弓有香織は勇者をやめた (GGO好きの幸村)
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第零章・弓有香織は勇者となる
はじまり


はじめまして、GGO好きの幸村と申します

自分が読みたいのわゆ作品が見つからないので、自給自足するために書きました()

初めての作品の為至らない点もあるかと思いますが楽しんで頂けると嬉しいです!


Side??

 

 2019年…後に神世紀元年となる年の冬、2人の少女が巨大な壁、

神樹が創った四国を囲む結界の上で対峙していた。

 

 金髪の少女が紺色の髪の少女に呼びかける。

 

「香織戻ってこい!今ならまだ間に合う、神樹様も許してくれる!また、4人で未来の勇者達の為に何が出来るか一緒に考えて、考えが行き詰まったらみんなでくだらない話をして…みんなで明日を生きたいんだ!頼む、頼むから戻って来てくれよ…かおりぃ…」

 

 金髪の少女…若葉の泣きながらの慟哭は、紺色の髪の少女…私の胸に響く。

 

 あぁ、それが出来ればどれだけ良いだろう。

 だが、それだけは出来ない。

 彼女たちを無駄死にさせて出来た、偽りの平和な世界で彼女たちの仇も取らずにのうのうと暮らすなんて、許さないし、許されない。

 それが許されるのは、彼女たち「勇者」や、彼女たちの手助けをした者達だけだ。

 

 確かに私はあのおぞましい天の神の使い達と戦った。

 だが私は「勇者」では無いし、そう呼ばれるべきでは無い。

 

 むしろ私が今から私がやろうとしている事は、『勇者』としてはその称号を剥奪された「彼女」以上に下劣な行為だ。

 

 誰にも望まれてなければ、今すぐに危険な施術をした上でやる事でも無い。

 

 それでも私はこの我儘を貫く。

 

 それが私に出来るただ1つの自分が納得出来る償いだから。

 

 その自己満足の為なら私は…「人間」を辞めても、構わない!

 

 覚悟を自分の中で再確認した私は、懐から「腕」を取り出す。

 その「腕」は人体ではありえないほどに黒く、心臓の様に脈打っている。

 その異様な「腕」を私は今はもう無い左腕に

 

「やめろぉお!!」

 

 なんの躊躇いもなく押し付けた。

 

 変化は激的だった。

 ぐじゅぐじゅと音を立てながら「腕」がくっ付いていく。

 と同時に、頭の中をミキサーでかき回されるような衝撃が襲う。

 

 その衝撃に耐えかねたのか、意識はまるで走馬灯の様に暗い記憶の奥底に沈んでいく…

 

Side香織out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燃える、燃える、燃える。

 目の前で今まで過ごした思い出の部屋が、明日の再会を約束した廊下が、宝物を埋めた松の木が炎に包まれる。

 

 …もしかしたらこの時に私の運命が決まったのかもしれない

 

 

 

 ー2009年、広島県某所で起こった火事は、マンション1棟を全焼させた後、20時間にも及ぶ消火活動の末、鎮火した。

 

 深夜に燃え始めた事や、火の回りの速さなどの状況から生存者は居ないと思われたが、奇跡的に無事だったのが、●●香織。まだ4歳の、子供であった。

 

 彼女は2週間程入院した後に、退院した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side香織

 

 ー退院した私を待っていたのは、醜い大人の言い争いだった。

 

 両親共に兄弟がおらず、母方の曾祖母は既に死んでおり、父は母子家庭で、その曾母も介護施設に入っていたので、誰が親権を持つかで揉めていたのだ。

 

 当時幼かった私は、「わたしのせいでけんかしている」「ひとりぼっちになるかもしれない」としか分からなかったが、怖かった。両親も、友達も、皆死んでしまって、さらにひとりぼっちになると思うと、怖くて…ただ怖くて仕方なかった。

 

 「なんで知らない奴らの子供を育てないといけないんだ!」「うちにもう1人子供を育てる余裕はない!よそを当たってくれ!」…などと本人の目の前で飛び交う怒号を今でも忘れられない。

 

 その怖さの中から救ってくれたのが今の両親…実の父の友人夫妻だった。

 

 こうして●●香織改め弓有香織となった私は新しい家族と共に向かった新しい家で…私は「彼女」と出会った。

 

Side香織out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。

 

 1台の青い車が、高知の田舎を走る。

 

 助手席に座る少女がきょろきょろと不安気に風景をながめる。

 

 運転する男性と後部座席に座る女性が少女に優しく声をかける。

 

 しばらくすると車は村に到着し、「弓有」の看板を掲げた家の前に停車した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side香織

 

 わたしのあたらしいかぞく…「おじさん」と「おばさん」とあたらしいいえにひっこしてきた。

 

 「おじさん」はわたしのへやをかたずけるっていえにおるすばんして、わたしと「おばさん」はごきんじょさんにあいさつしたあと、こうえんできゅうけいした。

 

 「おばさん」は「遊んで来て良いよ」っていってくれたけど、あそんでるのはしらないこばかりで、まざりにいけなかった。

 

 「おばさん」もしらないおばさんとはなしてるし、しかたないからブランコにすわってじっとしてた。

 

 しばらくじっとしてると、すなばでおままごとしてたこがこっちにやってきた。

 

香織SideOut

 

 

 

 

「あなた、そんなところでどうしたの?」

 

 黒髪が良く似合う少女が、香織に尋ねる。

 

「ひっこしてきたから、おともだちがいないの」

 

 香織は今にも泣き出しそうな顔で答える。

 

「じゃあ、いっしょにあそびましょ?」

 

「え…?」

 

 黒髪の少女は香織を落ち着かせるように、優しく微笑みながら誘う。

 

 

 

「わたしのなまえは(こおり) 千景(ちかげ)。あなたのなまえは?」

 

「わたしのなまえは●…じゃなくて 弓有(ゆみあり)

香織(かおり)…ほんとにいっしょにあそんでくれるの?」

 

「?…えぇ、もちろんよ」

 

 互いに自己紹介しながら千景が遊んでいた砂場に行くと、そこには多くの子供たちが待っていた。

 

「ちかげおそ~い!」

 

「ちかげちゃんそのこだれ~?」

 

 

 

 

 香織は楽しかった。

 久々に同年代の子供たちと遊べて。

 

 香織は嬉しかった。

 もう二度と出来ないかもしれないと考えていた友達が沢山できたから。

 

 香織は感謝していた。

 最初に誘ってくれた友達(千景)に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの親の子じゃロクな大人にならない」

 

 

 

 

 だからこそ、想像もしてなかったのである

 

 

 

 

 

「阿婆擦れの子」

 

 

 

 

 数年後、千景の母親が不倫する事も

 

 

 

 

「淫乱女」

 

 

 

 

 千景が村ぐるみで虐めと言うのもはばかられる仕打ちを受ける事も

 

 

 

 

ごめんなさい…

 

 

 

 

 香織がそれを

 

 

 

 

 

ちーちゃんっ…

 

 

 

 遠くからただ眺める事しか出来ない事も

 

 

 今の彼女には、知る由も無かった。




はい、この話は「ぐんちゃんの村で仲が良かったが、虐めを止められなかった少女が、勇者になったらどうなるか」という妄想の元、執筆しました。

我ながら鬼畜だと思います()

評価、感想などお待ちしております!


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はじまりのおわり/終末のハジマリ

お久しぶりです!GGO好きの幸村です!

大満開の章…まさかくめゆメンバーが出るとは!家族で見てて自分以外アニメしか見てないので温度差が凄かったですw

では、第2話どうぞ!



 2015年、広島県のとある寺─正確に言えばその裏に ある墓地だが─に、3人の男女がいた。

 

 内2人、左手の薬指にお揃いの指輪をつけた男性と女性は少し離れた所から残りの1人……墓石に手を合わせる少女を見守る。

 

 蘭色の鮮やかな髪を後ろで2つに束ねた、俗に言うツインテールの髪型の少女……香織は自分の生みの親が眠る墓に話しかける。

 

「パパ、ママ久しぶりだね……私は今も元気です。もう普通にマッチも使えるし、友だちとも仲良く……うん、なかよくやってます」

 

 

 

 少し後ろめたそうな顔もしたものの、天国にいる2人に対して「自分は大丈夫」と伝える為に、優しい声色で話しかける。

 

 実際、前まで火事のトラウマで画面越しに見る事すら出来なかった火も、今では普通に見ることが出来るようになった。

 今年の「お父さん」の誕生日ケーキのロウソクの火は香織がつけたし、「パパ」と「ママ」の仏壇のロウソクをつけたのも香織だ。

 

 

 

 だが、それは必ずしも香織が喜ぶべき事では無い。

 

 火事の記憶が消えかけているという事は、血の繋がった両親……「パパ」と「ママ」の記憶も消えつつあるという事と同意だ。

 

 思い出の一部や、2人の顔は思い出せなくなって久しい。

 

 ぽつ、ぽつ、ぽつ。

 そんな香織の複雑な心境を表すかのように雨が降り始める。

 

「行こっか」

 

 香織は「お父さん」と「お母さん」に振り向くと、その場所からゆっくりと立ち去って行く……

 

 その表情に2人は懐かしき友人の面影を見出しながら、「お前らの娘は立派になったぞ」と思いを馳せる。

 

 ……その直後、遠くで鳴り響く雷鳴に「ぴゃっ!」とかわいらしい悲鳴をあげる愛娘をみて、クスリと微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side香織

 

「いや~すいません泊めてもらう事になってしまって」

 

「本当にありがとうございます。この雨だとホテルに帰るのも厳しかったので」

 

「いえいえお礼を言われる程ではございません。最近は泊まる人もいませんでしたが一応宿坊もやっておりますので」

 

 などと話す両親とお坊さんの話を聞きながら私は内心ため息をつく。

 

 いやたしかにこの雨の中ホテルに帰るのは大変だ、いや大変なのは分かる。

 

 だが考えても見て欲しい。

 せっかく高知から広島に来たのだ。広島の名物を食べたいと思うのは当然の心理だろう。

 

 牡蠣やらあなごめしやら尾道ラーメンやらを食べる気満々だったのだ。

 

 それが雨の所為で一瞬にして精進料理に変わったのである。

 文句の一つや二つ、いや十個くらい言ってもバチは当たらないだろう。

 

 などとなんにもならない事を考えていると今夜泊まる部屋に案内される。

 

 まぁ、精進料理を食べた事も無いので、あまり期待はしないで待つ事にしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 精進料理……かなり美味しかった

 出されたのはたしかに肉などを使わない物だったが、豆腐で出来た俗に言うフェイクミートのハンバーグや山菜の天ぷらなどで、豪華絢爛と言っても申し分無いものばかりだった。

 見た目も綺麗だし、たまにはこういうのも悪くないだろう。

 

 などと想像以上に美味だった精進料理の味を思いだしながらトイレから部屋に戻っていると、この寺の住職さんがなにかやっている様子が目に入った。

 

 近くに寄って見てみると、何やら鎧らしきものをみがいているようだ。

 

 その鎧というのがなんとも不思議で、ゲームなどで戦国武将が身につけてる物かと思えば、最近学校で見た元寇の時の絵に描かれていた鎧にも似ているし、なんというかちぐはぐな印象を受けるのだ

 

 だが、精々「変な鎧」でしかない筈なのに、私はどうしても気になって仕方がない。

 

 そもそも私は別に歴史に興味は無いし、歴史館に行っても展示されてる鎧より土産で売られているお菓子の事を考えるタイプだ。

 

 だと言うのに私はさっきまで考えていた精進料理のことなんてすっかり忘れ、〈鎧〉のことだけ考えている。

 

 そんな〈鎧〉に引き寄せられるように距離が近づいていき、あと少し、もう少しと、手が届きそうなところで

 

「どうか、されましたかな?」

 

 気づいた住職さんに声をかけられ、まるでドラマで見た「げんこーはん」の犯人のようにピシャリと動きが止まった

 

 Side香織Out

 

 

 

「成程……この鎧ですか……」

 

 香織は鎧が気になっただけであり、危ないことをやろうとしたり物を盗もうとしたわけではないと弁明すると、ピカリと輝く頭に仙人のような真っ白な髭を貯えた住職はなにやら深刻そうな顏をして「うむむ」とうなる。

 

 何かいけないことをしたのではと焦る香織は話をごまかそうとして

 

「そ、そう言えばこの鎧ってどのくらい昔の物なんですか?」

 

 と、極度の緊張からか普段の彼女からは考えられない程の棒読みで尋ねる。

 

 すると住職は難しい顏をして

 

「わからないのですよ」

 

 と告げる。

 どういうことかと頭にハテナマークを浮かべる香織に住職はこの鎧の出自に関係があると言われている昔話を語る。

 

 

 

 

 Side香織

 

 聞いた話はこうだ。

 

 

 むかしむかし、神々がおわす頃のこと、この地域にある男がいた。

 

 男は当時日の本一の腕前を持つと言われた鍛冶職人の一番弟子だった。

 

 ある時男の師は天の神に命じられて神の力が宿った鉄で鎧を作ることになった。

 

 男は師と協力して見事に鎧を完成させた。

 

 天の神はその出来栄えを見て大層喜び、溢れんばかりの財宝を師に授けた。

 

 それから数年後、神の力が宿った鉄が余っていることに気が付いた男は、魔がさしてその鉄と他の鉄を混ぜて鎧を作った。

 

 そして時は流れ仲哀天皇が死亡した頃の事。

 

 三韓征伐に参加することになったある権力者がこの鎧を見たところ、「この鎧を身につければ絶対に勝てる」と言って鎧を改修させた。

 

 するとどこの戦場に行っても大活躍した。

 

 最終的にその男は戦いの中で戦死するが、それにあやかってこの鎧は時代に合わせて改修が行われ、ついには島原の乱の時まで使われたそうだ。

 

 

 

 と、ここまで聞いたがなるほど確かにどのくらい昔の物かと聞かれると答えずらいが、住職がなぜあそこまで深刻そうな顏をしたのか分からない、と考えていると住職さんは眉間に皺を寄せて

 

「問題はここからなのですよ」

 

 と呟く。

 はて問題とはと考えているのにおかまいなしに続けるので慌てて話に集中する。

 

 

 その話はオカルトに近いものだった。

 この鎧にははるか昔からある噂があり、

 

 曰く、鎧には神の魂の一部が残っており、この鎧を使うのに相応しい人物を選定している。

 

 曰く、この鎧に認められた者は戦いの中で大きな戦果を挙げる。

 

 曰く、この鎧を身につけた者は必ず戦いの中で命を落とす。

 

 それを聞いた将軍、徳川家光が鎧をこの寺に封印するよう命じた…

 

 などと、不吉極まりないものだった。

 

「まあ、あくまで噂程度の話ですし、戦いなんて物騒な事はそうそう起こって欲しくないものですが鎧が気になったうえに、私が声をかけないと気付かなかったものですから少々不安に思ってしまいましてな」

 

 ホッホッホッと好々爺に笑いながら住職さんは言うが、この話を聞いた私は正直とてつもない不安感があふれていた。

 と、いうのも話を聞いているときに〈鎧〉が語りかけてきた気がしたのだ。「お前は戦うべき人間だ」と。

 そしてこうも言うのだ。「戦いの時は、〈我々〉を使え」、と。

 

 そう鎧の事を考えていると、怪談話に怯えたとでも判断したのか住職が部屋で寝ることを進めてきた。

 時計を見ると、短針は7と8のちょうど半分くらいを指していて、寝るには少し早い気もするけど早すぎる事も無いし、そうするかと思った。

 

 

 

 

 

 

その時、背中に悪寒が走った。

 

 

 

 何かが来る、何かとても嫌な物が来る!

 そんな第六感に近くて遠い何か、「みんな」が「ちーちゃん」を痛めつける時に感じる嫌な予感を何十倍、何百倍も濃くしたそれに急かされて、私は部屋へと走る。

 

 豹変した私の様子に部屋にいた両親は面食らった様だが、今はそれを気にする余裕も無い。

 

 非力な我が身を恨みながら、障子と窓を開け、縁側に出て、目に入ったものを見て思考が止まる。

 

 私を追いかけて来た両親と住職さんも、外の様子を見て絶句する。

 

 

 

 それは、空からやって来た

 

 それは、真っ白だった

 

 それは、大きな口が付いていた

 

 それは、全ての人類に本能的な恐怖を与えた。

 

 

 

 ほんの数時間前は住宅地を一望出来た景色は今や血と人々の叫びしか存在しない。

 

 そんな一瞬にして変わった世界に固まっていると、怪物が私の目の前までやって来て「香織っ!」

 

 

 ガブリ

 

 

 

 おとうさんのてがかじられた。

 わたしをかばって

 おとうさんがくるしそうなかおをする

 おかあさんがひざをつく

 じゅうしょくさんがわたしをしょって、おかあさんのてをひっぱる

 おとうさんもひっしにはしる

 だめ、おいつかれる

 しんじゃう…?

 いやだ、しにたくない

 

「ならば、〈我々〉を使え!」

 

 混乱する頭でここまで考えたところで脳内に〖声〗が聞こえた。

 

 そうだ、わたしはしにたくない。

 

 そしてあの鎧の〖声〗は私に戦えと言った。

 

 戦うという事は対抗できるという事。

 

 対抗できるという事はころされない

 

 ころされないという事はしなないという事……

 

 なら、私のやる事は1つだけだ。

 

 Side香織Out

 

 

 

 

 

 

 香織は住職の背中から飛び降りるとあの〈鎧〉のもとまで走った。

 

『しにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくない』

 

 香織は死への強い恐怖を抱いたまま、一縷の望みをかけて〈鎧〉に触れる。

 

 すると〈鎧〉は光の粒となって香織を中心に回転する。

 

 その眩しさに香織が思わず目をつぶった

 

 そして目を開けると

 

 そこには所々変わった部分はあるが、〈鎧〉を纏い、怪物の攻撃から身を守る力を持った少女がそこにはいた。

 

「う…うおおおおぉ!

 

 〈鎧〉を纏った蘭色の髪をなびかせる少女…香織は雄叫びをあげ、襲って来る脅威を排除すべく怪物のもとへ向かった

 




次回、香織の戦闘と、あと千景以外の原作メンバーも登場…できるように頑張ります

評価、感想などいただけると幸いです


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覚悟

どうも、GGO好きの幸村です!
いや~大満開の章…お 風 呂 シ ー ン 全 カ ッ ト
…いや、尺の都合仕方ないとはいえチョット悲しいです

はい、気を取り直して「弓有香織は勇者をやめた」第3話、楽しんでくれると幸いです!


 Side香織

 

 無我夢中、藁にもすがる思いで〈鎧〉に触れたら、昔見た変身物のテレビのように不思議な光の粒に変わってから私が少し雰囲気が変わった〈鎧〉を身に纏っていた─欲を言うなら魔法の国から来た妖精が話しかけてくれたり、スタイリッシュな変身音が流れて欲しかった─

 

 なぜ触っただけで光の粒に変わったのか、なぜあのとき〈鎧〉が語りかけてきた言葉を信じたのか、なぜ怪物が出るのを直感的に感じ取れたのか、そもそもあの怪物は一体何なのか。

 

 色々と分からない事はあるが一つだけ言える事は、今の私はあの怪物達に負ける気が全くしないという事だ。

 〈鎧〉を身に付けたその瞬間から全身にパワーが巡り、怪物の攻撃も絶対に耐えられるという自信が湧いてくる。

 

 ひとまず両親と住職さんに迫る怪物を倒すべく元来た道を辿り、

 

「うおりゃあぁぁ!」

 

 3人を食べようとしている個体に近ずいて思いっきりパンチする。

 

 攻撃が直撃した怪物は耐えられる訳もなく爆発四散

 

 

「ポスっ」

 

「…へ?」

 

 せず、私の渾身の一撃は浮き輪から空気が抜けるようなマヌケな音をたてる。

 

 その後も何度も何度も拳を打ち付けるが、やはり効いているようには思えない。

 

 繰り返すうちに怪物もうざったらしいと思ったのか、おとうさんの手を喰らったその口を広げて私に迫る。

 

 咄嗟に両手をクロスさせて防御すると、

 

「カンっ」

 

「…ん?」

 

 まるでガードレールに蹴っていた小石をぶつけた様な甲高い金属音が響く。

 これには怪物も戸惑ったのか、何度も攻撃を仕掛けて来るが、カンっ、カンっと同じ音がなり続ける。

 

 …これなら、ちーちゃんがみんなからされている事の方が…

 

 などと考えていると、怪物も私に攻撃する事が時間の無駄だと悟ったのか、3人を食べに行こうとする。

 

 そうはさせまいとパンチを連続で繰り出すが、やはりダメージをくらったようには見えない。

 

 何回も攻撃されたことに腹を立てたのか反撃と言わんばかりに噛み付いて来るが鎧を貫く事は叶わない。

 

 攻撃をくらううちに、何故異様にダメージをくらわないのか察する。

 

 おそらくだがこの〈鎧〉は装備者の思いに応えて力を解放するのだ。

 

 私は〈鎧〉に触れた時、ただただ「しにたくない」と思っていた。

 

 だから〈鎧〉は力をくれたのだ。「怪物を倒せる力」では無く「怪物の攻撃で死なない力」を。

 

 だけどそれでは意味が無い。

 

 たとえ1人だけ生き残っても両親がいなければ…「ひとりぼっち」になってしまっては意味が無い。

 

 だから…だから…だから!

 

「もう一度力を貸してくれぇぇ!」

 

 Side香織Out

 

 

 

 

 

 

 怪物…星屑は目の前のニンゲンに苛立っていた。

 最初は何の力も無い、取るに足らない存在だと思っていた。

 ただ命令どうりに、己の顎で噛み砕いてやればいいと。

 

 だが、途中で別行動をとった時から様子が変わった。

 

 その時は急に単独で動いた事を不思議に思ったものの、恐怖から1人逃げ出したと考え、無駄なことをするものだと嘲笑った。

 

 そしてその他のニンゲンを喰らおうとした時、あのニンゲンが再び現れた…しかも、自らの創造主の力が混じった鎧を身に付けて、だ。

 

 それには流石に驚いたが、その後の攻撃がまるで効かなかった為、逆に喰らおうとしたが文字通り『歯』が立たずに弾かれた。

 

 相手にするだけ面倒だと思ったが、無視しようとしても攻撃を続けてきて、鬱陶しい。

 

 再び噛み付くが、ダメージを与える事が出来ない。

 

 この現状に苛立ちがピークを迎えた時、それ(・・)は起こった。

 

 

 

「もう一度力を貸してくれぇぇ!」

 

 

 ニンゲンが叫ぶと同時に辺りが光に包まれる。

 

 光が消えるとそこには、意匠が変わった〈鎧〉を身に纏った少女がいた。

 

 全身を覆っていた鎧は動きやすいように装甲が減り、新たにふちが赤く、内部は真っ白な陣羽織が追加される。

 

 両手は鉤爪が装備され、鎧の真ん中、胸の辺りに四葉のクローバーのような若葉色の結晶が現れる。

 

 その姿を見た星屑は、なにかとんでもない過ちを犯したと思った。が、そこは異形の存在、装甲が減った事で今度は攻撃が通ると考え、大きく口を開けて接近し、

 

 

 一瞬で切り裂かれた

 

 

 しかし一撃では絶命せず、全速力で逃亡を図り

 

 

 即座に追いつかれ、続く2撃目であっさりと物言わぬ骸に変わった

 

 

 

 

 Side香織

 

 やはり予想は当たっていたのか、〈鎧〉の力が今まで防御にのみ回されていた力がが攻撃や移動する力にも変化する。

 

 鉤爪での一撃では倒せない様なので、追撃してトドメをさす。

 

 この形態?に変化してから、どう戦えば良いのかが分かる。これも予想だが、〈鎧〉の今までの持ち主の経験を〈鎧〉をとうして私に流れ込んでいるんだと思う。

 

 などと考えていると、怪物が2、3体程近づいて来たので意識を武器に集中させる

 

 この〈鎧〉には今までの持ち主の経験が記録されているのはさっきも言ったが、この〈鎧〉の持ち主全員が鉤爪を使っていた訳では無い。

 

 つまりどういう事かと言うとこの〈鎧〉、複数の武器が使用可能(・・・・・・・・・・)なのである

 

 私は鉤爪を消して大槌、いわゆるハンマーを取り出す。

 

 そしてやって来た怪物にフルスイング!

 

 怪物は粉々になりながら勢いのままに寺の壁に衝突、破壊して

 

 私もハンマーの想定以上の重さに振り回されて寺の床を破壊した。

 

 …だってしょうがないじゃん!まさか自分でもコントロール出来ない重さの武器が出てくるとは思って無かったし!私は悪くない!

 

 なんて心の中で言い訳をしながら、3人を連れて安全な場所を探しに行くのだった。

 

 SideOut

 

 

 Side??

 

 あの神社で皆の仇をとってから数日。

 

 私達は島根の人々を連れて『神樹様』に守られているという四国へと向かっており、今日ようやく県境を越え広島県に入った。

 

「や、やっと広島まで来れたのか!」

 

「あ、あぁ。四国まであと少しだ」

 

 やはりあの怪物を警戒しながらの移動で共にここまで来た人々も疲れたのか、感極まったような声がちらほら聞こえる。

 

 

「皆さん!今日はここで体を休めましょう!」

 

 私は全体に聞こえるように大きな声で伝える。

 

「おーい、勇者様からここで休憩するようお達しだ!」

 

「ゆうしゃさま、きょうもありがとう!」

 

 人々の話し声で今日も誰も死んでないことに安堵し、私の親友であり巫女でもある彼女に話しかける。

 

「おーいひなた!このペースだと神樹様のところまであとどのくらいかかりそうだ?」

 

「はい、若葉ちゃん!皆さんの調子も良さそうですし、あと1週間かからず着きそうです!」

 

「そうか…なら、もうひとふんばりだな」

 

 私は勇者として、乃木家の者として、皆を無事に四国に送り届けてみせる!

 

 Side若葉Out




…はい、武器の切り替え可能にしました!ま、まぁちゃんとパワーバランスおかしくないように調整しますので…
後、最後に少しだけ若葉とひなたを登場させました!
いや、次こそちゃんと登場させますから!

何気にただの星屑視点がある小説ってウチだけでは…?

まぁ何はともあれ読んでいただきありがとうございました!

評価、感想等いただくと幸いです


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刀の少女

たいっへんお待たせしました!

いや~大満開の章…のわゆもキター!

はい、ぐんちゃん推しの私のモチベはググッと上がりました!
…いや、それでこの投稿頻度なのはあれですが…

まぁ、その言い訳は後書きでするので、ひとまず本編のほうをお楽しみください!


