛しの旦那様にしがみつく。

 

 そうしてしばらく、寝息が2つになったのを確かめてからようやく俺は立ち上がった。

 

 

 

「……ふぅ。正直、かなりヤバかったな」

 

 

 日常的にミリエラから受けていたラブコールも相当だが、このほんのわずかな時間の攻防は、俺の心の深い所まで刻みつけられただろう。

 

 具体的には背中に押しつけられた柔らかい奴の感触とか。

 

 

(まぁ、それはそれとして。とっとと目的を果たして撤退だ)

 

 

 俺はさっきのやり取りを思い出フォルダにしっかりとセーブしてから、改めて箱に手を伸ばす。

 夫人が都市長に引っついてくれたおかげで、今度は楽に取ることができた。

 

 

「……へっへっへ。ビンゴぉ」

 

 

 箱の中身は予想通り、都市長が指に嵌めていた指輪が綺麗に並べられていた。

 その中から迷うことなく、紫色の石が填められた指輪を取ろうとして、ピタリと手を止める。

 

 

(……これ、全部持ってってもいいんじゃね?)

 

 

 だって、ひとつだろうがそれ以上だろうが、勇者行為は勇者行為だ。

 どうせなくなった事実には気づかれるんだから、全部取った方がお得に違いない。

 

 

(それに魅了対策の指輪だけを奪う、なんて。動機を疑われると足がつきかねないしな)

 

 

 ここは少しでも情報のかく乱が必要だと判断し、俺はすべての指輪を根こそぎゲットする。

 最低でもR以上は確定しているこれらの品々は、今後間違いなく俺の力になるだろう。

 

 

「……ククッ」

 

 

 俺は青の石の指輪と紫の石の指輪を指に嵌め、一人ニヤニヤする。 

 これは決して目的の品に加えてSR装備ゲットだぜ! と喜んでいるわけではない。

 

 俺の偉大なるアイテムコンプの道が遂に始まったことを、そのためにここまでのリスクを負って手に入れたその努力をこそSR装備ゲットだぜやっほぅー!

 

 

(さぁ、手に入れたからにはとんずらだ!)

 

 

 空の箱をベッドの下に転がし、俺は来た時以上に慎重な足取りで都市長夫妻の部屋を出る。

 再び道行く見回りメイドさんの目を盗み、廊下をコソコソ移動してカレーンたちのいる寝室へと……。

 

 

「なっ……!?」

 

「っと!?」

 

 

 やべっ!

 角を曲がったところで誰かとぶつかった!!

 

 

「……あなたは」

 

「うっ」

 

 

 ぶつかった相手は、あろうことかカレーンを探して喉をからすまで声を張っていたメイドさん。

 名前は確か、ノルド。

 

 

 

「こんな夜更けに、どうしてあなたが?」

 

「あ、いえ……その、トイレに……」

 

「へぇ、トイレ」

 

 

 こちらを見下ろす視線が、少々キツい。

 子供に対して、それもカレーンの恩人に対して向けるような目線じゃなくて、ブルリと背筋が震える。

 

 明らかに、疑われている。

 

 

「トイレの場所は夕刻にお教えしましたよね? こちらとはほぼ真逆ですが」

 

「それは、その、暗くて……」

 

 

 自分でも苦しい言い訳だと思うが、どうにか通れ! 通ってくれ!!

 

 

 

「……なるほど。そうでございましたか。でしたら私がご案内します。こちらですよ」

 

 

 不審には思われたが、かといって子供が何かをするとも思えない。

 そんな感じの反応を見せ、ノルドさんが俺に背を向けた。

 

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 

 俺はそんな彼女に怖々とお礼の言葉を告げながら。

 

 

(おおおおっし! 助かったぁぁぁ!!)

 

 

 内心でガッツポーズをしていた。

 

 

「あまり、夜の屋敷をうろついてはいけませんよ。子供であってもここは政治に携わる者の家の中なのですから、疑いをかけられるのが常なのです」

 

「は、はい。気を付けます」

 

 

 注意を受けて、これでおしまい。

 あとはトイレに連れて行ってもらって、寝室に戻ってミッションコンプリートだ。

 

 

(ほっ。マジでやばかった。生きた心地がしなかった。まさか見回りメイドが複数人いたなんて……)

 

 

 最初に躱したメイドさんが囮で、こっちが本命の見回りだったりするんだろうか。それを考えるくらいにはノルドさんに気配がなかった。

 それともたまたま彼女には用事があって、鉢合わせになったとか。

 

 ほら、よく見てみれば彼女の手には結構な量の書類が抱えられているし。

 

 

「………」

 

 

 とある人物の、小さな愚痴を思い出した。

 

 

「……《イクイップ》」

 

 

 まぁ、思いついても正直こういうのはスルーするのが大正解なんじゃないかと、俺は思う。

 

 

「ノルドさん」

 

「なんですか?」

 

 

 これはあくまで自己保身。安全を確信するための、確認作業だ。

 

 

「その。その書類って、都市長さんたちが寝ているあいだに持ち出してもいい物なんですか?」

 

「……ええ、これは。ご主人様の指示で持ち出している物ですから」

 

「あ、そうなんですね」

 

「ええ」

 

 

 中庭を望む一枚ガラスの大窓から、月の光が差し込んでいる。

 

 

「……ノルドさん」

 

「なんですか?」

 

「……どうしてトイレじゃなく、屋敷のもっと人気のない場所に、俺を案内してるんだ?」

 

 

 装備した青い石の指輪が、俺に気づかせてくれた。

 

 

「……おっと、失礼」

 

 

 先導する彼女が、その先で俺に何をしようとしているのかを。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 そして残念なことに俺はもう、ターゲットとしてロックオンされているってことを。

 

 

「子供の首を折る程度ならば一瞬のこと、場所を選ぶ必要はないのだった」

 

 

 口調を変えたノルドさんが、いや、ノルドを名乗る何者かが笑顔で振り返る。

 彼女の瞳は、俺に対する殺意で真っ黒に染まりきっていた。

 

 

「聡い子供は嫌いではないのだが、虎の尾を踏んでしまったな」

 

 

 メイド衣装の殺意が、俺に向かって飛んでくる。

 

 

「作戦も仕上げの段階でな。ここで私と出会ってしまった不幸を、あの世で呪うがいい!」

 

「……!」

 

 

 ノルドの両腕が構えを取り、宣言通りに俺の首に狙いをつけた……その瞬間だった。

 

 

 

「何っ!?」

 

「へっ!?」

 

 

 突如として俺とノルドのあいだに光が生まれる。

 予兆のない突然の出来事に、突進中のノルドはブレーキをかけ、俺は光の中に何かの影を見る。

 

 

「……財宝、図鑑?」

 

 

 それは『神の布』に包まれた、俺の『財宝図鑑』だった。

 ベッドの上に置いておいたはずの物が、どういうわけだか俺の目の前に現れていた。

 

 

「なんで……うお!?!?」

 

 

 疑問に思う暇もなく、財宝図鑑からさらなる光が放たれて、俺の目を潰す。

 耐えきれないで目を閉じた俺は、なんだか温かいものに全身を包まれた感覚を得て――。

 

 

 

「……チョウ様。千兆様」

 

「…………え?」

 

 

 次に目を開けたとき、俺は見知らぬ場所で、見知らぬ女性に声をかけられていた。

 

 

 




幼少期編も佳境!


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
あなたのちょっとした応援が、モチベーションに直結します。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
お気軽におススメしてやって下さい。よろしくお願いします。

彼を呼ぶ声はいったい何者なのか。待て次回!


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第014話 覚醒チュートリアル!

こんばんは! 予約投稿忘れてました!! まだ、まだ書き溜めはあります!
ってことで、第14話をお届けします!

楽しんでもらえると嬉しいです。
それではよろしくお願いします!


 

 

 前回までの! センチョウ様は!!

 

 高難易度スネークミッションを達成したと思いきや、事故から始まる命の危機!

 あわやこれまでというところで突如として現れる『財宝図鑑』!

 光に包まれ気が付くと、見知らぬ場所で、見知らぬ美女に声をかけられているのであった!

 

 一体ここはどこなのか!

 目の前に立つ灰青の短髪に蒼い瞳を持つ、赤のボディコン制服がよく似合う美女は誰なのか!

 

 九頭龍千兆様の運命やいかに!!

 

 

 

「……と、いう流れでございます。千兆様」

 

「わかりやすい説明ありがとう。天使さん」

 

 

 ざっくりと、あらすじ調にここに来た経緯を教えてくれた目立つ格好の天使さんへ礼を言う。

 天使の翼は持ってないが、俺を前世の名前で呼ぶあたりからして、ゴルドバ爺の関係者なのは明らかだった。

 

 っていうか説明の時と素に戻った時の落差が激しい。スンッてなった。

 

 

「で、見知らぬ場所で出会った見知らぬ美女さんは、俺に説明してくれるってわけだよな?」

 

「ええ、もちろんです。千兆様。その成長途中の美味しそうな……ごほん、未来ある御身でもしっかりと理解できますよう、ご説明させていただきます」

 

「おい、今美味しそうって……」

 

「ご説明しましょう」

 

「………」

 

 

 スッと向けられたアルカイックスマイルに、背筋が震える。

 

 はい! これはあれだな! 触らぬ神に何とやら案件!

 ノータッチ! ノークエスチョン! ノーリマインド!

 

 説明を聞こう!

 

 

「千兆様がいらっしゃっているここは、財宝図鑑の中にある、現世とは時を等しくしない特殊な空間にございます。名を『宝物庫』。見た目には博物館のようでございますが、それは財宝図鑑がコンプリートを目的としているからでございますね」

 

 

 見回してみれば、なるほど、確かに色々な物を展示できるようなスペースが用意されている。

 

 

「そして宝物庫の役割はもちろん、千兆様が獲得なさったアイテムを管理、保管することでございます」

 

「なるほどな」

 

 

 この場所については把握できた。

 だから次は、当然の疑問を天使さんにぶつけることにする。

 

 

「じゃあどうして今、俺はここに来ているんだ? ピンチだからって助けてくれたのか?」

 

「いいえ。首コキャメイド様との遭遇と現状には、そこまで関連性はございません」

 

 

 首コキャメイド。すごい物騒だけど何も間違ってない呼称だ。

 軍人っぽい口調で話してたのも相まって、あの人からはエージェント味を感じる。 

 

 

「じゃあ、なんで?」

 

「はい。こちらにお招きいたしましたのは、さきほど千兆様が最初のレアリティSR以上の道具を入手し、装備なさったからでございますね」

 

 

 淡々と説明しながら、天使さんはおもむろに右手をアテンションプリーズと持ち上げる。

 そこにふわりと光を纏って、青い石が填め込まれた指輪が姿を現した。

 

 俺がついさっき都市長の寝室から窃盗……勇者行為して手に入れたアイテムだった。

 

 

「SRアイテム『真偽の指輪』。適性C以上の装備者に、他者の真意をぼんやりと読み解く力を与える指輪にございます。ちなみに適性A以上ございましたら、道具に込められた虚実すら見抜けるようになりますよ」

 

 

 俺も知らない道具の効果を、彼女は当たり前のように諳んじる。

 

 

「そしておめでとうございます。条件達成で新機能がアンロックされました」

 

「え?」

 

「これより千兆様の所有しておられるアイテムは、いつでも宝物庫から出し入れすることができますので、存分にご利用ください。装備も自在にございます」

 

「マジか!?」

 

「マジのマジでございます」

 

 

 そう言うと天使さんはゆっくりと頭を下げ、一礼した。

 

 

「改めまして、名乗りを上げさせていただきます。私の名前はアデライード。財宝神ゴルドバに仕えし天使にして、千兆様の財宝図鑑が有する宝物庫の管理者代行にございます」

 

 

 そうして見せた彼女の笑顔が彫像のように綺麗で、俺はさっきと違う意味でぞくりとした。

 動揺を何とか取り繕おうとして、俺は浮かんだ疑問を天使さん、アデライードに投げかける。

 

 

「代行なのか」

 

「宝物庫の正当な管理者は千兆様ですから。私はその業務を代わりに実行しているだけです」

 

「なーるほど。それもそうか、ははは」

 

「では、説明を続けさせていただきますね」

 

「ははは、はー……」

 

 

 ああ、なんか取り繕う必要なかったかもしれない。

 

 まるで感情なんて持ち合わせてないとばかりに、変わらぬテンポでアデライードは説明を再開する。

 俺はそんな彼女の所作にどこかゲーマー的既視感を覚えながらも耳を傾けることにし――。

 

 

「おや、BGMがご必要でございますか? でしたら素敵なコーラスを……」

 

「やめやめろ! せっかく答え出さないようにしてんだから! うおおお、それっぽいのを流すな! スタァァァァァップ!!」

 

 

 アーアー↓アー↑アーとかめっちゃ美声なレディソプラノボイスなんて聞こえません!

 っていうかこういうお茶目っぽいところも似てて困るんじゃい!

 

 この手の空間にいる美人ってのは誰も彼もこんな風なのか!?

 クールとお茶目の振れ幅がデカすぎる! へっ、おもしれー女。

 

 俺の情緒がぐちゃぐちゃである。

 

 

「こほん。お遊びが過ぎましたね。現状、千兆様は非常に危険な状態にございます」

 

「っと、そうだそうだ。俺、ランダムエンカウントのエフオーイーで超ヤバいんだった」

 

 

 新機能開放と新しい出会いで浮かれている場合じゃなかった。

 

 首コキャしようと俺を狙っているメイドエージェント問題。

 バッドラックとダンスっちまった結果の、バッドエンドどころかデッドエンドフラグである。

 

 

「このまま戻っても、ぶぅぅぅん、ガシ、コキャッ、だよなぁ……」

 

 

 さっきアデライードがここは現世とは時を等しくしないとか言ってたし、本もワープしてたっぽいし、いっそのことちょっと離れたところに出してもらえたりしないだろうか。警備の人がいる詰所とか。

 

 

「いえ、厳密に言えばここにいるのは千兆様の心だけで、体はまだあっちにございます」

 

「マジで!?」

 

「マジのマジでございます」

 

 

 俺の体、絶賛ピンチ継続中。

 

 

「うおおおん。やっぱ対策必須かぁ……」

 

 

 頭を抱えて考える。

 

 とりもあえずもノルドさん。

 あの人、仕上げがどうとか言ってたし、やっぱどっかの組織の裏工作員とかなのかねぇ?

 そうなると、ただあの場から逃げるだけじゃ終わらないよなぁ。

 

 でも。

 

 

(8才にしてガチの対人戦デビューは、さすがにまだ早い。せめて成人してからがいい)

 

 

 リアルな命の奪い合いとか、いずれ必要だとしてももうちょっと心の準備をさせて欲しい。

 ここはどうにか話し合いにもってって、お互いクールにサヨナラしたいもんだが。

 

 

「……むむむーん」

 

 

 考えがまとまらず、思考があっちへこっちへ飛び回る。

 話し合いに持っていくための手順、殺されないための作戦、切り口を探る。

 

 そうしてるうちに思い出したのは、家出娘の帰還の場面。

 

 

(あの人、カレーンのお世話係やってたっぽいよな)

 

 

 あのふわっとした女の子のお世話係が、実は他所から来たスパイでした、か。

 

 

「……はぁ」

 

 

 カレーン、泣いちゃうだろうな。気の毒に。

 

 

「そこは美幼女の泣き顔スチル回収のチャンスでは?」

 

「さっきもだったが俺の心読まないでくれると嬉しいぜアデっさん」

 

「アデっさん……いいあだ名でございますね」

 

 

 またにっこりとアルカイックスマイルを浮かべるアデっさんにため息を返しつつ、実際問題目の前の状況をどうするかで頭を悩ませ続ける。

 

 

「このまま戻ったら死ぬよな?」

 

「間違いなく首コキャ死亡エンドでございます」

 

「ですよねー」

 

 

 子供にも容赦しないノルドおば……お姉さん。

 誰の指示かは知らないが、その勤勉さが恨めしい。

 

 

「えぇ、じゃあどうするかなぁ」

 

 

 結局考えがまとまらなくて対策しようもなくて。

 俺はその場に腰を落として宝物庫の白い天井を見上げる。

 

 そんな俺の後ろ斜め45度くらいの位置に、アデっさんが立った。

 

 

「お困りでございますね」

 

「お困りでございますんだなこれが」

 

「大変にございますね」

 

「大変にございますんだなこれが」

 

「実は現状を打破しうる希望となる情報を、不肖このアデライード、持ち合わせております」

 

「待ってました!」

 

 

 正直期待してた!

 

 立ち上がり、振り返った俺の目に、アルカイック出来てないどや顔スマイルが映る。

 OK把握。ノリがいい方がこの人の素だ。

 

 

「それで、俺はどうしたらいいんだ?」

 

「では、お耳を拝借……こしょこしょこしょ」

 

 

 ほうほう、ふんふん、なるほど。

 

 ……って。

 

 

「……マジで!? そういう奴なの!?」

 

「はい。ですので、その力をもって、全力で抵抗なさるのが最善の策かと思います」

 

「うおおお、なるほどなぁ」

 

 

 受けた説明は確かにワンチャンスありそうな感じだった。

 ただ、実際にやったことはないぶっつけ本番というのもあって、ちょっとだけ不安が勝つ。

 

 ゆえに。

 

 

「ここ、外とは時間の流れが違うんだよな?」

 

「はい。千兆様がこの場を訪れているあいだ、外の世界と時空間が分かたれます」

 

「だったら――」

 

 

 伝えた俺の提案に、アデライードはポンっと拳で手を叩き。

 

 

「ぜひどうぞ。で、ございます」

 

 

 頷き、またあのアルカイックな、けれどちょっと悪戯っぽさのある笑顔で了承してくれた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 俺の意識は、再びあの場所へと戻った。

 宝物庫の中でのやりとりは本当に一瞬のあいだの出来事だったみたいで、即座に事態は動き出す。

 

 

「クッ。目くらましだろうが私には関係、ないっ!!」

 

 

 『財宝図鑑』が放った光にも負けず、一旦は足を止めたノルドは再び飛びかかり、俺を目がけて迷わずに手を伸ばしてくる。

 

 

(これに捕まったらそのまま首コキャされて、俺の人生ゲームオーバーだ!)

 

 

 実際、さっきまでの俺だったら何の抵抗もできずにそうなっていたに違いない。

 

 

(だがしかし!!)

 

 

 今の俺はもう、さっきまでの俺じゃない!

 

 

「……《イクイップ》」

 

「!?」

 

 

 迫りくる脅威を前に俺は新たな装備を身に纏い、カーペットを蹴る。

 音もなく飛びあがった俺の体は大きく後ろに後退し、振るわれたノルドの手から逃げきった。

 

 

「……ただのガキではないな? 常人なら、今ので確実に捕らえたはずだった」

 

 

 突然動きの良くなった俺を警戒して、ノルドが睨みつけてくる。

 

 

「少年。その装備は、何だ?」

 

 

 そして俺の変化に気づくと、彼女はより一層険しい顔をして俺に問いかけた。

 

 

「これか? これは俺のとっておきの切り札だ」

 

 

 俺はマフラーのように首に巻きついたそれを掴んで、不敵に微笑んでみせる。

 

 

「だが、詳細については……黙秘する!!」

 

 

 言い終えると同時に、今度はこっちから接近する。

 およそ8才児が出せるスピードを大きく超えた踏み込みと、速度で。

 

 そして。

 

 

「はぁっ!」

 

「なっ!」

 

 

 音もなく跳び上がり、壁を踏みしめ再びジャンプ。わずかに空を切る音だけを残し、ノルドの頭上へと移動する。

 

 

「くらえっ!!」

 

 

 そのまま空中で横回転(アクセルターン)。大きく踵を振り上げて、ノルドの頭へ叩き込む!

 

 

「くっ!!」

 

 

 放った俺の踵落としは、ノルドがとっさに身を守るために持ち上げた彼女の腕に衝突し。

 

 

 ゴッ!!

 

 

「っつぅ!!」

 

「っしゃあ!」

 

 

 そのガードごと蹴り破り、大柄なノルドの体に尻もちをつかせる。

 

 彼女の手を離れた紙束が宙を舞い、あたり一面に飛び散った。

 

 

「ふっ……!」

 

 

 再び音もなく着地して、俺は即座に自分の有利な間合いへと位置取りする。

 

 

(これが、これが俺の力……!!)

 

 

 およそ前世の人間からはかけ離れた身体能力。

 それを発揮できたのは、新たに装備したアイテムの効果に他ならない。

 

 

(昼間はケチつけてごめんな、ゴルドバの爺さん!! アンタやっぱよく分かってるぜ!)

 

 

 そのアイテムのレアリティ……GR(ゴッドレア)

 

 そのアイテムの真の名は……『ゴルドバの神帯(しんたい)』!!

 

 そしてそのアイテムが持つ装備効果(真の力)は――!!

 

 

(――装備者の持つ装備適性を、すべて2段階上昇させる!)

 

 

 今の俺、装備適性オールA。

 パンツもシャツもパジャマも靴下も、全部が俺を爆発的に強くする! 

 

 え、そのラインナップじゃどこが強化されたか分からない?

 ならこれだけ知ってりゃ十分だ。

 

 

(今の俺は、首コキャしてくる推定女スパイなメイドさんよりも――強い!)

 

 

 奇襲を奇襲でやり返し、驚くノルドを見下ろして。

 

 

「さぁ、どうする?」 

 

 

 ちょっとだけ主役っぽく、映画みたいな決め台詞を吐いてみたりしたのであった。

 




真名解明!


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
もっと楽しんでもらえるよう頑張る元気の素になります!

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
読んでもらえることこそが作品の本望だと思っています。

さて、センチョウはこの難局から無事生き残ることができるのか。
次回へ!


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第015話 九頭龍千兆式交渉術!

今回はちゃんと時間に投稿します! できたよね?

ということで15話をお送りします。

まず伝えたいのは 祝! UA1000越え!
気づいたときには1100越えてましたが! 圧倒的感謝!

それだけ沢山の人に読んでもらえているということで、とっても嬉しいです!
書き溜め分消化までもうあと少しですが、それまでは毎日投稿かつ区切りがいいところまでしっかり進むのでよろしくお願いします!


 

 

 月下の都市長邸廊下。

 尻もちをついたメイド……もとい、どっかの女スパイのノルド。

 

 

「さぁ、どうする?」

 

 

 それを見下ろし勝ち誇る俺、装備適性オールAの男、センチョウ。

 

 

(……っぶぁぁぁぁ!! なんとかなったぁぁぁぁぁ!!!)

 

 

 の、内面。

 どうにかこうにか形勢逆転、ピンチを乗り切り大安堵である。

 

 

(宝物庫の中でめいっぱい練習してきた甲斐があったぜ。何とか動けた!)

 

 

 GRのチート装備『ゴルドバの神帯』の力を使って装備適性を上げた俺は、ぶっつけ本番になることを忌避して練習タイムをとった。

 

 モノワルドにおいて絶対たる力を持つ装備適性。

 装備者に適性に応じた補正を与えるそのシステムは、適用されたその瞬間に、装備者もまた装備の扱い方を引き上げられた領域まで何となく把握する。

 

 

(分かっちゃいるし、そこは信じていいと思わなくもない。が……)

 

 

 それでも俺は、たとえ世界がそういうものだと分かっていても、命がかかった状況のそれもぶっつけ本番で、装備適性Aという未知の領域がもたらす力に身を任せる勇気は持てなかった。

 

 そこで、俺は自分の気が済むまで宝物庫に留まり、練習しまくったのである。

 

 

(すり足したり壁を蹴ったり、床に寝転んで寝間着の寝心地を確かめたりな!)

 

 

 なお、あっちで休んでもこっちで体力回復したりはしない模様。

 宝物庫内でした装備もこっちには反映されないし、完全にイメトレ専用だな!

 

 しかぁし、そのイメトレの成果は存分に発揮されたといっていいだろう。

 

 

(備えあれば憂いなし。装備も訓練も事前にいっぱい準備した奴が強いのだ!)

 

 

 おかげで「装備? 何それ?」とばかりに素手で首コキャしてきた女スパイも、尻もちついて驚きの顔。次の手を打とうとするような気配もない。

 

 

(機先は制したっていうんだっけね、こういうの)

 

 

 想定では相手を弾き飛ばして向かい合うくらいを考えていたが、想像以上に優位を得た。

 この辺はやっぱり装備適性オールAの補正っぷりを実感する。

 

 

(神帯と本を除けば、レアリティRもなさそうなパジャマと下着と靴下だけでこれなんだからやべぇよな)

 

 

 ともあれ。

 こうして練習の甲斐もあり、俺は人生初の死線を潜り抜けたのである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 どうして私は、こんなところで尻もちをついているのだろうか。

 

 

「さぁ、どうする?」

 

 

 問いかけているのは齢にして8才の少年。

 私がお世話役に扮して騙し、利用していた都市長の娘と同じ年の、子供。

 

 

(そんな子供に出し抜かれたというのか、この私が?)

 

 

 不可解な出来事は確かにあった。

 こちらの狙いを見抜かれ警戒されてしまった。

 

 だが、それでも十全に装備した私が、寝間着姿の子供に後れを取るはずがなかった。

 これまでの人生で鍛えた暗殺の技術がよもや通じないなどとは、微塵も思っていなかった。

 

 

(音を立てない歩法を使った、ならば少なくともB以上の靴下適性を持っている。だが、それだけではあの動きは出来ない。パンツ適性による股関節の可動補正でもあったのだろうか。それとも、この幼さにして適性A以上だとでもいうのか? いや、そもそも。あの本と、布はなんだ?)

 

 

 これまで培った知識を総動員してその正体を探るが、その行為自体が後手に甘んじていると己を情けなく思う。

 

 大事な任務の最後の最後に、とんだ失態を演じてしまっていた。

 

 

(まったく、ツイてないにも程がある……)

 

 

 こっちは潜入任務完遂の最終日。

 ていよくカレーンを誘導して外へ飛び出させ、その騒動のうちに仕掛けを施し、夜に回収。

 パルパラの機密情報の束をごっそり奪い、あとは祖国に悠々凱旋するだけだった。

 

 そこにひょっこり現れた孤児院の少年。

 たまたまカレーンを助けた縁で一晩泊る栄誉を賜った、なんてことない、ちょっとだけ運が良かった平民。

 

 それが人生26年、密偵歴13年の経験と秘密道具適性Bを誇る私の殺意を見抜き、身体能力を凌駕して、今こうして優位な立場から私を見下ろしている。

 まるで私の抵抗にすべて対応できるとでも言いたげに、問いかけている。

 

 

「………」

 

 

 閉口するしかない。

 とんだ怪物と出会ってしまった。ぶつかってしまった。見逃せばよかった。

 

 

(虎の尾を踏んだのは、私だったか)

 

 

 容易く狩れると思っていた相手は、初めから全力を出さねば一矢も穿てない相手だった。

 

 逃げなければいけない。戦闘から逃走へ思考を切り替える。

 

 

(私は捕まるわけにはいかない。祖国のため、あの方のため)

 

 

 生存を第一に考える。

 

 

(落とした資料は諦める。今はどうにかこの怪物の目を盗み、退路を確保するしかない)

 

 

 相手が仕掛ける前に動かなければと、その動きのひとつも逃すまいと目を向けたその時。

 

 

「《ストリップ》」

 

 

「え――?」

 

 

 ただ淡々と、何の予兆もなく少年の口から放たれた聞き慣れない単語。

 何かの呪文を唱えられた、と思った時にはもうすでに。

 

 私は、決定的な敗北を刻み付けられていた。

 

 

「……!?!?」

 

 

 思考が停止する。

 

 

 だって当然だろう?

 気づいた時にはもう、理解不能な出来事は起こっていたんだ。

 

 

(は、え……?)

 

 

 その瞬間に感じたのは、力をなくした喪失感と、肌寒さ。

 その原因は、装備していたメイド服が消失したから。

 

 この危機的状況で、どういうわけか私は、怪物を前に下着姿を晒していたのである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 い・つ・も・の。

 

 

(まぁ、今の俺にできることなんて、これくらいしかないわけだよ。ワトソン君)

 

 

 装備を奪うことイコール能力低下なモノワルドにおいて最強の一手、《ストリップ》。

 唱えられさえすれば対象の装備を剥いでしまえるチートオブチートは今夜も健在である。

 

 

「な、な……?」

 

 

 俺が呪文を唱えたことは分かっているけど起こったことが受け入れられない。

 そんな顔でこっちを見つめるノルドには、ちょっとだけ同情する。

 

 謎の女スパイかアサシンか、とにかく暗躍のプロである彼女。

 彼女の装備適性がいかほどかはわからないが、手に装備なしで俺を首コキャできるってことは、装備に頼らない範囲でも相当の研鑽を積んできたに違いない。

 そんな熟練の技が通じないどころか、気づけば服まで奪われて、本来絶対見せない素肌を晒してるとあっちゃ、完全に理解不能だよな。

 

 

(……あー。今ならどうして全裸三兄弟があれだけ町の人に騒がれたか分かるな)

 

 

 装備至上のモノワルド。常識的に考えて「装備しない生活」がありえない。ましてや「装備どころか着てすらいない」ことの意味不明さたるや、俺の前世でどうたとえられるだろうか。

 全裸の男たちが堂々と街を歩いてますって言われたら、俺だってスマホ持って見に行っちゃうもん。配信者だし。

 この世界ならなおのこと、そんな狂気の沙汰をやったアホがすぐ近くに出たと聞いたら、そりゃあ町の人のテンションもバグって野次馬根性も出てくるってもんである。

 

 

(改めて、この能力のやばさを理解したぜ、ゴルドバ爺……!)

 

 

 《ストリップ》はそんなイカれた状況を相手に押しつける、精神攻撃でもあったのだ。

 

 

 

「《イクイップ》……さて。あんたが誰の指示で、何が狙いでここで暗躍していたかなんて、俺には分からない」

 

「!?」

 

 

 話は戻って対ノルド。

 俺はパク……勇者した都市長の交渉装備を身に着けながら、牽制を兼ねて、それっぽいことを口にする。

 

 

(実際どこの誰の差し金かなんて知らないし、知りたいとも思わない)

 

 

 巻き込まれるだけ面倒そうだし、関わるにしても今の俺は8才児、自由も力もない。

 

 

(思えばこれ、マジでどっちにとってもただただ不幸な事故なんだよな)

 

 

 俺と彼女の出会いは偶然で、なんなら同じ悪党同士。

 出会わなければそれぞれに目的を果たしてはいさようならだったかもしれない。

 

 

「だが、こうなった以上は情け無用。そっちは命を奪おうとしてきたんだから恨みっこなしだ」

 

「あ……あぁ……」

 

 

 ああ無情。

 出会ったからには食い合って、弱肉強食するしかない。

 

 俺から力は示した。だが、ここから彼女が抵抗しないとも限らない。

 少なくとも彼女をある程度までは無力化しないと俺も危ないし、最悪の事態もあり得る。

 

 実際問題彼女を素っ裸にしても地力で首コキャされたら終わるので、脱がしても俺のピンチ度は変わんないのだ。

 

 

(だから彼女が混乱しているあいだに、交渉終了までもっていく!)

 

 

 チート魔法《ストリップ》は、神様がくれたモノワルドのバランスブレイク級の力だ。

 そんな力を持った俺は、ノルドにとっては突如現れた神話生物みたいなもの。

 相手が正気度ロールしてるあいだに、俺はこの優位を最大限に活用したい。

 

 ゆえに、俺は今、高身長黒髪ロングメイドさんのストリップショーを演じているのだ。

 

 

(そう。だから、これはしょうがない。しょうがないんだよなぁ……ふっふっふ)

 

 

 心のスクショを連打連打。メイドさん脱衣スチルゲットだぜ!

 

 

「クックック……おっと」

 

 

 思わず口元が緩んでしまった。

 油断が負けフラグになる前に、やるべきことをやってしまおう。

 

 

「お前は、いったい……」

 

「《ストリップ》」

 

 

 俺は再び無動作で呪文だけを唱え、ノルドの頭のカチューシャを奪う。

 

 

「!?」

 

「メイド服が消えたのが、何かの偶然じゃないってこれで理解したよな?」

 

 

 会話の主導権は渡さない。

 今一番俺が得をする交渉方法は、力の差を見せつけてからの、恫喝だ。

 

 ちなみに消えたメイド服とカチューシャは、宝物庫の保管庫というスペースにぶち込んだ。

 レア度を問わず100万個くらいのアイテムを収容できる便利ゾーンである。

 練習中にアデっさんから教えてもらったんだが、出し入れ自在も相まって、まるでアイテムを消滅させたようにも見えるのが素晴らしい。

 

 

「完全に無力化されたくなければ、俺の願いを聞いてもらおうか。そっちもこんなところで捕まって終わりたくはないだろう?」

 

「………」

 

 

 あ、頷いた。

 こんな状況でもいくらか冷静でいられてるの、さすがプロって感じだな。

 もしかしたら交渉力アップの指輪の力もあるのかもしれない。

 

 

(どっちにしろ、おかげで話を進めやすい)

 

 

 俺はノルドが聞く姿勢をとったのを見てから、宝物庫での練習がてら考えておいた要求を口にする。

 

 

(欲しいのは身の安全と、本格的に自由になれる成人するまでの時間的猶予)

 

 

 ゆえに、提案するのは。

 

 

「……少なくとも向こう7年。この町には手を出すな。この町の平穏を乱すなと、あんたのご主人様に伝えてくれ」

 

 

 まったくもって自分本位な、自己保身の極みみたいな内容だった。

 

 

 




交渉術(奪衣)。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
褒められると伸びます。色々な物が。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
楽しむ仲間をぜひ増殖させていってください。

いよいよ次回でメイドスパイ戦完結です!


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第016話 プロフェッショナル・スパイの流儀~そして解決へ!~

いつも読んでくださりありがとうございます!
初めましての人はぜひ1話からご覧になって下さると嬉しいです!

16話をお届けします!


 

 

 ワンダリングに出会ってしまったどっかのスパイ、ノルド。

 そんな彼女の身ぐるみ剥いで優位に立った俺が突き付けた要求。それは――。

 

 

「……少なくとも向こう7年。この町には手を出すな。この町の平穏を乱すなと、あんたのご主人様に伝えてくれ」

 

 

 自分本位な自己保身にまみれた、とかく身の安全を重視したものであった。

 

 

(機密情報盗むってことはこの町に何かしようとしている黒幕がいるってことだから、そう遠くない未来にやばいことがあるかもしれない。それは困る。少なくとも成人するまでは平和であって欲しい)

 

 

 裏で糸引いてる奴の正体も何も分からないが、こっちだって今は未知の怪物状態だ。

 このハッタリが、少しでも俺の平穏を守る牽制になってくれることを願う。

 

 

(笑わば笑え! 俺は何よりもまず自分の命を大事にする男!)

 

 

 前世でアホやって死んだ以上、今世はもうちょっと長生きを目指すのだ!

 

 

(っていうか国レベルの話だったら今の俺にはどうすることもできないし、8才児に背負えるものじゃないって)

 

 

 多少縁ができた都市長や夫人、カレーンには悪いが、俺にできるのはここまで。

 せめてこの提案が通ってからできた猶予で、なんとか乗り切って欲しい。

 

 とりあえず、交渉用アイテムの再入手から。

 

 

 

「……その要求を破れば?」

 

「《ストリップ》」

 

「!?」

 

 

 探りを入れてきたノルドのブラをノータイムで奪う。

 失ったものに気づいて慌ててノルドが動いたが、もう遅い。 

 

 スレンダーボディは機能美。

 俺の心のアルバムに、しっかりと焼き付け済である。

 

 

「いつか、あんたの国の大事なものが、消えてなくなるかもな?」

 

 

 そして返す、渾身のセリフと決め顔からの全力睨み。

 

 各種交渉系の指輪の効果を信じて、俺は真っ直ぐノルドを見続ける。

 

 

「~~~~~~!!」

 

 

 そのハッタリはどうやら、無事相手に通じたらしい。

 顔を赤くして丸出しになった胸を腕で隠しながら、彼女は頷いた。

 

 

「……わかった。約束する」

 

 

 もはやノルドに、俺に対する殺意はない。

 『真偽の指輪』が教えてくれるのは、俺に対する畏怖と、何かへと向けられた使命感だけだった。

 

 

「要求は、それだけか?」

 

 

 俺を警戒してかゆっくりとした動作で起き上がると、彼女は月明かり差す窓を背にして影を作る。

 表情を気取られないための工夫なのは理解したが、成熟した女性のスレンダーな体が月の光を浴びる様は、なかなかに煽情的だった。

 

 もちろんこれも心のアルバムに保存した。

 あと数年したら思い出して活用します。

 

 

「しかし7年、か」

 

「ん?」

 

「いや……これで、私は見逃してもらえるということで、いいのだな?」

 

「それはもちろん」

 

 

 ここでもっと装備を剥いでしまうことも考えはしたが、いよいよ全裸じゃ逃げようにも逃げられないと思うし、彼女が捕まってしまったらせっかくのメッセンジャーにもなってくれない。

 

 

(これまで情報を奪われてきた都市長や利用されたカレーンには悪いと思うが、あくまで俺の未来を優先する)

 

 

 ただし奪ったメイド服は返さない。絶対にだ。

 初めての死線を潜り抜けた俺の思い出の品として、大切に保管しておく。

 

 

「……ひとつ、聞きたい」

 

 

 後ろ手で窓に何か細工をしながら、ノルドが暇のついでにと口を開いた。

 

 

「少年。キミは本当にカレーンお嬢様と同じ8才なのか?」

 

「もちろん。ぴっちぴちの8才児だぜ」

 

「フッ」

 

 

 鼻で笑われた。

 まぁ、疑いの視線を向けられるのも分かるけどな!

 

 

「まったく、末恐ろしい子供がいたものだ」

 

「俺より怖い子、知ってるよ」

 

 

 あ、目が点になった。

 

 

「……ははっ。これ以上の冗談は勘弁してくれ。心臓がもたない」

 

「ははは」

 

 

 ミリエラの装備適性を聞いたらどんな顔するか、ちょっと見てみたかったが黙っておいた。

 

 

 

 カチャリ、とノルドの背後で音がしたのを合図に、雑談タイムも終わりを告げる。

 

 

「さて、それじゃあここでお別れだ。見逃してくれることに感謝する」

 

「俺には俺の都合があるだけだから、大丈夫」

 

「……本当に、賢い子だ。祖国のためにここで身命賭しても潰す力が私にないことが、これほどまでに恐ろしいとは」

 

「………」

 

 

 こっっっっっっっわ!!!

 

 

「早く帰ってください」

 

「ははっ、いまさら人の子供のような態度をとっても遅い。絶対に忘れはしないぞ、その脅威」

 

「監視してるのに気づいたら、マジで怒るからな?」

 

「おお怖い。ならばこれを担保に私だけでも命乞いさせてもらおう」

 

「命乞いって何を……!?」

 

 

 次の瞬間、俺の顔面に薄緑の布がふわりと飛んできた。

 

 ノルドのパンツだった。

 

 

「ばっ……!?」

 

 

 《ストリップ》ではそれをどうすることもできない。

 俺は相手からの不意打ちを警戒し、視界を取り戻すために即座にパンツを掴む。

 

 だから、気づくのが遅れた。

 

 

「セン君?」

 

「あ」

 

 

 声がした方を見れば、そこには可愛い寝間着姿の、ミリエラがいた。

 彼女はフルフルと震えながらゆっくりと口元に手を添え、――次の瞬間。

 

 

「せ、セン君が大人のお姉さんを脱がしてねんごろしてるーーーーーーー!!!???」

 

「し、してねーーーーーー!!!」

 

 

 あんまりな叫びに、俺も全力でツッコミを入れていた。

 

 

「うわーーーー! セン君のドーテーがどこの馬の骨かわからない人に奪われたーーーー!!」

 

「奪われてねぇぇ!!! あんたも否定……って、いねぇぇぇぇ!!」

 

「やり逃げダイナミックされたーーーー!!」

 

 

 気づけば窓は開いていて、ノルドの姿はどこにもなかった。

 間違いなく全裸だったにもかかわらず、見事な逃げの妙技だった。

 

 とりあえずパンツは保管庫に片づけておく。

 

 

「セン君がいつも持ってた本が光って飛んでったから、何かあったと思って探してたのに……こんな、こんなの寝取られだよーーーー!!」

 

「でぇぇぇい! とりあえずお前は口をふさげミリエラーー!!」

 

 

 気づけば俺たちの騒ぎを聞きつけ続々と人が集まってきて、廊下は大混乱。

 おまけに、足元に機密資料が散らばってるもんだから、余計に騒ぎは大きくなって。

 

 

「いったい何が起こったんだね!?」

 

「あらあら、まぁまぁ!」

 

 

 気づけば都市長夫婦も目を覚まし、騒ぎはついに最高潮。

 ってやっべ。指輪隠せ隠せ!

 

 

「セン君のバカー! わたしのバカー!!」

 

「この資料、町の機密文書じゃないか!! これはどういう……!」

 

「ああ! 旦那様、奥様! 大窓のカギが壊されています!」

 

「なんですって! センチョウ君、何かご存じかしら?」

 

 

 夜中もいい時間に巻き起こる大騒動の渦中にいる俺。

 現場にいた人間として注目を浴びながら、ミリエラに背中をポカポカと叩かれ続ける。

 

 

(……ああ、なんかドッと疲れた)

 

 

 冷静に考えて、死線を潜ったあとなんだから、今晩くらいはもうそっとしておいて欲しい。

 そう、明日に命が繋がった今くらいは。

 

 

「セン君! 大人になったらセン君の初めて絶対に頂戴ね! すぐにね!」

 

「すまないが詳しく話を聞かせてくれんかね、センチョウ君」

 

「ノルドの姿がないの。もしかして……そういうことなのかしら、センチョウ君?」

 

「……もう寝たい」

 

 

 こうして、センチョウとして歩み始めた第二の人生その子供時代において、とてつもなく濃い一日が終わりを告げる。

 結果だけ見れば『財宝図鑑』の解放と『ゴルドバの神帯』の本領発揮に加え、魅了対策をゲットした最高の一日ではあったが、それ以上にピンチの連続で疲労感が半端ない日だった。

 

 

「ところでセンチョウ君。私の交渉道具が見当たらないのだが何か心当たりは……」

 

「ノルドです」

 

「やはりか! くぅ、また買い揃えなければならんな」

 

「………」

 

 

 俺の勇者行為は、幸いなことにもっと怪しい奴がいたおかげでバレることはなかった。

 これもコラテラルコラテラル。恨まないでくれよスパイさん。

 

 とっとと寝よ寝よ。

 

 

「――ハックション!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「ん。ああ、大丈夫だ。それよりも早く祖国へ戻るぞ。報告すべきことが多すぎる」

 

「ハッ!」

 

「……少年。7年であれば平和は保証する。なぜなら、我らが姫が成人するまで、あと7年なのだからな」

 

 

 

 ……ちなみに。

 

 

「すぴょぴょぴょぴょ……」

 

 

 カレーンはこの騒動の中でもまったく起きずに寝息を立て続け。

 

 

「まぁ、そういうこともありますわね」

 

 

 泣くかと思っていたノルドの裏切りについて知っても、思った以上にシビアな反応を返した。

 

 こりゃあ、将来大物になるな。

 




パルパラでの一日、これにて完結!

ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
それらを栄養に育ちます。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
どうかこの話を可愛がってやってください。

次で幼少期のセンチョウの物語に一区切りがつきます。
ついでに書き溜めも消費しきります。

よろしくお願いします!


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第017話 7年の安寧、自由なる旅立ち!

ここまで読みに来てくれてありがとうございます。
第17話をお届けします。

ここまででお話の一区切り。
ぜひとも楽しんでいってください。

それでは、今回もよろしくお願いします!


 

 

 初めての町、初めてのレアアイテム、初めてのゴロツキ、初めての貴族、初めての死線。

 初めて尽くしのパルパラでの一夜が過ぎ、俺の生活は色々と変化した。

 

 

「セン君。セン君、センくーん」

 

「うむうむ」

 

 

 都市長邸での一件以来、べったりする時のパワーが上がったミリエラ。

 だがそんな彼女のスキンシップに対しても、今の俺は余裕を持って対応できるようになっていた。

 

 

「むー、セン君が前みたいにドキマギしてくれない……」

 

「フッ、俺も成長したってことだな」

 

「……ううーーーー!! やっぱりあの時、大人の階段上ったんだ」

 

 

 実際は都市長から勇者した『魅了耐性向上の指輪』(レアリティ:HR)のおかげだが、勘違いしたミリエラが勝手に対抗意識を燃やして個人訓練をし始めてくれるので、結果として前ほど俺にべったりしなくなって大助かりである。

 

 

 

「セン様ー!」

 

「こんにちは、カレーン」

 

「お会いできて嬉しいです。ミリエラさんも!」

 

「うん。今日も一緒に遊ぼうね」

 

「はいっ!」

 

「……お、その髪飾り新しくしたのか? 似合ってるぞ。素敵だ」

 

「まぁ! ぽぽぽっ」

 

(おそらくR……くらいか? あとで触らせてもらおう)

 

 

 パルパラにも積極的に出かけては、都市長の娘であるカレーンをはじめ鑑定屋のルーナルーナの店や色々な場所を巡り、モノワルドの人々の生活と関わりながら常識を学ぶ。

 

 この時期は特に、見える世界が広がった気がして、とても楽しい時間だった。

 

 

 

「千兆様。アイテムを手に入れるたびにわざわざこちらに来られるの面倒ではございませんか?」

 

「面倒だが、現状鑑定された情報を閲覧するにはそれしか方法がないだろ?」

 

 

 アデライードが守る宝物庫にも何度も顔を出し、幼いながらにやりくりして手に入れたアイテムの鑑定をしてもらう。

 彼女にはアイテムの詳細を知る力があるが、それを活用するにはこうして宝物庫に入る必要があった。

 心だけがここに飛んで現世とは時を同じくしないとはいえ、さすがに手間である。

 

 

「俺自身で鑑定できるのが一番手っ取り早いが、そのためにはやっぱり『鑑定眼鏡』が必要だよなぁ」

 

「SRのアイテムですので、モノワルドを這いずり回ればそれなりに発見できるとは思いますでございますよ」

 

「んじゃあそれを、大人になってから最初に達成する目標にするか。今は、もうちょっとこの面倒臭さを楽しむとしよう」

 

 

 そんな風に、大人になってからの目標を増やしていたら。

 

 

「でしたら飽きが来ないよう、千兆様の記憶からお好きなBGMをお流ししましょう」

 

「え!? そんなことできるの? マジで!?」

 

「マジのマジでございます」

 

「じゃ、じゃあ! まずは――!!」

 

 

 思わぬところで前世の娯楽を楽しめるようになったりもして、俺の日々はますます彩りを増し。

 

 

「セン君っ」

 

「セン様!」

 

「千兆様」

 

「こらー! センー!!」

 

「センや」

 

「おーい、セーン!」

 

「セン」

 

「センチョウ」

 

「セン」

 

「セン」

 

 

 ……

 

 

「なるほど、センチョウというのね。貴女が遭遇したという、子供の名前は」

 

「ハッ」

 

「ワタクシと同じ年で、そんな異質な現象を起こすなんて、すごい人材もいたものですわね。ぜひとも、ワタクシの手の中に収めたいものですわ」

 

「おそれながら、その者が言うには他にも高い能力を持った存在がいると……」

 

「そうなの? うふふ、それって最高だわ!」

 

「姫様?」

 

「きっとそれは、世界が変革を望んでいるのよ。ならばそれをなすのが、ワタクシの使命ですわ」

 

「ハッ、姫様ならば必ず。我が娘もそのお力になれれば……!」

 

「えぇ、えぇ、存分に働いてもらうわ。ワタクシの……世界制覇のために!!」

 

 

 ……

 

 

「セーン!」

 

「あーい。今行くー」

 

 

 すっかり落ち着いた大人の女性になったリザに呼ばれて、俺は数年過ごした一人部屋を出る。

 次に使う奴のためにいくつかの家財道具を残して、他の荷は全部、リュックに入れた。

 

 今日は、成人した俺の出発の日だ。

 

 

「セン。あなたの行く道に善き輝きと出会いがありますように」

 

「ありがとさん。マザー」

 

「こらっ! 最後くらいちゃんと敬語を使いなさい!」

 

「あいあいリザさん。……お世話になりました。ありがとうございます、マザー・マドレーヌ」

 

「えぇ、えぇ……あなたも、ミリエラも。立派に育ってくれましたね」

 

「はい、マザー」

 

 

 旅立つ俺の隣には、ミリエラがいる。

 

 

「ありがとうございます。マザーも、お体には気を付けて」

 

「ウフフ。仲良くするのですよ?」

 

「はいっ、もちろんです!」

 

 

 マザーの言葉にミリエラは迷いなく俺の腕を掴んで、笑みを浮かべる。

 

 結局成人するまでミリエラに心変わりはなく、彼女はずっと俺のそばにくっついていた。

 超絶美少女に成長した彼女に言い寄られ続ける日々は、魅了対策できずにいたら、きっと今頃骨抜きにされていたに違いない。

 

 

(だが、俺は耐えた。今日まで耐え抜いた!!)

 

 

 ここからは自由だ。

 俺の目的はもちろんアイテムコンプリート!

 そのためにどういう道筋を辿るかの見当もしっかりつけてきた。

 

 ミリエラは俺の夢を応援してくれると言っていた。

 現に今もこうやって、俺の旅についてくる気満々の様子だ。

 彼女の魅了能力と数多の装備適性の力を借りれれば、俺の行く道の大きな助けになってくれること請け合いである。

 

 それに――。

 

 

(それに、そういう関係になるって意味でも、彼女は最高、だしな)

 

 

 大人になるまで我慢した。

 俺自身、彼女に対して好意がある。嬉しいことに両思いだ。恋人だし。

 

 

(ハーフサキュバス美少女とのイチャイチャ道中……控えめに言っても最高最上だろ!)

 

 

 こんな俺の下心だって、彼女は受け止めてくれる。

 アイテムでしっかり対策して、節度を守りながら最高にイチャイチャしまくる!

 

 我が覇道に、美しき花あり!

 

 

 

「それじゃそろそろ行こっか、セン君!」

 

「ああ、出発だ」

 

 

 こうして俺たちは、世話になった孤児院から旅立つ。

 ここからはもう、俺を守ってくれる家はない。自分の力が頼りの人生だ。

 

 だがこの俺に、センチョウに不安はまったくない。

 神のチートがあり、心強い仲間があり、そして今日まで繰り返した修練の日々が俺を鼓舞する。

 

 

「ミリエラ。今日から俺は、センチョウ・クズリュウを名乗る」

 

「あ、苗字! それじゃあわたしも、ミリエラ・クズリュウって名乗っていいかしら?」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 

 えっ?

 

 

「……ダメ?」

 

「いや、ダメじゃない」

 

 

 モノワルドの苗字は自称できるし、別姓やら同姓やらに意味が出るのはそれこそお貴族様の領分と……夫婦間くらいのものだ。

 ギャング的なファミリーネームとして、気軽に名乗ったっていいものだから問題はない、はず。

 

 

「ダメじゃない。俺たちは、クズリュウファミリーだ」

 

「うん! 旗揚げだぜ、親分! なんちゃって?」

 

「おう!」

 

 

 どうやらミリエラもそういう意味で言ってくれたみたいだし、無問題だな!

 いやまぁ、いざってときは覚悟してるさ。いざってときは。

 

 

「それじゃセン君、最初はパルパラに寄るんだよね」

 

「ああ。カレーンにも挨拶しときたいしな」

 

「うんうん。それじゃ行こうー!」

 

 

 青い空、白い雲。

 町へと続く道を俺とミリエラ、二人で歩く。

 他の旅人一行と比べれば、ぴったりべったり、仲間以上の距離の近さで。

 

 恵まれた旅立ちに、世界が祝福してくれている。

 

 俺のアイテムコンプリートは、ここから始まる!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 一週間ほどの記憶が、ない。

 

 

「ん、んぅ……」

 

「………」

 

 

 意識を取り戻した俺がいたのは、どこぞの幅広でいかにも高級なベッドの上。

 そしてその隣では、裸のミリエラが幸せそうに眠っている。

 

 床に散らばる空のポーションの瓶。乱雑に脱ぎ捨てられた色とりどりの衣服。

 

 

「……えーっと」

 

 

 とりあえず、覚えている状況を思い出そうと頭を捻り、記憶を探れば。

 

 

「……そう、確かここはパルパラの高級ホテル。カレーンに挨拶しに行ったあと、何事も経験だからってミリエラと一緒に入って……」

 

 

 

 成人して、旅に出て初めての外泊。

 

 チェックインはミリエラに任せて、俺は代金だけ先払いした。

 それなりの値段はしたが、そこは都市長さんが餞別代わりにくれたあの時の謝礼金(俺が見つけたからノルドが逃げたことになった)があったから問題はなかった。

 

 そして。

 

 

「セン君セン君。お風呂よかったねぇ」

 

「マジで最高だったな」

 

「混浴じゃなかったのは惜しかったかなー」

 

「やめろ。お前が混浴とかテロ行為だ」

 

 

 こんな風に軽口を叩きながらベッドに腰かけて、そう、あの時はぽかぽかが気持ちよくて。

 

 

「それでね、セン君」

 

「うん?」

 

 

 気がつけば、ミリエラが自分のベッドではなく俺の隣にやってきていて。

 

 

「……今なら、指輪は装備できないよね?」

 

「え?」

 

 

 そう。

 あの時、『財宝図鑑』は絶妙に《イクイップ》できないくらい俺の手から遠い場所に置いてあった。

 それはつまり、宝物庫が使えない……イコール、中の装備を取り出せないということで。

 

 

「ずっと、ずっと準備してきたの。この瞬間を……」

 

「あ」

 

 

 気づいた時には、詰んでいた。

 

 

「約束、果たそうね。セン君」

 

 

 目にハート、言葉の端々にもハートを飛ばしながら、ミリエラが俺を押し倒す。

 はだけたバスローブの下には、いつ手に入れたのか高級そうな、そしてめちゃくちゃにエッチなデザインの下着を身に着けて。

 

 ミリエラが本気なのだと理解した時にはもう、俺に逃げ場はなかった。

 

 

「……す、《ストんぐっ!」

 

「ん、んっ、んんぅ……ぷぁっ、えへへ。残念でした」

 

「な、あ……ぁっ」

 

 

 唇を奪われて、何かを飲まされた。

 そこで俺の意識はぐんにゃりとし始めて。あとは……理性がほどけて……。

 

 

 

「……Oh」

 

 

 こうなった。

 

 一週間。

 この部屋から一歩も出ることなく、俺はミリエラと――。

 

 

「えへへ。おはよ、セン君」

 

「あっ! ミリエラ!?」

 

 

 目を覚ましたミリエラが、うつぶせのまま上目遣いで俺を見ていた。

 

 

「……しちゃったねぇ?」

 

「!?」

 

 

 一気に顔が熱くなる。

 

 言われた瞬間に蘇る、この一週間で俺が彼女としたこと全部。

 甘く、そして激しく……それこそ獣のように彼女を求めて、記憶の中の俺は猛り盛っていた。

 

 

「セン君。自分から好き勝手やるのが好きなんだねー? お薬使ったり服で攻めたり、最初こそわたしのペースだったけど、どんどん主導権奪われちゃった」

 

「う、ぐ……」

 

「それに、最後は一枚一枚わたしの装備を外して裸にして……ドキドキしちゃったなー?」

 

「勘弁してくれぇ」

 

 

 冷静になったところで赤裸々に語られるとクるものがある。

 勘弁してくれと顔を覆ったら、ミリエラが「あはは」と笑う声がした。

 

 

「……うん。でもこれで、約束は達成したかな」

 

「これ以上ないくらいに搾り取っただろ」

 

「えへへ。セン君にとって、絶対忘れられない思い出にして欲しかったから」

 

 

 シーツで大事なところを隠しながら、ミリエラがゆっくりと身を起こす。

 改めて見ても、成人した彼女の体は最高に綺麗で、魅力的で。

 

 俺を見つめる瞳は潤んでいて、けれど口元には確かな自信を窺わせる笑みをたたえて。

 

 

(……っておい! 鎮まれ! さすがに節操なさすぎる!!)

 

 

 そんな彼女をものにしたのが自分だと思うと、ご覧の有り様である。

 

 

「……する?」

 

「しません!」

 

「ざんねーん」

 

 

 そもそもお互い体力切れだっつーの。

 

 

「まったく……」

 

「ふふ、でもこれで、セン君の初めての人になったから……」

 

 

 その直後だった。

 

 

 

「それじゃあわたし、セン君とお別れするね」

 

 

「え?」

 

 

「町デビューした日。最初にカレーンちゃんの家にお泊りしたとき、セン君が命の危機だったのに気づかないどころか何もできなかったの、悔しくて」

 

 

「え?」

 

 

「だから、もっともーっとセン君の役に立つ存在になって戻ってくるから、楽しみにしててね!」

 

 

「え?」

 

 

 

 かくしてミリエラは、俺のもとを離れ、一人旅立っていった。

 

 それはそれは、夢と希望に満ちた笑顔を浮かべての出発だった。

 

 

「……やり逃げダイナミック!?!?」

 

 

 

 バッドエンドは回避出来た。うん。だが。

 

 

「どうしてこうなった???」

 

 

 俺の本格的な大冒険は、物の見事にソロスタートとなったのであった。

 

 

 




俺たちの冒険はここからだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます!
センチョウ幼少期はここで完結です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
大きく区切るところまで投稿できたので、ぜひ感想もらえると嬉しいです。
マジで嬉しいです。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
区切りいいところまで読めるので、勧めやすくなった、はず!
こっちもぜひぜひお願いします!

次からはいよいよ自由の日々の始まりです。
センチョウが誰と出会いどんな物語を紡いでいくのか。
これからも応援してください。

がんばって書き溜めしますので!

それでは改めて、よろしくお願いします!


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第2章 立志編
第018話 こんにちは、死ね!


いつも読んでくださりありがとうございます!

投稿している日々の中で色々あり、あんまり書き溜めのストックは出来ていませんが。
それでも、投稿できるところではしっかり投稿していきます!

ということで。

新章、開幕です!


 

 

 青い空、白い雲。

 俺ことセンチョウが何かを始めるときは、大体がこんな空模様の時だ。

 

 今日の俺はとある目的のために町を離れて街道を行き、さらにそこから外れて森へと向かっている。

 徒歩での移動のために時間がかかるその道中。まさに今、何とはなしに自分のことを思い返して、俺は旅の暇を潰していた。

 

 

 

 動画配信者だった九頭龍千兆は超長時間ゲーム生配信の果てに死に、別世界でセンチョウ・クズリュウとして第二の生を始めた。

 

 別世界、モノワルドは装備適性とアイテムのレアリティが大きく人々に影響を与える世界。

 強い適性を持つ者が強いアイテムを装備(イクイップ)すれば、まさしく怪力無双、鬼に金棒が実現する世界だった。

 

 俺は神様であるゴルドバ爺に、今世の目標であるレアアイテムコンプリートを目指せるよう『財宝図鑑』というアイテムと、他者の装備を強制的に解除して奪うことができるチート魔法《ストリップ》をもらった。

 

 神様の粋な計らいで、俺の装備適性はすべての物に対してC……上から4番目、《イクイップ》したものは何でも上手に扱える程度の能力がある。

 さらにはゴルドバ爺からパク……チュートリアルでプレゼントしてもらったGR(ゴッドレア)装備『ゴルドバの神帯』の力で、装備適性をすべて2段階上げたAにすることだってできる。

 装備適性Aともなれば、熟練の技を超えた天才の領域までアイテムを扱えるようになり、そこらのフォーク1本手にするだけで、剛腕の大剣使いの一撃を受け流したりもできちまう。

 

 あらゆるアイテムでそんな変態アクションできる俺は、つまりこの世界における強キャラであることに何の疑いもないだろう。

 レアアイテムが揃えば揃うほどに強くなる。それがこの俺、センチョウなのだ。

 

 

 

 そんな俺も前世の記憶を5才で取り戻してから10年が経ち、今は成人である15歳。

 幼少期を過ごした孤児院から出発し、ついにここから本格的なアイテムコンプの道を歩き出す時期となった。

 

 予定では一人、旅の仲間がいたはずだったが、彼女とは都合があって道を違えてしまった。

 別れの前の情熱的な時間は、今も俺の心に深く刻み込まれている。

 

 具体的には独り立ちして1か月、ちょっといい雰囲気になった女の子からのお誘いを回避してしまう程度に。

 

 

 お、お、お。ちょっと待ってくれ。ステイ、ステイ。帰らないでください!

 これには事情があるんだ。

 

 

 冷静に考えてみてくれ。

 超絶可愛い上にめちゃくちゃその手の技術に長けたハーフサキュバスの女の子と、甘く濃密な時間を丸々一週間体験したんだぜ?

 しかも10年ひとつ屋根の下にいてずぅーっと愛情深く接してきた子と、だ。

 

 触れれば柔らかに俺の手を受け止めてくれるどれだけ触っても飽きが来ない肌。

 つつけば愛らしい反応が返ってくる頭翼や腰翼。

 甘ったるい香水と、彼女本人が放つ色香の混ざった脳を蕩かす匂い。

 俺が求めれば求めるだけ応えてくれる、呼吸ぴったりの口づけ。

 そのうえ口からはひっきりなしに俺を求める声が紡がれるときたもんだ。

 

 あの時はさらに薬を盛られてたのもあって思考能力なんてものはなく。

 何ひとつとしてブレーキが利かない状態で求め合った――。

 

 

 ……

 

 

 無理じゃん!

 普通に考えて無理じゃん! その子と比べちゃうじゃん!!

 

 俺は最高の女の子とマジで最高の経験をしてしまったんだよ!

 だからこう、するならするでもう何かすっごく尖った何かがないと、手が伸びないんだよ!

 

 多分ここまで踏まえて彼女の、ミリエラの策だったんだろうってのは分かる。

 それくらい、彼女の本気を叩きつけられた経験が、俺の初体験が強烈だったんだ。

 

 

 

 とまぁ、そんなわけで。

 俺の雄としての心向きは、すっかりとミリエラ級を求めるグルメ嗜好になってしまったのである。

 

 ちなみになんでそんな素敵な彼女と道を違えたかって?

 俺が聞きたいよ!! なんか修行の旅に出ちゃったんだよ!!

 

 ミリエラー! カムバァーーーーーーック!!!

 

 

 

 っと、いかんいかん。

 もう森に入ったんだから、変に大声出したら気取られちまうな。

 

 最低でも1チームくらいは狩りたいところだから、ここらで気合を入れないとだ。

 

 

「神帯巻き巻きの『財宝図鑑』ヨシ! 森歩き用のブーツを《イクイップ》、暗殺と相性がいい短剣を《イクイップ》、隠密適性の高い外套(クローク)を《イクイップ》……これでよし」

 

 

 そろそろこれから始めることについて説明しよう。

 

 成人して旅に出た俺が最初に求めたのは、ずばり金である。

 金があればHR(ハイレア)くらいの装備は店売りでお求めできるし、SR(スーパーレア)以上のレアアイテムだって購入できるタイミングはきっとある。

 

 なるべく早く資金力が欲しいから、決まった場所でチマチマ働くよりは、どこかで一攫千金を狙おうと決めた。

 そんな俺が目を付けたのが、そう――。

 

 

「おう、さっき襲った馬車の荷はちゃんと運び終わったか?」

 

「へい親分。しめて3万(ゴル)は固いでさぁ」

 

「へへっ、大当たりだったなぁ。お前ら! さっそく勝利の宴だぁ!」

 

「「ヒャッハー!!」」

 

 

 盗賊狩りである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

(動きを見るに特別レアな装備をしてる奴はいない、な。残念)

 

 

 目標は盗賊たちの全滅。

 ボスを最初に()ってしまうと、手下が蜘蛛の子散らすように逃げてしまう場合が多いから、狙うは孤立した手下からだ。

 

 

「うっ、しょんべん」

 

「近くの木ですんなよ? くっせぇのが臭っちまう!」

 

「うるせぇ!」

 

「「ハハハハハ!」」

 

 

 都合よくグループを離れて一人になった盗賊のそばに、俺は忍び寄る。

 森歩きに適した靴の消音効果と隠密補正を得られる緑色のクロークで、すっかり俺は森の中に溶け込み、あっさりとそいつの背後を取る。

 

 そして静かに短剣を構え。次の瞬間。

 

 

「うぃ~……あー、出る出る。めっちゃ出る」

 

「…………ハァイ、ジョージィ?」

 

「あ? ヲ゛ッ!?」

 

 

 ステルス・キル。

 短剣で喉を切り裂き、ジョージ(仮)の命を奪う。

 

 崩れ落ちるジョージ(仮)だったものから手を放し、俺は再び森と同化した。

 

 

(……さすがに、もう慣れたな)

 

 

 すでに人の命を奪った数は、2桁を越えて久しい。

 盗賊たちをターゲットにすると決めてから、まずはパーティーを組んで仲間たちと共に盗賊を討伐し、そこでこいつらの所業とその末路をしっかりと観察し、俺自身の手を汚した。

 

 ゲームじゃフィールドを歩けばわんさか無限に出てくる雑魚だが、実際に生きる世界で見るそれは、予想していたよりもはるかに悪辣で、残酷で、しぶとくて、救われない奴らだった。

 

 社会からはぐれ、他者から奪うことでしか命を繋げなくなった存在。

 モノワルドなら技術を得やすく貧困にあえいだり食いっぱぐれる連中はいないもんだと思ったが、実態はむしろ逆だった。

 激しい競争社会のふるいに掛けられはじかれる奴はそりゃもういっぱいいて、一発逆転のアイデアでもなければ、手にした武器で略奪者になるって考えに走る者が多かったのである。

 

 

(なまじっか殺す技、奪う技が使えるってのが、拍車をかけてんだろうなぁ)

 

 

 そうして奪うことの楽さを覚えてしまえば、盗賊の出来上がりである。

 そいつらが世間に何をもたらすかなんて、あとは推して知るべし。

 

 俺が最初に見た村は、俺から盗賊殺しすることへの罪悪感をほぼ消し飛ばしてくれた。

 世の中を世知辛いとは思うが、同情するものじゃないと俺は学んだ。

 

 

(やるなら勇者行為までに留めておく。肝に銘じておかないとな)

 

 

 人を殺してでも奪い取る。は最終手段にしたいもんだ。

 うんうん。

 

 さぁ、こいつらぶっ殺して彼らの財宝を奪い取るぞー! うおー!

 

 

 

「やぁご同輩。こんにちは、死ね!」

 

「な!? ヴッ!!」

 

 

 三人目をステルスキルをしたところで、そろそろ本丸に挑む頃合いだ。

 見ればいい加減異常を察知し始めて、ボスが周囲を警戒するよう指示出ししている。

 

 

「……《イクイップ》」

 

 

 俺は矢をたんまり入れた矢筒と弓を装備し、観察の結果、賢く立ち回っている連中に狙いを定める。

 つがえた矢の数、合わせて3本!

 

 

「ひっ!?」

 

「でっ!?」

 

「ぶっ!?」

 

 

 それらは俺の手から離れてすぐに、3人の盗賊のヘッドにヒットした。

 

 

「な、なんだぁ!? 誰だぁ!!」

 

 

 ボスがなんか言ってるあいだに再び矢をつがえて、シュート!

 

 

「あっ!?」

 

「べっ!?」

 

「しっ!?」

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

 

 ふぅー、ワンターンスリーキルゥ。

 盗賊の数も半数を切った、そろそろ近接戦闘を開始しよう。

 

 

「《イクイップ》」

 

「そ、そこか!?」

 

「遅い!」

 

 

 木々の合間から飛び出して、盗賊たちの前へと踊り出る。

 俺の手に握られているのは、割とどこにでも売っている鉄の剣だ。

 

 

「馬鹿が! 飛び出してきやがって!! やれ!!」

 

「「おう!」」

 

 

 盗賊たちが、手に持った槍を構えて俺へと向ける。

 この世界、盗賊だからってみんな斧持ってるとかそういうのはない。

 

 意外と軍隊っぽく適性に合わせた部隊編成もどきをしていたりする。

 

 だが。

 

 

「どぅりゃああああ!!」

 

「ハッ! 当たるかっての!」

 

 

 それでも適性はいいとこCかD。

 そんな力で突き出された槍なんて、装備適性Aの俺の前じゃ、止まってるのと同じだ!

 

 

「なっ、槍先を空中でそらして、柄に体をこすりつけただと!?」

 

「これじゃ狙いがつけられ……ぎゃああ!!」

 

 

 くるんくるんと柄に沿って体を寄せて急接近。

 あとは回転の勢いと一緒に刃を振るい、盗賊たちを蹴散らしてやる。

 

 

「ひ、ひぃ! バケモンだ!!」

 

「こいつの仲間はどこにいやがる!? 弓使いを探せ!」

 

 

 残念だったな、それも俺だ。

 

 

「目をそらしたのが敗因だ」

 

「ひ、ぎゃああ!!」

 

 

 その言葉を最後に、ボスの首は胴体とおさらばした。

 彼の悪党に堕ちた人生に幕は下り、盗賊団は一人を残して壊滅した。

 

 

「《イクイップ》」

 

 

 パルパラ都市長の交渉道具一式をキッチリ装備して。

 

 

「……さぁて、お兄さん。俺と楽しく話をしようぜ?」

 

「ひぇ、ひ、ひぇ……!!」

 

 

 最後に残した腰を抜かしてる盗賊と、大事な大事な交渉タイムを始める。

 

 

「お宝、いっぱい貯めこんでるよなぁ? それがどこにあるか、教えてくれるよ、ね?」

 

「は、ひぇ、ひやぁ~~~~……!!」

 

 

 こうして俺は盗賊団をひとつ壊滅させ、そいつらがたんまり溜め込んだお宝をゲットする。

 奪われた人たちには申し訳ないが、手に入れたお宝は全部俺の総取りだ。

 

 盗賊の討伐依頼を受けるより、こうして自力で探して宝を奪った方が効率がいい。

 だから俺は基本ソロで、依頼を受けずに盗賊狩りを敢行している。

 

 おかげで財宝図鑑の宝物庫には、結構な金額が貯蓄できた。

 だが、それでも。

 

 

「まだまだ、足りないよなぁ?」

 

「ひ、ひぃ! これ以上、何を持っていくってんだ!?」

 

「それはもちろん、身ぐるみだ」

 

「え?」

 

「《ストリィィィップ》!!」

 

「あ゛あ゛~~~~~~~~~~~!?」

 

 

 世界を買うほどの金には程遠い。

 いずれは規模を拡大し、どんどんお宝を集めて資金力も高めていかないといけない。

 

 

「さーて、回収回収」

 

 

 だが千里の道も一歩から。

 旅を始めたばかりの俺は、ファンタジーの先駆者様を見習って、盗賊いぢめに精を出す。

 

 俺は決して善人じゃない。

 だが、好んで悪を標榜する気もない。

 

 あくまでこの世界で生きる常識の範囲の中、上手に立ち回って生きていく。

 そうでなければ、いつか善のアイテムと悪のアイテムなんてものと出会ったとき、両方を手に入れることはできないのだから。

 

 

「よっし、この調子でいくぞ!」

 

 

 それから俺はこの森を縄張りにしている盗賊団をあとふたつだけぶっ潰し、町へと戻る。

 

 連環都市同盟パルパラから東へ向かった場所にある、同じく連環都市同盟に属する町。

 都市同盟の中でも最も東に存在する、治安悪々のその町の名は――。

 

 

「連環都市同盟第13の町……ガイザン」

 

 

 俺が最初の拠点と決めた、なかなか刺激的な場所である。

 

 




輝くお宝あれば、無理矢理独り占め!


ここまで読んでくださりありがとうございます!
古の伝統芸能回でした。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
新章開幕ということで、勢いが生まれたらいいなと思っています。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
新しい物語が始まるまさに今! 今がチャンス!


日をあけながらになりますが、しっかり投稿していきます。
よろしくお願いします!


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第019話 娯楽と破滅の町ガイザン!

19話をお届けです!

そして祝! UA1500突破!
見てもらえる人がじわじわ増え続けているの、とっても嬉しいです。

モノワルドという世界には色々な人や色々な場所があります。
そういうのも楽しんでもらえたら何よりです。

それでは、今回もよろしくお願いします!


 

 

 連環都市同盟第13の町、ガイザン。

 別名、娯楽と破滅の町。

 

 

「てめぇ、サマしやがって!」

 

「ははは、負けたのはお客様ですよ。おかわいそうに」

 

「やったー! 億万長者だーー!!」

 

「あんまり声上げると目立ちますよ、旦那様~」

 

「うぃ~、もう一軒回るぞー」

 

「先輩、飲みすぎっす」

 

「また来てくださいね。お嬢様」

 

「はぁぁぁん! お金貯めたらまた来まぁぁす!! やっぱストレス発散はホストよ!」

 

 

 町の至る所にカジノや風俗、楽しげな雰囲気から薄暗い雰囲気まで混沌と存在する町。

 ガラの悪い奴らが闊歩して、脛に傷のありそうな奴らがコソコソしている町。

 

 夕暮れから夜がよく似合う町。

 

 そんな町に居ついてから、かれこれ10日ほどになる。

 

 

(今日も賑やかだなぁ)

 

 

 ここ、町の中で殺人とか日常茶飯事なくらいやべぇところなんだが、俺を惹きつけて止まないものが3つほど存在する。

 

 ひとつは、お金を換金して手に入れるメダルを貯めて、レアアイテムと交換できるカジノ。

 ひとつは、闇市を流れる掘り出し物が出てくる可能性を秘めたオークション。

 

 そしてもうひとつが、目下のところお世話になっている……盗品屋だ。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「おーい、ドバンのじっちゃ~ん」

 

「おほう。また来たか、白布(しろぬの)」

 

 

 行きつけの盗品屋に入って、暗い店内を進み顔見知りになったヒューマの老店主の元へと歩み寄る。

 白布というのは彼に付けてもらったあだ名だ。ここで本名を名乗るわけにもいかないと、最初に来店したときに決めてもらった。

 

 その由来は言わずもがな、俺が装備している『ゴルドバの神帯』である。

 一目見たときにこれがすごいアイテムだと見抜いたその慧眼に、俺はめちゃくちゃ感動した。

 

 だってこれ『財宝図鑑』の宝番のアデっさん曰く、普通に鑑定してもRくらいの布だって認識されるようになってるんだぜ?

 世の中にはやべぇ奴が割とどこにでもいるもんだなって思った。

 

 おかげで気に入ってもらえたから、結果オーライ。

 こうして通い詰めるようになって、仲良くなることができたというわけ。

 

 

「レアアイテムの実物か情報はないか?」

 

「またそれか。もうないぞ。毎日毎日聞きに来られて、ネタはなくなったわい」

 

「あ、そうか。今までありがとう。俺、他の店に行くよ!」

 

 

 儚い友情だった。

 

 

「ちょちょちょ、待てぃ!」

 

「レアアイテム情報も実物もない盗品屋なんて、ただの買い取り業者だぜ……はいこれ」

 

 

 いつものように壊滅させた盗賊団から奪った装備品や小物などを提出する。

 

 

「ぶおっ、まーたこんなに沢山。おかげで大儲けじゃ! って、そうではなく!」

 

 

 とっとと買取査定終えて帰りたい空気を出し始めた俺に、ドバンが大慌てで『鑑定眼鏡』を装備してから査定を開始する。

 正直俺が一番欲しいその眼鏡を売って欲しいんだが、生憎替えがないらしくて売ってもらえなかった。

 

 もっとも、他の店じゃ吹っ掛けられたりあげく偽物掴まそうとして来たりで、別の意味で手に入れられなかったんだが。

 

 

「白布、知っておるか? 最近この辺りから盗賊が消えて、繋がりを持ってる商人たちが悲鳴を上げておるそうじゃって」

 

「そりゃ災難だな」

 

「噂じゃ勇者様の仕業じゃないかってことらしいが……お前さんなんか知らないか?」

 

「いやぁー、俺は見てないな。勇者様」

 

 

 勇者。

 モノワルドにおいては、魔王と呼ばれるレアモンスターを退治して素材を集めてきたり、悪い奴をやっつける特別な装備適性を持つ人物のこと。らしい。

 風の噂じゃ最近、巨大なゴーレムみたいなモンスターを退治したと聞く。

 

 

(近くにいるって言うのなら、ぜひ会ってみたいもんだな)

 

 

 モノワルドだし、絶対勇者専用装備とかあるに違いない。

 ロ〇の剣とか〇空の剣とか! ちなみに俺は天〇の剣派です。

 

 え、そもそもモンスターとかこの世界にいたのかって?

 いるよモンスター! なんなら孤児院の裏で飼ってたコッコもそうだぜ!

 

 

「……あんまり無茶しちゃダメじゃぞ?」

 

「無茶はしてないさ。マジでな」

 

「お前はワシが最近出会った中で最上級の上客なんじゃからな。儲けさせとくれよ?」

 

「だったらレアアイテムの情報と実物をだな……」

 

「ないものはない」

 

 

 ……こういうところが、ドバンのじっちゃんを見限れないんだよなぁ。

 何件かある盗品屋の中から俺が彼を選んだ理由が、この隠しきれない仕事関係の誠実さだった。

 

 

「レアアイテムの切れ目が縁の切れ目……」

 

 

 まぁそれも今日までだが。

 

 

「待ぁて! 待て待て待て!! 待つんじゃ金づる!」

 

「いや正直すぎだろ!?」

 

「レアアイテム、と言えなくもないものを、今日はお前にやる! やるから!」

 

「話を聞こう」

 

 

 俺はカウンター席に腰掛ける。

 どうやらまだまだ友好関係を続けられそうだ。

 

 俺、ドバンのじっちゃん大好き!

 

 

「まったく、現金な奴め……」

 

「で、レアアイテムと言えなくもないものとは?」

 

「これじゃよ」

 

 

 そう言ってドバンがテーブルに放り投げたのは、何の変哲もない一枚のカードだった。

 強いて特徴をあげるとするなら、真っ黒な表面に目の形をしたモチーフが描かれている。

 

 

「これは?」

 

「お前が欲しいと思うものじゃ」

 

「もったいつけなくていいだろ、別に」

 

「ふっふっふ。そうじゃな」

 

 

 手に取ってシュババッとアデっさんところで鑑定してもらおうかと思ったが、手を伸ばしたところで妨害された。

 爺さんの悪戯心に付き合って目を細めていれば、ようやくそのアイテムの名を教えてもらえた。

 

 

「これはの、ワシが懇意にしておる闇オークションへの紹介カードじゃ」

 

「お爺様大好き!」

 

「純粋にキモい!」

 

 

 闇オークション!

 行きたいけど全部会員制で行けなかった闇オークション! 来たーーー!!

 

 噂じゃSR以上のUR(ウルトラレア)のアイテムまで出るらしくって、絶対参加してみたいと思ってたんだ!!

 

 

「本当はもっともったいつけてから出してやるつもりだったんじゃがのう。こんなに早くネタ切れさせられてしまっては、もう出すしかなかったんじゃ。とほほ……」

 

「なんでもいいさ! おかげで俺はレアアイテムを手に入れられる!」

 

 

 もういいぞとOKサインをもらって、俺はカードを手に取った。

 早速《イクイップ》して落とさないようにしておく。

 

 

「次の開催は明後日じゃ。掘り出し物が見つかるとよいの」

 

「ああ! 本当にありがとう、ドバンのじっちゃん!」

 

 

 ぶっちぎりにやばい場所と噂の闇オークションだが、俺にとっては夢の国。

 そこへの入場切符をもらった俺は、最高にハイって奴だった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「ほれ、査定終わったぞい」

 

「さんきゅう! それじゃ次はオークションの後に顔出すぜ。またな!」

 

 

 金袋を受け取り、俺は絶好調で店を出る。

 査定金額ちょろまかされてそうだが、そのくらいはカード代にしといてやる。

 

 

(あー、なんかこういうヤバいところに潜入しますっての、別の配信者がやってたよなぁ)

 

 

 さすがに『記録水晶』とかの持ち込みは禁止されてるだろうしやらないが。

 いざ自分が突撃する役になると思えば、テンションはさらに高まってくる。

 

 

「おおーー、今日はなんか美味い物食ってから宿に戻るぞー!」

 

 

 一人気合を入れ直し、夜のガイザンへと繰り出していく。

 ガイザンは治安こそ悪いが、料理はめちゃくちゃに美味しい。

 

 その一番の理由は、町の東にある広大な森林地帯にある。

 

 今日出かけた森のさらに東の先にあるその森の名は、ヒュロイ大森林。

 かつてそこにあった獣人種(ライカン)たちが治めていた国の、国営地だった場所である。

 

 今は亡きその王国の名は、獣人国ファート。

 

 

(ライカン……獣人、モフモフ、獣耳っ娘とかのヒト種。そういやまだ一度も見たことないな)

 

 

 装備適性が低い代わりに、何も装備せずとも高い身体能力を発揮できる種族である獣人種。

 かつて獣人国ファートの建国王は、その種族特性から《イクイップ》することを惰弱と断じる思想を掲げ、装備によって発展する他国と真っ向から対立した。

 始めはその能力の高さから武威を示していられたが、技術の発達と共に力関係は次第に逆転し、そして――。

 

 

(80年前、大陸北の大国アリアンド王国と連環都市同盟による連合軍によって、ついに滅ぼされた)

 

 

 獣人国が滅んだのち、なんやかんやあってヒュロイ大森林は連環都市同盟が管理することとなり、現在の実質的な管理と流通はガイザンを拠点とする大商人たちが行なっている。

 おかげでここには美味しい森の幸が溢れていて、最高に料理が美味いというわけなのだ。

 

 

「モノワルドにも歴史あり、って感じだよな……栄枯盛衰、諸行無常」

 

 

 獣人国が健在だったときは森の食材もあまり出回ってなかったらしいし、モフモフ王国が滅んでしまったのは残念だが、今日この時、美味しいご飯にありつけることは喜ばしい。

 

 

「うおー、ガイザン最高!」

 

 

 飯が美味いところはどこだって天国だ。

 

 俺は手頃な高そうなレストランに突撃し、一人向けのコース料理を堪能する。

 

 

 肉! 肉! 野菜! 肉! 魚! トカゲ! 野菜! 豚! キノコ! 肉!

 

 

 スープやステーキ、サラダに丼。腹いっぱいになるまで俺は料理を平らげる。

 

 

「ごちそうさま。お勘定!」

 

「520gでございます」

 

「はい」

 

 

 520gは日本円にして5万2千円くらい。

 ちょっとボッタくりではと思わなくもないが、最高に美味しかったから気にしない。

 

 それに何より、今の俺にとっては余裕で払える金額だ。

 

 

「っかぁー! 食った食った! 食い倒れ世界旅行も人生の目標に加えていいかもなぁ」

 

 

 夜が深まったガイザンは、しかしそこら中に明かりが灯って闇が遠い。

 今からでも豪遊しようとすれば、いくらでもある娯楽の数々が、俺を迎えてくれる。

 

 だが、忘れてはいけない。

 

 

「おら、こっち来い!」

 

「ひぃっ! すいません! すいません! あ、助け……!!」

 

「あへぁ、あへぇ……」

 

「ち、ぶっ壊れやがった。こいつ捨てとけ」

 

「………」

 

 

 この町は娯楽と破滅の町。

 気を抜きすぎれば、次に身を滅ぼすのは自分の番になる町。

 

 

「おかえりなさいませ」

 

「どうも」

 

 

 宿に泊まるなら、しっかり高い金を払って防犯の魔法とアイテムが充実した場所へ。

 旅先でお金をケチるとろくな事にならない。

 

 

「はふぅー」

 

 

 俺は自室の柔らかなベッドに身を放り、大の字になる。

 

 

「明後日か、楽しみだ」

 

 

 眠らない危ない町の、比較的安全な場所で、俺は眠りにつく。

 いつかした失敗から学んで、俺と財宝図鑑を繋ぐ神帯は、寝る間もほどかないままでいた。

 

 




メインディッシュはトカゲ肉。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
悪いことを許容できると、悪い町に住めるようになる。そんなお話。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
いつも応援してくださっている皆さんに、心からの感謝を。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
ぜひぜひよろしくお願いします。

次は闇オークション!
伝統芸能は続きます!


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第020話 突撃! 闇オークション!!

いつもお話を楽しんでくれてありがとうございます!
20話をお届け!!

モノワルドの暗部を少しお披露目回です。
どうぞお楽しみくださいませ。

それでは今回も、よろしくお願いします。


 

 

 盗品屋のドバンのじっちゃんが懇意にしている闇オークションが、ついに今夜開催される。

 俺はなるべく自分の素性バレしないよう、地味めの服を装備しステルス効果を高めてから会場へと向かう。

 

 

「会員証か招待状を」

 

「ん」

 

「拝見します…………確かに」

 

「ん」

 

 

 入り口チェック、良し。

 口数も極力減らし、声を覚えさせない方向で。

 

 連れもいないソロ活動だから、可能な限り隙を削っていきたかった。

 

 

「こちらへ」

 

 

 仮面をつけたタキシードのいかにもな男に案内されるのは、町の地下だ。

 娯楽と破滅の都市ガイザンは、表層である市街よりも地下の方が広いと噂されている。

 

 そこではこの闇オークションを始め、よりレートの高い賭け事や、モンスターを連れ込んでの裏コロシアムなど、人の命が軽いモノワルドでもさらに命を軽んじた遊戯が繰り広げられているのだという。

 

 俺はそんなガッチガチの裏社会に潜り込み、レアアイテムを求めてやってきた。

 

 正直なところ……。

 

 

(んめっちゃ、テンション上がるぅぅぅ~~~!!)

 

 

 こう、ほどほどにチラ見できるサキュバスやドワーフみたいなヒューマ以外のヒト種とか!

 そういうのが前世の怖い場所感にファンタジーを混ぜ込んだ感じでめっちゃかっこいい。

 

 仮面の装備適性Aによるポーカーフェイス維持がなかったら、完全に初心者ムーブ決めてたぜ。

 食うか食われるかのこの場所でそんな動きを見せたら、後ろからバッサリだ。

 

 

(でもでも、やっぱテンション上がるぅぅぅ~~~!!)

 

 

 多少キョロキョロしてるのは大目に見てもらいたい。

 

 

(……うおっ、獣人種(ライカン)初めて見た!)

 

 

 ライカンのムキムキボディにタンクトップ、その上の猫耳がアンバランスぅ!

