とあるギンガのPartiality (瑠和)
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第一章
プロローグ


新しく作りました。プロローグは短いですが、次からはそれなりに長くなるので、ご了承ください。

コメント、投票、評価随時募集中です。


ー新暦ー0078年 聖王教会ー

 

聖王教会の一室。そこには数人の女性が集まっていた。

 

聖王教会のカリム・グラシア。同聖王教会のシスターのシャッハ・ヌエラ。そして、ギンガ・ナカジマとその同僚、そしてスバル・ナカジマとセッテ・ナカジマ。その中で同僚がギンガに尋ねた。

 

「ねぇ、二人はさ、何で出会ったのか教えてよ」

 

「え?」

 

「そうですね、是非とも聞いてみたいです」

 

カリムも言う。

 

「そうですか……そうですね………その出会いは突然で、とっても大きいものでした。逆に、この出会いがなかったら私は一体どうなっていたのだろうと考えると、正直その時の将来不安になるくらい。彼は、私の事を本当に大切に思ってくれて、それから、優しくしてくれました。はじめは怖くて、近寄り難くて、でもあんまり人に伝わらない優しさを持っていて…」

 

さて、一方、聖王教会の別室では、数人の男女が集まっていた。

 

有名な顔でいうと、ティアナ・ランスター、フェイト・T・ハラオウン、高町なのは、高町ヴィヴィオ。そしてその中での中心はオッドアイで茶髪の少年と。

 

この部屋でも同じ話題が持ち上げられている。

 

なぜ二人が出会ったのか、説明をその少年がしていた。

 

少年「その出会いは俺を大きく変えてくれた。たった一人で、大切な物を失くし途方に暮れていた俺を彼女は……彼女だけは俺のことを心配してくれた。だから…いや、だからって訳じゃないな、なぜかすごく守ってやりたいと思って…」

 

ギンガ「一匹オオカミの彼が私に会うために陸士108部隊にまでやってきて…そんな彼の事を好きになるのには、そんなに時間はかかりませんでした。彼……アキラ君を」

 

少年「俺は彼女の…いや、ギンガの気持ちに気づけなかったのは……今はちょっと悔しく感じるが……俺もギンガの事を好きになれて良かったと思ってる」

 

ギンガ「いっそ全部話してもいいかもしれませんね……この五年間で何があったか」

 

少年「俺とギンガが出会ったのは…もう確か……五年前…だったかなぁ…。まぁあんたら機動六課と一緒にいた時期の方が長いから知ってる事件の方が多いかも知れないが……ま、聞いてくれ」

 

ギンガ「ちょっと長くなる昔話ですけど、聞いてくれると嬉しいです」

 

少年「出会い方はあまり良いモンじゃなかったがな…。でもある意味ではすげぇ出会い方ではあったな」

 

ギンガ「出会ったのは…今から五年前。アキラ君に何度も命を助けられました。彼がいなかったら…出会わなくても今の私はいないと思います」

 

 

第一話へ……。

 



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StrikerS JS事件編
第一話 出会


今回はギンガととある人がであう物語です。
ライダーネタがあるほうを読んでいた人もライダーネタを消して、一、ニ話をくっつけて編集しました。多少の変化はあります。


ー新暦ー0073年ー

 

JS事件が起こる二年前。

 

ある日、森の方にテロリストがマシナリー(戦闘用自動攻撃マシン)を使った事件が確認されたので陸士108部隊が駆逐しに向かった。これはギンガ・ナカジマ(15)の初任務だった。ずっと重ねてきた鍛練の成果がようやく試せると、ギンガは張り切っていた。

 

「お前達はあっちを、俺とギンガはこの先をやってくる!」

 

「了解!!」

 

ギンガの小隊の隊長が指示をだし、それに従った部下が速やかに行動する。隊長と二人きりになったギンガは気を引き締め直す。かつて管理局だった母の後を追い、入隊した管理局。いままで大きな事件もなくずっと渋らせていた拳を、使える。そう考えるとギンガは気分が高揚した。

 

「ギンガ、やっと任務につけてもらったからってあんまり先走んなよ?」

 

「はいっ」

 

ギンガは威勢の良い返事をする。二人は山の奥の方に入っていった。しばらく進むとギンガの視界に三機ほどのマシナリーが写った。しかも背を向けている。不意打ちをかければ一気に制圧出来るだろう。

 

ギンガは手柄を、自分の力を認めてもらうこれ以上のチャンスはないと思った。

 

(最初に左側を潰して、それから一気に真ん中を叩けば……)

 

「いいか、ギンガ。もう少し様子を伺って…」

 

「ウィングロード!」

 

「!?。ギンガ待て!」

 

隊長の話を聞かず、地面にウィングロードを敷き、ギンガはそのまま突っ込んだ。今まで鍛えてきた自身と自尊心を持ちながら。いきなりギンガが飛び出したことに隊長が驚いた。隊長はギンガを止めようとして飛び出したが、近くに潜んでいたマシナリーに捕まってしまう。

 

「うぐっ!!」

 

「隊長!?キャア!!」

 

ギンガは隊長を助けようとしたが、横から同じ大型のマシナリーが出現し、ギンガを拘束した。しかしギンガは一応戦闘機人。一度力を解放させれば、底なしの力を出せる。ギンガは隊長を助ける事を最優先にし、全身に力を込める。だが大型マシナリーは一機ではなかった。

 

更に二機、三機目と現れ、それらすべてに拘束される。さすがのギンガでもこれは抜け出せない。そして今、ギンガの頭を狙ったエネルギー砲が発射されようとしていた。

 

「くっ…外れて…外れて…!」

 

ギンガも必死に抵抗したが、もう遅い。銃口から魔力弾が発射された瞬間だった。刹那、一筋の刃の光がギンガを拘束していた触手を叩き切り、大型マシナリー三機を真っ二つにした。解放されたギンガは地面に尻餅をつき、何が起きたか確認する。

 

「間一髪ってとこか…」

 

一瞬何が起きたか理解してなかったギンガが瞳に映った瞳の青年に声をかける。

 

「あ…なたは?」

 

ギンガを助けたのは自分と同い年くらいの少年。白いトレンチコートのようなバリアジャケットを着て、右手には日本刀を一本。

 

左肩には気絶した隊長が担がれている。

 

「無事か?あんた」

 

少年は優しく手を差し伸べてくれた。

 

「あ…うん…」

 

ギンガは少年の手を握った。その瞬間、ギンガは感じた。少年のまるで怨み、悲しみを重ねたような、大きな殺意の様なものを。ギンガはそれを感じた瞬間つい少年の手を離してしまった。そして尻餅をついた状態で後ずさりをする。少年は驚いた表情を浮かべた。ギンガはその表情を見てから自分がなんてひどいことをしたのかと思い、謝罪しようとする。

 

「あ…ごめんなさい…その…」

 

ギンガがなにか言おうとした時、魔力砲が少年の頬をかすめた。

 

「チッ…こっちの始末がさきか…」

 

攻撃してきたのはさっきのマシナリーだった。さっきよりも数が増え、十数機まで増えている。小型のマシナリーとはいえ一人で戦うのは危険だ。肩に担がれた隊長を地面に置き、少年は一人でマシナリー向かっていく。ギンガは少年を引き止めた。

 

「ちょっと、一人じゃ…」

 

「黙ってろ」

 

ギンガに冷たく言い放つと、少年は姿勢を低くしてマシナリーの群に突っ込む。少年は刀一本でマシナリーを次々と切り倒していった。素早い身のこなしで攻撃を避け、避けきれない攻撃は刀で弾いて確実にマシナリーに近づいて叩き切っている。

 

だがいくらなんでも数が多すぎた。

 

「危ない!!」

 

後ろから狙われてたのを、ギンガが防いだ。

 

「下がってください!民間の方に戦わせるわけには…!」

 

「管理局のあんたらがだらしねぇから俺が戦ってるんだ……ECディバイダー!」

 

少年が叫ぶと少年の左手に一瞬で剣のついた銃が出現する。それを構えると少年の足下に魔方陣が出現した。

 

「俺から10メートルは離れろ!!!!一撃で決める!!」

 

「え!?あ、うん!」

 

ギンガは慌ててウィングロードを出して、隊長を抱え、上空10メートル地点にいく。ちょうど上空に避難できた直後、森の一部が、青く光った。

 

「フロストバスタァァァァァァァァEC!!!!」

 

 

 

一撃。

 

 

 

本当に一撃だった。少年のデバイスの魔力砲は一撃でマシナリーを全て撃破した。いや、撃破したというか全て氷つき、砕けたのだ。少年の周りの気温は氷点下以下に下がり、森のあちこちも凍ってる。

 

「ふぅ…こんなもんか………ブレードオフ」

 

そう言って少年は刀を鞘に戻し、デバイスを消して立ち去ろうとした。

 

「待って、どこいくんですか!?」

 

「……………知ってどうする?」

 

そう言われると何も言えない。ギンガは質問を変えた。

 

「あ…じ…じゃあ…名前は?」

 

「……橘アキラだ…覚え無くていい」

 

「えっと…私は…ギンガ・ナカジマ。ありがとう橘君。あと…さっきはごめんなさい…悪気があった訳じゃ…」

 

「…」

 

「あ…」

 

アキラは無言のまま立ち去ってしまった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー夜 ナカジマ家ー

 

その夜、ギンガはPCに向かっていた。

 

「橘アキラっと」

 

PCでアキラの事を調べていた。前科者、時空管理局職員。色々なルートで調べたが、出てこない。まぁ当然と言えば当然だ。しかしあの身のこなし、魔力、強さから見て管理局員ではなくても何処かしらに所属しているのではないかと思ったのだ。

 

「やっぱりでないか…」

 

(…なんか気になるのよね…あの人)

 

ギンガが気になってる理由はなんとなく気になるだけではない。あの戦闘技術、それから、なんの関係もない自分を助けたこと。それに何だか昔に会った様な……。

 

[只今、現場は張り積めた空気で犯人の要求は…]

 

「ん?」

 

偶然つけていたテレビのニュースで立て籠り事件がやっていた。犯人は銃を持ち、人質をとって警察にベランダから要求を叫んでいる。

 

[おい、なんだよあれ…]

 

突然、現場がどよめく。観衆の視線は犯人……ではなく、そのもう少し上の屋上だった。カメラが犯人のいるマンションの屋上を撮す。そこにいたのは、白いコートに刀を持った少年。そう、屋上には確かにあの橘アキラが立っていた。

 

そしてそこから飛び降り、犯人がいるベランダに飛び込んだと思うと刀で銃を叩き切り、刀の峰で犯人の首の後ろを叩いて気絶させる。カメラがアキラを映した後の数秒のことだった。

 

[と…突撃ーー!!]

 

しばらくアキラに呆気をとられていた警察がようやく動いた。

 

「すごい…」

 

しかし、アキラは誰に何を言うのでもなく、またそのまま何処かへ姿を眩ましてしまう。その後、事件の中継は終わり、彼のことについて何ものかという話がされたが、すぐ別のニュースに戻ってしまった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「犯人確保ー!!」

 

さて、また違う日。ギンガ達はある事件に駆り出されていた。とあるテロリストの隠れ家を見つけたのでそこの制圧という初任務に比べれば全然楽な任務だった。

 

「すいませんね。呼んでしまって。あなた…まだ新人でしょう?良いスジしてますね」

 

「ありがとうございます!とりあえず、怪我人を出さずに犯人を確保できてよかったです」

 

ギンガ達が犯人から離れてる間、確保されたテロリストが怪しい動きをしていた。しかしギンガ達はまだ気づいてない。そして、隙を見つけたテロリスト達が動き出す。

 

「今だ!」

 

声が現場全体に響き渡る前に、テロリストの二人が隠し持っていた特殊な道具で拘束具を破壊して逃げ出した。逃げ足が速く、犯人達は捕まることなく出口に近づく。

 

「速いっ!?」

 

しかし出口は誰かが道を塞いでいた。それが誰なのか、ギンガにはなんとなく分かった。きっとまた「彼」だと。

 

ギンガの予想は大当り。出口に立っていたのはアキラだった。変わらぬ無表情で出口の前に立ちはだかり、犯人達が勝手に近づいて来るのを待っていた。

 

「オラッそこどけ!!」

 

「……」

 

「へぶっ!?」

 

アキラは無言で逃げ出したテロリストの一人の顎を思いっきり蹴りあげ、鞘が付いたままの刀でもう一人の後頭部を叩く。この速業で二人とも気絶してしまった。

 

「確保だ!!犯人確保!!」

 

テロリストは再逮捕された。そして今まで通り、アキラは誰にも気付かれないように、その場を去っていく。しかし、ギンガには見られていた。今すぐ追い掛けたかったギンガは、近くにいた仲間に訪ねる。

 

「すいません」

 

「はい、なんですか?」

 

「すいません、所用で…すぐ戻りますので!」

 

「え、あ、はい…。でももう戻られて大丈夫だと思いますが…」

 

ギンガはお辞儀をし、走り出した。

 

 

 

―地下道―

 

 

 

(地下の道か…こんな裏道があるなんて…。この先に橘君の住み処かなにか…あるのかな………まさかね。どんなところに住んでるんだろう)

 

ギンガは帰ると見せかけ、アキラを尾行していた。どうしても彼が気になるのだ。アキラが途中で止まり、後ろをみる。ギンガはあわてて隠れた。少しするとアキラはまた前を向き、角を曲がって歩いていく。

 

(危なかった……あ、いけない見失っちゃう…)

 

そう思い少し急いで追いかけ、アキラが曲がった角を曲がろうとした瞬間、曲がり角から刀が飛び出してきた。ギンガは驚いて尻餅をつきそうになりながらも体制を整える。

 

「きゃあ!!」

 

アキラは尾行の存在にとっくに気づいていた。曲がり角からは姿を見せず、刀を突き出したままでアキラは尋ねた。

 

「誰だ…」

 

「えっと…私ですギンガです」

 

「あん?はぁ……………なんだ…またあんたか」

 

ギンガが名乗ると、アキラは刀を納め、角から出てきてくれた。

 

「なんの用だ?」

 

地下道ではアキラとギンガが二人で向き合っている状態。ここまで来たならもう、引き下がる道理はない。ギンガは思い切ってアキラに尋ねる事にする。今まで気になっていた事を全部。

 

「うん…用っていうか…」

 

「…特に用がないなら近づくな。あまり人と関わりたくない」

 

ボソボソと言うアキラの声がギンガには妙に悲しそうに見えた。こんな風なアキラだからこそ、ギンガは放っておけなかったのだ。とりあえずまずはアキラの行動の真意を確認したがったギンガは遠回しに尋ねる。

 

「いや、ちゃんと用事はあるっていうか……その…心配なんだ…」

 

「………心配?」

 

意外な答えだったのかアキラは驚いていた。ギンガは続ける。

 

「うん…事件現場にあなたが現れても特に何も言わず帰っちゃうよね?なんで?私が見ただけでも三件、手伝いをしたんならそれなりの謝礼が管理局から出されるし…」

 

「…………俺はやりたいことをやってるだけだ。謝礼なんかいらねぇ。何度もいうが俺に関わるな。テメェみたいな人間の哀れみが俺は一番嫌いなんだ」

 

アキラはあえて嫌われるよう、ウザく思われる様に言葉を選ぶ。全ては他人を巻き込まない様にする工夫だった。もちろんこの言葉は嘘だが、今まで大抵こんな感じであしらってきた。

 

心配してくれるのは嬉しいが、上辺だけの気持ちなんかいらなかったから。しかし、ギンガは違った。

 

「……それは…嘘だよね?あなたは、そんな人じゃない…そんな気がするんだ。あ、いや…ただの勘だよ!?なんとなく…」

 

慌てながらギンガが優しく微笑む。

 

「嘘なんかじゃねぇよ!」

 

「………じゃあ。なんでそんなに悲しそうなの?」

 

 

アキラは驚いた。その言葉はすごく懐かしかったから。第一、自分を心配してくれる人もこの一年久しぶりだ。しかし、簡単には信用出来ない。信用出来ないはずなのに…なぜこんなにも懐かしさを感じるのであろうか。アキラはわからなかった。

 

「ねぇ…君はきっと、何かを隠してる……」

 

ギンガじゃなくてもそんなことはわかりきったことだった。危険も承知で誰かを無償で助ける行為なんて何かしら理由がないとできないからだ。だがアキラは今まで聞かれることがなかった。だからこそ聞かれたことでギンガが少し特別に思えたのだ。

 

ギンガがアキラの手を握る。アキラは振りほどこうとしたが、手の包まれ方がとても心地よかった。これもまた懐かしさを感じる。信用はできないが、少なくとも何かを話さないと帰ってくれそうになかった。だから少しだけ話すことにした。

 

「…俺は…人から恩賞をもらう権利がない…」

 

「え?」

 

「あんたには隠し事できそうにないしな。話すよ…全部話す」

 

そう言うとアキラは、その場に座り込み、少しうつ向いた。

 

「………俺はな…昔、人を…いや、ある少女を殺した」

 

「え…」

 

アキラは口を挟まれる前に全部言っておく事にした。いや、言っておきたかった。

 

「そう、殺しちまったんだ。殺したとはいっても事故だがな。まだ未来のある9歳の少女を……俺のミスで殺しちまった。俺は罪を償う為に、せめて…あの子が許してくれる時なんか無いと思う。だけどせめて…あの子を守れなかった分まで人を守ろうって思っただけだ」

 

アキラにとって始めて昔の話をした相手。どんな反応をするかと思ってたが、ギンガは黙ってる。アキラはため息をついた。少しでもギンガを信じた事を軽く後悔したのだ。

 

(まぁどうせ嘘かなんかの冗談だと思われて、そのままおしまいだろうな…こんな話…)

 

「そう…だったんだ…」

 

何やら暗い声。

 

アキラは呆れられたのかと思った。それが当然だと思ってたから。アキラは軽く顔をあげる。ギンガはどう慰めたらわからないと言うような顔をしていた。だが、心配そうな目を見ると、本気で信じてる様だ。

 

こんな話をされて、一体どう思ったのかアキラは真意を確かめる為に立ち上がった。

 

「…お前、つぅ!…が…」

 

アキラが突然右肩を押さえ、倒れかける。

 

「橘君!?大丈夫!?」

 

「問題ない…よくあることだ」

 

「問題無くないよ!ほら見せて…」

 

アキラは渋々と肩をギンガに見せた。服を少しずらすと、そこには傷跡がある。

 

「この傷痕…」

 

「古傷だ…気にすんな」

 

ギンガが見るとアキラの体には所々傷がある。傷痕や新しい傷、アキラは傷の自然回復を待つだけだった。もちろん病院にも行ってない。そのことを察したギンガは、アキラの肩を軽くおさえながらアキラに尋ねた。

 

「えっと、その…か、管理局に…来てみない?」

 

「…………は?」

 

「あのさ…なんていうか…今の橘君のやり方は今は良くてもいずれ支障が出ると思うんだ。傷だってちゃんと治療しなきゃだし…」

 

遠慮を見せながらギンガは喋る。

 

「……無理だ。管理局じゃやれる事に限りがある。ついでに保護者もいねぇから、管理局に入ろうとしても無理だ。保護施設がいいとこだろうよ」

 

ギンガは顔をアキラに向ける。強気な顔だ。ギンガはアキラの目をしっかりと見ながら話す。

 

「じゃあ、保護責任者は私がなんとかする。君の力はきっと管理局で役に立つ!もっといい形で人を助けられる!」

 

さっきまでのギンガの遠慮深さはどこに行ったのか、引き下がろうとしない。次第にアキラは疲れてきた。

 

「はぁ………わかった…考えておく…」

 

「本当!?」

 

「…ああ。考えてといてやるからこれ以上はついて来んな」

 

アキラは冷たく言い放つと、右肩を押さえながら立ち上がり、去ろうとする。ギンガは最後にアキラに言った。

 

「ちゃんと病院にいかなきゃダメだよ~!」

 

「はぁ…へいへい」

 

アキラはどうにも彼女、ギンガがセシルに似ていると思っていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

1ヶ月後のギンガの帰路。

 

「よぉ…」

 

「橘君!?」

 

「…」

 

相変わらずの無表情で、暗闇から出てくるからちょっと怖いとギンガは思った。だが、こうしてまた自分の前に現れたと言うことは少しは考えて来てくれたのだろうかとギンガはすこし期待する。

 

「保護責任者はなんとかなったか?」

 

「え…ああ!うん!もし、管理局に来るなら、お父さんが引き受けてくれるらしい…の」

 

恐る恐るギンガが答える。保護責任者のことは聞いてきたが、まだ管理局に入るとはいってない。

 

「随分すんなり受け付けたな…」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。そうか…わかった」

 

そう言ったかと思うと、刀袋に手を入れた。

 

「えっ!?」

 

刀袋からは刀…ではなく紙が出てきた。それを広げてギンガに向ける。

 

「この入局書はこんな感じでいいのか?」

 

「…」

 

「…どうした?おい?」

 

正直ギンガは驚いた。きっと駄目だと思った。アキラは管理局にはこない。そう思っていた。アキラはギンガの言葉に答えてくれた。それがなにより嬉しかった。

 

だが、それ以外にも感情があることに少しギンガは気づき始めた。

 

「……い…おい!!」

 

「ふえ!?」

 

ギンガは嬉しさのあまりしばらく呆けていた。その内にアキラはかなり顔を近づけている。

 

「う…うん。大体こんなのでいいよ」

 

「顔赤いぞ?大丈夫か?」

 

「え!?あ、うん」

 

「…まぁいい。じゃあな」

 

アキラはまた暗闇に消えようとしたがまたギンガが引き止めた。

 

「橘君!!」

 

「なんだよ?」

 

「また…会える?」

 

「…知らねぇ」

 

その日から3日後、アキラ君は時空管理局に入局した。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

そんな事があってから…アキラが入局してから一年半。今、刀を携えた男が…アキラが、陸士108部隊の隊舎入り口の前にいた。桜が舞い散る隊舎の入り口に向かって歩き出す。

 

「やっとついた…」

 

そう呟いて前に進む。

 

「ようやく会えるぜ…ギンガさん…」

 

 

続く



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第二話 過去

コメント、感想、評価、お気に入り登録随時募集中です。


とある日、ギンガは少し浮かれた気分で出勤した。

 

その理由は今日、新人歓迎会があるからだ。全員が108のミーティングルームに集まり、研修を終えた新人たちが前に出て軽い自己紹介をし、バイキング形式の昼食を共にする。全体的にはそれだけだが歓迎会はその日の帰りに新人達を誘い、夕食に108部隊の各部署の全員でいくのだ。

 

ギンガは意外とそれが楽しみだった。正しくは、振舞われる料理が楽しみだったのだが。そして、いつも通り仕事をしていると隊舎内に放送が流れた。

 

[連絡です。これより、新人歓迎会を始めますので、隊舎にいる方は、ミーティングルームに集まって下さい]

 

(来たっ♪)

 

 

―ミーティングルーム―

 

 

ミーティングルームに全員が集まり、式が始まった。まだ初々しい顔の新人達が緊張した表情で台の上で自己紹介をしている。

 

「懐かしいなぁ…」

 

「ねぇギンガ」

 

新人達にかつての自分を重ね、懐かしんでいるとギンガの同僚が話しかけてきた。

 

「どしたの?」

 

「ギンガは新人君に好みの子とかいた?」

 

「ううん。ていうか、新人の子をそんな風に見てないし………」

 

「ダメダメ〜。いかに自分の僕を作るかよ。でもあたしは次の成績優秀者に期待してるよ」

 

「成績優秀者か…」

 

新人歓迎会は、始めに通常入隊の者を名前を呼んで一人ずつミーティングルームに入れて台の上で自己紹介させる。その後は同じやり方で成績優秀者、つまり推薦入隊の者を入れる。最後に名前を呼ばれた者が成績最優秀者だ。

 

「今年の最優秀者はどんな子かな~」

 

「さぁ…」

 

成績優秀者の名前が次々とよばれそして最後の最優秀者の発表になった。

 

「今年の成績最優秀者…」

 

「…」

 

「橘アキラ君です!!」

 

「え?」

 

ギンガは急に固まった。聞いた事のある名前…それも、自分と関わりの深い。だが、同姓同名ということも考えられる。それに彼が管理局に入ってまだ一年程度、少なくとも訓練校をでるには最短でも二年が必要…なはずだが。

 

「それではどうぞ!」

 

扉が開かれ一人の青年が入ってくる。特徴的な長めの茶髪。片方だけ伸び、完全に隠れてる右眼。肩に背負った、刀。冷たい眼。間違いない。

 

「嘘…」

 

アキラは台の上に立ち、敬礼する。

 

「橘アキラ陸曹です。本日付けで地上108部隊に所属になります。よろしくお願いします」

 

ミーティングルームは騒然としギンガは唖然とした。108のメンバーが驚いているのは、新人なのに陸曹という階級にいること。ギンガが驚いているのは、言うまでもない

 

「ん?ギンガどうしたの」

 

同僚が話しかけたが、ギンガは硬直したままだ。アキラの自己紹介が終わると、昼食会に移行した。昼食会の間、ギンガはアキラから目を離さなかった。ギンガはアキラが席を立ったのを見て、また後をつける。

 

「えっと…トイレは…」

 

「トイレならそこの角を曲がったところだよ」

 

「あん?」

 

アキラが振り向くとそこにはギンガがいた。

 

「ギンガさん…」

 

「久しぶり…一年………ぶりだよね?」

 

「……」

 

ギンガはなにか遠慮している様子で尋ねる。

 

「聞かせてくれないかな…君がなんでいきなり陸曹になってるのか…」

 

「不正をしたとか疑ってんのか?」

 

「ううん…」

 

「アキラ君?」

 

「ギンガさん……………」

 

アキラがいきなり抱きついてきた。突然の出来事にギンガは茫然としていた。が、すぐに我に帰る。

 

「えっ…ええええ!?ちょっなに!?どうしたの?」

 

「………すまない。あと少し、こうさせてくれ…」

 

アキラの手は震えていた。表情は相変わらず無表情だが若干、口がひきつっている。声も若干震えてる様子だった。ギンガは事情があると信じて動こうとしなかった。不思議と橘アキラと言う男に心を許してしたのだ。

 

「橘君…」

 

「俺はな…あんたに会いたかったんだ…だから…上官に頼んで一気に位をあげてもらった。当然試験は受けたけどな」

 

「私に会いたかった?」

 

「…しばらくしたら後でまた説明する」

 

数分後、アキラはギンガを離した。手の震えは収まったらしい。

 

「大丈夫?」

 

「…すまない、いきなり変なことして……さっきも言ったが、またあとで話したい」

 

「うん…まぁいいよ。それじゃまた…あとでね」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

アキラは自分の机に荷物を運び込んだ。

 

「これで荷物は最後か…」

 

アキラはこの一年半、ずっと不安だった。自分を理解してくれる者がいなかった。訓練校での成績は優秀だった。いや、優秀過ぎた。だからみんなに邪魔者扱いされた。それが嫌だったから飛び級で陸曹にまで一気上り詰めた。すぐにでもギンガに会いたかった。だから上層部に相談して周りよりも早く卒業させてもらったのだ。

 

唯一、ギンガだけが自分を理解してくれてると思っていた。だからついあんなことをしてしまった。我ながらどうかしてるとアキラは思う。アキラは、陸曹になったのでこのあと同じ陸曹と教官をしなければならない。

 

新人がいきなり教官をするなど、異例中の異例だが、それ以外にアキラはまだ不安はあった。

 

「俺みたいなのが教えていいのか?」

 

 

―訓練場―

 

 

「整列!」

 

その場にいた全員が綺麗に整列する。陸戦が多いせいか皆体格がいい。都合により陸曹とギンガさん、俺、その他サポート2人で教官を勤めることになった。教官とは言ってもやり方教えたらその後自分達も混じってやるのだが。

 

「えー皆さん。今回は私達だけでなく新しく配属されたアキラ陸曹も担当しますがあくまでサポートです」

 

「よ…よろしく」

 

陸士や陸兵が期待したような視線を送ってくる。なんだこれ、きもちわるい。

 

「アキラ陸曹は、一年半前に時空管理局陸士訓練校から入局。一年半で陸曹まで昇り詰め…」

 

「ざわ…」

 

辺りがざわつく。周りが期待や尊敬、嫉妬、様々な感情を込めた視線を送ってくる。嫌だ。やめろ。見るな。こわい。きもちわるい。目眩がする。様々なマイナスの感情が俺の中を走り抜け、その刹那、脳裏に懐かしい記憶が流れた。

 

(アキラ♪)

 

「……うっ!うげえぇ!!」

 

俺は突然、嘔吐した。

 

「橘陸曹!?」

 

すぐにギンガさんが俺のもとにきて支えてくれた。

 

「私がアキラ陸曹を医務室まで連れて行きます。カイ陸曹、後の事よろしくお願いします」

 

「わ…わかりました」

 

ギンガさんは俺の歩く速度に合わせてくれ、肩を貸しながら医務室に向かっていった。医務室に着くと、そのまま手を洗い、口をゆすぎ、ベットに寝かされた。一年たっても俺の目付きや表情は変わらずむしろひどくなっていたらしい。

 

医務室の先生はすっかり震えている。ギンガは先生に耳打ちしたらしいが声がカーテン越しに聞こえた。

 

「あの…私が看病しましょうか?」

 

「お願いします~…アキラ陸曹恐すぎまよ~」

 

半泣きで頼んでいるようだ。

 

「それじゃ、ギンガ陸曹、後頼みます」

 

「はい」

 

二人の会話が終わり、カーテンで部屋が仕切られる。

 

「橘君、大丈夫?」

 

「…ああ」

 

「一体どうしたの?橘君。風邪でもひいてる?」

 

「………」

 

しばらくの沈黙。

 

「俺は…傭兵会社の家預けられたんだ…」

 

「…え?」

 

「小さい頃から訓練うけて、体は戦い方だけを覚えて…いつか、俺が少女を殺したっていったよな?」

 

「うん…」

 

「おんなじだったんだよ。後輩たちの目が。あの子と」

 

「目?」

 

「あの期待とか尊敬とか…そんな感じの眼差しが」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

俺は昔…14歳の時まで傭兵をやっていた。それである屋敷のお嬢様の護衛を頼まれたんだ。傭兵+護衛でも、まるで使用人のような扱いをうけた。特に護衛対象のお嬢様………セシルはなついてくれた。

 

「ねぇアキラ!」

 

「どうしました?お嬢様」

 

「だから、セシルって呼んでってば!あと敬語を使わないで!!」

 

「はい、おじょ…じゃない。セシル?」

 

少し不満そうな顔になるセシル。でもすぐに

 

「まっいっか!」

 

と笑ってくる。太陽のような笑顔をしてくれる子で…仕事じゃなくても守ってやりたいって思える様な子だったんだ。誰に対しても分け隔てなく接してくれる。

 

「ところでどうしたんで…失礼。どうしたんだ?」

 

「ああ、アキラってなんで…なんていうか~愛想がない?っていうか、冷たいっていうか…人との付き合いが苦手そう感じっていうか……絶対人前に出ない………あ、根暗っていうの?それも違うかな」

 

「言いたい放題だな」

 

「うん!で、なんで?」

 

セシルはそんな風なちょっと変わった子だった。

 

「まぁ…俺は今は護衛任務についてるがあくまでも傭兵だからな」

 

「………ようへい、愛想が無きゃ駄目なの?」

 

よく不思議そうな視線を送ってきた。俺はセシルの頭を撫でながら目線をセシルにあわせてしゃがむ。

 

「傭兵はな、金さえあればなんでもする。…人殺しだってな。そんな奴が愛想が良くてもな…」

 

「アキラは…誰か殺したことあるの?」

 

今度は心配そうな顔をされる。セシルに嘘はつきたくなかったがこんときだけはしょうがなかった。初めてってわけでもないが、嫌われたくないって思ったんだ。だから…。

 

「俺はない…。それに人を殺したくない」

 

「そっか…よかった…」

 

 

 

数日後のセシルの登校中、とある話をした。セシルには前に護衛がいたという話を風の噂で耳にしたからちょっと確認したくなったのだ。別にそのことに嫉妬してセシルを責め立てるわけじゃ無いが、話すこともなかったんでちょっとした話題にした。

 

「そういえばお嬢…んん゙…セシルは俺の前に一人、護衛がいたらしいけど…」

 

「え?……ああ。うん」

 

セシルは思い出したように頷いた。

 

「なんで俺に変わったんだ?」

 

「あー…前の護衛の人、アキラ以上に愛想も何もなかったの。だからお父様に言って護衛変えてもらったの」

 

「それで俺に愛想なかったら意味なくねぇか?」

 

「ううん、アキラの方がまだマシー」

 

そんな会話をしながら学校に向かう途中、目の前で交通事故が起きた。おまけに車の破片がセシルを目掛けて飛んでくる。考えるより先に体が動き、俺は刀を抜いてセシルの前に飛び出した。刀でどうにか出来るかどうかはわからなかったが、最悪自分の体を盾にしてでも守るつもりだった。

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

次の瞬間、セシルに向かって来てた破片は真っ二つになりセシルの横を抜けていく。

 

「セシル、大丈夫か!?」

 

「う、うん…」

 

一息ついて刀を鞘に戻し、また歩き始めた。学校までもそう遠くない。切った破片が二時災害を起こしてようが、俺にとっちゃ関係のないことだった。だから事故は無視してとっとと学校へ行った。

 

 

―校門―

 

 

「それじゃ、アキラ!いってきます!」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

いくら護衛とはいえ、学校内までは入れない。だが離れるわけにもいかず、外で放課後まで待つことになるが特に苦ではなかった。セシルは体育の時間等、外にでる授業ではたまに気づいて手を振ってくれる。それがなんとなく嬉しかった。

 

そして放課後。

 

「アキラー!」

 

「セシル!」

 

HRが終わったセシルが手を振って駆けてくる。セシルの目線までしゃがんで突っ込んでくるセシルを受け止めた。

 

「おまたせ!」

 

「ああ。じゃ、帰るか」

 

そう言って、帰っていく俺達はまるで兄妹のようだってよく言われた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ア~キラ!!」

 

「うわ!びっくりした!」

 

ある日、壁にもたれ掛かり、刀の整備をしていると二階の窓からセシルが話しかけてきた。何の用だと思ってたらいきなりセシルが窓の縁に足を掛けた。

 

「お、おい!危ねぇぞ!」

 

「いっくよ~……とう!!」

 

「おいおい……っ!」

 

二階の窓から飛び降りる。しかも、すんごい笑顔で。俺は手元にあった刀の鞘を手に取り、狙いを定める。俺はセシルの着ていた服のフードに鞘を引っかけて、一回転してセシルを脇に抱え込む。

 

とりあえずセシルを無傷でキャッチできて良かったと安堵のため息をついた。

 

「たくっ…なんてことしやがる…」

 

「ねぇアキラ、なんでアキラはいつも一番に助けてくれるの?」

 

「あ?なんでって護衛対象だからだろ…」

 

なにを当然のことを。と言いたげな顔で俺は答えた。

 

「そーゆうんじゃなくて…自意識過剰だったらあれだけど…なんか私が助かったらあとはどうでもいいっていうか…前の事故の時も私助けたら後は無視してたし、今だって大事な刀のお手入れ中だったのに…」

 

アキラはその質問にそっぽを向いて答える。照れているのかは不明だった。

 

「さぁな、単に金のためかもしれないぞ?」

 

「……そんなことないでしょ?だってアキラ、そんな人じゃないもん」

 

「セシル…」

 

俺は嬉しかったこんな風に言ってくれる人がいてくれて…。その時のセシルの目は期待や尊敬に満ちていた。だから俺は心に誓った。この子を必ず守り通す、なにがあっても。そう…決めてた筈なのに…奴は俺の前に現れた。

 

 

ーある日の放課後ー

 

 

「遅いな…セシル…」

 

下校の時間にセシルがこなかった。普段だったら下校の時間になると手を大きく振りながら校舎から走ってくるのだが。

 

「変だな…」

 

不信に思ったアキラは校内を探してみた。アキラは校内全て見たがいない。もしかしたらと思い、校門に行ったがいない。アキラは次第に不安にかられた。

 

「セシル!!何処だ!?セシルー!!」

 

探していると突然アキラの携帯に電話が入る。

 

「たく…この急いでる時に!!…もしもし?」

 

[アキラァ!助けて!!]

 

「セシル!?」

 

電話から聞こえたセシルの助けを求める声。それにアキラは声をあげる。

 

[もしもし?セシルちゃんの護衛の橘アキラさんですか?]

 

電話の声がかわる。声を変えてるせいで誰か分からない。いや、今のアキラに誰であろうと関係なかった。必ず見つけ出してセシルを助ける。それしか頭にない。

 

アキラは目を血走せながら電話の主に叫んだ。

 

「てめぇ誰だ!!セシルをどこにやりやがった!!セシルを…セシルどうした!!」

 

[あっはあはあは!!すごいねぇ!声を聞かせただけでその怒りよう!]

 

しゃべり方からなにから何までムカつくとアキラは思った。セシルの事を思うと早く助けたい気持ちも生まれ、アキラは余計に腹立たしく感じている。

 

[まぁそんな怒んないでよ。あ、ちなみにセシルちゃんはこっちで預かってるから。返して欲しかったら20万用意してね]

 

「ふざけんじゃねぇ…そんなちいせぇ金のためにセシルを拐ったのか!!」

 

[あははは!冗談冗談!!言ってみてかっただけだよ。ま、本当に返して欲しかったら二丁目の第二倉庫にきてね。お金はいらないから。バイバーイ!]

 

電話は切れた。

 

ぐしゃっ!

 

怒りに任せ、アキラは携帯を手で握り潰す。金属片や、コードの先端が手に刺さったが、アキラは気づいてない。

 

「ふざけんな…ふざけんなぁ!!」

 

携帯を潰した手で壁を殴った。怒りを壁にぶつけていてもしょうがないのでアキラは指定された場所に走った。

 

 

―第二倉庫―

 

 

「アニキ…本当に来るんですかね」

 

「来るよ…彼は絶対に…」

 

倉庫の外が騒がしくなると銃声が聞こえてきた。

 

「ほら来た…」

 

「アニキィ!大変で…」

 

外の見回りをしていた部下が倉庫の中に、飛び込んで来るがその瞬間、背後にいた何者かに斬られる。現れたのは恐ろしい形相をしたアキラだった。

 

「来てやったぜ…外道共……………セシルを…セシルを返せ…っ!」

 

「勿論返してあげるよ。ただ…ここにいる部下を倒せたらね」

 

アニキと呼ばれてた天狗のお面を着けた男が手を上げるとザッと300人はいるであろう部下がそこかしこから出てきた。

 

「外の見回りも倒して来たんだろ?彼らも倒せるかな?」

 

「ECディバイダー…セットアップ!」

 

『Set up』

 

アキラの掛け声で左手に銃剣が出現し、アキラはそれと刀を構えて、敵に突っ込んでいった。アキラは向かってくる敵を次々と斬り倒していく。もちろん反撃も受けるがアキラは立ち止まることはなかった。

 

「セシルを…返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「あぁっはぁはあはあはぁ!!!凄いねぇ!まさか全員倒すなんて!」

 

「はやくセシルを返せ…」

 

「でも…ちょっと無理しすぎじゃないかな?それにみんな殺した訳じゃないみたいだね」

 

確かにアキラはだいぶ無理をしていた。あちこち切り傷だらけで右肩は撃ち抜かれている。服は自分の血と返り血で真っ赤だ。それでも魔力で何とか立って歩いている。しかも周りで倒れている奴は皆息がある。刀という武器で殺さないように倒すのはかなりの高等技術だ。

 

「はやく…セシルを返っ…せ!」

 

「君もそればっかだねぇ。じゃ~次はどうしようかな~あ、じゃあ次は…」

 

『shell shot』

 

銃声が轟いた瞬間、お面を着けた男は拡散弾で体を撃ち抜かれた。

 

「わりぃ、話ウゼェからつい引き金引いちまった」

 

アキラはそう言って、銃剣をしまってからセシルを探し始める。思ったより倉庫の中は広く、中々見つからない。

 

 

―10分後―

 

 

アキラはようやくセシルを見つけた。

 

見つけた場所はドラム缶の中。目隠しをされ両手足を縛られている。セシルの拘束を外してやり目隠しをとった。

 

「セシル…セシル!」

 

セシルの目がゆっくりと開く。

 

「ん…アキラ?………アキラ!!」

 

「セシル…」

 

アキラはセシルを抱き締めた。

 

「よかった…無事で本当によかった。大丈夫か?怖くなかったか?」

 

「きっとアキラが助けてくれるって信じてた。だから怖くなかったよ」

 

その時、アキラの後ろにあったドラム缶がゆれる。そして中から誰かが飛び出し、拳銃を構え、アキラを狙った。そのことにアキラは気づかず、セシルが一番最初に気づいた。

 

「アキラ!!後ろ!!」

 

「チッ!」

 

アキラは横に回避する。この時、アキラは右手でのセシルをつかんだつもりだった。だがアキラの右手はもう動かず、セシルを掴み損ねた。それにより、アキラを狙って撃たれた弾丸はその先にいた…セシルに命中した。

 

「えっ…」

 

「セシルゥゥゥゥ!!!!」

 

セシルはその場に倒れ、撃った本人は予想外の事態に慌てるばかり。

 

「ちぃっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

アキラはその場で抜刀し、セシルを撃った敵を斬る。そしてセシルを抱えてゆすった。

 

「セシル、セシル!…………撃たれたショックで気絶してんのか…」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

―夜7時―

 

アキラは夜道をセシルを抱えて病院目指して走っていた。もう返り血が目立つどうとかいってられない。セシルが死ぬかも知れないのだ。人目なんか気にしている場合ではない。走っているとセシルの目が開いた。

 

「ア…キラ?」

 

「目ぇ…覚めたのか」

 

セシルの意識は最初は曖昧だった。だが意識がはっきりしていくうちに少しずつ理解する。今の自分が置かれている状況を。だがセシルは泣かなかった。

 

「そっか…あたし、撃たれたんだっけ…」

 

「すまなかった…俺は…守るって言ったのに…」

 

アキラがそう言うとセシルは優しく微笑んだ。

 

「いいんだよ…私の不注意で捕まっちゃったんだもん…けほっ」

 

セシルが小さく咳をすると血が口からでた。かなり危ない状態の筈。アキラは今にも泣き出しそうなのを、必死に抑えていた。それでもそのことを悟られない様に奥歯を噛み締めながらセシルに言う。

 

「いや…俺のせいだ…俺が…もっとちゃんとしていれば…」

 

「いいんだよ…アキラは…そんな怪我だらけになって…助けにきて…けほっけほっ…」

 

「もう喋るな…それにもう病院だ」

 

 

―病院―

 

 

手術中のランプが光るドアの前に、アキラは立っていた。病院についた時にセシルを手術するように必死に頼んだ。アキラが一番治療が必要だと言われたが、アキラはそれを無視し、セシルを優先させた。手術中の明かりが消え、中から担当者の医者が出てくる。

 

「セシルは…」

 

「最善は…尽くしました」

 

その言葉を聞いた瞬間、アキラの足の力は抜けその場に跪き、声にならない悲鳴のような物を上げた。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「では我々はこれで」

 

そう言って医者はでていった。部屋に残されたのはアキラとセシルだけだ。セシルの家族は今向かっているらしい。

 

「…アキラ?」

 

「どうした?セシル」

 

アキラはセシルの手を握る。いつもよりセシルの手が軽い気がした。

 

「あのね…私、アキラの事好きだったよ」

 

「セシル…」

 

アキラは、涙を流した。セシルが悲しむだろうと思って、泣くつもりはなかったのに。だが耐えきれなくなってしまったのだ。

 

「家族としてじゃなくて、恋人としてだよ?」

 

「ううっ…くっ…」

 

アキラの涙が止まらなくなった。

 

「アキラの…お嫁さんになりたかった…お母さんに、なりたかったなぁ…」

 

「うくっ…セシル…お願いだ…死なないでくれ…ひくっ…」

 

無理な事は分かってる。でもセシルに死んで欲しくない。ずっと…一緒にいたい。アキラはそう思った。

 

「もう…アキラ、泣かないの…」

 

「セシル…いやだ…」

 

「あれ…お父様お母様…兄様…アキラも一緒だね。」

 

「セシル?何いってんだ?お父様もお母様もいないぞ?セシル?」

 

セシルの目が虚ろになり、呼吸が過呼吸になっている。アキラは肩を掴んで揺するが、セシルは一点を見つめたまま動こうとしない。

 

「皆、丘の上で何してるの…?」

 

「セシル?やめろ…そっちに行っちゃ駄目だ!セシル!」

 

「うん…セシルもすぐ行きます…」

 

「セシル!いくなセシル!!セシル!!!!!!」

 

最期に「みんな一緒だね」と言ったきりセシルは動かなくなった。呼吸もなくなった。この瞬間にアキラは今が現実なのか夢なのかよくわからなくなった。

 

「セシル?おい、冗談だろ?セシル…なぁ!!セシル!!セシルゥ!!!!」

 

それでもセシルは動くことはなかった。アキラは泣き崩れた。二人以外誰もいない病室でずっと泣き続けた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「そんとき分かったよ俺の手は守る事なんか出来やしない。そして似てた、さっきの後輩達の目が…セシルと…」

 

アキラがすべてを話し終わる頃にはギンガはうつ向いてしまっていた。しかしギンガは顔を上げてアキラの手をとる。

 

「橘君、確かにセシルちゃんのことは辛いし忘れられないかも知れない。でも…前を向こう?」

 

「ギンガさん…」

 

アキラはギンガの真剣な表情を見る。セシルと同じに見えたが、さっきの後輩達とは違う。何かは分からないが違う。気持ち悪くなかった。

 

「それに橘君、これも忘れないで。あなたが私を守ってくれたから今の私がいる。あなたの手は今もしっかり……守る事ができる…」

 

アキラの目から涙が零れた。アキラは涙を拭い、一度深呼吸をしてからギンガに言った。

 

「ギンガさん、俺にあんたを…守らせてくれ」

 

「えっ…」

 

 

続く



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第三話 姉妹

短くてすいません……。
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医務室では、少し冷たい空気が流れていた。

 

「……えっと…その…え?」

 

「あんたは今、俺の手はまだ守れるって言ってくれた。だったら試させてくれ。本当に、俺の手がまだ誰かを守れるか」

 

アキラはギンガに握られた手を握り返した。ギンガは顔が一瞬赤くなる。

 

「いいか?俺があんたの護衛になっても」

 

「えっと…」

 

アキラがぐっと顔を近づけるとさらにギンガの顔は赤くなった。

 

正直、ギンガはこんなことになるとは思ってなかった。ただアキラに元気になってもらいたかっただけなのに。アキラは本気だ。一体どうすればと悩んでいるのもあれなので、とりあえず受け入れることにした。それで彼が立ち直ってくれるならと…。

 

「それじゃその………まぁ、君がそれでいいなら…………」

 

ギンガはもじもじしながら、少し目をそらして答える。

 

「必ず守る。ギンガさん、あなたを」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

―翌日―

 

 

「えー先日はすまなかった。今後はこんなことがないよう、気を付ける」

 

アキラは後輩達の前に立ち、昨日の失態について謝罪している。さて、それを聞いている部下達は…………震えていた。完全にアキラのオーラに負けてる。昨日と違う、獣のような鋭い目つき、しゃべり方。何というか、アキラはいるだけで根源的な恐怖を植えつけられるような感じの人物だった。

 

「まぁ謝罪はここらへんにしといて訓練始めるぞ」

 

 

 

―訓練開始―

 

 

 

本日のメインは中距離射撃。おまけで格闘。訓練が開始されてから10分程すると射撃訓練中に数人がアキラに呼ばれた。ギンガはあのアキラがちゃんと教官ができるか心配だった。

 

「なな、なんでしょう。橘陸曹…」

 

呼ばれたメンバーはかなり震えている。やはり怖いらしい。

 

「お前達を呼んだのは…共通する癖があってな。ちょっと全員構えてみろ」

 

言われた通り全員がすぐに構える。

 

「…ほら肩に力がはいってんだよ…で肘を少し曲げて…ああそうだうめぇぞ…」

 

「へぇ…」

 

ギンガは驚いていた。アキラは教えるのが上手かったからだ。その性格と見た目に反して、ただ無駄に怒鳴ったりせず、優しく手取り足取りを分かりやすくゆっくりと、なおかつしっかり覚えさせる。そのおかげか全員命中率が格段に上がった。

 

格闘訓練の際もそうだった。

 

「だからな、ここをこうして…手で抑えて足をかけて相手の右手を……」

 

教官っていうか学校の先生のようだ。後輩の成長が早くなっている。それにギンガ達も教え方のいい勉強になっていた。

 

 

ー訓練後ー

 

 

昨日、橘君が私を守ると言ってくれた。あの時はつい了承したけど………正直それで本当に良かったのか分からない。

 

しかしそれはそれとして、橘君の護衛は少しやりすぎてる。

 

昨日も今もそうだけど、仕事中に友達だろうと仕事関係だろうと私に近寄る人がいるならその人にガンを飛ばし、いつの間にかどこから取り出したか分からない刀を手に持っている。帰りは送ってくれたのはいいんだけど、今朝なんか家の前にいて、管理局まで一時も離れない…橘君には悪いけど、少し異常だと思う。

 

さて、噂をすれば影。

 

「あ、いた…」

 

橘君はついさっきデータエラーの処理と戦闘中だったので声を掛けるのも悪いと思い、私は一人で食堂に来ていた。守ってくれるのは嬉しいけど一人の時間も欲しかったっていうのもある。

 

「相席…良いか?」

 

「うん、いいよ」

 

私の隣の席に橘君は座り、昼食をとった。刀を肩に掛けながら。

 

…これって相席って言わないんじゃ…。

 

「ギンガさん…」

 

「どうかした?」

 

「ギンガさんの家族はどんなんだ?構成とか」

 

「え…」

 

橘君はいつも何を考えているか分からない。なぜかよく私への質問が来る。今日は私の家族…みたい。知ったところでどうするわけでもなく、多分アキラ君にとっては話題のつもりなんだろうけど…。正直あまりプライベートに触れて欲しくはなかった。

 

「うん…お父さんと妹がいるよ」

 

「……失礼を承知で聞くが…母親は…」

 

「やっぱり気になるよね…お母さんは…死んじゃったよ。もう何年も前に」

 

「………すまない…辛い事言わせて…」

 

橘君らしくなく、少し暗い。いや、いつも明るい訳じゃないけど。

 

「ううん、いいのよ別に。誰かに話すのが初めてじゃないし。今さら気にしたってしょうがないしね」

 

 

―数日後―

 

 

俺がギンガさんを守ると決めてから数日。

 

「頼み事?」

 

「うん」

 

ギンガさんに突然頼み事をされた。なんでも前に話していた妹さん…スバルに届けて欲しいとのこと。俺は周りを一回見渡す。暇そうにしてる人物ならいそうだが…。

 

「べ、別の人間に頼めよ。俺はあんたのそばをなるべく離れたくないんだ」

 

「私も友達とかに頼もうと思ったんだけど、みんな忙しいみたいで………もうアキラ君位しか頼める人いなくて…」

 

ギンガさんは申し訳なさそうにする。俺は少し考えてからため息をついた。

 

「……まぁ今日はあんま仕事ねぇしいいか」

 

「ありがとう、橘君」

 

「なんてことねぇよ」

 

俺は荷物を受け取ると、ダッシュで駐車場まで走る。緊急用に108部隊の駐車場にバイクを止めといてある。とっとと済ませたいから俺はバイクで行くことにした。

 

 

―機動六課―

 

 

「さて…来てみたはいいが…スバルがどこにいるか分からないな…」

 

見たところ朝の訓練は終わってるみたいだ。

 

どうしようかと悩んでいるところで茶髪でサイドテールの人と金髪ロングの人が訓練場から出てきたので道を聞くことにした。

 

「ちょっといいか」

 

「ん?」

 

「どうかしたのかな」

 

「俺は陸士108部隊の橘アキラ。同僚…いや、先輩のギンガ・ナカジマさんにこの荷物スバル・ナカジマに届けて来て欲しいって頼まれたんだが…そのスバルってどこにいるかわかるか?あ、いや、わかりますか?」

 

質問を聞いた二人は顔を見合せる。

 

「ギンガってスバルのお姉さん?」

 

金髪の人が疑問に思ったのか聞いてくる。

 

「ああ、その筈だが。あ、その筈ですが」

 

「やっぱり…ああ、スバルなら今訓練終わったばかりだから訓練場の近くにいると思うよ」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

俺はそのまま訓練場に向かっていった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「なのは、さっきの子…」

 

「うん…機動六課候補の…アキラ君だっけ。見た目は怖そうだけど、可愛いとこもありそうだね」

 

「いやそう言うことじゃなくて…」

 

「にゃはは♪」

 

 

―機動六課 訓練場―

 

 

「さて…着いたはいいが良く考えたらスバルの顔知らねぇな…どうするか」

 

アキラは訓練場を見回す。訓練場には合計四人の隊員がいて、訓練終了後の柔軟体操をしているが、アキラには気づいてない。アキラは当然分からないので人に訪ねる事にした。

 

近くにいたオレンジ髪のショートツインテールの子に訪ねる。

 

「ちょっといいか?俺は陸士108部隊のアキラって言う。スバルってやつに届け物があるんだが…スバルはどいつだ?」

 

「え、ああ…スバルならあそこにいますよ」

 

その子が指さす先の席にはショートカットの青髪の子がいた。確かにギンガと似ている。アキラはそう思った。

 

「ありがとな。また」

 

「はい…」

 

アキラが近づいていくとスバルはアキラの存在に気づいた。

 

「いっちに…ん?」

 

「お前、ギンガ・ナカジマの妹のスバル・ナカジマだな?」

 

「え……そうですけど…」

 

スバルだと確認をしたアキラはスバルにギンガから預かった紙袋を差し出す。

 

「ギンガさんの使いで来た橘アキラだ。これをお前に渡すよう頼まれた」

 

「あ、わざわざすいません。姉が迷惑かけて…」

 

「いや、迷惑じゃないからいいんだ…」

 

「そうですか…ありがとうございました」

 

そしてアキラは一つ礼をして、「じゃあまたな」と言って訓練場を後にした。

 

アキラが帰ろうとした時、六課のアラートが鳴り響く。機動六課にとって初の仕事ファーストアラートだ。アラートに身体が勝手に反応し、走り出そうとするが、自身にはとってはあまり関係ないことを思い出す。

 

「アラート!?って俺には関係無いよな」

 

アキラがギンガの元へ帰ろうと、バイクに跨った時。

 

「あ、いたいた。おーい!」

 

さっきの茶髪サイドテールの人がアキラを呼び止めた。

 

 

続く



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第四話 前兆

なのセントでギンガのカードがようやく出ましたね。これでギンガのデッキが作れそうです。(^ ^)
感想、評価、お気に入り登録、随時募集中でーす!


(…なぜ俺はこんなところにいるのだろうか)

 

気づけばアキラは機動六課のヘリの中。作戦の内容をリイン曹長から聞いている。今一通り説明は終わったがアキラはほとんど聞いてなかった。

 

「………と言う訳でなにか質問はあるですか?」

 

「リイン曹長、質問だ」

 

アキラはゆっくり手をあげた。

 

「はい、なんです?」

 

「な、ん、で、俺が機動六課の初任務のお守りしなきゃなんねぇんだ」

 

「リインはちょっと分からないです…」

 

リィンは苦笑いを浮かべる。

 

「チッ!」

 

アキラは舌打ちをしてふんぞり返った。その様子にFW達は軽く怖がってる。スバルやティアナはともかく、アキラの横に座っているキャロは完全に固まってしまっている。

 

(たくっ…なんでこんな事に…)

 

アキラはついさっきアラートがなった際に、茶髪のサイドテール…噂のエースオブエースの高町なのはに引き止められ、この任務に同行してくれないかと頼まれた。もちろんアキラは最初は断った。だがなのはの威圧感と柔軟な手管により、今に至る訳である。ちなみになのはには出撃すると言われ、逃げられた。

 

アキラは今すぐ帰ってギンガの側にいたいというのに。

 

さて、アキラがそんなこと考えている内にいつの間にかスバルとティアナは出撃していた。次はエリオとキャロだが、二人仲良く緊張している。特にキャロはエリオより緊張している。

 

「……たくっ」

 

アキラは頭を掻きながら二人の方にいく。

 

「よう」

 

「あ…えっと橘アキラ陸曹ですよね?」

 

キャロはアキラの事を少し怯えた目で見た。アキラはキャロと目線が合うようにしゃがむ。

 

「…大丈夫か」

 

「はい…ただ上手くやれるかどうか…不安で。私まだフリードをうまく扱えるかどうか……みんなの足引っ張っちゃうんじゃないかって……」

 

新人で一番多いのはきちんと結果を残せるか不安に思ってるやつだとアキラは知っている。訓練校時代のアキラのパートナーもよく結果が残せるか不安とぼやいていたからだ。キャロはその典型例だった。

 

「はぁ…別に俺は機動六課の上司でもなんでも無いけどよ……ただ一つ言っとくな。満点取れとは誰も言ってねぇ。取りあえず今は自己ベストを取れ。満点なんてそんなん先の話でいいんだよ。な?これでもしお前の教官に文句言われたんなら俺に言え。ぶっ飛ばしてやるよ」

 

「いや、そこまでしてもらわなくても……多分、私の教官は文句なんて言わないと思いますし……でも、ありがとうございます!ちょっと自信がつきました!」

 

キャロが少し元気を取り戻した様子。エリオと仲良く一緒に飛び降りて行った。

 

「あー…六課の手伝い、橘アキラ、出る」

 

面倒くさそうにアキラも飛び降りて行く。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

(ねぇなのは、なんであの子を任務に誘ったの?)

 

戦闘中、フェイトはなのはに念話で話しかける。なのはがしたことに疑問を抱いていたからだ。

 

(ほら、あの子、六課候補でしょ?だから実力知っておきたいし…)

 

「頑張ってるけどまだFW部隊も心配だしね」

 

そう言ってなのはは車両を見つめる。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「じゃあ行くか」

 

アキラは車両の屋根に立つと、刀で屋根の一部を八等分にして車両内に侵入する。車両内にはガジェットがうじゃうじゃいた。ガジェットはアキラに気づくと触手を伸ばして攻撃を仕掛けて来る。アキラは少しため息をついて刀を構える。

 

「こいつらが…ガジェットか…はあぁぁぁぁ!!!!!!」

 

伸ばされた触手を切り落とし、アキラは追加で伸びてきた触手は持ち前の運動神経で回避し、ガジェットとの間合いを詰めて一気に三機まとめて真っ二つにした。

 

少しすると、リインからアキラに連絡が入った。

 

[橘陸曹!いい忘れましたがガジェットにはAMFという魔力を無力化するフィールドが…ってあれ?ガジェットは…]

 

「俺の足下で鉄屑になってるが?」

 

ガジェットは意外と鈍感な動きである。アキラは一機また一機と倒して行き、射撃の攻撃も見え見えで楽にかわせたので一車両終わらせるのに10分かからなかった。

 

ちなみに簡単に終わらせた理由の一つとしては、アキラが使っている武器がただの刀という点もある。魔力に頼らない戦力であれば、ガジェット相手ならむしろ有利だ。

 

「ふぅ…次」

 

アキラはドアを蹴り飛ばし、次の車両に入る。

 

アキラが車両に入った瞬間、魔力砲がアキラに向けて一斉に放たれた。

 

「おっと」

 

アキラはそれを華麗にかわし、刀を構える。すぐに触手がアキラを襲ったが、さっきと同じように、焦らず叩き切って対処する。そしてさっきよりも素早い動きでガジェットを破壊して行った。

 

「俺をとっとと帰らせろぉ!!!」

 

刀を振るい、ガジェットを切り刻みながらやけくそに進んでいくと壁にぶつかった。

 

「いて!!」

 

どうやらちょうど中心の車両、保管庫に到達したようだ。つまり、今回の確保目標の「レリック」が保管されてる場所に。アキラがいる場所からは入れないので一度上に出てからまた反対から入らなければいけないのだが…。

 

「めんどくせぇな…」

 

アキラは刀を壁に触れるか触れないかのところに構え、刀に魔力を送った。アキラの足元に魔法陣が展開され、魔力周りの温度が少しずつ下がって行く。

 

「氷刀…………一閃!!!!!!」

 

アキラは刀に氷結属性を付与した一撃で壁を見事なまでに粉々に砕き、保管庫に穴を開けた。保管庫にはそこそこ大きいケースがいくつも保管されている。アキラはなんとなく聞いてた作戦の中でみた、今回の捕獲対象のケースを手に取る。

 

「これか…」

 

レリック入りのケースを確保したアキラはリインに通信をとった。

 

「リイン曹長、目的の物を確保した」

 

[橘陸曹!わかりました!でもそこから先に行っちゃダメですよ!?]

 

「あ?」

 

[アキラ陸曹がどうやって保管庫に入ったかは知りませんがレリックが保管されてた車両の入り口に…新型のガジェットが二機います!!新人には荷が重す]

 

アキラは途中で通信を切り、保管庫の本当の入り口に向かおうとすると、後ろから声がした。ガジェットIII型を倒したエリオとキャロだ。

 

「橘陸曹!」

 

「ん?ああ、お前らか」

 

 

―保管庫入り口前―

 

 

「くっ…新型が二機同時になんて…っ!」

 

ガジェットⅢ型が突如スバル、ティアナ、リインの前に現れ、行く手を阻んでいる。正直ほっといても良いのだが敵戦力を減らすことは必要だ。ガジェット全滅が任務の一部でもある。

 

「どうしよう…」

 

その時、保管庫の中から声が聞こえた。

 

「IS、ハッキングハンド!!」

 

すると、厳重な電子ロックがされていた筈の保管庫の扉が開き、中からレリックのケースを持ったアキラが出てきた。

 

「アキラ陸曹!?」

 

「…なるほど、確かにお前らならいい相手になりそうだ。さっきから溜まってる俺のストレス…発散させてもらう!!」

 

アキラは刀を抜き、ケースを上に投げる。ガジェットはそれを捕獲しようと触手を伸ばすが、瞬時に触手は切り落とされた。ガジェットが切り落としたアキラを見ようとした瞬間にはアキラはさっきいた場所にはいない。

 

「わっと!」

 

「キャロ、ナイスキャッチ!!」

 

投げられたケースをキャッチしたのはキャロだった。

 

「離すなよ」

 

ガジェットの目の前まで迫ったアキラがつぶやく。アキラに向かって別の触手が伸ばされたがアキラはスライディングで触手から逃れ、触手を根本から切り落とし、二機の内一機に刀を突き刺す。

 

「ECディバイダー!!」

 

左手に銃剣を出現させ、もう一機に銃剣の刃を突き刺し、引き金に指を置く。

 

「AMFだかなんだか知らねぇが、零距離なら発動出来ねぇだろ?」

 

そう言ってアキラは引き金を引き、魔力弾を連射し、刀と銃剣を同時に引き抜くと二機のⅢ型は爆裂四散した。刀を鞘に納めたアキラはキャロの持ってるケースに異常がないか確認すると、その場から立ち去る。

 

「任務完了ってな」

 

その後レリックは六課により無事に確保され、封印処置をうけた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

機動六課の任務を手伝い、そのあと何故か報告書までまとめさせられた(もとい、アキラのお人好しにより)ので帰りは22時になってしまった。

 

アキラは夜道を猛ダッシュしている。理由はギンガを家まで送るため…とは言ってもきっと一人で帰っているだろう。だが、もしかしたら…と言う小さな希望にアキラは賭けていた。

 

 

―陸士108部隊入り口―

 

「ギンガさん…」

 

「あ、お帰り橘君」

 

22時を回ったのにギンガは入り口で待っていた。

 

「なんで…」

 

「なんでって…今日も送って行ってくれるんでしょ?」

 

ギンガは微笑みながら手を差し出す。

 

「あ…」

 

その仕草が、アキラの視界でセシルと重なった。アキラは顔を赤くしながら差し出されたギンガの手を取り、顔を見られないようにギンガの手を引っ張る。

 

「と…当然だ!あんたは俺が絶対守る…」

 

「ありがとう。やっぱり橘君はやさしいね」

 

「し…知るか…」

 

(耳まで真っ赤…可愛い)

 

ギンガはそんな事を思いながら、アキラに引っ張られていく。

 

 

―ナカジマ家―

 

 

アキラに送られたギンガは一人部屋で悩んでいた。

 

(やっぱり言うべきなのかな…)

 

「ギンガ?」

 

「!。父さん…」

 

「お前…大丈夫か?今日は帰り遅かったし…」

 

「大丈夫です…私の私情だから…」

 

ギンガは布団に入ろうとしたがゲンヤの一言がギンガを止めた。

 

「またあのアキラとかいうやつか?」

 

「!」

 

ギンガはゲンヤを見ずに言った。

 

「だったら…なに?」

 

「いや別に…ただ…深い関係になる前に伝えるべきことは先に伝えとけよ。また面倒な事にならない内にな…」

 

「私は別に…」

 

「別に俺はあいつを否定する訳じゃねぇ。あいつは強いし仕事もできる、コーヒーもうまい。ま、無愛想なのが欠点だがな。そんなやつとお前が深い関係になるのは構わねぇ。だが…真実を伝えて離れないような人間かは…見分けとけよ?…前のやつみたいにならないようにな」

 

前のやつとは…ギンガが昔付き合ってた男の事だ。ギンガが自分が戦闘機人だと打ち明けた瞬間にいなくなった男。ショックのせいでギンガは一度自殺しようとした。自分がどんな存在か、理解した上での事だ、余計にショックだったのだ。信じていた人に裏切られるのが。ギンガは…アキラを信じていながら、心のどこかで不安に感じている。まだ恋人でもないが…自分を大切にしてくれる以上、自分を慕ってくれる以上、速くとも遅くとも打ち明かさないといけないことだ。

 

返事をしないギンガをすこし見つめて扉を閉めようとする。

 

「父さん、待って!」

 

「うん?」

 

「ひとつ…聞いていい?」

 

「なんだ?」

 

「どうして…橘君の保護責任者を引き受けたの?」

 

ゲンヤはため息をしてから答える。

 

「少ししたら話す」

 

ギンガの部屋の扉が閉められた。

 

「…」

 

(気のせいかな…あんな顔の父さん初めて見た気がする…)

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

その日の夜、アキラ達の活躍は、ニュースで報道されていた。そのニュースを見ている一人の男。男はただニュースを眺めているだけだったが、映像にアキラが出た瞬間、椅子から急に立ち上がった。

 

「………良かったまだ生きてたんだね?アキラ君……」

 

 

続く



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第五話 橘彪

ギンガのデッキ(仮)が完成しました〜!うれしやうれしや。

コメント、評価、投票、随時募集中で〜す!


「機動六課から客?」

 

ある日の朝、ギンガを迎えに来たアキラは、ギンガと一緒に出てきたゲンヤにそれを伝えられた。

 

「ああ、捜査協力の依頼だと思うがな」

 

「それで私が六課に出向することになると思うんだけど…橘君はどうs」

 

「ついてく」

 

質問を全部聞く前にアキラは答える。

 

「だって」

 

「ほいほい…じゃあ八神のやつに頼んどくわ…ところでよ、アキラ」

 

「あ?」

 

普段あまり話さないゲンヤに声をかけられ、アキラは少し驚く。

 

「お前さん、ギンガの護衛だとか言ってるが…ギンガが家にいる時は当然だがお前さんの姿は見かけない。もしギンガが家にいる時になんかあったらどうすんだ?」

 

その突然の質問に驚いたのはギンガだった。

 

「ちょっと、父さん!」

 

「もしもの話だ。もしもの。ただ、本当に守りたいって考えてんなら…なんか対策してんだろうな?」

 

アキラは顔色一つ変えずに答える。

 

「当然だ」

 

そう言うとアキラは右腕につけていたデジタル腕時計の様なものを操作し始める。

 

「全機集合」

 

腕時計に向かって指令を出すと、ナカジマ家から、数機のロボットが出てきた。

 

「…」

 

「なんだ…こいつら」

 

「監視用のカメラ付きポッド。緊急事態になったら俺のこの時計に連絡がくる。侵入者がいたなら俺の家から「408 チェイタック」あ……まぁ狙撃銃で狙い撃つ。撃っても防ぎきれなかったらこのポッドが緊急事態を知らせてギンガを逃がす」

 

ゲンヤとギンガはぽかんとしている。それはそうだろう。守らせてくれと言われ、大体二週間。それだけでここまでやるアキラに驚いていたのだ。そこまでするかと。

 

「なるほど、だがなアキラ」

 

「なんだ」

 

「それ使って覗きとかしたらただじゃおかねぇからな?」

 

「しねぇよ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

―陸士108部隊―

 

「ギンガー!!」

 

「リイン曹長!!」

 

昼下がり、ギンガさんにお茶を淹れてくれと頼まれ、本格的な茶を淹れてるとあのちっこい曹長が、俺達の所に来た。

 

「お久しぶりです~」

 

「はい、お久しぶりです」

 

あのちっこい曹長とギンガさんは知り合いだったらしく、二人が楽しそうに話している。そこにお茶をお盆にのせた俺が現れると、ちっこい曹長は満面の笑みを見せた。…特に好かれてる訳じゃないと思ったんだがな…。

 

「久しぶりだな」

 

「あ、橘陸曹!この間はお疲れさまです~」

 

「ああ、疲れたぜ?どっかの使えない新人達のお守りは」

 

「つ、使えない訳じゃないです!!みんなまだ才能をうまく発揮できてないだけです!!」

 

「どっちにせよ今現在発揮できなきゃ使えないのと一緒だ」

 

人に好かれるのは嫌いじゃないが、俺の近くにいるとあまりいいことはない。だから俺は冷たく言い放つが、俺の言い方が気にくわなかったのかギンガさんが俺に注意した。

 

「橘君、その言い方はいくらなんでもひどいよ」

 

「フンッ。ほら、お茶」

 

「…ありがとう」

 

ギンガさんは茶を受け取り、部隊長同士が話している部屋に入る。俺とちっこい曹長も一緒に部屋に入った。

 

「入ります」

 

「あ、ギンガ!」

 

「八神部隊長お久しぶりです!」

 

部屋にはウチの部隊長と六課の部隊長…と呼ぶには若すぎる奴がいた。なんかタヌキ見てぇ。

 

「どう?元気?」

 

「はい、おかげさまで。あ、どうぞ、お茶です。このお茶この橘陸曹が淹れたんです」

 

「ほぉ、ちょっといただきます。…美味しい!」

 

「そうでしょう?お茶とかコーヒー淹れるの上手なんですよ」

 

「ふぅーん、男子は見かけによらんからなぁ。右目だけ前髪で隠すなんて、いかついことしてる割に家庭的なんやなぁ………隙あり!!」

 

六課部隊長がギンガさんの隙をみて、なにかしようとした。俺はなんの躊躇もなく刀を六課部隊長の首すれすれに当てる。

 

「え…」

 

六課部隊長は冷や汗流しながらその場に止まってた。

 

「ギンガさんに手をだすな」

 

「あ…は、はい…すんまへん…」

 

六課部隊長はとぼとぼと席に戻った。ウチの部隊長とギンガさんはなぜかため息をついている。俺、なんか間違ったことしたのだろうか?

 

「じゃあ私たちはこれで」

 

ギンガさんはお茶を置くとそそくさと俺を連れて部屋をでる。そして、部屋を出るといきなりギンガさんに叱られた。

 

「ちょっと橘君!どういうつもり!?」

 

「なにがだ?」

 

「部隊長さんにあんなことするなんて!はやてさんだったからよかったものの!!」

 

「あんなこと?ああ、言っただろ?俺はあんたを必ず守るって」

 

「いくらなんでもやりすぎだよ!今朝だって…家にあんなにガジェット置いてるなんて…私を守りたい気持ちはわかる。けど、橘君…あなたは限度って物を知らなすぎ!」

 

「………………ギンガさん、さっきからなんでそんなに怒ってんだ?」

 

俺が尋ねるとギンガさんが俺にビンタを食らわせた。

 

頬がじんじんと痛むのがわかる。

 

「…」

 

「…少しは常識ってものをしらないの!?」

 

ギンガさんは俺を少し睨むとスタスタとどこかへいってしまう。

 

「ちょっと!ギンガー!!」

 

ちっこい曹長は後を追いかけて行った。

 

正直、なぜ俺が今叩かれたのか全くわからない。俺はギンガさんを守りたい。ただそれだけなのに…。でも、わかることは一つだけある。それは…ギンガさんが怒ったのは俺にはわからないけどギンガさんにとって怒る程の行いをしてしまったってことだ。それだけわかれば充分だ。やることはたった一つだけだ。

 

 

―陸士108部隊入り口―

 

 

「ちょっとギンガ、どこに行くですか~!これから会議があるですよ!」

 

「すぐに戻ります!」

 

本当に信じられない。確かにちょっと不思議な人だと思ってたけどあそこまで常識知らずとは…。目上の人に失礼なことをしたのに謝まるどころか失礼なことをしたのを自覚してないなんて…。

 

「ギンガ~」

 

「…リイン曹長、すぐ戻りますからついてこないでください」

 

「ダメです」

 

リイン曹長は強気な顔をしながら私の周りをフワフワ飛んでる。多分私がちゃんと戻るまで見張ってるつもりだろう。

 

はぁ、とため息を出したそんな時、地下道への入口を見つけた。

 

「…」

 

私はなんとなく地下道へ入る。

 

「ギンガ…こんなとこになんの用があるですか?」

 

「いえ…なにかあるわけでは…」

 

しばらく進むと見覚えがある場所に着いた。

 

刀の傷跡がある曲がり角。これは橘君を私が尾行してた時に橘君が私に刀を突きつけた時に出来た傷。…意外と108の隊舎から近かったんだな…。

 

「…」

 

「橘君…」

 

(言っただろ?俺はあんたを必ず守るって)

 

さっきの橘君の言葉を思い出した。

 

「あの…ギンガ…」

 

「はい?」

 

リイン曹長がおずおずと私に尋ねてくる。

 

「その…個人情報なのであまり人に言ってはならないのですが…」

 

「はぁ…」

 

「橘陸曹のことです…」

 

 

ー応接室ー

 

 

応接室では、はやてとゲンヤが今後の事件の捜査について話し合っている最中だった。ゲンヤはちょうど良い話の切れ目で、アキラのことをはやてに話した。

 

「あのよ、ウチの捜査官の副官にギンガともう一人追加してそいつも一緒に機動六課に出向させたいんだが…構わねぇか?」

 

「ええ、いいですよその人、誰ですか?」

 

「それが…さっきお前さんに刀を向けた橘アキラ陸曹なんだが…」

 

「…構いまへんよ、元々そのつもりでしたから」

 

「あん?元々そのつもりって一体どういうことだ?」

 

はやてはお茶を一気に飲み干してからゲンヤに説明する。

 

「ウチの…いえ、機動六課はちょっと特殊な事情持ちの子も、心のケアを兼ねて部隊に誘ったんです。機動六課ができる前にアキラ陸曹も六課の候補に入ってました。今までに類を見ない程の新人エースでもありましたし…特殊な事情ももってましたから…」

 

「ああ、あいつに俺は細かくは知らんがあいつに何か事情があるのは知ってる。なんせあいつは…クイントが保護した子だからな…」

 

「そうやったんですか…ほんなら細かく、教えましょうか?」

 

「できたら頼む」

 

はやては頷くと、あるデータを取り出し、自分とゲンヤの前に出現させた。そこには何人かの幼い子供達とどこかの研究施設の画像がある。

 

「彼はAtoZ計画という計画で造られた人造魔導師です。このAtoZ計画っていうのはAからZの計26の人造魔導師を様々な分野で改造し、戦争や大規模なテロに使える様に仕立て上げるって内容なんですが…ある日その研究施設で不可解な事件が起きたんです」

 

「不可解な事件?」

 

「そこにいた研究員436人とAtoZ計画の少年少女24が様々な死体で見つかったんです」

 

「その…様々な死体ってのは例えば?」

 

はやてが少しキーボードを操作するとゲンヤの前に追加の画像が何枚か出現した。

 

すべて、死体の画像。

 

「凍結死体、焼死体、感電死体、斬殺死体…その画像もほんの一部です。もっとたくさんいろんな殺され方で…特に斬殺死体なんかは原型がとどまってないものも…」

 

「…なるほどな」

 

「ちなみに生き残ったのは、A、S、この二人だけ。この研究所はAtoZ計画以外にもキメラみたいな化物作ったりしてた上に、管理局が違法施設だと聞いて来た時にはその化物も全部逃げてましたから、そいつら化物の仕業ってことでこの事件は終わってます」

 

「…」

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

その頃、ギンガもリインから同じ事を聞いていた。もちろんクイントが関わっている事をリインは知らないのでその事はギンガは聞いてない。

 

「そう…だったんですか…」

 

「橘陸曹は保護されて、引き取られたのはいいんですが、傭兵会社でずっと訓練の毎日だったから常識的知識が足りないのはしょうがなくもあるのですよ…元々戦うためだけの戦闘兵器なんですから…結構人間不信なところもありますし…」

 

「…」

 

ギンガと似たような境遇ではあるが、心情的な部分に違いがある。

 

「…橘君」

 

「あとはやてちゃんが…胸を揉むって知らないのもあると思うです…」

 

「はい…」

 

ギンガが落ち込んでる時、ギンガの身体を触手が捕まえた。

 

「きゃあ!」

 

「ギンガ⁉…ガジェット…」

 

ギンガを捕まえたのはガジェットドローン等合計四機。

 

「くぅ…」

 

「ギンガを離すで」

 

「はぁ!!」

 

リインが動こうとした瞬間、リインの真横を誰かが目も止まらぬ速さで抜け、ギンガを縛る触手を斬り落としてギンガを脱出した。

 

「無事か!?」

 

「橘君…」

 

「橘陸曹!」

 

ギンガを助けたのは、いつのまにか地下道に来ていたアキラだった。

 

「何で…」

 

ギンガが尋ねるとアキラは相変わらずの無表情で答える。

 

「俺がいない時のためにポッドを常に一機、あんたを見守らせているからな」

 

「そうなんだ……………ありがとう」

 

アキラはギンガを降ろすと刀を構え直し、ガジェットドローンに向けた。そして足元に魔法陣を展開する。

 

「ギンガさんに手を出した罪、しっかり償ってもらうぜ」

 

アキラの身体にバリアジャケットが装備され、その上に白いコートを装着し、ガジェットドローンに突っ込む。刀に青紫の魔力がまとわり、その周りの気温が下がった。

 

「はぁぁぁ…氷刀一閃!」

 

触手をかわしつつ、ガジェットドローンの前まで来ると氷結属性の魔力が付与された刀の一撃でガジェットドローンを撃破した。

 

「ふぅ…」

 

「すごいですぅ〜!」

 

アキラはバリアジャケットを解除し、ギンガに近づく。さっきの自分の態度を申し訳なく思ってるギンガは自然と顔をそらしてしまう。ギンガは何か言われるのではないかと思い緊張していると、アキラは予想外の行動をとった。

 

「ギンガさん、すまなかった‼俺が常識知らずなばっかりに…あんたに迷惑かけちまった…本当にすまない!どうか…許してくれ…」

 

アキラは必死に頭を下げ、謝っている。ギンガが事情を聞いたことを言おうとするとリインに念話で止められた。

 

(ギンガ、一応個人情報なので…あのことは…)

 

(わかりました)

 

ギンガは頭を下げているアキラに言う。

 

「もういいよ、橘君。次から気をつけてくれれば」

 

「そうか…すまなかった」

 

アキラは安心した顔をした。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

その後、アキラ達は108の隊舎に戻り、捜査主任のラッド・カルタスと会議し、機動六課に頼まれた捜査について話した。それが終わると、はやてとゲンヤにつれられ、食事をしに行った。

 

「いやぁ、さっきはすまんかったなぁ。まさかアキラ陸曹とギンガが付き合ってるなんて知らんかったから」

 

その言葉にアキラは飲んでいた味噌汁を吹き出してしまう。

 

「いきなり何言い出すんだあんたは!?」

 

アキラの慌てぶりにはやてはキョトンとしている。

 

「さっき私が殺されかけたのってそれが理由なんちゃうの?」

 

「当たり前だ!」

 

いつも無表情のアキラが慌てているのを見て、ギンガはクスクスと笑った。そして、それと同時に気づく。アキラは今まで一度も自分の前で笑ったことがないと。

 

続く



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第六話 接近

二日連続です。
寝ぼけてたので、何かおかしなところがあったらご指摘願います。

感想、評価、投票、随時募集中です。


橘君は、顔や性格に似合わずとても優しい人だ。いや、私に対しては特別優しいのだと思うけど、他の人にもそんな一面を見せることもある。優しくて、多分これからもずっとそばにいてくれる。私が他の人と結婚したとしても、そばにいてくれる気がする。

 

でも、一つだけ不安なのは、本当の私を受け入れてくれるかどうか…。橘君がどんな出生かは知った。今度は私の番だと思う。

 

私は決意した。包み隠さず話そうと。

 

 

ー翌日 朝ー

 

 

「おはよう、橘君」

 

「よう」

 

軽い挨拶をし、アキラが歩き始めた時、ギンガはアキラを呼び止めた。

 

「待って!!」

 

「ん?」

 

「あの…今日の仕事終わったあとに………空いてないかな…?」

 

アキラは少し驚いた表情を浮かべていたが、頷いた。

 

 

ー陸士108部隊 オフィスー

 

 

今日の朝、急にギンガさんが俺に夜空いてないかと、尋ねられた。一人暮らしだし、帰りが遅くなっても心配する奴はいないから構わないんだが。

 

しかし、一体なんの用なんだろうか。………俺の勝手な護衛はもういらないと言われるのだろうか……。正直、それだけは嫌だ。ギンガさんのためにここまで来たんだ。それだけは……。それに、あの人との約束もある。

 

にしても……………。

 

「ギンガ陸曹、この書類確認お願いします」

 

「……」

 

「ギンガ陸曹?」

 

「え!?」

 

「あの…書類…」

 

「あ、はい。見ておきます」

 

今日のギンガさんは何か変だ。ぼーっとしてるし。何か言っても何かと上の空だ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

―夜 公園―

 

ギンガはアキラを連れて、夜の公園に来ていた。アキラをベンチに座らせ、ギンガは飲み物を買ってくると言い、自販機の前で決意を固めていた。

 

「言う…ちゃんと言う…絶対逃げない…」

 

言って、きっとアキラは受け入れてくれるとギンガは信じていた。でも…もし拒まれたら?今度こそ自分はどうなってしまうかわからない。もし仮に、本当にもしもの話、拒絶されても…私もアキラ君の秘密知っちゃったから、おあいこだよね?そんなことを言い訳に勇気をつけている。

 

「とにかく…言わなきゃなにも始まらない…!」

 

ギンガは買ったお茶を手に、アキラの元に戻った。

 

「おまたせっ!」

 

「おう…やたら遅かったが…なんかあったのか?」

 

「ううん…」

 

「そうか…」

 

そこから、少しだけ沈黙だった。

 

「…で、話ってなんだ?」

 

「うん…あのね?」

 

拳をぎゅっと握り、「逃げるな!」と自分に言い聞かした。逃げても何もならない、自分の中にモヤモヤが残るだけだと。

 

「あの…実は私…」

 

「…」

 

「その…普通の人とは違うんだ…」

 

「違う?」

 

「せ…戦闘機人っていってね?人と機械を融合させて戦闘能力とかを格段に上げる…私は…そういう存在なの…」

 

「…」

 

話してる途中でアキラの顔がまともに見れなくなり、下を向いてしまったので今アキラがどんな顔をしているか分からなかった。さっきよりも重い空気が二人の間を流れた。

 

「そうか…」

 

アキラはゆっくり頷いた。頷いた時の表情が心なしか微笑んでる気がした。

 

「嫌いに…なった?」

 

「んなわけあるかよ」

 

その言葉にギンガの気持ちはとても明るくなった。

 

「本当?」

 

泣きそうになりながら、ギンガはなんとか涙を押さえて聞いた。

 

「お前が…ギンガさんがどんな身体であろうと関係無い。俺は、俺がギンガさんを守りたいから守るんだ」

 

「橘君…!」

 

ギンガはアキラに抱きついた。

 

「うわわ!」

 

我慢していた涙がギンガの頬を伝った。

 

「ありがとう…優しくて…」

 

「ん…あ…ああ」

 

アキラは柄にもなく照れてる様だった。

 

(ようやくわかった…あの時なんで護衛を断れなかったのか…私は…この人の事が好きなんだ…)

 

自分の想いに気付き、少しの不安と喜びに浸っていると、アキラが口を開く。

 

「あの…ギンガさん…」

 

「ん?」

 

「そろそろ離れてくれないと…その…周りの視線が流石に気になるってか…」

 

「…」

 

気付けば、周りには大量のギャラリー。

 

「か、帰ろ!橘君!」

 

ギンガは顔を赤くしながらアキラの手を引っ張った。アキラには見せてなかったが…ギンガは笑顔だった。

 

 

ー翌日 朝ー

 

 

ギンガは早起きして台所でなにかしていた。

 

「~♪」

 

「ふぁ~…ん?ギンガ、なにやってんだ?」

 

そこに珍しく早く起きたゲンヤがやって来てしまい、ギンガは慌てて何かを隠す。

 

「と、父さん!今朝は…早いのね…いつもは、もっと遅いのに…」

 

「ああ、なんか起きちまってな。で、なにしてんだ?」

 

ギンガはうまくごまかそうとしたが、ゲンヤにはごまかしきれなかった。渋々とギンガは隠していた物をゲンヤに見せる。

 

「弁当?何で急に」

 

「あ、私のじゃないの……」

 

反射的に返してしまったその返事をギンガは深く後悔した。何となくとか曖昧に答えればいいものを、ど正直に答えてしまい、思いっきり地雷を踏んでしまったのだ。

 

「じゃあ、誰のだ?俺か?」

 

「……君の…」

 

「ん?」

 

「橘君の…」

 

「は?何で弁当なんだ?食堂があるだろ?」

 

「なんでか知らないけど、橘君食堂にいてもコンビニとかで買ってきたパン食べてるから…食堂のご飯が嫌いなのかわからないけど、手作り弁当なら健康にもいいかなって…」

 

ギンガの話を全部聞くと、ゲンヤは深く頷く。

 

「やっぱよくわかんねぇなぁ、あいつは…まぁいいや。とりあえず一つ聞きたい」

 

「はい…」

 

「いつから付き合ってんだ?」

 

ギンガの予想を斜め上を行く質問にギンガは驚く。

 

「ち、違っ!!!違うよ!付き合ってるとかじゃなくて、いつものお礼とか…この間、橘君に嫌な思いさせちゃったから…」

 

「そうか、優しいな、お前は」

 

そう言ってゲンヤはギンガの頭を撫でたが、内心は複雑だった。いつギンガがアキラに持っていかれるか。

 

 

―昼休み―

 

 

昼休みになるとアキラはいつも通り昼飯を買うべく、コンビニに向かおうとした。

 

隊舎から出たところでギンガに止められる。

 

「橘君、待って!」

 

「あ?」

 

「お昼買いにいくの?」

 

「そうだが?…ああ、安心しろ、発信器もあるしポッドも見てる」

 

「あ、そうじゃなくて…その…これ…」

 

ギンガはアキラに丁寧に風呂敷で包んだお弁当を渡す。アキラはそのお弁当を物珍しげに見た。

 

「なんだこれ」

 

「なんだこれって、お弁当だよ。お弁当」

 

「弁当…どうして急に」

 

「ほら、橘君いつもパンとかばっかりだから…たまには、ちゃんとしたもの食べないと…ね?」

 

「…」

 

アキラが黙ってるのが、段々不安になって来たのかギンガは恐る恐るアキラに尋ねる。

 

「あの…ごめん、迷惑だったかな…嫌なら…」

 

ギンガが最後まで言い切る前に、アキラはギンガの頭をくしゃくしゃとなでてやった。アキラのお思いがけない行動にギンガは慌てる。

 

「あ、ちょっ…や、やめっ…髪がくしゃくしゃになっちゃうから〜!」

 

「ありがとうな」

 

「え?」

 

くしゃくしゃになってしまった髪を直しながら、アキラの顔を見ると、ギンガは驚いた表情を浮かべた。アキラは、若干だが微笑んでいる。

 

「こんな俺を心配してくれてよ…ありがとうな」

 

アキラはお弁当を持ち、近くのベンチに向かった。ギンガもついて行こうとしたが、アキラがさっきまで立っていた場所に何かの封筒が落ちてることに、気づいた。ギンガは誰のものだろうと思い、拾って中身を確認する。中身はセロハンテープで無理矢理繋げられ、二つ折りにされた紙が一枚。紙を開くとそこには「保護責任者契約書類 保護責任者 橘信造 保護受信者 橘アキラ」と書かれていた。

 

ギンガはアキラを管理局に誘った時の事を思い出す。

 

「ついでに保護者もいねぇから、管理局に入ろうとしても無理だ」アキラは確かにあの時そう言った筈。なのになぜアキラはこのような書類を持っているのか、ギンガが困惑しているとその書類を誰かが取り上げた。アキラだ。

 

「橘君…」

 

「悪い、俺のだ」

 

アキラはベンチに戻ろうとしたが、ギンガがアキラの腕を掴む。振りほどかれないように力強く。そして、アキラを問い詰める。

 

「どういうこと?橘君!」

 

「何がだ?」

 

「今の書類、橘君…保護者がいないって言ってたよね?なのに…どうして!?」

 

「…はぁ、座れよ。それと離してくれ」

 

手を離したギンガがベンチに座るとアキラも座り、お弁当を膝に乗せた。

 

「俺がセシルを殺してしまった日。その日の内に葬式は開かれた。葬式が終わってから俺は自殺でもしようと葬式場を出たら…セシルの両親に止められた。ああ、金持ちの一人娘を殺したから誰にも知られずにこの家に殺されるんだと思った。けど、そのセシルの両親はなんて言ったと思う?」

 

ギンガは首を振る。

 

「娘の…セシルの分まで生きてくれってさ…。正直、そんな気になれなかったが…俺が後追ったってセシルが喜ぶか…それを望むかって考えたらなんだか死にづらくなってな…。だったらせめて自分が置かれた状況を辛くしようと思った。俺がやってた傭兵会社の社長…いや、橘の家の義親父はそういう状況なら仕方ないって言って本当はクビになるところを助けてくれた。だが俺は辞表を出して傭兵を辞めて、橘の家と縁を切って一人で生きようとした。保護責任者契約書類を破り捨てて夜中に家を出ようとしたら義親父に止められて…これを渡された」

 

アキラは書類を折り畳んで封筒に入れ、管理局制服のポケットにしまった。

 

「捨てようとも思ったがどうにもな…」

 

「そうだったんだ…ご、ごめんね?疑っちゃって?」

 

「気にするな。なにも話さない俺が悪いんだ」

 

アキラはそう言ってお弁当を開く。ギンガはまた失敗してしまったと思った。辛い過去があるせいかアキラはギンガの前で一回も笑ったことがない。アキラが勝手に言ったとはいえ、守ってもらってるんだからせめて恩返しがしたいとギンガは思っていた。

 

そのことを忘れて変な質問をしたせいで、またアキラに暗い顔をさせてしまった事をギンガは後悔した。そして、考えた。今アキラに出来る最善のこと…。

 

「お弁当、美味しい?アキラ君」

 

アキラは目を丸くした。

 

「あんた、俺のこと名前で呼んだことあったか?」

 

「ダメだったかな?」

 

「いや、呼び方くらい好きにしていいが…なんで急に…」

 

「アキラ君は橘の家と縁を切ってるんでしょ?だから苗字で呼ぶより名前で呼んだ方が気が楽かなって」

 

ギンガが軽く微笑んで見せるとアキラは少し赤らめる。

 

「…あ、アキラ君」

 

「ん?」

 

ギンガはアキラにぐぐっと顔を近づけた。アキラは無表情を貫こうとするが、急なことだったので少し顔が赤くなっている。そして、アキラの頬を指でなぞった。

 

「ご飯粒ついてる♪」

 

ご飯粒をとり、くすくすと可憐に笑う少女を見てアキラはまた思う。セシルに似ていると。そしてギンガも気づく、アキラは自分を見ているんじゃない。自分を通して誰かを見ていると。

 

 

ー翌日 陸士108部隊 食堂ー

 

 

「はぁ…」

 

「おやおや〜。珍しいですね〜ギンガ陸曹が食堂で一人なんて〜」

 

「あ…メグ…」

 

ギンガが食堂で一人でいると、ギンガの同僚が話しかけて来た。

 

「ちなみに私は第二話で新人歓迎会でギンガと話してた面食いで、ギンガの同期、ヴァルチ・メグで〜す!!!」

 

「誰に言ってるのよ。誰に」

 

 

◆◆◆事情説明◆◆◆

 

 

「あっはっはっは!!じゃあ何!結局好きになっちゃったわけ!あっはっはっは!」

 

「ちょっ!メグ!声が大きい!」

 

ギンガが悩み事を話すと、メグは腹を抱えて笑った。悩み事とはアキラに恋をしてしまったこと。アキラが全く持って振り向いてくれないこと。

 

「でも、振り向いてくれないったって、あんたなりに頑張ってるわけ?」

 

「もちろんよ。でも………」

 

 

ー回想ー

 

 

朝、アキラ君が迎えに来た時なんだけど…。

 

「アキラ君〜おはよ〜」

 

走っていくふりをして、わざとこけて…その…下着を見せてアキラをドキドキさせるという作戦だったんだけど…。

 

「キャッ」

 

「おっと!大丈夫か?」

 

「…うん」

 

ー回想終了ー

 

 

「見事に助けられてしまいまして…」

 

「ダメだね〜。あんた、こういうことについての知識ゼロだからねぇ〜。美人で、性格もいいし、まぁ胸は多少あれだけどスタイルだっていいのに………もったいないねぇ〜」

 

メグは食堂で買った定食を食べながらいう。

 

「本当よね…」

 

「ところでその橘陸曹は?」

 

「お弁当作ったんだけど…今忙しいから後でいい、食堂で待っててくれだって」

 

ギンガはまた、ため息をついた。メグは食事を一気に終わらせると急に立ち上がる。

 

「?」

 

「しょうがないな、あんたは全く。このメグさんが一肌脱いであげよう!」

 

「え?」

 

ギンガが頭に「?」を浮かべていると、メグはギンガの後ろに回り、肩をガシッと掴んだ。そして、そのまま肩をゆっくりゆっくり揉み、肩のこりをとって行く。

 

「あ…ん…気持ちいい………」

 

ギンガが完全に油断したのを狙って、急にメグは揉む場所を肩から胸に変えた。

 

「キャア!?」

 

「相手を色目で惹きつけるんならスタイルを良くするのが第一!特に胸でしょ?」

 

「それはそうかもしれないけどぉ!ん…」

 

ギンガは必死に手を引き剥がそうとするがメグは手をあちこち動かし、捕まらないようにしている。

 

「ああっ」

 

「それそれ〜!大きくなぁれぇぇ!」

 

メグは調子に乗ってると、ギンガはかなりギリギリな感じで反論した。ギンガはあまり使いたくなかったが、馬鹿力でメグの素早い手首を掴んで無理矢理自分の胸から引き剥がす。

 

「痛たたたた!ごめんごめん!」

 

「まったく…」

 

ギンガは仕方なしにメグの手首を離した。メグは手首をさすりながらギンガに言う。

 

「しょうがない、こうなったらこのメグさんが橘陸曹に聞いてきてあげよう」

 

「何を?」

 

メグは笑顔でギンガに敬礼した。

 

「橘陸曹の好きな人♪」

 

「えっ!ちょっ!メグ!!待って!!」

 

メグは一気に走り去り、アキラの元に行く。

 

 

―陸士108部隊 オフィス―

 

 

アキラはオフィスで仕事をこなしていた。そこにメグがやって来る。

 

アキラは一瞬メグを見たが、すぐにデスクワークに戻った。

 

「ねぇねぇ、橘陸曹~」

 

「誰だ?」

 

アキラは何故かとても不機嫌そう。

 

「橘陸曹って…好きな女性とかいる~?」

 

初対面なのにいきなりそんなことを聞いてくるなんて、なに考えてんだと思いながらアキラはふてぶてしく答える。

「……いねぇよ」

 

「あら、いが~い!本当にいないの?」

 

「いねぇよ…俺は…もう好きって感情を抱かないことにしたからな…」

 

アキラはメグを全く見ずにデスクワークをしながら答えた。メグがさらに追求しようと顔を近づける。

 

「それって……なんで?」

 

「好きなんて感情抱いたら…きっと俺は弱くなるし、俺が好きだと思った物はみんななくなった。だから………もう好きなんて考えない」

 

アキラが言うと、メグも少し思うところがあったのか黙る。それと同時にアキラに通信が来た。

 

「はい」

 

[アキラか。事件が起こった。捜査協力の依頼が来てるから昼食ってすぐにギンガと部隊長室まで来てくれ]

 

「了解。残念だが、お話はここまでだ。それと俺に二度と近づくな」

 

アキラはメグを軽くあしらう様にし、上着をとって部隊長室に向おうとした。

 

「んもう、連れないのね」

 

「アキラくーん!あ、アキラ君いた!アキラ君、父さ……じゃなかった。部隊長からの命令聞いてない?」

 

「いや、聞いた。すぐに行く」

 

そう言ってアキラはギンガの方に振り向く。

 

「あ、お昼ご飯は?」

 

ギンガに言われ、アキラは自分の空腹感を思い出す。

 

「そういや……まだだったな」

 

「じゃあ、中庭のベンチにいて?お弁当持っていくから」

 

「ああ…」

 

 

ー中庭ー

 

 

アキラが中庭で待っているとギンガが五段重ねのお弁当を持って現れた。

 

「はい、お弁当」

 

「前回に増してデカイなオイ」

 

「あはは……つい張り切っちゃって。ま、まぁ食べて!?」

 

ギンガに言われた通りアキラは箸を取り、お弁当を食べ始める。時間もないので少し急ぎ足でアキラはギンガの手作り弁当を完食した。

 

「ふぅ。ごちそうさま」

 

「お粗末さまでした。行こうか」

 

ギンガは思い切ってアキラの手を掴み、手を引いて部隊長室に向かった。アキラは少し照れながらも、ギンガに手を引かれていった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー事件現場ー

 

ゲンヤから仕事を受け取った二人は事件現場に来ている。事件の内容は、なんでも物資を輸送していた輸送機が襲われたとのこと。事件か事故かの判断が難しいため、ギンガ達が応援に呼ばれたのだ。

 

「陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹です」

 

「同じく、橘アキラだ。手伝いに来た」

 

まずは現場の確認から始まった。ヒントは、運転手によるとトラックの下が爆発したという証言があると言うことだけだ。

 

「運んでいたのは缶詰めやペットボトル…爆発しそうな物はありませんが…」

 

アキラは荷物を少し漁る。ちょっと前は現場維持などお構いなしに荷物を蹴り飛ばしたアキラだったが、少しは仕事のやり方を覚えたようだ。

 

「無理矢理爆発を起こさせたわけでもなさそうだ…第一荷物の大半は無事だしな。」

 

「それから変な物も見つかったんですよ」

 

調査員が指差す先には…ガジェットのⅠ型の残骸。それとへんな形のポッド。アキラは残骸に近寄り色んな角度からみる。

 

「ガジェットだな、間違いない。それにこれは……残留魔力?」

 

アキラが一人で確信していると、ギンガに呼ばれた。

 

「アキラ君、ちょっと来て」

 

ギンガが見ているのはへんな形のポッド。アキラにはこれに見覚えがあった。幼い頃、何度も見て、何度も入れられた…生体ポッド。アキラにとってはあまり見たくない代物だった。しかし、今の自分はただの生体兵器ではない。市民の平和を守る管理局員だ、と自分に言い聞かせるが、やはり少し引っかかる部分がある。

 

そんな事を考えていると、ギンガに腕を引っ張られる。

 

「なにボーッとしてるの?呼んだらすぐに来て!アキラ君に勝てることは多分ほとんどないけど、現場じゃ一応私が先輩なんだからね?」

 

「あ、ああ。すまねぇ」

 

アキラはギンガを見てさっきまでの余計な考えをすべて振り切った。

 

(昔の事にいちいち囚われるな!今の俺は…今を生きればいいんだ!)

 

「これ…何だか分かる?」

 

ギンガはアキラを連れて来ると、生体ポッドを見せて質問してくる。アキラは正直見るのも嫌だったが、しょうがなく答えた。

 

「生体ポッドだ。それと…ギンガさん。これ…何か引きずった跡じゃないか?」

 

生体ポッドから出ている一本の何かを引きずった跡。ため息をついているアキラをよそにギンガは引きずった後を調べてる。

 

「この跡に添って先に行ってみよう。この先に何があるか知らないと手のうち用がないし」

 

「………………そうだな」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「結構歩いたが…」

 

謎の跡を追ってかれこれ一時間は歩いたが、アキラ達は未だにその正体を掴めていない。さらに奥へ進もうとした時、ギンガが先日機動六課から渡された「ブリッツギャリバー」に通信が入った。

 

「あ、ゴメンアキラ君。通信が入ったから……一回外に出るね。アキラ君は引き続きここの調査お願い」

 

「分かった」

 

ギンガは表に向かった。

 

「陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹です。…はい…今こちらで追ってる事件と関係あるかも知れません。ご同行してよろしいでしょうか?あ、アキラ陸曹も一緒です」

 

ギンガは一度外にでて機動六課のはやてと通信をとる。そして、機動六課との合同調査を依頼した。その申し出をはやては快く受け入れた。

 

[分かった。じゃあギンガは地下でスバル達と合流。あとでそっちの案件も教えてな]

 

「はい」

 

通信を切り、ギンガはアキラのもとに戻る。

 

「アキラ君お待たせ。あの跡の正体と思われる物が見つかったって。正体は恐らくあのポッドに入っていた少女、それからその子が引きずっていた……レリックの入った箱」

 

「レリック?」

 

 

「私も詳しく知ってる訳じゃないんだけど、これは機動六課が追ってるロストロギア。これを今から探すから機動六課と合同任務になったの。大丈夫?」

 

「了解した。ギンガさん、気をつけろよ」

 

「ありがとう」

 

そしてギンガとアキラはFW部隊に合流するために地下水路を走った。その間、ギンガがティアナと通信をとる。

 

「あなたが現場指揮官よね?指示をお願い」

 

[はい、じゃあまず南西のF94区画に向かって下さい。そこで合流しましょう]

 

「南西F94…はい!」

 

ギンガはアキラに今の通信を聞いていたかアイコンタクトを取ると、アキラは頷く。

 

[ギンガさん、デバイスの装着で全体位置把握と独立通信ができます。準備いいですか?]

 

「うん、ブリッツギャリバー、お願いね」

 

『Yes、Sir』

 

ブリッツギャリバーは威勢良く返事をしたが、次の瞬間にアキラはブリッツギャリバーに思いっきり顔を近づけ、睨んだ。

 

「てめぇにギンガの命預けるんだからな?ギンガに傷一つつけんじゃねぇぞ」

 

『O、OK』

 

ブリッツギャリバーは心なしか怯えているようだ。相変わらずのアキラの態度に、ギンガは軽くため息をついたがギンガ自身そろそろ慣れてきたらしい。ギンガとアキラは一回通信を切ると、BJを装備する。BJを着けるとまたはやてと通信をとった。

 

そして、今回の108で発見した事件の説明を始める。六課の方で発見したものと擦り合わせると、確かに二つの事件は重なっているようだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「こっちであってんのか?」

 

「うん!その筈…」

 

「!!」

 

合流地点に向かって走っていると突然、魔力弾がギンガに向かって飛んできた。それをアキラの刀が防ぐ。アキラが魔力弾が飛んできた方を睨むと、そこにはガジェットドローンの部隊。それも30体はいるであろう数。

 

「くっ……こんな時に…大丈夫かな…」

 

「安心しろ…俺が守り抜いてやる」

 

「そうだったね」

 

そう言ってギンガはクスリと笑う

 

「さぁ…いくぞ!」

 

二人はガジェット部隊に突っ込んでいく。ガジェットの数が多いせいで戦場は少し混乱状態であるが二人は立ち止まらずに進んでいく。実態攻撃がメインの二人にはAMFは無力。ギンガに飛んで来る魔力弾をアキラが弾き、撃った機体をギンガが潰すという戦法で突き進んだ。

 

それを繰り返していると、いつのまにか残るは二機だけになる。

 

「あいつらで最後だ」

 

「このまま突っきる!アキラ君、行こう!」

「おお!!」

 

ギンガは左手に、アキラは刀に魔力を込め、ガジェットに向かう。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

二人の一撃でガジェットは先の通路の壁に叩きつけられる。二人の勢いは止まらず、すでに動かなくなったガジェットをさらに叩き潰し、壁を貫いた。

 

「よし…この先はいなさそうだな。」

 

「ギン姉!!」

 

「ギンガさん!」

 

壁を抜けた瞬間、いきなり聞こえる聞いた覚えのある声。その声の主は…

 

「スバル!」

 

スバルと言うか、無事にFW部隊と合流できたようだった。ギンガは妹と妹の親友との再開に喜ぶ。そんなギンガの笑顔を眺めていたアキラにも、誰かが声をかけた。

 

「アキラさん!」

 

エリオとキャロだ。アキラは一瞬誰だこいつと思ったが、少しすると思い出す。

 

「よう。元気か?」

 

「はい!」

 

エリオは前より自信を持った顔をし、キャロは前のような不安な表情は消えている。あれから訓練も重ね、少し大人になったようだ。そして、一通り挨拶が終わると、皆冷静な顔になる。

 

「いい感じに集まったし…いくか…」

 

気がつくとアキラ達はガジェット部隊に囲まれていた。

 

「俺が先陣を切る。着いてこい」

 

「はいっ!」

 

アキラはガジェット部隊を駆逐するため、刀を振り上げ立ち向かっていった。

 

 

ー地下水路 奥部ー

 

 

FW部隊と合流し、ガジェットを殲滅したアキラ達はレリックの捜索を開始した。そのなかでキャロとギンガがレリックを発見し、拾った時だった。

 

「ありましたー!」

 

キャロとギンガが見つけると同時に変な音がする。まるで壁を鉄で叩いているような。

 

「何の音?」

 

アキラとエリオはいち早く察して、キャロとギンガの元へいく。二人でキャロとギンガに迫る刃を止めたが無傷とはいかないようだった。

 

「ぐっ…」

 

エリオは肩から出血。目の前に現れたのは召喚獣らしき戦士。アキラは三人を庇うようにして数歩下がった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

スバルが蹴りを入れるが交わされる。しかしギンガの追い打ちで召喚獣は軽く押された。召喚獣の反撃がくる前にアキラはギンガの前に出て召喚獣を威嚇する。

 

全員が召喚獣に気を取られてると、エリオ達と同い年くらいの子がレリックを拾い、去って行こうとした。

 

「ね、ねぇ君…」

 

キャロが去っていく少女を止めようとしたが

 

「邪魔」

 

少女は突然何の躊躇もなしに、キャロに攻撃を仕掛ける。

 

「きゃあ!」

 

エリオとキャロは少女の出した攻撃を防ぐものの、耐えきれず吹っ飛ばされた。アキラは召喚獣に攻撃をする。

 

「くそっ…邪魔だぁぁ!!」

 

アキラが出す剣撃をすべて防ぐ…と言うよりいなしている。刀だけでは無理だと悟ったアキラは一瞬ECディバイダーを構えかける。

 

(駄目だ…)

 

「ゴメンね乱暴で。でもね、それほんっとうに危険なんだ。」

 

その頃、ティアナは少女を止めていた。ティアナはあえて戦闘に参加せず、確実にレリックを確保しようと動いていたのだ。だが少女が目をつぶった瞬間に、突如、目眩ましと思われる火炎弾が飛んできた。目眩ましで隙ができたところを狙われ、アキラはティアナのほうに飛ばされる。

 

「がっ!」

 

「うわ」

 

ティアナを巻き添えにして奥まで飛ばされた。

 

「大丈夫か!?」

 

「大丈夫です…それより…!」

 

ティアナはデバイスを構え、少女を狙い撃つ。しかしそれすらも召喚獣に防がれた。相当優秀な召喚獣のようだ。

 

「くぅ…」

 

するとそこに少女達の元に小さな小悪魔のような者が飛んでくる。なにか話している様子だった。その小さい奴が花火を数回ちらした後、こちらをむいて手を出す。アキラも刀を構えた。

 

「ルールーの邪魔はさせないよ!あたしが相手になってやる…………さぁ!かかってきな!!」

 

「ふんっ……上等だぁぁぁぁ!」

 

 

 

続く



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第七話 応戦

最近忙しく、ひぐらしやライダーの方をあげられず申し訳ありませんm(_ _)m
せめてこれだけでも定期的に上げて行きます。

感想、評価、投票、随時募集中です。


「おぉぉぉぉ!!」

 

融合騎が火炎弾を撃ち込んできた。

 

アキラはギンガを誰より速く脇に抱え、バックステップを行う。火炎弾による攻撃で煙が上がり、その中から召喚獣が突っ込んできた。ギンガは自ら前に飛び出し、リボルバーナックルを構える。

 

「アキラ君!」

 

「ああ!!氷刀一閃・拡」

 

ギンガが召喚獣に突っ込み、攻撃を相殺した瞬間にアキラは召喚獣に魔力を込めた一撃をお見舞した。召喚獣は一発でぶっ飛んでいき、召喚獣の胴と融合騎の右手が凍った。

 

「すご…」

 

「悪い、加減を間違えた。ギンガさん、大丈夫か?」

 

アキラの一撃は後ろに被害が及ぶほどの魔力だった。実際ギンガ達は所々霜が降りている。

 

「う…うん」

 

ギンガの霜を払いながらアキラは刀を改めて構える。

 

「さぁて、一気に決めるぜ!」

 

アキラが魔力を込めた刀を改めて構え、突っ込もうとした刹那、何者かによって天上が貫かれた。

 

「!?」

 

天上を突き破って来たのは前にアキラが会った、ヴィータ副隊長とリイン曹長だった。二人は出てくるやいなや少女と融合騎を同時に凍らせ、召喚獣を容赦なくぶっ飛ばすと言う不意打ちを出しまくり。

 

「ヴィータ副隊長!」

 

「おう、無事かお前ら」

 

「あ…はい!」

 

FW部隊の無事を確認したあと、ヴィータは召喚獣が吹っ飛ばされた場所を確認する。しかしそこには貫かれた壁の破片が転がってるだけであった。ヴィータはグラーフアイゼンを肩に担いでアキラ達のいる場所に戻る。

 

「チッ…逃げられたでもなんとかレリックは取り戻したぜ?」

 

「こっちもだめです…」

 

リインが氷を解くと、そこには誰もおらず下に穴が空いているだけだった。すると突然辺りがぐらぐらと揺れ始める。

 

「なんだ!?」

 

「上方からエネルギー反応があります…多分…それが原因で…」

 

いつのまにか、キャロが目覚めてエネルギーの解析を始めていた。ヴィータは、なんとか奪われなかったレリックをティアナに預け、すぐにスバルに叫んぶ。

 

「急いで脱出だ!スバル!」

 

「はい!ウィング…ロード!!」

 

ウィングロードが回転しながら上に敷かれていき、ヴィータがくる時に開けた穴から外にでようという作戦だ。

 

「スバルとギンガが先頭でいけ!あたしは後から飛んでいく。」

 

ヴィータは次々と指示を出していく。アキラがギンガに続こうとした時、後ろが気になった。

 

「キャロ、ティアナ何してる?」

 

「すいません、今いきます!」

 

「?」

 

ー廃市街地ー

 

 

外部では、融合騎が少女の周りを飛んで何か抗議していた。どうやら少女は地下通路ごとアキラ達を潰そうとしているらしい

 

「あいつらだっていくら魔導師とはいえ潰れて死んじゃうかもなんだぞ!?」

 

「……あのレベルなら大丈夫。…これくらいじゃ死なない。…地雷凰」

 

地雷凰と呼ばれる召喚獣の下の地面がめり込む。その下の地下通路が崩れたのだ。それを確認した少女が召喚獣を、消そうとした瞬間、地雷凰が魔力の鎖で抑えられる。

 

「なんだ!?」

 

「あいつら!」

 

近くのビルにキャロが立ち、魔法を発動している。そしてその後ろからスバル、ギンガ、ヴィータが飛び出し、いかにも攻撃しようとする仕草を見せた。

 

しかしこれは陽動だ。

 

二人の視線が四人に行った瞬間、前方のビルからティアナが二人を狙い撃つ。二人は攻撃をかわし、融合騎が火炎弾をヴィータ達に向けて放った。ヴィータ達は問題なく交した。そこでようやく陽動部隊の役目が終わる。少女が降り立った場所にエリオが突っ込み、喉元にデバイスを突きつけた。

 

「ルールー!」

 

「動くな」

 

「く…」

 

アキラは融合騎の首に刀を軽く当て動きを封じた。

 

「これで終わりです!」

 

仕上げにリィンが二人に捕獲輪をかけて、フォーメーションは終了。融合騎は観念したらしく地面に座りこんだ。

 

「子供いじめてるみてーで気は乗らねーが…市街地での危険魔法使用、公務執行妨害、その他もろもろで逮捕する」

 

捕獲の後、しばらく少女の質問が続いていた。しかし少女は何も答えない。アキラも融合騎に質問はしていた。しかし返答は少ない。アキラはどうにもこの融合機に親近感を感じていた。しばらくすると黙秘を続けていた少女が口を開く。

 

「二人とも黙秘か………」

 

「逮捕もいいけど」

 

「あ?」

 

「大事なヘリは守らなくていいの?」

 

少女の言葉に違和感を覚えたアキラは厄介なことにならないうちに、少女を黙らせようと少女の首に刀を当てた。

 

「ちょっと黙れ」

 

「あなたはきっと…」

 

「黙れっつってんのが聞こえねぇのか!!おい!!」

 

アキラは必死に黙らせようとするが、少女は言葉を止めない。

 

「また守れない」

 

「!」

 

その直後、ヘリは落とされたと言う連絡が入る。その瞬間ヴィータの顔は蒼白になり、怒りと不安が入り混じった表情で、少女の肩を揺する。

 

「てんめぇ!!!」

 

「おい落ち着け」

 

「副隊長!落ち着いて!」

 

「うるせぇうるせぇ!!おいお前、仲間がいんのか!?どこだ!どこにいる!!」

 

ヴィータはアイゼンをスバルとアキラにふり回したが、アキラはヴィータの肩を掴んで自らの方を向かせた。

 

「なんだよ!」

 

「ヘリを守れなかったのはお前の責任じゃない。だから今はこいつに怒りをぶつける時じゃない。ヘリに乗ってたお前の仲間は諦めろ、仲間の為にも今自分ができることをやるべきじゃないか?」

 

「黙れぇ!!わかってんだよ!そんなこと……わかってんだよ!」

 

「橘陸曹、ヴィータ副隊長、落ち着いて……」

 

ヴィータがアキラに怒鳴っている時、エリオの足元に何かがあるのをギンガが気づいた。

 

「エリオ君!足元に何かが!!」

 

「え!?」

 

その瞬間に、地面から何者かが現れ、エリオが持っていたレリックを持ち去る。

 

「へへ、いただき~」

 

そのまま、また地面に潜った。まるで、水中に入るように。更に全員が敵の潜った所に集中した隙を狙われ、少女も奪還された。慌てて、敵が潜った場所に向かうが当然間に合わなかった。

 

「…………うあぁぁ!ちくしょう!」

 

「邪魔だ!」

 

ヴィータが地面を叩いて自分の、情けなさを悔やむ。が、そんなヴィータの手をアキラが引っ張り、ヴィータをそこから退かす。アキラはたった今敵が潜った場所にECディバイダーの銃口を向けた。

 

『set up』

 

「アキラ君!?なにを……っ!」

 

「どいてろ!危ねえぞ!」

 

『frost buster・EC』

 

アキラが発射した巨大な砲撃が橋を貫き、下まで一直線に進んだ。

 

「おあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

アキラの手に砲撃を撃った反動が一気に帰ってくる。しかしアキラはそれに耐えながら、一カ所に集中放火した。魔力をほとんど使い果たし、砲撃の軌跡が消えた先には巨大なクレーターができているが、そこには誰も何もなかった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…ブレードオフ…」

 

『blade off』

 

アキラはディバイダーを収納し、その場に座り込む。

 

「やっぱリアクト無しでのこの技はきついな…」

 

「アキラ君!大丈夫?」

 

ギンガがアキラに寄り添う。

 

「すまん…副隊長さん。逃げられた…」

 

「いや、いい…それよりロングアーチ、ヘリは無事だよな?あいつら…落とされたりしてないよな!?」

 

ヴィータは今にも泣きそうな表情で通信をとった。そんなヴィータに、割り込みの通信が入る。

 

[こちら、スターズ1。ギリギリでヘリの防御、成功しました!!]

 

「!」

 

なのはからの通信にヴィータの表情が明るくなった。よほど嬉しかったのだ。

 

 

それから、隊長陣による戦闘機人への追い撃ちが行われたが、敵側の策士によってあと少しのところで逃げられた。ヴィータは周りの部隊に結果を報告した。逮捕した敵を逃がしたことも、レリックを奪還できなかったこともすべて自分のせいだと説明する。いつまでも見た目は子供なヴィータだが、責任感は誰よりも大きかった。

 

その後ろではFW部隊がこそこそ話している。

 

「どうしよう…完全に話すタイミング逃しちゃったよ〜!」

 

「どうしましょう…」

 

「どうしましょうって…今言うしかないでしょ」

 

「だよね〜」

 

スバルはヴィータに近寄ろうとするが、それに気づいたヴィータがスバルにアイゼンをスバルに向け、そしてスバルを睨む。スバルは一瞬怖じ気ずいた。

 

「ん?ああ。FW部隊は完璧だった。完全にあたしの失態だ。橘陸曹も…レリックの為に反動の強い魔法使ってくれた」

 

ヴィータはチラリとアキラの方を見る。アキラは少し前に突然倒れたのだ。幸い意識はあったがひどい熱を出している。本人曰く、すぐに治るとは言っていたが、一応今はギンガとリインが介抱していた。

 

スバルは諦めずに声をかける。

 

「あのっ…」

 

「何だよ!今報告中だぞ!」

 

ヴィータが言うと、後ろのティアナがモジモジと出てきた。

 

「いや、その…さっきまで緊迫してたので……切り出しづらかったっていうか………実はレリックは私たちでちょっと細工して置いたんです」

 

「なに?」

 

「レリックは……ここに」

 

ティアナがキャロの帽子をとる。そこにはピンク色の小さな花が揺れており、ティアナが指を鳴らすと花が光り、レリックに変わった。いきなりの事にヴィータはぽかんとしている。

 

それを見ていたアキラが急に口を開く。

 

「考えたな。あいつらは」

 

「え?」

 

「いや、もし俺だったらあんな方法思いつかなかった……前にあいつらは使えないと言ったな。あんたの言うとおり、確かにあいつらは少しずつ成長して、才能を発揮してるみたいだ。前の言葉は撤回する。すまなかったな」

 

アキラの意外な態度にギンガとリインは驚いていた。そして、リインは少し笑ってアキラに言う。

 

「橘陸曹は…優しい方なのですね」

 

「あ?」

 

アキラは頭に「?」を浮かべる。そして、リインの言葉にギンガが笑って頷いた。

 

「そうでしょう?」

 

「はいです♪」

 

「???」

 

 

続く



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第八話 不安

おそくなりました。テストで体力を使い果たしました………。

ちょっと短いですがお楽しみください。

評価、コメント、投票、随時募集中です。



ー聖王医療院ー

 

今回の事件で保護され少女は聖王医療院に運ばれたが、まだ目覚めていなかった。熱が下がったアキラはギンガに連れられ、身体に異常がないか診た後に少女の様子を見に来ていた。

 

部屋に入ろうとすると、同じく少女に会おうとしていたなのはとばったり出会う。

 

「なのはさん」

 

「あんたは……高町隊長だったか」

 

「ギンガ、それに…橘陸曹だっけ?名前で呼んでいいかな?」

 

「好きにしてくれ」

 

軽い挨拶を済ませた三人は少女の病室に入った。少女はやはり目覚めていない。爆発事故、運んでいたレリック、生体ポッド、やたらと多かったガジェット。これらすべてにこの少女が関わっていると、アキラは何となく思っていた。

 

「この子は……なんなんだろうな」

 

「え?」

 

「あんな重いレリックのケース持ってどこに行きたかったんだろうかって思ってな」

 

アキラの言葉にギンガもなのはも何も返せない。当然だが。

 

少し沈黙が流れると、少女が少し動き口を開いた。

 

「ママ……」

 

「ん?」

 

一瞬全員が起きたのかと思い、少女を見たがどうやら寝言だったみたいだ。しかしその一言でアキラは何となく居心地が悪くなる。その少女の姿にセシルと昔の自分の姿が重なったのだ。

 

アキラを引き取った家には母親がおらず、セシルの母親はセシルがまだ幼い頃に亡くなった。後にセシルの父親は再婚したが、セシルは新しい母に慣れず、よく寝ている時に「お母様」と呟いていたのをアキラは少女と重ねる。そんなアキラの心情を察したのかギンガは「私たちはこれで失礼します」と言って病室を出た。

 

「大丈夫?アキラ君。何だか顔色が悪いけど…やっぱり薬とかもらっていった方が…」

 

「いや、いい……」

 

ギンガはアキラが体調が悪くて顔色が悪いとは思っていない。アキラに…アキラの心情に何があったのか、話して欲しかったのだ。仕事でもパートナーとしても、友人(?)としても。

 

 

ー翌日ー

 

ギンガがトイレで手を洗っていると、突然後ろから胸を鷲掴みにされた。

 

「ひゃん!?」

 

いきなりなことに、思わず変な声をあげてしまう。

 

「あら?なによ〜。こないだとほとんど変わってないじゃない」

 

「メ、メグ…!」

 

犯人はメグだった。メグはギンガの胸をまさぐりまくる。さらにさっきのギンガの悲鳴が聞こえたアキラが女子トイレに飛び込んで来た。

 

「ギンガさん!?」

 

「だ、大丈夫だよ!アキラ君!」

 

ギンガが言うとアキラは「そうか…」と安堵のため息をついて出て行く。

 

「どうしたの〜?こんなんじゃ彼を惹けないよ〜」

 

「いいから……離して!」

 

ギンガはメグに肘打ちをお見舞いした。それはメグの鳩尾にクリーンヒットする。

 

「いたた…どうしたのよ〜。こないだはせぇっかくアドバイスしてあげたのに〜。

 

「どうしたのってそんな急成長はしないし……」

 

「自分で揉んでないの〜?てかあんた…一人でしたことある?」

 

「そ、そんな……」

 

ギンガは顔を真っ赤にする。ギンガはあまりこういったことに詳しくない。幼い頃から家庭に目をやりながら育ち、まともな青春も過ごしていないのだ。管理局に入ってからはよく告白されたが、戦闘機人という事実がギンガを抑え、付き合うことは一回しかなかった。

 

そしてその男もギンガを必死に口説いた癖に戦闘機人という事実を知った瞬間に消えた。それが完全にトラウマになり、もう恋愛感情は受け入れていなかったせいで17歳でもそういう類のことはほとんど知らない。

 

「はぁ…あんたそんなんじゃいつまで経っても二人の溝は埋まらないよ〜」

 

「それはわかってるけど…」

 

「わかってんなら、さっさとしなさい」

 

メグの言葉にギンガは軽く頷き、トイレを出た。

 

「随分遅かったな」

 

「うん、メグと話し込んじゃって……さ、帰ろう?」

 

「ああ」

 

ギンガがいなくなった後のトイレで、メグは少し考える。アキラとギンガの距離を縮める方法を。そして、少しおかしい方向にひらめく。

 

「ん〜。ここはメグさんの魔力の見せ所かな〜」

 

 

ー玄関ー

 

 

隊舎から出ようとした時、アキラは服のあちこちを調べ始めた。

 

「ん?ん?」

 

「どうしたの?アキラ君」

 

「いや、財布と……懐刀が……ない」

 

「懐刀って……」

 

「ロッカーに忘れたのかもしれない。悪いが待っててくれ」

 

「ううん、ついてくよ」

 

二人は一度戻り、アキラのロッカーに向かう。アキラがロッカーを開くとそこにはいくつかの書類と、財布と懐刀、さらに何か手紙らしき物がある。

 

「ん?」

 

アキラは刀と財布を懐にしまい、手紙を手に取った。手紙は薄いピンク色で、ハートのシールで封がされてある。

 

そして手控えめな文字で「橘アキラ陸曹へ」と書いてある。アキラが手紙を見ながら立ち尽くしていると、ギンガが横からのぞきこんできた。

 

「どうしたの?アキ……ラ君?」

 

アキラの手に持っている物を見たギンガは硬直してしまう。そんなギンガをよそにアキラは手紙をおもむろに開き、中身を確認した。

 

「あなたに伝えたい想いがあります明日の19時、108部隊の屋上で待ってます」

 

「…………」

 

ギンガは動けずにいる。そんな二人を、柱の影から見ている者がいた。

 

「とりあえず作戦成功かな〜?」

 

メグだった。

 

メグはちょっと特殊なスキル、「コネクト」持っている。コネクト能力は特定の場所にゲートを繋げ、そこから物を取り出したり逆に物を置くことが出来る。メグはコネクトを使い、アキラの懐から懐刀と財布を取り出しアキラのロッカーに財布と懐刀とラブレターをいれたのだ。

 

すべてはギンガに少しは恋愛に関する興味を持って欲しかったから。

 

「応援するよ。あんたの恋」

 

 

ーその日の夜ー

 

 

(アキラ君はあれが何だかよくわかってなかったみたいだけど……あれは絶対ラブレターだよね)

 

私は家でベッドの中で一人悩んでいた。確かにアキラ君はまぁ…一緒にいるからわかるけど無関心なところがクールって間違われて結構みんなからかっこいいとかって言われてる。むしろ今までこういうことがなかった事がおかしかったんだと思う。

 

私もラブレターとか、呼び出されて告白されたりとかいっぱいあったけどあれで何だかわからないのは、常識を知らなすぎっていうか…。

 

でもアキラ君はどうするんだろう。告白されたら付き合うのかな…その子と。

 

私は急に不安になり、メグにメールをした。まだ起きてるかな。

 

『実は今日、アキラ君がラブレターをもらってた。アキラ君付き合っちゃうのかな』

 

「送信………。あ、返事きた」

 

『怖いの?』

 

「…………」

 

『なにが?』

 

『アキラ君がいなくなるのが…奪われるのが』

 

図星だった。

 

『まぁ…確かに』

 

『だったら手は一つでしょ』

 

『なに?』

 

『明日アキラ陸曹に時間までに告っちゃえ』

 

私の顔が赤くなったのがよくわかった。告白されたことはあるけど自ら告白したことは一回もない。でもやらなきゃダメなのかな。でも…。二律背反の考えが私の頭の中を回る。

 

『急に告白なんてそんな…恥ずかしいよ』

 

『でも取られちゃうかもよ?アキラ陸曹尽くすタイプだし、アキラ陸曹がその子の事好きになったらもうより戻せないと思うよ?』

 

「うっ……」

 

そのメールが私の戸惑いにトドメを刺した。確かにアキラ君はすごく尽くす人だ。付き合うことになったらもっと尽くす人だと思う。

 

【すまねぇギンガさん。俺はこの人の護衛になる】

 

一番想像したくないイメージが頭の中に流れた。悔しいけどメグの言うとおりだ。やるしかないのかな……アキラ君に告白して…でも、アキラ君はきっと私のことを見ていない。アキラ君は私を通して誰かを見ている…そんな感じだ。

 

『できることはやってみる』

 

そう送ったけど、メグから返事は来なかった。もう寝ちゃったかそれとも、いつまでもウジウジしてる私に飽きれてもうメールを見てくれてないのかな……。そんなことを考えていると私は自然に眠りにいざなわれていった。

 

明日どうしようか、それの答えも出ないまま。

 

ー翌日ー

 

 

「おはようアキラ君」

 

「おう」

 

結局通勤の時間まで色々考えたけど何も浮かばなかった。でもこのままじゃいけない、とにかく昨日メグに言った通りできることはやってみる。

 

「アキラ君」

 

「ん?」

 

「アキラ君は……彼女を作る気とかあるのかな?」

 

「…わかんねぇ」

 

「え?」

 

思いもよらぬ返答に私は素直に驚いた。この類の質問に「わからない」と答える人はそうそういないだろう。気になったのでその真意を聞こうと思い、アキラ君に聞く。

 

「わからないって……」

 

「正直俺もまぁ……女性に興味はある。男だしな。でも俺と付き合ってそいつが幸せかどうかを考えると気が引ける。だから……な」

 

私はホッとすると同時に心の中に不安が生まれた。今回でアキラ君が私から離れる可能性は低くなったけど……逆を言えばアキラ君と深い関係になる可能性も低くなった訳だ。

 

「ところでどうしたんだ?急にそんなこと聞いて」

 

「ううん…」

 

ついでにいうと、アキラ君は恐ろしいほど鈍感。アキラ君は優しいし、その割にクールだし、強いし…いいところがいっぱいあるから結構隊の中の女性に人気がある。でもアキラ君は自分がモテてないって思ってる。恐ろしい程の鈍感さんなのです。

 

「はぁ…」

 

あまり気乗りしないまま私は108に向けて歩を進めた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ー昼休みー

 

ギンガは一人で屋上でため息をついている。アキラの目を盗んで来たのでアキラは今頃必死になって探しているだろうか、それともちょっといなくなっただけと言って久しぶりにコンビニのパンでもかじっているのか、ギンガはそれが気になったが今はもっと悩んでいることがある。

 

今日の19時までにアキラに告白しようかどうか…。

 

「……どうしよう」

 

「なにしてんだ?」

 

「ひゃあ!?」

 

いつのまにかアキラが来ており、ギンガは驚いてベンチから飛び上がった。しかもその反動でベンチから落ちてしまう。

 

「あ、大丈夫か!?」

 

アキラは急いでギンガの元に走ったが、何かに足を引っ掛けギンガに覆いかぶさるようにしてアキラはこけた。

 

「どぅわ!?いてて…」

 

「!?…」

 

アキラはギンガの上に乗ってる事に気づくとすぐにギンガの上から離れようとした。が、ギンガがアキラの背中に手を回し、アキラの動きを止める。

 

「ギンガさん?」

 

「…………あの…アキラ君…」

 

「…」

 

ギンガは顔を赤らめ、アキラの顔を見ていられなくなり目を反らした。

 

そして決意を固めアキラに想いを打ち明けようとした時、アキラの通信機が鳴る。アキラはギンガの手を外し、ギンガを優しく起き上がらせてから通信機を出して応答した。ちなみにアキラは通常のデバイスを持っていないため、支給された通信機を持っている。

 

「はい。ゲンヤさん?」

 

『ああ。ギンガも一緒か?』

 

「ああ」

 

『事件だ。六課が担当してるからすぐに向かって六課を援護してくれ』

 

「……了解」

 

通信を切ってからアキラはギンガの方を向いた。

 

「ギンガさんさっき…」

 

「ううん。なんでもないよ。あ、アキラ君お昼は?」

 

「まだだ…ギンガさんがいつのまにかいなくなってたから…あ、今日は弁当なかったか?」

 

「あ、ごめんね?お弁当はちゃんとあるから安心して?サンドイッチだからついてからでも食べれるから」

 

「助かる」

 

ギンガは何を言おうとしたのか、アキラはそこに悩みながらギンガと共に駐車場に向かいバイクで事件現場に向かった。

 

道中にアキラは八神はやてと通信をとり、事件の現状を確認する。

 

今回の現場は森の中。ガジェットが出現したとのことでFWと隊長二名がガジェット撃墜向かった。しかし森の中でガジェットのエネルギーを感知して正しい位置を特定出来ず、人員が必要だったようだ。また前回の事件の召喚師も確認されたらしい。

 

「あの時の少女か…俺よく顔を見てないんだよな…あの融合機にばっかり構ってからな…」

 

「私も。特徴もよく覚えてないかな…」

 

 

ー事件現場ー

 

 

森の中ではルーテシアが一人、レリックを持って方足を引きずりながら歩いていた。

 

レリックを入手したのはいいものの、六課のFW部隊に邪魔をされ、逃走はできたが仲間とはぐれ足に負傷も負ってしまったのだ。早くガリューやアギトやゼストに合流出来たら良いのだが、レリックという重い荷物と足の負傷で体力は奪われて行くばかりだ。

 

「…重い」

 

ルーテシアはレリックを一度下ろし、ケースを開ける。中身のレリックは11番ではなかった。

 

「でも…役には立つ……」

 

残った魔力を振り絞り、レリックをなんとか封印してレリック単体をポケットにしまう。そしてまだ追ってがきてないのを確認すると、木に持たれかかり休憩を始めた。

 

「ふぅ…」

 

少し落ち着いた時だった。茂みから音がし、すぐさま逃げようとしたが足の痛みがそれを止める。

 

(まずい……)

 

「ん?」

 

茂みから出てきたのは…アキラだった。

 

 

 

続く



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第九話 告白

投稿が遅くなり申し訳ありません。

なるべくテンポ上げて行きたいです。


ー事件現場ー

 

機動六課に協力を依頼された事件、とりあえずアキラ達の任務はガジェットの殲滅とレリックの捜索だった。そして、事件現場の森に着いたアキラとギンガ。

 

「ギンガさん、一回二手に別れよう。現状だと固まると狙われる可能性もあるから」

 

「了解」

 

アキラは自分の懐からアキラ本人が使ってる通信機と同型の通信機をギンガに渡した。

 

「俺との通信ならこっちの方が早く繋がる。この黄色いボタンを押せば緊急信号が出る。本当にピンチで通信する暇もない状況ならこれを押してくれ。なにがなんでも駆けつけるからよ」

 

「ありがとう」

 

そしてアキラはギンガと一旦別れ、森の中へと侵入して行く。森の中は足場が悪く、戦闘には向いてない。ガジェットならともかく例の召喚獣や融合機と遭遇したらまずい。だが、戦闘には向いてなくとも逃げるだけならなんとかなる。

 

だからアキラはあえて二手に別れたのだ。今ギンガは無事だろうか、そんなことを考えながらアキラは更に森の深くへと向かった。

 

森の中は静かだったが、しばらく進んでいると何かもの音がする。アキラは警戒しながら音がした方に歩いて行く。そしてほんの少し開けた場所に出た。そこには薄汚れたマントのような物で全身を隠し、木に寄りかかった少女がいた。ルーテシアだ。

 

(女の子?)

 

(あの時の騎士…っ!)

 

アキラは女の子に近づき、しゃがんで目線を合わす。ルーテシアはフードを深く被り、顔を隠しながらも攻撃のタイミングを伺った。

 

「大丈夫か?何でこんなとこにいる」

 

ルーテシアの返答は少し経ってからだった。その返答もとても小さな声。アキラが気づいていないことに賭けての返答だからだ。

 

「……迷子になって…足も怪我しちゃって…」

 

「足?ちょっと見させてもらうぞ?」

 

アキラは少女の怪我をしているという足を見た。確かに足に傷がある。

 

「親は?」

 

「わからない…多分森の中のどこか」

 

「……しょうがねぇな」

 

アキラはポケットからハンカチを取り出し、少女の足の傷の場所に巻いた。ルーテシアはアキラのこの行為を見てアキラが自分の正体に気づいてないことを確信した。

 

「とりあえず…下にいる捜査本部に保護してもらうか……歩けるか?」

 

ルーテシアは首を横に振る。歩けないのは事実だ。

 

「ほら、おぶってやっから。安心しろ、お前の親も見つけてやるから」

 

あえて抵抗はせず、ルーテシアはそのまま背負われる。

 

正直抵抗するのは無意味だからだ。今この場で抵抗すれば正体がばれ、自分の身を危険に晒すことになる。ならばこの男を利用してゼスト達と合流しようという魂胆だ。ゼスト達と合流できれば、後に戦闘になってもガリューもアギトもゼストもいる。

 

倒せずとも逃げることはできると踏んだのだ。

 

「名前は?」

 

アキラは少女を背負いながら聞く。ルーテシアにとってはマズい質問だが、必死で名前を考える。

 

「…………ルー」

 

「ルーか。覚えやすいな」

 

ルーテシアは不思議とまるでお父さんに背負われているような安心感を持っていた。そして、しばらく森を歩いているとルーテシアにアギトからの念話が来る。

 

(ルールー!聞こえる!?ルールー!)

 

(あ、アギト?)

 

(大丈夫!?今こっちからはルールーは見えてるけど…)

 

(この前の騎士だけど…正体に気づいてないみたい。でもアギトみたら気づいちゃうかも)

 

しばらく二人の念話の対談が続き、一つの作戦が完成する。単純だが、ゼストを保護者、もしくは親としてアキラの元に行かせ、そのまま安全にルーテシアを保護すると言った方法だ。

 

作戦は早速実行される。

 

「ふぅ…あと少しで外だ…」

 

「ちょっと失礼」

 

「あん?」

 

少女の様に、薄汚れたマントのようなものを羽織ってる男がアキラの前に現れた。その身なりからアキラは男を警戒する。

 

「………何者だ」

 

「お父さん…!」

 

ルーテシアがアキラの背中から叫んだ。当然作戦の内の猿芝居。

 

「お父さん……この子の保護者か?」

 

「ああ。ルー!」

 

「お父さん!」

 

アキラはルーテシアを父親と名乗る人物に渡す。ゼストはお姫様だっこでルーテシアを受け取り、アキラに一礼した。

 

「あ、これやるよ」

 

アキラは制服のポケットから飴を一個取り出し、ルーテシアに渡して頭を撫でる。

 

「もう迷子になんじゃねぇぞ」

 

「うん…ありがとう」

 

ゼストはもう一度アキラに一礼してから去っていった。

 

その後、召喚師の行方を探すも見つからず、残りのガジェットをすべて殲滅して作戦は終了となる。結果は空のレリックのケースなどが見つかっただけだった。そして更にその後もギンガはアタックするチャンスを逃し、とうとう時間が来てしまう。

 

19時。アキラが告白される時間が。

 

 

ー108隊舎 屋上ー

 

 

アキラは一応、ギンガについて来るかと聞いたがギンガは首を横に振った。すぐに戻ると伝えたアキラは屋上に走る。

 

一人になったギンガは、アキラの姿が見えなくなってからこっそり屋上に向かった。正直帰ろうかとも思ったが、不安と希望を持ちながら屋上にゆっくり歩を進める。もうほとんど人のいない隊舎に響く自分の足音、それさえも自分の心を紛らわす逃げ道になった。ゆっくり歩いたつもりが、いつのまにか屋上に着いている。ギンガはこっそりドアを開け、ドアの隙間から屋上を覗いた。

 

そこから見えたのは、アキラの後ろ姿と、アキラの前に立っている一人の少女。少し管理局の制服がなぜかサイズがあっていない。しかし、青い髪、中々いい身体付き、トパーズのような美しい瞳…普通に美人だ。

 

「来てくれて……ありがとうございます」

 

「別に?で、話ってなんだ?」

 

アキラはまだ気づいてないのか、普通に尋ねる。

 

「私の名前はアーシア」

 

(アーシア?)

 

ギンガはそんな名前は聞いたことがなかった。隊の人間の名前は結構知ってるつもりだったが、彼女の名前は聞いたことがない。アーシアは名乗ってから少しして話を始めた。

 

「あの…橘アキラ陸曹」

 

「なんだ」

 

「急な話で申し訳ありませんが…私と………付き合ってくれませんか?」

 

「ああ。構わないぜ?」

 

なんの躊躇も、迷いもない返答。

 

ギンガはそれを聞いた瞬間に、目に浮かんだ涙を抑えながら屋上から離れ、階段を駆け下りた。人が来なさそうな適当な部屋を見つけ、そこに飛び込んで部屋の隅でうずくまる。お腹の中で何かが動いているような気持ちの悪い感触、裏切られたと言う事実に、押し寄せる悲しみ。

 

ギンガはそれらの感情を抑えながら、涙を流した。

 

「う、うぅ……うっうわぁぁ…」

 

 

その頃、屋上。

 

「え…本当にいいんですか!?」

 

「なにに付き合えばいいんだ?仕事か?」

 

「え?」

 

アキラの脳内↓

 

付き合う=恋愛←× 付き合う=用事に付き合う←○

 

 

そのことに気づいたアーシアは、大きくため息を着く。それと同時に、屋上にメグが現れた。

 

「いやぁ!アキラ陸曹悪いね!ここらにカップルが多くて入り辛い店があってさぁ!こいつそこに行きたがってて…悪いね!今の話忘れて!」

 

メグはアーシアを連れて走り去ってしまった。

 

「何だったんだ…あれ。まぁいいか」

 

アキラはさっきまでギンガと一緒にいた場所に戻る。しかし、そこにギンガの姿はなかった。

 

「ギンガ?」

 

アキラは少し焦る。トイレか、それとも誰かに呼ばれたか、状況もわからないまま少し(1分)待ったが、ギンガがくる気配がないので自分で動き始めた。

 

隊舎内を慌てて探しまくるが、どれだけ探してもギンガは見つからない。アキラの不安な気持ちは募る一方。しばらく走っていると、アキラの前にメグが現れた。

 

「お前はさっきのギンガの同僚のええと……まぁいいや!ギンガ見なかったか!?」

 

メグはアキラの肩を掴んで言う。

 

「落ち着いて!深呼吸三回!」

 

いつもふわふわしているメグとは一転、鋭い目つきでアキラを見ながら叫んだ。

 

「お…おう」

 

「ギンガ探してるんでしょ?あんた、なんのためにあの変なポッド使ってる訳?」

 

「ポッド……はっ!」

 

アキラはポッドのギンガを見張らせてる機体の撮影した映像を通信機に映す。そこには薄暗い部屋でうずくまるギンガの姿があった。

 

「この景色…あの部屋か!」

 

場所を確認したアキラは走って行った。一人残されたメグは小さくため息を着く。

 

「全く世話が焼けるねぇ。彼氏も、彼女も……」

 

「でも今回でいい感じになりそうですよ?メグ様」

 

そう言ったのは、さっきのアーシアだった。しかしさっきの管理局制服ではなくメイド服だ。

 

「やーごめんね?アーシア」

 

「いえ、使い魔としてやれることがあれば何なりと」

 

そう、本人も言ったとおりアーシアはメグの使い魔なのだ。管理局制服が少しぶかぶかだったのは、メグの制服をアーシアが借りていたのだ。同じ身長だが、メグより少しアーシアの方が色々と小さいのだ。

 

 

ー印刷室ー

 

 

ギンガは泣くのも疲れ、床に座り込んで呆然としていた。何となく視界に入ったハサミ、それを握りながら。しばらくは何もせず、じっとしているだけだったが、気持ちはどんどん暗くなる。

 

過去に自分が付けた手首の傷跡。それにハサミをなぞらせた。

 

「どうせ…戦闘機人だもんね…生きる価値なんか…」

 

ギンガはハサミを振り上げ、手首に刺そうとする、がその刹那。

 

「やめろ!ギンガさん!」

 

それをアキラが止めた。

 

「はな、放して!」

 

「やめろ!!」

 

アキラはギンガからハサミを取り上げようとしたが、中々うまくいかない。そして、もみ合ってる最中にアキラの腕にハサミが刺さってしまった。

 

「ぐうぅ!」

 

「あ…アキラ君!」

 

混乱し、取り乱してるギンガは慌ててハサミを抜こうとするがアキラはそれを阻止する。

 

「アキラ君……抜かなきゃ……あ、それより病院に……」

 

「安心しろ。この程度で死ぬかよ」

 

アキラはポケットからハンカチを取り出し、ハサミを抜いた手に巻いた。そこで一息つく。

 

「明日にゃ治る。それよりどうしたんだ?ギンガさん。こんなとこで……こんなこと…」

 

アキラが尋ねると、ギンガはアキラの顔から目を反らして言う。

 

「アキラ君こそ…何で私のところに来たの……?アーシアさんのところにいかなくていいの?」

 

「…聞いてたのか」

 

ギンガは小さく頷く。

 

「でもアキラ君がアーシアさんと付き合うって…聞いた時に…気づいたらここにいたんだけど」

 

「ああ、なんか知らんけど俺の代わりに…あの…ギンガさんの同僚のメグ…だったか。あいつが代わりに付き合ってやるそうだ」

 

その言葉にギンガは困惑した。女同士なんてそんなことはメグに限ってあり得ない。あれだけの面食いで彼氏を作りたがり、何よりギンガの恋を応援するのだから彼女自身が…と言うことはあり得ないだろう、ギンガはそう思った。

 

そして、そんなことを考えてるうちにアキラの勘違いと今回の騒ぎの犯人がギンガには分かった。

 

「アキラ君…」

 

「うん?」

 

ギンガは一応、アキラがアーシアと付き合ってないことは分かったが、ギンガはまだ不安だった。だから一応アキラに聞く。

 

「これからも、私のそばにいてくれる?」

 

「…ギンガさん。目を瞑ってくれ」

 

ギンガは言われた通り目を瞑る。アキラはそっとギンガの前髪を退かし、そして…そっと額にキスをした。ギンガの額に触れる柔らかい感触。ギンガはそれで何をされたか分かり、顔を真っ赤にする。

 

「ア………アァァァァァァアキラ君何を…」

 

「おまじない…だ。昔セシルのお父さんがセシルにしてくれたらしい。これからもずっと一緒に、元気にいよう。そういうおまじないらしい。だから、例えこの先なにがあっても俺はギンガさんから離れねぇよ」

 

ギンガはアキラの手を握り、ぎゅっと両手で包み込む。そして顔をぐっと近づけた。

 

「アキラ君……お願いがあるんだけど…」

 

「なんだ?」

 

「これからは…ギンガって呼んで?」

 

急なお願いだったが、アキラは別に気にせず頷いた。

 

「別に構わねぇが?」

 

「うん、ありがとう」

 

こうして二人の関係を騒がせた事件は幕を閉じた。そして…そんな会話を外で聞いていた、ゲンヤ。

 

「孫の顔が見れんのも…近そうだなぁ…」

 

 

ー翌日ー

 

 

「メ〜グ〜?」

 

「ん?げっ!」

 

メグが振り返った先には、笑顔だが明らかに堪忍袋の緒が切れ、怒りまくってるギンガがいた。

 

「あ、アハハ、どうしたの?ギンガ」

 

「ん〜?ちょっと「お話し」したいんだけどいいかな?」

 

「アハハ………」

 

その後、メグは「あんなに怒ってるギンガ・ナカジマはもう誰も見れないだろう」と語ったとか。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ー現場調査ー

 

翌日、アキラとギンガは最初の六課との共同捜査した場所での調査をしていた。ギンガはこの間にもアキラに少しずつアプローチしている。とは言え全部メグの入れ知恵だから、少々卑猥なのが混じってるが。

 

しかしギンガは一つ気になっている。昨日のアキラの傷が、綺麗になくなっているのだ。しばらく聞けなかったがギンガは思い切って聞こうとした瞬間、アキラの通信機にどこからか通信が来た。

 

「ん?」

 

通信に出る。

 

[あ、アキラ君?]

 

画面に映ったのはなのは。なのはがアキラに直接連絡をいれてくるなんて滅多にないことだ。

 

「高町空尉か。なんのようだ?」

 

[えっとね。ちょっとお願いがあってね]

 

 

続く



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第十話 親子

なぜだかR-18繋がりで閲覧数が増えた…。
ちょっと遅くなりました。近々ひぐらしも投稿したい…

評価、コメント、投票、随時募集中です。


ー機動六課ー

 

 

「……」

 

「…………」

 

見つめ合う、少女と俺とギンガ。

 

「えっとギンガ・ナカジマです」

 

「…橘アキラ」

 

あまり顔の知らない二人に来られて少女は戸惑ってる様だ。

 

「ほら、ご挨拶」

 

「ヴィヴィオ…」

 

高町空尉に言われ、ヴィヴィオは俺たちの事を恐れながら自己紹介をした。なんでこんなことになっているのか、それは今から数時間前に遡る。

 

 

ー約二時間前ー

 

 

アキラのもとに珍しく高町空尉から通信があった。アキラは一体なんの様かと思ったが、何かお願いがあると言う。そのお願いとは。

 

「つまりあれか、あんたは俺とギンガにガキのお守りをしろと」

 

[ま、まぁそうなるね]

 

「冗談じゃねぇ。切るぞ」

 

[ま、待って!お願い!アキラ君!アキラ君って昔小さい子の護衛やってたんだよね!?お願い!ほんの少しの時間でいいから…]

 

「ほんの少しの時間って……あんたなぁ……こっちにも仕事が…」

 

「アキラ君」

 

「ん?」

 

いつのまにかギンガがアキラの後ろに立っていた。どうかたのかと思ったのだが、そのギンガの手には報告書らしき物がある。何となく嫌な予感がした。しかもそれはしっかり的中する。

 

「もう現場調査ほとんど終わったからあと報告書書いて今日の仕事終わりなんだけど…」

 

高町空尉の目が輝いた気がした。もう多分、言い訳は通用しないだろう。そう思い、アキラは言った。

 

「あー!もうわかったわかりました!行きゃいいんだろ!」

 

で、今に至る訳だ。ちなみに到着した時の状態は、高町空尉が出かけようとするのをあの例のレリックを持った少女が、高町空尉が出かけようとするのを必死で阻止しようとしてる状態だった。

 

めんどくさいタイプの子だと言う予感も的中する。

 

(高町空尉、俺がどうにかしてこの子の視線を集中させるから。そのうちにあんたは)

 

(うん)

 

「よしっ。うーん…」

 

アキラは少女、いや、ヴィヴィオを喜ばすためにそこにきていたFWの身長を調べ始めた。アキラが今からやるのは昔セシルにもやった…とある芸。

 

「お前はティアナだったか」

 

「はい……」

 

「お前、ちょっとそこに立ってろ」

 

「はぁ……」

 

ティアナは指示された通り、壁の前に立つ。アキラはそのティアナの頭の上にりんごを乗せた。その時点で、ティアナは何か嫌な予感がする、さらにアキラは目隠しをした。ティアナの嫌な予感は的中する。

 

「よしっヴィヴィオ、よく見てろよ?」

 

「うん」

 

「ティアナ、動くなよ」

 

「はい……」

 

アキラは懐刀を取り出し、鞘から引き抜いた。そしてそれを目隠ししたまま、りんごに向かって刀を投げる。刀は見事にりんごに突き刺さった。その下のティアナは冷や汗をダラダラと流す。相手がスバルなら文句を言えるが、相手は上司な上に実力的にも勝てない相手。だから何も言わずに去って行く。

 

「おー!」

 

FW達から拍手が鳴る。だが、拍手が鳴ったのはFWからだけだった。

 

「アキラ君…」

 

「何だ?」

 

「ヴィヴィオちゃん…見てない…」

 

苦笑いでギンガは言う。ゆっくりと目隠しを外すアキラ。そこに写った景色は入って来た時よりさほど違いのない物だった。ヴィヴィオがなのはに泣きついてる状態。多分見てはいたんだろうが、なのはが退室しようとしていたのを発見してしまったのだろう。

 

「こんのクソガkむぐぅ!」

 

「落ち着いてください!」

 

「相手はまだ子供ですから!子供ですから!」

 

「アキラ君ストップ!!」

 

スバル、ティアナ、ギンガの三人でキレたアキラを必死に押さえつける。ギンガがどうしようと、アキラを押さえながら考えているとフェイトが落ち着いた様子で入ってきた。フェイトは、ヴィヴィオが落としたウサギのぬいぐるみを拾う。そしてヴィヴィオに優しく微笑み、落ち着いた様子で話す。

 

「こんにちは」

 

「ふえ?」

 

「この子はあなたのお友達?」

 

フェイトはかなり慣れた様子でヴィヴィオをなだめる。その様子を見ていたアキラの脳裏で一瞬フラッシュバックが起きた。誰かになだめてもらっているような感覚がフラッシュバックされたのだ。

 

「アキラ君…どうしたの?」

 

「いや…」

 

「?」

 

「アキラ君」

 

気づけば状況は解決されて、ヴィヴィオは少し涙目だが、一応泣き止んでる。

 

「じゃあ、後のことよろしくね?」

 

「へいへい…」

 

アキラはヴィヴィオを抱えてソファーの方に行った。ギンガもそれについて行く。とりあえずなのは達隊長陣はすぐに退室し、ヴィヴィオをなだめようと来ていたFW達も事態が収拾したのを確認すると、ぞろぞろと退室して行った。部屋にはアキラとギンガの二人と、ヴィヴィオだけが残される。

 

ギンガは、始めは普通に過ごしていようと思ったが、どうにも意識してしまう。二人きりで、子供のお守り。それがまるで夫婦のようだと思ってしまうのだ。

 

「さて…なんかしたいことあるか?」

 

「なのはさんに会いたい…」

 

「やっぱりそれか」

 

アキラはぽりぽりと後頭部を掻きながら考えていると、いい考えを思いつく。アキラは通信機の中に、小さなディスクを入れた。通信機は結構アナログな形だが、一応スクリーンは出せる。そこには高町なのはが少し昔に撮った、教導用の映像が映し出された。

 

正直、ヴィヴィオには少し難しいだろうが今のヴィヴィオはなのはの姿を見れるだけで安心できるだろうと、アキラは思ったのだ。これは過去に、セシルが仕事で出かけた両親がいない時に、ずっと家族が写った写真を持っていることを思い出したから思いついたこと。やはりどんな経験でも役に立つと思ったアキラ。

 

「ふぅ…」

 

「アキラ君」

 

「ん?」

 

「あの……その……もう少し寄ってもいいかな?」

 

「?構わないが…」

 

ギンガは思い切ってチャレンジしたのだ、いつまで経っても埋まらない二人の距離を埋めようと。だがアキラは、ギンガとは違い全く意識してない様な感じだった。でもこれだけでも大きな前進だとギンガは思う。

 

ー30分後ー

 

教導用のビデオも終わり、本を読んだりしたがやはりそれでごまかせる時間は一時間にも及ばない。いよいよ手詰まりになった二人。

 

「しょうがない……ギンガ、FW部隊呼んで来い。訓練用の服を着させてな。俺は庭にいる」

 

「ん?あ、うん」

 

ギンガは言われた通りにFW達を呼んだ。だがギンガには少し疑問に思うことがある。外に出るのはいいが、FWまで連れてなにをするのかそれも訓練用の服まで着せて……正直アキラがやる運動はものすごいハードに思えたからだ。

 

もしそんなのをヴィヴィオにやらせるなんて言い出したらどうしようと、アキラをどう止めようとかばかり考えている。

 

FWを集め、庭に向かうとそこには上着を脱いで袖を捲り、柔らかめのボールを持っていた。

 

「来たな」

 

「……なにするんですか?アキラ陸曹」

 

「ドッジボールだ」

 

「ドッジボール!?」

 

その場にいた誰もが驚いた。それもそうだ。あの橘アキラが急にドッジボールをしようなどと言ったのだ。例えればヴィータが急に何事も許し、お嬢様口調になって性格がものすごく丸ーくなったのと同じくらいに驚きの出来事だからだ。

 

ギンガに至ってはアキラが熱でも出しているんじゃないかと思うくらいだ。

 

「ただし、普通のドッジボールをする気はない。FW、それとギンガ」

 

「?」

 

「相手は俺一人。お前たちは…ヴィヴィオを全力で守れ」

 

「はぁ…」

 

「これは俺の家でやっていた訓練法だ」

 

「はい」

 

アキラからルールの説明がされたあと、FWとギンガはひかれた枠の中に入り、構えた。さっきの説明通り、アキラは完全に一人。最初にボールを投げるのはアキラの方だ。

 

「じゃあいくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

今の季節は7月。だいぶ暑くなってきたこの時期に地獄の訓練は始まった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

夕方、ようやくなのは達は聖王教会から帰ってきた。渋滞に巻き込まれ、予定よりも帰りが遅くなってしまったのでヴィヴィオとアキラのご機嫌取りのためのお土産を持って。

 

「こんなに遅くなっちゃった…ヴィヴィオ……泣いてなければいいんだけど…あとアキラ君が怒り狂ってなければいいんだけど…」

 

「ある意味どっちも怖いよね」

 

フェイト共に苦笑いしながら自分たちの部屋に走る。ドアの前に付くと、一度耳をすませる。だがしかし、部屋からはヴィヴィオの泣き声もアキラの怒りの貧乏ゆすりみたいな音も聞こえなかった。なのは達はゆっくりドアを開ける。

 

ドアを開けてもヴィヴィオも来ない、アキラの怒りの声も聞こえない。

 

「ヴィヴィオ〜?」

 

「あ、お帰りなさい」

 

ヴィヴィオの変わりに出迎えてくれたのは青い髪で、エプロンをした女性だった。

 

「どなたですか?」

 

フェイトは誰だかわからず尋ねたが、なのはにはその女性に見覚えがあった。なのは自身がホームキーパーを…主にヴィヴィオの世話を頼んだアイナ・トライトンである。これは、既になのはが保護責任者になる決意を固めた印でもあった。

 

「アイナさん!もう来てくれたんですか?」

 

「ええ」

 

「なのは、この人は?」

 

一人だけアイナのことを知らないフェイトが、なのはに尋ねる。

 

「これから、わたしたちの部屋のホームキーパーになってくれる、アイナ・トライトンさん。ごめんね、事前に言っておくべきだったね」

 

「うん…あ、それよりヴィヴィオとアキラ達は?」

 

「ああ、その子達ならあそこに…」

 

アイナが指差した先を見ると、ソファーの上で肩を寄せ合って寝ているアキラとヴィヴィオとギンガの姿があった。ちゃんと三人のは毛布がかけられてる状態で。なのは達がポカンとしてると、アイナが軽く笑いながら説明する。

 

「私がきた時にはもうこんなで…新人達と激しいスポーツをしたみたいで……多分ヴィヴィオが眠ったのに始まって周りも…あ、毛布かけたのは私です。最初は寝る気はなかったと思いますよ?」

 

「多分そうですね」

 

「ん〜なんやこうして見ると親子みたいやな〜」

 

「わっ!はやて!」

 

「はやてちゃん何時の間に!?」

 

三人の後ろに何時の間にか八神はやてが立っていた。

 

「なんやおもろいもんが見れると思って来たんやけど…あながちウチの勘は間違ってなかった見たいやな」

 

はやてはそんなことを言いながら、眠る三人を見守る。だがはやてもアキラ達を起こそうとはしなかった。普段なら起こすはやても、この平和な風景に癒されたんだろう。

 

「ん……」

 

少しすると、アキラが目を覚ました。はじめは寝ぼけていて、どうなってるかよくわかってなかったアキラだが、意識がはっきりして行くにつれ現状を理解するアキラ。だがしかし、別段焦る訳でもなく、毛布を退かす。

 

「……」

 

「あ、アキラ君起きた?」

 

「ああ…寝ちまってたのか」

 

頭を掻きながら起き上がり、ずれた毛布をかけ直してから帰りの準備を始めた。

 

「私の車で送って行こうか?」

 

フェイトが提案した。アキラは少し考えるが、ギンガの様子を見て頷く。やはりアキラとしてはギンガをなるべく起こさないようにしたいのだろう。ギンガは不満を持つだろうが、ギンガのことを考えればアキラにとって当たり前の行動だった。アキラの持論だが、寝るという行為は人間の行動で一番リラックスできる行為だと思っているからだ。

 

最近は出動が多く、緊迫状態が多かったから少しはリラックスして休んで欲しいとアキラは思っていた。

 

「ありがとうな…テスタロッサ隊長」

 

「ううん」

 

アキラは未だに寝ているギンガを背負い、フェイトの後に続く。

 

 

ー駐車場入口付近ー

 

 

(母さんの背中…あったかい…母さんの優しさが直接伝わってくるような……)

 

「ん?」

 

「ん?起きたか?」

 

ギンガが目を冷ましたのは、アキラの背中。自分がアキラの背中にいることを理解するのに時間がかかった。

 

「え!?わっ!お、降ろして!」

 

「遠慮すんな」

 

「は、恥ずかしいから!こんなところ誰かに見られたら…」

 

ギンガは、アキラは気づいてないが、奥の壁の影に……スバルと六課のヘリパイロットのアルトがニヤニヤしながら自分たちを見ていることに気づいてしまう。ギンガは顔を真っ赤にしてなんとか力尽くで降りようと暴れた。

 

「は、早く!」

 

「おっと!暴れんなって!」

 

「降ろして〜!」

 

ギンガがあまりに暴れるので、アキラは手を滑らしてしまった。ギンガはそのまま床に落ち、尻餅をつく。その際、足を挫いてしまった。

 

「大丈夫か!?」

 

「足…やちゃった…」

 

「……………………………おぶってやるよ」

 

「うん」

 

軽い捻挫とはいえ、すぐに治すには安静にするのがベスト。結局、ギンガは車までアキラに背負って行ってもらうことになったのだ。

 

 

ー翌日ー

 

 

この日、アキラはデスクに向かいながら何かを悩んでいた。アキラのPCで開いてるのはこの後、まとめて完成させた物をゲンヤに見せなければならない物。だが、いつも仕事をぱっぱと終わらせるアキラが珍しく進んでいない。

 

提出する書類の内容は、前々回ついに姿を現した敵についての書類。このあとマリエル技師も来てマリエル技師の意見も取り入れ、敵の正体を仮決定してから提出に行くのだが…アキラにはその正体はだいたい分かっていた。アキラが悩んでいるのは敵の正体がわかっているからではない。敵の正体は、ほぼ全員わかっているだろう。「戦闘機人」。問題はその先。ギンガがなんて思うかがアキラの悩みの元だった。

 

橘家の教えにこんなのがある。「護衛任務はただ守れば良いってわけではない。守る人物の精神的にも傷つけないこと。つまり、身体も心も護れなければそれは護衛が成功したとは言わない」。アキラは今もその教えに従い護衛をしている。だからこそギンガを今回機動六課の任務にギンガを加えさせるべきか悩んでいた。

 

聞くところによると、ギンガの母は戦闘機人に殺されたと言う話だ。人間、感情的になるのが一番危険だ。自分が考えてどうにかなる問題ではないが、少なくともゲンヤ…ギンガ本人にも相談するべきだろう。

 

「…屋上に行くか…」

 

考えているのも疲れたので、アキラは休憩がてら屋上に向かった。

 

 

ー屋上ー

 

 

「ふぃ〜」

 

アキラは屋上のベンチに座り、缶コーヒーを飲んで一息つく。

 

「まず…」

 

アキラはいつも自分でコーヒーを淹れているせいで、缶コーヒー等をあまり美味しく感じてなかった。だが今回は淹れる気になれなかったのだ。

 

「あれ、アキラ君?」

 

「マリーさん」

 

「あはは、久しぶり〜」

 

アキラとマリーは知り合いである。ギンガの定期検診の時に会ったし、マリエルはアキラと初めてあった時に「ギンガの異常を見逃したらただじゃおかない」と刀を向けられて言われたので忘れるに忘れられない相手だった。

 

「どうしたの?こんなところで…」

 

「あんたこそどうしたんだ」

 

「ん?まぁ〜何となくね。108や六課からもらったデータ見てから、何か気が重くてね…」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

マリエルは少しため息をついてアキラの隣に座る。

 

「やっぱり、ギンガのこと?」

 

「ああ。ギンガの母親は…戦闘機人に殺されたらしいしな…」

 

「まぁ…そう予測されてるだけだけど…現場の状況を見る限りね……」

 

その刹那、またアキラにフラッシュバックが起きた。しかも今度は長く、段々と明確に過去の映像が流れ込んで来る。アキラは頭を抱えながらその場にうずくまった。歯を食いしばらせ瞳をぐっと瞑り、自らの頭を掴んでいる手に力が加わり、爪が刺さって血が流れている。

 

「うあわぁぁぁ!」

 

「アキラ君!落ち着いて!」

 

「クイント…さん……?」

 

「っ!」

 

その名前を聞いた瞬間、マリエルは特殊なスプレーをアキラの顔の前で吹いた。アキラはそれを吸って倒れる。マリエルがアキラに使ったのは催眠スプレー。マリエルはアキラをベンチにもたれかからせ、ギンガに通信する。

 

「ギンガ?」

 

[マリーさん!もう来てたんですか!]

 

「うん、それより…アキラ君が屋上で寝ちゃってるから…運ぶの手伝ってくれない?」

 

[アキラ君…仕事放ぽって昼寝してたって…すいません]

 

「ううん…いいんだ…」

 

[じゃあすぐ行きます]

 

ギンガが通信を切る。

 

「まだ…あのことは話さない方がいいですよね…クイントさん…」

 

一人でマリエルは、空に向かって呟いた。

 

 

 

続く



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第十一話 出向

遅くなりました………すいません。
これからは月3くらいのペースでやってきます。

評価、登録、投票随時お待ちしてます


覚えているのは、血なまぐさい臭い。覚えているのは、肉片の転がった部屋。覚えているのは、助けてくれた人の……声と差し伸べてくれた手。覚えているのは……。

 

「アキラ君…」

 

「う…」

 

真っ暗な中に差し込んでくる光。そこには、一度見たことがある天井と心配そうな表情のギンガ。アキラは自分がどういう状況に置かれているのか、よく理解出来ていなかった。

 

「大丈夫?私の事わかる?」

 

「ギンガ…」

 

名前をいうと、ギンガはホッとした表情に変わった。そしてへなっと椅子に座り込む。アキラはゆっくり身体を起こした。起き上がって見ると、ギンガ以外にも、マリエル、前にも会った医務室の先生、ゲンヤがいた。

 

アキラは一体なぜこんなに人が集まっているのかよくわからなかった。そして、自分がここで寝ていた理由も。その解説はギンガがしてくれた。

 

「びっくりしたんだよ?マリーさんが屋上でアキラ君が寝てるっていうから…起こしにいったらなにやっても起きないんだから…」

 

「だからここに?」

 

「医務の人によると、寝てたっていうより気絶してたんだって……」

 

「気絶………何でだろうな、マリーさんと話してたような気がする」

 

「あは、夢の中で私が出てきたのかな?」

 

適当な会話の切れ目を見つけ、ゲンヤが口を挟む。

 

「アキラ、目覚めたんならさっさと準備しろ。これから機動六課に行く。事情は移動中話す」

 

「ん、わかった」

 

 

ー三十分前ー

 

 

「アキラ君の記憶に鍵を!?」

 

「うん」

 

ギンガに協力してもらった方が、今後もやりやすいということでマリエルは全てをギンガに全てを話した。アキラの記憶の一部に、魔力で鍵をかけてある事を。ギンガはそれを聞くと、とても驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの凛々しい真面目な顔に戻った。

 

「そうなんですか……」

 

「思い出したら……今のアキラ君じゃ、絶対に精神を崩壊させる恐れがある…だから……ギンガにも協力して欲しいんだ。アキラ君のためにも……ね?今アキラ君が寝てるのも、さっき私と話してる時に鍵を開けさせるようなキーワードが出たせいだと思うんだ。それに段々記憶の鍵が緩んできてる。また掛け直すけど、もし鍵が外れそうな兆候が出たら教えてくれるだけでいいから」

 

ギンガは悩んでいる様だった。しかし、少ししてから強く頷く。

 

「はい……それは良いんですが………その…鍵をかけてあるアキラの記憶って何なんですか?」

 

「それは……」

 

マリエルは少し困った顔をしてから、同席していたゲンヤに目で尋ねた。ゲンヤはマリエルの表情のの意味を理解したのか、頭を掻いてから部屋の隅から、ギンガの斜め前にある椅子に座る。

 

「そろそろギンガには話してもいいかもな。ギンガ、このことは………アキラはもちろん、スバルにも話すな」

 

「うん…」

 

ギンガが頷いたのを確認すると、ゲンヤはポケットから一枚写真を取り出した。そしてそれを、ギンガに見せる。写真に写っているのは、クイントとゲンヤ、幼い頃のスバルとギンガ、それから…茶髪の少年。

 

「ギンガは…昔たまに遊んだこの男の子を覚えてるか?」

 

ギンガは写真を見てもピンとしない表情を浮かべる。記憶が曖昧らしいのか、うっすら覚えてるような、覚えていないようなそんな風な感じにしか思い出せない、という表情だ。

 

ゲンヤは写真をしまい、遠い目で天井眺めながら話を始めた。

 

「今からもう十年くらい…それ以上前になるか……クイントの命日。クイントはとある研究所の秘密を手に入れるために…その研究所に仲間と侵入した。しかしその警備は硬くてな、途中まではうまく行ったんだろうが…やはり敵に気づかれた。それでクイントは殺された」

 

「……」

 

その場にいるゲンヤを含んだ全員の表情が暗くなった。ゲンヤはそれを感じながらも続ける。

 

「でもな、その部隊で遺体が帰ってきたのはクイントだけだったんだ」

 

ギンガが驚いた表情を浮かべた。当然だろう。

 

ギンガは管理局に入ってからクイントが死んだ事件を個人的に調べた。だが当時の記録を見てもあまり詳しいことは記されてはいなかった。事件の概要、任務の目的、参加した隊員が全員事件内で死亡、行方不明になっていること。その当時ギンガは少し気になったが、あまり気にしないことにしたことが一つあった。

 

クイントの遺体は誰が持ってきたのか?

 

「クイントの遺体はな……さっきの写真の……」

 

ゲンヤは一瞬アキラが眠っているベッドの方を見る。ギンガはそのゲンヤの瞳の動きを見落とさなかった。

 

「まさか………っ!」

 

「……アキラが持ってきたんだ。当時、敵の包囲網が強力で誰も入れなかった研究所から…。クイントの遺体を大切そうに抱えて、返り血なのかあいつの血なのか、白いコートを真っ赤に変えて……そん時あいつは錯乱して精神は正常じゃなかったらしい。一体どうやって研究所まで行って研究所に潜り込んでクイントの遺体を持ってきたか一切不明だ。そんなこと確認できる精神状態でもなかったからな」

 

クイントの遺体が戻ってきたことには合点が行ったが、なぜアキラがクイントの遺体をわざわざ危険を犯して運んできたことに疑問を持ち、ゲンヤに聞いた。

 

「アキラ君と母さんはどんな関係だったの?」

 

「お前はもうリイン曹長から、アキラの出生は聴いてるよな」

 

ギンガは頷く。

 

「アキラを造った研究所からアキラを救出したのがクイントだった。それから、何回か家に遊びに来てたんだ。そうだ、スバルの内気を直してくれたのもあいつだったな………まぁ、アキラはそんな感じでクイントを心の拠り所にしてたんだ…だが、クイントが死んだのを目の当たりにしたんだろうな。あいつはクイントの遺体を抱えたまま敵味方関係なく襲った。取り押さえるのにはかなり時間がかかったらしい。だがアキラは落ち着くことはなく、しょうがなくクイントとの思い出を封印した」

 

「…」

 

しばらくモヤモヤしていた気持ちが晴れたギンガは、未だに眠っているアキラを見た。時々アキラの表情に違和感を覚えることがあったのを思い出す。それは多分、ギンガと話してる時に記憶の鍵に引っかかるようなキーワードが出て、思い出したくても思い出せずに、現実との矛盾が折り重なってアキラもよくわからない状況に陥っていたのだろうと思う。

 

「わかりました、私もなるべく気をつけます」

 

「うん、ありがとうギンガ」

 

 

ー現在ー

 

 

アキラは準備を済ませて、車の運転をしながら機動六課に向かうことになった経緯を聴く。

 

「戦闘機人か……なるほどな、目的は違えど標的は同じってことか」

 

「出向するのは私とアキラ君だけど、六課のメンバーとの連携が必要だけど、まぁアキラ君なら大丈夫だよね」

 

「むしろ周りが足引っ張んなきゃいいけどな」

 

相変わらず口は悪いアキラ。だがもう周りも慣れてしまったのか、大した反応はなかった。

 

 

―機動六課―

 

 

さて、今日から機動六課にしばらくいる事になったアキラとギンガ。もちろん朝練も一緒に行う訳だが、最初に二人の紹介から始まる。

 

「もうみんな知ってると思うけど、今日からギンガとアキラ君が機動六課に出向して、事件の操作に協力することになりました」

 

「陸士108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です」

 

「同じく、橘アキラ陸曹だ」

 

それから、マリエルの紹介があって朝練の開始。だが、早速スバルとギンガが模擬戦をすることになった。

 

「いい、アキラは絶対に手を出さないでね?」

 

模擬戦が始まる前にフェイトがアキラに念入りに忠告する。アキラはそれをめんどくさそうに聞きながら最寄りの木に寄りかかった。一応アキラでもそこらへんはわきまえてるつもりではあるが、周りに信用されるはずもない。なんせギンガを守るために部隊長にすら刀を向けたのだから。

 

少しすると、なのはの合図で模擬戦が開始された。しかしアキラは模擬戦を見ることもなく、木の木陰で空を見上げるだけ。

 

「………見ないんですか?」

 

ティアナが尋ねる。するとアキラは少ししてから説明した。

 

「見なくても、勝敗くらいわかる。今回はギンガが勝つ」

 

「なんでわかるんですか?」

 

「スバルも強くなったが、まだだ。あいつにはまだ足りないものがある」

 

「足りないもの?」

 

「プライドと…勝ちに対する執着心だ」

 

ティアナはその意味が良くわからず、首を傾げる。アキラはティアナに「そんなことも言わなきゃわかんねぇのか」と言いたげな表情を浮かべた後、頭を掻きながらため息を一つ。そして、ティアナに説明を始めた。

 

「まず、ギンガはどういう立場にある?」

 

「えっと、スバルのお姉さんですか?」

 

「そうだ。そうなるとギンガは姉として負けられない立場になる。それがプライド。負けられないのなら意識しなくても、貪欲なまでに勝ちにこだわろうとする。それが人間だしな。だが、スバルにはそれらがない。あったとしてもそれはギンガには劣るだろう。妹だから特に気にするような物も無いしな」

 

アキラがあらかた説明を終え、ティアナを見るとティアナはなにか言いたげな雰囲気である。

 

「………言いてぇことがあるんなら言っても構わねえ。俺は誰かに尊敬されるような人間じゃねえからな」

 

「…では…お言葉ですがアキラ陸曹、スバルは確かに……まぁその、抜けてるようなところもありますが、決して妹だからなんて甘い考えをするような人間じゃありません」

 

「…どうだか」

 

アキラは試合を横目で見ながら言った。

 

「…」

 

試合は、二人の激しい地面での戦闘の後、互いにウィングロードを使った試合に発展している。アキラはそれを見ていると、訓練服の中から小さな瓶を取り出した。

 

「……何ですか?それ」

 

「傷薬。俺が山でとってきた薬草とかを組み合わせたモンだ。店とかで売ってるのよりも全然効く。今ギンガが利き手守ろうとして、右手で防いで傷を負ったのが見えた」

 

ティアナが試合の現場を見ても、二人の姿を認識するのがやっと。やはりこの橘アキラという人物は、ただ者ではないとティアナは改めて認識する。

 

数分後、激しい戦いだったが結果はギンガの勝利。だがギンガはいつも通りの勝利ではないことを実感していた。あんなに人を傷つけることも、傷つけられることも嫌ってたスバルがこんなにも強く、立派になったのを嬉しく思っていた。

 

「ギンガ、手出せ。怪我したろ」

 

「え?あ、うん」

 

アキラはギンガの怪我に薬を塗る。考えてみれば、スバルの内気を最初に治してくれたのはアキラだったという話を、ギンガは思い出した。

 

「ありがとう、アキラ君」

 

いつも、いつでも自分のことを心配してくれることと、スバルのこと、二つの意味を込めてギンガはアキラにお礼をいう。アキラはいつもの表情で応じた。

 

「ん……ああ」

 

そんな様子を見ていたスバルは試しに声をかける。

 

「アキラくーん、私も手に怪我してるんだけど〜」

 

「んなもんかすり傷だ。唾つけときゃ治る」

 

「………」

 

「さてと…次だね」

 

「ん?」

 

アキラがギンガの治療を終え、ギンガにタオルを渡しているとなのはに見られる。次とは一体なんの話だろうか。そんな顔をしていると奥からシグナムが出てきた。

 

「次は私とお前で模擬戦だ。元傭兵の力、見せてもらおうか」

 

「え?」

 

シグナムの興味もとい、アキラの実力を図るという意味も持った模擬戦、と言う事になっていた。

 

「たくっ事前に説明しろってんだよな」

 

「制限は5分。全力で戦ってね〜」

 

なのはは気楽に手なんか振っている。このあと、模擬戦ではなく戦士同士の戦になることも知らず。

 

「アキラ陸曹!」

 

シグナムが試合開始前にアキラに言う。

 

「なんだ」

 

「これは模擬戦だが、決して手加減はしない。全力でかかってこい」

 

それを聞いたアキラは、挑発するようにシグナムに言った

 

「副隊長さんが全力を出す程の相手ならな」

 

「ほう、面白いことを言うやつだ………では私もお前に全力を出させてやろう……」

 

「それじゃあ…レディ…ゴー!!」

 

なのはの合図で模擬戦が始まる。アキラは刀を抜刀しながらシグナムに突進した。シグナムはレヴァンティンを構えたまま動かない。アキラは動かないシグナムに一瞬フェイントをかけて斬りかかるが、第一撃は防がれた。

 

「ふっ…ぐぐ…」

 

「ぐ…」

 

刃が交差し、ギシギシと音を立てる。

 

「ハァ!!!」

 

「!!」

 

シグナムが一度アキラの刀を弾き、そこから抜刀してアキラに斬りかかる。斬りかかられたのをアキラはバク転で回避した。シグナムの攻撃はそれだけでは収まらず、更に一発強めの攻撃を放つ。アキラはギリギリでそれを防いだ。

 

「ふっ!」

 

アキラは防いだレヴァンティンを力で押し戻し、レヴァンティンごとシグナムを蹴り飛ばした。そして刀の先端をシグナムに向け、刀に魔力を籠める。

 

「氷牙っ!」

 

刀の先端から氷の刃が放たれた。シグナムはすぐに体勢を立て直し、氷牙をレヴァンティンで防いだ。しかし、氷牙はレヴァンティンに命中した瞬間炸裂し、一瞬シグナムの視界を覆う。

 

(しまった、これは目眩まし………っ!)

 

その一瞬でアキラはシグナムの後ろに回り、刀に魔力を溜める。

 

「氷牙………」

 

シグナムも対抗するためにレヴァンティンのカートリッジを一つ飛ばしてレヴァンティンに火炎を纏わせた。

 

「紫電………」

 

「「一閃っ!!!!!!!!」」

 

正反対の属性の魔力がぶつかりあい、その場に大きな衝撃波が広がる。互いの剣がぶつかった部分の地面にはクレーターが出来、そこを中心に波紋が広がっていた。

 

アキラとシグナムは互いに衝撃波から逃げるためにバックステップで距離を作っていた。シグナムはすぐさまレヴァンティンを構え直す。

 

「なるほど…なかなかいい動きをしている。魔力も中々の物だな」

 

「そいつは……」

 

アキラは鍛えた強靭な脚に軽く魔力を籠め、その場から前方に跳ね、一気にシグナムとの間合いを詰め、斬りかかる。シグナムは鞘のみで防ごうとしたが、一撃が思ってたよりも重く、止むを得ずレヴァンティン本体も使って防ぐ。

 

「どうも!!」

 

「ぐっ!」

 

シグナムは身体をねじり、アキラを弾いた。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

「うらぁぁぁっ!」

 

互いに互いの刃を弾き、隙があればそこに攻め込み、攻め込まれたら防ぐか避けるかして反撃に移る。そんな一進一退の戦闘を約一分間続けた。

 

一方、その様子を見ていた傍観者達。

 

「すごいね、アキラ君。シグナムさんと互角に戦ってる」

 

「シグナムは全然本気じゃねぇけどな」

 

ヴィータが言う。

 

「でもアキラ君も本気じゃありませんよ、ヴィータ副隊長」

 

ギンガも言う。

 

「そうなのか?あたしからは結構一杯一杯に見えんだけどよ」

 

「アキラ君は刀で戦ってるうちは本気じゃないですよ。アキラ君はデバイスを出してからが本気です」

 

「へぇ…」

 

ヴィータは改めてアキラを見た。そう言われれば確かに、表情には余裕が見えなくないかもしれない。しかし引っ掛かるところもある。なぜ最初からデバイスを使わず、普段から刀を持ち歩いてるのか。

 

「ウェイ!」

 

アキラがシグナムの攻撃をいなし、カウンターを繰り出した瞬間だった。レヴァンティンが叫んだ。

 

『Schlange form』

 

「うぉ!?」

 

シグナムの剣が分列してアキラに襲いかかる。アキラはギリギリで連結刃を弾いた。

 

(連結刃!?また面倒なものを…)

 

アキラは刀に魔力を込め、居合切りの構えを取った。だがシグナムもそれに素直に突っ込ませるほど馬鹿でない。シグナムは連結刃をアキラの周りに渦巻かせるように操る。しかしアキラは構えを解かず、連結刃の動きを目だけで追っていた。

 

「氷牙…………一閃・拡!!!!」

 

アキラが刀を引き抜き、刀を振るうとアキラを囲っていた連結刃が一気に凍りついた。

 

「なに!?」

 

「もらった…!」

 

レヴァンティンが凍った隙をつき、アキラは連結刃の囲いからジャンプで抜け出した。そして、さっきよりも多く魔力を刀に注ぎながらシグナムに突っ込んで行く。

 

『Explosion』

 

カートリッジが一つ飛ばされ、レヴァンティンが火炎を放ち、解凍されて元に戻る。

 

「行くぞ…」

 

シグナムが居合切りの構えを取ると、レヴァンティンの炎が一段と大きくなった。何かくる。危険を察知したアキラは、足を止め、守りの構えを取った。

 

「火龍……一閃!!!!!!」

 

「炎熱砲!?」

 

アキラは刀に溜まった魔力を使わず、ガードで防ぐ。火炎がアキラの身体を痛めつける。アキラが耐えていると、少しずつ威力が弱まり視界が開けてきた。完全に視界が開けたさきに見えたのはシグナムの獣のような瞳だった。

 

「紫電一閃!!!」

 

アキラはさっき貯めたままにしてあった魔力を開放する。

 

「氷牙一閃!!!!」

 

アキラの構えから首を落とすことは出来たが、あえて武器を狙う。 刃が交差し、衝撃波が再び起こった。多くためていた魔力はシグナムの紫電一閃を押す。

 

シグナムも負けじと対抗する。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」

 

魔力がぶつかり合い、爆発が起きた。爆煙が少しずつ晴れ、お互いの姿が目視出来るようなる。

 

「はい、そこまで〜」

 

アキラの刀はシグナムの首に、シグナムのレヴァンティンはアキラの首にいっていた。これはとりあえずお互いの、通常時の力は互角ということを認め合ったようなものだ。

 

「なるほど、お前の力はよくわかった」

 

そう言ってレヴァンティンを下ろす。

 

「あんたも中々だな」

 

アキラも刀を下ろした。

 

それから少し休憩が入り、次の訓練へ備える。なのはは木の木陰でくつろいでるアキラを見た。アキラは刀の手入れをしながらもギンガの方を見ている。なのははアキラの後ろに回り、こっそり近づき、驚かそうとした。

 

「ア」

 

声をかけた瞬間、なのはの首に刀が向けられていた。

 

「なんだ、高町隊長か。驚かせんな」

 

「こ、こっちが驚いたよ………」

 

アキラが刀をしまうと、なのははアキラの隣にしゃがみ込んだ。なのはが近くに、いや、ギンガ以外の女性が普通に自分に近づいてくるのは珍しいと思うアキラだが、別に追い払う理由もないのでどうもしない。

 

「………何か用か」

 

「アキラ君はどうしてそこまでギンガを守ろうとするの?」

 

「理由がなくちゃダメか」

 

「ううん、ただちょっと気になって」

 

アキラは手入れを終えた刀の刃に日差しを反射させる。

 

「俺は夢がない、権力もない。あるのは無駄な学力と戦闘技術だけ。だから戦うことしか出来ない。だったら、人を傷つけるよりも守った方がいいだろ」

 

「………そうだね」

 

なのはは微笑んだ。アキラはなぜなのはが微笑んだのかわからず頭に「?」を浮かべたが、なのはは事情は言わず、立ち上がった。そして休憩終了の知らせを叫ぶ。

 

「さぁ!みんな!休憩は終わり!今日の最後の訓練いくよー!」

 

「はーい!」

 

アキラは疑問を残しながらも、立ち上がりギンガとFW達の横に並んだ。

 

「本日最後の訓練は、隊長部隊対、FW+αでの模擬戦です!」

 

「え………えぇ!?」

 

それを聞いたギンガは文字通り目を丸くする。

 

「あ、ギン姉、この訓練はたまにやってるやつでね」

 

「制限時間内で全力で逃げて」

 

「指定された攻撃で一撃でも入れられれば隊長は撃墜ってことになります」

 

「私たちも一撃で撃墜されるんですけどね」

 

説明しなれた様子で四人はギンガとアキラに説明した。

 

「四人で綺麗にリレーしてんじゃねぇよ気持ち悪りぃ。でもまぁ大体ルールはわかった。単純で助かる」

 

「ギンガはスバルと同じでデバイスを使った攻撃。アキラ君はその刀かデバイス、どっちでもいいけどなるべく本気でね」

 

「ああ、全力でぶっ潰してやる」

 

 

 

 

続く

 



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第十二話 傷心

遅くなりました〜。ギンガ愛してる〜!!


前回のあらすじ

機動六課へ出向してきたギンガとアキラ、ギンガとスバルの姉妹対決、アキラとシグナムの剣を使う者同士の激しい戦いの後に、二人を待っていたのは隊長部隊VSFW部隊という理不尽な組み合わせの戦い!アキラはギンガを守り抜く事はできるのか!!

 

「こんなの↑今まであったっけ?」

 

「作者の気まぐれだそうだ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「うおおおおお!!!」

 

グラーフアイゼンを振り上げながら飛ぶヴィータ。ヴィータが追いかけてるのは、スバルだった。

 

「ひいいいい!」

 

「オラオラァ!全力で戦わなきゃいつまで立っても勝ち星あg」

 

ヴィータのセリフを、茂みから突然出てきたアキラの足蹴りが邪魔をする。勢いよく飛んでいたヴィータは、そのまま地面をスライディングして行った。

 

「ん、何か蹴ったか?」

 

蹴った張本人もヴィータに気づいてない。

 

「痛ってぇ……不意打ちとはやってくれるじゃねぇ……ってあれ?」

 

ヴィータが起き上がった時には、アキラはすでにその場にいなかった。アキラは先ほどフェイトの襲撃を受け、ギンガからだいぶ引き離されてしまったのだ。何とかフェイトを振り切り、ギンガの元へ向かってる途中だった。

 

ようやくギンガの姿が見えたかと思うと、ギンガはライトニング達と仲良くなのはに襲われているところ状態。

 

「ギンガ!」

 

アキラは懐から何かを取り出し、ギンガの足元に投げた。

 

「キャア!?」

 

投げたものが一瞬で大量の煙を発生させる。アキラが投げたのは煙幕が発生する小さな爆弾。煙幕でなのはの視界を曇らせているうちにアキラは、ギンガとライトニング達を抱えて茂みに飛び込んだ。

 

「ふぅ……」

 

「アキラ君、助かったよ………なのはさん結構本気で来るから」

 

「模擬戦とはいえ使用するものは本番となんら変わりない。これが傭兵の訓練だったら全員死んでいる。大切なのは、臨機応変だ」

 

アキラは軽い説教じみたことを言ったが、それに同意する者が一人いた。

 

「うん、その通りだね♪」

 

いつの間にか、なのはが真後ろに立っていた。

 

(こいつ、俺の煙幕を逆に利用して…………っ!)

 

アキラはギンガを抱えて茂みから飛び出す。そして、アキラはとうとうなのは達相手にECディバイダーを出した。地面に着地した時には、救出し損ねたライトニングはもう撃墜されている。アキラはギンガの前に立ち、刀をなのはに向けた。

 

なのは一人なら、ディバイダーを持ったアキラなら負けることはない。だが、状況はさらに悪化する。ライトニングどころか、スターズも撃墜されたらしく、残りの隊長が集まって来た。

 

「さっきの借りを返しに来たぜ」

 

「もう降参かな?」

 

「アキラ君………」

 

ギンガはアキラと背中合わせで立つ。ギンガはもうダメって顔をしているが、アキラは表情を微動だにさせない。それどころか、余裕の表情である。

 

「うまくかかってくれたか」

 

「!?」

 

「ギンガ、目ぇ瞑れ!」

 

そういうとアキラは上空に手榴弾のような物を投げた。

 

「非殺傷の閃光玉だ。これであんたらの視界を潰す」

 

隊長ら全員の視線が一瞬閃光玉に向けられ、全員視界を守ろうと目を瞑る。その刹那、アキラは刀を構えてまず、なのはに突っ込んだ。刀を振り下ろす直前にアキラは小さくつぶやいた。

 

「なんて、嘘だ」

 

アキラはバリアジャケットのみ切り裂くつもりで刀を振り下ろすが、その攻撃はなのはがとっさに出したレイジングハートで防がれる。

 

「何となく怪しいと思ったよ………っ!」

 

アキラが投げた閃光玉は何も起こらず、ギンガの後ろに落ちただけだった。そのことに隊長達も気づき、目を開ける。そして、一斉に二人に襲いかかろうとしたが、アキラはギンガを守ろうとしない。

 

「嘘ってのも嘘だけどな」

 

アキラが言った瞬間に閃光玉は強力な光を発した。隊長達は一瞬目を潰される。ギンガはアキラを信じてずっと目を瞑っていたおかげで光を食らってない。アキラは光が収まらないうちに、ディバイダーを上空に向けた。

 

「フロストバスター・拡!!」

 

少しのチャージの後に一発の魔力弾が上空に放たれる。魔力弾は少し上がったところで無数の小さな弾に変わって隊長達のいる場所に一斉に降り注いだ。

 

それから役一秒後、光は完全に収まったが、隊長全員のバリアジャケットが所々氷ついている。それはアキラの技が命中したということだ。アキラは隊長達の状態を見た後、刀を納刀した。そしてバリアジャケットを解除する。

 

「ルールは、決められた武器で一発でも入れられれば、隊長は撃墜……それで良かったよな?」

 

反論できる者はいなかった。

 

 

ー訓練終了後ー

 

 

「キツイね〜。スバル、いつもこんななの?」

 

訓練は終了し、ギンガは身体をほぐす運動をしながらスバルに尋ねる。スバルも同様の行動をしながら答えた。

 

「今日は特別ハードだったけど、大体こんなかんじ。このあとは、しっかりご飯食べて、しっかりお仕事!」

 

(ずっと変わらないって思ってたけど………何時の間にかずっと立派になって……)

 

母親のような感想を抱きながら、ギンガはスバルの成長を噛みしめる。ギンガは自分の後ろにいるアキラを見た。アキラは相変わらず無表情でいる。せっかくあの四人を倒したのだからもっと喜んでも良いと思っていた。しばらく見ていると、アキラは急に表情を変えた。

 

「ママ〜!」

 

ヴィヴィオが訓練所に来たのだ。

 

「アキラ君?」

 

「ん?」

 

「どうしたの?眉間にしわ寄せて……」

 

「別に………」

 

アキラは特に何も言わずその場を立ち去ろうとする。だがその時、アキラの耳になのはとフェイトの声が入って来た。

 

「ヴィヴィオ、走ったら危ないよ〜!」

 

「転ばないようにね〜」

 

「あっ!」

 

フェイトとなのはの忠告も虚しく、ヴィヴィオは転びかける。しかしその刹那、アキラが懐からクナイを取り出し、ヴィヴィオに向かって投げた。

アキラの投げたクナイはヴィヴィオの着ている服のフードに引っかかり、そのままヴィヴィオの隣にあった木に刺さる。

 

ヴィヴィオは転ばず、軽い宙ぶらりんの状態になった。

 

「大丈夫か」

 

アキラはヴィヴィオの元へ駆け寄り、ヴィヴィオを抱えてクナイを抜く。

 

「親の言うことはちゃんと守れよ。あの二人なら、間違ったことは言わねぇさ」

 

「うん!」

 

「ヴィヴィオ、大丈夫?アキラ君、ありがとう!」

 

「ん……」

 

ヴィヴィオはフェイトとなのはの元へ駆けて行く。アキラが小さなため息をついて、また隊舎に戻ろうと振り返るとそこにはギンガがいた。ギンガはなぜか笑顔だ。

 

「どうした」

 

「ううん、なんだかアキラ君がこう…人道的な行動をしたのがなんか嬉しくて」

 

「好き勝手言ってくれるな。元々人を守るために力を付けてたんだ。当然だろ………ただ………」

 

アキラはそこで言葉を止める。

 

「ただ?」

 

「いや、何でもない。それより腹が減った。さっさと食堂行こうぜ」

 

「うん…」

 

ギンガの後ろについてアキラも歩き出す。その他の者もぞろぞろと食堂に向かい歩き出した。その中で、アキラは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

 

「みんな俺を怖がってすぐ逃げちまうんだけどな」

 

アキラの言った言葉をの通り、アキラが今まで助けた人は全員アキラを恐れ、逃げていった。それはギンガも同じ。アキラが初めて助けた時に、ギンガはアキラの底しれない悲しみと、自分に対しての憎悪を恐れ、差し伸ばされた手をはじいたのだ。

 

だが、逃げなかったのはギンガが初めてだったと、アキラはそのことに今更気づいた。

 

「………ギンガ…」

 

アキラはギンガ対する意識が少し変わったのを感じる。

 

 

ー食堂ー

 

 

アキラは食堂で、エリオとキャロ、ギンガに誘われFWと食事を共にすることにする。正直あまり群れるのは好んでいなかったが、断る理由もなく、ギンガと離れるのも面倒なので、FWの中に入った。

 

「はい、アキラさんどうぞ!」

 

スバルがパスタを大量によそった皿をアキラに渡した。

 

(洋食は苦手なんだが…………ていうかどう考えても盛りすぎだろ……)

 

アキラは文句を直接口には出さず、差し出された物を受け取り食事を始めた。相手が例えばメグの様な立場の人間なら文句も言ったろうが、相手はギンガの妹であり、自分よりも階級も年齢も低い。

 

更に、自分が 普通に言ったとしても相手は自分が怒ってる様に感じるのもアキラは知っていた。

 

ギガ盛りのパスタと格闘しながらアキラはチラリとなのはとフェイトのいる席を見た。そこにはピーマンを嫌い、軽く涙ぐむヴィヴィオの姿。その姿にアキラはセシルを重ねていた。子供で意外と世話が焼けるところはヴィヴィオに、お節介で、誰に対しても優しかったり、自分を理解してくれることに対してはギンガをセシルに重ねていた。

 

「スバルもちっちゃい頃はあんな感じだったなぁ」

 

ヴィヴィオを見ていたギンガが、昔のスバルを思い出し、呟いた。スバルは急に話を振られて恥じらいと焦りで顔を赤くする。

 

「そ、そんなことないよぉ!え、えっと、アキラ君は小さい頃はどんな感じだったのかなぁ!?」

 

昔の話はスバルにとって相当恥ずかしいことのなのか、何とか話をずらすためにアキラに話を振った。アキラはパスタを一旦置き、お茶を一口。

 

「……俺の昔なんざ食事を明るくする話題にゃなんねぇよ。まぁ、訓練尽くしの毎日だったな。俺が望んでそうしたもんだが」

 

静まる一同。こうなるのは分かっていたという態度でアキラはまたお茶を飲もうとする。その時、エリオが口を開いた。

 

「あの…アキラさん」

 

「なんだ?」

 

「どんな訓練してたんですか?」

 

アキラは手を止める。何故そんなことを確認したがるのか、アキラは疑問に思った。自分に対しての嫌がらせか、素で聞いているのか、判断し辛い質問だったが、思い切ってアキラは尋ねる。

 

「何でそんなこと聞く」

 

「あの…別に機動六課の訓練じゃ物足りないって言う訳じゃないんですが、今日のアキラさんの戦い方を見て思ったんです。もっと、大切な人をどんな状況でも助けられる様な強さが欲しいって……」

 

「…………」

 

「アキラ君……?」

 

しばらく黙ってるアキラの顔を覗き込む様にギンガは首を動かす。アキラは悩んでるような、いつも通りのような表情を浮かべながら腕を組んでいた。

 

少ししてアキラは結論を出した。

 

「教えてやるよ、傭兵流の訓練法」

 

 

ー昼食後ー

 

 

アキラはエリオを訓練場に再び連れてきている。そして、あのアキラがどのような教育をするのか気になったなのは、シグナムと、エリオが心配だったフェイト、アキラがうっかりエリオを殺しはしないでも、大怪我させないか心配なギンガ。等々が集まった。

 

「いいか、さっきも言ったが必要なのはまず、臨機応変さだ。どんな状況でも正しい判断をし、守り、戦う。そのために必要なのは決断力、洞察力、俊敏さ、反射神経、大体その四つだ」

 

「はぁ……」

 

「要するに素早さ。それがもっとも必要なことだ」

 

「はいっ!」

 

エリオの威勢を確認すると、アキラは刀を抜く。そして構える。

 

「わかったら始めんぞ。今から俺がお前に攻撃する。まずはそれを避けてみろ」

 

「はい」

 

アキラは刀を居合斬りの構えを取った。エリオも構える。アキラは一歩踏み込み、刀を振った。エリオはそれを見てから後ろに動き攻撃を避けようとする。アキラは手を途中で止め、片手を刀の柄に添えて押した。

 

瞬時の出来事だった。アキラの刀はエリオの首すれすれに当たり、エリオの首からは少し血が垂れる。

 

「ダメだ。攻撃の避け方はそうじゃない。ぎりぎりまで引きつけ、避けて反撃の機会を待つ。恐怖心を忘れろ。相手をより早く戦闘不能にすることに専念する。確かに守るのも大切だが、相手がいるなら一刻も早く脅威を消し去ることも大切だ」

 

「……はいっ!」

 

そんな様子を見ていたなのは達。

 

「アキラ君、結構教えるの上手だね」

 

訓練の様子を見ていたなのはがギンガにいった。ギンガは少し俯いて、無理して作った笑顔で対応する。

 

「そうなんですよ…………色々、悲しい過去がなかったらもっと幸せな人生を歩めたと思うんですけどね………」

 

「遅いっ!もっと早く!」

 

「はいっ!」

 

アキラの指導は夕方まで続いた。

 

 

ー深夜 六課宿舎ー

 

 

アキラはその後、仕事をバリバリとこなして夜の訓練でもそれなりの戦績を上げ、今は武器の整備をやっている。刀の刃に欠けてる部分はないかと色々見たり、隠し持ってる銃は異常はないかと色々だ。

 

そしてそれらが終わった後。時計を見るともう一時。明日は訓練場の整備をしなければならなかったはず。

 

「………もう寝るか」

 

そうした矢先にギンガのいる宿舎の部屋の中を監視している周るポッドから緊急事態のデータがアキラの腕時計に送られ、アキラの腕時計から警報が鳴った。

 

アキラは急いで狙撃銃でギンガの部屋の中を窓から覗く。そこには白い服…と言うよりか甲冑のような物を纏った白髪の男がいた。そして、眠っているギンガに近づこうとしている。アキラはその男に向かって引き金を引いた。

 

弾丸はギンガの部屋の窓を貫き、男に命中……………しなかった。

 

「!?………どうなってやがる!!」

 

アキラは更に二発放つ。しかし弾は当たらない。

 

(どういうことだ………?あの弾道で当たらない筈がねぇ………)

 

「くそっ!」

 

考えるよりもとにかくギンガを助けることが最優先にしたアキラはコンバットナイフを両手に持ち、窓から屋根伝いに走り始める。そしてギンガの部屋に窓から飛び込んだ。窓が割れる音がしてもギンガは目を覚まさない。それをアキラは不審に思ったが、今はそれどころではなかった。

 

「テメェ!ギンガから離れろ!!」

 

アキラはナイフを構えて突っ込む。男はアキラに手のひらを向けた。

 

「ぐあ!?」

 

男の手のひらからは魔力波が放たれ、アキラはその場に押さえつけられる。魔力ではない、違う何かの力で身体が拘束されていた。

 

「相変わらず血の気が多いな」

 

「てめぇは何者だ!なんでギンガの部屋にっ!」

 

男は眠っているギンガのベッドの手前にしゃがむ。そしてギンガの頭に手を伸ばす。

 

「や……めろぉ!ギンガに触れるなぁ!!!」

 

「安心しろ別に何もしない」

 

男は言葉の通り、ただギンガの頭を撫でているだけだ。ギンガは何故か目覚めない。それに色々おかしいことにアキラは今気づいた。先ほど銃声を三回も響かせ、窓ガラスを叩き割ったのに誰も起きてこない。

 

恐らくこの男が何らかの方法で音を消しているか、この隊舎内の人間を昏睡状態に陥らせているか、とにかくこの男がとんでもない力を持っているのだけはよく分かった。

 

「……」

 

しばらくすると、男は立ち上がる。それと同時にアキラの拘束が外れた。拘束されている間必死に動こうとしていたため、体力が無駄に奪われ、アキラはその場にひざまずく。

 

「はぁ!はぁ!クソっ!」

 

「橘アキラ、ギンガを………この先なにがあっても絶対に守れ。決して離れるな」

 

「なんなんだテメェは……」

 

男は再び手のひらを前に出す。アキラは身構えた。しかしアキラの身には何も起こらず、さっきアキラが叩き割った窓ガラスが元に戻って行く。壊れた物を完全に元に戻す魔法なんてありはしない筈なのに。

 

「……なん………だと?」

 

「近いうち、お前とギンガは危機に陥る。必ず……気をつけろよ」

 

「何言ってやがんだ!誰だか知らねぇが、拘束して何が目的か吐かせてやらぁ!!!」

 

アキラはナイフを構えて再び突っ込む。ナイフを振り、男の足を切ろうとしたが、ナイフが当たる前に男は消えていた。

 

「………どこに…」

 

それから数分間しばらくアキラは身構えていたが、男が再び現れることはなかった。

 

 

ー翌朝ー

 

 

「ん………」

 

カーテンの隙間から射し込んで来る朝日に照らされ、ギンガは目を覚ます。まだ眠いが今日は訓練場の整備の係を任されている。眠い目を擦りながらギンガは起き上がった。起き上がった視界に映ったのは、ベッドにもたれ掛かりながら体育座りしているアキラ。

 

「きゃぁ!!!」

 

「あぁ、起きたのか」

 

「な、なんでこの部屋に…」

 

「数時間前この部屋に不審者が侵入していた」

 

ギンガは驚く。寝ている間誰かが入ってきた気配はしなかったからだ。

 

「それでアキラ君が捕まえてくれたの?」

 

アキラは首を横に振る。

 

「圧倒的な力の差で負けた………」

 

「ええっ!?」

 

アキラはその男について説明した。狙撃銃の弾丸が効かなかったことや、ギンガには危害を与えなかったこと、窓ガラスを元に戻したこと等……。全て聞いたギンガは、今のアキラの内心を何となく読み取った。

 

アキラはきっと落ち込んでいるのだ。必死に守ろうとしたのに何の役にも立てなかったことが。そう予測したギンガは、体育座りしたままのアキラを抱きしめた。

 

「ありがとう、アキラ君」

 

そう耳元で囁く。

 

「何だよ急に」

 

「だって、アキラ君はそこまでして守ってくれたんだもん。経緯はどうであれ、結果的には私は助かったんだし」

 

「それは…あの男がそもそも何もする気がなかったんだし」

 

「それはわからないけど、とにかく自分に自信を持って!アキラ君が来たからその人逃げたのかもしれないよ?」

 

ギンガはアキラを必死に慰めた。アキラを慰めると同時にギンガはこれはチャンスと思っている。この事態を利用すれば、アキラが自分に振り向いてくれるのではないかと。

 

しかし、アキラは中々元気を出してくれなかった。

 

「……俺は…誰かを守ることしか人様の役にたてねぇ。なのに、それすらまともに出来ずに自信なんか持てるかよ………」

 

「アキラ君………アキラ君なら大丈夫、どこが悪かったのかきちんとわかってるから。そこをちゃんと理解していれば、もうきっとミスはしないよ」

 

これが今のギンガが思いつける最大の励まし。

 

「ギンガ………」

 

 

ー午後ー

 

 

訓練を終わらせたギンガとスバルはマリエルと共に、身体検査に出掛けた。当然アキラも一緒に着いていく。ふたりはいつも通りの動きで検査のカプセルに入った。二人がカプセルに入るのを確認したアキラは、何だかやりきれない顔で椅子に座る。

 

「なぁ…マリーさん」

 

「ん?どうしたの?」

 

「俺は…ギンガをちゃんと守れてんのかな……」

 

マリエルは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻った。そしてアキラに気づかれないように、ギンガの入っているカプセルへのマイクを繋げた。

 

「どうして?」

 

「どうして………?傭兵…いや、護衛をやる人間はただ対象の肉体を護ってればいいって訳じゃない。その心も護らなきゃいけない。なのに俺は……。ギンガに励まされてばっかだ……」

 

マリエルはため息をつく。そしてアキラのおでこをつついた。

 

「むお」

 

「難しく考えすぎだよ。変なルールに縛られないで、アキラ君の出来る事をしたらいいんじゃないかな?というか、アキラ君はちょっとやり過ぎてる感じがあるけどね?」

 

「マリーさん……」

 

ギンガには普段話さない相談をマリエルにしている様子を聞き、ギンガはアキラも普通の人っぽいところもあるんだなぁと思う。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

検査終了後、スバルは「チョコポッド」なるお菓子を買いにいった。ギンガとアキラは店の外で待っていた。待っている間にギンガをアキラが横目で見るとけっこう表情が固いのに気づく。

 

「ギンガ」

 

「なに?」

 

ギンガは真っ正面を見ながら応答した。ギンガは、アキラの事も心配だったが、もう一つ悩みの種があった。機動六課に来る理由にもなった戦闘機人についてだ。母の仇。責めて誰がクイントを殺したのか目星がつけば良いのだがと考えている。そしてアキラは、ギンガがなにか悩んでいることも何となく気づいていた。

 

「表情…固ぇぞ」

 

「え…ああ。うん…」

 

「ギン姉、アキラ君、おまたせ〜」

 

大量のチョコポッドを抱えたスバルが出てくる。

 

「また随分買い込んだわね〜」

 

アキラに出来るせめてものこと、マリエルからの助言を早速生かそうとアキラは考える。

 

(ギンガは…きっと悩みがあるんだ…誰にも話せない…俺じゃダメなのか?)

 

「アキラさんも、はい」

 

そんなこと考えているとスバルにチョコポッドを差し出される。考え事に意識を回していたので、アキラは少しスバルに驚きながらも遠慮した。

 

「え?あ…いや俺は…」

 

慌ててるアキラを見てギンガはクスクスと笑う。

 

「もらっておいたら?」

 

「え…えっと…」

 

「ほら、口開けて?あーん」

 

アキラは始めは戸惑っていたが結局折れた。

 

「じゃあ……」

 

「どう?」

 

「…うまい」

 

その後、二人は色々話していた。機動六課に入れた事とか、ギンガが目標だとか。そんな話の後にギンガがまた暗い表情を見せた。

 

「スバル、近いうちに多分…戦闘機人との戦いがあると思うんだ、だから………」

 

ギンガは何か言いたげだったが表情を変える。

 

「頑張ろう」

 

「うん!」

 

何か言葉を引っ込めたのが分かった。しばらくしたらマリエルが迎えにきた。スバルは助手席に、ギンガとアキラは後部座席に乗る。

 

車内は明るかった。ギンガも最初はギンガも暗い表情だったが笑った。

 

「ギンガ…」

 

「なに?アキラ君。」

 

「あんたの幸せってなんだ?俺じゃ…役不足か?」

 

「え?アキラ君、それってどういう…」

 

「…いや」

 

アキラは頭を軽く押さえてから窓の外を見る。

 

「なんでもない。忘れてくれ…」

 

「…アキラ君」

 

 

 

続く



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第十三話 傷体

陳述講演会の直前の話です(コミック版参照)
陳述講演会はもう少しお待ち下さいm(_ _)m


評価、投票、感想、お気に入り随時募集中です♪


アキラ達が機動六課に来てから、しばらくたったある日、その日は108部隊と機動六課のFW部隊の合同訓練がある日だった。しかし、108部隊であるアキラとギンガは六課の残っている。そして仕事の合間に、108のラッド・カルタスと通信して今回の件を話題に話していた。

 

「呼ばれなくてちょっと残念だったね」

 

「ま、俺達の出所は108なんだし、あっちでは指導側だったからな」

 

[本当は来てくれた方が説明は楽だったんだけどね]

 

そんな話をアキラとギンガがラッドとの通信に挟んでいる頃だった。六課のアラートが鳴り渡る。画面の先の108のアラートもなっている。

 

「なんだ!?」

 

[状況アラート2。市街地付近に未確認体出現。隊長陣及び、704出動準備。待機中の隊員は準警戒態勢に入って下さい]

 

[すまない、緊急だから通信をきらせてもらうよ]

 

「あ、はい!」

 

ラッドとの通信を切った直後にはやてから通信が入った。

 

[108部隊の二人も出動や。大丈夫?]

 

「大丈夫です」

 

「問題ない」

 

任務は市街地に出現した未確認体の対処。現場は108から近い為、FWは108部隊から出撃、アキラとギンガは六課からヘリでの出撃になった。二人は急いでヘリに乗り込み、現場に向かう。だが、今回現れた未確認体はガジェットと思われ、確認された機影の数だとアキラ達が現場に着く前に片付きそうな様子であった。

 

二人きりで何となく気まずい空気

 

「間に合うかな〜?」

 

「さぁ……って…ん?」

 

ヘリ内で話していると、六課から連絡が回って来る。

 

「アキラ君!ガジェット部隊が増えたみたい。私達はそっちに!!」

 

「ああ」

 

二人は、途中でヘリから飛び降りた。そして空中でバリアジャケットを纏う準備をする。

 

「ブリッツギャリバー!」

 

「………変身」

 

二人はバリアジャケットを身に纏い、落下速度を落としながら廃市街地に着地した。とりあえず付近に敵はいないかを確認し、地下に入って行く。

反応があった方向を確認し、二人は走り出した。

 

先は暗く、少しずつ視界も悪くなってゆく。唯一の灯りは地上から差し込んでくる僅かな太陽の光だった。

 

しばらく進んでいると、アキラがギンガの前に手を出して静止を促す。そして念話でギンガに話しかけた

 

(ギンガ、見ろ)

 

アキラが指を指した方向をギンガも見る。そこにはガジェットがいた。それもまだこちらに気づいていない。

 

(俺があいつらのいる位置よりも奥に手榴弾を投げ込む。あいつらが音に反応して奥を見た瞬間に二人で突っ込むぞ)

 

(うんっ!)