 その男は、恐怖していた。

 

 突然謎の白い生物が襲来し、平和だった町は一瞬にして恐怖のどん底に突き落とされた。

 

 男も家族を連れて逃げたが、その生物が目の前にやって来て口が開いた時、死を覚悟した。

 

 だが、そこに『彼女』が現れた。

 

『彼女』はいわゆる分銅鎖を手に持ち、一体の怪物に巻き付けて捕らえると、シャラン、シャランと音をたてながら振り回し、周囲の怪物を一掃した。

 

 そしてこちらに振り向くと、

 

「大丈夫ですか?」

 

 と優しい声をかけながら微笑んだ。

 

 男はその様子を見て、その強さからか、はたまたその美貌を見てか。

 口から溢れ出たのは

 

「女…神様…」

 

 畏敬の念を込めた、少女を称えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side香織

 

 あの怪物から4人で逃げ延びてから約1週間。

 

 今、私は…

 

「女神様、我らをお守り下さりありがとうございます!」

 

「女神様、お食事を持って参りました!」

 

 …崇められています。

 

 

 始めは逃げる途中の事だった。

 

 目の前で殺されそうだった人達を助けながら安全な場所を探したら、「恩を返したい」と怪物相手に立てこもれるように皆が設備を整え始めた。

 

 その後も、食料探索組の護衛をしたり、生き残った人達を連れて帰ったところ、いつの間にか〖救世の女神〗なんて小っ恥ずかしい渾名?異名?が広まった。

 

 ちなみにその事について両親は苦笑い、住職さんは相変わらず好々爺な笑みを浮かべている。

 

「皆さん何度も言いますが…その〖女神様〗って呼ぶのやめてください!」

 

「ハッッハッハッ、これも貴女の人徳故でしょう香織さん」

 

「もう!黄碗さんまで…」

 

 彼は黄碗(きわん)凌十郎(りょうじゅうろう)

 

 この辺りでも有名な学者さんで、避難した人達のまとめ役だ。

 

「と、そんな事より北から連絡がありました。」

 

「そんな事よりって…まぁ、いいか。それで北の見張りの方々はなんて?」

 

「えぇ、なんでも大規模な避難民がこちらに近ずいているそうで…」

 

「…わかりました。念の為護衛しながらこっちに案内してきます!」

 

 私はすぐさま〈鎧〉を身にまとい、連絡があった方角へ向かった。

 

 SideOut

 

 

 

 

 ─避難所 北口─

 

 避難所の周辺には凌十郎が〈鎧〉の力を解析して作られた結界が存在する。

 

 もっとも結界と言っても、怪物の侵攻を妨げる、という訳では無い。

 

 より正確に言うならば『一定範囲内の怪物の侵攻を確認できるレーダー』と言うべきだろう。

 

 ただしそれも方角しか分からないアバウトな物で、東西南北に見張りがおり、その連絡を受けて初めて怪物の位置や数を把握し、香織が〈鎧〉の力をスピードに特化させて─ちなみに陣羽織の縁が赤色から青色に変わる─現場に向かい、対処する。

 

 何時やって来るか分からない怪物に対して、香織も当初は疲労困憊だったが、そこは〈鎧〉の力で持ち堪えた。

 

 香織が一番最初に〈鎧〉を身につけた陣羽織が無く、装甲が分厚い姿。

 

 あの形態は、防御力は高いが攻撃力や機動力、さらに俊敏性は無いに等しい。

 

 しかし何度かあの形態にもなる事で、スタミナが回復する事がわかった。

 

 とはいえダメージは回復しない為、慎重に戦わないといけないが。

 

 

 さてそんな事情はさておき、北口の見張りは、北から接近している人々を「安全な場所を探して怪物の脅威から逃げ延びた避難民」だと推測し、リーダーである凌十郎に報告した。

 

 

「すいません、例の避難民の方々は!?」

 

 数分後、香織が見張りの位置に到着した。

 

「あ、女神様!ご足労いただきありがとうございます!」

 

「だから女神様と言うのは…まぁいいか。それで報告にあった人達はどちらに?」

 

「はい、先程からあの辺を移動しています…あ」

 

 そう言って見張りの男が指差した先には多くの人々と…その近くに怪物の群れが居た。

 

「…マズイ!」

 

 このままでは戦う術を持たない避難民達が全滅すると考えた香織はすぐさま怪物の群れに接近し、この形態で1番火力が安定する分銅鎖を取り出すと

 

「ハァァッ!」

 

「ヤァァッ!」

 

 刀を勢いよく抜刀した少女と共に怪物の1部を殲滅し、

 

「…え?」

 

「…む?」

 

 お互いにクエスチョンマークをうかべながら顔を向き合わせた。

 

 

 

 

 Side香織

 

 あの後襲ってきた怪物全てを倒し、島根からやって来たという人達を避難所に向かい入れた。

 

 その際、一緒に怪物と戦った『彼女』とその近くにいた…いや、近くというかくっついていたと言うべきか?まぁいいか。ともかく近くに居て、なにやら色々知って居そうな少女も一緒に他の人達と別れて私に着いてきてもらった。

 

 …さて、ひとまず黄碗さん達に報告だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広島の避難所の中心、結界を発生させているビルの一室にて

 

 私の報告によって急遽この避難所の各作業のリーダーが集められていた。

 

 議題?はもちろん島根の人々事だ。

 

 …まぁそれもオマケ程度のもので、1番の本題は怪物を倒した『彼女』についてだ。

 

 今まで怪物の対処は私しか出来ない上、複数の方向から襲われた場合見張りの人が負傷する場合も度々ある…幸い死者がまだ出てないが。

 

 その為私以外の人が怪物を倒せる可能性が出てくるのはこの先も怪物が襲ってくる事を考えると非常に重要なのだ。

 

 …ただ、彼らの期待通りにはならないと思う。

 

 彼らの大半は私が早い段階で助けた人達で、その根底にあるのは「恩返し」に近い感情だ。

 

 特に食糧調達や逃げ遅れた人達を捜索する自衛隊の方たちはうちの両親と話す時、「あなた方の娘を危険に晒してしまい申し訳ない」「人を守るための自衛隊なのにやっている事は小さい女の子に負担を強いて見ている事しか出来ない」「我々にも奴らに対抗できる武器があれば…」とよく言っているそうだ。

 

 確かに避難民のあの刀を持った子、改め若葉ちゃん─おそらく同い年か「ちーちゃん」くらいの歳だろう─が持つ武器を量産できれば、今後の戦いは楽になるだろう。

 

 しかし、ざっと見た感じ他に武装してる人はいなかった。あの刀が量産出来るような物なら皆持っていると思うし、そもそも怪物によってこんなに町が荒れる事も無かったと思う。

 

 もちろんあの刀が偶然こちらには無かっただけとか、あの便利な結界を作った黄碗さんなら量産する事が出来るかもしれないから、ただの直感だ。

 

 …ただ、私をあの『鎧』のあった場所に導いたのも直感なので、そう思う…思って、しまう。

 

 などと考えているうちにこの避難所の運営に関する主要人物全員─若葉ちゃんと彼女の親友であるひなたちゃんも含まれる─集まり…話し合いが始まる。

 

 

 SideOut

 

 

 

 

 

 Side若葉

 

 島根から南下して広島県に入った。ひなたの『なんとなく』によれば、このまま南下して瀬戸内しまなみ海道を通るのでは無く、東に移動して瀬戸大橋から四国に入った方が良いらしい。

 

 ついでに言えば、四国は今の所日本で1番安全…『と感じる』そうなので、私達は広島を少し南下した後、岡山方面に移動。

 その後瀬戸大橋から香川に入る、という話にまとまった。

 

 そうしてしばらく南下したとき、ある違和感に気が付いた。

 

 死体が見当たらないのだ。

 ここまでの道中、化け物に襲われ、命を落とした人々の成れの果てを沢山見た─無論、余裕がある時は墓を掘って埋葬した─が、ある一定の場所から死体が見当たらない。

 勿論全員無事、という訳では無さそうで、生々しい血痕は多数あった。

 しかし、あの化け物達が食事をする時骨まで残さず食べる、というのは今まで見てきたものからは考えにくい。

 

『ひょっとしたら、この近くに我々のようにあの化け物達から逃げ延びた人達が居るのではないか』

 

 そう思ってから、我々の動きはより慎重に、注意深く行動、探索した。

 

 …が、探索に重きを置き過ぎた結果、ひなたが安全だというルートから徐々に離れていってしまった。

 

 気が付いたら化け物の群れが襲ってきて、その数の多さからおそらく倒せるが全員を守りながら捌ききるのは困難だと思った。

 

 皆を死なせない為には…私が犠牲になるしかないだろう。

 

 しかし私は戦う。勿論、乃木家の者として奴らに報いを与える事を忘れた訳では無い。

 

 だが、それで守るべき人々を死なせては本末転倒だ。

 

 後ろからひなたが泣きながら私を止めようとする声が聞こえる。

 

 私は「すまん。」と呟いて、居合の構えをとる。

 

 私が死んでも、ひなたは必ず彼らを安全に四国へ連れて行ってくれる。ならば、もう覚悟は出来た。

 最期に奴らに少しでも多くの人を殺した報いを受けさせて、散ろう。

 

 刀を勢いよく抜刀し、奴らに切りかかる。

 

 

 

 ─あぁ、でも出来る事なら、もう一度ひなたとあのお気に入りの店でうどんを食べたかったなぁ─

 

 

 

 そんな未練を化け物共々断ち切るように

 

「ヤァァッ!」

 

 雄叫びを上げ、化け物を切り裂く

 

 

 

「ハァァッ!」

 

 

 

 …と同時に、鎧に縁が青い陣羽織を身につけた少女が、手に持った鎖を別の化け物に叩きつけて倒した。

 

 死を覚悟した状況下で助けが来た安堵からかはたまた自分以下に化け物を倒せる人物を初めて見たからか、

 

「…む?」

 

 と間抜けな声が自分の喉から出た。

 

 あちらも困惑しているのか、

 

「…え?」

 

 と呟いた。

 

 

 

「若葉ちゃん!なんであんな無茶な事をしたんですか!あの人が来なければ死んでたかもしれなかったんですよ!」

 

「い、いやそうは言ってもだな、ああしなければ他の皆が危険に…」

 

「言い訳禁止です!」

 

 先程の行動をひなたが底冷えするような声で注意してくる。だが、あの行動は皆を守るための最適解だったし…

 

 などと考えているとひなたが私を抱きしめて

 

「ヒック…本当に…若葉ちゃんが…ヒック…し、しんじゃうかと思ったんですからね…」

 

 それを聞いて、ハッとする。そうか。私は皆を守ることを考えすぎて、私を心配してくれる人達の事を失念してしまっていた。

 

 未だに私を抱きしめているひなたに対して安心させるような声で今の本心を伝える。

 

「大丈夫だひなた。奴らに真に報いを与えるその日まで、もうあんな無茶はしない。」

 

「ほんとう、ですよね?」

 

「ああ、本当だ。約束する。」

 

「若葉ちゃん…もう、若葉ちゃんは本当に若葉ちゃんなんですから!」

 

コホン

 

「お、おいひなた。それはどういう意味だ!?」

 

 オッホン

 

「ふふふっ、ナイショです♡」

 

「いや本当にどういう意味

 

ヴベラックショイ!!

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 突然近くで何かが爆発したような音がして、2人共小さく悲鳴をあげてしまう。

 

 何事かと思い音がした方へ振り向くとそこには先程助けてくれた鎧の少女が気まずそうな顔でこちらを見ており、

 

「ゴホッゲホッあ~いい空気なところ申し訳ないんだけどそろそろ話を聞きたいな~って思うんだけど…周りの人達の目もあるし ボソッ

 

 私はその言葉…主に後の方を聞いてバッと周りを見ると、島根から共に移動してきた人達は勿論、見覚えのない人達─おそらくあの少女が守っている人だろう─その全ての視線が私達2人に向けられていた。

 

 と、いう事は今のやりとりは全て見られていたという訳で…

 

「…ッ///」

 

 恥ずかしさのあまり、顔がリンゴのように真っ赤になっているのを感じる。

 

 隣りを見るとひなたも同じように顔を赤く染めながら「あらあらうふふ」と微笑む。

 

 鎧の少女はそれを見て苦笑すると、

 

「ええと、とりあえずこっちの拠点で話を聞く事で良い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく、鎧の少女…もとい弓有さん─本人からは香織で良いと言われたが、やはりすぐに呼び捨ては難しい─に彼女達広島の人々の避難所を案内された。

 

 道中、3人共に四国在住の事や、香川には本州へ行く時にいつも通り過ぎており、今まで讃岐うどんを食べた事が無い事、今住んでいる高知にはこの広島から越してきて、たまに広島に里帰りしており、その際食べる尾道ラーメンが好物な事。

 

 お互いに他愛もない話をしながらなにやら会議室らしき場所へ入ると、そこには数人の大人がパイプ椅子に座りながら大きな机─いわゆる円卓タイプのものだ─を囲んでおり、なにやら難しそうな顔をしていた。

 

 そして私達…というより弓有さんが来た事に気付いたようで、皆視線をこちらに向ける。

 

 先程外で送られた生暖かい視線ではなく、どこまでも重々しく、同時に希望を見出したような視線だ。

 

 その視線に弓有さんはまるで物怖じしない様子で空いていた席に腰掛けると、

 

「若葉ちゃん、ひなたちゃん、なんであの怪物と戦う力を持ってるのか、どうしてわざわざ県を跨いでまでここまで移動してきたのか、話してくれないかな?……この避難所で暮らしている、全ての人を救うために」

 

 と、気迫さえ感じる声で聞いてきた。

 

 

 SideOut




はい、約1ヶ月更新もせず、こんな中途半端で終わってしまった言い訳をば

まず1つ目として、SAOのプログレッシブを見に行ったんですね。
それで私のSAO熱が爆発し、原作を読みふけってたらあっという間に時間が過ぎていきました。

2つ目に仮面ライダーオーズの新作ですね。
実は最近私の中でライダーブームが来ててですね、そんな時にオーズの新作と来たもんですからまぁ盛り上がって。
オーズのアイテム求めて近所の中古屋巡ってたら小説を書く手が止まっていきました。

3つ目に妹に薦められてプロセカを始めてですね。
特にニーゴにハマってユニットランクを上げているとまだ次の話が書き終わってない事を忘れてました。

まあ結論 全部私が悪いですね‪(笑)

次はもっと早く投稿出来るよう頑張ります!

感想・評価などして頂けると幸いです。


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決断

どうも、GGO好きの幸村です!
なんとか今月中に投稿出来ました!
この調子で今後も投稿出来たらいいなぁ…(遠い目)

まぁ、出来るだけ早めに投稿出来るよう頑張ります!
では本編、楽しんでくれると幸いです!


 Side香織

 

 この避難所は怪物の接近を感知して私が倒す事ができたり、揉め事は黄碗さんや自衛隊の人達によって鎮められたりと一見なんの問題も無いように思える。

 

 しかしここには大きく2つの、根本的な問題がある。

 

 まず一つ目は、病床の不足だ。

 この避難所はあまり広くないため、怪物の襲撃にあって自衛隊の人達や彼らに食べ物などを配給してくれる人達が怪我をすると、治療用に設けてるスペースはパンパンになってしまう。

 

 また最近は、屋外での行動に恐怖を感じる人達も出て来て、人によっては気絶して治療スペースに運ばれ、動けなくなってしまう場合もある。

 

 さらに怪物はこちらの都合に関係無く攻めてくるため、治療が終わらず、病床をオーバーしてしまう事もたびたびある。

 

 その為、治療が終わってない人を無理矢理退院させたり、負傷した人に最低限の治療しかしない…こんなケースが頻発している。

 

 二つ目として、慢性的な資源不足だ。

 ただでさえ食料などの調達先はスーパーやデパートなどと限られている上、最近はやっとこ発見した物資が腐っていたり、例の外へのトラウマ─ここには精神的な問題に詳しい人が居ないので、そもそも外への恐怖なのかすら不明なのだが─を持つ人が増えて来ており、調達に向かう人手が不足気味なのだ。

 

 

 

 以上の事から、安全かつ自給もできて、なおかつ広い場所への移動を行う必要性がある。

 

 しかし、そんな都合のいい場所は無いだろうし、探す余裕もない。

 

 

 

 そんな厳しい現状が、若葉ちゃん達の登場で一変するかもしれない。

 

 

 どうやって若葉ちゃんが戦う力を手に入れる事が出来たのか。

 それがわかれば負傷する人が減り、行動に余裕がでるだろう。

 

 

 なんで彼女たちは県境を越えて移動してきたのか。

 その理由を聞いたらもしかしたらさっき言った都合いい場所が見つかるかもしれない。

 

 だからこそ、ありったけの気合いを込めて問いかける。

 

 若葉ちゃんとひなたちゃんは少し顔を見合って頷くと、これまでの事、移動する場所とその理由を語ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 修学旅行で島根に来たが、地震のせいで避難場所である神社から移動出来なかった事。

 

 外に出た時、ひなたちゃんが『なにか怖いことが起きる』と感じた次の瞬間化け物達が神社と中にいた人々を襲った事。

 

 ひなたちゃんが『若葉ちゃんにしか使えない力』があるように感じ、若葉ちゃんが手を伸ばすと錆び付いた刀があった事。

 

 それを手に取ると、みるみるうちに錆がとれ、化け物を…友達の仇を一刀両断できる刀…〖生大刀(いくたち)〗になった事。

 

 その後、ひなたちゃんが『なんとなく』安全だと思った方へ移動しており、今は大橋から四国に入るのが、『なんとなく』一番大丈夫らしい。

 

 ここに辿り着いたのは、この周辺に死体があまりにも少ないため、生存者がいるかもしれないと考えたから…との事だった。

 

 

 

「…以上が、私達がここまで来た経緯です。」

 

 そう締めくくった若葉ちゃん達の話に、私はなるほどと納得すると同時に、少し頭を抱える。

 

 彼女たちのいきさつも分かったし、友達を亡くした話は話させて悪いとも思った。

 

 死体の件についても、見つけたら出来るだけお墓を掘って弔ったので、納得がいく。

 

 だが1つ、よく分からない事がある。

 

 などと考えていると黄碗さんが手を挙げる。

 

「少し質問なのですが…その『なんとなく』とはどんな感じなのでしょうか?」

 

 するとひなたちゃんは少し困ったような顔をすると、

 

「なんというか…抽象的なイメージが頭の中に湧いてきて、それを解釈している…みたいな感じですかね」

 

 その言葉に会議室はザワつく。

 

 それをひなたちゃんの言葉を疑問視していると感じたのか若葉ちゃんが、

 

「いえ、確かにひなたの言っている事を信用するのは難しいかも知れません。しかし、私達は実際にその『なんとなく』に何度も命を救われています!」

 

 ああ、それについては誰も疑って無いだろう。問題は…

 

 周りの視線が私に集中する。

 

 そう、問題は私とほとんど同じ状況だったのに、(・・・・・・・・・・・・・・・)私が安全な場所や四国の事を感じなかった事(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 だ。

 

『化け物の襲来を察知し、それに対抗出来る物を直感的に手に取る』…ここまでは私とひなたちゃん達で共通している。

 しかしその後の、『安全なルートを感じ、そこを通って最も安全に感じる土地に向かう』という、私との明らかに違う点だ。

 

 私が〈鎧〉を手に入れた後、〈鎧〉の能力や戦い方は『なんとなく』─もちろん、自分でも色々試したりしたが─分かったが、化け物の感知は黄碗さんが結界を造るまで視認だったし、この避難所も『ある程度は大人数を匿え、四方を確認しやすい』という理由でここに決まったため、そこに私の『なんとなく』は一切反応していない。

 

 そしてそれはこの場に居る若葉ちゃんとひなたちゃんを除く全員が知っているため、困惑しているのだ。

 

『彼女のなんとなくは私と同じなんとなくなのか』と。

 

 

 

 ざわめきが収まった頃、黄碗さんがおもむろに口を開き、「彼女の言葉を信じて四国に向かう事に賛成か否か」と他の人達に問いかけた。

 

 会議は…勿論と言うべきか、荒れに荒れた。

 

「ただでさえ怪我人や精神状態が悪い者が多いのに移動なんて不可能だ!」「だが食糧事情は常にカツカツなんだ、新天地に行かないと全員飢え死にするだけだ!」

 

 …皆、この避難所で暮らす人達の事を考えていて、相手の言い分も分かる。

 だからこそ、話し合いは苛烈になり、お互いに譲れない。

 

 そんな状況が10分程続いた後、この避難所の防衛戦略の要である自衛隊の隊長さんが私と若葉ちゃんの2人の方を見て、問いかけた。

 

「…正直に、聞きます。ここ(避難所)に居る全ての人々と、島根から来た人々を護衛しながら四国に向かう事は可能ですか?」

 

 その一言に会議室は再びザワついた。

 

「隊長さん!あんたこの人数をたった2人に守らせるなんて正気か!?」

「今までは結界で場所が分かっていて、あまり数も多く無いから何とか女神様1人で防衛出来てたんだ!疑っている訳じゃないが、そこのお嬢ちゃん(ひなた)の『なんとなく』が外れたら、全滅は決まったも同然なんだぞ!」

「それに貴方も分かっていると思いますが、不足している資源には治療の為の包帯や薬もあります!御2人が大きな怪我でもしたら、最悪手の施しようがなくなるんですよ!」

「未だに怪我人も多い、怪物によってどれほど地図が変わっているのかも分からない、動く、のは、危険だ。」

 

 

そんな事は分かっている!だが…だが、人を助ける、たとえその手段が自分に無くても方法を考えるのが自衛隊の…俺の役目だ。このままではいずれ奴らに喰われるか資源不足で内部から崩壊するかの2択だ。四国へ向かう以外に皆を生かす方法が無い今、彼女たちに護衛されながら四国へ向かうのが一番の最善策だ。…それに、いざと言う時は肉壁にでもなって時間を稼ぐさ」

 

 そう隊長さんは苦虫を噛み潰したよう─どころか、カメムシをセンブリ茶で飲み込んだような表情で断言した。

 

 私はスッと目を閉じて、

 

「…分かりました。正直«厳しい»、ですが…」

 

 ここまで言ってから、隊長さんと目を合わせて、

 

「«厳しい»だけです!決して«無理»じゃありません。…なら、やってみせます!」

 

 そして隊長さんをビシッと指さして、

 

「さっき隊長さんが言った『全ての人々』には隊長さん自身も入るんです!…絶対、死なせませんからね」

 

 隊長さんは私の事を心配してくれて、〈鎧〉が『敵を倒す戦い方』を教えたのに対し、隊長さんは『死なない戦い方』を私に教えてくれた『恩人』だ。

 

 私が『ひとりぼっち』にならないために、私が『後悔しない』ために、必要な人だ。

 

 だから…死なせる訳にはいかない。

 勿論、隊長さんだけに限らず、黄碗さんを筆頭とした皆を助けるために一生懸命頑張っている人達、ここ(避難所)にバリケードなどを作ってくれた男の人達、この状況で貴重品となったお菓子をよくくれたおばあちゃん、特別な立場になった私とも気にせず遊んでくれたここ(避難所)での友達。

 

 そして、変わらず接してくれるお父さんとお母さんに住職さん。

 

 全員、絶対に死なせない。

 

 

 私は若葉ちゃん達の方を向くと、頭を下げた。

 

「…ごめんね、いきなり2人にも負担をかけるような事になっちゃって。」

 

 すると若葉ちゃんは何ともないような表情で

 

「なに、弓有さんにはさっき助けられたからな。『行いには必ず報いを』。乃木家の家訓でな、人々を喰らったヤツら(化け物)には斬り捨てる事で報いを与えるが、命を救われた弓有さん達には力を貸す事で報いるさ。それに…」

 

 と言うと若葉ちゃんは顔を赤らめさせて、

 

「そ、それに弓有さんの事はゆ、友人だと思って居るし、当然の事だ。」

 

 と可愛らしく言うものだから、私も思わず笑みを浮かべて、

 

「それなら香織って呼び捨てにして欲しいな~」

 

 と言ってみると、

 

「いや、それは気恥しいというか、まだ早いというか、なんと言うか…」

 

 とゴニョニョと呟いて居て、さっき外でひなたちゃんにイケメンムーブをやっていた人と同一人物とは思えないというか、意外な一面を見たなと思っていると、

 

「キリッと若葉ちゃんに、恥ずかし若葉ちゃんが見れて、それに…香織ちゃんにも会えた今日はラッキーデーですね。」

 

 とひなたちゃんが微笑むと、そこから私よりも大きな胸を張り、

 

「道案内は任せてください。いつもより張り切ってやっちゃいますよ!」

 

 と宣言した。

 

 私はそれを受けてより一層笑みを深めて、

 

「2人とも、よろしく!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして私達(避難所の人々)は避難所を放棄し、島根から来た人達と共に四国を目指して移動を始めた。

 ある時はひなたちゃんが言ったルートに少数の化け物が現れて戦ったり、またある時は空に怯える人達が発狂したのを落ち着かせたりと、様々なトラブルに見舞われ、それでも来る日も来る日も歩き続け、遂に…

 

「おい…あれ、大橋じゃないか!?」

 

「ホントか!?」

 

「やっと、着いたの…?」

 

 最初はそんな小さな声がチラホラと聞こえる程度だった。

 

 だが、しばらくすると

 

「大橋だ!」

 

「俺たち、生きれるのか!?」

 

 と言った大きな声が出てきた。

 そこで私は隣の若葉(・・)の肩をトントン、と叩く。

 すると彼女は少し戸惑ったような顔をするも、すぐにキリッとした表情になり、

 

「皆さん!私達は来る日も来る日も歩き続けました…そして、遂に、我々は大橋に辿り着きました!我々は、怪物から逃げ延び、全員死なずに生き残ったのです!

 

 シーンと、沈黙の時が訪れる。だが、それも少し経つと…

 

ォォォオオオオオオオオ!!

 

 生きる事が出来る喜びを噛み締める叫びに変わった。

 

 若葉もこっちに戻ってきて、

 

「まったく、いきなり何か喋れというのは無茶振りが過ぎるぞ香織(・・)

 

「いやぁー私より若葉が言う方が皆安心するでしょ。」

 

「む、そうか…?いや、サラッと話を逸らそうとしてないか!?」

 

「いやいや、そんな事しないって」

 

 と、ここまで言ったところで2人で笑う。

 

「何はともあれ、誰も死なずに着いたな。残るは…」

 

ヤツら(化け物)から世界を取り戻す、でしょ?」

 

「ああ、そうだ…まだ、付き合ってくれるか?」

 

「当然!」

 

 

 こうして私達は四国に辿り着き、化け物を対処する組織である『大社』にてひなたは『巫女』として神託を受け─『なんとなく』の正体が神様だったと伝えられた時は三人とも大層驚いた─私と若葉は『勇者』として化け物達と戦う事になったのだった。

 

 SideOut




はい、や~っと四国に着きました!
なので次からは他の勇者達とも絡められると思います!

…ただ1つ不安なのが、私が勇者史外伝未読なので、何かとんでもない矛盾点が無いかですね~

勿論、単行本は上下巻買って読むつもりなので、前書きで投稿頻度を上げたいと言っといて言うのもなんですが、次の投稿は少し遅くなると思います。

最後に、感想、評価などして頂けると嬉しいです!


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巫女達との戯れ

あけましておめでとうございます!
…はい、「投稿スピード上げる」と言っといてこの遅れです、すいません。

つ、次こそ早く投稿出来るよう頑張ります!

と、言うわけで大変長らくお待たせしました本編、どうぞ!


 Side香織

 

 私達が四国に着いてから…正確に言えば神サマのサポートを受けてあの化け物、仮称《バーテックス》─近頃正式名称として採用されるらしい─と戦う組織『大社』に所属する『勇者』と『巫女』になってから数ヶ月が経った。

 ひなたが広島で言っていたように、バーテックス達は四国に着いてから襲って来ていない。最も、ヤツらが現れてすぐの時は愛媛などはかなりの被害を被ったらしいので、土地自体に特殊なパワーがあるのでは無く、『神樹サマ』の力の及ぶ範囲内だからと思われる。

 

 神樹サマとは土地神の集合体で、四国に結界─広島で黄碗さんが張っていたものとは違い、侵入を防ぐ事も出来る─を展開して人類をバーテックスから守っている存在だ。

 

 …と、大社の神官さん達から聞いている。

 私は『神託』と言われる神樹サマのイメージもバーテックス襲来の時の中途半端なものしか受け取ってない上に、戦う力も《鎧》によるものなので、イマイチよく分からないのだ。

 

 その事を1度聞いてみると、おそらくだが私には元々『巫女』としての素質があったのだろうとの事だ。

 しかしそれが《鎧》と一体化した事により、一般人より微かに感じ取れるように…言わば「上の下」から「中の下」あるいは「下の上」くらいにまで低下した…らしい。

《鎧》はほぼ人の力によって作られたものだが、1番最初に作られた際に『天の神』から与えられた鉄が混ざっている為、『地の神』の集合体である神樹サマの声が聞こえにくくなったと考えられるそうだ。

 

 最も、これを伝えてくれた神官さんも…というか大社全体でもよく分からない為、憶測も多分に含まれるらしいが。

 

《鎧》も意思はあるものの、神樹サマとは違い私としか交信出来ない上に微弱なので、半ばブラックボックスと化しているのも「らしい」がたくさん付いている理由の1つだ。

 

 なんならこの「勇者」という称号も本来なら「地の神の力を宿した武器で外敵を打ち倒す少女」に付けられるものであり、私には当てはまらないが、例外的な措置としてつけられている。

 

 また、「いつ『巫女』としての力が戻っても良いように」と他の三人とは異なり自由にひなた以外の巫女と会うことが出来る。

 まぁぶっちゃけその力が戻る前兆も見れないし、その権限は2人の勇者とその巫女である「安芸(あき)真鈴(ますず)」の近況報告くらいしか使わないが。

 

 

 

 

「…って事があって結局タマちゃんはひなたとアンちゃんに説教されてた」

 

「あはは!相変わらずだね~そっちは」

 

「そっちは…って事はこっち(巫女達)の方ではなんかあったの?」

 

「うん、近いうちに新しい巫女が来る…って神官の人達が」

 

「新入りかぁ~こっちももう少し人手が欲しいから羨ましいよ…流石に四人で四国全土の防衛と本州の奪還は無茶振りがすぎるよ~」

 

 どうにかしてバーテックスにも効く銃…いや、いっその事ダイナマイトとか作れないのかなんてボヤくと彼女はニヤリと笑い、

 

「その後輩ちゃんなんだけど…新しい勇者を見出した子らしいんだよね」

 

 と告げた。

 

「えっ…本当!?こっちでは聞いた事無かったけど…」

 

「こっちの方が単純に人の出入りが多いからね~その分情報も集まりやすいのよ。『世界の秘密を全て知っている謎の美少女JS現る!?』って記事が書かれても良いくらいにはね」

 

 わっはっはーと笑いながら教えてくれた。

 確かに、勇者の拠点…というか学びや?には人の出入りはそんなにない。一方、巫女である真鈴ちゃんのいるのはまさに大社の本拠地と言える場所であり、人の出入りの多さは比べるまでも無い。

 

 その上『人の口に戸は立てられない』とも言うし、物理的に離れている勇者達(わたしたち)には届かない情報も同じ場所にいる巫女達(彼女たち)には届いても何らおかしな事では無い。

 

 それに麻雀荘の娘と言うだけあって真鈴ちゃんは意外と─こう言うと失礼だが─地頭は良いのだ、単純に興味無い事が全く頭に入らないだけで。

 

「…そう言えば真鈴ちゃんがアンちゃんから借りてた本って読み終わった?今すぐとまでは言わないけど読み返したいからそろそろ返して欲しいってアンちゃんが言ってたけど…」

 

 そう。今までは勇者達と巫女達は住んでいる場所が違う関係上、気軽に交流は出来なかった─ひなたも行き来しているが軽い検査しかしない私とは違い神事にかなりの時間をとられるので、泊まりでも無い限り仲介役は無理なのだ─が、私はどちらにも自由に行き来出来るので真鈴ちゃんとタマちゃん達が直接会えずとも物の貸し借りや交換日記なんかは出来るのだ。

 

「……も、もちろん読み終わったよ!」

 

 …怪しい。数週間の付き合いとは言え、多少なりとも真鈴ちゃんの事は理解しているつもりだ…というか、そんなに目を逸らして冷や汗を垂らしていたら、初対面の人でも嘘をついているのに気付くだろう。

 

 なんて考えながらジーッと見つめると

 

「…半分、くらい?」

 

 まだ見つめ続ける。

 

「……10ページです」

 

 もう嘘をついている気はしないので見つめるのをやめる。

 

「いや10ページって…あれ私が来て結構初めの頃に渡したと思うんだけど?」

 

「いや、読もう読もうとは思うんだけどさ~よくわかんない神様の勉強をした後に字がビッシリ詰まった本を読む気力は湧かん!」

 

 いっそすがすがしい程の表情で開き直った。

 

「いや気持ちはわからんでもないけどさ…そろそろしっかりと読んだ方がいいんじゃない?」

 

「くっ、5年生の…5年生のこのアタシが小4の香織に言い負かされるとは…!」

 

「完全なる自業自得でしょ…アンちゃんにはまだしばらく返せないって言っておくから」

 

「ううっ面目ない…」

 

 と、談笑しているとコンコン、とドアを叩く音が聞こえ、ひなたが部屋に入って来る。

 

「失礼します安芸さん、少し良いですか~って、香織ちゃんもここに居たんですね」

 

「お、ひなたちゃんじゃん!なに?ひなたちゃんもこの5!年!生!である私になにか相談でも「いえ、違います」…あ、そう…私の周りには私を年上として尊敬してくれる人は居ないの…?

