機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記 (ハインツ)
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始まりはいつも突然

 

 

 

 

朝? 眼が覚めると真っ白な空間にいました。

 

「・・・なんでさ?」

 

突如、視界に映る眩い光。光が止むとそこには可愛らしい少女がいました。

 

「・・・なんでさ?」

「いらっしゃい」

 

・・・いらっしゃいってどゆこと?

 

「ここ何処?」

 

俺、昨日、普通に寝たよねってか、本当にここどこだよ?

 

「ここは遺跡の空間」

「遺跡の空間?」

「ボソンジャンプ。そういえば分かるかな?」

 

ボソンジャンプってもしかしてあの!?

 

「ここはあれか。所謂、あの世界か?」

「そう。あの世界。貴方は迷い子。偶然に偶然が重なって、そこに更に偶然が重なるくらいの確立の低さでやってきてしまった哀れな子羊」

 

子羊っておい。別に何も信仰してないけど?

 

「冗談」

「・・・冗談かよ」

 

どこがだ!? どこまでが冗談なんだ!?

 

「詳しく事情を説明する」

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「えっと、要するに、だ。ボソンジャンプは時空間移動。だから、平行世界であるこの世界にもやってこれるって訳だな」

「そう。過去、未来、平行世界。その全てから情報を摂取しているのが遺跡。でも、平行世界で私にアクセスしてきたのは貴方が始めて」

「アクセスというのは?」

「ナノマシンを介して私に接触してくる事を意味する。

 何の因果か、貴方に遺跡アクセス用のナノマシンが注入されていた。普通は在り得ない。だから、偶然の三乗。奇跡」

「奇跡・・・ねぇ」

 

正直、俺には分からんよ。

 

「私の存在を知った以上、元の世界に戻す事は無理」

「え? ちょ、ちょっと待てよ。それなら、俺はどうなるんだよ」

「選択肢は三つ。1、記憶を消して元の世界に戻る。2、私がいる世界に移る。そして・・・」

「・・・そして?」

 

ゴクリッ。

 

「3、死ぬ」

 

や、やっぱり死ぬんかい! え、ちょっと待とうよ。

まだ俺ってばピチピチの十八歳。死ぬには少し、いやいや、かな~り早いんじゃないかな。

 

「普通に1でいいんじゃないか?」

「分かった。ただし記憶の消去は繊細な作業。もしかすると全ての記憶が―――」

「ちょっと待とうか!」

 

記憶を消すってもっとこう簡単に今から二時間前とか、そんな感じで消そうよ。

何だよ? 全ての記憶って。

人間の記憶能力ってそんなに複雑なの?

俺なんて昨日の晩飯も思い出せないぞ。

 

「なら、3?」

「何で3なんだよ!? 何故、死を要求する!」

「簡単」

 

そ、そうだよね。

殺すのが一番楽だよね。

でもさ、僕としてはもっと長生きしたんだよね。

とりあえず、六十八歳ぐらい?

 

「なら、2?」

 

2、遺跡の世界に移る。

・・・どうしよう?

記憶を消されるのも断固として拒否。

死ぬのなんてもっと拒否。

でも、あの世界って死亡確率高過ぎだよね?

ま、戦争だからしょうがないんだと思うけど。

あれ? ちょっと待て。

あの世界って一般市民にはそんなに危険はなかったっけか?

そうだよな。何か、一般人は戦争とか気にせずお気楽に過ごしてたし。

戦争の自覚がないから両者とも反省しないで次の悲劇に繋がったとか誰かが言ってた気がする・・・。

うん、もしや・・・安全か?

俺みたいな一般市民には戦争をどうする事も出来ないだろうし。

無難に安全に平和に過ごそうよ。

うん、そうしよう。

 

「分か―――」

 

うん? 待て。ちょっと待とうか。

それって家族とお別れって事かい? 友人とお別れって事でっしゃろか?

恋人と・・・はいないからいいとして。

結構、シビアじゃないかな?

あっちいったら知り合い皆無だなんて。

あぁ・・・俺はどうすればいいんだ?

 

「決まった?」

「うん、まぁ、一応は、ね」

「それで? どうするの?」

「2、かな」

 

シビアだけど。記憶消去とか死亡とかよりは良いかなって思った。

 

「でも、家族とか友人とかにさよならって伝えたいんだよね。急にいなくなったら心配だと思うし」

「・・・・・・・・・」

 

え? 無言ですか?

 

「終わった」

「え? 終わったって?」

「貴方の世界の過去にアクセスして、ナノマシンの侵入を防止した」

 

・・・万事解決じゃん。

 

「それじゃあ、俺はもう帰れるって事か?」

 

そうだよな。

原因が失くなったんだ。

俺はもう―――。

 

「無理」

「そうだよな。無理だよな・・・って無理!?」

 

なして!?

 

「そう。無理」

「ど、どうしてだよ!?」

「貴方にナノマシンが注入された時点で時間軸はズレている。私が干渉したのは貴方の世界であって、貴方の世界ではない」

「タイムパラドックス効果的な何かって奴? 良く分からんが・・・」

 

俺が過去に戻って親を殺したら俺は生まれてないからそもそも親を殺す事が出来ないとか、そんな変な矛盾が生じちまう理論。

 

「そう、つまり貴方はパラレルワールドの住民。貴方自身の存在は貴方の世界から消えるけど。違う世界で普通に過ごしている貴方がいる」

 

そっか。それなら・・・納得、とはいきませんのであしからず。

 

「おいおい。それじゃあ意味ないじゃん。俺は自分の両親とか友達ににお別れをしたいんだよ」

 

平行世界の俺とか知らんがな。

要するに、現行世界じゃ俺ってば行方不明のままなんだろ?

 

 

「管理者権限を行使した」

 

管理者権限って、おい、まさか。

 

「貴方が消える瞬間に平行世界と貴方の現行世界とを融合させた。今、貴方が元の世界に戻ったら貴方という存在が二人いる事になる」

「・・・要するに俺が消えたなんて事にはならずに周りは平穏な生活を送っている訳だな」

「そうなる」

 

そっか。それなら、安心だな。

・・・理不尽だけど。理不尽だけども!

 

「要求は達成した。準備は・・・良い?」

「良・・・ちょっと待とうか。いきなりそっちの世界に飛んで俺はどうなる? 知人も衣食住も何もかもないんだろ?」

「ない」

「・・・断言するぐらいなら何かしらの温情を与えてくれ」

 

せめて最低限生活できる程度には。

 

「分かった」

 

すると突然俺の体が光り出す。

・・・お~い。俺の身体に何をした?

 

「貴方に管理者権限を行使した」

「えぇっと? 何をしたんだ?」

 

冷や汗が止まらない。

嫌な予感が止まらない。

 

「1、遺跡へのアクセス権。今の貴方ならCCがなくても飛べる。DFがなくても飛べる」

「人体実験されちゃうじゃん!? あ。逃げればいいのか」

「2、ナノマシンとの親和性の向上。今の貴方ならMCを超える」

「無視!? マイペースだな、おい。というか、余計だよ。その効果。ナノマシンとか怖すぎるし! MC以上とか絶対頭がパンクするし!」

「3、ナノマシンの注入。向上効果のあるナノマシンを全て注入した。今の貴方ならナノマシンの複数注入も耐えられる。危険なのも調整して注入したから大丈夫」

「・・・・・・・・・」

 

もう駄目だ。

俺の身体は人外になっちまった。

平穏な生活さようなら。

危険な生活いらっしゃい。

あぁ。涙が止まらない。

 

「4」

「まだあるのかよ!?」

 

もう勘弁してあげてください。

もとい、勘弁してください。

 

「遺跡の知識。必要な時、必要な知識を取り出せる」

 

ん?

それなら・・・。

 

「もしや、過去も未来も」

「過去も未来も平行世界も」

 

おぉ。

それなら・・・。

 

「楽が出来る。何か困ったら特許を取ろう。後はそのライセンスとかで金が儲かる。おぉ。ニート街道まっしぐらか?」

「・・・・・・」

 

無表情。

でも、あれって呆れられてる?

 

「・・・・・・・」

 

無言が痛いっす。

 

「それと貴方という要因が存在する以上、私の世界も平行世界になる。パラレルな世界に歴史の修正力は存在しない」

「大丈夫。大丈夫。俺は歴史に関与するような事はしないから。平穏にお気楽に過ごすんだい!」

 

蜥蜴戦争? 火星の後継者? 俺には関係ないさ。

あ、でも、人体実験は容認できないな。

必要悪だなんて言われても納得できないし。

俺にはあの人達の思想も考えも理解出来ない。

 

「会社を興しても良い。軍人になっても良い。平穏に生きても良い。じゃあ・・・送る」

「分かった。何だか色々とオマケしてもらったみたいで悪かったな」

「いい。こちらも悪かった。喧嘩両成敗」

「いや、それはちょっと違うような・・・」

「バイバイ」

「・・・最後の最後までマイペースだったな」

 

こうして、俺はこの世界から追い出された。

マエヤマ・コウキ。

十八歳の旅立ちだった。

 

「最後に一言。絶対貴方は巻き込まれる。それが運命。貴方の決して逃れられない運命」

「って、おい!?」

 

不吉な言葉をありがとう。

それでも、俺は平穏に生きてみせる!

 

 

 

 



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原作キャラとの邂逅

 

 

 

 

 

「・・・ここは?」

 

眼が覚めると緑豊かな空間にいました。

そして、隣には黒髪の青年。

おぉ、今をときめくアキト少年ではないですか。

という事はサセボシティって訳か。

それでアキト少年、いや、アキト青年か、が最初のボソンジャンプで降り立った時と場所だな。

 

「ん? 何かちょっと視線が高いような・・・」

 

おぉ。背が伸びてる。

えぇっとアキト青年って何センチだ?

多分170は超えてるだろう。

という事はそれよりチョイ高いから・・・。

もしや俺が理想とする178センチぐらいか。

うん。これからはそう主張しよう。

それにしても背が伸びるだなんて。

長年の夢が叶った。

なんて素晴らしいアフターサービス。

モテ顔じゃない事は諦めていたが、背は諦め切れなかったんだ。

何度牛乳を飲み、薬にまで手を出したのに、俺の身体は俺の要望に応えてくれなかった。

もしやあの薬が悪かったのか?

やはり広告を無条件で信じてはいけないのか?

まぁ、個人差がありますと書いてあるから俺には効果がなかっただけかも知れんが・・・。

 

「・・・まぁいいや。結果オーライ?」

 

と、落ち着いた所で・・・。

 

「・・・・・・」

 

アキト青年と知り合うとほぼ無条件で物語に参入だな。

すまないが、アキト青年。

サイゾウ氏が現れるまで耐え切ってくれ。

僕には出来る事がないんですよ。

 

「フフ~ン。ンンンン~ン」

 

お、この鼻歌。

サイゾウ氏の登場ですか。

分かります。

 

「・・・・・・」

 

服は・・・大丈夫だろ。ただの寝巻きだし。いや。普通じゃないけど寝巻きで出掛けるのとか別におかしくない筈。夜だし、時間帯的に。

顔は・・・調べる必要ないよな。

あ、でも、MCを超えたってか、MC化したって事は瞳が金色になったりとかは・・・。

ほっ。なってなかった。遺跡の仕事は素晴らしいな。

・・・湖で顔確認とかベタな事をしてしまって申し訳ない。

金は・・・やばい。この世界の金じゃない。

・・・とりあえず、日雇いバイトして、金を得よう。

そして、その金でどこかに泊まって、IFS対応の端末を探す。

その後は・・・。

 

「・・・俺は遂に犯罪行為に?」

 

どこかしらの裏金を取っちゃおうとか思ったんだけど、それって普通に犯罪だよな。

バレなっきゃいいんじゃん? とか開き直れないよ。

でも、衣食住全てが不足している現状、どうしようもないんだよな。

MC以上のナノマシン親和性があるといってもハッキングなんて慣れが必要だろうし。

体の中にあるナノマシンとかどれくらい恩恵があるんだろう?

色々と試さないといけないよな。

ん~~~どうするか?

 

「おい。兄ちゃん」

 

とりあえず普通のナノマシンとかよりは高性能だろうな。

本来は禁忌な複数注入もされているみたいだし、色々と効果はあるだろう。

 

「お~~~い」

 

身体は特に異常は・・・。

ま、強いて言うなら眼が良くなったのか?

俺って意外と眼悪かったしな。

という事は五感が強まっ―――。

 

「おい!」

「ッ!」

 

な、何だ!?

いきなり襲われたのか!?

 

「あ」

 

気付けば眼の前に鼻息の荒い中年がいました。

もとい、料理人、サイゾウ氏が。

 

「やっと気付いたな。まったく」

「すいません」

 

まったく気付きませんでした。

 

「んで、こいつは誰なんだ? 行き倒れか?」

「さぁ・・・」

「さぁっておいおい」

 

実際知らないしな。

設定以外は。

 

「俺も偶然彼を見付けたんですよ。それでどうしたのかなって近付いてみたんですが」

「この通り、倒れてたって事か。息はあるみたいだし、生きてんだろ」

「はい。助けようと思ったんですが、俺も一人旅みたいな事してるんで」

 

とりあえずでっち上げだ。

物語には介入したくないしな。

 

「そうか。そんなら、俺が面倒見るよ」

「えぇっと・・・良いんですか?」

「ああ。どうせ俺も一人暮らしだしな。ガキが一人増えた所で変わんねぇよ。それに、お前が気にする事でもないだろう?」

 

優し過ぎです。

サイゾウ氏。

 

「すいません。御願いします」

「だから、お前に御願いされるような事でもないっての」

 

苦笑されてしまった。

ちょっと人任せという事に罪悪感を覚えるが、今の俺にはどうしようもないしな。

 

「そんじゃあな。お前も一人旅だった、か。気を付けろよ」

「はい。ありがとうございます」

 

アキト青年を抱えて、店へと帰っていくサイゾウ氏。

 

「カッコイイな。俺もあんな大人になろう」

 

そう俺は心に誓った。

サイゾウ氏の器は半端なく大きい。

 

「さて、とりあえず日雇いのバイトを・・・あ」

 

忘れていた。

日雇いの仕事だからって俺自身だと証明できなければ働けないのでは?

そういう所で働いた事ないから分からんが。

そもそも俺って戸籍とかないよな?

や、やばい。

捏造しなければ!

・・・この時点で犯罪だよな。

あぁ。俺も遂に犯罪者か。

とりあえず、バレないように頑張ろう。

・・・さて、その前に・・・。

 

「すいませぇぇぇん! 御願いがぁぁぁ!」

 

サイゾウ氏にお金を借りよう。

 

 

 

 

 

「・・・ここでいいかな?」

 

どうにか、お金を借りられました。

すぐに返します。

本当です。

 

「この世界ってか、二百年ぐらい後の時代にもネットカフェってのはあるんだな」

 

眼の前のネットカフェに入って、早速戸籍の捏造だ。

 

「会員証を御願いします」

 

・・・そうだよね。まずは会員証だよな。

アハハ・・・自分を証明できるものなんて何一つ持ってない・・・。

か、会員証が作れないではないか!

 

「如何しました?」

 

どうする? どうするんだ? どうすんだよ? 

・・・どうしようもねぇぇぇ!

 

「いや。ちょっと会員証を忘れてしまいまして。また来ます」

「お、お客様?」

 

とりあえず店から出る。

 

「はぁ・・・」

 

前途多難だな。

甘く見ていた。

現実とはこれ程に厳しいのか・・・。

 

「ネットカフェも駄目か。どうすれば俺は電脳世界へと辿り着けるんだ?」

 

戸籍を作るにしろ、金を作るにしろ、まずはネットが繋げる環境がなければならん。

どうするべきか・・・。

 

「ねぇ」

 

ん? もしや声を掛けられている?

・・・そんなに今の俺は困っているように見えるのだろうか・・・。

えぇい! ままよ!

 

「はい。何でしょう?」

 

振り返る。

その先には・・・

 

「どうかしたの?」

 

若き日のハルカ・ミナトさんがいました。

うん。やばいね。巻き込まれる!

 

「い、いえ。何でもないですよ」

「そう? こんな所で立ち尽くしているから何かあったのかなって」

 

こんな所?

あぁ。そっか。ネットカフェの前で立ち尽くすとか意味わかんないもんな。

 

「ネットカフェで一夜を過ごそうと思ったんですけど、金もなくて、会員証も作れなくてですね。どうしようかなって途方に暮れていました」

 

これで通じるでしょ。真実っぽい嘘。

 

「あら。そんな事しちゃ駄目よ。ちゃんとした所で寝なくちゃ。そうね・・・いいわ。私の家に来なさい」

 

・・・ちょっと待とうか。

いくらなんでも無防備過ぎでしょ。

 

「いえいえ。女性が住んでいる家に行くなんて」

「あら。襲うつもりなの?」

「そ、そんな事」

 

あんまり免疫ないんだからからかわないでくれぇ。

 

「あら。真っ赤になっちゃって。ウフフ」

 

ウフフだなんて。

御姉様。余裕あり過ぎです。

 

「いいですよ。ご迷惑をおかけする訳にはいきませんから」

「いいのよ。私、こう見えても社長の秘書をやってて儲かっているの。少年一人ぐらいの面倒は見るぐらいの甲斐性はあるつもりよ」

 

甲斐性って。

俺ってばヒモですか?

 

「いえいえ。僕は―――」

「いいから、いらっしゃい。すぐ近くだから。ほら、あのマンションよ」

 

・・・強引に連れて行かれました。

女性はどんな世界でも、どんな時代でも強過ぎる生き物です。

僕は一生敵わないでしょう。

 

 

 

 

 

「へぇ。一人旅していたの?」

「えぇ。と言っても、始めたばかりですけどね」

 

はい。一生懸命、誤魔化し続けています。

でも、バレるのも時間の問題でしょう。

だって・・・。

 

「ふ~ん」

 

ニヤニヤ笑顔が止まらないんですもの。

もちろん、ミナトさんの。

 

「信じていませんね?」

「あら。そんな事ないわよ」

 

この人、鋭そうだしな。

 

「学校はどうしたの?」

「中退です。やりたい事が見付かったので」

「それが一人旅?」

「ええ、まぁ。そんな所です」

「ふ~ん」

 

妖しい笑顔です。

いえ、怪しんでいる笑顔です。

眼が笑ってない。

 

「そう。これからはどうするの?」

「とりあえず旅を―――」

「お金もないのに?」

「そ、それは・・・」

 

それは言わないお約束って奴ですよ。

 

「そうね。じゃあ。バイト、してみない?」

「バイト・・・ですか?」

「ええ。うちの会社でちょっとさ」

「えぇっと、職権乱用ですか?」

「コラッ」

「イタッ」

 

拳骨なんて何年ぶりだろ。

頭が痛い。

 

「折角気を遣ってあげてるんだから。年上のお姉さんの言葉には従うものよ」

「えぇっと、それじゃあ、御願いしてもいいですか? でも、俺って何の取り得もありませんよ」

「あら。その手は飾り物?」

 

手?

あ。忘れてた。

 

「・・・IFS」

「そうよ。地球ではパイロットの人ぐらいしか持ってないけど、火星では殆どの事をIFSでやっているんでしょ。それって便利だからよね?」

「そうですけど、良いんですか? 地球の人はIFSに拒絶反応を起こすって聞きましたが・・・」

「という事はやっぱり貴方は火星出身なのね」

「あ」

 

別に隠していたわけじゃないけど、やっぱり鋭いな。

地球出身で通すつもりだったのに。

ま、火星出身という訳でもないけど。

 

「え~っとですね。地球生まれの火星育ちです。最近、また地球に帰ってきたんですが」

「そうなんだ。それでIFSを持っているのね。事務処理とかは出来るのかしら?」

「IFS用の端子さえあれば可能だと思いますよ。書類を整理するぐらいだと思いますけど」

 

・・・別に無いわけじゃないよな? IFS用の端末。

パイロットのみって聞いていたけど、社会で利用できない訳じゃないんだし。

 

「そう。書類整理か・・・。うん。じゃあ、御願いしようかしら」

「良いんですか? 機密事項とかあるのでは?」

「大丈夫よ。そういうのは除外するから」

「そうですか。それなら、御願いしますね」

「はい。お任せあれ」

 

ニッコリ笑うミナトさん。

やっぱり年上の女性って素敵だな。

 

「それじゃあ、もう遅いから寝ようか?」

「はい。えぇっと、ソファを貸してもらえますか?」

「え? 何を言ってるのよ。いらっしゃい」

「え? え?」

「一緒に寝ましょう」

「えぇ? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんな一緒になんて。無理です。絶対に無理です。・・・あ」

 

気付いたよ。

気付いちゃったよ。

笑っていますよ、この人。

 

「・・・またからかったんですね」

「ほら、コウキ君ってからかい甲斐があるじゃない」

「あるじゃない? とか当事者の俺に聞かないでくださいよ」

「ウフフ。面白い子ね。大丈夫よ。布団、出してあげるから」

「すいません。何から何まで」

「いいのよ。コウキ君って良い子だし」

 

えぇっと、良い子って言われてもな。

 

「ありがとう?ございます」

 

なんて返していいか分からなくて変な返事になってしまった。

 

「本当におかしい子」

 

案の定、笑われてしまいましたとさ。

その後、ミナトさんから布団を借りて、リビングの方で寝させてもらった。

同室でどう? なんてからかわれたけど、俺だっていじられよりいじりを得意としていた男。

見事、迎撃・・・出来ませんでした。

真っ赤になって一発KOです。

やっぱり免疫ないのって辛いな。

だって、すぐ近くでミナトさんが寝てると思うだけで動悸が・・・。

 

「ふぅ・・・」

 

リラックスだ。

うん。これからの事を考えよう。

 

「どうするかな?」

 

アキト青年から逃げたのはいいが、見事なまでに原作キャラに関わっちまった。

ハルカ・ミナトさん。

ナデシコの操舵手。数多の資格を持つ才女であり、ルリ嬢の姉貴分。

などなどメイン中のメインキャラ。

このままだと確実に巻き込まれるだろうな。

でも、都合良くIFS対応の端末を手に入れられそうだし、恩を仇に返すような真似はしたくないしな。

それはもう莫大な恩を感じていますとも。

食事を用意してもらって、寝床を用意してもらって、挙句の果てには仕事まで。

本当にもうお世話になりっぱなしで、頭が上がりません。

せめて、この恩を返してから去らないとな。

とりあえず、明日からの行動方針。

まずは戸籍を手に入れる。捏造? 構いやしないっての。死活問題だ。

次に裏金を入手。これはまぁ、最終手段だな。まずは自分の手で金を稼ぐ。

楽しちゃ良い大人になれんよ。・・・ニート志望ですが何か?

特許でも手に入れるか? 一つぐらいあった方が後々も動きやすいよな。

その金で衣食住を確保しよう。まずはそこからだ。

いつまでもミナトさんにお世話になる訳にはいけないしな。

よし。この方針でいこう。頑張れ。俺。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「ふぅ」

 

ベッドに横たわって一息つく。

 

「面白い子」

 

偶然、見つけた若い男の子。

まだまだ大人の魅力とかは感じないけど、とっても良い子みたい。

IFSを付けていたから軍人かなとも思ったけど、そんな雰囲気でもなかったし。

 

「それにしても・・・」

 

一人旅なんて嘘ついて何しているのかしら?

悪い子じゃないと思うから、変な事ではないと思うけど。

それに、どことなく戸惑っているみたいな、そんな感じもあったわ。

家電とかちゃんと使えてなかったし。

間違いなく生活レベルが違ったのよね。

 

「本当に不思議な子」

 

何か黄昏ている姿が捨て猫みたいに見えたから拾ってきちゃったけど。

 

「楽しみね」

 

これからの生活がちょっと楽しみでもあるの。

男の子って日々成長するって感じで見ていて楽しいのよ。

それにいじり甲斐もあるし。

ウフフ。こんなに楽しいのはいつ振りかしら。

 

「おやすみなさい。コウキ君」

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

ミナトさん先導のもと、ミナトさんが社長秘書を務める会社へと出向く。

 

「おはようございます」

「うん。おはよう」

「え~と、その方は?」

 

受け付けの人が訝しげに見詰めてくる。

ま、当然だよな。私服だし。

ちなみにミナトさんの持ち物です。

何故、貴方が男物を持っているのですか?

・・・訊いてもはぐらかされるんだろうなぁ。

 

「アルバイトよ」

「アルバイト・・・ですか?」

「ええ。私が身元保証人になるから、あれ、頂戴」

 

あれと言われて持ってきたのは社員証。

そうだよな。これがなっきゃ会社に入れないし。

 

「はい。これ。失くしちゃ駄目よ」

「ありがとうご―――」

「ほらほら。しゃがんで」

 

お礼を遮って告げられる言葉。

 

「えぇっと。ミナトさん」

「ん? 何よ。早くしゃがんで」

「あのですね。自分で付けますから」

「駄目よ。しゃがみなさい」

「クスッ」

 

笑ってないで助けてくださいよ。

受付嬢さん。

 

「ほら。早くしなさい」

「・・・・・・」

 

とりあえず、無言でしゃがんでみました。

 

「ん~。ちょうど良いわね。この身長差」

「・・・・・・」

「あら。真っ赤」

 

駄目だ。本当に敵わない。

 

「ハルカさん。苛め過ぎですよ」

「笑って言ったって説得力ないわよ」

 

その通りです。受付嬢さん。

 

「クスッ。すいません」

 

だから、笑わないで下さいよ。あぁ。背中に嫌な汗が・・・。

 

「じゃあ、いきましょうか」

「はい。分かりました」

 

とりあえず、付いていく。

 

「それじゃあ、コウキ君。これを使って」

 

連れてこられた秘書課。やっぱり周りは女性社員ばかりだ。

・・・苛めですか。ミナトさん。

 

「ハルカさん。彼は?」

「アルバイトよ。遊んであげて」

「はぁ~い」

 

ミナトさん!

分かりますか? 

この女性に囲まれた環境が如何に肩身が狭いのかを。

 

「ウフフ。ハーレムね」

 

いじられハーレムなんて嫌じゃ。

 

「じゃ、後で仕事を持ってくるから、それまでは扱いに慣れておいて」

 

立ち去っていくミナトさん。

一人にされるなんて。心細い。

 

「とりあえず」

 

コンソールに両手を置く。

あ、やばい。忘れていた。

MC以上のナノマシン親和性で、数倍のナノマシン濃度を持つ俺だ。

ルリ嬢やラピス嬢がコンソールに触れただけでかなり輝くのだ。当然、俺が触れたら・・・。

 

「・・・全身が光っているわ」

 

こうなるわな。

もう眩しいぐらいに輝いています。

でも、俺はルリ嬢やラピス嬢みたいに容姿は整ってないからな。

綺麗とは言われないさ。

 

「えっと・・・」

 

恐る恐る後ろを見る。

すると・・・。

 

「・・・・・・」

 

あ、良かった。呆然としていらっしゃる。

避難、避難っと。

 

「ちょっとトイレに行って来ます」

 

サッと逃げ出す。後ろから呼ばれたような気もするが気にしてはいけない。

 

「どうするか?」

 

ナノマシンの扱いに慣れれば光らないようになるだろう。きっと。

というか、それ以外に考え付かない。

 

「じゃあ、戻りますか」

 

そ~っと。そ~っと。

 

「あ、帰って来ましたよ」

「行くわよ」

「はい!」

 

・・・速攻でバレました。

現在、尋問中です。

 

「さっきのは一体何なの?」

「嫌がらないでくださいね。コンソールを見れば分かると思いますが、俺はIFSを持っています」

「うんうん。それで?」

「あれ? 嫌がらないんですか?」

「そんな事はどうでもいいの。さっきの説明をしてちょうだい」

「あれはIFSの制御ミスとでも思ってください。久しぶりだったので」

 

実際、俺には何でそうなるか分からん。

制御に慣れれば、抑えられるようになると思うけど。

 

「へぇ。IFSってあんな反応するんだ」

「知らなかったわね」

「そうよね」

 

・・・冷や汗が止まらない。

気付けば女性に囲まれていました。

こんなに女性に囲まれたのは生まれて初めてです。

 

「あら。いつの間にこんなハーレムを築いていたの? コウキ君」

「あ。ミナトさん」

 

正直、助かりました。

これで解放されます。

 

「どう? 扱えそう?」

 

あ。試してなかった。

 

「ちょっと待ってくださいね」

 

コンソールに手を置く。

今度は輝かないように注意して・・・。

 

「あら。綺麗ね」

 

無理でした。初めてだからしょうがないさ。

 

「・・・これは・・・」

 

手が端末となってまるで映像化のように脳へと伝わってくる情報。

それが補助脳で整理され、欲しい情報として確立される。

今までに味わった事のない感触、というか、イメージがフィードバックするってこういう事なのか。

是非ともIFS対応の車とか乗ってみたいな。

 

「・・・え~と」

 

頭の中に映像として残る情報をそのまま頭の中で整理する。

ファイルとして残るデータを右にずらそうと意識すれば右にずれるし、フォルダに保存したい時はそうやってイメージすれば良い。

プログラミングだってイメージすれば勝手に構築されていく。

なんて、なんて素晴らしいんだ、IFS。これがあれば現代社会―この時代からするともう200年近く前だけど―でも苦労せずに生きていけるぞ。

 

「どう? 大丈夫そう」

「ええ。何とか出来そうです」

「無理しちゃ駄目よ」

「はい。ありがとうございます」

 

初心者なりに頑張れそうだな。

今は慣れる事を優先しよう。

その後に戸籍を捏造してやる。

 

「じゃあ、これ御願いできる」

 

渡されたのは山のように積まれた書類。

何だろう? これ。

 

「数値とか内容とかで間違いがないか確認して。それと内容別とか、種類別とかで分別できるようにまとめて整理してもらえるかしら」

 

以前だったら面倒だと思っていた仕事。

でも、今なら、そういう事も体験してみたいと思った。

 

「分かりました。お任せ下さい」

「はい。お任せしちゃうわ。休憩は自由に取っていいから。御願いね」

 

また立ち去っていくミナトさん。

きっと忙しいんだろうな。

 

「さて、やりますか」

 

パ~ッと済ませて、目的を果たさなければ。

 

「はい。お茶」

「あ、ありがとうございます」

「頑張ってね」

 

美人の微笑みは癒されるねぇ。

頑張ろうって気にさせるよ。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

駄目だ。

効率が悪い。

というより、俺の反応に付いてこれていないようだ。

 

「どうかしたの? 難しい顔して」

「あ。ミナトさん。お疲れ様です」

「そちらこそお疲れ様。それで、どうかした?」

 

結構な頻度で顔を出してもらっているけど、社長の方は大丈夫なのかな?

・・・きっと気を遣ってもらっているんだろうな。

 

「いえ。効率が悪くて、ですね」

「効率が悪い? えっと、全然終わらないの?」

「あ、いえ。そんな事はないです。もう終わりますよ」

「えぇ!? もう!?」

 

驚いて顔を近づけてくるミナトさん。

 

「近いです。近いですってば」

「あ、ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃって」

「どうかしたんですか?」

 

興奮って。ドキッとしちゃったじゃん。

 

「普通は半日ぐらい掛けて終わらせる仕事だもの。数人掛かりで」

 

・・・やばい。あんまり仕事とかした事ないから一般基準を知らなかった。

これってそんなに大変な仕事だったのか?

 

「あんまり急ぎじゃなかったから慣れるつもりでやってもらったのに。僅か一時間足らずで終わらせてしまうなんて。社長にIFSを提案しようかしら」

「えぇっと、俺の奴が特別性なだけですよ。普通のだったら・・・」

 

どれくらいだろう? 基準が分からん。

 

「へぇ。コウキ君のは特別性なんだ。凄いのね」

「俺じゃなく俺のナノマシンが凄いだけです」

 

ん~とかニヤニヤしながら近付かないで下さい。

 

「アルバイト君は正式採用ね。仕事がはかどって助かるわ」

「あ、そうですか。お世話になります」

 

とりあえず稼げるだけ稼ぐか。

IFSの取り扱いの練習にもなるし。

 

「あ、そうだ。こいついじくってもいいですか?」

 

俺が現在扱っている端末に手を置きながら訊いてみた。

これじゃあ効率が悪過ぎて使い物にならない。

 

「いじくるって? どういう事?」

「効率が悪いんでね。ちょっと使いやすいように改良しようかと」

「そ、そう。壊さないでね」

「大丈夫ですよ。ま、任せてください」

「わ、分かったわ。じゃ、またね」

 

冷や汗を掻きながら去っていくミナトさん。

どうかしたのかな?

 

「・・・あれって最近入荷したばかりの最新OSなのに。それを改良するって・・・」

 

との呟きを残されていきました。

し、しまったぁぁぁ!

墓穴を掘ってしまった!

