今日ノソライロ〜死の都 彷徨うゾンビを倒して世界を救え!! (NAZUNA)
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生きるということ、誰かを愛するということ。

わたし、本山明日美は、死の都を歩いていた。

 友里亜さんからもらった武器の大鎌をその手に握りしめる。

 

 すると、鼻をつく腐敗臭がした。同時に不規則な呼吸音。

 危険を感じて、振り返ると、一体のスーツを着た、サラリーマンのゾンビが、此方に襲い掛かっていた。

 腐敗して、変色した腕をわたしに伸ばしくる。

 変色した歯をカチカチと不気味にならしながら、噛みつこうとしてくる。

 死者が生者の脳ミソを求めて.....。

 大鎌をゾンビに振り落とそうとしたが、もう遅い。

 ゾンビはわたしの体をがっしりとつかんでいたのだ。

 

 もうダメだ。わたしは大好きな人の前で死んでしまうだろう。

 

 ゾンビは顎が外れたように大口を開けながら、わたしに再び、噛みつこうとした。

 

 わたしは、最期を悟った。

 

 

 

 ・・・みんな、ごめんね・・・。

 死ぬって思ったその時だった。

 ドサッと音を立てて、何かが崩れ落ちた。それにゾンビの気配はもう感じない。

 恐る恐る目を開けてみると、ゾンビが倒れていた。切り落とされたであろう、ゾンビの首が足元に転がっていた。

 ー助かったー

 目の前に日本刀を手に握りしめて立っている義経がいた。

「明日美殿!!」

 日本刀を鞘に戻して、わたしに駆け寄ってくる。

「ありがとう。」

 親しき中にも礼儀あり。せめてものお礼を言ってあげた。

「おい、大丈夫か!?」

 心配して、祐太や、一翔、季長が飛んでくる。

「うん、大丈夫だよ。ありがとね。」

 今まで怖かった。何度も襲われ、死にそうになっていた。でも、ここまでこれたのはみんなのおかげだ。

「里沙と奈央、佐藤君たち、伊勢君、戻って来ないね。」

「大丈夫だって。きっと戻ってくるよ。」

 祐太が優しくなだめてくれる。

「行こっか、明日美ちゃん。」

 一翔が優しく背中を押す。

「きっとまた、平凡な幸せが戻ってくるわよ。」

 未来人の女子高生、友里亜さんが励ましてくれる。

 みんな、ありがとう。わたしは心から誓った。

 この世界を救うって。

 そして分かった。平凡何てものは無いと。みんなが今どこかで過ごしている何気ない日常は、決して何気なくない。

 平凡な日常こそが本当の幸せだってことが分かったのだ。

 でも、誰かがこのゾンビパニックで命を落としてもおかしくはない。

 何があっても後悔しないように伝えたい思いを伝えなきゃ。

 自分だって死んでもおかしくはない。

 そして、義経だって歴史的に永遠の別れを迎えるのだ。

 つまり、みんなと過ごすことは、いつかくる別れへと近づきながら、共に歩むと言うこと。

 

 すると、この状況に似合わない優しい風が吹き抜ける。

 まるで、その風は、みんなの願いを遠くまで運んでいるようだった。

 

 思い出すのは、幸せだったあの頃のことだった。

 

 ーまたみんなで遊びたいな。ー

 うちに明日何てあるのかないのかわからない。

 でも、祐太たちの明日がありますように。

 

 

 そう願わずにはいれなかった。



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幸せな日々

ピピピピピピピピ・・・。

 目覚まし時計が音を立ててなる。時間を見ると、時計の針はもう6時を指していた。

「えぇ・・・。もう、6時なの?」

 昨日は幼馴染み物の小説に夢中になっていて、夜遅くまで起きていたからなあ。

 その本は、学校で新しく入荷された本で、男女共に大人気で、昨日、やっと借りれたのだ。

 いざ読んでみると面白くて。つい夢中になって時間を忘れてしまった。

(やっぱり幼馴染みっていいなぁー)

 顔を洗いながら、わたしはそう思ってしまう。

 いけないいけない。わたしにも幼馴染みがいるじゃないか。

 超有名人の幼馴染みが。剣道の大会で全国制覇しまくりの、山崎祐太。その兄の一翔も弓道の大会で優勝している兄弟揃って有名人なのだ。そして、源平合戦で大活躍したあの超絶有名人の源義経。元寇のときの一応歴史の教科書に載っている竹崎季長。

 義経の家臣の佐藤兄弟の兄、佐藤継信弟の佐藤忠信。に、伊勢三郎義盛とも親交がある。

 

なんでこんな事になったかと言えば何らかのアクシデントで時空の歪がみが生じて過去の時代から現代へと自由に行き来できるようになったからである。

 

 彼らはとても頼りになるけれど、わたしのことをからかってるっていうか、女子扱いしてないし。まぁ、自分が男子以上に男勝りだからかもしれないけど。

 でも、本当にいつの時代でも、男子って人をからかうのが好きだよなってつくづく思う。

 それに比べて奈央と里沙は本当に十四才!?って思うくらい性格も大人びて、何があっても冷静で、本当にすごいし、カッコいいと感じる。

 まぁ、祐太も一翔も義経も季長も奈央も里沙も10年以上一緒だし。

 祐太なんか赤ちゃんの頃から一緒の一番の理解者でもあるし。

 いくら有名人だからって、幼馴染みだから、一緒が当たり前になって、特別感なんて皆無だ。

 顔を洗いながらそんなことを考えていると、母親から、

「こら!明日美、いつまで顔を洗っているの!?朝ごはんできたわよ。」

 あー。ずっと変な考え事してたから、結構時間がたっている。

 すぐに乱れた髪を整えるため、プラスチックの櫛を片手に鏡の前にたつ。

 わたしは生まれつき、髪がほんのり銅がかかった淡い茶色だ。

 幼馴染みたちはみんな黒髪ストレートなのに・・・。

 一人だけ髪色が違いすぎるから、近所のおばさんに、染めてるって噂されてひどい目にあっているし。

 肩までの茶髪をコームで解かしていく。髪が整ったら、朝ごはんを食べに台所のテーブルへ向かう。炊きたての白米に、半熟の目玉焼きに、味噌汁にジューシーなウインナー。

 今日も美味しそうだ。

「いただきまーす。」

 朝ごはんを食べ終わると、歯を磨いて、セーラー服に着替えて準備完了。

 余った時間でめざましテレビを見てから、午前7時30分に家を出た。

 いつもの通学路を通っていると、後ろから、祐太と一翔に声をかけられる。

 祐太は身長が高くて、顔立ちも整っている。その兄、一翔も頭がよく、眼鏡がよく似合うへ偏差値75の高校に通っている。高校二年生の16歳だ。

「おっはよー。」

「明日美ちゃん、おはよう。」

「おはよう、祐太、一翔。」

 幼馴染みに挨拶を交わし、一緒に並んで歩く。

 祐太とは赤ちゃんの頃から一緒の仲良し。

 祐太のお兄ちゃん、一翔とは顔見知りだったけど、眼鏡をかけて、勉強ばかりしているから、堅物で取っつきにくいと思っていた。

 でも、保育園の頃、思いきって話かけたのが始まりだ。それで今に至っている。

 里沙と奈央は保育園のとき、横浜へ引っ越してきて、わたしたちが通う保育園へやって来たのだ。

 わたしは大人びた性格の奈央と里沙とすぐに仲良くなった。なぜなら、一緒にいるとすごく安心するからだ。

 そして、あれは、三才の頃だった。近所の石碑の前で転んで、平安時代末期にタイムスリップしちゃったのだ。

 その時に、幼少時代の義経に出逢ってしまったのだ。あのときは彼にくっついてばっかりで、いつも勉強や武芸の稽古の邪魔をしていたっけ。

 次は、四歳の頃、石碑の前で遊んでいたら、鎌倉時代にタイムスリップして、竹崎季長に出逢っちゃって・・・。

 どれも唐突な出逢いだ。保育園のわたしに出逢っているから幼馴染みだろう。

 よく両親が言っていたっけ。

 

 ー保育園頃に出会った彼ら彼女らは幼馴染みだよー

 って。

 わたしはそう言われたとき、小学校低学年だったから、幼馴染み?