 あれは見た目からしてここのボディガードかな? さすが装備なしでも強いヒト種。

 首輪つけてるのはファッション? 結構似合ってるっていうか完全にパンクだアレ。

 

 

「おい、進んでるぞ」

 

「っと。すまない」

 

 

 やっべ悪目立ちしそうだ。移動移動っと。

 いやー、いいもん見た。

 

 そのあとは特に何事もなく、俺は地下街の奥深くへと歩みを進める。

 ドキドキワクワクの闇オークション会場は、もうすぐそこだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「――こちらが会場になります」

 

「おお、ここが……!」

 

 

 案内された先にあったのは、そこそこ広い劇場型の空間だった。

 

 おそらく商品を持ってくるステージと、それを囲うように半円状に展開する客席。

 両者を隔てるガラスの壁は、間違いなく何らかの魔法で強化が施されている。

 

 あ、ステージの台の上にハンマーある。

 モノワルドでもオークションのやり方は大体同じっぽいな。助かる~!

 

 前世じゃテレビでしか見たことないけど!

 

 

 

 初心者なので適当に後ろの方に腰掛ける。

 連れだって来た人たちの話し声や、どこか場を支配する嵐を待つ者たちの緊張感などに浸りながら待っていれば、その時は来た。

 

 ステージの上にゆっくりと姿を現す、顔に白粉を塗った、豪奢なフリフリ貴族服の男。

 なんだっけ、トランプでマジックする人? みたいな色合い。

 赤と白の組み合わせが実にビビット。

 

 そんなピエロと貴族を足して2で割ったような人が、司会進行役だった。

 

 

「……今夜も始まります、ミスタ・バーンガーン氏主催の、スペシャルオークション! 司会進行はこの私、毎日あなたの耳元で無限の呪詛を囁きたい、愛の伝道師ミッチィ!」

 

 

 やべぇ奴だった。

 

 

「ミッチィがお送りするこのスペシャルオークション。今回も様々なレアアイテムをご用意いたしましたので、ぜひお楽しみください! 合言葉は?」

 

 

 え? 合言葉?

 

 

「「バーンガーンに(さかずき)を!!」」

 

 

 うおおおおお! なんかそれっぽい!!

 

 

「……おやおや、どうやら合言葉を知らない方がいらっしゃったようですね?」

 

「あ」

 

 

 やっべ。

 っていうか教えてもらってねぇよドバンのじっちゃぁぁん!!

 

 

「んっんっんー! そこの素敵なオペラマスクのあなた」

 

「は、はい!」

 

「……あれ?」

 

 

 ミッチィが声をかけたのは、俺じゃなかった。

 っていうか、俺のことに気づいている感じじゃなかった。

 

 あれか、ステルス仕事したか。

 

 

「こういう場では合言葉がとっても大事なんです。忘れた方は参加できないんですよ」

 

「あ、あぅ」

 

「初めてのご参加だったのでしょうが……これは悲しい悲しい出会いとなってしまいました」

 

「あ、ボクのカード……」

 

 

 俺と同じ年か少し年上くらいの客から、背後に立ってたさっきのいいボディのライカン兄貴がカードを抜き取った。

 ライカン兄貴はそのままその客を抱きかかえると、ひょいっと俵持ちする。

 

 

「え、え、あの? あの?」

 

「ここにあなたの居場所はありません。さようなら」

 

 

 ミッチィの言葉に合わせてライカン兄貴が連れて行くのは、俺たちが入ってきた方向じゃない、より奥まった、関係者以外立ち入り禁止っぽい方の扉。

 

 

「え、あ、待って、ごめんなさい、許して、あっ、まっ!」

 

「いい夜を」

 

「「いい夜を」」

 

「まっ!!」

 

 

 バタンッ。

 

 最後は観客たちにも見送られ、涙目の彼を運び去った扉は無情にも閉ざされた。

 このあと彼がどうなるかはもう想像するしかないが、ただただ無事であってくれと祈るばかりだ。

 

 っていうか、あの耄碌ドバンじじい帰ったら覚えてろ!

 

 

 

「さて、それでは気を改めまして。早速オークションを始めたいと思います」

 

 

 そこからは、何事もなかったかのように闇オークションが再開した。

 

 その内容は、まさに圧巻という他なかった。

 

 

「ではこちらSR鑑定書付きのレアアイテム『マーメイドの涙』、18万gで落札です!」

 

「おおおー!」

 

「こちらのUR鑑定書付きのレアアイテム『竜牙剣』! 424万gで落札です!」

 

「おおおー!!」

 

「続きまして、SR鑑定書付きのレアアイテム『エルフの超媚薬』を3つセット!」

 

「おおおおおお!!!」

 

 

 ぽんぽんぽんぽんレアアイテムが登場し、ぽんぽんぽんぽん落札される。

 

 今日は初参加だから見るだけのつもりだったが、思わず手が出そうになることいっぱい!

 あれも欲しい! これも欲しい! 全部欲しい!

 

 見たこともないアイテムの目白押しに、俺は心の底から大興奮していた。

 

 

(今の俺の手持ちが80万g、いくつかの品にはマジで手が出せる! だが……!)

 

 

 手にした番号棒を上げようか上げまいかしている間に、金額が跳ね上がる。

 この中に突撃していくのは、初心者にはちょっとハードルが高い。

 

 

「……これ以上はありませんか? ではこちらのSR鑑定書付きのレアアイテム『チキンハンター』! 35万gで落札です!」

 

「おおおおおおーー!!」

 

(……くぅ!)

 

 

 新しいレアアイテムを見ては興奮し、跳ね上がる金額に一喜一憂、そして買われていくのを見守るだけで、歯がゆい思いを重ねていく。

 

 俺は完全に場の熱に呑み込まれてしまっていた。

 というか、完全にお上りさんで何をどうしたらいいかわっかんなくなっていた!

 

 

「続きまして――こちらが本日最後の商品!」

 

 

 そんなところに冷や水をぶっかけられたのが、次に登場した商品だった。

 

 

「こちら、ライカンの少女奴隷でございます!」

 

 

 場が、一瞬で静まり返る。

 そこで正気に戻った俺がステージの上を確かめると。

 

 

「………うっわ」

 

 

 そこでは、めちゃくちゃに可愛い垂れ犬耳の美少女が、震えながら立たされていた。

 

 




伝統芸能。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
SRくらいまでなら割とゴロゴロそこら中にありそうな、そんな世界。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
読んでくれてるみなさんの応援で生きてます。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
分けても減らねぇパイは配ってこそ。


さて次回。
何をする、ではなく、どうしてやどうやってをお楽しみください。


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第021話 俺、落札する!

どーも、みなさん。21話をお届けデス。

書き溜めカツカツですが、どうにか公開できるようにやってます。
時間を掛けてる分しっかり仕上げているつもりですので、よければ今回も楽しんでいってください。

それでは、今回もよろしくお願いします。


 

 

 ステージの上に立たされた垂れ犬耳の美少女。

 一目見れば分かる愛らしさに、俺は目をみはり彼女を観察する。

 

 

獣人種(ライカン)、だよな? この子も……)

 

 

 年の頃はまだ幼く、10歳を越えてひとつかふたつ、といったところか。

 セミロングの白金の髪は艶やかで、その上から垂れた犬耳が愛らしい。

 華奢な体の割に体幹はしっかりしているのか両の足でしっかりと立ち、しっぽを膨らませている。あの毛並みっぷりからして、なかなかのモフリティがありそうだ。

 商品だからだろうか、ロリータ衣装に身を包んでいるがどこか動き辛そうにしており、それ以上に少女は全身震わせ、怯えている様子だった。

 

 それがまたなんとも、俺の中にある嗜虐心だか庇護欲だかをくすぐって――。

 

 

(……かわいいな、かわいい。とてもかわいい)

 

 

 そんな彼女を、司会のミッチィはライカンの少女奴隷だと紹介した。

 

 

 奴隷。

 

 人でありながら誰かの所有物となった者。人としての権利が色々奪われる。だいたいエロい。

 

                           byウェキペディア

 

 

(奴隷! そういうのもあるのか!)

 

 

 いざ紹介された“商品”に対して、俺は感動を覚えていた。

 

 前世の社会においては、世界的にそんな立場の人を作っちゃダメよと言われている存在。

 しかしこと創作物において、それはもうネタとして擦られまくった存在でもある。

 

 誰かを支配したい、誰かに支配されたい。

 

 そんな背徳的な願望を満たすために、奴隷と所有者の関係性はうってつけなのだろう。

 俺が嗜んでいたゲームでも彼らを雇って軍勢にしたり、逆に開放していったりと、様々な立場で向き合ってきた存在である。

 

 その実物をこうして目の当たりにして、俺は大いに驚き、そして心を動かされていた。

 

 前世がどうあれ、俺に今、目の前にあるものを否定する気はない。

 むしろこうして商品として出てきた以上、『奴隷』を装備できるかどうかの方が気になるくらいだ。

 まぁ装備できるとしてどんな能力が上がるのか、皆目見当がつかないけどな!

 

 

(それにしても、闇オークションで競売にかけられる垂れ犬耳の美少女奴隷か。……まさか本当にお目にかかれるとはなぁ)

 

 

 いかにもなシチュエーションでの出会いに、なんだか俺は運命のようなものすら感じていた。

 

 だが、そんな俺の感動とは裏腹に、周りの反応はあまり芳しくなく。

 

 

「おいおい、よりにもよってこの時期にこれかよ。正気か?」

 

「さすがに手は出せねぇって、こんな厄ネタ」

 

「だよな。アリアンド王国が今やってる政策を知らねぇ奴はいねぇだろ……」

 

 

 口々に不安そうな言葉を吐いては、あんなに可愛い少女を見るのすら嫌がっているほどで。

 それは想定していたのか、ステージ上のミッチィも苦笑いしていた。

 

 

(まぁ、それはそう)

 

 

 俺だって首を縦に振る。

 北の大国アリアンド王国は現在、ライカンに対してある政策を実行中なのだ。

 

 

「この少女奴隷だってきっとそうだろ?」

 

「間違いない、獣人狩りから掠め取ってきた奴だ」

 

 

 獣人狩り。

 数年前から施行された、イスタン大陸各地に生きるライカンを、探して捕らえて連れ去っていく、恐るべき政策である。

 

 これこそが、俺が今日まで彼らを見たことがなかった理由であり、今ステージの上の女の子が商品となっている原因だった。

 

 

「あ」

 

 

 そこに来てようやく俺は、彼女の首に取りつけられている首輪が、さっきのライカン兄貴の物と同じだと気がつくのだった。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「いかにもいかにもこの少女。獣人狩りに追われているところを掠め取り、そのまま運び出してにございます! 追手が怖い? ですがご安心を! その際に彼女の父母を獣人狩りに差し出し、公的には死んだものとして彼女は扱われるよう取り計らっておりますゆえ!」

 

 

 まったく悪びれた風もなく、ミッチィが少女の来歴を説明する。

 すでに死んだ者であるのなら、どう扱ってもいいのだという意図がそこには込められていた。

 

 だがそんな彼の商品アピールもむなしく、客たちの反応は鈍い。

 

 

「……80年前の戦争で滅んだ獣王国ファートの生き残り狩りか。今更それが再開するとは思ってなかったもんな」

 

「新体制を敷いた王国の国是が世界制覇らしいからな。その一環として後顧の憂いを断ちたいんだろう」

 

「だが獣人狩りといっても生け捕りだろう? 実際は何か別の用途に使おうとしているらしいぞ」

 

「物騒になってるよなぁ」

 

 

 客たちから聞こえる不穏な話。

 不気味に動き始めた王国の存在を憂いた、なんとも微妙な雰囲気が場に漂う。

 

 そんな客たちが少女に向ける視線には、忌避と、そして、侮蔑が滲んでいた。

 

 

「そもそもあんな汚らわしい物をそばに置くつもりはない」

 

「まったくだ。どうせなら然人種(エルフ)の奴隷が欲しいもんだよ」

 

「こんな厄介なものに手を出して、王国に目をつけられたら堪ったものじゃない」

 

「人のなりそこない。獣が人を真似ただけの汚らわしいヒトもどきめ」

 

 

 次々と少女にぶつけられるのは、同情の言葉ではなく口撃で。

 これには商品を提示した側であるミッチィも、客をなだめるのに必死になってしまう。

 

 

「お客様、お客様。そう悪しざまにおっしゃらないで。この非合法の奴隷であれば、どのように扱ってもらってもいいのです。おもちゃにするもよし、慰み者にするもよし、壊れて動かなくなるまで、楽しまれてはいかがですか? ほれこのように!」

 

 

 そう言ってミッチィが腕を振るうと、すでに装備していたのだろう、手にしたナイフが少女のロリータ衣装を切り裂く。

 腰のリボンを断ち逆袈裟で器用に衣服だけを寸断する一閃が、彼女の幼くもふくらみかけた身を包む、下着姿を晒し出す。

 

 

 

「……ひぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

「おお……!」

 

 

 

 叫びをあげ、顔を真っ赤にする少女。

 

 だが、そんな少女の痴態に喜びの声を出したのは、俺ただ一人だけだった。

 

 

「うわぁ、やめやめろ! 俺はそんなの見て喜ぶ変態じゃないぞ!」

 

「それはサービスじゃねぇ! 罰ゲームだ!!」

 

「ふざけんなミッチィ! どうせならエルフの姉ちゃんの服を破け!」

 

「あなたが脱いでもいいのよ! ミッチィ!」

 

 

 どころか非難轟々。

 今度はミッチィに口撃が集中すれば、彼も慌てて少女に布をかけて露出を抑え、事態の収束を図る。

 

 

(……ミッチィ。俺だけはお前の頑張りを認めているぜ)

 

 

 混沌とするオークション会場でただ一人、俺だけはミッチィを温かい目で見守っている。

 

 

(少女奴隷の服ビリシチュ、心のスチルにしっかり保管させてもらったからな!)

 

 

 っていうか、見世物じゃねぇと客がキレてるのを見て、それはそれで犬耳少女がショック受けてるな。

 完全な脱ぎ損だもんなぁ。かわいそうに。

 

 

 あ、目が合った。

 あ、逸らされた。

 

 

 そうこうしているうちに、オークションの時間がやってきた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「……えー、こほん! ではライカンの少女奴隷! 最初は5……いえ、1万(ゴル)から始めます!」

 

 

 埒が明かないと判断してか、ミッチィが安値を付けて競りを始めた。

 この場で何としてでも売り抜きたい思いが透けて見えるのは、売る側もこれがヤバい品だと十分に分かっているからだろう。

 

 

「1万g! 1万gですよ! どなたかいらっしゃいませんか!?」

 

 

 これまで取り扱われたSR以上のアイテムに比べて、あまりにも安い値段設定。

 それほどまでにモノワルドでは命の値段が安く、もっと言えば、彼女たちライカンは今ことさらに安いのだ。

 

 ちらっと後ろを見れば、ライカン兄貴が何とも言えない顔でステージを見守っていた。

 

 

「お前買うか?」

 

「冗談はよせって」

 

「いじめるにしても、ライカンは装備なしでも強い身体能力があるのでしょう? 万が一にも逆襲されるのが怖いわよねぇ?」

 

「ええ、ええ。野蛮ですわ。それに、屋敷を獣臭くされては困りますわぁ」

 

 

 それでも、彼女に買い手はつかない。

 誰も彼もが彼女を好き勝手に値踏みしながら、金を払う価値などないと言っている。

 

 

「………」

 

 

 少女はぎゅっと被った布を握り、震え続けている。

 

 ここで売れ残ったら、その命に価値がないと切り捨てられたらどうなるのか。

 そも買い取られたとして、その先に光などあるのだろうか。

 

 きっと、そんな風なことを考えているのだろう。

 時折辺りを見回す少女の表情は、今まさに死んでしまいそうなくらい絶望に染まっていた。

 

 

 

「……1万g! 1万gですよ! どなかたいらっしゃいませんか!? はぁ……だからこんなの扱いたくなかったんですよぉ」

 

 

 誰も手を上げないまま数分が経ち、ついにミッチィが音を上げる。

 彼からの叱責の視線を受けて、少女はますます縮こまり、怖れに震え上がった。

 

 

 ……どうやら本当に、誰一人として手を上げる気はないみたいだな?

 

 なら、遠慮はいらないな!!

 

 

 

「はい!」

 

「え?」

 

「1万g!!」

 

 

 

 俺は元気よく声を張りながら、番号棒を持ち上げた。

 ミッチィがめっちゃいい笑顔を向けてきて、その隣の少女もびくりと震えながらこちらを見た。

 

 

 彼女の薄紫色の瞳と、再び目が合う。

 じっとこっちを値踏みし返すような、そして祈りと哀願が目一杯に込められた視線が、俺に向けられていた。

 

 俺はそんな彼女に満面の笑みで応えて、もう一度声を張り上げる。

 

 

「1万g!!」

 

「はい! 1万g出ました! それ以上はありませんね? あなたも心変わりないですね!?」

 

 

 オークションは番号棒上げたら最後なのに確認されてしまった。

 

 

「ありません!」

 

 

 でもせっかくだから、はっきりと答えてやる。

 ミッチィがすっごいいい笑顔を浮かべて、ハンマーを振り下ろす。

 

 木と木がはじける乾いた音が、会場に響き渡った。

 

 

「ではこちらのライカンの少女奴隷! 1万gで落札です!!」

 

「「………」」

 

 

 落札確定の拍手は、前の商品たちとは比べ物にならないくらい、小さかった。

 

 

「……あんた、マジで買うのか?」

 

 

 隣の男性にまで、心配されるように尋ねられる。

 

 

「もちろん!」

 

 

 だが俺には、何の後悔もない。

 

 なぜならば!

 

 

(もしも奴隷を《イクイップ》できるなら、その効果は絶対に確かめておきたいからな!!)

 

 

 ここで奴隷の存在を知ったその瞬間から、ずっと考えていた可能性。

 俺はそんな夢みたいなことを確かめたくて確かめたくて、ワクワクしていたからだ。

 

 それに理由はひとつじゃない。

 

 

「あの子、とっても可愛いだろ?」

 

「えぇ……」

 

 

 ドン引きされてしまったが、それだって後悔はない。

 俺にライカンの見た目への忌避感はないし、外を出歩かせるのだって手はいくらでもある。

 

 

(俺自身が強いんだ。女の子の奴隷一人扱えなくてレアアイテムコンプなんて夢のまた夢よ!)

 

 

 まぁ、それもこれも、奴隷が《イクイップ》できればの話だがな!

 ダメだったときは、どっかにあるだろうライカンの領分まで連れてって放流すればよし!

 

 キャッチ&リリース。

 そんな一時の連れ立ちって意味でも、そばに可憐な花があるのは悪い気はしない。

 

 

「ありがとう! ありがとう! 売れた! 売れた! こっちで手続きしますので、どうぞ!」

 

 

 喜ぶミッチィに手を振ってから、俺に怯えた視線を向ける垂れ犬耳少女へ向き直り、改めて笑顔を作る。

 彼女(どれい)を装備したときに起こる科学反応に、今から期待が止まらない。

 

 

「……だいじょーぶだいじょーぶ。悪いようにはしない。本当さ……っと、じゅるり」

 

 

 おっと、いけないいけない。あんまり興奮しすぎてよだれが出た。

 ふきふき。フフフ。

 

 

「ひっ……」

 

 

 ざわついていたオークション会場が、再び静寂に包まれていた。

 そしてどういうわけか、さっきまで見るのも忌避していた客たちが、ステージ奥へと連れていかれるライカンの少女へと目を向けていて。

 

 

「いや、競り落としたのは俺だからな? 今さら競おうとかはなしだぞ?」

 

 

 今更惜しみだしたかと、ちょっと危機感を感じてそう言えば。

 

 

「「いい夜を!!!!」」

 

 

 これまたどういうわけだか、客たちの息の合った掛け声で見送られてしまうのだった。

 

 




自分がしていることには、中々気づかない。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
今回も楽しんでいただけたでしょうか。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
投稿直後とかにゴソッと増えてくUAを見るとやはり嬉しくなります。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃ嬉しいです。
嬉しいばかり言っている嬉しいBotをよろしくお願いします。


さて次回。
案内された先でセンチョウを待っているものとはいったい!?


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第022話 強制装備魔法《エンチャント》!

なんとかかんとか、22話をお届けです。
ちょっとわくわくでちんちんな奴とか色々あって原稿作業が滞ったりしてますが、その際は遅くても1週間以内には出せるように頑張ってます。
応援パワーで何とか気合入れて乗り切ります。

あ、なんか今見たらUAが1919になってら。うおおおお! やる気出てきたー!

ロリッ娘の名前が判明するこのお話。
今回もよろしくお願いします!!


 

 

「ここだ」

 

「ん」

 

 

 ライカン兄貴の案内を受けて通されたのは、オークション会場を出てすぐのところにある個室のひとつだった。

 

 ここに案内された理由は言わずもがな。

 オークションで競り勝った品……ライカンの垂れ犬耳美少女奴隷を受け取るためである。

 

 華美な装飾で彩られていたオークション会場とは打って変わって、地下らしいじめっとした空気を感じる石壁の部屋の中では、ミッチィと、俺が競り勝った件の垂れ犬耳っ娘が待っていた。

 オークション会場で服ビリされた彼女は、今はシンプルなデザインのワンピースを着せられていた。

 

 

(おお。尻尾が見えてるってことはそのワンピちゃんとライカン用なんだな)

 

 

 いい仕事するな、と視線を送ったら、ミッチィもにやりと口元に笑みを作る。

 

 俺、この人嫌いじゃないよ。やべぇ人なのは間違いないけど。

 

 

「んっふっふ、いらっしゃいませお客様。良いお買い物をなさいましたね」

 

「………」

 

 

 ニッコリ笑顔で心にもない言葉を話すミッチィと、その隣で目のハイライトを消してうなだれている垂れ犬耳っ娘。

 いかにも裏社会での明暗分かれたやり取りっぽさのある場面に、俺も闇に生きる人スイッチを入れて対応する。

 

 

「世辞はいい。とっとと手続きを済ませよう」

 

「望むところにございますよぉ」

 

 

 テーブルを挟んで向かい合って椅子に腰かければ、目の前でさっそくテキパキと書類を仕上げていくミッチィ。

 こんなところでつまらない真似はしないだろうと彼から視線を外し、俺はこれから自分の物になる予定の垂れ犬耳っ娘の方へと目を向けた。

 

 そういえば、名前をまだ知らない。

 

 

「……名前を教えてくれるか?」

 

「!?」

 

 

 急に俺から声をかけられ、垂れ犬耳っ娘がびくりと背筋を震わせ顔を上げる。

 目が合うと、特にこちらが威嚇しているわけでもないのに怯え、戸惑い、胸のところでぎゅっと拳を握って身を震わせる。

 

 質問には、答えてくれなかった。

 

 

「ああ、そうだ。お客様、お金の方は――」

 

「はい」

 

「即金ですかっ? んんんん! 話が早くて助かりますねぇ!」

 

 

 ノールックでミッチィに1万gを取り分けた金袋を渡しつつ、俺は垂れ犬耳っ娘を見つめ続ける。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 改めて上から下まで観察してみるが、可愛い。

 垂れ犬耳はもちろん、尻尾のモフモフも中々のものだ。

 

 こんな可愛い女の子を汚らわしいだのと忌み嫌う、そいつらの感性の方を疑うね、俺は。

 

 

「……ナナでございます」

 

「え?」

 

「………」

 

 

 不意に口を開いた垂れ犬耳っ娘に思わず情けない返事をしたが、再び彼女は口をつぐんだ。

 言葉を思い返してみれば、なるほど名乗ってくれたんだと理解する。

 

 

(ナナ、ナナか……なるほどな)

 

 

 モフモフ獣っ娘ってこういう同じ音を繰り返す名前の子が多いよな。ミミとかククとか。

 それにしても“ございます”とは、教育が行き届いている感じだ。

 

 ここで仕込まれたのか、はたまた元々育ちが良かったのか。

 実験の後にでも聞いてみよう。

 

 

(『奴隷』は装備できるのかどうか。それを確認するための彼女だからな!)

 

 

 ふふふ、今から楽しみだ。

 

 

「ひっ……」

 

「おやおや、今からどう可愛がるかを考えていらっしゃるようで。本当に良いご趣味ですねぇ」

 

「いや、そこまで可愛がるかどうかは考えてないが?」

 

 

 実験結果次第じゃそのままリリースだしな。

 

 

「……!」

 

「……おお、怖い怖い」

 

 

 何やら意味深に頷いて、ミッチィが書き終えた書類を俺へと差し出す。

 サインを書く場所を示されれば、一通り書面に目を通した俺は、迷うことなく筆を走らせた。

 

 

「これで彼女は俺の物か?」

 

「いいえ、あとひと手間ございますよ」

 

 

 そう言ってミッチィはナナに目を向けると、中指でちょいちょいと彼女を手招きする。

 すると事前に合図の内容を説明されていたのか、彼女はミッチィではなく俺の前へと移動した。

 

 手を伸ばせば届く距離にモフモフがやってきて、俺はより近くなった彼女の顔をじっと観察する。

 

 やはりというか変わらず絶望に染まっちゃっててまぁ。

 さすがにちょっと気の毒になってきたな。

 

 

「最後は、彼女の首に取り付けてある『奴隷の首輪』へ《エンチャント》してください。条件はもう整っておりますので」

 

「エンチャント?」

 

 

 何とかこの子を明るくしてやれないものかと考えていたところで、俺は聞き慣れない単語を耳にした。

 いや、プレイしてきたゲーム的に知らないわけじゃないが、このタイミングで? って感じだ。

 

 

「……おや、ご存じないですか? でしたらご説明させていただきましょう」

 

 

 俺が疑問符を浮かべているのに気がついて、ミッチィが親切にも説明してくれる。

 

 

「《エンチャント》は、他者に強制的にアイテムを装備させる魔法なんですよ」

 

「……へぇ!」

 

 

 エンチャント!!

 前世じゃ付与魔法って意味合いでよく使われていたその言葉は、モノワルドでは似て非なる効果を発揮する魔法の言葉として存在していたのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 知らん知識は聞けるときに聞け。

 ということで、俺はミッチィに《エンチャント》についての詳しい説明をお願いした。

 

 

「《エンチャント》は《イクイップ》に類する装備魔法として知られている魔法でして、主に私たちのような契約を取り扱う職責の者や……そうですねぇ、財宝教などの司祭クラス以上の者がよく利用しています」

 

「ふむふむ」

 

「アイテムの中には《エンチャント》で他者に装備“させる”ことで効果を発揮する物……エンチャントアイテムという物があり、アイテムごとに決められた条件を満たすことで《エンチャント》が可能になり、その力を振るうのです」

 

 

 そう言うミッチィが視線を向けるのは、ナナの首に取り付けられたパンクな黒い鉄首輪。

 レアリティHRのアイテム、『奴隷の首輪』だ。

 

 

「たとえば『奴隷の首輪』であれば、装着者と主従関係を結ぶ旨を記した契約書を作成することで、主となる者が《エンチャント》を唱えられるようになります」

 

「なるほど」

 

 

 装備する魔法と装備解除する魔法があるなら、当然、装備させる魔法もあるわけだ。

 一般的に使われる《イクイップ》と、神様チートの《ストリップ》、そして条件整えてから使うのがこの《エンチャント》。

 

 このいかにもバランス調整されてそうな感じ、ゴルドバ爺のデザインセンスを感じるぜ。

 

 

「世間的に有名なのはやはりこの『奴隷の首輪』と、財宝教の神罰代行が使う『咎人の腕輪』になるのでしょうねぇ。おかげで一般的にエンチャントアイテムにはいい印象がなく、あまり話題に上りません。なのでお客様のように知らないまま過ごしていらっしゃる方がいるわけですね」

 

「なるほどなぁ」

 

「まぁー……ここに来るような方でその手の話に疎いというのは中々に珍しいですがねぇ?」

 

「……んんっ!」

 

 

 ポーカーフェイス、オン!

 探られるような視線に仮面装備の力を借りて抵抗する。

 

 っぶねぇ。心を開き過ぎてた。

 必要なことは聞けたと思うし、あれこれ詮索される前にとっとと話を進めてしまおう。

 

 

「……つまり、先ほどの書類を書いたことで条件は達成され、ナナの首に取り付けてある『奴隷の首輪』に《エンチャント》できるようになった、と」

 

「その通りにございます!」

 

 

 待ってましたとばかりにミッチィが手を叩き、席を立つ。

 それからナナの背後へと回れば彼女の背中を押し、俺の手が『奴隷の首輪』に届くところまで距離を詰めさせた。

 

 どうやら話を進めたいのは向こうも同じだったらしい。

 なら、こっちもそれに応えよう。

 

 

「………」

 

(いよいよこの世の終わりみたいな顔をしてるなぁ)

 

 

 覚悟はすれども嫌なものは嫌。助けてください。

 そんな気持ちがとてもよくわかる蒼白い顔のナナに、けれど今は何もしない。

 

 

(何か手を尽くしてやるにしても、それは俺の物にしてからだ)

 

 

 そうでなければ場が収まらないし、何より今は、彼女に対して実験がしたい。

 

 っていうかぶっちゃけ、《エンチャント》してみたい。したくない?

 

 準備はいいかい? 俺はできてる。

 

 

(クックック。これも、俺という存在に出会った不幸だと思って諦めてくれ)

 

 

 はぁー、コラテラルコラテラル。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 一呼吸置いてから、俺はナナの『奴隷の首輪』へ手を向ける。

 そして、一切の躊躇なく、その言葉を口にした。

 

 

 

「《エンチャント》」

 

 

「!? ぁ、ぅぅんっ!」

 

 

 

 瞬間、鉄首輪がぽぉっと薄緑色の光を放ち、熱を出したのか少女の体を震わせる。

 

 それは《イクイップ》をしたときと同じように、すんなりと心で理解できた。

 

 

(彼女に装備させた『奴隷の首輪』が、“コレ”はあなたの物です。と、俺に言っている)

 

 

 得られた実感に、俺がゆっくりとかざした手を引けば。

 

 

「契約完了です。これで彼女は、あなたの物ですよ」

 

 

 そんなミッチィの言葉も加わり、この場の全員がその結末を見届ける。

 

 

「……これよりわたくし、ナナは。センチョウ・クズリュウさまの、あなたさまの奴隷として、生涯を、捧げます」

 

 

 『奴隷の首輪』の力で言わされているのだろう、彼女の誓いの言葉をもって、契約は果たされた。

 

 こうして俺は、前世はもちろん今世でも初の、リアル奴隷を手に入れたのだった。

 

 




ファンタジーにおいて奴隷は本当に色々な役割があると思います。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
世に悪徳のはびこりしこそ、楽しけれ。ただし創作物に限る。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
まず見てもらえただけでも嬉しいので、また読みに来てください!

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
もっともっと精進してクオリティを上げていくぞ。


センチョウに買われてしまったナナちゃんはどうなってしまうのか!
以下次回!


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第023話 いざ実験!

文章の長さとか、あーだこーだと色々と試行錯誤しつつ23話をお届け!

気づけばUAが2000を越えて、お気に入り数も増えてました。
圧倒的感謝!!

より読みやすくできるよう努力しつつ、私の好きな世界の冒険を一緒に楽しんで貰えましたら幸いです。

それでは、今回もよろしくお願いします!


 

 

「あとは好きに壊すなりいたぶるなり慰み者にするなりご自由に。本日はよい取引をありがとうございました」

 

 

 そんなミッチィの言葉を最後に、俺の初めての闇オークション体験は終わりを告げた。

 

 

「………」

 

 

 不夜の町の明かりに影を深める路地裏で、俺は自分の戦利品と二人きり。

 垂れ犬耳でワンピースを着たこの美少女こそが、今日俺が手に入れた、奴隷という名の所有物だ。

 

 

「……ナナ」

 

「っ!」

 

 

 俺がその名を呼ぶと、獣人種(ライカン)の少女がビクリと身を震わせた。

 そしてもう何度だって見た、絶望に染まりハイライトの失せた瞳を俺へと向けてくる。

 

 

(うーむ。可愛い。可愛いが、なぁ)

 

 

 個人的にはこれはこれで嫌いじゃないが、やはりどこかこう、良心が疼く面もある。

 これから行なう実験の結果如何で処遇を変えるつもりでいるが、どう扱うにしても、せめて笑ってもらえるように配慮することにする。

 

 これはそう、実験に協力してもらったお礼ってことで。

 

 

「宿に行く。付いてきてくれ」

 

「……はい」

 

 

 命令を与えると『奴隷の首輪』が効力を発揮して、彼女を無理矢理に操作する。

 効果発動に条件達成を求めるエンチャントアイテムの力だと思えば、納得の威力だ。

 

 こんな調子で今後の人生を過ごさなきゃいけないとなれば、俺なら発狂ものである。

 奴隷になんてなるもんじゃないなと、俺は彼女を見ながら自分の肝に銘じた。

 

 

「っと、そうだ。こいつを着といてくれ」

 

「?」

 

 

 路地を出る前に、俺は彼女の全身をすっぽりと覆うローブを貸し与えた。

 

 獣人狩りなんてのが流行りの今時分、ライカンの少女に街中を堂々と歩かせるわけにもいかない。

 今後もし連れ歩くことになるなら、その辺りの対策はしっかりと取っておく必要があるだろう。

 

 

「……新しいおもちゃだと、晒し者にするのではないのですか?」

 

「んな物騒な真似するか」

 

「ひっ。申し訳、ございません……」

 

「あ、あー」

 

 

 しまった。

 せっかく声をかけてくれたのに、ミリエラにするみたいなストレートを返してしまった。

 

 まだ出会ってすぐの彼女に幼馴染のノリを持ってきてしまった。反省。

 

 

「今はあまり目立つ必要はないだろう。俺のそばを離れるなよ?」

 

「? ……はい」

 

 

 こんなところにいたんじゃおちおち実験もできやしないしな。

 

 そんなわけで、俺はナナを連れ、そそくさと自分の宿へと帰還するのだった。

 

 

「………」

 

 

 ちなみに。

 はぐれないようにと移動中、小柄な彼女の手を握っていたのだが。

 

 

「………」

 

 

 握り返しもしないでされるがままのナナの顔は、何か不思議なものでも見ているかのように、困惑した表情を浮かべていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 拠点にしている高級宿に戻った俺は、ナナを連れて自室に入った。

 

 

「ふぅー、ようやっと気が抜ける」

 

 

 初めての闇オークションは刺激がいっぱいだった。

 数々のレアアイテムに合言葉……ああ、ドバンの奴は明日しばこう。

 

 初めて尽くしの経験に思った以上の疲労を感じていた俺は、ナナが見ているのも気にしないで部屋のベッドにダイブした。

 

 

「ああ~~~~……」

 

 

 羽毛の感触~~~~!!

 やっぱ高級宿よ。旅に出て最初に高い店の味を知ってて本当によかったよかった。

 

 

「あ゛~~……んよし!」

 

 

 このまま寝てもいいんじゃね? と、俺の中の怠惰な心が訴えてくるが、我慢我慢。

 ようやく安全地帯まで戻ってきたんだから、目的を果たすのだ。

 

 即ち!

 

 

(スーパー実験ターイム!!)

 

 

 Q、『奴隷』は装備できますか?

 

 レアアイテムコレクターとしてチェックしておきたい問題を、ここで解決する!

 

 

「さぁて、それじゃあ奴隷のお仕事を果たしてもらうぞ、ナナ――」

 

 

 ベッドから身を起こし、ナナを見た俺の目に入ったのは。

 

 

「……ぁ」

 

 

 半脱ぎになって下着をさらす、どう見ても齢10とちょっとボディの垂れ犬耳っ娘の姿であった。

 

 

「おあー!?」

 

「ひっ!?」

 

「何してんだぁ!?」

 

 

 思わず大声を上げた俺にびくびくおどおどしながらも、半裸のロリ獣耳っ娘が質問に答える。

 

 

「ど、奴隷としての役割を、果たすためにございます……」

 

「えぇ、それって……」

 

「よ、夜伽を……」

 

 

 質問に答えながら、パサッとワンピースを脱ぎ捨てるナナ。

 

 って。

 

 

「答えながら脱ぐんじゃない!!」

 

「ひぅっ、も、申し訳ございません。着衣のままがよろしかったのですね……」

 

「ちっがーーーーう!」

 

 

 ワンピース姿も今の下着姿もどっちも魅力的です! でも違う!

 

 

「申し訳ございません。ベッドに寝転ばれたので、てっきり……」

 

「あー、あーあーあーあー……それは申し訳ない。が、そういう意図はないから安心してくれ」

 

「は、はい……」

 

 

 どうにかお互い落ち着いて、ナナには改めてワンピースを着てもらう。

 

 

(今のも、『奴隷の首輪』による強制力なんだろうか)

 

 

 恐るべし、エンチャントアイテム。

 

 

 

「俺が君を競り落としたのは、ある実験をしてみたかったからだ」

 

「実験、でございますか……」

 

「ああ」

 

 

 いい加減ちゃんと説明しないのもアレかと思い、ナナに告げる。

 

 

「奴隷って存在に対して試してみたいことがあってな。危険はまずないと思うから、協力してくれ」

 

「……我が主の望むがままに」

 

 

 あ、今のは強制された言葉だ。

 その証拠に何されてもいいように待機モードっぽくジッとし始めたし。

 

 っていうか、無抵抗のロリにあれこれするって絵面、背徳感パナイの!

 

 

(――好都合だからそのまま利用させてもらうけどな!)

 

 

 準備は万端。

 あとは実践あるのみ!

 

 

「いざ、行くぞ!」

 

「……!」

 

 

 手を振りかざした俺に、首輪の効果で抵抗できないナナが目を見開いて身を強張らせる。

 

 

(あ、具体的に何をするのかちゃんと言ってなかった)

 

 

 だがしかし! 俺の探求心は、止められねぇんだ!

 

 

「うおおおおお! 《イクイップ》!!」

 

「!?」

 

 

 ………

 

 

「………」

 

「…………?」

 

「……だよなー」

 

 

 Q、『奴隷』は装備できますか?

 

 A、できません。

 

 

「実験、完了……!」

 

 

 結果はやはりというか、呪文を唱えても効果はなかった。

 

 残念だが、奴隷はアイテムではなかったのである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「あーい、おしまーい」

 

 

 俺はベッドに大の字になって背を預ける。

 

 大実験終了のお知らせ。

 っていうか、奴隷が装備できないとか冷静に考えれば当たり前な気がしてきた。

 

 

(1万g支払ってまで実際に確かめる必要があったのか)

 

 

 図書館とか、それこそドバンの爺さんに聞いてみりゃよかっただけなのでは?

 

 あー、なんか考えれば考えるほどドツボだなこりゃ。

 思考放棄思考放棄。

 

 

「あ゛あ゛~~い゛」

 

 

 今はこのふっかふかのベッドに身を預けて、今日の疲労を溶かし出したい。

 

 

「あの……」

 

「あー、そうだったそうだった。協力ありがとうな」

 

 

 声をかけられて、俺は蕩け落ちそうだった意識を無理矢理に引き戻す。

 どうあれ、実験に協力してもらった彼女には、その分だけは報いておきたい。

 

 

「今のが実験、だったのでしょうか? わたくしを装備なさろうとしているように思いましたが……」

 

「そうそう。それが気になったからキミを購入したんだよ」

 

「そんな……ことのため、に。でございますか?」

 

 

 呆れているのか、驚いているのか。

 微睡みかけの耳に聞こえるナナの声は、どことなくさっきまでとは違う風に聞こえた。

 

 ってか、ねむ。

 

 

「……センチョウさま」

 

「あー、悪い。明日にしてくれるか。さすがに眠くて……ああ」

 

 

 寝間着に着替えて《イクイップ》。

 

 っと、そうだ。装備できないならこの子が奴隷である必要もないんだったな。

 

 首輪は外しといてやろっと。

 

 

「《ストリップ》」

 

「え?」

 

「そんじゃ、おやすみ。あとは自由にしていいから、な……」

 

 

 あいあい、それじゃお疲れさん。

 

 

(今日はいっぱい楽しんだ。明日はもーっといっぱい楽しもうな。へけへけ)

 

 

 こうして俺は、大満足のうちにその日を終えたのですやぁ……。

 

 

 ………

 

 

 そして翌朝。

 

 

「ん、んん~~~~~よく寝たぁ!!」

 

 

 さすがの寝間着装備適性Aの力。今日も朝からバリバリ最強No.1だ。

 

 

「……っふぅ。しかし昨日は楽しかったなぁ」

 

 

 闇オークションで見た様々なレアアイテムの数々。

 いずれはあのすべてを手に入れ、俺のコレクションに加えてやると気合も入った。

 

 

「ふっふっふ、この経験を生かして俺は世界を……を?」

 

 

 不意に、ベッドのフカフカを押したはずの手が、むにゅりと柔らかなものを押した。

 

 

「……んぅ。主様ぁ」

 

 

 そこには、全裸のナナがいた。

 

 俺の手は、ナナの可愛いふくらみかけのお山の片方を、しっかりと揉みしだいていた。

 

 

「……は?」

 

 

 Q、事案ですか?

 

 A、異世界なのでセーフ。(希望的観測)

 

 

「ん、んぅ……あ。申し訳ございません、主様。従者が主よりあとに目を覚ますなど……」

 

 

 思考停止している俺に、目を覚ましたナナがゆっくりと身を起こして向き合う。

 

 

「昨夜はよくお眠りでしたね。わたくしの耳を何度も撫でてくださりありがとうございます」

 

「……うん。いや、ちょっと待ってくれ」

 

 

 ちょっと事態が呑み込めない。

 

 俺は改めてナナを見……おっと、肌色のところは見ない肌色のところは見ない。

 

 

「……主様。お話ししたいことがございます」

 

 

 中々確かめたい部分を確かめられないでいる俺に、ナナが改まってベッドの上で向き直る。

 

 見れば彼女はしっかりと正座をし、俺に向かってゆっくりと頭を下げた。

 

 

「わたくしナナは、これよりは巫女として、救世の使徒であるセンチョウ様に生涯の忠誠を誓いたく思います」

 

 

 その様は、それはそれは綺麗な臣下の礼であり。

 

 

「病める時も健やかなる時も、おはようからおやすみまで、あなた様を唯一の主とし、誠心誠意ご奉仕することを誓います」

 

 

 その様は、それはそれは見事な全裸土下座であった。

 

 

「お望みとあればこの身命を捧げることにためらいはなく、無上の喜びとして役目を果たしましょう……」

 

 

 そう言って顔を上げたナナの表情は、昨日あれだけ絶望色に染まっていたのに、今は一切の迷いなくキラキラと瞳を輝かせていて、頬も赤らみ、口元にははにかむ笑みを浮かべていた。

 彼女の犬耳はパタパタとせわしなく動き、尻尾は左右に艶めかしく揺れている。

 

 

「わたくしは、これよりはずっと……主様のおそばに寄り添いたく思います」

 

 

 一言でいえば、ナナは恍惚に染まり切っていた。

 夢見る乙女だとか、そんな言葉では表しきれないくらいなんかこう、すごい顔だった。

 

 

(そ、そう来たか~~~~!!)

 

 

 そこでようやく確認できた彼女の首元には、やはり『奴隷の首輪』はなく。

 

 つまりはこれが、ナナが素の状態でやっているのだという何よりの証拠というわけで。

 

 

「……Oh」

 

 

 拝啓、ゴルドバの爺さん。

 可愛い垂れ犬耳の少女奴隷を開放したら、翌朝ガチ目に生涯の忠誠を誓われました。

 

 そんで、質問なんですが。

 

 救世の使徒って、なんですか?

 

 




よくよくロリが脱ぐ小説ですね。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とかしてもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。
しおり挟んでもらうだけでもなんかやってやった気になるので、よろしくお願いします!


次回、センチョウはどうなってしまうのか!
よろしくお願いします!


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第024話 救世の使徒ってなんですか?

もうちょっとで10万文字に届きそうでワクワクしてます。
24話をお届けです!

テンション上げて駆け抜けましょう!
それでは、今回もよろしくお願いします!


 

 

 前回までの! センチョウ様は!!

 

 楽しい闇オークションを堪能したのも束の間、衝動買いで奴隷の犬耳っ娘を購入!

 冷静に考えて、調べればわかることをわざわざお金を払って確認し、物の見事にお空振り!

 その上眠いと雑に装備を解除したからさぁ大変! 買った奴隷でトラブル発生!

 

 どうしてこの子は一緒のベッドで全裸になって寝ていたのか!

 どうしてこの子はセンチョウ様のことを救世の使徒様などとお呼びなのか!

 

 センチョウ・クズリュウ様の運命やいかに!!

 

 

 

「……と、いう流れでございます。千兆様」

 

「さすがアデっさん! わっかりやすぅい!」

 

 

 でも、俺の失敗したところまで説明する必要なかったけどな!!

 

 

 

 と、言うことで。

 俺は今、『財宝図鑑』の中にある宝物庫にいる。

 

 集めたアイテムが綺麗に整頓され陳列している様は、実に俺好みの光景だ。

 それもこれも、この場所の管理を代行してくれている彼女――天使のアデライードのおかげである。

 

 

「しかし、中々に見事なご判断だと思いますでございます。千兆様」

 

「いや、とっさのことで必死だったから、褒められるようなもんじゃないって」

 

「いえいえ、今回のように大いに混乱なさった時は、迷わずこちらへ意識を飛ばしていただければ、時の流れの違いからゆっくり冷静にお考えを巡らせることもできましょう」

 

「そこまでいつでも冷静に判断できりゃいいんだけどなぁ……」

 

 

 そう。

 俺は獣人種(ライカン)にして昨夜まで奴隷にしていた少女、ナナから……逃げた。

 寝起きの頭に突然の全裸土下座&忠誠の誓いなんていうヘビーブロウを叩き込まれて、何が何だかわからなくなったのだ。

 

 正直、アデっさんのまとめ説明を改めて聞いても、やっぱり意味が分からない。

 これは多分、寝起きの頭が考えられないとかじゃなく、状況が本当に理解不能なんだろう。

 

 買った奴隷を開放して寝たら、翌朝に救世の使徒様と呼ばれて服従を誓われた。

 

 一宿一飯の恩義で語るには、ちょっと重たすぎる気がする。

 

 

「……いい買い物をしたでございますね」

 

「どこが!?」

 

「生涯をかけて千兆様のサポートをすると誓う美少女。それがたったの1万gポッキリで手に入ったのですから、いい買い物では?」

 

「えぇ……」

 

 

 そこだけ引き出せばそんな気がしなくもないが、あまりにも不穏な呼び方と、何より一晩での変わりようは明らかに異常に思えて賛同しづらい。

 

 救世だとかはそれこそ勇者様にでもお任せして欲しい。

 俺はあくまで、アイテムコンプリートを目的としている人生の謳歌者だ。

 

 

「……まぁ、彼女がどう思ってそう口にしたのかは、千兆様ご自身がご確認すればよいことなのではないかと、このアデライード愚考いたしてございます」

 

「そう、だよな」

 

 

 ロリの全裸土下座のインパクトから、ようやく心も落ち着いてきたところだ。

 しっかりナナと向き合って、お互いにいい道を模索しよう。

 

 冷静になって話し合えば、答えは見つかるはずだ。

 

 

「では、きっちりと垂れ犬耳ロリッ娘狂信者ちゃんのスチルを回収していらっしゃいませでございます」

 

「……って、やっぱその手のやべぇ奴なんじゃねぇかうおおおおおお!!」

 

 

 ツッコみ終えるより先に、俺は宝物庫から追い出される。

 

 っていうか、ここの所有者俺なんですけど追い出す権限そっちにあるの!?

 どんだけ好き勝手してくれてんだアデっさーーん!

 さーん! さーん……!

 ……!

 

 

 

「………」

 

 

 意識を取り戻した俺は、改めて目の前の景色に目を向ける。

 

 愛らしい見目の全裸少女が、それはそれは綺麗で完璧な土下座を披露している。

 揺れる尻尾は丸いお尻の上に目線を誘導し、ピクピクと動く垂れ犬耳は俺の呼吸音すらも聞き逃すまいとしていて。

 

 

「あー、ナナ?」

 

「はい。何でございましょう、主様?」

 

 

 とりあえず主様と呼ばれることについてはツッコまないで、願いを告げる。

 

 

「とりあえず、服を着てくれ」

 

「あぅ……お見苦しいものをお見せしてしまい、大変申し訳ございません……」

 

 

 いえ、大変眼福でした!

 同時に、めちゃくちゃに目に毒でした!!

 

 ありがとうございます!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「どうしてわたくしがセンチョウ様を救世の使徒様と呼ぶのか、でございますか?」

 

 

 服を着たことで多少落ち着いてくれたのか、俺の質問はナナに聞き入れられた。

 

 

「それは、センチョウ様が救世の使徒様だからにございます」

 

 

 そして、はにかむような笑顔で返ってきた答えがこれである。

 

 うん! わからん!!

 

 

「そもそも救世の使徒ってのは何なんだ?」

 

「……ああ、確かに。その呼び名はわたくしたちモノワルドの民が勝手にそう呼んでいるだけでございます。ゆえに、ご当人にとってその言葉が聞き馴染みのないのも当然のことでございましたね。巫女として恥ずかしい振る舞いをいたしました。申し訳ございません、主様」

 

「事情に詳しい人特有の理解の仕方」

 

 

 何も知らん人にとっては何を言っているのかちんぷんかんぷんな奴。

 

 

「さっぱどわがんね」

 

「では、改めてご説明させていただきますね。主様」

 

 

 ということで、ナナから教えてもらうことにした。

 

 

 

 救世の使徒とは、いわゆる前世世界の聖書に出てくるような、えらい天使様的存在らしい。

 モノワルドにおける最大宗教である財宝教の聖典の複数の節に、この救世の使徒の物語があるのだそうな。

 

 その活躍の内容は、ヒト種同士で致命的な争いが起きそうな、あるいは起きたときに財宝神から遣わされ、その解決に尽力するというもの。

 聖典の中でも人気のエピソードで、絵本にもなっているらしい。

 

 

「わたくしは幼い頃からその絵本が大好きで、よく母にせがんで読んでもらっておりました」

 

「へぇ」

 

「中でも物語の中で救世の使徒様にお仕えする巫女がおり、その献身と勤勉な振る舞いには見習うべきところが多いと……」

 

「ふむふむ。んじゃその丁寧口調は巫女さんリスペクトなわけだな」

 

「はい。いつか救世の使徒様とお会いした際に、立派な巫女としておそばに侍るためにと」

 

 

 孤児院の授業は実利中心で、こっちの方の教育はほぼほぼなかったから、ナナの語る話は新鮮だった。

 

 製紙技術もばっちりなモノワルドでは、本は比較的安く手に入る物で馴染み深いが、実のところ俺はそんなに本は読んでこなかった。

 救世の使徒の絵本も孤児院の書庫をちゃんと探せばあったのかもしれないが、本を読み漁れる年になった頃にはもうミリエラ対策に必死で、それどころじゃなかった。

 

 それでも思い返せばあの書庫、魔法の練習とかそういう本ばっかだった気がする。

 

 

「で、そんなとんでもないことをするすごい人が、どうして俺なんだ? 言っておくが、俺は天使じゃなくてただの只人種(ヒューマ)だぞ?」

 

 

 天使ってのは仕える神にツッコみナックル入れたり、宝物庫の中でフリーダムに振る舞うような人たちのことを言うんだぞ。俺とは違う。

 

 

「はい、それはもう……昨晩しっかりと確認させていただきました」

 

 

 ……うん。いい笑顔!

 

 

「そっかー。手段と何を確認したのかについては聞かないでおくなー」

 

「主様は世に無用な混乱をもたらさないようヒト種の、それもあらゆる種と交わり未来の調和の子をなすためにヒューマの姿をとっておられるのだと、しっかりと理解しております」

 

「そっかー。ナナが想像力たくましいってことだけはよくわかるぞー」

 

「ですので、もしも主様がお望みとあれば……諸々に至らぬ身にはございますが、主様のお子を宿すための覚悟は、すでにできてございます」

 

「そっかー。それはとっても魅力的……って、いやいや待て待て」

 

「ご安心を、主様。わたくしの不勉強は、どうぞこれよりあなた様がわたくしを染められる余白だと思っていただけましたら幸いです」

 

 

 気がつくと、俺はナナに言い寄られてベッドの上で押さえ込まれそうになっていた。

 




怖いものを怖くなくして楽しむのも今のトレンドですよね。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
いつの日かこの作品でも調整平均が赤く染まるように頑張ります。

あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とか紹介とかしてもらえるとさらにめちゃくちゃ嬉しいです。
野望はでっかく、より多くの人に楽しんで貰うため、です!

次のお話も、ぜひぜひよろしくお願いします!


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第025話 ああ、主様!

よーそろー! 25話をお届けします!

お気に入り数30突破、ありがとうございます!
気に入ってもらえた人が増えるのが実数としてわかると嬉しいですね。
これからもちょっとエッチでチャラけてる冒険譚を、一緒に楽しみましょう!

それでは今回も、よろしくお願いします。


 

 

「主様の望まれるように、わたくしをお楽しみください」

 

 

 ベッドの上。

 俺に覆いかぶさるナナが、その幼い顔に妖艶な笑みを浮かべて俺を見ている。

 

 わかりやすく言うと、俺、押し倒されそうになってる。

 

 

「は?」

 

 

 いや、今のどのタイミングで俺がここまで追い込まれる時間があった?

 気取られないでゆっくりと追い立てられていた?

 

 ナナはいつから、俺を潤んだ瞳で見ていた?

 

 

「無論、わたくしのつたない手であっても先導をお望みということでしたら、非才の身の全霊をもって、主様にご奉仕させていただくつもりにございます」

 

「いや、待て待て。話せばわかる」

 

「はい。たっぷりと時間をかけてお話しいたしましょう。主様」

 

 

 俺の上着の隙間にナナの小さな手が潜り込み、素肌を撫で上げる。

 吐息が届くほどの距離まで密着されて、押し返そうにも純粋にパワー負けしてしまう。

 

 これが、ライカンの種族特性か!?

 

 

「たくましいお体です、主様。道具に頼らず、自らを鍛え上げてこられたのですね?」

 

 

 お腹周りをさすさすされて、俺の体が無意識に震える。

 このまま何も考えず、垂れ犬耳っ娘のご奉仕を存分に体験していいんじゃないかと、流されそうになる。

 

 

「さぁ、お望みのまま、わたくしをお求めください……」

 

「くっ……」

 

 

 脳が警鐘を鳴らす。

 

 これは、あの時と同じだと。

 あの時と違って色香に薄いが、代わりに絶対的な力の差でごり押しされる状況だった。

 

 だから。

 

 

「……フッ!」

 

「むぐ」

 

 

 俺は先手を打ってナナの唇を手で塞いでから。

 

 

「《イクイップ》!!」

 

 

 『財宝図鑑』から『魅了耐性向上の指輪』を装備した。

 

 

(頭が冷える。これなら……!)

 

 

 流されそうになった意識を奮い立たせて、再び俺は声を張る。

 

 

「《イクイップ》!!」

 

 

 寝間着から外行きの、戦闘可能な装備一式に衣装チェンジ!

 それらの装備補正をフルで活用し、力関係を逆転させる!

 

 

「こらっ!」

 

「ふぎゅっ」

 

 

 装備した勢いそのままに、今度はこっちがナナをベッドに押さえつけ、動きを封じる。

 ワンピースのロリ少女にマウントをとるって絵面は非常にまずいが、今はそんなことを言っている場合じゃない。

 

 って。

 

 

「ふぅー……! ふぅー……!」

 

 

 なんかこっちを見るナナの目が、さっき以上にトロトロになってないか?

 

 

「……ぷぁっ、はぁ、はぁ、はぁー」

 

 

 思わず手を口から離してしまえば、荒く息を吐きつつも、彼女は一切の抵抗を示さない。

 どころか俺に、何かを期待しているかのような目を向けていて。

 

 そんなナナがとったのは、よくある犬が格上に取る……服従のポーズ。

 

 

「あ、あるじさまぁ……もっと、もっとわたくしを、屈服……させてくださいませ……」

 

「………」

 

 

 アウトーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 

(あー、ダメダメそれはエッチすぎる卑怯ズルい美少女がそういうこと言ってはいけない)

 

 

 瞬間最大風速のクリティカルヒットが、俺の『魅了耐性向上の指輪』(てっぺきのまもり)を貫通した。

 正直見た目に関しては俺の好みだしその補正あったから奴隷として買う判断になったことは否めない。だからこういう展開を期待していなかったかと言えばしていた方に分類されるのは間違いないことで明らかにこの状況は据え膳なんだから食べても――。

 

 

(待て。待て待て待て待て!!)

 

 

 いかに据え膳といえど、この状況下で手を出すのはご法度だと、ミリエラを乗り越えた俺のバッドエンドセンサーが訴えている。

 

 

(何より、この状況に流されてしまったら、なし崩しに救世の使徒って奴になってしまう!)

 

 

 それは、絶対に許容できない!!

 

 

(俺は、俺の道を阻む誰からの勝手も、押しつけられるつもりはない!!)

 

 

 叫べ俺。すべての理性を振り絞り、拒絶しろ!!

 

 

(……そうだ! そもそもこの子はどう見てもまだみせ――)

 

 

 その時。

 

 

「あるじさま」

 

 

 ナナが、真っ直ぐに俺を見つめて、微笑んでいた。

 

 

「わたくし、これでも故郷のしゅうらくで、すでに“せいじん”のぎしきは済ませております」

 

 

 そして、まるですべてを見透かしているかのように笑顔をはにかみに変え、告げた。

 

 

「つまりは、“ごーほー”……に、ございます」

 

 

 ………

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 カァー……、カァー……。

 

 

「……遠くで、カーカが鳴いている」

 

 

 夕暮れが似合う町、ガイザン。

 高級宿の角部屋で、俺は心地よい疲労感と共に、ベッドに横になっていた。

 

 

「すぅー……、すぅー……」

 

 

 隣には、愛らしい寝顔を晒すライカンの少女、ナナがいる。

 

 

「むにゃ……あるじさまぁ……」

 

 

 シーツにしわを作る彼女の握りこぶしは、それだけ強く相手を求めている気持ちの表れだろうか。

 

 

「……どこまでも、ごいっしょに……」

 

「………」

 

 

 可愛らしくも切実な、儚げな印象すら与える寝言を聞きながら、俺は――。

 

 

 

 

(……手、出しちまったぁぁぁぁーーーーーーー!!!)

 

 

 

 

 両手で顔を覆い隠し、全力で後悔していた!

 

 

(やべーよどうすんだよこの子に手を出したら救世の使徒ルートのフラグ立つっつったろうがもふもふ最高マジでヤバイマジでヤバイ明らか高難易度ルート選択した気がするぷにぷにボディ気持ちよかったうおおおおおまだ挽回できるかあれ間違いなく初めて何とかここから軌道修正いっそこの子をどこか遠くにその最高の抱き枕を捨てるなんてもったいないわああああどうしたらいいんだあああ!!)

 

 

 取り返しのつかないフラグを、思いっきり踏んでしまった。

 

 これで俺は、彼女からよく知りもしない神話の登場人物と同一視されることになる。

 否、もうされていたかもしれないが“その上で”関係を持ってしまった。

 

 

(これで嘘でしたと口にしたら、どういう形であれ俺がナナを騙して関係を持ったことになる。天使さんお墨付きの狂信者がそれを知ったらどうなるかなんて、火を見るより明らかだろ)

 

 

 今でこそ最高に幸せそうな寝顔ですやすやしているこの垂れ犬耳ロリっ娘が、その顔を憎悪に染めて俺を睨みつけるところを想像して背筋が凍る。

 あるいは絶望の淵に落ち果てて、俺の見ている前で自害なんてされてみろ、一生モノのトラウマになるぞ!

 

 

(うぐぅ、俺のバカ野郎ー! 何が奴隷を装備できるか検証する、だ。合体してんじゃねぇ!)

 

 

 どうして、どうしてこうなったーーーー!?!?

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 しばらく考えても、自業自得以外の言葉は出なかった。

 何をどう考えたところで、手を出した以上それはもう後の祭りである。

 

 

 そんな俺に残されている道なんて、ひとつしかなかった。

 

 

(……腹をくくれ、九頭龍千兆。お前の第二の人生に後悔する道なんてのはないだろう?)

 

 

 ゆっくりと体を起こし、隣で眠るナナの頭をよしよしと撫でまわす。

 ふわっとした感触が心地よくて、何より撫でられているナナが嬉しそうだったから、そのまましばらく撫で続けた。

 

 

「……やるか」

 

 

 第二の人生、ポジティブに行こう。

 

 ならばこれは逆に、チャンスだと捉える。 

 

 

「この子の前でだけは、俺は救世の使徒だ」

 

 

 まぁマジで世界救えとか言われたらケツまくって逃げるが、そうはならないだろう。

 聞いてる限りこの子はきっと、救世の使徒に仕える巫女ごっこがしたいだけなのだから。

 

 いっそその立場を上手に利用すれば、レアアイテム入手に繋がるかもしれない。

 

 

(……いいじゃん。上等、やってやらぁ!)

 

 

 騙したからには、上手に騙し続けてやるさ!

 

 

「んむぅ」

 

「おっと」

 

 

 気合を入れてたら撫でる手に力が入りすぎてたな。調整調整。

 

 

「ん、ふふ……おやさしい、れふ……」

 

「まったく、幸せそうな寝言だなぁ」

 

 

 そうさ、俺はレアアイテムの蒐集家にして(ゴルドバ)チートをもらった男、センチョウ・クズリュウ。

 

 

「……まずは、変に目立たない言い訳を考えないとな」

 

 

 ナナが目覚めるまでに、俺は俺なりの救世の使徒の設定をでっちあげる。

 この選択が俺のバッドエンドへ繋がっているかもしれないという可能性から、全力で目をそらしながら。

 

 

 

 そう、今はただ、全力で祈るだけだ。

 

 

「んぅ……ああ、わたくしの……主様……むにゃむにゃ」

 

 

 彼女が俺にもたらされた、滅びの町からのプレゼントではありませんように、と。

 

 

 

 こうして俺の旅路に、道具ではなく、新たな仲間が加わった。

 

 俺を救世の使徒と信じて疑わないライカンの少女、ナナ。

 

 彼女が俺にもたらす影響は、未知数だった。

 

 




どうしたって勝てないことは、ある。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
誤字とかあったらこっそり教えてください。


新たな仲間と共に、次なる展開へ。
次回もよろしくお願いします!


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第026話 ライカンの少女ナナ!

毎度の調子で26話をお届けします。

じわりじわりと進めて、今回でついに10万文字を突破しました!
これからもじわりじわりと進み続けてもっとたくさんの話を紡ぎたいと思います。

そんなわけで、今回もよろしくお願いします。


 

 新しい朝が来た。

 具体的に言うと、闇オークションの日から3日後の朝が来た。

 

 今日も俺はガイザンの高級宿のふかふかのベッドの上で目を覚まし。

 

 

「おはようございます、主様」

 

 

 隣で添い寝している可愛い垂れ犬耳ロリ美少女に、朝の挨拶をされる。

 

 

「おはよう、ナナ」

 

 

 垂れ犬耳っ娘ことナナは寝間着を肌蹴させ、お腹はもちろんその上の柔らかなふたつのお山も半分くらい見せている。

 彼女の装備適性的に《イクイップ》してればこんな風にはならないんだが、不思議だね。

 

 

「昨晩もとてもよくお眠りでしたね」

 

「ああ、なにしろ寝間着適性Aだからな」

 

「さすがは主様でございます」

 

 

 さっきから主様主様と俺を呼び慕うこの子。

 添い寝はするはセクシー衣装は披露するわめちゃくちゃヨイショしてくれるわでなんなんだって思うだろうが、実はその正体については俺にもまだよくわかっていない。可愛くてもふもふでぷにぷにで最高であること以外はよくわかっていない。

 

 彼女は闇オークションで奴隷として購入し、その日のうちに開放して寝たら、翌朝には俺のことを救世の使徒だなんだとか言い出して、いきなり生涯の忠誠を誓ってきたなかなかドリーミングでアグレッシブな少女だ。

 

 その時に全裸土下座からのワンワンの服従ポーズのコンボを決めてくるような子だから、もしかすると朝セクシーな格好でベッドに潜り込んでくるくらいは普通のことなのかもしれない。

 

 

「こちらも、朝からとてもご立派でございます」

 

「ドント・タッチ・ミー」

 

 

 ちょっと押しが強いところとか、誰かさんによく似ているぜ!

 

 

「そうでございますか……主様がお望みとあれば、わたくしはいつでもお応えしますので」

 

 

 どことなく余裕ある立ち回り。

 挑発的ともとれるこの態度は、彼女の天然の策略だということを俺は知っている。

 

 ナナは結構な誘い受けなのだ。

 そして俺に対して全部受け止めたい系のM。

 

 

「本当に、はぁ、はぁ、いつでもお応えしますので、はぁはぁ、ぜひに!」

 

 

 ほらご覧。あれがこの子の本性だよ。

 大した雌犬っぷりだね!

 

 

「よしよし、いい子いい子」

 

「あわわわ、主様。そんななでなでされたらわたくし、幸せに……」

 

「よーしよしよし」

 

「わぁぅんっ」

 

 

 とりあえずなでなでしてごまかしながら、俺は改めてナナについてわからないなりに考えを巡らせる。

 

 伝説に憧れるあまり俺を救世の使徒だと勘違いし、その支えとなる巫女になると頑張る少女ナナ。

 昨日一昨日と彼女の様子を確かめてみたが、彼女自身にガチの巫女らしい要素はなかった。

 

 

(言葉遣いとか立ち振る舞いとか、そういう常識的な範囲じゃ相当それっぽいけどな)

 

 

 だからナナのやろうとしていることはきっと、巫女という役割を演じたいってことだと俺は解釈している。

 ならばそんな彼女に見初められ、関係を持ってしまった俺は、彼女にとっての救世の使徒を演じなければならない。

 

 

(何をもって見初められたのか、そこだけがさっっぱりわっかんねぇから不安はあるが、でも)

 

 

 ありがたいことに実際の救世の使徒ってのは、神に遣わされた何某かであるらしい。

 この世界の神様であるゴルドバ爺に異世界から転生させてもらった俺も、似たようなものだと思えなくもないくもない程度には思えなくもない。

 

 

(だから俺は、俺なりの考えで、救世の使徒ってのを演じればいい)

 

 

 土台はある。そこから役を作ってロールプレイ。

 なんてことはない。他の配信者と一緒に遊びまくったTRPGのそれと要領は同じだ。

 

 それをさっそく、披露してみせよう。

 

 

「……ところで、ナナ」

 

「はい。なんでございましょう、主様」

 

 

 俺は俺なりに想像する救世の使徒らしく、威厳たっぷりに問いかける。

 そんな俺に嬉々として尻尾を振り、愛らしい笑顔で言葉を待つ態勢をとるナナ。

 

 そう、彼女の救世の使徒様であるところの俺には、問わねばならないことがあった。

 

 

「ナナ。昨晩俺は宿の部屋を変えたんだが、どんな部屋を選んだっけ?」

 

「わたくしと主様でそれぞれ眠れるよう、ベッドがふたつある部屋にございます」

 

「俺がナナを寝かせたのは?」

 

「……主様の隣のベッドにございます」

 

「もうひとつ質問、いいか?」

 

「なんなりと」

 

「……お前用のベッド、どこに行った?」

 

「……あなた様のように勘の鋭い主様をいただけて、ナナは幸福にございます」

 

 

 俺はゆっくりと部屋の隅を見た。

 

 そこには昨夜までベッドだったものが辺り一面に散らばっていた。

 

 

「ナーナー……!!」

 

「あああああお許しください! お許しください主様ぁぁぁぁ!!」

 

 

 俺は全力でナナの垂れ犬耳をモフモフする。

 どうやらここが弱いらしく、お仕置きするときはここを責めればいいと昨日ナナが自己申告してくれた。

 

 

「誰があのベッド弁償すると思ってるんじゃあーー!!」

 

「ひぃぃぃ、お許しください! お許しください主様ぁぁぁぁーー!!」

 

 

 お望みどおりに耳裏ホジホジしたりくすぐったりしてやれば、ナナは途端にビクンビクンとし始める。

 激しく身悶えしている姿は、くすぐったそうにしている以上になんか、こう、エッチ。

 

 

「あんなもの! あんな物があるからわたくしは主様に添い寝ご奉仕ができなくなるのです!!」

 

 

 そうだね。ヤンデレな従者に死ぬほど愛されて眠れなかったからね!

 

 

「だからってぶっ壊す必要はないだろうが!!」

 

「ああー主様! そんな乱暴な耳モフモフはご勘弁を、耳モフモフはあああああああひぃーーーー!!」

 

 

 ナナがお仕置きなのに悦んでる気がしなくもないが、お仕置きである。 

 っていうかベッドすら敵対視するとか、どんだけ俺のそばにいたがるんだこの子は。

 

 

「……狂信者、か」

 

 

 彼女のことを、俺に縁のある天使(アデライード)はそう評した。

 事実、彼女の信心はさっそく暴走しまくり、ご覧の有り様である。

 

 

(今更この子を放流しても、ぜってぇ俺の得にならないよなぁ……)

 

 

 なんか放流した先で新興宗教とか立ち上げそう。

 

 

「あ、あああ、主様、あ、あひ、あ、ひぇ……」

 

「あ」

 

 

 やっべ、やり過ぎた。

 

 

「はぁー、はぁー、はぁー。こ、こんなに可愛がられてしまっては、ナナは、ナナは、もう!」

 

「ステイ! ステイ! ナナ!」

 

 

 目をハートにして今にも飛び掛かろうとしているナナを何とかなだめすかす。

 

 

「わぅぅぅん……主様ぁ」

 

「ダメダメ、今日は出かけるって言っただろ。お預け」

 

「………」

 

「無言で鼻先近づけてくんくんすりすりするんじゃない。ステイ」

 

「………」

 

「ジッと見ても効果はないぞ?」

 

 

 何しろ俺の指にはすでに、『魅了耐性向上の指輪』が装備されているのだから。 

 先日とった不覚など、あれは例外中の例外のようなもの。

 

 

「うー……」

 

「残念だったな? さぁ、お出かけの用意をしよう」

 

 

 そんなホイホイ防御貫通なんてされようものなら、ミリエラと再会した日にゃどうなるか――。

 

 

「…………くぅん」

 

 

 肌蹴寝間着服従のポーズ、M字開脚バージョン。

 

 ちゃんと《イクイップ》しないからこそ、生まれる色気も、ある。

 

 

「……だからそのポーズは卑怯だってくぁwせdrftgyふじこlp!!」

 

「わぅーん! あるじさまぁ~~!!」

 

 

 俺とナナが宿を出発したのは、日もすっかり昇りきった頃だった。

 

 

(もはやHR(ハイレア)装備程度では、もたん時が来てしまったというのか……)

 

 

 俺はミリエラと再会するその時までに、より強力な魅了対策装備を探すことを決意するのだった。

 

 

 

 ちなみに。

 ナナが壊したベッドの弁償代は1500(ゴル)20(シール)

 

 1s≒1円。1g≒100円。

 

 俺は泣いた。

 

 




高品質なブランドベッド(HR)
快眠アイテム製作ブランド「スウィート・ソアー」製のベッド。
ウェスタン大陸では広い知名度を誇るブランド品で、性能も安定している。
数も出回っており、各高級宿屋で人気の一品。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しく読んでもらえたら最高です。

お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。
あと、この手のお話が好きな人のところに届くように拡散とかしてもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。
あなたの応援がこの作品を育ててくれます。


次回、お出かけする先は……?
ご期待ください。


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第027話 いこうよ、冒険者の宿!

気軽にサクッと読める量を考えながら、27話をお届けします!
UA2500突破しました! いつも読んでくださってありがとうございます!
模索しつつ、書き溜めの量と争いながら、書き綴っています。

それでは今回も、よろしくお願いします!


 

 

 冒険者。

 その名を聞いて、どんな姿を思い描くだろうか。

 

 王国を襲う邪竜から姫を守り、その功績をもって姫と結ばれ次代の王になる。

 

 古代の遺跡に挑み、迫りくる罠やモンスターを掻い潜り、想像を絶するお宝と出会う。

 

 あるいは町の何でも屋として平和に過ごしながら、小さな英雄として感謝される日々を送ったり、ギルドでランクを上げ、その実力に見合った刺激的な日々を重ねたりする。

 

 大なり小なり、そうした冒険を重ねて身を立てる者たちをイメージするんじゃないかと思う。

 

 じゃあ、モノワルドにおいてはどうだろうか。

 答えは、この両開きのウェスタンな扉の向こうにある。

 

 

「そのフード付きマントは、ちゃんと《イクイップ》してるな?」

 

「はい。従者として、言いつけはしかと守っております。主様」

 

 

 俺の言葉に、隣に立っていたナナが見せつけるようにくるりと一回転してみせる。

 ライカンである彼女の垂れ犬耳ともふもふしっぽを隠すために与えた『フード付きマント』は、俺の目から見てもその役割をしっかりと果たしてくれていた。

 

 

「よしよし、問題なさそうだ。ナナは立派な従者だな」

 

「わぅん。光栄です。主様。表で主様が救世の使徒と名乗られない以上、わたくしもそれに倣うだけでございます」

 

「うむうむ」

 

 

 従者。そう、従者である。

 ナナには俺の巫女ではなく、従者を名乗ってもらうことにした。

 

 ナナ的には救世の使徒と巫女御一行であると公言してはばからないつもりだったらしいが、それはさすがにリスクが高い。

 

 

(救世の使徒と巫女って、聖典に載ってる登場人物だろ? さすがに目を付けられちまうよな)

 

 

 良い意味でも悪い意味でも、その名で目立つにはまだ早い。

 だから俺は、ナナに“今はまだその時ではない”と言い含め、納得してもらったのだ。

 

 

「ふふ。今はまだ、世を忍ぶ仮の姿……ふふふふ」

 

「……ふぅ」

 

 

 結果として、ナナをさらに騙す形にはなったが致し方ない。

 そもそも俺が救世の使徒だってのが彼女に話を合わせた嘘っぱちなんだから、ナナを連れ歩く限り、これからも嘘をつき続ける必要があるだろう。

 

 それが手を出してしまった俺の、責任なんだから。

 言い訳、考えとこ。

 

 

「よーしよし。ならあとは、とっとと店に入って依頼を受けるだけだな」

 

 

 話を戻して、ウェスタンな扉の前。

 

 俺がここに来た目的は、お金集めの一環。

 とある“めちゃくちゃ報酬が美味い依頼”を受けるためである。

 

 

「それじゃ行こうか」

 

「はい、主様」

 

 

 準備は万端。

 扉を押して、俺たちはいざ、店の中へと入っていく。

 

 モノワルドの冒険者たちが集う宿付き酒場。

 

 通称、“冒険者の宿”へ!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「あ? なんだぁ?」

 

「若い二人組、ねぇ?」

 

「へっ。ガキが来るところじゃねぇぞ」

 

 

 店の中に入った俺たちを出迎えたのは、なんともガラの悪い連中の値踏みする声だった。

 見渡せば昼間っから酒をかっくらい、こうして店に来た客にとりあえずガン飛ばしてくるようないかにもなゴロツキたちが、そこかしこでくだを巻いていた。

 

 

(いかにも、冒険者の宿って感じだな)

 

 

 冒険者の宿は数回利用したが、この剣呑な雰囲気は、どこの宿も変わらないだろう。

 特にガイザンは治安がいい町ではないし、その雰囲気はより色濃く出ている気がする。

 

 あ、今ここでソードワー〇ドとか〇&Dとか思い出した人!

 そうそうそれそれ、正解!

 

 知らない人はググるかTRPGプレイ動画を見ようね! 再生数を稼ぐのだ。

 

 

「こっちだぞー、ナナ」

 

「あ、はい。主様」

 

 

 連中からの視線や言葉はとりあえずスルーして、店の奥へと向かって歩き出す。

 そもそも彼らと絡んだところで、俺に何の得もないしな。

 

 

(……こういうガラの悪い連中がたまり場にしているのが、モノワルドの冒険者の宿)

 

 

 この世界における冒険者とは、つまり彼らのようなゴロツキを指す言葉なのだ。

 

 様々な理由で職にあぶれたけど盗賊やらに身を落とさないで粘ってる奴とか、一攫千金やら大出世やらのやたら大きい夢を騙っては、好き勝手やってる無法者。

 強いてそこらの町のゴロツキと違う部分を挙げるなら、一丁前に得意な装備を携えて、そいつらを懲らしめる側にいるってところくらいしかない、紙一重で社会に居場所が用意されている連中。

 

 そんな社会のはみ出し者たちこそが、愛しき俺の“ご同業”である。

 

 

「ガキはのんびり、おウチで過ごしてな」

 

「いや、こんなところに来るんだ。家なんてないんだろ」

 

「違いないねぇ!」

 

「「はっはっはっはっ!!」」

 

 

 おーおーおーおー。

 さすがに昼間から酒を飲んでべろんべろんになる連中は違うぜ。

 

 こっちが体格的に劣っていると見るやこの態度。

 普段の素行もおおかた想像できるってもんだ。

 

 だが、こちとら初心者のナナがいるんだ。

 もうちょっとこう、手心ってものが欲しいところなんだけどな。

 

 

(ま、この手の手合いは相手するだけムダだから、とっとと用事を済ませよう)

 

「ふふふんふーん、あるじさま~♪」

 

 

 幸いナナの方はあいつらをガン無視してるっていうか俺しか見てないっていうかだし。

 

 

「あ・る・じ・さ・ま~♪」

 

 

 ……いや、ナナさんちょっと見すぎでない?

 お目目きらっきらですね。

 

 

「ほらほら、こっちきて酒注げよ。先輩がここでの作法を教えてやるぜぇ?」

 

「あん? 今度は無視ですかぁ? お上品でちゅねー?」

 

「おら、駆けつけ一杯付き合えよ、ガキ!」

 

「うおっ」

 

 

 とっとと用事を済まそうと足早に店の奥を目指したのがいけなかったか、俺は通りがかった席から急に立ち上がった冒険者に、不意打ち気味に肩を掴まれた。

 

 

(おっとぉ、これはあれだな。お約束イベント、新人歓迎会だな?)

 

 

 ちょっとした衝突を経て友情を育み、いずれは競い合う友として互いに成長し合う。

 

 これは、そんなサクセスストーリーに繋がる第一歩。

 

 

「その汚らわしい腕をお離しください、無礼なお方」

 

(ナナぁーーーー!?!?)

 

 

 そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。

 

 気がついた時にはもう、俺の肩を掴んだ冒険者の腕を、ナナが凄い力で掴み返していた。

 

 

 




フード付きマント(R)
これを装備していると、それとなく身分や種族を隠蔽できる。
鑑定されれば一発でアウトだし、目がいい人、察しがいい人には気づかれる可能性がある。
数が出回っているため、浮気現場や殺人事件の現場なんかでよく発見される。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。


次回、ダンディ。


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第028話 とびだせ、冒険者の宿!

ハローヤーヤー皆の衆、28話をお届けです。

夢語りの荒くれ者も、階級社会の成り上がり者も、昼間からのんべんだらりの昼行燈も、冒険者ってやつらが好きです。
どこからどう見たってスーパーマンじゃない彼らが、だからと言ってダメじゃない姿を見せてくれる場面とか、そういうのも書けたらなぁとぼんやり考えたりしつつ。

それでは今回も、よろしくお願いします。


 

 

「あ? で、いででででで!!」

 

「離せ、とわたくしは申し上げました」

 

 

 ナナが、俺の肩を掴んだ冒険者の腕を速攻で掴み返していた。

 その次の瞬間にはもう、ライカンパワー全開の彼女の手によって、冒険者の腕は強制的に引っぺがされ締め上げられていた。

 

 見事に捻りまで加えられており、このまま力を入れればあっさりと骨が折れてしまいそうだ。

 

 

「あばばばばばばばば!!」

 

「ヨシ君! てめぇ、何しやがる!」

 

「ヨシ君の腕が使い物にならなくなったらどうするんだ!」

 

 

 抗議の声を上げる取り巻きたちに、しかし、ナナは毅然とした態度で言い返す。

 

 

「主様への無礼の代償、破壊をもって償っていただきたく思います」

 

 

 嘘でしょこの子、目がマジですわ!?

 絶対に報いを与えてやるという強い意志……漆黒の意思すら見える!

 

 

「はぁ!?」

 

「何言ってんだ!?」

 

「そいつがいったい何だってあいだだだだだだだ!!!」

 

「すぐに終わらせますね、主様っ」

 

 

 なおも騒ぎ立てる冒険者たちには目もくれず、ナナは素敵な笑顔で俺に宣言すると、さらに掴む手に力を入れて冒険者の腕を――って、待て待て!

 

 

「おぎゃああああ、おがあちゃーーん!!」

 

「やべぇ! ヨシくーーーーん!!」

 

「ナナ! ステ――」

 

 

 ダメだ、間に合わな――。

 

 

 

「……そこまでにしな」

 

「「!?」」

 

 

 

 不意に店に響くダンディなバリトンボイスに、この場の誰もが動きを止めた。

 

 声のした方を見れば、そこにはバーカウンターの向こうでグラスを磨く、ちょび髭のナイスミドルの姿があった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 ナイスミドルがおもむろに指を鳴らすと、酒場の隅にあるジュークボックスからムーディーなBGMが流れ始めた。

 

 

「ダル、ピッケ、ヨシヒサ……には聞こえねぇか。俺の前では新人のガキだろうが等しく客だ。暇なんだったらそこの討伐依頼のひとつでも受けて、ちゃっちゃと片付けてこい」

 

「うっ……」

 

 

 まさしく鶴の一声ならぬダンディの一声。

 怒りに任せて今にも殴りだしそうだった連中が、その一声でとたんに大人しくなる。

 

 

「ほら。ナナもとっとと手を離せ」

 

「よろしいのですか? 主様がお望みとあれば、わたくしがいくらでも天罰を代行いたしますよ?」

 

「せんでいい、せんでいい。そもそも頼んでないだろう」

 

「そ、そうでございましたか。わぅ……申し訳ございません」

 

 

 うんうん、素直でよろしい。

 でも天罰とかナチュラル狂信者ムーブは要注意だぞぅ。

 

 それはきっと、ナナ自身が望む巫女像からは、ズレている。

 

 

「わっとあーゆーろーる?」

 

「あ、従者、従者でございます!」

 

「よーしよし」

 

 

 場が静まっている内に、俺もナナの両脇を抱えて、気絶したヨシ君の腕から引っぺがす。

 しょんぼりしながら持ち上げられる彼女の姿は、見た目だけは愛らしい生き物だった。

 

 

「主様にはとんだご迷惑をおかけいたしました、これでは、従者として失格でございますね」

 

「大丈夫だ。これから少しずつ学んでいけばいい。理想の振る舞いってのをな」

 

 

 持論だが。

 狂信ってのはつまり、理性に対して感情が強すぎる状態を指すんじゃないかと思う。

 ナナがこれからもっと色々な知識を学んで、自分の中にある強い感情との向き合い方を知れば、いつかはそのバランスも取れるようになるんじゃなかろうか。

 

 それを教え導くのも、ご主人様で救世の使徒に選ばれた、この俺の役割なんだろう。

 たとえそれが嘘っぱちでも、だったら本物以上に本物らしくやるくらいでちょうどいい。

 

 嘘から出た真って言葉だって……いや待て。

 

 

(なんだかそう考えると、ガチで救世の使徒様ルート入っちゃった気がしてくるな?)

 

 

 まだ世間様に名乗ったりはしてないし、入ってないよな? 救世の使徒様ルート。

 

 

 

「ずいぶんと、やんちゃな従者を連れてるじゃねぇか……白布」

 

「!?」

 

 

 うおっ。いきなりのダンディバリトン。

 

 ってか、あれ?

 

 

「あんた、俺のことを?」

 

「ドバンの爺さんとは顔見知りだ。お前もそこらの半端者を躾ける暇があったら、とっとと要件を言うんだな」

 

「……あ、ああ」

 

「フッ。時は待っちゃくれねぇんだ。いちいち小さなしがらみに惑わされねぇで、やるべきことをやれ」

 

「………」

 

 

 し、シッブ~~~~~い!!

 手短に、自分の仕事をこなしながら、言葉だけで場を支配する。

 

 前に別の町で立ち寄った冒険者の宿にいたおっさんとは、立ち振る舞いの何もかもが違う!

 

 

「主様、あの方が……」

 

「ああ。あの人こそが、こういったガラの悪い連中の首をしっかり絞めてくれている、町の実力者の一人……冒険者の宿の、おやっさんだ」

 

 

 モノワルドの冒険者に、社会的地位なんてものはない。

 だがそんなゴロツキまがいの連中が、それでもゴロツキまがいでいられるのは、こういう人がいるからだ。

 

 

「フン……」

 

 

 治安の悪い場所に住むゴロツキたちの支配者にして、保護者。

 ただ者じゃないその存在感に、俺は思わず息を飲んだ。 

 

 

(ここなら、安心して仕事を受けられそうだ)

 

 

 そんな確信をもって、俺はおやっさんのいるカウンター席へと歩みを進める。

 

 

「……で?」

 

 

 何の用だ? と鋭くこちらを見つめる瞳には、俺も真っ直ぐに視線を返し。

 

 

「金になる依頼を受けたい。できれば討伐系で、レアアイテム絡みの物がいい。具体的には、あれとかな」

 

 

 最大限のリスペクトを込めて、要件を手短に伝える。

 

 受ける依頼は、最初から決めてあるのだから。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「……パラスラフレシアの討伐か?」

 

「それそれ。その不人気依頼、俺が貰い受ける」

 

 

 張り出された紙がボロボロになっても残っている討伐依頼。

 何度も吊り上げられた討伐報酬はかなりの額になっているのに、未だに売れ残っている焦げ付き依頼。

 

 俺も情報を仕入れた時点では、割に合わないと思ってスルーした奴ではあるが。

 

 

(今の俺には、ボーナスだ)

 

 

 そんな忌み嫌われる討伐対象モンスターがいる場所の名は――ヒュロイ大森林。

 

 

「いいのか? こいつが不人気な理由は……」

 

「知ってる。問題はない。俺には強ーい味方がいるからな」

 

 

 俺はそう力強くおやっさんに言いながら、隣で可愛く首をかしげている従者を見る。

 

 

「……ふぅん。ま、やってくれるなら期待してるぜ」

 

「これまでされてこなかった分、討伐しまくってやるから、きっちりと報酬用意しといてくれ」

 

 

 俺の目線の意味を理解したかは定かではないが、ダンディから中々に熱い言葉をいただいた。

 もっとも、その期待に応えるだけの手札は既に手の中にあるから、大船に乗った気でいてもらって問題ない。

 

 

(ふっふっふ。噂に聞いたこの依頼、相手が噂通りのモンスターなら、俺はかなーり楽できる)

 

 

 さらに都合のいいことに、このモンスターはさっきも大暴れだったナナの、真の実力を理解するのにもちょうどいい相手ときたもんだ。

 このタイミングでは間違いなく、俺にプラスに働くミッションである。

 

 

「ナナ、この依頼の鍵を握るのはお前だ。奮戦を期待する」

 

「! そういうことでございましたら、このナナの、全身全霊をもって頑張ります」

 

 

 やる気に満ち溢れた瞳を向けるナナを見て、俺も気合を入れ直す。

 

 

「さぁ、クエスト開始だ!」

 

 

 盗賊殺しはいったん休憩。

 

 今回はこの“めちゃくちゃ報酬が美味い依頼”を、攻略するぜ!