 

「・・・ま、いいか。むしろ、最新OSを特許に・・・」

 

ニヤリと笑う。

意外と良い手かもしれん。

 

「じゃあ、早速」

 

残った仕事を片付けて、OSの改良に移る。

 

「う~ん。どうすっかな」

 

OSの改良案が思い浮かばない。

とりあえず、分かっている事は俺のナノマシンの機能に対してこいつが対応し切れていないって事だよな。

まぁ、オモイカネ級の機能がなければMCも必要ないとかいう話も聞いた事あるし、オモイカネ級の簡易版でも開発しましょうか。

ってな訳で・・・。

 

「・・・アクセス」

 

遺跡へのアクセス権を行使。

既存の情報を入手。必要な設定をインストール。補助脳を介して手先の端末へ。

パーーーっと全身を光らせ、莫大な量の情報を補助脳で整理し、コンソールを通して具現化させる。

映像を文字化。文字をプログラム化。情報を整理し、情報を具現化し、情報を形にする。

 

「ふぅ・・・」

 

な、何だ? こりゃ。

頭が潰れるっての。

遺跡へのアクセスとか今後覚悟がいるぞ。

 

「・・・でも、ま、後はこれをチョチョイといじくって」

 

現状では高機能過ぎる。十年後ぐらいのOSを参考にしちまったからな。

これをかなり劣化させて一、二年後ぐらいには実現出来そうなOSにしよう。

今更ながら、何でもありだな。俺の身体ってか、遺跡。

過去、未来、平行世界の知識とか。半端じゃないっす。

 

「今度は何をしたの? はい。お茶の御代わり」

「あ、どうも。すいません。ちょっと改良してました」

 

さっきお茶をくれた人がまたお茶を持ってきてくれた。

あ~。前からお茶は好きだったが、更に好きになりそうだ。

 

「改良って?」

「OSのです。趣味なんですよね。プログラミングとか情報関係とか」

 

嘘です。

そんな趣味ありません。

遺跡の恩恵です。

 

「へぇ。凄いのね。このOSって最近発売されたばかりよ」

「そうみたいですね。でも、発売されてないだけでもっと高度なOSは幾らでもありますよ。実用化が難しくて調整しているのとか」

 

実際は知らないけど、それぐらいありそうだよな。

表に出てないけど高度な技術とか。

 

「そうなんだ。じゃあさ、今のより凄いのが出来たら私の方にもインストールしてみてよ」

「はい。いいですよ。是非とも試してみてください。感想を聞いてみたいですし」

 

多分大丈夫だとは思うけど、実際に意見を聞いてみたいしな。

 

「言ったなぁ。私って辛口よ。このOSだってイマイチだって思ってた所だもの」

「大丈夫です。任せてください」

 

・・・もうちょっとだけ高度にしようかな。

 

「どれくらいで出来そう?」

「色々と調整したいですから。結構時間掛かりますよ」

「大丈夫よ。開発なんて年単位でしょ。気にしてないわ」

「えぇっと。後一週間程で大丈夫なんですが・・・」

 

だって、面倒だから遺跡からそのままデータ貰っちゃったし。

 

「・・・・・・」

 

呆然とするお茶のお姉さん。

そうだよな。普通じゃないもんな。一応、言い訳しておこうか。

 

「前々から研究していましたから」

「そ、そうよね。そうじゃないと」

 

な、何だ・・・と呟く。

・・・ちょっと罪悪感が。

 

「ま、まぁ、完成したらすぐにお知らせしますよ」

「そっか。うん。よろしくね」

 

ニッコリ笑って去っていくお茶のお姉さん。

さて、少しだけ高度にして、汎用性を高めて、一般向けにしましょうか。

 

 

 

 

「お疲れ様」

「お疲れ様です。ミナトさん」

 

ん・・・。

随分と入れ込んじまったな。

まさか、この作業がこんなに楽しいとは。

 

「今何時ですか?」

「・・・呆れた。時間も確認してないの? もう定時過ぎてるのよ」

「げ!? もう七時じゃないですか!?」

「そうよ。周りだってちらほらと帰ってるでしょ?」

「あ。本当だ」

 

辺りを見回すと何人かいなかった。

何人かの残っている人達は今でも真剣に作業している。

 

「じゃあ、帰りましょう。何が食べたい?」

「えぇっと。そうですね。お任せします」

「もぉ。お任せが一番困るのよ。そうね。じゃあ―――」

「ハ、ハルカさん。ど、同棲しているんですか!?」

 

声が聞こえていたんだろうな。騒ぎ出す秘書課の皆さん。

・・・俺は見ましたよ。今、貴方の顔がニヤリと笑ったのを。

 

「・・・ミナトさん。またからかうつもりですか? 他の人まで巻き込んで」

「さぁね。あ、ちょっと用があったわ。先に玄関に行ってて」

「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ミナトさん。ミナトさぁぁぁん」

 

それから質問攻めを受けました。

終わった頃にはもう精神的にボロボロでした。

あぁ。やっぱり女性は強いです。僕では一生敵いそうにありません。

 

 

 

 

 

「あら。女性に囲まれていたのに元気ないわね。貴方ぐらいの年頃の男の子だったら飛び上がらんばかりに喜ぶんじゃないの?」

「・・・誰かさんが爆弾を落としていきましたから。その処理で大変だったんですよ」

「へぇ。大変だったのね」

 

貴方ですよ。ミナトさん。

 

「それじゃあ、買い物に行きましょうか。貴方のスーツとかも買わないとね」

「え? い、いいですよ。そんな」

「いいの。いいの。いつまでも私服で会社なんてまずいでしょ? スーツでバッチリ決めちゃいなさい」

 

決めちゃなさいって。

 

「でも、もう時間も遅いですし」

「大丈夫。昼頃に知り合いに電話しておいてから。今からでも充分間に合うわ」

「そ、そうですか」

 

準備がよろしい事で。

 

「じゃあ、御願いしてもいいですか? 稼いだら返しますんで」

「ふむふむ。君も男の子だね」

「もちろん。男の子です」

 

顔を見合わせて笑う。

本当に頼りになる、というか、心強い姉貴分だな。

ルリ嬢が慕ったのが良く分かる。

 

「ほら。ボ~っとしてないで。行くわよ」

「あ、はい。今行きます」

 

それから、スーツとか買って、食材を買って、家に帰宅した。

また悶々とした夜を過ごしたのは俺だけの秘密だ。

 

 

 

 

翌朝、買ってもらったスーツに身を包む。

 

「昨日も見たけど、結構似合っているじゃない。男前よ」

「あ、ありがとうございます」

 

美人さんに男前だなんて言われると照れるな。

 

「ほら。照れてないで行くわよ。今日も忙しいんだから」

「あ、はい」

 

昨日と同じ道を通って、昨日と同じように会社へと出社した。

 

「おはようございます」

「あ、おはようございます。ハルカさん。マエヤマ君」

 

挨拶してくれる秘書課の皆さん。

嬉しいんだけど、女性ばっかりでやっぱり肩身が狭い。

 

「じゃあ、また仕事持ってくるから、ちょっと待っていてね」

 

さてっと、今日はIFSの扱いにも慣れてきたし、ちょっとしたハッキングの練習でもしようかな。

まだ、戸籍の捏造とかは無理でしょ。技量的に。

 

「ふぅ・・・」

 

深呼吸して、コンソールに手を置く。

今日も忙しい一日が始まるぞ。

 

 

 

 

 



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抱え込んでいるもの

 

 

 

 

 

あれから一週間が経った。

ハッキングも練習を重ねて大分出来るようになってきたし、そろそろ捏造作業に移ろうかと思う。

OSの開発も特許取得の為に戸籍が必要だし、これが最優先だな。

 

「えぇっと・・・これをああして、これがこうなって・・・」

 

・・・意外と簡単に出来ました。

 

「やっぱり凄いな」

 

遺跡からハッキングの方法を習得し、その通りやればあっという間。

今までの練習って何だったんだろう?

 

「とりあえず地球生まれ。幼少の頃に火星へ引っ越して数年を過ごす。両親は交通事故で共に死去。それを機に地球に戻る。現在は親の遺産で一人暮らし。こんなもんかな」

 

うん。後は穴ができないように細かい設定を考えないとな。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「あ、コウキ君。ちょっといいかな」

 

一生懸命作業中のコウキ君には悪いけど、そろそろコウキ君の身の上を知っておかなくちゃ。

一週間経って、変だけど良い子だって改めて実感したし、何かあるのなら助けてあげたいしね。

 

「はい。何ですか?」

 

振り返って私を見詰めてくる瞳と朗らかな顔。

絶世の美男とか、そんな風には思えない顔だけど良く見れば割とカッコいいんじゃないかしら。

まぁ、中の上とか上の下とか、それぐらいのレベル。

スーツ着て、真剣に仕事をしている姿は大人っぽくて素敵だと思うわよ。

まだまだ子供だけどね。

 

「舌だして」

「え? えぇ!?」

 

あ、動揺しているわ。

これはいじくりのチャンス。ニヤッ。

 

「ほ~ら。いいから。舌を出して。ほ~ら」

「えぇ~っと。その。あのですね」

 

良いわね。このギャップ。

可愛らしい反応よ。

グイッと顔を近付けて。

 

「眼を閉じて。私に任せて」

「あ、はい」

 

ギュッと眼を瞑って舌を少しだけ出してくる。

もう既に顔を真っ赤。割とモテると思うのだけど、女の子への耐性がないのかしら?

ま、私としては初心な方がいじくり甲斐があって楽しいけど。

 

「はい。チクッと」

「え? チクッ? イテッ」

「うん。ありがとね」

 

呆然と私を見詰めてくるコウキ君。

そして、すぐに落ち込む。

 

「ま、またからかわれた」

 

そういう反応がまたからかってやろうと思わせるのよ。

 

「何をしたんですか?」

「あ。これよ。DNAチェック」

「げ!? ・・・大丈夫だよな」

 

冷や汗を掻いて呟くコウキ君。

どうかしたのかしら?

ま、いいわ。

 

「えぇっと。マエヤマ・コウキ。十八才。父は」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

・・・両親がいない・・・か。

悪い事しちゃったかな。

 

「どうかしました?」

「えっと。ごめんなさいね。こんな事しちゃって」

 

罪悪感が浮かんできたわ。

他人のプライベートに勝手に踏み込んで。

 

「あ、気にしないで下さい。本当だったら会った日にやられていてもおかしくなかったんです。それをずっと甘えさせてもらっていて」

「えぇっと。怒ってないの?」

「え? 怒るだなんて。ミナトさんにはお世話になりっぱなしですし。こんな怪しい奴の面倒を見てくれていたんです。感謝していますよ」

 

そう言って満面の笑みを浮かべるコウキ君。

・・・不覚だわ。年下の笑顔にドキッとするなんて。

 

「そ、そう。何か困ったらいつでも言いなさいね。コウキ君は私にとって弟みたいなものなんだから」

「ありがとうございます。ミナトさんみたいなお姉さんがいたら弟は幸せでしょうね」

「も、もう。褒めたって何も出ないぞ」

「ハハハ。初めて勝った気がしますよ」

 

もう。まいったわね。私のペースが崩されたわ。

 

「でも、本音ですからね。ミナトさんみたいに包容力がある人は中々いませんから。頼りにさせてくださいね。姉さん」

「任されました。弟君」

 

あ、眼が点。

弟君ってのが予想外だったのかしら?

これはからかいのチャンス。

 

「ほら。お姉さんに甘えていいのよ」

 

手を広げてそう言ってみる。

すると・・・。

 

「・・・・・・」

 

案の定、真っ赤になっている。

うん。まだまだコウキ君には負けないわね。

 

「じゃあ、姉さんは行くから。頑張るのよ。弟君」

 

ウフフ。本当に楽しい。

ちょっと悪い事したけど、コウキ君の素敵な一面も見られたし。

良かったかな?

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ」

 

去っていくミナトさんを見送る。

ミナトさんが部屋から出て行って、漸く俺は安堵の息が吐けた。

 

「ギリギリだった。後少し遅れていたらノーデータとか表示されていたかもしれない」

 

戸籍の捏造。

ミナトさんに声を掛けられると同時に終了した。

良かった。穴はなかったみたいだ。

正直、焦ったぜ。

バレたらどうなるか分からないし。

 

「それにしても・・・姉さん・・・か」

 

あんまり原作キャラと関わらないようにしようと思っていたけど、駄目みたいだ。

ミナトさんだけナデシコに乗せるのが許せない気がする。

何だろう? これが男の甲斐性って奴かな?

仮にも姉さんって思った人だ。役に立てるならミナトさんを助けようかな。

あぁ。でも、ナデシコと関わると俺の平穏な生活が・・・。

何て、何て究極な選択なんだ。俺はノンノンとのんびり過ごす事を目的としていたのに。

これが遺跡の言う逃れられない運命って奴なのかな。

・・・ま、一年後の話だ。ゆっくり考えよう。

 

 

 

 

 

「どうですか?」

「いいわ。とっても良い。使いやすいし、機能性も抜群だし。貴方って天才?」

 

まぁ、俺が組み立てた訳じゃないので何とも。

 

「どうでしょう? これで特許とか取れますかね?」

「いけるんじゃないかしら。特許とかに詳しくないけど。こんなに高機能ならバカ売れよ」

 

テンション高いなぁ。お茶のお姉さん。

でも、お茶のお姉さんから高評価も得たし、自分自身も中々に使いやすかったし、こんなもんかな。

 

「んじゃ、これで特許を取りにいきます。登録とかってネットから出来ましたっけ?」

「ええ。それぐらいは知ってるわ。教えてあげる」

 

お世話になります。お茶のお姉さん。

 

 

こうして、俺はこの世界で漸く生きていけるだけの道を拓いた。

後で・・・。

 

「有名になったら駄目駄目じゃん。バカか俺は」

 

と落ち込んだのは俺だけの秘密だ。

あ、後、慰めてくれたミナトさんだけの秘密だ。

 

 

 

 

 

「天才プログラマー・・・ね」

 

こんな渾名が付いてしまった。

俺はデータをロードして貼り付けただけなのに。

何だか、色々と申し訳ないっす。

 

「お陰で助かっているわ。コウキ君のOSってかなり高価なんだけど。私達だけ無料でインストールさせてもらっちゃって」

「お世話になりましたからね。ミナトさんには。それに皆さんにも」

 

当然の事をしたまでですよ。

まだまだ恩を返すには足りないぐらいですから。

 

「それにしても随分と儲かっているみたいね」

「ええ。俺みたいな一般市民には扱い方に困る大金ですよ。どうしましょう?」

 

特許料とかライセンス料とか、そんなんで気付けば僕も億万長者。

僕、改め、俺にはどう使っていいか分からんぐらいの金だ。

パ~~~っと使ってもいいけど、そういう高級な店は恐れ多いし、緊張して楽しめなさそうだしね。

一人暮らししてもいいけど、ミナトさんに迷惑じゃなければ、あそこに居付きたいな。

あそこってかなり居心地が良くて。もちろん、ミナトさんが迷惑してなければだけど。

 

「ウフフ。宝くじでも当たった気分かしら?」

「そうですね。特に欲しいものもありませんし。あ、そうだ。皆さんでお食事なんてどうですか? ・・・な~んて」

 

流石に女性を誘うのは緊張するな。

思わず誤魔化してしまった。

 

「あら。エスコートしてくれるの?」

「そ、そんな事は無理ですよ。軽いお食事でもどうですかっていう話です。俺にはそんな甲斐性ないですから」

「・・・自分で言っていて悲しくない?」

「・・・少し」

 

しょうがいないよな。俺って一般人だし。

 

「皆さんにはお世話になりっぱなしですから。どうですか?」

 

秘書課の皆さんに提案してみる。

 

「嬉しいけど、いいのかしら?」

「そうよね。コウキ君に奢らせるってのはちょっと」

 

う~ん。乗り気じゃないのか? 

残念だな。

 

「コウキ君」

「あ、はい」

 

口を近づけてくるので多分コソコソ話って奴だな。

 

「皆貴方が年下だからって気を遣っているのよ。嫌がっているとかそういうわけじゃないわ」

「あ。そういう事ですか」

 

納得。でも、日頃のお礼を返すだけだし。

 

「大丈夫ですよ。特別ボーナスが出たと思ってください。皆さんに意見を聞いて完成したようなものですから」

 

お茶のお姉さんだけじゃなくて色々な人に評価してもらった結果、出来上がったんだ。

むしろ、奢らせて欲しい。

 

「そう。それなら御願いしようかしら」

「じゃあ、私も」

 

次々と承知してくれる秘書課の皆さん。

うん。良かった。これで恩が返せる。

 

「それにしても、大胆ね。コウキ君」

「えぇっと、何がですか?」

「一対多数よ? 男性対女性で」

「・・・・・・」

「ん?」

「・・・あぁ!」

 

お、俺は調子に乗って何を言っているんだ。

一対一でも緊張するのに、俺だけ男の一対多数なんて。

緊張で溺死する。

 

「ミ、ミナトさん。フォロー御願いします」

「ん~。どうしようかしら」

 

ニヤニヤ。ニヤニヤ。

くぅ~~~。ニヤニヤしないで、助けてくださいよ。

御願いしますから。

 

「・・・今度、何か奢りますから」

「ふ~ん。何を奢ってくれるの?」

「えぇ~と」

 

バック・・・はもう持っているよな。

口紅・・・俺のセンスじゃ無理。

アクセサリ・・・無難か?

ピアスとかネックレスとか。

あ、腕時計もいいな。

 

「イヤリングとかネックレスとか、腕時計とか何でも」

「へぇ。その中で何を贈ってくれるの?」

 

まだ苛めますか!?

 

「・・・そうですね。イヤリング・・・とか、どうですか?」

「そうね。私に似合うのは選んできてね」

「え? 一緒に来てくれないんですか?」

「コウキ君。男の甲斐性はプレゼントにあるのよ。自分で選んで私を喜ばしてごらん」

「わ、わかりました」

「期待しているわね」

「む、無論です。期待していてください」

「ウフフ。じゃあ、契約成立ね。フォローは任せなさい」

 

笑いながら自分の席へと戻っていくミナトさん。

うん。ミナトさんに任せれば万事解決だ。

・・・お店とかどうしよう。

うん。ミナトさんに相談しよう。女性の感性は女性に聞けって奴だな。

よし。それじゃあ、その法則でイヤリングも他の秘書課の皆さんにこっそり訊いてみようかな。

それで万事解決だ。うん。そうしよう。

 

 

後日、きちんと贈らせて頂きました。

毎日のように付けてもらってプレゼントした側としても喜ばしい限りです。

 

 

 

 

 

「明日は休みだから。偶には遊んできなさい」

 

という事で街へとやって来た。

アルバイトと言えど社会人。色々と忙しかった訳ですよ。

いや。社会人。甘く見ていました!

 

「ふぅ。遊ぶぞぉ!」

 

漸く、漸く心の底から楽しめる。

余計な事は全て棚に上げて、今日はひたすら遊び尽くしてやる。

 

 

・・・そう思っていた時期が僕にもありました。

 

「私、こういう者です」

「プロスペクター氏ですか」

 

事の始まりは至極単純。

ネルガルプロデュースのシューティングアクションゲーム。

エステバリスVS地球連合軍。

・・・この時期からエステバリスってあったんだね。知らなかったよ。

原作を知る身としては、興味を惹かれて思わずやってしまった訳だ。

それで一般用とIFS用があったから、まぁ原作を味わうならという訳でIFS用を選択した。

・・・それがミスだったんだよね。

これってゴキブリホイ②みたいなものだったらしくて、テストパイロットを確保する為、常に監視されていたらしい。

この時ほど、この身体を恨んだ時はない。

高性能IFSだし、昔からこういうゲームに眼がなかった俺は相当に力を発揮した訳だ。

それで一位のスコアを抜いてトップスコアを叩き出した。

いやぁ。中々楽しかったなとゲームのカプセルから抜け出すと・・・。

 

「お待ちしておりました」

 

既に囲まれていました。

ちょっと待とうよ。在り得ないでしょ。

そして、現在に到るという訳です。

 

「どうでしょう。我がネルガルで働いてみませんか? 今なら・・・」

 

・・・この人、高速でソロバンを取り出して、高速で弾き始めましたよ。

ナノマシンで視力強化されているから見えるけど、他の人からは危ないオジサンとしか映らないだろうな。

だって、パッと見、ひたすらソロバンを弾いているようにしか見えないし。

ってか、電卓でいいじゃん。

 

「これぐらいの給与は出しますよ」

 

あ、見せるのは電卓なんだ。不思議な人だね。プロスさんって。

えぇっと、金額は・・・0が1、2、3、4、5、6・・・。

 

「これって・・・」

「貴方にはそれ程の価値があるという訳です。はい」

 

在り得ないでしょ。この金額。

プロスペクターさん。

いや。ここはプロスさんと呼ばせていただきましょう。

 

「プロスさん。貴方はアルバイト人を馬鹿にしています」

「は?」

「俺程度にこんなに払うのならもっと社員を雇ってあげてください」

 

就職難の時代を生きてきた僕ですよ。

俺としては大学生が不憫で不憫で。

 

「あの・・・」

「あ。すいません」

 

まさか、汗も掻いてないのにハンカチというプロスさんの特技?を見る事が出来るとは。

 

「すいませんが、俺、いえ、僕は既に雇われの身でして。残念ですが・・・」

「この金額では満足できませんか?」

 

それはもちろん魅力的ですよ。

でも、エステバリスのパイロット、まぁ、テストパイロットでもいいよ、かなりの死亡率でしょ。

俺は平穏な生活を送りたいのよ。戦争とか無理!

それに、現状ではお金に困ってないしね。ボーナスっていうか、定期的に大金が入ってくるし。

 

「すいません。今の会社にいたいので」

 

親切な人ばっかりだし、裏切れないよ。

 

「・・・そうですか。分かりました」

 

ほっ。どうにか納得してくれたみたい。これで諦めてくれたら・・・。

 

「先程お渡しした名刺には連絡先が書いてありますので心変わり致しましたらご連絡下さい」

 

うぅ。諦めてなかったよ。プロスさん。

 

「はぁ・・・。分かりました」

「では、失礼します。行きますよ」

 

去っていくプロスさんと黒服の人。

あぁ。今日は厄日だ。嫌な邂逅をしちまった。

 

「どうすっかな」

 

ミナトさんが操舵手として乗り込む以上、俺もナデシコに乗るかもしれん。

あくまで予定だ。まぁ、千分の、いや、万分の、いや、億分の一もないだろうが。

その時、俺はどんな役職で乗り込むべきだろうか?

パイロット・・・いや。勘弁して下さい。

整備班・・・知識は遺跡から取り出せばいいけど、技術的に厳しいかもな。

オペレーター・・・不可能じゃない。むしろ、俺に一番合っている。でもなぁ、俺の存在が公になるのはまずいでしょ。ルリ嬢に睨まれたくないし。

コック・・・アキト青年と被るでしょうが。料理は嫌いじゃないけど、プロになりたいって訳でもないし。

あれ? 俺ってば何にも出来ない駄目な子?

 

「はぁ・・・」

 

やめよう。落ち込むから。

というか、俺だってその気になれば何でも出来る。

パイロットだって高機能ナノマシンの恩恵がある。

艦長だって参謀だって遺跡の知識から最善の戦術を導ける。

オペレーターなんて下手すると世界最高だ。

でも、それじゃあ駄目。

アキト青年を始めとして、この物語はあのメンバーだったからこそ成り立ったんだ。

劇場版的にはハッピーエンドとは言い辛いけど、物語としては成立していた。

そこに俺が介入してより良いハッピーエンドにしたいとは思っている。

でも、俺が介入する事でメンバー間に何か誤差が生じるかもしれない。

それは駄目だ。俺の介入が最悪の展開に繋がるかもしれない。

俺はあくまでオマケ程度。補佐の補佐の補佐ぐらいが丁度良いんだ。

 

「ふぅ。どうしようかな・・・」

「あら。溜息なんてついてどうしたの? 折角の休みなのに」

「あ。ミナトさん」

 

振り返るとお洒落な格好に身を包んだミナトさんがいた。

あれ。凄く着飾っている。これは・・・。

 

「もしかして・・・」

「ん?」

「デート・・・ですか?」

「あら。妬いてくれるの?」

 

早速からかいに来ましたか。

 

「まぁ。俺の存在が邪魔にならなければと思いまして」

 

ほら。俺なんかと同棲しているなんて相手方が知ったら怒るでしょうが。

 

「もぉ。素直に妬いてくれれば良いのに」

「えぇっと?」

 

どう応えろと?

 

「大丈夫よ。ただのお買い物だから」

「買い物なのにそんなお洒落に着飾ったんですか?」

「仕方ないのよ。今度、企業間での立食パーティーがあるの。そこで着るドレスとか買わないといけなくて。流石にいつもの格好じゃ入りづらいじゃない?」

 

あぁ。納得。

 

「秘書も大変ですね」

「そうなのよ。大変なの」

 

でも、それ程にミナトさんが優秀って事だろう。

それにさ・・・。

 

「ミナトさんは美人ですからね。着飾ったら注目の的ですよ。きっと」

「あら。嬉しい事言ってくれるじゃない。冗談でも嬉しいわ」

「冗談なんて言っていませんよ。ミナトさんなら望めば望むだけ」

「ウフフ。いいのよ。今の私は仕事女。彼氏なんていいの」

 

勿体無いなぁと思う。

ミナトさんを恋人に出来る人は絶対幸せだと思う。

ちょっと露出とか激しいけど、包容力はあるし、美人だし、気遣いとか完璧だし、理想のお嫁さんランキングとか取ったらダントツで一位でしょ。

 

「それじゃあね。折角の休日なんだもの。楽しんでいらっしゃい」

「あ、はい。ミナトさんも」

「そうね。他の買い物もしちゃいましょう。またね」

 

そう言って立ち去っていくミナトさん。

 

「・・・あ」

 

あんなに着飾っているのに俺が贈ったイヤリングを付けてくれている。

何か嬉しいな。もしかしてミナトさんの好みに合っていたのかな。そうだと嬉しいけど。

 

「さてっと。自宅用のIFS専用端末でも購入しようかな。そうすれば色々と出来るし」

 

という事で俺は電気機器のあるショップへ向かった。

IFS専用端末はIFSの使用頻度が低いからか全然なかった。

三つぐらい回って漸く見つけたぐらいだからな。

でも、三つ目で見つかったのはかなり運が良いのかもしれない。

早速、買いってね。

こうして俺はいつでも画策できるよう環境を整えた。

よし。色々と計画を練ろうかな。

まずはMCの救出からだ。

ラピス嬢の生い立ちとか詳しく知らないけど違法だったらしいし。

もしかしたら、他にもそんな犠牲者がいるかもしれない。

違法とか、人体実験とか、流石に見逃せない。

解決策があるならそれを実行するまでだ。

・・・匿名で企業に連絡すれば俺ってバレないよね?

 

 

 

 

 

「エリナ君。まただよ」

「またですか?」

「うん。社長派のMC計画。禁止にしたのにね。違法だからやめろって」

「仕方ないかと。社長派は何かしらの手柄が欲しいのでしょう」

「ごめんなんだよね。人体実験とか。エリナ君もそう思わないかい?」

「・・・そうね(甘ちゃんが。結果が全てなのよ)」

「ま、いいや。プロス君呼んで来て。いつもの謎の匿名君からの連絡だって」

「分かりました」

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

何度見ても胸糞悪いな。

もしやと思って調べてみたけどまさかこんなにいたなんて。

ルリ嬢、ラピス嬢、ハリ少年だけがMCだと思っていたけど、それまでにこれだけの数が犠牲になっていたなんて。

何だよ!? これが人間のする事かよ!? クソッ!

 

「・・・どうしたの? 難しい顔して」

 

あっと。ミナトさんに見つかる訳にはいかないな。

きっとミナトさんが見たら暴走するに違いない。ミナトさんって子供好きそうだし。

これは俺がするべき事だ。

 

「・・・いえ。何でもありませんよ」

 

閲覧画像を消去して、ミナトさんにそう告げる。

笑顔を浮かべているが、内心では苛立ちとか絶望とか、そんな負の感情がぐるぐる回っている。

人間に対して俺は今、恐怖を感じていた。

俺の周りには変だけど良い奴らしかいなかった。

・・・でも、少し外へ視線を向ければ、こんな人間もいる。

俺の人間像が根底から崩れ去った気がした。

 

「コウキ君」

「え?」

 

視界が一色に染まる。

全身に伝わってくる優しい温もり。

あぁ。俺は今・・・。

 

「いいのよ。何があったかは知らないけど。辛いなら辛いって言えばいいじゃない。悲しいなら悲しいって言えばいいじゃない。怖いなら怖いって。そう言えばいいじゃない」

 

・・・抱き締められているんだ。

ミナトさんに。

 

「ミナト・・・さん?」

「コウキ君。私は頼りないお姉さんかな?」

「そんな事・・・ありません。頼り甲斐のある優しいお姉さんです」

「ウフフ。ありがとう。だから、ね? 頼っちゃいなさい。無理に事情は聞かないわ。でも、胸を貸してあげる事ぐらいは出来るわ」

「・・・・・・」

「泣いて楽になるなら泣いちゃいなさい。温もりが欲しいなら私が温もりをあげる。いいのよ。何の遠慮もいらないわ」

「ミナト・・・さん」

 

強く。

強く抱き締めた。

人間不信に陥りそうで。

でも、やっぱり人間は暖かくて。

優しくて。

抱き締められているだけで癒されて。

心が落ち着いて。

あぁ。何でこんなに色々な人間がいるんだろう。

あぁ。何でこんなに暖かいんだろう。

あぁ。何でこんなに罪深いんだろう。

あぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「・・・コウキ君ってば、こんなに重たかったんだ。やっぱり男の子なんだな」

 

私の胸の中、まるで子供のように安らかに眠るコウキ君。

邪気のない笑顔を浮かべて、変な子で、ちょっと頼り甲斐がなくて、いじり甲斐があって、それでも一生懸命な男の子。

一体、コウキ君に何があったんだろう?

あんな表情は今まで見た事がない。

久しぶりの休日で、でも、雨だったから、コウキ君と二人でのんびりしていた今日。

ふとコウキ君を見ると一生懸命画面を眺めていた。

どうしたんだろうって思って観察していたんだけど。

眉を顰めて、ずっと苦々しい表情をしていたわ。

どうかしたの? って声をかけると慌てて画面を操作して誤魔化して。

身体を震わせながら、なんでもないって無理して笑って。

瞳に涙を浮かばせて、それでもなんでもないって。

弱々しい笑みで私を気遣うコウキ君が迷子の子供のように見えた。

知らない道で親からはぐれちゃった幼い男の子。

お母さん、お母さんって一生懸命に呼びかけて、それでも見つからなくて。

寂しくて、悲しくて、泣き喚きたいけど、必死に堪えて母親を探している健気な男の子。

強くて、弱くて、必死で、諦めかけていて。

そんなコウキ君を私の身体は無意識に抱き締めていた。

おかしな事だけど、その時、やっぱり男の子なんだなって思った。

男特有の固くて逞しい身体。抱き締め返される力強さは不思議と私にも温もりを与えてくれた。

泣きたいのを必死に我慢して、顔を見られないようにって顔を隠すのもどこか意地っ張りな男の子で。

私に微笑を与えてくれた。

護ってあげなくちゃ。

眠るコウキ君を見て、私はそう思ったの。

あの弱々しい姿を見せるコウキ君を私が支えてあげよう。

なんでもない。何の特別でもない今日この日。

この日が私の誓いの日となった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「ほら。コウキ君。行くわよ」

 

ミナトさんに抱き付いて泣いてしまうという俺にとってトップ3に入る程に恥ずかしい思いをした日から数日が経った。

あれから、どうもミナトさんが過保護な気がする。

嬉しいような恥ずかしいような情けないような、まぁ、そんな感じだ。

決して嫌じゃないんだけどね。いや、やっぱりちょっと恥ずかしいかな。

 

「それにしても、いつの間にかハッキングが上手くなっていたな」

 

非公式研究所をハッキングしている内にかなりのレベルのハッカーになっていた。

今ならビックバリアの解除パスワードとか入手できそう。

いや、試してないけどさ。バレた時に怖いし。

それにIFSの扱いにも慣れてきた。

イメージとかも明確に出来るようになってきたし。

随分と成長したものだ。うんうん。

そうそう、あれから色々試したんだけど・・・。

俺の身体ってオリンピックも夢じゃないっていうか、オリンピック選手を侮辱しているんだよね。

オリンピックがこの時代にあるかどうかは分からないけどさ。

俺のいた世界ではって話。

信じられない事に百メートル走とか五秒とかそんなんだよ。

握力とかも百キロ軽く超えているし、背筋とか三百キロ超とかだし、跳躍力は・・・訊かないでくれ。

人外になっちまったと思ったけど、本当に人外でした。

ってか、生きていく力が欲しいって言っただけなのにやり過ぎでしょ。

日常生活にこんな逞しい身体能力は必要ないよ。

そりゃあないよりはあった方が良いけどさ。

無駄だって。俺は平穏な生活を望んでいるの。

それにさ、努力しているスポーツ選手に申し訳ないよ。

努力もなしにこの能力って・・・。確実に侮辱しているよね。

自分が怖いです。やり過ぎです。

 

「はぁ・・・」

「どうしたの? 溜息なんかついて」

「いえ。何でもありませんよ」

「そう? 無理しないでね」

 

自分が怖いなんて言ったら変な子だって思われるよね。

流石のミナトさんにだってこんな事は言えない。

 

「それにしても、コウキ君って運動神経良かったのね。そうは見えなかったのに」

「ハハハ。そうですね」

 

苦笑いしか出ませんよ。ミナトさん。

ミナトさんが知っている理由はとても単純。

だって、この異常に確信したのってこの前の体力測定の時だし。

前々から変だな? 異常だな? って思っていたんだけど、あの時ほどそれを実感した時はなかった。

会社の身体測定の一環で行われた体力測定。

そこで俺は化け物ぶりを発揮してしまった。

ほら。日常生活で全力を発揮する事なんてないから。

それで久しぶりの運動だなって全力で走ったりしたんだけど。

・・・前々から制御できるようにしておけば良かったと激しく後悔したさ。

下手すると会社単位で活動する駅伝部とかに参加させられる所だった。

あれから、よく色々な所からスカウトされるよ。

サッカー部とか野球部とか。

楽しいよ。球技って。経験者だし。

でもアルバイトだしさ。ミナトさんに迷惑かけられないし。

とりあえず保留です。

 

「どうして参加しなかったの? コウキ君なら活躍できたでしょうに」

「ま、まぁ、いいじゃないですか。今の仕事を楽しんでいるんですから」

「そう? それなら良いけど」

 

ミナトさんからも勧められているんだけど。

いや。あれだよ。

汚れた服とかミナトさんに任せるのは嫌だし。

自分で洗うのとかもなんか嫌だし。

俺は遊びの範囲で球技とかスポーツとかが出来たらなって思う。

 

「ま、コウキ君は他にも才能あるからね。あれから結構特許取ったでしょ?」

「ええ。まぁ」

 

才能って言うか、反則技だけどな。

使えそうだなって思うアプリケーションソフトとかを遺跡からダウンロードして少し細工して表の世界に公表する。

それが評価されているだけ。

決して俺が作っている訳じゃない。

 

「仕事がやりやすくて助かっているわ」

「それは光栄です」

 

でも、プログラムって結構楽しいんだよな。

最近は遺跡に頼らないで自分の力だけで作ってみたりしている。

ま、勿論、駄目駄目だけどさ。

それでも、自分の力だけで達成するのって楽しいんだよ。

 

「資格とか興味持ち出したし。充実しているのね」

「ミナトさんが資格持ち過ぎなんですよ。何となく負けたくないっていうか」

「ウフフ。男の子ね」

 

笑われてしまった。

でも、本当にミナトさんは凄いと思う。

俺はずっと疑問に思っていたさ。

何で社長秘書が戦艦の操舵手が務められるんだよって。

気になって訊いてみた所・・・。

 

「う~ん。いつか使えるかなって思って」

 

・・・普通はそう思いませんから。

実際にそんな日がやって来る訳ですが・・・。

 

「とりあえず目標はミナトさんが持つ資格を全部手に入れる事ですかね」

「そう。それなら、私は追いつかれないように頑張ろうかしら」

 