 なにそれ、おいしいの?くらいにしか思ってなかったのだ。

 最近は幼馴染みのことばかり気になっている。一体、どうしたのだろう....。

 すると、大勢の小学校低学年くらいの男女が、三人の青年を囲んでいた。

 どうやら、質問責めにあっているようだ。

「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃんたちって時代劇の人?」

 それもそのはず。三人の青年の年齢は高校生~大学生くらい。

 でも、服装が違いすぎる。三人とも、平安時代末期~鎌倉時代の男性の服装の直垂を着ていたからだ。頭には折烏帽子をかぶっている。

 しかも、義経と継信、忠信じゃん。

「あー、そこの坊っちゃんとお嬢ちゃん、そんなに質問責めにしたら、お兄ちゃんたち、困るでしょう?」

 うちが小学校低学年の子達に言うと、

「じゃあ、このお兄ちゃんたち誰なの?」

 まだ小学校低学年の子達に歴史を教えても、わからないよな。

「小学校六年生になったら学ぶから、そしたら、お兄ちゃんたちが誰か分かるよ。」

 そう言って、義経たちの背中を押した。

「そんな所にいたら目立つでしょ?」

「そんなに目立つのか?」

 ありゃりゃ、全く分かってないみたいだ。

「だから、あんたたちは、この世界では、すごく目立つの。」

「全く・・・。なんなんだ、あの童子たちは..。」

 目立つなんて気にしていないみたい。その服装でうろついたら、みんな驚くに決まってるでしょうに・・・。

 源義経。1159年生まれる。誕生日は不明。1189年に衣川の合戦で自ら命をたつ。

 彼は今、数えで19才。彼はあと満12年くらいで死んでしまう。別れるのは嫌だな。

 幼馴染みたちには幸せになってほしい。そうやってセンチメンタルな考え事をしていると、

「おい!!なにさっきからなにボケてるんだよ❗」

 祐太に声を掛けられて気づいた。

「大丈夫?明日美殿」

 忠信にも心配されたし。

 こうなってしまったのは、あんたたちのせいだよ。

 最近、あんたたちのことばかり考えちゃうんだよ。

「最近、考え事ばかりするんだよ。」

「鈍い明日美殿が考え事したら余計に鈍くなるだろうに。」

 義経が余計なことを言う。

「いい加減、運動神経良くないんだから、考え事なんかしてたら、チャリごと川へ落っこちるぞ。」

「祐太もよっちゃん(義経のニックネーム)もさっきからひどいよ。あと、継信君も、忠信君も笑わないでよ❗」

 だいたい、あんたたちのせいで、考え事してるって気づいてないくせに。

 つーか、うちはからかわれるほど、運動神経悪くないから。そっちが良すぎるだけでしょ。

 あと、義経は、女子も羨ましがるくらいの色白だから、うちだって少し嫉妬する。身長はわたしよりちょっと低いかな。

 体型は、男子としては、華奢な方。キリッとした切れ長の目が特徴。

「あー悪いけど、建物の裏を通って帰ってね。」

 自分達は学校へと向かった。

 学校へ着いたのは、ギリギリ遅刻じゃない八時半だった。

 義経たちと喋りすぎた~!!

 

 

 学校が終わり、帰ろうとしていると、いない。祐太がいない。

 里沙と奈央に、

「祐太は?」

「あっ祐太君なら、おばあちゃんが病院にいって、家には誰もいないって。」

 そう。祐太には両親がいない。祐太も一翔もおばあちゃんに育てられたのだ。

 義経も父親が殺され、母親とも、幼い頃、別れて、以来、あってないって言う。

 季長だって、家が落ちぶれて、竹崎家復興のために頑張らなきゃならない。

 一番の幸せものは自分だ。

 わたしは、帰るとき、チーズケーキ2つと草餅10個を買った。

 勿論、彼らにあげるためだ。わたしの家に居れば、の話だけど。季長もわたしの家にいるのかな?

 やがて、家につくと、いつものように、家の扉をあける。

「お帰り~。」

 あっ!!しまった!!ただいまを間違えて、お帰りって言ってしまった!!

 勿論、お母さん大爆笑。母の笑い声に混じって、少年や青年の呆れた感じの声が混じっていることに気づいた。

 あっ家に来てたんだな、と思った。母が笑いながら、

「あと、祐太君たち来てるから。」

 和室へ行くと、いたいた。

 祐太に一翔に義経、継信、忠信、義盛、季長。

「お帰り~とか、相変わらず面白いな。お前。」

 和室に入った瞬間、からかわれた。

「はーい。これ、買ってあげたんだから、食べてよね。」

 チーズケーキを祐太に、草餅を義経たちにそれぞれつき出す。

 母が、ジュースやお茶を持ってくる。

「おいしい?」

 チーズケーキや草餅を美味しそうに食べる彼らに聞いた。

「あぁ、うまいよ。ありがとな。」

「うまい!!京にも奥州にもこんなものはないよ。」

 素直に喜んでて良かった。

「ねえ、明日美ちゃん、。」

「ん?どうしたの?みんな早速、お腹壊したの?」

「早速って、下剤でも入れたのかよ!?」

「毒でも盛ったのか!?」

 んな訳ないでしょ。祐太や季長、考えすぎ。

「まっ明日美が出来るわけないもんな。」

「はっ!?」

「明日美殿は鈍いからすぐに分かる。」

「明日美ちゃんはドジだもんね。」

 さっきから失礼なことをばっかり言うよ。祐太に一翔に義経に季長。

 しかも、忠信君に継信君に義盛君だって同情しないでよ。

 色々とからかわれるけど、こうやって、幼馴染みと一緒に居られるだなんて幸せだな。

 ずっとこんな未来があればいいのに。

「なぁ、今度の土曜日、俺たちで遊びにいかないか?」

「うん!!いいよ。」

「よっしゃ~決まり~。」

「他の六人もちゃんと来てね。」

「あぁ。」

 今週の土曜日が楽しみだなあ。

 でも、楽しみは絶望に変わることを彼ら彼女らは知るはずもなかったのだ。



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崩れ行く日常

幼馴染みが帰ったあと、わたしはふと、考えた。

幼馴染みと出掛けるのって、どんな感じなのかって。もちろん、祐太たちも行く。後で確認したら、里沙と奈央も行くって。ますます楽しみだ。早く土曜日来ないかな~。

 

 

お風呂に入り、歯を磨いて、ベッドに横たわる。

 気づいたら寝ていたようだ。

「明日美~起きろ!」

階下から、父の呼ぶ声がした。しまった!!目覚まし時計をセットするのを忘れた。

あわてて、時間を確認すると、目覚まし時計の針は、7時15分を指していた。

ーーヤバいじゃんーー。

大急ぎで、ご飯を食べる。そして、歯を磨いて、セーラー服に着替えて、7時40分に家を出る。

ーー間に合ったーー。

まだまだ十分余裕があるので、ゆっくりと自転車を走らせる。

 すると、川の近くの橋に、祐太、一翔、義経、忠信、継信、義盛、季長がいた。

ーーだからその格好で出たらヤバいでしょーー。

わたしは、彼らの方を向いた。

彼らはすぐに気づいて、こちらに、手

を振ってくる。

わたしも、自転車のハンドルからてを離して、彼らにてを振り替えした。

 次の瞬間だった。そのまま、バランスを崩し、チャリごと川へダイブしたのだ。

ーーザッブーンーー。

すごい音がした。まだ四月。水に入るのはまだまだ寒い。ましてや川なんて余計に寒い。

突然の出来事で、祐太たちはキョトンとしている。

やっと状況が理解できたのか、今度はうちを助けようとする。

「さむーい。」

「おーい、上がってこれるか!?」

祐太に声を掛けられ、上がろうとするけど、セーラー服が大量の水を吸って、思うように体が動かない。

「うん、今、上がる。」

しかし、足を滑らせて、また、落ちてしまった。

ーーザブーンーー

「明日美ちゃん、大丈夫?引き上げようか?」

一翔に聞かれ、

「うん、引き上げてぇ 、、、。」

と、みっともない声で言ってしまった。

 

 

引き上げてもらい、一応お礼を言う。

でも、寒い。

スカートの水を絞りながら、ぶるぶる震えている。

ーー朝からろくなことがない。ーー

「もう、なんでわたしばっかりついてないの・・・。」

「まっ、頑張れ。」

「朝からこれだもの。頑張る気力皆無だよ。」

はぁー。風邪引いちゃうよ。

「ねぇ、祐太、タオル持ってない?」

「持ってないなー。」

「じゃあ、よっちゃん、タオル持ってる?」

「たおる?何だ、それ?」

あっまたやってしまった。義経の時代にタオルなんてないよなー。

って、誰も持ってないんだな。

だいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?

心の中で文句を言っておいた。

「これから、どうしよう・・・。」

「とりあえず、一回、家へ帰るか?送っていくよ。」

「えっ!?祐太に一翔、学校はいいの!?」

「まっ、良い言い訳を考えるから。」

ありがとう・・・。はぁー、なんでわたしって人に迷惑ばっかり掛けちゃうのか・・・。

自分に嫌気がさす。

わたしのせいで、祐太と一翔は、学校に遅れるし、わたしは見事に風邪を引いた。

ーーだいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?ーー

そんなことを思った自分に吐き気がする。

友達に向かって手を振るのは当たり前だ。幼馴染みなら、なおさら。

わたしって、酷い奴だな。

ベッドに横たわりながら、そんなことを思った。

熱も出てるし、土曜日は行けるのかな?