 

 




ジュークボックス(R)
セキュリティに契約魔法を使っている古びたデザインのジュークボックス。
契約者が登録した音楽を、好きなタイミングで流すことができる。
登録用レコードは世界各地に広まっており、プロアマ問わずに様々なレコードが作られており、それを専門に集めて回る好事家もいるらしい。
マスターの店の格的にはレアリティHRの物がふさわしいのだが、店を始めた時に買ったこの一品を、彼はずっと大事に使っている。


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次回、森へ行こう!


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第029話 イカ〇た従者と森の怪物たち!

29話をお届け!

3日おきの更新を何とか続けられているのも読んでくださる人たちのおかげです。
うおおおお、パワー!

ということで、今回もよろしくお願いします!


 

 

 昨日、依頼を受けた日。

 俺は確かに彼女、ナナのために救世の使徒様ロールを頑張る的なことを思った。

 

 

「主様。はい、あーん」

 

「あーん。んぐんぐ」

 

「いかがですか? 急ごしらえではございますが……」

 

「塩気があって、疲れた体によく効いて美味い」

 

「それは何よりでございます。ではもう一口、あーん」

 

「あーん」

 

 

 だが今、圧倒的既視感と共に感じているのは、疑問である。

 

 

「ささ、お飲み物もこちらに」

 

「ありがとう」

 

「いいえ、これは従者として当然のことでございます」

 

 

 これは……救世の使徒として正しい在り方なのか、と。

 

 

 

 ヒュロイ大森林。

 ガイザンの東の森を抜けたさらに東にある、旧獣王国領だった広大な森林地帯。

 

 そこ……の目の前で今、俺はナナのお手製弁当を手ずから食べさせてもらっている。

 

 

(というか、俺が箸を持つことを許されていない……)

 

 

 自分用の箸を持とうとしたら、すっごい悲しそうな顔をされたのでこうなった。

 

 

「主様。こちらのコッコのから揚げもどうぞ。あーん」

 

「あーん。んぐんぐ……美味い」

 

「お褒めいただき、ナナは幸せにございます」

 

「うん。美味い。美味いからそろそろ俺の箸で食べた……うっ」

 

「主様は……わたくしのあーんでは、やはりご満足いただけないのでございましょうか?」

 

 

 きゅーんきゅーんなんて効果音が出てそうな、ウルウル顔で見つめられる。

 

 

「どうか、どうかわたくしに、あーんをさせてくださいませ。お仕えさせてくださいませ」

 

「う、ぐ……わ、わかった」

 

「ああ、ありがとうございます! 全身全霊をもって、あーんさせていただきますね」

 

 

 そして押し切られ、再び始まるあーんプレイ。

 

 

(いや、料理はどれも美味しいし、愛情たっぷりなのはわかるんだよ)

 

 

 でもなんかこれ、場を支配されてる感があるというか……管理されてる?

 

 

「はい、ダマタマネギとトンビーフの炒め物にございます」

 

「あーん……んぐんぐ」

 

「ふふっ」

 

 

 まぁ、ナナが楽しそうにしているし、このくらいは――。

 

 

「ふふふ、主様にわたくしの手ずからを受け入れお食事していただけている。いずれはおはようからおやすみまで、すべてをこのわたくしの手で……主様に24時間のご奉仕を…………」

 

「………」

 

 

 人それを、奉仕管理型ヤンデレという。

 

 

「よし、あーんはここまで! あとは自分で食べる!」

 

「そんなー」

 

 

 殺生にございますーとか引っついてきてもダメです。 

 

 

「わぅぅ……諦めません。いずれは……きっと……!」

 

「………」

 

 

 ――拝啓、ミリエラ。

 幼い頃、君に抱いていたバッドエンドフラグ。

 

 あれは勘違いだったけど、今もまだ、ここにあるよ。

 

 

「主様。いつでもご奉仕いたしますので、何なりとご用命くださいね」

 

「ウン、ワカッタ」

 

 

 この天使の笑顔に頼りすぎてはいけない。

 俺は心に刻んだ。

 

 

「どのようなご要望にも応え、わたくしのすべてでもって主様を幸せにいたします。ですから……ね?」

 

「さぁ! 飯を食ったからにはいよいよモンスター討伐だぞ! ナナ!! 張り切っていこう!」

 

 

 俺は、可愛い垂れ犬耳っ娘従者の誘惑になんか絶対に負けない!!(二敗)

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 腹を満たしていよいよヒュロイ大森林の内部へ。

 

 昼間だっていうのに少し暗い森の中は、いかにも魔物が棲んでそうなおどろしさと……。

 

 

「差し込む光が美しいですね。主様」

 

「だなぁ」

 

 

 背の高い木々のあいだから差し込む白い光と、辺り一面に生え渡っている苔の緑とが織りなす、目を見張るような美しさがあった。

 

 

「だが、ここにはモンスターがいる。油断しないで行こう」

 

「はい。主様……!」

 

「そんじゃ、しっかり装備を《イクイップ》したら、本格的に突入だ」

 

「前衛はお任せください」

 

 

 今回主力になるナナは、動きやすさを重視した皮製のジャケットとハーフパンツという軽装。素手でいいと言われたから武器は持たせてないが、防御の足しに皮のグローブを装備させた。

 支援役の俺は森歩き用のブーツに帷子、そして布製のクロークを装備してから、支援魔法への補正がかかる補助杖を構える。

 

 大体が(コモン)UC(アンコモン)の安物アイテムだが、これにはワケがある。

 いわゆる万が一の保険という奴だ。

 

 

「さぁ、一気にやるぞ」

 

「はい!」

 

「物防向上、《マテリアップ》! 抵抗向上、《レジアップ》! 敏捷向上、《カソーク》! 筋力向上、《マッソー》! そして補助杖適性Aの大魔法、全能力向上《オールゲイン》!!」

 

 

 対ミリエラ用に修練を始め、研鑽を積み続けた俺の支援魔法を見よ!

 

 

「ふぁ、あ、あああああーーーー!! 主様の想いが伝わって、力が、湧いてきます!」

 

 

 なんかいい感じの光の粒みたいなのをいっぱいぶわーって出しながら、ナナが強化された。

 そうとしか言いようがないが、とりあえず喜んでぴょんぴょんするナナは可愛い。

 

 

「……参ります!」

 

 

 超強化されたスーパーナナが、元気よく突撃する。

 身体能力お化けのライカン+支援魔法すごい、もう視界から消えそうだ。

 

 あ、止まった。

 ぴょんぴょんしながら手を振っている。可愛い。

 

 

「《カソーク》、んで《オールゲイン》……待て待てー」

 

 

 彼女を見失わないよう、俺も速度を強化して、そのあとを追う。

 目的地であるパラスラフレシアの群生地帯はもう少し森の奥だった。

 

 ので、以下はその道中のダイジェストである。

 

 

 

「どけどけーどけどけー邪魔だ邪魔だ邪魔だー!」

 

「ギギィ!?」

 

 

 チンケゴブリンA、B、Cが現れた!

 

 

「行け! ナナ!」

 

「お覚悟を! はぁー!!」

 

「ギギェーーー!?」

 

 

 チンケゴブリンA、B、Cを倒した!

 

 

「どかねぇとぶっ飛ばすぞばーろぅこんにゃろーめ!」

 

「シャアア!!」

 

 

 パープルヴァイパーが現れた!

 

 

「パンチだ! ナナ!」

 

「お任せください! がおーん!!」

 

「シャギャアアアア!?」

 

 

 パープルヴァイパーを倒した!

 

 

「悲しいときー! モンスターが邪魔してきたときー!」

 

「ガオオオオオ!」

 

 

 アイアンヘッドベアーが現れた!

 

 

「ナナさん! こらしめてやりなさい!」

 

「合点でございます!! フッ!!」

 

「がおっ? グボォォォォォ!?」

 

 

 アイアンヘッドベアーを倒した!

 

 

「……やりました!」

 

「グッドジョブ、ナナ!」

 

 

 快調、快勝、絶好調!

 

 今のナナは、まさしく小さなダンプカー。

 強化された彼女を止められるモンスターなんて、いないんじゃないかってくらいの突破力だ!

 最後の奴なんて、一瞬だけ何が起きたのかわからない間があって、その直後に敵の体が「ドムゥッ!!」って浮いたからね。

 

 俺の従者がクマを腹パン一発で倒した件について。

 

 

「よーしよしよしよしよし、えらいぞー」

 

「わふぅぅぅ! こんなになでなでされて、ナナは果報者です」

 

 

 快進撃のナナをたっぷりと労いながら、ライカンパワーに感動する。

 《イクイップ》なにするものぞ、とばかりの装備を問わない高い戦闘能力に感嘆しきりだ。

 

 味方として活用できるなら、これほどまでに便利な前衛もいないだろう。

 

 

(俺の場合はさらに支援魔法で強化できるから、マジでラクラクチンチンよ)

 

 

 装備適性の関係で魔法は不得手のナナに、俺の支援は鬼に金棒! 圧倒的暴力!

 たとえUCの革装備でも、黄金の鉄の塊であるナイトにだって後れを取ったりはしない!

 

 

「主様! 主様は本当に何でもできるのでございますね! 素晴らしいです」

 

「はっはっは、何しろ装備適性オールAだからな」

 

「惚れ惚れしてしまいますね、主様。グズグズの赤ちゃんになってしまうまでお世話がしたいです!」

 

「傾国の美女かな?」

 

 

 あくまで『ゴルドバの神帯』あってのスペックだが、使いこなせるよう努力してる分くらいは俺の功績にしてもいいだろう。

 

 おかげでこうして、色々な役割を担えるオールラウンダーがこなせるんだしな。

 

 

「さぁ、ここからが本番だ。あれを見てみろ」

 

「……あれは!」

 

 

 ここはもう件のモンスターの群生地。

 樹齢100年は余裕で越えてそうなぶっとい大樹たちが立ち並ぶ森の深部。

 

 俺の指さす先に、そいつはいた。

 

 

「ジュルル、ジュルルルル……」

 

 

 大樹にぐねぐねと蔦を絡ませ寄生している、でっかい花弁の植物型モンスター。

 花の中央がまるで大口のようになっているそいつは、今まさにパープルヴァイパーをもっちゃもっちゃと咀嚼していた。

 

 

「あれが討伐対象の……パラスラフレシアだ!」

 

「……プェッ! キシャアアアアア!!」

 

 

 相手もこちらに気づき、パープルヴァイパーを吐き出して威嚇する。

 

 

「ナナ、あいつの花弁はいい金になる。やるなら花柄(かへい)……花弁と茎のあいだのところを引き千切れ。できるか?」

 

 

 いよいよ今回のメインイベント。

 俺の問いかけに、ナナはこちらを振り返ると、ふふんっ、と得意気な笑みを浮かべた。

 

 

「今のわたくしならば、造作もありません。主様のご支援を受けた、このわたくしならば!」

 

「よーし、それなら……やっちまえ、ナナーー!!」

 

「お任せください! すべては主様のために!!」

 

「キシャアアアアア!!」

 

 

 飛び出すナナ、迎え撃つパラスラフレシア。

 

 こうして仄暗いヒュロイ大森林の深部にて、戦いの火ぶたは切って落とされたのだった!!

 

 

 




補助杖(UC)
デザインは完全に、お年寄りが転倒防止に手に持つあれ。別名介助杖。
この杖を装備することで、転倒に対する抵抗に補正が入る。
この世界では魔法やモンスターの謎能力により普通の人もよくすっ転ばされるので、結
構な数の旅人が持ち歩いていたりする。
それゆえ「転ばぬ先の杖」とも呼ばれている。


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次回、討伐対象モンスターであるパラスラフレシアの実力とは!?


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第030話 対決パラスラフレシア!

30話をお届けです!

オリジナル日刊ランキングにランクインしました! めっちゃ嬉しい。
これも楽しんで読んでくださっているみなさんのおかげです。

更新速度は相変わらずですが、続けてきたいと思いますのでぜひ応援をば。
ということで、今回もどうぞよろしくお願いします。


 

 

「キシャアアアアア!!」

 

 

 大樹に纏わりつくように寄生している植物型のモンスター、パラスラフレシア。

 太い蔓で大樹の厚い木の皮をミシリと締めつけながら、直径1mを越える大きな花弁の頭を振るい、襲い掛かる。

 

 

「お覚悟を!」

 

 

 そんな相手にナナは、俺からの支援魔法の力と自身の高い身体能力を武器に、真正面から果敢に挑みかかる。

 

 

「フッ……やぁぁぁ!!」

 

「ギッ……!?」

 

 

 得物は持たずに防具だけは装備した状態で肉薄した彼女は、振るわれた花弁を身を低くしてかわすと、その裏へと回って腕を振るい、その膂力でもってモンスターを両断した。

 

 彼女が手刀で断ち切ったのは、まさしく俺が指示した花柄部分だった。

 

 

 ボトッ。ビシャアッ。

 

 

 花弁の中央、ウツボカズラの袋みたいになってる口の中から液体を零しつつ、花が地に落ちる。

 次いで大樹に絡んだ蔓が、まるで切られたトカゲのしっぽのようにビクンビクンとのたうつと、すぐに力なくほどけて大樹を束縛から解放した。

 

 

「やりました!」

 

「でかした!」

 

 

 勝った! 異世界ストリップ第二部・完!!

 

 

「この調子で今日は狩りまくるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 異世界ストリップ第二部・再開!

 

 

「次はあそこだ!」

 

「お任せください、主様!」

 

 

 飛び出したナナを見送り、俺は一人、口角を吊り上げる。

 

 

(よし、よしよしよし! 強化したナナだと一確! これは、超効率だ!)

 

 

 予想以上の成果に、いっそ三段笑いすらしそうになる。

 

 なぜならば。

 

 

(花弁部分ノーダメージでキルした時の、1体あたりの報酬額は基本400g(ゴル)。それが報酬吊り上げ効果で5倍の2000g! 他の部位も回収して持っていけば+300g!)

 

 

 1匹倒すごとに2300g! つまり――!

 

 

「2匹目、でございます!」

 

 

 たった今、ナナが綺麗にやっつけたパラスラフレシアの分も足せば! 達成!

 

 

「はーい。昨日破壊したベッドの弁償代を払っても、元が取れまーす!」

 

 

 そしてご覧、この森の風景を!

 

 

「キシャアアアア!」

 

「キーシャッシャッシャッシャ!!」

 

「キシュアァァァ!」

 

「エゾゲマツ!!」

 

 

 見渡す限りのパラスラフレシア()パラスラフレシア()パラスラフレシア()!!

 

 

「ボーナスステージ過ぎんだろいやっふぅぅ~~~~!!」

 

 

 歓喜に飛び上がった俺の視界で、ナナが3匹目のパラスラフレシアを両断した。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 パラスラフレシアの花弁は、高級食材である。

 俺がそれを知ったのは、豪遊お食事会でメインディッシュのトカゲの肉を食っている時だった。

 

 

「うおっ、なんだこのメニュー。マジか!?」

 

 

 サービスの飲み物を追加で頼もうとした時に目にした、パラスラフレシアの花弁ステーキ。

 

 そのお値段なんと、時価!

 

 だから店員さんにそれとなく聞いてみたところ、その時のお値段は……。

 

 

「希少な食材ですので今ですと……」

 

(今食ってるコース料理が500gくらいだし、300gあたりかな?)

 

「……一皿1200gでございますね」

 

「ぶーー!」

 

 

 思わず飲んでいたレモンジュースを噴いちまったくらいだ。

 なお、噴いたレモンジュースはから揚げにかかったのでセーフ。セーフじゃない(マヨ派)。

 

 んでそこからあれこれと話を聞いて、調べて、依頼の存在を把握。

 ただその時は、この依頼に存在するリスクを回避する手段が思いつかなくて、解決策を模索する間にオークションの日がやってきて……。

 

 

 

「――そしてすっかり闇オークションへの期待で頭がいっぱいになった俺は、気づけばその依頼自体を綺麗さっぱり忘れてしまった……ってワケ」

 

 

 その後、ナナを仲間にすると決めた翌日くらいに思い出しました。

 

 

「とぅ、たぁっ! やぁぁぁ!!」

 

 

 襲い来るパラスラフレシアたちの花弁頭を掻い潜り、次々と仕留めていくナナ。

 時に地を這い鋭く駆け抜け、時に大樹を駆け上り、半月を描いてジャンプする。

 

 その雄姿はまさしく、スーパーナナ無双。

 

 レザージャケットにハーフパンツ姿の垂れ犬耳の美少女が、ダイナミックに尻尾を振り乱して戦う様は、実に良いものだった。

 

 もう一度言う、実に良いものだった。 

 

 

 

「いかがでございましょう、主様!」

 

「おー! 中々やるもんだー!!」

 

 

 見える範囲の敵を壊滅させて戻ってきたナナを、俺は拍手と共に褒めたたえる。

 

 

「わたくし、お役に立っていますか?」

 

「立ってる立ってる。正しく本懐って感じだな。この調子で頑張ってくれ」

 

「はい! お任せください! それでは!」

 

「いってらっしゃい! ……いや、すごいな」

 

 

 ぶっちゃけた話、パワーはあるとは思っていたが、ここまで戦えるとは予想外だった。

 支援込みだというのを差し引いても、あの激しい立ち回りは最低でも格闘用グローブ装備の装備適性Cくらいはある気がする。

 

 つまりは『ゴルドバの神帯』抜きならガッチリ装備した俺と張り合う動作だ。

 動きをまったく阻害せずに視覚、聴覚などの五感を強化する装備があんまりないことを鑑みると、俺、負けちゃうかも。

 

 それにもっとこう爪を伸ばしたり牙を立てたりするのかと思ったが、存外ちゃんとした格闘術っぽい感じで戦ってるのもびっくりポイントである。

 

 

(ライカンってのは種族自体が生まれついての戦士、ってことなんだなぁ)

 

 

 装備を手にしたヒト種とはまた違う、しなやかにして野趣に溢れた豪快な戦いっぷりに魅了される。

 

 

(っていうか、小柄なナナでもここまで戦えるって、ライカンすごくね?)

 

 

 ガチムチの戦士だったら下手すると装備適性Bくらいの強さを余裕で発揮するのかもな。

 闇オークションで見たライカン兄貴とか、ゴリッゴリのマッチョだったしヤバいな。

 

 

(一般人レベルでこんだけ動けたら、自分たちこそが最強! って、思い込んじまうのも納得かもなぁ)

 

 

 生まれながらの強者であったライカン。

 

 そんな力を持つ者が抱いてしまった傲慢。

 

 

(それが結局、発展したアイテムっていう別の力によって滅ぼされてしまうわけだから、悲しい話だ)

 

 

 アイテムの発展こそがモノワルドの本筋っぽいし、破滅は歴史の必然だったのかねぇ。

 

 

(いずれにせよ、ナナも含めたライカンたちにとっちゃ、今は地獄みたいな時代だよな)

 

 

 かつてこの地一帯で栄華を誇るも、今は亡き獣王国ファート。

 過去の栄光は遠く、今は敗者の宿業を子孫らに残すのみ。

 

 あ。

 

 

(滅んだ国の王都とか、なんかレアアイテムありそうな気がする。いや、絶対ある!)

 

 

 俄然興味が沸いてきた。

 獣王国ファートの王都……要チェックや!

 

 

 

「主様ー! ナナを、ナナを見てくださーい!!」

 

 

 おっと、考え事しすぎてちゃんと見てやれてなかったな。

 ご主人様として、ちゃんと見てやら――。

 

 

「………」

 

 

 こっちに呼びかけるナナの頭上に、お口を開いたパラスラフレシア。

 

 

「あるじさまー! おや、急に体が重く……?」

 

 

 ちょうど支援魔法の効果が切れた、我が従者。

 

 

「ナナーーーー! 上、上ーーーーーー!」

 

「え? あ!」

 

 

 見上げたところでもう遅い。否、見上げちゃったからモロだった。

 

 

「キシャボェェェェェェーーー!!」

 

「ーーーーッッ!!」

 

 

 ナナの全身に襲い来る、パラスラフレシアのお口の中身。

 

 デロンデロンでドロッドロの粘性を持った、ちょっと黄ばんだ透明の……消化液。

 

 

「ナナーーーー!!」

 

 

 叫ぶ俺の声も虚しく。

 

 

「あるじさぼわっ!!!」

 

 

 消化液はナナの全身に、容赦なく浴びせられてしまったのだった。

 

 

 




レザージャケット&レザーハーフパンツ(C)
モノワルドにおける非常にメジャーで安価な旅装束の一種。
動きやすさ、機能性を重視した装備でありながら、ポケットの数やワンポイントなど、様々な部分でデザインの拡張性が高く、職人たちが競って製作している。
駆け出しの職人が売りに出す物もあり、後に名を馳せた人物の初期作となると、レアリティにそぐわぬ価格で取引されることも。


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次回、敵の攻撃を受けたナナに起こる出来事とは!?


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第031話 実録!エッチなモンスターは実在した!?

31話をお届けです!

ランク入り効果で色々な人に見てもらえました。
またじっくり腰を据えてコツコツやっていこうと思います。

それでは今回も、よろしくお願いします。


 

 

「あるじさぼあっ!」

 

 

 油断大敵(ナムアミダブツ)

 

 高い枝に身を潜めていたパラスラフレシアの不意打ちの消化液が、真下のナナに思いっきりぶっかけられてしまった。

 

 

「ナナーーーー!!」

 

 

 叫びを上げる俺だが、しかし。

 

 

(実のところ、そんなに心配はしていなかったのである)

 

 

 内心では特に焦るでもなく、むしろじっくりと消化液を浴びたナナを観察する。

 

 理由なんて言わなくてもわかるだろ?

 でも説明しちゃう!

 

 

「パラスラフレシアは口の中に含んだ虫や獣の固い皮を溶かし、その中身をじっくりしゃぶり尽くして味わう性質をもったモンスターだ。ゆえにその消化液は皮製の物を溶かすことに特化されており、つまり何が起こるかというと――」

 

 

「ふぁ!? 主様からいただいた装備が……!」

 

 

 ドロドロの黄ばんだ消化液が流れ落ちた先で、ナナの着ていたレザージャケットとハーフパンツが、無残にも溶けてしまっていた。

 

 

「ふ、不覚……! それに、この臭いは中々に……」

 

 

 露出する下着と素肌、そこにへばりついて垂れる液体。

 独特の異臭に対して顔をしかめる被害者。

 

 

「ナナー! 大丈夫かー!」

 

 

 思わず助けに入る振りをして、より近くに移動してじっくり観察してしまうほどの完成度!

 

 

(エーーークセレーーーン!! 素晴らしい!)

 

 

 父さんは嘘つきなんかじゃなかった!

 服だけ溶かす消化液をぶちまける、エッチなモンスターはほんとに実在したんだ!!

 

 見てごらん!

 本当に綺麗にレザージャケットとハーフパンツなどの革製品だけ溶かしているよ!

 

 ヒト種の皮膚は対象外っていうご都合っぷりも含めて素晴らしい!

 

 

(このあからさまなデザインモンスター感よ!)

 

 

 創造神(ゴルドバ)様のセンスが光り輝いてますねぇ!

 いや、あの爺さんが本当に作ったのかどうかなんてのは知らないけどさ!

 

 俺、こういう遊び心のある存在って好きよ。

 地球のピンポン・ツリー・スポンジとか。

 

 

 

(……ただまぁ、この世界においてはマジでやべぇ能力だとは思う)

 

 

 皮装備限定とはいえ、装備破壊だ。

 モノワルドでは装備を失うことがそのまま全体的な能力弱体に繋がるし、死活問題である。

 現に、ナナの革装備はグローブもろとも瞬く間に溶け落ちて使い物にならなくなった。

 

 この仕事を冒険者が受けたがらないのも納得である。

 

 

 だがそれは、あくまで普通の冒険者の場合である。

 

 

 

「ナナ!」

 

「……大丈夫でございます、主様」

 

 

 呼びかけに答え、そばまで駆け寄ろうとする俺を手で制し、体をブルブル振って消化液を弾くナナ。

 

 再び見上げた顔に、闘志の炎はありありと燃え上がっている!

 

 

「わたくしの力は、衰えてなどおりません!」

 

「……わかった!」

 

 

 その炎をさらに煽り立てるべく、俺は立ち止まった場所から即座に支援魔法でナナを強化!

 

 

「ふおおおお! 主様の装備を破壊したその行為、絶対に許せません!」

 

 

 再びスーパー状態になったナナが、下着姿のままで大地を踏みしめ、跳び上がる!!

 それはさっきまでの無双状態とほぼほぼ変わらぬ力の冴えで。

 

 

「天・罰・執・行!! ……に、ございます!」

 

 

 グッと脇で力を溜めてからの、昇竜アッパー!!

 

 

「ギヴェェェェ!!」

 

「……成敗!」

 

 

 ナナの一撃は見事にパラスラフレシアをぶち抜いて、その花弁を爆発四散させた。

 

 

(報酬的にはマズ味だが、致し方なし!)

 

 

 レザージャケット、ハーフパンツ、グローブ……。

 破壊されてしまった革装備たちと共に、その魂に敬礼!

 

 

「……んっ!」

 

「ナナ!」

 

「主様、近づいてはいけません。この残念な臭いが移ってしまいます」

 

「大丈夫、コレがあるからな」

 

 

 くるくるシュタッと見事な着地を決めるナナの元へと歩み寄り、まだべたついている艶めかしいその体を鑑賞しながら、俺は清潔浄化の魔法が使えるようになる錫杖を取り出し装備する。

 

 

「《リフウォッシュ》! ……死角にも注意しないとな?」

 

「わぅぅ、お見苦しいものをお見せしてしまいました……」

 

 

 装備の下に着ていたスポブラとパンツを手で隠しながら、恥ずかしがるナナ。

 むしろもっと見て下さいとでも言うかと思ったが、自分の未熟故に晒してしまった姿には、羞恥の気持ちが強く沸いてしまったらしい。

 

 実にベネ。

 

 

「見苦しいなんてとんでもないぞ、ナナ。その姿はナナが一生懸命に頑張ってくれた証だからな」

 

 

 むしろとってもいい物を見せてもらいました。

 これを見越してUC以下の安物装備にしていた甲斐もあったというものである。

 

 え、だったら革装備以外の物を装備させろだって?

 バカ言っちゃいけない、これは噂の真偽を確かめる歴とした実験なんだ。

 

 

(複数ソースから情報を得ていたが、さすがに生き死にに係わる部分に嘘はないとして、実際に装備破壊が起こるかどうかは見てみたかったんだよな。本当に皮だけ溶かすのかとかな)

 

 

 そう。だからこのナナの被害については想定内、いつものあれなのだ。

 つまりはコラテラルコラテラル。

 

 この姿はしっかり心のスチルに保存して、今後に生かそう。

 心に保存した画像を映し出すカメラのマジックアイテムとか、ないかなぁ……。

 

 

「大丈夫。ナナは本当に頑張ってくれている。支援の切れ目だったのも運がなかった。むしろ俺の方こそ、守ってやれなくてごめんな?」

 

「そんな、主様が謝られることなんて何も……!」

 

「だったらおあいこって事で。まだまだ期待してるから、一緒に頑張ろうな?」

 

「主様……はい! このナナ、主様のため、モンスターたちを残らず爆砕いたします!」

 

「よろしい。倒し方をもう一回教えるところから再開だ」

 

 

 実験はもう十分。

 新しく動きやすい布装備をナナに与えてから、俺たちは狩りを再開する。

 

 

 

「目指すは100体討伐だ! 行くぞ、ナナ!」

 

「はい、主様!」

 

 

 見つけたパラスラフレシアたちを、バッサバッサと手当たり次第に討伐していく。

 

 絶滅させるのではってくらいの勢いで次々と刈り取って、刈り取って、刈り取って。

 

 木々の隙間から覗く空が茜色になる頃に。

 

 

「これで、200体目でございます!」

 

「っしゃあー!!」

 

 

 俺たちは予定していたその倍の、パラスラフレシアを討伐したのだった。

 

 

 




グローブ(C)
革製の指抜きグローブ。
指先作業がある職責を持った者などが愛用するグローブの一種。
特に理由もなく装備したがる男性の若者が多い。
王都出版のとある人気漫画の主人公が、戦闘前にグローブの真ん中摘まんでキュッてするのが流行った。

ここまで読んでくださりありがとうございます!
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次回、シャンシャン!


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第032話 上手に剥げました!

32話をお届けします!

ちゃくちゃくと話数が増えていますが、その分一回は読みやすい文章量になってきている……はず、はず。
2000~4000文字くらいならセーフだってばっちゃが言ってた!

さてもさても!
ということで、今回もよろしくお願いします!



 

 

 夕暮れのヒュロイ大森林。

 

 

「いやぁ、壮観壮観」

 

「すさまじい成果にございます。主様」

 

 

 狩りを終え、俺とナナは自分たちで刈り取ったパラスラフレシアたちを積み上げていた。

 

 その数にして202体。

 

 目標数の倍以上を討伐し、まさしく大成果と呼ぶにふさわしい結果を挙げていた。

 

 

「わたくしが、これほどまでに戦えるとは思ってもおりませんでした。これもすべては主様のご支援があってこそ、でございますね」

 

「そんなことはないぞ、ナナ。ナナのライカンとしての身体能力あってこその結果だ。俺一人じゃこの時間でここまでの討伐数は稼げなかったさ」

 

「わう。光栄にございます」

 

 

 金属装備では行きにくい森の奥、そこにいる皮装備を破壊するモンスター。

 こんな厄介なオーダーをこなすには、装備がなくても戦える獣人種(ライカン)の、ナナの助けが必須だった。

 かつてこの土地をライカンが支配していた、というのにも繋がってくる話だと思った。

 

 

(現に……ライカンの国が滅んでからほとんど放置されてた弊害が出てるもんな……)

 

 

 耳をすませば、ここよりさらなる森の奥から、あのキシャア声が聞こえてくる。

 天敵の減ったこの場所は、今や彼らにとっての楽園になっているのだろう。

 

 ま、おかげでこうやって美味しい思いをできたんだけどな!!

 

 

(1体につき2000(ゴル)強……つまり200体で40万g! これは、ヤバい!)

 

 

 目の前で山と積まれたモンスターの死体が、光り輝いて見えるぜ!

 

 

「さぁ、素材を集めるぞ」

 

「かしこまりました、主様!」

 

 

 危険な森の夜を前にして、だがしかし俺たちは、迷うことなく剥ぎ取り作業に取り掛かる。

 

 目の前の宝の山を、一秒でも早く手に入れたかった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 ここでひとつ、真面目な話をしよう。

 

 モノワルドでは、人の手が入ってない未加工な物を《イクイップ》することはできない。

 その辺の石ころをただ拾っても投擲武器適性の補正は得られないし、いい具合の木の棒を拾っても強くはならない。

 

 たとえば石を割り尖らせる。たとえば木の棒を削り持ちやすくする。

 水を器に満たす。野菜を、肉を、切る、焼く……つまりは料理する。

 

 そうやってヒトの手により、何らかの意図をもって一定以上の加工を施されたとき、初めて世界はそれをアイテムと認めるのだ。

 

 

(じゃあ、それら加工前のアイテムではない物を何というのかっていうと、それが……)

 

 

 素材。

 アイテムの元となる物。それらをモノワルドでは素材という。

 

 モノワルドの人々は、神が用意した自然に存在する基本的な物質、モンスターなどの生物の一部など、そうした素材を用いてアイテムを作り、繁栄してきた。

 そしていつしか作ったアイテムすら素材にして組み合わせ、より素晴らしい物を作り上げるようになった。

 今のモノワルドは、そうした歴史の先に立っている。

 

 

「素材集め、こういう地道な作業もいい……たまらん」

 

 

 花弁を傷つけないように毟り、口の中の液体を回収し、蔦を巻き取ってまとめる。

 そんな繰り返しの作業が実に心地いい。

 

 延々と弱いモンスターを倒し続けて経験値を稼ぐような、そんな楽しさを感じる。

 

 

「ふぅむ」

 

「どうした、ナナ?」

 

 

 鼻歌でも歌おうかとしていたところで、ナナのため息を聞く。

 

 

「主様。こちらの花弁は、残念ながらあまり品質が良くないようでございますね」

 

「わかるのか?」

 

「はい」

 

 

 見れば確かに、彼女の手には、少しだけ萎れた様子の花弁が抱えられていた。

 

 

「わぅぅ……わたくしが、もっと上手に素材を管理できればいいのですが」

 

 

 しょんぼりしながらナナが言う通り、素材には、アイテムとしてのレアリティとは別に品質による分類がある。

 それらの良し悪しは、見る人が見ればだいたいざっくりと判別できる程度で、『鑑定眼鏡』(欲しい)の例と同じく、SRアイテム『鑑定ルーペ』(こっちも欲しい)を装備すると使えるようになる鑑定魔法――《アナライ》を使うことで、よりハッキリと確かめられるという。

 

 

「『鑑定ルーペ』は冒険者の宿のおやっさんが持ってるからな、素材の品質に嘘はつけない。なるべくいい状態でもっていかないとな」

 

「わぅ……」

 

「とはいえ、そんなに肩肘張る必要もないさ。これも練習。装備至上のモノワルドでも、技術の研鑽は馬鹿にできないんだからな」

 

「……はい! 主様!」

 

 

 閑話休題。

 

 《アナライ》を使った際に表示される品質は、5段階。

 ざっくりと悪い、普通、良い、といった一般的な見方に対して、この5段階評価ができれば素材鑑定士として一丁前にやっていくことができるのだとか。

 

 それら5段階品質の名称と世間の一般認識は、低評価から順に以下の通りである。

 

 

 MISS   :ダメ(ほぼ出来に期待はできない)

 BAD    :悪い(数をこなす練習用にはなる)

 NICE   :良い(ここがスタートライン)

 GREAT  :素敵(十分にいい物ができる可能性がある)

 PERFECT:完璧(限界を超えられるかもしれない)

 

 

 ……これを知った当時の俺の心境を、ここでもう一度口にしたいと思います。

 

 

「シャンシャンしてきた」 

 

「わぅ?」

 

「何でもない。ほらそこ、消化液こぼれそうだぞ?」

 

「ひゃあ!」

 

「気をつけろー? いい具合に回収出来たら追加報酬なんだからな」

 

 

 これらの品質は素材の保存、取り扱いの仕方によって変動し、加工先のアイテムの出来にも影響する。

 当然品質の良し悪しで買取金額にも変化があるから、モンスター素材を集める専門のハンターたちなんかは、大体が優秀な素材回収のプロたる解体屋をお供として連れ歩いているのだとか。

 

 

(高度な技術者ともなると、まるで楽器を演奏するかのようにリズミカルに、そしてテクニカルに解体を行なうらしい……そりゃそうだ!!)

 

 

 つまり、解体屋のプロの技とはシャンシャン。シャンシャンなのだ。

 そう思ったら、なんか俺にもできる気がしてきた!

 

 いや、そもそも、だ。

 

 

(解体屋ってのは剥ぎ取り用ナイフ、解体用の鉈や斧、素材入れの袋。そういったアイテムに適性を持った奴がなるらしいが……それはつまり)

 

 

 すべての装備適性をAにできる俺の手をもってすれば!!

 

 

「……よし!」

 

 

 俺は『財宝図鑑』の宝物庫から、解体に使えそうな装備を全部取り出し周囲に並べる。

 

 

「ナナ、手本を見せてやる」

 

「え?」

 

 

 BGM、演奏準備!!

 

 (スリー)(ツー)(ワン)、ゼロ!

 

 

「……なっ!? これは!!」

 

 

 見よこの手腕!

 圧倒的素早さでもって次々と素材を分別、適切な処理を施し保存運搬しやすい形にまとめる!

 

 

(花弁は売る! 瓶詰消化液は所持! 蔓も半分は所持、残りは売っ払う!)

 

 

 リズムアイコンをTAP! TAP! ロングノードを長押し! スライド!

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「解体道具の流れるような使い分け、そしてそのどれもを目を見張る技術で操っておられます! これが、これがわたくしの……主様!」

 

 

 うぉん! 今の俺は某チート薬師アニメのバンクシーンだ!

 リズムに合わせて揺れるモフモフは最高だぜ!

 

 

(たとえ『鑑定ルーペ』がなくても、俺にはわかる!)

 

 

 リズミカルに動きまくるこの手が紡ぐのは、PERFECTの文字ばかりだ!

 

 

 

「フッ、完成だ」

 

 

 フルコンボだドン!

 っということで、あっという間に素材の確保は完了した。

 

 うず高く積み上げられていたパラスラフレシアの死体は、今はもう、パーツごとに分けられ綺麗に仕分けされていた。

 

 

「お見事、お見事にございます、主様。ナナは、ナナは心より感服いたしました!」

 

「ナナは元々体の使い方が上手いから、知識を学べば自分でもできるようになるからな」

 

「はい!」

 

(モノワルドじゃ軽視されがちだが、実際に研鑽を積むことだってかなーり大事(俺調べ)だからな。特にライカンはその辺ダイレクトに影響するだろうし)

 

 

 お目目キラキラ大興奮のナナの頭を撫でてから、最後は宝物庫に素材を詰めた袋をぶち込んでフィニッシュ。

 手荷物すら作らない、まさに俺だからこそできる力を示す。

 

 

「わたくしの主様は、本当に、本当に規格外なのでございますね……!」

 

「もちろんこれも、みだりに人に話しちゃいけないぞ?」

 

「はい!」

 

 

 主様としての威厳も示せて実によきかな。

 これが救世の使徒らしいかどうかは知らんけど。

 

 

「あぁ、主様ぁ……」

 

 

 ナナが嬉しそうなので、今はそれで良し!

 

 

 




鑑定ルーペ(SR)
素材の品質を正確に分析する鑑定魔法《アナライ》が使えるようになるアイルーペ。
眼鏡適性ならB以上、ルーペ装備適性ならC以上で唱えられるようになる。
このアイテムのように、使用の際に複数の適性が適用されるアイテムは数多く存在する。
装備適性の数も八百万、アイテムの適合もまたしかり。


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次回、ゆる〇ャン!


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第033話 美味しい食事とキャンプスキット!

33話をお届けです!

第2章もジワリと大詰めが近くなっております。
冒険の色々な醍醐味を少しでも伝えられれば幸いです。

それでは今回も、よろしくお願いします!


 

 

 いかに俺が天才的な能力で解体作業を行なったとしても。

 さすがにモンスター202体の処理は、日が落ちるまでに終わらせることができなかった。

 

 と、いうわけで。

 

 

「ここをキャンプ地とする!!」

 

「はい、主様!」

 

 

 俺とナナはヒュロイ大森林のど真ん中でキャンプをすることにした。

 

 

(ここは、俺の前世知識の披露しどころだな!)

 

 

 俺は意気揚々とナナに声をかける。

 

 

「ナナ。焚き火は……」

 

「こちらに。乾燥した落ち葉から始め、小枝、木片と少しずつ大きな物へ移し、火を育てていくのが肝要にございます」

 

「……水は」

 

「こちらに。近くに湧き水がございました。ですが、野ざらしの水は澄んでいるように見えてもちゃんと一度煮沸した方が飲み水として適切にございますので、処理はお任せください」

 

「……テントは」

 

「主様の解体作業中に少しずつ、準備を進めておりました」

 

 

 言われて見てみれば、木の影に、しっかりとした出来の二人用テントが張ってある。

 

 

「モンスター除けの香も焚き終えてございますのでご安心を。これから追加の水を確保に参ります。森の中では火の扱いが非常に大事ですので、主様はそのまま火の番をお願いいたしますね」

 

「はい」

 

「すべてはこのわたくしにお任せください、主様」

 

「………」

 

 

 俺たちは、実にスムーズに寝泊まりする準備を終えることができた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 しばらくして。

 

 

「……ふぅ」

 

「お疲れ様です、主様。それは料理でございますか?」

 

「ああ」

 

 

 火の番をするついでに、俺はフライパンの上で肉を焼いていた。

 

 もっとも、それは動物の肉じゃなく……。

 

 

「さっき、ちょっと質落ちしてたパラスラフレシアの花弁があったろ? あれだ」

 

 

 ここで刈り取った魔物の肉的な何かを料理しようと、お試しチャレンジ中である。

 

 

「とんでもない高級食材らしいからな。やっぱり一度は食べてみたいよな」

 

「それはようございますね、主様。それに……すでに、フルーツのような香りがいたします」

 

 

 切って焼いたパラスラフレシアの花弁は、牛タンみたいな見た目になった。

 特に何か調味料を使ったわけじゃないのに、ナナの言った通りフルーティーな匂いが香る。

 試しにパラスラフレシアの葉を一緒に焼いたら、添え物としていい感じに緑の彩りが足された。

 

 素人判断は危険、なんてのも、俺には何の問題もない。

 調理道具を《イクイップ》した感覚に任せれば、どうすればいいのか自然と頭に浮かぶのだ。

 

 

「おおー、これは」

 

「お腹が……空いてまいります……ぅっ」

 

 

 きゅるるるるる……。

 

 ナナのお腹から、とっても可愛い音がした。

 

 

「ぅぅ……」

 

「この匂いと見た目は、マジで食欲をそそられるからしょうがない」

 

 

 恥ずかしがる彼女に笑いかけてから、俺は木皿に花弁肉と葉っぱを取り分けた。

 高級食材を載せるには格の足りないCアイテムだが、そこは食材君の方に我慢していただこう。

 

 

「はい、フォーク」

 

「ありがとうございます、主様。では……」

 

「「いただきます」」

 

 

 今日の糧に感謝して、俺たちは花弁を一切れフォークに刺して、口に運ぶ。

 

 

 ………。

 

 

「……んぅ!?」

 

「んぐっ!!」

 

 

 バチリと、衝撃が走った。

 

 

「こ、これは!!」

 

 

 料理品適性Aの効果で、俺の舌が吼える!!

 

 

(……やっぱ牛タンだこれ!!)

 

 

 舌の上で跳ねた刺激!

 植物型モンスターだが、この部位の構造はほぼ動物の筋肉のそれと同じなのか、コリッとした歯ごたえもばっちり!

 噛めば噛むほど味が染み出し、牛タン風味の強烈なパンチに次の手が止まらない!

 

 だってこれ、花弁だぜ!?

 ただ焼いただけで肉の食感と味がする花弁って何だこれ!

 

 

(しかもこれ、ただの牛タンスライス焼きじゃない!)

 

 

 フルーティーな香りに合った愛らしい味かと思えばとんだじゃじゃ馬な辛味と苦味の連携!

 まるでオリーブオイルをぶっかけたみたいなコラボレーション!

 

 これ、もしかして染み込んだ消化液なのか? あれ調味料として使えるの!?

 いや違うな、この花弁……花弁肉だからこそ成立しているんだ!

 

 

(もはや素材ひとつで完成品。とにかく芳醇! とにかく濃厚!! だが……!)

 

 

 食べ進めることで、俺は気づいてしまった!

 この味にもうひとつ加えることで、完成に至る材料があることに!!

 

 

(ああー、何がお試しだよ! パスタ麺を茹でておけばよかったー!)

 

 

 ペペロンチーノにしてぇ!!

 絶対、絶対絶対絶対ぜぇぇぇったい、美味い!

 

 

「あぐあぐあぐあぐ……ぐはぁ!」

 

 

 結局我慢できずに自分の分を即完食。

 迷うことなく次の花弁肉を焼きながら、俺は思考する。

 

 この極上の味をより高める方法を試すべきか、より多くの資金のために我慢するべきか。

 

 

「………」

 

 

 愚問だな。 

 

 

「……食は、人生を豊かにする」

 

 

 そう言って隣を見れば。

 

 

「むぐ、むぐむぐむぐ……!」

 

 

 一生懸命もぐもぐしているナナの姿。

 よっぽどお気に召したんだろう、彼女の食べる口が止まらない。

 

 昼間あれだけ俺の食事の世話を焼こうとしてたのに、今はご覧の通りである。

 

 あのナナですら夢中にさせる、それが高級食材、パラスラフレシアの花弁!

 

 

「「………」」

 

 

 そんなナナと、目を合わせ。

 

 俺は静かに言の葉を紡ぐ。

 

 

「麺を足すとな、絶対、もっと美味いんだ」

 

「……!!」

 

 

 あとはもう、余計な言葉はいらなかった。

 

 

「びゃああうまひぃぃぃぃぃ!!」

 

「あるじさま! これは、これは魔性の味にございます~~~!!」

 

 

 こうして俺たちは、端数だった2体分の高級食材をキッチリと消費してしまうのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 最高のキャンプ飯をいただいた後は、特にすることもないから寝ることにした。

 料理に使った焚き火を消すと、森は不気味なくらい暗く静かだった。

 

 空を見上げても、目に映るのは生い茂った木々の葉が作る闇ばかり。

 念のため、俺はモンスター除けのお香をもうひとつだけ焚いておいた。

 

 

「主様、寝苦しくはございませんか?」

 

「大丈夫大丈夫」

 

 

 今俺は、二人で使うとやや手狭なテントの中で、寝間着姿のナナと添い寝している。

 光源は油を燃やす小さなランプひとつきり。

 

 

「主様との野営は初めてでございますが、不思議と大きな安心感に包まれております」

 

 

 オレンジ色の灯りに照らされ、こちらを見つめるナナの顔に影が差す。

 それでも彼女が口元に浮かべた微笑みは、夜の不安を吹き消すのに十分な温かさがあった。

 

 

「ナナはこういうキャンプは結構経験してるんだな?」

 

「はい。父や母が、巫女を目指すと言ったわたくしに、色々と教えてくださいました」

 

「いいご両親だ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 両親のことを褒められてはにかむナナは、年相応の女の子に見えた。

 

 

「少し、お話をしませんか、主様?」

 

 

 眠りにつくまで、二人でたわいのない話を重ねていく。

 これまで自分がどういうところで過ごしてきたのか、何を経験してきたのか。

 

 

「わたくしは、ここより北にある集落の生まれで、そこで両親と暮らしておりました」

 

 

 何が好きで、何が苦手で、どんな趣味があって、何を得意としているのか。

 

 

「もちろん、主様ですよ。主様が、救世の使徒様が、その物語が、わたくし大好きでございます」

 

「孤独を感じるのが、少々苦手にございます。誰かと繋がっている、それを信じられる何かが欲しいと思っておりました……今は、なんの問題もございませんよ、主様」

 

「本を読む機会をいただければ、幸せに思います。学びは必ず、主様のお力になる糧となりますから。あ、ですが今は、主様のお世話も、わたくしの望むことかもしれません」

 

「この身を賭して、主様にお仕えすること。その意志こそ、わたくしの武器にございます。おはようからおやすみまで、主様のために誠心誠意尽くします。よろしければ万事、万事わたくしにお任せくださいね?」

 

 

 まだ出会って数日と経ってないこの少女について、俺は少しずつ学んでいく。

 狂信者だとか、奴隷だとか、そういう肩書に惑わされていた分、俺はようやくここで、ナナという少女の実体に触れた気がした。

 

 まぁ、触れた実体からちょくちょく漏れてるものがあるのには目をつぶる。

 

 そして、ナナについて知る機会を得たということは、当然ナナも、俺について知る機会を得えたということ。

 俺の方からもナナが知りたいことがあるなら答えると口にすれば、彼女は少し考えてからこう問いかけた。

 

 

「主様は、どうしてこれほどまでにお金を必要となさっておいでなのですか? ただ、贅沢な暮らしをしたいがため、というわけではございませんよね?」

 

「……あ」

 

 

 その問いかけをされて、ようやく俺は思い至る。

 そういえばナナに、俺がこの世界で何をしようとしているのかを話していなかったと。

 

 

(いい機会だな)

 

 

 俺はナナに話をするついでに、自分の頭を整理することにした。

 ただ漫然とイメージを膨らますのではない、アイテムコンプリートまでの人生の道筋。

 

 それが俺には必要だと、同時に気づくことができたから。

 

 

「よし、ちょっとランタンの明かりを強めようか」

 

「はい」

 

 

 俺が身を起こし、ランタンに手を掛けるのを見て、ナナも体を起こして正座する。

 

 紙とペンを取り出して、俺は話し始める。

 

 

「俺がこの世界で目指すのは、アイテムコンプリートだ」

 

 

 これまでに俺が知りえた知識を元に描く、ロードマップを。

 

 




旅人のランタン(UC)
安い金で旅をする者の必需品。夜のちょっとした明かりに。
ランプの下側から空気を取り入れ流れを作る構造をしており、明るさ調整が可能。
ただし自然の力を利用するため安定性は低い。
むしろこういう品が安価に手に入ることで、硝子技術の普及っぷりが伝わることの方にこそ意義があるのかもしれない。


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次回、リスタート?


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第034話 俺、思い出す!

34話をお届けです!

気づくとしおりを挿んでくれている方がいっぱいになっていました。
あれ、使ってみると便利なんだなと最近知ったので、ぜひ活用してもらいたいです。
どこまで読んだっけなぁってなるのが分かるの、本当に便利。

ということで、今回もよろしくお願いします!


 

 

 

「俺がこの世界で目指すのは、アイテムコンプリートだ」

 

「アイテムコンプリート、でございますか?」

 

「具体的にはこの俺専用のアイテム、『財宝図鑑』を完成させるのが目標だな」

 

「あっ。それは、主様がいつも肌身離さずお持ちの御本にございますね」

 

「だな」

 

 

 俺は『ゴルドバの神帯』をほどき、『財宝図鑑』を開く。

 そこには名前が記載されていたりされてなかったり、絵がついていたりついてなかったりと、色々と歯抜けになったなんとも半端な図鑑の姿があった。

 

 

「これの完成が、主様の目的」

 

「YES! で、だ」

 

 

 ごくりと喉を鳴らすナナを横目に、俺はメモ紙にペンを走らせ始める。

 

 

「まずは確認。モノワルドに存在するアイテムのレアリティは9種類。間違ってないよな?」

 

「はい。その通りにございます」

 

「じゃあナナ。レアアイテムって言われるとどの辺のレアリティを想像する?」

 

「それは……」

 

 

 俺の問いかけにナナは頬に指を当てながら考えを巡らせ、少しの間を置き答えを口にした。

 

 

「やはり、SR以上のもの……でございましょうか?」

 

「YES! その通り。モノワルドではSR以上のレアリティを持ったアイテムを、レアアイテムと呼んでいる」

 

「はい」

 

「この世界の住人にとって関係の深いアイテムのレアリティ。今日まで俺は、そのレアリティと世間の評価について調べ続けてきた」

 

 

 ペンを止め、書き上げた物をナナに見せる。

 

 

「そうして現時点までで俺が把握した9種類のレアリティの名称と、それらが今のモノワルドで受けている評価・立ち位置を簡潔にまとめた表……それがこれだ」

 

 

 

 【低レア】

 

 (コモン)  ……UCにもなれない粗悪品、膨大に存在する単純加工品。

 UC(アンコモン) ……この世界の現代の価値基準で“ちゃんとしてる”といわれる。

 (レア)  ……充実したご家庭が頑張れば家具をこれで揃えられる。専門道具は最低これで。

 HR(ハイレア) ……一般的な高品質品。ブランドもの。お値段が跳ね上がり始める。

 

 ----------レアアイテムの壁----------

 

 SR(スーパーレア) ……超品質。何らかの特質性を持つ。装備制限が出始める。

 UR(ウルトラレア) ……一般的に出回らない。非適合者が持つと身を破滅させかねない。

 

 ----------オンリーワンの壁----------

 

 LR(レジェンドレア) ……マジでヤバイ。ひとつひとつがオンリーワン。URから“昇格”することも?

 WR(ワールドレア) ……モノワルドを生かすも殺すもこれ次第。噂じゃ10個くらいあるらしい?

 

 ----------存在不明の壁----------

 

 GR(ゴッドレア) ……おとぎ話とかに出てくる。存在がまゆつば。

 

 【高レア】

 

 

 

 THE・主観!

 

 あくまで参考情報、という奴である。

 

 

(でもしょうがないね! レアリティそのものについて深く言及する本とか、全然ないんだもんよ!)

 

 

 モノワルドの人ってそれぞれが適性に合わせた専門的な仕事してるから、こういった大本の基礎研究とか、意外とおろそかになってるのかもしれない。

 大事なのは自分の適性とそれを伸ばすことだから、よそ見している暇がないともいう。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

「『財宝図鑑』に登録されるのも、SR以上のアイテム……レアアイテムだ。だから俺の旅の目的は、世界中のレアアイテムを集め、手に入れるということでもある」

 

「なるほど……それはまた、遠大にして困難な目的だと思います」

 

「だな。それは俺も思う」

 

 

 未だに手に入れられていない『鑑定眼鏡』ですらレアリティSRである、という点を考えても、これがどれだけ険しい道のりなのかは推して知るべし。

 

 とはいえ、それらSRアイテムくらいは本当にまだマシで……。

 

 

「問題は一点物。LR以上のアイテムだな」

 

「LR……アリアンド王国の国宝でもある、あらゆる生物を乗りこなせるという『ベルレフォンの手綱』や、至竜が守るといわれる『ドラゴンオーブ』、北果ての賢者ホーリィが持つという『ニムバスの杖箒(つえぼうき)』、海向こうのウェストル大陸にあるエルフの国の秘宝『蓬莱の玉の枝簪(えだかんざし)』などですね」

 

「詳しいな、ナナ」

 

 

 『ニムバスの杖箒』と『蓬莱の玉の枝簪』。

 俺が知らないアイテムの名前がふたつもあった。

 

 こういうの聞いちゃうと、それがどんなアイテムなのかとかついつい妄想しちゃうよなぁ。

 

 

「わたくしの集落に時折やってくる旅の詩人の方が、よく歌ってくださいました」

 

「旅の詩人、吟遊詩人か……!」

 

「はい」

 

 

 はぇ~、意外なところに意外な情報ソースがあるもんだ。

 

 思わぬ情報をゲットしつつも、俺は話の軌道を元に戻す。

 

 

「そうしたこの世界にふたつとないアイテムも、俺は集めていかなきゃいけないんだ」

 

「それは……ともすればこの世界に混乱をもたらしてしまうのではないでしょうか?」

 

「そうだな。ふたつとあれば穏便に終わった話だが、そうは問屋が卸さなかった」

 

 

 俺の望む未来における最難関が、これである。

 アイテムコンプリートを目指す上で避けては通れない問題。それが――。

 

 

「一点物のアイテムは、正攻法じゃ手に入らない問題」

 

 

 俺の頭の中で禿げ頭のダンディが「な、なにをするきさまらー!」と叫んだ。

 

 

「国宝に手を出すのはもちろん、LRを所持していらっしゃる方々は、それこそ伝説とうたわれるものたちにございます。主様はいかように、それらを手に入れようとしていらっしゃるのですか?」

 

「ああ。それらのアイテムをどうやって手に入れるのか、それが俺の人生における重要な部分になる」

 

 

 だが、ナナの口から出た当然の質問に対して、俺は答えをひとつしかもっていない。

 

 

「当然、手段を選ばずに手に入れる」

 

 

 財力、武力、権力、信頼……使える力はなんでも使って、俺はアイテムを集める。

 

 

「それは……時には殺してでも奪い取る、ということにございますか?」

 

 

 俺の頭の中でもう一度、禿げ頭のダンディが「な、なにをするきさまらー!」と叫ぶ。

 

 だが、安心して欲しい。

 

 

「俺ならば、安易に殺す選択肢を選ぶ必要はない! ……《ストリップ》!」

 

 

 呪文を唱えると共に、俺の手のひらに握られるのは……ナナのパンツ。

 

 俺が買い与えた、小さなリボンがくっついてる可愛いブランドデザイン(HR)の奴である。

 

 

「ふえあ!?」

 

「この力があれば、相手の装備を強制的に解除し、俺の物にすることができる」

 

 

 そして装備を奪われた側はその分だけ弱体化し、俺から奪い返すのは困難になる。

 ううん、相変わらず完璧な能力だ。惚れ惚れするね。

 

 あ、パンツは返しておくね。

 

 

「だから、争うことはあっても、そうそう殺すことにはならない……はずだ」

 

 

 最悪は想定しているし、そのための盗賊殺し(れんしゅう)も重ねているが、あえて口にはしない。

 

 

「俺には『財宝図鑑』と《ストリップ》の魔法がある」

 

 

 目的があって、それを為すための特別な力がある。

 

 

「だから俺は、なんとしてでもアイテムコンプリートを成し遂げる。それが俺の、この世界で生きる指標だ」

 

「主様……」

 

 

 実際に口に出してみれば、意外とすんなり頭の中で考えがまとまった。

 

 

(力をつけ、レアアイテムを集め尽くし、世界の頂点に立つ。そのために、金を稼いで、情報を集めて、特にLR以上のアイテムには喰らいついていく)

 

 

 まとまったからこそ、自分が今どこにいるのかを理解して。

 

 

「……まぁ、まだまだ地固めだな」

 

「?」

 

「チャンスがあればもちろん動くが、今はまだ、俺自身の力が足りない」

 

 

 財力も、武力も、権力も、仲間も、まだまだ足りない物ばかりだ。

 

 

「だが、絶対に諦めるつもりはない。いずれ俺は、すべてのレアアイテムをこの手にするんだ」

 

 

 そうして世界を制覇(コンプ)して、その先で……!

 

 

(そう、そうだよ! ミリエラの魅了対策とかナナの救世の使徒様プレイとか、バッドエンドフラグを回避することばっかりに意識が向いてて、俺自身の掲げた最終目標をすっかり忘れてたぜ!)

 

 

 思い……出した!!

 

 

(アイテムコンプリートのその先で……俺は、自由にモノワルドを楽しみ尽くす!)

 

 

 最強最高の名の下に、そりゃもう自由に旅して遊んで暮らすのだ!

 

 

(なぜなら俺は、集めたアイテム引っ提げて、ゲームクリア後の世界を自由に歩ける奴大好きマン! ただ集めるだけじゃなく、集めたアイテムで楽しむまでが、俺のポリシー!)

 

 

 この日。

 俺は第二の人生でやりたかったことを、再認識した!!

 

 ただいま、俺。おかえり、俺!!

 

 

「……やはり主様は、特別なお方だった」

 

「ん?」

 

 

 やっべっ。

 ちょっと自分に浸りすぎて、ナナの言葉が聞こえなかった。

 

 

「今なんて言って――」

 

「主様!」

 

「うおっ!?」

 

 

 近い近い近い!

 いきなりナナに詰め寄られ、俺は仰け反った姿勢で話を聞く。

 

 

「主様の目的、わたくし大よそ理解いたしました。それが成し遂げられたとき、この世において間違いなく偉業と語られることであると、確信いたしております」

 

「お、おう」

 

「ですが……疑問があるのです」

 

「疑問?」

 

「はい。主様は救世の使徒……それがどうして、斯様なことをなさるのでしょうか?」

 

「えっ」

 

「偉業であるのは確かなのですが、ヒト種を安定に導く使命を帯びた方のすることとしては、いささか不思議なことだな、と」

 

「………」

 

 

 思い……出した!!

 

 

『――結果として、ナナをさらに騙す形にはなったが致し方ない』

 

『――連れ歩く限り、これからも嘘をつき続ける必要があるだろう』

 

『――それが手を出してしまった俺の、責任なんだから』

 

『――言い訳、考えとこ』

 

 

「……oh」

 

 

 言い訳、考えるの、忘れてたーーーーーー!?

 

 

(え、ちょちょちょ待てよぅ)

 

 

 世の中の安定を目指す救世の使徒が、世の中を混乱させるレアアイテム集めする理由?

 

 

(そ、そんなんどう考えればいいんだ!?!?) 

 

 

「主様?」

 

「うぇっ、あー、えーっと」

 

 

 信じて疑ってない真っ直ぐな瞳が、俺の顔をのっそりと覗き込んでくる。

 

 じわじわと、バッドエンドのイメージが、頭の中で展開していく。

 

 

『そんな、信じていましたのに……主様が主様でないなんて……神罰執行! てぇぇぇ!』

 

 

 ぐしゃぁっ!

 

 

『そう、やはりわたくしの人生に希望などなかったのですね。この世にもはや、未練はありません』

 

 

 ぶしゅー!

 

 

(……これは、やばい!)

 

 

 絶賛大ピンチな俺の頭の中には、QTEも、選択肢も、どっちも出て来やしない。

 

 

(どうする、どうする、俺!!)

 

 

 焦った俺の指先は、知らず『財宝図鑑』に触れていた。

 

 




竜牙剣(UR)
高位の竜の牙を素材に作られた強大な両手剣。
装備適性を問わず《イクイップ》することで竜の加護を受けることができる。
ただし、竜装備適性、斬撃武器適性、剣適性、両手剣適性のいずれかがB以上でないものは、加護の力に耐えきれず肉体を損傷する。ぶしゅーって血が噴き出る。
適性がない者でも1回は振れる程度の奇跡は許す、そんなアイテム。


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次回、二度あることは三度ある。


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第035話 世界は、狙われている?!

35話をお届けです!

実は入ってた2章の終盤。
センチョウ立志編(あるいはナナちゃんの章)をどうぞ見届けてやってください。

ということで、今回もよろしくお願いします。


 

 

 前回までの! センチョウ様は!!

 

 自らを救世の使徒様と呼び慕うライカンの少女、ナナちゃんをまんまと頂いたセンチョウ様!

 彼女を自分の従者というポジションに収めては好きに連れ歩き、服従させる!

 けれど内心では、彼女にいつ自分の嘘がバレてしまうかドッキドキ!

 

 嘘に嘘を重ねた結果、自分の人生の目標と現状の乖離に立ち往生!

 この難局、どうやって乗り切ろうというのか!!

 

 センチョウ・クズリュウ様も年貢の納め時なのか!!

 

 

 

「……って、聞いてございます? 千兆様?」

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……!!」

 

「これは、聞いていらっしゃらないでございますね。アーハァン」

 

「ヤババババババ、ヤバヤバい……」

 

 

 気がつけば俺は、『財宝図鑑』の中へと逃げ込んでいた。

 

 

(ここでの返答を間違うと、ナナが大変なことになって俺もバッドエンドだ!)

 

 

 考えなければいけない難問。

 

 世の中の安定を目指す救世の使徒が、世の中を混乱させるレアアイテム集めする理由。

 

 

(正直に、レアアイテムコンプしてその力で世界を遊び尽くすためですなんて言った日にゃ、即ジ・エンド!)

 

 

 敬虔な狂信者であらせられるナナちゃんにおきましては正義執行or自害!

 

 彼女の人生を預かってる俺としては、絶対回避したい気持ちSo many!

 

 

(考えろ! 考えろ、俺!! この状況を打開する、最高の(ハッタリ)を!!)

 

 

 救世の使徒らしい威厳を保ちつつ、世界を敵に回すほどの意義があり、かつ俺自身の行動を邪魔しないようなグレートな回答を!

 

 

「…………無理じゃん! そんなの!!」

 

 

 何をどうすればそんな都合よく便利な回答が生まれるってんだ!

 

 おう、神様仏様ゴルドバ様! 俺に都合よく状況を打破するアイテムをください!

 

 

 

「あのー、千兆様?」

 

「うひょっへーーーい!! うおっち!」

 

「ほほー。驚きと共にバク転からの後方伸身宙返りとは、8点でございます」

 

「アデっさん!」

 

 

 俺の呼び声にアデっさんは「はい、アデっさんでございます」と返してから、謎にカッコいい立ち姿を披露しつつ言葉を紡ぐ。

 

 

「千兆様は、こうだと思われるとそれはそれはもう真っ直ぐに突っ走られるお方でございますね。そこが個人的にはとても面白……こほん、好感が持てるところでございます」

 

「へい、アデっさん。こほんの前をもう一度頼む」

 

「ですがそれゆえに、見落としてしまったり勘違いしてしまわれたりすることがままございますのが玉に瑕なところでございます」

 

「へい、アデっさん。へいっ」

 

 

 どうやらアデっさんはセリフの途中で突っ込んでも聞こえないタイプのようですね。

 

 いやこっち見て笑ってるわ完全にわかってて無視してるわこの人。

 チックショー顔がいいなこの天使。

 

 

「それで、千兆様。この困難を乗り越えるために必要なのは、そこなのですよ」

 

「ようやく俺にパスが来た。そこってどこだよ」

 

「真っ直ぐに突っ走る。それが千兆様の良さなのですから、もうそこを突き詰めるしかないのでございます」

 

「……つまり」

 

「正直になればよいかと」

 

「正直に……」

 

 

 真っ直ぐに突っ走る。正直に。

 

 

(つまり、自分の意志に従って、真っ直ぐ、やれるところまで突き詰めろってことか)

 

 

 アデっさんのアドバイスを元に、心を落ち着かせながら考える。

 

 

(俺がやりたいこと。今求めている結末。ここから先へ繋がる選択肢……)

 

 

 俺は、アイテムコンプリートして世界を自由に楽しみまくりたい。

 ナナに俺が救世の使徒であることをアピールしつつ、それがその場しのぎじゃなく長期的に信じてもらえる状態まで持っていきたい。

 そのために必要なのは、どこまでも突き抜けた“大胆な”ハッタリこそが……正解!

 

 

「……そうか」

 

「あの子がいったい何を狂おしいほどに信じているのかを考えれば、おのずと答えは――」

 

「わかった! わかったぞ!! アデっさん!!」

 

「おお、わかられたのでございますね」

 

「ああ! もう完全無欠に大丈夫だ!」

 

 

 着想さえあれば、でっち上げるのは俺の十八番(おはこ)よ!

 

 

「……そのお顔からはわかってらっしゃらない気がヒシヒシといたしますが、面白そうなので放置しますでございます」

 

「ふっ、そう言ってられるのも今の内だぜ! 見てろよ、俺の一世一代の大見得だ!」

 

 

 俺は魂を『財宝図鑑』からモノワルドへと帰還させる。

 あの世界の時間にしてそれは、一瞬にも満たないほんのわずかな経過。

 

 そんなチート思考タイムを使い、俺は最上の答えをもって、ナナへと挑む!!

 

 

「……ふふっ、これは。ダメみたいでございますね」

 

 

 って楽しげな声が聞こえた気がしたが、今の俺には些末なことだった!

 

 

「待ってろナナ! 俺が、救世の使徒様だ!!」

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 目の前に、めちゃくちゃかわいい垂れ犬耳美少女の顔がある。

 

 

「ナナ!」

 

「はひゃい! あるじさま!」

 

 

 俺は視線をそらさぬままナナの両肩を掴み、むしろこっちこそ穴が開くほどに見つめ返す。

 

 

「ひえっ、あ、あるじさまの視線がナナを射抜き……これは、ご褒美にございますか?」

 

「聞いてくれ、ナナ。俺がどうしてレアアイテムを集めなければならないのかを」

 

「あっ、そうでございました。ですが肩を抱くのはそのままでお願いします、主様」

 

「わかった!」

 

 

 俺はご希望通りにナナの両肩を抱いたまま、話を続ける。

 狭いキャンプテントの中、強く見つめ合うなんてロケーション。さっきまでの俺には楽しむ余裕なんてなかったが、今は違う。

 

 

(今の俺はもう、ナナの問いにバッチリ答えることができる!)

 

 

 必要なのはチマチマした嘘の積み重ねではなく、大胆で派手な……ハッタリ!

 

 

「ナナ、俺が世界に混沌をもたらしかねないにもかかわらず、レアアイテムを集めるその理由は、だな……」

 

「その、理由は……?」

 

「この世界……モノワルドの、危機だからだ!!」

 

「!?」

 

 

 俺は大きく深呼吸して、真剣な目をしてもう一度、口を開く。

 

 

 

「世界は、狙われている!!」

 

 

「な、なんとーー!!!」

 

 

 

 俺の言葉に、ナナは垂れ耳がボフンッと跳ねるほどに驚きを露わにした。

 

 

「この世界が、モノワルドが、狙われているのでございますか!?」

 

「ああ、そうだ。近い将来……いや、遠い未来……いや、世界は狙われている!」

 

「なんと!」

 

「ナナ、これは緊急事態なんだ。いつか来るかもしれないその時のため、俺は準備をしなければならない」

 

「主様、それで……敵はいったい」

 

「そう! 敵だ! 敵がいつかやって来る! そのためには力が必要! そのための『財宝図鑑』!!」

 

「!?」

 

 

 ずっと俺のターン!

 

 アデっさん、技を借りたぜ!

 

 

「『財宝図鑑』を完成させ、大いなる力を練り上げなければ勝てない敵が来る。だから俺は、レアアイテムたちを、どんな手段をもってしてでもコンプリートするのだ!!」

 

 

 そう、これこそが俺の考えた策!

 

 いつか来る……かもしれないやべぇ奴がいるってことにする大作戦!

 

 

(強大な力を一点に集めるなんてのに正当性を持たせるには、そうしないと勝てない敵を作るのが一番だ。幸い俺が演じている役割は、ヒト種なんてでかい物をまとめてプラスに導く救世の使徒。だったらこのくらい派手な敵がいるってことを口にしても、許される!)

 

 

 もっとも、その敵が来るのは一年後か十年後、はたまた百年後、千年後かはわからないがな!

 そう、俺が明言さえしなければ、それがいつのことかなどいくらでも変えられるのだ!

 

 確かめようがない真実の前に、暴かれる嘘なし!!

 

 

「世界の危機……確かにその前には、対抗するべき力が必要……で、ございますね」

 

「だろう? 俺にこのアイテムが託されたのは、間違いなくそのためだ」

 

 

 いや、アイテムコンプを視覚的にわかりやすくするためだと思うけどね!

 

 

「世界の危機を前にしては、ライカンを含むすべての種族が力を合わせねばなりませんね」

 

「そうだ。だからナナが望む救世だって、俺の道の先にある!」

 

 

 アイテムコンプさえしてしまえば、その辺だって好きにできるだろう、多分。

 

 

「本当に、本当に主様は、そんな大業をなさろうとしていらっしゃるのですか?」

 

「ああ。そのためならば、俺は善行も悪行も、等しく目的のために果たしてみせよう!」

 

 

 そう、すべては俺のアイテムコンプリートという偉業の前の、コラテラルダメージ!

 

 

 

 力強く拳を握り、俺は最後の一言を告げる!

 

 

「俺の救世は乱世の果てに現れる、巨悪と戦うことこそが真の本番であると!」

 

「……!!」

 

 

 

 ――どうだ! 決まったか!?

 

 まるででっかい演説でもやり終えたかのような達成感を得ながら、俺はナナを見る。

 

 

「………」

 

 

 ナナは、俺の後ろに後光でも見えているのかってくらい、眩しそうに見つめていた。

 そんな彼女の視線に負けないよう、俺も真っ直ぐ彼女を見つめ返して、頷いてみせる。

 

 

「……主様」

 

 

 ゆっくりと、俺の手を離れ首を垂れて、膝をついた姿勢を取るナナ。

 

 

「改めて、ここに誓いたく存じます。このナナ、これより主様の使命を手伝いし従者として、この身果てるまでお仕えし、主様の望むがままの存在となることを!」

 

「ナナ……!」

 

「ですのでどうぞ、わたくしにお命じください。我が手足となって、その力を搾り尽くせと!」

 

「ああ、頼りにしている!」

 

「24時間おはようからおやすみまで、食事やお風呂、褥や厠のお世話まで、すべてわたくしに任せると!」

 

「ああ、それは要相談でな!」

 

「わぅぅ」

 

 

 カッコいい誓いから始まって、最後にしょんぼりしてしまったナナを見ながら、俺は。

 

 

「よしよし」

 

「はぁぁ、あるじさまぁ……」

 

 

 万感の思いで、心に描く。

 

 

(…………計画通り!!!)

 

 

 俺は難局を乗り切ったことを確信し、歓喜に打ち震える!

 

 

(これでナナは、俺のあらゆる行動の先にこの使命があると信じてくれる。そしてこの使命の真偽がわかるのは、ずーっとずーっとあとの話だ)

 

 

 俺はこのハッタリを嘘とは思わない。

 なぜならば、確かめようがないから!!

 

 未来のことなんて、それこそGRクラスのアイテムでもなきゃわからないだろうさ!

 

 

「俺が行く道は茨の道だ。それでも、ナナは付いてきてくれるんだな?」

 

「もちろんにございます。主様。この身はあなた様の望むがまま、不要と断じられるその時までは、命枯れ果てようともお傍に侍らせてくださいませ」

 

「ああ。その命、俺が預かる」

 

 

 うん。いつか狂信(バーサーク)が落ち着いた時には、幸せな道を改めて選んでもらうからな!

 とはいえここまで来たらもう、ずっと俺の傍に居てもらいたいものだけどな。

 

 

「はぁぁ。これ以上の幸せは、わたくしにはございません……」

 

 

 気づけばしなだれかかってきたナナが、めっちゃこっちを見てた。

 お目々ぐるぐる、お口はぁはぁで、瞳の中にはハートマークすら浮かぶ勢いだ。

 

 

「主様、わたくしの主様ぁ……」

 

「……あれ?」

 

 

 前より彼女の狂信度が上がってる気がしなくもないが、一時的なものだろう。

 ほら、さっきまでの俺、マジで救世の使徒様っぽかったしな!

 

 

「ナナ。使命を果たすためにもまずは、いい装備を揃えてもっとでかい仕事をこなしてさらに金を稼ぐ。そして購入できそうなお役立ちSR、URアイテムを集めながらLRに手を伸ばしていく。道は長いぞ?」

 

「はい、はい……あ」

 

 

 不意に、ナナの顔面が蒼白になった。

 さっきまでふわふわ桃色だった顔が、そりゃもう見事に真っ青だった。

 

 

 ……いや、一時的なものとは言ったけど、そこまで露骨に変わったら心配するよ、俺!

 

 

 




ブランド物のシルクパンツ(HR)
ふわふわさらさらの絹生地に可愛いリボンのワンポイントが施されたパンツ。
下着という装備ジャンルは、特にサキュバスによって道具開発競争が激しく、高レアリティの物でも比較的安価に手に入れることができる。
サキュバスは女性のみの種族であるが、男性向け下着にも抜かりなく情熱を注いでいるため、当然のように男性用サイズもご用意されています。


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次回、2章クライマックス!


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第036話 お仕置きと、大宣言!前編!!

36話をお届けします!
2章の締めとなる36話・37話は前後編です!


ついに始まる、その一歩。

それでは今回も、よろしくお願いします。


 

 俺の壮大なハッタリを前に新たに忠誠の誓いを立てたナナ。

 そんな彼女が浮かべていた桃色蕩け顔が一転、今は顔面蒼白、血の気が引いていた。

 

 いきなりのことに、俺はさっきまでの諸々を放り捨てて声をかける。

 

 

「ナナ! どうした、大丈夫か!?」

 

「あるじさま……」

 

 

 呼び掛けに応えて彼女が視線を向けるも、そこに生気は感じられない。

 

 

「わ、わたくし、なんということを。主様の使命に必要なお金を、わたくしのわがままのために、余計に……」

 

「……あ」

 

 

 すぐに何のことか、俺は理解する。

 

 お金関係で彼女がやらかしたことといえば、ひとつしかない。

 

 

「ベッドを壊したことだな?」

 

「……はい」

 

「なら、何の問題もない」

 

「え? あっ……」

 

 

 俺の方からナナを抱き寄せ、可愛い垂れ犬耳に向かって囁く。

 

 

「金額的にはとっくに黒字だ。ナナのおかげでな? それに、話を聞いた今ならわかる」

 

「んっ」

 

「怖かったんだよな?」

 

「……!」

 

 

 ナナとのキャンプスキット会話でわかったことがある。

 それは、彼女が故郷にいた頃は、愛される環境にいたってこと。

 

 

(だからこそ、孤独が苦手に、寂しがり屋になってたってこと)

 

 

 あのやらかしの時、ナナには寄る辺がなかった。

 さらわれて、闇市で売られて、そこから救い上げてくれた相手が、距離を置こうとした。

 

 それがどうしようもなく嫌で、衝動的にやってしまった。それが今ならわかる真実だ。

 

 

「あんな物があるから、独りになりそうになった……だもんな?」

 

「わ、わぅぅ」

 

 

 図星を突かれて、恥ずかしさからか真っ青だった彼女の顔に再び赤みが差す。

 

 

(今にして思えば、罰の与え方まで事前に用意してたのも、そこも踏まえて孤独になりたくなかったから、だったんだよな)

 

 

 間違いなくやり過ぎてたけど、理由を知れば現金な俺はいじらしさすら感じてしまう。

 それだけ彼女に必要とされているのだと、実感する。

 

 

(今はまだ、ナナがこの世界で独りになることは出来ないだろう。あの時、雑に放流するなんて選択をしなくて、心底ホッとしたぜ)

 

 

 なんだかわからないなりに感じてた危うさを、今ならもっと鮮明に理解できる。

 

 いや、今もなんか隙あれば救世の使徒様教を広めようとしそうな気配はあるけどね!?

 それはそれとしてって話。

 

 

 今、ナナを一人にしちゃいけない。

 

 

 

(一見奔放に見えるナナの振る舞いは、今は、俺が傍にいるからできるんだろうな)

 

 

 孤独が苦手なナナが、俺がいるから大丈夫だと言った。

 だから、どんな形であっても、俺が傍にいることに意味はある。

 

 っていうか、誰にも文句は言わせない。

 

 なぜなら俺が、ナナの救世の使徒様なんだから。

 

 

「ベッドの失態なんて、もうとっくの昔に取り戻してくれてる。むしろ今更その責任を感じて気後れされる方が困る」

 

「ぁぅ……」

 

「むしろ一生懸命頑張ってくれるナナには、その分報いてやらないといけないと思う」

 

「……わぅ」

 

 

 俺なりの方法で、ナナが喜ぶ形で、孤独から遠ざける。

 

 

「俺の知る限り、ナナが一番喜んでくれるのは、俺がナナに何かお願いをすること」

 

「……そ、そうでございます、ね」

 

「というわけで……添い寝ご奉仕をお願いしようか? 今はあんな物もない、同じテントの中なんだしな?」

 

「は、ひぅっ、はい。あるじさまぁ……」

 

 

 俺から願い事を口にすると、ナナはわかりやすく顔を真っ赤にしてうつむいた。

 受けに回ったナナはどこまでも従順で、愛らしい少女だった。

 

 っていうか、正直に言うと、ムラッと来るものがある。

 

 

(俺はこんな可愛い子を、誘われるがままとはいえ、2度も……)

 

 

 ………。

 森の中、二人きり。

 

 

「……どうぞ、ナナを抱き枕にでも、寝入りの子守唄を捧げるオルゴールにも、いかようにも扱いください」

 

 

 こちらを見つめる潤んだ瞳に込められているのは、明らかな期待の感情。

 それだけで、言葉以上の何かを求められているのは明白で。

 

 

「ナナが、一番喜ぶこと……」

 

「………しおきを」

 

「?」

 

「……おしおきを。同じ過ちを犯さぬよう、しっかりとわたくしに、刻み付けてくださいませ」

 

「………」

 

 

 ……ははっ。バーロー。魅了耐性向上の指輪があっても耐えられるかこんなもん!

 

 

「だったら、あんな失敗は些事だったって、ナナに教えてやらないとな?」

 

「へぁ、あ……あるじさま……?」

 

 

 ナナと一緒に依頼をこなした日の夜。

 俺は彼女と改めて距離を近づけ、自分の目的を思い出し、そして。

 

 

「お望み通り。たーっぷりお仕置き、してやるからな?」

 

「……………………はい。わたくしの、あるじさまっ」

 

 

 全力全開で、ナナが幸せになるお仕置きをしたのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 連環都市同盟第13の町、ガイザン。

 その一角、ダンディなおやっさんが経営する冒険者の宿。

 

 

「おいおい、手ぶらで帰ってきたぜ。やっぱあの依頼は荷が重かったんだな!」

 

「そりゃそうだ。装備を破壊するモンスター相手に、動きがいいだけで勝てるもんかよ!」

 

「へへっ、何が白布だ。どうせ大した奴じゃな、あ、すいません睨まないで下さいお嬢様」

 

 

 戻ってきた俺たちを迎えたのは、あの日と同じ面子からの歓迎の言葉。

 そいつらに満面の笑みを向けながら、俺とナナはおやっさんの待つカウンターへと急ぐ。

 

 ナナの前回の振る舞いと、今回の睨みが効いたのもあって、妨害はゼロだった。

 

 

「おう、お帰り。お前ら、5日も顔を見なかったから、てっきりここの事なんざ忘れちまったんだと思ってたぜ」

 

「ハッ、おやっさんの顔と声は中々忘れられないっての」

 

 

 相変わらずダンディなバリトンボイスのおやっさんに軽口を返しつつ、俺は不敵な笑みを浮かべる。

 それだけで察してくれたおやっさんは、店の他の客を見回して、俺に頷いてくれた。

 

 

 OK、()()()()()()()とお墨付きだ。

 

 

 

「ナナ」

 

「はい」

 

 

 俺の呼びかけに即座に返事をしたナナが、事前の打ち合わせ通り目立つよう、ダンッと音を立てて床を踏みしめカウンターの椅子の上へと飛び乗る。

 

 突然のことになんだなんだと彼女に視線が集まれば、ナナはフードを目深に被り直して声を張った。

 

 

「この成果が、目に入らぬか!!」

 

 

 ナナが腕振り示したカウンターテーブルに向かって、俺は『財宝図鑑』をかざす。

 

 

「おい、お前。何を……?」

 

「悪いなおやっさん。ちょっと度肝を抜かれてくれ」

 

 

 さすがにここまでは予想してなかったのか声を出すおやっさんに先に謝り、俺は宝物庫からそれを取り出した。

 

 

「さぁ、これが。本物の冒険者の仕事って奴だぜ! 野郎共!!」

 

 

 瞬間。

 光を放つ『財宝図鑑』から溢れ出すのは、パラスラフレシアの花弁!

 討伐の証であり、同時に高級食材でもあるそれを、俺はテーブルの上にドバーーーッ!っとぶちまける!!

 

 

「なっ! あの本、収納系のアイテムだったのか!?」

 

「そんなレアアイテム聞いたことねぇぞ!?」

 

「ってかおい、あれ見ろ! パラスラフレシアの花弁が……!!」

 

 

 ドバーーーッ!! っと出しまくってその数、花弁5枚×200体……じゃ、終わらない!

 

 

「ぶぁっ!? カウンターテーブルじゃ収まらねぇ!」

 

「あ、あれ全部本物なのか!?」

 

「う、嘘だろ!?」

 

 

 ハッハッハ! 見たか!

 っていうか、あんなに楽に稼げる狩りを、一日で終わらせるわけがねぇのさ!

 

 

「おい、白布。お前……どんだけ狩ってきやがった!?」

 

「それは、どうせおやっさん自身が確かめるだろ? でもま、こっちでもちゃんと数えてきたから安心してくれ」

 

 

 さぁ、さぁさぁさぁさぁ野郎共!

 

 怯えろ! 竦めぇ! 自らの可能性を試さないまま店で燻り続けた自分たちを顧みろぉ!

 

 俺とナナが、二人でパラスラフレシアを狩ってきたのは、3日間。

 森の生態系を侵食するレベルで大量繁殖していたこいつらをバリバリに狩って、狩って、狩りまくってきたその総数!!

 

 

「持ってきたパラスラフレシアの花弁の数は5千枚。つまり、討伐してきたこいつらの数は……区切りよく、1000体だ!」

 

 




次回!

2章のラスト、37話は明日更新します!

よろしくお願いします!


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第037話 お仕置きと、大宣言!後編!!

37話をお届けします!

これにて第二章完結です。


 

 集めたパラスラフレシアの花弁。

 その数、1000体分!!

 

 花弁の津波でカウンターどころかおやっさんの足の踏み場すら埋め尽くし、ぐっちゃぐちゃにしたところで、俺は店の客たちを見回す。

 

 

「ば、千体……だって!?」

 

「マジかよ! 信じられねぇ!」

 

「しかもあの花弁、どれも質がいい状態で処理してあるぞ!!」

 

「いったいいくらになっちまうんだ!?」

 

 

 さっきまで俺たちを歓迎してくれてた奴らも含め、全員が驚き一色に染まっていた。

 

 ああ、俺は。その顔が見たかった!

 

 

「《イクイップ》」

 

 

 俺はここぞとばかりに赤が主体の見た目が派手な装備に衣装チェンジし、声を張る。

 

 

「聞け! これこそが冒険って奴だ! 俺はそれを成し遂げた、真の冒険者だ!!」

 

「なっ! 何を言ってやがる!」

 

「いや、これはマジでやべぇってヨシ君!」

 

「あいつ、マジモンだ!」

 

 

 目に見える成果と共に叩きつけた言葉は、想定通りに力を発揮している。

 

 今、この場を支配しているのは、俺だ。

 

 

(だからこそ、この言葉はちゃんと、みんなに伝わる!!)

 

 

 確信をもって、俺は大きく息を吸い、再び声を張り上げた。

 

 

「俺は白布! 将来ビッグになる男だ! 俺が求めているのはレアアイテム! それもSR(スーパーレア)UR(ウルトラレア)なんてレベルじゃない。その上、LR(レジェンドレア)WR(ワールドレア)GR(ゴッドレア)すら求めている!」

 

「!?」

 

「ご、GRなんて本当にあるわけが――」

 

 

 そんな言葉じゃ止まらん!

 

 

「俺の歩みにいっちょ噛みしたい奴は、レアアイテムの情報を持ってこい! あの白布様の偉業に自分は関わったんだって、ガキに自慢する栄誉をくれてやる! 俺より先にレアアイテムを手に入れて、対抗するなら望むところだ! 必ずお前を追い詰めて、そのレアアイテムを奪ってやる!! 覚悟しろ!」

 

「なっ、なにぃ!?」

 

「こいつ、俺たちに喧嘩売って――ひっ!?」

 

 

 相手が動くより先に、その足元に投げナイフを突き立てる。

 今適用されたのは、ナイフ装備適性か、はたまた投擲武器装備適性か。

 

 どっちにしても、天才的()だがな!

 

 

「俺がいない時はここのおやっさんに告げ口しとけ! 使えるネタなら後でおやっさんを通して金を出す! 俺に支払い能力がないなんて、今この時に言える奴はいないよな?」

 

「………」

 

 

 そう、誰も言えるはずがない。

 このうず高く積み上げられた、高級食材の山を見て、な?