頑張りますね。ミナトさん。

変な資格は取らないでくださいよ。

 

「でも、意外だったわ。何で最初に操舵手の資格を?」

「え? いいじゃないですか。ミナトさんに追いつく為ですよ」

 

あれから、俺は考えたんだ。

どの役職で乗り込もうかって。

そして、俺はこう決めた。

何でも屋になろうと。

ま、詳しく言えば、副操舵手、副通信士、サブオペレーターとか兼任してみようかなって。

その為のこの資格です。

ブリッジクルーって何かあった時に困る役職ばかりだろ。

だから、俺が常に補佐して、代わりになれれば役に立てるんじゃないかなと思って。

とりあえず・・・。

 

「戦艦の通信士って何の資格が必要なんだ?」

「急にどうしたの? コウキ君」

「あ。えぇっと。何でもないですよ?」

「何で私に訊くのよ」

「とにかくなんでもないですよ。色々と俺にも考えがありましてね」

「そう?」

 

心配そうに見詰めてくるミナトさん。

・・・そんなに眼を合わせられると照れるんですけど。

 

「ま、いいわ。何かあったら相談なさい。いつでもいいから」

「ありがとうございます」

 

やっぱり優しいな。

相談相手がいるってだけでとても心強い。

 

「さあ、今日も一日が始まるわ」

 

出社。

うん。この世界に来て、もう半年か。

月日が経つのって早いな。 

後半年で遂に始まる。

スキャパレリプロジェクトが。

アキト青年を中心に動くドタバタラブコメディSFロボットアニメ。

・・・こう訊くと設定盛り込みすぎだよな。

良く成立したと思うよ。

製作者って凄いな。

 

「何をボ~っとしているの? 行くわよ」

「あ、はい」

 

ミナトさんに腕を引かれての出社。

別にそんなに珍しい訳じゃない。受付嬢も苦笑して済ませているし。

無論、男性社員の視線は物凄く鋭いけど。

・・・いつか刺されるんじゃないか? 俺。

ま、そうならないように後半年。頑張りましょうか。

 

 

 

 

 



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隠し事

 

 

 

 

「本日は貴方をスカウトに来ました。ハルカ・ミナトさん」

 

もうスカウトの日か。あっという間だったな。

スキャパレリプロジェクト始動・・・か。

 

「あ、申し遅れました。私、プロスペクターと申します。以後、お見知りおきを」

 

秘書課にいたミナトさんのもとへ大男ゴート・ホーリーを連れたプロスさんがやって来た。

・・・本当にゴートさんって仏頂面なんだな。

 

「えぇっと。何のスカウトですか?」

 

そうだよな。突然過ぎて分からないよな。

 

「少しお時間を頂けますか?」

「はぁ。構いませんが・・・」

 

困惑気味でこちらを眺めてくるミナトさん。

俺はそんなミナトさんに頷いてみせた。

大丈夫ですよって。

それが伝わったのか、ミナトさんも笑顔で頷いてみせてくれた。

 

「あ。マエヤマさんも良いですか?」

 

・・・ずっこけさせてくれますね。プロスさん。

あのミナトさんですら、呆気に取られていますよ。

 

「コウキ君?」

「あ、はい。分かりました。行きましょう。ミナトさん」

 

とりあえず付いていくとしますか。

 

 

 

 

 

「それでは、私が戦艦の操舵手、コウキ君がパイロットですか?」

 

・・・まいったな。パイロットかよ。

俺の計画では副操舵手だったんだけどな。

 

「はい。以前、マエヤマさんには断られてしまったのですが。やはり諦め切れず」

「え? 本当なの? コウキ君」

 

驚いた顔でこちらを見てくるミナトさん。

ま、そりゃあ驚くよな。

 

「ええ。結構前ですけどね。俺のどこにパイロットの適正があるんだか・・・」

「御戯れを。貴方は出したじゃないですか。トップスコアを」

「トップスコア? どういう事? コウキ君」

「何ていうんですか。ちょっと幼心に刺激されましてね・・・」

 

何かゲームセンターで遊んでいたって言うの恥ずかしいよな。

なんて、俺がもたついていると・・・。

 

「もう、ハッキリなさい!」

 

一喝。

 

「は、はい! ゲームセンターでシューティングアクションゲームをした所、トップスコアを出してしまいました!」

 

ミナトさん。怖いです。抗えません。

 

「シューティングアクションゲーム? そのトップスコアでパイロット適正を計ったんですか? それはちょっと・・・」

 

呆れるミナトさん。そうですよね。呆れますよね。たかがシューティングゲームで・・・。

 

「いえいえ。あれは唯のゲームじゃないんですよ。我が社が開発したシミュレーションの技術を存分に注ぎ込んだ特別製なのです」

「えっと。あれですか? G設定とか。確かに本格的でしたけど」

「その通りです。あれは実際にかかるGとほぼ同等のGをパイロットに負荷させます」

 

それって下手すると失神するんじゃ・・・。

 

「あの状態でのスコアは本番でのスコアと同等。いえ、それ以上かもしれません。当時は機体の方に問題がありましたから」

 

良くそんな状態のゲームを普通のゲームセンターに導入しましたね。

 

「あそこは我が社が経営しているゲームセンターです」

「えぇっと。顔に出ていました?」

「ええ。顔が引き攣っていました」

「そうね。引き攣っているわ」

 

ミナトさん。貴方も少し引き攣っていますよ。

ミナトさんは聡明だし、操舵手の資格を持っているから分かりますよね。

本番のGの凄まじさとか。

 

「その上で貴方は我々が連合軍トップクラスとして想定したスコアを抜いたのです。それが何よりの証拠になりませんか?」

「コウキ君。貴方、どれくらいのスコアだったのよ」

「・・・覚えていませんよ。普通に楽しんでいましたから」

「軽く超えていますよ。倍とまではいきませんが」

「コウキ君。貴方って意外と多才よね」

「いえいえ。ミナトさんこそ。・・・あの、現実逃避して良いですか?」

 

在り得ない。

普通にゲームを楽しんでいただけなのに。

それがこんな結果だなんて。

そうか。これこそが逃れられない運命という奴だったのか?

・・・いや。これに関しては自業自得だよな?

あぁ。俺の万全な計画が・・・。

 

「えぇっとさ。コウキ君。何で落ち込んでいるのかしらないけど、とりあえず落ち込むのはやめて話を続けましょうよ」

「・・・そうですね。ミナトさん」

 

内心はもうボロボロです。

 

「ハルカさんはどうでしょうか? 操舵手なのですが」

「うぅ~ん。どうしようかしら」

 

悩むミナトさん。

あれ? おかしいな。

確かここはやっぱり充実感かなとか言って即刻引き受けてなかったっけ?

 

「あ、給料はこれくらいです」

「ん~~~・・・えぇ!?」

 

きっと俺の時と同じくらいなんだろうな。

あれはマジで少しでもいいから社員を雇ってあげてくださいと思ってしまう金額だ。

 

「あ、でも、私って別に給料で職場を選んでいるわけじゃないですし。やっぱり充実感かな」

 

あ、やっぱり理由は充実感なんだ。

 

「充実感・・・ですか。それなら、ここ以上に得られる所はないと思いますよ」

 

ま、基準は分からんが、退屈はしないだろうな。

ドタバタラブコメディだし。

 

「う~~~ん」

 

とか言いながら俺を見てくるミナトさん。

 

「えぇっと。どうかしました?」

「ううん。別になんでもないわよ」

 

えぇっと。それじゃあ何で眼を逸らしてくれないんですか?

何で俺を見詰めてくるんですか?

 

「そうですか。分かりました。それでは、マエヤマさん。こうしましょう」

 

・・・今、プロスさんの瞳がピカンって光った気がします。怖ぇよ。

 

「予備パイロットはどうですか? メインは副操舵手。もしくはサブオペレーターで」

 

ん? これは願ってもない展開では?

無論、予備パイロットは拒否するが。

 

「貴方のプログラマーとしての名は有名ですからね。天才プログラマー、マエヤマ・コウキ。是非ともスカウトして来いと上もうるさいのです」

 

へぇ。アカツキ青年がね。青年っていっても俺より年上だけど。

 

「副操舵手。サブオペレーター。そこまではいいでしょう。ですが、予備パイロットはやめて頂けませんか?」

 

パイロットなんてやるつもりはありません。

俺は補佐の補佐の補佐を目指しているんです!

 

「困りましたな。何としてもパイロットとしての貴方が欲しいのですが」

「困られても困ります。俺はパイロットをするつもりはありません」

 

こればかりは妥協できない。俺は平穏でお気楽な生活が良いんだ。

パイロットなんかになったら連合軍から眼を付けられる。

最悪、隠れ住まなければならないようになる。

そもそも死と隣り合わせの戦場になんて出向きたくない。

いつ死ぬか分からない戦場なんかに。

己惚れじゃないけど、ミナトさんも嫌がってくれると思う。

だって、俺が死んだら悲しんでくれ―――。

 

「いいじゃない。コウキ君。予備パイロットぐらいなら」

 

・・・泣きたくなる程にショックだった。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「いいじゃない。コウキ君。予備パイロットぐらいなら」

 

軽い気持ちで告げた。

たった一言。たった一言が私に激しい後悔を残した。

私がそう言った瞬間にコウキ君の顔が見た事もない程、驚きで染まり、次いで悲しみで染まったのだから。

その表情を見た瞬間、私は心が苦しくなった。とても、とても痛くなった。

 

「・・・ミナトさんは・・・」

 

俯きながら、呟くように話すコウキ君。

その言葉一つ一つが何故か胸に突き刺さる。

 

「・・・ミナトさんは・・・俺に死ねって。・・・死んでもいいって。そう思っていたんですか?」

 

ッ!?

そ、そんな事は思ってない。

 

「そんな事は―――」

「戦艦のパイロットですよ? 戦場は常に死と隣り合わせ。たかがゲームで高得点を出したからって訓練も受けてない俺が活躍できると思っているんですか?」

「そ、それは・・・。で、でも、予備パイロットよ。名前だけじゃ―――」

「戦艦のパイロットは全部で何人なのか? 機体のスペックはどうなのか? 脱出機構は備わっているのか? 戦艦自体の武装は何なのか?」

「・・・コウキ・・・君?」

「プロスさんは何も言っていません。予備パイロットの役目なんてない? そんな事どうして言い切れるんですか?」

「・・・・・・」

「戦場ですよ。貴方は予備パイロット。パイロットがいなくなったので命を賭して護ってください。ないと言い切れますか? 訓練なんて碌にした事がないのに。死なないと?」

「そ、それは・・・」

 

何も言い返せなかった。

コウキ君は間違った事を何一つ言っていないのだから。

 

「軽い気持ちでパイロットになりますなんて言える訳がないじゃないですか。そんな俺をミナトさんは臆病者だって、そう言いますか?」

「そ、そんな事―――」

 

思ってない。思ってないのに。

俯くコウキ君を前にして口が開かなかった。

 

「・・・そもそもパイロットとしての俺を欲しているプロスさんが予備パイロットとか提案してくる時点でおかしいんですよ」

「そうですかな?」

「ええ。とりあえず予備パイロットとして登録しておけば、何かあった時に都合良く出撃させられますからね。予備だからってパイロットがいない時のみとは限らないんです」

「歳の割に鋭いのですね」

「企業の裏っていうのは痛い程、実感していますから。組織の利益の為なら何だってする。それが組織でしょう?」

 

何故だろう?

すごく身近に感じていたコウキ君が。

今は・・・遠い。

知らない人に見える。

 

「そもそも企業が戦艦を保持する。目的地を告げない。その二つだけで不自然です。ネルガルは何が目的なんですか?」

 

鋭い眼光で睨みつけるコウキ君。

あぁ。私の軽い一言がコウキ君をここまで追い詰めてしまったんだ。

朗らかで怒った事なんてないコウキ君がこんなにもむき出しの敵意を見せるなんて。

 

「はて。目的なんて」

「・・・仮にパイロットになったとしましょう。俺が戦うのは誰ですか? 木星蜥蜴? それとも連合軍ですか?」

 

それって・・・。

 

「連合軍と何故戦うのですか?」

「企業が戦艦を保持していて連合軍が何も言わないと思っているんですか?」

「事前に許可を得ていますが?」

「その戦艦は軍用の兵器でシェアを確立するネルガルが自慢としている戦艦なんですよね?」

「無論です。地球最新鋭の技術で造り上げました」

「恐らく苦戦続きの木星蜥蜴だって打倒してしまえるのでしょうね?」

「ええ。もちろん」

「そんな戦艦を連合軍が見逃すと思っているんですか?」

「先程も述べましたが、許可を―――」

「許可を得たぐらいで安心しているのですか? 貴方は軍を甘く見すぎだ。木星蜥蜴を打倒できると知れば連合軍は強引に徴収しようとしますよ。それが今の軍の実態ですから」

「御詳しいのですね。軍の事も」

「少し調べれば分かります」

 

本当に別人みたい。

あのコウキ君がこんな・・・。

 

「貴方は何の訓練も受けていない一般人に人を殺せと。そう言っているのですね?」

「はて。それはマエヤマさんの想定でしょう? それが現実になるとは限りません」

「・・・どちらにしろ。俺は予備であろうと正規であろうとパイロットをするつもりはありません。パイロットを望むなら連合軍から引き込めば良い。失礼します!」

 

激情を抑えきれないまま部屋から飛び出していくコウキ君。

それを私は見送る事しか出来なかった。

 

「いやはや。まいりました。あそこまで拒絶されるとは。想定外です」

「あの・・・コウキ君が言った事は本当なんですか?」

「どの事ですかな?」

「予備でも都合良くとか。連合軍がそういう組織だとか。その辺りです」

 

ふぅっと大きな深呼吸をしてプロスペクターさんが話し出す。

 

「無論、予備パイロットは予備でしかありません」

「それなら、戦場に出るなんて事はないんですよね?」

 

そうならきっとコウキ君だって―――。

 

「いやはや。戦場に絶対なんてありえませんからな。もしかすると予備パイロットの方にも出撃を要請するなんて事はあるかもしれません。無論、可能性でしかありませんが」

「でも、正規のパイロットだっているんですよね」

「それは勿論です。素人だけに任せる訳にはいかないでしょう?」

「それなら、予備パイロットなんて必要ないじゃないですか」

「いえいえ。万が一という事がありえますから。準備を怠る訳にはいかないのですよ。念は念をいれてという奴です」

 

まるで予備ですら戦場に出すのが当然と言わんばかりの言葉だった。

 

「連合軍に関してですが、あれはあくまでマエヤマさんの想定でしかありませんよ。連合軍とて一度許可を出したら引っ込めないでしょう。軍にも面子があるでしょうから」

「そ、そうですよね」

 

そう。普通はそうよね。

それなのに、何でコウキ君はああまで軍を警戒していたのかしら?

 

「・・・今日はもう交渉は難しいでしょう。また後日伺わせて頂きます」

「あ、はい。分かりました」

「それでは、失礼しますね」

 

去っていくプロスペクターさんを私はまた見送る事しか出来なかった。

 

「・・・コウキ君」

 

軽い一言で追い詰めてしまった私の大事な同居人。

護ってあげようって誓った大事な弟分。

今、コウキ君はどんな気持ちなんだろう?

 

「うん。コウキ君の所へ行こう」

 

謝りに行かないと。軽々しくパイロットになれなんて言った事を。

 

「コウキ君ですか? コウキ君なら気分が優れないって早退しましたけど・・・」

「ッ!?」

 

コウキ君が・・・いない?

もうここには・・・帰ってこないの?

 

「ハルカさん? どうかしました?」

「いえ。なんでもないわ」

「顔色が優れませんが?」

「な、なんでもないのよ」

「ハルカさんも早退しますか? 少し休んだ方が良いですよ」

「大丈夫よ」

 

・・・探しに行きたい。

コウキ君がいなくなる前に、ちゃんと話がしたい。

 

「・・・そうね。ごめんなさい。ちょっと体調が優れないから早退するわ」

「分かりました。社長にはそう伝えておきます」

「ええ。御願いするわね。あ、コウキ君から何か聞いていない?」

「えっと、特には」

「そう。ありがとう」

 

荷物を纏める。この時間ですら惜しい。

早く。早く行かないと。

私はいつになく急いで部屋から飛び出した。

時間は午後二時。

まだまだ暖かい昼下がりだった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・。やっちまったな」

 

会社とミナトさんのマンションとの間にある公園。

そこのベンチで俺はボーっとしていた。

 

「はぁ・・・。予定が崩れちまったよ」

 

予定としては副操舵手、副通信士、サブオペレーターの兼任だったんだけど。

予備パイロットなんて名前だけだからな。アキト青年も予備だ予備だなんて言われながら結局最後までパイロットやらされたし。

ってか、そんな事よりも・・・。

 

「あぁ! もう! ミナトさんともう顔を合わせられねぇよ」

 

ちょっと興奮してミナトさんを傷つけちまった。

ミナトさんだって悪意があって言った訳じゃないのにな。

カッカすると周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だよ、まったく。

 

「俺は予備パイロットを務めるべきなんだろうか?」

 

歴史をより良くするならパイロットは都合が良い。

でも、なんていうか、俺みたいな一般人には到底不可能な気がする。

それにだ。もし、仮に、パイロットを引き受けたとしよう。

そうなったら戦後が問題なんだよな。戦争中の活躍が戦後に危険分子として危険視されるとかいう話は良くあるし。

かの有名なパイロットも戦後、軍に監禁されていたし。

俺はああなるのが嫌なんだよ。名前が売られて許せるのはプログラマーとしてだけ。

パイロットとか、ジャンパーとか、そんな事で有名になったら俺の平穏な生活は諦めなくちゃいけなくなる。

巻き込まれたとか、そんな事を思っている訳じゃない。歴史通り辿ればいいとか、そう思っている訳でも決してない。

でも、歴史を変えるとか、そんな大それた事、俺には無理だよ。その為の能力だって言われても、そんなの俺が望んだわけじゃないし。

 

「はぁ~~~。平穏な生活は俺には望めないのかね?」

「そんな事・・・はぁはぁ・・・ない・・・はぁ・・・わ・・・」

 

空を見上げる俺に影が差し込む。

その影は・・・ミナトさんだった。

 

「・・・ミナトさん」

「・・・はぁ・・・はぁ・・・コウキ君」

 

やばい。気まずい。

 

「と、とりあえず、座ったらどうですか? それとこれ」

 

ハンカチを手渡す。

走ってきたみたいで汗だくだ。

秋だけどまだまだ暖かいからな。

 

「はぁ・・・はぁ・・・そうさせて・・・もらうわ。ありがと」

 

ドサッと崩れるようにベンチに座り込むミナトさん。

慌てて支える。

 

「ハハハ。駄目ね。運動不足だわ」

 

苦笑いのミナトさん。

 

「ちょっと待っていてください」

 

ベンチにミナトさんをしっかりと座らせて、俺は近くの自動販売機へと向かう。

えぇっと・・・お茶・・・でいいよな?

とりあえず、二本買ってベンチへと戻った。

 

「あの、どうぞ」

「あ、うん、ありがとう」

 

お茶を渡して隣に座る。

・・・それからは無言だ。

やはり気まずいな。

 

「えぇっと。ミナトさん。先程はすいま―――」

「ごめんなさい! コウキ君!」

 

突如、下げられる頭。

無論、混乱したさ。

何で謝られるの? 俺。

 

「えぇっと。謝られるような事しましたっけ?」

「私が、私が軽々しくパイロットになれなんて言うから。コウキ君を追い込んでしまった。危ないって分かっているのに。それなのに軽々しく戦場に行けなんて」

 

不意に涙を浮かべるミナトさん。

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

「ううん。私が悪いの。あんな事言ったら死んでも構わないって言っているのと同じ。ううん。もっと性質が悪いわ。私は平気でコウキ君を切り捨てたんだもの」

 

ポロッと涙を流すミナトさん。

 

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 

やばい。本格的に泣き出してしまった。

 

「私は・・・私は・・・」

 

・・・あぁ。俺は・・・勘違いしていたんだな。

ミナトさんってこんなにも小さかったんだ。

いつも包み込んでくれるような暖かさでずっと頼っていたから、俺はいつの間にかミナトさんは何でも出来る人だって思い込んでいた。

何でも受け止めてくれる強い人だって思い込んでいた。

でも・・・ミナトさんも・・・一人の女性だったんだな。

ちっぽけで矛盾だらけな、一人の人間だったんだ。

 

「ミナトさん」

「・・・コウキ・・・君?」

「ありがとうございます。こんな俺の為の泣いてくれて」

 

弱々しく俯くミナトさんの手を取る。

こんなにも震えている。

・・・俺のせいで。

 

「・・・正直、ミナトさんにパイロットを勧められた時はショックでした」

「ッ!」

 

息を呑むミナトさん。でも、きちんと伝えなっきゃな。

 

「分かっています。ミナトさんだって悪意があって言った訳じゃないって。予備パイロットに出番なんてないって。そう思っていたから言ったんだって」

「でも・・・」

「ミナトさんは悪くないんです。俺がちょっと熱くなって暴走したからいけないんです。ミナトさんは何も悪くないですよ」

「私が軽々しくあんな事を言わなければコウキ君だって・・・」

「ミナトさん。聞いて下さい。俺の、ちっぽけで臆病な男の話を」

 

悩んだけど、ミナトさんには伝えよう。

俺の存在を。俺の真実を。

俺が一番に信頼している人だから。

 

「俺は違う世界からやってきたんです」

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「俺は違う世界からやってきたんです」

 

真剣な表情で、でも、どこか寂しそうな顔で告げるコウキ君。

私はその言葉に耳を疑った。

 

「御伽噺みたいで、二流、三流の小説みたいな話なんですけど、今から言う事は全て事実です。俺はこの世界とは別の世界からやって来ました」

 

零れてくる涙を必死に拭いて、コウキ君を見詰める。

この眼は嘘をつくような眼ではない。

一年の付き合いだもの。それぐらいは分かる。

 

「ミナトさんは過去、未来、そのどちらかを好きに移動できたらどう思いますか?」

 

それって・・・タイムマシンよね?

 

「タイム・・・マシン?」

「まぁ、そんな感じです」

 

それなら、コウキ君。

貴方は未来からやって来たというの?

 

「俺は未来の事を知っています。厳密に言えば、経験したのではなく、知っているだけですが」

「・・・ごめんなさい。良く分からないわ」

 

嘘は言ってないけど、真実味に欠ける。

だから、私は必死でコウキ君を見詰める。

そうすれば、コウキ君の想いが伝わってくると思ったから。

 

「未来や過去。もしそんな世界が存在するのなら、人間一つの行動でありえたかもしれない未来は枝分かれします」

「私の両親が結婚しなかったらとか、コウキ君と出会わなかったらとか、そういう事よね?」

「そうですね。そういう事です。それを平行世界と呼ぶとしましょう」

 

平行世界。時間軸のズレた世界。

ありえたかもしれない可能性が実現した、近く過ぎて、近過ぎるが故に見る事の出来ない世界。

 

「俺はこの世界を観測する事の出来た世界にいた人間です」

「・・・観・・・測?」

「俺は見ているんです。この世界が今後どうなっていくのか? その結末がどうなのか? その全てを」

 

未来全てを知っている。

それは私の運命すらも知っているって事よね?

 

「私の未来も知っているの?」

「ええ。ある程度でしかないですけどね」

 

何て事だろう。

他人に己の運命を知られている事がこんなにも怖いだなんて。

私が誰を好きになって、どうやって死ぬのか。

それをコウキ君は知っている。

まるで神様のように。

私はコウキ君の掌で踊らされているの?

身体が恐怖で震えた。

 

「でも、それもちょっと違うんです」

「違う? どういう事よ?」

 

怖い・・・けど、ちゃんと聞かなくちゃ。

コウキ君の想いを受け止めなくちゃ。

 

「俺っていうこの世界に存在する筈のない存在が介入した。それだけでこの世界は俺の知る世界とは別の世界なんですよ」

 

・・・そうか。そうよね。

 

「コウキ君が介入した時点であるべき未来から枝分かれしている。言わば、コウキ君の知る世界とは既に別の世界なのね?」

「そうなります。この世界は既に俺の知る世界じゃない。ここは平行世界なんです」

 

・・・少し安心した。

私の全てをコウキ君は知っている訳じゃないんだ。

あれ? でも、ちょっと待って。

 

「それなら、何でコウキ君には戸籍があったの? そもそもタイムマシンなんてどこにあるのよ?」

 

戸籍は私がちゃんと調べた。

タイムマシンなんてあの時のコウキ君の傍になかった。

あれは本当に途方に暮れていたみたいだったし。

あれが演技ではない事は一年間の付き合いで分かっている。

今まで全てが演技って可能性もあるけど・・・。

 

「・・・そんな事、ありえないわよね」

 

うん。ありえない。

あの初心で恥ずかしがり屋でいじり甲斐のあるコウキ君が偽りだったなんてありえないわ。

もし、あれが演技だったら、どんな優秀な俳優より優秀だもの。

 

「そうですね。順を追って説明しましょうか」

 

神妙な顔付きで話し出すコウキ君。

今日は本当に今まで見た事のない一面をコウキ君は見せるわ。

 

「まずはタイムマシンですね。これはボソンジャンプといいます」

「ボソンジャンプ?」

 

聞いた事ないわね。どういう装置なのかしら。

 

「じゃあ、見せますから、ずっと俺を見ていてくださいね」

「ええ。分かったわ」

 

ベンチから立ち上がり私の前に立つコウキ君。

 

「じゃあ、行きますね。・・・ジャンプ」

 

ジャンプ。たったその一言でコウキ君の姿が消えた。

え? えぇ!?

 

「コ、コウキ君!? どこに行ったの!? コウキ君!?」

「後ろですよ」

「キャッ!」

 

急いで退避。

び、びっくりするじゃない。

 

「あ、すいません。驚かせましたね」

「い、いつの間に後ろにいったのよ」

「これがボソンジャンプです。パッと見は瞬間移動ですが、これは時空間移動でもあります。信じられないかもしれませんが、信じてください」

「いいわよ。コウキ君だもの。信じてあげる」

 

コウキ君は冗談ばかりだけどあんまり嘘はつかないわ。

あんまり・・・だけど。でも、眼が嘘じゃないって何よりも主張してる。

 

「それじゃあ、タイムマシンっていうのは装置じゃなくて、そのボソンジャンプって事なのね」

「はい。普通なら唯の瞬間移動なんですが、偶然に偶然を重ねて、それこそ三つ程に偶然を重ねたぐらいの確立で時空間移動する事があります」

「それがタイムマシンって事ね」

 

タイムマシンではあるけど、自由に時空間移動は出来ないって事か。

夢があるようでないタイムマシンなのね。

 

「俺はその偶然の三乗、まぁ、奇跡みたいなものです。それがきっかけでこの世界に飛ばされました。今からずっと昔。二十一世紀から」

「二十一世紀!? それって、私の御爺ちゃんの御爺ちゃんぐらいの世代よね」

「え、ええ。でも、御爺ちゃんで例えるのはちょっと」

「あ、そうね。ごめんなさい。嫌よね」

 

そうよね。まだ若いのに老人扱いだなんて。

嫌に決まっているわ。私だったら我慢できない。

 

「ちなみに二十一世紀の最初の方ですからもっと前ですよ」

「えぇ? そのまた更に御爺ちゃんの御爺ちゃん?」

「ミナトさん。流石に怒りますよ?」

「あ、ごめんなさい」

 

私も相当混乱しているみたいね。

ちょっと、落ち着きましょう。

 

「ふぅ・・・」

「大丈夫ですか? 休みます?」

「ううん。ありがとう。大丈夫よ」

 

頭は混乱しているし、涙でメイクは落ちているけど、大丈夫。

・・・直したいけど、今はこっちの方が大切よね。

 

「さっき観測できる世界って言いましたよね。あれは事実で、俺はこの世界を知っています」

「未来を知っているって事よね」

「具体的にいえば、この世界は物語として語られているんです。結末もその後も」

 

背中に嫌な汗が流れる。

それって・・・。

 

「既に決まっている運命を辿っているって訳? 私は物語の人物で。私が思う全てはその通りだって事? 物語のストーリー通りって事?」

 

そんなの! そんなの認められない!

私の想いは私だけの物。私の記憶は私だけの物よ。

 

「ミナトさん。ここには俺がいます」

「あ」

 

急速に熱が冷めていった。

・・・そうだったわ。ここにはコウキ君がいる。

 

「既に物語からは外れているのよね?」

「はい。物語と言っても、実際に俺達はこの世界に生きているんです。運命なんて俺は信じないんで。自分の道は自分で見つけるものですよ。違いますか?」

「そうね。私もそう思うわ」

 

作られた世界だとか、物語だとかはもう気にしないわ。

私はここにいる。人間として感情を持ち、記憶を持ち、誰かを想う気持ちがある。

それでいいじゃない。誰にだって思い通りにはさせないわ。

 

「やっぱり強いですね。ミナトさんは」

「え? 何で?」

「今、ミナトさんは俺から過酷な現実を突きつけられたんですよ。それなのに、それを受け止めて打ち返す強さがある。本当に、尊敬します」

「尊敬だなんて。当たり前の事よ。私だって運命なんて信じないもの」

「アハハ。やっぱり敵わないな」

 

苦笑するコウキ君。やっぱり敵わないってどういう意味よ?

 

「ミナトさんは未来を知りたいですか?」

 

愚問ね。

 

「知りたくないわ。というより、そんなの既に別世界の私よ。この世界の私の決定権は私にあるんだもの」

「それでこそ、ミナトさんです」

 

ニッコリって笑うコウキ君。

何だろう? 凄く久しぶりに見た気がしたわ。

 

「タイムマシンに関しては以上です。詳しくはまた後で質問してください。いつでもお答えしますんで」

「そうね。他にも色々と聞きたいし、後にするわ」

 

戸籍の事とか、色々と聞かないと。

 

「俺の戸籍ですが・・・」

「・・・・・・」

 

困ったように笑うコウキ君。

 

「怒らないでくださいね」

「内容によるわね」

「えぇっと・・・」

 

またもたついている。もぅ、はっきりしないわね。

ま、コウキ君らしいっていえばらしいから許してあげる。

 

「はっきりなさい!」

「は、はい! ハ、ハッキングして捏造しました!」

 

・・・捏造って。

捏造!?

 

「じゃ、じゃあ、あの戸籍は嘘って事?」

「はい。出来る限り、違和感のないように考えたデタラメです」

 

デタラメ・・・。

デタラメねぇ・・・。

 

「・・・とりあえず、その握り締められた拳はやめましょうよ。殴られる方も痛いですが、殴る方も痛いんですよ」

「問答無用よ!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてください」

 

ゴンッ!

 

「イッタァ!」

 

まったく、犯罪だって分かっているのかしら。

 

「一応、言い訳させてもらえますか?」

「いいわよ。聞かせてみなさい」

 

言い訳ぐらい聞いてあげるわ。

 

「この世界に飛ばされた身としては戸籍がないのは色々とまずかったんですよ。ネットカフェに入ろうとも会員証は作れないし、働くにも働けないし」

「そっか。それであんな所で立ち往生していたのね」

「はい。ミナトさんに拾われたのは本当に幸運でした」

 

そっか。あの時がこの世界にコウキ君がやって来た瞬間だったんだ。

 

「それで色々と困惑していたのね。家電とかその他にも」

「はい。流石に二世紀近く時代が進んでいると何にも分かりませんよ。状況的には生まれたての赤ん坊と同じです」

「ま、それは仕方ないわよね」

 

そうよね。知らなかったんだもの。

 

「いきなり飛ばされたので、頼れる知人もいませんし」

 

あ、そうよね。

コウキ君はこっちの世界に飛ばされた。

という事は家族とか友人とかともお別れしたのか。

ずっと昔の人だからいる訳ないし。

 

「両親がいないのも事実でしたしね。辻褄を合わせるにはあんな設定にするしかなかったんです」

 

・・・そうね。

じゃあ、仕方ないか。

でも・・・。

 

「今回だけよ。犯罪行為なんて許さないんだから」

「はい。分かっています」

 

シュンとなるコウキ君。

この分なら大丈夫そうね。

 

「戸籍は捏造ですね。最後にですが、ミナトさんにはきちんとお伝えしておきます。失望するかもしれませんが」

 

そう告げるコウキ君の顔は酷く物憂げだった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 



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告白と決断

 

 

 

 

 

伝えなくちゃ。

俺の四つの異常と俺の目的を。

怖がられるかもしれない。

失望されるかもしれない。

でも、ミナトさんだから。

誰よりも信頼するミナトさんだから。

きちんと伝えておきたいんだ。

 

「俺は飛ばされる際にボソンジャンプを司る存在、まぁ、管理者とでも思って下さい。その者に頼みました」

 

遺跡の事は追々話す事になるだろうな。

とりあえず、今は続きを話そう。

 

「衣食住とか知人とかいない状態じゃ生きていけないから何かしらの温情をくれと」

「そ、そうよね。当たり前よね」

 

慌てるミナトさん。

まぁ、確かに飛ばされる身としては軽い希望だったかもしれないかな。

 

「そうしたら、俺には四つの異常が備わったんです」

「四つの異常?」

「はい。一つは管理者へのアクセス権。本来であればボソンジャンプには色々な条件と制約があるんです。俺はそれを全て無視する事が出来ます」

 

如何なる時でも自由にボソンジャンプできる。

常に瞬間移動できる俺は誰にも捕まえられない。

 

「二つ目はナノマシンとの親和性の向上。知っていますか? 普通の人間の身体にはナノマシンは一種類しか注入できないんです」

「え、ええ。知っているわ。確か、ナノマシン同士が喧嘩しちゃうのよね」

「はい。拒絶反応を起こして激痛を与えると言われています。ですが、俺の身体は特別で何種類ナノマシンを注入しても適合してしまうんです」

「それって・・・」

「化け物って事ですよ。俺の身体はナノマシンの塊です」

 

怖がられるかな?

