セイバーアート・オンライン (ニントという人)
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アインクラッド第一層攻略編
ユニークスキル、炎の剣士。


転生者が集まる掲示板…
そこに参加した一人の少年…

彼の世界では、起きるはずの無いことが起ころうとしていた…

これは、とある転生者と、1万人のプレイヤー、スレのニキネキの物語…


「ゲームのエンディングは、俺が決める!」



異世界転生。

それは、古今東西のファンタジー作品において、ありふれた題材である。

だが、おれはそれがファンタジーだけの話ではないと、身をもって実感した。テンプレのごとくトラック(2t)に轢かれ、目が覚めたとき、謎の黒い空間に居ると分かった瞬間、確信した。

あ、死んだ。

そして、またしてもテンプレのように神様が現れ、転生するから何でもあげると言われた。

記憶だと此処までしか覚えてないが、何をもらったかは確定している。

そして、どの世界に転生したかも確信している。

なぜなら、そこは現実世界ではなく、仮想世界なのだから…

 

◆◆◆◆

 

1:スレ主

これで立て終わったかな

 

2:名無し

お、新人さん?

 

3:名無し

おー、よくいきなりスレ立てれたな。

 

4:スレ主

はい、これすごいですね!念じるだけでスレ立てれるなんて!

 

5:名無し

製作者不明だけどな。

で、スレ主はどの世界にいるんだ?

 

6:スレ主

えーっと、ソードアート・オンラインですね。

 

7:鬼殺隊の柱

おー、なんとも言えん転生先だな…

 

8:名無し

>>7 誰だお前は⁉

 

9:名無し

それより俺は話がなかなかに飛びすぎな件について聞きたいんだが?

 

10:名無し

まあこのスレにいる段階で転生者確定だからね

 

11:名無し

それでスレ主、なんでスレ立てたの?

 

12:スレ主

えーっとですね…実は俺神様転生ってやつで…

 

13:名無し

おー、なんだかんだ珍しいやつ。

 

14:スレ主

え!そうなんですか?

 

15:鬼殺隊の柱

まー大抵の転生って気づいたら系が多いいもんな…

 

16:名無し

で?神様転生のなにが問題なの?

 

17:スレ主

あ、別にそれ自体は問題じゃないんですけど、

もらった特典が何か覚えてなくて…

 

18:フォートしないナイトさん

え意味ないじゃん

 

19:名無し

>>18 いやあんたも言えんぞ

 

20:名無し

建築無しのフォトナとか荒野じゃねえか

 

21:鬼殺隊の柱

懐かしいなフォートナイト…前世でやりこんだな…

 

22:名無し

そろそろスレ主の話聞こうぜ…

 

23:名無し

おっ、そうだな。

 

24:スレ主

はい。で、特典は覚えてないんですけど、もう確信してるんですよ。

 

25:名無し

なんだ、もったいぶるな。

 

26:スレ主

えー……SAOって、スキルがめっちゃあるじゃないですか。

 

27:名無し

ああ。片手剣、細剣、料理、体術…はエクストラスキルか。

 

28:名無し

確かに多いよな。それで?

 

29:スレ主

それで、俺のスキル欄にとあるスキルがありまして…

 

30:鬼殺隊の柱

それで、そのスキルってのは?

 

31:スレ主

えー、【炎の剣士】、です。

 

32:フォートしないナイトさん

んー、炎の剣士…そんなスキルあったか?

 

33:名無し

いや、そんなスキルはなかった。

 

34:名無し

あっ…

 

35:名無し

>>34 えお前分かったん⁉

 

36:名無し

スレ主、1つ確認だ。

あんた、前世はライダーオタクか?

 

37:スレ主

はい。ゴリッゴリのガチ勢でした。

 

:名無し

あ…そういう事か…

 

39:鬼殺隊の柱

なるほど…それなら納得だ。

 

40:フォートしないナイトさん

え俺ライダー知らねぇんだけど

 

41:名無し

>>40 あフォトナニキライダーしらんの?

 

42:フォートしないナイトさん

ああ。俺は1度も見たことない。

 

:名無し

ま、フォトナニキ以外は分かってるっぽいから、スレ主、言っちゃって。

 

44:スレ主

はい。

俺の転生特典は、

仮面ライダーセイバーに変身する力です。




はい。
戦闘シーン無しですすいませんっしたぁぁぁぁ!
次回はには戦闘シーンが入ると思いますので…
少々お待ちください…
では次回予告を…

次回、セイバーアート・オンライン。
「なんで、saoにメギドが…」
「この世界も、物語の一部となる!」
「ゲームのエンディングは、俺が決める!」


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襲来する、イレギュラー。

セイバーの力をもって転生したスレ主。
彼の身に起こるイレギュラーとは…


◆◆◆◆

 

45:鬼殺隊の柱

いやー、セイバーかぁ。

 

46:名無し

仮面ライダーセイバー。

炎の聖剣、火炎剣烈火とワンダーライドブックの力で変身する炎の剣士。

 

47:フォートしないナイトさん

あー、それでスキル名が【炎の剣士】、か。

 

48:スレ主

はい。前世の記憶は多少残ってたので、見た瞬間にびびっと来ましたね。

 

49:名無し

びびっと…きみユウキ?

 

50:スレ主

違いますよ。てか俺は男です!

 

51:名無し

あーそういえば、イッチって今何編だ?

 

52:スレ主

今はアインクラッド…というかプログレッシブです。ちなみに1層のトールバーナ前。

 

53:鬼殺隊の柱

ほう。イッチの拠点は?あと装備

 

55スレ主

今はホルンカで、装備はホルンカで売ってるハーフコート、武器はアニールブレード、スキル構成が片手直剣と索敵、隠蔽。熟練度はそれぞれ78、64、45。

 

56:名無し

どことなくキリトっぽい…

てかスキル構成まんまやん

 

58:名無し

この感じ、主はソロと見た!!

 

59:スレ主

>>57 おお、その通りです。どうも団体行動ってのが苦手で…

バーチカル・アークはもう使えますよ。

言い忘れてましたがレベルは13。

 

60:名無し

キリト超えてんじゃねぇか⁉

 

:スレ主

ただ、隠蔽は外そうかなって考えてるんですよ。

 

62:鬼殺隊の柱

え、なんで…って、そうか。炎の剣士のためか。

63:スレ主

はい。この感じ、炎の剣士ってユニークスキルっぽいので。

64:名無し

>>62いや確定でしょ。

65:名無し

てかスレ主、烈火とライドブックは持ってんの?

66:スレ主

え?持ってませんよ?

:鬼殺隊の柱

は?

68:名無し

は?

69:名無し

は?

70:平成の化身

落ち着け。

71:名無し

>>70 ファッ⁉ 平成ニキ!?

 

72:名無し

ジオウⅡすっ飛ばしていきなりオーマジオウになったヤベーイ奴じゃねぇか!?

 

73:平成の化身

俺のことはいいから話をもどすぞ。

74:スレ主

えー、よろしいでしょうか?

75:鬼殺隊の柱

ああ、悪いな。いいぞ。

76:スレ主

はい。では続きを。

確かに、聖剣も何も持っていないんですけど、

個人的な予想で、スキル取ってないとダメなんじゃないかってのがあるんですよ。

77:名無し

なるほど。え、てことは今からどうするの?

78:スレ主

えー、てことで、今からスキル取っていきたいと思います!

79鬼殺隊の柱

いよっ!

80:スレ主

なので、今からライブモードにしますね。

【ライブモードを起動しました】

81:フォートしないナイトさん

おお、saoの中だ

82:スレ主

えー、では始めます。

83:鬼殺隊の柱

ウィンドウを開いて…ステータスに移動。

84:平成の化身

そこからスキルに移動して、隠蔽スキルを削除。

85:名無し

その操作で空いたスキルスロットをタップして…

86:名無し

炎の剣士を選択!

87:スレ主

よし…これでスキル替えは完了しまs…

 

ん?

87:名無し

ん?どした?

88:スレ主

いや、なんか腰らへんで何かオブジェクト化してて…

 

【聖剣 ソードライバー!】

 

フェ?

89:名無し

え…スレ主、それって…

90:スレ主

ああ…火炎剣烈火…

91:鬼殺隊の柱

なるほど…スキル習得で獲得できるのか…

あながち間違いじゃなかったな…

92:名無し

あ、スレ主、ストレージにライドブック入ってない⁉

93:スレ主

え…あホントだ!?

94:名無し

これで変身可能になったわけか…

95:スレ主

そうですね……ん?

◆◆◆◆

 

「メッセージ…クラインからか…ん?」

 

◆◆◆◆

 

96:スレ主

あの~

97:鬼殺隊の柱

お、どした~

98:スレ主

えーたった今、クラインからメッセージが届きまして。

99:名無し

えスレ主クラインと知り合いなん!?

100:スレ主

あ、そうですよ~あのキリトとクラインがイノシシ狩りの時一緒にいました

101:フォートしないナイトさん

マジか…えてことはキリトとも知り合いなの!?

102:スレ主

はい。フレンドです。

103:名無し

マジかよ()

104:スレ主

えー、でですね、そのメッセージ何ですが、

 

【おいラルト!やべえことになった!今すぐはじまりの町に来てくれ!】

105:名無し

えっと…ラルトってだれ?

106:スレ主

あ、それ俺です。

107:名無し

あイッチか………えイッチラルトって名前なん

108:スレ主

ええ、それが俺のキャラネームですよ。

それより、このメッセなんか変なんですよね…

109:鬼殺隊の柱

変?これのどこが?

110:スレ主

いや…クラインって普段は

「オレはキリト達に頼りっきりにならずにやってやるゼ!」

って別れ際にいってたので…

それを半月も守ってたし…

111:名無し

ほうか…まあ一先ず行ってみたらどうだ?

112:スレ主

まあ、そうですよね。

じゃあ一先ず転移門にいって…

 

「転移!はじまりの街!」

 

…………あれ?

113:名無し

転移してねーぞ?

114:名無し

おいおい

バグったか?

115:スレ主

いや…SAOって基本カーディナルが管理してるので、こんなバグはすぐ直すはず…

 

は?

116:鬼殺隊の柱

どうした?

117:スレ主

いやそれが…こんなシステム通知が…

 

    [画像] 

118:名無し

は?

119:名無し

街が存在していません!?

120:スレ主

ん…?

 

あ…

 

みなさん!すぐにはじまりの街に戻ります!

121:鬼殺隊の柱

おいおいどうした!?

122:スレ主

説明は後!今はAGI全開で向かいます!

123:て名無し

…!そういう事か!

124:鬼殺隊の柱

なんだ?何かわかったのか?

125:名無し

はい!イッチ!とにかく急げ!

126:スレ主

はい!そろそろ着くと思うんですが…

 

【ライブモードを起動しました】

 

127:名無し

えライブモード?……

12:名無し

ん……なあ、スレ主、もうすぐ着くんだよな……

129:スレ主

はい……というより……もう視界に入ってます……

130:名無し

いや、でもあれって!

131:名無し

でかい……本……

132:スレ主

はい……あれは間違いなく、メギドが行った異変の跡です。

…………でも…………

133:名無し

ああ…そんな訳がない…

134:名無し

だって、この世界には……

135:スレ主

一先ず、そこに向かいまS……

っ!キリトッ!

136:名無し

えキリト⁉

137:名無し

本物だ……

 

◆◆◆◆

 

「おーい、キリト!」

「っ!ラルト⁉」

「キリトももしかして……」

「ああ、クラインに呼ばれた。」

「じゃあこの辺きクライn「おーい!二人とも!」お、本人登場。」

「なあクライン、これはどういう事なんだ?」

「いや、オレ様もわっかんなくてよぉ…あいつ等にも聞いたけどわかんないって言うもんで、しょうがねぇからβテスターの二人を呼んだわけよ……」

「つっても、俺も見たことないぞあんなの……ラルトは?」

「いや、俺もない。」

 

◆◆◆◆

 

138:名無し

あ、スレ主嘘ついた。

139:鬼殺隊の柱

まあ、ここでは言えんだろ。

140:名無し

どうやらスレ主たちは、異変の起きた場所に向かうみたいですよ

 

◆◆◆◆

 

「やっぱり入れないな……」

「てか、ラルト、キリトよぉ、こんなバグ、さすがの茅場晶彦も無視しちゃおかねぇだろ。」

「いや…まずこれはバグなのか?」

「?どういう意味だ、ラルト?」

「いや…バグにしてはしっかりしてるし……それに、こんなのをシステムが放置するとも思えない。」

「確かにな。βの時は、重大なバグが起きたら、その都度サーバーを止めてた。」

「てことは、これもデスゲームの内なのか?」

「いや、それもない…ともかく、一旦中に入らないと何も言えないな…………」

表面上は冷静を装いながらも、内心は荒れに荒れていた。

それでも、ある一つの考えに行き着いた。

「っ!クライン、こんなことになる前、変な奴見なかったか!?」

「え………あ、そういやぁ、なんか石の塊みたいなMOBなら居たが…」

「石の塊?そんなのこの辺に湧いたか…………って、どうしたラルト⁉」

珍しくキリトが声を荒げたが、気にしている余裕はなかった。

「みんな、今からこの中に入る。」

 

◆◆◆◆

 

141:名無し

おっ!イッチが決めた!

142:名無し

まあ、クラインの証言から察するに、放置してたらヤバイ案件だもんな。

143:名無し

てことは、あれを使うのか…………

 

◆◆◆◆

 

「入るつったって、この中は入れねえんだぞ?」

「ああ。システム障壁があるとしか思えない。」

「だから、扉を作るんだよ。」

「はあ?作るったって、どうやって……」

 

【聖剣 ソードライバー!】

 

「「は?」」

 

◆◆◆◆

 

144:名無し

あー……まあこういう反応だよな………

145:名無し

まあ、この世界からすると変ですもんね……

14:スレ主

『おいなんだよラルトこれ!』

『説明は後だ。これの機能でこの中に入る。』

『そんな剣1層にあったか?』

147:名無し

凄い質問攻めにあってる……

 

◆◆◆◆

 

「よし…」

「ヨシじゃねぇよ⁉」

「何だよその剣?

「わかった、分かったから!いいから行くぞ!」

そういって俺は、納刀状態の火炎剣烈火のトリガーを引く。

そうするとエンブレムが発発光し、目の前に青く光る本……の形をしたゲートが表れる。

「「……………………」

「……言いたいことは分かるが、行くぞ。」

そういって、俺ことラルト、キリト、クラインの3名は本の中……ワンダーワールドへと足を進めた。

 

◆◆◆◆

 

149:名無し

とうとう中に入ったね……

150:スレ主

『おい…なんだよこれ…』

『ここ…どこだ…って、おい、ラルト!いまは慎重に…」

「そんな時間無い!」

なんでsaoにワンダーワールドが…

151:名無し

うわ…半分ぐらい浸食されてる…

152:名無し

こりゃ真面目にやばいな…

この町が終わったらプレイヤーの大半が死ぬ。

153:名無し

スレ主はメギドを探すみたいだけど…

154:スレ主

くそっ!全然見つからない!

155:名無し

落ち着けスレ主!

メギドは破壊活動をしてるはずだ!

音を聞け!

156:スレ主

っ!はい!

システム外スキル…〈聴音〉!

157:名無し

えスレ主聴音使えんの!? すっげ

158:スレ主

……見つけた!転移門広場東!

159:名無し

ぃヨシ!

160:鬼殺隊の柱

急げ、スレ主…いや、ラルト!

161:スレ主

……はい!

 

◆◆◆◆

 

「うおおおおおおおあ!」

走る。ひたすらに走る。

走らないと、大勢が死ぬ。

ただ、心の中には迷いもあった。

本当に勝てるのか。向かったところで変身できないんじゃないか。

だがいつしかそんな迷いは、悲鳴と爆発音にかき消されていった。

 

「きゃああああ!」

 

っつ!やべぇ⁉

 

転移門広場についた時には、当たりはひどい有様だった。

建物は燃えた本となり、大勢のプレイヤーが辺りに倒れている。HPをみると、レッドゾーンからイエローゾーンまでに皆が落ちている。

それを確認する間にも、大勢のプレイヤーが石と本の怪物……ゴーレムメギドに斬りかかっていくが、防がれるどころか、もはや弾かれている。

これはヤバイ。そう感じた時には、ソードライバーから烈火を抜き、メギドに斬りかかっていた。

「やめろぉぉぉ!」

不意を突いた俺の刃は、吸われるようにメギドへ向かい――

そのままメギドを切り裂いた。

「ぐあっ!?」

不意を突かれて、メギドは多少ノックバックした。

「ぐぅ……貴様!なぜおれに攻撃が……」

急に声が萎んだのは、俺が握る聖剣を見たからだろう。

「なっ、なぜ聖剣が!?……まあ良い!たとえ聖剣があろうと、所詮は人間!

この世界も、物語の一部となる!」

その言葉を聞いて、

「ふざけるな!」

俺は叫んだ。

「お前らなんかに、この世界は壊させない!」

それに対して、

「うるさい!貴様ごときに何ができる!」

……聞けば聞くほどイライラすんな。

「……おい、ラルト!」

……キリトか。

「おいなんだよこの状況!説明しろy「今は退いてろ!」……わかった。」

これで心置きなく戦える。

「いったな、この世界を取り込むって。」

そういいながら、俺はストレージを開く。

「それは無理だ。お前らにはエンディングは見させない。」

そして、1つのアイテムを取り出す。

表紙に赤い竜が描かれた1冊の本。

ブレイブドラゴン。

それを手に取り、ストレージを閉じる。

「な、なぜおまえが本を!?渡せ!それは我らの物!」

「いや!これは俺の本、俺の力!」

そういって、俺はブックを構え、

「ゲームのエンディングは、俺が決める!」

 

「ブレイブドラゴン!」

「かつて、世界を滅ぼすほどの、偉大な力を手にした神獣が、いた。」

ブックを展開すると同時に、ライドスペルによる朗読が始まる。

そして俺は、ソードライバーの神獣スロットにブレイブドラゴンをセットし、火炎剣烈火を握った。

「ハアッ!」

「烈火抜刀!」

そして、俺は叫ぶ。ありったけの覚悟を込めて。

「変身!」

体が剣舞をまい、俺の前に十字を描く。

「ブレイブドラゴン~」

「烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!」

「な…なんだと……まさか貴様は!?」

「ああそうさ!俺が炎の剣士、仮面ライダーセイバーだ!」

 

◆◆◆◆

 

162:鬼殺隊の柱

うおおおおおおおお!

スレ主初変身!

163:フォートしないナイトさん

へー、これが仮面ライダーかぁ……

164:名無し

よっしゃ!スレ主、かましたれ!

165:スレ主

はい!

 

◆◆◆◆

キリトside

何が何だか分かっていない中、あいつ……ラルトだけは冷静に状況を見てると思ったら、

ラルトは急に走り出し、追いついたと思ったら下がってろと言われた次の瞬間、

彼は変身した。

訳が分からない。ただ、これだけは言える。

彼は、この時のためにログインしているのだと。

俺は、ラルト……本人曰く、仮面ライダーセイバーの活躍を見守ることとした。

◆◆◆◆

 

変身を完了した俺は、未だ同様しているメギドに向かって、聖剣を用いた炎を放った。

「ぐっ……フン!」

だがメギドも流石の防御力で防ぐ。

俺は、生と死が混ざり合う戦場へと駆け出した。

俺の振るう聖剣を、奴が拳で正確に防ぐ。

逆に、奴が振るう拳を、聖剣の腹で的確に弾く。

このままでは埒が明かないと判断し、奴の攻撃でわざと飛ばされ距離をとると、ブレイブドラゴンの展開したページを押し込んだ。

「ブレイブドラゴン!」

「ドラゴン・ワンダー!」

烈火を左手に持ち、右腕を突き出して炎の竜を放つ。

「ぐっ……ぐわあっ⁉」

          こうかはばつぐんだ!

その勢いのまま接近し、体制が崩れたメギドに対して、息もつかせぬ乱舞を繰り出す。

「はあああああっ!」

そして、炎を纏った足で蹴り、そこから回し蹴りに繋げる。

この感じならいける!

そう感じた瞬間、

「うおおおおおおおお!」

奴は瓦礫を取り込んで巨大化した。

「うそでしょ……」

なんか原作にもあった気がする!

そんなことを考えている場合じゃない。

巨大化した拳を避ける、避ける、ひたすら避ける。

隙を見つけては攻撃していくが、いまいち刃が通らない。

ならばと、今度は剣に炎を宿し、火炎を纏った斬撃を繰り出した。

「グああっ!」

意外と通った。

いや、意外とて言うか、かなり通用してる!?

なら今しかない。

俺は烈火をドライバーに納刀し、トリガーを1回引いた。

「必殺読破!」

「ハアッ!」

「烈火抜刀!」

「火炎十字斬!」

「ドラゴン!一冊斬り! ファイヤー!」

「はあああああっ!」

俺が振るう火炎剣烈火が、メギドの身体を容赦なく切り刻んでいき、

最後に胴体を2つに切り裂いた。

「ハアッ!」

「グアアアアアアアッ1?」

そして――――

爆散。

俺の初陣は、こうして終えた。

 

◆◆◆◆

 

166:鬼殺隊の柱

お疲れー

167:フォートしないナイトさん

お疲れさん

168:名無し

オツカーレ

169:スレ主

はい……やっと終わりましt

 

『パチパチパチパチ』

 

ん?

 

『おいラルト!大丈夫か!?』

『キリト……ああ、心配ないよ。』

『おーいラルト!途中から見てたけど……なんじゃありゃあ?』

うっ……やっべ……

170:名無し

あ…どうする?

171:フォートしないナイトさん

あーー……エクストラスキルって言っとけば?

172:スレ主

……そうしましょうか。

『エクストラスキルだよ、【炎の剣士】』

(観衆一同)『おー』

『……なあラルト、β時代にそんなのあったか?』

『いや……というか、俺も習得条件わかんねぇんだよ……気づいたらスキル一覧にあったし……』

『えー……』

うぅ……心が痛い……

173:名無し

まあこれでしばらくは大丈夫だろ。

174:スレ主

あ………

175:名無し

お、どした?

176:スレ主

えーっと、今回巻き込まれたプレイヤーの中に、攻略組の知り合いいるんすよ……

177:名無し

あ…てことは……

178:スレ主

はい……攻略会議が不安です……




やっと戦闘シーン書いたけど酷すぎる……
もっと練習してきます。
では予告を


次回、セイバーアート・オンライン。
「職業は気持ち的に【騎士】やってます!」
「こん中に詫び入れんなあかん奴がおるはずや」
「それなら俺だよ」
第3節 始まる、攻略会議(吊るし上げ)


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始まる、攻略会議(吊るし上げ)

遅れて申し訳ございませんでした。

今回は攻略会議のシーンです。

それから、アンケートに昆虫大百科が2つありましたので、2つ合わせての数と成ります。申し訳ございませんでした。

では、本編をどうぞ。


「ああー……いぎだぐねー」

ここはアインクラッド第1層、トールバーナ。

もう間もなく、第一回フロアボス攻略会議が始まろうとしている……のだが……

「やだよぉ……晒されるじゃん……炎の剣士のこと……」

「いや……ラルトから言ったんじゃん、エクストラスキルって。」

「でもなぁ……まさかあの中に攻略集団がいるとは……」

そう。俺こと、プレイヤーネームラルトは、仮面ライダーセイバーとなり、なぜか現れたメギドからはじまりの街を救っちゃったのである。

その際、俺が持っている炎の剣士スキルを説明したのだが、その時に顔見知りの攻略組がいたのだ……

「あぁ……絶対広まってるじゃん……」

「まあ、どんまい。」

「けっ!キリトは気楽で良いね!」

こいつ二刀流取った時には煽りに煽ってやる…

「あー……俺今から用事があるんだけど……」

「鼠のとこだろ?俺も付き合うよ」

キリトの奴が,鼠にあうとのことなので、付き合うこととする。

 

◆◆◆◆

 

1:スレ主

てことで今からアルゴに会いに行きます。

 

2:鬼殺隊の柱

ほー、確か原作だと…

 

3:名無し

この辺でアニールブレードの買い取りか。

 

4:名無し

でも原作じゃアルゴの方からきてなかったっけ

 

5:平成の化身

恐らく原作改変の一種だろう。

主がセイバーになったのだし、これぐらいおかしくはない。

 

6:スレ主

と、そろそろ待ち合わせ場所のようですね……

…………あれ?いなくね?

 

7:名無し

いや、アルゴのことだから……

 

8:スレ主

『よッ、キー坊、ラー坊。」

「相変わらずハイドしての登場か………」

ああ、そうでしたね……

 

9:名無し

ああ。アルゴは隠蔽スキルがかなり高いからな。

 

10:スレ主

『それで、今回のも例の買い取りか?』

『アア、そうダ。今売ったら2万9800コルだそうダ。』

『悪いけど、何度言われても答えは同じだ。売る気はないよ。』

『ああ。キリトのアニールは1層最高級クラスだからな。』

『それを超える剣を持ってる人がいるって聞いたんだガ?』

『ちょっとしらないなぁ……』

『……キー坊。』

『承知した!』

『おい!やめろキリト!くwくすぐるなww分かったwww言うからww』

『ヨーシ、じゃあ話してもらおうカ。炎の剣士とやらについテ。』

 

11:名無し

oh……

 

12:名無し

これはひどい

 

13:スレ主

あー!いやだー!

 

◆◆◆◆

 

「うう……やだぁ……」

「なんだよ、減るもんじゃないし。」

「減ったわ!精神が!」

いっその事攻略会議で宣伝してやろうか……

「……なあ、ラルト」

「ん?どうした?」

「今回の会議、どうなると思う?」

「そりゃあ…………荒れるだろうな。」

「ああ。俺らも気を付けとかないと。」

そう。今回の会議は間違いなく荒れる。

なぜなら、初めて晒されるのだから。

元βテスターとニュービーの決定的隔離が…………

 

 

「あ」

「?どしたキリト?」

「いや……あそこのプレイヤー、前にあったことがあって…………」

「え、フレンド?」

「いや…この前迷宮区で遭遇してさ…

そいつ4日位迷宮区に籠ってたらしいんだよ…」

「ファ!?」

 

◆◆◆◆

 

14:スレ主

(恐らく)アスナに遭遇しました。

 

15:名無し

>>14 恐らくについて詳しく

 

16:スレ主

いやフード被ってるし名前見えないしでわかんないんですよ…

 

17:名無し

そうだった名前見えないんだった

 

18:スレ主

一先ずキリトが向かってるんで、俺は少し離れとこうと思います。

 

19:名無し

え、行かんの?

フラグ立てないの?

 

20:スレ主

>>19 いや無理ですよ…ここで下手に接触してこれ以上原作崩壊させたr

『あの…』

 

えぇ…

 

21:名無し

>>20 フラグ回収早すぎんだよ

22:スレ主

 

『あの…セイバー…ですか?』

 

()

 

23:フォートしないナイトさん

えぇ…

24:スレ主

『ああ…そうだけど…』

『あの…助けてくれて、ありがと』

『いや…あん時は必死だったし…』

 

ナンデコッチ?

話終わるのはやくない?

 

25:名無し

まー、頑張れ!

 

26:スレ主

あぁんまりだぁぁ

 

◆◆◆◆

 

あの後五分位お礼言われた…

 

◆◆◆◆

 

27:スレ主

あぁ…疲れた…

ナンデキリトは俺がセイバーって言っちゃうの…

 

28:鬼殺隊の柱

べつによくない?このまま行けばアスナとハッピーエンドだぞ?

 

29:スレ主

嫌だ!俺はヤンデレに好かれたくない!

 

30:鬼殺隊の柱

あっ…確かにその気はあるよな…

 

31:スレ主

そうだ!俺はアルゴ派なんだ!

 

32:名無し

おー、気が合うな、スレ主よ。

 

33:スレ主

え~、それでですね、炎の剣士について分かったことがあるんですが

 

34:名無し

お、何か判ったの?

 

35:スレ主

はい。ワンダーライドブックについてです。

 

36:名無し 

ほう、ライドブックか。

 

37:名無し

それで、何について判ったの?

 

38:スレ主

えーっとですね、ライドブックの入手方法なんですけど

 

39:名無し

あー、確かにわかってなかったね。

それで、その入手方法ってのは?

 

40:スレ主

はい。どうやら、対応するmobを聖剣で倒すことで、ライドブック

がドロップするみたいなんです。

 

41:名無し

ほう…

 

42:スレ主

さらに詳しく言うと、

 

○聖剣でダメージを与えたmobが倒されたとき、聖剣所有者にドロップする。

 

○1度ドロップしたブックは、サーバーに一つのユニーク品となる。

 

○その他、聖剣所有者限定のクエストでも入手できる。

 

とのことです。

 

43:鬼殺隊の柱

なるほど……ん?聖剣所有者?

炎の剣士スキル拾得者じゃなくて?

 

45:スレ主

はい。そう書いてありました。

 

46:鬼殺隊の柱

え…ということは、スレ主のほかに、仮面ライダーがいるって事?

 

47:フォートしないナイトさん

あっ…そういえば、あの時倒したゴーレムメギド、なんか言ってなかった?

 

48:名無し

ああ、言ってたな…

確か、

「この世界も、物語の一部になる」

だったか

 

49:名無し

ん?『この世界も』…?

なんで他の世界もあるようなことを?

 

50:平成の化身

…考えられる可能性は2つ。

1つ、リアルワールドにメギドがいる。

2つ、別の並行世界か何かを乗っ取り、SAOにやってきた。

 

51:名無し

うわ…どっちでも不味いな…………

 

52:スレ主

はい……一先ず攻略会議なので、その件も含めて話し合おうと思います。

 

53:名無し

おお、今日か。

 

 

……スレ主、気をつけろよ。

原作じゃあ……

 

54:スレ主

……はい。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「ふー」

溜め息を一つ、仮想の空気に落とし込む。

最も、ため息自体が仮想の物なのだが。

今からの攻略会議でするべきは1つ。

 

ベータテスターと新規プレイヤーとの融和。

 

俺は意を決し、トールバーナ噴水広場へと足を進めた。

着くと、さっそくキリトとアスナがイチャついていた(偏見)。

と、広場中央に青髪の青年が立つところだった。

「はーい!それじゃ、10分遅れだけど始めさせてもらいます!

みんなもうちょっと前へ……そこ、もう5歩こっちにこようか!」

そういった青年は、助走無しで噴水の縁に飛び乗った。

キリトも原作で言っていたが、かなりの高ステータスだ。

青年が振り向いた途端、周りの連中が小さくざわめいた。

まあ、無理もない。青年は、現実じゃ俳優じゃないかと思うレベルのイケメンだったからだ。

青髪をウェーブさせている青年は、顔に満面の笑みを浮かべ、言葉を続けた。

「知ってる人もいるだろうけど、一応自己紹介しておくな!

俺はディアベル!職業は気持ち的に【騎士】やってます!」

そう青年─────ディアベルが言うと、周りのプレイヤー────ディアベルの仲間だろう─────が「本当は勇者っていいてーんだろ!」などと囃し立てた。

この空気、嫌いじゃないわ!

「今日、俺たちのパーティーが20階につながる階段を発見した。───つまり、明日、遅くても明後日にはたどり着くってことだ。一層の────ボス部屋に!」

これには、周りのプレイヤーも大きくざわめいた。

「1ヶ月。ここまでかかったけど、俺たちは証明しなきゃならない。一層をクリアして、いつかこのゲームもクリア出来るってことを!」

饒舌に捲し上げるディアベルの発言には、非の打ち所がない。これは俺も、周りに合わせて拍手の1つ位しておくか──と思ったとき、

「ちょおまってんか!」

─────来た。

「こいつだけはせえへんと、仲間ごっこはできへんな。」

唐突に出てきたプレイヤーにも、ディアベルは嫌な顔一つ見せない。

「こいつってのはなにかな?ともかく、発言は大歓迎さ。その前に、名前だけは名乗って貰えるかな。」

「ハン」

唐突に出てきたトゲトゲ頭のプレイヤーは、中々に強気な名を名乗った。

「ワイはキバオウってもんや。」

キバオウ。

ソードアートオンライン攻略において、いい意味でも悪い意味でも重要な役割を果たした男だ。

「こんなかに数人、詫び入れんなあかんやつがおるはずや。」

その瞬間、会議場の空気がこごえた。皆察したのだ。こいつとはなにか。

「キバオウさん、あなたの言う奴とは、元ベータテスターのことかい。」

「当たり前やろ」

さも当然と肯定したキバオウは、言葉を続ける。

「たった1ヶ月で二千人も死んだわ。しかもただの二千ちゃうで、他のMMOじゃベテラン張っとったやつらや!あのアホテスターどもが見捨てたせいでこうなったんや!」

それを聞いた瞬間、俺の中で何かが切れた。

「おい」

気付けば、俺は立ち上がっていた。

「あ?なんや!てか誰や!」

「俺はラルトだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、ベータテスターが面倒を見ず、大勢の新規プレイヤーが死んだ、それを償って謝罪、弁償しろ、という事か?」

「そうや!なんや、あんたもテスターなんか!?」

「そうだよ」

「…………は?」

「あんたの言うベータテスター、そいつは俺だよ。」

 

 

 

─────────空気が凍った。

 

 

 

「おい、ラルト、死ぬ気か?」

キリトが何か言っているようだが、そんなものは気にならない。」

「ほうか、ならおまえは全財産を差し出す覚悟が「待った」ディアベルはん?」

「ラルト君といったね……君、もしかしてはじまりの街で…」

おっと、その話がここで出るか。

「ああ。その時の奴だ。」

「そうか…」

「なんや!はじまりの街って!」

「キバオウさん、あなたも聞いたことはあるはずだ。1週間ほど前、はじまりの街が消えたことを。」

「あるで、それが何なんや!」

「それを解決したのが彼だ。」

「……は?」

しゃーない、詳しく言ってやるか。

「ディアベルの言った通りだ。あの時、原因を引き起こしたmob…かどうかも怪しいやつを倒したのは俺だ。」

「…………それがなんや!ベータテスターであることには変わりないやろ!」

………ここまでくると執念だな……

「発言、いいか」

ふと、深いバリトンの声が響いた。

「俺の名前はエギルだ。ラルトって言ったな、付けたししてもいいか?」

「ああ、構わないけど。」

「悪いな。───キバオウさん、あんたが思うベータテスターは、利己的な独善者集団ってとこか?」

「そっ、そうや!あいつらは大勢のプレイヤーを見捨てて「だが、そんな奴らばかりじゃないらしいぞ?」な、なんやて?」

「この攻略本、あんたももらっただろ。」

エギルが取り出したのは、薄い一冊の本……というかパンフレットだった。

それは、先ほど会った情報屋、《鼠のアルゴ》が発行している攻略情報が書かれた本である。

───だが……

「む、無料配布だと?」

キリトさん、あなたは500コルで買ったんですね。ご愁傷様です。

「キリト、すまんな。俺も無料でもらったw」

「アアアアアアアッ!」

…………これだけで飯3杯はいけるな。

「この攻略本は、俺が新しい街につくと必ずおいてあった。情報が速すぎるとは思わなかったのか?」

「は、早かったらなんやっていうんや!」

「この情報を流したのは、元ベータテスター以外にはありえないってことだ。」

「な…………」

「エギル……」

「それに、もしベータテスターが自分のことしか考えてなかったら、そこのラルトってやつも、はじまりの街で自分だけ逃げたと思うぜ。」

「発言は以上だ。」

「く……」

キバオウも、さすがに言い返せないみたいだな。

「キバオウさん、あなたの言ってることも理解はできるよ。俺だって、右も左もわからないフィールドを、剣一本で駆け抜けてきたんだからさ。でも、ラルトくんのように、ベータテスターがみんながみんな、あなたが思っているような人じゃないってことだ。それに、元ベータテスターだからこそ、その戦力はボス戦で有効なものなんだ。」

「……わーったわ。この場はあんさんに従っといたる。でも、この後ではっきりさせてもらうで。」

一先ず、ベータテスター断罪すべしという空気が収まってきたことに、そっとため息をつく。キリトも同様だろう。

そんなことを考えている間にも、会議は進み、終わりへと近づいてゆく。

しかし、この会議ではもう一つ、話さなくてはならない重要なことがある。

「ちょっといいか?」

「お、ラルト君か。どうしたんだ?」

「この場を借りて、話しておきたいことがあるんだが、いいか?」

「ああ、俺は構わないが……」

周りの面子もうなずいている。

……よし。

「話し合いたいのは、はじまりの街で起きたことについてだ。」

口をはさんでくる者は……いない。

「あれを引き起こしたのは、メギドと呼ばれる本の魔物だ。」

「本の魔物……?」

周囲から、少し疑問の残る声が残る。

それも当然だろう。いきなり現実味の無い話を聞かされたのだから。

─────最も、ここは現実ではないが。

「ラルト君、詳しく聞かせてもらえるかい?」

「ああ。奴ら和は、───この世界のNPCとも、mobとも違う、外部からの侵入者の可能性がある。」

 

 

 

世界が、静寂に包まれた。

 

 

 

「幾つか、聞いてもいいかな?」

「どうぞ」

「まず、どうして侵入者と思ったのかについて。」

「ああ。まず、あいつ等にはカラーカーソルがなかった。

つぎに、この世界『も』と、他の世界があるようないい口をした。以上が理由だ。」

「そうか……」

「それから、俺がそいつを倒した時に使ったのが、これ。」

そういって、メニューウィンドウを操作する。

 

【聖剣 ソードライバー】

 

「え?」

まあ、そういう反応だよね。

実際saoじゃあ音が出る剣とかないし。

あのキバオウですら口開けてるよ。

「それから、こいつ。」

そういって、ブレイブドラゴンを取り出す。

「こいつと、このベルトを使って、仮面ライダーセイバーってのに変身できる。

で、それを使った攻撃でだけ、メギドに攻撃が通る。」

「そうなのか……それの入手方法は?」

「炎の剣士ってスキル習得でできる……けど、そのスキル、もしかしたら一人しか習得できないかも。」

「……ということは、君しかメギドを倒せない?」

「いや、もしかしたら炎の剣士以外にも、その手のスキルが存在するかも。」

「なるほど…」

考え込んでるな……

「よし、当分の間は、メギド相手はラルト君にお願いしてもらおうか。」

「ああ。それと、聖剣─────このベルトに収まってる剣とかのジャンルなんだけど────それ以外でメギドを斬っても、弾かれるだけだから、逃げに集中してほしい。」

「ああ。みんな!この案件に関しては、ラルト君に任せようと思う!それと、異変が起きたらすぐに知らせること!──ラルト君、ネームのスペルを訊いても?」

「ああ。『R A R U T O』だ。」

「よし。みんな!異変が起きたら、すぐに知らせるんだ!」

その一言で、第一回攻略会議は終わった。

 

◆◆◆◆

 

55:スレ主

これで、第一回目は終わりました。

 

56:名無し

オツカーレ

 

57:名無し

お疲れ~

 

58:鬼殺隊の柱

原作だと、第二回の会議で、ボス部屋到達だったか?

 

59:スレ主

はい。その時に、ボスの武器がベータと違うことを指摘しようと思います。

ディアベルの生存が、今後に関わってくると思うので。

 

60:名無し

じゃあ、一先ずはお開きかな。

 

61:スレ主

そうですね。お疲れ様でした。




えー、前書きでも触れましたが、3週間ほど遅れてしまいました。
これからは、さすがに一週間に一回は投稿したいと思います。
では次回予告を。

次回、セイバーアート・オンライン。
「ボスについての情報が判明した!」
「あんたもアブれたのか」
「俺からいう事はただ一つ……勝とうぜ!」
第4節
開かれる、地獄の門(ボス部屋)


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開かれし、地獄の門(ボス部屋)

第四話でございます。

攻略会議その二とボス戦です。

かなり長くなりました…

今回もオリジナル展開マシマシでお届けします!

それでは、本編をどうぞ!


ここは、アインクラッド第一層、トールバーナから少し外れた森。

ここで、一人の青年がモンスター相手に剣を振っていた。

 

「ぜあぁぁぁっ!」

 

彼の振るう『火炎剣烈火』が、ハリネズミ型モンスター、『リトルヘッジホッグ』を切り刻む。

 

「ギィィィ!」

 

リトルヘッジホッグも、負けじと幾つもの針を飛ばすが、青年はそれをなんなく回避し、火炎剣烈火を頭上に掲げ、一瞬溜めた。次の瞬間、火炎剣がキィィィンといったSEとともに青く輝き、これ迄の数倍にもなる速度で切りかかった。

 

「はぁぁぁっ!」

「ギッ!」

 

発動した、片手剣垂直単発技、『バーチカル』に切り裂かれたリトルヘッジホッグは、数センチノックバックし、そこで不自然に静止したかと思うと、青い硝子片となって崩れ落ちた。

 

青年は、表示された獲得アイテム、経験値のウィンドウを覗き込むと、アイテム取得欄に、あるアイテムが表示されていた。

 

そのアイテムの名は──────『ニードルヘッジホッグワンダーライドブック』。

 

「よっしゃぁあ!」

 

◆◆◆◆

 

62:スレ主

新しいライドブックゲットしました!

 

63:鬼殺隊の柱

お、何が落ちたんだ?

 

64:名無し

スレ主、折角だから画像で見せてよ。

 

65:スレ主

そうですね。じゃあ…

ほい!

[画像]

 

66:名無し

おお!ニードルヘッジホッグ!

 

67:名無し

赤いライドブックは取らなかったんだな。

 

68:スレ主

はい。相性がいいやつだと、負担も大きいので。

 

69:名無し

そっかー、それもそうだね…って、その設定も反映されてるの?そこ仮想世界でしょ?

 

70:平成の化身

いや、あり得ることだぞ。第一、その世界には『疲労パラメーター』がある。

 

71:スレ主

はい。リファレンスマニュアルにも、そう書いてありました。

 

72:名無し

そうかぁ…てか、今は何時なの?

 

73:スレ主

今は攻略会議後の夜ですね。

 

75:名無し

そうか。

じゃあ、スレ主はもう寝るの?

 

75:スレ主

はい、明日も会議なので。

では、お休みなさい。

 

76:名無し

お休み~

 

 

◆◆◆◆

 

 

頭に流れ込む、音の濁流で目が覚めた。

自分にしか聞こえない、起床アラームだ。

時刻は、午前7時。

今から、迷宮区に向かい、攻略を開始する。

といっても、攻略集団────アルゴ風に言えばフロントランナー────の大多数はまだ寝ている。

俺がこんな時間に起きる理由は1つ。

 

新しいライドブックを入手するため。

 

そんなこんなで、俺は今の拠点である宿屋から退室し、すぐそばのレストランに向かった。

席についてNPCウェイターを呼び、黒パン、オニオンスープ、サラダのセットを注文する。

それもほんの数秒で届き、早速朝食を開始する。

そうこうしてい居るうちに、見覚えのある顔が顔をだす。

キリトだ。彼も朝食の前なのだろう。席を探しているようなので、手招きで呼び寄せる。

「よう、キリト。飯か?」

「ああ。お前もか、ラルートス。」

「ブルータスみたいにいってんじゃねぇ」

軽口をたたきあいながら、キリトも俺と同じものを注文する。

「なあキリト、今日一緒に迷宮区いかね?」

「え……まあいいけど……どうして急に?」

「いや……最近ずっとソロだったしさ……もうレベルも事実上限界だし……」

「まあそれは俺も同じだしな……」

そう。もうSAOの正式サービスが開始してから1か月がたつが、その間で稼いだ経験値が積み重なり、一層のモンスターで得られる経験値ではもうEXPバーが全く動かないのだ。

「じゃあ、飯食ったら行くか。」

「そうだな。」

そうと決まれば話は早い。俺たちはハイペースで朝食を食べ終え、いそいそとレストランを後にした。

「あ、キリト、迷宮区の前にフィールドでちょっと寄り道していい?」

「ああ、いいけど、どこに行くんだ?」

「スキルの特訓!」

頭に?を浮かべているキリトは放っておいて、目当ての場所に向かう。

「ここは……?」

「ここに、目当てのmobが湧くんだけど……あ、いた」

そこにいたのは、青く透き通った羽、少し小柄な体、1層産の妖精型モンスター、『ウィングフェアリー』だ。経験値も多く、1層の経験値稼ぎ要因としては迷宮区を除いて最高クラスである。

「……おまえ、レベルは限界とか言ってなかったか……?」

「まあ確かにこいつは経験値なかなかもらえるけど、本題はそこじゃないのだよ。」

本題とはもちろん、WRB(ワンダーライドブック)である。ちょっと待っててとキリトに声を掛け、烈火を引き抜きながらmobへ足を向けた。

「ピュイ!」

ウィングフェアリーが特有の鳴き声を発し、こちらに気付く。

「ぜあぁっ!」

俺も負けじと声を上げ、烈火を振りかぶる。

「ピュピュ!」

mobが突進してくるが、それをステップで回避し、『バーチカル』で切り裂く。

俺は技後硬直を課せられるが、俺はウィングフェアリーの弱点である羽の付け根を切ったため、向こうも硬直している。

俺は技後硬直が解けると、すぐさま剣を引き戻し、先ほどよりも深く構えた。

俺の身体が、見えざる手によって加速され、フェアリーを垂直に切り裂いた。だが、そこでは止まらない。何かにぶつかったかのように剣が止まり、跳ね上がる。片手剣2連撃技、『バーチカル・アーク』。

合計三回、火炎剣に切り裂かれたフェアリーは、硬直し────爆散。

硬直から解けた俺は、キリトの元に駆け寄った。

「で、今の戦闘で手に入ったのが、これ。」

そういって、先ほどドロップした本───ピーターファンタジスタワンダーライドブックを見せる。

「へー、こうやって手に入れてんだ。」

「ああ。っと、悪いな。迷宮区行くか。」

「ああ。」

うなずき、俺たちは迷宮区へと向かった。

 

◆◆◆◆

 

「ふぃー、結構稼いだな、キリト。」

「ああ。今日は黒パン3つぐらいいけるかもな」

俺たちは、狩りを終えて帰路についていた。

しかし、時刻はまだ午後四時。攻略を終えるには早い。

そんな時間に帰っている理由はただ一つ。

ボス部屋が見つかったのである。

ということで、たった今から第二回攻略会議が開始されるので、急いでトールバーナへと帰っているわけである。

「なあ、キリト。今回のボス戦どうなると思う?」

「どうなるって……、そりゃあ、厳しい戦いになるとは思うけど……」

「ああ。ただ、問題が一つある。」

「何だ?」

「ベータとの変更点。」

「!!……失念していたな……でも、どうする?」

「……攻略会議の場で、俺が発言する。」

「……頼んだ。」

キリトも、俺にだけやらせたくはないだろうが、この場は元ベータテスターだと判っている俺が言った方がいい。

 

 

◆◆◆◆

 

俺たちが広場に着いた時には、もう大多数のプレイヤーが集まっており、すぐに会議が始まった。

大胆なことに、ディアベル御一行はその場でボスの顔を拝んできたらしい。

ボスの名は、『イルファング・ザ・コボルドロード』。武装は斧とバックラー。

俺は、本戦前に偵察戦を何度かするものと思っていたが、それをなくすモノが発見された。

〈アルゴの攻略本・1層ボス編〉が販売されていたのである。値段は最初から0コル。これはということで一旦会議を中断し、全員が本を買って───というか貰って───、中身を熟読した。中には、ボスの名前から行動パターン、取り巻きの湧く数とタイミングなど、あらゆることが網羅されていた。

そして、ボスのHPが残り1段になると、武器を湾刀(タルワール)に変えることも。

「みんな、今はこの情報に沿って、作戦を組もう!」

ディアベルの発言に、ベータテスターからの情報を信頼しない要素がなくて、安心したのもつかの間───

「じゃあ、みんなレイドを組もう!知り合いや、周りの人とパーティーを組んでみてくれ!」

───爆弾が投下された。

そんなみんなすぐには組めんだろ、などとタカをくくっていたが、

 

 

 

なんということでしょう。みんなが6人パーティーを組んでいるではありませんか。

これはおれがボッチルート……では、なかった。

「お前らもアブれたのか。」

「ああ。」

「あぶれてないわよ。周りがお仲間同士みたいだから、遠慮しただけ。」

キリアスもアブれてるか……

「なら、二人とも俺と組まないか。レイドパーティーは8パーティーまでだから、そうしないと入れなくなる。」

「俺はいいぞ。」

「……あなたから申請するなら、いいわ。」

おー、ツンツンしてんねぇ

一先ず、二人にパーティー招待を送り、視界の左上に新たなHPバーが表示された。

一つは『kirito』。

もう一つは『asuna』。

「あんたは、……アスナでいいのか?」

そう聞いた瞬間、アスナの肩がピクリと震え、こちらを睨んできた。

「……何で知ってるの」

「え」

「は⁉」

ああ、やっぱりそうか……

「キリト、頼んだ。」

「おっ、おう。───なあ、視界の左上あたりに、追加でHPバーみえてないか?」

「え……」

そう聞いたアスナが、顔ごと左に目を向けるので、キリトが指を添える。

「顔を動かしたら、目線も動いちゃうよ。目だけを動かすんだ。」

「こ、こう?」

はしばみ色の目が、ぎこちなく動き、2つの文字列をとらえた。

「キ、リ、ト。それと……ラ、ル、ト……それがあなたたちの名前?」

「ああ。俺がラルトで、こっちがキリト。よろしく。」

「よ、よろしく……っ!?」

あ。

「ん?」

キリトは気づいてないか……

「キリトさん、手、手!」

「え……おわ⁉」

うん。その体制で手を添えてたらね、その~何かの予備動作みたいだからね。

そんないちゃつきをしてる間に、向こうの整理もついたようだ。

結果として、重装備のA隊、エギル率いるB隊、ディアベル率いるC隊等あってからの……

 

 

アブれ3人衆である。

「うーん……」

ディアベルは、考え込むようなしぐさを見せた後、爽やかな笑顔でこう言った。

「君たちは、雑魚コボのつぶし残しが出ないように、E隊のサポートをお願いしてもいいかな。」

要約するとボス戦の邪魔にならないように後ろでおとなしくしてくれというようにも聞こえたが、アスナが1歩前に出かけたので、かぶるようにキリトが答える。

「分かった。大切な役目だな。任せてくれ。」

「ああ。」

「……どこが重要な役目よ。ボスに一回も攻撃できないで終わっちゃうじゃないの。」

「まあ、仕方ないだろ。」

「ああ。3人じゃな……POTローテでスイッチするにも時間が微妙だ。」

「…ポット?スイッチ?」

これを聞いて、改めて思う。

やはりアスナは、何も知らない初心者の状態でここまで来たのだ。

一本の剣と、一つ覚えた剣技だけを頼りに……

「後で、全部説明する。立ち話じゃ終わりそうにないから。」

キリトが言った。かなりの確率で必要ないという気がしていたが、帰ってきたのは

「……わかった」

という小声の返事だった。

そうこうしているうちにも会議は終わりへと近づいていく。

このままだと会議が終わりかねないので、タイミングを見計らって乱入する。

「ちょっといいか?」

「お、ラルト君か。どうした?」

「ひとつ確認したいことがある。今参考にしている攻略本だが、それはあくまでもベータの時の話だ。現行版では変更されている可能性がある。」

「そうか……確かにそうだ。ベータの時の情報で突っ込んで、そのまま行けば……」

「ああ。だから、その情報はあくまで可能性の一部として考えた方がいいと思う。」

「そうなるとラルト君、君は他にどんな可能性を考える?」

「俺なら…そうだな、モンスター限定スキル、刀を可能性の一つに入れるかな。」

「そうか…しかし、それだとスキルがわからないな…」

「ああ。それなら、俺の記憶の範疇なら教えられるが…」

「そうか。よし、みんな!今からはカタナスキルの対策について考えよう!それから、他の可能性も考えてみよう!」

そうして、長い長い会議が始まった。

 

◆◆◆◆

 

77:スレ主

お…お疲れさまです…

 

78:名無し

おいどうした

 

79:スレ主

いやそれがですね、カタナスキル対策及び他の可能性考えよう会議がかなり長引きまして、2時間ほどかかったんですよ。

 

80:鬼殺隊の柱

そうか…って二時間!?