すると、コンコン、とドアがノックされた。

お母さんだ。

「明日美、奈央ちゃんと里沙ちゃん来ているよ?」

「うん。部屋に入れて。」

暫くすると、母が、奈央と里沙を連れて、やって来た。

「大丈夫?熱はない?」

里沙が聞いてくる。

「うん。微熱。」

「じゃあ、はい、これ。」

渡されたのはクッキー。

「美味しそう。ありがとう。」

「後ね、祐太君たちなんか言っていたよ?」

あー。そうですか。っておい!!あのときは慌てて、助けてくれたくせに…!!

「うん、明日美ちゃんらしいってみんな言ってたよ。」

はぁー。後で文句を言ってやる!!

「みんなって誰が?」

「祐太君に、一翔君に、佐藤さんに、伊勢さんに、義経さんに、季長さん、みんなそろって言っていたよ。」

まじか、。まぁなんて言っていたか容易に想像がつくよ。

祐太なんかやっぱりドジの女王とか、一翔は明日美ちゃんらしいやとか、義経とか、

やはり明日美殿は鈍いとか、季長は猪娘とか言ってたりして…。

「うん。確かにそういってた。」

里沙は可笑しそうにしていた。覚えとけよ。必ずあんたたちをからかってやるんだから。

「早く元気になってね。」

「ありがと、奈央。」

「私達、塾だからごめんね。」

「うん、じゃあね。」

幼馴染みも帰って、暇だった。今すぐ、風邪治らんかな~。

「あぁ~誰か食べ物持ってこないかなー。」

「さっきから何、独り言言ってるんだよ。」

聞き慣れた声にびっくりしてドアの方に顔を向けると、いたよ。祐太に一翔に義経に季長が。佐藤君に伊勢君はいないみたいだね。

すると、お母さんが、階下から

「いい忘れたけど、祐太君たち来てるわよ。」

でも、ナイスタイミング!!何か持ってきてくれたかなぁ~。

すると、祐太がなんでもお見通しとでも言うように

「なんだよ。さっきからニヤニヤして気持ち悪ぃ。さては、なんか食べ物持ってきてくれたとでも思ってるんだろ?」

す、鋭い。

「な、なんで分かったの!?」

「明日美殿のことだから。」

義経にしれっと言われた。

「お前、食いしん坊だもんな。」

そういって、祐太が抹茶チョコレートを差し出してくる。

「受け取りなよ。」

一翔はココアを差し出してくる。

「はい、明日美殿。」

義経は干し柿を差し出してくる。

「早く良くなれよ、明日美殿。」

季長は魚の干物を差し出してくる。

「あ、ありがとう・・・。」

どういう訳か、彼らを仕返しにからかってやろうという思いは消え失せていた。

しかも全部うちの好物を持ってくるなんて、さすが幼馴染み。他の人なんか、お見舞いに嫌いなものを持ってくるなんてこともあったし。

「あっ、もうねだったって俺たちなにも持ってねーからな。」

祐太に冷たく言われて、

「はっ!?最初な~。」

「でも、お前の表情からして、何か欲しそうにしてたけどな。」

だから、なんで分かるの!?

「そりゃ、保育からの付き合いだからね。明日美ちゃんの気持ちくらいわかるよ。」

一翔って堅物かと思ったら意外と気さくだもんね。

「あっ、そろそろ。」

「えっ!?もう帰っちゃうの?」

「あぁ。あまり長く居たら、忠信たちに心配されるからな。」

「じゃあな、明日美、早く治せよ。」

「じゃあね。」

彼らも帰って、もらった物を食べていると、

「明日美、晩御飯よ。降りてらっしゃい。」

「うん、今すぐ行く。」

晩御飯はハンバーグだった。

「もう、自転車ごと川へダイブするなんてね。」

お母さんがおもしろそうに言う。

「明日美、お前、幼馴染みとばかりじゃなくて他の子とも仲良くしろよ。」

お父さんに言われて、他の子かぁ~。まぁそこそこ仲良しの子もいるけど。

「まっそこそこ仲良しの子もいるよ。」

「そうか、ならいいが。」

 

 

そして、明日。体調はすっかり良くなっていた。

学校について、すると、クラスメートの女子が、

「ねぇ明日美ちゃん、この前一緒にいた純和風のお兄さん誰?」

えっ!?見られていたの。

「祐太君や、一翔さんと一緒に明日美ちゃんの家を訪ねていたよね?」

彼女の名前は江本夕菜でクラスメート。女子に対しては素っ気ないのに、男子に対してはぶりっこだから彼女のことは苦手だ。

「なんか、教科書で見るような、鎌倉時代の服装だよね。格好はあれだけど結構カッコいいじゃん。」

あぁ........................。義経たちも面倒臭いのに目をつけられちゃったな。

「ねぇ、一体誰なの?」

幼馴染みですって言っても大丈夫かなぁ。

「幼馴染みだよ。」

「明日美ちゃんずる~い。あたしにも紹介してぇ~。」

なんかとんでもないことになったよ。

「ねぇ明日美ちゃん?」

「どうしたの?」

「あたしと友達になってぇ。」

夕菜と友達かぁ・・・・。

「うん・・・。いいよ・・・。」

「本当?ありがとう!!明日美ちゃんって優しいよね!!」

案の定、噂は広がっていた。みんなに和風のお兄さん誰?って聞かれまくって大変だ。

「お……幼なじみです……。彼氏じゃないよ。」

言い訳には苦労する……。

「明日美殿。」

ふと、窓の方から聞き慣れた声が聞こえた。もう……。なんなの~と思って見てみると、

直垂姿のわたしより少し歳上の青年がいた。

「ちょ、ちょっと……よっちゃん!?なんであんたが此処にいるのよ!?」

ちょうど義経達のことが噂になっていたので、みんな大騒ぎだ。

「あっ!!噂のお兄さんだ!!」

「噂すればなんちゃらっていうのは本当みたいね。」

「すげー!!本当に大河で見るような格好してるー」

「あの人、絶対女装似合うよね?」

女装か……。確かに、義経は女子、男子どちらとも取れる顔立ちだし、色白だし、髪の毛だって長いし(当時は男性でもロングヘアーは普通。)

絶対似合うよ……。

裕太や一翔だって結構似合いそうだし、別にうちが男の娘に興味があるわけじゃないけどね……。

そしたら、優菜が、彼に近づいて、

「明日美ちゃんと仲良しって本当ですか?」

げ……。とんでもない事を聞いてるし……。

「あぁ、鞍馬寺にいた頃からの友だ。」

おい!!みんなの前でそんなこと言うか!!

このKY武将!!

「明日美ちゃんって4股なの!?」

て言うか、彼氏いません……。

「明日美ちゃんはあなたの許嫁ですか?」

なんて質問してんだよ!!と思ったけど、

「許嫁かどうかは分からぬ……。」

曖昧な返事しないで……。しかも何を赤くなってるの……。

まあ、白い頬がほんのり赤くなってかわいいけど……。

「ねえ、なんで来たの?」

彼に小声で聞くと、

「明日美殿がどこで学問しているか気になっただけだ。」

気にならなくて結構だから……。

「お名前は?」

答えなくて結構だよ……。

「我の名は源九郎義経だ。」

素直に名乗ってるし……。

「すごーい!!明日美ちゃんのボーイフレンドってみんな豪華だよね、羨ましい!!」

うるさい……。

「ではそろそろ……。明日美殿、頑張って学問に励むんだそ。」

応援ありがとう……。

そして彼が帰ってがらがらこれまた大変で……。

「キャー、喋っちゃった!!」

と夕菜はご機嫌モード。

「えー、夕菜じゃなくてわたしが喋りたかった……。」

他の女子が夕菜に文句を言う。

「ダメダメ~美晴ちゃんなんかじゃダメだよ。

やっぱり有名人と話すのはこの夕菜じゃなきゃ!!」

「いつも夕菜ばっかり……」

やっぱり優菜ちゃんは苦手かな……?