 

 

「……商会連に、目を付けられるぞ?」

 

「そこはおやっさん、何とかしてくれ。報酬はこの売り上げの5%くらいで」

 

「……フッ。ドバンがお前を手放したがらないわけだ」

 

「いや、あの爺さんそろそろネタ切れくさいからこっち来たんだがな?」

 

 

 とか言いつつ、いい情報仕入れてくれそうだから今後も通うけど。

 

 

「ってことで、おやっさんとは話がついたから、今言ったことは全部実行される」

 

 

 もはや唖然として黙り込んでしまった他の冒険者たちを一瞥し、俺は椅子上のナナを見上げる。

 彼女は待ってましたと頷くと、今度は軽やかに椅子の上から飛び上がり――。

 

 

「うおっ!?」

 

「ひぃっ!」

 

「な、なんだ!!」

 

 

 さっきから一番騒いでいる冒険者の席の前に着地した。

 

 

「さぁみなさま、祝福の声をお上げください。今からここは、わたくしの主様……白布様の輝かしい道行の始まりを祝う場となります」

 

「は?」

 

 

 ナナの言葉を訝しむ連中の前に、何よりもわかりやすい動機をプレゼントする。

 

 

「今日、この時から店の務め終わりに至るまで……すべての飲み食い宿泊代は、わたくしの主様がお支払いくださります」

 

 

 ナナが懐から取り出したのはお財布、お金専用収納アイテム『ガマグチ君』。

 逆さにされたガマグチ財布の開いた口からは、ザザーと音出すゴル金貨の滝。

 

 

「は?」

 

「ひ?」

 

「ふ?」

 

「へ?」

 

「ほぉ~~~~~~!?!?」

 

 

 ついに登場したキラキラ現ナマを前に、冒険者たちの目の色が今度こそ変わった。

 

 俺はその隙に、収納アイテムでパラスラフレシアの花弁を回収するおやっさんに声をかける。

 

 

「ってことで、おやっさん。今日の店の支払いは全部俺持ちで」

 

「好きにするといい。今日の主役はもう、お前なんだからな」

 

 

 すっかり呆れ果てた様子のナイスバリトンを心地よく聞いてから、俺は頭の上で拍手を打つ。

 

 

「!?」

 

「さぁ、ってことで好きに騒いで、好きに飲み食いして、好きに泊まっていけ! その代わり、俺の言葉を忘れるな! 俺は白布! 冒険者! 求める物は……」

 

「「レアアイテム!!!」」

 

 

 コール&レスポンスもパーフェクト。

 

 これにてミッションコンプリート、だな!

 

 

 

 ……こうして白布、こと俺、センチョウ・クズリュウは世界に覇を唱えた。

 

 地方都市の冒険者の宿っていう、世界からしてみれば小さな小さなその場所で。

 

 

「主様!」

 

「お疲れ様、ナナ。ありがとうな」

 

「わぅぁぅ、いきなりの耳なでなで。心地よく……すべては主様のお望みのままに、でございます」

 

 

 小さな小さな仲間と共に。

 

 

「現金報酬200万gだと? やれやれ……とんでもない奴が出てきたな」

 

 

 とりあえず当面の金をゲットしつつ。

 

 

「……やるぞ、アイテムコンプリート!!」

 

 

 俺の心は意気軒昂!

 

 レアアイテムコンプリートへの道を、着実に歩み始めるのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 数日後。

 これは俺がいない時に起こった、冒険者の宿での会話。

 

 

「ここ、妙に活気があるのね?」

 

「なんだ、知らないのか眼鏡の嬢ちゃん。ここはな、白布様のお膝元なんだぜ」

 

「白布?」

 

「そうさ! レアアイテムハンターの白布様さ!」

 

「すっかり焼け焦げてた討伐依頼を華麗に解決、そこで200万gの大金を得た期待のルーキー!」

 

「一人の可愛い女の従者を連れて、望む狙いが――」

 

「「レアアイテム!!」」

 

「!?」

 

「おっと悪いな。最近このノリが定着しちまってよ。俺たちも冒険するようになってから羽振りもよくなったんで、気がでっかくなってんだ」

 

「……問題ないわ。それで、その白布って人はどちらに?」

 

「さぁな、今日もレアアイテムを求めて闇市歩いてるか、金払いのいいところの依頼受けてハッチャケてるか。あの人の動きはさっぱり読めねぇんだ」

 

「あ、でも確か……マスターの知り合いのとうひ……ごほん。商人のところには、よく足を運んでるって話だぜ」

 

「バランだったかドバンだったかいう名前の爺さんな」

 

「なんかレアアイテムの情報があるなら、おやっさんに話すといい。白布に話を通して、真偽を確かめたところで相応の金をくれるからな」

 

「そうなの?」

 

「おうよ、おかげで俺たちもレアアイテムに目を光らせるようになっちまってな。だからさっきみたいなノリがこう、つい……」

 

「なるほど、レアアイテム……そう、だったら」

 

「なんだい、美人な只人(ヒューマ)のお嬢ちゃん。情報に当てでもあんのかい?」

 

「……ええ。まぁね。だから私」

 

「?」

 

「その人に……白布に、会いに行くわ!」

 

 




いざ、異世界モノワルドに新たなプレイヤーのエントリーだ!

ということで、これにて第二章完結です。
いよいよ白布が、、センチョウ・クズリュウの名前が、世界に広がり始めます。

第三章のお話も書き進めていますので、これからもよろしくお願いします!

感想、高評価、レビューなどなど、応援いただけたら嬉しいです。


次回、新章突入!


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第3章 冒険編
第038話 レッツプレイカジノ!


38話をお届けです!

ということで、新章突入!
ようやく冒険らしい冒険の始まり、始まり?

そんなこんなで、改めまして。
センチョウたちの物語を、どうぞよろしくお願いします。


 青い空、白い雲。

 ……とは縁遠い濃い黒雲が空を覆う、雨の日の連環都市同盟第13の町、ガイザン。

 

 通りにいるのは急ぎで家から家へと駆ける者か、野晒しに耐え震える者か、死体だけ。

 こんな日は道を我が物顔で歩くならず者も屋内で騒ぐが常ならば、冒険者もまた同じ。

 

 そんなわけで冒険者“白布”こと、俺――センチョウ・クズリュウとその従者であるナナも、絶賛屋内活動中である。

 ただし滞在している場所は、高級宿屋でもなければ冒険者の宿でもない。

 

 

「がぁぁぁぁ! 俺様のメダルがぁぁぁぁ!!」

 

「ひゃっほーぅ! スリーSだ!! 発展こーい!!」

 

「黒の6黒の6黒の6黒の6……! 来て! こいこいこいこいこい!!」

 

「赤の9です」

 

 

 老若男女が阿鼻叫喚。

 

 

「きちゃぁぁぁぁ! U・N・K・OとC・H・I・N・K・Oのダブル!!」

 

「ご無礼、ロン。タンヤオ、ピンフ、赤ドラ込みのドラ4。跳満で」

 

「お客様に絶望を。こちら3と7とA、合わせて21でございます」

 

「「ぐあぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

 一瞬の判断で明暗がわかたれる。

 

 

「行け! 私の緑ヌメリー!! 行くのよ!! ゴールまで滑り抜きなさ~~い!!」

 

「残念! 勝つのはアタシの賭けた黒ヌメリーでした!」

 

「も、もうこれ以上は毟らないでくれ! 俺の財産が……!」

 

「いいや、5000枚じゃ終わらねぇ……倍プッシュだ」

 

「ぐにゃぁぁ~~~……」

 

 

 勝った者が毟り取り、負けた者が蹂躙される。

 

 そう、ここは……!

 

 

「ようこそお客様! ガイザン都市長認可ブロンゾ商会主催のカジノ“底なし沼”へ!」

 

 

 遊戯の祭典、カジノだ!

 

 

「《イクイップ》上等! この世の天国と地獄、どうぞお楽しみくださいね!」

 

「ああ。存分に満喫させてもらうぜ。存分にな」

 

 

 俺は今、ガイザン三大歓楽スポットのひとつへと、遊びに来ていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「いいねぇ、どこもかしこもエネルギッシュだ」

 

 

 至る所から聞こえる悲喜交々の声たちに、俺は娯楽と破滅の町たるガイザンの神髄を見る。

 誰もが熱に浮かされ、狂気の沙汰を楽しんで、のめり込んで、命を削っている。

 

 俺の懐にも、そんな舞台に立つためのチケットはすでに握られている。

 来てすぐに金銭と交換した、カジノメダルが5万枚ほどストックされた『カジノカード』。

 

 今はとりあえず見に回ってじっくりと、ひとつひとつ卓を巡って観察し、そこで熱狂とともに繰り広げられる勝者と敗者の輪舞曲(ロンド)を、ただの野次馬感覚で楽しんでいた。

 

 

(いやほんと、ブルジョアな世界だな。転生しといてあれだが、普段の場所と違う異世界感があるぜ)

 

 

 こんな場所に足を踏み入れたのも、このあいだの依頼でガッポリと儲けが出たからである。

 

 ナナと二人で行なった、ヒュロイ大森林でのパラスラフレシア狩り。

 天敵だった獣人種(ライカン)たちがいなくなり、ヤバいくらいに大量発生していたところを狩って狩って狩りまくり、かっぱいできた高級食材で稼いだ額は200万(ゴル)

 

 

『くっくっく、度肝抜かれたろ? おやっさん』

 

『ったく、しょうがねぇなぁ。ほらよ』

 

『は? なんで即金あるの? 金づるなの?』

 

『誰が金づるだ、誰が。おい。言っておくがな、白布。これ、ポンと出してる額じゃねぇからな? 勘違いするんじゃないぞ?』

 

 

 物が換金されるまでそれなりに時間がかかると思っていたのだが、そこは俺の見込んだ冒険者の宿のおやっさん。なんと即金で支払ってくれた。ご立派ぁ!

 大量発生した高級食材なんて厄ネタでも、なんとなく上手に捌く伝手はありそうな雰囲気だったし、彼にはうまいこと自分の儲けを出してくれることを願ってやまない。

 

 価格破壊だとか販売数調整だとかぶつぶつ言ってたけど、なんのことかオイラわっかんない!

 

 

 

「……とまぁそんなわけで、稼いだ金を有効活用するべく、カジノに来たのである」

 

 

 正確に言うと、金である程度まとまった数のメダルを買い、それを元手に増やして増やしてレアアイテムをゲットするのが目的だ。

 ちなみにガイザン統一規格で、メダルはゴル金貨と1:1交換である。

 

 

「あ、あるじさまぁ……」

 

「ん? どうした、ナナ?」

 

 

 不意に後ろから声をかけられて、俺は振り返る。

 そこに立っていたのは我が親愛なる従者にして救世の使徒に仕えし巫女(自称)のナナだ。

 

 さっきもちょっと名前を出したライカンの少女で、先日のモンスター狩りでは大いに活躍してくれた立役者でもある。

 

 そんな彼女は今――。

 

 

「こ、これは……わたくしが着るにはいささか攻めすぎではございませんか?」

 

 

 バニースーツを、着ていた。

 

 レザー素材のオフショルダーなハイレグスーツは、光を反射する彼女の白金の髪に負けない薄めの青色。

 そこに素肌が透けて見える薄い生地の黒い網タイツを穿かせ、首輪を模した白いチョーカーを取り付ける。

 うさ耳ヘアバンドや真ん丸白しっぽの代わりに自前の垂れ犬耳とふわふわしっぽをモロ出しにした姿は、バニーガールならぬわんこガール。

 

 今回のお出かけのために俺が防具屋(特殊)で買い揃えた、戦闘服である!!

 

 ……戦闘服である!!

 

 

「よく似合ってるぞ、ナナ」

 

「わ、わぅぅ……」

 

 

 恥ずかしがるナナに対し、俺は心の底から湧き上がる本音で彼女を褒め称えた。

 

 

「うう、わたくしだけが色々とその、小さいので……」

 

「何を言ってるんだ。そこがいいんだぞ」

 

 

 周りを見れば、スタイル抜群のお姉さんやムキムキお兄さんがそこら中にいる光景。

 そんなのを見せられてしまっては、彼女が不安がるのも最もではある。

 

 

(確かに、この手のボディラインを前面に出した衣装は、スタイルがいい人の方が映える)

 

 

 だがしかし、だがしかしである。

 

 ストンとした胸部からぷにぷに腹部へ至る体のラインもまた、そこから形の良い尻と健康的なむっちり太ももへと繋がるところも含め、この衣装はナナの魅力を引き立てている。

 

 あえてミスマッチとも言えるところを攻め、新たな価値を生み出すこともまた、ファッションの道のひとつであると俺は信じているのだ。

 

 その証拠に、こちらに注目している奴らの声に耳をすませば……。

 

 

「あの犬のライカンの真似してる子。ちょっとここらで見ないタイプだよな」

 

「なんだろ。普段見慣れてる衣装でも、ああやって違う体型の子が着るのを見ると新鮮に感じるわね」

 

「ロリぷにボディスーツはぁはぁ……!」

 

「うーむ、あれはもしや、本物のライカンではないかね?」

 

「それはない。このご時世で本物のライカンを連れ歩くとはさすがに正気を疑うだろう」

 

「ほっほ、そうですな」

 

 

 お聞きの通り、反応は上々。

 俺の考えはある程度世間に通じるものだとひと安心である。

 

 え? 俺の装備?

 そんなもん黒の燕尾服と正体隠し用の仮面つけてるだけだよ!

 身バレしそうな『ゴルドバの神帯』と『財宝図鑑』も見えないよう、服の中に縛りつけて偽装済みだ。

 

 そんなことより……。

 

 

「それはそれとして聞き捨てならん奴がいたから、ナナは俺の傍を離れないようになー?」

 

「は、はい。わたくしは、いつも主様のお傍に侍っております」

 

 

 このどちゃくそ可愛い子は俺のです。

 そしてこの子を着飾っているのはあくまで! 俺の! 趣味嗜好!!

 

 近づいてきたら《ストリップ》で一発全裸にするんで……オス! 夜露死苦!!

 

 

(それに、こうやって色々な経験をさせてやれば、なんかの拍子にナナの狂信が解けるかもしれないしな)

 

 

 いわゆるショック療法という奴である。

 俺から何かされるのを喜ぶナナの、性癖に合わせながらの治療行為!

 

 俺によし、ナナによしの一石二鳥の策。

 

 我ながら死角のない完璧な作戦である!!

 

 

「……主様のためでしたら、わたくしはどんな姿にもなってみせます。ですから、これからも色々な服を着せてくださいませ、ね? あるじさま?」

 

「はっはっは、任せろ! これからも着せ替えまくってやるからな!」

 

「はい。その時は、また……可愛がってくださいね?」

 

「………」

 

 

 ところで、ご存じですか?

 

 装備で補正が入るモノワルドじゃ、コスプレは一般性癖(艶人種(サキュバス)調べ)なんですって!

 

 

「……はい」

 

「わふ、ふへへ……」

 

 

 着々と、可愛い従者に骨を抜かれてしまっている俺であった。

 

 

 




カジノカード(R)
カジノメダルのみをストックする、ハイレベルな仕上がりのカード型収納アイテム。
Na〇coとかSui〇とかみたいに、対応するアイテムを前に、ピッてやって使う。
場所場所によって違うカジノカードを作らされるが、逆にそれを求めて集めて回っているマニアなどもいるらしい。
なお、同場所産のカード同士ならメダルのやり取りができるため、ジャイアニズムによるご無礼も多発しているらしいが、基本的に運営側はノータッチである。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
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次回、センチョウに狙いあり?


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第039話 スーパースロットを攻略せよ!前編!!

39話をお届けです!

今回は前後編の前編ですが、のんびり投稿なのをご容赦ください。
ホップステップジャンプのステップ回です。

それでは今回も、どうぞよろしくお願いします。


 

 

 

「さて、それじゃそろそろどこかの席に着こうか」

 

「色々な遊戯がございますし、目移りしてしまいますね」

 

「だな」

 

 

 そろそろ何かやってみようということで、俺とナナはカジノの中をウロウロする。

 

 

 

「ツモ、でございます。点数は2000オール」

 

「おお」

 

 

 麻雀。

 

 

「……とぅ! ど真ん中にございます」

 

「ナイスブル!」

 

 

 ダーツ。

 

 

「わぅ。5、J、10でバーストにございますね……」

 

「親の18に対して俺は19、仇は取ったぞナナ!」

 

「あるじさまぁ!」

 

 

 ブラックジャック。

 

 物見遊山に色々なゲームを楽しみ、他の殺伐とした雰囲気の中でほのぼのとした時間を過ごす。

 初心者丸出しだったおかげか、俺たち……特にナナは、お店側にずいぶんと優しくしてもらえた。

 

 特に。

 

 

「か、勝ちました! 主様! 弱いツーペアでございましたが、運が良かったです」

 

「おー、やったな」

 

「流石でございますな、お嬢様」

 

 

 賭けたメダルが少数だったのもあっただろうが、ポーカー卓のマスターだった老年のディーラーさんには、ほぼほぼ孫っ可愛がりされる感じでナナが勝たせてもらった。

 

 

「カジノ、楽しゅうございますね。主様!」

 

「そうだな」

 

 

 これが初心者をカジノ中毒にさせる準備だって口にするのは、野暮なのでしない。

 この笑顔をわざわざ曇らせる必要はないのだ。

 

 純粋に楽しんでるナナに対し、勝ちを狙った俺の勝率は五分五分といったところだった。

 実を言えばもっと勝とうと思えば勝てたんだが、後々の本番のためにも悪目立ちを避けるため、抑え気味に立ち回っていた。

 その辺りの勝たないための立ち回りなんてのが出来るのも、装備適性Aのすごさである。

 

 

 

 そして。

 

 

「……ふむふむ、なるほど」

 

「ああ、惜しかったですね。主様」

 

 

 やいのやいのと遊びまわってる俺たちが今プレイしているのは、1レーンスロット。

 簡単に言えば、回転する絵柄をボタンを押して止め、3つの絵柄が揃えばメダルが増えるというゲームだ。

 

 座った席の筐体を《イクイップ》して、俺はとりあえず数回プレイする。

 

 

「よし、次」

 

「わぅ?」

 

 

 隣の席に移動し《イクイップ》してまた数回、移動し《イクイップ》してまた数回、と同じ作業を繰り返し、当てたり当てなかったりを重ねていく。

 

 

「……おや、主様。さっきよりも当たりの数が増えてまいりましたか?」

 

「ん? ああ、そうだな」

 

 

 ナナが気づいたところで、俺も確認完了。

 

 最後にSの文字を3つ並べて大当たりの音を響かせ、『カジノカード』のメダルの数が増えるのを見届けてから、俺は席を立ち、目的の場所へと向かう。

 

 

(すでに注目、されてたみたいだな)

 

 

 店員の中の何人か、そして常連らしき客のいくらかの、鋭い視線を感じる。

 可愛いナナではなく俺を見つめる、警戒と、期待の視線。

 

 

「さぁ、本番だ」

 

 

 向かったのは店の中央に設置された特別ステージ。

 遊んでいるあいだに何度も何度もアナウンスされた、この店の目玉ゲーム。

 

 

「ぐあぁぁぁぁ!! ボクのメダルぅぁぁぁあ!」

 

 

 叫びを上げて膝をついた青年が、ステージから降ろされて。

 

 

「さぁさぁ! 次なる挑戦者はいないかぁ? ここ“底なし沼”最大レートの1プレイ1万メダルの『スーパースロット』!! オールSを出せばジャックポット! 今なら514万メダルがアナタの手にーー!!」

 

 

 図ったかのように再びアナウンスされたそれに。

 

 

「はいはいはーい、挑戦しまーす!」

 

 

 堂々と、名乗りを上げる。

 

 

「来たか!」

 

「出たぞ挑戦者!」

 

「さぁ新たな犠牲者だ!」

 

 

 周りのどよめく声と注目に、俺はゾクゾクとした心地よさを感じながら。

 

 

「はーい、ようこそ挑戦者! ステージの上へ!!」

 

 

 このゲーム専属らしき実況者に導かれ、ナナを連れて壇上へと登る。

 

 

「新たな挑戦者に拍手を!」

 

 

 歓声とともに響き渡る怒涛のような拍手が俺に、ここが勝負所であることを自覚させた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「さぁ、簡単に『スーパースロット』についてご説明しましょう! これはハイリスクハイリターンの発展型1レーンスロット! 通常の物と違い5つの絵柄を揃える必要がございます!」

 

 

 実況者の説明を聞きながら、俺はこれから挑む敵を見上げる。

 そう、見上げるほどの大きさの1レーンスロットがそこにはある。

 

 デカデカと5つの絵柄を表示するスロット台と、それらに対応する5つのボタンが置かれた台座。

 台座の横には大きなレバーがついており、それを引くことで新たなゲームの始まりを告げる仕組みだ。

 

 

「1万メダルをカードから読み取りベッドすることで、レバーは回せるようになります! あとはタイミングよくボタンを押して、5つの絵柄を揃えるだけ! 単純にして明快なゲームです!」

 

 

 シンプルイズベスト。

 わかりやすいことこの上ないルール説明に、ギャラリーが盛り上がる。

 

 レバーを引いてボタンを押す。たったそれだけで1万メダル……1万gが消し飛ぶのだ。

 さっきまで遊びまわっていたゲームたちとは文字通り桁違いの掛け金に、俺は息を呑む。

 

 

「このゲームは特別に《イクイップ》以外に自己強化系の魔法の使用もありとなっております! 己の動体視力、素早さ、精神力、なんだろうが上げて挑まれて結構です!」

 

 

 実況者の言葉からは、絶対の自信が感じられる。

 その自信の理由は客席からの声で理解できた。

 

 

「このゲーム、前に魔杖適性A、学帽適性Bの“予測の魔女”でもダメだったんだろ?」

 

「ええ。先読みしてもちゃんと押せなきゃダメ。かといって身体能力特化でもダメよ」

 

「ゴーグル適性Aの“鷹の目”が支援魔法もらってもダメだったらしいからな」

 

 

 ギャラリーから次々と語られる、敗北者たちの話。

 それらはまるで、俺に対して「お前もダメだ」とでも言うような口ぶりだった。

 

 

「さぁチャレンジャー! 挑戦回数は?」

 

「5回だ」

 

 

 再びのどよめき。

 もうすっかり、何を言っても勝手に回りが盛り上がる状態みたいだな。

 

 

「カジノカードを確認します……OK、しっかり入っております! 台座の前へ! あ、お連れの方はそこで待機をお願いしますね!」

 

「了解。ナナ、見ててくれ」

 

「……はい。ご武運を、主様」

 

 

 ナナに見守られながら、俺はスロットを動かす台座の前に立つ。

 カードの読み取りセンサーに『カジノカード』を触れさせれば、ガチャリとレバーのロックが外れる音がした。

 

 

「……《イクイップ》」

 

 

 呪文を唱える。

 瞬間、最も適切な装備適性が適応され、俺は『スーパースロット』を装備した。

 

 

「さぁ! 準備万端! ゲームスタートだぁ!!」

 

 

 実況が張り上げた大声に、この場の誰もが声を上げる。

 新たな挑戦者が勝者となるのか敗者となるのか。

 

 その瞬間を今か今かと待ちわびていた。

 

 




“底なし沼”のスロットマシーン(HR)
メダルを投入、レバーを回してスロット回転、ボタンを押して絵柄を揃えるシンプルなデザインのスロットマシーン。
ひとつひとつが遊戯具職人入魂の一品で、お客様のイライラパンチにも負けない頑丈性を持っている。
ちなみに、設置系アイテムへの《イクイップ》は、装備者がアイテムから一定距離を取ると自動で装備が解除される仕様である。


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次回、出るか?! ジャックポット!!


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第040話 スーパースロットを攻略せよ!後編!!

40話をお届けです!

ホップしてステップしたのでジャンプ!
どうぞお楽しみください。

それでは今回も、よろしくお願いします。


 

 

 俺は、スロットを回す。

 

 

「S! S! 猫! 鈴! S! 残念っっっ!!」

 

 

 メダルをチャージし、再び回す。

 

 

「猫! コッコ! コッコ! S! ナス! 2回目も揃わない!!」

 

 

 実況者の声に、ギャラリーの落胆する声が被さっていく。

 

 

「今ので2万メダル消えたのか?」

 

「えぐいのぅ」

 

 

 消滅したメダルはジャックポットに加算され、516万メダルになる。

 

 

「主様……」

 

「従者の女の子も心配そうです! あと3回で見事絵柄を揃えられるのか!?」

 

 

 俺は静かにメダルをチャージ、3度目の挑戦。

 

 

「S! コッコ! S! コッコ! S! あああー! 縁起は良さそうだが外れだぁ!」

 

 

 揃いそうで揃わない。

 ほんの数分も経たずに飲み込まれてしまった3万メダルに、周りからは震える声も聞こえてくる。

 

 

「はは、あんな若造が当てられるわけがないんだ」

 

「そりゃそうだよなぁ」

 

「あの坊や、高い勉強料になったわね」

 

 

 もはや勝機はないと判断した客たちが、もう俺が負けた気になって好き勝手言い始める。

 

 

「……主様?」

 

 

 そんな中に聞こえてきた、可愛い従者の疑問符を含んだ声に。

 

 

(よく見てくれてるな、ナナは)

 

 

 なんて内心ほっこりしながら、一度だけ視線を向けた。

 

 

「あ……!」

 

 

 重ねた視線が、彼女に会心の笑みを浮かばせる。

 たったこれだけで、彼女はもう俺の勝利を疑わない。

 

 

(……そう、ここまではまだ、準備だったからな)

 

 

 事前にプレイして確かめた、1レーンスロットの感覚。

 装備適性Aの感覚をフルに使って、ひとつひとつのスロット台の癖を調べた。

 

 

(結果。作った人が同じだからなのか、全部のスロットに共通する癖があった)

 

 

 レバーを回して、ボタンを押して、絵柄を並べる。

 そんな単純なゲームだからこそ、作り手は色々な工夫を凝らす。

 

 回転速度のズレ、ボタンを押してから止まるまでのタイムラグ。

 特定の状態から特定のボタンの押し方をすると、また違ったラグが起こって絵柄がズレる。

 

 そんな細やかな違いを確かめてから臨んだ本番。

 

 3回のチャレンジを通じて、確かめた。

 同じスポンサーが発注した同じ製作所で作られたスーパースロットが持つ癖も、同じだった。

 

 

(今の俺は、どこをどのタイミングで押せばSになるか、把握済みだ!)

 

 

 あとは……アレの場所を把握しないとな。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「さぁ、4度目のチャージだ! どうなる! どうなるんだ!?」

 

 

 4度目のレバーロックの解除音を聞いてから、俺はおもむろに台座から距離を取った。

 

 そして。

 

 

「おや? 彼はいったい何を……」

 

 

 ギャラリーたちが不思議がっているその瞬間に、一気に動き出す。

 

 

「――《イクイップ》!!」

 

 

 『財宝図鑑』から補助杖を装備!

 

 どのタイミングで押せばいいのかはわかった。

 次に必要なのは、狙ったタイミングで完璧にボタンを押せる、器用さと速度!

 

 

「器用向上、《テクニカ》! 敏捷向上、《カソーク》! 全能力向上《オールゲイン》!!」

 

 

 即座に今の俺が使える支援魔法を発動、能力を上げる!

 

 

「おおっと! これは意外ぃー! 隠し玉だぁ!!」

 

 

 驚きながらも即応している実況。素直にすごい。

 そんな彼の熱演で観客が沸いている間に、俺は再びレバーを引き、回転開始!

 

 

「こ・こ・だぁぁ!!」

 

 

 準備に準備を重ねた必勝の構え!

 把握したスロットの癖を突く絶妙のタイミングで、俺はボタンを叩き、絵柄を並べていく!!

 

 

「S! S! S! S!」

 

 

 装備中の『スーパースロット』が、ハッキリと俺に告げる。

 

 

(完璧だ!)

 

 

 最後のボタンを押した、その結果は――。

 

 

「……ナス! 惜しいぃぃぃ~~~~!!」

 

 

 実況の、心の底から惜しんでくれている声が響く。

 観客たちも奇跡の瞬間が喉元まで近づいた事実に盛り上がり、そして落胆する。

 

 だが、これは。

 

 

(……OK把握)

 

 

 俺は間髪入れずに5回目をチャージ、そしてレバーを引いて再回転!

 ギャラリーたちの反応が追いつかないスピードで、再びボタンを押していく!

 

 

 絵柄が並ぶ。

 

 S。

 

 S。

 

 S。

 

 S。

 

 そして――!

 

 

「……お前だ。《ストリップ》」

 

 

 呪文の詠唱と共に俺は腕を振るい、もう一方の手でボタンを押す。

 直後、がちゃりとスロットは停止して、最後のひとつがその絵柄を晒す。

 

 

「「………」」

 

 

 数秒の沈黙。

 

 直後。

 

 

 ジャジャーーーーーーーーン!!

 

 

 カジノ全体に響き渡らんとする爆音のオーケストラが、奇跡の到来を誰よりも早く祝した。

 次いでネオンライトの如く輝くのは、ジャックポットの文字盤で。

 

 

「……ふぁ、ファイブS! 達成ーーーー!! ジャックポーーーーーーット!! 私たちは奇跡の瞬間を目の当たりにしたぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 実況の叫びでようやく事態を理解したギャラリーたちがはち切れんばかりの歓声を上げる。

 

 

「あるじさまぁー!!」

 

「おおっと」

 

 

 飛びついてきたナナを抱きしめながら、俺は手にした物を、持ち主へ放り投げる。

 宙に弧線を描いて飛んでいくのは、手の平サイズのスイッチレバーだった。

 

 

「!? !?!?!?」

 

 

 それをキャッチしたのは横側からこちらを見ていたギャラリーの一人。

 4回目のスロットチャレンジで、手に隠し持っていたそれを使って、絵柄を“ズラした”女。

 

 つまり、サマやった奴である。

 

 

(装備適性Aに支援魔法有りともなれば、装備に行われた干渉にだって敏感になるのさ)

 

 

 残念ながら、イカサマは俺に通じない!

 

 

「ば、ばかな……!?」

 

 

 何が起こったのかわからないとガタガタ震えていたその女は、黒服たちに背後からそっと捕らわれて、カジノの奥へと連れていかれる。

 

 

「違う! 私はミスなんてして……!!」

 

 

 そんな彼女の必死の叫びは、残念ながら奇跡の瞬間を前に熱狂する会場の中で、あまりに小さな音だった。

 

 

(いい夜を)

 

 

 なむなむ。

 

 

 

「――へい! ニューヒーロー! 奇跡を起こした感想を聞かせてくれ!」

 

 

 抱きついたままのナナをモフモフしつつよそ見をしていた俺に、不意にマイクが向けられて。

 見ればステージを囲むみんなが俺とナナのことを興味津々で見つめていた。

 

 

「英雄へのインタビューさ!」

 

 

 そんな景気のいいことを言う実況者に。

 

 

「インタビュー? そんなことよりレアアイテムだ!」

 

 

 それだけ言って、俺はナナを抱えて壇上から思いっきりジャンプして飛び降りる。

 パフォーマンスだと思われたのか、ギャラリーからは黄色い声が上がった。

 

 

「うおっしゃー!」

 

 

 そのまま逃走。

 

 

「って、マジで逃げるのかよニューヒーロー!?」

 

「ふはははは! そこにもう用はないんじゃーい!!」

 

 

 目的のメダル数は達成した。

 だから俺は、迷うことなく交換所へと駆けていき、受付のバニーさんに嬉々として声を張る。

 

 

「一番いいのを頼む!」

 

「ええ!?」

 

「一番、いいのを、頼む!!」

 

 

 俺の目に映っていたのは、ショーケースに展示されていたURのレアアイテムだけだった。

 

 




スーパースロット(SR)
“底なし沼”と提携する遊具職人たちの魂の一品。
作り手側からのオーダーは「当たり外れをコントロールできるスロット」。
このオーダーに対して職人は外部からの干渉装備である『スイッチレバー』を作ることで対応した。
スーパースロット自身は「非常に当てるのが難しいが当てられなくはない」難易度となっており、真の実力者が真っ向勝負したならば、攻略できるように作られていた。


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次回、センチョウが手に入れたURのレアアイテムとは?!



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第041話 ようこそUR!ようこそ新たな出会い!

41話をお届けです!

出会いは新たな冒険の始まりの時。

それでは今回も、どうぞよろしくお願いします!


 

 

 

 俺は今、この手に宝を持っている。

 

 

「フッ……フフッ……フフフフフフッ!!」

 

 

 風呂から上がってあとは寝るだけ。

 そんな状態でベッドに寝転がりながら掲げた右手には、重さをほとんど感じない銀色の小手が装備されている。

 

 

「フッフッフ……ハーッハッハッハッハ!!」

 

「ご機嫌にございますね。主様」

 

 

 そんな俺を、部屋の椅子に腰掛けたナナが、寝間着姿で嬉しそうに見守っている。

 

 

「ああ、嬉しい。超嬉しい!」

 

「お言葉からも、喜びが溢れてございます」

 

「そうもなる! なぜならこれは!」

 

 

 俺が今、この手に装備している小手こそが!

 

 

UR(ウルトラレア)アイテム……『ぎんの手』だからだ!!」

 

 

 人生初のURアイテム!

 

 それは俺にとって、目を開けていられないほどにキラキラと、輝いているように見えていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「おめでとうございます、千兆様。初めてのURアイテムゲットでございますね」

 

 

 カジノでメダルと『ぎんの手』を交換した時のことだ。

 俺はいつか……SR(スーパーレア)アイテムを初入手した時と同じように、宝物庫へと招かれていた。

 

 

「そちらは『ぎんの手』。装備者を1日3回、あらゆる攻撃のダメージから守護する装備でございます」

 

「マジか!?」

 

「マジでございます。小手装備適性Aか精霊銀装備適性Bがあればその効果を得られますので、千兆様におかれましては『ゴルドバの神帯』と合わせてお使いください」

 

「了解だ! はぁ……UR装備。UR装備かぁ……」

 

 

 GR(ゴッドレア)装備である『ゴルドバの神帯』と『財宝図鑑』は、あくまで神からの貰い物。

 自分の力で手に入れた高レアの装備に、俺はすっかり満足感でいっぱいになっていた。

 

 

「あらゆる攻撃って、具体的にはどのくらいの攻撃だ?」

 

「とりあえず、巨人のマジワンパンを真正面から受け止めてノー、ダメージ」

 

「マジのマジ?」

 

「マジのマジでございます。同レアリティの装備による攻撃であれば、ほぼ受け止められないものはないと思いますでございますよ」

 

「ひぇ~」

 

 

 手にしたアイテムの効果を聞きながら、多幸感に身悶えする。

 ついでとばかりに『ぎんの手』に頬ずりすると、それを見ていたアデっさんから「お見事! 素直にキモいでございます」とご感想をいただいた。

 

 

「とにかく一歩、前進したんだ。この調子でバシバシ、レアアイテムを手に入れてやる」

 

「はい。一日も早く『財宝図鑑』を完成へと導かれてください」

 

「そうするとゴルドバの爺さんに都合がいい?」

 

「モチロンでございます。あの方は貴方が世界を制した後のモノワルドを早く見てみたいと仰られてございました」

 

「ほーん、なるほど」

 

 

 つい最近、世界は狙われているなんてナナにハッタリかました手前、何か言われるかと思ったが、そんなことはなかった。

 

 

(神様的にはノータッチなのか、無関心なだけなのか……まぁ、スルーされてるならいいか)

 

「ええ、今は余計なことは考えず、ずんずんと前に進まれるのが良いかと思いますでございます」

 

「うーん、相変わらずの読心術」

 

「もう、世界は動き出しております。その波に乗られるのが、一番手っ取り早いでございますよ。千兆様」

 

「………」

 

 

 こう……時たま、アデっさんは意味深なアドバイスをしてくれるんだよな。

 だから俺は、装備の鑑定をお願いする以外でも、ちょくちょく彼女に顔を見せてたりする。

 

 今回のアドバイスも、それとなく心に留めておこう。

 

 

(ここでは前世の音楽が聴けるっていう特典もあるし)

 

 

 ちなみに今、美術館のようなここに流れているのは、ウマがぴょいする奴である。

 雰囲気台無し。

 

 なお、これは俺のリクエストではなく、記憶を読み取ったアデっさんの趣味であることをここに強く記しておくものである。

 

 

「優勝した時に流れる音楽でございますよ? まさに今、ピッタリでございますでしょう?」

 

「今の気分的にはス〇エニゲーの勝利BGMのがよかったなー」

 

 

 パパパパープーパーペッポピー。

 

 愛バのところに被さって、ファンファーレだけが鳴り響いた。

 

 

「URを手に入れられた特典で、宝物庫が拡張、千兆様の基礎能力も向上いたしました」

 

「へ?」

 

「今後もレアアイテムを集めて図鑑の内容を充実なされば、それだけで千兆様はお強くなれます。奮って頑張られてくださいね」

 

「そういうのもあるのか! ……って、おあー!」

 

「タイムアップでございますー」

 

「いや、それ全部アデっさんの気分次第だろーがーーーー!! がー! がー……」

 

 

 唐突に思わぬ追加情報を与えられたところで、俺は宝物庫から追い払われる。

 

 

 

「……ハッ!?」

 

「いかがなされました、主様?」

 

「いや。150万メダルの重みを感じ取っていただけだ」

 

「なるほど」

 

「おめでとうございますお客様~、どんどんぱふぱふ~」

 

(レアアイテムを手に入れると俺はそれだけで強くなる、か……)

 

 

 かくして。

 ますますレアアイテムを手に入れる動機が増えて、モチベーションもアップしまくりだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 翌朝。

 青い空、白い雲!

 

 俺は手に入れた『ぎんの手』をさっそく見せびらかしに行くべく、ナナを連れてドバンの爺さんの盗品屋へと向かった。

 

 

(まぁ察しのいい爺さんのことだから、俺がまた派手にやったってのは把握してるかもな)

 

 

 そんな風に考え事しながら店の近くまで来たところで、ふと、ナナに服の裾を掴まれ足止めされる。

 

 

「主様」

 

「うぇ? なんだ?」

 

「あちらをご覧になられてください」

 

「あっち? んん?」

 

 

 ナナが指差した場所……爺さんの店の壁に、一人の只人種(ヒューマ)の女の子が背中を預けて立っていた。

 誰かを待っている様子のその子は、遠目に見てもわかりやすい、魔法使い装備だった。

 

 

「ツバ広帽子にゆったりとしたローブ、手には長めの魔杖……いかにもな魔女スタイルだ」

 

「こんな時間に誰かを待っている、というのは、中々に怪しゅうございますね」

 

「だな」

 

 

 ドバンの爺さんの客だったら、とっとと店の中に入ればいい。

 なのにわざわざ入り口で誰かを待っているわけだから、狙いは客の方である。

 

 完全装備で誰かを待つなんて、きっと碌な理由じゃない。

 

 

「……裏口の方から行くか」

 

「はい」

 

 

 なので予定を変更。

 正面から堂々と入って見せびらかす作戦から、こっそり裏から入って見せびらかす作戦へ。

 

 

「こそこそ行くぞ」

 

「はい、主様……あ」

 

「あ?」

 

 

 いざ裏に回ろうと、店の横手に入ろうとしたところで。

 

 

「………」

 

 

 一匹の野良猫が、樽の上からこちらを見ているのに気がついた。

 

 お猫様はゆっくりと口をお開けになると、そのままスーッと息を吸い込み……。

 

 

 ブシッッッッッ!!!!

 

 

 おくしゃみあそばされた。

 

 

「「………」」

 

 

 あっちの女の子がこちらを見るのには、十分な音だった。

 

 

「……あ! “白布”!!」

 

「げっ」

 

 

 女の子が、俺の腰に巻いた『ゴルドバの神帯』を指差して笑みを浮かべる。

 インドア好みの度の厚そうな眼鏡を彼女はかけていたが、そのイメージの割に活発な印象を受ける溌溂とした声だった。

 

 

「あなた、あなたが白布ね!」

 

 

 重ねて呼ばれる俺の通り名。

 彼女の目的が俺であることは明白だった。

 

 

「あの方。こちらへ来られるおつもりのようですよ、主様!」

 

「わざわざここを調べて会いに来てるって? 絶対面倒くさい奴だろ!」

 

 

 今の俺の予定は、ドバンの爺さんに『ぎんの手』を自慢して、もっとレアアイテム情報よこせとせっつくことなのだ。

 予定外のことに関わっている暇はない。

 

 

「……逃げるぞ、ナナ」

 

「はい、主様」

 

 

 即座に反転、俺たちは謎の魔法使いの女の子からの逃走を図り――。

 

 

「ちょ、待ちなさい! 私、レアアイテムの情報を持っているのよ!!」

 

「話を聞こう! お嬢様!」

 

「あるじさまーー!?」

 

 

 さらに反転、俺は女の子のもとへと駆け寄っていくのだった。

 

 




ぎんの手(UR)
精霊銀で作られた右手用の小手。左手用もある。
非常に薄く軽いが、そこらの金属製の小手よりも頑丈で防御力に優れており、さらに一日3回、あらゆる攻撃のダメージから守ってくれる超防御能力を発揮する。
ぎんの手は、消えない!


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次回、相手の言葉にまんまと釣られたセンチョウは……!


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第042話 その名はメリー・サウザンド!

42話をお届けです!

余裕をもって書きだめしてる時に発生する「あれ、こうするともっと面白くなるのでは?」からの修正は途端に修羅場りますね。
それでも今は、しっかりお届けできています。

それでは今回もよろしくお願いします!



 

 

『私、レアアイテムの情報を持っているのよ!!』

 

 

 そう言ってきた、年の頃俺と同じかちょっと上くらいの、不審な魔法使い風装備の眼鏡女子。

 

 

「さ、そっちに座ってくれ。ナナは俺の隣な」

 

「ええ」

 

「はい、主様」

 

 

 俺は彼女の言葉にまんまと釣られ、ドバンの爺さんの店の奥にある、密談用の応接スペースまで彼女を招き入れていた。

 対面ソファ完備。壁には強力な音漏れ防止の魔法が付与されている特別な空間である。

 

 爺さんにナナを紹介したときに教えてもらった空間だが、数日と待たず活用させてもらう。

 

 

「なーんでワシがお前さんらのおもてなしをせにゃならんのじゃ」

 

「そこはお得意様を立ててくれよな。ま、タダじゃ借りないって……ほいこれ」

 

「おおお!? それは愛しの西大陸産ワイン!! ほっほ、ゆっ~くりしていくんじゃぞ~?」

 

(カジノメダルの端数をスッキリさせたくて交換した奴だったが、さっそく役に立ったな)

 

 

 嬉々として部屋を出て行く現金チョロ爺を見送れば、この場はもう俺の空間だ。

 

 

「さて……」

 

 

 俺の向かいのソファに腰かけている魔法使いちゃん。

 彼女を俺は改めて観察する。

 

 赤銅色のウェービーな髪に、金の刺繍が施された布を巻いた緑基調のつば広帽を被る彼女。

 身長は俺より少し低いくらい。いかにもな屋内純粋培養っぽさを感じる白い肌が、髪色の濃さと相まって洋風人形を俺にイメージさせる。シンプルに綺麗だ。

 服も彼女の美貌に見合った豪奢な作りで、帽子と同じく緑を基調としたドレス風のローブにはこれまた同じく金の刺繍が丁寧に施されており、旅装飾としての動きやすさを保証しつつも確かな高級感を演出している。

 

 

(そこまではいい)

 

 

 ソファにお行儀よく座っているから余計に目立つ、ある一点。

 それが彼女のこれまで説明した高級感を、上品さを、すべて台無しにしてしまっている。

 

 

(……なんだあのダッサい瓶底眼鏡は!)

 

 

 そう、眼鏡だ。

 魔法使いちゃんの綺麗にまとまった見目を蹂躙する、黒縁で透明度のない瓶底眼鏡。

 

 例に挙げるなら勉〇さんが付けてる奴みたいなそれ。

 

 それはまさに――。

 

 

(上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想(ファッション)!!!)

 

 

 よっぽど目が悪いのか、はたまた適性が高くて役に立つレアアイテムなのか。

 そうでもなければまず装着しないだろうブツを、彼女は堂々と装備していらっしゃった。

 

 

(魔法使いイメージとしては悪くないかもしれないが、もっと似合う眼鏡はあると思う)

 

 

 まとめると、見た目(眼鏡を除く)は間違いなく、いいところの美人なお嬢様だった。

 

 

 

 そんな育ちの良さそうな魔法使いちゃんが、縁も所縁もない俺に用事があって、ここまで来たという状況。

 考えれば考えるほどに、厄介事の匂いを俺の鼻が嗅ぎ取っていて。

 

 

「……ええ」

 

 

 俺のガン見な視線に気づいた彼女は静かに頷いて、やや緊張した面持ちで口を開き――。

 

 

「わかってるわ。まずは自己紹介よね。身分を明か――」

 

「知っているレアアイテムについて教えてくれ」

 

「え?」

 

 

 そうして紡がれだした言葉を、俺は思いっきりカットした。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「知っているレアアイテムについて教えてくれ」

 

「あの、自己し――」

 

「知っているレアアイテムについて教えてくれ」

 

「ちょっ!?」

 

「知っているレアアイテムについて教えてくれ」

 

「待ちなさ……」

 

「知っているレアアイテムについて教えてくれ!」

 

「!?!?」

 

 

 度重なる会話カットに業を煮やして語気を強めた魔法使いちゃんの言葉を、もっと大きな声で俺は妨害する。

 

 

「あ、主様?」

 

 

 明らかに礼を失した振る舞いに、状況を理解できていないナナが困惑の表情を浮かべる。

 

 だがすまん、ナナ。

 この会話は成立させてはいけないのだ。

 

 

(前世で得た数多のサブカル摂取経験が、魂が、俺に告げている……!)

 

 

 呆気に取られ開いた口が塞がらない様子の魔法使いちゃんに向けて、俺は指差し声を張る!

 

 

「絶ぇ~~~~っ対! その自己紹介が罠だって、こっちはわかってんだからな!!」

 

「!?」

 

 

 出会いイベント!

 それは様々な成立の仕方をするフラグの中でも最も基礎的で、かつ強制力を持った存在!

 

 特に謎めいた存在との出会いともなれば、聞いてしまったが最後、その時点で何らかの不利益を被りかねない事態を招くのである!!

 

 

(今回だってそうだ。このパターンならどこかの令嬢やらがお遊びでなんか探してます~とか、試練を受けなきゃ~とか言ってきたり、あるいは何か連動する危機的状況があって、そのためにどうしても必要な物がある~とか、関わると面倒くさいフラグが立つ奴なんだ)

 

 

 ゆえに俺は、フラグを踏む前にカウンターを叩き込む!!

 

 

「俺が興味あるのはレアアイテムについてであってお前さんじゃない。わざわざこんなところまで俺を探して直接話をしようってんだから、どうせ碌な事情じゃないんだろ?」

 

「うぐっ」

 

 

 ほぅれい!

 明らかに図星突かれたって顔でビクッてなったぁ!

 

 

「面倒事はごめんなんだ。だからレアアイテムについてだけ情報提供してくれ。俺はその情報に見合うだけの報酬を払う。それ以上は踏み込まない。OK?」

 

 

 冒険者の宿のおやっさんにやってもらってるテンプレ対応を、俺も魔法使いちゃんにする。

 

 結局はこれが最大効率なんだ。

 とにかく今は、手広く色々な情報を集めて自由に動き回るのが最適解。

 

 面倒そうなイベントに挑むのは後で、でいいのである。

 

 

 

「………」

 

「じゃあ、それらを踏まえて話を聞こうか」

 

「………」

 

 

 ふぅ、あぶないあぶない。

 ここまで徹底すれば、さすがにフラグを回避できただろう。

 

 畳み掛けたせいか魔法使いちゃんがなんかプルプルしてて、叱られたチワワみたいになってるが、これも仕方のないこと。

 必要な犠牲、コラテラルダメージなのである。

 

 そう、コラテラルコラテラル。

 

 今回はタイミングが悪かったのだ。

 悪く思わないでくれよな、魔法使いちゃん?

 

 

 

「……わかったわ。それじゃ話をするから、ちゃんと聞きなさい?」

 

「もちろん! さぁ早くレアアイテム情報を聞かせてくれ」

 

 

 魔法使いちゃんが大きく深呼吸して頷いたのを見て、俺も話を促す。

 

 これでようやく本来の筋道に戻るだろうと、そう思った――。

 

 

「………」

 

 

 ――自分の浅はかさに気づいたのは、急に席を立った魔法使いちゃんが、瓶底眼鏡越しにも分かる涙目な雰囲気で浮かべた、覚悟完了済みのニタリ笑顔を見た、そのときだった。

 

 

「あっ」

 

「すぅ……」

 

「待て! 口を開く――」

 

 

 すでにフラグは立っていたのだと気づいた頃には、もう遅い。

 

 

「……私の名前はメリー・サウザンド! アリアンド王国にその家ありと言われた武門の名家サウザンド家の長女よ!」

 

「ぶぅーーっっっ!?!?」

 

 

 彼女の自己紹介(フラグ立て)は、始まってしまったのである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「私の名前はメリー・サウザンド! アリアンド王国にその家ありと言われた武門の名家サウザンド家の長女よ! 私の家は今危機的状況下にあって大量のお金が必要なの! それを解決するためには難度の高いダンジョンに挑まないといけない! だから貴方のように力を持った冒険者の協力が必須で、私はその依頼をしたくて貴方のもとを訪れたのよ!!」

 

 

 魔法使いちゃん、こと、メリー・サウザンド嬢がやけっぱちの勢いで告げる自己紹介。

 この時点でもうツッコミどころは満載なのに。

 

 

「ちなみにお父様の許可を得ずにここに来ているから、今頃私を探して追っ手が来ている可能性だってあるわ! 私に関わった以上、そいつらからの接触もあるかもしれないわね!」

 

 

 名家のお嬢様! 危機的状況! 試練(ダンジョン)! フラグコンプリート!!

 おまけに知らなくてもいい情報まで掴まされて、もうお腹いっぱいである。

 

 

「ふざ、おま、っざっけんなーーーー!!」

 

「なによー! こうなったのはあなたがちゃんと話を聞こうとしないのが原因でしょーー!?」

 

「ちゃんと話を聞いたら聞いたで結果は同じだろうがーー!!」

 

 

 叩きつけられた情報に俺が爆発すると、相手も同じように爆発する。

 

 あーもぅめちゃくちゃだよ。

 

 

(こんな厄ネタいったい誰が受けるってんだよ。追い込まれ貴族からのダンジョン探索依頼だぞ。どんだけ無理難題が……)

 

 

 ん?

 

 

「……ちょっと待て。今ダンジョンって言った?」

 

「え? あ、うん。そうよ。実家から持ってきた地図に書いてあるダンジョンの攻略を……」

 

「ダンジョンって、あのダンジョン? 踏破した者にお宝とか授けちゃう系の」

 

「ええ、それよ」

 

「ダンジョン内に罠やモンスターもいるけど、お宝いっぱいレアアイテムいっぱいの!?」

 

「そう! それ!」

 

「うおおおおお!!」

 

 

 前言撤回!

 ダンジョン、ダンジョンか!

 

 

(ダンジョンは、いい!! レアアイテムの宝庫だ!)

 

「主様?」

 

「ナナ、ダンジョンだ! ダンジョンはロマンだぞ! 俺の旅の目的であるレアアイテムコンプにも大いに役に立つ!」

 

 

 モノワルドにもあったのか、いや、あって当然だよな!

 

 

(うおおおお! ダンジョン攻略!)

 

 

 絶望の中に希望が見えた!

 これはちょっと、盛り上がる展開になってきたぞ!!

 

 

「なんだよははは、依頼主様メリー様。そういうことなら早く言ってくれればよかったんだ」

 

「言わせなかったのはあなたでしょう?」

 

「過去の事は水に流そうじゃないか!」

 

「えぇ……」

 

 

 勢いだろうが何だろうが、とにかくごまかして話を繋ぐ!

 こんなおいしそうな依頼、逃がすわけにはいかないからな!!

 

 

「それでダンジョン攻略の暁には、俺の取り分はダンジョン内のお宝で――」

 

「ダンジョンの所有権は現在サウザンド家が持ってるから、中身は全部私のってことで」

 

「………」

 

「レアアイテムハンターならアイテムに関わる取り逃しはきっとないわよね、期待してるわ!」

 

「は?」

 

「ん?」

 

 

 キョトンとこちらを見つめるメリー・サウザンド嬢――いや、メリーでいいかこいつは――に、俺はゆーっくり深呼吸して気を落ち着かせ、さらにもういっちょ息を思いっきり吸ってから。

 

 

「誰が受けるかそんな依頼ーーーー!!」

 

 

 全身全霊をもってツッコミを入れた。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

「……あー? なんじゃこりゃ。ナナ、わかるか?」

 

「いえ、その……わたくしは圧倒されるばかりにございます」

 

 

 お茶と菓子を持って戻ってきたドバンにも気づかず、俺はメリーと口論を続ける。

 

 

「ダンジョンよダンジョン! レアアイテムハンターの血が騒ぐんでしょ!?」

 

「……そこで手に入れたアイテムの所有権は?」

 

「…………私」

 

「だ・か・ら! 誰が受けるかそんな依頼ーーーー!!」

 

 

 この依頼を受けて、受けないの不毛なやり取りは。

 

 

「なんでよ! 受けてくれてもいいじゃない!!」

 

「その内容が、無理難題ってレベルじゃないんだっつーのー!!」

 

 

 その後、小一時間ほど続くのだった。

 

 




瓶底眼鏡(R)
黒縁で度の厚い瓶底眼鏡。
〇三さんが装備しているような奴でござるナリよ。
視力補正効果に加え、仮面ほどではないが、正体隠蔽の効果がある。

モノワルドにおける眼鏡にも度の合う合わないは存在するが、眼鏡装備適性Cを越えている者には常に度の合った状態で適応する。
また視力補正の魔法が付与されている場合でも、盲目を覗き装備者の視力を問わず効果を発揮する。



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次回、年の功。


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第043話 ご契約は対等に!

43話をお届け!

やりたい描写を詰め込むと、どうしても文字数が増えてしまう。
それでも1話4500文字以内に収まるように悪戦苦闘しつつお送りしています。

それでは今回も、よろしくお願いします!


 

 

「だーっはっはっは! そりゃお前の負けじゃよ、白布」

 

「ぐぇー……」

 

 

 突如として舞い込んできた厄ネタお嬢様、メリー・サウザンド。

 彼女との小一時間に渡る口論は、事情を把握したドバンの爺さんにより判定が下された。

 

 

「レアアイテムの情報に釣られてここに招き入れた時点で、お前にゃ話を聞く以外の選択肢がないんじゃ。今更駄々をこねてももう遅いじゃろうて」

 

「ふふんっ! ほらご覧なさい!」

 

「うぐぐ……」

 

 

 まったくもっての正論に、返す言葉もない。

 逃げることもお役所対応もできたのに、やらなかった結果がこれなんだしなぁ。

 

 

「おいたわしや、主様……」

 

「俺の心を慰めてくれるのはお前だけだよ、ナナ」

 

 

 ナナに頭をよしよし撫でて慰めてもらってから、俺はソファに背もたれ大きなため息をつく。

 意気消沈する俺に対し口論に勝利したメリーお嬢様は、ナナ以上ミリエラ未満に見える胸を張り、それはそれは見事なドヤ顔を決めていた。

 

 

「さぁ。これで問題なく、私の依頼を受けてくれるわよね?」

 

「ぁー……そう、だなぁ」

 

「おーっほっほっほ! ならこれで決まりね!」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 身から出た錆とはいえ、こうも勝ち誇られるとなんか意趣返ししたくなってくるな。

 いっそ依頼受けたフリしてお宝横からかっぱらうか?

 

 さすがにダンジョンのお宝全部持ってかれるのは辛いぞ。

 メンタル的にもコレクト的にも!

 

 

「さぁ、契約書を作るわよ!」

 

「いいや、それは待ったじゃよ。嬢ちゃん」

 

「「!?」」

 

 

 予想外の人物からの待ったに、俺とメリーは奇しくも同じ驚き顔を浮かべる。

 

 

「どういうつもりかしら?」

 

「そのまま契約すると、お互いに禄でもないことになるぞと言うとるんじゃよ」

 

 

 もはやこの場は私の物。

 そんな雰囲気を醸し出し、話を進めようとするメリーを止めたのは、ドバンの爺さんだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 ドバンの爺さんは俺たちにそれぞれ目を向けると、メリーの方を見て話し始める。

 

 

「確かに白布は迂闊じゃったが、嬢ちゃんも、その依頼内容じゃ受けてもらうどころか受けたフリされて出先で殺されちまうぞ?」

 

「え?」

 

「は? 待てよ爺さん、俺は……」

 

「白布」

 

「!?」

 

 

 話を遮ろうとした俺に、ドバンの爺さんがウィンクしてくる。

 ……何か、考えがあるらしい。

 

 

「嬢ちゃん。ダンジョンなんていう危険な場所に冒険者を連れて行こうってんなら、最低限ダンジョン内で手に入るアイテムのいくつかは融通せんと割に合わん。最悪……そのローブ、剥ぎ取られちまっても文句は言えないのう?」

 

「!?」

 

「? ローブ?」

 

「なんじゃ白布、気づいとらんじゃったのか? あそこ、ブランドの意匠があるじゃろ?」

 

「んん? ……あっ!?」

 

 

 ドバンの爺さんに指摘された部分を見て、俺は目を剥いた。

 目に留まったのは、彼女のローブの一点に刻まれたブランドの証。

 

 イカと薔薇が組み合わさった意匠。

 

 

「クラーケンローズ!」

 

「イカバラじゃ」

 

 

 ほぼ同時に声を上げた俺とドバンの爺さんの言葉に、ナナが首を傾げた。

 

 

「くらーけんろーず?」

 

「王都で服作ってる超一流の服飾ブランドだ」

 

「ここじゃまずお目に掛かれない、超高級ブランドでもあるぞい」

 

 

 クラーケンローズ・プリンセス。

 通称イカバラ、あるいはイカバラプリンセス。

 

 王女お墨付きの証である“プリンセス”を屋号に掲げる栄誉を得た衣装ブランド。

 アリアンド王家の女性が成人するまでの私服を一手に引き受けているとも言われる、超一流の中でも超一流の服飾屋である。

 

 

「作られる量産品はどれもHRクオリティ。そしてその装備性能は並みのSR装備を凌駕し、オーダーメイドの特上品はURクオリティすら生み出すとまで言われている……あのイカバラプリンセス」

 

 

 ガチで全部オーダーメイドしたら、製作費1000万gを超えてくるだろうやべぇ奴である。

 

 

「見たところその魔杖以外の装備はイカバラで揃えておるじゃろ。ワシの見立てじゃ総額500万g超えといったところじゃの」

 

「ごひゃ……!?」

 

 

 ビックリしたナナがフードの中の犬耳を震わせる。

 

 まぁそれも無理はない。

 メリーは今、500人のナナを身に纏っているようなものなのだから。

 

 1ナナ=1万g

 

 

「っていうか。その魔杖だって王都の有名杖ブランド、山紫水明製だろ? すげーな」

 

「ほっほっほ。嬢ちゃんはまさに、全身ブランドレディじゃのう」

 

 

 見れば見るほど、メリーの装備はガチ物の高級品ばかりだ。

 これだけ高性能な物を揃えていれば、多少自分の適性が低くても装備の力でごり押せる。

 

 こいつらはお嬢様がここまで一人旅をしてきた、その助けになってきたんだろう。

 五体満足でここにメリーがいるのが、何よりの証拠だ。

 

 

「嬢ちゃん。あんたは確かにいい目をしておる。こいつはそうそう雑な悪事に手を付けたりはせんから、依頼主を襲ったりとかはまずないじゃろう」

 

「………」

 

「じゃがしかし、働きに見合う対価をしっかり払えぬような輩に全力で尽くすほど、善人でもない? そうじゃろ、白布?」

 

「そりゃそうだ。割に合わない仕事をやらされて時間を無駄に食うくらいなら……俺は自由を取る」

 

「!?」

 

 

 ダンジョン攻略は魅力的だが、何の見返りもなしに奉仕活動するほど時間も善意も持ち合わせていないからな。

 

 最悪エスケープオアストリップだ。アンドかもしれない。

 

 

「じゃからの……ちゃーんと、報酬については相談することじゃ。嬢ちゃんも相当に金が必要らしいが、焦りは禁物じゃて」

 

 

 相変わらず妙に含蓄ある感じの口ぶりで語るドバンの爺さんの言葉に、流石は貴族の育ちの良さ、聞き始めれば大人しく、ちゃんと耳を傾けていたメリー。

 しばらく考えるそぶりをみせて、納得したように頷けば。

 

 

「……そうね。自分に有利に進めようとし過ぎて礼儀や誠実さを欠いていたわ。ごめんなさい」

 

 

 彼女は驚くほど素直に、こっちに深々と頭を下げて謝った。

 

 

「………」

 

 

 ドバンの爺さんがドヤッとした顔で俺を見る。

 

 

(……正直、超が付くほど助けてもらっちまったなぁ)

 

 

 亀の甲より年の功っていうが、おかげで不利な契約を結ばされずに済みそうだ。

 

 

「……いや、俺の方こそここまで誘っといてゴネようとしたんだ。悪かった」

 

 

 返す言葉と共に俺も深々と頭を下げて、メリーに謝罪する。

 

 

 

 こうして俺とメリーは、互いに謝り合った。

 

 メリーの奇襲、俺の駄々こね。

 互いに不義理を働きこじれそうだった関係は、この瞬間いくらかイーブンに、対等に近づいた。

 

 

(相手の事情に巻き込まれた部分は不可逆だから、そこは後の交渉に使わせてもらおう)

 

 

 次の段階のことが考えられるくらいには、俺の頭も冷えた。

 

 

「さ、後はそこでどうしていいか困っとる従者も混ぜて、価格交渉せい」

 

 

 自分の役目はここで終わりだと、ドバンの爺さんがクールに部屋の隅の椅子に腰掛ける。

 その目は俺に「貸しじゃぞ」と言っていた。

 

 

(憎たらしいが、恩に着るぜ。ありがとう、ドバンの爺さん)

 

 

 後でもう一本。さっき渡した奴よりいい酒をプレゼントだ。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 クールタイムを挟み、話は改めて、依頼をどう受けるかという段になる。

 

 

(メリーの立場、状況を聞いてしまった以上、今はまさしく乗り掛かった舟。無理矢理乗せられたとはいえ、乗ったからにはもう運賃が発生しているし、対岸まで止まれない)

 

 

 だったら。

 

 

(利用できるだけ利用して、最大限得するように交渉するだけだ)

 

 

「んじゃあそろそろ、交渉といこうか」

 

「ええ、望むところよ」

 

 

 仕切り直したおかげで、ほどよい緊張感と共に俺とメリーは対峙する。

 

 主な議題は報酬の内容。

 ここで手を抜いてレアアイテムの入手機会を減らされるのは、絶対に避けたい。

 

 ゆえに!

 

 

「《イクイップ》」

 

 

 交渉装備、フルイクイップ!

 

 と。

 

 

「《イクイップ》」

 

 

 見れば、メリーも何やら追加で指輪の類を装備していた。

 そして先ほどまでとは明らかに違う、口達者そうな気配が俺に伝わってきていて。

 

 

「………フッ」

 

「………フフッ」

 

 

 まぁ、持ってるよな。貴族なら。

 

 

「……スゥ」

 

「……んっ!」

 

 

 やってやろうじゃないか。

 

 

「――ダンジョンで手に入るお宝は全部俺たちが所有する!」

 

「――いいえ、最奥の宝を始めダンジョンの宝は私が所有し、その上で適正な報酬金額を精査して提示するわ!」

 

「それだと報酬計算に時間がかかって拘束時間が伸びる! 即物で支払ってくれ!」

 

「私は現金が必要なの! アイテムはドバンさんに適正価格で買い取ってもらうわ! 必要ならその後で買い戻してよ!」

 

 

 こうして、俺たちは真っ向から依頼について相談し始めた。

 さっきまでとは違う、お互いに一番いい所を探り合うような舌戦は、激しくはあれどどこかワクワクする時間だった。

 

 

「ほっほっほ。争え、もっと争え!」

 

「主様、ファイトです!」

 

 

 そんな俺たちを見つめる外野も、浮かべているのは困惑ではなく楽しげな表情で。

 

 そして。

 

 

「……んじゃ、その最奧の宝ってのだけはメリーの取り分で、他は俺たちがもらうってことで」

 

「くっ。いいわ、それで手を打ちましょう。ほんとはもうちょっと欲しかったけど、これ以上やるともっと酷い取り分になりそうだし……」

 

「クックック。適性の差が出たな」

 

 

 議論に議論を重ね、終わってみれば、かなり俺たちが得するだろう形での決着になった。

 

 本当は最奥の宝とやらも現物をまず俺が獲得して、その品の適正金額を俺が支払うって形に持っていきたかったんだが、まぁいいだろう。よくはないが。

 

 これ以上するとメリー泣きそうだったから勘弁してやる。

 

 

「容赦ないのう、白布は」

 

「レアアイテムが絡む以上手は抜かん」

 

「さすがです、主様」

 

 

 なんて、やいのやいのやっていると。

 

 

「……ちょっと、聞いてもらえるかしら」

 

 

 メリーの真剣な声が部屋に響く。 

 

 

「改めて……私にはもう後がないの。だからこのクエスト、必ず成功させなきゃいけない」

 

 

 彼女はそう言いながら、テーブルに手をついて頭を下げる。

 さっきもそうだが、頭を下げるという行為は貴族が軽々にしていいものじゃない。

 

 ないのだが。

 

 

「白布、ナナさん。どうか、あなたたちの力を……私に貸して!」

 

 

 その貴族らしからぬ姿勢に、深い誠実さと必死さを、俺はヒシヒシと感じ取る。

 交渉時から付けっぱだった『真偽の指輪』も、彼女の決意を強く俺に示していた。

 

 

 

「頭を上げてくれ、メリー」

 

 

 メリー・サウザンドという依頼主。

 正直彼女に逆転の目がどれだけあるのかもわからないし、アリアンド王国の貴族ってのもライカンのナナを抱える身としてはデメリットではあるんだが。

 

 

(それでも)

 

 

 利害とは別の部分で、彼女の力になりたいと思う俺がいる。

 

 だから。

 

 

「……ダンジョン攻略、請け負うぜ。ついでにその最奥の財宝とやら、拝ませてもらおう」

 

「主様の決定にございます。どうぞわたくしたちにお任せください。メリー様」

 

「……! ありがとう! よろしく頼むわ!」

 

 

 こうして。

 俺にとって初めての、リアルダンジョン攻略が始まるのだった。

 

 




魔術師のローブ/ブランド:イカバラプリンセス(SR)
メリーが装備している超高級超高性能なブランド物の魔術師のローブ。
耐熱耐寒耐毒耐呪に、耐魔耐物効果も付与されたマジモノの怪物クオリティ品。
さらには自動修繕効果も付与されており、ボロボロになっても時間が経てば元通り。
専用のソーイングセットを使うことで速攻修繕も可能のスグレモノ。
一着お値段300万g越えも納得の一級品である。


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次回、レッツゴーダンジョン!


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第044話 ランチタイムはダンジョンの前で!

44話をお届け!
どうやらまたランキング入りしたそうで、見てもらえる人が増えました。
ありがとうございます!!
見てもらえて、評価されると、頑張った甲斐を感じます。


それでは今回も、よろしくお願いします!


 

 

 ダンジョン!!

 

 それは夢と希望が溢れる、約束の地!

 

 

 ダンジョン!!

 

 ロマンと熱狂、そして多くのゲーマーたちが愛してやまない、冒険の頂!

 

 

 ダンジョン!!

 

 つまりは宝の山! レアアイテムと出会える、俺の幸せが待っている場所!!

 

 

「ダンジョン。ああ、ダンジョン……」

 

「………」

 

 

 瓶底眼鏡お嬢様に白い目で見られようとも、俺の中に溢れる、この想いは止められない。

 

 

「「………」」

 

「……話を続けてくれ」

 

 

 はい。

 

 高すぎるテンションって言うほど長持ちしないよね。

 

 

「主様、お勇ましかったですよ」

 

「よーしよしよしよし、ナナはいい子だなぁ」

 

「ふわわっ。あるじさまぁ……!」

 

 

 いい子のナナにはたーっぷりご褒美あげないとなぁー!

 

 

「いや、話を続けてくれって言うけど、そもそも話をしてもいなければ、もう到着するわよ」

 

「おや」

 

 

 ナナとじゃれあっている間に、目的地へと到着していたらしい。

 

 

 

 場所はヒュロイ大森林から南下した丘陵地帯の一角。

 大岩がゴロゴロと鎮座している坂の途中。

 

 

「メリー様。これが……」

 

「ええ、これが……」

 

 

 大岩と大岩の間に隠されるように存在する、白亜の如き真っ白の祠。

 開きっぱなしの扉が「ここが入り口ですよ」とこれでもかと主張しているそここそが、メリーが実家から持ち出した地図に描かれた場所。

 

 

「――これが、ダンジョン!」

 

 

 俺ことセンチョウ・クズリュウ。

 

 人生初のダンジョンは――!

 

 

「……ん?」

 

 

 開かれた扉の内側を、よくよく見てみると。

 

 

「……いやこれ、ネ〇ーゲートじゃね?」

 

 

 謎の銀河的うねうねワープゲートが開放されてる風の、先の見えない形をしていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 とりあえず目的地には到着したので、俺たちはダンジョン突入前のご飯タイムである。

 

 広げたシートに並ぶのは、出かける前にナナがめいいっぱい腕を振るって作ってくれたお弁当。

 『財宝図鑑』の宝物庫の中に設置したHR(ハイレア)アイテム、食料品専用収納箱――通称『保存庫君』から取り出した、出来たてほやほや状態の物である。

 

 

「主様。はい、あーん」

 

「あーん。んぐんぐ……」

 

 

 ナナの差し出す箸先にパクついて、根菜の炒め物を味わう。

 シャキシャキとした食感と甘辛い味付けが、空きっ腹を刺激して食欲を増進させる。

 

 

「うーん、美味い!」

 

「それは何よりでございます。わたくし、腕によりをかけて作りましたので」

 

「料理の教本、買った甲斐があったな」

 

「そのおかげで、さらに腕を磨くことができました。すべては主様のお導きにございます」

 

「役に立ったなら何よりだ」

 

「はい。では次はこちらのミートボールを……あーん、でございます」

 

「あーん。んぐんぐ……ソースも手作りだよな? 美味いぞー」

 

 

 手が空いているのでよしよしとナナの頭を撫でる。

 

 

「わぅぅ……光栄です。主様が喜んでくださることが、わたくしの幸せにございます」

 

 

 はにかみながらも撫でる手を受け入れるナナ。

 今はフード付きコートに隠れて見えないが、きっと耳も尻尾もパタパタしているに違いない。

 

 

「………」

 

「はい。次はこちらですよー、あるじさまー」

 

「あいあい。あー……」

 

「……ねぇ」

 

「もぐっ」

 

「はい? なんでございましょう? メリー様」

 

「……それ、本当に毎日やってるのね」

 

 

 見ればメリーが、すっかり呆れ顔で俺たちを見ていた。

 

 

「ふふ、メリー様が羨むのもわかります。主様へのお世話は至上の幸福にございますので」

 

「羨んでないわよ! っていうか、白布がご主人様だってのはわかるけど、ちょっと世話焼きすぎじゃないかしら?」

 

「んぐんぐ」

 

 

 ガイザンからここまで、2泊3日の道のり。

 こうした食事の世話に始まり、寝床の準備、風呂焚きなど、俺たちの旅の快適さを向上させるべく、ナナはたくさん頑張ってくれた。

 

 というか、俺がやろうとしていることに先んじて、ナナが「わたくしが」と率先して行動してくれたのだ。

 手間は手間だから俺はありがたくお世話になり、快適な旅を過ごしている。

 

 一家に一人、可愛いライカンの狂信者。

 気を抜いたら隣でハァハァし始めるオプション付きでお得です。

 

 

 

「メリー様。わたくしは主様の従者。陽に陰に主様の助けとなる者にございます。その中には当然、食事のお世話なども含まれるのでございますよ」

 

「赤ちゃんじゃあるまいし、白布は一人でもちゃんと食べられるんでしょう?」

 

「ふふふ、主様が赤ちゃんのようにわたくしにお世話させてくださるなら、それに勝る喜びはございませんね」

 

「白布、私ちゃんとこの子と会話できてる?」

 

「できてるできてる」

 

 

 俺の生返事に首をかしげているが、メリーの言うことはもっともだ。

 

 だが。

 

 

「ナナが少しでも俺に尽くしたいって言うもんだから、好きにさせてるんだよ……あむ」

 

「好きにさせてるって……これ好きにさせていいものなの? っていうかナナさん。今は私が話しているのだから、卵焼きを食べさせるのはおやめくださる?」

 

「これは失礼いたしました。つい、主様への奉仕したい想いが止められず……」

 

「えぇ……?」

 

 

 むしろ、断るとウルウル見つめられるまである。

 なんて言ったら、メリーはどんな顔をするだろうか。

 

 

「ほんと……こっちが羞恥プレイさせられてる気分よ」

 

「そいつは申し訳ない」

 

 

 でも俺は知っている。

 この数日、メリーは恥ずかしそうにしながらも、割と俺たちをガン見していたことを。

 

 瓶底眼鏡越しにも存外視線ってのは感じるんだよな。

 

 

「これも……の影響なのかしら」

 

「え?」

 

「何でもないわ! ……それにしても、本当に色々と規格外なのね。あなたたちって」

 

「わぅぅ、えへへ」

 

「褒めてないわよー、ナナさーん?」

 

「規格外といえば、メリーも中々のものだと思うけどな?」

 

「何が?」

 

「まずその馴染みっぷりが」

 

 

 仮にもメリーは王都に居を構える名家のご令嬢、それもご長女様である。

 それが今、ならず者とほぼ同義である俺やナナみたいな冒険者と、平然と食事を共にしている時点でおかしい。

 

 俺なんて、メリーって呼び捨てしてるのに一度も抗議されてないし。

 

 

「ここに来るまでの野営の手伝いや火の番まで、キッチリこなしてたよな」

 

「メリー様は、中々に旅慣れていらっしゃるご様子でした」

 

 

 確かに王都からガイザンまでは長旅で、野営の機会もあったかもしれない。

 だがそれでも彼女の手馴れっぷりは、ナナの言う通り旅慣れてる人並みだったのだ。

 

 

「どこで身に着けたんだ、その技術。それ系の装備適性がある感じでもないし」

 

「それは……まぁ、そういうのが好きだったのよ。私のお爺様とお婆様がね。色々と教えてもらったの」

 

 

 興味本位でほじくり出した答えは、意外とシンプル。

 

 

「なるほどなぁ。武門の家柄ってことは、モンスター討伐で野営とかもしてそうだしな」

 

「いえ、それは拠点生成系アイテムを使ってたそうよ。『インスタントハウス』とか」

 

「お高い奴だ!」

 

 

 確か闇オークションで流れてた奴が、3LDK風呂トイレ付きで460万gくらいしたUR(ウルトラレア)アイテム。

 モンスター除けの結界とかも付与された優れモノである。

 

 同系統の出したら戻せないHRの使い捨てテントで3000gぐらいするから、中々手が出るもんじゃない。

 

 

 

「はぁー、本当に貴族なんだな。まぁ貴族じゃないと、その装備は揃えられないよなぁ」

 

 

 お高いアイテムの話をしながら、俺はメリーが今まさに身に纏う装備に注目する。

 イカと薔薇が組み合わさった意匠は、超一流ブランドの証。

 

 

「作られる量産品すべてがHRクオリティの、クラーケンローズ製」

 

 

 特に彼女が着ている『魔術師のローブ』に至っては、オーダーメイド効果もあってかSR(スーパーレア)レアリティだと聞いている。

 

 

「これはね。母が私のために用立ててくださった物なのよ」

 

「お母様が、にございますか」

 

「えぇ、私に何があってもその身を守ってくれるようにって、ね」

 

 

 そう言ってイカバラのブランドマークを撫でるメリーの表情は、瓶底眼鏡では隠しきれない慈しみの色を持っていた。

 

 

「おかげでこうして無事にここまで来れたのだから、感謝しか……ないわ」

 

「ん?」

 

 

 今ちょっと、何か違和感があった、か?

 

 

「すさまじい装備……なのでございますね」

 

「正当なブランド物であれば、高い値段にふさわしい性能があるものなのよ」

 

「なるほど……つまり食器類や料理道具などもブランド品で揃えれば?」

 

「そうそう。ちゃんとそれだけ、結果に繋げてくれるわ」

 

「………」

 

 

 ……まぁ、いいか。

 

 

「主様、主様!」

 

「ああ、そうだな。今度買い揃えに行くか」

 

「はい!」

 

 

 新たに得た知識をさっそく活かそうとする優秀な従者の頭をよしよししつつ、俺はダンジョンの入り口に目を向ける。

 満ち腹で冷静さを得たことで、俺はゆったりと考えを巡らせることができた。

 

 

(あのネザー……うねうね銀河ゲートの向こうには、どんな危険があるのかわからない、未知の領域が待っている)

 

 

 俺はあそこで、何を手に入れられるというのか。

 

 

(万が一全然稼げなかったら、最悪メリーの装備を《ストリップ》させてもらって黒字にすればいいか。なーんて、これも一時的に仲間になるキャラの宿命だな。クックック)

 

 

 先の見えない現実に、俺は静かに、そして冗談交じりに依頼の次善策をイメージし。

 

 

「……白布。今、間違いなく碌でもないことを考えてたでしょ?」

 

「はい。……あ」

 

 

 即バレしてめっちゃ叱られた。

 

 無念!

 

 




食料品専用収納箱・保存庫君(HR)
食べ物系のアイテムを多数収納することができる収納系アイテム。
収納したアイテムの状態を保存するため、出来たてを入れれば出来たてで取り出せる。
ちなみにセンチョウの宝物庫は時空が歪んでいるため、そこに収納した時点で同様の効果を期待できるのだが「なんか食い物をそうやって直接出すのは……」という彼自身のこだわりによりこのアイテムが採用されている。


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次回、ゲームじゃ気にしないけど現実だと気になる奴。


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第045話 いざ突入!ランダムダンジョン!!

45話をお届け!

またもやふんわりと見ていただける人が増えたようで、ありがたいです。

冒険と言えばダンジョン!
このお話でもそんなダンジョン回が始まります。

それでは今回も、よろしくお願いします!


 

 

 わちゃわちゃ雑談しながらのランチタイムも終わりを告げ。

 俺たちはいよいよ、うねうね銀河ゲートを越えてのダンジョン攻略に挑む段階となった。

 

 

「……うねうねしてるなぁ」

 

「うねうねしておりますね」

 

「うねうねしてるわね」

 

 

 準備は万端!

 あとは突入するだけなのだが、俺たちの足はそこからとんと、先に進めていなかった。

 

 

「「………」」

 

 

 それもこれも、原因はこのうねうね銀河ゲートである。

 

 なんだこれ。

 いや、ゲームならこんなもんって感じで受け入れるけど、現実として突きつけられると、ねぇ?

 

 

「マジでこれ入り口なのか?」

 

「ええ。そのはずよ……初めて見るけど。そもそも私、ダンジョン自体が初めてだし」

 

「実は俺もなんだ」

 

「えぇ……」

 

「突入には、勇気が必要でございますね……」

 

 

 本当に入って大丈夫なのかがわからず、俺たちはすっかり尻込み一旦停止。

 さっきまでお互いにドーゾドーゾと譲り合いまくった結果、今じゃ俺たち3人は、ぴっちり密着団子状態になっている始末である。

 

 ちなみに現在の先頭がメリー、最後尾がナナ、真ん中が俺である。

 

 

「っていうか白布。あなた依頼主を先行させてどうするつもりよ!」

 

「いやいや、これは言い出しっぺの依頼主が安全を保障してくれないとヤバいだろ」

 

「そういうのの確認も踏まえての護衛でしょ!」

 

「ここの所有者だってんなら安全かどうかくらいは知っててくれよ!」

 

「うぐっ。そ、それは……」

 

「ハイ! それじゃ勇気を出して行ってみよう!」

 

「ああああー! 待って待って! 待ちなさいってばぁぁー!!」

 

 

 ぐりぐり押してゲートに近づけると、メリーが涙目になりながら足で全力ブレーキをかける。

 

 

「ね。ちょっともう、ここは格好いいところを見せてくれるとか、ない?」

 

「んー、まぁ確かに? どうせ最後はみんな入るって意味じゃ、ここでわざわざ争う必要性を俺は感じていないな」

 

「だったら……!」

 

「でもな、メリー」

 

「な、なに?」

 

「この中で一番いい性能の装備してるのは、お前さんなんだ」

 

「……へぁぁ」

 

 

 こっちを救いを求める顔で見ていたメリーの口から、情けない声が出た。

 

 

「合理的理由からも、メリー先頭が正しい。ということで……ナナ」

 

「はい、主様」

 

 

 もはやするべきは定まった。

 

 ってことで……見せてもらおうか、ブランド装備の性能とやらを!

 

 

「待って! 待って! まだ心の準備が――」

 

「GO!」

 

「わぅぅぅー!!」

 

 

 ナナのライカンパワーと俺の装備適性Aパワー、二人掛かりでメリーを押す。

 

 

「あああああーー!!」

 

 

 叫び声をあげるメリーが、うねうね銀河ゲートに触れる。

 

 

「あああ……――!」

 

 

 うねうねの中に潜り込んでいく彼女の口が、まるで沼に沈むかのようにゲートを通ったところで、不意に音がぷつんと途切れる。

 

 

「お、やっぱりワープする奴だ」

 

 

 なんて言ってるあいだに俺もうねうねに触れれば、一瞬視界が真っ白に染まり。

 

 直後。

 

 

「ああああああーーーー!!」

 

 

 再び聞こえてきたメリーの叫びと共に。

 

 

「おお……これが、ダンジョン!」

 

 

 俺は見知らぬ洞窟の中へ、ダンジョンの中へと移動したことを実感したのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「め、名家であるサウザンド家の長女になんてことをさせるのよー! このすかぽんたーん!」

 

「ハハハ、申し訳ねーです、ハハハ」

 

 

 さすがにカナリア扱いにはご立腹だったメリーにポカポカされながら、俺は洞窟の只中に立っている。

 

 

「どうやら、一方通行だったようにございますね」

 

 

 最後にやってきたナナが完全にこちら側に来たところで、うねうね銀河ゲートはスッと小さくなって消えてしまい、俺たちは進む以外の選択肢を失った。

 

 

「ってことはやっぱり、次はあそこなんだな」

 

 

 そう言いながら俺が視線を向けた先。

 向かいの壁に面したところに、入り口と同じうねうね銀河ゲートが開いた門があった。

 

 他には座りやすそうな石造りの床があるだけで、俺の前世のゲーム体験からするとここは、最初のセーブ部屋みたいないかにも“心の準備”をするための空間になっていた。

 

 

「あそこをくぐると、また違う場所へ行くんだろうな」

 

「わぅ……これでは先がどうなっているのか、確かめようがございませんね」

 

「うーん。メリーは何か知らないか?」

 

「うう……」

 

 

 いい加減ポカポカするのをやめさせてから問いかけると、メリーはしばらくうんうんと悩ましげに考えるポーズをしてから、はたと、大事なことを思い出したかのように目を見開いた。

 

 

「……ランダムダンジョン」

 

「ランダムダンジョン?」

 

「そう、ランダムダンジョンなんだわ! ここって!!」

 

「説明してくれるか?」

 

「ええ! もちろんよ!」

 

 

 どうやら本当に大事なことを思い出してくれたらしい。

 

 彼女はこの場所……ランダムダンジョンについて教えてくれた。

 

 

「ランダムダンジョンっていうのは、入るたびに中の構造が変わるダンジョンのことよ。ここのように一定の広さの空間……フロアがいくつも連なって出来ていて、各フロアを繋ぐゲートをくぐって最奥を目指していくの」

 

 

 さらにメリーの言うことには。

 

・入るたびに内容が変わるため、地図を用意できない。

・フロアの内容も数多あり、罠部屋、宝部屋、モンスター部屋、休憩部屋などが不規則に連なっており、常にアドリブの対応を求められる。

・一方通行なので、取り逃しや休み忘れの回収は不可。

・ダンジョンごとに最奥の部屋は固定で、高いレアリティのアイテムが手に入る財宝部屋か、強いモンスターが出現するボス部屋かの2択。一応ボスを倒しても宝が手に入る。

 

 

「……まさに神の悪戯が生んだ場所、それがランダムダンジョンなの」

 

「なるほどな」

 

「メリー様の仰られた通り、高難易度の試練ということでございますね」

 

 

 説明を理解し、真剣な面持ちで頷くナナとメリー。

 

 そんな二人を眺めつつ、俺は頭の中で受けた説明を反芻し……。

 

 

(……ローグライクゲーム!)

 

 

 イット、イズ、不思〇のダンジョン!!

 

 もしくはTRPGだとアリア〇ロッドとかで見る奴ー!

 

 

「炎の洞窟や氷の砦みたいに、特定装備があれば有利になるみたいな場所じゃない、自分の総合力が試される場所よ。心して行くしかないわ」

 

「仰る通りにございます。気を引き締めてまいりましょう。ね、主様」

 

「………」

 

「あるじさま?」

 

「え? ああ、うん。そうだな」

 

 

 あんまりにもゲームっぽい奴が出てきたせいで、ちょっと動転してた。

 

 

「ちょっと、もしかして怖気づいたの?」

 

「《イクイップ》……いや全然?」

 

「こら、ポーカーフェイス作りたいからって仮面装備してんじゃないわよ。タイミング的にバレバレなんだからね!」

 

「HAHAHA」

 

「大丈夫ですよ、メリー様。主様はこの程度のことで動じたりなんてなさいません」

 

「本当かしら?」

 

「………」

 

 

 試されるのは総合力、か。

 

 

「……ならまぁ、大丈夫だろ」

 

 

 仮面を外し、宝物庫にぶち込むついでに『財宝図鑑』と『ゴルドバの神帯』に触れる。

 ふたつのGR(ゴッドレア)アイテムが「俺たちがいれば大丈夫」だと、俺に勇気を与えてくれる。

 

 

「今度は、あなたが前を行ってくれるわよね?」

 

「そうだな。こっから先は、冗談じゃなく冒険者の領分だ」

 

「最前衛はわたくしにお任せください。殴る蹴るは、得意ですので!」

 

「メリーは一番後ろを付いて来てくれればいい。ただそれはそれとして、戦いの頭数には入ってるけどな?」

 

 

 ガイザンからダンジョンまでの道中は安全そのもので、未だメリーの戦闘能力は未知数だったが。

 

 

「ええ、私に任せなさい。武の名門サウザンド家の力を、見せつけてあげるわ」

 

 

 そう言って魔杖を構える彼女の自信に満ち溢れた表情と、圧倒的高価で高性能な武器防具を見れば、不安な要素など微塵も感じない。

 

 

 

「それじゃあ、行くぞ!」

 

「はい、主様!」

 

「ええ!」

 

 

 ここから先は常に未知との戦いになる。

 

 そしてもう、俺たちに引き返すという選択肢はない。

 

 

「ゲート、突入!!」

 

 

 気合を入れて、俺は壁際に建つうねうね銀河ゲートに突撃する。

 

 再び白に染まっていく俺の視界。

 

 

(さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。できればレアアイテムの宝部屋ばっかりでありますように!)