 

81:名無し

それは大変だったな…

 

82:スレ主

そんなこんなでいまは9時ですよ…もう狩りに行く気も起きないんで寝ます。

 

83:名無し

おう、おやすみ。

 

84:鬼殺隊の柱

おやすみ〜

 

84:フォートしないナイトさん

おやすみ。

 

◆◆◆◆

 

「ふー…」

朝の8時に目が覚めた。

もうあと2時間で、第一層のボス攻略が開始される。

この戦闘で、ディアベルが生存すれば歴史は大きく変わる。

なにせ、集団を指揮するのに最高の人材が生き残るのだ。

5層のギルドフラッグの件なども解消されるだろう。

そんなことを考えながら、支度を済ませ、フィールドに出た。

ボス戦前の、最後の熟練度上げだ。

何が何でもディアベルを生存させる。

今回は、カタナスキルの対策もしているため、生存確率はかなり上がっただろう。

…………ディアベルが無茶な特攻しなければ、だが。

そうこうしている間に、トールバーナの方から9時の鐘が鳴り響いた。

あと一時間で、いよいよ本戦だ。俺は決意を胸に、トールバーナへと足を進めた。

 

◆◆◆◆

 

此処は、トールバーナ噴水広場。ここで、最後の確認が行われていた。

「ラルト、ちょっといいか」

キリトだ。

「ああ、いいけど。」

「ああ、悪いな。───今までのアニールブレードの買い取りの相手、キバオウだった。」

「はあ!?なんであいつが……いや、待って…なあ、最後の買い取りの値段、いくらだった?」

「ええっと…確か49800コルだったと思うけど…」

「うわ、そんなにか…だとしたら、今日のキバオウは変だよ。そんなに金があるのに、昨日の装備と何も変わってない。」

「え……本当だ…なんであいつは、5万ものコルを使わなかったんだ?」

それに答えようとしたとき、向こうから声が響いた。

「みんな!いきなりだけど…ありがとう!たった今、レイドパーティー45人が一人もかけずに集まった!」

続いて、滝のような拍手。やむなく会話を中断し、手を叩く。キリトも同様だ。

「実を言うと、今回、一人でも欠けたら中止しようと思ってた。でも…それ、みんなへの冒涜だったな!

嬉しいよ、こんな最高のメンバーでレイドが組めて!」

そういうディアベルに、ちょっと盛り上げ過ぎじゃないの、との感想を抱いたキリトの気持ちも理解はできる。

だが、ストッパー的役割のエギル組がいるため、彼らがなんとかしてくれるだろう。

「みんな!俺から言うことはただ一つだ!」

気がつくと、ディアベルが締めに入っていた。

「────勝とうぜ!」

続いた咆哮は、1ヶ月前のはじまりの街で響いた悲鳴と、どこか似ていた。

 

◆◆◆◆

 

85:スレ主

というわけでボス部屋に向かってます。

 

86:名無し

そうか。

 

87:鬼殺隊の柱

しっかし、この世界線でディアベルが生存すれば、かなり歴史が変わるな。

 

87:名無し

そうだね〜ディアベルがいなかったから、攻略集団が二分されたんだもんな。

 

88;スレ主

はい、いざとなったら、変身してでも殺りに行きますよ。

 

89:フォートしないナイトさん

でも、実際問題ディアベルがスキルわかってるからって突っ込まない?

 

90:名無し

いや〜大丈夫じゃない?他のメンバーも居るし。

 

91:スレ主

まあ…ひとまずはその場の状況に応じてやっていきます。

っと、ボス部屋前についたので一旦抜けます。

 

92:名無し

お、がんばれー

 

93:名無し

がんば〜

 

◆◆◆◆

 

とうとう、決戦の間だ。此処は安全地帯ではないため、さすがのディアベルも「勝とうぜ!」をするわけには行かない。

短く、一言だけを口にした。

「行くぞ!」

 

◆◆◆◆

 

広い。

ベータの時にも見たはずだが、その記憶が少し薄れているのもあって、イメージより広く感じる。

────この広さが、曲者なのだ。

ボス戦が始まっても、扉はしまったりしない。だが、撤退できるからと言って、それが簡単とは言えない。

出口まではかなりの距離があるため、その間に止めを刺されることもある。

 

気がつくと、もう数々の松明(光源)点灯(ジェネレート)され、部屋の全体像をあらわにする。

そして、最奥に居座る、影の招待が明らかになった。

赤い肌の、亜人(デミヒューマン)

この第一層の主。

『イルファング・ザ・コボルドロード』。

奴の持つ骨斧と、A隊先頭のプレイヤーが持つバックラーが、火花を散らしてぶつかる。

それをゴングとして、周囲からボスの取り巻き(ミニオン)、『ルインコボルド。センチネル』が姿を現す。

E隊、G隊、そしてアブれ組は、手近のコボルドに突っ込んでいき、A、B、Ⅽ、Ⅾ隊のプレイヤーが、イルファングへと駆け寄り───

 

第一回、ボス攻略戦が開始された。

 

◆◆◆◆

アスナside

 

強い。

二人の戦闘を見て、改めてそう思った。

黒髪の片手剣士キリトは、迷宮から失神したアスナを助け出した。

茶髪の片手剣士ラルトは、はじまりの街を怪物から救いだした。

その時点で、彼ら二人は相当な実力者であると予感していたのだが、そんなものでは片づけられないものだった。

何と言うか、次元が違うのだ。

キリトが敵モンスターの振るう斧を弾き、そこに的確な精度でラルトが攻撃する。

二段構えの攻撃で、アスナが入った時も、まだモンスターはのけ反ったままで、がら空きののどに『リニアー』を入れるのは簡単だった。

これがこの世界の戦いなら、私が今までしていたのは別のなにかだ。

そう思いながら、アスナは自ら「スイッチ!」と叫び、コボルドの前に飛び出していった。

 

◆◆◆◆

 

此処まで、死者ゼロ。重症者のおらず、この調子で行けば死者ゼロで行けるはずだ。

ディアベル、頼むから突っ込むなよ…そう思いながら、コボルドを相手していた時、ボスの方から声が上がった。

見ると、ボスのHPバーが残り1本になっていた。

ボスが、斧とバックラーを捨て、腰の武器を抜いた。

それが刀であったことに安堵の息をついたのもつかの間───

ボスは、ディアベルのみを狙いだした。

「……っ!」

それを理解した瞬間、俺は走り出していた。

「ラルト!?どこ行くんだ!?」

「ボスのとこ!ディアベルがやばい!」

俺は走りながら答えると、ソードライバーのベルト部分についている【必冊ホルダー】から青いライドブックを取り出し、烈火の剣先に当てた。

【ピーターファン! ふむふむ…】

そして、ディアベルに向かって、トリガーを引きながら烈火を振る。

【習得一閃!】

烈火の剣先から伸びた変幻自在のチェーン付きフック、キャプチャーフックが伸び、ディアベルの体に巻き付いた。

「ふっ!」

「おわっ!?」

ディアベル本人は驚いているが、これでディアベルをボスから引き離すことに成功する。

「おい、大丈夫か!?」

「ああ。…だが、ボスが」

見ると、残りのC隊メンバーがボスのソードスキル『旋車』(ツムジグルマ)に薙ぎ払われたところだった。

「いいから回復しろ!「しかし…」いいから!「…分かった。」」

ディアベルに回復POT(ポーション)を渡しておいて、俺はホルダーからブレイブドラゴンを取り出した。

【ブレイブドラゴン!】

ページを開き、再度閉じて、ソードライバーのスロットに装填する。

そして、待機音が流れているソードライバーのグリップを握り、一気に引き抜いた。

「ハアッ!」

【烈火抜刀!】

そして、仮面の剣士の象徴とも言える一言を叫んだ!

「変身!」

【ブレイブドラゴン〜!】

【烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!】

仮面ライダーセイバーに変身した俺は、火炎剣烈火を構え、ボスへと向かっていった。

剣同士を打ち合わせる。

───重い。

ただのモンスターにはない、剣の重さを感じる。

それに、気になったことがある。こいつは、まるで状況を理解しているようだった。

誰がリーダーなのか。どう動き、誰を倒すのが得策なのか。

まるで、本物の知能のように。

しかし、そんなことを考えていても仕方がない。

俺は、思考を戦闘、しかもメギドと戦った時と同等の物へとチェンジした。

俺の振るう烈火を、やつがその巨体に見合わない速度で避ける。

逆に、やつが振るう野太刀を、ギリギリのラインで避ける。

その間に、重症を負ったプレイヤーをキリトやアスナ、比較的無事なB隊を中心に救助していく。

そんな中、一つの疑念があった。

こいつは、プログラムに動かされるmobなのか。

こいつと戦闘していくほど、この疑念が大きくなっていく。

PVEではなく、PVPのような感じがする。

そう、このボスモンスターを、人間のような知性が操っているような……

 

 

 

 

 

そんなことを考えていたせいか。

俺は放った斬撃を回避され、カウンターのソードスキル、『浮舟』をモロに食らった。

HPは減っていない。しかし、変身解除へのカウントダウンが進んでいる予感がする。

衝撃で動けない俺を、ソードスキルで切り刻もうとしたそのとき───

「ウオオオオオオッ!」

野太い雄たけびとともに、緑の旋風が巻き起こった。両手斧用ソードスキル『ワールワインド』───

エギルだった。

「大丈夫か、仮面ライダー?」

「ああ。」

エギルはニヤッと笑うと、

「まだ行けるか?」

と聞いてきた。そう聞かれたら

「もちろん……!」

そう答えるしかないでしょ!

「はあああっ!」

俺は、烈火を構え直し、イルファングに向かっていった。

この状況では、生半可な攻撃は通用しない。

そこで、ホルダーから黄色いライドブックを取り出し、剣先に当てる。

【ヘッジホッグ! ふむふむ…】

「いけっ!」

トリガーを引き、剣を振るう。

【習得一閃!】

烈火から無数の黄色い針が飛び、イルファングに突き刺さる。

やつのHPが大幅に減少し、残り3割になる。

────此処で決める!

俺は烈火を納刀し、トリガーを引いた。

【必殺読破!】

続けざまに、もう一度トリガーを引く。

【ドラゴン! 一冊撃! ファイヤー!】

「火龍蹴撃破!はぁァァァっ!」

炎を宿した右足がボスを打ち据え、ボスの背後に出現したページ状のエネルギー体を突き進み、すべてのページを進んだ後───

アインクラッド第1層フロアボス、イルファング・ザ・コボルドロードはその身体をポリゴン片へと変え、そのHPを0にした。

長い、戦いが終わった───




今回は以上になります!
次回は戦後処理と、プログレッシブ1巻の幕間です!
それと更新頻度なのですが、自身が受験生の身であることも含め、1ヶ月に1〜2本が限界になると思われます。1週間に1回投稿を宣言したのにも関わらずすいません。
では、いつもの予告を、どうぞ!

次回、セイバーアート・オンライン。
「なんなんやったんやこのボスは!」
「この情報は売らないでゴザ…じゃない、売らないんだヨ!」
「おのれっ!貴様伊賀者かっ!」
第五節 明かされる、鼠の秘密。


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アインクラッド第二層攻略編
明かされる、鼠の秘密。


第五話です!

今回はかなり短めですが、なかなか重要な点がありますので〜

では、本編をどうぞ。


やっと終わった。今回は、成功と言っていいんじゃないか。

「皆、お疲れさま。」

ディアベルが言った。

「そして、──済まなかった!」

え!?

…ああ。

「でぃッ、ディアベルはん?」

「おれは、皆に黙っていることがある。俺は───元ベータテスター何だ。」

「え…」

「この際だから、言おうと思った。黙っていて、済まなかった。」

「ディアベルはん…なんで言ってくれんかったんや!」

「!」

ディアベルが震えた。

「ワイらは信用しとったわ!それは元ベータテスターやろうと変わらんわ!」

「そうっすよ。皆信じてるっすよ。」

いい仲間やん。

「ラルト。」

「どうした、キリト、」

「…俺も言ってこようと思う。」

「そうか。」

キリトも、言う気になったか。

「皆、俺からもいいか。」

「キリトくん、どうした?」

「ディアベル、お前、俺のこと、2ヶ月前から知ってたろ。」

「…ああ。」

「?どういうことや?」

「簡単だ。俺も、元ベータテスターなんだ。」

「!」

「小僧、あんたもか。ディアベルはんとあんたは話が別や。ひとまず「待って。」?」

アスナだ。

「彼は、私を助けてくれたの。あなたが思う悪人じゃないわ。」

「…」

どうだ〜…

「分かったわ。今回は信用したる。」

「ああ。みんな、キリトくんは信用に足る男なんだ。俺からも頼む。」

全員が、納得したようだ。

「よかった…ん?」

見ると、どこか不貞腐れている男が見えた。

あいつは…ジョーか。気にかけておこう。

「じゃあ、───二層、いくぞー!」

「「「「「「オー!」」」」」」

本当に、良かった。

 

 

 

 

故に、気付かなかった。

 

 

この裏で、大いなる悪意が蠢いていたことに。

 

 

 

 

 

 

「ありがたいですよ、『セイバー』。」

 

 

 

その男の手には、一冊の本があった。そのタイトルは───

 

 

 

【イルファング!】

 

 

 

◆◆◆◆

 

話をしよう。

唐突だが、俺は今アインクラッド第二層、主街区を出た岩山にいる。

理由は簡単だ。

1:アルゴが男に追われてる。

2:追いかける。

3:いまココ

ってことだ。

で、アルゴと問題のクズ男たちはこの下にいる。

「はやく、あの情報を売るでゴザル!」

「しつこいなア…いくら言われてもあの情報は売らないでゴザ…じゃない、売らないんだヨ!」

…そろそろ行くか。

思い切って身を躍らせ、アルゴと男の間に降りる。

「何だお前は!?」

オー驚いてんな〜

「らっ、ラー坊!?」

そっちもか。

「通りすがりの仮面ライダーだ。お前ら、死ぬ覚悟はできてんだろうな?」

「ひっ!」

え、そんな怖い、俺?

「ご、ゴザル!」

あ、逃げたよ、アイツラ。

「ふー、アルゴ、だいじょう」

そこで、おれの身体に、温かいものが回った。

「カッコつけ過ぎだヨ、ラー坊。」

アルゴさん!?なにしてんすか!?

「そんな事されるとオネーサン、情報屋のオキテ第一条を破っちゃいそうじゃないカ。」

やべえ思考がショートしそうだ!なにか答えんと!

「アルゴには、世話になってるからな。そのお礼だ。」

あぶねえ!なんとかいえた!

「じゃあ、オレっちもお礼するヨ。なんでも、好きな情報、ただで売るヨ。」

うえええええええええ!?

やば! 

 

 

 

やばくない?(語彙力ェ)

うーん、どうしようか…はっ!

「じゃあ、おヒゲの理由でも、いいか?」

どうだ〜

「…いいヨ。でも、ちょっとまっテ。ペイントを取るかラ…」

ゑ?マジ?

やった!

「…イイヨ。」

そう聞こえたので、アルゴの方を向く。

アルゴは、フードも外していた。

その姿を現すなら。

 

 

美少女。

 

 

 

「かわいい」

「エ!?」

「あ」

やっば

やっば

やらかした

どうしよ

 

 

 

いやまって、アルゴめっちゃ笑ってない?

すげーかわいいんだけど!

「じゃあ、ラー坊、ヒゲの理由、説明するヨ。」

それから言われたことをまとめると、次のようになる。

・2層の山に、クエストNPCがいる。

・そのクエストを受けると、エクストラスキル、体術が手に入る。

・その過程で、クリアまで消えないペイントが肌につく。

「つまり、アルゴはそのクエがクリアできないで、ベータはそのペイントをつけてプレイしたもんで、そういうキャラが付きまくったから、正式版でもそのペイントをつけてる、っていう認識でオッケー?」

「オッケーだヨ、ラー坊。」

へー。やっぱかわいいわ、アルゴ。

「じゃあ、そのクエストの情報もらっても、OK?」

返答は、無言で突き出た親指だった。

 

その後、俺は、1日ちょっとでクエをクリアした。

ちなみに、ついたペイントはアルゴ曰く

〈ラルえもん〉らしい。自分では見ていない。

ちなみに、クエスト中、アルゴも付き添っていた。かわいい。

 

◆◆◆◆

1:スレ主

って事があったんですよ。

最光発光してました。

 

2:名無し

おめでと。……けっ!リア充かよ!

 

3:名無し

まあまあ。

 

チッ

 

4:スレ主

おおアークアーク

俺は満足したんで寝ます。

 

5:鬼殺隊の柱

うい、おやすみ




今回はかなり短編でした。
着々とラルアルのフラグが立っていってます。
次回はかなり遠くなりそうです。
では、一応予告を。

次回、セイバーアート・オンライン。
「なんで剣が砕けたんだ!?」
「また異変か!」
「一人はきつい!仲間ほしい!」

第六節 消えた剣と、消えた街。
10月17日 21公開予定。


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消えた剣と、消えた街。

第6節です!

今回は久しぶりのメギド戦でございます!

それでは、どうぞ!


ここは、アインクラッド第二層主街区、ウルバスの街。

俺は今、此処に用事で訪れているのだが…

 

「ふざっ…ふざけんなよ!」

 

その目的地で、口論───いや、一方的な暴言が繰り広げられている、という状況だ。

話を聞くに、今怒鳴っている3本ヅノヘルメットを被ったプレイヤーが、そこで項垂れている鍛冶屋プレイヤーに強化を依頼して、最初で失敗して血が登って、そこからズルズルと強化を続けて大失敗、というわけらしい。

ぶっちゃけて言えば、あの鍛冶屋の熟練度は2層ではかなり高い。実際、この街のNPCより上だ。

あの三本ヅノくんも、一回失敗したら、一度強化素材を増やして再挑戦、などすればよかったのだ。

───まあ、今更何を言っても無意味だが。

どうやら、この話は新しいアニールブレードを取りに行くということで解決したようだ。

しかも、鍛冶屋がお詫びとしてその±0エンドしたアニールブレードを8000コルで買い取るというのだ。

普通、ゼロエンド───強化試行回数を使い切って強化値がゼロの武器───のアニールブレードならよくて4000というところなので、お詫びとしても破格の値段だ。

それを聞いた三本ヅノの返事は……言うまでもないだろう。

ふと辺りを見渡すと、キリトとアスナが見えたので、そこに駆け寄る。

「よっ!お二人さん!」

「おお、ラルトか。」

「こんにちは、ラルト君。」

やっぱ二人でいるんだな~

「二人は何しにウルバスに?」

「あ~、俺はあの鍛冶屋に強化を頼みに……」

「あ、私も同じ。」

「おお、実は俺もなんだよ。───でもなぁ~……あれを見た後だとなぁ~」

「ああ、ラルトもかぁ……俺もなんだよなあ……」

「コインの表と裏が出る確率は常に一緒よ。前の人が4連続で失敗したからって私たちには関係ないわ。」

うーんそうなんだけどな~……

「なあ、アスナ。」

キリトが言った。

「成功率80%より90%の方が好きだよな。」

「それは……そうだけど……」

あっ()

「成功率90%より95%の方が好きだよな。」

「そうだけど……」

キリト、どんまい。

「なら、完璧を目指した方がいいんじゃないか。」

「……いいわ。たしかに中途半端は嫌いだし。でも───自分から言っておいて、何もしない人の方がもっと嫌い。」

「え?」

あっ、ご愁傷様です。

「そんなに言うなら、あなたも私の強化素材集め、手伝ってよね。ちなみに、ウインドワスプの針のドロップ率は8%ですから。」

「ああ……」

「キリト、しゃーない。手伝ってやろう。」

「ああ……ラルトォ……やっぱ持つべきものはいい友だ!」

「え、俺らって友達なの?」

「え?」

「……冗談だ。」

やっぱこいつ女顔だよな。

 

◆◆◆◆

 

6:スレ主

ということでキリアスとウインドワスプ狩りに向かってます。

 

7:名無し

おー、まためんどくさいやつ引き受けたね。

 

8:鬼殺隊の柱

え、てか原作だとキリアスの2人だったけど、3人目のスレ主が加わってるからノルマ変わってんじゃない?

 

9:スレ主

はい。原作の匹数×1.5です。

 

10:名無し

ま、がんばれ~

 

11:スレ主

はーい行ってきまーす!

 

◆◆◆◆

 

現在、ウルバスにあるレストランに俺たちはいる。

そして───キリトはうなだれている。

理由は簡単だ。狩りを始める前、アスナが言ったのだ。

「狩った速度が2位の人が今日の晩御飯をおごって、3位の人がデザートをおごることにしない?」

と。

俺はその展開を知っていたので、普段以上の気迫をもって向かったのだが、キリトは違気付かなかったのだろう。

アスナがそんな提案をしたこと理由を。

そうだ、狩りの結果を言っておこう。

1位、おれ。

2位、アスナ。

3位───キリト。

俺が一位な理由はもちろん、ライドブックをフル使用したからである。

そこ!大人げないとか言わない!てか俺まだ学生!

具体的に言えば、大量に集めた鉢に対してヘッジホッグで一掃したらり、あいつ等の近くに湧いたのをピーターファンタジスタで引っ張ったり。(害悪とか言っちゃいけない)

そんなこんなで、俺は今日の飯とデザートを無料で食すという権利を獲得したわけである。

───でも、デザートは1ランクしたのにしとこう。

そんなことを考えたので、デザートは普通のチーズケーキにしておいた。

だが、アスナさんはそんなことを考えることもせず───というかそうするためにこの勝負を持ち掛けた───、容赦なくバカ高いデザート、『トレンブルショートケーキ』をおごってもらった。情報源はアルゴらしい。

注文を済ませると、ほんの数秒でパン、シチュー、サラダのセットが届いた。

システムとは凄いもので、俺たちが食べ終えた瞬間に、デザート二皿が届いた。

片や、チーズケーキ。片や、高級『トレンブルショートケーキ』。

じっさい、俺もトレンブルの方を食べたいという欲求はあったのだが、何とか意志力で抑え込んだ。

ちなみにキリトは、アスナのショートケーキを見ながら、

「こ……こんなの、全然ショートじゃないだろ……」

まあ、言わんとしてることも分からなくはない。

恐らく、外に塗っているクリームだけで1リットルは使っているんじゃないか。

「あら、ショートケーキのショートって、短いってわけじゃないのよ。」

「え、そうなの?じゃあなんで?大リーグの伝説的ショートが発明したから?」

え、つまんな(やめなさい)

「アメリカじゃ、ショートニングを使ってサクサクした(ショートな)食感を出したお菓子って意味みたいね。向こうじゃ記事にビスケットを使ってたかららしいんだけど、こっちじゃスポンジだしね。このケーキはどっちかな……」

そういって、フォーク(かなり大きめ)でケーキを切っていく。

「スポンジだね。やっぱり私はこっちの方が好き。」

いやー、さすが5本の指に入る美貌なだけはあるな。

───アルゴの方が可愛いけど!(なんだおまえ)

「俺は気にせず、どうぞ食べてくれ。」

なけなしの紳士(ジェントル)パラメータを発揮して、がんばってるキリト。

「ありがとう。じゃあ、遠慮なくいただきます。」

おお、アスナさん容赦ないっすな。

「……冗談よ。三分の一までなら、あなたも食べていいわ。」

「あ…ありがとう……」

おお、いちゃつくなあ。

そうして、今日の少し賑やかな晩餐は過ぎていった。

 

◆◆◆◆

 

「おいしかった……」

アスナの口から、そんな言葉がこぼれ出た。

それは、心からの本心だったのだろう。きっと、彼女がこの世界に来てからはじめて食べたデザートなのだから。もっとも、俺も、たぶんキリトも同じだが。

「なんか、ベータの時よりさらにうまくなってる気がしたな。」

「ああ、それは俺の方も思った。」

「それは気のせいなんじゃないの?ベータと正式版で、そんなに細かい調整をするものなの?」

そんな疑問に、キリトが真顔で反論する。

「味覚パラメータを調整するぐらいなら、大した手間じゃないと思うよ。それに、これはβの時には絶対なかった。」

そういって、キリトは左上を指さした。

「……どれ?」

「ああ。ラルトは食べてないから出てないのか。俺とアスナは、ここに四つ葉のクローバーのアイコンが出てるんだ。」

「あ~幸運バフ!」

「ああ。多分スタッフの慈悲でつけたんだろうな。」

「でも、さすがにそんな時間はないだろ。あって20分ぐらいだろ。」

「そうなんだよな~……でもなぁ~……せっかくのバフがもったいないなぁ~……」

うん、そりゃあそうなるよね。

「あっ」

「どしたキリト?」

「思いついた。バフの有効活用法。」

 

◆◆◆◆

 

ここは、ウルバス東広場。俺たちは、キリトのアイデアを実行すべく、この場所に来ている。

「さっきの狩りで、強化用の素材は集まってるよな?」

「ええ。少し余ったから、その分は売ってみんなで分けようと思ってたけど……」

「それはいいよ、それより、バフが切れる前に強化しよ。俺にはバフの効果時間見えないし。」

そう。今から、ホントは今日するはずだったアスナの愛剣、ウインドフルーレ+4の強化である。

キリト曰く、「剣の持ち主だし強化にも関係するんじゃね」との理論でするに至った。

ということで、かなりの駆け足であの鍛冶屋───ネズハの元へいき、強化を頼もうとしている、という状況だ。

ちなみに、ネズハの店の看板には、『Nezha`s simiss shop』と書いてある。

その間に、アスナが一歩ネズハの方へ踏み出した。

「あの、すいません」

すると、鍛冶屋の青年ネズハが上を向き、すぐに答えた。

「あ、いらっしゃいませ。購入ですか?それともメンテですか?」

「強化をお願いします。種類はアキュラシー、素材は持ち込みで。」

すると、ネズハは、なぜか困ったように眉をさげ、一層小さい声で答えた。

「はい……素材の数は、どれぐらい……」

そうして、少しの会話の後、アスナの剣が手渡された。

ネズハは素材を炉へ流し込む。すぐに炉が青く光り、アスナのウインドフルーレが炉の中に入れられる。

十分に光が剣に移ったところで、ネズハは金床へと移し、スミスハンマーでたたき始めた。

そして、十回目になった時、ウインドフルーレが眩く輝き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数のポリゴン片へと、その姿を変えた。

 

全員、黙ることしかできなかった。

キリトが、喘ぐようにつぶやいた。

「何で、剣が砕けたんだ……」

次に動いたのは、当事者であるネズハだった。

「す……すいません!すいません!お代は全額お返ししますので、本当にすみません!」

だが、アスナは動かない。かわって、俺が口を動かした。

「いや、その……待ってくれ。」

ネズハが、こちらを見た。

「俺、ベータテスト出身なんだけど、あの時のマニュアルの載ってたペナルティは、強化値不変動、強化種類変化、強化値ダウンの三種類だったよ。武器破壊はなかったはずだ。」

「あの……正式サービスで、4つめのペナルティが追加されたのかもしれません。前にも一回だけ、同じことがあったんです……」

そういわれたら、この場では引き下がるしかない。

「あの、返品したいのはやまやまなんですが、生憎ウインドフルーレは在庫してなくて……ランクは下がっちゃうんですけど、アイアンレイピアをお持ちになりますか……?」

これに関しては、俺やキリトではなくアスナが決めることだが……

横を向くと、アスナが首を横に振るのが見えた。

「いや……いいよ。こっちで何とかできると思う。」

キリトが、代理で答えた。

実際、アイアンレイピアは1層でも売っている武器で、二層で使うには心もとないだろう。

「では……せめて手数料の返金を……」

「いやいいよ。あんたは一生懸命ハンマー振ってくれたんだしさ。プレイヤー鍛冶屋の中には回数振れば同じだろってガンガンするやつもいるしさ。」

そのキリトの言葉を聞いた瞬間、ネズハは申し訳なさそうに下を向いた。

ふと横を向くと、アスナがキリトの手をぎゅっと握っていた。

 

◆◆◆◆

 

今、俺は先ほどのレストランにいる。

理由は簡単、あの時刻まで時間をつぶすまでだ。

今回起きた武器破壊、原作を知っているなら早急にやめさせようとするだろう。

しかし、もしあそこでやめさせてしまうと、今回のボス戦でかなりの不都合が起きるため、できるだけ原作に近い状況で、かつ早急に解決する必要があるという、なかなかに鬼畜な状況という。

そうこうしているうちに、原作で成功した時刻───8:30になったので、キリトとアスナがいるであろう宿屋へと向かう。

カウンターのNPCにアスナというプレイヤーのいる部屋を聞き、───もちろん答えてもらえず───どうしようと思っていたら、ちょうどキリトと鉢合わせ、ついていけるぜやっほぉ!と思いつつ付いていき、部屋の中にいたアスナによっ、と手刀をつけつつ挨拶をしてから、俺はことのいきさつを聞いた。

まあ、原作でも聞いていたが確認のためにもう一度聞く、という訳だ。

大まかなとこを抜粋すると、キリトが鍛冶屋ネズハを尾行したら、酒場にいる謎の5人組と会っていて、その会話で詐欺の存在に気づき、そこからダッシュでアスナの部屋に行って〈全アイテムオブジェクト化〉のコマンドで戻ってきたらしい。

何か全アイテムオブジェクト化の時の状況説明でキリトがアスナに蹴られていたが。

そんなこんなで、詐欺の調査は明日にしようということで、今日は寝ることとなった。

「じゃあ、キリト君、ラルト君、お休み。」

「うい、お休み……」

「お休み。また明日な。」

そうして、この日は終わっていった。

 

◆◆◆◆

 

今日は、朝からよく晴れた。(といっても、この城では外周からしか太陽は見えないが)

本当ならば、今日から詐欺事件の調査に時間を当てたいところだが、今日は攻略組総出で、フィールドボス『ブルバス・バウ』攻略戦が行われるため、そちらの方に時間を割かなければならない。

そう思いながら、宿屋を出たとき───

 

世界が震えた。

 

衝撃にふと上を仰ぐと、巨大な白い本が見えた。

 

「っ!」

 

気が付くと、

俺は走り出していた。

 

ディアベルら攻略組がいるであろう、中央広場に向かって。

 

着くと、そこには複数の人影があった。

ディアベルら攻略組と、本の意匠がある怪物。それも二体。

「ラルト君!この奴らがまさか……」

「ああ!そいつらがメギドだ!」

ディアベルの問いに、大声で答える。

「おや、新たな獲物……しかも我々のことを知っている……貴様、さては剣士だな?」

「ああ、───お前ら、アリメギドとキリギリスメギドだろ。」

「いかにも。」

黄緑のメギド───キリギリスメギドが俺の問いに答える。黒い方───アリメギドは黙ったままだ。

「みんな、一先ずこのゲートで逃げてくれ。」

そういいながら、火炎剣烈火でゲートを開く。

「ああ、……だが、ラルト君は」

「あいつらを倒す。」

即答し、ブレイブドラゴンのブックを取り出す。

「わかった。でも無理はしないように。」

「わかってる。」

集団の中に、キリトとアスナを見つけ、彼らに向かって微笑しておく。

それで少し安心したのか、頷きかえし、ゲートに走っていく。

「じゃ、フィールドも整ったことだし……」

メギド二人を見つめ───

「戦闘開始と行こうぜ!」

そういって、ブレイブドラゴンのぺージを開く。

【ブレイブドラゴン!】

ページを閉じ、ソードライバーにセットする。

そして、待機音が流れて言う間に、烈火を思い切り引き抜いた!

【ブレイブドラゴン~!】

【烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!】

「……いくぜ!」

「キェァァァ!」

「……ッ!」

戦いの火蓋が、切って落とされた。

俺の振るう烈火から放たれる炎を、奴らは確実に避けていく。

そして、アリの口から、緑色の液体が迸っているのを見た瞬間、俺は回避行動をとった。

アリの口から、緑の腐食液が発射され、命中した建物の壁を少し溶かした。

「やっぱおかしいだろその液!」

そう叫びながら、アリに向かって烈火で攻撃する。だが、それをキリギリスが身を挺して防ぐ。

「おっと、アリには手出しはさせないぞ!」

「仲がよろしいことで!」

そう軽口の応酬をしながら、腕は止めない。キリギリスの方も、腕についている鎌のようなものを駆使して立ち回ってくる。

それに、アリの方に攻撃を入れようとすると、キリギリスが防衛してくる。

つまり……

「おまえ、アリを守ってるだろ。」

「っ! ……それがどうしたというのだ。どちらにせよ、貴様が我らに敗北するのは決まっていること!」

「それはどうかな!」

とは言ったものの、実際はかなり厳しい。

相手がキリギリス一人なら何とかなるだろうが、アリの腐食液にも気をかけていなければいけず、その液を撃ってくる奴には攻撃できないということで、想像以上にきつい。

……一人きつい!仲間ほしい!

「おらっ!」

精一杯の威勢を込め、烈火を振るうが、キリギリスの鎌で的確に弾かれ───

「キェェァァァ!」

奴が振るう鎌に、胸部が切り刻まれた。

「ぐっ……」

よろめくが、何とか体制を整えようとしたのだが。

「ぺッ!」

アリ野郎が吐いてきた腐食液で、俺の装甲に更なるダメージが加わる。

「うっ……」

やっぱり、1人じゃ厳しいか……

でも仲間はいても変身できる奴いないし……

しゃーない!使うか、2冊目!

そう決意し、俺はもう二冊目───ニードルヘッジホッグを取り出し、ページを開いた。

【ニードルヘッジホッグ!】

【この弱肉強食の大自然で幾戦もの針を纏い生き抜く獣がいる】

ページを閉じ、ソードライバーの中央のスロット、動物枠にセットする。

「ギギッ!貴様、まだ本を持っているのか!?」

それには答えず、烈火を引き抜く。

「ハアッ!」

【烈火抜刀!】

「フッ、ハアッ!」

烈火を振るい、変身時と同じように十字を描く。

【二冊の本が重なる時、聖なる剣に力が宿る!】

【ワンダーライダー!】

【ドラゴン!】【ヘッジホッグ!】

神獣、『ブレイブドラゴン』と生物『ニードルヘッジホッグ』の力を宿したセイバーの亜種形態、ドラゴンヘッジホッグ。本来の相性が良い二冊とは別だが、1冊よりも強大な力を発揮できる。

「まずはこれだ!」

そういって、俺はニードルヘッジホッグのページを押し込む。

【ニードルヘッジホッグ!】

そうした後、俺は烈火を振るう。

するとそこから数多もの針が発射され、キリギリスの身体に命中する。

「ギギッ!?」

そして、キリギリスが止まっている隙に、アリメギドにダッシュで詰める。

そして、烈火を一閃。

「ッ!」

アリが悶えるが、容赦なく連撃を叩き込んでいき、続いてブレイブドラゴンを押し込んだ。

【ブレイブドラゴン!】

「ドラゴン・ワンダー!」

叫び、右腕から赤いドラゴンを射出する。

「ッ!?」

ドラゴンの体当たりを諸に食らったアリメギドが、地に膝をつく。

「いまだ!」

そう叫び、烈火をソードライバーではなく、横の必冊ホルダーに納刀し、トリガーを引く。

【烈火居合!】

原作なら、セイバーが必冊ホルダーで必殺を放ったことはない。

だが、設定上はセイバーも使うことは可能だ。

居合斬りの構えを取りつつ、俺は叫んだ。

「火炎・火龍一閃!」

【読後一閃!】

ホルダーから烈火を思い切り引き抜きながら、俺は地を蹴った。

そして、たった一瞬の合間に俺の身体は10メートル余りを駆け、その進行方向にあったアリメギドの身体を斬り、さらに10メートルを通り抜けた。

「……!」

奴は悲鳴も上げることなく、爆散し、体をポリゴンへと変えた。

「な、アリを倒しただと!?」

奴は驚いたが、すぐに余裕を取り戻し、

「だが、我を倒さなければ異変は終わらぬ!」

そう。こいつらが共同で戦っているため、両方を倒さなければ異変は終わらない。

「それに……アリは一人ではないぞ?」

その声とともに、さらに多数のアリメギドが表れ、俺は激しく動揺した。

そうだ、原作でもアリは大量に出現していたんだった。

その後悔を表す間もなく、俺は剣を構えた。

はっきり言って、状況は最悪だ。1対10は居るんじゃないか。

 

 

───でも。

俺が闘わないと、町が消える。

その決意を胸に、剣を構えた──────のだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その戦い、手伝わせてもらってもいいですか。」

 

 

 

不意に、声が響いた。

メギドの声ではない、若い青年の……

声のした方を向くと、声の印象通りの青年が立っていた。

カーソルの色は……緑!?

「おい、何言ってんだ!早く逃げろ!」

そういったものの、

「大丈夫です。なぜなら僕も──────」

そういってウインドウを操作した彼の腰には……

 

 

「仮面ライダーですから。」

青い鍔の剣(水勢剣流水)が巻かれていた。




今回はここまでです!

とうとう出てきた水の聖剣……

次回は彼について明かされます。

そして、ご報告がございます。
私は、今投稿を持って年度内の活動を休止することとなりました。
理由としては、受験などの私生活が忙しくなるためです。
読んでくださる皆様には申し訳ございませんが、どうか4月まで待っていただけると嬉しいです。

では、四月投稿予定の話の予告をどうぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「君も剣士なのか!?」
「頼りにしてますよ、先輩。」
「水勢剣流水に誓う。僕が必ず、世界を守る。」

第七節、「新たな剣士、水とともに。」
四月、公開予定。


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新たな剣士、水とともに。

皆さま…



お久しぶりです。
第r「火炎十字斬!」イヤァァァァ!

「オイバカ投稿者、主人公として質問だ、お前いつ投稿するって言った」

…4月

「それが終わりそうなんだが?」

学校に慣れようとしてました

「本当は?」


スマホ買えたからプロセカばっかしてた

「爆炎紅蓮斬!」


お前それまだ使えな…アッーーーーー!




詳しくは後書きで。本編どうぞ…




結構難産だったんですユルシテ…


「か…仮面ライダー⁉︎君も剣士なのか!?」

唐突に現れた青年の腰に巻かれているベルト。

あれは間違いなく、俺が付けているのと同型のソードライバー。

そして、収められている聖剣は…

「君…水の剣士なのか!?」

「ええ。ひとまず、話はあとです。まずはこいつらを」

「あ、ああ」

その声に、俺はひとまず戦闘に集中し直す事にし、メギドたちに向き直る。

「なっ、まだ剣士がいるのか…だが所詮は1人!殺してくれる!」

「そうはさせない!君!アリを頼めるか!?」

「解りました!」

青年はそう答えると、ストレージから一冊の青い本を取り出した。

その青いライオンが描かれた本を顔の右に構えると、彼は本を開いた。

「ライオン戦記!」

「この蒼き鬣が新たに記す気高き王者の戦いの歴史…」

ライドスペルによって本の内容が朗読されると、彼はライドブック───ライオン戦記ワンダーライドブックを、ソードライバーの中央スロット、ミッドシェルフに差し込んだ。そして───

「フッ!」

一気に、彼の聖剣、水勢剣流水を引き抜いた。

「流水抜刀!」

引き抜いた聖剣を振り、彼は顔の横に構えた。そして叫んだ。

「変身!」

「ライオン戦記!」

叫ぶと同時に、彼は聖剣を横に斬り払う。すると水の斬撃が飛び、アンダースーツが形成される。

そして、彼の顔に先ほどの斬撃が戻り、マスクを形成する。

今この地に、新たな剣士、仮面ライダーブレイズが誕生した。

「行きましょう!頼りにしてますよ、先輩。」

「先輩って…まあいいか。───行こう!」

「「ハァァァッ!」」

俺たちは同時に飛び出し、メギドの集団に向かっていった。

俺がキリギリスに当たり、ブレイズがアリたちに向かっていく。

「邪魔をするな、剣士ども!」

「そうはいくか!」

俺はキリギリスの振るう鎌を烈火で防ぎ、お返しとばかりに左手でアッパー気味のパンチを繰り出した。

「グゥッ……!」

キリギリスが怯んだ隙に、体重を乗せた烈火を一閃。

「グァァッ!」

奴はそれを胴に喰らい、数歩後ずさる。

ちらりとブレイズの方を見ると、まるで水のように滑らかな動きで複数のアリ相手に次々と攻撃を繰り出していた。

それを見るうち、俺は内心そうか、と思っていた。

「(ブレイズが得意とする水の剣技…あれの真髄は水のように滑らかな動きで繰り出す連撃…だから多数のアリ相手に優位を保てる…!)」

この場には最適の人材だな、と思いながら、俺は再度キリギリスに向かっていった。

 

◆◆◆◆

ブレイズside

僕はブレイズに変身し、大勢いる…彼がアリと呼ばれているものと戦っていた。

「フッ!ハッ!ハァッ!」

僕の振るう聖剣、水勢剣流水は水を帯び、アリたちを切り裂いていく。

「ハァッ!」

目の前にいたアリを切り裂いた後、そこから流れるように左右のアリたちを斬り払う。

僕が言うのもなんだが、一対多だと、この水勢剣流水は真価を発揮するのかもしれない。

「ハアアッ!」

気がつくと、僕の周りのアリはかなり数を減らしていた。

ここで終わらせるという思いと共に、僕は腰のベルトに水勢剣を納刀し、トリガーを引いた。

「必冊読破!」

そうして、僕は一気に水勢剣を抜刀した。

「流水抜刀!」

「ハイドロ・ストリーム!」

「ライオン!一冊斬り!ウォーター!」

僕はアリたちの隙間を縫うように駆け、次々と水勢剣を振るった。

先ほどよりも水の勢いを増した聖剣は、滑らかにアリたちを切り裂いていき───僕が剣を振り終えると、残っていたアリは爆発し、その姿を消した。

こうして、僕の初陣は終わった。

 

◆◆◆◆

ラルトside

「なっ!?アリたちが!?」

アリメギドらが全滅したことに動揺するキリギリスに対し、俺はその隙を逃さんとばかりに烈火でキリギリスを切り刻む。

「ハアッ!」

「グオオッ!?」

今の攻撃がよほど効いたのか、キリギリスは地に膝をつき、中々立ち上がれないでいる。

俺はその間に烈火をソードライバーに納刀し、トリガーを引いた。

『必冊読破!』

「ここで終わらせる!」

俺はそう叫び、烈火を引き抜いた。

『烈火抜刀!』

火炎千針斬(かえんせんじんざん)!」

『ドラゴン!ヘッジホッグ!二冊斬り!』

「ハアアアアッ!」

俺はキリギリスにダッシュで駆け寄り、烈火で何度もキリギリスを切り裂いた。

切り裂くたびにキリギリスの体から、黄色い針が飛び出す。

ニードルヘッジホッグのライドブックの力で、烈火が数多の針を纏っているのだ。

「ハアッ!」

「グアァァァァッ───!」

俺はキリギリスの側を通り抜けると同時に、キリギリスを切り裂いた。

『ファファファイヤー!』

烈火の斬撃とヘッジホッグの針に貫かれたキリギリスは炎に包まれ────爆散。

 

この世界二度目のメギド戦は、こうして終えた。

 

◆◆◆◆

 

「で、なんで君が水勢剣を?」

戦闘終了後、俺があの青年に開口一番それを尋ねた。

俺がこの火炎剣烈火を持っているのは、俺が転生者であるが故。

なのに、何故俺の他に仮面ライダーが存在しているのか。

「それは…」

「…?」

どこか勿体ぶるような声に、俺は彼も転生者なのかと疑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…分かりません。」

「えっ?」

疑った途端にこれである。

じゃなくて!

「えっちょっと待って…え?分からない…あんだけ使いこなせてるのに?」

「ああ、少し語弊がありました。───確かに、何故僕の元に来たのかは分かりません。ですが…この剣をどうやって手に入れたのかは分かります。」

「え…どういうことだ?」

俺がそう聞き直すと、彼はゆっくりと語り始めた…

 

「僕は、この剣を手に入れるまでは、モンスター戦ってもいなかった。ただ、はじまりの街でクリアされるなを待っていたんです。───でも、ある日ふとスキル一覧を見てみたら……あったんです。あのスキルが…『水の剣士』スキルが。」

…同じだ。俺の時と。

「ってことは、君はそのスキルを取って…?」

「…はい。スキルを習得して、この剣が…水勢剣流水が出現した時気づいたんです。あの時…初めてメギドが出現した時の剣士と、同じものだって。」

「そうか…君もあの場所に…」

「…はい。…思ったんです、この剣と本があれば、僕もあんな風に戦えるんじゃないか、って。」

「って事は…君はメギドと戦うためにこの層に?」

聞くと、彼は頷いたのかどうか微妙な角度に首を傾けた。

「…いえ、最初は、ただの観光だったんです。そもそも…僕は変身しても戦えなかった…」

「…え?」

いきなり何を言い出すんだ。

「いや…さっき戦ってたろ?しかも勝ってるし…」

「いえ…僕は一度、別の…別のメギドと戦ってるんです。」

「え…?」

別の…メギド…?

「それは…あのはじまりの街でのメギドとも別の…?」

「はい…あいつは確か…

 

 

 

 

 

ズオス…と、名乗っていました…」

 

「…え…」

 

ズオス。ここではない場所、ここではない世界で数多の剣士と戦った本の怪物(メギド)の幹部。

 

「ズオスって…そいつは…何で君の元に…?」

「分かりません…ですが…あいつは…あいつは…!」

「……」

俺は、なんて言葉をかけて良いか分からなかった。

彼とズオスの間に何があったのかは分からない。

 

だがこれだけは分かる。

 

 

彼とズオスには、因縁などでは片づけ切れない関係があることは。

 

◆◆◆◆

 

「ラルト君!メギドは倒せたのか!?」

メギドが倒れたことによって街が解放されたので、街の外に避難していたディアベルら攻略組が街に帰ってきた。

「ああ、倒せたよ…彼のおかげで。」

「彼…えっ!?何で君はこんなところに!?」

あの青年を見て驚くディアベルに、俺は

「ディアベル、腰腰。」

「腰…?」

「いやお前のじゃない、こっち。」

そう言って、俺は指先を青年の腰…ソードライバーに向ける。

「えっ!?…それってラルト君と同じ…」

「はい、僕も彼と同じ、仮面ライダーです。」

その言葉を聞いて驚く一同。

「ちゅうことは、ジブンもアイツらと戦えるつーわけか。」

キバオウの声に、彼は頷く。

「ってことは、今あのメギドたちと戦える人材が増えた、ってことか。」

メンバーの誰かが言った。

「あー、まあそういうこと。ただ、ちょっとこの後メギドについて情報共有しときたいんだけど、とりあえず先に…」

フィールドボスを、と言おうとした瞬間、

「いや、今からやろう。あそこのレストランなんかどうかな?」

「えっ…いや、それは良いけどフィールドボスは…」

「いや、もう倒した。」

 

「えっ」

◆◆◆◆

 

という訳で。

「今からメギドについて話していく、んだけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドボスを倒したぁ!?あの間に!?」

俺が叫ぶと、彼らは何とでもないように、

「ああ、倒したけど?」

「倒したぜ?」

「モチロンや」

「いやあの状況で討伐する奴がいるとは思わんだろうよ…」

「いやあの状況なら誰でも倒しにいくだろ」

と、これはキリト。

「いや…ええ…?だって…メギドだよ?mobどころか下手したらボスレベルだよ?俺が負けたらーとか思わなかったの?」

俺がそう言うと、メンバーは口を揃えて

「それは無い」

と言った。

「…え?」

「だってフロアボスとやり合えてたし」

「変身しなくても強いし」

「何なら一度倒しとるしな」

「お前ら…」

不意に泣きそうになった。

前世で、ここまで信頼された事があっただろうか。

俺は、不意に目を襲った感覚を振り払うように何度も目を瞬かせ、話に戻った。

「…それで、メギドのことなんだけど…」

俺が口を開くと、メンバー全員が真剣な顔持ちになった。

「まずメギドってのは当人たち曰く、俺が使ってるワンダーライドブックの模造品、アルターライドブックってので生まれるらしい。で、何も記されてないライドブックを使う事で、さっきみたいな異変を起こせるらしい。」

「質問ええか」

「どうしたキバオウさん?」

「思ったんやけど、そいつらは本当にゲームとして規定されてないんやな?ここまでやっといて実はゲームのイベントやったー、とかは無いやろな?」

「ああ…前も言ったけど、アイツらは他の世界のことを知っているような口振りをしてた。それに、いくらあの茅場でも、聖剣持ちがいないと何もできない、って状況を作るとは思えないし、そもそもチュートリアルでも言ってなかった。ゲームの途中から登場する要素だとしても、今までそれに類するクエストとかが一つもなかったのは変だしな。」

それを聞いたキバオウは納得したらしく、一つ頷いてから下がっていった。

「それで、ここからが大事なんだけど…君、頼めるか?」

そう言って、俺はあの水の剣士に話を回す。

「はい。…皆さん初めまして、僕はリント、仮面ライダーブレイズです。」

「君がもう一人の剣士…」

ディアベルが呟く。

「僕からお話しするのは、僕が遭遇したメギドについてです。」

「君が遭遇した?ラルト君が戦ったものとは違うのか?」

ディアベルが聞くと、青年…リントは頷いた。

考えたら今まで名前知らんかった。

「はい。…僕が遭遇したメギドの名は『ズオス』。実際に戦闘はしていませんが…恐らく、今まで異変を起こしたメギドより強力です。そしてアイツは…」

 

その続きに、誰もが驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間の姿を持っています。」




えー、皆さま。



大変申し訳ございませんでした!(スライディング土下座)

前書きにも書いた通り、高校に入学し、激変した環境に慣れていたのと、単純に創作意欲が湧かなかったため、ここまで遅れてしまいました。

そして、これからの投稿なのですが、恐らくかなり不定期になると思われます。
このシリーズは、かなり執筆に時間がかかる事がやっとわかり、また高校が忙しいのもあって、まとまった執筆時間が取れない事もあり、このような形にいたしました。
こんな作品ですが、これからも読んでいただけると幸いです。

では、久しぶりの予告をどうぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「来ないで…近づかないで…!」
「アイツ…あの時の…」
「牛だけに」
第8節 闘うは牛、潜むは迷宮。


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闘うは牛、潜むは迷宮。

どうも、第7話です。
今回は…原作改変があるのかな。
では、どうぞ〜


「に…人間の姿!?」

リントの発言に、その場に居た全員が叫んだ。

「ら…ラルト君、今までにそういうメギドは居たのかい?」

「いや、居なかった。…多分、そのズオスってメギドが特殊なんだと思う。」

これではっきりした。

彼の言うズオスは、セイバー原作のズオスと同じ能力を持つのだ。

つまり…

 

「なあ、もしかしたら、他にもそういう人間態を持つメギドが居るんじゃないか?」

「…確かに。そういう奴が一人だけとは考えにくい…」

俺の意見にキリトが呟き、他の皆も同調する。

「…リント君、そのズオスと今回のメギド、どっちが強かった?」

ディアベルの質問に、リントは

「それなら、ズオスのほうが断然強かったです。本当に…比べ物にならないくらいの違いでした。」

「そ…そんなにか…」

その言葉に、思わず気圧されるメンバーたち。

「…これは、そのズオスってやつは注意したほうが良さそうだな…」

俺がそう呟き、その後にディアベルが

「うん、そのほうがいいだろうね。───ともかく、そのズオスを始めとしたメギドたちからの被害を減らすためにも、早くアインクラッドを…この城を脱出しよう!みんな、今から休憩の後、第二層迷宮区のマッピング及び攻略に向かう!」

その言葉で、突発的メギド情報共有会は終了した。

 

◆◆◆◆

 

「あ、リント!」

俺は会議が終わった後、リントに声をかけた。

「あ…ラルト君。どうしたんですか?」

「…これ、渡しておこうと思って。」

そういって、俺は青い一冊の本を渡す。

「これは…!ワンダーライドブック!?いいんですか!?」

「ああ。多分、そのブックは君のほうが使いこなせる。」

俺が渡したのは、この前手に入れたピーターファンタジスタライドブック。

この本は彼の持つ聖剣と、ライオン戦記ライドブックのどちらとも相性がいいため、彼に渡しておこうと思ったのだ。

「だから、それはいつでも使ってくれ。」

俺はそう言うと、ウィンドウを開いた。

「?」

「ああ、とりあえず…な。」

そう言って、俺はウィンドウを操作する。

メインメニューから複数の階層を潜り…

その目当てのコマンドが目に入った時、俺はそれを迷いなく押した。

俺がそのボタンを押すと同時に、リントの目の前に一つのウィンドウが出現した。

「これって…」

「一応剣士同士だしな。やっといて損はないだろ。」

俺が選択したコマンドは、フレンド申請。それをリントに送ったのだ。

この先、メギドの攻撃が激しくなり、街が異変に合う確率が多くなれば、連絡を取って連携を取ることが大事になるだろう。

そう考えて、俺はリントにフレンド申請を送った。

「…そうですね、確かにやっておいたほうがいいかもしれません。」

そう言うとリントは、右手をウィンドウに近づけ…

「じゃあ、よろしいくお願いします!」

yes/no確認ダイアログの、yes側を押した。

同時に、俺の通知領域にフレンドが増えた事を伝える通知が入る。

「よし、俺はとりあえず迷宮区に行くけど…君はどうする?」

そう俺が聞くと、彼は数秒黙考したのち、

「…いや…僕は街に残ります。まだ僕は、攻略できるほどのレベルじゃないんです。」

「そうか…分かった。じゃあ、また異変が起きたら伝えてくれ。」

「わかりました。」

 

◆◆◆◆

 

63:炎の剣士

ってことで水の剣士居たんですけどどういうことですか

 

64:名無し

いやー、やっぱ居たかぁ…

 

65:鬼殺隊の柱

前々から居るんじゃないかとは言っていたけどな…

ほんとに居たとは…

 

66:平成の化身

彼の反応を見る限り、イッチと同じ転生者というわけではないだろうしな…

 

67:フォートしないナイトさん

そもそもさ〜、そのセイバーとかのシステムってどうなってるの?