 

アキラが手榴弾を投げる。手榴弾はガジェットを飛び越え、着地と同時に爆発した。その音を聞き、ガジェットが手榴弾が爆発した方向を見た刹那、アキラとギンガは壁の影から飛び出す。デバイスを使っての走行をするギンガも速いが、アキラも負けないスピードで突っ込む。

 

そして足音を聞いたガジェットが振り向くよりも先にギンガはガジェットを叩き潰し、アキラは真っ二つにした。とりあえず二人で一機ずつ。二人は止まらず、ギンガ達は次々にガジェットを倒していく。

 

「おらぁ!!」

 

「はあぁぁぁ!!!」

 

勢いは更に増して行った。ガジェットは初め、I型が9機、足付きのIII型が一機だったが、もうI型が三機と足付きのみになる。

 

 

一方その頃のガジェットの指揮役のウェンディとセイン。

 

二人は六課のFWを遠距離射撃で少し遊んですぐ帰る筈だった。が、その戦闘を見ていたスカリエッティから新しく命令が出る。

 

「あの二人にもさっきと同じことして欲しいんスか?」

 

[ああ、彼らはたった二人。どう対応するのか見てみたい]

 

「まぁ、良いっスけど」

 

 

ー状況ー

 

 

「氷刀…一閃!!!」

 

氷結魔法を付与した刀でアキラはI型を斬った。アキラは刀を振った勢いを止めず、ギンガに手を伸ばす。

 

「ギンガ!」

 

「OK!」

 

アキラの伸ばした手をギンガが掴み、アキラはギンガを残るI型の方に投げた。ギンガはリボルバーナックルを構える。リボルバーナックルのカートリッジを二つ飛ばした。

 

「リボルバァァァァァ……ブレイク!!!!!」

 

ギンガはリボルバーナックルに魔力を込め、I型を二機まとめて壁に叩きつけた。残ったのはガジェットⅢ型になる。

 

しかし、III型はアキラとギンガに立ち向かわず、地下道の奥の方へ逃げ出した。ギンガはそれを見ると、足付きを追いかける。

 

「逃がさない!!」

 

「………?…………………!?ギンガ待てっ!!」

 

アキラは慌ててギンガを追いかけた。足付きを追いかけていると、いきなり足付きは止まる。ギンガはIII型にトドメをさそうと構えるが、足付きの行動は罠だった。立ち止まった足付きに、ウェンディが壁を貫いて反応炸裂弾を打ち込む。

 

エネルギーと鉄の塊のIII型が狭い通路を一瞬で満たす爆弾に変わり、その爆風がギンガを襲った。

 

「!?」

 

「ギンガ!!」

 

ギンガを庇ってアキラがギンガの前に飛び出した。ギンガの視界が一瞬暗くなる。

 

「ん……うぅ……」

 

爆風で吹っ飛ばされたギンガはほぼ無傷だった。アキラが爆弾の盾となり、ギンガは軽い火傷を負っただけで済んだのだ。

 

ギンガはゆっくりと目を開ける。視界に入るのはアキラのバリアジャケットの黒い部分だけ。ギンガは今アキラの下敷きになっている状態だった。アキラはギンガの身長より頭一個分大きいので、その分重い。どいてもらおうと思いギンガはアキラを揺すった。

 

「アキラ君、大丈夫?」

 

「………」

 

返事はない。

 

「アキラ君?……アキラ君!?」

 

「……………」

 

やはり返事はない。ギンガは無理矢理アキラの下からなんとか抜け出し、起き上がってアキラの容体を見た。

 

「!!」

 

いつもは白いアキラのバリアジャケットが、アキラの血で真っ赤に染まっている。それだけでない、足や腕、様々な部分の肉が削れていた。ギンガは息が詰まりそうになった。

 

出血が尋常でない。息はしっかりしている?心臓は動いてる?どうすればいい?どこを止血すればいい?そもそも止血云々の話なのか?

 

様々な考えがギンガの頭の中を回った。パニックに陥っていたのだ。頭を抱え、過呼吸になりながら必死に冷静になり、助けを呼ぼうとしていると、ギンガのバリアジャケットを何かが引っ張っる。

 

「ふぁ?」

 

「無事…………か?ギ…………ン…ガ」

 

「アキラ君!!大丈夫!?あ、ま、待ってて?今、救援呼ぶからね!!」

 

アキラの息がある事に気づき、ギンガはようやく冷静さを取り戻した。

 

「………無…事か?」

 

「うん、私は無事だよ?アキラ君が守ってくれたから……それより早く病院に……」

 

「よかった………今度は…ちゃんと…………守れた」

 

アキラはギンガの無事を確認すると、安心したように目を閉じる。ギンガの不安は一気に戻って来た。ギンガは必死にアキラの名前を呼んだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ーアキラの精神世界ー

 

アキラは何処かへ沈んで行くような不思議な夢のような物を見ていた。暗く、何もない世界の底へ行くような。一体どこまで沈むのだろうと少し考えたところで、誰かの声が聞こえた。

 

「忠告した筈だ。橘アキラ。危機に陥ると」

 

あの白い甲冑の白髪の男。あの男がアキラの精神世界にまで現れたのだ。

 

「またお前か…………不法侵入者の言葉なんか簡単に信じられっかよ」

 

「確かにな…………だがこれでわかったろう?俺の忠告が正しいことが」

 

「黙れ…………。俺はお前の力は借りない…。この手で護る!」

 

アキラが言うと、男は一瞬困った表情を浮かべ、その後に少しずつ身体が薄れて行く。

 

「まぁ、それが橘アキラだからな。それはそうと、護るのなら急いだ方がいいほら今もギンガに危険が……」

 

最後にそう言い、男は消えた。アキラは流石にその警告は信じ、何とか目覚めようと意識を集中させる。

 

少しだけ開いた瞳に光が差し込んできた。そして、ぼんやりと周りの景色が見える。まだよくわからなかったが、ギンガと誰かもう一人がいるのが見えた。そのもう一人が、今まさにギンガに襲いかかろうとしている。

 

情報はそれだけで十分だった。アキラは左手にECディバイダーを出現させ、もう一人に斬りかかった。

 

 

ー事件から三日後 アキラの病室ー

 

 

ギンガはアキラの見舞いに来ている。三日前、ギンガを庇ったアキラは倒れ、そのまま三日後も目を覚ましていない。そして二つほど不思議な点があった。

 

一つはアキラの身体の再生速度。肉の一部が吹っ飛ぶ程のダメージを食らったのにも関わらず、その日の内にアキラの身体は元に戻っていたのだ。もう一つはアキラの左腕から首に伸びている謎の刺青の様な物と、左腕の二の腕に着いている銀色の腕輪。これはなぜか外れなかったのだ。皮ごと剥がそうとしたり、腕輪を破壊しようとしたが、腕輪付近と腕輪本体に触れると、肉体、腕輪を傷つけようとする物を砕いた。もはやアキラの身体の一部と言っても良い、未知の腕輪。

 

だがギンガにとってはそんな物はどうでもよかった。ただ今は、アキラが無事だったこと、あとはアキラが目覚めてくれればそれだけで満足だった。しかし、アキラはまだ目覚めない。

 

花を取り返えアキラのベッドの隣の椅子に座り、ため息をもらす。ギンガは責任を感じていた。自分が敵の行動を深く読まず、慌てたせいでアキラをこんな目にあわせてしまったから。傷が早く治ったのはいいが、目覚めてくれなければ何の意味もない。そんなことを考えていると、病室の扉が開き、片手に何かの箱が入ったビニール袋を持った八神はやてが来た。

 

「あ、ギンガ………」

 

「八神部隊長……どうも」

 

「アキラ君は……どう?」

 

「…まだ………目覚めないです」

 

はやては机と自分が座る椅子を部屋の隅から運び、ギンガの前に置く。そして、ビニール袋を机の上に置いた。

 

「ここのケーキ美味しいんよ」

 

「そうなんですか……」

 

「……聞いたで?あんまご飯食べてへんって。ちゃんと食べなあかんよ?アキラ君目覚めるまでにギンガが倒れたら、本末転倒もいいとこや。アキラ君はギンガのこと大切にしてるんやから、だから自ら盾になったの忘れたらあかんよ?」

 

「はい……」

 

ギンガは、はやての言うとおりだと思う。しかし…相手は気づいていなくても、アキラはギンガにとっての大切な人なのだ。はやての言ったことの逆だって言える。

 

しかし、はやてはそのことも少しわかっていた。

 

「にしても、アキラ君も罪な男やなぁ。こんな可愛くてこの先も見込みのある子にさみしい思いなんかさせて」

 

「部隊長…………?あの、この先も見込みのあるって?」

 

ふと疑問に思ったことをギンガが口にしてしまう。すると、はやての口は怪しく曲がる。

 

「それはもちろん………」

 

はやてが両手を前に出し、わきわきと動かした。ギンガは両手で胸を隠す。はやては手をわきわきさせながらジリジリと迫って行く。

 

「前にアキラ君に邪魔されてからずっと揉めてへんからなぁ……ギンガが今どの位なのかわからんけど、将来性はあると思うんよ」

 

「は、はぁ……」

 

「ところでギンガ、今はアキラ君起きへんし……揉んでええ?」

 

「えっと……嫌です」

 

「まぁまぁ、ちょっとだけや、ちょっとだけぇ!」

 

ちょっとだけと言いながら、はやてはギンガに向かって飛びかかろうとした。

 

「きゃ〜!!」

 

が、次の瞬間、さっきまで全く動かなかったアキラが急に起き上がり、銃剣…EDディバイダーをはやての首に向ける。はやてはギリギリで止まり、腰を抜かしたのか床にへなへなと座り込んだ。

 

「誰だてめぇ……ぐっ……」

 

「ア、アキラ君?」

 

全く起きる兆候も無く起き上がったアキラにギンガは少しの間、ぽかん口を開けたまま動かない。アキラは目覚めたばかりでは気づいていなかったが、少しして自分が刃を向けた相手が八神はやてだと気づく。

 

「なんだ、またあんたか………ギンガ、無事か?」

 

「アキラ君!!」

 

「うおっ!!」

 

アキラが起きたことで心の中の不安が消え去り、それと同時に大きな安堵感がギンガの心に溢れ、訳わからずアキラを力の限り抱きしめた。アキラが戻ってきてくれて本当に嬉しかったのだ。アキラの怪我のことも考えず、思いっきり抱きしめる。

 

「アキラ君…………アキラ君……っ!」

 

「ギンガ……いっ……ギンガ…痛ぇ!」

 

「あ、ご…ごめん………」

 

ギンガは慌ててアキラを離す。アキラはそれから周りを見渡し、自分がおかれてる状況を理解しようとした。

 

「ここは…病院だよな」

 

「うんっ」

 

ギンガは少し目に涙を溜めつつ、笑顔で答える。

 

「とりあえず先生呼んで見てもらおう?それで大丈夫だったら八神部隊長が持ってきたケーキ食べよ?」

 

「お、おう……」

 

その後、いくつかの検査を受け、結果なんとかその日の夕方には退院出来るとのことだった。はやては雰囲気考え、ケーキを置いて帰ったらしくアキラとギンガが検査を終えて病室に帰った時には姿は消えていた。

 

夕方には退院できるとは言え、担当医のシャマルから「身体のあちこちに古傷があるし、ボロボロだから少し身体を休めなさい」とも言われていたので、アキラはしばらく任務に参加出来ないかもしれなかった。さて、時間はお昼。二人は個室で昼食をともにする。アキラと弁当を食べている時に、スバルがなのはに出された問題のことをアキラに話した。

 

「自分より強い相手に勝つためには相手より自分の方が強くないといけない…か」

 

「アキラ君はこの問題どう思う?」

 

「ふむ…」

 

アキラはお茶をすすり、少し考えてからギンガに答えを言う。

 

「…想い、かな」

 

「想い?」

 

「やっぱり強いとか弱いとかそんな実力の前に勝ちたい、とか守りたい、とかっていう気持ちが大切なんじゃないか?」

 

アキラにしては結構まともな答えが帰ってきたとギンガが感心していると、急にアキラは刀を抜いて前に出す。窓からの日差しを刀身が反射し、ギンガを少し照らす。

 

「昔、義親父が言ってたんだけどよ。人が剣を取るときは必ず何かを守るためだってな」

 

「守る?」

 

「それは自分の命だったり、尊厳だったり、国だったり、名誉だったり」

 

説明の途中、そこまで言ってアキラはギンガを見る。

 

「大切な人だったりする」

 

「あ、アハハ…ちょっと恥ずかしいな」

 

ギンガはその言葉に少し照れると同時に嬉しく思った。きっとアキラにとっては深い意味はない言葉だったのだろうが、そう言われるのがギンガにとっての喜びだから。義父の言葉の話をしたアキラは納刀し、ため息を一つついた。

 

「だから、そういう想いからじゃないか?相手より強くないといけないってのは。まぁちょっと論点はズレてるかもしんねぇが……………。確かに気持ちだけで全部が全部出来るって訳じゃ無いけどよ…やっぱ想う事も大切なのも確かだと俺は思ってる」

 

「気合いの問題ってこと?」

 

ギンガはちょっと可笑しく思ってクスクスと笑った。

 

「まぁそんなとこだ」

 

アキラはそれから黙って、黙々と弁当を食べていた。そんな時にギンガが一つ思い出したように言った。

 

「アキラ君…右目…ちょっと見せてもらえる?」

 

「右目?ああ……構わんが」

 

アキラは右目を、右目というか顔の右半分を前髪で隠している。ギンガは出会った時から少し気になってたが、もしかしたら見られたくない傷や、実験の跡が残ってるのかもしれないと思い中々聞けずにいたが、アキラが起きない三日間の看病、及び検査を担当していたシャマルとマリエルによると傷らしき物はなかったとの話だった。

 

だからギンガは今回思い切って聞いて見たのだ。アキラがいいと言うので、ギンガは右前髪を退かそうと手を伸ばす。その手が顔に触れ、よく見る為に近くにきたギンガの顔が吐息の当たる距離くる。アキラは今まで感じたことのない不思議な感覚に陥った。心拍数が上がり、顔が赤くなってるのを感じる。

 

「ギンガ…」

 

「もしかしてアキラ君…右目見えてない?」

 

「…………ああ」

 

アキラの右目は黒目の部分が白濁していた。そして目の周りにはアキラの左腕にあったのと似たような刺青が入っている。

 

「昔…………………………いやなんでもない。」

 

「…そう…」

 

ギンガは教えて欲しかった。アキラは重荷を背負ってる…だからそれを少しでも軽くしたかったのだ。

 

 




次回はいよいよ陳述講演会!アキラはギンガを守りきれるのか!


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第十四話 波紋

次回は来週当たりに投稿します。説明が多くて読みづらいと思いますが、次回を読むための説明書だと思ってくださいww

感想、評価、投票随時募集中です!


ー地上本部 公開意見陳述会当日ー

 

九月十四日。この日、地上本部と機動六課は壊滅的なダメージを受けていた。次元犯罪者ジェイルスカリエッティの制作した戦闘機人「ナンバーズ」が、それぞれの能力を駆使した作戦で管理局を翻弄しながら大打撃を与えたのだ。襲撃されることを、聖王協会のカリム・グラシアに予言されていながらも全く抵抗が出来ずに、一方的にやられたのだ。

 

また本部の護衛には様々な部隊がついていたが、機動六課もついていた。もちろんギンガ・ナカジマもこの任務に参加していた。そして、襲撃があってから約47分経過した現在。本部西側ではちょうど激しい戦闘が終わったところである。

 

そこには、戦闘機人が三人。それと瀕死の重傷を受け、棺桶型の箱に収納されようとされているギンガ・ナカジマ。そして、同じく重傷を受けている橘アキラ。だがアキラにはまだ若干の息があった。アキラはもう僅かにしか動かない手を伸ばし、戦闘機人らを止めようとする。

 

「ま………て…………」

 

「もう貴様は黙っていろ。出来損ないが!」

 

戦闘機人がアキラにナイフを投げた。ナイフはアキラに当たる直前で爆発し、アキラは爆風に包まれる。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

目の前が真っ暗になったと思った瞬間、アキラの額に突然激痛が走った。

 

「痛っ!!!!!!」

 

「きゃっ!!」

 

後頭部…というか身体の背面は柔らかいものに包まれている。布団である。額の痛みを耐えながら目を開けると、そこにはアキラに与えられた六課の寮の部屋の景色。そして額をさすっているギンガがいた。

 

「………あれ、ギンガ?」

 

「いたた………あ、アキラ君起きた?もうすぐ朝練始まるのに来ないから心配したんだよ?」

 

(夢…………?)

 

アキラは起き上がると、ギンガを見る。目立つ外傷も見えない。さっきの景色ではギンガは片腕をもがれていた。しかし、ギンガはいつも通り。アキラは時計を見た。日付は九月十一日。夢で見た景色の一日前。

 

「大丈夫?顔色悪いし…さっきもすごいうなされてたけど」

 

「………ああ。先…行っててくれ。着替えてすぐ行くからよ」

 

「うん………」

 

ギンガは一抹の不安を抱きながらもアキラの言う通りにし、部屋を出て行った。先ほどの夢のことを考えながら訓練着に着替え始める。さっきの夢の正体は何なのか?予知夢?それとも別の何か?何にせよ、何か嫌な予感をアキラは感じていた。

 

今夜から始まる本部防衛。アキラは刀を抜き、窓の光に掲げて剣に誓う。

 

「どんなことがあっても必ず守る………。例え、この身を犠牲にしても。もうあんな思いはしたくない………」

 

 

ー訓練所ー

 

 

「それじゃあ訓練を始めたいんだけど………………アキラ君?」

 

「なんだ」

 

「近くない?」

 

「問題ない、始めてくれ」

 

アキラは朝からギンガの右後方にピッタリとくっついていた。それはもう、ギンガの周りに虫一匹の存在さえも許されないような雰囲気を醸し出している。ギンガはアキラがついてくるのは慣れていたが、今日ほど密着してきたのは初めてで流石に動揺している。なのはの忠告にも逆らう始末。

 

「問題あるんだけど………せめてちゃんと整列しようか?」

 

「チッ………わかった」

 

「い、今舌打ちしなかった?」

 

「してない」

 

 

ー食堂ー

 

 

「…食べないの?」

 

「軍用食糧がある。これで充分だし、栄養も補給される」

 

食事の時もアキラは離れなかった。ギンガの席の後ろに立ち、味気のなさそうな物を食べている。隊長やFWが普通の食事をするように促すが、アキラはかたくなに断った。ギンガの護衛はいつも通りだとしても、今日のアキラはやたらと神経質。というか神経質の域を超えている。

 

「はぁ〜」

 

ギンガは深いため息をついた。

 

その後もアキラはずっとついて来た。何か理由があってのことだと信じ、ギンガはあえて文句は言わず、アキラのやらせたいようにやらせている。アキラに逆らう気もないし、アキラは意外とガラスのハートだから叱ると結構落ち込む。落ち込まれたらそれはそれで面倒だ。面倒と感じながらも、アキラの護衛を断れないのはこの胸にある恋心のせいだろうと、ギンガは少し頬を緩めた。

 

 

ーシャワールームー

 

 

アキラも流石に更衣室や、トイレ、シャワールームまでには入って来なかった。当然だが。今日はこれから地上本部の防衛の任務につくため、早めにシャワーを浴びて仮眠を取り、ヘリでライトニングよりも先に本部に行く。

 

ある意味、ギンガが一番気を休められる場所だった。脱衣所で服を脱いでからシャワールームに入る。すると後ろから声がした。

 

「ギン姉〜」

 

「スバル」

 

「今日のアキラさん異常だけど何かあったの?」

 

「それがわからないのよ……今朝から急に………起こした時に頭はぶつけたけど、それが原因とは思えないし……」

 

「………えいっ!」

 

ギンガが頭を抱えていると、スバルが後ろに回ってギンガの胸を鷲掴みにする。

 

「きゃっ……………っ!!!!」

 

ギンガは思わず声を上げそうになった。しかし、ギンガは全力で声を押さえる。叫べばきっとアキラが飛び込んでくると思ったからだ。だがギンガの努力も虚しく終わることになる。ギンガの足元に何かチクリとした感触が触れた。

 

「?」

 

ギンガが下を向くと、そこには………どこから入って来たのかゴキブリがいる。いるだけならまだしも、ギンガは触れてしまったのだ。さらにそのことにスバルも気づいてしまう。

 

姉という立場で、幼い頃から立派に生きてきたギンガでも、苦手な物は苦手だった。

 

「ひっ………」

 

「「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァッァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!」」

 

二人して思いっきり大声で叫んでしまう。ギンガとスバルが声を上げて一秒経たない内にアキラがシャワールームに飛び込んで来た。

 

「ギンガ!敵は何処だ!!ってうおぁ!」

 

アキラは勢いよく飛び込んだ為、シャワールームに入って二歩で滑って転びかける。何かに捕まり、体制を立て直そうと手を伸ばした。アキラが手を伸ばして掴んだのはギンガが胸から下を隠してるバスタオル。

 

「あ……」

 

「◎*£☆∬ゑωーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

声にならない悲鳴を上げ、ギンガはまだ転びきれてないアキラに左拳での鉄拳制裁を無意識に降してしまった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

―夜 機動六課宿舎前―

 

その後、アキラが女性用のシャワールームに入った事情と一ミリも覗きや、やましい気持ちがなかったというアキラの証言もアキラの日頃の行動から見て取れ、アキラは女性陣から許され、部隊長のはやても事態を大事にしなかった。そして、アキラがギンガも仮眠をとっている宿舎前にいるとフェイトがやって来た。

 

「こんな所で何してるの?アキラ君」

 

「フェイト隊長…」

 

アキラもフェイトの存在に気づき、フェイトの方を見る。

 

「…ギンガの護衛?」

 

「ああ」

 

「そっか………頬大丈夫?結構腫れてるけど」

 

クスクスと笑いながらながら、フェイトはアキラの隣に立つ。アキラは頬を少し押さえながら答えた。

 

「大したことねぇよ。フェイト隊長こそ…こんな所でなにしてたんだ?」

 

「ちょっと寝つけ無くてね………散歩」

 

フェイトは正直不安だった、カリムの予言が。何も起こらないで欲しい…それがフェイトの願いだった。いや、全員同じ考えではあるが、フェイトはその気持ちが人一倍大きい。それより、今問題が発生した。今ので既に会話が止まってしまったのだ。不安な気持ちを紛らわす為に、アキラと雑談でもしようと来たのだが、気まずい空気が流れてしまう。

 

フェイトはどうにかして話題を見つける。

 

「ねぇ、アキラ君ってなんで刀を使ってるの?」

 

「あん?」

 

「デバイスがあるのになんで使わないのかなって」

 

「…俺はセシル………いや昔、護衛を失敗した時に家とも縁を切った。だが、親父の教えで刀を持つ者は刀は自らの魂が宿ったものだと言われて…だから今も刀を使ってる。それにデバイスは今の俺には持て余すからな」

 

「そっか………」

 

またもや沈黙がその場に続いた。しかし沈黙を破る様にアキラが口を開く。

 

「ヴィヴィオは…」

 

「え?」

 

「ヴィヴィオは元気にしてるか?」

 

アキラが聞きそうもない質問にフェイトは少し驚いたが、よく考えてみればヴィヴィオのお見舞いに来たり、転びそうになったヴィヴィオを助けたりと、ギンガ以外にやりそうもないことをしたりと理由は話さないがヴィヴィオを結構気にかけていたのでそこまで驚く程ではないと思い直たフェイト。

 

「うん、前に比べたらとっても元気になったよ」

 

「そうか…」

 

アキラはヴィヴィオを見てると、どうしてもセシルを思い出す。だから…少し気になっていた。そして、一つの引っかかりを感じている。前に見舞いに行った時にも感じていたが、今回の事件とヴィヴィオ何かしらの繋がりがあると。しばらく短い会話をフェイトとしていると、そこにギンガから通信が入る。

 

[アキラ君、おはよう……今どこ?]

 

眠そうなギンガがアキラに聞いた。

 

「寮の前にいる。準備整えてこい。ゆっくりでいいから」

 

[うん………]

 

「たく、寝癖立ち過ぎだってんだ」

 

アキラが小さく呟く。その横顔が、フェイトには何となく笑ってるように見えた。

 

 

―地上本部 北側―

 

 

アキラとギンガ、その他機動六課のメンバー数人は先に本部防衛に行く。ヘリで運ばれた後、所定の位置まで行った。

 

「ギンガ、暑くないか?」

 

「うん、大丈夫」

 

9月とはいえまだ暑い日がある。もう少し経てば過ごしやすい気候になるが、まだまだ結構暑かった。アキラ達は今、北側の警備をしている。もう少ししたらスバル達も来る筈だ。

 

「身体の方は大丈夫か?」

 

「うん、もう大丈夫。アキラ君も大丈夫?シャッハさんと結構激しい戦いしてたけど」

 

「む……」

 

先日、聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラとシグナムを相手にしたFWとアキラ達の模擬戦が行われたのだがその際にシグナムが「ギンガ護衛禁止命令」を出したのだ。アキラはギンガに危険に晒さない為に、二人をさっさと撃墜して終わらせようとしたが、シャッハはシグナムと互角の実力を持つ者。

 

結果、アキラはシャッハとシグナムに翻弄されながらもFWと戦ったが最終的にアキラが二人を相手にすることになり、かなり粘ったが結局負けてしまったのだが。

 

「あ、そうだ。ギンガに渡したい物があったんだった…忘れてた」

 

「渡したい物?」

 

アキラはポケットから一般的な大きさよりも少し大きいお守りを取り出す。それをギンガの手に握らせた。

 

「お守り?」

 

「今回の任務、すごく嫌な予感がするんだ。俺も可能な限りギンガから離れないようにするが、もしかしたら何かあるかもしれない。だから一応持っててくれるか」

 

「もう、心配性だなぁ。でもありがとう、持っておくね」

 

しばらくの間、二人に沈黙の時間が訪れた。何も起こらず今回の件が終わってくれるのが一番だが、生暖かく吹く風が嫌な予感を漂わせている。二人で空を眺めていると、一機のヘリが飛んで来るのが見えた。恐らくなのは達の乗ってるヘリだろう。

 

………時期に夜明けだ。

 

 

ーほぼ同時刻 スカリエッティラボー

 

 

地上本部襲撃まで残り数時間となった時、スカリエッティはナンバーズに見せる為のデータをまとめていた。大体まとめ終わると、スカリエッティは一息入れようと席を立って部屋の出口に向かう。

 

「………ほう、橘アキラのデータか」

 

突如スカリエッティの後ろから声がした。振り向くと、そこにはアキラの前にも現れた白い甲冑を纏う白髪の謎の男がいる。

 

「誰だ?君は。部屋のロックはかけて置いたはずなんだがね」

 

スカリエッティは焦らず、冷静に対象した。

 

「にしても管理局…いや、ミッドそのものを敵に回すなんて大層な計画だな」

 

「質問に答える気はないのかね?」

 

「………そうだな、俺は…あえて言うならこの世界の管理人とでも言っておくか」

 

スカリエッティはその返答に少し笑う。随分面白い事を言う奴だと思ったのだ。

 

「それはそれは…まぁ私のラボで警報一つ鳴らさず、ナンバーズに気づかれる事なくここまで来たんだ。相当な力を持っているんだろうね。是非とも研究したいが、悪いが侵入者には侵入者の扱いがあるからね」

 

そういうと、スカリエッティは柱にあったボタンを押す。すると床から二機のガジェットIII型が出現し、男に襲いかかる。

 

III型の平たく、大きい触手が男に迫るが男は動こうとしない。そして触手が男のいた位置に直撃した。しかし、そこには男はいない。スカリエッティも流石にその事態には驚く。男はIII型の後ろに立っていた。

 

男はIII型が振り向く前に、手をIII型の方に向けて指を人差し指を横に素早くスライドさせる。するとガジェットがいきなり機能停止し、その場に倒れた。

 

(瞬間移動の類か?いや…違うな。移動した痕跡が見つからないが…………?)

 

「参ったね。君は何をしに来たんだい?私を殺す気かな?」

 

男はスカリエッティに向かって歩を進める。

 

「なに、俺は警告しに来ただけだ…」

 

スカリエッティまであと数歩となった瞬間、スカリエッティの部屋の扉が開いてトーレとセッテが飛び込んで来る。スカリエッティが押したスイッチは、警報を鳴らさずにウーノとトーレに緊急事態を知らせる為の装置でもあった。

 

トーレとセッテは同時に男に切りかかる。男は二人に手のひらを向けた。すると男の手から波動が放たれ、二人は動けなくなる。

 

「ぐあぁ!」

 

「ぐ……」

 

「乱暴だな」

 

男は一言言った後に二人を解放した。二人はその場に跪く。

 

「くっ!ライドインパルス!!」

 

トーレはISの「ライドインパルス」を使い、高速移動で男に再び切りかかった。トーレからは男は止まってるように見える。狙いも定まってる。100%外すことはないと確信を持ちながら男を切った………しかし、刃は命中しなかった。

 

「!?」

 

トーレは驚く。確かに今のは命中するルートだった筈。トーレは再びライドインパルスで高速移動を始める。それと同時にセッテがISを発動させた。

 

「スローターアームズ!」

 

セッテの専用武器、ブーメランブレードを自在に操る「スローターアームズ」。奇妙な軌道を描きながらブーメランブレードが男に迫る。ブーメランブレードとトーレがほぼ同時に男に接触した様に見えた………が、どちらの攻撃も命中せず、またもや男の身体をすり抜ける。

 

攻撃を避けた男は、突然セッテに向かって歩き始めた。

 

「可哀想だよな……」

 

「可哀想?私が?」

 

セッテはブーメランブレードを手元に戻し、構える。

 

「ライド…」

 

「少し黙っててくれ」

 

男は動こうとしたトーレにバインドをかけた。そして、セッテの頭に手を伸ばす。この時なぜかセッテは動けなかった。強制的に拘束されているのではなく、自分が目の前の男を敵と認識してないような不思議な感覚。セッテがボーッとしてる間に、男はセッテを撫でた。

 

撫でられたことでようやくセッテは我に帰り、ブーメランブレードを振り回す。

 

「離れろ!」

 

「おっと…………まぁいい、ジェイルスカリエッティ、こんなくだらねぇ計画はとっととやめて、自首することだな…お前にとっても、こいつら…ナンバーズにもいいことなんかなんもねぇぞ」

 

そう言うと男の身体は薄れて行き、一分経たずに消えた。

 

「……何だったんだあの男」

 

「まぁいい、トーレ、姉妹を全員集めてくれないか」

 

「わかりました、ドクター」

 

ドゥーエを除いた戦闘機人11名が集合し、これから行われる地上本部襲撃についての説明をスカリエッティが始めた。スカリエッティは、先ほどの男の事は混乱を招くだけなのでトーレとセッテには口止めしておいた。

 

「今回の襲撃は、成功すればこれからの計画を大きく前進させるだろう。ドゥーエは別行動になっているが、姉妹11人力を合わせて事態に当たって欲しい。例の特殊部隊襲撃と「聖王の器」の確保。地上本部の制圧、Fの遺産とタイプゼロの確保………だが、今回君たちに注意して欲しい人物がいる」

 

スカリエッティはファイルからデータを展開し、とある管理局員のデータを表示する。それは、橘アキラのデータだった。

 

「彼の名前は橘アキラ。今タイプゼロファーストと共に特殊部隊に出向しているのだが……この男は要注意だ。かつてとある研究所で行われた計画の生き残りなのだが、その戦闘力は計り知れない。彼との戦闘はなるべく避けて欲しい」

 

スカリエッティにしては珍しい事を言うなと思ったノーヴェがスカリエッティに尋ねる。

 

「なんで避けるの?対して強そうには見えないけど……ていうかもし相当危険だとしても、そいつと会ってもすぐ逃げればいいんじゃない?」

 

「ところがそうもいかないこの男はタイプゼロファースト……ギンガ・ナカジマの護衛を名乗り、彼女のそばから離れない。そういう状況にあるから注意してもらいたいんだ。そしてもしも彼と戦闘することになった場合、彼の左腕に注意するんだ。彼には君たちと同じ【先天固有技能】、【IS】を持っている。能力名は「ハッキングハンド」。彼の左手で触れた記録のあるもの…コンピューター、人の脳、細胞、それらを彼の好きな様に書き換えることが出来る………簡単に相手やガジェットを手駒にできてしまうからね。重々注意してくれ」

 

橘アキラの注意を終え、作戦が開始される。先行隊が管理局に侵入を始めたのだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ー陳述講演会 終了間近ー

 

 

時は過ぎ……陳述講演会も終わりを迎えようとしている。アキラとギンガが北側の経過報告をしに行った帰り道。ギンガが軽い安堵の混じったため息をついた。

 

「ん?」

 

「何だかんだで、何も起こらず終わりそうで良かったね」

 

「………まぁ確かに……………いや、なかなかそうとは言えないな」

 

「え?」

 

ギンガの意見に賛成しようとしたアキラだったが急に険しい顔をして遠くを見つめる。ギンガも同じ方を向くが、目を凝らしても何も見えなかった。なにかアキラが勘違いしてるのではないかと思い、ギンガは少し笑ってアキラの肩を叩いた。

 

「アキラ君、なに言って…………」

 

「感じるんだよ………同類の匂い…機械油臭ぇ匂いが!」

 

ギンガがアキラの言葉を飲み込めずにいると、その瞬間にアラートが地上本部全体に鳴り響いた。

 

「!!」

 

「管理局のノロマが…………ギンガ、今から俺が言うことをよく聞け」

 

ギンガは頷く。アラートまで鳴ったとなると、ギンガもお仕事モードだ。表情はきりりとし、既にさっきの表情は消えている。

 

「恐らく会場の周りにガジェットが大量に召喚されるだろうが、ギンガはなるべく内側を行ってFWと合流しろ。一緒にいてやりてぇんだが……さっきから色んなとこから救援要請がきてんだ…正直どうでもいいんだが、ここが崩されるのも結果的にギンガに危害が及ぶかもしんねぇ…だから」

 

「うん、大丈夫。とりあえず私は行くから、アキラ君も頑張って!アキラ君の力は、守る力だから!」

 

ギンガはアキラの言いたい事を大体理解し、アキラを勇気づける。アキラはギンガと共にいたい気持ちを必死にこらえる。

 

「いいか、忘れんなよ?通信機のこの黄色いボタンを押しゃ緊急信号がでるからな?」

 

「うん、これもあるし、大丈夫」

 

ギンガはさっきアキラから受け取ったお守りを見せ、FWと合流する為に走って行った。ギンガを見送ると、アキラはどこか不安そうな表情のまま一旦本部の外へ行く。

 

一応本部に結界は貼られているが戦闘機人の仕業か、結界や防御壁は弱くなっていた。その所為で今にも結界は破られそうな上に、魔力砲は通る為入り口付近にいた魔導師の大半は既にやられている。魔導師が減っているのにも関わらず、ガジェットは次々に召喚されている現状で、AMFを物ともしないアキラは必要不可欠な戦力だった。

 

アキラは刀を引き抜き、バリアジャケットを装備する。

 

「ギンガ待ってろよ……すぐに行くから………無事でいてくれ!!!」

 

 

ー地上本部 屋上ー

 

 

地上本部の屋上にはあの白い甲冑の男がいた。そして、様々な場所で起きている戦闘を映像で見ている。正しく高みの見物と言ったところだ。

 

「さて……どうなるか」

 

小さく呟いた。

 

 

 

続く

 

 



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第十五話 戦闘

遅くなりました!
今回長いです!別にチンク、ノーヴェ、ウェンディが嫌いな訳じゃないです!

感想、評価、お気に入り登録随時募集中です!


「うぉらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

傭兵の頃から鍛えてるアキラの走力はローラーブーツを使ってるナカジマ姉妹に負けず劣らずの速度だった。素早い動きでガジェットの触手を避け、ガジェットの死角に回り込んで刀で叩き切る。もうかなりの時間アキラはたった一人で戦っていた。

 

ギンガを守るのがアキラの仕事だが、管理局を本格的に潰されれば結果的にはギンガに危害が及ぶ可能性がある。それにギンガの仲間が傷つけばギンガの心が傷つく事になる。どの道、今この場でガジェットを潰しておくことにデメリットは少ない筈だった。そう信じ、アキラは戦い続ける。

 

「はぁぁ………氷牙大斬刀!!!」

 

アキラは刀に巨大な氷の刃を纏わせ、それを持って360度回転してガジェットをなぎ払う。それでかなりの数を撃破したが、それでもまだウヨウヨガジェットがいる。アキラは氷牙大斬刀を解除した。それと同時に刀が折れてしまう。刀に負荷がかかり過ぎたのだ。

 

「はぁ…はぁ………たくっ…なんて数だ」

 

一刻も早くギンガの元へ行きたいが、もう逃げ道も塞がれかけてる状態。アキラは周りを見る。誰もいないのを確認し、ECディバイダーを左手に出現させた。

 

「フロス…」

 

アキラがディバイダーを構えた瞬間、左右にいたガジェットが触手を伸ばしてアキラの両腕を縛り、拘束する。アキラはその触手を掴み、自分の方へ引き寄せた。急に引っ張られたガジェットは抵抗する前に動かされ、互いにぶつかり合う。

 

そのぶつけられたショックでガジェットは一瞬動かなくなり、アキラを縛ってる触手の力が少し弱くなった。その一瞬を狙い、アキラは触手から抜け出し、一気にガジェットまで接近する。そして、折れた刀とディバイダーをガジェットに突き刺して二機同時に撃破した。だがもう魔力もかなり使っている。ディバイダーは主に魔力弾での射撃系の攻撃。一応刃は付いているが、それは短い。

 

「誰も見てねぇよな」

 

アキラはディバイダーの刃先を自らの腕に立てた。そして、腕を一気に刺し貫く。

 

「っ!……エンゲージ…リアクト・オン!!!」

 

氷や雪、氷のみぞれが混じった竜巻がアキラを包んだ。二秒後、竜巻が消滅したのと同時に少し姿が変わったアキラが現れる。両腕の肘までだが鎧が装着され、左腕に元々あった刺青のようなエクリプスウイルスの模様が全身に拡がっていた。アキラはあまりこのモードを使いたくなかったのだが、この状況を乗り切るにはもうこれしか手段はない。

 

魔力消費の激しいかわりに、ディバイダーは、アキラの身長の三分の二くらいの大きさはあるだろうかという大きさになり、視界モードの切り替えをうまく使えばもう攻撃も食らうことはないだろう。

 

「さっさと終わらさせてもらう!」

 

 

ー別地点 地上本部東側上空ー

 

 

この場所では、トーレとセッテが救援に来た管理局のヘリを撃墜する仕事をやっていた。一通り片付け、またしばらくは待機の状態。トーレが援護のヘリが来ないかどうかを見ていると、セッテが下から上がって来た。

 

「随分めんどくさい事をしているな。セッテ」

 

「…………」

 

セッテは返事をしない。トーレの言うめんどくさい事とは、セッテのヘリの撃墜の仕方にある。トーレはISを使ってヘリを、中にいる人間のことなど微塵も考えずに次々に落としたが、セッテは違った。ヘリに少しのダメージを与え、上昇不可能にした後ヘリをわざわざ地面まで運び、中の管理局員を気絶させたのだ。そう、つまりセッテは誰も殺してはいない。なぜ殺せなかったのか、聞かれてもセッテは答えられない。

 

そこらの人間など虫ケラ程度にしか考えていないのに殺せなかったのだ。最初は殺そうとしていた。しかし、最初のヘリに刃を向けた時、不意に手が止まった。

 

「可哀想だよな…」

 

あの男の言葉が頭の中に蘇る。あの研究所で生まれ、姉妹やドクター以外の人間に心配されるとは思ってなかった。クアットロの計画で、戦闘機人として相応しいように「無駄」な感情を消したと聞かされた。その「無駄」が何なのか消されてしまえばわからない。

 

でも……気になるのだ。初めてこんな事を思った。自分は戦闘機人として生きていければ良いとしか考えてなかったのに。

 

「………橘アキラ」

 

「ん?」

 

セッテはふとその名前を思い出し、口に出した。

 

「例の男がどうかしたか?」

 

「いえ………」

 

会った事もない人間だが、セッテは少しアキラが気になっている。特別な権利を持っているわけでもないのに誰かを無償で護衛するという点に。

 

 

ー地上本部内部ー

 

 

ギンガはアキラに言われた通り、主に内部を移動しながら逃げ遅れた人がいないかを確認し、FWとの合流を目指していたが途中で戦闘機人のチンクに出くわし、やむなく戦闘開始という状況にあった。

 

(この子、強い………。でも、あと少しで押し勝てそう………能力もだいたい分かったし、あのナイフにさえ気をつければ…。それはいいとして……問題は)

 

ギンガは足元を見る。そこには、アキラが前にくれた通信機が破壊された状態で落ちていた。チンクとの戦闘の最中、いつ増援が来るかわからなかったので保険としてアキラを呼ぼうと出したが形状が見るからに通信機だったため、チンクに早々に破壊されてしまったのだ。ブリッツギャリバーを呼ぶ事も不可能ではないが、チンクの攻撃は主に爆破系。隙を見せればやられる可能性が高い。

 

(どうにか隙を……ん?)

 

なんだかんだ考えてる内にギンガは気づく。さっきから敵と自分は睨み合いを続けているが、遠距離武器を持つ敵が動かない、その理由を瞬時にギンガは悟った。

 

(まずい……)

 

 

「ハァァァァァ!!!」

 

「くっ!」

 

滑り込む様に蹴りを繰り出すが、チンクはギリギリで避ける。チンクは今の睨み合いの間に、ノーヴェとウェンディを呼んでいた。流石にこの戦闘は、勝てるか負けるかはわからないが、分が悪いと思ったからだ。

 

(タイプゼロ………旧型だからと言って油断はできないのはわかっていたが、予想以上にこいつ………強い…)

 

(もう増援は呼ばれたと考えた方が良さそうね……可能な限り頑張るけど……複数相手に戦えるかどうか…。それに今逃げたらこの子が破壊しようとしてたコントロールパネルがやられる。それは色々まずい………逃げるわけにもいかない………っ!)

 

ギンガは拳を握り締め直す。決して良い状況ではないが、ギンガは自分に出来る事をやろうと考えた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー地上本部 北側入り口付近ー

 

 

「はぁぁ!はぁ!はぁ!はぁ………」

 

北側入り口付近でガジェットを倒していたアキラは膝を付き、息を整わせる。周りにはガジェットの残骸が山の様に積まれている。そう、アキラはようやくガジェットを全滅させたのだ。五分ずつ召喚されてたガジェットも、もう十五分も召喚されていない。少しクールダウンしたところでディバイダーを杖代わりにしながら立った。

 

おそらく敵の召喚師が離れたのか詳しい状況はわからないが、とりあえずこの地点の安全は確保したと言っていいだろう。アキラは通信機を取り出しギンガに通信を取る。しかし、ギンガは通信に出ない。

 

「……?」

 

アキラは通信機の位置情報を調べた。反応がない。汗がアキラの頬を伝う。

 

「ブ、ブリッツギャリバー!」

 

流石に焦り始めたアキラはブリッツギャリバーに直接通信を取ったが、ブリッツギャリバーからも返事がない。アキラはセシルが拐われた日の、セシルを必死に探していた時の感覚を思い出した。呼吸が少しずつ荒くなり、冷静さを失い始めていた。アキラはリアクトを解除するのも忘れ、闇雲に走り出す。

 

アキラは走りながらスバルに通信を取った。

 

「スバル!!」

 

[アキラさん!どうしたんですか!?]

 

「そっちにギンガは合流してないか!?」

 

[してないですけど…ギン姉になにかあったんですか!?]

 

「わからん!ただ、通信に応答しねぇしブリッツギャリバーも応答しない!今探してるが、もし見つけたら連絡くれ!」

 

[は、はい!]

 

通信を終えると、アキラは一旦止まる。ずっと戦いっぱなしで魔力も体力も底を尽きかけだ。早いとこギンガを見つけなければ自分が倒れかねない。少し息を整わせていると、聞き覚えのあるローラーブーツの音が聞こえた。

 

「……ギンガ!?」

 

 

ー地上本部内部ー

 

 

 

「キャアァァァ!!」

 

ギンガは床を滑り、瓦礫の山に突っ込んだ。その衝撃で額から出血する。しかし、今更そんな出血はあまり気にならなかった。ギンガは既に身体中ボロボロ。また、それはブリッツギャリバーも同じだった。ギンガは何とか瓦礫の山から這い出て立ったが、格闘の構えも取れない状態だった。

 

「ブリッツギャリバー、大丈夫?」

 

『………O……K…』

 

戦闘機人の増援、ノーヴェとウェンディが来てからもうすぐ三十分くらい経つだろうか。ギンガは一人で戦い続けたが、もう限界が来ている。

 

相手のコンビネーションも中々で、たった一人で太刀打ち出来る様な物ではない。ギンガが今受けているダメージでは逃げることは愚か、まともに戦うことすら出来ないだろう。

 

「………せめて誰かと通信が取れれば…」

 

そう考えた瞬間、ノーヴェが突進してきた。

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

「っ!!」

 

ギンガはシールドを張ろうとしたが、わずかな反応のズレでまともにノーヴェの攻撃をくらってしまう。ギンガは吹っ飛ばされ、柱に激突した。頭を強打し、一瞬視界が暗くなる。それでギンガはもう立ち上がる気力すら起こせなくなった。

 

柱にもたれ掛かりながらギンガは床に座り込む。ノーヴェは腕を鳴らしながらギンガにゆっくり近づく。

 

「まったく、手間かけさせてくれやがって……」

 

「でもとりあえず一機確保ッスね。もうコイツ動けなさそうッスもん」

 

「ああ、とっとと意識飛ばして、装備剥いで持ってくぞ」

 

「ウィ〜ッス」

 

(スバル…父さん……母さん………ごめんなさい…………)

 

「ブレイクランナー!!」

 

(アキラ君…)

 

ノーヴェはスバルやギンガの「ウィングロード」に酷似したIS、ブレイクランナーを使ってギンガに魔力を高圧縮させた蹴りを放った。確実に技が決まるとノーヴェが思った瞬間、ノーヴェとギンガの間に何者かが入り込んだ。そしてノーヴェの蹴りに拳で対抗して来る。数秒の間、二人の競り合いが続くいたが、威力は互角だったらしく魔力同士の爆発を起こし、爆煙が立ち上る。ノーヴェは少し吹っ飛ばされながらも、着地した。

 

(くそっ!増援の管理局員か!?てか…今の蹴りは結構本気だったのにそれを相殺って……)

 

ノーヴェがそう考えた瞬間、煙の中から拳が飛んできた。

 

「んな!?」

 

突然の事にノーヴェは回避出来ずに拳を食らってしまう。

 

その拳は、ノーヴェが思っていたよりもずっと重い物だった。悲しみや、後悔、憎しみ、負の感情を全て同時に受けたような重い、悲しい拳。ノーヴェを殴った人物は…アキラだった。そのアキラの瞳に輝きはなく、吹っ飛ばされたノーヴェに目もくれずにギンガに近づく。

 

「ギンガ……無事か」

 

「う………ん……」

 

アキラが駆けつけたことに安堵したのか意識を失った。アキラはギンガの容体を隅々まで調べた後にギンガをお姫様抱っこで抱え上げる。そのまま出口の方に向かって歩き始めた。すると、殴られた上に完全に無視までされ、腹を立てたノーヴェが立ち上がる。

 

「てめぇ!待ちやがれ!ウェンディ行くぞ!!」

 

「OKッス!」

 

背を向けているアキラにウェンディがライティングボードで数発の魔力弾を、ノーヴェが腕のガンナックルでマシンガンの様な魔力弾を発射した。しかし、それらの魔力弾はアキラに当たる直前に消滅する。シールドもガードフィールドも発動させた形跡もない。「ただ単に魔力弾が消滅した」という感じだ。

 

そのことにノーヴェもウェンディもチンクも驚きを隠せない。

 

(なんスかアイツ!身体にAMFでもつけてんスか!?)

 

「知らねぇが…一発返さねぇと気が済まねぇ!!」

 

ノーヴェはアキラにブレイクランナーで蹴りかかる。アキラはそれを紙一重で避けた。次の攻撃に移ろうとノーヴェが振り向いた時、アキラが膝蹴りをノーヴェの鳩尾に食らわす。さらに間髪いれずに左こめかみに素早い蹴りを入れられたノーヴェは一瞬視界が歪む。

 

「あが………」

 

「……しつけぇな…そんなに相手して欲しかったらしてやる………だから少し待て」

 

アキラはそう言ってまたもノーヴェをほったらかし、ギンガを入り口近くの壁にもたれ掛からせた。そしてギンガの頭を撫でてから戦闘機人達の方に歩く。アキラはその途中、手を勢いよく上げた。すると氷の壁がギンガを守る様に出現する。

 

「一つ、ギンガを一人にさせたこと……」

 

「?」

 

アキラは歩きながら何か呟き始めた。

 

「一つ、自分の使命を忘れ、管理局の命令に従ったこと……一つ、俺の腕が未熟でここに来るまでに時間をかけたこと」

 

アキラは戦闘機人とある程度距離をとった場所で立ち止まる。

 

「俺は自分の罪を数えた…さぁお前等の罪を数えろ!」

 

アキラは指を指して言った。それに一番最初に反応したのはチンクだった。チンクはスティンガーを取り出し、アキラに向かって投げる。

 

「数える前にお前を殺させてもらう!」

 

「殺す?」

 

スティンガーがアキラに命中する前にアキラの姿がチンク達の視界から消えた。チンクが驚く。そして驚いたのと同時に自分の横で声が聞こえた事に更に驚く。

 

「勘違いするな」

 

チンクは振り向く前に首を掴まれ、最寄りの壁に叩きつけられた。

 

「チンク姉!」

 

「今この場にある命の生死の判断は俺が決める。テメェ等が勝手に決めていいもんじゃねぇ」

 

(こいつ………なんて力だ……)

 

チンクは首を締められながらもアキラの顔を見る。

 

チンクはアキラと目が会った瞬間、ゾクリ、と全身に冷や汗をかくような感覚を覚えた。初めて視線に恐怖という物を感じた。怒りで睨みつけているのではない。どこか悲しいような見られてるこっちまで憂鬱な気分になりそうな虚ろな目。

 

「チンク姉を離すッス!」

 

ウェンディはアキラに向かって魔力砲を放った。しかしアキラは動かずにチンク首を締め続ける。ウェンディの魔力砲はまたもアキラに当たる直前で消滅した。チンクの意識も絶え絶えになってきた時、チンクは辛うじてスティンガーを取り出してアキラの腕に突き立てようとするが、なぜかアキラはその攻撃は避ける。アキラはチンクを離してバックステップで距離を取った。

 

チンクは必死で酸素を取り込みながら床に跪く。

 

「ゲホッ!ゲホッ!」

 

「チンク姉!大丈夫ッスか?」

 

「はぁ…はぁ…ウェンディ。見たところあの男…いや、あの男は魔力系の技は効かないようだ……となると有効なのは姉とノーヴェの攻撃位だ。ウェンディ。私達は橘アキラを押さえる。お前はタイプゼロの捕獲を頼む」

 

「り、了解ッス」

 

短い作戦会議を終え、ノーヴェにも作戦を伝えるとチンクはスティンガーを構える。

 

「……作戦会議は終わったか?」

 

「私は戦闘機人No.5のチンクだ!お前は?」

 

急に名前を聞かれたアキラは表情一つ変えずにボソボソと答えた。

 

「橘アキラ……」

 

その答え方や態度、表情はまるでギンガが出会ったばかりの様な感じに戻ってしまっていた。チンクは「やはりか」と言いたげな表情でアキラとの睨み合いが続けた。そんなアキラの後ろではノーヴェが、チンクの後ろではウェンディが次の行動に移ろうとしている。

 

チンクがタイミングを読んでスティンガーを投げた。それが合図となり、ノーヴェがブレイクランナーを出し、ウェンディはライディングボードに乗ってギンガの方に向かって走り出す。しかし、アキラはチンクのスティンガーを回避すると同時にウェンディを追いかけた。ノーヴェとチンクはアキラを追いかけようとしたが、二人は急に動けなくなる。

 

「!?」

 

「バインド!?」

 

二人が気づかない様にアキラは二人の足にバインドをかけていた。そう、アキラは最初から三人の作戦はお見通しだったのだ。アキラは一気にライディングボードに乗ってるウェンディに追い付く。

 

(ちょっ……ライディングボードのスピードに追いつけるって……)

 

ウェンディに驚いてる暇などなかった。アキラはまず、ガジェットとの戦闘で折れた刀でウェンディの額に浅く傷を付ける。傷口から血が流れた。その血が目と同じ位置に流れる前にアキラは折れた刀とリアクトで巨大化したディバイダーで、ウェンディの身体中に浅い切り傷を約十数カ所付ける。その間、約二秒。

 

最後に鳩尾に一発蹴りを入れられ、ウェンディはライディングボードから叩き落とされた。

 

「ぐぁ……」

 

ウェンディのナンバーズスーツに血が染みて行く。

 

「ウェンディ!クソっ!」

 

ウェンディがやられた事でキレたノーヴェが無理矢理バインドを千切って、ブレイクランナーでアキラに襲いかかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

単調な蹴りをアキラはヒラリと避け、ウェンディと同じ様に額に傷を付け、目にも止まらぬ速さでノーヴェの身体中に傷をつけて行く。

 

「………………っ!」

 

(ダメだ!速い!対応が…間に合わ……)

 

ノーヴェは途中で、無理矢理バインドを壊したダメージもあったため立ってられなくなり、その場に尻餅を付いた。身体中が痛い。さっきからいい様にやられっ放しなのに相手に反撃すらできない事に腹を立て、ノーヴェはアキラを睨んだ。

 

「何だその目は」

 

アキラはディバイダーをノーヴェに向けた。

 

「テメェは人を殺そうとしたんだ。なら…殺されたって文句は言えねぇぞ」

 

「ぐ………」

 

ノーヴェはいよいよ死を覚悟する。しかし、アキラは動こうとしない。

 

「………?」

 

「そうだ、お前が仲間を殺してみるか?」

 

アキラは少し笑い、ノーヴェに左手を伸ばした。ノーヴェはゾッとする。スカリエッティに言われた忠告を思い出す。アキラはISを持っており、それは左手で触れた物の記憶をなんでも書き換えられるというものだった。

 

ノーヴェは急いでアキラの手をはじき、アキラから離れる。全身に入れられた切り傷がズキズキと痛み、血が流れ、体力が奪われて行く。ノーヴェはそこでアキラのこの傷の付け方をする理由を理解した。アキラは三人になるべく苦しむ死に方をさせようとしているのだと。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「そうか…俺に殺されてぇか。なら……」

 

アキラはノーヴェに向かって走り出す。ノーヴェはアキラを何とか押さえようと蹴りかかったが、アキラはそれをかわして更に身体に傷をつけて行く。ノーヴェは仲間思いだった。だから現場を自分が押さえ、二人には任務を完了させた上で逃がそうと考えていたが、アキラはノーヴェ一人がどうにかできる強さではなかった。

 

いや、いつものアキラならどうにか太刀打ちできたかも知れないが、少なくとも今のアキラに勝てそうな者はこの場にはいない。ノーヴェは何も出来ず、身体に傷が増える一方。反撃をしても簡単に避けられる。そんな時、チンクとウェンディの声が聞こえた。

 

「ノーヴェ!」

 

「そっから離れるッス!」

 

ノーヴェは意識も朦朧な状態でただ言葉に従い横に飛んだ。それと同時にアキラに向かって魔力砲とスティンガーが飛んでくる。しかしそれはアキラを狙ったのではなく、アキラの後ろの柱に当たった。崩れかけだった柱は二人の攻撃で根元が砕け、アキラに向かって倒れる。だが、アキラは動じる事なく腰を低く構えた。

 

「………氷牙破脚!!!」

 

柱が完全に倒れる直前、アキラの足に氷の鎧が装着され、そして勢いよく蹴り上げる。柱は木っ端微塵になった。

 

「くっ……ウェンディ、ノーヴェ、お前達はタイプゼロを頼む。ここまできたんだ。持って帰るぞ!」

 

「チンク姉!もう危険だ!」

 

チンクは体格的にも勝てそうにないアキラに向かって走り出す。スティンガーをいつでも投げられる様に構えながら。

 

ノーヴェとウェンディは止める訳にも行かず、せめてチンクの願いを叶えようとギンガの方に向かった。チンクは少し勝つ自信がある。かつて右目を犠牲にあの騎士、ゼストに勝ったのだ。それがチンクの誇りでもある。だが、この時の行動は間違いだった。

 

「でぁぁぁぁぁ!!!」

 

「………」

 

次の瞬間、血飛沫が舞うことになった。

 

ギンガまでもう少しというところまで来ていたノーヴェとウェンディの目の前に、一瞬で傷だらけにされたチンクが投げ飛ばされて来る。

 

「……っ!」

 

「チンク姉ぇぇ!!!」

 

「かは………はぁ、はぁ…………」

 

ウェンディは死の覚悟を決めてライディングボードを持ってチンクの前に出た。

 

「ノーヴェ!チンク姉持って早く逃げるッスこいつ危険過ぎ…」

 

そこまで言ったところでウェンディの脚に激痛が走ったのと同時にその場に倒れこむ。足を見ると、両足の膝下に深い切り傷がつけられていた。痛みで表情を歪ませていると、アキラがウェンディの前に立つ。そしてまるでゴミを見るかの様な目でウェンディを見た。

 

「く…」

 

「逃がすかよ…」

 

「この…」

 

ボロボロになりながらもチンクがスティンガーを取り出す。するとアキラは腕を素早く動かした。刃が届く距離ではないのにチンクのスティンガーを持った指の根元に三ミリ程の切り傷が付いた。痛みでチンクはスティンガーを離してしまう。

 

「これで四回。テメェ等の首を落とすのを見逃してやった回数だ。もっと苦しめてもいいんだが、ギンガを病院に連れてかなきゃならねぇ。もう終わりにする」

 

終わりにするということは、三人を殺すということだ。アキラはまずチンクの首にディバイダーの刃を当てる。死が間近に迫ってる事を実感し、チンクの表情が恐怖に包まれた。アキラは何の躊躇も遠慮もなくディバイダーを振り上げ、チンクの首に振り下ろした。チンクは目を瞑る。

 

 

 

「殺しちゃダメェ!!!!!!!」

 

誰かの声が響いた。アキラはディバイダーをチンクの首に二ミリ程の入った所で止め、声がした方を向く。叫んだのは、意識を取り戻してアキラが作った氷の壁の一部を破壊し、上半身を氷壁から出したギンガだった。

 

「殺しちゃダメ…殺しちゃったら、なんにも残らない!アキラ君も、その子たちも!」

 

アキラは改めてチンクを見る。恐怖に震えるその表情と幼い容姿が、アキラが自分で封印していた記憶の何かと重なる。するとアキラの手は急に震えだし、冷や汗を滝のように流し始めた。

 

「は…………あ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

アキラはディバイダーを落とし、両手で頭を押さえて何かに怯えるように叫んだ。それと同時に、チンクはこれが最後のチャンスだと思いスティンガーを出し、アキラに向かって投げた。アキラは顔をあげる。スティンガーがもうすぐそこまで迫ってるのを認識し、避けようとした。だが、思い出す。今、自分の数メートル後ろにギンガがいることを。

 

避ければセシルの二の舞だ。しかし、さっきの戦闘で魔力も体力も空に近い。アキラのできることは、自らの身体を盾にすることだけだった。

 

 

アキラは両手を広げ、仁王立ちする。スティンガーが身体のあちこちに刺さる。そのスティンガーはチンクが指を鳴らすと、チンクのISで爆発した。

 

 

 

続く。

 



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第十六話 経緯

もうすぐコミケ………ギン姉本が出るみたいだから買って燃やそうかなw

…………………………冗談ですよ!?どうぞ本編をお楽しみください!

コメント、評価、お気に入り、随時募集中です!


薄暗いテントの中に光が射し込む。

 

「アキラさーん?起きてますかー?」

 

「う…………?」

 

テントの中で寝袋に入ってた男が目を覚ます。茶髪の男、橘アキラだ。テントを開けたのは青い髪とエメラルド色の瞳の少女。

 

「ギンガ?」

 

「ふふ、今日はお寝坊さんでしたね。まぁ、今日は日曜日だから良かったんですが……妹達がアキラさんと一緒に出かけようって…」

 

ギンガはクスクスと笑った。アキラは頭に疑問符を浮かべている。アキラはこの状況を理解出来てなかった。まず、なぜ自分はこんなテントの中で寝ていたのか、そして、自分の前にいる人物はギンガと分かるのだが、アキラの知ってるギンガとは結構違う。

 

いつもよりもずっと幼い感じで、11〜13歳って感じだ。というかアキラ自身もなんだか小さくなってる感じがした。リボンの色とかも違う。じっとギンガを見つめていると、ギンガが不思議そうな顔をする。

 

「どうか…しましたか?顔になにかついてます?」

 

「お前……ギンガだよな?」

 

「なにいってるんですか?……もう、まだ寝ぼけてますね?朝ごはん出来てますから顔洗ってきてください?」

 

またギンガはクスクスと笑ってアキラの腕を引っ張る。アキラはなされるがままテントの外に出た。アキラはテントから出た瞬間いくつかの衝撃を受ける。一つ、自分が寝ていたテントが何処かの家の屋根の上に設置されていたこと。二つ目、屋根から見る景色が自分が知ってる景色とはずっと違うこと。細かく言うと、文化的な建物がほとんどない。ミッドチルダのどこにいても視界に入る、時空管理局地上本部のあの馬鹿でかいタワーがないこと。三つ目、立ってみるとギンガと自分との身長差が結構あったこと。

 

アキラの知ってるギンガは自分との身長差は頭一個分くらいあったが、それ以上。このギンガはアキラの腹筋までくらいの身長しかない。

 

(どこなんだここ………)

 

小さいギンガは屋根に掛けてある梯子を降りて行く。アキラもそれについて行った。梯子はベランダから掛けられており、ベランダから家の中に入る。和風の家で、入った部屋は早速畳だった。階段を降り、居間に入る。

 

「あ、アキラ君、おはよう」

 

「おはようッス!」

 

「おはよう」

 

「おはよー!」

 

「おはよう…」

 

「うむ、おはよう」

 

居間には、今は亡き筈のクイントと、スバル、チンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディをそのまま小さくしたような(チンクは大して変わらないが)少女達がいた。一体これはどういう状況なのかさっぱり分からないでいる。ギンガとスバルは小さいし、今のアキラはクイントに関する記憶がないのでクイントの事はわからないし、その他の姉妹はあったことすらないので姉妹かどうかすらわからない。

 

それに、この世界は魔力を感じられないのもまた不思議だった。

 

「おはよう…?」

 

「さ、パパッと顔洗ってきてください。朝ごはんにしましょう」

 

クイントが笑いながら言う。アキラは頷いてから居間をでた。

 

(誰なんだろうかあのお母さん的な人は誰なんだ?ギンガに似てたが………そもそもこの世界は?)

 

とりあえず顔を洗って居間に戻り、朝食を共にすることにする。自然に溶け込みながらこの世界の情報を得ようという魂胆だ。

 

「いただきまーす!」

 

全員が元気良く言う。アキラは少し驚きながらも控えめに「いただきます」と言う。とりあえずアキラはギンガを見た。ギンガは文字通り山盛りのご飯を美味しそうに食べている。アキラの知るギンガなら楽勝だろうが、ここのギンガはあの小さな身体によくあれだけの量が入るなと関心するが、今はそれどころではなかった。

 

アキラは次に自分の隣にいる小さいスバルを見る。スバルもギンガよりか小さいとは言え、山盛りのご飯を食べていた。アキラは名前がちゃんと一致しているか不安だったが、とりあえずスバルから情報を得ようと小声で尋ねる。

 

「………なぁスバル」

 

「んぅ?なぁに?アキラさん」

 

「飯うまいか?」

 

「?……うん」

 

スバルは急に変な質問されて首を傾げていた。

 

「ところでさ、俺朝から寝ぼけてんのかな?ギンガやスバルが小さくなってるように感じんだけど」

 

「そうかなぁ?」

 

(ふむ、この様子だと、おかしいのは俺だけか………)

 

アキラはそう考え、周りに合わせることにする。家族団欒でワイワイと騒がしい食事、その景色を不思議と懐かしい感じとアキラは感じていた。食事も終わり、少女達はバタバタと自分たちの部屋に向かって行く。

 

部屋に残されたのはクイントとアキラだった。

 

「アキラ君は準備しなくていいの?」

 

クイントが尋ねる。

 

「準備?なんのですか?」

 

「ああ、アキラ君は聞いてなかったっけ。今日はこの間スバルが見つけた小川に行くらしいわよ?」

 

アキラはとりあえずベランダから屋根に登り、自分が寝ていたテントに入った。中には、寝袋の他に色々入っている。しかし、その中には刀やナイフと言った戦闘用の物はなくトレジャー用品ばかりだった。

 

そのアキラに背後から近づく影がある。

 

「アキラ君」

 

「あ……えと………何ですか?」

 

クイントだ。

 

「実はね、今日は………

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

僅かに聞こえる電子音と、少しだけ開いた瞳に射し込んでくる電灯の明かりでアキラは目を覚ました。

 

「う………?」

 

「目が覚めましたか?」

 

天井しか見えてない視界に入ってきたのはウェーブの掛かった紫色の髪と、イエローの綺麗な瞳を持った女性。アキラはまだはっきりしない意識の中で女性を見つめ、誰だったか必死に思い出そうとする。

 

アキラが必死に思い出そうとしていると、ピンクで長髪の女性がグラスを持って入ってきた。しかし、アキラはそのピンクの髪の女性が着ているスーツに見覚えがある。

 

「お持ちしました、ウーノ姉様」

 

「ありがとうセッテ。下がっていいわ」

 

「はい」

 

紫色の髪の女性はウーノと言う名前だというのはわかったが聞いたことはない。周りの景色や設備を見る限り病院ではなさそうだ。となるとここは自分の知らない何処かになる。

 

「どうぞ、身体が少しは楽になりますよ」

 

アキラはグラスを受け取るために起き上がろうとした、しかしアキラの身体は全く言う事を効かず、指一本動かせない状態だった。動かせるのは顔まわりの筋肉と目くらいだろうか。呂律が回らず、声もまともに出せない状態だ。

 

ウーノはそのことに気づいた様子でストローをグラスにいれてストローの先をアキラに向ける。

 

「う………んぐ………」

 

ウーノが言った通り、それを飲んでいると身体の重みが少し減り、頭もはっきりしてくる。それと同時に何が自分の身に起きたかと言うのを少しずつ思い出す。アキラは頭の中で情報を整理する。

 

「どこだかわからないって顔をしているので教えますが、ここはジェイル・スカリエッティ研究所。私は…私達はドクターと呼んでいますが、ジェイル・スカリエッティの作った戦闘機人No.1、ウーノです。あなたはドクターの命令で他の戦闘機人に鹵獲され、ここに連れてこられたんです」

 

それを聴いた瞬間、アキラの脳内で整理された情報とウーノからの情報が繋がり、アキラはすべてを思い出した。そう、この状況は今から数時間前に遡る。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー数時間前 時空管理局地上本部ー

 

 

「うぐ………」

 

アキラが目を覚ますと、全身に激痛が走った。呼吸がまとも出来ない。アキラは瞳を動かして周りを確認する。どうやら自分は瓦礫の下敷きになっている様だと冷静に分析するが、状況的に分析している場合ではない。

 

(ああ……そうだ俺はギンガを守ろうとして…………あのチビの爆破魔法食らっちまって……俺がいたとこの床が抜けて瓦礫と一緒に下の階に落ちたのか……)

 

どうにか瓦礫の中から出ようともがこうとするが、魔力も身体も限界の状態で瓦礫を退かす程、身体を動かせられる出来る訳がない。瓦礫から出てるのは左手と首から上、残りは瓦礫の下。骨や内臓もいくつか潰れているだろうか。

 

どうするかと思っていると、アキラの前に誰かが歩いて来た。

 

見上げると、白い甲冑を纏ったあの謎の男だ。

 

「また………テメェかよ……」

 

「どうした?何がなんでも護るんじゃなかったのか?このままじゃギンガは戦闘機人に拐われちまうぞ?」

 

「そう言うなら、お前が行ったらどうだ………初めて会った時からギンガにやたら過保護じゃねえか……」

 

アキラは少しなげやりな感じに言う。

 

「残念ながら俺にはアドバイス位しかできない。この後、ギンガがどうなるかはお前次第だ。お前は…また護れずにいて悔しくないのか?」

 

「はっ……今の俺に何ができるよ………確かに悔しいが…だがよ……分かるんだ……っ!爆発の衝撃で身体の肉の一部は吹っ飛んでる…右脚は瓦礫に潰されてる!魔力はほとんど尽きてる!エクリプスウィルスの再生も追いつかない!もう……どうにもならねぇ!俺にはどうにも出来ねぇ!」

 

アキラは涙を流しながら抗議した。すると男はアキラの前にしゃがみ込み、アキラの左手に手を添える。

 

「できるさ、お前なら」

 

「なに?」

 

「………人間は脳にリミッターをかけているそうだ。脳が真の力を発揮させれば肉体と精神が保たないからだ。だが、橘アキラ。お前にはこの左腕がある」

 

アキラは自分の左手を見た。アキラのIS、「ハッキングハンド」はあらゆる物の記録やデータを書き換えることが出来る。脳は10パーセント程しか使われてないのはアキラも知っていたが、覚醒させればどうなるかもわかっている。しかし、身体と精神が保たなくなるのは100パーセントにより近づいた時。

 

この現状を乗り切れる程度にリミッターを外すのなら、少なくとも死にはしない。ギンガを護る。そう誓った筈だ。例えこの身を犠牲にしても。

 

「……IS……ハッキングハンド」

 

 

ー上の階ー

 

 

チンクとノーヴェはアキラが落ちた穴を覗いていた。下の階で瓦礫の下敷きになってるアキラを確認し、大きくため息をつく。

 

「ふぅ………なんとか倒したな…ウェンディ、立てるか?」

 

「ムリッス…膝下を深く切られたから…ボードに乗るのが精一杯ッス」

 

「ノーヴェ、傷は?」

 

「かなり色んな所斬られたけど、まだなんとか動けるよ、チンク姉。あたしがタイプゼロ運んで来るからチンク姉は休んでて」

 

ノーヴェは痛みに耐えて立ち上がり、ギンガの方に向かってローラーブーツを動かした。

 

全身に浅い傷を付けられ、風が吹くだけで傷口に染みる。ここまでボロボロになってまでタイプゼロを捕獲しなければならない訳では無かったが、やっと要注意人物の橘アキラを倒したのだ。

 

せっかくなので、倒した証に捕獲するのが良いとノーヴェは考えていた。氷の壁から上半身だけ出して意識を失ってるギンガの前に立ち、ギンガを引きずり出そうとすると、チンクの声がノーヴェの動きを止めさせる。

 

「ノーヴェ!逃げろ!」

 

「!?」

 

ノーヴェが振り向くと、そこには血で全身が赤く染まっているアキラが自分のいる方向に飛びかかって来ている。

 

ノーヴェはブレイクランナーでアキラの攻撃を避け、アキラの後ろに着地した。アキラは空中で方向転換し、右手を地面に擦り付けブレーキを掛けて止まる。

 

「ありえねぇ…あの怪我で下の階から飛び出して来たのか?」

 

右脚は膝から下が無く、右手もひどい状態で、薬指の第二関節から先がない。左腕は激しすぎる脳信号に対応しきれず、動いていなかった。

 

「はぁ……はぁ………」

 

チンクが流石にこれは撤退するのが賢い選択だと思っていると、トーレからのメッセージ通信が来た。どうやらこちらにトーレとセッテが向かってるらしい。チンクはノーヴェにそれを伝えた。

 

(ノーヴェ!トーレとセッテがこっちに向かってる!あと少し持ちこたえられるか!?)

 

(うん…………多分大丈夫。こいつ、まともに動けてない)

 

アキラは近くにあった折れた刀を掴む。

 

(あいつ、あんなんで何するつもりだ?)

 

ノーヴェが警戒するが、アキラは中々動こうとしない。ただ刀を構えてノーヴェを警戒していた。しかし、折れた刀でも油断していれば急所を狙われれば返り討ちにあう可能性もある。

 

「………っ!」

 

ノーヴェはアキラの企みに気づいた。どこからかローラーブーツの音が聞こえてきたからだ。アキラは戦うと見せかけて六課の仲間の到着を待っていたのだ。

 

しかし、ノーヴェが気づいた時にはすでに遅い。ギンガを囲ってる氷の壁の横の通路からスバルが走って来た。

 

 

「アキラさん!」

 

「スバル!ギンガ連れて逃げろ!」

 

アキラは叫んだが、スバルはそれを拒否してナンバーズに向かおうと構える。

 

「ううん、私も戦う!」

 

「ここはいい!お前はとっととギンガ抱えて来た通路に戻れ!」

 

「でもっ!」

 

二人が話してると、ノーヴェがスバルに向かって突っ込んだ。アキラは慌ててノーヴェに飛びかかり、全身でノーヴェを押さえつける。

 

しかし、今度は奥にいたチンクがスティンガーをスバルに投げた。スバルはそれを避けた。スティンガーは通路の端に刺さり、チンクのISで爆発が起こる。その衝撃で、ギンガの周りを包んでいる氷の壁が削れ、スバルは軽く吹っ飛ばされる。

 

「くっ!」

 

スバルが起き上がり、チンクに向かって走り出そうとした。その瞬間、スバルの顔の真横をアキラの持ってた折れた刀が通り抜ける。

 

スバルの頬から血流れた。

 

「いいからギンガ連れて逃げろつってんだろぉ!!!!!!テメェからブッ殺すぞ!!!!!」

 

今まで見たこともないような剣幕でアキラは叫んだ。スバルはそれに一瞬怯え、歯を食いしばりながらギンガを氷の壁から出し、背負ってから来た通路に戻る。

 

逃げようとするスバルをチンクが追いかけた。それを見たアキラはノーヴェを体重で押さえつけながら、懐から何かのスイッチを出す。

 

「いかせねぇよ………ギンガだけは……………俺が…」

 

「お前……何を……」

 

「これが…俺に出来る最大限の行動だ」

 

アキラはスイッチを押した。その瞬間、爆発音が鳴り響きアキラ達がいた場所の床が崩れ落ちる。

 

アキラは下の階にいた間、その階の天井と床にありったけの爆弾を仕掛けておいたのだ。床が爆発し、ナンバーズ三人とアキラは二つ下の階に落ちて行く。

 

(ああ……守れて良かった…………これだけで満足だ……守れたんだ…)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

アキラの記憶はそこで途切れていた。

 

「………ああ…そうか。なら…話は速い。傷が治ったらテメェ等全員、皆殺しにすればいい話だ」

 

輝きの無い瞳で怪しく笑う。その笑みから伝わってくる負の感情がウーノを一瞬怯えさせた。だが、ウーノは敵に流されない様に冷静さを保たせながら喋る。

 

アキラは今脳を弄って無理矢理身体を動かした反動で動けないのだ。恐れる必要はない。

 

「まぁまぁ、あなたが私達を怨む気持ちもわかります。ですが、私達の話も聞いてください」

 

「………何だよ?」

 

発する一言一言に重みを感じるが、ウーノは弱みを出さないように必死で堪えた。

 

「私達……いえ、ドクターはあなたの戦闘能力を高く評価しています。そして、あなたがタイプゼ……ギンガ・ナカジマに対して護衛行動を行っている事もご存知です。ドクターは、もしあなたが私達に加勢し、見事管理局を打ち倒したのなら………あなたとギンガ・ナカジマに、暮らす場所と、地位と、一生分の財産を与え、その後は何があろうと私達はあなた方に干渉しないと仰ってます」

 

「なん………だと………?」

 

 

ー同時刻 管理局員用病棟ー

 

 

「ん………」

 

「ギン姉!」

 

「ギンガ!」

 

「ギンガ!」

 

とある病室で、ギンガは目覚めた。起きたギンガの視界には、父親のゲンヤ、妹のスバル、親友のメグの姿が写る。

 

「父さん……?スバル…それに………メグ?」

 

ギンガはまだ自分がどういう状況で、なぜここで寝ているかわからないという顔をしていた。そんなギンガの少しキョトンとしてる顔を見たメグは、ホッとした表情を浮かべる。

 

「大丈夫?あんた三日も寝てたんだよ?まぁ、医者が言うに命に別状は無いって話だったけどさ」

 

「何はともあれ、目覚めて良かった……。今はゆっくり療養してくれ」

 

ゲンヤも安心した顔で言う。

 

「三日……」

 

ギンガは電波時計の日付を見た。9月17日。なんだろう、何かすごく大切なことを忘れてる気がする………ギンガがそんな感覚に陥っていると、突然、大きな魔力波動がギンガを、いや、世界に流れた。

 

ギンガは慌てて全員に問いかける。

 

「!?………父さん!みんな!今なにか…………みんな?」

 

そこにいた三人は動いてない。いや、そこにいた三人だけではない。

 

動物も、植物も、空も、世界も……全ての時間が止まっていた。ギンガが困惑し、戸惑っているとギンガの病室のドアが開く。両目をバイザーで隠し、白い甲冑を纏った白髪の男が現れた。

 

「誰!?」

 

ギンガは男を睨みつける。

 

「そんなに警戒するな。俺はお前の敵じゃない」

 

そう言うが、明らかに怪しい男にギンガは警戒を解かない。しかし、今話が聞けるのはこの男しかいないため、恐る恐る聞いてみる事にした。

 

「…………この現象を起こしてるのはあなた?」

 

「ああ。だが別にギン………お前に危害を加える訳じゃない。むしろ現状打開の手助けをしたいだけだ」

 

「手助け?」

 

男は頷き、ギンガに一歩一歩近づいていく。

 

「今お前、何でここにいるか思い出せないだろう?だから教えてやるよ」

 

ギンガの目の前まで来た男は、ギンガの頭を掴んだ。その瞬間ギンガが気を失っていた間、自分の身の回りで起こっていた全ての情報が送り込まれていた。

 

記憶の中でギンガは、自分の記憶がどこまで抜け落ちていたのか、橘アキラがどの様に、どれだけ必死に自分を守ってくれたのか……。

 

「………アキラ君」

 

スバルがギンガを抱えたまま通路に入った瞬間、その後ろで爆発が起きたシーンで終わっていた。気づくと甲冑の男はいなくなり、時間も動き始めている。

 

ギンガは、はぁっとため息をつく。

 

「ギン姉どうしたの?お腹空いた?」

 

「ううん、ところでアキラ君の病室はどこ?お見舞いしたいの。すごい怪我してたみたいだし、入院…してるよね?」

 

全員の顔が暗くなった。ギンガがキョトンとしてると、スバルが近くに置いてあった布にくるまれてる何かをギンガに渡す。

 

「…………これは?」

 

「………」

 

返答はなかった。ギンガはくるんでいる布を解く。中には、ボロボロの折れた刀が入っていた。アキラが持っていた物である。

 

「これって……」

 

「アキラ君の刀……。現場には…アキラ君の遺体すらなくて……多分……誘拐されたんだと思う」

 

「なにそれ…………どういうこと?アキラ君が………どうして!?」

 

ギンガは不安な気持ちで押しつぶされそうになり、スバルが分かる筈のないことを必死に尋ねる。

 

「わからないよ!でも、アキラ君がどこにもいないってことは、拐われた位しかもう思いつかないし………」

 

ギンガの手がスバルの腕からスルリと抜けた。そしてその手は、そのまま布団をギュッと握りしめる。

 

ギンガの目には涙が浮かんでいた。メグとゲンヤがその手に自らの手を添える。その時、病室の扉が開かれた。見ると、焦った様子のフェイトが何かを持って入ってくる。

 

「フェイトさん?」

 

「ギンガ…これ」

 

フェイトが持ってきた何かをギンガに手渡した。フェイトから渡された物……それは何かのデータが入った小さな端末。フェイトを見ると、フェイトは「見て欲しい」と目で訴えていた。

 

端末を開くと、そこにはアキラの顔写真と、プロフィールらしき物が映し出される。

 

「フェイトさん、これは?」

 

「それは…管理局無限書庫内の……古代ベルカの未整理区画内で見つかったの」

 

「古代ベルカ!?」

 

 

続く



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第十七話 決意

あけましておめでとうございます!今年もマイペースでやってきますが、応援よろしくお願いします!月に、ここの話を二話、セントを一話ってペースでやっていけたらなぁって思ってますが、なんかうまくいかない気がしますww

それでは、本編をどうぞ!

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ースカリエッティラボ アキラの部屋ー

 

本部襲撃から五日たった日。アキラの身体は少しずつ動くようになっている。戦闘で失った脚と指は、アキラの感染しているエクリプスの力で完全に再生していた。だが、まだ歩いたりするのには、誰かの手助けが必要だった。

 

スカリエッティから提案された誘い………スカリエッティ達に協力する代わりに、ギンガとアキラに管理局を打ち倒した後の世界に住む場所と財産を与え、その後は一切の干渉をしない………。アキラはこの誘いをずっと迷っている。襲撃から三日後に目覚め、それから丸二日悩んでいた。

 

今日も変わらず、アキラは寝ても覚めても悩んでいる。

 

そして、お昼になるとセッテが昼食を運んで来た。あまり動けないアキラの世話はウーノとトーレ、そしてセッテが行っている。これはセッテ自身が望んだ事だった。

 

セッテだけでは心配なので、セッテをよく知るトーレと家庭的なウーノがアキラの世話をやることになったのだ。

 

「昼食です」

 

「………ああ」

 

アキラはあまり動けない身体をゆっくり起こし、箸を取る。

 

「食べれますか?」

 

「ああ、昨日よりか動く………」

 

ゆっくりだがアキラは食事を進めた。この時も考えていたのは例の案件のこと。確かにその提案を飲めば、少なくともギンガの身の保証は約束される。だが、それだけだ。

 

確かにギンガを守るアキラからしたら最高の条件だ。しかし、それだけである。ギンガ以外はどうなる?もし殺されたとして、その後、自分だけ生き残った世界をギンガは望むか?

 

きっと望まないだろう。それに橘家の教えなら、「護衛対象の心」も護らなければ本当に守ったことにはならない。だが、拒否した場合の処遇はまだ聞かされてない。それに、アキラにはもう一つ悩みの種がある。

 

「あの………」

 

「ん?」

 

考えながらゆっくり食事をしていると、セッテが声をかけてきた。

 

「まだドクターからの提案を、決めないのですか?」

 

「…………お前のISは読心術か?」

 

「?………違いますが。あなたにとっては最高の条件ではないのですか?」

 

セッテは、アキラの無償の護衛という物に興味を持っていた。なぜ無償で自分の身を顧みず、誰かのために尽くせるのか。そしてアキラはギンガさえ守れれば良いものだと考えている。だからなぜ簡単に条件を飲まないのか知りたかったのだ。

 

「…そんな訳ねぇだろ」

 

「なぜですか?」

 

「あんな条件、俺はともかくギンガが望むはずねぇ。でも……俺はもう大切な人を失いたくない………」

 

セッテは首を傾げる。

 

「……あなたは一体なぜそこまでタイプゼロの彼女にこだわるのですか?人の恋愛感情はわかりませんが、もっと綺麗な方なら沢山いるのでは?」

 

アキラはため息を漏らした。

 

一応ウーノから自分の世話係の内一人、セッテがどういう人物かは聞いていたがここまでとは思ってなかったのだ。感情のない人間というのにはなりたくないなぁと、アキラは少し思う。

 

「お前も恋をすれば分かる」

 

「………無理です」

 

キッパリと言い切るその表情に迷いはない。アキラは再びため息をついた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー同時刻 ギンガの病室ー

 

ギンガの怪我はもうほとんど治り、あとは一日経過を見て退院ということになっている。そんなギンガは今、昼食を必死にかきこんでいた。

 

無限書庫から見つかったアキラのデータ。それはとりあえず放っておくことにした。今はアキラの行方を追い、救出することが最優先であり、それが自分がすべきこと。そう考えたギンガは一刻も早く傷を治すべく、沢山食べて元気になろうとしていた。

 

「いつもよりよく食べんねぇ〜。その細い身体のどこに入るんだか」

 

いつも通りのテンションのメグが言う。

 

「ほっといて。身体を良くするには食事から、地球の漢字っていう文化の食べるって字は人を良くするって書くんだから」

 

「へぇ、物知りねぇ。確かにそうかもしれないけど、食い過ぎは身体に毒よ?あんたの言うことも間違っちゃないけど、病人は適度に食べんのが一番よ?」

 

「平気」

 

ギンガは一人分の病院食と、メグに買ってきてもらった大量の弁当の昼食を終えた後にすぐベッドから出た。少しだがトレーニングすることは医者から許可をもらっている。ギンガはトレーニングに向かう道中、スバルに会った。スバルは何か考え事をしてる様で、ギンガが真っ正面から歩いて来てるのに全く気づいてない様子。

 

「スバル」

 

「あ、ギン姉」

 

ギンガが声を掛けるとスバルはようやくギンガの存在に気づいた様で、驚いた表情を浮かべた。

 

「どうしたの?何か悩んでたみたいだけど………相談、乗ろうか?」

 

「うん…まぁ……大丈夫。ギン姉はまたトレーニング?」

 

「そう」

 

ギンガの言葉を聞くと、スバルは表情を曇らせる。

 

「ギン姉、少しは休んでた方がいいよ!この間まで寝てたんだし……」

 

「私は大丈夫。もう足は引っ張らないから」

 

ギンガは、もしアキラが拐われたのなら…助け出したいと思っていた。いや、自分の取る行動はそれ以外にないと思っている。リハビリ用の部屋の一部を借り、ギンガはSAのトレーニングを始めた。

 

 

ー二十分後ー

 

 

 

(待ってて、アキラ君………絶対助けるから…)

 

「あっ……」

 

意気込んで高く足を上げた瞬間、ギンガは身体の重心が傾き、倒れかける。その瞬間、ギンガを誰かが支えた。

 

「わっと…すいません………って、フェイトさん」

 

ギンガを助けたのはフェイトだった。

 

「大丈夫?ギンガ」

 

「………………ご心配してくれて、ありがとうございます。私は大丈夫です」

 

自分を助けたフェイトに礼だけ言い、ギンガは練習に戻ろうとする。

 

「ちょっと………休憩しない?」

 

「大丈夫ですって」

 

「休むことも大切だよ?まだ怪我だって完治した訳じゃないんだから」

 

「………………」

 

ギンガはフェイトの提案を渋々受け入た。ギンガはフェイトに連れられ、病院内にある庭園のベンチに座る。フェイトはそこに着くとギンガに「ちょっと待ってて」と言い、何処かへ行ってしまった。

 

一人残されたギンガは、庭園を見渡す。ずっとピリピリしてた自分の精神状態とは正反対の穏やかな風景だった。それを見ていると、ギンガの心も自然と安らいで行く様で、ギンガは「ふぅっ」とため息をつく。

 

「おまたせ、ギンガ」

 

フェイトは缶ココアを両手に持って来た。ココアをギンガに渡し、自分もギンガの隣に座るとココアを飲んで一息つく。

 

「うん、美味しい」

 

「……この病院こんなところがあったんですね」

 

「うん。それよりギンガ?」

 

「はい?」

 

「しばらく、トレーニングはやめた方がいいんじゃない?」

 

ギンガはその言葉に少し怒りを覚えた。トレーニングしたところで、前回役立たずだった自分は所詮「戦力外」と言われたような気がしたのだ。

 

「誰かに守られてばかりの自分じゃ、戦力不足ってことですか………?」

 

「え?」

 

そんな気は全くなかったフェイトは急に違った理解をされたことに驚く。ギンガは立ち上がってフェイトに抗議した。

 

「確かに前回はほとんど私の独断で戦闘を続け、結果的にアキラ君に……六課のみんなに迷惑かけてしまいました………でも!私、アキラ君を助けたいんです!それしか償う方法が……」

 

「待って!落ち着いて、ギンガ!誰もギンガのことを戦闘不足だなんて思ってないから!」

 

「じゃあなんで………」

 

「とりあえず一回落ち着こう?」

 

フェイトはギンガを座らせ、ギンガは一回ココアを飲んで冷静にさせる。

 

「ごめんね、急に変なこと言って。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」

 

「私こそごめんなさい………勝手に勘違いして」

 

「あのね、今のギンガはすごく焦ってるみたいに見えるんだ。ギンガはアキラ君が拐われたことに責任を感じて、周りが見えなくなってる。そう私は感じるんだ」

 

「周りが……………」

 

考えてみれば確かに見えてなかったのかもしれないと、ギンガは少し反省した。メグもスバルも、自分の身体を心配して止めてくれたのに自分は気を急いてそれを無視した。

 

下手すれば自分の身体どころか友情関係や家族関係も壊しかねない。まぁ、メグもスバルもその程度では関係が壊れないと思うが……。

 

「すいません……フェイトさん」

 

「ううん、わかってもらえて良かった」

 

それからはしばらく、ガールズトークが続いた。ガールズトークと言ってもギンガが一方的にアキラの話をしていただけではあったのだが、フェイトは一言も文句を言わず聞いている。どうやらフェイトは聞き上手のようだ。

 

……………そして、トークが始まってからしばらくしてフェイトは席を立つ。

 

「ごめんね、これから仕事があるから」

 

「あ、フェイトさん……今日は…………ありがとうございました」

 

ギンガは頭を下げた。

 

「お礼なら、メグちゃんとあの……白い甲冑の人に言って?」

 

「え?」

 

「実はメグちゃんとギンガの知り合いだって言う人が、ギンガのことが心配だから落ち着かせる様に言ってくれってお願いされたんだ。だからお礼なら二人に………ね?」

 

「はい…………」

 

フェイトはそのまま去って行ってしまう。庭園に一人残されたギンガは、ベンチに座って考える。

 

フェイトが言った人物………それは恐らく、この間世界の時間を止めて自分の前に現れたあのバイザーの男だろうとギンガは考えた。だがまぁそんなことはどうでもいい。ギンガは気にしないことにした。それよりも自分はやらなければならないことがある。

 

過去の自分を反省し、今の自分を強くすること……肉体だけでなく、精神的にも。その上で、必ずアキラを助けると。

 

そう心に決意したギンガの様子を、あの男が見ていた。

 

「…………こっちは問題なさそうだな」

 

 

ースカリエッティ研究所ー

 

 

アキラが寝ている隣では、ウーノが何やらデータの整理をしている。その様子をアキラはじっと見ていた。

 

「……………何ですか?」

 

ウーノはアキラの方を見ないで尋ねる。

 

「なぁ……もしこの話を断ったら……俺はどうなるんだ?処分されんのか?」

 

「あなたは使える戦力ではありますが、それと同時に……貴重な研究材料でもあります。戦力として使えないならせめて資料の充実に貢献してもらう……少なくとも解剖はするでしょうね。もしくは洗脳してでもこちらについてもらうか………最終判断はドクターが下しますが、私が知ってるのはこの程度ですかね」

 

ウーノの言葉にアキラは少しも動じなかった。アキラの予想範囲内だったからだ。ここに連れ去られた理由……元々対象はギンガだったのが自分に変わった理由を、アキラはこの二日間考えていた。

 

そしてたどり着く答えは一つしかない。戦力以外でアキラの評価出来る点は身体。正しくは身体の中にある初期型の戦闘機人システムと「ジーンリンカーコア」だ。

 

「なるほどな…………」

 

「で、これを聞いて答えは出ましたか?できればそろそろ決めて欲しいのですが。あなたが加わるか加わらないかで作戦が大きく変わりますので」

 

アキラは起き上がり、怪しい笑顔を浮かべる。

 

「いいぜ。お前らが提示したあの条件、飲んでやるよ」

 

ウーノは少し驚いた顔をしたがすぐにいつものクールな表情に戻った。そして、席を立ち上がり出口に向かって行き、部屋を出る直前に、ウーノは振り向く。

 

「では、そのようにドクターにお伝えしておきます。あなたを信用し、出入りを自由にしますがくれぐれも怪しい行動は避けるようにしてください」

 

「ああ」

 

ウーノは部屋から出て行った。アキラはため息をつく。それと同時に、部屋白い甲冑の謎の男が現れた。

 

ドアから入ってきた訳でもなく、突然現れた男を見てもアキラは特に驚く様子もなく対応しようとするが、男は突然アキラの首に刀を当てる。

 

「おお?」

 

「どういうつもりだ。ギンガがあんな条件で喜ぶとでも思ったか?」

 

「そんな訳ねぇだろ。まぁ、俺に任せておけ。少なくとも…………スカリエッティの好きにはさせねぇよ」

 

「…………………」

 

少しの間、男はアキラを睨んでいたが、ため息をついて刀を納めた。

 

「そう言うのであれば………今はお前の言葉を信じてやろう。だが、もしギンガを悲しませる運命にしたのであれば…………」

 

「俺を殺すか?」

 

「当然だ」

 

終始表情を変えなかった男はそれだけ言うと、何処かへ消えた。

 

 

ー翌日ー

 

 

この日、研究所の大広間にナンバーズ(ドゥーエを除く)全員が集められた。

 

「やぁ、よく集まってくれたね。これからゆりかご起動時に君たちと一緒に戦ってくれるメンバーが増えたから紹介する。入ってきてくれたまえ」

 

大広間の奥の扉が開くと、オットーと酷似したナンバーズスーツに身を包み、上からバリアジャケットの一部である白いトレンチコートを着たアキラが入ってきた。

 

「タイプゼロより前に製造された半戦闘機人の橘アキラ君だ」

 

「橘アキラだ………最初に言っておくが、別にお前らに協力する訳じゃねぇ。それだけは覚えとけ」

 

 

 

ゆりかご起動まで、あと一日。

 

続く

 

 



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第十八話 再開

次回投稿二月以降になります〜お楽しみに〜ヾ(@⌒ー⌒@)ノ


コメント、お気に入り、評価、随時募集中です!


ースカリエッティ研究所ー

 

 

スカリエッティ研究所では、作戦開始まで数時間となった。アキラとナンバーズはスカリエッティから作戦を聞いている。

 

「さて、タイプゼロを含んだ部隊を襲撃するのはチンク、ノーヴェ、ウェンディ、ディード、フィフティーン、支援にオットー」

 

アキラにつけられた番号は15。これはスバルとギンガ……タイプゼロ二機を抜いた数である。アキラはそれを聞いた時、約束が違うと抗議したが、スカリエッティ曰くずっと前から作ってあったので変更がきかないそうだ。

 

「やることは敵戦力の分担。まずはリーダー的存在の彼女、ティアナ・ランスターからだ。三人ほどでオットーの作る結界に誘い込み叩く。一人ずつ……順調に。いいね?」

 

「わかりました」

 

「わかった…」

 

「了解ッス」

 

「はい…」

 

「……」

 

「はい…」

 

(険悪なムードだが………まぁ大丈夫だろう)

 

「では次に……」

 

スカリエッティが別の班の説明を始めると、アキラは会議室をでた。すると、誰かにぶつかった。正面を見ても誰もいない。アキラは視線を下にずらして行く。

 

アキラ視界に映ったのは、紫色の髪の女の子が立っていた。ルーテシア・アルピーノである。

 

「…………………っ!」

 

アキラは急に振り返り、走り出す。そして、いきなりスカリエッティの胸ぐらを鷲掴みにした。ナンバーズ達が動こうとしたが、スカリエッティは手で「来るな」と支持する。

 

「テメェ!まさか、あんなちいせぇ女の子まで利用してんのか!!」

 

スカリエッティの顔の目の前でアキラは叫んだ。スカリエッティは表情一つ変えない。それどころか「フッ」あざ笑った。

 

「彼女は昏睡状態のお母さんを助けたいだけさ。目覚めさせるにはレリックが必要。彼女のお母さんを目覚めさせる技術を持っているの私だけなのでね。協力してくれる様に頼んだだけさ」

 

「そんな言い訳…っ!」

 

アキラがスカリエッティに殴りかかる。しかしその刹那、紫色の魔力色のバインドでアキラの動きは封じられた。ルーテシアがやったのだ。アキラは驚いた表情を隠しきれなかった。

 

「ドクターに…手を出さないで」

 

「ぐっ………く…………そ…」

 

仕方なくアキラはスカリエッティの服を離す。それと同時にルーテシアのバインドが消滅した。

 

アキラは憎しみを込めた目でスカリエッティを睨んだ後、自分の部屋に帰って行く。アキラは自分と…自分の兄弟とルーテシアの姿を重ねて見たのだ。幼い頃から悪意ある戦いに巻き込まれる子をもうこの世に生みたくない………アキラの望みであり、ある意味目標であった。

 

アキラはセシルへの謝罪…そのために誰かを護る戦いをしていた。それと同時に、復讐を望んでいた。

 

アキラを造った研究所は大きな研究をしているにしては、小さい研究所だったのをアキラは覚えている。ならば、その研究を支援する大きな組織があり、その組織こそAtoZ計画を発案したのだとアキラは推測していた。

 

もしそうなら……アキラは必ず復讐したいと思っている。ただ、それはあくまで誰かを助ける旅の途中で見つけたらの話で、ギンガと出会ってからはその「復讐と言うか感情は薄れていった。

 

だが、ルーテシアを見た瞬間、復讐心と元々あったスカリエッティへの怒りが爆発してしまったのだ。

 

「くそっ……」

 

アキラは腹を立てながら壁を殴った。そんな様子を後ろで眺めてる人物がいる…………ノーヴェだ。アキラはノーヴェの気配に気付き、後ろを見る。

 

「あんだよ」

 

「……いや」

 

アキラは用事がないことを確認するとそのままその場を去った。ノーヴェは、自分に、大切な姉妹にあれだけ酷いことをしたアキラを恨めなくなっている。最初に捕獲した時、スカリエッティの計画に猛反対したのだが、アキラがたまに見せる重苦しく、悲しい表情。

 

それを見るたびに、なぜか恨み念が少しずつ消えて行くのをノーヴェは理解していた。

 

「あたしは………」

 

 

 

ーアースラ ギンガの部屋ー

 

 

 

ギンガは自室で、何かを大事そうに抱きかかえながらベッドに座っている。

 

寝ても覚めても考えるのはアキラの安否。作戦開始が近づくに連れ、ギンガの不安は募っていった。仮にもアキラは事件現場から姿を眩まし、行方不明扱いになってるだけで100%誘拐された訳ではないのだ。

 

ギンガが少しずつ嫌な方向に考えてしまっていたとき、誰かがギンガの部屋をノックした。

 

「はい?」

 

「ギン姉…私……」

 

スバルだ。スバルは扉を開けたギンガの表情を見ると、申し訳なさそうな顔をする。

 

「ごめん、来なかった方が良かった?」

 

「ううん?誰かといた方がリラックス出来るから」

 

そう言ってギンガは微笑み、スバルを部屋に招き入れた。ギンガはスバルにお茶を出そうと備え付けの冷蔵庫向かう。スバルは部屋に入ると、さっきまでギンガが抱いていた物を見つける。

 

「?………ギン姉なにこれ……………アキラさんのぬいぐるみ?」

 

ギンガが抱きかかえていた物、それはスバルの言う通りアキラのぬいぐるみだった。ギンガは冷蔵庫からお茶を出し、それをテーブルに置いてアキラのぬいぐるみを抱きかかえる。

 

そして悲しそうな目でぬいぐるみを優しく撫でた。

 

「入院中にね、メグがくれたんだ」

 

「メグさんが?」

 

スバルも一応メグとの面識はあった。変わり者だが、とても優しいのを覚えている。

 

「昔メグの飼ってたうさぎが逃げた時…メグ、その子の事が心配だったから毎日うさぎのぬいぐるみ抱きかかえながらその子の無事を祈ってたんだって。そしたら三日後にそのうさぎが帰ってきたから……その時はまぐれで偶然だったかもしれないけど、あんたも祈ってみたらって」

 

「ふうん…ギン姉やっぱりアキラさんの事が好きなんだね」

 

スバルがからかうように言うと、ギンガはスバルの予想を外れて簡単に頷いた。

 

「うん…好き………」

 

「あ、あれ………結構簡単に認めちゃうんだね………」

 

「うん……大好き。こんなに誰かを好きになるのは初めてだから……だから、絶対に助けたい」

 

「ギン姉………」

 

ギンガは少し悲しそうな表情でそう言う。ギンガにとって「アキラを助ける」と言う選択肢が最後の希望だったのだ。そんな時、アラートが艦内に響き渡る。

 

それと同時に艦内の全てのモニターに映像が映し出された。

 

[廃棄市街地にて戦闘機人を目視しました!総員、戦闘配備の準備に取り掛かってください!」

 

ギンガとスバルはモニターを見る。今ライブで撮影されてる映像が映し出されると、二人は唖然とした。いや、二人だけでない。艦内の全員が驚いていた。

 

なぜなら、戦闘機人のスーツをトレンチコートの下に纏い、バイクに乗ったアキラが映し出されたからである。

 

「アキ………ラさん?」

 

「アキラ………君?アキラ君!」

 

ギンガは目に涙を浮かべながら歓喜した。いや、とても喜んで良い状態ではないがギンガにとって一番の不安要素が消えたのだ。アキラが生きている。その事実をギンガは求めていた。

 

それをギンガはたった今確認することができたのだ。ギンガは涙を吹きながら立ち上がり、ブリッツギャリバーを手に取る。

 

「行くよ…ブリッツギャリバー」

 

スバルは、ギンガが…自分の姉がいつも通りの姉の姿に…自分が目標とする姿に戻ったのを確認すると、安心したように部屋を出た。ギンガはスバルが出て行った気配を感じ、振り向くが既にそこにスバルはいない。

 

ギンガはスバルへ感謝の意を込めて微笑んだ。

 

「ありがとう、スバル」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー出動まで残り三分ー

 

 

 

FW部隊とギンガは作戦前の最後の集合をかけられ、なのはとヴィータの前に整列する。二人から……主になのはから話された事は、今まで積んできた訓練、努力は、決して自分を裏切らないと言うこと。

 

目を閉じてこれまでの訓練を思い出させられた時は、そんなに長い時間機動六課に滞在してないギンガでも、思い出したくない物があった。だが、辛い思い出が思い出されるたびにアキラが自分に手を差し伸べてくれた思い出も蘇る。

 

ギンガは今まで辛い訓練を乗り越えて来たのだから、辛い状況でも必ず乗り切って見せると誓うと同時にもうアキラに甘えない…いや、アキラに心配をかけないと決意した。

 

話が終わると、なのははギンガの方を見る。

 

「ギンガ、今回は辛い戦いになると思うけど……」

 

なのはの心配そうな表情を見ると、ギンガは笑った。

 

「大丈夫ですよ。私だって訓練してきたんです。アキラ君は私が絶対助けます!……もし、スカリエッティの手駒になってて…………もうこちら側に戻らないって言っても絶対連れて帰ります!

 

「うん、そこまで意気込んでるなら大丈夫だね」

 

なのはも安心した様子。

 

「じゃあ、機動六課、FW部隊…出動!」

 

「はいっ!」

 

そして…ミッドチルダを震撼させ、今後の歴史に刻まれた決戦が開始された。

 

 

ー廃棄市街地ー

 

 

アキラはビルの屋上で一人、耳を澄ましている。トレンチコート型の防護服が風にたなびかれ、それと同時にどこからかヘリの音が空気を振動させた。アキラは瞑っていた目を開ける。

 

「来たか…………」

 

アキラは普段肩に担いでいる刀を、今は腰に挿していた。アキラは姿勢を低くし、刀の柄に手を置く。いわゆる、居合切りの構えである。アキラが構えてから数秒………アキラが立っている目の前に、ガジェットからの追撃を何とか回避し終えた六課のヘリが下から飛び出して来た。

 

その刹那、目にも止まらぬ速さでアキラは刀を振った。

 

「え………」

 

ヘリの操縦席にいたアルトが目を大きく見開き、口から一言だけもれた瞬間、ヘリの羽が根から切断される。その刹那、アルトはヘリの操縦桿を離し、後ろに乗ってるFW部隊に叫んだ。

 

「今すぐ脱出し…」

 

アルトが叫び終わる前にヘリは急降下を始める。

 

落下するヘリの中で、全員壁に叩きつけられた。FW部隊はそれぞれ壁に技をぶつけ、脱出を試みる。ギンガ、スバル、キャロ、エリオは無事脱出を成功させた。ティアナも急いで脱出しようとする。

 

その時、アルトがヘリの中で気絶しているのを見つけた。ティアナは急いでヘリの中に戻る。

 

「ティア!?」

 

「すぐ行く!アルトさんが…」

 

上空にいる四人は落下して行くヘリを眺めるしかない。今から戻ってもヘリが地面に衝突する前に到着できないことは明白だ。しかし、ティアナは飛行能力を持ってない。スバルとギンガは、すぐに助けに行けるように構えていた。

 

しかし、ティアナもアルトもヘリから出てこない。あと一秒しない内に地面と衝突するとなった時、ヘリから黒い影が飛び出したと同時にヘリは地面に衝突し、爆発炎上した。

 

その黒い影はビルとビルの間に入り、左右の壁を蹴って上昇して行く。そして最終的にビルの屋上よりも高く飛び上がりFWに向かって何かを投げた。投げられたのはティアナとアルトだ。

 

「ティア!」

 

「アルトさん!」

 

ギンガはアルトを、スバルはティアナをキャッチして近くの道路に着地した。そんなFWの前に、アキラが上空から現れる。FWは全員構えた。ナンバーズはこの時、アキラとの作戦で隠れていた。

 

「アキラさん……」

 

「アキラ君…」

 

「…………」

 

アキラも刀を構える。スバルが突っ込もうとした時ティアナがスバルを止めた。

 

「待ってスバル!」

 

「なに?」

 

「アキラさん……どうしてさっき…助けてくれたんですか?」

 

FW達が驚いた顔でアキラをみた。アキラは刀を一旦下ろす。

 

「…俺は、人は殺さない。それが敵であっても…」

 

「敵……」

 

アキラが自我を保ってることを確認すると、FWは戦闘体勢を解いた。そして、全員を代表するようにギンガが前に出る。

 

「アキラ君………どうしてスカリエッティ側についたの?その様子だと洗脳とかはされてないよね……?なのに……どうして…」

 

「………俺は、スカリエッティと取引した。俺が戦闘機人と共闘し、管理局を打ち倒して奴らが世界を牛耳るのに成功したら俺とギンガに安息を与えるって契約だ」

 

「そんな………アキラ君!そんなことで私が喜ぶって思ったの!?自分だけ助かる未来なんて…………そんな未来、私いらないよ!」

 

「俺は!!!!!!!!!!!」

 

空気がビリビリと振動するのがわかるレベルの声で、アキラは叫んだ。

 

その声にギンガも流石に驚き、一歩後退する。普段は物静かなアキラが怒りの混じった真剣な表情で怒鳴ったのだ。誰だって驚く。アキラは構えを解いた刀を再び構え、歯を食いしばった。

 

「俺はもう、大切な物を失いたくない…………だから俺は!」

 

アキラはFWが固まってる場所の中心に向かって飛び、魔力を込めた刀を振り下ろす。FWはそれぞれバラバラに回避した。その刹那、身を隠していたナンバーズ達が飛び出して来る。

 

「!?」

 

「おらぁ!!!」

 

流石にスカリエッティの思惑通りにはならず、バラバラになったFWをナンバーズは一対一で潰す手に出た。キャロにチンク、エリオにオットー、ティアナにウェンディ、スバルにノーヴェ、ギンガに…と言うかギンガとアキラが向かい合ってる場所にディードが来た。

 

ディード以外のナンバーズはそれぞれ戦い安い場所にFWを誘い込んだ。最初の場所に残されたのはギンガとアキラとディード。

 

「お前は妹のとこに行かなくて良いのか?オットーはそんなに単独戦が得意じゃねぇんだろ?」

 

アキラはギンガと向き合ったままディードに尋ねる。ディードはISのツインブレイズを発動させながら答えた。

 

「大丈夫です。この場をさっさと終わらせれば支援に行けますから」

 

二人の会話を聞きながら、ギンガは構えをとる。アルトは一応瓦礫の影に寝かせたが、自分が負ければアルトも殺されかねない。

 

正直、アキラ一人相手でも勝てないのにそれにナンバーズが加わった状態で、どう戦おうか検討がついていない。だが、自分に出来るのは一秒でも多くの隙を作り仲間と合流するのがベストのことだとギンガは思っていた。

 

「たくっ………俺のことなんかほっといて妹のとこに行っときゃ良かったのに……よっ!」

 

アキラは急に振り返ったかと思うとディードに刀を振る。ディードは片手でそれを受け止めた。そして、もう片方の光剣をアキラに振る。片手で受け止められると思ってなかったアキラはディードの剣をよけきれず、額に掠った。

 

更なる追撃を避ける為にアキラはバックステップでギンガの横まで後退する。

 

「くそっ!もっと力入れた方が良かったか……っ!」

 

顔を上げたアキラの前髪は、今まで顔の半分を隠してた前髪を顔の中心に近い部分を残した状態で切られていた。アキラの白濁した右目があらわになった。

 

「アキラ君………?なんで…」

 

「フィフティーン。どういうつもりですか?」

 

「最初に言ったろ別にお前らに協力するわけじゃねぇ。だからギンガに手を出すんなら誰だって俺の敵だ」

 

「アキラ君………」

 

アキラは立ち上がり、ギンガの方を見る。

 

「………悪いな。心配かけて。しかし…俺が本当にスカリエッティの駒になったとでも思ったか?」

 

「うん…アキラ君のことだからって思って」

 

ギンガは苦笑いを浮かべる。アキラは小さなため息を付いた。

 

「護衛する人間はその人の心まで守らねぇと守ったってことにはならない……心まで守れて、そこでやっと一人前だってな……そうだ、ギンガ。これを持ってアルトさんと最寄りの管理局の防衛ラインまでいけ。そんで機動六課にこのデータ回すように言ってくれ」

 

「え?」

 

アキラがデータメモリーを取り出した瞬間、ディードが斬りかかって来る。アキラは刀でそれを防ぐ。

 

「何すんだよ?」

 

「裏切るのであれば、私はあなたを斬ります」

 

「はっ、裏切る?俺は約束は破っちゃいねぇぜ?管理局打ち倒すまでお前等と共闘するとは言ったが、それまで俺は大人しく命令に従うとも言ってねぇ!」

 

「そんな屁理屈………っ!」

 

ディードは歯噛みをしながら剣に力を込める。アキラはギンガにメモリーを投げた。ギンガは一瞬落としそうになったが、何とかキャッチする。

 

「いけっ!今日は魔力も体力も全開だ、こないだみたいにゃやられねぇから安心しろ!」

 

ギンガはアキラを信じ、最寄りの管理局まで向かった。ディードはそれを見ると、アキラから一旦離れて今度はギンガを追おうとする。当然アキラはその道に立ち塞がった。

 

「行かせるかよぉ!」

 

「ぐっ!」

 

刀を左手で振ってきたアキラの刀を避けたディードの顔に、アキラの拳が命中する。ディードは体勢を立て直し、剣を構えた。アキラは再び左手で刀を振る。ディードは片方の剣でそれを押さえアキラの右手を警戒した。しかし、今度はパンチではなく、頭突きがディードの頭に命中した。

 

「ぐぅ………」

 

「いてて……かってぇなぁ…」

 

そう言いながらアキラは構えを直す。ディードは「ふぅっ」とため息をはいた。

 

「………やはり強制的に従わせた方が良さそうですね」

 

「あ?」

 

アキラがディードの言った言葉の意味の理解に苦しんでいると、ディードは突然アキラの懐に飛び込んで来る。ディードは剣を振る、アキラは光剣を刀でいなす。

 

アキラの集中が片手の剣に言った瞬間、ディードはもう片方の剣を捨て、装備の隙間から何かを取り出した。その取り出した物をアキラの胸に押し当てる。アキラは慌てて距離を取ろうとするが、間に合わなかった。ディードが取り出した何かから、ドス黒い色の魔力が飛び出し、アキラを包んで行く。

 

「な…………うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

続く



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第十九話 極地

遅れまして申し訳ございません………。時間掛けたのに全然目標に達っせませんでした…。

色々随時募集中です


ーアキラの精神世界ー

 

 

(何なんだこれ……俺の中に………誰かが…誰かが入ってくる!?)

 

アキラとディードの戦闘中、ディードはアキラの隙をついてボール状の何かを取り出し、アキラに押し当てた。その瞬間、ボール状の何かからドス黒い色の魔力エネルギーが溢れ出してアキラを包んだ。

 

アキラは自分に入ってくる何かに必死に抗ったが、アキラに入り込んできた者は無理やりアキラを押さえつけ、アキラの意識を乗っ取る。

 

 

ー現実世界ー

 

 

今、ディードの前でアキラは意識を失い、仰向けに倒れていた。アキラの胸には、ディードが押し当てたボール状の物がその本体の半分位が融合している。胸の周りは酷い状態で、服は破れ、皮膚にはヒビが入っていた。

 

ディードが持っていたボール状の物…それは作戦前にスカリエッティに渡されていた物だ。

 

 

ー作戦開始前ー

 

 

ディードは作戦会議が終わった後、スカリエッティに呼び出され、スカリエッティの部屋に向かった。

 

「ドクター、お話とはなんでしょう」

 

「ディード。君は今回の作戦でフィフティーンのお目付け役だ。ちょっと手を出すんだ」

 

「はい」

 

スカリエッティはディードの手の上にあのボール状の物を置く。ピンポン球程の大きさの玉に、幾つかの穴が空いており、その穴からはドス黒い色のリンカーコアが覗いていた。ディードはそれに、無意識に恐怖を感じた。

 

「もしフィフティーンが裏切るような行動をとった場合、それをフィフティーンの胸に押し当てるんだ。そしたら彼は一度気を失い、少ししたら目を覚ますだろう。目をさまし、人格が変わっていたら彼に従う様に。いいね?」

 

「わかりました……ですがドクター、これは何でしょうか?」

 

ドクターはそれを聞くと、少し驚いた表情を浮かべる。そして、パソコンを操作し、いくつかのデータをピックアップしてディードの見せた。

 

スカリエッティが出したデータは、古代ベルカのデータである。

 

「それは「ジーンリンカーコア」。かつて古代ベルカで作られたものだ。リンカーコアにも遺伝子は存在しているのを知っているかい?」

 

ディードは首を横に振る。

 

「だろうね。ジーンリンカーコアは、古代ベルカで強さに見込みがある者、かつて強戦士と謳われた老戦士などが死ぬ前に自分の身体に植え付けていたものだ。あの時代は戦が耐えなかったからね、かなり若い者も持っていたそうだ。そして、ジーンリンカーコアは、元々その中身は空で何も入ってない。だが、それを身体に付けた者が死ぬとどうなるか…………ジーンリンカーコアがその死んだ人間のリンカーコアを吸収し、保存するのだよ。そして、保存されたリンカーコアをどうするかと言うと産まれたばかりの子供、訓練を積んだ若い兵士、人口的に造られた戦士、どれかに融合させるとあら不思議、その者がかつての戦士の力を受け継ぐのだよ!まさにリサイクルというやつだ。通常なら自我を失うことはないが、一つ例外がある。それは死ぬ前にジーンリンカーコアにリンカーコアを移すこと。するとリンカーコアがその本人の意識まで持って行くのだ。そして意識入りのジーンリンカーコアを融合させられた人間は、自我を失い、身体を乗っ取られる…………………もうこれでは、まるで寄生虫のようだがね

 

 

というような説明をディードは受けていたが、正直心配だった。

 

本当に橘アキラの意識は乗っとれるのだろうか……そもそもリンカーコアを入れるだけでその戦士の力は入手出来るなどという話が本当にあるのだろうか…。そんなことを考えていると、アキラの身体がピクリと動いた。

 

ディードはツインブレイズを展開し、構える。

 

ゆっくりと起き上がるアキラ。上半身を起こしたかと思うと、手の力だけで上空に跳ね上がった。

 

「!?」

 

そして、勢い良く地面に着地する。するとアキラは自分の胸に融合している物を見た後、ディードを睨みつけた。ディードは息を飲む。明らかにさっきのアキラとは違かった。うまく説明できないが、さっきとは違う…禍々しさがあった。

 

「俺を目覚めさせたのは、お前か?」

 

「そう…だ」

 

するとアキラはディードに飛びかかり、左手でディードの頭を掴む。ディードは焦ってアキラの腕を振り払い、距離を取った。

 

敵に捕まって逃げたというより、掴まれた時に直接腕から叩き込まれた様な恐怖感が全身を駆け巡り、身体が反射的に動いたのだ。ディードは、

手が震えているのを実感していた。

 

「安心しろ。ちょいとお前の仲間の情報を見せてもらうだけだ」

 

それを聞くとディードは恐怖心を振り払い、戦闘体制に入る。

 

「仮にあなたが過去の人物だったとして、なぜ橘アキラの力を知っているのですか?」

 

「俺がこの身体で目覚めた時にこの器の記憶、能力をすべて理解したからな」

 

「あなたは…………誰ですか?」

 

アキラは魔法陣を展開させる。その魔力の色は、黒と赤を混ぜたような、とにかく黒い色だった。すると、アキラの白いトレンチコートは黒く染まり、ナンバーズスーツは赤く染まった。

 

「俺はかつてベルカの国を支配し、またこの力を振るえる日を待ってジーンリンカーコアに魂を宿した男。アーベル・ボクスベルク。ベルカの国で唯一頂点を取った男だ」

 

「アーベル・ボクスベルク………アーベルでよろしいですか?」

 

「そうだな……陛下って呼んでもらおうか」

 

「陛下?」

 

「そうだ…………俺はこの肉体を使って、もう一度世界を…次元を牛耳る。それ程の力を持つ俺に、お前如きに呼び捨てにされてたまるか」

 

「………」

 

 

ー廃高速道路ー

 

 

アキラから何かのデータを預かったギンガは最寄りの隊に向かって走っていた。その途中、背負っていたアルトが目覚める。

 

「ん………」

 

僅かにもらしたアルトの声をギンガは聞き逃さなかった。

 

「あ、アルトさん、目覚めましたか?」

 

「うん……今、どういう状況?」

 

「戦闘機人達を逮捕する為にみんな一対一で戦ってます。アキラ君も裏切ったフリをしてただけで、今は戦闘機人と戦ってます」

 

「そっか……ギンガ、もう大丈夫。降ろして。あとは自分で行くから」

 

そう言ってアルトはギンガから離れようとする。みんなを運ぶのは自分の役目なのに、運ばれてる自分を恥じたのだろう。そして、きっとギンガはみんなと戦いたいと思ってるのだろうと考えたのだ。しかし、ギンガは止まろうとも、アルトを降ろそうともしなかった。

 

「アルトさんのことですから、私が戦いに参加出来てないことを悔やんでるって思ってるんでしょうけど……今私が走ってるのはただアルトさんを管理局に運ぶために走ってる訳じゃありません」

 

「へ?」

 

図星だったアルトは驚き、今ギンガが自分を背負って走ってる理由が自分を運ぶだけでないことに更に驚いた。

 

「これ……アキラ君から預かりました。多分敵に関するデータです。これをどこかの隊を通して機動六課に届けるのが今の私の仕事です………それが終わったらすぐにでも戦いに参加します!戦わなきゃ、何のために鍛えてきたかわかりませんから」

 

「でも、アキラ君は敵側にいたんじゃ……私たちのヘリもアキラ君に落とされたんだし………」

 

「アキラ君は、そんな簡単に悪に屈しません。あれは裏切ったフリだったんです。アルトさんを助けたのはアキラ君何ですよ?」

 

「そうだったんだ………」

 

少しの沈黙の後だった。ギンガ達の後ろから魔力砲が迫ってる事をブリッツギャリバーがいち早く察する。

 

『後方より魔力砲接近!回避してください!』

 

「魔力砲!?」

 

ギンガとアルトが振り向くと、赤と黒の魔力砲がすでに完全回避出来ない距離まで迫っていた。サイズはなのはのディバインバスター並、当然あと僅かな距離で回避出来る訳はない。ギンガは少しでもダメージを減らそうと、魔力を全開で走る速度を上げ、背負ってるアルトの後ろにバリアを貼った。

 

魔力砲はギンガの足元に着弾し、ギンガが予想してたのより大きな爆発を起こす。

 

「きゃああ!」

 

「ぐう………っ!」

 

ギンガとアルトは別々に吹っ飛ばされた。アルトは近くの瓦礫にぶつかり、ギンガは身体のあちこちをぶつけながら転がり、ギンガは瓦礫にぶつかってようやく止まった。

 

「なるほど……なかなか使える銃じゃねぇか」

 

爆煙の中から、二人分の足音がギンガ達に近づく。

 

「…………アキラ君…?」

 

ギンガの前に現れたのは、解放前のディバイダーを持ったアキラ……いや、アーベル、そしてディードだった。

 

そこにいるだけで感じ取れる程の禍々しい魔力を感じ、ギンガはすぐにアキラではないと気付く。吹っ飛ばされて所々打撲した身体をギンガは、無理矢理動かし距離をとる。

 

「違う!…あなたは………誰!?」

 

「……ほう?すぐにこの身体の持ち主ではないと気づいたか…俺は」

 

「アーベル・ボクスベルク。かつて古代ベルカを牛耳った男……ジーンリンカーコアで生き延びてるって話は本当だったのね」

 

どこからともなく足音と声がした。ギンガとアーベルが音がした方を見る。こちらに歩いて来たのは、バリアジャケットを装備したメグだった。

 

「メグ……どうしてここに……」

 

「記憶検索………メグ・ヴァルチ…陸士108部隊陸曹………ギンガ・ナカジマの親友…………検索完了。メグ・ヴァルチ、何用だ。ここにいれば貴様も消すぞ。今すぐ失せろ。少しでも長生きしたかったらな」

 

アーベルはあざ笑うように言う。それを聞くと、メグはため息をついた。

 

「はぁ?あたしはこれからももっと恋愛して、本当の恋人見つけて幸せをな生活送るのよ。こんな所で死ぬ訳ないでしょー」

 

メグはいつものノリで言った。ギンガは念話で話そうとしたが、メグはギンガが念話をしてくる前に口を開く。

 

「ギンガ、今あんたが考えてること言い当ててあげようか」

 

「え?」

 

「あんたは自分がここに残って、あたしにそこのパイロットさんとデータ運んで欲しいって思ってるんでしょう?」

 

ギンガは考えてたことを言い当てられ、唖然とした。

 

「どうして……」

 

「どうして……じゃないわよ。あんたの考えることなんて大体わかるわよ。あんたはアキラから託された物とパイロットさんを運びたいけど、この男との決着もつけたい。そう思ってるんでしょ?けど…一人じゃこいつを押さえられないくらいあんたにもわかんでしょ」

 

「メグ……」

 

「そこのパイロットさん。悪いけどこっから先は自分の足で行って。ここはあたしとギンガで食い止める」

 

「ちょっと待ってよメグ!」

 

勝手に状況の判断をし、行動に移そうとするメグをギンガは止めようとする。だが、ギンガこの時すでに少しわかっていた。この判断は正しいと。しかし、ギンガはやりたいこと……というか勝手に自分が使命に変えてることがあった。

 

「悪いわね。あんたのことだから、アキラがこうなったのは自分の責任だから自分が責任とって戦おうとも思ってるんでしょうけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないのよ」

 

いつもはふわふわしてるというか、適当というか、そんな感じのメグが今日だけは違う。いつものメグからは感じ取れないような、妙な感じが漂っていた。

 

その感じを悟ったアルトは、ギンガからデータを受け取り、走り出す。それを止めようとディードが動こうとしたが、アーベルがそれを止めた。

 

「メグ・ヴァルチ。良い判断だと言いたいが、正解ではない。10点減点」

 

「何ですって?」

 

「どうせ逃がすならギンガ・ナカジマの方が良かっただろう。そうすれば少しでも先へデータを運べただろうに。お前が間違えた点は、俺の力を…」

 

アーベルはそこまで言うと、メグ達の視界から消える。そして、一瞬でギンガの真横に移動した。

 

「俺の力を甘く見たことだ」

 

ギンガがアーベルの存在に気づき、距離を取ろうとしたが遅かった。アーベルに頭を左手で掴まれ、壁に叩きつけられる。この間、10秒かかっていない。ギンガはその一発で意識を失い、アーベルが手を離すと瓦礫に倒れこんだ。メグは驚きを隠せない表情で立ち尽くしている。

 

(今…確かに左手が勝手に動いた…………まだこの器が抗ってるってことか)

 

「ギンガ……………よくも………………アァァァァァァァァァベルゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 

メグは急に表情を険しくし、トンファー状のデバイス、「アカツキ」を出現させた。デバイスを持つ手の握力はどんどん強くなり、構えを取ったかと思うとアーベルに飛びかかる。アーベルはディバイダーを取り出し、メグの一撃を受け止めた。

 

メグは一旦距離をとり、再び飛びかかる。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「感情に流される人間は戦場で長生きは出来ない……………バスター」

 

アーベルはディバイダーの銃口をメグ向け、引き金を引いた。赤と黒の魔力砲が発射される。確実に命中したな…そう思った瞬間、アーベルの真横にメグが現れる。

 

アーベルはその瞬間、反射的にガードを出した。

 

「!?」

 

「はぁぁぁ!」

 

メグの一撃はシールドで防がれたが、貫通した衝撃がアーベルを少し吹っ飛ばす。アーベルは上手く衝撃を受け流しながら止まった。そして、不思議そうにシールドを出した手を見たあと、メグを見る。

 

「………俺のシールドを、貫いた?」

 

「当たり前でしょ?今のにかなりの魔力を込めたんだから………アーベル。あんただけはあたしが倒す」

 

「そういえばお前、俺の正体を知ってたな。………お前まさか」

 

メグはアーベルが真相にたどり着く前にトンファーを構えて突っ込んだ。アーベルはディバイダーでメグの一撃を受け止める。

 

「アカツキ!ロードカートリッジ!」

 

『Set Up』

 

メグの掛け声と共にカートリッジが二つアカツキから飛ばされ、アカツキの打撃部分から稲妻が発生した。メグがその雷属性を付与した攻撃を繰り出す。攻撃が当たる前にアーベルは後ろに飛んでそれを避けた。

 

アーベルはディバイダーを構え、再びバスターを放つ。メグはそれにまっすぐ突っ込んで行く。

 

「スキル、発動」

 

そう呟くと同時に、メグの身体が一瞬青く光り、その場にメグの残像を残し、メグは超高速移動始める。そして、さっきと同じように超高速移動でアーベルの横に表れた。

 

まだアーベルがこの仕掛けに気づく前にアキラの身体からアーベルを引き剥がそうとするが、そう上手くは行かなかった。メグがもう一撃入れようとアカツキで殴りかかったが、紙一重でかわされる。アーベルは魔力を込めた蹴りをメグの横腹に食らわした。

 

「!」

 

「ぐ……………捕まえ…………った!」

 

メグはアーベルの蹴りをあえて食らい、足を掴んで逃げられない様にしている。そして、メグはアカツキの後方が前を向くように持ち方を変えた。アカツキは、トンファーであると同時に、銃の役割も果たすデバイスだった。

 

「アカツキ、モード2!ライフル!」

 

メグはアカツキの銃口をアーベルのジーンリンカーコアに押し付ける。

 

すると、アーベルは急に焦り、メグに掴まれてる足に魔力を込めて連発で蹴りを放った。メグはそれに耐えながら引き金に手をかける。それと同時に魔力カートリッジが三つ飛ばされた。

 

「シェル・キャノン!!!」

 

引き金が引かれると同時に、半径数メートルに渡って爆発が起きた。爆炎が巻き起こり、その中からメグが片足を引きずって出てきた。数歩歩くと跪く。

 

「はぁ………はぁ……………かはっ……」

 

(ジーンリンカーコアの取り外しにはその付近での強力な魔力ダメージが必要………今のはあたしも危なかったけど……これでなんとか…)

 

「なるほど、お前の魔力波長、どこかで感じたことがあると思ったら、そうか……そう言うことか……」

 

爆炎の中から、未だにジーンリンカーコアに支配されてるアキラが出てきた。

 

「そんな……………くっ!モード3!ロッド!」

 

メグは独自にデバイスを改造して作った第三段階目、二つのトンファーの銃口を連結させたロッドモードでメグはアーベルに突っ込んだ。しかし、

その直後だった。

 

「!?」

 

妙な感覚に包まれ、メグは足を止める。メグだけでなく、FWとナンバーズも全員違和感を感じていた。

 

「なんなの………この違和感…………」

 

「来たか………」

 

アーベルがそう呟き、手を上げた。それと同時に、空に次元の裂け目が出現し、裂け目から巨大な次元戦艦が姿を現す。

 

「…………殲滅用次元戦艦………神威……」

 

 

続く

 



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第二十話 希望

遅くなって本当に申し訳ありません。年度末はなんやかんや忙しかった物で………四月からはちゃんと活動して行きます!勢いで新しい艦これの小説も始めました。良かったらそちらもよろしくお願いします。

お気に入り、感想、評価、随時募集中です!



「殲滅用次元戦艦神威………なんであれが動いている!?あれは、あんたの血筋を持った人間が玉座にいなきゃ………動かない筈だ!」

 

「ああ、確かにな。だが、俺はスカリエッティと契約した。スカリエッティの技術があれば、一時的にだが俺の代わりが作れるらしい。俺はあれを別次元からスカリエッティに持って来させる事を条件に俺はあいつに協力する。まぁ、あれとゆりかごが全て消す前に俺が楽しみたいだけだがな」

 

メグは目の前の現実に絶望した。人質を取られ、本気で戦えない状況。それだけなら、まだ知恵を凝らせばアキラを救出した上でアーベルを倒せたかもしれない。

 

だが、最も恐れていた状況。アーベルがかつて世界を牛耳る為に使った兵器、ゆりかごの試作型で、アーベルが自ら改造、改良した「神威」が出てきてしまった。魔力砲口は、小型の「永久追尾砲()」が左右合わせて48門、腹部に24門、主砲の「超電磁圧縮砲()」が正面に1門。十分過ぎる火力。もはや鬼に金棒。

 

「さぁ、どうする?まだ戦うか?メグ」

 

「もう……しょうがないわ」

 

「何がだ?」

 

「刺し違えてでもあんたを殺す!!その肉体ごとね!」

 

メグは決意を固めた表情でロッドモードのアカツキを構えた。

 

「この器を殺すと言うことか?いいのか?あの女にとっては大切な存在なんだろう?」

 

あざ笑うようにアーベルは言う。しかし、メグは決意を変えなかった。

 

「橘アキラの死は、もう仕方が無いわ。あんたに乗っ取られた時点で見捨てるべきだった」

 

「ほう………流石は元俺の騎士団の団長だ」

 

メグがアカツキを構える。アーベルも刀とディバイダーを構えた。

 

少しの静寂、先に動いたのはメグだった。低い姿勢で素早く、まっすぐ突っ込んだ。アーベルはディバイダーで魔力砲を放つ。メグはまたスキルを発動させ、砲撃を残像を残しながら横に避けた。が、そのメグの目の前にまた砲撃が迫っている。再びスキルを発動させて避ける、だが更にもう一発、魔力砲が飛んできた。メグの高速移動のスキルは連続運用は二回までだったため、シールドで防御する。

 

しかし、魔力砲の威力はメグのシールドを簡単に打ち砕いた。メグは吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。メグはすぐに体勢を立て直す。

 

そして、カートリッジを二つ飛ばしてアーベルに殴りかかった。アーベルはそれを紙一重で交わし、メグの鳩尾にバリアジャケットを貫通させるほどのパンチを食らわせた。メグはこの一撃でぐったりとアーベルにもたれかかって気を失う。

 

「くぅ……」

 

「チェーンバインド」

 

アーベルはメグを適当な瓦礫に縛り付けると、メグの胸の前に手をかざした。

 

「摘出」

 

「あぐ……あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

アーベルが手をかざしているとメグの体内から何かが摘出され、アーベルはそれを持ち去る。メグはそのまま放置し、ギンガを掴んでディードと共に何処かへ向かった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「はぁ、はぁ………」

 

スバルはノーヴェとの激しい戦闘の最中、一旦距離を取って体力を回復させていた。まだゆりかごに突入したり、仲間を助けに行く可能性も否めない。そのため、スバルは体力を温存させながら戦っていた。

 

だが、敵を少し侮っていた。一対一の戦いは思ったよりも辛く、下手したら刺し違える可能性もある。早急にケリを付けようとスバルが立ち上がると、自分の真上に影が現れた。

 

「見つけたぜハチマキィ!!!」

 

「くっ!」

 

ノーヴェが上空から蹴りかかって来たのだ。

 

スバルはそれをバックステップで回避し、別のビルの屋上に飛び移った。それと同タイミングでティアナ、キャロ、エリオも同じビルに集まった。四人は背中合わせになりながら念話で作戦会議を始める。

 

「ティア、どうしよう」

 

「結構一対一で戦うと強いわね、どうにか一人一人分断させて全員で叩く?それもさせてくれそうにないけど………」

 

作戦会議をしていると、スバルに向かって魔力砲が飛んできた。それにスバルよりも先にティアナが気づく。

 

「スバル!」

 

「え?」

 

スバルが気づいた頃にはもう魔力砲はスバルの目の前まで迫っていた。ティアナは意を決し、スバルを押し飛ばして身代わりになった。ティアナは魔力砲を直接くらい、吹っ飛ばされる。

 

「ティア!!!」

 

「ティアさん!」

 

スバルはティアナを抱きかかえ、砲撃が飛んできた方向を睨む。魔力砲が飛んできたのはスバル達がいたビルよりも少し大きいビルの屋上だった。そこに立っていた人物は、アーベルに身体を乗っ取られたアキラ。事情を知らないスバル達は、驚愕する。

 

「そんな…っ!」

 

「アキラさん………さっき、殺さないって言ったじゃないですか!私があのまま直撃してたら、死んでたかもしれないんですよ!?」

 

全員の反応が思ったより面白く、アーベルは橘アキラのふりをしてFW達をからかうことにした。アーベルは指でナンバーズに(動くな)と指示をした。

 

「なんで?決まってんだろ。世界を手に入れることが出来る。それは、支配とも取れるが世界中の人間を守ることとも取れる…だが、お前らがそれを邪魔するっていうなら容赦はしない。だがお前達がこれ以上俺の邪魔をするってなんなら…これとおんなじ風にするぜ?」

 

アーベルは横に寝かして置いたギンガの髪を掴んで持ち上げた。ボロボロのギンガを見た瞬間、スバルの目の色が変わる。

 

心の底から怒りが込み上げてくる。そしてその怒りを右拳に込め、スバルは走り出した。

 

「ギン姉を…………離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

 

「スバル!待ちなさい!」

 

ウィングロードがスバルの足元からアーベルがいるビルの屋上まで伸び、その上を戦闘機人モードのスバルがティアナの制止を無視し、リボルバーナックルを構えながら全力疾走する。

 

アーベルの目の前まで来たスバルは全力で右拳をアキラの顔面に放った。しかし、その攻撃は空振りに終わる。

 

「遅い」

 

アーベルは何時の間にかスバルの後ろに回り、スバルは頭を掴まれていた。スバルが気づくよりも早くアーベルはスバルの頭を壁に叩きつける。アーベルはスバルを壁に押し付けたまま左手にディバイダーを出現させた。

 

スバルは壁に右拳を押し当て、リボルバーキャノンをゼロ距離で放つ。押し当てられてた壁は崩壊し、アーベルの手からスバルは脱出する。アーベルはスバルが手から離れたのを察知すると、すぐ目の前に魔力砲を放った。スバルに命中したかを確認しようと歩き出すと、アーベルの手足にバインドがかけられる。キャロの物だ。

 

そして、アーベルがバインドを砕くより先に、瓦礫を吹っ飛ばして脱出したスバルがアーベルの前に立ち、更にアーベルの後ろにはティアナが現れる。それぞれが魔力を貯めた。

 

「ディバイィィィン………バスタァァァァァァァァ!!!!」

 

「クロスファイアァァァァ…シュゥゥゥゥト!!!!」

 

「…」

 

アーベルはディバインバスターにはお得意の魔力砲を放ち相殺させ、クロスファイアーシュートの魔力弾を刀で全て斬り墜とした。ティアナは一瞬にして魔力弾が落とされた事に驚き、次の行動を取るのに少しのロスがあった。アーベルはそのロスの一瞬でティアナの後ろに回り、至近距離で魔力砲を放つ。

 

ティアナは魔力砲に飲まれ、三つほどビルを貫きながら吹っ飛ばされた。

 

「ティア!」

 

「これで…………一人」

 

「………っ!」

 

スバルはこの時、目の前にいる人物は自分の知っている橘アキラではないと何となく察する。無愛想で性格はひん曲がっているが、本当は優しい心の持ち主。しかし、そこにギンガが関わると常識がなくなる。姿は確かに同じなのに、一緒にいて気分が悪くなる。そんな感じがする。

 

アーベルはスバルに向かって歩を進めた。スバルは何だかよくわからない恐怖心に囚われ、身体が硬直していた。

 

「次はお前だ………スバル」

 

(笑ってる………?)

 

アーベルはアキラのふりをしていたが、ついつい笑顔を溢してしまう。スバルは必死に身体を動かそうとするが、一度恐怖に囚われた身体はそう簡単に動かせる物ではなかった。アーベルはディバイダーの銃口をスバルに向け、トリガーに指をかけた刹那、巨大な拳がアーベルを襲う。

 

キャロがヴォルテールを召喚したのだ。しかし、ヴォルテールの拳をアーベルは片手で出したシールド一つで防いでしまう。

 

「ほう、珍しいな。たしかアルザスとか言う土地の大地の守護者とかって言われてる龍だったか」

 

ヴォルテールに何の恐怖も感じず立っているアーベルの後方に高速でエリオが飛んできた。アーベルは振り返らずエリオの槍をディバイダーで受け止める。

 

「教えてやろう。おれの前ではいかなる竜と言えども、俺の前では無力、そして、俺に従う事を!」

 

アーベルはエリオを蹴り飛ばし、ヴォルテールの腕に乗った。そして一気にヴォルテールの顔の前まで飛んだ。ヴォルテールは咆哮で威嚇する。

 

「グオォォォォォォ!!!!」

 

アーベルはそれに動じず左手をヴォルテールにかざす。

 

「………大地の守護者ヴォルテールよ…賢い貴様ならわかるだろう?誰の力が最も強いのか…」

 

「……………」

 

ヴォルテールは止まってしまった。

 

「ヴォルテール!動いて!!」

 

「無駄だ」

 

アーベルはフリードに乗っているキャロに向けて魔力砲を放った。フリードも火炎弾で対抗しようとしたが、威力が足りずに火炎弾は魔力砲に飲み込まれる。キャロとフリードは魔力砲をくらい、撃墜された。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

アーベルの後ろから再びエリオが突っ込んできたが、刀でその一撃は防がれる。

 

「墜ちろ蚊トンボ」

 

アーベルはエリオのデバイス、ストラーダを弾き飛ばし、魔力を込めた刀でエリオを斬った。エリオを切り裂くつもりで刀を振ったが、バリアジャケットが予想以上に硬くエリオはそのまま吹っ飛ばされ、ビルの壁に叩きつけられる。エロオは何とか起き上がろうとしたが、すぐに目の前が真っ暗になって倒れた。

 

スバルはまだ動けなかった。それどころか、身体を押さえつけてる恐怖心がより増大している。アーベルがスバルを見た。それだけでスバルは怯え、手の震えが起きている。

 

「さぁ、お前で最後だ。すぐ仲間のところに送ってやる」

 

「くっ……………………負けない……絶対に負けない!あの日から…強くなるためにトレーニングしてきたんだ!私は、あなたと戦う!」

 

スバルは勇気を振り絞って言った。何とか立ち上がり、手の震えを止めるようにギュッと拳を握りしめる。

 

「自己暗示など無意味だ。例えお前が人間を超えた力を持っていたとしても。どんなに強くなった気でいても、俺に勝てない事実は変わりはしない。ここでお前は俺に倒されて……ゲームセットだ」

 

 

ーアキラの精神世界ー

 

 

「どうだ?自分の身体で仲間を傷つけられてくのは?絶望したか?自分で見ているのに何も出来ない自分が」

 

アーベルは拘束されているアキラの前に立ち、あざ笑った。

 

「ああ、その通りかもな………でもな、俺はまだ諦めてねぇ。俺はさっきから動いてないが、諦めた訳じゃねぇ。希望を託して信じて待っているだけだ」

 

「あ?」

 

「もうすぐにわかるさ」

 

 

ー現実世界ー

 

 

「…………」

 

アーベルは足を止める。スバルは急に止まったアーベルに疑問を持ちながらも、グッと構えたまま動かなかった。その時、アーベルは考えていた、アキラの言葉の意味を。確かにアキラは今動いていない。だが、アーベルが身体を奪った後に一度だけ抵抗している。ギンガを倒す際に、勝手に動かす手が右手から左手に変わった。……アキラの左手の能力。

 

そこから導き出される答え………

 

「まさか………」

 

「?」

 

「まさか………っ!」

 

アーベルは突然、どこから攻撃が来ても良いように防御の構えを取った。その瞬間、誰かがアーベルを蹴り飛ばした。アーベルはギリギリでガードしたが、防ぎきれずに吹っ飛ばされた。

 

アーベルを蹴り飛ばした人物を見て、絶望しかなかったスバルの表情に希望が溢れる。

 

「ギン姉………」

 

「ごめんねスバル。待たせちゃって。でも、もう大丈夫だから」

 

「でも…どうして?」

 

ギンガは笑顔で答えた。

 

「アキラ君がね、チャンスを残してくれたの。私の意識を10分間だけ飛ばして、10分経って目を覚ましたら10分間だけ脳のリミッターが少しだけ解除される。身体の負担を考えての10分らしいわ」

 

「そう…だったんだ」

 

「スバル、悪いんだけど、みんなの救援に行ってあげて?元災害担当突入部隊の実力、見せて?ね?10分以内に終わらせてくるから」

 

「………うんっ!」

 

スバルは、ここまで姉が頼りに思えた日は久しぶりだった。スバルは、昔ギンガが言っていた言葉を思い出した。誰かを傷つけたり傷つけられたりするのを嫌っていた時の自分にギンガは(スバルはあんまり強くならなくてもいいのかな…だって私が守るもん!)と言ってくれた。

 

 

一方吹っ飛ばされたアーベル。

 

「うらぁ!」

 

アーベルは瓦礫から這い出てくる。その周りにはナンバーズ達が集まっていた。

 

「大丈夫ですか?手を貸しましょうか?」

 

ディードの発言にアーベルは苛立ちを見せながら答える。

 

「うるせぇ!いいからテメェ等は黙って見てろ!機械人形共が!!」

 

アーベルはそう言って飛んで行く。アーベルの発言に、ノーヴェは少ししかめ面を浮かべていたことに気づかず。アーベルがギンガを探してビルからビルへと移動していると、右側に気配を感じた。

 

右側を見るとギンガは風に髪をたなびかせながらたたずんでいる。

 

「さっきはよくもやってくれたなぁ、色々返しに来たぜ?」

 

「…………返してもらうわ…………私の、大切な人を!!!!」

 

 

 

続く



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第二十一話 限界

約束を守れず大変申し訳ありません。なのセントでギンガのイベントがGWに始まりますね。頑張っていきましょー!!

お気に入り、評価、感想随時募集中です!



ーギンガの精神世界ー

 

 

「ギンガ………」

 

「んうぅ…」

 

ギンガが起き上がると、そこにはアキラがいた。ギンガは驚く。

 

「アキラ君!」

 

ギンガはアキラを抱きしめようと手を伸ばしたが、その手はアキラの身体をすり抜けた。ギンガの目の前にいるアキラは、アキラがギンガの脳内に残したメッセージなのだ。

 

「こんなことになっちまって申し訳ないと思ってる……。本当に勝手で悪いが………お前の体のリミッターを少し解除した。これで俺の体を乗っ取ってる奴と対等に戦える。俺はいい。だからせめて、メグとFWの奴らを頼む……タイムリミットは…10分だ。10分経つとお前のリミッターが元に戻る……ごめんな…」

 

そう言うと、アキラは消えてしまった。ギンガは、それと同時に目覚める。

 

あたりを見回すと、ボロボロになっている仲間たちと、恐怖で座り込み、動けなくなっている妹に近づくアキラ…いや、アーベル。ギンガはそれを見ると、反射的にスバルを助けるために立ち上がり、アーベルを蹴り飛ばしにいった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ごめんね、アキラ君………アキラ君のくれたこの力は…あなたのために使わせてもらって……いいよね。私はあなたのことが…大好きだから」

 

ギンガはそう呟き、アーベルに突進して行く。

 

「消えやがれぇ!」

 

アーベルはディバイダーで魔力砲を放った。ギンガは少し角度をつけたバリアで魔力砲を逸らしつつ、一気に接近する。アーベルはギリギリまでギンガを引き寄せ、ギンガが拳を伸ばせば当たるギリギリのところに来た瞬間刀でついた。

 

ギンガはそれすらも紙一重でかわす。そして、隙だらけの鳩尾に左拳をめり込ませた。

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!?」

 

アーベルはぶっ飛ばされた。

 

「!?」

 

ギンガが追い打ちをかけようとすると、ギンガの身体をバインドが縛る。アーベルが殴り飛ばされる直前に時間差で発動するように仕掛けた物だ。

 

「ただのバインドじゃねぇぞ?俺が生前に工夫に工夫を凝らして作った…」

 

バキン……。

 

アーベルが説明している途中で、バインドの砕ける音がする。アーベルが驚きギンガに視線を移した。ギンガは涼しい顔をしながらバインドの欠片を投げ捨てた。

 

「今の私、舐めないで…」

 

「フンッ………たかがバインドを砕いたくらいでいい気になるよ?」

 

アーベルは刀を構えてギンガに接近する。ギンガは蹴りを放ったが、アーベルはそれをかわして刀で突いた。ギンガはガードでそれを逸らし、そらしつつも膝蹴りを放つ。アーベルは間一髪で避け、ディバイダーを向けた。

 

ギンガはディバイダーを蹴り上げ、ディバイダーを吹っ飛ばした。

 

アーベルは刀に魔力を込めてギンガに向かって飛ぶ。ギンガは接触するまでの数秒で腕時計を確認した。脳のリミッターが解除されてる時間はあと七分。それを確認すると、リボルバーナックルに魔力を込めてアーベルが向かってくる方向に向けて拳を突き出した。

 

「リボルバーブレイク!!!」

 

「ぐぅ!」

 

その拳はアーベルの振り下ろした刀にちょうど当たる。魔力同士がぶつかり合い、攻撃は相殺され、二人は壁に叩きつけられた。

 

「ちぃ!!」

 

アーベルはすぐ起き上がり、近くに落ちていたディバイダーを拾い上げ、魔力砲を連射する。ギンガは魔力砲を一発ずつ殴り飛ばした。

 

「はぁ…はぁ……」

 

「んなデタラメな………だがまぁ、身体はもう所々ガタが来てんだろ?」

 

アーベルのいう通り、ギンガはまだリミッター解除の時間があるのにも関わらず、体力に限界が近づいていた。アキラが予想していたよりも激しい戦闘になっているからだ。

 

アキラは元々、主に速力上昇や、腕力上昇等の逃亡用に向いている力をギンガ授けていた。そのため、解放されてる力はそこまで戦闘に向いてはいない。

 

(あと六分半……このままじゃ…………)

 

「食らえぇ!!!!!」

 

アーベルは再び魔力砲の連射を始めた。ギンガは持ち前の速力で、ウィングロードを敷き、砲撃の間をすり抜けたながらアーベルに接近する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「こいつはどうだぁ!?」

 

今まで一直線に飛ぶだけの魔力砲だったが、アーベルは急に打ち方を変えた。魔力が銃口の前で収縮され、それが一気に弾け、無数の魔力弾に姿を変え、ギンガに降りかかった。

 

「くっ!」

 

着弾範囲が広いため、ギンガは止むを得ずガードで魔力弾の雨を防ぐが、その後ろにアーベルが回り込んでくる。

 

(しまっ………)

 

「きゃぁぁぁぁ!!!!!」

 

ギンガは蹴られ、一気に壁に叩きつけられた。更に間髪いれず、アーベルが追撃にかかる。ギンガは時計を確認する。あと五分。

 

(もう………こうなったら一か八か………)

 

ギンガは起き上がり、低い姿勢のままアーベルが来るのを待った。アーベルはギンガは主に左手でガードを張る癖を見抜き、右手の刀でフェイントをかけながら左手のディバイダーでギンガを切り裂こうとする。ギンガはディバイダーの刃が振り下ろされるよりも先にガードを張らず、低い姿勢のままアーベルの懐潜り込んで右手に持っていた物をジーンリンカーコアに当てた。

 

「な…………」

 

ギンガが当てたのは、あの日、アキラが落として行った折れた刀。三分の一ほど残った刀身の刃は、アーベルのジーンリンカーコアにしっかりめり込んでいた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

ギンガは突き刺した刀を軸に、ジーンリンカーコアをねじり取ろうとしたが、かなり融合が進んでいた為、なかなか取れない。ギンガは全力全開で刀をねじった。

 

だが、刀の方が耐えきれずに刀はジーンリンカーコアに刃の一部を残して折れてしまう。

 

「そんな………」

 

「ずいぶんと工夫した見たいだが、それで終わりか?」

 

アーベルは銃口をギンガに向けた。たった一度のチャンスだったさっきの時間を逃してしまっては、もうジーンリンカーコアに触れさせてはくれないだろう……ギンガは必死に作戦を練っていたが、もう案が出てこない。唯一出てくる案は…もう僅かしか残ってないこの刀を使い、アーベルが自分を突き刺した時、心中すること……。

 

ギンガは戦闘態勢を解いた。

 

「もうお手上げみたいだな………もう少し楽しみたかったが…もうすぐ神威を支えてる俺の代用が壊れそうなのでね。もう終わらせる……っ!」

 

アーベルは左手に持ったディバイダーをギンガの胸目掛けて突こうとした。しかし、ギンガに刃が刺さる直前、左手が止まる。

 

「…………?なんだ?」

 

「………?」

 

(なにしてるのかしら…………)

 

アーベルが必死に動かそうとしても左手は動かない。それどころか勝手に動き、ディバイダーを投げ捨てた。更に、左手だけが別生物の様に動きながらジーンリンカーコアを掴んだ。

 

「!?」

 

「まさか…………」

 

アーベルは慌てて右手で左手を抑えたが、遅い。左手は無理矢理ジーンリンカーコアを引きちぎろうとした。無理矢理外そうとしたジーンリンカーコアからは、半分アキラの身体に溶けていたコアの外装を戻そうと、大量の魔力が周囲に発せられた。その魔力波動は遠くにいる筈のナンバーズにまでも片手を前にでしてしまう程の物。

 

それだけの威力だ、近くにいるギンガは当然吹っ飛ばされた。ギンガは吹っ飛ばされながらも、反射的に掴んだ鉄骨に捕まり、どうにか吹っ飛ばされ過ぎずに済んだ。

 

「くぅぅ……………アキラ君………」

 

アーベルは必死に身体を抑えたが、アキラの肉体とジーンリンカーコアのシンクロはほとんど解除されてしまっていた。

 

「くそぉぉぉ!!なぜだ!なぜ!!!!!俺は……俺はぁぁぁぁぁ!」

 

ギンガはふとアーベルの後方を見る。そこにはナンバーズが向かってきているのを確認できた。まだアキラからジーンリンカーコアが剥がれるのには時間がかかりる。その間に、ナンバーズがジーンリンカーコアの再融合を行えばもう本物に今度こそチャンスはないだろう。

 

「………ブリッツギャリバー、一回足から外れて」

 

「All right」

 

ブリッツギャリバーはバリアジャケットを残してローラーブーツのみを解除する。一応ローラーブーツの内側には靴は装着されているので、ギンガは自分の足で踏ん張りながら凄まじい波動の中を一歩一歩歩き出した。

 

「ぐぅぅ………………」

 

「ギン………ガ………」

 

「え?」

 

ギンガは耳を疑った。今、確かにアキラの声で自分の名前が呼ばれたのだ。アーベルがアキラの身体を支配していた時はアキラと誰かの声が一緒に話されてる感じだったのに。アーベルをよくみると、必死に視線でギンガになにか訴えてる表情になっていることに気づく。

 

「ギンガ……やれ!!お前の力で、コアを飛ばしてくれ!」

 

「アキラ君!」

 

ギンガの表情は希望に満ちた表情になった。だが、アキラの表情は急に変わり、何かに訴えた。

 

「はっ!いいのか⁉ジーンリンカーコアを無理矢理取り除けば、お前だってただでは済まんぞ!!!」

 

どうやらアキラとアーベルが身体の中で争っている様だ。

 

「構わねぇ………ギンガ!!やれ!!!!!早く!!」

 

ギンガの顔には戸惑いの色が出てしまっていた。

 

「でも!アキラ君が!!」

 

「安心しろよ……こんなんでくたばる俺じゃねぇ…。俺が託した力を…俺のために使ってくれたお前には感謝してる。だから…この事件が、この戦いが終わるまでは!FWも含めて全員俺が守ってやる!!!だから!やれ!俺を信じてくれ!!!!!」

 

ギンガは戸惑いを振り払い、足と左腕に魔力を込めた。

 

「魔力……………全開!!!!!!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!リボルバァァァァァァァ!!!!」

 

一気に魔力を使い、ギンガは魔力波動の中を一気に走り抜け、アキラの目の前まで接近した。そして、下から拳を上に上げる。

 

「ブレイクッッ!!」

 

空中に欠けた刃が突き刺さったままのジーンリンカーコアが飛び、アキラは気を失って仰向けに倒れ、ギンガは一気に魔力を解放させた反動で一時的に身体の力が抜けてアキラの上に倒れてしまった。

 

「はぁ……はぁ………はぁ………アキ………ラ君………?」

 

「………」

 

ギンガはアキラを揺すったが返事はない。もっと揺すろうと起き上がった瞬間、魔力弾が数発ギンガたちの周辺に降り注いだ。ギンガはまだリミッター解除状態にあるので反射的に自分とアキラのいる場所に魔力を集中させて小さいながらも頑丈なガードを張る。

 

「なに!?」

 

「あっれぇ?そんな状態で防げたんスねぇ。ちょっと驚きッス」

 

ギンガは別のビルの屋上を見た。そこには、ウェンディ、オットー、ディード、チンク、ノーヴェが立っている。ギンガは腕時計を見た。あと約一分半。

 

「一人倒すのに18秒………やって見せる!」

 

ギンガは走り出そうとしたが、身体に力が入らずまた倒れてしまった。

 

「嘘…………そんな…こんな所で……」

 

もうナンバーズは魔力のチャージを始めている。もう避けようがない。何とか立ち上がろうとするも、またすぐに倒れてしまう。段々と力がなくなり、起き上がる力も失せ、身体は重くなって行った。

 

腕時計からはタイムリミットを告げるブザーが鳴り響いている。やっとここまで来たのに……そんな悲しい感情がこみ上げ、ギンガは涙を零した。

 

(どうして………なんで……?やっとアキラ君を助けられたのに………どうして…………………助けて……………助けて)

 

「エネルギーマックス♪もう防げないッスよ〜」

 

ウェンディのボードから、圧縮魔力砲が発射され、ギンガは思っていたことを口に出してしまった。

 

「助けてアキラ君!!!!!!!!」

 

刹那、ギンガを吹っ飛ばす筈だったその光は何かに遮られ、ギンガ傷一つ追わなかった。

 

「悪りぃ、遅れた」

 

「…………………………アキラ君…」

 

ギンガの前には、バリアジャケットが元に戻り、いつもの表情をしたリアクト状態のアキラが立っていた。

 

続く

 




次回予告

アキラ「俺だって、こんな風になれたんだ!お前だってきっとできる!」
ギンガ「これが…神威の力…………」
アーベル「まだだ!!まだ終わらん!!!!!この俺が虫ケラ如きにぃ!!

アキラ「ただ守るため、誰かのためのこの力。使い尽くせるんならそれで俺は満足だ」

次回「突入」


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第二十二話 突入

遅れまして申し訳ありません。二話くらいの長さがあります。お気をつけください。

お気に入り、投票、評価、感想、随時募集中です!


「助けてアキラ君!!!!!!!!」

 

『Engage Konig PT React』

 

「ディバイド」

 

刹那、ギンガを吹っ飛ばす筈だったその光は何かに遮られ、ギンガ傷一つ追わなかった。砲撃の音が消えるのと同時にギンガはゆっくり目を開ける。

 

「悪りぃ、遅れた」

 

「…………………………アキラ君…」

 

ギンガの前には、バリアジャケットが元に戻り、いつもの表情をしたリアクト状態のアキラが立っていた。ギンガは動けない身体を無理矢理立たせようとしたが、途中でやはり倒れかける。それをアキラが支えてくれた。

 

「ギンガ…ありがとな。俺の為にこんなになるまで戦ってくれて……。さっきも言ったが、ここからは俺が全員を守ってやる。お前は安心してろ。スバル!ギンガを頼む」

 

アキラが叫ぶと、仲間の介抱をしていたスバルがすぐに駆けつけ、ギンガを抱き抱える。

 

「ギン姉!大丈夫!?それに、アキラ君も……」

 

「うん………」

 

「スバル、俺はもう大丈夫だ。迷惑かけてすまなかったな…………迷惑ついでにもう一ついいか?」

 

スバルはさっきまでアーベルだったアキラに少し警戒しながらも頷く。アキラは懐から、いつか訓練の時にギンガが手に怪我をした際にアキラが塗った塗り薬だった。

 

「これじゃあまり役に立たないと思うがもってけ。………五分以内に全員捕まえとくからそれまでギンガと他の奴頼んだぜ

 

スバルは小さく頷き、薬を手にFWを寝かしてある場所に戻って行った。

 

「ほぅ、ずいぶん余裕だな」

 

アキラが声のした方を見ると、さっきに比べナンバーズがかなり近づいてきている。チンクがスティンガーを構えながら続けた。

 

「この人数相手に勝つつもりか?」

 

「お前こそいいのか?嫌なことを思い出したくなくて強がってるのが丸わかりだぞ?」

 

「っ!!」

 

チンクは急に表情を変え、スティンガーを投げる。アキラはそれを蹴りで全て叩き落とした。

 

「来るなら来い。俺がいる限り、誰一人傷つけさせやしない………」

 

「はっ!上等だぜ!!こないだの分、倍返しさせてもらうぜ!!!」

 

最初に飛び出したのはノーヴェだった。ノーヴェは素早い動きでアキラの周りを高速で動き回り、翻弄を繰り返した後にアキラの背後に回り込んで蹴りを放つ。しかし、アキラはそれを紙一重で避け、鞘のついたままの刀でノーヴェをぶん殴った。

 

ノーヴェはすぐに体勢をなおすことができず、シールドも張れないまま吹っ飛ばされる。

 

「ぐぁっ……」

 

吹っ飛ばされ、まだ空中にいるノーヴェの飛ばされる先にアキラは高速で移動し、追撃の構えを取った。が、その瞬間アキラの前に突然ディードが現れ、アキラに斬りかかる。アキラは鞘から数センチ刀身を抜いてそれを防いだ。そしてそのままディードを押し返し、柄頭でディードと飛ばされてくるノーヴェを一緒に吹っ飛ばす。それと同時に刀を抜いた。

 

アキラの背後に回り込んだチンクとウェンディがスティンガーと魔力弾を放つ。アキラは振り向きざまに刀でそれらを全て弾いた。

 

「んな………」

 

「IS、レイストーム!」

 

オットーがアキラに追撃をかけようとするが、アキラはその攻撃に正面から突っ込み、攻撃を時に紙一重で避け、時に刀を少し当て、攻撃を反らしながら一気に近づく。オットーが移動しなければと本能的に考えるより先に、アキラはオットーの目の前まで迫った。

 

「っ!」

 

「顔は勘弁してやる」

 

小さく呟き、アキラはオットーの鳩尾に肘で強力な一発を食らわす。オットーは気絶し、アキラにぐったりともたれ掛かる。オットーを適当な場所に運ぼうとすると、四方にガジェットが現れアキラを包囲した。

 

「………」

 

ガジェットは触手でアキラに襲いかかる。しかし、アキラは焦ることなく刀をガジェットに向けた。

 

「失せろ………雑魚どもが」

 

刀を構え、触手の動きを見切り、アキラはガジェットに切りかかる。シールドやガードを張らせる暇を与えず、人間とは思えない動きでアキラは、十数機いたガジェットを全滅させた。

 

 

「すごい……………」

 

スバルとギンガは、アキラの戦いっぷりに感心していた。アキラの戦闘力は前から知ってはいたが、今回何が一番すごいかと言うと、ガジェットとナンバーズ五人を相手に、魔法を使わずに相手を圧倒している点だ。魔力砲も、斬撃も、一本の刀と四肢だけを使ってナンバーズを圧倒している。

 

アキラの勝利を祈ってギンガはアキラからもらっていたお守りを握りしめた……その瞬間、スバルがFWをとギンガを運んできた廃ビルの一室の入り口に誰かが来た。敵が来たのかと、唯一動けるスバルが構える。

 

「失礼します」

 

「あなたは………っ!」

 

「ギン姉、知ってるの!?」

 

来たのは敵ではなく、メグの使い魔であるアーシアであった。ギンガは一応姿だけは見ていたので記憶にはあるが、服装が違うことに多少の違和感を覚えていた。

 

「うん…知ってるていうか…見たことがあるっていうか………」

 

「ギンガ様とは一度お会いしてますが自己紹介がまだでしたね。あの時は管理局員の制服を着ていましたが、あれはただの変装です。私はメグ・ヴァルチ様の使い魔です」

 

「使い魔……………」

 

アーシアは自己紹介のみを終えると、FWの前にしゃがみこむ。

 

「この度はメグ様の最期の命を受けここに来ました。メグ様は、「アキラとギンガの為になる最大限の支援をして欲しい」と。私は医療魔法を得意としておりますので、今からこの方達の完全回復を試みさせていたただきます」

 

そう言ってアーシアは治療魔法の準備を始める。

 

「最期って!どういうこと!?まさかメグ……が………死ん…」

 

アーシアは手を止め、少し黙ったままでいたが、口を開いた。

 

「肉体は生きています。傷はありますが、命に関わる心配はありません。ですが、メグ様の魂が抜けている状態です」

 

「それって…どういうこと?」

 

アーシアはその問いに一拍置いてから答える。

 

「…………今までギンガ様のご親友として、陸士108部隊仲間としてアキラ様たちと一緒にいたメグ様の人格は、あの身体のものではありません」

 

「………まさか」

 

「メグ様の人格は、あのアーベルと同じく、ジーンリンカーコアに収納されていた過去の人物です。メグ様の本当の名前は………アーシア・ベーリック。アーベル・ボクスベルクが持っていた兵隊の隊長を務めていた人物です」

 

ギンガもスバルも、驚きを隠せない表情だった。無理はない、今までずっと自分の隣で笑ってた、今までずっと共に戦ってきた仲間が、親友が、本当はずっと昔の時代を生きた人間だったのだ。急には気持ちの整理もできまい。

 

「そんな………メグさんが………」

 

「私が知ってるのはこれだけです。治療を始めさせていただきます。一回で全員を回復させられるかわりに私自身は魔力が回復するまで、小さな無機物に変わります…もしギンガ様がご迷惑でなければ、私を持っていてもらえますか?」

 

「それは全然構わないけど…最後に一つ聞かせて?」

 

「何でしょう」

 

「メグは…私たちの知ってるメグは帰って来るの?」

 

「アーベルに奪われてしまった、ジーンリンカーコアを取り戻せれば………」

 

その言葉を最後にアーシアは魔法陣から溢れ出す光に包まれその光と共に動けないFWとギンガの身体を包んだ。魔法陣から光が途切れるとアーシアの立っていた場所に小さな緑色の宝石のようなものだけが残っていた。

 

ギンガが身体に異変はないと思った刹那、言葉に表せない程の痛みが全身を襲う。ギンガだけでない全員だ。

 

「うぐぅあっ!!!!ぐっ…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

ギンガは必死に痛みを堪え、アキラのくれたお守りを握りしめていた。ぎゅうっと瞑った瞳を僅かに開け、戦ってるアキラを見る。これ以上心配かける訳にはいかないと、ギンガは必死で声を押し殺す。そして、必死にアキラの勝利を願った。

 

 

 

 

一方のアキラはオットーに加え、ウェンディも確保し、残るディード、ノーヴェ、チンクを相手に戦っている。

 

アキラは、治療が始まった際のギンガの叫び声に、一瞬気を取られる。ディードはその一瞬の隙に一気に接近した。

 

「っ!!」

 

アキラはディードのツインブレイズを避け、刀でツインブレイズを弾き飛ばす。ディードはその事態にどうするのが最良か、判断を遅らしてしまう。

 

アキラは一瞬で刀を持ち替え、右手で拳を作った。

 

「歯ぁ食いしばれ!!!!!」

 

ガラ空きになっているディードの鳩尾に右拳で力の限り殴り飛ばす。ディードは吹っ飛ばされ、廃ビルに思いっきり突っ込み、気を失った。アキラは「ふぅっ」と大きく息をつく。しかし、休む暇などなく、アキラの足元にスティンガーが飛ばされてくる。

 

アキラは爆発する前にバックステップで回避したが、その回避した先にノーヴェが襲いかかって来た。

 

「おぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「しつけぇ!」

 

アキラはノーヴェの攻撃を受け流し、空中でノーヴェを投げ飛ばす。

 

「ぐぁ!」

 

「はぁはぁ……」

 

ノーヴェはすぐに起き上がり、戦闘態勢を取る。アキラも刀を構え直した。最初は圧倒していたアキラも流石に四人相手は辛かった。その上、魔力はアーベルが身体を乗っ取っている時にかなり使われてしまっている。

 

「何だよ、もう限界か?」

 

「フンっ………」

 

二人のしばらく睨み合いが続いた。一分も経つとアキラはノーヴェに違和感を覚える。

 

なぜ動かないのか…。その理由は、アキラが自分の後方の空気の変化で気づいた。ノーヴェはオトリ、チンクがスティンガーを構えてアキラの背後に接近していたのだ。

 

アキラはそれに気づくと、すぐに振り返る。チンクは気づかれると、スティンガーを投げた。アキラはそれを避けながらチンクに突っ込む。後ろからノーヴェが魔力弾を連射してきたが、アキラは直感的に被弾箇所を予測し、数発当たりながらも進み続ける。

 

「くっ!」

 

チンクは慌ててバックステップで距離をとったが、後ろを見る暇がなかった。チンクが跳ねた先に、もう足場はなかった。

 

「っ!!」

 

「なっ………」

 

「チンク姉!!!!!」

 

チンクはビルの屋上から落ちる。さらに不幸なことに、落下先の道路はアーベルが暴れ回ったせいで道路が抜け、瓦礫が剣山のように地下通路でチンクを待ち構えていた。

 

「っっっっっっ!!!」

 

ノーヴェはすぐに助けようと走り出そうとしたが、それよりも早くアキラが何も持たず、ビルから飛び降りる。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

壁を蹴り、落下速度を上げるが、まだ腕は掴めそうにない。その時、アキラの背中を誰かが押した。アキラは一瞬振り返る、アキラの背中を押したのは白い甲冑の男だった。

 

「あいつ……」

 

いまはそんなことを気にしていられず、アキラはすぐに視線を戻す。アキラは全力で腕を伸ばし、チンクの腕を掴み、刀を壁に突き刺してブレーキをかけた。アキラとチンクの二人分の体重がかかった右手と、チンクの体重がかかった左手がもげそうな激痛に襲われるがそれでもアキラは手を離さなかい。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「…………なぜ、助けた」

 

「俺は……もう誰も殺さない。…そして、誰であろうと俺の前で誰も死なせねぇ……あぁ…腕イテェ」

 

「今この場でスティンガーをお前に投げれば簡単に殺せるんだぞ!」

 

「そうしたきゃ…そうすりゃいい。ただ、俺としてはこのまま捕まってくれた方が助かるがな………それに、そんなことして見ろ、この高さだとまだ死ねるぞ」

 

「私みたいに罪を重ねてきた人間には似合う最期だと思うがな…」

 

チンクがそう言った瞬間、アキラはチンクを掴む手により一層力を込めた。痛みが伴い、チンクは一瞬顔を歪める。

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ…お前から見えなくても、お前らの事を大切に思うやつだってたくさんいる。犯罪者でも、お前も誰かの日常の大切な一部な筈だ。世界は、そうやって繋がってるんだ…………どんな命にだって価値はある。誰だってちょっとくらい幸せを手に入れる権利はある!俺だってこんな風になれたんだ!お前だって出来る!」

 

「………だが…」

 

「罪滅ぼしに死ぬってんなら俺が命はってでも止める。生きろ。生きて罪を償え。死んで罪を償おうなんざそんなこたぁただの逃げだ。無責任にも程がある」

 

アキラはチンクを道路の上に投げ、自分も這い上がる。ちょうどそこにノーヴェが降りてきた。ノーヴェは心配そうな顔をしてチンクに寄り添うと、アキラに一言言った。

 

「礼は言わねーからな」

 

「礼なんざ結構だが…どうするんだ?まだ続けるのか?」

 

「……………」

 

チンクとノーヴェの二人は周りを見渡す。四方には復活したFWとギンガが包囲している。こちらの戦力二人に対して、全快の敵が五人、たった一人で自分たちを圧倒した敵が一人。

 

どう考えたって勝てる状態じゃない。チンクは代表してアキラの前に立ち、降参の意を見せた。

 

「私たちの負けだ。橘アキラ」

 

「午後二時二十三分、世界規模テロリズムの幇助、及び現行犯で確保する」

 

アキラはチンクとノーヴェにバインドをかけ、他の三人をおいて置いた場所まで運んだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「もうすぐ、アルトさんとヴァイスさんがヘリで到着するって」

 

「そうか…無事データは届いたみたいだな」

 

アキラ達は一箇所に固まり、ヘリが届くのを待っていた。チンク達は案外大人しくしている。それでもいつ逃げ出すかわからないので、全員で囲んで見張っていた。ギンガは一応メグの身体を運び、自分の横に寝かしておいた。

 

死んではいない。寝ているだけではあるが、目が覚める気配もなかった。しばらくすると、ギンガが気になっていた事を聞く。

 

「そういえばあのアキラ君が渡してくれたデータって何が入ってたの?」

 

「俺がスカリエッティのアジトから盗んだゆりかごのデータ。内部の見取り図とか、兵器の威力とか…役立ってればいいんだけどな」

 

他愛のない会話をしていると、チンクが口を開く。

 

「橘アキラ……」

 

「あ?」

 

「この後、私達はどうなる?やはり、その……死刑とかになるのだろうか…もしそうなら、私はいいから、妹達はせめて死刑何かにならないように…」

 

チンクがしゃべっていると、それをギンガが止めた。

 

「大丈夫、少なくともそう簡単に死刑にはならないわ。正しい教育を受けていなかった事を認めれば、更生施設に送られてそこでしばらく世の中の勉強して、しっかり社会に役立つ人間になれれば普通の人と同じ生活ができるわ」

 

「本当か?」

 

「もちろん」

 

あんなひどい事をした相手なのに、優しく微笑んでくれるギンガに、チンクは心底感動する。礼を言おうとチンクはギンガの名を呼ぼうとするが、

つい癖が出てしまう。

 

「タイプゼr」

 

チンクがその名を口にした瞬間、アキラはチンクに思いっきりゲンコツを食らわせた。チンクは痛みに耐えながら、やや涙目でアキラに訴える。

 

「なにするんだいきなり!!」

 

「ギンガはギンガだ!タイプゼロなんて名前じゃねぇ!!」

 

「ア、アキラ君!」

 

互いの怒りを持ちながら、しばらく二人は睨み合いを続けていた。しかしその直後、事態は一変した。

 

アキラの背後からおぞましいほどの重い魔力が発生したのがわかったからだ。アキラは素早く振り向いて刀を構える。だが、そこには何もいない。一瞬アキラは自分の思い違いかと思ったが、アキラ以外の者も全員この魔力を感じていた。

 

警戒しながら構えていると、また魔力を感じた。まるで、心臓のようなテンポで魔力は一回ごとに間を開けて伝わって来る。

 

「何なの…これ」

 

「わかんねぇが今は警戒態勢を解くな。いつどこからなにが来るかわかんねぇからな」

 

アキラがそう言った刹那、ビルの下から何か飛び出す。

 

「!?」

 

「あれは…ジーンリンカーコア⁉」

 

ビルの下から飛び出したジーンリンカーコアはギンガが付けた傷から魔力を放出し、禍々しい魔力を帯びていた。そして、そのジーンリンカーコアは宙を漂いながらアキラ達の脳に直接話しかけた。

 

「まだだ…………まだ終われん………」

 

「たくっしつけぇ野郎だ」

 

「まだ、我が悲願を達成されていない………こんなところでは、終われんのだ!!!!」

 

ジーンリンカーコアはメグの身体に向かって急加速し、メグの手のひらの部分に融合した。

 

「しまった!」

 

「メグ!」

 

アーベルはメグの身体を乗っ取り、立ち上がる。しかし、まだ乗っ取ったばかりの身体を動かすのは困難だったのか、アーベルは足元をフラつかせる。

 

「くっ……まだ安定しないかっ!」

 

「メグの身体を………っ!」

 

「返しやがれ!!!」

 

すぐさまアキラとギンガが、まだ身体に溶け込んでいないジーンリンカーコアを取ろうと突っ込んだが、アーベルは片手を二人の前にかざし、強力な魔力波を放った。

 

「ぐお!」

 

「うぅ!」

 

「この身体、今しばらく借りるぞ………」

 

アーベルがそう言うと、アーベルの真上に戦艦神威がゆっくりと移動して来る。そして戦艦腹部から光が照射されると、アーベルは光に包まれ、戦艦の中に吸収されて行った。

 

「メグゥ!!!」

 

ギンガが叫ぶが、その声は空に響いただけで何もなさない。その後、アキラがポツリと呟いた。

 

「……………マズイな」

 

「え?」

 

「指揮官がいない間は、ただの鉄の塊だったが、指揮官であるアーベルが戦艦に戻ったってことは…」

 

「攻撃が…」

 

全員がそのことに気づいた時、戦艦神威の「永久追尾砲」の発射口、計72門が光り始めた。全員が回避しようとするが、捕らえたままの動けないナンバーズがいることを思い出す。

 

動こうにも動けない状況の中、アキラが全員の前に立つ。

 

「俺がリアクトして、ディバイドで全部あの魔力砲を分断する。お前ら下がっとけ」

 

「そんな、無茶だよ!」

 

「いいから下がっとけ、避けるに避けきれねぇ…」

 

アキラの言葉が終わる前に、神威から魔力砲72発がアキラ達目掛けて放たれた。

 

「ちっ!とにかく、そっから動くんじゃねぇぞ!リアクト、オン!!!」

 

左手に刻まれたECの刻印が全身に広がり、両手に鎧が装着される。そして、大剣銃に変わったディバイダーをアキラは自分の前に出し、魔力分断「ディバイド」を発動させる。

 

「来るなら来い!」

 

アキラの身体よりも大きな魔力弾がアキラにぶつかる直前、ディバイドによってかき消された。反動もない、これなら行けるとアキラは確信し、残る71発を受ける姿勢に入った。

 

残る71発は、雨の様に降り注ぎ、それらはすべて魔力分解され、消滅して行く。一発消すごとに、アキラの体力は少しずつ奪われて行ったが、アドレナリンがその感覚を鈍らせた。ギンガ達は、一人頑張るアキラの無事を願うことしか出来なかった。

 

数秒後、攻撃は止んだと同時にアキラはディバイダーを杖にしてしゃがみこむ。

 

「はぁ、はぁ、……どうだ…この野郎………」

 

「アキラ君!」

 

FW達がアキラの元に駆けつける。

 

「心配ねぇよ……ちょっと魔力使いすぎただけだ…それから、まだ油断するな………」

 

アキラは神威を睨んだ。全員も神威を見たが、素人の目から見ても、強力な主砲のエネルギーのチャージが始まってるのが目に見えた。もうアキラには頼れない。

 

どうすればいいかわからないこの状態の中、誰かが脳内に話しかけてきた。

 

『みんな、諦めないで!』

 

「え?」

 

「この声…………メグ?」

 

声の主に気づいた瞬間、アキラはバリアジャケットの上着のポケットを漁る。ポケットに入っていたのは、ジーンリンカーコアだ。それが僅かに光を放っている。

 

『これを打たせちゃだめ!あれが発射されたら、この廃市街地どころか、ミッドまで焼け野原よ!チャージまでにはあと30分あるそのうちにアーベルを………」

 

メグの念話はそこで途切れたと同時にジーンリンカーコアの光も消える。

 

「……………あいつ…」

 

アキラがジーンリンカーコアを強く握りしめ、決意を固めた顔で顔を上げた。その時、ヘリの音が鳴り響いて来る。アルトとヴァイスが乗ったヘリが到着したのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「これからなのはさん達を助けに!?」

 

FW部隊に与えられた任務、それはなのは達の救出だった。もちろん、行きたいのは山々だが、今はそれよりも危険な物が目の前にある。人々を守る管理局員としてこれは見逃せない。

 

だが、ゆりかごも危険ではある。今やコントロールを失ったゆりかごだが、中から出られないというのであれば助けにいかなければならない。30分後には吹き飛ぶであろうミッドに住む人間達の命、ゆりかごにいる数人の命。天秤にかけるまでもなく、価値はわかっていた。全員が二律背反で動けなくなっているところにアキラが声をかけた。

 

「行って来い」

 

「え?」

 

「行って、今までの恩返して来い。こっちは俺たちがやる」

 

「うん」

 

ギンガも頷く。

 

「そんな、二人だけなんて危険です!」

 

「安心しろ、ギンガは俺が必ず守る。アーベルの野郎ぶっ飛ばして、あれを止めてやる………」

 

「でも、アキラ君が危険だよ!」

 

「………ただ守るため、誰かのためのこの力。だれかの使い尽くせるんならそれで俺は満足だ」

 

アキラはスバルの前に立ち、方をポンポンと叩く。

 

「とっとと行ってすぐ戻って来い。俺が初めてお前を見たときのお前らは、初心者そのものだったが、瑞分立派になった。お前らが強くなったとこ、隊長に見せて、すぐ戻って来い。んで、俺が心配なら俺らを助けてくれよ」

 

「アキラ君…………………わかった!絶対戻ってくるから!待ってて!みんな、行こう!」

 

スバルはヘリに乗り込む。他のFWもそれに連れられ、ヘリに乗り込んで行く。アキラとギンガはアキラが乗ってきたバイクに乗り、ウィングロードで突入の準備を整えた。

 

「ラストミッション、スタートっ!」

 

 

 

続く

 

 

 

 



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第二十三話 理由

お待たせしました。次回は月末です。

感想、評価、お気に入り、随時募集中です!



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 

アキラとギンガは互いにバイクの上から魔力攻撃で神威の表面に穴を開け、侵入をしようとしていたが、全力全開で技を放っても神威の表面にはかすり傷一つついていなかった。魔力が無効化されている訳でもない。それなのに傷が全くついていないのだ。

 

アキラとギンガは一旦近くのビルに着地する。

 

「ここまできて………………なんて硬さだ」

 

「どうしよう、30分後にはあの主砲が……」

 

「くそっ!どうしたらいい!あの壁を破るには…………」

 

アキラはメグのジーンリンカーコアを強く握る。その時、アキラは何かに気づく。アキラは慌ててディバイダーを出して、リアクトした。ディバイダーは大剣に姿を変える。

 

「アキラ君、どうしたの?」

 

「俺のリアクト状態のディバイダーにはリボルバーのシリンダー(回転式弾倉)みたいのがついてんだが、でかいクセして弾丸を装填する穴の深さは全然なくて、ピンポン球いれるのがやっとのたこ焼き機みたいなものでな。一体なんなんだと思ってたんだが多分この穴は…ジーンリンカーコアをいれてそっから魔力供給を得る為のもんだ。まぁ、推論だがな」

 

「へぇ…」

 

アキラは自分の推論を信じて弾倉にジーンリンカーコアをセットした。すると、ディバイダーの各部に入っている溝が光だし、魔力のフォトンを放ち始めた。ディバイダーからメグの魔力が大量に伝わって来るのをアキラは感じる。残された時間は僅か。全てを救う為の戦いへ望む心構えをもう一度正した。

 

「よし、いける……。メグ、ちょっとだけ力貸してくれよな。ギンガ!次に賭ける!一気に行くぞ!」

 

「うん!」

 

アキラは再びバイクにエンジンをかけ、フルスロットルでウィングロードの上を爆走した。そして、さっきから何度も攻撃を当てている場所に正面から突っ込んで行く。

 

「リボルバァァァァァァァァ………」

 

「フロスト…………………」

 

「「バスタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」」

 

ギンガとアキラは技を放つタイミングを合わせ、神威の表面に魔力を可能な限り一箇所に集中させ、外壁の破壊を試みた。魔力が途切れた時、確かに外壁にヒビが入ってるのを確認したアキラはそのままバイクを走らせる。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

アキラは自身とギンガ、それとバイクに魔力の膜をまとわりつかせ衝突の衝撃に備える。アキラ達は壁に衝突した瞬間、神威の壁を破り、中に侵入することに成功した。

 

しかし、突入の衝撃に耐えきれず二人はバイクから放り出され、バイクはもうもうと煙を上げている。

 

「いてて…ギンガ、大丈夫か?」

 

「うん、なんとか」

 

二人はほぼ無傷で立ち上がると、バイクの状態を見て軽いため息をつく。アキラはリアクトを解除し、刀を抜いた。

 

「しょうがねぇさそれにもうここは敵の手の中だ……贅沢はっ………………」

 

アキラは歩き出そうとすると、急にフラついてしゃがみ込んだ。倒れかけたところで刀を杖代わりに立ち上がる。アーベルが使った魔力が多すぎた為、アキラも既に限界が近かった。

 

ギンガは何も言わず、アキラに肩を貸す。

 

「かたじけねぇな…」

 

「いいよ…二人で頑張ろう?さっきも、私の方に多く魔力の膜を張ってくれたんでしょ?ごめんなさい」

 

「謝るな。俺がやりたくてやってるだけだ………………。しかし…」

 

アキラは神威の内部を見渡す。神威の内部構造はゆりかごとは全く違い、まるで城の中にいる様だった。壁は白石の様な材質、廊下には赤いカーペットまで敷かれている。

 

これではまるで、戦闘用とは呼べない様な構造もあった。食堂や風呂場、寝室、ダンスホールの様な場所もあった。しかし、そこに人の気配は一ミリもない。一体何のためにこんな物があるのか、疑問に思いながらも二人は歩を進めた。

 

しばらく歩いていると、誰かが倒れているのが見えた。メグだ。

 

「メグ!」

 

「待て!」

 

ギンガがすぐに駆け寄ろうとするがアキラはそれを制止する。まだアーベルがいるかもしれないからだ。アキラはゆっくりと近づいて行く。

 

『ご安心下さい。その方は既に抜け殻ですから』

 

「!」

 

突如二人の前にモニターが現れ、そこにウーノが映し出される。

 

「テメェは……………」

 

『アーベルならこの先です。この扉の先……』

 

それだけ言うと、ウーノは消えてしまった。他にも何か言いたそうな顔だったが、アキラにはそれに気づく余裕はなかった。

 

その後、メグを少し離れた所に寝かせ、二人は再び扉の前に立つ。いよいよ最終決戦だ。二人はそれぞれの武器を構え、一気に突入した。中は暗く、二人は扉を破ったあと、すぐ背中合わせになってどこからの攻撃にでも対応出来るように構える。

 

「よく来たな……橘アキラ、ギンガ・ナカジマ」

 

しゃべりからしてアーベルが話しているのはわかったが、聞こえてきたのは少女の声であった。

 

「アーベルか」

 

「ああ、俺だ歓迎するぞ……」

 

部屋の明かりが灯され、周りがよく見えるようになる。声のした方を向いた時、アキラは目を疑った。現れたのは、ルーテシアだった。

 

「驚いたか?この身体は、レリックを身体に大量に使用することで一時的にDNAを俺と同じにさせたのさ。ついさっきまで玉座に俺の代わりに座らせていたから、ちょうどいい。アーシアの身体はどうも馴染まなかったからな………身体への負担が大きいから、そう長くは持たないがな。しかし、記憶を探ってみると面白いな。前にこの娘は、お前に助けられているな。橘アキラ」

 

「なに?」

 

アキラにはそんな記憶はなかったが当然だ。アキラがかつて森の中で助けた少女がルーテシアでアキラはそれに気づいていなかったからだ。アーベルはその反応に対し、「まぁいい」と言うと、自身の魔力を使って魔力弾を数十個生成する。

 

アキラとギンガは構える。

 

「これで全てを終わらし、我が悲願を達成させる!」

 

アーベルはそう叫んだと同時に魔力弾を一斉に放った。二人は肩を並べ、合体魔法のシールドを張って魔法弾を防いだ。

 

「よりにもよってガキに融合しやがって…これじゃあ攻撃できねぇ…」

 

「うまく隙を見てジーンリンカーコアだけ取るしかないね………」

 

「………………ギンガ、悪いが下がっててくれ。ここは……俺がやる」

 

「いつまでそんなものに隠れている!」

 

魔力弾がガードの目の前で急に軌道を変え、アキラ達の真後ろに回り込む。アキラは急いでギンガの後ろに立ち、シールドを張るのが間に合わないと悟ると魔力弾を背中で受けた。

 

「アキラ君!」

 

「バカ野郎!魔力を集中させろ!」

 

アキラが叫んだが遅かった。一瞬集中を切らせたギンガのシールドは、アーベルの魔力弾で簡単に砕かれる。アーベル自身の魔力が桁外れなのだ。

 

魔力弾は止まらない。アキラはギンガを自らのバリアジャケットのコートの内側に包み込む様に隠し、抱きかかえて衝撃に備えた。アキラは全身に魔力弾をもろに食らう。

 

「ほう?ずいぶん必死に守るじゃないか」

 

アーベルがあざ笑うように言うと、アキラはギンガを離しながら立ち上がる。

 

「アキラ君……」

 

「ギンガ、さっきも言ったが下がっててくれ」

 

「そんな……大丈夫よ!今度は上手くやる!だから…」

 

ギンガは、自分が役立たずだからこんなことを言われたのかと思ったが違った。アキラにとってもこれは、苦渋の決断だったのだ。

 

「そういうことで言ってんじゃねぇ………俺は、あんたに「殺人」の十字架を背負わせたくねぇだけだ。わかってくれ」

 

「アキ…………ラ君……まさか…」

 

「もしジーンリンカーコアだけを取れなかったら、俺は、あの子を……殺す」

 

ギンガは目を丸くした。そして、この場で何も言えずにいる自分に怒りを持った。だが、ギンガももう決意はしてあった。対象は突入前まではメグだったが、それがルーテシアに変わっただけ。

 

ギンガは立ち上がり、アキラの横に立つ。

 

「おい……」

 

「そんな簡単に諦めるなんてアキラ君らしくないよ。考えよう?あの子を助ける方法……もしダメだったら……………私も一緒に罪を被るから」

 

「…………ギンガ……ダメだ…あんたは下がってろ」

 

アキラが再びギンガを下がらせようとした時、アーベルが魔力砲を放った。アキラとギンガはそれに反射的に気づき、魔力砲を避ける。アキラは一回舌打ちをし、刀を構えて体勢を整えた。

 

そしてルーテシアに斬りかかる。

 

「オォォォォォォ!!!!」

 

アーベルはルーテシアの召喚魔法を応用させ、何処かにあるアーベルがかつて使っていた剣を召喚させた。アーベルはアキラの剣を受け止める。魔力同士が衝突し、周囲に強力な魔力波動が発生した。

 

衝突した後すぐに二人は距離を取る。アキラは素早く動いてアーベルのジーンリンカーコアを取ろうとするが、アーベルはルーテシアの小柄な身体を利用して軽快にアキラの攻撃を避け、一定の距離を保ち続けた。アキラの体力を奪う作戦だろうか。

 

「クソが…ちょこまかちょこまかと…………」

 

「フンッ…消えろ」

 

アーベルは剣に大量に魔力を注ぎ、剣を振った。アーベルの剣からは刃の形の魔力が飛ばされた方向はアキラではない。ギンガだ。アキラは急いでギンガの前に立ち攻撃を防いだ。

 

「ぐう…キサマ……っ!」

 

「アキラ君大丈夫?」

 

先ほどの攻撃を放った後、アーベルは急に手を止める。

 

「……?」

 

「橘アキラ、お前がギンガ・ナカジマを守るように、俺も何にも変えられない悲願があるのだ!!これ以上邪魔をするなら…俺は容赦はしない」

 

「…………アーベル、お前の悲願だかなんだかってのは一体なんなんだ?」

 

「俺の悲願は…妻であったレイナに………死んでしまったレイナにもう一度会うこと……生き返らなくても良い。せめてもう一度だけ声を聴きたいのだ……………俺は生前、死人を生き返らせる方法を考えた。もう一度、レイナに会うために………そして、可能性は僅かだが見つけたのだ…………死人に会える方法を……だから、もう一度レイナに会うまでは…俺は止まれないんだ!」

 

「馬k」

 

「バカ!!!!!」

 

アキラが叫ぶよりも先にギンガが叫んだ。そのことに、アキラもアーベルも驚いた。

 

「私も、大切な人を失った…その悲しみは分かる……でも、こんなことして良い訳がない!!!そのレイナさんだってきっと望んでない!」

 

「知った口を聞くな!小娘が!!」

 

アーベルは怒り狂った様に魔力を振りまく。そして、魔力砲をそこら中に展開した魔法陣から一気にギンガ目掛けて放った。アキラはギンガを抱え、数発は避ける。しかし、すぐに避けきれなくなった。

 

アキラは途中で立ち止まり、刀で砲撃をはじき返す。しばらくはそれで時間を稼いだが、一瞬の隙を見て砲撃の間から抜け出した。

 

「はぁ、はぁ…………」

 

「…………ギンガ、下がってろ」

 

「ナンバーズとの戦いで既にアキラ君から感じられる魔力も僅かだし…一緒に戦うよ。大丈夫、足手纏いにはならないよ」

 

アキラは再び説得を試みたが、一回ため息をついたかと思うと刀を一旦鞘に収め、ディバイダーを出した。

 

「アンタ…こういうトコ本当に頑固だよな……なんかよく覚えてねぇけど懐かしい感じだ」

 

「………そう?」

 

アキラが言ったのは恐らく封じられてるクイントの記憶が少し、ほんの僅かだが残っているせいだろう。

 

「ぜってぇあんたは俺が守る。ジーンリンカーコアを頼むぜ。リアクトオン!」

 

ア殺す覚悟を、命懸けで守る覚悟に変えたアキラはリアクト状態になり、ディバイダーを構える。ギンガもリボルバーナックルを構えた。アーベルは部屋の中に大量の魔力弾を展開する。

 

最後の決戦だ。

 

「ギンガ、俺のリアクトはもうすぐ解ける。大体五分くらいだ。それで決める」

 

「わかった…」

 

二人は互いに頷きあうと一気にアーベルに突っ込んだ。アーベルが手をあげると魔力弾が一斉にアキラ達を襲う。アキラとギンガは華麗なステップで警戒にかわして行く。そして一気にアーベルに接近した。

 

アーベルは自らの剣を振って魔力圧を飛ばす。二人はアーベルの攻撃をたまにくらいながらも前に進み続ける。アキラが先に先行し、アーベルに切りかかった。アーベルはそれを受け止めるのではなく、魔力を多めに込めた剣ではじき返した。

 

アキラは吹っ飛ばされたが、間髪いれずにギンガが殴りかかった。アーベルは反応しきれず、薄いシールドを張ることしか出来ず、ギンガに殴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。ギンガは追撃しようとするが、アーベルはすぐに体勢を直し、魔力弾を連射した。ギンガはシールドを張ろうとするが、その必要はなかった。ギンガの前にアキラが飛び出し、魔力弾を全て分断する。

 

二人は再び接近を試みる。アーベルは着弾時爆発型の魔力弾をアキラ達の足元に打ち込んだ。アーベルの目論見通りアキラの魔力では分断されず、

爆発が起きる。アーベルは爆煙で何も見えない場所に魔力砲を打ちまくった。

 

しかし、当然二人はやられていなかった。爆煙の中からアーベルの左右に二人は飛び出してくる。だがそれもアーベルの計算内。アーベルは360度に魔力波を放ち、二人を吹っ飛ばし、アキラに斬りかかった。アキラはアーベルの剣をぎりぎりで受け止める。だが無駄だった。アーベルは剣の幅と同じ量の魔力を大量にアキラに向けて放つ。

 

アキラはそのままさらに吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。それでもアキラは倒れなかった。何度吹っ飛ばされてもアキラはディバイダーを持って立ち上がる。アーベルはそんなアキラに少し苛立ちを感じ始めていた。

 

アキラは体力の限界を感じつつも立ち上がる。ふと腕を見るとリアクト時に付く腕の鎧が少しずつかけ始めていた。

 

(リアクト限界………いや、俺の魔力そのものが限界か………体力も…)

 

アキラは瓦礫を退かし、立ち上がろうとした時、一瞬倒れかけた。

 

(やべっ………視界が霞んできやがった…………これ以上戦うのは危険か…)

 

「でもな…まだだ………まだ持ってくれ…………これが最期になる覚悟はとっくに出来てんだ……だから」

 

アキラはディバイダーを振り上げて飛びかかる。ギンガもリボルバーナックルで殴りかかった。アーベルは舌打ちをしてから両腕に魔力を込めた。

 

「いい加減…消し飛べ」

 

「ぐぅ……っ!」

 

アキラは巨大な魔力砲を撃たれ、ギンガは魔力の触手に捕まった、アキラは持てる魔力を全て使ってシールドを張り、必死に魔力砲を防ぐ。しかし、魔力も力も足りず、一気に壁まで下がらされた。

 

アキラが防いでいる間、当然魔力は削られ、意識も混濁し始める。

 

(もう…………ここまでかよ?)

 

「橘アキラ!聞こえるだろう!……もう貴様が立ち上がれぬよう…………今からこの女を殺す。もう俺の邪魔をしないと言えば許してやる…」

 

「アキラ君、言っちゃダメ!!!」

 

ギンガはそう言うが、既にアキラにはしゃべる気力すら残っていなかった。今は魔力砲を支えるのでいっぱいいっぱいなのだ。意識はもうあるのかないのか、ただ頭にあるのは

 

「守りたい……もっと…力を………」

 

これだけだった。

 

その時、アキラの右目が急に痛み出す。あまりの痛みで意識が逆にはっきりする。

 

「なんっだこれ………っ!」

 

アキラの意識は何処かへ飛ばされ、一瞬身体が動かなくなったかと思うと、アキラは急に顔を上げた。そのアキラは、驚くほど冷たい表情をし、見えない筈の右目が黄色く光っている。

 

「……………」

 

アキラはなにかの呪文詠唱をしたかと思うと、アキラを押していた魔力砲を吹っ飛ばした。

 

「なに!?」

 

「……………アキラ君…じゃない?」

 

(何者だこいつ……)

 

 

続く

 



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第二十四話 行方

お待たせしました〜。当初考えてたよりかなり短くしましたが、どうにか間に合って良かったです!次回は7月中盤を予定しております!

感想、評価、お気に入り随時募集中です!!


「……………………」

 

「貴様……橘アキラではないな。誰だ?」

 

「…………………」

 

返事はない。ただ黄色く光った右目でアーベルと捕まったギンガを見つめるだけだった。

 

「どうやら言葉が通じないらしいな」

 

アーベルは魔力砲をアキラに向けて放つ。アキラはそれを刀で別の場所にはじいた。アーベルは目を疑った。今自分が放ったのはアキラを壁の端までは吹き飛ばす威力だった…はず。それを片手で…。

 

アーベルが驚いていると、アキラは気がつくとアーベルの目の前まで迫った。

 

「っっ!!!」

 

アーベルは急いでジーンリンカーコアを庇う。しかし、アキラはジーンリンカーコアを狙わず、アーベルを拳で殴り飛ばした。そのことにギンガもアーベルも驚く。アキラは最初、「ルーテシアには攻撃出来ない」と言ったのだ。

 

その後に、ミッドの人々のことを考え、仕方なく殺そうとしたが、殺すなら刀でやれば良いものを何故か殴ったのだ。それも、なんの躊躇も戸惑いもなく。

 

「ぐ……」

 

「お前からは力を感じるな。その力、よこせ」

 

(力……?ジーンリンカーコアのことを言ってるのか?)

 

「ぐふっ!」

 

アキラは倒れたアーベルの腹を足で踏みつけた。ルーテシアの小柄な身体にアキラの体重がのしかかり、肋骨からミシミシと嫌な音がする。吐瀉物のようなものを吐きながら苦しんでいる。

 

そのことに何も気にせず、アキラは刀の先端をアーベルの喉に向けた。そのまま刀で喉に刺そうとすると、ギンガが後ろからアキラの腕を止める。

 

「危ない……アキラ君!なにしてるの!?ジーンリンカーコアは左手と融合してるんだよ!?やっぱりダメだよ人殺しなんて!!」

 

「…」

 

ギンガが支えていると、アキラは左手を刀から離し、下に降ろした。ギンガは諦めてくれたのかとホッとしたが、それもつかの間。ギンガの腹部に激痛が走った。腹部を見ると、アキラがいつも携帯している小刀がギンガの腹部に刺さっている。ギンガは顔を青くする。

 

ギンガがフラリと一歩下がると同時にアキラの手を離してしまった。アキラは一旦アーベルを置いて、ギンガを蹴り飛ばす。

 

「お前からは力を感じない………俺が欲しいのは力だけだ……………力のない奴は…死ね」

 

アキラはギンガに刀を向ける。その時、ギンガもようやく悟った。今目の前にいるのは確かに肉体はアキラだが中身が違うことに。ついさっきまで一緒にいたアキラの人格とは違う、別のアキラがいるようだった。

 

だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。今のアキラが別の人格なら、例え相手が自分であろうと殺される可能性は大いにある。実際今向けられている刀がいつ振り下ろされるかわからない。

 

「あなたは、誰?アキラ君なの?そうじゃないの?」

 

「俺は、橘アキラだ。それ以外の誰でもない」

 

自分がアキラだと自覚しているあたりを見ると、自身が本当の人格だと思っているようだ。

 

(でも、何だろう、アキラ君って感じはさっきからしてるんだけど、、、なんか、大切なものが全部抜け落ちちゃってるような)

 

「無駄話が過ぎたな。もうお前は死んでろ」

 

アキラは思いっきり刀を振りかざす。ギンガは動こうとしたが、刺された箇所が痛み急には動けなかった。いよいよ死を覚悟したギンガの前に何者かが飛び込み、アキラの刀を防いだ。

 

ルーテシア、いや、アーベルだ。アーベルは魔力供給用に持っている別のジーンリンカーコアから魔力を放ち、シールドを作りアキラの刀を防いでいる。

 

「ちっ!」

 

シールドが展開されていない場所を狙ってアキラは二人まとめて蹴り飛ばした。

 

「きゃあ!」

 

「くぅ!」

 

ギンガは起き上がるとすぐにアーベルから離れる。刺された箇所はまだ痛み、血が出ているが、いつまでも敵の近くにいるわけにもいかなかった。

 

「どういう風の吹きまわし?あなたが私庇うなんて」

 

「………誰であろうと、自分の犯した間違いと同じ過ちはしてもらいたくないものだな」

 

「え?」

 

「そんなことより、まずあいつをどうにかしなければ二人とも殺されんぞ」

 

「アキラ君……………」

 

ギンガがアキラを見ると、アキラは足元にアーベルが落としたジーンリンカーコアを拾い上げる。そして何故か大切そうに握りしめた。そして、小さく呟いた。

 

「これだけじゃ、足りない………もっと力を集めなきゃ……」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ーとある研究施設ー

 

 

さっきまで戦っていたアキラの意識はどこかの研究所の中にある生体ポッドに入ってる肉体で目覚めた。その身体は身体は動かせず、アキラは目だけを動かして周りの景色を見た。ポッド内には緑色の液体が充満し、よく見えなかったがアキラにはそこに見覚えがあるような気がした。

 

「ここは…どこだ…?それにこの体は?…………」

 

アキラがしばらく一人で戸惑っていると、生体ポッドの前に誰かが歩いて来る。見ると、あの白い甲冑を纏った男だった。男は念話でアキラに話しかける。

 

(久しぶりだな橘アキラ)

 

(お前…何故俺だとわかる?)

 

(ん?そりゃあお前………あ?ああ、まだ記憶が戻っていないのか)

 

アキラは男の言葉疑問を抱いた。まるで未来を知っているかのような口調にで話すからだ。それよりも記憶の話の方が重要度が高かったが。

 

(それは…どういう意味だ)

 

(口で話すよりも、記憶を戻した方がいいだろう。ついでにお前の意識を元の身体に戻す手伝いをしてやる)

 

男はアキラに手をかざした。

 

(思い出せ。お前の犯した過ちと、その身体のことを)

 

 

ー神威ー

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

アーベルは残った予備のジーンリンカーコアを三つ持ち、魔力を増大させた魔力砲をアキラに向けて連射する。アキラはそれを紙一重で避け、刀で斬りかかった。アキラはさっき拾ったジーンリンカーコアを片手に持つことで刀の攻撃力を増加させている。アキラが振った刀は外れたが、床に小さなクレーターができた。アーベルは再び構え、バインドでアキラを縛る。

 

「ふっ飛べ」

 

アーベルは魔力をかなり高くした魔力砲を放った。アキラはそれをモロに食らったが、表情一つ変えずにバインドを砕いてアーベルに再び斬りかかる。アーベルはシールドを全開にしてそれを防いだ。

 

「ぐぅぅ!」

 

「それもよこせ」

 

アキラはジーンリンカーコアを握った拳でアーベルのシールドに僅かな隙間を生み出し、手を入れてジーンリンカーコアを一つ奪還する。アーベルは吹っ飛ばされた。

 

「がはっ!」

 

「残りと、お前の身体に融合している分も貰おう」

 

アキラがアーベルに近づこうとすると、ギンガが間に入り込み、通せんぼをする。

 

「邪魔だ。失せろ」

 

今度はなんの躊躇も、遠慮もせず、刀を振り上げた。しかし、その腕は降り下ろせずに止まる。アキラは困惑の表情を浮かべ、動かない手を必死に動かそうとした。だが、動かないそれどころか身体の自由がどんどん奪われて行く。

 

「……?なんだ。何が起きて………なぜだ。何故俺を戻そうとする…お前の………俺たちの為だとわからないのか?」

 

(何が起きてるの?)

 

アキラの身体の動きはどんどん鈍くなり、フラついて行く。なにやらぶつぶつと呟いてはいるが、決して独り言などではなく誰かと話しているようだった。しばらくそのような状態が続いたが、いきなりアキラは怒鳴った。

 

「うるせぇぇぇ!!!!!!!!これは俺の身体だぁぁぁ!!!!」

 

叫んだかと思うとアキラはその場にしゃがみ込む。ギンガが恐る恐る近寄ると、さっきまでの違和感は消え、いつものアキラに戻っていた。

 

ギンガの姿が視界に映ると、アキラは急に怯えた表情を見せたがすぐいつもと変わらない声でギンガに言う。

 

「……スマネェ…迷惑かけたな。傷薬渡しとくから、休んでろ。決着つけてくる」

 

「あ、うん………」

 

アキラは立ち上がり、アーベルに向かって歩いた。近づいてくるアキラを見てアーベルも立ち上がり、構える。

 

「ずいぶんボロボロじゃねぇか」

 

「貴様もやせ我慢しているのは目に見えてるぞ?まぁ俺の砲撃をモロに食らってんだ。立っているだけ褒めてやるよ。みたところもう魔力もなさそうだが…まだ立ちはだかるつもりか?」

 

「俺は、守るって決めたモンを守るだけだ。身体だけでなく、心もな。そのために命が尽きようと…俺は戦う。どっちにしろこのままじゃ街は吹っ飛ぶ。その中には、俺の大切な人の大切なモンが沢山ある。だから、俺がここでお前を止める」

 

アキラは刀を鞘に収め、居合切りの構えをとった。アーベルも自分の剣を拾い上げ、構える。

 

二人の間に緊張が流れた。アキラの額から流れた汗が、床に落ちた…と同時に二人は動く。数メートルの距離を走り抜け、二人は一気に接近した。二人同時に剣を振る。アキラの振った剣をアーベルは避け、後ろに回り込み、剣を振り下ろした。

 

アキラはすぐに刀を後ろに回し、アーベルを斬る。アーベルの剣はアキラの左腕を切り落としたが、アキラはルーテシアの身体と融合しているジーンリンカーコアに刀を突き立てた。そして先の戦いでついた傷から一気にジーンリンカーコアを切り裂く。二人は別々に吹っ飛ばされたが、アキラはギンガが受け止めた。

 

「大丈夫!?左手が………」

 

「元々機械だったんだ。そんな心配することじゃねぇよ…それより奴は…」

 

二人はアーベルを見る。ジーンリンカーコアは完全に砕かれ、融合も徐々に解除されて行ってる。二人が「ふぅ」と一息つくたのもつかの間、奥の扉からウーノが現れた。アキラは自分のバリアジャケットを破り、左手の止血をしながらウーノを睨む。

 

「てめぇは……」

 

「安心してください。敵として来た訳じゃありません。主砲を止めに来たんです」

 

ウーノは二人の前を通り、主砲の停止キーを使って主砲のエネルギー集束を止めた。アキラとギンガがキョトンとしてると、今度はルーテシアに近づき、ジーンリンカーコアの破片をルーテシアの身体から摘出し、手当をした。アキラのジーンリンカーコアの融合後が治りかけてるのを見ると、ルーテシアの跡もそんなに残らないだろう。

 

「どういう風の吹きまわしだ」

 

「いえ、先ほどドクターがいる研究所からも、ゆりかごからも連絡が断絶されました。あなた方の勝ちです」

 

「………」

 

ウーノはルーテシアを抱え、アキラ達のに近づき手渡す。ギンガがそれを受け止めたのと同時にウーノは出口に向かって歩き始めた。アキラはまだ腕が切られてから、身体の重心が崩れている所為でまだ立ち上がれないので壁に寄りかかりながら立ち上がる。

 

「で、お前はどうするんだ」

 

「大人しく捕まって、妹達やドクターと檻の中にいます」

 

「…………管理局には構成プログラムってのがある。正しい教育を受けれてなかったことを認めれば、しばらく拘置所送りにゃなるが、しばらくすれば出られる」

 

「それを私に受けろと?」

 

アキラは頷いた。

 

「無理ですよ。私なんかじゃ。どう頑張っても、変わり様がありません」

 

アキラは「戦闘機人ってのはよく似てんな」と思いながらも続ける。

 

「これをいうのは二度目だが、無理なんかじゃねぇよ。少しずつでいい。手を伸ばせ。誰にだって自由になる権利はある」

 

「…………」

 

ウーノの気持ちが一瞬ぐらついた時だった、突如戦艦が大きく揺れた。全員が驚いたのと同時に異常を知らせるアラートが鳴り響く。ウーノが急いで異常の原因を突き止める。

 

原因は、急にエネルギーの集束を中止した神威の主砲が故障し、それまで貯めていたエネルギーが戦闘の影響で既に傷ついていた貯蔵庫で爆発したのだ。爆発は別の場所の異常に繋がり、また爆発を起こす。

 

そもそも神威自体が既に劣化していたのもあり、神威は空中崩壊を始めた。

 

「ヤベェぞ早く脱出しねぇと……」

 

「でも……どうしたら………」

 

動けない人間が二人。アキラは左腕を失い、ギンガも刺されている。ウーノは動けるが、全員を抱えて脱出できる程の力も持っていなかった。

 

「…………ここで死ぬ……それも悪くないんでしょうか。ドクター。罪を償う時なんでしょうか…」

 

ウーノが呟いていると、ウーノの上の天井が崩れた。刹那、アキラはウーノを突き飛ばし、変わりに瓦礫の下敷きになる。ウーノはアキラの行動に呆然とし、ギンガは声にならない声を上げてアキラの埋まった瓦礫に駆け寄る。

 

「………」

 

「アキラ君!アキラ君!」

 

ギンガが取り乱していると、ちょうどそこにスバルとティアナが救助に来た。

 

「ギン姉!」

 

「スバル!アキラ君が…アキラ君がこの下に……」

 

スバルはそこまで聞くとすぐにリボルバーナックルで瓦礫を吹き飛ばす。

 

幸いにも瓦礫は直撃しなかったのかアキラの怪我はそこまでひどくなく、アキラは瓦礫が退いたのと同時にヨロヨロと立ち上がる。ティアナとスバルは怪我の規模に顔を青ざめた。

 

「酷い怪我………」

 

「すぐに出よう!あなたも事件の関係者ですか!?」

 

ウーノは小さく頷く。ティアナはすぐにウーノにバインドをかけ、メグとウーノをバイクに乗せる。スバルはルーテシアを背負い、ギンガに肩を貸す。アキラに空いている肩を貸そうとするが。アキラはスバルの方にいかなかった。

 

「アキラ君!早く!」

 

「先に行け」

 

「え?」

 

アキラはコントロールパネルで艦内構造を見ていた。

 

「先にってもう時間が…」

 

「まだ…この船の動力源は動いている。もしこのまま放って置けばエネルギーが膨張し続けて最終的に動力源が核爆発並みの爆発を起こしてして大変な被害がでる。俺が止めてくるから先に行け」

 

「でも……無事に帰ってこれるって保証は!?」

 

「スバル、お前ももう背負うのが限界なんだろ。俺よりギンガを無事に届けてやってくれ」

 

「アキラ君!」

 

ギンガとスバルの説得も虚しく、アキラは奥へ進んで行ってしまった。スバルが追いかけようとしたが、瓦礫が道を塞ぎ、全員を背負ったままでは追いかけるのは不可能になってしまった。

 

 

 

ー動力源へ通じる通路ー

 

 

俺は今、動力源を止める為に廊下を歩いている。怪我の多さと、出血多量でもう立っているのもやっとの状況だが意識ははっきりとしていた。あっちの身体から戻ってくるまで、少し記憶を取り戻した。まだはっきりとはしてないが、俺はいくつもの罪を重ねていること。そして俺にはギンガのそばにいる資格がないこと。

 

そんな記憶があるのことだけは思い出したが、鮮明には思い出せない。だがそれがわかっただけで充分だ。ここで罪を償う。エネルギーが膨張している動力源に適当に刺激を与えてやればすぐに大爆発を起こして消滅するはず。

 

少なくともこのあと放っておいて起こる爆発よりもはるかに小さい規模の爆発で済むだろう。だが俺の手にあるのは刀一本。これで斬りかかるしかない。爆発に巻き込まれればかなり高確率で死ぬだろうし。死ねなくても、この飛行高度なら落ちれば……。

 

「やるか。償いの時だ」

 

俺は思いっきり動力源に切りかかったと同時に動力源は爆発を起こした。しかし、不運なことに俺はそれでも生きていた。艦内から空中に放り出された。どのみち死ぬだろう。俺はここで死んで、全ての罪を償う。

 

(ダメだよ)

 

「え?」

 

声が聞こえた。目を開けると、そこにはセシルがいた。

 

(死んで償うなんて無責任だよ。それに、お父様とお母様に言われたんでしょ?私の分まで生きてくれって。私はこんな若さじゃ死なないよ?)

 

セシルはどんどん遠くに行ってしまう。俺は必死に手を伸ばした。それでも、届かない。

 

(それに、護るんでしょ?ギンガさんのこと。だったらちゃんと最期まで、護らなきゃダメだよ)

 

「セシル!!!!!!」

 

俺が差し伸べた手は何も掴めず。俺はセシルの名前を叫んだと同時に意識を失った。無造作に宙に放り出された手は、少しすると、誰かの温もりを感じた。

 

 

続く。

 



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JS事件編 最終回 選択

かなり急ピッチで仕上げたので、
最終回ですがやや雑です。次回からは新しいストーリーが始まります!お楽しみに!

お気に入り、コメント、投票、随時募集中です!これからは投稿日を決めて投稿します!次回は7月31日です!!