 

「あはは…で、実際はなんの用?」

 

「はい。安芸さんは新しい巫女の子が来ることはご存知ですよね?その子がこちらに到着したようなので顔合わせのために巫女達に声がけしているんです」

 

「お、ウワサをすればなんとやらだね。…うん、アタシは他の子達のところに行ってくるから香織は先に食堂に向かって~いつも通りならそこで紹介されるはずだから」

 

 そう言うと真鈴ちゃんはドタバタと軽く音を立ててひなたを連れて他の部屋に行ってしまい、部屋には私だけが取り残された。

 

 いや、話が急すぎるし、なんならこういう巫女の新人歓迎みたいなものに参加するのも初めてなのだが…

 

「…まぁいっか」

 

 ひとまず私は真鈴ちゃんに言われたままに食堂に向かった。

 

 Side香織Out

 

 

 

 

 …この世界に攻め込み、多くの人々を殺した恐ろしき白い怪物。それに対抗するべく集められた怪物退治のプロフェッショナル達であり、古くから存在する秘密結社である

 

 …と、言うのが世間で一般的に思われている大社だ。が、実際のところ大社という組織は別に怪物退治のプロでは無いし、別にフリーメイソンのように歴史ある秘密結社でも無い。

 

 その実態は神の声を聞いた神官と巫女、神の力が宿った武器を扱える勇者が集められた、『組織』というよりも『集団』と言う方がしっくり来るものだ。

 

 よって別に秘密基地やら専門知識なんてある筈も無く、政府もどちらかと言うと『大社』というよりも『神』に何とかしてもらうべく怪物…『バーテックス』に対する事を大社に一任している。

 

 …最も、神樹付近の土地を買収したり、城を改装して与えるなど、中々に大胆な事もしているが。

 

 そんな訳で、大社の仮の本拠は神樹の根元付近にある廃校を改築したものであり、食堂は体育館の半分を指す。

 

「え~と、確かこっちだったよね」

 

 香織はちょくちょくここ(拠点)には来ているものの、食堂を利用する事はあまりない─巫女達に作られている食事を巫女としての行為が出来ない自分が食べるのは気が引ける、と考えているからだ─ので、少しばかり右往左往していると、

 

「あ~そこの飾りはこっちで…」

 

「こ、こうですか?」

 

「そうそう!そんな感じ」

 

「何やってんの?」

 

 巫女達が何やらやっている為、反射的に声をかける。

 

「あ、香織ちゃん!こっち来てたんだ!」

 

「せ、先輩!勇者様に少し砕けすぎじゃないですか!?」

 

「ああ、気にしないでいいよ全然。私はこういう感じの方が好みだし。むしろ…ええっと千葉ちゃんも香西ちゃんみたいにもっとグイグイ来てくれた方が嬉しいかな」

 

「ほら~全然怒ってないでしょ?」

 

「そ、そうですね…というか弓有様は「香織でいいよ」…香織様はいつの間に私の名前を?」

 

「ああ、前にここから戻る時になんか見た事ない巫女の子が居るな~って思って、後でひなたに聞いたら新しく千葉って言う子が来たって教えてくれたからね」

 

「えっ…もしかして香織様はここにいる巫女全員の顔と名前を覚えていらっしゃるんですか!?」

 

 

「うん、昔から私の傍に居てくれそうな人の名前と顔を覚えるのは得意だからね」

 

 そう香織は、自嘲しているような顔で答えた。

 

 …最も、そんな顔をしている事は本人も含めて誰も気づかなかったが。

 

「んで、結局2人は何してたの?」

 

「ああ、今日新しい巫女の子が来るんだけど、その歓迎の用意だよ。まぁこれ(・・)を食堂に置く程度なんだけどね」

 

 そう言って香西と呼ばれた巫女は花飾りが付いたホワイトボードをパン、と叩く。

 そこには『ようこそ!花本美佳さん!』とマジックで書かれていた。

 

「これが新しい巫女の名前?」

 

「そ、花本(はなもと)美佳(ミカ)さん!」

 

「ち、ちょっと先輩!」

 

 その時、香織の後ろから話の中心人物である新しい巫女の少女が入って来た…どこか諦念した表情を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side美佳

 

 …ああ、ここでもか─それが、彼女たちの会話を聞いた時に最初に思った事だ。

 

 私は正しく名前を呼ばれる事が少ない。それは今までもそうだったし、間違われやすい名前なのは自覚しているので諦めている。

 

 それでも心のどこかで期待していたのだ。《あの神様のような人》と同じように他の巫女や勇者も最初から私の名前を間違えずに呼んでくれる、と。

 そんなわけないのに。『巫女』や『勇者』なんて大層な呼び名でも、私の周りに居た同年代の人達と何ら変わりはしないのだ。

 

 でも、今はそれでいいのだ。《彼女》は私の名前を間違えずに呼んでくれた。それは生涯通しても得がたい宝なのだ。だから私は

 

「ヨシカ」

 

 

 

 …え?

 

 

 

 カオリと呼ばれていた少女が、そう言った。

 

 

 

「ん?ヨシカってなに?」

 

「ああ、この名前(美佳)の読み方。この漢字たしか他にもヨシカやハルカ、ミヨシなんて読み方もあったな~って。ミカって断定するのはちょっと早いかなと思って」

 

「…げ、もしかして私名前読み間違えちゃった?」

 

「いや、そうとは限らないよ?ただ直感的にヨシカさんかなーって思っただけでミカさんの可能性も全然ある「ヨシカで合ってます」し…え?」

 

「私の名前は花本(はなもと)美佳(ヨシカ)です」

 

 私の名前を当てた少女は一瞬呆けた顔をした後、

 

「私は弓有香織。一応勇者。たまにこっちに来るから、その時はよろしく!」

 

 と、人を安心させるような表情で言った。

 

 そこには《彼女》に感じた神聖さや神々しさは全く感じなかった。

 

 だけど、きっと《彼女》を隣りで支えられるのはこんな人なんだろうというオーラのような物も感じ、安堵すると共に、私の中で目の前の少女よりも《彼女》の力になってみせると言うライバル心のようなものが芽生えた。

 

 少なくとも、悪い印象は持たなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …目の前の彼女こそが、私が信奉する《彼女》が地獄のような苦しみを受ける様になる元凶(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 と知るまでは。

 

 

 Side美佳Out

 




はい、これは初期プロットでは全く考えて無かった話です。
勇者史外典を読んだ後、予定と変わったところの先を考えながらの執筆のため予想以上に時間が経ってました。

補足として、真鈴との会話にある本の貸し借りですが、例の『外国の小説』ではありません。『外国の小説』はアンちゃん(まだ本編で本名を明かしてないのでこの呼び方です)が真鈴にプレゼントした物で、それとは別に香織を通してオススメの本の貸し借りをしている、という設定です。

後、廃校うんぬんの話は完全に捏造です。あのパニック状態で初っ端からいい建物は無いだろう、と言う妄想ですね。

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なんであなたが

どうも、復活のコアメダルやアニレコで精神崩壊してしばらく執筆してなかったGGO好きの幸村です。

いや~あれは凄かった!とまぁそんな具合でそこそこ時間はかかりましたがなんとか書けた本編、楽しんでくれると幸いです!



 Side香織

 

 美佳ちゃんの歓迎会の翌日、私は勇者の本拠地であり、現在大社が所有する最も豪華な建造物、丸亀城で談笑していた。

 

「…って感じで、中々楽しかったよ」

 

「む~そんな面白そうな事があったなんて…やっぱり香織とひなただけ真鈴達のところに行けるなんてズルいぞ!」

 

 タマ達も連れてけ~!

 

 とイスに座りながら四肢をジタバタと動かすのは勇者の1人である「土居(どい)球子(たまこ)」。

 

「タマっち。香織さんもひなたさんもいじわるしてる訳じゃないし、言っても仕方ないよ」

 

 と、球子をなだめるのは「伊予島(いよじま)(あんず)」。

 

 この2人に私と若葉を加えた4人が、現在バーテックスに対抗できる勇者だ。

 

「それにしてもその美佳さんが見つけた勇者ってどんな人なんでしょう?」

 

「あ~それがね…」

 

 そう、昨日私も気になって美佳ちゃんに聞いてみたのだ。そしたら

 

『あの人についてですか!?そうですね、やはり彼女はその儚げな雰囲気が印象に残り、その美貌たるや…

 

『ち、ちょっと美佳ちゃん?一旦落ち着いて!』

 

 地球上に存在する生物はおろか塵芥さえも振り向く程であり、神器である鎌を持たれた御姿はどんな絵画よりも美しく…

 

『は、花本ちゃん深呼吸、深呼吸して!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …と、長々と語ってくれた。ひなたに若葉の事を聞いた時とは別ベクトルでイキイキと。おそらく私と真鈴ちゃんが止めなければ酸欠するまで話し続けただろう。その内容を要約すると…

 

「…黒髪の長髪で、私たちより年上。武器は鎌みたいだね」

 

「年上か~真鈴みたいなヤツか?」

 

「うーん…巫女さんの話どうりならもうちょいこうクール系ぽいね」

 

 と、話しているとガラガラと音を立てて後ろ側の扉が開いた。

 

「む…私たちが最後か」

 

「そうみたいですね。おはようございます香織ちゃん、球子さん、杏さん」

 

「おはよう若葉。ひなた。」

 

 登校してきた2人に挨拶し終えると、すかさずタマちゃんがひなたにも尋ねる。

 

「ひなた!ひなたは新しい勇者の話、なにか知らないか?」

 

「えぇ、知ってますよ。と言っても、香織ちゃんが知っている事に毛が生えた程度ですが」

 

「それでもいいからさ、早く教えてくれタマえ!」

 

「わ、私も気になります」

 

「私は仮にもリーダーだからな。新しい勇者が来るならその人柄などを知っておく必要がある」

 

「うん、私も聞きたいな。ぶっちゃけ美佳ちゃんの話は分かりやすいとは言いづらかったし」

 

 タマちゃんは目を輝かせながら、アンちゃんはおずおずと、若葉は少し険しい表情を浮かべながら、そして私は昨日の美佳ちゃん(暴走列車)を思い出して苦笑いしながら続きを促す。

 

「ふふっ、わかりました。お名前はコオリチカゲ(・・・・・・)さん。

 

 

 

 

 その名前を聞いた途端、頭に鈍い痛みが走る。脳裏に過ぎるのは彼女(・・)が私を受け入れてくれた時の事、そして…私のエゴで彼女の日常を無茶苦茶にしてしまった瞬間の事…だが、同姓同名の人物なんていくらでもいるし、読みが同じだけで漢字は違うかもしれない、そうだ、そうで無ければ

 

 

 

 

 出身は高知県で香織ちゃんと同じみたいですね。…香織ちゃん?」

 

 

 

 出身地が同じだからと言ってそれが彼女(・・)だと断定された訳じゃない、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だ大丈夫だ、大丈夫、大丈夫だ大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ大丈夫だ、大丈夫大丈夫大丈夫だ大丈夫大丈夫だ、大丈夫大丈夫大丈夫だ大丈夫だ、大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫だ大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫だ大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だ大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だ大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だ大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょう

 

 

「〈香織!しっかりしろ!〉」

 

 

 ッ!…どうやら、最悪の状況を想像してしまったからか、取り乱してしまったようだ。

 

「香織、大丈夫か!?」

 

「香織さん!」

 

「香織ちゃん!」

 

 みんなにも心配かけてしまったようだ。若葉が大声で声をかけてくれなかったらおそらく倒れてしまっただろう…少し貧血気味なのか頭が重い。

 

 

 …もしも、もしも本当に新しい勇者のコオリチカゲが私の知っている彼女(・・)なら…私は、どうすればいいんだろう。

 

 私は2つ並べた椅子で横になりながら、答えの出ない問題について考えるのだった。

 

 

 Side香織Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side杏

 

 私にとって香織さんは、数少ない勇者の仲間であり、その勇者の中で唯一共通の趣味…読書好きの同士だ。

 

 彼女自身は嗜み程度、と言っているものの、その冊数や種類はとても多く、有名な賞を取った作品やテレビなどで大々的に取り上げられた著者の作品は一通り網羅していて、特にライトノベルは私の何倍もの作品を読んでいて、お互いに作品をおすすめして、感想を交換したりもしている。

 

 それに真鈴さんとの交換日記を届けてくれたりと、丸亀城の中でタマっちに次いで─本人からは『タマっち《先輩》と呼びタマえ!』と言われるが、今のところ変えるつもりは無い─交流が多い人だ。最も、私の性格からして彼女から話しかけてくれなかったらこんな仲良くはなって無かっただろうけど。

 

 そんな香織さんの様子がおかしくなったのはひなたさんが新しい勇者…コオリチカゲさんの話をしてからだ。

 

 今は落ち着いているけれどさっきは虚空を見つめながらボソボソと「…うぶ、………だいじょ……」と呟いていた。

 

 正直…少し、いや大分怖かった。どこか遠くに行ってしまいそうで。

 

 私は香織さんの過去について何も知らない。だけど…私にも、何か出来る事はあると思う。友達として…『仲間』として。だから私たちは、香織さんが相談してくれるのを待つ。いつか、心の内を打ち明けてくれると信じて。

 

 Side 杏Out

 

 

 

 

 

 香織が横になってから凡そ20分後、教室の前の扉が音もなくスッと開く。

 

 神社のイベントなどでよく見る服、狩衣に身を包んだ男性が部屋に入って来る。丸亀城の勇者達に勉学を教える神官…まぁ簡単に言うと学校の先生のような人である。

 

 ここが普通の学校だったら「●●センセーおはよー」みたいなフランクな会話があるものだが、生憎とここは丸亀城。勇者達の訓練所兼学び舎だ。

 神官は能面のような顔でクラスを見つめ、勇者達も席に着いて背筋を伸ばす。

 

 ここには友情だの色恋沙汰などの空気は一切なく、ただ『教える側』と『教えられる側』の関係だけが存在する。

 

 前は、主に球子がコミュニケーションを取ろうとしていたものの、話しかけても流され、名目上は教師の机の上に袋うどんを置いても一瞬迷うような素振りを見せたもののスルーし、球子が「こうなったら最終手段だ!タマに任せタマえ!」と自信満々に行ったお色気作戦も見なかったことにされ─この時思わず笑ってしまった杏とひなたは昼休みにそのたわわな双丘を球子に「2人みたいに大きかったら成功していたんだ!タマにもすこし寄越しタマえ!」と八つ当たり気味に揉まれていた─とまぁことごとく失敗したためこういう冷えた関係になった訳だ。

 

 神官は教室が静まったのを確認し、口を開いた。

 

「本日より、新しい勇者がここにやって来ます。これからバーテックスに対して共に戦う仲間となるので、勇者システムの完成までに親睦を深めてください。」

 

 そう告げると、扉の外に居る新しい勇者に入るよう指示する。

 

 長い黒髪をたなびかせ、うつむきながら入ってきた少女は

 

「郡千景…よろしく」

 

 そう言いながら顔を上げ…香織を見ると驚いたような顔を一瞬見せたものの、その後は興味を無くしたかのように無表情に一瞥し、香織は恐れか後悔か、あるいはその両方か…顔を青ざめさせて目をそらした。

 

 

 Side千景

 

 …どうして彼女がココにいるのだろう。

 私は同郷の人物である弓有香織の事を見てそんな事を考えていた。

 

 

 

 7月30日、私が花本さんと出会った日であるのと同時に世界中が謎の白い怪物に襲われてから1ヶ月後ほどだろうか。学校から帰ってくると、普段は酒瓶だらけで機能している事を見たことない客間で見慣れないスーツの男が父親と何やら話していた。

 

 最初はまた私の親権に関しての法律関係者かと思い、私が顔を出した所でどうせまた面倒な事になるだけだと思って晩御飯の支度─まぁ湯せんで出来るレトルトを買いに行くだけだが─をしようと思ったら、父親がなにやらいい事でもあったのか、珍しく満面の笑みを浮かべて部屋に入って来るよう言ってきた。

 

 なにがあったのかと思い部屋に入るとスーツの男は私にいくつか質問してきた。「7月30日に神社や社の近くにいなかったか」「そこでなにか武器のようなものを見つけなかったか」などよく分からないものが多かったが全て正直に答えた─あの鎌は父親に見せてなかったから持ってきた時は笑顔から一変して渋い表情を浮かべた─所、スーツの男は姿勢を正して

 

「どうか世界の為に力をお貸しください!勇者様!」

 

 と、それはそれは綺麗な土下座をしてきた。

 

 話を聞くと、『神樹を信仰する大社が世界を解放する勇者として私を丸亀に招く』なんて言うカルト教団みたいな事を言ってきた。

 

 当然、私はそれに懐疑心を覚えたが、父はそうは思わなかったようで、私に行くのを進めた…半ば強制だったが。後から知った話だが、大社に勇者を強制的に集めるだけの権力は無く、「世界の為に親から子を預からせてもらう」というスタンスの為、私が丸亀に行くだけで毎月中々の額が一応親権がある父に入ってくるようで、『収入は変わらないが子供に家事を丸投げ出来る環境』と『子供を引き渡すだけで毎月かなりの収入が見込め、しかも増額の可能性がある環境』を天秤にかけて後者が勝った、という事のようだ。

 

 正直別に世界がどうだとか知ったことではないが、その大社には「私が求められている」し、それに「私が行かなかったから人が死んだ」なんて思われたら厄介だし単純に夢見が悪い。

 

 だから私は丸亀に行くことにした。

 

 が、行って少しして後悔する羽目になった。

 勇者は他にも何人かいる事を知ったのだ。

 

 私はあの時(・・・)から人間不信…とまでは言わないが、大人数の中に入るのは苦手だ。

 

 何年も友達だった人物も噂1つで石を投げてくる、世界とはそんなものなのだ。

 だから他の勇者達とはいつも通りあまり関わらないようにしよう。

 

 攻撃は相手が痛がるのを見て初めて成功なのだ。

 

 それにいつも(村の中)ならともかく、初対面の人に対してなら精々上履きとかノートや消しゴムが消える程度だろう。気にする程でも無い。

 

 …そう考えていた。その勇者の中に村にいた弓有香織が居ると知るまでは。

 

 私は特に彼女を恨んだりはしていない。

 

 ただ、「友達」と言う言葉は思っていたよりも脆いと言うことを教えてくれただけなのだから。

 

 Side千景Out

 

 

 

 

 それから数ヶ月。香織と千景との間で喧嘩のような騒動は一切なかった。…いや、一切の交流が無かったと言うべきか。

 

 朝や休み時間は香織は本を読んだり他の勇者と話しているのに対し、千景は基本的に携帯ゲームをプレイしていて、球子や若葉が話しかけても無視か最低限の返ししかしない。

 

 放課後に球子が2人を遊びに誘おうとしても、千景は基本的にスルーし、稀に了承されたとしても勘のいい香織は球子が誘う前に巫女達の所に行っているので、球子達が2人と同時に遊べる日はついぞ来なかった。

 

 このまま2人の関係が変化しないと、本人たちも含めて全員がそう思っていた。

 

 

「おっはようございま~す!」

 

 

 新しく、

 

 

「奈良県からやって来ました高嶋(たかしま)友奈(ゆうな)10歳!」

 

 

 

 誰よりも『勇者』の名が似合う

 

 

 

 

「よろしく勇者で~す!」

 

 

 

 この少女が現れるまでは。

 




はい、という訳で今回は香織と千景が互いにどう思ってるかや過去の出来事について軽く触れてみました。

ここで軽くネタバレですが、香織は千景に対して罪悪感はあるし、反省もしていますが、同時に「仕方ない事」と割り切ろうともしていますし、千景が千景が自分のやってしまった事を他の勇者に話して自分が孤立する事をなによりも恐れていると言う、複雑とも面倒とも取れる考えをしています。第三者視点からすると「最低」ではないが「低」ではある、というイメージです。

この考え方で香織が原作メンバーとどう関わっていくのか、また次回から本格的に登場する高嶋ちゃんとの絡みなど、楽しみにしながら待ってくれるとありがたいです。

あ、今度コナンの映画観に行くので多分また更新遅れます。ユルシテ…ユルシテ…

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「勇者」

どうも、今期アニメでは勇者、辞めますが1番好きなGGO好きの幸村です!

いつの間にか評価が赤バーになってました!こからも読んでくれている皆さんが「面白い!」と思ってくれるようなものを書けるよう頑張ります!

少々前書きが長くなってしまいましたが、今回も楽しんでくれると幸いです!


 Side香織

 

 高嶋友奈と入ってきた少女が名乗った時、私は彼女に恐れ(・・)を抱いた。

 

 彼女の目や雰囲気からわかる。彼女は人に好かれる人(・・・・・・・)だ。

 

 彼女の性格はまだ分かるわけもない。ただ1つ確信が持てるのは、もしもちーちゃ、郡さん(・・・)が私がやった事を彼女に話したら…私の居場所がここから無くなるという事だけだ。

 

 彼女には人を惹き付ける『なにか』がある。天性のものかはたまた意図的にそうしているかは分からないが、1週間とかからずにこのグループの中心核になるだろう。

 その後に私の過ちを言えば、私がここで築いてきた全てが崩れ去るだろう。

 

 勿論、他の勇者達がそれで私の事を蛇蝎の如く嫌うとは思っていない。どうやっても絶対に溝が出来る、私の居場所(・・・)が1つ無くなる。

 

 

 

 それだけは嫌だ。絶対に。

 

 

 

 幸い、彼女が他人を蹴落としたり、争ったりする事に悦を覚えるような人物とは思わない。排除しようとして敵対するよりも、仲良くなっておいたほうが何かと得だろう。

 

 これらをまとめた彼女の第一印象は…『お人好しの首輪型爆弾』なんてところだ。

 

 

 

 そんな彼女は「よろしく勇者で~す!」なんてユニークな挨拶で教室に入って来たものの、シーンとした空気に包まれ、「あ、あれ?部屋まちがえちゃった…かな?」なんて言っているが、まぁ当然と言えば当然である。なぜならここに居る人のほとんどは勇者であるという自覚もなく勇者になったのだから。

 

 ある者達は動乱に巻き込まれて。またある者は半ば無理やり。

 そんな状態で「勇者」に任命され、戦う事になったのだ。ほぼ全員が「勇者」という称号に違和感を持ってる為、自分から進んで名乗る事はほとんど無い。

 それを名乗るとすればヒーローに夢見て事の重大さ、背負わされているものの大きさが理解出来ていないか、はたまた余程の覚悟を持っている者か。…まぁそんな事を考えて反応しなかったのは私とあと一人だけで、タマちゃんとアンちゃんは談笑してた所に勢いよく声をかけられて驚いただけだろうし、郡さんはゲームに熱中してて文字通り眼中に無いだけだろう。

 

 現に、タマちゃんに呼び捨てにされるくらい仲良くなってるし、アンちゃんとも楽しそうに喋ってる。それにしても…

 

「ぐんちゃん、プッぐんちゃん…っ」

 

 ギロリと郡さんがこちらを睨むのが分かるが、これは笑ってもいいだろう。(こおり)という字を《ぐん》と読む時点で大分面白いが、それをあだ名にまで使ったのだ。しかも初対面で。

 

 昔ポケットなモンスターでレベル1のコ●ドラで私のゼク●ムをボコボコにした罰だ、私の犯した罪とは比べ物にならないくらい小さいが、笑う権利くらいは残されているだろう。

 

 郡さんも頬を少し赤く染めながら睨んでくるだけだし、私もこんな事を気兼ねなく考えられた事に、ふと違和感を覚える。まるであの過ち(・・・・)が起こる前に戻ったかのように感じたのだ。そしてその立役者は間違いなく高嶋友奈だ。

 彼女はこのひと時の合間にこの場の空気を完全に掌握した上で和やかにしたのだ。やはり彼女は私にとっては間違いなく驚異で…同時に私たちにとって必要不可欠になるであろう人物だ。それ故に。

 

「若葉…彼女、『強い』よ」

 

「そうか…だが、それでも見極めなければ」

 

 勇者達の中で唯一誇りと家訓の為に勇者になった少女(若葉)にも影響が及んで欲しいと、1友人として願ったのだった…最も、私が誰かの友人を名乗れるなんて驕りかもしれないが。

 

 SideOut

 

 

 

 

 Side若葉

 

『何事にも報いを』私は幼き頃からそう言われて育てられて来た。

 

 7月30日、突然現れた白き怪物「バーテックス」は人々の平和な日常を、私の級友を、そして数少ない友人の1人である香織の父親の片腕を奪った。

 

 私はヤツらにその報いを与えなければならない。…そうしなければ、理不尽に奪われ、殺された彼女達が浮かばれない。

 

 だからこそ、戦う勇者達にはそれ相応の強さや心持ちが求められる。

 

 土居さんはその高い運動能力に防御力、遠距離攻撃と隙が無い。伊予島さんは弓矢─というかクロスボウだが─の高い命中精度に加え、同い年ながらその観察眼には目を見張るものがある。郡さんはお世辞にも体力があるとは言えないが…訓練への意欲は高いし、おそらくゲームに端を欲している高い判断能力があり、いざと言う時は頼りになるだろう。最後に香織だが…彼女の武器だけ神樹様の加護が無い〈鎧〉の為か現在開発中の勇者システムとの噛み合いが良くなく、火力はあまり変わらないとの事だが、それを加味しても武器を状況に応じて自由に変えられるのは強力だし、本人の状況把握能力も高くて四国(ここ)に辿り着くまでの間、助けられる機会も多かった。

 

 全員が『勇者』と言われるに足りる「強さ」を持っている。

 高嶋友奈が奈良の人々を無事に四国に連れて来た事も、その才能もひなた達から聞いているし、人を見る目がある香織も『強い』と言っていた。

 しかし、だからといってそれが高嶋友奈を受け入れる理由にはならない。この目、いやこの身体で見極めなければ。

 

 高嶋友奈が丸亀城にやって来たその日の3時間目、柔道の時間。

 

 これは絶好の機会だと思った。柔道を含めた武道は『礼儀』を重んじる。そしてその『礼儀』の中には目に見えない人達も含まれる。私はそこに理不尽に殺された人々への礼儀、そして必ず仇を取ってみせるという誓いを込めている…彼女は一体どんな思いで「勇者」と名乗ったのだろうか。もしも軽い気持ちでの発言だったり、その字面だけに惹かれてやって来たのなら、私は彼女を全力で勇者から除名させる。その方が彼女の為にもなるだろう。

 だから、

 

「高嶋友奈、ちょっと良いか」

 

 

 

「よろしくお願いします!」

 

 互いに礼をして、組手を始める。講師役の神官はまだ来ていないが、私はまだ未熟とはいえ居合を修めているし、相手も趣味は父親から習った武術と言っていた。どんな武術で、どのくらいの腕前かは知らないが、基本である受け身くらいは出来るだろうし、問題は無い。

 

 

 ダンッ!と音をたてながら、彼女の背が畳につく。

 

「いや~若葉ちゃん凄い強いね!」

 

 よっと!なんて飄々として起き上がる彼女を見て、私の中の苛立ちが大きくなっていくのを感じる。次の組手が始まった時、それを晴らそうとするように彼女に話しかけていた。

 

「高嶋友奈、おまえの才能は聞いている。」

 

 えっとぉ…と困惑する彼女を投げ倒す準備をしながらも会話を続ける。

 

「期待に応えてくれるよう願いたいが…」

 

 と言った後に投げ技を決める。そうだ。私たち「勇者」は期待に応えないといけない。澄んだ青空を、ずっと住んできた家を、大事な家族や友人を、そしてたった一つの命を奪われた人々の「化け物(バーテックス)に復讐して欲しい」という期待に。

 

「もちろん頑張るよ!」

 

 なんて言いながら起き上がって、再び私に向かってくる。本当に分かっているのだろうか。「勇者」にかけられている期待と、その重さを。その後私が三本連続で取り、「1本も取れないや!」なんてヘラヘラ笑っている彼女を見て、おもわず怒気を含めて、尚且つ冷徹に話しかけていた。

 

「…8回だ。今の組手の中で私は8回お前に深手を負わせるチャンスがあった。あの化け物達は手心なんて加えてくれない。ヤツらだったら今言った回数の倍は深手を負わせられるだろうし、私が気がつかなかっただけで殺す事が出来たかもしれない」

 

 今言った事は多少過大だが、全くのウソでは無い。目潰し、腹部の殴打による内臓破壊、腕の骨を曲がらない方へと曲げるなど、彼女を戦闘不能にする機会は実際に8回程あった。最も、そんな外道な事をする気はさらさら無いが。

 

 だが、これで1つ分かったことがある。

 

 彼女は「勇者」に向いていない。先程彼女を脅したばかりだが、実際、私が1本取られそうになった場面もあったし、何回やられても向かってくるその精神には見習う点もある。おそらくだがバーテックスがやってこなければ、10数年後には日本でも屈指の武術家として名を馳せていただろうと思える程の才覚の持ち主だ。

 

 だが、それ故に「勇者」に向いていない。彼女の腕前は「武術家」としてのものだ。人々の憎しみを背負い、その報いをヤツら(バーテックス)に受けさせる「勇者」のものでは断じて無い。彼女が人々の思いを背負い、戦う事が出来るようには到底見えない。「勇者」にならない方が彼女の為になる。故にどこまでも冷酷で、冷徹な声で

 

「私たちの戦いは、過酷なものになる。軽はずみな気持ちなら、すぐに出ていって欲しい」

 

 と告げた。

 

 自虐ではないが、私はひなたが私もトランプに混じりたいと言ってくれるまで、クラスメイトから「怖そう」と言われてあまり関わられなかった。「鉄の女」なんて異名がつくほどだ。そんな私がワザと怖がられるような態度を取ったのだ。先程の言葉も合わせて、きっと怖気付いて日常へ帰って

 

「背負ってる、私だって」

 

 そう彼女は私の目を見ながら、確固たる意思をもって告げた。

 

「ここに来るまでにね、たくさんの人を助けられ無かった。神の力があるって言われても、私は無力だ…たくさんの人に生かしてもらって、今ここに居る…うんん、ここに来た!」

 

 そう言うと彼女は構えを柔道のものから格闘技のそれに近いものへ変えた。そして彼女は

 

「全部背負う…ヒーローだから!

 

 と、言ってきた。

 私はその言葉に少し呆気にとられた後、また沸々と怒りが混み上がって行った。あれだけ言ったのにも関わらず、まだそんな幼稚な思いで中途半端に首を突っ込もうとしているのかと、そう思うと激情が抑えきれなくなった。

 

「正義のヒーローはね、絶対挫けないし諦めない。カッコイイんだよ!」

 

『カッコイイ』…そんな軽い言葉だけで被害者達の思いを背負うつもりかと思うと、益々イラついた。もうこうなれば仕方ない、心を折ってでも「勇者」を諦めさせる!