 

68:名無し

ああそっか、フォートニキライダー知らなかったね。

 

69:平成の化身

なら私から説明しよう。

セイバー原作において、仮面ライダーが使うワンダーライドブックは、その世界を作った全知全能の本の1ページだ。

その本には神獣などの空想、生物や物語、科学技術などの人類が発展するためのすべてが書いてあった。

まあ文字通りの全知全能だな。

 

70:名無し

うーん。考えたらとんでもねえな。

 

71:炎の剣士

なので、このSAOの世界だと存在しないはずなんですよ。

今持ってるのは、転生特典で例外的に持ってる僕だけ…のはずだったんですけど…

 

72:鬼殺隊の柱

なぜかもう一人、仮面ライダーが現れたって訳か…

 

73:名無し

うーん…一体全体どういうことなんだ?

これが世に言う不可解全開…

 

74:名無し

>>73 ゼンカイ脳はドンブラトピアで喫茶店のマスターしてもらって。

しっかし、ここまで来るとわからんな…

 

75:炎の剣士

いやほんとに…

あ、そろそろ迷宮区につくので、いったん抜けます。

 

76:名無し

ウィー

ちなみに誰と行ってるの〜?

 

77:炎の剣士

>>76 キリアスです

 

◆◆◆◆

 

「いや…来ないで…近づかないで…」

可憐な体躯の少女に、のっしのっしと迫るたくましいシルエット。

ここで終わっていれば、ホラー物かサスペンスと思えるシーンだが、この次のシーンからそのシナリオからは少し…いやだいぶ逸脱する。

「来ないでって…言ってるでしょ!」

少女は後退からその逆、前進へと動きを変え、そのシルエットに向かっていった。

これに巨体は動じることなく、手に持った巨大なハンマーを振り上げる。

対する少女は、手に持ったレイピアを構え、まるで流星のような速さで巨体の胸板に打ち込んだ。

その衝撃で巨体が震え、ハンマーを振る速度が鈍る。

普通なら一度飛び退くところを、少女は再びレイピアを引き絞り───逞しい胸板に、今度は二発、続けて打ち込んだ。

「ブッ…ブモオォォォォォ!」

巨体───牛頭の男は身体を仰け反らせると、不自然な位置で静止し…その体をポリゴンの欠片と変え、爆散。

計三発で大男を屠った少女は、シャキン!といい音を立ててレイピアを納刀し、俺ともうひとりの方に振り向くと…

 

「牛じゃないでしょ、あんなの!」

顔を赤く染めながら、そう叫んだ。

 

◆◆◆◆

 

俺たち三人は、現在アインクラッド第2層迷宮区2階…まあ早い話が最前線に来ている。

ディアベルたちとは別行動をし、一層でたんまりチェストで装備品やコルなどを稼ぎ、二階でとうとうこの塔の住人たるトーラス族にお目にかかった…のだが…

「ねえ、アレのどこが牛なのよ、牛っぽいの顔だけじゃないの」

「あー…まあそうなんだけど…なあ、ラルト…」

「ああ…、ゲーマーじゃああのミノタウロス系は牛って呼ぶのがもはやデフォだし…」

「ミノタウロス…って、ギリシャ神話の?」

お、食いついた。

「あ、ああ。ミノタウロスって、神話じゃあラビリントスって迷宮で勇者テセウスに退治されるだろ?それがいかにもゲーム的だからだろうな…いろんなゲームでよく出てくるんだよ。まあSAOじゃなぜかミノをとってタウロスを英語読みしてるからトーラス族だけどさ…」

「ならそれは妥当ね。ミノってミノス王のミノでしょ、とって正解だわ」

「まじか…じゃあミノタウロスをミノって略すのは不適当?」

「でしょうね。ミノス王は死後冥界の番人になったらしいから、もしかしたら裁かれるかもね。」

「まじか…」

これは俺も初耳。え、原作でも言ってたって?

いやそのへんうろ覚えなんすよ許してくださいニキたち…

「それで…そのトーラス族のどこがお気に召さなかったので…?」

もう聞いても大丈夫だと判断したのだろう、キリトが口を開きアスナに訪ねた…のだが。

「それは…だってあいつ、き…着てないじゃないのほとんど!腰のとこにちょっと布巻いただけなんて…あいつをハラスメントコード違反で通報してやりたいわよ!」

そんな現実がうまくいくわけなく、聞いた瞬間アスナは再び顔を赤く染めると、そう叫んだ。

「さ、さいですか…」

どんまいキリト、俺はこの展開は覚えていたから何も言わなかったのだ、すまんな。

「そ、それで、ミノ…じゃなかった、トーラス族の『ナミング・インパクト』には対応できそうか?」

「ミノでいいわよ───ええ、もう2、3回見ればなんとかなると思う。」

「そうか。ボスのナミングは範囲がおっそろしく広いけど、タイミングは雑魚ミノと一緒だからな。つーことで次のブロック、行ってみますか。」

「うい」

その会話を最後に、俺たちはこのブロックを後にした。

 

◆◆◆◆

 

「はー、結構長居しちゃったわね。」

あの後、俺達はさらにミノ達と戦闘を続け、しばらくたった頃に迷宮区を後にした。

「しっかし、他の攻略集団は見なかったな。もう帰ったのかな…」

「かもな。もう夕方だし、たしか迷宮区に入ったのが14時とかだろ?多分補給かなんかで出たんだろ。」

「かもね。───そういえば、迷宮区に入るときから気になってたんだけど…あれ、なに?」

アスナが指し示す「あれ」とは、迷宮区にあしらわれた二本の湾曲した巨大な装飾。

「ああ、あれ?…牛のツノ」

その言葉を聞いた途端、アスナの目が少し曇り、

「ねえ、ミノタウロスが出てきたときから思ってたんだけど、もしかしてこのフロアって…」

「そ、牛がテーマ。まあ、エリアでだいぶうまさは変わるかもだけど。」

そのキリトの言葉に俺も頷く。…たしかに、あのミノどもの肉は北エリアの「トレンブリング・カウ」よりうまそうには見えない。

「へえ…私、出来たら早めにこの層はクリアするわ。牛はもううんざり」

その言葉を聞いたキリトは我慢できなかったのか、禁断の一言を放った。

「…牛だけに」

その言葉の意味するところを理解したのだろう、アスナはキリトの足の甲の真上に己の足を持ち上げると、なんとも器用に、ダメージが出ない程度に踏み潰した。

「───ともかく、ひとまず街に戻りましょう。夜にもう一回出るとしても、補給と食事ぐらい済ませておきたいわ。」

アスナのその言葉に俺とキリトは───キリトはやや怯えたように───頷き、最寄りの村───アインクラッド第2層最後の村である「タランの村」を目指し、歩みを進めた。

 

 

俺達が村についた頃には、もうすっかり城全体が残照に照らされ、昼の終わりを告げていた。

「よし、じゃあ───」

飯と補給どっちから行く?と聞こうとした時、俺達三人の耳に、一つの音声(サウンドエフェクト)が届いた。

キン、キン、キン、と周期的に響く金属音は─

俺達は顔を見渡せ、足音が響かないギリギリの速度でその音の方へ駆け出した。

 

俺達がその音源に着くと、そこには一人の、まるでドワーフにも似た男性プレイヤー。

「あいつ…この前の…」

キリトがそう呟く。

───あいつは、昨日アスナ強化詐欺を仕掛け、彼女の愛剣ウインドフルーレを奪いかけた者。名前を───ネズハ。

「昨日あんな事があったのに、営業自粛どころか最前線にまで来るなんて、見上げた商売魂ね。」

そんなアスナの声にキリトは

「いや…どうだろうな。こっち(タラン)に来たのは、むしろ警戒した結果じゃないか?向こうからしてみれば、俺達がこっちに来るなんて予想してないだろうし」

「でも…結局やるってことでしょ彼は…」

強化詐欺を。

その一言は、言わずとも俺達は理解できた。

「やる…だろうな。…ん?誰か来たな、客か…!?」

「ど…どうしたキリト?」

ネズハの元に5人のプレイヤーが訪れ、その顔をキリトが視認した時、キリトは驚愕の表情を浮かべた。

「な、なあ、あのグループの真ん中…あのバシネット被った奴、見覚えないか!?」

「ええ…?俺はないけど…」

「あ、私あるわ。」

「…!本当かアスナ!?どこで見たんだ!?」

どこか焦ったように尋ねるキリトに、アスナは少し不思議がりながらも、

「たしか…フィールドボスの、ブルバウ・バウの攻略のリザーブ(予備兵力)で参加するはずだった人。確か…オルランドさん、だった。」

「オルランド…聖騎士(パラディン)ってとこか…」

首をかしげるアスナに、キリトが素早く解説を入れる。

「オルランドってのは、シャルルマーニュ伝説って話に出てくる人物だ。聖剣を振るって戦う、無敵の英雄さ。」

「伝説…ああ、そういう事。」

アスナはどこか納得したように呟くと、

「他の人達もどこか聞いたことのある名前をしてたの。キリトくんが解説してくれて思い出したんだけど、確かあの人達は全員英雄の名前を使ってたわ。それにチーム名がレジェンド・ブレイブス(伝説の英雄たち)…彼ら、伝説上の英雄の名前をキャラネームにしてるのね。」

「「うーん…う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…」」

俺達は唸った。それ以外にどう反応すればいいかわからなかったからだ。

実際のところ、ネトゲにおいて英雄の名前をキャラネームにすることは珍しくない。俺も、(フルダイブ実現前)のMMOで何人かその手の名前を見かけたことがある。

────しかし、現実と同じ容姿で有り、もはやもう一つの現実とも言えるこのアインクラッドでその名を名乗ることは、それなりのプレッシャーを感じるのではないだろうか。

「…そういえば、リザーブになるはずだった、って言ってたよな、本番じゃならなかったのか?」

「ああ…うん、あの時にメギドの襲撃が合ったでしょ?あの時一層に居たらしくて、二層に登れなかったんですって。攻略の後にディアベルさんから聞いたわ…っていうか、あの人達とは前に攻略会議で会ったはずでしょ?なんで二人とも覚えてないの?」

「俺は多分出席してない。リザーブが来るってのは聞いてたけど…あれ待って、キリトって出てたって聞いたんだけど…」

「…すまん、顔覚えてなかった。」

確か会議って3日前とかだよな…?

アスナは呆れた表情を浮かべると

「…ともかく、あの5人について知ってるのはそれぐらいだけど…キリトくんは、どうしてあの人が気になるの?」

「…」

キリトは、言うか否か迷ったのか、数秒黙り込んだ後に、口を開いた。

「…ネズハは…オルランドの…『レジェンド・ブレイブス』の一員だ。」

「え…それって…!」

「ああ…ネズハの強化詐欺はブレイブス…そのリーダーのオルランドの指示によるものだと思う。確か、あの会議のときにディアベルが確認した限りじゃあ、彼らはレベルの低さを武装の強化度で補っていた。レベルは戦闘しないと上がらないけど、武具強化は…」

「「(コル)があれば、いくらでもできる。」」

そう俺とアスナが呟くと、キリトは頷き、顔を向こうに向けた。

 

そのころには、もう彼ら(英雄たち)は消えていた。




と言うわけで、今回の原作改変はブレイブスの視認のタイミングでした。

今回はちょっと内容薄かったかな。

では、予告をどうぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「今、剣が…」
「そうか…そういう事だったのか…!」
「謝って…許されることじゃないですよね…」
第9節 明かされる真実、少年の苦悩。


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明かされる真実、少年の苦悩。

ども、第9話です。

最初に言っておく!これはか〜な〜り長い!



なんとまさかの10000字越え。

読む際は時間がかかることを頭に入れて読むことをお勧めします。

ではどうぞ〜


「ふぅ〜ん」

「違うぞ」

彼らの言葉から省略された言葉を付け足すと、こうなる。

「ふぅ〜ん、ソロのキリトにアスナ、それから仮面ライダーのラルトがチームを組んだカ。この情報は幾らになるかナ。」

「違うぞ、俺達は利害の一致で一緒に行動しているだけで、チームとかそういうあれじゃない。」

となる。

俺達はネズハの元から離れ、アルゴと路地裏の居酒屋で待ち合わせた。

なんでも、キリトとアスナが依頼したいことがあるらしく、俺はそれについてきた形だ。

───なぜか、アスナも行くと言い出したときに、キリトが動揺していたが。

まあとりあえず、俺達は適当に飲み物を頼み、席についた。

それと同時に飲み物が届き、俺達は各々手に取る。

アルゴがキリトに目線で圧をかけ、それに破れたキリトが大人しくジョッキを持ち上げる。

「それじゃあ…二層迷宮区到着を祝して…乾杯!」

「カンパーイ!」

「…乾杯」

「乾杯!」

テンションにばらつきがあったが、俺達はジョッキに入った飲み物を一気に飲む。

俺が頼んだのは金色に輝くエール酒だが、アルコール分で酔っ払う…ということもなく、ただ酒の味がする、というだけ。

まあ、成人プレイヤーにとっては、「酔えない酒になんの存在意義があろうか!」ということらしいが、前世でも今世でも成人した経験がない俺にとってはそれがどうした状態なのだが。

「いやー、開通から4日で迷宮区到達カ。結構早かったナ。」

「まあな。一層で時間がかかった分、レベルが高いやつが多かっただろうし」

「たしか2層の適正攻略レベルって、6,7とかだろ?それを考えたらやっぱり今のメンバーはレベルが高いよ。」

「ええ。…今回だと、レベル10は行くわよね。」

今俺がレベル14,キリトが13,アスナは12。ディアベルが13で、他のメンバーも同程度と考えると…

「…ああ、行くだろうな。」

「ただ、レベルが高くてもプレイヤースキルがどうかって問題もなぁ…」

「そうだナ。攻略適正レベルってのも、あくまで数字の上だけだゾ、キー坊。」

「ああ。…それに、ここのボスは装備強化のほうが大事なんだよな…」

「ああ…あのボスって、確かデバフ持ちだろ?武装強化で阻害(デバフ)耐性上げまくって備えないと…」

そこまで言った時。

「「うっ…」」

突如、嫌な予感に襲われ、俺とキリトは小さく声を上げた。

武装強化、今この段階でそれに適した能力を持つものは一人。

───鍛冶屋ネズハ。

もし、いまこの段階でタランの村に店を移動したのも、攻略組の強化需要を見越してのものだとしたら?

この段階で、もう鍛冶屋の信用度外視でレア武器を搾取しまくり、それで得た資金でブレイブスの装備はより強く、そして役目を終えたネズハは───

「…アルゴ、これ、迷宮区一、二階のマップデータ。」

俺達は悪い予感を振り落とし、キリトが代表してアルゴに先程取って来たマップデータのスクロールを渡した。

「いつも悪いな、キー坊、ラー坊。いつも言ってるけど、規定の情報代ならいつでも…」

「いや、マップデータで商売する気はないよ。」

「ああ、マップを買わなかったから死んだなんてなったら、目覚めが悪いからな…その代わりってわけじゃないけど、今回は少し特殊な依頼を頼みたい。」

「フゥン?マア、オネーサンに言ってミナ?」

ちょっとアルゴさんそういうコケティッシュな目止めてもらっていいですか俺の脳がブレイブドラゴンしちまうんですけど(ry

ショートした俺に変わって、キリトが話しだした。

「アルゴももう存在は知ってるだろうけど…今回のフィールドボス戦に参加する予定だった、《レジェンド・ブレイブス》ってチームについて調べてほしい。」

「フム、特殊ナ、ってのはどういう事ダ?」

ここでなんとかショートから冷却した俺が話に復帰する。

「俺達がブレイブスについて探ってることを、誰にも知られたくない。彼ら自身には特に」

忘れがちになるが、アルゴが情報屋として最も大きく掲げているモットーは一つ、「売れる情報はすべて売る」。

つまり、俺達が通常の方法でアルゴに調査を依頼した場合、アルゴはブレイブスにも「お前たちの情報を知りたがってるやつが居るけド、情報を買うカ?」と持ちかける訳だ。

ここで向こうが提示した情報量よりも多く、こちらがアルゴに口止め料を払えば名前は隠し通せるが、彼らを探っている者がいる、という認識を彼らに与えたくはない。

これはアルゴのモットーに明確に反する頼みであり、俺としてもハラハラしながら行く末を見守っていたのだが。

「…う〜ん、マア、良いカ。」

本当か!?と問う暇もなく、続けざまにアルゴが

「でも、これは忘れないでくれよナ。オレっちが情報屋としてのモットーより、ラー坊たちの事情を優先したってことをナ。」

本日二度目の流し目いただきましたフォォッ!

───先程からアルゴがこの目をするたびに、横のケープからメラっという気配が伝わってくるのは気のせいだろう。

 

◆◆◆◆

 

俺達はアルゴと別れ、タラン東広場の空き家の二階に身を寄せていた。

こういう、NPCが利用しているわけでも、プレイヤーが所有できるわけでもない家を宿代わりに使うプレイヤーは少なくないが、実際のところ、環境面は最悪である。

ドアに鍵はかけられないし、そのドアにシステム的保護があるわけでもないので、外部の騒音がダイレクトに来る。おまけに、ベッドはとてつもないほどに硬い。

だが、宿以外の目的ならば、意外と使い道はある。

例えば感嘆なミーティングとか、ドロップアイテムの受け渡しとか、あるいは────誰かの監視とか。

「なかなかいいアングルね。」

「ああ。真上だと、角度の問題で見えないからな…晩メシ、ここ置くぞ」

俺達は地面からギリギリ見えない位置の窓際に腰掛け、キリトはそばのテーブルにストレージから取り出した饅頭をいくつか置く。

「ねえ、この饅頭…何が入ってるの?」

「さあ?まあ、牛がテーマのフロアだし、肉まんならぬ牛肉まんなんじゃないのか?そういえば、関西じゃあ肉といえば牛肉だから、こっちでいう肉まんは豚まんっていうとか読むか聞くかしたなぁ…」

「で、アインクラッドは関西と関東どっちなの?」

キリト渾身の豆知識がばっさりと捨てられたことは置いておいてだ。

この饅頭の名は《Steamed bun of Taran》、日本語だと《タラン饅頭》だろうか。

「ささ、熱い内にお一つ…」

「…いただきます。」

アスナはレザーグローブを除装し、饅頭に手を伸ばす。

俺とキリトも、少し遅れて饅頭を手にし、それを口に───

「うにょああ!?」

突如前方から謎の声が聞こえ、俺は手を止め、その声の主を見つめた。

───そこには、歯型一口分体積を減らした饅頭を手に硬直し、その饅頭から噴出したであろうクリームが口から首元までべっとりとついたアスナ嬢がいた。

アスナは律儀にも口に残る饅頭を咀嚼した後、

「中…あったかいカスタードクリーム…その中に、何か甘酸っぱい果物が…」

食レポを終えたアスナは、こちら側をキッ!と睨みつけると、

「もしあなたたちがベータテストでこれを食べてて、知ってて私に差し出したんだとしたら、私、自分を抑えてられる自身がないわ…」

「「まったく、誓ってありませんでした、ホントに、絶対、アブソリューソリィ」」

俺とキリトはぶるぶるかぶりを振りながら、キリトが代表してベルトポーチからハンカチを取り出した。

幸いなことに、この世界に存在する汚れはすべて《汚れエフェクト》とエフェクト判定なので、適切な手段で簡単に取れる。

基本的には《cloth》カテゴリのアイテムで拭き取るか、または時間経過でも消滅する。

俺がそんな事を考える内に、アスナは汚れを取り終え、キリトにハンカチを返却していた。

「今度から、食事は自作するわ。二度とあんなの食べさせられたくない。」

「…そ、それは楽しみだなぁ」

「…別にあなたの分まで作るなんていってない。」

「…さ、さいですか…」

…どんまい、キリト。

気がつけばこの事件の元凶たるタラン饅頭はすでに冷めていたので、俺とキリトはそれを口にした。

冷めたタラン饅頭はそこそこ…というかかなりイケる味だった。

皮はもっちりとした歯ごたえで、中に詰まったクリームと苺っぽい果物がベストマッチ!

これは食事としてはともかく、デザートとしてはかなり上質なやつではないだろうか。

結局アスナも2つ食べ、満足したようだ。

そこはまあいいとして……この張り込みの主目的は、どうやら空振りに終わりそうだった。

ネズハの店には多くの客がやってくるが、その大半が耐久度回復(メンテ)目当てで、武器強化の客は二人だけ、しかもどちらも大成功。

キリトはミドルクラスの武器だからと推測したものの、ここまで来ると強化詐欺の実在すら疑わしくなる。

「いや、それはないよな…」

キリトも同じことを考えていたのだろう、だがその推測を打ち消すように呟いた。

…強化詐欺の方法はまだ掴めないが、なぜあの時ウインドフルーレが砕けたのか、それはアルゴの情報から判明している。

あの時アスナは、俺達に烈火の如く視線を飛ばした後、アルゴに依頼したのだ。

『武装強化のペナルティに、《武器破壊》があるのか調べてほしい』と。

それを聞いたアルゴは、『それは調べるまでもないナ。オイラがもう調査済みダ』と返した。

アルゴは、情報量はここの酒代でいいゾ、と前置きした上で、

『武器強化のペナルティとしてなら、武器破壊は起きナイ。だが、強化試行回数を使い切った武器の強化を試みた時、必ずその武器は破壊されル。』

つまり、だ。

あの時ウインドフルーレは、すでに強化試行回数を使い切った同アイテム(エンド品)にすり替わっており…

あの時砕けたのは、ネズハがどこかで調達したエンド品であり、俺達はその剣が壊れたのを、アスナの剣が砕けた、と認識したわけだ。

その時、俺の視界に一人の男が写った。背中には剣を吊るして向かうのは…ネズハの元だ。

同じことに気づいたのだろう、二人の肩に緊張が走る。

「あの人って、攻略集団だよな?名前知ってるか?」

「えーっと…たしか、シヴァタさん、って人。」

「し、シヴァタ?シバタじゃなくて?」

「だって綴りがS H I V A T Aなんだもの、ヴァでしょ。」

「…ヴァだな、それは」

「…ヴァだね、間違いなく」

そんな実のない会話を繰り広げるうちに、シヴァタ氏はネズハの元に近づいていく。

彼はネズハの元にたどり着くと、背中から剣を外し、鞘から抜く。

あれは片手剣カテゴリの派生、手数より一撃の威力を優先した幅広剣(ブロードソード)。たしか固有名を…

「…スタウドブラウド…」

「…すり替えの対象としては十分ね。」

「ああ、あとは依頼が、メンテか強化か…」

俺達が見つめる間にも、シヴァタはネズハにスタウドブラウドを手渡す。索敵スキルの補正で彼らが何をしているかは見えるが、会話までは聞き取れない。

剣を受け取ったネズハは、それを鍛冶台に寄せる。ここでシヴァタがメンテを頼んでいれば、ネズハは鍛冶台に備え付けられた回転砥石に剣を当てるはずだ。

ネズハは、剣を受け取ると左手に持ち替え、右手で背後の袋に手を伸ばした。あの中には強化素材が入っているはずなので───

「強化だ…!」

「左手よ、左手から目を離さないで!」

言われなくとも分かっていると言わんばかりに、俺とキリトは目を凝らした。

その間にもネズハは淀みない動作でアイテムを選択し、炉に入れていく。

すべてのアイテムを入れ、炉が『重さ』を示す赤に発光し───

「「「…!」」」

「今…剣が…」

炉が光ったその一瞬、ネズハの手で何かが起きた気がしたのだ。

だが、炉から放たれた強力なライトエフェクトに視界を阻まれ、その肝心な一瞬を見逃したのだ。

予期していたとはいえ、スタウトブラウドが金床に置かれ、その上で砕け散る様から、目を背けることは出来なかった。

 

 

 

「…どうする…?」

言葉に込められた意味は明らかだ。

心情的には、愛剣を奪われたシヴァタ氏に事情を説明したい。1時間の所有権限が残っているうちなら、《全アイテム完全オブジェクト化》のコマンドで取り戻すことは可能だからだ。

だが、愛剣を奪われたシヴァタ氏が、そこで終わるかはわからない。剣が破壊された時、彼は怒声の一つも上げずに立ち去った。その彼の怒りを、俺達が再び呼び覚ますことに意味はあるのか。それが分からないからこそ、アスナも俺達に問うたのだ。

もしシヴァタにすべて打ち明け、その結果がどんな悲惨なことになるのかは、想像するだけで恐ろしい。

最悪の場合、ネズハへの処罰(・・)が行き着くところまで言ってしまう可能性もありうる。

俺がそんな思考に囚われる中、キリトがボソリと呟いた。

「…なんでネズハは…《レジェンド・ブレイブス》は、強化詐欺なんかやろうと思った…いや、実行できたんだろうな…」

首を傾げる俺達に、キリトは説明を重ねる。

「だってさ…このSAO(デスゲーム)で、強化詐欺っていう明確な悪事を『やろうと思う』のと『ほんとに実行する』ってことの間にはかなり大きいハードルがあるはずどろ?もしバレたら、それこそ取り返しのつかないものを失う可能性だってあるはずだ…それを想像することだって出来るはずなのに…」

「想像…した上で、そのハードルを蹴り飛ばしたのかもね…」

「…え…?」

「だって、倫理的な問題に目をつぶれば、これがバレたときの危険って、その詐欺をした相手に命を奪われる危険がある…ってことだけでしょ?その時までに、相手より強くなれば…たとえ圏外で襲われても、返り討ちにできる強さを持っていれば、ね。いま《レジェンド・ブレイブス》の5…いや6人は、それに最も近いところにいるわね。」6

「お、おい、止めてくれよ。悪事を厭わない集団が攻略組より強くなったら、それって…」

キリトはなにかに怯えるようにそこまでを言い、一拍置くと───

「…世界の支配者ってことじゃないか」

…この世界において、強さは絶対的基準であり、それは『レベル』と『装備』によって決まる。

このデスゲーム初期という状況で、攻略組が強化しているのは基本が主武装(メインアーム)、いって盾といったところだろう。

だが彼らは違う、あの6人はこの短期間でとてつもない額のコルを稼ぎ、それを全身の武装強化に費やした。

もし、武器の度合いが同じで、防具の強化値が上の者と戦えば───

たとえレベル差があったとしても、おそらく勝てない。

すなわち、このままネズハの強化詐欺を黙認し続けることは、己らより遥かに強い、悪事をも厭わないプレイヤー集団の誕生を容認することになる。

「…ごめん、俺、今更この件がまじで大事だって気づいた。」

キリトも同じことを考えていたのだろう、だがなぜ…

「…なんでそれが『ごめん』なの?」

「いや、アスナは一回自分の剣を取られかけてるだろ?なのに俺、いままでどこか他人事に見てた気がしてさ…」

キリトがそこまで言い終えると、アスナは急に顔を赤く染め、

「別に謝る必要ないでしょ。あなたと私は他人じゃないわけじゃない…いや、パーティーメンバーだし知り合いでもあるけど…も!変なこというから、何がなんだかわからないじゃないのよ!」

わからない、は俺のセリフだろ、というキリトの心の声がした、とだけ言っておこう。

それについてキリトが言い返す前に、アスナの両目がすっと細められた。

「あのカーペット…」

「…ん?」

「物が腐らないだけじゃなくて、あんな機能もあったのね。」

そう呟くアスナの目線の先には、店じまい中のネズハの姿が。

ネズハがカーペットをタップしメニューを呼び出す。それを操作すると、カーペットは並べられたアイテムごとくるくると巻き取られ、一本の筒型になる。

「ねえ、強化詐欺に、あの機能を使ったってことはないの?」

「いや、無理だろうな。あの《ペンターズ・カーペット》のアイテム収納機能はメニューから発動しなきゃならないし、一度発動したらその上に乗ってるアイテム全部を収納しちゃうんだ。とてもじゃないけど、剣一本を選んで収納するなんて、不可能…」

キリトはそこまでいうと不意に口を閉じ、ウィンドウを開いた。

キリトはその流れでストレージを開くと、背中からアニールブレードを抜いた。

俺とアスナはキリトの意図に気づき、キリトの手元を見つめた。

「よく見て、時間を測ってくれ。」

「分かった」

「了解」

「いくぞ…3,2,1,0!」

キリトはカウントを終えると、手に持ったアニールブレードを落とし、地面に広げておいたウィンドウに触れさせた。

その瞬間アニールブレードはストレージに格納され、アイテム一覧にその名が浮かぶ。

すかさずキリトはその名前をタップ、示された操作一覧からオブジェクト化を選択し、キリトの手に再びアニールブレードが出現する。

「───どうだ!?」

キリトは顔をあげると、俺達に問うた。

俺とアスナは軽く目を見張り───その首を、左右に振った。

「現象としては似てるけど…だめね、時間が掛かり過ぎてる。」

「それは…練習して、操作精度を上げれば…」

「それだけじゃないぜ、剣をしまうときと出すときに、計二回も強いライトエフェクトが発生してる。これを、あの一回の強化のエフェクトごまかすのは流石に無理だ。」

俺達の言葉を聞いたキリトは、ガックリと首を落とすとこちらを見上げた。

「そうかぁ…いい線いってると思ったんだけどなぁ…ウィンドウはカーペットと商品の間に隠せそうだし…」

「それこそ無理じゃない?商品の下にストレージ開いたら、商品がストレージに入っちゃうでしょ?」

「それもそうかぁ…」

…俺は、この強化詐欺の手口は知らない。

だが、この詐欺の先に待つ結末は知っている。

だからこそ、なんとしてでも解決しなければならない。

「あー…ストレージ開かずにアイテム変える方法あればなぁ…それがあれば、方法も分かりそうなんだけど…」

そう、何気なく呟いた俺の言葉で。

「「……!」」

俺とキリトが、同時に声にならない声を上げた。

「な、何?何か解ったの!?」

俺とキリトは顔を見合わせると、同時に言った。

「「クイックチェンジ…!」」

「…え…?」

「…SAOのスキルMOD(スキルの追加オプション)に、クイックチェンジっていうやつがあるんだ。」

「ああ、それを使えば、手に持ってる武器を、それと同種類の別アイテムに変えることも、オプションで可能なんだ…」

「…!ってことは…」

「ああ、ネズハは、多分クイックチェンジで依頼品とエンド品をすり替えてたんだ。クイックチェンジはメインメニューのショートカットからも使えるから、ストレージを開く必要もない…!」

そう、ここまで俺達が言ったときになって。

「…いや、だめだ…ネズハは、クイックチェンジを持ってないかもしれない。」

「…そうか…あいつは鍛冶師…クソッ!」

「…ど、どういう事?」

困惑するアスナに、俺とキリトは説明を重ねる。

「…クイックチェンジは、武器スキルでしか習得できないんだ。鍛冶屋のネズハがクイックチェンジを持っている可能性は、0に等しい…」

「…ああ、これが普通のゲームだったら可能性もあった。でも…このデスゲームになったSAOじゃあ、戦闘職と生産職の両立はリスクがありすぎる…」

「…じゃ、じゃあ…」

「…ああ、いい線いったと思ったけど、多分これも…」

そんな時、キリトがふと視線を左上に寄せた。

「…どうした、キリト?」

「…いや、メッセージが…アルゴからだ…もう調査したのか…」

「さすがの速度ね…」

キリトはウィンドウをパーティーメンバー可視状態にすると、メッセージを開いた。

そこには、オルランド達《レジェンド・ブレイブス》の武装、キャラビルド、名前の由来まで乗っていた。

「へえ…やっぱり、全員伝説の英雄を名前にしてたんだな…」

「ホントね…クフーリン、ベオウルフ…」

「結構聞き馴染みあるのが多いな…」

俺達は、キャラビルドそっちのけで名前の由来ばかり見ていった。

そして、文の末尾に書かれていたネズハの情報にたどり着く。

レベルが10とそこそこ高いのは、鍛冶行為でも経験値が入るからだろう。そして名前の由来は…

「…えっ!?」

「読み方が全然違った…ってこと!?」

「いやでも、オルランドたちはネズハのことネズオって呼んでたぞ!?」

そこに書かれていた、思いもよらなかったネズハの名前の由来は…

 

◆◆◆◆

 

「強化、頼む」

午後8時前、タランの村。

俺は店じまい寸前だったネズハの店に強化を依頼していた。

だが、俺が差し出しているのは愛用の火炎剣烈火ではなく、かつて使用していたアニールブレード。

ネズハがしきりにこちらの顔面を見つめているが、別に俺の顔が変なことになっているわけではなく、俺がでかいバケツ…ではなくプレートヘルムを被って居るからだ。

ヘルムだけではない、胴、足、腕、俺の体すべてがフルプレートアーマーに覆われている。

この服のコーディネイターであるアスナ氏いわく、『ヘルメットだけだと変な人、って思われるけど、全身してれば『そういうシュミのヒト』、で押し通せるでしょ?』とのことだ。

俺がヘルメットを被っているのは至極単純、顔を隠すためだ。

俺は一度ネズハに顔を見られているため、こうでもしなければ強化依頼を受けてもらえないと考えたからだ。

俺はむしろ変人と思われて受けてもらえないんじゃないかと思っていたが、そんなことはなく、ネズハは剣を受け取った。

「…プロパティ、拝見します。」

俺が何も言わないので、ネズハは一声断りを入れると、俺のアニールブレードをタップした。

「アニール+5、試行3回残し、ですか…しかも内訳が、S3、D2(鋭さ3、丈夫さ2)。使い手を選ぶでしょうけど、すごい剣ですね…」

この一言で、俺は最初に抱いたネズハへの印象が間違っていなかった事を悟る。

だが、その言葉とともに浮かんでいた感嘆の表情はすぐに沈み、新たな表情が浮かび上がる。

───それは、意図的に壊される剣への悼みと、詐欺を掛ける相手への謝罪、そしてそれを行う自身への…自己嫌悪。

「…強化の種類は、どうしますか?」

「スピードで。素材は持ち込みで、90%分で頼む。」

「…分かりました。」

そういったネズハは、俺が送信した強化素材を炉に放り込んでいく。

そして、炉が速さを示す緑色に光った瞬間───

ネズハの左手が、商品と商品の間を、そっと叩いた。

剣が一瞬明滅し、同時に炉の発光も収まる。

これで、武器のすり替えは完了した。なんと素早く、なんと鮮やかだ。これなら、たとえ100人が見ている中で行ってもバレはしないだろう。俺が視認できたのも、プレートヘルムによる視界阻害効果で、ほとんど炉が見えていなかったせいだ。

外見上は何ら変わりないアニールブレードをネズハは金床に横たえ、ハンマーで叩き始めた。

そして、丁度十回叩き終えた時───アニールブレードは眩く発光し、ポリゴンの欠片へと姿を変えた。

ネズハの口から『すいません!』の声が響き渡る寸前───

「いや、謝らなくていいよ。」

「…え…?」

俺はそう呟くと、メインメニューから装備変更を行った。

足元から、徐々に装備を元のものへと変更していく。

最後に、プレートヘルムを外すと、やっとあの閉塞感から開放され、ほっと一息。

「あ…あなたは…あの時の…」

「ごめんな、騙すような真似して。でも、こうでもしないと君が受けてくれないと思ったんだ。」

俺がそういう間にも、彼の顔は青ざめていく。

俺は、開きっぱなしのメニューの表示されたショートカットアイコンを押した。

すると、俺の右手に黒く光る剣───アニールブレードが出現する。

それを見た瞬間、ネズハの顔が完全に青ざめた。

彼も気づいたのだ。俺が、強化詐欺の方法に行き着いたことに。

「俺も思わなかったよ…まさか鍛冶屋が、こんなに早くクイックチェンジのMODを取ってるなんて思わないよな。それに、メニューウィンドウを商品の下に隠すアイデアもすごいよ…これを考えたやつは、正直言って天才だよ…」

俺の言葉を聞いたネズハは、完全に崩れ落ちた。

 

今回のトリックは、結局の所俺が想像したものと同じだった。なぜ鍛冶屋であるネズハが武器スキルのMODを持っているのかだが…それは後でも良いだろう。

トリックの全貌はこうだ。

ネズハは受け取った剣と同じ種類のエンド品を、炉の発光と同時にクイックチェンジで切り替え、受け取った依頼品はストレージに、エンド品がネズハの手元に行く。

そうしてすり替えたエンド品を砕き、客に自分の剣が壊れた、と錯覚させるわけだ。

俺がそんな事を考えていると…

「謝って…許されることじゃないですよね…」

不意に、そんな声が聞こえた。

「せめて、搾取した剣を皆さんにお返しできればよかったんですが、それも無理です。全部、コルに変えてしまいましたから。僕にはもう、これしか…ッ!」

そういって、圏外の方へ走り出そうとしたネズハの前に───

上空から降ってきた、2つの影が立ちふさがった。

「あなた一人が死んでも、何も解決しないわ。」

「ああ、あんたが死んでも、何も起きない、何も生まれないしな。」

フーデットケープをかぶる、女性細剣士(フェンサー)

黒いコートを羽織る、片手剣士(ソードマン)

二人の剣士に道を塞がれたネズハは、どこか吐き捨てるように言った。

「どうせ!僕なんかいつか死ぬんだ!僕みたいなノロマが死ぬのも、遅いか早いかの違いなんだ!」

その言葉を聞いて。

「…フッ…」

なぜか、キリトが吹いた。

「ごめん、君の言葉を笑ったわけじゃないんだ。こっちのフェンサーさんも、数日前に同じことを言ったばかりだったからさ。」

「…え…」

その言葉を聞いたネズハは、居を突かれたように目を見開くと、

「あの…あなたは、攻略集団のアスナさん…ですよね?」

「…え…?なんで知ってるの?」

「そりゃ、フーデットケープのレイピア使いって有名ですし…攻略集団唯一の女性プレイヤーですしね…」

「…そ、そう…」

本人はいかにも複雑そうな表情を浮かべているが、まあそこは置いておこう。

「はやくもその変装が記号化しちゃってるみたいだな。『灰ずきんちゃん』なんてあだ名が付く前にやめたらどうだ?」

「いやよ、私は気に入ってるの、あったかいし!」

「さ、さいですか…」

…どんまい、キリト。

「あ、もしかして俺も知ってたり…」

「…あ、知りません、すいません…」

…どんまい、キリト。

「…あ、じゃあ俺は…」

「えっと…どこかで拝見した覚えはあるんですけど…」

「あ、これじゃわかんないか。じゃあ…」

そういって、俺はドライバーをとりだし腰に装着する。

「あ…ああ!?か…仮面ライダー!?」

「あ、知ってるんだ。」

「そ、そりゃそうですよ、あの時のことはほとんどのプレイヤーが知ってます!」

「そ、そうなんだ…」

…有名すぎるのもあれだな…

「そ、それで…本当なんですか?アスナさんが、いつか死ぬ、って…」

「ああ、ホントホント。いや〜、大変だったんだぜ?迷宮区の途中でぶっ倒れるし、しょうがないから寝袋にいれてはこんd…」

ガスッ。

…どんまい、キリト(本日三度目)。

「…すごいな…」

不意にネズハが呟いた。

「僕も…そんなふうになりたかった…些細なことで笑えて…人のために動ける…」

「まだ終わったわけじゃないわ。あなたも、希望を持ってるから、はじまりの街をでたんでしょ?」

俺は、彼の履いている靴が街中用のシューズアイテムではなく、れっきとした防具であることに気づいていた。

「ええ、ありましてた、目指したものが…。でも、僕はなれなかった…慣れないと解ってしまった…。ナーヴギアを買った、その日に。僕は最初のフルダイブテストで…

 

 

 

 

 

 

 

 

FNC判定だったんです。」

それは、少年の挫折。そして…絶望。




はい、第9話、終了です。

ほんとはネズハの経緯とかも書きたかったんですけど、ちょっと文字数が…
次回に回してます。

では、そんな次回の予告を。


次回、セイバーアート・オンライン。
「だ、誰だ、そいつ!?」
「みんな…行くぞ!」
「嘘だろ…?」
第10節 隠されたこと、2度目の闘い(ボス戦)


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隠されたこと、二度目の戦い(ボス戦)

どうも、作者です。第10話です。

ちょっとこの回は難しかった…

まあなんとか仕上げたので、どぞ。


「FNC…そうか、君は…」

「はい…僕は…戦えなかった…」

ネズハの悲痛な声が、静かなタランの村に響き渡る。

「…とりあえず、立ち話もあれだ。…適当な家にでも入ろうぜ。」

俺は三人をそう促し、近くの誰も住んでいない民家へと足を進めた。

 

 

「それで…キリト君、FNCってのは…」

「ああ…正式名が、Fulldive Non Conformation…日本語に訳すとフルダイブ不適合…つまり、フルダイブシステムを使う際に何かしらの障害がある、ってことだ。場合によっては、ダイブすら出来ないこともあるらしい。でも、君は…」

「…ええ、僕はそこまで思いものじゃなかったんです。視覚の、遠近感が無いっていう症状で…普通のRPGだったらあまり支障はなかったんですけど、剣オンリーのSAOだと…」

…魔法が存在しないSAOでは、すべてのプレイヤーが剣や斧などの近接武器を用いることになる。

近接武器を使うときの第一歩は、己の獲物の間合いを知ること。通常に視界が働けばなんてことないが、遠近感が働かなければ武器がどこまで伸びているかわからない。

つまり、遠近感が無いということは、この世界で闘うことが出来ないということ。

「ああ…それで、君は鍛冶屋に…」

「はい…戦えなくとも、サポートで役に立てば、と思って…」

「…じゃあ、なんでそれが強化詐欺に?発案者は誰?あなた?それともオルランド?」

神速フェンサーの本領発揮と言わんばかりに、いきなり本題に入り込んだアスナ。

「…僕は、実際のところは最初の一ヶ月ぐらいは、戦闘職を目指してたんです。この世界には、遠距離から攻撃できるスキルが一つだけありますから…」

どこか的外れとも思える答えに、キリトが返した。

「…なるほど、《投剣》スキルか。でも、あれは…」

「ええ…はじまりの街で一番安い投げナイフを買って練習してみたんですが、残弾が尽きると何も出来ないし、かと言ってフィールドの石とかだとまともにダメージは入らないしで、とてもメインで使えるスキルじゃなかったんです。」

「そうか…それで君は鍛冶屋に転職した…」

「…はい。熟練度が50になるとこまで頑張ったんですけど、だめだって思って…でも、、その熟練度上げにブレイブスの5人を付き合わせてたので、攻略に出遅れちゃって…僕が鍛冶師に転職するっていう会議の時は、とても険悪な雰囲気でした。もう誰かが、こいつを街においていこうって言うのを待ってる空気で…」

「そうだったのか…でも、君は鍛冶屋になった。鍛冶師の熟練度上げには、結構な額の金がかかると思うんだが…ギルドで出すってなったのか?」

俺の問いの、ネズハはなんと言うか迷うような素振りを見せた後言った。

「はい…ただ、そのきっかけが……僕達が話している時、会場だった酒場の隅でじっとしてたずっとNPCだと思ってた人が近づいてきて言ったんです。『そいつが武器スキル持ちの鍛冶屋になるなら、すげぇクールな稼ぎ方があるぜ?』って…」

「「「…!?」」」

その言葉に、全員が驚愕した。まさか、強化詐欺の発案者がブレイブス以外の人物だとは思わなかったからだ。

「だ、誰だ、そいつ!?」

「わかりません…格好は、雨合羽みたいなエナメル質のフード付きマントを羽織ってました。」

「「「雨合羽…」」」

このアインクラッドで雨合羽をかぶる理由は多数あれど、その状況だとどう考えても、顔を隠すことに利用したとしか思えない。

キリトの隣に座るアスナも、さっきはあったかいからとか言っていたが、ホントは顔を…

…鋭い視線が飛んできたので、この想像はやめにしよう。

「…その男、マージン…つまり、アイデア料の受け渡しはどう指定したんだ?」

なるほど、と俺は脳内で呟いた。もし手渡しなら、その時に男の素顔を拝めるかもしれない。

だが、その可能性は砕かれた。

「…いえ、そういうことは何も…」

「な…何もって、どういうことだ!?」

「…その人は、強化詐欺の方法だけ説明したあと、グッドラックとだけ言って去っていったんです。」

「な…無償で提供したのか?詐欺の方法を?」

「…ええ……正確には、もう少しだけ話していきました。最初はブレイブスのみんなも否定的で、そんなの詐欺じゃないか、って言ったんです。そしたら…彼、映画みたいに綺麗な笑い方で言ったんです。『ここはネトゲの中だぜ?やっちゃいけないことはシステム的に定められてる。じゃあ、出来ることは何でもしていいってことだろ?』って…」

「そ…そんなの、詭弁だわ!」

ネズハが口を閉じるか閉じ終えないかといったところで、アスナが叫んだ。

「そんなのが許されるなら、トレインした(大量に集めた)モンスターを他の人に押し付けたり、人が狩ってたモンスターを横取りしたり、なんでもできちゃうじゃないの!いえ、それだけじゃないわ、圏外じゃ犯罪防止コードは働かないんだし、圏外で他のプレイヤーを」

言葉は、そこで急に途切れた。

まるで、続きを言えば現実になる、と恐れるように。

キリトはアスナの腕に指を伸ばすと、軽く触れた。

その瞬間、アスナの緊張が溶け、フッと力が抜けた。

「…でも、…すみません、名前なんですか…?」

「あ、キリトだ。」

「は、はい…それで…キリトさん、僕が言うのもあれですけど、よく詐欺のトリックを見破りましたね?僕も、ブレイブスの皆も思いつかなかったのに…」

「ああ…詐欺の存在に感づいたのはあの時…君からウインドフルーレを回収したときかな。所有権リセットのタイムリミットが近かったから、アスナの宿屋に凸って全アイテムオブジェクト化のコマンドを使わせたら防具とかしt…ウッ!?」

…ん…?(困惑)

アスナさん何殴ってるんです…?