「アキラ君!戻ってきて!アキラ君!」

 

ギンガは瓦礫の先に行ってしまったアキラに向かって叫んだが、返事は帰って来なかった。瓦礫の前でうなだれるギンガの手をスバルが引っ張っる。ギンガは足を動かさない。

 

「ギン姉!急いで行こう!早くしないと完全に崩壊しちゃうよ!」

 

「いや………アキラ君が来るまでここにいる」

 

「ヘリの中でもいいじゃない!ここにいたら危ないよ!」

 

「あの怪我で、ここが崩壊する前にヘリに戻ってこれる訳ないじゃない!!!戻ってきたら、私が抱えて走る!そうすれば何とか間に合う!」

 

スバルはキッと表情を変え、ギンガを自分の方に向かせた。

 

 

「アキラ君が繋いでくれた命無駄にしちゃダメだよ!ギン姉、もうほとんど魔力ないじゃない…ギン姉ヘリに届けてすぐに私が戻ってくるから、行こう!」

 

「……」

 

ギンガはそれでようやく了解し、スバル達はヘリに向かう。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ーヘリ内ー

 

スバルとティアナはウーノとルーテシアを犯人護送用のヘリに預け、なのは達の待つ六課のヘリに戻った。ギンガは刺された箇所の治療と魔力の回復をシャマルに頼んでいち早くアキラの元に向かおうとしている。

 

そして、スバルがすぐに神威に戻ろうとした時、神威の動力炉のある後方が爆発した。

 

「っっっっっっ!!!!」

 

「…………アキラ君…」

 

ギンガは絶望した表情で、その場に座り込む。ショックで気を失いそうだったが、なぜか倒れるに倒れられなかった。まだ心のどこかで希望を持っているのだろうか…。

 

視界の隅に写っているシャマルが周囲の生体反応を必死に調べていると、急に歓喜の声を上げた。

 

「待って!まだある!さっき爆発が起きた場所からそう遠くない場所!」

 

ギンガは急に立ち上がり、シャマルが表示している画面みた。そこには確かに生体反応が確認されている。光が失われた瞳には希望の光が宿り気の抜けた顔を自分で二回はたき、ヘリの後方出口に向かった。

 

「ギン姉!まだ体力が万全じゃないよ!ここは私たちが……」

 

ギンガは話を聞かず飛び出す。

 

そして、空中でウィングロードを発動させ、生体反応のある場所まで飛んで行った。全力で少しの距離を走り、アキラの姿を探す。必死で探すギンガの頬に何かが当たった。液体…ギンガがそれを拭うと、それは血だった。

 

一瞬顔を青ざめながら周りを見渡す。

 

「っ!アキラ君!!!!」

 

ギンガはようやくアキラの姿を見つけた。そして、一気にアキラの場所まで走る。アキラは腕を上に伸ばした状態で気絶していた。落下速度が速い所為でギンガは中々追いつけなかったが、ブリッツギャリバーの出せる速度を可能な限り引き上げ何とか腕が届いた。

 

ギンガは若干の笑顔を見せたが問題はここから。今はアキラの落下速度に合わせて下に落ちる形で腕をつかんでいるが、ここで急ブレーキをかければ自分か、アキラの腕が確実に持っていかれるだろう。

 

徐々に速度を落とすにしても地上までの距離が短すぎた。ギンガがどうしようかと考えを数秒の間に巡らせていると、どこからか声が響いて来る。ギンガが声のする方を見ると、スバルが全力疾走でこちらに突っ込んで来ていた。

 

「ギン姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」

 

「!?」

 

スバルは一気にアキラに接近すると、ギンガと共にアキラの腕をつかむ。

 

「スバル!」

 

「上は大丈夫!キャロ!エリオ!ティアナ!お願い!」

 

「え?」

 

「任せてください!」

 

ギンガ達の横を何かが高速で落下して行った。目で追いかけるとそれはフリードだった。その背中にはキャロとエリオ、ティアナが乗っている。

 

「ギン姉、衝撃に気をつけて!絶対アキラ君を離さないで!」

 

ギンガは戸惑っていたが、強く頷いた。スバルはギンガの後ろに周り、アキラごとギンガを抱え込み、ウィングロード上で急ブレーキをかけた。強い衝撃が二人を襲う。スバルは少しだが落下速度を落としたギンガ達をフリード目掛けて投げた。ギンガは受身をとりながらフリードの背に着地する。

 

一瞬落ちそうになったが、フリード乗っていたティアナとエリオ何とか支えた。

 

「フリード!」

 

キャロがフリードに指示し、フリードはヘリに向かって飛んでいった。スバルも方向転換し、ヘリに戻る。

 

ヘリに担ぎ込まれたアキラはすぐシャマルに全身を調べられた。

 

「シャマルさん!アキラ君の容体は!?」

 

「意識は失ってるけど、生きてる…ただ、血圧の低下が早い…早く輸血と腕の傷を塞がなきゃ……それから……」

 

ギンガは病院まで搬送される間、ずっとアキラの手を握っていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ー一週間後ー

 

 

あれから一週間…事件は終わり、事件の爪痕も少しずつ薄れて行く中ギンガの心の傷はまだ癒えてない。アキラはまだ目覚めない。ギンガがアキラに刺された傷は浅く、もう治りかけていた頃だと言うのに。

 

 

ー病院ー

 

 

この日は雨だった。ギンガが今日のお見舞いを終え、アキラの頭を撫でた。アキラの血色はいいが、腕は見つからず今も左腕はないままだ。ギンガは軽くおでこ同士を合わせた。

 

「うん、熱もなし…。ごめんね、アキラ君。ちょっとやってみたかったの…」

 

ギンガは頬を少し赤くし、部屋を出て行った。それから数分。

 

 

アキラが青い顔をして飛び起きた。

 

 

「っっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

呼吸が荒く、恐怖に怯えた顔で辺りを見渡す。冷や汗が吹き出している。アキラは腕に刺さっていた点滴の針を抜き、病室を出て行こうとしたが腕を無くした影響で重心が取れず、なおかつ起きたばかりで身体が思うように動かず、ベッドから出てすぐに倒れてしまった。

 

それでも無理に立ち上がり、アキラは走って病室を飛び出す。何度も倒れかけたり転んだりしたが、それでも走って病院を出た。雨の中、傘もささず、裸足で飛び出す。

 

 

ーギンガサイドー

 

ギンガは病院の帰り道、その日の夕食と、アキラが目覚めた時の為のお弁当の材料を買って帰っていた。そんな時、帰り道にある公園を特に意味も無く、チラリと見た。

 

その時、公園を走り抜ける一人の影を発見する。片腕がなく、病人の服を来た茶髪の人。ギンガは我が目を疑った。

 

「まさか……っ!」

 

ギンガは走り出す。

 

 

ーアキラサイドー

 

アキラは走った。走り続けた。思い出した…思い出さされたとある記憶に、絶望し、恐怖し、逃げ出したのだ。アキラは公園の木の下でうずくまり、泣き叫んだ。

 

「うくっああっうぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

(思い出した!思い出してしまった!あの記憶!あの時の…記憶………)

 

頭を抱え、泣きながら怯えるアキラに一人の人影が近づく。アキラはそれを素早く察知して振り返る。そこに立ってたのは、ギンガだった。

 

「………ギンガ……なんで」

 

「アキラ君こそどうしたの!?こんなところにそんな格好で…」

 

「もう………俺に構うな」

 

「え?」

 

「俺はお前のそばにいる資格はない………お前も俺のことは忘れて、自由に生きろ」

 

アキラは涙ながらに言った。アキラはこれでギンガが自分を嫌い、いなくなってくれると思った。しかし、ギンガはその場を動こうとせず、アキラに歩み寄り、ハンカチを出す。そして、下を向いたままのアキラの顔を持ち上げ、顔の泥や涙を拭きながらいう。

 

「アキラ君、ちゃんと事情を教えて?そんなこと急に言われたって、忘れられないよ。アキラ君はいつもそうだけど、勝手に一人で色々決めないの。ね?」

 

二人は、木の影でで雨に濡れていないベンチに座った。

 

「まったく。お医者さんに怒られちゃうよ?」

 

「………十二年前」

 

「え?」

 

「お前の母親、クイントさんが亡くなった事故…お前は知ってるか?」

 

「えっ!」

 

ギンガは驚いた。ないはずのアキラのクイントに関しての記憶。それについてアキラが話したという事は、記憶のロックが外れたということ。マリエルの話ではよっぽどの魔法か装置を使わない限りロックが外れることはないと言っていたが…アーベルがアキラの身体を乗っ取ったことでロックに影響が出たのか等、ギンガが色々推測していると、アキラがギンガの顔の前で手を振った。

 

「おい、聴いてるか」

 

「あ、うん!」

 

「あの事件の時、俺も現場にいた…そして、俺が…………クイントさんを殺した」

 

「…………」

 

声も出なかった。ギンガは唖然とし、動けなかった。

 

「………………直接手を下した訳じゃない。俺はあの日、家の近くで遊んでいた。そんな時、クイントさんの姿を見たんだ。あの任務に向かう時だったんだな。どうやら極秘任務で俺んち…橘家の傭兵を何人か連れて行ったらしい。俺はクイントさんがどこに行くか気になって、クイントさんがとその仲間たちが乗った武装車の荷物ん中に隠れて、あの研究所に向かった………

 

 

ー十二年前ー

 

 

「ここ………どこだろ………」

 

俺は最初、どっか楽しいとこに行くのかと思った。けど、ついたのは殺風景な研究所。不思議だった。どうしてあんな優しい人がこんなところに来るのかって…それで思った、また俺みたいな子どもを助けるんだろうってな。だから、手伝いたいと思った。

 

俺は一人、研究所に入った。けど、俺が想像してたのとは全く違う場所だった。俺みたいな子供はいないし、人もいない。

 

そんな時だった。俺が…クイントさんを…………見つけちまった……。

 

「クイントさん!」

 

「え!?」

 

俺が後ろから声をかけた時、クイントさんが後ろを向いた。その瞬間、俺はガジェットに襲い掛かられた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「危ない!!!!!」

 

クイントさんが俺を庇って……………刺された。

 

「え………」

 

「痛ぅ…………大丈夫?」

 

「クイ………ントさん?」

 

クイントさんの傷は深く、その場で倒れた。

 

 

ー再び現代ー

 

 

「そこからは良く覚えていない……だが、俺が………俺が、あの人を…………クイントさんを殺……………殺し…………こっ」

 

アキラが腕を震わせ先が言えずにいると、ギンガがアキラを優しく抱きしめる。

 

「ギンガ……」

 

「その後、アキラ君はね。母さんを助けようと一人で戦ってたんだ。傷だらけになりながら。確かにアキラ君が母さんを殺したのかもしれない…でも…許すよ。アキラ君を許してあげる」

 

「許す…だと?」

 

「今ここで、アキラ君を恨んで、暴力を振るったり、殺したところで母さんは帰って来ないし、誰も喜ばない。何より、そんなこと、母さんが一番望んでないよ。原因はアキラ君にあったとしても、アキラ君は、母さんが守った命だもの。アキラ君がいなくなったら母さんが残したもの…全部なくなっちゃう…」

 

アキラは歯ぎしりをしてギンガの腕を振り切った。

 

「それだけじゃない!!!!俺が生まれた研究所!!あそこにいた人間を殺したのは………俺だ!!!」

 

「え………」

 

「そうだ!俺だよ!!!!俺はある日、実験中にECウィルスが暴走して…破壊衝動を抑えきれず、全員殺した!!!!!殺して殺して…………殺しまくって…途中で正気に戻った…でも俺は状況を理解した時、逆に暴れた…………楽しかったんだ…俺を好き勝手した連中を逆に好き勝手出来るのが!」

 

「……………」

 

一通り叫んだあとアキラはギンガに背を向ける。

 

「これでわかったろ?俺はお前のそばに……いや、生きてていい人間じゃない!!!!!」

 

その瞬間、ギンガはアキラにグーパンを食らわしたアキラは突然の攻撃に対象出来ず吹っ飛ばされた。アキラは殴られた頬を抑えながら起き上がろうとするが、そのアキラをギンガが抱きしめた。

 

「バカッッッ!どうしてわからないの!?あなたがいなくなったら悲しむ人だっているんだよ!?もっと命は大切にしなきゃダメだよ!死んだ人は戻ってこれない!良くわかってるでしょ!?」

 

「じゃあ……俺はどうすればいい!?この胸が押しつぶされそうな罪悪感……罪の意識は!!!」

 

「生きて…償えばいいよ。これから先も、いろんな人を守って…………それからずっと一緒にいて?」

 

生きて償う………他人に言っている癖に自分で実行しないことに、アキラは今気づいた。

 

「……………ギンガ…」

 

 

数時間前、ギンガは白い甲冑を着けた男から、アキラが話すことを聞いていた。まぁ、こんなところで聞くことになるとは思ってなかったが。

 

ギンガはその時点でアキラに強い怒りを覚えたが、先ほどギンガが言ったことと同じようなことを言われ、論破された。そして、男は橘アキラがいなくてもクイントが死ぬ「平行世界」の映像を見せた。

 

それを見たギンガはアキラを許すことにした。過去はどの道変えられない。ならば、この先の未来、幸せな世界を作ればいいと考えたのだ。

 

「………」

 

アキラはギンガの腕を一度離し、ギンガの前に跪いた。

 

「これより、再び貴女の護衛として、この橘アキラ命を賭けてお守りします。そして、共に幸せであることを誓います」

 

「よろしい」

 

アキラとギンガは手を繋ぎ、立ち上がった。再び、二人共に行く未来に向かって歩き始めた。

 

「ここまでは…………シナリオ通り……この先のうまく行ってくれるかな」

 

二人が病院に戻る様子を、白い甲冑の男が眺めていた。

 




次回『ウィード事件編』突入………


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ウィード事件編
ウィード事件編 プロローグ


思ったより二十六話が長くなっているのでプロローグになります。次回投稿は八月一日〜十日の何処かです。

オリジナルでどこまで面白いかは、皆さん次第ですが、これからも応援よろしくお願いします!


ー海上拘置所ー

 

「んぁ〜逮捕されてから約一ヶ月…ここの生活も慣れて来たッスねぇ〜」

 

「管理局が思ったよりも良い環境を用意してくれたからな」

 

数週間前、ミッドチルダを震撼させた、歴史にも残る大事件「JS事件」。ここに収容されている彼女達はその事件において、主犯格のジェイル・スカリエッティに作られ、何も知らずに戦ってきた少女達。「ナンバーズ」及び、「戦闘機人」と呼ばれるその名の通り、戦闘に特化して作られた機会と人間の融合体だった。

 

ここにいる彼女たちは、管理局が用意した司法取引を受諾、新たな人生へと歩き始めた少女たちである。

 

「にしても、あの二人があの司法取引受けたのは意外だよねぇ〜」

 

セインがそう言って、部屋の隅にいる二人をみた。セインが意外と言ったのは、ナンバーズI、ウーノとナンバーズVII、セッテだった。

 

「まぁ、あいつらにはあいつらなりの考えでもあるんだろ。ウーノに関しては変な計画企んでそうだけどな」

 

ノーヴェが言ったが、ウーノは特に何も考えていなかった。

 

司法取引を蹴って自ら自由を捨てた者も数人いる。ジェイル・スカリエッティもそのうちの一人だ。ウーノは、彼に一番忠実で、捕まる時も当然スカリエッティと同じ場所に行こうと思っていたのだが、とある男の言葉が彼女を引き止める。

 

「少しずつでいい。手を伸ばせ。誰にだって自由になる権利はある」

 

そう、橘アキラは言った。

 

「……………本当にそうなのでしょうか、ドクター」

 

ウーノは一応こちらにきたものの、まだ戸惑いがあるようだった。

 

そして、セッテ。セッテはなぜこちらにきたのか、自分でもまだよくわかってない。今までの責任をとって社会に貢献したい訳ではない、自由が欲しい訳でもない、なのに、一体なぜ…。

 

そんな時、広場の入り口のドアが開いた。セッテは入ってきた者に少し輝きの増した目で見た。入ってきたのは、橘アキラとギンガ・ナカジマ。ナンバーズの教育係だ。

 

「よぉ」

 

「あ、アキラ、ギンガ、よっス〜」

 

「みんな、おはよう」

 

「うむ、おはよう」

 

「にひひ、アキラ〜」

 

妙ににやつきながらアキラにウェンディが近づいた。アキラは頭に「?」を浮かべながらウェンディの頭を押さえ、それ以上近づけないようにする。

 

「なににやけてんだ気持ち悪い」

 

「気持ち悪いって酷いッス〜!せっかくアキラにプレゼント用意したッスのに〜」

 

「プレゼント?」

 

他のメンバーを見ると、皆その言葉に疑問を抱いていないところを見ると、ウェンディが勝手に言い出したことではないとアキラとギンガは悟る。

 

「この子達の協力で作れたんだ〜」

 

「あ?」

 

突如後ろから声がした。二人が振り返ると、そこには何やら大きい布に包まれた筒状の何かを持っているマリエルがいる。

 

「何だそれ」

 

「一応回収はできたんだけどね…損傷が酷くて使えなさそうだったから、新しく作ったんだ、アキラ君の左腕〜」

 

マリエルがそう言うと同時に布を外す。

 

布の中身は、保存用の小型生体ポッド。さらにその中には、人間の左腕の骨の形をした機械だった。まだ人口の肉と皮膚がついていないが、メンテナンス等はバッチリで前のアキラの腕と何ら変わりない。

 

「これは…」

 

「わぁ!良かったね!アキラ君!マリーさん、みんなも、ありがとう!ほら、アキラ君も!」

 

「………あり……がとう」

 

アキラは顔を逸らしながら、小さな声で礼を言った。

 

「お、アキラ、もしかして照れてる?」

 

顔を逸らしたアキラの顔を覗き込む。アキラは顔を見られないように振り向き、部屋の奥へ進んで行く。ギンガとナンバーズの面々は「素直じゃないな」といった表情でアキラに続いて歩いて行った。

 

部屋の中心あたりで、アキラとギンガはナンバーズ達に更生授業をする。一般的な常識もわからない者もいる。そう言う者たちの為の授業ではあるが、実はこっそりアキラも参考にしてたりもする。橘アキラも変わろうとしている。ギンガの為に…変わろうとしていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ーとある研究所ー

 

「これを使えば…最高の作品が作れそうだ………待っててくれ。橘アキラ君……君は……僕の最高傑作だからね」

 

 



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第二十五話 前進

お待たせしました、ちょっと話が急ピッチで進むと思いますが、どんな風に感じるかは皆さんのご想像にお任せしますw。次回投稿は八月十日〜十九日です

感想、
コメント、お気に入り、投票、ご意見、随時募集中です


ーある日ー

 

私、ギンガ・ナカジマの朝は早いです。今はいない母さんの代わりに早く起きて、朝ごはんの準備をして、ねぼすけの父さんを起こします。父さんは、魔法は使えないけどとっても優しい人で、母さんが亡くなってからもずっと私たちを見守ってくれました。でも、私だって長女です。一生懸命頑張って今では、掃除洗濯炊事、家事なら何でもゴザレです♪

 

私はずっとこの家で、こんな風に母さんの代わりとしているものだと思っていました。実は私は母さんの本当の娘ではなく、母さんのDNAを元に作られた戦闘機人という存在です。私はこの身体に悪い意味でのコンプレックスを抱き、無意識に人を僅かに避けていました。

 

恋をしても、その人がこの身体を嫌うんじゃないじゃないかって。それでも私を好きになってくれる人は沢山いましたが、愛の告白は大体断っていました。ですが、断っても断っても…何度もアタックしてきた人がいました。私は彼の熱意に負け、付き合う事になりましたが、真実を知った途端いなくなってしまいました。

 

それからと言うものの、私は恋をしないと決めたのですが…今の夢はお嫁さんです♪何故なら、現れたからです…私の身体を理解しながらも、それでも離れずずっと一緒にいてくれた人…橘アキラ君が。

 

 

―とある山の中―

 

 

俺、橘アキラの朝は早い。大切な人を護るため、常に肉体の強化はしなければならない。昨晩は23時に寝たが、今朝は4時30分に起床。それからトレーニングを始める。今はとある事故で左腕がないので、そこまで無理があるトレーニングはできない。だから、ここ最近は軽いトレーニングしか出来ない。だが、トレーニングしなかった分、家庭菜園をやる時間に回せる。

 

無愛想で無関心、冷酷だのなんだの言われる俺だが、好きでこんな態度とってる訳じゃない………。俺には、妙に感情と言う物が少ない。よっぽどのことがないと、強く感情が表に出ない。

 

だが、最近俺にも表情が豊かになってきたらしい。俺には、大切な人が出来た。自分の命を差し出してでも護りたい人が、いや、護らなければならない人が。

 

「ふぅ……そろそろ行くか」

 

俺は今日も、彼女を迎えに行く。

 

 

ー陸士108部隊ー

 

 

「やっほー!元気ぃ!?」

 

「ひゃあ!」

 

突如、ギンガの背後から誰かが飛びついた。ギンガの親友であるメグ・ヴァルチだ。

 

「何だ、またお前か」

 

「おうおう、相変わらずアキラ陸曹はお恐いですねぇ」

 

メグがギンガに飛びかかる直前、アキラはメグの首に刀を突きつけた。しかし、彼女はそれを小銭一枚でそれを防いだ。なにも不思議ではない。彼女はかつて一つの世界を牛耳った男が率いる部隊の隊長だった者だ。

 

「ちょっとギンガに用があってね。借りるよ」

 

「じゃあ俺も…」

 

「ダメよ。ガールズトークなんだから」

 

「俺はギンガから離r」

 

「隙あり!」

 

メグがアキラの頭にビニールを被せ一瞬視界を遮る。アキラが慌ててビニール外した時にはメグはそこにはいなかった。

 

「あんのやろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

アキラは走り出す。

 

 

ー屋上ー

 

 

「はぁ、びっくりしたぁ…」

 

「あはは、ゴメンね」

 

「その身体には慣れた?」

 

メグは頷く。先程も言ったが、メグは過去に生きていた人間だ。彼女の魂はジーンリンカーコアに封じられ。本当だったら別の身体に宿っていた筈だった。この事実は、JS事件が終わってからしばらく経ってから明かされたが、それはまた別のお話。

 

「ねぇ、ギンガ。アキラあのニブチンも退院したけど、どう?なんか進展あった?」

 

ギンガは首を横に振る。その瞬間、メグの顔から表情が消えた。

 

「あんたねぇ……あいつのこと、本当に好きなわけ?」

 

「好きよ!でも、物事には順序ってものが……」

 

「順序もなにも、あんたら順序以上のことをやってんじゃないの!互いに命懸けで助けるなんて、普通のカップルはやんないわよ!」

 

「まだカップルじゃ………」

 

「うぅるさい!あんたらもうカップルみたいなもんよ!」

 

予想もしないメグの激怒っぷりにギンガはすっかり縮こまってしまう。そんなギンガを見て、メグは大きなため息をついた。そして、ギンガの肩を叩く。

 

「全くしょうがない。このままじゃあんたらは友達以上恋人以下の関係のまま。もうスカリエッティは捕まったんだし、しばらく事件もないし、ここは大きく出るチャンスよ!一気に恋人になっちゃいなさい!」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

ギンガは顔を真っ赤にして驚く。と同時に屋上の扉が勢い良く開いた……というか吹っ飛ばされた。

 

「見つけたぜぇ……覚悟しやがれこの野郎」

 

「おお、思ったよりも速かったなぁ………えいっ」

 

メグは自身の魔法、「コネクト」でアキラの足元に結界を繋げ、手をアキラの足に引っ掛けた。アキラは思いっきり転ぶ。

 

ギンガは顔を真っ青にし、場の空気は凍りつく。アキラは怒りが頂点に達したのか、ゆらりと怪しげに立ち上がり、刀を抜いた。メグはギンガに耳打ちで「ナンバーズの更生終わったら三階東トイレに来なさい」と言った後、アキラの刀が振り落とされる前にその場を去った。

 

「あの野郎………」

 

「まぁまぁ、メグだって悪気があったわけじゃないんだし……」

 

「ギンガ…」

 

アキラは軽いため息をついてからギンガを抱きしめる。まさかの展開にギンガは顔を真っ赤にさせたまま硬直する。

 

「ごめんな、いきなり頼りなくて…俺もっと強くなって誰からもギンガを守れるようになるから」

 

「う……うん…」

 

(なんか、アキラ君急に大胆………)

 

少ししてからアキラはギンガを離し、屋上の出口に向かった。

 

「行こうぜ、そろそろ更生の時間だ。昼飯はあっちで食うか?……………ギンガ?」

 

「え?ああっ、うん!」

 

ギンガは惚けていて返事が遅れ、急いでアキラを追いかけ、アキラのバイクに二人で乗って海上留置場に向かう。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー更生授業後ー

 

ギンガはメグに指示された通り、三階東トイレに行った。女子トイレなので、もちろんアキラは入れない。少しあたりを見渡すと、一番奥の個室でメグが手招きをしているのが見えた。

 

ギンガは手招きに従い、個室に二人で入る。

 

「どうしたの?こんなところにまで誘って」

 

「さっきはアキラの邪魔が入っちゃったからね。さて、さっきの話の続きだけど……準備はいい?」

 

ギンガは頷く。

 

「あのニブチンを、あんたの家に泊まらせなさい!」

 

「え……」

 

メグが言葉を放った後、しばらく時間が経ってからギンガがようやく返事をした。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?いやその、なんで!?」

 

「深い関係になるためのステップよ。相手を家に誘って、手料理でもご馳走すれば、案外落としやすくなるものよ。あとは夜中、相手の布団に入って、誘う…あのニブチンでもそこまでやれば本気にするでしょ。それでも気づかれないんだったら、襲いなさい!」

 

「無理よぉ………」

 

「まぁ確かに、さっきのはいいすぎかも。でも、本当に好きなら、これからは本腰いれてかなきゃ。これ以上、「友達以上恋人以下」なんて関係はあんたも嫌でしょ?」

 

「うぅ……」

 

ギンガはあまり乗る気ではなかったが、理論的にはメグのいう通りだ。ギンガは少ししてから決意を固め、上を向いた。

 

「分かった!私、やって見る!!」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 

 

ー帰路ー

 

 

「ゲンヤさんは?」

 

「今日は残業だって。深夜には帰ってくるんじゃないかな」

 

「そうか」

 

いつも通り、アキラと二人でギンガは自宅に向かっていた。その間、特にこれと言った会話はなく、ちょっとした話題で少し話しては沈黙が生まれ、また話題が上がっても少しすれば沈黙の繰り返しだった。ギンガはいつ、家に誘う話を切り出そうかずっと考えているが、うまくいかない。

 

そして、ギンガの自宅が近くまで迫った時、ギンガは意を決して並んで歩いていたアキラの前に出てアキラを止めた。

 

「アキラ君!」

 

「おおう、どうした?」

 

急に前に出られたアキラは少し驚きながらも立ち止まる。ギンガは今にも心臓が破裂しそうなほど緊張しながらアキラに尋ねた。

 

「ねぇ、お夕飯、まだだよね」

 

「ん、ああ。なんだ、どっかで食ってくか?」

 

「あの…さ、私の家で、食べてかない?」

 

アキラは固まった。驚いているのか、考えているのか、相変わらず無表情のアキラは、考えが読み取りずらかった。

 

「……………」

 

「いや、もちろんアキラ君が良かったらだよ!?そんな、もし、嫌だったら、それで全然いいし………」

 

 

ーナカジマ家ー

 

 

「ただいま〜」

 

「お邪魔…します」

 

アキラは返事はしなかった。だが、黙ったまま頷いた。もちろんアキラは誘ってもらって嬉しかった…しかしアキラ自身、クイントのことがあってまだ若干ギンガに対する申し訳なさがあり、ギンガになにかしてもらうのは抵抗がある。

 

だが今回は彼女自身が誘ってきて譲らなそうだった(勝手な考えだが)ので、きてみたのだ。

 

(この家に来るのも…十一年くらいか…変わってねぇな………なに一つ)

 

「さ、上がって上がって、居間に椅子とソファーがあるから好きな方に座って待っててね」

 

「ああ…」

 

アキラは居間に上がり込み、無意識に台所から離れたソファーに座る。ギンガは上着を脱ぐと、すぐにエプロンを着て冷蔵庫を開けた…が、そこで大問題が起きた。おかずを作れそうな物が、ほとんどなかったのだ。

 

(そーだった!今日帰りにお買い物行こうと思ってたんだぁぁぁぁ!!!!)

 

そう、ギンガは今日の買い物の予定を、アキラのことですっかり忘れてたのだ。

 

(どうしよう、せっかくだから美味しい手料理アキラ君に食べさせてあげたいし、でも今から買いに行くって言っても、それじゃ遅くなっちゃうし……アキラ君きっとお腹空いてるよね……)

 

アキラはそんなことはなかった。いつも昼以外は質素な生活をしているので、そんなに空腹は感じない身体なのである。だが、ギンガはそれを知る由も無い。

 

「何かないかな………」

 

必死に探すが、つまみくらいしか作れそうになかった。ギンガは深くため息をつき、アキラに説明しようとすると急にインターフォンが鳴った。

 

「誰だろう………」

 

ギンガが玄関に向かい、鍵を開けた瞬間、外にいた物がギンガに飛びつく。

 

「きゃあ!?」

 

ギンガの悲鳴を聴いた瞬間アキラが刀を抜いて居間から飛び出した。

 

「どうした!って………スバル?」

 

「あはは、ただいま〜」

 

ギンガに抱きついているのはスバルだった。ギンガは驚きながらもスバルを撫でる。

 

「もぉ、驚いたじゃない。どうしたの?」

 

「機動六課にお休みが与えられたんだ〜だから帰ってきたの。ところでなんでアキラ君がいるの?」

 

ギンガは少し照れながら説明しようとした時、スバルはギンガの表情と、玄関にゲンヤの靴がないのを見ると、急ににやける。

 

「あれ〜もしかして私、お邪魔だった?」

 

「そんなことないわよ、久しぶりなんだからゆっくり………スバル、それは?」

 

スバルの手にはなにかが入ったビニール袋が握られていた。ギンガが中身を確認すると中身は、数々の野菜と、夕方だからか20%オフの肉。

 

「どうしたのこれ」

 

「久しぶりにギン姉の作った野菜炒め食べたくて、色々材料揃えたんだ〜。思い出すね〜、母さんが亡くなってから忙しい父さんに変わって家事と料理頑張って、何回も味付け失敗した野菜炒め試食させられたっけ」

 

「ち、ちょっと!スバル!!」

 

スバルはしみじみと思い出を語るが、ギンガにとっては恥ずかしい過去なので、顔を赤くしてスバルの口を塞ぐ。好きな人の手前、恥ずかしい過去は知られたくなかったのだ。

 

そんな時、二人の後ろから小さな笑い声が聞こえる。

 

振り返ると、アキラが…笑っていた。

 

「クッ…クク…」

 

「わ…笑った?」

 

「ん、ああ、すまん。あんまりにも顔が赤くなってんのg」

 

「アキラ君が笑ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

最初に叫んで歓喜したのはスバルだった。そして、すぐにギンガもそれに便乗する。アキラは一体自分が笑ったことのどこが彼女たちにとって嬉しいのかわからず頭に「?」を浮かべる。

 

「な、なんなんだよ」

 

ギンガは笑顔でアキラをからかうように

 

「クスクス…内緒、さ、じゃあ腕によりをかけて作るからね!」

 

「あ、ああ………」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「はい、完成よ!」

 

山盛りの野菜炒めが食卓に置かれる。そして、山盛りの白米がドンッ!と置かれた。

 

「さぁ!召し上がれ!」

 

「おう…」

 

アキラは箸を使い、野菜炒めを少し掴み、口に運んだ。その様子をギンガは不安そうに見ている。それはもう瞳孔の開き具合、咀嚼している口の動き、顔の筋肉の動き、両腕に至るまで。

 

「どう………かな?おいしい?」

 

「ああ、いつもの弁当とは違って、やっぱり出来たては美味いな」

 

それを聞いた瞬間、ギンガの顔がパァっと明るくなった。ギンガは胸を撫で下ろし、スバルと共に食事を始めた。

 

(やっぱ、うまいよな……誰かと食べる飯は)

 

 

ー食後ー

 

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

食事を済ませたアキラは帰ろうとしたが、最終的な目的はアキラを泊まらせることなので、ギンガが引きとめようとする。しかし、ギンガよりも先にスバルがアキラを引き止めた。

 

「え〜?帰っちゃうの?泊まって行きなよ〜」

 

「あ?別にいい。これ以上いても迷惑だろ?」

 

「いいじゃん!アキラ君だってギン姉の近くにいた方が守りやすいし、ギン姉だってアキラ君が近くにいてくれた方がいいもんね〜」

 

スバルはギンガのことをからかうような目で見る。ギンガは照れながらも頷く。

 

「………じゃあその……いいってんなら…でも俺、着替えとか持ってねぇけど」

 

「ああ、それなら大丈夫。家の洗濯機でアキラ君がお風呂に入ってる間にパパっと洗って乾かしちゃうし、パジャマは父さんのでいいかな」

 

「おう……」

 

 

続く

 



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第二十六話 恋愛

コミケやらなんやらで、忙しく、気づいたら十九日でしたねw今回短いです。すいませんm(_ _)m次回はまた十日以内に投稿します

お気に入り、投票、コメント、感想、随時募集中です


ーナカジマ家 浴室ー

 

 

「はぁ…」

 

アキラはナカジマ家の風呂を借り、一日の疲れを汗と一緒に流していた。いつもはシャワーだけなので、湯船に浸かるのは橘家にいた時以来だ。

 

(いつも、ここでギンガが風呂に……)

 

湯で顔を洗った。自分らしい考えではないと思ったのだ。自分は変わった。大切な人を目の前で二度も失い、その償いすら出来てないのに。ギンガと出会い、たくさんの人間と触れ合ってきた。

 

アキラはこの身を剣に、ずっと戦って行く筈だった。振り返らず、ただ進んで行く。それが自分の道だと思っている。いや、思っていた。我が道を突き進んで行く中で、ギンガがアキラの腕を止め、本当にいるべき道へと導いてくれた。

 

「どうして…俺はこんなにあったかいとこにいていいのか……なぁ、クイントさん…セシル……」

 

小さくつぶやくと、誰かがいきなり風呂場のドアを開ける。

 

「!?」

 

「お、お邪魔するね」

 

入ってきたのはタオルを身体に巻き、少し照れた顔をしたギンガだった。

 

「あ、ああわりぃ!長風呂が過ぎたか!すぐに出るから、ちょっと待ってくれ!あ、まだ体とか洗って…」

 

「あ、いや、違うの!背中流してあげようと思って…」

 

ギンガはアキラと目を合わせられず、顔を真っ赤にして言い、アキラは困惑の表情を浮かべている。

 

「いや、いいよ。わざわざやってもらわなくても。自分で出来る」

 

アキラはそう言って、ギンガを見ないようにしてシャワーの水を頭から浴びた。しかしギンガは簡単には引き下がらなかった。アキラの肩を掴み、半ば無理やり風呂場の小さな椅子に座らせる。

 

「いいから、さ、座って」

 

「うおっ」

 

そして、アキラの背中に触れた。古傷だらけで、見るのも痛々しい背中だった。今まで、戦い続け、護り続けてきて出来た傷だ。アキラのエクリプスウィルスは不完全で、傷の治りは遅く、治っても跡が付いてしまっていた。

 

その中に比較的新しい傷跡がある。数ヶ月前、アキラがギンガを庇って出来た傷だ。ギンガはそんな背中を見ながら、垢擦りに石鹸を纏わせ、アキラの背中を洗い始めた。

 

「なんでも、他人にやってもらうと気持ちいいよ。いつものお礼って考えたら気が楽かな?」

 

「………礼をしなきゃなのは、俺の方だ」

 

「え?」

 

ギンガは手を止めた。

 

「…………俺は、弱い。大切な人も満足に護れない。クイントさんが死んだ時、強くなりたいと思った。セシルが死んだ時、俺は無力だと思った。ギンガと出会い、もう一度大切な人を護ろうと思った時、正直不安だった。でも、誰かを守る事に執着すれば、罪の意識を紛らわせると同時に思ってた。けれどギンガはたくさんの人と俺を結びつけてくれた………メグから始まって、ゲンヤさん、スバル、六課のみんな。俺は自然と罪の意識をただ背負い、後ろを向くだけじゃなくそれを持って前に進む様になった。以前の俺ならこんな風には考えなかったろう………だから、ありがとう。俺を沢山の人と結びつけてくれて。それから、俺を許してくれて」

 

話を聴いてから、ギンガはアキラを優しく抱きしめる。アキラは少し慌てたのか、ギンガの腕を外そうとするがギンガは離さなかった。しばらくしてから、ギンガは小さい声で言った。

 

「………ごめんなさい……」

 

「あ?」

 

「ごめんなさい………実は私まだ、心の何処かでアキラ君を許せてない……」

 

思わぬ言葉だった。アキラは一瞬硬直する。

 

「アキラ君が真実を思い出した日、実はその少し前からある人に教えられてたの…アキラ君がいたから、母さんは死んだってって聞いてたんだ」

 

「⁉それは……誰にだ?アレを知ってるのは…俺以外にいない筈……」

 

「私にもわからない。白髪で、全体的に白の甲冑着てて、大きなマントをした………」

 

「あいつが!?」

 

「アキラ君知ってるの?」

 

アキラは当然知っていた。色々手助けしてくれるが、怪しくもある。なぜあそこまでの力を持っていて、ギンガをアキラに守らせるのかよくわからなかった。何を企んでいるのか、何がしたいのか、怪しい男だった。

 

アキラも流石にこの事実まで知っているとは思わなかった。

 

「ああ、俺の前にも何回か現れた。最近は現れねぇけどな。なんかされなかった?大丈夫か?」

 

「うん……一応」

 

「そうか………」

 

少し沈黙が流れ、ギンガはキュッとアキラの背中に置いた手を握ってから話を戻す。

 

「それで、最初は、アキラ君を許せない気持ちになった……アキラ君がいなかったらなんて、そんなことまで考えた………でもアキラ君がいなかったら、今の私はたぶんいないし、よくわかんなくなった時にその男が、平行世界(パラレルワールド)世界の私達を見せてくれた……そこはアキラ君はいない世界で……それでも母さんは死んでた…そこで初めてアキラ君を許そうって思って…」

 

「そうだったのか…」

 

ギンガは決めた。この想いを今伝えるべきだと。ギンガが許した、真の理由を。

 

「でも…それだけじゃない……。むしろさっきのは言い訳」

 

「え?」

 

「私は、アキラ君を恨もうとしても、恨めなかった!だって!だって…………」

 

言葉を詰まらせる。急に黙ったギンガが気になり、アキラは後ろを振り向く。ギンガは震えながら俯いていた。アキラがギンガに触れようとした時、ギンガは顔を上げた。

 

「だって私はアキラ君のことが!好きだから!同じ職場の仲間とかじゃなく、友達でもない………ただ純粋に……恋人として………」

 

「…………………っ!!!」

 

アキラは急に立ち上がり、ギンガも半ば無理やり立ち上がらせる。そして壁に押し付け、ギンガの顔の高さの壁に両手を叩きつける。いわゆる、「壁ドン」なるものの状態だ。

 

その状態でアキラは鋭い目つきでギンガを問い詰める。

 

「………いいのかよ……俺は単なる人殺しだぞ?お前があの男に何を見せられたかは知らんが、俺がこの世界でクイントさんの死を招いたのは事実だ!わかってんのか!?」

 

ギンガはアキラの行動と言葉に少し驚かされていたが、少し微笑んだ後にアキラを優しく抱きしめた。

 

「いいよ……例え、誰がアキラ君を否定しても、世界が敵に回ったってアキラ君が好き」

 

「……………ぐ………だったら!」

 

アキラは歯ぎしりをした後、ギンガの唇を奪った。ギンガは目を丸くするが、すぐにそれを受け入れる。少ししてからアキラは口を離した。

 

「急にこんなことする奴を、お前は…」

 

「好きだよ………ねぇどうして嫌われようとしてるの?あの時言ったじゃない。一緒に幸せになるって……」

 

「確かにそう言ったが………俺は…」

 

「アキラ君は、私のこと嫌い?」

 

今度はアキラから抱きしめる。

 

「好きだ……大好きだ!!いや、好きだった!ずっと前から…大好きだったんだ!でも幸せになるのが怖くて…本当に幸せになっていいのかって……俺みたいなろくでなし、本当は死んだ方が……いいじゃないかって、そんなことばっか考えて…でもギンガが好きな気持ちに変わりなかったから………」

 

気づくとアキラは瞳から涙を零していた。ギンガは抱きしめられた状態でアキラの頭を撫でてやる。撫でられたアキラは、その時今まで抑えていた感情が溢れ出し子供のように泣きじゃくった。

 

子供をあやす様にギンガは抱きしめる。

 

「よしよし、もう、後ろを向いて過去に囚われるのはお終い。一緒に楽しい未来を作ってこう…?」

 

「………うん」

 

「良かった」

 

ギンガはホッとため息をつくと、アキラの右手を掴み自らの胸に持って行った。自分が触らせられた物が何か気づくと、アキラは声に鳴らない声をあげる。

 

「〜〜〜〜〜〜!!?!!!?」

 

「ねぇ…これから……」

 

ギンガはもう「行為」に移る気だった。アキラは困惑する。ギンガの行動にも困惑はしていたが、それより何よりアキラ自身が「行為」についての知識を持ち合わせていなかったのだ。

 

しかし今アキラは気づいていないが、知らず知らずのうちにアキラはギンガとの行為を拒んでいなかったのだ。

 

ギンガの目は本気。アキラは息を飲む。いつまでもこんな空気でいるわけにもいかない。アキラは覚悟した………その時……っ!

 

「アキラくーん!!いつまで入ってるの〜!そろそろ入りたいんだけど〜」

 

スバルだ。

 

「ああ、すまない。すぐに出るから居間にでも行っててくれ」

 

「………早くね〜」

 

アキラはギンガを抱きしめ、撫でる。

 

「ごめん、まだこういうのは……」

 

「うん、こちらこそごめんね、急過ぎたみたい……じゃあ、居間でお茶でも淹れて待ってるから」

 

ギンガはスバルがいないことを確認すると服を着て、そそくさと自室に戻って行った。アキラはシャワーを頭から浴びる。鏡で自分の顔を見る……何か変わった気がした。

 

瞳に、光が戻った気がする。表情がつけやすくなったのか……。

 

「ギンガ………」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー居間ー

 

 

スバルが風呂に入り、居間にはアキラとギンガの二人だけ。妙に変な空気が流れる。何を話すでもなく、見つめ合うだけでもなく、同じソファーに座っているだけだった。

 

「……」

 

「…………」

 

(どうしよう…告白出来たのはいいけど……それからのこと考えてなかったよ〜〜!どうしたらいいんだろう…何か話題………今日はいい天気だね?今は夜!!………ん?夜?)

 

ギンガは急に立ち上がりアキラの手を取った。

 

「ん?」

 

「外に行こう!星がうちの庭からよく見えるんだ!」

 

 

ーナカジマ家 庭ー

 

 

なんとか話題が見つけたくて外に連れ出し、星を見ようと思ったギンガだったが空は見事にギンガを裏切り、曇りであった。ギンガが唖然としているさなか、アキラはその横で黙っている。

 

流石にどうしようもなくなったギンガがアキラを連れて家に戻ろうとした時、

 

「懐かしいな」

 

「え?」

 

「昔さ、クイントさんがお前と同じこと言って外に連れてかれたが、今日と同じで曇りだったんだ。なんかそれ思い出して………」

 

ギンガは庭にあるベンチに座った。夜風は冷たいが、外にいたい気分になったのだ。

 

「……となり、いいか」

 

「寄り添ってくれるなら」

 

アキラはギンガの隣に座り、寄り添う。ギンガはアキラの腕に抱きつき、頭をアキラの肩に預ける。アキラはそっとギンガの手に自分の手を重ねる。

 

「ねぇ、一緒に…暮さない?」

 

「あ?」

 

「アキラ君のこと、もっと知りたいし、一緒にいたい。ずっと一人だったんでしょ?もう、一人でいる理由なんかないじゃない……。アキラ君は、嫌?」

 

アキラは少し考え、ギンガの頭を撫でた。

 

「ごめん、ちょっと考えさせてくれ」

 

すぐに帰ってくると思った返事は意外なものだった。ギンガは少し落ち込んだが、それはすぐにどうでもよくなった。今は何より、アキラがそばにいてくれることが幸せだった。

 

 

続く

 

 



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第二十七話 開始

遅くなってすいません…日付的に間に合わせるので誠意一杯でした……。原因はpso2を始めたことです。では、本編をどうぞ…………

次回は恐らく20日後です。10日後にイノセントの方をupします


ーナカジマ家 ギンガの部屋 AM 4:00ー

 

 

早朝。アキラはこの部屋で目覚めた。前日の夜、ギンガに告白され、それを受け入れたアキラは夜ギンガの部屋で寝ることになった。ギンガはベッドで、アキラは客用の敷布団をベッドの隣に敷いて寝た。アキラは、一緒に暮らそうと言われたが、アキラはまだその決心がつけられないでいる。

 

愛する者の側にいれるのは嬉しい筈なのに、なぜ…………。

 

(いま何時だろうな…もうそろそろ目ぇ開けるか)

 

アキラが寝る前に枕元に置いておいた腕時計を取ろうと腕を伸ばす。その瞬間、何か柔らかいものに触れた。一体何に……もちろん柔らかいものを布団にいれて寝た記憶もない。

 

アキラはゆっくり目を開けた。

 

すると、目の前にはギンガの寝顔がある。そしてアキラの手はギンガの胸を掴んでいた。

 

「!?!?!?!?!??」

 

目の前で起きている事態に把握が出来ず、アキラは焦りまくる。一分ほど焦って、ようやく落ち着きを取り戻す。

 

(待て待て、なに焦ってんだ俺は…………いつギンガが入って来たか分からんが、とにかく布団を出よう。起きたんだし、いつまでも布団の中にいる意味はない…)

 

状況を冷静に判断し、アキラはギンガを起こさないように布団から這い出ようとした………が、ギンガがアキラの服の裾を掴んで離さなかった。アキラは一瞬、ギンガが起きているのかと思い、顔を見る。

 

だが、ギンガはよく寝ていた。無意識に身体が動いたのだろうか……。引き離そうとするが、ギンガ離してくれそうにない。アキラはやりたいことがあったので、仕方なく上着を脱いでギンガの部屋を後にした。

 

出て行く直前、何となく罪悪感を感じたアキラはギンガの頭を軽く撫でてやる。すると、僅かにだがギンガが笑顔になった気がした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ーAM 7:00ー

 

 

「ん……うぅ…」

 

朝、ギンガは何か良い匂いで起きた。甘いような香ばしいような香り。昨夜、アキラが完全に寝てから侵入した布団にアキラの姿はない。ギンガはアキラに何と言われるか少し緊張しながらも立ち上がり、居間に向かった。

 

階段を降り、居間のドアを開ける。

 

「ああ、おはよう」

 

声のした方を向くと、そこにはエプロン姿のアキラが立っていた。しかも何か台所で作っている。

 

「なに作ってるの?アキラ君」

 

「まぁ、座って待っててくれもうすぐできるから」

 

「うん……」

 

言われるがまま、ギンガは食卓に座る。少しすると、アキラが何か器にいれてギンガの前に置いた。

 

「フルーツコンソメスープだ。身体もあったまる」

 

「フ、フルーツ?」

 

スープの色はコンソメスープの様だが、具としてリンゴと鳥肉のような物が入っている。ギンガが説明を要求する目でアキラを見ると、アキラはそれを察して説明する。

 

「まぁ、心配だと思うが食って見てくれ。リンゴ、バナナ、桃を効かせたスープと、リンゴのシナモン風味と鴨肉のオレンジ漬けだ。甘みは抑えて旨味を引き出してるから、そこまで変な味はしない筈だ」

 

ギンガは恐る恐る飲んで見る。そのスープはギンガの予想に反して、とても美味しかった。ギンガは思わず歓喜する。

 

「あ、美味しい!」

 

「そうか……良かった」

 

「それにしても、どうして急にこんなの作ったの?料理する様には見えないけど……」

 

「ははっだろうな。…………料理については、義兄貴から結構学んだ。学んだのは基礎的な事だけだが、セシルが料理作れ作れ五月蝿くてな。なんやかんやで上達しちまった。それから、これを作ったのは、これから世話になる家族にちょっとは役に立つって見せておきたかったから……かな」

 

ギンガは一通り聞くと一瞬流しかけたが、アキラの言葉の意味に気づき、顔を上げた。

 

「これからお世話になるってアキラ君もしかして………」

 

「ああ………ギンガ、俺はここで暮らさせてもらう。いいか?」

 

「……もちろん!」

 

ギンガはにっこり笑う。それを見ると、アキラも笑顔になる。アキラの心が少しあったかくなった気がした。それと同時に、寝ぼけ眼のスバルが今のドアを開けた。

 

ギンガと同じで、スープの匂いを嗅ぎつけてきた様だ。

 

「なんかいい匂いがする〜」

 

「フルーツスープだ。飲むか?」

 

こんなあったかい、普通の家族のような生活を出来るかもしれないと思うと、アキラもこれからが楽しみだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー陸士108部隊ー

 

 

アキラとギンガは朝食をとってから、そのまま陸士108部隊に向かう。いつもより少し早くついたロビーはいつもより空いていた。アキラ達がそれぞれの席に向かおうとすると、急にアナウンスがかかる。

 

ゲンヤが応接間で呼んでいるとのことだった。

 

 

「失礼します」

 

「入るぜ」

 

「おお、よく来たな」

 

「ギンガ、アキラ、久しぶりや〜」

 

応接間にはゲンヤと八神はやてがいる。

 

「珍しい客だな」

 

「うん、実はまたお二人の力が借りたくてな〜」

 

「何かあったんですか?」

 

「まぁ、何はともあれ…これを見てくれ」

 

ゲンヤはアキラとギンガを座らせ、とあるデータを見せた。データの頭には「連続辻斬り事件資料」と書かれている。ゲンヤが事件に関する写真を表示した。それは、死体の写真だった。ギンガは一瞬口を押さえる。死体…というのは酷すぎるものだったからだ。人としての形は部分部分にしか残っていない。死体と言うか、肉塊に近い物だった。

 

「これは」

 

「ここ最近起きている辻斬り事件の遺体の写真だ。襲われた人間は、殺され、バラバラにされ……奪われる」

 

「……何を」

 

「過去の人間の力を宿らせた、ジーンリンカーコアを」

 

アキラは一瞬驚くが、すぐに冷静になる。

 

「つまり、無差別ではなく、ジーンリンカーコアを持った人間はのみが襲われると?」

 

ゲンヤとはやては頷く。

 

「ああ、事件が起きているのが六課の隊舎と俺らの隊舎の付近が最も多いってことで俺らに事件に当たれと指令がでた。今んとこわかってるジーンリンカーコアを体内に持っている民間人は保護してある」

 

ギンガはそこでふと思い出す。メグのことだ。彼女の体内にもジーンリンカーコアがある。しかもメグはJS事件依頼、身体にまだ馴染んでいないためほとんど戦えない状況だ。

 

「メグは!?メグは保護されてますか!?」

 

「実は…今日は有給の申し込みがあってから連絡が取れてないんだ。だから、お前たちにこれからメグ・ヴァルチの捜索、及び保護に向かわせる。見つけたら、この施設に連れていってやれ」

 

そういってゲンヤはアキラ達に保護した人達を隔離した施設の住所が書いてあるデータを渡した。

 

「じゃあ、行ってくるぜ」

 

「行ってきます!」

 

二人は急いでメグの家へ向かう。

 

 

ーメグ・ヴァルチ 自宅ー

 

 

メグはマンションに住んでいた。インターフォンを鳴らしてもメグは出てこない。アキラ達は管理人に話を通してメグの部屋に入れてもらった。部屋にはメグの姿はない。

 

死体もないことに二人は少し安堵する。だが、家にいないとなるとどこを探しに行けばいいか、検討がつかなくなる。

 

とりあえず二人は部屋の中に何か手がかりがないか探した。

 

「特に何もないな……ていうか、地味に部屋が片付いてやがる」

 

「メグ、ああ見えて綺麗好きだからねぇ…………あ、アキラ君!」

 

 

「どうした!!」

 

「カレンダー!」

 

ギンガはカレンダーの今日の日付を指差す。そこには「ミッドショッピングモールで買い物!」と書いてあった。アキラはギンガの手をとり、走り出す。

 

「ご協力、ありがとうございます!!」

 

「あ、ありがとうございましたぁぁぁぁぁ〜……」

 

礼儀正しくアキラは管理人に礼を言った後、ギンガをお姫様抱っこで抱え、メグの住んでいるマンションの14階から飛び降りた。ギンガは思わず悲鳴を上げる。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「安心してくれ……死にはしない」

 

アキラがそう言うには心配はないのだろうが、やはり怖くはある。ギンガは目を瞑った。すると、いきなりエンジン音が聞こえたかと思うと、落下時に下から受けていた風はなくなっていた。

 

目を開けると、いつのまにかギンガもアキラもバイクの上にいる。無事に着地もしている。

 

「一体何が起きたの……?」

 

「このバイクの、自動操縦モードで空中で受け止めてもらった。ほとんど衝撃もなかったろ」

 

「うん……」

 

「ほら、ヘルメット。急いでショッピングモールに向かうぞ」

 

 

ーミッドショッピングモールー

 

 

ショッピングモールでは、両手に買い物バッグを持ったメグが満足そうな笑顔で歩きながら鼻歌を歌っていた。前からこのショッピングモール全体で起こるセール日を待っていたのだ。

 

「さぁて、次はどこに行くかな〜……ん?」

 

ショッピングモール内でエンジン音が響いて来たのだ。メグも、辺りの客も音源を探して見渡すが何もない。だが、音はどんどん近づいてくる。かなり近くなった所でようやく音のする方向がわかった。

 

メグが目を凝らすと、バイクに乗ったアキラとギンガがこちらに来るではないか。

 

「!?」

 

「メグゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

バイクはメグの前で止まった。

 

「無事か!!」

 

「ちょっとあんたら!なにやってんの!」

 

「メグ、私が降りるからアキラ君のバイクに乗って!」

 

「はぁ?ギンガなにいって……」

 

「いいから!」

 

メグは無理やりヘルメットを被らされ、バイクに載せられた。

 

「しっかり捕まってろよ!」

 

「待って!買い物バッグとか持ったままだし………」

 

「私が後で家においてくるから、あ、鍵借りるね」

 

「そうじゃなくってぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」

 

アキラはバインドでメグと自分の身体を離れないようにした後、メグの意見を聞かずにバイクを強制発進させる。メグは最後まで何かを言おうとしていたがアキラに連れ去られ、ギンガはその言葉を聞けなかった。しかし、ギンガにとっての最優先行動はメグを連れていかせることだったので、あまり気にしていなかった。

 

ギンガはアキラなら無事にメグを届けてくれるだろうと信じ、メグが落として行ったバッグを拾いってメグの家に向かった。

 

 

 

ー道中 メグとアキラー

 

 

「ちょっとアキラ!」

 

「事情は後で話す!今はとにかく言う通りにしてくれ!」

 

「あんたの達の目的って今騒ぎになってる連続辻斬り事件?」

 

「知ってんのか!?なら話は早い!いいか、犯人の狙いは…」

 

「ジーンリンカーコアでしょ!?知ってる!被害者は全員、私のかつての知り合いだった!もうかつて戦友だった奴は全員死んだわ!だから、次の標的はきっと私!」

 

メグは事件についてかなり理解をしていた。それどころか、自分が標的なのもしっかり理解し、次の標的まで予測していた。

 

「お前知っててなんで出歩いたり…」

 

「犯人はいつも被害者を自宅で殺してる。被害者の行動を見る限り…チャンスはいくらでもあったのに……だから、人混みにいれば……アキラ?どうしたの?」

 

「………おい、待て」

 

犯人は人を容赦なく殺す、自宅で、人混みを嫌う、狙うとしたら自宅に帰ってきた時……。総合すると、今最も危険なのはメグではない。メグの家に向かっているギンガだ。

 

アキラはバイクを急停車させ、一気にUターンする。そしてアクセル全開で走り出した。

 

「戻るぞ!」

 

「え!?」

 

まだアキラの考えを理解できてないメグは混乱するばかり。

 

「いいから!ギンガが危ない!犯人がどうやってジーンリンカーコアを持った人間を特定しているかはわからん!だが、もし持っている人間の家にいる人間を襲うのであれば…今お前の家に向かっている、ギンガが殺される可能性もある!!」

 

「……確率は低いけど、そうなる可能性もなくはないわね……」

 

「飛ばすぞ!!!」

 

 

一方のギンガは、合鍵を持って家に入る前だった。マンションの自動ドアを開け、十四階に住んでいるメグの部屋に行くためにエレベーターに乗った。

 

ギンガがちょうど五階くらいまで上がったところであろうか、アキラ達も到着する。

 

「背中に掴まれ!」

 

「え?うん…」

 

アキラはワイヤー銃を取り出す。銃口から、先端が逆さまに棘がついているワイヤーが勢い良く発射され、命中した所に引っかかり、そのままワイヤーを巻き取る事で、上に上がれる仕組みだ。

 

「お前の住んでいる部屋は!どの窓だ!?」

 

「ほら、あそこのクマのぬいぐるみがある部屋!あんたなら見えるでしょ!」

 

「ああ!後で弁償するから許せよ!窓割るぜ!」

 

アキラは部屋の窓に向けてワイヤーを放った。ワイヤーの先端はうまい感じに窓を突き破り、窓際に引っかかった。

 

「しっかり捕まっとけよ!」

 

アキラはワイヤーを巻き取る。二人背負っているにしては早く巻きとってくれた。アキラ達はメグの部屋に入り込む。幸い、まだギンガはついていなかった。

 

「はぁ、はぁ、しかし、さっきも思ったがずいぶん高そうなとこに住んでんだな」

 

「あたしなら、これくらいでちょうどいいでしょ」

 

妙に落ち着いた会話をしていると、鍵を開ける音がした。

 

「来たか」

 

「ふー……ってあれ!?アキラ君!?」

 

「ギンガ、急いでこの場を離れるぞ」

 

「?」

 

ギンガが何を言われているのか混乱している途中、アキラの後ろにいるメグの背後に、誰かがいるのを見てしまった。ギンガは反射的に叫んだ。

 

「メグ!!!!!後ろ!!」

 

「!?」

 

アキラも急いで振り返る。メグの背後には、フード付きのマントのように汚い布を被った子供のような体型の物が刀を抜き、メグを背後から襲おうとしていた。

 

 

「メグ!!!!!」

 

 

 

続く

 



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第二十八話 会敵

10日間って早い。これから事態が急展開を迎えて行きます。お楽しみに!次回は五日後!23日です!

感想、コメント、投票、お気に入り随時募集中です!!


「ぐうぅ…」

 

「あ…アキラ君!!」

 

連続辻斬り事件の犯人からメグを守るためにアキラは自らの左腕を盾に、相手の刀を防いだ。マリエルが、守る為の腕にしてくれた為アキラの腕に刀が軽く刺さっただけで重症にはならなかったが、やはり痛みはある。アキラはその痛みに耐えながらメグを抱えて敵と距離をとる。

 

ギンガは立ち尽くしていた。突然目の前に例の事件の犯人が飛び込んできて襲いかかってきたのに驚いたのもあるが、何よりも、その相手が……子供だということだ。見た目、九歳か十歳くらいだろうか。薄汚れたフード付きのマントを羽織り、バイザーで目の部分を隠している。マントが全身を隠しているので、性別はわからないが恐らく男の子だろう。

 

「てめぇか!!ここ最近の辻斬り事件の犯人は!」

 

返事はない。アキラは刀を抜き、構えた。

 

「ギンガ、バイクの運転は?」

 

「えっと、一応免許は持ってるけど……」

 

「じゃあ、メグ連れて逃げろ」

 

アキラはバイクの鍵を投げる。ギンガはそれを受け取り、メグの手をとって部屋から飛び出した。

 

「ちょっと!部屋の物は壊さないでよ〜!!」

 

メグは最後まで何か言っていたが、アキラは目の前の敵に集中していた。いや、戸惑っていた。犯人はどうせ、妙なことを考えてるイカレた科学者だとか何かのテロ集団かと思っていたが、こんな子供とは…。スカリエッティは自分は動かず戦闘機人を使ったが、戦闘機人もそこそこ成長していて子供とは言えなかった。

 

だが、ここまで子供だと裏に犯人がいるのかもわかり辛くなる。自分の様に、子供の頃から人並み以上の戦闘力を持ち、普通の人間を恨んでいる子供もいる。

 

「お前の目的はなんだ!なぜこんな事をする!!!」

 

「………」

 

少年は刀で衝撃波をいきなり飛ばしてきた。アキラは慌ててガードを張る。

 

「!!」

 

その衝撃波は予想を大きく上回っていた。アキラはガードを破られ、壁に叩きつけられる。その隙に少年は窓から飛び出し、ギンガ達を追いかけた。

 

「くっ!逃がすかよ!!」

 

 

ー駐車場ー

 

 

ギンガはアキラから受け取った鍵をバイクに射し、エンジンをかけた直後だった。少年がメグの部屋から飛び降りてきた。ギンガは慌ててバイクから離れる。魔力の力で着地の衝撃を和らげ、少年はメグに近寄る。

 

「………回収させてもらう」

 

「……ブリッツギャリバー!」

 

ギンガはバリアジャケットを纏い、メグの前に立つ。それと同時にアキラもメグの部屋から飛び降りてきた。アキラは刀の切っ先を少年に向けて行った。

 

「ガキを斬ると寝覚めが悪い。さっさと武器を捨てて投降しろ。悪いようにはしねぇよ」

 

「…………」

 

少年がしばらく動かないでいるかと思いきや、突然少年の姿が消える。まるで、空気に溶けるように。アキラとギンガは慌てて構えた………が、もう遅かった。アキラの右膝と右手首が切り裂かれる。アキラが痛みに気づいたのは血が吹き出してからだった。

 

「ぐっ!?」

 

アキラは跪く。

 

「アキr」

 

次の瞬間、ギンガは蹴り飛ばされ、メグを巻き添えに吹っ飛んだ。吹っ飛んだ二人に少年は少しずつ近づいていく。アキラは溢れ出る腕の血を押さえながらECディバイダーを取り出した。そして、リアクトをして傷の痛みを誤魔化しつつディバイダーを持って少年に斬りかかった。足が切られているので、左足の力だけでひとっ飛びに。

 

「おおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「……………」

 

アキラの一撃を少年は左手で出現させた強力なシールドで防ぐ。アキラは目を疑った。

 

その少年の片手には指のまたにジーンリンカーコアを挟み、計4つのジーンリンカーコアから発せられる魔力で作ったシールドで防いでいたのだ。通常、ジーンリンカーコアは魂のない身体を動かす程の魔力を持つもの。ジーンリンカーコアの中に過去の人間の魂が無くても、大の大人が一つ制御するのが限界のはず。

 

それを彼は四つも同時にコントロールしているのだ。普通だったら使いきれてない魔力が身体に溜まり、空気の溜まった風船が割れる様に、気を失う等何か症状が出ておかしくない筈だ。

 

(やはり、こいつただの人間じゃ………)

 

アキラが一旦離れようとした時、少年は一瞬でアキラの懐に左腕をぶつけた。アキラはそれを食らった瞬間気を失い、倒れた。

 

「アキラ君!!」

 

ギンガが立ち上がろうとすると、ギンガの首に刀が向けられる。

 

「そこを退け。回収の邪魔だ」

 

「…………っ!」

 

ギンガはすこしうろたえるがすぐに強気な顔になり、メグを抱き抱えて走り出す。

 

「…余計なマネを」

 

少年はジーンリンカーコアをより強く輝かせ、魔力放出量を上げた。そして、ギンガのブリッツギャリバーの倍以上のスピードでギンガを追い越し、目の前に立ちはだかる。

 

ギンガは慌てて構え直し、戦闘体制に入るが遅い。ギンガは気づかぬ内に背後を取られ、左肩に刃が迫っていた。痛みを少しでも軽減させようと、ギンガは体を無理に捻らせ、歯を食いしばった。…が、痛みはない。

 

「…あれ?」

 

見ると、少年の刀はギンガの肩のギリギリで寸止めされていた。少年はバイザー越しに困惑の表情を浮かべたつもりだが、表情は変わってない。その後、二回刀を振るがいずれも寸止めで終わった。

 

「何故だ…」

 

ギンガもなにが起こっているかわからず、すこしの間動けなかった。だが、すぐにメグを守る使命を思いだしてメグの手を掴んでバイクに向かって走りだす。

 

それを少年が追いかけようとしたが、少年の耳についている通信機に連絡が入った。

 

『追撃は無用だ。それに、彼女は守りが固いからまた今度にしよう』

 

少年は命令に従い、なにも言わずその場から消えた。

 

 

―とある研究所―

 

 

 

「……魂は違えど肉体は同じ…目を通して見てきた記憶が、身体に焼き付いたか?」

 

男は興味深そうに呟いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「……………うん?」

 

暖かな感触と、優しい匂い。自分の頭を撫でててくれる手。僅かに聞こえる人の話し声と自分の近くにいる人のため息の声。アキラはそれらの感覚で目を覚ました。

 

「ギンガ………?」

 

「アキラ君!目覚めた!?」

 

アキラが声をかけると、ギンガは今にも泣きそうな顔でアキラを抱きしめた。

 

「ホッとした………良かった」

 

「……ごめんな、心配かけて………あいつは?」

 

「アキラ君が倒れてから必死に逃げてたら何時の間にかいなくなってた。ごめんね、気を失ってたアキラ君置いて行っちゃって……」

 

ギンガは申し訳なさそうに謝罪する。アキラは少し微笑んでギンガの頭を撫でた。

 

「メグは守れたんだろ?ならそれで十分だ。…それよりここは?」

 

アキラは自分がいる場所に見覚えはなかった。病院の天井なら嫌になるくらい見たが、ここは初めて見る景色だ。窓がなく、天井から床まで一面コンクリート。部屋の大きさは四畳半と言ったところか。

 

「ジーンリンカーコアを宿した人の避難場所の一部屋。お医者さんもいたから、アキラ君診てもらったの。気を失ってるだけで大したことないって。傷ももうほとんど治ってるって」

 

「そうか…」

 

 

ー機動六課ー

 

 

アキラはその後、機動六課に出向いて報告会を始めた。ギンガももちろんついてくる。久々に会う面々に再開の言葉をかける前に会議は始まる。アキラは全員の前で立ち、ブリッツギャリバーが戦闘中に撮影してくれていたあの少年の画像をプロジェクターで表示しながら詳しく状況を説明した。

 

「以上が俺の体験した先程の状況です。人並み以上の運動神経、魔力、これらのことから彼は誰かの作った人口魔導師だと思われます」

 

アキラは一通り説明を終えると、一拍開けてから言う。

 

「彼はジーンリンカーコアを持っている。とても危険な存在です。もし遭遇した場合は、決して一人で倒そうとは思わず、万が一戦闘が開始されたとしても、無理はしないでください。そして……見つけた場合は、すぐに俺に連絡を」

 

一瞬周囲が騒ついたが、アキラは何も言わず会議室を出て行った。ギンガはすぐに追いかける。

 

「アキラ君、今のは何?報告書に書いてなかったよ?」

 

「単なる俺の予想ではあるが……念のためだ」

 

アキラは小さく呟く。その表情は、どこか怒りを感じるような表情だった。

 

 

ー海上留置場ー

 

 

アキラとギンガは六課とのミーティングを終えると昼食をとって、自分たちの本来の仕事に戻った。今日はセッテを連れて街に行く日だった。社会見学のような物で、ナンバーズの上から順にやって行っている。先週はセイン、先々週はチンクでさらにその前はウーノだった。

 

意外とナンバーズの反応は可愛らしい物で始めて見るものに関しては目を輝かせていた。特にチンクは見た目のこともあってとても可愛らしかった。

 

だが、セッテは感情表現がうまくできないのか、常に無口、無表情でいる。何を見せても興味を示しているのかいないのか、よくわからなかった。

 

「本当に感情が少ないんだな」

 

セッテはそれを特にコンプレックスとして感じている訳でもなく、無感情に対応する。

 

「そういう風に作られましたから」

 

だが、表情に出ていないだけで、実はこの社会見学を楽しんでいた。アキラもギンガも、それを何となく感じ取ってはいた。次に向かう場所は映画館。セッテが一番気になっていたところだ。ありがちな恋愛映画だが、セッテは恋愛という感情に最も興味を持っていた。これだけは他人に聞いてもよくわからないからだ。

 

そして、映画館目指してとある交差点を歩いていた時、アキラは誰かと肩をぶつけた。

 

「あっとごめんよ」

 

「あ、すみませ…」

 

ぶつかった人物の顔を見た瞬間、アキラは立ち止まる。

 

横断歩道のど真ん中にいきなり立ち止まったアキラを見て、ギンガは変に思い、セッテを先にいかせてアキラの手を取った。

 

「アキラ君どうし……」

 

その瞬間、アキラの手を通して…いや、手を通さなくても魔力のオーラでわかった。アキラは強い殺気を放っている。アキラは一点を見つめながら黙っていた。ギンガは一度この殺気を感じたことがあった。始めて、あの森で出会った時に纏っていた憎悪の感情とよく似ている。そんなアキラに恐れを感じていると、アキラは小さな声でいった。

 

「てよ………」

 

「アキラ君?」

 

 

「待てよこのクソ野郎!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

その場にいる人間が全員止まるような声。アキラが叫ぶと、先程のぶつかった、メガネを掛けた男が振り返る。

 

「待てと言うのは、僕のことかい?」

 

「……………」

 

アキラは懐に手を入れ、手榴弾を出した。ギンガは驚く。

 

「アキラ君!?」

 

一般人もいるのに、アキラは躊躇なく手榴弾の栓を抜き、レバーを外して手榴弾を投げた。ギンガは急すぎて動かせなかった身体のかわりに全力で叫んだ。

 

「伏せて!!!!!!」

 

声が響いたのと同時に、手榴弾が爆発する。手榴弾からは煙幕が広範囲に渡って広がった。手榴弾を投げられた男は特に焦る様子もない。

 

「おやおや、派手にやるねぇ」

 

その刹那、男の死角からアキラが刀を振りかざして飛び出した。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

男はアキラの攻撃を躱し、アキラの腕を蹴り上げる。刀がアキラの腕から吹っ飛び、アキラの後方にの地面に突き刺さる。

 

「ダメだよぉ、アキラ君。殺したいならもっと潜まなきゃ。にしてもまだ怒ってたんだねぇ……まぁだいたい予想通りだけど、一般じ」

 

話が終わる前にアキラは懐刀を取り出して男の首に斬りかかった。男はアキラの手首を掴んで軌道を逸らす。そしてアキラの鳩尾に膝蹴りを入れた。アキラは二三歩下がり、しゃがみ込む。

 

「ふぅ、冷静さの欠けた攻撃は対処が簡単で助かるよ」

 

「てめぇ………」

 

「アキラ君!」

 

ちょうどアキラが再び立ち上がった時、ギンガとセッテが煙幕の中からアキラを見つけてアキラを支える。

 

「どうしたの急に!」

 

「お前はこんなことをする人間では無いだろう!こいつを殺す気か!?」

 

セッテが聞くと、アキラは……何と頷いた。ギンガは驚きを隠せなかった。

 

「こいつだけは許さねぇ………」

 

「……よせ」

 

セッテがアキラを抑える。説得しても無駄な確率は高いと見たセッテはアキラの落とした刀を掴んで地面から抜いた。そして、アキラの前に立つ。デバイスが無くても戦闘出来る自信がセッテにはあった。

 

「お前は人殺しをするのはダメだ。お前が檻に入ったらまだ教えて欲しいことが教われなくなる。だから………もし、どうしても殺さなければならないのなら……もうしないと決めたが…………私が殺る」

 

セッテは自由を奪われる覚悟を持って刀を握った。しかしアキラがその刀をひったくる。

 

「待てと言っている」

 

「ダメなんだよお前じゃ……お前が殺しても意味ないんだよ」

 

「え………?」

 

あまり言いたくなかったが、アキラは話ことにした。この男のことを。歯を食いしばり、笑顔で三人を見守っている男の方を向いてアキラは口を開く。

 

「こいつは、俺を作り、セシルを誘拐した張本人…………ウィード・スタリウ」

 

 

 

 

続く

 

 



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第二十九話 消失

明け方に投稿できなくてすいません!皆さん、シルバーウィークは楽しかったですか!?今回は文字ばっかでわかり辛くてすいません!ご要望があればなにがどうしてどうなったのか、詳しく説明する辞典を番外編で入れます!次回は一週間後です!お楽しみに!

お気に入り、コメント、投票随時募集中です!


「うん、覚えててくれて嬉しいよ、橘アキラ君」

 

幸せな時間の中に訪れた災い。アキラの敵で、これから人類の敵になる男。ウィード。

 

「今にうちに辞世の句を言っとけよ………二秒待ってるやる」

 

「ふむ…辞世の句ねぇ」

 

ウィードが顎に指を置き、考え出した瞬間アキラは刀を持って斬りかかった。しかし、その瞬間二人の間に何者かが入り込み、アキラの刀をシールドで防ぐ。

 

「やぁ、お疲れ」

 

攻撃を防いだのは、フードの少年だった。アキラは少年ごと倒そうと、刀を押し進める。

 

「邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

アキラはもう完全に理性を失っていた。後ろでギンガとセッテがなにか叫んでいるような気がした。だが、アキラの耳には何も聞こえない。少年が出したシールドは徐々にヒビが入り、最終的に砕かれた。

 

「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アキラは怯んだ少年を叩き切ろうとした、というか殺す気でいた。ウィードに味方するものは全て敵に見えていた。そのアキラに殺しをさせないためにギンガとセッテは直前でアキラの服を引っ張る。アキラは少し下がらされ、刀は少年の顔を隠していたバイザーに当たる。

 

それによって、バイザーが割れて少年の顔が晒されるとアキラは目を疑った。少年の正体は、幼い頃のアキラそっくりだったからだ。

 

「なっ……………」

 

もう一人のアキラは刀を構えながら立ち上がると、正体がバレたせいかフードを取る。マントの中に入り込んだ長い後ろ髪を外に出すと、抑えてた前髪も顔にかかる。かつてアキラが見えない右目を覆い隠す為に前髪を頬まで伸ばしてたのと同じように、顔全体を隠すくらい長かった。

 

そして、アキラは右目の黒の部分が白濁しているが少年の場合は左目で、右目は黄色く光り輝いていた。

 

「あの目…」

 

「そうか…JS事件で俺の身体を一度乗っ取ったのはテメェか……」

 

アキラがそのことに気づくとウィードが拍手をした。

 

「うん、ご名答。アキラ君、僕は君の身体が欲しかったんだ。だから君の半身の彼を使った」

 

「半身?」

 

アキラがウィードの発言に疑問を抱いている表情を見せる。ウィードは一瞬、何故疑問に思ってるかわからないという表情を見せていたが、すぐに気づく。

 

「ああ、そうか!君は覚えていないのかぁ!なるほどなるほど、覚えてないなら納得だ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

数年前、僕は研究所で暴走した君に殺されかけたが、命からがら研究所を脱出した。

 

だが、君に腕を落とされた僕はそう遠くにも行けず、すぐ倒れたんだ。そこを偶然通りかかったスカリエッティの手下の戦闘機人に拾われたんだ。まぁ、知識を貸すから助けろって言ったんだけどね。

 

そして僕はスカリエッティにとある研究所を任された。悪くない生活だったが、そこについてから二年…管理局がその研究所を嗅ぎつけて襲撃してきた。あれ?偵察だったかな?まぁどっちにしろ応戦したんだ。僕はまだその頃知識しか他人に勝るものがなかったからね。すぐに脱出しようとしたんだ。戦闘機人とガジェットが管理局の人間を倒してくれたらすぐ戻ろうと思って。

 

そしたらその道中、幼い姿の橘アキラ君、君を見つけたんだ。君自身を庇い、死んでしまったクイント・ナカジマの遺体を抱きしめ、泣いてた……これは僕の推論だが、おそらく君はその時自分に絶望していたんだと思うよ。深い後悔、憎しみ、自分に対する怒り………それらが自分の身体に溜まり切った瞬間、君は精神崩壊を起こしていただろう。

 

君は自身の精神を守るため、近くの培養機に入っていた研究中の少年のを培養機から取り出し、自分の右目にその負の感情、一部の記憶を左手の力で魔力という形にして視力と一緒にその少年に移したんだ。その後君は、クイント・ナカジマの遺体を抱きしめたまま暴走した……。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「そして……その記憶を移された少年が…………」

 

アキラとウィードはもう一人のアキラに視線を移す。

 

「彼だ。記憶を移される前、彼は元々廃棄する予定だった実験台だったが僕は彼を再び培養機に入れ、成長させた。成長するにつれ、彼はどんどん君に似通っていった。そして右目を通して彼は君の体験したこと、学んだことを覚えたんだろうね」

 

ウィードはもう一人のアキラに近寄り、右目の部分の髪を退かした。

 

「さらに僕は彼を改造し、君の身体を乗っ取らせようとした………が、なぜか失敗に終わってね。それから君の身体にアクセス出来なくなるし…だから今回は君を殺してから直接彼の意識を移そうと思ってね」

 

 

アキラは冷や汗を垂らしていた。負の感情を抱いた自分、それが自分の身体を乗っ取ろうとした。もし乗っ取られたら…。自身過剰な訳ではないが、もしそれが人々を襲ったら確実に死人が出るだろう。

 

「テメェ…何が目的だ………」

 

「………研究だよ。最高傑作を作るための……アキラ君、君は僕の最高傑作になるべきだったんだ…なのに暴走してくれたお陰で完成が遅れたけどね」

 

「仮に俺がお前のいう最高傑作になったらどうするつもりだ」

 

「ん?ああ、力量を図るよ。一般人と管理局を使って…………」

 

「……………っ!!!!」

 

アキラは刀を握ってウィードに斬りかかる。ウィードはそれをひらりと避け、もう一人のアキラが逆に斬りかかった。アキラはそれをかわし、ディバイダーを出現させてもう一人のアキラを撃とうとするが、もう一人のアキラが魔力波でアキラを吹っ飛ばすのが速かった。

 

アキラは壁に叩きつけられる。もう一人のアキラがそれに追い打ちをかけるように斬りかかった。それをアキラはなんとか避け反撃に移ろうとしたが、振り返った先にもう一人の自分はいない。刹那、もう一人のアキラの剣がアキラの肩を切り裂いた。

 

「……………かはっ!」

 

そして、間髪いれずに右足、胸、横腹、腕と次々に斬られて行く。アキラは反撃に移る間もなく、その場に倒れた。

 

「ぐ………あ………」

 

目の前にもう一人の自分が立ち、刀を振り上げる。アキラは軽く死を覚悟した。刀が振り下ろされる直前、ギンガが二人の間に入り込んだ。

 

「ギンガさん!」

 

セッテが近づこうとすると、ギンガはそれを視線で制止させた。

 

「もうやめて!アキラ君!!!」

 

もう一人のアキラは動きを止める。

 

「これは君の本当にしたいことなの?本当はしたくないんじゃないの?だから!私のことが斬れないんでしょ!?アキラ君と今まで過ごしてきた記憶があるから!だったら、アキラ君と同じ思いだってあるはずでしょ!?」

 

「そこを……退け」

 

「退かない…」

 

「退けぇ!!!」

 

「退かない!!!!」

 

もう一人のアキラは完全に動けなくなった。ギンガはもう一人のアキラに宿る、アキラ本人の記憶に賭けている。上手く行けば、アキラ本人と共闘してくれるかもしれない。アキラ本人の、正義の心がを覚えててくれれば…。

 

その様子を見てウィードは後頭部を掻く。

 

(なんだか面倒な展開になってきたなぁ……まぁ、必要なのはアキラ君本人の身体だし………彼女はいいか)

 

ウィードは一瞬でギンガの横に立つ。

 

「!!」

 

「悪いけど、君は邪魔だ」

 

ウィードは左手をギンガの頭にかざす。

 

「おやすみ」

 

「あ…………………」

 

ギンガは倒れる。

 

「ギンガ!」

 

「ギンガさん!!」

 

セッテはアキラの刀を拾い、ウィードを斬ろうとするがウィードは再びひらりと避け、距離をとる。その刹那、ウィードの後頭部に固いものが当たる。なのはのレイジングハートの先端だ。

 

「おや?」

 

「管理局機動六課です。両手を頭の後ろに回し、跪きなさい」

 

「君も」

 

もう一人のアキラの首にバルデッシュを当てながらフェイトが言う。ウィードは言われた通りに両手を頭の後ろに回してその場に跪いた。もう一人のアキラもだ。

 

「やぁ、会えて光栄ですよエースオブエースこと、高町なのはさん。君のことも研究したいよ」

 

「静かに。怪我をしたくなかったら黙っていなさい」

 

「そうも…」

 

ウィードはもう一人のアキラに視線を送る。それが合図となり、もう一人のアキラは一気に懐に手を突っ込み、瓶を取り出だし、瓶を地面に叩きつける。するとウィードともう一人のアキラの足元に魔法陣が展開され、二人は一瞬で魔法陣の中に消える。

 

「シャーリー!追跡は!?」

 

『ダメです!一瞬で反応が消えて…』

 

フェイトとなのはが肩を落としていると、アキラが嗚咽がかった声で叫ぶ声が聞こえた。見ると、血に塗れながら必死にギンガの手を握り叫ぶアキラの姿があった。

 

「ギンガ…ギンガ…しっかりしろ!頼むっ………目を開けてくれ……」

 

 

ー機動六課 医務室ー

 

 

あの後、アキラとギンガは機動六課の医務室に回され、治療を受けた。アキラは無理矢理エクリプスウィルスの自己回復能力を働かせ、なんとか歩けるようにまではなり、今は未だに目覚めないギンガの横に座り、手を握り続けている。

 

そこに、花を持ったフェイトとなのは、はやてがやってきた。アキラは三人に視線すら向けず、ただただギンガを見つめ続けている。

 

「アキラ君」

 

「……………」

 

声をかけても反応がない。なのはが先導してアキラに近寄り、肩を叩いた。アキラはようやく三人の存在に気づいたようで、三人をみた。虚ろな視線で三人の姿を確認するとアキラはまた視線を戻す。

 

「大丈夫?まだ寝てた方がいいんじゃない?」

 

「………………」

 

返事はない。

 

「セッテから聞いたよ?色々、現場の状況」

 

「………………」

 

聞いているのかいないのか、それすら判断し辛い感じだ。なのははアキラの肩を掴み、自分の方を見させる。

 

「ギンガが心配なのはわかるけど、ちゃんと聴いて。ね?公共の場での危険物使用、これは」

 

「管理局員が無許可で行った場合、最低二週間の謹慎処分、それと減給、降格、のいずれかもしくはすべてが伴われる場合がある。そういう書類は全部覚えてる。いちいち言わんでいい」

 

「じゃあなんで…」

 

「奴の名はウィード。スカリエッティと匹敵する天才マッドサイエンティストだ。俺も奴によって作られた……奴は、かつてセシルを誘拐した張本人だ。俺はあいつを許さない。ただそれだけだ」

 

「……でも」

 

なのはが話を続けようとすると、ギンガの手がわずかに動き、小さく声を漏らした。アキラはなのはの手を振りほどき、ギンガの手を掴んだ。

 

「ギンガ!ギンガ!」

 

「んん………んぅ?」

 

ギンガは完全に目を覚ます。アキラはそれを見ると、ホッと安堵のため息を漏らす。瞳にも輝きが戻っていった。なのは達も安心した表情でそれを見守る。

 

「ああ………良かったぁ………心配したぜ………でも良かった、目を覚まして………」

 

「あの………」

 

「ん?」

 

 

 

「あなたは誰ですか?」

 

 

 

「え………………………」

 

場の空気が凍りつく。なんの冗談かとアキラは思った。ギンガは本気の目をしている…………………だが、アキラはギンガがすぐに「なんちゃって」などと可愛らしく言う時を待った………だがその時間と言葉はいつまで待っても来なかった。

 

「あの……そもそもここは…………それに、私は誰?」

 

「…………………」

 

はやてはギンガの横に座り、アキラの肩を叩く。

 

「ほんとに覚えてらんの?ギンガ」

 

「ギンガってわたしですか?ごめんなさい、それすらわからなくて…」

 

アキラはフラリと部屋を出た。フェイトはそれを追いかける。

 

 

―機動六課 訓練所―

 

 

「…」

 

アキラはベンチに座りこむ。

 

それをフェイトは陰ながら見ていた。かける言葉すら見つからなかった。大切な人から見放される悲しさは、だれよりもわかっていたから。アキラは見放された訳ではないが、同じような物だ。

 

「……」

 

「あ……雨」

 

ポツポツと、雨が降ってきた。まるでアキラの気持ちを表してるかの様に。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

機動六課内に、すでに事件の詳細は説明されていた。今回の黒幕、ウィードのこと、もう一人のアキラのこと、ギンガの記憶が奪われたこと。もう一人のアキラには「タイプC」と仮称された。

 

あれからもう一時間ほど経っているがアキラは同じ場所に立ち続けている。その様子は、部隊長室から良く見えた。

 

「………あんな長時間雨に打たれていたら風邪なっちゃうですよ」

 

リインフォースツヴァイがアキラの心配をする。はやても心配している気持ちは一緒だった。だが今は放っておいた。そっとして欲しい時だってあるはずだと思っていたのだ。

 

「せやけど、絶望に負けたらあかんで………頑張って立ち直ってくるんよ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

奴が記憶を持っている。絶対に……人為的に、それもあんな一瞬で記憶を消すなんて不可能だからだ。いや、これはただの推論だ。それでも俺は奴をぶっ飛ばす。必ず、ギンガの記憶を取り戻す!!!

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

今、私は記憶喪失の身だ。かつて私と親交が深かった人達から色々教えてもらった。私のこと、私の家族のこと、橘アキラという人のこと。今の私には説明されてもよくわからない。信用も、し辛い。橘アキラという人は私が「だれ?」と聞いた時にすごくショックを受けていた……。悪いことしちゃったかな。

 

「手……あったかい………ずっと橘さんが握っててくれたのかな……」

 

 

続く

 



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第三十話 傀儡

遅くなりました〜。すいません〜!ギンガが可愛くてつい……。次回は一週間後です!


―とある森の中―

 

 

とある森の中の木の上で、アキラ…いや、タイプCが太い枝に座っていた。ちなみに管理局がつけたタイプCという名前は「クローン」の頭文字をとったものだ。

 

片手に今まで集めたジーンリンカーコアを握り、ウィードに渡された剣にセットしていく。

 

この剣は、ジーンリンカーコアをセットすることでその魔力を使用者に負担をかけることなく使える代物だ。全てのジーンリンカーコアのセットが終わり、クローンは右目を通してアキラの場所を探った。大体の場所が分かると、クローンは魔法陣を展開し、ある場所に向けて魔力放つ。

 

「……魔力結界…展開開始」

 

 

ー同時刻 機動六課ー

 

 

 

「なんだよ…これ…」

 

アキラは驚愕していた。落ち込んで座っていた自分の真後ろに突然結界が張られ、機動六課の隊舎を包んでしまったのだ。しかもただの決壊でない。それは間違いなく拒絶タイプの結界だ。

 

拒絶タイプ。かなりの高等技術魔法でしか展開出来ない結界で、触ればその部分が削り取られる。指で触れば指先が消えるであろう。かなり危険な魔法なため、一般魔導士も高等魔導士も使用するのは禁止されている。

 

「クソッ、内部とも繋がらねぇ…どうすれば…」

 

その時、アキラに脳内に念話が伝わって来た。一文字一文字、丁寧に。恐らく、結界の中からなのは達が全員で一文字ずつ全力で魔力を込めて結界越しに送ったのだろう。

 

「念話?魔……力……発……生…源……観……測………座標……G……28………G-28って確か……」

 

G-28地点。かつてアキラが生まれ、暴走した研究所に隣接した森の筈だ。この結界を作り出せるのは、ジーンリンカーコアを大量に持っているあのクローン意外に思いつかない。

 

機動六課全員が結界の中に閉じ込められた今、頼れる者はいない。いつも使っている刀は隊舎の中だ。アキラは少し考え、駐車場に走った。

 

 

ー駐車場ー

 

 

「良かった、ここまでは侵食されてない…」

 

かなりギリギリだが、アキラのバイクは結界外に出ている。エンジンをかけ、そのまま自宅に向かって走り出した。

 

 

ー結界内ー

 

 

「なのはさん、言われた通りにやりましたが……」

 

「この結界、そんなに危険なんですか?」

 

唯一外にいたアキラに対し、念話で言葉を送った後、エリオとキャロがなのはに尋ねた。なのはは一応頷くが、実際に結界を見たことはないので何とも言えなかった。そんななのはを見てシグナムが前に出る。

 

「この結界は、古くからベルカで使われた結界でな。現代の魔導士はほとんど見たことがないだろうよ。今これを発生させてるのはあのアキラのクローンだろう。あいつがかつてのベルカ戦士が記憶していた結界の張り方を知って使ったんだろうな。おっと、話が逸れたか」

 

シグナムは近くの木の枝を拾うと、結界に直接木の枝で攻撃した。すると…

 

「この通りだ。だから、絶対に触れるなよ」

 

シグナムが触れさせた木の枝は、結界に触れた部分だけ綺麗になくなっていた。

 

「じゃあ、何もできずにこのまま待つしかないんでしょうか……」

 

「なにいってるの」

 

FWがしょぼんとしていると、フェイトがバリアジャケットを身に纏った状態で現れる。気づけば、ヴィータもシグナムもなのはもバリアジャケットを装着している。FWが驚いていると、後方から大きな声が響き渡ってきた。

 

「これより私たちはこの結界を破り、アキラ君の援護に向かいます!」

 

はやてだ。それを見ると落ち込んでいたFWも、やる気になった表情を見せ、それぞれのデバイスを出した。

 

 

 

 

一方その頃のギンガは……

 

 

 

ギンガは枕元においてあるブリッツギャリバーに話しかける。

 

「ねぇ、今なんかすごいことになってるみたいだけど、前の私はこんな時どうしてたのかな」

 

『場合にもよりましたが、何か自分にできることを探して、誰かのために何かをしようとしてました』

 

「それは、橘さんのため…だったのかな」

 

『全てあの方のためにしていたわけではないですが、それが多かったです。アキラ様は頼りになりますがよくそそっかしくて、危ない面がありましたから、あなたが守られているばかりでなく、アキラ様をサポートする。そんな関係をマスターは気に入っていました』

 

「………そっか」

 

ギンガはベッドから立ち上がり、管理局の服に着替える。

 

『何をするつもりですか?』

 

「できることを探してみる……今の私じゃ何もできないかもしれないけど………」

 

『それでこそですマスター』

 

 

 

ーアキラの自宅ー

 

 

アキラは自宅の地下室に来ていた。そこには刀が一本、神棚のようなところに納められている。アキラはそれを掴み、鞘から刀を抜いた。銀色の刃に、薄い紅がかかった全長130cmの長剣。普段アキラが使っている刀は大体95cmくらいだ。かつてセシルがアキラの為に、一流の刀剣屋に頼んで作らせた「紅月」と言う逸品だ。

 

アキラは紅月が錆びたりしてないことを確認すると、鞘に収める。

 

アキラはその刀を背負い、バイクを再び走らせる。目指すは自分のクローンがいる森。過去の自分と、決着をつける時が近い。アキラは決意を胸に森へ向かった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

小さな森の中は薄暗く、ただただ雨の音がするだけだった。森の中に一箇所、自然に禿げた場所がある。木が一本も生えず、妙に開けた野原。そこに、刀を持ったアキラが歩いてきた。

 

「…………」

 

すると、アキラの前方の木からクローンが野原に下り立つ。

 

「…………」

 

「お前は、まだあいつの手先として戦うのか」

 

「ああ」

 

何の躊躇もない返事。アキラは歯を食いしばる。

 

「お前は俺だろう!!お前にだって…俺の記憶があるなら、これが間違ってることくらいわかるだろ!?」

 

「確かに俺はお前だ。お前の行動を全てこの右目を通して見てきた。そして多くのことを学んだ。が、お前が俺に流した記憶と感情は怒りと憎しみ。最初にそれしか感情を持たなかった人間がそう簡単に改心すると思うか?」

 

「だが……っ!」

 

アキラは必死にクローンを説得しようとした。ギンガの行動を無駄にしたくなかったのだ。だが、そんなアキラの願いはクローンには届かない。

 

「これ以上話しても無駄だ」

 

そういうと、クローンの足元に魔法陣が展開され、そこから伸びた魔力の触手がクローンを包んで行く。完全にクローンが包まれた時、雄叫びと共に触手が弾け飛び、中からアキラと同じくらいの身長になり、アキラのバリアジャケットを黒くしたようなバリアジャケットを身に纏っていた。

 

後にヴィヴィオ達が使う、大人モードの魔法の一種だった。

 

「これでちょうどいいだろう」

 

そう言うと、クローンはアキラに斬りかかる。アキラは鞘のついたままの紅月でそれを防いだ。

 

「お前には!ギンガの想いは届かなかったのか!?」

 

「…」

 

「ぐあぁ!!」

 

つばぜり合いで負け、アキラは壁に叩きつけられる。クローンは追い討ちをかけるために刀に魔力を込めた。剣にセットされた八つのジーンリンカーコアが連動し、強大な魔力を放ち、刀に炎を纏わせる。

 

「火剣…」

 

「ぐっ…」

 

「烈火!!!!」

 

アキラに火炎が襲いかかる。紅月に魔力を込め、アキラは足を地面に踏ん張らせた。

 

「氷牙、乱舞!!!!!」

 

アキラは火炎に突っ込み、氷属性を纏わせた刀を縦横無尽に振り回した。その技で火炎をかき消し、クローンに一気に接近する。だが、そんなこともクローンの予想範囲内。火炎の中から飛び出してきたアキラに対し、食らわせる技の準備は既に出来ていた。

 

「風剣・疾風!!」

 

「ぐお!?」

 

アキラはクローンの技で吹っ飛ばされる。吹き荒れる風がアキラの身体を切り刻んで行く。もちろんアキラもやられっぱなしじゃない。

 

「氷牙……大斬刀!!!!」

 

紅月に巨大な氷の刃を装着させ、風を防ぐ。そしてその刃に魔力を込め、刃ごとクローンに向けて飛ばした。クローンはそれを避ける。アキラは地面に着地し、クローンの着地地点に突っ込む

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

クローンは刀を地面に投げ、突き刺した。

 

「地剣…天突!!」

 

「!!」

 

刀から魔力が放出され、突然地面から土で出来た槍がアキラの足元から飛び出して来る。アキラはそれをなんとか避けた。しかしそれは止まらず次々と、アキラに追い打ちをかけるように飛び出して来る。ちょうど十本ほど飛び出してきた時、ようやく止まった。アキラは膝をついて少し休憩する。

 

「はぁ、はぁ…………」

 

「火剣・烈火!!!!!!」

 

だが、休む暇も与えられずアキラは攻撃をかけられる。あまり使いたくなかったが、アキラはディバイダーを取り出した。

 

「リアクトオン!」

 

腕に鎧が装着され、ディバイダーは大型の銃剣に変わる。だが、このクローン相手に大物は危険だとアキラは推測し、あえてディバイダーは使わず、紅月を使う。魔力によって生み出された火炎は、アキラのディバイダーの力でかき消される。

 

クローンは魔力が通じないことに気づき、遠距離魔法を使うのを中断した。

 

「斬る…っ!」

 

「はぁ、はぁ、負けるかよぉ!!!!!!」

 

雨の降りしきる中、刀の交差する音が鳴り響く。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

もう相手は自分と同じ体型。そう簡単につばぜり合いで勝てるわけではない。二人は、つばぜり合いから互いに距離を取るように刀を弾き合う。クローンは刀に炎を纏わせ、アキラに突っ込む。

 

「紫電、一閃!!!!」

 

「!!」

 

素早い抜剣でアキラは防御が一瞬遅れ、吹っ飛ばされる。アキラは後方にあった岩を砕いて勢いが弱まり、そこで止まった。岩にぶつかった際、アキラは強く頭を打って意識が飛んでしまう。

 

「う…………」

 

「他愛もない………」

 

倒れたアキラに向かってクローンが近づく。そして、気絶しているアキラの心臓に刀の切っ先を向ける。刀を両手で握り、一気に押し込もうとするとアキラが急に目覚め、刀を掴んだ。

 

「!?」

 

アキラは足を水平移動させ、クローンの足を蹴る。クローンはバランスを崩し、倒れかけるが起き上がったアキラが鳩尾に強力な拳をお見舞いした。

 

「ごほっ………っ!」

 

そして、アキラはさらによろけたクローンの腹に強力な蹴りを入れる。クローンは吹っ飛び、木に叩きつけられるた。

 

「ぐ…………」

 

アキラは再び刀を手に取ると、ハッと意識を取り戻した。

 

(なんか今…………記憶が飛んだ?さっきは確かに岩に叩きつけられたと思ったのに、気づいたら俺は立ち上がってあいつは木のところにいる……なんなんだ?)

 

いろいろと疑問はあったが今はそれどころではなかった。クローンは素早く体制を立て直し、刀を構える。痛みを感じていないのか、その表情に苦痛は見えなかった。

 

(悲しいやつだよな・・・・だが安心しろ、その中から必ず救ってやる)

 

そう固く決意するも、本当にそれができるか不安だった。魔力は低下し、雨で体温の低下が激しくそれと同時に体力も奪われて行っている。戦えないわけではないが、長引けば不利になるのはアキラだった。

 

 

ー機動六課ー

 

 

結界内では六課のメンバーが総動員で一点集中攻撃を続けていた。制限が解除されてないとは言え、強大な魔力を持った者がこれだけ集まっているのに破壊できない結界だった。その様子を見ていたギンガは病室から出て、手伝いをしようと隊舎の廊下を駆けている。そんな時、目の前に最近姿を現さなかった白い甲冑の音が現れた。

 

「よう」

 

「?………すいません、誰でしたっけ…………私記憶がなくて…ごめんなさい」

 

「ああ、知ってる。それより、あの結界壊すの手伝いに行くんだろ?」

 

「そう…ですけど」

 

男は懐から青紫色の球体を取り出し、ギンガに手渡す。何だかよくわからないものを急に渡され、ギンガは戸惑うばかりだった。

 

「それを結界にぶつけろ。一時的にだが、人が通れるくらいの穴が空く」

 

「え?あの………あれ?」

 

ギンガが球体から視線を男に移そうとした時、男の姿は既になかった。正直信用できなかったが、この結界の中にいたということはきっとなのは達の仲間だろうと思い、ギンガは球体を持って走り出した。

 

ギンガは急いでなのは達のところにたどり着く。そこではなのは達がそれぞれの技を同時にぶつけ、結界の一部だけでも破壊しようとしていた。

 

「はぁ……はぁ………もう一回!」

 

「待ってください!」

 

ギンガが叫ぶ。その声に全員が振り向く。

 

「ギン姉、まだ寝てなきゃダメだよ!」

 

ギンガは首を振って青紫色の球体を取り出し、なのは達が攻撃を続けていた場所に向かって思いっきり投げた。球体は結界に当たると、破裂し、中から奇妙な色の魔力が飛び出し、結界に穴を作って行く。

 

「そこから出てください!」

 

「ギンガ…今のは…」

 

「話は後です!速く潜らないとすぐに閉じちゃいます!」

 

ギンガの気迫に押され、その場にいた全員が飛び出した。

 

「ギンガ、今のは?」

 

「ある人に渡されました……なんか、白髪で甲冑を着た……」

 

なのは達は頭に「?」を浮かべるが、フェイトには心当たりがあった。あの男に前にギンガを励まして欲しいと頼まれたからだ。

 

「なのは、みんな、それが誰であれとにかく外に出られたんだから、今は早くアキラ君のところにいこう?」

 

フェイトがいうと、なのは達も納得いかなそうな顔をしながらも全員でG-28地点に向かった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

雨の降る中、全員がG-28地点に近づいた時、森の中から魔力同士がぶつかり合うのが見えた。

 

「あそこだ!」

 

その付近に降り立ち、全員が走り出す。刀がぶつかり合う音がだんだんと大きくなって来るのを感じながら、近くなる度に全員の持っているデバイスを握る力が強くなって行く。

 

しばらく走ると、開けた場所に出た。

 

「アキラ君!!!!」

 

アキラの姿を視認した時、全員の瞳から光が消える。

 

全員が見たのは、クローンの刀で心臓を貫かれたアキラの姿だった。

 

 

続く



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第三十一話 真意

すいません。またもや日付に合わせることしかできず……

ナノセントのイベントと重なってたんであまりふでが進まず……次回は10日後の16日の0時です。←申し訳ありません。最新話に関しては活動報告をご覧になってください。

お気に入り、感想、コメント、投票、随時募集中です。


「え……………」

 

機動六課が到着した時、既に手遅れだった。アキラはクローンの手によって心臓を貫かれていた。冷たい瞳でクローンはアキラから六課に視線を移しす。

 

全員が驚きで動けなくなっている時、最初に動いたのはフェイトだった。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

「………」

 

クローンはバインドで六課の全員を縛り上げる。

 

「ぐっ!」

 

「アキラ君!」

 

試しにスバルはアキラ名を叫んだ。しかし、刀で心臓を貫かれたアキラに、動く気配はない。ギンガは声も出せなかった。目の前で起きた出来事が思っていたよりずっとショックだったのだ。

 

アキラの記憶がないはずなのに…。ここまでショックなのはおそらくギンガの頭ではなく、身体に宿る記憶が反応したせいだろう。

 

「橘……さん」

 

すると、森の奥の方から拍手をする音が聞こえた。全員の視線が音がした方に向く。森からは傘をさしたウィードが拍手を打ちながら歩いて来た。なのは達はウィードを見ると、なんとかバインドを砕こうとするがかなり強力なバインドで縛られており、動けなかった。

 

「うん、予想以上の成果だよ。モルモット君。まさかオリジナルを倒すとはねぇ。まぁ、ジーンリンカーコアだよりなところもあるけど、結果が全てだからねぇ。さ、オリジナルを持ってきてくれ」

 

クローンはアキラの身体を刀で刺したまま担ぎ、ウィードに向かって歩き出すが数歩いたところで跪いてしまう。

 

「おや?」

 

ウィードが少し驚いていると、クローンは大人モードから元の子供の姿に戻った。

 

「ふむ……負担が大きいとは思っていたけど、ここまでとはねぇ………まぁ、オリジナルと戦ったんだし消耗は激しいよね」

 

ウィードが笑っていると、シグナムが歯ぎしりをして叫んだ。

 

「起きろ橘アキラ!!!」

 

「ん?」

 

「お前は!お前の覚悟はそんなものか!?以前お前と戦った時、私は感じた!お前の強い覚悟と、信念を!ここにお前の最愛の女(ひと)、ギンガがいるんだぞ!?そんな簡単に諦めていいのか!?」

 

シグナムは必死にアキラに向かって叫んだ。しかし、アキラはやはりピクリとも動かない。クローンは一瞬シグナムを見たが、すぐにまたウィードに向かって歩き出す。小さな身体にアキラの身体を運ぶのはとても辛いのか、疲れているのかかなり息が荒くなってきている。

 

「はぁ〜……感動的だねぇ。うんうん。でもね、彼はもう死んだ。諦めなよ。死んだ人間はもう帰らない。まぁ、安心してよ。彼の身体は僕が有効活用してあげるからさ」

 

ようやくクローンがウィードの前まで到着し、ウィードの足元にアキラの身体から抜いた刀を投げ捨て、その上にアキラの身体を置く。ウィードはアキラの身体を掴もうと手を伸ばす。その瞬間、クローンを除く全員が驚く事態が起きた。

 

 

 

「が…………なんだこ………れ………」

 

 

 

死んだと思われていたアキラが起き上がりクローンが持っていた刀でウィードの胸を貫いたのだ。ウィードは口から血を吐きながらクローンを見る。

 

「測った………のかい?………怒りと、憎しみしか持たない君が…………」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

アキラは刀を引き抜き、天高く振り上げ、魔力を込める。

 

「氷牙、一閃!!!!!」

 

アキラは様々な思いを込めた一撃をウィードに食らわせた。ウィードは抵抗できずにその一撃をくらい、数メートル離れた木まで吹っ飛ばされた。

 

アキラは息を荒げながら刀を地面に落とし、髪をかき上げた。雨で濡れた髪は、上に持ち上がったまま動かない。髪をかき上げたことで見えたアキラの右目は、黄色く輝いていた。

 

刀が水たまりに落ち、水が跳ねたのと同時にクローンがその場に倒れる。アキラは急いでクローンを支えた。すると、六課を縛っていたバインドが消え、六課メンバーがアキラ達の元へ駆け寄る。

 

「アキラ君!」

 

「橘さん!良かった、無事だったんですね?」

 

ギンガが尋ねるとアキラはクローンを見て小さく呟く。

 

「こいつのおかげだ………ギンガの言葉がこいつには届いていたんだ」

 

「え?」

 

 

ー数分前ー

 

 

アキラは勝負に負け、もう魔力が尽きたところでクローンに一瞬の隙を狙われ心臓……正しくはアキラの体内のジーンリンカーコアを貫かれた。その時、アキラにクローンは耳打ちをした。

 

「今からお前に魔力と、お前の右目を返してやる。お前の手で奴を仕留めろ。………ギンガのことを頼んだぞ」

 

クローンはアキラのジーンリンカーコアに刀を仲介させ、直接魔力を送り、自分の中にあるすべての魔力をアキラに渡した。それにより失われていたアキラの右目の視力が戻ってきたのだ。

 

クローンがウィードのもとにアキラを運ぶ際、大人モードが解除されたり、息が荒かったりしたのは魔力を送っていたからだ。刀が抜かれた時、魔力が普段の倍以上になっていたアキラはECウィルスの力で傷を塞いだのだ。

 

 

ー状況ー

 

 

「そうだったの……」

 

フェイトはクローンの頭を撫でた。

 

「…………なぁ………………アキラ…………」

 

クローンがボソボソとアキラに尋ねる。

 

「なんだ?」

 

「お前はギンガ・ナカジマと一緒にいる時、幸せか?」

 

妙な質問だったが、アキラは頷く。

 

「そうか…………ギンガ・ナカジマに始めてあった時、身体が少し動かなくなった………攻撃も出来なかった…………それはきっと、お前の記憶が俺の身体に刻み込まれたからだろう…………」

 

「……もうしゃべるな。すぐ病院に連れて行くからよ」

 

その刹那、クローンは突然起き上がり、アキラ達の後方に立ったと思うと、一本の触手がクローンの身体を貫く。全員が驚いた。

 

「!?」

 

「ぐ………」

 

触手の伸びている場所を見ると、ウィードの手にする剣から伸びていた。触手はクローンの身体から抜け、ウィードが手にしている剣に戻って行き、剣の形に固定化される。

 

「おい!大丈夫か!」

 

「まだ………生きてるとはな」

 

「はぁぁぁ…っ!……はぁぁぁっ!…………クソっ!どいつもこいつも……」

 

アキラは近くに落ちていた紅月を拾い上げ、クローンも自分の刀を拾う。

 

「おい、無理は……」

 

「ギンガ・ナカジマの記憶は、あの男がデータ化して保存している。俺はその在り処がわかる」

 

クローンは傷口を抑えながら言った。アキラはその言葉で大体の意味を察する。ウィードを見ると、アキラにやられた傷は、深い様子だった。二人は刀を構える。

 

「俺らが奴を抑える。その隙に頼むぜ。みんな、手ェ貸してくれ。一気に畳み掛ける!!!」

 

アキラの声が合図となり、アキラとクローンは二手に別れ、アキラはウィードに、クローンは廃墟となっているアキラの生まれた研究所に向かった。それと同時にアキラは六課メンバーに念話で簡単に作戦を伝える。

 

「行かせない!」

 

ウィードはクローンに向かって触手を伸ばす。アキラはその触手を紅月で切り落とす。触手はすぐに結合され、ウィードの身体に戻って行く。

 

「やらせねぇよ……」

 

アキラの横に六課のメンバーが立つ。シグナムとなのははクローンについて行った。

 

「アキラ君、本当に二人で良かったの?」

 

フェイトが尋ねる。アキラは小さく頷く。

 

「この男は油断ならねぇ。どんな隠し球持ってるか……」

 

「そうだねぇ……」

 

アキラが言うと、ウィードはさっきまでの辛そうな態度から一転、余裕な表情になって笑う。アキラにやられた傷は血で汚れてわかり辛かったが、既に治っていた。 アキラは歯ぎしりをしながら刀を構える。

 

「いい判断だよ。でもね、どちらかと言うとあっちにもっと回した方が良かったかな」

 

「なに?」

 

ウィードが指を鳴らすと、地面の水たまりの泥が逆巻き人型になる。腕は刃の様な形をしており、足はほぼ水たまりと同化している。それがウィードの周りに四体。

 

「『泥人形』……今あの施設の前にこれと同じものが………」

 

説明の途中、アキラの一撃によって泥人形四体は真っ二つにされた。泥人形はその場に崩れ落ちる。

 

「なんの魔法使ってるか知らねぇが、こんな泥の塊でエースオブエースを落とせるかよ」

 

そう言った瞬間だった。アキラの背後に再び泥が逆巻き、泥人形を生成する。

 

「アキラ君後ろ!!!」

 

「!!」

 

泥人形がアキラを腕の刃で切り裂こうとした瞬間、間一髪でフェイトがアキラを助け出す。アキラはフェイトに抱えたれたまま紅月に魔力を込め、紅月に炎を纏わせる。フェイトがアキラを手放すと同時にアキラは地面に着地し、紅月を振った。

 

「火剣、烈火!!!」

 

これはクローンがジーンリンカーコアから得た魔法だが、アキラはそれらを与えられたのだ。アキラの放った火炎がウィードを襲う。

 

「僕を守れ」

 

泥人形は一斉にウィードの前に集まり、盾となりアキラの火炎を防いだ。泥人形は崩れ落ちるが、再び再生する。

 

「キリがねぇな」

 

 

 

ー研究所前ー

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

クローンとなのは、シグナムの三人は突如現れた泥人形に翻弄されていた。こちらには大体二十体ほどの泥人形が現れ、三人を襲っている。最初はどうってことはないと思っていたが、倒しても倒しても再生する泥人形相手には消耗戦は避けられなかった。

 

そして、一番辛いのはクローンだ。ただでさえ魔力をすべて渡し、アキラとの戦闘で体力は削られている。そしてついさっき腹を貫かれたばかりだ。

 

「くっ………」

 

クローンは腹部を押さえ、跪く。

 

「危ない!」

 

動けないクローンに襲いかかろうとした泥人形をなのはがアクセスシューターで撃ち抜いた。

 

「大丈夫⁉」

 

「………さぁな」

 

クローンは立ち上がる。

 

「どうする、なのは。いくらなんでも数が多すぎるぞ」

 

「……………私とシグナムさんで、一瞬だけこいつらを吹き飛ばします。だから、君はその隙に研究所に。あとの囮は私たちが引き受けるから」

 

クローンは頷く。

 

「じゃあ………いきます!」

 

「ああ!」

 

なのはとシグナムは軽くジャンプし、デバイスを構える。そして、それぞれの魔力を注ぎ込んだ。

 

「ディバイーン………バスター!!!!」

 

「飛竜……一閃!!!!」

 

二人の砲撃魔法が地面に炸裂し、その爆風で泥人形達も一時的にだが吹っ飛んだ。その隙にクローンは開いた研究所への道を駆けて行く。クローンが駆けていった直後、なのは達の周りに泥人形が再生した。二人は背中合わせになる。

 

「キツい闘いになりそうだな」

 

「大丈夫です…みんなでちゃんと帰りますから」

 

「それは…あのクローンもか?」

 

シグナムが訪ねると、なのはは少し笑って頷いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「プラズマ、ランサー!!!!!」

 

一方こちらはアキラ達の場所。アキラ達は八人がかりでウィードを倒そうとするが、ウィードにはまだ傷をつけられていなかった。泥人形が邪魔だったのだ。唯一アキラが近づけたが、例の触手のような剣の前になす術もなくやられてしまう。なぜか右目の魔力が引き出せず、本来の自分の魔力も引き出せないのだ。

 

アキラは身体中を貫かれ、エクリプスの再生も間に合わず倒れる。

 

「クソ!あいつのどこにこんな魔力………」

 

アキラがボヤくとウィードはくすりと笑った。どうやら聞こえていたようだ。ウィードは倒れたアキラの顔を踏みつける。

 

「不思議かい?だろうねぇ。本来僕の体には自己再生能力もこんなたくさんの人形を使うほどの魔力も持ち合わせていない。じゃあ問題だ。どうして僕はここまでの魔力運用をしているか」

 

「知るかよ………。テメェのことだ、どうせ自分の身体で実験でもして生まれさせた力何じゃねぇのか?」

 

「ふむ……まぁ、55点ってところかなぁ……」

 

ウィードは踏みつける力を強くした。

 

「僕は君のクローンを見つけてから数年後、あるものを見つけた……それが、これさ」

 

ウィードが指を鳴らすと、突然空中に一冊の魔道書が出現した。全体は黒く、表紙に青い模様が入っている。ウィードがその本を手に取ると、それまでウィードが持っていた触手型の剣が本に吸い込まれて行った。

 

「それは………」

 

「黙示録の書………そのレプリカだ。オリジナルは管理局の地下区画に「黙示録の槍」と共に厳重に保管されている」

 

 

 

続く



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第三十二話 決着

どうも、彪永です。いつも「とあるギンガの〜」をご愛読いただきまことにありがとうございます。10月中にこの回を上げたかったのですが、十月下旬に終わるはずだった用事が延長し、結果イノセント版を一つしか上げられず申し訳ありません。前回から一ヶ月以上立ちますが、量はその分倍にしてあります。次回は11月16日です。既に完成しているので安心してください。また、今回は同じく16日にR-18版も上げます。これからもこんなことが続くと思われますが、それでもどうか、暖かい目で見守ってください。お願いします。


黙示録の書……それは、この世の終わりをもたらすと言われている魔道書である。黙示録の書は持つ者を選び、書を持つだけで強大過ぎる魔力を持ち、黙示録の槍、もしくは黙示録の獣を手にすることで、世界を滅ぼせると言われている。

 

あくまで言われているだけの話で誰も信じたりはしてないが、その書と槍が時空管理局本部が管理している「」の最深部に保管されている。という話もある。また、書が封印される前にレプリカを残したという話もある。何もかも曖昧な伝説の書である。

 

アキラもそれは知っていた。そう言う噂話を真に受けないアキラだったが、そういった類の話は黙示録の書に感してはやたらと多かった。が、あまり信じてはいなかった。本物と思われるレプリカをこの目で見るまでは………。

 

「…………はっ………誰が信じるかよ!そんな話!黙示録の書なんかこの世に存在しねぇ!」

 

「僕もはじめはそう思ってたよ。でもね、黙示録の書は存在する。こおレプリカが証拠だ」

 

「そんなものいくらでも作れんだろ………テメェの頭なら」

 

「あはは、いくらなんでも僕にはこんな魔力の底がしれないような魔導書なんか作れないよ。まぁいいや。君が信じようと信じまいと……」

 

ウィードはアキラの顔を踏みつける。

 

「がっ………」

 

「それにしても、君にはがっかりだよ。橘アキラ君」

 

「なん………だと?」

 

アキラは身体中から流れる血にまみれながらも抵抗しようとするが、腱が貫かれている為、アキラの身体はほとんど動かなかった。

 

「魂が入ってないはずのジーンリンカーコアを空っぽな君と融合させた時は驚いたなぁ、まさか自我が生まれるとは思ってなかったよ。でも、くだらない暴走起こして、僕の研究邪魔してくれたのは気に入らないなぁ。ただの人形である君が!」

 

ウィードの口調は急に激しくなり、一言発するごとにアキラの顔を踏みつける。

 

「無駄な感情抱いて!恋愛だの!仲間だの!そんなことをする権利は!最初からないんだよ!君は僕の研究成果!無駄な感情などいらない!無駄な思考などいらない!僕の最高傑作!一つの作品として!戦場を暴れまわるだけでいい!君だけじゃない!同じように生まれてきた人形達もそうだ!!!!!」

 

ウィードは息を切らしながら雨と汗が混じったものを拭う。アキラの顔は血にまみれ、腫れ上がっていた。そんな状態で、アキラは一言呟いた。

 

「…………それだけか」

 

「ん?」

 

「言いたいことは…………」

 

アキラはウィードの足を掴み、杖代わりにしながら立ち上がろうとする。ウィードは小さなため息を漏らしながらアキラを足から振り払った。アキラは魔力で無理やり自分の体を動かしていた。

 

「うぐ…っ…………言いたいことは………っ!それだけかつってんだよこのクソ野郎!!!!!!!!!」

 

アキラが叫びながら立ち上がると、そのアキラの怒りに反応したように紅月が突然動きだし、アキラの元まで飛んで行き、手の中に収まる。ウィードの話を聞いている間、脳裏にナンバーズやフェイト、ギンガやスバル、自分の……AtoZ計画の兄弟のことを考えていた。

 

感情を持ちたいのに、持てないやつもいる。本当に愛されたくて努力したのに愛されないやつもいる。恋をしたいのに、その生まれのせいでできないやつもいる……。

 

「そんなやつだっているのに………なのに!なんでテメェはそんなことが言える!誰にだって!幸せになる権利も自由になる権利もあるはずだ!テメェ見たいのがいるからぁ!幸せに生まれて来れないやつが増える!テメェ見たいのが!いるからぁ!雷剣!轟雷!!!!!!」

 

紅月に稲妻を纏わせ、それを全力でウィードにぶつける。ウィードはため息をつくと、黙示録の書から黒い触手を出現させ、手に収める。触手は円形に広がり、盾となりアキラの稲妻を遮断した。アキラはその一撃で限界が訪れ、その場に再び倒れる。

 

「それが君たちにはないんだよアキラ君。作られた命は所詮実験台にしか過ぎない。そのために作られたんだから。当然でしょ?」

 

その刹那、泥人形の壁をかき分け、光の速度で移動してきた真ソニックフォームのフェイトがウィードに斬りかかる。それを食い止めようと、泥人形が襲いかかるが、泥人形は二秒かからずにバラバラにされた。泥人形が再形成される前にフェイトはウィードまで接近した。

 

ウィードはもう一度、黙示録の書から黒い触手を出現させ、今度は剣の形にする。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「面白い!」

 

ウィードは真ソニックフォームのフェイトと互角の闘いを見せる。これはウィードの実力ではなく、黙示録の書が司令塔となってウィードの戦闘力があがっているのだ。

 

「君はプロジェクトFによって産み出された、オリジナルの模造品だろう!?知っているよ!」

 

「っ……違う!私は、フェイト・T・ハラオウン…ただの管理局執務官で、みんなと同じ、人間だ!」

 

「嘘はいけないなぁ!君のオリジナルはアリシア・テスタロッサ!その道じゃ有名なプレシア・テスタロッサの娘だ!そこにいる赤髪の少年も同じプロジェクトによって生み出されたんだったか!」

 

ウィードは泥人形に苦戦しているエリオを見た。エリオは少し歯ぎしりをする。その瞬間、赤い閃光がウィードを襲った。

 

「おや?」

 

その攻撃はヴィータの物だった。

 

「ふざけんなよテメェ…………さっきから聞いてりゃあ!イカれた科学者かと思ってたが、違うな………オメェは単なる人間のクズだ!!!!」

 

「君は……ああ、闇の書の守護騎士プログラムか。まぁ、君たちも所詮は人形だものねぇ。怒る気持ちはわからないでもないよ。でもさ、人の望みを叶えるために僕たちは研究と実験をしているんだよ?そのための犠牲なら仕方ないじゃない。ねぇ?どいつもこいつも、死んでしまった愛する人ともう一度会いたいと思い、研究し、実験する。僕はその手伝いだけだが、望みを叶えてあげていることには変わりない。フェイト君。君のようなオリジナルとは違う部分ばかりの失敗作ではなく、完成品を作るために。だから、アキラ君のような存在は感情を持たなくて良いんだよ」

 

ウィードはそういいながら触手の剣をアキラに向けて伸ばした。突然のことでフェイトもヴィータも反応出来ず、アキラは触手に捕まる。

 

「ぐ……」

 

「君は…………これから実験するからね。研究所で待っててくれ。おっと、今面倒なやつがいるんだった」

 

ウィードが指を鳴らすと、研究所が突然爆発した。

 

「!!!」

 

「なのは!」

 

「シグナム!!!」

 

研究所の方を見てフェイトとヴィータが叫んだ。

 

 

ー研究所ー

 

シグナムは吹っ飛んできた研究所の瓦礫の下から出てくる。泥を払いながらあたりを見回す。

 

「なのは!」

 

「うう…………」

 

一瞬声が聞こえ、シグナムは声のしたところに行く。みると、なのはが瓦礫に挟まれていた。シグナムは急いで瓦礫を退かし、なのはを救出する。大きな怪我はしていないがどうやら足を挫いたようだ。

 

だが、なのはは自分よりもクローンのことを心配していた。

 

「大丈夫か?」

 

「……うん…………あの子は………」

 

「わからんが………この爆発では………」

 

二人は瓦礫の山となった研究所を見る。とても人が生きているような状態ではなかった。しかし、この研究所は地表に出ている部分が全てではない。

 

地下がある。

 

ー研究所 地下ー

 

 

「痛ぅ……………ギリギリ避けきれなかったか…………」

 

クローンは地下一階まで落ちてきた。爆発することを察知し、急いで隠れたが爆発が思ったよりも大きく、瓦礫にまみれながら地下へ落ちて行ったのだ。現状、瓦礫の破片の上に落ち、尖った鉄の棒が腹部を貫いている串刺し状態で身動きが取れない。

 

通信手段も持っていないのでアキラに連絡することもできなかった。

 

……だが、爆風を食らっても、瓦礫の一部が我が身を貫こうとも、クローンは手に握ったものを離さなかった。ギンガの記憶を収めた端末だ。

 

「どうにか………連絡を………」

 

 

ー森ー

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ウィィィィィィィドォォォォォォ!!!!!!!」

 

アキラは叫びながら刀を振り回そうとするが、触手に捕まった状態ではそれも無意味だし、触手で貫かれ、力が入らない身体では刀が当たったところで大したダメージにはならないだろう。

 

「ははは、そんな怒らないでよ。あのクローンだってもう君に魔力を返したんだし、君とよく似てるってだけで接点は消えたんだしさ」

 

「ディバむぐぅ!?」

 

「スバル!むうぅ!!」

 

泥人形と戦っていた六課メンバーとギンガが、突如触手に変化した泥人形に捕まってしまう。

 

「君たちは大人しくしていたまえ。あとで楽にしてあげるよ……」

 

アキラは歯を食い縛った。自分が事件にみんなを巻き込み、事件解決の糸口も見つけられず………何も出来ず、ギンガの記憶も戻せずに………こんなクズに殺させてしまうことが、悔しくて、申し訳なくて………。

 

身体に力が入らず、魔力を込められない。どうやら、質が違う魔力を取り込んだせいで魔力を扱いにくくなったようだ。

 

「さ、研究所で待っててくれたまえ。僕は彼女らを処分してからいくよ。ああ、心配しなくていい。実験の前にちゃんと、記憶は消してあげるからね」

 

アキラは研究所に向かって思いっきり投げられた。アキラは研究所に落ちるまでの間、ギンガを見つめ続けた。

 

 

 

ー研究所ー

 

 

 

「うぐぁ!」

 

アキラは森から投げられ、研究所に落ちた。着地地点には泥が積まれており、あまり怪我をしないようになっていた。

 

「くそ………クソクソクソクソクソ!!!!!!どうして俺は……」

 

「アキラ……?」

 

アキラがいる場所の横から声がする。声のした方を向くと、そこにはクローンがいる。かなり重症だが、それはアキラも同じでとても助けることはできなかった。

 

「アキラ…………これを……」

 

クローンは傷だらけの身体を傷めないように手を伸ばし、アキラにギンガの記憶が入った端末を渡そうとする。しかし、アキラは手を伸ばそうとはしなかった。クローンはアキラの態度に疑問を持ちながらも必死に手を伸ばしてアキラに渡そうとする。

 

クローンの努力を横目に見ながら、アキラは小さくつぶやく。

 

「ダメだ……身体が動かねぇ………」

 

「…質の違う魔力を大量に投与したせいか……」

 

アキラが悔しそうな表情を見せ、手を強く握る。こうしてる間に仲間が殺されてしまう……。自分にあんなに優しくしてくれた、大切な仲間が。

 

「こんな……ところで………終われるか…………!」

 

アキラがそう言った瞬間だった。目の前に、十四歳くらいの少年と、少女が現れた。少年は青い髪に妙にギザギザした前髪が特徴で、少女は長く美しい銀髪に、赤と黄色のオッドアイ。

 

「だ……れだ?」

 

「失礼します」

 

アキラの質問に答えようともせず、少女はいきなりクローンの上に乗っている瓦礫をどかし始めた。そして、もう一人の少年はアキラに腕輪を渡した。

 

「何だこれは………」

 

「これを使って、ギンガさんを助けてください」

 

「え…………?お前ら、ギンガを知ってるのか?」

 

「話は後です。いいですか、それに魔力を込めて下さい。可能な限り、大量に」

 

今のアキラには、形にして使える魔力はないが溜まりに溜まっている質の合わない魔力が大量にある。彼らは急に現れ、まだ信用も何もないが今は現状打破できるものが何もない。

 

アキラはこの行動に、すべてを賭けた。自分の未来、仲間たちの命、ギンガの………命を。

 

「う……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

ー森ー

 

 

 

ウィードはアキラを研究所に投げ飛ばしてから、早速最初に殺す人物を決めようとしていた。ウィードは悩みながらギンガに近づいて行く。

 

「それにしても君にはびっくりしたなぁ、記憶を無くしてなおあそこまで勇敢に戦えるなんて…………体に染み付いた形というのはすごいねぇ……ぜひとも研究してみたいな………」

 

ウィードはギンガの肌に触れようと手を伸ばした。

 

その瞬間、ウィードの手が切り落とされ、ギンガの姿が消える。

 

「は………?」

 

腕を切られた痛みに気づくのが少し遅れるほどのスピードだった。ウィードは腕を切られてから二秒後にようやく痛みに驚いた。

 

「う、ぐぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!!!」

 

(な、なんだ!?一体何が起きた!?全員動きは封じてある………一体誰が!?)

 

 

ー森 上空ー

 

 

「…………え?」

 

気づけば、ギンガの視界に映るのは夜空。さっきまでウィードの顔が目の前にあったのに…。その視界に、アキラの顔が入ってきた。

 

「大丈夫か?」

 

「橘さん……その姿は?」

 

アキラは、黒い髪、鎧、マントを身に纏っている。現代の魔導師が使う防護服、バリアジャケットのデザインとはかなり違う。どちらかというと、

古代ベルカのような騎士的な装備だ。そして、腰には、刀身が宝石のアメシストをそのまま刃にしたような剣が装備されている。形状は刀そっくりだが、鍔がなく、柄と刀身の間には回転式の弾倉があり、柄の根元の横にトリガーがある。

 

そう、この剣はディバイダーの強化形態だ。

 

「さぁな……とりあえず言えるは………奇跡ってことだけだ………。さ、受け取ってくれ」

 

「あ……」

 

アキラはギンガの頭に左手を添えた。するとギンガは眠るように気を失った。アキラはクローンの持っていた端末から記憶を左手に移し、ギンガに渡したのだ。

 

「すぐに終わらせるから………眠っててくれ」

 

アキラはギンガを近くの岩に寝かせ、ウィードがいる平原に向かって行く。

 

 

ー平原ー

 

 

ウィードは腕を切り落とされたあと、黙示録の書から取り出した触手の剣を切られた断面に突き刺す。触手は少しずつ形を変え、数分後には触手は腕の形になっていた。しかも形だけでなく、内部には血管まで生成され、しっかりと腕の代わりになっていた。

 

何とか失血前に対象できたウィードは一息つく。が、それと同時にアキラが森の中から現れた。

 

「………………………なるほど、これは君の仕業かい?」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「まさか腕を持っていかれるとは思ってなかったよ。まぁでも、切り落としてくれたお陰で便利な腕になったよ…」

 

ウィードの触手で生成された腕の先端が、剣の形に変わる。周りで拘束されている六課のメンバーは驚いたが、アキラは特に表情を変えない。ウィードはさっきまで冷静だったのだが、そんなアキラに苛立ちを覚えたのかいきなり腕を変形させた剣でアキラに切りかかった。

 

「……遅い!!!」

 

「!!」

 

アキラは剣を回避し、ウィードの顔面に強力な拳をお見舞いする。ウィードはそのまま吹っ飛ばされ、岩に激突した。アキラはウィードに向かってゆっくり歩き出し、道中で紅月を拾い上げる。二本の刀を握ってアキラはウィードに近寄る。

 

ウィードは痛みに耐えながら何とか立ち上がり、魔法陣を展開させた。

 

「泥人形!!!」

 

近くの泥が人型を成そうと集まってきた瞬間、泥は人型を成すことなく、一瞬で凍りつく。ウィードが驚いてアキラを見ると、アキラはさっきまで立っていた場所にいない。

 

背後からの殺気に気づく前に、ウィードは切られていた。背中から血を出しながらも何とかその場から距離を取る。

 

「だから、遅いって言ったろ」

 

「ぐ………超高速移動か、瞬間移動か………」

 

「分類的に言うと、高速移動かな。まぁ、フェイト隊長が使うようなものとは少し違うが……一番の違いは……」

 

ウィードが再び斬りかかる。アキラは新しくなったディバイダー、「烈風」のトリガーを引いた。その瞬間、アキラが体感する時間の速度は通常の1000倍に変わる。つまり、周りの人間の立場からすればアキラが高速移動してるように見えるが、アキラにとっては周りがゆっくりになっているのだ。

 

アキラはほとんど止まっているように見えるウィードの後ろに歩きながら向かい、ウィードの触手の腕を紅月で切り裂く。それと同時にトリガーから指を離す。すると、の体感時間は通常に戻る。

 

「ぐあ!!!」

 

「剣としては使えるが………直で身体に繋がってる分ダメージがデケェみたいだな」

 

「あ……侮らないでもらおうか………こんなもの、まだ力の断片さ………君が速さで来るなら、僕は物量だ!!!!最悪断片でも残ってくれればいいだけなんだ!!!もう加減はしない!!」

 

ウィードが叫ぶと、黙示録の書から黒い触手が大量に出現した。触手はそれぞれ剣の形になり、アキラを取り囲むように整列した。逃げ場はない。六課のメンバーがどうにか泥人形の拘束を外そうと焦るが、ダメだった。

 

しかし、この状況にアキラは焦る素振りを見せない。

 

「さぁ、終焉だ…………辞世の句でも読むかい?今なら少しだけ時間をあげよう」

 

「……………セシルが死んだ時も、雨が降っていたな」

 

「?」

 

アキラは上を向いた。

 

「雨は………あんまし好きじゃねぇ」

 

「それが辞世の句ってことで………いいかなぁ?」

 

「俺が生まれて十七年……ようやく復讐が終わるってのに、この雨は似合わねぇなぁ………セシルも、そう思うだろ?」

 

「…………なに言ってるかわからないけど、もう終わらせていいかな?」

 

「ああ、終わらせよう」

 

アキラはそう言って紅月を肩に、烈風を右脇腹に密着させた。

 

「さよならだ、橘アキラ君!!!!!」

 

 

 

 

一瞬。

 

 

 

 

勝敗は一瞬でついた。

 

最期まで立っていたのは、アキラだった。それも、無傷。空の雲は、アキラのいる場所当たりで真っ二つに別れ、夜空の星が輝いていた。ウィードがいた方角の木々は全て倒され、森の向こう側にある街がぼんやり見える。一方ウィードは、立っていた場所からかなり離れた場所まで吹っ飛ばされ、胸から下と、左腕がなくなっていた。

 

正直、生きてるのも不思議な状態のウィードにアキラは目もくれず、仲間たちに向かって歩き出す。

 

「大丈夫か?みんな」

 

ウィードの魔力がきれたのか、泥人形は勝負がついたと同時に消えていた。

 

「…………アキラさん……その姿は………」

 

ティアナが恐る恐る聞いてみる。

 

「よくわからん2人組の子供達にもらった………まぁそれはおいおい話すとして……動ける奴はあっちで寝かせてるギンガと研究所にいるクローンを保護してきてくれ………ちょっと、疲れた……それから、多分まだ死んでねぇウィードを……フェイト隊長、頼めるか」

 

アキラは烈風を杖代わりにしながら跪く。フェイトは頷いてアキラの技によって木々がなぎ倒されている場所に向かった。

 

「そういえば、なのはとシグナムは?」

 

「俺は見てないが………」

 

噂をすれば、なのはとシグナムが研究所の方角から飛んできた。

 

「アキラ君!」

 

「……」

 

「これ、多分クローンのあの子が書いたんだと思う……」

 

シグナムとなのははアキラの横に降り立ち、一枚の紙を渡す。そこには、かなりメチャクチャにだが「世話になった」と書かれていた。そういえば、クローンはまともな教育を受けたことがないのだ。恐らく書き慣れてない字を一生懸命書いたのだろう。

 

「………あの怪我で大丈夫なのか?あいつは……」

 

「これが置いてあった場所には、多分、彼のだと思われる血があったけど、どこかに続いていたりはしなかったから……」

 

「そうか………なら多分、大丈夫か?」

 

「あの子なら、きっと大丈夫だよ………だって、アキラ君だもの」

 

なのははそう言って笑う。アキラは自らのクローンを思い浮かべながら空を見た。

 

「そうだよな」

 

そうは言っても少し心配なアキラだったが、そこに、フェイトが飛んでくる。

 

「アキラ君!みんな!ウィードがいない!」

 

「ええ!?」

 

アキラを除く全員が驚いたが、アキラは動じない。

 

「どうせあのダメージじゃそんな遠くには行けねぇよ。あとで調査隊を派遣させてもらっていいか?部隊長」

 

はやては少し悩んだあと、頷く。

 

「でもアキラ君、命の危機だったからってあのやり方はアカン。確実に………殺すつもりやったんちゃう?」

 

「勘弁してくれ。あれでも結構魔力を抑えた方なんだ……本気で撃ってたら……山の一つや二つ、簡単にぶっ飛ばしてた…………」

 

「…………となると、流石にそこまで強力な魔力は制限かけなアカンなぁ……アキラ君はそれでもいい?」

 

アキラは迷いもなく頷いた。アキラ自身、この未知なる力に少し怯えていた。強いことには間違いないが、使って見てわかったのは、渡された腕輪のよって作り出された力はエクリプスウィルスの力を主に増大させている。

 

このまま行くとエクリプスウィルスの活性化につながりかねない。

 

「…………なにはともあれ………終わったんだな……」

 

一息つく。しかし一息ついた瞬間、ギンガを保護しに向かったスバルが慌てて走ってきた。

 

「アキラ君!ギン姉が!ギン姉が!」

 

「!!!!」

 

アキラは急いで立ち上がり、走り出す。だが、魔力の使いすぎか、慣れない力で疲れたのか、アキラは途中転んでしまう。だが、立ち止まることはなく、また走り出した。スバルは途中で足を止め、ギンガを寝かせた。アキラもその場に滑り込むようにギンガの横に座った。

 

「ギンガ!!ギンガ!!!ギンガに何があった!?」

 

「息………してない……」

 

アキラの顔が一気に青くなる。ギンガを抱きかかえ、息を確認しようとした瞬間

 

「んぐ…………」

 

ギンガがアキラの背中に手を回し、自分の方へ寄せてアキラの唇を奪った。

 

「……………………ぷはっ」

 

「……………ギンガ?」

 

ポカンとした顔のアキラにギンガは茶目っ気を出した笑顔で言う。

 

「ちょっと冗談過ぎたかな?ドッキリでした。あ、記憶は……ちゃんと戻ったよ………アキラ君のおかげ………本当にありがとう」

 

アキラは未だにぽかんとしている。

 

「あはは、ごめんねアキラ君。ギン姉に協力して欲しいって言われちゃって…………」

 

アキラは少し俯いて震え出す。

 

スバルは相当怒られんじゃないかと思い、冷や汗を流す。ギンガも流石にやり過ぎたかと思い、顔を覗こうとすると急にアキラは顔を上げた。

 

「ううっ……良かった…………良かったよぉ!!………ギンガ………かえっ………帰ってきてくれて…………よかっ……うっ良かったぁ…」

 

アキラは怒っていなかった。それどころか、顔をくしゃくしゃにしながら泣いていた。子供のように。どれほど彼にとって大切で、譲れない存在だったかというのが読み取れる程に。

 

「ギンガァ……」

 

ギンガは軽く微笑んでアキラの顔を自分の胸へいざない、抱きしめた。

 

「よしよし、ごめんね、驚かせて……。もういなくならないから……ずっと一緒にいよ?」

 

「うん………ひっく……俺も、絶対守るから……」

 

 

 

 

こうして、機動六課最後の事件は終わった。被害と事件の規模は小さかったが、とある一人の少年の復讐の物語に終止符を打った事件となった。

 

そして、完全にこれで終わったと思われた……。

 

 



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第三十三話 変化

今さっきまで寝てました………w。年末はスケジュールがハードで………さぁ、お楽しい下さい!ウィード事件編も残すところあと二話!!


全てが終わった日の翌日、六課は朝早くから会議を始めようとしていた。しかし、前日連絡しておいた時間になってもギンガとアキラが会議室にこなかった。ので、なのはとスバルが医務室に向かおうとすると、はやてがそれを止めた。

 

「どうせなら、みんなでいかへん?」

 

「え?」

 

はやては怪しい笑みを見せながらFWと隊長陣を引き連れて医務室に向かう。

 

 

ー医務室ー

 

 

「あの、部隊長」

 

「なんや〜?」

 

「これ完全に起こしにきた訳じゃないですよね。カメラ持ってますし」

 

スバルの言うとおり、はやては完全に悪ノリモード。デジカメを持ってゆっくりと音をたてずに医務室に入る。その他メンバーも入っていく。医務室の四つのベッドの内、二つにカーテンが引かれている。はやてはアキラが眠っているベッドのカーテンを少し退かして中を覗く。ベッドの中には誰もいない。

 

「つ、ま、り?」

 

こうなればはやての興味はMAXだ。思い切ってギンガの寝ているベッドのカーテンを開ける。遠慮がちだった他のメンバーも、なんやかんやで覗いている。

 

はやてはギンガの布団にアキラがいるものだと思っていた。というかそれ以外の可能性が考えられなかったからだ。だが、ベッドで寝ているのは、ギンガだけだった。

 

「あ、あれ?」

 

「アキラ君が………いない?」

 

はやては再びアキラのベッドを見る。布団に膨らみがないのを見ると、いないのは確かだ。はやてが再びギンガそ見ると同時に、はやてが少し大きく動いたせいか、ギンガ目を覚ます。

 

「んぅ……?」

 

「あ、起きちゃった……」

 

フェイトが最初に気づき、少し焦る。

 

「あれ…八神部隊長?……って、なんでみんないるんですか!?」

 

ギンガはベッドから起き上がり、驚いた。ギンガが起きたことで当然掛け布団はずれる。

 

すると、その場にいたギンガ以外が全員目を丸くした。

 

「………ギンガ…それ…」

 

フェイトがギンガの少し横を指差す。するとギンガは何を勘違いしたのか、急に顔を赤くして弁解使用とする。

 

「い、いや!違うんですよ!決してこれは私から望んだ訳じゃないと言うか!いや、間違ってはいないんですけど、疲れで判断力が鈍っていたと言うか……」

 

「いや、ギン姉。なに勘違いしてるのか知らないけど…それ…」

 

「え?」

 

ギンガは自分の横を見た。そこには、身体が縮み、ブカブカになった服に埋もれているアキラがいた。

 

「……………え?」

 

 

 

―機動六課 ホール―

 

 

 

「すごい、僕の服でもまだ少し大きいですよ」

 

「小さいアキラさん、可愛いです♪」

 

「なんでこんなことに…」

 

アキラは目が覚めると、クローンと同じくらいに身体が縮んでいた。一瞬クローンかと思われたが、本人にしかない筈のエクリプスウィルスの入れ墨と、先日手にいれた腕輪で橘アキラ本人と認識された。

 

とりあえず着る服がないと不便だということで、試しにエリオの管理局制服を着てみると、それでもまだ大きいことにアキラは軽くショックを受ける。

 

「原因はわからないけど、さすがにこのままだと不便よねぇ…」

 

シャマルが悩む素振りを見せながらギンガに視線を向ける。

 

「いや、しばらくこのままでも…なんちゃって」

 

ギンガは小さくなったアキラを愛でながら答えた。

 

「いや、色々困るし…」

 

と、アキラは特に抵抗もなにもせずに言う。

 

「すっかりギン姉、アキラ君にメロメロだね~」

 

「だって、いつもは私が見上げる立場だったから…小さいアキラ君が可愛くて…」

 

ギンガがまたアキラを撫でていると、そこにはやてが割って入ってきた。

 

「はいはい、仲良しなのはエエことやけど、ほどほどにな~。会議始めるよ~。アキラ君はそのままで平気なんやな?」

 

アキラが頷くと、はやては会議室に向かう。アキラ達も追いかけようとするが、急に後ろから抱き上げられた。

 

ギンガだ。

 

「ギンガ…一人で歩きたいんだが…」

 

「少しだけ♪」

 

「…」

 

 

―会議室―

 

 

アキラは結局会議室まで運ばれ、椅子に座らされたところでようやく解放された。

 

ギンガがその隣に座り、会議が始まった。会議室には部隊長、隊長組、FW、そして、通信を通した状態で会議に出ているカリムとクロノ、リンディ。面子をみるかぎり、かなり重要な会議のようだ。

 

「えー、先日アキラ君が戦った男、次元犯罪者、ウィードの使っていた。黙示録の書。これについてです」

 

「……」

 

「まず、黙示録の書に関しては、様々な推測や噂がありますが………ここからはカリムさんに説明を頼みましょう」

 

はやてからカリムにバトンタッチされる。

 

[はい。これは管理局の秘匿事項一級なので他言無用でお願いします]

 

全員が頷く。それを確認したあと、カリムは話を続けた。

 

[………黙示録の書、槍、獣。都市伝説と言われているものですが、これらは…実在します。内、書と槍は管理局が本部にて厳重に管理、獣は……ミッドチルダ南部の近海にて封印されています]

 

「そんな身近な所に…」

 

「獣に関しては、かなり昔から封印されていました。実のところ、裏付けがとれてません。ただ、とある家系が代々言い伝えています」

 

「ある家系とは?」

 

シグナムが尋ねる。

 

「……先祖代々「黙示録」を封じ、監視し続ける家系、テレジー家」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー時空管理局本部 道中ー

 

「アキラ君は本局にきたことはある?」

 

「いや、ないな………」

 

会議が終わった後、アキラ達は本局に来ていた。今回の会議で決定されたこと。それは、六課解散までの間、黙示録の書について可能な限り捜査すること。

 

黙示録に関しては管理局は書と槍を管理している限り大丈夫だと思っていたが、噂されていたレプリカが出現したことで、流石に対策を考えることにしたようだ。アキラとギンガは、カリムに紹介されたテレジー家の人物に会いに行くよう言われたのだ。

 

「にしてもよぉ、捜査すんのは構わねぇけど。俺の身体のことも失敗してくれってんだよな。これじゃ不便だぜ」

 

「そうだね………」

 

「…もしずっとこのままだったら………」

 

アキラは軽く暗い顔をする。すると、ギンガは笑ってアキラと手を繋いだ。

 

「大丈夫!きっと元に戻れるよ。もし戻れなくても、私が可愛がってあげる♪」

 

「ぬいぐるみ扱いかよ……あ、ここ抜けると近道だぜ」

 

アキラは駐車場に入る。その瞬間だった。目の間にあったトラックが爆発する。アキラは爆発の気配をいち早く察し、小さな身体を活かして回避した。

 

「なに!?」

 

ギンガも驚く。

 

「あれェ?避ケられちャッたかァ」

 

上空から聞こえた、聞き覚えのある声。終わったと思われたあの男の声がした。アキラは刀に手をかけながら上を向く。そこには、前と変わらないスーツ姿のウィードがいた。

 

「ウィード………っ!」

 

「……………テメェ………生きてたのか………」

 

「アハは、甘いヨアキラ君。本気で仕留めたイんだッたラ、もッと確実に仕留めナイと……」

 

話し方が少しおかしい。身体がほとんど失われた影響だろうか。

 

「それにシても、小サくなッたねェ。一体どうしたんだい?」

 

ウィードが話の途中で一度首を叩くと、声は元に戻った。

 

「さぁな……………だが、小さくても俺は俺だ。何も変わんねぇ………テメェを殺してぇって気持ちもなぁ!!!!!!!」

 

「アキラ君!!!」

 

アキラは思いっきり切りかかった。ウィードは左腕を変形させてアキラを切り裂こうとする。

 

(なんだ……これは…………前は全く触手の動きがわからなかったのに、目で簡単に追える……)

 

アキラはそのまま攻撃を避けつつ接近し、ウィードの腕を叩き切ろうとしたが手元が狂い、刃はウィードの肩の付け根から30センチ程縦に切り裂く。アキラは急いで離れ、様子を見る。

 

身体が中途半端に別れているのにウィードは冷静さを保っていた。それより、驚いているのはアキラとギンガだった。ウィードは確かに身体を切り裂かれたのに血の一滴も出していない。それどころか、アキラが切り裂いた身体の断面は真っ黒だった。

 

「ふぅん………殺したい気持ちに違いはないけれど、やっぱり後ろめたさはあるんだね。そういうのガ無駄ナ感情だっていッタのに、まだ持ってるんだねェ」

 

また声のトーンがおかしくなった。ウィードが首を再び叩くと元に戻る。その一連の行動を見て、アキラに一つの予測ができた……それは。

 

「まさかテメェ……俺にやられた部分に関わらず、全身を……」

 

「そう!よくわかったねぇ。流石に身体の20%くらいしか残ってないとなると死は免れそうになかったからね。しょうがないから、肉体ごと一度黙示録の書に取り込んで、脳だけ残して新しく身体を形成したのさ」

 

「化け物が…………」

 

「お互い様でしょ?」

 

アキラは刀を構え直すが、ギンガがアキラの肩を叩いた。

 

「私がやる……。アキラ君は待ってて」

 

「なっ………お前は関係ねぇ!下がっててくれ!」

 

「関係が全くない訳じゃないし、それに今のアキラ君じゃ……」

 

「ぐ………だが…」

 

アキラはギンガの手を振りほどき、ECディバイダーを出現させる。そして、ウィードに向かって走って行く。

 

「アキラ君!…………ブリッツギャリバー!」

 

『Set Up』

 

(ギンガが奴と戦う前にウィードを潰す!脳を残して身体を作ったと言っていた……つまり、脳天をブチ抜きゃ全てが終わる!)

 

アキラは攻撃にフェイントをかけ、ディバイダーの銃口をウィードの頭に向けた。刹那、ウィードの背中から、先端が刃になっている触手が飛び出し、ディバイダーを弾き飛ばし、別の触手でアキラを吹っ飛ばした。

 

アキラは止めてあった車のフロントガラスに突っ込み、座席と内側からへこんだドアの間に挟まってしまう。

 

「がはっ……」

 

「はぁぁぁ!!!」

 

続いてギンガがウィードの前に立つ。ギンガの俊敏な動きと、格闘技術。これがあればウィードのような格闘技もないもやってない人間なら三秒でノックアウトだろう。

 

「優しい彼女だねぇ。彼も化け物なのに、彼の恋愛ごっこに付き合ってあげるなんて」

 

そういいながらウィードは右腕を四本の触手に変形させる。もちろん先端は刃になっている。

 

「アキラ君は化け物なんかじゃない!」

 

「ギンガ……」

 

アキラはギンガの一言に胸を打たれた。ギンガは言葉を続けながら攻撃を仕掛ける。ウィードはギンガの攻撃を避けながら触手で攻撃した。ギンガも凄まじい反射神経で触手の攻撃を見切っていた。

 

「確かに無愛想で、空気が読めなくて、言葉使いが乱暴で、無関心だけど!」

 

「…………」

 

「それでもアキラ君は!本当はとっても優しくて、誰かを大切にしたいっていう心は誰にも負けない強い人なのよ!人を人と思わないあなたなんかとは全然違う!!!」

 

ギンガの攻撃は叫ぶほどに強くなり、速くなって行く。そして最後の言葉でフィニッシュしようと、強力な蹴りを入れた。しかしそれは空振りに終わった。ギンガが蹴りを入れたウィードの胴体に穴が空き、攻撃が外れたのだ。穴はウィード自身が空けた穴だった。ウィードは一瞬動揺したギンガを触手で捕らえる。

 

「ぐっ……」

 

「ギンガ!ぐぅ………雷剣…豪雷!!!」

 

アキラは刀に魔力を込め、車のドアを吹っ飛ばした。だが、ウィードにやられた傷は思ったよりも深く、車から出てもすぐに倒れてしまった。

 

「さぁて、戦闘機人の体内はどこまで人間なのかな?」

 

ウィードの触手の一本がギンガの身体を切り裂こうとじわりじわりと近寄って行く。

 

「やめろぉ!!!」

 

その言葉が引き金かのように、アキラが叫んだ瞬間触手は突然加速した。

 

「うわあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

「何をしている」

 

上空から声がした。

 

それと同時にウィードの触手は全て切り落とされる。

 

「なにぃ!?」

 

アキラの前に、ギンガを抱えた何者かが着地した。自分を助けた人物に、ギンガも驚きを隠せないでいる。

 

「お前……」

 

ギンガの窮地を救ったのは、クローンだった。

 

つづく



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第三十四話 名無

一ヶ月と五日ぶりですね。PCがいかれてバイト代貯めて新しく買うのに時間かかってました。ちなみに次回は元旦番外編と一旦メインストーリーから離れますが、お楽しみください。


前回のあらすじ。

 

ウィードを倒したと思った日の翌日、アキラは突然小さくなってしまった。原因も不明なままとりあえず小さな姿でいることを受け入れたアキラ。そんな中、機動六課は黙示録の書を捜査することを管理局から指示が来ていた。アキラ達も捜査に協力し、管理局本部行きの次元船へ向かっている途中、倒したと思っていたウィードが、黙示録の書(レプリカ)の力を使って再びアキラの前に現れた。持てる力でアキラとギンガは可能な限り対抗したが、絶体絶命の危機に追いやられる。そんな時、二人を助けたのは………。

 

 

「お前………」

 

「何をしている。橘アキラ。ギンガを守るのはお前の使命だろう」

 

クローンはギンガを降ろして刀を抜いた。

 

「とはいえその体では難しいか?」

 

やや挑発気味にクローンは言った。アキラは無理に立とうとするが、すぐにその場に倒れる。ギンガはアキラを支えてやった。

 

「お前………何でここに……」

 

「………ケジメをつけるためだ…俺が、俺として生きて行くために、気がかりなことをなくしに来た」

 

クローンはウィードの方を見る。するとウィードはクローンの態度をあざ笑った。

 

「まさか僕を殺しにきたのかい?今、君は魔力のほとんどをオリジナルに渡し、戦闘力だって今のオリジナルより低いだろう?そんな状態で何ができる?何をする?」

 

「………………俺はすべてを橘アキラに託し、死ぬつもりだった。だが、ある人物によって生かされた。俺にはまだ役割があると………」

 

クローンは懐から、ギンガのブリッツギャリバーやスバルのマッハギャリバーと同じクリスタルタイプのデバイスを取り出した。それを手前に構える。

 

「それが何かはわからないが、本当にそうなら、可能な限り生きてやる!戦ってやる!!行くぞ!ナインギャリバー!!!!」

 

クローンが名前を叫ぶと、デバイスが起動してクローンは大人モードになる。そしてにナンバーズスーツが装着され、オットーと同じようなズボンと上着が着用される。

 

「それは………」

 

「ある男が渡してくれた。ナンバーズ達………1、5、6、7、8、9、10、11、12………全員のISと武器が使えるそうだ」

 

「ほぉ、面白いデバイスだ。けど、そんなもので僕を倒せるかな!?」

 

ウィード叫びながらクローンに襲いかかった。クローンは焦らず、手の甲に装着されたデバイスに小さな声で呟く。

 

「ナンバーズ12、ツインブレイズ」

 

[All Right]

 

クローンはウィードの攻撃を紙一重で避け、デバイスから出現したツインブレイズで振り向きざまにウィードの頸動脈のあたりを切り裂いた。しかし、そこからは一滴の血も流れず、すぐに再生する。ウィードはすぐに振り返り、身体から刃のついた触手を出現させてクローンに襲い掛かる。

 

「ナンバーズ5、ランブルトルネイダー」

 

クローンがふたたびデバイスに命じると、スティンガーが出現する。

 

「ハァァ!!!!」

 

クローンが投げたスティンガーはウィードの触手と足に突き刺さる。すかさず指を鳴らすと、スティンガーは爆裂し、ウィードの触手と足が吹っ飛んだ。だが、爆発により切断された箇所はすぐにウィードと一体化した。

 

「その程度じゃ僕は倒せないよ?」

 

ウィードは腕を今度は巨大な銃の形に変形させる。クローンはそれをみた瞬間、すぐに横に飛んだ。刹那、クローンの立っていた場所に何かが潰れる音と同時に弾けた。

 

ウィードが生成した銃口から同じ触手で作られた弾丸が飛び出したのだ。ウィードは続けざまにクローンに向けて弾丸を放つ。クローンは再びデバイスに命じた。

 

「ナンバーズ9、ブレイクランナー」

 

クローンの足にジェッドエッジ、そして、腕にはガンナックルが装着された。

 

「ふっとべ!!」

 

ウィードの弾丸が発射されたと同時に、クローンはブレイクランナーを展開した。そして猛スピードで敵を撹乱するように奇妙なコースを走り抜ける。

 

「くっ、ちょこまかと…」

 

狙いが定まらず、ウィードが慌てている隙に、一気に背後に回った。そして足のジェットエッジに魔力を込めた。

 

「ジェット!ブレイク!!!!!」

 

その攻撃を、ウィードは身体を分裂させて避ける。

 

「なに!?」

 

分裂した後、クローンの横でまた結合する。

 

「あはははははは、駄目だよそんなんじゃあ。足りないよ。気力が。君、僕を殺そうとしていないだろう?だからだよ」

 

ウィードは触手を大量展開させ、クローンに襲い掛かった。クローンは再びブレイクランナーを展開し、攻撃を避ける。

 

だが、触手はしつこくクローンを追い回し、かなりギリギリの場所に迫っていた。クローンが「まずい」と思ったその刹那…

 

「!?」

 

触手が何かにすべて切り落とされ、その何かは回転しながらクローンの進む先に突き刺さった。クローンは驚いて急ブレーキをかける。

 

「あれは………」

 

「こいつは……紅月………」

 

アキラの愛刀である紅月だ。アキラは今の身長では重いので今日は置いてきたはずなのに。なぜ紅月が一人でに動き出したかわからない。だが、アキラ本人にもクローンにも感じ取れることが一つあった。紅月がクローンに向けて「使え」と言っているのが。

 

「………………借りるぞ!橘アキラ!!!!」

 

「勝手に使え!ただし……………」

 

アキラは一瞬言葉を止めた………だが、すぐにまた続けた。

 

「絶対に勝て!!!!セシルの敵を…………俺らの過去を断ち切れぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

「………ああっ!!!!!!」

 

クローンは紅月を手に取り、ジェッドエッジを解除してウィードに向かっていった。ウィードは切られた触手を吸収し、再び大量の触手を展開させた。

 

「面白い刀だ!一緒にバラして解析してやろうか!!!」

 

「やらせねぇよ!」

 

クローンは紅月を構え、ウィードに突っ込む。その瞬間、クローンの背後から触手が襲ってきた。

 

「No.6、ディープダイバー!!」

 

今度はセインのIS、ディープダイバーだ。ジェッドエッジとガンナックルが解除され、触手の刃がクローンの体に命中する直前クローンは地面に吸い込まれるように潜って行った。

 

そして、刀を構えてウィードの足元まで泳いだ。

 

(奴は脳以外すべてあの黒い触手で身体が形成されている……色まで変わるのかあれは………だが、脳を潰せば………)

 

クローンはウィードの足元の地面から飛び出し、紅月で股から一気に頭まで切り裂こうとする。だが、股から胸まで刀が通ったのはいいが、途中でウィードの頭のみが身体から離れ、それから少し遅れて身体が黒い触手に戻り、ウィードの頭を取り込んで再び身体を形成した。

 

「くっ…………」

 

「へぇ、戦闘機人ってのも中々面白い力を持っているんだねぇ。今度捕まえて研究してやろうかなぁ……そこにいるタイプゼロとかもさぁ………」

 

ウィードがギンガを見る。ギンガは少し睨み返す。

 

「くそっ!俺が戦えれば……」

 

アキラが悔しがっていると、その横に何時の間にか誰かが立っていた。

 

「そんなに戦いたいか?」

 

「………お前……どこにでも現れるんだな……」

 

現れたのはやはり、白甲冑の男だ。

 

「今お前は、取り込んだ様々な人間の魔力が身体に馴染んでいないから動けない。身体が縮んだのは、小さい身体のクローンには馴染んでいたから身体が馴染ませやすくするために縮んだってとこか。魔力が入り混じると時に妙な現象を起こすからな」

 

「原因とか、理論とかどうでもいいんだよ!今は現状を打開するのがさきだ!!!!」

 

「アキラ君、落ち着いて……」

 

「元に戻すことも出来るが、それじゃダメだ……お前が次の力を手に入れるにはな。今俺が出来るのは………一時的にお前を動かしてやるだけだ」

 

「上等だ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「はぁ、はぁ………ぐっ……」

 

「そろそろおしまいかなぁ、諦めなよ」

 

クローンの周りを触手が囲む。クローンは紅月を構えてそれに対応しようとしている。実はまだクローンも万全ではなかった。思ったよりも戦闘が長引いているいま、不利なのはクローンだった。

 

ウィードは触手を集結させ、巨大な刃に変える。

 

「さて、どこから真っ二つに切って欲しい?股下か………肩か……脇か……………頭かなぁ!?」

 

質問の途中に刃が襲ってきた。クローンは避けようとしたが、気づかぬうちに足を触手で拘束されていた。

 

(ここで………終わりかよ……………)

 

最期の抵抗にクローンは紅月を構えて刃を防ごうとする。刃が紅月に当たる直前クローンの横で声がした。

 

「紅月貸せ」

 

触手の刃は、その声があったすぐあとに切り落とされる。

 

「君は、動けなかったんじゃ………」

 

「悪りぃな話してる暇はねぇんだ……おい、俺………下がっててくれ。ここは俺がケリをつける。ギンガ!頼んだ」

 

「うん!」

 

ギンガがクローンの肩を担ぎ、壁の裏に隠れた。それを確認すると、アキラはウィード見る。

 

「なぜ君が動けるかは知らないが……さっさと死んでもらおう!」

 

「…死なねぇよ」

 

アキラは触手の刃の部分を素手でつかんで受け止めた。すると、アキラの右腕に巻かれていたあの腕輪が輝きだし、右手の指先から黒い魔力がアキラを包んでいく。全身を魔力が包んだ瞬間魔力が弾け、中から黒い甲冑を惑い、黒髪になったアキラが現れた。それを見たウィードは急に表情を変えた。

 

「その姿は……」

 

「大切なモンを…大切な気持ちを知っちまったんだ!!!!まだ、死ねるかよぉ!!!!!バースト!!」

 

鎧の腰に装着された烈風を掴み、トリガーを押して超高速移動を始める。

 

「ひっ!」

 

「さよならだ」

 

一瞬でウィードの身体は切り裂かれ、細切れに変わった。アキラはその細切れになった触手をディバイダーから発射した魔力砲で消し去った。だが、脳だけはまだ残っている。触手に保護され、むき出しにはなってはいないが普通にみれば人の頭がそのまま落ちている感じだ。

 

「なぜ……完全に殺さない………」

 

「俺たちは今黙示録について追っている。お前はその証言者なってもらう。それに、俺はもう誰も殺さない」

 

「ククク…………だから君は甘いんだよ!!!!!!」

 

「!!」

 

油断していたアキラの足元から触手が出現し、アキラの全身を拘束した。

 

「くっ……」

 

「あはは!残念だったねぇ!終わるのは君の方だったみたいだねぇ!!」

 

「チィ!こんな……」

 

アキラが触手を振りほどこうとしていると、その横を誰かがゆっくり歩いてきた。

 

「お前……」

 

「悪いな、ギンガは少しバインドで拘束している」

 

クローンが歩いてきたのだ。クローンはアキラが落とした紅月を拾い上げ、大きく振り上げる。

 

「ま、まさか…………よせ!今僕を殺したら彼が困るんだろう?」

 

「…………おれは過去を断ち切る為にここにきた。だから俺には関係ねぇ」

 

「やめろ……やめろぉぉおぉお!!!!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

クローンの怒号がなり渡り、紅月が振り下ろされた。

 

 

 

続く



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元旦SP 前編

あけましておめでとうございます!今年もギンガ愛で頑張ります!!ちょっと間に合わなかったので前後編にわけさせてもらいました!!新年早々すいません!どっちかっていうと、今回は大晦日スペシャルになっております!お楽しみください!



「ふぅ〜」

 

「はい、みんなお疲れ様」

 

12月31日。この日、FWとアキラとギンガは年内最後の訓練が終わったところだった。この後、特に仕事も何も残っていない。このあとは、ゆっくり年を越すだけだ。アキラは特にやることはないと思い、訓練場を後にしようとした時、なのはに止められる。

 

「アキラ君ちょっと待って」

 

「あ?」

 

「今夜はみんなで日の出見るからね。今のうちに仮眠、とって置いてね」

 

「…………日の出?」

 

 

アキラは隊舎の更衣室に戻るまでの間、ギンガに日の出について教わった。相変わらず一般的なことに関しては全くもって知識のないアキラだ。

 

 

ーアキラの隊舎部屋ー

 

 

アキラはギンガと一緒に自分の部屋に戻ってきた。アキラはコーヒーを淹れながら日の出に関してぼやいている。

 

「どこの次元の文化だかしらねぇが、いつ見たって太陽は太陽だろ。確かに綺麗かもしれねぇけど………」

 

「いいんじゃないかな、たまには……きっと良い思い出になるよ」

 

ギンガはコーヒーを受け取り、微笑んで言った。アキラはベッドに腰を掛け、コーヒーを一口飲む。

 

「思い出か………今年は色んなことがあったな。………ギンガに再開して、六課のみんなと会って……まだ管理局に正式入隊してから全然時間立ってねぇのに…でっかい事件二つも解決……まぁ、おれは足でまといだったかもしれないが」

 

「そんなことないよ、神威を止められたのはアキラ君が命張って戦ってくれたお陰だし、ウィードを倒せたのもアキラ君の力のお陰だよ」

 

ギンガはアキラの黒い鎧を生み出す元となる腕輪を撫でた。アキラは腕輪を見る。

 

「………俺の力………いや、今までのは俺の力だけじゃない。周りのやつの協力がなきゃ何にも出来なかった……。六課のやつも、あの変な鎧着けた白いやつも、腕輪くれた2人組も、俺のクローンも………ギンガも…………みんながいたから俺は神威と運命を共にする覚悟もできたわけだしな」

 

「……………そうだね」

 

 

「ギンガ……」

 

2人は少し見つめ合い、そっとキスをした。キスの途中、アキラがギンガの口に舌を挿れる。入ってきた舌をギンガは拒むことなく、逆に自らの舌を絡まして行く。キスが激しくなる中、ギンガはアキラの手を掴み、自分の胸へと導いた。制服の上からだが、良い感触がアキラに伝わる。アキラは空いている手でギンガの背中に手を回し引き寄せた。

 

ギンガが自分のネクタイに手をかけ、外そうとした瞬間、部屋のドアが開く。

 

「ギン姉いる〜?」

 

「!!!」

 

スバルが入ってきたのだ。

 

二人は急いで離れ、互いに逆方向を見ながら飲みかけのコーヒーを掴んで何事もなかったかのようにした。スバルが返事のないことに疑問を持って入ってくると、ギンガが慌てて適当に笑顔を作って対応する。

 

「ど、どうしたの?スバル」

 

「……ギン姉なんか顔赤いけど…」

 

そこまで言って、スバルは急ににやける。

 

「あ〜もしかして、お邪魔だったかなぁ〜?」

 

「な!なにいってるのスバル!そんなことない訳ないじゃありませんか!!!!」

 

「語尾おかしくなってるよギン姉〜」

 

「あう……」

 

ギンガは顔を赤くして小さくなってしまった。アキラはため息をつく。年内で変わったのはアキラだけではない。ギンガもずいぶん精神的に可愛くなってしまった。スバルはギンガに用事があったようで、ギンガを連れて出て行ってしまう。

 

アキラは一人残された。

 

「……いいとこだったのによ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「蕎麦作れだぁ?」

 

「うん♪」

 

一人取り残されたアキラの元に、突然なのはが訪ねてきた。要件は、「蕎麦を作るからそれを手伝って欲しい。」とのこと。

 

「それよりギンガ知らねぇか?」

 

ほとんどなのはの話を聞かずにアキラはなのはに聞く。まぁもちろんそれはなのはも想定内だし、現場ギンガがいないのはなのは達が原因である。今はそれをごまかすための作戦に過ぎない。

 

「じゃあ、手伝ってくれたら教えてあげる♪」

 

アキラは小さくため息をつきながらもなのはと一緒に食堂へ向かってくれた。

 

 

ー食堂ー

 

 

「なんでこんなこと………俺が…よっと……疲れるってんだ」

 

アキラは蕎麦の塊を伸ばし、折りたたんだ物を蕎麦切り包丁で切りながらぼやく。だがしかしアキラは笑顔だ。

 

「そんなこと言わないで〜。誰かのために、何か出来るのって気持ちがいいでしょ?」

 

「バカ言うな。誰かのためになんて…日頃からやってんだろ。そんな気持ち、わかってる」

 

アキラの言葉になのはが手を止める。アキラそれに気づいて手を止めた。

 

「でも、アキラ君の場合それはギンガのためじゃないのかな?」

 

「あ?……………まぁ…そうかもな」

 

「アキラ君はそれがギンガを通して誰かのためになってるかもしれないけど………」

 

「誰かのために………」

 

アキラは再び蕎麦を切り始める。アキラは頭の中に、ナンバーズを思い浮かべていた。ギンガとやっている更生プログラム。あれは彼女達のためになっているし、喜ばれた時に感じる嬉しさ…。

 

「それに、アキラ君が人に役立つこととかするたびに、ギンガ嬉しそうだもの」

 

「…でもよぉ、蕎麦切っててもなんも感じねぇぜ?」

 

「そのうちわかるよ」

 

 

ー午後20時ー

 

 

「年越し蕎麦を二つ」

 

「はーい♪なのはママ、アキラさん、二つ追加でお願いしま〜す」

 

「おい高町隊長」

 

「なぁに?」

 

「機動六課ってのは食堂の料理人を出張中の隊員に頼んで保護中の女の子を受付に使うレベルで人がいねぇのか?」

 

アキラは蕎麦を作る手伝いを任せられたが、最後まで付き合わされるとは思ってなかった。その上ヴィヴィオはもともといる食堂のおばちゃんと受付をやっている。

 

「ああ、アレは前からヴィヴィオがやりたいって言ってたから」

 

「俺は蕎麦作りてぇとは言ってねぇんだがな」

 

「まぁまぁ……なんだかんだ言ってるくせに頑張ってるアキラ君、かっこいいよ」

 

「…………うるせぇよ」

 

アキラは照れたのか、そっぽを向いて作業を続けた。

 

 

そして…………一通り作業を終え終わったアキラはなのは達と一緒に蕎麦を食べていた。年内最後の食事をギンガとできなくて正直アキラは不機嫌だったが、ヴィヴィオの手前、表情に出すわけにもいかない」

 

「お蕎麦美味しいかな?」

 

「まぁ、不味かねぇけどよ」

 

アキラは蕎麦をすすりながら答える。

 

「ヴィヴィオは美味しい?」

 

「うん!」

 

ヴィヴィオが笑顔で答える。その瞬間、アキラはナンバーズが喜んだ時と同じ気持ち…嬉しい気持ちを感じた…。

 

「……………なるほどな」

 

アキラの表情と言葉を聞いて、なのはは笑顔になった。はたから見たら三人は、まるで親子のようだった。

 

 

 

ー午後22時ー

 

 

夕蕎麦が出てきた理由もわからず夕食を済ませたアキラは、集合がかけられた屋上にきていた。朝ギンガが連れ去られてからずっとギンガに会えていない。そろそろギンガ不足でおかしくなりそうだが、まだ紅月を抜かずに我慢していた。記憶が戻ってから、日に日にギンガに対する思いが強くなっている。近くにいるとわかっていても会えないだけで心が切なく、苦しくなって行く。

 

「この気持ちが………愛…なのか?」

 

すると、屋上のドアが開いた。

 

「あ、アキラさん」

 

「エリオか………それに…ザフィーラの旦那…ヴァイス」

 

入ってきたのはエリオとヴァイスとザフィーラだ。アキラはギンガじゃなかったことにショックを受けながらため息をつく。

 

「あの、キャロやスバルさんたち見てません?」

 

「?。いや、見てねぇけど」

 

「実は朝から見当たらないんですよ。ティアナさんに連れていかれちゃって……」

 

「そうか……そういや、隊長たちも見てねぇな。全員揃って一体どこに……」

 

「お待たせ〜」

 

アキラが疑問に思い始めた時、屋上のドアが再び開いた。

ドアのむこうからは、なんと、着物姿のなのは達が現れる。見たこともない美しい服にアキラとエリオは驚く。アキラはそういう服があるのは知っていたが、まさかこんな破壊力を持っているとは思っていなかった。

 

(これが………キモノ?の力………今までそんなこと感じなかった人間すら、可愛く見える…………じゃあ…まさか……)

 

「ほらギン姉〜。恥ずかしがらないで〜」

 

スバルの声を逃さず聞いたアキラは入口に素早く視線を向ける。

 

「で、でも…」

 

「大丈夫ですよギンガさん、可愛いです。とっても似合ってますから」

 

ティアナの一押しと、スバルの強引な引っ張りにより、ギンガがドアの向こうから出てきた。

 

「………ぁ…………」

 

アキラの口から出たのは褒め言葉でも、歓喜の言葉でもなかった。煌びやかな着物。いつもと違う、和に似合う髪型。照れているのか、恥ずかしがっているのかわからないが、赤らめた顔。今まで感じたことのあるようななかったような、妙な気持ちがアキラからあふれる。

 

ギンガは何も言わないアキラが気になり、少し近づく。

 

「ど、どうかな……似合う?初めて着たんだけど………なのはさん達の世界の……」

 

全部言い終わる前にアキラはギンガを思いっきり抱きしめた。

 

「ひゃっ」

 

「お?」

 

「あら」

 

「わぁ〜」

 

周りの面々がそれぞれ声をもらす。

 

「すごく似合ってる………可愛い、いや、どっちかって言うと美しいとか綺麗ってのかな」

 

「そんな……恥ずかしいよぉ」

 

「アキラ君もずいぶん色気付いた台詞を言うようになったねぇ」

 

はやてがからかうように言ったが、アキラは顔色を変えないで答える。

 

「なんでだ?正直に思ったことを言えるんだから…いいことだろ?」

 

焦るか、照れるかするかと思っていたが、アキラはそんなことはなく、正論を並べた。アキラは人間らしくなったのか、まだ無感情な戦士のままなのか、まだ良くわからない。

 

そんなこんなで、時間は過ぎていき、23時58分を迎える。

 

「さぁ、もーすぐ年越しやで~来年になったらみんなで御節料理つっつこうな~」

 

はやてが用意した御節はすでに下ごしらえが済んでおり、もう軽く手を加えるだけで完成だ。アキラは時計をギンガと共に眺めていた。あと59秒。

 

「あと50秒ちょいで…年が変わる…。ギンガ、俺は来年変わるよ。無愛想な性格も…治せるようにがんばる」

 

アキラの意外な言葉にギンガは驚きはしたが、そんな言葉がアキラから聞けて彼女は嬉しかった。そこで、ギンガはアキラの身体を引き寄せ、顔を近づける。

 

「ギンガ……?」

 

「さっきの…続き……スバルが入ってきてちゃんとできなかったから」

 

「え………」

 

 

「さ〜!もうすぐカウントダウン始めんで〜!!!」

 

年が開けるまであと数十秒に差し掛かった。ギンガの顔が目の前にある。幸いなことに全員壁に写し出された時計に夢中で自分たちの方は見ていない。

 

それを確認するとアキラは一秒が刻まれる度に少しずつ顔を近づけた。

 

「10!9!8!7!6!」

 

「……」

 

「…………アキラ君」

 

「5!」

 

「ギンガ…」

 

「4!」

 

「愛してる」

 

「3!」

 

「私も」

 

「2!」

 

「これは…約束のキスだ」

 

「1!」

 

「大好き…」

 

「0ォォォォォ!!!!」

 

「ん…」

 

年が越した瞬間二人はキスをした。そして、まるで二人を祝福するように、スバル達の持っていたクラッカーが鳴り響く。そして、少し遅れて、アキラとギンガが二人で一つのクラッカーを鳴らした。

 

「よしっ!じゃあこれにて一時解散や!再集合は五時間後!ええね!」

 

すっかりはやて達もテンションがハイになっている。御節の仕上げをするために隊長達は降りていってしまった。スバル達も、少しは残っていたが、バラバラと屋上を去ってしまう。

 

残ったのは、ギンガとアキラの二人だけ。

 

 

※もしかしたらR-18を書くかもね!

 

 



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元旦SP 後編 未来

遅れて申し訳ないです。次回は早ければ今月末。最悪来月になります。新年になったのでシンフォギアの小説だそうかな。←(まず期限守れるようになってから言え
次回ウィード事件編最終回!そして、多分その次からはサウンドステージXから!おそらく!
お楽しみに!!


1月1日……元旦。アキラとギンガが屋上で寄り添いながら日の出を待っていた。隊舎に戻っていたその他メンバーもぞろぞろと集まってくる。アキラは途中、ギンガの膝に頭を倒した。その事にギンガは何も言わず、アキラの頭を撫でてやる。ギンガがふと空を見ると、少しずつ朝焼けが広がっていくのが見えた。

 

じきに夜明けだ。

 

「……こんな風に朝を迎えんのも悪かねぇな」

 

「そうだね」

 

アキラが正直な感想を述べていると、スバル等FWが屋上にやってくる。ギンガとアキラをみると、笑顔でこちらに駆けてきた。が、途中で転んでしまう。

 

「きゃっ!」

 

「あぁ」

 

「もぉ〜、慣れない服で走るからよ」

 

ギンガがアキラの頭を一旦降ろし、立ち上がってスバルのもとへ向かった。そして、笑顔で手を差し伸べる。スバルは照れ笑いを浮かべながらギンガの顔を見る。

 

「あはは、ごめんギンね……ぇ?」

 

「………?。どうしたの?」

 

スバルはギンガを見て驚いている様だった。ギンガは顔に何かついているかと思うが、スバルの態度はそんなのではない。

 

「ギン姉、なんかいつもより綺麗な気がする………」

 

「あら?着物の所為かしら?」

 

「まぁそれもそうなんだけど、さっき見た時よりも……なんていうか、大人っぽいっていうか、色っぽいっていうか……」

 

「……………クスっ、そうかしら?もしかしたら、アキラ君のお陰かもね」

 

いたずらっぽく笑ったギンガは、スバルを起き上がらせてから可憐に振り返り、アキラの寝ているベンチに戻った。FW達はギンガの言った意味を理解出来ず、ぽかんとしている。ギンガは再びアキラの頭を膝に乗せてやっているのを眺めながら念話で話し始めた。

 

(なんか………ギンガさん変わったわよね…。昔初めてあった時よりも全然……アキラさんも)

 

(そうだね…)

 

(アキラさんはともかく……昔はどんなだったんですか?ギンガさんは)

 

(頼れる優しいお姉ちゃんって感じだったんだけど………)

 

(今は?)

 

(頼れて優しいのは変わらないんだけど……凛々しくて、可憐で、色気がある………お姉ちゃんっていうか……お姉様?)

 

「アキラ君飴食べる?」

 

「おう」

 

「あーん♪」

 

「あ〜んぐ………美味い」

 

「ふふっ」

 

「………なんか、熱いね」

 

「そうね……」

 

初めてあった時に比べ、まるで別人のようになった二人。去年一年間の出会いと闘いが二人を変え、未来を変えた。二人だけでなく周りの人間たちの運命と未来も。時間が経つと、水平線の向こうから太陽が上る。アキラは立ち上がり、屋上の柵に手を置いた。そして、太陽を見ながらそっと祈る。

 

(今年が俺たち……みんなにとって、何もない年に……なりますように)

 

「みんな〜!日の出は楽しんだ〜?」

 

下から声が響いてきた。アキラが視線を下に向けると、訓練場の前にはやてとシグナムとヴィータが臼と杵を用意して手を振っている。そう、餅つきの準備だ。

 

「降りといで〜!朝ごはんにするよ〜!」

 

まるでお母さんのような口調ではやてが呼んだ。数ヶ月前まで命をかけた戦いをしていた部隊とは思えないほど平和な状態だ。公務員がこんなんでいいのかとアキラはふと思ったが、ギンガの笑顔がそこにあるならそれでいいことにした。

 

そのためにアキラは命をかけて戦い、この世界を守ったのだから。

 

「アキラ君、行こっ」

 

ギンガが手を差し伸べる。アキラはその手を取り屋上を後にした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ごめんな〜、餅米炊いておくの忘れとったわ〜」

 

「しっかりしろよ部隊長」

 

メンバーが集まったので、餅つきをしようかという時に餅米が炊けていないことにはやてが今さっき気づいたのだ。アキラは軽く飽きれながら近くのベンチに腰掛ける。ギンガもその隣に座った。

 

「ふ〜。ん?」

 

アキラが座ったあと、なのはがヴィヴィオをアキラの隣に座らせる。どうやら眠い様だ。

 

「ん〜……」

 

「あ?」

 

ヴィヴィオがアキラにもたれ掛かりながら眠ってしまう。アキラが明らかに嫌そうな顔でなのはを見ると、なのははニコニコと笑いながら佇んでいる。

 

「………動けねぇんだけど」

 

「餅米が炊けるまでよろしくね〜」

 

「何で俺だよ」

 

「だってヴィヴィオがそこがいいっていうから…」

 

アキラはヴィヴィオに視線を移す。ヴィヴィオはアキラの腕に寄りかかって眠りについた。

 

「お兄ちゃん………」

 

ヴィヴィオとアキラは以前一緒に昼寝をしたことがある。なのはがいなくてギンガと二人でお守りをやっていた時だ。恐らくそれで懐かれたのだろう。アキラを選んだのは、あんまりなのはに手間をかけさせたくないという子供なりの配慮だろうか。

 

「しょうがねぇな……」

 

アキラはため息をつくと、自分が着ていた上着を脱いでヴィヴィオにかけてやる。そして後ろからヴィヴィオの肩に手を回して自分の方に抱き寄せた。別に本人はかっこつけているわけではない。一番効率のいい温め方を選んだだけである。

 

だが、ギンガにとってそれは軽く嫉妬心に触れた様だ。

 

「むぅ………」

 

「ん?どうした」

 

ギンガは身体をすり寄せる。アキラは寒いのかと思ったが、少しヴィヴィオを見てギンガの気持ちを察した。アキラはもう片方の手をギンガ肩に回してヴィヴィオと同じように自分に抱き寄せる。

 

「あったかい……」

 

「たくっ可愛い奴め」

 

アキラは笑いながらギンガのおでこにキスをした。

 

「……君、ほんまにアキラ君?」

 

「そうだが?」

 

 

ー30分後ー

 

 

そうこうしているうちにもち米は炊け、早朝の餅つきは開始となる。中でも張り切っているのはヴィータだ。はやてが近くに座り、水を準備する。アキラも杵を持たされ、ヴィヴィオをギンガに預けて臼の前に立った。

 

「アキラ君、あんまり張り切って臼壊したらアカンよ〜?」

 

「そんくれーの加減は出来る。さ、いくぜ」

 

ヴィータとアキラが交互につき、途中はやてが水をつけた手で調整する。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

流石、二人でやってただけあって一気に餅はつきあがった。が、まだまだ餅米はある。アキラは餅米を運んできたシグナムに尋ねた。

 

「なんでこんなに……」

 

「まぁ、大食らいがこう何人もいてはただ一度の餅つきで出来る餅の量では足りないのは明確だからな。疲れたのならば交代してやろうか?」

 

「ああ、けどいいのか?せっかくのキモノ姿なのによ」

 

「なに、最近食べてばかりだったしな。こうイベントが続くと身体が鈍るからな。それに、あまり動かないで着飾っていても私らしくないだろう?」

 

シグナムが笑いながら言うと、アキラは特に深く考えないで答える。

 

「そんなこたぁねぇよ。副隊長のその感じ、俺は好きだぜ?」

 

アキラは軽く笑顔を浮かべてギンガのもとへ戻った。シグナムが動かないのを見てヴィータが声をかける。

 

「おい、シグナム。なにしてんだ始めるぞ?」

 

「あ、ああ。悪い」

 

「……………?なんか顔赤いぞ?」

 

「そ、そうか?まぁ、早く始めるぞ!」

 

「おう……………」

 

アキラがギンガのもとへ戻るとギンガが先ほどアキラのついた餅を持って待っててくれていた。ギンガはきな粉がかかった餅を箸で取り、アキラに向ける。

 

「はい、あーん」

 

「ありがとな、あーん」

 

「さぁ、次のお餅が突き上がったぞ!」

 

「アキラ君、私少しお手洗いに行ってくるね」

 

ギンガが席を立つ。アキラは餅を食いながら頷く。ギンガは隊舎に戻り、アキラは海を見ながら餅を食らい続けた。

 

「なのはママ、あーん」

 

「あーん」

 

ヴィヴィオがなのはに餅を差し出し、なのはは笑顔でそれを食べる。フェイトにも同じことをした。そんな景色を見てアキラは自然と笑顔になった。すると、

 

「アキラさん、あーん」

 

「あ?」

 

ヴィヴィオが餅をアキラに向けてきた。アキラは少し照れながらそれを貰う。

 

「いやぁ、アキラさんモテモテだねぇ」

 

スバルがにやけながら茶化す。

 

「うるせぇな。まぁ、誰から好かれようと俺はギンガしか愛さねぇよ」

 

「………一途だなお前も」

 

さっきまでギンガの座っていた場所にシグナムが座った。アキラは横目でみてまた餅を食べ始める。シグナムは少し笑ってアキラの頬についた餡を指で取った。

 

「………おう、ありがとな」

 

「いや………」

 

何だかいい感じになっている二人の背後に僅かな殺気が感じられた。二人が振り返ると笑顔だが、何か怒ってるギンガが静かに立っていた。

 

「ギンガ………」

 

「ギンガ、戻ったのか」

 

アキラはなにも感じてないのかまた前を向く。

 

「シグナム副隊長?そこ、どいていただけますか?」

 

「すまなかったな。空いていたものだからついな……」

 

「アキラ君と何をお話しなされてたんですか?」

 

「ふふっなんだろうな。油断大敵だぞギンガ」

 

「え?」

 

(お前には話が流れて来ないだろうが、アキラは意外と周りにモテ始めているからな。いつ誰かに取られてもおかしくないからな)

 

シグナムは軽い警告を促すと、その場を去った。ギンガはすぐさまアキラの横に座り込み腕に抱きつく。アキラは驚いて餅を落としそうになるが、ギリギリでキャッチする。

 

「ど、どうした?」

 

「アキラ君、浮気はダメだよ?」

 

「……おう?」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

それから、聖王教会に初詣がわりに行ったり、おせち料理を食べたりと色々なことをしているうちに夜を迎えた。風呂に入ったあと、アキラはギンガの部屋のベランダで海を見て佇んでいる。少し前に合鍵を渡されたので出入りは自由になった。たまに用事もなく来ては、ギンガと話をしているだけだが、その時間が今のアキラにとって幸せなのだ。

 

そこに、風呂から上がったギンガがやってきた。アキラがいたのに驚いたが、合鍵を渡したのは自分なので特に突っ込まないで、そのままギンガはアキラの隣に立った。

 

「海………見てるの?」

 

「ああ」

 

「アキラ君………なにかんがえてたのかな?」

 

「………ギンガ」

 

「?」

 

「俺は今年、もっと強くなる。強くなって……俺の大切なもの全部守れるようにする。それと……もっと優しくなる」

 

「…………いいんじゃないかな」

 

「ありがとう」

 

「それから………その………お前と……その、今年ではないけど………いつか……け…け…」

 

ギンガはアキラの口に指を当てる。

 

「それから先は、指輪と一緒に持ってきて。ね?」

 

「そうだな」

 

アキラはギンガにしか見せない、特別な笑顔で笑った。



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ウィード事件編 最終回 今後

遅くなりました。次回は多分10日位あとです。今年は私情から忙しい年になってますので、暇な時に上げられたらいいなと思ってます。頑張ります。今年も応援よろしくお願いします。


「おあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

刹那、振り下ろしかけたクローンの腕を誰かが止めた。それは、ギンガだ。

 

「ギンガ………」

 

「残念だけど、私はあんなバインドじゃ押さえられないよ?」

 

「は、ははっ!今だ!」

 

ウィードが動こうとした、しかし、頭部だけのウィードに剣の先が当てられる。ウィードは急に黙り、瞳だけ動かす。そこには、シグナムが立っていた。

 

「時空管理局機動六課のシグナムだ。おとなしくしていろ」

 

「くっ!黙示rっぐぅ!あがぁ!これは………」

 

黙示録の書に指示しようとした瞬間、ウィードの頭が複数の包帯のようなもので縛りつけられる。突然の出来事にアキラが驚いた瞬間、物陰から誰かが出てきた。

 

「近くにあった黙示録の書のレプリカには封印をかけさせてもらいました」

 

「お…」

 

アキラを縛っていた触手もただの液体のようにアキラの身体から滑り落ち、消えていった。

 

アキラとギンガが声のした方を見る。そこには、眼鏡をかけた白髪の男性が立っていた。身体の自由が戻ったアキラは警戒しながら男に尋ねる。

 

「あんたは?」

 

「申し遅れました。私はテレジー………テレジー・シファクです」

 

「テレジー?それって俺らが会う予定だった………」

 

「ええ」

 

テレジーは眼鏡を上げ、にっこり笑う。ウィードは巻かれた包帯が痛むのか苦しそうな声でテレジーに話しかけた。

 

「ぐっ…………そうか……君なら……黙示録を封じれるって訳か…………」

 

「ああ、黙示録に魅入られた哀れな科学者君?」

 

「魅入られた?黙示録をコントロールしているのは他でもない!この僕だ!!!」

 

そう言って粋がるウィードを、テレジーは哀れむような目で見ながら持っていた包帯に似た封印具をウィードに垂らして行く。

 

「そう思いながら、黙示録に取り込まれた人間を私は何人も見てきた………まだ正気を保っていてくれて助かりました」

 

封印具がゆっくりウィードの頭を包んで行った。

 

「今に見ていろ!いつか僕は必ず、黙示録の力を手に入れ!この世界の頂点に……」

 

ウィードは封印具に完全に封じられると、声は聞こえなくなり、テレジーの部下たちによって封印用のアタッシュケースのようなものにレプリカの黙示録の書と共に収納され、車で何処かに運ばれた。

 

「シグナムさん……よくここがわかったな」

 

「いつまで経ってもお前がこないということでな、私が探しに来たんだ。テレジー一佐は偶然近くに来ていてな。部下を引き連れてくれたんだ」

 

シグナムは視線をテレジーに向ける。テレジーは手にしていた本を閉じ、眼鏡をあげる。しかし、ギンガには一つ疑問があった。

 

「え?でもテレジーさんは本部にいるんじゃ……」

 

率直なその疑問を言うと、テレジーは笑顔で答えてくれる。

 

「それはあなた方が合う予定だったのは、私の娘です。まぁ、共に本部へ参りましょう。おのずとわかりますよ」

 

 

 

ー時空管理局 中央地下ー

 

 

 

 

戦闘の後、クローンはシグナムによって保護され、戦闘現場からここまで移動する際に、アキラの身体のサイズは元に戻っていた。そして、アキラたちが時空船で連れてこられたのは、時空管理局本局の重要次元犯罪者の牢獄。その奥の奥のさらに奥深くの立ち入ったこともないような幽閉された空間。

 

「なんだここ…………」

 

「なんだか息苦しいような感じ…………………」

 

アキラはギンガを抱き寄せ、安心させるために頭を撫でる。

 

「まぁ、世界を滅ぼせるような代物ですから。おそらくもう日の下に出ることもないでしょう」

 

しばらく歩くと、巨大な扉がアキラ達の前に現れた。その扉の奥から滲み出た、ほんの僅かな魔力圧。それを感じた瞬間、アキラは反射的に紅月を掴む。

 

鍛えてきたアキラだからこそ感じた、僅かな魔力だった。

 

「アキラ君?」

 

「いや………」

 

「感じたんですね。黙示録の魔力を。流石は百戦錬磨と噂されるあなたらしい」

 

どうやらアキラはJS事件やウィードの事件などでの活躍から、管理局内では少しばかり名がしれているらしい。

 

「変な噂が流れちゃってるみたいだね」

 

「別に構わんがな……」

 

「では、ドアを開けますよ。御用が済み次第、呼んでください」

 

巨大な扉がゆっくりと開かれる。隙間から漏れてきた僅かな光。どうやらロウソクの灯りのようだ。扉が完全に開く。中には、まるで神社のように奉られた洞窟のような空間。その中心に誰かが座っている。

 

アキラとギンガはゆっくりと歩を進めた。

 

「私に客が来ると聞いていましたが……あなた方ですね」

 

「!…………ああ。君が………現状で黙示録を封じている……テレジー家の娘さんでいいのか?」

 

アキラが尋ねる。後ろ向きに座っていた少女が立ち上がり、アキラ達の方を向く。

 

「その通り……私が黙示録の封印者、テレジー家九代目。テレジー・サラ。よろしく」

 

サラは近くにあったクッションをアキラ達に投げつけ、自分のクッションを床に置いて座る。

 

「まぁ、立ち話もなんなので、それに座ってください。床がご覧の通り固いので」

 

「う、うん…」

 

二人は言われた通り座る。二人が座るの確認するとサラは被っていた封印の儀の為の帽子を脱いだ。帽子で押さえられていたサラの赤い髪がバサッと解放された。

 

「ふぅっ…すみません、ついさっき儀が終わったばかりなので…少々疲れていますが、どうぞ何なりとお聞きください」

 

「ああ、すまない…。じゃあさっそく………」

 

アキラの動きが止まる。

 

「俺たち何しに来たんだっけ?」

 

「あ、アキラ君は聞かされてなかったね。じゃあ私から…………まぁまず、黙示録って何なのか……かな」

 

「…………黙示録は、皆さんの……世間一般にありふれている噂通りです。黙示録の書……それは、この世の終わりをもたらすと言われ、黙示録の書は持つ者を選び、書を持つだけで強大過ぎる魔力を持ち、黙示録の槍、もしくは黙示録の獣を手にすることで、世界を滅ぼせると言われている。全く持ってその通りです。あちらを」

 

サラがさっきまで自分がいた場所のさらにその奥を指差す。そこには、何やら大きな空間があるようだ。サラは近くのロウソクを持ち、立ち上がる。

 

「ついてきてください」

 

言われるがまま、アキラとギンガは立ち上がり、サラについて行く。少し歩くと、出口のような光が見えた。そこに着くと……アキラの前に広がった光景は筒抜けとなった巨大な空間。一体上空何mから射し込んでるのかわからないほど小さな光が上空に見え、その下は底が見えない程深い穴が空いている。空間の横の幅は、直径20m程だろうか

 

そんな筒抜けの空間の途中で四方八方の壁から伸びた何かで巻きつかれ、宙吊りになっている何かが二つ、あるのが見えた。

 

「あそこにあるのって……もしかして…」

 

「お察しの通り、あそこで縛られ、吊るされているのが…………黙示録の書と、黙示録の槍………レプリカなんかじゃない…オリジナル」

 

「…………あれが…」

 

アキラが上を見上げていると、ギンガがアキラの服の裾を引っ張る。アキラがギンガを見ると、ギンガは何か怯えたような表情で底の見えない穴を見ていた。

 

「アキラ君……下から何か……感じない?」

 

「下?」

 

アキラが下を見ると、真っ暗な中に何かを感じるような気がしなくもなかった。

 

「……その下には……何者かが封印されていると聞いたことがあります。地下のことに関しては……私ですら知りません………。まぁテレジー家に伝わってないということは、単なる噂だとは思いますがね」

 

アキラは試しに、近くにあった石を拾って穴に投げ込んで見る。石はすぐに闇の中へ消えていき、十数秒後に金属と当たったような音がしたが、それからは何も聞こえてこなかった。まだ落ちているのか、底に到達したのかすらもわからない。

 

「本当に深いんだな。落ちんのにこんだけ時間がかかるってことは数キロはあるぞ」

 

「かつてこの空間を見つけた時の記録では、ここの底には到達出来ず、魔法が打ち消される為捜査を断念って書いてある」

 

「…………黙示録は数年に何度か、封印を破るレベルの暴走をします。その度に封じているんですが……地下に関しては私の父の代から何かが暴走して出てきたりということはなかったそうです」

 

「そうか………」

 

三人は元の位置に戻り、再び座った。

 

「他に聞きたいことは?」

 

「一つ聞きたい」

 

アキラがふと何かに気づいたようで、考え事を見せる素振りでサラに尋ねる。

 

「はい?」

 

「獣は…黙示録の獣はどこに封印をされている?」

 

そう、ここに封印されているのは、本と槍の二つだけ。殺戮兵器としては最強と呼ばれる「黙示録の獣」の存在が確認できていない。槍と書は、単体で凄まじい力を発揮するが、獣に関しては書が無いと起動できないというか話もあるので、書が封印されている限り安全とは言えるが、所在がはっきりしていなければやはり不安も残る。

 

「……………獣はここには封印されていません」

 

「じゃあ………」

 

「獣は、ミッドチルダの西側の海に…………先代……………一代目のテレジー家の人間がその身と共に封印しています」

 

「なっ!そんな近場に!?」

 

アキラは驚く。が、サラは冷静に対応する。

 

「落ち着いてください。魔法は……命を使う魔法は最も強力です。現代では禁じられていますが、かつて存在していた回復魔法で、命を使った回復魔法は死人をも生き返らせると書いてあります。不可能すら可能にする強力な魔法で今獣は封じられています。だから、安心してください……」

 

「………そう……か。じゃあ、もう一つ聞きたい」

 

「はい?」

 

「何で俺らを呼んだ?」

 

アキラとギンガは、はやての命令のもとここに来ていたが、はやて曰く黙示録の捜査を依頼してきた方から二人を呼んでくれとの依頼だったらしい。

 

アキラはそれが一番気になっていたのだ。

 

「私は、この家系に生まれ、黙示録の封印技術確保のため、幼い頃から魔法の修行に明け暮れていましたが……その途中、私は自分に予知の力があることに気づきました。この力は意図的に発揮できず、ごく稀に、ふと見えるだけの力ですが外したことはありません。そして今回は……あなた方二人の未来が見えました」

 

「なるほど?」

 

アキラは興味を示し、話に耳を傾ける。ギンガもどんな未来が見えたのか興味を持った。

 

「この先、二人には大きな困難が待ち受けます。それも、幾度も…幾度も…ですが、お二人の力があれば、決して諦めなければ……乗り越えられなくはありません。ですが………」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ーミッドチルダー

 

 

機動六課までの帰路で、アキラとギンガは海沿いを歩いていた。二人はずっと黙っていたが、途中でギンガがアキラの前に出て振り返る。

 

「アキラ君………やっぱり…わ、別れよう?」

 

「…………………ギンガ…」

 

さっき、サラに言われた最後の言葉。

 

「一歩でも間違えれば、アキラさん、あなたはギンガさんのために命を落とします」

 

ギンガは自分のせいでアキラが死ぬなんて絶対にお断りだった。でも、アキラと別れなければならないのも嫌だった。ジレンマってやつだ。そして、たったいま決めたのだ。

 

もう自分を会いしてくれる者などアキラ以外にいないだろうが、死んでしまうならおんなじだ。それに、ようやくアキラは自分の呪縛から開放され、やっと幸せになれかばかりなのだ。そんな自分の最も愛する人の幸せを自分が壊すくらいなら、こうするのが正解だとギンガは思ってしまったのだ。

 

「………」

 

アキラはギンガに無言で近づき、手を伸ばす。ギンガは何をされるかわからなかったのでギュッと目を瞑る。アキラはギンガの前髪をかきあげ、おでこにキスをした。

 

「…………え?」

 

「ありがとうな、俺のことそんなに考えてくれて」

 

ギンガの言葉の意味を勘違いするほどアキラも馬鹿じゃない。昔は見せなかったにっこり笑顔でギンガを撫でる。

 

「なんで………なんで、そんなに優しく………死んじゃうんだよ?私と一緒にいたら………やっと手に入れた幸せも…無くなっちゃうんだよ?死んじゃったら何も残らないんだよ⁉」

 

ギンガは目に涙を浮かべ、アキラに訴えた。

 

「サラが言ってたのはあくまで可能性の話だ。絶対じゃねぇ。それによ、命はって大切な人を護れなくて何が恋人だってんだ。何が護衛人だってんだ。俺はお前がいるから幸せだし、お前がいるから俺の全てがあるんだ。………………仮に死んでもお前のために死んで、お前が生き残ってくれたんなら……それでいい。お前がどう思おうと、その気持ちは変わらない……」

 

アキラはそっとギンガを抱きしめた。安心させるように、優しく。なんだかしんみりした空気になった瞬間、アキラはギンガを離し、頭をくしゃくしゃと少しばかり乱暴に撫で回す。

 

「ま!俺が死ぬなんてこたぁねぇから安心しろって!!知ってるだろ!?俺の強さ!この力でお前も、みんなも、全部護るんだ。だから俺は死なない!いいや、死ねないんだ!」

 

やり慣れないキャラを演じてアキラは急に恥ずかしくなり、ちょっと顔を赤らめて海を見る。

 

「ギンガは驚いた顔でアキラを見ていたが、恥ずかしがってるアキラを見たら急に笑えてきた。

 

「……クスクス……もぉ、アキラくんったら………わかったじゃあ、これからも一緒にいよう?」

 

「ああ」

 

ギンガはアキラ小指を差し出す。アキラが首を傾げる。ギンガはアキラの手を掴んで同んなじ風に小指を出させると、自分の小指を絡めた。

 

「指切りげんまん……嘘ついたら……リボルバーブレイクね?」

 

「罰がキツイんだが……」

 

「フフッ、スバルに、チョコポッドでも買って行こうか」

 

「そうだな」

 

二人は、夕暮れの街中を歩いていった。その間、手を繋いでいた。決して離れないように………互いに離さない様に。

 

 

 

ウィード事件編ー完ー

 



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トーマ編
ウィード事件編エピローグ&トーマ編プロローグ


遅れてすいません、急な路線変更が入ったもので。皆さんはインフルエンザやウィルス性胃腸炎は大丈夫でしたか?自分はダブルでかかってしにそうでした…………。では、一時的にイクスの前の、なのはForceの主人公となるトーマがスバルに拾われてからのお話です。


眼前に映るのは、燃え盛る炎と瓦礫。そして、その中で倒れた人影。

 

「…アキラ君!!!!!!」

 

叫ぶ声すら、瓦礫と、巨大な化け物の咆哮でかき消される。ギンガは倒れた人物…橘アキラに駆け寄った。

 

「アキラ君しっかり…アキラ君?」

 

アキラはギンガの頬に手を添える。

 

「ありがとう…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「!!!!!!」

 

夜中にギンガは目覚めた。汗でびっしょりな身体で起き上がろうとしたが、その身体は優しく抱き締められ、撫でられている。ギンガは瞳だけを動かして横を見る。そこには、アキラが自分を見守っていてくれた。

 

「…大丈夫か。うなされてたが。無理にでも…起こした方がよかったか?」

 

心配そうな顔でアキラは尋ねる。

 

(今のは…夢?アキラ君が…死)

 

ギンガは考えるのを止めた。そして、アキラを思いっきり抱き締める。アキラは怯えるように抱きついてきたギンガの頭を撫で、優しく声をかけた。

 

「怖い夢、見ちまったんだな。大丈夫。俺がついてる。また寝れるまで抱き締めててやるよ」

 

「アキラく…ん」

 

ギンガは、アキラに抱かれる内に、安心して眠りにつく。普段はアキラが心を癒される側なのに、今日は彼女の方が癒されたのだった。

 

「……………守るよ。俺が。何があっても」

 

 

ー新暦76年 四月ー

 

 

その年に、ここ、ミッドチルダでは世界を揺るがす大事件が起きた。ジェイル・スカリエッティによるゆりかご、そして神威の起動。それはJS事件と呼ばれ、特別編成された機動部隊、八神はやてを部隊長とする機動六課によって解決された。

 

そして、規模は小規模に収まったが、同じレベルで大事件に発展しかけたウィード事件。それも、一人の少年の勇気と、橘アキラによって解決された。そして………その翌年の春。その橘アキラは、事件の起こる前に出会った少女ギンガ・ナカジマと恋に落ち、今では共に暮らしている。大きな事件もなく、もうすぐ機動六課が解散することとなる少し前のある日の朝。

 

「アキラくーん」

 

エプロン姿のギンガが、布団の中にいるアキラに声をかけた。

 

「起きてー、朝ごはんできたよー?」

 

「……………」

 

「もうっ……」

 

ギンガはアキラの耳元まで顔を近づけ、そっと囁く。

 

「早く起きなきゃお仕置きだよ?」

 

ギンガは囁いたあとに、アキラの耳を甘噛みした。アキラは一瞬ピクっとしたが、それ以降動く気配はない。起きないアキラに、ギンガは不満そうな顔を見せた。それから少し考え、部屋の棚に置いてある耳かきを取る。

 

「動いちゃダメだよ…………?」

 

ギンガはゆっくり耳かきを耳の中に入れ、コリコリと動かし始めた。

 

「結構溜まってるね………。これは定期的にしなきゃダメかな〜」

 

耳かきを動かすたび、アキラの身体はピクンと動く。それを面白く感じながらギンガは耳かきを続けた。アキラの返事がないところを見ると、彼はまだ起きていない。普段は早起きなのにどうしたんだろうとギンガは疑問を思いながらアキラを撫でる。

 

「…………アキラくーん、朝だよ〜。ふーっ」

 

耳に息を吹きかけ、反対の耳に移ろうとしたがアキラが横向きに寝てるのでそっちに移れなかった。ギンガは無理やり反対側を向かせようとする。アキラの肩を掴んだ瞬間だった。

 

アキラは急に目覚め、ギンガと自身の身体を密着させるように抱き寄せる。

 

「きゃあ!ア…アキラ君!?」

 

「おはようギンガ…………耳かき気持ち良かった。ありがとう」

 

「起きてたの?」

 

「まぁ、ほとんど寝ぼけてたけどな」

 

目を瞑りながらアキラは話した。ギンガはアキラに撫でられながら、アキラの下半身に手を伸ばす。そして、彼が朝の生理現象を起こしている部分を撫でた。

 

「昨日もしたのに………まだ元気なのかな?」

 

ギンガがその話題を出した瞬間、アキラは急にギンガを退かす様に起き上がり、ベッドから降りる。そして、さっさっと部屋を出ようとした。

 

「さ、さてと………ちゃっちゃっと朝飯食うか……………」

 

「アキラ君!」

 

そんなアキラをギンガは止める。そして、珍しく視線を合わせない様に尋ねた。

 

「アキラ君は……その………私と……その…………こ、子供は作りたく………ない…………のかな?」

 

アキラはどうしてギンガがそんなことを聴くか、理由はわかっている。アキラはそもそも、あまり夜の営みを好まなかった。それは、ギンガをただの性のはけ口と見たくなかったという理由。それから…

 

「まだその………子作りには年齢的に早いだろ?だからさ…」

 

「それはそうだけど…」

 

「それにさ…俺らの間に出来るってことはさ……もしかしたら普通と違うかも知れない…俺もお前も戦闘機人で、人工的に産み出された命だ。俺に至っては、完全な戦闘用に作られた……こんな俺たちの間に産まれたら…って思うとな」

 

「だとしても!私はきっと…後悔しないっ」

 

ギンガは急に立ち上がり、アキラを抱き締めながら壁に押し付けた。

 

「どわっ!」

 

「…私は年なんて気にしないし…子育てだって自信あるよ?だから…」

 

妙に押してくるギンガに、アキラは妙な違和感を覚える。だが、その違和感の正体をすぐにアキラは見抜いた。

 

「気にしてんのか?あの日……サラに言われたこと」

 

「え?」

 

「俺が………死ぬってこと」

 

アキラに言われた瞬間、ギンガの脳裏に今朝の夢がフラッシュバックされる。それによって、一瞬変わったギンガの表情をアキラは見逃さなかった。

 

「そうか………やっぱそうだったか。………俺が死ぬかもしれないから………早いうちに…その……妊娠しようとした訳か?」

 

「…………………子供は………好きな人との愛の結晶だから……」

 

アキラは軽く頭をかいてから、ギンガの頭をぽふぽふと叩いた。

 

「人が勝手に死ぬ前提で話すなよ。少なくとも俺は、死ぬなら………ちゃんとお前にプロポーズして、結婚式やって…今心配なナンバーズの連中ちゃんと社会に出してやって………子供作って…老衰で死ぬさ。……な?」

 

アキラは笑顔で振り返る。ギンガは不安そうな顔を無理やり笑顔に変え、頷く。

 

「そう、だよね!」

 

「さ、朝飯食おうぜ」

 

アキラは部屋を出て行った。ギンガはその場から動かず、少し俯いた。

 

「ばか…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー海上拘置所ー

 

「よう」

 

「お、来たか」

 

ギンガとアキラが入ってきたことに、チンクが最初に気づいた。ギンガはナンバーズを呼んで集合させる。ナンバーズの更生プログラムは、主にギンガの仕事だ。アキラはあくまでサポートという名前だけでついて来ているだけである。

 

ので、アキラは基本邪魔にならないところで静かにしている。

 

「さて…今日は……」

 

アキラはがいつも通り部屋の隅に座り、ぼーっとそこらを眺めていると、ウェンディとセインがアキラの腕を掴んで引っ張ってきた。

 

「うおっと!……なんだなんだ?」

 

「アキラも一緒に授業受けようよ〜」

 

「犠牲者は多い方がいいッス」

 

「はぁ?距離はあっても同じ場所にいるのは確かだろ?」

 

「「いいからいいから!」」

 

アキラは無理やり引っ張られ、なぜか、セッテの横に座らされた。

 

「……さて、じゃあ授業を始めます」

 

アキラは退屈そうに授業を聞く。そして、その隣のセッテはそんなアキラを見つめていた。セッテの心に最近感じる気持ち。それを察しの良い二人は気づいていた。

 

アキラが授業の時間にくるたびに、セッテはよくアキラの方を見ていた。セッテは最近なぜ自分がこちら側に来たのか、分かって来ている。アキラと一緒にいると心が和らぐのだ。アキラがスカリエッティによって捕まり、彼の世話をしていた時に色々話をした。自分が感じることの出来ない感情をアキラはよく話して聞かせてくれた。

 

「…………」

 

「それで、ここを出てからの仕事は色々あるんだけど、みんなの場合、戦闘機人の丈夫さと戦闘能力とか能力の面を考えるとやっぱり私たちと同じ仕事になっちゃうかな?もちろんあなたたちに選択の自由はあるから強制はしないけれど……あ、そういえばセッテ」

 

急に名指しされ、セッテは軽く驚く。

 

「はい?」

 

「あなたの出所の日が決まったの。仮出所だけどね」

 

「ええっ!!!!」

 

驚きの声をあげたのは主にウェンディ等だ。珍しくノーヴェも声を大きくする。アキラとギンガはナンバーズ達の声に驚いている。

 

「いくらなんでも早過ぎじゃないッスか!?それになんでセッテだけなんスか!?」

 

「そうだよ!だってまだここに私らがいれられて……………どんくらい?」

 

「そろそろ半年経つかしら」

 

ウーノがボソッという。

 

「そう!まだ半年でも決まったの!?」

 

「え、ええ。上の決定。セッテは誰も殺してないからその分罪が軽くなってるし、感情がないなら早めに社会に順応させた方がいいっていう上の考慮よ」

 

「良かったな。セッテ」

 

アキラが隣で軽く微笑んだ。チンクやウーノも良かったというような表情でセッテに微笑んだ。セッテは照れるような気分なり、軽く目を逸らしながら小声で礼を言う。

 

「ありがとう……ございます」

 

「それで、実験っぽくてあんまり私も」

 

「よう」

 

ギンガが何か言いかけた、ちょうどその時に手土産を持ったゲンヤが現れた。

 

「あー!パパりんッス!」

 

「父さん!どうしたの?」

 

「ちょっと暇になったんでなほら、お土産だ」

 

「パパりん大好きッス〜」

 

ゲンヤが来て話がそれてしまった。何だかタイミングを読まれた気がしたが、ギンガは仕方ないという表情をして提案する。

 

「ちょっと休憩にしようか」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

―4月28日―

 

 

 

今日は機動六課の解散日。現在は、解散式を終わらせた後みんな後片付けをしているところだ。スターズとライトニングを除く一般業務係は自分のデスクの片付けが終わり次第解散だ。

 

しかし、なのはたちはまだやることがある。アキラとギンガはなのはと共にフォワードメンバーを呼ぶように八神はやてに頼まれた。

 

「ところで高町隊長、まだやることがあるって……どういうことだ」

 

何をするのか気になるアキラはなのはに尋ねてみた。当然ギンガも何も知らされていない。二人の先を歩くなのはは軽く振り返って首を傾げる。

 

「ああ、アキラ君達にはまだ説明してなかったっけ」

 

ギンガとアキラはほぼ同時に頷いた。二人の動きがシンクロしているのをみて、なのははクスクスと笑う。

 

「とっても素敵で、きれいな場所だよ」

 

なのははにっこり笑ってそう言った。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

アキラ達がフォワードメンバーを引き連れてこられた場所、そこは桜が咲き乱れる場所だった。桜はミッドチルダには存在しておらず、地球から運ばれたものたちだ。アキラとギンガは二人でみんなとは少し離れた場所で桜の中に立っている。

 

「とっても素敵できれいな場所…か…」

 

「なのはさんの言った通りだね」

 

「…そうだな」

 

風が吹き、桜の花弁が舞った。まるで二人を包み込む様に。風に舞う花弁をアキラが少し伸ばした掌に収める。近くで掴んだ手を開くと、再び風に乗せられて行ってしまう。

 

「こういうのきれい…」

 

ギンガが言うとアキラはギンガの肩に手を回し、少し抱き寄せた。

 

「お前の方がきれいだ」

 

「ふふっ、お上手」

 

そんな感じにイチャイチャしてるとはやてが二人を呼びに来た。

 

「そこの熱いお二人さーん、戻ってきてや〜そこからも二人の世界からも」

 

「あ、呼んでる」

 

「行くか」

 

アキラ達が皆がいる場所に戻ってくると、いつの間にかFW陣も隊長陣もバリアジャケットを着装済みだった。アキラもギンガも目を丸くする。

 

「は…?」

 

「そんじゃ行くで」

 

「ちょ…ちょっとまて八神部隊長!!なんだこれは!なんだこれは!」

 

大切な事なので二回言ったアキラ。どちらかというと混乱してて二回言ってしまったのだが。いつの冷静なアキラが珍しく焦りまくっている瞬間だった。

 

「なにって模擬戦やよ?」

 

「いや…見れば分かっけどよ!」

 

アキラは隊長陣を見る。確かすでにリミッターは外れている。それはつまり、以前とは比べ物にならないレベルの化け物が、四人。それに教えられ、今や隊長達に追いつきそうな元新人が、四人。

 

「死人でねぇか?」

 

「もう、心配性やね〜アキラ君は〜きっと大丈夫やって。きっと」

 

「きっとって…」

 

「アキラ君」

 

「お兄ちゃん♪」

 

アキラとはやてが話してるときに後ろからフェイトとヴィヴィオの声がした。アキラは疲れた表情で声のした方を向く。振り向いた先にはフェイトに抱かれたヴィヴィオがいた。

 

「ああ?」

 

「アキラ君、ヴィヴィオお願いしていいかな?ちょっと…危ないから」

 

「危ないから〜♪」

 

「………………………………へいへい」

 

あのフェイトですらヴィヴィオを預けるほどだから本気なんだろうとアキラは悟り、ヴィヴィオを受けとった。そして、ギンガの隣でヴィヴィオを胡坐をかいた足の上に座らせて桜の木の下に座り込んだ。はやてとギンガが前に出て試合開始の合図の準備を始める。アキラはヴィヴィオを撫でながら空を見上げた。

 

「平和だな…………」

 

「それでは…」

 

「レディー…」

 

 

 

「この平和が、いつまでも続きますように…………」

 

 

 

「「ゴーーーーー!!!!!!!!!」」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「世界は全て、繋がっている」

 

白い甲冑の男が、真っ暗な空間の中で呟いた。その背後には、歯車が大量につけられている巨大な塔がある。塔の歯車は、一部が回り、一部に歯車が足りずに回っていない。

 

「しかし、繋がっているだけで歯車が足りなければ回らない組みもある」

 

男は回っている歯車と回っていない歯車の間に「橘アキラ」と描かれた歯車を差し込む。歯車は、「トーマ・アヴェニール」と書かれた歯車を巻き込んでその他の歯車と同時に動き出した。

 

「世界は無限の可能性を秘めている。いくつもの平行世界がある……………ギンガ……お前は全ての世界の全ての未来で、同じ道を歩んでもらわなくちゃ行けない…………俺の……俺たちのために」

 

 

続く



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第三十五話 運命

前回次回の投稿日を記入してませんでしたね。すいません。次回は多分十日から二十日くらい先です。アバウトですいません。今年は私情で忙しい年になっているので……。追記:R-18のタイトルを一部変更しました。数日後にR-18を上げます。これからのストーリーに大きく関わって行くので是非ご一読ください〜(^-^)/


JS事件が解決してからもう一年が経つ。アキラとギンガの元には六課が解散して以来、これと言って大きな事件も起こらず、二人の同居生活も安定して平穏が訪れていた。もう一人のアキラもウィードとの戦いの後保護され、今はナンバーズと共に留置場に送られている。

 

新たな力の副作用により一時期は安定しなかったアキラの身体も今ではすっかり安定している。さて、そんな二人は今日、いつもギンガとスバルが検査を受けている施設にきていた。

 

 

「じゃあ、始めるぞ」

 

「あ……ああ」

 

ここはいつもギンガやスバルが検査を受けている場所。そこの施設の一角にアキラとセッテが向かい合っていた。それを心配そうに見守るギンガとマリエル技師。

 

アキラは左腕の人工外皮部分を全て外して完全な機械の腕をさらしている。その腕と頭を施設のスーパーコンピューターに繋げてデータを編集していた。

 

「よし………」

 

「アキラ君、どう?」

 

「多分大丈夫だ………ごほっ!」

 

アキラが鼻血を噴き出す。ギンガとマリエルが慌ててアキラを支える。彼が今左腕で作ってるデータはあまりにも重かった。アキラが左腕で採取してきたデータをスーパーコンピューターに移してそれを平均化させ、アキラの脳を通して左腕に再び戻す作業をしているのだが、異常なまでのデータ量により脳に負担が掛かり過ぎている。

 

「大丈夫!?」

 

「………ちょっと…キツイな…………セッテ…悪いがお前から来てくれ……………動けないから」

 

アキラはその場に座り込む。セッテはアキラと同じ目線の高さで座り、頭を差し出した。

 

「お願いします」

 

「いくぞ…」

 

アキラが左腕を伸ばす。セッテが頭を差し出し、アキラの左腕に触れた。その瞬間、セッテの脳内に大量の情報が送られてきた。アキラの腕が頭に触れてから一秒経たずにセッテは耐えられなくなり、アキラから離れようとした。

 

「ギンガ!セッテを抑えてくれ!!」

 

「うん!セッテ、ごめん!」

 

ギンガはセッテを無理やりに押さえつける。

 

「ああああああああ!!!!!!」

 

セッテは必死にギンガの手を振りほどこうとした。しかし、ギンガは戦闘機人モードを発動させて全力で押さえる。そんな調子で左腕に触れさせ続けると、セッテは少し意識を失った。

 

マリエルがアキラを支えながら心配そうに尋ねる。

 

「うまく行ったの?」

 

「わからん……もし失敗してもあまり脳に影響を与えないようにしたが……」

 

「…………う…」

 

セッテが目覚める。アキラは無理に体を動かし、セッテの肩を掴んで状態を確認した。

 

「大丈夫か!?セッテ!調子は……」

 

そのセッテがアキラの顔を視認した瞬間、セッテはアキラに抱きつく。アキラは急なことだったが、俊敏に反応してセッテを支えた。

 

「おい!しっかりしろ!!」

 

「………すみません…気分が悪いので………もう少しこのままでいても良いでしょうか」

 

「あ…ああ」

 

セッテに行ったのは、人格データの植え付け。感情のないセッテに感情を与えるといった、失敗の可能性もある実験的なプログラムだった。ディードとオットーは、心を開いて行くにつれ、思ったよりも感情があることはわかったが、問題はセッテだった。セッテには本当に感情という物がなかった。そのまま社会に出れば、もしかしたら問題が出るかもしれないと考えたアキラとギンガが今回のことを思いついたのだ。マリエルに相談したところ、感情を与えるのなら今の人格データを消して新しく人格データを作ることがだと言われたが、アキラもギンガもそれに反対した。

 

何故なら、一度セッテが感情的な行動を見せたことがあるからだ。それは、ウィードがギンガとセッテのいる前でアキラとあった時。彼女はアキラが人殺しをさせたくなくて、自身が檻の中にいる時間が伸びるのを覚悟で「自分がやつを殺す」と言ったのだ。アキラはその僅かな感情をベースに他の人間から採取した人格データを追加すればどうにかなると提案したのだ。

 

そして……人格データを追加されたセッテは………様々な感情を手に入れ、今まで感じなかった思いが全身を駆け巡っている。何より、最初に胸に響いた感情は……「好き」という感情だった。

 

「…………感情…は、芽生えたか?」

 

アキラは恐る恐る訪ねて見た。

 

「…………はいっ。あの、アキラ………さん」

 

「敬語って………まぁいいや。なんだ」

 

「私、これからあなたの家族に…なれるんですよね」

 

「俺のっていうか…どっちかってぇとナカジマ家だが。とりあえず一緒に暮らすな」

 

セッテはそれを聞くと、少し笑ってから涙を流す。アキラは驚きながらセッテの瞳から溢れた涙を拭ってやった。アキラはセッテを少しなでて見守ってた二人を見た。

 

「笑顔…それに、涙……マリーさん、ギンガ。うまくいったみたいだ」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

セッテに感情を与えられたこの日、セッテはナカジマ家に引き取られる日でもある。アキラとギンガは車にセッテを乗せ。ナカジマ家に戻っていた。その途中、スバルから通信が来る。スバルは数日前から今日まで山に籠り、トレーニングをしていた。もう少しトレーニングする予定だったが、セッテのお迎えパーティのためにギンガが帰ってくるように言ったのだ。

 

「スバル?どうしたの?」

 

『ギン姉、ちょっと家につくの遅れそうなんだけど…』

 

「あら…どうかしたの?」

 

『実は山に籠ってる間にヴァイゼン鉱山?の事故に巻き込まれた男の子保護したんだ。その子をこれから管理局に連れて行くんだけど…手続きとかやってると遅くなると思うから…』

 

事情を聞いたギンガは仕方ないかという顔をしてから微笑む。

 

「そう言うことなら仕方ないわね。でも、なるべく急いで…」

 

ギンガが返答しきる前にアキラが急に口を開く。

 

「待て」

 

「?」

 

『?』

 

アキラは運転しながらスバルに尋ねる。

 

「ヴァイゼン鉱山……確かあそこ、あまりいい噂がなかったな」

 

アキラの言葉を聞いて、ギンガはブリッツギャリバーで局のデータベースにアクセスし、ヴァイゼン鉱山についてを閲覧した。

 

「えっと……ヴァイゼン遺跡鉱山崩壊事故……ヴァイゼン北西部アミアで深夜に地震が発生。それによって発生した有毒ガスによって住民230名全員が死亡………ってことらしいけど」

 

「表向きはな……」

 

これといって不思議のない、不幸な鉱山事故に思えるのになぜアキラがそんなに嫌悪感を抱いているのかギンガもスバルも疑問に思い、少したずねて見た。

 

「なにか知ってるの?」

 

「管理局にだって、怪しい噂の一つや二つ、三、四くらいある。それがその一つだ。現場を見ても、人為的に起こされた事件なんじゃないかって噂されてるやつだ。もしかしたら管理局にとってよくない事実があるのかもしれない。素直に持って行っても揉み消される可能性も否めなくないからな。スバル、その子連れて家に帰って来い。二、三聞きたいことがある」

 

スバルは少し考えてから答える。

 

『うーんまぁ、遅くなっちゃったら家に泊めて明日管理局に行けばいいもんね。でも、アキラさん』

 

「ん?」

 

『本当にそれだけですか?』

 

スバルは、あまり聞くべきではないかも知れないと一瞬思ったが、思い切って聞いて見た。確かに今の説明を受ければ気になるのもわからなくはないが、アキラがそれだけでこんなことを言い出すようには思えなかったのだ。

 

アキラは少し黙っていたが、スバルの気持ちを察したのか口を開く。

 

「…………はぁ、実はな……ヴァイゼンに研究所がある。いや、もう廃棄されてるからあった、か。そこで俺の妹や弟…AtoZ計画の数人が作られてる……。俺の身体への実験が成功した後、弟妹に色んな研究所で強化実験が行われてたって話だ。もし、実験の影響でヴァイゼンが潰れたんなら………俺に責任がある」

 

『やっぱり…』

 

「また一人で背負い込もうとしてたね?」

 

ギンガにもスバルにもお見通しだったようだ。アキラは軽くため息をつく。

 

「…………あまり俺のせいで、誰かを危険に巻き込みたくない」

 

ギンガはアキラの頭を軽く小突いた。

 

「誰かに頼らないっていうのは強さじゃないよ。それに、もうアキラ君に振り回されるのは慣れたから」

 

ギンガは微笑む。アキラはありがとうの意を込めてギンガの頭を撫でてやった。撫でられてギンガは嬉しかったが、セッテが後ろに乗っているしスバルとの通信もまだ切ってなかったので姉として少し恥ずかしくなる。

 

『じゃあ、とりあえず一回家で保護してそれから管理局に連れて行くって形でいいかな?』

 

「そうね」

 

 

 

ーナカジマ家ー

 

 

 

ナカジマ家ではゲンヤが一人、セッテ歓迎の準備をしていた。大体の準備を終えた後、ゲンヤはクイントの写真が入った写真立てを手に取る。

 

「クイント、今日、家族が増えるぞ…………お前も一緒にいたら…良かったのにな。無駄に広くて、お前がいなくなった後、ギンガと二人きりは寂しかったこの家も少しは賑やかになるだろうよ。……ギンガの将来の旦那は…しっかり者だからよ安心して見守っててくれよな……いや、いつも見守っててくれてるから言う必要もないか」

 

ゲンヤは少し笑った。すると、玄関のドアが開く音がする。ゲンヤは今から玄関を覗いた。

 

「おお、スバル帰ったのか」

 

「うん、ただいま父さん。ほら、入って入って」

 

スバルは自分の後ろにいる少年に入るように促す。少年は警戒しながら少しずつ家の中に入っていく。

 

「その子が保護したって子か」

 

ゲンヤには既にギンガから連絡を受けて、スバルが少年を連れ帰っていくことを既に聞いていた。

 

「うん」

 

「スゥちゃんのお父さん?」

 

「そうだよ。あと、まだいないけど私にお姉ちゃんと新しい妹と、お姉ちゃんの彼氏さんが今の私の家族かな」

 

微笑ましい光景を見ながらゲンヤが思い出したように言う。

 

「ああ、そうだ。身体とか汚れてるだろうからシャワーでも浴びてこい。着替えとタオルなら用意してあるからよ」

 

「ありがとう父さん。行こうか」

 

スバルは少年を連れて風呂場に直行する。スバルを見送った後、10分くらい経ってから再び玄関のドアが開いた。

 

「ただいま〜」

 

「今度はギンガか」

 

「うん」

 

「……お邪魔、します」

 

ギンガに続いてセッテが玄関の前に立った。

 

「…」

 

しかし、セッテはそれ以上前に進めない。怖かったのだ。戦いのない、本当は自分がいるべきではない日常に行くのが。感情を手に入れてからずっと、そこに恐怖心を抱いている。

 

しばらく立ち止まっていると、いつの間にかアキラが後ろに立っていた。

 

「アキラさん…」

 

「大丈夫だ。意外とすぐ慣れる」

 

セッテの気持ちを察して言った言葉だ。アキラはそれだけ言ってセッテの背中を軽く押してやる。セッテは玄関に足を踏み入れた…その瞬間、世界が変わって見えた。戸惑うセッテにギンガが手を伸ばす。

 

「ほらセッテ、お邪魔しますじゃなくて…ただいまでしょ?」

 

「……………はいっ。ただいま…です」

 

セッテは感謝の意を込めて頷いた。

 

「ほら、とりあえず私の部屋来て。服用意してあるから」

 

ギンガはセッテを連れて自分の部屋に向かう。アキラも家に入り、ゲンヤと居間に入る。

 

「ちょっとトイレに行ってくる」

 

「ん」

 

ゲンヤはトイレに向かい、アキラは今に一人きりになった。既に準備されている料理や皿に不備はないかといろいろ確認し始める。すると、風呂場の方から小さな足音が聞こえてきた。

 

「トーマ~!ちゃんと身体拭かないと風引くよ〜!」

 

「いいって!もう服来ちゃったし!」

 

スバルと少年の声がした後、居間のドアが勢いよく開かれる。アキラは急に開いたドアの方を見た。そこには、スバルのお古を着た少年が駆け込んできていた。

 

 

 

続く



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第三十六話 鉱山

すいません、投稿日を一日間違えてました!次回からは気をつけます!まぁでも、区切りがよくなったので次回のR-18版は予定を一日ずらして6日後に上げます。お楽しみに!