「めっちゃ仲良しじゃん!!」

そこからわたしの好きな人詮索が始まったのでした……。

好きな人なんかいません……。

そして、授業も終わり、下校の時間になった。

「明日美、大変だな。」

祐太が心配してくれるけど、大変だってレベルじゃないし。

「何かあったらいつでも言ってね。」

理沙に奈央、本当にありがたい。

すると、建物の裏から変な物音がする。きっと気のせいだろう。

わたしは、道に落ちてる小石を蹴った。

その小石が悪夢の始まりだなんて誰も知らなかった。

カッ!!微かに音がした。すると、何かが不規則な足音をたててこっちに向かってくる。

それに、なんか臭い。まるで何かが腐ったみたいな匂いだ。

「ねえ、なんか臭い。」

「確かに臭いな。」

「うぅ、なんかくるみたい。」

するとそいつが姿を表した。それは、ワンピースを着た若い女性だった。

でも、それは生きている人間じゃなかった。

肌は腐敗して変色し、眼球は白く濁っている。明らかに腐敗臭は彼女から漂っていた。

まるで、ホラー映画で見るようなゾンビそのものだった。

「何よ!!これ!?」

「知らないよ!!なんでこんなのが横浜にいるの!?」

いつもは大人びている里沙と奈央でさえ恐怖に怯えていた。

「ねぇ、祐太、剣道の大会優勝してるよね?」

「でも、いまは木刀とか武器になるのは持ってないぞ。」

そんな............。どうしたら..........。

わめいてる間に女は近づいてくる。明らかにわたし達を狙っている。

こういう時に義経や季長、佐藤兄弟や伊勢君がいてくれたなら。

でも、そんなに都合よく彼らはいない。

じゃあどうなるの?

バシッ!!気が付くと、女は倒れていて、

背後におじさんが立っていた。どうやら女を張り倒したようだ。

「大丈夫か!?怪我はないか?」

「ありがとうございます。」

助かった、と思ったのはつかの間。女はおじさんを見えているのかわからない白く濁っている眼球でおじさんを見据えていた。

女はよろよろと立ち上がり、おじさんにつかみかかった。

そして、おじさんに噛みついた。おじさんの腕から鮮血が飛び散る。

おじさんは苦悶の表情を浮かべながらも、

「お前たちは逃げろ。おじさんなんかに構うな!!」

「えっでも・・・。」

「いいから行け!!」

おじさんに強く促されて、私たちは逃げた。

誰か、助けて・・・・・・。

「明日美殿!?」

聞き慣れた声がふと聞こえた。そこには、義経と佐藤兄弟が立っていた。

思わずわたしは義経の腕を掴んでいた。

「な、なんだ?」

突然腕を掴まれて驚いている彼。

「ねぇ、怖い。助けて............。」

私たちはまだ知らなかった。これは悪夢の始まりにしか過ぎなかったのだと。

 



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未来からの助っ人

ここは2119年の日本、あたしは友里亜。みんなにとったら未来人だ。

一応進学校に通っている高校三年生。

最近、2018年にゾンビがわいて危ないというニュースが入ってきた。

滅茶苦茶とんでもないことだ。ゾンビがわいてなにも手を打たないとたった100日で人類は滅亡してしまうらしい。

つまり、2019年には、人類が滅亡してしまう計算になる。そうなると、あたしたちは存在してなかったことになる。もちろんあたしたちの時代も存在しない。

早く2018年を生きている皆を助けなきゃ!!

あたしは親がいない。何故なら親はあたしを庇って死んだ。お世話をしてくれるのは叔父さんしかいない。

それに、高校から平成時代を救いに行けと言われちゃってるし、あたしは叔父さんから大量の武器をもらって、タイムマシーンに乗って令和時代へきた。

誰か一緒に戦える人を探さなきゃ。

でも、そう簡単に見つかるわけないよなぁ。

すると、向こう側に人がいるのを見つけた。あたしは勇気を振り絞って声をかける。

「あの......。ちょっとお話があるんだけど。」

お相手さんは、中学生の男女四人と、同い年くらいの男子高校生1人。

「はい?」

答えてくれたのは身長の高い女の子。すごく顔立ちが整っている。

「あたしは神山友里亜。あなたは?」

「本山明日美です。」

彼女はそう答えた。明日美ちゃんねぇ。

「あなたたちは誰?」

あたしがそう問い掛けると、

「村田里沙です。」

「杉野奈央です。」

「山崎祐太です!!隣のメガネかけたのが兄の一翔です!!」

みんなしっかりしてる..............。とても100年も前の人たちと接しているとは思えない。「ねぇ、ゾンビが発生して、大変なことになってるよね?」

「さっきニュースで見ましたよ。」

「あのさ、その事だけどあたしに協力してもらえない?あなたたち、何か習ってる?」

「わたしはなにも習ってません。」

明日美ちゃんはなにも習ってないか。

「私と里沙が薙刀を習ってます。」

薙刀ね。一応ゾンビは倒せそう。

「俺は剣道習ってます。兄は弓道やっていますよ。」

「祐太と一翔君大会で優勝しまくってますよ。」

すごいじゃん。祐太君と一翔君は余裕でゾンビを倒せそうね。

でも、五人とあたしを含め、六人。これじゃあ戦力不足だ。

「でも、戦力足りないよね?」

「大丈夫ですよ!!うちらには最高戦力がいるんだから。」

「あっそうか。最高戦力がいたのか。すっかり忘れていた。」

「そうそう俺なんかあの人と比べたらチョロいくらいの。」

そんな剣道や弓道の大会優勝者よりもすごい人って一体?

「えっと、その人の名前は?」

「源義経と佐藤継信と忠信と伊勢三郎、竹崎季長。」

いきなり、とんでもない人物きた~。

そりゃあ、すごい戦力だよね。だって、平安時代末期とか鎌倉時代の武士だよ?

幼い頃から剣術や弓の練習をしてきたもんだから、腕前は現代人は叶わないレベルだよね?

「よっちゃんたちどこ行ったのかなぁ?うちの家に来てるとか?それとも祐太の家?」

「多分俺の家だと思う。」

祐太君の家にいるとか......。

「あっ、俺には両親が居なくて、おばあちゃんが俺らを育ててくれたんだ。でも、ずっとたった三人じゃ寂しいからって知り合いなんかをよく家に招いているんだよ。」

両親がいない........。祐太君に一翔君二人とも全然暗い過去なんてなさそうに見えたのに。

あたしと一緒だ。あたしはこれ以上何故そうなったのかは聞かなかった。 

「とりあえず俺の家に行こう。」

もちろん、100年前の町なんかしらないからあたしは皆の後を歩いた。

「ここが俺の家」

着いた先は普通の一軒家。

「おばあちゃん!!」

「はいはい、」

そういって出てきたのは1人のおばあさん。

「あらぁ、明日美ちゃんに奈央ちゃんと里沙ちゃんじゃない!!ちょうど源君が来てるのよ。入って。」

最高戦力が祐太君の家に来てる!!でも、見ず知らずのあたしを怪しまずに入れてくれるのかなぁ………………。

「あらぁ、新しいお友だち?どうぞ、入って。」

良かった。すごく優しいおばあさんだね。

あたしは一つの部屋に通された。

着いたのはちゃぶ台を置いた広い和室。そこには直垂を着たあたしより少し年上の青年がいた。この人がこの神奈川県の最高戦力。

腰には短刀、足元には太刀を置いている。

少し、いや、かなり緊張した。喧嘩なら負けている。

「あたしは、神山友里亜です!!」

緊張のせいで声は上擦っていた。どう話せば良いのやら。

悩んでと、明日美ちゃんが助け船を出してくれた。

「ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど。」

明日美ちゃんは慣れた感じで彼らに話しかけていた。

「実は、うちらを助けて欲しいんだ。」

「助ける?」

「今、ゾンビが発生してしまって大変なことになってるから、一緒に戦って!!」

「ぞんび?なんだそれ?」

「そうか、忠信君たちには分からないか。死んで腐った死体が生き返って、生きている人を襲う。それがゾンビ。ゾンビに噛まれたりするとその人はゾンビになる。だから噛まれないようにしないと。あと、ゾンビはただ斬りつけるんじゃなくて、頭を切り落とさないと、死なない。」

明日美ちゃん、なかなか知っているね。

「明日美ちゃん結構意外だね。」

一翔君が言う。

「ゾンビ物に詳しいって分かったらまたからかわれるから言わなかっただけ。」

明日美ちゃんがツンっと返す。

「恩賞は?」

季長さんが言う。恩賞ねぇ・・・・。

「うちのところで採れた米をあげるよ。」

えっ?明日美ちゃん?米はそんな大量に買えるようなものじゃないはずだよ?

「大丈夫ですよ。うち、農家ですから、米は大量に備蓄してます。ゾンビパニックの中でも食料には困りませんよ?」

明日美ちゃんってすごいなぁ。

「すごくないですよ。此処にいる男子全員にからかわれてますから。」

「いや、それはお前が面白いから。」

まだ出会ったばっかりだから明日美ちゃんがどんな人なのかあまり分からないからなんとも言えないや。

え~と、義経さんたちと知り合いなの?

「知り合いもなにも幼馴染みですよ。」

えっ?幼馴染み!?