 

 

 最奥で手に入るレアアイテムをメリーに渡す以上、道中の宝こそが頼り!

 

 俺はゴルドバ爺に祈りを捧げながら、いざランダムダンジョンへと挑戦するのだった。

 

 




インスタントハウス(UR)
拠点生成系アイテムの最高峰。持ち運び時はスイッチ式のカプセルの形状。
風呂トイレ別、寝室リビング等取り揃えており、心地よい住環境を提供します。
唯一の難点はそれを展開できる広さが必要になること。
大きければいいってもんじゃない。


ここまで読んでくださりありがとうございます!
お気に入り、感想、高評価、レビュー等、応援してもらえるととっても嬉しいです。


次回、メリーが大活躍?


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第046話 メリーの実力!

46話をお届け!

UA6000越え、ありがとうございます!
牛歩のようにゆっくりと、けれど確実に前に進んでいく手ごたえを感じています。
連載を追ってくださる方のためにも、新たにここに読みに来てくださる方のためにも。
これからも安定したクオリティで提供できるよう、頑張ります!

ということで今回も、よろしくお願いします!


 

 

 俺たちが再び、うねうね銀河ゲートをくぐり抜けた先にあったのは。

 

 

 ピチャンッ……

 

 

「……水場、か」

 

 

 一見して地底湖を思わせるような空間……フロアだった。

 

 

「ひゃうっ。ああ、靴が濡れちゃったじゃない!」

 

「んう……ひんやりしておりますね」

 

「いきなり全身ザブンじゃなかっただけましだな」

 

 

 俺の足首程度まで浸る水の感触に身震いしつつもフロアを見渡す。

 

 次のゲートがあるのは右手側の奥。

 正面奥に底が深そうな泉があり、いかにも何かが潜んでいそうな気配がある。

 

 宝箱や剥き出しの鉱石など、お宝の気配は……ない。

 

 

 

 俺たちは互いに顔を見合わせて、頷き合い。

 

 

「……よし、スルーしよう!」

 

「賛成!」

 

「それがよろしいかと存じます」

 

 

 全会一致。

 すたこらさっさと次のフロアを目指し、ザブザブ水を掻き分け右手奥へと歩みを進め――。

 

 ――直後。

 

 

「……! 主様っ!」

 

「ああ! わかってる!」

 

 

 突如として膨らむ巨大な気配に、ナナと俺は泉を睨む。

 

 

「どうせそんなこったろうと思ってたさ!!」

 

「えっ? どういうこと?」

 

「そう簡単には進ませちゃもらえないってことだ、メリー!」

 

 

 俺たちが身構えている間に、そいつは大量の水の膜をぶち破り姿を現した。

 

 

「か……カニジャイアント!!」

 

 

 メリーがそいつの名を叫ぶ。

 

 その名の通り、泉から飛び出してきたその怪物は。

 

 

「ブクブクブクブクブク!!」

 

「身も蓋もない名前だなぁ!?」

 

 

 でっかいでっかい、カニのモンスターだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「カニジャイアントは水棲系モンスターの中でも高い攻撃力と防御力を誇るモンスターよ! 両手のハサミは叩くのも断つのもどっちも得意だから気をつけて!」

 

 

 早々に逃げられないと判断した俺たちは、カニのモンスター……カニジャイアントとの戦闘に突入した。

 

 

「ナナ!」

 

「はい、主様!」

 

 

 俺は補助杖を装備しナナにいつもの強化魔法セットを掛ける。

 

 

「この身に主様の力が……! まいります!!」

 

 

 スーパーナナ状態になった彼女はさっそく水飛沫を上げてジャンプすると、カニジャイアントの真正面に飛び出した。

 

 

「――って! 火力も高いし防御もあるって言ったわよね!? そこ、一番危ない場所ーー!!」

 

 

 メリーの言葉の通り、相手は飛んで火にいる夏の虫だとでも思ってか、真正面にやってきたナナに向かって自慢のハサミをハンマーのように叩きつけようとする。

 

 だが!

 

 

「その程度の攻撃速度で、わたくしを捉えられると思わないでくださいませ!」

 

 

 迫りくるハサミにナナがそっと手を当てると、次の瞬間にはビュンッと体をさらに上へと飛び上がらせ、攻撃を回避していた。

 

 どころか。

 

 

「ブググググーーーー!?!?」

 

 

 ナナが飛び上がるのと同時、彼女が触れたカニジャイアントのハサミが強烈に弾き返され振り上がり、その美味しそうなカニのお腹部分を晒す事態になっていた。

 

 

「え? え? 何が起こったの!?」

 

「――フッ」

 

 

 メリーには見えてなかったが、俺にはわかる。

 

 

(恐ろしく速い手刀……俺でなきゃ見逃しちゃうね)

 

 

 手が触れたあの一瞬。

 回避と打ち返しを同時に担う一撃を、俺はしっかりとこの目で見ていた!

 

 ヒュウッ! さっすがスーパーナナだぜ!

 

 

 

「メリー! なんか有効そうな攻撃魔法の準備!」

 

「え? あ、わかったわ!」

 

 

 ナナが作ってくれたこの隙を逃すつもりはない!

 気の抜けた顔をしていたメリーもこれが好機だとすぐに理解し、何かの魔法を練り上げ始める。

 

 

「ナナ! 追撃用意!!」

 

「はい! 主様!」

 

 

 天井から伸びる鍾乳石っぽいのを掴んで高所を確保していたナナにも指示を出し、ダメ押しのもう一撃を身構えさせたところで。

 

 

「ブググググググ!!」

 

「なに!?」

 

 

 危機を察したカニジャイアントが大量の泡を吐いて防御膜を作る。

 

 膜は一瞬でカニの巨体を覆い包み、強固な守りを形成する!

 

 

「ブググー!」

 

「そんな器用な真似ができたのか! なら俺が――!」

 

 

 膜をぶち破るべく『財宝図鑑』から貫通力の高い槍を取り出し《イクイップ》した、その時。

 

 

「大丈夫よ! 魔力充填完了! ぶち抜くわ!」

 

「!?」

 

 

 背後に感じた熱に振り返ると、そこには魔杖に炎の渦を纏わせているメリーの姿があった。

 

 

「ブググッ!」

 

「あなたの弱点は、火! 私の得意属性も、火! 相性は抜群なんだから!」

 

 

 糸でも巻き取るかのように魔杖をくるくると回し、自身も踊るようにくるりと一回転。

 

 再び狙いをつけた魔杖の先には、炎の渦を圧縮した魔法の火が球体状になっていた。

 

 

 

「――ぶっ飛べ! 《フレイムカノン》!!」

 

「!?!?」

 

 

 

 号砲一撃。

 

 まさしく大砲もかくやという轟音を響かせ、火球が剛速で打ち出される。

 

 

「ブグゥッ!?」

 

 

 それは足元の水を蒸発させながら、カニジャイアントの泡の装甲など無意味とばかりに吹き飛ばし、奴のどてっぱらに命中した。

 

 

 

 ゴ、ボゥンッ!!

 

 

 

 魔の火砲はそのままカニジャイアントの体を貫通し、直後にその巨体を炎で包み込む。

 

 香ばしい焼けたカニの匂いがフロアに充満していく。

 

 

 

「………」

 

 

 ゆっくりと、カニジャイアントは仰向けに倒れ、その命が尽きたことを俺たちに知らせた。

 

 

「す、すごい……」

 

 

 天井から聞こえてくる、ナナの感嘆の声。

 

 

(いや、ちょっとこれ……想像以上だ……)

 

 

 俺は言葉も失って、ただただ彼女の起こした魔法の威力に目を奪われていた。

 

 

「ふふんっ。これでも魔杖適性Bだもの、舐めてもらっちゃ困るわ」

 

 

 高い装備適性と、性能のいいアイテム。

 そのふたつの組み合わせが生み出す力の凄さを、俺は自分以外で初めて目の当たりにしたのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「本当に、本当にすごい魔法にございました、メリー様」

 

「おーっほっほっほ! もっと褒めてくれてもいいのよ、ナナさん?」

 

「はい。わたくしには魔法の適性などありませんので、憧れます」

 

「ふふんっ。あなたが望むならこれからいくらだって見せてあげるわ!」

 

「……ナナの中でメリーの株が爆上がりしてるなぁ」

 

 

 戦い終わって、せっかくだからと俺たちはカニジャイアントを素材に解体する。

 すでに加工された扱いなのか、宝物庫でアデっさんに見てもらうとレアリティUCの料理品アイテム『焼いたカニジャイアントの肉』になっていた。

 

 やっぱ食えるんだなこれ。

 

 

「パーフェクト、パーフェクト、カニ味噌は……残念。焼け溶けてなくなってたか」

 

「白布、ちょっと見ててもいいかしら?」

 

「フッ。俺の背後に立つな……」

 

「立たなきゃ見れないでしょうが」

 

 

 まだまだ取れるカニ素材を集めていると、メリーが寄ってきた。

 彼女は解体装備セットでサクサク素材を回収する俺の動きに興味津々のご様子で、しばらく俺の背後でしげしげと観察したあと、隣に並んで身を屈め、話しかけてきた。

 

 

「白布はほんと、なんでも器用にこなすわね。さすがはすべての装備適性A」

 

「それを言うなら、さっきの攻撃魔法なんてマジすごかったな」

 

「そ、そう? ふふっ、これでも王都の学園で上位の成績を修めていたのよ? ま、当然よね」

 

「へぇー」

 

 

 褒められるのに弱いのか、少し顔を赤らめながらも得意げにすました顔を浮かべ、メリーが胸を張る。

 特に何がとは言わないが、俺はそのサイズ感も好きです。

 

 

「なんにせよ、頼りにできそうでよかった」

 

「ええ。それなりに魔法は色々習得済みだから、頼りになさいね!」

 

「おおー」

 

 

 さすがは旅するほどのバイタリティに溢れたお嬢様。

 たゆまぬ鍛錬に裏打ちされた自信を、その表情から感じ取ることができますなぁ!

 

 俺からも信頼の熱い視線を送っておこう。

 

 

「まぁ、あなたの支援を受けたナナさんが前衛を張ってくだされば、私の魔法でモンスターなどドカンバキンとけちょんけちょんにしてさしあげてよ! おーっほっほっほ!」

 

 

 立ち上がり、高笑いまでし始めるメリー。

 一見すれば高慢な印象を受けるかもしれないその笑みも、その実力を目の当たりにしたあとではそうできるに足るものだと確信が――。

 

 

 

「あ」

 

「へ? ……きゃあ!?」

 

 

 突如として水柱が上がる。

 

 

「メリー様!?」

 

 

 ナナが驚きの声を上げる。

 

 

 

 何が起こったのか。

 

 答えはシンプル。

 

 

「がばごぼぼぼっ!!」

 

 

 高笑いして数歩後ろに下がったメリーが、泉の深いところに落ちたのである。

 

 

「メリー様、お手を!」

 

「引き上げるぞ! せーのっ!」

 

「……ぶはぁっ! ぜはー! ぜはー……んもぅ! なによぉー」

 

 

 すぐに俺とナナで引き上げるも、メリーは全身濡れ鼠になってしまった。

 

 

(む……!)

 

 

 あー、ダメダメ。

 魔術師のローブがピッタリと体に張りついて、ちょっとエッチ過ぎます。

 

 お可哀想に(ありがとうございます)。

 

 

「カニジャイアントの死骸のせいでちょっと境界がわからなくなってたか。災難だったな」

 

「うぅ……」

 

「どうぞ、メリー様。手拭いにございます」

 

「ありがとう、ナナさん……まったく、どうして私はこう……」

 

「ん?」

 

「あ。何でもないわ! ダンジョンって気を抜けないわねって思ったの!」

 

「だな」

 

 

 一瞬の油断が命取り。

 たとえモンスターの脅威がなくなっても、フロアのギミック次第では長居できない場所もあるのだろう。

 

 

「ここも、腰を落ち着けられる場所がほとんどないしな。さっさと次のフロアに行こうか」

 

 

 錫杖を取り出しメリーに《リフウォッシュ》を掛けて浄化しながら、俺はうねうね銀河ゲートを見やる。

 

 

「最初のフロアから水浸しとは、驚きでございました」

 

「本当よ。次はもっと普通の場所であって欲しいわ」

 

「だな。できればお宝が置いてあるだけの部屋とかがいい」

 

「いいわねそれ」

 

「はい。そうであるように祈りましょう」

 

 

 口々に次はどんなフロアがいいだとか話しながら、俺たちはゲートへ向かう。

 

 

「………」

 

 

 その最中、メリーが一度だけ振り返り、自分が水ポチャしたところを恨めしそうに見ているのに気づいたが。

 

 

(まぁ、あんな恥かかされた場所だもんな。そういう風にも見ちゃうよなぁ)

 

 

 なんて、この時の俺は軽く考えてスルーした。

 それと同時に、さっきわずかにだが感じていた違和感も、まとめてスルーしていた。

 

 それが諸々間違いだったと気づくのは、この先、ダンジョンを攻略していく中。

 

 

「ひやぁぁぁぁ!」

 

 

 彼女の“活躍”を、目の当たりにしていくにつれて、であった。

 

 




上級魔石付きの魔杖/ブランド:山紫水明(HR)
魔法の発動や効果を高める発動体に上級魔石を使用した魔杖。
ウェストル大陸にある魔法国家の有名ブランド山紫水明が手掛けた逸品。杖先から石突の部分まで、一切デザインに妥協のない丁寧な仕上がりはまさしく職人芸。
魔杖とは装備した者の魔法の才能を引き出し、習得した魔法の安定発動、効果向上などの補助を行なうアイテム。
装備適性B以上であれば、装備した時点でいくつかの魔法を自由に発動することができる。


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次回、メリーの活躍とは?!



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第047話 ご令嬢の秘密!

47話をお届け!

3日に1回投稿で、ゆったりとした物語進行ですが、50話が見えてきました。
書き溜めてもそれをより良いものにしようとリテイクしたりしながらなので中々更新速度はあがりませんが。
変わらず長い目で応援してもらえると嬉しいです。

それでは今回も、よろしくお願いします!


 

 

 メリーは、本当に優秀な魔法使いだった。

 彼女の高いスペックは、ダンジョン攻略において非常にお役立ちだった。

 

 たとえば。

 

 

「……大きな穴と、そのど真ん中を真っ直ぐに貫く不安定な吊り橋。か」

 

「慎重に進まなければなりませんね」

 

「大丈夫よ、事前に浮遊程度だけど飛行できるようになる魔法をかけておくわ――《レビテ》!」

 

「「おお!」」

 

 

 またたとえば。

 

 

「ちっ、こいつめ! 四つ足でめちゃくちゃ素早く動き回りやがる!」

 

「主様!」

 

「ナナは自分の奴に集中しろ!」

 

「は、はい!」

 

「任せなさい! そいつらの動き、鈍くしてやるんだから! ――《ノロリー》!」

 

「! モンスターの動きが遅くなりました!」

 

「よし、押し返すぞ!」

 

 

 さらにたとえば。

 

 

「いよっしゃー! 宝箱だー!」

 

「お待ちなさい、白布!」

 

「止めないでくれメリー! ようやくの報酬――」

 

「よく見て、あれは幻影よ。――《プチファイア》!」

 

「あ! 爆発で幻影が消えました」

 

「うお、回転刃とかえっぐい罠が仕掛けてある。行かなくてよかったぁ」

 

 

 とまぁ、そんな感じで器用に魔法を使って俺たちを支援してくれていた。

 おかげ様で俺とナナは思った以上に消耗せず、ダンジョンを突き進むことができた。

 

 ただ。

 

 

「え、橋板の裏に青ヌメリー? ……って、きゃあーーーー!!」

 

「ああ! メリー様が吊り橋の下で宙ぶらりんに! おみ足が丸出しでいらっしゃいます!」

 

「Oh、スライムバンジー……って言ってる場合じゃない! 今助ける!」

 

 

 とか。

 

 

「おーっほっほっほ! さぁ、やっておしまいなさムグゥゥゥ!?!?」

 

「ああ! メリー様が天井に潜んでいた触手型モンスターに絡め取られて卑猥なことに!」

 

「うわ、全身縛りつけられてスケベ……ってやべぇ! 今助ける!」

 

 

 とか。

 

 

「人の興味を引くような作りをしている場所ほど、罠は仕掛けられやすいのよ」

 

「だな。危ないところを助けてもらった」

 

「ふふんっ。このくらい当然よ、当然――」

 

 

 カチッ。

 

 パカッ。

 

 

「よぉ゛ぉぉーー…………ぎゃん!!?」

 

「ああ! メリー様が罠をピンポイントで踏まれて落とし穴に! 底に溜まった水でまたビショビショになられています!」

 

「今助ける!」

 

 

 とか。

 

 

「きゃああー!!」

 

「メリー様だけが炎の罠に!」

 

「いやああーー!!」

 

「メリー様だけが桶いっぱいの泥をお被りに!」

 

「来ないで来ないでーー!!」

 

「メリー様だけがモンスターに集中攻撃を受けて!」

 

「シビビビッ」

 

「呪撃トラップが!」

 

「さぶぶぶっ」

 

「氷結トラップが!」

 

「ぶべっ! うわぁぁぁ……」

 

「転倒トラップが! ああ、ぬるぬるまみれに!」

 

「もう大丈夫? もう平気? ふぅー、よかったぁぅおぉ~~~!?」

 

「座られたメリー様がバネトラップでお吹っ飛びに!」

 

「………」

 

 

 と、まぁ。

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

 

「め、メリー様……」

 

 

 ご覧の有り様だったのである。

 

 彼女がたまたま立ったところや触れたところに罠があり。

 彼女がたまたま着ていた服の色がモンスターに狙われる条件と合致したり。

 

 たまたま。たまたま。

 

 ひとつひとつの偶然が幾度も重なり、尋常でない被害を彼女に与え続けた。

 いやマジ、メイドインイカバラとかの優秀な防具の数々がなければ、彼女の命はいくつ散っていただろうかってくらいだ。

 

 その中でも特筆すべきは。

 メリーの装備している、『魔術師のローブ』だ。

 

 

「いやぁ……これは」

 

「ぜぇ……ぜぇ……な、なによ?」

 

 

 今も、バネトラップで吹き飛んだメリーに掛かるダメージを肩代わりして無効化した、優秀な装備である。

 だがその代償は……メリーを赤面させていた。

 

 いや、だって……。

 

 

「ダメージ受けて、そんなんなるぅ?」

 

 

 メリーが大きなダメージを受けるたび『魔術師のローブ』は“破損”した。

 しばらくすれば自己修繕機能が働き元に戻るのだが、破損しているまさに今この瞬間は……。

 

 

「……わ、わ、笑いたかったら笑いなさいよ! うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 見事なまでに、ボロボロのズタズタなのである。

 色々な場所がダメージを負った状況とは関係なく引き裂かれ、破け、千切れ飛んで素肌を晒している。

 

 

(完全に、攻撃されたら脱げるタイプのエロRPGの奴じゃん!)

 

 

 こう、絶妙に大事なところが見えそうで見えない調整すれば見えそうなバランスなあたり、職人はいい仕事をしている。

 破損の度合いでメリーが赤面・涙目になっていくのもわかってる感がすごい。

 

 

「なんでそんなの着てるの?」

 

「お母様からの善意のプレゼントで、かつ性能がいいからに決まってるでしょーーーー!!!」

 

「はい」

 

 

 武門の名家サウザンド家の長女にして、自らも優秀な魔法使いであるメリー。

 

 そんな彼女は、どうやらかなりおもしろ……不幸な星の元に生まれてきたらしかった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「5才になった辺りからよ。こんな風に、自分の身にやたらと不幸な出来事が起き始めたのは」

 

 

 ようやく引き当てた石畳のフロア(モンスターはいた)の安全を確保し、ひとまずここで一泊しようとキャンプを張りながら、俺とナナはメリーの、彼女の不幸にまつわる身の上話を聞くことにした。

 

 さすがに状況が状況なだけにメリーもちゃんと話すと言ってくれたが、その表情にはいつもの強気は見えなくて、代わりに苦々しさや悔しさが滲み出ていた。

 

 

「何もないところで転んだり、失くし物をしたり、暴れコッコに襲われたり、私だけテスト問題間違えられたり……とにかく私を狙い撃ちして不幸が舞い込むって経験が沢山あったのよね」

 

 

 ほんの些細な不運から、怪我を負ってしまうような理不尽な事故まで、幾度もメリーは経験してきたのだという。

 

 

「転んだ拍子にパンツ丸出しではしたないとか、やたら服が破れたりとか、成績を上げたいならセクハラ受けろだとか、ホント散々」

 

「………」

 

 

 さっきまでもそうだったが、なんだこの拭いきれぬ同人エロゲのヒロイン感。

 

 

(いやいや今はシリアス。シリアスなシーンだ)

 

 

 ツッコんじゃいけない。

 ツッコむってこの場面だとエッチだね! って、俺のバカ!!

 

 

「私は迂闊で、へっぽこで……それを理由に家を馬鹿にされるのが悔しくて……そんな不幸に負けるもんかって色々な人に教えを願って、本当に沢山のことを学んで、いい装備も買ってもらって。おかげで今もこうして生きているし、清い体でいられてる」

 

「……なるほど、な」

 

 

 メリーの廃課金装備は、まさしく彼女の命を守るための鎧だったのだ。

 そして彼女のバイタル溢れる気質も、家に迷惑をかけないための必死の抵抗だった。

 

 だが。

 

 

「それでも私は、不幸に見舞われた。転ばないようにバランスをとっても、その先でたまたますれ違い際に目を閉じた人とぶつかったり、失くし物をしないように努めても、たまたま装備を外した瞬間に手の届かないところへ落としてしまったり……たまたまが重なった」

 

 

 彼女の不運は、彼女の努力を凌駕して舞い込んできた。

 まるで、そうあれかしと超常の存在が望んでいるかとでも言わんばかりに。

 

 

「極めつけは、まぁ、もう予想できてるでしょうけど。お家の没落騒動よ。私を狙い撃ちする不幸が、ついに家を巻き込んでしまったのよ」

 

「………」

 

「父の属する派閥が政争に負けて、今、サウザンド家は解体されようとしている。それをひっくり返すだけのお金が、私たち一家には必要だった。だから、ここに来たの。もっとも、お父様には内緒で、だけれどね? だってあの人、お金のためだけに私を嫁がせそうだったんだもの」

 

 

 父親が城に出向いている隙に飛び出してきたのだ。と。

 

 そう言って悪戯っぽく笑おうとするメリーだったが、その表情は固い。

 

 ナナがそっと彼女に寄り添い背中を撫でると、小さく「ありがとう」と言ったのが聞こえた。

 

 

「でも、私一人じゃきっと、ダンジョンは攻略できない。誰かの助けが必要だった。それもとびきり腕が立つ、私の不幸なんて跳ね除けちゃうくらい強い人の助力が」

 

「それで白羽の矢が立ったのが、俺たちだったわけだな」

 

「えぇ、あなたたちの噂を聞いたときは、神の助けだと思ったわ。そして実際に見て、この人たちしかいないって確信したの」

 

 

 瓶底眼鏡の厚みで見えない彼女の瞳は、どういう色に俺たちを見つめているだろう。

 こっそり装備しておいた『真偽の指輪』は、彼女からの強い信頼と、後ろめたさを教えてくれていた。

 

 




樫の木の錫杖(R)
杖部分の素材に樫の木を使用した、しっかりとした造りの錫杖。
頭の部分には鉄をベースに金メッキが施されており、見た目にも綺麗。
振れば心地よくシャンシャンと音が鳴り、その音だけでも邪を祓う力があるとされる。
錫杖を装備することで浄化系の魔法に補正が入り、高い適性を持っていれば装備した時点でいくつかの魔法を習得することができる。センチョウの使う《リフウォッシュ》もその一種である。


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次回、メリーの話にセンチョウは……


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第048話 いざ進め!ラストフロア!!

48話をお届けします!

3章も大詰めが近づいています。
どうぞ変わらず応援のほど、よろしくお願いします!


 

 

 ダンジョンの中で過ごす、野営時間。

 自身の大変な身の上を語り終えたメリーが、どこか憑き物が落ちたような顔で言う。

 

 

「なりふり構わず絡んだこと、改めて謝るわ。でも、こうしてここまで来れて、私はやっぱり、自分の選択が間違ってなかったって、そう思う」

 

「メリー様……」

 

「白布も、ナナさんも。強くて、頼りになって、何より親切で……カッコよかった、し」

 

「?」

 

 

 最後の方はごにょごにょしていて、俺には聞こえてこなかった。

 

 ナナの顔が一瞬スンッてなったように見えたが、まぁ気のせいだろう。

 

 

「こんなへっぽこな私でも、一生懸命サポートしてくれて。お人好しって言われないかしら?」

 

「フッ、その呼ばれ方は上等だ。なにせ世界を救う旅の途中だからな」

 

「なぁに、それ。ふふっ」

 

 

 冗談めかして返した言葉で、ようやくメリーに笑顔が戻った。

 

 その後ろでナナもドヤ顔しているから、パーフェクトコミュニケーションである!

 

 

「依頼を受けるときも言ったが、俺の目的はレアアイテムだ。可能なら最奥の財宝まで手に入れたかったが、今回はそっちの依頼だからそこは見逃すさ」

 

「……ほ、本当に。ありが、と……ぅ」

 

「さっきからもごもごして聞こえないぞ? ちゃんと声に出してくれ」

 

「ううううるさい! ナナさん! ご飯の用意をしましょう! ほら、カニのお肉! 手に入ったでしょ!?」

 

「先ほどから挙動不審でございますが、その原因についてお心当たりはおありですか?」

 

「ひぇっ!? な、何を言ってるのかしらななななナナさん!?」

 

「よもや主様に対して何らかの接近願望を抱かれた可能性を、わたくし愚考しましてございます」

 

「な、ななななないないない! ないったら! はい、ナナさんは野菜を切って!」

 

「わぅ」

 

 

 なんだか勝手に向こうで盛り上がって、二人で料理を始めてしまった。

 

 まぁ俺としては、メリーには、ここで手に入るレアアイテムが何なのかをいい加減教えて欲しいと思っているんだが。

 

 

(話してくれないってことは、俺がついつい奪いたくなるようなすごい物の可能性もある。クックック、焦らしてくれるぜぇ)

 

 

 順当にSRかな? それともUR? まさかまさかのLRだったり?

 

 考えれば考えるほど胸が弾んでくるぜ!

 

 

「まぁ、いずれにせよ。メリーの不幸体質だかラッキースケベ体質だか知らないが、そんなもんに負けてられるかって話だ」

 

 

 何でもありのモノワルドだし、事実そういうタイプの人ってのもいるんだとは思う。

 

 そんな自分の体質に抗いながら、こんなところまでやってきたメリー。

 

 

(ああ、こりゃまぎれもないな)

 

 

 ここまでメリーのことを見守り続けて、思い至った俺の結論。

 メリーという少女の正体。それは――。

 

 

(ド根性お嬢様だ)

 

 

 どんな逆境に対しても泥臭く抵抗し、自らの夢を叶えようと足搔き続けるお嬢様。

 いかなる困難に見舞われようとも、諦めたりなんかしない。

 

 気高き存在。

 

 

(あぁ……オタクに優しいギャルと同じ、空想上の生き物じゃなかったんだ)

 

 

 俺がどうして彼女の力になりたいと思ったのか、その答えがようやくわかった。

 だって俺、そういう子大好きだから!!

 

 

(こういうタイプの子は、ついつい応援したくなるだろ? 俺はなる!)

 

 

 メリーについて少しだけ理解が及んだことで、俺は改めて決意する。

 

 

「不幸体質なにするものぞ。レアアイテムを手に入れて、そんなもんに負けなかったって笑うメリーの顔をこそ拝もうじゃないか」

 

 

 不幸体質お嬢様の心からの微笑みスチル。

 ここまでさんざん微エロでサービス?してくれたお嬢様の最後のCG。

 

 個人が貰う報酬としては十分だと、俺は一人頷き、静かにその達成を誓うのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 それから一晩ゆっくり休んで。

 俺たちは冒険を再開、ランダムダンジョンの続きを攻略する。

 

 

(モンスター部屋、罠部屋、罠部屋、罠部屋、モンスター部屋、罠部屋、モンスター部屋!)

 

 

 果たしてこれがメリーの不幸体質によるものなのかはわからないが、道中は過酷を極めた。

 だがそれでも俺たちは諦めず、一歩一歩前へと進み、遂にそこまで辿り着く。

 

 

「赤っぽい色したうねうね銀河ゲート?」

 

「ぜぇ、ぜぇ……おそらく次が、財宝部屋か、ボス部屋よ」

 

「いよいよでございますね」

 

「「………」」

 

 

 カァーーーーット!

 

 若干一名息が荒い。

 

 

「休憩入りまーす!」

 

 

 最終フロアへ入る前に、俺たちは十分な休息を取った。

 

 

 

 Take2。

 

 

「……さぁ、天国か地獄か」

 

「財宝部屋か、ボス部屋か」

 

「まいりましょう……!」

 

 

 改めてゲートの前に立ち、各々覚悟を決める。

 

 俺は二人とそれぞれ頷き合ってから、先陣を切ってゲートに触れた。

 

 

「こんだけ苦労したんだ。財宝部屋に決まってるさ」

 

 

 ホワイトアウトする刹那を越えて、辿り着いたゲートの向こう。

 

 

「……ほーらな!」

 

 

 そこは神秘的な雰囲気の、至る所が緑に古錆びた、銅のような金属の壁に囲われたフロア。

 

 その中央に建てられた台座の上には、大きな大きな宝の箱が鎮座していた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 地獄のようなランダムダンジョンの、ラストフロアには。

 

 

「でかいな」

 

「でかいわ」

 

「すごく、大きいです……」

 

 

 そりゃもう立派な台座の上に置かれた、ビッグな宝箱がありました。

 

 

「「………」」

 

 

 どうやら俺たちは、天国と地獄の二択に勝ち、財宝部屋を引き当てたらしい。

 

 

(本来ならここで「ひゃっほう!」って駆け出すところなんだが……)

 

 

 振り返ってみれば、そこにあるのは警戒を怠らない頼りがいのある顔たちである。

 そう、この場に立つ3人の誰一人として、ここが安全だなんてすぐに信じている者はいない。

 

 

「……バネトラップからのパンチングトラップ」

 

「フロア崩落トラップに、床下に隠れた伏兵モンスター」

 

「何の脈絡もなく設置された透明ガラスの壁などもございました……」

 

 

 そう、俺たちは学んでいる! ……主に! 体で!

 

 

(最後のフロアだからって、警戒は忘れないのだ!!)

 

 

 痛いのは嫌なので、警戒心に極振りしているのだ!!

 

 

 

「ナナ、行くぞ」

 

「はい、主様っ!」

 

「メリーはここで待機、いいな?」

 

「ええ」

 

 

 互いに示し合わせてから、俺とナナはメリーを残し、宝箱のある中央の台座へと向かう。

 

 長かったダンジョン攻略も、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。

 

 




貨幣専用収納袋・ガマグチ君(R)
がま口財布型の貨幣専用収納袋。その言葉通りお金(gとs)を入れるための物。
ゴルとシールは特定の政府に属さないGS財団という組織が管理、製造しており、世界に通貨として流通させている。
ナナが持っているものはセンチョウが適当に買い与えた物であるが、彼女にとってはとても大事な宝物として使い込んでいるらしい。


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次回、いよいよお宝とご対面?!


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第049話 ラストフロアの宝箱!

49話をお届けです!


 

 

「周囲に気を配れ、足元にも注意しろ」

 

「天井にも目星をつけてまいりましょう」

 

 

 そろり、そろりと一歩ずつ。

 これまでのフロアの中でも随一の広さを誇る空間を、慎重に進んでいく。

 

 

(壁、床、天井……どれも似たような金属で作られてるな。柱は……これ、オブジェクトか)

 

 

 ラストフロアは、いかにも最後ですと言いたげなドーム状の荘厳な造りをしていた。

 茶けた銅のような金属がぐるりと壁になり、途中からはまるで全天が蛍光灯にでもなったかのような発光する白い壁材が天井まで覆っている。

 壁に古錆びた緑色の部分があることで、余計に部屋全体が明るくなっているようだった。

 

 

「独特の、威圧感のようなものがございますね」

 

「だな。気圧されないように、慎重に、だ」

 

 

 荘厳さといえば、転送された地点から台座まで、色の違った床材が敷き詰められ、まるでレッドカーペットを敷いた道のようになっているのもいかにもだ。

 また、中央の丸い台座を囲むように8本ほどの柱がフロア内に等間隔に並べられており、柱は建物3階分ほどはあるフロアの天井までは届いておらず、そのオブジェクト感が露骨にこの場所は神聖なところですよ、宝箱は素敵な物ですよとアピールしているかのようだった。

 

 むしろここまでやって、宝箱の中身がただの薬草とかだったら拍手してやる。

 

 

「出口は……まぁ、あそこだな」

 

 

 転送位置から台座を挟んだ向かいの壁には、脱出口だろう青光を輝かせるうねうね銀河ゲートの門が設置されている。

 

 転送地点から台座へ向かい、宝箱を回収して、脱出する。

 

 まるでこれこそが苦難を越えてきた冒険者へのダンジョン側からの計らいであるかのように、フロアには入場から退出までの、綺麗な導線が敷かれていた。

 

 

 

「……んー」

 

「罠は見つかりませんでしたね、主様」

 

 

 結局、俺とナナ、どちらも台座に到達するまでに罠を発見できなかった。

 柱が宝箱を守るように結界を張ってもいなければ、台座のそばに立つことで体に変調をきたすようなこともなかった。

 

 

「取り越し苦労だったか?」

 

「いえ、無駄ではございませんよ。安全が確保できた、ということにございますので」

 

 

 最後に宝箱をコンコンとノックし反応がないのを確かめて。

 

 

「いや、これじゃ足りないかもしれないな。ナナ」

 

「はい、主様! とう!」

 

 

 ゴンッ!!

 

 念には念をのナナパンチ!

 

 

「……反応、なし。よし! おーい、メリー! 大丈夫そうだぞ!」

 

 

 ナナパンチを受けてなお形を変えず、台座からも落ちない宝箱ならもう問題ないだろう。 

 いわゆる非破壊オブジェクト、なんか神の力で壊れなくなってる奴に違いない。

 

 

「わかった! 今そっちに行くから!」

 

 

 メリーを呼び、いよいよ最終チェックだ。

 俺たちが気づけなかっただけで、メリーの不運が何かを反応させるかもしれない。

 

 

「……ごくり」

 

「……ドキドキ」

 

 

 魔杖を胸に抱いて恐る恐る近づいてくるメリーを、俺たちは固唾を飲んで見守る。

 

 

「………」

 

 

 金属の床を一歩ずつ踏みしめ、柱の囲いを越え、俺たちの待つ台座のもとへ。

 

 

「がんばれ、がんばれメリー」

 

「大丈夫でございます。わたくしたちが罠は徹底して調べました」

 

「……ええ、信じる。あなたたち、二人を」

 

 

 その足取りは遅くとも、迷いはない。

 

 緊張の時間を過ごす俺たちのところへ、そしてメリーは辿り着く。

 

 

「……ゴールッ!」

 

「罠の発動は……ございません」

 

「と、いうことは? つまり――」

 

 

 そこでようやく、俺たちは。

 

 

「――ひゃっほぅ! 財宝部屋、確定だぁぁぁ!」

 

 

 ダンジョン踏破の、歓喜に打ち震えるのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「この中に、メリーが求めていたレアアイテムがあるってことでいいんだな?」

 

「ええ、そのはずよ。サウザンド家を盛り返すための鍵となるレアアイテムが、この中に」

 

「ドキドキにございます」

 

 

 改めて見つめる、台座の上の宝箱。

 俺たち3人が横並びになって張り合うくらい横長のビッグなそいつに鍵穴などはなく、真ん中にあるシンプルなデザインの留め具を外せば、すぐにでも開けられる作りになっている。

 

 正直に言えば今すぐ俺の手で開けたくてしょうがなかったが、その役どころは今回俺のものではない。

 

 

「メリー」

 

「え、ええ……」

 

 

 今回のダンジョン攻略の依頼主であるメリーに、その役目を譲る。

 俺に促された彼女は恐る恐る宝箱に触れ、指先で蓋をなぞりながら留め具へ到達すると、いったんそこで指を止めた。

 

 

「メリー様?」

 

「………」

 

 

 ナナの呼びかけにもしばらく沈黙で返したメリーは、少しだけ間をとってから、感慨深げに口を開く。

 

 

「……なにかしら。ちょっと実感が湧かないっていうか、ここまで来れたんだなぁって思うと、色々と思い出しちゃうというか」

 

 

 その言葉を呼び水に、メリーの口からはポロポロとさらなる言葉が溢れていく。

 

 

「私、小さい頃からずーっと、サウザンド家という立派な家名にふさわしい立派な令嬢であるために、自分の不幸と戦いながら生きてきた。……家にいたときも、学園にいたときも、理不尽な不幸にぶつかるたびに、負けるもんかって思いながら」

 

 

 それは、これまでの生き方を思い返すような、メリーにとって大事なことを掘り起こすような行為に見えて。

 

 

「………」

 

 

 俺は、口を噤んで見守ることにした。

 

 

「でも、いよいよ家がピンチになって、家族の誰一人として望んでない結婚をさせられそうになって、最後の手段だって国すら飛び出して、こんなところまできて……必死に、命がけで頑張らなきゃいけないときなのに……今の私ったら、ここまで来たことを、楽しかったなって思っちゃってるのよ」

 

 

 不意に浮かべる照れくさそうな笑みと、留め具の上でくりくりと遊ばせる指先が、俺の心をざわつかせる。

 

 

「あなたたちと出会って、いちゃつくあんたらを呆れながら見守る道中や、いざダンジョンに入ってからの苦労とか、大変な目には遭ったけど……それでも誰かと全力で助け合いながら進む道は、楽しかったわ!」

 

「メリー様……」

 

「対等な誰かと一緒に何かするって、これまであんまり経験なかったから……全部ひっくるめてフォローし合える仲って、心地いいのね」

 

「……あぁ」

 

 

 そこまで言われてようやく、俺はメリーが旅の終わりを惜しんでいるのだと気がついた。

 

 

「本当、こんなに楽しい時間だったらもっともっと浸っていたいと思った。けれど、私には目的があるから」

 

 

 没落しかけの実家を金の力で救う。そのために自分はここへ来た。

 それをメリーは、忘れていない。

 

 

「だから、終わらせましょう。アイテムを手に入れて!」

 

「……ああ、そうだな!」

 

「はい」

 

 

 その時見せたメリーの笑顔を、俺は忘れない。

 力強く、けれど少しだけ寂しげな、潤んだ瞳の微笑みを。

 

 彼女の旅の終わりが、もうすぐそこにある。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「さぁ、開けるわよ!」

 

 

 思うがままに話し終えてすっきりした顔のメリーが、いよいよ宝箱に手を掛けた。

 

 

「ちゃんと俺にも拝ませてくれよ?」

 

「もちろん! 一流の貴族は約束を違えないわ!」

 

 

 軽口を叩きながらメリーが留め具に触れれば、すぐさまガチャリと金具の外れる音がして。

 

 

(さぁ、どんな宝が俺たちを出迎えてくれるんだ?)

 

 

 メリーがずっと秘密にしていた宝箱の正体がいよいよ分かる。

 その瞬間を今か今かと待ち構えながら、俺は彼女の指の動きを目で追った。

 

 

「せーのっ、そりゃ!!」

 

 

 両手の指を宝箱の蓋に引っ掛け、メリーが思いっきりの力を込めて、持ち上げる。

 

 巨大な宝箱がその口を大きく開き、ついに俺たちにその中身を晒す!!

 

 

「お母様! ついにメリーは成し遂げましたわ」

 

 

 

 パクンッ

 

 

 

「よぉぉ~~~~…………!?!?!?」

 

 

 

 じゅるるるるっ、ごくんっ!

 

 

 

「「………」」

 

 

 俺たちの視界からメリーの姿が消え。

 

 

「……グェ~~~ップ!」

 

 

 メリーを呑み込んだ宝箱は、べろりと大きな舌で縁の部分を舐めると。

 

 

「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

 

 悪戯に成功した悪ガキのように、下品な声を上げて笑った。

 

 

 

「「………」」

 

 

 その一部始終を目の当たりにした俺とナナは。

 

 

「ばっ、嘘じゃーーーーん!?!?!?」

 

「メリーさまぁーーーー!?!?」

 

 

 数拍遅れて、絶叫した。

 

 




転移門(SR)
うねうね銀河ゲート。
設定された場所へ時間、空間を越えて一瞬で移動する設置型アイテム。
うねうねした銀河っぽい何かが転移の魔法を視覚的に捉えた物であり、その発動の有無で転移門の起動の有無を確認することができる。
2つセットで行き来するものであったり、指定された範囲内のランダムな門に移動する物など、さまざまな種類がある。


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次回、動き出した宝箱。捕らわれたメリーは……


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第050話 メリー・イン・ザ・ボックス!

50話をお届けです!
50という大きな数字に到達出来て、達成感があります。
第3章もクライマックスゾーン突入です。

それでは、今回もよろしくお願いします!


 

 

 ピッ。

 

 メリー は ミミック に 食べられて しまった!

 

 

「箱ぉーーーー!! チェックしたじゃーーーーん!?」

 

 

 もしかして、留め具を解除するのがトリガーだったのか!?

 

 

(トリガー踏むまで非破壊オブジェクト、踏んだらモンスターになるトラップ? つまり絶対不意打ち食らわせるマン!?)

 

 

 理不尽にもほどがあるんじゃないのそれーー!?

 

 

「なによこれぇー!」

 

「!」

 

 

 中からメリーの声が聞こえる! ひとまずは無事か!

 ってかこれが即死トラップだったら理不尽どころの話じゃねぇ!!

 

 

「メリー様! ……主様!!」

 

「わかってる! 支援飛ばすぞ!」

 

「はいっ!」

 

 

 俺は即座に補助杖を取り出し、ナナに支援魔法を掛けまくる。

 

 

「ウギッグゲェェェェ!」

 

 

 そのわずかな時間にミミックは口からでろでろと大量の触手を吐き出すと、それらを使って地面をぬらぬら滑るように移動し、柱のあいだを抜けて俺たちから距離を取った。

 

 だが甘い!

 

 

「GO、スーパーナナ!」

 

 

 多少距離が離れたところで彼女の攻撃範囲だ。

 

 

「メリー様! 今お助けいたします!!」

 

 

 ありったけの支援を受け取ったナナがひと踏みでミミックに詰め寄れば、メリーを吐き出させようと自慢のこぶしを叩き込む!

 

 

「てぇぇぇぇ!!」

 

 

 これまで数多のモンスターを粉砕してきた必殺のこぶし!

 罠チェックのためじゃなく、なんならぶち壊すことすら想定した本気の一撃!

 

 

「……えっ!?」

 

 

 

 ガインッ!!

 

 

 

 響いたのは、金属を重くノックした音。

 

 

「ゲヒヒヒヒッ!」

 

「なん……だと……っ!」

 

 

 俺の目に映った光景。それは――。

 

 

「……盾ぇ!?」

 

 

 自分の中から取り出した銀白の大盾を構える、宝箱モンスターの姿だった。

 

 さらにその直後、ミミックは黄色く半透明でゲル状な、いかにもな疑似手を新たに生やし。

 

 

「ナナ!」

 

「わぅ!!」

 

 

 とっさに指示を出しナナを引かせたおかげで、かろうじてその一撃を躱す。

 

 新たに生えた手は、盾と同じレアリティくらいかそれ以上の、美しくも切れ味鋭そうな長剣を握っていた。

 

 

(まさか装備して……いや、まさかまさかだ。だって――)

 

 

 《イクイップ》はヒト種に備わってる力だって、ゴルドバ爺は言っていた。

 つまり、アイテムを装備し力を得ることができるのは、ヒト種だけってことだ。

 

 察するにあれは奴の一部、もしくは生まれ持った性質に違いない!

 人様の真似事をしようとは、ふてぇ野郎である。

 

 

「さっすがゴルドバ爺、この世界らしい奴を出してくるじゃねぇか」

 

 

 以上をもって結論づける。

 

 普通のモンスターとは明らかに一線を隔するその威容。

 その姿が示すことは、間違いなく!!

 

 

(どう見てもボスモンスターです! 本当にありがとうございました!!)

 

 

 メリーの不運は、最後の最後の部屋ガチャすらも、外してしまったらしい。

 

 ダンジョンの最奥に待ち受けていたのは、素晴らしき財宝部屋などではなく――。

 

 

「み゛ゃー! なんか絡んできたーーーー!!」

 

「メリー様ーーーー!!」

 

 

 それに擬態した、めちゃくちゃに意地の悪い、ボス部屋だったってことだ!!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 ああ、そうやってまた、私を阻むのね。

 

 どれだけ努力しても、どれだけ幸運に恵まれても、それを凌駕してやってくる。

 

 私に、すべて無駄なのだと突きつけてくる。

 

 

「出しなさい! この! 許さないんだから!!」

 

 

 手足をじたばたと暴れさせると、それ以上の力で締め上げられ、押さえ込まれる。

 

 

「ぐ、ぅ……!」

 

 

 外見より何倍も広かったミミックの中で、捕食された私は全身を拘束されてしまっていた。

 

 

(どうして、どうして私は……!)

 

 

 あれだけ慎重に二人が調べてくれたのに、普通ならあれでわからないはずがないのに。

 

 それほどのリスクをあの二人が負ってくれたのに、この体たらく。

 

 

(ゆる、せない! 許せない!!)

 

 

 この状況が、理不尽を強いてきたこの敵が、そして何より……自分の無力さが!

 

 

「くっ……ふん、ぬぅっ!!」

 

 

 全身全霊を込めて拘束を振り解こうとする。

 けれど、モンスターはその抵抗を軽々と凌駕する力でもって押さえ込む。

 

 バチッ! と音を立て、特注の『魔術師のローブ』が破損した。

 

 

「んぐ……くぅ」

 

 

 この装備がなければ、私の体なんて言葉通りの一捻りにされていたに違いない。

 でも、ここで今まさに耐えられている事実こそが、私の心の一番深い部分を逆なでする。

 

 

「……こ、のっ! ふざけないで!」

 

 

 悪態をついたのは、ミミックに対してじゃない。

 自分に対してでもない。

 

 

(ほんと……こんなもの!)

 

 

 今まさに、私に使えと主張してくる“右目に刻まれた力”に対する怒りがそうさせた。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 ギフト、という言葉がある。

 それは神や、それに準ずる存在が、気まぐれに人に与える強大な力のことを指す。

 

 5才になった私にも、そんなギフトが気まぐれに与えられた。

 

 

『おーう、ワタシ好みの幸薄そうなレイディ! 貴女に過酷と幸福を与えましょう!』

 

 

 初めて《イクイップ》を唱えた私に聞こえた、訳のわからない存在からの声。

 

 

『その力は貴女の過酷を切り拓くための力。どうぞ、存分にお使いなさい』

 

 

 そう言われて与えられた力は、私の右目を起点に発動するものだった。

 

 

 

「……え?」

 

 

 あるとき、ふとしたきっかけに右目だけで庭師を見たら、その人の装備適性が見えた。

 不思議に思ってもっと目を凝らしたら、もっと詳しい情報が見えるようになった。

 

 見れば見るほど、その人の情報が丸裸になっていく。

 そして私は息苦しくなっていく。

 

 あのときもしも、異変に気づいたお母様に声をかけてもらえなかったら、私はきっと情報の海に沈んで死んでいただろう。

 

 力のことを話したら、これを掛けなさいと瓶底眼鏡を渡された。

 掛ける前、鏡で見た私の右の瞳には、星形の文様が浮かんでいた。

 

 

 

 それ以降も、時々勝手に右目の力は発動し、私に様々な情報を与えてきた。

 おかげで知りたくもないことを知ったし、知らなくていいことまで知らされた。

 

 でも、その知識が私に舞い込む不幸に対し、役に立つことが多々あった。

 さらには魔法の発動体の役割も果たし、使えば並のアイテムを装備する以上の威力を発揮した。

 

 そこまでくれば、嫌でもわかる。

 

 

(この力は、迫りくる不幸とセットなのね)

 

 

 あの日、私に与えられたのは過酷と、幸福。

 人の身に過ぎたこの力は、私に与えられる過酷を乗り越えるための武器だったのだ。

 

 

(この力を使えば、不幸を乗り越えられる……)

 

 

 そう思った次の瞬間、私は自然と歯を食いしばり、足を持ち上げ。

 

 

「ぜっっっっったいに頼ったりなんてするもんか!!!」

 

 

 全力で大地に地団駄を踏んでいた。

 

 

「ギフト? 過酷を乗り越える力? その過酷自体が与えられたものじゃない! それをこの力を使って乗り切れ? そこまでお膳立てされて気づかないとでも思ったのかしら!?」

 

 

 これは、見世物だ。

 舞台に立っているのは私で、見ているのは力を与えた存在。

 

 そいつは私という人間を使って、私という人生を使って、見世物を楽しんでいるのだ。

 

 

(そんな奴の望む形で、私は生きてなんてやらない!!)

 

 

 見世物になるつもりはない。

 だから私は、私の力で、私の目指す存在になるために努力することを決めた。

 

 

(サウザンドの名を名乗るに足る、立派な貴族になってみせる!!)

 

 

 そう決めて、与えられた運命に抗い始めたのだ。

 

 

 …

 ……

 ………

 

 

(で、このザマよ……)

 

 

 今や『魔術師のローブ』は半壊して、声を上げ続けた口は疑似手で塞がれている。

 ねばついた液体が体中に絡みつき、もう身動き一つとれなくなった。

 

 

「もご……もごご…………」

 

 

 考えなしに魔法を唱えようとしたのが良くなかった。

 おかげでもう、抵抗しようがない。

 

 右目の力を使う以外では。

 

 

(ここから逆転する方法……確か道化師の中に全身の骨を外してぬるぬる動くって芸があるとかないとか、それを今ここで習得できれば脱出を……さすがに無理よね)

 

 

 アイテムの力を借りずに専門的な芸当が自分にできるはずはない。

 そしてできたとしても、この状況を打開できるとはとても思えなかった。

 

 

(考えなさい、メリー・サウザンド。あなたはどんなときだって諦めはしないのだから)

 

 

 自分を鼓舞して頭を回す。

 どうにか自分の力だけでそれを乗り越えられないか、知恵を搾る。

 

 

(……今、あの二人は何をしているのかしら)

 

 

 外からの音が遮断されて何分経ったか。

 入口で出口の箱の口は、今は白い光のようなものでその向こうを見ることができない。

 

 

(待ってたら、助けてもらえるかも?)

 

 

 正直、期待はしている。

 あの二人は、特に白布は、本当に規格外だから。

 

 

(白布はすべての装備適性Aの怪物で、ナナさんもその正体は身体能力に長けたライカン。王国貴族の私を警戒するわけよね)

 

 

 道中勝手に発動した右目が、私に教えたこの情報。

 本来なら知っていてはいけない、相手にとっても知られたくない情報。

 

 でもこれを知ったから、私は彼らの戦いぶりを信じられたし、ここまで来ることができた。

 結局は、与えられたギフトに助けられてしまっている。

 

 そんな自分が嫌になる。

 

 

(……せめて、あの二人にこれ以上の迷惑はかけたくない)

 

 

 いっそ逃げていてくれたらいいのにとも、思う。

 捕らわれてしまった私がここで死ぬのは自分の迂闊さ、自己責任だと思えるから。

 

 でも。

 

 

(こんなところで死ぬなんて、絶対に嫌!)

 

 

 そう思ってる時点で、私に残された選択肢はない。

 でも、嫌で嫌で嫌でしょうがない。

 

 その時だった。

 

 

「もごっ?」

 

 

 私の目の前を、大きな斧が滑っていった。

 それは真っ直ぐに唯一の出口へと向かっていき、すぐに見えなくなった。

 

 

(どうしてミミックが、アイテムを吐き出そうとするの?)

 

 

 ミミックに倒した相手のアイテムを貯め込む習性があることは知っている。

 でも、死んでもいないのにアイテムを吐き出すだなんて、聞いたことがない。

 

 あるとすれば、それは例外中の例外。

 この世界におけるイレギュラーが絡んだ事例しか……。

 

 

(――!? そういうこと!?)

 

 

 気づいてしまった。

 

 あの二人は今も外で戦っていて、このモンスターはそれに対抗しているのだと。

 そのために、あの斧は使われるのだと。

 

 そしてそれが意味するところは、絶望であるのだと。

 

 

 だから。

 

 

(……いいわよ。今だけは見世物にだってなってやるわ。この戦いは、私だけの戦いじゃないのだから!!)

 

 

 自らの意志で、右目を起動する。

 授けられたときに教えられた、大仰な名前を心で叫ぶ。

 

 

(起動しなさい――《神の目》!!)

 

 

 私の心に従って、右目に星形の光が灯る。

 発動した力は、私の見ているものの情報を嬉々として私に伝えてくる。

 

 そして私は、自分の考えが間違っていないと確証を得た。

 

 

(これは、絶対に伝えなきゃいけない! そうじゃなきゃ、あの二人が――!!)

 

 

 続けて私は、右目を起点に魔力を練り上げていく。

 今の私にできる、最大火力を準備する。

 

 

(精々そこで見てなさい! 私は、私の望む未来を、決して諦めないんだから!!)

 

 

 そうして私は魂を燃やし、魔法を発動させる。

 

 逃げろ、と。仲間に伝えるために。

 

 




銀白の大盾(SR)
魔法金属で作られた、銀白色の美しい大盾。
表面に刻まれた文様の力でさらに防御効果を高めており、見た目素材以上の防御力を発揮する。
物理、魔法どちらの攻撃に対しても一定の防御効果を得られる万能型で、盾適性B以上の者が装備することで、一時的に防御範囲を拡大する力を発動できる。


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次回、ボスバトル!


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第051話 ボスバトル!

51話をお届け!

ジャンル冒険・バトルであるからには……あります、バトル!

それでは今回も、よろしくお願いします!


 

 

 ランダムダンジョンのラストフロア。

 大仰な造りの財宝部屋は、最後の番人を偽装するための仕掛けだった。

 

 

「ゲヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 

 依頼主にして旅の仲間でもあったメリーをパクリとひと呑みにしたそいつ――ミミックは、自らを飾る台座から飛び出し、俺たちに向かい下卑た笑い声をあげる。

 

 

「ナナ!」

 

「お任せを!!」

 

 

 俺がナナに声を掛けると、彼女はこちらの意図を察して前に飛び出す。

 

 

「わたくしが相手です!」

 

 

 超強化されたフットワークで左右に揺さぶりをかけながら距離を詰め、ここぞのタイミングで殴り掛かる。

 

 

「はぁー!!」

 

「ゲヒャ!!」

 

 

 放たれるこぶし、時待たず響く金属音。

 

 ナナの必殺のこぶしは、再びミミックの疑似手が握る銀白の大盾によって阻まれる。

 

 

(だが、それでいい!)

 

 

 ナナの攻撃にミミックが対応している、その隙に俺は自らを強化する。

 

 

「《マテリアップ》! 《レジアップ》! 《マッソー》《テクニカ》《カソーク》そして《オールゲイン》!!」

 

 

 手にした補助杖の力を借りながら唱える強化魔法の数々。

 ナナをスーパーナナへと変える必勝の支援を自分にも掛ければ、準備は万端だ。

 

 

「ゲヒャ!」

 

「ふぅっ!」

 

 

 横薙ぎに放たれた業物の一撃を蜘蛛のような姿勢で身を屈めて躱したナナが、その反動を利用して大きく後ろに跳び退り、俺の元へと戻ってくる。

 

 

「よくやった!」

 

「わぅっ、光栄です」

 

 

 役割を果たしたナナを誉めつつ、俺は武器を補助杖から持ち替え――。

 

 

「主様!!」

 

「うぉ!?」

 

 

 突如俺にタックルをくらわすナナと一緒に、俺は台座の陰に転がる。

 

 直後。

 

 

 

 ドゴォッ!!!

 

 

 

 強烈な破砕音とともに目の前の台座が半壊。石つぶてが飛び散る。

 

 その瞬間、俺は確かに目の当たりにしていた。

 

 

「槍の、投擲だと!?」

 

 

 身を起こし、まだ残っている台座の足部分から、ひょっこりと顔を出し確かめる。

 

 

「ゲヒャヒャヒャ!!」

 

 

 愉しそうに笑うミミックが新たに伸ばした疑似手に向かい、箱の中からにゅるりと槍が伸びてきて、その手に握られる。

 

 その様子を見ている俺の眉間に目掛けて狙いをつけると、次の瞬間――。

 

 

「主様!」

 

「わかってる! っでぇぇぇ!!」

 

 

 とっさに二人、別れて飛び出すその直後。

 

 

 ドゴォッ!!!

 

 

 再び投擲……否、強烈に射出された剛槍が、今度こそ台座を完膚なきまでに粉砕した。

 

 

「盾に剣に、おまけに槍だと!? どんだけやりたい放題しやがるんだ?!」

 

 

 色々使えるのは俺の特権だったのに!

 ちょっと親近感覚えちゃったじゃないか、こいつ!

 

 

「あるじさま!!」

 

「大丈夫だ! だが、どうやら一筋縄じゃ行かないぞ!」

 

 

 そう言ってるあいだにも、ミミックは新たな疑似手を伸ばし、その手に武器を持つ。

 

 弓と矢。

 より早く、より鋭く相手を刺し穿つことを相手は狙ったらしい。

 

 

「はっ、だが一本でどこまで……」

 

「ゲヒャ!」

 

 

 瞬間、ずらりと並ぶ弓と矢。その数10セット。

 しかもひとつの弓に番えられてる矢の数が、5本くらいある。

 

 この雑な武器の取り出し方! カートゥーンアニメかよ!! ハハッ!

 

 

「ハハッ! じゃねぇ!! か、躱せーーーー!!!」

 

「わぅーーーー!!」

 

 

 たった一匹のモンスターから放たれる、矢の雨。

 

 天井ギリギリに飛び上がり、障害物を無視して飛来する攻撃に、俺とナナは全力で逃げ惑う。

 

 

「め、メリーを助けるどころじゃねぇ!」

 

 

 かろうじて矢の雨から逃れたところで、俺の脳内に選択肢が浮かぶ。

 その問いかけは、シンプルだ。

 

 

(逃げるか。戦うか)

 

 

 こんな一人軍隊みたいな奴を相手にして、どれだけ俺に得があるか。

 勝ったところで報酬はない。どころか依頼主はもう奴の胃袋の中だ。

 

 幸い戦いが始まっても、出口のうねうね銀河ゲートは開いたままで、逃げるのは難しくない。

 このまま戦闘を続けてナナや自分が怪我をするリスクを考えると、お世辞にも戦闘続行は賢い選択だとは思えなかった。

 

 

「ナナー!」

 

「はい! 主様!!」

 

 

 離れてしまったナナに、声を張る。

 出口に近いのはあっちだから、とりあえず「先に脱出しろ」と言うのがど安定だろう。

 

 

「絶対あいつぶっ壊してメリー助けてレアアイテムも手に入れるぞ!」

 

「仰せのままに!」

 

 

 ま、しないけどね!!

 

 

「ざっけんなよ?! 非破壊オブジェクト状態からの不意打ち強制とかいうハードモード仕掛けてくれたんだ、その分いい奴手に入らなかったらぜってぇ許さねぇからな!!」

 

 

 叫ぶあいだに再び放たれた矢の雨を、今度の俺は真正面から受け止める。

 

 面攻撃だろうが、俺にはこれがある!

 

 

「起きろぉーー! 『ぎんの手』ぇぇぇぇ!!」

 

 

 カァンッ!!

 

 と、甲高い音がする。

 

 

(っしゃぁ!)

 

 

 叫びと共に、俺の眼前にまで迫っていた矢が、透明な障壁に受け止められていた。

 

 

「《イクイップ》! っでりゃあああ!!」

 

 

 矢をはじく間に適当な手槍を装備。

 全力投球でミミックにぶん投げる!!

 

 

「ギギィィィ!!!」

 

 

 それを盾で受け止めたミミックの体が、衝撃で跳ねる。

 すかさず追撃を仕掛けようと次の槍を手に取ったが、その時には触手が踏ん張りを利かせて姿勢の乱れを整えていた。

 

 

「ちぃ!」

 

 

 即座に俺狙いで放たれる矢の雨に、持っててもしょうがない槍を牽制に放り投げながら、俺は移動する。

 

 決定打を与えるには、やっぱ接近戦しかないか!

 

 

「今お助けします!」

 

 

 放っておけば間断なく続く攻撃を止めるべく、ナナが突撃する。

 ライカンの身体能力+ゴリゴリ盛った支援魔法の効果で電光のように駆け抜ける彼女が狙うのは、武器を持っている疑似手だ。

 

 

「ったぁ!!」

 

 

 横薙ぎの手刀。

 そんじょそこらの刃物より鋭いそれが、ミミックの疑似手の幾本かを断つ。

 

 だが。

 

 

「なっ!?」

 

 

 手応えに満足していたナナの、その目の前で。

 

 

「再生!?」

 

 

 断ち切られたはずの疑似手が、千切れた水滴が再び集まるかのように接着、元通り。

 

 その手に持っていた剣を、ナナへと真っ直ぐに振り下ろす!!

 

 

「ナナーー!!」 

 

 

 ナナの動きに合わせて側面から攻撃を仕掛けようとしていた俺の、予定変更!

 とっさの判断でナナを庇い、先ほどやられたお返しのようにその小さな体にタックルを決める。

 

 当然、剣に切られるなんてヘマもしない!

 俺は振り下ろされる刃を躱し――。

 

 

「ゲヒャッ」

 

「……嘘だろ?」

 

 

 その後ろから放たれた、ミミックの矢の餌食になった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「……さま! 主様!」

 

「ぉ?」

 

 

 気がつくと、俺の体は俺の意思とは関係なく動いていた。

 正確には、走るナナに担がれ振り回すように取り扱われ、揺れ動いていた。

 

 ……っべ! 意識トんでた!!

 

 

「ナナ! 何分トんでた!?」

 

「数秒です、主様。よかった、意識が戻られて……!」

 

「悪い、すぐに離れ……ぐぁっ」

 

 

 動こうと身を強張らせると、背中に猛烈な痛みが走る。

 

 

「主様、今主様の背中には、3本ほど矢が刺さっております」

 

「Oh……」

 

 

 サラッと言われたが、結構グロい奴じゃないそれ?

 

 矢ガモ……もとい、矢センチョウ。

 どっちかっていうとマ〇クラのイメージか。

 

 

「その様子なら、内臓がやられたわけではなさそうですね」

 

「え?」

 

「吐血など、されておられないようですので!」

 

「………」

 

 

 ヤダヤダ、想像したくない!

 

 不幸中の幸いか、嫌な想像したことで、急速に頭が回転してきた。

 だから。

 

 

「!? 主様、投げます!」

 

 

 唐突なナナの言葉にも、俺は即座に対応できた。

 

 

「やれ!」

 

 

 半ば負ぶさるように抱えられていた俺の体が、ナナの急カーブする動きに合わせて勢いよく放られる。

 ぶっ飛んだ俺はそのまま近くの柱に身を隠し、放ったナナも別の柱に転がり込んだ。

 

 

 カカカカンッ!!

 

 

 直後、金属の床をノックする大量の矢の音が響き渡る。

 

 背中の痛みに耐えながら、その矢の飛んできた方を見れば――奴がいた。

 

 

「ゲヒャヒャヒャ!!」

 

 

 触手で柱に絡みつき、高所を取ったミミックが、勝ち誇ったように笑っていた。

 

 

(あいつ、やべぇな……!)

 

 

 未だ勝ち筋が見えない敵に対して、俺はどうするべきなのか。

 

 

(メリーの声が聞こえなくなった。少なくとも状況は間違いなく悪化している)

 

 

 刻一刻と迫るメリー救出へのタイムリミット。

 背中の痛みと相まって、俺の心に焦りが積もっていく。

 

 

(チィッ……これまで出会ったどのモンスターより、あいつは強い!)

 

 

 こちらをおちょくるあの腹立たしい笑い声も、自分の強さに自信がある証拠だ。

 っていうか、色んな武器を臨機応変に使い分ける奴って、こんなに面倒くさいんだな!?

 

 

(明確に格上だと思う相手と向き合うのは、ノルドの時以来か)

 

 

 あのスパイメイドさん。

 今頃なにやってんだろう。どっかの本国に戻って悠々自適に過ごしてるかね。

 

 あなたの装備は今も大事に宝物庫に保管されています。

 

 

「主様」

 

「メイド服に興味はあるか?」

 

「えっ?」

 

「あっ、なんでもない」

 

 

 現実逃避してたら傍まで来ていたナナに変なこと言ってしまった。

 

 あ。待って、待って! そんな真剣に「主様がお望みなら」って顔しないで!

 

 

「ナナ、今はあいつの攻略が先だ」

 

「ハッ! そうでございました」

 

「時間がない。メリーを助けるためにも、速攻であいつをぶちのめす必要がある」

 

「はい。一刻も早く、メリー様をお助けしなくては」

 

 

 結構追い込まれているが、ナナの戦意はまったくと言っていいほど削られていない。

 奴隷に身を落とし絶望していた彼女はもはや、過去の存在だ。

 

 その強さ、こうした鉄火場において頼もしいことこの上ない。

 ゆえに、困ったときはこういう有能な仲間を頼るに限る。

 

 

「ナナ。ここまでの状況、どう思う?」

 

 

 そんなわけで俺は、恥も外聞もなく、堂々とナナに意見を求めるのだった。

 すべては、勝利という結果を手に入れるために。

 

 今も間違いなく諦めてないだろう、あの気持ちのいい貴族令嬢のように。

 

 




森狩人の弓(R)
森で狩りを行なう狩猟民族が作った短弓。
全体的に軽い素材で作られており、技巧者であれば容易く曲射を行なえるという。
弓装備適性Bか短弓装備適性C以上であれば、複数の矢を番えて放つ射撃の運用が可能となる。


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次回、強敵を相手にどう立ち回るのか!


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第052話 強敵を攻略せよ!

52話をお届け!




 

 

 ピンチの時、迷わず人を頼れるのは強さだと、俺は思う。

 

 

「ナナ。ここまでの状況、どう思う?」

 

「圧倒的に手数が足りません。あれを真っ向から攻略するなら、わたくしがあと4人ほど欲しいです」

 

「なるほど」

 

 

 手数。手数か。

 

 

(俺になくてあいつにあるもの、だよなぁ)

 

 

 あのぽこじゃか増える疑似手がとにかく厄介なのだ。

 俺の手は左右合わせて二つしかないのに、相手は持ち出したい装備の数だけ手を増やす。

 

 

(まさしくチートだなぁおい!)

 

 

 格ゲーどころかアクションゲームでも出てきたら、クソの烙印が押されること請け合いだ。

 

 

「他には何か思いつくか?」

 

「他、ですか?」

 

 

 今はどんな細かなことでも情報が欲しい。

 俺が見落としていることをナナは気づいているかもしれない。

 

 

「相手はこちらを侮っておいでですね。まるでわたくしたちを追い立てて、遊んでいるように思います」

 

 

 それはわかる。

 現に今も追撃しようと思えばできるのに、俺たちがごにょごにょ話しているのを好きにさせている。

 どうせそう遠くない内に、メリーを助けるために俺たちが動くってわかっているんだ。

 

 あいつ賢すぎない?

 

 

「……いかがしますか? 主様」

 

「そうだな……やりようは、ありそうだ」

 

 

 わかっていることでも、他人の口から聞かされとまた違うもののように感じられる。

 おかげでひとつ、手を思いついた。

 

 

「あいつが人間みたいな奴だってんなら、人間相手にしてると思って動く」

 

 

 俺はヒソヒソ、ナナに自分の作戦を伝える。

 フード越しの囁き声も彼女はバッチリ聞き取って、その内容に。

 

 

「ダメにございます」

 

 

 反対された。

 

 

「ダメじゃない、これをやる」

 

「ですが……」

 

「上手にできたらあとでご褒美をやるからな」

 

「うゎぅっ!?」

 

 

 まともに議論している暇はないから、渋るナナには美味しい餌を投げ渡す。

 

 

「ハイ決定。んじゃやるぞ」

 

「ゲヒャヒャヒャ!」

 

 

 作戦決行を決めたところで、ミミックが笑い声をあげた。

 そろそろ待つのにも飽きてきたらしい。どの武器で俺たちを仕留めようかと、疑似手がもぞもぞと動き出していた。

 

 

「あるじさま……」

 

「大丈夫。むしろちゃんとやってくれよ? 俺の自慢の従者なら、な?」

 

「……お任せください。必ずやこのナナが、お役に立ってみせます」

 

「よろしい」

 

 

 メリーを助けられるかどうかは、このワンチャンスにかかっている。

 ぶっつけ本番。うまくいくかどうかもわからない思いつきの作戦だが、やるしかない。

 

 

「……作戦開始だ!」

 

「はいっ」

 

 

 俺は最後にナナの頭をよしよし撫でてから、一人、柱の陰から身を躍らせる。

 

 

「ケヒッ!」

 

 

 待ってましたとミミックが歓喜する。

 

 

(めちゃくちゃ背中痛い! でも、やってやらぁ!!)

 

 

 状況は動き出した。

 目にもの見せてくれるぞ、人真似ボックスめが!!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 そして、今。

 

 

「ひぃ~~~~!! た~すけてくれぇ~~~~~!!」

 

 

 俺は無様に、情けなく、涙声を張り上げながら、逃走していた。

 

 

「ゲヒャヒャヒャーー!!」

 

「ひぃぃ~~~~!!」

 

 

 俺を追いかけ矢を放ち、槍を投げるミミックの攻撃から、ほうほうのていで逃げ惑う。

 

 

「やめて! 助けて! 許してくれぇ~~~~!」

 

「ゲッヒィーー!!」

 

 

 心が折れた逃亡者を相手はとっても気に入ってくださったようで、嬉々として追い立て、追い詰めようとしてくる。

 

 

「こ、こっちに来るんじゃねぇ!!」

 

「ゲヒャー!!」

 

「びゃーーーーーー!!」

 

 

 と、まぁ。

 これが俺の立てた作戦である。

 

 

(あいつが人間みたいな奴だと仮定して……なら人並みに、感情ってのもあるとする)

 

 

 ミミックの行動から理解できる性格は、嗜虐趣味。

 つまり、弱い者いじめ大好き、一方的な蹂躙だーいすき! って感情だ。

 

 

(だからそれを刺激して、俺に注意を向けさせる)

 

 

 実際に矢が刺さってて弱っている俺ならば、囮として申し分ない。

 今まさに狙われていることからも、この作戦は大当たりだ。

 

 

「ひぃぃ! ゲートだ、あそこに逃げ込めば……!」

 

「ギヒィィィ!」

 

「うわー! ダメだー!!」

 

 

 こちらの狙いを露骨に決めて動けば、それを邪魔するように相手は動く。

 俺のやることなすこと全部潰して絶望させたいって気持ちが、ありありと感じられるってなもんだ。

 

 

(それでも、完全に気を引けたってわけじゃない)

 

 

 現にあいつは俺に攻撃しつつ、それ以外の疑似手で構える武器を八方に向けている。

 ナナからの奇襲を警戒しているのだ。

 

 マジで賢い。

 

 

(だから仕掛け時は……今じゃない)

 

 

 逃げて、追われてしているタイミングじゃダメ。

 

 ならいつか?

 

 

「くっ、もう俺を逃がすつもりはねぇんだな!?」

 

 

 足を止め、ミミックに向き直る。

 

 手に剣を持ち、弱々しく身構えてやれば――。

 

 

「ゲヒヒッ!!」

 

 

 そのか弱い抵抗を粉砕してやろうと、ミミックが接近とともに剣を振り上げる。

 

 打ち合えば待っているのは、死だ。

 

 剣の上手い下手で解決できる状況じゃない。敵の攻撃は剣だけじゃない。

 相手の剣戟を乗り越えたところで、さっきと同じ。

 

 連なる次撃で仕留められる。

 

 

(だが。その先に勝機が、ある!)

 

 

「ゲヒャーーーー!!」

 

「おおおおおお!!」

 

 

 振り下ろされる刃を、打ち上げる一太刀で迎撃する。

 地力の差か、アイテムの差か、俺の持っている剣の刃は粉々に砕かれた。

 

 だがその一手で相手の剣をいなし、乗り越える。

 

 

「ゲヒャヒャ!!」

 

 

 そして続く攻撃。矢の追撃。

 さっきはナナを庇うことに意識が向いていたからできなかったが今度は違う!

 

 

「『ぎんの手』!!」

 

 

 守りの小手を起動する。

 俺をハチの巣にしようと放たれた矢の雨が、不可視の障壁ではじかれる!

 

 

「!?」

 

(どうよ!)

 

 

 二撃目も越え、相手の動きに変化が起こる。

 

 

「ゲヒッ!? ゲヒャー!!」

 

 

 顔がなくても声でわかる。

 怒ってるだろお前。

 

 

「へっ」

 

「ギヒッ! ギィィィィ!!!」

 

 

 鼻で笑ったのが効いたのか、怒れるミミックの中から現れる、新たな武器。

 

 

「って、そんなもんまで持ってんのかよ!?」

 

 

 飛び出てきたのは巨大な戦斧。

 疑似手3本で支えるやばそうなブツ。

 

『ぎんの手』の守りすら切り裂くつもりか、斧を大上段に構えて、ミミックが吠える。

 

 

「ゲギヒィィィ!!」

 

 

 まさしく全身全霊。

 俺を殺すことだけに全集中した一撃が、真っ直ぐ俺の頭蓋を砕かんと振り下ろされる!

 

 ここが命の、賭けどころだった。

 

 

「ひぃぃぃ!!」

 

 

 逃げない。

 逃げたら、避けたら、防いだら。

 

 きっとこいつは、警戒する。

 

 だから。

 

 

 

「ナナ、パーーーーンチ!!」

 

「ゲ? ゲブルォォォォオオオオ!!!!」

 

「……に、ございます」

 

 

 

 信じて、託して、頼らせてもらう。

 

 

「主様のお命は、このわたくしが絶対に、守ってみせます……!」

 

 

 ミミックの戦斧が俺の頭をぶっ叩く、その直前。

 

 

「ゲヒィィィィ!!? グゲッ!?」

 

 

 完全な奇襲になったナナの渾身の一撃が、見事ミミックをぶっ飛ばし、壁へと叩きつけたのである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「待ってろメリー! 今そいつを動けなくしてやる!」

 

 

 《イクイップ》した魔杖を構え、魔法を唱える。

 

 今まで使ったことがない魔法だが、装備適性A()ならやってやれないことはない!

 

 

「《ノロリー》!!」

 

 

 メリーが使っていた速度低下魔法。

 俺の望みに応えて魔法が発動し、ミミックの動きが明らかに遅くなる。

 

 

「ナナ!」

 

「はい! メリー様! 今度こそお助けいたします!!」

 

 

 畳みかけるようにナナが駆け込み、いよいよその口の中へと手を伸ばす!!

 

 が!

 

 

「ギ、キィィィィィヤアーーーーーー!!!」

 

「!?」

 

 

 箱の表面にひび割れを作っていたミミックの、突然の金切り声。

 

 瞬間巻き起こる、衝撃波。

 

 その衝撃は接近していたナナを吹き飛ばし、距離を取っていた俺の体をも震わせる。

 

 

「キャアーーーーーー!」

 

 

 ミミックの疑似手が、マイクを持っていた。

 

 

「そんなん、アリかよ!?」

 

 

 マイク!? マイクで衝撃波!?

 

 最後の最後に初見殺しとか、マジで理不尽にもほどがある!!

 

 こんなん、どうやって対策しろってんだ!?

 

 

「ぅ……わぅ」

 

「く、そ……!」

 

「ギ、ギヘ……! ギヘェー! ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 

 あまりの衝撃に、吹っ飛んだ先で起き上がれずにいるナナと、傷に響いて動けなくなる俺。

 そんな俺たちの姿を確かめるようにキョロキョロしてから、ミミックが嗤う。

 

 勝敗が、決した。

 

 

「あるじ、さま……」

 

「……こな、くそ」

 

 

 いや、まだだ。

 まだ負けてない。

 

 

(俺が生きているし、ナナも生きてる。そしてきっと、メリーも!)

 

 

 こんな理不尽押し付けてくるクソゲーなんぞに、負けてやる道理はない!

 

 

「……なぁ、お前。ボスなんだよな。だったらレアアイテムだ。レアアイテムを置いていけ!」

 

 

 痛みをこらえ、身構える。

 

 俺は俺の目的を達成するまで、絶対に諦めない!

 

 

「《イクイップ》」

 

 

 杖代わりにもなる槍を取り、敵を睨む。

 

 そのときだった。

 

 

「ゲヒッ!? ゴバアアアーーーーーー!?!?」

 

 

 突如として口から火を噴くミミック。

 それはミミックにとって予想外のことだったらしく、吐いた火は天に向けられていた。

 

 巻き起こる火柱。

 その中から転がるように飛び出てきたのは――。

 

 

「ケホッ! ゲホッ!!」

 

 

 全裸のメリーだった。

 

 




増魔の剣(SR)
この剣の装備者が受ける付与魔法の効果が数割増しになる魔法の長剣。
単純に長剣としてもそれなりの性能があり、魔法の支援を受けられる状況においてはUR装備にも引けを取らないと言われている。
熟練を越えた領域へ踏み込みたい冒険者の剣士にとっては垂涎の一品。


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次回、センチョウたちはこのピンチを乗り越えられるのか!?


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第053話 決着!!

 

 

「………」

 

 

 ボスモンスターのミミックが、口から煙を吐いて動きを止めていた。

 

 

「いったい何が起こったんだ……?」

 

 

 突然の出来事に呆然としていたのも束の間。

 

 

「主様、メリー様が!」

 

「そうだ、メリー!」

 

 

 ナナに促され、おそらくこの状況を作った張本人であるメリーを助けるべく、俺は動き出す。

 

 彼女の命綱でもある『魔術師のローブ』は、その9割9分が損壊していた。

 本来なら傷ひとつ付けること許さぬその機能でも賄いきれなかったか、倒れ伏すメリーのところどころに軽いやけど傷が見られた。

 

 

(あ。眼鏡してない)

 

 

 中で揉みくちゃにされてる時にぶっ壊れたか? ってかまつ毛長っ!? 

 

 じゃなかった! ええと、呼吸は……よしっ。

 

 

「大丈夫、息はあるぞ!」

 

「それはようございました。メリー様はわたくしにお任せを」

 

「ああ、頼んだ!」

 

 

 宝物庫から予備のマントを取り出してナナに渡し、俺はミミックの警戒をする。

 俺たちがこそこそと物陰に隠れるまでのあいだ、敵に大きな動きはなかった。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 どうにか一息つけたが、状況は芳しくない。

 ミミックは部屋の隅、今も動きを止めて口からもうもうと黒煙を上げているが、倒しただなんてとても思えない。

 

 

(あれがこのくらいで終わるタマかよ……!)

 

 

 希望を言えばここで終わってて欲しい。が、どだい無理な話だろう。

 

 

「ケ……ケフッ!」

 

 

 ほぅら、無事だった。

 

 

「ゲフッゲフッ! グギャアアア!!」

 

 

 数度の咳を繰り返したところで、ミミックが調子を取り戻す。

 いちいち動きがコミカルだが、それを可愛いなぁとか思っている余裕は俺にはない。

 

 あれはトゥーンはトゥーンでも、ハッピーでツリーなフレンズだ。

 え、知らない? オタクなお父さんかお母さんに聞こうね!

 グロ耐性がなかったら見ちゃダメだよ!

 

 つまりグロだよ!

 

 

「ったく、タフ過ぎるだろあいつ……!」

 

 

 幸いメリーは自力で脱出したし、《ノロリー》が効いた分だけ相手の動きは鈍っている。

 そこを突いて俺が全力で挑めばワンチャンいけそうな気がしなくもない。

 

 いけるか? いけそう? いくならいかねば!

 

 

(そうだ……死ぬ気でやれば、出来なくはない!!)

 

 

 心がピリピリしてくるのを感じる。

 これはあれだ、明らかな格上がいるフィールドへ低レベルで出向いてレベリングする時のひやひやした感覚に近い。

 

 ちょっとでも操作を間違えば待っているのはゲームオーバー。

 だがそれを乗り越えた先に待っている、重なるレベルアップ音の心地よさたるや、筆舌に尽くしがたし!

 

 

「……やれる!」

 

 

 この時の俺は、目まぐるしく変わる状況に混乱し、明らかに冷静じゃなくなっていた。

 

 

「待ちな、さいっ!」

 

 

 そんな俺を引き止めたのは、カッと目を見開き薄紫の瞳を煌めかせた、メリーだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「あれは、私たちでどうこうできるような相手じゃ、ないのよ!」

 

 

 俺の服の裾を掴んだメリーから、想像以上に強い口調で咎められた。

 

 

「メリー様、どういうことにございますか?」

 

「いい、あいつは通常のモンスターとは違う存在なの!」

 

「そりゃボスモンスターだもんな」

 

「そういうことじゃなくって!!」

 

 

 さっきまで丸呑みにされていたとは思えない気迫で、メリーが声を張る。

 

 

「あいつは……!」

 

「メリー、とりあえずその話は後だ!」

 

「なん……むぐ!?」

 

 

 さらに声を張り上げようとしたメリーの口をナナが塞ぐ。が、もう遅い。

 

 

「ナナ!」

 

「はい、主様!!」

 

 

 メリーを抱えてナナが跳ぶ。

 俺も床を踏み締め飛び退けば。

 

 

 ガガガガッ!!

 

 

 もはや見慣れた矢の雨が、俺たちの元居た場所を打ち抜いた。

 

 

「ギャギギ! ギギギギギーーーー!!」

 

 

 いったいどこをどうすりゃそんな音が出るのか。

 歯ぎしりしてるみたいな音を立て、ミミックが全身を使って怒りを表現している。

 

 どうやらこの状況が相当気に食わないらしい。

 そいつは距離を取った俺たちに対して、ぴょんこぴょんこその場で飛び跳ねていた。

 

 

「白布、ナナさん。聞いて! あいつは私たちじゃ勝てないのよ!」

 

「メリー、さっきから何言ってるんだ?」

 

「どうして勝てないのでございましょう?」

 

「あいつは、そんじょそこらのモンスターとは格が違う。いいえ、ボスモンスターとしても格が違うモンスターなのよ!」

 

 

 つまりどういうことだってばよ。

 

 

「っていうか、見てわからないの?」

 

「見てって、どこが?」

 

「あいつ! 私たちと同じように武器使ってるでしょ?!」

 

「そうでございますね。おかげで攻撃を防がれ、遠近使い分けた反撃に手を焼いております」

 

「そう! それなのよ!」

 

 

 だからどういうことだってばよ。

 

 

「つまりメリーは何が言いた――」

 

「主様! あれを!」

 

「ん?」

 

 

 会話を遮ったナナの指さす方向には、ミミックがいた。

 攻撃してくる気配があれば気づいたはずだが、奴は動かず、どころか蓋も閉じ、元の宝箱みたいになっていた。

 

 だが、そこから感じるのは強烈な、悪寒。

 何か嫌なことが起こりそうだという、確信めいた寒気が俺の背筋を凍らせる。

 

 

「……ゲヒッ」

 

 

 直後。

 

 

「ゲボヒャアアアアアーーーー!!」

 

 

 突如として震えだしたミミックが、おそらくすべての、持っている武器を解放した。

 

 

「なんじゃこりゃあーーー!?」

 

「これは、なんとも」

 

「ああ……」

 

 

 剣に盾、槍、弓、斧はもちろん、マイク、大鎌、ナイフに魔杖、ノコギリや釣り竿、グローブに至るまで、様々なアイテムがよりどりみどり、大集合!

 

 全部が全部、俺たちを殺すために使われちゃうんだZE☆

 マジでヤバい!!

 

 

「主様! メリー様! 来ます!!」

 

「「!?」」

 

 

 ナナが叫んだ、その直後。

 

 

「ゲヒャーーーーーー!!!!」

 

 

 《ノロリー》が効いているとは思えないスピードで、ミミックがぶちかましてきた。

 力任せに武器を振り回し、途中にあるすべての物を薙ぎ倒し、俺たちのもとへと迫り来る!

 

 

「止めろぉぉ! 『ぎんの手』ぇぇーー!!」

 

 

 俺は迷わず3回目の『ぎんの手』を開放し、突っ込んでくるミミックを受け止める!

 不可視の障壁がその無茶苦茶な面攻撃と衝突し、すぐに不快な破砕音を立て削られ始める。

 

 

「白布!」

 

「主様!」

 

「ぐ、ぉ……これ、ぜってぇ長くはもたない奴、だ!」

 

 

 冗談みたいな攻撃に、しかし確実な死の気配が迫ってくる。

 障壁に掛かる圧に踏ん張り、耐え凌ぎながら、俺は打開策を考える。

 

 

(障壁解除とともに俺が攻撃? いや、攻撃に転じる前に押し潰される。じゃあ撤退? それこそ背を向けたところで押し込まれて終わりだろ。ならナナに回り込ませるか? 敵の攻撃に巻き込まれたらひとたまりもないから却下。それするくらいならメリー掴んで逃げてもらう)

 

 

 死の淵に立って高速回転する思考は、しかし空回り気味でこれという閃きがない。

 

 っていうか冗談抜きで、ガチ撤退しようとしても厳しくないかこれ!?

 なんか障壁がギシギシ言い出してるぞヤバいヤバいヤバい!!

 

 

(ぐぅぅ、メリーの大火力なら、いけるか? 魔杖は俺のを貸せば――)

 

 

 そんな俺の思考を、メリーの言葉が遮った。

 

 

「ごめんなさい。私の不幸にあなたたちを巻き込んでしまった」

 

 

 それは、どこまでも自分を呪う、怨嗟の言葉だった。

 

 

「アームドモンスター」

 

「え?」

 

「あいつは、このモノワルドで最も恐ろしいモンスター。およそヒトが挑んじゃいけない、ヒトを超えた存在……」

 

 

 メリーの方を見れば、彼女は涙を浮かべていた。

 そして彼女の右目の星が、淡い光を放っていた。

 

 そんなメリーの必死の叫びが、俺に告げる。

 

 

「……あいつは私たちと同じ! モンスターでありながらアイテムを《イクイップ》できる、恐ろしい存在なのよ!!」

 

「!?」

 

 

 

 俺の、勝ちだと。

 

 

 

「こうなったからには私が時間を稼ぐ! だからあな――」

 

「《ストリップ》」

 

「――たたちは逃げへぇ?」

 

 

 あとはトドメだ。

 

 

「ナナ、やっちまえ!!」

 

「はい! 主様!!」

 

 

 俺の指示にナナが跳ぶ!