 

「ヒーロー?カッコイイ?それはアニメやマンガの話だ。現実には関係ない…ッ」

 

「ダッ…メェ!?カッコイイに憧れちゃ!そんな「勇者」が良いと思うんだけど!」

 

 言葉を交わしながらの攻防。どれだけ諦めるよう言葉をかけても、力づくで押さえつけようと、ついぞ彼女の心が折れ、諦める事は無かった。そして気づいたのだ。彼女はどこまでも本気なのだと。

 彼女は「勇者」の責任の重さも、戦いの過酷さも、全部分かった上で、ヒーローに…「勇者」になると言ったのだ。

 

「はあぁぁああっ!」 「だあぁぁああっ!」

 

 互いの拳が互いの胸元に直撃し、畳に倒れ込む。

 

「…覚悟って、痛いんだよ」

 

 そう言って彼女は自分の胸元(私の拳が当たったばしょ)に手を当てる。

 

 あぁ…伝わった。貴方の思いも、覚悟も。香織の言った通り、彼女は本当に『強い』。これはもう、認めざるを得ないだろう。

 

「…乃木若葉だ。」

 

「え?知ってるよ?」

 

「それはひなたが自分の自己紹介の時に一緒に言っただけだろう?これから一緒に「勇者」として戦うのだからな、ちゃんと自分で言っておこうと思ってな」

 

「え、って事は…」

 

「あぁ、これからよろしくな、友奈(・・)

 

 わあぁっと訓練場が盛り上がり、他の勇者達が集まってくる。

 

「やったな友奈!」「よかったですね、友奈さん!」

 

「うん!これからよろしくね、タマちゃん、アンちゃん!」

 

「…高嶋さん」

 

「ん?どうしたのぐんちゃん?」

 

「ぐんっ…いえ、私の苗字は(ぐん)じゃなくて(こお)「よかったですね、友奈さん」

 

「うん!よろしくね、ひなたちゃん!」

 

──────────────────── …はぁ」

 

 楽しそうに話している彼女たちを見て、私はふっと少し笑う。

 そんな私に香織が近づいてきて、問いかける。

 

「私の言った通りだったでしょ?」

 

「…あぁ、彼女は『強い』な…私は友奈のような『強さ』は持てそうにない」

 

「別にいいんじゃない?今集まってるみんな(勇者)の『強さ』もそれぞれ違うんだし」

 

 そう言われてはっとする。そうだ、さっき自分でも思った事じゃないか。それぞれが「勇者」と呼ばれるに足りる別々の(・・・)『強さ』を持っていると。そう思うと、さっきまでナイーブな気持ちだったのが急にバカらしく思えてくる。

 私が立ち直ったのを感じ取れたのか、香織は私の肩に手を置き、

 

「それにしても若葉~さっき友奈ちゃんの事友奈(・・)って呼んでたよね~私の時は呼び捨てされたのは四国に着く少し前だったのに~」

 

 なんて、爆弾発言を落としてきた。

 

「い、いやほらそれはあれだ、友奈が呼び捨てにしやすい人柄だからな!ほら、土居さんもいきなり呼び捨てにしてただろう!?」

 

「タマちゃんの場合はそういうタイプの人だからね。でも若葉の場合基本的に「~さん」で固定でしょ?しかも最初「高嶋友奈」なんてフルネーム呼びで明らかに歓迎してませんって雰囲気出してたのに「さん」も「ちゃん」も飛ばしていきなり呼び捨てでしょ?かなりレアなんじゃないかな~」

 

「む、だが…ひ、ひなた!私だって誰か初対面の人を呼び捨てにした事だってあるよな!」

 

「いえ。若葉ちゃんが呼び捨する人自体私と香織ちゃんと友奈さんしかいないので、赤ちゃんの頃から一緒に居た私を除けば会ったその日の内に呼び捨てにしたのは友奈さんが初めてですね」

 

 激レア若葉ちゃんです。なんて言ってニコニコ笑うひなた(親友)と、へ~ほ~ふ~んとひなたの話を聞いてニヤニヤと笑う香織(戦友)から逃げようと振り向くと

 

「わ~か~ば~」

 

 と言いながら小柄な影が行く手を遮ってきた。

 

「ど、どうしたんだ土居さん(・・・・)

 

「ほら!また土居さんって!幼なじみのひなたや一緒に戦ってた香織はともかく友奈は今日が初対面だろう!それなら丸亀城に友奈よりも先にいたタマも呼び捨てにしタマえ!」

 

「い、いやそれはまだ早いというかなんというか…「言い訳無用!球子と呼びタマえ!タマっちでもいいぞ!」…い、伊予島さん!」

 

 私はすぐさま土居さんの相棒といえる伊予島さんに目線で助けを求めるが

 

「あ、あはは…’」

 

 苦笑いで流される。

 なんて事だ、勇者の中でも1、2を争う頭脳の持ち主でもこの危機は打破できないというのか!

 

 ならばと私は郡さんに視線を送る。前に郡さんがやっていたゲームは『死にゲー』と呼ばれるとても難しいゲームらしいとひなたから─どうやら巫女にゲーム好きの人が居るらしく、横から見えた画面の大まかな情報を伝えただけでソフトを断定したらしい─聞いた。ならばきっと、この状況からの逆転の手も思いつけるはずだ。そう期待を込めて視線を送り続けるも

 

「………………………………………………………………スッ」

 

 無言で顔をそらされた。

 いくら日本が世界に誇る文化であるゲームといえど、こんな状況もそうそう無いらしい。しかしこのままでは土居さんからの圧は続くし、かといってまだ呼び捨てにするのは恥ずかしい…

 

 と、ここでまるで天啓のように1つの案が頭に降ってきた。これならば最小限のダメージでこの状況を突破できる!私はふぅと一息つくと、それを諦めたととらえたのか土居さんの目が輝き始める。だが私は今呼び捨てにする気はさらさら無い。私は開口一番

 

「よし、うどんを食べに行こう!」

 

 と高らかに言った。

 

「いや待ちタマえ!?なにがどうなったらタマの事を呼び捨てにする話からうどんを食べに行く話になるんだ!?」

 

「いや、単純に友奈の歓迎会兼大社が見つけた勇者が全員集合したからバーテックスとの戦いに向けての決起集会だ。それにまだ香川組(私とひなた)以外全員丸亀(ここ)の名物の讃岐うどんを食べた事が無いみたいだからな。丁度いいしこの機会にと思ってな」

 

「いやそれは正直美味そうだけどそれとこれは別の話だろ!さあ、タマの事を呼び捨てにしタマ「よし、勇者たちよ、私に続け!」人の話を聞きタマえ!」

 

 

 

 

 …この後、全員で私オススメの手打ちうどんを食べ、そこでまた親睦を深められたのだが…それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時私は、今まで心の奥で常に張り詰めさせていた糸が切れてしまった。友奈にあれだけ言っておきながら、「私達ならなんとかなるだろう」という油断が生まれてしまったのだ。その認識の甘さがある悲劇(・・)を産み、私が復讐に対してより苛烈になるのはこの時からおよそ半年後、香織の勇者システムの試作型が出来た日の事だった。

 

 SideOut




はい、ということで大満開の章第5話のシーンを若葉視点で書いてみました。1部セリフが違うのはアニメと書籍版では友奈が加入する年齢が違うからです。アニメでは10回殺せていたのを8回の深手にしましたが…まぁ乃木家の風雲児さまならきっと数年でそのくらいのパワーアップが可能でしょう(笑)

あと友奈一族はクウガの適正が高いからなのか、気がついたら若葉の心境が一条さんみたいになってしまった…こ、これくらいならキャラ崩壊タグ付けなくても大丈夫ですよね!?

予定ではあと2〜3話ほどオリジナルの話をしてから原作に入るつもりです。

ここまで読んでくれてありがとうございます!気に入ってくれたら、感想や評価、お気に入り登録をしてくれると嬉しいです!


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罪と贖罪

4ヶ月‼️お待たせして‼️申し訳ありません‼️今、投稿しに来ました‼️(キュロス風)

今回、初の8000字越えです
ご了承くださいm(_ _)m



 Side香織

 

『勇者システム』それはこの絶望的な現状を打破できるモノであり、同時にそれを唯一開発、運用できるという理由で大社がバーテックスに対しての全権を有しているという、権力のパワーゲームの上でも切り札となる存在である。

 

 その勇者システムの中でも特に開発が簡単だと大社が考えているのが私のものだ。主な理由として、「私の〈鎧〉が自己完結している事」が挙げられる。他の神器は刀や小手など、武器だけの所から身体能力を向上させる『勇者服』を作り、そこから更に持ち運びがしやすいように改良する─1時期はベルト型(仮面○イダー式)を皮切りに腕輪型にスティック型(ウ○トラマン式)銃や剣などの武器型(スー○ー戦隊式)なんてものまで考案されたらしいが、様々な理由からボツにされた。そもそも何故武器から力を引き出すアイテムを武器型にしようなんて考えたのだろうか─という面倒な事をする必要があるが、私の場合〈鎧〉は私と融合してる上に、鎧故に勇者服の必要面積は他より少なくて済む。なので、単純な火力をあげるようにするだけで完成というお手軽仕様なのだ。一先ず先に半ば完成しているモノ(私の勇者システム)を完成させてから他のモノに取り掛かろうということらしい。…なんなら私の勇者システムは開発しなくても大丈夫なんじゃないかなんて意見もあったらしいが、戦力不足の憂慮と1部政治家からの圧もあって開発される事になったそうだ。

 

 今日はそれの開発が一段落着いたとの事で新しく建てられた大社本部に来ているのだが…

 

「…え~と美佳ちゃん?なにか用?」

 

「…いえ、用事は特にはありません。ただ…あなたと郡さまの関係を知って、勝手に期待してた分、勝手に落胆しただけです」

 

 …今、彼女はなんて言った?

 私と郡さんの関係を知った?それは私と彼女が同じ村に住んでいたという事だけか?しかし、それだけなら彼女が私が圧を感じる程の気迫を向けてくる理由が分からない。つまり…彼女は知ったのか?私が4年前に犯してしまった罪の事を?

 

 その事に気がついた時、頭の中が真っ白になって…美佳ちゃんに掴みかかっていた。

 

 SideOut

 

 

 

 

 

 Side美佳

 

 …私は郡さまの事が好き、と言うよりも愛してると言った方が適切だろうか。別に私はレズビアンと言う訳では無い。ただ、郡さまだから好き(・・・・・・・・)というだけだ。初めて、というか1度しかお会いした事はないが、あの時の衝撃を超える出会いはこの先何十年生きても無いと断言できる。

 

 大社に入ってしばらくして。私は実家の神社の伝手を使って郡さまが勇者になる前の事を調べてもらった…上里さんは乃木様と幼なじみらしいし、安芸先輩は土居様、伊予島様と共に避難所に逃げてきた人々を守りきり、今でも弓有香織─本来なら彼女の事も様付けで呼ぶべきだが、あんな事(・・・・)をした彼女を敬う気持ちは欠けらも無い。あの(クズ)呼びしない分マシだ─を通してやり取りしているし、唯一成人を越えている巫女である烏丸先生は高嶋様の護衛するバスを運転し、長い期間共に行動した。他の巫女達は自分が見出した勇者様方の事を少なからず知っている。であるならば、巫女は少なくとも自分に関する勇者様の事を知るべきであり、これは断じてストーキングに連なるものでは無いと言っておく。

 

 ともあれ、郡さまが暮らしていた村での出来事を知り…私は唖然とした。

 

 家庭を顧みない自己中心的な父親、徐々に荒んで行く家庭環境、そしてそれに耐え切れなくなった母親の…不倫。それが発覚した時、彼女を取り囲む人間関係は一変した。彼女にはなんの非もないのに、虐められ、体にも心にも癒えない傷を付けられた。物が勝手に無くなってたり壊されているのは当たり前。時には服を剥ぎ取られて焼却炉に投げ捨てられ、時には階段から突き落とされる。更には『女の命』とまで称されたあの美しい黒髪を無理矢理切り落とし、さらにそのままハサミは彼女の耳まで切り裂いた。

 それを行った子供達はケラケラ笑い、咎めるべき大人達は黙認するどころか加担する。そんな狂気という言葉すら霞む異様な空間。それが彼女の過ごしてきたセカイだった。

 

 私はそれに絶句した後、手を強く握り締めていた。何故彼女がこんな目に合わなければならない?何故誰も彼女を救おうとしない?何故…何故誰も、それが『当たり前』だと受け入れる!?

 

 気が付いた時には、両手から血が流れていた。

 

 なんとしても…なにをしてでも、郡さまを助けたい。その一念で、私は行動を開始した。

 

 最初に私が頼ったのは大社の神官達だ。大社は勇者に対しての全権を握っている。彼らを説得出来れば、郡さまとあの村との繋がりも断ち切れるだろう。私は調査した際の資料を持っていき、郡さまと両親や村の住民との距離を離すよう提案してみたが…

 

「いくら郡様と共に居たいとしても流石にこれはやり過ぎでしょう。もしも本当にいじめの事実があったとしても、こんな常識外れな事はしないはずです。しかも、この資料を鵜呑みにするなら村中の大人も加担していたということになります。到底信じられるモノではありませんよ。こんな資料(モノ)つくる(捏造する)暇があるなら巫女としての務めを果たしなさい。貴方はこの前も相応しくない祈り方を…」

 

 と、取り付く島もなかった。そこからクドクドと説教を垂れ流されたが、私の頭の中は「次に誰になら郡さまの事を頼めるか」1色に染まっていた。

 

 安芸先輩は信じてくれると思うし、人が良いから手を貸してくれるとも思うが、立場は同じなので出来る事も私と同じか、下手をすれば私よりも出来る事は少ないだろう。

 上里さんは協力はしてくれるだろうが、彼女は何よりも自分が見出した勇者であり、同時に幼なじみでもある乃木様を優先する。もしも彼女に害が及ぶ事になったら、敵対する事も十二分にありえる。

 

 誰か郡さまの味方になってくれそうな人は居ないのか…様々な人物が浮かんでは消えて行く。そんな時、アイツ(・・・)の事を思い出した。

 

『ヨシカかな~っと思っただけで』『私は弓有香織、一応勇者』

 

 そうだ。あの人ならきっと信じてくれる、郡さまの味方になってくれる!

 私は愚かな事にそう確信した。だが、その期待は次の神官の言葉であっさりと裏切られた。

 

「そもそも、郡様がお住いの村は同時に弓有様がお住いの村でもあります。こんな事件(デタラメ)があれば、あの人がそれを止めない筈が無いでしょう。それをせずに放置する様な人ならば神樹様が勇者にお選びになる筈が無い!この事は私の胸の内に留めておくので、今日の所は自室に戻りなさい」

 

 その言葉を聞いた時、一瞬なにを言っているのか分からなかった…いや、理解しようとしなかった。

 だって2人が同じ村に住んでいたのなら、彼女は…弓有香織は、あの狂気の沙汰を黙認し、それを後悔すること無く郡さまと共に戦おうとしているのか?そんな人が…そんな奴が、本当に郡さまの味方になってくれるのか!?

 

 彼女に疑いを持った私は郡さまの事を調べる内に手に入った資料を探した。それは郡さまがどんな目にあったのか、そしてその実行犯は誰なのかを纏めたもの。その量とそこに書かれているあまりの所業に、私は無意識の内にそれを封印するかのように資料の山の1番下に置いていた。

 

 しかし、郡さまと弓有香織に関係があるのなら、あまり考えたくはないが…弓有香織についてもなにかしら情報があるのではないか。

 

 そう考えた私は、一晩中思わず吐き気を催す程の鬼畜の所業がビッシリと書かれている紙の束を隅から隅まで読み込んだ。

 

 

 

 

 そして彼女の名前を見つけた…最悪の形で。

 

 

 

 

 おかしいとは思っていたのだ。村の中で悪評が広まった親の間に生まれた子が虐められる…理不尽だとは思うし、なぜ郡さまがこんな目に遭わなければならないのかと怒りも覚えた。だが、

 理解自体は出来た(・・・・・・・・)

 

 ふざけた話ではあるが、理由は分かる。最も、全く持って納得はしてないが。

 

 問題はその内容だ。不倫が村中に広まってから先に述べた狂気の沙汰に包まれるまでの期間はたったの2ヶ月(・・・)。これはいくら何でも早すぎる。

 

 イジメには段階があるらしい。最初にイジメの対象を孤立させ、次に陰口が増えていき、そこから物が無くなるなどの被害になり、最終的に暴力的になっていく。

 郡さまの場合、この段階を飛ばして一気に最終段階に達した事になる。

 

 暴力は一種のラインだ。1度振るってしまえば、その暴力を振るった人物がいじめの対象になる、あるいは教師に告げ口されて親に伝わりキツく叱られるか…もしくは、外部からの強力な介入がない限り続くかの3択になる。

 

 それを短期間で、しかもほんの数ヶ月前まで仲の良かった相手に行う。これは明らかに変だ。

 

 だがこの資料を受け取った時はそこよりも郡さまの過去と彼女が受けた鬼畜な行いにばかり目がいって、そこに違和感を覚えなかった。

 先程の神官もこれが2、3年かけて深刻化していったイジメなら少しは本気で受け取っていただろう。しかしこの2ヶ月というあまりにも短すぎる期間がこの資料を戯言と判断させた。

 

 そしてこの資料において郡さまに最初に暴力を振るった人物、それが

 

「弓有香織」

 

 彼女が郡さまに初めて暴力…具体的には頭に石を投げた人物であり、これを皮切りに郡さまへのイジメは一気に加速した、火付け役だ。

 

「弓有香織…」

 

 この時私は怒りがふつふつと湧き上がるのを感じた。何故郡さまを裏切ったのか、何故人1人の取り巻く環境をあんな地獄に変えておきながらあんな風に笑えるのか…何故、今平気な顔して郡さまの隣に立っていられるのか!

 

「弓有…弓有香織ぃぃぃぃっ!!

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

 …大声を出したら少し落ち着いた。

 あの女がやった事は許すべき事では無いが、許す、許さないを決めるのは被害者の郡さま自身だ。

 だからもしもまたあの女が来たらその時は隠したいであろう『秘密』を知っている事と、それに関しての皮肉でも言って一先ずは流してやろう。

 そう思い気分を切り替えて後ろを向くと

 

「…なにやってるんですか安芸先輩」

 

 同じ巫女の安芸真鈴─一応年上なので先輩呼びだ─が間抜けな表情で床に座っていた。

 …まぁ、この人の奇行はいつもの事だし気にしてもしょうがないか」

 

「…花本ちゃんは私をなんだと思ってるの…?」

 

 どうやら声に出していたようだ。

 

「そんな事より、安芸先輩はそこで何やってるんです?」

 

「そんな事よりって…ハァ、まぁいっか。香織ちゃんがこっちに来たから呼びに来たんだよ。何でも、例の勇者システムの試作品が出来上がったんだってさ。そしたらいきなり大声で香織ちゃんの名前を呼ぶからビックリしちゃって…なにかあったの?」

 

 どうやらさっきの大声を聞かれていたようだ。でも特段聞かれてはならないものでは無いし、書類が見られていなければ問題は無い。いや、そういえば今気になる事を…

 

「…弓有香織が今来ているんですか?」

 

「うん、そうだけど…ん?前はもうちょっとなんか親しげな感じだったと思うけどなにかあった?ケンカでもしてるの?」

 

 …態度に少し残った怒りなどの感情が乗っていたようだ。すこし深呼吸して心を整える。

 

「…いえ、そういう訳では無いんですが…少し思うところがあるだけです」

 

「そう?なら良いんだけど。なにか困った事があったらこの11歳!の私を頼ってくれても「そんなに年の差を意識してるの巫女達の中で安芸先輩だけだと思いますよ」うぐっ!」

 

 素なのかワザとなのか、少々オーバーリアクション気味の反応を見て、思わず少し笑ってしまう。

 

 と、そんなことがあって落ち着いた私は弓有香織に少し皮肉を言うべく彼女のもとへと向かった。

 

「やっほー香織!久しぶり!」

 

「あ、真鈴ちゃん!あ~たしか前来た時は滝行やった直後だったから会えなくて…2週間ぶりくらいかな?」

 

「そうそう!まったく上の人らもひどいよね~たまには休みがあっても良いと思うのにサボらずに祈りを捧げよ~って…少しくらい休んでも大丈夫だと思うんだけどな~」

 

「ま、まぁきっと何かしらの考えがあるんでしょ…多分」

 

 そんな会話をして笑う弓有香織を見て私は思わず歯を食いしばる。

 郡さまにあんな事をしておきながら何故そんなのうのうと今楽しそうにしているのか…収まっていたはずの怒りが込み上げてくる。さっき大声を出していなかったら恐らく彼女に殴り掛かって居ただろう。

 

 その激情をぐっと押し殺して弓有香織をじいっと見つめる。

 その視線に気がついたのか、弓有香織も不思議そうな顔をして

 

「…え~と美佳ちゃん?なにか用?」

 

 と尋ねてきたので、極力怒りを込めないようにしながら返事をする。

 

「…いえ、用事は特にはありません。ただ…あなたと郡さまの関係を知って、勝手に期待してた分、勝手に落胆しただけです」

 

 咄嗟に出た言葉だが、これが案外私の本心なのかもしれない。私の名前を当ててくれて、相談にも乗ってくれるような人が郡さまと共に戦ってくれる…そんな善人であるという身勝手な期待をして、それが泡沫のものだと知って勝手に落胆しただけ…なんとも笑える話だ。

 確かに郡さまに石を投げた事実は変わらないが、それ以降彼女は郡さまに対して暴力を振るうどころか陰口1つ叩いていない。

 

 だというのに今の私は郡さまに消えない傷を与えた者やこんな理不尽な目に会うきっかけとなった郡さまの両親よりも弓有香織に対して最も強く怒りを抱いている。もちろん、郡さまの周りの境遇を見て見ぬふりをした罪もあるが、やはりその怒りの多くを占めているのが「期待に対する失望」なのだろう。

 

 そんな事を考えていると「ガシッ」と擬音が着くほどの力で胸ぐらを掴んできた。

 だが、思っていたよりも私の頭は冷静だった。「ここで私の口を無理やりにでも塞ぐつもりだろうか」「実は調べきれてないだけで初めの投石以降も郡さまを傷つけていたのではないか」様々な考えが頭に浮かぶが、それでも私の胸中の割合の多くを占めるのは失望だった。

 

 

 

「美佳ちゃん…ちょっと、場所を変えてもいい?」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして移動したのは大社の仮本部の屋上。ここは特になんの設備も無く、人が来る事も稀だ。そのため人に聞かれたくない話をするのには最適な場所と言える。

 

「美佳ちゃんは、私と…郡さんの関係についてどのくらい知ってるの?」

 

「…全てです。貴方が彼女にした仕打ちも含めて、全て」

 

「…そのことを他の人は?」

 

「私以外誰も知りませんよ。神官に資料を纏めて提出したら捏造呼ばわりされましたよ」

 

「そっか…まぁあちらさんからしたら勇者の過去の不祥事なんて認める訳にはいかないしね…」

 

 彼女はまるで他人事のような口ぶりでそう話す。

 一体彼女は私をここに連れてきてなにがしたいのだろう。彼女からは秘密にするように頼む態度も、力ずくで無理矢理秘密を守ろうとする様子も感じ取れない。

 

 そんな風に思っていると、

 

「ねぇ、私はどうやったら償えると思う?」

 

 と、まるでくだらない与太話をするかのように聞いてきた。

 

 

 

 償いとは、自分の犯した罪や過失を自らの行いによって埋め合わせることだそうだ。

 

 その理屈に当てはめれば、彼女は自分の行いを罪だと認め、それを反省しているということになる。

 それ自体は問題は無い。むしろ、過去の行動を過ちだと認めていることに、変な話だが、安心感を覚えていた。

 

 だが、それならば彼女は1つ、絶対にやらねばならないことがあるはずだ。

 私は意を決して彼女に問う。

 

「貴方は…郡さまに、既に謝罪をしたのですか?」

 

 そう。償いと言うからには、もう被害者である郡さまに謝罪をしていることが絶対条件であるはずだ。

 そうでなければ、先に償いの行動だけして、「私は既に罪を行動で償った。だから貴方がなんと言おうと私の罪はもう許されてるはずだ」なんて屁理屈を通す事になる。

 そんなものは、償いどころか反省にもならない。

 

 だからこそ私は最後にもう一度だけ彼女を信じようと…いや、信じたいと思い先の問いをした。

 

「…いや、謝罪はまだしてないよ」

 

 ギリッ

 

「…貴方は、本当に郡さまに対して罪の意識はあるんですか?」

 

「うん、多分あるよ」

 

「…っ!…なら、なら何故謝罪をしないんですか!そんなにも今まで傷つけられてきた郡さまに頭を下げるのが屈辱的なんですか!それとも怖いんですか!?郡さまへの今までの行いに対しての罰が下るのが!」

 

「うん、怖いよ」

 

 彼女は私の怒りがこもった、私と彼女の関係を決定させる最後の問い(希望)に対して最悪の答えで返した。

 

「それでひとりぼっちになるのは」

 

 まるで長い間清掃されていない街角に生まれたヘドロのように、どこまでも濁った瞳で。

 

 

 

「ねぇ、美佳ちゃんはこんな経験はある?自分にとって最も信頼できる人がみんな居なくなって、代わりに全く知らない人達に囲まれながらこんな事を言われるの。『なんで生きているんだ』だとか『アナタは生きてるだけで迷惑なのよ』とか、あと『ガキつくってオレらに迷惑かけるくらいならあの2人、もっと早く死んでくれればよかったのに』ってね」

 

 それは、幼い彼女が両親を失った直後に訪れた地獄。

 

 それは、彼女にとって忘れられない、消えてくれない記憶(トラウマ)

 

 そして…

 

「私は火事で家族や、友達を、全部を失って気付いたんだ、ひとりぼっちはこんなにも苦しいんだって。だから私はひとりぼっちにならない為に、なんでもする。学校で運動できる人がブームになったら必死に早く走る為のトレーニングをした。勉強が出来る人がモテ始めたら寝る間も惜しんで勉強した。人気なゲームとか、マンガやライトノベル、賞を取った小説が出たらみんなが引かない程度にやり込んだり読み込んだりした。」

 

「…だから周りのみんなが自分の友人を虐めるのがブームになったら自分もその友人を虐めると?」

 

「否定は、しないよ」

 

 どんな事をしてでもとにかく大勢の人に好かれる人物になること。それが、彼女の処世術。彼女が過去の経験(トラウマ)から学んだ、生き方。

 

 それは真の意味で孤独になったことが無い私が軽々しく批判していいものでは無いだろう。

 

「…貴方の生き方や、それに至った理由も少しは分かったつもりです…ですが!」

 

 あぁ、確かに分かったし、批判できるような立場でも無ければ経験もしていない。だけど、確実にこれだけは間違えていると言える事が一つだけある。

 

「ですが…貴方がその生き方をするに至った過去に似た体験を誰かにさせる事は、違うでしょう!償いたいなんて言葉が出ている時点で、もう気づいているんでしょう⁉️」

 

「分かってる…分かってるよ!そんな事!だけどもうどうしようもないのよ!もしも謝っても許してもらえなかったら、もしももしも謝っているところを誰かに見られたらどうしよう…もしも、もしも許されなくて、しかも誰かに聞かれてひとりぼっちになったらどうしよう。そんな事ばかりが頭をよぎって、でもなにもしないのも怖くて怖くてたまらない!だからといってなにもしないのも私が私を許せなくなる!私はどうすればいいのよ!」

 

 涙を流しながらの慟哭。

 きっとこれが彼女の本音なのだろう。自分の行いを罪だと自覚してて、謝りたくても拒絶されるのが怖くて、けれども何もしないのも良心の呵責に苛まれる…そんな雁字搦めな状態なのだ。

 少なくとも私がなにか軽々に口を挟めるものでは無いだろう。でも…それでも、私に言えることがあるとするならば

 

「なら…なら、戦ってください!もうこれ以上、郡さまが苦しむことが無くなるように!」

 

 …そう、私に言えることがあるとするならばこれだけだ。自分で郡さまを傷つけたと分かっているのなら、もうこれ以上傷つくことが無くなるように戦う。それが今私が思いつく、『償い』に連なるものだ。

 

戦う…そうか…それが今私に出来る…うん、ありがとう…ちょっと、頑張ってみるよ…」

 

 そう言うと彼女は、背を向けて下へと降りていった…これでよかったのだろうか?

 私にとってもっとも優先するべきものは郡さまだ。とはいえ、弓有香織に対しても全く情がない訳でもない。例えそれが郡さまに対する裏切りだとしても、どうしても憎みきれない。いかに怒りを抱いても、嫌いになりきれないのだ。

 

 だからせめて、この選択が2人にとって最良のものである事を、この歪な宗教(大社)の御神体である神樹様に祈ろう。

 

 SideOut

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上から三階へと降りる階段、古ぼけた蛍光灯が点滅して少し不気味な雰囲気を覚えるその場所に1人の少女…弓有香織が歩いていた。

 

 彼女は「戦う…戦う…タタカウ…」そう呟きながら、ハイライトの消えた瞳で前を向く。

 

 この屋上での出来事が後にどのような影響を与えるのか…今はまだ、誰も知らない。

 

 




ゆゆゆいが終わるぅ~‼️と思ったら家庭用ゲーム機に移殖だぁぁぁぁ‼️しかもふゆゆの新プロジェクトもあるぅぅぅぅ‼️

はい、というわけでなんとかサ終前に投稿出来ました…いや、最近のゆゆゆ界隈激動過ぎませんか?
これはなんとか仕上げねばとなんとか書き上げました‼️

面白いと思ってくれたら、お気に入り登録・評価・感想など頂けると幸いです‼️


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初めての勇者システム/海上の異変

なんとか今年中に投稿出来ました‼️

今回は作中の出来事を妄想して作ったので、既存の資料と整合性が取れなかったり、今後の新作などで補完されて否定される可能性は十二分にありますが、そこは暖かく見ていただくようお願いします


 Side香織

 

 美香ちゃんと話してから少しして。勇者システムの試作機の用意が出来たと言うことで、私は神樹サマの力を解析する部署の部屋にやってきた、が…

 

「え~と…これは?」

 

「…?勇者システムですが?」

 

 そこにあったのは、一見普通のスマホ…の、四隅を大幣で囲い、本体にも大きくゴテゴテした機械から沢山のコードが繋がっていた。

 そのあまりにシュールな絵面に、思わず宇宙猫のようなボケーッとした顔になった。少し間違えたら周りが真剣極まりない環境の中で変な笑いが込み上げていただろうからまだましだろう。

 

 …それにしても驚きなのは見た目が思った以上に普通のスマホな事だ。スマホ型とは聞いていたが、本当にスマホそのままなのだ。

〈鎧〉の時みたいに魔法少女が使うようなファンシーな見た目や特撮で出てくるロボットになるようなものに期待はしていなかったが、未知の力を扱う為の試作機なのだから、こうごつくて、とてもスマートとは言えない物かと思っていた…もっとも、本体以外はごちゃごちゃしているが。

 

「まぁ、神樹様の力を直接機械に取り入れるなんて有史以来初の挑戦ですからね、どんな些細な挙動でもそれは貴重なデータですから」

我々は少しでもそれが欲しいんですよ、と朗らかに話しているのは黄碗さんだ。

 

 四国に到着した時、神官さんに黄碗さんが作ったバーテックス感知結界の話をしたところ、「そんなモノの話聞いたこともない」と大層驚き、すぐさま黄碗さんをスカウトし、黄碗さんはそれを快諾。今は大社の中にある「神秘解明および勇者システム開発部署」という長ったらしい名前の部署に籍を置いている。

 ただ、『大社』は神官達の組織であり、黄碗さんも籍を置いているとはいえあくまで『研究者』としてだから、いくら成果を出しても出世は出来ないそうだ。もっとも、黄碗さんにそんな欲が無い事は広島で共に戦った私がよく知っているが。彼はどちらかと言うとそういう立場とか名誉よりも知識欲を満たすほうを望んでいる。

 

 そんなどうでもいい事を考えていると、どうやらデータを取るための機材の用意が出来たようだ。私は指示に従って〈鎧〉を装着─一通りデータを取るようなので陣羽織の色は1番よく使う赤にしておいた─し、スマホ画面に表示された四つ葉のクローバー型の模様をタップする。

 

 変化は如実に現れた。

 自分の周りに大量の四つ葉が吹き荒れると、まず鎧の間の防御が脆弱な部分を補うかのように空色の鎧直垂が出現。次いで紺色を基調にしたヒールとハンドグローブを身につけ、いつも通りな陣羽織も、縁の赤いところから内の白色の部分にまるで生い茂るかのように赤い四つ葉のクローバーの模様が現れる。そして最後に頭の右上に四つ葉型の髪留めが現れて変化は止まった。

 

 周りでは研究員さんたちが実験の成功やデータのチェックで湧き上がっているが、私はそれを気にせず、変わった部分を確かめる事に夢中になっていた。変身が終わったこの段階で既に全身に今まで以上の力が溢れている事が分かる。しかも今日使っているこれは試作機…さらにもっと言えば私の〈鎧〉はほかのみんな(勇者)システム(武器)と比較した時の強化の倍率はかなり低い。