ヴァイゼン鉱山が…俺の故郷がメチャクチャにされて、もうニ、三年経つ。あの日、あそこにいた鉱山をメチャクチャにしたかも知れない誰か……。いや、きっとあいつらが犯人に違いない。いつか探し出して、復讐するつもりだった。殺して、それでどうにかなるわけじゃないけど、もうそれくらいしか考えられなかった。

 

 

 

 

でも、そんな俺をスバルさん……スゥちゃんが拾ってくれた。事故の後は一人で生きてきて、色んな人にあったけど初めてだった。俺に声をかけてくれた人は…。最初は食べ物を少し盗んですぐ去る予定だったけど、スゥちゃんは俺に優しくしてくれた。こんな山奥でトレーニングしてる理由とか聞いたら、すっごく優しい人だって知った。だから俺は自分のことを話した。

 

そしたらちゃんとした形で保護してくれるって言ってくれた。俺はすごく久しぶりに人里に来て、今、スゥちゃんの家に俺はいる。早速シャワーを借りることにした。

 

「さ、トーマ、一緒に入ろ」

 

「え⁉」

 

突然の言葉に俺が驚いている間に、俺は一気に脱がされてしまう。

 

「ちょっ!ちょっと待って!先に入っててよ!俺待ってるから!」

 

「それじゃ効率悪いし、ほら、私は気にしないから」

 

「俺が気にするんだって!!」

 

そのまま俺はスゥちゃんに抱えられ、風呂場に連れていかれた。

 

 

 

ー二十分後ー

 

 

トーマはスバルに全身隈無く洗われ、最終的には湯船にまで浸からされそうになった。流石にそれ以上一緒にいるのは精神的に耐えられなかったので、スバルが頭を洗っている隙をついて脱衣所に飛び出し、バスタオルで急いで全身を拭く。

 

「ちょっちょっとトーマ!?」

 

「もう身体洗ったから大丈夫!」

 

トーマは一気に服を着て、ずっと纏っていたマントを掴んでさっきゲンヤがいた居間まで走った。後ろからスバルが何か叫ぶ声がしたが、トーマは無視した。居間に飛び込むと、その場で軽く息をつく。

 

「はぁ…はぁ…年頃の女の人が、すぐに肌をさらすべきじゃないと思うんだけどなぁ……」

 

「おい、大丈夫か?」

 

横から、ゲンヤとは違う声がした。ゲンヤよりももっと若い、けど低くて何処かに重みのある声だ。声のした方をみると、そこには背の高い管理局制服を来た男が立っていた。アキラだ。トーマは最初、その場に立っていたアキラをスバルの兄かなにかだと思った。トーマはアキラに、大丈夫かと聞かれたからすぐに何らかの適当な反応をしようとしたが、アキラの顔を見た瞬間に言葉が消えた。

 

 

「え……………」

 

「ん?……………ああ、俺は橘アキラ。この家の家族じゃなくて居候だ」

 

(男………アキラと名乗ったがそんなことはどうでもいい。右目の部分にある………藍色の羽根の刺青………俺の故郷を……壊したかもしれない奴らの………唯一の手がかり…………)

 

アキラの右目の周りにはECウィルスの目印とも言える、藍色の羽根の模様があった。トーマはそれを見てしまったのだ。

 

「………」

 

「………?」

 

トーマはしばらくアキラを見つめながら、半殺しにした上で仲間のことを聞き出すための作戦を一気に考える。

 

(俺とあの男じゃ体格的に不利だ…。まず狙うとしたら足………それからテーブルに乗ってるチキン用のナイフを使えば…)

 

トーマは小さく深呼吸をしてから作戦に移る。

 

「……あっ!」

 

トーマはアキラより後ろの特に何もないところを見て驚いたフリをしながら指を指す。アキラがそれを疑問に思った瞬間、トーマがマントの中に隠しておいたナイフを取り出し、アキラの足目掛けてナイフを振りかざした。刹那、アキラはトーマの行動に気がつく。しかし彼は、その行動に十分対処できたのにもかかわらず、トーマに刺された。

 

「痛ぅっ…………」

 

そのままトーマはアキラに足をかけ、アキラを転ばせる。アキラは抵抗はしなかったものの倒れた時にテーブルに手を引っ掛けたため、テーブルに積まれてた取り皿が落ちて一気に割れた。

 

家にいた全員が気づいたかもしれないが、トーマは気にせずチキンを切り分けるためのナイフを手に取り、アキラの上に押さえつけるように跨がる。そして、今度は頸椎あたりを目掛けてナイフを振り下ろした。流石にそんなところを刺されたらアキラもマズイので右手で首を護る。

 

そんなに長くないナイフはアキラの腕に突き刺さったが、貫きはしなかった。トーマがナイフを抜こうとした時、アキラはその手を抑える。それと同時にギンガとセッテが皿が割れた音を聞きつけ、部屋に飛び込んできた。

 

「!!!!アキラ君!」

 

「貴様!!!」

 

ギンガは血相を変え、セッテは怒り混じりの厳しい目付きでトーマを取り押さえようとする。が、それをアキラが静止させた。

 

「待て!!!!」

 

「っ!…だが………」

 

「俺は大丈夫だ………」

 

セッテを止めた後、アキラはトーマに視線を戻す。

 

「お前…………何でこんなことをする?」

 

「うるさい!!!お前だろ!俺の故郷をメチャクチャにしたのは!」

 

「なに!?」

 

思いがけない言葉にアキラは驚いた。アキラはトーマの目を見る。その瞳には、憎しみと、アキラの右眼の藍色の羽根の模様が移されている。

 

「…………そうか、俺とどこか共通点を持つ奴らを………見たんだな?」

 

アキラの表情と声は一変し、しゃべるだけで正面に、周りにいる人間に恐怖心を与える昔のアキラに戻ってしまったような感じになった。その声の重さに、セッテも背筋がゾクリとする。アキラは掴んでいたトーマの手を離し、空いた掌をトーマの胸に付けた

 

「ショット」

 

「!」

 

小さな魔力弾がトーマの胸にゼロ距離で当たり、魔力ダメージでトーマは吹っ飛んだ。

 

「!!」

 

ギンガがアキラの行動に対し、何かを言おうとしたがそれよりも先にアキラが口を挟む。

 

「魔力だけで吹っ飛ばした。死にゃしねぇ」

 

「でも…!」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!」

 

吹っ飛ばされたトーマは近くに立て掛けられてたアキラの「紅月」を見つけ、それを手に取ろうとしたがアキラが即座に取り出したECディバイダーから放たれた魔力弾が紅月を吹っ飛ばす。

 

「……やっぱり…」

 

「お前の故郷をぶっ壊したやつはこんな銃も持ってたか?」

 

「ああ!そうだ!やっぱりお前がやったんだな!?それから!」

 

トーマは視線をアキラからギンガとセッテに向けた。

 

「あんた等のどっちかが本を持ってるんじゃないか!?」

 

トーマが叫んだ瞬間、アキラはトーマに飛びかかった。体格差でトーマは負け、アキラはトーマの手を背中で組ませて頭を床に押し付けて拘束する。

 

「ぐぅ………」

 

「言っておく。俺はお前の仇でも何でもない。ヴァイゼン鉱山にはいったことはあるが誰も殺しちゃいねぇし、街も壊してない。それから、お前の言ってる本とやらはこれか?」

 

アキラは普段連絡用に使っている端末を取り出し、その中から一つの画像ファイルを表示し、トーマに見せる。見せた画像は、黒い表紙に銀色の十字架がついている本の画像だった。トーマは頷く。

 

「そうか。でもな、そこにいる二人も本は持ってないし、ついでに言うとスバルも持ってないから安心しろ」

 

「そんな……じゃあ、お前は………違うのか?」

 

「暴れるなよ」

 

トーマの耳元で囁いた後、アキラは立ち上がると同時に押さえつけていた手を離した。トーマは暴れることなく、解放されたあとも動こうとしない。アキラは椅子に座ってトーマが刺したナイフを掴む。そして、一気に引き抜いた。足から血が噴き出そうになったが、即座に発動させた氷結魔法で血は固まった。

 

「ギンガ、セッテ、悪いがそこの……………おい、お前名前は何て言う?」

 

「……………トーマ・アヴェニール」

 

「トーマに何かないか見てやってくれ。魔力ダメージだが、念のためな」

 

気がつけばアキラはいつも通りの声になっている。そして、ECディバイダーでリアクトして高速再生で傷を癒した。ギンガは少し安心してトーマの横にしゃがみ込んだ。セッテもあとに続く。

 

「大丈夫?トーマ君」

 

トーマは答えようとしない。そんな時、セッテがトーマを起こさせ、自分の方を見させた。

 

「何があったかは知らないが、人を殺すのはダメだ。絶対」

 

「家族を殺した相手でも?」

 

「ああ。すべての命は等しく一つで…………尊い」

 

その光景を見たアキラは急に立ち上がり、さっき吹っ飛ばした紅月を拾い上げてセッテの前にいく。

 

「ギンガ、俺は少し出かけてくる。セッテ。俺が戻るまでギンガの護衛頼んでいいか?」

 

「え……あ…………はい。任せてください」

 

セッテはアキラから紅月を受け取り、微笑んだ。アキラはバイクの鍵を持って廊下に出る。そこでゲンヤとスバルに出くわした。アキラは気づかれないように、そっと素早く服についた傷と滲んだ血を隠す。

 

「あ、さっきから何かドタバタしてるようだけど、何かあったの?」

 

「皿が割れた音がしたが……」

 

アキラは少し考え、自分の口から何があったかは言おうとしない。

 

「……トーマから聞け。俺は少し出かけてくる。あ、飯は食ってていいぜ」

 

アキラはそのまま玄関に向かっていった。スバルはアキラを見送った後、居間に入る。トーマはスバルが入ってきたことに気づくと、スバルを一瞬見たが、すぐに目を逸らした。

 

 

ー車庫ー

 

アキラは車庫の壁を殴った。

 

「俺で終わったと思ったが………まだ…実験は続いてんのか?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー翌日 ヴァイゼン鉱山ー

 

 

「ここが……ヴァイゼン鉱山…」

 

アキラとギンガ、それから数十名の管理局員鑑識課の人間。アキラは先日、トーマの話を聞いた後すぐに管理局本部のとある知り合いに会いにいった。その人物はかなり官位が高く、アキラが再調査を依頼すると、すぐに動いてくれた。

 

だから今、二人はヴァイゼン鉱山に来ていた。

 

「…………随分ひどい状況をだね」

 

「ああ。本当に地震だけでこうなるもんなのか………今から確かめる」

 

「ねぇ、アキラ君」

 

「なんだ?」

 

「トーマ君に聞きたいことがあったって言ってたけど……あれ以降何も聞いてなかったよね。良かったの?」

 

「ああ。あいつから話してくれたからな」

 

アキラは何かを探すように奥へ歩いていった。

 

「じゃあ、鑑識の皆さん、お願いします!」

 

再調査が始まった。

 

「あ、アキラく…………あれ?」

 

少し目を離した隙にアキラはいなくなっている。ギンガは慌てて鉱山の奥地に進んで行った。しかしアキラは横道に外れ、近くの森の中に入っている。ギンガがいくら進んでも見つからないだろう。

 

アキラはギンガが慌てて探しているともつゆ知らず森の中を探索していた。

 

「………確かこっちの方面に……………研究所が…」

 

歩いていると、アキラの足元に突然弾丸が撃ち込まれた。アキラはすぐに危険を察知して茂みに飛び込む。そして、ECディバイダーを出現させて茂みの中から叫んだ。

 

「誰だ!」

 

「まさかこんなところで人と出会うとはな…………しかも、感染者ときたもんだ」

 

森の奥から、白髪の男が現れる。その男の手には銃剣、そして少し見えている肌には藍色の羽根の模様が見えた。アキラは目を丸くする。

 

「さぁて、どう料理してやろうか………」

 

 

続く

 



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第三十七話 感染

またもや遅れてしまってすいません!!!春休みが終わって忙しくなったもので〜ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘
とても微妙なとこで終わってますが、今後の伏線としておきます!(回収されるかは未定
次回からようやくマリアージュ事件に突入します!次回はおそらく十日以内としておきますが、多分また遅れます!!!!すいません!!!!それと番外編で魔導辞典も出しときます!お楽しみに!


「オラァ!!!!」

 

「ぐぁ!!!!」

 

アキラが森の中で出会った男は、有無を言わさず襲いかかって来た。アキラが持っているのと同系統の銃剣。そして、ECの模様。間違いなくエクリプスウィルスの感染者だ。アキラはエクリプスウィルスの実験は、自分で終わっていたと思っていた。だが、実験は続いていたのだ。より強く、より残虐な兵器とするために。

 

「フロストショット!」

 

「!!」

 

木の影から放ったアキラの魔力砲は相手の足元で炸裂し、相手の足と地面を氷らせて動けなくする。

 

「くそっ!」

 

「リアクトオン!」

 

アキラは一気に木の影から飛び出し、リアクトして男に突っ込んで行った。男はアキラにディバイダーを向けて魔力弾を放つがアキラは素早い身のこなしでうまく避ける。アキラは開放したディバイダーを振りかざし、上空に飛んだ。

 

「氷刀一閃!!!」

 

氷属性が付与された魔力斬撃波が男に飛んで行く。リアクトしたアキラの一撃、簡単に防ぎ通せるものではない。男は魔力を可能な限り詰めた一撃をアキラの斬撃にぶつけ、直撃を避けた。攻撃のぶつかり合いで発生した爆煙の中から、アキラが特攻してくる。

 

それと同時に男の足を高速していた氷を男が砕く。

 

「おおおおおおお!!!!」

 

魔力の込められたディバイダー同士がぶつかり合い、炸裂した。アキラと男は吹き飛ばされるが二人ともうまく着地した。アキラは一瞬だったが、

ぶつかりあっていた時のことを思い出す。

 

(アイツ…ぶつかってる間、あの妙な鎧がついた左手の方で俺を掴もうとしやがった……気をつけた方がいいな)

 

「おもしれぇぞ!公務員!俺の前に立って五分立ち続けたやつは久しぶりだ」

 

「お前………どうやってエクリプスに感染した?」

 

「ん?………逆に聞くが、どうしてそんなことを知りたい?」

 

その刹那、アキラは男の視界から消え、一瞬で男との間合いを詰めた。ディバイダーで男を吹っ飛ばそうとした瞬間だった。アキラは背後に殺気を感じ、刀を抜いた。

 

アキラは抜いた刀を自分の背後に回す。それと同時に重い衝撃が刀に来た。

 

「あら、防がれちゃった?」

 

背後には何時の間にか刀を持った黒髪の女がいる。アキラがそっちに集中しかけた時、前方の男がアームのついた左手でアキラの手を掴んだ。アキラは振りほどこうとしたが、アームから発せられる魔力派で抵抗がうまくいかなくなる。

 

「右腕、いただきだ」

 

「くっ!」

 

「リボルバースマッシュ!!!!!」

 

避けきれないと思った瞬間だった。男の背後から叫び声が聞こえ、男が振り向く前に男は背後からの攻撃に吹っ飛ばされる。男は木に激突する。男を吹き飛ばしたのはギンガだ。

 

「ヴェイロン!?」

 

「余所見してる………」

 

「!」

 

「暇はねぇよ!!チェーンバインド!!!!」

 

アキラはバインドで女を縛り、刀を振りかざした。刀に電撃が纏われ、アキラが叫ぶ。

 

「雷剣轟雷!!!!!!!」

 

「くうっ!」

 

女は吹っ飛ばされたが、それと同時にアキラの肩から血が噴き出す。吹き飛ばされる瞬間、女が一瞬の隙をついて反撃したのだ。さすがはEC感染者。並の反射神経ではない。

 

「大丈夫?」

 

「かすり傷だ。大したことねーよ。それにしてもよくここがわかったな」

 

「銃声がすれば誰でも気づくよ。この人達は?」

 

「俺の同類……EC感染者だ」

 

アキラが女を吹っ飛ばした方向から足音がした。二人は構える。

 

「ふー、ちょっとびっくりしたわね」

 

「油断しすぎだ、カレン。相手はあくまで俺らと同類だ」

 

ヴェイロンと呼ばれた男が。何時の間にかカレンと呼ばれた女と合流している。カレンの方もよく見ると、全身に藍色の刺青。やはりアキラと同じEC感染者だ。男は銃剣。女は刀と、魔導書を手に持っている。先日トーマから聞いた話………。本と銃剣の2人組。この二人ならその情報と当てはまる。

 

「おい、お前ら」

 

「?」

 

「テメェ等が…………この近くの鉱山街を破壊したのか……!」

 

「この近く?……鉱山街………ん〜よくわかんないけど、もしそうだったら?」

 

アキラはディバイダーを地面に突き刺す。リアクト状態では威力は上がってるのだがアキラにはリアクト状態のディバイダーが使い勝手が悪かったのだ。そしてアキラは刀を構えた。

 

「とっ捕まえさせてもらうぜ!」

 

アキラが走り出すと同時にカレンもアキラに突っ込んで行く。ギンガもヴェイロンに攻撃を仕掛ける。

 

「風剣疾風!!!!!」

 

「甘い!」

 

カレンはアキラの技を避け、アキラに斬りかかる。カレンの斬撃を刀で受け止めようとしたアキラだが、アキラの足元から伸びてきた棘のある茨のような植物の触手がアキラの手を拘束して防御の手段をなくした。

 

「ぐあっ!くっそ!!!」

 

「じゃ、さよなら」

 

アキラの首に刀の刃が数ミリ入り込むが、拘束されてない足でカレンの手首の辺りを蹴る。剣が吹っ飛び、予想外の抵抗をされたカレンが一瞬だけ驚いた隙にアキラはカレンの腹に蹴りを入れた。

 

カレンはそれを防いだが次の行動に移るまでの僅かなロスタイムでアキラは触手を引きちぎり、刀で反撃に移る。アキラの反撃の瞬間、カレンの手にしていた本が開き、そこからページが次々と飛び出し、鋭利な刃物となってアキラを襲った。襲ってくる大量の本のページにアキラは少し距離をとってから刀を振り上げる。

 

「氷刀一閃!!!!」

 

強力な氷結魔法でページを全て凍らす。だがその直後、飛ばされた刀を空中で掴んだカレンがその切っ先をアキラに向けた。

 

「白雪!」

 

「くそっ!」

 

防御がギリギリで間に合わず、アキラはカレンの放った数発の魔力弾のようなものをまともに食らった。アキラは空中で体制を立て直し、うまく着地するがカレンの追撃は止まらない。

 

「茨姫!!!」

 

「食らうかよ!!!」

 

再び伸びてきた茨の触手をアキラは取り押さえられる前に切り落とした。

 

「はぁ!!」

 

「おお!!!!」

 

互いに額を狙って刀を突き出す。アキラは頬を、カレンは髪が少し切られた。だが、完全に腕が伸び切らないうちにアキラは抱きつくようにカレンに身体を密着する。

 

「んっ!」

 

アキラが密着した直後、カレンは急に距離をとった。アキラが小刀をカレンの腹部に刺したのだ。

 

「あらら、今のは結構本気で殺しにかかってたねぇ。管理局員が簡単に殺そうとしていいの?」

 

「EC感染者に手加減が必要か?」

 

「そうね……ま、殺しに来てるんなら……殺されたって文句は言えないわよね?」

 

「なんだ、まだ殺す気で来てなかったのか?」

 

 

 

 

一方のギンガは、ヴェイロンを相手に中々善戦していた。素早い攻撃の連発で完全にヴェイロンを翻弄している。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「くそっ!!!」

 

「アクセルスマッシュ!!!!!」

 

ディバイダーを構えるのが僅かに遅れたヴェイロンにギンガは右拳で腹部に一発叩き込んだ。ヴェイロン軽く吹っ飛ばされるが、ギンガはその吹っ飛ばされる速度に合わせて前進し、左拳を振りかざした。

 

「アキラ君直伝、空断!!!!!!」

 

アキラがこっそり練習していた我流の格闘技。その中の一つをギンガはこの間教わったのだ。単純な拳とさして変わりないが、構えてから打ち出すまでの形が決まっており、うまく放てば空気の壁を突き破る速度で打てる結構危険な技だ。だが、そんな拳をヴェイロンは左腕で受け止めた。もちろん衝撃をモロに食らったわけだから無傷とは言えないが。

 

「!」

 

「さっきのやつは失敗したが…この腕もらうぜ?」

 

「くっ!!!」

 

ギンガは必死に振りほどこうとするが、凄まじい握力で押さえつけられていて簡単にはふりほどけそうにない。ギンガは足に魔力を圧縮し、ヴェイロンの腕を横から思いっきり蹴り飛ばした。ヴェイロンの腕からは出血、ギンガはどうにか彼の腕から脱出し、距離をとった。

 

「ちっ、もうちょいだったのによ…」

 

「…あなたは……なにが目的なの?どうしてアキラ君を……」

 

ギンガが尋ねると、ヴェイロンはディバイダーを方に担いで答える。

 

「俺はただ、生きるために殺そうとしただけだ。あの男を殺そうとしたら、あいつも感染者だった。だから久々に面白い戦いができると思って遊んでただけだ」

 

「生きるために……?」

 

ギンガが尋ねると、一瞬ヴェイロンは拍子抜けな表情をした。そしてそのあとすぐに笑い出す。

 

「あ………?くっ!ははっ!はっはっはっはっ!!!!!!なんだテメェあいつの仲間なのに知らねぇのか!!!!」

 

「…………何を知らないっていうの?」

 

「くっくっく………いいか?俺たちEC感染者は人を殺さずにはいられない」

 

「!!!!!!!!」

 

ギンガは驚いた。口を開いたまま呆然と立ち尽くす。EC感染者は人を殺さずにはいられない。もしそれが本当ならば、今もアキラが生きて自分のそばにいるってことは……。

 

ギンガは怯えた目で戦闘中のアキラを見た。

 

(まさか………まさか………)

 

「おしゃべりが過ぎたな。さぁ、続けようぜ!!!!!」

 

ヴェイロンは笑いながらディバイダーの剣の部分でギンガを刺しにかかった。最も最悪な想像をしながらアキラを見ていたギンガは対抗できずに刺されそうになる。

 

「ギンガっ!!!!!」

 

何時の間にかアキラがこちらに走ってきていた。そのアキラの叫び声でようやくギンガは自分に危機が迫ってることに気づく。アキラは身を呈してギンガの盾となる。

 

「何ボーッとしてんだ!!!!!ギンガ!!!」

 

「へ……あ…」

 

「くたばれ!!!」

 

ヴェイロンが左手でアキラの腕を掴もうとした時、カレンの放った白雪がアキラとギンガを吹っ飛ばした。

 

「おいカレン、邪魔すんな」

 

「お楽しみのところ悪いけど、管理局の連中が集まってきたわ。全然切り抜けられるけど、局が相手だと色々面倒だからさっさと逃げるよ」

 

「ちっ、仕方ねぇな」

 

二人は森の奥に逃げて行く。アキラは刺された部分を押さえながら立ち上がった。そして、ギンガに手を伸ばす。

 

「大丈夫か?」

 

「…………アキラ君……」

 

「どうした?」

 

怯えた表情でアキラを見る。さっきまで考えていた最悪の想像。ギンガはこのことを聞くべきか否か相当悩んでいた。だが、もし想像が当たっていたらこれ以上被害を増やさせる訳にはいかない。ギンガはぐっと全身に力をいれてからアキラに尋ねた。

 

「アキラ君は……………人を殺してるの?」

 

「あ?………ん〜確かに殺したが、それは前にも話した研究所でのことだぞ?」

 

「今は………殺してないの?」

 

「当たり前だろ?…………ギンガ、お前いったいどうした?」

 

「だって、さっきの人が、EC感染者は人を殺さないと……生きていけないって」

 

「…………」

 

アキラは少しため息をついてギンガに手を伸ばす。ギンガは一瞬怯えて後退ろうととしたが、その動きを止めた。アキラはギンガの頭を撫でる。アキラのことを信用して、自分に触れさせたのだ。

 

「ちゃんとわかってくれてるじゃねぇか」

 

「それは……アキラ君のことは信用してるけど………でも殺してないとしたらなんで大丈夫なの?」

 

「………俺の感染してるECは、俺が感染したときに書き換えた。殺人衝動、破壊衝動、自己追滅が起きない代わりに、あいつらよりか力は劣るけどな」

 

「本当に?」

 

不安そうなギンガを、アキラは抱きしめる。

 

「信用してるんだろ?疑ってくれるなよ」

 

「うん………ごめんね?傷、大丈夫?」

 

「大したことねぇよ」

 

誤解が解けたところで、アキラたちが森に入ってきた方向から後輩、シノブの声が聞こえてくる。

 

「ギンガせんぱーい!アキラせんぱーい!!」

 

「ギンガ、先戻っててくれ。ちょっとションベンに行ってくる。そこらの茂みでしてくるわ」

 

突拍子もないことを言われ、ギンガはため息をついてシノブの声のする方へ歩き出すが、アキラが止めた。

 

「ああ、それとさ、さっきの奴らのことは誰にも言わないでくれ」

 

「なんで?」

 

「頼む………あとで必ず話すから」

 

ギンガは不満そうな顔を浮かべたが、小さく頷いて歩いて行く。アキラは軽く一息つくと、近くの川まで向かった。川に着いたアキラはバリアジャケットの上着を脱いで、上半身裸になると、先ほど刺されたところに水をかけた。血が洗われ、傷の形がはっきりする。

 

「……………」

 

もう傷が塞がりかけていた。リアクト状態なら普通だが、今はリアクトもしていない。ECが進行している可能性が高い。今までそんな兆候はなかったのに………最近ECウィルスが活性化し始めてきている。

 

アキラ顔を洗い、髪をかきあげて空を見つめた。

 

「チクショウ……………」

 

その後、ヴァイゼン鉱山の調査は続けられたが、特に何も見つかることはなく、改めて事故ということで処理された。

 

 

 



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番外編 魔導辞典(人物編)

サウンドステージxに入る前に、オリキャラ達の現状や、登場したキャラたちの説明、既存キャラの現状です。そのうちアイテム編も出します。次回はサウンドステージxですので、どうぞお楽しみに〜。もし抜けや現状が知りたいキャラがいましたら、ご連絡ください。


橘アキラ

階級:陸曹(JS事件)→准陸尉(JS事件解決時)→二等陸尉(新暦78年)

身長:195cm

防護服:強化コート

デバイス:ディバイダーTP(タイププロトの略)烈風(リアクトバースト時)

ギンガと出会い全ての運命が変わった青年。主に刀を使い、氷結魔法が得意。自身の分身から得た魔法で、武器を使った攻撃の付与限定で火風雷地属性の魔法が使える。巨大な破壊兵器(神威)を落としたことから結構な有名人。20になったが未だに常識は身についていない。実力的な面で二等陸尉まで昇進し、今は108部隊の武装隊の隊長を務めている。昔に比べて性格は丸くなり、管理局の中でも結構人気がある。エクリプス感染者で、最近再生能力が成長している気がしているのが悩みだが、ギンガに打ち明けてはいない。78年になってから仕事の合間を見つけては何処かへ出かけるようになった。

 

 

ギンガ・ナカジマ

階級:陸曹(JS事件)→陸曹長(JS事件解決時)→准陸尉(新暦78年)

身長:162cm

防護服:?

b81w57h83

デバイス:ブリッツギャリバー リボルバーナックル

アキラに過保護過ぎる護衛をされている少女。姉という立場から、あまり甘えた経験がないのでアキラに撫でられたり抱きしめられたりお姫様抱っこされるのが好き。逆に、ごく稀だが甘えてくるアキラも可愛いと思ってる。清楚で凛々しく、抜群なスタイルの外面から男性局員か人気はあるが、下心を持って近づこうものならアキラが黙ってないので告白したり寝取ったりしようと考える人間はまずいない。しかし、外面とは裏腹に、案外可愛かったり、少しドジだったりすることもある。今はアキラの率いる隊の副隊長及び隊長補佐を務めながら、ナンバーズの更生をやっている。最近デバイスの強化をしたらしい。

 

 

セッテ・ナカジマ

階級:三等陸士

身長183cm

防護服:なし

デバイス:ブーメランブレード

アキラの言葉で更生の道を選び、ナカジマ家に引き取られることを望んだ少女。今は陸士108部隊の新人として頑張っている。階級は低いが、戦闘能力に関してはトップクラス。アキラに感情を与えられ、ナンバーズだった頃よりかマシになったものの未だに感情を表に出すのが苦手。早く仮釈放された理由は、トーレとJS事件でセッテと戦った隊員の証言で発覚した、誰も殺さなかったことと、事件への干渉性が薄いことによるもの。最近は恋に興味を持っている。

 

 

 

白甲冑の男

階級?

身長197cm

防護服?

デバイス?

アキラやその関係者の前に度々現れる謎の人物。桁外れの魔力と通常ではあり得ない魔法を使う。自らを「世界の管理人」と名乗り、アキラ達を何処かへ導こうとしてるのか、目的は不明。

 

ヴァルチ・メグ

階級:陸曹→陸曹長

身長:150cm

防護服:陽炎

デバイス:暁

ギンガの同僚で親友。だが、その正体はかつてベルカを牛耳ったアーベルが率いる騎士団の団長だった。その魂を引き継いだジーンリンカーコアを体内に融合した人造魔導師。しかし、過去の自分とは決別し、今の人生を謳歌している。性格も陽気で、主にムードメーカー。JS事件でジーンリンカーコアをアーベルに抜かれ、アキラが取り返したが、アキラのディバイダーで魔力を使用したことで魔力ランクがAからBに落ち、今では前線を引いている。騎士団長時代の名前はアーシア・べーリック。

 

 

アーシア

階級:なし

身長172cm(人間体)

デバイス:なし

防護服:なし

メグの使い魔。現在は小さな魔法石に姿を変え、肉体が完全に再生するのを待っている。名前は主人であるメグの本名。回復系の魔法を使い、人を死の直前ならば自身を小さな魔力の欠片に一時的に返還することによって治療が出来る。ただし、その治療される側は物凄く痛い。

 

 

ウィード

階級:なし

身長182cm

防護服:なし

デバイス:黙示録の書(レプリカ)

アキラ達AtoZ計画メンバーの産みの親。脳以外を全て黙示録の産み出す黒い触手に肉体を置き換えた人物。今は管理局が黙示録の書を封じるために使う包帯と同じもので隔離、監禁している。最近橘アキラが会いにきたという報告があるが……?

 

アーベル

階級:なし

身長:190cm(生前)

防護服:シュラウド

デバイス:なし

凄まじい魔力の才能の持ち主だった少年。オリヴィエたちの活躍するずっと前の時代の戦争に終止符を打った。「たくさんの国や人々の正義がバラバラの標的に向けられるなら、それを一点に集中する一つの悪があればいい。その悪に自分がなろう」と考え、世界を敵に回した男。真相はいずれ明らかになる………?

 

 

テレジー・サラ

階級:なし

身長:128cm

防護服:竜の加護

デバイス:量産型簡易デバイス

黙示録を封じる役目を請け負ったテレジー家の九代目。あまり戦闘向きではないが、封印のスキルだけは群を抜いている。キャロ達と同じ村の人間の血が少しだけ混じっており、竜を操ることも僅かに得意。基本的に封印の祭壇の前にいて外には出ない。髪の色は赤色。

 

 

十六夜シノブ

階級:二等陸士

身長:165cm

防護服:白夜

デバイス:蒼月

アキラ達の後輩。小さな身体に関わらず、長い長剣を使う。黒髪の長髪。14歳という若さにも関わらず剣術はアキラと互角並。魔法は得意ではないが、基礎的なものはちゃんと使える。あまり戯れることはせず、群れない主義だがメグがちょこちょこちょっかいを出したりするおかげで最近ペースを乱されている。実は動物が好きで、同じ部隊に所属しているザフィーラをもふもふするのが今のところ目標である。

 



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SSX マリアージュ事件編
第三十八話 障害


ちょっと短いです。SSXの01と02分ですね。次回は少し遅れた十二日以内になります。次回は03、04、05くらいまでやりたいですかね。


むかし、大きな戦がありました。数百年以上の長きに渡って続いた古代ベルカ戦争。

 

その終焉には、古代ベルカの土地を人の住めない場所に変えてしまった忘れ得ぬ戦。そんな戦乱の歴史は、たくさんの命と可能性を奪いましたが、同時に、様々な物を生み出しました。独自の魔法や技術、そして武器や兵器。

 

忌まわしい記憶として消えてしまったもの。今も受け継がれているもの。大きな戦争のない時代になって、暦が新暦を数えるようになってから、もうじき80年。世界は概ね平和ですが、尽きることのない事件や災害と、今も、戦い続けている人たちがいます。

 

 

 

 

 

 

ーミッドショッピングモールー

 

 

ここはショッピングモールフィリーズ。ミッドチルダが誇る巨大なショッピングモールだ。様々な店があり、そこだけで日常的な生活に必要なものは全て揃うと言っても過言ではない。

 

さて、そんな中には宝石店なんかもある。その宝石店の前でうろうろそわそわと、落ち着かない男性が一人。

 

珍しく一人で出歩いている橘アキラだ。

 

「……」

 

「ん?」

 

アキラに気づいた誰かが、後ろから声をかけた。

 

「久しぶりだな。橘アキラ」

 

「うおわっ!!!!」

 

予想以上に驚いたアキラに、声をかけたシグナムも驚く。声をかけてきたのがシグナムだとわかると、アキラはほっと胸を撫で下ろす。そしてため息をついた。

 

「なんだ……あんたか………」

 

「ああ、私だ。アキラ陸曹…あ、今は二尉だったか。今は一体こんなところで何をしてたんだ?ここは………宝石店?」

 

「あ、いやっその………」

 

なにか言い訳を探そうとするが、そんな経験がなくて良い言い訳が思い付かず慌てるアキラを見て、シグナムはクスリと笑った。そして店頭のショーケースに置かれている指輪やネックレスを見ていう。

 

「見たところ、ギンガへのプレゼントといったところか」

 

「あ……いや、その………ああ」

 

全て見透かされているのだろうと思ったアキラは、誤魔化そうとするのを諦めた。

 

「理由はだいたい想像がつくが、ギンガにプレゼントを贈りたくて来たはいいものの、入ったことがない店で緊張してたってところか?」

 

アキラは完全に動きを止めている。100%図星だったようだ。その様子を見ると、シグナムは顔を逸らして口元を押さえる。

 

「ククク………っ!くっくっ」

 

「な、なに笑ってんだよ!悪かったな!宝石屋に入る度胸もなくて!!!!」

 

「いや、昔に比べると、ずいぶんお前も丸くなったと思ってな」

 

シグナムに言われ、アキラは首を傾げて考える。アキラ本人としては、丸くなった気がしてなかったからだ。だが、あのシグナムが笑うくらいだ。ギンガのおかげでここまで丸くなれたんだと、アキラは実感する。

 

 

「ところで、なんでプレゼントを渡そうと思ったんだ?」

 

「さっきだいたい想像がつくがって言ったじゃねぇかよ………それはまぁ……その……」

 

アキラが理由を言おうとした瞬間だった。アキラ達がいる階の上、27階が突然爆発した。二人の表情は一気に仕事モードに変わり、爆発した場所を見る。

 

「!?」

 

「なんだ!」

 

アキラは急いでバリアジャケットを纏い、シグナムと共に走り出した。

 

「シグナムさん!!あんたは上の階の避難誘導頼めるか!管理局制服着てる人間がやった方が進みが早い!」

 

「わかった、お前は」

 

「爆発ってことは犯人がいる可能性がある!氷結魔法で消化しながら爆発の原因を調べる!」

 

アキラは非常用の階段を駆け上がりながらギンガに連絡をとった。

 

「ギンガ!」

 

[あ、アキラ君。今どこにいるの?まだ仕事中……]

 

「悪いが事情はあとで話す!緊急事態発生だ!ショッピングモールフィリーズにて爆発が発生。恐らく最近頻発してる事件と…フォルスやヴァイゼンの事件と関連性がある!」

 

[ええっ!?]

 

「一応消火活動には当たるが、もしかしたら犯人がいる可能性が……うぉわ!!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

[ザーッ…………]

 

通信がきれた。画面の前でギンガは少し唖然としていた。そして、一気に何処かへ向かってダッシュし出す。

 

 

ー部隊長室ー

 

 

「とおっさんっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」

 

ゲンヤが部隊長室でコーヒーを飲んでくつろいでいるところに、ギンガがドアをブチ破る勢いで部屋に飛び込んできた。ゲンヤは心臓が止まりそうな勢いで驚き、コーヒーを噴き出してしまう。そして、近くにあったティッシュを掴んで口元をおさえながらむせた。

 

だがしかし、ギンガはそんなこと気にせずにズカズカと部屋の中に入ってくる。

 

「今すぐアキラ君の部隊に出撃命令を!!!」

 

「げほっ!ごほ!どうした急に」

 

「アキラ君から先ほど連絡がありました!ショッピン…」

 

ギンガが説明し終わる前に、警防隊からの連絡があった通信室が先に放送を始める。

 

[緊急事態発生!ミッドチルダ南部、ショッピングモールフィリーズにて爆発による火災発生!出撃命令が出る可能性があります!武装隊はいつでも出撃可能にしてください!』

 

「部隊長!」

 

放送が終わるのと同時に通信室の隊員が部隊長室に飛び込んできた。そして現状を報告する。これまで起きていた爆発事件と類似性があること、まだ開催前だったイベント会場にて事件が起きたことを報告した。

 

「そうか……わかった。ところでギンガ、アキラはどうした」

 

「そのアキラ君が今ショッピングモールにいたらしくて、でも、急に通信が途切れて……心配になったからここにきたんです!」

 

「なるほどな……まぁあいつなら大丈夫だろ。よしギンガ、これから警防と連携とって現場での犯人確保と現場の収集つけにいってくれ。これが最近続いてる事件と関連があったら本格的に捜査開始だな。執務官とも連携をとる。いいな」

 

「「了解!!」」

 

通信係の隊員と共にギンガは部屋を出た。一人になったゲンヤは、クイントの写真に語りかける。

 

「はぁ……なぁ、クイント。スバルはまだわかんねぇけどよ。とりあえずギンガは、いい旦那をもらえそうだぜ。いや……もうもらわれてる…かな」

 

 

ーショッピングモールフィリーズ 非常用階段ー

 

 

「いてて……なんで階段が崩れたんだぁ?」

 

アキラが非常用階段で次階に駆け上がっていた最中、突然踊り場が爆発し、その爆発に巻き込まれたアキラの通信機は故障してしまいギンガとの通信が途絶えたのだ。

 

「あーあ。また新しいの買わなくちゃだな…まぁちょっと階段が崩れたところで…」

 

アキラは落とされた階からひとっ飛びで目的の階の非常ドアがある踊り場まで筒抜けになった部分を抜けて着地する。そのまま勢いでドアノブを掴むと、予想以上に熱く、反射的にドアノブを離してしまう。少しだけ氷結魔法を使いながら手のひらを冷ます。

 

「あっつ………頼むから扉の向こうに誰もいないでくれよ……っ!!!!」

 

アキラは全力で重たい非常用のドアを蹴り破った。ドアは先の壁に叩きつけられ、突き刺さる。イベント会場は既に炎に包まれていた。幸い、人の少ない時間だったため、この部屋には逃げ遅れなどは見当たらない。アキラは刀を構えた。

 

「氷刀一閃…………円陣舞!!!!!!」

 

刀を自分を中心に、円を描くように降り切り、周囲に氷結魔法を放つ技だ。部屋の壁、床、天井が凍りつき、消火される。アキラは近くにあったイベントの案内パンフレットを拾い上げた。

 

「古代ベルカ美術展………誰かが何かを狙って事件を起こしたのか?」

 

アキラはパンフレットを懐にしまってその部屋を出る。と、同時に炎の渦がアキラを襲った。だいぶいたるところに炎が広がっているようだ。アキラは逃げ遅れがいないか確認しようとした時、奥で声が聴こえた。

 

「ヒィィィ!!!!」

 

「!!」

 

[答えてください。あなたにそれ以外の選択肢はありません。イクスのありかを…答えてください]

 

「し、知らねぇよ……」

 

バイザーをつけた人物が、イベント会場の開催者であろう初老の男性の首を掴んで壁に押し付けている。。アキラはディバイダーを出現させ、銃口を向けた。

 

「動くな!!!怪我したくなかったらその人を離せ」

 

[………時を経て、兵士たちもずいぶん様変わりしたようですね]

 

「あ?なに言ってやがる?」

 

アキラが聞くが、返答しようとはしない。犯人と思われる女はそのまま男の首の骨を折る。アキラはそれを見た瞬間、ディバイダーで魔力弾を発射した。

 

[左腕武装化。形態、戦刀]

 

「!?」

 

女は左腕を刀に変え、アキラの玉を全て弾く。

 

(何かの変身魔法かなんかか!?いや、それよりこいつ………)

 

女は俊敏な動きでアキラが連射する魔力弾を回避しながらアキラに接近して行く。まるで変幻自在のスライムでも撃ってるかのようだ。女は一気にアキラの足元に移動すると、下から切りかかってくる。アキラはディバイダーの刃でそれを受け止めるが甘かった。女は右手も刀に変えて再び切りかかった。アキラは軽い氷結魔法を刀にぶつけて軌道をズラした。そして、女の腹部に膝蹴りを決めてバックステップで距離をとる。

 

アキラが着地すると同時にアキラの足元に血が数滴垂れた。軌道をズラしたのはいいものの女の刀はアキラの目に命中していた。しかもちゃんと見える左目だ。右目の視力は、クローンの記憶と共に少しずつ戻ってきていたが、まだ視力は0.5にも及ばない。

 

「ぐっ……よりにもよって見える方の目を…………だが、逃がすわけには……」

 

アキラがどう対抗しようと考えた時、窓の外から誰かが窓ガラスを割って入ってきた。

 

「!?」

 

「紫電一閃!!!!!!」

 

シグナムだ。彼女は入ってくるやいなや紫電一閃を放ち、近くの壁を崩した。

 

「大丈夫か?」

 

「シグナムさんか………すまん、全く見えねぇ」

 

先ほどギンガに通信を取ったところ、シグナムはすぐに助けに言ってくれと頼まれたので仕方なく来たのだ。

 

「もうすぐお前の隊が到着する。私はお前を助けに来た」

 

「だが、俺の隊の奴らで相手になるかどうか………」

 

「自分の隊を信頼しろ。いくらなんでもその状態じゃ不利だ」

 

アキラはシグナムに説得され、シグナムの肩を借りながら現場を後にした。

 

 

ー二番ヘリポートー

 

 

アキラは108部隊のヘリが現場付近まで飛んできたヘリポートまでシグナムと一緒に来ている。そして、到着するやいなやギンガに飛びつかれた。

 

「アキラ君!良かった無事で………急に通信がきれたから心配でしんぱ……その目……」

 

「大丈夫だ。ちょっとミスっただけだって」

 

「じゃあやっぱりこれは……」

 

「ああ、犯人がいる。事故なんかじゃねぇ」

 

 

 

 

続く

 



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第三十九話 新人

ちょっと微妙な終わり方をしてしまいました。サウンドステージ04?くらいだった気がします。今回はあんまりオリジナル要素は入ってませんがこの先につながる為の大切な回でもあります。こんごもよろしくお願いします。



ー港湾警備隊ー

 

事件のあった日の翌日。警防のオフィスにアキラは椅子に座って微動だにせず佇んでいる。そんなアキラの後ろからギンガが声をかけた。

 

「アキラ君」

 

「ん…ギンガか」

 

アキラは椅子から立ち上がり振り向いたが、その方向にギンガはいない。ギンガは肩を叩く。

 

「ほら、こっち」

 

「ああ。悪い。ところでどうした?」

 

「本局の方から執務官が来てるから行こう?」

 

「ん、わかった」

 

アキラは椅子にかけてあった杖を持って歩き出す。まだアキラの方目には包帯が巻いてある。右目じゃほとんどなにも見えないので白杖代わりとしてと、距離感が掴めず躓きやすいので転倒防止用だ。ギンガはあの後アキラのサポートとして常にアキラと一緒にいる。

 

これから、事件協力にきた執務官に会いに行くところだ。アキラはギンガと腕を組み、応接間まで歩いた。

 

「片目がないだけでずいぶんと不便だな。なぁ、リアクトしてちゃっちゃっと直したらダメか?」

 

「ダメだよ。それは本当に困った時だけ。今回は運良く目蓋が切れただけなんだから、普通の人らしく自然に回復するのを待たなきゃダメだよ?私は、普通の人間としてのアキラ君が好きなんだから」

 

「はいはい」

 

アキラはギンガにリアクトを禁止されていた。腕やら脚やら目やらそう簡単にポンポン生やしていたら人間らしくないと言ったのだ。ギンガはアキラに人間らしくいて欲しいのを望んだ。

 

さて、もうすぐ応接間に着くというところでギンガが突然止まる。

 

「ん?どうしたギンガ」

 

「ご、ごめんアキラ君。待ってて」

 

ギンガはトイレに駆け込もうとした。アキラはそれを止める。

 

「なんだトイレか?」

 

「うん、まぁ………」

 

「じゃあ俺包帯変えたいからさ、予備のくれ」

 

「ああ、うん。はい」

 

ギンガから包帯を受け取ったアキラは、おぼつかない足取りで男子トイレに入った。

 

男子トイレの鏡の前でアキラは包帯を外す。鏡に写った彼の顔に、もう傷はなかった。とっくに瞳の傷は治っていたのだ。今は目蓋が切れたとギンガや、周りの人間に言っているがそれは嘘だ。本当は瞳の奥まで切られていたのだ。エクリプスウィルスが確実な活性化を始めている。アキラは顔を洗って切られた方の目を押さえた。

 

「……………ギンガ……」

 

 

 

ー女子トイレー

 

 

ギンガはトイレの便器にひざまずく形でしゃがみこんでいた。ひどく気分が悪くなったのだ。

 

「これ………やっぱり……」

 

この事件が始まる前、ギンガは個人的な事件に遭遇していた。生理が来なくなったのだ。一日二日遅れたくらいじゃ気にしなかったが、一週間経つと流石に無視出来るようなものではなくなった。すぐに誰かに相談すべきだったが、誰に相談したら良いかわからず、また、今ようやく立派に独立し、しっかり頑張っているアキラに気負いさせたくなかったのでずっと黙っていたのだ。

 

なんだかんだでもう二ヶ月。そろそろ相談したい時期だが、今は事件の真っ只中。それどころではなかった。

 

「これが終わったら………相談しよう……」

 

ギンガは小さく呟いた。

 

 

ー応接間ー

 

 

気分を崩したギンガはそれを体調不良とは伝えず、少し遅れると捜査協力に来ていた執務官に連絡を入れる。アキラたちが遅れる間、防災司令のヴォルツ・スターンが応接間に入ってきていた。

 

「ん、なんだナカジマと橘まだか」

 

防災指令が突然部屋に入ってきて驚いたのは、今回、この事件に協力することになった本局からの執務官、ティアナ・ランスターだ。一瞬慌てたティアナだったがすぐに冷静になる。

 

「あ、はい。先程少し遅れるとの連絡がありました」

 

「たくっ、あいつら二人してなにやってんだか。ああ、すまない港湾警備隊防災司令のヴォルツ・スターンだ」

 

「はじめまして。ティアナ・ランスター執務官です。で、こっちが私の副官の……」

 

「ルネッサ・マグナス執務官補です」

 

互いに自己紹介をする。するとヴォルツは少し笑ってティアナを見た。

 

「執務官殿の話は伺ってるよ。若いのにご活躍だそうで」

 

「いえ、まだまだ若輩です」

 

他愛もない世間話に移行しようとしたところで、ギンガが慌てて部屋に駆け込んでくる。そしてそのギンガにほとんど引きずられて行くような感じでアキラも入ってきた。

 

「すみません、遅くなりましたぁ!」

 

「いててて、引っ張んなって」

 

慌ててきて髪の乱れているギンガをみてヴォルツがため息をつく。

 

「おう、おせーぞナカジマ姉、それからナカジマ義兄」

 

「す、すみません」

 

「誰が義兄だ」

 

ヴォルツは軽いジョークをアキラに向けて放ったが、アキラは冷静に流す。

 

「あ、ランスター執務官、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです。ナカジマ捜査官。橘捜査官も」

 

「ん?ああ。久しぶりだな」

 

既に面識のある三人が挨拶し終わると、ヴォルツはアキラ達の入ってきたドアに足を向ける。

 

「で、悪いが捜査会議には同席できねーんだが、警ら隊員の動員に関してはこっちの橘に権限を渡してある。事件捜査は四人で話して、いいようにやってくれ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「情報と経過、何かあった時の報告だけは忘れずもらえるとありがたいね」

 

「あ、はいそれは間違いなく」

 

「今朝の時点までのデータは、司令のデスクに既に送ってあります」

 

「おう、あとでみとく。迅速な解決を期待してるぜ。執務官殿」

 

「はい!」

 

「ナカジマ姉と橘もしっかりな」

 

「はいっ!」

 

「ん」

 

そこまでいうとヴォルツは応接間を後にした。

 

その瞬間だった。さっきまで部屋の中に流れていた重苦しい仕事場と言った感じの空気は完全に変わり、日常的で、何かふわふわしたような空気に変わる。例えるなら、放課後の教室であろうか。司令がいた手前再開を喜べなかったティアナとギンガは思う存分再開を喜び合った。

 

「ティアナ、久しぶり!」

 

「はい、お久しぶりです、ギンガさん!」

 

訳二年かそこらぶりだろうか。最後にあったのは、以前スバルが保護してきた少年、トーマの引き取り先の相談に乗ってくれた時だ。また一段と立派になったティアナをみて、我が子の成長を見たような気分のギンガだった。

 

「黒い制服の着こなし、板に付いてきたんじゃない?」

 

「いえ、まだまだ駆け出しですから……」

 

「本当に立派になっちゃって……私も嬉しいな」

 

「ありがとうございます…」

 

再開の邪魔になっちゃ悪いだろうと、アキラは窓際に寄りかかってボヤけている視界で二人を眺めた。すると、ティアナがアキラの手前まで駆け寄ってくる。

 

「アキラさんも、お久しぶりです!」

 

「ん………立派になった…と言いたいが、残念ながら目が見えてないんでな。これと言って言葉がでねぇ」

 

「いえ、いつも通りで安心しました。目を怪我されたって聞いて本当に心配しました……大丈夫ですか?犯人と直接交戦したとか…」

 

ティアナに心配されたのが正直予想外だったアキラ。しかし、表情はそのままで心の中だけで照れた。アキラはそれよりも気になっていることが一つあった。ギンガには見えていたが、アキラには見えていない、この部屋にいるもう一人の存在だ。

 

「ところでこの部屋にもう一人いるんじゃないか?よく見えねぇけど…気配は感じる」

 

「あ、紹介します。私の副官の子です。ルネ、こちら、陸士108部隊武装隊隊長の橘アキラ二等陸尉と、ギンガ・ナカジマ准陸曹」

 

ティアナがアキラとギンガを紹介すると、ルネッサはアキラに向かって自己紹介する。

 

「はじめましてルネッサ・マグナス執務官補です」

 

「橘アキラ陸尉だ。武装隊の隊長だが、一応捜査官もやってる。よろしくな」

 

「はじめまして、ギンガ・ナカジマ捜査官です。あ、二人とも座って?今お茶用意させるから。アキラ君」

 

「ん」

 

アキラは近くの机の上においてあった道具を使ってお茶を淹れる。目は見えてないが、お茶を入れる動きそのものは機械並みに動けるので特に問題はなかった。が、アキラがお茶を淹れる光景にルネッサが驚いたようだ。

 

「橘隊長がいれるのですか?」

 

「ん?なんかおかしいか?」

 

アキラは入隊当初からこんな仕事ばかりだった上に、彼の淹れるお茶は外部の客からも内部の人にも好評なので、もはや108部隊ではお馴染みの光景だった。

 

「ああ、心配しないで大丈夫よ?アキラく………アキラ隊長の淹れるお茶はとってもおいしいから」

 

「はぁ……」

 

 

アキラがお茶を入れている間、ギンガとティアナは軽い話を始める。

 

「それにしても、ギンガさんが捜査担当になっていてくれて良かったです」

 

「こっちこそ………ティアナの指揮で動くのは、三年前の事件以来だもの」

 

「ですね…」

 

そこに、お茶をいれ終わったアキラが声を掛ける。

 

「ギンガ、茶ァ運ぶの手伝ってくれ。茶は淹れられるが流石に運ぶのは無理だ」

 

「あ、では私が」

 

「ああ、大丈夫だから座ってて。お客さんなんだから」

 

ルネッサが自ら運ぼうとしたのを、ギンガが止める。そして、ギンガがお茶を運び、全員にお茶が行き回ったところでようやく事件についての会議になる。

 

「さて、じゃあまず、情報のすり合わせと、捜査方針決定をしちゃいましょうそのあとで、警らの責任者を紹介するから」

 

「はい。お願いします」

 

「お願いします」

 

「ズズズ……」

 

アキラ一人だけお茶をすすっているが、これまたいつものことなのでルネッサ以外誰も気にしなかった。

 

「手早く済ませて、現場は現場で動きます。執務官殿は、状況を見据えた指示をお願いしますね?」

 

「頑張ります」

 

「ギンガに怪我させるような指示すんなよ」

 

さっきまでお茶をすすっていたアキラが鋭い目つきでティアナをみる。

 

「あ、はい…肝に命じておきます」

 

「あ、ティアナ、気しなくていいのよ?」

 

ティアナが苦笑いで答えた瞬間だった。どこからから子供達の歓声が湧き上がった。全員の視線が、歓声が上がった方向、窓の外に集中する。

 

「ん?」

 

「?」

 

「あ?」

 

「あら?」

 

見ると、社会見学に来ていた子供達の前で、迫力のあるダッシュを披露している青髪の少女………ギンガの妹、スバルがいた。アキラとギンガはその姿を見て、スバルが防災系の社会見学や、イベントで人気…というか子供受けがいいので引っ張りだこというか話を聞いたのを思い出した。そんなスバルをみたティアナが呟く。

 

「あの子、あんなこともやるんですね…」

 

「まぁ、あいつは子供受けも人柄もいいからな」

 

「言ってたわ。この手のイベントじゃ引っ張りだこだって」

 

変わらない姿を見て、ティアナは微笑む。

 

「あの子らしいというか……何というか」

 

「お若い救助隊員ですが……お知り合いですか?」

 

全員がスバルのことを知っている中で唯一ルネッサだけが話についていけていない。すかさずギンガがフォローに回った。

 

「私の妹で、ティアナの親友♪」

 

「あたしの一つ下だから、ルネと同い年よ?」

 

「そうですか」

 

楽しそうに友人のことを話すティアナを見てルネッサは微笑ましいと思いながら頷く。最後にギンガが思い出したようにティアナに提案した。

 

「ティアナ、会議終わったら会いに行ってあげて?あの子あなたに会いたがってたから」

 

「はい」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ー陸士108部隊ー

 

アキラとギンガ、ルネッサは108部隊に場所を移して捜査を始める。

 

「じゃあ、資料用意するわね」

 

「お願いします」

 

ティアナとは違い、結構冷静であまり感情を表に出さないタイプだなと、アキラは思った。だが、ノーヴェやウーノのように、からかったら面白いんだろうと思ったが流石に失礼なのでやめておくことにした。

 

「マグナス執務官補は………ティアナとどれくらい?」

 

「もうすぐ二ヶ月です」

 

「二ヶ月………この事件の途中からか」

 

「最初の二件で、自分が検死を担当していまして…その縁で」

 

「あーそっかぁ。もしかして、普段は検死官?」

 

「検死や鑑識。裏方です」

 

「そう…」

 

流石はギンガ。他愛もない世間話が上手い。アキラも口を挟もうとするが、相手の表情が読めないといろいろめんどくさいので大人しく黙ることに。

 

「ところで、お二人はどのような関係で?私の勘違いだったら申し訳ございませんが、とても普通の上司と部下という感じには見えないのですが………」

 

「ん?まぁ、普通の関係じゃねぇな。いわゆる恋人ってやつだ」

 

「あはは、まぁね」

 

「そうでしたか。同じ職場だったのが由来で?」

 

やはり女子なのか、二人の関係に興味を抱いたらしい。

 

「ん………まぁ、ちょっと特殊な事情があってな」

 

「特殊な………?」

 

アキラは自分とギンガの出会いを軽く説明した。別に隠すようなことではなかったが、アキラは昔の自分に触れられるのは少し嫌ったので本当に軽い、触りの部分だけだ。

 

「そうだったんですね」

 

「まぁ、今度時間があったらもっと詳しく話してやるよ」

 

すると、背後からギンガがアキラの後頭部をコツンと小突いた。

 

「もう、アキラ君の惚気話はいつも長いんだからやめておいて」

 

ちょっとむすっとした態度でギンガがアキラに注意すると、何かに気づいたルネッサが少し笑ってギンガを見た。

 

「いつもの呼び方はアキラ君なんですね」

 

「えぁ………う………」

 

何時の間にか素に戻っていつも通りに話してしまったことに、ギンガは顔を赤くして目を逸らす。アキラはそんなギンガを可愛いと思いながら頭を撫でた。

 

「ほら、これが捜査資料だ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

続く

 



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番外編 魔導辞典 (アイテム編)

すいません。
諸事情でしばらく次話を投稿できなくなります。なるべく早く……今月中には出したいと思っております。誠に勝手で申し訳ございません。PS魔導辞典人物編に「テレジー・サラ」と「十六夜シノブ」を追加しました。


ー銀の腕輪ー

 

アキラがウィード事件の際に謎の2人組に渡されたもの。名前もわからないのでそのまま「銀の腕輪」。発動すると、アキラのリアクト時の能力を限界まで引き出し、試作品のディバイダーにはなかった「鎧」を精製する。使用時にはアキラの髪は黒く染まり、全身に黒を基調とした鎧、「烈風」と名付けたディバイダーを出現させる。解放させるための唱は「リアクトバースト」

 

ーリアクトバーストー

 

「銀の腕輪」の力で発動するアキラのリアクト限界解放。全体的なステータスの上昇、それから体感時間が通常の訳1000倍になる超高速移動能力をもつ。

 

ー烈風ー

 

リアクトバースト時のアキラの武器。美しく透き通った紫色の刀身をした剣。これについているトリガーを引くとアキラは超高速移動が出来る。斬れ味は恐ろしく、斬れないものはない。

 

ー封印の布ー

 

テレジー家が代々作ってきた封印用の布。包帯のように纏められている。絶大な力を誇る黙示録の書と槍を封じるほどの力を持つ。

 

ー黙示録の書(レプリカ)ー

 

黙示録の書のレプリカ。黙示録の書そのものから作り出された。能力は黒い液体状の何かを生成することだけ。ウィードはこれを触手状にしたり自らの身体にしたりして戦った。他に能力があるかは不明。

 

ー黙示録の書ー

 

黙示録シリーズの核となるいわば司令塔のようなもの。今はサラの手によって封印されている。能力不明。

 

ー黙示録の槍ー

 

黙示録シリーズの槍。能力は不明

 

ー黙示録の獣ー

 

黙示録シリーズの獣。サイズは100メートル近くあるとかないとか。ミッドの海に封印されている。

 

ー黙示録の鍵ー

 

知る者が少ない黙示録シリーズの一つ。用途は不明。

 

ー暁ー

 

メグのデバイス。普通のインテリジェントデバイス。バリアジャケット展開後はトンファーモード、ロッドモード、ガンモードの3つの形態で状況に応じた戦いが出来る。

 

ー幻影回避(ファントムステップ)ー

 

メグの能力の一つ。その場に数秒間だけ保つ自身の幻を置いて自分は少し離れた場所に回避する技。連続運用は二回まで。

 

―ゲート―

 

メグの能力の一つ。次元から次元へ魔力ゲートで場所と場所を繋ぎ、塞がれた物や、別の場所から物を取り寄せる。

 

―ジーンリンカーコア―

 

古代ベルカで作られたリンカーコアを取り込み、保存するためのもの。稀に魂の宿るものもある。ジーンリンカーコアを体内に取り込むことでそのリンカーコアの持ち主だった者が使っていた魔法を使うことが出来るようになる。魂が宿っていた場合、その魂の意志が強ければ身体が乗っ取られる場合もある。

 

 

―ブリッツギャリバーA(アサルト)ー

 

改良、強化されたギンガのデバイス。新装備に加え、防御力が上昇してる。新装備、機能は「リボルバーナックル改」「ストライクナックル」「ハンドバスター」「デュエルブレイカー」「イージスシールド」の四つで、待機中の形態が六角形の紫色のクリスタル型だったが、待機モードを解除すると同時に四つのダイヤ状のクリスタルをくっつけたようなバッテン型のクリスタルが展開される。バリアジャケットは全体的に刺々しく、機械っぽくなっている。特に肩と腰の部分に変化が見られる。

 

 

ーストライクナックルー

 

ブリッツギャリバーAに搭載された新型装備。ギンガが右手にはめるグローブ。紫と黒のカラーリングで手の甲にクリスタルパーツがついている。リボルバーナックルを両手装備すると、どうしても利き手の偏りが発生し、うまくコントロールが出来なくなる。そのため、ギンガがマリエルに頼んで作ってもらった低出力型の右手装備。能力は特にないが、右手での攻撃を補助し、力のベクトルを全て相手に向けるというすごいシステムは搭載されているが、簡単に言えば殴った際の腕への負担をなくしているだけである。

 

ーリボルバーナックル改ー

 

ブリッツギャリバーA用に改造されたリボルバーナックル。能力はこれまでと変わりないが、手の平の部分に魔力集束装置が付いている。

 

 

ーハンドバスターー

 

スバルのリボルバーキャノン等とは違い、手の平で魔力を集束し、巨大な魔力砲を放つシステム。リボルバーナックル改とストライクナックル両方で使える。

 

ーデュエルブレイカーー

 

右手に装備される先端は尖ってないパイルバンカーのようなものがついている武器。パイルバンカーは回転し、魔力を纏うことで相手のガード等を貫通する使い方と打撃武器としての使い方がある。

 

 

ーイージスシールドー

 

ストライクナックルのクリスタルから発生させられる小型の魔力盾。小型だが、盾から皿に広範囲に広がる盾を発生させるシステムがある。質力想定では、ギンガの魔力を全て使えば、全力全開のなのはのスターライトブレイカーを相殺可能だとかなんとか。

 

 

ーブラックレイランサーー

 

アキラの新型デバイス。マリエル、ギンガ、スバル、ノーヴェの強力のもと作られた。バイクとリンクさせることで魔力で精製した鎧をバイクに装着させ、二本のダイヤ型の槍を前輪の両サイドに装着し、装甲バイクにする。後部にはブースターが付けられ、加速させることができる。アキラ自身の魔力を使わなければならないが、ウィングロードを出現させることも可能。

 

 



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第四十話 捜査

日付的にまだ五月だから大丈夫!←アウト
長いこと休載しててごめんなさい……。これから飛ばして行きますよ!イノセントもちょっとずつ書き進めて行ってます!ここ一週間いないにイノセントを出したいですね。次回更新は六月10日となっております( ´ ▽ ` )ノ


ー武装隊隊長室ー

 

 

「ここを自由に使って良いと?」

 

「ああ。俺ぁあんま使わねぇし、他にいい部屋もねぇしな」

 

アキラは、ルネッサに作業場として自身のために用意された部屋を提供した。この部屋はアキラが武装隊隊長になった時に前隊長から譲ってもらった部屋だが、アキラはギンガの隣にいられるオフィスのデスクが好きだったので何か理由がなければ使わない部屋となっていたのだ。

 

「ありがとうございます」

 

「困ったことがあったらなんでも言ってね」

 

「はい、ありがとうございますナカジマ捜査官、橘捜査官」

 

ルネッサが深々と頭を下げる。

 

「そんな固苦しくしなくていいわよ」

 

「ですが……」

 

「そうだな、俺はアキラで、ギンガはギンガって呼んでくれ」

 

二人が笑うと、ルネッサは少し戸惑った様子を見せながらも言われた通りにした。

 

「は、はい…アキラ捜査官、ギンガ捜査官」

 

「おう」

 

「うん」

 

二人がアキラの部屋を後にし、オフィスに向かって歩いていると前方からピンクの髪をなびかせた少女がこちらに歩いてくるのが確認出来た。元ナンバーズ7の、セッテだ。

 

「セッテ」

 

「あ、アキラ隊長。ギンガ准陸曹」

 

どうやら二人を探していたらしく、こちらに駆け寄ってきた。

 

「どうしたの?」

 

「メグ陸曹長がケーキを買ってきたから休憩がてら一緒にお茶にしようと……それで、お二方を呼んできて欲しいと頼まれたので」

 

「そっか、ありがとな」

 

「いえ………」

 

アキラが礼をいうと、セッテは少し頬を赤らめる。アキラに感情というものを与えられてから、彼に何かされると、感情が高ぶるのセッテ。本人は理解してないが、セッテはアキラが好きなのだ。自分に戦闘兵器としてじゃない、ちゃんとした第二の人生を与えてくれた彼のことが。

 

「セッテ」

 

「あ、はい」

 

ギンガがセッテに何か不満げな顔をしながら言う。

 

「お客さんの前とか、部隊員の前じゃそれでもいいけど、他に誰もいなかったら普通に呼んでって言ったでしょ?それに、敬語も気になるし……」

 

「ですが………」

 

「ほら、呼んで見て。ギン姉って」

 

それは自分が呼んで欲しいだけなんじゃ………という言葉がアキラの脳内に浮かんだが、すぐに沈ませる。セッテはしばらく赤面して口をパクパクさせたあと、うつむいてしまった。

 

「そ、その辺は、ギ……ギンガ姉とかで…妥協してください………」

 

「むぅ………まぁ、しょうがないわね。慣れてきたら、ギン姉って呼んで欲しいな」

 

「考えておきます………」

 

ギンガは軽く笑いを零す。セッテは顔を赤くしたまま先に行ってしまう。

 

「早くきて下さい。でないと、お二人の分まで私がケーキを食べます。いいですね?……………ギンガ姉」

 

そういうと、恥ずかしくなったのかさっさと駆け出して行ってしまった。アキラとギンガは顔を見合わせると、共に微笑んだ。

 

「丸くなったね」

 

「そーだな」

 

 

ーロビーー

 

 

アキラとギンガの二人がロビーに着くと、セッテとメグ、それからアキラにはメイド姿の女性がいた。その女性にギンガは見覚えがあった。

 

「あなた、もしかしてアーシア!?」

 

「はい、お久しぶりです。ギンガさん」

 

アーシアとはメグの使い魔だ。JS事件の際、自身の体を一時的に魔力の結晶に変換することでFWとギンガの命を救ったのだ。復活の為の魔力蓄積時間が長かったため、中々元に戻らなかったが最近ようやく身体を取り戻したのだ。まだ魔法は使えないが、家事全般はできるようになったんだそうだ。

 

「あの時はありがとう。あなたがいなかったら、アキラ君は救えなかったから…………」

 

「いえ、メグ様の御命令でしたので」

 

「メグも、あり」

 

ギンガが礼を続けようとしたが、メグが遮る。

 

「あーはいはい。いいっていいってもうそんな昔の話。それよりほら、紅茶も冷めるし、セッテがあんたたちのケーキ食べちゃうわよ?」

 

「じゃあいただくかな」

 

アキラが先に席に座り、紅茶を手に取る。その隣にギンガが座った。

 

「お客さん来てんでしょ?その分も買ってきてるからあとで渡しといて」

 

「りょーかい」

 

アキラはフォークを手に取り、ケーキを刺したつもりだったが、フォークはその皿に当たる。紅茶はともかく、ケーキは皿とほとんど同化して見えるのだ。

 

「あ……」

 

「しょうがないな、食べさせてあげる。はい、あーん」

 

「あーん」

 

人前であるにも関わらず、二人はいちゃつき始めた。いや、必要なことではあるのだが。

 

「相変わらずお熱い中で………」

 

「本当に………そうですね」

 

「……ねぇ、あんたさ」

 

「はい?」

 

メグは紅茶を飲んでいるセッテに耳打ちする。メグというギンガの親友がいることは知っていたが、彼女の性格や人柄については知らなかったので、一体何を聞いてくるのかと思った。(ギンガとアキラの関係でも聞きたいのだろうか)そんなことを考えていると、とんでもない質問が飛んできた。

 

「あんたは…………アキラのこと好きなの」

 

「ブッ!!!!?????」

 

セッテは口につけていた紅茶を噴き出してしまう。結構派手にむせていると、アキラとギンガとアーシアが駆け寄ってきた。メグは一人で爆笑してた。

 

「だ、大丈夫かセッテ!!」

 

「げほっ!ごほ!だ、ごほっ大丈夫です……少しむせただけで……げほっ」

 

「ちょっとメグ、あなたセッテになに言ったの?」

 

「さぁ?ナニカシラネー」

 

しらをきるメグ。アキラはセッテの背中をさすり、介抱をする。

 

「大丈夫か?」

 

「はい…なんとか…」

 

それからしばらくは楽しいお茶会だったが、アキラに急に通信が入った。

 

『すみません、アキラ捜査官。すこしよろしいでしょうか』

 

「ん?どうした?」

 

『先ほど、ランスター執務官から現場の視察に行くので私にもきて欲しいと言われたのですが、移動手段がなかったのでランスター執務官にそれを言ったらアキラ捜査官に相談するといいと……』

 

六課時代、ティアナも含め、いろんな人物に優しくしたのが裏目に出たのか、アキラはずいぶん頼りにされているようだった。要するにティアナはアキラならきっとルネッサを運んでくれると思ったのだろう。

 

「………分かった俺の車出してやるからちょっと待ってろ」

 

『はい、ありがとうございます』

 

アキラは深くため息をついてから席を立ち上がる。

 

「ギンガ、捜査だ。いくぞ。俺は一旦バイクで家に戻って、車持ってくる。いい加減目は直していいか?不便にもほどがある」

 

「うーん………しょうがないな………メグ、ケーキありがとね。美味しかった」

 

ギンガも立ち上がる。

 

「いいえ〜」

 

「あ、そうだ」

 

ギンガはふと視界に映ったセッテをみてなにか思ったようだ。

 

「セッテも現場きて見る?」

 

「私が……?」

 

「捜査のこと色々知ってた方がいいでしょ?」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

アキラの運んできた車で、ギンガ、ルネッサ、セッテを乗せて現場に到着した。焦げ付いた瓦礫を抜けた先に、ティアナが待っていた。

 

「アキラ捜査官、パシリみたいなことをさせてしまって申し訳ございません」

 

ティアナが申し訳なさそうな顔をするが、アキラは気にせず現場の奥へと進む。

 

「捜査中だからな。お互いの肩を持ちつ持たれつ協力しようぜ、執務官殿」

 

「すいません」

 

さっさと奥に進むアキラを三人が追いかけるが、セッテは入口付近で止まっていた。

 

もうしばらくと嗅いでいない、戦場の香り。まる一年程、暖かい家庭の中で、静かに暮らしていた。だからこそ再びここに、戦場に足を踏み入れるのが怖いような、どこか煩わしいような気がしていた。

 

急がなければギンガとアキラに怒られてしまうかもしれないとわかっていながら前に進めず、足元ばかり見ていると、その視界に手が差し出される。

 

顔を上げると、アキラが少し微笑みながら手を差し出していた。

 

「行こうぜ」

 

自分の思いを察してくれたのかはわからないが、セッテはその手を取り、勇気よ振り絞って一歩踏み出す。その瞬間、アキラがセッテを優しく抱きしめた。そして、耳元で囁く。

 

「大丈夫だ。例え、戦場に立ち入ろうと俺たちがいる限りお前の新しい日常は壊れないし、壊させない」

 

「…ありがとうございます」

 

五人は事件の起こった現場に入っていく。突入の為に破壊された扉の先には、異様な光景が広がっていた。壁に書かれた大きな文字、その下には被害者がいたであろうすでに固まってしまっている血だまり。

 

「うっ!」

 

ギンガがその光景を見て少し引くレベルだ。アキラはすかさずギンガを優しく抱き込む。

 

「ありゃあ血か?趣味のワリィ…」

 

「これは、古代ベルカ文字でしょうか…?すぐに解析に………」

 

ルネッサがそこまで言った時、ティアナが口を開いた。

 

「詩篇の6………かくして王の帰還はなされることなく………」

 

「すごい、読めるんですね……」

 

ルネッサがティアナが古代ベルカ文字を読めたことに驚き、何かを聞こうとした時だ。アキラが急に頭を押さえてその場に跪く。

 

「アキラ君!?」

 

「アキラさん!?」

 

アキラのそばにセッテとギンガが駆け寄る。

 

「ぐっ……あぁぁぁ………っ!」

 

『マリアージュ…………もうやめよう?』

 

アキラの脳内に、アキラに対してではない誰かの声が聞こえた。

 

(今の…………声は……)

 

「イクス………」

 

アキラは自然に声を漏らす。それを言った後、急に頭への負担は解消され、ゆっくり顔を上げる。そして、自分を心配そうに見ている仲間を見て少し驚いた顔をする。

 

「アキラ捜査官、イクスというのは……」

 

なぜかルネッサが興味を抱いた瞳でアキラに訪ねたが、アキラはキョトンとした。

 

「イクス………?そんなこと言ったのか?俺は」

 

「覚えてないの?」

 

「ああ………」

 

立ち上がろうとした時、アキラは壁に書かれた古代ベルカ文字を見て、急にしゃべり出す。

 

「大いなる王とその下僕達は闇の狭間で眠りについた………逃げ延びた下部は王とその軍勢を探し、彷徨い歩く………」

 

「アキラ君?」

 

ギンガは、少し前にアキラと共に六課の残した遺留品の整理をしているときのことを思い出す。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「…おーいギンガー」

 

「なにー?」

 

「何かの書物が出てきたんだが古代ベルカ文字でな、読めるか?」

 

「あら、意外ね。アキラ君博学だから、それくらい読めると思ったけど」

 

「何か知らんけど、身体が嫌うんだよ。古代ベルカってもんを」

 

「はいはい、言い訳はいいから」

 

「言い訳じゃなくて、何か……その、妙な嫌悪感がな……」

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

アキラはあの時確かに古代ベルカ文字を読めなかったし、よくわからない理由で嫌っていた。あれからアキラが古代ベルカ文字を勉強している素振りも何も見ていない。ギンガはそんなアキラが普通に文字を読んだことを驚いていた。そして、彼自身も。

 

「なぜ俺は古代ベルカ文字何か読める………?それに、イクスって……」

 

「体調が悪いようですし、戻ってお休みになられた方が……」

 

「いや、大丈夫だ………。俺に変なことが起こるのはよくあるんだ。捜査を始めるぞ」

 

アキラとティアナの指揮のもと、捜査が開始された。

 

 

アキラはそこらを歩きながら、考え事をしていた。一瞬見えた、妙な記憶……。

 

「あれは………」

 

 

 

ー夜ー

 

アキラ達は陸士108部隊に戻り、収集してきたものや情報をまとめた。そしてだいたい帰る準備ができたところで、ルネッサはまとめた情報を連絡していた。

 

「こちらでの進展は以上です」

 

『ありがと、ルネ』

 

「自分は108隊に拠点をおかせてもらいます。そして、引き続き捜査指揮にあたります」

 

『うん、こっちはこっちで、犯人の足取りを追いかけるから』

 

「了解しました。それでは、今日のところはもう執務官はお休みになってください。一昨日からほとんど休まれておりません」

 

『もう、そういう変なところは見てなくていいのよ?』

 

「捜査に支障をきたしてもいけません。お友達のところで、少し休息されるのも仕事のうちということで」

 

『はい、りょーかい。あなたも休める時にしっかり休んでね』

 

「はい、では明日は朝7時に」

 

『了解』

 

通信を終わらせてルネッサの背後から声がした。

 

「ティアナのやつもずいぶん優秀な部下持ったなぁ……」

 

「そうね〜……。スバルの代わりに誰かが立ってくれてちょっと安心」

 

賞賛の言葉の筈だが、ルネッサの表情には不満が混じっている。振り返ったルネッサは思い切って言って見ることに。

 

「確かに先ほど現場でお休みになられた方が良いのではと言いましたが……少しリラックスしすぎではないでしょうか?アキラ捜査官」

 

アキラはギンガに膝枕をされ、耳かきのおまけもついた状態で完全にリラックスしていた。確かに勤務態度としてはおかしいが、割と108では日常的な光景だ。

 

「ギンガ、ありがとな。よっと」

 

アキラはギンガに耳かきを止めるように指示すると、勢いをつけて起き上がる。そして、ルネッサの前に立ち、肩に手を置いた。

 

「生真面目なのは結構なことだが、少しくらい肩の力を抜けよ。あんま気張ってると大事な時に力はいんなくなるぞ?」

 

「…………そうかも知れませんが…」

 

「お前ももう今日は休め。ギンガ、帰ろうぜ」

 

「うん」

 

ルネッサのとなりを通り過ぎる直前、アキラはルネッサの耳元で囁いた。

 

「…俺の部屋のPCのセキュリティは簡単に破れねぇからな」

 

ルネッサの背筋がぞくっとする。全身から冷や汗が吹き出るかと思った。瞳孔の開いた目でアキラお見ようとすると、アキラは肩を二回ほど叩く。

 

「見られたらまずいデータばっかだからな。間違っても見んじゃねぇぞ」

 

軽く笑いながらギンガと共にオフィスに歩いて行った。ルネッサはしばらくそこから動けなかった。

 

(勘付かれている………?いや、まさか………)

 

 

 

続く

 



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第四十一話 炎上

遅れて申し訳ございません。この先無理するとあれだと思うので、とりあえず今年中は月に2本程度の頻度で出します。二本は必ず出すので。
これからも応援よろしくお願いします……。


「ふぁ………」

 

「……………アキラ隊長?」

 

「ん?おお、おはようルネッサ執務官。今朝も暑いな、えぇ?」

 

「………こんなとことで昼寝とは……」

 

「アキラ君、朝は貧血気味で弱いの。許してあげて。まぁ、不真面目というか、昔に比べたらおちゃらけたかもしれないけど。だから朝だけは見逃してくれると嬉しいな」

 

「っ!ギンガ捜査官………」

 

現在時刻、午前6:52。陸士108部隊隊舎屋上。曇った空を眺めていたアキラの元に、偶然ルネッサが来たのだ。ウトウトしてたアキラに少し呆れたルネッサは注意しているとそこに、コーヒーを買ってきたギンガが来たのだ。

 

「お、ギンガ、サンキューな」

 

アキラはコーヒーを受け取ると、それを一気に飲み干した。

 

「一雨来そうだな………」

 

「天気予報では、そろそろ…」

 

ルネッサが今朝見た天気予報の情報を口にしようとした瞬間だった。ギンガの頰に雨粒が当たりそうになったのをアキラが指で受ける。

 

「降ってきたな」

 

(…………恐ろしい程の動体視力と反応速度、反射神経…………隊長になったのも、納得が行く能力……。JS事件で神威を落とした英雄と言われているが、それを自慢したり、誇らしく思っている様子もなし……でも、階級が二尉のになぜこんな小さな部隊の隊長なんかを……)

 

「隊舎に入るか。もーすぐ会議だしな」

 

「うん、急いだ方がいいよ」

 

アキラとギンガは少し駆け足で隊舎に戻って行った。ルネッサは二人の後ろ姿を見つめながら、アキラが昨日言っていたことを思い出す。

 

(………俺の部屋のPCのセキュリティはそう簡単に破れないからな)

 

あれは一体どういう意味だったのか。アキラはそのあとごまかすように、見られたらまずいデータが入ってるからと付けたした。本当にそれだけの理由なのか、それとも、ルネッサがしようとしていることに勘付かれているか、わからなかった。

 

「おーい!ルネッサ執務官殿〜!濡れちまうぞ〜」

 

「あ………はい……」

 

ー会議前 データベースー

 

屋上から戻ったルネッサは暗い部屋の中、PCで何かを調べていた。

 

「JS事件………新暦75年、機動六課が担当した事件……ジェイル・スカリエッティによって企てられた、管理局史上に残る都市型テロ事件………」

 

慣れた手つきでデータを次々と開き、JS事件に関する様々なデータを読みながら閲覧を続ける。そして、部隊員、及び被害者の閲覧をした時だった。閲覧ロックのエラーアラートが鳴り響く。

 

JS事件はまだ表沙汰に出来ない部分が多い。一般隊員等が閲覧し、外部に情報を漏らさない為に重要なデータはロックがかけられているのだ。

 

「おぅ、どうした。エラーかい?」

 

「!!」

 

そんなアラート音を部屋の付近で聞いた人物が部屋に入ってきた。ここ、陸士108部隊の部隊長、ゲンヤ・ナカジマだ。

 

(階級章が三佐………ここの部隊長!?)

 

「いえ、……すみません、大丈夫です」

 

「そうかい」

 

「失礼しました。ゲンヤ・ナカジマ三佐でいらっしゃいますでしょうか」

 

「ん?あんたは?」

 

急に変なことを聞かれ、ゲンヤは驚く。普通に108の隊員だと思って接していたが、よく見ると執務官の制服を着ている気づき、尋ねる。

 

「ルネッサ・マグナス執務官補です。ティアナ・ランスター執務官の補佐としてここのデータベースの使用許可をいただいています」

 

「ああ、ティアナの!あいつこっちにきてんのかい」

 

「はい、今は別行動ですが」

 

ティアナの名前を聞いたゲンヤは嬉しそうにいった。スバルが喜んでいるのだろうと考えたのだろうか。すると、ゲンヤの後ろの扉からギンガとアキラが入ってきた。

 

「あ、ルネッサ執務官補、それに部隊長」

 

「………」

 

「おう、ギンガ」

 

「すみません、紹介が遅れました。こちらはティアナの補佐で……」

 

「おぉ、聞いたよルネッサ・マグナス執務官補、だよな。あティアナ、今こっちにきてんだって?」

 

「今はスバルの部屋で泊まってるそうで」

 

アキラが答える。

 

「事件捜査か」

 

「俺らと共同捜査です。報告はもう上げてる筈です」

 

そう言うと、少しゲンヤは残念そうな顔をする。久しぶりに愛娘の親友に会いたかったのだろうか。

 

「何だよ、だったらこっちにも顔出してきゃいいのによ」

 

「ティアナも今は執務官ですし、部隊長は部隊長ですから。ちゃんと公私は分けてるんですよ。どこかの誰かとは違って」

 

ギンガの言葉がアキラの胸に刺さる。毎度毎度やることが公私混同どころの騒ぎではないので、何も言い返せないが。アキラは少しそっぽを向く。

 

「まぁ、そうだがよ……」

 

「執務官には伝えておきますよ、顔を出さないと、ナカジマ三佐が拗ねるって」

 

「余計なことは言わんでいい」

 

二人は少し笑った。

 

「あ、部隊長は会議の時間がもうすぐな筈ですが」

 

「会議室に向かう途中だったんだよ。会議終わったらちょっくらホームにいってくら。おいアキラ隊長。遅れんなよ」

 

「ああ」

 

アキラに釘を刺してから部屋を出ようとする時、足を止める。

 

「ああ、執務官補殿。あんたも忙しいだろうが頑張ってくれよな」

 

「ありがとうございます」

 

ゲンヤは出て行き、データベースには三人が残された。見た目より、ずっと温厚だったゲンヤに対し、ルネッサが口を開く。

 

「優しい方なんですね」

 

「うちの部隊長?結構怖いっていう人もいるんだけどね」

 

何やら嬉しそうに話すギンガ。

 

「部隊長とギンガ捜査官とは……」

 

ナカジマというか苗字が一致していることからもしやと思い、ルネッサは尋ねる。

 

「親子よ。家族は、父さんと、姉妹六人と………」

 

ギンガは少し拗ねているようなアキラの腕を抱き寄せた。

 

「恋人兼居候が一人」

 

「…………」

 

この部隊に来てもうそろそろ一日経つが、二人のバカップルぶりは目の前で嫌というほど見てきたので、ルネッサも流石に慣れてきたのか普通に流す。

 

「大家族なんですね……」

 

「まぁね。あ、ランスター執務官もうちのスバル……あ、警備隊にいた子ね?スバルと子供のころから親友で、ウチにもよく遊びにきてたから……私や部隊長にとっては半分家族みたいなものかな」

 

「俺は居候で家族じゃないのか?」

 

不機嫌そうな声と態度でギンガにアキラが言った。

 

「うーん。アキラ君は実質養子だから家族ではあるんだけど………まだまだかな」

 

「なに?」

 

「家族になれる秘訣はいつか………教えてあげるわ」

 

アキラは頭上に「?」を浮かべる。そんなアキラがふとルネッサの開いているPCの画面を見ると、そこには機動六課のデータが表示されていた。

 

「機動六課のこと調べてたのか?」

 

「すみません……前線を出来る協力者が必要になるかと……」

 

事情を聞くと、ギンガは申し訳なさそうな顔をする。

 

「そう………でもあんまり期待はできないかも………」

 

「そうなんですか?」

 

「うん……みんな忙しいから特に隊長、副隊長の人は」

 

そういうと急にアキラがルネッサの前に立った。

 

「まぁ、そんな協力者なんぞ必要ねぇがな。俺一人いれば十分だ」

 

「はい、もちろんアキラ捜査官の腕を疑っている訳ではないのですが……」

 

「なら尚更だ。俺がいれば次元管理局がまとめて襲いかかってこようと、なんてことねぇ。相手が誰だろうと、もしギンガに手を出すなら容赦なく潰すぜ」

 

自信満々で胸を張ってアキラは言った。普段の冷静な感じからは見られないような態度にルネッサは少し驚いている様子。ギンガに耳打ちするように感想を述べた。

 

「ずいぶん………自信があるんですね。自分の力に」

 

「まぁ………あながち間違ってないから怖いんだけど……。あ、アキラ隊長。もう会議に遅刻しますよ」

 

「あ、そうか………。ギンガ、愛してる」

 

アキラは軽くギンガをハグしてそれからキスをしたあとにデータベースを出て行った。その瞬間、アキラの頭に激しい頭痛が走る。

 

「っ!!!!!あっ…………がぁぁ!」

 

「アキラ君!?」

 

「アキラ捜査官!」

 

声を聞いた二人がデータベースから飛び出してくる。アキラは頭を押さえてその場に跪く。

 

『イクス……』

 

『マリアージュ………また、私を探してるの?だめだよ……私たちは……目覚めちゃいけない存在なのに…………お願いだから、ここには来ないで!』

 

「イクス………」

 

再び言った、イクスという名。アキラは今度はしっかり覚えていた。

 

「イクス……?なんだそりゃ………」

 

「アキラ君!しっかり!」

 

「大丈夫………意識はある!頭の中に………声が……」

 

「アキラ捜査官その声は…」

 

ルネッサが慌てて質問しようとすると、アキラの頭の中で何かが弾ける。それと同時に意識を失い、ギンガにもたれかかるように倒れた。意識は、ない。ギンガは顔を真っ青にしてアキラに叫んだ。

 

「アキラ君!!」

 

 

ー食堂ー

 

 

 

それから時間は過ぎ、雨が一層強くなったお昼頃に二人は食堂にて昼食をとっていた。

 

「倒れた時は本当にどうなるかと思った…………」

 

「大丈夫だって。マリーさんも、医務室のセンセも、問題ないって言ってたろ?」

 

「そうかもしれないけど、アキラ君は色々特殊なんだから………」

 

そんな二人の会話に割り込むように、誰かからメッセージを受信したブリッツギャリバーがギンガに話かけた。

 

『マスター?』

 

「大体アキラ君は自分のことをもっといたわって…」

 

『マスター!』

 

「え?」

 

アキラは机の上に置かれているブリッツギャリバーを指差す。ギンガがキョトンとしてブリッツギャリバーを見ると、ブリッツギャリバーがメッセージ受信を知らせる為の点滅をしていた。

 

『メールが一通受信されています』

 

「ああ、ごめんなさい。気づかなかったわ。ありがとう。えーっと…………あら?スバルから画像付きで?」

 

開いてみると、アルトとスバル、そして懐かしいキャロとエリオが写っていた。ギンガは思わず声を出す。

 

「わぁっ!エリオにキャロだ!」

 

「何だ、あいつらまで来てんのか」

 

「そういえばそんな連絡来てたわね……二人とも背が伸びたなぁ……」

 

しばらくぶりに二人を見て、ギンガはまるで子供の成長ぶりを久しぶりにみた親か祖母のような言葉を使ってしまう。

 

「今は忙しいから会えないけど、今度はこっちから会いに行こうか」

 

「そうだな」

 

空気が和んだかのように思われたその刹那、緊急アラートが108部隊に鳴り響く。

 

「!?」

 

『緊急連絡!ミッド海岸ラインにて火災レベル4の火災発生!連続放火犯の可能性あり!橘アキラ二尉、ギンガ・ナカジマ准陸尉は現場に急行してください!すでにティアナ・ランスター執務官が向かったとの報告が入っています!武装隊は緊急出動準備!」

 

「ギンガ!」

 

「うん!」

 

 

ーホテルー

 

 

火災レベル4の火災は、ミッド海岸沿いの一流ホテルで起きていた。スバル、エリオ、キャロの三人は救助、及び消火の援護にきている。予想よりも大きい被害に、消防も消化活動に困っていた。今降っている雨が唯一の助けだろうか。

 

そんな時、フリードでホテル周辺を飛んでいたキャロの視界に何かが映った。魔力で作り出した道を颯爽と駆けてくる一台の二人乗りの装甲車のような黒く、槍のついたバイク。

 

「アキラさん!?それにギンガさん!」

 

「キャロ!状況は!」

 

「火災レベルは4!内部には可燃性の液体が多数見つかってるという報告です!」

 

「放火………あいつか!?俺らは突入する!引き続き周囲の観察頼んだ!」

 

「了解!」

 

すっかり隊長が板に付いたのか、良い指示っぷりにキャロは少し驚く。アキラ達は火災現場に一直線に走って行く。

 

「こいつの性能を試せるのが嬉しいぜ……頼んだぜ。ブラックレイランサー?」

 

アキラがバイクに向かって語りかけると、バイクのキーの部分に刺さっているクリスタル型のデバイスが返事をする。ブリッツギャリバーやマッハギャリバーと同じ形だが、色はほとんど黒のブラックパープル。アキラの新しいデバイス、ブラックレイランサーだ。

 

『all right』

 

「ギンガ、突入するぞ!」

 

「了解!!」

 

 

ーホテル 会員専用室ー

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

アキラたちがバイクで突入すると、逃げ遅れたのか、一人の男性が怯えた表情で座り込んでいた。アキラ達に驚きはしたが、局員だとわかると安堵のため息をつく。

 

「おいあんた、大丈夫か!?」

 

「え………ああ………」

 

「大丈夫ですかー!」

 

壁が崩されたのと同時に聞こえた声、スバルだ。

 

「スバル!」

 

「ギン姉!……もしかして……事件!?」

 

「その可能性を疑ってきてるわ。あ、あの、大丈夫ですか?」

 

「今バリア張りますから、安心してください」

 

「ああ、あんたら、救助隊にしてはずいぶんごついモンに乗ってるな?」

 

「この青いのは救助隊だが俺らは管理局の武装隊です。何があったんですか?」

 

「しらねぇよ!いきなり、爆発が起きて……そしたら一気に燃え広がって………急いで逃げようとしたら変な女に……うっ……うぐっ」

 

話している途中に、男は急に頭を抑え、もがき出した。それもちょうどスバルがバリアを張ったのと同時に。

 

「うぐっ!あっ!あぁぁぁぁぁ!!」

 

「おいっ大丈夫か!?おいっ!」

 

「大丈夫ですか!?え……ナイフ…」

 

男はナイフを取り出したかと思うと、それを自分に向けた。スバルが慌ててバリアを解除するより先に、アキラが抜いた刀でバリアは切り刻まれ、消滅した。アキラは急いで男の腕を掴んで止めようとする。

 

「なにやってんだあんた!死ぬ気か!!!」

 

「た、助けてくれぇ!!頭が溶けそうで………身体が勝手にぃ!!!!!」

 

アキラは何とか男の手からナイフを外させようとしたがまるで皮膚とナイフが一体化しているかのように外れない。

 

「助けて!助けて!!!!」

 

「くそがぁぁぁぁ!チェーンバインド!!!!!」

 

アキラは鎖のバインドで男を無理やり縛ったかと思うと、刀を振り上げた。

 

「アキラ君!?」

 

「時間がない!腕を切り落とす!」

 

そうしようとした時、スバルがアキラを止める。

 

「待って!ここは私たちがどうにかするから!!アキラ君は行って!きっと犯人がいる!!」

 

「だがっ!」

 

アキラが一瞬木を緩めた瞬間。男は、強力な筈のバインドを自分の身体を気にすることなく千切り、喉にナイフを突き刺した。

 

「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「!!!」

 

「くそ!!」

 

アキラは男を取り押さえる。近くにあった布で傷口を押さえるが、出血は止まらない。数十秒間止血行為は行われたが、手遅れだった。

 

「……………嘘」

 

アキラは腕についた血を落とそうともせずに、刀を持って立ち上がる。

 

「………スバル、ギンガ、近くにまだ生存者がいるかもしてない。調査を頼む」

 

「うん…………アキラ君は?」

 

「犯人を探す。まだ近くの階にいるはずだ」

 

アキラはそのまま走って犯人を探しにいった。アキラなり気を使ったのか、犯人を憎んでいるのかは、この時はスバルはわからなかった。

 

 

続く

 

 



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第四十二話 言伝

遅くなりました!みなさんお待たせしました!!普段に比べ、少しばかり短いですがmそれでは久しぶりにレッツゴー!!!!!


ー深夜23時 スバル宅ー

 

火災が起きた日の夜中、全体的な収集をつかし、帰路についていた。スバルは 一人だからか、普段他人に見せないような暗い表情をしている。いつもの明るいスバルはそこにはなかった。何度も脳裏に蘇る、被害者の死ぬ直前の声。断末魔。助けられなかった、救えなかった思いが彼女を落ち込ませていた。

 

そんなスバルの後ろから近づいてくるバイクが一台。バイクはスバルの横に止まる。

 

「よう」

 

ヘルメットをしているが、肩にかけている刀からアキラだということにはすぐに気づいた。

 

「アキラさん………?」

 

「ああ。乗れよ。家に帰るんだろ?」

 

「どうしたの?今は仕事中じゃないの?」

 

アキラは少しため息をつくと、事情を説明した。

 

「少し休めって言われてな……お前が見えたから声かけたんだ」

 

「ギン姉は?ほっといていいの?いつも絶対は離れないのに……」

 

「今はティアナと捜査進めてる。俺は捜査するのは不向きだからな」

 

「そんなことないよ。いつも頭はキレるし、判断は速いし、優秀だと思うよ」

 

「そうか?まぁ乗れよ。俺もお前の家に行こうとしてたんだ」

 

「私の?どうして?」

 

「色々個人的に、話があってな」

 

「…………」

 

スバルはアキラのバイクに乗り込んだ。アキラは横に掛けてある普段はギンガが使っているヘルメットを渡した。会話の流れ的に、何となくスバルがアキラと一緒に行くのを拒んでいるのは分かった。だが、アキラにはどうしても伝えたいことがあったのだ。

 

 

 

ースバル宅ー

 

 

スバルが家に入ると、居間の方からエリオが駆けてきた。今日、エリオはキャロとミッドに遊びに来ていて、スバルの部屋に泊まらせてもらうことになっていたからだ。

 

「スバルさん、お帰りなさい」

 

「お帰りなさい!」

 

「エリオ!キャロ!まだ起きてたんだ」

 

エリオはスバルの後ろに誰かがいることに気づき、よくみるとアキラだったことに驚く。

 

「ア、アキラさん!」

 

「ええっ!?」

「よう」

 

アキラはくる途中にスバルからエリオたちが泊まっていることを聞いていたので、アキラの方はあまり驚いてはいない。背が伸びていることに気づいたが、普通の成長を考えると特に驚くことではなかったのでなにも言わなかった。

 

「あ、あはは。珍しい組み合わせですね。ギンガさんは?」

 

「ギンガは仕事中だ俺は休憩中」

 

「ささ、上がって。エリオ、キャロ、なにか夜食でも食べる?」

 

「そうですね」

 

「あ、私は遠慮しておきます……」

 

 

ー居間ー

 

 

 

「さっ、座ってて。いまなにか持ってくるから」

 

「ああ」

 

「はい」

 

スバルは台所へ行き、アキラとエリオの二人だけになった。アキラのどこか落ち込んでるような表情を、エリオは目で見て察していた。

 

「大丈夫……ですか?体調が良くないように見えますが………」

 

アキラは何も答えない。少しして口を開いたかが、それはエリオの質問の返答ではなかった。

 

「お前らがくるまでに、事件を解決出来なくてすまなかった。おかげで、辛い思いさせちまったな」

 

「いえっ!そんな………今回の事件も結構大きな事件になりそうですし、仕方ありませんよ」

 

エリオはだいぶ責任を感じているように見えたアキラを気づかった訳ではないが、そう答えた。実際それが本音であるし、今はアキラを責める訳にも行かないと思ったからだ。

 

「相手が相手だ。なるべく早くかたしたいが……色々捜査があるからそうもいかなそうだ。ただぶっ飛ばすだけなら……簡単なんだがな」

 

「またまた物騒な……」

 

エリオが苦笑いしたと同時に、スバルが夜食を持って運んできた。

 

「おまたせ〜。アキラさんも食べる?」

 

「いや、俺はしばらくしたら戻んなきゃいけねぇから……」

 

「そっか…………それで、話って何かな、できればもう今日は……寝たいんだけど……」

 

「なら食うなって話だ。まぁ、お前らはもともと食う量が半端ねぇからしょうがねぇとは思うがな……」

 

アキラは座椅子に座り直す。

 

「まぁ、なんだ。スバル、今日のことはすまなかった」

 

アキラは頭を下げる。

 

「そんな、アキラさんが謝ることなんてなにも………」

 

「俺があの時、犯人を追いかけることに執着してさっさとあの男を動けなくしようと……腕を切ろうだなんて言うべきじゃなかったんだ」

 

「……………」

 

「スバル、お前まだ、目の前であの男が死んだこと引きずってるだろ?」

 

アキラの聞き方は少し気に入らないところがあったが、スバルは頷いた。ずっと引きずっている。その通りだった。目の前で死なれ、助けられなかった命があるのが一番響いていた。

 

「はっきり言って、俺はあの男が死んだことに対してなに一つとして、悲しみも、後悔も感じていない。死に………慣れちまってんだ。俺自身死にかけたことはあるし…殺したこともある。よっぽど大切な人が死なないかぎり………なにも思わないんだろうな。エリオ、キャロ、スバル……………お前らは、俺のようになるな。絶対に」

 

「それが、伝えたかったこと?」

 

スバルが聞くと、アキラは頷く。

 

「お前は仕事柄、これからもたくさんの死に立ち会ったりするだろうが……死には慣れるな。お前はその性格、根性を貫いて行ってくれ」

 

「……うん、わかった。確かに私らしくないよね。暗いのも、人の死を気にしてないのも」

 

少し引きつってはいるが、スバルは笑顔になった。それを確認すると、アキラはすこし安心したような顔になる。そして、今度はエリオとキャロの方を見た。

 

「あと……キャロ、エリオ」

 

「あ、はい」

 

「何でしょう?」

 

まさか自分に話が向けられるとは思ってなかった二人が少し戸惑いながら返事をした。

 

「お前たちにも話しておきたいことがある。特にエリオ」

 

「はい」

 

「お前たちは今後も戦うことが多いだろう。だからこそ覚えておけ。まず戦いの基本は見ることだ。これは……高町教導官殿に教わったか?まぁいいや。それから………迷った時は大切な人の顔を思い出せ。生きるか死ぬかの判断に迫られた時、大切な人を思い出して…どっちを取るかを考えろ。簡単な足し引き算、天秤さ」

 

アキラはそう言うと立ち上がってその場を去ろうとしたが、エリオの言葉がアキラを引き止めた。

 

「それでも!………僕たちにとって、アキラさんも大切な人です…」

 

立ち止まっていたアキラは少しため息をつくと、エリオを見る。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいが………そんで自分が死んじまっててもいいのか?言ったろ?簡単な足し引き算、天秤だって。自分と自分が最も大切な存在、それらを脅かす脅威が、自分の大切なもの以上に価値があるかどうか考えろ」

 

そう言ってアキラは出て行った。何か言われたような気もしたが、気にせずそのままスバルの家を出る。バイクにまたがり、そのまま108の隊舎に向かった。

 

アキラがなぜこんなことを言ったのか…………それには理由があった。

 

 

ー同日 火災発生から約1時間経過ー

 

 

「…………イクス、いま……マリアージュが参ります」

 

炎上するホテルから、放火の犯人…マリアージュが出てきた。ついさっき、アキラたちの前で死んだ男から渡されたある情報を手にして。一目につく前に逃げようとしたが、彼女の身体が突然バインドで縛られる。

 

「これは……捕縛魔法」

 

「無駄よ。そのロックは力で解けない」

 

柱の影から、ティアナが現れる。マリアージュは焦る様子もなく、冷静に状況を分析するようにティアナに応えた。

 

「……どうやら、その様ですね」

 

ティアナはクロスミラージュの銃口をマリアージュに向け、大人しく捕まるように促す。

 

「マリアージュ、連続放火殺人の容疑で…あなたを逮捕する。動けないとは思うけど抵抗するなら撃ちます」

 

「なるほど、これでは私に、脱出の手段はありませんね」

 

「懸命な判断よ。大人しくしてれば、あなたにも弁明の機会が…」

 

「ですが、マリアージュが良心の辱めを受けることはありません」

 

そう言ったかと思うと、マリアージュは突然腕から液状になり始める。火事で視界が悪いため、ティアナは腕が破裂し、出血したのかと思ったがすぐにそうではないことを悟る。だが、違うとわかったとはいえ、どうなっているのかまではわかっていなかった。

 

「身体が……液状化………?」

 

液状化しながら、イクスはティアナではなく誰かに伝えるような独り言を呟き始めた。

 

「トレディアの居場所と、イクスへ向かう手掛かりを突き止めました。私がここで朽ちても、容器達が探し当てます」

 

「この色……この臭い………まさか…燃焼液!!」

 

気づいた時にはもう遅い。マリアージュは完全に液体へと変わりそして、その場で大爆発を起こした。ティアナはすぐに回避行動をとったが、爆発の炎のう方が一体を焼き尽くすのが速かった。

 

「う……あ………れ?」

 

ティアナは完全に爆発に巻き込まれたと思った。しかし、彼女の視界には黒髪がたなびいているだけだ。ティアナは視界を別の方向に向けると、髪が黒くなり、黒い甲冑を身に纏ったアキラが視界に映った。

 

「無事か?」

 

「あ、アキラさん!」

 

マリアージュが自爆した瞬間、アキラが丁度追いつき、現場を見た瞬間ほとんどのことを察したアキラはリアクトバーストを発動した。そして超高速移動でティアナを助けたのだ。

 

「あ…ありがとうございます。アキラさんがいなかったら、死んでたかもしれません」

 

お姫様抱っこ状態だったティアナはアキラの腕から降り、礼を言う。

 

「気ぃつけろよ全く………前にも言ったが、臨機応変さが……」

 

アキラは急に言葉を止めた。

 

「あ……が………」

 

「あ、アキラさん?どうしたんですか?大丈夫ですか?」

 

アキラは急に胸を押さえて苦しみ始める。尋常でない様子にティアナは心配して寄り添うが、アキラはティアナを離そうとする。

 

「がっ…ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

急にアキラが叫んだかと思うと、アキラのリアクトバーストは解除され、通常のバリアジャケットのリアクト状態に戻る。そして、それと同時にアキラは突然ティアナを襲った。

 

「!!」

 

ティアナは急なことでアキラの行動に対応できずそのまま押し倒される。ティアナを押し倒すと、アキラは彼女の肩に噛み付いた。

 

「いっ!!!!アッアキラさん⁉何を……」

 

「…………」

 

アキラはなにも答えない。なにも答えぬまま噛む力をどんどん強くして行く。ティアナの肩から出血し、このままいくと食い千切られそうになった時、アキラの横から強力な一撃が彼の脇腹に命中した。アキラはそのまま横の吹っ飛び、瓦礫に突っ込んだ。ティアナが攻撃が飛んできた方を見ると、そこには「ブリッツギャリバーA(アサルト)」を身に纏ったギンガが立っていた。

 

「ギンガさん!」

 

「ティアナ、大丈夫?」

 

「噛まれて出血はありますが、問題ないです」

 

「今のがマリアージュ?服を盗んだ疑いがあるって聞いてたけど……」

 

「違います、あれは……」

 

ティアナがギンガに伝えようとした瞬間、瓦礫を吹っ飛ばし、アキラが吠えた。

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」

 

立ち上がったアキラは全身のエクリプスの模様が赤く光り、瞳も赤くなっていた。

 

 

 

続く

 



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第四十三話 襲撃

お久です〜。ここの所月一程度でしか出せずに申し訳ない………( T_T)
disk1からdisk2に移行するまでの間、少しこの先へ向けての伏線の回を挟んで行きます。SSXが終わり次第、別枠でForceでも書こうかななんて思ってますw。今後ともギンガとアキラをよろしくお願いします。m(_ _)m


火災事件のあった夜。アキラは突然正気を失い、仲間であるティアナに襲いかかった。その時、助けに来たのはギンガだった。彼女が見たのは、まるでゾンビ映画に出てくるゾンビのような動きで立ち上がるアキラであった。

 

「アキラ君………………?」

 

「グゥゥゥゥ…………」

 

獣のような唸り声をあげながらアキラは二人を睨む。ギンガは状況をうまく飲み込めずにいた。なぜ最愛の人間がこんな状態で、仲間を襲っているのか全くもってわからなかった。

 

「どうしたの………?なんでティアナを……」

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

7mは離れているであろう距離を、アキラは助走無しでギンガに向かって飛んだ。片手に持ったリアクト状態のディバイダーを大きく振り上げて。状況がよくわからず、呆然としているギンガの前にティアナが飛び出し、クロスミラージュの銃口をアキラに向ける。

 

「ごめんなさい…………スタンバレット!!!!!」

 

一撃当たれば、一日はまともに動けなくなるティアナ独自の改良弾「スタンバレット」。ティアナは状況を考え、これが今出来る最善策であると自分に言い聞かせ、アキラに撃った。

 

避ける素振りすら見せずに、アキラはスタンバレットを喰らってふっ飛ばされる。ティアナは銃口を降ろし、「ふぅっ」と軽くひと息ついたのもつかの間、アキラが立ち上がった。

 

「そんな!?あれを受けたら、普通立ち上がるなんて……」

 

「はぁぁぁぁ………」

 

アキラは若干体が痺れてるような動きをさせながらフラフラと歩き始める。

 

「ティアナさん!ギンガさん!!」

 

その時、フリードに乗ったキャロがティアナ達のいる現場に飛んできた。アキラの視線が自身とギンガから、キャロに移ったのをティアナは見逃さなかった。

 

「キャロ!引き返して!」

 

「え?」

 

ティアナが叫ぶと同時にアキラはフリードが飛んでいる場所まで一気に跳ねる。そして、キャロが状況を理解する前に彼女はアキラによってフリードから引きずり降ろされる。

 

「ア、アキラさん!?」

 

アキラはキャロの頭を掴んで一気に地面へ降下して行く。だが、途中でアキラはウィングロードで飛んできたギンガに蹴り飛ばされる。

 

「がっ!」

 

「ひゃあ!」

 

キャロは地面に激突する寸前でティアナにキャッチされる。

 

「セーフ……」

 

「あ、ありがとうございます………あ、お久しぶりです………あのどういう状況ですか?」

 

「わからない……でも…………ギンガさんが、任せてって」

 

一方、ギンガに蹴り飛ばされたアキラは先程いた場所の壁一つ隔てた場所に落ちた。ギンガも同じ場所に降り立つ。アキラは頭から血を流しながらも立ち上がる。

 

 

『説得を試みますか?』

 

「出来ればそうしたいけど、あの様子じゃ無理っぽいかな」

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

ディバイダーを投げ捨てアキラは素手で突進して行く。リアクトで出現した腕の鎧の爪で肉を抉るようにギンガに攻撃を仕掛けるが、まるで当たらない。

 

(明らかに急所を狙いに来てる………でもだからこそ動きが読める…)

 

ギンガはあらかた攻撃を交わすと、攻撃が当たらずイラついたのか、アキラが大ぶりな技を放とうとギンガに急接近する。ギンガは冷静にアキラの攻撃をかわし、足を掛けた。予想通りアキラは思いっきり転んだが、身体が地面につく直前に腕を地面に叩きつけ、腕力のみで大勢を立て直そうとしたが顔を上げた瞬間にギンガの強烈な左ストレートが顔面に決まった。

 

「がっ……」

 

地面をローリングしながらアキラはふっ飛ばされる。しかし、そのままふっ飛ばされた勢いを利用して態勢を直した。

 

「………ねぇ…どうしちゃったの?今は私たちが争ってる場合じゃ……」

 

「クイ………タイ……………」

 

「え?」

 

「クイタイ…………」

 

(やっぱり正気じゃない………か)

 

「ごめんね」

 

「うがぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

アキラが飛びかかった瞬間、ギンガは懐からジーンリンカーコアを出した。アキラ(クローン)から預かっていたものだ。それをアキラの胸に押し付けると、アキラの体内のジーンリンカーコアと激しい反応を起こし、彼は気を失った。

 

意識を失い、リアクトとバリアジャケットが解けたアキラをギンガは優しく支える。

 

「………クローンの言ったとおりになっちゃった……………。このままじゃ…」

 

ギンガは軽く涙ぐみながらアキラを抱きしめた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

(これまでが、俺がギンガに聞かされたことだ。ギンガのことだ、俺に気を使わせないために身体の傷を隠しているかもしれない…もしかしたら、俺がもっとひどいことをしているかもしれない………。だがそれは、聞いたって話してくれないだろう………。)

 

アキラはバイクにまたがりスバルの家を後にした。元々泊まりで仕事をする自分とギンガの着替えを取りに帰っていただけだ、早く帰らなければギンガが心配する。

 

(もうリアクトはできない…………そうなると、結構キツイな………)

 

そう思いながら、バイクで隊舎に向かっているとアキラの後ろから二台のバイクが追い越してきた。

 

「ん?」

 

すると二台のうち一台のバイクの運転手が左腕をアキラに向けたかと思うと、その腕に突然刃のついたショットガンが出現した。

 

「!?」

 

次の瞬間、アキラは反射的に横の道にずれた。それと同時にアキラの走っていた道の後方が爆発した。幸い後ろを走っていた車はいなかったがこれから戦闘を行動で行う訳にはいかない。アキラは廃市街地に向かって走り出した。襲ってきたバイク二台もついてくる。

 

(何なんだあいつら………いや、あの刃のついた銃…………まさか!)

 

「ブラックレイランサー」

 

『yes』

 

「最大防御でバイクと融合!廃市街地まで何とかもってくれ!やれるか!?」

 

『任せて下さい』

 

 

ー廃市街地ー

 

 

廃市街地にある橋の上で突如爆発が起こった。その爆発で橋は崩れ、その上を走っていたバイクがそのまま地面に叩きつけられた。

 

「ごわ!!」

 

バイクから投げ出され、アキラは瓦礫に激突する。しかし、痛みに耐えながらなんとか立ち上がりブラックレイランサーを装備したバイクに駆け寄った。

 

「くそっ、結構やられたな………」

 

橋の上からはバイクの走行音が聞こえる。アキラは急いでバイクからアタッシュケースを取り出し、廃ビルへ逃げ込んだ。

 

(リアクトすれば暴走の可能性がある…………廃市街地に入ったっつってもまだ街に近い……これ以上ギンガにも迷惑かけられねぇ…ここは俺一人で……)

 

アキラはすぐにアタッシュケースから緊急時用の罠を取り出した。少量だが、あえて逃げ場のない行き止まりにアキラがいれば確実に致命傷は負わせられる筈だ。

 

 

 

 

ー廃ビル入口ー

 

 

ビルの入り口に繋がる道に点々と血の後が続いている。それを追ってきていた2人組がビルの入り口に辿りつく。

 

「ここに逃げ込んだらしいな…………」

 

「さっさと捕獲してスポンサーに届けよう。こんな面倒な仕事、請け負いたくなかったんだからさ」

 

バイクから降りた二人の男女が何か話しながらビルの中に入ってくるのを、アキラは設置して置いた小型のドローンで見ていた。

 

(あの二人の持っている銃……剣の部分に番号が入っているのをみるとやっぱりエクリプス感染者か………まいったな……男の方は拳銃で、女はショットガンか……今はいいがリアクトされるとまずいな)

 

アキラはビルの四階にいた。

 

「とりあえず………こいつで」

 

サイレンサーとスコープ付きのスナイプガンで四階に来れる唯一の道である階段を物陰から狙った。一階一階よく見ているのか、中々くる気配はない。

 

「………………」

 

銃を握る手にじんわりと汗が滲んできた。だが、一瞬でも気を緩めれば命取りになる。そう、考えていた瞬間、階段から二人組が現れた。アキラは反射的に引き金を引いた。銃口から射出された弾丸は空気を切って2人組の男の顔に当たった。

 

「っ!」

 

「!!!」

 

弾丸が飛んできたのは二人のいる隣のビルからだった。女がそれに気づき、銃を隣のビルに向ける。一瞬だがアキラが見えたのだ。

 

「逃げた!」

 

「ヤロォ!!!」

 

顔面に弾丸を食らったというのに、男はピンピンしている。それどころか、かすり傷を負っただけですぐにビルからビルへと飛び移った。

 

だが、アキラのいるビルに飛び込んだ瞬間、何かに引っかかったことに気づいた。それと同時に、その階が大爆発を起こす。アキラの仕掛けた爆弾だ。

 

「………火薬料は違反しちゃいねぇがな、火薬の種類を組み合わせることで爆発の大きさを変えられる…少なくとも瓦礫でしばらくは動けねぇだろ…」

 

アキラは事前に別の階に移動していた。今度はもう一人の女を狙うために階段を銃を構えながら一歩一歩下って行く。

 

「ジョー!!」

 

まだ隣のビルにいる女の方がさけんだ。どうやら男はジョーと言う名前らしい。アキラはジョーに気を取られていた女に容赦なく弾丸を撃ち込んだ。

 

「!!」

 

肩に弾が当たったが、大したダメージを食らった訳ではなさそうだった。アキラはその一発のみでまた階段を駆け上がる。女はジョーの失敗を繰り返さない為に、一気に五階に飛んだ。

 

だが、着地と同時にアキラが襲いかかる。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「ちぃ!」

 

女はショットガンを構えて散弾を放った。アキラはそれをギリギリ躱し、ディバイダーで斬りかかる。女のディバイダーは刃が小さかったがなんとか受け止めた。

 

「くっ!」

 

「テメェ等何者だ!なんの目的でこんなことを!!!」

 

「あんたを捕獲する為よ!橘アキラ!」

 

「俺を!?何のために!」

 

「私らはただの下請けよ!あんたを捕獲してどうするかなんてスポンサー次第よ!」

 

「そのスポンサーってのは誰だ!」

 

 

ディバイダー同士の競り合いの中、アキラが叫ぶと突然アキラの背後の床が砕け、下の階から巨大な斧を持ったジョーが現れた。

 

「そいつは俺らの口からは言えねぇな」

 

「!!」

 

ジョーは飛び出した時に振りかぶった斧をアキラに向けて振り下ろしたが、アキラは何とか避ける。ある程度距離を取ったアキラはディバイダーを向けて威嚇する。

 

「無事か?リサ?」

 

「ええ、でもリアクトするのが早過ぎない?」

 

「チャッチャッと片付けようぜ。さっきの爆発で腹立ったぜ」

 

アキラは汗を拭いながらも二人に尋ねる。

 

「お前ら、それをどこで手に入れた?エクリプスウィルスを………」

 

尋ねると、二人は顔を見合わせると少し笑った。そしてジョーの方が笑いながら答えた。

 

「それは言えねぇがな、お前には感謝してるぜ?お前が実験成功第一号になってくれたお陰で、俺らは感染者としてオイシイ思いできてんだからなぁ」

 

「……………」

 

それを聞くとアキラは少し顔を下げたかと思うと、急に目付きを変えて顔を上げる。そして、最近使わなかった冷たい声で二人に言い放った。

 

「オメェ等は俺がここでケリ付けなきゃいけねぇ………。オメェ等をこの誰も知らない場所で葬り去るのが俺のケジメであり、お前らへの救済だ」

 

「……………何言ってるか知らねぇが………やれるもんならやってみなぁ!!!!!」

 

三人は交戦を開始した。

 

 

 

 

ー陸士108部隊ー

 

 

 

 

ギンガは資料を整理しながら、泊まり込み用の着替えを取りにいったアキラを待っていた。だが、あまりに帰りが遅いことに疑問に思っている。

 

「遅いな………何かあったのかな……?あ、そうだ。ブリッツギャリバー」

 

『yes』

 

「アキラくんの通信機とブラックレイランサーの位置、ギャクタンできる?」

 

『No problem』

 

「お願い」

 

ブリッツギャリバーの表示した場所を見て、ギンガは早速疑問を抱いた。

 

「ここって………廃市街地?どうしてそんな場所に?それに、ブラックレイランサーともかなり離れてる…これってブラックレイランサーがバイクに装備されてるってこと?」

 

ギンガは嫌な予感がしたのを感じ取る。資料を放り出して部屋を出ようとした。ちょうどその時、夕飯と仮眠を済ませた執務官組にばったり出会う。

 

「あ、ギンガさん。どうかしました?」

 

「ごめんティアナ、資料をお願い」

 

「え?」

 

「本当にごめん!私ちょっと出てくるから!明日までに帰らなかったらメグに捜索隊をここに出すように伝えて!」

 

ギンガはさっき検索したデータをティアナに託し、駐車場まで走った。

 

「ちょ、ちょっとギンガさん!?」

 

 

 

ー駐車場ー

 

 

 

ギンガは車の鍵を開け乗り込もうとした時、近くのコンビニで買い物をしてきた帰りの十六夜を見つける。武装隊は当番制で深夜の緊急事態に備えて隊舎に泊まることがあるのだ。今日は十六夜とその他数名だったらしいが、腹ごしらえに十六夜は買い物に行ってきたらしい。

 

「ねぇ!シノブちゃん!」

 

「あ、ギンガ副隊長。どうも、お疲れ様です」

 

「シノブちゃん、今空いてる?」

 

「まぁ、空いてなくはないですが……何か?」

 

「ちょっと一緒に来て欲しいんだけど…………戦闘になるかもしれないから、腕の立つシノブの力が欲しいの」

 

「それは全く持って構いませんが、一体何事で?」

 

「それは説明できなくて………ごめんね?」

 

ギンガが謝ると、シノブは目だけ動かして辺りを伺う。そして、ギンガに尋ねる。

 

「アキラ隊長関係ですか?」

 

「え、あ……うん」

 

「わかりました。では、行きましょう」

 

「え?」

 

さっきまでの態度が急変。シノブは乗る気になった。ギンガは色々疑問を抱きながら車に乗り込み、反応のある地点までトップギアで走って行った。

 

(無事でいて………アキラ君)

 



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第四十四話 接続

おひさです〜。中々上げれず、SSXの続きもかけず申し訳ないと思う今日この頃です………。そういえば今日の15時になのセントのガラケサービスが終わりますね。ガラケ使っている私としては残念ですが、まぁiPadもあるしいっか。

次回の予定は今月末です


「…………」

 

アキラの帰りが遅く心配になったギンガは、十六夜シノブを連れてアキラの反応がある廃市街地に向かっていた。ギンガは詳しいことは言わなかったが、事情を何となく察したのかついてきてくれた。

 

「ねぇ、シノブちゃん」

 

「はい?」

 

「シノブちゃんはどうしてウチにきたの?前に資料をみたら、あなた空戦Aプラスだったからずっと気になってたの」

 

「………沈黙による気まずい空気を解消するための会話は感謝しますが、急いだ方がよろしいかと」

 

「え?」

 

シノブをみると、彼女は廃市街地の反応があった地図を見ている。ギンガもみると、さっきまで映っていた筈のアキラの通信機の反応が消されていた。

 

「え……」

 

「恐らく通信機を破壊されたのかと。アキラ隊長はいつも通信機を左腰につけていますので、攻撃などで吹っ飛んだ時の影響かと思われますが」

 

「っ!」

 

ギンガは真夜中で車が少ないのをいいことに規定違反のスピードで走り出した。まぁ、事件に向かっている管理局の車なので問題は少ないが、個人的に飛び出してきているので少し微妙である。

 

 

 

 

ー廃市街地ー

 

 

 

「おらぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「ああああ!!!!」

 

ジョーの振るった斧を、アキラは刀と鞘でなんとか抑える。

 

「はっ!どうしたんだよ!リアクトしねぇのか!?」

 

「テメェらごときに……………リアクトするほど俺は弱くねぇ!」

 

持てる力を最大限に使ってアキラはジョーの斧を弾き返した。そして、一旦距離を取って腕を休める。自分でケリを付けるとは言ったものの、リアクト無しで感染者二人を倒す自身は、アキラの中で薄れつつあった。ちなみにリサはアキラの弱さに呆れ、ジョーに任せて彼女は高みの見物をしていた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「やれやれ、「阿修羅」の名が聞いて呆れるな」

 

「阿修羅?」

 

ジョーの言葉にアキラは疑問を持つ。

 

「ん?おまえ自分の二つ名しらねぇのかい?「管理局の阿修羅」。手段を選ばない守り神の意味さ。裏の世界じゃ結構そう呼ばれてる。有名人だぜ?」

 

「ああそうかい……そんな風に有名になってもちっとも嬉しくはねぇが、何となく踏ん切りがついた」

 

「あ?」

 

アキラは刀を捨て、ディバイダーの刃を自分の腕に押し付ける。その行動をみると、リサは急にジョーの横に来た。

 

「手段を選ばないことで有名なら、お前ら…………食われても化けて出んなよ……………。リアクトオン!!!!!」

 

アキラの腕に鎧が装着されディバイダーは形状を変え、巨大な剣となった。

 

(……リアクトしても、すぐに意識は無くならない…だが、心が吠えてる……「食え」と。「眼前にあるのは、餌だ」と。他の犠牲者を出す前に………こいつらを!!!!)

 

「はぁぁぁ!!!!!」

 

アキラはディバイダーを構え、二人に飛びかかった。

 

 

 

 

―ビル入り口付近―

 

 

 

 

「これは…」

 

廃市街地についてしまったギンガ達が最初に見たのは傷だらけで倒れているブラックレイランサーを装備したアキラのバイク、そしてそこから点々と続く血の道だった。

 

「何者かに襲撃されたと見るのが妥当でしょうか。いま話題のマリアージュですかね?」

 

「いいえ、多分それはないと思うわ。マリアージュがアキラ君を狙う理由が無いもの。今まで古代ベルカ関係の人間ばかり襲っていたマリアージュとは考えづらい」

 

「ですが…アキラ隊長のデータが見つかったのでしょう?古代ベルカ関連の情報から」

 

機動六課メンバーくらいしか知らない情報を口に出したシノブに対し、ギンガは驚いた。何故知っているのかと問いかけようとした時、目の前に人が落ちてくる。

 

「!!」

 

「ひっ、人!?」

 

落ちてきた人物がまだ息があり、怪我をしているのを確認すると、ギンガは駆け寄った。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ぐ………ん?」

 

その人物はジョーだった。ジョーはアキラ捕獲の命令を受けた時にギンガの情報も貰っていたのでギンガだとすぐにわかった。自分を一般人と思っていそうなギンガを、ジョーはうまく利用できるような気がした。

 

「たっ、助けてくれ!茶髪の男が急に襲ってきて!」

 

「え?」

 

その瞬間、三人の少し手前にアキラが飛び降りて来た。リアクトしてからかなり激しく戦ったのか、全身ボロボロだ。アキラはジョーの近くにギンガがいることに驚く。

 

「ギンガ!?何でここに…………」

 

「アキラ君……」

 

「ギンガ、そいつから離れろ」

 

「え……でも…」

 

アキラの言葉に戸惑った一瞬の隙をついてジョーはギンガの背後に回り、首の骨を折る態勢に入った。

 

「ギンガ!」

 

「こいつの首をへし折られたくなかったr」

 

ジョーが小物並みの行動に出た瞬間、しっかりホールドしていた筈の腕が簡単に外され、ジョーは空中に放り出されていた。何が起こったか理解できてないジョーの顔面に、鞘をつけたままのシノブの「蒼月」がクリーンヒットし、そのままコンクリートの瓦礫に突っ込む。無駄に息の合った連携プレイだ。

 

「!?」

 

「アキラ君の敵は私の敵よ。覚えておくことね」

 

ギンガの見せた一瞬の戸惑いの表情は嘘であった。アキラが「離れろ」と忠告していた時から、ギンガはジョーに対しての警戒心はMAXだったのだ。

 

「ぐ……舐めやがって…」

 

「なに小物みたいなことやってるの?ジョー」

 

「リサ!テメェなんでさっきから高みの見物なんだ!お前も戦え!」

 

「アキラがリアクトした時に手を出すなと言ったのはあなたよ」

 

何やら内輪揉めを始めた二人の隙をついてアキラはギンガとシノブとともに建物の影に隠れた。

 

「アキラ君大丈夫?またそんなにボロボロで……」

 

「服がボロボロなだけだ。傷はもう治ってる。そんなことよりなんで来た?」

 

「こんなところで通信機の反応が消えたら誰だって心配になって来るよ。大丈夫。ティアナ達くらいにしか伝えてない」

 

「………。まぁいい。詳しい経緯はまたあとで話す。お前らは帰れ」

 

こんな状態で何を言っているのかとギンガは驚愕する。

 

「何言ってるの!?一緒に逃げようよ!逃げるのがダメなら、私も、シノブも一緒に戦う!」

 

「ダメだ!お前らのかなう相手じゃない!」

 

一方、ジョー達は言い争いながらもリサは降りてきた。

 

「まぁ?敵も増えたし戦ってあげなくもない」

 

そういいながら、リサはディバイダーの刃を腕に突き刺してリアクトする。ショットガン型のディバイダーは巨大な弓に姿を変えた。ただの弓ではない。どちらかというと、弓の形をした七連装砲と言ったところだ。

 

セットする矢はなく、弓本体の中心に巨大な砲門があり、その上下四門ずつ小型の砲門がついている。

 

「いぶり出すくらいはしてあげる」

 

弓を適当な建物に向け、弦を引っ張ると七門の砲門にエネルギーが溜まり、弦を離した瞬間それが一気に解放される。光の矢が広い範囲に大量に放たれ、そこらの建物の影になりそうな場所を一気に削っていく。

 

「ヒュー、リサさん、こりゃーあいつら殺しちゃんじゃねーの?今撃ったのビームだろ?」

 

「………大丈夫」

 

リサの言う通り、アキラが攻撃によって起きた粉塵の中からリサに飛びかかった。

 

「おっと!」

 

アキラのディバイダーをジョーの斧が防ぐ。

 

「ぜぇ………はぁ………」

 

飛びかかってきたアキラの状態を見てジョーは少し冷や汗を流す。

 

「マジで化け物かよ……」

 

リサの攻撃からギンガとシノブを安全な場所に投げ飛ばすことが精一杯だったアキラは、コンクリートも簡単に貫通する質量兵器の光の矢を全身に食らって穴だらけだった。エクリプスの力で再生は始まっているが出血が多すぎたため、貧血で気を失い、アキラはその場に倒れた。

 

「………最後まで、勇敢だったとだけ言ってあげる。さ、連れて帰りましょ」

 

「ああ」

 

「させません」

 

ジョーがアキラの腕を掴んで持ち上げた瞬間、目にも止まらぬ速さで建物の影から何かが飛び出してくる。シノブだ。彼女は自らの武器「蒼月」抜き、ジョーの腕に斬りかかったが斧で防がれる。リサは動こうともしない。

 

「威勢のいい嬢ちゃんだねぇ!ディバイダーもないのに感染者に挑むなんて、石ころで戦艦倒すようなもんだぜ!?」

 

シノブの目は変わらない。

 

「別にあなたを倒す必要はありません」

 

そう言ったのと同時に別の建物の屋上からブリッツギャリバーAを纏ったギンガが拳を振りあげながらジョーに向かって突っ込んできた。シノブは囮だ。

 

「はぁぁぁぁ!!!!!」

 

「リサ、今はいい」

 

一瞬リサが動きかけたが、ジョーに止められ、弓を下ろす。そして、ギンガの正拳突きをジョーは自らの身体で受け止めた。かなり本気だったのにもかかわらず、ジョーは吹っ飛ぼうともしない。多少足腰を踏ん張らせただけだ。

 

「ウソ……」

 

「ふんっ!」

 

ジョーはそのままギンガの拳を握り締めて投げ飛ばす。それと同時にシノブも蹴り飛ばした。

 

「きゃあ!!」

 

「ぐっ…」

 

「だから言ったろ?石ころで戦艦壊すようなもんだってよ」

 

そう言った瞬間、ジョーの腕に激痛が走る。見ると、ジョーの腕の肘から先が切り飛ばされていた。

 

「!!?」

 

気絶していた筈のアキラが吹っ飛ばされる直前にシノブの託した「蒼月」を使ってジョーの腕を切り飛ばしたのだ。その瞬間、リサが弓を構えたがアキラはすぐに動いて蒼月で矢の射出口をずらして躱す。

 

「!」

 

「ストライクナックル!!!」

 

「絶断!!!!」

 

すかさずギンガとシノブが追い打ちにかかり、リサとジョーは数メートル先の壁に叩きつけられた。ギンガ達はアキラを抱えると一旦その場を離脱した。

 

 

 

ー廃ビルー

 

 

 

 

「ふぅ、作戦成功ですね」

 

「ああ、刀返すぜ。にしてもよく切れる刀だな」

 

「ええ、我が家の自慢の刀です」

 

アキラを床に横たわらせ、ギンガは自分のハンカチで撃ち抜かれた一番ひどい部分を応急手当しようとしたが、数カ所あった傷は全て治っていた。

 

「……もう…全部治ってる」

 

「さっき…一瞬だがリアクトした」

 

これは嘘だ。エクリプスの進行が進んでいるとギンガに知られたら、また心配かけさせてしまうからだ。

 

「それよりも…血が足りねぇ………さっきからクラクラしやがる」

 

「大丈夫?ここには血なんてないし…どうしよう……」

 

「とにかく、現状を打開して病院に行くべきですかね?この再生能力だったらすぐに血も作られそうですが」

 

「うーん、でも一応病院には…」

 

二人の話をアキラは朦朧としながら聞いていた。そして、ボヤける視界で、二人の首や頬、腕、太もも、皮膚が出ている場所を繰り返し見ていた。まるで、獲物を狙う獣のような視線で。

 

「でも…ん?アキラ君、どうしたの」

 

「………ギンガ…シノブ、……逃げろ」

 

「え?」

 

そう言った後、アキラは急に両手でギンガの肩を掴み、首筋に向かって大きく口を開く。刹那、シノブがアキラの四肢をバインドで床に固定し、首を折る体勢で彼の首を絞め、押さえつけた。

 

「がっ……」

 

「このまま首の骨を折っても再生するんですかね」

 

「ちょ、ちょっと!!!」

 

「いや…」

 

「アキラ君!?」

 

アキラは首を絞められた状態で答える。自我はまだあるようだった。

 

「やれ、シノブ………流石に折られりゃしばらく俺も動けねぇだろ。そのうちにお前らは逃げろ!」

 

「そんなこと!!」

 

また討論が始まろうとした時、アキラたちのいるビルの窓際に誰かが降り立つ。

 

「苦しんでいるようだな。橘アキラ」

 

「!」

 

ギンガは即座に戦闘体制に入った。入ってきたのは、右目に眼帯をした、褐色肌の刀を持った女性だ。

 

「何者ですか」

 

「まぁそう怖い顔をするな。私の名前はサイファー。橘アキラや、お前たちが戦っている奴らと同類で………今だけは橘アキラの味方だ」

 

そういうと、サイファーは首の左側のエクリプスの模様を見せた。

 

「サイファー?」

 

「今だけっていうのはどういうことですか?」

 

ギンガが聴くと、サイファーが笑った。

 

「残念ながら細かい話は出来ないのでな。だが、とりあえず味方だと言っている。警戒するな」

 

サイファーは自身の刀を置き、両手をあげる。

 

「診せてみろ。きっと役に立つ」

 

「…………じゃあ来てください」

 

ギンガは戦闘体制を解き、再びアキラの隣に座る。戦闘体制を解いたものの、ギンガの警戒心はMAXであった。サイファーはそれをわかりながらもアキラの側に座った。

 

「ふむ……病化の一歩手前…と言ったところか。一番苦しい時だな。橘アキラ、今お前は食おうとしていたな。なぜだ」

 

「わからない………ただ、身体が求めるんだ!人の肉を……食えって…」

 

サイファーは腕を組んで少し首を傾げる。

 

「ふむ、妙だな。普通エクリプス感染者は、殺人衝動に駆られる筈だが……やはり試作品は違うのか」

 

「試作品?それに…殺人衝動って………」

 

アキラもギンガも知りたがった。自分でもよく知らないエクリプスウィルスについてを。だが、いろいろとサイファーは話せない理由があった。本人は話してもいいと思っているが、身内が主にうるさいのだ。

 

「まぁ詳しい話は後だ。早いうちに手を打たないと、死ぬぞ」

 

「え……?」

 

「殺人衝動に駆られた感染者もそうだが、無理やり抑え込むと自己再生能力が暴走し、身体が耐えられなくなって死に至る。「自己対滅」と言うのだがな。これは私の勝手な推論だが、お前のエクリプスは自己対滅を防ぐために他の肉……まぁエネルギーを口から摂取することで抑えようとしているのだと思う。私を食わせてもいいが、別のエクリプスを摂取すれば余計に悪化するかもしれん」

 

「つまり、食べれば良くなる?」

 

「ああ。人間をな」

 

そういうと、サイファーは立ち上がった。そして、後ろを見る。

 

「どっちでもいい。少し食わせるだけでも違うと思うぞ。私が時間を稼いでやる」

 

「え?」

 

サイファーの見ている先をみると、ジョーとリサが向かいのビルからこちらを見ていた。何時の間にか場所を突き止められていたのだ。サイファーは刀を拾い上げ、鞘から抜いた。

 

「私も奴らに聞きたいことがあるからな!」

 

最後にそう言い残し、サイファーは向かいのビルに飛び込んで行った。残された三人は少しの沈黙のあと、シノブが口を開いた。

 

「このまま黙っていても拉致が飽きません。アキラ隊長。とりあえず私の腕の肉を噛みちぎってみてください」

 

「待って!」

 

ギンガがシノブの行動を押さえた。そして右腕のストライクナックルを外してアキラに二の腕を差し出す。

 

「ギンガ!やめろ!!!」

 

「いいから!食べなきゃ、アキラ君死んじゃうんでしょ!?そっちの方がもっと嫌だから!!」

 

「お前の体に傷なんかつけられるか!やめろ!」

 

「でも!」

 

「もが!」

 

二人の言い争いの途中、アキラの口にシノブが自分の腕を突っ込んだ。

 

「さっさと食べてください。口論を続けても意味がないです。ギンガさんの気持ちもわかりますが、今はこの場を打開するのが大切です。さぁ、食べてください」

 

アキラはシノブに感謝し、ギンガが止めるのを聞かずに彼女の腕の肉を少しだけ、前歯だけでかじる形で噛みちぎった。

 

 

 

 

続く。



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第四十五話 進展

一日おくれて申し訳ないです。何とか今日には上げたかったので短いです。申し訳ないm(_ _)m。今日からvividストライクですね。とっても楽しみです!ラブライブサンシャインが終わってがっかりしてましたが、新しく生きる糧になってくれそうです!それはさておき、また忙しくなりそうで、次回は10月中には上げたいと思ってますが、いつかは確定はできないです…悪しからず。


廃市街地のビルから光が溢れだし、爆発する。

 

「ちょこまかと!」

 

苛立ちの声をあげたのはリサだ。突然現れた予想外の相手にジョーとリサは軽く追い詰められていた。その相手とは、サイファーだ。アキラが苦戦していた相手をたった一人で翻弄するのは流石だと言えた。

 

「ディバイダーもどきをつかっている割には強い方…だな」

 

「もどき?ということはお前………」

 

「私はサイファー。エクリプスファミリー「フッケバイン」のメンバーだ。お前たちに聞きたいことがある」

 

サイファーは刀型のディバイダーを二人に向け、ジリジリと近づいて行く。

 

「お前たちのスポンサーについてだ。一体誰がお前たちにディバイダーを与え、命令を……」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

サイファーの言葉の途中で何かが天井を突き破り、サイファーと二人の間に着地した。砂煙が上がってよく姿は見えなかったが、その姿は月明かりに照らされ、すぐに誰かわかった。

 

先ほどまでの戦いで、また暴走するかもしれないという恐れから使われなかった「リアクトバースト」を発動したアキラだ。その姿に、ジョーは冷や汗を流し、サイファーは興味深そうに見ていた。

 

「黒髪に………黒の鎧…宝石のように美しく透き通った刃の剣……これが………」

 

「ほう………」

 

「さぁ……選びなクソ野郎共。ここで死ぬか、素直に自首するか」

 

「冗談じゃない!!!」

 

リサは即答し、弓から光の矢を放射する。

 

「そうか………残念だ」

 

アキラはディバイダーのトリガーを引く。約0.2秒後、二人のディバイダーは木っ端微塵に切り刻まれると同時に喉を斬られ、大量の血を噴き出しながら倒れた。噂通りの能力に、サイファーは感心したような表情をした。

 

「……………いいのか?管理局員が人を殺して」

 

「こいつらはもう………人じゃない。人を殺すだけの兵器だ」

 

アキラは呟くと、その場を去ろうとする。サイファーは少し考え、アキラに尋ねた。

 

「お前はそれが自分に帰ってくる言葉だとわかっているのか?」

 

「……………………………ああ。俺もだ」

 

それで終わるかと思ったが少し違った。アキラは急にサイファーに向かって叫んだ。

 

「だが!まだ違う!!!!俺はお前らとは違う!少なくとも殺しを楽しんじゃいねぇ!!!!!エクリプスが俺を喰おうとするってんなら俺がエクリプスを食ってやる!!そしていつか人間としてギンガと添い遂げる!!!」

 

アキラは一息で叫び終わると、自分が貫いてきた穴を使って飛び去っていった。サイファーはため息をつくと二人の死体を適当な場所に寝かせ、両手を胸の上に置かせた。

 

「既に血で汚れた手を持ちながらどうしてそんなことが言える?橘アキラ……」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ー部隊長室ー

 

 

 

翌朝、三人は陸士108に帰投したがその数時間後、アキラたちは呼び出しを食らった。一体何事かと部隊長室に入ると、ゲンヤが何やら険しい表情で座っていた。

 

「何の様だよ」

 

「ああ、アキラ、お前さん昨日何者かに襲撃受けたらしいな」

 

アキラは一瞬目を見開き、すぐにギンガを見た。だが、予想と反しギンガも驚いていた。アキラは前回の戦闘の時もギンガには襲撃のことは話すなと言ったのだ。今回はいう暇がなくて心配だったがどうやらギンガではないらしい。

 

「何の話だ?」

 

「とぼけんのはナシにしようや。こっちもあんまりこういうこと聞くのは苦手なんだ」

 

「………………仮に俺が何か知っていたとして、どうするつもりだ?」

 

ゲンヤは聞かれると、少し考える素振りをみせてから席を立ってクイントの写真を手に取る。言いたくないというか、言い辛いことだったのか、あまりアキラ達の目を見れなかったのだ。

 

「本当だったら、「エクリプス」って言ったか?それに感染し、今なお進行しているお前は本局に渡さなきゃならんことになってる…………。だがな、家族として、義理の親として…………部隊長がこんなこというのはアレだが、そんなことはしたくない」

 

「……………だから?」

 

「せめて俺には……俺やギンガにはきちんと話して欲しい。可能な限りはサポートする」

 

「父さん……」

 

「ゲンヤさん…………」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

アキラはゲンヤにすべて話した。エクリプスについて。その病化による自分への症状についてなどだ。アキラにとって、局に捕縛されるかくらいの危険な橋だったが、ゲンヤは上には黙っていてくれると約束してくれた。しかし条件として、症状が落ち着くまでディバイダーをゲンヤに預けることとなった。

 

 

「こっからは刀だけか……」

 

「しょうがないよ………でも、私的には少し安心かな」

 

アキラが軽いため息をつくと、ゲンヤが急に何かを思い出す。

 

「ああ、そうだアキラ。これから仮眠とったら無限書庫に向かってくれ」

 

「無限書庫?」

 

「ああ、こないだオットーとディードにティアナが調査の手伝いを依頼したらしい。その手伝いに言ってくれ。一応応援にヴィヴィオが向かうが……念のためな」

 

「手伝いの手伝いか…………わかった」

 

アキラは了承し、ギンガと仮眠室へ向かおうとした時、再びゲンヤが口を開く。

 

「それからアキラ………お前さんにはこの事件が終わったら出向してもらおうかと思ってる」

 

「……………なに?」

 

「安心しろ、ギンガも一緒だ。前々から言おうと思ってたんだが、ちょうどいい。少し前線から引いて肩を休めるといい」

 

「………厄介払いってことか?」

 

アキラが聞くと、ゲンヤは首を横に降る。

 

「いいタイミングで戻ってきてもらうさ。絶対にな」

 

 

 

 

ー仮眠室ー

 

 

 

一晩通して戦闘し、仕事もしていたのでアキラもギンガも一睡もしてなかった。アキラは平気だったが、ギンガは流石に疲れが限界近くに達していた。

 

仮眠室に入ると、既にアキラの部隊の夜中メンバーとシノブが寝ていた。

 

アキラとギンガはなるべく目立たない部屋の隅のベッドに行くと、ネクタイと上着を脱いだ。そして、二人で一つのベッドに入る。これはもはや日常茶飯事だ。

 

「ふぅ………」

 

「あっちでもこっちでも事件が起きて……久しぶりに忙しいね」

 

「ああ………………。ギンガ、すまない」

 

「え?」

 

急に謝られ、ギンガは少し困惑した。

 

「お前まで出向することになっちまって」

 

「いいよ。アキラ君が一人で行っちゃうよりもずっと。どこでも、アキラ君と一緒がいいよ」

 

「……………」

 

アキラはギンガをぎゅうっと抱きしめる。その存在に感謝しながら、心の中の愛を伝えるように、強く、優しく。

 

「大好きだ」

 

「うん」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ー無限書庫ー

 

 

仮眠を終わらせたアキラは、早速本局の無限書庫にきていた。無限書庫内を適当にふわふわと飛んでいると、久しぶりに聞く声が聞こえてきた。

 

「アキラさん!」

 

「おう」

 

オットーとディードだ。

 

「お久しぶりです」

 

「久しぶりだな。オットーは相変わらず執事服か」

 

「はい」

 

「ちょっとは女の子らしい格好したらどうだ?似合うと思うぞ」

 

アキラが聞くと、オットーはクスリと笑う。

 

「ありがとうございます。でも、僕はこれでいいんです」

 

「そうか。ディードも久しぶりだな。腕はなまってないか?」

 

「はい。この事件が落ち着いたら、また剣の鍛錬に付き合ってもらえませんか?」

 

「ああ、いつでもいい」

 

軽い挨拶を交わすと、アキラはオットーとディードに連れられ、古代ベルカ関連の情報がある場所まで飛んで行った。

 

「だが、何で俺を呼んだんだ?ヴィヴィオが来るなら、俺はいらなくないか?」

 

「……ランスター執務官から、アキラさんがなにかこの事件について知っているのではないかという報告があったので、ここにあるデータと重ね合わせられれば手っ取り早いかと………」

 

「あ?何のことだ?」

 

ティアナが二人に伝えたのは、アキラがこの事件が始まってから二度ほど起こした発作のことだ。それについても何かわかるかもしれないということで、二人はアキラを呼んだのだ。

 

「ランスター執務官から聞いたのですが、二度ほど起こした発作の際に、「イクス」という単語を口に出したそうですが、それは一体……」

 

「あれのことか…………俺にもわからん、ただ、誰かの話し声が聞こえた。片方は話し方といい、声といい、マリアージュだと思う」

 

「そうでしたか……」

 

「…………まぁなんだ、とりあえず調べようぜ。いいかげん訳のわからん発作に振り回されんのはごめんだからな」

 

「そうですね」

 

 

 

 

続く

 

 

 



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第四十六話 学者

おひさです。割りと早めに出せました!今回はスカさんが久々の登場です!なんかすっごい綺麗なスカリエッティになっちゃった………。次回は未定ですが、今月末か来月頭には出したいです!では本編をどうぞ!


「あなたは、何?どうしてマリアージュにならないの?」

 

「……………マリアージュ?こいつらのことか。何だかよく分からんが、俺の名前はアガリアレプト。プロジェクトAと言う実験で生み出された、ただの肉体だ…………いや、だった……か」

 

「そう、じゃああなたもきっと、マリアージュやゆりかご同じ目的で作られたのかもしれない……」

 

「俺は失敗作で、命が吹き込めずに廃棄された筈だが……お前らのことだけは知っていた。だからここにきた」

 

「私が……ううん、マリアージュが蘇らせた……ところで、命なき肉体だったはずなのに、記憶があるのと、マリアージュにならないのはなぜ?

 

「確か……………それは……………」

 

 

 

 

「…………ん…………ラさん………………アキラさん!」

 

「ん!?」

 

アキラが目を覚ますと、目の前にはディードがいた。アキラが無限書庫に来て手伝いを始め、ヴィヴィオが来て、解読のためにルーテシアと回線を繋いだところまでは覚えているが、アキラにはそれ以降の記憶がない。どうやら眠ってしまっていたようだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ…………ああ。すまん、仮眠はしたんだが、まだ眠かったみてぇだ」

 

(今のは、夢?)

 

「ルーお嬢様とアギトが解読終わらせてくれました」

 

「そうか、どうだった?」

 

別次元にいるルーテシア・アルピーノとアギトはかつてジェイル・スカリエッティのもとにいた時、古代ベルカ文字の文法などを習っていたし、目覚めた母親と与えられた場所で生活しているときによく勉強をしていたので解読は得意だった。

 

「あ、アキラさん久しぶりです」

 

「オッスー」

 

画面の向こうで楽しそうにやっているルーテシアをアギトをみてアキラは少し安心する。

 

「ああ。どんな感じだった?」

 

「なんか物騒な感じ………いい?」

 

「読んでくれ」

 

ルーテシアは頷いて翻訳をメモした紙に目を移す。アキラは眠っていたのでまだルーテシアに渡された本文を見ていなかったのでそちらを見た。だが、不思議とアキラには読める気がした。

 

「読むね…………死者たちによって構成される多数の軍列、死した敵兵を喰らいその数を増やし、戦場を焼け野に変える。それがマリアージュ。ここ、削れてて名前がわからないんだけど………◆◆◆によって構成されたそれは無限に増殖し続け、その進軍を止めることは不可能」

 

「ということは、増殖兵器!?」

 

「古代ベルカにそんな技術が…………」

 

「まぁ、アルハザードが現役だった時代だからな」

 

それぞれ驚きの思いを口々に出している中、アキラはなにか引っかかり感じていた。なにか懐かしいような、自分とは別の記憶があるような、妙な感じに。

 

「あ、この間キャロがプレゼントしてくれた掘り出し物の希少文………それに似たようなことが書いてあった気がする」

 

「本当?」

 

「うん、ちょっと待ってて探してくる」

 

「…………………」

 

何やらぼーっとしているアキラにオットーが気づく。

 

「どうしました?」

 

「いや、さっきお前らが聞いたイクス………なんか思い出せそうなんだ」

 

「本当ですか?」

 

オットーがより深く聞こうとした時、ルーテシアが本を見つけ、戻ってきた。

 

「えっとね…………冥府の王」

 

その名前が出てきた瞬間、アキラはハッとして口を開いた。

 

「「冥王」」

 

 

ルーテシアと声がハモる。

 

「アガリアレプト」

 

「イクスヴェリア」

 

だが、ハモりは一瞬だった。ルーテシアは「アガリアレプト」と言い、アキラは「イクスヴェリア」と言った。二人は互いの顔を見合わせる。

 

「イクスヴェリア?」

 

「あ…いや、何でもない…………一瞬なぜかその名前が出てきてな………続けてくれ」

 

場の混乱と停滞を避けるためにアキラはすぐに自分に構わず進めるように言った。ルーテシアは少し戸惑いながら頷くと、続けた。

 

「冥王、アガリアレプト。戦史時代の王様の名前。ヴィヴィオ、試しにこの名前で絞り込んでみて」

 

「うん、絞り込み検索……冥王アガリアレプト。戦史224年生誕、古代ベルカ、ガレア王国の君主」

 

「戦乱と残虐を好んだ、人の屍を使った兵器を駆使し、近隣諸国を侵略したとされる。古代ベルカ語で死体を意味するマリアージュと呼ばれる死体兵器とその製法は、聖王家の戦船やゆりかごに同等のオーバーテクノロジーによるものと考えられる………」

 

「きな臭いね」

 

アキラはそれを聞くとヴィヴィオに尋ねる。

 

「なぁヴィヴィオ。文献はそれだけか?他になにか………ないか?」

 

「うーん、とりあえず冥王アガリアレプトで検索してヒットしたのはそれくらいですけど……どうしてですか?」

 

「なんか、その文献に書いてあることをなんていうか、本能的に否定してて受け入れられないっていうか………」

 

「なにかご存知なんですか?」

 

「いや……」

 

「あーーーーーーー!!!!!」

 

突然、画面の向こうのアギトが叫んだ。その声に、全員が振り向く。なにか重要なことを思い出したようだ。

 

「ルールー、あたしら聞いてるよトレディア・グラーゼって名前!」

 

トレディア・グラーゼ。最初にマリアージュを発見したとされる今回の事件における重要な容疑者だ。ヴィヴィオは回線を開いた時に一番最初にルーテシアとアギトにトレディアについて聞いていたのだ。

 

「え……どこで?」

 

ルーテシアはまだ思い出せない様子だ。

 

「ほらあれだよ!あの変態博士の研究所!!」

 

「あっ……」

 

「ドクターのラボで?」

 

オットーとディードが反応したが、知ってる様子ではなさそうだ。

 

「ああ、二人の稼働するずっと前だったから」

 

「なんか話してたよね……」

 

「そういうことでしたら、クアットロ姉様より上の姉様、それかドクターご自身なら知っているかと」

 

「そうか………オットー、この情報を急いでティアナに、ディードはギンガに頼む。ギンガには、すぐ戻るから待っててくれって伝えてくれ」

 

「はい」

 

「お任せください」

 

「じゃあこっちも急ぎ資料まとめちゃおう!」

 

「翻訳、手伝うよ」

 

それぞれが準備に取り掛かる。アキラは軽くため息をついて無限書庫を後にしようと出口に向かう。出口にたどり着く直前、通信機が鳴った。

 

「ギンガ?どうした?」

 

[あ、アキラ君。実は、さっきディードから連絡あったからこれからスカリエッティのところに行こうと思うんだけど]

 

「ああ、俺も無限書庫から直で向かおうって思ってたんだ。それで?」

 

[チンクとセッテが一緒に来たいって………いいかな?]

 

これくらいのことはギンガだけでも決めれるが、あくまで隊長はアキラなのでその許可申請のためだ。アキラは少し悩む仕草を見せたあと、すぐに頷く。

 

「……………別に構わねぇよ。ただ」

 

[ただ?]

 

「念話等の遮断、必要以上の会話はさせない。あいつらを信用してねぇわけじゃねぇが、念のためな。手間かけて悪りぃが二人迎えに行ってくれ」

 

[うん、ありがとう]

 

通信を終えると、今度こそ無限書庫を出ようとしたアキラの視界に、出口付近の本棚にある一冊の本が目に入った。

 

「……………」

 

試しに手に取ると、それは古代ベルカ語で書かれている本。本というよりは実験の記録のように見えるものだった。アキラはそれをパラパラとめくり、しばらく眺めたあとヴィヴィオ達のもとにUターンした。そして、一人でヴィヴィオの取り出した本の内容をチェックしているディードを捕まえる。

 

「アキラさん、どうしました?」

 

「ディード、それが終わったらでいいんだが、これを丸々コピーしてあとで俺に送ってくれないか?できなかったら適当にキープしておくだけでいい」

 

「あ、はい………わかりました」

 

「頼んだぜ」

 

ディードが了承するとアキラはすぐに無限書庫を出て行った。ディードは彼の頼みごとに疑問を抱きながら本を見つめる。

 

「これは……………」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ー衛生軌道拘置所ー

 

 

アキラが拘置所のフロントで待っていると、ギンガがセッテとチンクを連れてやってきた。アキラは黙ってチンク達に近寄ると腕輪を渡す。念話妨害用の腕輪だ。

 

「施設内部に念話をジャミングするシステムはあるが念のためだ。信用はしてるがルールなんでな。すまんな」

 

「いや、これくらいは当然さ。全く構わん」

 

「私も大丈夫です」

 

二人は嫌な顔をせず腕輪をつけてくれた。アキラは少し安心する。そして、腕輪を確認すると、四人は面会室に向かって歩き出した。面会室とは言え、それは別の次元間の施設にあるもので一度そこまで次元船で移動する必要がある。

 

四人は次元船に乗り込み、面会用の衛生軌道施設に向かった。

 

 

 

ー面会室ー

 

 

 

面会室にたどり着くとアキラは一旦止まって全員を見る。

 

「準備はいいか?変な思い入れや味方はすんなよ。お前たちはもう自由になったんだ。あいつらのいうことなんて、聞かなくていい」

 

「わかっている」

 

「…大丈夫です」

 

「なら…いくぞ」

 

まずアキラがドアを開けると、そこには机に繋がれた手錠をし、怪しげに笑うスカリエッティと付き添いの局員がいた。

 

「やぁ、久しいねぇ」

 

ニヤリと、怪しげな笑いを深め、スカリエッティは挨拶をする。一体何を考えているのかわからないのは相変わらずだとアキラは思った。

 

「相変わらず不気味なヤローだな」

 

「ん?そのバッジ………ここ数年で出世した見たいだね」

 

「世間話しにきた訳じゃねぇ」

 

スカリエッティが首をかしげると同時に、ギンガ達三人が入ってきた。

 

「あなたの事件とは別件で任意での事情聴取を依頼しにきました」

 

「おやぁ…………待っていたよゼロファーs」

 

スカリエッティがゼロファーストと言いかけた瞬間、アキラはスカリエッティの顔面を殴った。椅子は勢いよく倒れたが、手錠が机と繋がっているスカリエッティは吹っ飛ばされず、机の方に引き戻される。

 

アキラはスカリエッティの胸ぐらを掴み、顔を近づけた。とんでもないことをしたアキラにギンガは頭を抱える。

 

「次「ギンガ」以外の名前で呼んだら…………左手で行くぞ」

 

JS事件後、人口の皮膚で覆われただけの頑丈な腕になったアキラの左腕はもはや凶器であった。スカリエッティが少し笑うとアキラはスカリエッティを離す。

 

「アキラ君、あんまり過ぎると追い出すよ?」

 

「けどよ……」

 

「いいから、面倒事にしたくないからなるべく下がってて」

 

ギンガが注意すると、アキラは軽く舌打ちをする。

 

「君も相変わらず血の気が多いね。機嫌を損ねたら何も話さないかもしれない相手の顔面ストレートとは…度胸も変わっていない…いや、成長しているのかな」

 

「テメェは聞かれたことだけ答えてりゃいいんだ。余計なことは喋るな」

 

「まぁまぁ、硬いことは言わないでおくれよ。誰かと話すのは久し振りなんだ……それに、会うのも久しぶりだね…チンク、セッテ………」

 

「ご無沙汰している、ドクター」

 

「……お久しぶりです」

 

チンクは変わらず冷静に対応したが、セッテは少し怯えたような、恐れるような表情でスカリエッティと話を始める。少しくらいならいいかと、アキラもギンガも口は出さなかった。

 

「チンク…懐かしいね……セッテも」

 

「お変わりないようで、安心した」

 

「健康は維持しているよ。あのガラス張りの牢獄は案外快適でねぇ……しかし、セッテ。君は変わったね」

 

「え………」

 

「昔の君の瞳はそんなに輝いていなかった。額にシワを寄せることも、無意識に手遊びすることも」

 

セッテはハッとして自分の手を見た。確かに爪を弄ったり手遊びしていたようだ。

 

「今のセッテには、感情がある…テメェらの作った感情のない人形じゃねぇ」

 

「君が………与えたのかい?その左腕の………君の固有能力で」

 

アキラは小さく頷く。すると、スカリエッティはさっきと違う軽い笑みを浮かべた。

 

「…………少しだけ…君に礼を言っておくよ」

 

「あ?」

 

「クアットロのやったことを否定するわけじゃないがね、捕まってしまった以上、私としてはナンバーズには……彼女達には全員自由に、幸せになってもらいたいと思っていた。だから…セッテのことは少し気がかりだったんだ」

 

「何だテメェ。急に……キモチワリィ…」

 

アキラが少し口を挟む。

 

「ははっ、別に野望を諦めたわけでもないがね。作った者としては少し気になっていたというだけの話さ」

 

「ケッ、読みズレぇやつだ」

 

アキラがそっぽを向くと、チンクがスカリエッティに聞いた。

 

「トーレ達も元気で…」

 

「変わりない。クアトロが少し太ったくらいだ」

 

その瞬間、スカリエッティの横に通信画面が開き、クアットロが映し出された。

 

[あん、ドクターひどぉい!もう元に戻しました]

 

「クアットロ」

 

[あら、チンクちゃんにフィフティーンそれに……サーティ]

 

恐らく、ギンガが呼ばれるであったであろうナンバーズの番号をクアットロが口に出した瞬間、アキラは懐の拳銃を取り出し、投影機を一つ破壊した。

 

小さい沈黙が流れると同時に別の投影機が通信画面を開く。

 

[んもぉ、最後まで言わせないなんて、相変わらず血の気が多いこと。冗談じゃない]

 

「テメェもテメェだ。次言ったら入院させっぞ」

 

[いやん、こわぁ〜い]

 

反省の「は」の字も見せないような態度でクアットロがアキラをおちょくってると、別の回線が開かれる。

 

[捜査協力なら断ると言ったが]

 

トーレだ。

 

「トーレ、今日は違うそうだよ?そうだろう?」

 

「あなた方の通信回線を同時オープンする危険を犯してでも、聞いておかなきゃならないことがあります」

 

「下の妹達も関わるかもしれん、少々重要な案件だ」

 

チンクとギンガが言うと、スカリエッティは少し頷いて口を開く。

 

「殴られた時はどうしようかと思ったが……愛娘達の姿と声を久しぶりに聞けて気分もいい、構わんよ。ああ、その前に」

 

「なんだ?」

 

「ウーノは元気にしているかい?」

 

「……………」

 

[ったく、あいつは何を考えているんだ!仮にもドクターの作った最初のナンバーズだというのに]

 

アキラが答えようとする前にトーレが苛立ちの混じった声で言い放った。

 

[ほーんと、そうよねぇ。チンクちゃんから下はほとんどなにも知らずに戦ってたようなものだし、どうでもいいけどウーノ姉様はドクターに忠誠をt]

 

また投影機が一つ破壊され、クアットロの画面が消えるが、別の投影機ですぐに表示される。

 

[ちょっとぉ!なんで!?]

 

「あいつは、あいつの新しい一歩を踏み出したんだ。いつまでも同じ場所で足踏みしてるお前らとは違うんだよ」

 

[ずいぶん偉そうな口を…]

 

キレ気味な声で何か反論しようとしたクアットロをスカリエッティが抑制する。

 

「まぁ、落ち着きたまえクアットロ。それで、元気にしているかい?」

 

「…………健康は維持している。けど、なんかうわの空みたいな感じだ。大抵本読むか、一日ぼーっとしてる」

 

「…………………そうか。すまない話がそれたね。さて………私に聞きたいことは何かね?」

 

 

 

続く。

 



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第四十七話 海上

一ヶ月もなにも動きがなく申し訳ないです。ペースが遅いこの現状は最長で来年三月までは続きそうです………毎回自分の作品を楽しみにしている方にはほんとに申し訳ないです………。現在のSSXが終わり次第一旦ここでの連載は中止して、別枠でvividに入ろうかこのままvividに入ろうか迷っています……彪永です


ミッドチルダで相次ぐ、爆発、放火殺人事件。犯人は古代ベルカの増殖兵器、マリアージュであることが判明。ルーテシア達の発言により、事件をマリアージュに起こさせた容疑者、トレディアの情報をジェイル・スカリエッティが持っているとの情報を得たアキラとギンガはスカリエッティへの直接面会による取り調べに踏み切る………。

 

 

 

 

「トレディア・グラーぜという人物、マリアージュという兵器、そしてその二つに関わるアガリアレプトについて……あなた方が知っていることを……」

 

「仲間らしいが、変に隠さない方g、もがっ!」

 

アキラの言葉をギンガが物理的に押さえる。相手の機嫌を損ねることは許されないからだ。

 

「トレディア?ああ、サンドウシュウの」

 

「マリアージュってあれでしょ?なんか中途半端で出来損ないのポンコツ兵器」

 

興味なさげにそれぞれが思い出したことを口々にだす。

 

「クアットロ、同志トレディアのデータを、簡単に」

 

「はぁ~い。トレディア・グラーゼ、オルセア解放戦線の活動家、新暦59年、最初のマリアージュを発見、63年、ドクターと遭遇、支援を受けてマリアージュの量産計画を始める」

 

「やっぱり……」

 

「そこまでは私も覚えている」

 

チンクもある程度知っていたらしかった。

 

「彼はねぇ…革命を夢見ていたんだよ。私の起こそうとしたあの祭りに参加を表明してくれた。そう、古代ベルカの最強と呼ばれたあの男、アーベルのように」

 

「革命?」

 

ギンガは少し恐れの態度を見せながら、スカリエッティに尋ねた。するとスカリエッティはニヤリと笑った。

 

「痛みを知って欲しい、知るべきだよくそういっていた。まぁ彼の人間性に興味はなかったから、適当に合わせていただけだがね」

 

「マリアージュはどこで何体造られて……トレディアは今どこに!」

 

「もぉ、サーティーンったら、t」

 

話を聞く限り、相当ヤバそうなものだと知ったギンガは、スカリエッティに早く必要な情報を聞き出そうとした。だが、その内容があまりにも調査不足と感じたクアットロがバカにするように口を開いた瞬間、アキラがギンガに対して口を開く。そして、クアットロの投影機も忘れず破壊する。

 

「ギンガ。マリアージュは人の死体を使う増殖兵器だ。何体作られたかは確認しづらい」

 

「あらん?フィフティーンはよく知ってるじゃない」

 

また別の投影機でクアットロが映し出される。

 

「ウルセェ、ギンガはギンガだし、俺は橘アキラだ」

 

「はいはい。ところで、マリアージュは人語を解する癖に作戦行動能力は昆虫並み、変な兵器よ」

 

「トレディア氏はマリアージュを使い、いくつかの首都襲撃を企てた。ま、頓挫したがね5年ばかり前のことだよ」

 

「現在のトレディアの居場所とアガリアレプトについては?」

 

「ストップだフィフティーン。ここからの情報提供は、交渉材料だ」

 

トーレがアキラの質問を止めさせた。ギンガが疑問を抱き、尋ねた。

 

「交渉?」

 

「大したことじゃないわ事件のことであなたたちと交渉する意思はないのだし、サーティーンちゃんでも、即決できるレベルよ」

 

アキラはクアットロの投影機に銃口を向けたが、それ以上の投影機がなかったために銃を下ろす。ギンガは自分たちに対して交渉なんて妙なことをする上に焦らすので少しイラつきを見せながら再度尋ねた。

 

「何?」

 

「出どころの確かな……出来ればそれなりのベルカワインの赤を一瓶ほど、それだけさ」

 

「ワイン?何でそんなモン、テメェ等がほしがんだよ……」

 

アキラが呆れるように言うと、スカリエッティは少し清らかな顔で理由を話した。

 

「私の最高傑作の内の一体、彼女の命日が近いだろう」

 

「あぁ……」

 

「ドゥーエの喪失くらい、ひたませてもらっても罰は当たらなかろう」

 

「いかが?」

 

「…………ま、戦闘機人であれ、何であれ命は命だかんな………………俺が差し入れてやる。そんでいいか」

 

少し、事情を察したアキラが珍しく同感し、交渉を受け入れた。

 

「構わないよ、フィフティーン」

 

「感謝はしないわよこれは交渉の結果だから」

 

「いいから、さっさと知ってること吐けってんだ」

 

少しイラついた態度でアキラが催促すると、クアットロは少しつまらなそうなため息を出してからアガリアレプトの情報を話し始める。

 

「アガリアレプトはマリアージュのコントロールコア母体、マリアージュと違って生命体、人型をしているわ」

 

「姿形はわからんがね、まぁ、十中八九、とし若い男性の姿だ」

 

「適切なエネルギーを受ければ体内でコントロールコアを無限に精製できる」

 

「トレディアとアガリアレプト、現在の居場所も把握しているよ」

 

情報を聞いていると、チンクとセッテの通信機に同時に連絡が入る。「失礼」と一言言ったあとに二人が通信回線を開くと、連絡者はディエチとノーヴェだった。何やら焦っている様子だ。

 

[チンク姉聞こえる?今どこ?]

 

[セッテ聞こえてるか、お前今どこにいる!?]

 

「ディエチ!機動拘置所だ。ギンガとアキラ、セッテもいる」

 

「何か!?」

 

[そっか、じゃああとは私が説明するからノーヴェは先に行って!ミッドチルダ海上で、大型火災が発生した映像見られる?]

 

セッテの方の通信が切れ、セッテはチンクの回線映像を覗き見た。そこには、ミッドチルダ海上にあるマリンガーデンという施設と、海そのものが大きな火で包まれていた。全員の顔に緊張が走る。

 

「これは…………」

 

「海が…………燃えてる?」

 

[あら〜きれい]

 

ふざけたことをいったクアットロの画面にアキラは銃を投げつけた…が、すり抜けただけだ。

 

[陸士隊も救助隊も総出の騒ぎになってる!場所は公安地区海上のマリンガーデン。営業時間は終わってて人はあまり居ないけどかなりやばいことになってる!お父さんの支持であたしらにも災害特例の人緊急召集がかかったから戻ってきて!]

 

「父上が…………わかったすぐに戻る。しばし待て」

 

「急ぎ用事だね?手早く済まそう」

 

「アガリアレプトは今ディエチから報告が合った地点、海底遺蹟の内部」

 

「それとトレディアは死んだよ四年前にマリアージュに食われてね」

 

その真実に、ギンガは驚き少し硬直したが、アキラは何となく予想していたような態度でいつも通り振舞う。

 

「ミイラ取りがミイラにってか………まぁ、悪行するやつの末路なんてそんなもんだろうな。さ、ギンガ行こうぜ。アガリアレプト探しによ」

 

「う、うん………」

 

そう言って四人が部屋を出ようとした時、スカリエッティが直前に何かに気づき口を開いた。

 

「おや………急にそんなもの出してどうしたんだい?」

 

「あん?」

 

スカリエッティの視線の先は、アキラの左手。自身で確認するとアキラの左手には何時の間にかゲンヤに預けたはずのディバイダーが握られ、銀の腕輪が光輝いていた。

 

「……………なんで」

 

「ゲンヤさんに渡したはずなのに………」

 

(アガリアレプト!)

 

「!!」

 

アキラの脳内に再び声が響いたが、今回は痛くも何ともなかった。そして、光輝く腕輪を少し眺めると、何かに気づいたような顔になった後、三人を引き連れて面会室を出た。

 

「多分、使えってことなんだろうな…………こいつ見てると、そんな気がしてくる……」

 

「何かまずいことになってない?」

 

「きっと大丈夫だ……それに呼んでるんだ…イクスが」

 

そう言った瞬間、腕輪の輝きが大きくなりアキラの意思とは関係なくリアクトバースト時にのみ出現する鎧がアキラを包む。髪の色も黒くなった。

 

「わっ!ちょっとこんなところで!」

 

「お前ら、俺に掴まれ」

 

掴まれと言っておきながらアキラは一方的に三人を掴み、自分の方へ引き寄せる。

 

「行くぞ!」

 

「え!?」

 

「なっ!!」

 

アキラは烈風のトリガーを引いて亜高速移動に入る。そして何もない天井に飛んだ。ぶつかると思い目を瞑ったチンク達だったが、天井にはぶつからず何だかふわふわした感覚にとらえられる。

 

「……?」

 

目を開けると、そこには虹色の空間が広がっている。全員の見たことのある光景、そう、次元の狭間である。ここは次元と次元を繋ぐ道であり、いくつもの次元とつながっている階段の踊り場のようなところだ。普段は次元船の中からしか見ない景色を実際肌で触れいるというのは何とも不思議な気分だった。

 

「ここは次元間!?次元船もなしにどうやって……」

 

「こいつの力だ。俺を離すなよ、どっかの次元に吸い込まれっから。それから、今からミッドのマリンガーデンに突入すんぞ」

 

「どうしてですか?私たちはともかく、アキラさん達は良いのでは……」

 

「俺らも陸士隊の上官だ。救助活動にも参加するさ。それに……さっきからこの腕輪がそこに行けってうるせぇんだ」

 

アキラは銀の腕輪を見ていう。

 

「まぁ、次元船では遅いしね。時間短縮って形で見ておくけど今回限りだからね」

 

「ああ」

 

ギンガは少し恐れた表情でアキラの腕輪を見た。この腕輪にはゲンヤが許可しなければ能力を使えないという制約をかけて置いた筈なのに、それがまるで効果をなしていない。それを知っているのは現状ギンガだけだった。魔力による枷を簡単に外すこの腕輪はなんなのか………それだけが気がかりだった。

 

「もうすぐミッドに着くぞ!恐らく着地点はマリンガーデン内部だ!高熱になってるから気をつけろ!俺が降り立った瞬間凍結魔法で辺りの温度を下げる。それからは各々自分で身を守れ!……それから」

 

アキラは胸元からクリアピンクのダイヤ型のデバイスを取り出した。マッハギャリバーやブリッツギャリバーと同じ形だ。

 

「本当はもっと別のタイミングに渡したかったが……………セッテ、お前のデバイスだ」

 

「あ……ありがとうございます」

 

セッテは手渡されたデバイスを大切に握りしめた。

 

「名前は決めてねぇが……まぁ、好きに呼んでやれ」

 

「はい!」

 

「そろそろ着くぞ、全員衝撃に備えろ!」

 

そう警告したのと同時にアキラは両手を自分の前に構え、氷結魔法を集束させて構える。全員の準備が整ったタイミングを見計らったように次元間の先が急に途切れ、出口と思わしきその隙間から熱風が流れ込んできた。

 

「今だ!フロスト・エクステンド!!!!!!」

 

アキラは先に現場に着くと、氷結魔法を放って到着した部屋を全体的に凍結させた。

 

「ふぅ!」

 

「よっと」

 

「ここが………マリンガーデン?」

 

セッテが到着した部屋の壁に掲示されていた地図をみると、「マリンガーデン内地図」と書かれていた。

 

「さて、早く本部に連絡を………」

 

「アキラ!」

 

アキラが通信機を取り出すと、何かに気づいたチンクがアキラを引き止める。チンクが見ている先を見ると、奥の部屋からマリアージュが出現している。それも結構な数だ。

 

アキラは通信機を下げると肩にかけている刀に手をかけた。

 

「たくっ……ついてねぇ………ギンガ、セッテ、チンク、俺が先陣を……」

 

戦おうとした瞬間、アキラの背後で倒れる音がした。まさかと思い、振り返るとアキラの悪い予想は当たってしまった。ギンガが倒れていたのだ。アキラは急いでギンガに駆け寄る。

 

「どうした!おい!ギンガ!!」

 

「うぅ………」

 

ギンガは悶え苦しみながら腹部と口もとを押さえている。アキラが急いで容体をみるが、まるでわからなかった。

 

(いままでこんなことはなかった……生理でもなきゃ単なる腹痛って訳でもねぇ………吐き気もある………)

 

アキラはすこし考え、刀を抜いて立ち上がる。

 

「セッテ、チンクとギンガ連れて急いで地上まで行け。ここは………俺が引き受ける」

 

「そんな!危険です!」

 

「今ここでギンガの症状を見過ごす訳にはいかねぇが、簡単に逃がしてもくれなさそうだ…………頼む」

 

アキラは急に振り返ったかと思うと、マリアージュの放った弾丸を弾き飛ばした。マリアージュはもうだいぶ近くまで迫っていた。セッテは意を決してギンガを抱きかかえ、別の出口に走る。チンクもあとに続いた。

 

「ここは凍らしたが別の場所は相当高温だ気をつけろ!」

 

「はい!」

 

セッテを追いかけようとマリアージュが動き出したが、その前にアキラが立ちはだかる。

 

「悪いが通しゃしねぇよ。お前らの相手は俺だ」

 

(………リアクトバーストで次元跳躍したのがまずかったか……バーストするエネルギーはねぇしそもそもリアクトも次元跳躍でリミットが来てる………どこまでやれるかはわからんが………やるしかねぇ!)

 

刀を構え、アキラはマリアージュに突撃した。

 

 

 

 

続く



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第四十八話 冥王

明けましておめでとうございます。今年も自分の小説よろしくお願いします。さて今回は2000文字クラスの超短編ですが、皆さんに新年の挨拶と自分の死ぬほど忙しい用事が終わったので、これからは予告通りに小説をUP出来るようになった報告をしたかったのでちょうどいいところで切りました。

さて、次回は10日後の1月12日を予定しています。できればイノセントも一緒に上げたいと考えていますのでお楽しみに!


「うっだらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

火災が発生したミッドチルダ海上のマリンガーデン。その内部で一人の男の雄叫びが響く。マリアージュと戦闘を繰り広げている橘アキラだ。

 

「雷神剣・豪雷召!!!」

 

刀の先端から飛ばされた雷がマリアージュ数体を吹っ飛ばす。吹っ飛ばされたマリアージュは完全に停止し、動かなくなった。アキラは汗を拭い、刀を一旦鞘に収め、姿勢を低くして居合切りの構えを取る。彼の周りにはまだ十数体のマリアージュがいた。

 

(だんだんこいつ等のパターンが読めてきた………恐らく知能は共有されてる……攻撃が当たりにくくなってる………一定以上の魔力ダメージを与えれば完全に停止するが中途半端や強力なバインドで縛って行動不可にさせると自爆する…となると……)

 

アキラは頭の中で考えをまとめ、魔法陣を展開した。

 

「風神剣・爆風波!!!!」

 

技名を叫ぶと共に刀を鞘から一気に引き抜き、刀から風の魔法を放った。アキラの前方にいたマリアージュとマリンガーデンの支柱などが切り裂かれながら壁をも貫き、吹っ飛んで行った。技を放ち終わったアキラの背後から一体のマリアージュが襲いかかる。

 

腕を刀に変形させたマリアージュの攻撃をアキラは刀を自分の背後に振り向かずに構え攻撃を防いだ。更に右からの攻撃を左手に出現させたディバイダーで一度防ぎ、はね返し、銃口を向けた。

 

「フロスト・バスター」

 

氷結砲をマリアージュに食らわせて飛ばした後にディバイダーを後ろで攻撃を受け止めているマリアージュに向けてもう一度氷結砲を放つ。

 

この感約3秒である。

 

「一気に片付ける!!!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ーマリンガーデン下層階ー

 

 

「うぅ…………」

 

マリンガーデンの下層階に救助で突入したスバルは崩落してきたコンクリートにやられ、気を失っていた。温度は500度オーバー。崩落の直前に見た少女のことを思い出し、無理やり身体を動かす。

 

(いたた………頭打った?視力が戻らない……耳も良く………)

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「え?」

 

スバルの耳に幼い少女の声が届いた。少しずつ視力が戻りつつある目で声のした方を見ると、一人の少女がこちらを見ていた。要救助者かと思ったが妙な部分が複数あるのに気づく。裸足な上にやたらと薄着で、妙な腕輪を持っている。しかもこの状況で落ち着いている。

 

(この子もしかして……)

 

「ご、ごめん、大丈夫!相棒、大丈夫?」

 

[No program]

 

「よかった………怪我してるけど、あなたは強い…一人で帰れますね」

 

スバルの無事を確認すると、少女は去って行こうとする。

 

「ちょ、ちょっと待って!どこ行くの!?」

 

「逃げます…あの子達から……私は今、この場にいてはまずいんです」

 

「あの子達って……あなたもしかして…………うわぁ!ちょ、転んだ!」

 

マリアージュはスバルの静止を聞かずに歩いたが、すぐに転んでしまった。特に痛がる様子はなかったが、うまく起き上がれないようで、すぐにスバルが駆けつける。

 

「うまく身体が動かない……なんで?設定外の目覚め方をしたから?」

 

「だ、大丈夫?もしかしてあなた……えっと…アガリアレプト?」

 

「アガリアレプト………?私は違います。私イクス………イクス・ヴェリア」

 

スバルは少し前にアガリアレプトの名を聞いた時のギンガとの通信を思い出した。

 

(それから、最近アキラ君の様子がおかしいから、もし救助現場で一緒だったら気を使ってあげて?)

 

(アキラさんが?どうおかしいの?)

 

(なんか、へんな声が聞こえるみたいで………その時にきまって「イクス」って名前を口にするの……)

 

アキラが二回ほど口にしたという名前、イクス。それが彼女だというのだ。

 

「アガリアレプトは…私の………」

 

イクスが言葉を続けようとした瞬間、スバル達のいる場所から少し離れた天井が破壊され、誰かが落ちてきた。スバルは人が落ちてきたことを確認するとイクスの前に立ってリボルバーナックルを構えた。

 

砂埃で姿の見えない状態だったが、少しすると姿が見えるようになる。マリアージュを下敷きに巨大な技で天井を突き破ってきたのは……アキラだった。

 

「ふぃ………一丁上がりぃ…………」

 

「アキラさん!」

 

「アガリアレプト!?」

 

「あん?」

 

急に名前を呼ばれ、アキラは疲れた顔で声のした場所を見る。そこには少し嬉しそうな顔のスバルと驚いた顔をしている少女がいた。一体どういう状況なのかはスバルのケガの具合から見て取れた。

 

「要救助者二名発見………嬢ちゃん、名前は?」

 

アキラがイクスに話しかけるとイクスは困惑の表情でアキラの腕を見る。イクスの視線の先は、アキラの銀の腕輪だった。

 

「ん?嬢ちゃんの持ってるの俺の腕輪と同じ…」

 

「どうしてこれが二つ……」

 

イクスも同じ腕輪があることに驚いている様子。だがその瞬間、アキラの腕輪からパキンと音がしたかと思うと腕輪は輝きを失い、役目を終えた様に砂となって崩れ落ちた。

 

「え……?」

 

急に力を失ったアキラは動揺しまくる。

 

「なんでこれが二つあったのかはわからないけど……はい、アガリアレプト。本当は私のものだけど……私は逃げなくちゃ。だから……これはあなたにあげる」

 

イクスはアキラの腕に腕輪を取り付けた。腕輪はアキラに装備された瞬間、輝きを放ちアキラの持っていた銀の腕輪と同じ色と形になった。アキラはそれを見るとイクスの顔を改めて見た。

 

「嬢ちゃん………お前…………名前は?」

 

「なに言ってるの?アガリアレプト。わすれちゃったの?私だよ?」

 

イクスがアキラの手に触れる。すると、アキラの頭の中にアキラではない誰かの記憶が流れ込んできた。

 

 

 

 

続く



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第四十九話 代替

日付変更線ギリギリの投稿申し訳ないです!イクス、vivid strikeで起きちゃったからvivid strikeの話までいくべきなのかなぁ……………。感想、ご意見 評価、随時募集中です!次回更新は月末です!



これは、アキラの見たイクスに関する記憶である。かつて、冥王と呼ばれた男が冥王となるまでの経緯とその後の話だ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

古代ベルカ戦争では現代では禁術と呼ばれる魔法や技術が発達していた時代だ。その中である国が禁術を使ったある計画を立てた。名前はA計画。「アガリアレプト」と呼ばれる人造魔導士を作る計画で、能力は主に情報収集や最前線で敵を蹴散らす程の戦闘力を持ち合わせることだった。この情報収集能力はアキラのIS、「ハッキングハンド」によく似たものだ。

 

だが、計画は失敗に終わる。肉体は完成したがそれを動かすほどのエネルギーコアがなかったのだ。当時はまだジーンリンカーコアは開発中で存在しなかったため。「アガリアレプト」は廃棄されることになる。しかしほどなくしてA計画を立てた国はマリアージュによって滅ぼされることになる。

 

マリアージュは侵略中に見つけたアガリアレプトの肉体を死体と思い、エネルギーコアを与えた。エネルギーコアと一緒に与えられたマリアージュの思考回路と自爆用、戦闘用の肉体変化のデータをアガリアレプトは自身の力でそれを逆に支配し、自分を動かすエネルギーコアを手に入れた。

 

 

 

 

 

エネルギーコアを与えられた肉体は、自分の入れられている生体ポッドを素手で破壊し、ゆっくりと生体ポッドから出てくる。ようやく動くようになった身体をほぐすように身体を動かしながら辺りを見回した。

 

「……………ずいぶんと………長い誕生だったな。俺を目覚めさせたやつは…………いないか。俺にエネルギーコアだけ与えて先に行ったか…」

 

アガリアレプトは近くにあった自身の設計データをあさり、自分が何者なのかを理解した。

 

「とりあえず…俺を目覚めさせた根の人間に会いに行くか…」

 

全裸だったアガリアレプトは近くにあった布を全身を覆うように纏い、落ちていた剣を拾ってマリアージュを生み出す中枢である冥王を探しにでた。

 

(イクスとか呼ばれるやつの位置はだいたいわかる………だが遠いな)

 

「おい!」

 

「?」

 

声をかけられたので振り向くと、何処かの国の兵士がいた。

 

「貴様、どこの兵士だ!」

 

「…………ちょうどいい、俺自身の性能を試してやる」

 

ドンッという音と共にアガリアレプトは敵に向かって一直線に跳ねた。彼のいた地面は一つの足跡を中心に波を打つように砕けていた。持っていた剣を陽動に投げ、敵が避けるために一瞬アガリアレプトから視線を逸らした隙を狙って敵の頭を鷲掴み、地面に叩きつけた。

 

「ぐあ!」

 

「おい、お前。ここらで冥王と呼ばれてるやつの場所は知っているか?」

 

「冥王?イクス・ヴェリアのことか!?それを知ってどうする!」

 

「俺を起動させたやつを、一目見たくてな」

 

 

 

ー冥王 イクスヴェリアの城ー

 

 

 

男から半ば強制的に情報を貰い、その後男を殺害して着るものを得たアガリアレプトは冥王のいる城までやってきた。なんでも冥王は城の最上階に閉じこもったままで一切顔を出さないそうだ。

 

冥王が納めている街でも、顔を知っているものはいない。城の周りは常にマリアージュが見張っている。だがアガリアレプトは普通に城に入った。それもそのはず、彼のエネルギーコアはマリアージュと同じ。つまり彼も分類的にはマリアージュの一人なのだ。

 

そして、難なく城の最上階についた。城の奥にいた少女が、扉の前の気配に気づいた。

 

「…………だれ?」

 

「イクス、マリアージュの一人です。ご心配なく」

 

少女の近くにいるマリアージュのリーダーがイクスに言う。しかし、イクスはただのマリアージュとは違うことを読み取っていた。

 

「確かにマリアージュのエネルギーコアは持っているけど、少し違う。行動の仕方がいつもと………普通のマリアージュと違う。こっちを伺う様に、扉の前に潜むようにしてる」

 

イクスの話を聞き、マリアージュは腕を銃に変形させ、扉のに向けた。

 

「私たちと同じエネルギーコアを持っている理由は知りませんが、何者ですか?すぐに出てきてください。でなければ扉ごと吹き飛ばします」

 

返事を少し待ったがなにも言わないし扉も開かない。マリアージュは砲撃を扉に向けて放った。爆発が起こり、粉塵が上がる中粉塵の横から一つの影が飛び出した。飛び出した影は剣を持ってイクスに向かって走り抜ける。

 

マリアージュはすぐに腕を剣に変形させ、人影の前に飛び出した。マリアージュと交戦するかと思われたが、人影はイクスの座してる玉座の前で止まった。

 

「あんたがイクスか」

 

男を見たとき、イクスは感じ取れる魔力から、確かにマリアージュであると確信し、マリアージュからエネルギーコアを植え付けられた死体、正しくは肉体であるとわかった。

 

「あなたは、何?どうしてマリアージュにならないの?」

 

「……………マリアージュ?こいつらのことか。何だかよく分からんが、俺の名前はアガリアレプト。プロジェクトAと言う実験で生み出された、ただの肉体だ…………いや、だった……か」

 

アガリアレプトは自身の出生を話した。研究所で見た自身のデータについてだ。アガリアレプト

 

「そう、じゃああなたもきっと、マリアージュやゆりかご同じ目的で作られたのかもしれない……」

 

「俺は失敗作で、命が吹き込めずに廃棄された筈だが……お前らのことだけは知っていた。だからここにきた」

 

「私が……ううん、マリアージュが蘇らせた……ところで、命なき肉体だったはずなのに、マリアージュにならないのはなぜ?」

 

「確か……………それは………………わからねぇ。まぁいいや。ところでよ、蘇ったところで俺が戦い、護るための国はあんたらが崩しちまった。だから俺にゃ住むところもやることもねぇ。だから冥王様よ、俺を雇ってくれねぇか?」

 

「………じゃあアガリアレプト、お願いがあるの」

 

「なんだ?」

 

「私はもう………眠りたい…。暗雲に覆われた空、流れて行く血、戦で死ぬ民や戦士…………それと同じ位に増えるマリアージュ達………………私はもう見たくない!」

 

叫ぶと同時にイクスの瞳から涙が零れた。イクスの言葉に、大して深く考えないアガリアレプトは無神経に答える。

 

「じゃあ、眠ればいいんじゃねえか?」

 

「だけど私が眠るということは、この国の民を見捨てるということになる………マリアージュを支持するものがいなくなればこの国もすぐに滅ぶ………」

 

「で?」

 

「だから………あなたにこの国の王………冥王になって欲しいの」

 

アガリアレプトは一瞬困惑の表情を浮かべたがすぐに頷いた。

 

「いいぜ。やってやる」

 

「いいの?」

 

アガリアレプトはイクスに近づき、イクスの頭を撫でた。急にそんなことをされたイクスは驚いたが、何となく癒しを感じた。ずっと冷たい

 

「こんなちっちぇえ娘がやる仕事にしては荷が重いわな。イクス、マリアージュに今後俺の指示に従うことを命令してくれ」

 

「ほ、本当にいいの!?」

 

あっさり自分のお願いを聞き入れたアガリアレプトに対してイクスは頼んだ側なのにアガリアレプトを引き止めた。ぶっちゃけ断られると思ってたからだ。

 

「お前が頼んだんだろ?」

 

「さっき説明したでしょ?辛いんだよ?人が死んでいくばかりで………先の……出口のないトンネルのような………」

 

「だから、俺が変わってこの戦を終わらせてやる。お前が眠って再び目覚める頃には、みんなが笑って、青空が広がる世界にしてやる。俺はそのために作られたらしいし」

 

「…………………ありがとう…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「はっ!」

 

アキラが目を醒ますとそこは、見慣れぬ風景だった。水の上に立っている状態だ。辺りを見回してもなにもなかった。ただ水平線の広がるだけの異世界。

 

「ここは………」

 

「ここはお前と俺の記憶の狭間だ」

 

「………お前は」

 

アキラの前に現れたのは、どこか、さっき見ていたアガリアレプトという男の面影を残した白髪の老人だった。

 

「お前は今見せられた記憶のにいた……アガリアレプトか?」

 

「その通り」

 

「なんで俺の記憶に、お前の記憶がある」

 

「お前は複数の優秀な魔導師のDNAから造られた人造魔導師だろう?その第一ベースが俺ってことだ」

 

「要するに、俺の顔とか身体の形はあんたからもらったってことか」

 

「まぁだいたいそういうこった。俺以外にも、意識を持ってる連中はお前の心の深層にいるが」

 

アガリアレプトの周りに、うっすらと人影が出現する。女性、男性、様々なのが三人ほどだ。アキラはその人影に一応軽いお辞儀だけはしておく。

 

「そいつらはお前に話しかけるほどの気力を持ってないし、話しかける必要もないから出てこないがな」

 

「今回お前が出てきたのは、イクスが目覚めたからか?」

 

「ああ。お前に頼みがあって、俺の目覚めたばかりの頃の記憶を見せた」

 

「頼み?」

 

「イクスの前では、俺、アガリアレプトとして接してやってくれないか?イクスはお前を見て俺があのあとイクス同じ様に眠りにつき、前と変わらぬ姿で目覚めたものかと思っている」

 

「なんでそんな面倒な………」

 

アキラは少し呆れた様子で返した。

 

「あの娘にとって、俺はあの娘の不安の大きな支えとなった。目覚めて、俺がいないと分かればイクスの心を孤独にさせてしまう………」

 

「だが、目覚めた以上、ずっと隠し通すことは難しいぞ?」

 

「大丈夫だ。イクスは正しいエネルギーを供給されて目覚めたわけでは無い。一時的に目覚めてはいるが、きっとまたすぐに眠りにつく」

 

「……………」

 

これ以上断っても引き下がってくれなさそうな雰囲気だったので、アキラは諦めてアガリアレプトの依頼を請け負った。

 

「しゃーねー。そこまで言うんだったら引き受けてやるよ」

 

「………ありがとう」

 

アガリアレプトの感謝の言葉がアキラの耳に届くと同時にアキラの目の前は少しずつ暗くなっていく。そしてしばらくすると火が燃え盛る音と地鳴りがアキラの耳に響いてきた。意識が現実世界に戻ったのだ。

 

 

続く



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第五十話 理由

いやー久しぶりの7000文字越え!今までアキラ君に起きた不可解なことの真相が明らかにされます!そしてリアクト・バースト時に使う腕輪や装備される黒い鎧の出どころも!そして次回はなんと……!?お楽しみに!次回は2月7日です!そういえば7月22日になのはの映画第三作目が公開されますね!5年は長かった!公開日に見に行く予定なので、その日の内にできたら映画を見た感想的なのをこの小説のメンバーによるラジオ的な感じにして投稿したいですね。まぁ、予定ですが。前置きが長くなりました!それでは本編をどうぞ!


「そうか…………そうだったな。悪い、長い間眠ってて忘れてた。おはようイクス」

 

「良かった………思い出してくれて」

 

アキラの態度が急変したことにスバルは驚く。何か理由があると思い、イクスには聞こえない様に念話でアキラに現状を聞いた。

 

(アキラさん、どうなっているんですか?)

 

(話すと長くなる。とりあえずこのイクスって娘の前では俺はアガリアレプトってやつになりきる。話を合わせてくれ)

 

(この娘は?)

 

(イクス・ヴェリア……本物の………古代ベルカを生きた冥王で、アガリアレプトってのはその代理で俺のベースになった人間だ。アガリアレプトの方がずっと長く冥王をやってたから書物とかにはその名が刻まれてる)

 

スバルは小さく頷いた。それを確認するとアキラは辺りを伺う。マリアージュをかなりの数倒したが、未だにリーダー格のマリアージュを発見できてない。まだイクスが狙われる可能性はある。

 

「イクス、ワリィな。まだみんなが笑って青空の広がる世界とはほど遠い状況だが、大丈夫。すぐに見せてやる」

 

「アガリアレプト、マリアージュが私を探して動き回ってる……どうにか命令できない?というより、目覚めてなかった時もずっとあなたに呼びかけたのにどうして返事がなかったの?アガリアレプトも目覚めてたならマリアージュを止められたんじゃ……」

 

急にそんなことを言われて焦ったが、アキラは冷静に返す。

 

「俺は……肉体は完全にマリアージュではないからお前の声が届かなかったのかもしれない。お前とマリアージュの声は聞こえたが、少しだけだった。マリアージュももうおれの命令は聞いてくれない。おそらく眠った時に今までの命令が全部リセットされたんだろ」

 

何とか納得してくれそうな言い訳を瞬時に考え、イクスも一応納得してくれたようでなんとかその場は乗り切った。これ以上ややこしい質問をされる前に、アキラはイクスそ避難させようと考えた。

 

「イクス、それより今はここからでねぇといけねぇ。スバル、行けるか?」

 

「うん、なんとか」

 

スバルは痛めた部分の確認をして頷いた。

 

「アガリアレプト、この人は知り合い?」

 

「え、あ…ああ。こいつは…」

 

「スバル・ナカジマ防災士長です!冥王さま、よろしく」

 

「うん………じゃあ、私はもう逃げるから。アガリアレプト、防災士長、さようなら」

 

イクスは立ち上がり、その場から離れようとしたが急に服の後ろ側を摘ままれ、持ち上げられてしまった。体の自由が失われた状態で後ろをみると、アキラがつまんでいた。

 

「ア、アガリアレプト!なにするの!?」

 

「わりーがお前を一人では逃がさせない。お前みたいな身元不明の少女をを保護して、ちゃーんと施設に届けるのが俺ら管理局の仕事なんでな」

 

「でももう私はあなたを巻き込みたくない………せっかく目覚めて自由になったなら…もうあなたが私に関わる必要は…」

 

アキラはつまんだイクスを少し回し、顔の前まで持ってくるとイクスの額にデコピンを食らわせた。

 

「ぴっ!」

 

「目覚めて自由になったってのはお互い様だろ?ん?いいから俺らと避難しろ。いいな?」

 

「でも………冥王なんて業を背負わせてこれ以上あなたから自由は……」

 

申し訳なさそうにするイクスに向かって、アキラは笑顔で言った。

 

「大丈夫だ。俺はもう充分過ぎる位に幸せと、自由をもらってる。俺がこれから歩む道の中であんたを拾っても拾わなくても、そんな影響の大差はねぇよ」

 

イクスを脇に抱え、アキラは走り出した。スバルもそれに並走する。スバルは自分達のいる地点の地図を開き、脱出経路を探した。すぐ近くの道から上に上がれることを確認し、そこへ向かった。

 

「ここを曲がれば………あっ」

 

「ダメか…………」

 

瓦礫で道が塞がり、それ以上先にはいけなくなっていた。

 

「魔法とかで吹っ飛ばせないか?」

 

「だめ、その衝撃でさらに崩壊が進む可能性がある」

 

「じゃあ別ルートだ」

 

二人は再び出口を探した。地図を頼りに右往左往していたが、もう上に上がれそうな道はほとんど倒壊していた。考えた結果、中央にある円形の大広間。そこだけはどの階も同じ構造なのでそこを一直線に砕いて上に上がることにした。面積が広いので破壊しても倒壊しづらいからだ。三人は少し大きい広場で作戦をたてた。

 

「うしっ…じゃあ行くか」

 

「アキラ君!後ろ!」

 

出発しようとしたアキラの背後にマリアージュの刃が迫った。アキラは瞬時に反応し、ディバイダーを出現させてマリアージュを打った。

 

「アガリアレプト!大丈夫!?」

 

「あっ………」

 

(今はアガリアレプトだった………でも気づいてないみたいでよかった………)

 

「………問題ない………問題ないが………」

 

黒い何かはアキラの手からすぐに溶けるように消滅した。二人になにも見られてないことを確認すると、アキラは刀を抜いた。辺りを見ると、マリアージュが広場の計三つの出口を塞いでいる。

 

「どうやら、簡単には通してくれそうにないな……………」

 

「冥王様、下がっててください」

 

スバルはイクスに防御結界を張って立ち上がった。アキラとスバルは背中合わせに立ち、マリアージュを迎え撃つ準備をする。

 

「待って!防災士長!アガリアレプト!こんなにマリアージュがいるのに勝てる筈無い!私をおいて逃げて!あなた達が私の為に命をかける必要なんて……」

 

「おんなじことばっか言ってんじゃねぇよ。俺らはお前を保護する義務があるしそれが仕事だ。それに、今ここでマリアージュを止めなきゃこの先ギンガを巻き込む戦になるかもしれねぇ。今のうちに止められるんなら止める。だから戦う」

 

「大丈夫です!信じてください!」

 

「でも…」

 

「それにまだ、お前に青空を見せてないからな」

 

そう言った刹那、マリアージュが二人に切りかかってきた。アキラとスバルは応戦する。マリアージュの数は訳30体。二人は一体一体を長く相手をせず、蹴り飛ばしたり大きく回避することで順調に相手にダメージを蓄積させて行った。

 

「おぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「…………すごい、あれだけの数のマリアージュを一度に………それもたった二人で…」

 

アキラは剣術、体術を駆使して戦っていた。リアクトすればもっと楽に戦えるのであろうがさっきの戦いで魔力を使いすぎたのと、エクリプスウィルスの発作がおきそうだった為にリアクトには頼れなかった。

 

迫る刃をいなし、刀で薙ぎ払い、撃たれる砲撃をギリギリで躱し、別の攻撃を紙一重で躱しつつ蹴り飛ばして次の相手をする。それの繰り返しだが、少しずつ隙を見つけマリアージュを倒して行った。アキラはマリアージュの刃を飛び上がって避け、天井からぶら下がった電気のコードを掴み近くのマリアージュ二体に巻きつけ、二体同時に首を叩き切った。

 

こうして戦っている時のアキラの目は本気だ。一切の表情の変化を見せない。剣の攻撃を躱しきれず、腕に突き刺さった時も顔色一つ変えずに反撃に移り、目に見えない速さで連続で三撃ほど斬りつける。スバルにくらべ、相手をしている数が多い上に先の戦闘で魔力と体力を大分消費したからか割と捨て身の戦闘になっている。

 

スバルはアキラとは違い、攻撃を食らっていなかった。メガトン級の拳でマリアージュを一発でノックアウトさせ、早め早めに片付けて行く。

 

そんな中、イクスを護る二人にばかり集中するマリアージュだったが、遅れてきた一体は二人を見向きもせず、イクスめがけてひとっ飛びで飛んできた。

 

「!!」

 

「マリアージュ………あなたは軍団長ね…」

 

「イクス…我らをお導きください」

 

「行かせない!」

 

手元のマリアージュを全て倒したスバルがイクスと軍団長の間に飛び込んだ。

 

「イクスを渡してください」

 

「渡さない!」

 

スバルが断るとマリアージュは腕を銃に変形させ、スバルに向けた。避けようとするが、自分が避ければイクスに当たる。防御結界で護っているとは言え強力な砲撃に耐えられる確率は低い。そう考え、スバルは撃たれる前に反撃に出ようとするが、通常の個体よりも砲撃のチャージが短かった。スバルはガードを張ろうとした。

 

(速い!?ガードを………)

 

ガードは間に合わず、スバルは悲鳴も無くふっ飛ばされ、そこには欠片も残らなかった。マリアージュの砲撃の中で最も攻撃力が高く、範囲が広いものだ。その上実弾兵器の為殺傷能力は極めて高い。

 

「スバル!!!」

 

スバルの危機に反応した一瞬の隙を突かれアキラは残りのマリアージュ四体の内、三体に同時に貫かれる。

 

「がっ…………」

 

反撃しようとしたが、別のマリアージュがアキラの腕を突き刺し、動きを封じた。

 

「戦車をも一撃で破壊するものです人の身で耐えられるものではありません」

 

スバルを消し、アキラを封じた軍団長はイクスの前に跪いく。マリアージュのしたことに怒りを持ったイクスは両手を握りしめ、口を開いた。

 

「なんて…ことを………」

 

「あなたをずっと探していました。あなたがいなくては、我らの進軍は成り立ちません」

 

「進軍なんて…………しなくていい!」

 

「導いてください我らを新たな戦場へ」

 

「もういいの私たちはもう、戦場に出ちゃいけないの!」

 

「イクス………」

 

イクスの説得を試みようとするマリアージュの頭に何かが放り投げられ、当たる。アキラが懐にあった通信機を投げたのだ。

 

「さっさと失せやがれ………死体野郎。もうテメェ等見たいのはいらねぇ時代なんだ!寧ろ害悪なんだよ!昔は戦を終わらせる為の兵器だったかもしれねぇが!今は違う!イクスも!普通に生きられる時代なんだ!」

 

「………」

 

マリアージュはそっと立ち上がり、アキラに砲頭を向けた。

 

「あなたは我々の邪魔になります。消えてください」

 

「くっ………」

 

(首を跳ねようとしてくれれば……近寄った時にハッキングハンドでどうにかできたんだけどな………まぁいい。だったら一か八かだ!)