 

 

「ギ?」

 

 

 何が起こったのか、まったくわかっていない様子のミミックに。

 

 

「お覚悟を! たぁぁぁぁ!!」

 

 

 裂帛の気合とともに放たれるナナの必殺ナナパンチ。

 それはこれまでと違い精彩を欠いた動きを見せる、ミミックのど真ん中にブチ込まれ――。

 

 

「主様を傷つけたその罪、その死をもって償っていただきます」

 

「ギィィッ! ギボギャアアアアーーーーーー…………!!」

 

 

 その体を、一切の容赦なく、粉みじんに破砕した。

 

 




頑丈な釣り竿(R)
立派な大物を釣るに足る強度を誇る、頑丈な釣り竿。
釣り竿装備適性C以上であれば、戦闘に用いる事ができる。
戦闘に使用する場合、先端の針を引っ掻けてダメージを与えたり、転倒させたり、糸を使った締め付け、切り付けなどを行なう事ができる。
魚たちと釣り師たちの戦いは、いつだって命がけなのだ。


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次回、ダンジョンを制覇したセンチョウたちが手にする物とは……!


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第054話 お宝の正体!

 

 

 前回までのあらすじ。

 

 大・逆・転!

 

 以上!

 

 

 

「……………………え?」

 

「よーしよし。上出来だったぞ、ナナ!」

 

「いいえ、いいえ。すべては主様の御力にございます……さすがは主様!」

 

「……どういう、こと?」

 

 

 どういうこともこういうこともない。

 

 

「俺たちの、勝ちだ!」

 

「完全無敵の、勝利にございます」

 

「え、えぇーーーーー!?!?」

 

 

 ミミック。お前は本当に強かったよ。

 だが、可哀想に……俺との相性は、最悪だったんだな。

 

 っていうか、アームドモンスターて。

 

 

「《イクイップ》ができるモンスターがいたなんてな。知ってたら最初からやってたものを」

 

 

 くっそぅ、ゴルドバ爺も人が悪いぜ!

 モノワルドに、こんな俺にとってお誂え向きなボーナスモンスターがいたなんてな!

 

 まだまだ知識不足だった!

 

 

「ねぇ、ちょっと!」

 

「だがまぁ、奴のおかげで……大量装備、ゲットだぜ!」

 

「やりましたね、主様!」

 

「ちょっとって! もう! ちゃんと! 私に! 説明なさいよーーーー!!」

 

 

 メリーの叫びがフロア中にこだまする。

 

 その暢気な言葉の反響は、激闘の決着を、何よりも強く証明していた。

 

 俺たちは、どうにかこうにか、ラストフロアの試練を乗り越えたのである。

 

 

「はっはっはァイダダダダダ!」

 

「あるじさまー!?」

 

 

 クリアランクD、辛勝ってところで。

 

 もっと頑張りましょう。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 ようやく安全が確保されたラストフロアで、俺たちは傷の手当てとともに色々な話をした。

 

 俺の旅の目的、ナナの身の上話、そしてメリーの、星の入った目について。

 全部を話せたわけじゃないが、それはきっとお互いさまで。

 

 

「……まさかあなたも、ギフトを持っていたなんてね。白布」

 

「メリーと違って、俺には過酷なんてものは与えられてないけどな」

 

 

 ナナに介抱してもらっているあいだ、俺はメリーから質問攻めにあい《ストリップ》について説明した。

 本当のことを包み隠さず話すわけにもいかないから、とりあえず《イクイップ》された装備を奪えるってところだけを雑に伝える。

 

 

「……装備適性Aなうえにギフト持ちなんて、伝説の大英雄か勇者か、はたまた救世の使徒かって話の盛り具合ね」

 

「ふふふ、当然にございます。なにしろ主様こそが救世のもごご」

 

「ま。世の中持ってる奴は持ってるってことだな」

 

「傲慢ねぇ」

 

 

 うっかり口を滑らせそうになったナナをモフって黙らせとっさに言い訳したが、メリーはそんな不自然な動きを気にも留めずに、くすくす笑って受け流した。

 

 クソダサ瓶底眼鏡を失ったメリーは、今や完璧な美少女である。

 片目に星のマークが浮かんでいるのも、いかにもファンタジックで強い。

 

 

(しかし《神の目》か。正直どこまで見られてるのかわからんから超怖い)

 

 

 聞かされたギフトを警戒する、俺の胡乱な視線を感じてか、メリーが口を開く。

 

 

「大丈夫よ。あなたのことはすべての装備適性がAだったってこと以外見てないわ……と言っても、信じてもらえるかはわからないけど」

 

「いいや、メリーがそう言うならそうなんだろう。だってメリーなんだから」

 

「なによそれ、ふふっ」

 

 

 努力型お嬢様は正々堂々が好きだから、基本嘘はつかないし、つけない。

 俺は詳しいんだ。

 

 

「ただ……その力を持ったのが俺だったら、超使いまくるけどな」

 

「そんなことをしたら、あいつが、力を与えてきた奴が喜ぶじゃない」

 

「いや、どっちにしても喜ぶだろうよ。そういうタイプの奴はな」

 

 

 俺にはわかる。そいつは間違いなく、人がギリギリで足掻く様を見るのが好きな愉悦部だ。

 俺は詳しいんだ。

 

 

「そういう奴が一番悔しがるのはな、与えた力を想定以上に上手に使って、幸せになることなんだ。だからメリーはむしろ、もっとガンガンその力を使って得をするべきだ」

 

 

 どっちかっていうと、力を使わないで状況を乗り越えるとかいうハードモードを選ぶ方が、そいつの好みに合致しちゃうからな。

 

 だから、はっきりと言っておく。

 

 

「幸せになれよ、メリー」

 

「ぁ……」

 

「とりあえずは、あれを手に入れて、な?」

 

 

 さっきからチラチラと、俺の視界に入っていた物を指さす。

 

 それはミミックが吹き飛んだ場所に落ちている、小さな箱。

 

 それを目にしたメリーの瞳が、一気にきらめきを増した。

 

 

「あ!」

 

 

 まだまだ修復中の『魔術師のローブ』から脇やら太ももやらを大胆に晒しながら、彼女はそれに駆け寄り、拾い上げる。

 

 

「お母様! メリーはやり遂げました! 無事、探していた宝を、見つけられました!!」

 

 

 拾った小箱を掲げて、遠く王国にいるだろう母へと祈りを捧げる。

 

 

「で、それはなんなんだ? メリー」

 

「どうか、教えてくださいませ。メリー様」

 

 

 彼女が探し求めていたお宝。

 その正体について俺はようやく知る機会を得る。

 

 

「これは、これこそが、サウザンド家を救う巨万の富を生むアイテム!」

 

 

 満面の笑みで、メリーがその答えを口にする。

 

 

「『青い財宝の小箱』……箱を開くことでランダムなレアアイテムがひとつ手に入る、消費アイテムよ!」

 

「………」

 

「私はこのアイテムで、サウザンド家を救ってみせる!!」

 

「………」

 

「出すわよ! 最高級URアイテム!!」

 

「……Oh」

 

 

 息巻くメリーとは裏腹に、俺のフラグセンサーはビンビンに危機を訴えていた。

 

 っていうか、それ。

 

 

「ガチャじゃん」

 

 

 ガチャじゃん。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 それから。

 

 

「なぜ、なぜなの……」

 

 

 手に入れた『青い財宝の小箱』を開けたメリーがどうなったかは、言わずもがなである。

 

 

「なぜなのよぉぉぉーーーーーー!?!?!?」

 

 

 悲しみのスターダストをまき散らすメリーがその手に持っているのは『毒耐性の指輪』。

 そのレアリティは……HR。

 

 

「ひいひいお爺様秘伝の“絶対当たるソング”を歌って踊ったのに、どうして!?」

 

「それは、そう」

 

 

 必勝法があると胸を張ったメリーが歌って踊り始めたときは、マジかと思ったんだが……。

 

 

(現実は非情である)

 

 

 ○○したらガチャが当たる教は、いつの時代もどんな世界でも、気休めなのである。

 

 

「どうしよう……これじゃサウザンド家を復興できない……」

 

「うおっ」

 

 

 どんな罠やモンスターの被害にあっても折れなかった、メリーの心が折れかかっていた。

 

 

(そうか。メリーにとって家は一番大事なもので、そのご先祖さんからの保証があったからこそ、ここまで頑張ってこれたんだな)

 

 

 メリーのひいひいお爺様。

 絶対当たるソングなんて罪作りなもの、よくも作ってくれたものだ。

 

 

 

「うぅ……もうおしまいよ、終わりだわ……」

 

 

 へたり込んでガチ泣きしそうなメリーを前に、どうしたもんかと考えていると。

 ちょいちょい、っと。ナナに服の裾を引っ張られた。

 

 

「主様、あちらを」

 

「ん? あ……」

 

 

 彼女が示した場所には、崩れた柱の隙間に隠されるように『青い財宝の小箱』が落ちていた。

 

 その数、2つ。

 

 

「どうやらこのアイテムは、フロアに挑んだ人数分手に入る物だったみたいだな」

 

 

 つまりこれは、俺とナナのためにあるアイテムということになる。

 

 ということになるんだが……。

 

 

「……ナナ」

 

「主様のお望みのままに」

 

「ん、ありがとう」

 

 

 ナナにはあとでいっぱいご褒美をあげよう。

 

 

 

「おーい、メリー」

 

「……なぁに?」

 

 

 俺は2つの『青い財宝の小箱』をメリーに投げ渡す。

 アイテムの記録は『財宝図鑑』に登録したから問題なしだ。

 

 

「え? え? え!?」

 

「多分俺とナナの分だが、依頼的にはメリーのものってことにしてもいいはずだ」

 

「ワンモア、にございますよ。メリー様」

 

「ぁ……」

 

 

 俺たちの言葉にメリーが笑顔を浮かべ、けれどすぐに目線を下げ、首を左右に振った。

 

 

「ダメよ。これはあなたたちが手に入れるべきもの。私は私のチャンスを正しく消費したわ」

 

「ですが……」

 

「人は時に情けをありがたく受け取りもする。けれど私は、サウザンド家の、貴族としての誇りにかけて、これを受け取らない」

 

 

 再び顔を上げたメリーの瞳には、強い決意の色が見えた。

 家の名を出された時点で、俺は彼女がどうあっても受け取ってくれないだろうと悟る。

 

 

「はい、返すわね」

 

 

 しっかりと両足で立ち上ったメリーに、箱を返される。

 へこたれていた彼女はもういなかった。

 

 

「お金に関してはどうにかするわ。そうね、ここからさらに東にあるっていうドラゴンの宝物庫にでも行ってみようかしら。開かずの扉なんていう鍵を失った扉があるそうだけど、どうにかしてみせるわ」

 

「メリー様……」

 

 

 それが空元気だということはわかっているが、俺たちにできることはない。

 

 できることといえば……。

 

 

「……箱、開けるか!」

 

 

 景気づけに、ガチャ爆死することくらいだ!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「いいの? 開けないままで売れば20万gは固いのに……」

 

「そんなの今の俺からすればはした金だ。ならば夢を見ないでなんとする!」

 

「主様がそうなさるのでしたら、わたくしも従うのみにございます」

 

 

 正直20万gだと売ることも一考する値段なんだが、そこはロマン優先。

 レアアイテムハンターとして、未知のアイテムが手に入る可能性に賭けたい。

 

 相談した結果、箱はナナから先に開けることになった。

 

 

「それでは参ります……えいっ!」

 

「これは……!!」

 

 

 ナナの箱から出てきたのは、本だった。

 それも、料理の教本である。

 

 

「『名コック・カワゴシのお料理さしすせそ』……レアリティはSRよ!」

 

「や、やりました。主様!」

 

「でかした、ナナ」

 

「おめでとう、ナナさん」

 

「わぅぅ~。これでもっと腕を磨き、主様の喜ぶお料理をお作りしますね!」

 

 

 おそらく最高の当たりを引いたと思われる。

 少なくともこれで3回回して全滅ということはなくなった。

 

 あとは俺が、派手に爆死すればいいだけだ。

 

 

「よーし、次は俺の番だ! ナナよりいいアイテム、引いてやるぜ!」

 

「頑張ってください、主様!」

 

「ええいこの際よ、最高のアイテム引いちゃって!!」

 

 

 キラキラナナとやけくそメリーに応援されながら、俺は箱を開けようとして。

 

 

(あれ? ちょっと待て。消耗品でも、普通に《イクイップ》ってできたよな?)

 

 

 料理品や、飲み薬、使えばなくなる道具でも、装備して使うと効果が高まる。

 

 ならこの箱も、装備して使った方がいい結果が出るのでは?

 

 

「試してみるか……《イクイップ》!」

 

 

 『青い財宝の小箱』を装備してから、俺は箱の留め具に手をかけ……。

 

 

「うおおおおお、なんか出ろーーーー!」

 

 

 カパッと開いた、次の瞬間。

 

 

「……あ?」

 

 

 俺の手の平には、紫色の小箱が乗っかっていた。

 

 




青い財宝の小箱(SR)
開封することでHR~URまでのレアリティのアイテムをランダムに1つ入手できる箱。
箱の中身は世界に存在するいずこかからか持って来るだとか、開けた瞬間にその場で生成されるだとか諸説ある。
このアイテムひとつで巨万の富を築いたという話もあるが、同時に欲にかられたヒューマが箱を開けた瞬間にモンスターに襲われたなんていう昔話にも語られている。


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次回、センチョウはお宝を手に入れられるのか!?


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第055話 オープン・ザ・ボックス!

55話をお届けです!

第3章もあとわずか、最後までよろしくお願いします。


 

 

 『青い財宝の小箱』の中から出てきたのは、紫色の小箱。

 

 

「ほほう、これはこれは。こちらは『紫の財宝の小箱』でございます」

 

「そのまんまだな」

 

 

 手に入れたその次の瞬間に、俺は『財宝図鑑』の宝物庫へと持ち込んで、アデっさんに鑑定をお願いしていた。

 

 

「効果もそのまんまでございますよ。『青い財宝の小箱』……青箱と同じく、使用することでランダムなアイテムひとつを入手できる、消費アイテムでございます」

 

 

 ただ少しだけ違うのは。

 

 

「こちらの箱から出てくるアイテムの方が、よりレアリティの高い物となるのでございます。なぜならば……」

 

「なぜならば?」

 

「……こちらのアイテム、レアリティがURでございますゆえ」

 

 

 確変でございます。

 そういい笑顔とサムズアップをアデっさんに向けられて。

 

 俺は、ナナたちの元へと舞い戻った。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「ふぅーむ」

 

「これは、『青い財宝の小箱』と同系統のアイテムにございますでしょうか?」

 

「ああ、これは……」

 

「ん、ちょっと待ってくれる?」

 

 

 俺がナナの質問に答えるよりも早く、メリーが右目の《神の目》を使う。

 出てきた説明は俺がアデっさんから聞いたものと同じ……ではなく、より詳しかった。

 

 

「これは、最低でもSRアイテムが出るみたい。運がいいと、この世界にひとつしかない……LRすらも出る可能性がある……ですってぇ!?」

 

「ほぁ、それは……素晴らしいですね、主様!」

 

 

 《神の目》すげぇ! いや、アデっさんの説明が雑だっただけかこれ。

 ただ、少なくともメリーの瞳は神の使徒であるアデっさん並みの鑑定力があるってことだな。

 

 俺が『鑑定眼鏡』を手に入れたとして、同じことができるかどうか。

 確認のためにも早期の入手を期待したい。

 

 

「その小箱を売るだけで、200万gは固いわね。オークションなんかだともっと値段が跳ね上がるかもしれない……そう、1000万gだって超えちゃうかも」

 

「へぇ」

 

「すごい。本当にお宝を手に入れちゃったのね」

 

 

 やや呆けた顔でメリーが言う通り、これは間違いなく大当たりに分類される品だと俺も思う。

 

 

(何しろこれには夢がある。自分がとんでもないお宝を手に入れられるかもっていう、夢が)

 

 

 もしもこれが闇オークションで流れてたら、俺は間違いなく自分の全財産で勝負していた。

 それを賭けるに足る希望が、この箱にはある!

 

 それだけの価値がある物ならば……。

 

 

「メリー」

 

「何度も言わせないで。それはあなたの物よ、白布」

 

「む」

 

 

 予想されていたのか、俺が何を言うよりも先に釘を刺されてしまった。

 まぁ、こっちもそうなるだろうってわかっちゃいたけどな。

 

 

「……ふむ」

 

 

 じゃあどうするか。

 そんなのはもう、決まっているのだ。

 

 

「よし、開けよう」

 

「本気にございますか、主様!?」

 

「そうそう、そうこなくっちゃ!」

 

 

 俺の宣言にびっくりするナナと、満面の笑みを浮かべるメリー。

 

 

「ああ、もちろん本気だぜ。ナナ。俺がこんなロマン溢れるチャンスを逃すと思ったのか?」

 

「……いいえ、いいえ。決してそのようなことは。ですが」

 

「ですが?」

 

「その箱から、次はいかなるとんでもない物が飛び出してくるのかと、わたくしは今からもう、ドキドキでどうにかなってしまいそうなのでございます」

 

「お、おう」

 

 

 ナナの中で、俺がハズレを引くという可能性は0ということになっているらしい。

 メリーもうんうん頷いているが、爆死の可能性は未だにあることをどうか忘れないで欲しい。

 

 

(いやまぁ、ここまで来たら……LRを目指す以外はないがな!)

 

 

 箱に手をかけ、《イクイップ》。

 

 

(当たるも八卦、当たらぬも八卦だっていうのなら)

 

「吉兆、引いてやろうじゃねぇか!」

 

 

 ここで、レアアイテムコレクターの運命って奴を占ってやる!

 

 

「うおおおおお、出てこいゴッドレアアアアアーーーー!!」

 

「ゴッドレアなんて出ないわよー!?」

 

「財宝神様、どうか主様に勝利を……!!」

 

 

 『紫の財宝の小箱』を……開ける!!

 

 次の瞬間!

 

 

「うおっ」

 

「きゃっ」

 

「わぅっ」

 

 

 ラストフロアすべてを満たすほどの強烈な輝き!

 

 

「!?」

 

 

 そんな真っ白に染まった世界で、俺の手に何かが握られる!

 

 細くて、凸凹していて、すべすべな、コレは――!!

 

 

 

「……ど、どうなったの!?」

 

「あるじさまぁ……!!」

 

 

 輝きは収束し、最後にはただ、俺の手に財宝だけが残される。

 

 

「ちょっと、白布?」

 

「主様? ご無事にございますか?」

 

 

 誰よりも先にそのアイテムが何なのかを確かめた俺は。

 

 

「……くっ」

 

「は、外れだったの?」

 

「くっくっくっく! くっふっふっふ! はーっはっはっはっは!!」

 

「なっ、あ、あるじさま?」

 

 

 高笑いを抑えきれなかった。

 

 

「い、いったい何を当てたっていうのよ?」

 

「その手に持っていらっしゃるのはなんでございますか、主様?」

 

「ああ、悪い悪い。これな……今の俺的には、神アイテムだ」

 

 

 そう言って、俺は二人に入手したアイテムを見せる。

 

 

「それは……」

 

「鍵、にございますか?」

 

「そう。鍵だ」

 

 

 俺が手に入れたアイテムは、ナナの言う通り、鍵だった。

 

 だがこれは、ただの鍵じゃあなかった。

 

 

「……URアイテム。『マスター・キー』! 聞いて驚け、効果は……“あらゆる鍵の掛かった扉の鍵を開錠する”だ!」

 

 

 俺が手に入れたアイテムは、とんでもなく高性能な、鍵だったのである!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 俺が手に入れた超チートアイテム『マスター・キー』!

 

 

「……って、それ確率で破損するじゃない! しかも適性C以下だと1回で終わりとか!」

 

「はい」

 

 

 には弱点があった。

 

 

「鍵装備適性がAの俺が使っても、60%くらいの確率でぶっ壊れるZE☆」

 

「ほっとんど使えないじゃないの!?」

 

 

 メリーのツッコミが冴え渡る中、しかし俺にはすでに、光明が見えていた。

 

 

「その1回をパーフェクトな場面で使えばいいってことよ」

 

「どこに使うっていうのよ」

 

「そりゃもちろん……ドラゴンの宝物庫だろ」

 

「えぇ……あっ!」

 

「メリー様の仰られていた、東にあるという開かずの扉……に、ございますね」

 

「そうその通りだ! えらいぞナナ~」

 

「はわわわわ、あるじさまぁ~~」

 

 

 もう隠す必要がないナナのフードを外した状態で、めいいっぱいもふもふしてやる。

 やっぱりフード越しより直接垂れ犬耳もふもふするのが最高だな!

 

 

「……って、正気なの!?」

 

「正気も正気。ドラゴンの貯め込んだ財宝、ごっそり貰いに行こうぜ!」

 

 

 ウィンク&サムズアップ。

 

 

「正気の目をしてないじゃない!?」

 

「ソンナソンナ、トンデモナイ」

 

 

 ドラゴンの巣とか聞いた時点で、俺にはもう宝の山にしか思えてませんヨ?

 

 

「メリーが当てにするほどの宝が眠っている場所の情報、さらにそこに繋がる扉を開けられるかもしれないアイテムの登場。これはもう、俺の運命力を信じる以外ないね」

 

「さすがでございます、主様……!」

 

「いやいやいや! そこだって私、無茶なの承知で言ったんだから! っていうかナナさん!? あなたも自分の主が危険な場所に行こうってんだから止めなさいよ!」

 

「?」

 

「どうして? って顔で首を傾げられても私が困るのよ! 可愛いわねぇ!?」

 

「まぁまぁ落ち着いてくれ、メリー」

 

 

 ツッコミしすぎて肩で息をしているメリーを、どうどうとなだめすかす。

 

 実際のところ、俺はこれ、悪い手じゃあないと思うんだ。

 

 

「俺はレアアイテムが欲しい。だからドラゴンの宝物庫なんて場所があるなら絶対行く」

 

 

 財宝(レアアイテム)の山へと至れる鍵が手に入った以上、これはもうマスト案件だ。

 命懸けだろうと行かないという選択肢がない。

 

 それに。

 

 

「メリーも、実家を救うためには大量の金が要る。そうだろ?」

 

「それは……そうだけど」

 

 

 さっき『紫の財宝の小箱』について語っていたメリーについて、気づいたことがある。

 彼女が1000万gと口にしたとき、それでも彼女の表情は明るくなかった。

 

 メリーの欲しているお金は、それ以上なんだと確信した。

 

 

「だからメリー。俺から提案させてくれ」

 

 

 これは、俺に良しな特大チャンスを持ってきてくれた、応援したくなる女の子への、お礼だ。

 

 

「俺たちとパーティー組んで、ドラゴンの宝を山分けしないか?」

 

 

 もっと旅をしたいと、そう思ってくれた彼女に。

 

 

(失敗=即バッドエンドは確実の……けれど、成功すれば逆転できる、チャンスになる!)

 

 

 楽しい楽しい、狂気に満ちた難易度特級クエストへの、お誘いを。

 

 

「そ、れ、は……」

 

 

 迷う顔をしていても無駄だぜ。

 俺は知っている。

 

 

「一緒に、冒険の続きをしよう。メリー!」

 

「共に参りましょう、メリー様」

 

「……!」

 

 

 メリーは、差し出したこの手を、絶対に掴む。

 

 なぜなら彼女は、俺が愛して止まない――。

 

 

「……いいわ。私も連れてって。その、無茶で無謀な冒険に!」

 

 

 絶対に諦めない、ド根性お嬢様だからだ。

 

 




紫の財宝の小箱(UR)
開封することでSR~LRまでのレアリティのアイテムをランダムに1つ入手できる箱。青い財宝の小箱の上位版。
世界にひとつだけのLRの入手は、すでにあらゆる人の手を離れた物であったり、消耗品であったりする物が手に入るとされており、現状、オンリーワンなアイテムが2つに増えたという案件は確認されていない。



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次回、第3章完結!


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第056話 次なる旅へ!

メリークリスマス!

56話をお届け!


 

 

 ランダムダンジョンで『マスター・キー』を手に入れた日から、1週間が経過した。

 帰りも道中何事もなく帰還し、次なる冒険に向けての準備期間に入った。

 

 

「なんじゃ、てっきり装備だけ奪って戻ってくると思っとったわい」

 

「それ以上に価値のある物を手に入れられたんでな」

 

 

 ドバンの爺さんの応接室を拠点に、買い出しをしたり、相談をしたりの日々。

 ダンジョンで回収した物を売り捌いたりもしては、金の出入りが激しい時間を過ごす。

 

 中でも特筆するべきは、宿に帰ってすぐにした、レアドロップの確認作業。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「これとこれとこれは、やっぱ残しだな」

 

 

 ミミックから奪った武具は、どれもマジ物の一級品だった。

 中でもあいつが好んで使っていた長剣と大盾、そしてマイクはSRアイテムである。

 

 付与した魔法の効果が数割増しで得られる『増魔の剣』。

 『ぎんの手』ほどじゃないが範囲拡大した防御も得られる『銀白の大盾』。

 呪言とかいう声自体に不思議な力を持たせる技術を扱える『ビンビン☆マイク』。

 

 まぁ、それよりも。

 

 

「この戦斧。よなぁ」

 

 

 あいつが必殺の武器として使ったクソデカ戦斧。

 その名も『ギガントアクス』。レアリティは驚愕のUR!

 

 狭い屋内では取り出すことも出来ない、3m級のやべぇ斧。

 この扱いをどうしたものかと考えて。

 

 

 …

 ……

 ………

 

 

 

「おーし、やるかっ!」

 

 

 そして今日。

 時間を作り、広い場所で装備適性に任せてぶん回してみたところ。

 

 

(あ、これ振り下ろす以外やっちゃダメな奴)

 

 

 と、俺の装備適性Aが、必殺のトドメ以外の使用を禁じるほどのアイテムだった。

 

 単純に、持ちにくいのだ。

 

 いかに装備適性があろうとも、絶対的なサイズ差の前には限度があるらしかった。

 

 

(その辺装備適性Sにもなると、色々と奇跡が起こると聞いちゃいるが……)

 

 

 少なくともこのアイテムを普段使いするのは、現状俺には難しい。

 

 

「ここぞって時には、バッチリ使ってやるからな」

 

 

 手に入れたアイテムはなるべく使ってやりたい心情を我慢しつつ、『ギガントアクス』君には今しばらく『財宝図鑑』の展示品として頑張ってもらうことにする。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「あるじさま~」

 

「お、ナナか。どうしたー?」

 

 

 クソデカ戦斧君の逞しさを堪能し終えたところで、尻尾をふりふりナナがやってきた。

 

 

「お弁当をお持ちしました」

 

「ありがとう。いい子いい子」

 

「わぅぅぅ、わたくし、幸せにございます!」

 

 

 垂れ犬耳もしっかりもふもふ。実にいい。

 

 

「どうやら、アイテムの効果はバッチリ出てるみたいだな?」

 

「はい。わたくしのことを奇異の目で見る方はいらっしゃいません」

 

 

 現状ガチ目の厄ネタである、ライカンという種族のナナ。

 その特徴である耳と尻尾をもろ出しにしてもバレないのは、彼女の装備する足輪のおかげだ。

 

 

「おやっさんには感謝しかない」

 

「はい」

 

 

 ナナが装備しているのはHRアイテム『見せかけの足輪:ヒューマ』。

 事情を知ってる冒険者の宿のおやっさんが、伝手からこっそりと手に入れキープしてくれていた物だ。

 その名の通り、装備者が特定の種族に見えるようになるアイテムである。

 

 これを見破るには鑑定魔法か、隠密看破能力を持ったアイテムを使うしかない。

 もっとも、見せかけだけで尻尾もあれば耳もあるので、触ればモロバレだがな!

 

 

(まぁ、身体能力に優れるナナが、そんな不覚を取る可能性はほぼないだろう)

 

 

 実際装備してからここ数日、ナナがバレた様子はないし、問題ない。

 

 

(何より足輪自体を長めのブーツで隠せるのがデカい)

 

 

 裏で出回ってる品なのもあってお値段20万gとお高いが、それだけの価値はあるお得な買い物だった。

 

 ちなみに俺がナナの耳と尻尾を見れているのは、ナナが俺に隠すつもりがないかららしい。

 ドバンの爺さん曰く『見せかけの足輪』にそんな機能はないらしい。

 

 

「主様への想いが、このアイテムにも伝わったに違いありません。あぁ、主様……!」

 

「……さすがは俺の従者だ!」

 

 

 俺は深く考えることをやめた。

 

 ナナは着々と、常識に囚われない成長をしている。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 さらに数日後。

 

 

「あ、白布」

 

「おー、メリーも買い物か?」

 

「そうよ」

 

 

 日用品の買い出しに来た店で、メリーと遭遇した。

 彼女とは旅立つ日まで、それぞれの泊まっている宿で過ごす別行動をしている。

 

 例の不運が少しだけ心配だったが、メリーが泊まっているのはおやっさんの宿だと聞いて安心した。

 さすがはハイスペックなお嬢様。人や物を見る目が鋭い。

 

 

「……そういや、瓶底眼鏡やめたんだな?」

 

「ええ。お母様からいただいた眼鏡はもう破壊されてしまったし、これからは……この目の力はフルで使おうと思うから」

 

 

 《神の目》は、眼鏡を装備しない方がより効率よく使えるらしい。

 そしてこの準備期間中、メリーは積極的にこの力を使い、力の扱いに慣れようとしているのだと教えてくれた。

 

 

「私はこれまでこの力を忌み嫌っていたけれど、どうしても切り捨てられないなら、それはもう私の一部として受け入れるしかないのよね」

 

 

 俺と違い、望まぬ形でギフトを与えられたメリーにとっては、呪いだったその力。

 だがそれは今、少しずつ、彼女自身の力へと変わろうとしていた。

 

 

「私は、私のためにこの力を使う。この力を、支配してみせる」

 

 

 望まぬ時に発動しないように。望んだ時には最大限に利用できるように。

 

 

「私はこの力を使って、全力で幸せになってみせるわ」

 

「それがいい。それが一番、覗き見野郎にはクリティカルヒットするからな」

 

 

 メリーには存分に、その力を与えた奴の期待を裏切ってもらいたい。

 何しろその反逆行為は、アデっさん公認である。

 

 

『実に良いと思いますでございます。あいつ気に入った女の子にばっかりギフトを授けるド変態でございますので。たまにはションボリさせてやりましょう』

 

 

 とのこと。

 

 やっぱギフトやらを授けるのは天使の仕事らしい。

 モノワルド、管理者側から結構な干渉をされているようだ。

 

 

「……うん。私が幸せになる近道には、やっぱりあなたが必要ね」

 

「え?」

 

「これからもよろしくってことよ。いいわね?」

 

「はい」

 

「よろしい!」

 

 

 いい、笑顔です。

 冒険を通じて、俺はメリーの信頼を勝ち取っていた。

 

 できることなら、彼女が笑顔で凱旋するところまでは見届けたいところである。

 

 

「さ、せっかくだし買い物にも付き合ってもらうわよ!」

 

「了解です。お嬢様」

 

「メリーでいいわよ、いまさらそう呼ばれても気持ち悪いだけなんだから」

 

「へいへい」

 

「ぐへへお嬢さん。お嬢さんがちょっと奥の部屋に来てくれたら、安くするよぉ」

 

「ぎゃー! 結構よ!!」

 

「………」

 

 

 うむ。

 

 せめて虫除けくらいにはなろう。

 

 

「ちょ、いい加減になさい雑貨屋のディベルこと本名ナルド! あなたの浮気遍歴から何から全部ここで叫んでやるわよ!? 上の奥さんにも聞こえるようにね!! まずは2か月前の――」

 

「ひぇっ、なんでそんなことを知って……!? お、お許しを~~!!」

 

「………」

 

 

 《神の目》こわっ!?

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 そんなこんなで、いよいよ旅立ちの日がやってきた。

 

 

「気をつけて行ってくるんじゃぞ」

 

「おうよ。ドバンの爺さんも達者でな」

 

 

 集合場所であるドバンの盗品屋の前で、別れの挨拶を済ませる。

 

 

「主様の命は、わたくしが身命を賭してお守りいたします」

 

「そんな事態になる前に、逃げられるようにはしておきたいわね」

 

「だな」

 

 

 旅装束に身を包んだ俺たちは、誰が見ても立派なパーティーだ。

 俺個人としては、両手に花で中々に悪くない。

 

 ……ちょっとだけ、ミリエラのことを思い出したが。

 

 

(まぁ、あんだけ盛大にポイッてされちまったからには、そろそろ踏ん切りをつけないとな)

 

 

 俺のために頑張ると言って去っていった彼女は、今はどこで何をしているのやら。

 その言葉を大真面目に受け取って、信じていいのかどうか、実は未だに答えが出てない。

 

 

 

「ほれ、辛気臭い顔しておらんで、とっとと旅立たんか」

 

「大丈夫でございますか、主様? どこかお体の具合でも?」

 

「ちょっと。無理してるなら日程変えてもいいのよ?」

 

「いや、大丈夫大丈夫。行こう行こう」

 

 

 思わず考え込んでいたところを心配されてしまった。

 

 

(うおおおお、気を引き締めないとな!)

 

 

 少なくとも、俺の目指す未来のためには、立ち止まっている暇はないのだから。

 

 

「竜の山の麓には、ドラゴティップという村がある。そこを拠点にするといいぞ」

 

「ありがとさん。いい物が手に入ったら、いくらか流してやるからな」

 

「期待しとるからの。白布」

 

 

 次なる目的地は、財宝を貯め込みまくりのドラゴンがいる、山の中にあるという開かずの扉。

 

 

「んじゃ、行ってくるぜ」

 

「行って参ります。ドバン様」

 

「お父様の使いの人が来ても、秘密にしといてね」

 

「ほっほっほ。ちゃーんと成果を上げてくるんじゃぞ! ワシの大事な金づる共!」

 

 

 現金な爺さんに見送られ、俺たちは次なる冒険へと向かい、ガイザンの町を後にする。

 

 

「ドラゴンのお宝かぁ。やっぱ金銀財宝にレアアイテムがガッポガッポだろうなぁ」

 

「件のLRアイテム『ドラゴンオーブ』もあるかもしれませんね」

 

「それを見つけられたら、私の家も一発で立て直せるわね。まぁ、すべては命あってのって話だけれど」

 

 

 いい靴装備の俺たちは、安い馬車に乗っていくより徒歩でいい。

 

 

「待ってろよ、俺のレアアイテム!」

 

「新しい場所では、どんな出会いが待っているのでしょうね。主様っ」

 

「どうか、お宝を無事に手に入れて、サウザンド家を再興できますように……!」

 

 

 ドキドキやワクワクを胸に、俺たちは行く。

 

 青い空、白い雲。

 

 今日も、俺の旅路は、素晴らしい天気に恵まれていた。

 

 




これにて第3章完結です。

第4章は年が明けてから公開していきたいと思います。
来年もよろしくお願いします!


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第4章 始動編
第057話 麓の村ドラゴティップ!


新年あけましておめでとうございます!

ということで第4章、始動編開幕です!


 

 

 毎度おなじみの青い空、白い雲。

 

 そして。

 

 

「あれが、ドラゴンの宝物庫があるっていう、白竜山脈か!」

 

 

 彼方に高くそびえ立つ、アルプスもかくやの白い笠をかぶった山たち!

 

 

「ようやく着いたわね」

 

「麓の村はまだあと少しにございますが……この景色を見れば、これまでの労も浮かばれますね」

 

「だな」

 

 

 娯楽と破滅の町ガイザンから出発し、森を大きく南側から迂回しつつの長い旅路の果て。

 ここまで舗装された道を、健脚頼りでえっちらおっちら歩いては。

 

 

「さぁ、もうひと踏ん張りだ。行こうか」

 

「はい。主様」

 

「村に着いたら絶っ対! 宿に泊まるんだから!!」

 

 

 もう少しで目的地、というところまでやって来た。

 

 

 

 というわけで改めて、ハローヤーヤー皆の衆。

 異世界転生者のセンチョウ・クズリュウだ!

 

 第二の人生の舞台であるモノワルドで、レアアイテムのコンプリートを目指してます!

 

 

 旅の仲間は二人。

 一人は俺を救世の使徒と慕う獣人種(ライカン)の垂れ犬耳獣ロリっ娘、ナナ。

 もう一人は北の王国貴族サウザンド家が誇るド根性お嬢様、メリー・サウザンド。

 

 どちらも飛び切りの美少女で、中々に恵まれた道中を過ごしています。

 

 

 んで。俺たち三人は今、ドラゴンが貯め込んだ財宝を求めてパーティーを組んでいる。

 白竜山脈にいるドラゴンの巣には、ドラゴンが出入りしている穴とは別に、人が通れる扉があるらしく、だがその扉はずっと人の通りを拒絶し続けている開かずの扉なのだそうだ。

 

 普通なら誰もが諦めるところだが、俺の手にはそれを打開する切り札がある。

 

 ――UR(ウルトラレア)アイテム『マスター・キー』。

 使えば大体ぶっ壊れるが、一度だけならバッチリ鍵の掛かった扉を開けてくれる超有能アイテムだ。

 

 これを手に入れたおかげで、俺たちはドラゴンの財宝への挑戦権を得た。

 

 

(だったら当然、挑むよな!?)

 

 

 レアアイテムハンターとしても、一介の冒険者としても、何より、ファンタジーなんて前世じゃ想像の産物だった世界出身の転生者としても!!

 

 このロマン、十分に命を懸けるに足る大冒険が期待できるのだ。

 

 

「あ、見えてまいりました。主様!」

 

「見て、白布。あれが……!」

 

「おおー!」

 

 

 遠くに見える特徴的な景色に、俺たちは色めき立つ。

 

 遠方の山並みにひときわ高くそびえ立つ山を正面に、やたらと幅がある中央通りを挟んで左右に家が立ち並ぶ、そここそが。

 

 

「あれがドバンの爺さんが言ってた麓の村、ドラゴティップか!」

 

 

 今回の旅の目的地であるドラゴンの財宝へと続く、開かずの扉に最も近い場所にある村。

 ドラゴティップの村だった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 さらにしばらく歩いて、俺たちはようやくドラゴティップ村の門をくぐる。

 

 

「ほー」

 

「これは……」

 

「王都の大通りと同じか、それ以上に広い、わね」

 

 

 村に入った俺たちをさっそく迎え入れたのは、道幅8車線の道路並みの広さの、中央通り。

 

 

「……ドラゴンロード!」

 

 

 かつて白竜山脈の長である至竜と呼ばれるドラゴンが、この地に降り立ったときに取った幅を再現しているという村のメインストリート。

 

 遠めに見てもわかるほどの広さだったが、実際に見てみると壮観だ。 

 左右の家並みが木と石造り中心なおかげで、マカロニウェスタンな雰囲気もある。

 

 

「っていうか、村っていう割にはかなりの人で賑わってるんだな」

 

「そうね。旅人、この場合は観光客かしら? その手の類の人が沢山いるみたい」

 

「ガイザンと違って、ひたすらに明るい印象を受けますね」

 

 

 治安悪々商業都市と比べるのはどうかと思うが、ナナの言葉ももっともだ。

 

 

「こういうのが、正しい意味で活気があるってことなんだろうな」

 

 

 おやっさんの冒険者の宿周り以外は、マジで天国と地獄がウロボロスってるからなガイザン。

 

 それに対してこの村はどうかというと。

 

 

「さぁさぁドラゴンロードのど真ん中で、オイラの芸を見てってよ!」

 

「BGMは私、竪琴装備適性Bの、竪琴装備適性Bの! モニャックがお届けいたします!」

 

「安いよ安いよ! 今ならドラゴンまんじゅうが安いよ! 向かいのクソみてぇな店とは比較にならないよー!」

 

「うるせぇ甘ったるいだけのまんじゅう売りがよぉ! お客様お客様、うちのフライドイモスティックで塩っ気補充していけー!!」

 

「はいはーい、白竜山脈最高峰! アルバ山をバックにー……!」

 

「「あいっ、ポーズ!」」

 

「開かずの扉、ダメだったねぇ……」

 

「伊達に“竜が認めた者しか入れない”門じゃないね。ビクともしなかったし」

 

「ま、あと数日は観光して、連環都市同盟に戻ろうぜ」

 

「「さんせーい」」

 

 

 往来で人が芸を見せ、客引きが仲良く喧嘩して、観光客や挑戦者でごった返す。

 

 

「あ~、平和だな~~」

 

 

 パルパラを思い出す、いやそれ以上の明るい雰囲気に、気が抜けた俺は思わず大きく伸びをした。

 

 

「とりあえず、私は宿を探すことにするわ。シングルとダブルの2部屋でいいわよね?」

 

「いや、そこはツイン……」

 

「ダブルで」

 

 

 いい笑顔のナナ。

 

 

「ツイン……」

 

「ダブルにて、よろしくお願いいたします。メリー様」

 

 

 キリッとした顔のナナ。

 

 

「ダブルでいいわね、白布?」

 

「はい」

 

「了解、それじゃ行ってくるわ。待ち合わせはあの道のど真ん中にある水晶柱で」

 

 

 まだ日は高いが、有言実行のメリーは俺たちの元を離れ、宿を探しに向かう。

 

 

「主様。わたくしたちはいかがいたしましょう?」

 

 

 そして、いかにも今の私は忠実なしもべですという顔をしているナナ。

 

 

「「………」」

 

 

 この従者、さっき見事に反抗したにもかかわらずニッコニコである。

 

 

「じゃ、情報を集めようか。とりあえずは、あそこ辺りから」

 

「はい! 主様!」

 

 

 しっかりと自分の意志を持っている、頼れる従者と共に。

 

 

「……火を吐くドラゴン亭、ご当地感あるな」

 

 

 俺はドラゴティップの、適当な酒場へと足を運ぶのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「おう、いらっしゃい!」

 

 

 洞人種(ドワーフ)の店長に迎えられた店内は、ジュークボックスからバンジョーみたいな弦楽の、おしゃれなBGMが流れるこれまたいかにも西部っぽさ満載な場所だった。

 

 

「悪いね、カウンター席で頼むわ」

 

「了解。行こうか、ナナ」

 

「はい。主様」

 

 

 ちょうど昼飯時だったからかテーブル席はいっぱいで、俺たちは案内されるまま、ドワーフの店長の立つカウンター席に向かう。

 

 ナナを奥に座らせてから、俺は席に着く前に、隣の客へと声をかけた。

 

 

「ちょいと失礼するよ」

 

「ううん、大丈夫。ボクのことは気にしなくていいよ」

 

 

 やや高い、愛らしさを持った声。

 砂塵除けのフードマントを被っているその客は、どうやら同い年くらいの女の子のようだった。

 

 

(……って、ちょっと待て)

 

 

 ボクっ娘、だと!?

 

 




マスター・キー(UR)
あらゆる鍵の掛かった扉を開く事ができる鍵系最高峰の性能を誇るアイテム。
対象が施錠されており、かつ鍵を受け入れる構造であればすべてに適合し、たとえその扉が鍵穴とは別に声紋認証などを行なっていたとしてもごり押しで解錠することができるヤベー奴。
ただし使用者が装備適性C以下であれば1度の使用で必ず壊れ、Bで90%、Aでも60%の確率で使用後消滅する消耗品である。


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次回、酒場は出会いと語らいの場?


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第058話 情報収集!

58話をお届けです。
今年も3日おき程度を基準に更新していきたいと思います。
よろしくお願いします。


 

 

 情報収集するべく入った店のカウンター席で、たまたま隣の席になった、フードを被った女の子。

 パッと見ただけでも旅慣れている雰囲気で、その座り姿には隙がなく。

 

 

(ふむ……)

 

 

 わずかに見える褐色の素肌は実に健康的。

 テーブルに置いた手の指先は、武器を振るう人でありつつもケアを怠っておらず、勤勉な雰囲気を醸し出していて。

 

 

(俺にはわかる。この子、間違いなく真面目可愛いタイプの子だ)

 

「?」

 

 

 そんな第一印象に、俺は一人、静かに深く頷くのだった。

 

 

「……わぅぅ」

 

 

 背後からずもももももって闇の気配を感じるが、それはそれ、これはこれである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「ほい、水」

 

「お、ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして。メニューはそこだ。通ぶって裏メニューないかとか聞くなよ? 火炎草食わせてやっからな」

 

「じゃあ裏メニューで」

 

「がっはっは! ねぇよんなもん!」

 

 

 適当なやり取りをして店長と戯れながら、メニューはナナに託し、俺は隣席の客にまた声をかける。

 

 目的は当然、情報収集だ。

 ナンパではない。

 

 ナンパではないからどうか俺じゃなくメニューを見てくださいナナさま。

 

 

「なぁ、俺たちはこの村に来てすぐなんだが、何か面白い話とか知らないか?」

 

「え? うーん、そうだなぁ……」

 

 

 唐突な質問にもその子は素直に受け止めてくれて、考える仕草をし始める。

 身のこなしの割に警戒心が薄いというか、不思議な雰囲気の少女だった。

 

 

「やっぱりここだと、開かずの扉かなぁ。あの扉はもう100年も開いてないらしいよ」

 

「へぇ。じゃあもしも開いたりなんかしたら、大騒ぎになるな」

 

「え、何か起こるの?」

 

「さぁてな。それよりも、ドラゴンの財宝について何か知らないか?」

 

「噂や伝承程度なら、金銀財宝はもちろん、精霊銀に飛鉱石、至竜の巣だから『ドラゴンオーブ』だってあるかもしれないってくらいかな」

 

「おおー! LRアイテム! それを聞くだけでも心が躍るぜ!」

 

「キミは、レアアイテムに興味があるの?」

 

「まぁな。これでもレアアイテムハンターって名乗るくらいには、色々してるぜ」

 

 

 ほらほら、見てくれこの小手。『ぎんの手』っていうURアイテムですヨ?

 そして見栄えのために腰に引っ提げてるのが『増魔の剣』、こちらSRになっております。

 

 

 

「うおっ、レアアイテム複数持ちかよ。すげぇな……」

 

「しかもUR? 使いこなしてるってんならあいつ、相当の実力者だぞ」

 

 

 お、おおお! これこれ!

 店内がざわついて、視線が集まっている!

 

 この優越感! レアアイテムを頑張って集めた甲斐がある!

 

 

「なぁなぁ、ちょっとお話、聞かせておくれよ」

 

「あ、ずりぃぞ! 俺にも聞かせてくれ!」

 

「ウチもー」

 

「ちょ、お姉ちゃん近づきすぎ!」

 

 

 おおおっ!

 一気に人だかりができた。ちょっと人気すぎやしないか?

 

 

(って、そうか。この村に来る物好きなんてロマン好きばっかりだから当然か)

 

 

 話術士スイッチ、オン!

 俺は群がってきた観光客や冒険者たちに、話せる範囲で武勇伝を聞かせ始める。

 

 

(この人気を使って、情報収集を捗らせてもらうぜ!)

 

 

 こうして俺は、ナナが頼んでくれたおつまみを嗜みつつ、情報収集に精を出す。

 

 

 

「……ねぇ、ラウナベル。どう思う?」

 

「そうねぇ、テトラ。とりあえず要注意ってところじゃないかしら?」

 

「ボクも同じ。一応、気をつけとこう……おじさん。お会計ここに置いとくね!」

 

 

 

 さすがはロマン大好きな奴ら、色々と話を聞くことができた。

 

 

「っと、いきなりうるさくしてごめんな……ありゃ」

 

 

 気がつくと、最初に声をかけた隣の席の女の子は、もういなくなっていた。

 ちょっと、騒がしくしすぎたかもしれない。

 

 反省。

 また会った時にでも、謝ろう。

 

 

「おい兄ちゃん! もっと話を聞かせてくれ!」

 

「はいはーい」

 

 

 不義理を働いてしまった女の子のことはとりあえず置いといて、俺はもうしばらく、店内で情報を集める。

 2時間ほど話を聞いたところで、俺たちは店を後にした。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「なるほど。開かずの扉は村で管理されていて、今は観光資源として入場料が取られてるのね」

 

「そうらしい」

 

 

 店を出たあと、村のランドマークだという水晶柱でメリーと合流した俺たちは、今は宿屋でそれぞれに集めた情報を共有していた。

 

 

「扉開放チャレンジでも別途料金が掛かるってのが、なんともアコギというか商魂逞しいというか、だな」

 

「ガイザンのカジノにあった、スーパースロットと似たようなものにございますね」

 

 

 どっちも、誰にもできないだろうってのを前提とした商売だ。

 そう言われると、ぜひとも村の連中の見ている前で扉を開いてやりたくなってくるな。

 

 100年以来の大サプライズだ。

 

 

「別にルールに逆らう理由はないし、準備を整えたら普通にお金払ってチャレンジしましょ」

 

「だな。扉の向こうがどうなってるかは知らないが、準備は十分にしておこう」

 

「ありがたいことに、道具の類を扱うお店は充実しておりましたので、準備をするのに不足はないと思われます」

 

 

 旅人や冒険者相手に観光業やってる村だけあって、その手の店が軒を連ねている。

 100年ものあいだにドラゴンの巣の中の情報は失伝してしまっているらしいが、ランダムダンジョン並みの準備をしておけばひとまずは大丈夫だろう。

 

 

 

「……じゃあ、これからの冒険についてはこれでいいとして」

 

 

 話が纏まったところで、メリーがそう切り出す言葉を吐いてから、指摘する。

 

 

「ナナさんはどうして、白布にそこまでべったりしてるのかしら?」

 

 

 ナナが、俺の腰に腕を巻きつけてくっついていた。

 

 

「労働に対する正当な対価にございます!」

 

 

 キリッとした顔で答えるナナに、メリーが説明を求めて俺を見る。

 

 

「えっと……酒場で情報収集したんだが、思った以上に騒ぎになって」

 

「それで?」

 

「……最後の30分くらい、店の中でナナを放置してた」

 

「ギルティ」

 

「あるじさま~~~!」

 

「ぐぇぇぇ、腹が締まる締まる締まる、ライカンの力を考えてくぐぇぇ」

 

 

 だっで、どなりにナナがいるどおもっでだんだもん!

 

 

「まさか他の客に席を奪われて引っぺがされてたなんてわからなおごごごごご」

 

「ナナさんは奥ゆかしいのよ、主が一生懸命情報収集してるとなったら一歩引くなんて当然じゃない」

 

「はい゛」

 

 

 元奴隷という、地獄のような経験をしたナナ。

 

 今の彼女はまだ、俺との繋がりが薄れるほどに不安になってしまう。

 多少は我慢できるといっても、あくまで我慢。悲しい気持ちは沸いているのだ。

 

 今回のように不意に引きはがされてしまったときなんかは、フォローが必要なのだ。

 

 

(はい! 情報収集にかこつけて、本物のレアアイテムハンターだとか言われて、めっちゃちやほやされていい気になってた俺が全面的に悪いです!!)

 

 

 痛恨の監督不行き届きである。

 

 

「自業自得ね。今夜は精々、ナナさんの相手をしてあげること」

 

「お゛っ。メリー、どごへ?」

 

「自分の部屋に決まってるじゃない。私がいても邪魔なだけだもの。ね、ナナさん?」

 

 

 立ち上がり、部屋の扉へ向かいながらメリーがナナに笑顔を向ければ。

 

 

「はい。今宵は主様に、全身全霊、ご奉仕フルセットをさせていただきたく存じます」

 

 

 抱きしめられてる俺には見えないが、間違いなくいい笑顔をしているナナが応える。

 

 っていうか、そのご奉仕フルセットって何!?

 絶対言葉と裏腹になんか色々ヤバい奴だろそれぇ!!

 

 

「……ほんと。そういう関係なのよねぇ」

 

 

 最後にちょっとだけ熱っぽい溜息と、恥ずかしそうに頬を染めた表情を浮かべて。

 

 

「じゃ、また明日」

 

 

 俺をこの状況から救い出すことができたはずの希望が、無情にもその扉を閉じた。

 

 あとに残されたのは、どうあがいても今回反省が必要な主人こと、俺と。

 

 

「ふふふ。主様……二人っきりにございますね」

 

 

 今なお俺を抱きしめて離さない、主のことが大大大大大好きな従者。

 

 

「……いやほんと。ナナ、今後こういうことがないように努める」

 

「はい」

 

「だからせめて、俺の理性が少しくらいは残る形で終わらせて欲しい」

 

「もちろんにございます」

 

 

 身の危険を感じる俺の、最後の交渉は。

 

 

「では主様。まずはこちらを装備してください」

 

 

 ゆっくりと彼女に差し出された『おしゃぶり』を見た時点で。

 

 

(終わった……)

 

 

 すべてが無駄だと理解した。

 

 

 

 ………。

 

 

 

 そして、翌朝。

 

 

「……ちょっとくらいは、同情してあげるわ」

 

 

 一晩で巻き起こった惨状を察したメリーにそう言われるくらいには。

 

 

「ちゅぱ……ちゅぱ…………」

 

「んう、ご主人様。かわいい、かわいいでございます……」

 

 

 俺は、弄ばれてしまったのだった。

 

 




増魔の剣(SR)
樋(刀身の平たい部分)に悪魔を象った美しい彫刻がされた長剣。
魔法の発動体となり、装備者の使用する魔法の効果を高める力がある。
魔法発動の成功率をあげたりするわけではないため、装備適性の低い人の魔法使用を補助する力はない。
あくまで、この装備が扱える者にさらなる恩恵を与える装備、である。
長剣の他に魔法発動体装備適性等も適用される。


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次回、いざ“開かずの扉”へ!


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第059話 開け!開かずの扉!!

 

 

 俺が、俺こそが、バブちゃんだ……!!

 

 バブちゃんだ……バブちゃんだ……バブちゃ……。

 

 

「…………ハッ!?」

 

「なに呆けてるのよ、白布」

 

「主様、お加減がよろしくないのでしたら、いったん列を離れてもよいかと思います」

 

「いや……大丈夫だ。ありがとう」

 

 

 呆れたり心配したりする声に軽く手を振りながら返事して、俺は気を入れなおす。

 

 

「さぁさぁ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ドラゴティップ名物の“開かずの扉”があるのはこっちだよ!!」

 

 

 客引きの声が高らかに響く、この場所は。

 

 

「主様、あちらに!」

 

「あれか……」

 

 

 日本人並みにお行儀よく列に並んで進み、ようやっと視界に入る白亜の神殿。

 山の麓をくりぬいて造られたその威容の奥に、今日の目的地がある。

 

 かれこれ100年は開いてないという、ドラゴンの宝物庫へと続く“開かずの扉”だ。

 

 

「入場料は一人20g! 扉チャレンジは100gだよ! 扉を開けたらその先は、ドラゴンの財宝ががっぽがっぽに違いないぜ!!」

 

「「うおおおおお!!」」

 

「おうおう、盛り上げてくれちゃって」

 

「夢とロマン、にございますね」

 

「そう。夢とロマンはお金にできる」

 

「なるほど」

 

 

 これを悪用するのがやりがい搾取とかだな。

 

 

「ちょっと、やめなさいよ。ナナさん、そんなさもしい発想はお捨てなさいね」

 

「えー」

 

「えー」

 

「えー、じゃないの! 観光業としては妥当な値段設定……というか、こんな辺境にもかかわらずこの金額なら相当安めなんだから!」

 

「ちなみにサウザンド家が管理するなら入場料はおいくらにするおつもりで?」

 

「50は取るわ」

 

「なるほど」

 

「言っておくけど、これでも適正価格なんだから」

 

 

 それからメリーはきっと……と言葉を続ける。

 

 

「なんだかんだ言って、あこぎな商売をすると山のドラゴンが怒るとか、そういう祟りを警戒しているんじゃないかしら」

 

「あー、山岳信仰、竜信仰みたいな」

 

 

 怒られない範囲で儲けて、いくらかは還元して、みたいな奴か。

 

 

「なんだかんだ100年は仲良くやってるんだもんな」

 

「100年……歴史を感じる数字にございます」

 

「ドラゴンにとっての100年が、どれくらいの長さなのかはわからないけどね」

 

 

 少なくともこの村の人々はこの扉と、ひいてはその向こうにいるドラゴンのことを思い続けて今日までやってきたわけだ。

 

 

「パッと見、特に信仰してるとかいう雰囲気はないんだがな」

 

「それだけ人々の暮らしの中に、自然と染み込んでいるのでしょうね」

 

「ああ……そうか」

 

 

 信仰が生活に根付いているっての、日本的でちょっと懐かしい気がする。

 

 

(ガイザンより治安がいいのも、あながち竜が見守ってるから、なんて面もあるのかもな)

 

 

 ドラゴン様が見てる。

 

 

 

「はいよー、いらっしゃいお客人。入場料はこの帽子に」

 

「三人分な」

 

「……まいどありっ」

 

 

 ゆるっとした雑談をこなしているうちに、いよいよ神殿の中へと入る時が来て。

 

 

(さぁ、お前の出番はもうすぐだぞ『マスター・キー』!)

 

 

 俺は手に入れたアイテムをお披露目する瞬間を思い、ワクワクしながら先へと進むのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「はい、ここから先に入るなら100gだよ」

 

「三人分な」

 

「……まいどありっ」

 

 

 神殿内部……のさらに奥。

 

 

「へぇ、これはなかなか……」

 

「素人目にもわかります。この造形は、間違いなく芸術品だと」

 

「確かに、こいつはすげぇや」

 

 

 100g払って近くまで行き見上げるそれが。

 

 

「さぁさぁ、これがかの有名なドラゴティップの“開かずの扉”だよ!!」

 

 

 ドラゴンが堂々と出てこれそうな、めちゃくちゃにでっかい扉だった。

 

 

「なんだこの文様。どうやって書き込んだんだ?」

 

「魔法か、古のジャポン人たちのカガク文明か……そこは結論が出てないそうよ」

 

「なんと……!」

 

「詳しいなメリー」

 

「パンフ買ったの、1gで」

 

 

 とにもかくにもでっかい扉が、俺たちの前にある。

 見上げた首が痛くなりそうなほどの、超超特大サイズはまさに圧巻の一言だ。

 

 

「扉にくっついてる緑の透明な球体が、鍵穴の役割を果たしてるみたいね」

 

「なるほど、あそこだな」

 

 

 そこは、上げた首をゆっくり下げれば見えてくる。

 

 メリーの言った通りの造りをした部分と――。

 

 

「ふんぬぅぅぅぅ!!!」

 

「がんばれ! 頑張るんだ!! ジョージョ!!」

 

「ふんぬぅぅぅぅぅああああああ! あっふん」

 

「ジョージョが倒れた!?」

 

「立て! 立つんだ! ジョージョーーーーー!!」

 

 

 ――超巨大な開かずの扉を開けようとしている、陽気な奴らの姿。

 

 

「我が魔力と鍵杖の力によって命じる! 扉よ開け! 《オプーナ》ーーーッッ!!」

 

「おおおお、扉が開……かない!」

 

「ぐっ、バカ……な……ガクッ」

 

「あーい、魔力不足ですねー。お疲れ様でーす」

 

 

 腕力、魔力。様々な力でもって扉を開けようと、果敢にチャレンジしていく者たち。

 

 

「うおー! だめだー!」

 

「ぜりゃー! ぐぁー!」

 

「ちょええええ!! 参ったー!」

 

「ダーイアボゥー! シーユーネクストナイトメーァ……」

 

 

 ちょっと見学してるだけでも様々なチャレンジャーたちが玉砕していくのを楽しめ、これはこれでひとつの見世物として面白い。

 

 

「いいぞー、やれやれー!」

 

「次だ、次ー!」

 

「そこのゴリマッチョー! 私の好みのタイプよー!」

 

 

 入場料だけ払っている人たち向けに高見席まであるのだから、すべては計算のうちか。

 

 

「主様……わたくし、なぜだか緊張してまいりました」

 

 

 そう言って俺の服の裾をつまんできたナナの頭を優しく撫でてやりながら、俺も自分の心臓が高鳴っているような気がしている。

 

 昨日ちやほやされたのが効いているのか、久しく感じていなかった前世の記憶、配信者として生配信をする前の高揚感を思い出した。

 

 

「さぁ、次の挑戦者は誰だ!?」

 

「俺だーーーー!」

 

 

 気がつけば、声を高らかに名乗りを上げていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「俺はレアアイテムハンターの白布! 今日はこの扉をぶち開けて、奥のドラゴンのお宝をゲットするためにやってきた!!」

 

 

 一瞬の静寂。そして。

 

 

「うおおおおおお!! 言い切りやがったー!」

 

「いいぞー! にいちゃーん!」

 

「好みのタイプじゃないけど頑張ってー!」

 

 

 一斉に巻き起こる歓声。

 切った啖呵に返ってくる熱量を持った応声が、俺の心をさらに掻き立てる。

 

 

「あーあ、これで開かなかったら赤っ恥ね」

 

「問題ございません。主様はきっと、扉を開かれます」

 

 

 呆れと信頼の声を背中に受けて、俺はさらに声高に叫ぶ。

 

 

「お前たちは今から! 俺のさらなる伝説の目撃者になるだろう!!」

 

「「おおおおおおお!!」」

 

 

 あぁ~~気持ちいい~~~~!!

 

 

「そこまで言うなら挑戦してもらおうか! さぁ白布! 扉の前へ!」

 

「おう! ナナ、メリー。一緒に!」

 

 

 導かれ、俺たち三人は揃って扉の前に立つ。

 衆人環視の中、俺は演出過剰を意識しながら、右手を天へと突き上げる!

 

 

「《イクイップ》!! 『マスター・キー』ーーーー!!」

 

 

 それと同時に左手を『財宝図鑑』に触れさせ、アイテムを《イクイップ》!

 瞬間、無駄に豪華な輝きと共に俺の右手に現れ、握られる『マスター・キー』!!

 

 

(ありがとう、アデっさん!)

 

 

 演出協力、アデっさん。

 面白いこと大好き。

 

 

「「わぁぁぁぁ!!」」

 

 

 わかりやすく派手な演出に、神殿内はさらに沸き上がる。

 

 

「いくぞぉぉぉ!!」

 

 

 手にした『マスター・キー』を、開かずの扉の真正面にある謎の球体へ向けて、突き出す!

 触れた鍵先ははじかれることなく球体の中へと沈み、飲み込まれて。

 

 鍵装備適性Aの感覚が、俺に教えてくれる。

 

 

(この扉は……開けられる!!)

 

 

 確信を得た以上、もう、止まらない!

 

 

「お、おい。マジか……!?」

 

「扉が、光ってる!?」

 

「まさか扉が……扉が開こうと……!!」

 

 

 最奥まで押し込んだ『マスター・キー』を、横に……捻る!!

 

 

 ガヂャンッ!!!

 

 

 重苦しくも、けれどしっかりと響く低音が、神殿内に伝わった。

 直後。

 

 

「うおおおおおお! 開けぇぇぇーーーーーー!!!」

 

 

 俺の叫びに呼応して、開かずの扉がゆっくりと、左右にその身を割っていく。

 

 

「……あ?」

 

 

 その瞬間だった。

 

 突如として扉の中から強烈な閃光が奔り、俺の視界が真っ白に染まる。

 

 あまりにも強すぎる光の奔流に思わず目を閉じれば。

 

 

「……っ!」

 

 

 いつぞやの、うねうね銀河ゲートを越えた時と同じように。

 

 

「ここは……?」

 

 

 俺は、どこか違う場所へと転移していた。

 

 

 




おしゃぶり:大人用(R)
成人以上のヒトによる使用を目的としたおしゃぶり。
いわゆるジョークグッズといわれる物であり、かつ大人の玩具と呼ばれる物。
これに対して高い装備適性を持つ者は、使用時に本当の赤子の様な安心感を得ることができるのだとか。これは咥える者が装備する場合、咥えさせる者が装備する場合でも同様に効果を発揮するため、一説によれば「バブちゃんプレイは魔法である」とも言われている。


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次回、意外なピンチが?!


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第060話 ドラゴンの巣!

60話をお届けします!
ここを読んでいる読者の皆さんは、バブちゃんを乗り越えてきた猛者たちだ。
顔つきが違う。

ということで、今回もよろしくお願いします!


 

 その日、にわかに村が騒がしくなっていた。

 

 

「おいおい、聞いたか!?」

 

「聞いた聞いた! ちょっとマジでやばいよな!?」

 

「……?」

 

 

 別々の方向から酒場に入って来るや否や、興奮した様子で語りだす男たち。

 

 ボクはそれが気になって、そっと聞き耳を立てる。

 

 

「“開かずの扉”が開いたってな!」

 

「!? それ、ホント!?」

 

「うえ!?」

 

「え、あ……ごめんなさい」

 

 

 思わずテーブルを叩いて声を荒げてしまった。

 

 でも、最初は面食らった様子だった彼らも、すぐにニンマリとした笑みを浮かべると。

 

 

「まぁー、驚くのもしょうがねぇって話だよな」

 

「だな。気にしなくていいからな、坊主!」

 

 

 そう言ってボクの肩をバシバシ叩いて許してくれた。

 

 

「あはは……えっと、それで。その話、本当なの?」

 

「本当だとも! 何十人って奴らが証人さ!」

 

「なんでも鍵穴玉に光る鍵をぶち込んだら、そのままパーッと光って扉の向こうに吸い込まれちまったって話だぜ」

 

「連れもまとめて消えちまってたから、きっと扉が奥へ導いたんだってな!」

 

「……!」

 

 

 噂にしては具体的すぎるそれは、ボクの知識に照らし合わせても、事実だと確信に足るもので。

 

 

「教えてくれてありがとう! おじさん! お金ここに置いとくね!」

 

「おおい、まだ料理出しとらんぞ!?」

 

 

 お昼ご飯なんて食べてる暇がないくらいの状況に、ボクは大慌てで店を飛び出した。

 

 

「……これ、ヤバいよね?」

 

 

 飛び出したところで、ボクは自分の胸ポケットに向かって声をかける。

 

 返事はすぐに返ってきた。

 

 

「ヤバいなんてもんじゃないわよ! そのパーティがもしも生きて戻ってきてご覧なさいな、どんだけの超レアアイテムが世にバラまかれるか!!」

 

 

 鈴のように凛と響く声を上げる、ボクの相棒。

 彼女の焦り具合からも、事態が放置できないものだってのがよくわかる。

 

 

「とりあえず、現場に行って情報収集するわよ! テトラ!」

 

「了解、ラウナベル!」

 

 

 彼女の指示に従って、ボクは全力疾走で“開かずの扉”へと向かう。

 

 数分と待たずに到着すれば、尋ねるまでもなくその情報で溢れていた。

 

 

「俺たちは伝説を見た!」

 

「扉は開いた! 挑戦者は今、ドラゴンの山の宝物庫へ!」

 

 

 人々の声に合わせて陽気に竪琴をかき鳴らし、吟遊詩人が歌う。

 

 

「挑戦者の名前は白布! 勇猛果敢なるレアアイテムハンター!!」

 

「……白布!!」

 

 

 つい先日聞いた名前に、ボクはその人の顔を思い出す。

 

 隣の席に座った、年が近くて、そして……一目でわかるほどの、実力者だった。

 

 

「げぇー!? よりにもよってあの要注意人物!? 昨日の今日で動いたっての!?」

 

「うう、遅きに失したっていうんだっけ。やっちゃったかも……」

 

 

 でも、いまさら後悔してももう遅い。

 

 ボクたちは、ボクたちにできることをするしかない。

 

 

「こうなったら、直接追っかけるわよ!」

 

「うん! ……『風精霊(ふうせいれい)のブーツ』よ、力を貸して!!」

 

 

 装備している靴の力を開放する。

 瞬間、ボクの体は羽みたいに軽く、風に乗って駆け抜ける力を得る。

 

 

「さぁ、根性見せなさい! “勇者”テトラ!!」

 

「了解! 振り落とされないでよね、“導きの妖精”ラウナベル!!」

 

 

 跳ぶ。

 

 ボクたちは全速力で、彼らが目指すだろう先へと向かう。

 

 至竜が座する、白竜山脈最高峰。

 

 

(霊峰アルバの、ドラゴンの巣へ――!)

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 クソでか扉を開けた向こう側は、これまた神秘的な小部屋でした。

 

 

「床にはでっかい魔法陣。天井は照明代わりの光る石」

 

「主様、あちらに両開きの扉がございます」

 

「小さな開かずの扉みたいね」

 

 

 部屋の特徴はこれだけ。

 さっきまでのめちゃくちゃでっかい空間からのギャップに、少しだけ息が詰まる。

 

 

「変に罠がある感じでもなし、とっとと扉を開けて出ようか」

 

「そうね。なんだか息苦しいし」

 

「わかる」

 

 

 意見が合ったメリーと頷きあっていると、先に扉に向かっていたナナから報告があった。

 

 

「主様、メリー様。この扉はどうやら、先ほどと同じ鍵扉のようにございます」

 

「あら、本当ね。開かずの扉と同じで緑色の玉がついてるわ」

 

「はい。普通に押しただけでは、ビクともいたしません」

 

「ほうほう」

 

 

 

 ………。

 

 

 

「――――白布ッッ!! 鍵! 鍵はある!?」

 

「あるじさま!!」

 

「え? あ、ああああ!?」

 

 

 慌てて自分の手元を見る。

 

 俺はしっかりと『マスター・キー』を握っていた。

 

 

「……ある!!」

 

「!? ふ、はぁぁぁぁぁー……お、驚いたぁぁ……!」

 

「わたくし、こ、腰が……」

 

 

 俺の言葉に安心して、メリーとナナがへなへなとその場にへたり込んだ。

 

 

「……っぶねぇ。壊れてたら詰んでたのか」

 

 

 URチート開錠アイテム『マスター・キー』はどんな鍵扉でも開くすごい奴だが、同時に使う度に破損判定が入る消耗品である。

 その破損率は装備適性Aの俺をもってしても、破損確率60%という期待値“使い捨て”の代物。

 モノワルドの九分九厘以上の人が、1回の使用でぶっ壊すアイテムである。

 

 

「ってことはこの部屋、『マスター・(ズル)キー』対策の部屋ってことか。おっかねぇ」

 

 

 実際俺も使い捨てのつもりでこのアイテムを使用した身。

 見事に罠に掛かったといえる。

 

 

(こんな狭くて何もない場所でずっと閉じ込められるとか、即死トラップよりもヤバい死に方するところだったぜ……)

 

 

 ファンタジーのセキュリティ、舐めたらあかんぜよ。

 

 

「……だがしかし。見方を変えればここは、間違いなく大事な場所へ繋がってるってことだな? つまりチャンスだ」

 

「あはは、そこで気持ちを切り替えられるあんたの胆力、どうなってるのかしらね」

 

「さすがは主様、にございます……」

 

「もうちょっと休憩したら、扉を開けて先に進もうな」

 

 

 さすがに腰砕けの二人を放置してはいけないもんな。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 俺たちは魔法陣の上でしばらく休憩したのち、小さな開かずの扉の鍵を開けた。

 

 

「む。こっちは光らないで普通に開いたな」

 

 

 というか左右にスライドして開いた。

 開かずの扉とは似て非なる機構に、職人の技が冴え渡っている。

 

 

「扉の向こうは……上り坂、ね」

 

「真っ直ぐではなく緩やかに曲がっておりますね。先までは見通せなくなっています」

 

「なるほど、そう簡単には行かせてくれないってことだな」

 

 

 威厳よりも実利を取ったダンジョンスタイルだ。

 嫌いじゃない。

 

 

「とにかく、進むっきゃないだろう。俺たちの望みはこの道の先にしかない」

 

「はい」

 

「えぇ」

 

 

 ドラゴンの財宝を目指して、俺たちは歩き出す。

 このパッと見シンプルな道に、いったいどれだけの罠が仕掛けられているのか。

 

 

(だがしかし! 今の俺たちには秘密兵器がある!)

 

 

「……メリー」

 

「はいはい。チェックするわね」

 

 

 罠の有無は、メリーが都度《神の目》を使ってチェックしてくれる。

 天使に与えられたそのギフトに掛かれば、仕掛けられた罠の位置などパパッと判明してしまうのだ。

 

 

「使い始めれば、マジで便利だなそれ」

 

「そうね。罠がありそうなところにはアイコンがあるように見えるわ。そこの壁とか」

 

「危険そうな感じするか?」

 

「そんな感じはないわね」

 

「どれどれ?」

 

 

 ポチっとな。

 

 

「きゃあああ!?!?」

 

 

 突然天井から現れた拘束具に、メリーが捕まった。

 四肢を拘束されてしまった彼女はそのまま吊り上げられ、背を反り地面に向かって胸を突き出したポーズで宙ぶらりんになる。

 

 

「ちょっと!!」

 

「いや、どの程度の罠が仕掛けられてるのかチェックは必要だと思ってな」

 

「一個も罠踏まないなら必要ないでしょその確認!!」

 

「主様がボタンを押したにもかかわらず拘束されるとは……さすがです、メリー様」

 

「さすがです、じゃないでしょ!?!? もー! 早く解きなさいよーー!!」

 

 

 

 相変わらずの試練体質に感心しつつメリーを助けた俺たちは、今度こそ罠を避けつつ進んでいく。

 

 そうして俺たちは、そこへと辿り着いた。

 

 

「こ、ここは……!」

 

 

 坂を上った果てにある、鍵なし扉を開けた先。

 赤い岩壁で作られた空間と、壁から染み出した緑の液体が湯気を立たせる、人工的に工夫された痕跡を随所に残す大きな泉。

 

 鼻をくすぐるこの匂いは間違いなく……硫黄の類が混ざった香りで。

 

 

 カポーンッ。

 

 

 泉の端に設置してある竹細工から、素敵な音が響く。

 

 

「「………」」

 

 

 それらが指し示す答えは――。

 

 

「温泉だ」

 

「温泉にございますね」

 

「温泉だわ」

 

 

 ――まぎれもなく、温泉だった。

 

 

 




風精霊のブーツ(SR)
風を司る精霊の補助が得られる魔法が込められたブーツ。
装備者に対する空気抵抗を軽減、追い風による支援等で機動力を向上できる。
精霊装備適性がC以上、あるいは靴装備適性がB以上あると、某配管工もびっくりなハイジャンプが可能となる。


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次回、温泉回!!


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第061話 日本語(古代語)?!

 

 

 “開かずの扉”を越えた先。

 ドラゴンの財宝へ続くはずの道を進んだ先にあったのは、緑茶みたいな色をした温泉だった。

 

 

 カポーンッ!

 

 

 シシオドシっていうんだっけね。あれ。

 垂れ落ちてくるお湯を一定量受け止めると、天秤が傾くように竹が動いて音を立てる奴。

 

 

(仮にもダンジョンっぽい場所にこれがあるって、違和感はんぱねぇな)

 

 

 もろもろの先入観を抜きにすれば、パッと見高級旅館の天然露天風呂に見えなくもない。

 天井は明らかに人工物な安っぽいタイル張りだが。

 

 

「うーん……」

 

「温泉、よねぇ?」

 

「温泉にございますね」

 

 

 三人揃って困惑顔を浮かべる。

 

 

「いやまさか、これがドラゴンの財宝……とは言わないわよね?」

 

「すんすん……匂いはごく一般的な温泉のそれと同じだと思います」

 

「さすがにこれで財宝の全部ですってことはないだろう……っと、お?」

 

「主様?」

 

「ここ、なんかある」

 

 

 岩肌の一部に、プレートがはめられていることに気がついた。

 苔むしているところを払い、ジッと目を凝らして観察すれば、そこには文字が書かれていた。

 

 

「なになに……“竜へ相対せんと欲するならば、この湯にて身を清めよ”だとさ」

 

「「え?」」

 

「なるほど。宝の部屋に来たいのなら、ちゃんと汚れを落としてこいってわけか」

 

 

 プレートの隣には、岩肌にカモフラージュしてある引き戸があった。

 ゴロゴロと音を立ててそれをずらせば、奥にはめちゃくちゃ見覚えのある景色が広がっていた。

 

 そう、脱衣所である。

 

 

 奥にはまたスライド式のドアがあり、さらに先へと続く道があるのも見えた。

 実際に傍まで近づいてみると、ドア横の壁にもプレートが埋め込まれており、そこには。

 

 

「“湯にて身を清めし者のみ、この扉を通ることを許す”か」

 

 

 と、書かれていた。

 

 訳:風呂に入らない礼儀知らずはこの先どうなっても知らないぞ。

 

 ってことだね(サムズアップ)。

 

 

 

「……さすがにここまで手の込んだもの用意して罠ってことはないと思うから、普通に風呂入って先に進んだ方がいいだろうな」

 

「「………」」

 

「とりあえずメリー、お湯をもうちょっとチェックして……ん?」

 

 

 さっきからメリーが、そしてナナも、黙りこんでいた。

 その顔をよくよく見てみると、メリーは困惑、ナナはお目目キラキラの感動を示していて。

 

 

「ねぇ、白布。ちょっといい?」

 

「なんだ?」

 

「あなた。さっきのプレートに書かれてた文字、読めたの?」

 

「え?」

 

 

 何を言ってるんだと思う。

 だって、あのプレートに書かれていた文字は、どれもそう難しくはない……。

 

 

「……あれ、古代文字よ?」

 

「……oh」

 

 

 漢字と、ひらがなで書いてあったのだから。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「まさか、白布が古代語を読めるなんて、ねぇ……」

 

「さすがはわたくしの主様にございます」

 

「ふぃー……」

 

 

 俺たち3人は、みんな一緒で温泉に浸かっていた。

 

 

「あるじさま~」

 

「おっ」

 

「ちょっと、ナナさん。そんな背中からぎゅっ、なんて。白布をあんまり煽っちゃだめよ」

 

 

 タイミングをずらして風呂に入って、パーティ行動に何かしら不具合が起こっては困る。

 という判断から、この混浴は実現した。

 

 俺とナナはともかくメリーが混浴を許容したのは意外だったが、そこはさすがのド根性お嬢様、覚悟が違う。

 

 

「白布が私の裸を見ないなら、それでよしってことにするわ」

 

 

 との一言で、こうして同じ空間に彼女もいる。

 

 全裸で。

 お風呂のマナーってことで、全裸で!!

 

 

 

「はぁー、ビバノンノ……」

 

「ビバノンノ、とは?」

 

「お風呂気持ちいいってのを表現する魔法の言葉だ」

 

「なるほど。びばのんの、にございますね」

 

 

 そんなこんなで、温泉だ。

 メリーを見ないよう目を閉じ、湯に身を委ねているおかげか、湯の温かさ、香り、引っ付いてるナナの柔らかさ、色々な物を強く感じることができる。

 

 っていうかナナ、絶対これ押しつけてるな。

 ありがとうございます。

 

 

「びばのんの、ねぇ? でも、そんな変なことが言いたくなるくらいここが気持ちいいってのは……わかるわぁ~」

 

 

 普段キッチリしているメリーの口から、ふにゃっとした伸び声が出るほどの心地よさ。

 

 

「宿の風呂も悪くなかったが、この温泉は桁が違うよなぁ」

 

「わうぅ、しっぽの毛先まで染み渡ってくるようにございます」

 

「はぁ~~……」

 

「「「ビバノンノ」」」

 

 

 3人の声が重なった。

 

 ちょっと前にマジ物の命の危機を感じたのもあって、温泉の癒しが染み込む染み込む。

 

 

(これからドラゴンがいるところに行くってのに、こんなリラックスしていいんだろうか?)

 

 

 だがこの温かさには抗えない。

 もうずっとこの中にいたい。冬のこたつのように。

 

 

 

「……で、白布」

 

「んー?」

 

「あなた、古代語はどこまで読めるの?」

 

「あ~……」

 

 

 モノワルドに過去存在していたという、強大なカガク文明。

 それを作った人々のことを、歴史ではジャポン人と呼称している。

 

 もうその名前からお察しなんだが、彼らが使っていた文字は。

 

 

(どう見ても日本語です。ありがとうございました)

 

 

 漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字(アルファベット)の組み合わせ。

 

 

「異なる4つの文字の組み合わせで構成される語彙。それぞれに役割がありつつも時にそれは並列したり混合したり、声に出すと同じなのに意味が違う表現が沢山あったり、逆に同じものを表現するのに多数の言葉があったり。あんなに難解極まりない古代語をスラスラ読めるなんて、とんでもないことなのよ」

 

「……HAHAHA」

 

 

 改めてそうハッキリと説明されると、日本語ってヤバいな。

 でもその複雑さがあるからこそ、色々な表現が出来て面白いと俺は思う。

 

 そして思うのは。

 

 

(ジャポン人って、ぜってぇ俺より先にこの世界に転生してきた日本人だよな)

 

 

 なんだよ、強大なカガク文明って。

 あれか? SFか? サイエンスファンタジーって奴か?

 もしかして巨大ロボットとかある?

 アイテムだから装備できる? うおおおおお欲しいーーーーーー!!

 

 旅の途中でそれっぽいのを見つけたら、絶対手に入れよう。

 

 

(ちなみに今俺がしゃべったり書いたりしてる世界共通のモノワルド語は、アルファベットを使った英語によく似た言語である)

 

 

 ジャポン人亡きあとのモノワルド。

 選ばれた言語は、ローマ字の系譜でした。

 

 おかげで日本生まれの俺は、古代語マスタリーだぜ!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「古代語まで堪能でいらっしゃるとは、さすがはわたくしの主様にございます」

 

「たまたまだ、たまたま」

 

「わうわう」

 

 

 さっきからベタベタくっついてたナナが、ますますベタベタくっついてくる。

 俺の首に腕を回して抱き着いてきて、湯船の中で俺の腰をがっしり横からカニばさみしてひっつけば。

 

 すーり、すーり。

 

 

「んんっ!!」

 

「?」

 

 

 右の二の腕に感じる柔らかい物。

 肘が触れるポッコリお腹。

 

 そして腰に感じる熱。

 

 

「ちょっと、ナナさん。さっきから……白布にくっつき過ぎじゃないかしら?」

 

「わぅ? 従者であるわたくしは、主様に身も心も捧げた存在。こうして全身を使ってその思いを表現することに、なんのためらいもございませんよ?」

 

「その気持ちは尊重するけれど、時と場合はわきまえなさいと言っているのよっ!」

 

 

 メリーの言う通りだ。

 二人っきりならともかく、メリーの前でするには、ちょっとスキンシップ過剰だ。

 

 

「そうだぞナナ。さすがに時と場所は考え……んひっ!?」

 

「ちょ、ナナさん!?」

 

 

 ナナが、俺の肩に甘噛みしてきた。

 あむあむちゅるちゅると、唇で咥え込まれた皮が引っ張られる感覚にゾクッとする。

 

 

「ちょ、ちょっと待てナナいひっ!? おあっ!!」

 

 

 止める間もなく甘噛みが続いて、しかもナナの唇がだんだんと肩から首筋に向かってくる。

 

 

「ん、はむ。主様……あるじさまぁ……」

 

 

 とろんとした視線が俺を射抜く。

 この時点で俺は、ナナに異常事態が発生しているのを理解したが、すでに手遅れなのも同時に理解する。

 

 

「う、うごけ……ない!」

 

 

 そう。

 ライカンであるナナのナチュラルパワーを前に、ヒューマオス程度のナチュラル腕力が勝てるわけがないのである。

 

 ただじゃれついてるだけだと思って抱き着くのを許容したのが仇となった!

 

 

「ナナさん! ちょっと、ナナ……はれっ?」

 

 

 俺を助けようとして動き出したメリーにも、何らかの異常が発生したらしい。

 緊急事態にそっちへと目を向ければ、泉の縁に手をついて、メリーが真っ赤な顔を浮かべていた。

 

 

「う……く……」

 

「あるじさま、あるじさまぁ……」

 

 

 カポーンッ!

 

 

 ちょ、これ。

 もしかしなくても、ピンチなのでは……!?

 

 




ビンビン☆マイク(SR)
マイク系アイテムの中でも戦闘用にカスタマイズされたマイク。
マイク装備適性B以上であれば、対軍規模にその声を響かせる事ができる。
呪言と呼ばれる技術が音・歌属性魔法、音波、ショックボイス等々を使用可能とする。
マイクは歌う他にもマイクパフォーマンスを行う事で仲間に支援効果を発生させたりもできる。


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次回、約束された敗北!


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第062話 ドラゴン温泉の罠?!

 

 

「あるじさま、あるじさま、あるじさま~~」

 

「あ、こら、待てナナ。ステイ、ステイ!!」

 

 

 我、全裸。

 装備、なし。

 

 暴走するナナのパワーに勝てる要素、なし。

 

 

「わふわふ~~」

 

 

 ぺろぺろぺろぺろ。

 

 

「おうわーー!!」

 

 

 がっちりと抱き着かれて逃げられなくされた上でのひゃくれつなめ。

 愛情いっぱい込められた動きに、温泉でプルプルになったお肌がでろでろにされる。

 

 

「メリー! メリー!!」

 

「ちょ、待って……」

 

 

 頼みの綱であるメリーの助けも、ナナと同じくその身に異常が襲っているのか期待できない。

 

 

「っていうか、ナナさん。本当にいったい何を……」

 

「あるじさま、お慕いしております。はむっ、ちゅ、ちゅううう!!」

 

「本当に何してくれちゃってるのよー?!?!」

 

 

 状態異常中でも冴え渡るメリーのツッコミも空しく、俺の唇はナナに奪われてしまった。

 

 

(ぐっ……俺も頭がクラクラしてきた)

 

 

 プレートに書かれた礼儀に則って入った温泉だったが、まさかこんな事態になるなんて。

 

 

「ん、ちゅ、ちゅー」

 

「んぐっ!!」

 

 

 いや、ナナにキスされたりすりすりされたりぺろぺろされたりするのは嫌じゃないけれど!

 

 

「ぷはっ、あるじさま……」

 

 

 お目目ハートマークついてるナナは滅茶苦茶かわいいけれども!!

 

 

(なんとか、なんとかしなければ……!)

 

 

 今は間違いなくピンチ、ピンチなのである!!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「白布……この原因が、わかったわ!」

 

「本当か! メリーんぐっ!」

 

「ちゅううう……」

 

「キスされてていいから、そのまま聞いて」

 

 

 《神の目》を使用したメリーが、この状況に至った原因を見つけてくれた様だ。

 思わずそっちに目を向けたら、キッと睨み返されたので目を瞑る。

 

 

「んっ」

 

「うぐっ」

 

 

 すると、引っ付いているナナの感触を滅茶苦茶に感じ取ってヤバい。

 耐えろ俺!! お早い説明プリーズ、メリー!!