「…たら、レイピアが戻ってきたからさ。具体的な手口にたどり着いたのは数日前だよ。決めては君の名前だった…

 

 

 

 

 

ナタク。」

その言葉を聞いたネズハ───いや、ナタク(nezha)は、一瞬目を見開くとこう言った。

「…まさか、そんなことにまで気づかれるなんて…」

「いや、これに関してはアル…情報屋に頼っちゃったけどさ。オルランドたちもネズオって呼んでたらしいし、彼らも知らないんだろ?ネズハ…いや、ナタクのキャラネームの由来を。」

「ネズハで良いですよ。…………ええ、そのとおりです…。」

 

哪吒(ナタク)、正しくはナーザ、または哪吒太子。神話、封神演義に登場する少年の姿をした神で、2つの輪に乗って空を飛び、宝具と呼ばれる武具で闘う。正真正銘伝説の勇者(レジェンド・ブレイブ)である。

「僕達レジェンド・ブレイブスは、もともとナーヴギア用のロープライスゲームで組んでたチームなんです。路地の前から押し寄せる敵を剣とか槍とかで倒すだけの、すごいシンプルなゲームだったんですけど、FNC判定の僕が居るせいで、ゲーム内のランキングは中々上がらなかった…でも、チームを解散はしませんでした。そのゲームが好きだったからじゃない。数カ月後には、世界初のVRMMO…ここ(SAO)に移住することが決まっていたからです。」

「そうか…でも君は…」

「ええ…SAOがデスゲームになって、僕の存在は大きなハンデになりました…命がかかった戦場で、まともに戦えないんですから…」

「…そこに漬け込んで、あの男は君に詐欺を…」

「…許せない…!」

ここに居る三人、全員が同じ思いだっただろう。

「…きみは、これからどうしたいんだ…?」

「…本当は、搾取した剣をお返しして、罪を償いたかった…でも、もう無理です。剣は全部コルに変えてしまいましたし、オルさんたちのところにも…僕にはもう、これしか…!」

そういって、ネズハは額をテーブルに激しく打ち付ける。だが、紫色のシステムエフェクトがそれを許さない。

今彼は、どうすれば良いのかわからないのだろう。自殺を俺達に否定され、もう仲間の元にも戻れない。一番現実的な案である、他のプレイヤーに罪を打ち明け、謝罪するということぐらいだが、開放のために攻略を続けるプレイヤーが、彼を許すとは断言できない。

本当に現実的なのは、はじまりの街に転移門で戻り、隠居することぐらいか……攻略で償えればよかったが、今彼が使える唯一の戦闘スキルである投剣スキルは、メインでは到底使えない補助スキルで…と、そこまで考えた時。

俺は、一つのことを思い出した。

俺が今回、ネズハから剣を強制的に回収したのには、完全オブジェクト化のコマンドを使ったわけじゃない。

彼のトリックと同じクイックチェンジで、前に装備していたアイテムを選択して装備する、とオプションで設定し、回収に挑んだのだ。

そのクイックチェンジを取得するために、俺は2日ほど迷宮区に籠もり、必死に熟練度をあげていたのだが、その過程で色々なものを得た。

マップデータも手に入ったし、もちろん経験値も手に入った。

その中で最も特筆すべきは、とあるレアアイテムが手に入ったことだ。

その武器はレアでこそあるものの、使い勝手の悪さや必要スキルの複雑さからあまり高値はつかず、しかし自身で使うのも躊躇われる変則的な趣味武器。

俺はネズハに向き直ると、一呼吸入れてから言った。

「…ネズハ、君のレベルは10だって聞いた。ってことは、スキルスロットはまだ3つだよな。取ってるのは…」

「ええと…片手武器作成と、所持容量拡張、それから…投剣…。」

「そうか……ネズハ、君にも扱える武器がある、って聞いたら、片手武器作成を…鍛冶スキルを捨てる覚悟はあるか?」

 

◆◆◆◆

 

12月14日、アインクラッド第二層迷宮区第10階層。

この地に、現時点で最高の戦力を持つ46人が集まっていた。

「…彼、結局間に合わなかったわね。」

「ああ…あいつの行ったクエ、キリトでも3日かかったんだぜ。もっとレベルが低いネズハには、3日でクリアはきつすぎるよ。」

「それを1日でクリアした人がなんか言ってるよ…」

俺があの時ネズハに提示したのは、あるクエストを受けさせてくれるNPCの居所だ。

そのNPCとはもちろん、ヒゲ師匠こと体術スキルの師匠である。

俺が彼に手渡した一つのアイテム、それはある特殊な武器であり、扱うには彼が持つ投剣スキルの他にもう一つ、体術スキルが必要となる。

俺達は、彼にその武器とクエストNPCの居場所を贈与する条件として、鍛冶スキルの削除を求めた。

なぜなら以前にも言ったとおり、現状のSAOで戦闘職と生産職の両立は危険すぎるからだ。

もし戦闘職に進むなら、習得スキルやストレージの中身に至るまで、すべてを戦闘に割り振らなければならない。

ポーションの一本やスキル熟練度たった1ポイントの差で、生死を分けることがある。

その環境にネズハを置くため、鍛冶スキルの削除を求めたのだ。

彼はその条件を聞いた後、一瞬だけ目をつぶるとすぐに目を開け、

『この世界で剣士になれるなら、他に何もいりません」

そう言ったあと、少し笑って、

『でも、この武器だと剣士だと言えないかもですね。』

といった。

それに対して、

『この世界でクリアに向けて戦う人は誰しも剣士だわ。きっと、生産職でも。」

といったのは、以外にもアスナだった。

「…この層の攻略が終われば、きっと攻略に参加してくれるさ。あの武器、使いこなせればけっこう強いし。」

「…そうね……ブレイブスの5人は、どうするのかしら。」

そう言ったアスナの視線には、どこか苛立ったように見える5人組のプレイヤー集団───レジェンド・ブレイブス。

「…やっぱり、ネズハと連絡が取れてないんだろうな…まあ、擁護はしないけど」

「ああ。…アイツらは、あんな危険な事をネズハ一人にやらせてたんだ。こうなってもしょうがないとしか言いようがないよ。」

「…ええ。…それで…キリト君、ラルト君。」

「「ん?どうした?」」

「…前より、パーティーの数が減ってない?」

「…確かに…」

「ブレイブスが増えたから、むしろ増えてて然るべきなんだけどな…」

「ええ…あとで、ディアベルさんにでも聞いてみましょうか。」

「ああ。…っと、始まるみたいだぜ」

そう言った俺の先には、全員の前に立つ一人騎士(ナイト)

「みんな、改めて自己紹介させてもらう。今回、レイドリーダーを務めるディアベルだ!今回もよろしく頼む!」

周囲から、口々に騒ぎ立てる声が聞こえる。

「ここで、今回のレイドパーティーの編成を伝えさせてもらう!俺が率いるA隊、リンドさんが率いるB隊、キバオウさんが率いるC隊、レイスさんが率いるD隊、そして北海いくらさんが率いるE隊が、ボスへの攻撃を担当する!そして、エギルさん率いるF隊、今回から参加してくれるオルランドさん率いる《レジェンド・ブレイブス》さんのG隊が取り巻きのナト大佐を、そしてラルト君、キリト君、アスナさんのH隊が、遊撃部隊としてボス戦を行う!!」

それを聞いた俺は、まあそうだろうな、といった感想を抱いた。まあ、前にディアベルから聞いていたからね、俺のH隊の役目は。

…だが、どこにも異を唱える者は居るらしい。

「ちょっと待った」

異を唱えたのは───英雄たちの長、オルランド。

「我々は、ボスと戦うためにここに居るんだ。ローテーションならまだしも、最後まで取り巻きの相手だけしていろというのは納得できない。」

その声に至るところから、なんだあいつ、新参のくせに、といった声が低くざわめくが、逆に異を唱える者はいない。

皆感じているのだ。彼らの装備が放つ、一種のオーラを。

強化値がある程度まで上がった装備は、ひと目見て業物と思える光沢を放つようになる。

一般のプレイヤーが現段階でそこまで強化できるのは主武装、良くて盾だが、ブレイブスの面々はその限りでない。

彼らはこの1週間で莫大な額のコルを稼いだはずであり、その収入をすべて武器強化に費やした。

その結果、武器についてならこの場にいる誰もを上回るスペックを誇るはずだ。

彼らがボスを担当しようとした理由は至極単純、経験値と熟練度ブースト目当てだろう。

武装の強化値こそ高いが、レベルでは攻略集団より劣る彼らは、ここでレベルでも追いつこうという算段なのだろう。

「…わかった、レジェンド・ブレイブスの5人にも、ボスを担当してもらう。」

俺が物思いに耽るうちに、ディアベルが対応を済ませていた。

「…ただ、そうなるとナト大佐を担当するのが1パーティーになってしまうが…」

「なら俺達が行くよ。三人でもいないよりはマシだろ。」

俺達は、そう提案した。

「…ああ、そうしてもらおう。ということで、今回はその編成で行かせてもらう!ナト大佐を担当する7人は、倒し次第ボスに合流してくれ!」

「おう」「了解」

俺とエギルが答え、各々のパーティーメンバーもうなずく。

その様子を見たディアベルもうなずき、ボス部屋へと向き直った。

彼は一呼吸入れると、ドアに手をかけ。

「…みんな…行くぞ!」

「「「「ウオーーーーーーーーーー!」」」」

彼らの掛け声に押されるように、巨大な門は開いた。

 

◆◆◆◆

 

「ハンマーくるぞ、回避!」

キリトの声に、おう、了解との声が響く。

巨大なハンマーを持つのは、青肌の牛頭男(トーラス族)

奴の持つハンマーには電流が走り、スパークを散らす。

「ブルモォォォォォォ!」

奴は電流が迸るハンマーを、雄叫びとともに地面に振り下ろした。

地面には衝撃が走り、打撃面を中心に電流が地面を駆け抜ける。

これがトーラス族の固有ソードスキル、《ナミング・インパクト》。ナミングとは──────『麻痺する』。

ハンマーによる打撃と、発生した稲妻を回避した俺達に、キリトが再び

「ソードスキル一本!」

この指示に従って、俺、アスナ、エギル軍団の4人、そしてキリト自身が技後硬直に陥ったトーラス───アインクラッド第二層迷宮区最上階に潜むモンスター、《ナト・ザ・カーネルトーラス》に向かって、ソードスキルを放つ。

ここまで、重症を負った者はおらず、ナミング・インパクトのもう一つの効果(・・・・・・・)の影響を受けたものもいない。今の所順調だ。

……だが、俺達が順調でも、さして意味はない。

なぜならこのMOB、通称ナト大佐は……

「────回避!回避────ッ!」

……彼らが戦っている、《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》の取り巻きでしかないからだ。

俺は横目で壁際を見ると、複数人のプレイヤーが身体を緑色のライトエフェクトに包まれ、膝をついていた。

彼らに課せられたデバフは麻痺、現実のものと同じく身体が動かなくなるデバフだ。

トーラス族のナミング・インパクトは、一撃喰らっただけで麻痺に陥るわけではない。最初は麻痺の一段階下であるスタンが課せられる。

そのスタンも3秒程度で回復するが、これを使えば治るという特攻アイテムは存在しない。

つまり、その3秒間は何も身動きが取れず、完全に硬直してしまう。

そして、その状況で続けてソードスキルを食らうと、完全に麻痺してしまう。

キリトたちも気づいたのだろう、ボスの方向を向くと、俺にささやきかけた。

「向こうはジリ貧っぽいな…」

「ああ、でもディアベルの指示で回復と戦闘のバランスも取れてる。」

「ああ…」

俺の返事が曖昧になったのは、俺がこの後に起きる事態を断片的に知っているから。

断片的に、と言ったのは、少々複雑な事情がある。

俺は、この後に起きる状況は知っている。

…だが、その原因が思い出せない。

俺の原作知識は、俺自身が前世でSAOにそこそこ触れた程度の知識しかないため、肝心なところがわからないところがままある。

なぜ……なぜ、この後に攻略組がピンチに陥るのか。

「……っ」

今はそんな事を考えている場合じゃない。目の前の敵に全力で挑む、それが俺に出来る最善だ。

「大丈夫か、ラルト?」

「ああ、大丈夫。…ひとまず、俺達は早めにナトを倒そう。」

「ああ。そろそろ倒しきれそうだけど…」

俺達がそこまで話し終えた時。

「ウォォォォ!」

ボスの方向から、大きな雄叫びが響いた。

何事かと思ってそちらに目線を向ければ、空中に浮かぶボスのHPゲージの最後の一本が半分まで削れていた。

それで叫んだのか、と安心したのもつかの間────

─────部屋の中央が、急に揺らいだ。

「…嘘だろ…」「…う…」

俺とキリトは、声にならない声を上げた。あのエフェクトは…………何か巨大なオブジェクト(・・・・・・・・・)が発生するときの演出だ。

その予測に違わず、荒削りなポリゴンが出現する。

ポリゴンに色が付き、デティールが整って────

 

俺達が重量を感じると同時に、俺達の頭上に6段HPバーと、一つの文字列が浮かび上がった。

《アステリオス・ザ・トーラスキング》。

───真の、この層のボス()の名前だった。




今回ほんとに書けなかった…
ちょっとスランプ気味でした。
とりあえず、次回予告どぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「やべぇ…!」
「ボスの目が光るんダ」
「世界の希望は、僕が守る!」
第11節 復活の狼煙、真の英雄。


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復活の狼煙、真の英雄。

どもども、作者でっせ。
次回予告とはちょっと変わっちゃったかも(主にセリフ)。
ってわけで、本編どうぞ。


突如生まれた真の王に、攻略部隊全員、一時硬直する事態に陥った。

何が起きたかは明らかだ。俺やキリト、ディアベルの三人、あるいはその他にも居るであろうベータテスターを含めた攻略部隊の全員がボスだと思っていたバラン将軍は、この正式サービスに於いてはナト大佐と同格の取り巻きでしか無かったのだ。真のボスたるアステリオス王の出現条件は、バラン将軍のHPバーがラスト一本の半分に到達するまで。

だがそんな事を考えていても仕方がない、今大事なのはこれからどうするか。

────そんな事はわかりきっている。ボス部屋からの退避、それしか道はない。

このバラン将軍とナト大佐戦ですら、数人が麻痺する事態になったたのだ、そこに何も情報のない新規ボスが参加すれば、敗戦、下手すれば全滅もありうる。

ディアベルという絶対的なリーダーが居るとはいえ、そのリーダーが知らないボス相手には、たとえ指示能力が卓越していても意味はない。

─────────まずは、ナト大佐を倒す。

同じことを考えていたであろうキリトとアイコンタクトすると、俺は後ろに、キリトは前に動いた。

キリトはナト大佐に向かうと、高く跳躍した。

…トーラス族には、ボスも雑魚も同じように、ある一つの弱点が存在する。

それは……額。全身を鎧で囲っている奴らはともかく、ナト大佐やバラン将軍は鎧がないため、キリトはそこを狙いに行ったのだ。

キリトの持つアニールブレードが青く輝き、通常の速度の数倍で振るわれる。

片手剣単発スキル、《スラント》がナト大佐の頭を据え、当のナトは後ろによろめく。

それを、俺は指を加えて見ていたわけではない。

「──────変身!」

【烈火抜刀!】

【ブレイブドラゴン!】

俺は歴代1のスピードで腰のホルダーからライドブックを取り出すと、バッバッ!とページを開いて閉じベルトに装填、納刀してあった烈火を引き抜き、セイバーへと変身した。

俺は本当の緊急時でなければ、通常の戦闘で仮面ライダーには変身しない。

だが、今回は一層での危機に匹敵、いやそれ以上の危機だ。

そのため、俺は急いで変身し、手段を選ばずに闘うことを決めた。

「キリト!」

俺はキリトに叫ぶと、キリトは打てば響く速さで飛び退く。

「はぁーっ………」

俺は走りながら烈火を必冊ホルダーに納刀し、トリガーを引いた。

【烈火居合!】

「烈火・緋龍一閃!」

叫んだ俺は烈火を引き抜き、以前編み出した居合技を放った。

【読後一閃!】

「ブモォォォォ!?」

胴を一瞬にして切り裂かれたナト大佐は、悲鳴を上げ……爆散。ポリゴンへと姿を変えた。

「みんな!」

「おいおいラルト!どうすんだこの状況!?」

「分かんねぇよ…キリト!」

「……現時点の話だけど、あのアステリオスの移動速度はまあまあ遅い。だから、その間に何とかバランと戦ってる本体に合流して、バランとアステリオスを撒きながら撤退する。」

「…それしかないみたいね。」

アスナも同意し、エギル組の3人も、もちろんエギル本人も賛成している。

そして、俺も。

「…行こう。」

「……ああ。」

俺達は、バランと戦闘する攻略組本隊の元へと向かった。

 

◆◆◆◆

 

向かう、と言っても、そう簡単にたどり着けるわけではない。

出現したアステリオス王の攻撃圏(アグロレンジ)、つまり俺達に反応する範囲を避けながら、今までのボスであったバランと闘う攻略組本隊の元へと向かう必要がある。

俺たちは、アステリオス王の動きを横目に抑えながら、バランのもとを目指した。

───だが。

俺達が目算で測った限りでは、アステリオス王が動き出すまで、あと僅か30秒程度しかない。

「……っ!」

俺とキリトはアイコンタクトすると、俺は烈火を納刀してトリガーを引き、キリトはアニールブレードを肩に背負うように構える。

【必殺読破!】

俺は烈火を抜刀し、キリトは緑色に輝くアニールブレードを振りながら跳躍する。

【ドラゴン!一冊斬り!】

「「ハアァァァァッ!」」

俺の放った火炎十字斬と、キリトが放ったソニックリープが、のこりHPが少なくなったことによりバーサク状態となったバラン将軍を切り裂く。

しかし、この2つの同時攻撃でもHPを削りきれずに、数ドットのみ残る。

「くっそ…」

キリトが上空で毒づくと、空中にとどまったまま左拳を握る。

すると彼の拳が赤く発光し、そのままバランの胴へと打ち込まれる。

体術スキル基本技、《閃打(センダ)》。

キリトも、俺が習得した翌日にあのヒゲ師匠の元へと向かい、2日ほどかけて体術スキルを習得した。

キリトの拳を喰らったバランは、そのまま仰け反ると硬直し────爆散。ポリゴンの欠片を撒き散らしながら、その存在を消した。

「────全員、新mobのアグロレンジを避けながら退避!」

俺はバランが爆散したのを見届けた瞬間、そう叫んだ。

───だが。俺はまたしても、肝心な未来(原作知識)を見ることはできなかったようだ。

アステリオス王を見た俺の視界には、口にピリピリと帯電させたアステリオスが。

「……っ!まさかっ!」

そう叫んだ俺より一瞬早くキリトが、

「…!アスナ!右へ避けろ!」

総叫び、その声にアスナだけでなく他のプレイヤーも反応し、アステリオスが口を向ける方向から次々と回避を試みる。

だが、現実はそう簡単ではなかった。

アステリオスは、俺達が回避するのを待たずに、口から黄色い光線……雷ブレスを放った。

ビシャアアアアンッ!という擬音がふさわしい音を上げ、発射された雷は一瞬にして直線状を駆け抜けた。

その瞬間、視界の左上に浮かぶ数多のHPバーの半数以上に、緑枠の阻害効果(デバフ)アイコンが浮かぶ。

そのアイコンが示すデバフは────麻痺。

俺は仮面ライダーの装甲の力で麻痺こそ避けられたものの、他のプレイヤーはほとんどが倒れ、俺自身もその攻撃の物理ダメージをいくらか負った。

「おいおいマジかよ…」

俺は思わず毒づくが、そうするのも仕方ないほどの状況なのだ。

「…ディアベル!残ったメンバーを退避させてくれ!」

と、そう叫んだ時。

俺は、新たな絶望の種に気がついた。

なんとディアベルまでもが、雷ブレスの餌食となったのだ。

「…ちょっと冗談きついぜ…」

そう俺はまたしても毒づき、烈火を構えてアステリオスへと向き直る。

戦える人員が限られる中、この中で一番装甲が厚い俺が前衛で闘うべきだ。

そう思ったのだが。

「ブモォォォッ!」

アステリオスは、先程までの遅さはどこへやら、恐ろしいほどのスピードで巨大ハンマーを振り下ろした。

「(この感じ…まさかイルファングと同じ…!)」

俺はそう感じたが、だからどうしたと言わんばかりのペースで奴は連撃を繰り出す。これでソードスキルを発動していないのだから恐ろしい。

その速さに負けじと、俺も烈火を縦横無尽に振るいながら迎撃するも、奴の重さに対抗しきれず、徐々に押されていく。

「くっそ…フォームチェンジもできねぇ…」

そのあまりの速さに、他のライドブックを取り出す余裕もなくなり、そして。

「グアッ!?」

とうとうハンマーの一撃が俺の胴体に命中し、俺はかなりの距離を吹き飛ばされる。

「くっそ……このままじゃ…」

俺の力を過信しているわけではないが、いくら基本フォームのブレイブドラゴンとは言え、ライダーの防御力を持ってしても防ぎきれない攻撃なんて狂っている。

俺は再度立ち上がろうとするが、とうとうダメージの許容量を超えたのか、俺の装甲が紙のようにパラパラと崩れ、変身が強制解除される。

「ぐっ…」

変身解除の反動によって、猛烈な疲労感…言い換えれば負傷による体力消耗に襲われることが律儀に再現されていることに、そこまでしなくても良いんだよ!と誰かに心中で叫んだが、その叫びは新たな叫び声にかき消される。

「ブモォォォォッ!」

障害を排除し叫ぶその姿は、まさしく野生のようで。

しかし、先程までの戦術的なハンマー捌きから感じる理性が、こいつはまさしくモンスターであると認識させられる。

「やばい……マジで全滅しちまう…」

そんな絶望の最中(さなか)

一条の光が、俺の視界に写った。

その光は、アステリオス王の王冠…つまり額に真っすぐ伸び……

ガァン!という音を立てて、王の額を打った。

……あの光、あの起動は、武器種投剣カテゴリのソードスキル。

だが、本来ならあの場で地に落ちるはずの光は、軌跡を描き直すかのように再び舞い戻る。

そして、戻った先には─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました!」

一人の少年と、青い鍔の剣を持った青年が立っていた。

少年は、飛んできた光を掴むと、そのまま奴の注目を引くように走り出す。

そして、青年の方は…

「…ラルト君!」

「……リ…リント!?」

俺の数少ない友人(フレンド)にして、この世界に存在するもうひとりの仮面ライダーの変身者、リントだった。

「なんでお前……レベリングとかは…」

「とりあえず、その話は後です。今は彼が囮を買って出てくれている間に戦況を建て直さないと…」

「…ああ、そうだ。それであいつは…」

そういって、俺は先程の少年を見ると、驚愕のあまり目を見開いた。

「アイツ、まさか…!」

同じタイミングで気づいたのだろう、エギルも驚嘆の声を上げる。

驚くのも無理はない。なぜなら彼は、つい数日前まで村や町でハンマーをカンカンしていた鍛冶屋…即ち、鍛冶屋ネズハだったからだ。

もっとも、今の服装は鍛冶屋のものではない。茶色のエプロンは銅のアーマーに、ハンマーを握っていた手には刃を円状に成型した武器が。

「あいつ…もうヒゲ師匠の試練終わらせたのかよ…」

俺達は、あの時に彼が今握っている武器と、あるNPCの位置座標を渡したのは覚えているだろうか。

彼は今まで戦闘職についていなかったにもかかわらず、俺が1日、キリトが3日かかったクエストをキリトと同じ3日で終わらせたことに対しての驚きなのだが…

「…リント、なんでお前がネズハといっしょに…ってのは良いや。とりあえずアイツの援護行ってから、そのまま戦闘に入るぞ。」

「了解です!」

「おお良い返事。大丈夫そうだな。」

「当然です。行きますよ。」

「おう…」

そう会話を交わした俺達はお互いベルトを腰に装着する。

【【聖剣ソードライバー!】】

そうしてから、お互いのライドブックのページを開いて閉じ、それぞれのスロットに装填する。

【ブレイブドラゴン!】

【かつて世界を滅ぼすほどの偉大な力を持った神獣がいた…】

【ライオン戦記!】

【この蒼き鬣が新たに記す、気高き王者の戦いの歴史…】

そして……

【烈火/流水刀!】

「「…変身!」」

【ブレイブドラゴン!】【ライオン戦記!】

聖剣を抜刀して叫び、各々が剣舞を舞う。

剣の軌跡はマスクとなり、お互い仮面ライダーへの変身を完了する。

「「…ハアッ!」」

俺達は、同時にボスへと向かっていった。

 

◆◆◆◆

 

「リント!負傷者を頼む!俺はボスを!」

「了解しました!」

言葉をかわした俺達は、俺はボスへと向かい、リントは立ち止まるとライドブックを取りだした。

【ピーターファン!ふむふむ…】

「フッ!」

【習得一閃!】

リントは、水勢剣にピーターファンタジスタを読み込ませ、剣先からフックを射出、ボスの周りに倒れているプレイヤーの救助を始めた。

その間に俺は、アステリオス王と対峙していた。

「さあ…第二ラウンドだ!」

そう叫んだ俺は、アステリオスへと駆け、烈火で攻撃を試みる。

「ハアッ!」

俺が烈火を振るえど、奴はハンマーの面で的確に防御。逆に弾き返され、俺は数メートル後ずさる、

「くっそ…ならこれで!」

そう俺は叫ぶと、ホルダーからニードルヘッジホッグを取り、それを剣先にかざす。

【ヘッジホッグ!ふむふむ…】

「これでも…食らっとけ!」

【習得一閃!】

俺が烈火を振るうと、そこから無数の黄色い針が射出される。

針をその胴に受けたアステリオスは、数歩後ずさったものの、効果的なダメージを与えられた様子はない。

そして、再び奴の口に稲妻が走る。

「やべっ…!」

俺は思わず回避しようとするが、それより一瞬早く、ある一方から光が飛び、アステリオスの額に命中。するとどうだろう。奴は仰け反ると、口に迸っていた雷も消滅した。

「まさかあいつ…」

ブレスのタイミングを…知ってるのか…?

俺のその問いに答えるように。

「ブレスを吐く直前、ボスの目が光るんダ。」

この場所で聞くはずのない、だが聞き慣れた声がした。

「あ…アルゴ!?」

ボス部屋入口に立っていたのは、俺やキリト、アスナよりも小柄な女性プレイヤー、情報屋《鼠のアルゴ》。

「お前…なんでここに!?」

「何でも何も、オレっちがここに二人を連れてきたのサ。オレっち、ボス攻略に行った少し後にいまラー坊が戦ってる相手のことを知ったんダ。それで、二人と一緒ンに助太刀に来た、ってわけダ。」

「そうだったのか…ってうわっ!?あっぶね!?」

ついつい会話に夢中になってボスの存在を忘れていたが、アルゴの話を聞く限り、ネズハはアルゴから事前にブレスのタイミングを聞いていたのだろう。だからこそ、奴が雷ブレスを放つ前に彼の持つ武器を投擲し、奴の攻撃を失敗(ファンブル)させることができたのだ。

「そういうことね…」

納得した俺は、その立役者であるネズハに話しかける。

「ネズハ!ブレス潰しは任せていいか!?」

「…はい!任せてください!」

「よし任せた!」

俺はネズハにブレスの処理を任せると、アステリオスが弱スタンに陥っている間にニードルヘッジホッグのページを開閉し、ソードライバーのスロットに装填する。

【ニードルヘッジホッグ!】

「ハァッ!」

【烈火抜刀!】

俺は納刀しておいた烈火を引き抜くと、横一文字に振るう。

【二冊の本を重ねし時、聖なる剣に力が宿る!】

【ワンダーライダー!】

【ドラゴン!ヘッジホッグ!二つの属性を備えた刃が、研ぎ澄まされる!】

ドラゴンヘッジホッグに変身した俺は、変身が完了すると同時にニードルヘッジホッグのページを押し込む。

【ニードルヘッジホッグ!】

「リント!俺が針を打ったらピーターファンでアイツを拘束してくれ!」

「え?……あ、分かりました!」

リントが俺の策に気づいてくれたようで、剣先にピーターファンタジスタをかざす。

「喰らえこの牛野郎!」

俺は叫び、烈火から黄色い針を射出する。

先程は一回振るって終わったが、今回は幾度も振るい、ノックバック効果で壁際に追い込む。

「オォ…ラァ!」

奴が完全に壁際まで到達すると、俺は先程よりも、少し太め、長めの針を射出した。

それは俺の狙い通り、アステリオス王の両腕と両足を貫通し、そのまま壁に突き刺さった。

「ハァッ!」

【習得一閃!】

壁にアステリオスが固定された瞬間、俺の後方に立っていたリントが伸ばしたチェーンフックがアステリオスの身体に巻き付き、更に身体を固定する。

「みんな!この間に回復しろ!」

そう、俺は倒すためではなく、メンバーが体制を整え、撤退にしろ応戦にしろ時間を稼ぐために、アステリオスを固定したのだ。

通常、ボス部屋の壁は破壊不可能だが、システムを超えた街の消滅を可能にするブランクライドブック、それの同種類であるワンダーライドブックならば、多少はシステムを超えられるだろうという仮説の元、壁に杭で打ち込むという戦法を思いついたのだ。

俺が杭を打ち込み、リントがピーターファンタジスタの鎖で更に拘束する。一度死地を共に過ごしたからこそできる協力プレイ。

「済まなかったラルトくん、リントくん!リーダーでありながらまんまと麻痺してしまった!」

「気にすんなディアベル!今はこれからどうするからだ!」

「ああ!みんな!回復が済んだ者から戦闘に復帰!見てわかるように奴の攻撃力は桁違いだ!防御重視の戦法で行くぞ!」

「「「おう!」」」

再起したディアベルの指示に、その場の全員が了解する。

「それからH隊の三人とリントくんは、当初の予定通り遊撃を頼む!」

「そして(ネズハ)!雷ブレスが打たれそうになったらその武器で潰してくれ!」

「…っ!はい!」

ネズハは返事を返すと、その手に握る武器……チャクラムを高く掲げた。

現在、二層迷宮区にPOPする《トーラス・リングハーラー》からしかドロップしない、ナックルとブーメランを合わせた武器。

ナックルとブーメランの名が示す通り、通常の投剣のように投げて攻撃するだけでなく、手に握ってナックルのようにも扱える。だからこそ、投剣スキルはすでに習得済みであったネズハに、新たに体術スキルの習得を求めたのだ。

またこの武器の特性として、投げてもブーメランのように武器が戻ってくるというのがある。これなら、残弾を気にすることなく戦闘ができる。

鍛冶ハンマーに変わる、新たな相棒を得たネズハの顔は、すでに一人の剣士の顔であった。

「ディアベル!とにかく複数で攻撃を防御してくれ!そこを狙って俺たちは攻撃する!」

「了解した!みんな今聞いたとおりだ!必ず複数人で攻撃を防いでくれ!」

ディアベルの指示に従って、各々の隊で固まり、防御態勢をとる。

「リント!ネズハ!俺達のH隊に入れ!」

俺はそう叫ぶと、ウィンドウを素早く開き、パーティー招待を二人に送った。

それはすぐに受理され、視界にHPバーが2本増える。

「ブモォォォッ!」

「来るぞ!」

ディアベルが、雄叫びを上げたアステリオスに反応し、メンバーは防御を固める。

アステリオスが振り上げたハンマーには雷が宿り、そのまま振り下ろされる。

トーラス族の将軍と王にのみ扱えるスキル、《ナミング・デトネーション》が、ディアベルたちに襲いかかる。

「くそ、麻痺するのはまずい!レジ(デバフ耐性)値が低いものは退避!」

「「「了解!」」」

ディアベルの指示に従って、タンク型以外のプレイヤーは一度離れる。

アステリオスが振り下ろしたハンマーを中心として、放射状にスパークが広がる。

それに当たればスタンの危険があるが、レジ値が高い者のみが残っているので、スタンの影響を受けるものは居ない。

「キリト!アスナ!リント!一発打ち込むぞ!」

「了解!」

「分かった!」

「分かりました!」

俺は三人に指示すると、俺は必冊ホルダーに、キリトは体の上方に、アスナは身体の前に、リントはライオン戦記を剣先に押し当て、構える。

【烈火居合!】

【ライオン! ふむふむ…】

「「「「ハアッ!」」」」

俺は炎をまとった斬撃、キリトはバーチカル、アスナはリニアー、リントは水を纏った斬撃を繰り出し、アステリオス王のHPが確実に減少する。

「よし!一旦後方退避!タイミング狙うぞ!」

「OK!」「了解!」「了解です!」

俺の指示で、三人が一度ボスから距離を置く。

その後は、ある程度パターン化された戦闘が続いた。

H隊以外がアステリオスのヘイトを稼ぎ、奴が技後硬直に陥ると、俺達がソードスキルやライドブックなどの攻撃でHPを削っていく。

「ブ…ブモォォォッ!」

「…!ディアベル!バーサクだ!」

「ああ!全員耐えろ!回避しても構わん!」

HPが減少し、バーサク(狂乱)状態になったアステリオスがハンマーを振り上げるのを見て、俺はディアベルに向かって叫び、ディアベルもまたメンバーへと叫ぶ。

アステリオスは、横薙ぎや振り下ろし、そして的確なタイミングで挟んでくるナミング・デトネーションで攻略部隊を攻撃した。

だが、やられてばかりの俺達ではない。ディアベルの的確な指示によって、避け、防ぎ、また反撃を繰り出す。

そして……

「ラルト君!あと一発だ!四人で派手に決めてくれ!」

「了解!みんな……決めるぞ!」

「おう!」

「ええ!」

「はい!」

俺達は、各々大技の準備に取り掛かる。

キリトは、背中に剣を回し、スキルが発動する一歩手前まで持ってくる。

アスナもまた、舞うような構えを行い、スキル発動の準備を整える。

そして、俺とリントも。

【必殺読破!】

俺達はそれぞれの聖剣を納刀し、トリガーを一度引いて待機状態に、そして再度引いてから高く飛び上がる。

「ハアッ!」「ハッ!」

そして、キリトとアスナも跳躍し、剣を振りかぶり、突き出す。

そして俺達は、己の力を溜めた右足を突き出した。

「緋龍蹴撃破!」「レオ・カスケード!」

「ソニックリープ!」「シューティングスター!」

俺達は、下からの斬撃と上からのライダーキックで挟み撃ちにし、その攻撃の全てが奴の弱点────王冠に守られた額を貫く。そして────

【ファファファイヤー!】【ウォーター!】

ポリゴンの欠片と変わった奴の胴を通り抜け、俺たちは着地した。

…こうして、この世界第二回目のボス戦は終わった。




いやー…戦闘シーン難しい!(バカ大声)
やっぱり練習がもうちょっと必要ですね。(もうちょっと?)
まあとりあえず、予告でもどうぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「あんた、この前までタランでやってた鍛冶屋だよな?」
「お前…何やったかわかってんのか!」
「…皆さんの、どんな裁きにも従います。」
第12節 英雄の真実、罪の代償。


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英雄の真実、罪の代償。

えー、気がつけば一ヶ月立ってたみたいで…
もう一個更新してる方が週一投稿してて、ちょっとこっちほったらかしてましたすいません…

いや書いてた、書いてたんですよ!
…あの…その…テストで…やらかしました…

ってことで、二層攻略編ラスト、どうぞ。


「コングラチュレーション」

着地した俺たちが最初に聞いたのは、エギルの流暢な英語でのねぎらいの声だった。

俺たちがそちらを向けば、視界にはサムズアップをするエギルの姿が。

俺とキリトもそれに釣られてサムズアップで返し、アスナもサムズアップこそしなかったものの、その表情はどこか晴れやかで。

「見事な剣技とコンビネーションだったな。───だが、今回のMVPは間違いなくアイツだな…」

「ああ、アイツが来なかったら、少なくとも10人ぐらいは死んでたかもな…」

俺たちが言うアイツとは、もちろんあの輪状の刃を握った少年────ネズハ。

もし彼が参戦せずに、ボスの雷ブレスを潰すことが出来なければ、ブレスによって麻痺、そしてそのまま死亡という道をたどる者が少なくなかっただろう。

その当人たる彼は、未だ残るボスのポリゴン片を眩しそうに見つめている。

ボス部屋の中央では攻略組本隊が歓声を上げ、誰もが勝利の余韻に浸っていた。

俺たちがネズハに駆け寄ると、ネズハもそれに気づき、俺たちに声をかけてきた。

「お疲れさまでした、キリトさん、アスナさん、ラルトさん、リントさん。最後の連携技、すごかったです。」

「いやー…それを言うなら君もだろ。手に入れたばっかの武器を、あんな自在に動かすなんて…」

実際、俺たちがあのダブルライダーキックと二重の斬撃を決めることが出来たのは、彼がアステリオスの行動をチャクラムで正確に潰していたからだ。

「いえ、大変なんて思いませんでした。だって、僕はやっと、なりたいものになれたんですから。本当に、ありがとうございました……これで、もう…」

ネズハはそこで言葉を切ると、そのまま中央を見つめた。

そこでは、攻略組の本隊が互いの勇姿を称え合い、レジェンド・ブレイブスの5人も、互いに健闘を称え合っている。

俺たちも釣られてそこを見た後、ネズハが息を詰めたのに気づいた。

視線を変えたネズハが見た方向を見ると、そこには攻略組本隊から歩いてきた三人のメンバーがいた。

今回の勝利の立役者であるネズハを労いに来たのかと思ってから、彼らの顔が異常に険しいことに気づく。

彼らをどこかで見たことがあると思い、記憶を探ると、その答えはすぐに出てきた。

腰に幅広剣を吊った男を中心とした彼ら三人組は、鍛冶屋時代のネズハに強化を依頼した者……つまり、ネズハの強化詐欺にあった者。

そんな彼らと、詐欺の当事者たるネズハが出会うことに一縷の恐れを感じながら、俺は行く末を見守った。

「…あんた、ちょっと前までウルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな。」

ネズハの前まで歩いてきた中央の人物…シヴァタの問いに、ネズハは頷いた。

「…はい。」

「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?それにそんなレア武器まで…それドロップオンリーだろ?鍛冶屋でそんなに稼げたのか?」

─────不味い。この状況は非常に不味い。

シヴァタは、俺達のように根拠を掴めていないとしても、ネズハの行為のどこかに不正があったのではないかと疑っている。

実際のところ、彼が言ったレア武器であるチャクラムはたしかにレアではあるものの、現在では趣味スキルとなってしまった《投剣》と、習得するのにあのクエストをクリアする必要がある《体術》の両方のスキルが必要とあって、高値がつくわけではない。だが、それを聞いたところでシヴァタの疑心は消えないだろう。

気がつけば、勝利後の興奮の中にあったレイドメンバーも、そして詐欺の裏の首謀者であったレジェンド・ブレイブスの面々も沈黙し、事の行く末を見守っている。

殆どのメンバーは戸惑っているだけだが、その中でも5人───レジェンド・ブレイブスの5人の顔が、以上に強張っていることだけは、この距離でもわかる。

この場で、チャクラムの出処をハッキリさせることは実に容易い。この場で、俺が発言すればいいだけなのだ。

──だが、それが本当に良いことなのだろうか。経緯が何であれ、ネズハがクイックチェンジを使ったトリックでシヴァタが育て上げた愛剣、スタウドブラウドを搾取したのは事実なのだ。──そして、シヴァタからすれば、目の前で愛剣を叩き割られたことも。

シヴァタはあの時、大した糾弾もせずに、自身を自制した後に立ち去っていった。その怒りを、再び呼び覚ますことに意味はあるのか。

俺がそのような思考に囚われている時、その当事者たるネズハが動いた。

彼はチャクラムを置くと、両手を左右に広げて地に付けると同時に跪き、そのまま頭を垂らし───

「…僕が、シヴァタさんと、そちらのお二人の剣を、エンド品とすり替えて、騙し取りました。」

…彼は、己の行為を吐露した。

ボス戦の時よりも重たい空気が、身を包んだ。

この世界で俺達に与えられたアバターは、驚くほどの精細さで現実の肉体を再現できているが、感情表現についてはやや誇張気味だ。嬉しければくっきりと笑みが浮かび、怒ればはっきりと血管が浮かび上がる。悲しくなれば簡単に涙が出てくるらしい。

それであるからこそ、ネズハの告白を聞いても尚、眉間にシワを浮かべただけのシヴァタの精神力は大したものと言わざるを得ないだろう。彼の隣に立つ二人はすでに爆発寸前といった様子だが、それでも堪えているのは流石といったところだろう。

俺はどうすればいいか分からないまま、キリトとアスナ、リントを見た。

彼らもどうすれば良いかと分からないという様子で顔面蒼白となっていた。俺の方も変わらないだろう。リントは事情を知らないものの、肌で状況を感じたのか、その顔は見たことない程にまで青ざめたものになっている。

この沈黙を破ったのは、シヴァタの枯れた声だった。

「…奪った剣は、まだ持っているのか…」

その問いに、ネズハは頭を下げたまま、首を左右に振った。

「いえ…もう全て、お金に変えてしまいました…」

シヴァタもその答えを予期していたのだろう、その声が聞こえた瞬間に目を一度つぶっただけで、短く「そうか」と答えると、

「なら、金での弁償なら出来るか?」

と聞いた。

出来るできないの話なら……出来なくはない。

だまし取った金の行く末である強装備、それらを纏う彼らブレイブスが強化詐欺を始めてから、まだ10日程度しか立っていない。アイテムの相場もまだ変わっていないはずなので、彼らの装備を売却さえすれば、搾取した剣分のコルは帰ってくるはずだ。

…だが、それを実行可能かどうかという話になると、急に可能性は低くなる。

彼らは今さっき行われたボス戦で、その装備を使って大いな注目を浴び、多大な存在感を示したのだ、そんな彼らが、その力の根源たる装備を手放すだろうか?そんな状況で、ネズハはどうするつもりなのか───

「いえ…それも無理です…ほとんど全部…高いレストランや宿屋に使っちゃいましたから…」

それを聞いて、俺達は完全に気づいた。

彼は───ネズハは、この場を切り抜ける気などないのだ。

自らを危険な立場に押し込め、今尚何もしようとしない、かつての仲間たちをかばうつもりなのだ。

───たとえ自分が、どんな事になっても。

ネズハの言葉に、とうとうシヴァタの隣に立つ一人が限界を迎えた。

「お前………お前、お前ェェェェェェェェッ!」

握った拳を振りかざし、ブーツで幾度も床を踏みつける。

「お前!何やったかわかってんのか!?俺が…俺達が、必死になって育てた剣壊されて、どんだけ苦しい思いしたか!!…なのに…なのに!俺達の剣を売った金で、美味いもん食っただぁ!?高い部屋に寝泊まりしただぁ!?ふざけんじゃねえぞ!?挙げ句に、その金でレア武器買って、ボス戦に割り込んでヒーロー気取りかよ!?ふざけんじゃねえぞ!?」

それに触発されたかのように、その反対側に立っていたメンバーも、

「俺だって…俺だって、剣が砕けて、もうダメだって思って…でも、仲間がカンパしてくれて、素材集めも手伝ってくれて…お前は詐欺をした相手だけじゃない、この世界で戦ってるプレイヤー全員を裏切ったんだ!」

その二人の言葉が、とうとう全体を動かし──────

全員の声が、この部屋に広がった。

裏切り者、何したかわかってるのか、お前のせいで……彼に向けられたあらゆる罵詈雑言が、俺の聴覚野にまで響く。

その言葉の濁流に晒されたネズハの身体が、耐えかねたように縮こまる。

この状況になってしまえば、この惨劇を止められる者は誰ひとり居ない。

この状況を何とかする方法と言って思いつくのは、ネズハが今までの行いと等価の償いをすること…

──俺は、その結論に至ると、ネズハの先程の発言を思い出した。

『これで…もう…』

……思い残すことはありません。

彼は、もしやそう言おうとしたのではないだろうか。

「ネズハ…君は…まさか…」

同じ結論に至ったと思われるキリトが、絞り出すように呟いた。

…この時になって、この状況を解決出来る可能性を持つ者が前へ出た。即ち、この集団(レイド)のリーダーたる、騎士ディアベル。

彼はネズハの前に進み出ると、彼に問うた。

「君の名前は…ネズハ、でいいのかな。……ネズハ、君のしたことは許されることではない。だが、オレンジカーソルになるシステム上の《犯罪》と違って、グリーンカーソルのままの君の罪は、どんなクエストで雪げない。だから……別の方法で償ってもらうことになる。」

その言葉に、俺は息を呑んだ。

まさか……いやそんなことは…

俺たちの視線を集めたディアベルは、一度口を閉じ、そして開き──

「君が奪ったのは剣だけじゃない、彼らが剣に費やした、長い…本当に長い時間もだ。だから…」

その言葉を聞いて、俺はホッとした。きっと、ディアベルはネズハに、今後のゲーム攻略での貢献と、収入からの弁済を要求するつもりだろう。

……だが、彼がその言葉を言う前に…

「違う!そいつが奪ったのは時間だけじゃない!」

攻略集団の中から飛び出てきたプレイヤーが一声甲高い声で叫び、ディアベルの言葉を遮ると……

 

「オレ…オレ知ってる!そいつに武器を騙し取られたプレイヤーは他にもいるんだ!そんで、そのうちの一人が、店売りの安いので狩りに出て、今までは倒せてたMobに殺されちまったんだ!」

 

今までのどんな、どんな空気よりも重たい空気が、この世界を包んだ。

それから数秒後、この空気を打ち破ったのは、シヴァタの隣に立つプレイヤーだった。

「し…死人が出たんなら、こいつもう詐欺師じゃねえだろ………ピ……ピッ…」

彼が言えなかった最後の言葉を、あの飛び出たプレイヤーが引き継いだ。

「そうだ!こいつは人殺しだ!PKなんだ!」

…まさか、この世界でPKという言葉を聞くことになるとは。

PKとは、サイコキネシスでも、ましてやペナルティキックでもない。

PKとは日本語でプレイヤーキルまたはプレイヤーキラー、即ちこの世界において…殺人行為、または殺人者のことを指す。

…このSAOは、近年のMMOとしては珍しくPKが可能となっている。街区圏内こそ犯罪防止コードの効力で不可能になっているが、一歩でも圏外に踏み出せばそのコードの加護は得られない。自身を守るのは、己のスキル、装備、そして仲間だけ。

ベータテストでこそ、最前線でのいざこざを剣の立会で解決する場合もあった。だが、それも双方の合意によるデュエルで、それをPKというわけではない。

PKとは、合意などお構いなしにプレイヤーを倒すことそのものを目的とするプレイヤーのことを指すのだ。…いわば、快楽殺人者。

だが、この世界において快楽殺人者など現れるはずがない。なぜなら、この世界でプレイヤーを殺すことは、攻略に当たる人数が減る、つまりこの世界からの脱出が遠のくからだ。

だから…この世界で、PKなどという忌々しい単語を聞くはずはなかったのだ。

……それが、こんな形で聞くことになろうとは。

先程飛び出た、痩せたダガー使いはネズハに指を突きつけ、尚叫んだ。

「土下座くれーで、PKが許されるわけねーぜ!お前の罪は、どうやったって消えねーんだ!どんだけ謝ったって、どんだけ金積んだって、死んだ奴はもう帰ってこねーんだ!おい!どうやって責任取るんだよ!言ってみろよぉ!」

爪で引っかかれたような音で俺達の耳が刺激される中、俺は奴の容姿をどこかで見たような感覚に囚われていた。

「…!アイツ確か…」

俺は思い出した。アイツは、一層ボス戦の後、俺やキリトらベータテスター断罪の空気が消えたことに不満な態度を醸し出していた…ジョー。

俺は嫌な予感がした。それもメギド戦以上の。

もし万が一アイツの思うがまま担ってしまえば、ネズハは間違いなく殺される。

アイツがなぜあんな発言をしているかは知らないが、少なくともその死んだというプレイヤーを弔う気はないだろう。

だが……奴からは途轍もないほどの悪意を感じる。

相対したことはないが、きっとネズハに強化詐欺を指導した男以上の……

……違う。

俺は最悪の結論に達した。

よく思い返せ、アイツはこんな詐欺を伝授した後に、すぐに姿を消した。何の報酬も求めず、幸運だけを祈って。

…だが、あのグッドラックもある意味皮肉だったのかもしれない。

このような詐欺がバレれば、この事態になることは容易に想定できたはずだ。それは、レジェンド・ブレイブスの面々にとっても。

つまり、あのポンチョ男の目的は、ブレイブスの支援ではなく。

詐欺行為という明確な悪事に手を染めさせ、その人物をプレイヤーの総意によって…殺害すること。

もし、もしこの想像が正しければ、いまこの状況を握り、ネズハを処刑する方向へと動かそうとしているジョーもまた、黒ポンチョ男の…

キリトも同じ結論に至ったのか、その表情に険しさが宿る。

何か…何か、この状況を終わらせる方法はないか…

俺達が何かアクションを行う前に、ネズハが小さく、だがはっきりとした声で言った。

「みなさんの、どんな処罰にも従います。」

それを聞いた俺達は、何の策もなく『待った!』と叫ぼうとした。

だが、またしてもそれより早く…

「なら、責任取れよ」

シヴァタの声が響いた。

その声自体は、大した意味もない短い単語だった。

……だが、この状況においては、これほどの力を持つ言葉はなかった。

「そうだ!クソ鍛冶屋!」

「死んで詫びろ!」

「このサイテー野郎が!」

「殺せ!PK鍛冶野郎を殺せ!」

口々に喚くプレイヤーたちの怒りには、ネズハに対するものだけでは無いように思えた。彼らの怒りの奥底にあるのは、このソードアート・オンラインというデスゲームそのものへの怒り。それが、強化詐欺師という明確な悪人の存在を持って、それが表面化したように思えた。

だが、この状況を放置するわけには行かない、ネズハに攻略で罪を償うように進言したのは俺達だ。この惨劇を止める責任が、俺達にはある。

とどまりを知らない罵声の中動きを見せたのは重装備の五人だった。

すなわち……レジェンド・ブレイブス。

その鎧から発生する重いサウンドエフェクトを響かせながら、広間の中央でうずくまるネズハの元へと歩く。

そのただならぬ気配を感じたのだろう、そこに立っていたディアベルやシヴァタが場所を譲る。

がしゃ、がしゃと続いていた足音が止まった。

それと同期して、オルランドたちブレイブスもネズハの元へとたどり着いた。

そして彼は、右のガントレットに包まれた手を左腰へ動かし────腰に収められた、アニールブレードを引き抜いた。

俺達はこの先に待ち受ける光景を思い浮かべた。オルランドは腕を振り上げ、そのまま真下の少年へと───

「オルランド…」

キリトが思わず呟いた。

俺達は、右足に重心を傾けた。……オルランドが剣を振り下ろしたときには、ダッシュが開始できるように。

俺とキリトは、右後ろでアスナも同様の操作を始めたの感じ、そちらに囁きかけた。

「アスナ、君は動くな」

「嫌。」

キリトが言った途端、きっぱりした一言が返ってきた。

「今回ばかりはキリトに賛成だ、この場で割り込んだら攻略集団にはもう居られないぞ、最悪、俺達も犯罪者扱いで転落だ。」

「それでも嫌よ、私は…私でいるために始まりの街を出たの。自分を曲げてまでここに残るなら…自分の意思を貫くわ。」

「…覚悟が出来てるなら…いいさ。」

俺達は一瞬苦笑してから頷き、再度コロシアムの中央を見ると、そこに広がっていた怒声は嘘のように消え、誰もが行く末を見守っていた。

そして………

…………オルランドの口から、あまりにも小さく…しかし、何故か明瞭に聞こえる声が発せられた。

「……ごめんな。………ほんとにごめんな、ネズオ。」

彼は、手に握っていた剣をチャクラムのそばにそっと横たえた。数歩歩いた後、ネズハの隣にまで来ると、頭のバシネットも外し、体の正面に置く。

続いて他の四人もそれぞれの武器と兜を床に置き、そして一列になるとすぐに、地に膝を付けた。

ギルド本隊に向かって深々と頭を下げるレジェンド・ブレイブスの5人……いや、6人に、誰もが唖然とした。

やがて、オルランドの声が……小さくわなないているが、それでいて毅然とした声が、この世界に響いた。

 

「……ネズオは…ネズハは、俺達の仲間です。ネズハに強化詐欺をやらせていたのは、俺達です…」

 

◆◆◆◆

 

「まったく…なんで私達がこんな使いっ走りみたいなことしないといけないのよ」

「しょうがないだろ、おミソ何だから」

「それは前回の話でしょ?あの時は3人だったけど、今回は5人いたじゃない。」

「まあそれも、リントとネズハが来てくれたからだけどな。サンキュー、リント。」

「いえいえ…僕も良かったです、皆さんの役に立てて。」

アスナの愚痴にキリトが肩をすくめながら返し、それに反論したアスナに俺が言っておき、それに反応したリントが感謝を述べる。

「そういえば、結局聞き損ねたわね、人数少なかった理由。」

「あー、たしかに。三層攻略するときにでも聞くか。」

「そうだなー…その時にエギルとも会うだろうし、あれ渡しとくか。」

「あれってどれだよ?まさか毒薬か?」

「え…キリトさん、それは不味いですよ…」

「いやいや渡さねえよリント。ラルトもこいつが真に受けるからやめてくれ。」

「へいへい。…で、結局何渡すんだ?あの牛男から落ちたマイティ・ストラップ?」

「なにそれラルト君?」

「…おお、それもありだな。あれも渡そう。」

「ねえ、だからマイティ・ストラップって何?」

「全自動上裸縛り防具」

「誰が使うのよそれ…」

「で、結局あれなんだろ?いま二層の宿屋に押し付けてるあれ。」

「ご名答。」

俺の言ったあれとは、体術スキル修行に出向くネズハがキリトに渡した、魔法の絨毯ことペンターズ・カーペット。

「エギルなら、将来有望そうな商人候補の知り合いがいそうだろ?そいつに使ってもらえれば、ネズハもきっと喜ぶ。」

「そんなこと言って、エギルさんが商人魂に目覚めちゃったらどうするのよ」

「………その時は、お得意様第一号になるさ」

適当の極みたるキリトの返答にアスナは呆れつつも、ちらっと行く先を見つめる。

俺達が歩き登っているのは、二層迷宮区から三層まで続く、1層攻略のときにもあった螺旋階段だ。設計意図は不明だが、何故か迷宮区タワーの外周をぐるっと一周りする設計なので、その距離は…計算するのも嫌だな。

まあ、そんな距離とはいえ、迷宮区を降りるよりかは早くダンジョンから抜ける事ができる。ついでに、ここにモンスターは湧かない。

俺達に与えられた仕事は至極単純、迷宮区、つまりメッセージ使用不可のダンジョンから脱出して、攻略を今か今かと待っているプレイヤーたちに、ボス攻略成功の第一報を伝えること……

本来、これはギルドリーダーを努めたディアベルの権利だ。だが、その権利を俺達に預けたのには訳がある。彼らは、もう数十分はボス部屋から出られないからだ。

別に閉じ込められたわけではなく、攻略組本隊のレジェンド・ブレイブスに対する処罰を決める話し合いが、未だ終わっていないからだ。

だが、俺達はもう何も心配していない。オルランドたちが罪を告白したことによって、状況の行く末は大きく変わった。以下に攻略組の彼らが怒り狂っていたとしても、一度に6人を処刑するほどヒートアップしていたわけではないし、オルランドたちが名乗り出たことによって、あることが可能となったのだ。即ち、シヴァタたちが騙し取られた剣の賠償だ。

オルランドたちはあの後メニューウィンドウを開くと、兜のみならず全ての重装備を解除した。

それらを全てオブジェクト化し、床へと並べた。それによって、そこに時価いくらになるか想像もできないハイレベル装備の山ができた。

その上で、オルランドは言った。これらのアイテムを換金すれば、詐欺の被害額を上回る額のコルになるはずなので、それで被害にあったプレイヤーに迷惑料を足して賠償する、それでも余るようであれば、今後のボス戦にポーション代として捻出する、と。

被害回復はこれでなんとかなるとして、問題は武器のグレードが下がったせいで死んだというプレイヤーの件だ。

オルランドは、それでも出来ることをするために、そのプレイヤーと仲間に謝罪しに行くといった。

そこで、その情報をもたらしたプレイヤーに名前を確認したのだが………………彼は、口ごもりながら「噂で聞いたから名前は知らない」と応えた。

俺はその時点でぶっ飛ばしたかったのだがなんとか堪え、その死んだプレイヤーは情報屋に調査を依頼することとなった。

そして、残る問題は装備の売却先となったのだが、それはとあるプレイヤーの提案で解決した。

この世界で今一番コルをもち、強化装備を欲しているのは自分ら攻略組なのだから、そこ相手に売買してはどうか、と。

つまり、彼らが残っているのは突発的オークションのためだったのだ。

そして俺達がこの役目を担っているのも、この4人の誰もが皮装備主体で、食指の動くような防具がなかったからだ。

「詐欺の件はどうにかなるとして…ネズハさんたちは、これからどうするのかしら。」

アスナが呟き、キリトがこれに答える。 

「彼ら次第だな。ブレイブスが強化詐欺をしてたって噂が、前線に広がるのは止められないだろう。それを避けて…それこそ一層のはじまりの街に戻るか、もう一回真っ当に最前線を目指すか。…別れ際にディアベルに確認したけど、彼らにその気があるんなら、最低限のコルは戻すって言ってたよ。」

「…なら、また共闘する未来も待ってるかもな。」

「…だったら、私達も努力しないとね。彼らが戻ってきた時に、しこりなく一緒に戦えるように。……あ、そういえば」

不意にアスナは声を切ると、こちらに向き直り、

「二層の本当のラスボスだった、アステリオス・ザ・トーラスキングのLA(ラストアタック)ボーナスって、結局誰に出たの?」

「あー…そう言えば俺も出なかったな…」

「僕もですね…そう言うってことは、アスナさんも出なかったんですよね?」

「ええ……ということは…」

俺、アスナ、ラルトの三人は、一斉に黒衣の剣士を見つめた。

「えーっと、その…お、あれ出口じゃないか?急ごうぜ!」

「あっ!」

「ちょっとキリトさん!教えて下さいよ!」

「そうよ!何が出たのよ!」

俺達は小競り合いをしながら、まだ見ぬ三層への道を駆け上っていった。




いやいや、なんとか二層終わりまで行きましたよ。
次回から三層に入るわけですけど、流石に月一投稿は頑張りたいです、はい…
ということで、予告どうぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「キリト君て、そういう趣味だったの?」
「男のほうが《森エルフ》、女のほうが《黒エルフ》。」
「これ、本当にNPCなんですか?」