いいさ。怖がられるのを覚悟で明かしたんだから。

 

「三つ目は複数のナノマシンの注入。親和性が高まっている中に管理者が選別した数種類の高機能ナノマシンを複数注入されたんです」

 

実際にどれくらいなのかは知らないけど。

きっとかなりの量なんだろう。じゃなければ、俺の能力に釣りあわない。

 

「その恩恵で俺の身体能力は異常になりました。見たでしょう? 俺の体力測定。あれでも一生懸命抑えた方なんですよ」

 

息を呑む音が聞こえる。震える身体が見える。

あぁ、やっぱり怖がられるよな。でも、最後まで伝えよう。

 

「・・・四つ目は知識の習得。俺が開発したOSは既存の情報を使ったものです。ずっとズルをしていたんですよ。俺は」

 

元々あったデータをロードして書き換えただけ。

それだけで天才プログラマーとか持て囃されて。

本当にどうしようもない人間だな、俺は。

 

「そんな四つの異常を抱える俺です。そんな俺の目的。教えてあげます」

 

震えて、怯えて、きっと、それでも、ミナトさんは俺を真っ直ぐ見詰めている。

眼を逸らし、恐怖される事に恐怖している俺の事を。

 

「ただ・・・ただ平穏に暮らしていたいんですよ。普通の暮らしをして、普通の人間と同じように過ごしたい」

「・・・え? それ・・・だけ?」

「はい。歴史を変えられるだけの大それた能力を持ちながら、何もせずに人任せにして幸せになりたいんです。身勝手ですよね。失望しますよね」

 

異常者が正常を求める。

なんて滑稽、なんて無様。

それでも、俺は・・・。

 

「こんな能力望んでいなかった。俺はただ普通に生きられれば良かった。それでも運命は俺を逃がしてくれない。歴史を変えろと俺に囁き続ける」

 

それでも、俺はただ当たり前の幸せが欲しいんだ。

 

「俺は身勝手なんです。物語に介入したくないからと主人公と距離を取り、主人公を取り巻く者達と距離を取ろうとした。でも・・・それでも・・・」

 

貴方が優しさをくれたから。

貴方が温もりをくれたから。

 

「俺は始め、ミナトさんとも距離を取ろうと思いました。でも、ミナトさんは本当に優しくて、本当に暖かくて・・・本当に居心地が良くて。・・・だから、傍にいたくて」

 

だから、身勝手で傲慢な俺は・・・。

 

「最善の方法を取らず、自己保身に走り、その上で最低限介入しようなんていう俗物みたいな考えで主役達の舞台、機動戦艦ナデシコに乗ろうとしていたんですよ」

「・・・機動戦艦・・・ナデシコ。それが・・・私の乗る戦艦・・・」

「俺がパイロットになって根本から解決するのがベストなんでしょう」

 

俺にはそれだけの能力が与えられたんだから。

 

「でも、俺は戦後、パイロットとして活躍した事がデメリットにしかならないという自分勝手な考えでパイロットを拒否しました。救える命があるかもしれないのに」

 

失望しますよね。ミナトさん。

 

「主役達の傍で少しずつ物語を好転へと修正していく。そんな神様みたいなポジションになろうだなんて、そんな事を考えていたんですよ」

「・・・・・・」

「傲慢で自分勝手・・・ですよね」

「・・・・・・」

 

無言・・・か。

そうだよな。呆れられたかな?

いや。そんなもんじゃないだろう。

失望、恐怖、軽蔑。

そんな感情全てを俺に向けているんだろう。

そうされるだけの罪が俺にはある。

 

「・・・何で?」

「え?」

「何で貴方はそんなに自分を追い詰めるの? いいじゃない、幸せを望めば。いいじゃない。平穏を望めば」

「ミナト・・・さん?」

「何がいけないの? いいのよ。望みなさい! いくらでも望みなさい!」

 

必死に言葉を紡いでくれるミナトさん。

その声が心に響く。不思議と自然に逸らしていた瞳はミナトさんへと向かった。

正面から俺を覗き込んでくるミナトさん。

その顔は涙で一杯だった。

 

「貴方は貴方を何よりも優先していいの。能力? そんなもの関係ない。あったとしてもそれは貴方の幸せの為にあるのよ」

「俺の・・・幸せの為? この異常な能力が?」

「貴方は言ったわ。運命なんて信じないって。それなのに何が運命から逃れられないよ。自分の発言に責任を持ちなさい!」

「でも、俺は・・・」

「一人で抱え込まないで。人一人が持てる荷物なんて限られているの。まずは貴方だけの荷物を持ちなさい。それでもまだ持てるのなら他の人の荷物も持ってあげなさい」

 

俺は・・・俺を優先させていいのか?

俺の幸せを望んでいいのか?

 

「まずは貴方が幸せになるの。そうすれば必ず貴方の周りは幸せになるから。自分を幸せに出来ないような人が他人を幸せに出来る筈がない」

「ミナト・・・さん」

「ずっと、ずっとそんな恐怖を抱えていたのね。ごめんなさい。気付いてあげられなくて。ごめんなさい。支えてあげられなくて」

 

俺の為に泣いてくれているミナトさん。

どうして・・・どうしてそんなに優しいんですか?

 

「俺が・・・怖くないんですか? 化け物ですよ? 異常者ですよ」

「化け物? 異常者? ううん。貴方は当然の事を望んだだけ。きっと管理人さんは貴方の幸せを望んでとっておきの能力を与えてくれたのよ」

 

とっておきの能力? この異常が? 

幸せの為の能力なのか?

 

「自分勝手? 傲慢? 一人で何でも出来るって考えている今のコウキ君こそが傲慢で自分勝手よ」

「でも、俺にはそれだけの能力が・・・」

「どんなに凄い能力を持っていようと人には限界があるの。神様だって全てを救う事なんて出来ないわ。そんな事が出来てれば世の中に不幸なんてなくなるもの」

「・・・・・・」

「貴方は普通の子よ。ただちょっと人にはない特別な能力があるだけ。気負わなくていいの。誰かを救わなければいけないなんて自分を追い詰めなくていいのよ」

 

・・・平穏な生活を望んでいたその裏で、俺は何かしなければと思っていた。

この世界は俺にとって物語の世界だった。でも、俺は現に生きている。この世界に住人と触れ合っている。

ただ生きていくだけなら今のままで充分な筈。でも、遺跡はいった。必ず巻き込まれると。

それが俺には貴方の能力はその為に与えたものだって言われているとしか思えなかった。その力で救えるものを救いなさいって言われているとしか思えなかった。

 

「好きに生きなさい。貴方が望むように生きなさい。義務感とか責任感とか、そんな事で自分の行動を縛らないで。貴方の事は貴方が決めるのよ」

 

救わなければという義務感。

未来を知っているという責任感。

それが俺を縛っていた? 平穏に生きると主張しておいて、俺の知らない自分でも気付かない所で俺を縛っていたのか?

 

「普通に生きなさい。貴方が望む普通の生活を。貴方にはその権利があるの。誰の為でもない。自分の為に行動できる権利があるのよ」

「・・・いいんでしょうか? 未来を知り、その解決策すら知っている俺が何もしなくて」

「当事者の問題は当事者が担う。どれが最善かなんか分からないでしょ。未来を知っている人が助言したからって事態が好転するとも限らないわ」

「でも、それじゃあ、俺は何でこの世界にいるんですか? 俺が、俺がここにいるのは何か理由が―――」

「理由なんてないわ」

 

・・・理由がない? 俺がここにいるのに、意味なんてない・・・のか?

 

「人が生きる事に理由なんてない。存在する事に理由なんてない。生きるって事はそんな複雑な事じゃないもの。ただ幸せを望み、幸せを与える。それが生きるって事」

「・・・俺はいてもいなくてもいい存在なんですか?」

「そうじゃないわ。貴方がここにいる事に意味はある。でも、理由がなくちゃ存在しちゃいけないなんて事はないの」

「・・・良く分かりません」

「コウキ君。この世界は居心地が悪い? 辛い?」

「・・・そんな事ありません。居心地が良過ぎて。だから・・・」

 

どうにかしないとって余計に思って。

 

「それでいいじゃない。存在する事に理由を求める必要なんてないわ。貴方はここにいる。ただそれだけよ」

 

全てを理解できた訳ではない。でも、ミナトさんの想いはきちんと伝わってきた。

俺は、俺のしたいようにしていいんだ。義務感? 責任感? そんなものに囚われる必要はない。

未来を変えなければならない? 俺一人の力で変わるような未来じゃない。俺に出来る事は己とその周りの幸せを考え、その為に行動する事ぐらいだ。

 

「・・・ミナトさん」

「何かな? コウキ君」

「幸せって何でしょう? その為に俺は何が出来るんでしょう?」

 

何の気負いもなくして、平穏な生活を望んでいいって思うと気持ちが楽になった。

でも、今度はどうすればいいか、分からなくなった。無意識に俺はナデシコに乗る事だけしか考えてなかったみたいだ。

始めはナデシコに乗らなければ良いって考えて、次はパイロットにならなければ良いって考えて、次はどうにか無難な役職を求めて。

この世界に来てからナデシコの事以外考えてなかったんだ。今、それに気付いた。

 

「幸せは人それぞれじゃないかしら。コウキ君にはコウキ君の幸せがある。コウキ君が幸せを求めるなら、コウキ君にしか出来ない事があるんじゃない?」

「・・・ハハハ。優しくないですよ。ミナトさん。こんなに困っているのに」

「存分に困りなさい。幸せを求めるならいくらでも苦しみなさい。それが後々の幸せに繋がるの。幸せを実感できるの」

 

ニッコリ笑うミナトさん。

何だろう? 何か、久しぶりに見た気がする、ミナトさんの笑顔。

 

「そっか・・・」

 

はぁ・・・って息を吐く。

ベンチにもたれかかる俺をミナトさんが優しげな笑顔で見守っていた。

・・・ちょっと照れるかな。

 

「ミナトさん。俺は副操舵手と副通信士とサブオペレーターを兼任しようと計画していたんです」

「そっか。それで色んな資格を取ろうとしたのね。操舵手の資格を最初に取ったのもその計画に沿って?」

「まぁ、そんな所です。ナデシコクルーの中で混ざっても違和感のない役職は何かなって思って。結局、俺は補佐役に回るのがベストだなって考えた訳ですよ」

 

あのナデシコクルーだからこそあの結末を導けた。

俺の存在が誰かしらの欠員を出したら本末転倒だ。

 

「それじゃあ、コウキ君は元々乗るつもりだったって事?」

「そう・・・みたいですね。ナデシコに乗らずにいようと考えていた筈なのに、いつの間にか乗る事を前提にしていました」

 

不思議だよな。最初は乗らないつもり満々だったのに。

なし崩し的?に乗る事になっちゃいそう。断ろうにも・・・。

 

「ん? どうかしたの?」

「いえ。なんでもありませんよ」

 

・・・ミナトさんもいるしな。

あれだけお世話になったミナトさんだけを危険な所に行かせるっていうのも・・・。

ま、無事だった事は確かなんだけど、何かあるか分からないだろう?

俺の知っている通りに物語が進むかなんて分からないし。

 

「私はね、悩んでいる、というか、コウキ君がいる所にいようと思うの」

「え?」

 

俺が・・・いる所?

それって・・・。

 

「私って楽しい仕事じゃないと嫌なのよ。給料とか、そういうものじゃなくて、充実感が得られる仕事に就きたいの」

 

うん。確か、それこそがミナトさんのナデシコ乗艦理由だったと思う。

 

「一年前かな。コウキ君と出会う前はちょっと物足りなかったのよね。つまらない訳じゃないけど、もっと何かあるんじゃないかなって」

「俺を拾ってから何か変わったんですか?」

「拾うって・・・。まぁ、そんな感じよ。ほら。コウキ君って見ていて退屈しないじゃない? だから、その物足りなさも埋まったっていうか・・・」

「・・・・・・」

 

はぁ・・・。期待して損した。

好かれているとか思っちゃったじゃん。

あぁ・・・退屈しないからですか。そうですか。

 

「どうしたのよ? 何で落ち込んでいるの?」

「いえ。己惚れ屋の自分に呆れていただけです」

「えぇっと。よく分からないけど元気出して」

 

はい。そうします。

 

「だからかな。コウキ君といれば充実感が得られると思って」

 

ま、まぁ、必要にされているって思ったらそんなに嫌じゃないかな。

 

「でも、コウキ君は自分で決めなさい。私がナデシコだったかしら? に乗らなければいけないから自分も乗ろうとかそんな風に決めたら駄目よ」

 

・・・図星です。そう考えている自分もいました。

 

「私は・・・そうね、乗ろうと思うわ」

「え? 何故ですか?」

 

本当は何かしらの理由があったのか?

充実感って嘘?

 

「面白そうじゃない。せっかく資格も持っているんだし、使わないのは損だもの」

 

・・・それで良いんですか? ミナトさん。

 

「何よ? その呆れた表情」

「・・・いえ。何だか拍子抜けしたというか、ミナトさんらしいと思ったというか、まぁ、そんな感じです」

 

でも、そっか。ミナトさんはナデシコに乗るのか。

それなら、俺も決まったな。

 

「そうですか。それなら、俺もナデシコに乗ろうと思います」

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「そうですか。それなら、俺もナデシコに乗ろうと思います」

 

色々な悩みを抱えていたのね。コウキ君って。

望まぬ力に望まぬ境遇。それでも、生真面目だから、何かしないといけないって自分に責任を課す。

もっと肩の力を抜いて、好きに生きればいいのに。

気遣いとか、思いやりとか、過度は自分に毒よ。

 

「それは何で? 無理に乗らなくてもいいのよ」

 

コウキ君が乗りたくないなら乗らなければ良い。

元々乗らないつもりだったんなら尚更。

 

「ミナトさんもいますし。ミナトさんだけ危ない所に送り出す訳にはいかないじゃないですか」

 

・・・私が・・・いるから?

えぇっと。それって・・・。

 

「ミナトさんにはお世話になりましたし。まだ恩を返しきれてないですから」

 

・・・そうよね。

恩返しとか、そんな理由よね。

な~んだ。期待して損しちゃった。

好きだから傍にいたいとか、そんな事を言ってくれるのかと思ったのに。

・・・そうね。そんな甲斐性。コウキ君にはないものね。

 

「えぇっと、何ですか? その呆れた眼」

「なんでもないわよ」

 

本当に、子供なんだから。

 

「歴史を変えたいとか、未来を変えたいとか、俺が何でも解決してやるとか、そんな風に思った訳じゃないんです」

 

真面目な顔のコウキ君。

葛藤もあっただろうに。

覚悟を決めた男の子って素敵ね。

 

「どうしても逃れられない運命だっていうんなら、俺は逃げないで正面から立ち向かう事で打破してやります。その上で、幸せを見つけてみようかなって。そう思いました」

 

正面から・・・か。

何だかんだ言って、コウキ君なら出来る気がするわ。

 

「でも、それじゃあコウキ君の望む平穏って奴が得られないんじゃないの? コウキ君の能力が知られたら・・・」

 

パイロットとして有名になれば軍が逃がしてくれない。

ボソンジャンプ・・・だったかしら? それが知られれば、瞬間移動だもの。誰だって欲しがるわ。

それがタイムマシンかもしれないと知られたら余計に。

身体能力だって、ナノマシンだって、コウキ君はそういう科学者みたいな人達からしてみれば宝の宝庫よね。

知られたら・・・ただじゃ済まないわ。

 

「そうなんですけどね。ま、俺も男ですから。ミナトさんを護るぐらいの甲斐性はあるつもりですよ」

「ちょ、な、何を言っているのよ」

 

私を護る? 私が、コウキ君に護られる?

あぁ。もう。顔が熱いわ。コウキ君のバカ。

そういうのはプロポーズの時に添える言葉なの。

 

「それに、いざとなったら逃げますから」

「・・・・・・」

 

・・・呆れた。カッコイイって思ったのに。たった数秒しかもたなかったわ。

やっぱり、そんな甲斐性、コウキ君にはないわよね。

護るっていうのなら逃げないで最後まで護りなさいよね。

って、私ってば何を考えているの!? コウキ君に護ってもらおうだなんて・・・。

 

「どうかしました? 悶えちゃって」

「え・・・う、ううん。なんでもないわ。気にしないで」

「はぁ・・・」

 

は、恥ずかしい。ペースが崩されまくりだわ。

 

「そ、それで、どんな役職で乗るの?」

 

計画通りに行くのかしら?

 

「色々考えたんですが、予備パイロットも引き受けようかなって」

「え? いいの? それで」

「ええ。ガキみたいな考えですが、多分、ずっと反発していたんだと思います。パイロットになれる力があるからこそ、パイロットになるって事に対して」

 

運命だとか、そんな筋書きに反発していたって事かしら?

パイロットになる事が運命に従うみたいで嫌だって。

 

「でも、拒否し続けて危険な眼にあったら本末転倒だなと思うんです。死んだら何の意味もないですからね」

「まぁ、そうなんだけど。私としては・・・乗って欲しくないかな」

「あれ? 心配してくれるんですか?」

 

心配してくれるのかって?

そんなの・・・。

 

「そんなの、当たり前じゃない! 誰が好き好んで危険な眼にあって欲しいなんて思うのよ!」

 

大事な子に死んで欲しいなんて思う訳がない!

そりゃあさっき軽くパイロットなればいいなんて言っちゃったけど、あれは出撃とかしないで、大丈夫だと思ったからで本心じゃない。

正規のパイロットだったら断固反対していたわ。

 

「・・・そっか。嫌がってくれるんだ・・・」

「コウキ君?」

 

俯くコウキ君。呟いているけど何も聞こえなかった。

何て言っていたのかしら?

 

「護れる力があるなら護りますよ。ミナトさんも乗っていますから」

 

そう言って笑うコウキ君。

今までで一番男らしくてカッコイイ笑顔だった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「そうですか。引き受けて頂けますか」

「ええ。ですが、あくまで予備ですからね。危険な時だけですよ」

「分かっております。いざという時に御願いするだけです」

 

結局、予備パイロットを引き受ける事になっちゃったな。

どうなるか分からないけど、出来るだけの事をしよう。

それにしても、何で今までみたいな抵抗感がないんだろう?

やっぱりミナトさんのお陰かな? 気が楽になったし、護る為にはパイロットになった方が良いって思えるようになった。

 

「それでは、ハルカさんには操舵手を。マエヤマさんには副操舵手、副通信士、予備パイロットを御願いしますね」

「分かりました」

「はい。分かり―――」

 

あれ? サブオペレーターはどうなったんだ?

 

「えぇっと、サブオペレーターはどうなりました?」

「新しく候補者が現れまして。その方にお任せする事になりました」

 

新しい候補者?

ルリ嬢以外にもオペレーターが・・・。

あ! そうか! 盲点だった!

 

「・・・マシン・・・チャイルド・・・」

 

俺が匿名で送ったMCの情報。

それを頼りに救出されたMCは何人かいる筈。

ルリ嬢の他にオペレーターを務められるMCがいてもおかしくない。

いや、むしろ、ネルガルがMCを利用しない訳がない。

 

「おや? ご存知なのですか?」

 

あ、や、やばっ。ど、どうにかして誤魔化さないと。

 

「僕もIFSを持っていますからね。噂程度には・・・」

「私はメインオペレーターの事もお話していませんが・・・」

 

うわっ! 墓穴掘った。

どうする? どうする? どうするよ?

 

「マエヤマさん。貴方・・・」

 

や、止むを得まい。

 

「ホシノさんの事は両親から聞いていました。先日、ホシノさんがネルガルに雇われたと知りまして。ホシノさんがオペレーターなのでしょう?」

「ほぉ。ご存知で。そういえば、マエヤマさんの両親も研究者でしたかな? それならば、MCにお詳しいと」

 

おぉ! 両親の設定が役に立ったか!?

 

「はい。わざわざホシノさんレベルのオペレーターを雇ったのです。同等とまでは行きませんが、それに近い人をサブとして雇う筈。それならば・・・」

「MCである可能性が高いと。そう考えた訳ですね」

「その通りです」

「・・・まぁ、いいでしょう」

 

納得してくれたか? いや、多分、疑っているんだろうな。

でも、匿名で送ってきたのが俺だとはバレてないだろう。

疑われても確証はないのだから。

 

「しかし、よくお調べになりましたな。ルリさんの事はネルガルが全身全霊をかけて隠していた筈ですが・・・」

 

まだだった!? まだ疑いは晴れてない! 甘かった!

 

「こう見えても天才プログラマーと呼ばれている俺です。少し調べればチョチョイのチョイです」

「ほぉ。ハッキング・・・という奴ですかな?」

 

キランと光るプロスさんの眼。

おいぃ! 怖いよ!

 

「いえいえ。そんな事はしていないですよ。研究所の方をちょっとね」

 

実際に調べてないんだから、跡はついてない筈。

意地でも誤魔化し通す。

 

「おや。それは盲点でしたな。研究所の方でしたか。それならば、注意が甘くなっていてもおかしくありません」

「そうなんですよ。ハハハハハハ」

「素晴らしいハッキング技術ですな。ハッハッハ」

 

・・・早速追い込まれました。どうしよう?

 

「コウキ君? そんな事をしていたの?」

 

ミ、ミナトさんまでそんな白い眼で・・・。

やばい。信用と立場を失いかねない。

 

「後で色々と教えてね」

「・・・了解しました」

 

耳元でそう言われたら断れませんよ。

トホホ・・・。

 

「それでは、お引き受けして頂けるという事で。こちらが契約書になります」

 

ズバッと。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

懐から出すのが早過ぎです。

ミナトさんなんて眼が点。

ま、俺は見えていたけどな。

 

「読み終えたらこちらの方にサインを」

 

といってすぐにサイン欄を指差すプロスさん。

フッフッフ。契約書とはきちんと読むものなのですよ。

後々、あんな事態にならないようにあらかじめ手を打っておきます。

 

「う~ん。大丈夫そうね」

「おっと。ミナトさん。ちょっと待ってください」

「え?」

 

サインしかけたミナトさんを止める。

そういえば、何でミナトさん、あの項目を見逃していたんだろう。

・・・あ。読めないよな。こんなちっちゃくちゃ。それも、見えづらいように工夫してある。

 

「幾つか確認したいのですが、よろしいですか?」

「何なりと」

 

フフフ。プロスさん。後悔しても知りませんよ。

 

「まずは一つ目。俺って予備パイロットとして登録されているんですよね?」

「ええ。そうなっております。ここに役職が書かれているでしょう?」

 

ま、確かに名前の下に役職名が書いてある。

 

「それなら、何故、保険について何も書かれていないんですか?」

 

予備パイロットとてパイロット。

何かしらの破損で弁償とか勘弁して欲しい。

 

「おぉっと、忘れておりました。いやはや。申し訳ありません」

 

このうっかりオジサンめ。

意図的だったら性格悪いぞ。

俺はアキト青年のように苦労したくないの。

借金地獄とか勘弁して欲しい。

 

「二つ目ですが、俺の部屋はどこになります? 契約書を見るとブリッジクルーと一般クルーとで部屋が違うみたいですが、俺はどちらに所属する事になりますか?」

 

俺って予備パイロットだし、副通信士だし、副操舵手だろ。

全部、副とか予備とかだから、実は一番立場がないのでは?

 

「マエヤマさんはブリッジクルーと同様一人部屋とさせて頂きます。OSなどでお世話になるつもりですから。ブリッジの方にお席も用意させて頂くつもりです」

「OS・・・ですか? プログラミングとかはオペレーターの方にお任せした方が良いのでは?」

「御戯れを。天才プログラマーのマエヤマさんには敵いませんよ」

 

俺なんてすぐに抜かれると思うけどな。

俺の利点なんてナノマシンぐらいだけだし。

というか、既に抜かれているんじゃないかな?

ま、いいや。それなら・・・。

 

「それなら、オペレーター補佐とか、そんな役職もつけてくださいよ。何もしないのにブリッジにいるのは申し訳ないですから」

「そうですか。いやはや。助かります。マエヤマさんは働き者ですな」

「いえいえ。そうすれば給料もアップでしょ? メリットもあるんですよ。無料でプログラミングとか嫌ですし」

 

どうせならねぇ、きちんとした仕事という形で引き受けたいものです。

 

「・・・中々に抜け目がないですな」

「ないよりあった方が良い。お金なんていくらあっても困りませんから」

 

もう使い切れないぐらいあるんだけどね。

ないよりはあった方が良いでしょ。何があるか分からないんだし。

 

「ま、いいでしょう。了解致しました。給料の方もそれに見合うだけの金額をお出しします」

「助かります」

「コウキ君。あんまりがめついちゃ駄目よ」

「え、ええ。分かりました」

 

呆れないでくださいよ。

正当な権利なんですから。

 

「それで最後ですが・・・」

 

あの騒動に巻き込まれたくないし、気軽にミナトさんとお茶とか出来なくなっちゃう。

何としても説得だな。

 

「この項目をどうにか出来ませんか?」

 

噂の手を繋ぐまでって奴だよ。

別に如何わしい事をしたい訳じゃないけど、艦内恋愛なんて自由でいいんじゃない?

恋は理屈じゃないんですっと言わせて頂く。

ついでに異性間の部屋の行き来の禁止ってのもいただけないね。

食堂でのお茶会もいいけど、部屋でのんびりしたいとかも思うし。

あれ? ユリカ嬢。即刻アキト青年の部屋に訪ねてなかったっけか?

・・・これって事実上、無視扱い?

何度も行き来していたような気がするのだが・・・。

緊急時は構わないとかそういう事だろうか?

 

「あら? そんなのあったかしら?」

「ほら、ありますよ。物凄く小さいですけど」

「あ、本当だわ。これは酷いわね」

 

そうですよねぇ。呆れますよねぇ。

 

「いやはや、困りますな。私達からしてみますと、艦内恋愛はちょっと」

「恋愛は自由だと思いますよ。ただでさえ閉じ込められた空間です。何かあってからでは遅いのです」

 

あっち方面って爆発しちゃうと危険でしょ? 何をしでかすか分からないし。

あ。もちろん、俺は大丈夫だよ? なんといってもこの一年間を耐え切ったんだから。

むしろ、褒めて欲しいね。夜は悶々でしたよ。うん、本当に。

 

「大人なのですね。マエヤマさん」

「いえいえ。少し考えれば分かりますよ」

「・・・エッチ」

 

グハッ! ボソッと告げるのはやめて下さい。

心にグサッと刺さりますから。

 

「そ、そんなつもりはないですよ。ただ、部屋でお茶会と開きたいじゃないですか。飲み会とか」

「まぁ、分からなくもないけど・・・」

 

ミナトさんって見た目と違って結構堅いからなぁ。

あ、別に見た目を貶している訳じゃないよ。本当だよ。

美人さんだけど、清楚っていうよりは大胆とか、引っ張っていくとか、そんな感じだからさ。

 

「食堂とかでもいいんですけどね。部屋の方がのんびり出来るかと」

「なるほど。そういう意味ですか。ですが、それでは相手方が契約違反になりますよ」

「あ、だから、俺と相手も対象にしてください。俺だけじゃ意味がないですから」

「しかしですね・・・」

「給料5%でどうですか?」

「・・・致し方ありませんな。部屋の行き来に関しては許可しましょう。ただし、如何わしい行為は」

「し、しませんよ」

 

だから、睨まないで下さい。ミナトさん。

 

「しかし、それでは手を繋ぐ方の理由としては不適格ですな。お茶会ぐらいなら接触もないでしょうし」

 

むぅ・・・確かに。

でもさ、手を繋ぐ以上なんていくらでもあるんじゃないかな?

 

「たとえば足を挫いてしまったとか、そんな時には背負ってあげるべきでしょう? 接触する事態なんて幾らでもあると思いますよ」

「それらは例外ですよ。見逃します」

「社内恋愛は禁止にしない方がいいですよ。抑えつけられる事で逆に燃え上がっちゃうなんて事もありますから」

「・・・大人なのですね。マエヤマさん」

「・・・エッチ」

 

しまったぁ。いらぬ一言だった。

 

「と、とにかくですね。手を繋ぐ以上の接触なんて幾らでもあると思うんですよ」

 

時と場合によるけどさ。恋愛関連以外にもありえるでしょ。

 

「それに、落ち込んでいたり、悩んでいたりする時って、無性に人の温もりが欲しくなったりするんです。温もりって大切だと思いますよ。心の支えになってくれますからね」

 

俺はミナトさんのお陰で心が軽くなった。

ミナトさんの優しさと温もりが俺を元気付けてくれたんだ。

 

「・・・コウキ君」

「・・・マエヤマさん」

 

暖かな視線で見詰めてくるプロスさんとミナトさん。

・・・って、俺は何を恥ずかしい事を言っちまっているんだ。

これじゃあ温もりを欲しているみたいじゃないか!

いや、ま、欲しいんだけどさ。こんな事、他人に言う事じゃないだろ!

しかも、経験がありますみたいな言い方だったし、恥ずかし過ぎる・・・。

いや、あるんだけどね。

 

「・・・そうね。私もこの項目は消して欲しいわ」

 

こちらを見ながら言わないで下さい。恥ずかしがっているんだからスルーの方向で。

 

「マエヤマさんのおっしゃる事はよく分かりますが、これを失くしてしまうとそれこそ際限がなくなってしまうでしょう? 私達と致しましても・・・」

 

仕方がない。元々多過ぎるくらいの給料だ。

多少減っても・・・まあ、構わないだろう。

 

「更に5%で・・・」

「・・・10%」

「・・・7%」

「・・・・・・」

 

首を横に振るプロスさん。

クソッ。譲れないってか。

致し方あるまい。

 

「分かりました。10%で御願いします」

「それでは、マエヤマさんは合計15%のカットとなります」

 

15%か。・・・結構あるな。

ま、それでもかなりの量だから良いけど。

 

「あ、もちろん、相手方も対象ですからね」

「・・・もちろんです」

 

誤魔化すつもりだったな?

流石はプロスペクター氏。抜け目がない。

 

「それじゃあ、私も15%カットでどっちも消してもらおうかしら」

 

そうだよな。ミナトさんにだって自由に恋愛する権利があるんだ。

・・・ちょっと寂しいっていうか、こう・・・そう、胸が痛む。

お姉さんを取られる弟の気持ちって奴なのかな?

 

「・・・分かりました」

 

渋々って感じで了承するプロスさん。

ま、文字通り渋々なんだろうな。

 

「それでは、こちらの方にサインを」

 

パッと見で不備はない。

きちんと全部に眼を通したし、矛盾とかもなかったし、こちらが不利になる項目も特にない。

よし。いいか。

・・・あ、その前に。

 

「一応、減らされた分の給料を確認させて頂けますか」

「あ。私も御願いします」

「はい。分かりました」

 

・・・出たよ。

神速のソロバン弾き。

ミナトさんなんて口を開いちゃっている。

 

「まずはマエヤマさん。こちらになります」

 

ソロバンで弾いた数字を一々電卓に打ってから見せる。

二度手間だよね。あいも変わらず。

んで、電卓に映る数字。

全役職分の給料とそこからカットされた分を引いて・・・。

 

「うん。やっぱり多いですね」

「ネルガルは気前が良いのですよ」

 

うん。本当にそう。

気前良過ぎ。この世界って就職難とかじゃないのかな?

そう願いたい。だって、申し訳ないもの。

 

「そして、こちらがハルカさんですね」

 

高速弾き。そして、提示。

 

「あら。本当に気前が良い」

 

ですよねぇ~。

 

「よろしいですか?」

「はい」

「ありがとうございました」

 

うん。大丈夫。サイン、サインっと。

 

「はい。確かに。契約成立です」

 

サインした契約書を懐に入れて、プロスさんが立ち上がる。

 

「出航は一ヵ月後。合流は出航の一週間程前には済ませておいて下さい。場所はサセボシティの軍用ドックです」

「分かりました」

 

こうして、俺の物語が始まった訳だ。

いる筈のない、存在する筈のないイレギュラーの物語が。

 

 

それから会社の方へ退社届けを出した。

俺はアルバイトだから、そんなに重々しくなかったけど。

もちろん、ミナトさんは残念がられたよ。

個人の問題だから、納得してくれたみたいだけど。

それと意外に俺も残念がられた。

ま、便利君だったしな。食事とかも結構行ったし、割と気に入られていたのかも?

・・・うん。そうだったら嬉しいかな。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「はい」

 

マンションも引き払い、いらない荷物はミナトさんの実家に送った。

あ、俺に私物なんてないから、何の心配もいらない。

何で男物が送られて来たの? とかいう問題も起きていない筈だ。

残りの私服とスーツはナデシコに持っていくしな。もうとっくに郵送済みだぜ。

ちなみに、ミナトさんも郵送済み。だから、今持っているのは手荷物程度。

さてと、早速ドックへ向かいますか。

 

 

 

 



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ナデシコと違和感と

 

 

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました。ハルカさん。マエヤマさん」

 

軍用のドックに出向くとプロスさんがお出迎え。

そして、眼の前にあるのは・・・。

 

「変な形ね」

「そうですね」

「この艦こそが我が社の開発した地球最新鋭の機動戦艦、ナデシコです」

 

そう、主役達の舞台、機動戦艦ナデシコだ。

ディストーションフィールドを発生させる為のディストーションブレードのせいで変な形になっているけど、性能は確かに最新鋭。

これから長い間、お世話になります。

 

「それでは、ご案内しましょう。まずは格納庫です」

 

危険物の探知をして、消毒。

消毒しないと余計な菌を艦内に持っていっちゃうからな。

風邪とか菌がなければひかないだろうし。

体調には充分気を遣わなくちゃね。寝込みたくないし、仕事のシフト的にも迷惑がかかる。

 

「こちらが本艦搭載のエステバリスです。マエヤマさんはご存知でしたな」

「え、ええ。まぁ。完成した機体は初めてですが・・・」

 

人型機動兵器エステバリス。

全高が六メートル前後の高い運用性と汎用性を持つネルガル開発の機体だ。

ジェネレーターをオミットし、エネルギーを重力波ビームという形で外部供給する事で小型軽量化しつつ、高機能化にも成功している。

ただし、その性質上、供給源、今ならナデシコだな、そこから離れるとすぐにバッテリーが切れるとか、移動に制限があるとか、嫌なデメリットも多い。

ま、攻めには向かないけど守りには適しているな。アサルトピットのフレーム換装システムとか画期的過ぎ。

どんな地形でも換装次第で対応できるとか、無駄がなくて素晴らしい。

まぁ、余計にフレームを置いておかないといけないってデメリットもあるみたいだけど。

ま、サイズ的に小さいから問題ないだろう。何だよ、六メートルって。

俺の知っている機動兵器ではこれの三倍でも小さい方だっての。

やはりエネルギー源を外部に依存するっていうのは効果的なんだな。

 

「マエヤマさん専用のアサルトピットもご用意してあります。アサルトピットはご存知で?」

「ええ。一応は。ゲームの時に簡単に説明を受けましたから。簡単にいえば、コアファ・・・ではなく、まぁ、コクピットですよね。他フレームと接続できるモジュール的な」

「そう捉えていただければ結構です。マエヤマさんには各機体のOSをお任せしたいのですが・・・」

「え? でも、万全なんですよね? 俺が弄る必要はないのでは?」

「無論です。ですが、これ以上の性能は我が社の開発班では無理でしてな。マエヤマさんならより高度なものを作れるのではないかと思いまして」

 

どうなんだろう? ウリバタケ氏と相談してみようかな。

プログラム関連で目立つ分には問題ないし。

改良できる部分があるかもしれない。

 

「分かりました。出来るか分かりませんが、やってみましょう」

「そうですか。ありがとうございます。試験は我が社の凄腕のパイロットが務めますので」

 

凄腕のパイロット? 誰だろう?