 

 

「原因は……このお湯! 『竜血水(りゅうけつすい)』のせいよ!」

 

「!?!?」

 

 

 メリーの言葉に俺は驚き、目を見開く。

 なぜならそのアイテムについては、湯に浸かる前にメリーに視てもらっていたのだから。

 

 『竜血水』。

 高い魔力を持った水と竜の血や汗を混ぜて作り出される、ポーション系のアイテム。

 経口摂取も経皮摂取もでき、疲労回復やスタミナアップ等のさまざまな強化(バフ)を得られる。

 

 っていう説明だったのに。

 

 

「ごめん、なさい。視るのが……浅かったの」

 

 

 まだ完全には《神の目》を使いこなせていない彼女が、それを悔しそうにしながら告げる。

 

 

「『竜血水』が与えるバフ効果。特に品質の高い『竜血水』の場合、追加効果があったのよ」

 

「ちゅ、んっ、ぷはっ。それは……?」

 

「超強力な滋養強壮効果。わかりやすく言えば……媚薬の類に属する精力剤として使えるようになるの」

 

「あっ」

 

 

 察し。

 

 

「つまりこれは……」

 

「体が小さかった分、ナナさんが一番最初に効果を発揮したってことね……その、アレを」

 

 

 発情(アレ)だな。

 

 

「あるじさま」

 

「なんだむぐっ!? んん~~~~!?!?」

 

 

 やばいやばいねじ込むなねじ込むなぬるぬるして気持ちよくなっちゃうだろ!!

 

 っていうかもうだいぶん気持ちいいですありがとうございます!!

 

 

「んん~~っぷぁ。わたくしを、見てくださいませ」

 

 

 発情しているナナもかわいいね。

 

 じゃねぇ!!

 

 

「アウトーーーー!!」

 

「「!?」」

 

 

 突如として声を荒げた俺に、目の前のナナどころかメリーまでびっくりしてるが構わず言葉を続ける。

 

 

「メリー! 今のうちに俺の本と白布を持ってきてくれ!」

 

「っ! わ、わかったわ!」

 

「ナナ! よしよししてやるから俺の拘束を外せ!」

 

「お望みのままに、あるじさまっ!」

 

「良ぉお~~~~~しッ! よしよしよしよしよしよしよしよし、かわいい奴だなぁナナはなぁ!」

 

「わぅーん!!」

 

 

 ナナが俺を逃がす気がないならこっちがナナを押さえ込む!

 

 

(ああ~~……『竜血水』の効果が俺にもだいぶ染み込んできてる。ヤバい)

 

 

 なんとか理性を保ち続けているが、限界が近い。

 体の至る所が熱くて、今にもはち切れてしまいそうだ。

 

 

(なんとかここを耐えきって、メリーが持ってきてくれた『財宝図鑑』から錫杖取り出して、こんな時のために習得しといた浄化魔法の《リフレ》でバッドステータスを解除して……バッドステータスを解除、して?)

 

 

 『竜血水』による発情=バフ

 

 

(ば、バッドステータスじゃねぇ!?!?!?)

 

 

 今の俺に、バフを解除するための魔法は――ない。

 

 その絶望と。

 

 

「あっ」

 

 

 メリーの困難体質から発生した、もはやそれは運命ともいえる転倒。

 

 俺の横を通り過ぎようとしたときに見事にすっ転んだメリーが、俺の顔面にそのほどよく美しい双丘を押し付けて。

 

 

「きゃんっ」

 

 

 甘い声とともにずるりと滑って顔を擦った、その瞬間に。

 

 

「――――っ」

 

 

 俺の頭のてっぺんまで、『竜血水』は染み渡った。

 

 

 

「きゃあ! ご、ごめんなさい白布。すぐにとってくるわ!」

 

 

 恥ずかしそうに駆け去るメリーの、プルンと揺れる背面の桃を見届けてから。

 

 

「あるじさま……」

 

 

 蕩けた顔のナナが、その目で欲しいと訴えているのを見た、次の瞬間。

 

 

「……そうだな。何を取り繕うとも、しょせん俺は……雄なんだ」

 

 

 ナナを押し倒した。

 

 

 

 ………。

 

 

「白布! 本と布を持ってき……ひんっ!?」

 

「あるじさま! あるじさま~~~~!!」

 

「ナナ! ナナ! ナナ!!」

 

「あわわわわ……!」

 

「あぁ、わたくしは、ナナは、ナナはもう!」

 

「まだだ! まだ俺は足りないぞ!!」

 

「わうっ。でしたらもっと、もっとわたくしをおもとめください……! それこそがわたくしのよろこひぅっ!!」

 

「ナナっ! ナナー!!」

 

「な、ななな……何をおっ始めてるのよこのすかぽんたーーーーーん!!!!」

 

 

 この時の記憶は俺にはない。

 ので、説教とともにメリーに教えてもらった。

 

 メリーは顔を真っ赤にして怒ってたが、バッチリ見ていたんだなってのがよくわかりました。

 

 まる。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 脱衣所に置かれたベンチの上。

 

 

「あ~~~~」

 

「う~~~~」

 

 

 精も根も尽き果てるまで盛り上がった俺とナナは、当然のように湯当たりしてダウンした。

 

 

「ほんっと、バカじゃないの? バカじゃないの? バカじゃないの!? あんな、あんな、なななな……!」

 

 

 ぐったりした俺たちを温泉から引きずり出し、介抱してくれたメリーもこの調子である。

 

 俺たちは見事にここで、休憩を余儀なくされた。

 

 

(これが足止めトラップだったら完璧に発動したな……)

 

 

 こんな状況があるなら、バフ解除の魔法も探して習得しなきゃいけないな。

 俺の場合装備すればパパッと使えるようになるし、覚えられるアイテムを探さないとだ。

 

 

「うぇ……考え事したら頭がいてぇ……」

 

「本当にバカやってるんじゃないわよ。はい、お水」

 

「ありがとうおかあちゃん」

 

「誰かおかあちゃんよ! もぅ……」

 

 

 正直まだ『竜血水』の効果が残っているのか、湯当たりとは別に体が熱い。

 メリーみたいな美人さんが傍にいるってだけで必要以上にドキドキしてしまう。

 

 

「……今はちゃんと休まないとダメよ?」

 

 

 メリーも絶対キツいはずなのに、優しい彼女は俺たち二人の額にそれぞれ手を当ててくれる。

 

 

「ここちよい、冷たさにございます……ありがとうございます、メリー様」

 

「ナナさんも、小さい体で無理をしてはダメなんだから」

 

「はい……」

 

 

 明らかに、前世世界のそれと同じ造りの脱衣所。

 超科学的な造りをしていた扉の存在などから感じられる、俺より前の来訪者の気配。

 

 言いようのない懐かしさの中で、メリーの優しさは殊の外、俺の心にぶっ刺さった。

 

 

「ぁー、メリー好き」

 

「!?!?」

 

 

 眠りに落ちる前の、混濁した意識の中で呟いた言葉は、推しへの愛を告げる軽口で。

 

 

「………」

 

 

 確かに眠りに落ちた。そんな意識の暗黒の中。

 

 

 ちゅ。

 

 

 柔らかな何かが、俺の唇に触れたような気がした。

 

 




竜血水(SR)
水に竜から分泌される体液と、様々な魔力が混ざり合って出来る薬品系アイテム。
各種ステータス上昇バフを一定時間付与でき、さらには失った体力や魔力をいくらか回復することもできる超優秀ポーション。
品質PERFECTの場合、加えて精力増強の効果が発言する。要は媚薬。
薄めることで品質を下げ、バフ剤として使うのが効率的だが、一部の好事家は好んでこれを使用することもある。


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次回、センチョウにとって懐かしの……!?


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第063話 ドラゴンの財宝!

うおおおおおお!!
お気に入り100,UA10000,達成出来ました。
ありがとうございます。
オリジナルでもここまで楽しんで貰えるんだと思うと、感動もひとしおです。
応援ありがとうございます!

そんなわけで、63話をお届けです。
今回もよろしくお願いします!


 

 『竜血水』の温泉での大騒動。

 派手にやらかして疲弊した俺たちは、浴室隣の脱衣所で、結局一晩の足止めを食らった。

 

 

「うぅ……まだ少しポカポカしている気がいたします」

 

「俺もだ」

 

「安心なさい。二人とも発情のバフは解除されているわ」

 

 

 未だに抜けない体の火照りは、どうやら『竜血水』の効果らしい。

 俺たちを視たメリー曰く、今なら山登りも、高所の寒さもヘッチャラだとか。

 

 

「……あー、メリー」

 

「なぁに?」

 

「色々とご迷惑をおかけいたしました」

 

「っ! ま、まぁ! 気にしなくていいのよ。ほんと!」

 

 

 改めて謝罪すると、思った以上にあわあわしながらメリーが応えた。

 

 

「あ、あなたたちがそういう関係だってのも、その、知ってたしね! ほんと、うん!」

 

「面目ない……」

 

「……そう、あれはちょっと盛り上がりすぎただけで……ごにょごにょ」

 

「?」

 

「なんでもないの! いいでしょ! もう!」

 

 

 ついにはそっぽを向かれてしまう。

 

 

「………」

 

 

 完全にやらかしてしまった。

 俺の隣でナナも顔を赤らめて縮こまってしまっている。

 

 

「「………」」

 

 

 気、気まずい……。

 

 

「……財宝」

 

「え?」

 

「ドラゴンの財宝よ! 早く探しに行きましょう!? ほら! シャキッとなさい!!」

 

 

 恥ずかしさに耐えかねて、メリーが俺たちを急かしてくる。

 だがそれが、今の俺たちにはありがたかった。

 

 

「そ、そうだな! 財宝はもう目と鼻の先なんだ! レアアイテム大量ゲットだぜ!」

 

「仰る通りにございます、主様。わたくしたちの使命のためにも、頑張りましょう」

 

「そうそう、その調子よ」

 

 

 よし、少しは気も取り直したな!

 

 じゃ、じゃあ……!

 

 

「『竜血水』……回収してくる」

 

「「………」」

 

 

 “なんでその名を出した”というメリーの視線が俺を射抜く。

 ナナに至ってはさらに縮こまり、なぜかしっぽをフリフリしている。

 

 

(しょうがないだろ!? レアアイテムなんだから!!)

 

 

 『竜血水』はSRアイテムである。

 それに確定高品質である以上、これを逃す手はない。

 

 

「ふ、二人は最終確認しといてくれ! 俺一人で行くから!」

 

 

 地味にあの部屋、湯気も危険だから安定をとって一人で向かう。

 結果、俺は『竜血水』をいくつかの空き瓶に詰めて、無事お宝をゲットと相成った。

 

 

「高品質だと追加効果があるアイテム……なんて」

 

 

 モノワルドのアイテムは、まだまだ奥が深い。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「――“マナー”確認。通行を許可します」

 

「おっ」

 

 

 いよいよ準備を整えて、俺たちは脱衣所奥のスライドドアから先へと進んだ。

 そこで突如として聞こえた機械っぽい声の内容に、ドキッとさせられる。

 

 

「主様、今のは……?」

 

「ふむ。どうやら、ちゃんとお風呂に入って正解だったみたいだな」

 

 

 どこでどうフラグを管理しているのかはさっぱりだが、俺たちが風呂に入ったことを検知するセンサーみたいなのが扉の向こうにあったんだろう。

 

 これで俺たちの大失態も、ただただ無駄になったわけじゃないとホッと一息だ。

 

 

 

「この先が、いよいよドラゴンの宝物庫なのね」

 

「そうだな」

 

 

 扉の先にあったのは、50mほどの真っ直ぐな通路。

 “開かずの扉”があった神殿に似た造りの道の先には、両開きの大きな扉があって。

 

 

「さ、さすがにここにきて鍵穴要求とかないよな?」

 

 

 『マスター・キー』はありがたいことにまだ俺の手元にあるが!

 

 

「主様、こちらに何かスイッチのようなものがございます」

 

「でかした」

 

 

 ナナは目鼻が利いてとっても偉い!

 俺が何かするより先に動いてくれるから、話が色々と早くなる。

 

 

「どれどれ……って、これは」

 

「私が視ましょうか?」

 

「いや、大丈夫だと思う」

 

 

 メリーの提案を断り、俺はスイッチを迷わずに押した。

 

 

「ちょ、大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫……ああ、やっぱり」

 

「主様、扉の向こうから何か音がいたします!」

 

「え、え!? どういうことなの白布!?」

 

 

 慌てふためく二人をよそに、俺はまた、この状況に懐かしさを覚えていた。

 

 

 ガチャンッ。

 

 

「「!?」」

 

「ほら、開くぞ」

 

 

 何かがガッチリと嵌まる音がしてから間もなく、鈴の音とともに両開きの扉が解放される。

 

 

「これは……」

 

「箱部屋、なの?」

 

 

 扉の先にあったのは、綺麗な直方体の空間で。

 

 

「はいはい、GOGO」

 

「わぅっ、あ、あるじさま!?」

 

「ちょ、押さないで! まだちゃんと視てないのに、ぴぃっ!」

 

 

 二人を押して雑に入って中から部屋を見てみれば。

 

 

「お、あったあった」

 

 

 予想通りの、スイッチ群を発見。

 1から8までの数字が刻まれたスイッチと、漢字の“開”と“閉”の文字がそれぞれ刻まれたふたつのスイッチ。

 

 入ってきた扉側の上部を見れば、数字スイッチと同じだけの数字が横並びしていて。

 自分たちが入った場所が“3”であることを示している。

 

 

「これ……この場所自体が移動用の小部屋、なの?」

 

「なんとっ。この空間が丸ごと移動するのでございますか?」

 

 

 少しずつ状況を把握し始めているメリーとナナをよそに観察を続ければ。

 

 

(6のところだけ少し色が違う……ってことは、そこが“当たり”かな?)

 

 

 目的地へのあたりがついて、いよいよあとは、スイッチを押すだけとなる。

 

 

「ナナ、メリー。準備はいいか?」

 

「え? ちょ、ちょっと待って白布!」

 

「わたくしはいつでも、主様のお望みのままに」

 

「なんでこの子はいつも覚悟決まってるのよ!?」

 

「よーし、スイッチオーン!」

 

「ああああ! 待ってって言ったのにーー!!」

 

 

 6のスイッチを押して、さらに閉と書かれたスイッチも押す。

 少しの間をおいてから、ゆっくりと扉が閉まった。

 

 そして。

 

 

「お。おおお……」

 

 

 主に足回りにかかる、懐かしい重みと。

 

 

「ひぎゃああーーーー!?!?」

 

「ふわわわわ!?!?」

 

 

 かわいい二つの叫び声。

 

 

「なになになになになに!?!?」

 

「ああああああるじさま~~!!」

 

「HAHAHA、大丈夫大丈夫。今まさに、上に昇ってるだけだって」

 

 

 しまいには、腰を抜かしそうになった二人にしがみつかれる栄誉を賜って。

 

 俺たちは移動する。

 

 

 

(エレベーター! ちょ~~~~~懐かしい!!)

 

 

 ジャポン人の文明、やるじゃなーい!

 

 

「なに一人で楽しそうにしてるのよ! ばかー!!」

 

「おああああ……あるじさま~!」

 

 

 異世界で触れた懐かしい技術に、俺のテンションはマックス最高潮に高まっていた。

 

 もっとも、その先に見えた景色に、そのテンションはあっさりと更新されてしまうのだが。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 ガチャンッ。チーンッ!

 

 

 階層への到着を告げる結合音に続いて、扉の開閉を告げる鈴の音が響く。

 

 

「うぇぇ……他人の飛行魔法で無理矢理飛ばされたみたいな感覚だわ……」

 

「わぅ、あるじさまはごぶじにございますか……?」

 

 

 慣れないエレベーターの動きにヘナヘナになってしまった二人の声が、遠くに聞こえる。

 

 なぜなら。

 

 

「……ぱねぇ」

 

 

 エレベーターの扉が開いた、その先は。

 

 

「これが、ドラゴンの宝物庫!!」

 

 

 本当にこんな場所があるのかっていうくらいの、金銀財宝の山脈だった。

 

 

「何よ白布……って、うわ」

 

「これは、絶景……に、ございますね」

 

 

 遅れて二人もこの景色を目にして、口々に感嘆の声を上げる。

 

 

「通路っぽく整理されてる場所が少しだけあって、あとはもう宝の山、山、山じゃない」

 

「小高い丘ほどから、まさしく山と形容するのにふさわしい大きさのものまで、これはあまりにも、圧倒的な風景にございます」

 

「どこかしこもキラッキラしてるが、あれインゴットだけじゃなく、金貨や銀貨、アイテムが混じってるんだな」

 

 

 まずこの出入り口傍の時点で、小石サイズの砂金がうず高く、俺の身長以上に積み上げられている。

 

 

「……っと、ぶねぇ」

 

 

 キラキラに誘われてつい触りそうになったのを、すんでのところで踏みとどまった。

 

 

「これは、国家予算ってものじゃないわね……」

 

 

 《神の目》を通して罠の有無を確かめたメリーが頷き、手頃な金山に手を突っ込み、手の平いっぱいに握り締めれば。

 

 

「はい、数万gゲット」

 

 

 金だけじゃなく、宝石類までその手の中にあり、苦笑する彼女の表情からも、その口が紡いだ金額が嘘じゃないってことを物語る。

 

 ここはもはや、異界だ。

 

 

 

「ああ、なんだか私クラクラしてきた……」

 

「お気を確かに、メリー様」

 

「そうだぞメリー。まだここは入口だ。この奥にはもっと純度の高い宝石や、レアアイテムだって眠ってるはずなんだからな」

 

「えぇ、そうね。私たちの目的を達するために、最善を尽くしましょう」

 

 

 昨日の温泉とは違う意味で頭がおかしくなりそうになる。

 今この瞬間にも、大声をあげて宝の山に飛び込んで、狂ったように金色の海を泳ぎたい。

 

 

(ぜっっっっったい、やらねぇ!!)

 

 

 俺は、忘れてはいない。

 

 

「ここは、ドラゴンの宝物庫なんだ」

 

「はい」

 

「えぇ」

 

 

 俺たちの目的は、ここの財宝を手に入れ、かつ、生存して帰還すること。

 

 

「慎重に参りましょう」

 

 

 ナナの言葉に頷いて、俺たちは宝物庫の探索を開始する。

 

 今このとき、俺たちは間違いなく、命を懸けた綱渡りの最中にいた。

 

 




ドラゴンまんじゅう:ドラゴティップ印(R)
ドラゴンに縁のある土地でよく作られる、ドラゴンの名を冠するまんじゅう。
霊峰アルバのお膝元であるドラゴティップで作られているのがこれ。
中身はイノシシ系モンスター、バリブリボアーの肉を煮込んだ物で、実質豚の角煮。
つまるところ、豚の角煮マン的アイテムである。美味い。


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次回、いよいよドラゴン、登場!


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第064話 財宝の主!

 

 

 ドラゴンの宝物庫は、マジ物の規格外だった。

 

 

「……ヤバい」

 

「ヤバいわね」

 

「ヤバいでございますね」

 

 

 エレベーターを離れて十数分。

 いよいよ宝物庫の内側へと突入したところで、俺の頭はこの場所の資産価値を考えることをやめた。

 

 今なら5000兆円手に入るかもしれない。

 

 

「右も左も宝の山。この山の中に潜って探索したら、どんなレアアイテムが隠れているやら」

 

 

 入口の金山は氷山の一角だった。

 中に入れば入るほど、高い天井に届け届けと言わんばかりにかさを増す財宝の山たち。

 

 そう“たち”である。

 

 

「サウザンド家復興できる分だけ貰うサウザンド家復興できる分だけ貰うサウザンド家復興できる分だけ貰う……」

 

「あるじさまとマイホームあるじさまと別荘あるじさま最高品質お世話セットあるじさまのおよつぎ三代に至るまでの資金……」

 

 

 圧倒的な物量を前に、メリーもナナもブツブツ何事か呟いて、正気を保とうとしている。

 かく言う俺も、『魅了耐性向上の指輪』を装備した上でなお、ちょっとでも気を抜けば近くの金山にダイブしてしまいそうになっているのを堪えっぱなしだ。

 

 

「いや、あんたも堪えきれてないから」

 

「なぬ?」

 

 

 指摘してきたメリーが指さす先は、俺の両手。

 そこにはモグラの手を模した造りの手袋が装備されていた。

 

 

「……ハッ!?」

 

 

 SRアイテム『もぐらクロー』。

 この装備があれば、文字通り、崩れやすい宝の山だろうが掘り進むことができるのだ。

 

 宝の山攻略を想定し、闇オークションを巡っては、色々なアイテムを買い集めたうちのひとつである。

 

 

(それを知らぬ間に付けてしまっていたとは、どうやら俺も正気じゃないらしい)

 

 

 自覚したら、一気に気持ち悪くなってきた。

 

 

(死ぬ。マジで死ぬ。状況が異常すぎて平静を保てない……)

 

 

 温泉で一度深くリラックスしてなかったら、間違いなく緊張で吐いてた。

 夢にまで見た宝の山なのに、生きた心地がまったくしなかった。

 

 

 

 極限状態にありながらも、俺たちは一歩、また一歩と奥へと進む。

 それは、どうしても確かめなければならない存在がいたからだ。

 

 そして俺たちは、ついにその姿を目の当たりにする。

 

 

「でっっっっ…………!」

 

「……っるじさま」

 

「あ、ぁぁ……」

 

 

 いくつかの宝の山を覆うように、そいつは寝そべっていた。

 

 金色の山の頂点で、白色の鱗を淡く輝かせ、ゆっくりと呼吸を繰り返していた。

 

 

(ドラゴンロード。確かにあれくらいないと、こいつは降りれないな)

 

 

 村に刻まれた記憶。

 伝承が確かであることを証明する、その巨体。

 

 

「………フゥー」

 

 

 ため息のように零れた鼻息が、低く唸るような音を響かせ俺の腹を圧迫した。

 

 

「これが、この宝物庫の主……!」

 

 

 メリーが買ったパンフにしっかりと、その名は記されている。

 

 

(至竜……アルバー!!)

 

 

 生ける伝説が、そこにいた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 はい、全員集合~!

 

 モノワルドこそこそ話、開始!

 

 

「おいおいおい死ぬわ俺たち」

 

「どうするのよ。普通に目立つところで平然と寝てるじゃない」

 

「すでにブレスの範囲内かもしれません。ここはいったん距離を取るべきかと」

 

「ナナの案、採用」

 

 

 はい、撤収~~!

 

 俺たちは引き返し、背の高い宝の山の陰に隠れた。

 

 

「で、竜がいることはわかったわけだけど」

 

「万が一にも戦うとかいう選択肢はないぞ。あれは……」

 

「当たり前でしょ。全身SR装備で固めた奴らが束になって掛かっても、あれの前じゃおもちゃの兵隊よ」

 

「URなら?」

 

「雑兵」

 

 

 要求装備レアリティ:LR

 

 

「とりあえず、コソコソ作戦で行くしかないな」

 

 

 隠密効果を得られるクロークは当然のように装備済みだ。

 さっき顔を出した時点でバレてない様子だったし、気をつければまだ近づけるはず。

 

 

(アレ)に近づく気なの?」

 

「本当のレアアイテムってのは、間違いなくあいつの近くにあるはずだからな」

 

 

 純粋に金が必要なメリーであれば、エレベーター近くの金山を崩せば十分だろう。

 

 だがしかし、俺が求めているのはレアアイテム。

 それもドラゴンの巣ともなれば狙いは当然、LR以上の超レアアイテムに決まっている。

 

 

「俺がここまで宝の山にダイブしなかったのは、そのためだからな」

 

 

 狙いを絞って気力体力すべてを一点集中する。

 最高の成果をスナイプするために必要だったのだ。

 

 

「主様……」

 

「大丈夫だ。俺は負けない」

 

「足が震えていらっしゃいます」

 

「はい」

 

 

 そりゃ足くらい震えるさ!

 あれ見てビビらない奴なんて嘘だもの!

 

 

 

「……だが、それでも。俺はやらなきゃいけないんだ」

 

 

 正直、かなりの工程をすっ飛ばしてここに来ているっていう自覚はある。

 ラストダンジョンのアイテムを序盤に手に入れようとする所業だってのは、重々承知だ。

 

 だがそれって。

 

 

「めちゃくちゃロマンシングなんだよ」

 

 

 これこそが、レアアイテムコンプを求めてやまない、俺のサガだ!

 

 

「……主様のお覚悟は、揺るがないのでございますね」

 

「ナナはメリーと一緒に行動してくれ。いざ逃げるって時にメリーは鈍足だからな」

 

「うっ」

 

 

 伊達に二重強化可能な魔法使いな俺と、ライカンなナナではないのだ。

 そしてナナもメリーも頼れる仲間だからこそ、失いたくはない。

 

 

「でしたら主様、これをお受け取りください」

 

「なにんむっ!?」

 

 

 景気づけか、おまじないか。

 俺の唇は昨日に引き続き、ナナに奪われた。

 

 

「……ご武運を」

 

「ああ」

 

 

 軽く触れあうだけの短いキスのあと、ナナに祈りを捧げられる。

 

 

「……派手に魔法を使うのはギリギリまで我慢しなさいね。ドラゴンには発動する魔法を感知する器官があるから」

 

「OK、ありがとうメリー」

 

 

 メリーからもアドバイスを受けて、いよいよそのときが来る。

 

 

「……行くぞ」

 

「どうかご無事で」

 

「ちゃんと戻ってきなさいよ?」

 

 

 激励され、見送られ。

 俺は一人、宝の山の陰から再び至竜アルバーの元へと歩き出す。

 

 

「……スゥー、フスー」

 

 

 ただ心地良さそうに眠っているドラゴンが、どうしてこれだけの圧を持っているのか。

 

 

(それこそが、崇められている竜の御力ってわけかねぇ?)

 

 

 ゆっくり、ゆっくり。

 俺は少しずつ、相手を刺激しないように気を張って、ジリジリと距離を詰めていくのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 一体どれだけの時間を費やして、ここまで来たのか。

 

 

「はぁ……、はぁ……」

 

 

 ついに俺は、至竜が眠る宝の山の麓までやって来た。

 

 

「……っ!」

 

 

 振り返れば、思った以上に小さくなっている、ナナとメリーの姿を確認できる。

 

 

(ここが、ガチの竜のお膝元、か)

 

 

 改めて、よく目を凝らして観察すれば、色々と気づくことがあった。

 

 

(周りと比べてこの山の潰れ具合、間違いなく、こいつはここを何度も寝床として使ってるな)

 

 

 ここがお気に入りの場所だというならば、間違いなくそうである理由があるはず。

 

 そしてその理由とは、俺の考えが正しければ、答えはひとつしかない。

 

 

(お気に入りのアイテムが、ここにある!)

 

 

 最低でもLR。WRやGRのアイテムも、ここにはあるかもしれない!

 

 

「………」

 

 

 動きを止めて、少しのあいだ耳をそばだてる。

 ドラゴンの宝物庫は、静寂に包まれていると言い難いほどには、音に満ちていた。

 

 

(中を空気が巡る空洞音。竜自身の寝息に、細々とした宝が崩れたりする小さな音……)

 

 

 これだけの音がある中なら、宝の山に潜ってもバレない可能性は十分にある。

 

 

「……いくぞ」

 

 

 『もぐらクロー』を構え、俺は竜が寝そべる宝の山に、穴掘りの要領で突入する。

 さすがのSRアイテムの装備効果で、すぐに崩れる黄金の山の中であっても不思議と掘り進めることができた。

 

 ただし、退路はない。

 俺の通ったそのあとは、効果が及ばなくなったところから、自然と崩れ落ちるのだ。

 

 

 

(まず目指すのは、山のど真ん中。そこになければそれこそ竜の腹の傍、だ)

 

 

 レアアイテムの場所にあたりをつけて、俺は行く。

 

 最高にヤバいことをしているって、俺の心臓はもうずっとドキドキしっぱなしなのに。

 

 

(あぁ~、命の音がするんだよなぁ~!)

 

 

 今の俺は、最高にハイって奴になっていた。

 

 




もぐらクロー(SR)
特殊な《掘削》の魔法が付与された特殊なグローブ。
クローとは言うものの、装着されている爪は大きく、掘削を補助するためにある。
掘り進める行為を保護する力があり、装備者を崩落等からある程度守ってくれる。
残念ながら爪をミサイルのように飛ばすことはできない。


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次回、センチョウ、ついに超レアアイテムを入手?!


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第065話 ドラゴンオーブ!

 

 

 至竜アルバーの寝床になってる宝の山を、『もぐらクロー』で掘り進めて数分。

 

 

「おおー、これはこれは……うわ、やっべ。すっご」

 

 

 出るわ出るわ。お宝の数々。

 

 

(なんだこの腕輪、明らかにやばそうな効果ありそうだな。最低でもSRか。んでこっちは……スコップ? 黄金で出来てるがなんだこれ、鑑定お願いしまーすっと)

 

 

 目ぼしい物から回収しようって感じて動いていたが、見る物見る物目ぼしい物にしか思えないラインナップに、『財宝図鑑』のタッチ回収機能をフル稼働だ。

 

 

(うおっ、これは見るからに禍々しい短剣! こっちは……ハンカチ? すっげぇ刺繍!)

 

 

 掘れば掘るほど色々出てきて……なんだよ、ここは天国か!?

 

 

(ああ~、たまらねぇぜ!!)

 

 

 何ならずっとここに居たい!

 レアアイテムと金銀財宝に包まれて毎日過ごすとか、最高すぎる!!

 

 おっと、涎が。ずるるっ!

 

 

(いやまぁ、貯め込むばかりってのももったいないけどな。やっぱアイテムは使ってなんぼだしね!)

 

 

 ついつい心がトリップしてしまいそうになるのを抑えつつ、俺は先へと掘り進む。

 目指すはちょうど宝の山のど真ん中辺り。

 

 

(レアアイテムハンターの俺の勘が言っている、そこに最高のお宝があると!)

 

 

 そうして掘って掘って掘りまくった、その果てに。

 

 

(……お?)

 

 

 どういうわけだかポッカリと空いた、謎の空間へと辿り着く。

 

 

「ここは?」

 

 

 半球状のフロアになってるそこへと降り立てば、中は思ったよりも広く、俺が立っても余裕で動き回れるほどだった。

 

 

「んで、あれな」

 

 

 そんな不思議空間の真ん中には、積み上げられた金で出来た台座がある。

 いかにもとてつもないお宝がありますとばかりに準備されたその場所には、確かにそのアピールに見合う物が置かれていた。

 

 

「……さすがに、鑑定能力がない俺でも余裕でわかるぞ。あれは、超レアアイテムだ」

 

 

 台座の上に置かれていたのは、宝玉。

 ボーリング玉くらいのサイズはあろう真珠の如き乳白色をしたそれは、美しく磨き上げられた物だけが放つ光沢を曝し、限りなく真球に近いその姿を誇らしげに見せつけていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「竜の寝床の下で大仰に保管されている、宝玉型の超レアアイテム……まぁ間違いないな」

 

 

 俺は目の前にある、世界の至宝と言って疑いのないそれの正体について、知っている。

 

 

「これがLRアイテム『ドラゴンオーブ』か」

 

 

 いつかナナの口から聞いて、見つけてみたいと思っていたお宝のひとつだ。

 なんでも複数個あるそれらを全部集めると、どんな願いでも叶うWRアイテムへと変化するらしい。

 

 ドラゴン〇ールかな?

 

 

「……少し離れた場所で見ているだけでも、オーラが違うな」

 

 

 これまで最大URまでのアイテムを手にしてきたが、それらとは明らかに一線を画する気配を感じる。

 LR……伝説(レジェンド)という冠位が示す存在感は、確かにそこにあった。

 

 

 

「……んでまぁ、どうするべきか、だが」

 

 

 目の前にこれ見よがしに置いてある超レアアイテム。

 当然手に取って自分の物にしたい。

 

 だが。

 

 

(まぁ間違いなく、なんらかのフラグなりが立つだろうな)

 

 

 罠が発動するかもしれないし、最悪この場所が崩壊する可能性もある。

 無造作に置いてあるのではなくここまで丁寧に設置されているのだから、何もないってことはないだろう。

 

 

「うーん……」

 

 

 ひとまず『もぐらクロー』を『財宝図鑑』に回収させて、腕を組み悩んでみる。

 どうしようかとああだこうだ考えを巡らせるが、実際のところ、これはただの儀式だ。

 

 

(答えはもう、決まってるよな)

 

 

 ただ、覚悟を決めるまでのほんの少しの間を取っているだけ。

 

 

(ん、ん、ん。よし!)

 

 

 時間にして1分にも満たない思考を終えて、俺は決意を固める。

 

 

「俺は世界のレアアイテムを手に入れる男。それが目の前の超レアアイテムを前にして、ビビッて逃げるなんてことは許されない」

 

 

 口に出すことでさらに自分を鼓舞してから、俺は一歩、また一歩とお宝へ近づいていく。

 

 目と鼻の先に宝玉が来るまで近づけば、その前で一度、両の手の平を組む。

 合掌とはちょっと違う形だが、そこに込めた気持ちは同じ。

 

 目を閉じ、最大の“敬意”をもって、目の前の超レアアイテムに礼を取る。

 

 

(さぁ、覚悟完了。俺は……伝説に触れる!)

 

 

 再び目を見開いた俺は、組んだ両手を開き、捧げ持つように宝玉に触れる。

 吸いつくような感触を味わいながらそっと宝玉を台座から持ち上げたその瞬間、もう3度目になる彼女の祝福を耳にした。

 

 

「おめでとうございます、千兆様。初めてのLRアイテムゲットでございますね」

 

 

 気づけば俺の魂は、『財宝図鑑』の中にある宝物庫へと移動していた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 思ったよりも、俺は色々とゲットしていたらしい。

 

 

「財宝の山の上に座る気分はいかがでございますか、千兆様?」

 

「これが意外と悪くない。むしろサイコー」

 

「それは何よりでございます」

 

 

 俺を見上げる形になっても、いつものアルカイックスマイルを崩さないアデっさん。

 そんな彼女も今は両手を広げて、その動作でもって喜びを露わにしている。

 

 

「改めまして、LRアイテムゲットおめでとうございます。千兆様」

 

「ありがとう。ってことはやっぱりこれは……」

 

「はい。お察しの通り、そちらが至竜の秘宝『ドラゴンオーブ』にございます」

 

 

 胡坐をかいた俺に抱えられている宝玉を指し、アデっさんが頷く。

 

 

「そちら、正式名称を『光のドラゴンオーブ』と申しまして、その他に5つの同種のアイテムを集めることで、WRアイテムへと変化させることができる物となっております」

 

「調べた伝承に語られているのと同じか」

 

「はいでございます」

 

「つまり、これひとつ手に入れただけじゃ何の意味もないと」

 

「その通りでございます」

 

「………」

 

 

 ひとつ少ない分、ドラ〇ンボールよりは集めやすいな!

 

 

「……ふぁいとっ、でございます」

 

 

 すごいよアデっさん! 動きは完璧なのに無表情だから全然響かないね!

 

 あ、くそ。にへって笑いやがった。にへって!

 

 

「せめてこれひとつ手に入れただけでもなんかすごい効果とかないの?」

 

「そうでございますね。WRアイテムのパーツとなることに比べて取るに足らない効果ではございますが、強力な魔法の発動体となったり光に属する魔法の習得を補助したり、後は単純にこのアイテムを持っているという事実が社会的にとてつもない価値を持つと思われます」

 

「わお、取るに足らない効果すごい」

 

 

 むしろそれだけあって取るに足らない効果と断じられるほど、WRってヤバいのね。

 

 

「何しろ世界を改変するほどの力でございますので」

 

「世界を改変する力、ねぇ」

 

 

 ってことは俺の持ってる『ゴルドバの神帯』や『財宝図鑑』も……。

 

 

「無論でございます。世界を創造した神の意志が介在するアイテムでございますので、それらのアイテムは世界に強い影響を与える効果がございますよ」

 

「ほぇー」

 

 

 『財宝図鑑』は、わかる。だって図鑑を充実させるほどに強くなれるんだし。世界最強も夢じゃない。

 『ゴルドバの神帯』も……装備適性を2段階上げるのは確かにチートだが、なんか今の言われ方だとそれだけじゃない気がしてくるな。

 

 

「道具とは使いようでございます。そして熟練の先に新たな境地も見えてくるものでもございますので、これからも研鑽をお積みになられるのがよいかと思いますでございます」

 

「だな」

 

 

 適性によって最初からある程度の下駄を履かせて貰えるこの世界においても、使い続けることで得られることは沢山ある。

 そうすることでいずれは適性自体がランクアップすることもあるし、同じ適性でも優劣が生まれる。

 

 経験も、習熟も、決して無駄になるわけじゃない。

 

 

「やっぱりアイテムは……」

 

「装備して扱ってこそ、その本懐が遂げられるというものでございます」

 

 

 アイテムは、持ってるだけじゃ意味がない。

 装備してこそ、力を出せる。

 

 大事な大事な原点を、ここにきてまた胸に刻み付ける。

 

 LRアイテムを手に入れた俺は、間違いなくひとつの大きな節目を迎えていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 そして、それは唐突に始まる。

 

 

「……と、いうことで。千兆様に初心を思い出していただけました場面にて、大事なご報告がございます」

 

「はい」

 

 

 この場面でのこのフリ、嫌な予感しかしない。

 

 

「『ドラゴンオーブ』を無事に手に入れられましたこと、大変喜ばしく……」

 

「前置きはいいので、どうぞ本題へ」

 

「至竜アルバーさんから割り込み(キャッチ)でございます」

 

「へ?」

 

 

 その言葉の意味を理解するよりも早く、俺の意識は急速に宝物庫から引き剥がされていく。

 

 

「ちょ、まっ」

 

「正念場でございますので、死なないように全力を尽くしてくださいませでございますー」

 

 

 こうなるのは毎度のこととはいえ、どうしたって慣れない。

 それに今回は、妙に後ろから引っ張られる力が強い。

 

 そしてそれらの違和感を考える間も与えられず、俺は次の状況へと放り込まれる。

 

 即ち。

 

 

(それを手にしたな? 只人種(ヒューマ)の男よ)

 

「ひゅっ……」

 

 

 意識を取り戻した俺の頭の中に、突如としてガツンと響く、老練した男の声のようなもの。

 

 

(実に300年ぶりか。これより我らは“竜の試練”を施行する)

 

 

 続く言葉に混乱する暇さえ与えられないまま、見えている世界が変化する。

 

 

「フゥーーーー…………!!!!」

 

 

 それは頭の上から聞こえてきた、吐息の音。

 どんな魔法か、宝の山が綺麗に吹き飛び、俺の居る空間までを剥き出しにして。

 

 

「……グルォォォォ!!!!」

 

 

 俺を見下ろしバッチリと目を合わせた至竜様が、それはそれは楽しげに、歯を見せて笑っていた。

 

 

 




黄金のスコップ(SR)
黄金で出来た片手で使う小さいスコップ。魔法コーティングされているので破損率は低い。
スコップ装備適性B以上or魔道具装備適性A以上であれば、魔法の発動体としても使用でき、かつスコップ系の魔法をいくつか使用可能となる。
この上位に類するアイテムには、かつて偉大なる王女がスコップを使い他者の心を操ったとかいう伝説があったりなかったりするらしい。


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次回、竜の試練とは!?


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第066話 開幕!竜の試練!!

可能な限り、3日おきの更新を目指します!
よろしくおねがいします!!


 

 

「ぎゃー! 寒い寒い寒い!! ふざけんなコラー!!」

 

「どうどう、ラウナベル。今保護の魔法をかけるから」

 

 

 アルバ山は中腹を超えると、土地に掛けられた魔法の力で一気に気温が低下し、極寒の地となる。

 この気候は一年中変わることなく、ゆえにアルバ山の山頂付近は常に白く染まっている。

 

 そんな中をボクたちは今、跳んでいる。

 

 

「ふぅー。ほんっと! こっちが正規ルートとか、頭おかしんじゃないの!?」

 

「それだけの苦難を超えてこそ、正しく竜の前に立つことができる。でしょ?」

 

「そりゃそうだけどさぁー」

 

 

 胸ポケットから顔を出して文句を言ってる相棒を宥めつつ、心の中では同意する。

 

 

(財宝教の司祭様たちが作ってくれた『勇者の服』が、どれだけ防暑防寒効果があるって言っても、ここの自然由来じゃない寒さ相手じゃあんまり意味ないんだよね)

 

 

 それに、手袋している手はまだしも『風精霊のブーツ』の防寒がちょっと甘い。

 おかげでジャンプする度に足先が冷える感覚があって、何度も身震いしてしまってる。

 

 

「まだ暑い方がマシなんだから! 早くてっぺんの火口へ行くわよ!」

 

「はいはい。急ぐよ!」

 

 

 凍える足に力を込めて、雪の大地を蹴り上げる。

 

 

「あと少し……!」

 

 

 あの人はもう、至竜の元へと辿り着いているだろうか。

 どこまでも楽しそうに冒険やアイテムについて語っていたあの人は、多分悪い人じゃない。

 

 

(……でも、良い人でもない)

 

 

 あの人はきっと、自分に正直な人だ。

 

 

 モノワルドに沢山存在するアイテムたちは、扱いを間違えると世界に混乱をもたらす。

 

 ただそこにあり、ただ眠っているだけならそれでいい。

 

 でも、それが誰かの手にあって悪用される可能性があるならば。

 

 

(そんなことは、ボクがさせない!)

 

 

 世のため人のため、みんなのために頑張るのが勇者の務め。

 財宝神様がもたらした素敵なアイテムたちが、邪悪なことに利用されるその前に。

 

 

「……止めなきゃ! あの人を!」

 

 

 ボクは、ボクに与えられた使命を果たす!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「……フスゥ~~」

 

「………」

 

 

 圧がね、すごいのよ。

 サイズ差があるし、見下ろされている構図もヤバいし、何より存在強度みたいなのがもう圧倒的。

 

 

(蛇に睨まれた蛙……いや、Tレックスに観察されるアラン博士だなこりゃ)

 

 

 残念ながら誘導灯はございません。

 

 

「………」

 

 

 じっと見つめられるだけで、俺のハートドキドキ。ふわふわタイム。

 ちょっと相手の首が伸びて、大きなお口を開いただけで、俺は逃れようなくパックンチョである。

 

 

「……あのー」

 

 

 それでも、俺は勇気を振り絞って口を開く。

 

 

「……竜の試練って、ナンデスカ?」

 

「………」

 

 

 沈黙。

 

 ただジーっと視線を向けられるだけの時間が、しばらく続く。

 

 

(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 視線だけで心臓止められる!!)

 

 

 心臓の鼓動が普段の何倍もの速さで全身に血を巡らせているのがわかる。

 今なら最強最高のスタートダッシュで全速力出せる自信があります。

 

 

(………竜の試練とは)

 

「ひょぇっ」

 

 

 再び聞こえてきた声は、その圧とは別に、どこか深い慈愛に満ちていて。

 

 そのおかげでどうにかこうにか、俺は耳を傾けることに成功する。

 

 

(竜の試練とは、『ドラゴンオーブ』をヒトが手にしたときに始まる、世界の変革だ)

 

「世界の、変革?」

 

(然り。即ちそれは、我ら至竜の解放である)

 

 

 ……つまり、どういうことだってばよ!?

 

 

(『ドラゴンオーブ』はすべて集めることで世界を改変するほどの力を持つアイテムとなる。ゆえに、その守護者たる我らは、それらをやすやすと人に与えることはない。最初のひとつを除いては)

 

 

 至竜アルバーの瞳が、俺の両手に抱えられている宝玉を見た。

 

 

(最初のひとつがヒトの手に渡った時、そこから『ドラゴンオーブ』が一か所に集結するその時まで、我らは自由を得る。深き眠りから目覚め、今世を謳歌せんと活動を開始するのだ)

 

「……つまり?」

 

(我を含む六竜が、これから世界中で大活躍するのである)

 

「……Oh」

 

 

 封印は解けられた。

 超ド級FOEが世界を闊歩する時代の到来である。

 

 

「……具体的に、何をなさるおつもりでしょうか?」

 

(他の竜は知らんが、我は優しき竜である。ゆえに、この場を動くことはない)

 

「ホッ」

 

(だがそれはそれとして、我の寝床を荒らした阿呆と、旧友のために開いた門を悪用する不心得者共に、多少のお灸は据えてやる次第である)

 

 

 ブフーーーーッと、竜の熱い鼻息が、俺の体を吹き抜けた。

 

 

(とりあえず、侵入者には死を、不心得者共には多少の脅かしをしてやるかな?)

 

「はい」

 

 

 はいではない。

 

 ヤバい。

 

 死ぬ。

 

 

(うむ、我が殺す。殺されたくなければ力を示せ。知恵を、剛力を、アイテムを尽くすがよい)

 

「しょ、勝利条件は?」

 

(我の一部を破壊せしめたならば、この場は見逃してやろう)

 

「《イクイップ》」

 

 

 迷うことなく『ギガントアクス』を装備して、俺は至竜アルバーの鼻先にそれを振り下ろした。

 

 

 ゴシャァァァァ!!!

 

 

 重い一撃が入る手応えに、けれど俺の心臓はまったくもって安心感を得ることはない。

 

 

(善哉(よきかな)。ヒューマよ。それでこそ強欲なり)

 

 

 無傷である。

 俺の心臓はまったくもって正しかった。

 

 

「《フレイムカノン》!!!」

 

 

 次の瞬間横合いから叩き込まれる、不意打ちの大火力魔法。

 アルバーの横っ面に見事にヒットしたそれも、煙を上げたのは弾けた火球の方で。

 

 

(善哉。挑戦者よ。それでこそ試練の甲斐がある)

 

 

 続く飛び込みからの全力パンチは――。

 

 

「グルォォォァァァァァ!!!」

 

「なっ、きゃうんっ!?」

 

 

 咆哮が放つ衝撃で、その鱗に届く前に迎撃された。

 

 

「バカーーーー!! 早く逃げるわよーーーーーー!!」

 

「あるじさまーー!!」

 

「メリー! ナナ!!」

 

 

 声を張り上げた二人に応え、装備を変えながら俺は走り出す。

 

 

(さぁ、力を示せ! 挑戦者よ!!)

 

 

 頭に響く歓喜の声は、咆哮と共に竜の巣中に響き渡った。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 山頂の火口に到着したとき、ボクたちはその声を聞いた。

 

 歓喜に満ちた至竜の咆哮。

 それが何を指すのかは、聖堂で司祭様から何度も教えられている。

 

 

「間に合わなかった……!」

 

 

 竜の試練が始まってしまった。

 始まってしまったからには、終わるまで彼らは自由に振る舞う。

 

 

「あんのアンポンタン! やってくれたわね!!」

 

「そう、だね」

 

 

 思っていたより、ボクは驚いていなかった。

 ほとんど触れ合った時間はないのに、あの人ならやりそうだな、なんて。

 むしろ納得してしまっている。

 

 

「どうしよっか、ラウナベル」

 

「選択肢はふたつね。即撤退して司祭に報告するか、突撃してもうちょっと掘り下げるか」

 

「なら、取るべき行動はひとつだ」

 

「そうね、テトラ。勇者ならここは……」

 

 

 火口に向かて、跳ぶ。

 

 

「「突撃あるのみ!」」

 

 

 マグマ溜まりを囲う絶壁のその一角に、ぽっかり空いた巨大な横穴を見つける。

 

 

「ラウナベル!」

 

「任せなさい! 《レビテ》からの……《ブリーズ》!!」

 

 

 浮遊し、巻き起こった風に乗って真っ直ぐに横穴へ。

 滑り込んだ先にあるのは、奥へと続く螺旋の道。

 

 至竜の寝床へと続く、ドラゴンロード。

 

 

「行っくぞーーーーーー!!」

 

「GOGO!! テトラーーーー!!」

 

 

 今まさに始まった、歴史的大事件のそのど真ん中に向かって。

 

 ボクたちは全速力で飛び込んでいくのだった。

 

 




勇者の服(SR)
勇者装備適性をC以上持っている者以外は装備することができない特殊な服(上着)系アイテム。
勇者装備適性を持った者が装備することで、防暑防寒防物防魔等々、様々なダメージに対してそれなりの防御力を発揮する万能防具である。
財宝教の特別な工房でのみ製造されており、この服を着ていることが、そのまま財宝教所属の正式な勇者である証となっている。


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次回、至竜を相手にセンチョウは……!?


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第067話 最強のドラゴン!

 

 

(さぁ、力を示せ! 挑戦者よ!!)

 

 

 めっちゃ嬉しそうな響きでカッコいいことを言っている至竜アルバーに。

 

 

「じょ、冗談じゃねぇーーーーーーー!!」

 

 

 俺は全力の絶叫をもって、お返事する。

 

 

(いやそりゃLRだよ? 伝説級アイテムだよ? 手に取ったよ?)

 

 

 だからって、世界にこの怪物が6体解き放たれる? 自由にふるまう?

 

 

(ちょっとその規模のミッションが発生するってのは聞いてませんねぇ)

 

 

 せいぜい、我の宝を狙うのは誰だー? くらいのね。奴を予想してたからね?

 

 

 

(ハッハッハ! いまさら何を言う挑戦者! すでに賽は投げられたぞ!!)

 

 

 ですよねー。

 

 至竜アルバー様のおっしゃる通り。すでに賽は投げられている。

 

 

(死にたくなければ足掻け! 今の貴様にそれ以上のことはできまい!)

 

「はい! できません!!」

 

 

 ということで、竜の試練はもう始まってしまったのだ。

 そして今は、世界がどうのではなく、俺がここからどうやって生き残るかが問題だ。

 

 

 

「主様ーー!!」

 

「白布ーー!!」

 

 

 吹っ飛ばされたナナとメリーが、それぞれの場所から俺を呼ぶ。

 この二人の生存も、俺的ミッションに必須項目として刻みつける。

 

 

「二人ともそっちで合流してくれ! すぐに俺も向かう!!」

 

 

 声を張り、返事は待たない。

 なぜならもう、俺の目の前で世界最強クラスだろうドラゴン様が、お口を開いているからだ。

 

 

(さぁ! 数十年ぶりの“吐息”だ。存分に味わえ!!)

 

「それを味わった人はどうなりましたか!?」

 

(そこらに降り積もっておるさ!)

 

 

 致死ーーーー!!

 

 俺は装備していた『ぎんの手』を、正面に構える。

 直後!!

 

 

「スゥゥゥゥゥ!!」

 

 

 強烈な吸い込みから――

 

 

「ゴルワァァァァーーーー!!!」

 

 

 絶対に食らってはいけない24時、至竜アルバーのドラゴンブレスが放たれた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 迫りくる死! 絶対の死!

 これは挨拶代わりだぜ☆ ってノリで放たれた雑魚殲滅のブレス!

 

 

「ぐぉああああ! 『ぎんの手』ぇぇーーーー!!」

 

 

 そんな一撃を相手に、俺は俺の持つ最高最強の防御の一手を開放する。

 

 

「ぎゃあ!!」

 

 

 吐息が展開された障壁と衝突し、強烈な閃光を放つ。

 知ってる! これ防災訓練の動画で見た! 火事で炎上中の家の中の映像!!

 

 『ぎんの手』の障壁じゃ庇いきれない範囲から届く熱で耳が熱い!

 

 

 

(ククク、いいのか? その場に立っていれば、死ぬぞ?)

 

「へぁ?」

 

 

 アルバーからのありがたいお言葉に目を凝らして見ると。

 

 

「げっ! 障壁が!!」

 

 

 あの時、つよつよミミックの一撃からも守ってくれた頼れる相棒が、吹きつける竜の吐息を前にあっさりと砕け散ろうとしていた。

 

 

(やっべ、どうする!?)

 

 

 相手のそれは広範囲をカバーしているブレス攻撃。攻撃を逸らすとかいう次元で対応できるものでもない。

 だがこのまま突っ立っていたら、待っているのは確実な、死!

 

 

(うおおおおおお、考えろ考えろ考えろ! 何か手はあるはずだ!!)

 

 

 無い知恵絞り、全力全開で頭を回す。

 こんなお試し感覚で殺されてたまるかってんだ!

 

 

 

(あっ! これならワンチャンあるか!?)

 

 

 閃いた俺は『ぎんの手』を装備していない方の手を前へと構え、声を張る!

 

 

「『銀白の大盾』よ! 俺の呼び声に応え、その力を示せ!!」

 

 

 瞬間、構えた手に美しい装飾に彩られた大盾が装備され、力を開放する!

 装備適性Aのおかげで、片手持ちでもギリ行ける!!

 

 

「俺を、守ってくれぇぇぇ!!」

 

 

 叫びと共に展開された新たな障壁が、『ぎんの手』の障壁をカバーする!

 

 

「おおおおおおおおおお!!!」

 

 

 それでもビシビシと音を立てて障壁たちはひび割れて、今にも砕け散りそうで。

 

 

「ボァァァァーーーー!!!」

 

「なぁぁぁぁーーーーーー!!」

 

 

 さらに勢いを増したブレスの圧に押されて、俺は派手に吹き飛び宝の山を転げ落ちた。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

 金貨やらアイテムやら、ガシャガシャと色々な物が体中にぶつかって前も見えない。

 衝撃と熱に顔をしかめて、いっそ殺せと心が叫んだ、その直後。

 

 

(善哉。我がブレスに耐えるとは、数十年前の冒険者よりは備えがあるらしい)

 

 

 そんなアルバーからの言葉に、俺は相手の初撃を乗り越えたのだと理解した。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

(さぁ、ここからが本番だ。我に殺されず、我に確かな一撃を与えてみせよ!)

 

 

 ドラゴン様は俺がブレスを乗り越えたのがよほど嬉しかったらしい。

 目に見えて上機嫌な様子で首を振ったアルバーが、その大きな翼を羽ばたかせる。

 

 

「きゃあ!」

 

「わぅぅぅ!!」

 

 

 巻き起こる風に、合流できたらしいメリーたちの悲鳴が混じる。

 どうやら風圧だけでも強烈な力が巻き起こっているらしい。

 

 

(そして俺は宝の山に埋もれて大ピンチ!!)

 

 

 そう、俺は今、動けないのである!

 『もぐらクロー』で掘ったわけでもないため、しっかりと半身が沈んでしまっていた。

 

 おかげで風がすごくてもよくわからない!

 

 

(さぁ、次は我が巨体を受け止めてみせよ! 挑戦者よ!)

 

 

 ご親切なことに次に何をするのか教えてくださるアルバー様。

 ゆっくりとあのやばいくらいのサイズを誇る巨体が宙へと浮かび上がり、天井近くまで遠ざかっていくのが見える。

 

 あんなのがドーンっと俺めがけて飛んでくるだなんて、わかっていても現実感が沸かない。

 ただ、確実な死が待っていることだけはよくわかる。

 

 っつーか、さっきからやることなすこと全部即死級なの何とかなりませんかねぇ!?

 

 

(ならん! 耐えられぬなら、いよいよもって死ぬがよい)

 

 

 ですよねー!!

 

 一切の容赦がない感じ、さっすがー至竜アルバーさんは最強ドラゴンっす!

 

 

「死・ん・で! たまるかぁーー!! 《イクイーーーップ》!!」

 

 

 俺はとっさに装備をチェンジ! 左手に補助杖を握り、次々と己に強化魔法をかける!

 

 

「《マテリアップ》! 《レジアップ》! 《マッソー》《テクニカ》《カソーク》そして《オールゲイン》!!」

 

 

 いつもはナナをスーパーナナへと強化する魔法セット。

 だが今回は、普段彼女を強化している以上に、俺の能力は強化される!

 

 

「『増魔の剣』!! 俺にかかった強化魔法の効果を高めろ!!」

 

 

 右手に装備していた長剣が、効果を発揮した強化魔法の力をさらに引き上げる!

 

 

「脱出ぅぅぅーー!!」

 

 

 俺は埋まった状態から勢いよく飛び出すと、間一髪でドラゴンの体当たりを回避した。

 

 

(見事!!)

 

「うおっ!?」

 

 

 巨体が巻き起こす風に吹かれ、空中を舞う俺の体がまた勢いよく吹っ飛ばされる。

 さすがに今度はしっかりと着地を決めて、俺は竜の飛び去る姿を目に映し――。

 

 

「ひぇっ」

 

 

 さっきまで自分がいた宝の山が、なくなっているのに気がついた。

 宙を舞うキラキラとした物は、弾け飛んだ宝たちだろう。

 

 あの中にどれだけの価値あるお金と、レアアイテムがあったのか。

 命には代えられなくても、心は痛む。

 

 

(善哉、善哉。さぁ、耐えられるなら打って出よ! 我に確かな一撃を加えてみせろ!)

 

 

 だが当の破壊の権化様は、ますますご機嫌麗しく楽しげでいらっしゃる。

 自分の物だから壊しても問題ないのだろう。いいなー!

 

 

(無強化『ギガントアクス』はノーダメだった。強化魔法(バフ)かけた今なら、いけるか?)

 

 

 俺の持ちうる可能性で算段をつけようとするが、正直言って無理筋じゃなかろうか。

 不意打ちですらない大振りを、向こうが素直に受け止めてくれるとは、とてもじゃないが思えない。

 プロレス的なノリでワンチャン……あったらいいな!

 

 

 

(来ないなら、我から行くぞ、ホケキョッキョ!)

 

 

 ホトトギスこの世界にもいたー!!

 じゃねぇ!!

 

 空中で再びブレスの構えをみせるアルバーの、その攻撃範囲から俺は全力で逃げながら。

 

 

「い、生き延びるだけで精いっぱいだコレー!!」

 

 

 相手との力量差に、どうしようもなく絶望を感じているのだった。

 

 

 




ギガントアクス(UR)
めちゃくちゃでかい斧。
本来は巨人が扱う片手斧であり、巨人系のアームドモンスターが装備するとすごいことになる。
ヒトはそのサイズ差に難儀するが、斧装備適性B以上あればとりあえず振ることはできる。
斧装備適性A以上か、巨人装備適性C以上あれば、巨人用の両手持ちサイズに変化させることができるが、ヒトの手ではもはやその使用は困難となるだろう。


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次回、センチョウの窮地を救うべく、ナナたちが動く?


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第068話 起死回生のアイテム?!

 

 

 主様が、伝説とうたわれる至竜と戦っていらっしゃる。

 

 

「いいいいい今わたくしも参りますすすすす! あるじざまぁぁぁぁぁ!!」

 

「だぁー! お待ちなさいお待ちなさい待ちなさいナナさーーーーん!!」

 

「ハッ!?」

 

 

 メリー様に首根っこを掴まれ引き戻されると同時に、わたくしは冷静さを取り戻しました。

 

 

「ダメよ、白布は今、明らかに狙いを自分に向けさせるように動いてるでしょ!」

 

「うっ」

 

 

 メリー様のおっしゃる通りにございます。

 主様は今、わたくしたちから少しでも、あの竜が離れるようにと仕向けておられて。

 

 

「主様……」

 

「間違っても、さっきみたいに飛び込んじゃダメよ?」

 

「はい……」

 

 

 冷静になった今、あの戦いに自分が入れるとは、到底思えませんでした。

 

 

(先ほどのひと当てで、そもそも力の差は明らかにございます)

 

 

 主様からの強化も受けずに飛び出したわたくしは、何のお役に立つこともできませんでした。

 竜の試練なるものが始まり、すべてのヒトが試されるという状況において。

 

 

(わたくしは……歯牙にもかけられなかった)

 

 

 竜が放ったただのひと吠えに迎撃され、無様に地を転がるほかなかったのでございます。

 

 

 

(わたくしは、こんなにも……弱い)

 

 

 主様からのご支援が、あの方の助けがどれだけ大きかったのかを改めて思い知らされる。

 

 

(主様の頼みに応え、戦い、成し遂げ、強くなったと思っていたのは……なんたる驕りか)

 

 

 従者として、あらゆる事態に対応できるよう、自分なりに努力もしてきたつもりにございました。

 ですがそれも、主様の挑まれる大いなる使命の一端を前にしては、塵芥(ちりあくた)のごときものでした。

 

 

 

「……主様!」

 

 

 至竜の猛追から必死の形相で逃げ回る主様は、それでもわたくしたちの方へ狙いの矛先が向かわぬよう、立ち回っておられて。

 その心遣いが、何よりも今のわたくしがどんな立場なのかを如実に語っていて。

 

 

「わたくしは、どうすれば……」

 

 

 ただ見守ることしかできないと、そう思っていたわたくしに。

 

 

「協力してもらえるかしら、ナナさん?」

 

「え?」

 

 

 メリー様が、手を差し伸べてくださいました。

 

 

「私たちの力じゃ、きっとあいつの、白布の助けにはなれない」

 

「それでは……!」

 

「でも、助けになる何かを見出す可能性なら、ある!」

 

「!?」

 

 

 そう言って、メリー様が指し示なされたのは。

 

 

「宝の、山?」

 

「そう。この宝の山の中になら、白布の力になるレアアイテムがあるかもしれない」

 

「あ……!」

 

「私が《神の目》で鑑定しまくるから、ナナさん、あなたは片端からアイテムを集めてきてもらえる?」

 

 

 そうわたくしに言いながら、ウィンクすらしてみせるメリー様に。

 この時のわたくしは、ああ……本当ならば感謝を示さなければならないのに。

 

 

(……この方に、負けたくない)

 

 

 そんな、手前勝手な思いを抱いてしまったのです。

 

 

「いい目だわ。さぁ、立ち止まっている暇なんてないわよ!」

 

「……はい!」

 

 

 今は、この気持ちも含めたすべてを、主様のために使います。

 

 

「主様。今にあなたの従者、ナナがお助けに参ります……!」

 

 

 竜と戦う主様に、今のわたくしができること。

 

 

「見つけ出してみせます……起死回生の、レアアイテムを……!」

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 生ー存ー戦略ーー!(どんっでんっべけーどーでべけー)

 

 脳内でご機嫌なBGMを流しながらこんにちは、DJセンチョウです。

 まだまだこの世界、モノワルドで何者でもないこの俺、絶賛命を懸けた戦いの最中にいます。

 

 

善哉(よきかな)! 善哉!! これほどまでに、我の攻撃を掻い潜るか!!)

 

「回避以外に選択肢があれば最高なんだがねぇ!!」

 

(そぅれ!)

 

「ぎゃあああああーーーー!!」

 

 

 きりもみしつつ突撃してくるアルバーを、その迫りくる突風を利用して回避する。

 むしろそうでもしないとあの巨体から逃げられない!

 

 

(枯れ葉。今の俺は吹き荒ぶ寒風を前に舞い踊る一枚の枯れ葉なのだ)

 

 

 そんなことを思いながら舞い上がった体をひねり、同じように吹き飛んでいる宝の山から平べったい板みたいなアイテムを足場にして蹴り方向転換する。

 我ながら人間離れした動きをしているが、強化魔法と靴装備適性Aによるごり押しである。

 

 っていうか今の板っぽいアイテムなんだ? ドア?

 

 

(そうか! 貴様はレアアイテム蒐集家なのだな!! ならばドラゴンオーブに触れるのは運命であったか!)

 

「い゛っ!?」

 

 

 一瞬。

 ほんの一瞬だけ蹴っ飛ばしたアイテムの方へ意識を向けただけだったのに、俺の目の前に、アルバーの顔があった。

 

 ドラゴンが口を開く。

 人間一人なんて野菜炒めの具のひとつくらいのサイズ感でペロリすること間違いなし。

 

 あ、この構図、マミさんじゃん。

 死ッッ!!

 

 

(感謝を! 我らに自由を授けた礼に、我が血肉となることを認める!!)

 

「ばっ……きゃろぉおおおーーーー!!」

 

 

 『ビンビン☆マイク』を装備して、俺は全力で叫んだ。

 瞬間、呪言によって発生する打撃力を、俺は誰でもなく自分に向けて叩きつけ。

 

 

「ぐぉぇぁ!?」

 

 

 内臓に響くダメージを負いながら、目の前で“ガチンッ!”と閉じる健康的なギザ歯を、俺は見た。

 

 

(善哉!!)

 

「善哉、じゃねぇぇぇ!! ……うおえっぷ!」

 

 

 完全に遊ばれているのがわかっていても、どうすることもできない。

 

 何一つとして打開策が思いつかない。

 俺が使えるアイテムコレクションにも、そろそろ限界が来ている。

 

 そもそも至竜だか何だか、明らかにヤバイ奴相手にここまでサシで生き残ってるの褒めて!

 

 

(褒めよう! 褒めよう! 貴様は我が100年の親友、エンリケと並ぶ生き汚さである!)

 

 

 やったー! じゃあ見逃してください!

 

 

(ダメだ)

 

 

 ブレスがぶっ放された。

 

 

「どちくしょおおおおおーーーーーあぢぢぢぢぢぃぃーーーー!!」

 

 

 全力で逃げた。

 ちょっと焦げた。

 

 

(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!)

 

 

 もう何度思ったかもわからないくらい濃い死の気配に、涙もちょちょぎれている。

 

 

(あやつは曲芸のような足捌きで逃げ回っていたが、あれはどういうアイテムの力だったのだろうな! ハッハッハ!!)

 

「ぐおおおおお!! なんだそりゃあ!!」

 

 

 靴か! 靴が違うのか!?

 そうだな。俺の靴は長旅や悪い足場に対応できるHRアイテム『旅行者の靴』だもんな!

 

 

「適性装備をおくれよ~~~~~!!」

 

(アイテムが無ければ知恵を絞るのだ挑戦者よ! さぁ足掻け、とく足掻け、そして死ね!)

 

「うるせぇぇぇーーーー!!」

 

 

 こっちを煽るような空中ターンで巻き起こる暴風から逃れながら、この瞬間にも無い知恵を絞り続ける。

 

 

(さぁここで問題だ! この絶体絶命な状況でどうやって至竜アルバーを攻略するか?)

 

 

 3択――ひとつだけ選びなさい。

 

 答え①賢いセンチョウ君は突如として反撃のアイデアを思いつく。

 答え②仲間が来て助けてくれる

 答え③とうに詰んでいる。現実は非情である。

 

 

(善哉! 意外と余裕があるではないか!!)

 

「そのナチュラル思考を読んでくる上位者ムーブマジで何とかならない!?」

 

 

 アデっさんとかさぁ! もうなんかそういうもんだって受け入れちゃってるよ!

 

 

(そして挑戦者よ、このままならば答えは③である! ③! ③! ③! 万策尽きたなら、最期の死に花を咲かせよ!)

 

「うおおおおお!! 目覚めろ俺の灰色の脳細胞ーーーー!!」

 

 

 助けてホームズ! 助けてポワロ! 助けて、名探偵コナ――。

 

 

「あるじさまーーーー!!」

 

 

 答え、②! ②! ②!!

 

 

「こちらを、お受け取りください!!」

 

 

 最高の従者が、最高のタイミングで、最高のお嬢様に支えられ、俺に何かを投げつける。

 

 放り投げたそれを受け取ろうと俺はジャンプし。

 

 

(善哉!)

 

 

 それを風圧で吹っ飛ばそうとする至竜に向かって、俺は新たに装備した物を掲げる。

 

 

(なっ、それは――!!)

 

「喰らえ! 《フラッシュライト》!!」

 

「グルガォォォォーーーー!!」

 

 

 手にした『光のドラゴンオーブ』を発動体に、強烈な光を放つ魔法をぶっ放す!

 装備した時点で俺の頭の中には、様々な光の魔法の知識が刻み込まれた。

 

 ゆえに!

 

 

「伸びろぉぉー! 《ブライトハンド》ーーー!!」

 

 

 風に煽られていたアイテムに向かい、俺は光の手を伸ばす。

 光の手は確かに放り投げられたアイテムを掴み、俺のもとへと持ってきてくれた。

 

 それは、複雑な模様が刻まれた、金色の腕輪だった。

 

 

「白布ー!」

 

「主様ーー!!」

 

「……おう!! 《イクイップ》!!」

 

 

 あの二人が俺のために見つけてくれたアイテム。

 それを疑うことなく俺は装備する!

 

 

「う、うおおおおおおおーーーーーー!!!!」

 

 

 瞬間。

 突如として俺の体は膨張し、違う何かへと急速に変化し始めたのだった。

 

 




光のドラゴンオーブ(LR)
6つ集めればあらゆる願いを叶えるWRアイテムになると言われるドラゴンオーブ。
その内のひとつであり、“光の至竜”アルバーが所有する最も代表的な竜装である。
装備するためにまず竜装備適性Bか宝玉or魔道具装備適性Aが要求される。
《イクイップ》した時点で光魔法に属する多数の魔法を強制習得し、最上級の光魔法を習得するための補助具としても機能する。
LRの名に違わぬ超レアアイテムだが、その代償に世界に「六竜」が放たれる。
大いなる試練を乗り越えた者にのみ、竜玉の奇跡はその姿を現す。


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次回、至竜アルバー戦、決着?!


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第069話 怪獣大決戦!

 

 

 体が、熱い!

 最強のサウナで1時間以上ぐつぐつに熱されたみたいに全身から汗が噴き出す。

 

 俺の体が俺のものじゃなくなっていくみたいな感覚と、手足の先が伸びていくような感覚が同時に巻き起こり、気持ち悪い。

 

 だがそれ以上に体の内側から燃え上がるような、魂の火にガソリン突っ込まれてるみたいな強烈なエネルギーを感じて、すべての感覚を上書きしていく。

 

 

(俺は……一体……?)

 

 

 しゃべろうとしたら、しゃべれなかった。

 

 思ったよりも口が重くて、少しだけ開いた隙間から、変な吐息が出た。

 

 

「主様ー!」

 

「白布ー!」

 

 

 見下ろせば、ナナとメリーがいた。

 妙にちっちゃく見えたが、よくよく目を凝らしてみると、ぐぐぐっとズームされてく感覚とともにその姿をハッキリと捉えることができた。

 声に関しても同じだ。聞こうとした音がよく聞き取れる。

 

 この万能感。

 魂から湧き上がるエネルギーと一緒で、なかなかに心地いい。

 

 

(……善哉!!)

 

 

 前よりもクリアな音で、至竜の念話を受け取った。

 見ればさっきよりちょっとだけ小さくなった感じの至竜アルバーが、こちらを見てめちゃくちゃいい笑顔で笑っていた。

 

 ん? なんで俺、あの唸り顔を見て笑顔って確信できるんだ?

 

 

(よもやよもや。数ある宝物(ほうもつ)の中からそれを選び取るとは、あそこの者たちもまた、良き挑戦者であったか!)

 

(? どういうことだ?)

 

 

 疑問符を浮かべる俺に、アルバーが「なんだ、気づいていないのか」と、魔法で大きな鏡を作り出す。

 

 そこに映し出されていたのは。

 

 

「……ぐるる?」

 

 

 一匹の、ドラゴンの姿。

 

 俺が首を傾げると、そのドラゴンも同じように首を傾げて……。

 

 

(って、これ俺ーーーーーー!?!?)

 

 

 そこでようやく、ナナたちから受け取ったアイテムの効果を、俺は知るのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「主様ドラゴン! に、ございます!!」

 

「白布! あなたならそのアイテム、使いこなせるってわかってたわ!」

 

「ぐるるるーー!?!?」

 

 

 どういうことー!?

 

 

(善哉。そのアイテムの名は『竜変化の腕輪』!!)

 

 

 あ、そっちが説明してくれるのね。

 

 

 URアイテム『竜変化の腕輪』。

 それは装備者の竜装備適性に合わせて体を変化させるレアアイテム。

 D以下であればなんかちょびっと鱗が生える程度だが、Cあたりから腕が変化したり翼が生えたりと様々な恩恵が得られるようになるらしい。

 

 

(そして、竜装備適性A以上があればそのように、ドラゴンそのものの姿を得ることもできるという代物だ)

 

(なーるほど。んじゃそっちの声がクリアに聞こえるのもその恩恵か)

 

(然り)

 

 

 ここに来ても俺のチートアイテムによるスーパー装備適性が活きたということか。

 っていうか姿形変わったのに、元の俺がちゃんといる感覚もあるんだよな。

 

 たとえるならそう、モ〇ルファイター。

 プロレスするガン〇ムの奴。

 

 ドラゴンの中にいる俺は、ちゃんと『ゴルドバの神帯』を装備しているんだろう。

 

 

 

(なんとなくだが、人間の姿にちゃんと戻れそうな気もする。だったら……)

 

 

 やるっきゃないよな!?

 

 

(来るか……!)

 

(そっちの体のどっかをぶち壊せば勝ちなんだよな? なら、その翼へし折ってやる!)

 

(善哉! それでこそヒトの傲慢!!)

 

 

 俺とアルバーは向かい合い、睨み合う。

 ドラゴンになったおかげか、人間だった時よりもプレッシャーを感じない。

 

 

(だが、変わらず感じるこの……死の気配は……!)

 

(行くぞ、同胞もどき!)

 

(!!)

 

 

 はっけヨい!!

 そんな掛け声で始まりそうな、お互い低姿勢での正面衝突が戦いの合図になった。

 

 

「ぐるるおおおおー!!!」

 

「グルルオオオオー!!!」

 

 

 似た叫びをあげてぶつかり合う俺とアルバー。

 ぶちかまし合いの大衝突。

 

 打ち負けたのは、俺の方だった。

 

 

(ごぁっ!? ったぁぁぁぁ!?!?)

 

(体捌きの年季が違うわ! 年季がなぁ!!)

 

 

 大きく腹を見せて仰け反った俺に、再び突進をかますアルバー。

 

 

「ぐぎゃおおぅぅ!!」

 

(未熟未熟! 未熟千万とはこのことよぉぉ!!)

 

 

 あっけなくぶっ飛ばされた俺は、背中で宝の山を押し潰しながら大の字に倒される。

 

 ドラゴンになったってのに、完全にパワー負けしてるなこれ!?

 

 

「主様ーー!!」

 

 

 っと、ヤバい。

 ナナたちの近くに飛ばされてた。

 

 

「白布! あっさり負けてちゃダメじゃない! へっぽこ!!」

 

「ぐるる……」

 

 

 メリーにべしべし叩かれる。

 まったく痛くないが、おかげで気合は入った。

 

 

「主様、頑張ってください!」

 

「ファイトよ! 白布!!」

 

 

 声援を受けながら俺は身を起こし、ついでに竜になって使えるようになった風の膜を張る魔法を二人に張って身の守りを与える。

 なんとなくだが、自分は風のドラゴンなんだという感覚があった。

 

 

「ぐるるるる……」

 

 

 仲間の安全確認ヨシ!

 唸りをあげてアルバーを見れば、相手は律義にこちらが態勢を立て直すのを待ってくれていた。

 完全に余裕ぶっこいていらっしゃる。

 

 

(さぁ、次は吐息比べと行こうではないか)

 

(……上等!!)

 

 

 ブレスの吐き方も、今の俺にはわかっている!

 

 大きく息を吸ってぇぇ!!

 

 

「……ごはぁぁぁぁ!!」

 

「ブルワァァァァ!!」

 

 

 俺の暴風を撒き散らす風のブレスと、アルバーのすべてを焼き尽くす炎のブレスが衝突した。

 

 

(うおおおおおお! 吹き散らせぇぇぇ!!!)

 

(おお! 我の炎のブレスが破られるだと!?)

 

 

 ブレスの威力は吸い込んだ肺活量がものをいう!

 アルバーの吐いた紅蓮の炎を切り裂いて、俺の吐き出す風のブレスがその顔面を狙う!

 

 

(獲った!!)

 

(では、“ちゃんとした”ブレスで相手をしよう)

 

(へっ?)

 

 

 次の瞬間。

 炎の代わりに光輝をまとった、キラキラとした力の奔流がアルバーの口から吐き出された。

 

 

(我、光のドラゴンぞ?)

 

(あ゛ーーーー!! ずっりぃぃ!!)

 

 

 悪態を吐く暇しかないほどのわずかな時間に、俺のブレスは光の奔流に呑まれ、次いで俺の体もアルバーの光のブレスの餌食になった。

 

 

「ぐるぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

「あるじさまーー!!」

 

「白布ーー!!」

 

 

 再び吹っ飛ばされる俺を見て、ナナとメリーが叫びを上げる。

 

 どう見ても、俺が劣勢なのは明らかだった。

 

 

(さぁ、これで終わりか? 同胞もどきよ)

 

(ぐ、なんてこった……)

 

 

 同種になれば勝ちの目もあるかもしれない。

 それが甘い考えだったと痛感する。

 

 

(……これが、至竜か!)

 

 

 数多のドラゴンたちの頂きに立つ存在、至竜。

 ドラゴンになったからこそ余計にわかる、その力の高みに。

 

 

(だからって、諦めてたまるかよ!)

 

 

 それでも賭けた唯一の勝機にすがり、俺は闘志を燃え上がらせるのだった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 そして。

 

 

「ぐ、が…………」

 

「グルルル……」

 

「あるじさまぁ!!」

 

「白布ーー!!」

 

 

 はい。

 見事なまでに完封されました!

 

 ブレスも、体当たりも、引っかきも、魔法の打ち合いも、しっぽアタックも。

 

 ぜーんぶダメ。

 

 

(はぁー、やってらんねぇですわ。こんなクソゲー)

 

 

 今も頭を叩き伏せられて、宝の山にずっぽりと首から先を突っ込んでいる。

 

 

(勝負あり、だな?)

 

(そもそも勝負になってねーと思います)

 

(いやいや、中々に楽しめたぞ。挑戦者よ)

 

 

 すでに健闘を称えるモードになっているアルバーに、ふてくされてる俺はもう相手が偉い竜だろうが関係なくため口で返す。

 

 

(いやマジで、ズルじゃん。あらゆる面でそっちのスペックの方が上とか。せめて風のドラゴンなんだからスピードで上回るとかないの?)

 

(格が違うなぁ。六竜の風ならば、確かに我よりも早く空を飛べるであろう)

 

(ですよねー)

 

 

 そう、格が違うのだ。

 なりたてドラゴンもどきとドラゴンの頂点は、パンチの仕方覚えたばっかりのボクシング部一年と世界チャンピオンくらい差があった。

 

 どうあがいても絶望。

 

 

(ああ、楽しかった。本当に、こんなに楽しかったのは100年ぶりだ)

 

 

 満足げな思念を響かせ、アルバーが告げる。

 

 

(ゆえに、その健闘を称えて最期は華々しき舞台で散らせてやるとしよう)

 

「……!!」

 

 

 死刑宣告。

 ボッコボコにやられてしまった俺には、それに抗うだけの力はない。

 

 

「ルルル……!」

 

 

 アルバーが喉を鳴らす。そして魔法は行使された。

 

 

「《レイシフト》!!」

 

「待…ぅ……しゃ……!!」

 

 

 発動した魔法は、俺たちをどこか違う場所へと運ぶ魔法。

 そこに何やら混じった声を聞いたが、その声の主を確かめる間もなく。

 

 

(……ここは?)

 

 

 眩い光に一度閉じた目を開けば、そこはドラゴティップの村の、ドラゴンロードの上。

 

 

「ドラゴン?」

 

「は? え?」

 

「う、うわっ。ドラゴン様だ」

 

「あれがアルバー様? ドラゴンがもう一匹?」

 

「え、わ、わわわ!!」

 

「逃げろーーー!!」

 

 

 今まさに日常を生きている村の人々が、観光客たちが、突然の出来事にパニックを起こす。

 

 

(聞け! 我が名はアルバー! これよりこの同胞もどき、侵入者の処刑を執り行う!)

 

 

 そんな人々に向けて思念を飛ばすアルバーの言葉を聞きながら。

 

 

(……これ、ワンチャンあるんじゃね?)

 

 

 俺は密かに、この状況に希望の芽を見出していた。

 

 




竜変化の腕輪(UR)
装飾の施された金の腕輪。内部に竜の魔力が込められており、その影響を受ける。
装備者に竜の力の一端を与え、適性に合わせその姿を変化させる。
なお、竜装備適性B以下の場合装備すると外せなくなり、少しずつその姿は変質し続け、最終的には理性を失いドラゴモーフというモンスターになる。


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次回、センチョウはこの先生きのこれるのか!


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第070話 三者三心交差して!

粘りに粘りまくって何とかしていた書きためが、潰えましたぁぁーーー!!

それでも第70話! お届けです!!
どうぞ、楽しんでってください!!


 

 

(……これ、ワンチャンあるんじゃね?)

 

(ほう?)

 

 

 処刑を宣言した我を前にして、その只人種(ヒューマ)の男は、自らの逆転を夢想したらしかった。

 ゆえに我は、彼の者からの思考の搾取を止めることとした。

 

 

(只人種が見せる最後の悪足搔き、是非とも余すところなく堪能したい!)

 

 

 何しろ今の我は自由の身である。

 そして同時に、我はあの山のあの場所に、己が身を封じることを決めている。

 

 他の六竜に比べれば圧倒的に……出会いが少ないのだ!!

 

 

(ゆえに! 一期一会はしゃぶり尽くすまで堪能する!!)

 

 

 

 100年前に出会った只人種のエンリケと紡いだ濃密な時間。

 彼の者もまた、只人種でありながら我の攻撃を掻い潜り、どころか、牙を突き立てんと何度も我に挑みかかってきた剛の者であった。

 

 ならば、目の前にいるこの者はどうだ?

 今となっては侵入の不作法も、宝漁りの無礼も、もはや不問にしたとて構わぬのだ。

 

 

(それほどに、我に可能性を見せたキミよ……!)

 

 

 我は我ゆえにお主を殺さんとすることを()めはしない。

 

 しかるに!

 

 

(魅せてみよ! 我に手向かう、逆転生存の一手とやらを!!)

 

 

 至竜アルバーの名のもとに、その意気、平らげてくれようぞ!!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

(おそらく世界最上級のドラゴンに、処刑を宣告されるってのは、まぁ……)

 

 

 絶体絶命、と言っていい状況だとは思う。

 俺の処刑をわざわざドラゴティップの村でやるってのは、“友達を招くための扉”で栄えてる、村の連中に対する見せしめの意味もあるんだろう。

 

 

「!?」

 

「……!」

 

 

 ドラゴン状態で地に伏す俺の首元には、何をどう弄ってそうしたのか、ナナとメリーの姿がある。

 

 

「あの嬢ちゃんたちは……」

 

「扉を越えていった冒険者のパーティーメンバーだ!」

 

「じゃああいつは、白布はどこに!?」

 

 

 おかげで、いち早く気づいた村人たちから声が上がっている。

 

 

「ああ、竜の巣をつついた罰が当たっちまったのか!」

 

「あいつら処刑されるのか! 離れろ離れろ! 巻き込まれちまうぞ!!」

 

 

 察しのいい連中はもうすでに、俺たちから距離を取り、道の端へと逃れようとしている。

 

 つまり。

 

 

(俺の策を通すには、迷っている時間はないってことだな!!)

 

 

 俺はドラゴンになった体の内側にある自分の本体を意識しながら、装備を変更する。

 

 

「《イクイップ》!!」

 

 

 呪文を唱えたその直後、再び手の平に『光のドラゴンオーブ』を掴めば。

 

 

「《フラッシュライト》!!」

 

 

 即座に次の魔法を詠唱!

 辺り一面を強力な閃光で、真っ白に染め上げる!!

 

 

「うわっ」

 

「ぎゃっ!」

 

「きゃあ!!」

 

 

 逃げようとしていた村人たちが、閃光に巻き込まれ足を止める。

 アルバーには……まぁ通じてようが通じてまいがどっちでもいい。

 

 必要なのは、村人たち(ギャラリー)だ!

 

 

 

(そして俺も今の内に……とぅ!!)

 

 

 目くらましの閃光がほとばしる中、その隙を突いて俺は、ドラゴン状態を解除する。

 

 

「ナナ、メリー!」

 

「あるじさまっ?」

 

「白布?」

 

「こっちだ!」

 

 

 そして解除と共にすぐさま二人の手を取って、俺は逃げ遅れている人混みへと突っ込んでいく。

 

 

 

「……う、うう。目が」

 

「結局ど、どうなったんだ?」

 

「……あれ?」

 

 

 そうして《フラッシュライト》の閃光が収まり、人々が視力を取り戻したその時には。

 

 

「……あっ! もう一匹のドラゴンがいないぞ!」

 

「どこにいったんだ!?」

 

 

 たたずむアルバーの前にひれ伏していた、もう一匹の竜こと俺の、消失イリュージョンの完成である。

 

 

 

「ど、どうなっちまうんだ!?」

 

「これじゃ、アルバー様の怒りが鎮まらねぇんじゃねぇのか!?」

 

「そんなっ! まだ会いたいイケメンはいっぱいいるのに!!」

 

「オラ、死にたくねぇ!!」

 

 

 逃げ遅れてしまった村人や観光客たちから悲鳴が上がる。

 さらには逃げた者たちの中にも、激しい光に腰を抜かして動けなくなった者が多数いた。

 

 そんな混乱の果てに生まれた人混みの中に、俺たちも紛れているのだが……。

 

 

「………」

 

 

 わぁい、アルバーの視線が俺に熱烈集中してらぁ☆

 

 もう完全に「気づいておるよ、見ておるよ」って、ご覧あそばされておられる。

 

 

 これで終いなのか? って、問いかけられている。

 

 

(もちろん、これで終いなわけないぜ!! 至竜さんよぉ!!)

 

 

 ギリギリで、奇跡の様なタイミングで、俺が手にした切り札が、ある!

 

 それを、今、ここで使う!!

 

 

 

「すぅ……」

 

 

 息を吸って、スイッチオン。

 俺は今……“哀れな死を待つ子羊”だ!!

 

 

「……助けて!! 勇者様ーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「んうっ……!?」

 

 

 最初にその叫びを聞いた時、ボクは“しまった”って苦虫を噛んだ。

 至竜様の転移魔法に無理矢理潜り込んだ影響で、ボクたちはまだ、動けない。

 

 

「勇者様ー! このままでは俺たち、みんな死んじまうよーー!!」

 

 

 悲痛な叫びにどうにか声の方へと目を向ける、と。

 

 

「この村が生き残る最後の希望は、勇者様だけなのだーーーー!!」

 

 

 そこではボロボロのローブを着たみすぼらしい格好の青年が、天を仰いで叫んでいた。

 

 

(間違いなく……彼だ!)