第13節 森林の妖精、白黒につき。


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アインクラッド第三層攻略編
森林の妖精、白黒につき。


どうも、作者です。
8月も終わりますけど、そんなときに投稿します。
今回から、アインクラッド第三層に突入です。
前書きで書くこともあんまりないので、とりあえず天どうぞ。


アインクラッドは、今まで俺達がクリアしてきた1層、2層のような鉄の板に乗ったフィールドが計100枚重なった構造になっている。

それは上に行けば行くほど板は小さくなり、板は全て円状なので総合的な形は最終的に円錐状となる。

第一層は森は池、古城など様々な風景が入り乱れる、いわば《RPGでよくある地形詰め合わせ》みたいな感じだったが、二層に入るとテーマが絞られ、そこらを牛が闊歩し、辺りには枯れ草が生え茂る牧場エリアとでも言う風景が広がっていた。………まあ、プレイヤーの大半は二層を《牛フロア》と呼んだのだが。理由は言うまでもあるまい。

そんな1、2層に共通する点として、登場するモンスターが挙げられる。

一層のメインmobであるコボルド、二層のメインmobであるトーラス(ミノタウロス)はともに亜人族(デミヒューマン)であり、背格好は人間のそれだが、容姿に関してはモンスターのそれである。

さて、そんな亜人だらけの1,2層を超えた俺達を待ち受ける第三層はどうなのかと言うと…

「……ある意味、ここからがSAOの本番だ…」

同じようなことを考えていたのか、キリトが不意に口から言葉をもらした。

「本番って……どういうことですか?」

それを聞いたリントがキリトに尋ねると、キリトはこちらを向いて

「それは…この第三層から、本格的に人型mobが出てくるんだよ。今までのコボルドとかミノとかも人っぽかったしソードスキルも使ったけど、見た目は完全なモンスターだったろ?でも、この三層から出てくる敵は外見がほぼプレイヤーと変わらない。上のカラー・カーソルがなかったら見分けがつかないぐらいに、な。それに、ソードスキルも下手するとプレイヤー以上に高度な使い方をする。つまり…」

キリトはそこで一度言葉を着ると、その視線を空…いや、第三層の底面に向け、

「ここからが、本当のソードアート・オンライン(剣技の世界)なんだ。開発者インタビューで、茅場晶彦も言ってたよ。『ソードアートとは、ソードスキルとソードスキルが織りなす音と光、生と死の協奏曲(コンチェルト)だ』って…」

「生と死の…コンチェルト、か…」

俺も一度読んだことのある、あのインタビューの文面を脳裏に浮かべながらつぶやくと、アスナは

「ふぅん…」

とあまり興味なさそうな声を上げ、規則正しいペースで階段を登りながら、更に言葉を続けた。

「……その言葉を言った時点で、茅場はこの事件を計画してたのよね?」

「ああ、まあ、当然そうなる…か。」

キリトがアスナの質問に歯切れ悪く答えると、アスナはどこか独り言のように声を発した。

「生と死の…協奏曲(コンチェルト)。それって本当に、モンスター対プレイヤーのソードスキル戦だけを想像したものなのかしら。」

「…え?それってどういうことだ…?」

俺がアスナにその言葉の真意を聞けば、

「私の考えすぎかもしれないけど…コンチェルトって、楽器と楽器が対を成して演奏する形式じゃないのよ。そういう意味でなら、二重奏のほうが適当だわ」

「確かにそうですね…協奏曲の本当の意味って確か…」

「…協奏曲の意味は、管弦楽器をバックにして、単独または少数の独奏楽器が演奏する形式…かしらね。時代によって意味は少しずつ変わっているけど、基本的にはそういうもののはず。つまり、一対多…もしくは少数対多数のの音楽なのよ。」

「一対…多…」

キリトは小声で言うと、そのまま何かを言いかけ、そのまま口を閉じた。

そして…俺も。

一対多という状況は、実際のところRPGでは珍しいこととは言えない。いわゆるドラ○エやファイ○ルファンタ○ーなどでも、一回のエンカウントで複数体のモンスターと出会うこともある。それは、他のMMORPGでもおなじ。

だが、それがこのSAOの価値観に置き換わると、その事象は限りなく起こり得ない事象へと変わる。

なぜなら、他のRPGと違い、この世界では複数の相手に有効な広範囲高火力攻撃……つまり魔法が存在しないからだ。この世界での遠距離攻撃は、今ではほぼ趣味スキルとなっている投剣だけであり、通常の武器でソードスキルを使用しても尚、間合い+αしか届かない。

つまり、この世界で複数の敵に囲まれるということは、処理しきれずに敗北……つまりゲームオーバー(死亡)になることを意味する……というより、その状況になりそうなら、誰しもがその前に全力で逃げ出すだろう。

というわけで、このSAOでは本来の意味での協奏曲に当てはまる戦闘は起きないことになるわけだ。

「それじゃあそもそも、この世界じゃあ協奏曲に例えられる戦闘なんか起きないってことじゃないか。強いて言うならボス戦がそれっぽいけど、それだとボスが主役で攻略レイドが伴奏みたいだなぁ」

「そうね、まあ、私の考えすぎだわ。……………それより、キリト君。」

「ん?どうした?」

「いえ…もう遅いみたい。」

アスナがそういった瞬間、俺とリントはこの次何が起きるかを察知した。同時に、脳内でこう思った。

───キリト、どんまい。

キリトは先程まで後ろを向いて階段を登っていた。つまり登る先が見えずに登っていたわけで…

「んごっ…」

キリトは頭を三層へ繋がる扉に盛大にぶつけ、そのまま螺旋階段の方に転がりかけたが、なんとか持ちこたえ重心を扉の方に向け、扉に体重を預けよう……としたところで、その扉はもうすでに開いており。

「うわあぁぁぁ!?」

………キリトはそのまま、開いたドアにケツから倒れ込んだ。

それがどうやら、この世界で第三層に初めて付いた、プレイヤーの痕跡だったらしい。

 

◆◆◆◆

 

どこか不名誉な形で到達した、アインクラッド第三層のテーマは『森』だ。一口に森と言っても、一層や二層にあったような小規模な森とはわけが違う。三層に生えている木々は小さなものでも幹の直径一メートル、高さは三十メートルにも及ぶ巨木であり、そのレベルの木が数え切れないほども生え、木々の葉が上方で重なり合い、その隙間から光が漏れ、地上へと届く光景は正しく『ファンタジー』の世界というものだ。

「わあ…!」

ケツから盛大に落ちたキリトを華麗にスルーしながら扉を通り抜けたアスナは、三層の大地を軽やかに駆け、陽光を浴びながらくるくると回る。

「すごい…この光景を見ただけでも、ここまで登ってきた甲斐があったわね…!」

「……ほんと、甲斐があったな」

アスナの声にキリトが反応しながら立ち上がると、レザーコートについた土……があるのかはわからないが、ともかくコートを払い、大きく伸びをした。

俺も釣られて空気をたっぷりと吸い込み、一層、二層とは少し違った感じの空気を味わう。……たぶん、感じだけだろうが。

後ろを向くと、大きめの樹の根元に石造りの四阿が立っており、その床は俺達が出てきた階段に繋がる穴がポッカリと空いている。

「さてと…」

三人が景色を見ている間に、俺はウィンドウを開いてメッセージタブに移動、送信先にアルゴを指定し、2層ボス攻略の旨を伝える文面を送る。一応アルゴもあの場にいたものの、ボスを倒した頃にはすでにどこかに行っていたので念の為、というわけだ。

これで、ディアベルから依頼された依頼は全て片付けた。

………と、いうわけで。

「えー、御三方とも。景色を楽しんでいるところ悪いのだけど…」

「?どうしたの?」

「どうしたんですか?」

アスナとリントの視線がこちらに向き、キリトもこちらを向くと、俺は話を続けた。

「今見えてるY字路を右に行くと、この層の主街区。本当は先にそっちに行って転移門を起動するべきなんだろうけど、できたらそれは後の攻略組本隊に任せたい。」

「はい…。」

「理由としては、俺達だけで転移門を起動しちゃうと、大勢がいると思って押し寄せる下層のプレイヤーが動揺するってのと、後単純に俺があんまり人前に出たくないってのもある。」

「ラルト君、ある意味ディアベルさん以上に有名人だもんね。」

「ああ。…で、もう一つ理由があるんだけど…」

俺はそう言うと、伸ばした手を最初に言った道とは違う方向に向け、

「あっちに行くと、この層のメインフィールドの森に入る。俺としては、あっちで先に済ませときたい事があるんだけど、三人は別に行きたくなければ行かなくていいし、来たければ来ても良いけど…」

「……ちなみに、その済ませたいことって何なんですか?」

「あー、早い話がクエストの受注。受けるまでに、結構時間がかかって…」

「別にいいわよ。私も街に用はないし。」

「僕も大丈夫です。丁度レベリングもしたかったですし。キリトさんは…?」

「俺も行くよ。俺もラルトと同じクエスト受けるつもりだったしな。」

「よし…じゃあ行くか。三層のメインを堪能しに。」

 

◆◆◆◆

 

これからの意向を決定した俺達は、先程示したY字路の左側を進んだ。

「アスナ、それにリント。この辺に湧くmobは、強さ的には二層迷宮区の奴らとあまり変わらない。殆どが動物か植物型だから、ソードスキルも使わないしな。」

キリトはそこまで説明すると、一度言葉を切ってから、更に続けた。

「でも、この三層に湧くmobの共通した特徴として、戦闘中にこちらを森に誘い込もうとする習性があるんだ。相手が隙を見せたからって突進系攻撃ばかりしてると、気がついたら道から遠く離れてて現在地がわからなくなることがある。」

「でも、一回通った道ならマップに色づきで表示サれるんじゃないの?」

「それが…」

そう言ってキリトが開いたウィンドウに示されたマップを、四人全員で覗き込む。すると…

「あ…薄いですね。」

リントの言葉通り、本来通ったところは3Dビジュアル表示されるはずのマップは、今は通ったところも薄くモヤが掛かったようになっており、どれだけ目を凝らそうと詳細な地形を知ることはできない。

「この辺のエリアは、正式名『迷い霧の森』(フォレスト・オブ・ウェイバリング・ミスト)っていうんだけどさ。マップもこんなだし、本当に霧は出るしでマジで迷うんだ。だから、たとえ戦闘中だったとしても道とパーティーメンバーからは絶対に離れない。これは原則として覚えててくれ。」

「了解。…じゃあ、早速実演してもらおうかな。」

「へ?」

「ナニカに見られてますよ。後ろから。」

リントの言葉通り、キリトの背後に生えている一本の木は、容姿こそただの枯れ木であり、サイズも他の木々より遥かに小さいが、その木の上部に2つ並んで存在するうろは、青くおぼろげな燐光を放っている。

この迷い霧の森に湧くモンスターの特徴として、地面にしっかりと生えている時はプレイヤーの索敵スキルに反応しないということだ。

そのモンスターの一種である《トレント・サプリング》は、土から抜けると根を脚のように使い、俺達の方へと全速力で突っ走ってきた。

俺達はキリトに少々呆れながらも、一番素早く抜剣したキリトに続いて、各々の愛剣を鞘から抜いた。

 

◆◆◆◆

 

戦闘が終わると、俺達は道からそこそこ離れた位置まで移動させられていた。

現在のような5メートル程度の距離ならまだ戻れるが、10メートルほど離れて更に霧まで出ていると戻ることは困難を極める。

道へ戻る最中、アスナがポツリと言った。

「なんだか………ちょっと罪悪感があるわね」

「え?なぜ?」

俺が聞き返せば、アスナは再び口を開いて

「だって、さっきのmob、苗木(サプリング)ってことはこれから育つってことでしょ?そう考えたらエコじゃないわ」

「あー…それはそうなんだけどな…でも、あいつが成長した《エルダー・トレント》あたりを見たら、苗木のうちに切り落としてやらないと…!…ってなるぜ。」

「それはそれで…ちょっと見てみたいですね…」

「その好奇心は押し留めたほうがいいぜ…」

キリト、まさしくその通り。

「と、そろそろか…」

「何が?……って、さっき言ってた、先に済ませときたいクエストね。」

「ああ。この辺でクエストくれるNPCにいるんだけど…そいつの位置がランダムなんだよな。……まあ、受けたことはないんだけど。」

「…え、無いんですか?」

「ああ……スタート地点のことぐらいしか知らない。」

「なんで?」

「……丁度ベータで三層が攻略されてた頃、俺用事でログインできなかったんだよな。だから情報だけなんだよ。」

「…じゃあ、キリト君は?」

「俺はあるぞ。クリアまで行ったしな。」

「そっか。……じゃあ、ネタバレはなしでよろしく。」

「了解。で……御三方、耳に自信ある?」

キリトの声に、俺とリントはそんなに反応しなかったのだが、アスナは俺達男性陣より小振りな耳を両手で隠し、

「…キリト君て、そういう趣味だったの?耳フェチ?」

「ち、ちがわい!この状況で自信つったら形じゃなくて聴力に決まって…」

「冗談よ。大体聴力関係ないでしょ。私達、音を耳じゃなくて脳で聞いてるんだから。」

「「「…確かに」」」

俺達は手を耳に当て───これに意味があるかは知らないが───、周囲にざわめく環境音(サウンドエフェクト)に感覚を集中させた。

「……そういえば、何の音を聞けばいいの?」

「まさか、葉が一枚落ちる音…なんて言いませんよね…?」

「流石に違う…よな、キリト?」

「確証を持ってから答えろよ……ああ、そんな無茶じゃないよ。探すのは金属音……正確には剣と剣がぶつかる音だから」

その返答に、アスナとラルトは少し眉根を寄せたものの、それ以上何を言うでもなく、音を聞くのに集中した。

……そして。

……キン。

「「「「……!」」」」

俺達は一斉に反応すると、同時に同じ方向を向き、その方向へと走っていった。

 

俺達が走ったのは五分にも満たなかっただろうが、その間にも金属音は大きさを増し、音源が俺達に近づいてくる……否、俺達が近づいていることをありありと示す。

そして、後少し走れば音源にたどり着くというところで、俺達は急制動し、近くの岩から音源を覗いた。

そこには、やや広めの空き地が広がり、その上で二人の人物が対峙していた。…………もちろん、剣と剣をぶつけ合う、という意味の。

片方は、白い肌に金色、緑色の軽装甲を纏った男。髪は輝かしいまでの銀髪で、手にはロングソード(片手用直剣)とバックラーを持ち、表情は張り詰めている。彼について特筆すべきはその容姿で、どこのハリウッド俳優だよと思わずには居られないほどの美貌を誇る、北欧系のハンサムなのだ。

対するもう片方は、浅黒い肌を黒と紫の装備で覆っている。手に持つのは先程の男とは対象的なサーベル、そしてカイトシールドで、髪はスモークパープル。そして、少し赤い唇と、胸部装甲が少し盛り上がっているのはその人物が先程の男とは正反対………つまり女性であることを示す。

「…こ…これ、本当にNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)なんですか?」

俺の横で、リントが信じられないというように呟いた。……俺も思ってる。ただ、俺の持つ情報と照らし合わせるなら…

「NPCというより、正確にはモンスター扱いらしいけどな。二人の耳、見てみな。」

「あっ、尖ってる……ってことは…!」

「そ、男のほうが《(フォレスト)エルフ》、女のほうが《(ダーク)エルフ》。」

アスナの問いに俺が答えると、キリトが指を指しながら

「ほら、二人の頭の上も見てみろよ。」

「あっ…クエストフラグ…?」

その言葉の通り、彼らの頭上には黄金に輝くクエストフラグ(!マーク)が存在する。

「ふたりともクエマーク付きで…しかも戦ってるって、どういう事?」

「簡単な話だよ。どっちかしか受けられないってことさ。」

「ど…どういうことですか?」

困惑している二人に対し、俺は言葉をかけた。

「俺達が今から受けようとしてるのは、単発クエでも、その層限りの続きモノでもない。………アインクラッド初、層を超えたキャンペーン・クエストなんだ。」




アインクラッド三層の目玉といえばあのヒトですけど、今回ほぼ出てきませんでしたね…
ですが、次回からはじゃんじゃん活躍して貰う予定ですので、彼女のファンの方は待っていただけると。
というわけで、次回の予告、どうぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「お姉さんだからじゃないよ、黒いからだよ」
「私達、死んだら…」
「礼を言わねばなるまいな」

第14節 美貌の騎士、秘鍵を携え。


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美貌の騎士、秘鍵を携え。

お久しぶりです。気がつけば10月も終わりが近づくというのに、この小説は二ヶ月ぶり…
まあ理由は特にないんですけど、まあ早い話がコロナかかりました。
今は無事回復したので、14話投稿します。あと、今回かなり短いです。


「そ…層を超えたって、一体何層まで…」

続くの?と言おうとしたアスナに、俺は答えた。

「そうだな……確か、終わるのは9層だったはずだ。」

「きゅ……!?」

───9層!?と叫びそうになった口をとっさに塞いだアスナは、目をはち切れんばかりに見開く。それはリントも同様だ。

そんな状態の彼らに、

キリトは追加で情報を投下。

「しかも、途中でミスってもやり直し不可。当然、対立ルートへの変更も不可。ここで選んだ道を、9層まで走り抜けるしか無いってわけだ。」

「ちょっとアナタ、そういうことはもっと早く…」

表情を怒りに変更させようとしたアスナだったが、その表情は途中で迷い顔に変更された。

「……って、対立ルート?…それってつまり、あのエルフのどっちかの…」

「味方になる、ってわけだな。要は、もう片方と戦うわけだけど…」

「ああ。黒と白、どっちも選べるけど、どっちが良い?」

俺とキリトの説明を聞いたアスナとリントは、一瞬迷った素振りを見せたものの、何故かジト目へと表情を再変更すると、

「それ、選択の余地無いんじゃないですか?」

「そうよ、普通のRPGならともかく、この状況(デスゲーム)だと、ベータの時にあなたが選んだ道に行くしか無いじゃない。というか、あなたがどっちを選んだか完璧に確信できるんだけど」

そこで言葉を切ったアスナは、ウッ…と言葉に詰まっているキリトを冷ややかな目で見つめると、

「ダークエルフのお姉さんでしょ? Did'nt you?」

「い…イエスアイディッド……でも、お姉さんだからじゃないよ、黒いからだよ。」

………嘘おっしゃい…どうせあのお姉さんのあれとかそれとかに惹かれたんでしょ?

と、そんな思考はアインクラッドの下に放り投げておいて、だ。

一応返答を受け取ったアスナは立ち上がるとふんっ!と顔を反らせ、

「まあいいわよ。私も、男の味方して女の人を斬るなんてゴメンだしね。じゃあ、黒エルフに加勢して森エルフを倒すってことでいいのね。じゃ、行きましょ。」

そう言って歩き出そうとしたアスナを、キリトが引き止めた。

「ま、待った待った!あと一つ、大事なこと!」

「何よ?」

「あのな……黒に加勢するのはそうなんだけど、俺たちは森エルフには絶対に勝てない。」

「「「え……えぇ!?」」」

驚愕の声を上げるリントとアスナ……と、俺を落ち着かせるため、キリトは意識したであろう落ち着いた声で言った。

「強げな装備を見てもわかるだろうけど……あの白い方《フォレストエルブン・ハロウドナイト》と、黒い方《ダークエルブン・ロイヤルガード》は、本来七層に行かないと現れない、しかもエリートクラスのmobなんだ。いくら安全マージンを取ってるとはいえ、三層に来たばかりの俺たちが敵う相手じゃない。」

エリートクラス……早い話が、同レベル帯のプレイヤーやモンスターより、数段上のステータスを持つ、というわけだ。単なるレベル差とは違う、地力の差。

「か、勝てないって……私達、死んだら…」

…現実でも死ぬ。そう言いかけたアスナを落ち着かせるように、キリトは言った。

「大丈夫、負けると言ってもそこまで行くわけじゃない。こっちのHPが半分まで削れると、黒エルフが奥の手を使ってくれて、それで勝てるから。だから俺たちがすべきなのは、慌てず防御に徹することだ。それでもHPは削れるけど、黒エルフのお姉さんが助けてくれるまで、ひたすら耐えるんだ。下手にパニックになって、他のmobを呼び寄せないとも限らないしな。」

「……解った。」

「……解りました。」

二人に続いて俺も頷くと、キリトはよし、と言うと、その腰を上げた。

「じゃあ、3つ数えてから飛び出すぞ。近づくと自動でクエが始まるから、俺の近くにいるだけでいい。」

キリトは最後にそう言うと、再度口を開き

「3,2,1………ゼロ!」

カウントがゼロになると同時に、俺たちは茂みから飛び出した。

それと同時に、二人のエルフの視線が一気にこちらへと集まり、警戒するかのように距離を取る。ついでに、二人の頭上の!マーク(クエスト受付中)?マーク(クエスト進行中)へと変わる。

森エルフのハンサムが

「人族がここで何をしている!」

といえば、まるで事前に打ち合わせしていたかの様に、黒エルフのお姉さんが、

「邪魔立て無用!今すぐに立ち去れ!」

と言う。……実際、この言動はプログラムで定められているのだから、打ち合わせも何も無いのだが。

ここで立ち去ることもできるのだろうが、それでは無意味だ。感動的ですら無い。

俺たちはちらりとアイコンタクトをすると、一斉に各々の愛剣を抜刀した。

……その切っ先を、森エルフのイケメンに向けることも忘れずに。

その瞬間から、森エルフの顔には険しさが増し、イベントmob判定の黄色いカラー・カーソルは、敵性mobを示す赤色…それもドス黒いダーククリムゾンへと変わっていく。

「愚かな…ダークエルフごときに加勢して、我が剣の露と消えるか。」

「そ…「そうよ!でも消えるのはそっちよこのDV男!」……」

可哀想にキリトさん……てかDVってこの場合使えるの?用法あってる?俺が無知なだけ?

そんな俺の思考を置いていって、戦況はどんどん緊迫感を増していく。

「良かろう、ならば貴様らから始末してやろう、人間よ」

いい音を立てて向けられるロングソードから放たれる剣圧を感じる俺の横で、キリトが言った。

「いいな、ガード専念だぞ!」

……その発言が、本当のものになるかは、少々疑わしかった。

なぜなら、キリトの隣…この中で唯一のレイピア使いのアスナの表情が………歴代誌上稀に見る、本気中本気の顔だったからだ。

「あの……ガード…専念…」

「解ってるわよ!」

「……まあ、キリト、最悪変身してカバーするから…」

「…頼んだ…。」

 

そして……二十分後。

「ば…馬鹿な……」

地面の直ぐ側で、そう呟くものが一人。

そして……

「ば…馬鹿な……」

……俺の直ぐ側で、そう呟くものが一人。

前者の頭上に浮かぶHPバーは、完全に色を失っている。……そして、こちら側には4人…いや、5人が立っている。

「なんだ、やればできるじゃない。」

そんな、なんとでもないような顔で呟くアスナ女史のHPは、半分を少し超えたところでとどまっている。

────これは後から聞いた話なのだが、黒エルフのお姉さんが使う奥の手は、強力な代わりにHPを消費…つまり、文字通り命を削って放つ技だったらしい。森エルフとの戦闘で、HPがすり減った黒エルフはその技で森エルフと相打ちに持ち込み、後をプレイヤーに託す……というのが、本来の筋書きだったらしいが…

…………その黒エルフのお姉さんは、しっかりとここに存在している。HPもゼロになっておらず、完全に生きている。

森エルフの体は地につき、ポリゴンのかけらと代わり爆散。一つの袋を残して、その痕跡を完全に消した。

…………黒エルフのお姉さんの顔に、あの、私どうすれば…という表情が浮かんでいるのは……

気のせいだろう、きっと。

 

◆◆◆◆

 

またまた後から聞いた話なのだが、決着がついた後のこのクエスト……その名も《翡翠の秘鍵》は、このような流れになるはずだったらしい。

黒エルフのお姉さんから後を託されたプレイヤーは、エルフたちが落とした大振りな一本の鍵を、黒エルフか森エルフの基地に運ぶ事となる。

その鍵は普通のアイテム判定で、街で普通に売れたりするし、結構いい値段もつくのだが、それではクエストは詰む。

基地に運ぶことで、ようやくこのクエストが本格始動する………訳だったのだが。

「えーと……な、なんだろー、これ…」

動揺を隠しきれていないキリトが、途轍もなくわざとらしい声を上げ、それに反応したアスナが、森エルフが残していった袋をすっと拾おうとするのを、キリトが止める。

何よ、と言いたげなアスナの目線をキリトが受け止める寸前、黒エルフのお姉さんが口を開いた。

「これでひとまず聖堂は守られる……」

そう呟いた黒エルフのお姉さんは、地面に落ちている袋を拾うと、腰のポーチにしまい、俺達の方を見た。その一連の動きはあまりにも自然で、コレがプログラムで動くNPCとは思えないほどだ。

「……………礼を言わねばなるまいな」

鎧をガシャガシャ言わせながら一礼したお姉さん………カラーカーソルの《Kizmel:Dark Elven Royal Guard》という表記に従えば、おそらくキズメルさんと読むであろう彼女は、言葉を続けた。

「そなたらのおかげで第一の秘鍵は守られた。助力に感謝する。我らが司令からも褒賞があろう、野営地まで私に同行するがよい。」

ここで、キズメルの頭上に黄金の?マークが点灯する。どうやら、この状況でもクエストは進行するようだ。

アスナはキズメルに近づくと言った。

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

「…………」

黙っているのは俺たちだけじゃない、キズメルさん本人も黙り込んでいる。NPCへの受け答えは、YES/NOがはっきりしている返答でないと反応が帰らないことが多い。

キリトが、おそらくNPCに通じる言い方で言い直そうと、口を開き………かけたのだが。

「よかろう。野営地は森を南に抜けた先だ。」

キズメルは少し黙っただけで、普通に会話を続けた。

………きっと、ベータから本サービスまでの調整で、NPCのAIだかなんだかのレベルが上がったんだろう。それだけのことだ。

俺は、そう考え、納得しようとした。………だが、この世界に存在する例外が、俺の思考を掠める。

「(キズメルはメギド?………考えすぎか…)」

俺は今度こそそう納得し、左上に増えた五本目のHPバーの名前をながめた。

…キズメル:ダークエルブン・ロイヤルガード。

………俺は…俺達は、今後この騎士と深く関わることになるとは、誰も考えていなかった。




切りいいとこで切るとこんなとこで終わってしまった…
まあとりあえず、予告どうぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「我らのまじないは、とても魔法とは呼べぬものだ」
「いんす…たんす?」
「ありがたく使わせていただき…うん?5人?」

第14節 黒き野営地、唯一の拠点。


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黒き野営地、唯一の拠点。

どうも、作者です。
珍しく月の中旬に投稿。実は明日からテスト週間に入ったりする()
とりあえず、テスト前最後の投稿どうぞ。


黒エルフの女騎士、キズメルと遭遇して数分。

俺たち5人はキズメルの案内の元、黒エルフの野営地に向かっていた。

キリトや俺を始めとした、元ベータテスターの経験値が無意味になろうとしている───俺は元からこのクエストは未経験だが─状況であっても、キズメルの同行が有益であったと認識できることは、少なくとも一つはあった。

ダークエルフの野営地に行くには、古道から外れ、森の中を突っ切る必要がある。そういう訳だから、古道を歩くよりもモンスターとのエンカウント率は上昇する。更に、この森特有の霧に巻かれ、現在地を見失う恐れもある。

そんな状態の中、キズメルさんはエリートクラスのスペックを遺憾なく発揮した。周囲から迫るmobは、片手に握るサーベルの一太刀で斬り伏せ、いかなる力か、道に一度も迷わずに、歩みを止めること無く森を掻き分け進んだ。ここはさすがエルフと言ったところだろう。

そんな訳で、森エルフの野営地に着いた時、あの戦場を発って15分ほどしか経っていなかった。

「けっこうあっさり着いちゃったわね。」

同じような思考だったらしいアスナがそう言うと、それに反応したキズメルが

「野営地全体に《森沈みのまじない》が掛けてあるゆえ、お前たちだけではこうも容易く見つけられなかったぞ。」

と言った。そう考えれば、どちらにせよキズメルのおかげで早くたどり着けたのだろう。

少し自慢げに言ったキズメルに対して、今度はアスナが反応した。

「へえ、おまじないって魔法のこと?でもこの世界に魔法は無いんじゃないの?」

………こいつ言いやがった。NPCに言ってはいけないセリフ第一位を言いやがった。(誇張表現です。)

このSAOという世界では、ファンタジーRPGとしては必須とも言える要素である魔法は存在しない。だがその訳は、端的に言ってしまえば制作コンセプト上の都合だ。自分の体のようにアバターを動かせるというフルダイブシステムの最大の目玉を最大限活かすため、体を動かさずに発動できる魔法は廃され、自らの体で発動するソードスキルのみが実装された。

だから、この世界に魔法が存在しない訳を真の意味でこの世界の住人たるキズメルには理解できないのではないか…………

「あのなアスナ、それは……」

俺と同じベータテスターで、その辺の事情にも精通しているキリトが口を開いたが、それよりも一瞬早く、

「………我らのまじないは、到底魔法とは呼べないものだ。」

キズメルが、そう静かに語りだした。

「いわば、古の偉大なる魔法の残り香……大地から切り離されたその時より、我らリュースラの民は魔法の力を失った……」

…………その言葉は、俺とキリト、要はベータテスター組に途轍もない衝撃をもたらした。

……大地から切り離されたから、魔法の力を失った。

魔法の力を失う、というところにも好奇心が湧いてくるが、それよりも気になるのは前半部分だ。

大地から切り離されるということは、もしやこのアインクラッドの起源にも関わってくるのではないか。

今考えれば、俺はこのSAOというゲームの舞台設定というものに関して全くと言っていいほど知らない。オンラインオフライン関わらず、ゲームシステムに並んで重要な要素である舞台設定というものは、このゲームでは意図的か否か、今まで雑誌だろうとネット記事だろうと語られてこなかった。解っているのは、舞台が百層のフィールドを重ねられてできた浮遊城が舞台、ということだけ。

だが、先程のキズメルの言葉から考えるに、このアインクラッドは、俺たちがログイン前に知った情報より、更に深い設定……いや、歴史があるのではないだろうか。

一体なぜ、黒エルフ───キズメルの言葉を借りればリュースラの民───たちはかつての世界から切り離され、この大空の孤島で生きることになったのか。そもそもアインクラッドは、誰が何のために作ったのか…………

俺はそんな思考の中でも、足を止めることは決してなかった。

 

◆◆◆◆

 

濃霧の中を切り分けながら進んでいくと、ある箇所で急激に霧が晴れた。

気がつけば森の端まで歩いていたらしく、遠くには巨大な山肌が続く。

その一箇所には切り取られたかのように谷間があり、その左右には柱が立つ。

上に目を向ければ、黒地に角笛と曲刀が染め抜かれた、特徴的な旗が風に煽られている。

柱のそばには、キズメルよりも重武装のダークエルフ兵が二人そびえ立っていた。彼らは大振りの薙刀を堂々と装備し、プレイヤーとは比べられない威圧感を示す。

そんな状況でも、キズメルさんは表情を一つも乱すこと無く歩いていく。

スタスタと歩く中で、リントが俺に小声で語りかけた。

「あの、ラルトさん。まさかとは思いますけど、この野営地で戦闘する………なんて無いんですよね?」

「あー……多分無い…と言いたいけど、俺やったことないしなぁ……キリト、そんなことはないよな…?」

「ああ、そのはずだ。こっちから彼らに斬りかかったりしなければ…の話だけど。…いや、その場合もクエスト中断と追放ぐらいで済むんだったかな……」

「後で試したりしないでよ…」

アスナはキリトを軽く睨んだが、それ以上何も言うこと無く歩き出した。もちろん、俺やリントも同様に。

兵たちは、俺たちをかるく睨みこそしたものの、何も言うこと無く俺たちを通してくれた。もっとも、それは俺達の前に立つキズメルのおかげかもしれないが。

柱を通り過ぎたすぐは、視界は岩に挟まれた寂しいものだったが、少し歩くと視界が広がり、円形の広い世界が見えた。

そこには大小様々な天幕が張られ、質素ながらも幻想的な景色を醸し出している。しかもそこにダークエルフが歩き回るのだから、ここが日本のどこかに置かれたサーバーの中ではなく、本当の異世界に迷い込んだのではないかと思ってしまうほどだ。

「へぇ……ベータの時の野営地より、だいぶでかいなあ……」

キリトがそう呟くと、リントが食いついた。

「ベータとは場所が違ってるんですか?」

「ああ。でも、こういうイベント系のマップはたいていインスタンスマップだから、サイズとかが違うのはおかしな事じゃないんだけどさ。」

「なるほど、たしかに違和感はないですね。」

リントは、キリトの説明で納得したようだが、その隣のアスナ嬢は意味がまるで不明だったらしく、

「いんす……たんす……?」

と、頭に疑問符を浮かべていた。

「ええと、クエストを進めているパーティーごとに、一時的に生成される空間……って説明すればいいかな。俺たちは今から、ここにいるダークエルフの司令官と話すわけだけど、そこに他のプレイヤーが入ってきたら都合悪いからさ。まあ、一層でアニールブレードを獲得できるクエ(森の秘薬)みたいに、プレイヤーがクエストを進めてる間はそのスポットが閉鎖されるだけのクエストもあるけどな。」

キリトのもはや定番となった解説で、アスナはあらかた理解し終えたのか、

「ん…んん……つまり、私達は通常の三層のマップからは消えて、このマップに隔離された状態…ってわけ?」

と言った。よく一回の説明で解ったなあ、と俺が感心する中、同じような感想らしいキリトが言った。

「そういうこと。」

次の瞬間、このパーティー唯一の女性(だった)細剣使いは胡散臭い目線をキリトに向けながら言った。

「……いつでも出られるんでしょうね?」

 

…たぶん、出られると思うよ。

 

 

……色々とあったが、一応クエストの第一段階を突破した俺たちは、キズメルの案内でダーク・エルフ隊の司令官と面談を行った。

司令官は、キズメルの生還と鍵の奪還を大いに喜び、協力した俺たちはだいぶ多めなクエスト報酬とアイテムをくれた。しかも、アイテムは複数の選択肢の中から一つを選べる仕様だ。

選択肢には、武器や防具、アクセサリなどがあったものの、この中には俺とリントの聖剣はもちろん、キリトとアスナの愛剣を超えるほどの武器はなかったし、防具も高性能なのは金属製が主だったのもあって、皮装備主体の俺たちにはいまいち合わず、最終的にステータスブースト効果のあるアクセサリを選んだ。ちなみに、俺とキリトがSTR(筋力)アップ効果の指輪、アスナがAGI(素早さ)アップのイヤリング、リントはAGI上昇のブレスレットを選択した。

最後に司令官から、このクエストの第二章を受注…というか受領し、司令官の天幕を後にした。

野営地の中央に戻ると、もう夕焼けが草地を茜色に染めていた。時刻ももう午後5時近く、そろそろ活動を終える頃だ。

キズメルも、NPCにと思えぬ実に自然な動作で伸びをすると、俺たちに向き直り言った。

「人族の剣士たちよ、改めてそなたらの助力に礼を言おう。次の作戦もよろしく頼むぞ。」

「あ、ああ、こちらこそ。」

キリトが対人……対NPC慣れしていない声で返すと、キズメルはなにかに気付いたかのように言った。

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。何というのだ?」

あら、コレは想定外。まさかNPCが、プレイヤーの名前を聞いてくる日が来るとは。

キリトは少々動揺しながらも口を開いた。

「ええと……俺の名前はキリト。」

「ふむ、人族の名前は少々難しいな…キリト、でいいか?」

キズメルの発音は、少々イントネーションが違ったので、キリトがもう一度口を開く。

「キリト」

「キリト」

「そう、完璧」

どうやら、今の会話が名前の発音調整のシークエンスだったらしい。NPCのチューニング、といったところか。

同じ動作を俺、アスナ、リントの三回繰り返すと、キズメルは再び話しだした。

「キリト、ラルト、アスナ、そしてリント。私のことはキズメルと呼んでくれ。……それでは、作戦に出発する時刻はそなたらに任せよう。一度人族の街まで帰りたければまじないで送り届けるが、この野営地で休んでも構わん。」

なるほど、クエスト中はここを実質的に拠点として扱えるわけか、と心のなかで頷く。

休んでも構わんということは、きっとここで寝るときもおそらくタダだろうし、コレは正直お金が自由に使えるとは言い難い身としてはありがたい……

キリトと並んで、少々仮面ライダーとしてはふさわしくない思考であろうことを確実に呼んだだろうアスナが、代表して答えた。

「それじゃ、お言葉に甘えて天幕をお借りします。お気遣いありがとう。」

「いや、例には及ばない。なぜならば……」

キズメルがここまで発言したところで、キリトの表情に影がよぎった。その影に引きずられるかのように、キリトの顔が少しずつ曇っていく。

………コレも後から聞いた話だが、ベータのときにプレイヤーに与えれる天幕は、最初のイベント戦闘で死亡したエルフ……つまり今のキズメルの天幕だったらしい。だが今の世界では、キズメルは森エルフと相打ちになること無く、こうしていまも生きている。つまり…

「予備がないゆえ、私の天幕で寝てもらうしか無いからな。5人では少々手狭だが我慢してくれ。」

「いえ、ありがたく使わせていただき………五人?」

アスナがとんでもない事態に気づいたのか、途中で会話が停止した。

俺はその語尾を受け取り、一応会話を終了させておく。

「ありがとう、では遠慮なく使わせてもらいます。」

「うむ、私はこの野営地内にいるので、用があればいつでも呼び止めてくれ。それでは失礼。」

そう言い残したキズメルは一礼すると、マントを翻して立ち去っていった。

……それから数秒、表情を何パターンにも変更したアスナは、俺たちに向き直ると言った。

「……さっきの取り消して、主街区でおまじないで転送してもらうのは可能?」

この問いに、唯一答えられる存在……我らがパーティーリーダーキリト氏は言った。

「えっと………もう無理…。」




やっぱり切りが良いところだと中途半端に終っちゃうんだよなぁ…
まあいいや、とりあえず予告どうぞ。

次回、セイバーアート・オンライン。
「…国境侵犯したらどうなるんです?」
「お風呂、あるんですか?」
「…構わんさ、私一人には広すぎる」

第16節 剣士の休息、血濡れた過去。


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剣士の休息、血濡れた過去。

年末に私が来た!

…ってわけで、今年最後の投稿です。
今年も赤点取ったりしてたら意外と早かったなー(白目)
まあ前置きも思いつかないので、とりあえず本編どうぞ。


アスナの顔が一時絶望に染まっては居たものの、一応見てみないことには、ということで、俺たちはとりあえずキズメルの天幕に向かった。

ドア代わりの厚手の布をめくって室内に入ると、そこには想定よりもだいぶ広い空間が広がっていた。キズメルは5人では手狭と言っていたが、5人どころか6、7人居てもまだ余裕が有りそうなほどのスペースがあった。床にはふわふわの毛布が敷き詰められ、雑魚寝だとしても安眠できるだろう。

周りの布はしっかりと外部の音を遮断し、騒音で目を覚ますことも無いはずだ。中央には不思議な色の炎を放つストーブがあり、最適な気温を保っている。

そんな空間に飛び込んだ男子3人衆は、その快適さに耐えることを放棄し、三人揃って毛布にダイブした。そのままウィンドウを開き、ブーツや剣、防具を除装する。

ゴロゴロしながら入り口の方に向き直ると、冷ややかな視線を向けるアスナと目があった。現パーティーの紅一点たる細剣使いは俺たちの横にまで歩くと、一番端に転がっていたキリトの横腹を優しく蹴る。

俺たちは誰も何も言うこと無くゴロゴロ転がると、端の方まで行き静止する。

アスナはキリトから数十センチ離れた位置に指先で毛布をなぞって線を引くと、

「そっち、あなた達の場所ね。で、ここらへんに男女間の境界線があると思ってください。」

そう言ったアスナに、キリトが男性陣を代表して質問した。

「……国境侵犯したらどうなるんです?」

「ここって圏外よね?」

「解りました、完璧に理解しました。」

キリトに続いて、俺たちライダー組も寝転がったままコクコクと頷く。

その返事を聞いたアスナは笑顔を浮かべたまま俺たちと反対方向に歩くと、そのまま装備を解除し、毛布の上に座り込んだ。その後、少し迷う素振りを見せてからロングブーツも除装する。

白のソックスだけになったアスナを、キリトはずーーーーーっと見ていたようで、俺の視界の端で、2つの眼がぶつかる音が聞こえた。

一応そちらを見てみると、キリトはアスナからわざとらしく眼を逸らすと、上ずった調子で言った。

「えっと、もしアレなら俺、外で寝ても全然構わないけど……寝袋持ってるし……」

「右に同じく。最悪ブレイブドラゴンに護衛させとけば大丈夫だし」

「僕も大丈夫ですよ。」

と、キリトに続いて俺とリントが同調するのに対し、アスナは意外にも平然とした様子で

「別にいいわよ、国境線さえ守れば。」

と言った。その声が普通な声色だったのは、純粋にこの状況を気にしていないからというわけではないらしく、アスナはその他に気になることがあるようだった。

アスナは右手で毛布を撫でながら、釈然としない様子で言った。

「………この連続クエスト………私まだ状況がよく掴めて無いんだけど、黒エルフと森エルフのどっちかが正義でどっちかが悪とか、そういう話じゃないのよね?」

その問いに答えられるのがキリトしか居ないので、キリトに後を託して俺は黙る。

「へ?………う、うん。そのはずだよ。基本設定がベータの時と同じなら、もうちょっと上の層にあるらしい《聖堂》って場所の中になんかすごいアイテムが封印されてて、それを巡って黒エルフと森エルフが争ってるって、そんな設定だと思う。」

「ふぅん……じゃあ、あの葉っぱの袋にはいってたのがその鍵ってこと?」

「そういうこと。たしか全部で六個あって、それを層を超えて探すってのが、このクエストの本筋かな。」

「なるほどね……私が気になったのはそこなの。あなた最初、黒エルフと森エルフ、どっちにつくか選べるって言ってたわよね。」

「言いました。」

「ってことは、私達とは逆に、森エルフ側に味方してあっち側のストーリーを進めるプレイヤーも居るってことよね?

「当然、そういうことに…」

キリトはそこまで言いかけたものの、アスナの言わんとしたところを理解したようだ。

「ああ…俺達がこのままクエストを進めたら、森エルフサイドのクエストを進めてるプレイヤーと…」

「敵対することになるんじゃないかな、っておもったの。」

なるほど。確かにそういう展開のゲームはよく聞くし、寧ろ定番でもある。

「大丈夫、そうはならないよ。特定のmobを何体倒せとか、あのアイテムを何個集めろとかのクエストは他のプレイヤーと争いになることはあるけど、直接プレイヤー同士が戦うってことにはならないよ。」

「まあ、茅場の奴もそんな形でプレイヤー間の争いが起きるのは嫌なんだろうさ…」

「まあそういうこと。大抵こういうクエストって、そのクエストを進めてるプレイヤーとかパーティーごとに…独立した……その………」

ネトゲ初心者であるアスナに配慮したのだろうか、適切な言葉を探していたキリトを無視し、アスナは

「そっか、この野営地みたいなものね。いくつものパーティーが個別にクエストを進めて、個別の結末がある…?」

と結論を出した。

「そういうこと。だから、敵対陣営のプレイヤーと戦うことも無いし、どっちかが成功エンドでどっちかが失敗エンドってわけでもない。」

「ってことは、クエストを進めていけばハッピーエンドで終わる…ってことですか?」

「まあそういうこと。だから、さっきの司令官から与えられる司令をこなして行けばいい、ってわけ。」

その言葉にリントは納得したようだが、アスナは未だ腑に落ちないところがあるようで、

「ふぅん……」

と表面上は呟いたものの、その表情は晴れない。

「まだ何か気になるのか?」

「うん……その、気になるっていうか、うまく呑み込めないっていうか………さっき貴方が言った、インスタンス…だっけ?この野営地は、クエストを進めてるパーティーごとに生成されて、キズメルさんやさっきの司令官も複数存在するってことでしょ?そこが何ていうか……」

「ああ………」

アスナの疑問をようやく理解したと言わんばかりに、キリトは声を漏らした。

アスナの疑問は、ネトゲ初心者であればあるほど思うものだろう。MMOなどのクエストが孕むいわば最大の矛盾、それは『解決したはずの問題が再発する』、というものだ。本来なら、このエルフ間の争いは一つのパーティーがクリアすれば丸く──収まるかは知らないが──収まり、この先に再び同じことが起きるのは無いというのが、世界にあるべき姿だ。

だが、複数のプレイヤーが存在するMMORPGにおいて、ただ1人の主人公というのは存在しないのだ。どのプレイヤーにも等しく同じチャンスが与えられるべきで、そのためには同じクエストを複数のプレイヤーが受注可能である必要がある。一層であったアニールブレード取得クエストでは、とある病気の少女を治すために薬の材料を回収し、少女はその薬で快方へと向かう…という結末が待ち受けている。しかし、別のプレイヤーがその少女と出会うときには、彼女は再び病魔に侵されている。

この状況を解決するには、プレイヤー別のクエストを大量生産するしか無いのだが…………それは真の仮想というものだろう。仮想世界という名称でありながら、現実世界のサーバー容量とスタッフの人数という、あまりにも現実的な理由で制約が存在するこの世界では。

そういったことをキリトは、ゆっくりとアスナに伝えた。

アスナは礼こそ伝えたものの、その表情には割り切れないものが残っている。

正直なところ、俺もそう思ってはいるのだ。この世界に何人も存在するNPCとしては、彼女(キズメル)はあまりも人間らしすぎる。

……まるで、1人の意思を持った人間かのように。

気がつくと、周囲は茜色から青とオレンジが混じり合った色になっており、ウインドウを見ると時刻表期は午後6時。普段ならダンジョンから引き上げようかという時間帯だ。

腹減ったなぁ、でもボス戦から休憩してないから早く寝たいなぁという二つの欲望をせめぎ合わせている中、天幕の入り口の布が持ち上げられた。

入ってきたのはこの天幕の主たるキズメルで、相変わらず金属鎧に身を包んでおり、思わず苦しくないのかななどと考えてしまう。

部屋の持ち主の来訪に慌ただしく立ち上がった俺たちをキズメルは順に見ると、口を開いた。

「陣中ゆえ、大したもてなしも出来ぬがこの天幕は自由に使ってくれ。食堂ではいつでも食事をとれるし、簡易的だが湯浴み用の風呂天幕もある」

「お風呂、あるんですか?」

真っ先に反応したのはアスナで、しかも風呂に対して。あいつって意外と風呂好きなのかな…と俺が思う中、キズメルは左側を指さした。

「食堂天幕のとなりだ。こちらもいつでも使える。」

「ありがとう、遠慮なく使わせていただくわね。」

そう答えたアスナは、俺たち男子組には目もくれずに天幕の出口まで歩いていく。

そんな男性陣はただぼーっとしながら、食欲と睡眠欲のどちらを先に満たすかという4時間目の授業中のようなことを考えていたが。その思考は天幕内の暖炉まで移動したキズメルが鎧の留め具と思しき宝石に触れた途端彼方に吹っ飛んだ。

キズメルが纏っていた鎧は一瞬にして消え去り、残るのは鎧の下に着ていた服と留め具だけ。このゲームの製作者の趣味か否か、キズメルは下に薄手のインナー一枚きりであり、それだけではキズメルが抱えるある種爆弾を抑えることは不可能で、俺達の視界にはエルフらしからぬ、いやさすがエルフと言うべきボリューム感を備えたモノが…

「……あなた達も、お風呂入ったほうが良いわよ。ボス戦で汗かいたでしょ。」

……………冷や汗なら、絶賛かいてますがね。

男性陣をギュッと集めて耳元で囁いたアスナ嬢に引きずられるがまま、(おそらく)思春期男子三人組は天幕を後にした。

 

◆◆◆◆

 

天幕からでた俺たちに、正しく幻想的と言うべき風景が飛び込んだ。あちこちには様々なデザインの鉄籠が並び、その中には紫色の炎が揺らめく。どこからともなく聞こえてくるリュートの音に、虫たちが優しげな音色を重ねる。食堂天幕からは兵士たちの談笑する声が漏れ、鍛冶師が鳴らす槌音も心地良い。

人間の街とは全く違う風景に、俺たちはしばし無心で歩いてから、キリトが思い出したかのように急に止まり、口を開いた。

「そうだ、アスナ」

「何?」

アスナは反応こそしたものの、足を止める気はさらさら無いようで、足を少し遅くしただけだ。

キリトは再び歩き出し、再び口を開いた。

「ここのNPC鍛冶師、かなりスキル高いから今のうちに武器を限界まで強化しとこう。」

「………限界まで?大丈夫なの?」

そう返すアスナの表情には、不安の影が色濃く映る。武器強化と聞いて、否応なく2層での武器破壊を思い浮かべてしまったのだろう。あの時は実際には壊れたわけではなく、強化詐欺という形で別の同種武器が消えただけで、アスナ本人の愛剣が砕けたわけではなかったのだが、その当時の感覚がそれで消えたわけではない。

「そりゃ成功率100%とまでは行かないけれど、少し素材を追加するだけで、確率を上限までブーストできるはずだよ。ここで+6にしとけば、三層の半ばまでは使い続けられると思う。」

アスナの愛剣ウインド・フルーレは、一層でキリトがアスナに譲渡したショップ品のはずだ。一層のアイテムとは言え、アスナ自身の剣の腕も相まって、実際に限界まで…つまり+6までにしておけばその辺まで使えるだろう。

……だが、キリトの言葉を聞いたアスナには、別の感情が浮かんできているようだった。

アスナは、今はそこにない愛剣の感覚を確かめるかの様に、左腰に手を伸ばすと、しばしその空間に触れた。

「…………キリト君、前に言ってたわよね。使ってる剣を金属素材に戻して、それを元に新しい剣を作れるって。」

「え……う、うん。言ったけど…」

…二人がその話をしているところを俺が見たことが無いので、メッセージで話していたか、俺の居ないところで話していたかだろう。おそらく、あの強化詐欺が起きた頃。

「それって、ここの鍛治屋さんにも頼める?」

「う、うん、頼めるけど……でも…」

キリトの言わんとする所を、俺はなんとなく察した。たとえ仮想世界限定であるとしても、俺たちが剣士として日々を暮らす中で、愛剣というのは正しく己と共に進む相棒であり、かけがえのない存在なのだ。それを金属素材(インゴット)にする……すなわち、もう元に戻せない形にすることは、少なからず悲しみの感情を抱くものだろう。

だからこそ、キリトはアスナを気遣い、あのような言い切らない態度をとっているのだろう…

アスナにもキリトの心は読めたらしく、珍しいことに穏やかな笑みを浮かべると、

「気遣ってくれてありがと。でも、リスクを取って完全強化しても数日でお別れしなきゃならないなら……ここで生まれ変わらせてあげようって、そう思ったの。」

「…そっか。」

キリトは短く返答し、続けていった。

「解った、きっと強い剣になるよ。じゃあ、早速鍛治屋のテントに…」

と、あるき出したキリトの襟をぐいっと引っ張ったのは。

「先にお風呂!」

………他でもないアスナだった。

………………俺とリントが、思わず苦笑したのは内緒だ。

 

◆◆◆◆

 

俺たちが歩くこと───キリトは引きずられること───数分足らず、俺たちは風呂天幕の前へとやってきた。

正直、ベータテスト時代に俺がエルフクエをしていたとしても、この風呂を使う機会は対してなかっただろう。なにせあの頃は自由にログイン・ログアウトが可能で、いつでもリアル風呂に入ることができたのだから。天幕での寝落ちこそ、気分的に楽しそうなので一度ぐらいしそうなものだが、今となっては寝たところで起きたらリアル世界に戻っているなどということはない。

だがこのパーティーの紅一点のアスナにとっては重要視する施設らしく、ここにたどり着いたときには目の輝きが少々増していた。

……だがここで、ある問題が一つ。

…………天幕が一つしか無いのにも関わらず、入り口も一つしか無い。つまり、銭湯で言う赤と青ののれんで別れていないというわけだ。

それを察したアスナが天幕の中を覗くと、

「…お風呂、一つしかないわ」

というダメ押しの言葉を一つ。じゃあ混浴ってわけか、と口に出すほどの度胸と無神経さはリントは勿論、俺もキリトも持ち合わせていない。俺たちは極限まで真面目っぽい顔をしながら一歩下がると、キリトが代表して言った。

「じゃあ、俺たちはアスナが上がるまでこっちで飯食ってるよ。上がったら呼んでもらえれば…」

と、そこまで口にした時。

「一応聞いておくけど、ここって圏外なのよね?」

「え?…あ、ああ、一応そうだけど…」

なんで急に圏内か圏外かの話を…と俺達が疑問に思う中、アスナは続けた。

「じゃあ、武装を解除するのは危険よね。」

「…まあ、そうとも言えなくは…ないな…」

「なら、4人で誰かの入浴中は誰かが入り口でガードすることにしましょ。順番は…そうね、コイントスで…」

ここまで聞いて、俺たちはアスナの思惑を察した。

別にアスナだって、本当にmobが入浴中に乱入してくると思っているわけじゃない。実際はモンスターではなく、ここに何人もいる黒エルフのNPC騎士が入ってくることを懸念しているのだ。別にNPCじゃん…と思わなくもないが、その気持ちは分からなくもない。

「オッケー、じゃあ俺が見張っとくよ。二人は先に飯食っててくれ。」

「ああ、悪いな。」

「じゃあ、お先に。」

キリトが自ら名乗り出たので、俺たちはテクテクと食堂天幕へと向かった。

……………後に、キリトが低く「休めるか!」と唸ったのは……

………気のせいだろ。多分。

 

◆◆◆◆

 

……朝。

そう思って起きた俺の視界に飛び込むのは、眩しい朝日……ではなく、何も見えない暗闇。光といえば、日光よりも数段お淑やかな優しい光。

「………深夜かよ………」

時刻表示が未だ深夜2時だったことに対して思わずつぶやきながらも、再度夢の世界にリンクスタートしようとした俺の思考と体を、一つの違和感が止めた。

寝る前にふと横を見ると、何故かこの天幕の人口密度が1人…いや、2人減っているのだ。

しかも、俺の右隣の二人が。

「キリトはまあ………うん、どっか行く気はするけど………キズメルがどっか行くもんか…?」

いちおうキズメルNPCだしな…と思いながら、俺はとりあえず外に出てみた。お前も同じことしてんじゃねぇかとか言わないでね?