ダイゴウジ・ガイ、改め、ヤマダ・ジロウかな?

でも、近接バカとして有名な彼が凄腕のパイロットって呼べるのかな。

 

「あ、あそこにいますね。紹介します。テンカワさん!」

 

テンカワ!? 

えぇ!? テンカワってアキト青年の事か!?

ど、どういう事だ!? 一体、どうなっている!?

 

「コウキ君。どうしたの?」

 

アキト青年を呼んでいて後ろを向いているプロスさんを気にしながらミナトさんが声を掛けてくる。

ミナトさんにはある程度の事を教えてある。

もちろん、ミナトさん関連については話していないけど。だって、話したら怒るし。

でも、ルリ嬢の事とか、ヤマダ・ジロウの事とかは簡単に話してある。

助けてあげたいって事も話したし、協力してくれるとも言ってくれていた。

アキト青年が主役でコック兼予備パイロットって事も話してあるけど・・・いきなり予想外だよ。

 

「テンカワっていうのはアキト青年の苗字で、本来ならまだ艦内にいないんですよ。そもそもパイロットとしては素人でとてもじゃないですが凄腕なんて・・・」

「・・・という事は早速物語からズレているって訳ね。やっぱり平行世界なのよ」

「・・・そうですね。これで先が分からなくなってしまいました。でも、やれるだけのことはやってみます」

「ええ。協力するわ。頑張りましょうね」

 

笑顔のミナトさん。

うん。やっぱりミナトさんの笑顔には勇気付けられる。

 

「・・・・・・」

 

こちらへとやって来るアキト青年。

ミナトさんを見た時は穏やかな顔をしていたのに、俺を見た瞬間、驚きで顔を染めた。

えぇっと、何故だ?

 

「紹介します。こちらナデシコのリーダーパイロットを務めてくださるテンカワ・アキトさんです」

「・・・テンカワ・アキトだ。よろしく頼む」

 

・・・マジかよ? あの童顔で騒がしい事が取り柄のアキト青年がこんな鋭い顔付きでクールに自己紹介だなんて・・・。

どういう事だ? 俺の存在がそんなにこの世界を変えたってのか?

 

「こちらは操舵手を務めてくださるハルカ・ミナトさんと副操舵手、副通信士など、多くの役職を兼任してくださるマエヤマ・コウキさんです」

「ハルカ・ミナトよ。よろしくね。アキト君」

「マエヤマ・コウキです。よろしく御願いします」

 

えぇっと、何でこんなに睨まれているんでしょうか。

 

「マエヤマさんは予備パイロットでもありますので、テンカワさん、面倒を見てあげてください」

「・・・ああ。分かった」

 

射ぬかんばかりの鋭い視線で俺を見てくるアキト青年。

睨まれるような事をした覚えはないんだが・・・。

 

「どうか致しましたか? テンカワさん」

「・・・いや。なんでもないさ」

 

こ、怖いんですけど・・・。

 

「では、テンカワさん。ありがとうございました」

「・・・ああ。それではな」

 

去っていくアキト青年。

これは・・・とてもじゃないが、アキト青年なんて呼べないな。

アキトさん? テンカワさん? うん。テンカワさんって呼ぼう。

 

「それとですね、整備班の主任にも紹介しましょう。マエヤマさんともよく会う事になるでしょうから」

 

ウリバタケ氏の事だな。

 

ピコンッ。

 

おぉ。コミュニケ。正式名称は・・・知らない。コミュニケでいいか。

 

「ウリバタケさん。格納庫の入り口の方へ御願いできますか? 紹介したい方がいらっしゃいますので」

『ん? おお。すぐ行くよ』

 

ピコンッ。

 

凄いよな。コミュニケ。

便利だよな。コミュニケ。

 

「えぇっと。今のは何ですか?」

 

あ、そっか。ミナトさんは知らないのか。

 

「あ、お渡ししていませんでしたな」

 

プロスさんからコミュニケを手渡してもらう。

ありがとうございます。

 

「これはコミュニケと言いまして。我が社で開発した特別製です。ナデシコ艦内であれば誰とでもいつでも自由に連絡が取り合えます。もちろん、拒否も可能です」

「へぇ。凄いのね」

「便利ですね」

 

使ってみたかったんだよな、これ。

というか、拒否も可能って・・・着信拒否って事?

もうちょっと違う言い方をしようよ。

 

「詳しくはこちらのマニュアルでご確認下さい」

 

マニュアルを手渡される。

よし、覚えよう。そして、すぐ使おう。

 

「おう。着たぞ」

 

マニュアルを確認中にウリバタケ氏登場。

おぉ。これがマッドという奴ですか。

 

「こちらは操舵手のハルカ・ミナトさんです」

「おぉ。別嬪だな」

「は、はぁ・・・」

 

いきなりナンパですか。貴方奥さんいるでしょう?

 

「そして、こちらがマエヤマ・コウキさん、これから何度も顔を合わせると思いますので紹介させていただきました」

「ん? 何だ? パイロットってことか? こいつ」

 

意外そうな顔で俺を見ないで下さい。

確かに見た目的に信じられないかもしれませんが。

 

「正式には予備パイロットですね。でも、本職は違います」

「んじゃあ、何だってんだ?」

「おや。御存知ありませんか? マエヤマ・コウキの名を」

「んん!? マエヤマ・コウキ。マエヤマ・コウキ。・・・聞いた事あるな」

 

怪訝な表情でどんどん近付いてくるウリバタケ氏。

あの・・・怖いんですが・・・。

 

「天才プログラマーのマエヤマ・コウキさんですよ」

「おぉ! あの噂のか!? 随分と若いんだな」

「あ、はぁ・・・ありがとうございます」

 

肩をバンバンしないで欲しい。

 

「こちらは整備班主任のウリバタケ・セイヤさんです」

「おう。よろしく頼むな。マエヤマ」

「あ、はい。こちらこそ。よろしく御願いします。ウリバタケさん」

 

握手。

ゴツゴツしている職人の手だなぁと感心してしまう。

 

「それで、その天才プログラマーがどうして?」

「ええ。OSとかの改良をしてもらおうと思いまして。やはり専門家の方に任せようと思いましてな」

「ふぅ~ん。でもよぉ、兵器関連と民事関連とじゃちょっと違うんじゃねぇのか?」

「そうかもしれませんが、プログラミング技術は超一流です。足りないようであれば指導して上げて下さい」

 

おぉ~い、プロスさん。何を言っちゃっているのかな?

まぁいいけどさ・・・。

 

「そういう事か。ま、いいけどよ。ま、暇な時にでも来な。色々と教えてやっから」

「はい。御願いします」

 

ま、最近は遺跡に頼らずに割りといけるようになってきたしな。

それに、ウリバタケさんから習えるのなら儲けもんだ。

 

「それでは、次の場所へ。次は食堂です」

 

食堂。

凄腕料理人のホウメイ主任と五人の少女のテリトリー。

テンカワさんはいるのかな? どうなんだろう?

 

「こちらはホウメイシェフです。得意料理は中華ですが、何でもこなせる凄腕の料理人ですよ」

「ハッハッハ。褒めても何もでないよ」

 

豪快な人だな。ホウメイ主任。

 

「わぁぁぁ。私って美味しいものには眼がないのよね」

 

嬉しそうだな。ミナトさん。

戦艦って事で食事の心配していたもんな。

美味しい筈ですよって言ったのに信じてくれてなかったみたいだし。

でも、うん、美味しそうな匂い。素人目だけどやっぱり手際も良い。

それに、食事している人のを見れば、絶対に美味しいって分かる。

 

「マエヤマ・コウキです。よろしく御願いします」

「ハルカ・ミナトです。お食事、楽しみにしています」

 

美味しそうだもんなぁ。

ミナトさんなんて眼が輝いているし。

・・・残念ながら、僕の料理スキルはあまりよろしくないのです。

まずくはないけどさ。褒められる程に美味しい訳でもないって、そんな感じ。

 

「そうかい。楽しみにしてな。そっちの坊やも」

 

えぇっと、坊やって俺の事だよな?

 

「あ、はい。でも、坊やはちょっと」

「お、悪かったね。マエヤマだったかな?」

「はい。俺も楽しみにしています。ホウメイ主任」

「主任は良いよ。ホウメイって呼んでくれ」

「分かりました。ホウメイさん」

 

楽しみだな。火星丼。

今まで食った事ないし。

 

「それでは、最後ですね。ブリッジへ向かいましょう」

 

ブリッジ。

俺の勤務場所になる所か。

 

「皆さん。よろしいですか?」

 

一斉にこちらへと向かれる好奇の視線。

そうだよね。ブリッジに人なんてあまり来ないし。

 

「ブリッジクルーの一員となる方を紹介いたします」

 

プロスさん先導のもとに自己紹介が始まった。

 

「戦闘指揮を担当していただきますゴート・ホーリーさんです」

「ゴート・ホーリーだ。よろしく頼む」

 

お世話になります。ゴートさん。

でも、貴方が活躍した描写が皆無だった気がするのは私だけでしょうか?

 

「この艦の提督を務めていただきますフクベ・ジン提督です」

「・・・よろしく頼むよ。若いの」

 

こちらこそよろしく御願いします。

・・・やっぱり暗いオーラを纏っているよな。

ギャグ志向のナデシコでは肩身が狭そうだ。

 

「この艦の副提―――」

「ムネタケ・サダアキよ。この私がいる艦に来られた事、感謝するのね」

 

おぉ。キノコが来た。

マジでキノコじゃん。無論、食す気など毛頭ありませんが。

 

「え~気を取り直しまして」

 

キノコさんがすいません。

 

「通信士を務めてくださるメグミ・レイナードさんです」

「メグミ・レイナードです。メグミって呼んでください。以前は声優をやっていたんですけど、知りませんか?」

「あ、いえ。ちょっと・・・」

 

困っていますね、ミナトさん。

もちろん、僕も知りません。えぇ。知りませんとも。

魔法とか、少女とか、そんな事は全然知りません。

 

「オペレーターを務めていただくホシノ・ルリさんです」

「・・・・・・」

「ん? どうかしました?」

 

ミナトさんを見て微笑んで、俺を見て眼を見開いて。

あれ? テンカワさんと同じ反応だな。どういう事だろう?

 

「あ、いえ。オペレーターのホシノ・ルリです。よろしく御願いします」

 

それにしても、文字通り少女だ。

周りが大人ばかりで大変だっただろう。

ミナトさんがいて本当に良かったと思うよ。

 

「こちらの御二人はサブオペレーターを務めてくださるラピス・ラズリさんとセレス・タイトさんです」

「ラピス。ラピス・ラズリ」

「・・・セレス・タイト・・・です」

 

・・・なるほど。

この二人は確実に俺の介入が原因だろう。

人体実験から救い出せたのか。

・・・良かった。本当に良かった。

 

「どうか致しましたか? マエヤマさん」

「え、あ、いえ。なんでもありません」

 

プロスさんに注意された、というよりも訝しげな眼で見られた。

おっと、気を付けないと。

変に怪しまれるのは勘弁だ。

しっかし、こんな小さい子を戦艦に乗せなくちゃいけないとは・・・。

それを容認している大人達って本当に罪深いよな、俺を含めて。

 

「最後になりますが、会計、監査役のプロスペクターです。改めてよろしく御願いしますぞ」

 

謎の男、プロスペクター。

うん。凄く似合っています、このフレーズ。

 

「それでは、次は御二人の紹介をしましょうか」

 

あ、俺とミナトさんの番ですか。

うん。自己紹介って緊張するよね。

 

「こちらは操舵手を務めてくださるハルカ・ミナトさんです」

「よろしくぅ~~~」

 

あ、もうはっちゃけちゃいますか。

凄いですね、ミナトさん。

 

「そして、こちらの方が副通信士」

「あ、あの人がそうなんだ」

 

はい。噂のあの人は僕です。

 

「副操舵手」

「コウキ君に任せれば安心ね」

 

サボっちゃ駄目ですよ、ミナトさん。

あくまでメインは貴方なんですから。

 

「予備パイロット」

「・・・予備パイロット? ・・・そんな人はアキトさん以外にいなかった」

 

何を呟いているんでしょうか? ルリ嬢。

 

「オペレーター補佐」

「・・・補佐?」

「・・・・・・」

 

無言で見上げないで下さい。

どうしていいか分かりませんから。

 

「以上の役職を兼任していただくマエヤマ・コウキさんです」

「えぇっと、マエヤマ・コウキです。よろしく御願いします」

 

とりあえず、頭を下げる。

んで、少し経って、顔をあげると・・・。

 

「・・・・・・」

 

皆さん固まっていらっしゃった。

え? 何で?

ミナトさんなんて笑っているし。

 

「・・・た、多才なんですね」

 

呆然と呟くメグミさん。

やっと反応が返ってきましたか。

無視されたかと思ったじゃん。

 

「いえいえ。色々と資格に手を出した結果です。趣味なんですよね、資格取得って」

 

これは事実。ミナトさんに勝とうと頑張る内にかなりの資格を取得していた。

俺の学習能力って半端ないよ。だってナノマシンの恩恵があるもの。記憶能力も抜群です。

 

「それにしても凄いですよ」

 

あ、笑ってくれた。可愛らしい笑顔な事で。

俺の身近にそばかすがある女の人はいなかったからな。

なんか新鮮。

 

「マエヤマ・コウキ。昨年高機能OSを開発して一躍有名に。その後も数多のソフトを開発した凄腕のプログラマー」

 

あのさ、勝手に経歴見ないで欲しいんだけど、ルリ嬢。

いや。公開されているデータだから仕方ないんだけどさ。

 

「え? あのマエヤマ・コウキ? こんなに若かったのね」

 

貴方は年齢不詳ですよ、副提督。

 

「・・・オペレーター補佐?」

「・・・私達の・・・補佐さん・・・ですか?」

 

桃色と銀色の髪が揺れる。

ラピス嬢とセレス嬢か。

流石は妖精の末裔・・・末裔じゃないけど。

しっかし、MCって本当に容姿が整っている人間ばっかりだよな。

クソ~。それじゃあ、何で俺は整ってないんだよ!

・・・ま、諦めようか。整形する程には拘ってないから。

 

「それなりに経験を積んでいるからね。少しでも教えられる事があれば教えてあげようって思ってさ。よろしくね」

 

あれだけの境遇だ。対人恐怖症があってもおかしくない。

ゆっくり、ゆっくり、怖がられないように話そう。

 

「・・・よろしく」

「・・・よろしく御願いします」

「うん。頑張ろう」

 

頭とか撫でてあげたくなる可愛らしさだけど自重。

怯えちゃうかもしれないからね。

ゆっくり慣れていってもらおう。

 

「あの・・・予備パイロットってどういう事ですか? マエヤマさんはプログラマーなんですよね?」

 

そうだよね。気になるよね。

・・・今更だけどちょっと欲張りすぎたか?

 

「パイロットとしての適正も高くてですね。IFSもお持ちのようですからいざという時に頼ろうと思いまして」

 

プロスさん、俺はいざという時が来ない事を祈りますよ。

本当にいざという時だけしか頼られないかは不明だけど。

 

「しかし、訓練もなしの素人で現場が務めるのか?」

 

ゴートさん、的確な意見をありがとう。

 

「リーダーパイロットのテンカワさんに指導を御願い致しましたし、訓練義務も課しましたから大丈夫かと」

 

この訓練義務が割と時間を取るんだよ。

ま、こちらも命が懸かっているので頑張りますが。

 

「・・・本当に多才なんですね」

 

呆れた眼で見ないでください、メグミさん。

というか、いつまで笑っているんですか! ミナトさん!

 

「それでは、あちらの席が御二人の席になりますので、そちらの方へ。マエヤマさんは兼任されるのでそれぞれの役職の方と話し合っておいてください」

 

そう言ってプロスさんはどこかへ去っていった。

忙しいんだろうな。出航の時期って納入とかあるだろうし。

 

「行きましょうか。コウキ君」

「はい」

 

ブリッジの入り口付近から自分の席へと向かう。

階段らしき段差を下って、通信席、操舵席、オペレーター席のある所までやってきたんだけど・・・。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

見詰めてくる五対の眼。

何か聞きたい事でもあるのかな?

というか・・・。

 

「何でミナトさんまで俺を見てくるんですか!?」

「え? いいじゃない。ノリよ、ノリ。ね、メグミちゃん」

「え、あ、はい。ノリだと思います」

 

何だよ? ノリって。

 

「はぁ・・・」

「あら。溜息なんて良くないわよ。幸せが逃げるもの」

 

誰のせいですか、誰の。

 

「操舵席が二個ありますね。正面がミナトさんで隣が俺って所ですか?」

「う~ん、そうね。じゃあ、そうしましょう」

 

はい。僕は気付いてしまいました。

ここってさ・・・。

 

「・・・・・・」

 

気まずいよね。

原作本来の順番がブリッジ入口から見て、左にメグミさん、中央にルリ嬢、右にミナトさんだったとしよう。

現状では、左からメグミさん、ラピス嬢、ルリ嬢、セレス嬢、俺、ミナトさんの順。

問題は二つ。

一つは左から見詰めてくる金色の瞳。

セレス嬢。俺はそんな珍しい人間じゃないぞ。

ただの平凡な男さ。特別な事なんて何一つ・・・結構あるけど、それでも唯の一般人だよ。

二つ目は対比。

どう考えてもおかしいでしょ。

副長、ゴートさん、プロスさんの苦労が今なら分かる気がします。

でも、俺はもっと肩身が狭いよ。

だって、男性と女性の比率が一対五だぜ。その集団の真っ只中にいるんだぜ。

やばい。無理です。

秘書課の皆さんのおかげで多少は慣れましたが、まだまだ駄目です。

少女だろうと何だろうと女性は女性。苦手なんです。

・・・あ、そうだった。

 

「えぇっと、これ、食べる?」

 

ポケットから飴を取り出してセレス嬢に見せる。

 

「・・・何味ですか?」

「えぇっと、イチゴ味・・・だね」

「・・・頂きます」

「えぇっと、どうぞ」

 

困った時のお菓子さ。

うん。何個か懐に潜ませておいて助かった。

餌付け・・・じゃなくて、間を取る為にはお菓子が一番。

子供は喜んでくれるからね。

しかも、飴だからなお良い。実は僕自身も緊張を紛らわす為に先程まで食べていました。

 

「えぇっと、美味しい・・・かな?」

「・・・(コクッ)」

「そっか。まだまだたくさんあるから、食べ終わったら言ってね」

「・・・(コクッ)」

 

恐る恐るは僕も同じです。

はい。そこ、笑わない。

聞こえていますよ、ミナトさん。

 

「何をビクビクしているのよ? コウキ君ってば本当に初心なんだから」

「う、初心なんかじゃないですよ。初対面なんですから緊張して当然です。ましてや、女性・・・なんですから」

「もう、これくらいの歳の女の子に緊張してどうするのよ」

 

苦笑して、俺の隣までやって来るミナトさん。

 

「私はミナトっていうの。よろしくね。セレスちゃん」

「・・・(コクッ)」

 

飴を食べているから返事できない状態にあります。

 

「あぁ。可愛いらしいわぁ」

 

それは同意です。でも、即刻抱き締められるのは凄いと思います。

ま、ミナトさんだもんな。母性がくすぐられたか?

 

「・・・痛いです。・・・舌、噛んじゃいました」

「あ。ミナトさん。飴を食べているんですから急に抱き付いちゃ駄目ですよ」

「え、あ。ごめんなさい」

 

パッと離れてシュンとするミナトさん。

ま、母性の暴走だな。よくある事だ。ミナトさんなら。

 

「・・・でも、とっても暖かいです」

「そっか。じゃあ、もう一回」

 

今度はゆっくりと優しく抱き締める。

あ。なんか凄く安らいでいるな、セレス嬢。

母は強しってか? これ・・・多分、口にしたら拳骨を喰らうよな。

ミナトさんってまだ―――。

 

「何かしら? コウキ君」

「いえ! 何でもありません!」

 

やっぱり鋭いよ、ミナトさん。

 

「うん。また抱き締めさせてね。セレスちゃん」

「・・・はい」

 

ゆっくり離れて微笑みかけるミナトさん。

セレス嬢もちょっと笑ったかな? 無表情の顔を緩ませるなんて流石です。

 

「よろしくね。ルリちゃん」

 

その後はルリ嬢とラピス嬢へと向かっていった。

きっとミナトさんなら二人も甘えさせてあげられるだろう。

ルリ嬢は年齢的に照れて抱き締めさせてはくれなさそうだが・・・。

ラピス嬢とセレス嬢はまだ四、五歳ぐらいかな? 大人として護ってあげなくちゃ。

 

「・・・・・・」

 

ん? 服の裾が引っ張られている。

えぇっと、セレス嬢か?

 

「・・・飴」

「あ、うん。いいよ。はい」

 

気に入ってくれたのかな?

 

「・・・三つ」

「三つも食べるの? 虫歯になっちゃうよ」

「・・・(フルフル)」

 

首を横に振る。

えぇっと、何を否定したんだろう。

ま、いいか。きちんと歯を磨かせれば。

 

「はい。噛んじゃ駄目だよ」

「・・・(コクッ)」

 

・・・俺はいつも噛むけどさ。

 

「・・・ありがとう・・・ございます」

「うん。どういたしまして」

 

きちんとお礼が言えるなんて偉いな。

昔の俺はどうだったんだろう?

 

「・・・どうぞ」

 

小さな手に掴まれた三つの飴。

一つをラピス嬢に、もう一つをルリ嬢に手渡した。

そっか。皆にあげようと思ったのか。

ハハハ。優しい女の子だな。

 

「あぁ。セレスちゃん。可愛過ぎよ」

 

それを眼の前で見せられてまたもやミナトさんは暴走してしまいましたとさ。

 

「・・・・・・」

 

暖かい眼差しで少女三人衆を見詰めるメグミさん。

ふと眼があった。

 

「・・・食べます?」

「私はいいですよ。この子達にあげてください」

「そうですね。そうします」

 

ただの飴だったけど持ってきて良かったな。

セレス嬢、ラピス嬢はちょっとだけ微笑んでくれたし。

ルリ嬢は・・・もしかして、睨まれていますかぁ!?

な、何かしたのか? 俺。

テンカワさんといいルリ嬢といい何か怒らせるような事したかな?

睨まれるような事をした覚えはないんだけど・・・。

 

「・・・ルリ」

「何ですか? ラピス」

「・・・悪い人じゃないと思う」

「そんなのまだ分かりません」

 

コソコソと何かを話しているルリ嬢とラピス嬢。

というか、あの二人って知り合いなのか?

う~ん。何かさっきから違和感ばっかりだな。

テンカワさんはパイロットなんかやっているし、ルリ嬢はあの他人を遠ざけるような感じじゃないし、ルリ嬢とラピス嬢が知り合いみたいだし。

何よりも二人に睨まれる理由が分からん。

何なんだ? 一体。

 

 

 

 

 

「アキトさん」

「・・・ああ。イレギュラーだ。本来いない筈の人間がいる」

「マエヤマ・コウキさん。ミナトさんと知り合いみたいです」

「ミナトさんと? 確かに一緒にいたからな。どんな知り合いなんだ?」

「分かりません。でも、かなり親しいみたいです」

「・・・ミナトさんにはツクモさんと幸せになってもらわないとな」

「はい。ミナトさんはツクモさんと幸せになる筈だったんです。それを今回の歴史では叶えてあげましょう」

「そうだな。それがミナトさんにとって一番の幸せだ」

 

 

 

 

 



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模擬戦が生んだ仮説

 

 

 

 

「えぇっと、これをこうして・・・」

 

現在、俺専用のアサルトピットからOSとかを改良中。

想像通り好きに動かせるといっても戦闘経験不足は否めないしな。

それを補うべく、俺は秘策を使った。

調整してシミュレーションで試してまた調整。

これをひたすら繰り返す。

・・・ま、それだけなんだけどさ。

アハハ。笑えてくるぜぇ・・・。

と、とにかく、俺に最適な調整を見つけるまでやり続けるつもりだ。

そうしないと足手纏いだろうしな。

もちろん、ヤマダ・ジロウみたいに突っ込んで自ら窮地に陥る、なんて事はしないつもりだ。

あれは皆様にご迷惑をかけすぎる。ダメ、絶対!

ま、そもそも俺の出番があるか分からん、というよりないだろう。

だって、現段階で正式なパイロットが二人いるんだぞ。

原作ではヤマダ・ジロウが潰れてテンカワ青年しかIFSを使える人がいない為に仕方がなく、そう、仕方がなくテンカワ青年がパイロットとして使われたのだ。

まぁ、その流れで何故か予備パイロットをやらされているので俺とは経緯が違うのだけども。

今回はたとえヤマダのジロウ君が出撃できなくても正式パイロットとしてのテンカワ青年がいる。

正式なパイロットがいるのに予備パイロットは、うん、使わないだろ。

まぁ、何があるか分からないし、使えるようにはしておくつもりだけどさ。

やらないよりはやった方がいざって時にも困らないだろ?

 

「おぉ~い! マエヤマァ!」

「ん? この声はウリバタケ氏か。はぁい! 何ですかぁ!」

 

振り返るとウリバタケ氏が手招きしていた。

格納庫はうるさくて堪らん。

仕方ないけどさ。

 

「テンカワがお前に用があるってよ! ちょいと降りて来い」

 

用って何だろう?

ま、いいや、なんでも。

どっちにしろ、ちょっと待って欲しいけどな。

 

「ちょっとだけ待って下さぁい! もう少しなんでぇ!」

「急げよぉ! テンカワも忙しいんだからなぁ!」

 

出来るだけ急ぎますから待ってくださいって。

自分の命にも関係してくるので手抜きはできません。

 

「えぇっと、補正値はこれくらいだろ。そんで、リミッターは・・・俺の身体なら耐えられるからもうちょっと緩めるか。伝達速度は最高値で。あれ? あんまいじくると怪しまれるか?」

 

基準が分からん。

あんま変な設定にすると変な眼で見られる。

 

「ま、まぁ、試していたって言えばいいか。おし、とりあえずこんなもんだな。ウリバタケさぁん! 今、行きまぁす!」

 

降りる時に使うワイヤー?みたいなものに捕まって降りる。

タラップだったっけ? 何でもいいけど。

飛び降りる事も出来るけど一応やめておく。

六メートルぐらいなら問題ないけどさ。

でも、普通じゃないじゃん、それってさ。

あくまで僕は一般人を目指しているので。

あれ? 一般人って目指すものだったっけ?

・・・考えないようにしよう。

 

「・・・来たか。ついて来い」

 

あの・・・怖いんですけど・・・とっても。

 

「えぇっと、どこに行くんですか?」

「付いて来れば分かる」

「あ、そうですか」

 

強引だよ。何故か拒否できない状況だし。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

あぁ。無言。間が保たない。

重っ苦しい雰囲気です。

 

「・・・お前は・・・」

 

話しかけてくるテンカワさん。

何だ? 何を言われるんだ?

 

「はい。何でしょう?」

「・・・ミナトさんとお前は・・・いや、なんでもない」

「はぁ・・・」

 

ミナトさんがどうかしたのかな?

というか、初対面に近い人を名前で呼ぶとは・・・。

流石はラブコメ主人公!

 

「着いたぞ」

「ここは・・・シミュレーション室ですか?」

「ああ。予備といってもパイロットだからな。実力を把握しておきたい」

 

あ、リーダーとしての責任感ですね。分かります。

あぁ、良かった。何をされるのかってヒヤヒヤしていたんだよ。

 

「シミュレーターに入れ。一対一だ」

 

一対一ね。ま、やれるだけやってみますか。

もちろん、そう簡単には負けないつもりだ。

予備パイロットにも意地ってものがあります。

 

「場所は火星。フレームは0G戦フレーム。何か質問は?」

 

一つだけ教えていただきたい。

何でわざわざ火星なんでしょうか?

非常に聞いてみたいが・・・やめておこう。 

なんか変にしゃべったら墓穴掘る気がする。

というか、ネルガルもネルガルだよな。

何故あえて火星フィールドをシミュレーターに導入した。

知っている人には分かるが、知らない人には謎以外の何ものでもないぞ。

導入してもいいけど、実際に使えるようにするのは目的地を明かしてからでいい気がする。

シミュレーターを調整する整備班の人なんかはハテナ顔なんじゃないかな?

 

「・・・・・・」

 

えっと、この状況は何?

ジーっと見られているんですけど・・・。

 

「いいのか? 悪いのか?」

「あ、すいません。大丈夫です」

 

どうやら待っていてくれたらしい。

悪い事をしてしまったな。

 

「それじゃあ、始めるぞ」

 

その声を合図に手をコンソールに置く。

切り替わる正面モニターの映像。

まるで本当に戦っているかと思う程の臨場感だ。

以前体験したゲームとはまったくの別物。

まぁ、あっちは遊び用だったから仕方ないか。

 

「・・・行くぞ」

 

イミディエットナイフを片手に接近してくるテンカワ機。

 

「・・・機動予想。誤差は?」

 

視覚からの情報だけじゃない。

俺はナノマシンの恩恵でフィードバックレベルを限界以上に高められる。

・・・あんまり高めすぎると痛みとかも感じるみたいだから、これも後で調整だな。

フィードバックレベルの向上は結果として、イメージだけの機動を超えて、ほぼ無意識な反応にまで対応するようになった。

そして、俺が急遽開発したソフトの・・・見栄はいけないな。

遺跡からロードした機動予想というソフトを機体のハードにインストール。

これは相手方の運動性能、武装、体勢などから敵機体の能力を把握し、現状からどう動いてくるかを予想するというもの。

俺が持つナノマシンとこのソフトのお陰で・・・。

 

「ほっと」

 

見える。見えるぞぉ。

 

「何!? あれを避けただと!?」

 

俺、いや、私にも未来が見える。

 

「チィ! これなら!」

「あ、やばっ」

 

ラピッドライフルが火を吹きました。

とりあえず避難です。

死にます。

 

「右手にナイフ、左手にライフル。・・・よし」

 

機体に持たせ、的確にイメージする。

自らの身体と機体とを融合させ、己の身体とする。

・・・次は俺のターンだ。ドロー! って違う、違う。

 

「オォォッォ!」

 

隠れていた建物から身体を乗り出し、対象物にラピッドライフルをぶちまける。

機動予想で先を読み、そこへライフルを放てば命中する筈。

 

「・・・・・・」

 

筈なんだけど・・・凄まじい旋回で避けられました。

ま、理論上なので確実ではないのですが・・・。

何でしょうか? あの機動は?

あんな事をしたら内臓を傷めるっての。

横も縦も凄まじいGが掛かっている筈。

俺は耐えられるかもしれないけど、普通の人にはまず無理。

よく耐えられるな。もしや、テンカワさんも普通じゃないのか?

 

「まだまだぁ!」

 

おいおい。

回避能力が凄まじ過ぎるでしょ?

あれだけ連射しているのに一発も当たらないなんて。

ん? 弾切れが近い?

とりあえず止めだ。当たらない射撃に意味はない。

意味ある射撃なら無駄弾でもいいが・・・。

今の射撃じゃ効果はイマイチって奴だ。

 

「・・・次はこちらから行くぞ」

 

俺がライフルをしまった途端、テンカワ機は再度突っ込んできた。

得物はイミディエットナイフか。

ならッ!

 

「ハァァァ!」

 

俺もナイフで応戦だ。

飛び込んでくるテンカワ機に俺も突っ込む。

 

「・・・考えもなく飛び込んでくるな」

「嘘だろ!?」

 

そのまま鍔迫り合い、とか思っていたらいつの間にか空いていた方の手にライフルを持っていました。

嘘!?

 

「終わりだ」

 

共に接近している状態での乱撃。

普通なら確かに終わりだろう?

でも、俺は残念ながら普通じゃないんでね。

 

「オォォオォォ!」

 

機体を回転。

一発一発を的確に避けていく。

最小限の動きで。

 

「何!?」

 

それが俺には可能だ。

この恐ろしい程の動体視力ならな。

・・・回転のGがありえない程に凄いけど。

内臓が洗濯機状態だけど!

 

「ハァァァ!」

 

ガキンッ。

 

嘘ぉ! あの一瞬でライフルを捨ててナイフに持ち替えただって?

ありえないでしょ。どれだけ高機動戦に慣れているの? って話だ。

わざわざライフル側から攻撃したのに意味ないじゃん。

 

「やるな。まさか、避けられるとは思わなかったぞ」

「もう一杯一杯ですよ」

 

実際、そんな感じです。

ありえない機動にありえない反応速度。

俺はいいよ。色々と人間離れしているから。

でもさ、貴方ってただの人間だよね?

激しく疑問に思うんですけど・・・。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

鍔迫り合い。

テンカワ機は両手にナイフを持ち俺の攻撃を受け止めていた。

俺は片手で押し続ける。

駄目だ。片手対両手じゃいつか跳ね返される。

その為に・・・離脱だ!

 

「ほっと」

 

機動兵器でキック。

ついでにディストーションフィールドも纏わせて頂きました。

ゲキガンキックってか?

 

「グッ・・・」

 

蹴り飛ばして、同時に後ろへと跳ぶ。

これで距離は取れただろう。

経験が浅い俺からしてみれば接近戦は危険極まりない。

接近戦ともなれば経験が物を言い、不慣れな俺では経験者には到底太刀打ちできないだろう。

太刀じゃないけど、ナイフだけど。

センスがあれば別なんだろうが、残念ながら経験に打ち勝てる程のセンスが俺にあるとは思えない。

断言しよう、出来るだけ遠くから攻撃しないと万が一の勝ちすら拾えない、と。

・・・自分で言っていて悲しいが、事実は事実として認識しなければ負けるだけだ。

間違いなく、相手は相当に経験を積んでいるだろうからな。

・・・テンカワさんってコック志望だった筈なんだけど・・・。

何があったらこんな場慣れしたパイロットになれるんだろうか?

もしかして・・・今のテンカワさんって未来から来たテンカワさん?