 

 

 いったいいつ装備したのか、明らかに冒険用ではない装備で騒ぐ彼の正体に、他の人々は気づいていない。

 っていうか、彼が何をしようとしているのか、彼の仲間も分かってないのかポカーンとした顔をしちゃってる。

 

 

 

 そうこうしている内に状況は動いて。

 

 

「おいあんた! 勇者がいるのか!?」

 

 

 彼の肩を、一人の男が掴んだ。

 

 ボクは、彼がニヤリと笑ったのを見逃さなかった。 

 

 

「勇者は、いる! ここに!!」

 

 

 我が意を得たり。

 続く彼の動きは唐突で、そして淀みがなかった。

 

 

「おお! 怒れる至竜を鎮められるのは! あの方を置いてほかにはいない! 勇者! 勇者! 勇者よ!!」

 

「おい! てめぇ! その勇者様はどこにいるってんだ!」

 

 

 仰々しく両手を広げて空を仰ぐ彼の肩を揺さぶり、焦れた様子で男が叫ぶ。

 逃げ遅れた人たちの視線が彼らに集まって。

 

 そして。

 

 

「……あちらに」

 

 

 空を仰いでいた手の、その指先が……。

 

 

「あちらにおわすお方こそ、恐れ多くも財宝教に認められし人々の守護者! 勇者様にございますぅーーーー!!」

 

 

 ボクたちに向けられた。

 

 

 

「「………」」

 

 

 彼と目が合う。

 

 それは、心の底からボクたちに救いを求めている面をしながら。

 その奥で、ボクたちの次の動きを確信している、とっても意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

 これ、なんていうんだっけ。

 必要な犠牲?

 

 

「……してやられたわね、テトラ」

 

「……してやられちゃったね、ラウナベル」

 

 

 小さい声でやり取りをしたボクたちの、その声を。

 

 

「勇者様ー!」

 

「勇者!! 勇者!!」

 

「俺たちを助けてくれー!!」

 

「私たちを救って!」

 

「アルバー様の怒りを鎮めてくれーー!!」

 

 

 守るべき人々(ギャラリー)たちの願いの声が、塗り潰す。

 

 

(善哉!!)

 

 

 そして、それすらも踏み潰す至竜の思念が、村を震わせた。

 

 

(ヒトの身でありながらヒトの守護者を名乗る者よ! 汝の挑戦を受けて立とう!!)

 

「……ッ!!」

 

 

 体は、動く。

 

 否応なしに、引きずり出される。

 

 不心得者の説得か、最悪竜と接触しての調停に向かったはずが、気づけばボクが竜と相対していた。

 

 

 

「……ねぇ、ラウナベル」

 

「なぁに、テトラ」

 

「至竜って、ボクらが全力出して勝てる相手なの?」

 

「あは☆ むっりー☆」

 

「だよねぇ……」

 

 

 そう口では言いながら、それでもボクは剣を抜く。

 精霊銀と司祭様たちの祝福で鍛え上げられた、『勇者の剣』を構える。

 

 

「ボクの名前は勇者、テトラ!」

 

「その相棒兼教導役、ラウナベル!」

 

 

 目まぐるしく変わる状況の中、ありがたいことに、やるべきことはシンプルだった。

 

 

(さぁ、来るがいい! 若き勇者よ!!)

 

「……はぁぁぁぁ!!!」

 

 

 ボクは、いつも通りに、勇者の使命を全うする。

 

 




勇者の剣(SR)
勇者装備適性を持たない者には装備出来ない特別な長剣。
剣装備適性などを持っていたとしても、勇者装備適性がD以上ない者には装備出来ない。
勇者の力の覚醒を促し、装備者によっては勇者魔法の使用を可能とする。
勇者と共に成長するとも言われており、勇者アーベルが持っていたとされるLRアイテム『運命剣ディスティニーブレイド』も元はこの勇者の剣だったとか。


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次回、勇者VS至竜! 戦いの行方は……!?


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第071話 至竜VS勇者!

粘る粘る、驚異的な末脚!
物語も最終局面へと向かい始めます!!

第71話、どうぞお楽しみください!!!


 

 

 至竜アルバーVS勇者テトラ

 

 竜の頂きと人々の守護者の、世紀の大勝負が始まろうとしている。

 

 

「……で?」

 

「で? って?」

 

「つまりは何がどうしてこうなったってことよ。説明してくれるんでしょう?」

 

 

 両者の相対を群衆に紛れて見やったところで、メリーにせっつかれた。

 むむむっと不満顔で見つめる彼女の隣には、ナナが不安そうな表情でこっちを見上げている。

 

 

「主様。お手を煩わせて申し訳ございませんが、わたくしにもお教えいただけますでしょうか?」

 

「ふっふっふ。いいだろう。俺の打った逆転の一手、説明させてもらうぜ」

 

 

 得意げに笑みを作って、俺は二人にふんぞり返る。

 いや、ほんと、これはマジで土壇場にしてはいい手だったと思うんだ。

 

 ふんぞり返っても許される!

 

 

「いいからとっとと説明なさい!」

 

「はい」

 

 

 説明します。

 

 

「ドラゴンになった俺は、聴力、視力もべらぼうに強化されててな。だから、気づけたんだ」

 

 

 それは竜の巣で、アルバーが転移魔法《レイシフト》を唱えようとしていた時だ。

 ドラゴン状態の俺の聴覚に、あるノイズが紛れ込んできた。

 

 

「とっさに聞こえたその音に、反射的に耳を澄ませた俺が聞いたのが、今あそこで戦おうとしてる、勇者様の声だった」

 

 

 あの場で彼女……勇者テトラは、こう叫んでいた。

 

 

『待って! 争うのをやめて! 勇者テトラがそれを預かる!!』

 

 

 その姿を確かめることはできなかったが、俺はこの声に聞き覚えがあった。

 

 

「あの方は確か、酒場でお会いした方ですね」

 

「そう。火を吐くドラゴン亭で俺の隣の席にいた子が、財宝教が誇る秘密兵器――勇者だったんだよ」

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 勇者。

 

 時に魔王と呼ばれる強大なモンスターを倒し、時に世を乱すレアアイテム事件を解決する。

 財宝教を構成する三派閥の一角、勇者派が有する、虎の子の武力存在。

 勇者装備適性を持ち、専用の装備を取り扱う選ばれし者たち。

 

 俗にいう、人類の希望。

 

 

「勇者が、あの場所にいたんだ」

 

 

 勇者テトラはあの時、俺たちの争いを止めようとしていた。

 だがしかし、彼女の叫びも虚しく、俺たちはアルバーの魔法で村まで転移してしまった。

 

 

「あの時は一瞬見えた希望が潰えて、絶望しかねぇと思ったんだが、ツキはまだこっちにあったんだ」

 

 

 転移魔法の対象に選ばれていなかったはずの勇者が、なぜか付いてきていた。

 おそらく何らかの絡め手を打ったんだろう、ドラゴンの視覚でその姿を捉えたとき、彼女は消耗して身動きが取れなくなっていた。

 

 

「だがそのおかげで、カードが揃った」

 

 

 突然のことに戸惑う群衆、遊ぶように相対する至竜、そして――勇者。

 

 

「そのとき、俺に稲妻が走った。この手なら、イケるかもしれない、と!」

 

「!?」

 

「……ごくり」

 

 

 俺のもとへと舞い降りた、悪魔的な閃き。

 

 それは――。

 

 

「あ、勇者(俺より強い人)に任せちゃおう……ってな」

 

 

 きゅぴーん!

 俺はいい笑顔で親指を立て、ウィンクを決めた。

 

 

「………」

 

 

 メリーが、めちゃくちゃ白けた目で俺を見ていた。

 

 

「……こほん」

 

 

 咳払いをひとつ。

 

 

「適材適所って、言うじゃん?」

 

「……それで、さっきみたいな一芝居打ったの? 呆れた。その雑さ加減でよくもまぁ上手くいったわね」

 

「ごふっ!」

 

「あるじさま!?」

 

 

 ガバガバな作戦だった自覚はあったが、そうストレートに言われると苦しいー!!

 

 

「くっ、ナナ。俺はもうダメだ……」

 

「大丈夫です、主様。主様の策はお見事にございました。勇者様が回復できるか、至竜様がその流れに応えてくださるか、それらすべてを計算しきっておられたのですね!」

 

「フッ、そんなの全然考えてなかったぐはぁぁっ!」

 

「あるじさまーーー!!」

 

「……ほんと、羨ましいくらいの幸運ね」

 

「……へへっ」

 

 

 土壇場の悪あがきだったのは間違いない。

 それでも様々なものが味方して、今俺たちは無事ここにいる。

 

 

 

「ま、あとは勇者様が、何とかしてくれるさ!」

 

 

 聞くところによれば、勇者ってのもピンキリらしい。

 彼女がどれだけの強さを持った存在なのかは、正直俺にはわからない。

 

 だが竜の山を登り切って俺たちの仲裁をしようとする根性がある子だ。

 少なくとも雑魚じゃあないはず。

 

 だからこそ俺は。

 

 

「ナナ、メリー。俺たちにはまだやることがある。だから……」

 

 

 次なる作戦を、二人に告げた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 片や、道を覆いつくさんとするほど巨大な至竜。

 片や、勇者とはいえ、若く、華奢な一人の少女。

 

 この場の誰が、人類の希望の背中に全幅の信頼を置くことができただろうか。

 

 

「勇者様、勝てるのか?」

 

「勝ってもらわなきゃ、俺たちの村はおしまいだ!」

 

 

 完全なギャラリーとなった村人たちの口から零れる不安の声。

 

 

(さぁ、来るがいい! 若き勇者よ!!)

 

「……はぁぁぁぁ!!!」

 

 

 戦いが始まる。

 

 そして。

 

 その決着は、一瞬だった。

 

 

 

「グルガゥォォォォー!!」

 

 

 竜が小手調べとばかりにその腕を振るい、勇者を爪先で叩き潰そうとして。

 

 

「―――《 》」

 

 

 何かの魔法とともに振るわれた勇者の剣が、迫りくる竜の爪と打ち合い。

 

 

(お、おぉ!?!?)

 

 

 竜の爪を、破壊した。

 

 

「テトラ! 至竜クラスにもなれば爪なんてすぐに再生するから、気を抜いちゃダメよ!」

 

「わかってる!!」

 

 

 戦いはまだ始まったばかり。

 そう信じて疑っていない勇者一行が、隙なく次の一打を考えている、そこに。

 

 

(……見事!! 我の一部を破壊せしめたその武威をもって、汝らの勝利を認める!!!)

 

 

 至竜から下される、突然の合格宣言。

 

 

「へ?」

 

「え?」

 

「あ?」

 

「えぇ?」

 

 

 これには勇者とその相棒のみならず、その場にいた観衆たちもみな度肝を抜かれた。

 

 

(善哉!! 勇者なる者の秘術、味わわせてもらったぞ!)

 

 

 事情も語らず、ただ己の満足だけを告げ、至竜は咆哮する。

 

 

(快なり! 楽しかった!! だが忘れることなかれ、かの扉を潜っていいのは『ドラゴンの鍵』を持ちし者のみであると!)

 

 

 すでに十全となった至竜からの忠言に、人々はただ頷きをもって返事とし。

 

 

(善哉! では、さらばだ!!)

 

 

 それに満足した至竜は翼をはためかせ、空へと飛びあがり、己が巣へと帰っていった。

 

 

「………」

 

 

 後に残ったのは静寂と、民衆と、そして勇者のみ。

 

 

「……ゆ、勇者様が勝った!」

 

「勇者様が勝ったーー!! 竜の怒りを鎮めてくださったーー!!」

 

「ばんざーい! 勇者ばんざーい! 勇者テトラ様、ばんざーい!!」

 

 

 誰の口が最初に開かれたか、沸き上がる歓声が一気に伝播し村中に響き渡る。

 

 大騒ぎの村人たちの中。

 

 

「……え?」

 

「どゆこと?」

 

 

 勇者テトラとその相棒ラウナベルだけが、何が起こったのかよくわからないままキョトンと突っ立っていた。

 

 周りの熱に反比例して冷静になっていく心。

 その心が、栄光よりも、名声よりも、最も気にするべき存在について思い起こさせた。

 

 

「「あっ」」

 

 

 二人は同時に気がついた。

 

 

「しまったー!!」

 

「逃げたー?!」

 

 

 センチョウ(事の元凶)たちの姿が、見当たらないことに。

 

 




ドラゴンの鍵(SR)
強き竜に認められた者のみが手に入れられるという鍵系レアアイテム。
基本的には鍵を与えた竜の許可する領域の扉のみを開けるアイテムだが、鍵装備適性A以上であれば、鍵を与えた竜と同格までの存在が作った扉を開けることができる。
ある種のお守りとしての効果も期待でき、装身具装備適性やネックレス装備適性等に合わせて、首にかけておくとちょっとだけ物理防御力や魔法防御力があがる。


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次回、センチョウたちは、逃げだした! しかし……!?


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第072話 勇者様からは逃げられない!?

 

 

 俺がナナとメリーに伝えた第二の作戦。それは――。

 

 

「逃げるんだよォ! ナナぁーー! メリぃーーーーーッ!!」

 

「あるじさまーーーー!」

 

「ほんっと! ほんっと! あなたってぇ!!」

 

 

 この場所からの逃走、だった。

 

 

「至竜アルバーは我らが勇者様が何とかしてくださるってことで。だったら俺たちにはもう、あそこに残る理由など、なぁい!!」

 

 

 竜の試練はヒトが受ける試練だとアルバーは言っていた。

 つまり、覚醒した竜の相手は、俺“だけ”で対処しなきゃいけないってわけじゃない。

 

 ヒト全体が乗り越えるべき試練として至竜たちが動くというのなら。

 

 

(各地でこれから暴れるだろう六竜(ヤバいの)たちは、それぞれその場に居合わせた人が当たればいいってこった!)

 

 

 『財宝図鑑』を完成させるためには、ドラゴンオーブの入手も当然、必要だった。

 だから竜の試練が始まることは避けられぬイベントであり、そこで発生する犠牲もまた、目的の達成のためには避けようがないものだったといえる。

 

 つまりはそう、コラテラル!

 

 

「竜の相手は出来る奴に任せる! 代わりに俺が、可能な限り早く、すべてのドラゴンオーブを集めるんだ!! これはそのための、即時行動である!!」

 

「あんたのそれは、単にレアアイテムが欲しいだけでしょうが!」

 

「その通り!! さすがメリー! よくわかってるぅ!!」

 

「よくわかってるぅ! じゃ、ないわよ!!」

 

「メリー様、それが主様の使命にございますので」

 

「ナナさんまで!? もぉ~ッ! なによこの主従はーッ!!」

 

 

 ぶち切れメリーが走りながら器用に地団太を踏んでいる。

 

 

(っていうか、俺のことなんてさっさと放って逃げてもいいのに、なんやかんやそのまま流れで付いてきてくれようとしてるの、メリー……律儀というかなんというか)

 

 

 自分が関わった以上は面倒を見る気なんだろう。

 この辺の付き合いの良さは、実に硬派なお嬢様らしいと思う。

 

 きっと、お家再興のお手伝いはするからな!

 

 

 

「……それで、逃げるといってもどうするの?」

 

「手はある。村人の目がなくなった辺りで、アレを使う」

 

「アレ?」

 

 

 首を傾げるメリーの隣で、ナナがポンと手を叩いた。

 

 

「……ああ、アレにございますねっ」

 

「そう、アレだ!」

 

 

 別にここですぐにアレを使ってもいいが、アレの正体が俺だと噂になるのは後々困る気がする。

 バレるにしてももう少しあとであって欲しい。

 

 

「ってことで、今はあそこを目指してダッシュだ!」

 

 

 そう言って俺が指さしたのは、ドラゴティップ村の正面出入り口……ではなく。

 

 

「森に入ってしまえば人目は一気に減るからな!」

 

 

 脇道にそれた先の先、山の麓の森の中である。

 

 

「とにかく、村から出ればいいのね。わかったわ」

 

「さぁ、主様。参りましょう!」

 

「おう!」

 

 

 今は人目を避けまくるのが吉! さぁ、とっととずらかるべー!!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 逃げの一手を貫いて、ドラゴティップ村の端までようやく辿り着いた、その時だった。

 

 

「「そこまで()!」」

 

「!?」

 

 

 いざ森に突撃! というところで、俺たちはふたつの声を聞く。

 

 頭上から。

 

 

「逃がさないよ! 白布さん!!」

 

 

 見上げた俺の視線の先で、綺麗なひねりからの着地を決める女の子。

 

 その正体はもちろん――。

 

 

「ぐぁっ! 勇者テトラ!!」

 

「そう! キミに至竜アルバーの相手を押し付けられた、勇者テトラだ!」

 

 

 ボーイッシュ口調の褐色少女勇者様、ご登場である。

 

 

「その様子だと、アルバーはなんとかなったみたいだな」

 

「なんだかよくわからないまま、なんとかなったよ」

 

「さっすが勇者様だ。じゃ、そゆことで」

 

 

 当然相手なんてしてられないからスルーする。

 

 

「通さないよ! っていうか、森に入ったらドラゴンに変身して逃げる気でしょ!」

 

「チッ、バレてたか!!」

 

 

 こっちの作戦はどうやら見破られていたらしい。

 俺の隣でメリーが「ああ!」って感じに手をポンッと叩いていた。

 

 

 

「っていうか、だよ。ボクから逃げようとしているのなら、自分がしでかしたことの重大さには気づいてるってことでいいんだよね?」

 

 

 人差し指をピンと立て、もう一方の手を握って腰に当てたポーズで、勇者テトラが身を寄せてくる。

 いわゆる「めっ」のポーズだ。

 

 可愛い。

 

 

「キミが『光のドラゴンオーブ』を手に入れてしまったから、六竜の試練が始まっちゃったんだよ? 世界はこれから大混乱だよ!」

 

「いやぁ、へへへ」

 

「褒めてないよ! 照れないの!」

 

 

 お、ツッコミ気質だ。

 

 

「いやぁ俺もまさか、ドラゴンオーブを手に入れたら竜が動き出すなんて知らなくてなぁ」

 

「迂闊なことをしちゃダメなんだよ。レアアイテムってのはどれも危険で、扱い方ひとつで世界のピンチなんてこともいっぱいあるんだから!」

 

「はっはっは」

 

「はっはっは、じゃ、なーい!!」

 

 

 ぷんすかぷんすか。

 そんな効果音でも出てそうなくらいわかりやすく怒ってみせるテトラ。

 

 

「ちょっと、うちの子で遊ばないでくれる?」

 

「お?」

 

 

 ひょこっと、勇者様の胸ポケットから現れた小さな生き物と目が合う。

 オフショルダーなワンピースドレスを纏った、背中にトンボみたいな透き通った羽を持った女の子。

 

 こいつは……!

 

 

「うそっ、妖精!?」

 

「知っているのかメリー!」

 

「えぇ。妖精は世界の循環を司る担い手。いわば自然の守護者よ。然人種(エルフ)以外の人前には滅多に姿を現さないって聞いてるんだけど……」

 

「あちらの勇者様は、只人種(ヒューマ)の方のようにお見受けしますね」

 

「どういうことだ?」

 

「ふふっ! 知りたいなら教えてあげるわ!」

 

 

 妖精さんがぴょんっと勇者テトラの胸ポケットから飛び出せば、俺たちの前まで浮遊してきてえっへんと胸を張る。

 サラサラの金髪ロングが風になびいてキラキラしていた。

 

 

「私の名前はラウナベル! 勇者の導き手という役目を負った善の妖精(シリーコート)よ!」

 

 

 どうやらキラキラしているのはマジで光の鱗粉か何からしい。

 いかにも神々しさを演出しながら、手のひらサイズの可愛い生き物が、ドヤ顔していた。

 

 

 

「……白布さん!」

 

 

 導きの妖精ラウナベルの愛らしさやら神々しさやら情報量の多さやらに、俺たちがキョトンとしていると、勇者テトラが訴えかける目で俺に声をかけてきた。

 

 

「逃げる前に、ボクのお願いを聞いて欲しい」

 

「……何かな?」

 

「『光のドラゴンオーブ』を、ボクに渡して」

 

「………」

 

 

 実に勇者らしい要求だ。

 問答無用で殴り掛かってこないだけ、この子はとてもいい子で、賢い子なんだろうなぁ。

 

 




アイテム紹介はお休みします。



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次回、勇者テトラからの提案に、センチョウは……


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第073話 勇者からの提案!

 

 

 立ちはだかったが戦う意思は見せていない勇者テトラを前に、俺たちはなんとなく彼女の言葉に耳を傾けていく。

 勇者テトラは、俺たちに……いや、主に俺に向かって事の次第を説明してくれた。

 

 

「勇者の役割は、世に危険なレアアイテムが出回らないように回収して、財宝教の宝物殿に預けることなんだ。竜の試練に関わる『光のドラゴンオーブ』は、間違いなく、世界へ与える影響の大きい危険なレアアイテムだから。だから……ボクに託して欲しい」

 

「そうよ! アンタみたいな普通のヒトが持ち歩くには危ないの!」

 

「むっ、主様は普通のヒトではなくもがが」

 

 

 ナナ、ステイ。ステイ。

 

 

「レアアイテムハンターを名乗るキミなら、いや、キミだからこそ。アイテムの危険性もよく分かっていると思う。だから……」

 

「だから、財宝教に……勇者を有する最強の組織に回収させろ、か。なるほど」

 

 

 俺が聞く姿勢を見せたことで、テトラの表情が途端に明るくなる。

 

 あー、本当にいい子だなぁ。

 

 

「そう、そうなんだ! きっと六竜の試練についても財宝教は力を尽くすし、各国の協力も得てこれから全世界的に行動していくと思う。だからキミには……」

 

「そうそう、だからアンタはここらで大人しくお縄に――」

 

「キミには、ボクたちに協力して欲しいんだ!」

 

「って、えぇ!? 何言ってんのテトラ!?」

 

「彼の助力を得られれば間違いなくレアアイテム回収の仕事も、六竜の試練にだって有利に働くと思うよ。それに彼の行動力は味方にいてくれた方が絶対にプラスになるよ、ラウナベル!」

 

「いやまぁこの理解不能な行動力とか突破力とかは便利かもだけど、そもそも世界を混乱に陥れたのはこいつ――」

 

「ねぇ、白布さん! ボクは本気だよ! これから一緒に世界を股にかける冒険をしない?」

 

「ちょ、話を聞きなさいってば、テトラー!!」

 

 

 なにやらこっちの見ている前で楽しい漫才が展開している。

 

 だが、そこで提示された話は、存外悪い話でもない気がした。

 

 

(すでに至竜アルバーの脅威は去った。後は自分たちの身の振り方だが、財宝教という後ろ盾が得られるなら、アイテム集めの役に立つ可能性は大いにあるもんな)

 

 

 勇者お墨付きみたいなのを貰えれば、レアアイテムが隠されているちょっと難しい場所にも入りやすくなるかもしれない。

 それに、ナナがアリアンド王国から追われないようにできるかもしれない。

 

 

「主様?」

 

「どうするの、白布」

 

「ふむ……いや、マジで悪い話じゃないよな」

 

 

 ハッキリと俺が口にしたことで、いよいよテトラが喜色満面になった。

 

 

「ホント!? だったら……」

 

「まぁ、断るけど」

 

 

 断るけど。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「え? なんで?」

 

 

 せっかくの誘いをフイにした俺に向かって、勇者テトラは本気で意味がわからないって顔をした。

 断った瞬間、問答無用で切りかかってくる感じじゃなくて何よりである。

 

 だから、ちゃんと答えよう。

 

 

「理由は三つある!!」

 

「っ!」

 

「一つ目の理由は、この場の口約束ってのがまぁ、疑わしいっていう常識の話だ」

 

 

 いかに相手が信じたくなるような純粋無垢っぽい勇者様からの提案だとしても。

 それに素直にホイホイ従って言いなりになるなんてことは俺にはできない。

 

 

「二つ目の理由は、財宝教っていう組織を俺が信じていないから」

 

「なっ!? 世界のみんなが信じてるんだよ!? っていうか、この世界の創造神様を信じる組織だよ?」

 

「いやまぁそれはそう」

 

 

 財宝教は実在する財宝神ゴルドバを崇拝する宗教だ。

 その使徒である天使だってモノワルドには存在しているし干渉もしているわけで。

 

 少なくとも前世世界で顔を見れなかった神様たちを信仰する宗教よりは、実体がある。

 

 

「だが、神が実在しようがそれを崇めてようが、組織を運営するのは人だからな」

 

「うっ」

 

「財宝神様が直接的に管理運営してるってんなら話は別だが、その組織のトップは違うだろ?」

 

 

 確か今は、人の良さそうなお婆ちゃんがトップだったと思う。

 ブロマイド見たから知ってる。無料配布だったし。

 

 

「現地で頑張ってるお前さんみたいな勇者様とか、司祭様とかを個人的に信じる分にはいいけどな。組織ってなるとどうしたって、一枚岩にはならないもんだ」

 

 

 聞けば財宝教という組織、主神派・使徒派・勇者派と派閥にわかれているらしい。

 この時点でもう、前世世界を思い出して、色々と想像できちまうってもんだ。

 

 

「ってことで、まだまだ俺にとっちゃ財宝教って“組織”は胡散臭い何かだ。今すぐにどうこうってのはお断りしたい」

 

「そんなこと……!」

 

「落ち着きなさい、勇者テトラ」

 

「!? ラウナベル……」

 

「おっ」

 

 

 俺の言葉に食って掛かろうとした勇者を、妖精さんが止めてくれた。

 導きを担当するってのは本当らしい。

 

 

「まだあいつは三つ目の理由を言ってないわ。一度話を聞くことを選んだなら、心に余裕をもって受け止めるの。いいわね?」

 

「……うん」

 

「で、三つ目の理由は何? 答えてくれるんでしょ?」

 

 

 ラウナベルに促され、俺は頷き、口を開く。

 

 

「三つ目の理由。それは……」

 

 

 俺は背後に立つナナとメリーに、こっそりと指で合図を送った。

 

 

「俺が『光のドラゴンオーブ』(こいつ)を手放したくないからだ!!」

 

 

 瞬間、俺は『光のドラゴンオーブ』を天に掲げて魔法を唱える。

 

 

「《フラッシュライト》!!」

 

 

 刹那もなく強烈な光が辺りを包み込み、こちらの騒ぎに近づいてきていた人々の視界を再び奪う。

 そのわずかな時間に俺は振り返ると、二人に声をかけた。

 

 

「飛ぶぞ!」

 

 

 『竜変化の腕輪』を起動する……いや、起動しようとした。

 

 

「白布!!」

 

「!?」

 

 

 メリーの叫びに俺が振り返ると。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 剣を構えた勇者が、今まさにその刃先を振り下ろさんと、声を張り上げていた。

 

 




財宝教最高司祭のブロマイド(UC)
財宝教の現・最高司祭であるマグナリア・ハイディ・ノーブロムのブロマイド。
各財宝教の施設に配布されており、希望者には無料で提供される。
一部の子供の中ではこれと、類似する製造法のブロマイドたちを使ったメンコ遊びが流行っており、マグナリアのブロマイドは他のブロマイドより質がいい物が多く「つよつよ配布ババア」と呼ばれ愛されている。
子供の祈りの日への参加率向上に陰ながら貢献している素敵アイテムである。



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次回、センチョウVS勇者!!


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第074話 VS勇者!

第4章もいよいよクライマックスフェイズ!
物語はいよいよ佳境へ!!

ということで74話をお届けします! お届けできた!! 感想ありがとうございます!
このまま駆け抜けますので、よろしくお願いします!


 

 

「わっっっしょーーーーい!!!」

 

「!?」

 

 

 勇者テトラの刃が振り下ろされるのと同時に、俺は身を翻して回し蹴りを放つ。

 

 

「くっ」

 

「っとーーーーーい!!」

 

 

 体移動で剣の軌道から逃れ、その勢いのままに彼女の横っ腹に右脚を叩き込もうとすれば、そこはさすがの勇者様。即座に守りの構えをとって俺の一撃を受け止め、足の振り抜きに合わせて距離を取って威力を相殺する。

 

 いやこれ、『竜変化の腕輪』で半竜化してた俺の足の一撃だぜ?

 

 

「主様! ご無事ですか!?」

 

「大丈夫だ、ナナ。だが、変身はさせてもらえないってことだな」

 

 

 完全なドラゴンになるまでにかかるのは僅かな時間だが、おそらく本気で放つ勇者の一撃ならそのロスタイムがあれば十分に俺をぶっ飛ばせるだろう。

 

 

「……ボクの提案、受けて欲しかったな」

 

 

 本当に、本当に悲しそうに勇者テトラが呟く。

 わずかに俯いていた顔が再び持ち上げられると、そこには強い意志を持った瞳が煌いていた。

 

 

「財宝教所属の勇者として、キミのレアアイテム蒐集癖は看過できない。大人しく同行願うよ」

 

 

 そう言って彼女が剣を持たない手に取り出したのは……『咎人の腕輪』。

 

 

「キミの生き方を否定する気はないけれど、財宝教は、ボクは、その生き方を阻む!」

 

 

 交渉は決裂。

 ならばもう、あとは思いと覚悟をぶつけ合うだけだ。

 

 

「それは困る。困るから……俺もあんたは嫌いじゃないが、押し通させてもらうぜ!」

 

 

 避けられない戦いを前に、俺もまた、啖呵を切って向き合った。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「おいおい、こりゃどういう状況だ?」

 

「勇者様がまた誰かと戦ってる……って、あいつは!」

 

「白布だ、レアアイテムハンター名乗って開かずの扉を抜けてった白布だぞ!」

 

「なんであいつが勇者様と?」

 

 

 こっちの騒ぎに気づいてやってきた村人たちも続々集まって、いよいよ逃げ場がなくなった。

 

 

「ナナとメリーは手を出すなよ! 色々な意味で、アウトだから!」

 

「そんな、主様! わたくしは……!」

 

「りょーかいしたわ! ほら、あなたはこっち!」

 

「ふわぅっ、あるじさまぁぁぁぁーーー……!!」

 

 

 メリーがナナを引っ張ってってくれたおかげで広々と空間が使えるようになる。

 さすがのさすがに、人々の守護者にして世界を牛耳る宗教の庇護下にある勇者様とことを構えろとは、口が裂けても言えやしない。

 これだけのギャラリーを前にしてとなれば、なおのことだ。

 

 

(長居は無用、それでもやり合うしかないってんなら、俺一人で挑む方がいい)

 

 

 なぜならば、そう!

 

 

(一発で決める! 対人必殺の初見殺し!!)

 

 

 俺には、コレがある!!

 

 

「《ストリッ》……い!?」

 

 

 開始のゴング代わりに魔法を使用。勇者を視界に捉えようとして――驚愕に言葉を失う。

 

 

「テトラ! 対魔法戦士タイプで行くわよ!!」

 

「了解!」

 

 

 それは耳に入ってきた、事前に取り決めてあったのだろう作戦実行の合図と。

 

 そして――!

 

 

「『風精霊のブーツ』よ! 力を貸して!!」

 

 

 アイテムの力を引き出した勇者テトラが見せた、奇っ怪な初動への驚きだった。

 

 

 

「――フゥッ!!」

 

 うねんうねん、ぐねんうねん。

 

(な、なんだぁこりゃぁ!?!?)

 

 

 

 それはおそらく……特殊な歩法のようなもの。

 酔拳のようにゆらゆらと捉えどころなく、けれど追い風を受けて舞うその速度は残像すら伴うほどの加速を持っていて。

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

「くっ!!」

 

 

 気づけば俺の目の前に迫り、流れるような動作で斬撃を放ってくる。

 

 

「……このっ! なんだぁそのキモい動きはぁ!?」

 

「キ、キモくないよっ! ちゃんとした勇者流暴徒鎮圧術のひとつだよ! っていうか、遅いっ!!」

 

「ぬぁっ!?」

 

 

 反撃が、目が、追いつかない!!

 まるで俺からの視線が分かっているかのような不定形な歩法で勇者テトラが近づいてきて、そして離れていく。

 

 そのぬめらかな動きをたとえるならば、スライムだ。

 時に自らの形を変えてでも速度を保ち続け、疲労という概念などないかのように動き続ける。

 

 人がおよそやっていい動きではないそれを、勇者テトラは装備と己の技量でやってのけている!

 

 

(いやまぁ! モノワルドの装備があればそのくらいの動きをやってのける奴もいるだろうがな!?)

 

 

 実際に人の身でそれをやる奴なんて初めて見たぞおい!

 あの日見たスパイメイドのノルンさんより身のこなしすごいんじゃね!?

 

 

 

「これで、キミはボクに魔法を当てられないね!」

 

「くっ……!!」

 

 

 対魔法戦士って、そういうことか!!

 

 

(これじゃ《ストリップ》どころか、弱体(デバフ)系の魔法も叩き込めねぇ!?)

 

 

 《ストリップ》の効果を十全に発揮するには、相手の位置を正確に把握することが必須だ。

 場所さえしっかりと分かっていれば、目を閉じて発動させても効果を発揮することができる。

 

 そのために俺は幼少のころからパンツを……もとい、見えない場所にあるものを意識する訓練だってしてきたんだ。

 だがこんなに動き回られたら、それこそ範囲魔法で全部ドカンっとやるくらいじゃねぇと巻き込めねぇ!!

 

 

(あれだ、TCGで対象を取るって指定されてる魔法カードに対抗する、対象に取られないってキャラカード効果持ってる奴!!)

 

 

 《ストリップ》は単体から複数の対象を取って発動させる魔法だ。

 ワンチャンあるかもだが、闇雲に発動させて、しくじりでもしたらもう次はない!

 

 

(くっそ、そんなんありかよ……!!)

 

「――そこ! はぁぁぁっ!!」

 

「しまった、ぐぁっ!!」

 

 

 振り上げられた一撃を受け、『増魔の剣』を握っていた俺の手が跳ね上がる。

 相手の動きに惑わされていたせいで、大きなスキが生まれた。

 

 

「やばっ!」

 

「ったぁぁぁ!!」

 

 

 ぐるんっと一回転してからの、全力の横薙ぎの一撃。

 おそらく魔法かアイテム効果で加速されている動きについていけず、俺はそれをまともに食らってしまった。

 

 

「ごぁ――っ!?」

 

 

 吹っ飛ぶ。

 空中で螺旋軌道を描きながらぶっ飛ばされて、俺は地面に衝突する。

 

 

「げっ、んがっ、ほぎゃっ!?」

 

 

 そのまま水切り石みたいに地面を跳ねて、転がって、最後はズササーっとうつ伏せに大地を滑った。

 装備適性Aが引き出した防具たちの力で被害が抑えられはしたが、特に守られてない鼻とかからブーっと血が飛び出した。

 

 

「お、おい。大丈夫かにいちゃん?」

 

「っていうかなんで勇者様と対立を……」

 

「《イクイップ》」

 

 

 悪いが答えてる暇はないんだ皆の衆。

 

 立ち上がるために装備を補助杖に。

 すぐさま身を起こして俺は続けざまに魔法を使った。

 

 使用した魔法は二つ。

 

 

「《カソーク》! 《オールゲイン》!!」

 

「うおっ!?」

 

 

 速度重視のバフを掛け、迫りくる追撃に対応する!

 

 

「ぜぇい!!」

 

「なんのぉ……って、ああっ!?」

 

 

 バキッ!!

 

 補助杖が真っ二つに折れたーーーー!

 それなりに愛着持って使ってたのにーーーー!!

 

 

「手荒にいくよ!」

 

「ごめん被る!!」

 

 

 即座に刺突してきた勇者の刃をバフ掛かった体で無理矢理に避け、ダッシュで逃げる。

 

 

「待て!」

 

「待たぬぅぅ!! 《イクイップ》!!」

 

 

 またあのぬるぬる移動で追撃してくる勇者と距離を保ちつつ、新たに装備変更!

 

 

(『ぎんの手』! これなら相手の一撃を無理矢理受け止めて、その隙に《ストリップ》をぶち込める!!)

 

 

 手に入れてから活躍しまくりの俺の頼れる相棒!

 今日の使用回数は1回。まだあと2回使える!

 

 

(さすがに発生させた障壁が、バターみたいにサックリ切られるってことは、ないはず! ないよね!? 信じてるぜ相棒!)

 

 

 安心と信頼の実績を持つ籠手を装備し方向転換!

 

 

(勇者様ご自慢の一撃。真っ向から受け止めてビックリさせてやる!)

 

 

 相手の動きをほんの少し止めるだけでいい。

 たった一発の魔法で、俺はこの勝負に決着をつけられるのだから!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 逃げるのをやめた俺の動きに気づき、勇者テトラが一定の距離を保って声をかけてきた。

 

 

「!? 諦めたのかなっ?」

 

「まさか! 勇者様との力比べがしたくなった、だけだ!」

 

「それ嘘だって、バレバレだからね!?」

 

「うっひょーい!」

 

 

 こういう打てば響くタイプの子、俺好きー!

 さっきから割と真面目に大ピンチなはずなのに、心にめっちゃ余裕がある~!

 

 

「主様……先ほどから何かご様子がおかしい気が」

 

「あいつ、至竜様とやり合ったあとだもの。心のブレーキぶっ壊れてるんじゃないかしら」

 

「!? そうです。主様にはすでに至竜様との戦いで蓄積された疲労が……!」

 

 

 ハッハッハ、聞こえな~い! 

 どっちかっていうと今の俺、最高にハイってやつだからなぁ~~!!

 

 

 

「罠だろうが何だろうが、チャンスよテトラ! アレを使いなさい!」

 

「わかった!」

 

「来るか!」

 

 

 どんな大技だろうがその攻撃の瞬間に隙ができる!

 

 迫りくる勇者に向かい俺は『ぎんの手』を構え、起動する!!

 

 

「守ってくれ! 『ぎんの手』ーーーー!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ここが勝負の決め所!

 振り下ろされた勇者の刃を、『ぎんの手』から展開した障壁で受け止め――!!

 

 

 

 

「勇者魔法! 《ブレイク》!!!」

 

「へぁ?」

 

 

 

 

 突如として蒼白に輝いた刀身が、攻撃を受け止める障壁を“すり抜け”、『ぎんの手』に触れる。

 

 次の瞬間。

 

 

 バキーーーーーンッ!!

 

 

「えっ」

 

 

 まるでガラスが砕けるかのような音が響くと同時に。

 

 

「えっ?」

 

 

 俺の手に装備されていた『ぎんの手』が、粉々にはじけ飛んで消失した。

 

 




咎人の腕輪(HR)
財宝教で独自に製造されている、拘束具系アイテム。
《エンチャント》された者は神の名の元に多数な弱体効果を受け、装着者に限らず、財宝教の特定の権限を持つ者の命令に逆らえなくなる。
主に犯罪者の拘束に使われており、その性質は『隷属の首輪』と非常に類似している。
財宝教の一部の神罰代行者や勇者などが所持しており、“基本的には”悪行を行なう者の拘束に使用されている。


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次回、レアアイテムを破壊されたセンチョウは……!


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第075話 発現!新魔法!!

うおおおお!! 間に合いました!!(投稿予定日当日の21時)

燃え上がる75話をお届け!!
楽しんでってください!


 

 

 アイテムは損傷し、破壊されることがある。

 だがSR以上のレアアイテムであれば、損傷を回復し元の形に戻ったりする物も出てきて、破壊消失といった事象からはほぼほぼ無縁になるという。

 

 俺の装備していたURアイテムの『ぎんの手』も、手入れいらずで多少の傷なら翌日には綺麗サッパリなくなってるような、そんな優秀なアイテムだった。

 

 だがそれは、今。

 

 

「えっ?」

 

 

 俺の目の前で砕け散る『ぎんの手』。

 光の粒子になって世界に溶けていくそれが、今生の別れだというのはすぐにわかった。

 

 

(《イクイップ》することで感じられていた装備の強化効果が……消えた?)

 

 

 ついさっき、愛用していた補助杖が破壊されたときに感じたものと同じ感覚。

 体から力が抜け、続く相手の攻撃をどう捌けばいいのか、鮮明に浮かんでいたイメージが消し飛んだ。

 

 ただただ俺の瞳は剥き出しになった腕を見つめ、その向こうの勇者の顔を見る。

 

 ハイだったはずのテンションが、一気に冷えて、落ちた。

 

 

「………」

 

 

 勇者テトラの申し訳なさそうな、けれどそれ以上に、こちらへと強く向けられる敵意の目。

 

 ああそうだ。今はこの子と戦闘中で――。

 

 

 

「主様!!」

 

「白布!!」

 

「!?」

 

 

 咄嗟に、バックステップを踏んだ。

 

 

「たぁ!!」

 

 

 下から振り上げられた剣の一撃が鼻先を掠め、俺の前髪を何本か持っていく。

 

 

「まだまだぁ!」

 

「!?」

 

 

 相手の攻撃を“受けちゃダメだ”。

 そう本能で悟った体は続く刃を避け、再び大きく距離を取り、勇者と間合いを作る。

 

 

「うっそ! 今の連撃を凌ぎ切るの!? もしかしてあいつ、靴装備適性もA以上だったりする?」

 

「剣も、補助杖も、籠手も……どれも一流の使い方だった。ラウナベル、彼は強いよ」

 

 

 追撃はない。

 どころか、相手の足が初めて止まっている。

 

 

(今、使えば……勝てる)

 

 

 間違いなく今こそ《ストリップ》の使い時。

 だっていうのに……!

 

 

(力が、入らねぇ……)

 

 

 どういうわけかプスンと力が抜けていて、俺の体は、使い物にならなくなっていた。

 

 そんな俺を、一つの思考が染め上げ、支配する。

 

 

 

(俺の、俺のレアアイテムが、破壊されちまうって?)

 

 

 

 勇者魔法《ブレイク》と勇者テトラは言った。

 もしもそれがその言葉通りの効果なのだとしたら、こいつは間違いなく……俺の天敵である。

 

 

「ボクも、出来ればこんなことはしたくないんだ」

 

 

 天敵が、俺に剣先を向ける。

 

 

「でも、キミが世界を混乱に導く可能性があるのなら、そう在ろうとするのなら……キミが大好きなその装備たちを、全部、壊させてもらう」

 

「!?」

 

 

 その言葉には彼女の、勇者テトラの本気が120%、込められていた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「いいぞー! 勇者テトラー!」

 

「かっこいいー!」

 

 

 歓声が上がる。

 声を上げたのは観客の村人たちだろうか。

 

 でも、ああ、なんかそれ、妙に遠くに聞こえるな。

 

 なーんも、頭に入ってこない。

 

 

「主様だってカッコいいですよー!」

 

「おっ、嬢ちゃんは白布推しか! 応援してやれよ!」

 

「はい。主様はわたくしの最推しにして単推し、人生をかけたライフワークにございます」

 

 

 なんかこっ恥ずかしいやり取りも聞こえた気がするが、やっぱり頭に入ってこない。

 

 

(そんなことよりなによりも……このままじゃ俺のレアアイテムたちが壊されちまう)

 

 

 今まさに直面している危機に、俺の心が絶望している。

 

 

(……いや、俺の大事な物(レアアイテム)はもう、壊されてしまった)

 

 

 俺の手にあったはずの『ぎんの手』は、もう跡形もない。

 装備効果が消失していることからも、完全に破壊されてしまったと考えるしかない。

 

 

(相棒……)

 

 

 ダンジョン攻略の時も、ミミック戦でも、旅の途中でも、至竜との戦いでも、俺の、俺たちの身を守り続けてくれた信頼のおける防具だった。

 

 

「戦意がなくなった? ……なら、大人しく投降して――」

 

「駄目よテトラ! アレはそういうんじゃない、警戒して!」

 

 

 いやまぁ、どんな物でも壊れるときは壊れるもんだ。

 靴はもう何足も履き潰したし、ナナにあげた装備や、補助杖だってそうだった。

 

 

(だがそれらは、装備としての役割を十二分に発揮し終えた果ての、破壊だった)

 

 

 今回は、違う。

 

 

(勇者魔法? 《ブレイク》? 問答無用でアイテムを破壊?)

 

 

 なるほど。

 そんな魔法がありゃ、確かに勇者は世界の治安を守れるし、人々の守護者にもなれる。

 

 実際にダメージを与えるものじゃないから、『ぎんの手』の守りもすり抜けた。

 いや、そもそも神の采配でその辺スルーできる魔法なのかもしれない。

 

 

(いずれにしても……だ)

 

 

 役目を果たせず、相棒は……『ぎんの手』は破壊されてしまった。

 

 それも、お手軽簡単ポンッと唱えられた、勇者の魔法とやらで。

 

 

(使い潰すくらい使われた果ての破壊なら、納得もいくが、これは……)

 

 

 レアアイテムを集めて使う、俺の生き方に対する……冒涜だ!

 

 

 

「………」

 

 

 冷えきった心に、火が点る。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「……! テトラ! 動きなさい!」

 

「!? っ!!」

 

「それはなぁ……許せねぇよなぁ!?!?」

 

 

 道具は、レアアイテムは……使われるために俺の手に集まっているのだから!

 

 お手軽魔法で強制破壊なんて狼藉は……見逃せねぇ!!

 

 

(何よりそんなことされちゃ……アイテムコンプが、できなくなるだろうがぁぁ!!)

 

 

 心が、吼えた!

 

 

「勇者魔法《ブレイク》……お前にだけは、負けるわけにはいかねぇ!!」

 

 

 その瞬間。

 俺の叫びに呼応して、腰に巻いていた『ゴルドバの神帯(しんたい)』が光を放ち始める。

 

 

「……えっ?」

 

「なに、ラウナベル。どうしたの?」

 

「……うそ」

 

 

 碧緑の淡い輝きが俺の全身を包み込み、心の底から力を湧き上がらせる!

 

 いや、心からじゃない。これは……俺の装備たちから伝わってきている力だ!!

 

 

(『ゴルドバの神帯』から……新しい魔法の知識が流れ込んでくる!!)

 

 

 魂が猛る!

 

 俺は思いのままに、その呪文を唱えた!

 

 

 

「装備魔法! 《メンテナンス・ヴェール》!!」

 

 

 

 俺を包む淡い輝きが、光の柱となって俺の体から舞い上がり、そして――。

 

 

「………」

 

 

 俺の身に着けている装備たちに、大きな変化が起こっていた。

 

 




ゴルドバの神帯(GR)
モノワルドの創造神にしてセンチョウを転生させた神様が巻いてた布。臭くないよ。
装備者の持つ装備適性を全て2段階アップさせる。
また、神性装備適性と特定の経験、行動によって新たな力を装備者へ授ける。
どのような力が与えられるのかは……神のみぞ知る。


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次回、新たな装備魔法、その効果とは!


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第076話 装備を守る力!

セーフ、セーフです! 第4コーナーを曲がって大きく加速しました!
76話をお届けします!

感想が本当の本当の本当に力になっています!
ありがとうございます!!

うおおおおお! いくぞぉぉぉ!!


 

 

「……んん?」

 

「何も変わって、なくないか?」

 

 

 “それ”がわからないギャラリーは、口々に疑問の声を上げた。

 

 

「……あれは!」

 

「わたくしにはわかります。主様が、そのお力の一端を開放なされたのだと」

 

 

 頼れる仲間は、“それ”を見逃さなかった。

 

 そして。

 

 

「ラウナベル、何が起こったっていうの?」

 

「……テトラ。あいつの装備たちをよく目を凝らしてみなさい。魔力を、読み解くのよ」

 

「え? ……あ!?」

 

 

 恐るべき魔法《ブレイク》を扱う勇者テトラとその相棒も、“それ”に気がついた。

 

 

「あいつ、装備魔法って言ったわよね」

 

「《イクイップ》《エンチャント》……ヒトに、神が与えた魔法のこと、だよね?」

 

 

 考察し始めた二人に向かって、俺は自らこの力について説明する。

 

 否、正確には……何が起こったのか、その結果だけを、伝える。

 

 

「悪いがもう……俺の装備はあんたらにゃ、どうにもできないぜ!」

 

「「!?」」

 

 

 俺の体から、俺の装備しているアイテムたちから、碧緑の輝きが放たれている。

 これは、魔力を見る目で見なければ、存在の知覚すらできないうっすらとした光。

 

 そんなか弱い輝きが、しかし、この場の何よりも、強い。

 

 

「装備魔法……《メンテナンス・ヴェール》」

 

 

 財宝神ゴルドバから奪ったGR(ゴッドレア)アイテム……『ゴルドバの神帯』が教えてくれた、俺の望みを叶える魔法!

 

 

「さぁ、勇者魔法《ブレイク》で来い!!」

 

 

 俺は真正面から身構えて、勇者テトラに手招きをした。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「キミが何をしたのかはわからない、けど……!」

 

 

 俺の挑発に、勇者は見事に乗った。いや、応えてくれた。

 

 

「キミの行く先が変わらない限り! ボクはキミを止めてみせる!」

 

「あっ! 待ちなさい、テトラ!!」

 

 

 一切回避する素振りを見せない俺に向かって、真正面から突撃し。

 

 

「キミの装備を破壊する!! ――《ブレイク》!!」

 

 

 こちらの望み通り、勇者魔法《ブレイク》を刃に乗せて、振り下ろす!

 

 

「白布!!」

 

「あるじさまーーー!!」

 

 

 斬撃は確かに俺の肩から胸、そして脇腹を通過し、刃が抜けていく。

 だがその刃に一切のダメージを発生させる力はないのか、本当にただ、通過した。

 

 そして。

 

 

「……そんなっ!?」

 

「残念だったな?」

 

 

 俺の装備は、何一つとして破壊されることはなかった。

 

 

(これが、装備魔法《メンテナンス・ヴェール》!)

 

 

 俺の装備を包む碧緑の輝きの膜は、装備に対するあらゆる理不尽な破壊を許さない。

 モノワルドにおいて神が定めた正しい損耗、正しい破壊に従ってしか、これらは壊せなくなる。

 

 

(そしてこれは俺だからわかる……今の俺の装備は《ストリップ》でさえ、奪えない)

 

 

 理不尽な略奪も、許さない。

 

 

「装備を絶対に守る魔法……それがこの《メンテナンス・ヴェール》の力だぁ!!」

 

「くっ、ぅわぁぁ!!」

 

 

 《ブレイク》の掛かった勇者テトラの剣を、『増魔の剣』で跳ね返す!

 

 

「テトラー!」

 

「勇者様が、押し返された!?」

 

「いったい何が起こってるんだ!?」

 

 

 状況が変わる。潮目が変わる。

 防戦一方だった俺が反撃に転じたことで、この場の誰もがそれを実感する。

 

 

「メリー様! 主様が!」

 

「はいはい。変なテンションだったのも落ち着いて、いつもの顔になってるじゃない」

 

「はい。いつも通りの、お力強い、わたくしの主様です……!」

 

 

 相手の切り札は使わせた。

 

 屈辱の犠牲はあったが……それを俺は、乗り越えた!

 

 

「さぁ、ここからが本番だぜ、勇者様!!」

 

「っ!!」

 

 

 お仕置きまでのカウントダウン、スタートだ!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「うおおおおおっ、行くぞーー!!」

 

「負けるもんかぁ!!」

 

 

 真っ向勝負で打ち合う。

 剣戟を一合、二合と合わせていけば、相手の力量が見えてくる。

 

 

(……なるほど。基本的なスペックは、通常のナナよりちょっと強いくらいなのか)

 

 

 刃を交えてわかるのは、相手の剣の取り扱い方。

 おそらく装備適性はCくらい。Bにも届きそうだがまだ至ってない感じに思う。

 

 

「真正面から打ち合ったらダメ! 速度重視のヒット&アウェイよ!」

 

「わかった! 力を貸して、『風精霊のブーツ』!!」

 

 

 セコンドの妖精さんの助言を受けて、勇者テトラが例のうねうね歩法で距離を取る。

 

 

「装備が破壊できないなら、動けなくなるまで叩くだけだよ!」

 

「……!!」

 

 

 《メンテナンス・ヴェール》は装備を守る魔法だ。

 つまり、別に俺の防御力が上がったりするわけじゃないし、ダメージは普通に通る。

 

 だから装備者である俺をぶちのめして意識飛ばすのが、大正解!

 

 

「さっすが、勇者様賢い!」

 

「バカにしてぇ!!」

 

 

 《ブレイク》が通じなかった動揺が後を引いているのか、勇者テトラの攻め方に乱れがある。

 それでも鍛え抜かれた技術は冴えを失わず、俺の魔法の狙いから外れ続けているのはさすがの一言だ。

 

 だが、それも今となっては、状況が違う!

 

 

「悪いが、変な縛りも出し惜しみも、なしだぜ! 《イクイップ》!」

 

 

 そもそも受け身になってたのが、間違いだったんだからな!

 俺は左手に《光のドラゴンオーブ》を再び掴む。

 

 ここはド派手な方がいい!

 

 

「いけない、テトラ! 防御魔法!! ……この場の全員に!!」

 

「!?」

 

「そらぁっ! 守ってくれよ、勇者様! 《シャイニングレイン》!!」

 

 

 天に掲げたオーブから放たれる光の玉が、空中で無数に分裂する。

 

 

「うわあぁぁぁぁ!! 勇者魔法! 《エクストラプロテクション》!!」

 

「どっせぇぇぇぇぇい!!」

 

 

 勇者の張った『ぎんの手』によく似た広域の障壁に向かい、言葉通りの光の雨が、いつか見た矢の雨と同じ軌道を描いて降り注ぐ!!

 

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

「うわー! だめだー!」

 

「あの男、頭おかしいんじゃないのぉ!?」

 

「あるじさまー!」

 

「ばかばかばかばか、あんぽんたーん!!」

 

 

 ギャラリーも大はしゃぎで結構!

 

 しっかり意識も上に向いているようで何より!

 

 

「さぁ、仕上げだ!」

 

 

 光の矢の雨が降る中、敵すらまとめて守るでたらめな障壁の下で、俺は動く。

 

 

「く、ぅぅ!!」

 

 

 ターゲットは魔法の維持で手一杯! しっかりと足止めされている!

 

 

「!?!? テトラぁぁ!!」

 

 

 妖精さんが気づいたみたいだが、もう遅い!!

 狙いはバッチリ、定まった!!

 

 

「お仕置きの時間だ……! 《ストリーーーーーーーーップ》!!」

 

「!?!?」

 

 

 魔法発動!

 

 俺の切り札が、勇者の装備を剥ぎ取った。

 

 




勇者の下着セット:LDW(SR)
財宝教の技術班が拵えた勇者専用の下着セット。
勇者装備適性D以上の者が装備した場合、通常の下着効果に加えて自然治癒力が向上する。これは、勇者装備適性が高ければ高い程効果が上昇する。
デザインパターンが複数存在し、LDWはLady向けDセットWカラーの略で、純白のブラジャーとパンティはどちらも、天使の羽をイメージした意匠が施されている。

「なお、勇者の下着セットはひとつ手に入れれば図鑑的にはOKでございますが、フルコンプすると実績が手に入りますでございます」(言:アデライード)


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次回、勇者の下着セットを紹介したということは、そういうことです。


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第077話 その時、歴史が動いた!

ここからはいわゆるエンドフェイズ。
終わりへ、締めへと向かいます。最後までよろしくお願いします。


 

 

 光の矢の雨が止んだとき、勝負は着いていた。

 

 

「……た、助かった、のか?」

 

「勇者様が、私たちをお守りくださっていたわ」

 

「そうだ。勇者様……!」

 

「勇者様はどうなった!?」

 

 

 ギャラリーたちが、視線を空から、勇者へと向ける。

 

 そこには――。

 

 

「………」

 

「「「え?」」」

 

 

 女の子座りで地面にへたり込む“全裸の”勇者テトラの姿があった。

 

 

「……ひ」

 

「「「ひ?」」」

 

「……ひにゃあああああああああああ!?!?!?!?!?」

 

 

 勇者の可愛い絶叫が、ドラゴティップの村に響き渡った。

 

 

「ゆ、勇者様が全裸だー!?」

 

「なんてこった! 健康的な褐色肌にまだまだ成長途中の女の子ボディが丸見えだ!」

 

「ボーイッシュ勇者ちゃんが恥じらう姿……わたし! 嫌いじゃないわ!」

 

「同意しますぞレディ!」

 

「なんっ、なんで!? なんでぇぇぇぇ!?!?!?」

 

 

 ギャラリーたちと、涙目になった勇者テトラが大騒ぎする。

 

 

「ちょ、やめて! ボクを見ないで! 見ないで見ないでーーーー!!」

 

「おあー! 誰か勇者様に着るもの持ってこーい!!」

 

「体操服があります!」

 

「スク水があります!」

 

「王立学園の制服しかねぇ!」

 

「ゴスロリならわたしが持ってるわ!」

 

「勇者様! 選んでください!」

 

「もー! どれでもいいから早く渡してくださーーーーい!!」

 

 

 

 その一方で、実は俺の方でも緊急事態が発生していた。

 

 何が起こったのか。

 

 それは――。

 

 

「ちょ、このっ! 離せ! 離しなさいってば!!」

 

「……Why?」

 

 

 俺の手の中に、どういうわけか勇者の相棒、妖精ラウナベルが握られていたのである。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「え、なに。どういうこと?」

 

「いや、俺にも何が何やら……」

 

「だーかーらー! はーなーせー!」

 

 

 俺の手の中でジタバタジタバタしている妖精を、軽くキュッとする。

 

 

「ぷぎゅる」

 

 

 取り扱い注意だ。

 

 

 

「……主様。主様のお力で、その妖精を捕らえたのではないのですか?」

 

「多分だが、そうなるな」

 

 

 勇者に向かって放った全力の《ストリップ》。

 俺は確かに、勇者テトラが身にまとう装備の、そのことごとくを奪い取った。

 

 

(『風精霊のブーツ』に、勇者の持ってた剣、服に、ローブに……下着。全部、『財宝図鑑』に収納した)

 

 

 その上で、俺の手にはこの、妖精ラウナベルが握られていたのだ。

 

 それってことは……。

 

 

「……つまり、そういうことなのか?」

 

 

 ラウナベルを観察していたメリーを見れば、彼女は静かに頷いて。

 

 

「……どうやら、そういうことみたいね」

 

 

 俺の考えが正しいことを認めた。

 

 

「マジかー」

 

「ちょ、それって《神の目》!? やだ、こっち見んなーー!!」

 

「あ、ごめんなさい。もう見てしまったわ……LRアイテムの『導きの妖精ラウナベル』さん」

 

「ふぐぅっ!!」

 

 

 メリーからの致命的な呼称に、俺の手の中で暴れていたラウナベルがへなへなになる。

 

 

「妖精とは、レアアイテムだったのでございますね」

 

「意外な事実って奴だな」

 

「もっと深く視たら知識も得られそうだけど……ちょっとこれ以上はまだ辛いわね」

 

「ありがとう、メリー。頑張りすぎなくていいぞ」

 

 

 《神の目》を使わなくても、せっかくしゃべれるんだから聞けばいい。

 

 だが、そんな俺の考えは見透かされていたようで。

 

 

「……言っとくけど、あんたたちに与える情報なんてひとっつもないんだからね!」

 

 

 お腹むにゅっとされたらピンチな状況にも関わらず、ラウナベルに強気な態度で宣言された。

 

 

「っていうか、あんたよあんた!」

 

「俺か?」

 

「そう! 白布だっけ? そうよそう! この『白布』! あんたのこれってゴもごごごご!」

 

「おおー、妖精の顔って赤ちゃんみたいにムニムニだぁ」

 

「ひょっほ! ひゃめひゃひゃいほひょ!」

 

 

 ぷにぷにむにむにの顔をこねくり回して黙らせる。

 

 

(あっぶねー! 今こいつ、間違いなく俺の『ゴルドバの神帯』を認識してGRアイテムだって言おうとしてたな!?)

 

 

 ちょっと、アデっさーん!? 隠蔽効果効いてませんよー!?

 

 

「主様、主様。妖精がぐったりしていらっしゃいます」

 

「おっと」

 

「ぷにゃぁ……ううう」

 

 

 指の動きを止めれば、ラウナベルが肩で息をしながら恨めしそうにこちらを見ていた。

 

 ……おやおや、これはこれは。

 

 

「白布。変なこと考えないの」

 

「はい」

 

 

 変なこと考えません。だから魔杖を俺のほっぺにぐりぐりしないでくれ、メリー。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「勇者様を宿にお連れしろー!」

 

「どれがいいか選んでもらうんだー!」

 

「運べ運べー!」

 

「え、ちょ、待って。ここで《イクイップ》すればいいだけじゃ、わぁぁぁぁ!! ラウナベル! ラウナベル~~!!」

 

 

 なんか勇者が運ばれている一方で、俺たちとラウナベルとの対話は続――。

 

 

「うおー! は・な・せ! テトラが! テトラがピンチなのよー!!」

 

「まだ話は終わってねぇぇぇ!!」

 

 

 小さい割にパワーがあるラウナベルと加減しなきゃいけない俺の、謎の力比べが発生していた。

 

 

「だーかーらー! 敵のあんたたちに話すことなんてないの! 財宝教を、勇者を相手にした意味、ぜっっっったい、わからせてやるんだか、らぁぁーー!!」

 

「そっちがいちゃもん付けて喧嘩吹っ掛けてきただけだろうが、正当防衛だ!」

 

「至竜の相手、押しつけてきたくせにー!」

 

 

 むにむに、ぐぐぐ。

 互いに譲れないモノのために行なう、エンドレス・バトゥル。

 

 

「っていうか、私は勇者専用! あんたらはどうせ装備できないんだから、諦めなさい!」

 

「あ、そうか。《イクイップ》」

 

「へぇ?」

 

 

 アイテムなら装備できるんだ。

 俺の装備適性は、すべてに適用される。それに『ゴルドバの神帯』効果で、適性はAだ。

 

 つまり俺の勇者装備適性は、Aなのだ。

 

 

 

「え? あ? はぁぁぁぁぁん!?」

 

「おお!?」

 

 

 俺の手の中で、ラウナベルがビクンビクンと悶え、甘い声を上げる。

 それと同時に俺の中で、色々な能力に強化(バフ)が掛かったのを自覚した。

 

 

「え? え? なんで? あ、なに。居心地がいい……そんな、そんなこと」

 

「どうやら、装備できたみたいだな」

 

「なんで、あんたが……いえ、あなたは……」

 

 

 俺に装備されたラウナベルの瞳が、段々とトロンとした物になっていく。

 

 

「あ、ダメ。そんな、私は導きの妖精なのに……あ、この勇者の才能は……ふにゃああ!」

 

 

 手の中で、もう一度ビクンっと身を震わせたラウナベルが、再び俺を見る。

 

 その瞳には、ハートマークが浮かんでいた。

 

 

「あなた、あなた、勇者の素質が大有りよ! ねぇ、私の導きを受けて、勇者になりましょう? ね? ねっ!」

 

「お、おう」

 

 

 ついさっきまでと180度違う態度に、ドン引きである。

 

 

「は? 白布が勇者?」

 

「さすがは主様。勇者としての素質も当然のようにお持ちだったのですね」

 

「あー、あー、まぁ?」

 

 

 あいまいに返事を濁していれば、指先にゾワリとした感触。

 ラウナベルが、愛おしげに俺の指へと頬を擦りつけていた。

 

 

「あなたの才能、絶対に私が開花させてみせるわ。あなたなら勇者装備適性Sも夢じゃない!」

 

「うおいっ、さすがに変わり身がやばいだろ。テトラちゃんはどうするんだテトラちゃんは」

 

「あの子の才能も本物よ。間違いなく大成する。でも、こんなの知っちゃったら体が……」

 

「うそ……」

 

「「!?」」

 

 

 勇者テトラが、戻ってきていた。

 

 体操服だった。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「うそだよね……ラウナベル?」

 

「………」

 

「うそだって言ってよ!」

 

「……ごめんなさい、テトラ。私は今、この人の装備なの!!」

 

「そんな、うそ、うそだ……うそだーーーーー!!」

 

「いや、さすがに返すわ」

 

「「へっ」」

 

 

 装備を解除し、ラウナベルをポイっとテトラへ投げ渡す。

 

 

(『財宝図鑑』への登録は完了してるし、なんかめっちゃ面倒くさそうだったからな)

 

 

 LRアイテムを惜しむ気持ちはあるが、持ち主がハッキリしてるならすぐまた見つけられる。

 っていうか、せっかく回避した財宝教傘下ルートに無理矢理ねじ込まれそうだし、ゲットするにしてもあとの方がいいよな。

 

 

「えっ、そんな! うそよ! 私に夢を見せるだけ見せて捨てるっていうの!?」

 

「ラウナベル!?」

 

 

 昼ドラ展開続くのぉ!?

 

 

「そんな! 最高の勇者が! 奇跡の人ができるかもしれないのに!!」

 

「それはそこの勇者様でもできるだろ。才能あるらしいし」

 

「それは……でも!」

 

「ってことで、勇者テトラ。それは、お前さんのそばに置いといてやる」

 

「!?」

 

「だが、お前さんが身に着けてた勇者装備は、俺が預かる。こっちは色々と役に立ちそうだしな」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「ん?」

 

 

 なんかテトラだけじゃなく、ナナとメリーからも刺す視線がきた?

 え、なに? なんでモジモジしてんの?

 

 

「こほんっ! あー、つまり。この場は俺の勝ちってことだ。おーけい?」

 

「………」

 

 

 気を取り直して本筋を語れば、テトラのこっちを見る目が鋭くなる。

 ……が、俺の言葉を否定することは遂になかった。

 

 

「……勇者様が、負けた?」

 

「白布が、勝った?」

 

「……マジかよ。勇者が負けただって!? 大ニュースだ!!」

 

「至竜アルバーの怒りを鎮めた勇者テトラ! その勇者テトラに勝った、レアアイテムハンター!」

 

 

 やり取りを見ていたギャラリーが、口々にその事実を口にする。

 

 

「勇者が、敗れた!!」

 

 

 それはモノワルドの近代史における、大きな歴史の始動点だと、のちの世に語られる。

 

 曰く、この時から……世界は群雄割拠の時代を迎えたのだ、と。

 

 

「よし、ズラかるぞ! ナナ、メリー!」

 

「はい。主様……!」

 

「これ以上目立ったら動けなくなるわ、急ぎましょう」

 

 

 逃げる俺たちを追う人はいない。

 誰もが目の前で起こった信じがたい出来事を前に、騒ぎ続けていた。

 

 

 ドラゴティップの村を外れた森の中から、一匹のドラゴンが飛び去って行く。

 それを正しい瞳で見つめているのは、勇者テトラと妖精ラウナベル。

 

 

「レアアイテムハンターの、白布。ボクが絶対に、止めてみせる……!」

 

「あぁ……白布、様」

 

「……絶対、絶対。リベンジするんだからーーーー!!」

 

 

 深い絆で結ばれた二人に、食い込むような傷跡を残して。

 

 




導きの妖精ラウナベル(LR)
世界の自然運用をサポートするURアイテムである妖精。その中でも勇者を導いたことで昇格し、LRとなった妖精の1個体。要、勇者装備適性D以上。
装備者は常に身体能力向上、環境適応補助、精霊装備適性・勇者装備適性成長補正を受けることができ、かつ、彼女自身が意志を持ち独自に行動し支援行動を行なう。彼女の意志は勇者育成であるため、彼女との交流はさらなる勇者装備適性成長を促す。


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次回、その後、世界は……?


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第078話 波紋疾走!

駆け抜けます!!


 

 

“六竜の試練が始まり、光の至竜アルバーを勇者が鎮め、その勇者が只人の男に敗れた”

 

 突如としてモノワルドに投じられたこの一石は、世界を大いに震撼させた。

 否、そのうわさが広まるよりも早く、世界は新たな時代を迎えた。

 

 目覚めし、六竜たちによって。

 

 

 

 ウェストル大陸北部、マナルーン魔導国。

 地下大魔導研究所。

 

 

「……あ」

 

「おや、どうかなさいましたか? シュラム様」

 

「えっと……“自由にしていい”って」

 

「「!?」」

 

「……起きても、いい?」

 

「「どうかまだ、今一時お眠りを!!!!」」

 

「おい、誰か! 魔導王様に緊急連絡!」

 

「六竜の試練が始まった!! 今、地竜様がお目覚めになると……国が滅ぶぞ!!」

 

「……ふあ~、む」

 

 

 

 ウェストル大陸南部、ドワルフ王国。

 ボルケノ山。

 

 

(待ってたぜ! この瞬間(トキ)をよぉぉ!!)

 

「ぬぁっ! なんじゃぁこの声は!?」

 

「ボルケノ山の山頂から響いてきてる……って、まさか!」

 

(おう! 久しぶりだな!! オレ様の愛する洞人種(ドワーフ)たちよ!)

 

「ボンバ様! ボンバ様がお目覚めになったぞぉ!!」

 

「祭りよ! 祭りよーー!!」

 

「ってことは、あれも……?」

 

(おう! 今回も開催するぜ! ボンバ・チャレンジ!)

 

「「うおーーーー!! 炉の火を滾らせろーーーー!!」」

 

(いい武器作って、いい使い手を呼んで、掛かってこいやぁ!!)

 

 

 

 モノワルド南部海域――サウザーン諸島。

 北部、アトランティウス大海沖。

 

 

「うーい、今日は釣れねぇなぁ」

 

「こんなにいい天気で、波も安定してるのに……不思議っすねぇ」

 

「……いや、待て。なんかおかしくねぇか?」

 

「そういや海鳥もいないし……って、お頭!! あれ!」

 

「あれ? ただの商船団じゃ……なぁ!?!?」

 

「で、で、でたぁぁぁ!! ばけものぉぉ!!」

 

「商船団が一瞬で……ありゃまさか、爺ちゃんの爺ちゃんの爺ちゃんが言ってたっていう、水の至竜様?」

 

「お頭ぁ! 波がきまぁす! もうダメだぁぁぁ!!」

 

「ばっきゃろう!! 舵取れ! 生きて帰るぞ! 帰って! 大将に報告だぁぁぁ!!」

 

 

 

 イスタン大陸北部、アリアンド王国。

 コロン村。

 

 

「ぁぁ……ラライ」

 

「………」

 

「ラライ、ラライ……ラライ!!」

 

「諦めろオルスタン。こりゃ、天災だ」

 

「風の至竜様の気まぐれよ……この村も、ラライも、滅ぶ運命だったんだ」

 

「ふざけるなぁ! そんな、そんなことが、認められるか!!」

 

「!?」

 

「ラライは、優しい子だったんだ。この村で、いつまでも平和に過ごせたら幸せだって、そんなささやかな願いをもった、俺の、恋人だったんだ……こんな運命なんて、受け入れられるか!」

 

「オルスタン……」

 

「許さない。ラライをこんな目に遭わせた奴を、俺は絶対に許さない!!」

 

(………)

 

「え?」

 

(力を、与えましょう。その恨みを晴らす、強大な、力を……)

 

 

 

 モノワルド北極大陸――ノーズウェルド大島。

 闇の神殿。

 

 

(……ん? 始まったのか。そうか)

 

(世界が動く……ならば、我も多少は楽しみを饗しても構わんよな? アルバー?)

 

(さて、まずは我の使徒となるにふさわしい資質を持った者を探すところから始めよう)

 

(3年ほど掛ければ、一人くらいは見つかるか、生まれるだろう……どうれ)

 

(………)

 

(……あ? 近くに居るだけで3人? それに、これから生まれる子供にも適性あり?)

 

(は? あ? マジ? 多いのう?)

 

(……え? じゃあ闇竜教とか簡単に作れちゃう? 暗躍できちゃう?)

 

(おっほ、これは、たまらんのう!! 我、ワクワクしてきたぞい!)

 

(そうじゃな、此度の合言葉はこれにしよう)

 

(――世界に、闇の秩序をもたらさん!)

 

 

 

 地が、火が、水が、風が、闇が、世界を変えていく。

 混乱を、喜びを、困難を、悲劇を、暗躍を、そのいずれもを竜たちは与えていく。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

“六竜の試練が始まり、光の至竜アルバーを勇者が鎮め、その勇者が只人の男に敗れた”

 

 うわさが世界に広まっていく。

 時代が変わったのだと、人々は否応なく理解させられる。

 

 そして、竜が人々の世を変化させたように、人々もまた、世界に変革をもたらしていく。 

 

 

 

 モノワルド南部海域――財宝教総本山、ジーナ・イー。

 円卓の間。

 

 

「由々しき事態ですね」

 

「「はっ」」

 

「世界に六竜が解き放たれ、これよりは混沌の時代が訪れるでしょう」

 

「迫りくる闇など、我が精鋭たる勇者たちが切り裂いてくれましょう。かの光の至竜アルバーを鎮めた勇者テトラがその証に――」

 

「しかしその勇者テトラは、どこの誰とも知れぬレアアイテムハンターに敗北したと聞きますが?」

 

「くっ。それはそやつが奇妙な技を用いたと報告が上がっておる!」

 

「《ブレイク》が通じない相手、ですか……それこそ神の領域の力です。その方はもしや……」

 

「救世の使徒だと? バカらしい! 寄る辺のない者たちはすぐそうやって懸想する」

 

「なんですと?」

 

「静まりなさい、二人とも。……どうあれ、我々の威光を示さねばなりません」

 

「「はっ」」

 

「その者を、レアアイテムハンターの白布とやらを捕えなさい。……生死は、問いません」

 

「「御意に」」

 

 

 

 イスタン大陸北部、アリアンド王国。

 王城。

 

 

「そろそろ、掃除は終わったかしら。ノルド?」

 

「ハッ。前王派、王弟派の貴族たちもほぼ封じ終えました」

 

「……楽園は?」

 

「そちらもほぼ抜かりなく。獣たちはみな、幸せそうにしております」

 

「うふふ、そっか。ならそろそろ、本腰を入れるときね」

 

「ですが姫様、今は風の至竜や例の反抗組織が」

 

「問題ないわ。備えはもう十分だもの。ね?」

 

「……ハッ」

 

「むしろ世界が混乱している今こそ好機。打って出るわよ、イスタン大陸制覇!!」

 

 

 

 イスタン大陸南部、連環都市同盟第3の都市ロブロイ。

 都市長邸、会議室。

 

 

「アリアンド王国で風の至竜が暴れているとか」

 

「これは……好機ですな?」

 

「ええ、間違いなく」

 

「商いをするにしても、それ以外をするにしても……」

 

「むしろ、あの姫様がこれを機に我々にちょっかいを出すという可能性は……」

 

「はっはっは。パルパラ都市長、貴殿は家に盗人が入られてからすっかり気弱になられましたな!」

 

「む、そんなことは……というか、いつまでそのネタを擦るつもりで? ガイザン都市長?」

 

「クッフッフ。いやぁ申し訳ない。だが、今は間違いなく攻め時ですぞ」

 

「そうだそうだ。今こそ我ら連環都市同盟が動くとき!」

 

「「大陸を牛耳るのは、我々だ!」」

 

 

 

 ウェストル大陸南部、エルフィーヌ王国。

 大樹の館。

 

 

「ドワルフ王国が騒がしいわね」

 

「はぁ、なんでも六竜の試練が始まり、ボンバ・チャレンジが始まったんだとか」

 

「あら、そうなのですか。どうりで……」

 

「いかがいたしますか? 我らが女王」

 

「そうですね……六竜の試練が始まったというのなら、いい機会かもしれないですね」

 

「と、言いますと?」

 

「『世界樹』……起動させちゃいましょう」

 

「は? ……なんですとぉおおおおお!?」

 

 

 

 投げ込まれた一石が、モノワルドに幾重もの波紋を巻き起こす。

 

 そして……。

 

 

 

 ???

 

 

「――世界変革の波を観測。停止モードから待機モードに移行」

 

「――適合者発生確率を再計算……計算完了、0%」

 

「――待機モードから停止モードへ。おやすみなさい」

 

 

 

 世界は、激動の時を迎える。

 

 

 




次回、第4章完結!!


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第079話 次に目指すは……!

駆け抜け、たぁぁぁぁ!!!

第79話! 第4章の最終話をお届けです!!


 

 

 世界が色々と大変なことになっているらしい。

 いやまぁ、六竜の試練とか言って、アルバーみてぇのが暴れだしたらそりゃそうもなる。

 

 そして同時にアルバーを鎮めた勇者テトラの功績も世界に響き渡って。

 

 

「おい、聞いたぞ。勇者の嬢ちゃんひん剥いたって? バッカじゃねぇかの!?」

 

「うるせーよ、ドバンの爺さん」

 

 

 俺こと、レアアイテムハンター白布の噂も、同じように世界に響き渡った。

 

 

「どうせお前のこったから、竜の巣にも入れたんだろ? 詳しく教えんかい」

 

「やなこった。武勇伝ひけらかしても碌なことにならないって、俺は学んだんだよ」

 

 

 そんなこんなで。

 連環都市同盟ガイザンの町まで戻った俺は、ドバンの爺さんの店を訪れていた。

 

 

「っていうか、勇者装備って売れんの?」

 

「普通は売れんなぁ。装備できんし、在庫は財宝教がガッツリ管理しておるわい。じゃが、お主が提供者じゃと名前を貸してくれるなら、今ならオークション青天井じゃぞ?」

 

「いや、売る気はない」

 

 

 命張っても買いたいってやべぇ奴がいるのか知りたかっただけ。

 

 

「『勇者の剣』に『勇者の服』、財宝教の勇者ブランドへの拘りを感じるぜ」

 

「まさか、白布。お前さん装備できたりするのか?」

 

「……へへ」

 

「とんでもねぇ奴じゃのう」

 

 

 実物が見たいとか言いだしたドバンの爺さんに勇者シリーズを見せびらかしつつ、俺は物思いにふける。

 

 

(当面の目的は、ドラゴンオーブ探しでいいな)

 

 

 噂じゃ各国の要人が俺を探してるとか言われてるが、向こうから来てくれる分には大歓迎すればいい。

 できればレアアイテムの手土産とかあればなおよしだ。

 

 

(ウェストル大陸で確認されているのは光の至竜のアルバーと、風の至竜……ラーリエ)

 

 

 光の至竜の巣にはまた後日遊びに行きたいところだが、ドラゴンオーブはもらっているから後回しでいい。

 ならば目指すところは風の至竜ラーリエのところ……ってなるが。

 

 

(アリアンド王国、なんだよなぁ)

 

 

 『勇者の服』を懐に入れようとしていたドバンの爺さんから奪い返して、俺は店を後にする。

 

 

(アリアンド王国。メリーの実家があって、ナナの……獣人種を狩る施策が行われている国)

 

 

 ウェストル大陸一の国力を誇り、風の至竜相手にも堂々と対応しているという強国。

 事を構えるにはこっちも相当の力を持ってないといけないわけだが、果たして。

 

 

(……いや、深く考えるまでもないか)

 

 

 ナナが狙われているといっても、ぶっちゃけ今じゃ、俺もお尋ね者みたいなもんだ。

 なにしろ勇者を倒した大悪党、全世界に根付いている財宝教に弓引いてしまったわけだから。

 

 対立は仕方なかったとはいえ、立ち回りに大きな影響が出るのは否めない。

 

 でもだからこそ、遠慮はいらなくなったともいえる。

 

 

 

「主様ー!」

 

「おかえり。ドバンさんは元気だった?」

 

 

 通りの裏で、ナナとメリーに合流する。

 俺がドバンの爺さんに挨拶に行っているあいだに、買い出しをお願いしていたのだ。

 

 

「十分量、買いだめできました」

 

「お、えらいえらい」

 

「わふふふ」

 

「この町、いつも以上にギラギラドロドロしてたわよ」

 

「こういう町は、世界が混乱してるときの方が輝くからな」

 

「風と水、火の至竜は、すでに各地で派手な動きを見せているとか」

 

「地と闇の至竜はまだ姿を現してないらしいけど……文献によるとどっちも表に出るタイプじゃないらしいから、裏で何かしてるのかもしれないわね」

 

「へぇ」

 

 

 世間話するようなノリで変動する世界について話しながら、俺たちはおやっさんの冒険者の宿に向かう。

 白布を名乗った最初の場所であり、その初動でめちゃくちゃ世話になった場所。

 

 そこは――。

 

 

「うおおおお、白布にレアアイテムの情報買ってもらえるってのは本当かー!」

 

「白布に会わせろー!!」

 

「従者の子がロリだと聞いて来ましたー!」

 

「うおおおお、お前ら落ちつけぇ! 白布の兄貴は今はいねぇぇぇぇ!!」

 

 

 案の定、大混雑していた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 表の混乱を回避し、俺たちはこっそりと、裏口から入っておやっさんに挨拶する。

 

 

「お前、派手にやりすぎだ。バーカ」

 

「ドバンの爺さんもおやっさんもバカって言いすぎじゃない?」

 

「そうも言いたくなるくらい大暴れしてんだよ、お前は」

 

「誉め言葉なのでございますね」

 

「おう、ナナも元気してたか。ってか、結局まだ一緒なんだな。そこの嬢ちゃんと」

 

「お久しぶりです、マスター」

 

「おやっさんでいいぞ、お嬢さん」

 

 

 やいのやいのとやり合いながら、じっくりたっぷりと集まった情報を精査する。

 

 

「SR以上のアイテムの話ならこんだけあって、その中のURだとこれくらい」

 

「金で買えるならこっから出して回収してくれ」

 

「は? うおっ!? は? なんだこれ」

 

「竜の財宝」

 

 

 もはや買える程度のものなら余裕のよっちゃんなのだ。

 まずひとつ、財力に関しては十二分に手に入れられたんじゃないかと思う。

 

 

「ったく、規格外にもほどがあるぜ……だがまぁ、なら話はシンプルだ」

 

 

 SR・URならその多くは金で何とかなるだろう。

 だから、俺の目が向くのは次におやっさんが出してくれる、アイテムたちの情報だった。

 

 

「これが……今日までに集まったLRの情報だ」

 

「いやっほぅ!」

 

 

 俺はその信頼度こそまちまちだったが、たくさんの超レアアイテムについての情報を得た。

 まだ見ぬレアアイテムについて話を聞く時間は、新たな情熱を燃やすに十分な材料になった。

 

 そして。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

「次に目指すのは、アリアンド王国の王都だ」

 

 

 俺は、次なる目的地を決めた。

 

 

「メリーを実家に送り届けるって意味でも、ナナの家族がどうなってるのか確かめるって意味でも、そして何より、風の至竜のドラゴンオーブや、この事件で大陸中の強者がこぞって集まってるって意味でも、ここ以外に選択肢はない」

 

「もはやわたくしよりも主様の存在の方が、かの国にとっても重要にございましょう。わたくしが居ることで起こる危険など、些末なこととなりました」

 

 

 胸に手を当てて頷くナナは、出会った頃に比べてかなり落ち着いたように見える。

 相変わらず俺との使徒様ごっこは続いているが、主従としてはもう完成している気がしなくもない。

 

 ドラゴティップ村での出来事を越えて、彼女は独り立ちし始めているように見える。

 

 

「主様と一緒なら、どこへなりともわたくしは参ります」

 

 

 その言葉には気負いも、そして迷いもなかった。

 

 

 

「気をつけないといけない状態なのは変わらないけれどね。でも、一緒に来てくれるのなら助かるわ」

 

「実家を買い戻せるだけの金、ちゃんと回収してたんだな」

 

「当然よ」

 

 

 俺がたくさんの財宝を竜の巣から持ち帰ったように、メリーもしっかり金目の物を回収していた。

 

 

「億は手に入れたわ。王都に着いたら全部換金して、サウザンド家を取り戻す!」

 

 

 《神の目》を有効活用し始めてからのメリーは、困難による損失以上に多くを得るようになったようだ。

 もとより賢く、度胸も根性もある貴族令嬢。

 

 初めて出会った時よりもその顔は凛々しく見えた。

 

 

「……ただ、旅の途中でどんな過酷が私に来るかわからない。すべてをひっくり返してくるような不運が現れるかもしれない。そんなときでも、あなたたちがいてくれたらきっと、私は乗り越えられる気がするの」

 

 

 自分に何の利もなかった勇者との戦いでも、俺たちの側についてくれたメリー。

 

 

「だからこれからも、仲間として、一緒に旅を続けさせてもらえないかしら?」

 

「「………」」

 

 

 そんな彼女からの提案、俺たちに否やはなかった。

 

 

「そんなわけで、次はアリアンド王国に行くぜ。おやっさん」

 

「……いいのか、俺にそんな大事な話を聞かせて」

 

「もちろん。いくらか金積まれたらバシバシ教えてくれていいからな」

 

「……そいつはやはり」

 

「レアアイテムが向こうからくるってんなら、大歓迎だからな」

 

 

 野盗だろうが傭兵だろうが、勇者だろうが大歓迎。

 並の奴なら相手にならない。レアアイテム持ちなら格好の獲物だ。

 

 

「ナナ、メリー。騒がしい道中になるだろうが、付き合ってくれるよな?」

 

 

 もうここまで派手に世界に名を叫んだんだ。

 どこまでも楽しくやってやろう。

 

 

「はい。主様の望まれるままに」

 

「言っておくけど、限度はあるわよ? げ・ん・ど・は!」

 

 

 ありがたいことに、仲間と言っていい人がいる。

 

 

『千兆様、アデライードもおりますでございますですよー』

 

 

 道行きを見守ってくれている天使様だっていらっしゃる。

 

 

(さぁ、待っていてくれよ。まだ見ぬレアアイテムたち!)

 

 

 レアアイテムコンプリートに向かって、俺は突き進む!

 

 

「いずれ俺は、世界を制する!!」

 

 

 ゴルドバ爺に誓った俺の夢を、叶えるために!

 

 俺の冒険は、まだまだこれからだ!!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 アリアンド王国、王都。

 とあるコスメショップ。

 

 

「はーい、みんな注目。今日からここで働いてくれる子を紹介しま~す」

 

「初めまして!」

 

「うおっ、かわいい子」

 

「サキュバス?」

 

「え、何歳? 成人したばっかりとか? うっそ、それでこの色香って……」

 

「ほらほら、黙れ者どもー。この方はさるお方の娘さんでVIP様なんだぞー」

 

「あはは、店長。それは言わなくていいですよ」

 

「え? あ、そう? ごめんねー」

 

「いえいえ。それじゃ改めて自己紹介しますね」

 

「どうぞー」

 

 

 

「私の名前はミリエラ・クズリュウ。いずれ世界を獲る最高の人の隣に立つ女、です!!」

 

「……わぉ」

 

 

 

 モノワルドに生きる人々の物語は、紡がれていく。

 

 




俺たちは登り始めたんだ。
この長い長い、モノワルド坂を!!

ということで、第一部完的にフィニッシュです! 完結です。

王国編、古代遺跡編、西大陸編などまだまだたくさんこの世界のお話を書きたい気持ちとネタはあるんですが、このお話はとりあえずここまで、ということにさせていただきたく思います! ぶっちゃけ人気を出してあげられなかった! 力不足! 悔しい!! ぢぐしょう!! 面白いのに展開が今の時代的に遅すぎた!! 悔しいからアンケだけ置いとこう。
ですがラノベ3冊分は書けましたので、よし!

創作活動はまだまだ続けますので、変わらず応援していただけると嬉しいです。
続きは、いつか書けたらと思ってはいたりですが、とりあえず別作品を書くぞ!


そんなわけで、ここまでこの作品を応援してくださってありがとうございました。
感想や評価を頂けると次作を含んだ創作活動の励みになります。

改めて、読んでいただきありがとうございました!!


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