 つまり全員分のシステムが完成すれば…想像も出来ないほどの最強の布陣が出来上がるだろう。そうなればバーテックスを絶滅させる事も出来る‼️その時にはきっと…

 

 私は力を手に入れた全能感に包まれながら、明るい未来を夢想するのだった。

 

 

 …それがこの後すぐに如何に儚くも愚かな事だとも知らずに。

 

 

 その後、各形態や武器の威力測定も行われた。

「赤の姿」はシステム起動以前と比べるとパンチ力・キック力の増強、並びに鉤爪の切れ味が上がっていた。

「青の姿」は以前は赤と比較してパワーが落ちてスピードが上がるだけだったのが、それに加えてジャンプ力や手元の鎖を扱うコントロール力も上がっていた。

 パワー特化の「紫の姿」は以前その重さに振り回されたハンマーを自在に操る事が出来るようになった。更に、陣羽織が無い時の姿程では無いが、それでも他の形態と比べると破格の防御力も備わっている。

 

「ここまでは問題無く神樹様の力を扱えていますね」

「ええ、特に動作不良も無く、実験はおおまか成功と言って良いでしょう」

「次で最後なんでしたっけ」

「なんでも、ほか3つと違い感覚的なモノが強化されるそうで」

 

 問題無く進む実験に部屋の雰囲気も緩和し、中には談笑する研究員さんまで出てきた。

 

 次が私が〈鎧〉から引き出せる最後の力、感覚強化の「緑の姿」だ。

 火力・スピード・防御力。そのいずれにおいても最低値だが、その代わりに人の気配や敵の来る方向などを敏感に感じられる。

 ただ、範囲や精度はお世辞にも良いとは言えない為、広島に居た時はこの姿を使う事は全くと言っていい程無かった。強いて言うなら、結界を発生させる装置のメンテナンス中くらいだろうか?そのメンテナンスも精々1時間で終わった為に印象的な出来事も無かった。

 今後使うかさえ不明だが、まぁ確認やデータを取るだけだし何も問題無いだろう。

 

 そう思いながら「緑の姿」へと変わった時、世界がガラッと変わった(・・・・・・・・・・・)

 

 最初に違和感を感じたのは視界だ。普通なら見えないような細かい空気中のゴミに、あれは…赤外線だろうか?とにかく、レンズ越しでしか見えないようなものが鮮明に見える。

 違和感はそれだけではなく、扉や床越しに人の気配を感じたり、カメラ越しに私を見ている人の人数が分かったり…そしてそんな中で最も変化が顕著なのが

 

『『『『『『はい、グゥイおかあからすまこおりゆうしゃたいしゃリーダれいのろくにんのうえさとみこたちそらごはんこわい』』』』』』

 

 聴覚だ。

 近くの機械の僅かな駆動音や建物内の話し声、更には外の何気ない日常会話までありとあらゆる音が頭の中に入ってくる。

 

 その中でも一際耳に入るのは…英語の悲鳴と怒声そして…

 

「…バーテックスの、声…?」

 

 場所はここから離れた海上…ちょうど神樹サマの壁と外の境目程だ。

 

 私は窓から声を感じた方へと向かう。後ろからは狼狽する研究員さんたちや私に止まるよう叫ぶ神官さんたちの声が聞こえるが、それを無視して先に進む。

 

 あの神官さんは今回が初対面の人だ、ここで嫌われようが顔見知りの神官さんは私の事を嫌わない、私の世界に問題はない(・・・・・・・・・・)。そんな柔な信頼では無い。

 

 そしてそれ以上に

 

『たすけて』

 

 ここで誰かを見殺しにしても快眠できる程豪胆では無いし、

 

『痛い…やめて、やめてよ…』

 

 自分に勇気があれば変えられた筈の出来事で誰かが苦しむのを見るのはもう沢山だ。

 

 私は〈鎧〉によって強化された感覚の全てをバーテックスが居る海域に集中させ、そこへ向かった。

 

 SideOut

 

 

 

 

 

 四国より太平洋側に出て神樹の壁に近しい海域。ここには3隻のクルーザーが停泊していた。その内の2隻で、それぞれ白人の女性と黒人の男性が無線越しに会話する。

 

『アイク、本当にこれで私たちはアメリカに帰れるのかしら…?』

 

『大丈夫さエリー。ケビンの実家は解体業者だぜ?あんな壁なんてダイナマイトで簡単にバラしてくれるさ』

 

 エリーと呼ばれた女性の不安げな声に対して、アイクと呼ばれた男性は大社の神官が聞いたら激昂するか卒倒する物騒な発言で笑い飛ばす。

 

 そう、彼らは神樹の壁を破壊して、アメリカへと帰還する事を計画…より正確に言うならば自身の教え子達と共に家に帰る事を望む教師たちだ。

 

 彼らは学校のイベントの一環で四国を訪れていたのだが、運悪く…いや、バーテックスに出会うこともなかったからある意味運は良いのだろうが、突然現れた壁の中から出る事が出来なくなってしまった。

 このことに子供たちはおろか教師たちさえも激しく動揺し、中にはホームシックで泣き始める生徒まで現れた。

 

 しかもこの異常事態に対して先導を切っているのは怪しい宗教集団らしい。

 

 自分達と同じ主を崇めて(キリスト教)いても不信感は拭えないというのに、彼らが信仰しているのは同じ日本人でもよく分からない神だというではないか。

 

 いくら日本人が信仰が薄い者が多いとはいえ、そんなよく分からないモノに縋り、助けを求めるなど出来やしない。

 故に彼らが壁を破壊し、アメリカへ向かうという考えにたどり着いたのは当然の帰結だろう。

 

『アイク、ダイナマイトの設置が終わったぜ』

 

 と、ここで壁に爆弾を仕掛けていたケビンから任務完了の報告が入る。

 

『船には戻れてないが、十分に距離はとった。もう起爆してオーケーだ』

 

『ナイスだケビン!向こう(アメリカ)に帰ったらメシを奢ってやるよ』

 

『お、そいつはいいね…たしかお前この間、貯めた小遣いでロマネ・コンティを買ったとか言ってたよな?あれも飲ませてくれよ』

 

『おいおいブラザー、あれはおれのとっておきの…まぁ、開けるタイミングを逃してたし丁度いいか。よし、帰ったら盛大にホームパーティを開いて、そこで皆に振舞ってやる!』

 

『お、それは最高だな!』

 

 アイクは己の友人を、ケビンは自分の腕を信用し、軽口を叩きあう。アメリカに帰れる事をちっとも疑ってはいない。

 

『ねぇ、大丈夫なら早く起爆しない?』

 

『おっと、そうだな。じゃ、起爆するぞ!』

 

 男どもの長話に辟易したのか、はたまたはやく故郷の土を踏みたくなったのか。エリーがしびれを切らして言うと、アイクもそれを了承してスイッチを押す。

 

 ドカァァン‼️

 

 と爆音が轟き、壁には2,3人程が通れる程の穴が空く。

 

『む、ダイナマイトが足りなかったか。だが後3回は同じ威力の爆発が出来るだけの爆薬があるし問題ないか』

 

 ケビンは海中でそんな事を思った後、次の爆弾を用意するために穴に背を向けて船に向かい泳ぐ。その後ろから…

 

 ぐしゃり

 

 現れたバーテックスが不快な音をたてながらその顎でケビンを肉塊へと変貌させる。

 

 これを見たアイクは慌てて船を四国へと戻そうとした…が、思うように船が動かない。何度もエンジンを吹かすが、うんともすんとも言わない。…実は、壁の外から現れたバーテックスがアイクの船の後ろ…スクリュー部分を食い破っていた。そのせいで思うように動かないのだ。

 普段ならばアイクも検討がつく故障位置だが、つい先程目の前で友人が物言わぬ肉塊となった彼に冷静な判断をしろと言う方が無理な話だろう。彼は運転席の正面にまで迫っていたバーテックスに気付かず、ガラスが割れる音と共にケビンの後を追った。

 

 一方でエリーは、壁の外からバーテックスが現れるのを見ると、船を反転させ、一目散にその場を立ち去った。

 彼女は元々臆病かつ慎重な性格で、今回の計画もその不安よりも今の日本政府並びに大社の言う事に従う事に対する不信感が上回ったからこそ賛同したのだ。本当に命の危険があるならば話は別だ。

 彼女はバーテックスがこちらに気付く前に行動を開始した…未だ繋がったままの無線機から聞こえる、アイクの断末魔を耳に入れぬようにしながら。

 

 

 Side???

 

 どうしてこんな事になったのだろう。クローゼットの外では、白いモンスターたちがクラスメイトを喰らった血でその体を真っ赤に染めている。

 

 数時間、先生達からアメリカに帰る目処がたったと聞いた時は、学年全体が歓喜の雄叫びを挙げていた。船の中でも、友人とホームパーティの約束をしたり、慣れない日本での生活の愚痴を吐いたりして、終始穏やかな雰囲気に包まれていた。

 

 様子がおかしくなったのはほんの少し前、隣のクラスのケビン先生が仕掛けたダイナマイトで壁を破壊したと放送で連絡が入ったすぐ後だ。操縦室からの通信でまるで肉をミンチにしたかの様な音が聞こえると、窓を突き破ってあの白いモンスターたちがまるで飴に群がるアリのように押し寄せてきた。

 

 私は親友の手を引いて隠れる場所を探したが、皆パニックになっていて思うように身動きが取れず、途中ではぐれてしまった。

 

 1人でなんとか部屋にたどり着き、クローゼットに身を潜めたが、外からはクラスメイトたちの悲鳴や絶叫、断末魔が絶えず聞こえてくる。

 

 何で私たちがこんな目にあわなきゃいけないのだろう。私たちはただ日本に旅行に来て、急に帰れなくなって、しかもよく分からない人たちの指示に従うよう言われて…居るかも分からないモンスターの事を聞かされて、アメリカには危ないから帰りたくても帰れないって何度も言われて…でも、でもどうしても家に帰りたかっただけなのに…

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになる。もうやめてと言っても、きっとあのモンスターたちは止まらない。

 

 神様、私たちは何かいけないことをしてしまったでしょうか。家に帰りたいと思う事は、そんなに悪い事でしょうか。

 皆が死ななければいけない程、許されざる行いなのでしょうか。

 

 外からは未だ悲鳴が聞こえてくる。

 誰か、誰か、誰でも良いんです。だから、だから…

 

『たすけて』

 

 ぽろりと言葉が零れた。誰に聞こえる訳でもないのに…あのモンスターたちを除いては。

 

 モンスターたちはこちらを見ると、あっと言う間にクローゼットを粉々に噛み砕いた…そして獲物を見るようにこちらに顔を向けてきた。

 感情が無いはずの顔は、まるでマヌケな(エサ)をせせら笑っているように見えた。

 

 やつらがどんどん近づいてくるけど、腰がすっかり抜けて全く動けない。ただ喰われるのを待つことしか出来なくて、目を閉じる。

 じりじりとやつらが迫る気配を感じ、私ももう生きるのを諦めたその時

 

 ビュウッ

 

 と風を切る音が聞こえると、

 

 ズブッ

 

 となにかが柔らかい肉質なものに突き刺さる音が続けざまに2回聞こえた。

 

 思わず目を開けると、そこには日本のNINZYAが使う道具…たしかシュリケン…じゃなくてクナイと呼ばれるものが2本、モンスターの横っ腹に突き刺さっていた。

 

 そして飛んできた方向を見ると、

 

「2本でも仕留めきれないか…コイツは牽制や足止め程度にしか使えないと思った方がよさそう」

 

 なにやら小声で呟いている、ヨロイを纏った日本人の少女が居た。

 

 SideOut




はい、いかがでしたでしょうか
今回の話は「海外の人から見た大社とその信頼」を基軸に書いて見ました。

いや、冷静に考えてみると急に祖国へ帰れなくなり、しかもよく分からない宗教家たちの言う通りにしなきゃいけないってめちゃくちゃ怖くないですか⁉️
それだったらその人らを全無視して帰る事を考えて、実行した人も居るんじゃないだろうかという妄想です。
前書きでも言いましたが、原作や他の資料で言及されており、矛盾が発生した場合は指摘した上で「まぁ二次創作だし」の精神でお願いします

今回も読んでくださりありがとうございました‼️
気に入ってくれたらお気に入り登録、評価・感想など頂けると幸いです‼️


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届いた腕/すくえなかったモノ

2月には投稿しようとしてたらいつの間にかドンブラが終わってキングオージャーが始まってました…

嫌じゃ嫌じゃー‼️ドンブラあと3年くらい見たいんじゃー‼️(ドンブラロス真っ只中)

時の流れは早いですね(遠い目)


 

 Side香織

 

 …なんとか間に合った…‼️

 私は目の前のバーテックスに苦無を投げつけ、そんな事を考える。

 

 声を聞いて、私は大社の建物から飛び出して来たが、それはなにも反射的な行動、という訳では無い。単純な話、時間を短縮するため(・・・・・・・・・)だ。

 大社からこの海域までの距離は中々に遠く、車を手配してからでは間に合わない可能性が高い…が、それは道路やその混雑状況を考慮した場合だ。町に張り巡らされた電線や家の屋根、勇者システムの力を利用した直線距離はそう離れていない。考えた結果、直接足を使って向かった方が早いと思ったのだ。

 

 しかし、大社からこの船に来るまでに越えなくてはならない一番の難所は海だ。

 勇者システムの力とはいえ、さすがに1回のジャンプで遠くの船に飛び乗ったり、そのまま海の上を走るような馬鹿げた事は出来ない。

 

 だが、それも〈鎧〉の力を上手く利用することで海上移動も可能になる。

 前にも言った事があるが、この〈鎧〉には今までの装着者の記憶や武器が使える。その上で、武器とは直接的に相手を傷つけ、殺すためのモノだけでは無い。

 

 例えば、銅鑼や法螺貝。これらは攻撃力は無いが、策を巡らせ、罠に嵌めた相手を確実に仕留めるために使用するならば、立派な武器と呼べる。

 

 例えば、藁人形などの呪具。これらは武器として振るわれる事はおろか、戦場に持ち込まれる事もそう無いだろう。しかし、それで相手の調子を崩したり、殺す事が出来たのならば、これもまた立派な武器の1つだ。

 

 そして…この水蜘蛛のような忍具。

 これは忍者が相手の城の水堀を超えるために使われた物で、殺傷能力は全く無い。だが、相手の懐にこっそりと潜り込み、情報を盗むことを至上とする忍者からすれば、これは立派な武器と言えるだろう。

 それゆえに、私は古の忍者が水上を移動するために使用した水蜘蛛を出せるし、それを簡単に扱うことも出来る。

 

 しかし、水蜘蛛はあくまで補助具であり、これを使えるからと言ってイコールで自由に水上を走れる訳では無い。

 

 そこで力を発揮するのが〈緑の姿〉だ。

 これの感覚の強化を応用し、足裏と水面に集中する。そうすることで足から発生する波紋の細かい情報を察知し、足を置いてもバランスが崩れない場所を感知、そこに移動する。それを延々と、そして素早く繰り返す事で、自在に水上を移動出来るのだ。

 

 長々と話したが、要は「緑の姿になれば水上を走れるから船に到着できた」という話だ。

 

 船の中は、まさに地獄と呼ぶのに不足ない光景だった。窓ガラスは粉々になり、元々は白だっただろう床や天井は血で真っ赤に染め上がっている。

 辺りを見回すと、人の四肢や内蔵がぶちまけられていた。

 

「うっ…えっ…」

 

 その凄惨な光景を見て腹の奥からありったけの胃液を吐き出す。

 広島でも何度か似たようなものは見たことがあるが、ここまでのものは見たことがない。

 

 だが、今はそれを気にしては居られない。声の聞こえた場所に向かわなくちゃ…タタカワナクチャ

 

 と、目の前に声の持ち主であろう金髪の少女─どことなく友奈ちゃんに似ている気がする─がバーテックスに襲われているのが見える。こうしちゃいられないと両手に苦無を生み出し、投げつける。2本とも突き刺さるが、大したダメージは与えられていない。その事に軽く愚痴りながら次の行動を考える。普段ならばここから近接戦に持ち込むところだが、緑の姿だとそういう訳にはいかない。

 

 私が緑の姿を使わなかった大きな要因でもあるのだが、この姿は気配や微かな物音も鋭敏に察知して行動する事が出来る反面、痛覚も普段の何倍も強化されてしまっている。下手に攻撃を喰らえば、激痛でしばらくまともに動けなくなるだろう。そうなれば目の前の彼女諸共格好の餌だ。そうすると、被弾する可能性が高い近接戦を緑の姿で行う訳にはいかない。

 かと言って他の姿に変える訳にもいかない。この姿を解くと感覚を司る脳を普段以上に使った代償とも言うべきか、とてつもない疲労感に襲われてしばらく動けなくなる。

 

 故に、最弱とも言えるこの姿で戦い続けなくてはならない。私はそう覚悟しながら、また新たに苦無を生み出した。

 

 SideOut

 

 

 

 緑縁の陣羽織を身にまとった香織は目的を早々に「バーテックスの殲滅」から「目の前の民間人の保護」に切り替えた。

 

 理由としてはやはり負担の大きさがあるだろう。

 1人の要救助者がいて自分自身も戦闘で下手を打てない現状、無駄な戦いを避けて応援が来るまで待つのが最適解だろう。移動中に神官に連絡を取り、他の勇者達がここに来る手筈になっている。

 それまで体力を温存し、生き抜く事が今最も重要な事だ。

 

 香織は友奈似の少女の手を取り、倉庫室へと逃げ込んだ。ここなら物資もあるし、今の所バーテックスの気配が最も少ないエリアだからだ。

 友奈似の少女…『ソフィア・リリエンソール・ガルシア』は、不安から体を震えさせていた。それは自分の命の危機に対してだけでは無い。一先ずだが安全な場所に避難出来た事で、彼女の心配は他のクラスメートに向けられていた。

 

『ねぇ、他のみんなは無事なの?』

 

 それは、ソフィアにとっては当然の問い。

 共に帰ろうと誓った友達を案じる言葉。

 

 だが、今の香織には最も酷な問いだった。

 

 なぜなら緑の姿の力でもう気付いているからだ

 

 …この船の中で生きているのは自分たち2人(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)しか居ないという事に。

 

 しかし、それを教える事は香織には出来なかった。

 それは目の前のソフィアをただ傷つける事にしかならないからだ。

 

 だから香織は笑みを浮かべ、たどたどしい英語で

 

『大丈夫だよ』

 

 と言うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 そして船が襲われてからおよそ1時間後、ソフィアの心労はピークを迎えていた。

 

 香織は広島での戦いにおいてたった1人でいつバーテックスが来てもいいように常に警戒していたし、結界が貼られる前はこの何十倍、何百倍もの避難民に気を払っていたのだ、今更この程度の警護を負担には思わない。

 

 だがソフィアは違う。

 慣れない土地での生活によるストレス、そこから解放されると思った矢先のバーテックスの襲来。わけも分からないまま逃げ惑い、親友の安否も不明。自分は命の危機は脱したが、未だにバーテックスの群れの中で知らない人と2人きり。逃げる最中に見た血みどろの船内。

 これにただの少女が正気を保っていられるはずが無かった。

 

『ねぇ、なにか聞こえない?』

 

 そうソフィアは呟くと、見つからないようにと閉めていたドアを香織の静止を聞かぬまま勢いよく開けた。

 音の聞こえた場所に誰か居て、助けを求めているのでは無いかと思ったからだ。

 

 その考えはある意味正解で、ある致命的なところで間違えていた。

 部屋の外に居たのは泣いて助けを求めるクラスメートでは無く、不快な笑い声を響かせながら逃げた獲物はどこだと助けを求める(ゲームを楽しむ)バーテックスだったからだ。

 しかし疲れきったソフィアには級友に幻視()えているのか、歓迎するように大きく両腕を伸ばす。

 …ひょっとしたら、ソフィアも外にはバーテックスしか居ない事に気が付いていたのかも知れない。だからこそ、幸せな夢を見ているうちに、苦しい現実(いま)を見ないうちに…楽になりたかったのだろう。

 

 だが、目の前の香織(ユウシャ)にとって、それは許容出来ない願いだった。

 

 香織はソフィアとバーテックスの間に右腕を割り込ませ、その顎に噛まさせる。

 

「ぐっ…がぁあ、あっ…」

 

 当然バーテックスは邪魔なそれを食いちぎろうとしてギチギチと音を立てながら歯を腕に食い込む。

 言葉に言い表せないほどの痛みが香織の全身に流れ、叫びたい衝動に駆られるが、それをぐっと堪える。

 

『なん、で』

 

 ソフィアの口からそんな言葉がポロッと零れる。その問いは目の前にいたのがバーテックス(モンスター)なのを指しているのか、それともなぜそんな痛みを味わう事を承知の上で自分の事を助けようとするのか。どちらの意味なのかはソフィア自身さえ分からなかったが、少なくとも香織は後者の意味で捉えたようで、

 

『こうっ、かいっ、したく、なあいっ、から、かな』

 

 そう苦しげに答えると、バーテックスを壁に押し付け、左手に苦無を出現させる。そしてそれを力を振り絞りながら突き立てる。

 ぐぎゅ、ぐちゃっと音を立てながら何度も何度も抜いては刺してを繰り返す。

 音が十と少しを超える頃、とうとう耐えきれなくなったバーテックスが香織の腕から口を離しヨロヨロと地に落ちていく。香織はそれを待っていたと言わんばかりに右足を振り上げると、踵に棘を生み出し、全体重を載せたヒールでトドメを刺した。

 脱力し、へたり込む香織にあわててソフィアが近づき、どうにかして流れ続ける血を止めようとするが、香織はそれを手で制すと目と目を合わせる。

 

『…ひとりぼっちは、嫌だよね。さみしいし、息苦しいし…なんで自分だけ、って思うこともたくさんあると思う』

 

 …それは、かつて香織が経験してきたモノ。赤い炎から逃げ出した先で待っていたモノであり、ささいなことから親友(ちーちゃん)に経験させてしまったモノ。香織は窓からカーテンを毟り、更に言葉を紡ぐ。

 

『ここから生きて戻れても、辛いことはたくさんあるだろうし、「あの時、みんなと一緒に死にたかった」なんて考える時も…たくさんあると思う』

 

 そこで話しているのはいつもどこか余裕げで、知的な笑みを浮かべる『勇者』としての香織でも、皆に親しまれ、いざと言う時について行けば安心だというカリスマ性のある『女神』と呼ばれる香織でも無かった。

 そこに居るのは、孤独を恐れ、いつも、いつでもより多くの人との繋がりを求める、『先達者』の『ただの香織』だった。

 

『だけど、絶対に死んじゃだめなんだ。だって…だってそうしたら、なんであんなに辛い思いをしなきゃいけなかったのか、分からないじゃない』

 

 香織はふとした瞬間に、両親が死んだ時の事やその後の誰もに嫌悪され、疫病神のように扱われた時期の事を思い出す。

 

 そしてその度に誓うのだ「たとえ何を犠牲にしようとも、より多くの人からアイサレル自分であり続けよう」、と。

 

 何度もそんな自分を最低だと思って死ぬ事を考えた事もあるが、死ぬことよりも自分が生き残ってしまった意味が分からない方が怖くて、それだけは出来なかった。

 

 だから美佳に「戦うことが千景に対する贖罪」と言われた時に、それを受け入れたのだ。

 それが自分でやってしまった事に対する償いとケジメだけでなく、その先に自分が生き残ってしまった意味を知る事にもなると、直感的にそう感じたからだ。

 

 だが、あくまでそれは香織の話であって、ソフィアには何も関係ない話だ。今、香織がソフィアにかけられる言葉があるとするならば、それは…

 

『それに、今ここで貴女が死んだら、誰がこの船の乗客たち(みんな)のことを覚えていられるの?』

 

 …死者を忘れずに、弔う人が居るべきだということだけだ。

 

『確かに、貴女のふるさとに帰れば、彼らのことをよく知る人達が沢山いると思う。だけど、それは「家族」としての彼らだけ…「友達」としてのみんなを覚えていられるのは、弔えるのは貴女だけなんだよ』

 

 これも、香織の経験談だ。香織の実の両親のことは引き取ってくれた育ての両親もよく知っているが、それはあくまで「友達」としての両親だけだ。たとえ顔が思い出せなくても、たとえ思い出が風化していても、親子として繋いだ手の温もりを覚えていられるのは、子供として両親の墓に手を合わせられるのは、香織しかいない。

 

『だけど、それを決められるのはソフィアだけ』

 

 …そう、ここまで香織は「生き残った事に対する意義」を語ってきたが、最終的に生きるも死ぬも、それを決める権利があるのはソフィアただ1人だ。

 だが、それでも香織がソフィアを助けたのは

 

『ここでソフィアを見殺しにしたら、きっと私は後悔する…生きて行く理由が曲がる。…助けを求めている手を見て見ぬふりをするのは、もうこりごりだもん』

 

 そういうと香織は近くの窓からカーテンを引きちぎり、左手と歯を器用に使って切り裂くと、即席の包帯にする。

 フラフラと、それでいてどこかしっかりとした足取りで入口に向かうと、

 

『どんな選択をしても、私はソフィアの味方のつもりだよ』

 

 と言い残すと、こちらにやって来るバーテックスの群れに、両手に苦無を構え、突撃した。

 

 

 

 

 Side若葉

 

 急げ、急げ、急げ…っ

 私と土居さん、伊予島さんは、現在瀬戸内海をクルーザーで移動している。

 

 きっかけは約2時間前の香織の行動と、その直後に行われた通信にある。それで海上にバーテックスが居ることを確認した大社は、まだ世間に存在を発表していない勇者を現場に向かわせるための情報操作、並びに交通規制を行った。本来なら勇者全員で向かうべき事態なのだが、タイミング悪く郡さんは天恐の母親のお見舞いに行っており、友奈は風邪気味ですぐには動けそうにないため、やむを得ず3人で出撃することになった。

 30分前には出発する用意が出来ていたが、そこでバーテックスに襲われて逃げ出した船と、その乗客およそ30名が戻っていたことを把握。彼女たちとの情報のすり合わせや、保護の手配に手間取った結果、ここまで出立が遅れてしまった。

 

 正確な数は分かっていないが、逃げてきた人々の話を聞く限り、香織1人でなんとかなる数では無さそうだ。

 

 香織は防衛に関しては他の勇者の追随を許さないことを私はよく知っている。だからといって、彼女が必ず無事という保証は誰にも出来ない。私は中々目的地に到着しないことをじれったく思いながらも、神官達が香織との通信を繋げられないかと四苦八苦しているのを、ただじっと見ている事しか出来なかった。

 

「おい、あそこ!どっちかが香織が居る船じゃないか⁉️」

 

 甲板から辺りを見回していた土居さんの声に、慌てて反応して彼女が指さす方を見てみると、そこには赤い煙をあげている船と、全体に穴が開き、まるで廃船の風貌の2隻の船があった。目的の場所にたどり着いたのは良いが、これではどちらの船に香織が居るのか分からない。どうするべきかと頭を抱えるが、伊予島さんがどこか自信なさげに手を挙げる。

 

「多分、香織さんが居るのは煙が上がっている方の船だと思います」

 

「分かるのか⁉️」

 

「は、はい…あの煙、事故やエンジンの爆発とかで起こるにしては色がおかしいかなって…」

 

「そうか!発煙筒か!」

 

 と、ここまで聞いていた土居さんが何か納得がいったのか、拳を手のひらにポンっと打つ。伊予島さんも肯定するように頷くが、聞き慣れない単語に私は首を傾げる。

 

「発煙筒は遭難した時に救助されやすいように目立つ色の煙を上げるんだ。タマは山登りの時はいつも持って行ってるぞ」

 

 それに気付いたあんずには5タマポイントやろう。と、土居さんが笑いながら解説してくれる。成程言われてみれば、船から立ち上っているのは不自然なまでに目立つ真っ赤な煙だ。おそらく推理に間違いは無いだろうと、私達は煙が上がっている方の船に乗り込んだ。

 

 船に乗り込んで思ったのは「赤い」だった。天井、床、壁まで全てが赤いのだ。

 最初は中にも煙が充満しているのかと思ったが、違う。

 血だ。バーテックスに襲われた人々が流したおびただしい量のそれが、船内を真っ赤に染め上げているのだ。それに気付いた私は眉間に皺を寄せ、土居さんは呆然とし、伊予島さんはふらついた。

 これでは生存者が居るのは絶望的だろう。しかし、香織はそう簡単に死ぬような人物では無い事は私がよく知っている。

 

 土居さん曰く、発煙筒は基本的に手に持って使用するとの事で、襲いかかるバーテックス達を蹴散らしながら煙の根元である甲板に向かう。

 甲板に出ると煙くてよく見えないが、筒を持った手を上に上げている人影が見えた。

 

「香織!無事だった、か…」

 

「香織!お前が大社から飛び出したって聞いてタマはすごくおっタマげたんだ、ぞ…?」

 

「香織さん!大丈夫ですか、ってこれは…」

 

 しかしそこに居たのは香織では無かった。見知らぬ少女が、泣きながら必死に腕を伸ばしていたのだ。

 

『●▲■★!●▲■★◆▼‼️』

 

 少女はよく分からない言語─英語だろうか─と身振り手振りでなにかを伝えようと試みているのだろうが、さっぱり分からない。

 

「土居さん、彼女が何を言っているか分かるか?」

 

「うんにゃダメだ。タマには摩訶不思議な暗号にしか聞こえないぞ」

 

「…私もだ。伊予島さんはなにか…伊予島さん?」

 

 横をむくと、伊予島さんは顔を真っ青にしていた。

 

「…タマっち」

 

「どうしたあんず?」

 

「救急セットって持って来てる?」

 

「おう、しっかり持って来てるぞ。船に何人くらい居るのか分からなかったからな。褒めてくれタマえ…ま、この状況じゃ意味はなかったみたいだけど「ううん、良かったよ。無かったら本当に危なかった」…あんず?」

 

「…伊予島さん。彼女は、なんと言っているんだ?」

 

「…それが…『おねえさんをたすけて!このままだとしんじゃう』って…」

 

 

 私達は少女に案内を頼んでその『おねえさん』の元へと向かう。『おねえさん』が香織だという確証は無いが、だとしても死にかけの人を捨ておくことなんて出来ない。

 

 船内の一室で私達が見たのは足元に転がるバーテックスの骸の山と、血塗れの壁に寄り添っている香織だった。全身に数多の生傷が見え、ドクドクと血が滲み出続けていた。

 

「香織!」

 

「香織さん!タマっち、救急セット!」

 

「分かってる!香織、染みるかもしれないけどしったり気を保ちタマえよ!」

 

 土居さんは救急箱から包帯と消毒液を取り出すと、手早く手当をしていく。

 

「っ…わかばに、あんちゃんにたまちゃん?」

 

「あぁ!私達だ!船内のバーテックスももう居ない!」

 

「あの、こは?ソフィア、は?」

 

 ソフィア?聞き覚えのない人名に戸惑っていると、私の隣りから少女が香織に駆け寄る。

 