いや、でも、だったらもっと歳を取っている筈だよな。

それにこっちの世界のテンカワさんがいないのもおかしいし。

色々と辻褄が合わなくなる・・・。

まぁ、何かしらの細工をすればナデシコに来させない事も出来なくはないんだろうけど。

とにかく、今のテンカワさんは成人前のテンカワさんで間違いない筈だ。

何があったか知らないけど、それでも間違いはない筈だ。

あくまで見た目的な話でしかないけど。

でも、それにしちゃあ経験豊富そうだよな? 

見た目に騙されちゃいけないってか?

あ、やばい。頭が混乱してきた。

・・・うん? ・・・今、気付いたんだけどさ。

俺ってもう十九歳だよな。じゃあテンカワさんより年上じゃない?

何で年上なのに敬語で話しているんだ?

ま、いいけど・・・というか威圧感的にやめられそうにない。

 

「戦闘中に考え事はいけないな」

「おわっと!」

 

いつの間にか接近を許していましたとさ。

ナイフで斬りかかられましたとさ。

ギリギリで避けられましたとさ。

 

「あ、危ねぇ・・・」

 

どうにか助かったって感じ。

下手するとさっきので負けていた。

 

「・・・あれも避けるか。充分に間合いは詰めていた筈なのだが・・・」

 

フッフッフ。動体視力と反応速度なら負けないぜ。

経験不足を補うにはそれしかないからな。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

ナイフでの接近戦を終えた後はライフルでの射撃戦。

互いにライフルを構えて、機動しながらの戦闘を行う。

上下左右斜め。

状況を的確に判断し、最善の位置へと移動する。

スラスター全てを駆使して、自分の出せる最高速度で移動し続ける。

そうしなければ当たるとお互いが分かっているからこその動き。

止まれない。妥協できない。勝つ為にはそれしかないから。

だが、何故だろう? まったく勝てる気がしないのだが・・・。

 

「グッ!」

「ン!?」

 

クソッ。フィードバックが強すぎた。右腕が焼けるように痛ぇ。

フィードバックレベルを下げよう。

必死にライフルを避けながら、俺はOSを書き換えた。

・・・ふぅ。

痛みが引いたな。

反応が良いのは助かるけど痛みまで来るのはいただけない。

何かしらの対策があるまでこの状態は禁止だな。

 

「よく当てたな。右足が使い物にならない」

 

俺が右腕を犠牲にしたようにテンカワさんも右足を犠牲にしていたらしい。

という事はまだ少なからず勝機はある。

 

「オラァァァ」

 

全身にフィールドを纏いながらテンカワ機に突っ込む。

・・・足から。

 

「・・・・・・」

 

対するテンカワさんは助走をつけて飛び込んできた。

・・・ライフルを出す素振りはない。

それなら・・・。

 

「イメージ。イメージだ。全てのディストーションフィールドを右足に集中。蹴り倒す」

 

全てのDFを右足に回し、その足から突っ込む。

現在の俺が出せる攻撃の中で最大級の攻撃力を持つ攻撃だ。

これで終わらなければ負けたようなもんだと思ってくれ。

 

ガンッ!

 

金属同士が衝突した音。

俺の機体の右足とテンカワ機の右手が正面から衝突していた。

ディストーションフィールド同士の真っ向勝負か。

面白い。やってやろうじゃないか。

 

「グゥ!」

「クッ」

 

DF同士の衝突は凄まじい衝撃らしく、俺の機体もテンカワ機も吹き飛ばされた。

俺がその衝撃で眼を回している時にテンカワ機が強襲。

コクピットに拳を叩き込まれて負けてしまいました。

 

「クソ~~~。負けちまった」

 

やばい。かなり悔しい。

 

「いや。よくやったと思うぞ」

 

クソッ。それは勝者の余裕か。

余裕の笑みか。

 

「そう悔しがるな。俺はエステのテストパイロットを一年間やっていたんだ。負ける方がおかしい」

 

・・・一年? すると、サイゾウさんに拾われてからすぐにテストパイロットになったって事か?

どういう事だ? アキト青年に何があったんだ?

 

「・・・お前はどうして予備パイロットに?」

「俺が予備パイロットになった理由ですか?」

「・・・ああ。お前から頼み込んだのか?」

 

俺から頼み込んだ訳ではない。

そりゃあ最終的には自らの意思だけど、きっかけは別にある。

 

「なんかネルガルがプロデュースしていたゲームで最高記録を出してしまいまして。それでパイロットに適正があるとかでスカウトされました」

「すると、お前はパイロットとしてナデシコに来たという訳か?」

「いえ。予備はおまけですよ。ゲーム機でパイロットとしての実力が計れる訳ないじゃないですか」

 

ゲームは所詮ゲームだ。

確かに今のシミュレーションに近いものはあったけど、ゲームで適正を計るのは間違っていると思う、物凄く。

 

「では、何故、ナデシコに? お前の目的は何だ?」

 

鋭い眼光で睨みつけてくる。

こ、怖いって。

それにしても・・・。

 

「理由・・・ですか。そうですね。放っておけないからですかね」

「放っておけない? 何が、だ?」

 

・・・視線が鋭くなった気がする。

 

「俺が途方に暮れている時にミナトさんが助けてくれたんです。だから、ミナトさん一人を戦艦に行かせる訳にはいかないかなって」

「・・・ミナト・・さん?」

「ええ。お世話になりっぱなしでしたから。少しでも恩返しできればなって思って」

 

これは本当。ナデシコにいる間にミナトさんには多くの選ぶ時があると思う。

もちろん、決定権はミナトさんにあるんだけど、悩んでいたり、苦しんでいたりする時に助けてあげられればなって思っている。

だから、白鳥九十九とか、ミナトさん関連の話は一切してないんだから。

 

「予備になったのも本当に危機に陥った時、自分が何も出来ないのが嫌だからです。本当は予備とはいえ、パイロットになるのは嫌だったんですけど、嫌がってて死んじゃったら本末転倒かなって」

 

生きなければ幸せは望めない。

まずは生き抜く事。それが大前提。

 

「俺のちっぽけな力で誰かを護れるのならそれでもいいかなって思っています。ミナトさんに言われたんですよ。一人で出来る事なんて限られているって」

「・・・・・・」

「だから、とにかく身近な人を護ろうと思います。地球全体とか、木星蜥蜴でしたっけ? そんなのを一人で背負いきれる訳ないんで」

「ッ!」

「まずは自分。その次に大切な人。それで、もし、まだ余裕があるのなら他の人の事も考える。そうやって幸せを求めるものだって俺は習いましたから、ミナトさんから」

 

自分を犠牲にして誰かを救う。

それじゃあ幸せになれないんだな。

自分の犠牲が救われた誰かを苦しめるかもしれないし。

幸せになるって簡単そうに見えて本当に難しい。

特にこんな戦争の時代なんてね。

 

「理由は放っておけないから。目的は・・・そうだなぁ、無事に生き抜いて、幸せを求める為、ですかね。俺は生き抜きますよ。ナデシコクルーも護りきってね」

 

どれだけ異常な力を持っていても所詮は人間。神じゃない。

出来る事と出来ない事があるんだ。

出来ない事を出来ると突っ走る事も時には大切かもしれない。

もしかしたら、本当に実現させてしまえるかもしれない。

でも、俺にはそんな事は無理だと思う。

それなら、出来る事を全力でやるしかないだろう?

きっと、それが俺の生きる道なんだよ。

 

「・・・一人じゃ限界がある・・・か」

 

何か思い当たる事でもあったのかな?

 

「これは俺の人生観ですから。テンカワさんに押し付けるつもりはありません。テンカワさんにはテンカワさんの考えがあるのでしょうから」

「いや。参考になった。そうだな。人一人が背負うのに世界は重過ぎる」

 

世界を背負う?

話が大きいな。

でも、世界を舞台に戦う人間もいる。

たとえば、そう・・・。

 

「それでも、足掻いて、足掻いて、無理だと理解しても足掻き続けて、いつか無理だった事すらも乗り越えてしまう。そうやって不可能を可能にしてしまう人もいますけどね」

 

物語の主人公ってそんな感じ。

どれだけ逆境に立たされても諦めない心で打ち勝ってしまう。

眼の前にいるテンカワさんになら、あるいは・・・。

 

「足掻く・・・か。今の俺にピッタリの言葉だ」

 

足掻く事がピッタリ?

どういう事だろう?

 

「良い言葉だ。足掻く。決められた運命にも足掻き、非情な現実にも足掻き、そして、いつか、俺が望んだ光景を見る。それが俺の目的か・・・」

 

神妙な顔付きで話すテンカワさん。

その表情から全てを理解する事は出来ない。

でも、テンカワさんが隠し切れない苦悩と責任という重圧に押し潰されている事は分かる。

完全に原作のアキト青年とは別人なんだってこの時に理解した。

本質的にアキト青年とテンカワさんは違うみたいだから。

あの時のアキト青年は逃げの構えだったからな。

このテンカワさんは必死に足掻き続ける攻めの姿勢。

いや、根本的には同じなのかな?

劇場版のアキト青年こそ今のテンカワさんと瓜二つ―――。

 

「・・・同じだ。同じなんだ。どうして気付かなかったんだろう。いや。ありえないって否定していたのか」

「・・・どうかしたのか?」

「い、いえ。何でもないです」

 

間違いない。

このテンカワさんは本来の時間軸の未来からやって来たアキト青年だ。

身体は原作開始時と同じ。でも、経験とか、考え方とか、そういうのは劇場版のアキト青年。

実体のないボソンジャンプ? 精神だけのボソンジャンプ?

いや、でも、そんな事ってありえるのか?

 

「あの、機体の調整とかしたいんで、もういいですか?」

 

今は考える時間が欲しい。

 

「ん? ああ。時間を取らせてすまなかったな」

「あ、いえ。良い経験でしたから。また御願いします」

 

一礼して、急いで格納庫へ向かう。

今は自分のアサルトピットに閉じ篭りたい。

考えても無駄かもしれないけど、自分の考えは纏めておきたいからな。

・・・今度、ミナトさんに相談しようかな?

 

 

 

 

 

「悪い人間ではない。腕も確かだった。彼ならナデシコを護ってくれるだろう」

「そうですか。アキトさんが言うのならそうなんでしょうね」

「だから、悪い人じゃないって言った」

「そうでしたね、ラピス」

「・・・ルリちゃん。俺達は足掻くんだ。無理かもしれないが、それでも足掻き続けよう」

「はい。あんな未来はもうたくさんです。足掻いて、足掻いて、足掻き続けましょう」

「ああ。不可能を可能にしてやる。足掻き続けて、諦めなければ、いつか、いつか・・・」

「・・・アキトさん」

「・・・アキト」

「協力してくれるか? ルリちゃん、ラピス」

「何度も言っているじゃないですか。私はアキトさんを支え、助ける為にここにいるんだって。貴方が望みを捨てない限り、いえ、たとえ捨てても私はいつまでも貴方を助け続けます」

「アキト。私はアキトの眼、アキトの耳、アキトの手、アキトの足。アキトが望めば私も望む」

「・・・そうか。頼むな、二人とも。たとえ一人で背負いきれなくても二人となら、皆となら背負いきれるんだ。俺だけじゃ無理でも皆がいれば、きっと・・・」

 

 

 

 

 



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考察

 

 

 

 

 

「それじゃあアキト君は未来からやって来たって事?」

「・・・かもしれないんです」

 

ミナトさんの部屋にお邪魔してお茶を頂いています。

ミナトさんとは同棲・・・コホン、一緒に暮らしていたので、緊張とかはあまりありません。

うん。一年間だしね。流石に慣れるよ。

そして、相談に乗ってもらっています。

ミナトさんも分からない事ばかりだと思いますが、聞いてくれるだけで考えが纏まるから不思議です。

やっぱり凄いなって改めて実感します。

 

「でもさ、ボソンジャンプってそういうものなの? 身体ごと飛ぶんじゃないの?」

「ええ。その筈なんですけどね。でも、ボソンジャンプってレトロスペクトだっけ? とにかく、身体を一度分解して過去へ戻って未来へ具現化されるってシステムらしいんです」

「えぇっと、もうちょっと分かりやすく説明してくれるかな?」

 

分かりやすくか。俺もそんなに詳しくないんだよなぁ。

 

「間違っているかもしれませんが、それでもいいですか?」

「ええ。コウキ君なりの解釈を教えてくれればいいわよ。難しい事は分からないし、大まかな形だけ捉えられればいいもの」

「そうですか。分かりました」

 

かいつまんで話す技量が俺にあるかな? ま、やれるだけやってみよう。

 

「ボソンジャンプはある演算器によって管理されています。それがまぁ、遺跡って奴なんですけど」

「演算器が管理? という事は自由に何もかも出来るわけじゃないって事ね」

「はい。だから、時間軸移動も任意には出来ませんし、誰にだって使える訳じゃないんです」

「私には無理って事よね?」

「ええ。例外を除けば無理ですね」

「例外って?」

「いくつかあります。たとえば遺伝子手術を受ける。でも、これは危険性が高いのでお薦めできませんね」

 

MCは大丈夫みたいだけど、一般人には厳しいらしい。

 

「もう一つはとても簡単です。今でも可能ですよ」

「え? そうなの?」

「はい。高出力のDFで囲めばいいんです」

「DFって何かしら?」

 

あ、そっか。まだ知らないのか。

 

「ナデシコに搭載されている空間を捻じ曲げる事で攻撃を防ぐ特別な障壁です。いずれ見る事が出来ると思いますよ」

「ふ~ん。ま、その時まで待つわ」

「ハハハ。そうしてください。それで、その高出力のDFに囲まれつつ、導き手が導けばボソンジャンプは可能です」

 

戦艦でも機体でも、DFと一緒に跳べばボソンジャンプは可能。

ただし、A級ジャンパーがいる事が条件だけど。

 

「その導き手っていうのはボソンジャンプが普通に出来ちゃう人の事よね?」

「流石に鋭いですね。そうなります」

 

曖昧な情報でここまで的確に理解できているのは凄いと思う。

 

「ボソンジャンプが出来る人、ジャンパーって呼びますね、そのジャンパーは三つに分類されます」

「三つ?」

「はい。正確には二つと一つなんですけど、それは説明の中で補足しますね。一つはA級ジャンパー。CCという特別な石?みたいな物があればDFすら必要とせず飛べる人間。これがミナトさんのいう普通に飛べる人って認識です」

「CCって何なの?」

「ん~~~。そうですね。使い捨てのコミュニケって思って下さい。演算器にイメージを伝える為の」

「なるほど。一度しか使えない訳ね」

 

本当に鋭い。

一度のジャンプで使用されたCCがなくなるって事をきちんと理解している。

 

「次はB級ジャンパー。これは遺伝子改造を受けた人の事で、CCだけでは飛べません。確か、機械の補助があれば可能な筈です」

「そもそもさ、どうやって目的地とか決めるの?」

「イメージです。ここに跳びたいという思いがCCを介して演算器に伝わり、目的地へと運ばれます」

「イメージか。なんだかIFSみたいね。もしかしてさ、ジャンパーの条件って特別なナノマシン?」

「核心突き過ぎです。ミナトさん」

「え? 当たっているの?」

「ええ。でも、もう無理ですよ。条件はある所で生まれて、ある程度の期間を過ごす事ですから」

「何だ。じゃあ、私には無理なのね」

「まぁ、そうなりますね」

 

実は俺がいれば飛べるんだけど、これはまだちょっと秘密かな。

確か遺跡がDFなくても飛べるっていってたし。

試すのはちょっと怖いし、しょうがないよね。

あ、俺だけは何度か試したけど、無事に跳べました。

ま、普通に生きるだけなら瞬間移動なんて特に必要ないけど。

時間掛かっても出来る事ばっかりだし、世の中。

 

「最後にC級ジャンパー。これはDFに囲まれ、かつ、A級ジャンパーの先導が必要な人間です。先導役は機械の補助付きのB級ジャンパーでも大丈夫ですね。ジャンパーと一応名前を付けてはありますが、所謂一般人です」

「へぇ。なるほどね。じゃあ、私はC級ジャンパーか」

「そうなります」

「でもさ、それなら少なくともAとBは分ける必要がないんじゃないかしら? 機械の補助があれば同じなんでしょう?」

「それが、ちょっと違うんですよ」

「どう違うの?」

「A級ジャンパーは長距離間の移動が可能。それこそ、ここから月にだって一瞬で行けます」

「へぇ。それって凄いじゃない。じゃあ、B級は短距離って事?」

「はい。距離はあまり分かりませんが、少なくてもここから月までは無理でしょうね」

 

理論上、A級ジャンパーは演算ユニットが把握している所ならどこへでも行ける筈。

平行世界という観点を除けばだけど。

 

「ただし、例外もあります。B級ジャンパーでも長距離移動が出来る例外が」

「遺伝子調整だけで長距離瞬間移動か。実現したら色々と便利そうね。問題も多いと思うけど」

 

ええ。火星の後継者の騒乱はそれが原因でしたから。

便利なもの全てが人間にとって良い事とは限らないんですよね。

ヒサゴプラン自体はそんなに悪くなかったと思うけど。

 

「その方法はあらかじめ飛ぶ場所を設定しておく事です。簡単に言えば、ワープホールを作るって事ですかね」

「ワープホールを作る? そんな事可能なの?」

「トンネルみたいな概念です。トンネルの中はワープホール。そこを抜ければ違う場所みたいな」

「トンネルねぇ。それって作れるものなの?」

「正しく言えば、あらかじめ作られているトンネルを飛びたい場所まで運ぶって事ですかね」

 

確か木連はプラントでチューリップを作っていたよな?

詳しい事は分からないが、もしかしたら設計図と材料さえあれば作れるのかも。

気になるから後で調べておくか、遺跡知識で。

 

「そっか。それならどこへでも行けるわね。運ぶのが面倒かもしれないけど」

 

きちんと制御して管理すれば便利だと思いますよ。

宇宙版大航海時代がやってくるかもしれません。

 

「それじゃあ俺なりですが、ボソンジャンプについて説明しますね」

「ええ。御願いね」

 

ウインクありがとうございます。

 

「んもう。つまんないわね」

 

最初の方は照れていましたが、流石にもう照れませんよ。

一年間ですから。同棲・・・コホン、同居生活。

 

「端的に言いますと、ジャンパーが演算器にアクセスするとまずは身体が粒子として分解されます」

「分解されて弊害はないの? 構築されないとか」

「それがジャンプミスですよ。ジャンパーじゃない者が無理に飛ぼうとすると分解されてお終いです」

「こ、怖いシステムね」

 

下手するとっていうか、簡単に死にますからね。

 

「その分解された粒子はある特別な波に乗って過去へ向かうんです。直接現地へ向かう訳じゃないんですね」

「直接向かっていたら分解、構築がすぐに出来ないじゃない。それじゃあ瞬間移動にならないわ。それに、時間軸移動についても説明できないもの」

「おぉ。鋭い」

「ふふん。まぁねぇん」

 

過去へ向かってそこで演算器に現在という未来へ送られる。

その時に何かしらの干渉があって時間軸移動が可能になっちゃうって事か。

 

「過去へ向かい、演算器によって再び未来へ送られるそうです。その際に目的地で具現化されるそうで」

「ふ~ん。それじゃあさ、演算器に何かしらの不備があれば、ボソンジャンプは何があるのか分からないって事よね」

「ええ。そうなります」

 

そう思うと怖いよな。

分解されて違う形に再構築されるなんて事になったら・・・え?

違う形で再構築? もしかすると・・・。

 

「お、何か思いついた顔ね。話してごらんなさい」

「ええ。割と現実味があると思うので聞いてください」

「ま、タイムマシンとか言っている時点で現実味なんてないんだけどね」

 

・・・それは言わないお約束ですよ。

宇宙戦艦という時点で俺にとっては現実味ない話なんですけどね、実は。

 

「テンカワさんはこの世界で始めてボソンジャンプに成功した存在なんです」

「へぇ。偉大な人って事じゃない」

「ちなみに理論を確立したのはテンカワさんのお父さんらしいです」

「あら? アキト君の家って優秀な人の集まり?」

「あ。もう一つ補足ですが、物語の主人公だったアキト青年は単純でおっちょこちょいで直情で熱血漢という典型的な主人公でしたよ」

「そ、そう。でも、ま、それは物語の話なのよ。こことは違う世界の事なの」

「そうですね。そうしましょう」

 

もし、今のテンカワさんが未来のアキト青年ならまったく同じ道筋を辿っていると思うんだけどな。

あのクールを地でいくテンカワさんにもあんな頃がありましたって知られたら、周りはビックリするかも。

 

「悪戯っ子の顔はやめなさい。貴方は顔に出るから分かりやすいのよ」

「・・・そんなに顔に出ていました?」

「ええ。やっぱり悪戯ってのは何食わぬ顔でしなっきゃ」

「よっぽど性質が悪いですよ」

「あら? 最近悪戯してなかったものね。欲求不満?」

「い、いえいえ。そんな事ありませんよ」

 

悪戯されなくて欲求不満とかやばいでしょ。

危ない人の末期ですよ、それって。

あ。前の世界の友達にそんな奴がいた気がする。

いじられキャラなのに夏休みでイジられなくて胃潰瘍で入院。

いや、偶然だと思うけどね。しばらくはそのネタで弄っていました。

と、とにかく、世の中には色んな人がいるんだよって事さ。

 

「で、話を戻しますけど」

「ええ。いいわよ」

「初めてとか、そういう事に意味がある訳じゃないんです。アキト青年がボソンジャンプを過去に行っているという事実だけ覚えておいてください」

「既にボソンジャンプは経験済みって事ね。初めてはとっくの昔に捨てていたと」

 

な、何か、違う響きに聞こえましたけど!

 

「ボソンジャンプが過去に戻ってから未来に再度送られるというシステムならば、一度粒子とされた存在はどこかに隔離され保管されているとも考えられませんか?」

「未来に送るのではなく、その時間軸になるまでどこかに保管されているという事ね」

「はい。それで、きちんとした手順でボソンジャンプをすれば正確に保管されるけど、何かしらの不備で保管に失敗したとしましょう」

「イメージが伝わり切らなかったとか、分解し切れなかったとか?」

「まぁ、どんな理由かは分かりませんが、そんな事があったという仮定です」

「ええ。分かったわ。その仮定で話を進みましょう」

「はい。もし、保管に失敗して、そこに似たようなものがあったらどうしますか? たとえば、作りかけの書類があったとします。それの未完成品と完成品があって―――」

「完成品のどこかが何故か消えていたら、未完成品から補完するって話よね。もしくは完成品を参考にして未完成品を完成させるとか」

「そういう事です。過去のアキト青年と未来のアキト青年がいて、未来のアキト青年の粒子が不完全なら過去のアキト青年を使って完全にすると思います」

「ま、穴はありそうだけど、そこまでおかしな話じゃないわね」

「多少の穴は見逃してください」

 

そもそも思い付きですし。

きちんとした理論展開した訳じゃないですから。

その道の専門家はもうちょい後で登場しますのでその時にでも。

 

「補完し終わって同じような完成品が二つ出来上がってしまった時、片方の完成品はどうしますか?」

「ま、あえてとっておくか、いらないって捨てちゃうわよね」

「ええ。ま、それはどっちでもいいんです。とっておいたのなら、未来のアキト青年が望んだ場所に望んだ時期に具現化されるだけですから」

「捨てられたなら何も起きないだけって事ね。でも、どうでもいいってどういう意味よ?」

「大切なのはどちらも同じような完成品だという事です。遺跡は過去のアキト青年を未来のアキト青年になるように作り変えてしまったんですよ」

「あ。そっか。未完成品を完成品にしちゃったんだものね」

「はい。物凄く簡単に言うと過去と未来が混ざっちゃったんです。過去と未来の二人のアキト青年が今のテンカワさんという一人の人間として」

「なるほど。うん。割といけているんじゃないかしら」

「ですよね。そうなれば、身体は過去ので意識は未来のでみたいな不思議な事態も成り立ってしまう訳ですよ」

 

割と良い案だったと思う。

穴は半端なくあっただろうけど。

 

「じゃあさ、次は私の考えを聞いてみてよ」

「お、流石はミナトさん。考え付いたんですね」

「ええ。でも、私のはコウキ君のより穴があるわ」

「いえいえ。是非とも聞かせてください」

「そうね。でも、その前にお茶の御代わりを用意しましょう。すっかり冷めちゃっているわ」

「・・・あ」

 

話に夢中で忘れていた。

あぁ。一つの事に熱くなっちゃうのは悪い癖だよな。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「それでね」

 

はい。お茶を飲みながらの再スタートです。

ズズッと美味しいお茶を頂きます。

 

「私も不備の状態での保管という点では一緒なの。そこからがちょっと違うのよ」

「ほぉ。お聞かせ下さい」

 

ちょっと違うってどんな違いだろう?

 

「私は現実世界で補完されるんじゃないかと思うの」

「げ、現実世界って何ですか?」

 

何です? その隣には魔法の世界みたいな響きは。もしくは夢の世界とかですか?

 

「現実世界っていうか、本人としての身体がある世界の事。粒子の状態で補完されている世界を保管世界とでも呼びましょうか」

「それじゃあ、ミナトさんは現存している人間の身体に情報としての粒子が混ざり合って一つの個体になると?」

「あら。少ないキーワードでそこまで分かるなんてコウキ君って結構頭いいじゃない」

「ハハハ。どうもです」

 

褒められるのはちょっと照れるかな。

 

「ふふふ。詳しくは分からないから結構適当なんだけど、粒子になったって根本的には同じ身体じゃない? それなら、自分と同じ存在なんだって認識するんじゃないかしら?」

「むぅ。なるほど。既に具現化されていてもそれは足りない状態として認識。だから、粒子として身体に混ざりあう事で補完する訳ですね」

「ええ。遺跡が完成品としての形を認識していれば、その形で具現化しようと頑張ると思うのよ。だから、不完全な状態でいるのが嫌で補完させたみたいな」

 

なるほど。そんな考え方もあるのか。

 

「でも、それでは矛盾が生じませんか? それじゃあボソンジャンプする度に過去の自分を補完する事になっちゃいますよ。常に完成品に近づけようとしちゃいますもん」

「不備の状態での保管という事が前提よ」

「不備の状態って事は欠陥している何があるって事ですよね。現実世界での補完では欠陥している所を補えないんじゃないですか?」

「だから、何かしらの不備があるんじゃない。たとえば、成長する以前の身体とか。現にアキト君は過去のアキト君の身体なんでしょう?」

 

おぉ。なんだかそれらしい。

 

「それらしい理由です」

「でしょ?」

 

笑顔でウインク。

ミナトさんって結構可愛らしい所もあるんだよな。

綺麗なだけじゃないんだ。

 

「あ、でもですね、それが正しいとして、いつ補完されるんですか? 保管世界での補完は別にいつでもいいですけど、現実世界での補完はタイミングが掴めませんよ」

 

どれくらい過去に戻るのかは知らないけど、下手すると幼少の時とかに補完してしまう可能性もある。

だって身体はあるんだから。

 

「それがミソよ。これは予想でしかないけど、そのタイミングこそジャンパーが望んだタイミングなんじゃないのかしら」

「ジャンパーが望んだタイミング?」

「経験ないから分からないけど、もし走馬灯という形で記憶を思い返していたら? あんな幸せがあった。あの頃に戻りたい。そんなのがイメージとして伝わっていたら?」

 

時期の指定か。普通なら出来る筈がないけど、逆にイメージに不備があるからこそ可能になったとも考えられるか・・・。

 

「ジャンパーが望んだ時期に具現化したい演算器。でも、そこには既に具現化している対象がいる。あれ? あれは具現化の途中なのでは? それじゃあ完成させないとって」

「具現化したい対象が既に存在していて、しかもその存在が完成品に比べて不完全だから、その対象を演算器が責任を持っていじくるって訳ですね」

「ええ。いじくるっていうか、まぁ、そうよ。完成させようと頑張るのよ」

 

ふむふむ。何か色々と分かってきた気がする。

もし間違っていても、俺はこれで納得しよう。

 

「要するに、粒子としての不備を補う為に演算器が頑張っちゃった結果、こうなっちゃったって訳ね」

「ええ。演算器の責任感ある行動が記憶や能力のみを逆行させるという不思議な事態を作りあげてしまった訳ですよ」

 

あぁ。謎が解けたらスッキリした。

ま、完全に解けた訳じゃないけどさ。モヤモヤが消えたんだからいいだろ、これで。

 

「納得できたみたいね。安心して疲れちゃったかしら」

「ハハハ。そうですね。今日一日ずっと考えていた気がします」

「そっか。はい」

 

えぇっと、はいって?

 

「え、えっと、その、あの・・・」

「いいじゃない、偶には。サービスしてあげるわ」

「あ、えっと、その・・・ですね・・・」

「ほら。早く来なさいよ」

 

女の子特有の正座に似た座り方で、太腿の上を手でポンポンと叩いている。

これって、あの、その、噂の・・・。

 

「嫌かしら?」

「え、あ、いえ、むしろ、嬉しい限りというか、でも、その緊張するというか」

「いらっしゃい。コウキ君って眼を離すとすぐ抱え込んじゃうから心配で」

 

あれ? 何の魔力だろう。

身体が勝手にミナトさんの方へ向かっている。

 

「はい。素直でよろしい」

 

ミナトさんの隣に座り込む俺。

ミナトさんは優しい笑顔で見詰めてきて、気付いたら頭がミナトさんの太腿の上にありました。

後頭部に幸せの感触が・・・。

 

「ふふふ。何だかコウキ君が幼く見えるわ」

 

僕は恥ずかしくて何も見えません。

 

「もう。眼なんか瞑っちゃって。可愛らしい」

 

これは完全に遊ばれているね。

うん。なら、いいや。存分にこの感触を味わおう。

あぁ。柔らかくて安心する。

 

「ふふふ」

 

何ですか。その笑みは。

 

「何かね、子供が出来たらこんな感じかなって思って」

 

こ、子供・・・。

そっか。ミナトさんもいつか結婚して子供を持つようになるんだよな。

俺もいつまでも甘えていられないか。

・・・ん。ちょっと胸が痛い。

 

「でもさ、良かったの。そういう事を話して」

「・・・そういう事って何ですか?」

 

痛みを堪えて平然を装った。

変な心配掛けたくないし。

 

「未来の話とかボソンジャンプの話とか。誰かに聞かれていたら困るんじゃない?」

 

ま、確かにね。

特にボソンジャンプの件とかネルガル所属の戦艦で言うもんじゃないよ。

でも、大丈夫。

そこの所はきちんと対処してあります。

 

「大丈夫ですよ。オモイカネ、あ、オモイカネっていうのはこの戦艦を管理するスーパーAIなんですけどね、そのオモイカネに頼んで、偽造映像を流してあります」

「えぇっと。偽造映像を流す必要があったって事は常に監視されているの?」

「いえ。そうじゃないですよ。オモイカネは全艦内を管理しているので防犯とかも担当しているんです。だから、その気になればオモイカネを介して監視できる訳です」

「や、やっぱり監視できるんじゃない。嫌よ、そんなの」

「ただし、オモイカネを介する事が出来るのはオペレーターだけですよ。それ以外だったらオモイカネが許す訳ありませんから」

「そ、そっか。それなら安心・・・って、コウキ君もでしょ!? 全然安心できないじゃない!」

「え? ちょっと待とうよ。俺はそんな事しないよ。あ、えっと、しませんよ」

「でも、ほら、コウキ君も男の子じゃない。そういう事に興味あったりするんじゃないかなって」

「え。そりゃあ、ありますよ。でも、ですね、やっていい事と悪い事の違いぐらいきちんと理解しています」

 

当たり前じゃないか。

それぐらい耐えきれない男だったらとっくにミナトさん自身を襲っちゃっていましたよ。

 

「えぇ・・・? 人の寝顔を勝手に見たりとか、人の着替えを勝手に覗いたりとか、そういう事するんじゃないの?」

 

し、しないって。

した事ないでしょ? 俺。

 

「あの・・・俺って信用されていませんか?」

「ううん。信用してなっきゃ部屋に入れてあげないわよ」

「ですよね。良かった。・・・ん、なら、何であんな事を言ったんですか? あ。そうですか、そういう事ですか。またからかったんですね」

「さぁ。どうでしょう?」

 

ニッコリと笑うミナトさん。

ミナトさん、その笑顔は悪戯が成功した時に見せる笑顔ですよ。

 

「・・・ま、いっか」

「ん? 観念したの?」

「ええ。ミナトさんと一緒にいられるのなら、からかわれてもいいかなって思いまして」

「・・・・・・」

 

え? 無言?

何か反応して欲しいんだけど。

でもねぇ、眼を開けたらさ、見てはいけないものを見てしまうんだよ。

詳しく言うなら視界の右側に。

・・・状況によっては左側だけど。

一発KOされる自信があるね、この角度からなら。

 

「ミナトさん?」

「え、う、うん、なんでもないわよ。もう。コウキ君が変な事を言うからいけないのよ」

 

めっとか言いながら額を叩くのはやめてください。

もう子供じゃないんですから。

 

「それとナデシコって完全防音らしいですよ。だから、廊下に声も漏れないですし、偽造映像を流している以上、誰かに聞かれたりバレたりする事はありません」

「そっか。それなら、色々と安心なのね」

 

色々? 色々って何だろう?

 

「あ。そうだ。なら、今日は泊まってく? 折角だし」

「え? えぇ!?」

 

い、いや。いいですよ。

 

「え? そんなに・・・嫌・・・なの?」

 

ちょ、ちょっと悲しいトーンで言わないで下さい。

からかわれていると分かっていても罪悪感を覚えますから。

 

「だ、駄目ですよ。部屋の行き来でさえあんなにうるさいのに泊まったりなんかしたら」

「大丈夫よ。だって、偽造映像流しているんでしょ? 明日の朝だけ気をつければ問題ないって」

 

ク、クソッ。これは駄目か。なら・・・。

 

「ほ、ほら、ベッドも一つしかないですし」

「一緒に寝ればいいじゃない」

「む、無理です」

「嫌?」

 

グハッ。良心の呵責が・・・。

でも、駄目だって。

 

「眠れませんよ」

「え? それって」

 

何を赤くなっているんですか? ミナトさん。

 

「俺が眠れません。緊張で溺死します」

「・・・バカ」

 

え? 何でバカって言われるの?

 

「緊張して損したわ」

「緊張するなら誘わないで下さい」

「そっちじゃないわよ! もう・・・発言に責任を持ちなさいよね!」

「えっと、すいません」

「何かも分からずに謝らない!」

「は、はいぃ! すいません!」

 

たとえ怒られようと律儀に眼を瞑り続ける俺なのさ。

赤い血で溺死したくないから。

 

「そ、それにですね。今までは部屋が別だったから大丈夫でしたが、同室となると、ねぇ、同じベッドともなると、ねぇ」

 

ねぇ。分かってくれますよね?