「よっちゃんや季長君とは10年以上。継信君や忠信君、伊勢君とも親交があります。」

「すごいでしょ?うちの幼馴染み!!」

自慢気な明日美ちゃんに、あたしは声を潜めて聞いた。

「変な質問だけど幼馴染みのことをどう思うの?」

「幼馴染みとして好き。大好き。」

「朝マックと同じくらい好き。」

えっ!!前半まで良かったのに、朝マックと同じくらい好きって………。

そもそもどんだけ朝マック好きなの?あたしも朝マック好きだよ。100年前の朝マックはどんなのだか知らないけれど。

「ホント、朝マックのハッシュポテトおいしいですよね~。世界で一、二を争うくらい好き。」

そうなんだ……。朝マックそんなに好きなんだ。じゃあ幼馴染みのことも世界で一、二を争うくらい好きなんだね。

でも、なんで朝マックと幼馴染みを天秤にかけた?と突っ込みたくなったけど我慢した。

すると、カサカサ音がした。気のせいだろうと思ったけど、気になる。

それは、ムカデだった。しかも18センチくらいの。

「きゃあぁ!!」

里沙ちゃんと奈央ちゃんの悲鳴が響く。

「ねぇ、誰か触れない?」

「俺は無理だぞ?カブトムシやセミならさわれるけど。」

「6寸の百足なんか触れん!!」

「僕だって無理だよ!?」

祐太君も一翔君も義経さんも継信さんも忠信さんも季長さんも伊勢さんも無理かぁ。

そもそもこんなん触れる奴なんかいるの!?

「へぇーみんなムカデ触れないんだぁー?誰かさんなんかうちのことをからかったりして面白がってるくせにね~。」

そういって明日美ちゃんはムカデをつかんで窓から捨てた。

嘘でしょ……。ムカデを触る人っているんだぁ……。

明日美ちゃんって男子顔負けの勇ましい人なんだね。

「でも、虫が触れてもゾンビ倒せなかったらどうしよう?」

あらら、明日美ちゃんって意外とナイーブなんだね。

「大丈夫よ。あなたにはとっておきの武器をあげる。」

あたしは、大鎌を持ってきた。誰でも振り回せるような設計だ。

まっ一緒に戦える相手は見つかったし、あたしらのチームは最強だ。

「その大鎌で、戦ってね。」

「うん。」

明日美ちゃんはどこか不安そうだった。

これから厳しいかもしれないけど、きっとあたしらのチームは負けない。

また元の時代に戻って残りの高校生活を楽しみたい。

あたしは、同じく、2019年に派遣された同級生の無事を祈った。

でも、この先残酷な運命と悲劇が待ち受けるとは誰1人知らないのであった。

まるで、悪夢が始まったかのように、空色は暗く沈んでいった。

同時に横浜は生きている者の生き血と新鮮な肉と脳ミソを求めて、ゾンビ達が必死に腐敗した体を動かして、苦しそうなうめき声をあげながらさ迷い歩いていた。

町に充満する腐敗臭と、あの賑わいが嘘のように静まり返った町に響くのはゾンビ達の不規則な呼吸音だけだった。

そして、

「うわぁぁぁ。」

誰かの悲鳴が響いた。ゾンビ達が悲鳴のしたところに一斉に群がる。

次に聞こえてきたのはゾンビが人を生きたままかじる音だった。

そして、やつらによって1人の命が奪われた。悪夢は始まったのだ。

 



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始まった悪夢

「なんか、さっきから町の様子がおかしい……。ちょっとわたし、様子を見てくる。」

「だったら俺も行く。お前一人に行かせられないし。」

普段はわたしのことをからかったりしているくせに。こういうときは頼りになるんだねぇ。

「じゃあ僕も行くよ。弟と明日美ちゃんが心配だし。」

一翔もついてくるんだ。

「私もついて行こう。明日美殿には任せられない。」

へぇー義経もついてくるんだ~。

「ちょっと待ってくださいよぉ~。」

継信君に忠信君に伊勢君もついてくるんだ。

「明日美殿が行ったら戻って来そうにないから一緒に行こう。」

そういって季長までついてくるはめになった。

「でも、みんなが心配だから私もついて行くわ。」

奈央に里沙も。まさに心配が心配を呼ぶ状態。

「今の状況を知れるからあたしもついていくよ。」

友里亜さんまで。まぁ友里亜さんは心配というよりは今の状態を知りたいという好奇心から。

「へぇー。みんな意外と心配性なんだね~。ついてきたかったらいいよ。一緒に来なよ。」

本当は嬉しいのにこうやってツンっとしてしまうのがわたしの悪い癖。

わたしたちは外に出ようとした。

「どうしたの?」

祐太のおばあちゃんが聞いてくる。

「ちょっと様子を見てくるよ。」

「そうなの?祐太。みんな、すぐに戻って来るのよ。」

「はーい。」

祐太と一翔は木刀を手にしていた。

玄関のドアを開けると、そこはもう、わたし達の知っている世界ではなかった。

空は黒く、周りは恐ろしい程に静まり返っている。

アアアアアアアアアアアア

かわりに聞こえてきたのは喉から絞り出すかのような苦しそうなうめき声。

周りにはゾンビが足を引きずるように歩いていた。

「うっ…………………。」

みんな顔をしかめていた。なぜなら町にはゾンビの腐敗臭が充満して、すごく臭かったから。

幸いなことにゾンビはこちらに気付いてないよう。

ガチャリと家のドアが開いた。祐太のおばあちゃんだ。

「あなた達、大丈夫?」

と同時に祐太のおばあちゃん(以下美代さん)

が足元に落ちていた石を蹴る。そして、運悪く石はそこにあった鉄の棒に当たった。

カァァーン………………

静まり返った町にそのおとが響いた。一瞬、周りにいたゾンビの動きが止まる。

そして、ゾンビ達がぐるりとこっちに顔を向ける。

白く濁って見えているのか分からないけど、明らかにわたしたちを見据えているようだ。

「どうしよう……見つかっちゃった。」

奈央がポツリと言う。

「大丈夫よ。あたしらのチームは最強。」

友里亜さんがそっと微笑む。

「みんな!!大丈夫?」

すぐに美代さんが駆け寄ってくる。

「おばあちゃんは戻ってて!!」

「何いっているの?一翔?危険よ。あなたたちなんかにこんなこと任せられないわ。」

「大丈夫。俺らには最高戦力がついているから。」

「えっでも……。」

「いいから美代殿はなかに入っておれ。ここは我らが食い止める。」

「わかったわ。祐太と一翔、忠信君の言う通りにする。でも、必ず帰って来てね。」

美代さんは悲しそうに言うと家のドアを閉めた。

きっと、これ以上大切な人を亡くしたくはないのだろう。

ゾンビはすぐそこまで来ている。

義経達武士五人は太刀を抜いた。ものすごい速さでゾンビに斬りかかっていった。

素早くゾンビの首を次々に切断していく。

祐太はゾンビの脳天に強烈な面を喰らわしていた。ゾンビの頭は陥没して、その動きを止める。

一翔は弓を手にして矢を放っていた。ゾンビの頭に矢が貫通する。

「わたしには見ているだけしか出来ないの?みんなを助けられないの?」

例えわたしをからかって面白がっているような奴らだけど、困った時は助けてくれる。彼らが今、危険を冒してまで戦ってくれている。そんな彼らをただながめている訳には行かない。

「明日美ちゃん?大丈夫よ。貴方にだって助けられる。」

友里亜さんはそういって大鎌をうちに渡してきた。

「あなたの幼馴染み君を手伝ってあげて。」

でも運動神経イマイチのわたしには自信がない。

「明日美ちゃんなら大丈夫よ。ムカデを素手で触るんだもの。きっと勇気は一番あると思うよ。」

奈央……。

「そうよ。大丈夫よ。みんな明日美ちゃんを信じてるんだよ?」

奈央に里沙ありがとう。きっと不安が顔に出てたんだと思う。

里沙と奈央は薙刀を手にしてゾンビに突っ込んでいった。

わたしも大鎌を手にして、ゾンビに近づいていく。

「わたしに、かかって来なよ!!あんたなんか怖くないんだからね!!」

ゾンビがわたしの声に気付いて、2体のゾンビがこちらに向かって来る。

そのゾンビを大鎌で払ってやった。ゾンビの動きが鈍る。

でも、奴の脳ミソを傷つけない限り、奴が再び死ぬことは出来ないのだ。

わたしは覚悟を決めた。

「おりゃあああ!!」

掛け声とともにゾンビの首を斬りつけた。

ーボトリッー

ゾンビの生首が音を立てて落ちた。

や……やった。わたし、ゾンビを倒したんだ。

「おぉお前、なかなかやるな!!」

祐太達が戻ってきた。

「今の明日美ちゃんかっこ良かったよ。」

「明日美殿、あっぱれだったぞ。」

祐太と一翔、義経に誉められて素直に嬉しい。

「そっちだってかっこ良かったよ。」

わたしたちは家に戻った。

「あぁ、無事だったのね。よく頑張ったわね。」

美代さんが労ってくれる。でも、わたしどうやって帰れば?