 

アキラは体に刺さった刃を素手で叩き折り、腕を刺している刃は腕を無理矢理動かすことで肉を切らせ、拘束から脱出した。そのまま一気に軍団長との間合いを詰め、軍団長が腕を変形させた銃口に左腕を突っ込んだ。

 

スバルに撃ったのと同じ実弾兵器を撃ったが、マリアージュの腕の砲身の中で炸裂し、大爆発する。軍団長が吹っ飛ばされるのと同時にアキラもよろけるが、アキラの腕は内部の金属がむき出しになっただけで大したダメージはなかった。

 

「さすが特殊合金……戦車よりも硬かったぜ、マリーさん」

 

「排除」

 

後ろから残った四体のマリアージュが襲いかかる。先ほどの無理な行動のせいで出血が多過ぎたアキラは反応が遅れ、再び串刺しになるところだったが、刹那、マリアージュの横に何かが飛びかかる。

 

「チェストォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

 

怒号と共にマリアージュ四体を纏めて殴り飛ばしたのは怪我だらけで飛んできた戦闘機人モードのスバルだった。スバルは直後、倒れそうになったアキラを支える。

 

「大丈夫!?」

 

「おう…ちょっと血ぃ出しすぎた…。残ってんのはあの軍団長だけだ。頼めるか?無理だとしたら時間稼ぎだけでもいい。すぐに回復させる」

 

「任せて、もう終わらせるから」

 

「んじゃ、任せるわ」

 

アキラをイクスの側に寝かせると、スバルは軍団長の前に立つ。軍団長は腕を修復させかけている。

 

「私の弾を凌ぐとは………あなた方のその腕………まさか……」

 

「いくよ相棒!」

 

『OK!!』

 

「振動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 

 

スバルのIS振動拳を使い、軍団長を殴り飛ばした。軍団長は避けようとはせず真っ正面からスバルの拳を受け、壁を貫いて吹っ飛ばされ、動かなくなった直後に液体になり自爆した。

 

「はぁ、はぁ………」

 

「防災士長……」

 

スバルの肉が一部抉れ、内部の機械骨格と人口筋肉が見えていた。大変な怪我なのにスバルはアキラに任せっきりにせず立ち上がったのだ。

 

「ごめん、マリアージュも、無力化程度で確保したかったんだけど」

 

「あの子達は、動作できなくなると自爆します。あなたのせいじゃありません……………それより、その腕………あなたも、兵器ですか?」

 

イクスにそう言われ、スバルは一瞬表情を曇らせかけた。

 

「そう、だね。鋼の骨格に強化筋肉。戦闘機人の身体は、兵器の身体。だけど、今は人間だよ。じゃあ、脱出しますよ。アキ……アガリアレプトさんも大丈夫?」

 

「ああ、もう傷も再生した」

 

アキラが傷の治ったことを確認して立ち上がる。合金の左腕の周りにも新たな皮膚が生成されていた。アキラの再生能力にはイクスは特に驚かなかった。だが、スバルの傷は心配する。

 

「防災士長………ひどいお怪我を…」

 

「ヘーキです♪っていうか私なんでイクスに対して敬語になっちゃうんだろ?」

 

ふと思った疑問をスバルが口にするとイクスはボソッと返答した。

 

「王……ですから」

 

「あー、じゃあ陛下ってよんだ方がいいですかね。聖王陛下はそう呼ばれると嫌がるけど」

 

スバルはヴィヴィオの話を急に持ち出した。当然聖王のクローンのヴィヴィオが現代を生きていることなんて知らないイクスは困惑する。

 

「聖王?まさか、ベルカ聖王家の王ですか?」

 

「何代目かは忘れましたけどね、友達なんですよ、私」

 

いくらなんでもあり得ない話だったのでイクスはキッパリと言い放つ。

 

「嘘です」

 

「嘘じゃないですよぉ!メル友ですし、会えばお茶だってしちゃいます」

 

「嘘です。前に目覚めた時は、聖王家どころか古きベルカもなくなって……」

 

「あー、まぁそれは本当ですが」

 

話の筋をイマイチ読み込めず余計にイクスは困惑するが、これはスバルの説明不足が祟っている。アキラがそんなスバルの足りない説明を補った。

 

「こいつの言ってることは本当だ。正確には聖王のクローンだがな」

 

「クローン?………聖王のクローンなんてどうして…」

 

「ある馬鹿が、聖王のクローンを作って、ゆりかごを動かそうとしたんだ。今回、マリアージュが目覚めたのもそういう奴の同種のせいだ」

 

「…………………………………結局…いつの時代も…人は争っているのですね」

 

イクスは悲しそうな顔で呟いた。

 

「千年以上前から人は戦い続けて…私やマリアージュ、聖王家のゆりかごも、戦争を止めるための兵器として生み出されました。求められたのは戦を自らの勝利で終えるための力。だけど、生み出されるのは死と混沌と、新たな戦いだけ私の、イクスの失敗、融合機の失敗、聖王家の失敗」

 

「失敗って………」

 

「みんな、失敗作です今の時代に生きていてはいけない…だから私は消えなければならないのに、私は死ねないから…」

 

イクスは、小さな身体に随分と大きな悩みを抱えさせている。そう見えたスバルは少し考えイクスの額にデコピンした。

 

「うーん、とりゃ!」

 

「痛っ!」

 

アキラならともかく、スバルにデコピンを食らったイクスは驚く。スバルは少し、使用人が小さな主を叱るような態度でイクスにやったことを説明する。

 

「失礼、今野はデコピンと言うもので、お馬鹿な子を懲らしめるときに使うお作法です」

 

「お、お馬鹿?」

 

自分よりもずっと年下な上に王に向かって「馬鹿」という度胸にはアキラも少し感心する。スバルにとって、冥王であろうと一般人であろうと子どもは皆等しく子どもなのだろう。それに、ヴィヴィオの一件もあったからかこういう子供の正しい生き方を見てきたスバルは、イクスに「死ぬべき」なんて言って欲しくなかったのだ。

 

「消えるの死ぬのなんて不穏なこと、子供が言うもんじゃないです!」

 

「何歳だと思ってますか?あなたよりずっと年上です」

 

「見た目子供だし、そんなこという子は大人じゃありませんよ」

 

引き下がらないスバルに対し、イクスはアキラに助けの眼差しを送った。

 

「…………アガリアレプト」

 

「…ま、俺はスバルに同意見だな。俺はお前に死んでほしくないし、消えて欲しくもない。まぁ、マリアージュも消えたんだ。もうお前は……」

 

その刹那、アキラの視界が歪む。そして急激に「人を食べたい」という欲求に駆られる。突然エクリプスウィルスの発作が起きたのだ。

 

「がっ!!うぁ!!!」

 

「アガリアレプト!?」

 

「アガリアレプトさん!」

 

「スバル!イクスを連れて早く脱出しろ!俺から一秒でも早く離れろ!!!」

 

スバルはギンガから伝えられたアキラの暴走症状だと判断しイクスの手を取って逃げようとしたが、イクスはその手を振り払いアキラの元へ走った。

 

「冥王様!」

 

「アガリアレプト!」

 

イクスはアキラの身体に触り、アキラが苦しんでいる原因を調べた。イクスには自身を守るための術、攻撃能力はなかったがかわりに医療や回復魔法を得意としている。その力でアキラを苦しめる原因、エクリプスウィルスを発見した。

 

「これね……」

 

「何を………」

 

イクスはアキラの銀の腕輪に触れる。すると銀の腕輪が輝くと同時に、アキラのエクリプスウィルスの入れ墨のような模様が全て銀の腕輪に吸収されて行った。

 

「………なっ…何が起きているんだ?」

 

突然のことに驚くばかりのアキラだったが、気づけば発作は治まっている。イクスは腕輪触れて腕輪の説明をした。

 

「これは、力を封じる為の道具であり、力を開放するための道具でもある……私のために作られた腕輪。私が眠っている間、私の力を奪われないように私自身の力を封じ込めていた。そして、これには私が将来再び戦場にでた時に私が戦場に出てマリアージュと共に戦うための鎧も入っている」

 

「ああ、あの鎧か」

 

アキラのリアクトバーストの時に出現する鎧のことだ。イクスによるとその鎧は使用者の持っている能力を極限まで高める能力を持っているらしい。そして、イクスは力を封じる力を逆手にとり、アキラの力であり呪縛であるエクリプスウィルスを封じたのだ。しかしなぜ、ウィード事件の時に現れた少年達はこの腕輪を持っていてアキラに託したのか、なぜイクスに会った時に以前から使っていた腕輪は壊れたのか。謎は残るが今はそれを追求している暇はない。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

その後、現場に駆けつけたティアナのスターライトブレイカーの協力の元、脱出に成功。火災もだいぶ収まり、事態は収拾されかけていた。アキラはウェンディにライディングボードに乗せてもらい、ギンガのいる救護テントの向かっていた。

 

「ギンガ!」

 

「おっ」

 

「あっ!アキラ隊長!」

 

「あらアキラ君」

 

テントに飛び込むとセッテとメグ、そしてシャマルとマリエルがカーテンで遮られたベッドの横に集まっていた。アキラの血塗れの服を見てシャマルが心配するが、既にアキラの傷は全治している。

 

「アキラ君大丈夫!?その怪我……」

 

「もう治ってる!問題ない!それよりもギンガは!?大丈夫なのか!?さっきは何の症状なのかわからないし敵はいるしでちゃんと見てやれなかったから…」

 

「あ、うーんまぁ、元気よ?元気だけど…」

 

「?」

 

 

 

 

 

続く



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第五十一話 欲張

前回に比べ、短いですが、一番かきたかったストーリーがかけて嬉しいです!これからもこの小説をよろしくおねがいします!ギンガ!大好きだ!今後、vivid、vivid strike!、forceとなのはのストーリー全てに絡んで行きたいですね!(どれくらい長くなるんだこれ…)もしくはちょうどいいとこで切って新しい作品として始めるのもありですかね?まぁおいおい考えておきます。次回は恐らく最終回!二月十二日には上げたいですね!前置きが長くなりました!本編をどうぞ!


ー108部隊ー

 

 

今回の事件は、ルネッサが引き起こした事件ということで方が付いた。管理局や、上司であるティアナの責任問題がどうたらということでそれを中心に少しずつ終わらせて行くようだ。そして、捜査をする必要がなくなったティアナは明日帰ることになった。

 

今日はスバルと夕食に行くのだそうで、アキラとギンガに別れの挨拶をしにきている。

 

「本当はもっと長くいたかったんですが………」

 

「しゃーねーよ。いつだってどこかで事件は起きてるし、管理局は…人手不足だ」

 

「ふふっ。頑張ってね。ティア」

 

「ええ、ギンガさんもお身体を大事に。産休は明日からでしたっけ」

 

「うん」

 

ティアナはギンガのお腹をみる。ギンガのお腹は昨日までとは違い、とても大きくなっていた。なぜギンガのお腹がこんなにも大きくなっているのか、それは約16時間前に遡る。

 

 

 

ーアキラ脱出直後ー

 

 

 

アキラはとにかくギンガの容体が心配で、救護テントに突撃した。そして、シャマルからギンガが元気だということだけは聞いたが…。

 

 

「元気だけど……」

 

「元気だが何だ!?あの腹痛は普通じゃなかった!まさか何か難病とかなにかか?」

 

「アキラ隊長、見てもらえればわかります」

 

セッテがアキラに軽く笑いかけながらいった。アキラはシャマルを掴んでいる手を離し、ゆっくりとカーテンに閉ざされたベッドに歩み寄った。カーテンの縁を掴み、一気に開けた。カーテンの先に待っていたのは、ベッドに寝ているギンガとそのギンガの大きく膨らんだ腹部だった。

 

「……………なに、入れてんだ?」

 

「クスッ、なんでしょう?布団を捲ってみればわかるよ」

 

「ったく、悪ふざけも大概に…」

 

ため息をついてからアキラが布団を捲ると、膨らみ正体を見た瞬間言葉が止まる。本当にギンガのお腹が膨らんでいたからだ。

 

「…………なん…だ?これ、何が起こっている?こんなに急激に腹部が膨張する病気、聞いたことねぇぞ?」

 

「まだわからない?」

 

マリーが入ってきた。アキラはこくりと頷く。

 

「妊娠してるのよ。ギンガは」

 

アキラはマリーのいっていることを理解出来なかった。少ししてからやっとその意味に気づく。だが、とても信じられる話ではない。ついさっきまでギンガのお腹は膨らんでいなかったのだ。妊娠させないように今まで行為を行っていたのに。

 

「なんだそりゃ、さっきまで腹がそんなになんてなってなかった。つまらんジョークはよせ」

 

「違うのよ。実はギンガのお腹の強化筋肉とかが邪魔してお腹の赤ちゃんが前に出れて無かったの。今、強化筋肉を調整して、一時的にお腹をやわらかくしてお腹が膨らんで来てるから」

 

「妊娠から4ヶ月も経ってたんだから。ギンガもアキラ君も、もっと早く気付かなきゃダメじゃない」

 

シャマルが注意する。ギンガは照れ笑いしながら謝る。

 

「すいません。それから、ごめんなさいアキラ君。実は前々から変だとは思ったんだけど、事件終わるまでは言わないようにしようとおもってて…………」

 

「……………」

 

アキラはしばらく唖然としていた。

 

「アキラ君?あれ、そういえばエクリプスが…」

 

ギンガがアキラの変化に気づいた瞬間、アキラがギンガを抱きしめた。ギンガは驚き、セッテは顔を赤らめシャマルとマリーはあらあらと微笑んでいた。

 

「ア、アキラ君!?」

 

「……………何でもない。ただしばらくこうさせてくれ。それから、ありがとう」

 

しばらくすると、アキラはギンガを離す。急なことで驚いたが抱きしめられてる間にギンガも気が落ち着いていたようだ。アキラは改めてギンガのお腹をみるそしてそっとお腹に耳をあて、目を瞑る。

 

「………ここに…俺たちの」

 

「うん、愛の結晶があるんだよ」

 

するとそこに、マリーから連絡を受けたゲンヤがやってきた。そのことに二人は少し青ざめる。ゲンヤには二人の肉体関係については話していない。話すようなことでもないが。

 

「ギンガ……」

 

「お父さん……」

 

「ゲンヤさん…。あの、これは……」

 

「マリエル技師。ギンガの容体は?健康面とか」

 

ゲンヤはため息をついてはマリーに尋ねる。自分に来るとは思ってなかったマリーは慌てて対応する。

 

「あ、はい!えと、特に問題はないです。ただ、食事量が今までより増えたり、貧血になったり、今後色々あるとは思いますが今は大丈夫です」

 

「ゲンヤさん、あの…」

 

「アキラ」

 

「……」

 

ゲンヤは胸ポケットから1つの封筒を取り出した。

 

「アキラ、事件も終わるだろうし雑用だ。これ捨てといてくれ。じゃあ、俺は忙しいからもういくぞ」

 

「仕事って……」

 

アキラは封筒を開け、中身を確認した。中には、かつてアキラが一人で未成年だった時にゲンヤが書いた保護責任者引き受けの資料一式が入っていた。思い出してみれば、アキラは一応ナカジマ家に引き取られているいわば義理の家族だった。その事実がある限り二人は結婚できない。逆に言えば保護責任者引き受けの資料を捨てればナカジマ家とアキラの関係はなくなる。そうなれば結婚はできる、ということだ。

 

ゲンヤなりに、二人を祝福したのだ。

 

「お父さんったら」

 

「………ギンガ、すぐに産休の許可取るから。産休取れたら一緒に行って欲しい場所があるんだ」

 

「え…うん」

 

 

ー16時間後ー

 

 

「それでは、ありがとうございました」

 

「ああ、達者でな」

 

「さようなら」

 

ティアナが去ってから二人隊舎も隊舎を後にした。産休の期間は基本一年程だが子供の成長によって変わるそうだ。二人が隊舎から出て歩いているところを、部隊長室からゲンヤが見ていた。

 

「………」

 

ゲンヤはクイントの写真が入っている写真立てを取る。

 

「クイント………娘が、ようやく………いや、とうとう俺の手元を離れちまう。でも、これでいいんだよな。やっとギンガを二度と不安にさせないような勇敢なやつだ。反対する理由なんか一個もねぇさ」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アキラはギンガを連れて花屋さんに来ていた。どうやらこの花屋の常連らしく、アキラが花屋の常連ということにギンガは少し驚いた。

 

「またいつもの花ですか?」

 

「ああ、頼む」

 

「はい、いつもありがとうございます」

 

若い男性店員が花をまとめ、アキラに渡す。

 

「どうぞ。お連れの方は、なにか?」

 

「あ、いえ、大丈夫です。……そういえば、アキラ君っていつ頃から常連何ですか?」

 

「いつ頃でしたかねぇ………数年前からですけど」

 

「俺が14の頃からだ」

 

「14……」

 

「いくぞ、ギンガ」

 

「またのお越しをお待ちしております」

 

アキラは花屋を出ると、バイクでとある山に向かった。山に着くと、アキラはギンガをお姫様抱っこをして山を登り始める。最初はお姫様抱っこを断ったが、お腹の子供が心配だと言われギンガは大人しく抱っこされた。

 

どこにでもあるような平凡な山ではあるが、あまり人の足が踏み入れられてないように見える山だ。

 

(キレイ…………)

 

「キレイって思ったか?」

 

「え?うん」

 

「ここはな、俺が……いや、俺の知り合いが買った山でな。基本的に立ち入りが禁止されてる」

 

「そうなんだ…」

 

「ああ。空気も澄んでるし、自然も綺麗だし。ほら、景色もいいだろ」

 

アキラが止まり、顔である場所を見るように指示する。ギンガがそこに首を向けると美しい湖が広がっていた。確かに、都会に住んでいると中々お目にかかれない景色だ。

 

「どうしてこんなところに来たの?」

 

「ああ、まぁ、じきにわかる」

 

しばらくギンガを抱きながら山を進んでいたがアキラは急に立ち止まり、ギンガを下ろした。そこには一面の花畑があり、花畑の中央には石でできた十字架立っていた。

 

「あれは?」

 

「セシルの墓だ」

 

「セシル…前に護衛してたっていうあの子!」

 

「ああ」

 

アキラは花束を抱えて、墓の前まで歩く。そして花の前に花束を置いた。花束を置いた後、しゃがみながらアキラは墓の前で手を合わせ一人で呟き出した。

 

「よぉ、久しぶりだな。ここんとこ、これなくてごめんな。事件があって忙しかったんだ」

 

「アキラ君………」

 

「あのよ、お前を殺しちまってからもう六年くらい経ったか」

 

「六年…あっ」

 

六年前、それはちょうどアキラが14の時だ。アキラはその頃からずっと墓参りをしていたようだ。

 

「あれからずっと俺は、償いの為に誰かを護るために戦ってきた。だから…………だからもう、幸せになっていいかな?」

 

その言葉を言ってから、アキラはしばらく黙っていた。沈黙の中、風の音と、葉擦れの音がだけが響いていた。ギンガは少し微笑んで花畑の中を歩き、アキラの隣にしゃがんだ。

 

「初めまして、アキラ君の彼女のギンガ・ナカジマです。あなたの話しは聞きました。アキラ君はあれからとっても頑張ってますよ。わたしのために、この世界の色んな人のために。命を張って守ってくれてる。もう、後悔しないように」

 

「実はなセシル……今日は特別な報告があってな。見ての通り、ギンガのお腹には子供がいる。俺の…子なんだ。ギンガが妊娠したって知る前から俺の心は決まってた。だから、ギンガ」

 

「?」

 

アキラはポケットにいれていた指輪のケースを取り出し、箱を開けて指輪を見せた。

 

「俺と、結婚してください。絶対に幸せにする、今以上に、セシルの分まで!」

 

予想はしていたが、やはり好きな人にプロポーズされることに喜びが溢れ、ギンガの瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。アキラが心配そうな顔をしたのでギンガは慌てて涙をぬぐい、最高の笑顔を見せた。

 

「………もちろん。喜んで」

 

「……良かった。セシル、このことを、お前に最初に祝って欲しかったんだ。いや、祝ってくれるかどうかはわかんねぇけど………。けど、俺はそれでも幸せになりたい!これが俺の最初で最後の…………欲張りだ、許してくれ」

 

アキラは立ち上がり、墓に背を向けて歩き始めた。ギンガは何も言わず、それを追いかけようとしたその時、

 

 

 

 

 

「アキラのこと、よろしくね」

 

 

 

 

 

背後から少女の声が聞こえた。振り返ると、そこにはただ優しい風が吹いているだけだった。アキラには何も聞こえなかったのか、まっすぐ振り返らず歩いている。

 

ギンガは声の主さえ分からない、気のせいかもしれない声に小声で答えた。

 

「…………うん」

 

 

 

 

 

 

続く



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マリアージュ事件編 最終回 眠姫

今回は遅れてしまって申し訳ないです!次回は2月20日です!


ー海上隔離施設ー

 

 

 

妊娠し、産休をもらうことになったアキラとギンガはナンバーズの元にきていた。同じ戦闘機人の自然な形での妊娠ということにナンバーズ達は興味を持っていた。

 

「ほえー…まぁ何となく予想はしてたッスけど、案外結婚まで早かったッスね」

 

「あはは、なんだか恥ずかしいな」

 

「ここに二人の子供が……」

 

ディエチはギンガのお腹と、薬指の指輪をみながら少し考える。そして、思い切って自分の中にある疑問をノーヴェに聞いてみる。

 

「ノーヴェ」

 

「どうした?」

 

「自分の子供持つってどんな感じかな?」

 

「どんな感じって……どうしたんだよ急に」

 

ノーヴェが質問の意図を逆に尋ねるとディエチは少し俯いて自身の手のひらを見つめる。そしてなにやら思い詰めた様子で話しはじめた。

 

「私たちは、今まで命を粗末に扱ってきたって言ってもいいくらい戦ってきた。もし将来私たちも妊娠したりした時、血で汚れたこの手で誰かを育てるのは一体どんな感じなんだろうって……どんな気持ちで育てればいいんだろうって…。あっ……ごめん。ノーヴェに聞くべきことじゃなかったよね。だいたい、子供を作る前提っていうのがおかしかったね。忘れて」

 

話してる間に聞くべき相手が間違っていることに気づいたのか、ディエチは途中で話すのをやめ、笑いながら誤魔化した。ノーヴェにこんなことを聞いたのは、やはり少なからず彼女の中に罪悪感があったからだろう。

 

「別にそんなこと考える必要ねぇだろ。あたしたちは、その罪と手についた血を流すために、今はそのためにここにいるんだろ」

 

「そうかもしれないけど………」

 

「別に気にすることねーじゃねぇか」

 

「えっ?」

 

みんなの集まっている木陰の端で、昼寝をしてるように見えていたアキラが急に口を開いた。

 

「戦闘機人だろうが人間だろうが、子供が出来りゃ自然とその子に愛情が湧くもんだ。罪悪感とかそんなもんよりもずっと大きい愛情がな」

 

「アキラ………」

 

一通り、ディエチに対してアキラなりに励ましのことを伝えると、アキラは起き上がる。

 

「ふぁ……あー寝ちまったぜ。結構ぐっすり寝てたから寝言とか言ってたかもな」

 

下手な誤魔化し方にディエチは思わず笑顔を見せた。アキラはギンガの横まで行くと後ろから抱きしめた。

 

「大丈夫か?寒くないか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「見せつけてくれるな全く」

 

「ホントッス」

 

「相変わらずね」

 

チンク、ウェンディ、ウーノが呆れる。その時自由室の扉が開いた。入ってきたのはメグとセッテだった。

 

「やっほー。バカップル元気にやってる?」

 

「カップルはなくてもう夫婦だ」

 

「勝手にバを抜いてんじゃないわよバカ」

 

「メグ、もう来たんだ」

 

「仕事が思ったより早く終わったので」

 

突然現れた、見たことのない人物の登場に、ナンバーズ達は驚いている様子だった。それに気がつき、ギンガがやってきた二人の説明をする。

 

「この二人が、今度から私たちに変わって授業をしてくれるわ。セッテはサポート。みんなに、ここを出てからの生活で実際どんな風にいろんなことを感じたかとかの体験談係りね」

 

「よろしく!ナンバーズの諸君!ギンガの同僚のメグ・ヴァルチよ」

 

「ロットが一番遅い私がチンク姉様達に教えるというのは何というか、遠慮見たいなのがありますが、よろしくお願いします」

 

「セッテ、制服がよく似合ってるじゃないか」

 

「あ、ありがとうございます…変じゃなくて良かったです」

 

セッテは照れくさそうに自分の制服を見る。その時、部屋に仕事中の筈のスバルが飛び込んできた。

 

「ギン姉!アキラさん!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

事件が終わってから、イクスは海上隔離施設に引き取られそこで眠ってた。しかし、数日経ってからイクスが一時的に目覚めたという連絡がスバルの元にきた。しかし、またすぐに眠ってしまうという事実を知ったスバルは急いで海上隔離施設にやってきていた。途中、偶然同じ施設にきていたアキラとギンガを呼んだが、二人は先に話すといいと言ったのでスバルはイクスと先に再開を果たした。

 

イクスは目覚めてからとても良くしてもらっているという。今回の事件も彼女が起こした訳でもなく、ただ関係してるだけということでイクスは罪には問われなかった。イクスに関係のある人間からのビデオメッセージもとても喜んだ。

 

今はスバルと少し話し、スバルに借りたマッハギャリバーでヴィヴィオとの通信を終えたところだ。そこに、アキラとギンガがやってきた。

 

「よう。元気にしてっか」

 

「アガリアレプト!」

 

イクスが駆け寄って来てアキラに体当たりするように抱きしめた。アキラは自分がアガリアレプトではないことを打ち明けていない。その方がイクスにとって幸せだと思ったし、アガリアレプトが言っていたようにすぐ眠るならその必要もないと踏んだのだ。イクスはアキラをみて少し笑っていたが、視線はすぐにアキラの隣にいった。

 

「あなたは……」

 

視線の先はギンガだった。ギンガは笑顔で自己紹介する。

 

「この人のお嫁さんで、スバルの姉のギンガ・ナカジマです。初めまして。イクス…さん、かな?」

 

「俺の……もうすぐ嫁になるやつだ」

 

呼び方に戸惑うギンガに対し、イクスはギンガに笑いかける。

 

「イクスでいいですよ。敬語も結構です。それにしても、綺麗な方だね」

 

「お、だろ?」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

「できたらお前も結婚式に呼びたかったんだが…………」

 

「うん、何となく自分のことはわかってる。大丈夫」

 

アキラはイクスを撫でた。撫でられてる感触をイクスは楽しんでいると何かを思い出す。

 

「あ、それから、この間腕輪に封印した力のことなんだけど………あれは、腕輪に封印されている状態で、今も成長を続けてる」

 

「成長……」

 

「だからいずれ……その腕輪の封印も破壊してあなたの身体を蝕んで行くかもしれない。気をつけて、アキラ」

 

「ああ、そうだと思ってたから対抗策を…………え?」

 

アキラはそのまま話を続けようとしたが、言葉を止めた。イクスは今確かに「アガリアレプト」ではなく「アキラ」と言ったのだ。アキラの反応を見て、イクスは「やっぱり」という顔でアキラに微笑んだ。だが、その微笑みの中には確かに悲しみ、落ち込みの感情が見えた。

 

「そっか……あなたはやっぱりアガリアレプトじゃないんだね」

 

「な、なにいってんだ……俺は……………アガリアレプトだ」

 

「ありがとう、わたしの為に嘘をついてくれて。眠っている時に、夢でアガリアレプトにあったんです。夢の中でいろんなことを彼から聞きました。あなたのこと、私が眠りについたあとのこと。たかが夢でしたが……もしかしてと思い、あなたを引っ掛けてみたんです」

 

無理に笑ってアガリアレプトを演じ続けようとしたが、アキラの良心の呵責や、真実を伝えることの大切さを考えてアキラはアガリアレプトを演じるのをやめた。

 

「はぁ、まぁ夢の中とはいえあいつがイクス自身に真実を伝えたんならしょうがねぇや。そうだ。俺はアガリアレプトのDNAをベースに作られた……まぁ、生物兵器見たいなもんだ。悪かったなあいつじゃなくて」

 

「でもどうして、アガリアレプトと私の約束を知っていたり、アガリアレプトを演じようと?」

 

イクスの質問にアキラは少し考えたあとイクスを抱き上げ、肩車をした。そしてギンガと一緒に外の景色が見える場所まで移動した。その横にスバルもやってくる。窓から広がる景色は青空と綺麗な海。アキラはそれを見つめながらイクスに説明を始めた。

 

「俺も夢……みたいなもんであいつとあったんだ。それであいつとお前の出会いや、約束のことも聞いて最後に頼まれた。もう一回お前が眠りにつくまでアガリアレプトを演じて欲しいってな。それによ、出会ったばっかの頃のお前が見ていられなくてな。見せたかったんだ。アガリアレプトがお前に約束した、青空とみんなが………戦うために生み出された俺やスバルやギンガ。聖王のクローンまでもが笑って暮らせている世界を……」

 

「ありがとうございます。アキラ………この世界は本当に美しいですね……今までは、目覚めてはイクスを生み出し、戦地に送り出して………城の中以外は灰色の空と、血染めのぬかるみしか知らなくて、今度はいつ眠れるんだろう、いつになったら殺さなくてよくなるんだろうって………ずっとそんなことを考えてました」

 

「うん」

 

「でも、スバルやアキラ、アガリアレプトにあってそれは違うのだとわかりました。自ら死のうとしている命さえ、命を賭けて救おうとしてくれる人がいる。私や、わたしの時代の人たちが壊してしまったものを、こんなにも綺麗なものに育ててくれた人がいる。きっとあなたたちのような人なのだろうと」

 

イクスはアキラを撫でながら言った。

 

「私は別として、この世界、いろんな人が生きていましたから」

 

「私は、私やわたしの周りの世界を自分で変えなければならなかったんですね。そうしたらもっと早く、変われていたかもしれない」

 

「過去は過去ですよ大事なのは、今とこれから」

 

「その通りですそんな簡単なことに気づくのに1000年以上もかかってしまいました」

 

「かかりましたね」

 

スバルの返答が少しずつ元気のなくなっていっていることに、アキラとギンガは気づく。しかし、二人とも何も言わずそのまま二人に会話させ続けた。現場にいるとはいえ、ここで口を挟むのは野暮というものだ。

 

「かかりすぎです………ねぇスバル?青い空と、紺碧の海、美しい風………素晴らしいですね」

 

「ち、ちょっと眠って、また起きればさ!またいくらでも見れますよ!ここだって綺麗だけど………山も海も、空ももっともーっと綺麗な場所たくさんあるんだ!紹介したい人だってたくさんいる!食べて欲しいものも、見て欲しいものも……すごいたくさん…」

 

無理に元気に話そうとするが、スバルの声はえずき、涙混じりのものになり、目には涙をたくさん溜めていた。

 

「そうですね。そういった、綺麗で美しいもの全部。あなたと触れて行きたかった。

 

「う、うぅ……イクス……」

 

耐えきれず、涙を流してしまったスバルにギンガが優しく寄り添う。そんなスバルをなだめるようにイクスは話を続ける。

 

「泣かないで、スバル。私が次に目を覚ますのは、十年後か二十年後か、もしかしたらまた1000年後かもしれないけど。その時の目覚めは、きっと素敵です」

 

「イクス……あたし…」

 

尚も涙を流すスバルを見て、イクスはアキラの頭を軽く叩いた。

 

「アキラちょっと抱っこして?」

 

「ん?はいよ」

 

イクスに言われた通り、アキラがイクスを抱っこしてやるとちょうどイクスとスバルの目の高さが同じくらいになる。そして、イクスはスバルの額に手を伸ばし、デコピンを放った。

 

「えいっ………人の感謝に泣いたりする子にはデコピンです」

 

そのこうどうと言葉に、スバルは涙を拭いながら笑った。

 

「そんな、変なこと覚えて」

 

「教えたのはスバルです」

 

そう返答すると、少しだけ二人は笑いあった。それにつられてアキラもギンガも笑顔になった。

 

「たくさん笑ったら眠くなってきました。ねぇ、アキラ。もう少しだけ抱っこされてても?」

 

「構わねぇ。お前は軽いからな、抱いてても抱いてなくても一緒だ」

 

アキラは抱き方をかえ、母親が赤ん坊を抱きかかえるように抱いて、ゆりかごのように腕を揺らす。

 

「…………アキラ、今までありがとう。あなたはアガリアレプトではないけど。どうか、彼の分まで幸せに………なって?」

 

「ああ」

 

「スバル、助けてくれてありがとう。あなたのおかげで、今されながら、自分を変えられました」

 

「いいんですよ、子供がそんな難しいこと考えなくて」

 

「ふふっ……それから…ギンガ」

 

「はい」

 

「アキラにもスバルにも、これから苦労や災難があると思います……その時、姉として、妻として、支えてあげてください。子供が生意気にすいませんが……」

 

「いいんですよ。王様なんですから。それから、ふたりのことは私にまかしてください。きっちり支えてみせますから」

 

その返答に、イクスはかなりウトウトしながら笑った。そして、ギンガのお腹に頑張って腕を伸ばして触れる。

 

「この子が………大人になる前には、めざめ……たいです……」

 

「………そうだな」

 

「……………ありが…と………う…おや…………す…みな………さ」

 

イクスはアキラの腕の中で眠りについた。その姿はまるで、ただお昼寝をしているだけの子供のようだった。

 

 

 

続く



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第五十二話 名前

すいません、本来だったらもっと長く書く予定だったんですがうまく筆が進まず出産の話までいけませんでした。次回がいよいよ出産編になります。今回はタイトル通り子供の名前を決めるだけの話と今後ギンガたちが子育ての間、vividのストーリーで活躍させる予定のアキラ君のクローンの現状の話になっています。本来だったらこれも出産編冒頭になるはずでしたが出産編がクオリティ足らずの為に書き直してきます!次回は2月28日です!お楽しみに!ちなみにこの時点で子供の性別はわかっています


ー11月 ナカジマ家ー

 

 

11月某日。マリアージュ事件が解決してから約3ヶ月のある日、ナカジマ家のインターフォンがなった。インターフォンが鳴らされてからしばらく経ってアキラが玄関の扉を開ける。産休で家にいるのはアキラとギンガだけだった。

 

「はーい」

 

「あ、アキラ君、こんにちはー!」

 

「こんにちはー!」

 

笑顔で挨拶したのは高町なのはだ。その隣にはヴィヴィオもいた。思いもよらない人物の訪問にアキラは普通に驚く。

 

「おぉ、高町隊長じゃねぇか」

 

「もう、それは六課時代の呼び方でしょ?出来ればなのはさんって呼んで?」

 

「そーいえば役職は教官だったか。で?どうしたんだ高町教官?それにヴィヴィオ」

 

「なのはさん」と呼んでくれと言ったのに呼び方をたいして変えてはくれない。そんなアキラが玄関前の門を挟んでなのはに対応していると、戻るのが遅いのを気にしたギンガが玄関まで重い身体を動かしながらやってきた。

 

「アキラ君どうし………あ!なのはさん!」

 

「ギンガ!久しぶり!」

 

「ギンガ!あんま動くなって!」

 

アキラはすぐにギンガを支えに行った。その姿を見てなんだかなのはは安心する。見た目と無愛想さは以前と代わりはないが子を持ち、意識が変わったのか今まで以上にアキラがしっかりしているのを感心したのだ。

 

「今日はどうしたんだ?」

 

「うん、ギンガが妊娠したって聴いたから。お見舞いって感じかな?」

 

「そうでしたか、ありがとうございます。上がって行きますか?」

 

「うん、出来れば。最近の話もしたいしね」

 

「分かった。ノーリ!!」

 

なのは達が上がって行くことを確認するとアキラは家に向かって誰かの名前を叫んだ。すると、二階の窓から誰かが顔を出す。それはアキラにそっくりな顔を持った人物だった。

 

「悪いがお茶を居間に用意してくれ!来客だ」

 

「アキラ君、あの子は?もしかして……」

 

「ああ、俺のクローンだ。俺らの所で引き取ることになった」

 

「保護されてからあんまり体調が優れないって聞いていたから良かった元気そうだね」

 

共に戦ったこともあるからか、なのはアキラのクローンを心配していた。ノーリと名付けられたクローンは、最後の、ウィードとの戦いを終えたあとに保護され海上隔離施設で過ごしていた。ギンガとアキラに普通の人として生きていくための知識を教わり、今はナカジマ家に住んでいた。

 

 

 

ー居間ー

 

 

 

「茶、用意したぞ」

 

「おう、ご苦労」

 

アキラ達がなのはとヴィヴィオを連れて居間に来ると、ノーリは既にお茶を用意していた。中々素早い対応だ。なのははノーリに笑顔で挨拶をした。

 

「ノーリ君、久しぶり」

 

「ああ。高町なのは。あの事件じゃ世話になった」

 

「うん、元気そうで良かった」

 

ノーリがちゃんと礼儀正しく再教育されているのをみてなのはは笑顔になる。

 

「今はヴィヴィオは聖王教会の学校いってるんだっけか?」

 

アキラに聞かれ、なのはとヴィヴィオは同時に頷く。

 

「ノーリも春から同じ学校に行く。中等科だから一緒にはなれねぇ見たいだけどな」

 

「あ、そうなんだ!じゃあ、ヴィヴィオも挨拶しておこうか」

 

「うん!」

 

ヴィヴィオはソファから立ち上がると、ノーリの前に行く。

 

「高町ヴィヴィオです!初めまして、ノーリさん♪」

 

「ノーリ・ナカジマだ。よろしくな」

 

「わたし、学校で新しい友達が出来たんです!リオとコロナって言うんですけど、今度紹介してもいいですか!?」

 

「そうか、是非ともあってみたいな」

 

ノーリは言葉はあまり多く話さずに返答しているが、話し方はアキラのような冷たい感じではなく何とも穏やかな話し方だった。時折微笑みを見せたりする仕草はとても愛想が感じられる。

 

「ノーリ君はアキラ君と違って愛想があるねなんだか可愛いし」

 

「…………俺にはギンガさえいればそれでいいんだ。ギンガ以外に振りまく愛想なんぞ持ち合わせちゃいねぇ」

 

アキラは少し考えてからそう言った。ギンガだけ、という所に引っ掛かりを感じるが、ノーリと比べられて少し悔しかったのかほんの少しいじけた言い方だ。ギンガがそれを聞いてやれやれと苦笑いを浮かべていると、急に胸の下あたりを押さえる。

 

「んっ………」

 

「ギンガ、大丈夫か!?」

 

「ギンガ!?」

 

「あ、だ、大丈夫です…………この子が少し中から蹴っただけで…」

 

ギンガは大きくなったお腹を撫でて笑った。アキラは安心してため息をつくと身体を傾けギンガのお腹に耳をあててそっと瞳を閉じる。

 

「よしよし…どうした?お前も、俺の愛想が必要だったか?」

 

「にゃはは、子供ができると人が変わるっていうけど本当だね…」

 

なのはは笑った。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

なのは達はしばらくお話した後夕方に帰って行った。ただ一つ、お土産を置いて。

 

「………不思議の国のアリス………」

 

それは、かつてなのはが少女だった頃に読んでいたもので、そしてなのはがヴィヴィオのために家から持ってきた。それをおいて行ったのだ。続編も含めて。

 

「……………なぁ、これ渡される前に高町隊長に子供の名前決まってるかきかれたよな」

 

「うん」

 

(その子の名前は決まってるの?)

 

(いや、まだ考えてはいるんだが…)

 

 

「……アリスって、良くないか?こう、この話の主人公みたいにさ、いろんな世界に行って、不思議な出会いや冒険をしていろいろ学んで欲しいっていうか……」

 

アキラは全て読み終わった不思議の国のアリスを置いてギンガに提案した。ギンガは微笑んでお腹を撫でる。そしてお腹の中の子供に聴いた。

 

「私は可愛らしくていいと思うけど、あなたはどう?」

 

するとお腹の子が少し動いた気がした。

 

「んー。悪くないかもって」

 

「そうか…」

 

アキラは立ち上がりギンガの前にたつ。そしてギンガの顎を軽く持ち上げ、キスをした。

 

「ん………」

 

「ふぅっ………じゃあ。アリスに決定だな」

 

 

 

続く。



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第一章 最終回 結婚

やっと出せましたー!お待たせしました!遅れてしまって申し訳ございません!!ずっと温めてた話をかけました!次回からは二つのストーリーを同時に進めて行こうかと思います!ご期待ください!次回はVivid編プロローグです!更新は今夜0時!ちなみにこれは途中からプロローグの続きになります


ー12月ー

 

 

 

ギンガは家での出産を控え、ベッドで安静にしていた。ここの所、特に事件もなく平和なので普段は忙しいフェイトやティアナもお見舞いに来てくれている。

 

今日は八神家の者たちがお見舞いに来ていた。

 

「そっか、じゃあギンガは自宅出産を望んどるんか」

 

「ああ」

 

「なんだかすいません。お忙しい中」

 

「いや、いいんやって。ウチらが好きで来てるだけやし、後輩兼部下の妊娠祝わな上司失格や」

 

「もうあんたらの管轄じゃねぇけどな。あれ、茶葉が………ノーリ、茶葉と適当に菓子買ってきてくれねぇか」

 

茶葉が切れていることに気づくとアキラはノーリに買い物を頼んだ。部屋の隅で本を読んでいたノーリは本を閉じて立ち上がる。

 

「わかった」

 

「いってらっしゃい」

 

ギンガに見送られ、買い物に向かうノーリを見て、はやてはふと思ったことをアキラに尋ねる。

 

「アキラ君はどうして、あの子を引き取ったん?」

 

「………まぁ、理由はいろいろあるが基本的にあいつは俺が原因で生まれてきちまったからな。俺がしっかりケジメつけねぇと」

 

その言葉にはやては以前ナカジマ家を尋ねたなのはと同じ感想を持った。見た目や、人と接する態度はこれといって変わらないが、ちゃんと中身は大人になっていると。

 

「そっか」

 

「ところであんたらは結婚とか妊娠とかそういうのないのか?」

 

「うっ…」

 

アキラが何となく放ったその言葉は、槍となり、はやてに突き刺さった。はやてははやてで後輩兼部下に結婚と妊娠をほぼ同時に追い抜かれ、少し気にしていたのだ。ちなみにこれはなのはやフェイトも同じだった。

 

「……?どうした」

 

「いや、何でもあらへんよ………ま、まぁウチはまだいいかな……古代ベルカ式魔法継承者は安ないんや…」

 

軽く青ざめながら答えるはやてに、その理由をよくわかってないアキラは頭に「?」を浮かべる。

 

「そーいやシグナム何か気になる人がいるんじゃなかったか?」

 

話の流れでヴィータが思い出したことを言った。それを聞いてシグナムは軽く笑う。

 

「あれは…………単なる心の迷いだ。さっきのアキラの質問の返答にしても、お前に漏らしたそのことも私たちヴォルケンリッターは主のための一振りの刃であるべきだ。色恋などに現を抜かす訳には」

 

「別に、もうええんやで?闇の書の呪縛も等の昔になくなったんや。普通の人として恋くらいしてもええんやで」

 

「そうよ!わたしもいつか結婚とかして見たいわ〜。素敵な旦那さんと一緒に、旅行とか、デートとかいってみたいわ」

 

「シャマル……お前………」

 

はやてはシグナムに対してもう闇の書に縛られる必要はないということを伝える。シャマルもそれを押すように言った。シグナムは呆れていたが、確かにそうかもしれないということも思ったのか少し表情が緩んでいた。

 

(それに、シグナムの気になる人ってアキラ君やないか?)

 

念話ではやてがシグナムに言うと、彼女は予想外の反応を見せる。ピタリと止まって完全に硬直したのだ。

 

(ほー、何だよ、アキラが好きだったのか。ああ、アキラが結婚して子供まで作っちまってもう99%奪える可能性がなくなったから心の迷いとか言ってたのかw)

 

(あらあら〜シグナムったら、乙女ね〜。つまり失恋しちゃったわけだ)

 

 

(だ、誰もアキラが好きと言ったわけではないだろう!)

 

シグナムは否定するが態度で真実は丸わかりだ。念話で話してるため外見は平然を装っているが内心はすっちゃかめっちゃかしてる。

 

「………どうした?」

 

急に黙り込んだ八神家一同にアキラが疑問を持つ。

 

「いや、何でもあらへんよ〜」

 

はやては笑顔で流した。八神家の中でシグナムが弱みを握られてるころ、ギンガの身体に異変が起きていた。ギンガの顔色が少し悪いことにアキラが気づく。

 

「ギンガ、なんか顔色が悪い気がするが、大丈夫か?」

 

「うん、なんだかさっきからアリスがすごくよく動いてて………んっ!」

 

「!」

 

「シャマル!」

 

「アキラ君!出産予定日はいつ!?」

 

急にその場の全員の顔色が変わる。シャマルの質問にアキラは慌てて答える。

 

「え…あ!四日後あたりだったが…」

 

「もう準備万端で待ってなきゃダメな時期じゃない!アキラ君!助産師に連絡!」

 

出産が初めてだからアキラが準備を怠っていると思ったシャマルが注意すると、アキラは自分が座っていた一人用のソファを蹴り上げその下にあるボタンを押した。すると、壁の一部が倒れ、自宅出産に必要な道具が出てきた。

 

「このボタンで助産師にも連絡が行く。俺がこんな大切な事の準備を怠るわけないだろう」

 

「ならいいわ。シグナム、そこの壁から出てきた布団敷いて!ヴィータちゃんはその桶にお湯いれて!はやてちゃんアキラ君、ギンガ運ぶの手伝って!」

 

シャマルの指示で全員が動き出した。アキラはギンガを運んだあと、すぐにギンガの手を強く握った。

 

「大丈夫か?ギンガ、しっかりな」

 

「うん、頑張る……。はやてさん、すいません、お客様としてきてもらったのにこんな面倒…うっ!」

 

「なぁに、困った時はお互い様や。医療のスペシャリストがいるのに、対応しない方がおかしいっちゅうねん。あ、ザフィーラ」

 

「はい、我が主」

 

はやてはギンガを軽くなだめた後、ザフィーラを呼ぶ。

 

「ちょっと尻尾ギンガの枕変わりにしてくれへん?」

 

「………承知」

 

お願いされてから少し間が空いたが、ザフィーラははやてのお願いを聞いてギンガの頭のそばに行く。

 

「すいません、ザフィーラさん」

 

「問題ない。私より、自分とお子さんの心配をした方がいい」

 

「はい……」

 

そして、二十分しないうちに助産師が到着し、連絡を受けたゲンヤとセッテ、そして半分サボりにきたメグ、最後にスバルが駆けつけた。陣痛が始まってまだ間もない為にまだ出てく予兆は無い。

 

「ギンガ………」

 

アキラはこの時程自分を無力に感じてはいなかった。ギンガが苦しみに顔を歪ませているのに、ただ手を握ることしかできない。苦しみから開放してやれないのがこんなにも辛いこととは思ってなかった。

 

「んっ……ぐぅ……はっ」

 

「はい、落ち着いてください。息をゆっくりにして……」

 

「ヴィータちゃん、ギンガちゃんの汗」

 

「おう……」

 

「ギンガ姉、しっかり……」

 

みんなでギンガを支えながら出産を試みる。ギンガは陣痛を耐えながらアキラの手を必死で握り、アキラの顔を見ていた。

 

「アキラ君………はぁ、はぁ、!」

 

「どうした?ギンガ?大丈夫か!?そ、そうだ!何だったら、俺の左手の力で痛みを麻痺させることもできるぞ!?初めてのセッ……じゃなかった、営みの時だって……」

 

軽く恥ずかしいことをこんな大勢の前で言えるくらいアキラは焦り、そして何かをしてやりたいと思っていた。だがギンガは笑顔で首を振った。

 

「え、へへ……んう!今までアキラ君に痛い思いぃ……い!…ばっかりさせてきちゃったから…………せめて、これくらいの痛み、はぁ、はぁ、我慢しなきゃ……」

 

「ギンガ……頑張れ!」

 

ギンガの優しさに、強さにアキラは少し涙ぐみ最後まで手を出さず見守ることに決めた。

 

 

 

ー9時間経過ー

 

 

 

時間はかかったがようやく赤ん坊に動きが現れた。あともうしばらくすれば産まれるだろうが、今回のお産は随分と難産のようだ。ギンガがアキラの手を握る力は次第に強くなり、痛みが原因で加減ができなくなった怪力でアキラの骨からミシミシと嫌な音がするが、アキラは必死で耐えた。

 

「あ、頭が見えてきましたよ!」

 

「!」

 

「ギンガ、もう少しだ!!」

 

「あ、あああ!」

 

「ギンガ!」

 

「ギンガ姉!」

 

「ぐぅぅ!ぁぁぁ!」

 

出産の苦しさを表しながらギンガは唸る。だが、もうすぐ生まれる命の為にギンガは必死で耐えていた。

 

「アリスもギンガも!頑張れ!」

 

「アリス!?アリスって名前なんか!?」

 

「ああ!そうだ!」

 

「アリス!はよ出てくるんやで!かっこいいお父さんが待っとるで!」

 

「美人なお母さんもな!」

 

 

ーさらに3時間後ー

 

 

 

午前2時32分。

 

真夜中のナカジマ家に初の産声が響いた。ギンガは出産のために体力を使い果たし、ぐったりとしていたが、視線はしっかりとアキラの抱える自身の………自身とアキラの子供に向けていた。アキラはアリスを産湯につけながら目に涙をためていた。

 

「……………」

 

(今俺の手にある……小さな命。消そうと思えば簡単に消せる…小さな命…。こんな命を………俺が造り出し、守る時が来るなんてな………)

 

「アキラ君?」

 

「ギンガ……」

 

アキラはギンガの手を再び握り、アリス少し強く抱く。

 

「どうしたの?」

 

(それに橘君、これも忘れないで。あなたが私を守ってくれたから今の私がいる。あなたの手は今もしっかり……守る事ができる…)

 

(あんたは今、俺の手はまだ守れるって言ってくれた。だったら試させてくれ。本当に、俺の手がまだ誰かを守れるか)

 

「俺に…………もう一度守れることを教えてくれてありがとう」

 

「え?」

 

(ううん、なんだかアキラ君がこう…人道的な行動をしたのがなんか嬉しくて)

 

「俺に人の道を教えてくれてありがとう………」

 

(今ここで、アキラ君を恨んで、暴力を振るったり、殺したところで母さんは帰って来ないし、誰も喜ばない。何より、そんなこと、母さんが一番望んでないよ。原因はアキラ君にあったとしても、アキラ君は、母さんが守った命だもの。アキラ君がいなくなったら母さんが残したもの…全部なくなっちゃう…)

 

「俺を許してくれてありがとう………」

 

今までの記憶を思い起こしながら、アキラは涙を流して礼を言い連ねる。

 

(バカッッッ!どうしてわからないの!?あなたがいなくなったら悲しむ人だっているんだよ!?もっと命は大切にしなきゃダメだよ!死んだ人は戻ってこれない!良くわかってるでしょ!?)

 

「俺の命の価値を教えてくれてありがとう………」

 

(だって私はアキラ君のことが!好きだから!同じ職場の仲間とかじゃなく、友達でもない………ただ純粋に……恋人として………)

 

「愛しくれて…ありがとう…………」

 

最後にアキラはアリスを少し見て、再びギンガを涙でくしゃくしゃになった顔で見た。その顔を見てギンガは少し笑う。アキラは手を強く、強く握り、精一杯の声で喋った。

 

「父親にしてくれてありがとう…………!!!!!!」

 

「もぉ、大げさなんだから…」

 

ギンガも自然と涙を流しながらアキラに笑いかける。こうして、アリスは生まれた。世界初の人造魔導師同士の子供が。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ー聖王教会ー

 

「それから一ヶ月位経って、今に至るわけだ」

 

「いろいろあったねー。なんだか三年くらいかけて聞かされた気がするよ」

 

 

 

今は新暦0078年。この話の始まりの終わり、そして、新たな始まり。

 

 

 

アキラは白いスーツに袖を通し、なのは、ヴィヴィオ、ティアナ、フェイトに自分の話をしながらオットーが来るのを待っていた。すると急にドアが開き、オットーが入ってきた。

 

「お待たせしました。アキラさん、準備終わりました」

 

「お、そうか。んじゃあお話もちょうど終わったとこだし、あんたらも席に行け」

 

「はーい」

 

「そうだね、行こうか」

 

「楽しみですね、フェイトさん」

 

「陛下はお仕事もありますから僕についてきてください」

 

「あ、そうだった今行きまーす」

 

 

 

ーチャペルー

 

 

 

「………」

 

チャペルの一番奥にはアキラが立ち、神父の変わりにカリム・グラシアがいた。客席にはスバルやセッテ、ティアナやフェイトやなのは、その他アキラの知り合いやナンバーズ達がいる。スバルに抱きかかえられてはいるがイクスもいる。

 

「なんだか出所してすぐにこんなイベントに連れてこられるとはな」

 

チンクが軽くため息をついたが、表情は笑顔だった。

 

「でも、ギンガとアキラの晴れ舞台ッスから。全力で祝ってあげるッス」

 

「では、花嫁の入場です」

 

盛大な音楽と共に、後方のドアが開いた。ドアの向こうには、若干青みがかったウェディングドレスに身を包んだギンガと、スーツ姿のゲンヤが腕を組んでいる。さらにその後ろにはヴィヴィオがギンガのドレスの裾を持っていた。

 

ドアが完全に開き切ると、ギンガはアキラのほうに向かってゆっくりと歩を進めた。

 

アキラの横に着くと、ゲンヤは離れて客席に行った。アキラとギンガはカリムの方をみて微笑む。カリムは手元の本を開き、書類通りに式を進めた。

 

「橘アキラ改め、アキラ・ナカジマさん。あなたは今ギンガ・ナカジマさんを妻とし 神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときもこれを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「ああ、誓います」

 

「ギンガ・ナカジマさん。あなたは今アキラ・ナカジマさんを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなるときも 病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときもこれを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「はい 誓います」

 

ここまでは普通だが、ここでカリムのアドリブが入った。

 

「アキラさん?」

 

「ん?」

 

「汝は、これから先も妻を守り、暗い過去を振り返らずに妻と共に前へ進むと誓いますか?」

 

「………………ああ。必ず」

 

アキラは力強く答えた。

 

「では、指輪の交換を」

 

「はい」

 

二人は互いの指に指輪を通した。この世できっと最も幸せな時間とギンガは感じていた。初めてあった時はまるで路地裏に住むネズミのような少年が、清楚に、優しく、こんなに立派になって、自身の恋人になってくれて。憧れだったウェディングドレスも来て、欲しかった子供も手に入れて。神の前で共に結ばれることを許され、認められ…。こんなに幸せなことがあるだろうか、と。

 

「最後に、誓いのキスを」

 

「いくぞ」

 

ギンガの顔の前にかかっているレースをアキラがゆっくり上げ、顔を見つめる。

 

「……………幸せにするよ」

 

「はいっ」

 

ぐっと強く口づけをした。強く、なおかつ優しく。客席からは拍手が上がった。

 

それから、客席にいた全員が外に出てスタンバイし、二人は腕を組みながらチャペル入口付近の階段を降りるという予定だが。スタンバイが終わったところでアキラの我慢が限界に来た。

 

「……………あー!もう我慢できねぇ!!!」

 

「ふぇ!?あ、アキラ君!?」

 

アキラはギンガをお姫様抱っこで抱え上げ、チャペルのドアを蹴り開けた。その大胆な行動に、皆が驚いている中アキラはギンガに言った。

 

「幸せな未来、築こうぜ」

 

階段はゆっくりと歩き、二人ははみんなが投げてくれるフラワーシャワーに包まれて満面の笑みを見せていた。その時だった。

 

鳴り響いていた拍手が途絶え、フラワーシャワーは空中で止まる。時間が止まったのだ。

 

「!?」

 

「これは……」

 

「あ、アキラ君!」

 

ギンガが指差した方向、それは階段を降りきった先。結婚した二人が幸せの鐘を鳴らす、その手前。ここの所姿を見せなかった白い甲冑を纏った男がいる。だが、そこに立っていたのは一人ではなかった。男の隣に少女が一人。

 

「……………セ…セシル!?」

 

「あの子が………」

 

少女は笑顔で口を開いた。

 

「おめでとう……」

 

刹那、再び拍手が鳴り響き、フラワーシャワーが落ち始めた。鐘の前には既に誰もいなかった。

 

「………………ありがとう…セシル……」

 

(セシルちゃん、アキラ君のことは任せてね……)

 

「じゃあ、ブーケ投げまーす!」

 

 

ギンガの投げたブーケが空高く飛んだ。

 

 

 

ー中庭ー

 

 

 

アキラ達の結婚式にほとんどの人間が駆り出されている聖王教会の中庭には誰もいなかった。唯一いるのは、白甲冑の男と、セシルだった。

 

「本当にあれだけで良かったのか?」

 

「いいんだよ。私は今この世界にいちゃいけない存在なんだから。幽霊でもなんでも、最後にアキラに言いたいこと言えて良かった。それにしてもあなたはすごいね。死んだ人間を現世に呼び戻すなんて…………あなたはだれ?」

 

「そうだな………リュウセイ………とでも名乗っておくか。まぁいい。もうこの世界に未練はないな?」

 

「うん……大丈夫」

 

白甲冑の男改め、リュウセイとセシルは光の中へ消えた。

 

 

ー同時刻 管理局上層部ー

 

「…………現在橘アキラに発作はなし。以上で橘アキラの報告を終わります」

 

「ご苦労。引き続き調査を続けてくれ…………そうか、人間かぁ………面白い」

 

 

 

 

続く



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第二章
プロローグ


今回からVividの話にも入り始めますが、これからはForceに入るまでVividの間のストーリーをアキラ目線で語って行く感じです。アインハルト達の目線のストーリーも別で投稿します。そちらは基本的に主人公はアキラくんではなく、ノーリです。ヒロインもアインハルトに変わります。まぁ、書きたくなったストーリーです。ギンガが嫌いになった訳でもないです。ちなみに次回は未定ですが新しいストーリーは来週の今日にとりあえずプロローグを出します


ミッドチルダのいつもの平和な朝、ナカジマ家ではギンガ・ナカジマとその旦那であるアキラ・ナカジマが朝食の準備を完了させたところだった。

ここのナカジマ家はこの二人の家であり、ゲンヤや元ナンバーズたちはいない。まぁ要するにギンガが結婚し、アキラと建てた二代目のナカジマ家だ。家に住んでいるのはギンガ(21)、アキラ(21)、娘のアリス(四ヶ月)、アキラのクローンであるノーリ(12)、ギンガの妹にあたるセッテ(17)の5人である。

 

「さて、みんな起こそうか」

 

「うん」

 

この物語はこの新しいナカジマ家の鮮烈な物語である。

 

「じゃあ行ってくるぜ」

 

「行ってきます」

 

ヒルデ魔法学院中等科一年生のノーリは朝早くに出かけ、それとほぼ同タイミングでセッテも108部隊に出かける。

 

「いってらっしゃい」

 

「気ぃつけろよ」

 

そう言ってギンガとアキラの二人が見送った。ちなみに二人はセッテと同じミッドチルダ管理局地上陸士108部隊所属しており、アキラは戦闘部隊の隊長でギンガは副隊長であるが、今は一年の産休をもらっている。

 

「あ、おはようございます!」

 

ノーリの背後から少女の声がした。振り返ると、高町ヴィヴィオとその友人二名が手を振っていた。彼女らはノーリと同じ学校の初等科である。

 

「ああ、おはよう」

 

「ノーリさん、今日放課後格闘技(ストライクアーツ)の練習しに行くんですけど一緒にどうですか?」

 

「ノーヴェもセッテも早上がりだから来るって」

 

「そうか、じゃあ参加させて貰おうかな。あ、ヴィヴィオ、大人モードの練習ははかどってるか?」

 

「はい!おかげさまで!」

ノーリはヴィヴィオの変身魔法の先生で、格闘技に関してはヴィヴィオが少し経歴が長かった。ノーリの基本的な武器は剣や魔法だが、ヴィヴィオに勧められて始めたのがきっかけだった。

 

「じゃあ放課後、校門で!」

 

「おう」

 

初等科と中等科は校舎が離れているのでヴィヴィオ達とは途中でお別れだ。ノーリが中等科校舎に向かおうとした瞬間、その真横を同じ中等科の少女が通った。ノーリと同じクラスのアインハルト・ストラトスだ。

 

「アインハルトさん」

 

ノーリが呼び掛けるとアインハルトは振り向いたが、少し頭を下げてまた歩こうとする。「待ってくれよ、落としたぜ」

 

ノーリの声にアインハルトが再び振り向く。ノーリの手にはアインハルトの学生証があった。

 

「失礼しました。ありがとうございます」

 

「ああ」

 

 

-ヒルデ魔法学院中等科校舎 廊下-

 

 

 

ノーリとアインハルトはそのまま一緒に教室まで歩いてきた。

 

「ノーリさんのご家族は、みなさん強いのですね………」

 

「まーな。にしてもなんで俺の家族のことなんて気にすんだ?」

 

「いえ………」

 

「ま、いいけど」

 

ノーリはそのままスタスタと教室の自分の席に歩いて行った。教室の前でアインハルトは立ち止まり、小声で呟いた。

 

「すこし………確かめたいことがあっただけで」

 

 

 

 

 

続く

 



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魔導辞典 新人物編

新しい人物辞典です。一度リセットってことで。次回からVivid編に入ろうと思いましたがネタがまとまらないので、ちゃんとまとまるまで今までの温めてた「黙示録事件編」に突入させます!そういえばこの間水樹奈々さんのライブに行ってきました!最高でした!次回は22日です!


アキラ・ナカジマ

階級:二等陸尉

身長:195cm

防護服:マイティ・コート

デバイス:マイティギャリバー (ディバイダーは銀の腕輪に封印されている)

ギンガ・ナカジマと結婚した元橘アキラである。現在は産休の為に家におり、その羽を休めている。ディバイダーとエクリプスウィルスをイクスによって封印してもらい、現在は人間として生活している。エクリプスウィルスとディバイダーが使えなくなったことにより落ちた戦闘能力を新たなデバイス、デュエルギャリバーを使うことによって補っている。週三で修行中。

 

 

ギンガ・ナカジマ

階級:准陸尉

身長:162cm

防護服:?

b81w57h83

デバイス:ブリッツギャリバー リボルバーナックル

アキラと結婚し、愛娘アリスを授かった。アキラと共に産休により現在は家で初めての子育てに没頭している。自分たちの家系にアキラのクローン、ノーリを迎え入れた。娘の為に管理局を続けるべきか検討中。

 

 

セッテ・ナカジマ

階級:三等陸士

身長183cm

防護服:なし

デバイス:ブーメランブレード

ナカジマ家に引き取られ、現在はアキラの修行中、彼の代わりにギンガの護衛としてアキラ達の家に連れてこられた。個人的には全くもって構わないと思っているが、現在ゲンヤのところにいる姉妹たちに会えないのは少し寂しいらしい。最近はよく笑顔を見せるようなってきた。

 

 

 

白甲冑の男(リュウセイ)

階級?

身長197cm

防護服?

デバイス?

新たに、名が明らかになった謎の人物。あくまで自身で名乗ってるだけだが、「リュウセイ」というらしい。今もギンガとアキラの近くにいる?

 

 

ヴァルチ・メグ

階級:陸曹長

身長:150cm

防護服:陽炎

デバイス:暁

メグ「最近出番が少ないんだけど」

 

 

 

ノーリ・ナカジマ

階級:ヒルデ魔法学院中等科生徒

身長:162cm

防護服:なし

デバイス:ナンバーズ・ライザー

0078年の春からヒルデ魔法学院中等科に転入したアキラのクローン。ウィード事件が終わってからはナンバーズと同じ施設で暮らし、一般的な教養を受けていた。マリアージュ事件のあとにギンガ達に引き取られた。現在ヴィヴィオと共に格闘技を練習している。アインハルト・ストラトスとはクラスメイト。

 

 

チンク・ナカジマ

階級:上級士官

身長:小さい

防護服:シェルコート

デバイス:スティンガー

マリアージュ事件のあとにナカジマ家に引き取られた。最初は下級士官を望んでいたが、ギンガの強い押しによりキャリアを目指すことに。現在はアキラの補佐であるギンガの補佐になっている。犯罪者であったことに今も後ろめたさを感じている。



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黙示録事件編
プロローグ


うまく文章がかけません。一種のスランプです。次回はスランプがすぐ直れば一週間後に出します。最悪少し休むかもしれません。いつも自分の小説を楽しみに読んでくれている方にはまた待たせてしまうことになって申し訳ないです。ですが、今年中にはこの章を終わらせ、vividに食い込みたいと思ってます。


これは、アインハルト・ストラトスが少し騒ぎになるストリートファイト。それでノーヴェに出会う少し前に起きた大きな事件だ。大きな、本当に大きな事件だった。今もアレが暴れた街は修復が終わってない。バラバラになった街が完全に治るには今後何年かかるかはわからない。これは管理局がその存亡と市民の安全をかけて戦った。恐らく歴史に名を残すであろう事件だ。

 

 

 

ー黙示録封印の祭壇ー

 

 

ここは黙示録の書と黙示録の槍を封印している祭壇。サラが今も一人で封印をしながら監視をしている。警備は決して手薄ではなく厳重な警備をされていた。場所は管理局の超重罪人専用の牢獄施設の最深部。牢獄施設なのだから最初から警備も厚いのだ。

 

だが、この日は違った。

 

「…………おかしいですね。ここに父以外が来るなら、事前に私に連絡のあるはずですが………」

 

サラは背後に近寄る人物に言った。近寄っていた人物はその言葉で足を止めた。

 

「ほう、この位置からでも見えるのか。貴様には未来を見る力があると聞いたが、私のことは見えなかったか?」

 

「いえ、あなたがここに来るのは、予知夢で見てました。ですが、こんなにも幼いとは思わなかったので」

 

祭壇に侵入者が現れた。それも、幼い少女。服装はまるで何処かの民族と魔女を組み合わせたような服装。どう見てもミッドの人間ではない。

 

「ふ、見た目に騙されるとはキサマもまだまだ子供か」

 

「それより……何の御用でしょうか?」

 

「わかり切ったことを……」

 

少女が腕を動かした瞬間、サラはデバイスを持ち、振り向きざまに魔力弾を少女の腕に打ち込んだ。その瞬間、少女の腕は動かなくなり両足もバインドで縛られた。

 

「私は戦闘向きではありませんが、封印は得意なんです。さて、まずはお名前からお伺いしましょう」

 

サラの質問に少女はわずかに笑みをこぼした。

 

「……………私の名前はクラウド・F・オーガス!黙示録の主であり、この世界に復讐を、制裁を下す者だ!覚えておけ!」

 

叫ぶと同時にクラウドは封印魔法で動きを封じられた右手の封印を力尽くで破壊し、足のバインドを引きちぎってサラの横を通り抜けて後ろに回り込んだ。

 

「残念ながらお前の力では私には勝てん!」

 

「くっ!」

 

クラウドはサラが振り向き始めた時、袖の内側から一冊の本を取り出し、あるページを開いてそこに書いてある文字をなぞった。なぞった文字は光出し、本の上にエネルギーが溜まる。サラはエネルギーが溜まる直前に振り向き終わったがもう遅かった。

 

「力の差は歴然だ!!!」

 

溜まったエネルギーはサラの方に向かって拡散し、サラを入口まで吹っ飛ばす。サラは声を出す間もなく吹っ飛ばされ、壁に激突して気絶した。クラウドはそれを確認すると、祭壇の向こう側の洞窟に向かった。

 

「あそこに封印してあるのが…黙示録の書と槍か………」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー同時刻 ミッドチルダ 修行用滝ー

 

巨大な滝の中から上半身裸のアキラが刀を持ちながらフラフラと出てきた。アキラの前方の岩の上には白髪の男が立っていた。

 

「どーしたアキラ。お前、強くなったとか大口叩いてなかったか?」

 

「うっせぇよ義兄貴!!俺の魔力は殆どエクリプスと一緒に腕輪に封印されちまったんだ!無茶させやがって!」

 

アキラは滝つぼから出ると座り込んだ。そこに、ギンガがやってくる。

 

「アキラくん!レイさん!お昼にしませんか?」

 

「おう、ギンガ!ちょうどいい!今いくぜ!」

 

「まだ修行のメニューは終わってないがまぁいいだろう」

 

滝の横でナカジマ一家とアキラが義兄貴と呼び、ギンガがレイと呼んだ人物がお弁当を突っついていた。ギンガは哺乳瓶でアリスにミルクを与えていた。レイと呼ばれる人物は、フルネームで橘レイ。昔アキラのいた橘家にいた橘家の跡取りだ。今は、魔力とエクリプスを失ったアキラの修行を行っている。

 

「うん、うまい」

 

「俺の嫁の手作りだ。当たり前だろ」

 

「あら、ありがとうございます」

 

橘家専用修行用滝には似合わない和気あいあいとした風景が拡がるなか、滝の音が聞こえなくなったのに、アキラは気づくまで少し時間がかかった。

 

「…………ん?」

 

滝の音が止み、風は吹かず、落ち葉は空中で止まっていた。結婚式以来だ。時間が止まり、目の前に甲冑の男、リュウセイが現れるのは。

 

「………久しぶりだな」

 

「なんの用だ………」

 

「警告だ」

 

「毎度毎度ご苦労なこって。で、今回はなんだ?」

 

 

 

 

 

「黙示録の封印が破られた。命を張ってギンガを守れ。いいな」

 

 

 

 

 

続く

 



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第二話 挨拶

いろいろあって一ヶ月以上皆さんをお待たせしてしまい、申し訳ございません。今回は短いですが、次回に続かせるための布石と思ってください。
Fate/Grand Order 絆の力おかりします!という新作小説を出しました。そちらも合わせて読んでいただけると幸いです。皆さんのコメントが割りとやる気に繋がります。これからも応援よろしくお願いします。


「なん………だと?」

 

止まった時間の中で、リュウセイに伝えられた事実は衝撃的すぎた。世界の破滅とも言える「黙示録」シリーズの最も強力な「書」の封印が解かれた。

 

「サラも重傷を負わされた。いいか、命をかけてギンガを守れ」

 

「…………」

 

「なんだ?」

 

アキラはリュウセイに拳銃を向けた。

 

「前々から聞きたいと思ってた……………お前は一体なんだ?ずっと俺やギンガ、その他の人間の周りに現れる?何が目的だ?」

 

「……前にも言ったろう?俺はこの世界の管理人。この世界が正しい方向に進むために調整するのが目的だ」

 

「調整?」

 

「ああ。そうだ。俺はお前たちを歩むべき道に連れて行く。それが仕事だ」

 

アキラは銃の引き金を引いた銃口から弾丸が飛び出すが、リュウセイの目の前で止まった。リュウセイは弾丸を指でつまみ、そのままつぶして捨てた。

 

「正しい方向だと?お前のいう正しい方向が本当に正しいかもわからないのに?」

 

「ごもっともだが、心配するな。別にお前たちを悪用しようというわけではない。だからおとなしくいうことを聞け」

 

アキラは目にも止まらぬ早さで刀を掴み一気にリュウセイに切りかかった。リュウセイはそれを躱し、後方に下がった。

 

「なんだ?」

 

「そう簡単に信じられるかよ。そんなこと。そもそもファーストコンタクトの時からお前は不審者だったからな。いい加減何者で何が目的なのかしゃべってもらうぜ。世界の管理云々ではなく。俺らをどこへ導きたいのか」

 

アキラは刀を構え、戦闘体制に入る。リュウセイは軽いため息をついた。

 

「エクリプスも冥王の鎧も失ったお前が勝てるとでも?」

 

「だいぶスパルタな師匠ができたもんでね。自信はあるぜ」

 

「…………まぁ、たまには遊んでやろう」

 

リュウセイが軽く手を振ると、火炎が発生しその火炎のなかからレヴァンティンによく似た剣を出現させた。アキラはそれをみて驚くと同時に戦闘体勢に入った。

 

「…………………テメェ、その剣をどこで手に入れた」

 

「さぁ、どこだろうな。少しは自分の腕に自信がついたんだろ?俺を倒して力尽くで聞いて見たらどうだ?」

 

「…………それでいいならそうさせてもらうぜ!!」

 

アキラは刀を高速で振った。その攻撃はリュウセイのレヴァンティンに防がれたがアキラの攻撃はそれだけで終わらなかった。第一撃が防がれた瞬間にアキラは刀から手を離し、刀を握っていた手をリュウセイの首に運んでいた。さらに握っていなかった手で腰に装備していたナイフを掴みリュウセイに突き刺そうとした。

 

リュウセイは何も持っていない方の手からクロスミラージュに酷似した銃を出現させ、アキラの腹に突きつけた。一発強力な弾丸を喰らい、アキラは吹っ飛ばされた。だが空中で回転し、安全に着地する。

 

「痛ぅ…………クロスミラージュまで…」

 

「こんなのもあるぞ?」

 

リュウセイは魔法陣を通して今度はバルディッシュとストラーダを出現させる。

 

「………そうか、お前は武器を創り出しているんだな?それらを元々の持ち主から奪いとったのではなく……」

 

「どうだろうな、もしかしたら持ち主はもう死んでるかもしれんぞ?次元移動と時間停止能力を持つ俺なら今の一瞬で持ち主を殺して武器を奪還することなんざ余裕だが?」

 

「テメェ!」

 

アキラは逆上し、刀でリュウセイに再び切りかかった。リュウセイはその攻撃をバルディッシュで受け流し、ストラーダの刃の腹でアキラの背中を押す。

 

「どわ!」

 

アキラは盛大に転んだが、それと同時にリュウセイの足元を氷結魔法で凍らした。それによりリュウセイは動けなくなる。

 

「む?」

 

「氷牙大斬刀」

 

その隙にアキラは刀に氷を纏わり付かせることで巨大な剣を創った。

 

「この氷は、俺が命令しない限りぜってぇに溶けない氷で出来た刃「エターナルアイスソード」ってとこか」

 

アキラの「氷牙大斬刀」はいままで発動、及び刃の生成に時間がかかる技だったのであまり使うことはなかったし、アキラの創り出す氷そのものが熱や時間によって溶けてしまうことがあった。しかし、アキラの義兄の修行によってそれが強化され、耐久性と沸点と生成時間が上がり、運用しやすい武器になったのだ。

 

「ほぉ………まぁ、伊達に修行してた訳ではないみたいだな」

 

「氷刀、一閃!!!!」

 

一ミリのズレも無くアキラの刃は男に当たったと思われた。しかし、男はすでにその場から消え去りアキラの背後に立っていた。しかも、氷の剣は砕けている。

 

「!!!!」

 

「少し強くなったくらいでのぼせ上がるな。いいか、お前に必要なのはより過酷なトレーニングと、エクリプスだ。………おっと長話が過ぎたな。さっさとギンガの元に行け。いいか、この時間停止魔法が解けると同時にギンガが襲われる。魔法が解けるのは二分後だ」

 

リュウセイはそう言い残すと姿を消した。

 

「おい待て!………くそ!あの野郎!あとに二分だと……?だったら!」

 

アキラはすぐに氷の壁をギンガとアキラの義兄であるレイの四方に出現させた。アキラは上から氷の壁の中に入り、ギンガを抱きしめた。

 

「あと十秒…………」

 

十秒後、世界が動き始める。それとほぼ同じタイミングで、ギンガの座っている場所に魔力ホールが出現する。

 

「え………」

 

小さな悲鳴と同時にギンガはホールへ落ち始めた。アキラも一緒に落ちるかと思ったが、ギンガは抱いていたアリスをアキラに押し付けてホールへと落ちた。彼女は一瞬で何が起きたかを察し、アリスをアキラに渡したのだ。

 

「ギ」

 

「アキラはここにいろ」

 

その言葉がアキラに届き切る前にレイがホールに飛び込んだ。レイの両手にはワイヤーガンが握られており、片方をギンガにもう片方を入ってきた場所に向けた。

 

「二人とも受け止めろよ!」

 

レイはワイヤーガンのワイヤーを発射した。ギンガもアキラもワイヤーの先端を掴み、アキラが全力で踏ん張ることでレイとギンガはホール内の空間で止まった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ああ」

 

「ギンガ、無事か!?」

 

「うん、大丈夫ー!」

 

「わかった、引き上げる!」

 

アキラはワイヤーを一気に引き上げ、ホールの罠から二人を脱出させた。そっとギンガを抱きしめ、無事を確認するとアキラは氷の壁を解除した。

 

「あ、危なかった………」

 

「良かった………無事で……」

 

「思ったより人間らしいのだな橘………いや、アキラナカジマ」

 

安堵に浸っていられたのは本当につかの間だった。アキラはギンガの無事を確認すると同時に、背後から悪意に満ちた魔力と声を感じ無意識に刀を拾い上げ、振り向くと、そこには少女が立っている。クラウドだ。

 

アキラは一瞬誰かと思ったが、クラウドの手に抱えられた禍々しい魔力を放つ魔術書でだいたい誰かは想像がついた。想像は出来るが、念のために聞いた。

 

「お前………誰だ?その本はなんだ?」

 

アキラの質問にクラウドは少し驚いた顔をする。だがすぐに笑みを見せた。

 

「…………クックク…クハハハハハハハハ!!!」

 

「何なのあの子…」

 

急に笑い出したクラウドに対し、ギンガはまだ彼女の脅威には気づかずそんなことが言えた。だがアキラとレイは違う。直感が、自分の魔力が、クラウドを大いなる脅威と感じている。一瞬の油断も許さない、全身の筋肉が強張り、全身から汗が噴き出してくるようだ。

 

「ククク………私……いや、この書を目の前にして「お前は誰だ…」とな。てっきり襲いかかってくるかと思っていたがあまりに拍子抜けだったものでな。そうか、お前たちはあくまで説明を求めるか。まぁ、説明を求めるのは余裕からではなく目の前の受け入れ難い現実から目を背けたいがためだろう。私に聞いて自分が思っているのと違う返答が来てくれないかという願望からの問答……。それ程までにこの書はお前達の深層心理に深く恐怖を刻みつけているとみた………。まぁいい。誰だと聞いたな?この書は何だと聞いたな?では答えよう。我が名はクラウド・・オーガス。そしてこの書は黙示録の書だ」

 

刹那、アキラは懐から拳銃を取り出し、クラウドに向けてトリガーを引いた。銃口から飛び出した弾はまっすぐにクラウドの腕に向かって飛んで行く。発射から着弾まで約0.01秒。だが、弾丸はクラウドに当たる前に何かによって弾かれた。

 

「!?」

 

「まぁ、そう焦るな。私は今戦いにきたのではない。あくまで今回は挨拶だ」

 

「挨拶?」

 

「ああ。私は今戦力を集めてる。戦力が整い次第、この世界………ミッドチルダに宣戦布告を行う。お前は危険人物だからな。先に挨拶させてもらった」

 

「ふざ」

 

アキラは再び拳銃をクラウドに向けたがその瞬間、黙示録の書から伸びた一本の刃がアリスの喉元に向けられた。アキラは引き金を弾こうとしていた指を停止させる。

 

「……っ!」

 

「焦るなと言っただろう?それにそんなおもちゃじゃ私は倒せん」

 

クラウドは次元転移魔法を使って何処かへ消えた。

 

「せいぜい世界の終わりまであがいて見せろアキラ・ナカジマ」

 

最後に、その言葉を残し……。

 

 

 

続く

 

 

 



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第三話 始動

二ヶ月ぶりです。お久しぶりです。長いこと書かずにいて申し訳ありませんでした。ケータイをスマホ変え、fgoを始めたのと、ネタが思い浮かばない、春からの新生活が忙しすぎるという三倍アイスクリームでもう全くかけませんでした。今回は読者さんが意見をくれたのでそれをヒントに一気に書きました。ちなみに書けなかった期間の副産物としてFGOの小説が誕生しました。良かったらそちらも読んでください。これからは月一更新で行きたいと思います。毎度この小説を楽しみにしている方には申し訳ありません。調子がいいと周一で行けますので。調子が戻るまでもう少々お待ちください。


黙示録が持ち出された。史上最悪の呪いの書。それを持ち出したのは謎の少女、クラウド。一体彼女は何者なのか、何が目的なのかそれは判明しない。黙示録が持ち出されてから31時間彼女はなにかするでもなく、ただ陰に身を潜めていると思われていた。

 

 

「ここか………」

 

クラウドは次元拘置所を訪れていた。いや、正しくは侵入していたのだが。侵入し、向かったのはある男が捉えられている場所。クラウドは黙示録から生まれる黒い何かで鍵を精製し、扉を開けた。

 

「ほら、約束通り来てやったぞ。変人」

 

檻の中にいた人間は、ニヤリとほくそ笑んだ。

 

 

 

ー時空管理局本局 上層部ー

 

 

 

管理局では今回の黙示録の書の件について緊急会議が開かれた。使いようによっては人類を抹殺することなど容易い代物だ。緊急対策本部は一気に立てられた。だが、ことを大ごとにするとパニックの恐れがあったので今回対策本部長に選ばれたのは、管理局のお偉いさん合計四人。呼び出されたのはクラウドに会った人物たちだった。

 

クラウドはアキラだけではなく様々な人物に挨拶をしていた。主にそれは機動六課メンバー、なのは、はやて、フェイト、ティアナ、スバル、メグ。合計六人。

 

「さて、たった四人の対策本部にようこそ」

 

「ああ。あんたは?」

 

「ははっ聞いていた通りだな、アキラ・ナカジマ君。職場結婚、中々いいところまで出世しているのに、無愛想さは変わらないようだ。一応私は管理局では結構えらい方なんだがね」

 

「それは俺もだ。で、御託はいい。まず対策本部にいるのがなんでたったの四人なのか説明しろ」

 

四人のうち一人は随分と気さくな様子だった。どうやら四人の中では一番上、つまり対策本部のトップというわけだ。アキラの態度に無礼などとは思わず彼を受け入れ、説明を始めた。

 

「うむ、では説明しよう。っと、その前に自己紹介だ。私は小此木陽平。私の隣にいるのは助手のアスト・スエッタ」

 

小此木の隣にいた少女がぺこりと頭を下げた。

 

「アストの横にいるのがテレジー・シファク。アキラ陸尉殿とは面識があったかな?説明は省くが黙示録に詳しい人物だ。さらに隣にいるは、アリア。これは偽名だ。管理局のスパイでね。腕は一流だ」

 

一通り説明をすると、事件の話に戻る。

 

「今回の事件。仮に黙示録事件と名付けよう。これはこのミッドチルダ、いや、全次元に関わる重要案件だ。そう簡単に誰かに話していいことでも公開していいことでもない。だからこの事件に「関わらなくてはいけなくなった」人物だけで集まってもらった」

 

「…………」

 

「理由はわかるね?パニックを防ぐためだ。黙示録は相当危険な代物で都市伝説になるほど有名だ。これが持ち出された、つまり実在することが露見すればパニックは免れないのは簡単に予想できる。よって、今回は黙示録の存在を知り、今回の主犯と思われる少女に声をかけられた人物だけに集まってもらったわけだ」

 

 

 

集まった人数の少なさを説明されたあと多少の話し合いがあった。まずはこの事件で各々どう動くかはすべて小此木から指示を出すということ。決して口外はしないことの二点だけだ。そして、最後にアキラとギンガの話になった。

 

ギンガとアキラは管理局にとって重要戦力の一つである。しかし二人は現在産休中。子供の安全を第一にするなら無理に協力する必要はない。小此木はその決断を迫った。

 

「ナカジマ夫妻。あなた方はあくまで産休である身。今回の事件は命に関わる危険もない訳ではない。そこで聞きたい。あなた方はどうしたいかを。もちろん強制はしません。事件は我々に任せていただいて、育児に専念されるのも構いません」

 

「………協力しない場合はどうなる?」

 

「いえ、どうもしませんよ。ここで話されたことは口外しないことを約束していただければそれで結構です」

 

「……………アキラ君」

 

アキラは少しギンガを見つめると口を開く。

 

「俺はギンガと一緒にいるのが一番だ。お前と一緒に幸せな夫婦生活をするのが夢だった」

 

「……うん」

 

「だが今回の案件は、そんな幸せな時間すらも壊しかねない。だから、俺だけ参加する」

 

「なっ!」

 

それは、ギンガにとってかなり驚くべきアキラの決意、発言だった。

 

「どうして!私は…」

 

「ギンガ……お前は、アリスを近くで守ってやってくれ。俺ら二人が出てって、両方やられたら、誰がアリスに愛情を与える?」

 

「…………死ぬ気なの?」

 

不安そうな目でギンガが尋ねる。

 

「まさか…………だが、今回は相当危険を伴う…………だよな?」

 

アキラは最後の一言を小此木に対して言った。小此木は小さく頷いた。

 

「だから、俺だけ行く。お前は家でアリスと」

 

「ダメ…行かせられない!」

 

「ギンガ…………」

 

その後、アキラは何とかギンガを説得しようとしたが、ギンガは譲らなかった。なので結局アキラは緊急事態のみ招集される嘱託魔導師として待機することとなる。一応事件に協力する形ではあるが、なにか相当大変な事態にならなければ呼ばれない。しかも周りの面子はS級の魔導師ばかり。アキラの出番はほぼないだろう。

 

「協力してやれなくて悪いな」

 

「いや、大丈夫だ。娘さんを大切にしてやってくれ」

 

「ああ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ー帰り道ー

 

 

「……………」

 

「怒ってるのか?」

 

帰り道、ギンガとアキラは何も話してなかった。いや、アキラは何度か話しかけたが、ギンガはほとんど反応しようとしなかった。怒っているのか、何なのか、なぜ反応してくれないのかアキラは全くわからなかった。

 

「なぁ…」

 

「は……」

 

「ん?」

 

「アキラ君は、どうして自分の命を顧みないの?あなたのことを大切に思ってる人も沢山いる………あなた一人の命じゃないんだよ?」

 

ギンガは心配をしていた。まるで、アキラが死に急いでいるように思えたからだ。まだギンガはサラの言ったことを覚えている。自分とアキラが一緒にいれば、アキラは死ぬ可能性があるということ。ギンガはそれが心配だった。

 

アキラは少し笑ってギンガを抱き寄せた。

 

「…………俺はさ、ギンガと出会って、幸せになれた。けどさ、どこまで幸せになっても、誰より出世しようと、俺にできることはただ一つ。守るために戦うってことだけ。手が届くのに手を伸ばさないなんて、俺にはできない。お前と会って、管理局に入って、伸ばせる手の距離が広がった。だから、俺はもっともっと手を伸ばしたい。だから、俺はそのために命を張る」

 

アキラらしい理由だと思った。でも、ギンガには、それ以上に、アキラに自分の心配して欲しかった。

 

「…………大丈夫。お前を一人にゃしねぇよ。死なねぇ工夫はしてるつもりだ」

 

「うん」

 

アキラは笑ってギンガの頭をガシガシと乱暴に撫でた。ギンガは少し自分の心を見透かされた気がした。だが、二人の気持ちが繋がってると考えると少し嬉しかった。

 

「さ、帰ろうぜ」

 

「うん」

 

 

 

ー翌日 ナカジマ家ー

 

 

 

[てなわけで頼むぜノーヴェ]

 

この日、珍しくアキラがノーヴェに連絡をしていた。内容は、ギンガは育児で体調を崩した、自分は育児で忙しいので代わりに買い物に行って欲しいとのことだ。

 

「あのなぁ、こっちは今世の中のために働こうとウゼェ姉とわざわざ勉強会してんだ。他当たれ」

 

[そんなこというなよ〜。ナンバーズ姉妹の中でもお前がトップクラスの成績で、多少は余裕あるかなって思ったから頼んでんだぞ?つまりお前の実力を認めてるってことだよ。俺がギンガを傷つけたお前らを認めてるんだぞ?感謝して買い物くらいいけってんだよな〜?アリス?]

 

普段と、アキラの様子が違うことにノーヴェが気づいた。

 

「何かあったのか?」

 

[ん?]

 

「お前は普段、そんなしゃべり方しない。ギンガが体調崩したってのもなんか不自然だし。ギンガなら育児くらいじゃなんともないって気がするだけだけど」

 

ノーヴェの予想は大当たりだ。アキラは最初、クラウドに狙われたギンガの身を案じ、側を離れることも外に出ることも危険だと判断した。だから今、ノーヴェにお願いしてるのだ。しかし、身内とはいえ黙示録のことを言えるはずもなく、適当言って誤魔化しているだけだ。

 

[あのなぁ、育児は大変だぞ?四六時中泣き続ける娘をあやし、夜中は三時間ごとくらいに起こす。それがどれだけ大変か………とはいえ、娘が可愛いから許しちゃうんだよなぁ]

 

誤魔化した。アキラは話を茶化したり、誤魔化したりする時に特有の癖が出る。下で頬の内側を押すのだ。ノーヴェは海上隔離施設にいた時にそれをアキラとギンガのいちゃつくシーンで嫌というほど見てきた。

 

しかしそれは口に出さず、ため息を一つ。

 

「はぁ、わかったよ。……………何があったかしらねぇけど、無理はすんなよ」

 

[おう、ありがとなー]

 

「ノーヴェ、クッキー焼けたよー……ってどこ行くの?」

 

部屋を出ようとしたノーヴェの前にスバルがやってきた。スバルは詳しい方針が決まるまで待機、その間救助隊も休むということで、家にいた。なので姉妹の資格ゲットの勉強を手伝っているのだ。

 

「身内のバカップルから買い物を頼まれたからいってくる。それくらいはいいだろ?」

 

「あ、じゃあ私も行く!久しぶりにアリスちゃんも見たいしねー」

 

「んじゃいくか」

 

 

 

 

ー商店街ー

 

 

 

「頼まれたのは…………あとはオムツか」

 

「何だか、アリスちゃんのためのものと、保存食とかが多いね」

 

(やっぱなんかあったのか…………)

 

ノーヴェは考え事をしながらスーパーの中のオムツコーナーに向かっていた。

 

「えーっと頼まれたメーカーはっと………」

 

アキラはアリスのお気に入りのメーカーをノーヴェに頼んでいる。それをスバルと探していると、背後から声をかけられた。

 

「すみません」

 

「ん?じゃなかった、はい」

 

振り返ると、長い髪の女性が立っている。

 

「ノーヴェ・ナカジマさん…………でしょうか?」

 

「…………管理局の人間か?」

 

自分の名前を言われた瞬間、ノーヴェは嫌悪感丸出しで女性に尋ねた。ノーヴェの名前を知っているということは、管理局の人間くらいだ。それが、事件を起こした自分に文句でも言いにきたのと考えてしまったから。もちろん、普通はそうは思わない。だが、ノーヴェは直感的に嫌な人間だと感じたのだ。

 

「いえ、管理局ではありませんよ。それで、あっています?」

 

「…………そうですけど」

 

「ノーヴェその人は?」

 

ノーヴェが誰かと話してるのをみてスバルが駆け寄ってきた。

 

「あら、スバルさんまで!これは都合がいいです」

 

「え?」

 

「まとめて連れて帰れるのですから」

 

ぼそりと最後の言葉を言うと、女は手に槍を出現させて大きく振りかぶった。その刹那、スバルはノーヴェを押し、自分も横に避ける。それから一秒経たないうちに、ノーヴェの立っていた空間を槍の刃が通り抜ける。

 

「っ!!!」

 

「ノーヴェ!店の外に!」

 

「わかってら!!!」

 

二人は慌てて出口まで走り、店の外に飛び出して行った。逃げる二人を見ながら女は槍を消滅させ、ゆっくり歩き始める。

 

 

 

 

ー路地裏ー

 

 

 

 

店を飛び出した二人は離れた場所の路地裏を走っていた。スバルは息を切らしながらマッハギャリバーに周囲を探知させた。

 

「マッハギャリバー、近くに敵は!?」

 

『Not』

 

「ありがとう…………」

 

「何だったんだ……さっきのやつ」

 

「とりあえず、私たちが狙いだったみたいだね………っていうことは戦闘機人が狙い…。とりあえずアキラさんとお父さんに連絡を………」

 

「その必要はありません」

 

「!!」

 

スバルがアキラ達に連絡をとろうとした瞬間、上空から声がした。さっきの女の声。スバルが上を向くと、路地裏に通っている電線の上に女が立っていた。

 

「くっ……どうやって探知じゃ反応はなかったのに…」

 

『Master, the system is jacked』

 

「え!?」

 

「ただの基礎プログラム程度の探知では私は捕らえられませんよ?それから、ご家族への連絡も不要ですよ。すでにそちらには、私の姉妹が向かっています」

 

「………っ!テメェ何者だ!何が目的だ!」

 

「私は………あなた達と同じ、ですよ。目的は言えませんが、名前だけはお教えしましょう。私の名前は、今はゼロ・サード」

 

「!?」

 

「まぁ詳しい話は私達の家に来てから話しましょう」

 

そう言うとサードは再び槍を出現させ、構えた。スバルはマッハギャリバーを構え、ノーヴェの前に立つ。

 

「くっ、ノーヴェ、下がってて。とりあえずあっちから来るなら、正当防衛位には出来る!」

 

「正当防衛………うふふ、大した自信ですこと」

 

サードは槍を振り上げ、電線から飛び降りた。スバルは一瞬でBJを纏い、バリアで女の槍を防いだ。

 

「ノーヴェ!行って、みんなに注意を!」

 

ノーヴェは小さく頷き、走り出した。

 

「あら、逃がしませんよ」

 

サードが指をはじくと、結界が展開された。結界内には三人以外の人間がいなくなる。

 

「結界…」

 

「さぁ、スバルさん、あなたもこれなら全力で戦えるでしょう?かかってきてください?」

 

(今回の目的は力量の測定。その後、壊さずに連れて帰る。全力を出してもらわねば)

 

 

 

 

続く



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第四話 戦記

最近ペース早くなって調子が戻ってきました。夏休みだからかなw。さて今回は意外な進展があるかも?次回はおそらく来週には出せると思いますご期待ください。あとFGOの小説も書かなきゃなんでもしかしたら投稿遅れるかもです。そっちの方もよろしくお願いします。


「はい!わかりました!では結界破壊工作員をそちらに送ります!」

 

108では街中に突如発生した結界の対応に追われていた。ゼロ・サードの発生させた結界だ。

 

「隊長に連絡は!?」

 

「一応回しました!。状況によっては出動するようにと!」

 

「おっけー!あたしが行くわ!セッテ!アキラの部隊の連中呼んどいて!」

 

「はい!」

 

アキラのいない今、一応メグがアキラの部隊の隊長代理を務めている。ちなみに副隊長代理はチンクである。二人は武装隊と結界破壊工作員を多人数乗車型の車に乗せ、現場へ急行した。

 

 

 

ー現場 結界内ー

 

 

 

「でぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!」

 

スバルはサードと戦闘を開始してすでに数分。状況はどちらかというとスバルが押されている。主な原因としてはサードは飛行型で、槍使いなことだ。武器のリーチが違えば、空中での自由度も違ってくる。

 

「サンダー!」

 

「マッハギャリバー!」

 

『all right』

 

そしてサードの雷系の遠距離魔法スバルは回避運動をマッハギャリバーにすべて任せ、何とかサードと互角に戦っていた。

 

「ナックル、バスター!」

 

「ライトニングブラスト!」

 

お互いの魔法が空中でぶつかり合い、爆発した。スバルは発射地点からウィングロードをまっすぐに突き進んで爆煙のなかを突っ切りながらサードに突撃する。

 

「あぁぁぁぁ!」

 

「あなたの本気はこの程度?」

 

スバルの放った一撃はサードの槍に防がれた。

 

「くっ!」

 

「もっと、全力でかかってきなさい!」

 

 

 

ーナカジマ宅(アキラ宅)ー

 

 

 

「…………わかった。なら俺が向かう」

 

通信を受けたアキラは抱きかかえていたアリスをギンガに渡した。ギンガは心配そうな顔でアキラを見つめる。アキラはアリスの頭を優しく撫でる。

 

「そんな顔すんな。ちょっといってくるだけだし、多分巻き込まれてんのはノーヴェだ。他の奴らの話だとスバルも一緒らしいからすぐに終わらせる」

 

ノーヴェに頼み忘れたものを言おうと通信を使ったが、ノーヴェには繋がらず、家に連絡をとっても留守番のウーノしかいなかった。ウーノによればスバルと一緒にノーヴェが出かけたらしいが、スバルにも連絡が取れなかったところで108から連絡があったのだ。

 

アキラは笑顔で今度はギンガの頭を撫でた。

 

「うん、絶対無事で帰ってきてね」

 

「ああ」

 

アキラは戦闘準備をして自宅から発進した。

 

 

ー結界付近ー

 

 

「見えてきた!あそこね!」

 

「はい!」

 

「総員戦闘準備!破壊工作班は先に発進して結界を…」

 

「メグ陸曹長!前を!」

 

メグが一瞬後ろを向いて部隊に命令した時、横に座っていたチンクが叫んだ。前を見ると、誰かが進行方向に立っていた。

 

メグは急ブレーキかけてぶつかるギリギリで止まった。

 

「ちょっと!こっちは管理局の緊急車両よ!今すぐ退かないと公務執行妨害でしょっぴいて……」

 

「べつに構わぬ、もとよりそのつもりだ」

 

車の前方に立っていたのは緑色の髪をした少女。見た目17歳くらいであろうか。その少女はそういいながら手を前に向けると、腕に巨大な盾が装備された。

 

「!?」

 

刹那、メグは魔力を全開にし、自身の魔法「幻影回避(ファントムスッテプ)」を車体全体に反映させた。それとほぼ同時に少女の盾から一本の刃が凄まじい勢いで射出された。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

メグたちの乗った車は何とかファントムステップで避け、直撃を免れた。だが、車は横道へ逸れて反対車線の先の電柱にぶつかって停止した。

 

「避けたか…………」

 

生きているかどうかを確認しようと少女のが近づくと、車からBJを纏い、ロッドモードの陽炎を持ったメグが飛び出してきた。少女はメグの攻撃を避け、後ろに飛んだ。

 

「ほう、お主はもう前線から身を引いたと聞いていたが」

 

「時間稼ぎ位はやってやるわよ…」

 

「そうか……他の者は先に行かせたか…………全員の足止めが目的ではあったが……まぁいいだろう。元騎士団長との一騎討ち、心が踊る!!!我が名はゼロ・ロク!行くぞ!ヴァルチ・メグ!」

 

大きな声で名乗ると、バリアジャケットを身に纏った。和風のBJで、装備の巨大な盾とはあまりあってないように見える。

 

「あんま張り切んないでくれると助かるわ!」

 

メグとロクの戦闘が開始され、付近にいた一般人は逃げ出した。

 

 

ー結界付近ー

 

 

「こちら陸士108部隊、チンクナカジマ!アキラ隊長!聞こえますか?現在事件現場に急行中に謎の人物によって襲撃にあい、メグ隊長代理がその相手をしている!敵は複数いると思われ、申し訳ないが隊長の出撃を……」

 

現在、メグが逃がしたチンクと武装隊のメンバーは走って現場に急行していた。そしてチンクが自分のデバイスでアキラに連絡をとっている。

 

『心配すんな。もう向かってる』

 

「え…」

 

その瞬間、走っているチンクたちの横を、ブラックレイランサーを装備したアキラのバイクが通り過ぎた。

 

「アキラ!?」

 

アキラは結界に向かってブラックレイランサーの魔力砲を放つ。砲撃の反動でバイクが低速しないようにバイクの数カ所からブラックレイランサーによって追加装備されたブースターが火を吹き、移動速度を保つ。

 

魔力砲が結界に命中すると結界の一部だけ効力が薄まり、そこに向かってアキラは突っ込んだ。

 

「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ブラックレイランサーの槍が結界を突き破りアキラは結界内へ侵入した。だがすぐに入った部分は修復される。チンクはそれを見送るとすぐに部隊に命じた。

 

「各員結界の破壊作業にあたれ!戦闘、及び確保隊は結界前で待機!隊長はきたが油断は禁物だ!」

 

「はい!」

 

 

 

ー結界内ー

 

 

 

「マイティギャリバー、モードにて待機」

 

『all right』

 

アキラの手に持っているギンガやスバルのギャリバーズと同型等のデバイスが光り、形状を手を添えて打つ位のサイズの銃に形を変えた。

 

「…………妙だな。静か過ぎる」

 

アキラは何か怪しく思い、バイクを走らせようとしたその時、前方からいきなり雷が飛んでくる。アキラは慌ててガードでそれを防いだ。

 

「どわ!」

 

「あら、誰かと思ったら…………兄様」

 

「あ?」

 

攻撃が飛んできた方を見ると、一人の女性が中に浮いていた。サードだ。そしてその脇にはぐったりとして動かないスバルが抱えられていた。アキラはそれを見た瞬間にライフルをサードに向けた。

 

「お前!そこで何をしてる!こちらは管理局陸士108部隊だ!………脇に抱えている女はどうした!」

 

「ああ、この方ですか。私が…」

 

アキラはゆっくりと引き金に置く指の力を強くして行く。狙いはスバルが抱えられている手。

 

「倒させていただきました」

 

直後、アキラは引き金を思いっきり引いた。銃口から魔力弾が発射され、弾はまっすぐにサードの腕目掛けて飛んで行った。

 

「あら」

 

当然そんな一発は簡単に防がれる。サードは槍を振って魔力弾を弾いたが、アキラはすでに次の手に移っていた。ブラックレイランサーのシステムでウィングロードを出現させ、ブラックレイランサーを装備したバイクでサードに突進していた。

 

「おぉぉぉぉぉ!」

 

「単純な特攻…」

 

すぐに避けようとしたが突然サードの背後に魔力弾が命中し、そこからバインドが発生してサードを縛った。

 

「なっ!」

 

「だらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

サードはブラックレイランサーの槍をもろに喰らい、スバルを手放すと同時に吹っ飛ばされた。アキラは投げ出されたスバルをすぐに救出する。

 

「一体どこから弾丸が………」

 

「俺の撃った弾をお前が弾いてるうちに別の誘導弾を撃った。ただそれだけだ。俺の特攻の直前にお前に弾が当たるように計算してな……………。まぁそんなことはどうでもいい。お前は何者だ………俺の家族に、義妹をひでぇ扱いをした罪は…………償ってもらうぞ…………っ!」

 

「あら………」

 

アキラが銃を向けるとほぼ同時にサードを囲むようにして魔導師が現れた。そしてアキラの張ったウィングロードを伝いチンクが駆けつける。チンク達が結界内に侵入してきたのだ。

 

「アキラ隊長!ご無事ですか………スバル!」

 

「ああ、チンク。ご苦労。ちょうど今この犯人と思しき奴に尋問をしてたとこだ。だが、もう公務執行妨害罪でしょっぴくことは決まってる。スバルは心配すんな」

 

アキラはバイクを近くのビルの上に停め、魔法陣で足場を作ってサードの近くに立つ。

 

そして武装隊のメンバーに確保に移るように命じた。

 

「確保に移れ!」

 

「はい!」

 

アキラの合図でサードバインドで縛られた。

 

「あらあら困りましたねぇ」

 

「動くな!」

 

「観念しろ!」

 

「……………………こんな早期にこれを見せるのは不本意ですが、セカンドを持って帰るためですしね。仕方ありませんか」

 

サードは何か独り言を呟いた後、そっと目を瞑った。その瞬間、アキラは嫌な気配を察する。

 

「システムロード」

 

「離れろ!」

 

アキラの声が響き渡る前に、サードの周りにいた魔導師達は身体の何処かを切り裂かれ、吹っ飛んだ。アキラはギリギリでガードしていたが、再び姿を現したサードと目が合った時。

 

サードはニヤリと笑い、またその場から消えた。

 

(まずい………)

 

迫り来る魔力に意識が反応していても身体が追いつかない。目の前に一瞬サードの髪が見えた。それと同時にアキラは切り裂かれる覚悟だったが、何か軽い衝撃と共に地面に叩きつけられる

 

「!?」

 

「いたた………無事ですか?隊長…」

 

チンクがガードを張りながらアキラの前に立ち、庇ったのだ。

 

「大丈夫かチンク!」

 

「はい、大丈夫です………それより……」

 

チンクがサードに視線を向ける。サードはスバルの寝かされているビルまで行き、再びスバルを回収した。

 

「今のは高速移動?目にも止まらぬ速さだった……」

 

「だが、見たことはあるあれは………」

 

その時だった。子供の泣き声が聞こえた。

 

「!?」

 

「あれは……っ!」

 

後方を見ると、小さな女の子が人形を抱えて泣いていた。結界を張った所に巻き込まれたのであろうか。

 

「あら、邪魔なハエが一匹………」

 

少女の姿はサードも視認していた。だが、その子のみを結界から出そうとするはずもなく、手に雷を圧縮して作った魔力槍を生成して少女に向けた。

 

「!。やめろー!」

 

「なら、止めてみなさいな」

 

そういいながら止める間もなく少女に向けてサードは槍を投げた。アキラは急いで自分が立っている魔法陣から飛び降り、マイティギャリバーに命じる。

 

「マイティギャリバー!ローラー!!」

 

『all right』

 

マイティギャリバーが銃の形から変形し、アキラの足に装着されてスバルやギンガの装備しているローラーブーツと似た形になった。

 

「間に合えぇぇぇぇぇぇ!」

 

「きゃぁ!!!」

 

間一髪、アキラは頑丈な左腕を盾にしてサードの槍を防いだ。しかし、左腕は特殊合金でできているにもかかわらず、槍はアキラの腕を貫通して左肩に槍の先端が刺さった。

 

「ぐぅ………」

 

「隊長!貴様っ!」

 

チンクはすぐさまサードに向かってスティンガーを投げた。だがサードは再び高速移動でそれを回避し、チンクを蹴り飛ばした。

 

「ぐぁぁぁ!」

 

「………」

 

「「ロック!」」

 

「!」

 

しかしサードを蹴り飛ばす為に止まった一瞬を狙われ、アキラとチンク、二人分のバインドで捕獲される。そしてアキラはマイティギャリバーの形態を砲撃型最大出力の「カノン」に変形させた。

 

「非殺傷設定!出力最大、バスタァァァァァァァァ!!!!!」

 

「くっ!」

 

なんとかバインドを解こうともがくが外れず、直撃の覚悟を決めた時、サードと砲撃の間に誰かが割り込んだ。割り込んだ人物は砲撃に向かってる持っていた武器を振り上げる。

 

「一閃!!!!!!」

 

砲撃は二つに切り裂かれ、サードには命中せずに終わった。

 

「遊びが過ぎたか?サード」

 

「いいえ、純粋に油断しただけ。セカンドは手に入ったしさっさと帰りましょ、シックス」

 

「ロクと呼べ」

 

「逃がすかよ!バス……うぐ……」

 

アキラはカノンを構えるが、左腕を貫通した槍のダメージで少し動けなくなってしまう。チンクも蹴られたダメージは相当なものでバインドを使って倒れてしまっていた。

 

「さらばだ、橘アキラ」

 

「違う、アキラ・ナカジマだ。シックス」

 

「ロクだ」

 

くだらないコントを残し、二人は去って行った。アキラは無理をすれば追いかけることはできたが戦力差もあるし、先ほど庇った少女を巻き込む訳にはいかなかった。二人がいなくなるとすぐに結界は消えた。

 

結界が解除されると辺りは結界を封鎖する為の車や管理局員。アキラは少しため息をついて先ほど庇った少女の方を向く。

 

「ちっ……………君、大丈………え?」

 

ここにきてアキラはようやく少女の顔を見たが、その容姿に驚いた。少女はギンガにそっくりな人物だった。ただ、異なる点はある。まず髪の色、ギンガの髪の毛は青の強い紫色なのだが、ギンガそっくりな少女はノ―ヴェやウェンディの様に真っ赤な髪をしていた。そしてなにより、ギンガとの決定的に違うのはその見た目だった。

 

ギンガはもう二十一歳であるが、目の前の少女はヴィヴィオと同い年かちょっと年下な印象を受ける。髪の色を除けば、ギンガの昔の姿、アリスの未来の姿と言っても過言でない少女。その姿に驚いていたアキラであるがいつまでも驚いている暇はない。彼女を抱き上げると急いで救護車が停まっている場所へと向かった。

 

少女を救護車に預けると同時に、近くのビルの影から誰かが倒れるようにして出てくるのを目撃する。アキラは一瞬敵かと慌てたがそれがノーヴェだとわかるとすぐに駆け寄った。

 

「ノーヴェ!大丈夫かおい!」

 

「う…………アキラ………。ワリィ。しくじった………」

 

「何があった!大丈夫か?」

 

「急にスバルと一緒に襲われて、スバルが戦ったんだが、倒されちまって………スバルを倒した奴に散々追いかけ回されて…」

 

「お前だけでも無事で良かった。姉は嬉しいぞ」

 

チンクもフラフラとノーヴェの元にやってきて言った。

 

「とにかく救護車にのれ。話はそれからだ。…………あとは」

 

アキラはギンガそっくりの少女の方を見る。偶然結界に迷い混んだ迷子少女。それだけではすまなそうだったからだ。少し、話を聞く必要がありそうだ。

 

「……………」

 

 

続く

 

 

 

 

 

 



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第五話 安否

遅くなりました。コミケに行ってきました。楽しかったです。自分の小説もいつかコミケに並ぶ時がくるかもしれません。次回は今月中にまた上げます。今回はタイトルに悩むほど進展がありません。
もう少しかきたいのですが疲れたので次回のお楽しみということで


かつて管理局において危惧された闇の書と言われるロストギア。現在はプログラム内容が変更され、夜天の書と名を変えて八神はやてが主となっているロストギアの一つ。

しかし、その闇の書と呼ばれたロストギア以上のロストギア、『黙示録の書』。その史上最悪のロストギアの封印が破られ、クラウドと名乗る人物の手に渡ってしまった。不安と暗雲が渦巻くミッドの中でアキラは家族を守る為に今回の事件に関しては消極的な姿勢を取る事にし、事件解決まで極力外出を控えることにした。そして、その期間中の必要最低限な生活物資の買い出しをナカジマ家に養子入りをし、アキラの義妹となったノーヴェに頼んだ。ノーヴェは渋々アキラの頼みを聞き、新たな姉となったスバルと共にアキラから頼まれた買い出しへと出かけた。その最中、ノーヴェとスバルはゼロ・サードと名乗る人物に襲われる。サードの目的は自分とスバルの二人‥戦闘機人だった。スバルは果敢にサードへ挑むが敗北し、ノーヴェ自身も重傷を負ってしまう。ノーヴェとスバルの襲撃の報告を受けて108部隊は現場に急行し、その報告を受けたアキラも現場へと向かう。

そして現場にアキラ達108部隊の局員らが来てサードの確保を試みるも失敗。更にサードの仲間と思しきゼロ・シックス、自称ロクと名乗る人物も参戦し、事態はアキラ達にとって不利な状況となった。やがて、サードとロクの二人はスバルを攫いその場から去って行った。

そしてその戦闘が行われた現場にてアキラが保護した昔のギンガそっくりの謎の少女‥‥。サードにシックス(自称:ロク)と名乗るスカリエッティが生み出した戦闘機人とは別の戦闘機人達‥‥。今回の市街地での戦闘とスバルの誘拐は黙示碌の書を巡る事件の序章にしか過ぎなかった。

 

 

「いったい!!!‥‥もっと優しくやってよ!!」

 

シックスとの戦闘で負傷したメグも無事に救助されて現在手当てを受けている。しかし、あれだけ大きな声を出せるのであれば大丈夫だろう。

そしてサードとの戦いで負傷したノーヴェも今は救護車の中で応急手当てを受けている。

 

そしてアキラは、自身が守ったギンガによく似た少女に質問をしに行っていた。アキラは子供が生まれ、幸せな生活を送ってきたおかげか、とても柔らかい笑顔を浮かべる事ができるようになっていた。少女に、怪しさを感じさせないとても親切な笑顔を浮かべ、少女に話を聞く。アキラはそっとしゃがみ、少女と目線を合わせた。

 

「こんにちは、素敵なお嬢さん。怪我はないかい?」

 

「………………」

 

少女は小さく頷いた。それにしてもギンガによく似ている。正確には、小さいころのギンガだが。

 

「お母さんとお父さんは?」

 

「わかんない………」

 

(わからない?…………どこにいるかわからないってことか?)

 

少女の返答に少しおかしいと思ったがアキラは深くは追求しなかった。

 

「お家の場所、わかるかい?」

 

「わかんない……」

 

「そうか…………じゃあお母さんとお父さんが見つかるまでお兄さんたちと一緒にいような。お名前は?」

 

「フランシス………………」

 

「フランシス………苗字は?」

 

「苗字………?」

 

まだまだ幼い子供だ。苗字というものを知らないのかもしれないと考え、また、上手い聞き方も思いつかなかったのでとりあえずそれで良しとした。フランシスということだけわかれば、親を探すには十分だろう。それに親だって探していると考えそれ以上は必要ないと思ったのだ。

 

「オッケー。ありがとな」

 

(しっかし、ギンガにこんなに似てるっていうのは、何なのかね)

 

「うわっと!」

 

アキラが疑問を抱きつつも立ち上がると、フランシスとの会話が終わるまで待っていたノーヴェとぶつかった。ノーヴェはアキラにぶつかっただけです尻餅をつく。

 

「おっと………ノーヴェ、大丈夫か?動き回るのはちゃんと病院で検査してから…」

 

「それどころじゃないんだ…アキラ、さっき言い忘れたんだが、あたしたちを襲った奴らの姉妹が、お前の家にもいってるかもしれないんだ!あいつがそう言ってた!」

 

「なに!?」

 

予想外の緊急事態にさすがのアキラも焦る。フランシスのことを書いた端末を近くにいた管理局員に押し付け、バイクに飛び乗った。

 

「あとのことは頼んだぞ!隊長代理!」

 

「アラホラサッサー」

 

メグはめんどくさそうに答えた。

 

だいぶ周りの人間に事後処理などを無理やり押し付けたが家族の危機が迫っていると言うのだからアキラの行動は当然と言えば当然なのだろう。というかそもそも休暇中の身であるから本来アキラのやるべき子でないのだが。

 

アキラは物凄いスピードで家に戻って行った。その様子を、フランシスはじっと見つめていた。

 

 

 

 

ーナカジマ宅(ゲンヤ宅)ー

 

ウーノは一人ぼっちで留守番をしていた。彼女は悩む。これからの人生を。自分のすべてはスカリエッティにあった。あった筈だった。アキラに言われた一言で、それがすこし変わり、最終的に平和な日常で過ごす道を選んだ。

 

チンク達もそうだったらしい。アキラと死闘を演じた末、彼の説得に応じた。チンクはもともと温厚な性格だったからそうでも不思議はなかった。だがしかし、その説得の現場にノーヴェもいたからこそ驚いている。

 

「結局私は何を求めてここにいるのでしょう」

 

そして、今何よりも悩んでいるのがスバルのおいて行ったクッキーの処分についてである。

 

スバル自身は大食いで、ノーヴェの分、ウーノの分とあったのだが二人は出かけてしまった。しかも全然戻ってこない。そろそろ戻ってきてもいい時間なのだが…。だがこれ以上待つのは問題がいろいろある。まずクッキーが湿気てしまう。そして量が量なのでウーノ的に夕食に影響が出てくる。

 

「………………さっき連絡がありましたし、ギンガのところに差し入れに行きますか」

 

(それにしても、さっきの連絡………二人に何かあったのでしょうか?)

 

 

 

ーナカジマ宅(アキラ宅)ー

 

 

 

ギンガがアキラの安否を気にしながらアリスと共に帰りを待っているとインターフォンが鳴る。

 

「?。誰だろう」

 

インターフォン前のカメラが移したのはウーノだ。

 

「あら、ウーノ」

 

「こんにちは。スバルが焼いたクッキー、おすそ分けに持ってきたのだけれどいかがかしら?」

 

ウーノはなれない笑顔を浮かべながら。持ってきたクッキーを見せる。ウーノは実はギンガに会うのは少し後ろめたさがあった。彼女は心が広く、優しいのはわかっている。だが、影でどう思われているか、少し怖かったのだ。

 

「ちょっとまってて今行くわ」

 

ギンガは訪ねてきたウーノに対し、笑顔で受け入れた。彼女の何者も否定しないような明るいその声を聞けただけでもウーノの肩の荷は少し軽くなった。

 

少しするとギンガが玄関から出て来る。

 

「わざわざありがとう。ウーノ。良かったらお茶でも飲んで行く?」

 

「…………いいの?」

 

普通に受け入れられ、今まで誘われたことのないようなことを言われ、ウーノは少し戸惑う。

 

「……………ウーノ」

 

少しウーノがどうしようかと迷っていた時に、ギンガが何かを尋ねるトーンでウーノの名前を呼んだ。

 

「?」

 

「そっちにいるのは知り合い?」

 

「え?」

 

ウーノはギンガの視線の先を見る。そこにはウーノの持っているクッキーの入った箱をもの珍しげな目で見ている銀髪ロングの少女が一人。

 

「……………」

 

「あの……」

 

困った顔でウーノはやっと声を出した。するとそれに反応して少女も声を出す。

 

「ねぇ、これなに!?」

 

「えっと…………クッキー………ですが」

 

ウーノもわからない状況にギンガは見守ることしかできない。ウーノは少し笑顔を作り、箱から小分けにしてあったクッキーを一袋取り出した。

 

「差し上げましょうか?」

 

「くれるの!?本当!?」

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとー!!!」

 

少女はクッキーをもらうと嬉々として何処かへ走って行った。

 

「何だったんだろう、今の子」

 

「さぁ……」

 

 

 

ーアキラ宅付近ー

 

 

アキラは家に向けてバイクを飛ばしていた。途中、マイティギャリバーでギンガに連絡を取ろうとするが、返事はない。

 

「くそっ!もう襲撃されてるのか!?」

 

アキラはバイクをフルスロットルにして自宅に向かった。ちなみにこの時、ギンガはウーノを玄関まで迎えに行っていてブリッツギャリバーを置いてきてしまったのだ。

 

「ギンガっ!……」

 

もうすぐ自宅に着こうというところで、アキラのバイクは、一人の少女とすれ違った。ほんの一瞬、一秒にも満たないすれ違いにアキラはなにか嫌な予感を感じる。一瞬振り返り、少女を見た。銀髪の少女は嬉しそうに何かの小包を持って走って行く。

 

「…………?」

 

しかし、この時はなにも気にしなかった。それよりもギンガが大事だったからだ。

 

 

ーナカジマ宅(アキラ宅)ー

 

 

 

 

家についたアキラは急いで家に飛び込み、居間に突っ込んだ。

 

「ギンガ!アリス!!!!」

 

「アキラ君!?」

 

居間にはギンガ、ウーノ、アリスがいた。全員飛び込んできたアキラに驚いている。ウーノに抱きかかえられていたアリスはアキラの声に驚き、泣き出してしまった。

 

「ああ、アリスさん、泣かないで…」

 

「良かった…………無事か…。ギンガ、大丈夫か?変なやつがきてないか?何かおかしなことは起きてないか?」

 

アキラはギンガの全身を触り、質問をしまくる。全然状況が読み込めないギンガは戸惑いながらもアキラの質問に答えるしかない。一通り調べ尽くすと、アキラは大きなため息をついてギンガの胸に顔を埋めた。

 

「……………良かった。ギンガだけでも無事で」

 

「私だけでもって………いったいなにがあったの?」

 

ギンガは疲れた顔をしているアキラを抱きしめ、頭を撫でてやる。

 

「あの、なにが起きているかわかりませんが、とりあえずアリスさんをなだめていただけません?」

 

ウーノのあやし方で悪いのか、人見知りなのかアリスは全然泣き止んでいなかった。ギンガとアキラは二人でアリスを受け取り、あやし始める。

 

「あぁ………アリスも無事で良かった。ほら、お父さん帰ってきたぞ。だからもう泣くな」

 

「ごめんね〜。よしよし、泣かないで」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アリスはしばらくしてようやく泣き止み、ベビーベッドの上で寝ていた。アリスをなだめた後、アキラは現場でなにが起きたのかを二人に説明した。スバルが拐われたという事実に、ギンガは驚きを隠せなかった。

 

「そんな………スバルが……」

 

「やつがなんなのか…なぜスバルを狙ったのかはわからない。スバルとノーヴェそのものに用事があったのか、はたまた戦闘機人に用事があったのか………わからんがとにかくスバルは取り返すさ」

 

ギンガはアキラの顔をみる。また、思いつめている顔だ。

 

「…………ありがとう、アキラ君」

 

「え?」

 

「それでもちゃんと小さな命は守ったんでしょ?スバルだって、自分よりもその子を守ったことを褒めてくれると思うわ」

 

「…………ああ」

 

アキラの内心はまた気を使わせてしまってすまないと思ったが、口には出さない。そんなことは表情で既に伝わるからだ。以心伝心、というやつだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ー陸士108部隊ー

 

 

 

一方、こちらでは今回の戦闘の最中で保護された少女、フランシスについて騒ぎになっていた。ギンガと似ている点、指紋照合やDNA検査においてギンガと9割方一致した点、最初は子どもなので親や家がわからないと言っていたと思われたが実際は記憶を失い、本当に何もわかってなかった点。

 

「どうですか?アテンザ技士」

 

「うん、身体の方もこっちの想像通り。筋肉は強化筋肉で、骨格には機械が使われてる。……………戦闘機人だね」

 

「もしかして、スバルやギンガと同じ?」

 

「そうね。きっと…ギンガちゃんたちがいた施設の………」

 

 

 

ー時空管理局本局ー

 

 

本局では緊急会議が執り行われていた。スバルが誘拐された日と同時に、起きた事件についての会議だ。招集されたのは、なのは、フェイト、はやて、ティアナの四人。全員が集まったのを確認すると小此木が口を開いた。

 

「今回は、黙示録が盗まれたことよりも重大な事件が起きたこと、そして君たちに黙示録をちゃんと知ってもらうために来てもらった。正直のところ、今事態は最悪の方向に向かっている」

 

「…………なにがあったんですか」

 

「まず今日事件が起きて、まだほぼどこの部署にも行ってない情報だ。ジェイル・スカリエッティが脱獄した」

 

部屋の中が一瞬ざわつく。黙示録事件担当本部の人間合わせても全員で8人だが、それでもそんな風な雰囲気に包まれた。

 

「どうやって、いつ、脱獄したのかは不明だ。囚われていたナンバーズ二人も共に姿を消している」

 

「…………」

 

「今のところ言えるのはそれだけだ。まぁとりあえず黙示録について知って置いてくれ。今回の黙示録とスカリエッティの脱獄が関係あるかどうかは不明だ。それから、スバル防災士長が誘拐されたこと。これらがすべて無関係なのかどうなのか。とにかく面倒なことになりそうだ」

 

 

 

 

続く

 



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第六話 邂逅

今月最後の更新です。今年中に黙示録の話は終わりにする予定でしたが、終わるのかこれ。なるべく投稿スピードあげて行きたいです。皆さんはなのはの劇場版三作目を見ましたか?なのはリフレクション。恐らくほとんどの上映館が今日で最後だと思います。悔いを残さぬ様に私は見てきます!もし今日見に行く予定の人がいて、劇場でのろうさを持っている人を見かけたら………私かもしれませんねw。ではお楽しみください!あぁ、イリスの缶バッジ欲しいなぁ。


その日、はやては夜の闇の中、帰宅の途についていた。いつもの勤務を終わらせ、守護騎士達が待つ家に。最近はみんなバラバラだったりするが家で格闘技の道場を始めて見たりとまた団欒をすることが多くなったりする。だが、バラバラでも心は一緒。はやては今のままでも満足だった。

 

「八神はやてだな?」

 

はやては突然背後から声をかけられた。

 

「?」

 

振り向くとテレビアニメの魔女っ子が被るようなとんがり帽子にフリルがあしらわれたコートを着たちょっと薄気味悪い少女が立っていた。クラウドだ。多少の薄気味悪さあってもはやては気にせず少女の目線にしゃがんで笑いかけた。

 

「こんな夜に女の子が一人でどうしたん?もう夜中やし危ないよ」

 

「…………私の名前はクラウド・F・オーガスだ。覚えておくといい闇の書の主、八神はやて」

 

予想外の対応をされたクラウドは少しドスの聞いた声で言った。しかし、はやての対応は変わらない。

 

「あら、有名人になったなぁ。こんな小さな子にまで知られるなんて。もしかしてファンの子か?でもあれは闇の書やなくて夜天の書。覚えといてな」

 

「どちらでもいい。あれが私の持つ書と同類なのは変わらないのだからな」

 

その瞬間、クラウドから殺気と共に協力な魔力が放たれる。それとほぼ同時にはやてのいた場所に魔力弾が炸裂した。はやては反射的にクラウドから離れた。クラウドの手には禍々しい魔力を放つ魔術書が握られていた。突然の攻撃にはやの警戒心はMAXになる。

 

「なんや、その不気味な本は‥‥」

 

「やれやれ、あの男(アキラ・ナカジマ)と言いお前もか‥‥」

 

クラウドはやれやれと言った感じで呆れている様子。

 

(あの男?一体誰の事や?)

 

はやてにはクラウドのイメージが言うあの男と言う人物に心当たりがなかった。

 

「見覚えがないか?この本」

 

「見覚え……?」

 

はやてはじっと書を見つめる。見覚えは…………………………………ある。ウィードの持っていた黙示録の書のレプリカだ。まさかと思いながらはやてが答えないでいると、クラウドが先に口を開いた。

 

「ふむ、では教えよう。この書は黙示録の書だ。オリジナルのな」

 

「オリジナル…………やと?」

 

「そうだ‥世界を混沌と破壊へと導く偉大な魔導書‥‥」

 

「へぇ~随分と物騒なモノを持っとるやないか‥‥それにその魔導書から滲み出ているその不気味な魔力‥‥どうやら妄想ではないみたいやな‥‥」

 

「当然、これは現実だ」

 

「ほんなら、そないな物騒なモン、表に出しておくわけにはアカン‥‥……ちょっと捕まえさせてもらってお話聞かせてもらうで!」

 

はやては素早くバリアジャケットを展開し、シュベルトクロイツをクラウドへと向ける。

 

「ふむ、デスクワークばかりの局員かと思ったら意外と血の気が多いな」

 

シュベルトクロイツを向けられているにも関わらずクラウドは慌てる様子もなく自然な状態で佇んでいる。

 

「まぁ落ち着け。デバイスを突きつけられてはビビッて話もできない。少なくとも今日のところはやり合うつもりはない。この先どうなるかはお前次第だ」

 

「そう言うてもアンタをやすやすとこの場から逃がすと思うてんの?」

 

「一人で私とやり合って勝てると思っているのか?」

 

「‥‥」

 

はやて自身もあの禍々しい魔導書相手に果てして自分一人で勝てるかという不安はある。なにせアキラが冥王の鎧の力を使ってようやくレプリカに勝ったのだ。

 

「そう言う事だ‥‥次に会うのは戦場だな、闇の書の主」

 

そう言い残しクラウドは消えた。

 

「だから夜天の書や!!」

 

夜道にはやての叫び声が響いた。

 

 

ー高町家ー

 

 

 

 

「ヴィヴィオは?」

 

「もう寝たよ」

 

フェイトがヴィヴィオの事をなのはに聞くと、ヴィヴィオはもう寝たみたいだ。今日は二人とも家にいる。いつも通りの二人の時間が流れるはずだった。

 

二人がリビングでくつろいでいると、人の気配を感じた。二人はその方へ顔を向ける。そこにはいつの間に家に入ったのか、クラウドが立っている。

 

転移魔法の発動を二人に気取られることもなくクラウドは当たり前の様にそこに居た。

 

「き、君誰!?」

 

「どこから入ってきたの!?」

 

「初めましてだな、管理局が誇るエースの高町なのは、そしてフェイト・テスタロッサ・ハラオウン」

 

勝手に家に上がり込んできたにも関わらず、図々しく言った。そして自身の右上に黙示録の書を出現させた。その書をみた二人は一気に少女に対する警戒心を高めた。

 

「それで貴女は誰なのかな?」

 

「私の名はクラウド・F・オーガス………黙示録の書の主」

 

クラウドと名乗る少女はなのはとフェイトに自己紹介をした。

 

「そう‥それで、貴女は何をしに此処へ来たのかな?」

 

「ただの挨拶だ。管理局の誇る二人のエースと聖王陛下に」

 

「聖王陛下って‥‥」

 

「もしかしてヴィヴィオの事を言っているのかな?」

 

「その他に誰が居る?」

 

「ヴィヴィオに何の用があるの?」

 

「さっき言っただろう?挨拶だと」

 

なのはとフェイトはバリアジャケットを展開し、レイジングハートとバルディッシュをクラウドに向ける。

 

「自宅だというのに…………夜天の主と同じで血の気が多いな。二人とも」

 

「黙示録の書なんて危険なもの、放置しておく訳にはいかないからね………身柄を確保させてもらうよ。一応、住居不法侵入って罪はあるわけだし」

 

「管理局のエースとこの場でやり合うのも私としては不本意ではないが、まだだ。まだ戦う時ではない。こちらの戦力が整い次第こちらから宣戦布告を…っ!?」

 

クラウドはバインドで縛られる。なのはとフェイト、二人分の強力なやつだ。クラウドが縛られた隙に黙示録の書をフェイトが確保しようとした時、クラウドがわずかに首を動かした。

 

「きゃあ!」

 

「フェイトちゃん!」

 

黙示録の書が開き、魔力派を出してフェイトを吹っ飛ばした。そしてクラウドはバインドを簡単に砕き、転移魔法を発動させる。

 

「またな、二人とも」

 

 

 

ー同日 サービスエリアー

 

はやて、なのは、フェイト‥管理局が誇る三大エース達が黙示録の書の主とされるクラウドと名乗る少女と邂逅しているその頃、郊外にあるサービスエリアにはティアナとスバルの姿があった。

 

最近、デスクワークばかりのティアナはちょっと運動不足気味だったので、休日を外で過ごそうと思っていたのだ。

 

しかし、ギンガと違って休日を共に過ごす異性が居ないティアナは一人で休日を過ごすのもなんだか味気ないので、訓練校時代からの腐れ縁であるスバルに声をかけたら、スバルもその日は休みだったので、二人は非番の日が重なった事からツーリングへと出かけていた。朝、スバルがティアナの住む寮に来てティアナが運転するバイクの後ろに乗り、出掛けた。

 

「あったらしい~♪朝が~」

 

スバルは後ろで歌いながら自分のローラーブーツとは異なる風とスピードを感じている。ティアナも久しぶりのツーリングに出掛けたのだが、結構調子に乗って思ったよりも遠くに行ってしまったので、帰りがこうして遅くなってしまった。

 

「いやぁ~楽しかったね、ティア」

 

スバルが自動販売機で買ったジュースを飲みながらティアナに声をかける。

 

「そうね」

 

バイクに戻る時、自分のバイクの上に誰かが座っているのが見えた。とんがり帽子を被った少女のようだ。そう、もちろんクラウドではあるのだが今回は少し様子が違う。

 

「あら?」

 

「誰だろう?迷子かな」

 

お節介なスバルは駆け足でクラウドに駆け寄る。

 

「君、どうしたの?」

 

「ティアナ・ランスターさんとスバル・ナカジマさん?」

 

「えっ?」

 

「う、うん……」

 

クラウドは可愛らしい声で尋ねた。急にフルネームで名前を呼ばれた二人は少し驚く。クラウドはバイクから下りるとスバルに手を伸ばした。

 

「わぁ!お久しぶりです!あの、握手してください!」

 

久しぶりと言われ、妙な違和感があったがスバルは少し申し訳なさそうな顔で対応する。

 

「あ、もしかしてどこかであったのかな?ごめんね?よく思い出せないんだけど」

 

「スバル防災士長は有名人だよ!私のお友達もみんな知ってる!」

 

どうやら会ったことはないようだ。久しぶり、という言い方は子供のいい間違いだとスバルは思った。

 

「あんたすっかり有名人ね」

 

クラウドの言葉にティアナは笑いながらスバルに言った。

 

「そうかな………えへへ、ありがとう。はい、握s」

 

刹那、クラウドは表情を一変して握手仕掛けた手をまっすぐスバルの腹に向けて突く。だが、反射神経が人間並みではないスバルはそれをバックステップで回避する。

 

「あっぶな……い」

 

「ふ………流石は戦闘機人と言ったところか」

 

「え………?」

 

クラウドはさっきとは違い、悪そうな表情、ドスの効いた声で話し始めた。ティアナはクロスミラージュを待機状態から銃モードに変えてクラウドに向けた。

 

「いま………スバルに何しようとしたの?あなた……」

 

「さぁ、何だろうな?もしかしたら、その豊満に育った胸でも触ろうとしたのかもしれないぞ?」

 

「冗談やめて。スバルが防災士長として有名なのは知ってるけど、戦闘機人として知ってるのは精々管理局の限られた人間くらいよ」

 

クラウドは鼻で笑うと黙示録の書を出現させた。

 

「私はこの黙示録の書の主、クラウド・F・オーガス。今宵は貴様らに挨拶にきた」

 

((も、黙示録の書!))

 

クラウドと名乗る少女はティアナとスバルに一冊の本を見せながら自己紹介をする。スバル達は黙示録の書をもつということに驚きを隠せずにいた。

 

「で?そのクラウドさんが私達になんで挨拶になんかきたわけ?」

 

ティアナが警戒しながらクラウドと名乗る少女に自分達に声をかけて来た要件を尋ねる。

 

「スバル・ナカジマ‥‥かつて機動六課のFW陣の一員で現在は特別救助隊に在籍中‥‥」

 

「えっ?」

 

スバルは自分の経歴を言われちょっと驚く。

 

「ティアナ・ランスター‥かつて、機動六課にてセンターガードを務めたガンナータイプの魔導師‥‥魔力が低く、空戦属性が無いにも関わらず、現在は執務官補佐を務めている」

 

『魔力が低い、空戦属性が無い』と言われてムッとするティアナ。

 

「兄の志を継いで執務官を目指して此処までの地位に登り詰めた貴女の努力には敬意を表してやろう」

 

「で、挨拶ってことはまた会うのかしら?」

 

「ああ、その通り。貴様には恐怖と絶望を。そして、スバル・ナカジマ」

 

「は、はい」

 

名前を言われ反射的に答えるスバル。

 

「貴様には貴様の本来居るべき場所を提供しよう」

 

「本来居るべき場所?」

 

「ああ。貴様が居る場所は仮初めで出来た偽りの場所‥だから、私が貴様に本当の居場所をあたえてやろう」

 

「何を言っているの!?私の居場所が偽りの場所?ふざけないで!!」

 

「どう思おうか勝手だがな。だが、戦闘機人とは本来戦うための道具だ。人を助ける為の道具じゃない」

 

「!!」

 

それを聴いた瞬間、ティアナはクロスミラージュの引き金を弾いた。オレンジ色の魔力弾がクラウドに飛んで行ったがその魔力弾は一瞬で掻き消された。どちらかというと、弾き消されたというかんじだったが。

 

「ティア……」

 

「確かに戦闘機人はそうやって、戦うために作られたけど……………その力をどう使うかは、本人次第よ!何処にいるのかも本人が決める!あなたみたいな人間に、あたしの親友を利用させはしないわ!」

 

「ふんっ、大した友情だな。まぁいい。いずれまた会おう…」

 

クラウドは手を前に出し、大きく横に振った。細かな魔力弾がクラウドの手から放たれ、煙幕の役割を果たす。二人が一瞬目を背けた隙に、クラウドはいなくなっていた。

 

 

これが、はやて、なのは、フェイト、ティアナが黙示録の書の主、クラウドと名乗る少女との初邂逅であった。

 

小此木は今回の会議でそのことについて詳しく聞いていたのだ。クラウドの出現、スカリエッティの脱獄、サードという少女によるスバルとノーヴェへの襲撃。黙示録奪還から僅か1日半で起きたこれらの事件の関連性を調べる為に。

 

「ティアナ執務官の話から察するにサードと名乗る少女とクラウドは繋がっていると考えていいだろう」

 

「………」

 

「そしてかつてスカリエッティが戦闘機人を欲したということからクラウドとスカリエッティが繋がっていると予想される。あくまでもスカリエッティとクラウドの関係は予想だがね」

 

話を纏め、擦り合わせた感想と事件の関連性の予想を小此木が話した。少しの間沈黙があったが、なのはが口を開く。

 

「また、ヴィヴィオが危険な目に遭うのかな‥‥?」

 

今回の騒動にヴィヴィオが巻き込まれてしまうのではないかとヴィヴィオの身を心配した。なのははJS事件の時、ヴィヴィオが辛く大変な目に遭った経緯ともう聖王のゆりかごはないが、それでもヴィヴィオが聖王と言う血筋には変わらない為、また事件に巻き込まれるのではないかと言う不安があった。

 

クラウドはあの時、ヴィヴィオに用がある感じがした。アキラが家族を守る為、今回の事件に消極的な態度を取るのが分かるような気がしたなのはだった。

 

また、ティアナはスバルが攫われた事実を聞いて、クラウドと初めて出会った時、彼女がスバルについて語っていたが脳裏に浮かび、スバルが狙われていたかもしれない事を可能性に入れていなかった自分に迂闊さを感じていた。

 

「今回のノーヴェ・ナカジマに対する襲撃とナカジマ防災士長の誘拐ついて、目的があの二人だったのか、いまだ不明だが、警戒するに越したことはない。特にスカリエッティの下に居た戦闘機人達は特に‥だ‥‥」

 

小此木はスカリエッティが脱獄した事で、彼の元仲間だったナンバーズが再び彼の下に戻る可能性も示唆した。

 

「あの子らはもう、大丈夫だと思います」

 

しかし、はやてがナンバーズの子達はもう、スカリエッティの下に戻らないと断言する。

 

「何故、そう言い切れる?」

 

「あの子らは更生施設で世界の広さを知り、自我を持ちました。そして、スカリエッティがやろうとしたことがどれだけ大勢の人々に迷惑をかけ、不幸にするかもちゃんと理解しています」

 

「そうとは限らない。特に今回襲撃されたノーヴェ氏のような性格だと」

 

「そんなことは!」

 

ナンバーズを信じるはやてとあらゆる可能性を捨てない小此木がぶつかる。

 

「彼女たちが犯罪者でいたのはつい最近だ!それに忠誠を誓っていた主が逃げ出した!もう一度集結する可能性だって十分ある!それに、我々でさえスカリエッティの脱走には全く気づかなかった。それは彼が事前に脱獄の手筈を整えていたということだ。であれば多くの戦闘機人をあらかじめ外に出し、後に集結する方が大勢で脱獄するよりか簡単な筈だ」

 

「確かに………そうかもしれませんけど」

 

はやては簡単に言い負かされた。確かに可能性はある。違うとも言えるが、それはあくまで自分の感情論。小此木の話は理にかなっている。となればここでの言い争いは無意味だ。

 

「まぁ、彼女たちが更生していたとして、再度拐われ、手先になる可能性もある。だからヴィヴィオちゃんも念の為、事件が終わるまで、学校は休ませてカリム・グラシア氏の所に預けた方が良いと思う」

 

「えっ?」

 

「そんなっ!?」

 

小此木の言葉になのはとフェイトが立ち上がる。

 

「二人共ヴィヴィオちゃんが心配なのは分かる、でも、アキラ二尉とギンガ陸尉が抜けているこの状態で、高町一尉とフェイト執務官が抜けるのは正直、戦力が下がりすぎる。今回の事件は小規模で最短に終わらすために管理局の精鋭が集められている。その意味をどうかわかって欲しい」

 

「「‥‥」」

 

なのはとフェイトもその点はちゃんと理解はしている。仕事上、常に家に居る訳ではない。それにヴィヴィオも今は学校に通っている。そんな中で、ヴィヴィオを守りながらクラウドとスカリエッティを逮捕できるのかと聞かれるとそれは難しい。

 

ならば、アキラの様にこの事件が終わるまで自分もヴィヴィオと一緒に外出を控えればヴィヴィオを何とか守れるかもしれない。でも、ただでさえ、アキラ、ギンガが事実上戦力外の状態で自分達も抜ければ管理局側の戦力はかなり落ちる。

 

「教会であれば、安全面は問題ないでしょう、私の部下も護衛としてそちらに回ってもらう。だから頼む。これも彼女の為だ」

 

「…………わかりました」

 

「う、うん」

 

なのはとフェイトとしても苦渋の決断だったが、小此木の言う通り、ヴィヴィオの安全の為、決断した。ヴィヴィオはきっと悲しむだろうが、またJS事件の時の様にヴィヴィオを危険な目にあわせたく無い。ヴィヴィオもきっとその辺は理解してくれる筈だ。

 

そして、ヴィヴィオの他にノーヴェが襲われ、スバルが攫われた事を鑑みて、敵の狙いはもしかしたら戦闘機人かもしれないと思った小此木は、入院を余儀なくされたノーヴェは聖王教会系列の病院に入院してもらい、ゲンヤの家に住んでいるウェンディ、ディエチ、ウーノの三人も教会で預かってもらうことにした。

 

本当はチンクも教会に行ってもらいたかったのだが、今回の市街地での戦闘でアキラが新たな戦闘機人を保護したらしい、現在その戦闘機人は108部隊で保護している。チンクとセッテにはその戦闘機人の監視と保護をしている。その為、二人にはなるべく単独行動を控え、108部隊の隊舎からは出ない様に伝えた。

 

そしてアキラの家に居る彼のクローンのノーリにもこの事件が終わるまで学校は休んでもらい、極力外出は控えるようにしてもらった。ヴィヴィオやナンバーズの処遇について話が決まった後、議題は本命の黙示録の書に移った。

 

 

 

続く



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第七話 会議

久々の投稿になりますね。今回からストーリーが加速していきます。頑張って行きます!


ークラウドの隠れ家ー

 

 

 

 

「……………」

 

クラウドは自分の玉座から美味しそうにクッキーを頬張る白髪の少女を不機嫌そうに眺めていた。少女はクッキーを袋から一つ、また一つと取り出し、口の中に放り込んでは笑顔を浮かべる。

 

「ん〜♪誰が作ったか知らないけど、お〜いし♪」

 

「おい、セヴン」

 

「?」

 

「私はお前になんと命令した?」

 

セヴンと呼ばれた少女は少し首を傾げて考える。そして数秒後に笑顔で答えた。

 

「………忘れちゃった」

 

「すぅ……………………このたわけがぁ!!!!!!!」

 

「わーーーー!」

 

セヴンは一瞬で近くの柱の影に隠れた。

 

「私はアキラを殺し、ギンガナカジマを誘拐して来いと命じた筈だ!なのになぜクッキーをもらって帰ってきている!お使い頼んだわけじゃねぇぞ!」

 

「ひぃ〜………だって、これ美味しそうだったんだもん!あ、クラウドも食べる?」

 

もしかしてクラウドもクッキーを食べたかったのではないかと考えたセヴンは、さっとクッキーの入った袋を柱の影からクラウドに向ける。しかしその瞬間クラウドが指の動きで何かを飛ばし、その袋は見事に撃ち抜かれた。

 

「…………」

 

「次から失敗は許さん…………」

 

「やぁ、ずいぶん荒れてるね。クラウド」

 

玉座の奥横の廊下からスカリエッティが出てきた。

 

「スカリエッティ…………ゼロ・ナンバーズのロールアウトは順調か?」

 

「もちろん。もうタイプゼロ・セカンド以外全員終わったよ。ロールアウト済みのサード、シックスの強化も完了した。ん?やぁセヴン。元気かい?」

 

スカリエッティは柱の影に隠れているセヴンを見つけ、軽く挨拶した。

 

「元気だよー!ねぇ!スカなんとか!」

 

「難しいようならドクターと呼びたまえ」

 

「じゃあドクター!私の強化はいつ!?」

 

「これから残りのゼロ・ナンバーズを出撃させる。彼女達にデータを収集してきてもらってからだ」

 

「わー!楽しみだなぁ…」

 

二人が楽しそうに会話をしているのを横目に、クラウドは席を立つ。スカリエッティはクラウドに行き先を聞く。

 

「どこへ?」

 

「鹵獲したゼロ・セカンドのところだ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー管理局ー

 

小此木は三人から黙示録の書をもった少女、クラウドと接触した時の話を聞き、狙われる可能性があるヴィヴィオやナンバーズの処遇について話が決まった後、議題は本命の黙示録の書に移った。

 

「でも、黙示録の書ってどんな代物なのかな?」

 

フェイトが黙示録の書についてどんな魔導書なのかを尋ねる。実際に黙示録の書の主であるクラウドにあったが、その時は転移魔法と無詠唱での魔力波だけで、より詳しい黙示録の書の実力は分からなかった。

 

「私があの子会った時、『世界を混沌と破壊へと導く偉大な魔導書』って中二っぽいことしか言わへんかった」

 

「小此木さんは何か知りませんか?黙示録の書について‥‥」

 

ティアナが小此木に黙示録の書について尋ねる。

 

「そのことならば私が説明しよう」

 

小此木の横に座っていたテレジー・シファクが立ち上がった。

 

「テレジーさんでしたっけ」

 

「ああ、君の守護騎士とは軽く面識がある。あの時は………おっと、世間話は後にしよう。黙示録の書だがね。我々テレジー家が関わったのは管理局が黙示録を封印することになってからテレジー家は今に至るまでずっと関わっている。そしてその前、管理局が黙示録抑える前から関わっていた家系とテレジー家が関わりを持っているからね。まぁまずは黙示録の誕生から話そうじゃないか」

 

シファクはデータファイルを会議室の大画面に写す。そしていくつかの画像ファイルと書のデータを表示した。

 

「黙示録の書はね、かつてはそんな名前ではなかった。人々を癒すための本だったのだよ」

 

「人を?」

 

「まぁ驚くのも無理はないだろう。でもね。黙示録は元々、生きる希望を無くすレベルで絶望した人や、立ち直れないほどの恐怖の記憶を奪う機能を持った魔導書だったんだ。今でいうセラピーみたいなものだね。そのために使われてた」

 

「それがなんであんな……………」

 

「それはね………原因が戦争なんだよ。黙示録を作り使っていた国が、別の国に滅ぼされた。滅ぼした国は偶然黙示録の書を見つけ、その機能に気付く。滅ぼした側の国がその後、どう使ったかわかるかい?」

 

全員、首を横にふる。

 

「…………兵士の調教、及び洗脳さ。死への恐怖、敵への恐怖、それらを取り払いどんな相手にも向かって行く狂戦士へと変えたのさ。そして………何千人、何万人、何十万人と兵士の恐怖と絶望を奪い、溜め込み続けた黙示録の書は、黒く染まって行った。そして、溜まり続けた絶望と恐怖の記憶を吐き出させようと、新たな機能が黙示録に付けられた。記憶を固形化し、吐き出させる機能。溜まった記憶をデリートさせることは出来なかったのか、しなかったのかわからないが、その機能が付けられた結果……」

 

シファクは新たな画像データをいくつかアップで表示した。写っていたのは黒い何かの波に呑まれ、崩壊した国だった。

 

「君らもウィードが黒い物体を使っていた記憶はないかい?」

 

「そういえば、体の一部としてつかっていた気が…」

 

「その黒い物体がね、絶望、恐怖の記憶の固形化されたものだ。名前はこちらが勝手につけたものだが「スタッフ」。そのまま恐怖という意味だ」

 

「スタッフ……」

 

「スタッフは、触れた本人が記憶している物の形を模倣し、色まで変えられる。まぁ、記憶の塊だからそれくらいできるだろうが、本人が記憶してない部分までも勝手に再現するから驚きだ」

 

「本人が記憶してなくても?」

 

なのはが疑問を投げかける。シファクは頷いた。

 

「ウィードが良い例だ。彼は彼の身体の構造を100%理解してない。だが、スタッフは彼の体の中の血管や、骨や瞳のレンズの具合、それらをすべてコピーしていた。スタッフにも学習能力があるのかもしれない」

 

「なるほど……」

 

「まぁ、スタッフの説明はこれくらいにして………。スタッフを作る能力を作ったのは良いんだけどね、黙示録から生み出されたスタッフの量は予想を遥かに上回り、スタッフの津波を作って国を丸々飲み込んだ」

 

「そのあと黙示録は………?」

 

「生き残った国の人間が他の国に売り、今度はその国がスタッフをさらに貯めさせる機能を着けた………。あとは悪循環さ、持っていた国が黙示録によって滅び、別の国に渡って新たな機能が作られ、戦争で、あるいは黙示録の暴走で国が滅ぶ。持ち主がいなければランダムに転移する機能、ある特定の魔力を持たなければコントロールできない機能、そしてスタッフによって作られた黙示録の獣と黙示録の槍、それから黙示録の鍵が作られて最後は滅んだ世界から管理局がロストロギアとして回収した。その時封印係として選ばれたのが我々テレジー家というわけだ。初代は黙示録の獣の危険性を感じ、自らの命と共に黙示録の獣を封印しています。以上が、黙示録についてわかっていることです」

 

「待ってください、ウィードが使っていたレプリカは?あれは一体?それから、特定の魔力とは、何ですか?」

 

フェイトがシファクに聴いた。

 

「あれもスタッフで作られた物です。黙示録が封印される前にいずれかの世界で誰かが作った物かと。詳細は不明です。ですが、コントロール条件と、転移する機能、それから絶望と恐怖を奪うシステムはあります。特定の魔力っていうのは、こっちでもわかってないのです。ただ、使える人間と使えない人間がいる。それしか情報はないのです」

 

「ウチからも質問や」

 

はやてがシファクに言う。シファクは笑顔で応えた。なぜか知らないがはやてに対しては態度が良い気がする。

 

「どうぞ」

 

「なんで管理局は封印に徹したん?そんなに危険なら丸々破壊したほうが……」

 

「そう簡単な話じゃない。黙示録は自己防衛システムも付いてる。一度暴走封印された状態で暴走され、封印を破られたことがある。再度封印しようとしたが黙示録は動き回り、こちらに攻撃もしてきた。局員数人の命と引き換えに再度封印できたがね。うまく完全破壊出来る確率は低いだろう。たとえこの面子でも……。おまけに私達が封印の為に使っている封印の布はただ黙示録の力を抑えてるようなものじゃない。ただ、黙示録から発生している魔力を強力なバリアで包んでいるだけだ。バリアは内側に有効で、外側にも有効だ。つまり、封印しても封印の布のせいで破壊ができないと、まぁそんなところです」

 

「封印以外の手段は基本的にないと考えると…」

 

「破壊、消滅は難しいだろう。あの本自体に再生機能がある。破壊が中途半端では破壊し損ねた破片が見えない場所で転移する可能性がある」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ーナカジマ家ー

 

アキラが帰宅してから二人の無事を確認すると、少しの休憩ののちに左腕の調整に入った。サードの投げた槍は腕を貫通し、肩に突き刺さったが、肩にも腕を着け、脳からの電気信号を義手に流す装置があるので、アキラ自身には怪我はない。しかし腕は交換しなければならない。

 

「しばらく器用な動きはできないな…………」

 

今回着けた腕は完全に戦闘重視の腕。細めの設計ではあるものの、腕力は強い。その代わりに指が親指、人差し指、中指しかないので細かい作業はできないものだ。

 

「…………戦うの?」

 

ギンガが心配そうに尋ねた。

 

「仲間を信用してない訳じゃない。でも、多分今回の戦いは俺が出る必要はあると思う」

 

そこに、マリエルからの通信が入った。

 

『アキラ君、今いい?』

 

「どうした?」

 

『アキラ君が保護した子なんだけどね?その子のことでちょっと。ギンガも呼んでもらえる?』

 

「あ、ああ‥ギンガ、マリエルさん」

 

「えっ?マリーさん?」

 

ギンガがアキラの隣に立つ。

 

「その‥2人に知らせる事とアキラ君とギンガに聞きたい事があるの‥‥」

 

「ん?」

 

「なんでしょう?」

 

「もしかしたらアキラ君から聞いてギンガは知っているかもしれないけど、スバルが攫われた件で、その時アキラ君が救助した女の子の件なんだけど‥‥」

 

そう言ってマリエルはアキラが救助した女の子、フランシスの画像を見せたところ、ギンガは物凄く驚いた。アキラが小さな子を助けた事は本人から聞いていたが、まさかその助けた子の容姿が自分そっくりとは聞いていなかったので、今ここで初めてその救助者の顔を見て驚くのも無理はなかった。

 

「その子について何か分かったんですか?」

 

『ええ、検査の結果、この子のDNAがギンガ、貴女と9割方一致したわ』

 

「えっ!?」

 

『それにレントゲンやCT検査をしてみてこの子の身体の組成は強化筋肉に、補強材で構成されていたわ」

 

「それって‥‥」

 

『そう、この子も貴方達と同じ戦闘機人よ』

 

「そうですか……また新たな戦闘機人………」

 

『それから、これはちょっとあまり思い出したくないことかもしれないけど‥‥』

 

「なんでしょう?」

 

『‥ギンガとスバルがクイントさんに保護された時、その研究所には貴女達二人以外の戦闘機人は居たかしら?』

 

「えっ?」

 

マリエルの質問にギンガは目を見開く。

 

『私達、管理局が確認できている稼働している戦闘機人は、スカリエッティが生み出したのは全部で十二人の戦闘機人達‥‥それ以外だとウィードが管理していたアキラ君とノーリ君、クイントさんが保護したギンガとスバルの四人……それ以外で稼働しているのは確認できてないから、この子の出生が気になるの』

 

「‥‥」

 

『アキラ君も、ウィードがノーリ君以外で戦闘機人を生み出した話は聞いていないかしら?』

 

「あいつのことなんざ俺は知らん。大体奴が戦闘機人を作れるとは思えん」

 

『ギンガはどう?』

 

「すみません、私も覚えがありません。そもそも私たちはずっと培養機の中にいましたから、目が覚めたら母さんに保護されていて………」

 

『そっか………ありがとうね』

 

「なぁマリエルさん」

 

「何かしら?」

 

「前々から聞きたかったんだが、ギンガとスバルを生み出した奴はクイントさんがギンガとスバルを保護した時に捕まったのか?」

 

アキラはスカリエッティやウィード以外の誰がギンガとスバルを生み出したのか、そしてソイツは逮捕されたのかを尋ねる。

 

『それが、クイントさんの話では、誰がギンガとスバルを生み出したのかは不明なのよ』

 

「不明?そいつは研究所にいなかったのか?でも、其処に居た研究員なら名前や顔ぐらい知っている筈じゃあ‥‥」

 

『勿論、クイントさんは逮捕した研究員達に聞いていたわ。でも、ギンガとスバルを生み出したその人物は偽名を使い、研究所では仮面を被っていたみたいで誰もその人物の素顔と本名は知らないみたいなの‥‥』

 

未だに謎に包まれたギンガとスバルを生み出した研究者‥‥ギンガがそれを知るのはもう少し先の事であった。

 

 

 

ークラウドの隠れ家ー

 

 

 

かつてのスカリエッティのアジトに似たところでは、シリンダー状のカプセルの中に薄黄緑色の溶液が満たされている。そしてそのカプセルの中には一糸纏わぬスバルの姿があった。スバルはサードとの戦闘で身体は傷だらけで、溶液が満たされているカプセルの中で眠っている。そんなスバルの様子を見ているのは黙示録の書の主、クラウド。

 

「お前には本来いる場所を提供すると言ったはずだ………………」

 

眠るスバルにクラウドは言った。しかし、その表情に悪人の顔はない。むしろ少し自分の言ったことを後悔しているようにも見える。

 

「…………私は管理局を潰す………だが、お前たちは…」

 

何かを呟きながら、クラウドはスバルの前からいなくなった。

 

 

108部隊隊舎では、チンクとセッテにゲンヤからフランシスの保護と監視及びスバルの誘拐とノーヴェの襲撃から自分達も狙われている可能性があることを伝えられ、基本、二人一組で行動する様に、無暗に隊舎から出ない事が伝えられた。そして、スカリエッティ達の脱獄の件も。

 

「そうですか‥‥ドクター達が‥‥」

 

チンクはスカリエッティ達の脱獄の話を聞いてさほど驚いてはいない様子だ。

 

「あまり驚いていない様だな?」

 

「はい‥こう言ってはなんですが、ドクターならばいつかはやりそうな気がしていたので‥‥」

 

あのスカリエッティが刑務所で大人しくしている筈がない。十年以上の時間をかけて大規模テロ事件、JS事件を引き起こした張本人なのだ。脱獄だって時間をかけて慎重かつ確実に実行するに決まっている。

 

そして、スカリエッティと共に刑務所に服役したトーレ達だってスカリエッティが行くのであれば、自分達も必ず着いて行く筈だ。

 

「もし、スカリエッティがお前達の前に姿を見せた時、お前達はどうする?」

 

「「‥‥」」

 

「スカリエッティの所に戻るか?」

 

「それはありえません」

 

「私もです」

 

チンクとセッテはゲンヤの質問に迷いなく答える。

 

「父上やギンガ姉様には私達を新たな家族に向かえ入れてくれた恩があります。その恩を裏切る事は私には出来ません。ウーノや妹達もきっと同じ気持ちの筈です」

 

チンクの決意にセッテも頷く。

 

「それに、感情を私たちに与えてくれた、アキラさんへの恩返しのいい機会です」

 

「そうか‥‥」

 

普通ならば疑う所だが、ゲンヤはチンクの言葉を信じた。

 

「だが、いいのか?スカリエッティはお前達の元主であり、彼と共に収監されたお前達の姉妹も一緒に脱獄したらしい‥‥もしかしたら、お前達は姉妹で戦う事になるかもしれないのだぞ?」

 

「構いません。今となっては、ドクターは私達の敵であり、トーレ達もそれを覚悟でドクター達と一緒に脱獄したのでしょう。敵対するのは私とトーレがそれぞれ選んだ道ですから」

 

例え嘗ての創造主だろうが、姉妹だろうが今は敵と認識したチンクとセッテだった。

 

 

続く

 

 



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第八話 開戦

月末の日付変更ギリですね次回はいつになることやら。でも、絶対二週間以内にだしますので!お楽しみに!


スバルが拐われた事件の起きた翌日の昼下がり。ミッドのショッピングモールの展望台には一匹、いや、一機の機械龍と少女が立っていた。

 

「じゃあ、そろそろ始めようか。いくよ、ジーク」

 

「グゥゥ……」

 

機械龍は本物の竜のような唸り声で返事をし、少女を背に乗せて飛び立つ。そして、飛び立つとほぼ同時に口に巨大な火炎球を作り、上空に向けて飛ばした。

 

火炎球は上空で爆散し、花火のように弾ける。弾けた火炎の欠片は街中へ降り注ぎ、辺りから黒い煙が上がり始めたと同時に人々の悲鳴が聞こえた。

 

「さぁ!パーティー第一弾の始まりだ!」

 

 

 

ーミッドチルダ 南部ー

 

 

 

とあるビルの上ではサードが立っていた。その屋上からは先ほどの少女が起こした火災が見えていた。

 

「ナインスの行動を確認。こちらも動きます」

 

サードはビルから飛び降りた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー108部隊ー

 

 

『緊急事態発生!ミッドチルダ南部、ショッピングモールにて大規模火災が発生!謎の龍のようなものに乗っている少女が引き起こした模様!メグ隊長及び、戦闘部隊は出撃準備!』

 

108部隊にはけたたましくサイレンが鳴り響いていた。出動命令を聞いたシノブは隊長室に飛び込んでくる。

 

「メグ隊長代理!出撃命令が………」

 

「聞こえてるわよ!ああめんどくさい!あと代理っていうな!」

 

メグは怠けていたのか、慌てて服装を整えていた。服装をさっさと整えたメグはシノブと共に地下駐車場にいった。地下駐車場には108の戦闘部隊が既に出撃用の車の前に並んでいた。

 

「おーっし、こないだはアキラに助けられたから今度こそあたしたちの手柄にするわよ!」

 

意気込んで叫ぶと共に再びサイレンが鳴り響く。

 

『ミッドチルダ南部に新たな災害発生!合計……四箇所です!』

 

「はぁ!?」

 

『いずれも何物かが引き起こした人為的災害の模様!現在、別の部隊にも協力を要請!108戦闘部隊は部隊を二つに分割し、各災害場所に向かってください!迅速な犯人逮捕をよろしくお願いします!』

 

「簡単に言ってくれるわね全く………はぁ。てことだから今から部隊を二つに分けるわ。私の部隊、それからシノブの部隊。適当に人数合わせたらさっさといくわよ!」

 

「「「「「了解!」」」」」」

 

 

ーナカジマ家ー

 

 

 

「……………わかった。苦戦が強いられるなら、俺も行く」

 

アキラはメグからの通信を受けた。もしも108シノブの率いる隊が苦戦するのならアキラが補助に当たるという申し入れだった。ちなみに二人はまだ寝起きだった。

 

「………アンノウンだ。また出撃するかもしれない」

 

「わかった…………気をつけてね………」

 

「…………ノーリ!」

 

アキラは二階にいるノーリを呼んだ。ノーリは呼ばれてからすぐに居間まで駆けつける。

 

「どうした?」

 

「もしかしたらまた出撃するかもしれん。留守の間はギンガとアリスを頼む」

 

「…………本気か?」

 

「あ?」

 

いつもだったら「任せろ」と言いそうな彼だが、今回は違った。アキラの行動に疑問を抱いているようだ。

 

「敵が何者なのか、何が目的なのかは不明なのはまだ良いだろう。だが、目的がギンガ達タイプゼロだとわかったなら、離れずにいるのは当然だろ!それでも護衛から恋人、旦那になった男の判断か!?」

 

「ノ、ノーリ…」

 

ノーリはアキラに向けて怒鳴った。かつてないほど感情的になった彼に、ギンガは驚いていた。

 

「確かにお前のいうことはもっともだ。だが、俺が出ることで犯人逮捕できれば、これ以上ギンガが傷つく前にすべて終わらせられる」

 

「橘アキラ………お前は……」

 

ノーリはアキラに対し、攻撃的な態度になる。今にも喧嘩が始まりそうだったので、ノーリを落ち着かせた。

 

「落ち着いて、ノーリ。アキラ君のいうことは一理あるから………」

 

「…………すまん、ノーリ、ギンガ。だが、必ずこの事件はさっさと終わらせる。まぁ、あくまで俺が出ればの話だが…」

 

(はやく………不安要素をなくしてくれよ………小此木…!)

 

 

 

ーショッピングモール付近ー

 

 

 

ショッピングモール付近に偶然いたフェイトは結界に閉じ込められ、脱出方を探っていた。

 

(なんでこんなところに結界が張られたかはわからない……けど、私だけが結界にいるってことは……私が目的の可能性が高)

 

フェイトは思考を一瞬で停止させ、背後から飛んできた火炎球を避け、バリアジャケットを装着する。すぐに火炎球が飛んできた方向を向き、一気に警戒態勢に入る。

 

「誰かいるんですか!!」

 

「初めまして…………フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」

 

声がした方向からは機械龍に乗った少女が自分を見下ろしていた。

 

「管理局執務官のフェイト・T・ハラオウンです………この結界を作ったのは、あなたですか?」

 

「まぁ、正確には私じゃないけど、だいたいあってるわ」

 

「今すぐ、この結界を解除してください。出なければ、あなたを公務執行妨害で…」

 

「あーそういうのは別にいいから、名乗りが必要なら教えるわ、私はナインス。さ、とっととやりましょ?そっちだって、こっちがやる気なのは、わかってるでしょ!?」

 

ナインスが叫ぶとそれに呼応したように機械龍が再び火炎球を飛ばした。フェイトは跳ねて攻撃を避けると共に、迎撃に出る。

 

バルディッシュを振り上げ、機械龍の上に乗る少女を狙うが、機械龍が邪魔をするように動き回る。そして、火炎球で権勢し、腹部や羽に内蔵されていたミサイルを発射した。

 

「あの機械龍…………妙にキャロのフリードに似てる気が……っと!」

 

フェイトは得意の高起動飛行で追尾型のミサイルを避けながら壁などギリギリの部分を飛行し、急な方向転換をする。ミサイル急な回避に追いつけず、壁にぶつかって爆発した。

 

「こっちの様子伺ってるみたいだね!もっとかかってきなよ!」

 

「…………ねぇ!どうしてこんなことを!?その竜は一体………」

 

フェイトは依然手を出さずに相手を観察していた。そして、ナインスに質問を投げかける。

 

「んー?私のこと気になっちゃってる?そんなの、どーでもいいじゃない!私は、」

 

刹那、ナインスの姿が竜の上から消えた。

 

「あなたの身体に用事があるの!」

 

気づいた時にはナインスはフェイトの上をとっている。すぐにフェイトはガードの姿勢をとったが、ナインスのかかと落としで地面に叩きつけられる。

 

「ぐぅ……」

 

「戦う気ないのー?そっちがその気ならこっちも考えあるよ?」

 

(今は………戦うしか……ない!)

 

フェイトは覚悟を決めた。話を聞くのが最優先だが、今は仕方ない。フェイトはまず、隙だらけのナインスにバインドをかけた。

 

「ん?バインド?」

 

「プラズマ…」

 

「お?」

 

「ランサー!」

 

フェイトはバインドを解除しようとしないナインスに向けて、プラズマランサーを放った。プラズマランサーはナインスに命中。爆煙を上げた。

 

「…………」

 

「うん、まぁまぁかな………でも、ようやく本気になったみたいだし……私も本気になっちゃおうかな」

 

ナインスは健在…というかほぼ無傷だ。そして、簡単にバインドを砕いたナインスは短剣を取り出した。それを前に構えると、ナインスの身体から黒い魔力がにじみ出てくる。

 

「…ルーラーアーマー………開ほ」

 

「何をしている、ナインス」

 

「!!」

 

ナインスの後ろから声がした。ナインスが振り向くと同時にフェイトが声の主を見ると、驚愕する。

 

「ク、クラウド!?」

 

クラウドがナインスの背後に立っている。クラウドはフェイトを見向きもせずにナインスに話しかけた。

 

「私がいつ鎧を出す許可をした。遊んでないでさっさと命令通り言われたことをやれ」

 

「いーじゃないちょっとくらい」

 

「戦闘を楽しむのは勝手だがな、鎧は使うな。わかったな」

 

「はいはい、わかりましたよー」

 

何やらナインスに注意を促すと、クラウドはその場を去ろうとした。

 

「待ちなさい!あなたにはいろいろ聞きたいことが…!」

 

それをフェイトが追撃しようとするが、その前にナインスが立ちはだかる。フェイトは邪魔だと思い、切り掛かるがフェイトの攻撃を阻害しようと機械龍がフェイトの周りを飛び回った。

 

「さて、始めようか」

 

「あなたは何!?クラウドとどういう関係!?」

 

「さぁね。戦ってくれたら話してあげてもいーよ!」

 

フェイトの表情はさっきと打って変わり、険しくなった。バルディッシュをザンバーモードに変え、その鋒をナインスに向けた。

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン!行きます!」

 

「遊んであげるよ!私の人形がね!」

 

ナインスが地面に手を当てるとそこらじゅうに魔法陣が展開され、そこから黒い鎧の騎士が現れる。

 

「召喚魔法!?」

 

「大丈夫。彼らは鎧だけだから、思う存分やっちゃって」

 

「くっ!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ー別地点ー

 

「…………見つけました!距離30メートル!」

 

「丸焦げにしてやんなさい」

 

街で暴れている少女を視認したメグのチームはいきなり炎熱魔法を遠距離から放った。炎熱魔法は少女に命中し、半径数メートルを巻き込んで燃え上がった。

 

「……………どう?」

 

「現在確認中で………ダメです」

 

いきなり炎熱魔法を当てられた少女は不機嫌そうに立ってた。

 

「ふぅ…………いきなりなに?あんたら管理局?」

 

「そーよ。あんたたちをしょっぴきにきたわ」

 

メグが出ていくと同時に魔導師達が少女の周りを取り囲んだ。

 

「あーそー。ご苦労様。それじゃあ……」

 

少女が軽く指をならすとそこらじゅうから風が吹き始める。その温度は低く、少しずつ風力が強くなると同時に温度が下がって行く。みるみるうちにあたりの景色は氷に包まれて行く。

 

「寒っ…………これ………氷結魔法…しかも結構強力な………あいつ、一体何者?」

 

「私の戦いやすいフィールドでやるわ。さて、じゃあ改めて自己紹介でもしちゃおっかな〜っと!あたしはゼロ・フォース!ヨロシク〜」

 

「こないだと、今日暴れてるサードの仲間?」

 

「正解!あれ、ていうかあんたもしかしてシックスに負けた奴?」

 

フォースがにやけながらメグを指差す。メグはそう言われるとカチンと来たのか少し低い声で返す。

 

「油断しただけよ。あれはただの時間稼ぎだったから」

 

「そう、まぁ、楽しませてよね」

 

「あんた達、手ぇ出すんじゃないわよ」

 

メグは周りに手を出させないように命じると、一人で前に出た。周りの部下がメグを心配する。

 

「しかし、隊長代理!一人では危険では…」

 

「私が負けそうになったら手を出しなさい」

 

「あ、はぁ……………」

 

微妙な顔で部下達はメグの背中を見つめた。

 

「始める前に聞くわ。あんた達は一体なに?なにが目的なの?」

 

「……んー?何だろうね。とりあえず私たちは、言われたこt」

 

話してる途中にメグはさっきいた場所に姿を残しながらフォースの後ろに回り込んだ。

 

(幻影回避(ロングVer)!!)

 

そしてロッドモードの暁でフォースを思いっきり殴ろうとしたが、それはメグの動きを見切ったフォースにガードで防がれる。すぐにメグは距離をとって暁をロッドモードからトンファーモードに変える。

 

「クラウソラス!!!」

 

フォースは振り向きざまに魔力弾を数発撃った。

 

「そんな攻撃!」

 

メグは躱しながらフォースに向かって突っ込んだ。トンファーによる近距離戦に持ち込もうとしたが、フォースは空を飛んで避ける。メグの攻撃は空を切った。

 

「このっ!」

 

空に上がったフォースに間髪いれずメグはガンモードに変形させた暁で撃ち落そうと数発空に向けて撃つ。

 

「ブラッディダガー!」

 

「!」

 

放たれた弾丸はフォースの放ったブラッディダガーによってすべて打ち落とされ、余計に打った分のダガーがメグを襲う。しかし、メグはそれを幻影回避で避けた。

 

「幻影回避!!!」

 

追尾式のブラッディダガーは幻影回避で発生した幻影に目標を定め、そのまま幻影を貫通して地面に突き刺さった。

 

「フーン………まぁまぁやる方なのね」

 

「一つ、質問いいかしら」

 

メグは何かに気づき、戦闘を中断し、フォースに話かけた。

 

「話の途中に殴って来なければどうぞ?」

 

「………あんた、さっきから使ってる魔法………闇の書に内蔵されているものじゃない?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー別地区ー

 

 

「発見しました!あれです!」

 

一方、シノブ達のチームも敵を視認していた。

 

「全員散開して取り囲みましょう!前回メグ先輩が負けた相手なので、気をつけて!」

 

シノブの言葉で、魔術師たちが一斉に車から飛び出す。接近の様子を見ていたロクは、取り囲んでくる兵士を見ながら何もせずに立っていた。

 

「あなたは完全に包囲されています。おとなしく投降すれば悪いようにはしません!」

 

一応シノブが最初に呼びかけた。だが、ロクは何も言わずに武器である巨大な盾を取り出し、内蔵されている剣を引き抜く。戦闘体制を取るロク向けて一発の魔力弾が打ち込まれた。

 

「!」

 

ロクはその弾丸を剣で弾く。

 

「抵抗するのであれば、容赦なく我々は実力行使にでる構わないのだな」

 

別の魔導師からの言葉だ。ロクはしばらく黙っていたが、ついに口を開く。

 

「いいからかかって来い」

 

「なに?」

 

「私は私の力を試したい…………そのためにここにいる。さぁ!かかって来い!私を倒してみろ!」

 

「……………総員、戦闘開始!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ー陸士108部隊ー

 

 

108部隊の前には、一人のフードを被った少女が立っている。背は低く、コートを着ているために体型はあまり分からない。

 

「みんな始めたのか…………じゃあ私も…」

 

少女の姿は景色に溶け込み、見えなくなった。

 

 

 

 

続く。

 



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第九話 意地

一昨日あたりからスラスラと進む。しかし次回は恐らく再来週です。お楽しみに。

来年当たりから同人誌活動始めようかなと考えていたり


ーショッピングモール付近ー

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フェイトは次々出現する鎧騎士を蹴散らしていた。鎧騎士は一体一体は特に強いわけでもなく、ただ数が多いだけだ。ザンバーの一振りで数体は片付けられる。

 

「ほら、まだまだいるよ」

 

ナインスが指を揺らすと新たに魔法陣からさらに鎧騎士が出現する。それをフェイトは再びなぎ倒す。

 

「くっ!やはり…………根元を絶つ!!!」

 

フェイトは鎧騎士の頭を踏みつけ、ナインスに向かって跳ね上がった。しかし、フェイトを狙ってビルの屋上に構えていた弓を持った鎧騎士が矢を射った。フェイトはそれを得意の高速移動で躱し、ナインスの後ろに一気に回り込んだ。

 

「あら」

 

「はぁ!」

 

「セカンド」

 

ナインスの身体に刃が触れる直前、フェイトの頭上に魔法陣が展開され、フェイトがさっきまで相手をしていた鎧騎士とは少し違った鎧をまとった騎士が出現してザンバーからナインスを守った。

 

「!!」

 

「どーも、おつかれ」

 

「…………」

 

騎士はフェイトの一撃をいなすと、ナインスを抱えてジークから飛び降り、ビルの屋上に着地した。

 

「そろそろ頃合いかなーっと」

 

「でぇぇぇぇい!」

 

「………」

 

フェイトが追い打ちをかけに行くが、それを今現れた鎧騎士に妨げられる。薙ぎ倒して進もうとしたが、フェイトの太刀筋は完全に見切られ、仕掛けた攻撃は簡単にいなされる。

 

再び切りつけたが、鎧騎士が腰に携えてた剣でそれを防いだ。すぐに切り返し、ザンバーを振るがそれは躱される。それなりに距離をとった鎧騎士はビルの屋上の床が崩れるくらいの踏ん張りで地面を蹴り、飛び上がった勢いで剣を振り下ろす。フェイトはシールドを張ったが、剣をが少しずつシールドの中に入り込んで来るのを視認するとすぐに後ろに跳ねて避けた。

 

シールドはフェイトが離れると消滅し剣は地面に突き刺さる。

 

(この騎士………明らかに他とは違う……………胸があるところを見ると…女性?)

 

「……………その騎士は…何者ですか?」

 

「さぁ?まぁこいつらのボス?」

 

惚ける姿に隙を見たフェイトは一気に勝負をつけに行く。一瞬でソニックフォームに姿を変え、鎧騎士も反応できない速度で間合いを詰める。

 

(この一撃で………っ!)

 

フェイトが完全に死角を獲ったと思ったその刹那、ナインスはフェイトの方にぐるりと首を回した。そして手に持っていた黒い球をフェイトに向けた。

 

「もーらい」

 

「!?」

 

すぐに避けようと思ったが、その背後に新たに召喚された鎧騎士が現れ、フェイトを拘束する。先ほどの騎士ような戦闘力は持たないが、一瞬だけフェイトを抑えるのには十分だ。

 

鎧騎士に邪魔され、高速で移動出来なかったフェイトの胸に球が押し付けられる。それと同時にフェイトの全身に電流が走った。

 

「っ……………!ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

結界の中にフェイトの悲鳴が響き渡った。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー別地点ー

 

「…………はぁ、はぁ…………」

 

寒さと身体の痛みに耐えながら、メグは立っていた。善戦はしているものの、やはり少し押され気味だ。街はメグから見える範囲全てが凍っており、連れてきた仲間は不意打ちによって倒されていた。

 

フォースは吹雪の中に身を隠し、メグを混乱させながら攻撃をしてくる。厄介な相手だった。フォースの攻撃はギリギリ幻影回避で避けられるが、もう結構な回数を使っている。

 

(攻撃に対して反射的に反撃はできるものの、やっぱりそれじゃあ威力が低い…幻影回避もあと使えて2、3回………思いっきりの一発で、決める!)

 

そう思った瞬間、メグの背後からフォースが仕掛けてくる。メグはフォースの蹴りを無理に受けた。

 

「うっ!!!」

 

「あれ、流石に限界的な?」

 

もろに攻撃を受けたメグを見て、フォースは一瞬の油断を見せた。メグはそのままフォースの足を掴み、勝負にでた。暁をガンモードにして銃口をフォースに当てた。

 

「!」

 

「カートリッジロード…………爆裂(エクスプロージョン)!」

 

「なっ!」

 

フォースはゼロ距離で爆裂弾を撃ち込まれ、メグ諸共爆発の中に呑み込まれた。強烈な爆裂で辺りの氷は少し溶ける。爆煙の中からフォースはバックステップで飛び出した。先程までは余裕の表情だったが、流石にこの戦法には驚いたのか、困惑を隠せないでいる。

 

「なに!?いまの意味不明な行動!」

 

「意味不明で悪かったわね!」

 

フォースが出てすぐにメグも爆煙の中から飛び出してきた。暁はトンファーモードになっており、それでフォースに殴り掛かる。フォースは自身の武器の杖を出現させ、暁よりもリーチが長い杖で攻撃する。

 

「幻影回避!」

 

メグは幻影回避で一気にフォースの背後に回り込む。

 

「くっ!」

 

「幻影連撃(ファントム・マシンガンブロー)!!!!」

 

メグの得意な幻影回避(ファントムステップ)はその場に質量をもった幻影を残し、回避する技だ。質量を持つ意味は、相手のデバイスが狙いを付けた時は一つだった対象が一気に二つになることで、命中精度を鈍らせることにある。メグの全身分の幻影を作るとその分質量は薄くなる。

 

しかし、メグは幻影回避の域を広げることも狭めることも可能だ。域を狭めれば狭める程に幻影の質量は高くなる。そこに目を付けたメグは幻影回避の発展技、幻影連撃を編み出した。攻撃の際に自身の武器の命中場所に幻影回避一回分の魔力を送り、瞬間的に武器の分身を作る。命中面積が狭いほど作れる分身は増え、増えた分だけ一回の命中で与えるダメージは増える。

 

今回作れた分身は五個。フォースは背中にメグのトンファーの本体と分身を合わせた六回分の打撃を食らった。

 

「かはっ!」

 

フォースがは吹っ飛んだが、メグはさらに追い打ちをかける。ガンモードに変えた暁から先程放った爆裂弾を撃った。その玉にも幻影連撃の能力を付与させる。放たれた弾丸は一気に十三個くらいに分身した。

 

「幻影爆裂連撃弾(ファントムマシンガンエクスプロージョン)」

 

弾丸はフォースに命中すると爆裂し、幻影の弾に誘爆し、それが重なり大爆発を起こした。爆裂を確認すると、メグは片膝をついた。

 

「はぁ!………はぁ!……はぁ……もう、魔力がきついわね……カートリッジもほとんど使い切ったし………これ以上は…」

 

「………」

 

爆炎の中から、フォースは歩いてきた。身体の所々から血を流しているが、致命傷にはいってない。

 

「これで本気?」

 

「あらら、こりゃちょっと頑張らなきゃかしら…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「…………」

 

「他愛のない……」

 

シノブの率いる部隊はシノブを残して全滅していた。シノブの周りには首と胴が離れた遺体が転がっている。迫り来る恐怖心を押し殺し、シノブは長刀を構えてロクに相対していた。

 

「…………お主ももう楽になれ。死んだことにすら気づかない程に綺麗に、そして素早くその首を狩ってやる」

 

「………今、あなたを自由にさせる訳にはいきません!…………私が下がる訳にはいかないんです!」

 

シノブは勇気を振り絞り前に出た。恐怖で体が震えていることを誤魔化す為に、叫びながら。

 

「……………脱力…………」

 

ロクはその場で目を瞑り、脱力の姿勢を取った。そしてゆっくりと、横においてある盾の内側に納刀されている剣に手を置く。向かってくる少女の首を狙い、剣を握り、足に力を込める。

 

「ラケーテン」

 

ロクは静かに呟くと、目を見開き、右足を前に出して左足に力を込める。そして足の動作がはじまるとほぼ同時に剣を引き抜いた。

 

「!!!!!!」

 

ロクの右足が地面に着いたと同時に剣を振り切っていたが、シノブは健在だ。

 

「はぁ………はぁ…………」

 

「抜刀の速度と……タイミング。完全ではないとはいえ、見切ったか」

 

「痛………」

 

シノブはギリギリのタイミングで後ろに跳ねた。それが功をなし、首ではなく腹部が横一直線に浅く切られた程度で済んだ。シノブは腹部を押さえながら、刀を構え直す。

 

(バリアジャケットをこうも軽々と切り裂くって………一体どれだけの切れ味を持っているのか………」

 

「この剣はな、切ることに特化した剣だ。細胞が、切られたことに気づかないくらいの切れ味だ。魔力で織り成した防具など、力を入れずとも切れる」

 

ロクは近くに倒れていた武装隊員のバリアジャケットを剥ぐとそれを空中に投げた。落下してくる位置に剣を向けるとバリアジャケットはただ落ちてきて剣の上に乗っただけなのに関わらず、真っ二つに切れる。

 

「…………」

 

「………今ならまだ、見逃してやっても」

 

「…………う……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

シノブのヤケの特攻。ロクは「そうか」と呟くと剣でシノブが刀を持っている右手の手首から肘までを切り裂く。

 

痛みで手から刀を離してしまったが、すぐに左手でキャッチしてロクを斬ろうとした。だが、ロクはすぐさま盾を持ち上げ、シノブの剣撃をいなした。

 

そして、盾の内側に仕込まれてるパイルバンカーをシノブの左肩に撃ち込んだ。金属製の杭がシノブの肩を貫通し、幹部から血が溢れ出す。それでも諦めようとしないシノブは前に出ようとする。ロクは剣をシノブの右足に突き刺し、横に切り裂いた。そして同じことを左足にもした。

 

「〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

今すぐにでも叫びそうになった悲鳴をシノブは必死に堪え、そこに跪いた。

 

「…………そこまでされれば、自然と首も垂れるだろう?」

 

「………諦めない……」

 

シノブは無理やり顔をあげる。

 

「……」

 

「隊長に………任されたんだ…………だから…負けない……………諦めない…」

 

「そうか、では最期まで任務を全うし散るがいい!!」

 

ロクが剣を振り上げ、シノブの首を目掛けて剣を振り下ろした。

 

 

 

ーショッピングモール付近ー

 

 

「さ、これであなたは用済み。後は騎士に任せて帰るとしますか」

 

「待ちなさい………」

 

フェイトは黒い何かを胸に押し当てられ、軽い走馬灯を見ながら倒れた。身体が思うように動かせず、地面に伏せながらもナインスを止めようとする。

 

「待たない。さ、鎧騎士。片付けちゃって」

 

「くっ!」

 

再び大量に召喚された鎧騎士はフェイトに一斉に襲いかかった。フェイトは自らの体に電流を流し、その場から飛び出した。

 

「だぁぁぁ!」

 

「おお、無理やり動いたか………まぁ、長くは保たないでしょう。あ、言い忘れたけどさっきよりも鎧騎士のレベルはあげといたから、そう簡単にはいかないよ。ジーク!」

 

ナインスは機械龍を呼び、目の前に降り立ったジークの背中に乗った。

 

「………」

 

「ランサー!はぁ!」

 

フェイトは迫ってくる鎧騎士を相手になんとか撃退はしているものの、倒すまでには至っていない。そんな姿を先程召喚された戦闘能力の高い女鎧騎士が見つめていた。

 

「…………」

 

「くぅ!」

 

フェイトはとうとう保たなくなり、鎧騎士に押し倒された。

 

「もうおしまいね…いくわよ!」

 

ナインスは女鎧騎士を呼んだ。その声に従い、女鎧騎士がジークの方に歩み寄ろうとした瞬間、何者かの気配を察知し、足を止める。

 

 

「…………」

 

「?」

 

 

ーメグ部隊ー

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

メグは吹雪を凌ぐために建物の中に入って廊下を駆けていた。今も外からフォースが狙ってきていている。壁を貫通させてメグに命中させようとしてきている。

 

「危なっ!」

 

メグは壁を貫通させて飛んできた氷属性の魔法弾を回避する。

 

「舐めんじゃないわよ…………」

 

(…………とは言え、魔力はほとんど使い果たしてるし、カードリッジは左右合わせて一本ずつ…捨て身の一発………お見舞いすることしかできないわね)

 

例え、それで相手が倒れなくとも、今のメグにはやるしかないことはわかっている。ここで自分が倒れても、時間稼ぎにしかならなくても、準備を整えた管理局がなんとかしてくれるだろうと信じて。

 

「…………結婚くらいはしたかったわね」

 

メグは立て籠もっていたビルの窓が多いオフィスに入った。メグが窓の近くに立つと外からフォースがこちらを見た。

 

「鬼ごっこはおしまいかしら?」

 

「ええ………この戦いも、私の勝利という美しいエンドで終わらせてあげるわ」

 

「へぇ、面白いじゃん!」

 

氷の弾丸を多量に精製し、フォースはオフィス全体に行き届くように撃ち込んだ。

 

「はぁ!」

 

メグは前に進みながらトンファーで氷の弾丸を打ち砕くも、対応が追いつかない弾を何発か身体に食らった。しかし、立ち止まらずに進み、窓から飛び出す。そしてフォースの目の前まで飛んだ。

 

「!」

 

「カードリッジ、オーバーロード!全制御システム解除!バースト!」

 

メグが両手に持っているトンファーがカードリッジを使用し、魔力を貯めるとトンファーから大量の魔力が溢れ出しそれが炎となり、メグの腕まで包む。

 

「ブレイク!」

 

「くっ!」

 

メグはトンファーをフォースの鳩尾に当て、腕とトンファーを包む炎を殴った衝撃ごとぶつけた。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!!!」

 

フォースは吹っ飛び、ビルに激突した。メグは完全な魔力切れとなり、バリアジャケットも維持できなくなり管理局制服姿に戻って地面に向かって落ちた。

 

「……あぁ……………もう無理かぁ…」

 

地面までの距離は10m近くある。頭から真っ逆さまに落ちたとなると死ぬ確立は高い。メグは生きることはほとんどあきらめていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ーショッピングモール付近ー

 

 

金属と金属が擦れ合う音と共に、フェイトの目の前にいた鎧騎士数体が切り裂かれた。

 

「え……………」

 

「無事ですかい?執務官殿」

 

フェイトの目の前に、白髪の男性が降り立った。パーカーにジーンズというラフな格好だが、刀を持っている。

 

「あなたは?」

 

「通りすがりの…………」

 

そこまで言うと、鎧騎士が襲いかかってきた。男は鎧騎士の剣をほぼ見ずに回避し、カウンターで一気に5体の鎧騎士を切り伏せた。

 

「正義の味方だ」

 

偶然にもフェイトを助けにきたのは、アキラの義兄であるレイだった。

 

 

ーメグ部隊ー

 

 

「ご苦労だったな。ヴァルチ陸曹長」

 

メグを誰かが空中で受け止めた。メグが少し目を開けると、そこにはピンクの綺麗な髪が映る。それをみてすこしメグはアンドした。

 

「あれ…………?あ………シグナムさん…」

 

「よく頑張ってくれた。後は任せておけ」

 

偶然近くにいたシグナムが応援に駆けつけたのだ。

 

 

ーシノブ部隊ー

 

 

シノブの首を跳ねる筈の刃は空中に舞った。

 

「……………」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

何が起きたか判断できていないロクの顔面に拳がめり込んだ。ロクはそのまま吹っ飛んで行った。シノブは自分の横に誰かが立っていることに気づき、少しずつ視線を横に向けた。

 

そこには、アキラが立っていた。

 

「そんなんなるまでよく頑張ってくれた。後は俺がやる。救援部隊ももうじき到着するから、あと少し耐えてくれ」

 

「………………隊長…っ!」

 

信頼できる隊長を目の前にし、シノブは安堵と共に涙を流す。

 

「泣くな。さ、あとちょいの辛抱だからな」

 

アキラはせめての応急処置として制限時間が終えれば回答される時限式の魔法でシノブのけがの箇所からあふれる血を凍らして止血させる。

 

「……………さぁ…………俺の部下を可愛がってくれた礼はさせてもらうぜ」

 

「…アキラ…ナカジマ!!!!!」

 

 

続く

 



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魔法辞典 武器編

お久しぶりです。10話を読むにあたって必要な情報を置いておきます。


 

マイティギャリバー

待機形状:ギャリバーズと同じ形状

アキラも為に作られた高性能デバイス。戦闘特化で、エクリプスを失ったアキラの戦力を少しでも埋め合わせするために多数の変形態を持っている。それ故精密、そしておなじ物は中々作れないというのはマリエル談。BJ装備時に右腕にギンガのブリッツギャリバーAに装備されてるのとおなじストライクナックルが装備される。

 

モード(基本的に出力の大きい形態出なければ二つに分離可能)

 

砲撃形態

ガン

一番出力の小さい武器。ダメージよりもスタン等を狙うための形態。

マシンガン

ガンと出力の大差はないが連射による相手の行動を封じる事などができる。近接武器と合わせて使う事が多い

マグナム

小型で最も出力の高い形態。連射は不向きだが一発一発のダメージは大きい。命中せずとも壁や地面に当たって爆裂した余波だけでもかなりのダメージになる。

ライフル

最もスタンダードな形態。ダメージも中。連射はマシンガンほどではないが可能。

ガトリング

回転式の二重の三連バレルで構築された形態。一発一発の出力は小さいが、それを補う程の連射力。分離は不可

カノン

砲撃型中最大出力。カレドウルフ社の開発したストライクカノンがモデル。出力最大で一発撃つと再チャージに時間がかかる。出力を抑えた状態での射撃も可能。その場合の威力はライフルよりも少し上。分離不可

 

近接形態

アサルトナイフ

サイズは小さめだが、投げてよし、暗殺によしの割りと使い勝手の良い形態。

ブレード

アサルトナイフを大型にしたような形態。刃は両端についている。

ハンドブレード

持たずに腕に装備するタイプ。長さは刀と同じだが、形状は刀ではなく剣。砲撃形態と併用に役立つ時もある。

刀型。アキラの最も得意とする形態。鍔はない。

長刀

刀を長くした形態。状況に応じて使い分ける。

バスターソード

刀身が巨大な剣。重い一撃を狙える。分離不可

ナックル

両腕に装備する格闘専用形態。小さいので動きやすく扱いやすい。リボルバーナックルのような出力ではないがそこそこの威力はある。

ローラー

足の装備品。ギンガ等とおなじローラーブーツを装備出来るがアキラはもともとローラーブーツが苦手であり、燃費も悪いので緊急時以外は使われない。

 

フルアーマーモード

 

アキラのブラックレイランサーと併用することで展開が可能。下半身にブースターが付き、飛行が可能になる。右肩に自動発射のマグナム、背中に刀、右腕にカノン、左腕にガトリングとハンドブレード、腰にブレード、膝にガン、ふくらはぎにアサルトナイフが装備される。



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第十話 救出

お久しぶりです。約5カ月ぶりの更新です。大学が思ったより大変で…正直この先が不安ではありますがもし待ってていただけるのであれば待っててくださるとありがたいです。いつか必ず完結させます!


ーショッピングモール付近ー

 

「…………正義の……味方?」

 

「………………」

 

フェイトの前に突如現れた青年。服装からして完全に一般人だが、彼はアキラの実家、橘家が経営する傭兵会社のトップにもあたる戦士、橘レイであった。

 

「ご無事ですか?執務官?」

 

「こ、ここは危険です………早く避難を…」

 

フェイトはボロボロになりながらもあくまで執務官としての執務を果たそうとした。

 

「って…そんな満身創痍でそんなこと言われても言うこと聞く気に慣れませんよ」

 

苦笑いをうかべ、レイはフェイトを抱き上げ、ビルからビルへと飛び移った。

 

「わっ!わっ!」

 

「大丈夫。しっかりつかまっててください」

 

しかし、行く手を阻むように飛び移るビルに次々と鎧騎士が召喚される。レイはそれをうまく躱しながら結界限界域を目指して走る。

 

「危険です!私を置いて早く…」

 

「それは無理な相談ですよ。さっきも言いましたが。とりあえずあなたをこの結界から出します。その方がやり易いので」

 

立ちはだかる鎧騎士の隙間を縫って颯爽と走り抜けるレイの姿を見てナインスは爪を噛む。彼女の任務はフェイトのデータ、正確にはフェイトのDNAや魔力を頂いて帰ることだが、管理局の戦力的にフェイトがいられると厄介だ。処分できないのはめんどくさいとナインスは考えた。

 

「くそっ!セカンド!あいつらを捕らえろ!殺せ!」

 

「………っ!」

 

セカンドと呼ばれた鎧騎士は一気にビルから数十メートル先まで跳ねた。そして、地面に着地する直前、足にローラーを出現させた。そのままローラーで加速し、レイを追いかける。

 

「………あいつはめんどくさそうだな」

 

レイは走りながら呟いた。その言葉の意味がわからなかったフェイトがレイの背後に視線を向けるとセカンドと呼ばれた鎧騎士がすぐそこまで迫っていた。

 

「あれは…さっきの!」

 

「悪ぃな執務官殿」

 

「え?」

 

「うまく着地してくれ」

 

レイは懐から拳銃を取り出し、結界に向けて撃つと同時にフェイトを投げた。

 

「きゃあ!!!」

 

放たれた弾丸は結界に当たると対魔力派を発生させ、結界に人一人通れるくらいの穴を開けた。フェイトはその穴を綺麗に通り抜け、結界外にでた。

 

「よし、思ったより綺麗にいったな……………さて、それじゃあ遊ぼうかお嬢さん」

 

「………………」

 

レイは振り返ると刀を抜いた。

 

「その仮面の下に、どんな花があるのか………確認してあげよう」

 

「………………aaaa」

 

 

ーメグの部隊ー

 

 

「…やつは」

 

メグの元に急行したシグナムがメグが最後の力で吹っ飛ばしたフォースを探していた。飛ばされたと思われる場所の近くを飛んでいると、急に吹雪が強くなった。

 

「烈火の将、シグナム」

 

どこからか声がした。強くなった吹雪のせいでまだ敵の姿は見えない。

 

「時空管理局所属、八神シグナムだ。おとなしく投降しろ。悪いようにはしない」

 

シグナムは冷静に対処したが、それは無意味だった。次の瞬間、シグナムの頭目掛けて氷の槍が吹雪の中から飛んでくる。

 

シグナムは槍をレヴァンティンで切り落とした。

 

「さっきのとは違って、楽しめそうね♪」

 

「なるほど、強制連行がお望みか」

 

フォースはニヤリと笑うとさっきまでは使ってなかったどこか、はやての杖ににているところがある気もする杖を出現させた。

 

「さぁ!いっくわよ!逆巻け!」

 

「!?」

 

シグナムを中心に、吹雪の竜巻が巻き上がる。シグナムは台風の目にいる状態だ。寒さと吹雪の中にある尖った氷がシグナムを徐々に傷つける。

 

「ふん………この程度か」

 

シグナムはレヴァンティンのカードリッジを一つ使い、刀身に火炎を纏わせた。

 

「紫電……一閃!」

 

竜巻に内側から技を叩きつけ、竜巻と相殺させた。それにより竜巻に一時的に隙間が現れ、シグナムはそこから脱出した。

 

だが、脱出したシグナムに待っていたのは氷でできた大量の槍が自分に向かってきている光景だった。

 

「くっ!レヴァンティン!」

 

『!』

 

連結刃に変形させたレヴァンティンを駆使し、シグナムは自らに迫る氷の槍を全て砕いた。一瞬焦ったが、冷静に対処しきった。

 

「はぁ………はぁ………」

 

「おー!やるじゃん!流石は闇の書の守護騎士」

 

「闇の書ではない。夜天の書だ」

 

「どっちでもいいよ。あ、でも私にとっては私の能力をくれた恩人?だから闇の書って呼んどいてあげるね」

 

「能力だと?」

 

引っ掛かる一言に、シグナムの眼光が鋭くなる。

 

「あ、これ言っちゃいけなかったっけ……まぁいいや」

 

刹那、シグナムの視界からフォースが消えた。

 

「!」

 

「どうせ殺すし」

 

上空から声がした。シグナムはすぐに視線を移したが少し遅かった。無数の光弾が彼女を襲った。

 

「ぐぁ!」

 

追撃をよそうしたシグナムは爆煙の中からすぐに抜け出し、そのままビルの隙間を縫うように飛行した。予想通り追撃の光弾がシグナムを追ってきた。

 

「くっ!」

 

シグナムは壁ギリギリを飛行し曲がり角で急なカーブを行って光弾同士をぶつけ合わせて相殺させた。

 

「まだまだいくよ!」

 

どこからかフォースの声がする。フォースは既に吹雪の中に姿を隠していた。

 

(…ちっ。相性が悪いな……)

 

建物の影に隠れつつ、レヴァンティンを構え直した瞬間だった。吹雪の中からフォースが飛び出す。完全に背後をとられたシグナムはフォースの攻撃を防ぎきれなかった。

 

 

 

ーシノブ部隊方面ー

 

 

 

こちらでは殺されかけたシノブを助けに、アキラがやって来た。武器を折られたことに驚いていたロクだったがすぐにニヤリと笑う。

 

「アキラ・ナカジマ……一度刃を交えてみたかった…サードに先を越されてしまったからな」

 

「マイティギャリバー、モードブレード&マシンガン」

 

ロクの言葉に耳を傾けず、アキラはマイティギャリバーを近接戦闘形態の最もスタンダードな形態に変えてロクに近づく。ロクも大盾を持って構えると、盾の先端から杭のような物を出現させ、固定した。それをアキラに向ける。

 

(パイルバンカーの先端か…遠距離と近距離どっちとも使えるわけか)

 

「さぁいくぞ。メグ・ヴァルチとは違う結果を期待しているぞ!」

 

ロクは盾を構えたまま走り出す。アキラはマシンガンをロクに向けて打った。ロクは当然盾で弾丸を防ぐ。盾を使うことにより一瞬妨げられたロクの視界の死角に潜り込み、アキラはブレードを構える。

 

「氷刀一閃」

 

氷刀一閃を足に当て、バランスを崩させようとしたが、ロクはそれを見切っていた。ジャンプでアキラの剣を避ける。

 

「はぁ!」

 

素早く着地したロクは盾に最も多く自分の体重を乗せられるように体勢を構え直し、アキラに短く突進した。

 

「ぐっ!」

 

多めの体重が乗せられた突進をアキラはモロにくらいすこし吹っ飛ぶ。が、アキラはなんとか踏ん張り、倒れずに耐えた。

 

「ランス!」

 

体勢を立て直したアキラはマイティギャリバーの形態をランスに変え、からはみ出てる肩を狙うが簡単にかわされた。

 

「!」

 

「遅い!」

 

ロクは盾に一旦隠れ、アキラの視界から抜ける。そして素早く盾から飛び出した。

 

そのまま飛び出した勢いと共にアキラの鳩尾に平手で一発打ち込む。アキラは一瞬反応が遅れ、ガード出来ずに吹っ飛んだ。

 

アキラが体勢を崩している隙にロクは盾を持ち上げて先端をアキラに向ける。背面についてるブースターを起動させると、ロクは盾に引っ張られる形でアキラに向かってとんだ。

 

「!」

 

「ラケーテン、ハンマー!」

 

「ぐっ!」

 

アキラは急いでシールドを起動させるがパワー負けし、後退する。

 

「ぐぅぅぅ!」

 

「無駄だ!」

 

足を踏ん張らせ、なんとかその場に留まるも、パイルバンカーの杭が回転し少しずつシールドに侵入を始める。

 

「まさか…」

 

アキラは危険を察知し、慌てて横にずれた。その刹那、ロクの盾から杭が発射され、ついさっきまでアキラの頭があった場所を目にも止まらぬ速度で通過した。

 

「…っ!」

 

「休んでる暇は!」

 

発射されたパイルバンカーに驚いているとアキラは目の前に盾が迫っていることに気づけなかった。しかしアキラもとっさの判断で槍の柄でロクの突進を阻んだ。

 

「はっ、大盾なんて構えて戦い辛そうだと思ったが案外そうでも無さそうだな」

 

「ふ、人の心配をしてる場合か?」

 

「なに?」

 

「自分の…いや、自分の家族の心配をしたらどうだ?」

 

「…なん………だと?」

 

「言葉のままだ。家族の心配はしなくていいのか?」

 

「テメェまさか!」

 

アキラは急いで引き返そうとした。しかし、後方で死の縁に立っているも、アキラがいることで安心し、生きているシノブの姿が目に入る。

 

「っ!………」

 

「さぁ、どうする?私と戦うか?それとも、あの娘を放って家族を優先するか?」

 

「ぐ…」

 

アキラがシノブを見ると、シノブは弱々しい目でこちらを見てきた。

 

「た…い……………ちょ…う」

 

見捨てられない…。見捨てられない?本当に?ここで見捨てればきっと、ギンガは怒るだろう……………だが、アキラが今本当に助けたいのは…。

 

アキラが葛藤し、隙だらけの背中にロクの盾が迫っていた。

 

「隊長!」

 

「!」

 

 

ーアキラ家ー

 

 

そのころ、ギンガは一人でアリスをあやしながら アキラの帰りを待っていた。そこに、 自宅のチャイムを鳴らす音が聞こえる。

 

ギンガはアリスをノーリに任せてインターフォンのカメラ画面を見る。其処に写っていたのはアキラではなく、いつぞやウーノと共にやって来てクッキーを持って行ったあの銀髪の少女だった。

 

この前のお礼だろうか?そう思いつつ応対にでる。

 

「あっ、やっはろ~」

 

玄関前では銀髪の少女が屈託のない笑みを浮かべて手を振っている。ギンガはそんな少女の姿に苦笑しつつ声をかける。

 

「貴女はこの前のクッキーの子ね?一体どうしたの?」

 

「あっ、あのクッキーとっても美味しかったよ。おねーさんおりょーりじょーずなんだね」

 

「ああ、違うの。あのクッキーを作ったのは私の妹なのよ」

 

「へぇ~‥‥セカンドの奴が‥‥アイツがあそこまで器用なんて意外だな‥‥」

 

「えっ?」

 

(今、この子セカンドって‥‥)

 

銀髪の少女がボソッと言った言葉に違和感を覚えるギンガ。

 

「でも、今日は別の用事で来たの」

 

「別の用事?」

 

「うん。本当は二つあったんだけど、今はソイツが出かけているみたいだから、もう一つの用事を済ませちゃおうと思って」

 

「貴女、一体何を‥‥」

 

少女の、いや、セヴンの拳が素早く引かれ、ギンガの鳩尾を狙うが、その時、二階の窓から大人モードでナンバーズギャリバーを起動させたノーリがツインブレイズを振り上げて飛び出してきた。

 

「!!」

 

セヴンは素早く後方に下がった。それとほぼ同時にノーリがナインスのいた場所に着地する。

 

「ノーリ!」

 

「ギンガ!アリス連れて地下の脱出シェルターにいけ!居間のベビーベッドに寝かしてる!」

 

「ノーリは…」

 

「こいつを刺し違えてでも倒す…早く行け!!」

 

ギンガは無力な自分にイラつきながらもアキラが家を建てるときに設計し、付けたシェルターに向かった。

 

「あれ?アキラいるじゃん」

 

セヴンは不思議な顔をしながら言う。

 

「ワリィな。俺はノーリだ」

 

「よくにてるけど違うの?………まぁいいや」

 

次の瞬間、ノーリの目の前までセヴンが迫っていた。ノーリはまったく感知出来なかったことに驚きながら吹っ飛ばされた。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

居間の扉の前の廊下を吹っ飛んできたノーリをギンガが心配する。

 

「ノーリ!」

 

「俺に構うな!早くいけ!」

 

「………っ!ごめんなさい!」

 

ギンガは居間のなかにある隠し扉に向かった。

 

「…構わねぇよ。俺はアキラに任されたんだ」

 

ノーリが立ち上がると家の中にセヴンが入っていた。セヴンは立ち上がっているノーリを見ると、叫んだ。

 

「あれ、死んでない。ねぇ!クラウド!」

 

「なんだ」

 

セヴンがクラウドの名前を呼ぶと、いつ来たのか、クラウドがセヴンの後ろに立っていた。

 

「なんかアキラっぽいやつがいるんだけどどうする?」

 

「邪魔だから消しとけ」

 

「ん」

 

まるで自分は道端に転がる小石のような言われよう。ノーリは軽くキレながらディエチの武器を起動させた。

 

「なめてんじゃねぇぞ三下ぁ!」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

十数分後、アキラの家の付近にアキラのバイクが向かっていた。アキラは、自宅の回りに大きめの結界が発動しているのを確認すると、ブラックレイランサーを起動させ、結界に突進した。

 

「ギンガ……無事でいてくれ!」

 

そんな彼のいく末を案じさせないかのように、雨が降ってきた。

 

 

 

ー結界内ー

 

 

ブラックレイランサーの結界に侵入したアキラは自宅を見て呆然とした。家がほぼ崩壊していたのだ。

 

「…そんな……」

 

家に入ろうとした時、二階の部屋から爆発音と共になにかが飛び出し、家の塀を叩き壊す。よく見ると人間のようだ。

 

「ノーリ?」

 

ボロボロになったノーリ。そしてノーリの鳩尾に拳をめり込ませている少女。セヴンだ。

 

「……ん?あれ、君もしかして橘アキr」

 

アキラがマイティギャリバーのブレードでナインスに切りかかるのに、一秒なかった。セヴンはアキラの攻撃を片手で防ぐ。

 

「ラだよね」

 

「俺が誰かは俺の質問に答えたら教えてやる」

 

「なに?」

 

「ギンガはどこだ」

 

「ああ、それはたしか…」

 

「ここだ。アキラ・ナカジマ」

 

上から声がした。聞き覚えのある声だ。アキラはゆっくりと視界を上に上げた。アキラの真上に、クラウドがいた。

 

「お前の愛しの人はここだ」

 

ギンガはスタッフで作られたポッドの中にアリスと共に閉じ込められていた。

 

「貴様ぁ……」

 

「セヴン。おまえは下がれ。そのアキラもどきとの戦闘でダメージも蓄積されただろう」

 

セヴンはそれをきくとアキラのブレードを振り払い、別の家の屋根まで飛び上がった。

 

「えー、まだいけるよ」

 

そうは言うがナインスはまぁまぁダメージを受けていた。ノーリも必死で戦ったのだ。

 

「たかがクローンにそれほどやられるのならまだアキラには勝てないだろう。大人しくしてろ」

 

「ぶー!まだ暴れたいー!」

 

「さて、アキラ・ナカジマ。いくぞ愛しのギンガを取り戻したければ私を」

 

言葉の途中でクラウドに魔力砲が飛んできた。クラウドは不意打ちの一発にも関わらず冷静に防御魔法で防いだ。

 

クラウドの視界が魔力砲で一瞬妨げられたその隙にアキラはギンガの入っているポッドを狙い、飛び上がった。

 

(ギンガ!今助け…)

 

「逃すわけがないだろう!」

 

「がっ!」

 

アキラはクラウドが出現させたスタッフの触手に殴り飛ばされ、居間のガラス窓を突き破り、テーブルを破壊してようやく止まった。

 

「くっ…ガトリング!」

 

アキラはマイティギャリバーをガトリングモードに変えクラウドに向けた。

 

「蜂の巣にしてやらぁぁぁぁぁ!」

 

バレルが回転し、無数の魔力球が放たれる。しかしその球はクラウドのシールドに防がれる。クラウドはシールドを張ったままアキラに向かっていく。

 

「くっ!威力が足りない!」

 

クラウドは接近と同時にスタッフを腕にまとわせ、形を短剣に変える。

 

「死ね!アキラ・ナカジマ!」

 

「ちっ!」

 

アキラはクラウドとエンゲージする直前、手榴弾を転がした。

 

「!」

 

手榴弾が爆発し、二人は爆煙に包まれた。アキラはシールドで爆発を防ぎ、爆煙の中から飛び出して構え直そうとした。しかしアキラの足を爆煙から延びたスタッフの触手が絡めとる。

 

「傭兵にしては不意討ちに長けているな」

 

「このっ!」

 

アキラはマイティギャリバーをアサルトナイフモードに変え、触手を切り落とそうとするが遅かった。アキラは触手に引っ張られ、空中に持ち上げられる。

 

そしてそのまま隣の家の壁に叩きつけられた。

 

「ぐあ!」

 

アキラは壁を突き破り、隣の家の廊下を転がる。

 

「消えるがいい」

 

クラウドは黙示録の書を開き、開いたページに書かれた文字をなぞる。すると、クラウドの前に大きめの魔方陣が展開し、魔力が集束され、黒紫の魔力砲が放たれた。魔力砲は壁を突き破り家々を貫通した。

 

「他愛もない…」

 

そういって去ろうとすると、家の影からウィングロードがギンガが捕らえられているポッドに伸びていることにクラウドは気づく。

 

ウィングロードの上には額から血を流したアキラがブラックレイランサーを装備したバイクで颯爽と走っている。

 

「あくまでもねらいはファーストか」

 

クラウドは黙示録の書を数ページ捲り、再び文字をなぞった。今度はアキラの周りに小さめの魔方陣が展開され、そこから鎖が伸びる。鎖はバイクを縛りつけたが、アキラは鎖に捕らわれる直前にバイクから飛び降り、ポッドに手を伸ばす。

 

(あと少し…)

 

だが願いは届かず、あと少しのところで鎖がアキラの足を捕らえた。

 

「離しやがれ!!」

 

アキラはガンモードのマイティギャリバーを取りだし、鎖を撃ち抜いた。なんとか脱出したアキラはウィングロードの上を再び走り出す。しかし、クラウドは当然逃さない。アキラの足を的確に撃ち抜き、ウィングロードから落とした。

 

「ぐっ!くそっ!」

 

「…」

 

アキラが落ちると、ウィングロードが消え、バイクも落ちてきた。アキラはバイクに付いているブラックレイランサーを解除し、ブラックレイランサーをもって物陰に隠れた。

 

アキラが逃げる姿を見ながらもクラウドはあえて追わずに、そのまま上空に飛び上がる。

 

「余裕を…」

 

「…?」

 

アキラはクラウドが小さく呟いた言葉を聞きながら次の一手を準備する。

 

「あえて余裕を見せよう!アキラ・ナカジマ!お前の全力を見せろ!私を殺しに来い!勝てばお前にギンガ・ナカジマを返そう!お前の持てる全てで掛かってこい!」

 

アキラは家の影に隠れながら襲撃の準備をしていた。

 

「うるせぇな言われなくても殺す…絶対殺す」

 

必ずギンガを助けると近いながら準備を整える。ブラックレイランサーとマイティギャリバー。二つを組み合わせた今のアキラに出せる最高火力。

 

「マイティアーマー。起動」

 

 

クラウドが空中で待機していると、アキラ家の隣家から壁を突き破って魔力砲が飛んできた。クラウドはそれを見ずにシールドで防ぐ。

 

「同じことの繰り返し…」

 

クラウドが軽く呆れていると、怒号と共にシールドに衝撃が走った。

 

「!?」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

アキラは飛行ユニットが付いたアーマーを纏いクラウドのシールドに特効した。肩にはマグナム、背中に刀、両腰にブレード、膝にガン、ふくらはぎにアサルトナイフ、左腕にガトリングとハンドブレード、右腕にカノンを装備した正しく最終装備。

 

アキラはハンドブレードをシールドに突き立て、ブースターを加速させた。

 

「やっとやる気になったか…」

 

「ここで!ギンガを助ける!」

 

ブースターの加速により、ハンドブレードがわずかにシールドを貫通する。その瞬間アキラは肩のマグナムを放ち、弱ったシールドを割った。

 

「ほぅ…」

 

シールドが割れたことによりブースターで加速したアキラはそのままハンドブレードを刺しに行ったがクラウドはスタッフで精製した剣で防ぐ。

 

「くたばれ」

 

アキラは剣同士のつばぜり合いの最中、右手のカノンと肩のマグナムの銃口をクラウドに向けた。だがクラウドも甘くはない。

 

スタッフを出し、身体を包むように形を変えてアキラのマグナムとカノンの砲撃を防いだ。攻撃を防いだクラウドはスタッフの形を刃付きの触手に変え、アキラを襲った。

 

「ふっ!」

 

アキラはブースターを前に吹かして触手を回避する。そのままアキラはガトリングを撃つが細く素早い触手でアキラの放った魔力弾を全て撃ち落とした。

 

「ちぃ!」

 

「今度はこちらから行くぞ!」

 

クラウドが両手を広げると、銃の形をしたスタッフが大量に精製され、アキラに向けて一斉に放たれた。

 

「けっこうな量じゃねぇか!」

 

アキラはブースターを全開にし、空中を自在に飛び回ってなんとか弾丸を避けて回る。クラウドはアキラと平行するように飛行を始めた。

 

「剣を構えろ!ここからは容赦なく行くぞぉ!」

 

 

 

続く

 



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第十一話 行方

一ヶ月ぶりです!次回は二人の決戦の間とその少し前、そしてその後、各襲撃場所でなにが起きたかを描いていくよ!お楽しみに目標は今週末!