『おねえさん…私は、私は平気だよ!』

 

『あぁ…なら、よかった』

 

 と、ここで体力の限界を迎えたのか、香織の全身から力が抜ける。

 

「香織!」

 

「香織さん!」

 

『おねえさん!』

 

「しっかりしろ!香織!死ぬな…死ぬな‼️」

 

 そこから先の事は薄ぼんやりとしか覚えていない…が、「死ぬな」と声を枯らして叫んでいた事と、あの少女が香織の手を取ってなにやら祈っていた事は、はっきりと脳裏に焼き付いていた。

 

 

 それから数日後。

 私とひなたは香織のお見舞いに来ていた。幸い命に関わるような怪我は無かったが、右腕の骨にヒビが入り、3ヶ月の入院生活を余儀なくされたのだ。

 

「香織、入るぞ」「香織ちゃん、入りますね」

 

「ん、いらっしゃ~い」

 

 病室に入ると、包帯に包まれ半ばミイラと化している香織がベットに横たわっていた。

 

「いやぁ、まいったね~これは。全身グルグル巻きでマトモにうごけないや」

 

 そう言って香織は笑うが…その姿はこちらが間に合わなかったことを気に病まないよう無理をしているようにしか見えなくて、見ていて辛い。

 

「っ、そうだ、見舞いの品を持ってきたんだ。口に合うと良いのだが…」

 

 そう言って袋から取り出したのは、『末木印の手打ちうどん』。かの有名な吉田麺蔵さんの一番弟子で、普通の麺より弾力が強い食感と、吉田さんのものほどでは無いが素晴らしいのどごしが有名で、購入に苦労する一品だ。

 それを見ると香織は先程の笑顔とは異なり、心底おかしそうな笑みを浮かべ、笑う。

 

「む、どうかしたのか?」

 

「いや、だってねぇ」

 

 そう笑いながらカゴの中を指さす。そこには大量の袋うどんが入っていた。

 

「ここまで息ぴったりだったら、もう笑うしかないでしょ」

 

 そう言って笑い続ける香織につられて、私達も笑う。

 そうして面会時間終了まで、和やかなムードで会話が続いた。

 

 

 

 

 

 

 …その日の夕方、私とひなたは大社が手配してくれた帰りの車で話をしていた。

 

「…なぁひなた」

 

「…なんでしょう、若葉ちゃん」

 

「私は…私達(勇者)は、弱いな」

 

「そんなことは‼️」

 

「あるんだよ」

 

 勇者の中で最も強いのは誰か、と聞いたら攻撃力の高さだったら私や友奈だろう。戦略面だったら伊予島さん、機動性だったら土居さん、連撃の速さだったら郡さんに軍杯が上がるだろう。

 その中で香織は満遍なく能力が高い分、特定の分野では防御力以外誰かの中途半端な劣化になりがちだ。しかし、彼女に一対一で勝てる勇者は誰かと言われると、とたんに難しくなる。

 彼女はとにかく戦いが巧いのだ。重い攻撃は必要最低限の動きで避け、策略はそれの効果を最低値まで落とし、速い動きと攻撃は持ち前の耐久で受けて堅実なカウンターで返される。

 香織は勇者の中で、最も「生きる」ことに特化していると言える。

 

 その香織があれだけの傷を負ったのだ。きっと私も含めた他の勇者だったら、高い確率で死んでいただろう。

 

「私は口ではあれだけ『勇者』の心構えや死んだ人々の無念を語っていても、どこかこれを他人事のように思っていて、この異常事態に日常や平穏を感じていたんだろう」

 

 そんな訳は無かった。あの壁一つ隔てて外には死の恐怖や命を奪われた人々の無念の声が蔓延している事を、香織という友が死にかけたことでようやく思い出したのだ。

 

「勇者といえど人は簡単に死ぬんだ…仲間が傷つき、死の憂き目に会うのなら、死んだ人々の思いを晴らせないのなら…強くなる為に、私は喜んで復讐の鬼にこの身を堕とそう」

 

「若葉ちゃん…」

 

 ひなたは一瞬何か言いたそうな顔をするが、すぐに悲痛な面立ちに変えて、目線を下ろした。

 

 車窓の外を見ると、少し前まではポカポカと体と心を暖めていた太陽は沈み、どこか人の心を狂わせる月の光が、煌々と地上に降り注いでいた。

 

 SideOut

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─こうして勇者達は集い、様々な出来事や経験を経て

 

 2018年の7月30日

 

 300年の長きに渡る人間と神の

 

 戦いが幕を開ける─




と、言うことでいかがでしたでしょうか

実はこの辺、当初は「精神的に少し余裕が出てきた若葉を原作初期の復讐心が強い状態にする」ことと「香織の能力の一部開示」しか決まってなかったんですよね
それが勇者史外伝の要素を加えようとした結果思ったよりも事件が大きくなったし、香織の内面が出てしまいました

やっぱアドリブで新情報入れても問題なく描き続けられる人って凄いですね(笑)

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幕開け/麺類大戦争⁉️

「芙蓉友奈は語り部となる」第1話感想

リリ奈にとってひなたは悪魔かなんかか?w

今回は諏訪組との絡みが主軸です‼️


「あ~う~ん…あ~」

 

 丸亀城の教室にて。勇者、弓有香織はうめき声を上げていた。

 

「…なぁ杏。香織はさっきからなにをあんなに悩んでるんだ?」

 

「あ、おはようタマっち先輩。それがなんでも、友達が誕生日らしくて…」

 

「あぁ、プレゼントで悩んでるのか‼️ならタマに任せタマえ‼️その子は男の子か⁉️それとも女の子か⁉️」

 

 その聞き方じゃあまるで香織さんが妊娠したみたいになってるよ、と杏がツッコミを入れていると。

 

 

「本当っ⁉️」

 

 と香織が顔を上げ、目を輝かせながらこちらを見てくる。

 自分は関係ないと言わんばかりにゲームをしていた千景も驚いたのかピクッと反応する。

 これは少し早まったかと思いながら、球子は話を聞く。

 

「お、おう。それで、なにか候補とかはあるのか?」

 

「うん。一応2択にはなってるんだけど…」

 

 そう言ってカバンの中から取り出されたのは2つの分厚い本。

 

「ことわざ辞典と、四字熟語大百科。どっちがいいと思う?」

 

 教室がシーンと静まり返る。

 球子の脳裏に蘇るのはかつての悲劇。母親から「マンガ買ってあげるよ~」と言われ喜んでいたら、いざ渡されたのは『マンガで分かる日本史』というセリフよりも遥かに地の文が多い退屈な教材を渡された、あの事件を思い出していた。

 

「…さすがにそれは相手が可愛そうじゃないかしら」

 

 かつて似たような経験があるのか、普段はあまり…特に香織とはほとんど話すことは無い千景も、これには思わず声をかける。

 

「そうかな?多分喜んでくれると思うけど」

 

「…いやいやいや‼️この世のどこにそれを渡されて喜ぶヤツがいるんだよ⁉️…もしかして相手は同年代じゃないのか?」

 

「うん、歳下」

 

「余計にアウトだ‼️タマたちより歳下の子に最悪の誕生日プレゼントを渡そうとするのはやめタマえ‼️」

 

「いや、前に漢字辞典渡した時は凄く喜んでくれてたし…」

 

「…もしかしてその相手って、ソフィアちゃんですか?」

 

「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ?」

 

 会話の中になにか違和感を感じたのか、杏は相手は前に船上で会った異国の少女、ソフィアなのではと言ったところ、認める。あまりにもけろりと言ったものだから怒る気にもなれない。

 

「…いや、前に会った時は服とかアクセサリーとか渡そうとしたんだけど、向こうから『日本語関係のものが欲しい‼️』って言われて…でも文字Tとかこの辺に売ってるとこないし…で、どっちが良いと思う⁉️」

 

「あ~じゃあ四字熟語にしときタマえ」

 

 ─なんか必殺技みたいでカッコイイし。臥薪嘗胆とか。

 

 香織の必死の弁明に、球子は適当に自分の独断と偏見で返す。

 そんな心の声は聞こえているのかいないのか、香織は「ありがとう!」と晴れ晴れとした表情を浮かべる。

 

「今戻ったぞ…ん?みんなどうかしたのか?」

 

「ただいま戻りました~…みなさん、なにかあったんですか?」

 

「たっだいまー‼️」

 

 と、ここで諏訪との通信を終えた若葉と城内の神官と話していたひなた、ランニングをしていた友奈が戻ってくる。

 

「いや?ちょっと相談に乗ってもらっただけで特に問題はないよ」

 

「そうか…なら丁度いいか。少し、皆に問いたいことがあるんだ。心して答えてくれ」

 

 若葉から放たれる神妙な雰囲気に、先程までの弛緩した空気が硬直していく。

 諏訪になにか大変なことが起こったのか、勇者システムが完成したのか、はたまた自分たちが遂に公の場に出る時が来たのか…様々な憶測が勇者達の頭によぎる。

 

「…最強の麺類はなにか、いっせーので答えてくれ」

 

 それを聞いて友奈はほっ、と胸を撫で下ろす。あまりにも真剣な表情だから、なにか深刻な問題があるかと思っていたが、そういう訳では無さそうだし、なによりこの質問ならば全員の思いは1つだ。揉め事になることは無いだろう。

 

 しかし、若葉は未だに眉間に深く皺を寄せる。

 

「では行くぞ…せーのっ」

 

「「「「「うどん(‼️)」」」」」

「ラーメン」

 

 シーンと空気が凍るのを感じる。

 

「皆の意見は分かった。そうだよな、やはりうどんこそ最強だよな…ところで香織、最近ひなたに耳かきしてもらってないからかよく聞こえなかったのだが、最強の麺類はもちろんうどんだよな?」

 

「ラーメンと言ったんだよ。ら・あ・め・ん」

 

 若葉と香織の間でバチバチと火花が飛ぶ。

 これをある程度予想できていた千景はやっぱりかとため息を漏らす。

 

「ちょ、ちょっと待って!若葉ちゃん。急になんでそんな事聞いてきたの?」

 

 嫌悪な雰囲気の中、それを和らげようと真っ先に行動したのはやはりと言うべきか友奈だ。

 

 若葉は「…そんな事、だと」と少し眉を動かすと、はあっと息を吐いて事情を話し出す。

 

「実はさっきの諏訪との通信でだな…」

 

 

 それは、遡ること40分前。

 

「蕎麦こそが至高です!」

 

「いいや、うどんこそが最強だ!」

 

 諏訪の勇者、白鳥(しらとり)歌野(うたの)との通信の最後に行われる、恒例の『うどんと蕎麦、どちらが優れているか議論』は、今日も平行線を辿り、中々決着はつかない。

 そこで歌野はある秘策を切る事にした。

 

「時に乃木さん…そちらの勇者は本当に全員がうどん派でしょうか?」

 

「…なんだと?」

 

 その秘策とは、四国勇者の中に蕎麦派がいるのではと揺さぶりをかけ、その隙に乗じて押し切るという策だ。事実、徳島には祖谷そばという郷土蕎麦もあるし、愛媛にはミシュランで星を獲得するほどの蕎麦の名店もある。だが‼️

 

「ふっ、浅はかだな」

 

「…なんですって?」

 

 若葉はそれを一笑に付す。

 

「確かに、四国の勇者の中に蕎麦が居る可能性はゼロでは無い…だが、それでも依然としてうどんが優れている事実に変わりは無い‼️如何なる奸計を用いようともうどん派を背負って立つ者として、この乃木若葉は揺るがない‼️」

 

 カッ、と目を見開き、若葉はそう断言する。

 

 それに対して歌野はふっ、と笑う。

 

「悪かったわね乃木さん。いくら蕎麦派の勝利のためとはいえ、こんな姑息な手を使ってしまって」

 

「気にするな。もとよりここは戦場。これで私が揺らいだら、私のうどんに対する愛はその程度だった、と言うだけの話さ」

 

 2人は通信機ごしにニヤリ、と口角を上げる。

 

 そして今日も、この争いに終止符は打たれることは無かった。

 

 しかし、若葉の頭には「本当に皆うどん派なのだろうか?」という疑念が生まれた。

 確かに、皆うどんが好物だと言うのはこれまで一緒にいて確信していることではある。だが、「うどんは好きだが、最も好きなのは蕎麦である」というのは両立する。

 そのモヤモヤを抱えたまま突然バーテックスとの戦いに突入して怪我を負った、などが起こっては洒落にならないという判断から、今回聞くに至ったのだ。

 

「…ということがあってな。まぁ念の為の軽い意識調査みたいなものだ。香織がうどん派では無いからと言って、特にどうこうするつもりは無い…だが、まさかラーメン派も居たとはな…」

 

 若葉にとって麺といえばうどん。それは空が青く、太陽が燃えているのと同じくらい当然の摂理だった。しかし歌野との交流を経て、蕎麦の魅力にもある程度の理解を得た。

 

 故に、今回の回答はうどんか蕎麦の2択だと思っていたのだ。そこに現れたのがまさかのラーメン派(第3勢力)。これは青天の霹靂であり、さすがの若葉も困惑を隠せずに居た。

 

 一方の香織も、こればかりは引けない理由があった。

 火事で家族を失い、見知らぬ親戚にたらい回しにされながら自分の存在そのものを否定され続ける毎日。そんな日々で、香織にとって唯一心が安らいだのは、食事の時だけなのだ。そのため、彼女の食に対する思い入れは物凄く強い。特段めんどくさい拘りや自分ルールがあったりはしないが、普段なら周りの意見に合わせに行く所も、食事だけは己を貫き、むしろ周りを説得して自分側につけに行く。

 

 その中でも特別なのがラーメンだ。香織がまだ●●香織だった時の残っている数少ない思い出の内の一つが家族揃ってラーメンを食べに行ったことだ。

 彼女にとってラーメンは、数少ない『パパとママ』との繋がりを感じるものであり、あらゆる食べ物の中で絶対的な頂点に君臨するものなのである。

 

 故に、香織にとって「最強の麺類」はもちろんラーメンだし、そのことをかつて聞いていた千景は、こうなることを予想できていた、という訳である。

 

 その後、若葉と香織の睨み合いは2、3時間程続いたが、友奈と杏による懸命な仲介と、いい加減に怒ったひなたが2人を正座させてこんこんと説教したことでその場は一先ず収まった。

 

 

 

 だが、それから数日後。

 放送室で諏訪との通信をしている最中の出来事だった。

 

「では、始めましょう」

 

「あぁ、始めよう…うどん‼️」

 

「蕎麦‼️」

 

「「どちらがより優れているのか「ちょーっと待ったぁー‼️」…ッ⁉️」」

 

 バン!と音を立てて扉が開き、人影が中に入ってくる。

 

「誰だ⁉️」

 

「ホワイ⁉️そっちでなにが起こってるの⁉️」

 

 突然の出来事に若葉は警戒し、歌野は思わず素が漏れる。しかしそれを意に介さず、人影は通信機へと近づいていく。

 

「うどん派蕎麦派が跋扈する、この地獄変…ラーメン派もここに居る…!」

 

 ─弓有香織、爆現ッ!

 

 人影の正体は香織だった。香織は自身の持つ人脈をフルに活用し、諏訪との通信に参加できる権利をもぎ取ったのだ。その理由はただ1つ…

 

「こんにちは若葉、そしてはじめまして白鳥さん。私は四国の勇者の一人、弓有香織と言います。今日は2人に宣戦布告に来ました」

 

「…宣戦布告だと?」

 

 若葉は怪訝そうな顔をする。

 香織はそれにコクリと頷くと、

 

「うん、最も優れている麺類はうどんでも、ましても蕎麦でも無い…我々ラーメン派だと言うことを…‼️」

 

 そう穏やかに、かつ揺るぎない信念を込めて言い放った。

 

「なるほど、ニューチャレンジャーというわけですか‼️いいでしょう、貴方も蕎麦派にしてあげます‼️」

 

 と歌野は笑い、

 

「…そういう事か、良いだろう。確かにラーメン派が居ると知っておきながら、勝手に最良の麺類をうどんか蕎麦に決定するのも些か傲慢だしな」

 

 と若葉は毒気の抜かれた表情で言う。そしてこの日から通信の終わりには、香織も交えた『うどん、蕎麦、ラーメンのどれが最も優れた麺類か議論』が繰り広げられるようになった。

 

「…と、このようにラーメンのスープはしょうゆ、とんこつ、みそ。そのいずれにも無数の種類があり、なおかつ今も新種のスープが誕生している。進化を止めないラーメンこそが、最高最善の麺類なのは疑いようのない事実‼️」

 

「いいや違うな、うどんの汁は『進化していない』のでは無い、『完成しているが故に変わらない』のだ。ラーメンの進化は、一定の変化をし続けなければ人が離れていくと宣言しているのに他ならない‼️」

 

「さらに言うならば、ラーメンのスープはとてもハイカロリー。飲み干すのを忌避してしまう人も居るでしょう。その点、そば湯は健康によく、ラーメンのスープとは対照的に脂肪を燃焼させる効果もあります。即ち、スープや汁に関しては蕎麦こそが最高‼️」

 

「「それは違う‼️」」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 城内にチャイムが鳴り響く。

 

「…今日はここまでか。命拾いしたな白鳥さん、香織」

 

「それはこちらの台詞です。次こそ決着をつけましょう」

 

「そうだね。次こそうどんと蕎麦の首は柱に吊るされるのがお似合いだと証明してみせる、と言いたいんだけど…次の通信の日、大社本部に行く用事があるから、そのつもりでお願い」

 

「む、分かった。次に参加する時は()()()()2()()で相手になろう」

 

「そうですね。次は()()()2()()で語り合うことにしましょう」

 

「あはは、なに言ってるのかな?()()()()()3()()で楽しく談笑するに決まってるじゃん」

 

 その時たまたま放送室の前を通った神官は今は夏なのに、空気がまるで真冬のような肌寒さを感じたと言い、後に『丸亀城七不思議』の一つとして数えられることになる。

 

「…白鳥さんの武運を祈っている」

 

「うん、諏訪のみなさんの健康を祈ってるよ」

 

「えぇ、こちらも四国の無事と健闘を祈ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プツン、と音が鳴る。これが通信終了の合図だ。

 

 通信機の前に座っていた歌野は椅子から立ち上がろうとするが…ぐらり、と足元が消えるような感覚に襲われ、その場に崩れ落ちる。

 

「うたのん!」

 

 それを諏訪の巫女、藤森(ふじもり)水都(みと)が支える。

 

「…ぁ、ソーリーみーちゃん。()()()()()()()()()()1()()()()()()()からか、蕎麦の魅力を伝えようとしてちょっとハッスルしすぎちゃったみたい」

 

「『ちょっとハッスルしすぎちゃったみたい』じゃないよ‼️()()()()()()だったんだよ⁉️こんなにボロボロになった後なんだから…少しくらい、休んでよ…っ」

 

 そう言う水都の両手は、歌野の血で真っ赤に染まっていた。こんな姿になってまで自分たちを、諏訪を守ろうとしてくれる歌野に、先程の神託を伝える事なんて…絶望を伝える事なんて、出来なかった。

 しかし

 

「ねぇ、みーちゃん。神託、来てるんでしょ」

 

「え…」

 

「分かるわよ。ずっと一緒に戦ってきたんだから」

 

 そして水都は神託を告げる─間もなくバーテックスによる総攻撃が行われる。それによって、諏訪は滅ぶだろう─と。

 

「食べてもらいたかったなぁ…」

 

 歌野はそれを聞いて、たった一言、そう呟いた。

 

「うたのん…?」

 

「私は、勇者になれて良かったって思ってるの。諏訪のみんなや、乃木さんに弓有さん。それに…みーちゃんと出会えたから」

 

 そう言って歌野ははにかむ。

 

「だけど、だけどもし一つだけ我儘が叶うなら…乃木さんや、弓有さん達に、私の作った野菜や蕎麦を食べて欲しかった。それで、『おいしい』って言ってくれたら、私は胸を張ってこう答えるの。『オフコース!なんてったって未来の農業王の作った野菜たちですから‼️』って。だから…食べてもらいたかった、なぁ…」

 

 そう語る歌野の表情を、水都は瞳に溜まる涙のせいで上手く見れなかった。

 

「さ、早く畑に行きましょ?タイムイズマネー、くよくよしてても作物やバーテックスは待ってくれないもの‼️」

 

「…うん、先に作業してる人たちに麦茶差し入れしてくるね」

 

「サンキューみーちゃん!さすがマイ・ベストフレンド!」

 

 水都は歌野より先に参集殿から外へ出ていく。

 

「…本当、ありがとうね、みーちゃん」

 

 歌野はそう呟くと、自分の右手を見る。そこには、農業で自然と出来たタコと、戦いで出来た大量の擦り傷。

 

「…3年か…結構、持ったわよね…」

 

 外を見ると、そこには手を伸ばせば触れられそうな距離まで縮小した『御柱結界』があった。

 

 

 

 数日後。香織は大社にて用事を済ませている最中、謎の悪寒に苛まれた。少し気になりはしたが、その時は特に気にしなかった。「そういえば、今頃諏訪との通信の時間だな」なんて思いながら。

 

 

 

 

 

「…乃木さん、後はよろしくお願いします」

 

 ─プツン

 

「…白鳥さん?そちらで何があった⁉️諏訪は無事なのか⁉️聞こえているか白鳥さん。応答してくれ‼️白鳥さん、白鳥さん…白鳥さん‼️」

 

 この日を境に、諏訪との通信は途絶えた。そして香織にとっての長い長い苦難…その最初の戦いが、始まったのだ。






かくして嵐の前の静けさは消え、歴史を変える大嵐が訪れる。
次回より「のわゆ」編、開幕。


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第一章・弓有香織は勇者である
いざ、開戦ノ刻


ドンブラVSゼンカイ見てきましたーカシワモチカシワモチカシワモチカシワモチカシワモチカシワモチ…


 Side香織

 

「これ、は…」

 

 ついこの間立派なビルになった大社本部の一室にて、突然鳴り響く警報と樹海化に私は戸惑う。それもそのはず、この機能の事は何度も説明されたし、「徹夜で張り込ま無くてもいいなんて便利だな~」なんて呑気なことを考えてはいたが、それが行われるのはもっと先の事だと思っていたのだ。そう、結果的に囮になってくれている諏訪の人々を救出した後の事だと─

 

「まさ、か」

 

()()()()()()()()()()()()()()()四国(ここ)までバーテックスが来ていると言うことは、必然的に諏訪の人々は、諏訪の土地神は…白鳥さんは…‼️

 

 嫌だ、嘘だと頭を振るが、そんな事をしても敵が攻め入ってる状況は変わらない。ならば、敵を倒してから心配事を解消した方がいい。そう考えた私は、戦闘前のスイッチ切り替えとして前々から考えていた、所謂『変身ポーズ』をとる。

 

 左手でスマホの勇者システムを立ち上げるとそれを胸の少し上に持って行き、軽く上に放る。宙に浮いたスマホを右手で手早くキャッチし、ピンと肘を伸ばして顔の横へ。空いた左腕は右腕の下に潜り込ませこれまた伸ばす。

 決めゼリフとしては無難な変身や着装、植物要素がみんなどこかしらにはある勇者的には開花や満開などが候補にあったが、在り来りなものではつまらないし、私のモチーフの植物は残念ながら花ではなくて四葉のクローバー、葉っぱだ。葉っぱモチーフなのに花に関するワードもイマイチ締まらないだろう。そんなこんなで最終的に決めたのが

 

群装(ぐんそう)!」

 

 この、『群装』。同じ種類の植物が群がって生える『群生』と、『武装』から1文字ずつ取り、さらに『軍曹』とのダブルミーニングにもなっている我ながら中々にカッコイイと思う造語だ。

 兎も角、そう言い放ちながら画面をタップすると、全身が淡い紺色の光に包まれる。そして腕を解くと光が弾け、空色の鎧直垂に身を包む。トントン、とつま先で地面を叩くと地面からぶわっと青色の四つ葉のクローバーが舞い散り、その1部が脚部に集まってヒールと脚甲に変わる。ボディラインに沿うように下から順に脛、肩、二の腕と装甲が付いていき、両手をぐっと握ると、ハンドグローブが現れる。両手を胸の前でクロスさせると、胸の中心に青色の四つ葉型の結晶が現れ、そこを起点に鎧が出てくる。そのままギュッと体を縮めこませると、四つ葉がまるでバックハグをするかのように背中から覆い、青い四つ葉の模様が仕立てられた陣羽織を身に纏う。体勢を解き、まるで殻を突き破って飛翔するような格好になると、(要はきら●ジャンプ)ツインテールの根元に四つ葉を模した髪留めが現れる。最後に左腕を横に突き出すと、残った四つ葉たちが集まり、ジャラジャラと音を立てながら腕に巻き付くような形で得物の分銅鎖が現れる。

 これで勇者システムを用いた『青の姿』への変化は完了だ。

 

 私はアプリで敵の攻め入った箇所を確認しながら、そこに向けて駆けた。

 

 SideOut

 

 

 樹海化は、神樹による人類の防衛手段にして、諸刃の剣だ。樹海によって勇者達は一般人の保護や避難などを考えずに済むがその反面、樹海が損傷してしまったり、または長時間続くと原因不明の災害として現実世界にフィードバックされてしまう。のだが…

 

(これ、大丈夫かなぁ…)

 

 香織はその樹々に鎖を巻き付け、さながら某親愛なる隣人のような3次元的な動きでバーテックスが攻め入った場所へ向かう。仮にこれで樹海の樹がミシッと音を立てて傷がついてしまったら戦わずして一般人に危害を加えてしまった大戦犯になるのだが、これが一番早く着く方法なのだから仕方がない。などと考えていると目的地が見えてくる。その場に居たのは若葉に友奈、そして千景。どうやらびりっけつは避けられたようだと、一先ず安心して彼女達の前に降り立つ。

 

「…ぃよいしょぉっと!」

 

「来たか、香織」

 

 若葉は樹海化の直前まで話していて…通信が取れなくなった歌野のことをどう言うべきかと、少し険しい声で話しかける。

 

「うん。タマちゃんとアンちゃんはまだ来てない感じ?」

 

「うん、香織ちゃんが4番目だよ。それにしてもさっきのやつ凄かった!こう、ビューンって!」

 

 なんだか面白そう!と目をキラキラさせる友奈に、

 

「いやいや、あれ結構危ないよ?少なくとも人を乗せてアトラクション出来るほどの腕前と自信は私には無いかな」

 

 と手首を振る。実際先程の移動方法は、鎖を樹に巻き付け、振り子の原理で最も自分の位置が高くなったタイミングで鎖を解き、また次の樹に巻き付けると言う方法で、一歩間違えると高所から真っ逆さま、命綱無しのバンジーという危険極まりないものだ。これは香織が勇者という高いフィジカルと、〈鎧〉から生成される鎖の扱いに慣れているから出来る芸当であり、普通の人なら入院間違いなしの手段だが、その分()()()を抜きにすれば車などが使えない樹海の中では最速の移動方法だ。

 そんなことを話している内に球子と杏も合流し、6人勇者揃い踏みとなる。

 

「全員、揃ったな。…我々の手で、あのバーテックスどもを打ち倒すぞ!」

 

 若葉の喝に、千景が疑問を呈する。

 

「それはいいけど…伊予島さん、貴女は今…戦えるのかしら?」

 

 杏は小刻みに身体を震わせ、お世辞にも顔色がいいとは言えなかった。

 

「土居さんたちの到着が遅れたのは、伊予島さんが萎縮してしまったからでは…?この状況で、戦えない人と肩を並べられる程の余裕は私たちには無いと思うのだけれど…」

 

 確かに、と若葉は一考する。『真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である』という言葉があるが、今の杏のコンディションを見るに、安心して背中を任せられる状態では無いだろう。だが、今は贅沢を言っている場合では無い。無理強いしてでも戦ってもらう他無いだろう。

 

「伊予島。怖いのは分かるが、私たちが戦わなければ人類は滅びるんだ。顔を上げろ」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 ここ1年で杏と球子を苗字で呼ぶようになった若葉は杏をなんとか戦わせようとするが、返答は瞳に潤む涙が如実に語る。

 杏とて、このままでは人類の存続に関わるのは分かっているのだ。しかし、戦おうとする度に脳裏に思い浮かぶのはあの船の惨劇。赤く染まった壁、床一面に散らばっている肉片…そして倒れ伏す香織の姿。勇者達の中で最も身体的に劣っているのは間違いなく杏だ。最硬の勇者である香織でさえあれだけの血を流したのだ、もしも自分が負けたら…そう考えると震えが止まらなくなるのだ。

 

「若葉、もういいだろ」

 

 杏を守るように球子は若葉との間に立つ。

 

「…ま、1人戦えなくてもこっちの人数は5人。それだけいても厳しいです、なんて言ったら()()()()()()()白鳥さんたちに顔向け出来ないよ」

 

 と言うのは香織だ。確かに人数や完成した勇者システムによる装備の質は四国の方が圧倒的に上だと言えるだろう。

 だが、そう楽観視できない要素が1つある。()()()()()()()()()()()()だ。諏訪は最盛期で諏訪湖全域、単純に諏訪湖の周囲長だけでも16キロメートルを歌野1人で守っていた。一方四国は文字どうり四国全域を守護する必要があり、香川だけでも海岸の長さは724キロメートル、四国全土だと7230キロメートルにも及び、実に約450倍もの差がある。いくら神樹による壁があるとは言え、1人でも抜ければその負担は大きく膨れ上がる。

 

「兵の士気高揚や撤退の判断をするのは指揮官の役目…乃木さん、貴方にはリーダーの資質が足りていないのではないかしら…」

 

 その発言に対して若葉は言葉が詰まり、勇者達の周りの空気は鬱々とした雰囲気に包まれる。

 

「みんな、仲良しなのはいいけど、話し合いは後にしようよ!」

 

 そんな空気を吹っ飛ばしたのは、やはりと言うべきか友奈だ。友奈と杏を除く全員が「仲良し?」と首を傾げる。

 

「え、ケンカするほど仲がいいって言うよね?」

 

「「「「いや、それは違う(わ)(でしょ)」」」」

 

「あの、友奈さん…私も違うと思います」

 

「全否定⁉️」

 

 総ツッコミされた友奈はガビーンと擬音がつきそうな顔になるも、気を取り直して言う。

 

「─でも、ケンカの原因を作ったバーテックスがそこまで来てる。怒るにしろ、ケンカするにしろ、相手はあいつらだよ」

 

 その言葉に、全員がハッとする。

 

「ま、確かにその通りだな」

 

「高嶋さんの言う通り…ね」

 

「…すまん伊予島。すこし焦りすぎていたようだ」

 

「い、いえ、元を正せば私が怖がってるのが悪いので…」

 

「んじゃ、この怒りは遠慮なくアイツらにぶつけることにしようか」

 

「うん!みんなで仲良く勇者になーる!」

 

 その言葉を合図にしたかのように、各々の勇者システムを起動させる。

 

 友奈のものは、山桜のような桃色に。

 

 千景のものは、彼岸花のような紅に。

 