「明日美ちゃんはどうするの?」

「あ、歩いて帰ります・・・・・・・。」

「えっ?大丈夫なの?」

「はい、なんとか。」

「おい。お前が1人で大丈夫かよ。」

「送って行ってあげようか?」

「祐太に一翔君、全然平気だよ。」

ゾンビを倒したんだからわたしはきっと大丈夫だ。

わたしは玄関のドアを開けて、

「みんな、今日はありがとう。じゃあね。」

「じゃあな。」

なんかみんな心配そうだったけど、本当は怖くてしょうがないけど、みんなを毎回頼る訳にはいかない。少しは自分が頑張らなきゃ。足音を立てずに歩く。ゾンビには気づかれていないけど、沈んだ雲の下、ゾンビだらけの町を一人で歩くのは怖くて怖くてたまらなかった。

すると、後ろから、

「明日美殿。」

えっ?って思って振り返ると義経と伊勢三郎、忠信、継信が立っていた。

「ついてきたの?大丈夫だったのに。」

「大丈夫な訳ないだろう?明日美殿は強がりだからな。」

す、鋭い……。毎回毎回本音が幼馴染み達にばれちゃうんだからな。

そうだよ……わたしは強がってばかりだよ。大丈夫じゃないのに大丈夫って嘘ついてさ。

それで後で取り返しのつかないことになってさ。嫌になっちゃうよ、この性格。

そんな言いたいことが言えない自分が嫌い。「今回は素晴らしかったな。」

忠信君が誉めてくれる。

「そっちに比べたら全然。本当に助かったよ。ありがとう。」

怖さを紛らわす為に喋りながら歩いていたら、石につまずいて、足をくじいてしまった。

ぐきっ。

「痛っ!!」

痛さのあまり大声を出してしまった。まずい。

ゾンビにばれたかも。一斉に奴らがわたしたちに近づいてくる。

ー嘘……。わたしのせいで……ー

奇声を発しながら動く死体は変色した歯をカチカチ鳴らしながら噛みつこうとしてくる。

「そ……そんな……わたしのせいで……ごめんね……ごめんなさい……」

「まずいな。明日美殿は我らのうしろにいろ。」

継信君の言う通り、彼らの後ろに回る。今のわたしは武器の大鎌を持っていなかった。

わたしは、彼らがいなければ既に奴らの仲間になっているだろう。

さっきまでわたしのことを狙っていた奴らはもう、彼らを狙っている。

義経、継信、忠信、伊勢三郎は四方八方から来るゾンビに包囲されていた。

でも彼らは余裕そうだった。

「ふんっ」

鼻で笑うと、太刀を抜いて、素早く、ゾンビの首を斬りつけた。

ボトリッーとゾンビの首が落ちた。奴らはその動きを停止する。首のない胴体が倒れた。

「ありがとう。相変わらずすごい刀さばきだね。」

すると、

「うわぁぁぁ!!こっちにくるなぁ!!」

誰かの叫び声が聞こえた。

「な、なんなの?」

「見てこよう……。」

行こうとする義経達。わたしも彼らの後を追う。

そこには、サラリーマンがゾンビに襲われていた。

しかし、もう助けられなかった。奴らはサラリーマンに飛び付いていた。飛び散る肉片と鮮血。聞こえてくるのはゾンビが生きたまま人を咀嚼する音。

「うっ……。」

あまりの惨劇に声が漏れる。すると、奴らはうちらに顔を向ける。人の肉と血にまみれた顔を向けて、新しい獲物を見つけたとでも言うようにこちらに向かってくる。

そこにあるのはゾンビに食い荒らされてめちゃくちゃになった無惨なサラリーマンの遺体だった。

「ひゃあああああ!!」

わたしは衝撃のあまり、ひどい吐き気を覚えた。周りには助けを求めて泣き叫ぶ者や、生きたまま喰われる者。食われたものは間もなく奴らの仲間になる。

「まさに阿鼻叫喚……。」

乱世に生まれ、死体などを見慣れた義経や継信、忠信、伊勢三郎でさえも吐き気を覚える程だった。

しかし、奴らは待ってくれない。すぐにわたしたちを狙ってくる。

義経達はすぐに刀でゾンビの首を切り落とす。

また助かった……。しかし、安心している暇などなかった。喰われて無惨になったサラリーマンの死体が動き出したのだ。サラリーマンはうちに向かって近づいてくる。

「ひぇぇぇぇぇぇ!!」

あの状態でうごくの?

「明日美殿!?」

わたしが襲われているとわかった彼らが太刀を手にしてサラリーマンのゾンビに切りかかった。ボトリと首が落ちた。

まさに悪夢のようだ。すると、突然、車が電柱にぶつかったと思ったら、ボカーンと車が爆発した。車は燃え盛る。

それと、近くにいたゾンビに火が引火した。ゾンビは燃えながら歩いていた。腐敗臭と焦げ臭い匂いが混じった悪臭を放ちながら。

しかし、火の勢いは止まらない。しまいにはゾンビは動かなくなった。

きっと火が脳ミソに達したのだろう。祐太の家とわたしの家は歩いて数分と近いはずなのにすごく遠く感じた。

でも、あと少しで我が家につく。そう思ったやさきだった、つまずいて転んでしまったのだ。

なんでこんなときに?

「大丈夫か?」

そう言いながら義経が手をそっと差しのべてくれる。

「大丈夫だよ。」

本当は足が痛くて大丈夫じゃなかったけど、これ以上迷惑はかけられないからそう答えた。

わたしは彼の手を掴んだ。そっと起こしてくれる。

以前と周りは阿鼻叫喚の惨劇だ。でも、みんな生きてまた幸せに過ごせるように願った。この悪夢が早く覚めたらいいのに。

でも、そんな願いをまたぶち壊すかのように次々と残酷なことがわたしを待っていたのである。

「お母さんー!!」

近くから泣き叫ぶ女の子の声が聞こえてきた。小さな女の子がゾンビに囲まれたお母さんを助けようとしている。そして、女の子はわたしたちを見つけるなり、

「ねぇお兄ちゃん、お姉ちゃん、お母さんを助けて!!真由理じゃ助けられないの!!」

お兄ちゃんとお姉ちゃんって明らかにうちらのことだ。

「ゾンビ、こっちよ。」

小石を蹴りながら奴らをわたしが引き寄せた。

そして、義経、継信、忠信、伊勢三郎が奴らを斬りつけていった。

ゾンビの生首が落ちる。

女の子は唖然としていたが、すぐにお母さんに駆け寄る。

「お母さん、お母さん!!」

しかし、お母さんはぐったりとしたまま動かない。

「お兄ちゃん!!お姉ちゃん!!なんでお母さんぐったりしてるの?」

イマイチ状況が理解出来ていない女の子。わたしがその子のお母さんに近づくと、その子のお母さんは腕にいくつも噛まれた傷があった。間違いない。彼女はゾンビに噛まれている。そう……もう助けられない。

すると、女の子のお母さんが最期の力を振り絞って女の子の頭を撫でた。

「真由理……逃げ……て……お願い……お母さん……もう……駄目……あなた……だ……けでも……助かって……あと……ねぇ……私……真由理……のことを……愛している……か……。」

息も絶え絶えになりながら彼女はそう言うとピクリとも動かなくなった。

きっと最期は愛しているからと言いたかったのだろう。

早くしないと女の子のお母さんはゾンビになってしまう。

すると、女の子はうちら五人の方をみた。そして

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう……。」

そう言うと女の子はどこかに行こうとした。

「あっ駄目!!ねぇ待って!!」

呼び止めようとしたけど女の子は走って行ってしまったのだ。

わたしたちは女の子の無事を祈った。しかし、また願いを踏みにじるかのような出来事が起こった。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、痛いよぅ」

女の子が戻ってきた。

「どうしたの?怪我したの?」

わたしがきくと、女の子はうんと頷く。

「んーどれどれ。」

女の子の腕を見ると、噛まれたようなあとがあった。

ー嘘でしょ?ー

「そんなに蒼い顔してどうされたのだ?」

伊勢三郎が心配してうちの顔を覗きこんでくる。

「この女の子……もう助からない……あの化け物に噛まれたら死ぬの。そして、奴らの仲間になっちゃう!!」

すると義経が、

「そうか……。では、継信、あの女子の頭を射よ。」

えっでも……。

「でもまだ生きて!!」

しかし、継信はもう女の子の頭を弓で射ていた。女の子は倒れる。

「ちょっと何……」

彼らを責めようとしたけれど、責める気にはなれなかった。

「すまぬな……。」

彼らだって辛かったのだから。

「ごめんね……」

人の気持ちも考えないで彼らを責めようとした自分が許せなかった。

 

 

その後どうやって家に帰ったのかわからない。

気が付いたら家にいた。

「やっと起きたの?あなた途中で気絶して、抱き抱えられて家に送ってもらってたのよ?