意外なことに、キリトは天幕の外でただ立っているだけだった。

「よっ。お前も不眠症か?」

「…なんだ、ラルトか……不眠症どころか、ガッツリ7時間も寝てるよ…」

「考えたら、飯食ったらすぐ寝たからな…大体6時ぐらいだっけか…………で、なんかもう1人居ないんだけど、知らない?」

「正確に知りはしないけど……なんとなくの予想はついてる。」

「へぇ、まさか次のダンジョン?」

「いや………まあ、俺たちが行ったことのない場所って点では、間違いではないかもな。」

そう言ってキリトが案内したのは、たしかに俺もアスナも、リントも踏み入れたない場所……司令官天幕の裏手、言ってしまえば……空き地。

だが、そこには3つの影があった。

─────1つは、細いながらもどこか存在感のある、一本の木。もう1つは、その前に座り込む、1人の人間………いや、エルフ。

そして最後の1つは、木の下に1つだけ置かれた、アルファベットと思しき文字が書かれた、シンプルな…………墓標。

立ち尽くしていた俺たちに気づいたエルフ………キズメルはこちらを向くと、囁くように言った。

「キリトにラルトか。しっかり寝ておかないと明日が辛いぞ」

「そんなことないさ、寧ろいつもよりよく寝られたよ。」

「ああ、ありがとう、天幕を貸してくれて。」

「構わんさ、私一人には広すぎる。」

キズメルはそう言うと、再びお墓を見つめた。

Tilnelと書かれた墓標の文字を、キリトが口にした。

「…ティルネル…さん…?」

その言葉に、俺たちはそれがどこかキズメルと似た響きを感じることに気がついた。キズメルは少し間を置くと、口を開いた。

「双子の妹だ。先月この層に降りてきて、最初の戦で命を落とした。」

……キズメルが言うように、彼女らエルフたちはこのアインクラッドが複数の階層から構成されていることを知っている。エルフは彼ら専用の転移門のような物を使って階層を行き来するらしいが、それもこの3層とエルフの城がある9層までに限られているらしい。

「ティルネルさんも…騎士だったのか…?」

俺がキズメルに問いかけると、黒エルフの騎士……いや、唯のエルフの女性は言った。

「いや、妹は薬師(くすし)だった……戦場で怪我人を癒すのが仕事で、ダガーより大きな剣は持ったこともなかった。だが、妹のいた後方部隊に、森エルフの鷹使いどもが奇襲をかけてな……」

その言葉を聞いた途端、キリトが息を詰めた。

───後からキリトから聞いた話によれば、森エルフの鷹使い(フォレストエルブン・ファルコナー)は、この三層に湧く敵で最凶、最悪の敵mobらしい。勿論フロアボスを除いてではあるが、地上からのエルフ当人と、上空からの鷹型モンスターの同時攻撃は凶悪で、黒エルフにも同格の狼使いがいるものの、凶悪さは三次元機動が可能な森エルフの方が勝るだろう。

いつまでも立ち続ける俺たちを見て、キズメルは表情を和らげると言った。

「いつまでも立っていないで座ったらどうだ。椅子も敷布もないが」

「あ、ああ。」

俺たちは少々焦りながらも座ると、キズメルは傍らにおいてあった皮袋を取った。

彼女はその中に入っていた液体を呷ると、こちらにもその袋を渡してくる。

俺たちは自然に礼を言うと、キリト、俺の順にその中身を喉に流した。

この頃にはもう、キズメルがNPCだという認識は、俺達の中から消えていた。

キズメルは俺たちが差し出す袋を受け取ると、残りをティルネルの墓へと残すこと無くかけ流す。

「妹が好きだった、月涙草(ゲツルイソウ)のワインだ……驚かせてやろうと持ち出してきたのだが、一口も飲ませてやれなかったよ……」

キズメルは革袋を取り落とすと、のろのろとした動きで拾い、その胸にぎゅっと抱えた。

「………昨日、秘鍵奪還の任務に志願した時、私は死を覚悟していた。……………いや、もしかするとそれを望んでいたのかもしれんな……事実、あの森エルフとは良くて相打ち、あるいは破れていただろう。だが、運命の導きか、そなたらがあの地に来た…………もはや、この世界に神など存在しないはずなのにな…………」

そう言うキズメルの瞳が濡れていることに気付き、俺たちは唖然とした。

……思えば、キズメルはこの世界での真の意味で住人なのだ。俺たちはいわば、本来存在しているはずのない異分子………

………………いや、それも今となっては違う。俺たちの命はこの世界の命と完全に同等になったのだ。…………一ヶ月前の、あの日から。

この戦いに俺たちが巻き込まれた…いや、自ら関わりだしたあの時、俺は真の意味で戦う覚悟はあったか?どこか生半可な気持ちで、2つの種族の争いに介入しようとしなかったか?………

………この世界の戦いは、真の意味での戦いだ。それを俺は、メギドとの争いで何度も体感したはずなのに。

「………神の導きじゃないさ。俺たちは自らの意思であそこに居た………自分自身の意思で、キズメルに味方した。」

「ああ。…だから、最後まで付きあうよ。キズメルが、家に帰れるようになるまで。」

心に1つの悔いを遺しながら、キリトと俺はキズメルに言った。

「…ならば、私もそなたらを守ろう。進む道が別れるその時まで。」




今年は、この作品もUAが1万を超えて、お気に入り登録者もたくさん増えた年でしたね…
日頃からの応援、本当に感謝です。
来年もこれまで通り…いや、少しは投稿頻度を上げて投稿していきたいので、これからもこの作品をよろしくお願いします。
ってことで皆さん、良いお年を!


次回、セイバーアート・オンライン。
「すっ…(すっげーーーーーーー!)」
「そんなどうでもいいこと考えてたの!?」
「そのまじない、久しぶりに見たな」
第17節 次なる目標、有毒の害虫。


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次なる目標、有毒の害虫

皆さん、もう一月も終わりですがあけましておめでとうございます。
僕はお年玉で過去最大額をもらいました(現役高校生)。
ってわけでそのおかげでメンタルが過去最高なハイテンションで書いた本編どうぞ。


俺たちが天幕に戻った時、先程まで爆睡していたはずのアスナとリントは武装をきっちり用意した状態で俺たちを待ち構えていた。

二人は……というかアスナはノー装備の俺たちを見ると、「出発の準備しに行ったんじゃなかったの?」と懐疑的な視線と声を向けてきたが、俺たちの後ろから現れた薄着のキズメルを見た瞬間、俺たちを見る目が疑念から軽蔑へと変わった………気がしたので、俺たちは無言でとりあえず「準備はとっくに出来てる。」と無理矢理にでも言い張るしかなかった。……おおリントよ、そんな目で俺たちを見ないでくれ。

ともかく、俺が何故か暫定パーティーリーダーを務めているプレイヤー4人+NPC1人の計5人のパーティーは、エルフ戦争クエストを進行すべく野営地を後にした。

アスナは、天幕から出てからもずーっと俺たちを疑惑の目で見ていたが、野営地を抜けて外の風景が広がった途端、その目はそちらへと向けられた。

まあ、そうなっても仕方がないほどに幻想的で美しい風景が、俺達の視界には広がっている。

日頃はプレイヤーたちを脅かす天然トラップである《迷い霧の森》が、今だけはプレイヤーに癒やしを与えるかのように美しい風景を俺たちに見せる。

アスナはしばし、森の木々と霧、そして星星が織りなす風鶏に心奪われていたものの、不意に自分を取り戻したかのようにこちらを向いた。

「あの子も、夜の森が好きだった………さあ、出発しよう。」

キズメルが、どこか懐かしげにそう言い、俺たちは新たな冒険へと向かった。

 

◆◆◆◆

 

俺たちが司令官から任ぜられたのは、第一章、《翡翠の秘鍵》から続く第二章《毒蜘蛛討伐》だ。任務の最中に、このあたりで出没する毒蜘蛛が障害となるので巣を特定し、調査してきてくれということ。タイトルは討伐だが、いきなり殲滅とならないのはストーリー上の都合だろうか。

キリトに聞いたところ、問題の巣はランダム配置ということでベータの知識は当てにならない。残念。

……さて、今回のメインとなる敵mobが毒蜘蛛ということで、クエスト中に毒状態になるのは一度や二度どころではない。

そういうわけで、必然的に解毒ポーションの消費が以上に増えるというわけだ。

ダメージ毒はRPGではポピュラーなデバフだが、それの影響は意外と大きい。SAOは5段階に毒の強さが別れているが、レベル1や2の毒でも、対策を怠れば脅威となりうる。

俺たちはチリンと音を立ててメニューウィンドウを開くと、そのままストレージに移って在庫を確認する。

「お前ら、解毒ポーション何個持ってる?」

「私は…ポーチに三個と、ストレージに16個。」

「俺はポーチ4個とストレージに12個だな。」

「僕もそのぐらいですね。」

「そうか。俺も同じぐらいだし、そんだけあれば大丈夫だろ。」

キリトはそういうものの、何かに気付いたかのようにふと顔を見上げる。その目の向かう先を見て、俺もその気付きの正体を悟った。

半ば忘れかけていたが、キズメルはNPCで、ポーションなどの解毒手段は自分で使って貰う必要があるが、それをNPCたるキズメルにどう伝えるか……というか、キズメルはポーションを持ってるのか…?

「キズメル、解毒ポーションの持ち合わせは…」

「何個か持っていはいるが、特に必要はないぞ。私にはこれがあるからな。」

キリトの問いにそう答えたキズメルは、レザーグローブに包まれた右手を俺たちに向けた。その人差し指には、緑色に輝く宝石が嵌められた指輪が。

その色は、俺たちが今持つ解毒ポーションと同じ色で……

「…その指輪は?」

「コレは私が近衛騎士に叙任された折、剣と一緒に女王陛下より賜ったものだ。十分間に一度、解毒のまじないがつかえるのだ。」

「「すっ…………」」

すっげーーーーーーーーーーーーーー!

俺とキリトの廃人ゲーマー組が、絶叫を無理やりこらえることになった理由は至極単純、あの指輪がとんでもないレベルのアイテムだからだ。俺の記憶が確かなら、ベータテストのときも含めて毒をノータイムノーリスクで治療できるアイテムなど聞いたことがない。もしあれが、最大レベルであるレベル5のリーサル毒をも解毒できるならば、三層二存在するアイテムとしてはとんでもない逸品だ。正しく、レアアイテム・オブ・レアアイテム。

俺たちがいかにもくれないかなぁ…って顔で見るものだから、キズメルはコホンと一度咳払いをすると言った。

「そんな顔をされても、コレを譲るわけにはいかん。第一、この指輪は我らリュースラの民の血にわずかながら残る魔力をまじないの源泉とするゆえ、人族のお主らには使えんよ、恐らくな。」

おそらく…?と俺もキリトも一瞬疑念を抱いたが、その欲求は流石に喉元から胃の中に押し戻しておいて、キリトがとりあえず口を開く。

「い、いや、ほしいだなんてこれっぽっちも思ってないよ。ただ、キズメルに解毒の準備があるなら、それでいいんだ。」

キリトはまるで台本を読んでいるかのごとく爽やかさで先程の疑惑を否定すると、それに同調したアスナが

「そうよね、君たちも一応男なんだから、女の子に指輪をねだるような真似はしないわよね。」

「も、もちろん……ちょっと待って、それだと逆は許されるみたいな…」

キリトに指摘に、アスナが珍しく浮かべていた笑顔が掻き消える。

「別にあなたのこととは言ってないわよ!私がいつあなたに指輪ねだったのよ!」

「べ…別に俺だって、アスナの事とは言ってないだろ!」

「あの…フィールドで喧嘩は流石に…」

…うん、リント、大正解。

「あー…キリト、アスナ、談笑中すまない」

キズメルさん、別に談笑中ってわけじゃないかと…

「何かが近づいてくる。足音からして、エルフでも獣でもないようだ。」

………うん?

「しかも前と右から二匹。前方の敵は任せたぞ」

……あっとキリアス?喧嘩しとる場合じゃないっぽい。

先程までガンを飛ばし合っていたキリトとアスナはそれを中断すると、その視線を俺たちの前方へと向けた。

その先には、俺達よりも多くの足を持ち、横の幅はも俺たちより大きいものの、全体的なサイズは俺達より小さい節足動物。

俺たちがその影を完全に認識した途端、ソレの上部にカラーカーソルがスッと浮き出た。

色は薄いものの敵対色の赤で、表示される名前は【Thicket(シケット) Spider(スパイダー)】。

「皆、戦闘準備!」

脳を戦闘モードに瞬時に切り替えたキリトの指示で、俺たちは一斉に愛剣を抜剣する。アスナのウインド・フルーレは、このクエストの最中に素材を集めて新たな剣へと鍛え直すので、ここが最後の活躍だ。

「直接攻撃は牙オンリーだけど、ケツから出す糸に触れると動きを阻害されるぞ!」

「了解!」「オッケー!」「わかりました!」

俺たちはキリトの声に一斉に頷いたものの、アスナは一瞬の間を挟んでからキリトを再びじーっと睨む。

なんでだろと思ってから、先程のキリトの発言に含まれる不適切要素に思い当たり、内心、あー………と唸る。

「あ、えっと…ケツじゃなくて……ええと…」

「ああ、なんでもいいわよ、もう。」

アスナは改善策が思い当たらないキリトに言語で一発入れておいてから、向かってきた毒蜘蛛の攻撃をステップで避け、続けてフルーレを構えると単発突き技の《リニアー》を叩きこむ。

「スイッチ!」

アスナの声で俺が飛び出し、続けざまに単発上段斬りの《バーチカル》で追撃。

このmobは正直、スイッチせずともアスナが戦い続ければ普通に倒せるようなmobだ。だが、奴が発射する糸が周囲の木に絡みつき、気がつけばどこにも移動できない、という自体にもなりうる。それを回避するために、適度にタゲを変えながら戦闘地点を変える、というわけだ。

「キリトスイッチ!」

「ああ!」

キリトが俺の後を追うかのように駆け出すと、剣を振り上げ……なぜか一瞬だけ止まった。

「…?」

その隙きを狙うかのごとく、クモはキリトへと飛びかかり、上空から襲撃する。

「ふっ……」

謎の硬直から立ち直ったキリトは、奴からだんだん離れていくかのように仰向けに倒れる。

そして、クモの牙がキリトに届く……という、その瞬間。キリトの足に紫色の光が宿り、キリトは空中で後方宙返りしながらの蹴り上げをクモの柔らかい腹に叩き込む。

あのモーションは、体術スキルの……《弦月》。確かキリトも、二層攻略初期に習得していたはずだ。

「リント!スイッチ!」

「はい!」

リントは右手に持った水勢剣を左腰に構えると、剣に水色の光が宿る。

「ハァッ!」

彼の気迫とともに打ち出された剣は、左から右へと水平に一閃、振り切ったところで急静止すると、先程の軌道をなぞるかのように右から左へと斬り裂いた。

「キシャァァァァァッ!」

いかにもゲームのクモ、というような声を残して、奴はポリゴンの欠片となって消えた。

「……で、キリトさんよ。さっき何を考えてたんだい?」

「うっ…い、いや、別に大したことじゃないんだけど…」

「大したことじゃないことを戦闘中に考えるのってどうなの?それでさっきも危なかったし…」

うん、アスナさんど正論。

「えーっと……アスナがクモとか平気なの、以外だなーって思って…」

「…ハァ!?そんなどうでもいいこと考えてたの!?」

「はい……」

「お前さぁ………」

「……あれだけ大きかったら、獣も虫も一緒よ。いちいち怖がってもられないわ。」

「まあ、たしかに……」

………キリト……考えたら今って俺のほうが年上なのか…?

「頼もしい限りだな、アスナ。」

そう思っていると、向こうでもう一体のクモを倒し終えたキズメルがこちらに寄ってきた。

「あの子も……私の妹ティルネルも、実態がある怪物なら虫だろうとウーズだろうと苦にしなかったものだ…」

懐かしむような微笑みを浮かべながら言うキズメルを、俺たちは直視できずに目を伏せる。

キズメルの妹であるティルネルさんに関しては、道中で二人にもそれとなく耳打ちしてある。

俺たちの表情を見てキズメルは、「すまん、余計なことを言った」と一言謝ってから、

「ともかく、あのクモ共の巣を探さぬとな。」

「ああ。あいつらが出てきた方向に巣があるはずだから、えっと……」

「こっちよ」

……キリトの尊厳がだんだん破壊されてる気がするのは…気のせいかな、多分。

 

◆◆◆◆

 

俺たちはあの後、クモにエンカウントしてはその方向へと進行方向を微調整することを何度も繰り返し、ようやく目当てのクモが潜むであろう巣へとたどり着いた。

「…あのちっこいのも、いちいち倒さないといけないの?」

アスナが、巣の周りでうろちょろしている小グモ───まあそれでもリアルで言うタランチュラ位あるんだが───を見て、思わずげんなりしながら言った。

それに対して、キリトはあくまでも冷静に

「いや……ありゃクリッターだろ。」

と返した。

「クリッター……じゃらじゃらしてるってこと…?」

アスナはそう返したものの、今度は俺たちが首を捻る番で、

「だって、英語でclitterって『じゃらじゃら』っていう擬音のことでしょ?」

「あ、そうなのね……でも、ネトゲのクリッターはそういう意味じゃなくて……背景扱いの小動物…みたいなことかな。」

「ふーん…街にいる猫とかがそういう扱いってこと?」

「そゆこと。相変わらず飲み込み早いな…」

と、俺が感心する中。

「ふぅん…ねえ、いちいちあなた達に聞くのも手間だから、今度そういう用語まとめた単語帳みたいなの作ってよ。」

「「えぇ……」」

うへぇめんどくせえ……アルゴ姐さんに頼んでくれよお金は飛ぶけど…と俺とキリトが同時に思っていると。

「そなたらの言語は今だ未統一なのだな……古の《大地切断》の折、人族は9つの国に分かれていたから仕方ないのかもしれないが。」

……ごめんキズメル、クエスト中に新情報突っ込んでくるのやめてくれるかな?

…………キズメルが言った大地切断、俺たちはそれに近しい名前である《大切断》ならば知っている。決して6人目の仮面ライダーの必殺ではなく、SAO初期に起きた現象のことだ。どのプレイヤーも、約2時間弱接続が強制切断される事があったのだ。二時間以上切断されれば脳がナーヴギアで焼き切れるので、あのときは本当に背筋が凍る思いをしたものの、今となってはその二時間で各地の病院に搬送したのだろうという説が定着している。

……だが、キズメルはこの世界にナーヴギアで接続しているわけではないので、そのこととは全く別の事象であるのは間違いないだろう…

つまり、今まで手に入れた情報と照らし合わせると、大地切断とはアインクラッドの創生に関わる…

俺たちがキズメルに聞こうとした質問をどれにするか選ぶうちに、キズメルの思考は新たなものへとすでに更新されていた。

「さあ、あの横穴を調べに行こう。司令にクモ共の巣を発見したと報告するには、もう少し確たる証拠が必要だからな。」

 

◆◆◆◆

 

キリトから聞いたところでは、この章は前後編の2つに別れているらしい。前編ではこの巣穴であるものを探して司令に報告し、後編でここに眠るボス蜘蛛と対峙する…らしい。

というわけで、こんな湿った薄暗い洞窟に最低二度は潜る必要があるわけだ。

「…わたし、こういう天然系ダンジョン好きじゃないわ……」

「ねー……せめてもう少し明るけりゃマシなんだが……」

「濡れてる、暗い、奇襲し放題……こんな悪条件揃ってるところはなかなか無いだろうなぁ……」

「松明も限界ありますしね…」

そう言う俺たちの片手には火の着いた松明が握られ、申し訳程度にあたりを照らしている。迷宮区タワーなどの人工ダンジョンならば、壁面にあるカンテラなどで十分照らされるのだが、洞窟などの天然ダンジョンでは自力で照らさなければほぼ見えないレベルで暗い。ついでに言うなら、松明を持っているとソードスキル発動時に謎の違和感がある。まあ、いちいち戦闘時には松明を落とす必要がある両手武器戦士には何を贅沢な、という話なんだろうが。

で、そんな不満を垂れ流しながら素材回収とマッピング、そして鉱石素材を収集しながらある程度進んだところなのだが。

「そういえば、このダンジョンって例のインスタンスなの?それとも……」

「あー……インスタンス・ダンジョンの反対はパブリック・ダンジョンかな。で、こっちはパブリックのほう。」

キリトがアスナの問いに答えると、キリトは続けた。

「なんでパブリックかって言うと、ここはオレたちの毒蜘蛛討伐の他にいろんなクエの目的地になってるからなんだ。」

「へえ、クエストってどんな?」

「たとえば、森の先の村で受けられるペット探しのクエとか、あとは主街区で受けられる……」

と、キリトはそこまで言うと口を閉じた。

「ちょっと、どうしたのよ?」

「…なあ、俺たちが3層に上がって何時間ぐらい経ったっけ?」

「えーっと……一回寝てますし、大体14時間ぐらいじゃないですかね?」

「う、まずいな…ちょうどそれぐらいか……」

「……なるほど、たしかにそのぐらいで…」

「だから何がそのぐらいなのよ…」

アスナが少々苛立ったかのように言うと、俺たちは口を開いた。

「ここ、主街区で受けられるクエのキースポットなんだ。色々ルートがあるから絶対じゃないけど、大抵のプレイヤーがここに来る。パーティーの規模にもよるけど、だいたいこのぐらいで……」

と、そこまで言った時。

遠くの方で、カン、カン、カン、と、金属がぶつかる音がした。

その音が幻聴でない証として、キズメルもそれに気付き、立ち止まる。

「4人共、どうやら我々の他にも訪問者がいるようだ。」

「ああ、多分プレイ……人族の剣士だ。ちょっと事情があって俺たち、彼らとあまり顔を合わせたくない。」

「ほう、実は私もだ。」

キズメルはニヤリと笑うと、壁面の窪みを指差すと、

「ならば、あそこに隠れてやり過ごそう。」

「え……でも、あそこじゃあ照らされたら一発で…」

「我ら森の民には、いろいろと手妻があるのさ」

キズメルはそういうと、有無を言わさず俺たちを窪みへと押し込んだ。どう考えても5人が入るスペースではないが、無理やり押し込まれてなんとかぴっちり入る。

そのたびにキズメルのあれやそれが俺の体に触れ、キズメルさんハラスメントコードが発動しちゃうよ俺消えちゃうよと思ってしまうが、幸いNPCから来た際には発動しない設計らしい。そんなシステム的な心配をしている俺の感情など知らないとばかりに、キズメルは真剣な声色で言った。

「松明を消せ」

俺たちは言われるまま、松明を近場の水溜りへと落とす。

するとあたりは真っ暗となり、同時にキズメルが俺たちをマントで覆う。

勿論俺たちは何も見えなくなるが、何ということだろう、すぐにマントがすき通り、周囲がマントにプラネタリウムのように映る。しかも、視界の端には隠蔽スキルを使っていないのに《隠蔽率95%》の文字が。数値もとんでもないが、まずこのマントがそういう効果を持っていることが驚きだ。そういうまじないが掛けられているのだろうが、例の指輪といい恐るべしエルフのまじない……

「で、さっきの話だけど。」

「ああそうだった。いま来てる面子が受けてるのはあれだよ。三層目玉の……ギルド結成クエスト。」

「…っ!」

「静かに、もうすぐ傍を通り過ぎる。」

キズメルの声がした直後に、俺たちの正面に6人の人影が通り過ぎた。

前二人は似たような装備で、片手剣に形状は違うものの盾を装備したシンプルな剣士タイプ。後ろには両手剣の重戦士が続き、その次には前線では珍しい片手斧。その後ろの二人は、俺たちが何度も見た青髪のイケメンとモーニングスターのようなトゲトゲ頭。

彼らは、この最前線を攻略するトップグループである『アインクラッド開放隊』だ。俺たちとは別に敵対でもなければむしろ友好的な関係なんだが、ちょっと今会うのは色々と気まずい。

最後尾を走るトゲトゲ頭……片手剣使いのキバオウが俺たちのいる窪みを一瞥すると、右下の隠蔽率が90%までさがる。

だが、彼はそれ以上俺たちのいる場所を見つめること無く、前にいたイケメン……ディアベルの後を追いかけていった。

足音が聞こえなくなると、キズメルはマントを自分の背後に戻し、俺達の視界からも隠蔽率の表記が消え去る。

「ふぅ……なんか見つかっても特に無いとは思うけど、結構緊張したな……」

「そうね……というか、なんで隠れたの?別に仲悪いわけじゃないでしょ?私達とディアベルさん達…」

「あー……後で話すから、今はとりあえず任務を遂行しようぜ。」

「まあ、それもそうですね。次はどこでしたっけ?」

「えーっと……」

リントに聞かれたキリトがメニューウィンドウを開くと、それをキズメルがじーっと見つめていた。

考えたら、手を動かして魔法の板を呼び出す行為をキズメルたちはどう認識しているんだろうか…と思っていると。

「人族の使うそのまじない、久しぶりに見たな。」

「ま…まじない?」

キリトがオウム返しにキズメルに言うと、

「ああ。ほぼすべての魔法を失った人族が、今尚使うことのできるまじないの一つ、《幻書の術》であろう?知識のみならず、品物すらも幻想の書物の中に収めるという……」

……なるほど、そういう解釈ね。

「そ…そうそう。ゲンショによれば、こっちをまだ探索してないみたいだから…」

………こういうのを見ると、覚えたての言葉を使いたがる子供の姿を思い浮かべるのは俺だけだろうか。

……他二人も笑ってるあたり、俺だけではないようだ。




次回、セイバーアート・オンライン。
「あんなクソでかいクモおるなんて聞いてへんぞ!」
「こっちにひきつけて戦おう。」
「それを早く言いなさいよ!」

第18節 洞窟の女王、剣の新生。


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洞窟の女王、剣の新生。

どうもです。執筆者です。
そしてそろそろテストです。
なので今回急いで書いたのでちょっと短めの味薄かも…
今までのテストやらかしまくってるので流石にやらないとなので…
ってわけで、今月一発目どうぞ。


幻書の下りから数分、俺たちは洞窟内の一角に来ていた。

「エンジュ騎士団の徽章だ、この道空を調べていた偵察兵の者だろう……持ち主はもう……生きてはいるまい…」

先程軽く聞いた話では、エンジュ騎士団というのはキズメルが所属している騎士団のことらしい。アスナいわく植物の名前らしく、その他にもカタラチ騎士団やビャクダン騎士団があるらしい。騎士団間は……あまり仲がいいとは言えないらしい。そのへんはリアルの政治と似たようなものか。

普段のクエストなら、この環境でこのサイズのアイテムを探し出せたときには全力ガッツポーズ物だったろうが、今それをする気分にはなれない。

声がいつになく沈んでいるキズメルに、キリトは徽章を差し出したが、彼女は首を横に振った。

「それは、キリトたちが司令に渡してくれ。…ひとまず、報告に戻ろう。」

「…ああ、解った。」

俺たちは少し静かな空気を発しながら、再び薄暗く湿った洞窟の中を歩き出した。

ダンジョン内ではフィールドより早くmobが再湧出(リポップ)するのでできるだけ急いで脱出しようとする………と。

「やべぇ……アイツ階段登ってくるぞ!」

「ともかく走ろう!今の戦力で戦うのは無理だ!」

……後半の声はどこかで聞いたことがある気がするが、気の所為………

「あ……あんなクソでかいクモおるなんて聞いてへんぞ!どうなっとるんや!」

……気のせいじゃねえわこれ、どう考えても知り合いだコレ!

同じことに気づいた先頭を歩くキリトは、……おそらく俺たちに決断を委ねようとこちらに向き直った…のだろうが。

「どうす……」

「どうするのキリト君!?」

「どうすんだキリト!?」

「どうするんですかキリトさん!」

「ここはそなたに任せよう!」

「す………る……」

……パーティーリーダーになったつもりはないぞ!

そんな声が前から聞こえてきそうだが、その声をガン無視してキリトを見続ける。全員揃って。

……実際、この状況を解決する方法が無いわけではない。

理想としては、奥を走るディアベルやキバオウたちが逃げ切り、デカグモはターゲットを失ってダンジョン内の定位置に戻ることだが…

…そうなる確率はだいぶ低いだろう。最悪、進行先に湧いた通常mobとで挟み撃ちになってしまうことだってありえる。

そうなると次の理想形は戦ってくれることだろう。だが、ディアベルならまだしも他のパーティーメンバーがあのクモに対して知識を持ち合わせている気はしないし、ディアベルも戦闘を回避するつもりで来たのなら、恐らく情報を共有していないだろう。というか、今の戦力で戦うのは無理、と言っているあたり、今回のメンバーはそこまで高レベルというわけでは無いのかもしれない。

そうなると……俺達が引き受ける……?

「……戦おう。」

…どうやら、キリトも同じ発想だったらしい。

「パーティーが通り過ぎたら、あのクモを引き付ける。すぐそこの大きな部屋に引っ張りこめば、十分戦えるスペースはあるはずだ。」

キリトが早口で発した言葉に、俺たちは頷いて同意を示す。

「解った。指揮は任せたわよ。」

「そなたが戦うと決めたならば。」

「最悪変身する。お前はいつもどおり戦え。」

「そうですよ。キリトさん、頼みます。」

キリトもうなずき返すと、すぐに行動を開始した。

「よし、こっちだ!」

キリトは左手の松明を掲げると、そのまま走り出す。

俺たちは後を追うものの、キリトが止まった位置からは少し離れた位置で止まる。

「十字路だ!出口どっちだ!?」

「さっき通ったとこやろが、まっすぐやまっすぐ!」

奥で聞き慣れた叫び声が聞こえ、続いてカサカサとした足音が聞こえる。

キリトはその足音が最も近づいた時、隠れていた道の影から飛び出ると、アニールブレードをコンパクトな構えで振りかぶった。

アニールブレードの切っ先は、その足音の主の少し硬い体表を切り裂き、紫色の体液を噴出させた。

キリトはそれを視認した瞬間、とっさに飛び退くとこちらの方へと駆けてきた。

「キシャーーーーーーーーーーッ!」

音の発生源……この洞窟の主たる女王蜘蛛は、いかにもクモと言わんばかりの雄叫びを上げると、俺たち……というか自らに傷をつけたキリトを追って、こちらへと足の向きを変えた。

俺たちの視界にはちょうど、奴に関する情報が写ったところだった。

出現したカラーカーソルによれば、名前は《Nephila Regina》。カタカナで書けばネフィラ・レギーナ、となるだろう。レギーナが確かラテン語で女王を意味したはずなので、《女王ネフィラ》とでも言ったところか。HPバーは二段で、その一段目がほんの少しだけ削れている。

「……タゲ取りは成功したみたいね。」

俺のちょっと横でアスナが呟くと、それに呼応するかのようにクモの女王も、俺たちへと移動を開始した。

俺たちはそれを見ると……というか見る前から、全力で後ろへとダッシュしていた。

いくらなんでも、5人がこの狭い通路で戦うのは無理がある。せめて、小広場のようなスペースがなければ、剣技同士の衝突は避けられないだろう。

俺たちは奴に追いつかれること無く無事に広い部屋へとたどり着き、それぞれの愛剣を抜剣、各々構える。

女王蜘蛛はもう止まること無く、キリトめがけて全力で突っ込んでくる。

彼女の足がピクピクっと震えたのを見たキリトは、その瞬間口を開いた。

「足の刺突二連撃は先が震えたほうの足からだ!外側に避けないと二撃目を食らうぞ!」

キリトがリアルタイム指導を行う中、女王は律儀にもその実習を行った。

彼女が突き出した脚の方へとキリトはステップで回避し、次いで飛んできた二撃目は自分自身の脚で妨害される。

ちらっと脚が突き出された方を見ると、初撃の跡地にはガッツリと穴が空いている。ほんとにクモかお前?

ともかく、この一瞬とはいえ隙きが生まれたわけだ。

というわけで。

「ソードスキル一本!」

キリトの声に従い、各々が単発のソードスキルを発動する。

俺やキリト、リントの片手剣組はホリゾンタル、バーチカルなどの初期スキル、アスナは彼女が得意とする基本技のリニアー、キズメルは名前こそ不明だが、赤くサーベルを発行させ、クモの胴体へと叩き込む。

HPバーが目に見えて減り、クモの動きも一瞬鈍る。ボスモンスターと思えない減り具合は、キズメルの能力値ゆえだろうか。

この調子なら、ソードスキル数本で倒しきれるだろう。

キリトは、クモが脚を縮めた瞬間、再び叫ぶ。

「跳ぶぞ!着地の瞬間にこっちもジャンプ、タイミングはカウントする!」

その声に従い、各々が跳躍の体勢を取る。

「3,2,1,今!」

俺たちはタイミングをほぼ完璧に合わせて跳躍、着地したクモを中心として発生したショックウェーブを回避すると、再びソードスキルを叩き込む。

全力で戦う最中、俺たちはある事実を恐らく忘れていた。

キズメルは、今……というより今も尚、普通に俺たちと接し、一緒に共闘している。

だが、普通のNPCならば、プレイヤーの指示で戦闘を行うなどありえないのだ。それなのに、俺たちは普通のプレイヤーと接するように指示をキズメルとプレイヤー組、一緒に飛ばしている。

俺たちはいつしか、それが何もおかしいこととして思わなくなってきた。

 

◆◆◆◆

 

MMOに限らず、ゲーム中の時間を測るのは体感ではほぼ不可能だ。脳で発生するドーパミンとかあれとかそれとかがいい感じに働いて体感時間をずっれズレにしてくるので、戦闘なり一段落したときには、『やっべもう落ちないと学校間に合わねえよ!』とかいう自体が多々発生する。逆に、超感動するストーリーが繰り広げられると、後で時間表記を見て『……たったの3分?今の巨編が?』とか言うこともよくある。

俺たちはネフィら・レギーナとの戦いを無事勝利で終えると、いつ覚えたのか、ハイタッチしようとしているキズメルとアスナをしーっのジェスチャーでとどまらせておいて、とりあえずウィンドウを開いて時間を確認する。

時刻は午前4:25分ぐらい、出たのが二時過ぎだったので、その他諸々を考えると立ったの3分ぐらいしか戦闘してない計算になるわけだが、それだけあればディアベル一行がクモに追われていないことに気づくのは十分だろう。

キリトは少し通路に体を出すと、恐らく彼らが帰ってこないか確認していたのだろう。

大体2,3秒立ってからキリトは再びこちらに歩いてくると、

「ディアベルたちには気づかれなかったみたいだ。多分、彼らはギルドクエストをクリアするために一回地下二階に戻るだろう。その隙きに、俺たちはここを出よう。」

「そうだな。俺達は俺達で、一度司令官に報告しないとだしな。」

その言葉に頷いたアスナが、ふと思い出したかのように言った。

「そういえば、あのボスグモってどのぐらいでリポップするの?」

「えっと……」

キリトが、ベータ時代のインデックスを引こうとした時、それよりもキズメルの脳内ストレージの処理速度が勝ったらしい。

「あの大きさなら、この洞窟に満ちる霊力によって新たな主が生まれるまで、少なくとも三時間はかかるだろう。」

……エルフって、リポップそういう解釈なんだ。

「そんなに掛かるなら、ディアベルさんたちは安全に二階を探索できそうね。」

「はい。……まあ、ディアベルさんたちなら何とかしそう…ってきもありますけど…。」

「…確かに。……とりあえず行こうぜ。」

「うん。」「「ああ。」」「はい。」

俺たちは、この薄暗い場所を後にした。

 

◆◆◆◆

 

俺たちは無事に洞窟を脱出し、《森沈みのまじない》とかで普段は見えにくい黒エルフ野営地へと帰ってきた。

境目である霧を乗り越え、少し雰囲気の違う空気をすーはー吸いながら、ついでに装備も多少解除する。

その際使ったメニューウインドウ──世界観的には幻書──を使った俺たちに、キズメルが再び「便利なものだな」と呟くと、キズメルは口調を改め言った。

「先程のエンジュ騎士団の徽章、そなたらから司令官に渡してくれぬか?」

「あ、ああ…それは構わないけど…」

「よろしく頼む。……なくなった偵察兵は司令の血族でな……報告の場に立ち会わせたくないのだ。身勝手ですまんが……」

「……ああ。俺たちが責任持って渡しておく。………キズメルは……これからどうするんだ?」

「少し天幕で休ませてもらうよ。助けが必要ならば、いつでも声をかけてくれ。」

キズメルはそう言い残すと、俺たちの前から立ち去り、一緒に司会左上のHPバーも一本消えた。

「………きっと、またいつでもパーティーに入ってきてくれるさ。」

俺の声にアスナは珍しく、

「…うん。」

…と、短い声を出しただけだった。

彼女は気分を切り替えるかのようにフードをかぶると言った。

「さ、クエストの報告に行きましょ。」

 

クエストの報告はすぐに終わり、続けて俺たちは毒蜘蛛たちの主である女王蜘蛛の討伐を依頼された。

なんと、キリトがいつの間にか先程の女王蜘蛛の牙を拾っていたようで、それをストレージから取り出し恐る恐る取ると、その瞬間クエストクリアのSEが鳴ったときは、いいのかこのガバガバ判定でと一瞬思ったが、別にこのゲームはそういうところが問題じゃないと気づき、考えるのをやめた。

 

司令の天幕から出ると、キリトが俺たちに……というより、アスナ一人に提案した。

「……どうする?いつでもキズメルをパーティーに誘えるけど……」

「ううん、今はいい。なんだか……一人にさせてあげたい気がするの。」

アスナの感情は、何も間違っていないだろう。……NPCプレイヤー関係なく、己の仲間を気遣う感情そのものなのだから。

「……別に、あなたたちの仲間になったつもりはないから。」

「「………ハイ…。」」 

綺麗に俺たちの心をぶち壊したアスナ嬢は、食欲に負けそうになっている俺たちを引き止めると言った。ちなみにキリトの袖を引っ張って。

「……ご飯の前に、付き合ってよ…」

「へ?何を?」

「ちょっと、一晩寝ただけで忘れないでよね!素材が溜まったら、私の剣を新しい剣に作り変えるって話!」

 

◆◆◆◆

 

で、新しい武器の前に、ある程度SAOの武器について話しておこう。

SAOのゲームでは、大抵のMMOと同じように、武器はだいたい3つのカテゴリに分けられる。

1つ目が、ボスを含むモンスターからドロップする、《モンスタードロップ》。ダンジョン中のチェスト内のアイテムと合わせ、《ドロップ品》ともいわれる。

2つ目が、クエストクリアの報酬として得られる、《クエストリワード》。

3つ目が、プレイヤー鍛冶師が新たに鍛造する、《プレイヤーメイド》。

時間が経つに連れ、強力な武器はドロップとプレイヤーメイドに偏っていくだろうが、今は対して差はない。キリトのアニールブレードは一層クエストのリワード、アスナのウインドフルーレは一層産のモンスタードロップだ。俺とリントの聖剣は……イレギュラーだな、うん。

というわけで、今回依頼するNPC鍛治屋も、現時点ではプレイヤーメイドと同等………それどころかあまりスキル値が高くないプレイヤーよりより良いものを作ることができる。

「…大丈夫だよ、上手くいくって。」

キリトが、俺たち男子組の前を歩くアスナに話しかけるが、アスナは結構ツンツンした様子で、

「別に何も心配してないわよ。」

と発言。どこかツンツン以外の要素も含まれている気がするが、ちょっと俺には読解できない。

「そっか。」

ここでさすがにうっそだぁー!とかいうデリカシーのなさを露呈する気はないので、とりあえず一言だけで済ませておいた。

…………キリトが。

「そうよ。…それより、今までの戦闘で素材とかちゃんと集まったんでしょうね?嫌よ、わざわざ集め直しとか……」

と、アスナは不自然に言葉を切った。

「……いつまでも、コレじゃだめよね……」

「へ?何が?」

「だから……いつまでも、キリトくんやラルトくんのベータのときの知識に頼り切るんじゃなくて、自分でモンスターの種類とか必要な素材とか、分かるようにならないとっておもって…」

「でもそれを言うなら僕だって……」

リントがアスナに言うものの、それもどこか達観した様子で言った。

「でもリント君は、仮面ライダーの力があるじゃない。その力で、前の事件みたいに世界を救えてる………。でも、私はただの一般プレイヤー……」

「そんなの関係ねえっての。俺だって昔は知らなかったわけだし、今だってアルゴの攻略本とかに頼ってるしな。」

「でも、それなら私だって同じだけど、ラルト君は経験として知識があるじゃない。経験で得た知識と、伝聞の知識はやっぱり違うわ。知ってる知識も全部アルゴさんの攻略本を暗記しただけだし……」

「それでも、俺たちだってベータの知識が切れたら終わりだよ。そうなったらもう右も左もわからない。…………それに、知識だけがすべてじゃない。別に今知らなかったって、俺たちみたいに知ってるやつから聞きまくって、それで自分の知識にしたらいいんだよ。丸パクリだっていい。ゲームなんて、誰かが見つけた知識で、より多くのプレイヤーが強くなってくんだから。」

「ああ。……なんでも利用して、今から強くなっていけばいい。今一番大事なのは、今日一日を生きることなんだから……」

……柄にもないきな臭いセリフに、少々気恥ずかしさを感じた俺とキリトは、照れ隠しに思わずアインクラッドの外周部を見た。

………その時ちょうど、俺達の目に眩しい光が飛び込んできた。

「そうね。こうやって、また新しい一日が始まるんだもんね……」

そう、アスナも感慨深げに呟いた。

 

 

 

 

 

……で。

「それから、言ってなかったんだけど………」

「………?」

「武器の作成って、強化と違って別に失敗とか無いから、安心して依頼していいと思うよ。そこまで不安になる必要は」

と、キリトが言った瞬間。

「それを早く言いなさいよ!」

…………毎度恒例、アスナ様のツッコミがキリトの声の合間に突っ込まれた。




ってわけで終わりっす。
なんか三巻入ってから全然進んでないぞ…?
…3月は暇な時間多いから結構書けるはず…

ってわけで、次回予告どうぞ。


次回、セイバーアート・オンライン。
「バフ、頂戴」
「接触だけじゃなかったっけ?」
「今の……どういうことですか……?」

第19節 白銀の切っ先、流星の如く。


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白銀の切っ先、流星のごとく。

えー…お久しぶりです。
前回のあとがきで3月は時間あるから書けるとかほざいてましたが気がつけば4月…
今回ちょっと気がついたら2万字ぐらい書いてて結構時間が…
…これもどれも前回の次回予告を書いた過去の俺の責任だ…

おのれ俺ェェッッ!


ってわけで、新年度一発目の本編どうぞ。



地面を割る勢いで歩いていくフェンサーを俺たちは慌てて追いかけていくと、気がつけば野営地の商業エリアが目に写った。

辺りには様々な天幕が所狭しと並び、正式な街よりかは小規模ではあるが、それでも充分なほどだ。それどころか、各店舗にはここ限定のアイテムが並んでいる。

その風景は実に心を躍らせるが、そばに提示された値段を見て心が無事凍る。流石に三層到達してすぐの俺たちには手を出せない価格だった。

そんな風景を流し見しながら歩くこと数秒、俺達の前にお目当ての天幕が現れた。

まあ勿体ぶらずに言うと、その天幕はもちろん鍛治屋のものだ。NPCで鍛冶屋と言えば、ヒゲが生えまくりのマッチョメンと相場が決まっているが、ここの鍛冶屋はそれと間逆な、長髪を後ろで結った痩躯の爽やか系お兄さん。

スキル熟練度は、彼が手に持つ上級スミスハンマーが示すとおり、三層主街区のNPCよりも更に上。二層で知り合った《レジェンド・ブレイブス》のネズハが鍛冶屋を廃業しチャクラム使いになった今、このエルフ鍛冶師を超えるプレイヤー鍛冶師も居ないだろう。

……強いて、問題を言うとするならば……

…………俺たちが当のエルフ鍛冶師の前に立ち止まると、彼は一瞬こちらを向き、ただ一言

「…フン…。」

とだけ鼻を鳴らし、また業務へと戻ったことだろうか。俺やキリトの隣からアークが生まれる気配がしたので物理的に押し止めるが、一応落ち着いたアスナは口を開き、不満を垂れる。

「………ほんとに大丈夫なの?」

そう言うアスナに、俺たちはこくこくと頷きを返す。ここは一応圏外なので、もし手でも出せば周りの衛兵たちにフルボッコからの追放エンドだ。

ちなみに、アスナの心配に関しては無問題だ。リスクを伴う武器強化とは違い、武器作成は基本的に失敗という結果は存在しない。

キリトは捕まえていたえんじ色のケープを離すと、そのケープごと包まれた人影が天幕へと歩み寄っていく。

「すいません、武器の強化をお願いします。」

アスナができるだけ丁寧にエルフ鍛冶師に依頼すると、彼はまたしても

「フン。」

と返したが、アスナの前に浮かんだショップ用ウィンドウがそれが拒否の意思を示していないことを確実にする。プレイヤーショップだと口頭やり取りすることが多いが、NPC相手では正確にオーダーするために補助としてウインドウが出現することになっている。

アスナはそのウインドウを俺たちにも見えるように可視化してくれた。その指はウインドウの《武器作成》を押そうとし、その寸前で指が止まる。

事情を最近キリト伝いで知った俺たち、そして当人から直接聞いたキリトが見守る中、アスナが小さく、口を開く。

「………そっか、武器を作る前に、やることがあるんだよね。」

その言葉に対し、キリトがいつもより優しい声色で口にする。

「それは必須じゃないから、アスナがしたい様にすればいいよ。」

「うん。でも、もう…………決めたの。」

アスナはそう言うと、左手で腰の細剣………《ウインド・フルーレ+5》を取り外した。

彼女は剣を口元に近づけると、俺たちには聞こえない声で、何事か語りかけた。

「……この剣、インゴットにしてください。」

アスナは鍛冶師に両手でウインド・フルーレを差し出し、それに対する反応はまたしても「フン。」………ではなく。

「…………」

アスナの心情を読みとったのか、彼は無言で剣を受け取ると、ゆっくりと鞘から引き抜く。

ウインド・フルーレは、一層の頃の鏡のような輝きはもう無いものの、長い間数多の敵を貫き、アスナの相棒として戦い続けた姿は、しっとりとした、全てを包み込むような優しい光を放っている。

彼はそれをしばし見つめ、検分すると、両手で捧げるように持ち、一つ頷いてから炉へと運ぶ。

運ばれた炉は、レンガを組み上げてできた本格的なもので、以前のネズハが使っていた携帯用の簡易的なものとは違う。あれとは違って火力調整用のふいごは付いていないが、炎の色が特殊な青緑色なので、炎色反応でも起きていない限り特殊な力が働いているのだろう。多分魔法動力だろうか。

炎はウインド・フルーレの刀身を赤熱させると、さらにまばゆい光を放つ。

その光が晴れると、先程まで剣があったところには、だいたい長さ20センチぐらいの直方体に変わる。

彼はそれを手袋をつけて取り出すと、アスナへと差し出す。

彼の手に輝くのは、アインクラッド外周から差し込む朝日を浴び、キラキラと輝くインゴット。この世界には銀や銅などの実在の金属や、ミスリルと言った架空の金属まで幅広い種類の金属が存在する。それゆえ、見た目のみでアイテム名を判別するのはほぼ不可能に近いのだが、色合いや輝きの強さからしてかなり質の良い素材であることは容易に想像できる。

「……ありがとうございます。」

アスナはそれを両手でしっかり受け取ると、開いておいたウインドウのアイテムストレージに格納する。それを閉じると、横に避難させておいたショップ用メニューを引っ張って正面に置き、改めて武器作成のボタンを押す。

続けてカテゴリごとに武器種を指定し、片手武器→細剣→素材選択へと移行。

武器強化なら、選択する素材は《基材》と《添加材》の二種類のみだが、武器作成になると、そこに《心材》、つまりインゴットが加わる。洞窟で集めた素材からもインゴットは作れるが、今回は基材として用いることにする。

俺たちの指示を何も受けること無く、アスナの指はなめらかに動き、最後に元はあのウインド・フルーレだったインゴット…………《アルゲンティウム・インゴット》という名前のインゴットを心材として選択。必要アイテムを全て選択したウインドウに、工賃と実行するかの確認ダイアログが浮かび上がる。

アスナは「お願いします」と一言言った後、ダイアログのYesボタンを押した。

同時にエルフ鍛冶師のもとに2つの袋が実体化し、さらに一つのインゴットが実体化。彼は無言で手を伸ばすと、革袋2つをポイっと炉にぶち込み、袋は即座に燃え尽き、中身も赤熱する。

「なんか適当な作業だなぁ……本当に大丈夫なのかよ……」

キリトが思わず口に出すと、横にいるアスナが呆れたかのように言った。

「作成に失敗は無いって言ったのはあなたでしょ?あとは信じて任せるしかないじゃない。」

……2層じゃ、強化すらビビってたくせにだいぶ成長したなぁ……と、後方師匠面してしまうが、キリトは恐らく、あえて一つだけ言っていない事がある。

確かに、武器作成に明確な失敗はない。素材を全て消費し、しかし武器は作成されない……ということはないわけだ。。しかし、武器作成の結果が完全に確定しているというわけでもない。プレイヤーが指定できるのは武器種だけで、残りの外見、スペックなどは完全にランダムだ。つまり、完成品の性能にはかなり大きな差があるというわけだ。

だが今回は、以前のウインド・フルーレより弱くなることは恐らく無いだろう。鍛冶師のスキル熟練度は高い(代償として恐ろしいほどに無愛想)し、素材は基材・添加剤共に高品質の上限だ。それに何より、あのインゴットにはアスナの剣に懸ける思いがこもっている。ここがデジタルの世界であろうと、そういう物はある。どこかの一匹狼も言っていた。思いはテクノロジーを超えるのだ。

俺が思考を巡らせるうちに、炎の色が白へと変わる。炉の中では素材が全て溶け、その中に白銀の輝きが鍛冶師の手によって入れられる。冷たかった金属は同色の炎に触れ、徐々に赤く熱され始める。

「…………バフ、頂戴。」

アスナがボソリとつぶやき、俺の視界の端で、2つの手がギュッと結ばれ……とまでは行かず、軽く触れ合う程度にとどまる。

………まーたいちゃついてるよ、コイツラ。バフとかかかって無いくせに。

俺が無事非リア思考を巡らせる中、鍛冶師はそんな熱い空気を知らずか知って無視しているのか、インゴッドが熱せられるやすぐさま取り出すと鉄床に移動、右手のスミスハンマーを握り直すと、一定のペースで叩き始めた。真昼間の野営地に、金属が打つかり合うカン、カン、という音が響き渡る。

ここで、武器作成においてハンマーを叩く回数について解説しておこう。

SAOの鍛冶において、叩く回数が多い=より良い武器になる、という式が成り立つ。具体的な例を示せば、初期装備の《プレーン・レイピア》や《スモール・ソード》などと同じランクなら5回。強化は10回だと考えると、それより低いということからそれで完成してしまったときの絶望感はひとしおだろう。ちなみに、アスナが以前使っていた《ウイインド・フルーレ》と同ランクなら20回前後。槌音が長ければ長いほどいい武器になるということは、その待ち時間をワクワクとドキドキ渦巻く感情の中にプレイヤーを無理やり押し込むということだ。一種のギャンブルに近いかもしれない。

俺たちが見守る中で、鍛冶師はひたすらにハンマーを叩き続ける。気がつけば10回、20回を超え、コレでウインド・フルーレを超えた剣が出来ることはほぼ確実だ。

……しかし、25回を超えた辺りから、キリトが横で息を詰める。横をちらっと見れば、キリトの手はギュッとアスナの手を握りしめている。彼自身はそれに気づいて居ないようで、食い入るように火花を散らすインゴットを凝視する。

キリトの愛剣で、俺もかつて使用していた一層産の片手剣アニール・ブレードと同ランク帯で、確か槌打ちの回数は30回前後。だが彼のハンマーはその30回を優に超え、35回すら超え、40回を超えたところで、ようやく彼は手を止めた。

彼の手が離れると同時に、鉄床の上のインゴットが純白に輝き、ゆっくりと変形し始める。直方体だったそれは、片端は握りやすい円柱状に、もう片方は細く、鋭利な切っ先に変わる。そして何より…………美しい。

最後にもう一度強く光り輝くと、鉄床の上には、あのインゴットの輝きを残した、芸術品のように美しい細剣が横たわっていた。

口を閉じ、一言も発さない俺たちが見守る中、鍛冶師の彼は剣の柄を握り、持ち上げた。指先を刀身に添わせ走らせると、彼は一言だけ、

「いい剣だ」

とつぶやき、天幕の後ろにあるラックから明るい灰色の鞘を選んで取ると、その中へと細剣を収め、アスナへと差し出した。

ここでようやく、キリトは己がアスナの手をがっしりと握っていたことを認識したようで、慌てた様子で手を離す。ヘタレが。

ロングコートに手を突っ込んだキリトを横目に、鍛冶師からレイピアを受け取ると、一言言った。

「……ありがとうございます。」

彼の返事は、今度こそ「フン。」とだけだった。

ほんのりとだけ苦笑し、腰に新たなレイピアを吊るそうとするアスナを、キリトはぐいっと引っ張り、商業エリアの小さな広場へと場所を移した。

俺とリントが慌てて追いつくと、アスナはキリトにふくれっ面&ツリ目で問い詰めた。

「ちょっと、どうしたっていうのよ?武器はちゃんとできたじゃない」

「いや、ケチをつけるつもりはないんだ。でも、その……ちょっとそれ、見せてくれ。」

キリトの頼みにアスナは渋々と言った様子で、腰に吊るしかけていた細剣を渡した。

それを受け取り、握った瞬間キリトの表情が一変したが、彼はその感情をあくまでも押し殺し、冷静にアイテムのプロパティウインドウを展開した。

アイテムのウインドウは最初から誰にも可視化されているので、全員でそのウインドウを覗き込む。

一番上にはアイテム名が表示されていて、アルファベットで記されたその銘は《Civalric Rapier》。カタカナにすれば、シバルリック・レイピア、か。新品なので、強化値はもちろん±0。そして横の残り強化施行回数が15。

……………15………15!?