 

「え? どうなっちゃうの?」

 

ニヤニヤニヤニヤと。

分かっていて聞いてやがる。

 

「と、とにかく駄目です。そういう事はもっと進んだカップルがするものです」

「・・・年頃の男の子にしては強情ね。これは考えが甘かったかしら」

 

見えない。聞こえなぁい。何を言っているのか分からなぁい。

 

「何自分で言って恥ずかしがって悶えて耳を塞いでいるのよ。カップルって言うのがそんなに恥ずかしかった? それとも、もっと先の事を想像しちゃった?」

 

既に緊張+羞恥心で溺死しそうですが、何か?

 

「あ。もしかしてそうやって眼を瞑って耳を塞ぐ事で私の太腿の感触を覚えようとしているのね。このこの」

 

や、やめてください。つんつんとかしないで下さい。

既にこの柔らかな感触と芳しい匂いで俺の精神は陥落寸前なんですから。

 

「じゃ、じゃあ、そろそろ俺は帰りますから」

「あら。早速、如何わしいものを盗み見ようとしているのね」

「ち、違いますよ。自分の部屋で寝るだけです」

「う~ん。信用できないな。やっぱりこの部屋でコウキ君を監視してようかしら」

 

や、やばい。もう駄目!

 

「え? コウキ君?」

「し、失礼します。明日、また来ますから」

 

退避、退避だぁ。

俺の理性がなくなる前に。

 

 

次の朝、いつも以上に悶々として寝不足になったのは言うまでもありません。

だってさ、夢にまで太腿の感触とか心地良い匂いとかが出てくるんだよ!

耐えられる訳ないじゃん。

ミナトさん、やっぱり俺で遊ばないで下さい。寝不足で死んじゃいますから。

あ。でも、膝枕はして欲しいかな・・・って駄目駄目。

気持ちよさと恥ずかしさとで理性を失いかねん。

あれはそう・・・何かのご褒美としてやってもらおう。

そうすれば、やる気もでる・・・コホン、そんなにされなくて済むだろう。

・・・名残惜しいが致し方あるまい。

ん? いやいや、そうじゃなくて、え、名残惜しいのか?

いや。ま、正直名残惜しいけどさ、さっき特別な時だけだって。

う~ん・・・今日もしてもらおうかな?

 

「あ。おはよう。コウキ君」

「ハッ! お、おはようございます! ミナトさん」

「何? どうしたのよ? そんなに慌てちゃって。あ、そっか。昨日の事を思い出して変な事考えちゃったんでしょう? このこの」

 

朝っぱらからする話題じゃないですよ。ミナトさん。

それとつんつんするのはやめて下さい。

 

「さ、今日も一日頑張るわよ。コウキ君」

「はい。ミナトさん」

 

さて、今日も頑張るとしますか。

 

 

 

 

 



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出航前の談話

 

 

 

 

 

「ここをこうして・・・」

「・・・はい」

 

現在、オペレーター補佐としての仕事を行っています、マエヤマ・コウキです。

といっても、俺に出来る事はセレス嬢に簡単な事を教える事だけだけど。

何でしか知らないけど、ルリ嬢もラピス嬢も殆ど完璧なんだよな。

俺の出る幕がないって感じで。

それなら、二人の事は二人に任せて、セレス嬢を出航前まである程度出来るようにさせておくべきだろうと思った訳だ。

セレス嬢も優秀なオペレーターみたいだからな、すぐに覚えるだろ。

ある程度は習ってきていたみたいだし。

 

「ある程度の事はオモイカネがやってくれるから。俺達オペレーターがする事は意思を伝える事だけだよ」

「・・・意思を?」

「そう。だから、オモイカネとは仲良くな。ま、心配ないと思うけど」

『大丈夫』『セレス良い子』『仲良し』

 

ま、オモイカネがこう言うんだから大丈夫だろ。

ただオモイカネが幼女~少女が好きなだけかもしれないけど。

もしかして、オモイカネって・・・。

 

「ふぁ~~~」

 

・・・隣で欠伸はやめましょうか、ミナトさん。

 

「・・・ミナトさん」

「呆れられても困るわ。だって、やる事ないもの」

 

まぁ、言いたい事は分かる。

艦が動いてないのに操舵手なんて必要ないよな。

 

「あれはどうなんですか? えぇっと、そう、起動手順」

「完璧よ。コウキ君とおさらいしたじゃない」

 

そういえば、一日に何回かやっているもんな。

 

「じゃあ、停止手順とか停泊手順とか」

「完璧。シミュレーションは何度もやっているわ。実際に動かせないのだからこれ以上は仕方ないでしょ?」

 

・・・うん。駄目だ。やる事なさそう。

 

「コウキ君こそ、副操舵手と副通信士としてはどうなの?」

「副操舵手の方はミナトさんと練習しているじゃないですか。副通信士もメグミさんから色々習って勉強中です」

「あ。マエヤマさん、飲み込み早いですから、もう殆ど大丈夫ですよ」

「だ、そうです」

 

俺とてやる事はきちんとやっている。

欲張り過ぎの兼任役職だが、全てカバーしてやるぜ。

そうでないといる意味ないからな。

 

「予備パイロットはどうなの?」

「まぁ、それなりです。毎日シミュレーションはしていますし、テンカワさんから色々教わっているんで」

 

闇の王子の名は伊達じゃない。

テンカワさんが未来のアキト青年だって確信してから、積極的に操縦を教わっている。

あれ程の凄腕パイロットは他にいないだろうからな。

間違いなく地球最高のパイロットだよ、テンカワさんは。

 

「へぇ。アキト君ってどれくらい強いの?」

「そうですね。以前、俺のゲームの話したじゃないですか?」

「ええ。あのトップスコアがどうとかって奴ね?」

「はい。多分、テンカワさんなら更に倍ぐらいのスコアは取れるんじゃないですか?」

 

初心者の俺があれだけ取れたんだ。

場慣れしているテンカワさんならもっと取れるだろう。

特に一対多数とか慣れまくりだろうし。

あのゲームは殆ど一人で大軍に立ち向かうって形式のミッションばっかりだったからテンカワさんの十八番だと思う。

連合軍のトップクラスを想定していたみたいだけど、テンカワさんは軽く上回ってるって訳だ。

 

「あら。コウキ君だってかなりのスコアだったんでしょ?」

「俺は所詮お遊びのレベルだったんですよ。テンカワさんは間違いなくプロです」

 

俺はナノマシンの恩恵と卑怯なソフトを多用してようやくテンカワさんと同じ土俵に立てる。

ただのIFSであそこまで出来るのはテンカワさん個人の単純な操縦技能。

とてもじゃないけど、俺では敵わない。

良い動きだけど全体的な動きが経験不足だってテンカワさんに言われたし。

・・・そうだよね。どんな戦場だって経験豊富な人が強いんだよね。

うん。今の俺に出来る事はひたすら経験を積む事っぽい。

 

「そっか。それなら、コウキ君が戦場に出る事はなさそうね」

 

そうニッコリ笑うミナトさん。

 

「ま、そうなんですけどね。頑張ろうって決めた身としてはちょっと拍子抜けかなって」

 

そりゃあ戦場に出なくて済むのは嬉しい限りだ。

わざわざ死ぬような所には行きたくないし、有名になんかなりたくはない。

でも、護りたいって誓った身としてはさ。気合が空回りしていたみたいでちょっと情けないかなって思う。

 

「コウキ君も男の子だからね。でも、私としては安心よ。コウキ君が危険な眼にあわなくて済むのは」

「そう・・・ですか」

 

特別な意味なんてないのかもしれないけど、心配してくれているって思うと嬉しいかな。

 

「テンカワさんだけに負担をかけるのは心苦しいですが、その分、俺は戦場でパイロットのフォローが出来ればいいかなって思います」

「うん。責任感があるのは良い事よ。でも、フォローって?」

「情報解析は得意なんですよ。ま、オペレーターの補佐が最終的にパイロットの補佐に繋がると思うんで」

 

いざ戦闘となるとオペレーターにかかる負担は相当のものがある。

ルリ嬢、ラピス嬢、セレス嬢はかなりのレベルのオペレーターだ。

ルリ嬢は実際に一人で全戦闘をこなしたという実績がある。

でも、だからって辛くないとは限らないだろう?

俺に出来る事があるのなら、三人を補佐して、少しでも負担を減らしてあげるべきだ。

それが最終的にパイロット、そして、ナデシコを助ける事に繋がるんだから。

 

「あ。ルリちゃん。ナデシコの武装を教えてもらえるかな?」

 

確か俺の知る限りではグラビティブラストと連合軍への反乱時に使ったミサイルぐらいだったと思う。

でも、流石にそれだけじゃないと思うんだよ。

気がつかなかっただけで、違う武装も使っていたりとかしていた筈なんだ。

だってさ、二つしかない武装とか恐怖じゃん。後ろから攻められたらどうするのって感じ。

グラビティブラストなんて前しか撃てないし。

 

「主砲としてグラビティブラスト、その他に誘導型ミサイルとレーザー砲が二門あります」

 

へぇ。レーザー砲なんてあったんだ。知らなかった。

そういえば、グラビティブラストが出てくる前の主要武器はレーザー砲だったよな。

第一次火星大戦がそれを証明している。

もちろん、木星蜥蜴のDFに全て弾かれてしまっていたが。

 

「また、レールカノンを艦のいたる所に配置し、全方位に対応できるようにしました」

 

あ。そうなんだ。全方位に対応できたんだ。そいつはまたもや知らなかった。

なんだ、なんかホッとしたな。

本当に、後方への対応とかは出来ないのかと思っていたぜ。

杞憂で済んだか。

 

「そっか。配置図とか見せてもらえるかな。艦の全体図とか」

「こちらです」

 

パッとモニターに出してもらう。

正面モニター全体に映してもらったから他のブリッジクルーも何事だ? みたいな感じでモニターを見ていた。

 

「相変わらず変な形よねぇ」

 

ミナトさんも相変わらず暢気ですよね。

 

「ブレードのせいですよ。ディストーションフィールドを発生させる為の」

「そうなんだ。そもそもそのDFってどれくらいの衝撃まで耐えられるのかしら」

「えぇ~と、そうですね」

 

ルリ嬢の映し出したモニターにDFの説明を載せる。

オモイカネ、よろしく。

 

「DFって空間を歪ませて攻撃を防ぐ訳です。だから、ビーム兵器とかグラビティブラストとかそういう光学兵器にはとても有効なんですよね」

「えっと、波が伝わりにくいからって事?」

「ま、そんな感じです。光も波ですからね。防ぐっていうか逸らすっていうんですか? そんな感じですから。だから、実弾兵器には効果はあっても薄いみたいですね」

 

まぁ、高出力にすれば実弾兵器にも耐えられるらしいけど、油断はいけないよな。

所詮は、破壊できてしまう障壁でしかないのだから。

どんな武器からも攻撃を防ぐ盾、どうやっても壊れない盾、とは残念ながらいかないのさ。

 

「へぇ。じゃあ無敵って訳じゃないのね」

「ええ。特に地上じゃ駄目駄目です。油断していちゃいけませんよ。ま、そこはミナトさんがカバーするという事で」

「そう。お姉さんに任せておきなさい」

 

同じ資格持ちでも俺とミナトさんじゃ月とスッポン、天と地ほど違う。

俺も一応平均よりは優れていると思うけど、ミナトさんはもうトップクラスではって思う程に凄い。

こんな巨大なナデシコをセンチ単位、いや、ミリ単位で修正するとか半端ないと思う。

どんだけ空間認識に長けているんだよって話。

どんな経験を積んだらそんな事ができるようになるのやら。

 

「あの~マエヤマさん、教えていただきたいんですけど」

「ん? 何かな。メグミさん」

 

メグミさんもモニターを見ていたみたいだ。

どうやら質問があるらしい。

なんでも知っている訳じゃないから答えられるか心配だけど。

 

「何で地上じゃ駄目駄目なんですか? 地上と他とでは何か違うんですか?」

 

おぉ。鋭い質問だ。

これを把握してないから後々の悲劇に繋がったんだもんな。

丁度いいから話しておこう。

 

「メグミさんはこの艦がどんなエンジンで動いているか知っていますか?」

「えぇっと、ここには、メインエンジンは相転移エンジンって書いてありますね。どんなエンジンなんですか?」

 

あ。モニターに出てたか。

・・・何か間抜けだな。俺。

 

「相転移って分かる?」

「えぇっと、実はあんまり・・・」

 

項垂れるメグミさん。ま、別に知らなくても日常生活には問題ないしね。

 

「ま、俺もあんまり詳しくないんだけどさ。そうだなぁ・・・ほら、水って冷やすと氷になって、火にかけると水蒸気になるじゃん」

「あ、はい。なりますね」

「その変化が相転移っていうのかな。熱っていう外的要因で相が変わっているみたいな」

「う~んと」

「ごめんね。説明下手で」

 

もっと頭良くなりたいな。

あの難しい事を簡単に説明できるっていう特殊技能が欲しい。

その技能こそが頭の良い証って感じがする。

 

「あ、いえ、何となく分かればいいですから」

「そう? じゃあ、分かりづらいかもしれないけど、我慢してね。相が変わるにはエネルギーが必要になる訳。さっきのたとえなら熱みたいな」

「はい。エネルギーが必要な訳ですね。何もなくて変化する訳ないですから」

「そうそう。それで、相の変化にエネルギーが必要なら、逆に相の変化で何かしらのエネルギーが消費されているといえる」

「え~と、車のブレーキとかで熱が発生するみたいにですか?」

「お。いい例えだね。俺より説明のセンスがあるよ」

「あ、ありがとうございます」

 

俺ってば説明下手だからな。

難しい言葉を並べて誤魔化すとか良くやっていたよ。

だから、逆に質問されると答えられない事が多かった。

 

「今回の相転移エンジンっていうのは、真空の空間をエネルギー準位の高い状態から低い状態に相転移させる事でエネルギーを取り出しているんだよ」

「それなら、真空に近ければ近い程にエネルギーが確保できるって事?」

「お。流石ミナトさん。鋭いですね」

「まぁねん」

 

よく俺の下手な説明で理解できるよ。

俺としては助かるけどさ。

 

「凄く簡単にいえば、宇宙みたいな真空で一番の出力を得られて、地上みたいな真空じゃない所ではあまり出力が得られないって事だよ」

 

簡単にいえばそうなるよな。

火星でピンチだったのも宇宙に比べて出力が足りなかったからだし。

火星も一応大気があります故に。

 

「エンジンの出力が不十分なら、当然、DFとかいう奴も低出力になっちゃうのよね?」

「はい。もちろんです。だから、宇宙空間で耐えられるものが地上では耐えられないなんて事もあるんですよ。当然、同じエンジンに依存しているグラビティブラストの威力も弱まっちゃいますし」

 

攻撃力も防御力も下がるとかまずいよな。

出来るだけ宇宙空間にいるべきだと思う。

 

「何か聞く限りだと結構欠点があるみたいね」

「でも、便利ですよ。半永久的にエネルギーが得られる訳ですから。他のエネルギーは消費したら終わりじゃないですか」

「それもそうね。戦艦として働く分には丁度良いって訳か」

「ま、そうなります。エンジンの稼働率で色々と調整できますから。使い勝手もいいんじゃないですか?」

 

スピード調整とか簡単そうだし。

ま、整備班は常に点検しないといけないから大変そうだけど。

 

「御詳しいのですね、マエヤマさんは」

 

ん? これぐらいはあくまで基礎知識の範囲なんだけどな。

知っているのって変なのか?

 

「おかしいかな?」

「え、いえ。そうではありませんが」

 

元々知っていたけどさ。原作を見ていた訳だし。

でも、やっぱり乗る側としては表面上だけじゃなくきちんと把握しておきたいじゃん。

だから、当然、何度も資料を読み返しましたよ。

内容が難しくて中々理解できなかったけど。

 

「何が目的か分からないけどさ。機動戦艦なんて名付けてあるんだから、戦う為にあると思うんだよ。俺はパイロットとかも兼任しているし、生き残る為には把握しておきたい」

「・・・・・・」

 

何だろう? この尊敬の眼差しは。

普通の事を言っただけですよ、皆さん。

 

「少なくとも艦長とか副艦長とか、戦闘指揮のゴートさんは把握している筈です。俺は全体的に補佐役を務めている訳ですから、補佐役として色々な事を把握しておく必要があるかなって」

「あ、ああ。もちろんだ」

 

ゴートさん。狼狽していると疑われますよ。

いつもの仏頂面で誤魔化すのがベストです。

というか、やっぱり知らなかったんですね・・・。

まぁ、ネルガル社員はどこかDFを過信していた節があるし、わざわざ調べなくても最強の盾だとか油断していたのかも。

 

「パイロットの方々も把握しておくべきですね。エステバリス、この戦艦に搭載されている機動兵器ですが、これもDFを持っていますし、出力はナデシコの相転移エンジンに依存していますから。多分、リーダーパイロットのテンカワさんは知っているんじゃないですか?」

「・・・もちろん、知っている」

「ラ、ラピス?」

 

何を慌てているんだ? ルリ嬢。

テンカワさんが知っているのは当然じゃないか。

未来のアキト青年だし。

二人だって知っているから落ち着いていたんでしょ?

俺の説明に皆、慌てたり、感心したりとかしていたけど、二人とも当然のように振舞っていたしさ。

 

「ブリッジは特に戦闘に携わると思うので把握しておいて損はありませんよ。俺はまだ死にたくありませんし」

「そうよね。私もちょっと勉強しておこうかしら」

 

お勧めします、ミナトさん。

 

「何だか怖くなってきました。私達って戦艦にいるんですよね」

 

まぁ、戦艦なんて現実味ないもんな。軽い気持ちで乗艦していてもおかしくないか。

 

「落とされない為にリーダーパイロットのテンカワさんを始めとするパイロットがいて、整備班や艦長、副艦長がいるんです。彼らを信じてあげてください」

「・・・はい。怖いですけど、私も頑張ろうと思います」

「そうだね。メグミさんの通信士って役目も戦闘では大切だと思うから、メグミさんの頑張りが皆を護る事に繋がると思うよ」

「私の頑張りが皆の・・・」

「うん。それにね、メグミさんだけじゃないんだ。操舵手のミナトさんだってオペレーターのルリちゃん、ラピスちゃん、セレスちゃんだって大切な役目」

 

操舵手にはナデシコの命運が懸かっているし、オペレーターはいつだって大変だ。

 

「戦闘指揮のゴートさんだって、今はいない艦長、副艦長だって必要不可欠。提督の経験は俺達みたいな経験不足の集まりにとっては何より大切なんじゃないかな」

 

戦闘経験なんて誰もないんだし、戦場で一番大切なのは経験だろうしね。

 

「あれ? 副提督は?」

「えぇっと」

 

後ろを見て、いない事を確認。

 

「どちらかというと情操教育に悪い・・・かな?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

何だ? 何故に沈黙?

 

「・・・ふふふ」

「ハハハハハハ」

 

え? だ、大爆笑? そんな変な事言ったか?

 

「ハハハハハハ。コ、コウキ君、笑わせないで」

「マ、マエヤマさん。クスッ。酷いですよ」

 

笑いながら言ったって説得力ないってば。

 

「いや。だってさ、ヒステリックであの顔はトラウマになりかねないし」

「アッハハハ。もう駄目。お腹痛い」

 

半端なく笑っていますね、ミナトさん。

 

「クスッ」

 

お。ルリ嬢が笑った。

 

「・・・何ですか?」

 

と、思ったら睨まれた。

俺ってば何かやらかしたかな?

 

「いや。なんでもないよ。ルリちゃんは一番大変だと思うけど、よろしくね」

「・・・それが仕事ですから」

 

子供に仕事を課すのは心苦しいけど能力的に彼女以上の人はいないから。

しょうがないとは言いたくないけど、しょうがない事だと思う。

だから、俺の出来る範囲で最大限のフォローをしよう。

なんか嫌われているみたいだけど、仕事はきっちりこなします!

 

「最後に、ここにいるのはあのプロスさんが選んだメンバーなんだから、間違いないですって」

「コウキ君はプロスさんを信用しているのね」

「俺は色々と兼任していますからね。一応は少しずつですが、かじっている訳じゃないですか。だから、一人一人が優秀なんだなって分かりますよ」

 

ミナトさんの隠れざる技術を発掘したぐらいだ。

プロスさんの眼は凄まじいと思う。

 

「もちろんです。私がいたる所から見つけ出した最高の人材ですから」

 

おぉ。プロスさん、いつの間に。

 

「無論、マエヤマさんも最高の人材ですよ」

 

いや。そう言われると照れるかな。

 

「マエヤマさんには色々な役職を兼任して頂いていますから。大変だと思いますが、改めて御願いしますね」

「ええ。任せてくれとは言えませんが、出来る限りの事をやるつもりです」

 

生き抜かない事には始まらないしな。

やれるだけはやるつもりだ。

 

「そういえば、プロスさんはどうしてここに?」

 

うん。俺も気になった。

プロスさんがブリッジに来る必要は今の所なかったはずだし。

 

「そろそろお昼時ですからな。交代で食事をと思いまして」

 

あ。そっか。忘れていた。

 

「それでは、始めにハルカさん、レイナードさん、ラピスさん、セレスさん、休憩にお入りください」

 

ま、妥当かな。

とりあえず俺がいれば通信と操舵に問題ないし。

技量的に一番のルリ嬢がいれば、二人でも回せそうだ。

 

「じゃ、お先にね」

 

ミナトさんを始めとしてぞろぞろ出て行く。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

結果としてルリ嬢と二人っきりになりました。

・・・あぁ。なんだろうこの空気。気まずい。

 

「えぇっとさ、ルリちゃん」

「・・・何でしょう?」

 

何でそんなに拒まれる?

普通に傷つくんですけど・・・。

 

「俺って何かしたかな?」

「いえ。何も」

 

じゃ、じゃあ何故に?

生理的に無理とか?

・・・もうリタイアしてもいいですか?

ま、まぁいいさ。

頑張ればきっと報われる。

好かれるよう努力しよう。

 

「ちょっと相談事があるんだけどいいかな?」

「・・・何でしょうか?」

 

おぉ? 今度は真剣な顔付きに。

 

「武装兵器の事なんだけど・・・」

「・・・・・・」

 

何? その呆れというか、予想外というか、そんな感じの反応。

 

「・・・・・・」

「・・・何でしょう?」

 

やっぱり気まずいよ。

 

「それぞれの武装を誰が担当しているのか聞いておきたくてさ」

「全てオモイカネが制御してくれますが?」

 

え? オモイカネ任せなの?

あ、そういえば、ミサイルとかもオモイカネ任せだから連合軍に向かったのか。

 

「レールカノンとかもそうなの?」

「ええ。戦艦の攻撃は精密射撃ではなく弾幕を張る事にありますから」

「・・・詳しいね。なんか経験があるみたい」

「ッ!?」

 

普通は気付かないよね。

対象が自分達に比べて小さすぎるから弾幕を張る事で退けるのが戦艦のスタイルだって。

 

「・・・シミュレーションの結果です」

「そっか。ルリちゃんも色々と想定しているんだ。頼りになるね」

 

まだ十一歳なのに偉いよな。

・・・偉いっていうか、子供に負担かけている時点で大人失格なんだけどさ。

 

「じゃあさ、もし後方から攻められたらどう対処する? グラビティブラストって前方だけじゃん? ナデシコを旋回させるのには手間がかかるし」

「・・・そうですね。レーザー砲とレールカノンに任せるしかないかと。その為にレールカノンを導入した訳ですし」

 

その為に導入した?

まるでルリ嬢が意見を出したみたいだな。 

ま、そんな権限はルリ嬢にはないだろうけど。

 

「それだけで大丈夫かな?」

「アキトさんがいるから大丈夫です」

「そりゃあ、テンカワさんぐらいの凄腕なら大丈夫かもしれないけど、最悪の状況を想定するのは大事な事だと思うんだ」

 

テンカワさんだけを頼りにしちゃいけないよな。

テンカワさんにだって限界があるんだし?

・・・あれ? ルリ嬢ってこの時期からアキトさんって呼んでいたっけか?

何かきっかけがあったような・・・。

少なくともまだテンカワさんだったよな?

う~ん、なんだろう、この違和感。

 

「それなら、マエヤマさんならどうしますか?」

 

あ、ま、いいか。後で思い出そう。

 

「そうだねぇ。じゃあさ、レールカノンの方を俺に任せてくれないかな?」

「・・・レールカノンをですか?」

「うん。一応予備パイロットだからさ、射撃とかは苦手じゃないんだ。だから、レールカノンを任せてもらえばそれなりの命中率があると思うよ」

 

ふふふ。射撃向上ソフトを用いれば精密射撃も不可能ではない。

エステバリスと違って射撃に集中できるし、絶対に外さない自信があるぜ。

レールカノン自体の数も多いし、弾幕としても活躍させられるだろう。

 

「しかし、弾幕としてレールカノンを」

「せっかく木星蜥蜴に有効なレールカノンを弾幕に使うのはもったいないよ。レーザー砲で敵のミサイルとかを防いでレールカノンで仕留めるってどう?」

「悪くないですね。でも、マエヤマさんがいない時はどうするんですか?」

 

む。それは考えてなかった。

 

「その時は弾幕として使ってくれればいいよ。俺がいる時にだけ操作を任せてくれれば」

「・・・そうですか。分かりました。プロスさんに訊いてみます」

「ごめんね。御願いするよ」

 

納得してもらえたみたいだ。

良かった、良かった。

これぐらいの事はしないと、僕ってばいらない子になっちゃいますので。

 

「ま、基本的にDFで戦艦を囲っちゃうと思うから必要ないかもしれないけどね」

 

グラビティブラストを放つ時にもいちいち解除しなっきゃいけないのって面倒だよな。

ま、仕方ないんだけどさ。砲台だけ外に出す訳にはいかないし。

 

「色々と詳しいんですね、マエヤマさんは」

「そうかな? 普通だと思うけど」

「DFの特性、DFの弊害、武装の事など普通の人では考えない事ばかりです。それに後方から攻められた場合なんて考える人はいません」

「いや。だって、死にたくないしさ」

 

戦艦に乗るんだぜ。

把握しとかないと怖いじゃんか。

未来を知っているからって危険がない訳じゃないんだし。

少なくとも俺がいる以上、何かしらの変化はある筈だ。

 

「それに、ルリちゃんだって考えていたでしょ? ナデシコクルーは皆が皆、お気楽だからね。考えている人の一人や二人いないと墜ちちゃうよ?」

「お気楽がナデシコの良い所ですから」

「そっか。子供が少ないからさ。お姉ちゃんとしてルリちゃんが二人の面倒を見てあげてね、ラピスちゃんとセレスちゃん」

「・・・子供じゃありません。・・・ですが、任されました」

 

あの有名な台詞、少女です。が聞けるかと思ったけど、聞けなかったな。ちょっと残念。

 

「うん。頼りにしているよ。お姉ちゃん」

 

お姉ちゃんとしての自覚がルリ嬢に良い影響を与えるかもしれない。

うんうん。結構、良い事したみたいだな、俺。

改めて助け出せて良かったって思うよ。

実際に助け出したのは俺じゃないけど。

 

「あの、聞いてもいいですか?」

「ん? 何だい?」

 

おぉ。少しは距離が縮んだか。

ルリ嬢から話し掛けてくれるなんてな。

 

「マエヤマさんはどうしてナデシコに乗ったんですか?」

 

ん? 前にも似たような事をテンカワさんに聞かれたな。

 

「それは理由とか目的とかって話?」

「はい。天才プログラマーのマエヤマさんが何故戦艦に乗っているのかと」

「ルリちゃんもテンカワさんと同じ事を訊くんだね」

「ッ!?」

 

何だかんだいって気が合うんだろうな。

一緒に暮らしていた時期があったみたいだし。

合わなかったら一緒に暮らさないだろ?

思考展開とか意外と似ているのかも。

 

「そうだなぁ。お世話になった人を死なせたくないってのと、生き抜く為にって所かな」

「お世話になった人とは、ミナトさんの事ですか?」

「え? 良く知っているね」

「ミナトさんと共に紹介されましたので、接点があるのかと」

「鋭いね。ルリちゃん」

 

ま、一緒に回っていたんだからそう思われるか。

偶然、同じタイミングで合流したとか思うよりそれらしいし。

 

「ミナトさんにはお世話になりっぱなしなんだ。恩人を一人危険な所に向かわせるのは薄情だしさ、役に立てる事があるかもしれないじゃん?」

「・・・ええ。まぁ」

 

納得してもらえなかったかな?

 

「それでは生き抜く為ってどういう事ですか?」

 

う~ん。ナデシコに乗るのが当たり前になっていたって言うのはおかしいよな。

とりあえず、誤魔化しておくか。

 

「木星蜥蜴が襲ってきているでしょ?」

「はい。それとマエヤマさんに何か関係があるんですか?」

 

スーッと眼が鋭くなるルリ嬢。

いやいや。襲撃と俺に関連性はないですから。

 

「そうじゃなくてさ。どうせ巻き込まれるなら、中心になりそうな所で頑張りたいと思って」

「・・・何故、ナデシコが中心になると?」

 

うわ!? 余計に鋭くなった。

 

「ちょっと考えれば分かるって。軍の情報を見ると他の戦艦じゃまったく木星蜥蜴の相手にならないんでしょ? そんな中に現れたネルガル重工のとっておきであるナデシコ。その技術は地球最新鋭であり、ナデシコであれば木星蜥蜴にも対処可能。違う?」

「・・・理論上は対処可能です」

「それなら、ナデシコが中心になってもおかしくないでしょ? まぁ、すぐに同系統の戦艦が出来上がってもおかしくないけどさ」

 

それでも、施工に時間がかかる事に変わりはない。

二番艦であるコスモスでさえ後一年ぐらいはかかるみたいだし。

 

「・・・そうですか。マエヤマさんにはそんな理由が」

「うん。それじゃあさ、ルリちゃんの理由と目的を聞かせてもらっていいかな」

「・・・・・・」

 

あ。無言。

・・・まずかったかな?

ルリ嬢ってネルガルに買われて強制的にクルーになった訳だし。

特に理由はありません、買われただけです、とか言われたら俺も嫌だしルリ嬢も傷付くと思う。

あぁ。俺ってばバカ! 無神経すぎる!

 

「・・・そうですね。私がここにいるのはここが私のいるべき所だからです」

 

いるべき所って・・・買われたからって意味?

・・・やばい。罪悪感で胸が痛い・・・。

 

「目的は幸せになる事です。私が望む幸せに」

 

あれ? 予想と違った答え。

 

「幸せになる・・・か。難しいけど、素敵な目的だね」

「・・・馬鹿にしています?」

「まさか。俺も似たようなもんだよ」

 

そう白い眼で見ないでくれよ。

馬鹿になんかしてないんだから。

 

「笑われるから秘密にしてね」

 

口元に指を立ててしゃべらないでと忠告。

ま、ルリ嬢は秘密にしてって言った事を誰かに話すような人じゃないだろ、きっと。

 

「俺の最終目的は幸せになって平穏な生活を送る事なんだ」

「・・・幸せと平穏・・・ですか?」

「男の夢にしては小さいかな?」

「い、いえ。素敵な目的だと思いますよ」

「ハハハ。ルリちゃんもそんな感じでしょ? 今は戦艦なんかに乗っているけど、誰だって幸せになりたいと思う。それなら、こんな戦争なんて早く終わらせなくちゃ」

 

戦争なんて百害あって一利なし。俺みたいな庶民にはね。

それに、そもそも戦争の理由がくだらないと思う。

どっちが悪いって訊かれたらどちらかというと地球だと思うし。

いや。どっちも悪いんだけどさ。

どっちかっていうと地球側だよね。独立派に核を撃ち込むとかありえないと思う。

 

「・・・戦争・・・ですか?」

 

あ。まずったか?

戦争って人間対人間を表す言葉だもんな。

未確認物体からの襲撃は侵略というのが正しいかもしれん。

ま、どうにかして誤魔化そう。

 

「侵略ってのが正しいのかもしれないけど、いまいち相手側の目的が分からないんだよね」

「相手側って。向こうは知性のない―――」

「知性がなかったらもっと被害を受けているって」

 

知性がないからこの程度で済んでいるってのはむしろおかしいでしょ。

知性がないなら野生の獣みたいなものだよ、見境なく破壊するって。

知性があるからこそ、これだけの被害で済んでいるんだと思うんだよね。

 

「それにさ、機械で攻めてくるって事は誰かしらがどこかで生産して、かつ、制御しているって事じゃないかな?」

「じゃあ、何故接触してこないんですか? 知性があるのなら、誰かしらに接触すると思うのですが?」

「う~ん。そうだな。言葉が通じないとか?」

「・・・はぁ・・・」

 

呆れられちゃった。ミスったかな?

 

「言葉が通じなくても意志の疎通は可能だと思います。そうでなければ、地球連合が発足する訳がないではないですか?」

 

ま、そうだよな。

言葉が通じなくても意志疎通が出来たから国際間で手を取り合う事が出来たんだ。

そりゃあ誰かが通訳としていたのかもしれないけど、その通訳自体が意思疎通できなければ始まらないし。

 

「マエヤマさんは鋭いようでどこか抜けているんですね」

 

呆れられた果てに嫌な印象を与えてしまった。

抜けているとか。十一歳の子供に言われるのは情けなくないか?

いや、自覚はあるけども。

 

「ルリちゃんが鋭いんだよ。ルリちゃんは大人だね」

 

背伸びしている感じ? 子供扱いされるのが嫌いって早く大人になりたいって証拠でしょ?

 

「大人にならなければならない環境にいましたから」

 

えぇっと、とても十一歳の子がする表情じゃないんですけど。

憂いとか蔭りがある表情とか。本当に十一歳でしょうか?

 

「そっか。でもさ、ナデシコなら子供でもいいんじゃないかな? 優しい人ばっかしだし」

 

ミナトさんがいればルリ嬢は甘えられると思う。

今までは研究所で機械みたいに育てられていたみたいだけど、これからはミナトさんが優しく暖かく育ててくれる筈だから。

 

「私、子供じゃありません。少女です」

 

おぉ。ここにきてこの台詞が聞けるとは。

 

「そっか。それなら、少女として大人の女性に色々と教えてもらいなよ。将来立派な女性になる為にもね」

 

少女も子供だよって言い聞かせるのもいいけど、こういう説得方法も悪くないんじゃない?