本当、継信君重かったでしょうに。」

途中で気絶した……そうだった……。阿鼻叫喚の有り様が衝撃過ぎて気絶してしまったんだ。

「もう、学校からなかなか帰って来なくて心配したんだぞ!?」

「ご……ごめんなさい。」

自分っていっつもこうだ。限界まで我慢して耐えられなくなって大変なことになって、それで、大丈夫じゃないのに大丈夫大丈夫って言って、なんでも1人で抱え込んで、しまいには誰かの世話になって、迷惑ばっかりで。

幼馴染み達にものすごい迷惑を掛けまくって、本当自分って最低な奴だ……。

守ってもらってばっかりのわたしが、いざとなったら家族を幼馴染みを守れるのだろうか?

誰かの為にしてあげられることはないのか……。

本当、自分って意気地ないよな。

ああああ……と、庭で変な奇声が聞こえる。

急いで、庭に出ると一体のゾンビがいた。

「明日美?明日美?」

お父さんが様子を見に来る。

「明日美、おい明日美!!」

お父さんが大声を出してわたしを呼び戻そうとする。しかし、気づいてしまった。奴がお父さんを狙っていることに。

歯をカチカチ鳴らしながらお父さんに襲い掛かる。

駄目!!お父さんが!!

わたしはそこにおいてあった電動草刈り機のスイッチを引っ張った。

電源がついたのを確認すると、草刈り機の歯をゾンビの頭めがけて一直線に振り下ろす。

キュイイイイイイイイイイイイイン!!

ゾンビの腐った肉片が飛び散る。そして、ゾンビの動きが鈍くなったところで、近くにあった三角ホーを奴の脳天に振り落とした。

ザクッ

不快な感触と音が伝わってくる。脳ミソが傷ついたのか、ゾンビはその動きを停止した。

「お、お父さん!!」

わたしはお父さんに抱きついた。こんな自分でも1人の大切な人を助けられたのだ。

世界で一番大切な人はと聞かれたら、それはもう、家族と幼馴染みしかいない。

彼ら彼女らに頼るのではない。わたしにもみんなを守ることだってできるのだ。

守りたい……大切な人を……。

誰も悲しませなくないし、自分も悲しみたくはない。

大切な、大好きな人と一緒なら悪夢を斬り抜けられそうだ。

 

しかし……これは悪夢の序章にしか過ぎないのだと……。

壊れる空……崩れる町……奴らはどんどん増えてゆくのであった……

 



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辛い思い出

ピピピピピピピピピピピ

目覚まし時計がなった。そうだった……。寝ていたんだ。

今は朝の六時半。普通なら明るいはずなのに、夜みたいに真っ暗だ。

それもそのはずだ。今はいつもの横浜じゃない。ゾンビが徘徊して生きている者を狙う。まさに阿鼻叫喚の惨劇が外では繰り広げられている。

ー大切な人を守るー

そう心に誓ってから早、1日。本当にわたしなんかに出来るのだろうか。

里沙と奈央が言ってくれた言葉……

ーみんな明日美ちゃんを信じているんだよー

その言葉が頭の中で響く。みんな信じてくれているんだ。わたしもみんなを信じて頑張らなきゃ……。

朝の支度を終わらせて、ニュースで状況を確認していると、ゴンゴンと窓が叩かれた。

恐る恐る見てみると、ポニーテールの少女が立っていた。友里亜さんだ。

「お願い!!今すぐ来て!!」

彼女はそういうと大鎌を渡してくる。わたしは親にばれないようにこっそりと外を出た。

わたしはみんなの安否が心配になって、

「みんな無事ですか?」

「えぇ。無事よ。」

良かった……。わたしのせいで誰か死んだりしたら嫌だ。

「とにかく、ゾンビを倒せって指令が出たの。」

指令か。それなら仕方ない。

「でも、祐太達がいないと……。」

「そのことだけど、明日美ちゃんがなんとかしてくれない?」

友里亜さんがとんでもないお願いをしてきた。

「祐太だってそうだけど、義経達に命令するのはちょっと……。いつも助けられてばっかりのわたしがゾンビを倒してって言うのは生意気だって思われるかも……。」

「大丈夫よ。明日美ちゃんのお願いなら彼らでも素直に聞いてくれるわよ。」

そうかなぁ?逆に図々しいと思われそうだけど。

「明日美ちゃんは妹みたいに可愛いらしいからね。兄が妹の頼みを聞かない訳がないわよ。」

妹って……。わたしのことを散々からかいまくってるのに!?

とにかく彼らを呼ぼう。友里亜さんは武器のロングソードをうちは大鎌を持ってゾンビの溢れる道へと出た。

一気に緊張感が高まる。すると、奇声をあげながら一体のゾンビがこちらに向かってくる。女子高生のゾンビだ。腐敗して肌が変色してしまっている……。

ーこれはー人じゃない、人の姿を借りた化け物だ……。だから……。

 

そう自分に言い聞かせながら、大鎌を振るう。

ーザクッー肉と骨が切れる音がした。ゾンビの脚を切り落とした。

しかし、一度獲物と決めたもの……。ゾンビは生き血と新鮮な肉と脳ミソをてにいれるまで諦めない。意志すら感じさせない、無感情な奴らはこの上ないほどに残忍で人を生きたまま喰らうおぞましい集団だ。

女子高生のゾンビは失った脚など気にせず、腕を脚みたいに使って近づいてくる。

「嘘でしょ?なんで……。脚を切り落としたんだよ……なのに……。」

なんで?そう繰り返すだけの明日美。

「諦めないの。奴らは……。人を喰らうまで。あたしだってゾンビが憎い。あのとき以来……。だから、だから、せめてもの報いに、ゾンビを破滅してやるの。あたしの愛する者を殺した罪は消えないからね……。」

友里亜は悲しそうに呟くと、ロングソードをゾンビの脳天に振り落とした。

ーグチャッー不快な音が聞こえた。ゾンビは二度と動かなくなった。ゾンビの頭はぱっくり切れて、中には潰れた脳ミソが見えている。友里亜さんはゾンビを見つめながら、

「あんたなんかに好きにはさせない、もう、誰も悲しませなくない、自分も悲しみたくはないの……。あたしは守りたい者を守る。そして、あんたから世界を救うの……。」

友里亜からは、ゾンビに対する激しい恨みが感じられた。それと同時に悲しさも感じられた。

「友里亜……さ……ん?」

すると友里亜は明日美に向き直り、

「さ、行こうか?明日美ちゃん……。」

「はい……。」

(ごめんね、ごめんなさい……。明日美ちゃん、みんな、ごめんなさい……。我儘を言ってしまってごめんなさい……。あなたが巻き込まれないか、あのときみたいになってしまわないか……。あなたたちに一緒に戦ってなんて言わなきゃ良かったかもしれない……)

その頃、友里亜は思い出していたのだ。自分の辛く悲しい過去を、まだ数年前、中学生の頃のことを、その頃、世界はゾンビで溢れていた。

ーあたしらは頑張った……。でも、でも、早苗ちゃん、友恵ちゃん、颯太君……お母さん……学校のみんな……。なんで?なんで?