「「なでゅっ……」」

キリトと俺の口から、同時によく文字に起こせたなと言いたくなるほどの擬音が発せられた。

俺たちの心理的ブレーキが働いたからこそこれだけで済んだが、もし俺たちに遠慮というものがなければ「「なんでや!」」と某トゲトゲ頭の如く叫んでそのまま高く高く飛び上がり4層の床に激突して落ちてくる……ぐらいはしていただろう。本当にそのレベルの衝撃が、俺たちを襲った。

………15。あのアニール・ブレードの強化試行回数が8回なので、実にその2倍。下にある細かい攻撃力だの速度だのどうでもいい、この数値だけでも、このシバルリック・レイピアはアニールブレードの2倍強い………ということがわかる。スペックだけなら、恐らく5,6層クラスのアイテムではあるまいか。

とはいえ、この事実は大いに喜ぶべきことだ。この世界において、武器のスペックは勝率に直結する。それどころか、この世界では勝率なんてものは数字としての役割を果たさない。一度でも死んでしまえばこの世界と現実世界から追放されるのだ、勝率が100%から1%でも減ってしまえば、そのパーセントは増えることも減ることもしなくなる。ならば、この世界では強大な力というものはあってもありすぎるということはない。だがしかし、俺たちが今いる世界はただのシングルプレイRPGではない、MMORPG、それも世界の誰もが未経験なVRMMORPGという新たなジャンルなのだ。

キリトは、全てが白銀で作られた輝かしいレイピアを握ったまま、これからアスナが歩む運命を変えていくのではないかという予感………もしくは畏れに打たれ、ただ立ち尽くした。

……………そして、俺もまた。

「どうしたのよ?」「どうしたんですか?」

新人二人組に声をかけられ、俺たちはようやく顔を上げた。

「「あ、あぁ、なんでもない。」」

俺たちは慌てて頭を振ってから、再度冷静になってまた口を開く。

「「…………いやいや、なんでもなくない。」」

「……仲いいですね、お二人。」

リントくん、ちょっと黙ろうか。

俺が顔面で圧を掛ける中、キリトが改めて発言権を得る。

「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりこれ。この剣、超強いぞ。」

「………超強いの?」

「うん。超強い。」

………なんかあれだな。語彙が小学生だな。

アスナもそれに気づいたのかクスッと笑みをこぼしキリトは不本意だという風に咳払いしてから、アスナにレイピアを返却する。

アスナがそれを受け取るのを待ってから、キリトはまた口を開いた。

「えっと………とりあえず、メインアーム更新おめでとう。ウインド・フルーレはたしかにその剣の中で生きてる………と、俺は思うんだけどそれはまあそういうのは人それぞれと言いますか………」

「そこは言い切ったほうが良いんじゃないですかね、キリトさん。」

俺の指摘……というかツッコミのせいで漫才臭くなってしまったが、剣の持ち主であるアスナはまたクスッとしただけで済ませてくれた。

「…うん、ありがとう。わたしもそう思うよ。……………この子となら、また戦って行けるって……そんな気がしてるもん。」

「…そっか。」

アスナにしては珍しく、純粋な心からの微笑を浮かべ、ゆっくりと彼女は言葉を続けた。

「……キリトくんは覚えてるでしょうけど……………はじまりの街を出て、迷宮区を目指して戦ってた頃は、私、武器なんて使い捨てで良いと思ってたの。安い《アイアン・レイピア》を何本も買って、強化もメンテもしないで切れ味が落ちたらダンジョンの床に投げ捨ててた。………でも、それは私自身の姿でもあったのよね。一直線に、走れるところまで走って……………走れなくなったらそれで死ぬ。それでいいと思ってた………」

………この辺の事情は、キリトからそれとなく聞いてある。リントは恐らく初耳だと思うので、彼は結構衝撃を受けていることだろう。

アスナは左手を持ち上げ、右手の中にある新たな剣のナックルガードを指先でなぞる。

手に触れる銀の感触を、一言一言に変えるかのように、噛みしめるかのようにアスナは言葉を口にする。

「正直、まだ大きな希望を持てる気はしないの。百層は遠いわ………あまりに遠すぎる。………でもね。君に言われて、ウインド・フルーレを手にいれて、強化して、それで戦ったときから…少しずつ、変わってきた気がする。ゲームクリアとか、現実世界に帰るとかじゃなくて………一日。今日一日を、生き抜く希望を持とうって。そのためにも、剣も、防具も大事にして、色々勉強もして。それと…………自分自身にも、必要なメンテは、ちゃんとしていこうって、そう思えるようになったの。」

「………自分の、メンテか………」

アスナが言った言葉に、キリトは口に出して、そして俺は内心で今まで知らなかったことを………考えたこともなかったことを、学んだような気になった。

アスナはもちろんMMO初心者で、根っからの廃人……じゃなくてゲーマーのキリトや、ベータテスターの俺よりかはその方面での知識は劣る。

だが、彼女が教えてくれたことはこの世界に詳しいだけではわからないことだ。

……別に、今の俺達がゲーム攻略に際して捨て鉢になっているというわけではない。原作……正史SAOのような《ビーター》という名前が生まれることもなく、誰かが犠牲になるようなこともない。

だが、俺たちが戦いの中で痛みを忘れかけていることもまた事実だ。ゲームクリア、そしてメギドの脅威という現実から目を背け、ディアベル率いる攻略集団の本丸から無意識………はたまた意識的に距離をおいている。そういう部分は、確かにある。俺が戦っているのは、ほぼ今を生き延びるためだ。ゲームクリアのためではなく、今ある多くの命を生き残らせる。そのために仮面ライダーとして、街を襲うメギドを倒し、ダンジョンで俺を倒そうと……殺そうとしてくる敵mobたちを退ける。

………だが、俺はその過程で数々の関係を……縁を結んだ。

横にいるキリトやアスナ、リント。情報屋、《鼠》のアルゴ。斧戦士のエギルに、鍛冶屋改めチャクラム使いのネズハ。ディアベルを始めとする攻略集団の剣士たち。そして、黒エルフの騎士キズメル───

彼女らと浅からぬ縁を結んだ以上、俺はこのまま戦う責任がある。攻略組としてプレイヤーを開放するためにも、仮面ライダーとして、その日まで彼らを守り続けるためにも。

「……そうだよ。」

物思いに耽る俺たちに、いつになく優しさを帯びた声を、アスナはかけた。

「自分のコト、大事にしてよね。辛かったり、悲しかったりするときは、抱え込まないで言ってみることも大事だと思うよ。」

「え……う…うん…。」

キリトはあからさまに想定外という反応を返し、上目遣いにじっと見た後、一応という感じで尋ねる。

「……あの、それ、今言ったらどうなるんです?」

「アツアツのタラン饅頭ぐらいは、いつでも奢ってあげるわ。」

「……さ、さいですか……」

「…ちなみに、俺だと変わるってことはあったりしないんですかね。」

「……買ってからもう一回温める……ぐらいはしてもいいけど。」

「…さいですか…。」

…まあ、タラン饅頭は結構好きだしいいや。………ちゃんと冷えて、中身が固まってさえいれば。

「じゃあ、強化に失敗したらよろしく。──────そんで、こっからが本題なんだけど……」

キリトが切り替えるように、声色を変えて出した声により、アスナが珍しく浮かべていた笑みは一瞬にして消え去った。

「え!?今のウインド・フルーレが生まれ変わったって話、本題じゃなかったの!?」

「そうなのです」

キリトはアスナの異議をさらっと流すと、アスナが吊るすレイピアを指差す。

「繰り返すけど、その《シバルリック・レイピア》は、三層の武器としてはありえないぐらい強い。ちょっと強化すれば、一撃辺りの攻撃力でも俺のアニール・ブレード+6を超えるだろう。……それ自体は喜ばしいことなんだけど……問題は、どうしてそんな強い武器ができたのか、ってことなんだ。」

「えーっと………」

アスナは一瞬首をかしげると、広場を囲んでいる急造であろう柵越しに、先程まで俺たちが居た鍛冶屋の天幕を見やった。ここから鍛冶師当人の姿は見えないものの、彼が発生させているであろう、かーんという金属音は絶え間なく俺たちの耳に聞こえてくる。

「あの鍛治屋さん、接客はアレだけど腕は良いんでしょ?頼めばいつでもこのレベルの武器を作ってくれるんじゃないの?……接客はアレだけど」

「い……いやいやいや、そりゃ無いと思うよ。三層に来て結構戦闘したけど、mobの強さはベータ時代とほとんど変わってなかった。なのに入手できる武器だけが何倍も強化されたら、バランス崩壊もいいとこだよ。」

「なら、主街区の鍛治屋さんは変わって無くて、あのダークエルフさんだけが強い武器を作れるように変更されてるってことは?」

「うーん………この野営地は、森の中で《翡翠の秘鍵》クエを受ければ誰でも来られるんだ。そういう意味では、主街区と大差ないように思えるなぁ……」

「もう、なんだかはっきりしないわね。理由がどうであれ、異様に強い武器が作れるならそれに越したことは無いじゃないの。逆は勘弁だけど。」

「まぁ、それはそうなんだけどね……」

アスナの言う通り、この世界では実際問題ゲームバランスだのなんだの言っている場合ではない。俺だって、ゲームバランス崩壊待ったなしの聖剣を持っているのだ。いち早く現実世界に戻れるなら、バグだろうがチートだろうが何だって使ってやる。それぐらいの心意気は持ち合わせている……つもりだ。

だが、そう簡単に物事は進まない可能性がある。

もし、このシバルリック・レイピアが本来のゲームシステム上ありえないアイテム…………つまりバグなりによって誕生したアイテムだとするなら、その存在が管理者サイドに察知された場合、何かしらの処置をされてしまう可能性があるのだ。この場合の処置とは、本来存在するべきアイテムへの置き換え、またはアイテムそのものの消去……思い当たるのはその辺りだろうか。その場合、アスナが初めて心を通わせたウインド・フルーレの魂はどうなってしまうのか………

「じゃあ、検証しましょ。」

「「「へ?」」」

アスナの唐突な提案に、キリト、そして俺とリントが恐ろしいほどに間抜けな声を出した。

「もう一度剣の作成を依頼して、現象が再現するか確かめてみればいいじゃない。」

「…あー、なるほどね………って…」

二、三度キリトはブンブン頷いてから、急に冷静になり、人差し指を己の鼻に向けた。

「えっ、剣作るって……もしかして俺が?」

「私が二本作ってどうするのよ。両手に持って戦えるわけじゃあるまいし。」

……戦えるんだよなあ…将来的には…。

「そ、そりゃそうだけど……うーん…」

キリトは唸ったまま右手を動かすと、何も存在しない右肩の後ろに手を回す。きっとアニール・ブレードを触りたかったのだろうが見事に失敗した彼は、行き場のない手を頭の後ろに置いた。

現象が再現するか……つまり、あの無愛想スキルカンストのお兄さんがいつでも化け物スペックの武器を作ってくれるのかを検証するには、条件をアスナのときとぴっちりきっかり揃える必要がある。基材と添加材を最高品質・最大数というのはもちろんで、芯材も長年使い込んだ高スペックの武器からできたものである必要がある。

そして、その条件を満たすもの……というより、満たしていてかつそれが実行可能なものといえばただ一つ、キリトの持つアニール・ブレード+6。

正直なところ、あの剣もそろそろメインアームとしては限界だ。残り2つの強化枠をどちらも成功させ+8にできれば4層ぐらいまでは使い続けられるだろう。だが、この三層のNPCショップでも+0同士ならアニール・ブレードより強い剣は存在するのだ。その分価格もバカ高いが。

ただ、キリトの心情としてはあの剣を使い続けたいのだろう。あの無骨さのある見た目だけでなく、アレを手に入れるまでのクエストの道のり、あれを乗り越えようやくアニール・ブレードを手にしたときの高揚を感じたがゆえ、彼はあの剣を使い続けることを選んでいる。

キリトの表情が一瞬だけ変わり、なにか決意を決めたように見えた瞬間。

「…でも、気が進まないならやめておくべきね。」

「は……ひ…?」

「なんかそういうの、影響しそうじゃない?嫌々武器を作り直しても、いい結果は出ないっていうか

「ふ……へ……?」

「そりゃ私も迷いはしたけど、いざ依頼するときはきっちり心を決めてたもん。でもあなた、顔に出てるわよ。今の剣で、行けるところまで行きたいって。」

「ほ………」

キリトがひたすらハ行唖然活用を繰り出す中、アスナは続けた。

「検証の方法は、改めて考えましょ。それに第一、一回やっただけじゃ検証にもなんにもならないよね。本気でやるなら材料をたくさん用意して、最低でも百回は剣作ってもらって、異様に強い剣が出来る確率を調べないと……それでもだいぶざっくりとしたデータになっちゃうでしょうけど……」

アスナはそこまでスラスラと並べ立てると、一瞬考え込むような表情を見せた後、再び鍛冶師の天幕へと視線を向けた。

「………でも、なんだか、あの鍛冶師さん………ううん、この野営地で、そういうことはしちゃいけない気もするの。だってあの鍛冶師さんも、ここの兵士さん達も、真剣に自分の任務を果たそうとしているんだもんね。なのに、使うわけでもない剣を百本も注文するなんて、営業妨害もいいところだし、職人さんを侮辱することにもなるかなって。……ゲームなのに、変なこと言ってるかもだけど…」

アスナが珍しく純粋な瞳でキリトを上目遣いに見つめ、キリトはそれによってか否か、

「うん、じゃあやめとく。」

と、語彙力を捨て去った返答を返した。

「………キリトさん、ちょっとは語彙をもとに戻そうか。」

「……あ、ああ。」

キリトは俺の呼びかけで無事語彙と意識をこの世界に戻すことに成功───意識がさっきまで現実世界に行っていればそのままにしていたが───すると、気を取り直して言った。

「でも、鍛治屋にはまだ用があるんだ。アスナの剣、ここで+5ぐらいにはしときたいし、俺の剣も使うならもうちょっと強化しときたいし。」

だが颯爽と、アスナから冷静な突っ込みが。

「強化は良いとしても、基材と添加材が足りないんじゃないの?私のレイピアはともかく、キリトくんのアニール・ブレードって上限8回の2回残しでしょ?素材はマックスでつ使って、確率を最大までブーストしたほうが……って、何ヘンな顔してるのよ」

キリトが異様な……なんとも言えない表情をしていることに気づいたアスナがぎろっと睨みを効かせると、キリトは何故か感慨深そうに言った。

「いやぁ……あのアスナさんが、もう立派に育ったもんだなぁって思って……丸暗記の知識だから身についてないなんてこと、もう全然……」

「なんでお前後方師匠面なの?」

「お二人ってそういう関係性でしたっけ?」

キリトがライダー組二人から冷静に突っ込まれる中、アスナもキリトに続いてヘンな顔をした後、あの鍛冶師譲りの「フン」を繰り出すと、そのまま言葉を続けた。

「私のことはどうでもいいのよ。それよりどうするの?また素材集めにいく?」

アスナがキリト……というか俺たちに尋ねると、キリトはニヤリと笑って言った。

「その必要はないんだな、コレが。」

キリトはその顔のままメニューウインドウを開き、ストレージから一つのアイテムを実体化させた。見た目は何の変哲のない革袋だが、その側面にはかつて嫌というほど見たあの印が焼印として施されている。

「そのマーク、二層の牛オトコ集団のマークじゃない。中身、変なのじゃないでしょうね?」

「残念ながら、あんまりヘンじゃない。」

怪訝そうな顔で見つめ……というか睨んでくるアスナをサラッと流しながら、キリトは袋から中身を取り出した。

キリトが手に持つのは、黒光りする金属の板。ちなみに、こちらにも牛印付き。牛印はブランドかなにかなのか。

「なーんだ、ただの金属片(プランク)じゃないの。でも見慣れない色ね、アイアンでも、スチールでもない………」

アスナの疑問は最もで、プランクとはダンジョンなどで手に入る鉱石素材を溶かして作るアイテムなのだ。なのでこの層までに手に入るプランクはほとんど知り尽くしているわけだが、このプランクはおそらく普通のやつではないだろう。

「コレは、二層のボス戦で戦ったナト大佐のラストアタックボーナスだよ。「俺が倒して渡したやつだけどな」……そのとおりです。まあともかく、このアイテムは+10以下のアイテムなら、強化の際にこれを使えば最大限まで成功率をブースト出来る上に強化内容も自由に選べるというとってもオトクな……」

と、キリトが饒舌にアイテムについて説明すると、アスナの口から聞こえたのはもはや定番となったあの言葉だった。

「もっと早く言いなさいよ!」

 

◆◆◆◆

 

再び俺たちがあの無愛想エルフの前に向かうと、彼はさっきも見たばかりであろう4人衆を見やり、この短時間で何度目になるかわからない「フン。」を再び炸裂させた。やっぱりオリジナルは違いますわぁ。

態度は相変わらずこうだったが、腕も相変わらずのもので、最大でも95%の成功率である武器強化を、7回全て成功させた。

結果として、アスナのシバルリック・レイピアは+0から+5に、キリトのアニール・ブレードは+6から+8へとなった。俺とリントの聖剣はどうやら強化ができないようだ。まあ強化試行回数も-(ハイフン)だし。というかできないから俺も牛プランクをキリトに渡したわけだし。

革袋にはまだ十数個の牛プランクが残っていたが、コレはいつか使うときのために取っておくことにした。キリトは袋をストレージに戻すと、鋭さ+4、丈夫さ+4となり最大強化に成功したアニール・ブレードを、鞘から引き抜いた。ただでさえ厚かった刀身はそれに深い輝きと艶が増し、少し離れて見ている俺にさえも、ぞくっとするような迫力を伝えてくる。

キリトがその愛剣を鞘に戻すと同時に、同じように愛剣を見つめていたアスナも己のレイピアを鞘へと戻した。パチンという鞘の縁と剣の鍔がぶつかる音が同時に鳴り響き、キリトとアスナは顔を見合わせ、ふふっとまたしても同時に笑う。三層でコレならそりゃ最終的にゴールインしますわ。………ええなぁ。

アスナはいち早く我に返ると、レイピアを左腰に吊るし、咳払いを一つ挟んでから言った。

「ラルトくん、使わせてもらったプランクの代金、ちゃんと払うからね。」

「あー………いや、それはいいよ。ナト大佐はみんなで協力して倒したんだし、それに俺が持ってても宝の持ち腐れだったし。それは今後の戦闘で返してもらうということで。」

「オッケー。また今度レアドロップが来たら譲ることにもするわ。」

「サンガツ……じゃなくてサンキュー。」

アスナは俺の言い間違え──言い間違えだよね?──を聞き(流し)、一段声のボリュームを落として言った。

「でも、コレじゃ鍛治屋さんの腕前は相変わらず謎のままよね。どうにかして、システムの異常かどうかだけでも調べられたら良いんだけど…」

「うーん………」

キリトは唸った。ついでに俺も脳内で唸った。たぶんリントも唸った。み~んな唸った。

そのレベルでどうしよう。大量注文で検証するのは仁義的にアレだし、まさか本人に「この武器ってバグでできました?」とか聞くのもNPC相手なのももちろん職人にそういうふうに聞いちゃうのは…………

………いや、まてよ………?

「「「…………あ」」」

奇跡的に、ほんとに天文学的確率と思えるほど奇跡的に、男性陣三人の声がぴったし一致した。

「そうだ。そうだよ。」

キリトが代表して続け、控えめに指を鳴らした。

「訊けばいいんだ。この場所に詳しい人に。」

 

◆◆◆◆

 

ってなわけで、やってきましたあの天幕。

数時間前にもくぐった黒い布をめくり、キリトが声をかける。

「こんにちは、キリトだけど、入ってもいいかな?」

すると、すぐに天幕の奥から声が帰ってくる。

「どうぞ、ちょうど朝食の用意ができたところだ。」

俺たちがその声を受けて天幕をくぐると、その先には数時間前に対面していた黒エルフの騎士が。

……最も、今の彼女の服装では、騎士だと断定することはほぼ不可能に近い。

服装をすごい単純に言えば、彼女は薄衣のダウンを纏っている。以上だ。

備考として、前の合わせ方が相当……ゆるゆるのゆるということを記しておこう。昨日のシルクのボディスーツ一枚きりというのも充分あれだったが、コレはもうSAOが12歳以上推奨のレーティングを冠すのはほぼ不可能なレベルではないか。最低でも15歳以上とかにすべきだろ。デスゲームになった今じゃあ意味ないだろうが。

……などと健全な男の子なら思わざるを得ない思考を巡らせると、後ろの方から鋭く銀色の眼光が飛んでくるので、思考を無理やり押し留めておき、天幕の中へ入る。

ついでに極ナチュラルにキズメルから視線をそらしながら、またキリトが口を開く。

「食事中に悪いな、ちょっとキズメルに頼みがあって………」

「新たな任務なら喜んで同行するぞ。」

「それはありがたいけど、出発はまだなんだ。ちょっと聞きたいことがあって。」

「ほう。なら、食べながら話そう。用意するから座っていてくれ。」

そう言ってキズメルは、天幕に設置されたストーブ、その上に置かれた鍋へと歩み寄っていった。

ここで社交辞令的に「お構いなく〜」とか言ってしまうとほんとにそう取られてしまう可能性があるので、全員揃って礼を言っておく。

鍋からはミルク系の香りが漂い、飢えたプレイヤーたちがそれに引き寄せられるのも無理はないだろう。

全員床に敷かれた毛皮に座り、鍋を開けて中身をかき混ぜるキズメルをぼーっとみつめる中で、アスナが言った。

「あんまり見てると、ハラスメント防止コードが発動するわよ。」

「え、アレって接触だけじゃなかったっけ?」

キリトがそれに返してから、まるでしまったというふうな顔へと表情を変えた。

そりゃこう答えるってことはガン見してるってことだからな!さすが思春期!

……ハラスメント防止コードとは、まあ読んで字のごとくそういうRと18がつくようなそういう行為とかを防ぐためのものだ。異性のプレイヤーやNPCに不適切な接触を何度も繰り返すと発動し、対象プレイヤーは一層黒鉄宮、その中の牢獄エリアへと送られる。

この不適切というのがかなり曖昧で、具体的にガイドライン的なものが示されているわけでもないので、いわゆる良識に任せる、といったところなのだろう。

少なくとも、この不適切な接触の中にただガン見するコトが含まれるはずはないので、この動作でコードが発動することはない……はずなのだが、何故かアスナによるコード発動カウントダウンは止まらない。

「あーあ、発動しちゃうわよ。五、四、三……」

「え………え?え……えぇ?」

キリトがコードへの恐怖とキズメルが隠そうともせずあらわにしている御御足とで視線をキョロキョロさせるなか、無常にもシステム……ではなくアスナは止まらなかった。

「二、一、コード発動。」

………キリトの脇腹の辺りで、ごすっ……という嫌な音がしたのは…………

…………南無、とだけ言っておこう。

「相変わらず、仲のいいことだな。」

…キズメルさん、多分違います。

 

紆余曲折───主に人族に置いて───ありながらも、なんとかキリトが回復した後にキズメルが出してくれたのは、穀物を何かしらのミルクで煮込み、ドライフルーツを盛り付けた………現実世界で言えばオートミール的なものだ。俺は前世でも今世でも食べたことがないが、一口試しに食べてみると意外と………というか普通に美味しい。アインクラッド風の味付けではあるが、牛乳に近い味のミルクに浸った穀物は程よくザクザクした食感で、ドライフルーツの酸味や甘味がうまい。まじで食ってみてくれ。スレニキ見てるあぁー!うまいぞこれー!

…………唯一悲しむところを上げるとするなら、量が少々……いやだいぶ少ないというところだろうか。

木のスプーンで残りを惜しみながら一口一口味わっていると、一足先に食べ終えたアスナが満足気に呟いた。

「おいしかった………まさかここで、オートミールが食べられるなんて……」

「え……おーとみーる……って、こんなのなの?」

…キリト知らなかったんだ。俺も食べたことはなかったけど。外見でなんとか判断したけど。

アスナはそんなキリトに視線を向けるとうなずき、

「ええ。食感がちょっと違うけど、風味は完璧ね。」

と言う。俺は食べたことがなかったゆえこういうものなのかなと思ったが、有識者の意見は違った。

「ほう、一族も朝に乳粥を食べるのか。それは知らなかったな。………………いつか………」

そこで言葉を切ったキズメルを、俺たちは訝しげに見つめたものの、彼女の表情に秘められた心を理解することはできなかった。

キズメルは気分を切り替えるようにオートミール風乳粥(コレ意味一緒?)を勢いよく食べ終えると、俺たちに言った。

「そういえば、なにか私に聞きたいことがあったのではないか?」

「え?……あ、そうだった。」

「忘れんな忘れんな。」

「悪い悪い。それで、えーと、その………」

キリトはしばしの苦悶の後、どストレートにあの鍛冶師の腕前をどう思うか、キズメルに尋ねた。

キズメルは苦笑し、それが残りながらも称賛を込めた表情へと二段階変化した。彼女いわく腕は良いが気まぐれで、極たまに大変な業物を打つこともあるが、不本意な注文や頭ごなしな命令などではなまくらしか作らない………とのこと。

つまりは、アスナが今腰に吊るしているシバルリック・レイピアはキズメルの言う大変な業物なのだろう。彼に……ここにいるNPCたちをいかに一人の人間として……ではなく、一人のエルフとして接するかによって変わる………というところだろうか。

ますます、このゲームの製作者である茅場晶彦が理想とする世界に近づいているような気がするが、本当の理想形がコレなのかどうかは確信が持てない。

ともかく、コレでアスナの剣はバグなどのたぐいでなくれっきとした正規品と言うことがほぼ証明されたのだ。俺たちはそれに一安心し、目線で頷き合う。

ただ、少々引っかかるのは“不本意な注文”というものだ。これは正しく、さっき俺達がしようと考えていた『使わない剣を100本も注文する』というものに他ならないだろう。その場合低品質な武器が作られるなら、実質検証は不可能だろう。

アスナは強力な剣を作ってもらったし、キリトは完全強化に成功した。俺とリントは聖剣だし、俺達のパーティーだけならもう問題ないと思えるが、一応攻略集団の一員である以上、この事実をディアベル達他のプレイヤーに報告する義務はあるだろう。エルフ野営地で、5,6層クラスの強力な武器を手に入れられること。そして、クエストの初めでエルフ騎士を生存させ、強力な仲間になってくれる可能性があること………。

考えながらひたすらスプーンを動かしていると、いつしかただ皿をツンツンするだけになっていた。意識せずに完食していたことを少々悔やみながら、俺はキズメルに礼を言った。

「ごちそうさま、キズメル。おかゆも美味かったし、話もとても参考になった。」

「私もとっても美味しかった。ごちそうさまでした。」

「ごちそうさま。今度コレの材料教えてくれよ。そしたら俺が作って見るから。」

「ごちそうさまでした。ほんとに美味しかったです。」

「そうか、それなら明日の朝はもっと作ることにしよう。」

キズメルはそういった後、俺達からお皿を回収すると、表情を引き締め言った。

「それで、これからどうする?少し野営地で準備してもいいし、すぐに任務に出発しても良いが。」

「いや………」

キリトはその選択肢を両方断ると、彼も表情を引き締めて言った。

「…………俺達は一度、人族の街に帰らないと行けないんだ。」

 

◆◆◆◆

 

エルフのまじないで主街区付近まで転送してくれるという話を感謝しながらも断った俺達は、15,6時間ほど過ごした野営地をいっときにせよ離れた。

後ろを向けば、野営地の影がうっすらとは見えるものの、それも距離が離れるに連れて霧によって完全に見えなくなっていく。

果たして無事に帰れるのかという不安を感じている中、同じような感想を抱いたのだろうアスナが言った。

「…ここ、ちゃんと帰って来れるんでしょうね?」

「大丈夫……だと思うよ。マップにはマーキングされてるはずだし」

「…思う?……はず?」

キリトの声によってアスナの顔がだんだん険しくなっていくので、俺は颯爽とマップを開いて可視化、アスナの前にスワイプでぶっ飛ばした。

「…あ、ありがと。

アスナの視界には、先程まで居た野営地、そして二層からの階段の出口である四阿(あずまや)、そして女王蜘蛛の洞窟が光点で示されている光景が見えているはずだ。コレならきっと、道に迷って帰ってこれないということはないだろう。たぶん。

ということをアスナに説明すれば、なんとか彼女は納得してくれたようで、とりあえず俺たちはあの四阿に向かっている。

この霧だらけの道を歩むのは少々…いやだいぶ恐ろしいが、恐怖の原因はそれだけでは無いだろう。昨日一日中共に戦ったあのエルフ騎士の存在がないことが、俺達の中で言いようのない恐怖心を生み出している。

同じような心持ちだろうアスナも、

「ねぇ…キズメルさんって、いつまで……」

と言いかけたものの、その言葉は途中で霧に紛れて消えていく。俺たちが視線を向けると、珍しくフードを後ろに払っていたフェンサーは、複数の感情が入り混じった表情を浮かべると言った。

「……こんなふうに頼っちゃだめなんだよね。きっと、いつか、お別れするときが来るんだから……」

「………ああ。」

アスナの声に頷くと、俺は続ける。

「しかも、キズメルに関しては俺とキリトのベータの知識も当てにならないんだ。最初の戦闘で、どっかの誰かが向こうの騎士をぶっ倒しちまったからな。」

「ちょっと、そのどっかの誰かが一人で倒したみたいに言わないでよ。」

「でも実際ほとんどそっちがダメージ与えたじゃん……」

「キリトくん?なにか言ったかしら?」

「…いいや、何も言ってない。」

「いいかリント、コレが主従関係というやつだ。」

「………悲惨ですね。」

謎と混沌に溢れた会話を繰り広げた後、俺の耳はカサっという植物が擦れる音を捉えた。

……まさか!

「後ろだ!」

俺が叫ぶと同時に、他の3人も反応し、一斉に後ろを向く。

俺たちの後ろには数多の木が生えているが、その中には一本、2つ並んだうろが青くぼんやりと光っているものが存在する。

「《トレント・サプリング》だ。戦い方は前と同じ、俺が先陣切るから順番にスイッチで攻撃してくれ。」

「了解…!」「わかった!」「わかりました!」

キリトの指示に従い、俺たちは一旦対比し、キリトは動いた木改め、木型モンスター《トレント・サプリング》に突っ込んでいった。

「ハァッ!」

キリトは奴の攻撃をステップで回避すると、お返しに片手剣単発垂直斬りスキル《バーチカル》を発動する。

最高に鋭くなったアニール・ブレードの刃は、枯れかけた木の表皮を容易に削り、そのまま中身を抉る。

「アスナスイッチ!」

キリトは硬直が解けると同時に叫び、そのまま後ろへとバックジャンプで対比する。

それとすれ違う形で、白銀のレイピアを構えたアスナが走っていく。彼女はレイピアを右腰に構えると、刀身を銀色に光らせる。

そう思ったのも束の間、目にも留まらぬ速度で二連撃を並行線を描きながら見舞った。細剣二連撃スキル、《パラレル・スティング》。

キリトの攻撃で残り6割に減っていた枯れ木野郎のHPバーは、その二撃で4割、3割、2割と減っていき……

「ラルトくんスイッ…………チ……」

………水色のポリゴン片となって、粉々に粉砕された。

「……えー………」

スイッチって…いったじゃん……

「ごめん、こんなに減ると思わなかった……」

…つっよ、その剣……

 

◆◆◆◆

 

シバルリック・レイピアの想像以上の切れ味に畏れと驚きを感じながら、俺たちは再び歩き出した。

アスナの剣の力がとんでもないことがホント…とんでもないのだが、当のアスナはそんなの気にしてないとばかりにスタスタとひたすら歩いていく。

きっと、彼女からすれば剣の切れ味や攻撃速度などは二の次なのだろう。最も重要視するのは、己の手に馴染むかどうか。

実際、VRでないMMOでも握り心地などの理由で、同じマウスやPADコントローラーなどを買い溜めていたプレイヤーは結構居た。確かに、生産終了なんてことにでもなったら悲惨だ。

だが、このデスゲームであるSAOで、感覚を優先することは、どこか危ないものを覚える。

実際それも感覚なのだが、まあでも第六感ってのはなんだかんだ使えるシステム外スキルというものでして………

「待って。」

…思考を?

………そんな冗談は読み取れねえよとばかりに、アスナは急に停止した。

それによって、俺たち男子組も急停止。結構不自然なポーズになってしまったのは置いておいて、慌てて周りの様子を探る。特段注意深くしていたわけではないが、かと言って散漫になっていたつもりもない。視覚でも聴覚でも、モンスターの動きは捉えられない…………

……………いや。

遠く、少し遠くで、この場所で聞こえそうだが聞こえなさそうな音が聞こえた。

キン、キンと金属同士がぶつかり合うこの音は……

「剣と剣の戦闘………?」

アスナの発言に、俺たちは思わずうなずきかけた。なにせソードアート・オンラインだ。この世界は剣の戦闘が前提と行っても過言ではない。

ただ問題を上げるなら、この森には剣を使うモンスターは出現しないということだ。つまりありえるのはプレイヤー同士の合意による決闘か、森エルフ対黒エルフ、エルフ対プレイヤーのイベント戦闘ぐらいだ。

いくらなんでも、決闘はないと信じたい。層初めのエリアとはいえフィールドは危険であるし、そんなところでデュエルをするとは思えないし、もしデュエルで無いとすればつまり…………

「…念の為、様子を見に行こう。」

「「「………うん。」」」

俺たちは、できるだけ早くその音がした方向へと駆け出した。

 

◆◆◆◆

 

歩くこと一分足らず、俺達の視界には5人の剣士と、一人の騎士が対峙していた。

五人の中には、青い紙を輝かせる騎士(ナイト)……………ディアベルがいた。

彼がいるということはもちろん、昨日…というか今日の早朝、彼とともに居た4人もいるわけだ。

「…………ディアベルさん達も……エルフ戦争クエストをやってる…?」

「だろうな……多分見る感じ、森エルフに味方したんだろう……」

「…つまり、あの向こうにいるのは………」

俺たちがよく知る、だが向こうからすれば他人同然の、知っている他者。

コレに関しては、どうしようも……避けられないことなのだ。クエストが何度も起きるということは、同じ人物は同じ運命を何度も繰り返すということだ。転生とは違い、全くの別人ではあるが、はたから見ればそういうことになる。

俺たちはこれから出来るのは、ただ見守り、二人のエルフが命を散らすのを見ていることだけ………

…いや違う。俺たちは知っている。少なくとも、片方のエルフは救うことが出来るということを。

だが、それをするということは第二のキズメルの消滅…殺害を手伝うということだ。そんなことが、俺たちに出来るのか……

……いや、関係ない。俺たちがすべきことは、ゲームクリアに当たって最善の道を歩むこと。彼らを見る限り、おそらく彼らはディアベルが持っているベータの知識を使って戦闘しているのだろう。

………行くか…!

「ちょっといってくるわ、二重の意味で。」

「行って言ってくるってわけか……」

「でも……」

「俺だって気は進まないけど……やるしかない。それと……コレをしたのは、俺の独断だ。」

俺はそう言い、腰を上げると彼らの方へ向かう。

「……ディアベル……ディアベル……!」

「……!?ら……ラルトくん!?」

「ちょっと悪い、状況が状況だから手短に行く、その今戦ってる黒エルフ、ギリギリまで踏ん張って戦えば、そいつを倒しきれるかもしれない!」

「…!?本当か!?ソースは!?」

「さっきプレイした俺たち!」

「………!ありがとう。それから5時から攻略会議だ!」

「了解!そんじゃ後で!」

俺はそう言い残すと、仲間に戦闘を任せていたディアベルのもとから立ち去っていった。

……その時、とんでもない事実を目にした。

「……!?」

俺は一瞬硬直しそうになったが、無理やり体を動かして、彼らのもとに戻る。

「お前ら………見たか…?」

「…うん。あれ、キズメル……じゃないよね……?」

「ああ。まず性別からして……」

……そう。俺、そして少し離れた位置で見守っていたキリトたちも、ちょうどあのタイミングでここにいる黒エルフを見たのだ。

そしてそれは、キズメルとの共通点が浅黒い肌、そして紫色の髪しかない、男の騎士だったのだ。

「今の……どういうことですか…?」

「わからない……この正規版から、性別とかの外見がパーティごとに変わるようになったのかもだけど……」

キリトの推測は推測だが、正直可能性は薄い。

つまり、本来キズメルと同じ容姿であるべきエルフが、何故か種族のみが同じ男騎士になっている…。

「なんでだ……まさか、俺たちが生き残らせたから……?」

俺が、キリトのものより可能性の低い考察を上げた瞬間。

俺の視界の端に、手紙の封筒型のアイコンが点灯した。メッセージの到着を示すものだ。

俺はとりあえず先程までの思考をどこかに放って置いて、そのメッセージを開いた。

…………その途端、俺は新たな衝撃に襲われた。

 

 

 

 

『ラルトさん、街が消えた!』




次回、セイバーアートオンライン。
「ここでこいつの出番ってわけだよ!」
「ギルド的なのには興味ない的な?」
「君はまさか…!」

第20節 森林に奔る、黄金の輝き。


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森林に奔る、黄金の輝き。

どうもです。月末滑り込みの作者です。
テスト期間があって文化祭の準備があってってなったらこうなりました…次話はできたら早く出したい…
ってわけで、本編どうぞ。


「………なっ………!」

送られてきたメッセージを見た俺は開口一番、言葉にならない叫びを上げた。

「どうしたの?ラルトくん?」

アスナがそんな声を出した俺に問いかけてくるのを見て、俺はウインドウを可視化すると、周りに集まる3人に見せた。

「…!街が消えたって……!」

「おいラルト、これまさか……」

「ああ、十中八九メギドだ!」

「送り主は………RINDO……リンドさん…?確かディアベルさんの側近の……」

「そのポジションの奴だな。多分、ディアベルが集団の指揮を預けてたんだろう。で、街に戻るなりしたところでちょうど消えた、ってわけか……」

「確かあの……ワンダーワールドだっけ?あの中ってメッセージが送れないから、リンドさんたちはあの異変には巻き込まれてはないのね……」

「だろうな。…だとしても、そのままフィールドにいたんじゃ周りのMobたちで削れてだんだんアイテムとかも減ってくるだろうな………ともかく、早く行かないと…」

完結にこれからの方針をまとめた俺に、リントが賛同した。

「僕も行きます。ここからは結構距離ありますし、急いでいかないと……」

「ただ慌て過ぎんなよ。………そうだ。丁度いい。」

「……何がだ?」

不意に呟いた俺に、キリトが怪訝そうな声を掛けた。

「……リント、お前、ライドブックと聖剣の他に、ライダーになった時もらったものがあったろ?」

「え………ああ、あれですか?」

「そう、あれ。移動するには距離がある状況、ここでこいつの出番ってわけだよ!」

そう俺が促してリントが取り出したのは、この世界にはどう考えても存在するわけがない電子機器………

「「────スマホ!?」」

「ガトライクフォン!」

事情をかけらも知らないキリトとアスナが、同時に同じ言葉を叫んだ。

リントが取り出したのは、背面に何故かタイヤが3つついている少し大きめのスマホ───ガトライクフォンだ。仮面ライダーセイバー原作において、メギド対抗組織であるソードオブロゴスの面々が使用していた特殊スマホ。どうやら、この世界でも剣士には最初から初期装備として配られるようだ。

「………でもラルトさん、ガトライクフォンを今出したところで……」

「まー待てまー待て。左下らへんのこのアイコン、押してみ。」

「え?…あ、はい……」

リントは俺に言われるまま、オレンジの背景に緑色のどこかで見たことあるようなイラストが描かれたアイコンを押す。

「……それで?」

「で、スマホ縦に畳んでみ?」

「…え?」

リントは疑問をいだきながらも、俺に言われるままスマホを中央を軸にして、縦向きに畳んだ。

────すると。

「ライドガトライカー!」

「「────バイク!?!?」」

「トライクじゃ!」

………キリアスの反応通り、スマホは畳まれたかと思うと急に巨大化、スマホ時は背面にあったタイヤがガチャガチャスライドすると、そのシルエットはスマホから、完璧なトライク(三輪自動車)のモノへとなった。

「……訳がわからん、物理法則がどっかいっとる……」

「これ、理解するほうが無理なんじゃないかしら……」

「……(ニチアサ民って今更だけど、こういうの慣れてたんだな。)ともかく、これで足はできたってわけだ。」

「はぁ……てか僕、トライクの運転方法わかんないんですけど……」

「乗ったらわかる、別にここに道路交通法はない。」

「…は、はあ……それで、ラルトさんは乗らないんですか?」

「…ああ。乗りはするけど、俺は別のに。」

「別の…?」

俺の言葉で再度疑問符を浮かべる3人の前に、俺は新たなアイテム……言ってしまえばワンダーライドブックを取り出した。

「それって……ワンダーライドブック?でもちょっと分厚いわね……」

「お、いい着眼点。タイトル的に気づくかもしれないけど、とりあえずこれを開いて……!」

アスナが呟いた後、俺は新たなライドブックのページを開き、その本を放り投げた。

「発車爆走!」

「ディアゴスピーディー!」

「「─────バイク!?!?!?」」

「今度は大正解!」

………彼らの反応通り、このライドブックはページの展開と同時に内部に隠されたパーツがガチャガチャ展開すると、それは一般的なサイズのバイクとなった。

「ディアゴスピーディー……どっかで聴いたことのある名前ね……」

「……なあラルト、これどう見てもディアゴスティーn「それ以上いけない」…おk。」

元ネタに思い至ってしまったキリトを黙らせておいてから、俺はディアゴスピーディーにまたがった。同様にリントもライドガトライカーにまたがる中、俺は後ろにあったヘルメットを被る。リントのライドガトライカーは自動車判定なので、ヘルメットを被る必要はない。

「そんじゃ、行ってくるわ。」

「ああ。……死ぬなよ。」

「気をつけてね……。」

「当然。」「僕達は剣士ですから。勝つのも、使命の内です。」

見守るキリトたちに声を返してから、俺たちはマシンのエンジンを入れた。

「───行こう。」「……はい。」

内燃機関の音を響かせながら、俺たちは主街区…………森の街、ズムフトへと走り出した。

 

◆◆◆◆

 

バイクを走らせること数分、俺たちは目的の街へとたどり着いた。

「……!やっぱりこの本…!」

「間違いない!メギドが起こしたものだ!」

俺たちの目前には、真っ白な白紙の巨大な本が、本来街があるべき位置に鎮座していた。

「とりあえず中に入ろう!少なくともこの中にメギドがいるはず!」

「はい!行きましょう!」

俺たちは腰に巻いたソードライバーを用いて本型のゲートを展開すると、バイクでその中に突撃した。

 

ゲートを抜けると、そこにはこの層の主街区であるズムフトの町並みがあった。だがそれは、一部が焼け落ちた本のページの様になり、メギドの侵食が進んでいることをありありと伝えてくる。

「まずいな………思ったより侵食が進んでる………」

「はい………すぐにでもメギドを見つけないと………っ!?ラルトさん後ろ!」

「──!?ッ!」

俺はリントの声に後ろを向くと、視界にソレが入った途端ハンドルを急に左へと切った。リントは右へと切り、俺達の中央が少し開いた形となった。

────すぐさま、その隙間を縫うように、数多の影がそこを通り過ぎた。

「………魚……?」

停車した俺たちがその影を一匹一匹よく見てみれば、醜悪な姿の、鋭い牙を持つ魚だった。色は緑と赤のグラデーションのようだが、グラデーションと言うには模様がまだらだ。どこか不気味さを呼び起こす容姿だが、何より特筆すべきはその厚さだ。

なにせその魚は厚さが紙一枚ほどしかなく、もはや厚さというより薄さという方が正しいと思える程。

「それにあの牙……まさかピラニア!?」

リントがまさかと叫ぶ中、あの魚群を呼び寄せた当人が姿を見せた。

俺たちの視線の先に現れたのは、紙製ピラニアと同様のカラーリングの、人になったピラニアという言葉がふさわしい怪物だった。

「……メギド……」

「まさか向こうから来てくれるとはな……」

俺たちが呟けば、何故か向こう側は近くの茂みに隠れた。

「釣られて餌が来やがった……!」

「…餌?」

「魚は向こうですよね?」

「あー…そこじゃないと思う。……まあいい、あいつが何する気かはわかんねえけど……!」

「…はい!」

俺たちは多少訝しみながらも、俺たちは必冊ホルダーから、各々の変身用のブックを取り出す。

「ブレイブドラゴン!」

「ライオン戦記!」

バイクから降りた俺達はブックのページを展開して閉じ、対応したソードライバーのスロットへと装填した。

…………そして、待機音が鳴り響く聖剣を、同時に引き抜いた。

「烈火/流水!」

「「変身!」」

剣を引き抜いた俺達は構え、叫び、剣舞を舞う。

斬撃が正面へと飛んでいくと、その間に俺たちの体は幾層に重なった装甲、ページアーマーに包まれ、そこからそれぞれドラゴン、ライオンを象った装甲を纏う。

最後に、飛ばした斬撃が俺たちの顔に戻ると、それはバイザーへと変わった。

「ブレイブドラゴン! 烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!」

「ライオン戦記! 流水一冊!百獣の王と水勢剣流水が交わる時、紺碧の剣が牙を剥く!」

「「ハァーーーッ!」」

変身を終えた俺たちが走り出し、ピラニアメギドもこちらへと先程と同じ紙ピラニアの魚群をけしかけてくる。

俺たちはそれらに向け火炎と水流を放ち一掃、そのまま奴本体へと接近した。

「ラアッ!」「ハァッ!」

俺が炎を纏わせた火炎剣で切りかかれば、奴は宙を泳ぐかのような速度で回避する。

そこにリントが振るう水勢剣が流水を纏って飛び込んでいくも、奴はそれをも回避し、俺たちの後ろへと回る。

「シャァァァッ!」

「ぐっ……」

「ハァァァッ!」

奴が腕の鋭いヒレで繰り出した斬撃を胸部に俺は受けたものの、その隙きにリントが斬りかかる。

メギドは驚異的な反応速度で、水勢剣を引き戻した腕で受ける。ヒレと剣が打つかり合い、激しい火花を散らす中、俺は手に持ったライドブックを火炎剣の剣先へと当てた。

「ヘッジホッグ!ふむふむ……」

「リント離れろ!」

「……っ!」

俺はリントがメギドから離れたのを確認すると、聖剣のトリガーを引き、奴へと振るった。

「習得一閃!」

「セヤッ!」

聖剣からは、炎を纏った黄色の針がいくつも発射され、奴の胴を穿たんとする。

「シャッ!」

その針さえも、奴は水を得た魚のようなスピードで回避すると、俺達の前から姿を消す。

「どこだ………お前ライオンだし嗅覚とかどうなの…?」

「もしかしたら増幅されてるかもしれないですけど流石に………があっ!?」

「リント!ぐあっ…!」

物陰から奇襲を仕掛けた奴の一撃に、俺とリントは体勢を崩された。すぐさま奴はこちらに戻り、追い打ちを一、二撃。

「ぐああっ!?」

「がはっ………!?」

「ここだ!いけ子どもたちぃっ!」

静止した奴が腕を振りながら叫ぶと、奴の背後から先程の紙ピラニア群がこちらへと猛攻を開始した。

「くっそ………ハァッ!」

「烈火居合!」

俺はなんとか立ち上がると、ホルダーへと火炎剣烈火を納刀した。

すぐさまトリガーを引くと、引き抜くと同時に、そのまま真横へ振るった。

「ハァァァッッ!」

「読後一閃!」

通常時よりも強力な炎の斬撃が、迫りくるピラニア達へと飛んでゆく。

灼熱の火炎に焼かれ、あらかた魚たちは焼き魚となって消えていくものの、残った数匹はそのまま俺たちへとやってくる。

「くっそ……だったら!」

俺は聖剣を持ち替えると、右手でブレイブドラゴンの展開したページを押し込む。

「ブレイブドラゴン!」

「ドラゴン・ワンダーッ!」

ページを押し込んだ後、俺は右手を前へと突き出した。

それに追随するかのように、後ろから真紅の龍……ブレイブドラゴンが飛び出ると、目の前のピラニアたちを体当たりと火炎ブレスで一掃する。

「なっ!?」

「今度はこっちの番だ!行けるかリント!」

「はい!もう大丈夫です!行きましょう……!」

俺たちは聖剣を構え直すと、そのまま奴へと接近した。

「「ハァァァッッ!!」」

俺たちは聖剣を振るって、それぞれの属性の斬撃を飛ばす。

メギドは、それを紙ピラニア盾代わりにして防ぐが、俺たちはその隙きに奴へと接近。至近距離まで接近すると、そのまま奴へと斬りつける。

「ハァッ!」「ハァァッ!」

「ぐうぅぅ……っ……!」

奴の胴を縦向きに切り裂いた俺たちは一歩下がると、俺が奴へと近づいた。

そして、剣を引いてからの一突きを奴へと食らわせ────

「───────シャアアアッッ!」

「なっ───がああっ!?」

─────ようとしたところで、奴が不意に動き出した。それも、今までは何だったのかと思えるほどの超高速で。

「ラルトさん!───がっ!?」

その足はリントのところまで及び、彼もメギドの攻撃を食らう。

「は……早すぎる………さっきまでは何だったんだよ………」

「バーサク状態みたいなものですか……!」

俺たちが騒然と呟く中、奴はまたもや高速移動で俺たちの横を通り過ぎ、斬撃を連続で放つ。

「ぐっ………どうしろっていうんだよ……高速移動のライドブックは無いし……」

せめて大鷲さえあれば……!一層で先に回収しとくべきだったか…!