 球子のものは、姫百合のような橙に─

 

 しかし、杏の姿は変わることは無かった。

 

「…ご、ごめんなさい…私…」

 

「気にすんなって‼️タマ達だけで全部倒して来るから‼️」

 

「そそ、むしろ全く恐怖心が無い方がヤバいから」

 

 泣きそうな顔をする杏を、球子と香織が元気づける。

 

 アプリを確認すると、侵入してきたバーテックスは50と少し。決して少ないとは言えないが、絶望的とまでもならない数だ。

 

 ならば、恐れる理由などどこにも無い。ならば人々に対しての報い(積もり積もったこの恨み)たとえ死しても受けさせる(ここではらさでおくべきか)。若葉は迫り来るバーテックスを切り裂きながら、叫ぶ。

 

「勇者たちよ‼️私に続け‼️」

 

 その号令を受け、勇者達は動き出した。これから訪れる、大きな時代の流れと共に…

 

 

 

 Side球子

 

 目の前に見えるバーテックスの群れに向けて、タマは左腕に着けている旋刃盤を投げつける。旋刃盤は見事命中し、バーテックスは砂になって消える。

 …正直言って、戦うのが全く嫌じゃないと言ったら、嘘になる。女の子っぽいモノがイマイチ性にあわないタマにしてみればテレビの中のヒーローみたいでカッコイイとも思うけど、それでもやっぱり、死ぬのは怖い。『勇者』としての力とか役目とか、全部大人の誰かがやってくれないかな、なんて考えた事も1度や2度じゃない。…だけど

 

「だあああっ‼️」

 

 …だけど、今後ろに居るのは、タマが命をかけてでも守りたい人(あんず)だ。彼女は戦えず、誰かが守らなければかんたんにバーテックスにやられてしまう…なら、戦う理由はそれで十分だ。

 

 タマの旋刃盤は、投げるとワイヤーで回収するまでの間に隙が出来るという弱点がある。そこを突くかのように、バーテックスが近づいてこようとする。しかーし!タマが分かってる弱点をほおっタマまにしておく訳が無い‼️

 

「うぉりゃあ‼️」

 

 右手で左腕を掴み、思いっきりフルスイング!近づいてきてたバーテックスたちは旋刃盤に当たってなぎ払われる。これが、香織との特訓で身につけた新技‼️香織の使う分同鎖を使った戦法…バーテックスを先頭に巻き付け、それをぶつけるものをタマ風にアレンジし、投げ終えた後の旋刃盤をモーニングスターのように使うことが出来るのだ‼️

 

「楽勝っ‼️」

 

 そう自分を鼓舞しながら、戦いを続ける。投げては戻し、投げては振り、投げては戻し…何回も繰り返す内に、目の前のバーテックスはみるみるうちに数を減らす。

 

「これでっ、どぉだぁっ!」

 

 旋刃盤を横に振り、これで大体片付けた、そう思ったその時‼️

 

「そんな…」

 

 …隠れていた1匹が姿を現した─()()()()から。

 

 タマのこの新技にも、1つ弱点と呼べるものがある。それは、遠くに投げたものを無理やり引っ張る関係上、()()()()()()()()()()()()()()()()というものだ。しかも、旋刃盤のワイヤーはさっき勢いよく振った時にえんしんりょく?とかいうのでピンと張っていて、バーテックスがタマの元に来るまでに巻き取ることは不可能だ。若葉と友奈が戦っている場所は遠く離れていて救援に来れそうにないし、唯一近い場所にいる香織もタマから見て左方向な上にスピードが全くないと言ってた紫のやつで、重そうなハンマーまで持っている。こっちに気付いてはいるが、間に合わない。死を覚悟し、ぎゅうっと目をつぶる…

 

 

 

 …しばらく経っても、一向に痛みが襲ってこない。おそるおそる目を開けると、そこには矢が突き刺さったバーテックスの姿。続けざまにヒュン、ヒュンと音を立てて矢が飛んできて、バーテックスはハリネズミになった後に砂となって消えた。

 

 矢の飛んできた方向を見ると、そこには紫羅欄花(ストック)の意匠があしらわれた戦装束を身にまとった…

 

「…あんず?」

 

「変身…出来ちゃった。タマっち先輩が危ない、助けなきゃって思ったら…」

 

 …あんずは、タマにとって守るべき人で、守って欲しい人じゃ無かった。なんなら、彼女を不安にさせて変身させてしまった事を恥ずかしく思う程の出来事のはずだ。

 だけど、なんでだろう。

 あんずがタマの事を心配して変身し、一緒に戦ってくれる。この状況が、どうしようも無い程に嬉しくてタマらないんだ。

 

「ありがとな!タマが前に立つから、援護を頼む!」

 

「うん!」

 

「よぅし、なら残りもちゃっちゃと…って、あれ?」

 

 タマたちの前にまだ数体残っていたバーテックスは、影も形も無くなっていた。

 

「お、話は終わった?」

 

 代わりに青色の陣羽織と鎖を持っている香織が居た。恐らく、タマたちが話してる間に残りをやっつけてくれたんだろう。

 

「倒してくれたのか、ありがとな‼️」

 

「礼ならいいよーこっちも好きでやった事だし。あ!でも強いて言うなら今度一生に骨付鳥食べに行きたいな」

 

 …これは奢れということだろうか?まぁ高価なものでも無いし、タマも久々に食べたいし別にいいだろう。

 

「いいぞ!今度あんずも連れて3人で食、いに…ッ⁉️」

 

 と、ここである衝撃の事実を思い出す。

 それは先週のこと、長らく貯めたお小遣いで、店長のおっちゃんに無理言ってキープしてたテントをとうとう買ったのだ。防寒、防水性に優れて、持ち運びや組み立ても簡単な非常に良いものなんだがそのお値段…三万三千円。タマの財布の残高…27円。とてもじゃないが奢るどころか1人前も頼めない。さあっと顔から血の気が引いていく。

 

「…いや、普通に今度一緒にご飯食べに行こーねーってだけで奢らせようとかそういう気ないからね?」

 

「…うん、私も食べたいけどタマっち先輩に無理させて奢らせようとは思わないよ?」

 

「い、いや、こういうのは先輩が払うもんだからな、うん!」

 

「私の方が誕生日早いからね?5月27日生まれ。そんな意地を張らなくてもいいのにー」

 

「こーいうのは漢のプライドの問題なんだ‼️」

 

「タマっち先輩も立派な女の子だからね⁉️」

 

「ええいとにかく今度みんなで骨付鳥食べに行くぞ!もちろん『ひな』が美味しいところな‼️」

 

「香織さん、どうします?タマっち、無理にでも自分が奢る気ですよ」ヒソヒソ

 

「いや、普通に割り勘でしょ。友達に奢らせて大丈夫なほど私は図太くないよ」ヒソヒソ

 

「ですよね!」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「「なんでもないよー」」

 

 そんなことがありながらも、順調にバーテックスを倒していく。他のみんなのところも見てみると、最初は戦っていなかった千景も友奈と一緒にバンバン倒してるし、若葉は相変わらず鬼みたいな形相で叩き切ってる。このまま押し切れる、そうみんなが思ってきた時に、異変が起きた。

 残ったバーテックスが、1箇所に集まりだしたんだ。バーテックスはまるで角のように長く、まっすぐな姿へと変わる。

 それを見て、香織が思わずという感じで呟く。

 

「あれが、進化体…」

 

 SideOut




ちなみに香織は『ひな』派です


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進化体と切り札(秘策)

…おかしいな、ブーストマーク3が出たと思ったら、いつの間にかギーツ9になっててブジンソードやらファンタジーやらサポーター陣のプレミアムやらが出てきてる上に新作ライダーの発表までされてる…これは乾巧って奴の仕業なんだ

なんだって!それは本当かい⁉️
じゃあ僕が今マスターデュエルでBFを握っているのもゴルゴムの仕業か‼️ぜってぇ許さねぇ‼️おのれディケイドー‼️


要約:遊んでたらいつの間にか2ヶ月以上経ってました。遅れてしまって本当にすいませんm(_ _)m


 Side香織

 

 進化体。それは複数のバーテックスがまるで粘土細工のように合体し、巨大かつ強固なものへと変わったモノ。種類は現在若葉達が確認しただけでもハリネズミのように全身に矢のようなものを発生させた姿、ムカデのような長身と多足を持つもの、そして─今目の前に居るような、巨大な角となったものがある。

 情報が少なく、詳しい動きや攻撃方法は不明だが確実に言えるのは、『3年前の若葉が敗走を選択せざるを得なかった相手』という事だ。確かに、3年前と今では若葉の強さは段違いだ。だが、こと防衛戦に関しては昔の若葉の方が上手だった。

 

 私と若葉が出会った時は防衛戦と強行軍の嫌なハイブリッドで、常に背後を気にする必要性があった。しかしなんの皮肉か、四国で得た強固な守り(樹海)は若葉から後顧の憂いを絶った代わりに、背後に対する注意心を失ってしまった。物理的に見えなくなった分、後ろに守るべき人達が居るという事を忘れ、前方に居るバーテックス()しか見えていない。それは余計なことに思考を割く必要性が無いという強みでもあるが、言い換えれば敵しか見えない、怒りや憎しみに飲み込まれやすいということであり、猪突猛進気味になってしまうということだ。相手の正しい力量が不明な今の状況だと弱みでしかない。

 

 …話が逸れたが、要はかつての若葉が彼我の力に圧倒的な差があると判断した相手だと言う事だ。

 

 しかもメンバーには今回が初戦闘の者も居て、チームワークのチの字も無い。下手を打てば互いの足を引っ張り合う、最悪の連携になる可能性も高い。

 

「まずは私が…‼️」

 

 このまま座して待っていてもなんともならないと判断したのか、アンちゃんが連続で矢を射掛ける。

 するとカン、カンと音を立てて標的に当たるはずだった矢が跳ね返り、アンちゃんのもとへと降り注ぐ。

 

「危ねぇっ!」

 

「でやぁっ!」

 

 間に私とタマちゃんが入り、タマちゃんは旋刃盤で、私は鎖を前方で円を描くように振り回し、即席の盾として防ぐ。跳ね返ってきた所を注視してみると、半透明な赤い板があるのが分かる。どうやらあれで跳ね返したようだ。

 私も走り回り、様々な角度から苦無を何度か投げてみるも、いずれもカンカンと跳ね返る。どうやらどの方向もあの板…反射板によって守られていて、遠距離からの攻撃は意味をなさないようだ。

 

 そうなると接近して叩くしかない訳だが、敵は僅かにだが浮遊している。飛びながら攻撃するのも簡単では無い。仮に出来たとしても、跳ね返らないだけで砕ける保証もない。

 

 どうしたものかと頭を悩ませていると、いつの間にか跳躍していた「やあっ‼️」と気合一閃、友奈が拳を反射板に打つ。

 

 波の相手なら即座に崩壊するであろうそれを反射板は鈍い音を立てるもののなんと無傷で受け止める。

 

 続けざまに若葉の神速の居合いと郡さんの連撃で反射板に攻め立てるも、やはり傷1つつかない。

 

 …なにか手は無いのか?私たちに出来ることはもう、ただただ死を受け入れることだけなのか?

 

 ─嫌だ。まだ死にたくない、今度真鈴ちゃんと2人打ちの麻雀を打つって言ったんだ、ついさっきアンちゃんとタマちゃんと一緒に骨付鳥を食べに行くって約束したんだ…まだ何一つ償えていない‼️まだ死にたくない、死ねない、死ぬわけにはいかない‼️

 

 だから‼️

 

「あき、らめて…たまるかァァァァァァ‼️」

 

 疲労で震える体にムチ打ち、鎖で跳んでからハンマーを上から反射板に打ち付ける。

 ガァン!と鉄同士がぶつかったような低い音を響かせながら凄まじい振動が全身を襲うが、それにかまわず振りおろそうと力を込める。しばし拮抗するが、やがて弾かれてしまう。しかしよく見てみると、さっきまで真っ直ぐだった板が少しだけ、ほんの少しだけ歪んでいる。

 

 …なんだ、やっぱり無敵じゃないじゃないか

 

 思わずニヤリ、とほくそ笑む。今の一撃で確実に反射板の耐久を減らせたのだ、私たちに壊せない道理などどこにも無い。攻撃し続ければ勝機はある。

 

 その事に気付いたのか、友奈も「一回でダメなら…百回、千回だって叩き続ければいい‼️」と叫び、手札を1枚切る…それも、取っておきの1枚を。

 

「来い‼️『一目連』‼️」

 

 私を除く全ての勇者の力の根源は神樹にある。そのため、神樹の中にある膨大なデータベースにアクセスし、その力の一端…精霊を身に宿す事が出来る。

 

 直接身体に作用するものはその危険性故に180秒の時間制限があるが、それでも状況をひっくり返すのに事足りる、一発逆転のまさに切り札(ワイルドカード)

 

 友奈の髪色が若干ピンク寄りになり、左目がバイザーのようなものに覆われる。

 彼女が身に宿した精霊は『一目連』。稲光や暴風をもたらすとされる龍にして神の一柱だ。その能力は─

 

「はぁぁぁっ‼️」

 

 空に舞った友奈の拳が、絶え間なく反射板に撃ち込まれる。最初の方はなんともなかった反射板も、徐々にダメージが蓄積され、軋んでいく。

 

 ─これが『一目連』の能力。過去には建物1つを廃墟に変えたことのある竜巻の勢いと力を宿した者の拳に与える。

 

 ズドドドド、と擬音が聞こえるほどの連打によって板はひび割れていく。このままなら押し切れる、と勝利を確信して進化体にざまぁ見ろと嘲笑する為にそちらを見て…驚愕から目を見開く。

 

()()()()()()()()()のだ。少しづつだが、確実に、友奈の拳の射程外へと向かっている。あの板は進化体の見えない皮膚のようなものだと思っていたが、違う。あれは進化体のごく近くに現れるだけの、独立した部位なのだ。そして今のままのペースで移動し続ければ、反射板を壊した頃にはもう届かない位置に居るだろう。

 そうなれば切り札は時間制限によって自動的に解除、板が再生されれば壊す手段が無くなり、完全に詰みだ。

 

 どうする、どうする⁉️思考が定まらず、頭の中をループする。生憎と私はパッと策が思いつくような灰色の脳細胞を持ち合わせていない。強いて言うなら、自分の犯した罪に目を瞑り、でもひとりぼっちになりたくないというお花畑な脳細胞の持ち主だ。

 

 …ならば、それを持っている仲間に頼ればいいだけの話だ。

 

「アンちゃん‼️」

 

 勇者チームのブレインことアンちゃんは私の言いたい事にすぐ気がついたようで、ハッとした表示の後、難しそうな顔をする。

 

「まさかあの状態でも移動できるなんて…」

 

「だね…ぶっちゃけ、友奈が失敗したとしても皆の切り札でなんとかなったりしない?」

 

 前にも言った通り、私の勇者システムには切り札が存在しない。そのため、精霊の力は分かっていてもその細かい能力や強さの上限は分かっていないのだ。その知らない部分になにか使えそうなものは無いかと思ったんだけれど…

 

「…多分、無理だと思います。若葉さんやタマっち先輩のものは相性が悪いですし、これが初陣の私や郡さんはそもそも使えるかどうか…」

 

 と、あっさりと望みは絶たれた。

 

「このままだとアイツは友奈ちゃんの拳を避けてタイムアウト」

 

「ですが私たちの遠距離からの支援は反射されて、むしろ友奈さんを害してしまう可能性の方が高い」

 

「切り札を使ってる友奈ちゃんの攻撃なら届けば倒せる、だからこそあの進化体は逃走を図ってる」

 

「なら、私たちのやるべき事は反射板を壊した友奈さんがそのまま本体に攻撃出来るようにすること」

 

「だったら今、私たちの用意するものは…」

 

「「足場」」

 

 同じ結論にたどり着いた私とアンちゃんは顔を合わせ、頷き合う。しかし足場と言ってもいくつかの複雑な条件がある。

 

 まず1つ目に友奈が現状に気付いていない為、ある程度目立つ必要がある点だ。しかし反射板を叩き割る前にこちらに意識が向いた結果、割れないという最悪な事態は避けないとならない。そのため、目立つ必要があるのは反射板が割れてから本体への攻撃へと踏み込むまでの一瞬だけ、それより前でも後でもダメだ。

 2つ目に強度がしっかりとしていないといけない点。友奈の追撃の為にあるのに強度不足でその脚力に耐えきれずに踏み込み前に崩壊、なんてシャレにもならない。

 そして最後に、周りの立地だ。普通ならば私が鎖を作り、それを手近な樹海の一角に巻き付けて即席のスラックラインを作ることも出来るが、生憎と近くに高低差のある樹が無い。

 

「…大きくて、一瞬でも固定できるようななにかがあれば…」

 

 私が漏らしたその言葉を聞いたアンちゃんがはっと目を見開き、「香織さんの鎖…進化体のサイズ…反射板の性質…これなら!」となにやらボソボソと呟くと、

 

「香織さん、もしかしたら足場を出せるかもしれません‼️」

 

 と言い放った。

 

 SideOut

 

 

 

「うぉぉぉお‼️」

 

 ズガガガガと激しい音をたてながら友奈の拳が反射板に突き刺さる。徐々にすり減って行く板を見て、友奈は勝利の確信をよりいっそう深める。進化した最初こそ絶望的だったが、香織の行動を皮切りに突破口が開いていった。何事もなせば大抵なんとかなるものだ、と思いながら攻撃を続ける。

 進化体を見てみると、どういうわけかこちらを嘲笑っているように見えてくる。なにを笑っているのか、もう少しでその鉄壁の防御も崩れ去ると言うのに。

 

 そう思い、攻撃を続けながらも進化体をよく見ていると、徐々に後退していることが見て取れる。

 

 ほら見たことか、逃げることしか出来ないくせに…ちょっとまって、()()()⁉️

 

 ここに来て、友奈もようやく進化体がこちらを嘲笑っている理由が分かった。アイツは自らの防壁を一度は捨てて退却し、こちらに割る術が無くなったところで2枚目を引っさげてやってくるつもりなのだ。

 

 どうしよう、どうしよう、どうしよう‼️

 

 友奈の中で焦りが加速していく。胸の水晶の制限時間を表示されている数字は残り40を示している。目の前の板は、これまでのひびが入った時間から考えると、あと20秒で砕くことが出来る。しかし、残った20秒で着地してから距離の離れた進化体を追い、トドメを刺すと言うのはあまりにも非現実的な考えだ。

 

 となれば更なる切り札…大社から使用を禁じられている『酒呑童子』の力も使うべきだろうか?だが、友奈はそもそも『一目連』を使うこと自体今日が初めてだ。切り札の力に体が慣れてないのに、いきなり上位の『酒呑童子』を使うのは、最悪の場合いきなり倒れて永遠に戦線離脱の可能性もある。なんとかしてこの30秒でケリをつけるしかない‼️

 

「うっ…ぉぉぉおお‼️」

 

 きしむ身体を雄叫びで誤魔化して、友奈の拳は先程までの限界を超えて加速していく。音もより重厚なものとなり、板のひび割れる速度も上昇する。みるみるうちにひび割れは広がっていき、制限時間が残り22秒となったところでついに割り切ることが出来た…だが、たった2秒の差で何かが変わるほど現実は有情では無い。離れてしまった進化体との距離を埋めることは最早不可能だろう。

 

 もう、どうしようもないの…⁉️

 

 友奈の心中にじわじわと絶望が広がって行く。空中から落ちていく間に、制限時間はとうとう10秒となったその時‼️

 

「今です‼️」

 

 今までで聞いたこともない程の杏の大きな声がこだまする。そしてそれに呼応するように、球子が動く。

 

「見タマえ、これがタマの…全力だぁ‼️」

 

 そう叫んで球子が投げたのは、巨大な分同鎖の先端だ。その太い鎖は、ジャラジャラジャラ‼️と音を立てながら真っ直ぐ飛び、進化体の真横スレスレを通っていく。

 

「そこはタマ()()って言って欲しかったなぁ‼️」

 

 巨大な鎖の根元を持っている香織は、そう愚痴を吐きながらも巧みに鎖を操り…()()()()()()()()()()

 

 これに驚いたのは友奈だ。放たれた鎖はてっきりまた反射板が現れて防がれると思ったからだ。しかし事実として、鎖は寸分の隙間もなくピッチリと進化体の体を締め付けている。

 

 その理由を知るためには、時を香織と杏の作戦会議の時まで巻き戻す必要がある。

 

 

 

「…それで、足場を出すって具体的にはどうするつもりなの?近くには巻き付けられそうなものは無いけど…」

 

 そう香織は問いかける。確かに香織が扱える物の種類は千差万別、ありとあらゆる状況に対処が可能…とは言え、ある程度の立地条件があるのも確かなのだ。

 

「巻き付けられるものならあるじゃないですか。とても大きくて、頑丈なやつが」

 

 そう言って杏が指さす先に居るのはとても巨大で、多少の攻撃は歯牙にもかけず、そして最も忌むべき存在…進化体だ。

 

「い、いやいやいや‼️そもそもの問題があいつの反射板を突破できない事なんだよ?巻つけようとしたらまた新しい反射板が出てくるだけじゃ…」

 

「いえ、その防御の姿勢が弱点なんです」

 

 一拍置いて、杏は進化体の弱点を語り出す。

 

「あの進化体の出す反射板は、攻撃したポイントに現れる凄まじい精密性と並の攻撃を受け付けない、圧倒的な防御力を持っています…が、逆に言えばあの反射板は攻撃した場所にしか現れないんです」

 

 そう言いながら思い出すのは、自身が撃ち込んだ矢と香織が投げつけた苦無の軌道。その多くは、反射板によって凡そ水平に打ち返された…だが、例外的に軌道が変化しなかったものもある。それが進化体に「当たる軌道では無かった」ものだ。当たり前と思われるかもしれないが、その軌道というのは()()()()()()()()()()()、進行方向上に進化体がいなければ反射板は現れないのだ。

 ここまで話を聞いた香織は、杏の言わんとする事を理解し…同時に、やるべき事の難易度の高さを理解して頬を引き攣らせた。

 

「…えっと、アンちゃんまさかとは思うけど…」

 

「はい、そのまさかだと思います」

 

「だよねぇ…でも、あの進化体に巻き付けて安定させるとなるとかなりの太さと重量になる。私だけだと、投げることか巻き付ける操作をするかのどっちかしか出来ないよ?」

 

「大丈夫ですよ。だって、ここには勇者の中で1番投擲が上手い人が居るじゃないですか‼️」

 

 そう言う杏の視線の先には、バーテックス相手に旋刃盤を投げつける球子の姿。

 なるほどね。と香織は笑い、球子の方へと駆けていった。

 

 

 …かくして行われた作戦はこうだ。まず、杏が進化体の()()()()を狙える場所とタイミングを見計らって合図する。

 

 それに合わせて、前もって香織が出しておいた巨大な分同鎖の先端を球子が進化体が反射板を出さない、()()()()()を狙って投擲する。

 

 仕上げに香織が鎖を操り、反射板を出すのが間に合わないゼロ距離で拘束する。

 

 …はっきり言って、この作戦はほぼギャンブルだと言っていい。杏の「反射板は進化体自身に直撃する攻撃以外には現れない」という『仮説』、球子の「進化体に当たらないように横スレスレを狙う」という高い『技量』、そして香織の「他人が投げた鎖を完璧に操れる」という『前提』があって初めて成り立つものだ。とうてい策と呼べるものでは無いだろう。

 

 …だが、彼女たちは自分たちの力で、それを成功させた。

 進化体に絡みついた鎖はその動きを止め、友奈と進化体を繋ぐ足場となった。

 

「「「せーのっ‼️」」」

 

 そして3人が精一杯の力で引っ張ってピンと張ることで、足場は強固な道と化す。

 

 アンちゃん、タマちゃん、香織ちゃん…ありがとう。

 

 友奈は胸の中でそう礼を言うと、鎖の上を疾風の如く駆けて行く。

 ものの7秒足らずで進化体の元へと辿り着くと、猛烈なラッシュを浴びせる。

 

 

 

 

 

 

 …反射板への攻撃と合わせて通算999発目、一目連の残り時間はあと2秒。

 後ろの3人がとうとう鎖を支えきれなくなり、生じた弛みによって不安定になった足場から友奈は即座に跳び上がる。

 遂には動きを封じていた拘束さえも外れ、自らの勝利を確信した進化体は存在しない顔に下卑た笑みを浮かべる。

 

「千回ぃ…」

 

 しかし、友奈もただ何も考えずに跳んだ訳では無い。

 

「連続っ‼️」

 

 上空からの拳は一目連の力に重量の力も加わり、

 

「勇者ぁ…」

 

 進化体をも打ち砕く、強力無比な弾丸と化す‼️

 

「パァァァンチッ‼️」

 

 反射板を失った、進化体にそれを耐えられる道理なんてある訳もなく、進化体は粉々に砕け散った。

 

 その様子を見ていた香織たち3人は喜びとお互いの健闘を称えてハイタッチし、星屑を倒しながらちらりと確認した若葉はふっ、と笑う。

 

「…‼️乃木さん、後ろ‼️」

 

 そんな若葉の後ろに密かに迫る生き残った最後の星屑を見て、千景は思わずと言った感じで叫ぶ。

 

 しかしもう遅い。死なば諸共と言わんばかりに若葉を喰らおうと星屑が迫り…

 

 ブチリ、と肉が千切れる音が鳴る。

 しかし喰われたのは若葉ではなく…星屑の方だ。

 

「…まずいな、食えたものではない」

 

 まるで級友を喰われた意趣返しとばかりに食いちぎった肉片を呑み込み、体の一部を抉られながらもまだ生きている星屑を─この戦い最後の敵を両断する。

 

 その様を見ていた千景がボソッと、

 

「乃木さんは迷宮の奥深くに置いていかれた冒険者かなにかかしら…?」

 

 と、最近プレイしている魔物の肉を食べて強くなるゲームのストーリを思い出しながら呟いたところで、樹に覆われた幻想的な風景が元の街並みに戻って行く─勇者たちの初陣の勝利を伝える、神樹からの合図である。




ゆゆゆいだとUR高奈ちゃん(一目連)の必殺技名は千回«連続»勇者パンチなのに、小説本編や大満開だと千回勇者パンチなんですよね…大満開はそもそもが酒呑童子の状態で撃ってたので余計に分かりずらい

そして切り札に大満開と同じく時間制限を付けましたが…この残り何秒で攻撃が間に合う、という展開をやりたいが為に採用しただけなので酒呑童子や七人御先、大天狗を使った時にどうなるのか考えてないんですよね…

あんな1発毎に全身から血が吹き出す戦いを書ける気がしない…
多分ですけど切り札を使った戦いの描写は水晶の時間制限以外は小説版や漫画版に沿って書くと思うので、ご了承ください

よろしければお気に入り登録、感想などいただけると嬉しいです‼️


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初陣のエピローグ

ギーツの夏映画頃に投稿したと思ったら、いつの間にかガッチャードの冬映画が公開されてる…どっちも面白かったです


 side香織

 

 大社が設立され、勇者6人揃っての初戦闘は、かつて辛酸をなめさせられた相手である進化体をも打ち倒し、大勝利‼️と、胸を張って言える戦果を挙げることが出来た。

 樹海化も解け、無事に丸亀城に戻ることが出来た私に待ち受けていたのは…

 

「聞いているんですか⁉️若葉ちゃん、香織ちゃん‼️」

 

「「は、はい‼️」」

 

 ひなたからの説教だった。

 

「まず若葉ちゃん‼️バーテックスを食べちゃうなんてダメでしょう‼️」

 

「だ、だが奴らは昔、私の友達を喰らったんだ。だからその報いをだな…」

 

「それでお腹壊しちゃったらどうするんですか‼️」

 

「う…むぅ…」

 

 先程まで鋭い目つきでバーテックスと戦っていた若葉も、ひなたの前では形無しだ。

 そんなことを考えていると、ギュン‼️と音が聞こえそうな速度でひなたがこちらを向く。

 

「香織ちゃんも‼️いくら緊急時だからとは言え、杏さんとちゃんと話し合わないと‼️」

 

「そうですよ香織さん‼️」

 

 と、この話に関係のあるアンちゃんもお説教に加わる。

 

「確かに作戦を立てたのは私ですけど、リスクが分かってるなら前もって言ってください‼️」

 

「あ、あはは…」

 

 ─今より数分前、丸亀城に戻ってきた時の事─

 

 Side Out

 

「やぁっと帰れた~タマもう疲れたぞ…」

 

「そうだね‼️私ももうヘトヘトだよ~」

 

「友奈さんは切り札まで使いましたからね…それに比べて私は、最初に変身出来なくて、タマっち先輩の足を引っ張っちゃって…」

 

「…いえ、それを言うなら私もだわ…それに伊予島さんは進化体の撃破に貢献していたのに…最初にあれだけ言っておいて…本当にごめんなさい、伊予島さん」

 

「いえ、それを言うなら千景さんの方が沢山の星屑を倒していましたし‼️…あの作戦も穴と博打まみれのものでしたし…千景さんの方が…」

 

「いえ、伊予島さんの方が…」

 

「いや、千景さんの方が…」

 

「いえいえ、」

 

「いやいや、」

 

「「いえいや…」」

 

「仲良きことは美しきかな、というやつだな」

 

 若葉は戦いを終えた仲間たちを見て、そうふっと微笑む。…自分たちの戦いが無事に終わったことで、脳内を支配するのは諏訪のことだ。

 自分達は諏訪の勇者…白鳥歌野が戦ってくれていたからこそ、今まで平穏な日常を送れていた…それが今日崩れたと言うことは、つまり…

 

「…あまりこういう事は考えない方が良いな」

 

「そうそう、今は純粋に勝利の余韻に浸っとこうよ」

 

 隣から聞こえる(香織)の声にそうだな、と軽く頷き…ふと、気になったことを尋ねる。

 

「ところで香織。さっきから気になってたんだが…なんで鎧を着たままなんだ?」

 

 ─そう、戦いが終わった後も、香織は鎧を装着したままなのだ。スタミナの回復などは陣羽織が無い状態の鎧が便利だとは聞いているが、いくら何でも家同然の丸亀城でそれは些か気が休まらない。

 

「それもそうだね…タマちゃーん、ちょっとこっち来て~」

 

「ん?どうかしたのか、香織?」

 

「え~、コホン。Cyclone‼️

 

「え?ジョーカー‼️ってうわぁ‼️」

 

 香織が妙に上手い変身アイテムの声真似をしたかと思うと、突然パタリとに倒れ、球子が慌ててキャッチする。

 突然の出来事に、周りで歓談していた他の勇者達だけでなく、丸亀城で待機していたひなたも、なんだなんだと集まってくる。

 

「どうした香織‼️大丈夫か⁉️」

 

「しっかりしろ香織ぃ‼️意識をちゃんと持ちタマえ‼️」

 

「香織ちゃん、大丈夫⁉️救急車呼ぶ⁉️」

 

「友奈さんもそんな急に動いたら危ないですよ‼️」

 

「若葉ちゃん‼️今神官さんに香織ちゃんの事を伝えてきますから、動かさないようにしてください‼️」

 