どうして?……。

あたしは親友の早苗ちゃん、友恵ちゃん、幼馴染みの颯太君と大好きなお母さんを思い出していた。

彼と彼女らの最期は辛かった、苦しかっただろう。痛かったかもしれない……。

ずっと思っていた。なんで自分だけ助かったのか、なんでみんな死んだのか。死ぬのは自分だけで良かったのにと。

だから、明日美ちゃん達には死なないでほしい。

最高戦力の義経や季長、継信、忠信、伊勢さんだって不死身じゃない。奴らに噛まれたら間違いなく死ぬー

奈央ちゃんに里沙ちゃん、祐太君に一翔君だって奴らに噛まれたら間違いなく死ぬ。

彼ら彼女らはもうあたしの大事な戦友なのだ。死んだら悲しい。あたしの大切な人が死んだように、自分は無力でなにもできなかったように、でも、彼ら彼女らは絶対に守るから……。

そう思うだけで涙がこみ上げてきた。

「友里亜さん?」

心配そうにしてる明日美に

「ちょっと思い出していただけなの……。」

 

あれは、あたしが中学三年の頃のことだった。その頃、世界はゾンビで溢れていた。

「一緒に頑張ろうぜ、友里亜。」

颯太が笑いながら肩に手をおいてくれる。

「大丈夫よ。すぐに平和になるわよ。」

早苗ちゃんが励ましてくれる。

「みんな、友里亜ちゃんを信じてるんだよ?」

友恵ちゃんの一言が嬉しかった。

みんなで力を合わせた。なのに、なんで……。

あたしは辛い過去を思い出していた。

 

 

 

 



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例え壊れゆく世界にいたとしても

「祐太達いないんだけど……。」

わたしはどっかにいる幼馴染みを探していた。

どこいったんだよ……あの体育会系馬鹿達は……。人のことを運動神経悪いとか鈍いとか猪娘とか失礼極まりないことばっか言って……。

祐太、だいたいわたしは運動神経悪くないからね。丁度平均ってとこですっ。まっあんたなんか何をやらせてもプロ並みだし。スポーツマンからしたらうちなんてへなちょこってもんですけど。

義経なんかうちのこと鈍い鈍い言っているけど、自分は50メートル走9秒台だし、ずば抜けて遅い訳じゃないことくらい分かってほしい。

まっ身軽ですばしっこい彼からしたらわたしなんてカメみたいなものかもしれないけどっ。

 

自分は身長162センチ。誕生日12月25日のやぎ座。

 

こんな呑気なこと考えてる場合じゃない幼馴染みを探さなきゃ。

この辺はどういう訳かゾンビが全くいない。

勿論、人もいない。みんな避難所にいるからなぁ。

 

(あの近所に住むおばさんたちも)

近所に住むおばさんからよく根も葉もない噂話を言われて辛かった。

あのおばさんはわたしだけじゃつまらないからといって、両親や幼馴染み、亡くなった大好きなおばあちゃんの悪口まで言う始末だし。

このときは自分が言われるより辛かった。

 

本人達は自分が言われてるって気付いてないみたいだし。でも、わたしがおばさんたちに理不尽な事を言われてるって気付いていたみたい。

けれど、自分達もいずれ避難所行きになるんだろう。

その時は、がんばって耐えなきゃ。もう、誰にも心配かけないように、できるだけ明るく振る舞うことに決めた……。

 

今から13年前、本山夫妻は、高知県から神奈川県へ引っ越してきた。

その時、二人には赤ちゃんがいた。その赤ちゃんは生後10ヶ月で、名前は本山明日美。

12月25日に生まれたやぎ座の女の子である。

その隣の家には山崎一家が住んでいた。その家には4歳と一歳5ヶ月の男の子がいた。

兄が一翔、弟が祐太。

明日美の母親絵理奈は、祐太兄弟の母親、美奈と仲良くなった。

ある日、明日美を連れて、絵理奈は美奈の家に行っていた。

「ところで、お宅の明日美ちゃん、今何ヵ月なの?」

「12月25日生まれの10ヶ月です。」

「そう。うちの祐太より七ヶ月年下ね。」

すると、トコトコと1歳と4歳くらいの男の子がやってきて、明日美の顔を覗きこんだ。

すると、一翔が

「このこ、あすみちゃんってゆうの?」

と聞いてきた。

「そうよ。確か、あなた一翔君って言うのよね?」

「うん、ぼく、やまざきかずとだよ。」

可愛いなと思った。うちの明日美も成長したらどんな感じだろうなと思った。

「へぇ~一翔君って言うんだ。いい名前だねぇ。弟君は?」

「やまざきゆうただよ。」

一翔の指差した方を見ると、祐太が明日美と遊んでいた。

すっかり仲良くなったようだ。

「あっごめんなさい、そろそろ帰るわね。」

絵理奈は明日美を抱き抱えて玄関へと向かう。

「かえっちゃうの?」

一翔が寂しそうに聞いてきた。

「明日美ちゃんは帰るんだよ。だから、バイバイしてあげてね。」

美奈が彼の頭を撫でながら優しく言う。

「バイバイ、あすみちゃん」

「バイバイ、一翔君。」

懐かしい……。どうしてあの子の幼馴染みまで愛しいと感じるのだろう?

明日美、あの子は部屋から出てないけど大丈夫だろうか?様子を見に行こう……

 

「明日美?大丈夫?」

絵理奈は我が子の部屋をノックした。

コンコン……

しかし、返事がない。心配は一気に増した。

「入る……わよ……?」

我が子の部屋のドアを開けた。そこには、勉強机とベッドがあるだけ。

いたって普通の勉強部屋だ。なのに、我が子の姿がない。

「明日美?明日美!!何処なの?」

すると、机の上に手紙があるのを見つけた。

(お父さん、お母さん、うちは、祐太、一翔君、よっちゃん、すえ君、忠信君、継信君、伊勢君、里沙ちゃん、なっちゃんと一緒に、横浜へ行きます。ちょっとした用事なので、心配しないでください。

明日美より)

「そんな……あなた、助けて、あの子達が……」

絵理奈は慌てて自分の夫に助けを求めた。

この騒ぎが起きた街を出歩くなんて、とんでもない事だ。

平安時代末期、鎌倉時代生まれの彼らがゾンビの存在なんて分かる訳がないのに、

第一、二十歳前後の年若い青年が、ましてや、十代の少年少女がゾンビパニックが起きた街へ用事があるからと言って行くのはとてもじゃない。この騒ぎで気がおかしくなった人に絡まれる恐れがあるし……。

絵理奈は消え入りそうな声で、

「ちゃんと言っていたらいかせなかったのに……。」

もう、どうしたらよいのか頭が真っ白で分からなくなっていた。からだの震えが止まらない。

 

神様、どうか、どうかあの子達が無事でありますように……。

 

「ふぅーこれで10体倒した。」

ふと、聞き慣れた声が聞こえた。振り向いて見ると、祐太達がいた。

「あ、明日美?」

「明日美ちゃん?」

「明日美殿?」

彼らはうちが此処にきたことに驚きのようだ。

「探したんだからね……」

「え……なんで此処に来たんだよ……来なくてよかったのによ……」

祐太の口から出たのは意外な言葉だった。自分が来ればみんな喜ぶと思っていた。

「心配だったの。祐太が一翔君が季長君が義経君が伊勢君が忠信君が継信君が。奈央が里沙が。みんなを置いとくのが嫌だったの。」

いつだって自分はそうなんだ。誰かに助けられてばっかりで……。

「来てしまったならしょうがないや……。来てもいいけれど、明日美は俺達の後ろにいろ。危ないからな。」

「分かった。」

祐太の言った通り、彼らの後ろに回る。

出逢った頃よりも何年か前よりも広くなった彼らの背中にくっついているのは。なんだろう、彼らの側にいるのはとても安心する。

「無理しないでね、みんな……」

すると、向こうからゾンビ50体が襲ってきた。

「来た来た。一人5体は倒さなきゃダメだね。」

一翔が不敵な笑みを浮かべた。そして、弓から矢を放つ。その矢はゾンビの頭を貫いた。

さすが弓道の全国大会優勝者なだけある。その腕前は素晴らしいものだった。

「こんなもの、平泉にも鎌倉にも居なかったはずだが……」

義経が愛刀薄緑を抜いて斬りかかる。あっという間にゾンビの頭を切り落とした。

わたしは大鎌を振り回してゾンビの動きを弱める。

友里亜さんはゾンビの脳天にロングソードを渾身の力を込めて振り下ろした。

その破壊力はゾンビの頭を砕いてしまった。

ゾンビ50体はあっという間に倒されてしまった。

でも、やつらはこれからもねずみ算式で増えていってしまう。

ゾンビを増やしている元凶を破壊しない限りいくら倒してもきりがない。

「50体あっという間だったね。」

別に誰かに答えてほしいという訳じゃないけど、思わず言ってしまった。

馬鹿……。ロクに活躍していない奴が言う言葉じゃないよ。

わたしの言葉に友里亜さんが代わりに答えた。

「だから言ったじゃない。あたしらのチームは最強。なんでも最強戦力が何人もいるんだから。だからあたしらのチームは絶対に負けない。明日美ちゃんだってそこそこ強いし。」

そう自信満々に言った。

でも……でも……足手まといのわたしなんていない方がもっと……。

「でも、明日美って最近武器の扱い上達したよな?」

「えっ?そうかなぁ?」

普段なら運動神経悪いだの散々言ってくるくせに。

すると、向こうから誰かが近づいてくるようだ。

振り返ると、うちのお父さんとお母さんと祐太のおばあちゃんだった。

自分達の姿を見つけるなり駆け寄ってくる。

「明日美……明日美、心配したのよ?」

そう言われて泣かれたからたまらない。

「ごめんなさい……」

あとは謝るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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