この日、ミッドチルダは雨だった。そんな雨のなかに結界が一つ。その結界内で、金属が交差し会う音が響いていた。

 

アキラとクラウドは航空剣技の戦闘を続けているが、アキラが押されている。

 

「のやろぉ!」

 

アキラは右手のカノンを構えたがクラウドが出した先に刃がついてる触手にカノンを破壊される。

 

「しまった!」

 

「まだまだいくぞ!」

 

クラウドはそのまま突進し、腕にスタッフで精製した剣を振り下ろした。破損したカノンを投げ捨て、アキラは背中の刀を抜いてクラウドの剣を防いだ。

 

「ぐぅ………なんてパワーだこのガキ…」

 

「スタッフを全身に這わせているからな。私の力は弱いものだが、スタッフがパワードスーツ代わりになっているのだ!」

 

クラウドは叫ぶと共にアキラの刀を弾く。アキラは弾かれたと同時に刀のマグナムを撃つと同時に少し距離をとって体勢を建て直す。だがクラウドは刃付きの触手でマグナムの魔力弾を弾いた。

 

「どうした、本気でやらねばお前はなにもできず死ぬだけだ!」

 

クラウドは刃触手を一気に5本に増やしアキラを襲わせる。アキラは肩のマグナムと左腕のガトリングを使って触手を狙ったが、それで撃ち落とせたのは一本のみ。回避がうまくとれず触手によって、カノン、ガトリング、足に装備されたガン、左腕のハンドブレードを破壊された。

 

「なにも守れず!誰も救えず!ただ無意味な存在として散るだけだ!」

 

「ふざけろ!」

 

アキラは腰のブレードを一本抜き、刀とブレードで触手を切り落としながらクラウドに向かっていく。

 

そして両手をクロスさせて両手の剣をクラウドに当てようとしたがアキラの攻撃はシールドで防がれた。

 

「っ!氷刀一閃!」

 

防がれはしたがアキラはすぐに構え直し、氷刀一閃でシールドを切り裂く。そして左手のブレードでクラウドを刺そうとした。

 

しかしその一撃はクラウドの右手の刃で弾かれる。間髪入れずアキラは刀を向けるがそれも弾かれた。スタッフの力でパワーを上げてるクラウドは必要最低限の力で対応できる分素早いのだ。

 

「らぁ!」

 

二撃いなされてもアキラはめげず三撃目を入れる。両手の剣を同時に突き刺そうとする。クラウドは二つの剣をまとめて右に払い、そして左手に精製した剣をアキラの体に向けて振ったがアキラは身体を捻らせて避ける。

 

剣はアキラの脇腹にかすっただけで終わった。アキラは剣を避けると同時にすこし距離を取り、構え直すと再び切りかかった。

 

「氷牙大斬刀!」

 

「!」

 

小競り合いが続くかと思われたがここでアキラが大技に出る。クラウドは急な大技に対応しきれず、両手の刃で防ぐしかなかった。

 

スタッフの力で耐えようとしたが物理的な重さで地面に向けて落とされかける。

 

「くぁ!」

 

クラウドの落下と共にアキラは氷牙大斬刀を解除し、クラウドを追いかけた。クラウドはすぐに体勢を直すため、落下の状態から横への空中移動に変える。

 

「ふぅ!」

 

「逃がすか」

 

ようやく出来た隙。逃すまいとアキラはすぐに追いかける。

 

「雷神剣………轟雷召!」

 

「ちっ!」

 

刀に雷を纏わせ、それを放つがクラウドはシールドで防ぐ。体勢を直しきれず、防ぐしかなかったのだ。

 

「ぐっ!」

 

「地神剣・天落!」

 

攻撃を防いでいるクラウドの真下のコンクリートが砕かれ、先の尖った岩が飛び出す。クラウドはそれに気づけなかったが、クラウドの全身を這っているスタッフが気づき、防いだ。

 

しかしアキラの技の威力が強く、スタッフから伝わった強い振動がクラウドの集中を解き、それと同時にとっさに張ったシールドが割れた。クラウドはアキラの雷を喰らい、落ちた。

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

「炎神剣・業烈火ぁ!!」

 

アキラは追撃を続ける。激しい炎を纏わせた刀でクラウドに襲いかかった。

 

「…っ!」

 

クラウドは舌打ちをして黙示録の書を開き、文字をなぞる。するとスタッフが魔法陣から大量に溢れた。

 

「なっ!」

 

アキラは驚きつつもスタッフの波に立ち向かう。そんなアキラの肌にスタッフが触れた瞬間だった。

 

「!?」

 

(なんだこりゃあ!?)

 

アキラの頭に、様々な思いが流れこんできた。恐怖、絶望、不安、様々な形の、様々な負の感情が。

 

アキラは驚き、急停止して上空に退いた。冷や汗がアキラの全身から溢れてくるのを感じた。

 

(なんだ…今の…。一瞬で死にたいような…いや死の瞬間を体験したような感じだった…)

 

「スタッフに触れたか」

 

「…」

 

何が起きたか察したクラウドはなにも言わずにアキラを嘲笑った。

 

「ふ、まあいい。お前の急な猛攻には驚いたぞ」

 

「…」

 

「少し本気を出すとしよう」

 

クラウドは魔法陣から流れるスタッフに左手を突っ込んだ。

 

(あいつ……あれに普通に触れるのかよ…)

 

「行くぞ…」

 

クラウドはスタッフから腕を引き抜くと腕にまとわりついたスタッフが形状を変え、尖った爪を持った鎧になった。

 

「…っ!」

 

アキラが構えると同時にクラウドもアキラに向かって高速で接近した。

 

「氷牙!」

 

アキラは左腕に氷の鎧を生成し、クラウドに立ち向かう。

 

二人が交戦する直前、先に仕掛けたのはアキラだった。

 

「氷刀一閃!」

 

氷刀一閃を放ったがクラウドは紙一重で避ける。クラウドが横にずれてアキラの攻撃を避けた直後、アキラの頭を左腕の鎧で掴もうとするがアキラは氷の鎧を装備した腕を間に挟み、腕をつかませた。

 

「エクスプロージョン」

 

「チッ!」

 

掴んでいる腕にエネルギーが溜まるのを察知したアキラは刀をクラウドの体に向けた。しかしクラウドも右手に装備している剣で防ぐ。

 

「ブレイク!」

 

「ぐあ!」

 

クラウドの叫びと共にアキラの掴まれた腕が爆裂した。氷の鎧は少し砕けたがアキラはクラウドから脱出した。

 

「くっ!炎神剣!業烈火!」

 

離れると同時にアキラは炎神剣・業烈火を放つ。クラウドは腕のスタッフを素早く形状変化させ、盾にしてアキラの炎を防いだ。

 

「緩い!」

 

クラウドは叫んで魔導書を開き、文字をなぞった。

 

「ボルケーノ…」

 

盾を出してる手とは逆の手に魔力を貯めそれを思いきりアキラに向けて放った。

 

「バスタァァァァァァァァ!!」

 

「!」

 

クラウドの撃ったボルケーノバスターはアキラの炎神剣を易々と貫き、アキラに命中する。

 

「どうわぁ!」

 

防御する間もなくアキラの身体は炎に包まれた。そのままボルケーノバスターに押され、民家の屋根を突き破った。

 

「がはっ…まだまだ……」

 

再び空に戻ろうとした瞬間、真後ろにクラウドがいることに気づく。

 

「なっ!」

 

「遅い!」

 

左腕の鎧から放たれた魔力砲を背中にくらい、壁を突き破って向かいの家の門に激突した。

 

アキラのマイティギャリバーの飛行ユニットが破損し、バリアジャケットのダメージ蓄積量が限界値に到達したことで装備が解除される。

 

「あっ…がぁ……がはっ!……はぁ…………はぁ……く………そぉ」

 

アキラは起き上がろうとするも、倒れてしまう。流れる血が水溜まりに混ざって行く。いつの間にか雨の勢いは強くなっていた。

 

アキラは恨めしそうな目で右手の腕輪をみた。冥王イクスヴェリアから貰ったものだ。アキラが普通の人として生きていけるようにエクリプスウィルスを封じてもらった腕輪。

 

今は、この腕輪がただひたすら憎い。なぜならアキラ自身の力で封じたエクリプスウィルスを解放できないからだ。

 

「はぁ……はぁ………ちく…しょお!」

 

「…もしも、エクリプスウィルスの力を使えたら」

 

「!?」

 

クラウドがアキラの思っていたことを口に出した。

 

「そう考えたのではないか?」

 

「くそったれが…あぁそうさ……この力があれば、テメェを…」

 

「なら、試してみるか」

 

「あ?」

 

「我々の魔術なら腕輪の封印を一時的に解除することなど」

 

クラウドは魔導書を再び開き、文字をなぞると文字が浮かび上がり、アキラの腕輪に向かって飛んでいった。

 

「これは…」

 

浮かび上がった文字は腕輪に張り付いた。すると、アキラの身体にエクリプスウィルスの模様が浮かびがると同時に傷が再生した。エクリプスウィルスの力だ。

 

「造作もないことだ」

 

「…」

 

アキラはゆっくり立ち上がった。

 

「俺に手を貸したこと」

 

アキラの手の中にエクリプスディバイダーが出現する。そして、ディバイダーの刃をアキラの腕に突き刺した。

 

「後悔しろ…………リアクト、オン!バーストォ!」

 

アキラの全身が光り、エクリプスウィルスが全身に広がり、冥王の鎧が装着された。

 

「…エクリプスウィルス、そして冥王の鎧………アキラ・ナカジマが管理局の阿修羅と呼ばれる由縁」

 

「ブースト」

 

リアクトバースト時の武器、烈風のトリガーを引くと超高速次元に入った。この空間ではアキラ以外の周りの時間が1000分の一のスピードになる。

 

周りからみればアキラが高速移動してるように見える。

 

「これで終わりに…」

 

超高速であればアキラは負けることはない。そう思っていた。しかし、顔をあげたときアキラは我が目を疑った。

 

「なん…………だと?」

 

クラウドは動いている。普通に。

 

「なにを驚いている」

 

「…なぜ動ける……」

 

雨はほぼ動いてない。つまり超高速次元にアキラは入っている。

 

「冥王の腕輪の封印を解く魔法を持っているのだ。冥王の鎧の力で発動する魔法と同等の魔法など持ってて当然だ」

 

「…」

 

「どうした?高速移動なら私を倒せると思ったか?逆に高速移動がなければ私を倒せないのか?」

 

「舐めんな」

 

アキラは烈風構えてクラウドに突進した。

 

「はぁ!」

 

「ボルケーノバスターァ!」

 

「ディバイド!」

 

クラウドは真っ正面から飛んでくるアキラにボルケーノバスターを放ったがディバイドで打ち消される。

 

「それがディバイドか!」

 

クラウドは笑った。

 

アキラは止まらずクラウドに切りかかったが、クラウドは右手のブレードで受けようとする。

しかし。ブレードはアキラの烈風によって簡単に切り裂かれた

 

「!」

 

「もらった」

 

「ふっ!」

 

アキラは烈風を降りきる前に構え直し、クラウドの頭を狙って突き刺した。が、クラウドはそれより早くスタッフの触手でアキラの腕を押さえる。

 

「氷牙!」

 

次の瞬間足に氷の鎧を装備し蹴り上げた。

 

「ちっ!」

 

クラウドは後ろに避ける。と、同時にアキラを触手でぶん投げる。

 

「…っ!」

 

アキラは触手を力でもぎ取り、すぐに脱出した。そしてクラウドの後ろに瞬間移動した。

 

「おおっ!」

 

「なにっ!?」

 

瞬間移動はアキラが義兄との訓練で覚えたわざである。まだ一回の戦いでは二回が限度だが、今は惜しみ無く使った。

 

後ろに回り込んできたアキラの攻撃を、クラウドは少し無理をして避ける。同時に牽制として数発の魔力弾を放ち、アキラの猛攻を止めて距離を取った。だがそれで止まるほど今のアキラは余裕がない。魔力弾を軽く腕で受けた跡、烈風の切っ先をクラウドに向けた。

 

「フロストバスター!」

 

「なっ!」

 

クラウドは慌ててシールドを展開して身を守る。

 

「ぐぅ!」

 

砲撃は二秒ほどで終わったが、アキラは最後の仕上げに移っていた。砲撃を防ぎきったクラウドはアキラがさっきフロストバスターを撃った場所にいないことに気付く。

 

「いな…い?」

 

「紫電一閃」

 

上から声と共に衝撃がクラウドを襲った。アキラが上から足で放った紫電一閃で、クラウドを叩き落としたのだ。

 

クラウドはうまく地面に着地し構え直す。

 

(くっ…今、首をあの剣で狙われたらやばかった………今の一瞬で殺さなかったことを後悔しろ、アキラ・ナカジマ)

 

余裕ぶるクラウドが上を向いた瞬間、彼女は硬直した。クラウドが見たのは大きめの魔法陣、そしてそこに集束される魔力。

 

「あれは……」

 

クラウドは嫌な予感を察知し、離れようとしたがそのクラウドをアキラが仕掛けたチェーンバインドが拘束する。

 

「がっ……………この程度の拘束!」

 

すぐに拘束をはずしたが、別の場所から伸びたチェーンバインドが再びクラウドを縛る。

 

「くそっ!」

 

「いくぞクラウド!」

 

「!」

 

「これが俺の現時点で放てる最強の氷結魔法…」

 

「!……………ふ……良いだろう。受けてやる。来い!」

 

「ユルティム・グラセ・ブレイカァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「っっっ!!」

 

魔法陣の中央に集束された魔力が氷結魔法の光線として放たれた。たちまち辺りの気温が下がり始める。

 

「ユルティム・グラセ・ブレイカー」、本来この魔法はかつてノーリが使った拒絶型の結界と同じく使用禁止になっている危険な技だ。

 

その威力は、クラウドが展開した半径2kmの結界内の気温は-20度まで落ち、すべての建物は凍っていた。降り注ぐ雨すらただの氷となって落ちてくる。

 

「はぁ………はぁ…」

 

かなり離れた場所で観戦していたセヴンですら身体に霜が降りていた。

 

本来この魔法は、対軍魔法だ。遠方の敵兵の集まっている場所に打ち込むための。上空にいたとはいえ、近くで撃ったアキラにも影響は出た。身体が凍りつき、少し動かした指が根本から折れた。

 

「…痛みは感じないが………」

 

そう呟きアキラは指を再生させる。そして着弾地点を見た。

 

「いくらなんでも…これを食らって生きてるわけ…」

 

アキラがフラグをたてた瞬間それは回収された。地面が割れ、下から身体の所々から血を流してるクラウドが這い上がってきた。アキラと同じく身体が凍ったことによる凍傷だ。

 

「やれやれ………地下5メートルまで穴を掘って、入り口をスタッフで塞いでも、身体に影響が出るとは、いやはや恐ろしい技だ」

 

「ちっ!いい加減に!」

 

アキラは解凍されてきた身体を無理矢理うごかし、クラウドに切りかかった。

 

「3、2、1」

 

アキラが目の前に迫っているにも関わらず、クラウドは何も言わずに何かのカウントをしている。

 

「0」

 

「!?」

 

カウントが0になった瞬間、クラウドは超高速移動を開始し、アキラの背後に回って蹴り飛ばした。

 

「がっ!」

 

何が起きたか、アキラは理解できてなかったが、すぐに回りの異変に気付く。

 

雨の音が、聞こえる。

 

アキラの超高速移動の限界時間が来たのだ。超高速移動は魔力を激しく消費する。しかもロクと戦い、クラウドと全力で戦った後に発動した。つまり使い始めた時点で魔力はかなり使っていたのだ。

 

「リミットか……っ!」

 

アキラは背後から心臓を刺される。

 

「そういうことだ。私の魔術と違い、お前の魔法は未完成。それ故、限界時間がある。まだ鎧とリアクトは解除されないみたいだが、じきに限界が来るだろう」

 

「ごほっ…」

 

剣を引き抜かれると、アキラは膝から崩れ、前に倒れた。

 

刺された傷はすぐに再生したが、魔力が限界地点に到達し、リアクトバーストが解除される。

 

「…」

 

「……がはっ」

 

その場を去ろうとするクラウドの足を、アキラが掴んだ。傷の大半は再生しているが魔力のほとんどを使いきったアキラはもう立てなかった。

 

「ま………て……」

 

「…………離せ、アキラ・ナカジマ。それ以上歯向かうのなら殺すことになる」

 

「ギンガ……を…返せ…」

 

「………」

 

クラウドは何も言わず、アキラの手を振り払って歩を進める。

 

「あ…………あぁ……」

 

アキラは無理矢理身体を前にだし、両手を地面に付いて水溜まりに頭を打ち付けた。

 

「お願いしますぅ!どうか!どうか!ギンガだけは連れていかないでください!!お願いします!」

 

「…」

 

もはやプライドも何もかもアキラは捨て去り、敵を泣き落としにいく。いや、プライド云々よりも、これがアキラの本音だった。力で敵わないとわかった。ならばもうこうするしかないとアキラは最後の賭けに出た。

 

「………冗談いうな。それに今、お前にギンガを返したところで何になる。黙ってくたばってろ。死に損ない」

 

「頼む!彼女は……ギンガは俺の…俺の」

 

「例えどんな存在であろうと、渡す気はない。失せろ」

 

「…っ!」

 

その時、不思議なことが起こった。アキラの中の憎しみの感情が、冥王の腕輪と同調し、一時的に爆発的な魔力を発生させたのだ。

 

「クラウドぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「火事場の馬鹿力…か…」

 

アキラは残りの魔力すべてを足先に集め、クラウドに向かっていった。足からは黒い魔力が放出される。クラウドは敢えて避けずに受けに行く。

 

「はぁぁぁ!」

 

アキラの最後の一撃の飛び蹴りをクラウドはシールドで防ぐ。

 

「ぐぬっ!」

 

衝撃は強かったが、防ぎきれないものではなかったと、クラウドは思った。

 

「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

アキラはさらに魔力を放出し、シールドを破った。

 

「馬鹿なっ!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

クラウドはそのまま十数メートル蹴り飛ばされる。

 

「あ…あぁ…」

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

「今のは効いたが、残念だったな倒せなくて。…お前は殺そうと思っていたが、生かしておいてやろう。大切な人を守れなかった後悔でもがき苦しむがいい」

 

「まてっ!あがっ…」

 

そういってクラウドは飛び立っていった。アキラは追いかけようとしたが、身体の限界は突破され、その場に倒れた。

 

クラウドが飛び立つとアキラの腕輪に張り付いていた文字が剥がれ、再びエクリプスウィルスは腕輪の中に封印された。

 

一人残されたアキラはその場に倒れ、涙と怒号の混じりあった声を上げる。

 

「あ……あ…あァァァァァァァァァァァァァ!ふざけるな!ふざけるな!ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

守れなかった悔しさ悲しみ、負の念が、後悔の念がアキラに押し寄せた。彼の人生にはギンガがなくてはならない。ギンガがいるからこそアキラの人生が成り立っていた。

 

生きるよりしろをうしなったと同時にアキラはある変化に気付く。

 

「ぁぁぁぁぁぁ………あ…ぁあ?」

 

腕から、砂が落ちた。

 

だが、アキラはそれに気付くと同時に気絶した。



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第十二話 奮闘

今回は108での奮闘を描きました。時間軸的にはメグの出動後です。アキラの義兄のレイとナインス、シグナムとフォースの戦闘もいれたかったのですが、時間かかりそうなのでやめときました。もっとセッテとかにも戦わせたかったのですが、今回はまだあえて活躍させず今後に期待と言った感じです。あと、前回の投稿期間守れずすいません。次回もまた1ヶ月後くらいになるかもです…。


ー陸士108部隊ー

 

 

108の隊長室でフランシスはチンクとセッテに面倒を見られていた。セッテはいつも通り仕事をしている。フランシスは保護されたあとすぐに施設に送られる予定だったが、ギンガと同じ遺伝子、そして機械の融合した身体。二つの要因から108に預けられていた。

 

本来彼女の面倒は戦闘部隊の隊員や女性職員に見させるべきだが今は違った。その理由はサードの襲撃の日にまで遡る。

 

 

 

ーサード襲撃及びスバル誘拐の日ー

 

 

 

その日、ウェンディとディエチは二人でクラナガンにショッピングへと出かけていた。クラナガンの街中を散策していると、管理局の緊急車両が慌ただしく走って行くのが見えた。

 

「何かあったのかな?」

 

「事件ッスかね?物騒な世の中ッス」

 

自分達の傍を通り過ぎて行った管理局の緊急車両を見ながら二人は言った。そのすぐ後、突然空間ウィンドウが開くとそのウィンドウにはゲンヤの姿が映っていた。

 

「お父さん」

 

「パパりん、どうしたッスか?」

 

『おう、二人とも。今どこにいる?』

 

「今?クラナガンのショッピングモールだよ」

 

『なんか変わったことはないか?』

 

「いや………別に」

 

二人が辺りを見回して見るが、変わったことはない。それを聞くとゲンヤは少し安心した様だった。

 

『そうか‥念の為、迎えに行く。それまでモール内の警備室に居てくれ、連絡はこちらから入れておく』

 

「は、はい」

 

「分かったッス」

 

ゲンヤは何か慌てた様子で通信を閉じる。

 

「なにか、あったんスかね」

 

「あったんだろうね………わざわざ警備室に行けだなんて」

 

ディエチとウェンディはゲンヤに言われた通り、ショッピングモールの中にある警備室でゲンヤからの迎えを待った。

 

やがて、警備室にゲンヤが二人を迎えにやってきた。二人はゲンヤがのってきた車に乗り込んだ。

 

「ねぇ、パパりん。なにかあったっんスか?」

 

「家に戻ったら話す。そうだ、今からアキラの家に行くからな。今そこにウーノがいる」

 

ゲンヤの顔は物凄く真剣な表情で、その顔を見た二人は車内ではそれ以上何も聞かなかった。

 

アキラの家でウーノを迎えに行った時、アキラから市街地で起きたことを聞かされた。

 

「そんなスバルが‥‥」

 

「攫われたって‥‥」

 

「……」

 

まず、アキラは三人にスバルがサードと名乗る戦闘機人に攫われた事、同じくそのサードにノーヴェが重傷を負わせられた事を話した。

 

「すまないゲンヤさん。俺がいながら…」

 

「いや…過ぎちまったことはしかたないさ」

 

そうは言うがやはりゲンヤは落ち込んでいる。だからと言ってアキラに当たっても仕方ないことはわかっていた。だからこそなにも言わないのだ。

 

「そのサードって言う戦闘機人は一体誰なの‥‥?」

 

「わからん。それから、同じかどうかはわからんが仲間がもう一人いた」

 

ギンガ、スバル、アキラ、ノーリ、そして自分達姉妹以外にも戦闘機人が存在している事に驚愕するディエチとウェンディ。

 

「ウー姉は知っていたッスか?」

 

「私が知っているのは、JS事件の以前と事件当時のことだけよ。でも、他の戦闘機人がいる可能性は十分あるわ」

 

ウーノにもサードと名乗る戦闘機人には心当たりがない様子だ。

 

「それから…JS事件と言えばなんだがな」

 

「何かあったの?」

 

「‥‥スカリエッティとトーレ、クアットロが脱獄した」

 

「「「えっ!?」」」

 

スカリエッティの脱獄に関してはウーノも驚いていた。アキラとギンガはすでに知っていることだったのでなにも言わなかった。

 

「今回のスバルとノーヴェの件から見て、敵の狙いはお前達、戦闘機人の可能性が高い。加えてスカリエッティ達の脱獄‥‥連中がお前さん達と接触して来ることも十分に考えられる」

 

「…」

 

「だからしばらく聖王教会に身を隠してほしい」

 

「ディード達の所に?」

 

「ああ、バラバラでいるよりも固まっていた方が守りやすいからな。」

 

「チンク姉も?」

 

「チンクは今セッテと出張に出ててな。どう頑張っても帰ってくるのに一日かかっちまう距離にな。だから明日帰ってきたら108にいてもらう。実は、スバルが攫われた現場でもう一人、ギンガそっくりの戦闘機人が保護された。記憶を失っているみたいでな………しばく検査が必要だからそれが終わるまで。終わり次第その子と一緒にお前たちに合流してもらう。小さいとはいえその子も戦闘機人だ、狙われないとも限らないからな」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

と、いうわけだ。もうフランシスの検査も終わり、聖王教会の迎えを待っている。フランシスはチンクとパズルをやっていた。意外とチンクは面倒見が良かった。

 

そんな様子を微笑ましく思いセッテはなんとなく眺めている。

 

「ん~~………ここかな」

 

「ああ、そうだ。フランシスは賢いな」

 

「………え?」

 

だが次の瞬間セッテは我が目を疑った。

 

「たのしそうだねチンク」

 

さっきまでなにもいなかった。その筈だ。なのに、チンクとフランシスの後ろにはフードを被り、コートを着ている少女が立っていた。

 

「セッテっ!」

 

「はいっ!!」

 

チンクは叫びながら懐からダガーを出し、少女に投げた。少女はダガーを体を少し動かして避ける。セッテはすぐさまフランシスを抱え、ドアよりも近い隊長室の窓から飛び出した。

 

セッテの脱出を確認したチンクはISを発動させ、壁に刺さったダガーを爆発させた。

 

「やったか!?」

 

爆煙が晴れると、そこにあったのは穴の空いた壁とコートにすら傷ひとつ、汚れひとつついてない少女の姿だった。

 

「馬鹿な…」

 

「終わり?」

 

チンクは再びダガーを取り出そうとした。しかしそれより早く少女は姿を消す。

 

「!!」

 

「じゃこっちの番」

 

背後から声がしたと思った瞬間、チンクの全身から血が吹き出し、意識が遠退いた。

 

「かはっ…………」

 

「………」

 

窓から飛び出し、外の駐車場でチンクを待っていたセッテは一度の爆破の後、音沙汰がないのが不安だった。

 

「…チンク姉………」

 

「こんにちは」

 

「!」

 

気づけば真横にさっきの少女がいた。

 

「なっ!…………チンク姉はどうしたんですか!」

 

セッテはフランシスの前に立ち、構える。

 

「すこし寝てもらった。僕の目的はその子だ。セッテ、君は退いてくれ」

 

「あなたは一体…」

 

「僕はゼロ・フィフス。お察しの通り、クラウドの仲間さ」

 

「くっ!」

 

セッテはデバイスを展開させようとした。しかしセッテもチンクと同じく、一瞬のうちに全身から血を吹き出して倒れた。

 

「!?」

 

「おやすみ」

 

「………いっ…一体……………なにが…」

 

「おや、まだ意識があるのか」

 

血にまみれながらセッテは起き上がる。

 

「あぁ……あ…ふぇ」

 

急に倒れたセッテをみて、フランシスは泣き出しそうになる。セッテは痛みを耐え、笑顔を作ってフランシスを撫でた。

 

「…………大丈夫…ですよ。さぁ、ここには怖い人がいます。そこの………車の影に。」

 

フランシスは頷き車の影に走っていった。セッテはなんとか姿勢を正し、フィフスを見る。

 

(それにしても、なぜ応援が来ない?さっきのチンク姉の起こした爆発……あんな音がすればすぐ108の人間が駆けつけるはず…)

 

「まだ意識があるのは驚いたがそれだけか。戦えないなら退け」

 

「……私はアキラさんから彼女の警護を任されてます。例えこの身が滅びようとも彼女を守ります!」

 

「じゃあ滅ぼしてみよう」

 

フィフスがそう言って笑った瞬間、セッテの右腕が飛んだ。

 

「ーーーーーーっっっっ!!!!!」

 

セッテはフランシスを怖がらせないように必死で悲鳴を押さえた。

 

「次はどこをとばそうか?」

 

「…ぐぅ………」

 

(さっきからあのフィフスという戦闘機人………まるで動いてない…。最初全身を刻まれた時も…今も…)

 

セッテは腕を縛って止血をしながら考える。さっきからフィフスは動いていない。なのにセッテは大ダメージを負わされている。攻撃方がわからずセッテは完全に不利だった。

 

「次はそこだ」

 

「!」

 

フィフスが呟いた瞬間セッテの左目が潰された。

 

「ぐぅぅぅ!」

 

歯を食い縛りながらもセッテは声を漏らしてしまった。激しい痛みに耐えきれず再び倒れる。

 

(攻撃がまったく見えない…っ!)

 

「ははは、精神力だけは高いみたいだね。ここまでやられてまだ意識があるなんて」

 

セッテはなんとか起き上がろうともがくが、痛みと片腕を失ったことによる平衡感覚の乱れで立ちあがれずにいた。そこにフィフスが近寄っていく。

 

「でも弄るのも飽きたし、死んでもらおうかな」

 

フィフスはポケットから拳銃を取りだし、銃口をセッテに向けた。

 

「バイバイ」

 

フィフスが引き金を引きかけた時、突然飛んできたダガーが拳銃を弾いた。

 

「!」

 

拳銃を弾き、フィフス足元に転がったダガーはいきなり爆発する。フィフスは爆発に巻き込まれながらも爆煙から飛び出した。

 

「びっくりしたぁ…なんだ、生きてたのか」

 

ダガーを投げたのはチンクだ。チンクはフィフスをISで遠ざけると、急いでセッテに駆け寄った。

 

「セッテ!大丈夫か!」

 

「チンク姉様…申し訳ございません………やられました…」

 

「チッ」

 

チンクがやってくるやいなやフィフスはチンクに攻撃を仕掛けようとした。

 

「ておぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「!」

 

しかし、その瞬間フィフスの上空から雄叫び声が聞こえてきた。

 

フィフスが後方に避けるとほぼ同時にフィフスが立っていた場所に人間態のザフィーラが拳を振り下ろしながら落ちてきた。

 

「ここは俺に任せて、セッテを頼む」

 

「ありがとうございます!セッテ、落ち着け。姉の目を見ろ」

 

先ほどやられたはずのチンクは傷ひとつなく、ピンピンしてる。チンクはセッテに自分を見させた。

 

「大丈夫だ。どこをやられた?」

 

「…?」

 

「いいから教えてくれ」

 

何を言っているのだろうとセッテは思ったが、チンクはかたくなに聞いてくるので仕方なく答えた。

 

「見ての通りです。全身を切り刻まれたのと……、右腕を吹き飛ばれたのと、片目を…やられています」

 

「わかった。いいかセッテ、右手に意識を集中させろ。お前はどこもやられてなんていない」

 

「……え?」

 

「やつは幻術使いだ。今お前が負っている傷はすべて幻。偽物だ」

 

「幻術…」

 

「頭の中で今の痛みを、傷を否定し続けるんだ。大丈夫だ。ちゃんとお前の目も腕もついている」

 

「…」

 

チンクに言われた通りセッテは目を閉じて身体の傷を否定した。どこも怪我をしていない、血など出ていないと。

 

「………ん」

 

そんなことはない、そんなことはない、と否定し続けていると、セッテの右手がピクリと動いた。次に少しずつ指を動かす。セッテがゆっくりと目を開けるとそこには普段通りの自分の身体があった。右腕は付いてるし、身体を切り刻まれてもいない。

 

「………本当に、幻術…」

 

「幻術が解けたようだな…。立てるか?」

 

「…はい」

 

セッテは力強く答え、立ち上がった。

 

「私たち以外の人間にここの状態は理解できていない。特殊なフィールドを張られたようだ。先ほど、ザフィーラ殿に聞いた」

 

「道理で…さっきから誰も来ない訳ですね」

 

セッテが復活する様子をみてフィフスはため息をついた。

 

「…あーあ、まだ楽しもうと思ったのに」

 

「貴様、クラウドの手先か」

 

ザフィーラが構えながらフィフスに問うとフィフスは頷いた。確かな敵と確認するとザフィーラは一気にフィフスに攻撃を仕掛けた。

 

「おぉぉぉ!」

 

「ああ、ワンちゃん気を付けてね。足元に罠があるよ」

 

「なにっ…ぐぅ!」

 

ザフィーラが踏み込んだ足に、地面から延びた棘が刺さった。

 

「それっ」

 

ザフィーラが止まったのを見ると、フィフスが手を振る。するとザフィーラの右肩から左脇腹にかけて深い切り傷が入り、血が吹き出した。幻術の筈とわかっているのに本当に切り裂かれたような痛みだ。

 

「ごあっ!」

 

「僕の攻撃が幻術だとわかったからって、何ができる?よっぽど耐性を持ってない限り、防ぎ様はない」

 

「ぬぁぁぁぁ!」

 

「!」

 

だが、ザフィーラは止まらなかった。フィフスの頬に向けて魔力強化付きの拳を振るった。

 

「はじけろ」

 

拳はフィフスに命中する前に爆裂した。

 

「!!」

 

「あはっ、ワンちゃんも面白い顔するねぇ」

 

「大丈夫ですか!」

 

膝を着いたザフィーラにセッテとチンクが駆け寄る。

 

「くぅ…幻術だと理解はしているはずだが、中々否定は難しいものだな」

 

ザフィーラは一度目を瞑り、瞑れた拳の傷を幻覚だと思い込む。

 

「ほら、みんなまとめてかかってきなよ。もっともっと、苦しそうな顔見せてよ、僕に」

 

 

四人の戦いの様子を、フランシスは影に隠れて見ていた。すると、その背後に戦闘しているはずのフィフスが立っていた。

 

「!」

 

その存在にフランシスも気づく。

 

「やぁ、フランシス」

 

「あぁ…」

 

「きみの本来の役割を思い出させに来たよ」

 

「あっ…」

 

フィフスはフランシスの額に指を当てる。その瞬間フランシスは意識を失い、倒れかけるがフィフスが支えた。

 

「…頼んだよ、フランシス」

 

「てぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

復活したザフィーラが再びフィフスに攻撃を仕掛けると、フィフスは煙のように姿を消した。

 

「!」

 

「どこに!?」

 

「遊んでくれてありがとう。僕のミッションは既に完了した。ばいばい」

 

ミッションが完了したと聞きチンクは、ハッとして振り返った。

 

「!。セッテ!フランシスは!」

 

「!」

 

同じことを察したセッテは急いでフランシスの隠れた車の後ろに向かって走る。

 

「フランシス…………大丈夫です。眠ってるようです」

 

「そうか…念のため、検査を受けさせておこう。なにかあるといけない」

 

チンクたちもすぐに追い付いたが、確かにフランシスは眠っているだけのように見えた。この時、拐われてないという思いが前面に出過ぎていたため、なぜフランシスが眠っていたのかという考えに及ばなかった。

 

それが問題となり、チンクたちが後悔するのはまだ先のことだった。

 

 

続く



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第十三話 撃退

久しぶりの投降です…。遅れてすいませんでした。なんだか忙しくて…。先月?リリパにも行ってきました楽しかったですね。次回は二週間か一週間で出せれば良いなっておもってますそれでは13話、どうぞ


ーショッピングモール方面ー

 

セカンドと呼ばれた鎧騎士とレイは向き合っていた。フェイトを運んでいた時とは違い、レイの瞳は濁っていた。

 

「…」

 

「なるほど、こっちの任務はあとあの執務官殺すだけなんだけど…通さないって感じ?」

 

機械竜に乗ったナインスはようやく二人に追い付いた。

 

「ああ」

 

「ふーん………」

 

ナインスは少し考え、指をならした。その瞬間、ゴーレムがレイの背後に召喚され、豪腕を振るってレイを叩き潰した…………かのように思われた。

 

「…」

 

刹那、ゴーレムは真っ二つに別れる。

 

「へぇ、面白そうじゃん。セカンド」

 

ナインスに呼ばれ、セカンドは振り返った。

 

「殺っちゃって」

 

セカンドは軽く頷くと、剣を抜いてレイに突撃した。レイは一度刀を振り、埃を払うとからだの前で刀を構える。

 

剣道の構えだ。

 

「峰打ちで行かせてもらう」

 

レイが呟いた1秒後、セカンドがレイの間合いに入る。

 

「…っ!」

 

レイはセカンドの小手に、目にも止まらぬ速さで刀の峰で一撃入れた。スピードもさながら、威力もあった小手打ちにセカンドは体勢を崩す。

 

レイは小手打ちのあとすぐにセカンドの後ろに回り込み、背中に蹴りを入れた。蹴りの威力は強力で、セカンドは吹っ飛ばされるが、空中で方向転換して着地する。

 

「aaaaa…………」

 

「…動きは速い………」

 

レイの言葉の途中でセカンドは剣をレイの首めがけて振った。レイはそれを紙一重で避け、隙ができたセカンドの懐に潜り込み、刀の柄でみぞおちに一撃入れる。

 

「…!」

 

「そらっ!」

 

さらに 手のひらで顎を叩き上げた。鎧越しとは言え急所をついた強力な一撃だ。セカンドはよろける。

 

「剣の扱いには慣れてないみたいだな!」

 

更にみぞおちに蹴りを入れ、レイはセカンドを吹っ飛ばしたかと思った。

 

「!」

 

「aa…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

セカンドは最後の蹴りを受けながらも耐えきり、足を掴む。

 

「あぁぁぁ!!」

 

セカンドはレイの足を折ろうとしたが、その直前にレイは無理矢理抜け出した。だがセカンドは止まらない。拳を振り上げ、レイを襲う。

 

レイはバックステップで少し距離を取った。それにより、セカンドの拳は空を切り地面に命中する。

 

「うおっと」

 

セカンドの拳は道路に命中する。命中した場所を中心に円上に道路のアスファルトが砕けた。

 

「危な…」

 

地面にめり込んだ腕を引き抜き、セカンドはレイに再び突撃する。

 

「ちっ…………」

 

さらにストレートを打ち込むが、レイはその拳をいなし、足をかけた。が、セカンドは一瞬よろけるもなんとかふんばり、レイに掴みかかる。そして右拳を振りかぶった。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

(力は半端なく強い…だが、戦い方に知性が欠けている!)

 

セカンドのパンチをレイは両手でいなし、掴んできている手を利用して背負い投げで離れた場所に投げた。

 

セカンドは投げられた直後に無理矢理身体をねじらせ、着地した。

 

「…」

 

レイは先ほど攻撃をいなした右手を見る。

 

(痛み………拳以外に触れたはずなのに、軽くダメージが入っている)

 

ナインスは二人の様子を空から見ながら、通信を開いた。

 

「スカリエッティ、どうなってんのよ」

 

『なにがだい?』

 

「パワーだけじゃないあいつ」

 

『無理矢理鎧を着けて召喚したのは君だろう?彼女はまだ調整中だ』

 

「チッ」

 

ナインスは舌打ちをして通信を切った。

 

(………さて、どうしようかな。空の鎧騎士やゴーレムと違って中身があるようだし…殺すのなら、得意なんだけど…)

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

再びセカンドが攻撃を始める。レイは連続で繰り出される攻撃を軽くかわしながら考える。

 

(攻撃も当たれば死ぬかもだし、峰打ちは鎧越しじゃあんま通じてないみたいだし………近づきすぎるのも危険だ)

 

そこまで考えて、レイはセカンドの拳を刀で受け止めた。

 

「…っ!」

 

刀から伝わる振動に耐えつつも刀を持ち変え、峰で横腹を打った。セカンドはそれくらいでは止まらないしレイもその事は重々承知だ。

 

レイの狙いは打撃によるダメージではない。レイは腰にぶら下げている折り畳み傘に偽装した強力なスタンガンを刀に当てた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

セカンドの鎧に刀をたどって電撃が流れる。セカンドは身体を痙攣させ、膝から崩れ落ちた。

 

「ふぅ…。気絶してくれて助かった。…さて」

 

レイは機械竜とナインスを見た。

 

「この鎧の中身はおそらく、望んで戦っている訳ではないだろう?君たちの目的を聞かせてもらおう。俺の義弟が関わってそうだしな」

 

「おしゃべりはそこまでです」

 

刹那、レイは殺気を感じ、真横に飛んだ。それとほぼ同時にレイの立っていた場所に槍が突き刺された。

 

(新手かっ!)

 

レイはなんとか敵の攻撃を避けたものの、追撃を免れることはできなかった。認識できないほどの速度で顔面を捕まれ、そのままビルの壁に叩きつけられた。

 

「ごあ……っ!」

 

レイはその一撃で意識を失う。気絶したレイの腕からセカンドは回収された。

 

「なによジークでボコしてやろうと思ったのに。邪魔しないでくれる?サード」

 

襲撃者はサードだった。

 

「撤退命令よ。マスターがタイプゼロファーストの捕獲に成功したそうよ」

 

「あっそ…………そいつ殺さないの?」

 

ナインスは倒れているレイを見て言う。

 

「こいつは魔法も使えない力だけの元傭兵よ。私が殺すのは私と対等と戦える人間だけ」 

 

「ふーん」

 

「ところでフェイト執務官のデータは採れたの?」

 

「もち~。しっかり採ってあるよ」

 

「そう。なら帰りましょう」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ーロクvsアキラ、アキラ撤退の直前ー

 

アキラが撤退すべきか否か迷っている時、その背後をロクが取った。

 

「隊長!」

 

「!」

 

ロクの盾を使った強力な一撃が炸裂したように見えた。アキラも食らったと思い、両腕をせめてもの盾にしようとして前に出した状態でいた。

 

しかし、攻撃はいつまで経ってもアキラに当たらない。

 

「………?」

 

「やれやれ。君は…」

 

ゆっくり腕を開くとアキラの前に誰かが立っている。

 

「なんだ…貴様は」

 

すぐにロクは距離をとって構え直す。

 

「小此木…」

 

アキラを助けたのは小此木だ。彼はロクの攻撃を片手で押さえていた。

 

「お前…なんで」

 

「ここは僕に任せたまえ。シノブ陸士の介抱も…アスト!」

 

「はい」

 

小此木の助手のアストがシノブの近くに現れた。

 

「シノブ陸士ですね」

 

「はい…」

 

「すぐに処置を始めます。だから、もう少し頑張ってください」

 

気にかけていたシノブの無事も一応確保され、アキラは胸を撫で下ろす。

 

「さぁ、さっさと家に帰りたまえ」

 

「大丈夫なのか?小此木…」

 

小此木は見た目デスクワークばかりの人間に見えていたため、ちゃんと戦えるかどうかアキラは心配だった。

 

「心配することはない。私は「ファントム」だ」

 

「…なに?」

 

「話は以上だ。行きたま」

 

それ以上の会話はロクが許さなかった。シールドの後方についているバーニアを吹かせ、突撃してきた。だが、小此木はまたもやロクの攻撃を片手で受け止めた。

 

「なっ…」

 

「行きたまえ、アキラ陸尉」

 

「…恩にきる」

 

小此木の所属とその能力をみたアキラは急いでバイクにまたがった。

 

「お前…何者だ」

 

「何者でもいいじゃないか。さぁ、ここからは私が相手だ」

 

「…お前に触れると、私の魔力が消える…。さっきの二度の攻撃を凌がれたのもそれが原因だ。なにをした」

 

小此木が攻撃を防いだ理由、それは防いだとは言い難い行為だった。盾が小此木に触れた瞬間、バーニアが止まったのだ。

 

「敵にわざわざ能力を明かすわけないだろう?」

 

(なにも感じない…)

 

ロクは小此木からなにも感じてなかった。恐怖とか、敵対心も、余裕も。

 

(こいつ、なにも感じない…わからない…)

 

「どうした?こないなら…こっちから行かせてもらうよ!」

 

その台詞とともにロクの視界から小此木が消える。そしてロクの背後に現れた。

 

ロクはすぐに反応し、縦を構えた。

 

「はぁ!」

 

小此木の拳がロクの盾に打ち込まれる。ロクはそれなりの衝撃を覚悟し、かなり全身に力を入れていたが、吹っ飛ばされることもなく強打の感じもなかった。

 

「…?」

 

「いった…っ!」

 

小此木は殴った方の手を押さえて痛がっていた。

 

「まさか防がれるなんてなぁ~、いたた…」

 

「…」

 

(…なんだこいつ)

 

ロクは冷めた目で小此木を見ていた。強者の雰囲気を出してはいたが、案外そうではないのかも知れないと思ったのだ。

 

だが、油断もしていない。

 

「…なんだかよくわからないが……取り敢えず死ね!」

 

今度はバーニアを吹かさずにロクはシールドで殴りかかった。小此木はその攻撃を数ミリ動いて避ける。

 

「!」

 

「ふっ」

 

そして避けられたことでバランスが崩れたところを狙われ鳩尾に強力な拳を食らった。

 

「かっ…」

 

一瞬、内蔵でも飛び出すんじゃないかと思うほどの強烈な一撃にロクは吹っ飛ばされた先で着地すらままならず、みぞおちを押さえて倒れた。

 

「ごほっ!ごほっ!がはっ!おぇぇ…」

 

「悪いね。ただの悪さするレディなら手加減はするが、人殺しを躊躇なくするなら私も加減はしない」

 

(こいつ…戦闘機人の強化筋肉と皮膚をものともしない攻撃をさっきは偶然威力が出てなかったのか?………魔力はどういうわけか無効化される…格闘技術やスピードはあっちが明らかに上…残された道は…ただひとつ!)

 

ロクは腹部を押さえたまま立ち上がり、上を向いた。

 

「クラウドォ!」

 

「!?」

 

急にクラウドの名前を叫んだロクに驚いた小此木が構える。

 

 

しかし、それだけだ。クラウドが突然現れたりはしない。

 

「ルーラーアーマーを使う!こいつは危険だ!」

 

「ルーラーアーマー?」

 

「…」

 

ロクは折られた刀を手に取り、盾に突き刺した。

 

「ルーラーアーマー!起動!」

 

紫色の光が、盾から放たれた。小此木は少し眩しそうにしながらその様子を見ていた。

 

「これは…」

 

光が徐々に弱まり、ロクの姿がハッキリ見えてくる。ロクの姿は先程とは全く違う姿になっていた。全身に黒紫の鎧を纏い、両腕は巨大な岩のような素材でできたゴツゴツとした鎧に包まれていた。腕の肘の部分にはロクの盾と同じようにバーニアが付いていた。

 

「これが我々の力…ルーラーアーマーだ」

 

「ルーラーアーマー…支配者の鎧ってことかな」

 

「その通り…さぁ、消えてもらうぞ」

 

ロクは両腕の鎧の手の甲らへんから刃を出現させ、炎を纏わせる。

 

「私は鉄槌の騎士ヴィータと烈火の将シグナムの力を模倣したものでな、この腕の鎧と拳は鉄槌を、そして刃と炎は烈火の力だ。お前の力は恐らく怪力とAMFに似たなにかと言ったところだろう?」

 

「…」

 

小此木は答えない。

 

「鉄槌の力では不利なようだからな。この炎刃で焼き斬ってやろう!」

 

ロクは両刃の炎の出力を上げ、バーニアを吹かし、小此木に襲いかかった。ルーラーアーマーは彼女たちにとって奥の手、言わば最終手段といっても違いなかった。

 

だからこれを出せば必ず勝てるという絶対の自信があった。

 

「なにか、勘違いしてないかい?」

 

しかし、ロクのその自信は一瞬で打ち砕かれることとなった。

 

腕全体を包むほどの炎が、小此木に触れる直前に一瞬で消えた。そして刃は小此木の指二本で白羽取りされる。

 

「なっ…」

 

(また!?AMF!?いや、違う、なにも感じなかった…AMFの発動の気配も、なにか魔法を使う兆候も…)

 

「私には怪力なんて立派な力はない。あるのは二つの特殊な能力だけだ」

 

「…」

 

「なにとはいわないけどね」

 

そういうと小此木の腕から大量の炎が出現し、それを圧縮させ、超高密度の炎の剣を生成する。

 

「!」

 

「さようなら」

 

ロクが回避しようとしたがもう遅い。炎の剣で刹那のうちに斬られた。かなりのスピードで斬られたのか、ロクが防ごうと前に出した巨大な腕の鎧は剣の周りに発生した衝撃波で斬られるだけに止まらず砕けていた。

 

「かっ…」

 

ロクはその場に跪く。

 

「さて、君は殺さず逮捕させてもらうとしよう。おとなしく投降してもらおうか。武装を解除しなさい」

 

「おおおぉ!」

 

ロクはおとなしく投降などするはずもなく、小此木に襲いかかった。右腕の鎧は破壊されたため、左腕の鎧から炎を発生させ、斬撃の瞬間に炎を飛ばした。

 

「やれやれ」

 

炎は再び小此木の目の前で消えた。

 

「おいたが…ひつよ」

 

小此木が反撃に出ようとした瞬間、近くに止めてあった車が突然小此木に突進してきた。小此木は運転席に誰もいないことを確認すると炎の剣で車を真っ二つに斬った。

 

「なんだ?これは君の能力かい?」

 

そういってロクの方を見ると、ロクはすでにその場にはいなかった。周囲をデバイスを使ってスキャンしてみるが、反応はなかった。

 

「…逃げた……か」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ー状況終了翌日ー

 

 

襲撃翌日。ギンガが誘拐されてから15時間が経過していた朝の8時、アキラはベッドで目覚めた。

 

「…ん」

 

「おや」

 

アキラが目を覚ましたことに最初に気づいたのはお見舞いに来ていた小此木だった。

 

「………小此木?」

 

「まだ寝ぼけているのかな?落ち着いているね」

 

アキラは小此木の言ったことの理解が出来てなかった。が、少しして頭がハッキリしてくると目を見開き、ベッドから飛び降りた。

 

「おっと」

 

しかし、着地と同時にアキラはその場に倒れかけたが小此木が支える。

 

「大丈夫かい?急ぐ気持ちはわかるが、敵の場所等はまだ検討もついてない。落ち着きたまえ」

 

「あ……あぁ…」

 

ギンガを守れなかった。今度はその後悔と自責の念がアキラを襲う。小此木に支えられながらアキラは静かに涙を流し、座り込んだ。

 

「ああ…ぁぁぁぁぁ……」

 

「…」

 

小此木はそんなアキラの姿を見ながらそっとナースコールを押した。

 

「患者が目を覚ましました。担当医を呼んでください。ああ、精神が安定してない様子なので、念のため鎮静剤を」

 

少しして担当医とマリエルがやって来た。そしてバイタルチェックや色々と検査を行われた。

 

「増援が駆けつけたとき、既に傷はほとんど治癒してたらしいから体には異常なしだ………しかし、精神の方で問題があるみたいだね」

 

「…」

 

アキラはずっと空を見つめていた。医者の呼び掛けにも答えず、なすがままといった感じだ。その時、アキラの病室が勢いよく開く。

 

「!」

 

「アキラ…テメェ……」

 

扉を開けたのは、ノーリだった。ノーリは全身包帯まみれで片足が折れていたが、足を引きずりつつアキラに近寄って胸ぐらを掴んだ。

 

「だからいったじゃねぇか!!離れずそばにいるのが当然だって!なんだこの様は!あぁ!?」

 

「ノ、ノーリ君落ち着いて」

 

アキラはノーリに責められなにも言い返せない様子だった。この時アキラは、今まで見たこともないような追い詰められた表情をしていた。

 

「なんとか言ってみろ…アキラァ!」

 

アキラはうつむいた。それだけで、なにも言おうとしなかった。

 

「単純なことだった…お前じゃなく俺が行くべきだった…なんでだ…なんでお前は…助けに行こうとした………昇進して嬉しかったか?隊長と呼ばれたことに愉悦を感じていたか?だから助けにいったのか!?だからお前の真の役割を忘れたのか!?お前が真に護るべき相手は誰だ!言ってみろ!」

 

「…」

 

「…」

 

少ししてアキラが口を開いた。

 

「いいじゃねぇか…もう」

 

「なに?」

 

「俺だってクラウドを許せなかった。だから全力で戦った………それこそ必死に戦った。持てる力を全部使って戦った。それで勝てなかった。俺じゃあいつに勝てなかった…あそこにいてもいなくても。結果は同じだった。だからいいじゃねぇか」

 

「っ!テメェェェ!」

 

「取り返さないとは言ってない!」

 

アキラはノーリの胸ぐらを掴み返した。

 

「!」

 

「失敗に悔やんでいる暇なんてねぇ。だから、必ず取り返す!絶対にだ…」

 

「…」

 

ノーリはアキラを離し、壁を伝いながら入り口に戻る。

 

「信じるぞお前のその言葉」

 

ノーリはそう言い残し出ていった。アキラは小さくため息をつく。アキラの行動が間違っていたかもしれないなんて、アキラがとうの昔にわかっていた。怒りと後悔はさっきの涙で全部流した。声は冷静だが、その瞳と心には確かに怒りと、復讐と、必ず取り戻すという強い決意の炎が宿っていた。

 

「あの…アキラ君」

 

「マリエルさん。すまねぇ。俺のデバイスを強化してくれないか?できれば最大まで出力を上げて…」

 

「アキラ君」

 

「?。なんだ?」

 

マリエルがいつもに比べ辛そうな顔をしていることに気付き、アキラも言葉を止めた。

 

「大切な話があるの。聴いてくれる?」

 

「…手短にな」

 

マリエルは担当医と小此木にアイコンタクトをとる。二人は小さく頷くと病室から出ていった。

 

「…?。で、話ってなんだ」

 

「実は…」

 

 

 

 

続く



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第十四話 行動

約二ヶ月振りでしょうか。中々上げられず申し訳ありません。小説が最近全く手付かずでした。三本ほど同時進行な上創作意欲というのはどうも色々なところに湧くもので………。これからも長い目で見ていただければと思います。デトネイション、楽しみですね


ここは聖王教会の一室。この部屋には普段は置いてないような子供向けのおもちゃや絵本などがおいてある。

 

その部屋にいるのはフランシスとアキラだった。

 

「お兄ちゃん…」

 

「…なんだ?」

 

「大丈夫?」

 

壁に寄っ掛かってただただ虚空を見つめるだけのアキラをフランシスが心配する。アキラはフランシスに近くに来るようにジェスチャーした。

 

フランシスが近くに寄ると、アキラはフランシスを膝の上に乗せて後ろから抱き締める。

 

「ちょっと大丈夫じゃないから………少しだけこうさせてもらっていいか?」

 

「う…うん」

 

「…」

 

「お兄ちゃん?」

 

「どうした?」

 

「痛くない?」

 

フランシスはアキラの身体に巻かれてる包帯を見て言った。アキラは頷く。

 

アキラがこんなところにいるのは一日前、アキラが目を覚ました時に遡る。

 

 

ー一日前ー

 

 

「話ってなんだよ。マリエルさん」

 

「うん…あのね?」

 

マリエルはポケットからなにかを取り出してアキラに見せる。

 

「なんだこりゃ」

 

ジップロックに入った、砂というか、灰のようななにか。

 

「これは、アキラ君が眠っている間にアキラ君の身体から出てきたもの…」

 

「…垢?」

 

「垢とかじゃなくてね…身体からこう……さらさらって…。最初は気にならなかったけど、何回か繰り返されてたから、なにかと思って調べてみたけどよくわからなかった。だから……詳しい人に聞いてみたの」

 

「詳しい人?」

 

「ウィード・スタリウ」

 

アキラは少し驚いたがそれだけだった。詳しい人物と言えば確かに彼が適任だ。

 

「そういやあいつはまだ檻のなかだったか」

 

「ええ。だから聞いてきたの。これはなにかわかるかって。そうして得た結果、これが今の話の本題。アキラ君。落ち着いてよく聞いて」

 

マリエルは急に表情を険しくした。そしてアキラの顔を真剣に見る。

 

「…なんだよ」

 

「あなたの寿命はあと3~4日よ」

 

「……なに…?」

 

アキラの声が強ばった。数秒後、アキラは立ち上がり、少しずつマリエルに近づく。マリエルはアキラのその様子に恐怖を覚えつつも真剣な表情を変えずにいる。

 

そんなマリエルをアキラは胸ぐらを掴んで引き寄せた。

 

「…おい、あんな野郎の言うことを信じるのか………」

 

「彼は嘘はついてない、嘘発見器もつけたしね」

 

「俺が死ぬのか?」

 

「ええ」

 

「あと3日で?」

 

「そう………彼曰く…」

 

マリエルが細かい理由を話そうとした瞬間、アキラがマリエルを突き飛ばした。

 

「ふ………ふざけるな!」

 

「痛…」

 

「な……んで…んなわけあるか!俺が……俺がギンガを助けなきゃいけないんだ!死ぬわけにはいかないんだよ!」

 

受け入れがたい事態に、普段冷静なアキラも焦っていた。何度も死にかけたアキラだがこんなところで死にたくはなかったのだ。

 

「気持ちはわかるけど…ほら」

 

マリエルはアキラの腕を指差す。アキラが自分の腕を見ると、腕からさっきマリエルに見せられたものと同じような質の灰がこぼれ落ちていた。

 

「……っ!」

 

アキラは元々生物兵器として作られた。そのため寿命は短かったのだがそれでも30~40くらいまでは生きる筈だった。

 

データを収集し、アキラのような生物兵器を量産できるまで生かせれるようにだ。だが、30、40まで生きれるのも調整を行われてこその話。調整なしならせいぜい生きれて10年ほど。調整もなしにアキラが今まで生きてこれたのはエクリプスウィルスが身体を生かそうとさせてたからだ。

 

そして、想定されていた以上の戦闘と死線でエクリプスウィルスで身体の崩壊が中和されていたとはいえ、アキラの身体は本当に限界だったのだ。むしろ今まで死んでなかったのが奇跡と呼べる程に。

 

さらに、再調整を行うにしてもウィードが必要な上、成功する確率は限りなく低いとのことだった。

 

マリエルがウィードから話されたことを話してくれたがアキラは上の空だった。

 

「とりあえず、これがすべて…。アキラ君の身体に起きてる事態…」

 

「…」

 

「アキラ君?」

 

「フランシスは…どうしてる?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

その後、アキラは退院した訳ではないが治療をやめるように願い、フランシスが保護されている聖王教会に身を預け、現在に至る。

 

残りの寿命は約二日。アキラは明後日の夕方頃に灰になって消えるとのことだ。

 

アキラもう完全に脱け殻だった。敵と戦う気力も、時間もない。ギンガを諦めて彼女に良く似たフランシスの近くで短い余生を過ごすことにしたのだ。

 

そんな時、部屋の扉が開く。アキラが僅かに視線を動かして確認するとナンバーズ達がいた。心配して様子を見に来たようだ。

 

「アキラ…」

 

「…」

 

「話は聞いた……その、なんというか」

 

「…」

 

ナンバーズ達はチンクを先頭にぞろぞろと入ってきた。アキラはなにも言わない。

 

チンク達はアキラを励まそうとやって来た。しかし色々考えてきた筈なのに、アキラのこんな姿を見た瞬間声をかけ辛くなってしまった。

 

「お前たちだけでも」

 

「え?」

 

アキラが口を開いた。

 

「お前たちだけでも、無事でよかった…って言うべきなんだろうな」

 

アキラは僅かながら笑顔を見せつつチンクを見た。

 

「あ、ああ………その、ありがとう」

 

「…俺はもうあと少ししか生きれない。だから、お前らに挨拶にいこうと思ってたんだが、来てくれて助かった」

 

「そんな、縁起でもないこというな…」

 

「そうっス!案外気合いでいけるかもしれないッス!」

 

「ウェンディ」

 

確証もなし、励ましになるわけでもないことを軽々しく言ったウェンディをセッテが睨む。

 

「あ…ご、ごめんッス」

 

「いいんだ。俺も…ここで終わらせる気はない」

 

「え…?」

 

なにか不穏な言葉をアキラが口走る。そんなアキラの手には何かの装置が握られていた。

 

「アキラ…それは?」

 

いやなチンクはアキラが正常でないことに今さら気づく。

 

「ごめんな。兵器共」

 

アキラはこの言葉と同時に装置を投げた。既に怪しい雰囲気を察知していたノーヴェが装置を取ろうとしたがアキラの松葉杖に殴られ阻止される。

 

「アキラさん!あなたはなにを…」

 

「発動」

 

セッテが止めようとしたが遅い。装置が空中で開き、強力な電磁波を発生させた。

 

 

ー管理局本部 黙示録対策室ー

 

 

「なにも小此木さんが出る必要はなかったのでは?」

 

小此木が資料を漁っていると、助手のアストが話しかけた。

 

「ん?なにがだい?」

 

「先日の襲撃の件です。あれでは、敵に手の内をさらすようなものでは…」

 

「ははっ、なに。僕の能力が全て明かされた訳でもないんだし。それに僕以外にもファントムはいる。そんなに気にかける必要はないさ」

 

アストの悩みを小此木は笑って流した。そんな時アストの通信機に連絡が入る。

 

「あ、はい。こちら黙示録対策本部……ええっ!?」

 

「どうかしたのかい?」

 

アストは驚きを隠せない顔で小此木に報告する。

 

「聖王教会に保護されていたフランシスを除く戦闘機人及び、アキラ・ナカジマ隊長が行方不明…」

 

「…」

 

「それから…ウィード・スタリウが脱獄しました………」

 

小此木は軽く舌打ちをした。

 

「はぁ……予想以上に面倒な事態になったなぁ…。アスト、対策室所属のメンバーを収集。それからアリアにウィード脱走の手引きをした人物を突き止めさせてくれ。彼の脱走の目的によってはこの事件に大きく関わる」

 

 

ー会議室ー

 

 

 

今回の収集に集まったのはなのは、ティアナ、はやての三人とアリアを除いた本部の三人、合計六人だけだった。

 

「さてと、連絡は行き届いてるだろうから言うまでもないと思うが緊急事態だ。アキラ陸尉と戦闘機人は行方不明唯一無事だったフランシス君は今本部に移させてもらった」

 

「…」

 

なのは達は頷いた。

 

「こちらの戦力も先日の襲撃で減らされてる。だから次やつらがなにかを始める前にこちらから叩く。ナンバーズやアキラ陸尉もきっとクラウド達のところにいるだろう。彼らの救出を最優先にする。今こちらで動かせる部隊を最大限使って拠点を炙り出す!」

 

小此木が作戦を説明しようとしたとき、小此木の部下が飛び込んできた。

 

「申し上げます!」

 

「今度はどうした」

 

「それが…」

 

部下が懐から紙を取り出す。

 

「これが小此木さん宛に…」

 

「これは?」

 

小此木が折りたたまれた紙を開き、そこに書かれた文章を読んだ。

 

「…」

 

「小此木さん?」

 

「…すまないみんな。今回は作戦を中止する」

 

「え?」

 

なのはたちは少し困惑した表情を見せるが、上官の命令だ。何も言わない。なにより、小此木の表情が今は焦る必要がないということを物語っていた。

 

 

ー先日ー

 

 

此処で時系列はクラウドによるナカジマ家襲撃日まで戻る。アキラを撃退したクラウドはギンガとアリスを連れて自らのアジトへと戻る。アリスは泣き喚かれてはかなわないとクラウドがスリープ魔法をかけてギンガの腕の中で眠っている。スタッフで作られたポッドの中でギンガはただクラウドを睨みつける事しか出来なかった。

そして、クラウドのアジトにてギンガを出迎えたのはあの男だった。

 

「やぁ、久しぶりだね、ゼロ・ファースト。いや、ギンガ・ナカジマ君と言わないと彼に怒られてしまうかな」

 

「ジェイル・スカリエッティ…」

 

クラウドの協力者であり、先日刑務所から脱獄したジェイル・スカリエッティ。

 

「貴方達、やっぱりグルだったのね…」

 

ギンガの言葉にスカリエッティはほくそ笑む。

 

「目的が共通しているからね」

 

「目的?それって…」

 

スカリエッティが言った目的についてギンガが詳しく聞こうとするとそれよりも先にクラウドが答えた。

 

「管理局を潰す……正義と言う偽善を振りかざしているあの偽善者詐欺集団を潰して新世界を作る」

 

「ずいぶんな言われようね。あなたは何でそんな風に思うわけ?」

 

ギンガはあきれた様子で言っていた。目的があまりにも幼稚でありきたりに思えたのだ。

 

「もし、管理局が正義と言うのであれば、何故、お前やお前の旦那、お前の妹、そしてスカリエッティは存在している?」

 

「えっ?」

 

「クローンを作ることは管理局が禁止している。軍事的兵器を売買することもな。だがスカリエッティは最高評議会によって作られた。元々は優秀な脳を役立たさせるための計画だったが…だが管理局がクローンを作ったのは事実。それとも、よりよい技術を、頭脳を手に入れるためなら自分たちの創った法を破って良いとでもいうのか?」

 

「………」

 

「違うだろう?」

 

クラウドに言われたが、ギンガは何も言い返せない。

 

「それだけではない…」

 

急にクラウドの声が低くなる。

 

「あの組織は、自分たちが頂点に立つため、世界を管理するため他世界を蹂躙した」

 

「蹂躙?」

 

「ああ、私の世界の……私が生まれた村。そこでかつて黙示録の書は管理されていた。黙示録の書は既に世界にその名を轟かしていたが我々一族が封印し、管理していた。だが黙示録の書を管理しているという事実は他世界への大きな牽制になる事実だった。その事実、肩書を管理局は求め、我々の村を焼き、一族を抹殺した。そして、封印の技術と黙示録の書を奪っていった」

 

初めて見たときから冷静な感じのクラウドがこの時だけは歯を食いしばり、手を強く握りしめていた。だがギンガはそれよりもそんなことを管理局が行っていたことに驚いていた。

 

「そんな…」

 

「他の世界に置いては管理世界などと言って番号をつけ、その世界を植民地化して、その世界の原住民に対し自分達に都合の良い理想を押し付け、ロストギアの回収だとか言ってその世界に伝わる秘宝、文化財を根こそぎ奪っていく略奪行為、意にそぐわない世界に対しては制裁と言う名の侵略をする。これの何処が正義だ!?それに、お前の知り合いである八神はやて‥‥アイツの下僕たる騎士たちが起こした事件をお前は知っているか?」

 

「事件?どういう事‥‥?」

 

「理由があったとはいえ、他者を傷つけ、他の命よりも主の命を優先した。主の幸せのため?自分たちの幸せのため?どうあれ、たった一人の孤独の少女と世界の命を天秤にかけてしまった。奴らのせいで命を落とした者、魔導師として再起不能になった者が大勢居る。そんな奴等が今では管理局のエリートだと?被害者や遺族が見たらどう思う?しかも管理局はそんな奴等をエリートに据えておきながら、被害者や遺族たちには謝罪も賠償もない。なぜだかわかるか?そいつらに高い地位にいてもらえば管理局は安全だからだ。私の村の黙示録を奪った時と同じ理由だ。だから潰す。権力のためならば利用できるものを利用し、利用のための犠牲は厭わない。関係のない人間の犠牲もな。そんな奴らは…世界の頂点にふさわしくない」

 

クラウドはまるで革命家の様に管理局への反逆理由を次々とギンガに述べる。

 

「それにこれはお前の為でもあるのだぞ、ギンガ」

 

「私のため?」

 

「そうだ、管理局の禁忌とされる存在である戦闘機人のお前と橘アキラ…戦闘機人同士の間に生まれた娘……バケモノの子として周囲から扱われるかもな」

 

「そ、そんな事は……」

 

「『ない』と言い切れるのか?」

 

「……」

 

ないと言い切れない。知られなければ気にされることではない。だがアキラは管理局でも有名な隊長。経歴も案外簡単に調べれる可能性もある。知られれば…。

 

ギンガ自身、自分が戦闘機人である為、周囲から奇異の目で見られた事もある。アキラと付き合う前の彼氏がその典型だった。アリスは戦闘機人ではないが、戦闘機人同士の間で生まれた子供の為、バケモノの子として言われるかもしれない。

 

「まぁ、管理局を潰し、我々が作った新たな世界ではそのような事もない。戦闘機人も人造魔導師も全てバケモノの子ではなく、人間よりも優れた人種である事を証明し、その者達の為に優しい世界を作る。戦闘機人は、強化人間は、化け物ではなく人より優れた種として、ただの人は劣等種として…な」

 

「だったら、なんで戦闘機人であるアキラ君を‥‥」

 

「奴はただの戦闘機人ではない。異端の存在どころか一人で国一つ滅ぼしかねない化け物になりかねない。スカリエッティの時にも裏切ったことがあるからな。スカリエッティが提案したことにも奴は賛同しなかった。だから奴は不要…いや危険だから排除しようと思ったんだが…冥王の鎧を使っても私にかなわないのであれば殺す必要もあるまいと今は生かしておいた。もっともヤツがあのダメージで生きていればの話だがな‥‥」

 

「だったら、私だって貴女の言う世界なんて認めない!!それにアキラ君はきっとまた立ち上がって来る!!私を、私達を絶対守るって誓ってくれたんだから!」

 

ギンガは声を荒げた。彼女にしては珍しい反応だ。

 

「やれやれ、育ての親が管理局員だと難儀な性格に育ってしまったな‥‥。やはり、あの夫婦に任せたのは間違いだったか‥‥このままでは私の孫のアリスも管理局に妄信してしまう。‥‥だが、私の作った新たな世界に身を置けば、その考えも変わるだろう」

 

アリスの祖父はゲンヤであり、祖母は故人であるがクイントだ。アキラには血の繋がり、DNAの繋がりがある家族が居ないので、父方の祖父母なんて存在しない。それにもかかわらずクラウドはアリスの事を自分の孫だと言う。

 

「アリスが貴女の孫?何を言っているの?」

 

「お前の育ての親はあのナカジマ夫妻であり、お前の誕生元になったDNAデータはクイント・ナカジマだ。だが、お前達姉妹‥そしてお前の妹とも言えるゼロ・ナンバーズを作ったのは私だ」

 

「…………だから、あなたはこの子が孫だって言いたいわけ?」

 

驚きながらもギンガは返した。

 

クラウドが言う事が事実ならば、確かにクイントのDNAデータと育ての親がナカジマ夫妻であるが、この世に自分達を生み出したとなればクラウドが確かに生みの親であり、戦闘機人の理論を生み出したのがスカリエッティなので、ギンガ達の本当の親はスカリエッティとクラウドと考えることも可能だ。

 

「ああそうだ。私はお前たちを娘のように思ってるし、アリスを孫同然に見ている。…………ずっとこの作戦のための準備に明け暮れていたからお前たちがここまで成長するのを影で見ているしかなかったが………ずっとお前たちを心配していた。特にお前が始めてフられた時なんかはあのフった男を殺そうとしたがな」

 

「だとしても私はそれを認めない。そう思いたいなら勝手にそう思ってて。少なくとも血のつながりはないんだから」

 

「強情だな」

 

ギンガは口ではそう言っていたものの頭の片隅にそれが残る。クラウドの目はそれを見透かしているような目だ。

 

「まぁ、その子の親権だのなんだのには私は興味がないがね。しかし、戦闘機人同士の間で生まれた子供‥‥実に興味深いねぇ~」

 

スカリエッティはギンガの腕の中で眠るアリスを怪しげな目で見る。

 

「この子には指一本触れさせないわ!!」

 

スカリエッティにアリスを預けでもしたら何をされるのか分かったモノではない。ギンガはアリスを守る様に両腕でアリスを覆い、スカリエッティとクラウドに少しでもアリスの姿が見えないように背を向ける。

 

「スカリエッティ、いくら興味深い存在でもその子に変な事をすれば私とて、貴様の身の安全は保障できんぞ」

 

「ハハ、クラウド君にそう言われては仕方がないか」

 

クラウド自身はアリスを研究対象とは見ておらず、スカリエッティに対して手出し無用と釘をさす。そこへ、市街地を襲撃したゼロ・ナンバーズの戦闘機人達が帰って来た。

 

「あっ、スカリエッティ!!コイツ全然使えなかったよ!!おかげであの執務官を殺れなかったじゃん!!」

 

市街地にてフェイトの相手をしたナインスが帰ってきて早々、スカリエッティに噛みつく。ナインスはサードを‥正確にはサードの肩に担がれている人物を指さす。サードの肩には意識が無いのか、ぐったりとしたスバルが担がれていた。

 

「スバル!!貴女達、スバルに一体何を!?」

 

意識を失い、ぐったりとしているスバルの姿を見たギンガはまたもや声をあげる。

 

「此方の戦闘員の数が少々不足していてな、心苦しいが、彼女にも我々に協力してもらっている。彼女の本気の戦闘能力は非常に高いからな」

 

サードがスバルを担ぎながらギンガに言う。スバルが自分の意志でクラウド達に協力するとは思えない。その事から今は意識を失っている様だが、連中はきっとスバルを洗脳して無理矢理戦わせているみたいだ。

 

「くっ、私も洗脳して無理矢理従わせるつもりなの?」

 

「いや、お前にはその子の面倒があるからな、お前はあくまでも我々のゲストだ。大人しくしていれば悪いようにはしない。サード、セカンドは修復と再調整をする。メディカルポッドの中に入れておけ」

 

「了解」

 

サードはスバルを肩に担いだままギンガの前から消えようとする。

 

「やめて!スバルをこれ以上兵器として扱わないで!」

 

ギンガはスタッフで作られたポッドの中から叫ぶが、サードはギンガの叫びを無視してそのままスバルを連れて行った。

 

「くっ‥………ごめんなさい…スバルゥ…」

 

ギンガは目の前で連れ去られたスバルを助け出す事が出来ない自分に無力を突きつけられ、アリスを抱いたままポッドの中で項垂れる。その様子にクラウドは一瞬表情を曇らせる。

 

「さて、ゲストにはゲストなりの待遇を用意しよう」

 

クラウドはギンガが入ったポッドごと移動し、アジトにある一室に連れて行く。クラウドの護衛の為か、ゼロ・ナンバーズの戦闘機人が数名ついてくる。

 

「お前の為に用意したゲストルームだ。お前の生活に必要な生活物資の他に子育てに必要なモノも用意してある」

 

クラウドはギンガをアジト内にあるゲストルームへ案内した後に彼女を閉じ込めていたポッドを解除する。ギンガの為に用意されたゲストルームは生活に必要な家具家電があり、その他にもアリスの為に用意されたベビーベッド、ミルクにオムツ、オモチャの類があり、トイレにお風呂、キッチンも設置されていた。それにギンガとアリスの為の着替えの服も用意されていた。まるでこのアジトの内部にマンションの一室をまるまる一つ持って来たような感じだった。

 

「まぁ、先ほども言ったが大人しくしておくことだな。その赤ん坊や妹であるセカンドが大事であるのならな」

 

確かにクラウドの言う通り、アリスが居るこの状況下でアリスを守りつつ、スバルを助けてこのアジトから脱出するなんて不可能だ。クラウドやゼロ・ナンバーズ、そしてスカリエッティが居るのであれば、彼と共に脱獄したトーレやクアットロもきっとこのアジトに居る筈だ。数においても戦力においても相手の方が断然上だ。

 

「‥‥」

 

ギンガはアリスとスバルの二人を実質人質に取られてしまい下手に動けなかった。

 

しかし、ギンガは信じていた。アキラが助けに来てくれることを‥‥。

 

 

 

ー研究所ー

 

 

とある街の離れにある研究所。そこでアキラは夜空を眺めていた。

 

「待ってろギンガ……………必ず助ける」

 

 

 

続く

 

 

 



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第十五話 宣戦

二ヶ月ぶりです。なんとか11月前に出せてよかったです。なのはデトネイションおもしろかったですね。おもしろかったという次元を越えたような気もします素晴らしかったです。そんな劇場版に影響され、久々にイノセントのほうも投稿したのでよかったら見てやってください。投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

感想お待ちしてます


陸士108部隊

 

 

 

108部隊では先の襲撃で多くの損害を出した。しばらくはまともに隊として運用するのも難しいだろう。そんな慌ただしい隊舎の入り口に怪しい影が忍び寄った。クラウドだ。ギンガを手に入れたクラウドは本格的な進行を始めるため、108を襲撃にきたのだ。

 

「…………」

 

入り口の自動ドアが開き、小さな足音が入ってきた。108の受付係がそれに気づく。

 

「お前は!」

 

近くの警備係がすぐに動き、デバイスを構えた。

 

「止まれ!」

 

「ふ………。やれやれ全く。力量というものを知らんのか貴様らは」

 

クラウドが腕を前に向けると警備隊員に向かってスタッフの触手が高速で飛び出し、警備隊員を吹っ飛ばした。それを見た受付は机の下に設置されている緊急通報ボタンを押した。それを押せば警報が鳴り、陸の管理局本部にも連絡が行くようになっている。しかし………

 

「………?」

 

警報は鳴らない。繰り返しボタンを押すが反応はない。

 

「無駄だよ」

 

受付の背後で声がした。振り向くと、何時の間にかフィフスが立っていた。

 

「以前お邪魔した時にここのシステムは完全に私の制御下になるように改善させていただいたので」

 

にっこりと笑い、フィフスは受付を幻術の応用で気絶させた。それを確認するとクラウドは再び歩き出した。

 

「九番からの連絡通り、今ここは手薄のようだな」

 

「止まれ!それ以上動けば攻撃を開始する!」

 

だが歩き始めてすぐ、近くの廊下で数人の魔導師が立ちはだかった。なるべく騒ぎに鳴らないうちに済ませておこうとしたクラウドはしかめっ面でフィフスに尋ねる。

 

「どうなってるフィフス。カメラも警報もジャミング済みではなかったのか」

 

「…………おかしいな」

 

「警備には各隊員に通達できる小型の連絡装置がある………。我々を出し抜こうとしてもそうはいかんぞ!」

 

魔導士が叫ぶ。それと同時にクラウド達の背後にも魔導士達が現れた。完全に挟まれた………が、クラウドの表情に変化はない。むしろ不安そうな表情をしているのは108の魔導士達だ。彼らもクラウドに勝てるとは思ってはいない。だからといって逃げるわけにもいかない。

 

「…………はぁ。結局こうなるのか。できれば何事もなく終わらせたかったのだが……やれ」

 

「御意」

 

クラウドの合図と同時に魔導士達の背後にサードとシックスが現れ、一瞬にして魔導士を蹴散らした。当然だが彼女たちの戦闘能力は並の魔導士たちに抑えられるようなものではない。

 

「無駄だとわかっていながら………なぜお前たちはこうも…」

 

クラウドの言葉に一人の魔導士が立ち上がる。

 

「我々は…………アキラ隊長に教えてもらったんだ…」

 

「?」

 

「例え勝てない戦いでも、市民を…仲間を最後まで守るのが我々の使命………歯が立たないからといって仲間の避難が完了するまで背を向けるわけにはいかない!」

 

最初に吹っ飛ばされた警備が送った信号により、108の非戦闘員は裏口からの避難を始めていた。今クラウドと戦っている魔導士達は避難完了までの時間稼ぎをしていた。

 

「……………」

 

「その避難してる仲間ってこいつみたいなやつのこと〜?」

 

魔導士の前に突然フォースが現れ、傷だらけになった非戦闘員の108の隊員を目の前に落とした。

 

「!」

 

「残念ながら私たちの姉妹がすでに裏口側に回り込んで逃げ出した兵士たちは全員捕らえさせてもらいました。無駄な努力でしたね」

 

サードが魔導士に伝え、その魔導士を武器の槍の持ち手で吹っ飛ばす。魔導士は気絶し、それで108の部隊員は全滅した。前回の出撃で、兵士に多くの死傷者が出たため108は本当に手薄だった。

 

「フォース、ゲンヤナカジマは捕らえたか?」

 

「うん。こっち」

 

ーオフィスー

 

フォースに案内され、クラウド達はオフィスについた。そこにはゲンヤを始め、非戦闘員達が集められている。先ほどフォースがボコしたのは見せしめであり、他のメンバーはあまり傷はなかった。

 

「よぉ……お前さんが今回の事件の首謀者さんかい?」

 

椅子に縛り付けられた状態でゲンヤがクラウドに聞いた。

 

「…………ゲンヤ・ナカジマだな」

 

「ああ」

 

クラウドはゲンヤの前に立ち、話を始める。

 

「聞かれそうなことは先に答えておく。ギンガ・ナカジマは無事だ。洗脳等も行っていない。孫も無事だ」

 

「そりゃ安心した」

 

「我々はこれからここを拠点とし、管理局に宣戦布告をする。部下と自分の命が大切なら変に暴れないことだ。少しでもおかしな真似をすればまずお前を切り刻む」

 

「……」

 

「質問はあるか?」

 

ゲンヤは黙って聞いてたが、一つだけ疑問があった。

 

「なんでこんなことする?」

 

意外な質問だったのか、クラウドは少し驚いた表情をした。

 

「…」

 

「復讐だ。私の村を焼いた管理局への」

 

「本当に管理局がそんなことをやると思うかい?」

 

ゲンヤの言葉にクラウドは一瞬表情を曇らせる。

 

「事実だ。すでに数百年の時が経っている事件だが、証人は私自身だ」

 

「あん?」

 

今クラウドは数百年といった。

 

おかしい、とゲンヤは感じた。クラウドはどうみても10歳かそこらの少女だ。何故数百年の事件の証人だと言えるのだろうと。

 

「ふん、貴様が今眉間にシワを寄せている理由など大体想像がつく。私がまだ幼い子供に見えるのだろう?理由は簡単だ。お前も聞いたことがあるだろう?ジーンリンカーコアというのを」

 

「なるほど…年齢だけなら俺以上ってことか」

 

「そうだ。さて、他に質問がなければ宣戦布告を開始する」

 

「…ご自由に。俺にゃいまなんもできねぇからなぁ。ただ、約束は守ってくれよ。おかしな真似しなきゃ部下にも手は出さないと」

 

「もちろん」

 

そこに、フィフスがやってくる。

 

「クラウド、放送の準備できたよ」

 

「うむ、ご苦労」

 

 

ーミッドチルダ街中ー

 

 

午後2時、ミッドチルダの街のケータイ等個人の機器を含めたすべてのモニターがジャミングされ、クラウドが映し出された。

 

『ここミッドチルダに住まう、すべての人類、そして管理局員に告ぐ。これはテレビでもドッキリでもない。私の名前はクラウド。数百年前存在した…管理局に焼かれた村の村民の一人であり、ここ数日起きた襲撃事件の首謀者だ。私は管理局、貴様らに宣戦布告を行わせてもらう』

 

街中はざわつく。人々の反応は様々だ。本気で心配する人もいればいつも通りの生活をしている人もいる。

 

ー管理局地上本部ー

 

「なんだこれは!今すぐ放送を止めさせろ!」

 

「ダメです!街中どころか、この本部全体のシステムもジャックされてます!」

 

『まぁもちろん急に言われても信じることは出来ないだろう。そこで私が本気だということを証明するために…陸士108部隊を制圧、占拠させてもらった。この先ミッドチルダに点在している陸士部隊は順に潰させてもらう。我々には交渉等する気はない。これは管理局への復讐だ!戦争だ!』

 

「…」

 

『だが、一般人諸君。お前たちが巻き込まれるのは快く思わないだろう。明日の12時まで待ってやろう。それまでに避難なりなんなりするといい。次は私が頂点に立つその時の大事な国民だからな』

 

放送が終わった。当然これは管理局次元本部にも流れている。本部では上への連絡に来ていた小此木が頭を抱えていた。

 

「やれやれ…まさかここまで大々的に放送してくるとは………奴さん、かなり本気で管理局を潰す気なのかな…」

 

 

 

「小此木君。これより我々管理局は本格的に部隊を動かす。現場の作戦指揮を君に任せよう。場合によっては『F1』の出撃も検討する。その権利も君に渡しておこう。すぐ地上の方に戻りたまえ」

 

「了解。先に地上に指示をしておきます」

 

小此木は地上に戻ってすぐ作戦を開始できるように、作戦をすぐ考え、その準備を地上に留守番させてきた助手のアストに連絡を入れておいた。

 

 

 

ー地上本部ー

 

 

地上本部のアストはアキラが起こした騒ぎに巻き込まれたフランシスのお見舞いに来ていた。アキラが妙な装置を使ってナンバーズ全員をどこかへ連れて行ってしまったがフランシスだけは残されていた。一応身体に異常はないか本部で精密検査を受けていたのだ。

 

「フランシスちゃん、調子はどう?」

 

「大丈夫です…ありがとう……ございます」

 

その時小此木から作戦準備の連絡がきた。

 

「ん?小此木さんから…」

 

アストはフランシスの前で作戦準備命令のメールを開く。フランシスはそのメールをを見て首を傾げる。

 

「お仕事?」

 

「ん?ええ、そうね。フランシス、来たばっかりなのにごめんなさい…。ちょっと行かなきゃ」

 

アストは立ち去る前にフランシスの隣のカーテンで仕切られたベッドに向かった。カーテンの向こうには全身を包帯で巻かれ、今も意識が戻っていないシノブがいた。

 

「頑張ってくださいね」

 

アストは小さくつぶやき病室を後にした。

 

 

ー十数分後ー

 

 

次元管理局本部から戻ってきた小此木と合流したアストはさっそく小此木に現状を聞かれる。時間短縮のために歩きながら二人は話す。

 

「準備はどうだ?」

 

「命令通り、本部の陸士隊と他地域の陸士隊を集めて配置につかせました。すぐにでも作戦を開始できます」

 

「極秘に進めといただろうな」

 

「問題ありません」

 

「わかった」

 

小此木とアストは作戦指揮室に入る。小此木は指揮官席に座ると周りのオペレーターに指揮をする。

 

「待たせた。今から作戦を開始する。奴らが住民の避難を待っている今がチャンスだ。一気に仕掛ける。各配置場所から108に一斉に突入、人質の隊士たちを奪還してひとまずは引き上げる。その後結界を展開し、高町なのは、八神はやて、その守護騎士たち、そして僕たちが結界内に入る。それで終わらせる。OK?」

 

「「「了解」」」

 

説明を終えた小此木は出撃準備のために席を立ちあがった。

 

「作戦開始!」

 

そう叫んだと同時に指揮をアストに任せ、部屋を出ようと瞬間、通信先から断末魔が聞こえた。

 

『うわぁぁぁ!!!』

 

「!?」

 

次は爆発音。

 

「何事だ!!」

 

『こちら突入部隊!何者かのこうげk』

 

声が途切れた。

 

「四か所に配置した突入部隊全てが襲撃を受けている模様!」

 

「何が起きている…?」

 

小此木が困惑しているとき、作戦指揮室の大画面にクラウドが映る。

 

『こちらがわざわざ待っているんだ。貴様らも待ってもらわないとな。お前の動きなど手に取るようにわかる。兵士たちは今回殺さずに帰してやろう。だから明日の12時まで待て。もしまた仕掛けてくるのであれば、その時は確実に殺すぞ』

 

それだけで画面は消えた。小此木は再び頭を抱える。

 

「こちらはあちらの掌の上ってことか…。アスト、もう一度兵士を集める。人質が殺されてしまっては元の子もない。防御を固めよう」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

続く



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第十六話 防衛

なのはデトネイション………ウィークリー(この先ネタバレになりそうなのでツイッターのふせったーでつぶやきます)
はい、早速新たな知識や世界線を利用させてもらいました。もともとなのはGODとは絡めるつもりでしたがリフレクションの時点で新設定がきてしまったのでそちらを利用します。

俺らのなのはまだまだやれる!!みんなで応援してこう!!

感想、評価、投票随時募集してます!!



ここは、ミッドチルダから遠く離れた異世界、エルトリア。そこの空から一筋の光が舞い降りた。光は人里離れた山の中に落ち、激しい衝撃とともに、煙が舞い上がる。

 

「………」

 

煙の中から一人の男が現れた。

 

「ここか…。惑星エルトリア」

 

 

 

ーミッドチルダー

 

 

 

ところ変わってミッドチルダ。ミッドチルダではクラウドたちが宣戦布告してから約一日が経過し、もうすぐ12時を迎えようとしていた。地上管理局本部では全体の部隊を集め防衛ラインを築き、準備は万端だった。

 

「ずいぶん大がかりにしましたね」

 

指示役である小此木の後ろから声がした。高町なのはだ。

 

「こうなってしまっては隠し通すことはできない。それに彼女は自身が黙示録の主であることを話さなかった。であれば黙示録の存在が露見し、混乱が招かれることはないからね」

 

「…」

 

「なにか言いたげだね」

 

「クラウドちゃんが言ってたことは本当なんでしょうか…」

 

「というと?」

 

「管理局が村を焼くなんてそんなこと本当にあったんでしょうか」

 

「まぁ、最高理事会は実際のところ悪のようなものだったからね。一概にないとは言い切れない。しかし、私も彼女の言っていたことは引っかかっている。アストに今調べさせてるよ」

 

「……まもなくですね」

 

「ああ」

 

ちょうど、時計の針は12時を指した。緊張がミッド中に広がる。刹那、ミッドの地上部隊の各隊舎が同時に爆発した。

 

「報告!!ミッドの西部地上部隊隊舎、海岸に近い隊舎がすべて爆破されました!!」

 

「想定内さ!それより、ゼロ・ナンバーズの位置を!」

 

すでに108に近い部隊の隊舎の避難は完了している。小此木はあくまでこれは陽動だと確信していた。

 

「魔力反応探知開始!」

 

「私も表に出る。あとはたのんだよ」

 

 

 

ー地上本部 南西部ー

 

 

 

管理局は地上本部を中心に108部隊がある西側に主力を展開していた。南西では12時になってから5分経過しても敵襲がないことを部隊を率いたはやてが通信をとる。

 

「こちら、南西部、八神部隊。未だ以上なしで…」

 

その瞬間、部隊が展開している方向の先に複数の魔法陣が展開され、魔法陣から鎧騎士たちとガジェットが出現した。

 

「よーし、戦争おっぱじめますか」

 

そして機械龍に乗ったナインス、黒い鎧に身を包んだセカンド及びスバル、そしてサードの三人が現れた。はやてはいち早く臨戦態勢をとる。南西では主力戦力として、はやて、ザフィーラ、ティアナの三人がいた。

 

「敵襲!!ティアナ!ザフィーラ!二人はゼロ・ナンバーズを!他の人は鎧騎士の相手をお願いします!」

 

「了解!」

 

 

ー地上本部 西部ー

 

 

「なのは!!」

 

なのは、シグナム、ヴィータがいる西部でもゼロ・ナンバーズと鎧騎士、ガジェットが出現していた。こちらにはフォースとシックス、そして…

 

「久しぶりだな…管理局の機動六課の隊長共」

 

「トーレ…」

 

 

ー北西部ー

 

 

そして最後に小此木が少数部隊で展開している北西部にはセヴンと鎧騎士が現れた。

 

「へぇ…ここは私が一人だけど……おじさんも一人?」

 

「おじさんはひどいなぁこれでもまだ若いんだよ?」

 

小此木はセヴンと笑顔で話しながら指で一般兵に指示をする。

 

「私もなめられたもんだねぇ。私、結構強いんだよ?」

 

「ボクもさ」

 

「へぇ♪じゃあ私の相手にふさわしいかどうか……今から試してあげる♪」

 

次の瞬間、小此木の背後にセヴンが高速移動で回り込んだ。小此木はぎりぎりで反応し背後を振り向いたがそれと同時に蹴られ、ビルに突っ込んでいった。

 

「隊長!!」

 

「なーんだ、弱いじゃん。つまんないの………いーよお前ら、この雑魚もやっちゃって」

 

セヴンの指示で鎧騎士が動き出す。

 

「さてと…じゃあ私は」

 

「待ちたまえよ」

 

ビルの中から小此木が現れた。ほぼ無傷だ。セヴンは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐにうれしそうな顔をした。

 

「フーン…ちょっとは楽しめるかな!」

 

拳を構えセヴンは小此木に向かっていった。小此木は懐から何か球体を取り出して強く握った。

 

「君はパワー系かぁ…。ちょっと苦手だけど私も「ファントム」だ。勝って見せるさ!」

 

セヴンが振り下ろした拳に小此木は拳をぶつけた。二人のパワーはほぼ互角。二人は互いの力に押されはじかれた。

 

「私の拳に対抗するほどのパワー…」

 

「なぁに……君のパワーのデータはノーリ君が残してくれたからね。互角に渡り合うことは可能さ!」

 

その瞬間小此木は高速でセヴンとの間合いを一気に詰める。

 

「君の性能を僕が上回ることも!!」

 

「!!」

 

お返しと言わんばかりに小此木はセヴンを蹴り飛ばした。セヴンはぎりぎりで防いだが小此木は吹っ飛んだセヴンに追い打ちをかける。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「ちぃ!!!!」

 

瞬時に抵抗したセヴンの拳は小此木の拳とすれ違い、クロスカウンターを炸裂させた。だが小此木は止まらない。セヴンの拳を受けながらも小此木はすぐに蹴りをお見舞いする。

 

「ぐぅ!!」

 

セヴンはビルの屋上の貯水タンクに突っ込んだ。

 

「………ふぅ」

 

小此木が貯水タンクからセヴンが出てこないことを見て少し気を緩めた瞬間、貯水タンクから鎖に繋がれた剣が飛んできた。

 

「…」

 

小此木は表情ひとつ変えずに避ける。

 

「まさか…こんなひょろひょろしたおじさんに武器使うことになるなんてね…」

 

「うーん、私としては武器は苦手なのだが…」

 

小此木はようやくデバイスを取りだし、バリアジャケットを展開させて剣を構えた。

 

「本気で行かせてもらうよ」

 

「やれやれ…辛いねぇ」

 

セヴンは剣を振り上げて小此木に切りかかる。小此木は攻撃を受けずにその場から飛び出して空中に浮く。

 

「まだまだ!」

 

セヴンの追い討ちから空中戦が始まる。セヴンの攻撃を小此木は防ぐが、思ったより攻撃は重く、後退させられた。

 

「もらいぃ!」

 

セヴンが剣を小此木に向け、その切っ先から大型の魔力収束砲を放った。

 

「…」

 

だが、小此木は焦らずその攻撃を見て手を前に出した。

 

「…?」

 

セヴンは自分の攻撃に違和感を覚えた。攻撃が、当たってる感じがしない。防がれている感じもしない。セヴンは違和感の正体の確認のために攻撃を中断した。

 

中断された魔力砲は弾け、魔力の欠片が辺りに散る筈が今回は違う。魔力は残らず消滅した。

 

「…そういえばロクがいってたなー。あんたが妙な技を使うって。正しかったみたいだね」

 

「フフ…、じゃあ…お返しだ」

 

小此木は怪しく笑い掌に魔力を集束させた。超高密度の魔力弾を手の上に構築し、それをセヴンに向かって投げた。セヴンは剣で弾こうとしたが、大きさのわりに集束された魔力は多く、弾ききれないことを確信したセヴンは一旦剣を手放し、魔力弾を避けた。

 

「…っぶな」

 

「まだおわりじゃないさ!」

 

小此木は再び懐から球体を取りだし、強く握る。それと同時に小此木の両手から火炎が吹き出した。小此木はその炎を集束し、炎熱砲としてセヴンに放った。

 

「こんのぉ!」

 

セヴンは手放した剣の鎖を引いて手元に戻し、それを構えた。

 

「紫電一閃!」

 

セヴンは炎熱砲を直撃の手前で切り裂く。炎熱砲は消えたが前方に小此木の姿はない。

 

「上!」

 

「雷光招来!」

 

小此木の腕には大量の稲妻が帯電していた。それをセヴンに向けて放つ。

 

「サンダーシュート!!」

 

「なめないでよねぇ!ブラスター!」

 

剣を振って強力な魔力砲を放った。小此木のサンダーシュートと相殺され、爆発が起きた。

 

「楽しいね……もっともっと殺し合おう?」

 

「頭のネジが外れてるようだね…」

 

 

 

ー南西部ー

 

 

 

南西部でも激戦が行われていた。ティアナはセカンドの相手をしていた。スバルの正気を取り戻させようと奮闘していた。

 

「スバル!!しっかりしなさい!!」

 

「UAAAAAA!!!!」

 

「くっ」

 

(やっぱり魔力ダメージを与えなきゃ正気に戻りそうにないわね…でも、今のあいつはそれを許してはくれなさそうだし)

 

スバルは前回に比べかなり知的な戦いをするようになっていた。力任せの攻撃ではなく敵との駆け引きを行っていた。隙がない。

 

「こんのぉ!!」

 

走って来るティアナはスタンバレットを打ち込んだ。スタンバレットは鎧に命中し、一瞬動きを止めたかのように思われたがスバルは再び走り出す。

 

「やっぱダメか…SLBを放とうにも時間がかかりすぎる…クロスミラージュの火力じゃ魔力ダメージは少量…相性が悪い!」

 

ティアナはスバルの洗脳を解除する算段を立てながらスバルの重い一撃をクロスミラージュの刃で防いだ。しかしスバルは一撃が防がれるとすぐに次の攻撃に移る。だがティアナはそれを把握していた。すぐに攻撃をかわし、一発スバルに打ち込んだ。魔力弾は鎧に当たったがはじける音がしただけで大したダメージにならないのは目に見えてわかっていた。

 

「動きは変わってないみたいねぇ…。その頑丈な鎧、私のクロスミラージュじゃあ壊せそうにないわね。でも、あんたを倒せなくても、足止めくらいならいくらでもできる…限界まで付き合ってやろうじゃない!!」

 

ティアナは洗脳の解除はあきらめ、限界までスバルの相手をして倒すか別の敵を終わらせた仲間に倒してもらうことを決意した。だがティアナとて完全にあきらめたわけではない。どこか隙があればすぐにでもSLBをぶち込んでやるつもりだ。

 

 

別の場所ではサードとザフィーラが対峙していた。

 

「私の相手はこのワンちゃんですか…」

 

「盾の守護獣、ザフィーラだ」

 

「ウフフ、律儀ですこと。でも、残念ながら」

 

ザフィーラの視界からサードが消えた。

 

「!!」

 

「すぐ終わりますのよ」

 

背後から声がした。サードの槍がもうすぐそこまで迫っていたがザフィーラはすぐに振り返り、槍を防いだ。

 

「ぐぅぅぅ!!」

 

「あら、ずいぶん反応が良くて堅いこと」

 

「盾の守護獣、なめてもらっては困る!てぇぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ザフィーラが叫びながらサードに突進していった。だがサードはやすやすとザフィーラの攻撃を回避し、ザフィーラの鳩尾に槍の柄を叩きつけた。

 

「ぐぅ!!」

 

だがザフィーラはそれだけでは終わらなかった殴られた槍とサードの腕を同時に掴んだ。

 

「!」

 

「どぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

ザフィーラはそのままサードの腹部目指して魔力が収束された拳を振り下ろした。魔力が炸裂し、サードはぶっ飛ばされた。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ザフィーラは追撃にかかり、サードの腹に拳を叩き込んだ。

 

「うぅっ!!」

 

そしてそのままビルに突っ込んだ。壁と自分自身で挟み込み、更にバインドで手足を縛る。

 

「くっ!」

 

「大人しくしろ。悪いようには…」

 

「ファランクス…」

 

「!」

 

サード自身を含め、ザフィーラたちの周りに無数の魔力弾が精製される。

 

「まさか!」

 

「ファイア!!」

 

ザフィーラに向けて魔力弾から攻撃が放たれる。ザフィーラは全方位式のフィールドを張り、攻撃を防いだ。もちろんサードも巻き添いになるかと思われたがサードは魔力弾をうまくバインドに当て、集中が途切れたバインドを砕き、脱出していた。

 

「サンダー………」

 

さらにサードは雷属性の槍を精製し、それをザフィーラに投げた。

 

「エンド」

 

「くっ!!!!おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

だがその程度で負けるザフィーラではない。かなりの威力の槍をザフィーラは拳一つで対抗し、相殺させた。ザフィーラの腕は若干焦げたように見えるが実際は大したダメージではない。

 

「くぅぅぅ…」

 

「はぁ!」

 

何時の間にかサードは背後にいた。そしてザフィーラは槍の攻撃を防ごうとしたがザフィーラは吹っ飛び、道路に着地した。そこにスバルと戦っているティアナがスバルの攻撃を避けた勢いでやってきた。

 

「たくっ!相変わらず技術で賄えないパワーの差ね!」

 

「中々素早いっ!」

 

二人はたまたまお互いが相手にしている敵の感想を言った。意図せず重なったお互いの意見は二人の敵の特性を理解させるのには充分だった。そこにサードとスバルが同時に襲いかかってくる。ザフィーラとティアナはアイコンタクトで通じ合い、互いに向いてる敵の方向を変えた。

 

「!」

 

「!」

 

「スタンバレット!」

 

「鋼の軛!!」

 

ザフィーラはスバルの、ティアナはサードの相手を始めた。

 

「AAAAAAAAAAAA!!!!」

 

「なるほど、適材適所というわけですね…っ!」

 

 

はやてはナインスと彼女が乗る機械龍の相手をしていた。正しくは追跡をしていた。

 

「速いっ!」

 

「あははは!このジークのスピードは戦闘機並みだからねぇ!古代ベルカの力を持っていたとしても一航空隊士に何か負けはしないよ!」

 

(きっとこの子が鎧騎士やガジェットを召喚している………この子さえ倒せれば!)

 

 

 

 

続く



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第十七話 強敵

久しぶりに一週間以内に書ききりました。お楽しみいただければ幸いです。次回はいつになるかな…(遠い目)
そうそう、なのはの文化祭に行けなかったので通信販売ありがたい限りです。

感想、評価、投票随時募集中です。


ー地上本部 通信管制室ー

 

 

ミッドチルダでは地上本部を中心とした西側で大きな戦闘が起きていた。戦況は管理局側が若干劣勢になっていた。事前の襲撃でかなり人員を失っていた管理局は次元管理局本部から支援を要求していたが…。

 

「次元本部は何をしているんだ!?」

 

「それが、地上と次元管理局をつなぐ通信システムがジャミングされていて………次元跳躍のためのシステムにもジャミングがされており、どうにも…」

 

「馬鹿な!?本部の厳重なシステムにどうやって…」

 

本部の通信管制室が騒ぎになっているころ、アストが入ってきた。

 

「ここにもいない…」

 

 

 

ー地上本部 西側ー

 

 

 

地上本部の西側ではなのはたちが戦っていた。シグナムとフォースが対峙していた。

 

「ヤッホー、久しぶりー」

 

「…」

 

「こないだの決着、つけようか。あやふやで終わっちゃったしね」

 

「次こそ仕留める。覚悟しろ」

 

シグナムのまじめな態度にフォースはニヤリと笑い、挑発的な表情で手招きをする。

 

「………カモ~ン」

 

「参る!!」

 

シグナムはレヴァンティンを抜刀し、フォースに切りかかった。フォースは手を振り、氷点下の息吹をシグナムに放った。それを受けてシグナムの腕は凍り付いたがそれで止まるシグナムではない。すぐにお得意の火炎魔法で腕の氷を溶かした。

 

「ひゅう、やるぅ」

 

「ふっ!!」

 

シグナムはそのままフォースに切りかかったがフォースはそれを避け、大きく距離を取った。

 

「まぁ待ちなよ。前回は吹雪に身を隠して誘導弾でお相手したけど、今回は近くに仲間がいるからそうもいかないんだよ」

 

フォースは全身に吹雪を吹かせ、体に氷の鎧を作った。

 

「ねぇ、氷結魔法を使う魔導士の良し悪しって知ってる?」

 

「なに?」

 

「氷でいかに精密で本物に近いものを作れるか…それって結構大切なんだよね」

 

フォースはそういって氷の鎧とレヴァンティンに酷似した氷の剣を生成した。

 

「さぁいくよ!!」

 

「!」

 

フォースは一気に切りかかってきた。シグナムも対抗する。金属と氷がぶつかりあい、何とも言えない接触音を出した。

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

シグナムは一気にケリをつけようとフォースの剣をはじき、レヴァンティンを連結刃に変え、炎を纏わせた状態で切りつけた。フォースはそれを新たに精製した剣で防ぐと同時にさらに複数の剣を精製しそれをシグナムに飛ばした。

 

「あはは!急ぎすぎてない!?」

 

「黙れ」

 

シグナムはすぐに剣を元に戻しフォースが放った氷剣を弾く。シグナムはレヴァンティンをボーゲンフォルムに変形させ、弓を放った。

 

「その程度!アロンダイト!!」

 

フォースはアロンダイトを放ち、シュツルムファルケンを相殺した。シグナムは驚いた。シュツルムファルケンを簡単に相殺されたことではない。はやてが使う技である。それをフォースが使ったことに驚いたのだ。

 

「なぜ……」

 

「まだまだ行くよ!!クラウソラス!!」

 

「ぐっ!!」

 

呆然としているシグナムにクラウソラスが放たれた。シグナムは一瞬反応が遅れながらも何とか防ぐ。

 

「貴様…それは我らが主の魔法だ。どこでそれを…」

 

「あは、あんたたちのデータなんて腐るほどあるんだから、模倣魔法なんていくらでも作れるに決まってんじゃん♪。これまでの戦いで多くの手の内を晒してきたんだからさぁ!!」

 

フォースはそう叫び、バルムンクを放った。

 

シグナムはレヴァンティンを一度鞘に戻し、突進する形でバルムンクの刃を避け、フォースに迫った。

 

「ふっ!!」

 

「アイスシールド!!」

 

居合切りでフォースを切ろうとするが氷の盾によって防がれた。

 

「はぁ!!」

 

「おっと……どうしたの?ずいぶん勢いがよくなったじゃん?」

 

「なに、迷いが晴れただけだ。我が主の魔法を使うから何かと思ったが、模倣したものであればそれは所詮まがい物、取るに足らんことだ」

 

シグナムはもしかしたらフォースが夜天の書の何かにかかわる、はやてに関わる何かなのではないかと危惧した。だが単に模倣された物であれば問題ないと判断したまでだった。

 

「どうかな、私は、私たちはただ偽物として作られただけじゃないからねぇ。性能も威力もオリジナルの何倍も高い!機動六課なんて目じゃないってことよ」

 

その言葉にシグナムは思わず笑みをこぼした。

 

「ふ…」

 

「…何がおかしい?」

 

「所詮貴様は本物を模して造られただけのまがい物だということ。だとすれば貴様らがその魔法で我らに勝てる道理はない」

 

「なんでそう言えるの…」

 

「なぜならそこには血が全く通ってないからだ。魔法に込めた想いも、情熱も、願いも…」

 

シグナムの脳裏にふと、アインスの顔がよぎった。

 

「そんな魔法では我ら倒せると思ったら大間違いだ」

 

「行ってくれるじゃん……だったら、そのまがい物であんたを完膚なきまでに倒してくれるわ!!」

 

フォースは魔力を集束し、フレースヴェルグをシグナムに向けて一斉掃射する。シグナムはシュランゲフォルムで魔力弾を打ち落とす。

 

「……っ!」

 

「前回とは状況が違う………さっさと終わらせてもう…」

 

 

一方でヴィータはロクの相手をしていたがやや苦戦していた。今回ロクは前回の雪辱を果たすべくさっさとヴィータを倒し、小此木のもとへ行こうとしていた。そのために既にルーラーアーマーを起動させていた。

 

「んなろぉ!!!」

 

「遅いっ!」

 

ロクは全力でヴィータの排除の望んでいた。ヴィータの攻撃は威力は高いが接近がメインなうえに機動が読まれやすいという欠点があった。ロクのルーラーアーマーはリーチが長く、素早さもある。ヴィータとは少し相性が悪かった。

 

「くっ…アイゼン!」

 

諦めずにロクにアイゼンで殴り掛かるがロクのルーラーアーマーの腕の鎧で簡単に防がれ競り合うまでもなく弾かれる。

 

「のわぁ!!…のやろぉ!!」

 

ヴィータは吹っ飛ばされながらもシュワルべフリーゲン4発を打った。

 

「さっさと失せろ」

 

そういってロクはルーラーアーマーの腕の間に火炎で包まれた鉄球を放った。ヴィータのシュワルベフリーゲンと酷似している。

 

ロクの鉄球はヴィータのシュワルべフリーゲンを打ち消しヴィータに向かっていった。

 

「舐めんなぁ!!!!」

 

だがヴィータは素直に打たれる性格ではないアイゼンをギガントフォルムで打ち返した。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

ロクはルーラーアーマーの後方に装備されてるブースターを稼働し、鋼鉄の拳でヴィータに返された鉄球に突進し、鉄球を押し返した。さらに鉄球ごとヴィータに突進していった。

 

「なぁ!?ちょ、ちょっと待」

 

予想外の反撃に反応しきれず防御もままならず吹っ飛ばされた。

 

「がぁ!」

 

「落ちろ」

 

ロクはそのままルーラーアーマーの剣を展開し、火炎を纏わせてヴィータを全力でぶった切った。ヴィータはそのまま地面に叩きつけられた。アイゼンはとっさの防御に使われたが防ぎきれずに真ん中から綺麗に折れていた。

 

「ごほっ…………」

 

「ふぅ…終了だ」

 

ロクはその場を後にして小此木のほうに向かおうとした。が、背を向けたロクに鉄球が投げられた。

 

「…まだ立ち上がるのか」

 

「……悪ぃな…………こちらとら、諦めが悪くて…負けず嫌いなもんでなぁ!」

 

額から血を流しつつ折れたアイゼンを二刀流のように持ち、ヴィータは立ち上がった。周りと比べ、ヴィータは負けているように見えるがそれは当然だ。ロクはシグナムとヴィータのデータをベースに力をふるっている。さらにルーラーアーマーによって力をかなり引き出している。今ヴィータは、いうなれば実力を倍にしたヴィータとシグナム、二人を同時に相手にして知るようなものだった。

 

「一つ伝えといてやろう。貴様が何度立ち上がろうと、私に勝つ確率は0だ。諦めろ」

 

「そういうわけには…」

 

ヴィータはロクに向かって飛んだ。

 

「いかねぇんだよぉぉぉぉぉ!!!」

 

「愚か者が」

 

ロクは両手から生成した炎をルーラーアーマーの刃に集中させた。そしてその刃をヴィータに向ける。

 

「一閃焔刀」

 

「!」

 

ヴィータは自分に向けられた刃を避ける気でいた。しかし、ロクの放った一閃焔刀は居合い斬りと見間違える程のスピードで放たれた強力な突きだった。

 

シグナムの炎熱変換と剣術、そしてヴィータの破壊力。それらを併せ持ったロクにヴィータの鉄槌は届かず、避ける間もなく無力にも吹っ飛ばされた。

 

「ぐ…………くそ…」

 

一閃焔刀によってかなりの距離吹っ飛ばされたヴィータはようやく墜落を始めた。こちらが全力を出すまえにやられた悔しさを噛み締めながら。

 

ヴィータが負けたのも無理はない。ロクは模倣魔法の他に自身で手に入れた戦闘技術があった。それと模倣魔法、さらに最初から全力全開のルーラーアーマー。強さで言えばロクはゼロ・ナンバーズのなかでも4番目だった。

 

墜落しているヴィータを誰かが優しく空中で受け止めた。

 

「う…」

 

ヴィータが瞳を開けると、シャマルの顔があった。

 

「シャマ…ル?」

 

「ヴィータちゃん!大丈夫!?」

 

「大したことねぇ…ちょっと油断しただけだ…」

 

「動いちゃダメよ。大丈夫。あなたが戦っていた相手のところにはフェイトちゃんが向かってるわ」

 

フェイトは以前の戦闘でゼロ・ナンバーズの強化のため、魔力を奪われて動けていなかったが、ついさっきようやく動けるようになったのだ。

 

「そうか……情けねぇ…」

 

「今回は運が悪かったわ。敵の強さを見くびってた。ただでさえ強い相手にデバイスまで壊されたら撤退したほうがいいわ」

 

「チッ…」

 

 

 

「フォトンランサー!」

 

「そんな牽制技!意味がないことをわかれ!」

 

復活したフェイトはロクを相手に基本的に逃げながら戦っていた。復活したとはいえまだ魔力は全開ではない。しかも相手は全力を出し、一撃を避ける度に背後で大きな爆発が起きている。まともに相手をすればすぐ落とされるだろう。

 

「…」

 

(あの両腕の巨大な腕型の鎧。あれさえ突破して本体に直接、一撃必殺さえ入れば…)

 

「火竜一閃!」

 

ロクがフェイトに向けて炎熱砲を仕掛けた。だがフェイトはヴィータと違い逃げに回ってスピード重視に動いているのでそうそう当たるものじゃない。

 

「はぁ、はぁ…」

 

「ちょこまかと、鬱陶しい!シュルベフリーゲン!」

 

今度は誘導性が高いシュルベフリーゲンを20発同時に放った。

 

「バルディッシュ!」

 

『ザンバーフォーム』

 

フェイトは冷静にバルディッシュをザンバーフォームに変形させ、素早く器用な非行でシュルベフリーゲン同士の自壊を誘導し、打ち落としきらなかった数発をザンバーで切り落とした。

 

「あぁ!イライラする!」

 

「サンダースマッシャー!」

 

フェイトが隙をみてサンダースマッシャーを打ち込んだ。ロクは腕の鎧で防いだ。サンダースマッシャーが鎧に命中し、爆煙が起き視界が曇った隙を見てフェイトはソニックフォームになった。

 

(この一瞬!)

 

一気にロクの背後に飛び、バルディッシュで切り裂こうとした。だが、ロクは背後のフェイトの姿に気づいていた。振り向き様に超高速の剣撃を放った。

 

「っ!!」

 

ソニックフォームで防御の薄いフェイトはそのまま切り裂かれ、空中に血を撒き散らしながら墜ちていった。

 

「他愛ない…」

 

もう敵はいないだろうと思い、小此木がいる方に飛ぼうとした瞬間、腕の鎧に遅延型のバインドが発動させられた。

 

「バインド!?いつの間に…」

 

(さっきの…目眩ましの砲撃……?)

 

ロクが考えていると、背後で魔力の集束の気配と雷の音がした。

 

「なに!?」

 

自分の背後の上空に、先程落とした筈のフェイトがいた。

 

「何故…」

 

「悪いわねぇ」

 

ロクの横のビルの屋上から声がした。見るとそこにはまだ包帯を身体の所々に巻いたメグが立っていた。

 

「貴様!」

 

「アタシ幻術は得意なのよ」

 

フェイトがやられたように見えたのは、メグ幻術だった。

 

「雷光一閃!」

 

ロクが憤りを感じているうちにフェイトが大型の魔力砲を打つ準備を完了させる。

 

「この程度のバインドォォ!ルーラーアーマーなら!」

 

ロクは全力でバインドを破壊しようとルーラーアーマーの力を全開にして抵抗したが、フェイトのバインドの上にさらにバインドが巻かれた。

 

「大人しくしなさい!」

 

シャマルのバインドだ。

 

「プラズマザンバー…ブレイカァァァァァァァァァァァァ!」

 

フェイトのプラズマザンバーブレイカーが放たれた。それと同時にロクがかなり無理矢理バインドを破壊し、一瞬で火炎を剣に集中した。

 

「一閃焔刃!!!」

 

二つの技がぶつかり合い、巨大な爆発が起きた。あたりの建物は吹っ飛び、地面にクレーターができた。

 

メグはギリギリでシャマルに守られ、大事はない。

 

「ハラオウン執務官は…」

 

「わからないわ…あなたを守るので精一杯だったから」

 

爆煙が収まり視界が晴れてきたころ、フェイトとロクの安否が確認できた。

 

「ハラオウン執務官!!!」

 

「フェイトちゃん!」

 

フェイトはクレーターから離れたところで倒れているのが確認できた。シャマルはメグを抱えてフェイトのもとまで飛んだ。

 

「ハラオウン執務官!」

 

「フェイトちゃん!」

 

「う…」

 

二人はフェイトの近くに降り立つと、急いで駆け寄った。

 

「う……シャマルさん」

 

「駄目よあんな無理しちゃ…まだ魔力が完全に戻った訳じゃないんだから」

 

「すいません…でもあれくらいしないとたおせなかったので」

 

「はぁ………まぁ、いいですけど。それより敵のほうは?」

 

「わからないです。打ち合いになったので…」

 

「………はぁぁぁぁぁ」

 

「!」

 

ロクの声がした。

 

瓦礫の中から、片腕の鎧の刃が折れ、全身に魔力ダメージを受けた跡が残るロクが出てきた。

 

「中々…やるな。あのいけすかない男から殺してやろうと思ったが、良いだろう。あの男同様私の鎧を破壊したのだ。貴様らも殺してやろう!」

 

 

 

続く




次回、なのはVSトーレ、激闘!?そしてクアットロらの前に現れる影…?


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第十八話 旧敵

久しぶりにまた早めに出せました!今回はなのはさんとトーレの激闘です。次回も早い…かもしれません(笑)。

もうすぐクリスマスですね。クリスマスの回も出したいですね


地上本部西側ではいまだに戦闘が続いている。中でも過激な戦闘が続いているのはなのはとトーレの戦闘だった。トーレは元々真ソニックフォームのフェイトと互角を張れるだけの実力を持っていた。それにさらに新たな強化が加わり、かなりの脅威となっていた。

 

それが例え、エースオブエースである高町なのは相手でも。

 

「はぁぁぁ!!」

 

「くぅ!!」

 

トーレの突撃をなのははレイジングハートの持ち手で受け止めたが受けきれずにそのまま後ろに下がっていく。

 

「くぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「あぁぁぁ!」

 

なのはが体制を立て直す前にトーレは高速で背後に回り込み、なのはを蹴り飛ばそうとした。

 

「レイジングハート!!」

 

「Yes!」

 

レイジングハートが瞬時にフィールドを展開するがその程度のガードで極限まで強化されたトーレの攻撃を防ぎきれるはずがなく、なのはは吹っ飛ばされる。

 

「あぐぅぅ!ーーーーっ!シュート!!」

 

吹っ飛ばされる途中でなのははショートシューターを撃った。威力はないが牽制にはなる技だ。しかしトーレは軽く回避してなのはとの距離を一気に詰める。

 

「はぁ!」

 

「っ!」

 

強化されたトーレの拳をなのははもろに腹に食らった。その威力はバリアジャケットの装甲を簡単に抜くほどだった。腹部への強力な打撃になのはは一瞬吐きかけるが、そのダメージを耐えてトーレの腕を掴み、レイジングハートの先端をトーレの腹部に付けた。

 

「ディバイン…」

 

「!」

 

「バスタァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

ゼロ距離からのカートリッジ二つを使用したディバインバスター・エクステンションを防ぐ間もなく食らったトーレはかなり後方に押されたが途中で止まる。

 

「ふぅ…。少し驚いたぞ。今のは」

 

ディバインバスターはトーレにまるで効いてなかった。なのはがエクシードを使用しないでも打てるかなり強めの一発をいとも簡単に防ぎきるどころかダメージもほぼなしだ。

 

「…レイジングハート。エクシードモード。ブラスターシステム、リミット2!リリース!!!」

 

なのはは覚悟を決め、レイジングハートのブラスター1を飛ばしてブラスター2を解放した。ブラスタービットが2基展開され、レイジングハートも姿を変える。

 

だがあくまで魔力制限ありき、限定解除なしでの可能な限りの最大解放だ。出力は完全開放時の5、60パーセントといったところだろう。これで勝てる保証はないが限定解除を要請する時間もない。

 

「一気に決める!A.C.S、ドライブ!」

 

ACSを発動し、なのははトーレに向かって突貫した。トーレはもちろんそんな見え見えの突貫を食らうはずはない。即座に交わしてカウンターを決めようとしたがブラスタービットのディバインバスターがそれを阻害した。

 

「くっ!」

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

なのははブラスタービットで一瞬足止めされたトーレに向かって方向を変え、再び突貫した。

 

「ぐっ!!」

 

「エクセリオン…バスター!」

 

ACSでの突撃に加え、ゼロ距離でのエクセリオンバスターとビット2基のエクセリオンバスターがトーレを襲った。

 

「ぐぁぁぁぁ!!!」

 

なのははエクセリオンバスターを打ち切り、いったん呼吸を整える。トーレは地面に吹っ飛んでいき、バスターの爆発によって爆煙が発生してる。果たしてダメージが入っているのか怪しいところではある。

 

「ライドインパルス!!」

 

「っ!!。ブラスタービット全周警戒!!!」

 

トーレのIS、ライドインパルスの発動を聞いたなのはは急いでブラスタービットを警戒態勢にし、まだ爆煙で視界が開けない道路に警戒した。

 

「遅い!」

 

「!」

 

トーレは強化されたインパルスブレードでなのはの切り裂こうと背後から迫った。なのははぎりぎりのところで左手で魔力を集束させ、サイズを捨てる代わりに防御力を高めたシールドで防いだ。

 

「シュート!」

 

ブラスタービット二基でトーレに向かってシュートシューターを撃った。

 

「くだらん!」

 

トーレはライドインパルスの加速でシュートシューターを避け、そのままブラスタービットを一基破壊する。

 

「ロック!」

 

だがなのははそれを読んでいた。ブラスタービット一基を引き換えにバインドでトーレを縛ることに成功した。

 

「ぐっ………こんなものぉ!」

 

トーレもバインドで拘束されるほど甘くはない。すぐにバインドを力任せに破壊しようとする。しかし、バインドは一気に二重三重と増えていく。

 

「ぐおお!?」

 

「レイジングハート!」

 

『Yes, starlight breaker』

 

なのはがバインドを増やしてガンガン強固していく傍ら、レイジングハートがスターライトブレイカーの準備を始める。

 

辺りの魔力を集束し、巨大な魔力の塊を生成していく。

 

「スターライト…」

 

「くぅ…ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ブレイカァァァァァァァァァァァァ!」

 

ヤケクソ気味に幾重に重ねられたバインドをトーレは最終的に破ることはできず、スターライトブレイカーが放たれた。巨大な集束砲の光にトーレは飲まれていった。

 

 

 

ークラウド達の元アジトー

 

 

 

ここは少し前までクラウド達がアジトにしていた場所だ。そこの中の一部屋でギンガはアリスを抱きながら部屋の中をうろうろしていた。

 

クラウドはすぐに終わらせて戻るといい、出ていってしまった。恐らく誰もアジトには残っていないのだろう。

 

(…外は今どうなってるんだろう……アキラ君は…)

 

できることは何もない。いや、何もないわけではないが万が一敵がまだアジトに残っていた場合またすぐ部屋に戻されるだろうという考えのもと動けなかったのだ。

 

「…ねぇ、白い騎士さん。いる?」

 

ギンガは誰もいない部屋の中で訪ねた。すると、部屋のなかにいつのまにか白甲冑の男、リュウセイがいた。

 

「本来なら呼ばれたからといって出てくるべきではないのだが、どうかしたか」

 

「本当にどこにでも現れるのね…。ねぇ、外は今どうなってるの」

 

今一番知りたいことをリュウセイに訪ねた。アキラによればこの男はずいぶんとギンガに入れ込んでいるらしいので、教えてくれるかもしれないという期待を持っていた。

 

「残念ながら教えることはできない。俺がお前達に忠告に来るのは特定の条件が揃ったときのみだ」

 

「そう…………ここから出してもらうことも?」

 

「ダメにきまっているだろう。話が終わりなら俺はいくぞ」

 

「待って!あなたは何者なの!?どうしてそれほどの力を持っているのに……………戦わないの?」

 

「…俺はこの世界の管理人だ。世界が正しい方へ導くための」

 

「管理人…」

 

「俺は道程を示すだけだ。今の起きている事態をどうにかするのは今を生きるお前らの仕事だ」

 

リュウセイは消えた。ギンガはその説明に何も納得してはいなかったが今はそんなことはどうでもいい。最後の手段が消えたことでギンガは一つの決心をした。

 

「はぁ…」

 

ギンガは数年前、JS事件の最中にアキラが渡してくれたお守りを胸元から取り出した。ブリッツギャリバーは奪われてしまったがこれだけは奪われなかった。ギンガはお守りの中から小さなペンダントを取り出した。

 

「……起動」

 

『Yes, strike knuckle set up』

 

ペンダントはギンガの言葉で光り、形を変えてギンガの左腕に装着された。アキラが用意した緊急用のストライクナックルだ。

 

本来だったらギンガはアリスの安全のためにここで大人しくしているのが最善策だった。しかし、監視の目がないのならさっさと脱出したほうが良いと思ったのだ。下手に人質に使われ、アキラが死んだり傷つくのは嫌だった。

 

何より、千里眼を持つサラのお告げが怖かったというのもある。アキラが死ぬかもしれなというお告げ…。その原因が自分にあるなんて絶対に嫌だった。

 

「はぁ!!」

 

ストライクナックルで扉を思いっきり殴った。威力が低いのか扉が頑丈なのか、少し凹んだだけであまりダメージがない。

 

「ッ…それでも!」

 

一発でダメなら二発、三発と扉を殴っていく。

 

「私は帰るんだ…!アキラ君のところに…!アリスと一緒に!」

 

 

 

ー地上本部 東側ー

 

 

 

東側ではある部隊の隊長の指揮する部隊が迫りくる大量のガジェットと鎧騎士に苦戦していた。おぞましい数の敵永はのいくつかは幻影だった。しかも厄介なことにその幻影は、質量をもった攻撃をして来ていた。

 

「くっそぉ!なんなんだこいつら!!」

 

そんな様子を遠くから嘲笑する人物と冷静に眺めている人物がいた。

 

「うふふ、無様ですこと」

 

「…やれやれ」

 

クアットロとフィフスだ。クアットロはトーレのような直接的な強化は行われなかった代わりに似た能力をもつフィフスをパートナーにされた。

 

もともと幻影を生み出すことしかできない能力だったが、フィフスの脳に直接錯覚を起こさせる能力を組み合わせたことで偽の数で圧倒する攻撃部隊を作り出したのだ。

 

「それにしても、ナインスの情報の通りこちら側は手薄でしたわね」

 

「ああ」

 

「さぁて、こちらのザコい防衛線をさっさと潰して本部を押さえますか」

 

「ああ…そう………ん?」

 

そんな時だった、戦闘の音が突然止んだことにフィフスが最初に気づいた。

 

「どうかしたの?」

 

「戦闘の音が…止んだ?」

 

「ええ?…………………うそ、ガジェットたちの反応が消えてる…?」

 

「鎧騎士もだ。いったい何が…」

 

突然すぎる事態だった。フィフスもクアットロもこれには驚いている。状況確認のために小型のドローンを先ほどまで戦闘が行われていた地域に飛ばした。

 

だが、そのドローンの反応すらすぐに消える。

 

「…なにか…いる?」

 

二人の背後のビルの屋上に、足音がした。

 

「「!」」

 

二人は同時に振り向く。そこには、一人の女性が立っていた。黒い髪に、眼帯、金のラインで飾られた白いコートを纏い、通常より少し長い軍刀を手に持っていた。

 

「失礼。あなたたちが今のキカイたちの指示役ですか」

 

「……あなたは…」

 

「そのようですね」

 

「どうやら、そこのガジェットをつぶしたのは…あなたのようですね。…………フィフス、やりさい。」

 

「死ね」

 

即座に現れた女性を敵とみなしたクアットロはフィフスに錯覚による精神の抹殺を命じた。

 

が、そこにはもう女性はいない。

 

「!?」

 

「さよなら」

 

背後からの声。振り向くより先にクアットロは頭を回転させる。

 

(瞬間移動!?違う……速い!)

 

「くっ!」

 

クアットロはシルバーカーテンで近くに潜ませておいたガジェットを操作し、女性に攻撃を仕掛けた。

 

「っ!」

 

女性は軍刀を抜き、ガジェットを一秒足らずで細切れに変えた。

 

「はぁ!?」

 

でたらめな強さにクアットロは驚く。しかし女性は止まらない。クアットロに一気に接近した。

 

「君の腕は潰れる!」

 

フィフスがクアットロの前に立ち、女性に錯覚を起こさせた。フィフスの能力で拳が潰れたように女性は感じ、止まると想定していた。

 

「こいつ…とまらな…………ぶっ!」

 

だが痛みを感じる素振りもなく、女性はフィフスを殴り飛ばした。

 

「!!」

 

次の瞬間、クアットロが蹴り飛ばされる。クアットロは近くのビルの壁にめり込んだ。

 

「ぐぅっ……」

 

女性はクアットロの前に立つ。

 

「こちらの守りが薄いのはあくまで計算です。少々出勤が遅れましたが、私一人いれば殲滅は容易ですので」

 

「あ………あなたは…」

 

「では」

 

女性はクアットロの首を絞め、意識を飛ばした。フィフスは自身の脳に痛みに対する錯覚を起こし、立ち上がっていた。

 

「……いくら幻影使い、後衛向きとは言え…いささか敵側の戦力が足りない気がしますね……………。まるで、こちらの配置を全て知っていたかのような…」

 

女性が少し考えているとき、背後から足音がした。フィフスだ。

 

「き…貴様は……なんだ?貴様のような人間のデータは…管理局の中にはなかった」

 

「……知る必要はありません」

 

女性は去ろうとする。しかしフィフスはすぐに攻撃に入る。

「逃がすk」

 

いつの間にか接近していた女性にフィフスはエルボーを食らい、気絶させられる。

 

(速い……なんだこいつ…)

 

「…主犯各二名を確保。逮捕のためにこちらへお願いします」

 

女性は本部に連絡をし、その場を後にした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー管理局地上本部 会議室ー

 

 

管理局の会議室の端末の前で一人の少女が端末を操作していた。そこにアストが入って来る。アストはその少女をずっと探していた。

 

「やっと見つけた…」

 

「……バレちゃった」

 

「あなたは、何者?」

 

少女の正体はフランシスだった。フランシスは怪しげに笑う。

 

「敵よ。此処に潜入させられた」

 

「……」

 

 

 

続く



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第十九話 流星

お久です。皆さんクリスマスは楽しかったですか?僕は大学のテストとその勉強でしたが、サンタさんは遅れながらも来てくれましたしギンガとディナーにも行ったので楽しかったです。クリスマススペシャルやろうと考えていたのですが時系列的に無理があったので断念しました。

またお正月スペシャルでも書きましょうかね?

では19話お楽しみください。


ー南西部ー

 

 

「ちょっと待ちぃ!」

 

「そういわれて待つと思う!?」

 

ナインスとはやての空戦、というか鬼ごっこは続いていた。ナインスは大量召喚やサポートを得意とするが、サシでの勝負、そもそも攻撃を得意としなかった。そのためとにかく逃げまわる。飛行型のガジェットを度々召喚し、はやての手を止めさせていた。

 

(たくっ………エイトスのやつ何やってんだ…)

 

ナインスははやての追撃を避けながら何かにイラついていた。

 

「くっ!…あの機械龍が邪魔や…機動力がえげつない……。しゃーない」

 

はやては飛行を一旦やめ、足元に魔法陣を展開する。

 

「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ…フレースヴェルグ!!」

 

本来なら制圧に使われる、はやてが所有する魔法の中でもかなり最大規模の殲滅魔法だがいまこの召喚魔導士であるナインスを仕留めなければ劣勢なる一方だと感じたはやてはこの魔法を使った。

 

しかもただ打つだけでなく、一点に収束したフレースヴェルグのエネルギーを誘導性付きで飛ばした。

 

「くっ!しつこいって!」

 

はやては魔力弾のコントロールに集中しているので動けないがナインスは巨大な魔力弾を躱すので精一杯だ。だがはやての狙いは収束した魔力弾を当てることではない。

 

「この!」

 

反転回避するときに機械龍のスピードが一瞬ゆるくなるタイミング、そこを狙ってはやては魔力弾を爆裂させた。

 

「今や!!」

 

「!!」

 

あたり一帯を一気に制圧する程の魔力が塊となり、それが至近距離で爆裂したとなるともちろんナインスも機械龍も無事では済まない。無数の魔力弾に撃たれたナインスと機械龍はそのまま落ちていった。

 

「はぁ……はぁ……普段こないなやり方せぇへんから疲れたわ…」

 

集中力をかなり使ったはやては一度深呼吸をし、ナインスの落下地点に向かった。

 

「!」

 

だが落下地点にナインスの姿はなかった。ボロボロになった機械龍が倒れているだけだった。

 

「いったいどこに…」

 

 

 

別地点でナインスは目を覚ます。

 

「うう…」

 

「無事ですか?」

 

ナインスはサードに抱えられ、戦線を一旦離脱していた。

 

「サード!」

 

「ええ、私です」

 

はやてに撃たれた瞬間、サードが高速で助けてくれたことを理解すると同時にナインスはサードは額から血を流していることに気づく。

 

「サード……それ…」

 

「お気になさらず。少し油断しました」

 

「そう…」

 

「私より、自分の心配をしなさい。あなたはこの作戦の要なのですから」

 

「そうだね…」

 

「あなたはもう引きなさい。私が…いえ、皆がルーラーアーマーを起動させて管理局を可能な限り潰します…。すでにトーレは解放したようですし」

 

サードはなのはとトーレが戦っている方面を見て言った

 

 

 

ーなのはVSトーレ方面ー

 

 

 

なのははスターライトブレイカーをほぼゼロ距離でトーレに撃ち、その爆風に巻き込まれてダメージを負いつつも何とか飛んでいた。

 

「はぁ………はぁ、はぁ…。大丈夫?レイジングハート」

 

『なんとか』

 

「トーレは…」

 

なのははあたりを見渡すがトーレの姿はない。

 

「撃墜した…?」

 

「なるほど…いまのは中々効いたぞ」

 

トーレの声が上空から聴こえた。なのはが上を向くと、そこには黒紫の鎧を装備したトーレが立っていた。その体にはなのはのスターライトブレイカーによるダメージ等感じられなかった。

 

「あと少しこれの展開が遅ければ…さすがに危なかったぞ」

 

「ルーラー…アーマー」

 

「それでおしまいか?ならば今度はこちらの番だ!!」

 

「!!。カードリッジロー…」

 

次の瞬間、なのはは道路を貫通し地下街の地面に叩きつけられていた。なのはの反射神経も、レイジングハートのレーダーも反応できない速度でトーレがなのはを殴り飛ばしたのだ。

 

「がは!!」

 

「ふぅ…これがこの鎧の力か……」

 

(これは…さすがにまずいかな……体に力が入らない…意識が朦朧としてる……。魔力を消耗しすぎた…。バリアジャケットの維持ができない…)

 

なのはの予想通りバリアジャケットが解除された。体への蓄積ダメージが多く、スターライトブレイカーに魔力を使いすぎたのだ。何よりも決定打は今の一撃。ただでさえ強化されたトーレに加えてルーラーアーマーの強化によりその強さは制限されているとはいえなのはを超えたのだ。

 

「エースオブエース…高町なのは…もう終わりだ。死ね!!!」

 

トーレが完全に無防備になったなのはに突撃し、その心臓を貫いた。なのはの口から血が噴き出し、それがトーレの顔に飛び散った。

 

「がっ…あぁぁ…………」

 

(ヴィヴィオ……フェイトちゃん…みんな……ごめ…)

 

薄れゆく意識の中で思ったのは家族や仲間のこと。それらに対しての謝罪だった。

 

「さらばだ…エースオブエース」

 

 

 

 

 

 

刹那、なのはに迫ったトーレの拳を誰かが止めた。

 

「危ない…」

 

「!?」

 

トーレとなのはは困惑する。

 

「え…?」

 

「何が…」

 

確かに今、トーレはなのはの心臓を貫き、なのはは死んだはずだった。その記憶は確かに二人の中にある。だがなのはは生きている。死んではない。そもそもトーレの拳がなのはに届いていない。

 

そしてトーレの拳を受け止めたのはリュウセイだった。

 

「悪いな高町なのは。お前はまだ死んでもらうわけにはいかない」

 

「なにが…起きている?貴様が…なにかをしたのか?」

 

トーレはとりあえずリュウセイと距離をとった。その上でリュウセイに聞いた。

 

「なんの話だ?」

 

「……」

 

(本当になにも知らないのか……何かしたのか…いや、そんなことはどうでもいい)

 

「まぁいい。殺せなかったなら再び殺すまで。貴様と高町なのは。二人とも死んでもらう」

 

「ああ。「ヤツ」が戻ってくるまで少しの間、俺がお前の相手をしよう」

 

息まいていたものの、トーレは警戒心を上げていた。トーレは一度だけリュウセイに会っている。スカリエッティのラボで突如出現したリュウセイと戦闘をしたのだ。その時は全く敵わず敗北ともいえる結果になっていた。

 

(……果たしてこいつに勝てるのか…)

 

突如現れたリュウセイになのはは驚きながらも彼のことを見ていた。

 

(白い髪に…甲冑……ウィード事件でギンガが言ってた人って…もしかしてこの人?)

 

リュウセイにあったことがあるのはアキラ、ギンガ、フェイト、セッテ、トーレ、スカリエッティだったがなのはは二回ほどリュウセイの話を聞いていた。

 

最初はウィード事件で記憶を失ったギンガが拒絶結界を突破するアイテムを持ってきたとき、二回目はウィード事件の後に、フェイトがそのような人物にあったと話してくれた時だ。

 

「行くぞ!!!」

 

トーレがISを発動させてリュウセイに突貫した。

 

「…」

 

リュウセイは以前のように手を前に出し、手のひらから魔力衝波動を放った。トーレは衝波動をモロにくらい、壁に叩きつけられる。

 

「がぁ…!?」

 

「まっすぐな攻撃だな。まぁそれがお前の信条ってやつなのかもしれないが」

 

(馬鹿な…今の私のパワーをここまで軽々と…)

 

トーレの今の性能はノーマルでもかつてのライドインパルスを発動させている状態以上の出力だった。それをリュウセイは赤子の手を捻るかのように吹っ飛ばしたのだ。

 

「どうした…そんなもんか!」

 

リュウセイはもう片手から衝波動を放った。それによりトーレの身体からミシミシと音がする。

 

「が……あぁぁぁぁぁ!!ライドインパルス!!」

 

トーレはライドインパルスを発動させ、何とか衝波動から抜け出した。

 

「だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

さらに抜け出した勢いのままリュウセイの背後に回り、拳をぶつけようとしたがリュウセイが直前に出現させたザンバーモードのバルディッシュで防いだ。

 

「!?」

 

「バルディッシュ!?」

 

バルディッシュはひとりでに動き、トーレの拳を弾いてそのまま消えた。

 

「レイジングハート」

 

更にリュウセイはレイジングハートを出現させ、ブラスタービットを12基出現させる。

 

「なっ…」

 

「嘘…」

 

その光景に、リュウセイの所業になのははただただ驚くことしかできていない。

 

「ディバインバスター」

 

リュウセイが手に持っているレイジングハートを合わせて計13門のディバインバスターが放たれた。トーレはそれを上空に避難して何とか躱すが、高速で追撃に来たブラスタービットのバインドに捕まった。

 

「ぐっしまった…」

 

「レヴァンティン」

 

リュウセイがレヴァンティンを出現させ、連結刃モードでトーレを捕獲し、そのまま地面に叩きつけた。

 

「ぐあ!!」

 

「一気に行くぞ」

 

リュウセイはエリオのストラーダ、バルディッシュ、チンクのスティンガー、グラーフアイゼン、クロスミラージュを自身の周りに出現させ、それらを一気に投擲した。

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

トーレは様残な武器たちに傷つけられていく。

 

「おまけだ」

 

さらにリボルバーナックルを二つ出現させ、それをロケットパンチのように飛ばした。トーレは避けようとしたがリュウセイの出現させた武器たちは彼の思い通りに操られ、トーレは数発殴られた後に両腕分のリボルバーナックルに同時に殴られ吹っ飛んだ。

 

「ぐぅ…」

 

(避けられる…スピードのはずだ……だが、的確に死角と移動位置が読まれている…)

 

「お前はなんだ…」

 

素朴な疑問だった。トーレからはまだリュウセイは本気を出してないように見えた。それどころか、一撃目、それを防がれた瞬間トーレはリュウセイと目があった。その時、直感が彼女に伝えた。

 

 

この男には勝てない

 

 

と。

 

思えばおかしいところまみれだ。自分にはたしかに高町なのはを殺した記憶があるのにそれが実現していない。他者の、それもバルディッシュのような特別製のデバイスを含め複数の武器を操る魔法など聞いたことはない。ルーラーアーマーの力有りで自分の動きを封じる程の力など見たことがない。これほどの力を持っていながらどこの組織にもデータもなにもないのはありえない。

 

「俺か?俺は世界の管理人だ」

 

「ふ…神かなにかとでも言いたそうだな」

 

「神……か。本当にそうだったらどんなに良かっただろうな」

 

「なに?」

 

「…まぁいい。さぁ、もう来ないのか?」

 

「くっ…なめてくれる」

 

トーレは飛行魔法を使った戦いをやめ地に足を付き、拳を構える。

 

「エアッ!ブラスト!」

 

「!」

 

トーレの拳から放たれた風圧が、一瞬リュウセイの身体の動きを止めさせる。その一瞬でリュウセイとの間合いを詰め、インパルスブレードをリュウセイの首に向けて振った。

 

「…」

 

「ぐ…っ!」

 

「小細工程度で俺は倒せない。それくらいわかるだろ?」

 

リュウセイは気づけばトーレの背後に回りトーレの腕を掴んでいた。

 

トーレはすぐに次の手に移行しようとしたがリュウセイの魔力波の塊のようなものを当てられて拘束されている。

 

「か…身体が」

 

「飛べ」

 

リュウセイはそのまま手を上に上げるとその動きに合わせてトーレは空中に持ち上がる。

 

「貴様…」

 

「ふっ!」

 

リュウセイは手を思いっきり左へ振る。するとトーレも同じように左側へ飛んでいき、進行方向にあったビルの壁を貫きながら強制的に移動させられた。

 

「ぐぅ!」

 

「おぉ!」

 

さらに手を右、右から戻して下へ振るとトーレはその通りに動き地面に叩きつけられた。

 

「がぁ!」

 

「とっ……少し物理ダメージが多すぎたかな」

 

リュウセイは拘束している魔力波を解除し、緑色の魔力球を手の上に生成し、それを上空に投げた。

 

「コンフォート」

 

緑色の魔力球は上空で弾け、なのはとトーレの上に降りかかる。

 

「これは…」

 

「傷が癒えていく……それに魔力も…」

 

なのはとトーレの魔力が回復していき、傷が治っていった。広範囲にわたる回復魔法の行使、これも高等魔法のひとつだ。

 

「どういうつもりだ…?」

 

「勘違いするな。お前を倒すのは俺ではないってだけだ。少しおとなしくしてろ」

 

リュウセイが手を上に振ると、なのはとリュウセイ以外の世界の時間が止まった。

 

「ふぅ……高町なのは」

 

時間を止めたリュウセイはなのはのもとに歩いて行った。なのはは若干リュウセイに恐れながらも返事をする。

 

「あ……はい」

 

リュウセイはなのはの胸の前に手をかざし、小さめの魔法陣を展開する。

 

「…ずいぶん無理をしていたみたいだな。リンカーコアがボロボロじゃないか。出力は15%ほど下がっているだろう」

 

「…」

 

なのはは小さく頷く。なのはは周りにはJS事件の無茶はリンカーコアの出力が7%減っていると言っていた。検査をした人間には口止めをして。

 

「俺が良いと思うレベルに修復してやる。ちょっと待ってろ」

 

リュウセイの指先から光る触手が伸び、なのはの胸の中に入っていった。最初はいったい何なのかわからずなのはは少し驚いていたが、すぐにリンカーコアが修復されいる感覚が分かった。

 

「あなたは…何者?なんで……こんな力を」

 

「俺は世界の管理者だ…それ以上知る必要はない。お前が、俺を覚えている必要も」

 

「え?」

 

「とにかく、今は身体を休ませろ。お前はまだ死ぬのには早すぎる」

 

「さっき…私はたしかに死んだ……死に際に思ったことも、胸を貫かれたことも覚えてる。あなたが…私を蘇らせた……の?」

 

ありえない話だ。人間を甦らすなど不可能、いや、不可侵の領域だ。だが、時間を止める魔法も、他者のデバイスを使う魔法も、見たことも聞いたこともない。この男なら、やりかねない。

 

「少し違うな…まぁ不可能ではないが。「時間を巻き戻した」だけだ」

 

「…」

 

なのはは言葉が出なかった。次元が違いすぎる。

 

そうこうしているうちになのはのリンカーコアは回復し、出力減少は本人が言っている通り7%にして。

 

「さて、お前はトーレと半ば相打ち状態で戦いをしていた。そういうことにする」

 

「え?」

 

リュウセイはレイジングハートを取り出し、ディバインバスターを時間が止まっているトーレに向かって打った。だが砲撃は途中で止まる。

 

「じゃあ、奴が来るまで頑張れよ」

 

「ちょっと…」

 

なのはがリュウセイを止めようとしたとき、時間が動き出し、リュウセイも消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

トーレはディバインバスターをもろに食らう。だが、食らいながらもその砲撃の中で前に進み、なのはに殴り掛かる。

 

「おぉぉぉぉ!!」」

 

なのははレイジングハートでトーレの拳を受け止める。

 

「くぅぅぅ!!」

 

そのままなのはは後ろに押されながらもそのまま空中に飛び、砲撃の雨を降らす。トーレは砲撃の隙間を縫いながらなのはにその特攻していく。

 

本気で戦っているなのはとトーレの記憶には、リュウセイの記憶はなかった。二人とも「ほぼ互角に戦っていた」。そんな記憶しかなった。

 

 

 

 

続く




次回、あの男が奴と一緒に戻って来る…。


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第二十話 帰還

あけましておめでとうございます。久しぶりの投稿は少し短いです。もう少し戦闘描写入れたかったのですが…時間の関係上削りました。ここからがこの事件の最終章突入です。さぁ!気合い入れていくので平成の間には終わります!








たぶん!


「A to Z計画」、それは26体の試作生物兵器を開発し、それを実践へ投入、そこで得られたデータから新たな生物兵器を開発する計画。この計画のミスは突然研究所が上から新たな2つ実験兵器を試すように命じられたこと。新たな実験体を開発する予算はなく、マイティタイプとして開発されていた実験体「A」、後の橘アキラに実験兵器を与えたこと。Aは実験中に暴走し、研究所は壊滅した。だがそれと同時に計画の中の24名は死亡した。AとS、2名が生き残ったがさほど心配はなかった。計画の少年少女は全員あくまで試作品。ある程度の年齢で細胞は限界を迎え、最期は灰となって消える。これは反乱を防ぐためのシステムだ。

 

だが、橘アキラは違った。投与された試作のエクリプスウィルスが細胞の崩壊を防いでいたことで死ななかった。しかし銀の腕輪がエクリプスウィルスを封印したことでアキラの細胞は崩壊を始めた。

 

「ならば作り直せばいい。ちゃんとした形に」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

私の里は管理局の人間によって滅ぼされた。肉体が限界を迎えるたびに何度も繰り返す…クローンへの記憶転写、それによって私、「クラウド・F・オーガス」というただの少女が生きていた頃の記憶はほとんど消えている。だが、今でも明確に覚えている。私の里の家族同然の人間と家族…彼らが上げていた悲鳴…。管理局に殺された私の家族たちの叫び。

 

管理局は自分たちが力を持っていると示すために、私たちの里で安全に管理されていた黙示録の書を奪っていった。私の家族を殺して。管理局は間違っている。奴らは世界を管理するに値しない。だから私が頂点に立つ…。必ず。

 

「私は勝つ。世界を変える…。この世界を正しく……修正する!そのために力を貸せ!私の命を削るだけ削ればいい!!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

管理局はクラウドとの決戦で劣勢を強いられていた。最初は互角かそれ以上という感じだった。だが、しばらくしてクラウド側が本気を出した。個体の戦力が高いゼロ・ナンバーズがルーラーアーマーを解放させた。

 

それによって戦況が大きく揺らいだ。

 

 

 

ーサードVSティアナー

 

 

 

「はっ!はっ!はっ!」

 

「クスクス…そんな身体じゃ…もう楽しめそうにありませんね」

 

ティアナはスピードに翻弄されながらもなんとかサードの相手をしていた。だが、ルーラーアーマーの機動により戦力差は一気に離された。一瞬で身体を切り刻まれ、クロスミラージュを破壊された。

 

「くぅ…」

 

「さぁ…終わりで」

 

「てぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「!!」

 

ザフィーラがティアナにトドメをさそうとしていたサードに突撃してきた。だが、サードは一瞬でその場から消え、ザフィーラの背後に現れた。

 

「!」

 

「はぁぁぁ!!!」

 

ザフィーラは一瞬のうちに叩き落された。ただ落とされたのではない、落とされる打撃を撃つ瞬間サードがザフィーラを切り刻んでいた。

 

「ごぁぁ!!」

 

「ザフィーラさん!」

 

「くぅ…ティアナ。スバルは救出した。安心しろ」

 

ザフィーラはスバルを魔力ダメージでノックアウトさせ、こっちに戻ってきていた。

 

「はい…ありがとうございます。ですが…」

 

「ああ、今はそれどころではないな」

 

二人は空中にいるサードを見た。

 

「あら、セカンドはやられてしまいましたか…まぁ良いでしょう。あの子にはあまり期待してませんでしたから」

 

サードはセカンドがやられたという事実を知っても特に気にする素振りは見せなかった。言っている通りスバルに対して期待はしてなかったようだ。

 

「私一人いればあなたたち二人の相手など…造作もないことでしたし…。っと、話が長引きましたね。ではお二方、さようなら。ザンバー」

 

サードの持っている槍の先端が変形し、先端から槍の刃の幅ほどの光剣が出現した。

 

「くっ」

 

「…痛む間もなく…殺し」

 

「はぁ!!」

 

トドメを刺されそうになった二人を誰かが助けた。

 

「!」

 

「あなたたち…」

 

二人をその場からかっさらい、別の場所へ移動させたのはノーヴェ。さらに、サードの攻撃を妨げたのはディードとオットーだ。

 

ティアナとザフィーラは近くのビルのなかに運ばれた。助けられたティアナは早速ノーヴェに訪ねる。

 

「無事だったの!?」

 

「…まぁな」

 

ティアナの問いにノーヴェはどこか後ろめたさを感じているような表情で答えた。

 

「拐われたって聴いたけど…いったいいままでどこに…」

 

「…そういうのは全部、あとでな…。ここでじっとしといてくれ」

 

そういい残し、ノーヴェは行ってしまった。

 

「ノーヴェ…」

 

 

 

ーシグナムVSフォースー

 

 

 

「あんたは…そんな模倣の魔法では自分たちに勝てないって言ってたわね…」

 

「…」

 

シグナムは腹部から溢れる血を手で押さえている。

 

「じゃああたしらオリジナルの力なら…あんたに勝てるかな?」

 

フォースの身体にはルーラーアーマーが纏われていた。その腕にはシグナムの血が付いた氷の刃がついている。

 

「あたしの力はたしかに八神はやての模倣よ。正しくは闇の書の力の模倣だけど。けどこのルーラーアーマーを装着すれば…。その力はもはや模倣を超える」

 

シグナムは傷を押さえながらレヴァンティンを構える。

 

「なるほど…奥の手というわけか…」

 

「パワーもスピードも…今の私はあんたを超えている。下がったほうが身のためじゃないの?」

 

フォースはシグナムに下がるように促すが、シグナムはそれを聞き入れず未だに戦闘態勢だ。

 

「敵に情けをかけられるほど、落ちぶれた記憶はない」

 

「そう。なら死んじゃえ!!!」

 

フォースの一撃目を、シグナムが防いだ。かなり重たい一撃にシグナムは一瞬動きが止まる。その一瞬でフォースはシグナムの背後に回る。シグナムは急いで防御しようとするが身体が止まった。

 

「!?」

 

氷が手足を固めていた。かなり堅い。そう簡単に解除できるものではない。

 

「くっ!!」

 

「んっ」

 

シグナムの心臓を狙ってフォースが氷の刃を突き刺そうとした。だがその刃はどこからかの狙撃で砕かれた。

 

「なに!?」

 

「うおりゃ!!」

 

「!」

 

狙撃で刃が砕かれ、驚いたフォースにライディングボードに乗ったウェンディが突っ込んできた。

 

「ちっ!」

 

フォースは一旦後ろに下がった。反撃もできたが、ライディングボードで防がれる未来は見えていた。だが下がった先に数本のナイフのような物が刺さった。

 

「なっ!」

 

チンクのスティンガーだ。どこからか指を弾く音が響き、スティンガーが爆発した。

 

「お前たち…」

 

「下がってるっス。ここはあたしたちに任せるっス」

 

ウェンディがシグナムの前に立ち、いつものおちゃらけた感じはなく、まじめに言った。

 

「そういうわけには行かない!むしろお前たちが…」

 

「私たちは奴らに対抗する力を持ってきた。まともに戦えば死ぬぞ」

 

どこからかチンクがやってきた。

 

「対抗策だと?というかお前たち一体今までどこに…」

 

シグナムが尋ねた時、フォースが爆破された爆炎の中から魔力弾が飛んでくる。シグナムがシールドを張ろうとした瞬間チンクが叫んだ。

 

「ウェンディ!」

 

「了解っス!」

 

ウェンディが攻撃を防ぐ。

 

「この程度…効くと思う?」

 

煙の中からほぼ無傷のフォースが現れた。

 

 

 

ーセヴンVS小此木ー

 

 

 

「はぁ…まったく…まいったね。まだ上があるのかい」

 

「あははは!私は一応ゼロの中でも一番強いんだ。だから…」

 

ルーラーアーマーを展開したセヴンの魔力数値はどんどん上がっていく。腕を振った衝撃でビルが崩れた。

 

「もう終わりにするよ…」

 

「…」

 

小此木は懐から小さなケースを取り出し、ふたを開けた。その中からピンク色の玉と黄色の玉を取り出した

 

「そろそろ、これも使おうか」

 

「君もまだ上があるの?」

 

「あまり人前で使うものじゃないがね」

 

小此木が弾を強く握ると小此木から魔力が放たれた。

 

「!」

 

「ぐっ……くぅ…これ……くらいの魔力があれば…君の相手には充分かな?」

 

「無理してるんじゃない?やめといたほうがいいんじゃないの?」

 

「舐めないでもらおう!」

 

小此木が宙を蹴ってセヴンに突進した。ナインスが全力の拳を放つ。小此木は同じく雷を纏った拳をぶつけた。二つの強力すぎる拳がぶつかり合い空間が歪み、ビルよりも高い場所でぶつかったのにも関わらずあたりのビルが崩壊した。

 

小此木はすぐに離れ、蹴りを放つ。セヴンはその蹴りを同じく蹴りで受ける。魔力が付与された強力な蹴りとセヴンの蹴りがぶつかるが再び相殺に終わる。

 

「あははは!!いいよ!もっと楽しもう!!」

 

「まったく…いつまで持つかな」

 

 

 

ーロクVSフェイトー

 

 

 

フェイトも、ヴィータも既に限界を迎えた。だが破損しているとはいえルーラーアーマーを装備したロクを相手にするのは難しかった。シャマルとメグの二人で何とかしのいでいた。メグも前回の戦闘で限界を迎えている。だが今はやるしかなかった。ほとんど根性だけで魔力を行使している。

 

「中々耐えるんだな」

 

「みんなには……指一本触れさせません!」

 

「あんま舐めんじゃないわよ…」

 

シャマルの防御術とメグの幻影でしのぐ形だったがそろそろ限界を迎えそうだった。この二人でしのげていたのもロクのルーラーアーマーが破損しているからだろう。だが、このままでは埒が明かない。

 

「はぁ!!」

 

ロクが動く。火炎の纏った大剣でシャマルに迫った。

 

「クラールヴィント!」

 

急いで防御を発動するがシールドが砕かれた。魔力が限界に近付いてきていたのだ。

 

「あぁ!!」

 

「!」

 

背後からメグが攻撃を仕掛ける。ロクは砕けたほうの装備でメグの攻撃を受ける。

 

「貴様にはこれで十分だ!」

 

手のひらから火炎を発生させ、メグを吹っ飛ばそうとした。だがメグはお得意の幻影回避で避けた。だがそこで、完全なる限界を再び迎える。

 

「くぅ…」

 

「もらった」

 

ロクはその隙を狙ってアーマーの刃で切り飛ばした。メグは壁に激突し、バリアジャケットが解除される。

 

「メグちゃん!!」

 

「う…」

 

シャマルのほうに向かっていたロクだったが、その足を止めてメグのほうを向く。

 

「貴様は邪魔だな…先に始末させてもらう」

 

「待ちなさ…うっ」

 

シャマルが止めようとしたが、足がすくみその場に跪く。

 

「そこで…仲間の死を見届けるといい…」

 

ロクはルーラーアーマーの刃に火炎を集中する。

 

「一閃焔刃」

 

「メグちゃん!!!!!!」

 

 

 

その時、空から一筋の光が下りてきた。その光はメグとロクの間に落ち、地面に激突すると煙の中から誰かが現れた。

 

「……」

 

「なに…やってんだお前」

 

「アキラ……ナカジマ…」

 

 

 

 

続く



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第二十一話 発動

年明けから少し経った以来ですね。このペースじゃ平成以内に終わりそうにないし、平成の間限定で日付決めて投稿しようかなと思います。守れなかったらすいません。

次回は2月5日投稿です!皆さんお楽しみに!感想、投票、評価、随時募集中です!


ー管理局 会議室ー

 

 

ここでは、フランシスとアストが睨みあっていた。アストの手には拳銃が握られている。

 

「動かないで。できれば引き金を引きたくはありません」

 

「……そうだね。私もあなたとは戦いたくない」

 

フランシスは案外あっさり両手を上げて降参の意を見せる。

 

(罠…?もしゼロナンバーズなら私なんかじゃ敵わないはずだけど…)

 

「私はここに、あなたたちが興味を示す姿として送り込まれた。本部に検査の為に連れて来られれば、検査用の機械から本部のシステムに入ることが出来る…。昨日、クラウドの宣戦布告の後、向かわせたあなたたちの部隊、全滅したでしょ?」

 

「ええ。そうね」

 

小此木の命令で隠密に送り込んだ戦闘部隊。だがクラウド側にその部隊の存在が気づかれ、全滅させられたのだ。

 

「あの部隊の存在をばらしたのも私」

 

「でしょうね。私はあなたの前で小此木さんからのメールを開いたから薄々そんな気がしていたわ」

 

「もうこの管理局もクラウドに消され、なくなるからそろそろ正体明かしてもいいかなって思ったから行動に出た。裏であなたたちを殺そうと思っていた」

 

「…」

 

「でも、考えが変わった…このデータを見てからは」

 

「ッ!動かないで!!」

 

「落ち着いて。何もしないわ。私にはそこまで戦闘能力がないもの」

 

フランシスは上げていた手をいったん下げ、ポケットからデータチップを取り出し机の上に置いた。

 

「…これは?」

 

「当時のデータを掘り起こしたら見つかった。いろいろ調べてみたけど、改変や編集なんか行われてない当時の記録」

 

「いつの…?」

 

「クラウドの生きていた里が…管理局によって滅ばされた日の…。管理局の作戦記録……」

 

 

 

ー西部 ロク担当区域ー

 

 

 

ロクの前に、アキラが上空から降ってきた。その姿は以前のような白を基調とした姿ではなく、黒いバリアジャケットを着て、愛刀である紅月を背負いながら。

 

「貴様…今まで見ないと思ったが…尻尾を巻いて逃げたわけではなかったか。誉めてやろう」

 

「……」

 

ロクの言葉を無視し、アキラはちらりと背後で倒れているメグを見た。

 

「アキラ…あんた………」

 

「無事か」

 

アキラは一言だけ尋ねる。

 

「え…ええ……」

 

「ならいい。下がってろ」

 

アキラはロクのほうに歩いていく。ロクは片腕だけのルーラーアーマーを構えた。ロクは無意識にアキラの謎の気迫を恐れていた。アキラは何も言わない。無言でただ歩み寄って来る。

 

ロクはやられる前にやろうと先に攻撃を仕掛けた。

 

「一閃焔刃」

 

「アクセラレイター…ハザード」

 

次の瞬間、アキラが一瞬紫色の光を放ったかと思うとその場からアキラは消えた。そして、ロクがその事に気づくよりも先に、ロクの腕が残っていた巨大なルーラーアーマーごと切り落とされた。

 

「!!」

 

ロクが腕の痛みに気づいた瞬間アキラはロクの目の前に戻ってきた。

 

「ぐっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!きっ…貴様ぁ!よくも私の腕…腕をぉぉ!」

 

ロクは残った腕で携えていた刀を抜き、軽いパニックになりながらもアキラに斬りかかる。アキラは紅月を再び抜いた。

 

紅月の刀身は以前よりもずっと、赤い色になっていた。

 

「遅ェよ…っ!」

 

アキラは紅月を踏み込みながら切り落ろし、ロクの刀と共に首を斬る。5秒にも満たない瞬時の決着だった。

 

「!」

 

「天誅…」

 

シャマルの目の前にロクの首が落ちる。シャマルにとってはそこまでショッキングな光景ではなかったのか声は挙げなかった。だが、少し目は背ける。

 

「アキラ…あんた……なにも殺さなくても…」

 

「殺さなきゃ、殺されるただそれだけだ」

 

「アキラ君!いまのはなに!?」

 

シャマルがアキラに詰め寄る。

 

「今の、私の見間違いじゃなきゃアクセラレイター…この世界にはない技術」

 

「…」

 

アキラは黙ったままだ。シャマルがさらに前にアキラに近寄ろうとしたとき、アキラが紅月に手をかけ一瞬、金属音がしたと思うとシャマルが倒れる。

 

「かっ…」

 

「アキラ君!?」

 

そこに後方で待機していたフェイトたちが駆け付けた。

 

「…」

 

だが、アキラはなにもしゃべらずその場から飛んでどこかへ行ってしまった。ボロボロになりながらもルーラーアーマーを装備していたロクと戦闘していたメンバーはアキラを追いかけることができなかった。

 

 

 

ー北西部ー

 

 

 

セヴンと小此木の戦闘。それは熾烈を極めていた。だが小此木とセヴンは互いにほぼ互角の戦力だったが、わずかにナインスが戦力を上回っていた。

 

「それ!」

 

「ぐぅぅ!!」

 

小此木はセヴンに強力な蹴りを食らった。小此木はとっさに数重に重ねたシールドを張ったがセヴンの蹴りはシールドを貫通し、小此木はそのまま背後にあったビルを二件ほど貫いて止まった。

 

「がっはぁ…!」

 

「ん…呆れるほど頑丈だね」

 

「ぐぅぅ…あぁぁぁぁぁ!」

 

小此木は黄色い魔力を身体から放出し、一瞬でセヴンの背後に飛んだ。

 

「!!」

 

「飛べ!!!」

 

小此木の腕から強大な魔力砲を放った。セヴンはその攻撃を両手に持っていた剣ではじいた。

 

「嘘だろ…」

 

「カラミティ!」

 

セヴンはそのまま剣を構え、大災害級の一撃を小此木に放った。斬撃効果が付与された魔力の竜巻が小此木と眼下の街を襲う。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

全身を切り刻まれ、そのまま小此木は上空へ投げ出された。

 

「もーらい♪」

 

更にセヴンをは小此木に追い打ちにかかる。小此木の真横に高速で移動し両手の剣を振り上げ、全力を持って振り下ろす。小此木はダメージを食らいすぎたことと自身の扱った魔力の負荷で朦朧とする意識の中で何とかガードを展開した。

 

「ごあ!」

 

小此木は地面に叩きつけられた。だがセヴンは一切手加減しない。小此木を叩き落してすぐ、片手を上空に上げて魔力の塊を精製した。

 

「雷撃」

 

セヴンは巨大な雷属性の魔力球をそのまま地面に叩きつけられ、動かない小此木に投げられた。

 

だが、セヴンの雷撃は小此木に直撃する前に、消滅した。

 

「……なんでかわかんないけど、あんたに魔力は通じないみたいね」

 

「はぁ…はぁ……」

 

「じゃあ、切り殺そうか」

 

小此木は本部に通信を取った。

 

「すまない。思ったより苦戦している。枷を外してくれないか」

 

通信をしていて小此木が動かないことでセヴンは一気に小此木に接近し、剣を構える。

 

「さよなら」

 

「そう言わずに…見てるんだろう?今だって死にかけてるんだ」

 

セヴンの剣が小此木の首に届く直前、小此木はその剣を素手で止めた。シールドを張っていたわけではない。何も持っていない手でビルをも真っ二つに斬る威力のセヴンの剣撃を止めた。

 

魔力攻撃を全く受けない瞬間を見ても驚かなかったセヴンもさすがに驚き、汗を流す。

 

「!?」

 

「ふぅ…すまないね。まだ僕も全力では…」

 

話しながら小此木は剣を受けた手とは逆の手を振り上げる。

 

「!」

 

ナインスは一瞬命の危険を感じ、上へ飛んだ。

 

「ない!」

 

小此木が手を振った。セヴンは避けたが小此木が手を振りきった方向にあったビルが切れた。

 

「なっ…」

 

「よそ見は…」

 

「!」

 

小此木の声に気づき、セヴンは急いで小此木を見る。小此木は手を前にして巨大な魔力球を精製していた。

 

「雷撃!」

 

「クロス!!」

 

小此木が魔力球を放ったがセヴンはその魔力球を両手の剣で十字に切り裂いた。突然の猛攻にセヴンは少し驚いていた。

 

「これで……少しは対等に戦えるかな」

 

擦り傷や血でまみれてはいるが小此木の表情には若干の余裕が戻っていた。そして袖に隠れて見えなかったアーマーを袖口から落とした。

 

「枷がようやく一つ外れた」

 

「君…もしかして」

 

セヴンは少し小此木の腕に目をやり、考えた。

 

「ん?気づいたかな?」

 

「…いや、なんでも。自分の鏡と戦ってると思えば、楽しいさ!楽しいからいいさ!!」

 

セヴンは笑いながら小此木に向かって突進した。

 

「狂ってるねぇ!」

 

セヴンの両手分剣撃を小此木は再び片手で受け止める。そして瞬時に懐から球を取り出し、受け止めた手とは別の手で握った。

 

「!」

 

「エア…!」

 

そして握った手には風が圧縮されその拳がセヴンの腹に叩きつけられた。

 

「ハンマー!!」

 

「ぐ…」

 

一瞬耐えたように見えたセヴンだがそのまま吹っ飛ばされる。だが、吹っ飛ばされる直前に剣撃を小此木の腹に入れた。小此木のバリアジャケットが一部破れ、切り傷から血が流れる。

 

エアハンマーを何とかしのいだセヴンが小此木の姿に少し驚く。

 

「効いた?」

 

「チッ!バインド!」

 

「!」

 

セヴンの腕にバインドがつけられる。

 

「こんなの!」

 

白い球を握り、その手をセヴンに向けた。

 

「響け終焉の笛!ラグナログ!!」

 

小此木の手から、チャージタイムなしではやての魔法、ラグナログが放たれた。

 

「くぅ!」

 

セヴンはラグナログが当たる直前にバインドを破壊し、脱出を試みたが間に合わなかった。ラグナログに巻き込まれ、砲撃の終わりと同時に地面に落ちた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「今の効いたよ」

 

「…」

 

気づけば背後にセヴンがいた。ラグナログを食らって落ちたはずのセヴンは幻術だった。しかし、少しは食らっていたようだ

 

「ソニック」

 

小此木は黄色い弾を握りしめ、「ソニック」とつぶやくと共にその場から消えた。

 

「高速移動…」

 

何が起きたか分かったセヴンは冷静に判断する。その背後に小此木が現れ、剣を振り下ろしたがそれをセヴンは見向きもせずに防いだ。だが小此木はセヴンの無防備な背中に赤い球を握った拳で殴り掛かる。

 

「ギガント!シュラーク!!!」

 

「!?」

 

予想外の衝撃にセヴンは驚いた。背中で受けたのはただの拳。だがその衝撃はまるで天高くから超重量の物体でも食らったような衝撃だった。

 

「ぐっがぁ!!」

 

セヴンはそのままビルに叩きつけられたが叩きつけられた直後に反撃に魔力剣撃を飛ばした。小此木はその斬撃を片手で防いだ。

 

「チッ……厄介だなぁ!その体ぁ!!!」

 

「こっちはこの世界、そして街の平和!更にプライドをかけて戦っているんだ!もう優勢には立たせない!」

 

「生意気なんだよ!!!」

 

ナインス

 

 

セヴンは珍しく激高し、拳を引いた。

 

「アクセル!!」

 

前に突き出したナインスの拳から複数の魔力弾が同時に放たれた。小此木はそれらを手のひらで受けるとともに消した。

 

「君はその鎧で、極端に魔力を上げただけ…。君は橘アキラと同じだな」

 

「え…?」

 

「いや?そろそろ終わりにしようか」

 

小此木は両手の指の間に弾を挟み、握った。そして、少しだけ通信を取る。

 

「すまない…一分、いや、三十秒だけでいい。枷を全部外してくれ。もう、決着だ」

 

小此木は通信を切り、深呼吸をして気合いを入れる。

 

「オクテッド・ブラスト」

 

本気で来る、そのことにセヴンは気づき、全力を出すために奥の手を出した。激しすぎる二人の戦いもまもなく終わりを迎えようとしていた。

 

「マイティギア!オン!」

 

二人がお互いがいた位置から飛ぶ。お互いの足場はその飛んだ衝撃から地面がめくれ上がった。

 

 

刹那、二人がぶつかる。だがぶつかった瞬間から全開の二人の戦いは始まっていた。魔力砲の打ち合い、剣の競り合い、殴り合い。周りには見えない速度で。衝撃は近くのビルを崩し、地面のアスファルトは捲れた。時々入る一撃はナインスにはダメージに小此木には何の変化与えない。

 

「クソっ!クソっ!くそぉ!!なんで!ゼロナンバーズ最強の!私が!」

 

少しずつ、すこしずつセヴンは劣勢になっていく。

 

「終わりだ…」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一瞬、小此木から悪魔のようなプレッシャーを感じ、セヴンは叫んだ。

 

「ディアボロ・オクテッドスマッシュ」

 

両手をセヴンの腹部に叩きつけた。セヴンはルーラーアーマーを砕かれ、そのまま地面に弾丸のような速度で叩きつけられて気を失った。

 

小此木は、疲れ切った表情で地面に降りた。そこに一人の女性が現れる。クアットロとフィフスを秒殺した女性だ。

 

「ツムギ?」

 

「いや、カエデだ」

 

「そうか…どうしたんだい?」

 

「お前の戦闘が長引いていると聞いてな。見に来た。それにしても情けない。こんな相手にいつまでも苦戦してるとは」

 

「仕方ないだろう。僕らはあまり表に出てはいけない。力をそんなに見せるわけにはいかなかったんだ」

 

「ふ、結局最終解放までしていては世話ないな」

 

「…まぁそういわないでくれ。でも僕らは今回出ていて正解だった。手先である彼女らがここまで強いとはね…。他は大丈夫だろうか」

 

 

 

ー西部ー

 

 

なのははトーレと拮抗した勝負を続けていた。小此木とセヴンほどではないが充分激しい戦いで、辺りへの被害も中々のものだった。

 

「はぁ、はぁ…」

 

「はぁ…はぁ…」

 

(高町なのは…いったいなんだ?こいつは…。さっきよりも明らかに強くなってる…。なぜだ?)

 

なのはは記憶から消されているが、リュウセイにリンカーコアの治療を受けている。先ほどまでは反応できなかったトーレの高速の攻撃にも何とか対応できるようになっていた。

 

「アクセル…ッ!」

 

「インパルス…!」

 

二人の技が再びぶつかり遭おうとした瞬間、トーレの上空からアキラが現れ、トーレに蹴りを入れた。トーレはその威力に耐えきれず、地面まで吹っ飛んだ。

 

「!?」

 

「えっ!?」

 

二人とも予期せぬ事態に驚く。

 

「アキラ君!?」

 

「…」

 

なのははアキラに驚いたがアキラは声をかけられても少しなのはを見て、すぐにトーレの追撃に入った。

 

「くっ!IS発動!!」

 

「アクセラレイターハザード」

 

「!?」

 

アキラの身体が紫色に光り、なのはもぎりぎり反応できるトーレのISの高速移動、アキラが発動したアクセラレイターハザードはその速度に追いつき、パワーは上回った。

 

トーレは一瞬で背後に回ったアキラの剣を受け止めたが受けきれず、背後に吹っ飛ばされる。

 

「ぐぅぅぅぅ!!だぁぁぁぁ!」

 

トーレは吹っ飛ばされる途中で地面を足に付き、ブレーキをかけて逆にアキラに突進した。そして向かってくるかと思わなかったアキラは腹部にトーレの拳を食らって後退させられる。

 

「チッ……ヴァリアントハッキング…」

 

アキラは吹っ飛びながら左手から触手を四本伸ばし、それをむき出しになったビルの鉄骨やコンクリートに刺した。

 

「何を…」

 

「トランス!」

 

その鉄骨やコンクリートは紫色の光に包まれ、ガトリングガンやロケットランチャーに変形し、それが自動的にトーレに攻撃を仕掛けた。

 

「なに!?」

 

トーレは弾丸をぎりぎり避ける。

 

「なんだこの能力!?」

 

「…」

 

アキラはさらに触手を別の場所に伸ばし、自動で攻撃をする武器を数秒の間に量産した。

 

「蜃気楼の騎士団(ミラージュナイツ)」

 

アキラの生み出した武器たちがトーレに一斉に攻撃を仕掛ける。

 

「この程度で!IS」

 

トーレは大量の弾丸が飛び交う場所の中でわずかなに生まれる弾幕の隙間を縫って数発掠りながらもアキラに接近した。

 

「私を止められると思うなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「甘い」

 

アキラの目の前まできた瞬間、トーレの真下の地面が爆発した。

 

「!!」

 

だがトーレとてそこまで甘くはない。すぐさま爆発を察知し、アキラの背後に回り込んでいた。

 

が…

 

「なに……」

 

トーレはいつのまにかアキラに切られていた。アキラは振り向きもせずに紅月でトーレを切ったのだ。そしてトーレの動きが一瞬鈍くなったところを狙い、蹴り飛ばした。

 

「くあっ!」

 

「一閃必中…」

 

吹っ飛ばされるトーレに向かい、アキラは剣の切っ先を向ける。そして可能な限りの力を籠める。力を籠めることでアキラの腕は少し痙攣を起こし、限界を超えているのか皮膚が少し裂けて血が噴き出している。

 

「くっ……アクセル!トラストォ!!!」

 

「!」

 

トーレはとっさにシールドを張ったがアキラのアクセルトラストはそのシールドを貫通し、トーレのルーラーアーマーは砕かれた。

 

「…かっ…………」

 

当然トーレはノーダメージとは言えない。強化筋肉でも耐えきれない一撃を食らい、大量に吐血する。

 

「ごほっ…」

 

「…」

 

何も言わずアキラはさらに追撃する。

 

「くっ!!インパルス…ブラスト!!」

 

「…」

 

アキラはトーレの出した魔力剣撃を左手だけで弾いた。

 

「くっ!だらぁぁぁぁぁ!!」

 

更に接近してきたアキラをトーレは拳を思いっきり前に出した。アキラは頬に拳が掠ったがアキラは動じず、砕かれたルーラーアーマーが砕かれ、むき出しになった腹部に強力な拳をめり込ませた。

 

「あっ…がぁ……」

 

トーレはそのまま吹っ飛ばされ、5件のビルを貫き、街にある銅像をぶっ壊して止まった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

アキラの身体から光が消え、アキラはその場に座り込む。それと同時にアキラは自身の身体を押さえて苦しみ始めた。

 

「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「アキラ君!」

 

なのはがアキラのもとへ飛び、そのまま倒れかけたアキラの身体を支えた。

 

「大丈夫!?今の力は…」

 

「るせぇ…触るな…」

 

アキラはなのはの手を振り払う。

 

「でも…」

 

「そうそう。きみじゃどうにもできないんだから」

 

そこに、聞き覚えのある声とともに、誰かがやってきた。なのはが振り返るとそこには一人の男性が立っている。その男を見た時、なのはは驚きを隠しきれなかった。

 

「ウィード…」

 

「やぁ、久ぶりだね」

 

 

 

 

続く



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第二十二話 脱出

遅れてすいません。ちょっと間に合わず、今回は短いです。次回あたりは物語の終盤、本当の決戦に突入したいですけど難しいかもしれませんね(笑)。でもなんとか頑張っていきたいです。よって次回は長くなります。投稿は二週間後の19日を目安に投稿します。お楽しみに!



感想、評価、投稿随時募集中です!


ー南西部ー

 

 

 

南西部ではザフィーラに敗北し、近くのビルの屋上に寝かされていたセカンド、及びスバルが目を覚ました。

 

「う…」

 

スバルは既に鎧が外され、ほぼインナーの状態で寝かされていた。捕らえられた後の記憶はなかったスバルはなぜ自分がこんなところに寝かされているのか理解してなかった。

 

「あれ…私……なんでこんなところで寝て…………確か…サードって人と戦ってて…」

 

曖昧な記憶を整理しようと声に出しているときに、背後から誰かの声がした。

 

「スバル」

 

「誰!?…って……ウーノ」

 

他のナンバーズとともに行方不明だったウーノだ。

 

「…私が相手をする予定でしたが……。もう正気みたいですね」

 

「どういうこと?それに今…いったいどうなって…」

 

「…面倒ですが、一応説明しておきましょう」

 

スバルはウーノから、今まで何があったかを説明した。自分が洗脳され、味方に攻撃をしていたことにスバルはずいぶんショックを受けていた。

 

「そっか…そんなことが…」

 

「ええ。ですがショックを受けている場合ではありません。今はもう決戦といっても過言ではないでしょう。ですから…。戦ってください」

 

「でも、マッハギャリバーが」

 

「ええ。もう少し待ってください。まもなく届きますので」

 

 

 

ークラウドたちの元アジトー

 

 

 

ここではなんとか軟禁されていた部屋から脱出したギンガが、アリスを抱えながら鎧騎士に追い掛け回されていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

ギンガに傷をつけないためか、武器は持っていないもののとにかく数が多い。そしてギンガは出口もわかっていないため、ただ避けて走り回るしかない。

 

「出口は…」

 

走り回っているうちにまた前から周り込まれてしまった。ギンガは横にあった通路に入り、開いている部屋に飛び込んだ。

 

「はぁ…はぁ…」

 

追手は来ない。どうやらうまく撒けたようだ。

 

「とりあえず一休み…」

 

ギンガは一息つこうと、休める場所を探した。部屋が薄暗かったので電気を探し、それらしいスイッチを押してみると電気がついた。

 

「!」

 

薄暗かった部屋に明かりが灯され、部屋を照らした。ギンガはその部屋の中の光景に驚いた。

 

「これは…!」

 

部屋の中にある、たくさんの生体ポッドと、その中で培養されているクラウドのクローンの身体。

 

「あの娘……ん?これは?」

 

ポッド前の机の前にブリッツギャリバーが置いてあった。

 

「ブリッツギャリバー!!」

 

「Master」

 

「無事!?」

 

「Yes no problem」

 

「マッハギャリバーも!」

 

「Hiya」

 

「良かった…急いでここを出ましょう」

 

デバイスと出会えたことでだいぶ希望が見えてきたが、一つ問題があった。アリスだ。彼女はずっと自分が抱えているしかない。下手に置いて行って鎧騎士に攫われても困る。

 

「困ったな…」

 

「ギンガさん!」

 

「!?」

 

背後から声がした。驚いて振り向くと、そこにはセインがいた。

 

「セイン!」

 

「良かった!無事で!」

 

「どうしてここに!?」

 

「ああ…アキラからギンガさん助けろって」

 

「そう…でも助かった。アリスを連れて早く脱出…」

 

その時、ドアが鎧騎士によって破られた。二人の視線は同時に入り口のほうにむけられる。ギンガが急いでブリッツギャリバーを起動しようとそれをセインが止める。

 

「さっさと抜けよう。IS!」

 

セインのISであるディープダイバーでアリスとギンガはセインと一緒に地面の中へ入っていった。

 

「そっか、セインのISは…」

 

「そう、潜入や隠密行動はセインさんにお任せ♪このまま一気に出口までご案なーい」

 

二人はアジトの出口付近でディープダイバーを解除し、出口から出ようとしたとき、背後から斧が飛んできた。

 

「!?」

 

「あぶない!」

 

セインがぎりぎりのところで斧を防いだ。

 

「やぁセイン。久しぶりだね」

 

「…ドクター」

 

「スカリエッティ…」

 

そこに現れたのは、JS事件の首謀者でマッドサイエンティストのジェイル・スカリエッティと一体の鎧騎士だった。二人は戦闘態勢に入る。

 

「もう私の指示に従ってはくれないのかな?」

 

「スカリエッティ!あなた…」

 

再び言葉巧みにセインを自分のほうにつかせようとしているように見えたギンガはスカリエッティに反論しようとするが、それをセインが止める。

 

「ごめん。ドクター。それはできない」

 

「なぜだい?」

 

そう聞かれ、セインは少し考えてから微笑んだ。その表情にスカリエッティは予想外だったのか驚いた表情をした。

 

「昔はさ、ドクターは生みの親だし、やることも正しいんだと思ってた。でも、事件が終わって、ギンガとアキラからいろんなことを教わって、いろんな人と会って、いろんな世界を見た。あたし、頭悪いけどさ、考えてみて………わかった気がするんだ。世界の正しさとか正義のありかとか難しいことはわからないけど、ギンガとアキラ、ヴィヴィオ陛下、六課のみんな、みんなが幸せになれる世界に貢献することが、今の私の正義なんだ」

 

「セイン」

 

セインがセインらしくないが、正しいことを言った。そのことにギンガは少し感動していた。

 

「…そうかい」

 

スカリエッティはそれを聞くと、少し俯いた。

 

「そういうことだから、ドクターの味方にはなれない。ごめんね」

 

「残念だ。騎士。やれ」

 

鎧騎士が動き出す。どうやら普通の鎧騎士とは違い、リーダー格のようだ。ギンガがセインにアリスを預けようとしたがセインは首を横に振る。

 

「大丈夫」

 

「え?」

 

セインはギンガにウィンクをした。ギンガは一瞬何を言ってるんだという顔をしたが、その言葉の意味はすぐにわかった。

 

「一閃必中!ジェット!ランス!!!」

 

空中から、聞き覚えのある声がした。ギンガが聞いて、一番安心できて、一番聞きたかった声だ。

 

「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

上空からアキラの技が鎧騎士に向かって飛んできた。その一撃で鎧騎士の頑丈な体は貫かれ一発でダウンした。

 

「無事か!ギンガ!!」

 

「アキラ君!」

 

アキラは上空から着地するなりギンガの下へ駆け寄り、アリス共々抱きしめた。

 

「ギンガ!ギンガ!ギンガぁぁ…無事で……無事でよかった!」

 

「うん!アキラ君も…良かった…」

 

「ごめん…俺…弱くて……何回も…守るって……言ったのに…」

 

「いいの…私もアリスも、無事だったから……それに、クラウドと戦った時も、あんなにボロボロになるまで戦ってくれて……大丈夫だった?怪我はない!?」

 

「こっちのセリフだ。大丈夫か?」

 

「うん…」

 

互いに無事を確認し終える。だがその背後からは鎧騎士が続々と現れていた。

 

「ちょっとお二人さーん。なんかまずい状況ですけど」

 

セインが冷や汗を流しながらアキラの袖を引っ張る。

 

「大丈夫だ」

 

アキラは余裕の表情だ。紅月を引き抜き、アジトから出現する鎧騎士の群れに走っていく。

 

「アクセラレイター…ハザード」

 

アキラの身体は紫色の光に包まれ、それと同時に消える。

 

「消え…」

 

次の瞬間には、鎧騎士は全機破壊された。そしてそれを遠目で見ていたスカリエッティの目の前にアキラは着地した。

 

「ほう…」

 

「てめぇにゃギンガを攫わせようとした恨みがあるからなぁ…氷牙……大斬刀!」

 

紅月に巨大な氷の刃が装備され、それでアキラはスカリエッティに切りかかった。スカリエッティはこれと言って抵抗を示さず、吹っ飛ばされた。

 

「クク…なるほど……これが君の力か…」

 

「あ?」

 

「君が造られた理由…。ウィード氏が夢中になるのもわかる…」

 

「お前何を言って………ッ!!アクセラレターハザード!!」

 

「キャッ!」

 

その時だった。背後に妙な気配を感じたアキラがアクセラレイターハザードを発動し、ギンガとセインを抱えてギンガたちが立っていた場所から移動させた。その数秒後、二人が立っていた場所が爆発する。

 

「…避けたか」

 

「テメェ…」

 

一体何が起きているのか気づいて無かったギンガとセインがアキラの視線の先を見ると、そこにはクラウドがいた。

 

「クラウド…」

 

「まさか脱走するとはな。ギンガ。私は悲しいぞ」

 

「…テメェからきてくれるとはな。探す手間が省けて助かった」

 

その一言とともにアキラに抱えられていた二人はアキラから大きな殺気を感じた。

 

「アキラ君…」

 

「テメェは俺が…殺す……。セイン。ギンガを本部まで届けてくれ」

 

「う…うん」

 

セインはアキラに言われた通り、ギンガを連れてディープダイバーで地面の中に潜っていった。その様子をクラウドは不安そうに見ていたが止めようとはしなかった。

 

「まぁいい。お前をさっさと始末すればいいだけの話だしな」

 

「できるかよ。そんなこと…」

 

アキラは紅月を構えて言う。それを見てクラウドは少し笑った。

 

「少しは強くなったらしいな…だが…不思議なものだ。放っておけば勝手に消滅してるだろうと思ったのだが、読みが外れたか?」

 

「いいや会ってる。クラウド、君と戦った日から彼はあと数日で肉体限界を迎えて消滅するはずだった」

 

アジトの奥にある廃市街地の奥から一人の男が話しながら現れた。

 

「ウィード………そうか貴様か」

 

「ああ。私は君たちから完全に見放されていたからね。こちら側につかせていただいたよ」

 

 

 

続く



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第二十三話 因縁

すいません。もっと長くするはずが…。ためしに始めた単発バイトが忙しくてあんま書けませんでした。次回こそは…。あまり制限をかけるとうまくいかないことが多いので、次回は2月中って以外は決めません。自分勝手で申し訳ありませんが、次回こそ…決戦開始まで…なんなら決戦終了までいきたいと思います!


クラウドの宣戦布告の1日前

 

 

ーウィード監禁獄室ー

 

 

 

「………珍しい来客だね」

 

アキラとの戦闘後、首のみで封印されているウィードが珍しく開かれたドアの先にいた人物に向かって言った。

 

「いい様だなクソ野郎」

 

「ハハハ、酷い言われようだね。まぁ仕方ないかな」

 

厳重に管理されている筈のウィードの監獄の扉を開けたのは、死までのタイムリミットが迫ったアキラだった。

 

「心底嫌だがテメェに頼み事をしに来た」

 

「………管理局員ではなく君が訪れるあたり、管理局等の依頼ではなさそうだね」

 

アキラは小さく舌打ちしてからウィードに、数年前の、大切なセシルの仇に頭を下げた。

 

「俺を…お前が言う完成形にしてくれ」

 

ウィードは少し驚いた表情をした。だが、アキラのその覚悟に満ちた表情、そしてアキラがいま行っていることの罪深さ、それを考えればアキラの身に何が起きたか大体察しがついた。

 

「ククク。そうかクラウド君か…」

 

「なぜ知っている…」

 

「いや、大体予想は付くさ。僕とクラウドは面識があってね。彼女の言っていた目的と、君のつながり……タイプゼロファースト。ギンガ・ナカジマ」

 

「…」

 

「安心したまえ。恐らくギンガ・ナカジマは生きている」

 

「そんなこたぁどうでもいい。無事でも無事でなくても……必ず…俺は…クラウドを殺す…。ギンガを奪われた時点で…俺は……俺は…」

 

アキラの顔が歪んでいく。ウィードはその様子を哀れんだ目で見る。

 

「ギンガが無事じゃないと仮定するなら俺にはもうあいつを殺す以外に生きる目的はない!ギンガを取り戻せなけりゃ俺にもう生きる意味はない…。だから…ギンガを取り戻すためにも…アイツを殺す……そのためなら手段を選ばない…。テメェだって利用する」

 

「ふっ、嘘を言っちゃいけない。君が僕を求めたのは、君の肉体再生が一番の目的だろう?」

 

「それもある…目的の前に俺が死んだら意味がないからな…」

 

すこしウィードは考える素振りを見せた。

 

「ちなみに、断ったらどうなるんだい?」

 

「断らせると思うか?」

 

アキラは拳銃を取り出し、ウィードの額に突き付けた。なんの迷いもない目だ。ちょっとでも茶化したり挑発すれば撃たれるだろうとウィードは思った。

 

「こちらとらテメェは殺したくて殺したくてしょうがねぇんだ。テメェがいなくても俺は残された一日を使って奴らを殺しに行く。ナンバーズはいま俺が自由に動かせる。俺の力で洗脳した。ナンバーズ使って既にアジトの場所は割り出せてる。倒せなくても…奴らに一矢報う」

 

「冷めること言わないでほしいなぁ。そんなつまらない結末、見たくはないよ。第一、ナンバーズを何人ひきつれようが彼らに勝つことはできないだろうね。いいだろう。君の望みを聞こう」

 

 

 

ーウィード旧アジトー

 

 

 

アキラはウィードを連れ出し、ウーノとセインの力で監獄から脱出し、ウィードが指示したかつてウィードが使ってた研究所兼アジトに連れてきた。洗脳状態のナンバーズも一緒だ。

 

「こんなところにアジトと…」

 

アキラはケースに入れてきたウィードの頭を取り出しながらいう。

 

「自分のクローンを作っていたとはな」

 

「君に殺されかけた僕は、脳以外の肉体をスタッフに入れ替えた。だがそれはあくまで君のクローン……ん、今はノーリ君だったか。彼を失った故に僕自身で君を回収するための手段だった。だから予備の肉体を作っておいたのさ。さぁ、僕を横の装置に入れてくれ」

 

アキラは言われたとおりにする。

 

「なんだこれ」

 

「脳の移植装置だよ。人の脳を入れたら動き出す兵器なんかもある。そのための装置さ。起動と調整は頼むよ」

 

アキラは装置を起動し、調整を始めた。マニュアルを読みながらの作業中、アキラはウィードに訪ねた。

 

「……一つ気になってたことがある」

 

「なんだい?」

 

「なんでお前は脱獄しなかった?お前ら…スカリエッティとお前がつながってるのは知っている。さっきの話からするとクラウドとも繋がってて、スカリエッティとクラウドも繋がってる。恐らくスカリエッティを逃がしたのはクラウドだろう。だがお前は何で一緒に逃げなかった」

 

「…僕たち三人はたしかに繋がってる。マッドサイエンティスト同士、出会ってから僕たちは同盟を組んだ。この世界を変える革命…反逆…。中心はスカリエッティ。彼の作戦がうまくいかなかったから次はボク。君とノーリ君を使った実験。君が完成形になれば事件から間もない、完全に復活してない管理局を打倒することはできただろう。だがそれも失敗した。だから最後に…クラウド。彼女だ。これが現在進行形。スカリエッティはクラウドが動くときに捕まっていればナンバーズごと外に出させるように言っていた。彼にとっての誤算はナンバーズが予想以上に裏切った……君たち側に寝返ったことだろうね」

 

「お前は出なくてよかったのか?」

 

「ああ。僕は世界の確変なんて興味はなかったんだ。興味があるのは…」

 

ウィードは怪しげな目でアキラを見つめる。

 

「…」

 

「君を完成させることだけさ」

 

アキラはウィードを見てからすぐに目を背ける。ウィードがどう思ってようがアキラにとっては心底どうでもよかった。だがそこに別の疑問が出てきた。

 

「…じゃあなんで、セシルを誘拐した?何でセシルを巻き込んだ!!なんで!!」

 

「あれは…不幸な事故だった………。僕だって彼女を傷つけたかった訳じゃない」

 

「なに?」

 

「君はEC(エクリプスウィルス)に感染しているだろう?今はその腕輪の中に封印されているらしいが。君がECに食い殺されないように、破壊を君に行わせ、君の身体を生き残らせるために…」

 

「……ある感染者から聞いた。通常のECは破壊衝動と殺戮衝動があると。だが俺の場合は捕食衝動だって聞いたぞ?」

 

「まぁね…。だが、君はきづいてるか知らないが君にも破壊衝動はある。それを収める為にあのゴロツキどもと戦わせたんだが……あんなことになるとは…本当に申し訳ない…」

 

アキラはウィードの態度に違和感を覚えた。以前はこんな性格じゃなかった。間違っても、こんなしおらしい謝罪なんてしなかった。

 

「てめぇ…何考えてやがる」

 

「……私も不思議だ。こんな気持ちになったのは初めてだ。どうやら私は…黙示録に踊らされていたようだ…。あの…黒い物体。スタッフに触れていると、感情が大きくなる。僕の…研究欲や、サイコパスな部分、それらが狂気的な領域まで強化されたような気がする。テレジー氏にレプリカの黙示録ごと封印されてからずいぶん丸くなったものだと自分でも思う。沈静化されているからか…」

 

「…まぁなんだろうと俺はお前を生涯許さない。これが終わったあと、隙があれば殺すぜ」

 

「御随意に。ぼくは君の完成形を…。スカリエッティやクラウドの用意したどんな兵器よりも僕の作ったものが上だと証明できれば僕の人生は満足さ」

 

「チッ………準備完了だ。システムを起動させる」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

脳の移植手術のマシンが起動し、ウィードの脳みそがウィードの予備の身体に移植された。生体ポッドが開き、全裸のウィードが出てきた。

 

「ふぅ……いやぁ、手足があって自由にできるのはいいなぁ!」

 

「さぁ、俺を完成形にしろ……俺に…力を寄越せ」

 

「まぁ待ちたまえ。まずはこれだ」

 

ウィードは冷蔵庫のようなものから一本の注射器を取り出してアキラに渡した。

 

「なんだこりゃ」

 

「ん~。まぁ、君の身体を一時的に保たせるための薬剤だ。今のままだと新たな力を手に入れる前に君の身体は崩壊する。君の身体を完全に復活させるには用意するものが多くてね。万が一予想よりも身体が早く崩壊したら用意したものが無駄になるからね」

 

「…信用すると思うか?」

 

「まぁ、当然の反応だね。だが安心したまえ。先ほども言った通り私は君にしか興味はない。世界のことなどよりも。私としては、戦力的に不安があった管理局よりもっと信用高い黙示録を相手に君を試せるんだ。楽しみでしょうがない。出してもらった恩もあるし、君自身私に乗ってくれた。そのお礼として君を洗脳したりもしない所存さ」

 

「…」

 

アキラはウィードのマッドサイエンティストっぷりを信用し、注射を打った。

 

「………ッ!」

 

突然心臓が大きく脈打ち、アキラの全身に激痛が走った。

 

「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アキラは自身の胸を掴み、地面へのたうち回った。冷や汗を流しながらウィードをにらみつける

 

「て……てめぇ…やっぱ何か…」

 

「勘違いしないでくれたまえ。副作用だ。肉体を軽く作り変えてるんだ。それくらい当然さ」

 

「ぐ…はぁ…はぁ…。あぁぁぁぁぁぁ!!!あがぁ!」

 

 

 

ー20分後ー

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「収まったかな」

 

アキラは20分ほど苦しんだ後、やっと痛みの副作用が収まって立ち上がった。

 

「体が…軽い…」

 

「うまくいったみたいだ」

 

「じゃあまずは君に用意してもらいたいものがあるんだが…その前に君の完成形がどういうものなのか説明しておこう」

 

ウィードは引き出しからある資料を取り出してアキラに渡した。資料の表紙にはAtoZ計画と書いてあった。

 

「…これがどうかしたか?」

 

「君は…君たちは、もともと一つの計画を分けて作られたんだ。本来の計画の名は…A(アギト)計画」

 

「アギト…?」

 

「無限に進化する者…というような意味さ。それが最初期の計画。様々な魔法…戦闘技術それらを身体に取り入れ、取りいれ、取りいれ続け、どこまでもどこまでも進化する。だが当時、僕らのもとにあるものが足りなかった。だから一気に作るのは無理だった。そこで試作品としてAtoZの26人にA計画に最初取り入れようとした「力」を分割したんだ。そしてその力がどれくらい使えるか、試してたんだ」

 

「つまり俺は実験台だと」

 

「ああ。そしてA計画の為に足りなかったものも用意した。これで君は完成する」

 

「なんだそれは」

 

「ロストロギア…とだけ言っておくよ。君の身体に入れたところで特に何も起きないがねあとは君に色々取ってきて欲しいものがある。君が力として取り入れるべきものだ」

 

 

 

 

続く



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第二十四話 打倒

お久しぶりです。今回は大容量一万文字!(四捨五入)
通常の二話分になります!お楽しみを!次回もたくさんあります!!お楽しみに!(ただし投稿は遅くなるおそれあり!すいません!)

語彙力ないので読みずらいかもしれません。すいません(いまさら)


-side チンク-

 

 

これは、私たちが現在の戦闘に介入する少し前の話だ。

 

私たち戦闘機人は、アキラにハッキングを食らい、操り人形としてウィード脱獄の手伝いをさせられた。一瞬の油断を突かれアキラの思うがままにされてしまった。

 

だが、そんな私たちの前に今アキラは私たちの洗脳を解除した状態で座っている。

 

「…よくも、謝罪もなしに私たちの前に現れられたな、アキラ…」

 

「……洗脳したのは俺だ。俺じゃなきゃ洗脳は解けないだろ」

 

洗脳解除できるものが近くにいなければならいという意味だろうが、そんなことは全員わかりきっている。

 

「まぁ…お前らの洗脳を解いたのも、ウィードの野郎の提案だがな」

 

「お前…」

 

私たちはよく聞かされていないが、ウィードとアキラの因縁は相当のものだと聞いている。そんな男と手を組む姿は、正直なところ見損なったというよりも、アキラのギンガを思う気持ちが伝わってくるようで、なんとなく息苦しいという感じだ。

 

少しの沈黙。その後、セッテが前に出た。どう見ても怒っているようだった。アキラに感情を芽生えさせられてからも無感情な感じのセッテだったが、今ばかりは感情的になっていた。

 

「お前は…自分が何をしたかわかってるのか!!」

 

もちろんアキラの気持ちもわかっているだろう。だが今は、管理局員として、アキラの家族としての正義を貫くつもりだ。

 

「……」

 

何も言わないアキラにセッテは胸倉をつかみに行く。

 

「何とか言ったらどうだ!?いくらギンガとアリスが誘拐されたからと言って………犯罪に手を染めるなど…私が知っているアキラ・ナカジマは!ギンガの旦那でアリスの父親のアキラはこんなことはしなかった!」

 

「……」

 

アキラは何も言わないままセッテの腕を掴んで投げ飛ばした。

 

「!」

 

「セッテ!」

 

セッテに皆が駆け寄る。アキラに一瞬敵意を示す視線が向けられるが、全員が怖気付く。アキラの眼に圧倒されたのだ。皆、そんな目のアキラを初めて見た。いや、私とノーヴェ、ウェンディは知っている。あの日、ギンガに致命傷を負わせた私達に向けられた視線と一緒だ。

 

「…お前が知ってる俺なんて俺は知らねぇよ。いいから俺に従え。従わねぇなら殺す」

 

アキラは拳銃を取り出した。

 

アキラに恩義を感じているナンバーズも少なくない。ウーノやディエチ、セッテなんかが特にそうだ。特にギンガと戦った私たちにも優しくしてくれた、家族として受け入れてくれたアキラには感謝しかない。アキラの意見をたててやりたいが、みんな彼の横暴っぷりに中々賛同できないのだろう。

 

「…アキラさん」

 

「…なんだ?」

 

ウーノが前へ出た。アキラはウーノへ拳銃の銃口を向ける。

 

「私が…協力します……過去との決別のためにも、あなたへ…恩義を返すためにも」

 

「ウー姉!?」

 

「その代わり、妹たちは返してあげてください。彼女たちに罪をこれ以上かぶせるわけにもいきません」

 

その発言にアキラは予想外の反応を見せた。ウーノを銃のグリップで殴ったのだ。

 

「うっ!」

 

ウーノは額から血を流して倒れる。

 

「!!」

 

「アキラさん!?」

 

「罪じゃねぇ!!!これは!正義の鉄槌だ!!」

 

アキラはウーノに近付いて胸倉を掴んで無理やり立たせる。

 

「奴らは罪を犯した!!今はその罪人を裁くことだけ考えろ!!黙示録は最悪の破壊兵器だ!それを止めることのどこが悪だ!?もし悪としか考えられないのなら正義の為に悪を貫け!!」

 

「…」

 

全員が圧倒されてると、部屋の扉が開いた。

 

「落ち着きなよ。全員怖がってるじゃないか」

 

ウィードが現れた。セッテ以外のナンバーズは彼とは初対面だ。

 

「テメェは黙ってろ。ウィード」

 

「いいから。君は大人しくしてて。僕が細かく君たちに協力を仰いだ理由を説明しよう」

 

「……あんたがウィードか」

 

ノーヴェが最初に前に出た。

 

「ああ。初めまして。ナンバーズ諸君」

 

ウィードはアキラの手を掴み、ウーノから離させた。

 

「暴君を気取るのはいいが、もっと効率的にやらないと。時間もないんだし」

 

「チッ…」

 

「私が丸め込ませておくよ。君は頭を冷やしてきたまえ」

 

アキラは舌打ちをして部屋を出ていった。ウィードはそれを見届けると、ため息をついて座った。

 

「やれやれ、彼の愛…ギンガ・ナカジマに対する思いは少々行き過ぎてる気があるね。でも分かってやってくれ、彼も曲がりなりにも父親だ」

 

「まぁ…わかってます。………それで、私たちに協力させたい理由っていうのは?」

 

「ああ、よく聞いてくれたまえ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

セインに運ばれ、ギンガは地面の中を進んで108部隊へと向かっていた。父と仲間が監禁されていると知り、今すぐ助けたいとおもったのだ。状況を聞く限り、すでにスバルは救出され、ゼロ・ナンバーズは既に一人が死亡、二人が倒され逮捕、一人が逃走、スカリエッティとともに逃げ出したトーレとクアットロも逮捕されて事態はどちらかというと言うと管理局が有利だ。

 

主犯格であるクラウドはきっとアキラが倒してくれるだろうとギンガは考えていた。

 

「よし、侵入完了」

 

セインとともに、ギンガは108の隊舎の中の隊長室に浮上した。ここには鎧騎士はいないし監視カメラもない。

 

「さっき見たけど結構な人数捕まってるし、鎧騎士が結構な数いるね」

 

「…なんかおかしくない?」

 

「え?」

 

「話を聞いた限り、ゼロナンバーズは私たち管理局の戦力の総動員で互角……次元管理局…本局の部隊を次元転移装置をハッキングすることで差し押さえて、地上本部のみで今互角…。本局を押さえてるなら最大戦力であるクラウドが地上本部に行けばすぐに殲滅はできたんじゃ?」

 

「んー…じぶんでやるのがめんどくさかった?」

 

「…管理局をあんなに恨んで、ゼロ・ナンバーズよりも強力な兵器を持っているのに?」

 

「んーそう言われても私にはわからないよ…」

 

セインは使いなれてない頭を使いすぎて頭痛を引き起こしてる。

 

(さっきアキラ君のところに現れるまでクラウドは…いったい何をしていたの?)