「このまま終わりだ!」

俺が悔いをにじませる中、奴はとうとう完全に本領発揮の合図を出した。奴の周囲は水の様にゆらめき、そしてそのまま俺の方へと────

「シャァァァァ!」

ズガァンッ!

「ギャアアアアアッ!?」

………!?何だ!?

不意に爆音が鳴り響いたかと思うと、奴の動きが急に止まった。奴の半身は焼け焦げ、地面も、何かに穿たれたかのような跡を残す。

先程の音と、この跡を照らし合わせると今のは───

「─────雷!?なんで急に…」

リントが同じ結論に至ったが、俺はその結論に至るやいなやそれを根拠とし、新たな結論を提示した。

────まさか…!

俺が辺りを見渡すと、この戦場からほど近い大木……それを加工してできた建物の屋上に、一人の男が立っていた。

彼は青い外套を羽織り、右手には剣を、腰にはその剣のものであろう鞘が。

ただ、一つ不思議なところがあるとするならば───

─────その鞘が、ベルトのバックルが本来ある位置に配置されているということだ。

そして、俺達の鞘と似通ったものであることも。

「ソードライバー!?」

それに気づいたリントが叫ぶと、屋上に立つ一人の男……いや、青年は口を開いた。

「………君たちが、あのときの剣士?」

「そうだけど………君は………誰?」

俺の問いに、彼はすぐに言葉で答えることはなかった。

………………だがその代わりに、彼は一冊の本を取り出した。

その本は金色のにも見える光沢のある黄色い本で、その表紙には蓋から舌と目をだしたランプが描かれている。正しく、魔法のランプと言ったところか。

…………つまり、彼は。

「まさか君も…!?」

「ああ。そのまさかさ。」

彼はそう呟くと、右手に握った剣を…………雷鳴剣黄雷(らいめいけんいかずち)を、ソードライバーへと納刀した。

そして彼は、左手に持つ本………ワンダーライドブックのページを開いた。

「ランプドアランジーナ!」

「とある異国の地に、古から伝わる不思議な力を持つランプがあった……」

ライドブックが物語をライドスペルによって日本語で朗読すると、彼はその本を閉じ、ソードライバーのグリップから最も離れた、レフトシェルフへと装填した。

ロック調の音楽が鳴り響く中、彼は聖剣のグリップを握り──────

「────ハッ!」

「黃雷抜刀!」

───一気に抜刀した。

彼は俺たちと同様に剣舞を舞うと、聖剣を正面で水平に、左手を添えながら構えた。

「変身!」

聖剣を右下段に下げると、彼は思い切り上へと斬り上げた。

「ランプドアランジーナ!」

「黄雷一冊!ランプの精と雷鳴剣黄雷が交わる時、稲妻の剣が光り輝く!」

彼が聖剣を振るうと斬撃が飛び、彼の体を金と白の装甲が纏う。

稲妻とともに装甲を纏うと、彼の額へと先程の斬撃が舞い戻り、月のような形のバイザーへとなる。

「…………仮面………ライダー……」

「君も……………剣士……?」

俺たちの改めての問いに、彼は今はっきりと答えた。

「……ああ。俺は………俺は雷の剣士、仮面ライダーエスパーダだ。」

……………この地に今、3人目の仮面ライダーが誕生した。

 

◆◆◆◆

 

「ぬううううう!いくら剣士が増えようと変わらん!いけ子たち!」

真っ先に反応したのはピラニアメギドで、奴は現れた第三の剣士へと紙ピラニア集団をけしかけた。

「ハァッ!」

それを見た彼は飛び上がると、そのまま地面へと急降下。

まずい、このままじゃ落下ダメが………という俺たちの思考を読んだかのように、彼はライドブックのページを押し込んだ。

「ランプドアランジーナ!」

彼が金色のライドブックを押し込めば、何処からか黄色い絨毯が飛んでくる。

それは彼の下へと回ると、彼はその上へと着地、そして、彼がそれを操縦するかのように、絨毯は空を浮き、動き出した。

「魔法の絨毯………!」

「さっすが魔法のランプ……魔神の力ってとこか…!」

確かにアランジーナ……アラジンつったら魔法の絨毯だよな…!

俺たちがそういうことかと感心する中、彼は絨毯を縦横無尽に操り、迫りくるピラニア集団を回避する。

そしてピラニアメギド本体まで接近すると、絨毯から飛び降りた彼は雷鳴剣を構え剣に……それどころか体中に稲妻を纏わせ、姿を消した。

─────その姿は一瞬後、ピラニアメギドの背後にあった。

「があっ!?」

メギドが何が起きたかわからないと言った様子で苦悶の声をあげるが、俺はなんとかコマ送りのような形で彼の動きを捉えていた。

彼は絨毯から飛び降りるとそのまま前へと突進、そしてその勢いと稲妻の超スピードでメギドの横を瞬時に駆け抜け、すれ違いざまに切り裂いたのだ。

「早い…………」

「さすが、雷の剣士……………」

雷由来の直線的な高速機動を繰り返す彼……エスパーダは、ピラニアメギドの高速大気遊泳に対応、むしろ圧倒し、奴にいくつもの刀傷をつけてゆく。

「ハッ!」

「がっ!?」

彼の一撃がメギドにクリーンヒットし、メギドの動きが急激に止まる。

その隙きを逃すまいと、エスパーダは聖剣をベルトに納刀した。

「必殺読破!」

彼は聖剣のグリップ部分のイカヅチトリガーを引き、必殺待機状態へと移行。

そしてそのまま、彼は聖剣を抜刀した。

「黃雷抜刀!」

「アランジーナ!一冊斬り!サンダー!」

「トルエノ・デストローダ!」

抜刀した雷鳴剣を腰へと当てると、彼は前傾姿勢を取った。

そして、そのまま足を一歩前に踏み出し─────

────────ズガァァァンッ!

あの時の爆音が再び鳴り響き、彼はメギドから数メートル……十数メートル離れた位置へといた。

そして、彼の後ろに立つメギドは体にヒビが入り、そして────

「これで話は終わりだ。」

「うあああああああっ!?」

────爆発。

それから一瞬送れて、街がページを捲られるように姿を変えだした。

焼け焦げた建物は瑞々しい木々へと代わり、世界を包んでいたくらいオーラも消え去った。

「…………君は………一体……」

変身を解いた俺が唖然として何度目かわからない問いを投げかけると、彼は変身を解き、こちらを向いた。

「……仮面ライダーエスパーダ………フミトだ。よろしく。」

…………それが、新たな仮面ライダー(英雄)の名だった。




次回、セイバーアート・オンライン。
「当面は、攻略を最優先、最速で進めていく!」
「…なんでここに!?」
「……君は、どうして戦うんだ?」

第21節 奔る稲妻、その真意。


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奔る稲妻、その真意。

どもです。更新です。
本編どうぞです。


「エス……パーダ……」

「スペイン語で刀剣……でしたかね……」

俺とリントの目の前に現れた、3人目の剣士…………仮面ライダーエスパーダ。本名をフミト。

彼は青い外套に身を包み、俺たちの前へと立っている。

「………一応確認だけど、君もスキルスロットの中に───」

「──入れてるよ、俺の場合は《雷の剣士》。」

「やっぱりか………いよいよ俺の転生関係なくなってきてねえか…?

「どうしました、ラルトさん?」

「い、いや、なんでもない……と、とにかく、君もこれから、メギド対策に協力してくれるのか…?」

俺の問いに、彼…フミトはしばし考える仕草を見せた後に、口を開いた。

「ああ。……ただ、条件がある。」

「と、言うと?」

リントが再びこちらサイドの問いを送れば、彼は今度は即座にレスポンスを返した。

「………探してほしい人がいる。」

「…人探し、ねぇ……それが、君の戦う理由か?」

俺が彼に問い返せば、彼はしばしの間、瞑目。

彼が再び目を開けると、同時に口も開いた。

「……ああ。俺が……何が何でも、見つけ出さないといけない人だ。」

……仮面ライダーとして戦う理由がそれということは、少なからずその人はライダー……ひいてはメギドに関わった人なのだろう。

「………教えてくれ。君は………どうして戦うんだ?」

俺が彼に、少し声色を変えて聞けば、彼もまた、優しげな……そしてどこか儚げな声で答えた。

「…………簡単な話だ。俺はこの世界に……SAOに、もうひとり連れて来ていたんだ。あいつとは色々と旅をした…………でも、一層が攻略される1週間ぐらい前……あいつは、俺の前から消えた。」

「消えた…?それってただ別行動を取ったってわけじゃなくて…」

「ああ。………連れ去られたんだよ。高身長の男にな。」

「「………!?」」

連れ…去られた…?

「ちょ……ちょっとまってくれ……一層が攻略される前って……プレイヤーを移動させる方法なんてノックバックぐらいしかないだろ?今でこそドロップ品とかに麻痺のデバフありの剣も増えてるけど、当時プレイヤーを拉致する方法なんてまずないんじゃ……」

「……俺もプレイヤーが転移以外で強制移動させられるなんて、考えてもみなかったさ。………ただ、それはあくまでプレイヤーがプレイヤーを動かす時の話だ。……プレイヤー以外の者が関われば、その法則は通用しない。」

「「……!」」

……悪い予感が、当たっちまったわけか……

「それってまさか…!」

リントが結論にたどり着き、衝撃と恐怖の混じった声を上げれば、それにフミトも反応した。

「………ああ。あの高身長……ストリウスは……………メギドだった。」

「スト…リウス……」

…………ストリウス…?

リントが呆然と呟く中、俺も内心でその人物のシルエットを思い描いていた。

彼の言う通り高身長で、服は黒コート。何故か髪を一房長く垂らし……

………俺の想像通りだとするなら、彼は俺が知る同名の人物………仮面ライダーセイバーの登場人物である『ストリウス』と同じような人物が、この世界にいるということになる。リントがズオスに出会ったと言っていたが、同じようなことがまた起きたというわけだ。

「……つまり、君はその大切な人を探している…ってことか。」

「…ああ。……世界の……全プレイヤーが巻き込まれているというのに、申し訳ないが……」

「いや、いいよ。……仮面ライダーだって一人のプレイヤーだ。俺たちが前を向けないと、世界を守るなんてできっこない。」

「そうですよ。同じ仮面ライダーなんですから。ライダーは助け合いです。」

「……ありがとう。」

彼の言葉が合図となったのか、街の門から多くの人々………ここを拠点としている攻略組の面々が集まってきた。

「ラルトさん!」

「…!リンド!………リンドとリントの名前似てんなあ……

「聞こえてますよ。」

「…すんません。」

しょうもないやり取りを繰り広げながらも、こちらに向かってくる攻略組の面々に、俺たちも駆け寄る。

「メギドは?」

「倒したよ。……といっても、今回は彼のおかげだけどな。」

「彼?…………って、君!」

「…!リンドさん!?」

「……あれ、知り合い…?」

まさかの二人知り合いパターン…?

「あ、ああ、以前一層で、俺がmobに殺されかけてたときにリンドさんに助けてもらったんだ。」

「そうだったのか……」

俺が納得したように呟けば、リンドも結った茶髪を揺らしてこちらに向き、少々補足する。

「ああ。一層でレベリングしていたときに遭遇してな。その時は助けなければと思っていたが………まさか仮面ライダーとなっていたとは………」

「リンドさんが、助けてくれたおかげです。なんてお礼を言えばいいか……」

………ほんと、人の縁ってのは意外なとこで結ばれてるもんだな………なんかスレニキたちが祭りだ祭りだとか言ってるけど………後で元ネタ聞いてみるか。

「……あ、そういえばさ。」

俺がリンドに声をかければ、フミトに向けていた視線を彼は俺へと向け、顔の僅かな動きで続きを促した。

「今ディアベル達、ギルドクエスト進めてるんだろ?名前とかメンバーとかは決めたのか?」

「ああ、それか。」

彼は納得したように呟き、続けた。

「メンバーは攻略組で、ディアベルさんと行動している面子を集めている。名前は……《アインクラッド開放隊》だ。ちなみに発案はキバオウさんだ。」

「へぇ……アインクラッド開放…か。」

前世のうっすらなSAOヒストリーとは全く違うこの世界ではどういうギルドが生まれるかと思っていたが、あの2つのギルドを合わせた感じのギルドになるのだろうか。

「ああ。………俺たちの手で、なんとしてもこの世界から人々を開放する。………彼はそう言っていたよ。」

「………ああ。俺はギルド入ってないけど、協力はさせてもらうよ。俺がこの世界を守ってるのも、世界に住む人々を守るためだからな。」

「……協力、感謝する。」

…………キバオウ、実際には『ワイ達の手で、なんとしてもこのクソゲーからプレイヤーたちを開放するんや!』……的な感じで言ってたんだろうな。脳内再生余裕だもん。

「まあそれはいいとして。とりあえず、5時から攻略会議だろ?そろそろディアベルたちも戻ってくる頃合いだろうし、会議場にでも行こうぜ。キリアスもそろそろ来るだろうしな。」

「ああ、そうしよう。……ところで、キリアスというのは…」

「キリトとアスナだけど?」

「…なる、ほど……。」

……リント、フミト、そんな目で見るな。

 

◆◆◆◆

 

あれから数十分、俺、リント、フミト、合流したキリアス、帰ってきたディアベルと彼の率いる攻略組……改め、アインクラッド開放隊の面々、そしてエギルを始めとしたマッチョメンは、3つの巨木改造建造物に∴状に囲まれたすり鉢状の広場に集まった。

開催時間を待つ間、2層でも世話になったエギルたちと会話を交わし、キリトが未だ二層の宿屋に置きっぱなしの魔法の絨毯──といっても本物の魔法の絨毯を使うやつが出てきたのだが──こと、商人プレイヤー御用達の《ベンダーズ・カーペット》をエギルに譲ることを取り付けたりしていれば、気がつけば午後5時。

中央ステージにある演壇に、ディアベルとリンド、そしてキバオウが登壇してきたので、皆と共に拍手を1つ。

そのタイミングで集まった人数を数えてみれば、その総数は45人。リントとフミトで二人増えたのにも関わらず総数が減っているのは、以前の戦いに参加していた6人のグループ……《レジェンド・ブレイブス》がこの場に居ないからだ。

彼らは攻略組の大多数よりレベルこそ低かったものの、所有するハイステータス装備で、二層ボス戦では大活躍した。本来なら、ここにいれば心強かったのだが……

………彼らは今、己の罪の懺悔として、その力をすべて手放した。またこの場に来るには時間がかかるだろうが……それでも、信じるだけなら自由だろう。

俺がそんな思考を巡らす間に、攻略会議が始まった。最初に今までのようなディアベルの挨拶があった後、会議は本題へと移った。

本題は、攻略集団の中枢を担うディアベルの集団が正式なギルドになったということだった。

「だいぶ早いな……」

「ああ。開通してからまだ1,2日ぐらいなのに、それであのクエストをクリアするのは相当早いよ。さすがディアベルってとこだな。」

忘れがちだが、彼…ディアベルも元ベータテスターであるので、その手の知識は持っているというわけだ。一度手助けとしてやってみたことはあるが、お使いクエに討伐クエに捜索クエとクエストのてんこ盛りフォームのようなあのクエストは二度とやるかバーカ!と叫んだほどだ。ちなみにマジだ。

続けて、ディアベルによるギルドに関する説明が続いた。アインクラッド開放隊の公式略称であるALSの名が発表され、次いでギルド加入条件であるレベル10以上という数値が発表された。

まあと言っても、俺たちは現状ギルドに入るつもりはない。セイバー原作にこそソードオブロゴスという組織は存在したが、別に俺は集団が好みというわけではない。そこ!ぼっちとか言わない!………まあともかく、他の面々を見渡す限り同じような反応だし、エギルたちのマッチョガイ集団もその意思はなさそうだ。というか、彼らがまっさきにギルド作りそうだな…

「ギルドの加入に関しては、この会議の後に受け付ける。下の層やこの層の掲示板にも、募集要項は掲示しておくので適宜見ていてくれ。それでは次の議題だ。」

彼の声で、横に立っていたキバオウが中央に近寄った。

「こっからは、当面の攻略作戦について話し合って行くで!目標は、この層の1週間での突破や!4日で迷宮区までいって、2日でボスを倒す!そのため必要なんは、攻略集団の頭数や!いつまでも40人ぽっちじゃ埒が明かへん、こんなクソゲーと正面からやり合おうっていう奴らを、積極的に増やしていかなあかんのや!」

威勢のいいキバオウの声に、ALSを中心とした面々が口々に囃し立てる。

ただ、1つ疑念があるならば、今挙げた目標である攻略のスピードアップと、攻略集団の増加は同時に実行できないものということだ。攻略集団が先へ進めば進むほど、そこを目指して進むプレイヤーの道は長いものとなっていく。実際、《レジェンド・ブレイブス》の5…6人が強化詐欺に手を染めたのも、レベルで埋まらない戦力差を装備で補おうとしたがゆえなのだ。

「……攻略のスピードアップか…」

「…どうかんがえても無理あんだろ。これじゃあ下で攻略集団入りを目指してるプレイヤーがいつまで経っても追いつけねえ。」

キリトと俺が意見を交わす中、俺はふと後ろで吹いた風に身を屈めた。

………だがそれは、風にしては少々質量が大きい気もした。

「…ん……?」

「…ラルト、お前も後ろ…」

「ああ…なにか通ったよな…?……でもお前索敵スキル持ちだろ?なんか反応あったか?」

「いや…周りのプレイヤーには反応あるけど……もし人だったら、あんな隠蔽スキル持ちなんて今じゃあそうそう……」

「「…………ん……?」」

隠蔽…スキル……?

思いがけなくキリトが呟いた言葉に、俺たちは思いっきり引っかかるものがあった。

俺たちが思い浮かぶ人物の中で、高い隠蔽スキル……正確に言えば、高い隠蔽効果を発揮するアイテムを持っている人物は"彼女"しか思い浮かばない。

だが、彼女がここにいるなど……

「まさか……」

「いやでも流石に……」

「……?どうしたの二人とも?」

「いや……後で話す。」

小声でコソコソする俺たちに気づいたアスナが俺たちに問いかけるも、俺がいい感じにごまかしておき、無理矢理に話を終えた。

ふと前を見れば、この会議も終わりが近づいてきていた。第一目標として、今日から明日にかけての《次の街》へと到達が掲げられ、次いで今日店頭に委託販売が始まった《アルゴの攻略本・3層攻略編》に記されている注意事項が読み上げられた。

「当面は、この本の情報を参考に動いていくで!ただ一層のこともあるけぇ、完全にこれだよりにはならんようにな!他に質問は…なさそうやな。ほんならディアベルはん、お願いするわ。」

「解った。」

キバオウが一歩引き、開いたスペースにディアベルが足を踏み入れる。

「これからも俺たちは変わらず、攻略を最優先、最速で進めていく!一層や二層に残っているプレイヤーたちを開放するためにも、俺たちが力を合わせよう!みんな─────一週間で、3層を越えよう!」

「「「おう!」」」」

周りから、野太い声が打てば響くの連携で、文字通り響いた。

 

◆◆◆◆

 

「ちょっと、どこまで行くのよ。」

攻略会議が終わって数分、アスナが戸惑いの声を上げた。

その理由は簡単で、俺とキリトが何を言うこともなく近くの芝生広がる広場へと歩いてきたからだ。ついてきているリントとフミトも、同様に戸惑いの表情を見せている。

キリトは立ち止まると、ポケットに手を突っ込み、口を開けた。

「………いるんだろ、キズメル?」

「…えっ!?」

アスナがキリトの言葉に、先程までの態度を一気に崩れ去らせ、辺りをキョロキョロと見渡した。リントもまた、周囲に視線を巡らせる。唯一事情を知らないフミトだけが、未だ困惑の表情を維持している。

「………気づかれてしまったか。」

キリトの向いた方向とは反対から声が聞こえたかと思うと、そこの風景がパラッとめくれた。

……正確に言えば、その風景を移していた布が払われた、というべきか。

「朝ぶりだな、キズメル。」

「ああ。…まさか、気づかれるとは思っていなかったが。」

「意外と俺たち人族も、勘ってやつが鋭いもんでな。」

まあ、ほぼ偶然だったけれども。

「キズメル…なんでわざわざ私達のところへ?」

アスナが、今最も知りたい情報を相変わらずの神速で聞いた。

「ああ、私の任務はお前たちの世話と護衛だからな。思っていたより帰ってくるのが遅かったもので、まじないを使って飛んできたところだ。」

「なるほど……」

まじない便利だな……俺もブックゲートがほしいぜ…

「…あの……彼女は…?」

「…ああ、悪いフミト、初対面だったな…」

危ねえ危ねえ…友達と遊ぼうってなって当日『こいつも来るって!』って知らねえやつと遊ぶ的展開になるとこだったぜ…

「こちら、ダークエルフの騎士、キズメル。……キズメル、彼が俺たちの新しい仲間のフミトだ。」

「キズメル…さん?」

「ああ。……フミト、でいいか?」

「あ、ああ。構わないが……」

…フミト、適応能力高いな。さすが物語のライドブックをメイン形態に使うだけある。

「……というかキズメル、俺たちを見に来たって行っても、街の中に入って大丈夫だったのか?もしまじないが破られたりしたら…」

俺の遅いっちゃ遅い心配に、キズメルはどこか自慢げに答えた。

「ふふ、エルフの力を舐められては困るな。この《朧夜の外套》の呪いは、そっとやちょっとの衝撃では解けないのだよ。お前たちに当たってしまった時は、少々ハラハラしたがな。」

ああ、あのとき……

「さて、私は野営地に戻ろうと思うが…お前たちはどうする?」

「あー……俺たちも戻るよ。ある程度の目的は果たしたしな。」

俺がそれとなく目線で同意を求めると、皆同様に頷いた。

「……ラルトさん。」

「…フミト…どうした?」

少し神妙な顔で近寄ってきたフミトに、俺は少し声色を変えて言った。

「……俺は、少しあいつを探して来ます。クエストは…」

「そうか…いや、いいよ。お前はお前のやりたいことをしててくれ。俺たちも、何か情報をつかめれば流すから。」

「…ありがとうございます。」

………フミトはそう残すと、ここを足早に立ち去っていった。

「……さて、俺たちは帰りますか。」

「…ああ。共に帰ろう。仮とは言え、私達の家へと。」

「……ええ、そうね。」

「……ああ。」

俺たちが地平線を見れば、そこには茜色の光が、地平線にそって伸びていた。




次回、セイバーアート・オンライン。
「バッカじゃないの!?」
「ど、どうぞ。俺はもう出るから。」
「七秒遅刻だゾ」

第22節 剣士の休息、迫る影。


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剣士の休息、迫る影。

お久しぶりっす。月末スライディング投稿っす。
ってわけで久しぶりにあの姐さんが登場だよ。全国一億七千万人のファンの方々、おまたせ。
ってわけで本編どうぞ。


キズメルと街で出会ってから数分、俺たちは前も通った迷い霧の森へと来ていた。

どうやら例の転移まじないとやらは野営地から街への一方通行らしく、帰りはキズメルでさえも徒歩らしい。

というわけで当然自然湧きのmobにも絡まれるわけではあるが、そこはさすがの我がパーティー、名刀《シバルリック・レイピア+5》を手に入れたアスナ、そしてエリートクラスのキズメルの女性陣二人がバッタバッタと周囲から迫りくるmobを切り裂きポリゴンの欠片へと片っ端から変えていくので、はっきり言って男性陣の出番がない。

パーティーを組んでいる関係上、剣をただ持っているだけで加算される経験値の表記にどこか申し訳無さを感じながらも、俺の思考の一部はあることに割かれていた。

「(…キズメル……君は一体……)」

彼女をただのNPCというのは、最早彼女に対する冒涜と言っても過言ではないだろう。冷静に考えて、本来与えられた使命(プログラム)を超えて人族の街に来ること自体がおかしいのだ。会話の自然さから見ても、他のダークエルフやズムフトのショップNPCなどのそれを遥かに超えている。

仮に彼女を通常のNPCではないとして、考えられる可能性は2つ。

一つはある意味で単純に、彼女が通常のNPCのそれを超えたAIであること。

俺たちがあっち(現実)にいた頃は、まだキズメルのようなレベルの対話式AIはなかったが……あの茅場晶彦のことだ、このSAOのために今まで一度も発表しなかった、としても不思議はない。なんでわざわざ作ったのかは不明だが。

2つ目は、キズメルはAIでもNPCでもなく、俺たちプレイヤーと同じ人間が動かす存在であるということ。

これに関しては、正直あんまり考えたくない可能性でもある。なぜなら、彼女を動かせる人間は俺たちのようなプレイヤーではなく、運営サイド……今では茅場晶彦に与するもの。言ってしまえば、俺達をこのデスゲームに巻き込んだ当事者ということになる。

つまりもしその想像があっていた場合、彼女は俺達プレイヤーの敵ということになってしまうのだが……

「…っ……」

そんなことはない、と思いたい。俺とキリトがあの場所で見た、妹のことを思い彼女が流した涙を、俺達を騙すための嘘とは思いたくない。

……そんなことを考えながら、剣を握りつつ歩いていると。

「…キリト」

不意にキズメルが、キリトの名を呼んだ。俺も思わずキリトを見れば、そこには先程までの俺のように考え込んでいたであろうキリトの姿が。

キリトも顔を上げ、不思議そうに彼の顔を覗き込むキズメルとバッチリ目を合わせている中、キズメルが続けた。

「さっきから黙り込んでいるようだが、どうかしたのか?」

「…ああ、いや、特に……ちょっと考え事を…」

「ふむ…悩んでいるのなら、話してみるのも良いと思うぞ。」

キズメルが続ければ、前を歩くアスナもキリトに振り向いて言う。

「そうよ。最近わかってきたけど、あなたって一人であれこれ考えすぎて勝手に落ちてくタイプでしょ。変なことにハマる前に言っちゃいなさいよ。」

「えー…そのー……」

その言葉を受けたキリトは、なぜかしどろもどろに………あいつ俺と同じこと考えてたろ、これ。

「…ふ、二人共、強くて頼もしいなー、って…」

「……それのどこが悩むところなのよ。」

「あー…その、なんだ…お…お嫁さんにするならどっちかなーって…」

………キリト、ここギャルゲーじゃない。あとリセマラ不可です。

キリトの言葉を受けたアスナはすっと一息入れると、その吸った息を一斉に吐き出しながら。

「───バッカじゃないの!?」

…そう、きれいな怒声を響かせなさった。

一方キズメルは対象的に、表情を一つも変えることなく口を開いた。

「ふむ」

キズメルはそうシンプルに切り返す……というか切ってすらいないのでシンプルに返すと、更に続ける。

「済まんな、キリト、それには女王陛下の賜りを受けなければならん。」

「あ、いえ、おかまいなく……」

……キリトの女子耐性スキル、熟練度以前に未取得、と………ん?俺?………うっせえ!俺は良いんだよ!

俺が自分で無事に自滅し、キリトもまた現実から目を背けるような顔で───何度も言う様にここは現実ではないが───何やら考え、そんな愚かな男を憐れむような目で随一の賢者たるリントが見つめる中、アスナは先程よりも冷ややかな声で言った。

「ついたわよ」

その声に俺と(恐らく)キリトは思わず「どこに?」と返しかけてから、その寸前でこの遠足…もとい移動には目的地があったことを思いだす。というか目的地のない移動とは。

気がつけば俺達の目前には、最早懐かしいとも感じる、剣と角笛があしらわれた旗がたなびいており、その真下に見える門にはこれまた見慣れた門番が。

「…結構早かった…というか俺が何もしてないだけか。」

「聖剣持ってるんだし、次の任務は私と変わってくれても良いんだけど?」

「まじで申し訳ねえっす…」

「アスナさん、僕も一応仮面ライダーです……」

俺達が軽口…のような何かを叩きつつ、門番に軽く会釈をして野営地へと入る。

少々久しぶりに見る野営地はあのときと何も変わっておらず、まるでここだけ時が止まっているかのようだ。

…いや、実際俺達がいなかったことにより、ここの時間は留まったも同然だったのだ。

この世界(MMORPG)では、プレイヤーがいないインスタンスマップは基本的に何も稼働しない。すなわち、人も動かなければ物が壊れることもない、実質的に時が止まった空間となる……はずなのだ。

その事実が、その状態で人族の街を訪れたキズメルの異質さ、もとい特殊さを際立たせるのだが……それを考えるより、この野営地の時間を動かさなくては。中断していたエルフ戦争クエストを進め、レベルとスキル熟練度を上げ、ボス戦への情報を集める。

俺達は野営地に漂う香りとともに空気を吸い込むと、足をその奥へと向けた。

 

◆◆◆◆

 

──かつてこの世界には、複数の王国が地上に存在していた。黒エルフが治める《リュースラ王国》、森エルフの治める《カレス・オー王国》、人族の国である《九連合王国》、その他にもドワーフの地下王国など様々な国が有り、大きな争いもなく平和に暮らしていたものの、その歴史はある日を堺にして崩れ去った。

突如、地上から百個の地域が円状にくり抜かれて浮かび上がり、どこからともなく現れた石レンガなどで周囲を包まれ、それらは縦に重なると、一つの浮遊城を作り出した。

その城は数多の住民と建物を呑み込んだまま、二度と地上に還ることはなかった。世界を支えていた魔法の力は失われ、九連合王国のトップであった九王家はすべて断絶。100の層に分かれた街々は自治都市となり、かつての歴史を遺すのも今は2大エルフの王家のみとなった………

 

「……って、話みたいだなあ……」

「んー……色々わかったようで、実は対して情報量増えてないわよね。」

「ま、クエストを進めればわかってくる気もするけどな。」

キリトが要約したアインクラッドの歴史に対するアスナの反応が厚めの布越しに響く中、俺もなんとなく思ったことを言っておく。

アスナが入る風呂天幕から吹き出る湯気が、薄っすらと見える第四層の床…もとい底面へと伸びる。

先程、黒エルフの司令官から聞いた昔話は、はっきり言ってすでに知っているようなものだった。というかそもそも、この話に拘る必要はそこまでないのだ。これはあくまで制作会社であるアーガスのシナリオライターらへんが作ったものだろうし、それが攻略に影響するわけもないのだが…

……だとしても、気になるものは気になる。一体なぜ、誰がアインクラッドを創ったのか。その物語の真相は何なのか。

…しっかし、百個の地域をくり抜くって冷静に考えてわけわからんよな……魔法だとしてもどんだけMP消費する魔法なんだよ……

「…そういえば、この世界って神様の存在感が薄いわよね。私が昔観たり読んだりしたファンタジーって、たいていいろんな名前の神様がいた気がするけど。」

「うーん、そう考えたら、でかい街にある教会とかも、どういう神様を祀ってるかとかはわかんないよな……」

「でも、ファンタジー系ゲームならたいていそうじゃないですか?漠然とした神様が存在してる!…って感じで。」

「まあ確かに。後はプレイヤーの脳内補完に任せる…っていう制作側のアレだろうな。」

「そうなるとやっぱり、キリトくんの神様は《LAボーナスの神様》よね。今日のフィールドボス戦もきっちり持っていったし。」

「わ、わざと狙ってるわけじゃないぞ!大体、二層のナト大佐とかはラルトが持っていったし…」

「バランとアステリオスはお前が持ってっただろって。」「おっしゃるとおりです………な、ならアスナの神様はさしずめオフロの神様だな!行く先々でいい風呂にであるのはもう神の力だろ!いやあ懐かしいなあ、トールバーナで俺が借りてた風呂に」

とキリトがそこまで言った時、唐突に彼の背後から水属性魔法が布越しに発射され、見事後頭部に命中。キリト絶対地雷踏んだろ。

「そ…それはそうと、結局俺達の他にエルフクエ進めてるのはディアベルたちのアインクラッド開放隊だけらしいな。せっかく情報とかも流したのに、もったいないよなぁ。」

……無理やりだねえ、話題転換。絶対トールバーナの時何かやらかしたろ。

「私達も色々情報提供したのにね。……でももしかしたら、逆にあの攻略本を見て尻込みしちゃったのかも。クエストが終わるのは九層って、しっかり書いてあったもの。」

「エギルさんも、今は長ぇクエストにかかりっきりになってる余裕はねぇなぁ、って言ってましたしね…」

リントの、意外とうまいエギルの真似に少々驚きながらも、その推測があながち間違いでないことも俺はわかっていた。ディアベルたちも取り組んでいるとは言っていたが、ギルドから割いている人数は必要最小限だそうだ。そういう点から考えても、長編クエストをこの環境で受領することはあまり得策とは言えないのかもしれない。

「まあ、九層に上がってから三層に戻って、ラッシュでクエストを終わらせるっていう手もなくはないけどな。その頃にはレベルもだいぶ上がってるだろうから、エルフ騎士を助けられる確率も上がってるだろうし。」

と、キリトが言った時、皆が一斉に押し黙った。その空気を産んだ原因、突き詰めて言えば己の発言の裏に隠されたことに気づいたのか、キリトも思わず口を閉じる。

………九層。口では簡単に言えるものの、その道のりは果てしなく遠い。全体が百層と考えれば一割も行っていない数値ではあるが、今までの戦いを振り返って見れば、それがいかに困難であるかは想像に難くない。上にはまだ、五つもの思い石板がのしかかっているのだ。

「………でもね。」

そんな中、俺達の背後からふと声が聞こえた。

浴槽から水がこぼれ落ちる音がしたかと思えば、浴槽横のウッドデッキをペタペタと濡れた足で踏む音が聞こえた。

「わたし、最近、残りの層のことを考えるのが、ほんの少しだけ怖くなくなった気がするの。今までは、今日一日を、頑張って生き抜こうって思ってた……それは今も変わってないけど、でもそれと同時に、ダークエルフの女王様がいるお城を見てみたな、とか…その上に何十個もある層も、地面から切り離されたんだったら、いろんなきれいな景色や建物があるんじゃないかって……そういうふうに思えてきたの。」

「………そっか。」

……上の層か……本屋とかないかな……

「………上の層には、いろんなオフロもあることだろうしな。」

キリトの声には、アスナは声ではなく体重を載せた肘打ち(布越し)で答えた…とさ。

 

◆◆◆◆

 

「……あー………なんだかんだ風呂っていいなぁ……」

アスナが風呂から上がること数分、今度は俺が風呂天幕の中へと入っていた。

その数分の間に色々──アスナが裁縫スキルを持っていたこととか諸々──わかったのだが、それはまあ良いだろう。

───12月18日、日曜日。ズムフトの集会場で攻略会議が開かれてから、早くも3日。

その3日間、俺達のパーティーは一度もズムフトに戻らずに、ひたすらエルフクエ……任務に邁進した。その過程で経験値や素材、スキルmod習得など様々な副産物も得られ、俺達のレベルは全員が一つずつ上昇した。今のレベルはキリト、俺が16,アスナが15、リントが13だ。欲を言えばもうちょっと上げたいところだが、本来この層の攻略適正レベルは6〜7あたりなのだ。レベルが上がるごとにレベルアップに必要な経験値も増えていくので、この層でもうレベルを上げることはほぼ不可能だろう。この層に湧くmobから得られる経験値では、EXPバーがほんとにミリ程度しか動かない。まだ可能性があるのはリントぐらいだろうか。

クエストの方もだいぶ進み、第一章《翡翠の秘鍵》、第二章《毒蜘蛛討伐》に続く第三章クエスト《手向けの花》は、二章で戦死が明らかになった兵士のためへの、お供え用の花を集める収集計クエスト。第四章《緊急指令》では、二章のように任務から戻ってこない偵察兵の救助に向かい、今度は無事に間に合った……のだが、続く第五章《消えた兵士》で、その兵士は森エルフが化けた偽物であったことが判明する。本物がどうなってしまったかは……想像するのも酷というものだ。

その筋書きをキリトはすでにベータ時代で知っていたのだが、ただの変装を超えた変装のまじないをどうやって溶けば良いのかも分からないし、下手に手を出せばクエストが止まる可能性もあったので、やむなく放置。キリトの指示で、その森エルフ兵が司令部天幕から秘鍵を盗もうとしたところで『動く゛な゛!国゛際゛警゛察゛だ!゛』的な感じに現場を差し押さえたのだが、残念ながら奴にはエルフの得意技である超ハイディングスキルで逃げられてしまった。そこで急遽俺達は野営地にいた《黒エルフの狼使い(フォレストエルブン・ウルフハンドラー)》とパーティーを組み、キズメルも含めた大所帯で奴の逃げ先を追った。そしてたどり着いたのは、森に佇む森エルフの巨大キャンプ地だったのだ!………という超いいところで、またしてもクエストを一度中断している。別に飽きたとかそういう理由ではなく、今日攻略組総出でのフィールドボス戦があったからだ。

死者を出すことなく無事にボスを倒し、おまけにLAボーナスはどっかの黒尽くめがもらっていき、次の街へと到達した攻略組。

俺達は彼らを見届けた後野営地へと戻り、そのまま風呂へとレッツゴーした……というわけだ。

アスナは毎回俺達の誰か、もしくは全員に風呂場の見張りを任しているが、俺は正直NPCに裸見られてもな…というタイプなので、全く気にすることなく装備を全解除、そしてそのまま風呂へトーウッ!……はせずに、あくまでも優しめに湯船にダイブ。

「……こりゃあアスナがハマるわけだわ……あーやべ本人に聞こえたら殺されるわ」

一人で何言ってんだこの男ともなるが、こういうことは口に出したほうが何故かスッキリする気がする。

そして、そろそろ上がろうかな、でももうちょっと浸かってたいな、という頃。

……不意に、天幕の入り口が開いた。

「……へ…?」

………まさかアスナが何か取りに?でも何も落ちてないしそもそもそんな豪快な真似をするようなやつじゃない………じゃああれだ、別プレイヤーが俺みたいに一日の疲れを……ここインスタンスマップだよな…………まさか森エルフだかが黒エルフに協力する人族を消しに?でも姿を見せた人物は黒っぽいカフェオレ色………

「…おやラルト、入っていたのか。」

突然の出来事に反応できず、ただバスタブの縁を両手でつかんでいるだけの俺に対し、突如乱入してきた黒エルフの女騎士は続けて一言。

「私も湯浴みさせてもらって構わないか?」

…あー、おk,これまずいわ。

………このSAOには、NPC相手に反応するとあるシステム障壁が存在する。その名は至極単純である。………ハラスメント防止コード。

NPCにハラスメントが適用されるのかという質問はあるが、これに関しては某ゲームの審査協会が関係しているらしい。

なんでも、見た目は普通の美女と変わりないNPCをあれやこれや触り放題という事実が、このSAOのレーティングを上げる一因を担っていたらしい。

アーガスのスタッフはすでにまあまあ高めのレーティングを死守すべく、急遽導入したのがこのハラスメント防止コード…というわけだ。もちろん名の通り、異性プレイヤーに対するセクハラ行為を摘発するという目的もある。ただそれとNPC相手との違いは、受けた側が自主的に発動するかどうか…ということだ。

わかりやすく問題行為であるアイテム強奪やPKなどと違い、セクハラ行為というものは明確なラインが設けにくい。そのため、運営はプレイヤーの主観で適宜通報、それを調査した上で対処を行う…と言った手段を取ろうとしていたのだが、NPCという存在の関係上、彼らに対する別パターンのコードも適用された。

説明書の文字を的確に読むならば、『異性NPCに対して不適切な接触を繰り返した場合、そのプレイヤーは一層牢獄エリアである黒鉄宮に送られる』となるだろうか。……わかりやすく、基準がわかりにくいということが伝わってくるだろう。

そのため俺のこの状況は、下手すれば仮面ライダーが牢獄に打ち込まれるという良い子のみんなに見せられない展開へと進む可能性があるわけだ。

……この状況を、運営、もといシステムはどう判断するのだろうか。触れてないので別にセーフ、それともアレな姿を見ただけでアウト、もしくはキズメルの特異性故に、何してもいいぜ!とか言う野郎どもが集まってきそうな展開なのか。

正直言って、ラストの奴は試す気にもなれない。もし万が一アウトだったら大問題だし、そもそもキズメル相手にするのは俺の良心が頭痛腹痛同時発症レベルで痛む。

「…ど、どうぞ。俺はもう出るから。」

…なら、これが最適解だろう。そもそも男としてこうするのが普通だろう。

「そうか、すまんな。」

キズメルは俺の返答を聞くとウッドデッキ側に体を向けながら、例の宝石が嵌められた留め具に触れた。

その瞬間しゃららんという不思議な音とともに騎士が纏っていた鎧がすべて外れ、薄いインナー一枚きりとなる。それだけで俺みたいな健全な男の子には大ダメージだが、これは以前も見た光景。そんなことで心揺らぐ俺ではないと言い聞かせ、メニューウインドウを開きながら浴槽から文字通り飛び出す。

ここだけ見ればノー装備状態でキズメルの前に飛び出す通報物案件の不審者だし、実際アバターの裸が何だと言わんばかりに街中で着替える豪快なプレイヤーもいるが、俺にそんな胆力もなければ、俺の色々な尊厳も保ちたい。よって俺は、俺の動きに付随して移動するメニューウインドウへと俺は手を伸ばし、メインメニュー右側の装備フィギュアの選択セルをプッシュ。選択ウインドウが浮かび上がった瞬間、俺はインナーを装備。数分ぶりに取り戻した布の質感にこれ以上ない安心感を感じながら、続けてシャツ、そしてズボンをまた瞬間的に────

…………しゃららん。

数秒ぶりに天幕中に響いた音は、きれいなはずなのにこれ以上残酷な音は無いように思えた。

その音を響かせた本人であるキズメルは、唯一着ているインナーを発光させ、そしてスッ…と消滅させ。

……とうとう、キズメルが纏うのは空気のみに。

「なびゃっ………」

シバルリック・レイピアを見た時以来の奇声を発しながら、宙に浮いていた俺の体は地面へと叩きつけられた。派手な音こそならなかったが、何も起きていないと言うには厳しいサウンドエフェクトが鳴り響き、キズメルが俺の方を見る気配。

「どうしたラルt──」

「大丈夫大丈夫大丈夫!何も全然完璧!」

「そ、そうか、なら良いのだが……」

キズメルが俺の方を向くのをなんとか……ほぼゴリ押し気味に回避すると、彼女はウッドデッキにある壺からとろりとした質感の液体を取り出す。

それはどうやらボディーソープの類のようで、キズメルがそれを体に塗った瞬間それらはもこもこと泡立ち、キズメルの体を覆っていく。

もちろん、俺もそれをただ見続けていたわけではない。先程の墜落で匍匐前進状態ではあるものの、なんとかこの天幕からの脱出を目指す。しかしウッドデッキは当たり前ではあるもののびしょ濡れであるため、摩擦係数とかその辺が低下して全然進めない。仮想世界故に福が濡れないのは僥倖というべきか。

超がつくほどの鈍足ではあったが、なんとか天幕の出口にまで近づき、よっしゃ後は服さえ着れば───といったところで。

「ちょうどいい、背中を流してくれないか」

……という、エルフ騎士様からのご命令が。

…………終わった。

湯気と熱気で意識がおぼろげな俺の思考に、この4文字が思い浮かんだ。

 

◆◆◆◆

 

結論から言ってしまえば、俺がハラスメント防止コードによって黒鉄宮にさよならバイバイするようなことにはならなかった。ただそれが、キズメルの特異性によるものかと言われれば……そうだと言い切れないような状況にもなってしまった。

なぜなら、風呂天幕のウッドデッキ側には、ご丁寧にも体を洗うようの大きめのブラシまでもが備え付けられていたからだ。

ただ誤解しないでほしいのは、俺にああいう邪な発想は一切無いということだ。ましてや、システムに喧嘩を売ろうというわけでも無い。

…………キズメルの、「ティルネルがいなくなってから、頼む者がいなくてな」……という発言を聞いてしまったからなのだ。

俺がブラシにソープをつけてゴシゴシと彼女の背中を無心で擦る中、キズメルが不意に言った。

「…このごろ、不思議な夢を見るのだ。」

「夢?……どんな?」

NPCが夢を見るという事象に少々驚きはしたもののそれを表には出さず、ごく自然に会話を続ける。

「うむ………四日前、お主らが私を助けに入ってきたときの夢だとは思うのだがな………あのときとは少々……いや、大いに状況が違うのだ。」

「違うって言うと…どんなふうに?」

「…まず、ラルト、お前がいない。お前だけでなく、アスナやリントもいない。いたのはキリトのみなのだ。しかも、そのキリトの服装も違う。……そして、キリトは別の仲間を連れていた。」

「別ねぇ……あいつ、俺達と合うまで一人だったって聞いたんだけどな……」

「まあ、それは些細な違いだ。キリトたちはあのときと同じように、森エルフと戦う私に味方して戦うのだが……そのキリトたちは、今のお主らより腕が未熟でな。森エルフに刃が立たず、一人、二人と倒れていく………そして私は、彼らを助けるために、我らエルフの命である聖大樹の加護をすべて解き放つ。敵騎士は敗れるが、同時に私の命も尽きる。地面に崩れる私を、キリトは悲しそうな顔で見つめている………夢を見るたびにキリトの格好や仲間は変わるが、キリトの表情だけはいつも同じだ………」

「そう……か……」

俺は表面で煮えきらない反応を返したものの、心の中ではある一つの可能性にたどり着いていた。

………それは、SAOベータテスト時の記憶ではないのか。

今のメンバーの中でキリトしかいない、服装が違う、そして夢を見るごとにも変わってくる。それらが全て、ベータ時代の出来事だとすれば辻褄が合う。俺はベータの時エルフクエはプレイしていないし、他の二人は本サービスからの参加だ。服装が違うのも当然当時と今じゃあ装備が変わってくるはずだし、メンバーや服が夢を見るごとに変わるのも時期が違い、別パーティーの手助けなどに行っていたのだろう。実際そうキリトも言っていたし、これに関しては確定と言ってもいい。

………問題は、なぜキズメルがベータテストの記憶を宿しているのか、だ。

恐らくではあるが、本来キズメルはあの最初のイベントで死亡、そして別の『キズメル』として復活するたびにすべての記憶などがリセットされ、当初のプログラム通りに動く存在になるのだろう。下手すれば、彼女に本来記憶は残らないようになっている可能性すらある。

…だが、今の彼女は、自分ではない自分自身の記憶を有している。

………記憶があるから、彼女は今の特異性を獲得したのか。

………もしくは、彼女の持つ特異性故に、かつての記憶を宿しているのか。

真偽は不明なれど、彼女はやはりただのNPCではないことは確かだ。

「…知りたいのか?その夢がなんなのか……」

「知りたくない……といえば嘘になる。私も長いこと生きてきたが、このようなことは初めてだからな………」

「………だったら、今度詳しく聞かせてくれ。人族の剣士の視点から、色々言わせてもらうからさ。」

「…ありがとう。私も知りたいのだ。……あの夢に、どんな意味があるのか───」

 

 

◆◆◆◆

 

アレからキリトにメッセージを飛ばしてアスナを足止めしてもらいつつキズメルとともに風呂天幕を後にし、キリト、リントが順に風呂に入った後に食堂天幕へと移動。人当たりの良い黒エルフ騎士、兵士たちと食事を共にしてから天幕へと戻り、誰が何を言うでもなく皆毛布を手にとって夢の中へ。

…………そして、それから数時間後。

俺は昨日に引き続き、太陽が出ていないド深夜に目を覚ました。

…………そして昨日のように、天幕の中からは一人の影が消えていた。

「……先行ってんのかよあいつ…」

思わず今いないあいつに文句を垂れてしまうものの、俺も装備を整えてから天幕の外に出る。

「……遅いぜ、ラルト。」

「お前が早すぎるんだって。」

野営地の出口で待っていたアイツ………キリトと合流し、俺達はそのまま野営地を後にした。

こんな夜中でもきちんと警備についている黒エルフ兵に軽く合図してから森へと歩みを進め、濃い霧漂う奥へと進んでいく。正直言って自殺行為レベルだが、何度も通った道なので慣れてしまった。

慣れた手付きではなく慣れた足取りで森を進むと、俺達は数日前に訪れた四阿(あずまや)……二層と三層をつなぐ階段がある地にたどり着いた。

そこはそれ以外には何もない………ように見えたものの、俺達がそこについた瞬間、一つの人影が浮かび上がった。

アスナより小柄で、つまりは俺やキリトよりも小さい。

頬には三本線が両サイドに1セット……つまりおヒゲが描かれ、どこか鼠のような風貌の女性プレイヤー………

「七秒遅刻だゾ、キー坊、ラー坊。」

……情報屋、《鼠》のアルゴ。

「悪い、電車が遅れて。」

「キリト、お前ボケ向いてねえからひたすらツッコんどけ。」

キリト渾身のボケをぶった切って置いてから、俺達はアルゴへと向き直った。

「ラー坊の言う通りだゾ。それカ、もっと良いギャグを売ってやろうカ?」

「い、いや、間に合ってます。………それより、メッセージで送ったあの件、わかったことを教えてくれよ。」

「相変わらずせっかちだナ、キー坊。慌てる鼠は穴へと入れぬって言うゾ。」

感のいい奴らならわかったと思うが、今回アルゴに会ったのはもちろん情報を買うためだ。

……彼女が久しぶりの登場なので、一応彼女のモットーを説明しておこう。それは至極単純、『売れるネタは何でも売る。』

つまり俺達がアルゴの個人情報を売ってくれと言われたら、身長体重下手すればリアルネームに至るまで彼女は売ることだろう。値段は恐ろしいことになるだろうが。

とは言っても、今回購入したネタはそんな高価なものではない。

キリトはポケットからすでに実体化済みの五百コル硬貨を取り出し、ピンと弾いてアルゴにわたす。もちろん俺と割り勘したものだ。

「毎度。…ほんじゃ、今までの調査でわかったことを教えるゾ。」

アルゴは硬貨を片手で器用に受け取ると、表情から笑みを消してそう話を切り出した。

「まず、三層に来てから《アインクラッド開放隊》に加入したプレイヤーは一人だけだナ。名前は『モルテ』、武器は片手斧で、町中でも鎖頭巾(コイフ)を脱がない……現状わかってるのはそのぐらいだナ。」

「ふぅん………なあキリト、やっぱりそれって…」

「ああ。洞窟でディアベルといたアイツだろうな。……でも、前の攻略会議にはいなかったよな?あの後加入したのか?」

「いヤ、加入したのは少なくとも三層に来てすぐらしいナ。色々と聞いてみたんだガ、攻略会議には自分から体調不良とか言って休んでたらしいゾ。」

「……この世界に体調不良ってあったか?」

「いや、ないナ。」

「だろうな。……ってか、アルゴ姉さん聞いたって何したのよ……突撃インタビューしたの?」

「その情報は30コルだナ。」

「おk,払うわ。」

「…………冗談だゾ、ラー坊は人を疑うことを覚えたほうが良いんじゃないカ?」

「うるさいなあ……こちとら正義の味方的なのやってるんだって。」

「おいおいアルゴ、俺はどうなんだよ。」

「キー坊は疑ってしかいないじゃないカ。情報屋相手だといい心がけだゾ。」

「……そりゃどーも。」

良かったねキリト!アルゴ姐さんに褒められたね!

「……ま、そうなるとそのモルテくんとやらもなにかありそうだな。後はこっちで調べてみるよ。」

「そうカ。ま、何か有力な情報があったら売ってくレ。その時は高値で買うヨ。」

「相変わらず商魂逞しいことでねぇ……」

「褒め言葉として受け取っておくヨ。」

…別のメンタルも逞しいねぇ……

「……そうダ、ラー坊にキー坊、情報を売る気はあるかナ?」

「仮面ライダー関係は売らねえぞ?」

「安心シロ、その手のネタじゃないサ。」

「じゃあ何だよ。スキル構成とかか?」

「キー坊とラー坊は、どっちがアーちゃんのことを好きなのカ。」

「売りません。」「Me too.ついでに俺違うしな。キリトは多分そうだけど。「おいバカ剣士」」

「なるほど、キー坊はそうなのか。おっと安心しロ。この情報は売らないで置くヨ。ついでにラー坊、なら他に好きな人がいれば売ってもいいんだゾ?」

「売りません。」

「なるほど、いるってことカ。」

……俺の馬鹿野郎ッ!




次回、セイバーアートオンライン。
「…さーて、行きますか。」
「なんで来ちゃったのぉ!?」
「お前…何しに来やがった。」

第23節 黒き影、切り裂くのは誰


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