 仲間の異変に、慌ただしく動く勇者と巫女達。中でもなりふり構わず彼女に寄り添っているのは…

 

「しっかり、しっかりしてよ…かおちゃん…

 

 …かつての親友(千景)だ。弛緩した雰囲気から一変して緊張感が走る中、渦中の香織が声を出す。

 

「え~と…」

 

「‼️香織、大丈夫か⁉️皆、香織が意識を取り戻したぞ‼️」

 

「香織ぃ‼️」

 

「香織さん‼️」

 

「「香織ちゃん‼️」」

 

「かおちゃんっ…‼️」

 

 皆が安堵する中、香織が気まずそうに告げる。

 

「いや、私意識失ってないよ⁉️というかこれ筋肉痛‼️」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「は?」

 

「いやぁ、あのサイズの鎖出すのも扱うのも初めてだったし、予想はしてたんだけど…あ、やめて、郡さん蹴らないで、今抵抗できないの…脛、脛は勘弁して」

 

 この事実にポカンとしながらも、反応を見せたのが2人。

 

「…もしかして鎧を解かなかったのはこれの為か?」

 

 と聞くのは若葉だ。

 

「そうそう、鎧着けてるとパワードスーツみたいな感じでアシストしてくれるんだよね~」

 

 この答えになるほど、と若葉は頷くが、対照的にズカズカと近づいて来るのは杏だ。

 

「…香織さん、予想していたって言いましたよね?」

 

「…まぁ、うん、そうだね?」

 

「…ちなみに、あの作戦が失敗していたら、どうなっていたとか、聞いても?」

 

「え~と…2人は弾き飛ばされる程度だけど、鎖と直接繋がっている私は両腕が千切れたかな…な~んて…」

 

「『な~んて』じゃありません‼️そういう事は先に言ってください‼️私を信じて作戦の立案を任せてくれたのなら、考えつくリスクも全部話してください‼️それも考慮して、危険が少なく、より良い成果を出せる策を考えてみせます‼️」

 

「いや、あの時はあれしか作戦が無いと思ってたし…バーテックスを踊り食いしてた若葉よりかは問題無いと思うけど…」

 

「そういう問題じゃありません‼️」

 

「は、はいっ‼️」

 

 杏の怒号が響く中、看過できない発言に、ひなたが若葉の方にギュン‼️と音が付きそうな勢いで振り向く。

 

「若葉ちゃん?バーテックスを踊り食い、とはどういう意味でしょうか?」

 

「いや、それはだな…」

 

「く・わ・し・く…教えてくれますね?」

 

「う、うむ…」

 

 ─こうして、話は冒頭へと遡る…

 

 Side球子

 

「「若葉/香織ちゃん‼️」」

 

「「は、はい‼️」」

 

 ひなたも杏もおかんむりだな…こりゃあ長くなりそうだ。…そうだ‼️先に戻ってメシの準備をしておくか‼️今日は疲れたからな、皆も沢山うどんを食べたいだろうからな‼️

 

「千景ぇ~タマ達は先に戻ってようぜ‼️」

 

 千景は少し顔をしかめた後、チラリと香織達の方を見て

 

「…そうね、先に戻ることにしましょうか…アレに付き合ってると、長くなりそうだもの」

 

 よぉ~し‼️今夜はうどんパーティだ‼️…あ、そういえばさっき…

 少し歩いた後、タマはふと気になった事を千景に尋ねる。

 

「そういえばさっき、香織の事を『かおちゃん』って呼んでたよな?いつの間にそんな仲良くなったんだ?」

 

 ─これが、疑問に思った事だ。さっき香織が倒れた時、千景は確かに香織の事を『かおちゃん』と呼んでいた。千景は基本的に誰かのことをあだ名で呼んだりしない…どころか、名前呼びしているところすら見た事が無い。だからちょっと驚いたし…少し香織が羨ましくなったのだ。

 

 千景はハァとため息をつくと、

 

「…昔、少しだけ仲が良かったのよ」

 

「意外だな…てっきりタマは、2人とも仲悪いもんかと思ってたぞ」

 

 そう思ったことを素直に言うと、千景はなんとも言えない表情で語る。

 

「昔の話よ、昔の…それが少し取り乱して、つい出てしまっただけよ」

 

 ほほう、これはいい事を聞いた‼️

 タマはにやける顔を隠さず、千景に聞く。

 

「なら、タマの事もそのうちあだ名で呼んでくれるかもしれないって事だよな⁉️」

 

 すると千景はハァ…とさっきよりも深くため息をため息を吐き、

 

「…分かったわよ、貴女と私がもっと仲良くなったら考えてあげるわ、土居さん」

 

「本当か⁉️絶対だからな‼️」

 

 後ろで「…もっとも、そんな日は来ないでしょうけど」なんて声が聞こえるが、タマには聞こえん‼️タマイヤーはタマにとって都合のいい事しか聞こえないのだ‼️

 

「よ~し‼️タマも千景にあだ名で呼ばれるよう、頑張るぞー‼️おー‼️」

 

「ハイハイ…」

 

 そんな話をしながら、タマと千景は一足先に帰路につくのだった‼️

 

 SideOut

 

 

 

 ─その日の夜、バーテックスの侵攻と、それを人類の切り札である勇者が撃退されたこと、また、諏訪の勇者との通信記録も公表された…もっとも、その通信がもう繋がらない事を知っているのは、勇者と神官たちのみだが。

 

 筋肉痛を理由にうどんパーティの誘いを断った香織は、自室でそのニュースをなんとも言えない表情で聞いていた。

 

 ─やっぱり、諏訪の現状に対する発表は無しか。まぁ、当然っちゃ当然か。

 

 そう心の中で独りごちると、蕎麦をすする。

 

 ─これから忙しくなるだろう…だけど、私は皆にアイサレル勇者で居ないと…あり続けないと。そうでないと私は…

 

 と、ここまで考えたところで、香織は自分の瞳から涙が零れ落ちているのに気がついた。

 

「…あれ、わさび入れすぎたかな…」

 

 そんな事を言いながら拭うが、どんどん瞳から溢れてきて…それが止まるのは、随分と先の事だった。

 

 

 

 ─同時刻、香川某所、とある屋敷にて

 

「ふん、何が勇者だ、政治のせの字も知らない神官が…」

 

 屋敷の主人である中年男性が、ワイングラス片手にテレビの画面を忌々しげに睨みつける。

 

 ─男は元々、地元で代々議員を排出している中々の名家の出であり、本人も新進気鋭の若手と比べると劣るが、それでも常に一定の人気を保っていた…バーテックスが出現するまでは。

 

 未曾有の大災害、そして出現する謎の生命体の対処に、男は自らの地位の為もあるが、少なからず民衆の事を思い、東西奔走した。

 

 そんな時に現れたのが大社を名乗る謎の集団だ。神がどうとか語る彼らは非常に胡散臭く、よくあるカルト宗教かと誰も気にとめなかった。

 しかしバーテックスが現れる場所のお告げが当たったり、各地で少女に命を救われたという声が聞こえてくると彼らの話を信じる者が増え、生存は絶望的だと思われていた謎の壁に囲われている四国の外からの避難民が、これまた少女達に守られながら来た頃には、『大社の言うことを聞けば生きられる』という風潮が行政機関に蔓延していた。

 

 そして大社のエスカレートする要求に、議会は嫌な顔1つせず了承するようになって行った。

 やれ勇者システム開発の為に予算を回せ、やれ勇者達の滞在施設として丸亀城を改装させろ、やれ大社の本拠地を建てる為に突如現れた大樹の周りの土地を寄越せ、やれバーテックスの対処の為に自衛隊を接収させろ…

 

 この横暴っぷりに男は異議を唱え、他の議員にもこのままでは政治が傾くと協力を仰いだ。

 …しかしこの異常事態への対応策が無く、その責任も負いたくない議会にとって彼の発言は邪魔でしかなく、次第に彼の発言は軽視されるようになった。

 

 それでも彼は行動を続けたが…それが週刊誌によって世に報じられると、次第に彼の元から支持者が、1人、また1人と消え…遂には、『国民一致団結して対処しなければならない事態において、悪戯に不安感を煽り、国民が速やかに元の生活に戻る為の妨げとなった』として、議会から除名された。

 

「どいつもこいつも神樹様、神樹様、勇者様…危機を解決出来るならと、普通に抱くリスクや危険を唱えるものを排斥する…それでは…」

 

 ─それでは、清廉潔白であろうとした私や、民衆の為に滅私奉公してきた当家が、バカのようでは無いか

 

「これ以上やつらに良い顔をさせてたまるか‼️神なんて死んでも世界は回る。それを私が証明してやる…どんな手段を使ったとしても‼️」

 

 そう血走った目で語る彼が後にある惨劇を引き起こすのは、まだ、先の話… 

 

 

 

 Side香織

 

 バーテックスとの戦いが終わった、次の日。全身の痛みと戦いながらもなんとか午前中の授業を乗り越えた私は、みんなとお昼ご飯を食べていると、

 

「なぁ若葉、香織。昨日の夜、みんなで話し合ったんだけどさ」

 

 と、タマちゃんが言ってきた。

 

「なんだ?」

 

「どうかしたの?」

 

「やっぱり、若葉がリーダーをやるのが1番いいと思うんだ。今までは大社に言われてたからなんとな~くそんな感じになってたけど、今回の戦いではっきりとそう思ったからな」

 

「…どうしたんだ、急に?バーテックスを倒した数でなら、香織も負けず劣らずだと思うし、伊予島に戦うのを強要させてしまった…リーダーは、香織の方が相応しいと思うが」

 

 なんて若葉が言うが、私は首を横に振る。

 

「うんん、リーダーは若葉の方が良いと思うよ」

 

「な、なぜだ?」

 

 即座に否定するとは思ってなかったのか、若葉が若干タジタジになる。

 

「だって、若葉はアンちゃんの事を信じてたでしょ?」

 

 …そう、確かに若葉は戦う覚悟が出来ていないアンちゃんに対して中々キツく当たった…でも、決して「その気がないならここから逃げろ」とは言わなかった。

 それはきっと、勇者としての使命とかの前に、『伊予島なら恐怖心を乗り越えてくれる』と信じて…いや、確信していたからこそだろうと思う。

 

 そんな問に若葉は─

 

「…?当たり前だろう、仲間なのだから」

 

 と、さも当然と言わんばかりに答えた。

 …正直、私は今回アンちゃんが戦うのは無理だろうと諦めていた。だから、私は若葉や友奈ちゃんの戦っていた場所の少し後方で、いつでもアンちゃんを回収して離脱出来るようにしていた。

 

 …だけどアンちゃんは私の予想を超えて、若葉が信じていたように、タマちゃんを助ける為に勇者として覚醒した。

 だからこそ、勇者を率いるリーダーは、若葉が1番相応しいと思うのだ。

 

「私と若葉が参加しなかったうどんパーティで話し合った事みたいだし、みんなも賛成でいいんだよね?」

 

「はい。私も、若葉さんがリーダーやるのがいいと思います‼️」

 

 とアンちゃんが頷き、

 

「うん!若葉ちゃんって、いかにもリーダー‼️って雰囲気あるし‼️」

 

 と笑うのは友奈ちゃんだ。

 

「…反論は無いわ。乃木さんの活躍は確かだったし」

 

 と呟くのは郡さん。

 

 若葉は全員の顔を見つめると─

 

「…ありがとう」

 

 と、ただ一言だけ礼を言った。

 

 よかったですね、とひなたが微笑んでいると、オッホン!とタマちゃんがわざとらしく咳払いをする。

 

「さて、これで晴れて正式にリーダーとなった若葉に、1つ直してもらいたいところがあるんだ。これから先、勇者として人前に出る機会も増えるだろうからな‼️」

 

「私に直してもらいたいところ?それはなんだ?」

 

「それはだな…」

 

「そ、それは…⁉️」

 

 ドゥルルルル…とドラムロールが聞こえてきそうな雰囲気が辺りにただよ、いやこれ違うな。タマちゃんが普通に言ってるのか

 

「ルルルルル…デン‼️タマの事も名前で呼びタマえ‼️」

 

「え、えぇ…いや、それはまだ早いと友奈の時にも…」

 

「それいつの話だと思ってるんだ‼️あれからだいぶ経ったぞ‼️」

 

「そうですよ若葉さん‼️あと、私のことも名前で呼んでください‼️」

 

「う、うむ…」

 

「…あんず、都合よくタマの言葉に乗っかったな…まぁ、いいけどさ」

 

 なんて3人が話していると、郡さんもポツリと言う。

 

「…私も、名前で呼んで良いわ…後、敬語使うのもやめてちょうだい、むず痒いから」

 

「ほぉ~ら、千景も味方に着いた‼️これで3対1だぞ?若葉ぁ…さぁ、名前で呼びタマえ‼️」

 

「若葉さん‼️」

 

「…」

 

「…よし、うど「んは昨日パーティしたみたいだし、今食べてるでしょ~」…そうだな」

 

 以前使った手を先読みして潰すと、ジリジリと迫ってくる3人に若葉もとうとう観念したのか、

 

「分かった分かった、今後はそうさせてもらう。千景、球子、杏…これでいいか?」

 

「よし‼️」

 

 と、無事に若葉の全員の名前呼びが決まったのだった。

 

「みなさ~ん!こっちみてください‼️」

 

 ひなたの声に全員がそちらを向くと、パシャリ、という音がいつの間にか取り出していたスマホから鳴る。

 

「四国勇者再出発兼、若葉ちゃんリーダー着任の記念写真です。…ふふ、若葉ちゃんの秘蔵画像コレクションがまた1枚増えました」

 

「ひなた‼️お前はまだそんな収集を…」

 

「秘蔵画像コレクション?なんだそれ?」

 

「面白そう‼️ひなたちゃん、私にも見せて‼️」

 

「球子、友奈‼️興味を持つな‼️」

 

「私も見たいです‼️」

 

「…どうでもいいわ」

 

「まぁまぁそんなこと言わずに!こんな感じのが…」

 

「…へぇ、乃木さんってそれ苦手なのね…意外だわ」

 

「…待て、香織。お前は千景に何を見せている?」

 

「ふっふ~ひなたから貰ってるコレクションのバックアップ♡ 」

 

「いつの間にそんなものを…‼️あっ待て、香織、逃げるなぁー‼️」

 

 ドタバタと逃げ回りながら、私は最初の戦いが終わり、日常に帰ってきた事を、ようやく実感したのだった

 

 SideOut




絶対に年内は無理だと思った…だけどなんとか間に合った…これが諦めなければ願いは叶うってこういう事か(ギーツ脳)

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風船

…おかしいな、ひろプリ終わる前には上げようと思ってたのに、もうそろそろわんプリの猫組が変身しそうだぞ…?


 勇者達の初陣から数日後。大社によって大々的に勇者の事が報じられ、それに伴って勇者達は様々なメディアから取材を受けたりと、活動をしていたのだが…

 

「た だ い ま ぁ つ か れ た よ ぉ」

 

 授業終わりの丸亀城で、扉から入ってきた香織がぐでぇと自分の椅子にもたれかかる。

 

「お~ぅ、おかえり~」

 

 と球子が返し、ほれ、とスポドリの入ったペットボトルを投げ渡す。

 

「ありがと…あ~っ‼️生き返るぅ~」

 

 香織はぐびっと飲むと、やたらとおっさんくさい声を上げ、目に生気を取り戻す。

 

「それにしても香織さん、何をして来たんでしょう?雑誌や新聞のインタビューなら私達も受けましたけど、ここまで長くかかりませんでしたよね?」

 

「さぁ…インタビュー系なら基本大社が書いた台本道理に話せば良いし、そもそもそんなに長引くようならリーダーの乃木さんに回されそうなものだけど…」

 

 と、杏と千景が疑問に思うことを喋る。

 それを見ていたひなたが、「ああ、それならこれですね」と、スマホを動かしてテレビを流す。夕暮れ時、この時間帯にやってるのはニュース番組くらいだが…

 

『…続いてのニュースです。本日、勇者の1人である弓有香織様が、避難地区を訪問されました』

 

 

 ─避難地区。それはかつてバーテックスが現れた際、四国外から避難してきた人々、あるいはたまたまその時に四国内に来ていた四国外の人々に急遽割り当てられた居住区であり、生きることを諦めなかった人々の希望の地であると同時に、元々四国在住の人には煙たがられることもある地域だ。

 

「なるほど、香織の用事はこれだったのか…確かに四国外から人々を避難させてきた香織だからこそ、あの地に住まう人々に希望を与えられると言うもの…うむ、立派な事じゃないか!しかしそれなら、私も共に行った方が良かったのでは無いか?誘ってくれたら行ったのだが…」

 

 若葉の賛辞と拗ねた様子に、香織は「あー…」と若干気まずそうにして、「そんなに高尚な動機じゃ無かったんだけど…」と語り始める。

 

 

 

 Side香織

 

 あれは数日前、大社の神官さんから、「大々的に勇者の存在を周知させる為に、勇者各員はインタビューやそれに準ずる、何かしらの形で四国の人々に希望を与える行動を取って欲しい」と言われた時の事。

 ぶっちゃけると、何にも思い浮かばなかった。と言うより、一応テレビ出演とかは考えたが、散々取り上げられてる上に言う内容も大社が用意したもの限定とか、やりがいが無いにも程がある。どうせ何かやるなら、ある程度自分の思いどうりに出来る事の方が良い。

 

 そんな時にふと思ったのが、広島から避難する時に出来た友人や、あの船の中で友達になったソフィアちゃんの事だ。勇者が実名・顔写真付きで堂々と発表された為、今後彼ら彼女らと会うのは相当困難だろう。

 そこでこの機会に会えるだけ会っておこうと思ったのだ。…まぁ避難地区には現在両親も在住している─お父さんの片腕がバーテックスに噛みちぎられた為、元の家ではバリアフリーが不十分とされたからだ─から、許可さえ貰えればいつでも会う事は可能なのだが。

 

 とまぁ、そんな感じで、建前:外部から避難してきた人々を励まし、希望を与える為、本音:友人や知り合いと会うための訪問だったのだが…

 

 

『はい、こちら現場です。たった今、弓有香織様が、こちらに到着しました‼️』

 

『勇者様‼️外部からの人々に対する政府の対応について一言‼️』

 

『勇者様、そろそろお時間ですので…』

 

 

 

「行く先々で現れるテレビの取材班やパパラッチ、何かしらの政治活動の為に勇者の発言が欲しい人、分単位で決まってて久しぶりに会った人ともまともに話せないスケジュール…やってられるかー‼️」

 

 私の魂の叫びに『あぁ…』と皆の憐れむような声が聞こえる。いやまさかこうなるとは思わないじゃん‼️というか何で仮住居の中にまでずかずかと入ってくるのよあの人たち(マスコミ)は‼️

 

「みんな~今日骨付鳥食べに行かない?…もう「おや」でも「ひな」でもいいからドカ食いしてストレス発散したい…」

 

「…本当に疲れているんだな…いつもなら「おや」と「ひな」で雌雄を決する所だが、今回は辞めておこう…「ひな」派が1人減っては、あまりに我々が有利だからな」

 

「確かにそうね…『つまらん。戦場に出たら一方的に勝つに決まっている』という訳よ、土居さん」

 

「はっ、ハーン?いやぁ、香織が戦力にならないだけで、「おや」の勝利を確信するとは、随分と「ひな」も舐められたものだな…というか千景‼️お前それザギャーンのテキストだろ‼️コストそこそこの割にパワーがイマイチなやつを出すとは、語るに落ちたな‼️タマのヴァルポーグの方が強い‼️」

 

「…いやそれ殴り返されたらザギャーンに普通に負けるじゃない」

 

「バッか言え‼️アイツは進化だから直ぐに殴れるのが強いんだ、出して直ぐは木偶の坊なザギャーンとは違うのだよ、ザギャーンとは」

 

「あら、殴って来るのは良いけど、こちらの悪魔ハンドにやられたら立て直せないでしょう?ザギャーンは炎のヘルスクラッパーに引っかからないのも強いのよ」

 

「…2人とも、あのカードゲームやってたんだ…とにかく、香織ちゃん1人欠けただけで、「ひな」派が敗れると思わない事ですね、若葉さん‼️」

 

「う、うむ…2人が何の話をしているのかさっぱりだが、とりあえず行くとしよう‼️」

 

 別種の話題で火花を散らす4人と、机に寄りかかる私、そしてそれを見て微笑むひなたと、なんとも混沌とした空間震が完成していた。検査入院中の友奈ちゃんが居たら、右往左往していた事だろう。そんな風に、何気ない日常の風景は流れていくのだった。

 

 ─これは完全な余談だが、後日、勇者の中で例のカードゲーム最強を決める大会を開いたところ…

 

「バ、バカなぁ~‼️タマの最強デッキがぁ~‼️」

 

「くっ、まさか貴方が頂点だとは思わなかったわ…」

 

「えぇと…私が優勝って事なんでしょうか?」

 

 まさかのアンちゃんの雪の妖精デッキが優勝だった…くそぅ、私の「百目ハンドレス(満足)デッキ」もいい線行ってたんだけどな…

 

 

 

 

 ─数十分後…

 

 はむあむがつがつ…

 

「香織ちゃん、お水も飲まないと喉に詰まらせますよ」

 

 ごきゅっ、ごきゅっ、ぷはぁー‼️

 

「…すっごい食べっぷりだな、タマおっタマげたぞ」

 

「あぁ…余程疲れていたんだろうな」

 

 私の食べっぷりに、若葉とタマちゃんが若干引き気味に反応する。

 

「いやもう、本当にしんどかった‼️みんなも訪問系の仕事は避けた方がいいよ…マジで」

 

 心からの助言に、「あはは…」と苦笑いすると、「そういえば千景さん、明日ご実家の方に帰られるんですよね?」とアンちゃんが郡さんに聞く。

 

「…えぇまぁ、一応。ここ3年顔を合わせて無かったから、大社の方から療養も兼ねて行ってきなさいって言われたから…」

 

「む、そういえば千景と香織は同郷なんだよな?香織は一緒に帰省しないのか?」

 

 郡さんの回答に若葉が疑問を発し…空気が凍る。

 

「ほ、ほら‼️家はお父さんが腕をやられた関係で避難地区に住んでるから、あんまり、行く意義が無いと言うか、うん、そんな感じ…」

 

 背筋が凍る、喉が震える、頭の中がぐちゃぐちゃになる。嫌だ、気付かれたくない、嫌だ、私は常に認められなくちゃダメだ、嫌だ…もうひとりぼっちに戻りたくない‼️

 

「…弓有さんのご両親の事もあるし、家の母が天恐だから、あんまり動かせないのよ」

 

「む、そうだったのか…すまんな、無神経な事を聞いてしまった」

 

 私の内心を察したのか、郡さんは早々に話題を切り上げる

 …なんで、貴女はそんなにも優しいのだろうか。先に裏切ったのは…私なのに。彼女の優しさと、己の身勝手さで反吐が出る。そうだ、私は彼女に許される訳なんて無い、彼女に罰せられる資格なんて無い、彼女に謝る勇気すらない…彼女と、再び仲良くなれる未来なんて無い。

 

 …あぁそうだ、だから私は戦い続けなくちゃいけないんだ。彼女を痛めつけるだけの優しさに甘えないようにする為に。許されなくても、どれだけの罰を与えられても構わない。だけど…この戦いの中で、彼女に総てを謝罪する勇気が、覚悟が、見つかることを信じて。元に戻れなくても、また前を向けるようになる為に、私は戦い続けなくちゃ行けないのだ。

 

「…香織さん、大丈夫ですか?」

 

 あまり良くない顔をしていたのが、アンちゃんが心配して声をかけてくれる。

 

 大丈夫だよ、と声を返し、再び食事に集中する。そうだ、食べている時だけは口の中だけに集中出来る…見たくないもの(燃える思い出の場所)も見ずに済むし、聞きたくないもの(その子も死んでれば良かったのに)も聞こえない、思い出したくないもの(私のせいでちーちゃんは居場所を無くした)も忘れられる。

 そんな私を見た郡さんは、どこか複雑そうな表情を浮かべた後、明日の準備があるからと言って、料金を置いて先に帰って行った。あぁ、やはり私は…と考えていると、ポン、とタマちゃんが肩を叩く。

 

「いよぉ~し‼️この後コンビニ寄ってこう‼️香織は疲れてるみたいだからな、今回は特別にタマがアイス奢ってやる‼️」

 

「おい球子‼️こんな時間に買い食いは…」

 

「まぁまあ若葉ちゃん。たまには良いじゃありませんか。しばらく休息なんですし、休む時はとことん羽目を外してみるものですよ?」

 

「タマっち先輩、私のも一緒に買ってもらっても大丈夫?…新作の恋愛小説買いすぎちゃって…」

 

「あんず…タマも我ながら散財癖あると思うが、お前も中々だな…まぁタマには良いか‼️ただし、タマにも1口寄越しタマえ‼️」

 

 なんて、ワイワイ言いながらコンビニへと向かう。

 …自分でさっき覚悟を決めたと言うのに、なんて脆いのだろう、どこまで浅ましいのだろう。

 それでも…私は、こんなどうでもいい事を話しながら、皆と一緒に居る時間が、ずっと続けば良いと思ってしまう、このぬるま湯にいつまでも浸かっていたいと思ってしまう。

 そんな忸怩たる思いを胸に抱えながらも、私はタマちゃん達に少し遅れてついて行くのだった。

 

 SideOut

 

 

 

 

 Side千景

 

 …高嶋さんも居たら、もっと楽しかっただろうな…

 

 帰りたくもない生家へのバスの中、昨日の出来事を思い出す。

 あの家に、幸せな思い出は無い…より正確に言えば、思い出せない。余白ばかりのアルバムを覗けば千景が小さかった頃の幸せだった家族が写っているが…この裏で徐々に崩れて行ったと考えると、あまり見返す気にもならない。

 そんな事を考えている内に自宅近くのバス停に着いており、千景は憂鬱な気持ちになりながらもゲームの電源を切った。

 

 

 

 ─数時間後

 

 千景は、人生の絶頂に居た。両親にとって邪魔者だったのが誇りと言われ、嘲笑してきた人々が『勇者』の千景を褒め讃えている…生まれた事を疎まれ、呪われ、無価値で理由無しに傷つけて良い存在だった千景が、だ。

 

『勇者』だから…皆から賞賛される

 

『勇者』だから…誰にも傷つけられない

 

『勇者』だから…無条件に愛される。

 

 生まれて初めての喜び。生きてきた中で一番の幸福。「生まれてきて良かった」と、胸を張って言える程の幸せの、はず、なのに…

 

 何故だろうか、苦手な筈の乃木さんや土居さんと話している時の方が、満たされるような気がするのは。

 

 何故だろうか、弓有さんと2人きりの時の気まずい沈黙の方が、充実していると感じてしまうのは。

 

 何故だろうか、この胸が膨らむような気持ちが…まるで薄い風船に適当に空気を入れただけの、虚しいもののような気がするのは。

 

 

 

 …まぁ、どうでもいいか。

 

 この気持ちがなんであれ、私が勇者であれば愛される、私が勇者であれば皆と一緒に居られる。どちらにせよ、私が勇者ならば問題は無い。

 

 その結論に行き着き、1晩がたった。私は、朝方のバスで香川に帰ることにした。それは、バーテックスに対して備える為でもあるが…1番の理由は、今村の人と正面から話したら、何かが堪えられなくなりそうだと思ったからだ。

 私はここで、生まれて初めてと言えるほどの祝福を受けているのだ、その堪えられないものはひょっとしたら歓喜の涙かもしれない。それでも…それを溢れさせたら、何かが後戻り出来ないような気がしたのだ。

 

 

「えっと、千景ちゃん、ちょっと…いい?」

 

 そんな事を考えながらバス停に向かうと、そこには私と同い年の先客(少女)が居た。一瞬誰だろうかと考えてから、村の名家の一人娘だと思い出す。昔は弓有さんや他の娘も含めて、よく一緒に遊んだものだ。一瞬何故彼女のことが分からなかったのだろうかと考えると、そういえば彼女は村外の私立中に進学したし、私も…

 

『あんな親だから』

 

『いんらん』

 

『先生、知らなかったわ』

 

 …色々あったから、ここ3年くらい顔を合わせた事も無かった。

 

「…どうかしたのかしら」

 

「っ!うん、…どうしても、話しておきたい事があって」

 

 

 

 …そうして彼女の口から語られたのは、あの日の真実。

 1人の少女が義憤に駆られて空回りし、それをもう1人の少女が背負おうとして…それすら許されなかった、遠い日のおはなし。

 少女達にとっての悪魔を討てず、人々を堕落させ、魔女となってしまった話。

 背負おうとした(覚悟)栄光(肯定)に反転し、少女の心に呪いが住み着いた一部始終。

 

 

 …なるほど、そういう事だったのか。通りで弓有さんは私に石を当ててしまったし…昔より、1人きりを恐れているのか。

 しかし、それにしても

 

「…なんでその事を私に話したのかしら?言わなければ、貴方はただの傍観者のままで居られたのに」

 

 

「…だって、あれは私が背負うべき罪だもの。香織ちゃんの優しさに甘えて、それを彼女に押し付けてしまった。1人で勝手に縮こまって、顔向けできないからなんて理由で貴女が苦しい時に、見て見ぬふりをしているだけの加害者になってしまった。」

 

「だけど、時間が私の愚かさを自覚させた。奇跡的に、貴女と話そうとしても、お父様から『あの娘に近寄らないように』という愛情()をかけられない環境になった。なら…後は勇気を出して、謝るだけ」

 

「今更なのは分かってる、決して許されないのも、分かってる。その上で…謝らないといけないと思ったから」

 

 そう、と返事して、少し考える。

 私はこの話を聞いても…()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

「そんな事で」とも思う。「信じられない」「何を今更」と思わなくもない。

 

 ただ…

 

「私、意外とまだ貴女の事を友達だと思ってるみたい」

 

「………え?」

 

 戸惑っている彼女に軽く微笑み、続ける。

 

「確かに、その事故は貴女のせいかもしれない。けど、そこには私への優しさがあった。何を今更、とも思った。だけど、貴女の謝罪には誠意があった。

 それに…多分、その事故が無くても、遅かれ早かれ、私はああなってたと思う。なら…許さない理由を見つける方が、私には難しいわ」

 

「…ちかげ、ちゃんっ‼️」

 

 泣き崩れる彼女の後ろから、ピピッ、ピピッ、ピピッと電子音を響かせながら、バスが到着する。

 私はバスの中に入ると、少し振り向いてまたね、と声をかける。

 

「ッ、うん、…またね、千景ちゃん‼️」

 

 涙ぐみながら手を振る彼女の姿が見えなくなったので、私はゲームを立ち上げる。

 

 …今は、丸亀に居る時のように、心が満たされている気がした。

 

 Side Out




冷静に考えたら、常識ある大人ほど村ぐるみで虐められてる子が居るやべー環境に、自分の子供を近寄らせたくないよね(尚、その原因に()()()()()()()のは、自分の娘とする、娘は罪悪感で曇る)


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