 

ギンガは疑問に思いながらもとりあえず現状を打開することにした。ギンガは捕まったがこれと言って何かされたわけではない。なのでポテンシャルは充分だ。

 

「セイン、私がとりあえず父さんたちを助けてくる!アリスをお願いね!」

 

「ええ!?私赤ちゃんなんてあやしたことないけど!?」

 

「今は寝てるから大丈夫!すぐ戻る!行くよ!ブリッツギャリバーA(アサルト)!」

 

ギンガはブリッツギャリバーを掴んで隊長室を出た。そしてすぐ横にあった消火栓火災報知器のスイッチを押した。

 

108の中に警報が鳴り響く。隊の中のシステムはフィフスにコントロールされていたが、どうやら消火栓等のシステムは管轄外だったようだ。ギンガの予想通りだ。

 

(鎧騎士にも聴覚や視覚からの反応はある。急にサイレンが鳴れば………)

 

混乱し、慌てている鎧騎士をギンガは背後からの飛び蹴りで頭を叩き落す。ギンガは綺麗に着地したが、すぐに鎧騎士が現れる。

 

「はぁ!」

 

ギンガはローラーシューズを滑らせ、鎧騎士の懐に入り込み、リボルバーナックルを当てる。背後に新たに現れた鎧騎士の気配を察知し、右手のストライクナックルのハンドバスターを放っった。

 

ギンガはそのまま数体の鎧騎士を倒し、ゲンヤたちが捕らえられているオフィスに乗り込んだ。

 

「父さん!みんな!」

 

「ギンガ!?」

 

すぐにゲンヤたちを見張っていた鎧騎士が動き出す。数は4。ギンガは蹴りで一体を飛ばし、切りかかってきた騎士の槍をイージスシールドで受け止め、ほぼ同時に襲ってきた鎧騎士をハンドバスターで撃った。

 

そしてシールドで攻撃を防いでいた騎士に右手についている装備の先端を当てた。

 

「デュエルブレイカー」

 

パイルバンカーが鎧騎士の身体を貫通し、鎧騎士は動かなくなる。さらに一体と、最初に蹴り飛ばした一体が襲い掛かって来る。

 

「リボルバーブレイク!」

 

ギンガは一体をリボルバーナックルで殴り飛ばし、最後の一体を竜巻旋風脚並みの空中回転蹴りでぶっ飛ばした。

 

鎧騎士は、魔導士数人がかりでやっと対等の相手だ。それを一瞬、しかも一人で片づけられるギンガは相当な強さだ。普段はアキラに守られ、陰に隠れがちだが108部隊の副隊長で管理局が重宝する戦力なだけある。

 

「父さん!大丈夫!?」

 

「ギンガ!お前こそ大丈夫か!?」

 

「私は大丈夫!みんなも無事!?」

 

「ギンガ副隊長!ご無事で何よりです!私たち以外の武装隊が別の部屋に…」

 

「わかった。隊長室のセイン呼んでくるね。父さんとみんなはセインに付き添ってもらって外に…」

 

その時、オフィスにある二つの出入り口から鎧騎士たちが入ってきた。

 

「!。みんな下がってて!」

 

全員部屋の隅へ行く。さっきは4体だけだったが今回は10体近くいる。一人で捌ききれるか少し不安なところではあるがやるしかない。

 

「はぁぁぁ!」

 

ギンガは鎧騎士の軍団に特攻する。リボルバーナックルで二体まとめて殴り飛ばす。そして横にいた鎧騎士を蹴り飛ばそうとしたが、別の鎧騎士に不意を突かれ、死角から殴られた。直前でシールドを展開したが即席の薄いシールドは破られ、ギンガは壁に叩きつけられる。

 

「うっ!」

 

「ギンガ!」

 

「ハンドバスター!」

 

ギンガはすぐ体制を立て直し、ハンドバスターを放った。一体仕留めたが三体が同時にこちらに向かってくる。

 

「くっ!ちょっと無理することになるかな……」

 

ギンガは向かってくる二体の鎧騎士の間に飛び込み、両手を地面について両足を鎧騎士に向かって開いた。鎧騎士は左右に吹っ飛ぶ。さらに一体突進してきた。ギンガは両手を引く。

 

「ツイン……ブレイク!!」

 

リボルバーナックルとストライクナックルで同時に殴る。その威力は絶大で鎧騎士の上半身は吹っ飛んだ。

 

「ギンガ!後ろだ!!」

 

ゲンヤの叫び声が聞こえた。それと同時にギンガは後ろ回し蹴りを放った。

 

「空牙!!」

 

距離感はばっちりで鎧騎士にギンガの蹴りは最も威力の高い部分にあたり、鎧騎士は壁を貫通して吹っ飛んだ。

 

「よし、行ける!」

 

そう思ったのもつかの間。さらに追加の鎧騎士が部屋に入ってきた。

 

「……キリがない!!!」

 

果たしてこのまますべての鎧騎士を倒せるかどうか不安になった刹那、声が聞こえた。

 

「ディバインバスター!!」

 

オフィスの窓ガラスが割られ、魔力砲が鎧騎士の大体を吹っ飛ばした。全員の視線が窓の外へ行く。そこにはなのはがいた。

 

「なのはさん!」

 

なのはは頷いたと同時にギンガに向かって魔力砲を放つ。

 

「シュート!」

 

「!」

 

ギンガが一瞬シールドを貼ろうとしたが魔力砲は綺麗な曲線を描いてギンガを飛び越え、その背後にいた鎧騎士を打ち抜いた。

 

「…」

 

「此処から支援するからみんな窓から脱出して!!」

 

「外に魔力クッションを用意してありますです!さぁ!早く!」

 

小さくて気づかなかったがリインフォースツヴァイもいたようだ。

 

「ギンガも早く!」

 

ギンガも脱出しようとするが、まだ捕らえられてる仲間とセインとアリスのことを思い出す。

 

「私はしんがりを…あっ!隊長室にセインと別の部屋に武装隊が…」

 

「大丈夫!そっちはもう助けた!みんな外にいるから早く!」

 

さすがエースオブエースと思った。なのははギンガの腕を信じて先に他の隊士を助けに行っていたのだ。それもこんなに早く。ギンガは鎧騎士を追加3体ほど吹っ飛ばして最後にオフィスから飛び降りた。

 

だが鎧騎士も当然ギンガたちを追いかけ、オフィスから飛び降りようとする。

 

「フロストブレス」

 

リインフォースが放った氷属性の魔法がオフィス一帯を包み込み、凍り付かせた。鎧騎士は止まった。

 

「行きましょう!」

 

ギンガはなのはたち共に108部隊を脱出した。外にはすでに管理局が発進させた護送車がいた。セインと他隊士も護衛者の中にいた。

 

「ギンガ!」

 

「セイン!!アリス!無事でよかった!」

 

「じゃあお母さん!娘さん頼んだよ!」

 

セインはアリスをギンガに預けた。

 

「セイン!?」

 

「私はお届け物があるから!」

 

セインはディープダイバーで潜っていった。

 

「…」

 

きっとそれぞれの役割を与えられているのだろう。そう考え、ギンガはナンバーズとアキラを信じた。

 

「アキラ君…」

 

 

ーノーヴェ・オットー・ディードVSサードー

 

 

 

アキラに協力を強要された三人はサード相手に戦闘をしていた。

 

「はぁ!」

 

「おらぁ!!」

 

主な攻撃はディードとノーヴェが行い、オットーがサポートに回っている。だがナンバーズ二人係での攻撃にサードは動じる様子はない。

 

「ふふ…ナンバーズ二人で私一人押さえられないとは…」

 

いくら六課の隊長さえも凌ぐナンバーズとはいえルーラーアーマーを付けたゼロ・ナンバーズはそれを上回る強さだった。サードは二人を抜いてオットーに攻撃を仕掛けるがディードが防ぐ。ギリギリだが何とか防ぐことが出来た。

 

「…!。私の速度についてこれるとは、驚きです」

 

「どこ見てんだよおらぁ!」

 

背後からノーヴェが攻撃を仕掛けるが、紙一重で躱される。次の瞬間にはサードは三人の視界から消えた。

 

「加速…っ!!」

 

「なんだこのデタラメなスピード…」

 

眼で追えるか追えないかくらいのスピードで三人の周りを飛び回る。ノーヴェは腕のガンナックルを構えるが狙いは定まる筈はない。

 

数発放ってみるが当たらない。刹那、ノーヴェの背後にサードが突っ込んできた。サードは槍の切っ先をノーヴェに向けて突進したがその間にオットーが入り込んだ。

 

次の瞬間、血飛沫がノーヴェの背後で舞った。

 

「…っ!」

 

「…オっ…オットー!!!」

 

サードは槍を引き抜いて次の攻撃に移ろうとするが、槍は抜けない。

 

「?」

 

「ぐぅ………捕らえた…」

 

オットーは自身の身体を犠牲にサードを捕らえた。だがそれにサードは焦る素振りも見せず、自身に付けられたフェイトとエリオの能力である電撃をオットーに流した。

 

「ぐぅぅぅ!!!」

 

「オットー!!」

 

「その手を離しやがれ!!!」

 

「ふぅ…もう飽きました」

 

左右から攻撃を仕掛けてきた二人にサードはため息をついて魔力雷を固めて作った槍数百本を遠隔操作で二人に投げた。

 

「雷槍天羅殲滅ノ型」

 

空を覆うほどの無数の槍にノーヴェとディードは貫かれる。雷属性の魔力ダメージとはいえ、二人は意識を失って落ちていった。

 

「最後はあなたですね」

 

「ぐぅ…」

 

 

 

ーチンク・ウェンディVSフォースー

 

 

 

「はぁ!」

 

チンクがスティンガーを投げる。だがそれはフォースが発生させた吹雪によって吹き飛ばされる。ウェンディが背後から魔力弾を数発放ったが即座にフォースが放った魔力弾に相殺させられた。

 

だが、相殺された魔力弾のうち二発が輝きを放ちながら爆散した。

 

(閃光弾!?)

 

その瞬間、チンクがスティンガーを投げた。そのスティンガーがフォースのすぐ近くまで来た瞬間指を鳴らし、ISを発動した。

 

スティンガーは爆発した。だが爆風が晴れると同時にフォースの姿は消えていた。

 

「!?いったいどこに」

 

「チンク姉!」

 

吹雪にまぎれ、フォースはチンクの背後に移動していた。背後とはいえいくらか距離がある。しかし、はやてと同じ強力な魔力砲をウェンディが気づいた時には既に放っていた。

 

(いつの間に…っ!)

 

チンクは魔力砲に飲み込まれそうになったがウェンディがギリギリで助けた。

 

「すまない!」

 

「いいッス!それより…!!」

 

ウェンディが警戒するより先にフォースがウェンディの前に現れた。ウェンディはそのままライディングボードで突撃したが途中、氷の剣に襲われ、落ち落とされた。

 

「ぐぅぅ!!」

 

「ウェンディ!あぐっ!」

 

ウェンディが落ちるとともにチンクも当然一緒に落ちる。

 

(膨大な魔力量、そして強力な氷結魔法とスピード…厄介だ!)

 

「…つまんなーい。あんたら攻撃向きじゃないし、そこまで速いわけでもない私に追いつかれるって何ぃ?」

 

フォースはゆっくり氷の剣を持って近づいてきた。

 

(ふざけんなッス…ボードに乗ったあたしよりもはえぇなんて速くないって言わねぇッス!)

 

「うぁぁぁぁぁ!!」

 

チンクはフォースに抱き着いた。小さな体で必死に取り押さえようとした。

 

「…なんか秘策あるのかと思ったら……こんな…」

 

フォースは氷の剣を振り上げる。

 

「チンク姉!!」

 

 

 

ー遠く離れたビルー

 

 

 

ここではディエチが自身のカノンを構え、チンクたちの戦闘区域に狙いを定めていた。

 

「ありがとう、チンク姉。これなら、狙いは定まる」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー数時間前ー

 

「さて、君たちに協力を仰いだのは、やはり頭数が欲しいからだ。洗脳状態じゃ戦闘に支障をきたすだろうから洗脳も解かせた」

 

「…戦闘に支障を?」

 

「ああ。彼女達は君たちよりも性能は低い。だがスカリエッティの直接行う調整、そして黙示録のデタラメな力を加えられれば君たちに下す単純命令じゃあ勝てないだろう。それに、洗脳を解いた今の状態でも」

 

「…なるほど。それで?」

 

「彼らの計画を勝手に調べたことがある。クラウドは必ずルーラーアーマーという鎧を使うはずだ。その鎧の原材料は黙示録から生成される暗黒物質、スタッフ……」

 

「…」

 

そこまで説明してウィードは懐から一つの弾丸を取り出して全員に見せた。

 

「まぁ名前はすごくても所詮は魔力で構成された物体だ。だからこれが効く」

 

「……それは?」

 

見た目はただの銃弾にしか見えないことにノーヴェが疑問を抱いて質問した。ウィードは少し笑って質問に答える。

 

「これは「魔力断裂弾」と言ってね、昔に作られたがほぼ実用化はされないで終わった代物だ。これが撃ち込まれたら最後、魔力回路が断裂、リンカーコアと肉体に多大なダメージを負わせ、最悪死に至る。生きてたとしても、魔力を持った人間ならもう魔導師への復帰はできなくなるね」

 

「そんなものが…JS事件で私たちに打ち込まれてたら危なかったかもね…」

 

「そう、元々犯人拘束為に作られたのに、犯人を殺してしまっては意味がないということで試験段階で廃棄された兵器さ。これをその鎧に当てられれば、ゼロ・ナンバーズは突破できるだろう」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー現在ー

 

「さぁ、死になさい」

 

「IS!レイストーム!!!」

 

サードが雷を圧縮した精製した槍をオットーの心臓めがけて振り下ろそうとした。だがそのタイミングでオットーが魔力断裂弾をレイストームに乗せてサードの鎧に撃ち込んだ。

 

「!!!!!」

 

 

 

ー西部ー

 

時を同じくして、ディエチがチンクたちの戦闘エリアのフォースを狙って魔力断裂弾を撃ち込んだ。

 

普通だったら、長距離から飛んでくる弾丸にフォースは気づけたはずだ。だが目の前で無意味に抵抗するチンクの相手をしているせいか、もしくは相手が弱いことによる慢心からきた油断か、フォースは魔力断裂弾に当たってしまった。

 

「なに!!!!!」

 

魔力断裂弾が命中した瞬間、フォースとサードのルーラーアーマーに紫電が走り、炸裂した。それだけではない。魔力炸裂弾は肉体に命中してはしないものの、体と密着状態にあった鎧が魔力炸裂弾により崩壊したためゼロ・ナンバーズにも影響が出た。

 

「うぐぁぁぁ!!!」

 

「はぁ…はぁ……うまくいったな。ディエチ…」

 

チンクは遠くのビルを見つめて言った。そしてスティンガーを地面で苦しんでいるフォースに向ける。

 

「大人しくしろ。変に暴れれば死ぬことになるぞ」

 

「くぅ…なめんじゃ…あがぁぁぁぁ!!」

 

フォースが抵抗しようとしたとき、再び全身に激痛が走り、かなりの量の血を吐いた。フォースは鎧の薄い部分に魔力断裂弾が命中したのか身体にも大きな影響が出ていた。

 

「だから動くなといった。ウェンディ。捕獲だ」

 

「了解ッス」

 

 

 

ー南西部ー

 

 

 

南西部で魔力断裂弾を撃ち込まれたサードは同じく落ちてのたうち回っていた。だが、フォースの現場とは違い、援護にきた三人とも動けない状態で、捕獲はできない状態にあった。唯一意識があるオットーも確実に魔力断裂弾を当てるためにサードの槍を甘んじて受けたために動けずにいた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

(出血がひどい…意識が朦朧とする………早くサードを捕獲しないと…でもその前に…ボクの命が…)

 

「…なるほど……魔力断裂弾ですか…管理局がそんなものを使うなんて…想定外でした」

 

サードは少し苦しそうな表情で槍を杖にしながらふらふらと立ち上がった。

 

「!?」

 

「残念ながら私のリンカーコアは大したダメージを受けていません…少々辛いですが、無理をすれば…動けます」

 

サードは魔力電気で作った電気信号を身体に流し、無理やり身体を動かした。

 

「IS…」

 

「撃たせませんよ!」

 

サードは槍から電撃を発射し、オットーを吹っ飛ばした。

 

「がぁぁ!!」

 

「さぁ……あなたとそこらに転がってるナンバーズの息の根を止めて、おしまいです…」

 

オットーは腹部の出血を押さえながら壁に体重を預けながら立ち上がった。出血多量で意識が朦朧としている。顔の色もどんどん悪くなっていた。

 

「…今のあなたになにができると?」

 

「何ができるかできないかじゃない……僕は…あなたを止めるように言われてここにきている!だから…何があっても、下がるわけにはいかない!」

 

サードは少しため息をついて雷を圧縮して生成した魔力槍を構えた。

 

「……では、死になさい」

 

魔力槍は放たれる。オットーに避ける体力はない。反撃する体力も。あと数センチでオットーの身体に当たるという瞬間、ビルの向こうから小型のブーメランが飛んできた。そのブーメランが魔力槍を破壊し、オットーを守った。

 

「!?」

 

「どなたですか?」

 

「…」

 

オットーの背後にあるビルの屋上に、人影があった。

 

「七番の…」

 

「あとは私にお任せを…」

 

セッテはオットーの前に降り立った。マリアージュ事件の時渡されたセッテの新しいデバイスとバリアジャケットを装備して。

 

「セッテ…」

 

白を基調としたコートにピンクのラインが入ったデザインのコート。緑と黒のカラーリングのインナー。そして、腰に添えた分裂可能な2本の短剣が合体した剣が2本、合計4本。

 

短剣というより短いブーメランを半分にしたような形状の刃だ。

 

両腕に着いた可動式の刃、肩に装備された短剣、計七本の刃を装備したバリアジャケットだった。

 

「少し待っていてください。すぐ終わらせます」

 

「ごめん…ありがとう……」

 

オットーは安心したことで気が抜け、そのまま気絶して倒れた。セッテはオットーの怪我の具合を見てすぐにサードと対面した。

 

(ノーヴェやディードに比べてダメージが……出血がひどい、早く終わらせないと……)

 

「…少しは楽しめそうですね」

 

「楽しむ間もなく終わらせてやる」

 

セッテは腰の剣を取ってサードに切りかかった。サードは雷属性を付与した魔力弾を数発放つ。セッテは剣でそれを全て切り落とすそれと同時にもう一本の剣を抜き、サードに投げた。

 

「ふんっ!」

 

サードは槍を振って剣を弾いた。その瞬間。セッテがISを発動させた。

 

「ブーメランブレード」

 

2本の剣は分裂し、4本の短剣となってセッテのISで自在に飛び回る。

 

「チッ!」

 

サードは空中に逃げた。ブーメランはそれを追っていく。

 

「サンダーフォール!」

 

ブーメランがサードに追いつく前にセッテを狙ってサンダーフォールが落とされた。

 

「ブーメランブレード!!」

 

セッテはよけようとせず、ISを発動させた。腕の刃と肩の刃が起動し、セッテの前に飛んだ。使い方が違うだけでこの三本も先ほど飛ばした四本の刃と形状が同じだ。

 

三本の刃は持ち手の部分を重ねて回転し、円盤状を保つように回転を続けた。それが盾となり、セッテを守った。

 

「クアッドブーメラン!」

 

サードに迫っていたブーメランがセッテを守ったように合体し、今度は巨大なブーメランとなってサードを襲った。

 

「くっ!」

 

スピードと威力が4倍になったブーメランは先ほどのように簡単にはじけず、サードは槍で防ぐも防ぎきれずに吹っ飛んだ。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

セッテは先ほど盾にした刃を腕の装備に戻し、それを構えて吹っ飛んだサードに向かって突進する。サードは得意の高速移動で避けようとしたが、魔力断裂弾の影響もあり、うまく魔力を運用できなかった。

 

「しまっ…」

 

「双刃砕鋸!!」

 

サードはセッテに砕かれるような削られるような攻撃を受け、魔力ダメージでノックダウンされた。

 

「……ふぅ。オットー!ノーヴェ!ディード!!」

 

 

 

続く



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第二十五話 覚悟

あと少しで平成終わっちまう!!令和の前に何とか終わらせたいけど、間に合うか!?そっちの意味でもお楽しみに!


「お待たせ!」

 

セインはビルの屋上で待機していたスバルとウーノの前に現れた。

 

「セイン!」

 

「はい」

 

セインはマッハギャリバーをスバルに渡した。

 

「マッハギャリバー…ありがとう…セイン」

 

スバルは自分が捕まってからの事件の経緯をウーノから聞いていた。仲間に迷惑をかけていたことに申し訳ないと感じ戦線に立ちたいと、何か役に立ちたいと思っていた。

 

スバルが身体に違和感がないことを確認する。ザフィーラがなるべく体への負担が少ないように戦っていてくれたのだろう。身体のダメージを確認してマッハギャリバーを装備しようとしたとき、静かな道路を走る車を確認した。

 

急いでスバルはビルから飛び降り、車の前に立って車を止める。

 

「待って下さい!ここは危険区域です!」

 

すると、車から二人の女性が出てきた。

 

「スバル防災市長!」

 

「あなたは…確か…アストさん!!」

 

車から降りてきたのはアスト、そしてギンガによく似た少女フランシスだった。スバルはアストに驚いたが、それ以上にフランシスに驚く。

 

「ギ、ギン姉!?」

 

「タイプゼロセカンド…」

 

「ちょうど良かったです、スバル防災市長!あなたに一緒に来てもらいたいのです!」

 

 

 

ークラウドのアジトー

 

 

 

戦闘が始まって3時間。日が傾き始める時間帯ではあるが曇ってるこの日にそれはわからない。そんな空の下、瞳に怒りを宿したアキラと、その眼の先のクラウドは対峙していた。

 

「アキラ…」

 

「クラウド…」

 

アキラは紅月を構える。クラウドは自身の魔導書を開き、アキラのリアクトバーストの高速移動魔法と同じ魔法を発動させようとした。

 

「…!?」

 

(発動しない…!?)

 

「アクセラレイターハザード」

 

魔導書による魔法の行使がうまくいかず、困惑しているクラウドを尻目にアキラはアクセラレイターハザードを発動させた。

 

「!」

 

「死ね」

 

アクセラレイターハザードの高速移動でクラウドの目の前に移動したクラウドの身体に這っているスタッフの鞭がアキラを感知する前にアキラはクラウドを切った。

 

「ん」

 

紅月はクラウドの腹部にめり込んだ。だがしかし、斬れてはいない。体に這っていたスタッフが攻撃ではなく防御のために集合し、紅月を押さえていた。

 

アキラは瞬時に次の手を打つ。片手を紅月から離し、ヴァリアントシステムを使って片手銃を出現させてクラウドの頭に向けて撃った。

 

クラウドはその弾丸を首を傾けて回避し、スタッフで作った剣で反撃した。アキラはアクセラレイターの加速で剣を避け、クラウドの背後に回った。

 

「ブラスト!」

 

クラウドは自身の周りに魔力衝撃波を放ってアキラを牽制する。だがアキラにそんな技は通用しなかった。アクセラレイターの加速をさらに早め、ほぼ瞬間移動と変わらない速度で衝撃波を回避し、クラウドの腹部に蹴りを入れた。

 

「かっ…」

 

アキラの足はクラウドの小さな腹部にめり込み、ミシミシと音を立てた。そのままクラウドはまっすぐに吹っ飛んだ。だがそれでは終わらないアクセラレイターで吹っ飛んでるクラウドの前にさらに瞬間移動し横に蹴り飛ばした。若干スタッフでガードは張ったが、そんなものはアキラにとってないに等しい。

 

クラウドは岩にめり込み、そのまま落ちた。

 

「ごほっ………がぁ…」

 

(速すぎる……スタッフによる防御が間に合わない…。しかしなぜ…私の魔法が…)

 

「気になるか?お前に高速移動の魔法が使えないのを」

 

「なに…」

 

「前回戦った時、お前に最後に打ち込んだ一撃。そこに、お前の魔力回路に細工を施した。俺が死んでも、その後誰かがお前を殺せるように………。あの高速移動の魔法は俺の魔法によく似ていた。だからその魔法にだけ限定してそこに魔力リソースを回せないようにした」

 

「なるほどな…。だが、それだけで勝てると思うな!!」

 

クラウドは黙示録の書を開く。そこで何らかの魔法を行使し、魔法陣からスタッフを大量に出現させるそれを全身に纏っていく。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

さらに変身魔法で大人モードになった。全身にはルーラーアーマーのように黒い鎧が展開され、頭のとんがり帽子にはびっしりと瞳の模様が現れた。

 

「ふぅ…こんなものか…さぁ、行くぞアキラ・ナカジマ!」

 

(あの帽子の目……全部アイツの意識と繋がってて360度見えるって考えて良さそうだな)

 

アキラは懐から注射器を取り出し、それを腕に刺した。アクセラレータを使用するための燃料的存在である「ナノマシン」を注入したのだ。

 

「これが最後だ……終わらせる…テメェも!スカリエッティも!全員殺して終わりだ!!!アクセラレイターァァァァ!!ハザァァァァァァァァドォォォォ!!!!」

 

アキラの身体から黒いオーラのようなものが発生し、高速移動でクラウドに切りかかった。

 

「アァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

アキラはほぼ瞬間移動と変わらない速度でクラウドの背後に移動する。だが、今度はクラウドの反応はさっきよりもずっと早かった。クラウドの足元には常にスタッフが堆積している。そのスタッフが巨大な盾に変形しアキラの剣を防いだが、アキラの剣はその盾をも切り裂いた。

 

だが切り裂いた盾の先にクラウドはいない。クラウドも似たような魔法で高速移動を行いアキラの真下に移動し、魔力砲を撃った。アキラはそれを躱し、反撃に出る。

 

「なに!?」

 

ここでクラウドにとって予想外だったのはアキラが高速移動で避けなかったことだ。魔力砲をぎりぎり紙一重で躱してまっすぐ自分に突撃したことだった。

 

アキラの剣が迫るがギリギリクラウドはスタッフで作った黒剣防いだ。成長魔法で強化された肉体、そしてルーラーアーマーと帽子の眼による反応速度がアキラのアクセラレイターハザードと同等のパワーを見せたのだ。

 

「ぐぅぅぅ!!」

 

「はぁぁぁぁ!」

 

鍔迫り合いの末、アキラがクラウドを弾き飛ばす。反応が遅れたクラウドがこの競り合いで若干不利だったのだ。

 

「くたばれクソったれが」

 

アキラはヴァリアントシステムと組み合わされ強化されたマイティギャリバーのカノンをクラウドに向け、魔力砲を放った。

 

クラウドはその砲撃を阻止するためにアキラの砲撃より早くスタッフで精製した矢を5本放った。だが、その矢をアキラは甘んじて受けた。

 

「!?」

 

「バスター」

 

カノンのバスターが放たれた。クラウドはアキラが避けも防ぎもせず受けたことに驚いて反応が遅れた強大な魔力砲がクラウドを巻き込み、地面に当たり、爆風があたりを包む。

 

「…」

 

アキラは再び注射器を取り出し、それを打った。治療用のナノマシンを打ったのだ。

 

クラウドはスタッフを使って自身に乗っている瓦礫を退かし、瓦礫の中から這い出た。

 

「……なるほど…覚悟は…できているということか…。どうやら覚悟が足りなかったのは私の方だったようだな」

 

クラウドは額に手を当てた。

 

(長い……本当に長い時間の間準備を続けてたせいでずいぶん甘くなったものだな…。これは……復讐だ…私の……私の人生をかけた…復讐だ!)

 

クラウドはさらにスタッフを出現させ、自身の手に纏わせる。鎧の上にさらにスタッフの腕が創られる。

 

「高質化、高速移動、伸縮化、拡散」

 

クラウドは何か呟くとスタッフが装着された腕をアキラに向けた。

 

「スネークバイト」

 

スタッフがゴムのように伸び、アキラのほうに飛んでいった。かなりの速度で飛んできたがそれを見てアキラは軽いため息をついて刀を構える。

 

「アクセラレイターハザード」

 

アクセラレイターハザードを使用しクラウドが伸ばしてきた手を無視し、クラウド本体のほうに向かった。その速度は先ほどと変わらない。

 

だがアキラがアクセラレイターハザードを発動させ、移動の姿勢を取った瞬間クラウドが伸ばした腕の拳から肩の間全体からスタッフで出来た小さな刃が四方八方に拡散するように飛んだ。

 

刃にはピアノ線のような糸がついており、それが腕と繋がっている。アキラのアクセラレイターは瞬間移動のように見えるが、ただの高速移動であり前方に障害物があればよけなければならない。だが突然腕から発射された刃とそれに付いた線がアキラの前に出現し、アキラは止まらざるを得なかった。

 

「くっ!邪魔だ!」

 

アキラは目の前に現れた線を切り裂こうとしたがそれよりも早く、背後に迫った気配にアキラが反応し、刀を背後に振った。アキラの刀に弾かれたのは先ほどまでアキラのほうに伸びていた腕だ。

 

その腕が一気に方向転換し、一瞬でアキラの背後まで伸びていた。

 

(速い…)

 

だがアキラが背後に気を取られている間にクラウドが伸ばしたスタッフの腕を外し、アキラの方に向かっていた。

 

「ラッシュ!!」

 

先端が刃になっている十数本の触手がアキラを襲う。

 

「システムオルタ…」

 

アキラはアクセラレイターハザードではない、別のシステムを発動させた。ハザードに比べ、スピード、パワーともに二段階ほど下のシステムだが大した速度ではない触手を避けるには十分だった。

 

触手を完全に回避し、アキラはクラウドに切りかかる。

 

「甘い」

 

クラウドは自身の高速移動魔法を初どうして応戦した。もうさっきのような油断はしない。クラウドの眼は決意に満ちていた。

 

二人の戦闘は加速する。一般人にはもう目にも止まらないスピードだった。ただ、剣がぶつかり合う音と風を切るだけがしていた。そんな現場に一台の車が到着し、フランシスとスバルが車から現れた。

 

「クラウド!!」

 

「アキラさん!!」

 

アキラとクラウドの二人はその声に気づき、一度戦闘を止めた。

 

「スバル…フランシス…」

 

「スバル…」

 

アキラは無事なスバルの姿をみると少し笑みをこぼしたような気がした。

 

「フランシス…貴様何をしている……?」

 

「もうやめて!あなたは…勘違いをしている!!」

 

フランシスはクラウドに訴えた。アキラにとっても、またクラウドの反応も予想外のものだった。

 

「なに…?」

 

「私が管理局を調べてわかったことを教える…だから!」

 

フランシスはポケットからデータが入った端末を取りだした。だがそれにクラウドは興味を示そうとはしなかった。

 

「フランシス」

 

クラウドの声色が急に変わる。重い声だ。その声にフランシスは圧倒された。

 

「私はお前になんと言った?」

 

「クラウド…待って…」

 

「管理局に潜り込み情報をこちらに流し、決戦になったら指揮系統を……地上本部の上の連中を暗殺しろと言ったはずだ!」

 

その言葉に、アキラが反応する。

 

「テメェ………こんなガキまで」

 

「フン!フランシスの姿も身体の中のDNAも!すべてあいつの能力で変化させたものだ!あいつは最初から私の道具なんだよぉ!!」

 

「クラウド!私たちのやってることは……あなたの復讐は………!間違ってる!」

 

「お願いクラウド!話を聞いて!」

 

スバルもクラウドの説得にかかる。だが、クラウドは聞く耳を持たない。

 

「うるさい!何があろうと………どんな理由があろうと!管理局は私にとって、家族の!仲間の仇だ!倒さなければならない!!もう今更!戻る道もない!!!それは!私の手下であるお前らも同じだ!」

 

クラウドの、憎しみの心は想像を上回っていた。フランシスの言葉も、スバルの言葉も届かなかった。そんな様子にアキラがふっと笑う。

 

「二人とも心配するな。何があったかは知らんが、俺がこいつを殺してこの事件は終わりだ!」

 

アキラが再び剣を構えるがクラウドが魔導書を開く。

 

「フン!ちょうどいい!裏切り者には粛清をしなければな!お前の相手はフランシスだ!」

 

「テメッ!」

 

クラウドは魔導書を使用し、発生させた魔力をフランシスに投げた。スバルがフランシスを守ろうとするが、間に合わず、フランシスは魔法をモロに受けた。

 

「あああああああああ!!」

 

「フランシス!!!」

 

フランシスの目付きが変わる。

 

「はははは!アキラ!最も大切な人と同じ顔をした者と殺しあうがいい!お前にフランシスが倒せるか!?こいつはお前たちに味方してくれてたのに敵になってしまって残念だなぁ!!」

 

クラウドは高速で飛んで行った。アキラが追いかけようとするが、フランシスがその前に立ち塞がる。

 

「………テメェ…」

 

「フランシス……」

 

「ルーラーアーマー起動」

 

完全に洗脳状態だ。変身魔法で背丈もギンガと同じになる。だが、アキラの眼には迷いはない。

 

「…今、俺の前に立つものはすべて敵だ。俺はもう……迷わない」

 

姿形はギンガとにているがアキラは容赦のない表情だ。

 

ルーラーアーマーを装備したフランシスが襲い掛かる。アキラはアクセラレイターハザードを発動し、フランシスの攻撃を回避する。そして回避とほぼ同時にフランシスの腹部に強力な蹴りを食らわした。

 

「………!!」

 

すぐにフランシスが立て直すがアキラは一気に追撃する。

 

「アキラさん…」

 

「タイプゼロセカンド…」

 

スバルの前にスカリエッティが現れた。

 

「スカリエッティ!」

 

スバルが構えるが、スカリエッティは何もしない。スバルを一瞬気にかけたが何も言わずアキラとフランシスの攻防を見ている。

 

「…」

 

「大人しく投降しなさい…」

 

「そんなことはしないが…私も、戦いはしない」

 

「どういう意味…?」

 

「まもなく世界は終わる…管理局も消えるだろう」

 

「どういう意味!?」

 

「…すぐにわかるさ」

 

スカリエッティは何か意味ありげな言葉を言い残して魔法で姿を消した。

 

「世界が終わる…?アキラさん!わたしはクラウドを追います!!」

 

アキラはフランシスの攻撃を受け止めながら返事をする。

 

「必要ねぇ。俺がさっさと追う」

 

「でも!行きます!!」

 

「勝手にしろ」

 

アキラはスバルに対し、「聞いた意味ねぇじゃねぇか」という顔をしながら見送る。

 

アキラは全力のフランシス相手にまったく苦戦はしていなかった。あらゆる攻撃を簡単に対処をした。そして、さっさとトドメに行こうとする。

 

「…っ!!」

 

フランシスは最後の手段に出る。フランシスは自分の姿、形、DNAまで変える力を持っていた。それを使ってフランシスはセシルの姿になった。

 

「アキラ…」

 

声色まで同じだ。セシルの姿で、アキラを動揺させようとしたのだ。

 

「悪ぃな」

 

だがアキラは迷いなく拳を振り上げ、フランシスを全力で殴り飛ばした。

 

「俺はもう過去を振り返らないって決めたんだ」

 

 

続く



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第二十六話 強魔

物凄い速さで書きました。ようやく終盤です。戦いが終わるのが次回(多分)。後日談でもう一話くらいです


アキラはフランシスを撃破し、拘束して適当に寝かせておいた。アキラはスカリエッティとクラウドがアジトにしていた廃ビルを見つめる。

 

(スカリエッティはずいぶん今回消極的だな…まぁ、放っておけばいいか)

 

もうほとんどのゼロナンバーズは倒され、今はクラウドだけだ。あと少しでこの事件も終結するだろう。アキラは最後の標的であるクラウドを追おうとするがその場に跪いた。

 

「ぐぅ…」

 

「無理をしすぎだ。一旦休みたまえ」

 

ウィードが背後からやってきた。

 

「さっきも言ったが、アクセラレイターハザードは危険だ。それを何度も何度も…ギンガ君を助けたら加減するんじゃなかったのかい?」

 

「あいつを殺さねぇ限り…終わりじゃねぇ…」

 

アキラはふらふらと立ち上がり再び飛んでいった。

 

ー数十分前ー

 

これはアキラがなのはを助け、トーレを倒した直後の話だ。アキラはアクセラレイターハザードの連続運用の副作用、というより肉体への尋常じゃない負荷に苦しんでいた。

 

「大丈夫かい?」

 

「あなたは…ウィード!」

 

アキラとなのはの前に現れたのはウィードだった。なのはは当然ウィードに警戒する。

 

「いいんだ…なのはさん。こいつは俺が脱獄させた」

 

「ええ!?」

 

アキラの発言になのはは驚愕する。

 

「アキラ君…自分がやったことがどういうことか、わかってるの?」

 

「俺がどうなろうと、ギンガさえ助かればいい。おい、ウィード。さっさとあれ渡せ」

 

ウィードはやれやれという感じで持っていたアタッシュケースから注射器を取り出してアキラに渡した。

 

「それは…?」

 

「気にすんな。戦うための道具だ」

 

「あまりアクセラレイターハザードを使いすぎないほうがいい。死ぬよ?君を完成させた私の身にもなってほしいね」

 

「うるせぇ……ギンガを助けたら加減してやる」

 

アキラは注射を打って少し安らいだ表情を見せた。打ったのは治療用ナノマシンと、アキラの肉体を強化する薬だ。

 

「アキラ君…」

 

アキラとウィードのやり取りを心配そうに見ていた。そんななのはにアキラは言った。

 

「なのはさん、ちゃんと償いはする。どんな罰でもうける。だから今だけは、放っておいてくれ」

 

「……」

 

アキラの言葉に懸念を抱きながらもなのはは頷いた。なのは的には、それはできない願いだった。だが、アキラに言っても聞かないだろうということはわかっていた。無理に何もしないでいるように言えば、確実に戦闘になるだろう。

 

今ここで仲間割れを起こすわけにはいかない。それに、勝てるかどうかも怪しい。

 

「…ああ、そうだなのはさん。トーレは適当に縛っておく。だから、108に向かってくれギンガがいる。あいつも強いが…念のため、人質救助って点でもあんたに行ってもらいたい。俺は…クラウドを………吹っ飛ばしに行く」

 

「…うん」

 

 

 

ー現在ー

 

 

 

アキラは飛びながらもフラフラしていた。戦闘中は気にならないが、敵と対峙してない今アキラは少し気が抜けていた。

 

(………クソッ…。駄目だ…力が…。身体がかなり限界だ…。だが………あと少しだ…あと少しであのクソ野郎を殺して…それで終わりだ…)

 

その時、アキラは全身で強力な魔力派を感じた。

 

「…っ!?」

 

これだけ疲れてボロボロな体でも、すぐに刀を構え戦闘態勢に移行してしまうくらいの強大で、禍々しい魔力。

 

「なん…だ?」

 

 

 

ー108部隊ー

 

 

 

「…ありえない…こんな…強い」

 

「なに…?」

 

 

 

ー管理局地上本部 防衛ラインー

 

 

 

「一体…なに…」

 

「嘘だろ…」

 

「え……?」

 

「なんなんだよ…」

 

歴戦の魔導士も、新人も、一般人も、口々に肌で感じた強力な魔力に対する感想を零した。本当に思ったことが無意識のうちに口に出していたのだ。

 

「…あそこか」

 

そんな中、その魔力に動じてない人物、小此木が防衛線側、つまり管理局地上本部の西側から見える海を見ていた。そこが魔力の源だと感じ取っていた。

 

 

 

ーミッドチルダ 西側海底ー

 

 

 

ミッドの海底から、封印を破り、一つの生物が瞳を開けた。その瞬間、封印されていた橋よから魔力が噴出し、海面には魔力柱が出現した。

 

「…はははは……間に合った…これで!全部終わりだ!」

 

クラウドが歓喜の声をあげる。

 

「クラウド!」

 

そこにクラウドを追いかけていたスバルが追い付いた。そして、海を見て訪ねる。

 

「クラウド…あれはなに?」

 

「クク…恐れることはない。お前達、戦闘機人…いや、私の娘は私が守ってやる……。あれは星の一つや二つ、簡単に消し飛ばす最悪の力…」

 

「そんな…」

 

「そう…黙示録の獣だ」

 

次の瞬間、魔力柱にヒビが入り、粉々に砕け散った。その中から一人の少女が現れる。

 

「おん…なの……子?」

 

見た目、15~18歳くらいだろうか。それくらいの姿で、黒をベースに赤と緑のラインで飾られた刺々しさのある服。そしてサイドテールでピンク色の髪。顔も結構美形だ。

 

とても、黙示録の獣と呼ばれるには似つかわしくない姿をしていた。

 

クラウド達とは少し離れたところにいる、アキラはその姿を確認したとき、何かのイメージが頭に流れ込んできた。いや、視界に写った。

 

「!!」

 

大急ぎで通信機を取り出し、管理局の通信に繋げ、ハッキングハンドの力で地上本部全体に通信機を繋げた。

 

「管理局地上本部の人間に伝える!!!!俺は108部隊戦闘部隊隊長アキラ・ナカジマ陸尉だ!!!すぐそこから逃げろ!!!特に、70階以上にいるならすぐに降りろ!いや転移魔法で今すぐ脱出しろ!攻撃が来るぞ!全員死にたくなきゃいますぐにげろぉ!早く!!」

 

地上本部の放送用スピーカーからアキラの声が響き渡る。本部の中では、いったい何事かとざわついていた。行方不明になったアキラから忠告。そう簡単に信じられたものではないし、そもそも地上本部はJS事件以降、事件前よりもっと強力で頑丈なバリアで守られている。攻撃が来るからと言って逃げなければならないとは考え辛かった。

 

「早く!早く!早く!逃げろ!頼む!逃げてくれ!死ぬぞ!みんな死ぬ!」

 

アキラの必死の訴えは虚しく、次の瞬間惨劇は起こった。

 

黙示録の獣の胸の前に魔力が一瞬で集束され、魔力砲が放たれた。

 

「Apollon」

 

その威力は目を見張るものだった。魔力砲が通過した場所は開けた道路の上空高くだったが、魔力砲が通過した位置の半径数十メートルが吹き飛んだ。ビルは砕け、道路は崩壊し、衝撃派や爆風は数百メートルにまで及んだ。

 

「うぁぁぁ!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

魔力砲は管理局のバリアに命中し、それをやすやすと貫通して管理局本部に命中しようとしていた。当たればいくら巨大な管理局本部でも簡単に折れるだろう。だが、その射線上に小此木が入り込んだ。

 

(防ぎきるのは無理か…なら)

 

小此木は懐から持てる限りの球を取り出し、斜めに強力なシールドを展開した。

 

シールドに命中した魔力砲は分散し、主に斜め上に逸れた。だが逸れた魔力砲でも管理局の本部を破壊するのには十分な威力を持っていた。魔力砲は、80階部分、そしてその上下数階分を融解し、貫通した。

 

融解した管理局地上本部の30階以上のタワー部分が折れ、崩壊しかける。

 

「地上本部が…」

 

「させへんで!!!」

 

はやてが瞬時にサポートに入った。氷魔法で本局を支える。

 

「ぐぅぅぅぅぅ!」

 

本局の質量はかなり強大だ。はやてはかなり無理をして支えていた。通常の建物より何十倍も大きい建物だそれを氷魔法だけで支えるのはかなりの魔力を消費し、はやての身体にも負荷がかかっていた。

 

更に分散した魔力砲は街に降り注ぎ、あらゆる場所で爆発を起こしていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

小此木はなんとか魔力砲を防ぎ切った。だが被害は尋常ではない。魔力砲が通ってきた道とその周りの街並みは焼け野原となっている。

 

「シャマル医務官!結界を奴を閉じ込める強力な結界をお願いします!!私も協力します!」

 

「はい!!」

 

シャマルは結界魔法を発動させ、かなりの範囲を黙示録の獣含め、結界に閉じ込めた。これで少なくとも建物が崩壊する恐れはない。

 

だが次の瞬間。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!」

 

女性の悲鳴のような、獣の叫び声のような、耳をつんざく叫び声を黙示録の獣が発した。その「声」で、結界が崩壊する。

 

「そんな!!」

 

「くそ!」

 

更に、黙示録の獣の胸の前で魔力が収束された。またさっきの魔力砲「Apollon」を放とうとしていた。

 

「またあれが…」

 

「…っ!」

 

刹那、黙示録の獣の背後に、アキラが現れ紅月を振った。黙示録の獣にその攻撃は回避されたが、「Apollon」の発射は免れた。

 

「…」

 

黙示録の獣は表情を変えずにスタッフの触手を出現させアキラに反撃する。

 

「おせぇよ!!アクセラレイターハザード!!」

 

アキラはアクセラレイターハザードで攻撃を仕掛ける。だが、超高速加速状態であるアキラが、触手の動きに先を越され、弾かれた。

 

「!?」

 

触手の動きが、クラウドの時より数段俊敏、そして固い。

 

「こいつ…」

 

そして瞬間で魔力を集束し、無挙動で「Apollon」をアキラに放った。アキラはアクセラレイターハザードでぎりぎり回避し、外れたApollonは空に向かって飛んでいった。

 

アキラは離れた位置で止まった。かなりの距離を取ったアキラに対し、怪しく黙示録の獣が笑う。余裕の笑みだろうか。

 

「クハハハハ!!どうだアキラナカジマ!これが世界の終焉をもたらす!黙示録の獣だ!!誰であろうと止めることなどできん!!人間でも!!戦闘機人でも!!エースオブエースだろうがなぁ!」

 

そして獣の後ろでクラウドが高らかに笑う。

 

「なんでそんなもんがいる…封印されてんじゃなかったのか」

 

「そんなもの…解いたさ。命を使った魔法…封印魔法は協力だ。なら同じもので解除してやればいい。ただそれだけのことだ」

 

アキラの表情が変わる。なにかを察したのだ。

 

「…テメェまさか」

 

「ああ。ゼロ・ナンバーズを一人犠牲にした。それでも封印を解くのに時間がかかって、さっきまで戦闘に参加できなかったがな」

 

アキラは再度刀を構える。そして、歯を食い縛った。クラウドに対する怒りの念が増したのだ。そんなアキラの気迫は普通の人間相手なら怯むくらいのものだった。

 

「やっぱテメェは生かしちゃおけねぇ…ここで俺が」

 

刹那、驚くべき事態が起きた。クラウドの腹部を一本の剣が貫通したのだ。

 

そのことにアキラはもちろん、クラウドが一番驚いていた。クラウドの血が中を舞う中、クラウドを刺して笑みをこぼしていた犯人は、黙示録の獣だった。

 

「なっ…」

 

「…」

 

黙示録の獣は剣を引き抜く。クラウドは腹部を押さえ、吐血しながらも振り向いた。

 

「貴様…なんのつもりだ……私は…黙示録の書の主だぞ………」

 

「人……ごみ…」

 

「なに…っ!」

 

獣が言葉を発した。その瞬間、クラウドが反応できない速度で黙示録の獣が左目を斬った。

 

「ぐ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

クラウドが目を押さえて苦しんでいると、黙示録の獣は触手を自身の指先から伸ばし、クラウドの切られた左目の中に侵入させた。

 

「うぐ!あぁぁぁ!!」

 

「クラウド!!」

 

クラウドを助けようとスバルが黙示録の獣に襲い掛かった。黙示録の獣は指をスバルの方に向けた。

 

黙示録の攻撃が、自分程度では跡形もなく消えるであろう攻撃が来ることをスバルは察し、死を覚悟した。走馬燈が脳裏をよぎるほどだった。

 

「アクセラレイター!オルタァァ!!」

 

即座にアキラはアクセラレイターオルタでスバルをその場から奪取した。

 

「あ……」

 

「死にてぇのか馬鹿野郎!!」

 

「ご…ごめんなさい…」

 

「さっさと逃げろ…あいつらはお前が何とかできるもんじゃない」

 

アキラが獣の方を見た。クラウドはしばらく抵抗していたが、次第に動かなくなり身体の一部がスタッフに包まれた。

 

そして左目には鎧のような義眼が装備された。クラウドには表情はない。洗脳されているようだ。

 

「私は、クラウドを助けたい!」

 

「……クソったれ。…フォローできるかわからないぞ」

 

「大丈夫…たとえ、苦しい戦いでも…私はクラウドを助けてなきゃいけないの!それがフランシスの願いだから…」

 

「あいつの復讐が間違ってるとかいうあれか…あとで俺にも聞かせろ。あいつを殺すかどうかはそれから決める」

 

「うん…」

 

「クラウドは任せた!!行くぞ!」

 

スバルはクラウドに、アキラは黙示録の獣に、それぞれ突撃した。

 

 

 

ー陸士108部隊 付近道路ー

 

 

 

救出されたギンガと108の隊士が乗った車は管理局に向かって走っていたが黙示録の獣の「Apollon」の衝撃で横転していた。横転はしたものの、瓦礫が当たっていないだけマシだった。

 

「うう…なんだったのさっきの」

 

ギンガは車から何とか仲間とともに脱出した。そして海の方を見ると、激しい戦闘が展開されているのが見えた。

 

「あれは……さっき感じた………恐ろしい魔力…戦ってるのはアキラ君…?」

 

 

 

ーミッドチルダ西側海方面ー

 

 

 

アキラはアクセラレイターハザードをずっと発動させながら黙示録の獣と戦っていた。

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

「…」

 

激しい空中戦が展開される。黙示録はアキラのアクセラレイターハザードに匹敵するスピードで飛び、剣でアキラと戦っていた。

 

ありえない速度での戦闘のため、その姿を肉眼でとらえられるものはいない。

 

「ぐぅ!!」

 

アキラは剣での鍔迫り合いに負け、吹っ飛ばされた。ビルに突っ込むもすぐに体制を立て直し、そこから離れる。アキラが離れたのとほぼ同時に魔力弾がアキラがいた場所に着弾する。魔力弾が着弾したことによる爆発は半径10メートルほどの威力だった。

 

これは黙示録の獣が指先から簡単に放った攻撃だった。

 

「しぶとい…」

 

「テメェ…しゃべれんのか?」

 

アキラはアクセラレイターハザードをいったん解除して黙示録に話しかけた。

 

「そう……」

 

「なんでクラウドにあんなことした?テメェの主はあいつじゃねぇのか」

 

「あれ…私たちのおもちゃ……?ううん、利用してただけ。あれは、人間は、私の…私たちの主に足り得ない。だから、意見はいらない。指示にも……従う気はない………ただの、魔力のリソース元」

 

「なに?」

 

「あなたも邪魔……」

 

黙示録の獣はスタッフで出来た剣を構えた。アキラは注射器を取り出し、注射を打った。

 

(最後の…ナノマシン…)

 

「…アクセラレイター!!ハザード!!!!」

 

アキラはアクセラレイターハザードを発動させた。

 

「……?」

 

「てめぇ…気に入らねぇな。管理局本部の人間なんか、何人死んでも俺にとっちゃどうでもいい。けど、テメェを生かしておく訳にもいかねぇ!!これはテメェを倒すまで解除しねぇ!!!!」

 

「抹殺」

 

再び激しい攻防が開始された。

 

 

続く



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第二十七話 守護

すごい。俺こんなに書けるんだと思いました。もうすぐ終わりますが、あと2話くらい続くと思います。お楽しみに


ースバルVSクラウドー

 

 

 

スバルとクラウドの戦闘はスバルの受け身な戦闘が続いていた。

 

「クラウド!しっかりして!!眼を覚まして!!」

 

「……」

 

クラウドの返事はない。

 

スバルはクラウドが繰り出してくる触手をいなしながら必死にクラウドに呼びかける。だが、その行為は何の意味もなさなかった。

 

(こうなったら…魔力ダメージでノックアウトするしかない…)

 

スバルが覚悟を決めるがその決意の瞬間の隙をつかれ、クラウドの触手に当たってしまった。

 

「うッ……」

 

スバルはウィングロードから落とされる。そこにクラウドは一気に追撃に出た。とどめを刺そうと先端が刃になった触手を大量に出現させ、それをスバルに襲わせる。

 

スバルはすぐに新しいウィングロードをは発生させて触手を回避した。そしてウィングロード上でドリフトを決め、クラウドに突進する。

 

「…」

 

クラウドはスタッフで作った剣を振った。それと同時に三日月形の魔力派が飛んだ。スバルは高密度のバリアを張って魔力派を防いだ。スバルはそのままノンストップでクラウドに突進し、拳の先に魔力を集束した。

 

「ディバインバスター!!!!」

 

スバルは拳からディバインバスターを発射した。だがそれはクラウドの剣に弾かれる。

 

「でぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

更にスバルは追撃に蹴りを繰り出した。だがその足をスタッフの触手に絡めとられ、さらに別の触手に右足の太ももを貫かれて投げ飛ばされた。空中で回避行動がとれなくなった時、クラウドが触手をスバルに向けて飛ばした。

 

「しまっ……」

 

刹那、スバルの前に誰かが現れ触手を弾いた。

 

「!」

 

スバルの窮地を救ったのは、オトナモードになったノーリだった。ツインブレイズで触手を薙ぎ払ったのだ。ノーリの身体には所どころに包帯巻かれている。

 

「ノーリ君!?」

 

「油断すんなバカ!」

 

「あ、あなた…そんな身体で…」

 

「悪いが、こんな状況で黙って寝てられるほど肝が据わってなくてな!それにお前は攻撃する気概がないなら黙ってみてろ!!」

 

ノーリに言われスバルはハッとする。さっき確かに覚悟は決めたが、本当に攻撃する気はあったかといわれるとそうでもないかもしれない。

 

中途半端な覚悟では、この状況に立っている資格はない。

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

ノーリはボロボロの身体に鞭を打ってクラウドに立ち向かう。

 

「…」

 

クラウドは黙ったまま魔力を行使し、魔力弾を数百発放った。ノーリは大量の魔力弾を完全回避し、クラウドに急接近する。性能が下がったとはいえかつてアキラを圧倒した強さは健在だった。

 

「だらぁ!」

 

「…」

 

クラウドもスタッフの剣で対抗する。

 

 

 

ー防衛ライン付近ー

 

 

 

防衛ライン付近のビルの屋上にいたディエチは、先程のApollonの衝撃波でビルが倒壊し、地面に投げ出されていた。

 

「うう…」

 

目を覚まし、起き上がる。

 

「なんだったの…?さっきの……」

 

Apollonが発射されてから衝撃波で街を吹き飛ばすまで5秒もなかった。ほとんど何が起きたのか理解できてなかったのだ。

 

そこにアキラから通信が入る。

 

(ディエチ!生きてるか!ディエチ!)

 

(アキラ…?うん。大丈夫!)

 

(今俺は西側の海岸付近で戦ってる!例のあれで敵を狙撃できるか!?敵は人の形をしてるだけの化け物だ!殺して問題ない!)

 

アキラから念話を受け、ディエチは近くの大型トラックに駆け寄る。トラックは横転していたが中の荷物は無事だった。

 

中にから取り出されたのは巨大な砲台いや、巨大な銃だ。

 

「ロングバスターカノン、起動」

 

ディエチはロングバスターカノンに装備されているスコープで遠く離れた戦闘中の現場を見た。アキラと黙示録の獣はともに肉眼ではとらえられないスピードで戦っている。だがそのスコープは音速に及ぶレベルのスピードの二人を捕らえている。

 

「よしっ!これなら…!!ISヘヴィバレル!!」

 

ディエチのIS、ヘヴィバレルでチャージを開始する。そしてロングバスターカノンの性能で普段使っているカノンでは出せない出力と射程距離を生み出す。

 

「………」

 

 

 

ーミッドチルダ西側海岸付近ー

 

 

 

「おぁぁぁぁ!!」

 

アキラは変わらずアクセラレイターハザードを連続運用しながら黙示録の獣と戦う。全身に走る激痛にアキラは耐えながら戦うも、若干アキラは劣勢だった。しかし、それは問題ではない。今はとにかくディエチの狙撃地点に誘導することが目的だ。

 

「フロストショット!」

 

牽制技を打ち込むも当然避けられる。アキラは後退しながらうまく誘導していく。

 

「滅殺」

 

獣の剣撃をアキラは紅月で防ぎつつうまく誘導しきった。

 

(アキラさん!今!)

 

「…っ!!」

 

アキラは黙示録の獣が繰り出してきた剣を自ら受ける。

 

「…?」

 

「掴まえたぜ………アイシクル!!」

 

何かを察した獣は「Apollon」をアキラに撃とうとしたが、アキラは黙示録の獣にゼロ距離で氷結魔法を当てた。

 

「!」

 

アキラの左手から放たれた氷結魔法は黙示録の獣を一気に氷付かせた。だが黙示録の獣には氷結魔法はほとんど効かない。すぐに解除されるだろう。

 

(一瞬で良い!隙を作れれば!!)

 

アキラはすぐさま離れる。

 

(いまだ!!ディエチ!!)

 

氷を解除する一瞬、出来た隙にディエチが最大出力の一撃を打ち込んだ。

 

(当たって…)

 

ディエチは願った。

 

だがその一撃は、黙示録の獣の頬を掠めて終わった。

 

(外し……)

 

攻撃が自身の頬を掠めたことを確認すると、黙示録の獣は攻撃が来た方向を向いた。そしてかなりの距離があるのにも関わらず、ディエチを確認した。

 

「…!」

 

その瞬間、ノーリと戦っていたクラウドが突然苦しみだした。

 

「うぐッ!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「!?」

 

「なに!?」

 

クラウドの胸が光り、魔力が右手に持っている黙示録の書に吸収されていった。無理な魔力吸収が行われたため、クラウドはその激痛にもがき苦しんでいるのだ。

 

そしてその吸収された魔力の行先は、黙示録の獣だ。黙示録の獣はディエチの方角に向けて両手を構えた。

 

アキラはアクセラレイターハザードのスピードで妨害しに行くが、周りから巨大なスタッフの触手が現れ、アキラの攻撃を妨害した。

 

アキラは妨害攻撃をすぐさま諦め、ディエチに向かって叫んだ。

 

「逃げろディエチィィィィィィィィィ!!!!」

 

「Hephaistos」

 

刹那、ディエチがいた方向の街が吹き飛んだ。

 

「ディ…うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ディエチはロングバスターカノンごと吹き飛び、更にディエチの後方にあった管理局本局の横にあるタワーが溶解し、消し飛んだ。

 

「ああ…」

 

さっきのApollonの倍以上はある威力だった。ディエチが逃げることも防ぐことも無理だろう。

 

「……」

 

「消滅」

 

「…………俺の…せいか……」

 

 

 

アキラは強く、強く歯軋りをした。その胸に秘めた、怒りと憎しみの熱が身体から魔力のオーラとして溢れる。もう、会えない。死に顔すら見れないディエチの顔が脳裏に浮かぶ。

 

それだけじゃない。さっきの砲撃によって消し飛んだタワーの中の管理局員達。

 

仲間一人、妻一人守れない自身の不甲斐なさ。そして敵に対する怒りが頂点に達し、アキラは封じられていた最終兵器を発動させた。

 

 

「くぅぅ…ヴォワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!アクセラレイタァァァァ!マックスハザードォォォォォォォォォ!!!」

 

アクセラレイターハザードだけでもかなりの負荷がアキラを襲う。それよりもさらに上。ただの人間が使えば負荷のダメージだけで肉塊に変わるであろうモードだ。

 

だが、速度もパワーも格段に上がる。

 

次の瞬間にはアキラの拳は黙示録の獣の腹部に刺さっていた。

 

「!」

 

「ぬぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そのまま拳を振り切り、黙示録の獣を高速でビルに殴り飛ばした。

 

初めてまともにダメージが入った。黙示録の獣は3件ほどビルを突き抜けていく。飛んでいる最中だが、そこに横からアキラの足が黙示録の獣の横腹に命中し、さらに飛んでいく。

 

アキラは止まらない。反撃の猶予を与えないように動けるだけ動き、攻撃を仕掛ける。

 

もちろん、黙示録の獣も反応し反撃しようとするが間に合わない。黙示録の獣が操る高速の触手も、剣も、集束砲も。

 

そして、3、4、と続き5撃目が入り、黙示録の獣は道路に叩きつけられた。アキラは黙示録の上空に移動し、ヴァリアントシステムで強化されたマイティギャリバーのカノンを構える。

 

「出力最大!ヴァリアントバスタァァァァァァァァァァァァ!」

 

アキラが先に砲撃を放ったが、黙示録の獣がApollonをヴァリアントバスターに向けて放つ。Apollonはヴァリアントバスターを貫き、かき消した。

 

しかしその先にアキラはいない。アキラはApollonが撃たれた瞬間、黙示録の獣の横直線上に移動していた。

 

「くたばれぇぇぇ!」

 

黙示録の獣がアキラに気づき、触手による攻撃を仕掛けてきたがアキラはすべて避けた。

 

そして見事なまでの胴切りを決めたが、手応えはない。

 

「…!」

 

アキラがすぐ振り向くと、黙示録の獣の胴体は確かに真っ二つになっている。しかし、再生していく。

 

「テメェもスタッフで出来てやがんのか…」

 

そう、黙示録の獣はかつてのウィード同様、肉体が全てスタッフで出来ているのだ。

 

ほとんど流動体のようなその肉体に正直ダメージがあるかはわからない。さっきの連撃も効いているか怪しいところだ。

 

「だったら魔力砲で跡形もなく…!」

 

その時、アキラは急に動きを停止し、持っていた紅月を落とした。

 

「…?」

 

「…」

 

アキラの足元に血が垂れた。アキラの口から流れている。さらに耳、鼻、目と次々と血が流れてくる。

 

そして口から大量に吐血し、全身から血を吹き出して倒れた。

 

アクラレイターハザードの連続運用、そしてアクラレイターマックスハザードによってアキラの肉体は完全なる限界を迎え、倒れた。

 

「ゴボァ…」

 

アキラは自身が吐いた血溜まりに倒れた。

 

「…」

 

アキラが倒れた地面からスタッフの触手がアスファルトを砕き、伸びてきた。そしてアキラの体を貫き、持ち上げた。

 

そのままアキラを投げ飛ばし、太く、長い触手でアキラを叩き飛ばした。

 

アキラからは苦しみの声も聞こえない。

 

黙示録の獣は指から魔力弾を放ち、アキラに当てた。魔力弾は巨大な爆発を起こし、アキラはさらに吹っ飛んでいった。

 

もうバリアジャケットも消滅し無防備なアキラが地面に叩きつけられそうになった時、誰かがアキラをキャッチした。

 

「アキラ君!」

 

全身から血を流すアキラを見てギンガは顔を真っ青にする。

 

「アキラ君…その傷…」

 

ギンガは地面に一旦降り、アキラの様子を見る。

 

「…」

 

「ひどい傷……アキラ君…あれはいったいなんなの…」

 

ギンガは遠く離れているはずの敵に恐れを感じていた。

 

実質、一番の戦力だったアキラが倒れた今、もう黙示録の獣に勝てる可能性はなくなったも同然だった。主戦力は全員ゼロナンバーズとの戦闘でかなり消耗している。全員が集まり、黙示録に立ち向かったとしても倒せるかどうかわからない。

 

「おい…なんだったんだ今の爆発…」

 

「外ではなにが起きてるの…?」

 

ギンガ達の後方で声がした。ギンガが振り向くがそこには誰もいない。

 

「…?」

 

いや、よく見ると地面に穴が空いている。その穴の中に人がいた。一般人だ。

 

「ここはもしかして…」

 

黙示録の獣がディエチを消すために放ったHephaistosはその威力と火力で地面を抉った。その際、一般人が避難していたシェルターの天井部分を一部削ったのだ。

 

しかも本局が大打撃を受けている今、シェルターの電源は落ち、外に出ることすら叶わない状態だった。

 

そんなとき。

 

「生命反応多数検知……滅殺」

 

黙示録の獣がそれに気づき、人々を消滅させようとHephaistosを撃つため、クラウドから再度魔力を搾取し始める。

 

さっきのやつが来る。ギンガはそれを悟ったが、逃げようとはしなかった。

 

「…ごめんなさい。アキラ君。助けに来てくれて嬉しかったよ……ありがとう。愛してるよ」

 

ギンガはアキラにキスをして力の限りアキラを遠くに投げ飛ばした。

 

「全員!死にたくなかったから部屋の隅へ!!私が守れるだけ守ります!」

 

ギンガはシェルターの穴の前に立った。

 

「イージスシールド!トライアルシールド!ツインガード最大出力!!」

 

ギンガは二枚のシールドを最大出力で構え、Hephaistosに構える。

 

「Hephaistos」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

…俺は何をやってるんだよ……

 

 

 

 

 

守るんじゃねぇのかよ………

 

 

 

 

 

そのための力じゃねぇのかよ……

 

 

 

なんで身体が動かねぇんだ…

 

 

なんでギンガに無理させてるんだ……

 

 

ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!

 

ここで終わってたまるかよ!!

 

なんのために全てを失う覚悟でここまで来たんだ!

 

まだ……………………終われねぇ!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「アクセラレイタァァァァァァァァァァァ!」

 

アキラの叫びと共に黙示録の獣の足元に落ちていた紅月がひとりでに動きだし、アキラの手元に飛んできた。

 

アキラは全身からの出血と肉を引き裂かれ、ミンチにされるような痛みに耐えながら最後のアクラレイターを発動した。アクラレイターハザードのような性能は出せないが、もうアキラにつかえるのはこれしかない。

 

アキラはアクラレイターの出せる最大のスピードでHephaistosの射線上、つまりギンガの前にとんだ。

 

「アキラ君!?」

 

「アァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

全てを飲み込み、迫ってくるHephaistosに対し、アキラは紅月を構えて突っ込んだ。当然アキラ一人で防ぎきれる攻撃ではない。

 

だが、アキラの紅月の切先にHephaistosが接触した瞬間、アキラの紅月から光のオーラが発生し、Hephaistosが止まった。

 

「!?」

 

オーラはどんどん大きくなり、紅月から結晶が発生した。結晶はアキラの腕に絡みついていき、更に結晶から電子回路のような形の結晶がオーラ内に大きく広がっていった。

 

(護り……たいんだ!!!!)

 

アキラは強く、強く、願った。

 

アキラの身体から出ているアクセラレイターの光が小さくなっていく。アクセラレイターが終われば、アキラは確実に落ちる。もう立ち上がることはおろか、死んでしまう可能性もあるだろう。

 

だが、アキラはあきらめない。最後まで立ち向かった。

 

オーラはさらに大きくなっていく。結晶がさらに広がり枝分かれしていく。結晶の塊となった紅月がHephaistosを吸収しているようだった。

 

「………光…なに」

 

黙示録の獣もそれに驚いていた。ギンガも、ギンガが守ろうとした人々も。Hephaistosは完全に紅月に消滅させられた。

 

それと同時に光のオーラはアキラの胸の中に吸収されていく。そして回路状の結晶が砕け散った。アキラの腕に纏わりついていた結晶も砕け、刀身の部分が変化した結晶も一部砕けて元の紅月に戻った。

 

「…俺は……」

 

 

 

 

続く



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第二十八話 銀河

間に合わなかったーーーー!!!すいません!平成中に終わりませんでしたァァァァァァァァァァァァ!!!

えー、宣伝です。5月6日に「とあるギンガのPartiality Vivid」を投稿開始します黙示録事件はその前に終わらせます。


アキラは黙示録の獣が放った魔力砲を防ぎ、巨大な光のオーラと結晶の回路を発現した。オーラが放った衝撃波で曇り空の雲に穴が空き、光が指していた。その光を浴びているのはアキラだった。

 

「…」

 

「…」

 

アキラのアクセラレイターはとっくに限界を迎え、アキラ自身の魔力も底をついている。普通だったらもう浮遊していることもできない筈だ。

 

なのにアキラは空にとどまっていた。

 

「アキラ君…?」

 

アキラに意識があるようには見えない。まるで吊り下げられているような姿勢で浮いている。

 

しかしだんだんとアキラを吊り下げているものが具現化されていく。空から差し込む光が歪み、捻られながらアキラの背中に集まっていく。

 

それはまるで、天まで届く光の…

 

「翼…」

 

背中から伸びる光の翼がよりはっきりと見えるようになった頃、アキラの全身の傷は癒え、血も消滅した。

 

「…」

 

そこでようやく、アキラが目を開き、黙示録の獣がいる方向を見た。

 

「…アキラ・ナカジマの魔力、上昇中」

 

黙示録は冷静にアキラの分析をしている。上昇する魔力と共に、アキラの頭上に魔力が集合し、天使の輪のようなものが出現した。

 

「Apollon」

 

危険を察知したのか、解析が終わったのか、黙示録の獣はApollonをアキラに向けて放った。相変わらず常識はずれの魔力集束時間で強力な魔力砲が発射された。

 

「スヴェル」

 

アキラは片手を飛んでくる魔力砲の砲に向け、シールドを張った。

 

「!」

 

Apollonを防いだスヴェルというシールドは凄まじい衝撃は起こすものの、その熱量をシールドの後ろに通すことはなかった。

 

「……」

 

黙示録の獣は少し様子を見ると、Apollonを止めた。

 

「破壊効果確認できず。威力を上げます」

 

再びクラウドから魔力を搾り取ろうとしたとき、黙示録の右肩が飛んだ。黙示録の獣の表情が動いた。見えないほどの速度で攻撃されたことに驚き、アキラを見た。アキラの周りにはいくつかの魔力弾が浮いている。それを飛ばしたのだ。

 

黙示録の獣は腕を再生させた。

 

「………魔力砲撃による消滅を中止。近接、及び小型砲撃による殲滅に移行」

 

黙示録の獣は剣を構えてアキラに向かっていった。アキラはそんな黙示録の獣に対し、両手を合わせて魔力で槍を精製し、対応に出る。

 

そんな様子を、ギンガは未だに驚いた表情で見ていた。

 

「アキラ君…いったい何が起きて…」

 

ギンガもいったい何が起きているのか理解できていない。さっき砲撃を防いだ時何が起きたのかも。そんな時、瓦礫の山の方から高笑いが聞こえてくる。

 

「はははははははは!!!やったやった!僕の力で完成させた!!美しい…」

 

笑っているのはウィードだった。ギンガはその様子を見て表情を一気に変え、ウィードの元に駆け付けた。

 

「ウィード!どうしてあなたが!!」

 

「ん?ああ。君か」

 

「なんで……いや!それより!まさかアキラ君があんなことになったのは…」

 

ギンガは言葉が纏まる前にどんどんウィードを質問攻めにする。

 

「質問は答えられる範囲でしてくれたまえ。まぁ脱獄しているのは話すと長くなる。端的に言えばここにいるのはアキラ君が手引きをしてくれた。そして、彼に頼まれて彼を改造した」

 

「アキラ君が…?」

 

ギンガは信じられないという表情をして上空で戦っているアキラを見る。

 

「そしてアキラ君が今至っている状況……それは僕が彼の身体に「念のため」仕込んだロストロギアが意図せず覚醒したんだ」

 

「覚醒……」

 

アキラの今の姿はまるで、天使のようなビジュアルだ。アキラ自身が持っている力ではないとわかっていたがロストロギアとは思わなかった。ウィードはその姿を見てニッと笑う。

 

「今の彼は、一時的に人間という一つの枠を逸脱している……僕の手で神に近しい存在を作ったんだ。科学者としてこんなにうれしいことはない…」

 

「あなた…」

 

「彼の改造は彼自身が望んだことだ。君を助け、クラウドを倒すために」

 

ギンガはそれを聞いてばつが悪そうな表情を浮かべた。

 

「アキラ君……」

 

そんなアキラは黙示録の獣相手に互角かそれ以上の戦闘を繰り広げていた。先ほどまでのアクセラレイターハザード状態ではパワーとスピードは互角だったがアキラに常に激痛を伴い、集中できず黙示録の獣に押されていた。

 

だが、今の状態は違う。スピード、パワーはもちろん、Apollonに対抗できるシールドやHephaistosに匹敵する攻撃法を持っていた。

 

しかし、そのアキラの攻撃は強力すぎる。攻撃の度に街の破壊が広がっていった。黙示録の獣はスタッフで肉体が創られている。攻撃が当たってもすぐに再生される。

 

「…」

 

黙示録の獣はApollonほどではないが強力な魔力砲を自身の周りに飛ばした魔力弾から発射した。

 

アキラも似たような技で対抗する。魔力砲同士がぶつかり合い、巨大な魔力波が発生し、近くの瓦礫は次々に飛ぶ。

 

「…」

 

黙示録の獣は魔力砲の攻撃をやめ、スタッフを大量に出現させる。スタッフを包丁くらいの大きさの刃に変え、同じものを量産する。

 

「乱数展開」

 

刃は数えるのがバカらしくなるになるくらいの数展開される。

 

「射出」

 

天を覆う刃の軍団がアキラを襲う。だがアキラは、あせることもなく背中の翼を動かした。光の翼は触手のように動き回り、次々と刃を撃ち落としていく。

 

「…」

 

続いて黙示録の獣は高層ビルほどの大きさの刃をスタッフで作りだしてアキラに投げた。アキラはさっきのシールドを展開し、刃を受け止めた。

 

そして背中の翼を使って刃を粉々に打ち砕いた。

 

「…」

 

黙示録の獣の顔には明らかに焦りが見えていた。自身が持ちうる火力が通じていないのだから当然だ。その隙をアキラが狙った。

 

「ホーリーラグナログ」

 

アキラは魔力の槍を常人では反応できない速度で投げた。黙示録はなんとか避けた。

 

槍は黙示録の獣の遥か後方に落ちた。そして着弾した瞬間に巨大な爆発が起きた。

 

「!!」

 

「な…っ!!」

 

爆風が辺りの瓦礫を吹き飛ばす。その威力に付近にいた誰もが驚く。黙示録の獣が放ったApollonやHephaistosの火力を一点に集中させた威力だといっても過言ではなかった。

 

黙示録の獣はその様子を見ると急に表情を険しくした。

 

「脅威判定変更。抹殺優先度を最優先に変更。排除を開始」

 

黙示録の獣は触手を自身の周りに展開し、アキラに突っ込む。アキラも魔力の槍を再度作り出して黙示録の獣に立ち向かう。

 

「…何なの今の……」

 

ギンガはアキラが放ったホーリーラグナログの火力に驚いていた。

 

「言っただろう。人間を逸脱していると」

 

ギンガは恐れを抱いていた。強力過ぎるその力に。なにより、普段は聞こえるアキラの声が聞こえない。戦闘中でも基本的に冷静なアキラだが、それでも声は出す。敵が簡単に対処できなければなおさらだ。

 

そして、オーラも違う。今のアキラを見ていて感じるのは、機械的で冷たいオーラだ。いつものアキラの暖かくて優しいオーラは感じない。

 

今のアキラは、アキラではない。そう断言できた。それはギンガだからこそ言えることだった。

 

「でも、どうしよう…またあの槍が放たれたら被害が……。でも黙示録の破壊を止めるには今のアキラ君の力が必要なのに…」

 

ギンガが二律背反に悩んでいたその時、念話でノーリが話しかけてきた。

 

(安心しろ)

 

「…え?」

 

 

 

ーノーリVSクラウドー

 

 

 

ノーリは未だに戦闘を続けている。結構強く打ち込んでいるのにクラウドも元々強い。意識が奪われているとはいえ、かなりの戦力として動いていた。

 

「しっかりしろよ!クラウド!!いいように操られて!!魔力タンクにされて!これがお前の望んだことかよ!!」

 

「…うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

クラウドが触手を大量に飛ばしてきた。ノーリはシールドを張るが、範囲が足りず、所々斬られていく。

 

ノーリの生身にスタッフが触れた瞬間、スタッフに乗ったクラウドの思いがノーリの頭の中に流れ込んできた。

 

(くたばれ!消えろこんな世界!家族の仇だ!)

 

クラウドの声が聞こえてきた。クラウドの憎悪の心がスタッフの中にある負の感情とシンクロし、どんどん大きくなっているのだ。

 

そしてその感情は、新たにスタッフを生み出す糧となる。

 

「クラウド…」

 

だが、その負の感情の奥から違う感情が見えてきた。

 

(壊してやる全部!!私が!……私が……なんで私がこんなことを……お母さん…お父さん)

 

(そうか…クラウド……お前の心の…憎悪の奥底にある本当の心は…)

 

 

(助けて…)

 

 

ノーリは腹を括る。相手が憎い存在であれ、生け捕りが命令ならノーリはそれに従う。それに、クラウドの心の奥を見てしまった。本人でさえ気づいていない本当の心の奥底を。

 

だから助けると、助けたいと思った。

 

自身の身を犠牲にしてでも。

 

(どうせあの時尽きるはずだった命だ。使えるときに使ってやる!)

 

ノーリは急に表情を険しくした。

 

「おぉぉぉぉぉ!!!ぶっ殺してやらぁぁぁぁぁ!!!」

 

そしていきなり憎悪マックスでクラウドに突っ込んでいった。その手には管理局の証拠管理室からこっそり入手しておいたジーンリンカーコアが握られていた。

 

「!!」

 

クラウドのまばらな破壊攻撃が急にノーリに集中した。

 

「ぐぉぉぉぉ!!!」

 

(思った通りだ!!クラウドの魔力と憎悪も大したものだ!だが、それ以上の大物に食いつくはずだと思ったぜ!!)

 

ノーリはそのまま一気にクラウドに急接近し、魔導書に触れた。

 

「だらぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ノーリはクラウドの腕に絡まっていたスタッフを切り落とし、黙示録の書を奪い取った。

 

「眠ってろ!!」

 

ノーリはクラウドの胸にジーンリンカーコアをあててリンクさせた。ジーンリンカーコアとリンカーコアがリンクされ、クラウドの魔力がオーバーフローし気絶した。

 

スバルは動けないでいた。先ほどノーリに助けられる直前に足をやられていたのだ。だが、空から落ちたクラウドは、スバルにキャッチされた。動かせない足を必死に動かし、なんとかクラウドを助けたのだ。

 

「くぅぅ…」

 

そしてノーリは黙示録の本を抱えた。すると、黙示録の書の中からスタッフが発生し、ノーリを次の魔力タンクとして取り込もうとする。

 

「ぐ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!くそ!負けるかよ!」

 

ノーリは必死に抗いながらジーンリンカーコアを使って黙示録の書を抑え込んだ。

 

その行為が及ぼした影響は、黙示録の獣に出た。

 

「……!」

 

黙示録の獣は動きが鈍くなる。その隙を狙われアキラに真っ二つにされるが再び再生した。ノーリはその様子を見て、ノーリは必死に取り込まれないように抵抗しながら黙示録の書の構造を調べた。

 

(そういうことか…っ!)

 

「アキラぁ!!!!」

 

ノーリは必死に叫んだ。その声にアキラは反応し、ノーリの方を見る。

 

「そいつの身体の中には!黙示録の書のページの1ページが入ってる!その紙が本体だ!!!!俺がそいつを!!いや、体を精製しているスタッフを抑える!!だからお前は!黙示録の獣をやれぇ!!!」

 

「…」

 

「がぁぁぁぁぁ!!!」

 

ノーリは必死に黙示録の書の魔力を抑え込む。

 

「…!」

 

黙示録の獣の動きが再び鈍くなる。

 

「あぁぁぁ!!」

 

アキラは魔力の槍を黙示録の獣に向かって振った。槍から繰り出された斬撃が黙示録の獣の肉体を形成していたスタッフをほぼ消し飛ばした。

 

すると、その中から黙示録の書のページが姿を見せた。

 

アキラは魔力の槍をそのまま投げる。槍は1ページに刺さった。しかし、スタッフが再集結して元の少女の姿を模った。

 

「……っ!本体に損傷を確認…」

 

黙示録の獣はノーリの方を睨みつけ、目を赤く光らせた。

 

「!」

 

ノーリは何とか抵抗できた黙示録の侵攻を一気に防げなくなった。黙示録の獣が黙示録の書の力を増大させ、ノーリを一気に支配したのだ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ノーリは黙示録の書に支配され、クラウドと同じ様に傀儡となった。そして気絶しているクラウドが襲い掛かろうとした。クラウドを保護しているスバルは動けない。絶体絶命だった。

 

一方、アキラは再び槍を精製し、槍を投げようとした。ホーリーラグナログを放とうとしていたのだ。

 

「まずい!また!」

 

ホーリーラグナログを打たせまいとノーリが頑張った面もある。このまま撃たせては、その意味がなくなってしまう。

 

 

 

二つの現場に二つの危機が迫っていた。そんな中、二つの希望がその現場を救った。

 

スバルに迫るノーリの攻撃を、誰かが防いだ。

 

更にアキラの背中にある光の翼を、誰かが切り落とした。

 

「なのはさん!」

 

ノーリ達の前に現れたのはなのはだった。

 

「スバル!無事!?」

 

 

一方、アキラの翼を切り落としたのは、謎の女性だった。だが翼が切り落とされたことにより、アキラの頭の上の天使の輪は消滅し、地面に向かって落ちてった。

 

「アキラ君!!」

 

ギンガが慌ててキャッチに行った。

 

「っと危ない…今の、誰…?」

 

アキラは気を失っていた。ギンガはアキラの翼を斬った人物を探して辺りを探すが、誰もいない。その時、アキラの攻撃が中断されたことによって黙示録の獣がスタッフで刃を精製し、落ちていったアキラに向けた。

 

「しまっ!」

 

ギンガはアキラを抱えたまま自身を盾にするように背中を黙示録の獣に向けた。

 

「…」

 

だが、黙示録の獣の攻撃はいつまでたっても当たらない。

 

ギンガが恐る恐る振り返ってみると、アキラの翼を斬った女性が黙示録の獣の放った刃を指二本で受け止めていた。

 

「戦闘中に敵に背を向けるのはいただけないな。だが、愛するものを守ろうとするその姿勢は素晴らしいな」

 

その女性は、フィフスたちを瞬殺した、カエデと名乗る女性だった。

 

「…あなたは?」

 

「名乗るほどのものではない」

 

カエデはその場に留まって、黙示録の獣に威嚇をする。

 

突然起きた事態に対処しきれずギンガが戸惑っていると、アキラが目を覚ます。

 

「ぐ……」

 

「ア、アキラ君!大丈夫!?」

 

「ああ……あいつは…?」

 

どうやらアキラはさっきの状態の間の記憶がない様子だった。ギンガは上空にいる黙示録の獣を見た。黙示録の獣は腹部を押さえながらカエデを警戒している。

 

「まだ…いる…でも、かなりダメージは負ってる…」

 

「…くそ……まだ仕留め切れてねぇのか…」

 

アキラの身体は怪我は治っているものの身体は動かない様だった。

 

「まだ次の手は決まらないのか?早くしたまえ」

 

「そんな…アキラ君はこんな状況で、私だってあの化け物にかてるかどうか…」

 

「簡単にあきらめるな。やれるだけやってみろ。私としてもあまり人前に出れる人間でなくてね。時間稼ぎはしてやるから、お前たちが何とかしろ」

 

そういうと、カエデは黙示録の獣の前に飛んでいった。

 

「でも…もうあんなのに対抗できる力…」

 

ギンガが困っていると、ウィードがギンガの肩に手を置いた。

 

「君がいる」

 

「え…?」

 

「てめぇ…ギンガにそんなこと…させられるわけ…」

 

アキラが反論するも、ウィードはあきれて首を振る。

 

「やれやれ、今ここで奴を倒さなきゃ君たちも無事に帰れないよ?管理局は壊滅状態だし、ゼロナンバーズとの戦闘で主戦力は使い物にならない。だったら今一番ベストコンディションな彼女に頼むしかないだろう?君の攻撃で黙示録の獣は本体のページにダメージを追って、あの強力な魔力砲は放てない様だ。攻めるなら今だ。このタイミングを逃せば、すぐに回復してしまうだろう」

 

「ギンガを危険な目には合わせられねぇ…」

 

「だったら、君が一緒に行けばいい」

 

ウィードはアキラの左手を握った。

 

「なに?」

 

「君の意識とヴァリアントシステムが組み込まれたマイティギャリバー。それを彼女のブリッツギャリバーに組み込むんだ。今の君ならできるだろう」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「おっと、あぶない」

 

黙示録の獣の攻撃を、カエデは綺麗に避けた。あくまで時間稼ぎの為に戦っているため、わざわざ反撃する必要もなく、逃げに徹していた。

 

今の黙示録にできるのは、スタッフによるクラフト攻撃とApollonやHephaistosより火力が大きく劣る魔力砲による攻撃だが、敵としては厄介だった。

 

カエデが攻撃を避け続けてると、アキラたちが着た場所から大きな光が発生した。

 

「…あれは……もう、時間稼ぎはよさそうだな」

 

カエデがその場所を見ると少し微笑んで、黙示録の獣の前から消える。

 

「…?………!」

 

カエデが消えたことに黙示録の獣が驚いていると、突然、黙示録の獣の右頬に拳がめり込んだ。そしてそのまま殴り飛ばされた。

 

「!!!」

 

黙示録の獣は壁に激突するも、すぐに体勢を立て直して自身を殴った相手を見る。

 

「………もう、誰も傷つけさせない…行こう、アキラ君」

 

 

 

続く

 

 



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黙示録事件編最終回 第二十九話 終幕

完結しました。初投稿時(2017年3月)には年内に終わらす予定が早2年。削った部分や変更した部分、時間がなくて文が纏まらずにちゃんと文章にならずそれでも投稿したりしたのもいい思い出です。次回からはしばらく、過去編等やっていきますVivid編は別枠で投稿していきます。あとでURL張っておきます。お楽しみに!


Vivid始まりました。→ https://syosetu.org/novel/190683/


黙示録の獣の前に現れたギンガのバリアジャケットには所々黒いアーマーが追加され、全身には紫のラインが追加されていた。

 

さらに、顔にスカウターのようなものがついている。

 

「敵性反応感知……本体の損傷具合を考慮し、ここは一時撤退する」

 

黙示録の獣は、現状は不利だと判断したのか、ギンガを相手にせず、撤退しようとした。

 

「ウィングローラー…起動。start our mission」

 

ギンガの足に装備されているローラーに青い炎のような魔力が発生した。

 

「すぅ………アクセラレイタァァァァァァァ!!」

 

ギンガはアクセラレイターを発動し、瞬時に黙示録の獣の前に現れる。

 

「!」

 

「絶・虎牙」

 

突然の攻撃に、システムにダメージがある黙示録の獣は反応が少し遅れた。

 

ギンガの拳は黙示録の獣の腹部に命中し、黙示録の獣はそのまま殴り飛ばされる。だが、殴られた直後、スタッフで刃をギンガの背後に生成し、ギンガの背中目掛けて飛ばした。

 

『ギンガ、後ろだ』

 

突然、アキラの声がした。その声を聞くと、ギンガは後ろ回し蹴りで迫ってきた刃を打ち砕いた。

 

「ありがとう。アキラ君」

 

『気にすんな。行くぞ』

 

声はギンガが頭に着けているスカウターからだった。今、アキラは自身の意識をデバイスの中に移動させていた。

 

「じゃあ、いこうか。アクセル!」

 

ギンガはさらに加速し、黙示録の獣に突撃する。黙示録の獣は瓦礫に倒れ込みながらも触手を突撃してくるギンガに向けて放った。

 

ギンガは華麗なステップで触手を避け、黙示録の獣の懐に入り込んだが、黙示録の獣は腕を剣に変えてギンガに斬りかかった。

 

通常のギンガだったら避けられないであろう速度の攻撃だった。しかし、ギンガはその攻撃を瞬時に右手で抜いた刀で防いだ。

 

「!」

 

『まかせろ』

 

ギンガはそのまま、手慣れた手つきで斬撃での戦闘をこなす。

 

そして剣での戦闘の途中で生まれた隙を見つけるとアキラが言った。

 

『ギンガ今だ!』

 

「うん!」

 

ギンガは黙示録の獣の腹部にリボルバーナックルを食らわせた。

 

「…っ!」

 

そのまま右手の刀の切っ先を黙示録の獣に向ける。

 

「『一閃必中!アクセルトラスト!!』」

 

強大な筋力と速度が産み出す突きの剣撃を黙示録の獣に打ち込んだ。その鋭い一撃は黙示録の獣の身体を形成しているスタッフを貫いた。

 

「っ!」

 

この二撃が黙示録の獣の本体に更なるダメージを与えた。

 

「あぁぁ…あぁぁぁぁaaaaaaaaaaaaaaaaaaぁぁぁぁ!!!」

 

黙示録の獣が叫んだ。その瞬間、辺りからスタッフが大量に出現し、ギンガを襲う。

 

「なんて量!!」

 

『やらせねぇよ!』

 

ギンガは構えをとる。そのギンガに四方八方からスタッフが襲いかかった。

 

(あのときの感覚……「あれ」は俺の身体の中だが、似たようなものなら…「今」のギンガの身体ならできる!)

 

『ウィング!』

 

ギンガの体内で魔力が練られ、背中から魔力の翼を出現させた。その翼は意識を持ったように動き、ギンガを守った。

 

『一気に決めるぞ!』

 

「うん!」

 

 

 

ースバル Sideー

 

 

 

スバルはビルの上で気を失ったクラウドを抱えながら、なのはと黙示録の書に取り込まれたノーリの戦い、そしてギンガと黙示録の獣の戦いを見ていた。

 

すると、クラウドが目を覚ます。

 

「う…」

 

「クラウド!」

 

「スバル…?私は……いったい何を…」

 

「黙示録の書に…取り込まれて、黙示録の獣の魔力タンクとして使われてたんだよ。リンカーコアと魔力回路がメチャクチャになってる。動くとダメージが悪化するから動かないで…」

 

スバルの話を聞くと、クラウドは周りの戦況を見る。

 

「……くっ…なぜだ………管理局地上本部はあと少しで制圧できるって言うのに……」

 

「クラウド…」

 

自身が道具のように使い捨てられてもまだ、クラウドの目的は変わることはなく、管理局への復讐が第一だった。

 

「クラウド…お願い。話を聞いて……」

 

「…聞く気はない。さっきもいっただろう…もう戻る道もないんだ」

 

「まだ…戻れるよ……だって、今アキラ君もギン姉も、ノーリも、なのはさんも、クラウドを助けるために戦ってる。みんな、あなたの味方だよ…」

 

「…」

 

クラウドからの返事はない。クラウドが考え方を改めてくれたとは思わない。でも、スバルは構わず話し出した。この話を聞いてもらわないことには始まらない。

 

「クラウドの村が教われたあの日。管理局でとても強大な魔力反応を検知したの。クラウドの村に。クラウドの住んでいた村は実は、管理局から許可を得て黙示録の書の管理をやっていたの」

 

「……何?」

 

「管理局の中の情報でも極秘中の極秘。フランシスだからたどり着けた情報…」

 

「…だったらなぜ管理局が私たちの村を襲って黙示録を奪わなければならない?わざわざ別の封印者を見付けてまで」

 

「異常なまでの反応が確認され、管理局員が向かった時、村人は全員さっきのクラウドや今のノーリみたいに黙示録の書から作られるスタッフに操られ、暴徒と化していた。だから管理局は……仕方なく」

 

「…」

 

「でも、一つだけわからないことがあるの。あなたはなんで……管理局が村を襲ったと思っていたの?」

 

「…………私はまだその時幼く、母に言われるがまま地下室に隠れた。だから………あ?…ああ……あああ!!…………そうか…きっと母もその時操られていたんだ…「管理局がきた。此処に隠れてやり過ごせ」と言われた……そうか…やっとわかった………黙示録の書は暴走し、我々では抑えきれなくなったんだ……。私という、「自分なら黙示録を制御できる」と勘違いしている部族の生き残りを…私を利用して管理局をつぶさせて…自らを自由にさせるために……」

 

クラウドは話しながら泣いていた。

 

クラウドとスバルはすべて理解した。黙示録の書はクラウドの部族から逃げ出すことはできた。だが、管理局にもっと強力な封印が行える人間がいたことを知っていた。

 

だからわざと一人生き残らせ、復讐させたのだ。元、封印させられていた部族の生き残りなら自身、つまり黙示録の書を使って復讐してくれるだろうと考えて。黙示録の書はクラウドに可能性を感じていた。実力と才能がある子供ということに。だからクラウドを生き残らせたのだ。

 

そしてクラウドは黙示録の書の思惑通り復讐の為に実力と知恵をつけていった。そして黙示録の書を奪還、無事に黙示録は自由を手に入れたということだ。

 

「クク……馬鹿らしいったらありゃしない………寿命を尽きても、記憶転写とクローン技術で何年も何十年も生きてきて……そんなことにも気づかず…」

 

クラウドは泣きながら笑っていた。ようやくそのことに気づいた自分が馬鹿らしくて仕方なかった

 

「実際のところ、記憶転写が繰り返されるうち、記憶の擦り切れが起きてもう当時のことはほとんど覚えてなかったんだ……ただ、管理局への復讐心と、母の最期のぬくもり…それだけで生きてきただけなんだ…」

 

「クラウド…」

 

 

 

ーなのはVSノーリー

 

 

 

なのはは黙示録の書に取り込まれたノーリと戦っていた。

 

「ノーリ!!!」

 

「…」

 

何度か呼びかけるものの、ノーリは反応しない。左手に持った黙示録の書、さらにそこから発生したスタッフに左腕は完全に包まれ、顔は右目以外スタッフに包まれている。身体にも木に巻き付くツタのようにスタッフが張っている。

 

(魔力砲で飛ばしてもすぐに再生する…。黙示録の書に直接魔力砲を当ててもガードが固くてそう簡単に剥がしきれない…)

 

ノーリはなのはに斬りかかる。

 

「…!」

 

「ファイヤー!!」

 

なのはは突っ込んでくるノーリを魔力砲で吹っ飛ばした。身体のスタッフが多少削り取られるが、すぐに再生した。

 

「……うぁぁぁぁぁl!」

 

その瞬間、単調な突っ込みしかしてこなかったノーリが急に変化球な動きをしてきた。なのははその攻撃を避けながら反撃の一手を考える。

 

(ノーリは元々この間の戦闘で身体がボロボロだ……変に強力な魔力砲で吹っ飛ばしたら魔力ダメージだけでもノーリが…)

 

色々悩んでいるなのはにノーリが切りかかった。なのははレイジングハートでそれを防ぐ。

 

「くぅ………」

 

「なにを……やっている…」

 

「え!?」

 

ノーリが話しかけてきた。ノーリは必死に黙示録の浸食に耐えながらなのはに語り掛ける。

 

「早く…………俺を…殺せ………」

 

「ノーリ…」

 

「すぐそこに………テレジー家が……来てる。俺を殺して黙示録を止め……ろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「ノーリ!」

 

ノーリは再び取り込まれ、暴走した。触手をなのはに飛ばしたが、なのははアクセルシューターを触手の先端にぶつけ、打ち切った。

 

「……ロック!」

 

なのははそのままノーリの身体にバインドをかけた。ノーリは少し抵抗したが、なのはの強力なバインドはそう簡単に解除できない。

 

「……や…れ」

 

ノーリはかすれた小さな声で言った。だが、なのははノーリを絶対に助けたかった。その時、たまたま黙示録の力が弱まったのか、ノーリが再び話し始めた。

 

「元々、生まれることもなかったはずの命だ…それが悪あがきと運だけで…いや、お前たちの協力もあってここまでたどり着いた…それだけだ……。ここで絶たれたとしてもなにも……変わらねぇ。世界も…アイツら(ギンガとアキラ)も…。人を殺し続けてきた俺があんなのうのうと生きてていいわけなかったんだ…。ツケを払うときが来たんだ……あんたの手で終わらせてくれ」

 

「でも…っ!!」

 

「やれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「……っ!エクセリオン!バスタァァァァァァァァ!!!!!」

 

なのはは覚悟を決めてトリガーを引いた。ノーリはバインドで縛られた状態でエクセリオンバスターをもろにくらった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

これが本当に最善の策だったのか、ほかにやり方はなかったのか。そんな思いが一瞬で脳内によぎる。

 

[Master!!!Heat source body approach from the front!!(マスター!!!前方より熱源体接近!!)]

 

「!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

全身から血を噴き出したノーリが再び突っ込んできた。

 

なのはは無意識のうちに技を放つことをためらい、加減していたのだ。

 

なのはの反応が遅れた。なのはは斬られることを覚悟した瞬間、なのはとノーリの間に誰かが割り込んだ。

 

「危ない!!」

 

「!」

 

サラだ。サラはあまり戦闘向きでないのに、前に出てなのはを護ったのだ。

 

「サラ!?」

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

サラはノーリの一撃に耐え切れず吹っ飛ばされる。なのははサラが瓦礫に激突する前に回り込んで受け止めた。

 

「大丈夫!?どうしてあなたが…」

 

「伝えなければならないことが…」

 

サラは強力な結界を張ってノーリが邪魔してくるのを防いで話をする。サラは端末からデータを空中に展開する。

 

「これは?」

 

「黙示録の書のデータです。私たちが使っている封印のためのアイテム。これと似た作用がつけられるカートリッジを作ってきました。即席で出力が安定してませんし、これ一発しかありません」

 

「これを…私に?」

 

「ほかに動ける人間がいない以上、あなたにしか頼めません。黙示録の書本体にこれを当てれば一時的に黙示録の書の力を弱められます。そうすれば、きっと彼を救えます…」

 

なのははカードリッジを受け取ってそれをレイジングハートにロードした。

 

「必ず当てるには誘導弾が一番有効だけど、黙示録の書そのものにガードが張られてる…一閃必中の大技でガードを抜くしかない……」

 

なのははレイジングハートを改めて構えなおす。

 

「いくよ!ノーリ!!今度は絶対!助けるから!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

なのはとノーリの戦闘が始まるが優劣ははっきりしていた。ノーリはほとんどボロボロの身体を無理やり使役されていたのでパワーはほとんどない。

 

だがなのはも強く攻撃できない関係上、互角の戦いをするしかなかった。しかし、ノーリは持っていたジーンリンカーコアごと取り込まれていたため、放ってくる魔法は強力なものだった。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

しばらく拮抗した戦闘が続いていた時、突然ノーリの動きが止まった。

 

「…?」

 

「う……おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ノーリは剣を投げ捨て、顔を覆っていたスタッフを引きちぎる。そして、黙示録の書を掴んでいる左腕を掴んで真上に掲げた。

 

「ノーリ!?」

 

「今度は迷うな……一気にやれ」

 

「……っ!カートリッジロード!ACS!!ドライブ!!!」

 

なのははレイジングハートのACSを起動し、ノーリが掲げている黙示録の書に向かって突っ込んだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

なのははサラが渡したカートリッジの力が付与されたACSで黙示録の書を貫いた。それと同時にノーリに絡まっていたスタッフも解ける。

 

「今です!」

 

そこにサラが封印の布を持ってなのはのもとに向かった。封印の布が黙示録の書を包み、その力を封印した。

 

「黙示録の書!一時封印に成功しました!!これより本格的な封印処置に入ります!!」

 

 

 

ーギンガVS黙示録の獣ー

 

 

 

黙示録の獣相手にギンガは有利に戦っていた。そしてそんな中、黙示録の書が封印されたことを黙示録の獣は感じ取った。

 

「黙示録の書の封印を確認、魔力タンクもいなくなった模様………形勢は圧倒的に不利と判断、これより黙示録の書の奪還、並びに一時撤退します」

 

黙示録の獣は状況を冷静に判断し、撤退を図ろうとした。

 

「逃がさない!!」

 

『逃がすかよ!!』

 

「『ヴァリアントバスター!!』」

 

ギンガは大きめのバスターライフルを取り出し、黙示録の獣に向ける。ライフルのチャージが始まると同時にギンガの背中に計6枚の翼が展開される。

 

「スパイラルブレイズキャノン!ファイヤー!!!」

 

ヴァリアントバスターライフルから紫色の魔力砲が発射された。黙示録の書が封印された影響で動きが鈍く、スパイラルブレイズキャノンを避けきれずに飲み込まれた。

 

「!!」

 

黙示録の獣の身体は吹っ飛び、コアとなるページが出現する。

 

『今だギンガ!!これで終わらせる!全魔力を注げ!!』

 

「うん!!」

 

ページに再びスタッフが集まる前にギンガは左腕に全魔力を注ぐ。リボルバーナックルの回転に合わせ、拳の周りに魔力が集中する。その魔力は集まるにつれ、槍のような形をとっていく。

 

(これを外したら……)

 

もう魔力もあまり残っていない。これを外したら黙示録の獣に逃げられてしまう。そう考えると緊張し、手が震えた。そんなギンガの手にある筈はないぬくもりを感じた。

 

『大丈夫だ。俺がついてる』

 

「…」

 

ギンガの表情が変わる。覚悟は決まったようだ。

 

「ふぅ…はぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「『ロンゴ…ミニアド!!!!!』」

 

 

 

ギンガの左腕から光線のような魔力槍、「ロンゴミニアド」が発射される。黙示録の獣のコアとなるページはロンゴミニアドに飲まれ、消滅した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

『消滅…確認』

 

黙示録の書は封印され、黙示録の獣のコアとなるページは消滅した。黙示録の書を中心とした事件はこれで状況が終了した。

 

 

 

ー数時間後ー

 

 

 

状況が終了し、地上本部は次元本部と通信可能になり、事件の収束に向かっていた。戦闘現場には本部の車が大量に投入され、戦闘員や一般人の救助に向かっていた。

 

そんな中、ギンガの膝枕で寝かされているアキラは次元本部の捜査員に囲まれていた。

 

「アキラ・ナカジマ二尉だな」

 

「ああ。ずいぶん大人数でご苦労なこって」

 

「ウィード・スタリウ脱獄の件について話がある。同行を願う」

 

「待ってください!アキラ君…いえ、アキラ隊長は…」

 

ギンガがアキラをかばおうとするがアキラはギンガにやめるように手で合図する。アキラは元々こんなことになるのは覚悟の上だった。

 

「そうかい、じゃあ行こうか」

 

アキラは肉体が限界を迎えているので立てなかったなので捜査官の手を借りて車に乗せられた。車が出発しようとしたとき、アキラが乗った車に誰かが駆け寄ってきた。

 

「アキラ!!」

 

「ディエチ!!」

 

黙示録の獣に吹っ飛ばされ、死んだように思われていたディエチだった。

 

「ディエチ…お前、生きてたのか!」

 

「うん…知らない人に助けられて…なんか、眼帯を付けた、白い服を着た人に………あ、あと本部にいた人、アキラの警告の直後に小此木さんが転移魔法で非難させてたって」

 

「そうか…」

 

アキラはほっとした表情を

 

「さっき助けてくれた人か……いやいい。とにかく…生きていてくれて、ありがとう。それから他のナンバーズに伝えてくれないか。「迷惑をかけてすまない」と」

 

「うん」

 

そのディエチとの会話を最後にアキラは車で連れていかれてしまった。

 

「アキラ君…」

 

その後、生存していたゼロナンバーズ、並びにスカリエッティ、主犯のクラウド、アキラが脱獄させたウィードが捕らえられ事件は解決した。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー管理局本部最高評議会ー

 

ここは管理局本部最高評議会。過去にドゥーエに殺された最高評議会ではなく、新たに設置された管理局の中の選りすぐりのメンバーを集めた最高評議会だ。

 

その円卓の中心にいるのは、小此木だった。

 

「小此木君どういうことかね?アキラ・ナカジマに無罪を求めるとは」

 

「とても正気の沙汰とは思えんね」

 

「彼は既に人間が超えてはいけないラインを超えている。処分、あるいは監禁しなければ」

 

メンバーの数は小此木を含めて計11人。今はアキラの罪をどうするかについて会議をしていた。

 

「早計ですよ。最高評議会ともあろうものが」

 

「なに?」

 

「彼があの力を発揮したのは、黙示録が放った大量の魔力を一時的に取り込んだことで体内のロストロギアが発動しただけです。黙示録の獣並みの攻撃がなければ、もう二度と発動することはないでしょう」

 

「しかしだね、それ以上に彼は投獄された罪人を脱獄させて…」

 

「ギンガ・ナカジマを護れる強さを…求めた結果です。彼にとってはそれがすべてであり、それ以上に臨むものはない。逆に言えば、ギンガ・ナカジマさえ守れれば彼は管理局にとってのいい戦力になる。そうは考えられませんか?」

 

「たしかにそうだが、もしなにかの拍子に裏切られ、その力が脅威になったりしたら…きみや高町なのはとは次元の違う力だろう?」

 

「ギンガ・ナカジマが管理局にいる限り、問題ないと考えられます。それにそれだけではありません。アキラ・ナカジマはかなり顔が知れています。今回の事件で、避難シェルターの中から多くの人間が彼が守ってくれたと証言しています。そんな英雄的な彼が急にいなくなったなんて、管理局の信用問題に関わるのでは?」

 

「…」

 

「もちろん彼をただで無罪放免にする気はありません。彼を「ファントム」に加えることを提案します」

 

「馬鹿な!」

 

「何を言っているんだ!」

 

「そもそも彼はファントムにふさわしい戦力と呼べるのか!?」

 

「これからF1とともに彼を3か月間鍛え、その後の摸擬戦で皆様に判断してもらいます。もし認められれば影のファントムの一員かつ108戦闘部隊隊長として管理局に努めてもらいたいと考えております」

 

 

 

 

続く



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アフターストーリー
プロローグ


約一年ぶりの投降です。黙示録事件の後、Vividに至るまでの間話です。無理のない程度で更新すると同時にいろんな間話も投稿します。


「ん…ん?」

 

一体いつからしていたかわからない眠りから、アキラは目を覚ました。目の前に広がるのは綺麗な青空。その青さはまるで平和を表しているようだ。

 

「ここは…」

 

身体を起こす。全身が痛い。ギンガと出会う前、放浪を続けていた時も硬い床で寝ていたが、此処まで痛くなることはなかった。

 

「いてて……ここはどこだ?俺は、一体…」

 

「ここはミッドチルダから離れた廃市街地のビルの屋上だ」

 

聞き覚えのある声が背後から聞こえた。

 

「ん?」

 

振り向くと、そこにはシグナムが座っている。

 

「なんでこんなとこに…」

 

「覚えてないか」

 

「覚えて………」

 

その瞬間、アキラはすべて思い出した。眠りにつく前のすべての記憶。戦い、想いを。

 

「!」

 

黙示録の書。その強奪から始まった、ミッドチルダ全域を巻き込んだ大事件。アキラは自身の名誉、信用、命、自身の全てを引き換えにしてでもその事件の解決と攫われたギンガの奪還に全力を尽くし、見事に黙示録の書、ギンガの奪還を成功。更にはゆりかごに負けず劣らずの最凶の兵器「黙示録の獣」をも打倒した。

 

しかし、そのために犯罪者を脱獄させ、戦闘機人を洗脳して私的戦力として扱い、無断で次元転移を行った。アキラの罪は相当重いものになるだろうと予見されていた。

 

「あれから…何日経った?」

 

「三日だ」

 

「三日……ギンガは…ナンバーズはどうなった!?ウィードは!?」

 

「質問が多いな。まぁ一つ一つ順に説明してやろう。まずギンガだが、お前の娘のアリス含めて安全な施設で守られている」

 

アキラはうまく動かない身体を無理やり立ち上がらせ、シグナムに抗議した。

 

「安全?それはどれくらいだ?またあんな奴が……「黙示録の獣」が現れても守り切れんのか!?」

 

その抗議を聞いてシグナムはため息をついた。気持ちは分かるがそんな地下シェルターの様なものを早急に用意できるほど管理局も有能ではない。そもそも街が、何なら国が大変なことになっている現状で個人の安全を確保しているのだ。

 

確かに一度ならず二度までも組織に狙われた身であるので保護が過激になるのは仕方ないが、それを差し引いても破格の対応である。

 

「無茶を言うな。またあんな人類の敵とも言える奴が現れたらその時こそギンガだけでなく人類そのものの終わりだ。絶対は保証できないが、少なくともただの病院よりは安全だろう。見ろ」

 

シグナムは端末をアキラに投げた。その端末にはベッドでアリスと眠るギンガの姿が映っていた。その近くにはセッテが座っている。

 

「これは…」

 

「ギンガの現状だ。ギンガの護衛は数時間ごとにお前の知り合いに交代でやらせている」

 

「……まぁ、仕方ないか」

 

アキラはギンガの顔を少し見て落ち着いたのか、冷静に判断した。

 

「そして、お前が兵器利用したナンバーズたちだが一通り検査と取り調べを終えてからすぐ解放されたよ。別に咎められるようなことはしてないからな」

 

「ああ…あいつらは悪くねぇ。悪いのは俺だ」

 

「最後に、ウィードはまた檻の中に戻った。暴れることもなく、素直にな」

 

「…そうか」

 

「質問は以上か」

 

アキラは小さくため息をついた。

 

「……まぁ。俺が重要視することはそれだけさ。で、ここは檻じゃねぇみたいだがなんで俺がこんなとこにいて、あんたがここにいる?」

 

「それについては私から説明しよう」

 

背後から声がした。聞き覚えのある声だ。振り返るとそこには見知った人物、小此木が立っていた。

 

「小此木」

 

「ああ。君がここにいるのはこれから君の生死を決めるためだ」

 

「俺の?」

 

「君にはこれから2ヶ月のトレーニングをしてもらってその後、君が「ファントム」にふさわしい人間かどうかを確認する模擬戦を行う」

 

「はぁ?」

 

急に訳の分からないことを言われアキラは眉間にしわを寄せた。「まぁその反応だろう」という表情で小此木は説明を続ける。

 

「君は局員として、大罪を犯した。しかし、同時に世界を救った。そんな君に最後のチャンスを与える。君がまだ、局員として有用だと示すことだ。そのために我々と同じファントムに入ってもらう拒否権はない」

 

 

 

続く



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第三十話 幻影

説明といきさつの話です。ほぼオリキャラのこの話面白いのか


感想、投票、評価、随時募集中です。


「改めて解説しよう」

 

アキラは小此木の説明を目覚めたばかりの頭でよく理解できなかったのか頭に「?」を浮かべるばかりだった。

 

「君の罪は早々許されるものではない。それは君も理解できるね?」

 

「ああ、当然だろうな」

 

アキラもそれは理解している。それなのになぜ檻の中にいないのか、裁判所にすらいないのかが疑問なのだ。

 

「だが、僕ら現場の人間としても君が逮捕されることは望ましくないし、実は君の奥さんに君を助けてくれと言われてね」

 

「ギンガが!?」

 

 

 

-三日前 事件終了直後-

 

 

 

事件が終了直後、アキラは管理局員に連れていかれた。脱獄の手助け、違法な次元転移、無許可での殺害諸々の罪だ。アキラは連れていかれることに抗いはしなかった。しかし、それを見ていて納得がいっていない人物が一人いた。

 

ギンガだ。

 

「やぁ。ギンガ准陸尉。無事で何よりだ」

 

ギンガがアキラが乗せられた車が走り去るのを見ていることしかできないところに、小此木が現れた。

 

「小此木さん…」

 

「アキラ二尉については…まぁ。仕方ないだろう」

 

ギンガが助けを求めるような視線で自分を見てくる理由を小此木は察して先に説明した。

 

「そんな…アキラ君は私を助けようとしただけです!」

 

「それは分かっているが。それでも度を越えている。罪を犯したなら償うのは当然だ」

 

「それでも…!この事件を解決させたのはアキラ君ですよ!?どうにか!どうにかできないんですか!?小此木さん!」

 

「………まぁ私も上に近い人間だ。できることは全部やるよ」

 

「え?」

 

「僕とてミッドを救った英雄を、みすみす塀の中に入れたりしたくない。彼の力はきっとまだ必要だ」

 

「お願いします!!絶対に、絶対にアキラ君を助けてください!もし助けられなかったら…あなたを許しませんから!!!」

 

「わかった」

 

 

 

-現在-

 

 

 

「なるほどな…」

 

「君の意識いつ戻るかわからなかったからね。僕が勝手に弁護させてもらったよ。アキラ陸尉は危険な存在じゃない。ギンガ準陸尉を護ろうとしただけだとね」

 

それを聞いてアキラは少し照れくさそうな表情をする。だがすぐに頭を捻らせて考える。

 

「ん?待て、いつ目覚めるかわからない俺をコンクリートのベッドで寝てたのはなんでだ?」

 

「医者が言うには回復に向かっていて、君はもうすぐ目覚めると聞いたからね。君が視力を得た状態でここに来るのは望ましくなかった」

 

「秘密の場所ってか」

 

アキラの言葉に小此木は笑って頷く。

 

「その通りだ。君はこれからここで3ヶ月みっちり鍛えられ、我々「ファントム」にふさわしい人間なってもらう」

 

「ファントム………都市伝説かなんかだと思ってたがな」

 

アキラは頭を掻きながらファントムのことを伝えた。すると小此木は少し考えてから尋ねる。

 

「ちなみに君が知っている知識は?」

 

「管理局の滅茶苦茶つえー連中だけで構成された管理局の奥の手中の奥の手の秘密部隊ってことだけだ。存在そのものが確認されてないからただの噂だと思ってたもんだが」

 

「ファントムの存在はごく一部の人間にしか明かされていない。S級秘密事項だ。だが、そんなものがあるんじゃないかという噂だけは流している。内部のスパイや外部に牽制をかけるためにね。存在しているのかしていないかわからない、幻影のような部隊。故にファントム」

 

小此木は得意げにファントムの成り立ちを伝えた。

 

「その実態は、あらゆる脅威に対して「絶対に負けることはない」力を持った人間が選ばれる特殊組織だ」

 

「絶対に負けることはない…」

 

「僕たちは絶対防衛線。超えられてはならない壁ってことだ。逆に我々が負けるとき。それは、管理局が終わるときだ」

 

ファントムという部隊について大体が見えてきた。管理局の絶対防衛ライン。それは逆に言えば管理局が絶対的に管理下に置いている組織。末端の陸士部隊なんかよりずっと管理しやすいだろう。

 

だから罪を犯したアキラが生き残るにはファントムに入るしかないのだ。

 

「ちなみに、メンバーは?」

 

「三人だ。僕と、女の子一人、それからシグナム君」

 

「シグナムぅ?」

 

アキラは微妙な顔をしてシグナムを見る。シグナムは確かに強いが、シグナムがいるなら、はやてやなのは、延いてはフェイトがこの組織にいたっておかしくない。

 

「私はお前と同じだ。我らが主、八神はやてを管理局のお偉方が監視する名目でここに所属させられた」

 

「そうかい。つーか小此木、お前がファントムとか信じられねぇんだけど」

 

「ああ、そうだね。僕の能力ともう一人の実力を君には知ってもらう必要があるな」

 

小此木は制服を脱ぎ、自身の右腕を見せた。右腕には鎖が巻かれている。

 

「僕、小此木は生まれた時から特殊な能力を持っていてね。先祖からのギフトか、偶然の呪いか。それに気づいたのは小学生の頃だ。攻撃と見なすものを吸収して体内を通して放つことが出来る。体内に溜めて固形物として持つこともね」

 

小此木は懐から色が付いた球体を取り出した。黙示録事件で小此木が使ったものだ。小此木がその球体を握り、空に向けると小此木が持つ魔力色とは違う色の魔力砲が放たれた。

 

「2段階の能力制限にが付いていてね。何もしてないと右掌だけで吸収、1段階で両腕、2段階で全身で吸収が可能となる。まぁこれくらいの説明で良いかな?」

 

腕に巻かれている鎖はその制限だろう。

 

「大体わかった………だが一つ聞かせろ」

 

「なんだい?」

 

「なんでそこまでの力があるのに管理局に大人しくついてるんんだ?」

 

「………どうしてそんなことを聞く?」

 

「お前みたいにアホみてぇな力を持ったやつを知ってる」

 

アキラの脳裏にはリュウセイが想い浮かんでいた。

 

「そいつはなんでか知らんが俺らの味方をしてくれるが管理局にも、多分何処の組織にも着いて無い。自由にやってる。お前はなんで管理局にいる?」

 

「………確かにこれだけの力があれば、世界を自由にできるかもしれないね」

 

小此木は悪戯っぽく笑った。

 

「けどね、私は孤独が嫌いなんだ。私の能力が明らかになってから、学校の友人どころか家族すら疎遠となった。その時の孤独と言ったら……。そんな時、管理局に僕は引き取られた。家族が僕を恐れて局に売ったんだ。正直もうどうなろが良かったが、管理局である人にとてもやさしくされた。その人は任務中の事故で亡くなってしまったが、僕は彼女が守ろうとしたこの世界を護りたい。そんな思いで管理局に努めているんだ」

 

小此木は胸にかけていたロケットペンダントを取り出してその中を眺めながら言った。アキラはちゃんとした理由があったことに安心しながらもあまり聞くべきではなかったかと思った。

 

「そうか…」

 

「まぁ僕の話はそれくらいにして、そろそろ最後の一人の話をしようか。最後の一人の名前は「カエデ」会ったことはあるかな?」

 

小此木がカエデの写真を宙に表示した。映し出されたのは黒髪の少女。それは黙示録事件でアキラが度々見かけていた少女だった。その少女はクアットロとフィフスを確保、アキラの暴走を止め、黙示録の獣の攻撃で死にかけたディエチを救出した少女だ。

 

「コイツだったのか……」

 

「彼女の能力は異常なまでの力。そして技だ。説明なんか必要ない。単純な力とそれを最大限生かす技術。それだけ。ある意味唯一僕を倒せる人間と言っても過言ではない」

 

「へぇ」

 

「これから会いに行くついてきたまえ」

 

 

 

ー廃市街地ー

 

 

 

廃市街地の一角。やや倒壊したマンションの中の一室にアキラは案内された。

 

「ここにいるのか?」

 

「ああ」

 

アキラが扉を開く。中の部屋はそこまで汚くはなかったが薄暗かった。玄関から続く廊下の先の扉が開き、奥から少女が現れた。

 

「来たの」

 

アキラは現れた少女に違和感を感じた。事件中出会った時とは様子が違った。

 

「ん、今はツムギだったか」

 

「あ?」

 

「彼女には二つの人格がある。主人格はツムギという名前だ」

 

小此木はそれを伝えてツムギの家に上がった。シグナムも同じように家に上がる。

 

居間に上がった三人は取り合えずテーブルに座った。

 

「…その人が、新しいファントム?」

 

「ああ」

 

「…………アキラ・ナカジマ二尉だ。よろしく」

 

「………」

 

ツムギの反応は無しだ。用意したお茶をちびちびと飲んでいるだけだ。

 

「とても、小此木に勝てるような強さを持ってるようには見えねぇな」

 

「…」

 

挑発しても反応無し。しばらく経ってからツムギは席を立つ。ようやく何かするのかと思ったが、お茶をおかわりしただけだ。

 

「シグナム…なんだこのガキ…」

 

「私に聞くな。私だって会うのは初めてなんだ」

 

アキラは少し苛立ちながらシグナム聞いたが、そのシグナムも驚いているようだ。

 

「すまないね。ツムギは昔から他者に関心を示さないんだ。ツムギ、悪いがカエデに代わってくれないか」

 

「………うん」

 

ツムギは頷き、顔につけていた眼帯を外した。眼帯の先には傷付いた皮膚と右目とは色の違う瞳があった。

 

「……君がアキラか。初めましてではないかな」

 

先程のツムギとはまったく違う言葉遣いと声色。二重人格というのは本当らしい。

 

「ああ、事件の時に会ったな」

 

「私ともう一人の私……正しくは主人格の私であるツムギの二人で君を鍛える。時間がないのでね。えらくハードになるが耐えられるかい?」

 

ツムギと違ってえらく饒舌だと思いながらアキラは頷く。アキラの返答にカエデはにっこりと笑った。

 

「ではさっそく」

 

刹那、アキラの背後にカエデはとんでいた。それをアキラは感知できていなかった。

 

「!!」

 

「うむ。いい刀だ」

 

更に飛んだだけでなく、アキラの刀を奪っていた。しかも奪ったのは「紅月」。アキラがセシルにプレゼントされた大切な刀だ。

 

「お前っ!」

 

アキラはすぐに立ち上がり、カエデに一発入れようとしたが次にアキラがみた景色は床の景色だった。

 

「え?」

 

何が起きたかわからなかった。ただ席を立っただけなのにいつの間にか倒されていた。そんな認識しかできなかった。

 

「こらこら。焦ってはだめだよ」

 

「何をしやがった……」

 

「いずれわかる」

 

「てか紅月返しやがれ!」

 

「…この刀はどこで?」

 

急に変なことを聞かれ疑問に思いながらもアキラは答えた。

 

「それは、昔俺の大切な子が、俺の為に…職人に打たせた剣だ」

 

それを聞き、カエデは少し驚いた顔をする。そしてその後、紅月をいつくしむように眺めた。

 

「そうか……お前はよっぽど愛されていたんだな」

 

 

 

-屋上-

 

 

 

カエデはアキラの紅月を持ったまま全員を屋上に案内した。屋上には巨大な溶鉱炉が用意されていた。

 

「なんだこれ…」

 

「…………ここは、鍛冶場だよ。見ての通り。此処で私があんたに刀を打ってやろうと思ってね。正しくは、こいつの打ち直しだけど」

 

カエデは金槌を握ってにっと笑った。

 

「はぁ?」

 

「この刀の刀身使われているのは普通の鉄じゃない。ある特殊な鉱石が使われている」

 

カエデは近くにあった金庫を開け、そこから一つの鉱石を取り出した。その鉱石は美しく透き通っていた。

 

「この鉱石は数百年前から突如地上に現れたと言われている鉱石だ。取れるのが一定の年代の地層でね。それ以前の地層には一切見つかってない。名を「サイコメタル」」

 

「サイコ…なんだって?」

 

「サイコメタル。人間の感情に反応する特殊な金属でな。魔力があれば持つ者の意思で無限増殖する」

 

「なんだそりゃ………」

 

「覚えはないか?お前がその剣に助けられた時のことを」

 

「え?」

 

アキラはハッとした。そういえば黙示録の獣と対峙した時、シェルターの一般人を、正しくはそれを護ろうとしたギンガを護るために無策で獣の砲撃の前に行った。そのときに紅月が獣の魔力砲を受け止め、飽和させたのだ。その際に紅月は増殖し、回路状の何かを空中に展開させたのだ。

 

「あれか…」

 

「守りたい、殺したい、サイコメタルは単純かつ強い思いにより強く共鳴する。あの時、お前の「大切な人を護りたい」という強く、純粋な思いに反応したんだろう」

 

アキラは何となくサイコメタルに対して理解はできたが、一つ疑問が出てきた。

 

「で、なんで打ち直す?別にいままでどおりでも問題ねぇだろ?」

 

カエデは紅月を抜き、その刀身を撫でた。

 

「これを見ろ。紅いだろう?これはこの剣に使われたサイコメタルに誰かしらの感情が込められている」

 

「誰かの?」

 

「ああ。その想いがこの剣に残り続けている。恐らく………その剣を送ってくれた少女、セシルといったか?その子がお前に送るときに込めた想い……なのだろうな」

 

本来サイコメタルは透き通ったクリアな鉱石だ。それを使った刀である紅月が紅色なのはセシルの込めた思いが紅月の中に残留しているからだ。

 

「だ、だったら打ち直す必要はねぇ!あいつの思いを…無駄に出来ねぇよ」

 

「無駄にはならない」

 

カエデは微笑んだ。

 

「死して尚、メタルにその想いが残り続ける。これほど強い想いなら一度溶かした程度では消えはしない。ただこのままではこの刀がお前の想いに反応しづらいであろうことを考えてのことだ」

 

「…」

 

それを聞いてアキラは少し不安だったが小此木の説得で了承した。説得とは、アキラがファントムに入るにはサイコメタルを操れるようになる必要があるとのことだった。ファントムになる条件は一つ。絶対に負けることはない力を持つこと。それをアキラが可能にする方法で最も現実的なのはサイコメタルを使いこなすことだった。

 

作業はすぐに開始された。用意された溶鉱炉に紅月の刀身が入れられ、ゆっくりと時間をかけて溶解してやがて溶鉱炉の中で溶けていた鉄と同化した。

 

カエデによるとサイコメタルの精錬は特殊な方法でないとならないらしいがアキラにはよくわからなかった。

 

「アキラ二尉」

 

鍛冶の様子をアキラがじっと眺めていると、カエデが声をかけた。

 

「?」

 

「ここに手を」

 

カエデは溶鉱炉を指さして言った。

 

「はぁ!?」

 

いきなり訳の分からないことを言われ、アキラは動揺する。当然だ。

 

「俺に死ねと」

 

「安心してくれ。サイコメタルは溶解してる状態の溶鉱炉は触れても安全だ。それに、精錬には君が触れることは必須だ」

 

「………」

 

半信半疑といった感じでアキラは手を伸ばす。近くまで来たところでアキラは気づく。溶鉱炉の目の前だというのに全く熱くないことに。

 

「…」

 

「そこに手を入れたら、強くイメージするんだ。どういう刀にしたいか。何のために使いたいか」

 

カエデに言われ、アキラは頷く。そして一気に手を溶鉱炉に突っ込んだ。その瞬間、イメージがアキラの頭のなかに入り込んできた。

 

「!!」

 

(どうか、アキラを護る加護となって。誰よりも優しいアキラの、楯となり、槍となって。それがあなたにはできるから)

 

それは、セシルの願いだった。刀を打ったとき、セシルがアキラのために込めた願い。

 

(そうか、これがセシルの願いか……)

 

紅月の刀身は薄い紅色だ。それはセシルの魔力色の色。ずっと刀の中に宿っていたのだろう。

 

「願いを込めろ。お前がその剣で何をしたいのか」

 

「………」

 

(俺が、こいつで、したいことは………)

 

アキラはかっと目を見開き、溶鉱炉から手を一気に引き抜いた。その手には、白く光輝く刀が握られていた。

 

「それを台の上に。これはまだ実態を持ってない。打つことでこの世界に定義される。ちゃんと握って置きなよ。でないと溶けるから」

 

特殊な金槌で刀を打つと、そこが白から紫色に変わる。カエデが刀を満遍なく打ちつけることで全身が透き通った紫色になった。

 

「さぁ、そこの水へ」

 

打ち終わった刀を水につけると大量の蒸気が発生し、輝きは消えた。

 

「…完成だ」

 

「…………刃がないのだな」

 

アキラが作り上げた新たな刀は刃がなかった。形だけの刀、模造刀のようなものだ。

 

「俺の復讐は終わった。俺はもう、誰も傷つける必要はない。だから。どんな驚異からでも、大切なものを護る力が欲しかったんだ」

 

 

 

つづく



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第三十一話 再会

アフターストーリーはとりあえず次回くらいで終わります


紅月は打ち直され、紫色の刀身を持った刀に生まれ変わった。セシルの魔力色の紅とアキラの魔力色の紫が混じったやや赤みががった紫の刀だ。名前は「紫皇」とした。

 

刀身の長さが紅月の頃よりも短くなったため、新たな鞘と柄を作り、最後に紅月の鍔をつけて完成した。

 

「よし……ありがとうなカエデ」

 

「礼には及ばない。戦力が増えるのは、ファントムの仲間が増えるのはどんな理由であれ嬉しいことだ。これは私たちからのささやかな贈り物だよ」

 

「ところで、俺がトレーニングされるのはいいんだが、最終的に強くなったかどうかをどうやって確認する?」

 

生まれ変わった紅月改め紫皇を腰に携え、アキラは小此木に訪ねた。

 

「ああ、模擬戦をお偉方の前でやってもらう」

 

「模擬戦ね…相手は?」

 

「管理局のエースオブエース、高町なのはだ。リミットは外されている。全力全開勝負だ」

 

アキラは驚かなかった。なんとなく予想できたことだ。実力を証明するのであればなのはかフェイト、良くてシグナムという感じだろう。

 

「なるほどな」

 

「負けは許されない。負ければ君は確実に処分されるだろう」

 

「上等だ。俺だってまだ死ねっかよ。死ぬ気で付いて行ってやる」

 

 

 

-廃市街地内 廃高速道路-

 

 

 

アキラとカエデは戦闘場所として用意された高速道路に移動した。

 

「さぁ、始めるとしよう」

 

そういってアキラと対峙したカエデは眼帯をつけようとする。

 

「お前じゃないのか?」

 

「私は………今はもうコミュ障の彼女の言葉を代弁するのと、古代ベルカの魔法を使う位しか役立たないんだ。戦闘面はツムギに任せるよ」

 

「そうか……」

 

アキラは少しツムギが苦手だったが仕方ないと思ってあきらめた。カエデが眼帯をつけると、きりっとした目がなんとなく垂れた感じになり、瞳から輝きが失せた。

 

「………いい?」

 

始めていいかという意味だろう。アキラは頷く。

 

「ん」

 

刹那、ツムギの姿が消えると同時にアキラの足元が崩れた。

 

「!!!???」

 

気配すらなく、音もない。アキラは地面に落ちていく最中にツムギに蹴られ、高速道路の支柱を3本ほど貫いて転がった。

 

「がぁっ………」

 

「……弱い?」

 

『ツムギ。加減は必要ない。死にはしないから』

 

アキラたちにはDSAA公式試合で使われるクラッシュエミュレートシステムがつけられていた。死にはしないがダメージは疑似再現されるため、相当なダメージがアキラに発生している。

 

「わかった」

 

「糞がぁ!!!!」

 

アキラは立ち上がり、ツムギに向かって走ったが瞬間でアキラは蹴り飛ばされた。

 

「…」

 

アキラは壁に叩きつけられ、動かなくなった。

 

「終わり」

 

ツムギはアキラの頬を持っていた軍刀でつんつんつつき、意識の有無を確認してから言った。意識がないのを確認すると、アキラに背を向けて去って行く。

 

しかし次の瞬間、アキラが起き上がり、ツムギに飛び掛かった。気絶したふりで襲撃をしようとしたのだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

だが、アキラは一瞬で地面に叩きつけられ、今度こそ気絶した。

 

「…終わり」

 

ツムギは近くの瓦礫に座り、腰にぶら下げていた水筒からお茶をだして飲み始めた。

 

一方、その様子を遠くで見ていたシグナムは小此木に訪ねる。

 

「あれは大丈夫なのですか?」

 

「まぁ、死んではないだろう」

 

放置するようだ。

 

それからアキラは目覚めてはツムギに吹っ飛ばされ、気絶し、目覚めてまた吹っ飛ばされる作業を繰り返された。

 

「前から聞こうと思っていたが、彼女は何者なのですか?」

 

「彼女は生まれが悲惨でね。彼女はある次元で生まれたのだが、彼女の生まれた村人の髪は皆、赤だ。黒髪は災いの存在とされている。生まれた時から恐ろしいほどの戦闘能力を持っていた。君がいた108部隊に、キャロ・ル・ルシエという少女がいただろう?それと似たような境遇だよ」

 

「キャロと………」

 

「彼女は管理局が引き受けてくれただけまだいいよ。ツムギの場合は、捨てられ、ほぼ野生児として暮らしていたんだ。戦いに関するセンスは全て自然界で磨かれた」

 

「…」

 

 

 

-夜-

 

 

 

「……………………はっ!?」

 

アキラは目を覚ますと今度はそこに夜空が見えた。

 

「目、覚めた?」

 

その夜空の景色にツムギが入ってきた。

 

「…お前……本当に強いんだな」

 

ツムギの顔を見て、アキラは何か諦めるような顔になってため息をついた。

 

「あなたも………根性だけは、いい」

 

「そりゃどーも」

 

アキラは顔を横に向けた。視線の先には二人の戦いの爪痕があった。正しくはアキラがボコされてただけだが、ビルは倒壊し、地面のアスファルトは抉られ、さっきまで廃市街地だった場所はもはや瓦礫の街となっていた。

 

「………はい」

 

ツムギがポケットから何か取り出した。小さな巾着の様なものだ。そこから糒を手に出してアキラに差し出す。

 

「………」

 

「ごはん」

 

「これが………?」

 

アキラが驚きを隠せずにいると、小此木とシグナムがやってきた。

 

「こらこら、食事はちゃんとしたものを取るようにっていつも言っているじゃないか」

 

二人の手には鍋が持たれていた鍋の中には完成済みの料理が入っているようだ。

 

「面倒………」

 

「だからって糒ばかり食べてて食事が楽しいかい?」

 

「………わからない」

 

その反応を見て、アキラは少し驚く。ようやくあちらもこっちに興味を持ってくれたようなのでアキラもコミュニケーションをとってみる。

 

「お前、好きな食い物とかねぇのか?」

 

「………ない。ご飯を……美味しいって思ったことなんてない」

 

「…じゃ、明日の朝飯は俺が作ってやる。うますぎて泣いちまうぜきっと」

 

「いらない」

 

ズバッと斬られた。アキラは苦笑いしながらもダメージは受けていない。

 

「そういわずによ。せっかくこれから」

 

「………」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-3ヶ月後 時空管理局本局-

 

 

 

ここは時空管理局本局、模擬専用戦闘場だ。そこにアキラが入ってきた。

 

「………」

 

その試合を観察できる部屋に、小此木、シグナム、ツムギ、そしてアリスを抱えたギンガが現れた。

 

「小此木さん…」

 

「ギンガ準陸尉。一応約束は守ったつもりだよ」

 

「………アキラ君」

 

ギンガは窓から戦闘場に立つアキラを見た。アキラの身体には腕や頭に包帯が巻かれている。見るからに痛々しい。

 

心配そうな目でアキラを見ていると、アキラがギンガの視線に気づき、観客席を見た。

 

「!」

 

アキラがギンガを視認すると、微笑んでギンガに手を振った。決して無理をしてギンガに笑顔を見せている表情ではない。自然な笑顔だった。

 

「アキラ君」

 

(良かった、いつものアキラ君だ)

 

しばらくすると、戦闘場にバリアジャケットを装備したなのはが入ってきた。

 

「お待たせ。それから、久しぶりだね」

 

「ああ。そうだな」

 

お互い再開の挨拶をするが、とても喜んでいる様子ではない。既に二人とも戦闘態勢に移行している。

 

『それではアキラ陸尉、それからなのは空尉。お互い顔見知りだろうが決して手加減しないように』

 

「ああ」

 

『それでは、開始!!』

 

戦闘開始の合図とともに、なのはは飛んだ。それとほぼ同タイミングでなのはの立っていた地面が抉られた。

 

「外したか」

 

アキラは刀も抜かず、手刀で斬撃を飛ばしていた。なのはは空に上がると即座に高速魔力弾を構えた。

 

「シュート」

 

「っ!!」

 

アキラは背中から翼出現させて空を飛び、なのはの魔力弾を回避した。

 

「羽!?」

 

「!!」

 

観客席にいたギンガとなのははアキラが出した翼に驚いている。

 

 

 

-2ヶ月前-

 

 

 

アキラが訓練を初めて一ヶ月。アキラは何とか少しはツムギの攻撃を避けられるようになっていた。このトレーニングは主に動体視力を鍛えるための物だった。果たしてこんなことをしていて本当に強くなれるのかアキラは少々疑問だったが、確実に避ける技術、動体視力、体感、反射神経は確実に上昇していた。

 

そんな中、事件は起きた。

 

「あ……?」

 

ツムギの攻撃を避けたアキラは空高く飛び上っていた。

 

「な…」

 

「なんじゃこりゃぁぁぁ!」

 

「…」

 

飛び上っていたというよりもう滞空している。アキラが後ろを見ると、自身の背中から翼が生えているのが見えた。いや、正しくは翼の様なものだ。光の触手の様なものが翼の様な形を成しているだけだ。しかしアキラは飛んでいる。

 

「こいつは…」

 

アキラはその翼に見覚えがあった。黙示録事件の時、アキラの体内のロストロギアが発動した際に頭の上にできたリングと同時に出現した翼だ。

 

「………ツムギ!一旦訓練は中止だ!ついでに昼食にしよう」

 

「……………了解」

 

「アキラ陸尉、降りられるかい?」

 

「あ、ああ……多分…」

 

アキラはぎこちないながらも翼を操作して地面に降りようとしたが、うまくいかずに翼が消滅した。

 

「うぁぁぁぁぁぁ!!」

 

小此木は小さくため息をついてツムギに助けに行くように合図をした。ツムギは瞬時に動き出し、ビルを蹴って上に登っていく。そしてアキラを受け止め、ビルに持っていた軍刀を突き刺して減速した。

 

「………無事?」

 

「ああ…サンキュ」

 

四人は集合して昼食を始めた。昼食がてら小此木はさっきの翼についての説明をした。

 

「………君に先に説明しておくべきだったね。ウィードによって君の体内に埋め込まれたロストロギアについて。ロストロギアの名前は「賢者の石」。神代の時代に残されたロストロギア………いや、正しくは「聖遺物」と呼んだ方がいいかな」

 

ロストロギアはオーバーテクノロジーがもたらした世界崩壊後の遺跡から見つかったものだ。今回のこれはそれとは違うということだろう。

 

「正直、賢者の石という名前も仮名だ。最も近い力を持つであろう物が乗っている文献から引用しただけだ」

 

「で?どんな力があるんだ?」

 

「………人間に、人知を超えた力を与える、としか」

 

「……………まぁ薄々気づいてたがな。あの時の力は尋常じゃなかった」

 

「まったくウィードも厄介なものを掘り出したものだ。発動条件は尋常でない魔力を取り込むこととはいえ、今それは半覚醒状態にある。さっきの翼は恐らく「賢者の石」から発生している」

 

「なるほどな…」

 

「これからはその翼の扱いも含めた訓練を行うことにしよう。賢者の石の制御方法にもつながるかもしれない」

 

 

 

-現在-

 

 

 

「行くぜ…」

 

アキラは翼を使い、なのはの弾丸を回避しならなのはに接近する。そして接近しながら腰に携えた刀に手を添える。そしてその刀をなのはに振ったがなのはが常時張っているシールドで簡単に防がれた。

 

(空中にいると地に足が着いて無い分力が弱い………。もしやと思ったがやはりあの人のシールドは抜けねぇか…)

 

アキラは一旦反転し、再びなのはに突進する。

 

(足の裏に一瞬足場を作って踏ん張りを聞かせることはできるがそれだけじゃ足りない、であればこの翼が生み出す速さを利用する)

 

アキラは納刀してから構える。それを見てなのはは備える。

 

(来る!)

 

「時雨露走」

 

アキラは居合切りの要領で刀を抜くと同時に斬撃をなのはに飛ばした。

 

刹那、なのはが張っていたシールドは真っ二つに切られ、なのはの肩が浅く切られた。瞬時になのはが反応し、それだけで済んだのだ。

 

(航空騎士ってのはこんなめんどいことしてんのか…空飛べるからって絶対有利でもねぇんだな)

 

アキラがそう考えた直後、アキラの足にバインドがかけられる。

 

「!」

 

「シュート!」

 

「ぐっ!」

 

そこに撃ち込まれた魔力弾をアキラは翼と刀で全て打ち落とす。

 

(俺がここに来ることを計算して!?いや違う!そこら中に仕掛けまくったのか!魔力が多い奴のできる贅沢かよ!)

 

刀でバインドを砕き、すぐにその場から離脱する。しかしその矢先に魔力砲が数発飛んできた。

 

「くそっ!?」

 

アキラは刀で攻撃を弾く。その防御作業の間に、背後から殺気を感じた。

 

「!」

 

「ハイペリオンスマッシャー!」

 

「…っ!」

 

アキラは背後から打たれたハイペリオンスマッシャーに飲み込まれ、浮遊している小島に激突した。

 

「がっ…」

 

「ディバイン…バスター!!」

 

さらに飛んできたディバインバスターに対し、アキラは刀を抜いてその切先を砲撃に向けた。

 

「一閃必中!蠍刺・螺旋牙!」

 

アキラが放った刺突撃はなのはのディバインバスターの中心を貫き、レイジングハートに命中した。

 

「!」

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

更にアキラもディバインバスターの中央を突っ切り、なのはに仕掛ける。刀に氷結魔法を掛け、氷の刀を精製して振り上げる。

 

「一閃必抉!獅子皇爪!!!」

 

「くぅぅぅぅ!」

 

砲撃の中を通って反撃するという攻撃はさすがに予想外だったのかなのはは防ぐしかなかった。しかしその一撃は重く、なのはは地面に叩きつけられた。

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 

 

-観覧席-

 

 

 

「すごい…アキラ君、前よりずっと強くなってる…」

 

観覧席でアキラの成長を目の当たりにしたギンガは驚いていた。

 

「当たり前だよ。誰が鍛えたと思ってる?」

 

「アキラ君…」

 

「全部……あなたのため。だから………目、反らさない」

 

ツムギから注意された。ギンガはアキラの痛々しい傷から無意識に目を反らしていた。それをツムギは分かっていた。

 

だから、ツムギは注意したのだ。ギンガは一度瞳を閉じ、少し間を開けてもう一度開く。

 

「アキラ君…っ!」

 

 

続く



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第三十二話 決断

あと一話続きます。駆けていきます。感想待ってます


アキラの生存をかけて行われた管理局のエース・オブ・エース、高町なのはとの本気の模擬戦。明らか戦闘能力が上昇したアキラとなのはの戦闘は拮抗していた。しかし経験の差か、僅かになのはが上を行っていた。

 

 

 

「マイティギャリバー!ガンモード!」

 

アキラは空中でマイティギャリバーを起動し、自身を追尾する魔力弾を打ち落とす。さらにアキラの真上から降り注いだ追撃の魔力砲を翼で防ぐ。

 

完全に防ぎきることはできず、アキラは地面に落とされかけるが空中で翻り、地面を蹴って再度上昇した。上昇しながらマイティギャリバーでなのはに牽制弾を放つ。

 

なのはもアキラに接近されないように上昇しながら牽制弾を躱す。

 

(やはり空中でのスピードも機動性も経験と才能の差で追いつけない!)

 

「フロストデフュージョン!!」

 

アキラは上空にマイティギャリバーを構える。銃口の先に魔力が収束し、それが拡散した。氷の弾丸が辺りの浮遊孤島に命中したが大した威力はなかった。

 

(拡散攻撃?でも威力がない…)

 

「マイティギャリバー!ガトリングモード!!」

 

マイティギャリバーをガトリングモードに変形させ、なのはに向けて放つ。当然なのはは回避しながら反撃する。

 

アキラは刀を納刀し、小回りの利く懐刀を抜いた。それでなのはの攻撃を弾きながらガトリングを打ち続ける。

 

(あそこから動こうとしない…何か狙って…)

 

なのはがアキラがなにか狙っていることに気づき、それに思考を割いたことで勝負への集中がほんの少し途切れる。

 

それによって生まれた僅かな隙。アキラはそれを見逃さなかった。

 

ガトリングモードの銃身の下に増設したグレネード砲塔。そこからグレネード弾をなのはに向けて発射した。

 

しかしその程度の攻撃、なのはは自身に弾が到達する前にハンマーバレットで打ち落とす。

 

「え?」

 

打ち落とし、爆散したはずのグレネード弾が爆風を突き破り、なのはの眼前に来た。

 

(ブラインド…っ!)

 

アキラはグレネード弾を二発ほぼ同時に放っていた。一発は先を飛び、その真後ろを隠れるように二発目が飛んでいた。うち一発、後から放たれた弾うを氷の防御膜で包み、先に打った弾丸の爆発から守ったのだ。

 

グレネード弾はなのはの目の前で爆裂し、なのははバランスを崩す。さらにそこにガトリングの連撃を受け、なのはは墜とされた。

 

「…っ!!」

 

なのはは少し落下したところで再度飛行を開始するため、一旦浮遊孤島に片足を着く。その瞬間、なのはの足首までが凍り付き、孤島に固定された。

 

「!!」

 

(アイスバインド!さっきの拡散弾の!)

 

さっきアキラが放ったフロストデフュージョンはただの拡散弾ではなく打った場所に接触すると発動するアイスバインドを仕掛ける攻撃だった。アキラは魔導師ではなくどちらかと言えば魔導騎士だ。攻撃以外の魔導はそこまで得意としていない。

 

チェーンバインドは得意だが一流の航空魔導師を捕らえられるほどの技術は有していない。よってこういう方法の方が無理やりではあるものの、確実だったのだ。

 

アキラはガトリングと懐刀を捨て、刀を抜いて一気に接近した。

 

(こいつで一気に決める!これが最初で最後の確実な隙!!)

 

「一閃必倒!竜閃禍!!」

 

アキラの刀から放たれた強力な斬撃。それはなのはが捕まっている孤島の上にある孤島を砕き、なのはに迫った。

 

なのはがいた孤島はアキラの一撃で崩壊した。辺りに破片が飛び散り、爆煙が舞う。

 

(…墜とした?)

 

アキラが構えていると、爆煙からなにかが飛び出し、アキラにバインドをかけた。

 

「!」

 

「フルドライブ。ブラスター4」

 

爆煙が晴れた先には周囲にブラスタービットを飛ばし、ほぼ無傷で佇んでいるなのはがいた。

 

アキラの技が当たる寸前、フルドライブを発動させ、発動の衝撃派でバインドを砕いた上でアキラの技を防いだのだ。

 

「少し、侮ってたかな。でも今からは本気で行くよ」

 

なのははレイジングハートを構える。ブラスタービット4基もアキラの方を向く。アキラは必死にバインドから逃れようとするがバインドは強固だった。

 

「ディバインバスター!」

 

「!」

 

アキラは光に飲まれた。リミット解除したなのはの一撃。中級程度の技でも撃墜される恐れがあった。なのはが打ち終えるとその先にはバリアジャケットがボロボロになったアキラがいた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、そんなもんかよ…なのはさん」

 

アキラは余裕を見せるが明らかに効いている。

 

(さっきまでだって結構押されてたんだ。ここで急なパワーアップは困るぜ…)

 

アキラは覚悟を決めて腰に携えているもう一本の刀に手をかける。

 

「…こっからはこっちも本気だ。行くぜ」

 

白い鞘から引き抜いた刀は紫皇だ。美しい紫色の刀身。刃を持たぬ刀だ。

 

(「こいつ」の起動に必要なのは大量の魔力。次、なのはさんが打ってきた時がチャンス!)

 

「…」

 

なのははブラスタービットを散開させ、次の一手に出ようとした。

 

「やめろよなのはさん」

 

「?」

 

「俺は動かねぇからよ。本気で打ってこいよ。それともそんなにガチガチに警戒しねぇと俺一人倒す自信もねぇってか!?」

 

アキラはなのはを煽る。これ以上ないくらい分かりやすい挑発だ。だが、なのはに取っては好都合だった。どう考えても罠があるだろうが、相手が動かず甘んじて攻撃を受けるというのであれば罠ごと粉砕するまで。

 

「ブラスタービットセット、エクセリオンブラスター!!!」

 

(来た!)

 

アキラは紫皇を前に突き出し、エクセリオンバスターを受けた。アキラにはなにか策があると踏んでいたなのはは打っている最中と打ち終わった後、警戒していたが何も起こらなかった。

 

それどころかアキラは壁の方へ追いやられ、さらにボロボロになって倒れていた。

 

「…?」

 

「がはっ…」

 

アキラは刀を杖にして無理やり立ち上がる。

 

「お、おぉぉぉぉぉ!!!」

 

アキラは斬撃をなのはに放ち、それをおとりに上空へ逃げた。

 

(クソっ!どういうことだ!?どうして発動しなかった!?ツムギとの戦闘じゃ確かに発動したのに…)

 

アキラが考えながら飛んでいると、その前方にブラスタービットが飛んできた。

 

「!」

 

「シュート」

 

ブラスタービットから魔力砲がノータイムで放たれる。アキラは何とか翼でガードするが一気に後退させられる。さらに飛んできた二基のブラスタービットにバインドを掛けられる。

 

「うぐっ!」

 

何とかバインドから逃れようともがくアキラだったが、直後、それを止めて上を見た。上空には光が収束されていた。相手がかのエースオブエース、高町なのは相手であれば何が起きているのか誰でもすぐに理解できる。

 

なのはの最大にして最高の魔法。打たれれば99%撃墜されるだろう。

 

「クソったれ…」

 

アキラはなんとかバインドを砕いたが、再びバインドで縛られる。それを繰り返し、アキラを絶対に逃さないつもりだ。

 

その様子を見ていた小此木は少し訝しんだ表情をした。

 

「………妙だな。トレーニングの成果を出し切れていない」

 

「そんな!このままじゃアキラ君が…」

 

「……仕方あるまい。彼はここまでの様だ」

 

「!?」

 

なにやら観覧席の空気が怪しくなってきている間にも魔力は収束され続け、発射可能域に達していた。

 

「スターライト………ブレイカァァァァァァァァァァ!!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

アキラは何とか凌ぎ切ろうとシールドを数枚重ねたものを展開した。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

全身が消滅しそうだった。シールドを展開する腕は今にも砕け、身体は地面に叩きつけられそうな衝撃が常時アキラを襲い続ける。

 

『アキラ陸尉聞こえるかい?』

 

その時だった。観覧室の小此木から通信が入った。

 

「なんっだ………今、話してる状況じゃ…」

 

『君は此処までだ。どうやっても君はそれを防ぎきれない君の負けだ』

 

「そんなん………やってみなくちゃ…」

 

『それだけじゃない肝心なとこでファントムにいられる条件の「力」を行使できなんじゃ君はファントムに相応しくない。君は永久凍結。封印処置とする』

 

「な…」

 

『ああそうそう、ギンガ準陸尉のことは心配しなくていい』

 

「なに?」

 

『私が責任をもって幸せにしよう』

 

『きゃあ!』

 

ギンガの悲鳴が通信越しに聞こえてきた。

 

アキラは砲撃に耐えながら視線を観覧席に向けた。そこには小此木に拘束されているギンガの姿があった。

 

「テメ…ェェェェ!!」

 

『そういえばアキラ陸尉。君は私に聞いたね。力を持っているのになぜ管理局に味方するのかと。理由は孤独が嫌だと言ったが………あれは嘘だ。本当の理由は。都合のいい女が簡単に手に入るからさ』

 

「なんだ………とぉ…」

 

『私を心配してくれた心優しい女性がいたと言っただろう?彼女がいなくなったのも、私が「使いすぎて壊してしまった」からなんだよ』

 

観覧席のギンガは必死に抵抗していた。しかし小此木の力は戦闘機人のギンガの力すら抑えるほどだった。

 

「離してください!やめて!」

 

「ツムギ、彼女を黙らせろ」

 

「了解」

 

ツムギが瞬間でギンガの横に移動したと同時に首の後ろに一撃入れて気絶させた。小此木は倒れかけたギンガを支え、顎に指を伝わせる

 

「美しい顔、良いスタイル。君には少々もったいないと思ってたんだ。まぁ抵抗するなら洗脳でもなんでも手はある……壊さないように気を付けるから、君は安心して逝ってくれ」

 

スターライトブレイカーの砲撃に耐えるアキラの腕の皮はボロボロになり、シールドも最後の一枚になっていた。紫皇を握っている右手には血が滲み始める。それはスターライトブレイカーのダメージはない。刀を握るアキラ自身の力だ。

 

「ふざけるな…」

 

最後のシールドにヒビが入り、中心部分に穴が開いた。そこから漏れ出した細い光線がアキラの身体を貫く。

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

アキラが叫んだ瞬間、アキラの胸のあたりが光る。そして紫皇も輝き、刀身から結晶が発生し、それが回路状に広がっていった。結晶の回路はなのはのスターライトブレイカーを吸収し、伸びた回路の枝から無害なただの魔力として放出された。

 

そしてその放出された魔力をアキラの体内の賢者の石が吸収し、覚醒を始めた。

 

スターライトブレイカーが放たれ終わるのと同時にアキラが上空高く飛び上る。頭の上に光のリングが出現し、背中の翼は模擬戦を行っている部屋の天井を通り抜け、外の空、即ち天に繋がった。

 

黙示録事件中にアキラがなった状態と同じだ。いや正しくは同じではない。翼は前より一段と輝き、アキラの全身が白く輝いている。瞳の色も蒼く輝いていた。

 

その状態のアキラが手を横に振るとあらゆる攻撃にも耐えれるように造られた観覧席の防護ガラスが砕け散った。

 

「まずいな…挑発が過ぎたようだ…。暴走一歩手前…いや、前回よりも神格化が近くなっているかも…」

 

「どうする。試合は中止してあいつを止めるか?」

 

いつも間にやらカエデに人格変更したツムギが話しかけてきた。

 

「いや…これは」

 

小此木は状況を見て少し考える。辺りに展開された結晶の回路が一部砕け、その破片がアキラの周りに集まり結晶の鎧を精製した。鎧がアキラの身体に装着されると、アキラの身体の身体の輝きは消え、頭の上のリングも消滅した。

 

「…………っは!?」

 

覚醒しているときは完全にアキラの意識は飛んでいたのか、鎧装着によって覚醒が終了するとアキラはハッとする。そして小此木の姿を見てすぐに激高する。

 

「…小此木!テメェェェェ!!」

 

腕の鎧が一部バラバラになり、浮遊する。アキラが腕を小此木向けると結晶が再集合し、ニードル型になって飛んでいった。ニードルは小此木に向かって飛ぶが、カエデがそれを繰り落とす。

 

ニードルは蹴り落とされると同時にバラバラに砕け、再びアキラの腕に戻って鎧を形成する。

 

「カエデ!どけ!」

 

「落ち着け。お前の紫皇を覚醒させるための挑発だ」

 

「だが…!」

 

「アキラ君、大丈夫」

 

ギンガの声がした。気絶させられたはずのギンガが目を覚ましていた。ツムギに気絶させられる直前、ツムギに言われたのだ。

 

「気絶のフリだ。アキラを挑発する」と。その一言でギンガは小此木の行動はアキラを本気にさせるための演技だと気づいたのだ。

 

「ギンガ…」

 

「君はやはり、「何かを護るため」にしかその力を使えないようだ。紫皇に刃を作らなかった理由が影響してるんだろう」

 

「…」

 

紫皇が造られたとき、アキラは「誰も傷つける必要はない。だから。どんな驚異からでも、大切なものを護る力が欲しかった」と願って打った。だから「なのはを倒す」ためには紫皇は起動しなかったのだ。

 

ツムギとの訓練で発動していたのは、ツムギの本気の攻撃に自信の生命の危機を感じ、自己防衛のために発動したと思われる。

 

「まだ模擬戦は終わってない。君の敵は私ではなく彼女だ」

 

小此木がギンガを離し、なのはを指差した。

 

「…。ギンガの身体に勝手に触ったケジメはつけさせる」

 

アキラはそういってなのはに向き直る。

 

「結構だがその前に彼女を倒さなければ君は再び私の前に立つことすら出来ない。忘れないことだ」

 

「安心しろよ」

 

アキラは一旦地上に下り、刀を拾い上げてなのなに切っ先を向けた。

 

「もう俺は、負ける気はしねぇ!」

 

 

 

続く



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第三十三話 信条

アフターストーリー終了です。


アキラが紫皇の鎧を起動させ、ブラスター4起動状態のなのはと最後の勝負となった。先に仕掛けたのはなのはだった。

 

なのはの大型射撃がアキラを襲う。アキラは鎧の一部をバラしてそれを自身の前に展開させて盾を精製した。その盾はなのはの魔力1ミリたりともアキラに届かせることなく、完全に防ぎ切った。

 

「!」

 

「おぉぉぉぉぉ!!!」

 

アキラは一気になのはに向かって走り出した。そして結晶を展開し、それを足場にしてなのはに近付いていく。

 

(飛行魔法を使わない!?)

 

「万閃必壊、乱咲!」

 

アキラが結晶が砕ける勢いで足場を蹴り、瞬間でなのはの横を通り過ぎた。その刹那でアキラはなのはに峰打ちを数十発当てていた。さすがに重たい峰打ちを同時に何発も食らえば堪える。アキラも本気の攻撃だ。なのはの左腕と肋骨が一本折れた。

 

「さっきは決まらなかったが今度は受けてもらうぜ」

 

上をとったアキラは自身の真上に結晶から足場を精製し、身体を翻して足場に足をつける。刀を両手でもって構え、足場を強く蹴り飛ばしてなのはに向かって真っ逆さまに突撃した。

 

「一閃必倒!竜閃禍!!」

 

破壊力と切断力、二つが入り混じったアキラが持てる技の中で恐らく最も強力であろう技がなのはに直撃した。

 

利き腕を折られたなのはは右腕で攻撃を防ごうとしたがとっさに張ったシールドなど簡単に引き裂き、なのは浮遊狐島を貫通して地面に落ちた。

 

アキラも技を放ってからそのまま浮遊魔法も使わずに地面に降り立った。

 

「はぁ、はぁ……」

 

なのはが墜ちた場所には浮遊小島の瓦礫が大量に振り注ぎ、なのはの生存が心配されるレベルだった。だが、次の瞬間瓦礫が全て吹っ飛んだ。そしてその下からボロボロのなのはが出てくる。

 

「は、大したモンだ。アレ、俺の放てる技の中でも最大級の技だぜ?」

 

「ううん、かなり効いたよ。バリアジャケットもボロボロ。防御力には自信あったんだけどな」

 

二人とも涼しい顔で会話をしているが、もうそろそろ限界だった。アキラはなのはの全力を結構食らっているしこの鎧の維持にもかなり負担がかかっている。なのはもなのはでアキラの予想以上の攻撃力に圧倒されていた。

 

「そろそろ終わりにしてぇな」

 

「そうだね」

 

「でも負けねぇ」

 

「私もそれは同じ」

 

「…」

 

「…」

 

なのはがレイジングハートを構え、砲撃した。近くに散らした魔力球とブラスタービットも射撃する。アキラは結晶の盾でメインの砲撃を防ぎ、他の射撃は回避した。

 

そして盾後ろから横に出てなのはに向かって一気に走り出した。

 

なのはは砲撃を中止し、向かってくるアキラに向けて魔力弾を放ちつつ全身を防御フィールドで固める。アキラは弾丸を完全に躱し、斬撃を飛ばして防御フィールドを消そうとした。しかし、背後を取ったブラスタービットが砲撃を放った。

 

アキラはそれに気づいて結晶の盾を背後に展開した。しかし、右、そして左からもブラスタービットがアキラに砲撃する。それもなんとか盾を出現させて防ぐ。

 

アキラの盾は通常の魔力の盾と違い、自身で押さえる必要がない。だが展開の際に僅かな隙はできる。その隙を狙われ、アキラはバインドで縛られた。

 

「ぐっ……」

 

(ここ!)

 

自由を奪い、その隙になのはは最後のブラスタービットをアキラの上に、レイジングハートでッ正面からアキラを狙う。

 

(くっ!俺が結晶で出せる盾は最大で4つ!まだビットが砲撃を続けてるせいで他を消滅もさせらんねぇ!)

 

「エクセリオン!!バスタァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「あぁぁぁぁぁ!」

 

上からの砲撃を何とか新たに精製した盾で防ぎ、そのまま盾を上にも伸ばして防ごうとしたが魔力が持たず、スピードが出なかったため間に合わなかった。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

(全身を魔力ダメージで抉られる。今は鎧でダメージが軽減されているが時期に魔力も尽きて鎧が消え、俺は魔力ダメージで敗北するだろう………負ける、負ける。負けるってことは…………死ぬ。死ぬのと一緒だ。駄目だ。今はまだ死ねない…俺の為に力を尽くしてくれた連中の為に…何より…………アリスの…ギンガの為に!)

 

「俺はギンガとの明日を………守りたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

(その邪魔をするものは!全部!)

 

アキラの想いに共鳴した鎧が輝き、結晶が出現した。その結晶はアキラの足元から戦闘場のフィールドの中に広範囲にわたって包み込む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、」

 

「………!」

 

アキラはその場に跪く。辺りを見ると結晶が地面を覆い、更に地面から枝状に伸びた結晶がブラスタービットを、そしてなのはを捕縛していた。それだけではない、なのはのバリアジャケットは強制的に解除されていた。

 

「これは…」

 

(う、動けない……)

 

アキラはふらふらと立ち上がり、なのはに向かって歩いた。

 

(もう身体から生み出せる魔力がねぇ……だが、構わない)

 

アキラは結晶の鎧を解除して刀の状態の紫皇に戻し、その切先をなのはに向けた。

 

「降伏しろ。勝負はついただろ」

 

「……うん…」

 

なのはの戦闘終了の意思を見せると、結晶は砕け、全て光となって消滅した。

 

「………ああ、よかっ………た…」

 

勝負がついた瞬間、アキラはそのまま真後ろにぶっ倒れた。魔力はすべて使い果たし、肉体疲労も精神的疲労も限界だったのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「う……」

 

アキラは何か薄明るい空間で目を覚ました。まるで宇宙の様な空間。身体がふわふわと空間を漂っている。いや、正しくは明るい空間から暗い空間に少しずつ落ちていく感じだ。

 

「おめでとう」

 

「!」

 

目の前にリュウセイが現れた。

 

「何とか生き残ったな。これからもギンガを護るために生きろ。そして戦え」

 

「………お前。本当になんなんだ?」

 

「何度も言っているだろう。俺は世界の管理人で、お前とギンガが最高の未来を得ればそれでいい。今回は祝福と………警告、それからまぁちょっとした救済だ」

 

そういってリュウセイは暗い空間へ落ちていくアキラの腕を掴み、光の方へ投げ飛ばした。

 

「うおぁ!」

 

「間もなくお前に災難が降りかかる……どうなるかはお前次第だ。気を付けろよ」

 

「ま、待て!それは一体どういう………っ!」

 

 

手を伸ばし、去っていこうとするリュウセイを掴もうとして目を覚ました。視線の先には見知らぬ天井。

 

「ここは…」

 

アキラはゆっくりと身体を起こす。どうやらここは病室で自分はベッドで寝かされていることを理解する。

 

体中が痛い。そしてさっきの試合が思い出される。

 

「俺は…」

 

「アキラ君?」

 

入り口付近から声がした。視線を向けるとそこには花の入った花瓶を持ったギンガが驚いた表情でこちらを見ていた。

 

「…ギンガ?」

 

「……」

 

ギンガはほぼ微動だにしないで持っていた花瓶を落とした。花瓶は床に落ちると同時に砕けた。ギンガは瞳に涙を溜めて声を押し殺しながら両手を口元に当てる。

 

「…っ!……っ!」

 

「ギンガ?どうした?」

 

「アキラ君!」

 

ギンガは涙を瞳一杯に溜めながらアキラに抱き着いた。

 

「!!」

 

「………良かった、良かった…!」

 

「どうした…?」

 

ギンガはしばらくアキラに抱き着いて離れようとしなかった。アキラは一体どうしたものかと思ったが、後から病室にきたなのはに話を聞かされた。どうやらアキラは死にかけていたらしい。

 

アキラはあくまでも人口魔導師だ。魔力を消費しすぎることは今まであったが、本当に空になる直前まで使いすぎるとアキラは肉体の維持が難しくなる。アキラが最後に発動した戦闘場の地面を包み込むほど発生させた結晶。それはアキラが本来自身の身体で制御して残しておくべき魔力まで使って発生させたのだ。

 

小此木がその場で協力してくれた魔導師たちから魔力を受け取り、アキラに流したことで何とか命拾いしたらしい。

 

「まぁそういうわけだから。アキラ君もあんまりギンガを悲しませちゃだめだよ?」

 

「……すまねぇ」

 

「でも、無事で戻ってきてくれてよかった。アリスも喜んでる」

 

そういってギンガはアリスをアキラに渡した。アキラはアリスを抱えてあやす。

 

「そうだな………ただいま。アリス」

 

「だうぁ」

 

ようやく日常が戻ったような空間に小此木がやってきた。

 

「やぁアキラ陸尉。さっきは危篤だったがもう大丈夫そうだね」

 

「ああ。おかげさまでな。お前が協力してくれたんだって?」

 

「まぁそうなんだが…君の身体に馴染むように調整したとはいえ、妙に馴染むのが早かった。なにか心当たりはあるかい?」

 

「心当たり…」

 

その時、アキラは夢に現れたリュウセイのことを思い出した。

 

「何度も言っているだろう。俺は世界の管理人で、お前とギンガが最高の未来を得ればそれでいい。今回は祝福と………警告、それからまぁちょっとした救済だ」

 

(リュウセイはそういってた………そうか、アイツが…)

 

「心当たりはねぇ。だが、もしかしたら、神の気まぐれかもな」

 

そう言ったアキラの表情は、どこか穏やかだった。リュウセイの介入の理由は分からない。だが、おかげでアキラは生き永らえた。今はそれを喜んだのだ。

 

「そうか…………最高評議会からの結論を伝えに来た。アキラ・ナカジマ二等陸尉。君は充分な戦力であることを示した。よって君は「ファントム」に所属することを条件に陸士108部隊戦闘部隊隊長として管理局に努めることだそうだ」

 

「了解だ。サンキュウな。小此木」

 

「ああ」

 

 

 

-数日後-

 

 

 

アキラは退院し、自身の家に戻る日が来た。車で送られ、アキラは自宅の前までやってきた。

 

車を降り、玄関の扉を開ける。しかし、玄関を開けた先は暗かった。いや、人の気配がないという感じだ。玄関を開けた瞬間歓迎されると思っていたで少し驚く。

 

「…?。あ、あれ?ギンガー?」

 

家の中に入り、歩を進める。

 

「ノーリ?セッテ?」

 

そして、居間の扉のドアノブに手を掛け、そのまま開けた。

 

その瞬間。

 

「「「「おかえりー!!!!」」」」

 

クラッカーの音と共に大勢の声が部屋に響く。部屋の中にはギンガ、ノーリ、セッテは当然ながら、ゲンヤ、ナンバーズ、メグ、なのは、フェイト等々主に機動六課の知り合いの面々がアキラの生還を祝って暮れに来たのだ。

 

「アキラさん!」

 

状況を飲み込めずポカンとしているアキラにヴィヴィオが花束を持ってきた。

 

「ヴィヴィオ……久しぶりだな」

 

「退院おめでとうございます!それから、ママを助けてくれてありがとうございます!!」

 

そう言ってアキラに花束を渡す。アキラはやや困惑しながらも花束を受け取る。

 

「助けた…っけか?俺?」

 

「忘れたの?トーレと戦っているときに助けてくれたじゃない?」

 

「助けたっていうか、あんたらの戦いに勝手に入ってっただけだが…」

 

「まぁまぁ、ミッドを救った英雄として、ちゃんと生きて戻ってきた記念に…ね?」

 

「…そうかい」

 

アキラは少し笑って花束を受け取る。誰かに感謝されること。こんなことはいつぶりだろうかと思いながら。もちろん感謝されるのはそこまで久しぶりじゃない。だが、存在する事自体に感謝されたのはきっと初めてだった。

 

そうなったのは、そう思われるくらいに人とのつながりを作ってくれたのは、きっとギンガのおかげだ。

 

そう思うと、アキラはなんだか不思議な気分になりギンガに近付く。

 

「アキラ君?」

 

「………ありがとう」

 

それだけ笑顔で伝え、ギンガにキスをした。大衆の前でだ。ソフトキスではない。舌を思いきり絡ませに行くディープキスだ。

 

「!!」

 

「なんや、ええ感じやん」

 

「お熱いわね~」

 

ギンガも恥じらいはあったが拒むことはできなかった。3ヶ月ぶりの最愛の夫からのキス。恥じらいよりもうれしさが勝ったのだ。

 

「ぷぁ…」

 

「ありがとう…ギンガ。愛してるよ。これまでも、これからも」

 

「………うん…」

 

せっかくごちそうまで用意したが、ここは二人きりの方が良かったかという雰囲気になっているとき、メグが間に入った。

 

「おら、二人きりの世界に入ってんじゃないわよ。さっさと始めましょ。私もうお腹ペコペコ」

 

「あ、ああスマン…」

 

「ギンガだけじゃないでしょ。あんたが感謝すべきなのは。もっと周り見なさいっての」

 

「………そうだったな」

 

ここまでアキラがこれたのも、ギンガを助けられたのも、全部、ここにいる仲間のおかげだ。

 

 

 

 

続く



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異次元編
EX第1話 新たな旅


Force編の展開がうまくまとまらないので今回から新章を開始します。Forceは定期的に更新出来たらなと思ってはいます。ストーリーはForceの始まる直前です


「新婚旅行だと?」

 

「はい」

 

ある日の昼下がり、アキラの家に遊びに来たウーノからの提案だった。結婚してからはアリス出産までこれと言って何もできず、生まれてからもすぐに黙示録事件が発生し、ゆっくりする時間がまるでなかった。去年から今年にかけてもノーリ達が巻き込まれたダズマ出現の事件があった。育休中であるはずのアキラたちは多忙を極めたということで、ゲンヤからの旅行のプレゼントだということらしい。

 

「アリスちゃんとセッテ、ノーリは私たちが預かるので………ノーリさんは、アインハルトさんかリンネさんの御宅にお泊りしますか?」

 

ウーノがいたずらな笑みでノーリに提案する。するとノーリは飲んでいた水を噴き出した。

 

「げほっごほっ!ふざ…ふざけるな!どっちかって言うと保護しろ!俺を!」

 

ノーリは必死にウーノの提案を拒否した。

 

「というか別にセッテもノーリも家事も炊事もできるし、預からせるのはアリスだけでいいんじゃないか?」

 

「確かに………そうですね。別にそちらに行かなくても私たちは別に」

 

「アキラさんにギンガさん、それにノーヴェさんも出て行ってしまって………ゲンヤさんがさみしがっているんですよ。口には出しませんが、なんとなく態度でわかります。なので、来ていただけると…」

 

ウーノは苦笑いで言った。

 

「そうだな……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぜ」

 

「私もそうしましょうか」

 

ウーノの話を聞き、セッテたちはアキラたちの旅行中はゲンヤたちのナカジマ家に身を置くことにした。アリスはやはりアキラたちが連れて行こうという話をしたが、旅行中くらいゆっくり休むべきだといわれ、結局預けることとした。

 

そして、出発の朝。

 

「おはようございます、ノーリさん」

 

「…………」

 

アキラたちを見送ろうとノーリが扉を開けた瞬間、玄関には満面の笑顔のアインハルトが立っていた。

 

「今日からアキラさんたちはご旅行だそうで。私たちも休日ですし、一緒にデートでもとノーリさんをお迎えに来ました♪。お二人がご旅行ということは普段お誘いしても断られる理由最多のアリスさんの面倒を見ることもありませんね?」

 

「どこから情報が漏れたんだ…っ!」

 

ノーリは庭に向かって逃げた。

 

「ティオ」

 

「にゃあ!」

 

ノーリは庭の塀を飛び越え、その先の道路に出る。しかしその目の前にライジングモードで高速移動してきたアインハルトが現れる。

 

「げ」

 

とっさのことで反応しきれなかったノーリはアインハルトに一蹴された。そして気絶させられたノーリはアインハルトに引きずられ、どこかへと連れていかれた。

 

「ノーリも女難が大変ね…」

 

「まぁ、どっちかって言うと幸せ者だろ。本人にその気がないだけで」

 

引きずられていくノーリを見ながら二人は遠い目をしていた。

 

 

 

-次元船港-

 

 

 

「では、お気をつけて」

 

「ああ。アリスのこと、頼むな」

 

次元船の乗り込み口前でアキラとギンガはアリスを渡した。

 

「これにアリスの世話の方法、大体書いてあるから…………あ、ミルクあげるときはちゃんと人肌の温度にしてから…」

 

「大丈夫ですよ。よく面倒を見いている私もついていますから」

 

アキラは割とあっさり目にアリスを渡したが、ギンガは最後まで心配そうだった。

 

「心配するなギンガ。別に死にやしねぇだろうさ」

 

「でも…もしも急に熱とか出して、それの対応が遅れて脳にダメージが…」

 

「そこまで心配するな。シャマル先生や教会の双子もついててくれるっていうし、体力には自信ありきの戦闘機人の集まりだ。早々滅多なことはねぇよ」

 

「うん……」

 

最後まで後ろ髪を引っ張られる様子だったが、ギンガは不承不承ながら了承して船に乗った。出航してから数分、いまだにギンガはアリスを心配しているようだった。

 

「たまにの二人っきり……知り合いなんて一人もいない完全な二人なんだ。有意義に使おうぜ」

 

「そうだね…うん!そうしよう!」

 

アキラの言葉でやっとギンガは元気な態度を見せてくれた。

 

「ふぅ…」

 

今回の旅行の行先は地球。ゲンヤの先祖の故郷であり、高町なのはたちの故郷でもある。ゲンヤが用意してくれたのは管理局の人間の権力を使った次元旅行。いうなれば調査任務という名の慰安旅行だった。

 

本来次元航行システムを持たない地球はミッドの人間が入れる世界ではない。いや、一方的な往来は可能だが地球の人間には知られてはならないのでミッドに住む一般人が入るのは不可能だった。なので今回は以前から地球で僅かに確認されていた謎の反応の調査と報告任務をアキラたちに託したのだ。任務は解決ではなく調査だけなので任務はほぼおまけで旅行をしてこいとのことだった。

 

「地球か……今回は日本ってとこに行くらしいが……」

 

「日本では私たちのナカジマって名前やアキラ君の橘っていうのは一般的みたいね」

 

「へぇ」

 

「あと小此木さんもね。こう思うと結構私たちの周りに地球出身者って多いのかもね」

 

「そうだな。あの世界に魔法技術はないって話だが…」

 

その瞬間だった。大きな衝撃がアキラたちの乗る船を襲った。

 

「!?」

 

「きゃあ!!」

 

アキラは席を立ち、操縦席まで走った。

 

「何があった!?次元震か何かか!?」

 

「わかりません!次元通路に裂け目が……そこから超高温の熱風らしきものが当たっています!」

 

「なんだと!?」

 

そうこうしているうちに船内の温度がどんどん上がっていく。

 

(この温度上昇速度………あと5分もしないうちに人間が燃え上がる温度にまでなる………)

 

アキラとギンガはバリアジャケットを纏えば耐えられるだろうが、この船には操縦者含め、別次元へ行く予定の一般人もいる。

 

「………ギンガ、悪いが付き合ってくれ」

 

「え?」

 

「バリアジャケットを着て、外で熱風とやらを防げるかどうか試してみる。このワイヤーガンの先端を船内で持っててくれないか?」

 

「………止めても聞かないよね」

 

「悪い」

 

「ううん、がんばって」

 

アキラは次元船の扉を開け、船壁に張り付く。外に出た瞬間、いままで味わったことのないような熱風がアキラを襲う。

 

(熱い…!火災現場でもこんなには……)

 

アキラは船体に無理やりしがみつき、直接熱風が当たっている個所に向かった。既に直接当たっている場所が融解を始めている。

 

もはや熱波というより火炎そのものだった。火の温度は最大数千度

 

(中途半端な氷結魔法じゃ追っつかねぇ!これは……!)

 

「ユルティム・グラセ・ブレイカァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

禁術指定までされている究極の氷結魔法をアキラは放った。その一撃で融解部分は一瞬にして凍り付き、熱波を抑えた。

 

「ぐうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

アキラは自身の技で全身が凍り付きそうになるが、それも熱波で相殺される。

 

「ここまでとは………」

 

「アキラ君!」

 

「来るなギンガ!これは………マジで危険だ!」

 

その時、急に熱波が止まった。

 

「なんだ………?」

 

「アキラ君!?大丈夫!?」

 

「あ、ああ………なんなんだこれは…?」

 

しかし、安堵したのもつかの間。熱波が発生していた次元の歪みから今度は超強力な次元震らしき衝撃波が発生した。 

 

「!!」

 

船外にいたアキラはその衝撃波にふっ飛ばされる。

 

「アキラ君!!!」

 

ギンガも必死にワイヤーを引っ張ったが、その衝撃が大きすぎたために強靭なワイヤーが千切れる。

 

「…ぁ」

 

次の瞬間、ギンガは何も考えずに次元空間に飛び出していた。

 

「ギンガ!?馬鹿野郎戻れ!」

 

「嫌だし、無理だよ…」

 

ギンガは次元空間でアキラに追いつく。

 

「馬鹿が……」

 

「馬鹿で結構」

 

『アキラ二尉!ご無事ですか!?』

 

次元船の操縦者から通信が入った。

 

「俺らはいい。お前らは乗客を目的地にしっかり助けろ。いいな」

 

『…了解』

 

通信はそこで途切れ、次元船は緊急加速を始めた。

 

「………馬鹿野郎」

 

「ごめん」

 

次元空間に放りだされた人間が生きて帰れる可能性は限りなく低い。別次元に放りだされればまだ生き残る可能性は残るが虚数空間に引きずりこまれれば死は確定する。

 

(クソっ………こんなところで…)

 

アキラはギンガを抱きかかえ、次元空間を彷徨う。いずれどこかで別の次元に引き込まれるだろう。さすがのアキラもこの空間では抗うことはできない。唯一の可能性として冥王の鎧という手段があるがそれはいま封印されている。

 

「全く、面倒をかける」

 

そこに、唐突に白い鎧を纏いし男、リュウセイが次元空間に現れた。

 

「お前…」

 

「さっきの次元震で次元空間の歪みが恐ろしく強い。それに、何か強制的な力が次元空間に干渉し本来の目的地には飛ばせそうにないが、頑張って生き延びろよ。家族に無事は伝えておいてやる」

 

リュウセイが手をかざすと、二人の背後にゲートが出現した。二人はそれに吸い込まれていった。

 

「………この次元震…それにゲートに干渉している力………原因を調査する必要がありそうだな…」

 

リュウセイは次元震と熱波が発生した次元の裂け目に飛び込んだ。

 

(それにしてもあいつは面倒ごとに巻き込まれることが多いな……たまたまか、それとも……因果なのか…)

 

 

 

-とある次元世界-

 

 

 

「………この人は」

 

とある次元世界。そこでは一人の少年が目の前に突如として出現した女性に困惑してしていた。

 

「う…」

 

自分のよく知っている少女によく似た女性。

 

「アキラさーん!どうしましたー!?」

 

少年は近くにいた少女に呼ばれた。少年は女性を抱えて声の方に歩き始めた。

 

 

 

続く



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EX第2話 新たな再会

ちょっと次の話が止まっているので異世界編の続きです。遅くなってすいません。


-ある次元世界-

 

 

 

ある次元世界では白い甲冑の男、リュウセイがアンモナイトのような物体を眺めていた。その物体はとある船の中の個室に置かれていた。

 

「次元移動に干渉していたのはコイツだったか………」

 

しばらく眺めていると、その部屋に黒い髪の少女と紅い髪の少年が飛び込んできた。

 

「テメェ!何者だ!」

 

「動かないで」

 

少年がナックル型の武器を向けて威嚇をする。リュウセイは二人を少し眺めてから口を開く。

 

「近いうちにこの世界に災いが降りかかる。気を付けろ」

 

「なに?」

 

それだけ伝え、リュウセイは次元転移でその場から消えた。

 

「消えた…!?なんだったんだあいつ…」

 

「とにかく…報告に行こう……今の人が言っていたことも気になるし………」

 

二人はその場から離れ、どこかへ走っていった。

 

 

 

-別の次元世界-

 

 

 

「うーん…」

 

別の次元世界。ギンガは目を覚ます。目を開けて最初に目に入ってきたのは木製の天井だった。

 

「ここは……」

 

「あ……」

 

「ん?」

 

小さな声がした。声の方を向くと扉の影から僅かに頭を出した青い髪の少女がこちらを見ていた。しかしギンガはまだ意識がはっきりせず、状況を理解できずにいる。

 

「き…君は?」

 

声をかけるが少女はドアの向こうに走って行ってしまった。

 

「……?」

 

「お母さん!あの人起きたよ!」

 

遠くの方から声が聞こえた。しかしギンガはそれを気にする余裕はない。

 

(ここは………どうして私こんなところで寝ているの…えっと……えっと…)

 

必死で記憶を呼び起こそうとするが、頭がうまく働かずにいまいち考えが纏まらない。そうこうしているうちに、足音が近づいてきた。さっきの子のものではない。大人の足音だ。

 

そして扉が開かれる。

 

ギンガは扉の向こうから現れた人物を見てわが目を疑った。

 

「母さん!?」

 

見間違えるはずもない。そこにいたのはもう何年も昔に死んだはずの母、クイント・ナカジマだった。

 

「母さん……って呼ばれると違和感ないわね……やっぱりあなた……ギンガ…なの?」

 

「どうして母さんが……」

 

その衝撃と共にギンガは唐突に思い出す。ここに至るまでの事象を思い出す。

 

「そうだ……アキラ君…アキラ君はどこ!?それにここは…」

 

「アキラ………ねぇ。アキラ、呼んでいるわよ!」

 

クイントが天井に向かって呼びかける。すると屋根からアキラがベランダに降りてきた。しかし、降りてきたのはギンガの旦那であるアキラではない。見た目中学生くらいの少年だった。

 

「……」

 

「アキラ…君?」

 

「ああ、俺はアキラだ……けど、あんたは知らない」

 

「私もあなたは…知らない………名前は…フルネームは?」

 

「橘アキラだ」

 

アキラの旧姓だ。まぁ仮にこの歳で今と同じ「ナカジマ」だったらそれはそれでおかしいのだが。

 

「やっぱり昔のアキラ君?」

 

クイントが亡くなる前、アキラとギンガ、スバルは遊んだことがある。そしてクイントが死んだ事件の際にアキラは現場に居合わせて暴走したため、アキラの記憶からクイントの記憶は封印された経緯がある。

 

だが、その時のアキラは10歳にもなっていないし、こんな和風の家に住んだ記憶もない。仮に次元超越に失敗して過去に飛んだとしても話が噛み合わない。

 

「アキラと面識があるようだけど、その前に教えて?あなたは誰?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「なるほど?まとめると、あなたはミッドチルダっていうところから来たギンガ・ナカジマさんで、次元旅行中に事故に巻き込まれてここに来たと…?」

 

「はい…」

 

とりあえずギンガは簡潔に説明した。話はまずクイントとアキラが聞いたがいまいち信じられないような表情をしていた。

 

「こちらからもいいでしょうか?」

 

ギンガはずっと気になっていることを聞いた。

 

「ええ、どうぞ」

 

「クイント……さんでいいんですよね?」

 

このクイントそっくりの人物は誰なのか。それが疑問だった。

 

「ええ、私は中島クイントで間違いないわ」

 

(名前が少し違う………きっと母さんとは完全な別人なんだ………)

 

ギンガは自分の母もクイントだということを伝えた。死んだことを伝えるべきではないと判断し、それは伝えなかった。

 

「なるほどね………ということはとてもあの子と同じとは思えないわね…………入ってきて」

 

クイントは扉に向かって呼びかける。すると、扉の向こうから少女が入ってきた。その少女は、幼いころのギンガそのものだった。

 

「………わ、私?」

 

「は、初めまして、中島ギンガです。13歳です…」

 

「恐らくだけど、あなたとこの子は別人なのよね?」

 

「……恐らくですが…」

 

(母さんにそっくりな人…アキラ君にそっくりな子、そして私にそっくりな子……よく似ているけど名前がなんとなく違うし、それに)

 

「少しいいかしら?」

 

「え、は、はい…」

 

ギンガは中島ギンガと橘アキラに近付き、腕に触れた。そして少しだけ皮膚と、骨肉の感触を確かめる。橘アキラと中島ギンガの腕は柔らかかった。戦闘機人の皮膚に使われている強化筋肉の感触も体内の機械骨格の感触もない。

 

ただの、人間だ。

 

「…」

 

「なぜ悲しそうな顔をするんです?」

 

橘アキラがギンガの顔を見て訪ねてきた。

 

「え、ええ。ごめんなさい…何でもないわ」

 

(たぶん別人なんだろうけど…なんだか根っこの部分は同じに思えるわね……このちびアキラ君…)

 

「まぁ、とりあえず行く当てもないってことで良いのかしら?」

 

まだ半信半疑という感じだが、クイントはとりあえず信じてくれたようだ。

 

「………まぁ、そうなります…」

 

「だったらしばらくウチで泊まりなさい?これもなにかの縁だろうし」

 

予想外の提案だった。ギンガはさっさとこの家を追い出されてもおかしくない立場だ。それでもクイントは家で面倒を見るという。

 

「……いいんですか?」

 

「ええ。うちは元々大所帯だし、アキラもウチの居候だしね。一人二人増えても変わらないわよ」

 

「……でも」

 

乗り気でないギンガに対し、クイントは食い気味に伝える。

 

「それに、仮に次元とやらが違えど自分の娘が困っていたら助けたくなるのが親心ってもんなのよ」

 

「………母さん…。わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて…」

 

「うん。じゃあ、うちの案内でもしておこうかしら。いらっしゃい」

 

ギンガはクイントに連れられ居間に向かうこととなった。その途中、ギンガは気になったことを聞いた。

 

「そういえば大所帯って言ってましたけど…ほかの家族は父さんと…スバルですか?」

 

「そっちにもスバルはいるのね?父はゲンヤさんでいいのかしら?」

 

「ええ…まぁ…」

 

正しくはギンガ自身、クイントのDNAから創られた戦闘機人なのでゲンヤが正当な父というわけではないが、家族構成的には間違ってはいない。

 

ギンガはそれを説明すると長くなるので黙っていた。

 

「ウチはギンガの下に妹がたくさんいてね、そっちにはいない?」

 

「妹…」

 

正当な妹と呼べるのはスバル、そして同じくクイントの遺伝子を持つノーヴェくらいのものだが、家族構成的にはナンバーズの妹たちがいる。

 

「一応…」

 

「そう。だったらわかるかしら。今はみんな出かけてるからいないんだけどね」

 

「そうなんですか……でも、まぁ多分見ればわかります」

 

「そう……それから、私も次元がどうこうなんて信じられないのにあの子たちにそれを説明して理解できるとは思えないから…未来から来たってことにしてもらっていい…?」

 

「はい?」

 

意味不明な提案にギンガは真顔になる。

 

「異次元からのお客さんは初めてだけど、未来からのお客さんは来たことがあるのよ。この子たち」

 

クイントは写真を取り出した。その写真には、アインハルトとヴィヴィオが写っていた。

 

「ヴィヴィオに…アインハルト!?」

 

「やっぱりそっちにもいるのかしら?」

 

「はい………」

 

(そうか、こっちの私が今この年齢ってことはヴィヴィオもアインハルトも未来の存在ってことか………本当によく似ている)

 

「それで、どうかしら」

 

「………下手に嘘をつくとこの世界のためにならないかもしれません。それに、私が知ってるあの子たちとは少し違いますが、きっと信じてくれるって信じてます」

 

「そっか………まぁ、その通りかもね……面倒だけど説明頑張りますか」

 

 

 

 

 

 

 

一方、ここは三人の少女が公園で遊んでその帰り道。その中の赤毛で三つ編みを垂らしたセミロングの少女が空き地にうつ伏せの状態で倒れている男の人を見つける。

 

「…………人が倒れている」

 

「え?あっ、ホントだ!!」

 

「大変っス!!」

 

赤毛の少女と同じ年頃の青髪の少女と赤髪でパイナップルみたいな髪型の少女が倒れている男性の下へと駆け寄る。

 

「だ、大丈夫?その人?‥‥その‥‥怖い人じゃない?」

 

「「えっ?」」

 

しかし、最初に男性を見つけたセミロングの少女は二人よりも後ろにおり、恐る恐る二人に声をかける。

 

セミロングの少女は元々内気な性格なのだが、彼女の家では少し前に長女である姉が誘拐されたことがあり、セミロングの少女はかなり警戒していた。

 

青髪の少女とパイナップル髪の少女もそのことを思い出し、駆け寄るスピードを落として警戒しながら恐る恐る倒れている男性へと近づく。

 

パイナップル髪の少女が男性の背中を指で突っつくが男性が起きる気配はない。

 

「大丈夫っス、寝ているだけみたいっスよ」

 

「でもなんでこんなところで寝ているんだろう?」

 

三人の少女たちが男性の様子を窺っていると後ろから声がかかった。

 

「おや!?そこにいるのは中島さんちのご姉妹ですか!?」

 

「そんなところでなにしてるのん?」

 

振り替えるとそこには二人の女子高生が立っていた。

 

 

 

―中島家―

 

 

 

「遅いわね……いつもだったらそろそろ帰ってきていい時間なんだけど…」

 

クイントが子供たちの帰りが遅いことに心配していた時、玄関の扉が開かれた。

 

「お母さーん!!!」

 

「あら、帰ってきたみたい。ちょっと状況整理させるからそれまで隠れておいて?」

 

「あ、はい」

 

ギンガに奥に隠れているように言い、クイントは玄関まで向かった。そして、玄関には三人の娘と、二人の女子高生に抱えられた大柄な男がいた。クイントはあまり表に出してないが驚きまくっていた

 

「…………あらまぁ…」

 

「スバルちゃんたちに頼まれてここまで運んできました!」

 

「キリエめちゃくちゃクタクタのKMSよぉ…」

 

二人の女子高生の内赤髪の少女は元気だったがピンク髪の少女はクタクタになっていた。

 

「この人!アキラさんにそっくりで!」

 

「………まぁ、部屋に運びましょうか」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「頑張って生き延びろよ。家族に無事は伝えておいてやる」

 

白騎士リュウセイのその言葉を最後に自分とギンガは何かに引っ張られるような感覚でゲートの彼方に吸い込まれていった。

 

「っ!?」

 

瞼をバッと開けると目に映ったのは木で出来た天井であり、自分は布団に横たわっていた。

 

(あの野郎、無茶苦茶なことを言いやがって‥‥)

 

自分をあの環境から救ってくれたことには感謝するが、自分たちを元の世界に戻してくれれば良かったのだが、それが出来ず自分とギンガをどこかの世界に跳ばした。自分が覚えているのはそこまでで、ここがどんな世界なのか未だにわからない。

 

(っ!?ギンガ!?ギンガは!?ギンガはどこだ!?)

 

そこでようやく自分と同じくこの世界に跳ばされた妻のことに気づき布団から飛び起きる。自分と一緒にこの世界に跳ばされたのであれば、ギンガも近くにいる筈なのだが、隣にギンガは居なかった。

 

しかし、自分がここにいるのであればギンガも必ずいる筈。

 

ギンガを捜しに行こうと部屋の出入り口である扉へと向かおうとした時、部屋に一人の女性が入ってきた。

 

「あら?目が覚めたの?」

 

「っ!?」

 

その女性の姿を見てアキラは大きく目を見開いた。

 

 

 

―状況説明―

 

 

 

「なるほど?ここは異世界で、俺やギンガ、クイントさんのそっくりさんがいるってわけだ」

 

既にこの世界の状況を知っていたギンガに状況を説明されてアキラはため息をつく。

 

「平行世界………ってわけでもなさそうだよね」

 

「まぁ、世界の在り方がまるで違う。完全な異世界って言っていいだろう…………」

 

「そうね……」

 

アキラは再びため息をつくが、同じように頭を抱えるギンガを見て少し安堵してギンガを抱きしめた。

 

「!」

 

「何はともあれ、お前が無事でよかった…」

 

「…………うん」

 

二人がそのままキスに移行しようとしたとき、気づかぬうちに窓の外にこの世界のアキラがいた。

 

「あー盛り上がってるところわりぃんだけどさ、そろそろチビたちにお前たちのこと説明したいから来てもらっていいか?」

 

「…す、すまん。とりあえずそれが先決だよな…………ガキの姿とはいえ自分に注意されるのはちょっとへんな感じだな…」

 

アキラは未知の感覚に戸惑いながらもともかくこの世界で生き抜く覚悟を決めた。たとえもう戻れなくとも、ギンガさえいればそれでよかった。

 

 

 

続く



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EX第3話 新たな生活

お久しぶりです。今日からできる限り週一ペースくらいで投稿したいです。


眼を覚ましたアキラとギンガは中島家にいた家族に自己紹介をする。当然いろいろ難しいことを言っても理解できるわけではないので簡単に別の世界から来た完全な別人という説明だけした。

 

「ってことは大人になったギン姉はママリンそっくりになるっスね」

 

小さいウェンディがギンガを見ていった。

 

「ギン姉(少女ギンガ)にとっては未来の姿を見る感じになるね」

 

「えっと……そこの青髪の子はスバル…………なの?」

 

ギンガは恐る恐るスバルに確認をとる。

 

「はい。中島スバルです!!」

 

スバルは元気一杯にアキラとギンガの二人に自己紹介をする。そんなスバルの姿にギンガはギャップを感じた。

 

目の前にいるスバルと自分の知るスバルとでは性格が異なった。

 

六課時代以降にスバルと知り合った人からは信じられないが、目の前にいるスバルと同じくらいの年の頃のスバルは今の明るく社交的な性格から信じられないほど内気で泣き虫な性格だった。

 

研究施設からナカジマ家に保護されてから、ギンガはクイントにシューティング・アーツを習い始めた。

 

ギンガはスバルに一緒にやらないかと誘ったが、スバルは『殴られるのも殴るのも嫌だ』と言ってクイントが存命中にスバルがシューティング・アーツをやることはなかった。

 

態度も常に周囲を窺う様などこかよそよそしかったが、目の前にいるスバルは自分が知る明るく社交的な性格のスバルと同じように明るい性格な印象を受けた。

 

「へぇ~よく、スバルねーちゃんが女の子だって見抜きましたね。大抵の人はよく、スバルねーちゃんを男の子だって間違えるっス。ランスターさんも最初はスバルねーちゃんを男の子だと思っていたっス」

 

(この世界にもティアナは居るんだ……)

 

ウェンディの話からこの世界にはティアナも存在するみたいだ。

 

「やっぱり、アキラ君たちの世界にもスバルはいるの?」

 

「ええ。ギンガ同様、年は違いますが……それで、そっちのパイナップルヘアーの子はもしかしてウェンディ………なのか?」

 

「そうっスよ。アタシは中島ウェンディっス!!アキラさんの世界にもアタシが居るっスか?」

 

「ああ、居るぞ。やっぱり、君よりは年上だが。で、そっちのウェンディの背中に隠れているのは……?」

 

「え、えっと……な、中島ノーヴェ…です……」

 

「「えっ?」」

 

三つ編みを垂らしたセミロングで内気な感じの赤髪の幼女ことノーヴェが自己紹介をするとアキラもギンガも目を丸くする。

 

自分たちの知っているノーヴェと目の前にいるノーヴェはあまりにも性格が違いすぎる。

 

(この子、昔のスバルみたい………)

 

しかし、ギンガにしてみれば、目の前にいるノーヴェはまだ自分たち姉妹が施設から救助されてナカジマ家に来たばかりの頃のスバルと性格が似ているように見えた。

 

「アキラ君を最初に見つけたのはチビたちだったのよ。で、知り合いの女子高生姉妹に運んでもらったんだけどね」

 

「そ、そうだったのか………お世話になりました」

 

アキラは感謝をして頭を下げる。この世界のアキラと違って少々強面な感じのするアキラに終始怖がっていたが、その態度にノーヴェは少しだけ心を許したようだった。

 

「んで、ギンガはアキラ君が運んできたの。あ、こっちのアキラ君」

 

「ありがとう、あ、アキラ君」

 

「い、いや、俺はその‥‥ギンガにそっくりな奴を放っておけなくて……」

 

大人のギンガに礼を言われ、少年アキラは頬をほんのり赤らめギンガから目をそらす。

 

「それで、暫くの間、大人のアキラ君とギンガは家で泊まってもらうことになったのよ」

 

クイントがスバルたちにアキラとギンガの二人が暫くの間、中島家に居ることを伝える。

 

「えっ?そうなの!?」

 

「おぉぉーそれは楽しそうっス!!」

 

「未来のこと、色々聞かせて!!」

 

「わ、私も聞いてみたいかも」

 

中島姉妹はそんなりとアキラとギンガの二人を受け入れた様子だった。

 

「まだ、家に帰ってきていない子たちもいるけど、紹介は追々にしましょう」

 

(まだ、いるんだ………中島姉妹…)

 

(どんな子なんだろう?)

 

クイント曰く、ギンガ、スバル、ノーヴェ、ウェンディの他に中島家にまだ子供がいるらしい。しかし、ギンガとスバルの妹がノーヴェとウェンディならば他の子もナンバーズの可能性があった。

 

先ほどアキラがギンガとの関係を話していたことから少女ギンガは色々とギンガに聞きたかった。

 

「あ、あの…ギンガさん」

 

「ん?なに?」

 

かつての自分に話しかけられているようで妙な感じだ。

 

「その‥‥ギンガさんはそちらのアキラさんと結婚しているって……その、子供はいるんですか?」

 

「えっ?そっちのアキラさんとギン姉は結婚しているの!?」

 

「じゃあ、こっちのアキラさんとギン姉も結婚するの?」

 

アキラとギンガの関係はスバルたちにとってはまさに寝耳に水であるが、自分の知っている少年と姉が未来(別の世界)では結婚していると聞いて興味が沸かないはずがない。

 

「う、うん。女の子が一人……」

 

「なんて名前なの?」

 

「アリスって言うの」

 

ギンガと中島姉妹たちがアキラとギンガの結婚生活の話題で盛り上がり、少年アキラは大きな反応は示すことはないが、やはりギンガとの結婚生活は興味があるのかちゃっかりと聞き耳を立てていた。

 

「そっか、そっちのギンガはもうお母さんなのね」

 

「は、はい」

 

「私もこの子たちを産んで、育てて、母親になるってことの苦労が分かったけど、でも子供は親にとってはやっぱり尊い存在ね。早くアキラ君とギンガが元の世界に戻れるように私の方でも色々と方法を捜してみるわね。結構こういう事には頼りになる人がいるのよ」

 

「そ、そうなんですか」

 

「あ、ありがとうございます」

 

クイントの知り合いにこういったあまりにも現実離れした事態を収拾できる人物がいることよりも、ギンガにとって衝撃的だったのは、ここにいる中島姉妹全員がクイントのお腹から生まれたことだった。

 

自分やスバル、ノーヴェに関してはクイントとはDNAの繋がりはあるが、血の繋がりはない。

 

当然、ナカジマ家に養子として迎えられたチンクたちに関しては戸籍上の繋がりだけでDNAも血の繋がりもない。

 

しかし、今自分の目の前にいる彼女たちはみんながDNAと血の繋がりがあることに驚きと同時に羨ましさを覚えた。

 

「さて、それじゃあ、おやつにしましょうか?」

 

クイントが両手をパンと叩き、キッチンへと向かう。おやつができるまでの間、やはり中島姉妹との談笑は続く。そんな中、家の扉が開く音がした。

 

「むっ?」

 

「誰?お客さん?」

 

残りの中島家の姉妹が帰ってきた。

 

「あっ、お帰り。チンク姉、ディー姉」

 

(えっと‥‥あの銀髪は明らかにチンクだし、残りの茶髪はディエチか?)

 

(予想していたけど、やっぱりチンクとディエチね)

 

向こうの世界で実家であるナカジマ家に引き取られたのと同じく残りの中島家の子はチンクとディエチだった。変えてきた姉のところにノーヴェやウェンディが向かっていった。

 

「チンク姉、ディー姉!聞いてほしいっス!」

 

「凄いことがあって……」

 

「み、未来からアキラさんとギン姉が来たの」

 

正確には未来ではないのだが、まだ小学生低学年のスバルたちにはアキラとギンガの二人は未来から来たということにした。

 

「へぇ~未来から……」

 

「ふむ、姉上が大人になりこれほど身長が伸びているならば、私の成長期もまだ可能性があるな」

 

ギンガと少女ギンガの二人を見比べてチンクはこの後の第二次成長期に期待している。

 

(望めるのか?)

 

(うーん……ちょっと難しいかも……)

 

この世界のチンクと自分たちの世界のチンクを比較すると、この世界のチンクの第二次成長期はあまり期待できないと思うアキラとギンガの二人だった。

 

「初めまして、中島チンクです。こう見えても次女だ」

 

「中島ディエチ。三女です」

 

「アキラ・ナカジマです」

 

「私は、ギンガ・ナカジマよ」

 

「未来のアキラさんとギン姉は結婚しているんだって」

 

「なんと!?」

 

「おめでとう」

 

チンクとディエチが加わりギンガの結婚生活に拍車がかかっているとクイントがおやつを持って戻ってきた。

 

「はーい、おまたせ~♪あら?チンクとディエチも戻ったのね」

 

「うむ」

 

「はい」

 

「母上、私たちのおやつは?」

 

「当然、あるわよ」

 

クイントは中島姉妹の前にホットケーキが乗った皿を差し出す。

 

ただ、その皿の中で少女ギンガとスバルのホットケーキは塔の如くホットケーキが積み上げられていた。

 

(予想はしていたが……こうして見るとすげぇな……)

 

少年アキラのパラレルワールドの説明からの少女ギンガの発言でこちらの世界のギンガ、そして元の世界でもギンガ同様、よく食べるスバル同様、こちらのギンガとスバルは小さなナリのわりにたくさん食べる。

 

「はい、ギンガ」

 

そして、クイントは少女ギンガやスバルと同じく、塔のように聳え立つホットケーキが乗った皿をギンガにさし出す。

 

「えっ?」

 

「あら?もしかして、そっちのギンガはあまり食べないのかしら?」

 

ギンガがキョトンとしたことで、クイントは自分が知るギンガと異なり、別世界のギンガは普通の量なのかと尋ねる。

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

もちろんギンガはこの世界の少女ギンガやスバルが食べているのと同じくらいの量なんてペロリと平らげることなんて平気である。

 

「「「「「「いただきます!!」」」」」

 

「「いただきます……」」

 

中島姉妹が手を合わせ食事の挨拶をすると、姉妹たちはフォークを手にしてホットケーキを頬張る。

 

彼女たちの表情はみんな幸せそうだった。

 

二人のアキラは物静かに食べているが、小さく口元を緩めていることからこのホットケーキが美味しいことが窺える。

 

自分の世界のナカジマ家でもギンガがアキラの下へ嫁ぐ前、海上更生施設からナカジマ家に引き取られたナンバーズの子たちが来た時、似たような食卓の風景が広がっていた。

 

しかし、その中にはどうしても欠けたままのピースがあった。

 

だが、この世界ではそのピースがちゃんと埋まっているのかもしれない。

 

「いただきます」

 

そう思いつつ、ギンガはフォークとナイフを使い、ホットケーキを切り分けて口へと運ぶ。そのホットケーキの味はとても美味しく、そしてとても懐かしい味だった。

 

 

 

続く



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EX第4話 新たな関係

The スランプ。


アキラとギンガの二人がもう一つの地球の中島家に居る頃、ミッドチルダの西部エルセアにあるギンガの実家であるナカジマ家ではまるでお通夜のように重苦しい空気が漂っていた。

 

アキラとギンガの二人が乗った次元航行艦が突如発生した次元震に巻き込まれ、乗客の救助中に二人が船外に放り出され行方不明になったと知らせが届いた。

 

たとえ戦闘機人であっても次元のはざまに呑み込まれれば生きて帰ってくることはできない。二人の安否は絶望的な状況であることはすぐに分かった。

 

「わ、私が‥‥私が二人に新婚旅行を勧めなければこんなことには‥‥」

 

一番責任を感じていたのはアキラとギンガの二人に新婚旅行を提案したウーノだった。

 

「そんな、ウー姉のせいじゃないっスよ」

 

「そうだよ。次元震なんて予測できなんだから」

 

ウェンディとディエチがウーノを慰めるも彼女は両手で顔を覆いものすごく落ち込んでいる。

 

「おい、アキラとギンガの乗った船が遭難しかけたって街頭テレビで放送していたが二人は無事なのか!?」

 

アインハルトと(無理矢理)デートをしていたノーリが街中でアキラとギンガが乗った次元航行船が次元震に巻き込まれた放送を見て慌ててナカジマ家にやってきた。

 

乗船者であり、なおかつ管理局員であるアキラたちの実家ならば何か情報が入っているかと思ったのだ。

 

乗っていた次元航行船は次元震に巻き込まれたが、沈没したわけではない。しかし、二人がもしかしたらケガを負っているかもしれない。

 

「そ、それが……」

 

しかし、事態はノーリの予想を遙かに上回る最悪の事態だった。

 

「“海”の次元航行艦が周辺を捜索しているけど、まだ見つかったって知らせは………」

 

もうこの時点でナカジマ家に居る皆はアキラとギンガの生存を半ば諦めている感じだった。

 

ノーリと共にナカジマ家に来たアインハルトも同じ様子で俯いている。だが、ノーリはあきらめた様子ではない。

 

「なにシケタ面をしてんだよ。あの二人がそう簡単にくたばると思っているのか?」

 

その中でノーリだけは二人の生存を信じていた。

 

「ノーリさん……そうですよね。皆さんも信じましょう!!お二人のことを!!」

 

ノーリとアインハルトはウーノたちを励ます。

 

「ああ。その通りだ。二人は生きている」

 

「っ!?」

 

そこにナカジマ家の者ではない第三者の声がした。皆は声がした方を向くとそこには白騎士リュウセイが立っていた。

 

(こいつ、いつの間に!?)

 

(気配なんて全く感じなかった………)

 

ノーリ、アインハルト程の武術魔導師がリュウセイの存在に気づけないくらいの出現。それはまるでそこにいたのが当たり前のような感じだった。

 

「おい、あんた。今さっき『二人は生きている』って言っていたが、それってアキラとギンガの事か?」

 

ノーリがリュウセイに質問を投げかける。

 

「そうだ。次元震が起き、あの二人が船外の彼方へ飛ばされそうになった時、俺がゲートを開いてあの二人を別世界へ緊急避難させた」

 

「別世界って‥‥じゃあ、二人は今どこにいるんですか?」

 

「………ここからそう遠くはないさ」

 

アインハルトの質問に対してリュウセイは気まずそうに視線を逸らす。

 

「…………どういうことです?」

 

「少し厄介な状況でな。あまりに緊急な次元転移だったせいか中々その世界にアクセスできない」

 

『えぇぇぇぇー!!』

 

リュウセイの発言にその場に居た者全員が思わず声を上げる。

 

しかし、生存が絶望視されていたアキラとギンガであるがそれが実は生きているとリュウセイが語った時は絶望が一気に希望へと変わった。

 

だが、肝心の二人の居場所が跳ばした世界に入れないとくれば話は別だ。

 

「それじゃあ、二人が本当に生きているのかわからないじゃないか!!」

 

「いいや、あの二人は生きている。あの世界を見つけて帰還の準備が出来次第、あの二人をお前たちの下に必ず戻す。それは約束しよう」

 

『………』

 

そう言い残し、リュウセイは消えた。

 

「…あの騎士を信用して大丈夫でしょうか?」

 

ウーノが心配そうにリュウセイのことを信じて大丈夫なのかと不安視する。

 

「確かに胡散臭い奴だが、今はあいつを信じるしかないな‥‥」

 

自分たちはアキラとギンガの二人を捜す手立てがない以上、リュウセイを信じて、彼がアキラとギンガの二人を連れて帰ってくれることを待つしか出来なかった。

 

 

 

―異世界―

 

 

 

おやつが終わってもアキラとギンガへの質問タイムはまだ続いていた。

 

「へぇ~そっちのギン姉はお母さんと離れて暮らしているんだぁ~」

 

「うん。今は実家を離れてアキラ君と娘のアリス、それと従弟(ノーリ)たちと一緒に暮らしているの。だから、久しぶりに母さんを見れたなーって‥‥と言っても何時も写真とかもらっているわよ」

 

「……」

 

こっちの世界のスバルからの質問にギンガは答えるが、それには嘘が含まれていた。

 

確かに向こうの世界ではクイントと暮らしてはいない。

 

それは間違っていない。

 

何しろ、向こうの世界のクイントは既に故人なのだから。

 

しかし、向こうの世界のクイントが既に故人である事実を伝えると驚くどころか色々と心配させてしまうかもしれないからギンガはその事については黙っていた。

 

「ゲンヤさんも居たら良かったんだけど、生憎海外の学会に出席中で留守なのよ」

 

(ん?学会?)

 

(そういえば、この世界のお父さんは何の仕事をしているんだろう?)

 

自分たちの世界ではゲンヤは時空管理局陸士108部隊の部隊長を務めているが、魔法がないこの世界には当然、時空管理局なんて組織はない。

 

しかし、ゲンヤ・ナカジマ、この地球では中島ゲンヤであるが、彼はこの世界に存在している事は確かだ。

 

となれば、この世界のゲンヤは一体どんな仕事しているのか気になる二人。

 

「あ、あの、さっき学会に出ているって言っていましたけど、この世界のお父さんはどんな仕事をしているんですか?」

 

「あら?そっちのゲンヤさんの仕事は違うのかしら?」

 

「お父さんは大学ってところのキョウジュをやっているんだよ」

 

「えっ?大学の教授?」

 

(この世界のゲンヤさんは大学で働いてんのか)

 

「そっちのゲンヤさんはどんな仕事をしているの?」

 

「えっとなんていうか……」

 

「まぁ公務員だよ。警察みたいなもんだな」

 

この地球には時空管理局と言う組織が無いので、時空管理局を知らないクイントたちに時空管理局と言う組織における陸士部隊の部隊長をしていますなんて言ったところで通じない。答えに迷ったギンガの代わり無難に公務員だとアキラが答える。

 

「あぁ~あぁ~明日学校が休みだったらよかったのにぃ~」

 

スバルが残念そうにつぶやく。

 

「スバル、無茶言わないの。終わったら沢山遊べるでしょう?」

 

少女ギンガがスバルを窘める。

 

(そっか、こっちのスバルも私もチンクたちも普通に学校に行っているんだ)

 

自分やスバルはヴィヴィオやアインハルト、ノーリのように学校へ通ってはおらず通信教育をして、訓練校でもスバルはティアナと出会うことが出来たが、自分はこの出生のことを気にしすぎて親友と呼べる者が出来ず、後々の失恋に繋がることになる。

 

メグと出会ったのはギンガが失恋した後で、彼女は失恋で傷ついているギンガを慰め、それからギンガとメグの交流が始まり、ここでギンガは親友と呼べる存在に出会った。

 

「放課後は時間があるんだから」

 

「そうだ、それなら明日はみんなでブレイブ・デュエルをやろう。なのはさんやフェイトさん、王様たちにも紹介したいし」

 

(ん?王様?誰のことだ?)

 

(ヴィヴィオの事かしら?)

 

なのは、フェイトは知っているが、王様という人物に心当たりはなく、自分たちの世界では聖王のクローンとされるヴィヴィオのことを指しているのかと思ったアキラとギンガだった。

 

その後、ギンガは中島姉妹と共にトランプやボードゲームなどの様々な遊戯を行って親睦を深めた。

 

二人のアキラは戸惑いつつも少女ギンガやスバル、ウェンディが誘い半ば強引に巻き込まれた感じとなった。

 

気が付けば楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕食も終わり、スバルやウェンディは慌てて宿題に取り掛かっている。

 

ギンガもクイントを手伝おうとしたのだが、クイントから『いいのよ、ギンガはお客さんなんだから』と言われたのだが、やはり亡き母とこうして肩を並べて一緒に料理を作ることが出来るのだからその貴重な機会を無駄にしたくはなかったので、クイントと共に夕食の準備をした。

 

ただ、おやつ同様、大食乙女が居る中島一家の夕食の量もすさまじい量だった。

 

(この世界のゲンヤさんも食費に関しては苦労しているんだろうな‥‥)

 

自分や向こうの世界のゲンヤと同じくアキラはこの世界のゲンヤにも同情した。

 

しかもミッドのナカジマ家と異なり人数がこちらの方が多いのだから、食費もこちらの中島家の方が多いに違いない。

 

「お部屋はやっぱりアキラ君とギンガは夫婦だから一緒の方がいいかしら?」

 

「えっ?ええ」

 

「…」

 

クイントが中島家における寝室について二人に尋ね、ギンガはそれを了承する。

 

「いや、折角だしギンガ、今日くらいはクイントさんと一緒に寝たらどうだ?」

 

アキラは何となく察し、ギンガにクイントと一緒に寝てはどうかと提案する。ゲンヤは留守みたいだし、クイントもきっと一人で寝るのだろうからギンガが一緒に寝ても問題はないだろう。

 

「えっ?あっ……その…アキラ君はいいの?」

 

「気にするな。大丈夫だ」

 

アキラは大丈夫だと言ってギンガを見送る。

 

「寝巻は、ギンガは私の寝巻を使ってね…そっちのアキラ君にはゲンヤさんの寝巻を使って頂戴」

 

「はい」

 

「ありがとうございます」

 

寝巻を受け取ると、宿題を終えたスバルがギンガをお風呂に誘いギンガはこの世界のスバルと共に入浴した。

 

ミッドでも父が地球の日本人を祖先にもつので、ナカジマ家でもお風呂の仕様はあまり差がなかった。小さい頃はよくスバルとこうして一緒に入浴をしたことを思い出すギンガであった。

 

そして、中島夫妻の寝室にてクイントと布団を並べて横になる。

 

「そう言えば、ギンガもお母さんなのよね?」

 

「は、はい」

 

「ってことはアキラ君とやっちゃったってことよね?」

 

「えっ?ええ……まぁ……」

 

「ねぇ、ねぇ、初体験はいつ?アキラ君優しかった?それともガッツリな肉食系だった?」

 

母親としてのクイントとしてみれば、たとえ別世界とはいえ娘の大人な事情には興味があった。ギンガがタジタジになりながらも顔を赤らめてクイントと大人な話をした。

 

こんな内容はとてもじゃないが、この世界の自分を含む子供たちには聞かせられない。

 

他にも二人はいろんな事を話した。真っ暗な部屋の中で、他愛も無い事だったり、大変だったことだったり。自分たちの世界の父親であるゲンヤの事を伝えたり、離れて暮らしているけどそれでも母であるクイントの事が大好きだって事を話したり。

 

(電気が消えていてよかった。)

 

クイントと話をしているギンガは内心そう思っていた。

 

ギンガは無意識のうちに涙目になっていた。

 

しかしこれは決して悲しみの涙ではない。あの日、任務へ参加したまま生きて帰ってこなかった母。その母に自分はお帰りを言えなかった。

 

あの元気な母がまさか無言の帰宅をするなんて思ってもみなかったから。

 

もう二度とお話ができないなんて信じられなかった。

 

でも、今はこうして母が隣で一緒にお話をしている。

 

例え世界が異なり、魔法が使えなくても容姿も声も自分が知る母と変わらない。

 

その事実がギンガにとってとても嬉しく、楽しく、そして何よりもあたたかい。ギンガが流した涙はまさに歓喜の涙だったのだ。

 

 

 

―アキラの寝室―

 

 

 

(ギンガは今頃、クイントさんと仲良く寝てんのかな)

 

用意された部屋でアキラは布団に入りぼんやりと天井を見ながらギンガの事を思う。

 

あの日、自分が余計なことをしなければ、今のような力があれば、自分たちの世界でもこの世界と同じ光景があったのかもしれない。

 

アリスの事もかわいがってくれたかもしれない。

 

あの時の自分の無力に悔しさを感じつつもギンガが少しでもクイントの時間を楽しんでくれればと思いつつアキラは静かに瞼を閉じた。

 

 

 

―翌朝―

 

 

 

子沢山の中島家では、それはもう朝からドッタン・バッタンの大騒ぎであった。しかし、この大騒ぎが中島家の朝の恒例行事なのだろう。

 

だが、ギンガにしてみれば子供たちのドッタン・バッタンな大騒ぎは初体験であるが、クイントが鼻歌を歌いながら朝食の支度をする姿は懐かしい光景であった。

 

朝食を終え、中島姉妹たちは学校へと向かいようやく一息つける。

 

「それで、昨日言ったアキラ君とギンガの現状を何とかしれくれるかもしれない人のことなんだけど、昨夜電話をしておいたわよ。後で家に来てくれるって言ってたわ」

 

「ありがとうございます。それで、誰なんですか?その人って」

 

「私の兄さんよ」

 

「「えっ!?」」

 

「兄さんはこの前、未来から来たって子を元の時代に送り返した実績があるから二人もきっと二人のことも何とかしれくれるかもしれないわ。ただ、ちょっと変わり者だけどね」

 

そう言ってクイントは洗濯をしに行った。

 

クイントはアキラとギンガが置かれたこの状況を打破できるかもしれない人物が自身の兄であることを告げるが、クイントの兄発言にアキラとギンガは困惑した。

 

「ギンガ」

 

「なに?」

 

「クイントさんにお兄さんが居たのか?」

 

「う、ううん…居ない筈だけど……」

 

クイントの兄、つまりはギンガにとっては叔父にあたる人物なのだが、ギンガはこれまでの人生の中でクイントの兄にあたる人物とは会ったことがない。

 

「もしかして、ギンガとスバルがクイントさんに助け出される前にその人は亡くなっていたとか?」

 

アキラはギンガとスバルがクイントに助け出される前にクイントの兄は故人になっているのではないかと予測する。

 

「ううん、いないはずだよ。私も本当の娘じゃないけど、一応その辺はわかってるから」

 

「「‥‥」」

 

それでも、二人はクイントの兄がどういう人物なのか気になり、庭先に出る。そして、昨日からもう一つ気になっていたのだが、中島家の隣の家があまりにも特徴的だったのでそれを見ていた。

 

中島家は周囲の住宅同様、ごくごく普通の日本家屋なのだが隣の家?は何処の悪の組織かと言うほど特殊なデザインだった。

 

「おや?そこにいるのは……なるほど、やはりクイントの娘だ。クイントによく似ている」

 

その声を聞き、二人は心がざわついた。

 

二人にとってこの声は忘れられない声だからだ。

 

「クイントからは大まかな話は聞いている。まさか、未来ではなく、この世界とは別の世界から来たとはねぇ……平行世界………アニメ・漫画の陳腐な設定だと思っていたがまさか存在するなんて…聞かせてくれないかい?それはどんな世界なの―――ガァっ!?」

 

完全に無意識に、アキラはその声の主を蹴り飛ばしていた。

 

「に、兄さん!?」

 

アキラが蹴り飛ばしたのは忘れもしない、狂気じみた顔で立っていたジェイル・スカリエッティだった。

 

「いきなり、何をするんだい!?君は!!」

 

泣き目になりながら訴えてきたスカリエッティを見てアキラはようやく異世界の住人であることを思い出す。

 

「す、すまない!完全に無意識で……」

 

「どうやらそちらの世界の私は相当に嫌われているようだね……」

 

「その顔のせいじゃないの?」

 

クイントがやれやれといった感じでスカリエッティに手を貸し、スカリエッティが立ち上がる。

 

「「……」」

 

何度聞いてもクイントの口からはスカリエッティを兄という言葉が聞こえ、敵対している様には見えない。

 

そんな兄妹の様子をアキラとギンガは唖然として見ている。

 

「ふむ…では、改めて名乗ろうか。クイントの兄であるジェイル・スカリエッティだ」

 

「えっ?マジで?」

 

「スカリエッティが母さんの兄!?」

 

あのスカリエッティがこの世界ではクイントの兄という衝撃的な事実にアキラとギンガは目が点となった。

 

 

続く



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EX第5話 新たな戦場

ネタはあるが筆は進まず。ストックが尽きる


新婚旅行へ向かう途中に次元震が起き、白騎士リュウセイの手により、別次元の地球へと跳ばされたアキラとギンガ。

 

そこは自分たちが知る地球とは異なった歴史を辿っており、自分たちが知る人物が存在してはいるのだが、生まれ方や年齢が異なっていた。

 

そんなもう一つの地球での歴史にて二人が一番驚いたのはあのスカリエッティがなんとクイントの実の兄であるという事だった。

 

(い、いくら別次元の地球とは言え………)

 

(衝撃の事実ね…)

 

こんな事実、JS事件の関係者が知ったら自分たち同様、驚愕モノだろう。

 

「それで兄さん、電話で話した内容だけど、二人を元の世界へ戻す方法について何とか出来ない?兄さん、この前未来から来たあの子たちを元の世界へ戻したでしょう?」

 

「ああ、ヴィヴィオ君とアインハルト君だね」

 

「えっ?ヴィヴィオにアインハルトだと?」

 

スカリエッティの口からは聞きなれた人物の名前が出てきた。

 

「ヴィヴィオとアインハルトはこの世界に来たことがあるんですか?」

 

「ん?君たちは二人のことを知っているのかい?」

 

「えっ?ええ……」

 

「まぁ………」

 

「ふむ………しかし、クイントの話では二人はこの世界とは別の世界から来たと聞いたのだが」

 

「アキラ君、多分この世界に来たヴィヴィオとアインハルトはこの世界の歴史のヴィヴィオとアインハルトじゃないかな?」

 

「ああ、なるほど」

 

ヴィヴィオとアインハルトがもし自分たちよりも先にこの世界に来たのであれば、必ず周囲の人に話している筈だ。

 

しかし、アキラとギンガはヴィヴィオとアインハルトからその様な話を聞いていない。

 

ならば、この世界に来たというヴィヴィオとアインハルトはこの世界の歴史におけるヴィヴィオとアインハルトなのだろう。

 

「二人はどうやってここへ?いまは?」

 

「二人の話ではどうも未来の私の実験によりヴィヴィオ君とアインハルト君をこの時代にタイムスリップさせてしまったようだ。未来の私と協力して何とか未来に戻してやることはできたが」

 

「この子たちも元の世界へ戻してあげられない?」

 

クイントがスカリエッティに聞いてみる。

 

「平行世界から来たのだろう?時間移動ではなく、時空移動となると」

 

スカリエッティは顎に手を当てて考える。

 

未来のスカリエッティがヴィヴィオとアインハルトを過去にタイムスリップをさせたのも偶然の産物というかイレギュラーな出来事であった。

 

しかし、ヴィヴィオとアインハルトからの情報によりスカリエッティは二人を元の時代へ戻すことが出来たが、時間移動よりもこんなんな平行世界との行き来である時空移動に関してはさすがのスカリエッティでも頭を抱える。

 

「ねぇ、兄さん。何とかできない?」

 

「まぁ、待ちたまえ。何分情報が足りなすぎる。それにこの世界を起点として、二人の居た世界……ゴールとなる地点の設定があまりにも困難だ」

 

「じゃあ、二人は戻れないの?」

 

「いや、この世界に来れたのだから出口である元の世界への帰還方法も必ず張る筈だ」

 

元の世界へ戻る方法はそう簡単には戻れないみたいだ。

 

「話は変わるが、君たちはもうブレイブ・デュエルはプレイしたかい?」

 

スカリエッティは暗中模索な話題から明るい話題へと変えた。

 

(ブレイブ・デュエル?そう言えば、こっちの世界のスバルが確か言っていたな……)

 

「いえ、今日スバルたちが学校から戻ったら一緒にやろうとって誘われているんですけど…」

 

「それでブレイブ・デュエルって何なんですか?何かのゲームみたいなのはスバルの反応から見て取れすんですけど……」

 

アキラとギンガはスバルたちからブレイブ・デュエルに誘われたのだが、肝心のブレイブ・デュエルがどんなものなのかを知らない。

 

「ブレイブ・デュエルというのは体感型のシミュレーションゲームでアバターと呼ばれる仮想世界の自分を作り、様々な仮想世界を体験したり、アバター同士でバトルするゲームさ」

 

(六課にあったシミュレーション装置と似たようなものか)

 

スカリエッティの説明を聞いてブレイブ・デュエルが六課‥というか、ミッドで周りの景色を変更することが出来るシミュレーション装置に近いモノを感じた。しかし、ミッドにあるシミュレーション装置とこのブレイブ・デュエルにおいての大きな違いは本人か仮想空間のもう一人のアバターでバトルするかの違いである。

 

だが、魔法文化がないこの地球でもブレイブ・デュエル技術は十分に高い。

 

それに仮想空間のアバターならば、訓練中の事故による負傷を防ぐことが出来る。

 

「それで、スバル君たちが帰ってきたら一緒にプレイするのだね?」

 

「ええ、その予定ですけど」

 

「ならば、サプライズをしてみてはどうだろうか?」

 

「「えっ?」」

 

スカリエッティの言うサプライズを聞き、アキラとギンガはその提案に乗った。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ただいまー!!」

 

中島姉妹が学校から帰ってきた。

 

「おっきなアキラさーん!!おっきなギン姉!!」

 

スバルがアキラとギンガの二人を捜し、

 

「あっ、居た!!居た!!早速、ブレイブ・デュエルをやりに行きましょう!!」

 

二人をブレイブ・デュエルに誘う。

 

「ごめん、スバル。私たちちょっとだけ済ませておかないといけない用事ができちゃって、少し遅れそうなの」

 

「えぇ~」

 

「でも、場所はクイントさんから聞いたら、先に行ってくれ。後から追いかけるから」

 

「わかりました。絶対に来てくださいよ」

 

アキラとギンガの二人と一緒にブレイブ・デュエルを提供しているホビーショップT&Hに行けないことにスバルはちょっと不満そうだったが、後から追いかけるということでとりあえず今はそれで渋々ながらも了承し、スバルたちは先にブレイブ・デュエルをプレイしにホビーショップT&Hへと向かった。

 

「さてと、それじゃ、俺たちも」

 

「行きましょうか?」

 

スバルたちが先に行ったタイミングを見計らってアキラとギンガの二人も移動を開始した。

 

「~♪~~♪~~~♪」

 

ホビーショップT&Hにてスバルは鼻歌交じりでブレイブ・デュエルのプレイ台へと向かっている。

 

「今日は随分と機嫌がいいわね」

 

そんなスバルの隣にはこの世界のティアナが話しかける。

 

アキラとギンガの世界では訓練校、卒業後に任官した救助部隊、六課とコンビを組んできた二人であるが、年齢差はティアナの方が一歳年上であったが、この世界では二人とも同い年だった。

 

「えっ?わかる?」

 

「……それで隠しているつもりなの?あんたの周りからはこれでもかっていうぐらいのオーラが出ているわよ」

 

呆れながらスバルには隠し事は無理だと思うティアナ。

 

その後、中島姉妹とその友人たちは各々でブレイブ・デュエルをプレイし始めた。スバルはティアナと一緒にブレイブ・デュエルをプレイしていた。そんな中、急にシグナルが鳴った。

 

『対戦者が現れました』

 

ブレイブ・デュエルをプレイしているとこのように突然、バトルを申し込まれるのは珍しくはない。

 

「あっ、ティア!!誰かが対戦を挑んできたよ!!」

 

「そうみたいね」

 

「どうする?」

 

「もちろん、受けて立つわよ!!」

 

スバルとティアナは突然の挑戦を受けることにした。

 

やがて落雷のような演出と共に対戦者がスバルとティアナの前に現れた。

 

二人の前に現れた対戦者は白を基調にした鎧に白銀の鉄仮面鉄兜を装備した騎士と青を基調としたボディースーツに、膝、肘、胸部にプレテクター、目にはバイザーをつけ、スバルと同じようなローラーブーツにナックルを装備した高速格闘型の対戦者たちだった。

 

 

 

―数十分前―

 

 

 

この世界のスカリエッティからブレイブ・デュエルに必要なアバターカードとブレイブホルダーを受け取り、ホビーショップT&Hの場所を聞いたアキラとギンガはスバルたちより一足遅くホビーショップT&Hへと入店しブレイブ・デュエルにアクセスする。

 

サプライズのためスカリエッティの細工が仕込まれているブレイブホルダーで自分たちのアバターを見ると、アキラはどこかで見たことあるような白い甲冑姿。

 

ギンガに関しては首元にⅩⅢの番号は書かれていないが、色合いやデザインからどうみてもナンバーズたちのボディースーツだった。

 

(あの変態科学者、世界が違ってもギンガにこのスーツを着せやがった!?)

 

(それに俺の格好はよりにもよってアイツかよ)

 

アキラの白甲冑は明らかにリュウセイのモノだった。ギンガのアバターを見て、やはり世界が違ってもスカリエッティはスカリエッティだと思った。

 

そして、なぜこの世界のスカリエッティがあったこともない筈なのに自分のアバターの格好がリュウセイに似ているのか気になったアキラ。

 

だが、自分たちの世界に存在しているものがこの世界には存在している。どちらかが先なのか、同時に出現しているのかわからないが何があってもおかしくないと思った。

 

そして、現在に至る。

 

「よーし、見つけた見つけた」

 

ギンガが挑戦状を送り、相手を確認するとそこには見慣れたバリアジャケットを小さくしたようなスバルとティアナの姿があった。

 

もちろん相手であるスバルとティアナが挑戦拒否をすれば、別の人に挑戦状を送るつもりであったが、スバルとティアナはすんなりと自分たちとの対戦を受け入れた。

 

リアライズした先には小さなスバルとティアナの姿がそこにあった。

 

「さて、仮想ゲームだけど、この世界のスバルの実力…見せてもらおうかしら?」

 

「じゃあ、俺はティアナの相手をしよう」

 

「ええ、お願い」

 

こうしてアキラとギンガの初めてのブレイブ・デュエルが始まった。

 

 

「あっ、スバルとティアナ…誰かと対戦しているみたい」

 

「ふむ、どれどれ」

 

ディエチがスバルとティアナの二人が誰かと対戦を始めたことに気づき、チンクも対戦の行方がきになるのか対戦が表示されたパネルに目をやる。

 

「相手は……スバルと似たようなスタイル……そしてもう一人はフル装甲の相手か」

 

「スバルの対戦相手の人、なんだかギンガに似てない?」

 

ディエチはスバルがまさに今対戦している相手の装備等がギンガに似ていることに気づく。

 

「偶然ではないか?」

 

「そうかな?」

 

ブレイブ・デュエルには多くの人がアバター登録をしてプレイしているが、やはりその人数の多さからアバターの装備が似る者も当然出てくる。

 

チンクは偶々今回のスバルの対戦相手が自分の姉に似ているだけなのだと思うが、ディエチはどうしても自分の姉の姿がちらついた。

 

「いっくぞぉおおお!!」

 

小さなスバルが爆音をとどろかせ、ローラーブーツを走らせ、右腕に装備したナックルでギンガに迫ってくる。

 

右腕にスフィアが形成され、それを思いっきり振り構えた。

 

「ディバインバスター!!」

 

「トライシールド!!」

 

咄嗟にシールドを張って逸しつつスバルのディバインバスターを回避するギンガ。

 

「ウィングロード!」

 

すると、スバルはギンガの周囲を囲うようにウィングロードが展開する。

 

「それなら私も!!」

 

スバル同様ギンガもウィングロードを展開し、その上をローラーブーツで駆け抜ける。仮想空間のゲームの筈なのになぜかギンガは小さなスバルとの戦いにワクワクとした高揚感が沸いている。

 

(は、早い!?スピードや小回りは私の方が上なのに私のカーブの癖をよく見て、それを真似て。私を追い掛けてくる!?ウィングロードを足元に展開してその行き先を誤魔化しているのに!?まるでギン姉と戦っているみたい!?)

 

戦闘スタイルは自分と同じだが、ここまで追い付いてくるとは思ってなかった。だがそんな中でスバルはあることに気づく。

 

(ん?ギン姉と戦っているみたい………?ま、まさか、私が今戦っている相手って…)

 

ウィングロードの上を走っているスバルはこの対戦相手が自分の癖を知り尽くしていることから自分の姉である(少女)ギンガと戦っているような錯覚を覚えるが、自分の姉であるギンガと対戦相手には身長差があることから対戦相手は自分の姉ではないが、それでもスバルにはこの対戦相手には心当たりがあった。

 

 

 

続く



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EX第6話 新たな未来

せっかくの誕生日なので。ようやく結末まで決まったので少しでも上げる速度上げたいな


新婚旅行の最中に突如起きた次元震により自分たちの知る世界と似て異なる異世界へとやってきたアキラとギンガ。

 

偶然倒れていたところをこの世界の中島一家に助けてもらい、その後は居候させてもらっている中、この世界のクイントの実の兄がスカリエッティだったという衝撃的な事実を知ったその日の放課後、中島家の四女であるこの世界のスバルから二人はブレイブ・デュエルというバーチャルシミュレーションゲームに誘われた。

 

しかし、サプライズとしてスバルたちとは遅れて乱入者として参戦したアキラとギンガ。

 

スバルの相手をギンガ、ティアナの相手をアキラが務めることになった。

 

サプライズということでアキラもギンガも互いに仮面をかぶっているが、元々戦い方が同じスバルは既に対戦相手が誰なのか薄々察しがついた様子だったが、そこは敢えて聞かずにそのまま戦うことにした。

 

「ふっ、てぇいや!!」

 

「ふん!! たあああ!!」

 

スバルがギンガに下段突きを放つが、彼女はそれを肘で防ぐ。

 

ギンガは反撃に右足で前蹴りを放つのが今度はスバルがそれに反応しバックステップで距離をとる。

 

(やっぱり、この対戦相手はあの人だ‥‥大人だけあって私やギン姉よりも強い‥‥でも‥‥)

 

「リボルバーシュート!!」

 

(このまますんなりと負けるわけにはいかない!!)

 

スバルがギンガへ向け魔法を放つ。

 

スバルから放たれる衝撃波による攻撃をギンガはシールドで受け流すと一気に距離を詰め、チャージしていた魔法をスバルへ向け放つ。

 

「貰った!! リボルバーキャノン!!」

 

ギンガの『リボルバーキャノン』が至近距離からスバルへ向け放たれる。

 

とっさにプロテクションで防御をするがギンガの攻撃はそれを打ち破りスバルへと叩き込まれる。

 

「うわぁっ!!」

 

スバルは吹き飛ばされ、ビルへとツッコミそこで目を回す。

 

「ふぅ~‥‥」

 

スバルを戦闘不能にしたことを確認したギンガは一息つく。

 

「アキラ君、そっちは‥‥?」

 

そしてギンガがアキラにティアナとの戦況を尋ねる。

 

「きゅ~」

 

スバル同様、ティアナも目を回して倒れた。

 

(さすがに子供相手に大人げなかったか‥‥?)

 

自分の知っているティアナよりも幼いティアナを相手に力加減を間違えて子供相手に全力を出してしまったことにアキラはちょっと罪悪感を覚えた。

 

いくらゲームとはいえアキラも歴戦の戦士だ。勝負が始まった瞬間からティアナに行動を許さない連撃。まさに赤子の手をひねるような瞬間だった。

 

対戦相手であるスバルとティアナがノックアウトになったことで試合終了となり、仮想空間から現実へと戻る。

 

「あぁ~やっぱり、大きなギン姉とアキラさんだったんだ!!」

 

現実世界に戻ったアキラとギンガを見つけたスバルは二人に駆け寄り声をかける。

 

「来るのが遅いと思ったら、こんな手の込んだ登場をして………ん?もしかして、ジェイルおじさんの仕業?」

 

スバルは今回のアキラとギンガの登場の仕方に思う所があり、スカリエッティが関係しているのかと尋ねる。

 

「えっ?よくわかったわね」

 

「ジェイルおじさん、よくやるんだよ。この前もノーヴェとウェンディに変なカードを渡したりしたこともあったし、ブレイブ・デュエルの大会で一架姉さんや七緒たちが乱入してきたこともあったし……」

 

「へぇ」

 

悪目立ちたがりをするのはやはりスカリエッティってところなのだろう。

 

「ちょっと、スバル!!あんた急にどうした……えっ?」

 

その時、アキラとギンガにとっては聞きなれた声がスバルに声をかけてくる。

 

そこにやってきたのは先ほど、ブレイブ・デュエルで対戦したスバルの相棒であり、アキラとギンガが知るティアナよりも幼い容姿のこの世界のティアナだった。

 

この世界のティアナはアキラとギンガの二人の姿を見て固まっている。

 

ティアナは当然、スバルの姉であるギンガ、そして中島家に居候しているアキラのことも知っている。

 

しかし、今自分の目の前に居るアキラとギンガの姿は大人の姿。

 

ブレイブ・デュエルのシステムの中にはプレイヤーの姿を大人の姿に変えるシステムがあるが、ここはブレイブ・デュエルの仮想空間ではなく現実だ。

 

では、今自分の目の前に居る大人の姿のアキラとギンガは一体誰なのか?

 

「あっ、ティア。この人たちは……」

 

固まるティアナの姿を見て、事情を察したスバルはティアナにアキラとギンガの事を教える。

 

「えっ?未来から来た!?」

 

「うん」

 

「それって前にヴィヴィオやアインハルトが来た時代なの?」

 

「うーん……多分。二人ともヴィヴィオやアインハルトのことを知っていたし」

 

「多分って……それじゃあ、このアキラさんとギンガさんはヴィヴィオやアインハルトみたいに何かあって過去に飛ばされちゃったの?」

 

「そうみたい」

 

「ふーん」

 

以前、未来から来たことがある人物が居たことから事情を知るとそこまで驚く反応はしないティアナ。

 

「あっ、そうだ。アキラさん、おっきなギン姉。せっかく来たんだから、みんなと会ってよ。知っている人かもしれないけど、こっちのみんなは知らないんだし」

 

スバルはギンガの手を引いて食堂へと向かう。

 

「こっちのスバルもグイグイくる性格だな」

 

「まぁ、あれがスバルのいいところでもありますから」

 

スバルとギンガの後姿をみながらアキラとティアナは呟く。

 

 

 

―食堂―

 

 

 

食堂に居たメンバーはアキラとギンガの姿を見て目を見開く。

 

(うわぁ~小さななのはさん、はやてさん、フェイトさんだ)

 

(なんかなのはさんにはやてさん、フェイトさんにそっくりな感じな人がいるけどあれは…)

 

ギンガは自分の知るなのはたちよりも小さななのはたちを見て、ちょっとかわいいと思い、アキラはダークマテリアルズの三人を見て、この世界でも何か妙な実験でもやってるんじゃないかと訝しんだ。

 

「自己紹介は……まぁ、要らないかな?アキラさんとギン姉をそのまま大人に成長した姿なので……あっ、でもこっちのアキラさんとギン姉は結婚して夫婦になっているんだよ」

 

スバルが食堂に居るメンバーにアキラとギンガの事を教える。

 

「ってことは、アキラさんとギンガさんは将来結婚するんだ……」

 

「そう…みたい……」

 

この世界の少女ギンガは将来アキラと結婚するということで少し照れている。

 

その後、アキラとギンガはやはり未来から来たということでその場に居たみんなからは質問攻めとなる。

 

かつてこの世界軸の未来から来たヴィヴィオとアインハルトも質問攻めになったのと同じように。

 

 

 

―???―

 

 

 

現在、アキラとギンガが跳ばされたこの世界における未来軸。

 

以前、この世界の未来軸にてヴィヴィオとアインハルトは未来のスカリエッティの研究に巻き込まれて過去に跳ばされたことがある。

 

過去のスカリエッティのおかげで二人は元の時代に戻ることが出来た。

 

そしてこの日、スカリエッティ研究所にはこの世界軸のノーリが居た。

 

この世界軸におけるノーリにとってスカリエッティは大叔父にあたり、ノーリはよくスカリエッティの研究を手伝っていた。

 

性格に若干の問題があってもスカリエッティは天才の部類に入る研究者であり、ノーリはそんな彼を尊敬しており、こうして研究所に来てスカリエッティの手伝いをよくしていた。

 

そんなノーリは今、追い詰められていた。

 

「ノーリさん」

 

「ちゃんと説明してください」

 

ノーリの眼前には笑みを浮かべているのに眼の光が消えているアインハルトとリンネがいる。

 

この世界でもノーリはアインハルトとリンネの二人相手に女難の相となっている。

 

「だ、だから、あれがそれで」

 

「そんな言葉では全然わかりません」

 

「そうです!!」

 

「先日、ヴィヴィオさんと二人で遊園地へ行ったみたいじゃないですか!?」

 

「なんでヴィヴィオさんと二人っきりなんですか!?」

 

「いやいや、二人っきりじゃないぞ!!ちゃんと父さん母さんとアリス、ヴィヴィオの母さんも一緒だったぞ!!」

 

「でも、お化け屋敷には二人っきりで入ったんですよね?」

 

「それにメリーゴーランドも二人一緒に乗ったみたいじゃないですか」

 

「な、なんで、それのことを知っている!?」

 

ノーリがアインハルトとリンネに詰め寄られていた理由は、先日ノーリの一家とヴィヴィオの一家とで遊園地へと出かけ、そこでノーリとヴィヴィオが二人っきりでアトラクションに乗ったことにお冠みたいだ。

 

しかし、遊園地へ行っていない筈のアインハルトとリンネが何故知っているのか?

 

「昨日、ヴィヴィオさんのお宅に行ったとき、写真を見て」

 

「ちょっと、ヴィヴィオとお話をして聞いたんです」

 

「…」

 

理由を知り、その時のヴィヴィオにちょっとだけ同情するノーリ。

 

「お化け屋敷でヴィヴィオさんが抱き着いたり」

 

「メリーゴーランドに乗った時、思わずヴィヴィオの胸を触ったみたいじゃないですか」

 

「お化け屋敷なんだし、仕方ないだろう!!」

 

「じゃあ、ヴィヴィオの胸を触ったことは!?」

 

「あれは事故だ!!事故!!」

 

「「むぅ~‥‥」」

 

ノーリがいくら弁明してもアインハルトとリンネは全然納得がいっていないようで頬を大きく膨らませている。

 

「……」

 

この場合、二人の機嫌を直すのがノーリにとって厄介なのはこれまでの経験から理解している。

 

二人っきりで一日デートをしたり、ジムでトレーニングの後夕食等々。ともかく、アインハルトとリンネに一日を潰されるのだ。

 

ノーリにとってはアインハルトとリンネの機嫌をそれ以上に損なわないように気を遣うので面倒くさいことこの上ないのだ。

 

ノーリは横目で周囲を窺うと一気に駆け抜ける。

 

「あっ、逃げた!!」

 

「待て!!」

 

逃げるノーリ。

 

当然、アインハルトとリンネはノーリを追いかける。

 

様々な機械や作業台がある研究所の隙間をぬって逃げるノーリ。

 

「相変わらず逃げ足が速い」

 

ノーリがアインハルトとリンネから逃げるのはこれが初めてではない。ノーリ、アインハルト、リンネの追いかけっこはこの近所では日常茶飯事だった。

 

「アインハルトさん、ここは挟み撃ちにしましょう」

 

「そうですね」

 

「では、私は回り込みますね」

 

流石に普段からノーリを追いかけているだけあってアインハルトとリンネは息があったコンビプレイでノーリを追い詰めていく。

 

アインハルトは巧くノーリを誘導する形で追い込みに入る。

 

ノーリがそれに気付いたのは、既に研究所にある地下の奥へ追い込まれた時だった。

 

「ま、まずい、この先は行き止まりだ‥‥」

 

「さあ、ノーリさん。追い詰めましたよ!」

 

後ろから迫るアインハルトにノーリは意を決して奥へと進んでいく。

 

上手くいけばフェイントをかけて二人を再び振り切れるかもしれないと思ったからだ。

 

それにこのままここに居ればいずれはアインハルトかリンネのどちらかに捕まってしまう。

 

それならば、と奥へと進み少しでも希望をつなぎたい。奥へと進むとそこには何時ぞや、ヴィヴィオとアインハルトの二人が過去へ跳んだ転送装置があった。

 

そしてそこには見覚えのある人物までいる。

 

「あっ、兄さん」

 

茶髪のギンガが居た。しかし、そこにいる茶髪のギンガは当然、ギンガではない。容姿は確かにギンガによく似てはいるものの、年のころは10歳くらいでノーリのことを『兄さん』と呼んだ。

 

「あ、アリス」

 

茶髪のギンガこと、ノーリの妹であるアリスもノーリ同様、今日はスカリエッティの研究所で掃除の手伝いをしていたのだ。

 

「どうしたの?走ってきて」

 

「じ、実はアインハルトとリンネに追われているんだ」

 

「えっ?アインハルトさんとリンネさんに?どうして?」

 

「この前、ヴィヴィオたちと遊園地に行っただろう?」

 

「うん」

 

「それがあの二人にバレた。それで」

 

「それで、羨ましく、ヤキモチを妬いた二人に追いかけられていると」

 

「あ、ああ」

 

ノーリが事情をアリスに説明していると、タッタッタッタッとアインハルトとリンネの足音が聴こえてくる。

 

「ま、まずい」

 

ノーリがアリスのいる転送装置の上に上がると、

 

「さあ、追い詰めましたよ。ノーリさん」

 

「ここまで手こずらせて、覚悟はいいですね?」

 

「あわわわわ」

 

反射的にアリスの背に隠れるノーリであるが、体格差があるため全然隠れていない。アインハルトとリンネは追い詰めた獲物を狩る猛獣のごとくゆっくりと確実な足取りで近づいてくる。

 

その際、どちらかがわからないが、手が近くの機械に触れた。

 

すると、転送装置が突如光だす。

 

「「「「えっ?」」」」

 

光りだした転送装置にその場の皆が唖然とするがアインハルトがいち早く反応した。

 

「い、いけない!!ノーリさん!!アリスさん!!すぐにそこから降りて!!」

 

アインハルトが声を上げる。アインハルトはこの現象に心当たりがあった。あれは先日、ヴィヴィオと共にスカリエッティの実験に協力した際、過去にタイムスリップした時と同じ現象だった。

 

つまり、再び過去への扉が開いてしまったのだ。

 

アインハルトの言葉もむなしく、一段と眩い光が辺りを包み込む。

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!!」

 

「くっ!」

 

「うっ…」

 

そして、光が収まると転送装置の上にノーリとアリスの姿は忽然と消えていた。

 

「あ、アインハルトさん。ノーリさんとアリスさんが」

 

「どうやら、二人はどこかに転送されてしまったみたいですね」

 

「ど、どうしましょう!」

 

「ここはドクターに事情を説明してノーリさんとアリスさんがどこに転送されたのか調べてもらいましょう。座標が分かれば手の打ちようがあります」

 

「は、はい」

 

アインハルトとリンネは急ぎスカリエッティの下へと向かった。

 

 

 

―現在―

 

 

 

「アキラ君とギンガ君は今頃、ブレイブ・デュエルを楽しんでいる頃だろうか?むっ?」

 

スカリエッティは自分が企画したサプライズが上手くいったかと思いを寄せていると、突然研究所が揺れだした。

 

「じ、地震か?いや、この揺れは地下……ま、まさかっ!?」

 

スカリエッティは急ぎ地下へと向かうと、

 

「こ、これはっ!?」

 

何時ぞやヴィヴィオとアインハルトが未来から来た時と同じ現象が起きていた。激しいスパークと光と揺れが研究所の地下を襲う。

 

やがて揺れと光が収まるとそこにはスカリエッティが知る人物たちとそっくりの男女が立っていた。

 

 

続く



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EX第7話 新たな友人

なのはのドンキコラボが始まりましたね。
なのはの新作はまだかな…


平日の昼下がり、学校は終わっているが、子供たちの姿は中島家にはなく、今中島家に居るのはクイントただ一人であったが、お風呂掃除に洗濯物の取り込み、夕食の支度などやる事は多々あった。

 

特に年齢や体付きの割に大食乙女が揃う中島家では食事の量はまさに相撲部屋並みなので、支度をするにしても早めに行わなければ夕食の時間に間に合わない。

 

クイントが台所で夕食の支度をしていると、突如として家が揺れだした。

 

「地震?………いえ、これはもしや」

 

それなりの揺れなのだが、スマホに地震速報が通知されない。

 

となると、この地震の様な振動の原因はただ一つだ。自分の兄がまた何かろくでもない実験をしているのだろうと判断したクイントは急いで家の外に出る。

 

「兄さん!!また変な実験をしているんでしょう!?ご近所迷惑だから早く止めなさい!!警察を呼ばれちゃうわよ!!」

 

中島家のお隣に住むスカリエッティを注意する。

 

そんなスカリエッティは自宅兼研究所の地下に居た。

 

この地下室こそがスカリエッティの研究所とも言えるスペースで怪しげな機械や試薬が入った瓶、アルコールランプやビーカーと言った理科の実験で使う様な工具が数多く存在している。

 

そんな地下室の中心にはスカリエッティが今でも研究・開発中の機械があり、以前その機械から、二人の未来からの使者が来たのだが、今スカリエッティの目の前には先日の出来事と同じ現象が起きていた。

 

「えっと……君たちは一体?」

 

スカリエッティは恐る恐る装置の上に居る二人の男女に声をかける。

 

二人の男女の容姿は、妹夫婦とその子供立ちが住んでいるお隣の中島家に居る居候の少年と姪の一人であるギンガにそっくりな姿をしていたのだが、二人とも自分が知る少年と姪よりも幼く見え、何よりも姪の髪の色は妹であるクイントと同じ青紫色なのだが、今機械の上に居る姪そっくりの少女の髪の色はギンガと同じく自分の姪の一人であるディエチみたいな茶色だった。

 

「えっ?あ、あの……」

 

茶髪の姪にそっくりな女の子は戸惑っている様子であるが、少年の方は落ち着いている。

 

「この時代では、『初めまして』になりますね」

 

「この時代?となると君たちはやはり……」

 

「はい。お察しの通りです。俺たちは未来から来ました」

 

「では、ヴィヴィオ君やアインハルト君たちと同じ?」

 

「ヴィヴィオやアインハルトは未来の世界では友人(?)の関係です」

 

「なるほど……」

 

(あの二人は、学年は違っていたが、確か同じ学校に通う学生だったからな、同学年の友人がいても不思議ではないが、その友人たちが何故、過去の時代に……?それにこの子たちの容姿がアキラ君とギンガ君に似ているのも気になるが……まさか……)

 

以前未来から来たヴィヴィオはブレイブデュエルにおけるホビーショップT&Hのチームメイトの一人である高町なのはの関係者であったので、この二人も未来における橘アキラと中島ギンガの関係者なのだと察しがついた。

 

「あっ、自己紹介が遅れましたね。俺の名前は中島ノーリ。海聖中学校一年です。それで、こっちは妹の……」

 

(い、妹!?)

 

二人の関係が兄妹であることにスカリエッティは心の中で驚く。

 

「中島アリスです……海聖小学校の四年生です」

 

ヴィヴィオとアインハルトはstヒルデ女学院の初等部と中等部に通っていたが、ノーリとアリスは別の学校に通っていた。

 

なお、リンネもヴィヴィオ、アインハルト、ノーリとは違う学校ブルゲローニ学院中等部に通っているのだが、それぞれ違う学校に通っているノーリたち結びつけたのが、やはりブレイブデュエルなのかもしれない。

 

「それで貴方はスカリエッティ博士………だよな?」

 

「あ、ああ、いかにも私はジェイル・スカリエッティだ」

 

スカリエッティは名乗る。

 

「やっぱり、ヴィヴィオやアインハルトが言った通り若いな……」

 

「はい。白髪とかありませんしね」

 

ノーリとアリスは二人でひそひそ話をするかのように今のスカリエッティの容姿について話している。

 

(なんかデジャヴを感じるな……このやり取り……)

 

ヴィヴィオとアインハルトがこの世界に来たばかりの時もスカリエッティの容姿についてひそひそ話をしていた。

 

「えっと……それで、君たちはどういった経緯でこの時代に?まさか、また未来の私が何らかの実験をして巻き込まれたのかい?」

 

スカリエッティはノーリとアリスにこの時代に跳ばされた原因を尋ねる。

 

「いえ、今回の件に関して未来の貴方は関係していません」

 

「はい。むしろ、兄さんの女難の相が原因です」

 

「ん?女難の相?どういうことだい?それは?」

 

「おいアリス……その話は…」

 

二人が言うには今回、ノーリとアリスが過去に跳ばされた原因は未来のスカリエッティが関係しているわけではなく、ノーリが何かの事情に関係しているみたいだ。

 

「こうなったのも兄さんのせいでしょう?」

 

「俺が悪いのか……?」

 

「兄さんが言いにくければ私が話しますが?」

 

「分かった、分かった。俺が話す」

 

妹に語られるのは兄としての屈辱感があるが、自分で語るのも自身の黒歴史を暴露するのも屈辱であるが、元の時代にも戻るにはスカリエッティの協力が不可欠なので、この時代に跳ばされた原因も彼に伝えた方が良さそうだ。

 

そして、ノーリはスカリエッティにこの時代に跳ばされた原因を話した。

 

「そうか……それは災難だったね」

 

スカリエッティはノーリの話を聞いてなんか同情した様子だった。

 

「それにしてもあのアインハルト君がね……」

 

スカリエッティが知るアインハルトは内気でお淑やかな少女であり、明るく社交的なヴィヴィオとは対照的と言う印象だったのだが、ノーリの話を聞くとヤンデレ、メンヘラと言う単語が思い浮かんだ。

 

「ええ、普段のアインハルトは、お淑やかと言うか内気に見えるんですが、どういう訳か俺の事になると性格が豹変するんです。それにリンネの奴も」

 

「「……」」

 

ノーリ自身はアインハルトとリンネが自分の事になると何故性格が豹変するのか?その原因が分からない様子であり、そんなノーリの様子を見て、スカリエッティもアリスも唖然とする。

 

「アリス君、ノーリ君はもしかして」

 

「はい。父さん似で兄さんはどうも女心には鈍感みたいで」

 

「アインハルト君とチラッと名前が出てきたリンネ君には何か同情するよ」

 

「アインハルトさんやリンネさんは兄さんの好みじゃないから気づかないのかな?」

 

どうやらノーリとアリスの父親は妻となった女性に一途だったので、その息子であるノーリも女性に対しては一途な性格かもしれず、ノーリがアインハルトやリンネに靡かないのは、アインハルトとリンネがノーリの好みではないから靡かないのかとアリスは予測する。

 

「それで、俺たちは元の時代に戻れるのでしょうか?」

 

「ああ。一応、ヴィヴィオ君とアインハルト君を元の時代に送り帰した実績とデータがあるからね。ただ、装置の調整や整備があるから流石に今日中は無理だ」

 

「はい。それは分かっています」

 

「ヴィヴィオさんもアインハルトさんも過去の時代で約一ヶ月過ごしたみたいですからね」

 

この時代のスカリエッティが、自分たちが知るヴィヴィオとアインハルトを過去から戻の時代に戻したのは知っているので、二人はこの時代のスカリエッティの腕を信じていたが、いくら彼でも『今すぐに戻の時代に戻してくれ』と言われて直ぐには難しい様子であり、それはノーリとアリスも理解していたので、その点は了承した。

 

(ヴィヴィオ君とアインハルト君みたいに二人にもブレイブデュエルをしてもらったら、面白いデータが取れそうなのだが)

 

ヴィヴィオとアインハルトの友人と言う事ならば、当然この二人もブレイブデュエルをしている可能性が高く、ヴィヴィオとアインハルトの時の様にプレイしてもらえれば様々なプレイデータが取れるのだが、今は未来からの来訪者だけではなく、異世界からの来訪者も来ている。

 

未来と異世界この二つの世界からの来訪者が重なる機会なんて今後二度とないチャンスではあるが、その来訪者たちが全て妹の嫁ぎ先である中島家に関係している点を見ると引き合わせて大丈夫なのかと言う不安もあり、スカリエッティは一人葛藤したのだった。

 

スカリエッティの自宅兼研究所にて、再び未来からの来訪者たちが訪れていた頃、アキラとギンガは初めてブレイブデュエルをプレイした後、今回初めて顔合わせをしたメンバーから質問攻めにあっていた。

 

「将来、アキラ君とギンガさんが結婚するのは分かったけど、私たちはどうなっているのかな?」

 

「以前、ヴィヴィオとアインハルトが来た時は聞きそびれちゃったもんね」

 

ヴィヴィオとアインハルトが来た時は一体どんな経緯があって未来から過去に来たのかは聞いたが、ヴィヴィオとアインハルトの出生関係はタイムパラドックスの観点から聞けなかったが、未来の自分たちについてはやはり知りたかったみたいだ。

 

「正確には俺たちが来た未来はこの世界の時間軸の未来じゃないんだ。だからこの世界の俺とギンガが将来結婚するのかは分からない」

 

「えっ?そうなの?」

 

アキラが以前この世界に来たと言うヴィヴィオとアインハルトが来た未来とは異なる世界の未来から来た事を伝えるとこの時代のなのはは意外そうに言う。

 

「ああ、実際に今この場で俺たちが知っているのは、なのは、フェイト、はやて、スバルたち中島姉妹、それにティアナだけだ」

 

「ええ、私たちは居ないの?」

 

「ああ、少なくとも俺たちが今住んでいる場所には居ないな」

 

アリサがアキラに名前を呼ばれなかったメンバーの所在を尋ねると、アキラはミッドには居ない事を伝える。

 

「でも、アリサさんとすずかさんについては以前、フェイトさんやはやてさん、スバルから聞いた事があるので、少なくともお二人はフェイトさんたちとは知り合いだと思いますよ」

 

ギンガがフェイトやはやて、そして六課時代に地球へ出張に行った際にアリサとすずかに出会った事をスバルがギンガに話していたので、少なくともアリサとすずかはちゃんと存在し、フェイトたちとは恐らく知り合いの仲であるとフォローする。

 

「ボクたちについては何か知らないの?」

 

そこにレヴィが自分たちについて何か情報がないのかを尋ねるが、

 

「すみません。私の知る限りでは」

 

「………」

 

「ガーン……」

 

アキラは黙っていた。多少知っている事情があるのだが、それは黙っていた。

 

そして歴史が異なる未来とは言え、自分たちの未来の事を知っているかもしれない人物たちから『知らない』と言われ、レヴィはショックを受けている。

 

「そうだ!ねぇおっきいアキラさん!せっかくブレイブデュエル始めたなら、一緒にイベント回りませんか!?」

 

「イベント?」

 

「はい、今期間限定のイベントをやっていて………これです!ジュエルシードっていうアイテムを集めるイベントなんです」

 

「ジュエルシード………」

 

その名前をアキラは聞いたことがあった。

 

かつてなのはたちがいた世界でなのはが魔導士になるきっかけとなった事件でその根幹となったロストロギアの名前だ。

 

「フリーマップ上にランダムで出現するモンスターを倒すと手に入るらしいんですけどそれがなかなか強くて………」

 

「アキラさんたちがいれば百人力です!」

 

「なるほどなぁ」

 

アキラはイベントの概要を見ながら少し考える。

 

思えば思うほど平和な世界だ。なのはたちからきいたジュエルシードの事件はなのはが魔導士になるきっかけであり、フェイトの家族が亡くなってテスタロッサ家に引き取られるきっかけになる事件でもあったと聞いていた。

 

それが、子供の遊びの延長にあるとは。

 

元の世界では顔を見れば反射的に殴ってしまうようなスカリエッティも、目の前で、そして自分のふがいなさで失ってしまったクイントも生きている。

 

「……」

 

「おっきいアキラさんどうしたの?」

 

「ん、いや。そういえばさ、この世界に………セシルって子はいないか?」

 

「アキラ君………」

 

セシル、それはかつてアキラが守れなかった少女の名だ。アキラはもし叶うならと思い、セシルがこの世界にいないかを尋ねてみた。

 

「ああ………セシルさん……」

 

その名前に心当たりがあるらしい。

 

「いるのか!?」

 

アキラは思わずスバルの肩を掴む。

 

「う、うん。アキラさんの元婚約者でしょ?あ、それってこっちの世界だけなのかな?」

 

「婚約者………そうか……セシルは……この世界で……」

 

どんな形であれ、生きていてほしい人がこの世界にいてくれた。それだけでアキラは嬉しかった。元婚約者と聞くに何かあったらしいが今はそんなことどうでもよかった。

 

「アキラさん?どうかしたの?」

 

「あ、ああ………気にするな。今度会わせてくれ」

 

「うん。アキラさんに相談してみるね」

 

またセシルに会える。その悦びで満たされたアキラの横顔にギンガはどこか不安を感じていた。だからか、ギンガは急に話題を変えた。

 

「ところでそちらの皆は?はやてさんたちとよく似てるけど…………ご姉妹とか?」

 

「あやつと同じことを言うでない。容姿が似通っているのはたまたまだ。たまたま」

 

「私たちは留学生です。わたしはシュテル、この子がレヴィ、そしてディアーチェ。グランツ博士…このブレイブデュエルの開発者の一人であるお方の家にステイさせていただいています」

 

シュテルと名乗る少女が丁寧に説明してくれた。そしてディアーチェと紹介された少女が前に出る。

 

「異界からの訪問者とは中々興味深い話だが……ブレイブデュエルを始めたのなら貴殿らは仲間でありライバルだ。どうだ?これから親睦会も含めフリーフィールドを探索と言うのは」

 

「いいね!僕このおっきいギンガと一緒がいい!」

 

「そう焦るな。公平に2グループに分けるとしよう。異界のギンガと異界のアキラの2グループだ。よいか?」

 

「ああ」

 

ギンガのチームにはフェイト、レヴィ、、ディアーチェ、スバル、ノーヴェ、すずかが、アキラのチームにはなのは、シュテル、ティアナ、アリサ、ウェンディらがついていくこととなった。

 

「さぁゆくぞ!」

 

 

続く



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Force編
プロローグ


5月6日よりForce編をスタートさせます。それまでに何とかVivid編をひとくくり付けます


新暦0080年--悲劇は起きた。

 

 

次元世界に存在する小さな村を中心に多発した襲撃事件。どの襲撃場所でも生存者はなく。全員が殺された。その残虐な事件の犯人は、フルフェイスの仮面をつけた謎の男。管理局内で呼ばれる名前は「マスク」。アキラとギンガは事件解決の為に駆り出され、事件の調査中に遭遇したマスクと戦闘になった。

 

そして、二人は敗北した。

 

ギンガは何とか生き残ったが、アキラはギンガの目の前で殺された。遺体も残らない形で消滅させられて。

 

現場に残されたのは、アキラの刀「黒星」と結婚指輪。は何を思ったのか、アキラを殺した後にマスクはギンガに手を出さずに撤退した。

 

しかし、ギンガは失ったのだ。命よりも大切な、何よりも大切な運命の人を。

 

 

 

-ミッドチルダ西部 墓地-

 

 

 

葬式にはそこそこの人が集まった。アキラの死は民間には知らされず、一部人間だけに伝えられた。そうしたほうがいいという小此木の意向だ。アキラはミッドを救った英雄であり、それが死んだとなると混乱と不安を与え、テロリストにはチャンスを与えると考えたのだ。

 

墓の前にはナカジマ家、高町家、その他アキラと面識のある人物たちが集まっていた。遺体は残らなかったために、アキラの墓にはアキラの愛刀が収められた。葬式のすべての手順は終わったが、ギンガは墓前から動こうとしない。

 

「…ギン姉」

 

そんな姉を心配し、勇気を振り絞ってスバルが声をかけた。

 

「…………」

 

ギンガは何も言わないまま、ようやく墓前から動く。なにかしでかさないか心配したゲンヤはウーノにお目付け役を頼んだ。

 

ギンガがいなくなってから、ゲンヤはアキラの墓を見て小さくつぶやく。

 

「馬鹿野郎が…」

 

その様子を見ていたメグが更にアキラの墓を一蹴りした。

 

「!?」

 

「メグさん!?」

 

「あたし、局に戻るわ。捜査を再開する。ギンガを悲しませた馬鹿の尻拭いにね!」

 

どう見ても苛立っている様子だった。なんだかんだいってメグにとってアキラは良き友だった。それが殺されたのだ。そしてその死は親友を深く悲しませた。

 

犯人に対して相当な恨みを持っていた。

 

一方、ギンガは近くのベンチに行くとそこに座り込んだ。ウーノも隣に座った。

 

「ギンガ…大丈夫?」

 

事件後帰宅してから葬式、そして今まで一度も口をきいてくれなかったギンガがようやく口を開いた。

 

「……ウーノ」

 

「なに?」

 

「アリス…しばらく預かってくれない?今、子育てする余裕…ない」

 

本来は断るべきだ。事情があるとはいえ親が育児を放棄するのは望ましくない。だが、今までの二人を一番冷静に、客観的に見てきたウーノだからこそ断れなかった。

 

「ゲンヤさんに相談してからでないと何とも言えませんが…私個人として了承はしておきます」

 

「それから、ノーリとセッテ、しばらくそっちに置けないか聞いてみて。無理なら私が出ていくから…」

 

「…聞いてみます」

 

 

 

-翌日午後 ナカジマ家-

 

 

 

翌日の午後、ナカジマ家にはギンガとセッテ二人だけだった。ギンガは居間のソファに一人、ただうなだれていた。

 

「…」

 

『昨日午後、ヴァンデイン・コーポレーションで専務取締役ハーディス・ヴァンデイン氏が襲撃される事件が…』

 

居間には付けているテレビの音と、台所でセッテがなにやら作業をする音だけが響いている。

 

午前中にノーリはアリスを連れて出ていった。今でも十分大所帯なゲンヤの家に数人増えたところであまり問題はなかったし、今だけはギンガに負担を与えるわけにはいかなかった。ただ、ギンガは少し情緒が不安定なところがあったので一応セッテが残ったのだ。

 

「ギンガ姉。ココア…入れたから。これだけでも飲んで」

 

ギンガは朝から何も口にしてなかった。起きてからずっと、アキラが使っていた枕を抱きながら一点を見つめているだけだ。

 

「ギンガ姉…」

 

「…」

 

かける言葉なんて見つかるはずがない。どうしたらいいかセッテが悩んでいるとき、ブリッツギャリバーに連絡が入った。着信を知らせるアラームが鳴ってもギンガは反応しない。

 

仕方なくセッテが代わりに出る。

 

「はい」

 

『ん?かける相手を間違えたかな?』

 

通信の相手ははやてだった。はやては通信に出たのがセッテなことに驚いていた。

 

「いえ、ギンガ姉のかわりに私が出ました。今はとても…」

 

『分かってはいるけど……ちょうギンガに代わってもらってええか?』

 

「…ギンガ姉。はやてさんです」

 

セッテがブリッツギャリバーを差し出すと、ギンガは何も言わずそれを受け取る。

 

『ギンガ。大丈夫?』

 

「…」

 

返事はしない。虚ろな目で通信画面を見つめていた。

 

『一応、元六課のメンバーに同じ連絡を回してるんやけど……いま、巷を騒がせている犯罪者たちと彼らが所有する武器の確保の為に、私が部隊長の新しい特務隊を組織することになるかもしれないんよ』

 

「…私に、参加しろと?」

 

ギンガの言葉にはやては頷く。ギンガは戦力としても捜査官としても優秀だ。加わるか加わらないかで隊のつくりも大きく変わるだろう。それはギンガ自身もよく理解していた。

 

「…私、今役に立つように見えますか?」

 

『それはまぁ………自分で判断するといいと思うよ?今、局が追っている組織の名前はフッケバイン。今後うちが組織する特務隊はフッケバインも追う』

 

「…」

 

そこまで話してはやては急に真面目な表情に変わった。

 

『そして先日、そのフッケバインの構成員にマスクが入った可能性があるって話が出てる』

 

はやては通信画面にマスクの写真を表示した。その瞬間、ギンガはようやくうなだれていた首を直し、はやてにまっすぐ向き合う。

 

「…マスクを……この手で………………捕らえられるんですか」

 

『…それはギンガ次第やね』

 

ギンガの目つきが変わった。虚ろな瞳から少しは生気のある瞳に戻る。

 

「なら…やります。いいえ。やらせてください。必ず…この手で、マスクを…」

 

 

 

 

時空の海に浮かぶ広大な次元世界

 

そこでかつては世界を駆け巡る大規模な戦乱の時代があった。ひと時の平和が築かれた現代においても、時に争いは巻き起こる。

 

新暦0075年・JS事件 天才開発者ジェイル・スカリエッティによる大規模テロ。

 

新暦0078年・マリアージュ事件 複数世界における連続放火殺人事件。

 

新暦0079年・黙示録事件 世界滅亡と謳われた大規模テロ。

 

新暦0080年・ダズマ事件 世界の神と言われたダズマ復活による大規模テロ。

 

 

そして新暦0081年。始まりは一人の英雄の死。

 

 

 

続く



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第一話 トーマが選んだソノ運命

すいません、アフターストーリーがロクに終わってもいないのに始まっちゃいます。しかも第一話短くなっていまいました。全然筆が進みません…。アフターストーリーはそこそこ早めに終わらせます。

次回はもう少し長くします…すいません。


-飛空艇フッケバイン-

 

 

 

「はじめまして…いや、久しぶり………かな?」

 

ここはエクリプス感染者で構成された組織フッケバイン一家の本拠地「飛空艇フッケバイン」。そこにマスクはいる。

 

マスクの他にフッケバインの首領カレン・フッケバイン、ドゥビル、サイファー、フォルテスがいた。

 

「あなたはなんて呼べばいいのかしら?局の連中が呼ぶようにマスク?」

 

カレンの問いに対し、マスクは少し間をおいてから答える。

 

「俺は誰でもない………そうだな、「ナナシ」とでも呼べマスクじゃあダサいだろう」

 

「そう。じゃあナナシね。私たちの誘いに答えてくれてありがとう。家族が増えるのはうれしいからね」

 

「そうかい」

 

「ところで。貴方、ここに来る前に一人局員を殺してきてるでしょう?割と高い立場の」

 

カレンの質問に対し、ナナシは不機嫌そうに答える。

 

「それがどうした」

 

「困るのよ、そうホイホイと局員殺されたら、追手を撒くの面倒なんだから」

 

困った表情でカレンは言った。殺人集団の首領とは思えないほど明るい人物だ。

 

「…そうかだが…」

 

「?」

 

マスク改めナナシはディバイダ-を出現させドゥビル、サイファー、フォルテスの腕を瞬時に切り落とした。

 

「!?」

 

「!!」

 

「なっ…」

 

そしてナナシは最後にカレンに切りかかったが、それは直前で刀に防がれた。

 

「なんのおつもり?」

 

鍔迫り合いをしているカレンの表情はさっきとは打って変わって厳しい。当然だが。

 

「なんのつもり?上下関係を教えといたほうがいいだろ?」

 

「なんの理由があろうと、私のファミリーを傷つけるのは許さない。おいたが必用みたいね」

 

カレンは魔導書を出現させ、戦闘態勢をとる。ナナシはカレンから離れ、ディバイダ-の銃口をカレンに向ける。

 

「やれるもんならやってみろ。別に俺はテメェらを全滅させることに何の躊躇もない。恐怖も、負ける気もな」

 

既に全員回復し、戦闘態勢を取っている。それを見てナナシは全員に対しても武器を向ける。

 

「全員同時でもいいぞ。かかってこい」

 

「へぇ、いい度胸じゃない」

 

カレンの眼は殺そうとしている、殺意を持った人間の眼だ。その場にいた全員の腕の再生はすでに終わっていた。このままなら小さな戦争が勃発しかねないだろう。今にも戦闘が始まりそうな雰囲気の中、部屋の中に誰かが入って来る。

 

「兄さま。やめて」

 

入ってきたのは、眼を隠すだけのバイザーをした黒髪の少女。少女はナナシの前に立ち、カレンに頭を下げた。

 

「フッケバインファミリーの皆さま、ご迷惑をおかけしました。とても許される行為ではないと思いますが、見ての通り腕だけは立ちます。どうか、御許しを」

 

「おい、シーラ」

 

この少女はナナシの関係者で一緒にフッケバインに入りに来た少女だ。カレンは少し考え、刀をしまった。

 

「……まぁ、今の攻撃、首を狙えばほぼ殺せるのに殺さなかった。今回だけは、あんたの妹に免じてじゃれあいってことで許してあげる…。次はないと思いなさい」

 

「…」

 

「ありがとうございます!気を付けるよう、兄にはよく言っておきます!」

 

シーラと呼ばれた少女はカレンに何度も頭を下げた。ナナシはやり切れないという感じだが、ディバイダ-を仕舞って仮面を外した。

 

「まぁ、よろしく頼むぞ。殺人屋」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-陸士108部隊 隊長室-

 

 

 

隊長室のドアにノックが響く。

 

「どうぞ」

 

「入るわよ」

 

部屋に入ってきたのはメグだ。部屋の中にいたのは現在陸士108部隊戦闘部隊隊長のギンガだ。ちなみに副隊長はメグだ。

 

「準備できた?」

 

「ええ」

 

ギンガは部屋の整理を行っていた。ギンガは現在設立中の特務隊の遊撃部隊員として出向に行くのだ。

 

「……108部隊のこと、任せたわ」

 

「ええ、任せなさい。あんたはマスクの野郎をぶっ飛ばしなさい」

 

「そうね。私は、アイツを殺すことだけ考えるわ」

 

ギンガの表情には以前のような笑顔はない。輝きのない瞳には、復讐の炎だけが宿っていた。ギンガは荷物をまとめ、隊長室を出ていった。部屋に残ったメグは、机の上に伏せてある写真立てを起こす。そこには笑顔のギンガ、アキラ、そして二人に抱かれるアリスがいた。

 

「もう、あんたの笑顔は見れないのかしら?ギンガ…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

此処までが、新暦0081年年初の話。

 

現在、ルヴェラ鉱山遺跡では一人の少年が遺跡を訪れていた。少年の名前はトーマ・アヴェニール。かつてスバル・ナカジマに助けられた少年だ。彼は今、相棒スティードと共に旅をしていた。

 

そんな彼はこの鉱山で少女リリィと出会う。

 

それによってエクリプスウィルスに感染した彼はその力で鉱山内の研究所を破壊して脱出。しかし盗難者として追われる身になったのだが、旅人アイシスの協力を経て地元の地方警邏からは逃れた。

 

そしてスバルと連絡をとるべくなんとか教会にやって来たのだった。

 

 

 

ー教会ー

 

 

 

「やっと着いた…」

 

「うん、これでちょっとは安心できるね」

 

しかしそれはつかの間の安らぎだった。トーマはすぐに教会から血の臭いがすることに気づいた。

 

(血の匂い…)

 

「スティード!二人を頼む!俺は中を見てくる!」

 

「ちょ、トーマ!」

 

トーマは急いで教会に向かった。嫌な予感がする。この匂いはあの日、自身の故郷が破壊された時に嗅いだ匂いと同じだ。

 

教会に入ると、そこは案の定破壊されつくした後だった。シスターも倒れていたが、殺された後だった。

 

「くそ!」

 

トーマはそのまま教会内を走り回った。そしてたどり着いた教会のチャペルに一人の男が座っていた。

 

「…来たか」

 

座っている男は黒いコートにフルフェイスの仮面をつけている男、マスクもといナナシだった。

 

「お前はっ!」

 

少し前、旅の途中でアキラが死んだと伝えられた日。その犯人の画像も送られてきた。フルフェイスの仮面をつけた男。仮面のデザインも完璧に同じだ。

 

それだけじゃない。男の着るコートの肩には、あの日、故郷を破壊した連中と同じ模様。そして銃剣を持っていた。

 

「要件は一つ。お前が盗み出したディバイダ-とリアクターを渡せ。お前が持つべきものでも、関わるべきものでもない。命が惜しければすぐに渡せ」

 

(藍色の羽根…ずっと探していた!)

 

トーマは瞬時にディバイダ-出現させてそれを構えた。

 

「聞きたいことがある。此処をこんな風にしたのと、シスターたちを殺したのはあんたか」

 

「…」

 

「7年前、ヴァイゼン鉱山を破壊したのも!あんたたちか!?アキラ・ナカジマを殺したのも!あんたか!?」

 

マスクはため息をつく。

 

「もう一度だけ言う。「それ」と、リアクターを渡せ。命が」

 

「答えろ!」

 

トーマはディバイダーの銃口を向けた。

 

「……それは、お前がそれを離す気はないって意思表示か?」

 

「あんたにこれを渡す気も、ここから逃がす気もない!質問に答えないなら!」

 

「…」

 

ナナシはショットガン風のディバイダ-をトーマに向け、引き金を引いた。銃口に溜まったエネルギーが発射され、トーマのいた辺りを吹き飛ばす。

 

トーマはその爆風に紛れ、ナナシの横に回り込む。ディバイダ-の刃で攻撃を仕掛けるがナナシのディバイダ-で防がれる。

 

「ぐっ…」

 

次の行動にトーマが迷っている隙に、ナナシはトーマの腹を蹴って吹っ飛ばした。トーマは瓦礫に突っ込んだがすぐに体勢を立て直し、ディバイダ-を構えた。

 

『Silver Barrett』

 

強力な魔力弾が炸裂した。しかし、ナナシは無傷だった。

 

「お前はどうしてそれを盗んだ?」

 

「盗みたくて盗んだわけじゃない。女の子を助けたら勝手についてきた」

 

「女…シュトロゼックか?」

 

「そう名乗った」

 

それを聞くとナナシはため息を漏らす。

 

「はぁ………厄介なものを作るもんだ。人の形にするから、こういう馬鹿が増える」

 

「馬鹿?」

 

(何が馬鹿なんだ?俺がリリィを助けたのが?)

 

トーマはぐっとディバイダ-を握る。

 

「俺は答えた今度はアンタが答えろ。7年前のヴァイゼン鉱山とアキラ・ナカジマのことだ」

 

「……答えてやらんこともない。だが知ってどうする?」

 

「なに?」

 

「俺が、俺らがヴァイゼン鉱山を破壊し、アキラ・ナカジマを殺したとして、それでどうする?俺を殺すか?本当にそれでいいのか?」

 

「…それは」

 

「殺されたから殺して、殺したから殺されて。そんなんで本当にいいのか?過去を見るより、未来を見て生きたほうがずっと幸せだぞ」

 

「確かにそうかもしれない!だけど!殺したやつを野放しにしていていい理由なんてない!」

 

そうきっぱり言い切ってトーマはディバイダ-を構える。

 

「確かにそうかもな。ならどうする」

 

「倒す!」

 

「いい度胸だ」

 

ナナシはトーマに向けて散弾を数発放った。爆風の中から現れたトーマは白髪になり、鎧を纏っている。

 

「こんな炎と嵐で俺の故郷を破壊したのは、アキ兄を殺したのは、あんたか」

 

「…やっぱりか」

 

トーマは一気にナナシに襲い掛かるがナナシはトーマの攻撃を簡単にいなし続ける。

 

「答えろ!」

 

「……ガキのわがままに付き合ってる暇はねぇ」

 

ナナシはトーマの腕を掴んで折った。

 

「っ!!!」

 

トーマが痛みに表情を歪め、隙が出来た瞬間にナナシはトーマの頭を掴んで投げ飛ばす。トーマはそれでも上空で態勢を整え、うまく着地してディバイダ-を構える。するとその想いに呼応するようにディバイダ-にエネルギーが溜まる。

 

「あ………あぁぁぁぁ!!!」

 

『Silver Hammer』

 

さっきとは比べ物にならない強力な魔力砲が放たれた。ナナシは一瞬驚いたがその攻撃をなんとか弾いた。

 

「……はぁ、はぁ」

 

「これでおしまいか」

 

トーマは魔力の使いすぎか、トーマは限界が訪れていた。ナナシはチャペルの入り口付近を見る。

 

「そこのお前。こいつの連れか」

 

「!」

 

すると入り口から旅人であるアイシスが飛び込み、トーマをかばうように前に出る。

 

「…この馬鹿を運ぶの手伝え」

 

「な、あんたなんかに協力する訳ないでしょ!?」

 

「勘違いするな。此処にいる全員の生殺与奪の権利が誰にあると思ってる?」

 

「…」

 

アイシスはそっとポケットに手を伸ばそうとするがそれよりナナシが速く動き、アイシスを抑えた。

 

「ぐっ!」

 

「大人しくしてりゃ悪いようにはしねぇ。変なことしようとすれば、まず外にいるもう一人を殺す。次がテメェだ。ただ殺すだけじゃねぇ。お前らが後世まで語り継がれるくれぇ辱められる殺し方をしてやる。わかったな」

 

「…わかったわよ…」

 

 

 

続く



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第二話 ソレは復讐の刃

遅くなったり寄り道したりですいません。やっと第二話が完成しました。なるべくペース上げていきます。別世界編も並行していくんでよろしくお願いします


ある日、小此木の仕事場にギンガは現れた。

 

「珍しいね。君からというのは」

 

「はっきり言います。私にあの男を………マスクを追わせてください。単独で」

 

「………まぁ、そんなところだと思ったよ。準備はしてある」

 

そういわれ、ギンガは少し驚いた。我ながら無茶な提案をしに行ったと思ってたからだ。しかし小此木は、しばらく共に戦った彼女の気持ちを分からないほど鈍感ではなかった。

 

「……言っておいてなんですが、できるんですか?」

 

「私を誰だと思っているんだい?管理局の最高権利者に意見できる立場の人間だよ?君一人に特権を与えるくらい、造作もない」

 

小此木はギンガにバッジを渡した。半透明の素材でできたバッジだ。

 

「君をファントムに一時的に入隊させる。そのバッジは独自捜査の許可証だ。知っているね?」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

「無茶だけはしないように。君を死にに行かせるために許可しているわけではない」

 

「……分かっています」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「じゃあそのガキを頼んだ]

 

「…」

 

「逃げようとか考えるなよ。変な動きをすればすぐこの女を殺す」

 

ナナシはアイシスにトーマを運ばせるように命令した。ナナシはまだやることがあったようで、リリィを人質にとった。

 

「わかってる…」

 

アイシスを見送ると、ナナシはリリィと共に教会に戻った。その途中、リリィはナナシに話しかける。

 

(何をするの…?)

 

「ん?言語機能がやられているのか?」

 

脳波か念話か、どちらかわからないが頭に直接話しかけられたナナシはリリィに聞いた。リリィは小さく頷く。

 

「そうか…………まぁいい。俺の仲間が無駄な殺しを行っちまった。このままじゃなんだ」

 

ナナシは死んでしまっているシスター三人を回収し、チャペルの床に手を身体の上に合わさせて寝かした。そして、三人の前で手を合わせる。

 

「コラテラルダメージ……だ。許せ」

 

そしてナナシは、手を合わせ終わるとシスターの指一本だけ切り落とした。

 

(………?)

 

「さぁそろそろ行こう。もうすぐ局の連中が来る」

 

 

 

-林道-

 

 

 

四人は気絶したトーマを運んで適当な森の中に身を隠した。ナナシは動けないトーマの代わりに二人の食事の準備までしていた。

 

リリィから聞いたシスターへの行動。それらも鑑みて案外この男は優しいのではと思い始めていた。

 

「…あんた…トーマをどうする気?」

 

料理の手伝いをしながらアイシスはナナシに訪ねた。いくら優しいかもしれないとはいえ、敵は敵。目的をはっきりさせておくのは大切なことだ。

 

「俺らのアジトへ連れていく。そこの女も一緒にな。テメェはいらねぇが俺らのこと覚えてられると問題だ。アジトで記憶の改ざん処置をさせてもらうそれでお前は自由だ。いいな」

 

「…」

 

その対応が良いのか悪いのか、それを考えているとき、トーマが目を覚ました。

 

「う…」

 

(トーマ!)

 

「トーマ、大丈夫!?」

 

「ああ…アイシス…リリィ…俺は大丈………夫!?」

 

「起きたか」

 

トーマはナナシの姿を見て飛び上り、痛む身体を抑えつつ二人の前に出た。

 

「お、お前…なんで…………」

 

ナナシは鍋を混ぜながら一緒にいるその理由を答えてやる。

 

「お前には俺と一緒に来てもらう。拒否してくれても構わないがお前、下手に動くと捕まってロクなことにならねぇぞ」

 

「お前なんかと一緒にいるよりずっとマシだ!!」

 

トーマはディバイダ-を出現させてナナシに向けた。ナナシは小さくため息をついてディバイダ-を出してトーマを無力化しようとしたが、アイシスがナナシの前に立った。

 

「トーマ!待って!」

 

「アイシス!?」

 

「…」

 

「トーマ!そんなに警戒しないで!戦ったのは事実かもしれないけど、一応今は助けられてるっていうか…」

 

口にした言葉も真実だが、アイシスはともかく今はトーマを戦わせるべきではないと判断したが故の行動だった。

 

「アイシス…」

 

「俺は別にかかってきてくれても構わないぞ?料理の片手間でお前を押させることもできるだろうさ」

 

「………」

 

(トーマ…)

 

トーマは少し考えてからディバイダーを収納した。

 

「あんたを信用したわけじゃない………でも、リリィやアイシスに何もしなかったし…むしろ助けてもらったみたいだから……今だけは」

 

「………お人好しだな。恨む相手が目の前にいるなら、なにを差し置いても殺すべきだ」

 

ナナシの言葉に反論できず、トーマは黙った。考えてみれば、さっきと比べてナナシに対する怒りや復讐心が高まらない。さっきは唐突だったからか、アイシスが止めたからか。

 

「ほら、出来たぞ。食え」

 

ナナシはよそった料理を差し出す。

 

「…」

 

「毒なんぞ入ってねぇから安心しろ。ここで殺すことが目的じゃねぇ」

 

「…ありがとう」

 

しかしこのナナシという男、妙に優しく感じた。リリィの話によるとシスターを殺したのもナナシではないという。

 

(なんなんだこいつ……でも、こいつはアキ兄を…)

 

そのとき、トーマは持っていた食器を落とす。

 

「あれ…?」

 

(トーマ!?)

 

「トーマ、大丈夫!?顔赤いよ!?」

 

トーマは意識を失いかけ、ふらりとその場に倒れる。

 

「トーマ!」

 

アイシスたちがかけより、その額に手を当てた。その温度はやけどしそうなほどの熱さだった。

 

「すごい熱……トーマ!大丈夫!?トーマ!」

 

「放っておけ」

 

ナナシは妙に冷たい反応を取った。

 

「十分考えられる状況だ。身体が作り変わっているんだ。恐らくな。なにもしないでも勝手に収まる」

 

「でも…」

 

その時、どこからかモーター音のようなものが近づいてくるのがわかった。

 

「………この音…」

 

崖の上から、一台のバイクが飛び出してきた。バイクはナナシたちの後方に着地し、緊急停止した。

 

「なに!?」

 

「…見つけた」

 

停止したライダーのヘルメットの奥から重たく、冷たい女性の言葉が聞こえてきた。たった一言だったが、恨みつらみが重なり続けてできた呪いのような言葉だった。

 

「まさか現場からやみくもに探し回ってたのか?」

 

「そんなの今は関係ないわ。ようやく見つけたんだから、逃がさない」

 

バイクから降りた女性はヘルメットを取った。ヘルメットの中から髪が解かれて美しい紫の髪があらわになる。やってきたのは単独捜査の権利を得たギンガだった。アイシスは突然現れた人物に驚きながらも戦闘態勢を取った。

 

「………そこのあなたたち…下がってなさい。全部終わったら、保護してあげる」

 

「管理局…?」

 

ギンガはナナシの姿しか見えていなかった。そのせいか、アイシスと重なったトーマの姿は見逃していた。

 

「覚悟しなさい、マスク…」

 

「………」

 

ギンガは首にかかっていたデバイスを取り出す。それはブリッツギャリバーではなかった。色が暗すぎる。紫色ではあったがそれはほとんど黒に近い紫、紫黒色だった。

 

「ライジングネメシスギャリバーセットアップ」

 

黒い光がギンガを包みこむ。ギンガの身体には通常とは違うバリアジャケットが装備された。

 

「それは……」

 

黒いパワードスーツのようなメカメカしいデザインのバリアジャケット。追加されているアーマーが多く、分かりにくいが、パワードスーツのアーマーの下のベースとなっているのはナンバーズたちが着ていたナンバーズスーツだった。

 

ナンバーズスーツに黒いアーマーが追加され、更にリボルバーナックルの形状も変化し、足のローラーブーツもノーヴェのジェッドエッジに酷似したものになっている。

 

「ナンバーズスーツを流用した新しい装備か………母を殺し、自らをも兵器に仕立て上げようとした犯罪者の力を使うのか?」

 

ナナシは妙にギンガの事情に詳しかった。

 

「よく知ってるわね。でもね、アキラ君だって私が拐われたときは大切な人の仇である人間の力をも利用して私を助けてくれた。だったら私だってそれくらいの覚悟がなきゃ駄目じゃない」

 

「ほぉ……いい覚悟だ!であれば俺も、全力で相手をしなければ無礼というもの!」

 

ナナシはそう叫んで上着を脱ぎ捨てた。そして、二の腕に巻かれた腕輪についている小さなレバーを上げた。

 

『Engage Konig VC6 React』

 

「リアクトオン!!」

 

竜巻のような火炎がナナシを包み込む。そしてその中から腕に鎧を装着し、ショットガンから歪んだ形の剣と変わったディバイダーを持ったナナシが現れる。

 

「さぁ!俺を倒してみろ!」

 

「…」

 

ナナシはディバイダーに火炎を纏わせ、ギンガに向かって振るった。

 

次の瞬間、ナナシの目の前に広がる森は広範囲に渡って焼き払われる。しかしギンガはそれを躱し、横からナナシに迫る。

 

(アキラ君を倒し、その身体さえも消滅させたこの男の攻撃…っ!けどそれは私たちがなにも知らなかったから!)

 

尋常じゃない速度でギンガはナナシの側面に迫り、ナナシに殴り掛かった。その拳はナナシの顎に命中し、ナナシは上空に吹っ飛ぶ。

 

「ウィングロード」

 

ギンガはウィングロードを展開し、ナナシを上へ上へと殴り上げていく。妙に抵抗しないナナシに僅かに疑問視したが、それよりも今は攻撃を優先した。

 

ある程度上空に飛ばされたナナシに、ギンガはさらにウィングロードを展開する。ナナシを中心に球を形成するようにウィングロードの檻を展開する。

 

そして、ウィングロードの檻の中でナナシに攻撃を仕掛けた。ウィングロードの足場を蹴り、ナナシに攻撃し、その先にある足場を蹴って再度攻撃をする。それを全くの隙を与えずに連続で攻撃を仕掛け続ける。

 

(隙を与えるな…っ!……意識を攻撃にだけ集中させろ!)

 

数秒で28回もの打撃を与えたギンガは最後に下から上への打撃を与え、上空でリボルバーナックルを変形させた。

 

「リボルバーバースト!!!!」

 

そして変形したリボルバーナックルがバーニア噴射し、真下に突貫する。上から下への位置エネルギーに加え、バーニアのエネルギーが加わった一撃がナナシに命中する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そのままナナシは地面に叩きつけられ、ナナシを中心にクレーターが出来る。

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

「………」

 

殺す気で撃った一撃だった。しかし、ナナシは特に痛む様子も見せずに起き上がる。

 

「この程度か?」

 

「!!」

 

その一言にギンガは逆上し、ナナシに突撃する。

 

「リボルバースパイク!!!」

 

ギンガの蹴りがナナシの顔面に命中した。しかしそれだけに終わらず、よろめいたナナシの先に高速で移動し二撃三撃と繰り返し当てていく。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「……」

 

「!」

 

その時、ギンガの動きが突然止まる。

 

「…?」

 

「ぐっ………こんな…ところで…」

 

ギンガはその場に跪き、喀血した。

 

まだギンガは自身の装備であるライジングネメシスギャリバーに彼女が付いていけてなかったのだ。バックファイアが生じ、ギンガの身体を傷つけていた。

 

リボルバーナックルを二つ同時に使用することすらまだギンガにもできない。スバルはJS事件で偶然一度だけ使用したがそれはたまたまだった。そこにさらに、リボルバー系の装備を足に二つも付けているのだ。制御しきれなくて当然だ。

 

「なんと……まだ装備が完全ではないとは…」

 

「ぐ……」

 

「ならば……」

 

ナナシはディバイダーの刃に炎を纏わせ、振り上げる。

 

(……動け!動け!こんなところで負けるわけには…)

 

「消し炭にする価値もなし」

 

ナナシはディバイダーを下ろし、アイシスたちのいる場所まで戻ろうとした。

 

「な……め…るなぁぁぁぁぁ!!!」

 

ギンガは軋む身体を無理やり動かし、ナナシの背中に殴り掛かる。

 

「愚かな」

 

ナナシは背後からの攻撃をジャンプで回避し、そのままアイシスたちのところへ降り立った。

 

「絶対に殺さねぇことを約束するからおとなしくしてろ」

 

「え?」

 

そしてアイシスを抱え、ギンガの前に立つ。そしてアイシスの首にディバイダーの刃を当てた。

 

「このガキを殺されたくなかったら大人しくその装備を解除しろ。お前じゃ俺には勝てない」

 

「あなたは…どこまで…」

 

「…さぁどうする?俺はフッケバインのメンバーだ。人を殺すくらい、なんてこともねぇぞ?お前の旦那も殺したんだからな」

 

そのとき、ナナシの全身をバインドが縛り上げる。

 

「!」

 

そして風のような速さで何者かがアイシスを奪還した。

 

「今だ!ギンガ!」

 

アイシスを奪還したのは近くに捜査に来ていたシグナムだった。そしてシグナムの合図でギンガはすぐに殴り掛かる。

 

その一撃は防がれたが、状況を進展させた。

 

(相手は強敵…しかし、要救助者もいる中でこの状況は無視できない!)

 

 

 

-六課本部-

 

 

 

「スクランブル!フッケバイン、及びマスクが出現しました!現在シグナム空尉とギンガ陸尉が交戦中です!」

 

六課本部内で緊急回線が開かれる。各世界で新装備のテストをしていた各隊長にもナナシとの戦闘のことが伝えられた。

 

そして、そこにたまたま新装備のテストに付き合っていたメグが通信を聞いた。

 

「………ギンガ…あのバカ…あんな装備で…」

 

 

 

続く



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第三話 夜の戦い、ヤツに討たれた戦士達

第三話です。タイトル付けるのにルールを付けたので少しタイトル決めで時間食いました
感想待ってます


とある次元世界の森の中、普段であれば静寂なはずの森には爆発音が響き渡っていた。

 

「はははは!脆弱!貧弱!」

 

「っ!」

 

ギンガとシグナム二人掛りで戦っているがまるでナナシには敵わなかった。ナナシの放つ大きすぎる火炎に近付くことすらできなかった。

 

「くっ………ライジングネメシスさえ使えれば…」

 

「今それを使うことは私が許さん!それ以上……その身体を傷つけるな!」

 

ギンガはバリアジャケットさえ使っているものの、使用機能を極限まで削ることでバックファイアを減少させていた。しかしそれではただでさえ強いナナシを越えることはできなかった。

 

「私は…っ!」

 

何か対策はないか考えていた時、要救助者たち、つまりトーマたちがいる場所に爆発のような光が見えた。

 

「!?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

スゥちゃんたちに拾われて、アキ兄に牙を立てた。でも、正直あまり後悔はしてなかった。なんとなく、アキ兄が嫌いだった。スゥちゃんたちの優しさ、温かさのなかで、アキ兄からだけはどこか冷徹さが感じられた。

 

だから俺は自然とアキ兄を避けてたし、アキ兄も俺の内心に気付いてたのか自然と俺から遠ざかってくれた。

 

それから、「あの日」こと………。アキ兄を俺が「アキ兄」と呼ぶようになったあの日。あの日のアキ兄は本当に暖かくて…。

 

なのに

 

なのに

 

アキ兄は死体も残さず殺されて。

 

ギン姉は以前とは別人になってしまった。

 

ナカジマ家は表に出さないようにはしているけれど内側が冷え切ってしまって、俺の帰る場所は暗くなった。

 

誰がそんなことをした?誰のせいでそんなことになった?

 

そうだ。あいつだ

 

あいつさえいなければ…

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

トーマは雄たけび、服装が変わった。服装だけではない、全身に刺青のようなものが広がり、髪も白くなった。

 

その様子を見たナナシはシグナムたちに問いかける。

 

 

「…………………さぁどうする?あの少年はもう社会の毒だ。俺のように、その力で無惨に殺すか?」

 

「…っ!」

 

その問いに対しギンガとシグナムは一瞬止まった。ナナシはそんな隙ももちろん見逃さない。

 

「判断が遅い!」

 

次の瞬間ギンガは火炎に包まれた。

 

「くっ!ライジングネメシスギャリバー!ロック解除!」

 

「ギンガ!」

 

ギンガはシステムを解放し、上昇したスピードで火炎から抜け出し、ナナシに殴り掛かる。シグナムもその隙に一気にナナシの背後に回り込む。ギンガは左腕を構え、背後に回ったシグナムは紫電一閃を放つべく、レヴァンティンを振り上げる。

 

「どこまでも…」

 

ナナシは小さく呟いてディバイダーを握りなおす。それと同時に刃に火炎が纏われる。

 

「愚かなぁ!!」

 

振り向きざまにそこそこ距離がある位置にいたシグナムの前にまで移動し、それと同時にシグナムを切り刻んだ。

 

「…っ!」

 

レヴァンティンは砕け、全身から血があふれ出したシグナムはそのまま落ちていった。

 

「シグナムさ…」

 

そしてその後、瞬時にギンガは蹴り飛ばされ、崖に激突した。

 

「がっ…」

 

「…どこまでも愚かな女だ…あの日拾った命を、みすみす捨てに来るとは…これではあの男も浮かばれないだろう………」

 

ナナシの握るディバイダーから噴出する炎はどんどん大きくなり、それが一気に収束された。そのディバイダーを構え、ギンガに突撃する。

 

「ここで燃えてあの世で旦那と会うといい…炎剣一閃」

 

炎が収束された剣の一撃はきっと強力だろうことは見た目から判断できた。食らえばタダでは済まないだろう。しかしギンガの身体は今食らった一撃とバックファイアのダメージで動けなかった。

 

(アキラ君…っ!)

 

「ギンガ!」

 

ギンガの身体を切り裂くはずだった刃はギンガに届くことはなかった。別の人物が間に入り、ギンガへの攻撃を身を挺して防いだのだ。

 

ギンガが目を開くとそこには鮮血を背中から流し、ギンガの盾となっているフェイトがいた。

 

「…っ!」

 

「フェ…フェイトさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

ギンガの悲鳴が夜の空に木霊した。

 

「がはっ…」

 

フェイトの予想外の乱入に戸惑っていたのか、動かなかったナナシにスタンバレットが放たれる。ナナシはすぐに後方回避した。打ったのはフェイトと共に現場に到着したティアナだった。

 

「ちっ、援軍か…」

 

ナナシはそのままアイシスたちの近くまで下がる。

 

「壁炎!」

 

そして大量の炎を地面から発生させ炎の壁を作り出した。炎の壁は厚く、簡単に貫けるものではなかった。

 

「よぉ!ナナシ!」

 

下から声が聞こえた。下を見ると、そこには入れ墨を入れた少女が三人を眠らせた状態で捕獲していた。少女の名前はアルナージ・フッケバイン。ナナシと同じフッケバインファミリーの一人だ。

 

「アル」

 

「おうナナシ!ちゃちゃっと捕まえておいたぜ~」

 

「こいつは覚醒したか」

 

ナナシはトーマを見て訪ねる。

 

「おう。バッチリ」

 

「…」

 

ナナシは少しトーマを眺めてからアイシスとリリィを抱える。

 

「シーラは」

 

「ちゃんとつれてきておいたよ。シーラ」

 

アルが呼ぶと、森の奥からバイザーをした少女が現れる。

 

「その子達運べばいいの?」

 

「ああ。頼む。さっさとずらかるぞ。局の連中が追ってくる」

 

一方そのころ、ギンガとフェイトを介抱していたティアナは目の前に現れた炎の壁をどう超えようかと考えていた時、本部から連絡が入る。

 

『ティアナさん!大変です!現場から犯人及び要救助者たちの反応が消えました!』

 

「消えた!?転移魔法!?」

 

『いえ、転移魔法系の反応は感知されませんでした。ただ単に消えたとしか……』

 

「そんな………」

 

 

 

ー数時間後ー

 

 

 

『犯人は複数名と見られており、現在も逃走をしています。本事件は地元警邏隊のみでなく本局次元航行部・脅威対策室が事件の調査を担当。特別編成の特務課が操作と状況対応を行い、全力をもって事件の解決と犯人の確保を行うとの事です』

 

これは戦闘後、近くの町や次元世界に流れたニュース放送だ。それは管理局の管理下にある病院内でも流れた。それを待合室近くで聞いていたのはギンガだ。

 

「………」

 

「まったく、今回も無理したわね」

 

待合室で一緒に待っていたのはお見舞いにきたメグだった。ギンガもかなりダメージは負ったのだが、入院するほどではなかった。なので検査と軽い治療だけで済んだ。

 

「別に、私は平気。ただ私の気合いが足りなかっただけ。次こそは……必ず…」

 

「あんた一回落ち着きなさいよ。焦りすぎ」

 

「焦りもするわよ…私のせいでフェイトさんが………シグナムさんが…」

 

「だから落ち着けって言ってんの!二人がやられたのはアンタの責任じゃない。あの男のせいでしょう?」

 

「でも…」

 

ギンガは責任を感じているようだった。自分が先行しすぎたせいで二人も優秀な捜査官をしばらく戦線復帰できなくさせてしまったと考えていた。メグがしょい込まないように言うが、あまり効果はないようだった。

 

 

 

「う……」

 

病室でシグナムは目を覚ます。

 

「シグナム!?」

 

「アギト…?」

 

朦朧とする意識の中で自分の視界に入った小さな相棒の姿を認識する。アギトは今にも泣きそうな状態でシグナムのそばに寄り添う。

 

「私は…」

 

「ナナシにやられたんだ………あ、待ってて!今先生呼んでくるから!!」

 

そういってアギトは飛んでいった。シグナムは起き上がろうとするが、全身が痛み、動くことすらままならなかった。

 

「確か、あの男に一瞬でやられて………情けない話だ……」

 

しばらくすると、アギトに呼ばれた医者が来てシグナムの現状検査をして、今の状態を説明した。重傷で完治まで絶対安静だが、命に別条はないとのことだった。

 

「いやぁ、それにしてもさすがはシグナムさんですね」

 

「?」

 

「傷は深いですが全て致命傷が避けられてます。おかげで早めに退院できそうですよ」

 

(致命傷を避けた?あの状況で?)

 

シグナムがやられたのは刹那の出来事だった。致命傷を避けるための回避行動なんてできる筈が無かった。となれば、それに気になることもあった。

 

(このガキを殺されたくなかったら大人しくその装備を解除しろ)

 

ギンガに警告していたあの言葉。殺す、もしくは気絶等、動かなくなるまで攻撃すれば済むものをわざわざ降伏を促していた。ある意味ギンガの身体を心配していたようにも見える。無茶して新しいバリアジャケットをしていたギンガを。

 

「あの男は一体……」

 

 

 

ーフッケバイン艇内ー

 

 

 

「う…」

 

船内のとある部屋の中でトーマは目を覚ました。ぼやける視界に移っていたのは三人の男だった。一人は妙に優しい表情だが裏がありそうな男フォルティス、もう一人は体格が良く上半身裸の男ドゥビル、最後の一人はナナシだった。

 

「ああトーマ君いいタイミングで起きてくれましたね」

 

目を覚ましたトーマにフォルティスは飲み物を運ぶ。

 

「ひどく頭が痛むでしょう?これを飲めば少し楽になりますよ」

 

そういってフォルティスはトーマに飲み物を飲ませた。少しトーマは苦しそうだったが必要な処置だったため、フォルティスは少し無理矢理飲ませた。

 

「けほっけほっ……ここどこだ?あんたたちは…?」

 

「ここは僕らの本拠地で、僕らは世界から凶悪犯罪者集団なんて呼ばれてる「フッケバイン」のメンバーです」

 

それからフォルティスはトーマが求めるであろう情報を話した。自分たちの名前、自分たちはトーマたちの仇ではないこと。トーマがエクリプスウィルスに感染したこと。

 

その他色々話した。仲間への勧誘、アイシスたちの現状等。一通り話した後で食事を運ぶ為に二人は退室した。

 

「………そんな…俺が…」

 

「………現実を知ってショックだろう?気持ちは分かるさ」

 

ナナシが一人うなだれるトーマに簡単に励ましの言葉を掛ける。トーマはナナシを見て小さくため息をつく。

 

「あんた………ここの組織の人間だったのか」

 

「ああ」

 

「…………なんでアキ兄を殺した?」

 

沈黙が気まずく、トーマはとりあえず思いついた質問を投げかける。

 

「橘アキラの………アキラ・ナカジマのことか。俺は次元犯罪者で、アイツは管理局員。ただそれだけだ」

 

「だからって…お前のせいでギン姉は………!」

 

「そんなことはどうでもいい。俺の話を聞け」

 

「………なんだよ?」

 

「ここから出たいか?」

 

「…なに?」

 

予想外の出来事だった。まさかこの男が自分を助けるような提案をしてくるとは思ってもみなかった。

 

「お前が望むなら助けてやる。もちろんお友達も一緒だ」

 

「どういうつもりだ?」

 

ここまで連れてきたのはナナシ自身だ。

 

「お前をここまで連れてきたのはお前の状況を確認させるためでそこから先はお前の判断に任せる」

 

その時だった、艇内に警告が流れる。

 

『現在本機に向かって大型航空戦力が接近中。対象はLS級管理局戦艦識別名称ヴォルフラム』

 

「……すまない。この話はあとにしよう」

 

「待て!一体それはどういう……」

 

引き止めようとするトーマを無視してナナシはさっさと部屋を出て行った。部屋を出たナナシは通路で他のメンバーに会う。

 

「状況は」

 

「ナナシ。心配ありませんよ。いつものことです」

 

「奴らをそう甘く見ないほうがいい」

 

「あなたの言っていた新型の兵器ですか?さすがにそんなに早く完成するとは……」

 

その瞬間、フッケバインに大きな衝撃が響く。

 

「!」

 

「ほらな…」

 

「中和フィールドを抜けてきた?久々の質量兵器ですかね?」

 

こういう攻撃は前にもあった。しかし少々のダメージが与えられただけで大した問題はなかった。

 

「特務隊も本気ということでしょうかね」

 

「そういうことだ。ステラ、外部映像出せるか」

 

ナナシが通信で言うと、外部映像が目の前に投影された。

 

「空を飛んでる赤いのと、撃ってきている白いの。両方とも厄介なやつだ。恐らく今まで通りにはいかないだろう。」

 

「よくご存じなんですね」

 

「いろいろな。恐らくだが入って来るぞ戦闘準備だ」

 

ナナシの予想通り、次の瞬間大きな衝撃が再び船体を揺らす。その一撃でフッケバインに穴が開き、侵入可能な状態を作り出してしまった。

 

「俺が出る。あとは………サイファーとドゥビルでいいか」

 

「了解した」

 

「ああ」

 

ナナシは冷静に戦力判断を行い、すぐに侵入者の迎撃にでた。管理局の侵入者は三名。ギンガ、スバル、エリオのライオットチーム三名だ。本来ならギンガではなくフェイトがライオットチームにいたがフェイトは重症のためギンガが志願したのもあり、ギンガが交代した。

 

ナナシ、サイファー、ドゥビルとライオットチームの三名が会敵した。

 

「…………やっと見つけた」

 

「管理局特務六課制圧部隊です。武器を捨てて投降しなさい」

 

「…」

 

スバルとエリオはドゥビルとサイファー、そしてギンガはナナシに対峙した。

 

「性懲りもなく…」

 

「あなたは私の獲物よ。貴方を狩るまで。私は止まらない。止まれない」

 

「ほぉ。ならば立ち上がる気も起きないほどにすりつぶしてやろう」

 

「できるかしら?」

 

「なに?」

 

ギンガは姿勢を低くし、構える。気迫が違う。気配が違う。ナナシはこれを感じたことがあった。何度も、何度も。覚悟を決めた気配。後退を感じさせない気配。

 

刺し違えても相手を殺すという歪みない決意。

 

「いくわよ…」

 

ギンガの瞳が赤くなった。

 

「…!」

 

 

 

続く



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第四話 限界突破、オマエを狩る力

二ヶ月ぶりです。遅くなって本当に申し訳ない。忙しいと手が止まった先に中々進めなくて…。今回のラストの部分、それが書きたいがためだけにこの作品始めたといっても過言ではありません。


管理局がフッケバインへの攻撃を仕掛けたのはシグナムたちが負けてから数時間後。夜が明け、その日の昼頃に攻撃を仕掛けた。これはその数時間前。病院での話だ。

 

 

 

-病院-

 

 

 

ギンガは病院で検査を受けた。ライジングネメシスギャリバーからのバックファイア、そしてナナシ受けたダメージ。それらの検査をしたが、そこまでの異常は見られなかった。

 

「……」

 

検査を終わらせたギンガはそのまま集中治療室に向かった。集中治療室ではいまフェイトが治療を受けている。ギンガはお見舞いに来ていたティアナに訪ねる。

 

「フェイトさんの容体は?」

 

「………まだ予断は許しません……」

 

「…………ごめんなさい。私が……焦ってたから…」

 

「いいえ。ギンガさんのせいじゃありません。ある意味では…」

 

ティアナは意外なことを口にした。ギンガは驚く。

 

「……どういうこと?」

 

「…………もう、古い話だからしてもいいかな…フェイトさんのこと、悪く思わないでくださいね?」

 

「……」

 

「フェイトさん、六課の頃からアキラさんのこと…好きっていうか……心配していたんです」

 

「…」

 

「最近聞いた話です、お酒の席で。最初はアキラさんが心配だったそうです。きっと、心は誰よりも弱いのに体が誰よりも強いから、誰にも頼れずにいるって。それが心配だったらしくて。ギンガさんを守るっていうのは、他にやることがないからそれを生業にして自分の存在意義を作り出すためだって」

 

「かもしれなかったわね」

 

「でも、どんどん強くなっていくアキラさんを見て、心配はなくなったけれど代わりにアキラさんを想う気持ちだけは残ったって。それですこし、アキラさんのことを想うようになったけどギンガさんがいたからって…」

 

「…」

 

「でも、アキラさんが殺されたことに対して、その想いが蘇って、あの男…マスクが許せなくなったって」

 

「私と同じだった…」

 

「だから…マスクが現れたって聞いて、フェイトさんはソニックモードで現場に飛んで…」

 

「私を守って………斬られた」

 

ティアナは小さく頷く。

 

「ギンガさん、フェイトさんがこんなことになったからっていうわけじゃありませんが…アリスちゃんのこともあります。戻ってください…」

 

「戻れないわ…」

 

「どうして…っ!」

 

「アキラ君の時と同じ……仇を取るためならなんだってするわ…。あのとき、ウィードを見付けたアキラ君の気持ち、ようやくわかった…。仇を取るまで…止まらない…」

 

ギンガには声が掛けられないくらい重い空気、そして今にも崩れそうな背中があった。もうギンガは限界なのだ。アキラのいない生活が。きっとギンガが殺された場合、アキラも同じようになっていただろう。

 

ただ、あの男を追うことしか生きがいが無いのだ。

 

子どもを育てることで忘れさせようとティアナは考えた。しかし、子供程度ではギンガの心は修復できないほどに傷付いていた。それほどアキラとギンガの共依存関係は深かった。

 

「ギンガさん…」

 

 

 

ここで話はさらに前へと遡る。

 

 

 

-数か月前-

 

 

 

アキラが殺され、そしてギンガに特務隊への誘いがあった数日後の話だ。ギンガは牢獄に面会に来ていた。

 

「また君かね?」

 

「ええ。話があるわ。事件の協力じゃない。私個人が話したいの」

 

面会の相手はスカリエッティだった。

 

「君には嫌われていると思ってたがね。嬉しいよ」

 

そう言った瞬間、ギンガはスカリエッティの胸倉を掴み、自分の方へ引き寄せた。

 

「黙りなさい。私の質問にだけ答えて」

 

「………優しい表情の凛々しい捜査官はどこに行ったのかね?それともなんだ?身内でも死んだか?」

 

「…っ!」

 

ギンガは拳をスカリエッティの顔面にめり込ませた。

 

「…私の、質問だけに、応えなさい」

 

「面会中の囚人に暴力とは…」

 

スカリエッティは鼻血を垂らしながら言った。

 

「今の私は処分なんて恐れない。いいから話を」

 

「………聞きたいこととは?」

 

スカリエッティはティッシュで鼻を拭きながらギンガに訪ねた。ギンガは小さなため息をついて席につく。

 

「戦闘機人の限界について」

 

その言葉にスカリエッティは僅かに眉を動かす。

 

「………というと?」

 

「私たち戦闘機人には、通常状態と戦闘機人モードの二種類が存在する。でも、戦闘機人モードを発動しても絶対的な力が手に入るわけじゃない」

 

戦闘機人は確かに強い。だが、その力は兵器としてあまりにも中途半端だとギンガは考えていた。戦闘特化させていてもオーバーSランクの魔導師に勝てない。わざわざ人体に機械まで入れて作り上げた甲斐がないと感じていた。

 

「まだ上があると?」

 

「ええ。貴方なら知っているんじゃない?」

 

「仮に知っていたとして、君はそれを知ってどうする?」

 

「………絶対に殺したい相手がいる。そのためにはそれが必要」

 

「……………私としては貴重なタイプゼロである君に危険な橋は渡らせたくない。教えたくはないがこれを知っているのは私だけではない。私が言わなくても君はきっと別の形で知ろうとするだろう。結果が同じなら私が教える」

 

スカリエッティは不本意ではあったが伝えることにした。他の方法で調べ、危険な使い方をしてギンガに傷付かれるのを恐れたのだ。

 

「オーバーリミットモード。それが戦闘機人の限界だ」

 

「オーバーリミットモード……それを使うにはどうすればいいの?」

 

「簡単だ。新しいデバイスを作りたまえ。戦闘機人にはオーバーリミットモードを発動させないための制御システムがある。そのシステムの解除方法は体内に存在する制御装置を取り除かないと不可能だが………私なら外部から制御装置を停止させるプログラムをデバイスに装備することができる」

 

「そう、ならそれを作って」

 

「………わかった。ではそうしよう」

 

意外なほどあっさり承諾され、ギンガは拍子抜けした。

 

「妙に協力的ね。なにか企んでいるの?」

 

「いいや、だが私が断っても君は恐らくウィード辺りのところに行くだろう。彼は妙に君たちに協力的だからね。調子に乗って君を簡単に殺すシステムを作られても困るのだよ」

 

「そう…」

 

「くれぐれも気をつけたまえ。これは、君自身も殺す悪魔の契約だ。私としても君に死なれるのは困る」

 

「………」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-飛空艇フッケバイン-

 

スカリエッティから託されたシステムを手にギンガはフッケバインに乗り込んだ。そして、ナナシに対峙した時にそのシステムを発動させた。

 

ギンガの瞳は赤く輝き、全身に魔力のオーラを纏った。

 

「その力…」

 

「…っ!」

 

ナナシの目の前からギンガが消えた。それと同時にナナシの首が掻っ切られる。ギンガが通り過ぎ様に手刀で首を斬り裂いたのだ。

 

「!」

 

(やはり表皮が硬い…っ!だけど………だけど関係ない!今度こそ、ここでこの男を殺す!)

 

ギンガはUターンしてナナシに飛び掛かる。ギンガの攻撃は上手くいなされる。ナナシはディバイダーを取り出し、ギンガに向けて突く。その攻撃をギンガはイージスシールドでガードした。

 

ナナシの連撃をガードし続けたが内一撃がギンガの頬を切り裂く。

 

「!」

 

そのことで一瞬気を取られたギンガにナナシは蹴りを入れた。ギンガは壁まで吹っ飛び、めり込んだ。しかし舞い上がった粉塵からギンガが飛び出して来る。

 

ナナシはディバイダーでさらに攻撃を仕掛けるが右腕に切り傷を残した程度で背後に回られた。ナナシは即座に背後に向けてディバイダーの銃口を向けたがディバイダーは弾かれナナシはその顔にギンガの左拳を食らった。

 

「…っ!」

 

ナナシはすぐさまディバイダーを拾い上げ、リアクトをした。

 

「炎舞!」

 

炎を纏った剣を振るうと強力な炎熱砲がギンガに向けて放たれる。ギンガはしばらくトリッキーな動きで炎熱砲を避けるが追い詰められ、再度イージスシールドを展開して炎熱砲を防ぐ。

 

「ぐっ……」

 

一瞬イージスシールドで防いだギンガは一気に射程から外れ、ナナシの懐にもぐりこもうと接近する。しかしそう簡単に近づけさせてはくれない。少し近づけたもののそれ以降は反撃を受け、思うように近づけない。

 

(戸惑うな…押していけ!)

 

思い切ったギンガは一気に突貫した。ナナシはそれに対しディバイダーを振るううがギンガは拳を前に出した。戦闘機人の強化皮膚と右腕のストライクナックルの硬度がギンガの腕を守り、切られるどころかディバイダーに押し勝つ。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ナナシは後ろに下がりながらギンガに牽制攻撃をするが、全て弾かれる。最終的にナナシはギンガの背後に回られ、手刀でわき腹を貫かれた。

 

「ッ!」

 

「………っ!」

 

しかし、ギンガは右腕に異常を感じた。その隙をナナシは見逃さない。ギンガを掴み、壁に向けて投げ飛ばした。ギンガは再び壁に激突する。すぐに動こうとしたが、右腕が動かないことに気付く。連続して攻撃を弾き続けた代償だった。

 

さらにバインドで縛られる。

 

「………炎熱集中、炎王剣・烈火斬」

 

ディバイダーから発生した炎を一か所に集め、炎の剣を作り上げた。

 

「今度こそ死ね」

 

「ギンガさん!」

 

ギンガのピンチに気づき、エリオがナナシにストライクカノンを向ける。ナナシはすぐさまそこから移動する。そしてその隙にギンガはバインドを破ってエリオの前に飛んだ。

 

「邪魔しないで」

 

「は、はい…っ!」

 

ギンガの威圧に負け、エリオは怖気づいた。

 

「お前がいくら強くなろうと、お前は俺には勝てない」

 

ナナシがギンガに言う。

 

「反応速度には追い付いている。力でも負けていない………私は貴方に勝つ」

 

「………なぜそこまで俺にこだわる?あの男のことか?」

 

「……当然でしょう?」

 

「…くだらんな。俺を倒したところでヤツは戻らん。過去にこだわらないで娘の為に教育の一つでもしてやったらどうだ?そんな力を使ったところで見てみろ。お前の身体は勝手に傷付き、片腕も動かないのに俺は大した傷はついていない。お前にもはや勝ち目はない。もう諦めたらどうだ?」

 

ナナシは面倒くさそうにギンガに言った。

 

「あなたは分かっていない……あなたが奪ったのはアキラ君の命だけじゃない。アリスが、私がアキラ君と過ごすはずだった時間アキラ君と繋がっていた人々の日常それらすべてを奪った。だから私は貴方を許さない………仮に私が死んでも、次の復讐者が必ずあなたの首を取るっ!」

 

「愚かな………どこまでも愚かな考えだ」

 

ナナシはディバイダーを握り、ギンガに飛び掛かった。

 

「!」

 

しかしその直後、何かに気付いたナナシはディバイダーを投げ捨ててギンガの背後に回り込んだ。

 

「!?」

 

(今……認識できなかった…!スピードにまだ上があるの!?)

 

ギンガが驚愕しているとナナシはギンガを抱きしめるように飛びつき、一気に壁際まで跳ねた。

 

次の瞬間、フッケバインとヴォルフラム全体に強力な分断魔法が放たれた。戦艦二隻は推力低下し、どんどん落ちていく。乗員たちも大半が意識消失、心肺停止などの状態になった。

 

フッケバイン内部で戦闘していた者たちも一緒だ。皆立つ力すら失ってその場に伏していた。しかしその中で唯一起き上がる者がいた。ギンガだ。

 

「今のは一体…?」

 

混乱する頭で辺りを確認する。回りの人間は全員倒れていた。そして暗くなったその場に、誰かが歩いてくる音がする。それはナナシも例外ではない。

 

目の前で最愛の旦那の仇が弱っていると言うのに、ギンガは止めをさそうともしない。なぜなら、それを上回る程の事態がギンガに起きていたからだ。頭の中にノイズ交じりの声が響く。

 

(ごめんな……どうか……幸せに…)

 

一方ナナシは全身の重みに耐えながら辺りの状況を把握しようとしていた。

 

(トーマか……あの野郎…「ゼロ」か……。よりにもよって…どうして…)

 

その時、フッケバインの廊下の奥から誰かが歩いてきた。

 

「すいません、監理局の人。要救助者が二人います。どうか、助けていただけませんか?」

 

「トーマっ!?」

 

「その声…スゥちゃん?」

 

トーマが捕らわれていたアイシスとリリィを救出してここまでつれてきていたのだ。

 

「スゥちゃんだよね?この子たちをお願い…」

 

エクリプスが暴走し、視覚モードが強制的に変更され、目の前にいるのが誰かわからない状態だった。

 

「トーマ!どういうこと?それにこの子たち…」

 

「この子たちとは旅先で会って、俺のせいでこんなことに巻き込まれちゃったんだ。二人ともいい子なんだ、優しくしてあげて」

 

「フッケバインのみんな、こんな目に遭わせてごめん。ドゥビル、フォルティスと一緒に色々説明してくれてありがとう。ナナシ、急に襲い掛かってごめん。優しくしてくれてありがとう。無理だと思うけど………どうかちゃんとギン姉に謝って。仲間に誘ってくれてありがとう。だけどごめん、俺一人で行く」

 

「トーマ!一人でってどこへ…」

 

「スゥちゃん…あの日からずっと優しくしてくれて、家族になろうって言ってくれてありがとう。本当にうれしかったし幸せだった。ごめんね、バイバイ、スゥちゃん」

 

トーマは涙を流しながらスバルに手を振った。

 

そして床を破壊してそのままフッケバインを脱出した。

 

「トーマ!トーマ!!」

 

「トーマ……馬鹿野郎…」

 

ナナシは壁に寄りかかりながらも無理やり身体を起こし、ディバイダーを拾い上げてステラに通信を取る。

 

「ステラ、俺はトーマを追う………後のことは任せた」

 

『うん…ナナシ、大丈夫?』

 

「俺は問題ねぇ。あのバカをほっとくわけにはいかねぇよ」

 

『それもそうだね……気を付けて?』

 

「………ああ」

 

まだトーマの放ったディバイドゼロエクリプスのダメージは身体に残っているものの、ナナシはなんとかトーマを追おうとした。すると、その足を誰かが掴んだ。

 

「待ちなさい………」

 

ギンガだった。いくら周りより少しダメージが少ないとはいえ、無理をやったバックファイアもあるギンガは動くには難しい状態だった。

 

「動くのもままならない状態でまだ歯向かうか………離せ」

 

ナナシはギンガの腕振り払った。そしてトーマが脱出した穴に向かった。しかし、ギンガはナナシに向かって叫んだ。

 

「待って………待ってよ!」

 

「しつこい。さっさと回収してもら…」

 

「待ってよ!アキラ君!!!!!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

続く



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第五話 オレの名前はナナシ

遅れまして更新ですVividも近々更新です。次回は未定です。少なくとも来年の4月くらいまでは不定期更新です。


フッケバイン内に響いたギンガの叫びは乗り込んできたライオット部隊を驚愕させた。エリオやスバルの視線がナナシに集まる。

 

「アキラさん…?」

 

「アキラさん……なの?」

 

「………とうとう狂ったか。俺がアキラなわけがないだろう?俺は、アキラを殺し、その死体を跡形もなく消し去った張本人だぞ?」

 

ナナシは呆れながらギンガに向かってそう言った。

 

「違う………マスクなんて本当はいなかった…あなたが全部仕込んだこと…」

 

「…………」

 

ナナシはぐっと構え、ギンガに向かって走り出そうとした。ギンガは瞳を赤く輝かせ、重い身体を無理やり動かした。ナナシより早くエリオたちの前に飛び、アイシスを抱えた。

 

「スバル!そっちの子を!」

 

「う、うん!」

 

ギンガの指示でスバルもリリィを抱える。ギンガはスバルがリリィを抱えたことを確認すると、エリオを近くに寄せる。

 

「チッ!」

 

ナナシがギンガを追おうとしたとき、ギンガはエリオからストライクカノンを奪い取ってナナシに向かって数発放った。それによって一瞬アキラの動きが止まる。

 

『突入してきた管理局の人へ、さっきの放送聴いてたよね?今から帰り道のご案内をするからそこの民間人をちゃんと確保しておいて』

 

こちらの状況が部分的にしか確認できてなかったステラがギンガたちを輩出する準備を始めていた。

 

「ステラ!奴らの排出は…」

 

『排出!』

 

ナナシの静止も間に合わずギンガたちが排出された。すぐに回収され、追撃も間に合わないだろう。

 

「ナナシ……」

 

現場に残ったフッケバインのメンバーの視線がナナシに集まる。

 

「………トーマを追う」

 

ナナシはトーマが逃げた穴に飛び込んだ。

 

 

 

-ヴォルフラム-

 

 

 

排出されたギンガたちはヴォルフラムに回収された。そしてすぐにシャマルが駆け付ける。

 

「ギンガ!あなた、そんな身体になるまで無茶を…」

 

「私はいいです!それより八神司令!!」

 

ギンガはシャマルの手を振り払い、はやてに通信を取る。

 

『どないした?ギンガ』

 

「ナナシは………いえ、トーマがエクリプスウィルスに感染していました。さっきフッケバインから出て行ったのは彼です。それをいまナナシが追っています」

 

ギンガはナナシのことを報告しようとしたが、それよりもトーマの件を優先した。

 

『…………トーマが…わかった。今トーマをなのはちゃんが追う準備しとる』

 

「ナナシが外にいる状態でなのはさんを出すのは危険です。私が行きます」

 

『あかん!そない身体で出るなんて…』

 

「ご心配なく、対策はあります!完成してるわよね!?ウィード!」

 

ギンガが叫ぶと、奥から巨大な装備の収納箱と共にウィードが現れる。

 

「やれやれ、君といいアキラ君と言い人使いが荒いねぇ」

 

「ウィード!?」

 

「あなたどうしてここに!?」

 

檻の中にいる筈の次元犯罪者が局の船に現れたのだ。当然全員が驚く。

 

「私がファントムの権限で協力させたのよ。リミッター解除の反動で動けなくなる可能性があったからそれの対策を…」

 

ギンガが説明をしながらウィードに近付く途中、ギンガは急に足の力が抜けてその場に倒れる。

 

「………身体が…」

 

「やれやれ、無理をしすぎだ」

 

ウィードはギンガを起き上がらせ、状態を見る。

 

「足に異常はなさそうだ……右腕、それから右目に少し異常が出てる」

 

「それの補助は?」

 

「滞りないよ。時間もないだろうからさっさと準備しようか」

 

 

 

-上空-

 

 

 

ナナシはトーマを必死で追っていた。自然落下しているものだと思ったが、飛行を行っているらしくトーマは結構早かった。

 

「………」

 

(待ってよ!アキラ君!)

 

「…アキラ君………か」

 

一方、トーマは人気ない場所を探しながら飛んでいたが、接近するナナシとヴォルフラムからトーマを助けに飛び出していったアイシス、ナナシに続いてトーマを追いかけて行ったアルを確認していた。

 

(誰か来る?来ちゃダメ駄目だ……俺に近付くと……)

 

[敵性存在を排除します。SilverStars "Hundred million"]

 

銀十字の書が接近する相手を排除するべく桁違いの量のエネルギー弾を放った。

 

「………馬鹿野郎が」

 

ナナシはディバイダーを構え、炎を纏わせる。

 

「炎剣・龍頭鉄槌!!」

 

ナナシに向かっていくエネルギー弾が固まってきたタイミングで炎で形成された竜をぶつけ、エネルギー弾を全て破壊した。

 

「そんな破壊兵器なくせに、どこかで死ねると思ってんのか?局でもフッケバインでもいい。生きれる場所はある。お前は死ぬのはまだ早いんだよ。トーマ!」

 

ナナシは加速し、いがみ合っているアイシスとアルを横目にトーマの目の前にまできた。ナナシが目の前にまで迫ったことでトーマは銀十字の指示で戦闘態勢に移行する。

 

「…っ!」

 

巨大なディバイダーを振り上げ、ナナシに切りかかった。

 

(基本的な制御と指示は銀十字が行っている筈。要はアレを破壊すればいい!)

 

ナナシはディバイダーを構え、白兵戦に入った。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

戦闘開始から数時間

 

はやてとヴィータ、エリオはフッケバインの足止め、ナナシはトーマと、アイシスはアルと戦闘を行っていた。

 

そしてヴォルフラムの格納庫ではギンガが準備を完了していた。CW社製のAEC装備とは別に、ギンガがウィードに頼んで作らせた装備だ。リミッター解除によるバックファイアのダメージは計り知れなかった。それでも戦えるように補助用の装備を作らせたのだった。

 

「急ピッチだったからね慣性コントロールシステムは取り付けられなかった。許したまえ」

 

「充分……戦えるなら」

 

「使えなくなっているのは右手だけだが念のためフル装備でやっておいた。僕の作った装備を付けて死なれるのは寝覚めが悪い」

 

「………ええ」

 

「仮設補助装置WW-01ライトアーム「オールドホーク」、WW-02小型プラズマライフル「コシュカ」、WW-03レフトアーム「リボルバープラズマランス」、WW-04「ループリングローラー」、WW-05「エボルスコープ」稼働状況オールグリーン。いつでも出られる」

 

追加された装備はボロボロの右腕全体を包み、その上から脳信号で動くクレーン型のナックルがついた「オールドホーク」。右肩に装備された小型のプラズマ砲「コシュカ」。左腕の上から装備されたランス型の武装「リボルバープラズマランス」。腰部に装備された姿勢補助装備の「ループリングローラー」、視界補正装置「エボルスコープ」の五つ。

 

更に余ったなのはのフォートレスにも使われているCW社のAEC装備である大型盾をつけていた。

 

「了解!フルアーマーライオット0!」

 

「高町なのはフォートレス!」

 

「「行きます!!」」

 

ギンガとなのははナナシたちが戦っている現場に向かって飛んだ。

 

「ギンガ、大丈夫?」

 

「はい…………必ずトーマを連れ戻しましょう」

 

「…………うん。……あっちで何かあった?」

 

「……なにも、なかったです。なのはさんはトーマをお願いします。私はあの男を…」

 

そこまで話した時、なのはの背後にフッケバインから出撃していたドゥビルが迫った。

 

「なのはさん!」

 

ギンガはすぐさま右手を伸ばす。オールドホークは折り畳み式で伸縮する武器であるため、離れた位置にいるドゥビルに充分届いた。

 

「!!」

 

「でぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

そのままウィングロードを一気に伸ばし、左手のリボルバープラズマランスをドゥビルに突き立てた。ドゥビルはギリギリでディバイダーを盾にし、プラズマランスを防いだがかなりふっ飛ばされた。

 

(随分と硬い装備だな……周りの連中の装備とは違うようだが)

 

「ここは私が。なのはさんはトーマを!」

 

「うん!!」

 

「………邪魔をするな。そうすれば戦わずに済む。そんな滅茶苦茶な装備を付けてまでなぜ戦う?お前の目的はナナシだろう?」

 

「確かにそう。だけど、だからって、犯罪者を見逃しておくわけには行かない。そのための私たちでそのための魔法だ!」

 

「虚しいな。ならばここで砕けて消えろ」

 

ドゥビルはリアクトして構える。ギンガも構えた。

 

(ライト、レフトアーム稼働状態正常…ループリングローラー起動)

 

ギンガの腰に装備されているリングに付けられた四本の足が稼働する。足の先端にはローラーが付いており、それがループリングを回ってギンガの姿勢制御を補助する仕掛けとなっている。

 

「行くぞ」

 

ドゥビルは一瞬でギンガの背後に回り込み、斧型のディバイダーを振り上げた。

 

「!!」

 

ギンガも反応できない速度で回り込まれたが、ライトアームのオールドホークはそれに反応した。ギンガの右腕は完全に機能停止したため、脳からの電気信号とエボルスコープに内蔵された戦闘AIの判断による二種類の行動が可能だった。

 

今回はギンガが反応できなかった攻撃に対してエボルスコープが反応し、オールドホークを動かしてドゥビルの攻撃を受け止めた。

 

「プラズマ……っ!」

 

更にギンガは攻撃を受けとめた状態からループリングローラーを活用して身体を捻り、リボルバープラズマランスをドゥビルに突き立てる。

 

「!!」

 

「ブレイク!!!」

 

CW社のウォーハンマーと似た仕組みでプラズマジェッドが発動し、爆発と共にドゥビルの身体にダメージが入る。しかし、爆煙が晴れたその先にいたドゥビルは大したダメージを負っていなかった。

 

(無駄に早い上に固い……攻撃力も高い一筋縄ではいかないか………)

 

防御も攻撃も速度も上の敵。長期戦はおろか子の装備を全損しても刺し違えれるかどうかといった感じだった。ギンガが覚悟を決めた時、上空からストライクカノンの砲撃が撃ち込まれた。

 

「!?」

 

「プラズマパイル!!」

 

更にドゥビルにウォーハンマーによる一撃が放たれた。それを打ちこんだ張本人は、セッテだった。

 

「セッテ!」

 

「スバル姉さんから事情は聴きました。此処は私が対応します。ギンガ姉は、早くアキ……ナナシのところへ」

 

「………ありがとう!」

 

ギンガはその場を離脱し、なのはの後を追った。

 

「次から次へと……あんな状態の姉を少年のところへ向かわせるとは、なぜだ?」

 

「私の姉とその旦那は私の恩人だ。だから今度は私が恩を返す。貴様らにはわからんだろうがな」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

辺りに島もないような海洋の上空で剣がぶつかり合う音が響き渡る。ナナシとトーマは白兵戦にて拮抗していた。正しくはトーマはまだ感染が完全でないため、致命傷を負わせられないナナシが加減し、拮抗しているのだ。

 

(いろいろと狙いずれぇ…あの銀十字、戦闘面ではかなり優秀なAIだな…)

 

上手く銀十字のみの撃破を狙うが、それも中々難しい。アルも後方支援してはいるがそれでも難しい。どうしようかと考えている時、盾形の飛行ユニットがどこからともなく飛んできた。

 

「!?」

 

『敵性飛行ユニット接近 飽和射撃にて殲滅します』

 

銀十字の指示で辺りにエネルギー弾が放たれる。ナナシがそれを躱すために横に逸れると、その後ろにいたなのはがストライクカノンと単独飛行モードのレイジングハートによる射撃を行使した。

 

「シュート!!」

 

「!」

 

しかし、トーマには大したダメージはなかった。

 

「トーマ……」

 

「邪魔をするな高町なのは」

 

ナナシはなのはに対峙する。

 

「そういうわけには行かない。トーマのことは絶対に助ける」

 

「助ける……か。仲間一人助けられなかったお前ら管理局が何ができる?」

 

ナナシが言ったのはアキラのことだ。

 

「そうだね……あなたの手からアキラ君を救うことはできなかったかもしれないけど、だからこそ、今度は必ず助けるって決めたんだ」

 

「抜かせ!」

 

ナナシはなのはに飛び掛かる。なのはは右腕に付けた大盾でナナシの攻撃を防ぐ。そして次の瞬間にナナシの腹部にストライクカノンを突きつけてそのままトリガーを引いた。

 

「エクサランスカノンヴァリアブルレイド!」

 

更に近くに飛ばしていた盾形飛行ユニットの砲も合わせて砲撃をナナシに集中させた。

 

「シュート!!」

 

「炎壁!」

 

ナナシはとっさに炎の壁を出現させたが、一部砲撃はそのまま食らった。

 

「………お前も焼かれて灰になりたいようだな、あの男の様に……」

 

「そのつもりはないし、そればっかりだね」

 

「何?」

 

「あなたは私たち管理局と対峙すると、必ずアキラ君の話を持ち出す。それはどうして」

 

なのははナナシに対して尋ねた。ナナシは局員に対峙すると決まってアキラの話を持ちだして脅すことから始める。まるで、力の差を見せて逃げ出すことを促すように。

 

「………」

 

「あなたは他のフッケバイン構成員に比べて、比較的局員の前に現れることが多い。そしてあなたと出会った局員が死んだことはない」

 

「………奴を殺してからここのリーダーに不用意に局員を殺すなと言われてな。まぁ全員を灰にするのも面倒なだけだ」

 

「私はそれだけじゃないと思う。貴方は、管理局にフッケバインを追うなって言ってるように見えるな。あなた達が面倒だからっていうのじゃなくて、あなたの心遣いに見えるけど」

 

「………口の減らねぇ奴だ。俺がそんなことする訳ねぇだろ。その証明にお前も今すぐ灰にしてやるよ!」

 

ナナシはディバイダーを構え、なのはに突貫した。しかし、ナナシとなのはの間に何者かが入り込んでナナシの攻撃を防いだ。セッテにドゥビルを任せたギンガが下りてきたのだ。

 

「テメェ…」

 

「あとは頼める?」

 

「はい。任せてください」

 

なのははトーマを救うべくナナシをギンガに任せてその場を移動した。

 

「そんな装備まで付けて………お前はどこまで………!」

 

「…………決着をつけましょう。はぁぁぁ!」

 

「…っ!」

 

ギンガの突きをディバイダーで反らす。リボルバープラズマランスを凌がれたギンガはオールドホークを繰り出す。ナナシは何とか躱した。

 

「……いい加減目障りなんだよ!さっさと失せろ!」

 

「だったらあなたも私を殺してみなさい…。あなたなら難しい話ではないでしょう!?」

 

その時だった、突然海水が持ち上がり、それがフッケバイン上空で集まり、巨大な氷塊となった。それがフッケバインに当たれば確実に落とされるだろう。

 

「あれは………八神はやてか!」

 

「よそ見をしている暇が!」

 

そういってギンガはコシュカの砲塔をナナシに向けて発射した。ナナシはそれを宙がえりをすることで躱し、そのままディバイダーを構えて斬りに行った。その斬撃はギンガが自動飛行させていた大型ACE盾が受け止めた。

 

「この程度!」

 

ナナシはディバイダーに炎を集中し、盾をそのまま斬り裂いた。しかしその先にギンガはいない。

 

「!」

 

次の瞬間、上からオールドホークのハンドアームがナナシのディバイダーを掴む。

 

「!!」

 

「ブレイク!」

 

オールドホークに握りつぶされ、ナナシのディバイダーが砕かれる。

 

「チッ!」

 

ナナシは砕かれたディバイダーの刃の先端を掴み、折られたディバイダー本体をギンガのループリングローラーに突き刺した。

 

「!」

 

「おぉぉぉぉぉ!」

 

更にナナシは足に炎を纏わせ、それをギンガのわき腹に食らわせる。ミシミシと嫌な音を立ててギンガは吹っ飛んだ。

 

(さっさと八神はやてを止めねぇと!)

 

はやてを止めようとフッケバインの方に向かうナナシだったが、念話で誰かがそれを静止した。

 

(大丈夫よ)

 

「なに…?!……よせぇ!!」

 

次の瞬間、首領のカレン・フッケバインがはやてを背後から刺した。それにより氷塊は崩れて海へ散った。

 

「カレン…っ!」

 

「YES♪フッケバイン一家の首領、カレン・フッケバインただいま現着!」

 

カレンの登場と共にナナシたちに退避命令が出た。トーマ奪還の為に出撃していたアルとドゥビルは撤退した。残るはナナシだけとなったが、ナナシはそこから動こうと

しない。

 

(ナナシ?)

 

「………俺は…」

 

(どしたの?)

 

「俺とあんたらは………ここまでだ」

 

(……………………そう)

 

ナナシはその場でフッケバイン一家からの脱退を望んだ。少し残念そうだったが、カレンは拒否しなかった。

 

「シーラ!荷物を頼む!」

 

(了解)

 

ナナシが連れていた少女、シーラに荷物を任せトーマの方に向き直る。

 

「俺は、俺なりのケジメをつけなくちゃならねぇ」

 

 

 

続く



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第六話 アノ日ワタシにナニが起きたのか

二三ヶ月ぶりです。お久しぶりです。かなり忙しかったのですが、ようやく時間が取れました。これからは定期的に投稿できると思います。


「痛ぅ……」

 

ギンガは身体のダメージを確認してから破壊されたループリングローラーを外した。

 

「………」

 

(今は無理矢理体を動かしているだけ……この戦いが終わればきっと動けなくなる…その前に…)

 

ギンガは準備を整え、戦場に戻ろうとした。しかしその時、ギンガの瞳から涙がこぼれた。涙なんて、とうに枯れていると思っていたのに。ギンガは涙を流していた。

 

(あぁ………心がぐちゃぐちゃだ…。さっきからうれしい感情と悲しい感情と怒りの感情が浮き出ては沈みを繰り返している。どうすればいいのか、わからない…)

 

一方、トーマを止めようとするなのはの戦闘にナナシは介入しようとしていた。

 

「お待たせ」

 

そこに、荷物を持ったシーラが現れる。そして荷物の中から刀を取り出し、ナナシに渡した。

 

「これでいけるの?」

 

「ディバイダーよりは使いやすい。まぁ見てろ」

 

ナナシはなのはがトーマと戦闘している場所に飛んだ。なのははトーマ相手にそこそこ苦戦していた。いくら感染者といえ知っている相手に本気をぶちこむのは気が引けたのだろう。さらに攻撃のパターンなどを銀十字の書に解析され、追い詰められていた。ほとんどの武装を破壊され、残るは盾一枚となった。

 

最後の一撃を盾で受けようとしたとき、ナナシがなのはの前に現れる。

 

「ナナシ………」

 

「下がっていろ」

 

「あなた…………っ!!」

 

なのはは瞬時にバインドで縛られた。なのはの技量であれば抜け出すのにそう時間はかからないだろう。ナナシはその前に決着をつけるつもりだ。

 

「さぁ、行くぞトーマ」

 

銀十字に戦闘命令を出されたトーマがナナシに襲い掛かる。ナナシは刀を両手で持ち、構えた。トーマのディバイダーが寸前に迫ったとき、刀を振り下ろした。

 

金属同士がぶつかる音がし、トーマのディバイダーの3分の1が吹っ飛んだ。さらに、振り下ろした刀の刃を上に向け、今度は切り上げる。ディバイダーは半分になり、更に刀を振り下ろしたことでトーマのディバイダーはほぼ持ち手から下の部分のみとなった。

 

この三撃は1秒とかからずに行われた。そのため、最初の一撃でトーマは離れることはできなかった。予想外の攻撃に戸惑ったトーマはすぐに離脱しようとする。その時にナナシは既に構えを取っていた。

 

「乱咲」

 

次の瞬間、トーマの左腕に付いていた刃の付いた盾型の装備はバラバラになった。

 

「!!」

 

トーマはすぐにディバイダーを構え、魔力弾を数発放った。ナナシは刀でその砲撃を弾く。

 

『ディバイダー破損。白兵戦困難。飽和射撃で殲滅します』

 

銀十字からページが出現し、飽和射撃の体制を取る。ナナシは刀を構え、追撃を行う姿勢を取った。しかしその時、上空から黒い鳥が現れた。

 

「黒の香No.9!ダスキーフラッシュ!!」

 

鳥はトーマの周りで爆発し、煙幕を出す。

 

『強可燃物による煙幕!緊急回避!』

 

緊急回避を行おうとしたが、それより先に爆発が起き、トーマにダメージを負わせた。

 

「………アイシス…」

 

「………ナナシ…これはあの無駄おっぱいにも言ったんだけど、あんたたちには感謝してる。でも、私にトーマを助けさせて!」

 

「だったら黙って見てろ。救いたい気持ちは同じだ」

 

「え?」

 

刹那、アイシスはバインドで縛られた。

 

『ドライバーの身体機能低下、戦闘継続困難。ドライバー保護のため転移の必要あり。緊急転移モードに移行します』

 

銀十字の書はこれ以上の戦闘を不可能だと考え、緊急転移を判断した。その瞬間、ナナシは刀を鞘に納めて腰を低くした。

 

「させねぇよ………………一閃必斬…時雨露走」

 

ナナシはその場から消え、それとほぼ同時に銀十字の書が真っ二つに切り裂かれた。それと同時にトーマは意識を失い、落ちていった。

 

「!!」

 

『緊急離脱………………ドライバーを………………保護』

 

「チッ、やっぱリアクターを持ってこねぇとだめか」

 

ナナシは刀を収め、トーマのところまで飛ぼうとしたがそこにリリィが転移してきた。

 

「!」

 

「トーマ!」

 

「…………やっと目覚めたか」

 

ナナシはリリィが現れたことを確認すると、トーマを追うのをやめた。リリィは自身の役割を思い出し、トーマのリアクトプラグとして制御をした。だが、起動したばかりのリアクトプラグには銀十字の暴走を制御するのが精いっぱいでそれだけでトーマの中で気絶してしまった。

 

「リリィ!?リリィ!」

 

トーマは飛行能力を失い、そのまま落下を始めた。そのトーマをナナシが受け止める。

 

「ナナシ!?」

 

「悪いな」

 

ナナシはトーマの腹を殴り気絶させた。

 

「…………」

 

「マスク!!」

 

ナナシの周りに、なのは、スバル、セッテ、ギンガが現れる。

 

「………しつこいなお前らも」

 

「トーマを離して投降しなさい」

 

「悪いがコイツはお前らにも、フッケバインにも渡すわけには行かない」

 

「……あなたは」

 

そこに、さっきとのトーマと同じ様に黒い鳥飛来した。

 

「!!」

 

「黒の香No.3ハミングバード!」

 

アイシスの攻撃だ。しかしナナシは刀を抜き、片手で構えた。

 

「一閃必刺、蠍刺!」

 

ナナシは黒い鳥の群れを一撃の突きで全て撃破する。

 

「トーマを返して!」

 

「散桜」

 

接近してきたアイシスに対して無数の斬撃を一気に放ち、アイシスの装備を切り裂く。

 

「ぐっ…!」

 

「邪魔をするな…死ぬぞ」

 

その時、ナナシの背後にいつの間にか別の黒い鳥が近づいていた。アイシスは雲の影に隠し、背後に接近させていたのだ。

 

「黒の香No.5、ランブリングスパロー!」

 

(しまっ…)

 

回避も間に合わず、思いっきり爆発に巻き込まれた。しかしナナシはそんな爆発の中でトーマを全力で護ったのかそこそこのダメージを負って爆炎の中から飛び出してきた。

 

そして、アイシスの攻撃によって生じたダメージでナナシのマスクにヒビが入る。

 

「!!」

 

そのままナナシのマスクが割れ、ナナシの素顔が露わになる。マスクが割れ落ちたと同時に茶髪の髪が風に揺れ、露わになった顔はその場にいたほとんどの人物が知る顔だった。

 

「………やっぱり」

 

「そんな……」

 

その顔は、見間違えるはずもなくアキラだった。

 

「アキラ君…」

 

「………どうしてお前らは……俺を静かに死なせてくれないんだ…」

 

アキラは唇を噛み、刀を構えた。

 

「させない!」

 

そこにギンガが飛び込んでいき、オールドホークを突き出す。それに反応したアキラはその攻撃を刀で防ぐが、ただの刀はその一撃で折れてしまう。

 

「ぐっ!」

 

「セッテ!」

 

「はい!」

 

セッテはストライクカノンを構え、アキラに向かって放った。

 

「!」

 

アキラはトーマをかばって砲撃を受け、ふっ飛ばされる。

 

「スバル!」

 

「うん!」

 

スバルは念のため持ってきていた対抗魔力物用鹵獲装置を起動させ、アキラに向けた。刹那、ふっ飛ばされていたアキラの瞳が、スバルの方に向く。そして折れた刀を捨て、手を構えた。

 

「無閃」

 

アキラは手刀で飛ばした斬撃を鹵獲装置に当てて破壊した。

 

(チッ、スマートじゃねぇがやるしかねぇ!)

 

アキラはディバイダーを出し、刃をトーマの首に向けた。

 

「トーマを傷つけたくなきゃ全員動くな!」

 

「!」

 

「大丈夫」

 

全員の動きが止まりかけたとき、ギンガが言った。

 

「アキラ君にそんなことは出来ないもの…」

 

「…………っ!俺はやるぞ!試してみるか!?」

 

アキラはディバイダーの刃をトーマの首に少し押し付けた。刃がトーマの首に僅かに刺さり、血が滲む。

 

「アキラ君、どういうことなの?」

 

そこになのはが前に出てきて話しかけた。

 

「お話してくれると嬉しいな…あと、トーマも渡してくれる?」

 

「………………わかった。あんたらバレちまったらもう工作は出来ねぇ………だがトーマをお前らに渡すのはできない。だから…一週間後だ。一週間後にお前らの本部にトーマを連れて出向く。その時俺と勝負しろ。お前らが勝てば俺は投降する。トーマも渡す………それでいいだろ…」

 

「………本当に来てくれるのかな?」

 

アキラがうなずくと、なのはが了承した。

 

「じゃあ、いいよ」

 

現状、管理局側はトーマのディバイドでかなりの損害を受けていた。此処で本気で戦うのは賢明ではない。アキラが嘘をつくとは思えなかった。

 

「…シーラ!」

 

アキラが呼ぶとシーラが上空から現れ、転移魔法ではない手段でアキラと共に消えた。

 

「…………ギンガ」

 

「……」

 

 

 

-ヴォルフラム-

 

 

 

アキラが消えてから管理局の全員がヴォルフラムに戻った。ギンガは戻ってすぐに追加装備解除して落とした。そしてその場に崩れ落ちた。

 

「ギン姉!」

 

「ギンガ!」

 

「…………」

 

言葉もなく、嗚咽もなく、ギンガは涙を流した。

 

「アキラ君…」

 

ギンガはしばらく涙を流し、落ち着いてからヴォルフラム内のメディカルルームに連れていかれた。そして、メディカルルームのベッドから通信をつないだ。会議室にははやてを始めとした多くのメンバーが集まっていた。

 

「ギンガ、精神的に辛いだろし、色々大変なのも理解してる。でも、教えてほしい………何が起きているのか」

 

「はい………すべては、あの日が始まりです。とある次元の村が全員殺された事件………そこに私たち夫妻が調査に行った日………アキラ君が殺された日………いいえ、アキラ君が殺されたと思い込まされた日」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ここが襲撃を受けた村…」

 

「ああ。生存者はゼロだ」

 

アキラとギンガはとある次元世界の無人の村を訪れていた。そこはエクリプス感染者による虐殺が行われたのだ。一体誰が虐殺したのか、何が目的だったのか、管理局ではまだ捜査中だがアキラにはそれが分かっていた。

 

フッケバインか他のエクリプス感染者による虐殺。ここ最近、頻発するようになっていた。

 

「………」

 

「近くにまだ犯人がいるかもしれないっていうことで警戒と可能なら確保する予定で来たけど………これと言って何か手掛かりらしきものがないわね………ともかく近くの調査をしましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

アキラは村の周辺調査を行った。襲撃者が近くにいるのであれば足跡が、転移魔法を使ったのであればその形跡を調べればどこまで行ったかある程度の追跡ができる。

 

調査の結果、アキラは近くの森へ向かっている足跡を発見した。それを確認したアキラはギンガのもとへ向かった。

 

「ギンガ!」

 

「何か見つかった?」

 

「ああ。あっちの炭鉱らへんに向かって足跡が確認できた。だが他にも足跡はある。炭鉱に向かっている足跡が多いからもしかしたら生存者がいるかもしれない。見てきてくれるか?俺は他の怪しい足跡を調べてみる」

 

アキラは炭鉱に向かった足跡など見付けていない。

 

雨が降ったわけでない土地で足跡を見付けるというのは中々難しい。アキラはそれを鍛えているので見付けられたのだ。ギンガはその技術が無いのでアキラの言うことを信じるしかなかった。

 

「うん分かった」

 

「じゃあ何かあったらすぐに通信機で呼んでくれ」

 

「アキラ君も気を付けて」

 

ギンガが炭鉱に向かったのを確認すると、アキラは大急ぎで先ほど見付けた足跡を追った。足跡を追い続けていると、足元に弾丸が撃ち込まれた。

 

「!!」

 

「管理局が来るとは思ってなかったが………こいつは面白いな!まさか局にも感染者がいるとはな!」

 

見渡すと、岩の上にエクリプス感染者の二人組がいた。うち一人がスナイパーライフル型のディバイダーを持っていた。

 

「一緒にすんな。お前らに聴きたいことがある」

 

アキラは黒星を抜いた。

 

「ああ?なんだよ」

 

「ここのところ一気に感染者による虐殺が増えている。明らかに異常だ。それに、二人組………以前襲われたことがある。スポンサーがいるな。誰だ」

 

「悪いがそれはそれの口からは言えないな。というか俺ら相手に刀で戦うつもり?」

 

「ああ。悪いがもう時間がない。さっさと終わらせる」

 

「はぁ?何いっ………」

 

刹那、男の背後にアキラがいた。そして、男の首ははねられた。

 

「貴様!!」

 

二人組の内、まだ生きてる方の男がディバイダーを出してアキラに向ける。しかしそのディバイダーは即細切れにされた。

 

「なっ…」

 

「IS、ハッキングハンド」

 

アキラはその男の頭を左手で掴み、ISで頭の中を探った。そして今回の件にはとある企業の男が絡んでいることが判明した。用済みとなった男の首をはね、村に戻った。

 

「アキラ君!大丈夫だった?」

 

炭鉱を調査し終えたギンガは先に村に戻っていた。

 

「ああ…………………………ギンガ」

 

「どうしたの?」

 

「ごめんな」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「私が覚えているのはそれくらいです。何が目的なのかはわかりませんが、アキラ君は私に、ISの力でアキラ君が死んだように思わせて自分自身をマスクというアキラ君を殺した男に成りすました………」

 

「じゃあ、やっぱりあれはアキラ君…」

 

「いったいどうして…」

 

周りがざわつく。しかし、ギンガは驚くほど冷静だった。

 

「考える必要はないです。すべては一週間後に明らかになりますから」

 

 

 

続く




ちなみに、橘アキラの設定は前回と前々回の話を作りたくて設定しました。エクリプス感染者であること、記憶を操作する能力を付けたのもこの話のためです。


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第七話 そしてオレはソコへ戻る

お久しぶりです。この作品含め最近複数投稿されている自分の小説が書きにくいところで全て止まっていたのでなかなか投稿できませんでした。本当にお待たせしました。少し短いですが次回は一週間以内に投稿します!


これは俺とスゥちゃんたちがお出かけした時の話だ。俺はまだ、この時アキ兄を許せていなかった。いや、犯人がアキ兄とは違うってことは分かっていたけれど俺の故郷を破壊した連中と同じ存在だと思うと、心が拒絶した。

 

スゥちゃんたちとは桜っていう花を見にいった。

 

道中、アキ兄は俺に話しかけてくれたのに、俺は拒絶した。お弁当の時に一緒に食べようと近付いた時、俺はやはり激しく拒絶した。

 

「っ!!!」

 

「………ああ、わかった離れるよ」

 

「アキラ君、あっちで食べよう」

 

ギンガとアキラは二人だけで離れていった。トーマは別にアキラのことを心の底から嫌っているわけではない。心が受け入れてくれないのだ。トラウマからきている一種の潔癖症のようなものだった。それをナカジマ家の全員が理解していたから何も言えなかったし、言わなかった。

 

そんな俺のところに、ギン姉の同僚のメグ姉が現れた。

 

「あんたがスバルの言ってたじゃじゃ馬坊主?」

 

「誰?」

 

「アタシはメグ。108部隊の人間よ。ギンガとは古い付き合いなのよ。よろしくね」

 

メグ姉は笑顔で自己紹介した。

 

「トーマ・アヴェニール…」

 

「いい名前じゃない。あんな不愛想な強面男ほっといてお姉さんとご飯食べましょ」

 

メグ姉は食事をしながら俺といろいろ話してくれた

 

「あんたの話は聞いてるわ。家族や、故郷のこと。残念だったわね」

 

「………うん」

 

ナカジマ家の中で俺の過去についてたくさん聞いてくることは誰もしなかった。きっと俺がトラウマを再発しないためだろう。でもメグ姉はけっこうずかずか聞いてきた。

 

「あいつの生まれとかこれまでのこと、聞いた?」

 

「………」

 

俺は首を横に振った。

 

「だったらちょっとだけ教えといてあげる。これ聞いて、あんたが気になったら細かいところは自分であいつに聞きなさい」

 

「…?」

 

「あいつね家族がいないのよ。そして、大切な人を目の前で二回亡くしてる」

 

「え?」

 

「私からはこれだけよ。あいつの人柄知るだけでも、結構印象とか変わるんじゃない?じゃねー。ゲンヤさーん日本酒ちょーだい♪」

 

メグ姉はそれだけ俺に言って去って行ってしまった。一人残された俺はしばらくメグ姉の言葉を考え、そっとアキ兄のところに行った。アキ兄はギン姉といっしょに食事をしていた。

 

「アキラ君あーん」

 

「あ」

 

二人は仲良くしていた。そこに俺が入る余地がないのは目に見えていた。戻ろうとしたが、振り返った時にフードを引っ張られた。

 

「なんか用か」

 

「………………」

 

「どうしたの?」

 

アキ兄とギン姉は俺に気づいて来た。

 

「たくっ。変に隠れんじゃねぇよ。不審者かと思ったじゃねぇか」

 

「………メグって人からあんたのこと少しだけ聞いた………でも、細かくは教えてくれなかった………だから聞きに来た」

 

「………そうかよ」

 

アキ兄は俺をギン姉と座っていたシートに座らせた。

 

「座れよ。聞いて心地いい話じゃねぇだろうが聞きたきゃ聞かせてやる」

 

ギン姉の作った料理をもらいながら俺はアキ兄のこれまでの話を聞いた。細かいところは省かれたと思うけど、そんな話でもアキ兄がどんな人物かはわかった。

 

口は悪いけど、馬鹿みたいに優しくてお人好しで。そんなアキ兄のことを話すギン姉は本当に幸せそうで……。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「う…」

 

トーマが目を覚ますと、視界には夜空が広がっていた。そして、近くから焚き火の音が聞こえてきている。身体を起こすとそこには失われたはずの家族がいた。

 

「…アキ兄?」

 

「起きたか」

 

トーマは起きたばかりでこれまでの記憶が曖昧だった。しかも目の前に死んだはずの人間がいる。自然とこれは夢なのではないかと思っていた。

 

「…これは夢……?」

 

「…だったら、よかったんだがな」

 

アキラは焚火に薪を投げながらそう呟いた。

 

「………ん?」

 

横を見るとそこにはリリィが眠っていた。

 

「リリィ!」

 

トーマはそこでようやくこれまでのことを思い出す。

 

「なんで……いったい何が!?…どうしてアキ兄が………」

 

「落ち着け。順を追って話す」

 

困惑するトーマにアキラはすべて話した。これまでマスクとしてナカジマ家と管理局を騙していたこと、今回それがばれてしまったこと、一週間後にギンガとの決闘が待っていることを。

 

「なんで………どうしてそんなことを!」

 

「…エクリプスウィルスは………俺が生まれたから、作られたと言っても過言じゃない。だから俺がケリをつけなきゃいけないんだ………これまで俺が行動をしなかったせいでお前まで巻き込んでしまった…っ!」

 

「アキ兄………」

 

「許してくれなんていうつもりはない………だが俺は……」

 

「そんな………アキ兄」

 

トーマは声を荒げようとした。しかし、一つの思いがそれを止めた。いまのトーマの意見はきっと、ギンガたちも持っているはずだと思ったのだ。

 

「…………俺からは何も言わないよ……でも、思うところがないわけじゃない」

 

「………助かる」

 

「でも…………………生きててくれて、よかった」

 

トーマは瞳に涙をためながらそう言った。いろいろ思うところはあるが、アキラが生きててくれてよかったと思ったのだろう。だがその言葉と顔はアキラを追い詰める。仲間を騙し、妻を裏切り、多くの仲間の心に多くの傷を作った。生きてていいわけがないと思っていた。

 

そんな時、その場にバイザーをつけた黒髪の少女が薪をもって現れた。

 

「兄さま、お待たせ」

 

「ああ」

 

見慣れぬ少女の登場にトーマは驚く。

 

「アキ兄、この人は…?」

 

「………シーラ。俺の妹だ」

 

「妹…?」

 

アキラが人造魔導士ということはトーマは知っていた。しかし、AtoZ計画については聞いていなかった。

 

「ああ」

 

アキラは手首をそっと見せた。アキラの手首にはAの文字が、そしてシーラの手首にはSの文字が烙印されていた。

 

「ギンガたちから離れて、たまたま出会った」

 

「よろしく」

 

トーマは軽く会釈をし、トーマは気になっていたことを聞いた。

 

「………アキ兄、俺を連れてきたのはなんで?」

 

「EC感染者は己の意思と関係なく周りの人間を襲う。お前も大切な人を傷つけたくはないだろう?」

 

「……」

 

アキラが今言った言葉も、アキラがギンガから離れた理由の一つなのだろうと思い口をつぐんだ。

 

 

 

 

―一週間後―

 

 

 

それから、一週間が経った。アキラとトーマはさほど言葉も交わさず生活し続け、運命の日を迎えた。アキラとシーラはトーマとリリィを連れて特務六課の訓練場を訪れた。訓練場にはアキラにとって見慣れた面子がそろっている。六課時代の仲間、ナカジマ家のみんな。皆思い思いの表情でアキラを眺めている。

 

「………一応来たが、最初に言っておく。トーマを渡す気はねぇ。そして、お前らのところに帰る気もねぇ」

 

「それは負ける気はないって意味?」

 

呆れた顔でメグが言った。

 

「ああ。悪いが軽い気持ちで離れたわけじゃない。俺もそう簡単に曲げれねぇし曲げれることじゃねぇんだよ」

 

「そんなのどうでもいいわ」

 

そこに、髪を後ろで纏めてポニーテール姿のギンガが現れた。

 

「さっさと始めましょう?」

 

どうやら決闘相手はギンガらしい。だがそれはアキラには予想できたことだ。

 

「ギンガ………お前が俺に勝てると思ってんのか?」

 

「ええ」

 

「ハンっ、俺に守ってもらってた女が良く言うな」

 

「守ってくれなんて言った覚えはないけど、まぁそう思うのは仕方ないわよね」

 

「俺に勝てるかもわからないのに戦うってことは、そんなに俺に戻ってきてほしいのか?」

 

「悪い?まぁ戻ってきたら最初に言いたいことはいろいろあるけど」

 

「………はぁ」

 

アキラはため息をついた。

 

「56………………なんの数字かわかるか?」

 

「…?」

 

「俺がお前のところを離れてから抱いた女の数だ。わかるか?お前がいなくても俺はもう困らないんだよ。倦怠期って言ったっけか。そういう感じでお前にも飽きたしな」

 

「…………………本当に、あなたは変わらないね」

 

「なに?」

 

「自分から大切な人を離したいとき、嫌われやすい嘘や態度をとる………昔から……何にも変わらない」

 

「…本当だぞ」

 

「だったらその分抱いてもらうし、愛してもらう。それだけよ」

 

「…………なんで」

 

「?」

 

「なんでそんなことが言える!俺はお前らを、お前を裏切ったんだぞ!お前がどう思うかをわかって俺が死んだことにした!お前に辛い思いをさせ続けた!そんな俺になんで戻ってきてほしいなんていう………」

 

「わからないの?」

 

「…………」

 

わからないわけがなかった。仮にギンガが今のアキラと同じことをしたとしたら、きっと同じことをする。そんなことはわかりきっていた。

 

「わからねぇな」

 

長い付き合いのギンガはアキラが嘘を言ったことはわかっていた。だが何も言わなかった。

 

「始めましょう」

 

「ああ」

 

ギンガはデバイスを構える。アキラはディバイダ―を出現させた。今までギンガたちと戦うときに使っていた炎属性のものではなくかつてアキラが使っていたものだ。

 

「俺は…」

 

試合開始の直前、アキラは揺らいでいた。この先どうするべきかを。

 

 

 

続く



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第八話 ソレがオレの本音

半年ぶりです小説書くモチベがなく、あっても別のところに使ってました。申し訳ないです。読者さんの協力があって完成した第八話、お楽しみください。感想も待ってます。


大切だった。誰よりなにより大切で、守れるなら命だって惜しくない存在だった。アキラにとってギンガを守ることがすべてだった。結婚し、子供を作り、家庭を築く中で守りたいから一緒にいたいと思う様になってしまった。そして、自身の体に異変が出始める。正しくは自身のECウィルスを封じ込めていた腕輪に変化が生じたのだ。

 

使用者の能力を封じ、同時に開放するための道具である腕輪。それはかつて冥王のために作られた兵器であったがアキラに譲り渡された。それにより暴走寸前だったアキラのECウィルスはその腕輪の中に封じ込められたはずだったが腕輪の中で成長を続け、ある日、あふれ出した。

 

アキラは真夜中に暴走したが、家にあったシェルターを利用し、そこに自身を幽閉することによって暴走が収まるのを待った。血反吐を吐き散らし、自己対滅寸前まで追い込まれたアキラの前に現れたのはサイファーだった。

 

「いずれこうなるだろうと思っていたからな。ずっと観察させてもらっていた。死にたくなければついてこい」

 

サイファーはそう言ってアキラを連れ出した。

 

一時的にだがECウィルスの暴走を抑えるべくサイファーが相手となり、アキラの破壊衝動を封じるべく戦い続けた。

 

「はぁ………はぁ………はぁ」

 

「ようやく収まったようだな」

 

連れてこられた採掘場が平地になるまでアキラは暴れ続けた。

 

「これからどうする?もう家族のところにいたいなどと甘いことは言っていられないほどECは育ち切っている。道は二つに一つだ。我々と共に来るか、死ぬか」

 

「………治す方法はないのかよ…」

 

アキラは歯ぎしりをして呟いた。

 

「これはそもそも病と呼ぶべきものではない。ただの兵器だ。病であれば治す方法が考えられるが、兵器を平和利用するための方法があると思うか?」

 

その通りだ。作り出した銃を完全に別のものにすることはできない。銃はどこまで行っても銃であり、それを別の形にしたいのであれば溶かすしかない。ECウィルスでいえばそれは宿主が死ぬことだ。

 

「まぁ、ECの正体がわかれば治す方法が見つからないわけではない。治療法がないのではなく基本的に我々が治したいと思っていないだけだからな」

 

「正体?」

 

「原初の種と呼ばれるECの感染源と呼ぶべきものが存在する。それさえ手に入れられれば、どうにかできる可能性がなくはないといったところだ」

 

「それはどこにある!」

 

アキラはサイファーに掴みかかって聞き出そうとする。

 

「それがわからないから我々もこうしてECと共に生きる道を選んでいるんだ」

 

ごもっともだ。それさえ分かっていればECウィルスを保有している人間だけで構成されたファミリーなど作られないだろう。

 

「まぁ怪しんでいる部分はある。ここ最近頻発している小さな集落を狙った大量虐殺。それには妙なディバイダーを使っている連中が絡んでいるという情報を得た。そこから何かつかめるかもな」

 

サイファーは現場で撮られたと思われる銃剣をもった二人組の写真を渡す。

 

「まぁ今回は何とか抑えられた。まだ時間は僅かだがあるだろうよ。それまでにどうするか決めておけ」

 

サイファーはそう言い残してその場を去った。一人残されたアキラは空に向かって叫んだ。

 

「………リュウセイ!!見ているんだろ!?」

 

「……………まぁ、な」

 

アキラの呼び声に答えるようにどこからともなくリュウセイが現れる。

 

「これもお前の言う歩むべき道なのか…?」

 

以前リュウセイは言った「俺はお前たちを歩むべき道に連れて行く」と。アキラは疑問だった。もはやギンガと別れるのは明白なこの状況が腑に落ちなかった。

 

「ああ。これもお前の歩むべき道だ。以前の新婚旅行の時のようにイレギュラーが起きれば俺はそこに必ず介入する。それをしないってことは………わかるだろう?」

 

「…お前の目指す未来はなんだ?俺が死ぬことも…そこに入っているのか?」

 

「さぁな。そこまで教えたら未来が大きく変わる。だから、自分の信じる道へ行け。ギンガに迷惑をかけないために自殺するのも手じゃないか?まぁ俺が絶対にお前の味方とも限らないが」

 

「おまえっ!」

 

掴みかかろうとしたとき、そこにはリュウセイはいなかった。

 

「…」

 

それからアキラは必死にその二人組を捜索した。ほんのわずかな可能性に賭けて。そして捜索していく中で気づく。どの形を取ろうとギンガと別れなければならないことに。仮にこの二人組から原初の種のありかを突き止められたとして、入手するのは困難なのは目に見えていた。カレン達のような人を殺すのを躊躇しない連中ですら見つけられていないものだからだ。

 

それに仮に入手できたとしてアキラだけでECの治療法を見つけ出すのは時間がかかるからだ。他者を感染させる可能性のあるものを施設に持ち込むわけにはいかない。

 

だから、自身の隠れ蓑として「マスク」という存在を生み出した。

 

サイファーの言っていた犯人は管理局では確認されていなかったので各次元で起こっている虐殺事件の罪をそのマスクに被せ、そのマスクを捜索する名目でアキラはその二人組を探した。

 

そして、ある日その二人組を見つけた。ギンガと二人きりで捜査に来ていた次元で。

 

アキラはその二人を殺害し、脳からISで依頼者の情報を読み取り、そこからマスクとして生きていく決意を固めた。ギンガたちを危険にさらす可能性と、自身のケジメをつけるために幸せを、家族を、人生を、自分を、捨てる決心をした。

 

「俺はナナシだ。誰でもない。アキラは死んだ。俺はナナシになった」

 

だが、あの日に計画は破綻する。

 

「待ってよ!アキラ君!!!!!」

 

ギンガの記憶にマスクがアキラを殺したという記憶の改竄をISを使って行った。しかし、あの日にトーマが行ったゼロ・ディバイドにいち早く気づいたアキラはとっさにギンガを庇った。

 

アキラのおかげでゼロ・ディバイドを軽傷で免れたギンガはアキラが脳に施した改竄した記憶が「分断」され、本来の記憶が戻ってしまった。

 

今のアキラにプランはない。ただ、ギンガを突き放すことしかできなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

母を亡くし、次は自分の夫が死んだ。いや、殺された。

 

そして、手にかけた犯人は分かっており、仇を討つことも逮捕することもできず、その悔しさから自分は復讐鬼の一歩寸前まで堕ちた。

 

だが、夫を殺したと思われた犯人であるナナシが殺されたと思ったアキラ本人だった。

 

なぜ、アキラがこんなことをしたのかはギンガにはわからなかった。だがそんなことは関係ない一週間後に約束された勝負で叩き潰す。今のギンガにはそれしかない。

 

しかし、ギンガはナナシだったアキラには一度も勝ったことがない。もっとも勝っていたらギンガはナナシであったアキラを殺していたかもしれないが。

 

言いたいことはいろいろあるがとにかくそれは拳で伝えようとギンガは考えていた。

 

フッケバインへの襲撃作戦から4日経った。ギンガは作戦中に限界を迎えた体を半ば無理やり治療し、リハビリのトレーニングを始めていた。

 

「君の身体はまだ万全じゃない。無理はしないこと。この前みたいな無理をしたら一生ベッドから起き上がれないよ?いいね?」

 

「わかってる」

 

「もっと自分を労われ。我々も、お前を死なせるために手を貸しているわけではない」

 

作戦時に大きな負荷をかけ、限界ギリギリだったギンガの身体を経った四日で再起可能にできたのはウィードとクラウドが協力したおかげだった。

 

「死ぬつもりはないわ………私は…」

 

局内のトレーニング場に立つと、そこにファントムのツムギが現れる。今回のリハビリ相手にギンガが指名したのだ。

 

「リハビリらしいから加減はするけど、頑張ってね」

 

「お願いします」

 

アキラに勝つにはアキラに勝ったことがある相手に強くしてもらうしかない。ギンガはそう考え、ツムギに依頼したのだ。

 

「ちゃんと避けられるように頑張って」

 

その言葉の後にギンガの目の前にツムギの膝が現れる。

 

「!!」

 

間一髪ギンガはそれを避けた。これで加減されているのだ。その強さは尋常ではないことが伺える。さらに彼女は間髪入れず攻撃を放ってきた。ギンガはそれを必死に避け、反撃の機会をうかがう。

 

「ああ、今は避けることに集中すればいいから。まずは早さに慣れて」

 

「は、はい!」

 

全く容赦のない追撃をギンガはぎりぎりで躱し続ける。そんな作業が20分ほど続けられ、休憩となった。休憩中ツムギはお弁当を取り出して食べ始める。

 

「………協力、感謝します」

 

ギンガは改めて礼を言いに行った。

 

「………いい。私も、アキラの料理………また食べたいから」

 

アキラはかつてツムギに鍛えられたときに食事の楽しさを教えてやった。ツムギも表に出すことはないがアキラが生きていて少なからず嬉しかったようだ。

 

「ギン姉!」

 

そこに次のトレーニング相手のスバルが現れる。スバルだけでなくナカジマ家の面々やギンガと関わりが深い人物が集まった。

 

「スバル、みんな」

 

「差し入れ持ってきたっス」

 

「ありがとう。あとでいただくわ。スバル、お願い」

 

「うん」

 

強い相手との戦いも大切だが普段通りの型を忘れないのが大切だと考えたギンガがスバルに事前に頼んでいた。

 

「やっぱり、ギンガさんまだ殺気立っているわね」

 

ティアナはスバルと対峙するギンガを見てぽつりと零す。

 

「ティアナ、何か知らない?」

 

「まぁあなたもそのうち知らされるでしょうからね。教えとくわね」

 

特務六課のメンバーであるウェンディやチンクにもまだアキラのことは伝えられている。しかし、あと三日でアキラは六課までやってくるのであればそこまで大差はないだろうとティアナはノーヴェたちに事の顛末を話した。

 

殺されたと思われたアキラが生きてきたこと。そのアキラと一週間後、決闘することになったこと。

 

決闘で勝てばアキラは自分たちの下に帰ってくるが負けたらアキラはトーマを連れてまた何処へ行ってしまうこと。

 

「そうか………」

 

「………驚かないわね」

 

全て聞かされてもノーヴェは驚きはしなかった。

 

「あいつの考えそうなことだ………。あたしもいろんなやつ見てきたからな。わからないでもない」

 

「そう」

 

「でも、なんでアキラの奴、ギンガの所に戻ってこないんだ?夫婦になってもあのバカップルぶり全開の仲だったのに」

 

アキラが殺された様に偽装された前からギンガとアキラの仲は夫婦関係になってもバカップルみたいにラブラブな仲であり、ノーヴェたちにしてみればあのギンガラブのアキラが何故、ギンガの下に戻ってこなかったのか不思議だった。

 

「私にもわからないけど、あの人にはあの人なりの事情が何かあるんでしょうね」

 

ティアナもアキラとギンガの仲の良さは知っている。だからこそ、ノーヴェの疑問もわかる。

 

「あいつ、多分悩んでんだ」

 

「ノーリ」

 

トレーニング場には関係者として通ってきたノーリがいつの間にかそこにいた。

 

「全部全部捨てて、己を捨てて生きていくつもりが、全部バレてしまった。捨てていたはずの自分と向き合って、戻らなきゃいけない事情もできて………だけど、戻りたくない。どうすりゃいいかわかんねぇんだ」

 

「そんなもんなのかねぇ」

 

ノーリの話を聞きながらノーヴェがチラッとリングに目をやるとギンガとスバルのスパークリングが行われているのだが、スバルはギンガの勢いに対して完全に防戦一方になっていた。

 

元々スバルにシューティング・アーツを教えたのはクイントからシューティング・アーツを教えてもらったギンガであり、六課時代からギンガは強かった。

 

しかし、産休・育児と一時、ギンガはシューティング・アーツから離れていた時期があり、スバルは救助隊で前線勤務をして鍛えていたのだが、ギンガの腕はそんなブランクを感じさせないぐらい技のキレと勢いが鋭い。

 

(つ、強い‥それにやっぱり怖いよぉ~)

 

ギンガのスパークリングの相手に付き合わされているスバルは心の中で弱音を吐く。そして、スバルの顔面にギンガの拳が寸止めされてようやくギンガとのスパークリングが終わる。

 

「次、ノーヴェ……相手をしてくれる?」

 

「少し休め。治ったばかりの身体また壊す気か」

 

ノーリが続行を辞めるように促す。

 

「………」

 

ギンガはしぶしぶと了承する。まだ続けたいがクラウドたちに言われたこともあり、了承したのだ。これもアキラが生きていたからこその判断だろう。

 

スパークリングを終えたスバルはティアナから飲み物を受け取る。

 

「どうだった?今のギンガさん」

 

「今のギン姉は、元のギン姉に戻りつつあるけど、やっぱりまだ怖い。スパークリング中、本当に殺されるかと思ったもん」

 

「そうね……でも、アキラさんが戻ってきてくれたら…」

 

「うん」

 

アキラがギンガの下に戻ってくれたらすべては元に戻る。

 

スバルもティアナもそう思っていた。

 

その後、決闘の日までスバルとノーヴェはギンガとの特訓相手となり、ギンガはツムギのトレーニングを受けた。マリエルもギンガの身体や体調面をバックアップし、シャーリーはデバイスの調整をした。

 

 

 

そして迎えた運命の日。

 

 

 

(彼とはナナシの時から本気で戦っている。決して殺しには来ていないけど、それでも油断はできない)

 

拳をギュっと握りしめながら対峙するアキラをジッと見るギンガ。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ギンガは最初に仕掛けに行った。一気に接近し、アキラに強力な蹴りを食らわせた。

 

アキラは、その攻撃をなんの抵抗もせずに受けた。アキラは吹っ飛んで訓練場の地面にクレーターを作りながら転がっていった。

 

「うわっ…」

 

「モロに入ったわね…」

 

アキラはゆっくり立ち上がる。その姿を見たギャラリーは小さく悲鳴を上げる。アキラの下あごが砕け、血に染まった舌がデロンと生々しく垂れた。

 

アキラは自身の下あごを掴むと無理やり引きはがし、海へ投げ捨てる。しかし失われたアキラの下あごはすぐに再生した。

 

「わかるか?俺はもう、人間じゃない」

 

「………」

 

「トーマも同じだ。俺たち、EC感染者は感染した時点で人間じゃなくなる。人の形をした兵器だ」

 

「だけどあなたは、兵器となったうえで私と出会い結婚して、幸せを手にしたんじゃないの?」

 

「そんなもん一時的なものでしかない。俺が作り出された機関で俺にECウィルス感染実験をしたとき俺は本来自己対滅を起こして死ぬはずだった。だが俺はその途中でECウィルスの性質をISで書き換えた。だからお前らと一緒にいられた。もう、ダメなんだよ。人として幸せになれる時間は…………夢の時間は終わりなんだよ」

 

ギンガは構える。

 

「終わりにしない。終わらせたりしない」

 

「まだわかんねぇのか!俺はもう戻れないんだよ!!この勝負がどうなろうと!!事実は変わらない!俺は………兵器のままだ…」

 

「だぁぁぁぁぁぁ!」

 

アキラの言葉を最後まで聞き届けず、ギンガは再びアキラに立ち向かう。

 

「っ!!!」

 

アキラはその場から消えた。そして気づけばギンガの背後にアキラは移動しており、ギンガは無数の打撃をその身に受けたことを気づく。

 

「万閃必壊、乱咲」

 

峰打ちの攻撃を一瞬の内に無数に食らったギンガはその場に跪く。ギンガは追撃してこないアキラを見る。アキラは震えていた。刀を握る手は強く握り過ぎて血がにじんでいる。アキラにとってギンガはかけがえのない存在だ。傷つけるのに、攻撃をすることに抵抗があるのだ。

 

ナナシとして完全に割り切っていた時は少しは気が楽だった。だが、もうナナシではない。ナナシでいられないアキラは胸が締め付けられる思いだった。

 

「お前じゃ俺には勝てない。もう諦めろ」

 

「諦めない………まだ…」

 

ギンガはアークネメシスギャリバーを出した。

 

「セットアップ!」

 

「………」

 

黒いバリアジャケットを装備したギンガはさらにオーバーリミットモードを発動させる。

 

「どんなことをしたって俺には勝てない!そんな姿になっても!リアクト!!!」

 

アキラもリアクトし、ディバイダーを構える。

 

「結果は変わらない!フロストバスターEC!!」

 

アキラは氷結属性の魔力砲を放った。砲撃の瞬間、発射した方向だけでなくアキラの周囲も一気に凍り付く。ギンガはその攻撃を上空に飛んで避け、そのままアキラに向かって上から殴りかかる。

 

「来るな!」

 

アキラはギンガに向かって魔力弾を数発飛ばしたがギンガは身体を翻して華麗に回避し、アキラの目の前まで迫る。ギンガの攻撃をアキラはとっさにディバイダーで防ぐが衝撃を受け流しきれずに後方に押される。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

ギンガはアキラにさらにラッシュを繰り出す。アキラは防戦一方だ。ギンガが強いのではない。アキラが攻撃を躊躇っているだけだ。

 

(どうすればいい………俺は………人間じゃないことを証明すれば諦めてくれるなんて思ってはいなかった………でも、もうどうすることも…)

 

ギンガを引き離すようにアキラは思いっきりディバイダーを振った。しかし、ギンガはすれすれのところでそれを躱す。

 

攻撃を外したアキラはディバイダーを持ち換えて再度攻撃をしようとする。

 

「遅い!!」

 

ツムギの攻撃をよけ続けたギンガにとって今のアキラの攻撃など止まって見える。アキラにぴったりくっついて離れない、大きな武器を使うアキラにとってそれは一番やりにくい闘い方だった。

 

そこに生まれた一瞬の隙、ギンガはそこに全力の拳をぶつけた。アキラは吹っ飛ばされ、壁に衝突する。

 

「あなたからは最初から戦いの意思が見えなかった…………だけど、言葉はすべて嘘に塗り固められてた」

 

「…」

 

「ナナシのときからずっと、あなたは嘘しか言っていない。私は、あなたから本音を聞き出すまで全力で戦い続ける。例えこの身が砕けようと」

 

「話して………何になる。運命も、俺も、未来も、もう変わらない。管理局に相談したところで貴重な感染者第一号として実験ネズミ第一号の出来上がりになるだけじゃねぇか。それは、トーマだって同じだ」

 

「秘密裏にやるなりなんなり方法はあるでしょう!?ここまであなたが広げてきた仲間の輪はそう簡単に仲間を売ったりしない!」

 

アキラはディバイダーを強く握りしめてギンガに飛び掛かった。

 

「それで!?フッケバイン程ECに付き合ってきた連中でもわからなかった治療の方法が見つけられとでも思ってんのか!?」

 

縦横無尽に振り回される大剣をギンガはうまくいなしながらアキラの言葉に耳を傾ける。

 

「その間!俺を気にして!!心配して苦しむお前や家族を!!!仲間を見てろっていうのか!!?」

 

「そうだよ!苦しんで苦しんで苦しんだ先で!また幸せを掴めばいい!!」

 

「もう………もう戻れない!!最愛のお前を散々傷つけた!自分が生きるためだからっていくつもの村を襲撃した!世界中の人に迷惑をかけた!管理局のみんなに、仲間に顔向けできるはずがない!こんな方法鬼畜にも劣る!!ECをこの世から根絶しない限り!!けじめをつけない限り俺は…っ!」

 

最後に放った強力な一撃をギンガは両手で無理やり受け止める。防ぎ切ったが地面にはクレーターができるほどの重い一撃だった。しかしギンガはアキラの想いと共にそれを受けきった。

 

「いままで多くの事件を解決に導いたあなたは、きっといつの間にか自分だけでどうにかしなきゃいけないって思い込んでたのかもしれない……………実際、あなたがいなければどうにもならなかった事件はたくさんある………だけどいいんだよ。たまには、みんなにすべて任しても」

 

顔上げてギンガはアキラに訴えた。その優しい瞳にアキラは怯え、後ずさる。

 

「……」

 

「苦しむ家族を見ていろって私は、私たちはずっとその立場だったんだよ?私も、スバルも、セッテも、みんな、みんな」

 

アキラが下がった分ギンガは距離を詰めようとする。アキラは少しずつ、少しずつ壁際に追いつめられる。

 

「………」

 

「あなたは昔から良くも悪くも人の気持ちを考えるのが苦手だったから、わからなかったかもしれないけどね」

 

とうとう壁に追いやられ、アキラはそれ以上後ろに下がれなくなった。怯えた顔でディバイダーを構えるがそれに力がこもってないのは目に見えていた。

 

「俺は…」

 

「だから、言って?あなたの本音を」

 

向けられたディバイダーをどかし、ギンガはアキラの目の前まで迫る。アキラは膝から崩れ、ディバイダーを落とした。

 

「俺の本音は………」

 

アキラの行動、言葉、すべての裏側にあった本当の気持ち。それはアキラ本人にもわかっていなかった。しかし、ギンガの言葉でようやくその気持ちに気づく。自分がふがいないばっかりに大切な人を目の前で二回も失った。だから強くあろうとした。実際強くなった。ツムギには敵わないがきっとここにいる誰よりも強くなった。だが、それは同時にアキラに誰かに頼る弱さを忘れさせてしまっていた。

 

頼られることはあっても、頼ることは許されない勝利者の宿命から逃れられないと思っていた。しかし、仲間は、自分が最も愛し、守ろうとしている存在は「頼ってくれ」と言ってくれた。そして、近くでアキラたちを見守るかつての仲間と家族も同じ目をしていた。

 

それに気づいたとき、アキラはずっと背負っていた重荷から解放された気がした。自然と瞳から涙があふれ、その顔を手で覆い隠す。

 

「……………助けて………くれ」

 

「……うん」

 

その場にうずくまるアキラにギンガは近づき、顔にそっと手を当てて自分を見させる。

 

「やっと素直になってくれたね、アキラ君」

 

そう言ってギンガはアキラを抱きしめた。ナナシがアキラだと判明してから、ギンガは初めてアキラに対し、「アキラ君」と呼んだ。

 

 

 

続く



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第九話 オレの帰る場所

ここまでくるのに設定詰め込みすぎた気もするがまぁしょうがない。


―ヴァンデイン・コーポレーション―

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

この日、いつも通りの仕事を終わらせたハーディス・ヴァンデインは帰ろうとし、駐車場から車を動かした。そして、車を地下駐車場から出そうとしたとき、車の前に男が立ち塞がった。

 

「ヴァンデイン・コーポレーションの専務取締役、ハーディス・ヴァンデインだな?」

 

男はフルフェイスを被ったアキラ、即ちナナシもといマスクだった。

 

「………どちら様ですか?もう本日の業務は終了しておりますのでまた後日…」

 

車の窓から顔を出したヴァンデインがそれを伝えている途中、アキラは手りゅう弾を投げた。ヴァンデインがそれを手りゅう弾と認識した刹那手りゅう弾が破裂した。ヴァンデインは反射的に車の扉を盾にしたが爆発に耐え切れず扉は吹っ飛んだ。ヴァンデインは反対側の扉からスーツについたガラスの破片を払いながら出てくる。

 

「あーびっくりした。なんなんだいったい」

 

「シャア!!!」

 

ヴァンデインの死角からアキラが刀を構えて襲い掛かった。アキラの刀が首を狙って振られたがそれはヴァンデインが出現させたショットガン型のディバイダーで防がれた。

 

「!!」

 

「せめて襲ってくる理由くらい話してもらいたいんだけれど………」

 

「関係ねぇよ」

 

アキラは一気に距離を取り、刀を一旦納刀して構えた。

 

「一閃必斬、時雨露走」

 

居合切りを放ち、ヴァンデインの首に剣を振るったがその刃は首を切り落とせなかった。それどころか傷一つつけられていない。

 

「ふむ、悪くない太刀筋だ。私を倒すには遠く及ばないがね」

 

(か…堅ぇ!)

 

ヴァンデインはアキラの刀を掴み、自分の首から離していく。

 

「炎神剣・業烈火!!」

 

アキラは刀に炎を纏わせ、その勢いで一瞬ヴァンデインの手を緩めさせる。その隙にヴァンデインの手から刀を一気に引き抜き、その勢いを利用して炎を纏った刀で回転切りをヴァンデインに食らわせた。

 

「一閃必薙!!!炎剣・円陣舞!!!」

 

しかし、それで砕けたのはアキラの刀の方だった。

 

「っ!」

 

ヴァンデインに握られた時点ですでに刀にヒビが入っていたようだ。さらにアキラがそのことに驚いて生まれた隙にヴァンデインはアキラの胸元にディバイダーの銃口を向けていた。そのまま弾丸を打ち込まれアキラは吹っ飛ぶ。

 

「痛ぅ………」

 

「今のを受けて生きているのか。興味深い。生きているのなら………名も知れぬ襲撃者君。対面から今に至るまでの数々の無礼、どう責任を取ってくれるのかな?」

 

「お前は………15年前、違法にECの研究を行っていたか?」

 

「15年………………?ああ!ずいぶん昔の話をするね!確かにわが社はそれくらい前、いやそれ以上からECの研究をしていて15年前に実験の成功をしたからそこから研究がはかどったね。それがどうかしたのかい?」

 

「ディバイダー!!!!!」

 

アキラは確信した。アキラが生み出されたAtoZ計画でアキラが感染させられたECはここが出所だと。そして、自分自身が感染を成功させてしまったことでEC感染者が様々な世界を襲撃し、命を奪う現状がある。

 

「お前をこの世界から切り離す…リアクト・バースト!!!!」

 

アキラはリアクトバーストを発動させ、そのままヴァンデインに切りかかろうとしたが刹那の間に胴体を深く切り込まれた。大量の血を吹き出し、アキラは仰向けで倒れた。

 

(なん………だ?何をされた……っ!)

 

「ん?胴体を切り落とすつもりだったが、おもったより頑丈らしい」

 

ヴァンデインはアキラが落としたディバイダーを拾い上げて形式番号を確認した。

 

「なるほど、このディバイダー……君はあの実験で生み出された人造魔導士か。まさかまだ生きていたんて思わなかったなぁ」

 

「がはっ………ああそうだ………お前が偽物のEC感染者を作り上げて様々な集落を襲ってるのも知っている…。なぜだとか理由は聞かねぇ。お前みたいなクソ野郎は嫌ってほど見てきた…。だから、一刻も早くテメェをこの世界から消す」

 

「うーん勘違いして欲しくないんだけど…我々はただ社会貢献したいだけなんだけどなぁ。それに消すっていうけれど…消されそうなのは君じゃないかい?」

 

「そいつはどうかな」

 

倒れたアキラの手には閃光手榴弾が握られていた。ヴァンデインがそれに気づくと同時に閃光手榴弾が光を放ちながら炸裂した。警戒していなかったヴァンデインはそれにやられて隙が生まれた。

 

アキラは再生能力を最大限に発揮しながら近くに落とした折れた刀を拾い、構えた。

 

「一閃必壊!竜閃禍!!」

 

折れた刀で放った全力の一撃。辺り一面を抉り、破壊し、打ち込まれた一閃は深く、鋭く地面を斬り込んでいた。

 

「ふぅ、いまのはまともに食らってたら危なかったかな…………」

 

駐車場の影から埃を払いながらヴァンデインが現れた。いつのまにやらアキラは姿を消し、どこからか声だけが聞こえてきた。

 

「今は見逃してやる!だがな!次は必ず貴様の首を取る!首洗って待っとけ!」

 

「…やれやれ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「なるほど。それが君が管理局を離れてからの行動だった訳か」

 

アキラは捕らえられ、一時的に隔離された。椅子に座らされた状態で手足が完全に動かせない様に拘束された。取り調べ役として小此木とそのボディガードとしてツムギが来ていた。

 

「そうだ。つーかずいぶん堅牢な拘束だな」

 

「上の人間はまだ君を恐れている人間も多い。形式上のものさ」

 

「そうかい…………マスクって犯罪者は実在しない。俺が勝手に追っていた感染者が犯した罪をやったことにした架空の人物だ。俺はそいつらを追う口実にマスクを作り出した。そして、その捜査中、感染者を見つけ出して殺した。殺したときにそいつらの頭を覗いてスポンサーを調べた」

 

「なるほど。しかし君の能力で調べたからといって我々は彼を逮捕することはできない。証明ができないからね。だから直接手を下したわけか」

 

「ああ。ともかくやつを仕留めないとこの事件は終わらない。終わりにしちゃいけねぇんだ」

 

「なるほど、大体理解した」

 

小此木はそう呟き、アキラの拘束のロックを解除した。急に自由にされたアキラは戸惑いながらも椅子から立ち上がる。

 

「君がなぜここから離れたか、離れて何をしてたか、合点のいく内容でよかった。でなければもう少し君を拘束しなければいけなかったからね。上に報告してとりあえず君の処分を検討するよ」

 

「信用されたみたいで安心した」

 

「とりあえず君には治療が必要だ。その辺のスペシャリストを集めてきたからともかく暴走しない治療を受けてくれたまえ」

 

小此木の合図で扉が開くとそこから、マリエル、ウィード、クラウドの三人が現れる。

 

「やぁ、久しぶり」

 

ウィードが気さくに挨拶をするとアキラは呆れ顔で小此木に尋ねた。

 

「………スペシャリストには違いねぇだろうが。犯罪者に頼るってのはどうなんだ?」

 

「今回の事件はなりふり構ってられないからね。ECを今回で根絶するのが我々の目標だ。そのためだったらどんな力でも私は使うよ。それに最初に彼らを協力させたのはギンガ君だ。マスクを倒すためにね」

 

「…」

 

「それにクラウド君はもうすぐ釈放の予定だ。我々への貢献が多いほど時期も早まる」

 

「あの事件からもうそんなに経つのか」

 

「私としてはもう静かに余生を過ごしたいのだが…まぁギンガの頼みとあっては仕方ない。それに……」

 

クラウドは思いっきりアキラをぶっ叩いた。

 

「!?」

 

「娘同然の存在を悲しませた馬鹿を少々シバきたかったからな」

 

「…………………………悪かったよ」

 

言い返す言葉もない。アキラはバツの悪そうに謝った。

 

「それにしてもテメェが協力とは、なにを考えてやがる」

 

アキラはウィードに疑いの眼差しを向けた。

 

「僕の研究は既に今の君と言う形で完成している。これ以上なにも望まない。だが檻のなかでなにもせず過ごすのは少々退屈でね。研究や開発をできるなら大歓迎さ。それに君を失いたくはない」

 

「ああそうかい」

 

管理局としてもECウィルスの研究と治療薬の開発は今後の管理世界拡大に必要な案件であった。

 

マリエル、クラウド、ウィードと言った一流の研究者たちがこの案件に参加してECウィルスの研究と治療薬の開発にかかわることになり、アキラとトーマもウィルス保持者として血液の提供などを行った。

 

完全な治療薬はそう簡単に開発されはしなかったが、ECウィルスの衝動を抑えるナノマシンの製作には成功したことからアキラとトーマは当分の間、苦労はかけるが月に数度、先端技術医療センターにてこのナノマシンの接種が義務付けられた。

 

 

 

 

 

ー保護施設ー

 

 

 

アキラが自身のECを抑え、ギンガを、家族を傷つけないために始めた嘘はギンガがアキラの本音を聞き出すことで終わった。長く苦しい嘘を終えたアキラとアキラの側にいた少女シーラはとりあえず逮捕という形で六課に預かられたがアキラはファントムの一員であることと多くの味方によってすぐに管理局員として復帰するだろう。

 

「あなたがシーラちゃん?」

 

「ええ。よろしく」

 

アキラやフッケバインと一緒にはいたが、いただけで何かしたわけではないシーラはとりあえず保護という形に代わり、現在は事情聴取されている。

 

「これまではなにを?」

 

「私は瞬間移動の能力を持っています。自分も自分以外の物体も自由に。その能力の研究のためにとある違法研究所で実験台として隔離されてました。そこを兄様……アキラに助けてもらったという感じです」

 

この少女はアキラが造り出された実験「AtoZ計画」の唯一の生き残りである。アキラが暴走し、施設にいた職員とBからZまでの被験体を殺害した事件では、自身の能力で施設から抜け出していた。

 

しかし、行く宛もなく放浪してたところをAtoZ計画を行っていた研究施設と同じ系列の実験施設に拾われ、再び実験台として扱われていた。そこに、ギンガと別れて間もないアキラが実験施設を襲撃、シーラと出会ったのだった。

 

「一応確認するけどあなたがギンガさん?」

 

「ええ。ギンガ・ナカジマです」

 

「兄さまをどうか許してあげて。なんかすごい数の女を抱いたとかデリカシーの欠片もないこと言ってましたが、あれ嘘ですから」

 

「まぁ、そうでしょうね。言われなくてもアキラ君を許してる………いいえ、最初から怒ってなんかもないわ。私がアキラ君に怒ったのは、私を傷つけたからじゃない。ずっと自分を傷つける嘘をついていたから」

 

それを聞いてシーラは驚いた表情をした。あの二人は本当に愛し合っているのだと肌で感じたのだ。シーラは小さく笑う。

 

「?」

 

「いえ、さすがはあの兄さまの奥さんだと思いまして…」

 

「………まぁ、アキラ君には昔っからずっと振り回されっぱなしだからね。もう慣れちゃった」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

取り調べと治療を終え、アキラは海上隔離施設に入れられた。ナンバーズたちに教えるべく何度もここに足を運んだが、自分が隔離される側になるとは思いもしなかった。そんなアキラのところに小此木がやってきた。

 

「やぁ、マスク。調子はどうだい?」

 

「その名前で呼ぶな。安直すぎてちと恥ずかしいんだ」

 

「うむ、元気そうで何よりだ。君の処分が決まったから伝えに来た」

 

「………」

 

アキラは小さく覚悟を決める。戻るとは言ったものの判断するのは上である。下手すれば処分の可能性だってあった。

 

「これまで数々の事件を解決してきたことが功を奏したようだね。局を離れたのも、襲撃事件も事情ありきということで、君は再び管理局で務めることが許された。ただし得た情報はすべて吐いてもらう。フッケバインにどういう経緯で入ったかは知らないが彼らを庇うような真似はしないと誓ってくれ」

 

「……ただ敵になることはできない。あいつらも被害者みたいなもんだ。助けると約束してくれ」

 

一時的とはいえ行き場を失っていたアキラに居場所をくれたフッケバインを早々と敵として扱うことにアキラは抵抗があった。

 

「…任せたまえ。管理局はそこまでひどい組織ではないと君もわかっているだろうに。上の人間が酷い人間だったとしても、私がいる。同じファントムとして、信用してくれたまえよ」

 

「ああ……そうだったな。いつのまにか、そんなことすら忘れちまってたみたいだ」

 

アキラは敵の情報をある程度話したが残念ながらそのほとんどは既に調べがついている情報だった。フッケバインはアキラにあまり深く関わらないこと、そしてアキラもフッケバインにあまり深く関わらないことを約束していた。

 

アキラも故郷を捨てたとはいえ、フッケバインに心から染まろうともしていなかったからだ。

 

「あといくつか質問だ。フェイト執務官はどうして殺しかけた?」

 

少し前の戦闘でアキラはフェイトを思いっきり切った。その時の怪我はひどく、フェイトは今も予断を許さない状況だ。

 

「…………あの時、俺はギンガにしばらく寝てもらうつもりだった。あんな無茶までするなんて思ってなくて……だからちょっと強めの技を使った。あの装備ならちょっと一、二週間入院する程度で終わらせられると思ってたんだが………間にフェイトさんが割り込んじまった。ソニックモードで防御力も薄くて、あんな結果に………」

 

「なるほどね………じゃあもう一つ。エクリプスウィルスの破壊衝動、殺人衝動を殺人や破壊で抑えなくても感染者自身死ぬことはない。君でも耐えられないのか?」

 

「………」

 

アキラは黙ったまま俯く。

 

「……………最初は、耐えようとした。実際昔はそれでどうにかなってた時期もあった。俺に感染したECウィルスは俺が変異させたから一時的に殺人衝動はなかった。破壊衝動もほとんどなかった。だが、時間と共に活性化し、俺の肉体が限界を迎え、一度崩壊しかけた時にほとんど元の形に戻ったらしい。無理に押さえ込もうとしても、暴走するだけだ」

 

「………そうか、まぁ、君が人として生きられるよう努力するよ。私という化け物を、彼女が救ってくれたように」

 

少し前に小此木がなぜ管理局の味方をするのかと聞いたとき、

 

(けどね、私は孤独が嫌いなんだ。私の能力が明らかになってから、学校の友人どころか家族すら疎遠となった。その時の孤独と言ったら……。そんな時、管理局に僕は引き取られた。家族が僕を恐れて局に売ったんだ。正直もうどうなろが良かったが、管理局である人にとてもやさしくされた。その人は任務中の事故で亡くなってしまったが、僕は彼女が守ろうとしたこの世界を護りたい。そんな思いで管理局に努めているんだ)

 

そう言っていたことを思い出す。境遇的には同じようなものだった。八神はやても、ツムギも、全員同じだったのだ。

 

「サンキュな」

 

「そういえば、君がマスクの時に使っていたディバイダーは?」

 

アキラがマスクとして戦っていたとき、通常とは違うディバイダーを使っていた。それがいったいなんなのか小此木は気になっていた。

 

「あれは俺がこれまで狩ってきたエセ感染者のディバイダーだ。俺が使ってたのを使っちゃバレちまうからな。だから、狩った感染者のディバイダーの持ち主を俺に書き換えて使ってた。研究のために使いたいならくれてやるよ」

 

「いや、その必要はないよ。先日ヴァンデインコーポレーションの研究施設がフッケバインに襲撃されてね。その調査のためにあちらが開発してるディバイダーは押収した………さて、話はここまでにしておこう。お客さんだよ」

 

「客?」

 

小此木がドアのロックを解除すると、そこから見覚えのある顔ぶれが現れる。コロナ、アインハルト、リオ、イクス、ルーテシア、ヴィヴィオ、ノーリ、DSAAに参加している面々とそのサポーターたちだった。小此木は彼女たちに「ごゆっくり」と伝えてそのまま出て行った。

 

小此木がいなくなるや否やコロナが駆けてきてアキラに触れる。

 

「アキラさん………本当にアキラさんなんですか?」

 

コロナが不安そうな顔で訪ねてきた。アキラは優しく微笑んだ。

 

「ああ。まぎれもなく、俺だよ」

 

「――っ!」

 

声にならない歓喜の声を漏らし、コロナはアキラに抱き着いた。その瞳には涙が溜まっていた。コロナにとって命の恩人で、師であるアキラが死んだと聞いたときコロナは心から悲しんだ。そして、生きていた吉報に誰よりも喜んだ。

 

「よかったです………生きていて…」

 

「はいっ!本当に!」

 

「心配してました!でも、無事で何よりです!」

 

この中で真実を知っているのはノーリだけだった。ヴィヴィオたちにはアキラが殉職したと思われていたが、無事でようやく戻ってきたという風に伝えられていた。

 

「心配かけたな」

 

「本当に!本っ当に!心配したんですからね!!」

 

コロナに続き、ルーテシアとイクスが抱き着いてきた。

 

(ああ…………俺は………こんなにも愛されている………愛を、渡されている………なのに、俺は…)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アキラは釈放され、隔離施設から移送された。普段の服に着替え、アキラは家に帰る前に管理局の病院まで向かった。そして、集中治療室で眠っているフェイトの病室の前まできた。

 

「…………すまねぇ………フェイトさん…」

 

アキラとフェイトにそこまで深い繋がりがあるわけではない。話したこともそこまで多い訳ではない。六課で知り合い、ギンガの恩人であり目標であるからなんとなく他とは繋がりが深い程度だった。

 

「いまはゆっくり休んでくれ。あんたの分まで、あんたが護りたいものは俺が護るから」

 

アキラはそう言い残して病室を去った。

 

 

 

―ナカジマ家(アキラ宅)―

 

 

 

アキラが家に帰ってくる頃には夜になっていた。家の前に立ち、アキラは家を見上げる。まさかここに帰ってくることになるとは思ってなかった。もうアキラはこの先を考える気力は残ってなかった。流れに身を任せ、仲間に頼ることにした。

 

アキラは家の扉を開けた。

 

「ただいま」

 

「…」

 

玄関には自分の妻が待っていた。いつから待っていたのだろう。家に帰れる大体の時間は伝えていたが前後のズレは生じる。それでもそんなのは気にせずギンガは玄関にいた。

 

「おかえり」

 

ギンガは笑顔で言った。これまでのアキラの行いを気にしている素振りなど一切見せない。かつてと同じだ。アキラがクイントの死の原因になった時も同じだった。彼女はアキラを愛しているという理由だけでアキラを許したのだ。

 

「……………ギンガ」

 

アキラはそっとギンガを抱きしめた。ギンガも抱き返す。お互いにそのぬくもりを感じていた。

 

「ごめん、ごめんなさい」

 

「いいよ。アキラ君に振り回されるのはもう慣れっこだもの………。ごはん、できてるよ」

 

「うん、いただく」

 

二人は居間に向かった。居間には二人分の夕食が用意されていた。特別感などない、いつも通りの夕食だ。

 

「ノーリたちは?」

 

「しばらく父さんの家にいたから、ノーリもセッテもアリスもまだ戻ってこれる準備ができてなくて」

 

「そうか」

 

今日は夫婦水入らずの時間が過ごせそうだった。特別なものなど何もない、いつも通りの時間。これが二人に一番必要な時間だった。

 

 

 

続く



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第十話 オレ達の幸せ

数か月ぶりです。もう少し早く出す予定でしたが新生活がなかなかに忙しく。
今後はForceを一時中断し、異世界編、それが終わり次第Forceは再開されるまで待って最終章へ移行しようかと思います。約9年ほど書き続けてるこのシリーズですがもうすぐ終わりへと行くかと思われます。よろしくお願いします。


アキラが家に戻った日の夜。二人はいつも通り一緒に眠った。目の前にいる大切な存在を抱きしめながら。

 

 

 

―朝―

 

 

 

「おい、起きろバカ夫婦」

 

「ん……ノーリ?」

 

朝、ノーリの罵倒でアキラとギンガは起きた。ノーリは今日の昼前まで帰ってこないはずだったが、目を覚ましたギンガが時計を見るとすでに12時を回っていた。

 

「………昨日寝たの11時くらいだったのに…」

 

「お互いに必要なものを得た結果ってことだろ?もうすぐアリスが来る。夫婦になるのもかまわないが、そろそろ親に戻れよ」

 

「…そうだな」

 

アキラは起き上がり、ベッドから出た。そしてそのまま部屋を出ていく。その様子をギンガとノーリは不思議そうに見ていた。アキラが出て行ったところでノーリはギンガに尋ねる。

 

「…………昨日、どうだった?」

 

「え?」

 

「アキラだよ。様子とか」

 

「………いつもと変わりない…って言ったら嘘になるかな。普段から物静かな人だけど、いつも以上に。昨日だって、私は準備できてたのに…」

 

準備ができていたというのは当然夫婦の営みのことだ。昨日、準備はしていたし何なら誘ってみたのだがアキラは断った。

 

「まぁ、そう簡単に割り切れやしないよな」

 

アキラは顔を洗い、朝食兼昼食の準備を始める。しかしその顔は全く浮かれていない。

 

「…………親……か」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「来たッスよ~!!!」

 

ノーリが来てから一時間ほどでナンバーズらが到着し、その中のウーノの手の中にはアリスがいた。今は眠っているようだ。

 

「………おかえりなさい」

 

玄関にはギンガだけが出迎える。ウェンディとウーノは玄関から奥を見るがその奥からアキラが出てくる気配はない。

 

「…アキラは?」

 

「……それが」

 

ギンガは苦笑いで居間に通すがそこにアキラの姿はない。昼食のすぐあと少し目を離した隙に、いなくなったとギンガが話した。

 

「どうして…」

 

せっかく戻ってきたのにまたすぐにいなくなってしまったことにウーノが困惑を覚える。いや、ウーノだけではない。セッテも、他のナンバーズも同様だ。

 

「まだ、戻ってこれてないんだ………日常に」

 

戸惑っているナンバーズの前にノーリが現れた。

 

「日常…」

 

罪から解き放たれ、かつての友に、妻に会ってもなおアキラは日常に戻ってこれていない。そんなアキラの心情をノーリは感じていた。かつては自分だったからだろうか。

 

「どうして…私には会えたのに…」

 

「恋人と、子供、その違いはあるだろ。心の整理の時間が必要なんじゃないか」

 

「でも、また出て行ったって可能性はない?もう記憶改ざんが難しいからって…何もせずに…」

 

「それはない。ギンガに着けてある発信器から逆探知ができるようになってる。今は………あいつの家に向かってる。もう少ししたら迎えにいってやろう」

 

 

 

―旧アキラ宅―

 

 

 

ここはとある山の中にある小屋。ほとんど物置のような小屋にアキラは昔住んでいた。管理局に入るよりも前の話だ。

 

「…」

 

家の中に入る。もう何年も放置しているせいでかなりほこりまみれだったが何も変わっていない。庭に出るとそこにはトレーニングのために自作した施設がある。アキラは木刀を持って装置を起動させた。

 

近くにある装置から木の棒が襲い掛かってくる。それを木刀で防ぎ、背後から放たれた木の棒を足で蹴り落とす。さらに三方向から飛び出してくる木の棒に対し木刀を構えた。

 

「一閃必壊・円陣舞!」

 

回転して放った剣撃は木の棒を木っ端みじんに破壊し、放たれた剣圧はついでに装置まで破壊した。そして想定以上の負荷がかかった木刀は根元から折れる。

 

「…」

 

もやもやした気持ちを切り離したくてものに当たってみたがあまり効果はなかった。アキラは折れた木刀を投げ捨て、どこかへ歩いて行った。

 

 

 

―とある山―

 

 

 

アキラは山にやってきた。そこはセシルの墓が置いてある山だった。アキラはセシルの墓の前に行き、花を手向ける。

 

「………ダメだよな…こんなんじゃ。お前もそう思うだろ?」

 

「…何をしている」

 

「!」

 

背後から声がした。振り返った先にはノーリがいた。アキラは小さくため息をついてから答えた。

 

「………なんも」

 

まぁそんなことだろうなという顔をしてからノーリはアキラの隣に座った。

 

「娘と嫁、幸せな家庭に戻ることに何の戸惑いがある?」

 

「俺は一回家族を捨てたんだぞ………そう簡単に戻ってたまるかよ…」

 

「戻れるさ。俺だってたくさん人を殺した。だけど、お前たちっていう家族ができた。アインハルトとリンネっていう………まぁ俺を好きになってくれた人もいる。お前だってそうだろ」

 

「……それを捨てて、お前は戻ることができるのか?」

 

「俺は戻る。あいつらが許してくれるってんならな…。お前も、いつまでもそんな態度でいるならギンガも俺が取っちまうぞ」

 

「………そうしたほうが…いいのかもな」

 

刹那、アキラの頬にノーリの拳がめり込んだ。構えてなかったアキラはそのまま吹っ飛び、近くの岩に叩きつけられた。

 

「ふざけるな!いまの言葉!もっぺん言ってみろ!」

 

ノーリはいつのまにか大人モードになっていた。アキラは頬をぬぐいながら立ち上がる。

 

「…………俺を選んだんだぞ!もっといいやつはいたはずなのに!俺を選べばどうなるかわかって!!こんな俺を選んでくれたのに………俺は捨てたんだぞ!」

 

ノーリは歯を食い縛り、拳を握ってアキラに殴りかかった。アキラはECディバイダーを出現させてその攻撃を防いだ。

 

「だったらその分幸せにしてやればいいだけの話だろ!」

 

ノーリはさらに蹴りを放ったがアキラは姿勢をのけぞらして躱した。そのままカウンターで膝蹴りをノーリに食らわせた。

 

「がっ……!」

 

「俺を許してくれたあいつに顔向けができない!申し訳なくて申し訳なくて心が押し潰されそうなんだ!俺はどうればいい!?」

 

アキラは膝蹴りをくらい怯んだノーリの背中を掴み、近くに投げた。ノーリは少しふらつきながら立ち上がる。

 

「はっ………まさかお前、俺らやギンガがお前のために助けるって言ってると思ってんのか?馬鹿が!もうギンガにはお前しかいないんだぞ!アリスの父親だってお前だけなんだ!だからお前を必死に引き留めてんだ!逃げるなんて選択肢最初からねぇんだよ!」

 

「…」

 

ノーリはその場で構え、拳を握った。そして足先から練り上げた力を拳に込めてアキラに殴りかかった。

 

「覇王断空拳!!」

 

「くっ!!」

 

背後にセシルの墓があるため、アキラは回避するわけにもいかず、その拳をガードで何とか防ぐ。

 

「心が押しつぶされそうだろうが関係ない!生きろ!ギンガの夫として!」

 

ノーリの拳がアキラのガードを貫通し、そのまま腹部に深く突き刺さる。アキラは吹っ飛び、セシルの墓に当たりそうになる。

 

「しまっ…」

 

ノーリもすぐに動こうとしたが間に合うわけもない。しかし、墓とアキラの間に誰かが入り込み、アキラを受け止めた。

 

「義兄貴…」

 

「墓の前で喧嘩とは、良くないな」

 

現れたのはアキラの義理の兄である橘レイだった。

 

「なんでこんなところに」

 

「お前が死んでから、ずっとセシルの墓の面倒を見てったってだけだ」

 

アキラがいなくなり、セシルの両親も暇ではないしそろそろご老体ということもあってセシルの墓の掃除等を担ってたらしい。

 

「それに、嫁と娘の前だろう?」

 

レイが指さした方向にはギンガがおり、その手にはアリスが抱かれていた。

 

「ギンガ…」

 

「アキラ君…」

 

罪悪感からかアキラは自然と目を逸らす。ギンガは何も言わずそっと近寄る。

 

「ほら、アリス。お父さんよ」

 

「あう……」

 

小さな手がアキラの服を掴む。

 

「父……様ぁ………?」

 

アキラはっとしてアリスに視線を向けた。アキラが行方をくらましたとき、アリスはまだ1歳だったがもう2歳と半年くらい経っている。言葉を話して当然だ。

 

「アリ………ス?」

 

アキラがアリスを見るとアリスは無垢な眼差しをアキラに向けていた。そしてアキラの顔を見るなりアリスはにっこり笑った。

 

「父様!!」

 

「…」

 

(いったい何を恐れていたんだろう…)

 

こんなに無邪気で、一年も放置した父を父と呼んでくれる存在に対し、アキラは恐れや戸惑いを感じていたのが馬鹿らしくなってきた。

 

「アリス………」

 

アキラはギンガからアリスを受け取り、頭を撫でる。アリスは笑顔で撫でられる。それを見てからアキラはギンガを見た。

 

「………ギンガ…ただいま」

 

「…おかえりなさい」

 

二人の様子がいつも通りになったことを確認するとノーリは二人にチケットを差し出した。

 

「…これは?」

 

「この間買い物での福引で当てたんだ。俺が持ってるとうるさいのが来るからな。仲直りがてら行ってこい」

 

「…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アキラたちナカジマ一家はチケットに書いてある屋内プール施設『アクアランド』へとやって来た。

 

『アクアランド』は最近オープンしたばかりの大型娯楽施設で、その広大な敷地内の施設の中には大小の様々なプールが存在し、普通の25mプールに競技用プール、オーソドックスな流れるプールや波のプールから、温泉やサウナをはじめとする入浴施設や飲食店や物販なども揃っており、水着着用のまま食事や買い物も出来る。

 

「かあさま、はやく!はやく!ぷーるにはいろ~」

 

フリルがついた子供水着姿のアリスがギンガの腕を引っ張る。その目はキラキラと輝いており、早く、早く、とギンガを急かしている。

 

アリスのその様子から、彼女が目の前に広がる大きなプールに早く入りたいと思っているのは手に取る様に分かる。

 

アキラが殺されたと思われた時、ギンガはアリスに『お父さんはしばらくお仕事で留守なの』とごまかしていた。

 

まだ幼少のアリスに父親が殺されたと言われても理解するのは難しいだろうし、二度と父親に会えないという事実を幼い娘に伝えるのは辛かった。

 

アリスは年相応な子供用の水着を着用しており、ギンガの水着は黒いビキニタイプの水着を身に着けて腰にはパレオを巻いている。当初、ギンガはパレオを身に着けていなかったのだが、アキラが物凄い剣幕でギンガにパレオを着けてくれと頼みこんできたので、ギンガはパレオを身に着けたのだ。

 

何故、アキラがギンガにパレオを強く薦めたのか?

 

その理由は只一つ!! 

 

愛妻の水着姿を他の男共に晒すこと事態が面白い事でなく、気にいらなかったのだ。

 

しかし、その事実をアキラはプールに着いてから気が付いた。 

 

だが、娘がここまで喜んでいる手前、「ギンガ(お母さん)の水着姿を他の男共に晒したくないから帰ろう」など当然言える筈もなかった。

 

しかし、パレオを着け、下の水着部分は隠せても上半身の程よく実ったギンガの胸の果実を隠すことは出来ず、遠巻きから男共の欲に満ちた視線をアキラは感じ取り、狂犬並みに周囲の男共を威嚇していた。

 

その反面ギンガとアリスの方はというと周囲の視線を全く気にしておらず、何故アキラが周囲を威嚇しているのか分からず、首を傾げていた。

 

そして今、ナカジマ一家がいるのは何の変哲もない普通のプールのプールサイド。まだ幼いアリスを連れているので最初は無難にということだろう。

 

「アリス、プールに入る前にちゃんと準備運動をしないとダメよ」

 

プールサイドにて、ギンガはアリスにプールへ入る前、しっかりと柔軟体操をするように言うが、

 

「やぁー!はやく、ぷーるはいりたいのぉ~」

 

ギンガの言葉にアリスはプクッと頬を膨らませ、ギンガの手を引っ張り早くプールに入ろうと催促する。

 

アリス本人としてはもう我慢の限界で、早く目の前のプールの中へ入りたい様子だった。

 

「ダメだぞ、アリス。ちゃんと準備運動をしないでプールに入ると足がイタイイタイになっちゃって帰らなきゃいけなくなっちゃうぞ」

 

「うぅ~。かえるのはやぁ~」

 

「だったら、ちゃんと準備運動しよう。なっ? 大丈夫だよアリス。プールは逃げやしないから」

 

「う、うん」

 

アキラの言葉を聞いて、渋々といった様子でギンガと一緒に準備運動を始めるアリス。

 

「いち、に、さん、しー‥‥」

 

「ごー、ろく、しち、はち‥‥」

 

と言ってもまだ幼いアリスが一人で準備運動をちゃんと出来るわけでもなく、ギンガやアキラの動きを見よう見まねで体を動かし、時折ギンガがちゃんとアリスに手を貸してしっかり柔軟させているので問題は無いだろう。

 

「とうさま!これ膨らましてー!!」

 

一通り準備運動が終わると、アリスが大事そうに抱えていたふにゃふにゃ状のビニールをアキラに渡す。

 

アリスが渡したビニールは水着と共に買ったミッドで人気のアニメキャラが描かれた浮き輪だ。

 

「おう。任せとけ、見てろ」

 

アリスからふにゃふにゃ状態の浮き輪を受け取ると、アキラは大きく息を吸って浮き輪へと一気に空気を吹き込む。

 

アキラが浮き輪に息を吹き込むたびに膨らんでいく浮き輪の様子をアリスはワクワクした様子で見ていた。

 

「ふぅー!!……ふぅー!!……ぷはぁっ~!!ど、どうだ?アリス」

 

「とうさま、すごーい!!」

 

アキラは会心の一息、とでも言うのか最後に大きく胸をそらせて一気に吹き込み、浮き輪をパンパンに膨らませた。

 

ほとんど息継ぎなしで一気に膨らませたため、肩で息をしているアキラ。

 

「は、ははは……と、とうさまにかかればこんなもんだ……」

 

娘の前なので、キリッとカッコつけたいようだが、断続的に息を吹き続けたため、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返すその様子ではカッコ良さも半減である。

 

戦闘機人とはいえ、これはきつかったみたいだ。

 

しかし、浮き輪を膨らませたことで、アリスは満足がいったようで、アキラの様子を特に気にしてはいない。

 

「お疲れ様、アキラ君‥‥でも、そこまで張り切らなくても、あそこで空気入れを借りられたみたいだよ」

 

「えっ?」

 

ギンガが指をさしている方向に視線を移して見ればちょうど他の家族が浮き輪に空気を入れているようだった。

 

無料の自動空気入れの様で、空気の差し込み口に浮き輪を着けると瞬く間に浮き輪が膨らんでいく。

 

「そ、そんな………俺の……俺の苦労は一体………」

 

「とうさま。よしよし」

 

ガックリと膝をついてうなだれるアキラの頭をアリスが撫でて、アキラを慰める。

 

「うぅ~アリスの様な優しい娘を持てて俺は幸せ者だ」

 

アキラはアリスの行為に感動し、自分の頬をアリスの頬に擦り合わせ、嬉しさと幸せを実感していた。

 

そんな親バカなアキラの姿をギンガは苦笑しながら見ていた。その時、アキラたちの先の木陰に見覚えのある姿が見えた。ギンガはアキラにアリスを任せて木陰まで行った。

 

「メグ!来てたの!?」

 

木陰にいたのはメグだった。ずっと復讐のために仲間も友も見ずに突っ走ってきたギンガはなんだかメグに会ったのが久しぶりな気がした。

 

「ハロー。あのバカがまたウジウジしてないか気になってね。ま、あの様子なら大丈夫でしょ」

 

「……うん」

 

「…もう離すんじゃないわよ」

 

「もちろんよ」

 

「じゃあね」

 

去ろうするメグをギンガは引き留めた。

 

「待って!せっかく来たんだから一緒に遊んでいかない?こうやって話すのも久しぶりな気がするし…」

 

「夫婦水入らずで仲よくなさい」

 

メグは手をひらひらと振りながら帰っていった。メグも彼女なりにアキラを心配してくれていたのだ。そのことにギンガは心の中で感謝した。

 

「よーし、アリス。かあさまの所まで頑張れ!!」

 

「うん!!」

 

「アリス~おいで~」

 

「かあさまー!!」

 

浮き輪に乗ったアリスがぱちゃぱちゃと足で水を蹴りながらアキラの下からギンガの下へとたどり着く。

 

ギンガに受け止められると、アリスは本当に楽しそうにエヘエヘと笑顔を浮かべている。

 

「それじゃあ今度はまた、とおさまの所に行こうね?」

 

「うん!!」

 

アリスが足を使って器用に体の向きを反転し、アキラの下に泳ぎだそうとしたが、視線の先に先程まで居たアキラの姿がないことに気が付く。

 

ほんの先ほどまで、少し離れたところで待っていたはずなのにその姿はどこにも見えない。

 

「あれ?とうさま、いない……どこー?とうさま、まいごになっちゃったの?」

 

不思議そうな顔できょろきょろと辺りを見回すアリス。

 

そんな娘の様子が可愛らしくてクスリと微笑むギンガ。

 

そして視線をアリスの元に水面下から近づいてくる茶髪に手で合図を送る。

 

その合図を受け、水面下の茶髪は「いつでも準備できているぞ」と、水の中でサインを送ってくる。

 

「とうさまー?どこー?」

 

「ホント、どこに行っちゃったのかしらね?アリスの言う通り迷子になったったのかな?」

 

そう言いながらギンガも水中でサインを送る。

 

それに合わせるかのようにアリスの目の前にザパッと水中からアキラが急浮上した。

 

「ふぇ?」

 

突然、目の前に急浮上したアキラにアリスが目をぱちくりと瞬きをして驚きの声を上げる。

 

「どうだ?アリス、ビックリしたか?……って、思ったより反応が薄いな……」

 

アキラ本人としてはアリスをびっくりさせたつもりだったのだが、肝心のアリスのリアクションがいまいちであり、『すべったか?』とアキラが思っていると、

 

「ほぇー……」

 

ぽかんとした表情でアキラを見るアリス。

 

どうやらアリスは事態を把握できていないらしい。

 

「あ、あれ? もっとこう、びっくりしたり泣き出したりするかと思ったんだが……もしかして無駄骨!?無駄骨なのか!?」

 

「とうさまー!」

 

ようやく事態を把握したのか、アリスは嬉しそうにぱちゃぱちゃと泳いでいくとアキラに抱きついた。

 

せっかく驚かそうと思って長く潜水してまでスタンバっていたのに、なんというか拍子抜けとなる結果となった。

 

そんな父娘の様子をギンガはやはり苦笑しながら見ていた。

 

 

それからしばらくして、ギンガは波のプールの近くにある休憩所のベンチで一人、遠目にプールを眺めていた。

 

アキラはアリスをすべり台へと連れて行き、ギンガは現在一人で休憩中なのだ。

 

人工的ではあるが波の打ち寄せる音が一定のリズムを奏でている。

 

どこか落ち着くその音に、ギンガは周囲の喧騒を余所に、目を閉じて耳を澄ませて波音を独り静かに聴いていた。

 

「ねぇ~彼女、一人? よかったら俺たちと一緒に遊ばない?」

 

そんなギンガに軽薄そうな声で話しかけてきたのは、やはり軽薄そうなチャライ男達だった。男達はギンガのその熟れた胸や腰回りを下心全開の目で舐めまわすように見てくる。

 

相手にするのも面倒くさいので、ギンガは小さくため息を吐く。

 

「きっと楽しい思い出になるからさ、一緒に遊ぼうぜ」

 

「あっ、いえ、連れを待っていますので」

 

流石に公共の場で事を荒立てるのはマズイので、とりあえずやんわりとギンガは男たちの誘いを断る。

 

「まぁまぁ、そう言わずにさ」

 

「えっ!?ちょっ!!」

 

断っているのにも関わらず一人の男がギンガの腕を無理矢理掴む。

 

さすがに不快そうに男を睨みつけ、声を上げた。

 

一撃を与えて気絶させようかと迷っている中、その男のかぶっていた帽子が突如として吹いた強風によって飛ばされる。それと同時に男の手からギンガが消える。

 

「え?」

 

振り返るとそこには左手にギンガを抱え、右手には滑り台を終え、満足そうなアリスを抱えたアキラが立っていた。

 

「俺の女になんか用か?」

 

アキラの怒りを押さえ込んでいるような低い声に男たちの動きが止まった。

 

「「「し、失礼しました~」」」

 

アキラの迫力に、男たちは情けなく愛想笑いを浮かべ、蜘蛛の子を散らす様に去っていった。

 

「とうさま、かっこいいー!!」

 

睨みだけで男共を追っ払ったアキラにアリスがキラキラと輝くような尊敬のまなざしを向ける。

 

「そ、そうか?」

 

「うん!!」

 

娘からの賛辞に少し照れたような笑みを浮かべるアキラだった。

 

それからは、三人は『アクアランド』内のレストランで昼食を摂ったが、利用客の目は山盛りとなっている料理を気にすることなく食べているギンガとアリスに集中していた。

 

(やっぱりアリスもクイントさんの血を継いでいたか……)

 

アリスにとっては祖母であるクイントの大食いな所は娘のギンガ、そして孫であるアリスにもちゃんと受け継がれていた。

 

昼食後、再びプールへと戻ったナカジマ一家は流れるプールでアリスが水流に逆らおうと必死に足をばたつかせるも水流にされていったり、親子三人でウォータースライダーを滑ったりと様々なプールで遊びまくっていた。

 

プールを満喫した後、施設内の家族風呂に入り、ナカジマ一家は家路へと向かった。

 

帰りのバスの中、一日遊び続けたからかアリスはアキラの膝の上に座り、穏やかな寝息をたてている。

 

そして、一日中アリスを追い掛け回していたギンガも、アキラの肩を枕にして夢の中にいる。

 

(アリスの体が抱き枕みたいだ……暖かいし、柔らかい。それにギンガの体温や香りがなんともいえなく心地よくて眠気が……)

 

気を抜くと睡魔に意識を持っていかれそうになるのを何とか頭を振って堪えるアキラ。

 

(俺が起きてねぇとな………。乗り過ごしちまう)

 

アリスとギンガの寝顔を見ながらアキラは何とも言えない満たされたような感覚に陥る。

 

(これが………俺の幸せ。そしてきっと………二人にとっての幸せ。誰も変わってやれない………ってことなのかな)

 

懐と肩から伝わってくる家族の暖かい温もりに幸せを感じつつも気合を入れなおし睡魔と懸命にアキラは戦ったが、結局睡魔に負けてしまい、最終的にバスの終点の停留所にゲンヤに車で迎えに来てもらった。

 

「どんまいだよ。とうさま」

 

そしてまたもやアリスから慰められるアキラであった。

 

 

 

それから数日後。

 

「ノーリさん」

 

「な、なんだ?アインハルト」

 

ノーリにアインハルトが笑みを浮かべながら迫ってくる。

 

「先日、アクアランドの招待チケットを福引で当てたみたいじゃないですか」

 

「な、なんでそのことを!?」

 

あの場にアインハルトは居なかった筈なのにアインハルトはノーリが福引でチケットを当てたことを知っていた。

 

「リオさんが、偶然ノーリさんがチケットを福引当てたところを見て居たみたいで、後日私に聞いてきたんです……ノーリさんと一緒にアクアランドに行ったのか?と……」

 

「………」

 

「それで、誰と行ったんですか?アクアランドに‥‥リンネさんとですか?」

 

「あ、あのチケットなら、アキラたちに譲ったんだよ」

 

信じてもらえないかもしれないが、ノーリはあのチケットをアキラたちに譲ったことをアインハルトに教える。

 

「そうですか」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

これでアインハルトが引いてくれると思ったノーリであったが、

 

「でしたら、今度は私たちも一緒に行きましょう。アクアランドへ」

 

「えっ?」

 

「アキラさんたちは一家団欒でアクアランドを楽しんだんですもの。私たちも一緒に楽しみましょう。もちろん二人っきりで行きましょうね?」

 

アインハルトは『断ったらどうなるか分かっていますね?』と圧がある笑みを浮かべながら有無を言わせずにノーリにプールデートの約束を取り付けた。

 

「…」

 

チケットをアキラたちに譲ってもノーリはアインハルトから逃れることは出来なかった。

 

 

 

続く



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