こう言えば、もっと早くミナトさんとかに心を開くかもしれないし。

 

「・・・そうですね。そうします」

 

・・・納得してくれました。

何だろう? こんなに物分りの良い子だったっけ?

他人を遠ざけるような態度も取らないし。

・・・俺は敵視されているけどさ。

・・・自分で言っていてなんか悲しくなってきた。

 

シュンッ。

 

「コウキ君。ルリちゃん。交代しましょ」

 

ブリッジの扉が開いて、ミナトさんの声が聞こえた。

食事を取り終えたみたいだ。

 

「分かりました。ルリちゃん。一緒に行く?」

「・・・いえ。用があるので」

 

・・・断られてしまいました。

やっぱり俺には心を開いてくれないか。

これは長い目で見るしかないな。

 

「そっか。分かった。じゃ、また後でね」

 

一人寂しく食堂へ向かいます。

あぁ。早く友達作らないと。

ずっと一人で食事とかになったら嫌だしな。

ま、早く食って来て、さっさと戻ってきますか。

今日はカツ丼にしよっと。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「えぇ!? 同棲していたんですかぁ!?」

 

食堂でご飯を食べているとコウキ君の話題に自然となっていた。

メグミちゃん曰く・・・。

 

「大人って感じですよね、何かお兄さんみたいでした」

 

ふふふ。それは日常生活のコウキ君を知らないからよ。

 

「コウキ君って結構子供っぽいのよ。初心だし。変な所で負けず嫌いだし」

「・・・ミナトさんってマエヤマさんの事に詳しいんですね」

「そりゃあ一年間ぐらい一緒に住んでいたもの」

「へぇ。一年間も・・・って。えぇ!? 同棲していたんですかぁ!?」

 

となった訳。ま、同棲していたなんて普通じゃないものね。

 

「同棲じゃないわよ。同居していただけ」

「で、でも、同じ部屋に男女でいたんですよね」

「嫌ねぇ。姉弟みたいなものよ」

 

初めて部屋に入った時なんてカチコチだったし。

ふふふ。思い出すだけで可笑しいわ。

 

「それじゃあミナトさんとは何もないんですか?」

「え? 特には・・・」

 

何だろう? 認めたくない。

それでも、私のペースは崩さない。

 

「どうしたの? 惚れちゃった?」

「そういう訳じゃないんですけど、何か頼りになるし。若くして成功していますしね」

 

・・・何だ。

憧れか。

・・・良かった。

 

「あら。玉の輿って奴を狙っているの?」

「そんなんじゃありませんよ。でも、成功していて悪い事なんかないじゃないですか」

 

ま、若い子には魅力的よね。

・・・私もまだ若いけど。

何だろう? やっぱり私は結婚とかにも充実感が欲しいかな。

 

「ミナトさんはマエヤマさんの事をどう思っているんですか? 姉弟とかじゃなくて、個人として」

「そうね。優しくて可愛い変な子って感じね」

 

優しいし、いじり甲斐がって可愛いし、変な子だし。

 

「・・・とっても穏やかな顔していますよ。ミナトさん」

「そうかしら?」

 

コウキ君といると落ち着くしね。

 

「セレスちゃんとラピスちゃんはマエヤマさんの事をどう思ったかな?」

 

メグミちゃん。

小さい子に何を聞いているのよ。

でも、ま、女に年齢なんて関係ないか。

 

「・・・悪い人じゃない」

「・・・優しい人だと思います」

 

ふふっ。良かったじゃない。コウキ君。

高評価よ。

飴が効いたかしら。

 

「そっか。じゃあ、色々とコウキ君を頼るといいわよ。コウキ君って結構世話焼きだから」

 

子供好きなのかしら?

セレスちゃん達を相手にしている時、とっても優しい眼をしている。

 

「・・・分かった」

「・・・はい」

 

頑張ってね、コウキ君。

 

「そうそう、ミナトさん」

 

ここからは女の子だけの姦しい話みたいね。

メグミちゃんもそうだし、皆良い子みたいだから、これからが楽しみね。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 



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ナデシコ出航

 

 

 

 

「えぇっと、プロスさん、艦長とかって・・・」

 

食事を終えて、再度ブリッジで活動中。

オペレーター、操舵手、通信士の仕事を再度確認して、ミナトさんの隣の席で一息ついた時、ミナトさんがプロスさんにそう問いかけた。

 

「・・・えぇ~~~」

 

そうですよね。困りますよね。

いえ。プロスさんが悪い訳ではないんですよ。

ただですね。えぇっと、そう、艦長が悪いんです。

ミスマル・ユリカ嬢が悪いんですよ。

・・・胃薬準備しておこうかな? プロスさんの為に。

まだ外に出ても大丈夫そうだし。

 

「本来であれば一週間前に着任の予定です」

 

ルリ嬢、プロスさんを気遣ってあげようよ。

 

「あれ? じゃあとっくにいる筈なんだ」

「・・・え、ええ」

 

・・・今回はマジで冷や汗を掻いていますね。

ハンカチがびしょ濡れにならない事を祈ります。

 

「大丈夫なんですか? 遅刻するような人が艦長で」

「・・・・・・」

 

メグミさんまで。

 

「副長はどうなのよ?」

「・・・・・・」

 

ミナトさん。トドメですよ、それ。

 

「ま、まぁ、落ち着きましょうよ。ミナトさん、メグミさん」

 

き、きっと優秀だった筈。

だ、だって、あんな激戦を生き抜けたんだから。

 

「コウキ君。遅刻なんかする艦長を庇うの?」

「私、マエヤマさんに言われてこれが戦艦なんだって自覚しました。遅刻するような艦長は信じられません」

 

や、やばい。余計な事を言ったか? 俺。

ブリッジクルーのお気楽さと団結力こそがナデシコの強さだろ?

それがなくなったらやばいって。

 

「と、とりあえず、艦長がどんな人かを吟味してみましょうよ。ルリちゃん。御願いできるかな?」

「分かりました」

 

モニターに映るユリカ嬢の経歴とピースしている写真。

うん。ピース姿なのはちょっといただけないかな。不真面目に見える。

ま、美人なのは認めるけどさ。

 

「ほぉ。戦略シミュレーションで無敗か。凄いな」

 

ゴート氏が唸る。

まぁ、確かに凄いよね。

でもさ、それって参謀とかの役目だと思うんだよ。

だって、ゴートさんが戦闘指揮としているんだし、参謀がいてもおかしくないでしょ。

というか、原作見た限り、ユリカ嬢の独断で全ての作戦を行っていた気がする。

副長のジュン君とか書類整理ってイメージしかないし。

いや、もちろん、それ以外の仕事もしていたんだろうけど。

とにかく、ゴートさんしかり、ジュン君しかり、戦闘中は何をしていたの? と疑問に思わざるを得ないほどのユリカ嬢の独壇場。

あれ? ある意味、圧倒的カリスマ性と見ていいのか?

ま、プロスさんがスカウトしたんだから、間違いはないんだろうけど。

 

「いやぁ。彼女を引き抜くのは苦労しましたよ」

 

あ。プロスさん。復活。

意気揚々としていらっしゃる。

 

「へぇ。凄いじゃない」

 

うん。単純に凄いと思うよ。

 

「・・・ねぇねぇ、コウキ君」

 

ん?

 

「何ですか?」

「ちょっと耳貸して」

 

あぁ。内緒話ですか。

 

「・・・何です?」

「・・・優秀なのよね?」

「・・・優秀ですよ、性格はともかく能力に関しては」

「・・・遅刻するのに?」

「・・・性格はともかく能力に関しては」

「・・・そう」

 

何だろう? そのやるせない感じ。

 

「・・・いざとなったら護ってくれるのよね?」

「・・・ええ。その為に俺がいるんですから」

「・・・頼むわよ、コウキ君」

「・・・ええ」

 

内緒話を終えて、離れていくミナトさん。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

何だろう? こっち見ているんですけど。

 

「どうしたの? メグミちゃん、ルリちゃん」

「な、なんでもないですよ。ミナトさん」

「いえ。特には・・・」

 

じゃあ、何でこっちを見ていたんだろう?

 

「・・・・・・」

 

ん? 裾が引っ張られている。

えぇっと、セレスちゃんかな?

 

「どうかしたかい?」

「・・・教えて欲しい事があります」

 

あ、そっか。補佐だもんな、俺。

 

「うん。何だい?」

「・・・ここです」

 

頼られるのは嬉しい限りだな。

教えられる事なんて少ないけど。

 

「マエヤマさん、レールカノンの件ですが」

「あ、うん。何だい?」

「プロスさんの許可が下りました」

「そっか。ありがとう」

「いえ。優先順位の第一位をマエヤマさんに設定してありますので、お手元のコンソールからどうぞ」

「分かった。後でちょっと調整に付き合ってくれるかな」

「いいですよ、仕事ですから」

 

おし。これでレールカノンが撃てる。

 

「レールカノンって?」

「操作権をもらったんですよ。戦闘中に何も出来ないのは嫌ですからね」

「そっか。コウキ君って誰か欠員が出なければ役目なしだもんね」

「・・・・・・」

 

いらない存在と言われたようで胸にグサっときました。

 

「ごめんごめん。でも、ほら、コウキ君は色んな補佐をしてくれているでしょう? だから皆、頼りにしているわよ」

「そ、そうですよ、マエヤマさん。そう落ち込まないで下さい」

 

フォローありがとうございます。

・・・一応、立ち直りました。

 

「どうしてレールカノンなの? 他にもあったじゃない」

「レールカノンが一番木星蜥蜴に有効ですからね」

「え? そうなの?」

 

まだ相手側の戦艦って出てなかったな。

どう説明しよう。

・・・あれ? それなら、何でルリ嬢、さっき肯定したんだ?

またもや違和感。

 

「コウキ君?」

 

火星大戦から情報を得ていたのかな?

ま、相手方がグラビティブラストを持っていたらディストーションフィールドを持っているって気付いてもおかしくないか。

あ。チューリップがあったか。いや。チューリップはDFなかったな。

・・・どうしてだろう?

 

「コウキ君!」

「は、はい? な、何ですか?」

 

な、何だ!?

 

「無視なんて酷いじゃない」

「え、あ、すいません。ちょっと考え事をしていまして」

「許さないわ」

「えぇ!?」

「そうね。今度、ご飯を奢りなさい」

「えぇっと」

 

お金あるからいいけどさ。

何か理不尽じゃない?

 

「わ、分かりました。ホウメイさんの料理、美味しいですもんね」

「そうなのよぉ。和洋中全部揃っていて、ついつい食べ過ぎちゃうのよね」

「・・・食べ過ぎると太―――」

「その話題は禁止!」

 

ゴンッ!

 

「イタッ! ・・・久しぶりに拳骨を喰らいましたよ」

 

あぁ。頭が割れるぅぅぅ。

 

「女性に失礼よ」

「私もそう思います」

「す、すいませんでした」

 

理不尽だよ。

 

「それで? どうして、レールカノンなの?」

「火星大戦の映像を調べていてですね。向こうが重力波、要するにグラビティブラストを放ってきたんですよ」

「あ。じゃあ、DFもあるかもしれないって事?」

「予想でしかないんですけどね」

 

ま、実際に後々バッタですらDFを纏うし。

レールカノンがあると便利だろ。

というか、ミナトさんもよくやってくれるよ。

俺が未来知っているって分かっているのに誤魔化しに付き合ってくれて。

本当に感謝です。頼りになります。

 

「・・・次はどうするんですか?」

「あ、うん。ごめんごめん。次はね」

 

セレスちゃんをスルーしていた。

気をつけないと。

 

「・・・コウキ」

「ん? ラピスちゃん。どうしたの?」

 

次はラピス嬢か。

何か色々と忙しいな。

 

「・・・アキトが言っていた。コウキのパイロットとしての腕は確かだって」

 

おぉ。俺ってば褒められていたのか。

 

「・・・どうやってアキトが認めるほどの技量を身に付けた?」

 

どうやって訓練したかって事?

俺がそれなりに戦えるのはナノマシンの恩恵と卑怯ソフトを使っているからなんだけど。

 

「俺自身はそんなに強くないよ。色々と使い勝手の良いソフトをインストールしているだけ」

「・・・そんな事をしたら容量が不足する」

「必要な分を的確に最小限に」

「ん?」

 

首を傾けるラピス嬢。

うん。可愛らしいね。

 

「それが基本だよ。無駄を減らして最小容量にして更に圧縮すれば結構大丈夫」

 

かなりの量が俺の自作ソフトで埋まっているもんな、俺のアサルトピットの中。

ま、遺跡からのパクリだけど。

 

「・・・でも、それと戦闘は違う」

「元々エステバリスのコンセプトはIFSさえあれば子供でも乗れるだしね。多少、銃器が使えれば・・・」

「・・・普通、銃器は使えない」

 

・・・あ。しまった。

 

「・・・どうして銃器が使える?」

「そうね。私も気になるわ」

「私もです」

「私も気になります」

 

嘘!? 四面楚歌? 孤立無援?

ゴートさん達まで睨んできている?

 

「えぇっとさ、笑わないでね」

「・・・笑わない」

「銃器が使える笑える理由って何よ?」

 

いや。だってさ。恥ずかしいじゃん。

 

「俺ってさ、子供の頃から結構ゲームとかにはまっていてさ。シューティングアクションゲームとかやりこんでいたんだよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・それだけですか?」

「そういえば、コウキ君がスカウトされたのもゲーム機だったものね」

 

やめて、その呆れた眼。

本気で恥ずかしいから。

 

「IFSなら撃つってイメージと照準だけ合わせれば撃てるからさ。だから、ゲームをやりこんでいたおかげでイメージは割と簡単に出来るんだ」

 

まさかゲームがこうまで役に立つなんて俺も思わなかった。

 

「それじゃあ普通には使えないって事?」

「俺の経験はエアーガンぐらいです」

 

エアーガンと普通の銃とかって全然違うでしょ?

IFSって凄いよね。

イメージだけで万事解決なんだから。

 

「・・・そう」

 

う~ん。周りも苦笑とか呆れとかだよ。

 

「あ。ゴートさん」

「ん? 何だ?」

「今度、銃の扱い方を教えてくれませんか? きちんとしたイメージも持ちたいんで」

 

一応ね。使えないよりはマシでしょ?

これからの為にもさ。

 

「いいだろう。時間を取っておけ」

「ありがとうございます」

 

これでもうちょっと強くなれるかな?

 

「・・・次はどうしますか?」

 

おぉ。またもやスルーしていた。

まずいまずい。

 

「お。大分出来てきた。後はもうちょっとだね」

「・・・はい」

 

成長が早くて楽しいな。

・・・教えるのって結構楽しいかも。

将来、教師とかやってみようかな?

知識量だけは半端ないし。

 

「うんうん。ちゃんとお兄ちゃんやっているじゃない」

 

何を暖かな眼で眺めていらっしゃるのですか? ミナトさん。

というか、お兄ちゃんって。

 

「・・・・・・」

 

・・・全然似てないから無理でしょ。

妖精の兄は凡人。

ハハハ。ないない。

・・・あぁ。今日の晩飯は特別なものにしよう。

自分を慰めるのって大切だと思うんだ。

 

「・・・終わりました」

「うん。よく出来たね。偉い偉い」

「・・・・・・」

 

皆して暖かい視線を送らないで下さい。

注目されるのは慣れていないんで。

 

 

 

 

 

「今日、ナデシコの危険性について話していました。どうやらかなり詳しいみたいです」

「ナデシコについて詳しい・・・か。一体何者なんだ?」

「分かりません。それと、何だか木連についても知っているような気がします」

「ナデシコを知り、木連を知る存在。まるで分からんな」

「レールカノンの操作権を譲るよう言われました。木星蜥蜴に有効だからと」

「何? それを認めたのか?」

「害はなさそうでしたので。少なくとも私達よりは使えると思います」

「・・・そうか。武装が足りないと説得して無理矢理導入させたレールカノンだからな。使えた方がいいが、危険ではないか?」

「先日の結論通り、悪い人ではありません。ナデシコに危害を加えるような事はしないと思います」

「・・・果たして信じていいのかどうか」

「幸せと平穏を望むと。そう言っていました。断言できる訳ではないですが、その言葉に嘘はないと思います」

「・・・頼りになる味方か、それとも、狡猾な敵か。どっちなんだろうな・・・」

「味方であって欲しいですね」

「・・・そうだな」

 

 

 

 

 

「ミナトさん。物語が始まります」

 

遂に今日、物語が始まる。

合図はヤマダ・ジロウの暴走だ。

 

「え? 出航はまだ先よ」

「予定が先送りになるんですよ、木星蜥蜴の襲撃で」

 

原作ではアキト青年が必死になって囮を務めていた。

でも、今回は凄腕パイロットのテンカワさんがいるから問題ないだろう。

囮作戦にそもそも数なんて必要ないし。

 

「そう。危なくなったら護ってくれるのよね」

「もちろんです」

 

大丈夫ですよ、当分の間はずっと優位に物事を進められますから。

 

「じゃ、いきましょう」

「ええ」

 

それと今日の艦長不在の危険を訴えて、マスターキーがなくてもある程度動かせるようにしておかないと。

せめてDFとGBぐらいはね。

あれ? それじゃあ殆どか。

ま、その場で臨機応変に対応しましょうか。

 

「また考え事? 私に相談してくれればいいのに」

 

ん? 何か言っているな。

聞き逃してしまった、申し訳ない。

 

「あ。すいません。何ですか?」

「なんでもないわよ!」

 

ゴンッ!

 

「イタッ! な、何するんですか!?」

「なんでもないわよ!」

 

なんでもないのに拳骨されるのか?

なんて理不尽。

 

「もう。早くいくわよ」

「あ、はい」

 

怒っていらっしゃるミナトさんの後を追う。

うん。ナデシコに来てもミナトさんと一緒に出社するのは変わらないんだな。

何か不思議だ。

ま、嬉しいけど。

 

 

 

 

 

ガタンッ! ゴトンッ! 

 

「な、何だ? この振動は?」

 

慌てていますね、ゴートさん。分かります。

こんなに振動するとは思いませんでした。

 

「ルリちゃん。原因は?」

『おい、プロスのダンナ。格納庫で誰かが暴れてやがるぞ』

「・・・との事です。映像、出します」

 

はい。見事にエステバリスが暴れていましたね。

流石はダイゴウジ・ガイ。やる事が大胆だ。

 

「あぁぁぁ。誰ですか!? そんな事をしているのは」

「ヤマダ・ジロウさん。出航時に合流予定の正規パイロットみたいですね」

「ヤマダさんですか? まったく。一体何を・・・」

 

額に手を置いて項垂れるプロスさん。

残念ですが、この程度で嘆いていては身体が持ちませんよ。

これからはもっと大変ですから。

あ。胃薬買ってきたんで後で渡しますね。

 

「わたくしはヤマダさんの所へ行きますので」

 

そう言って、プロスさんは出て行った。

 

「・・・ねぇねぇ、コウキ君」

 

ん? また内緒話ですか?

 

「・・・はい。何ですか? ミナトさん」

「・・・艦長と副艦長が来てないけど、大丈夫なの?」

「・・・襲撃が始まってから到着するんですよ?」

「・・・えぇっと、本当に?」

「・・・マジです」

「・・・あらま。良く生き残れたわね、私」

「・・・ま、それがナデシコクオリティですから」

 

呆れるしかないよな。

まさか襲撃中に艦長が着任だなんて。

前代未聞だろ?

ま、それが、ナデシコがナデシコたる所以でもあるんだろうが。

 

ガタンッ! ゴトンッ!

 

「今度は何だ!?」

 

落ち着いてください、ゴートさん。

気持ちは分かりますが。

 

「機影反応。周辺に木星蜥蜴の機動兵器が現れました」

「敵機。上空より接近。接触まで時間がない」

「・・・連合軍地上部隊と交戦中。ですが、全滅も時間の問題だと思われます」

 

うん。オペレーター三人娘は流れるような作業だ。

安心して見ていられる。

 

「キーッ! 迎撃よ。迎撃しなさい!」

 

うん。安心して見ていられない。

うるさいです、キノコ副提督。

 

「マスターキーがない為、本艦は何も出来ません」

 

マスターキーがないと生活する事ぐらいしか出来ないもんな。

シミュレーションとかは出来るけど、オモイカネのスペックの半分も発揮できないし。

 

「何でないのよ!?」

「艦長か本社会長がマスターキーを持っています」

「キーッ! 艦長はどこよ! 早く呼びなさいよ!」

「艦長は未だに着任していません!」

「キーッ! キーッ! 何なのよ!?」

 

うるさいなぁ。

 

「お前が何なんだよ・・・」

「コウキ君。素が出ているわよ」

 

おっと、すいません。ミナトさん。

 

「ん? それじゃあ、いつもが偽りみたいじゃないですか」

「あら。違った?」

 

違いますよ。違うよ。違うよね? もしかして違うのか? 

いや。口調が違うだけだよな。いつもこんなんだし。

 

「迎撃よ。主砲を上空に放つの」

「えぇ? それって地上部隊の人に当たりません? 人間として間違っています」

「そうよね。人間として間違っているわよね」

「キーッ! もうとっくに全滅しているわよ」

「そもそもマスターキーがないので主砲も撃てません」

「・・・・・・」

 

お。黙り込んだぞ。

 

「キィーッ!」

 

うるさいから黙ったままでいてくれ。

 

「緊急発進よ。急いでドックから出なさい」

 

お。逃げの姿勢かもしれないけど、状況的には間違ってない。

でもなぁ・・・。

 

「何度も申しますが、マスターキーがない為、現状では動く事も出来ません」

 

・・・本当に何も出来ないんだよ。

 

「キーッ! このままじゃ一方的じゃない! 生き埋めじゃない! 死んじゃうじゃない!」

 

きちんと現状を把握しておられる。

敵の目標がナデシコだって理解しているみたいだな。

 

「艦長はどうしているんだ!?」

「むぅ。困りましたねぇ。遅刻されて沈んでは私の査定が」

 

あ。プロスさん、いつの間に。

とりあえず、おかえりなさい。

後、お金の問題じゃないと思います。

 

「プロスさん。暴れていたパイロットはどうなりました?」

「機体を壊して飛び降りて足を骨折して医務室で治療中です」

 

・・・相当鬱憤が溜まっていますね。息継ぎなしですか。

 

「ねぇ・・・コウキ君」

「大丈夫ですよ。そろそろ―――」

 

『こちらパイロットのテンカワ・アキトだ。発進許可を求む』

 

頼りになるパイロットが動き出しますから。

 

「プロスさん。艦長、副艦長がいませんので、提督権限で許可するべきです。このままでは墜ちます」

「そうですな。提督、御願いできますか?」

「一機で大丈夫なのか?」

 

テンカワさんに問うフクベ提督。

ま、テンカワさん一人で大丈夫だと思うけど。

 

『時間を稼ぐだけだ。囮になる』

「・・・許可しよう」

 

おし。テンカワさん。任せましたよ。

 

「マエヤマさん。早速で申し訳ありませんが、待機を御願いできますか?」

 

あ。マジ?

 

『いや。囮になるのは俺一人で充分だ。マエヤマにはブリッジにいてもらいたい』

「はぁ。リーダーパイロットがそう言うのでしたらそうしましょう」

 

助かりました、テンカワさん。一応、色々とする事があるので。

 

「皆さん。艦長が来るまでに出来るだけの事をやっておきましょう」

 

マスターキーがない状態でも出来る事はある筈。

最低でも発進準備にかかる時間を減らす事ぐらいは可能だろ。

 

「でも、何をすればいいのか分かりません」

 

そうだよな。実戦なんて初めてだもんな。

でも、いつもやっている事なら出来る。

 

「艦長も恐らく発進を急がせる。発進の準備を。もし出来なくても迅速に出来るよう最終チェックを御願いします」

「あ、はい。分かりました」

「それが最善ね。コウキ君」

 

動き出してくれるメグミさんとミナトさん。

 

「ルリちゃん、テンカワさんは?」

「もうそろそろ地上に出ます」

「地上部隊はどうなっているの?」

「・・・ほぼ壊滅です」

 

・・・原作通りか。

テンカワさんに期待するとして。

 

「・・・・・・」

 

早く来いよ、ユリカ嬢。

物語が始まらないぞ。

 

タッタッタッ!

 

強化された聴覚が拾った足音。

やっと来たな、物語のもう一人の主役が。

 

「おっくれちゃいましたぁ! 艦長のミスマル・ユリカでぇ~す。ブイッ!」

「「「「「ぶいっ?」」」」」

「エステバリス。地上に出ます」

 

・・・締まらないな、おい。

それと冷静な報告をありがとう、ルリ嬢。

多分、誰も聞いてないけど。

 

「艦長。指示を」

 

冷静ですね、フクベ提督。年の功ですか?

 

「・・・バカ・・・ですか?」

 

お。ルリ嬢の代わりはセレス嬢か。

何となく今のルリ嬢は言わなさそうだもんな。

 

「艦長。貴方は―――」

「プロスさん。叱る前にこの状況から脱しましょうよ」

 

死にたいんですか?

 

「む。それもそうですね。ですが―――」

「プロスさん」

「・・・はい。艦長、マスターキーと指示を」

「はぁ~い」

 

いつまでも能天気でいるなっての。

 

「コウキ君。苦労しそうね」

「・・・俺がですか?」

「ええ。なんか、そんな気がする」

「・・・やめてくださいよ、ミナトさん」

 

プロスさんの為の胃薬が俺用になったりしたら嫌だな。

ストレスとかには流石に俺の身体も耐えられないだろうし。

 

「えい!」

 

マスターキーを入れるのに掛け声は必要ないと思うんだけどなぁ。

 

「マスターキーの挿入を確認しました」

「相転移エンジン起動。核パルスエンジン起動」

「・・・発進準備に入ります」

 

オペレーター三人娘の合図でそれぞれが作業に移る。

一度、作業に入れば、それぞれがプロみたいなもんだ。

無駄なく、最短で準備を終える。

 

「え~っと、ユリカに状況を教えて欲しいなぁ~」

 

そんな中、お気楽そうに後ろから掛かる声。

ま、まぁ、このお気楽さがユリカ嬢の強さなのだろう。

そう思わないとこっちは懸命に作業しているんだって思わずイラついてしまう。

 

「現在、地上部隊が木星蜥蜴と交戦中。ですが、ほぼ壊滅状態にあります」

「ふむふむ」

「ナデシコ周辺を囲むように敵の機影反応。ナデシコからはエステバリスが一機発進しています」

「・・・・・・」

 

黙り込むユリカ嬢。

考えを纏めているのだろう。

 

「ユリカ?」

 

あ、いたんだ。ジュン君。

 

「直ちにドックに注水。本艦は海中ゲートを抜け、地上に出ます。その後、グラビティブラストで背後より殲滅します。エステバリスには敵を引き付ける囮の役を」

 

ま、作戦はかなり有効的なんだよね、いつも。

 

「うむ。妥当だな」

「良かろう。やってみなさい」

 

戦闘指揮と提督が許可したのなら、それが実行される。

これから何回、妥当だな、という台詞を聞く事になるのやら。

 

「発進しているエステバリスのパイロットに通信を」

「はい。通信、開きます」

 

メグミさんがテンカワさんとの回線を開く。

 

『こちらテンカワ。どうした?』

「・・・テンカワ? テンカワ?」

 

これは爆撃の前だな。

 

「ミナトさん。耳、塞いだ方が良いですよ」

「え? 何でよ?」

「いいから」

 

俺はポケットから耳栓を取り出して耳に装着する。

ミナトさんは怪訝としながらも耳を塞いでくれた。

後は・・・。

 

「・・・え?」

 

すまない。護れるのは一人だけなんだ。

 

「アキト! アキトでしょぉぉぉ! ねぇ! アキト! アキトってば! アキトォォォ!」

 

あ、頭痛い。

耳栓していてこの威力かよ。

 

「そういう事ね」

「・・・ありがとうございます」

 

どうにかミナトさんとセレス嬢は救えた。

 

「・・・・・・」

「・・・え? 何も聞こえない?」

「・・・耳が痛いですな」

 

すいません。救えませんでした。

 

「・・・アキトさん」

「・・・アキト」

 

耳を押さえる連中を他所にルリ嬢とラピス嬢は心配そうにモニターを見ている。

え!? まさか、今の爆撃で被弾でもしたのか?

それはやばいぞ。

 

『作戦を』

 

ん? 大丈夫そうだな。

しっかし、久しぶりの再会だろ。

未来のアキト青年としては元気なユリカ嬢に会えて嬉しい筈なんだけどな。

ま、劇場版の後にどうなったのか知らないからなんとも言えないけど。

 

「ねぇ。アキト。どうしてここにいるの?」

『パイロットとしてだ。作戦を』

「・・・パイロット。そっか。私を護る為に!」

 

あぁ。早く解決しようよ。

命の危機だよ? 下手すると死んじゃうよ?

 

「ルリちゃん。音を消しちゃって、映像で作戦を教えてあげて」

「あ、はい。そうですね。そうしましょう」

 

ユリカ嬢の声は悪いけど邪魔でしかない。

話すなら後で存分に話せと言いたい。

 

「へへへ。アキトォ」

 

ご機嫌な艦長は置いておこう。

作戦は聞いたんだ。後はこっちの仕事。

 

「ミナトさん」

「OKよ」

「メグミさんは?」

「大丈夫です」

「ルリちゃん達は?」

「発進準備完了です」

「いつでも行ける」

「・・・大丈夫です」

 

よし。準備完了。後は指示待ち。

 

「へへへ。いやん。アキト。早いって」

 

いつまでも妄想に浸っているんじゃねぇ!

収拾がつかなくなるだろうが!

 

「艦長。発進準備完了です」

 

・・・大人だね。ルリ嬢。

俺、今、多分、青筋が浮いている。

 

「え? 本当? うん。了解しましたぁ! 機動戦艦ナデシコ! 発進!」

 

ビシッと指を前に出すユリカ嬢。

きっと気合のポーズなんだろうな。

 

「ナデシコ。発進します」

 

あいも変わらずの冷静ぶり。

心から尊敬します、ルリ嬢。

 

「大丈夫なのよね?」

「心配ですか?」

「それはまぁ、ね」

「大丈夫ですよ、ほら」

 

モニターを指し示す。

そこには一切無駄のない機械的でいて、美しい舞いかのように華麗に踊る黒いエステバリスが映っていた。

うん!? あれ? 黒!? ピンクちゃうの!?

 

「へぇ。凄いのね」

「無駄のない射撃。無駄のない機動。あれ程の腕を持つパイロットはいませんよ」

 

本当に一対多数のテンカワさんって凄まじい。

これを見ると、到底敵わないって実感するね。

 

「コウキ君の目標かな?」

「そうですね。俺にあれ程の力が必要なら、必ず」

 

護る為に必要なら、必ずその領域まで到達してみせる。

 

「まったく。男の子なんだから」

 

呆れるのは一体何回目ですか?

 

「海上に出ます」

 

さ、終演だ。

 

 

 

 

 

「お前の知っているテンカワ・アキトは死んだ」

「・・・アキ・・・ト?」

 

・・・何? この展開?

でも、一つだけ確信した事がある。

やっぱりあれは未来のアキト青年なんだ。

それで、ユリカ嬢を拒絶している。

一体、アキト青年に何があったんだろう?

 

「失礼する」

「あ。アキトさん」

「・・・アキト」

 

ブリッジから立ち去るテンカワさんを追うルリ嬢とラピス嬢。

・・・これは二人もテンカワさんの事情を知っていると見るべきだな。

それなら色々と納得ができる。

何故、今のルリ嬢がテンカワさんをアキトさんと呼んでいるのか?

何故、ルリ嬢とラピス嬢が知り合いだったのか?

何故、ルリ嬢が他人を遠ざけようとしていなかったのか?

何故、ラピス嬢がテンカワさんを慕っていたのか?

それは全て、三人が未来の記憶を持っているからだ。

道理でルリ嬢とラピス嬢に何も教える必要がなかったんだな。

既に知っているんだ、あの二人は。

ナデシコの動かし方だって、戦艦運営の知識だって。

ルリ嬢は艦長の経験もあったし。

それにナデシコがルリ嬢にとって大切な思い出の場所だと知っている。

そっか。それで私のいるべき所って言ったのか。

なるほどね。やっと全てが繋がったよ。

 

「ミナトさん。またお邪魔していいですか?」

「え? ええ。いいわよ」

「相談したい事がありまして」

「はいはい。お茶用意して待っているわね」

 

助かります。

 

「・・・アキ・・・ト?」

 

呆然とテンカワさんを見送るユリカ嬢。

そうだよな。初恋の人に逃げられた挙句、死んだなんて言われたら。

そりゃあもう凄いショッ―――。

 

「・・・カッコイイ」

 

おいおい。

なにポワ~ってなって眼を潤ませているんだよ。

それってあれか? 憧れの人を見る眼か?

 

「ユリカ? 知り合いかい?」

 

ジュン君。哀れな子。

 

「アキトは私の王子様。私が大、大、大好きな王子様なのよぉ!」

「ユリカァ~~~」

 

・・・君はもうずっとそんな役だよ。ジュン君。

 

「・・・・・・」

 

あ。般若が近付いてきていますよ。

僕は退避をお勧めします。無理だと思うけど。

 

「艦長! 副長! 遅刻とはどういう事ですかぁ!」

「は、はいぃぃぃ!」

「す、すいませんでしたぁ!」

 

南無。

 

「・・・あの・・・」

「あ。セレスちゃん」

 

そうだった。ルリ嬢もラピス嬢もいなくなっちゃったしな。

セレス嬢だけじゃちょっと無理か。

 

「うん。手伝うよ」

 

ルリ嬢とラピス嬢の席じゃちょっと小さいから、自分の席のコンソールからアクセス。

実はオモイカネとの接触はこれが初めてだ。

優先順位的にも最下位だし、俺がオペレーターの仕事をする必要はなかったしな。

でも、ま、セレス嬢一人にやらせるのはちょっと心苦しいし、まだまだ経験不足は否めない。

フォローするのが俺の役目だし、頑張りますか。

 

「・・・凄いです」

 

そうかな? いつも通りだけど。

 

「・・・私なんか伝達も遅いですし、分からない事ばかりです」

「ん~。そんなに自分を卑下しなくてもいいんじゃないかな。セレスちゃんはこれから色々と覚えていけばいいんだから」

「・・・でも、私だけ役立たずで・・・」

 

そっか。ルリ嬢、ラピス嬢はほぼ完璧。

それに比べて自分はって余計に気になっちゃうんだろうな。

あの二人は特別だってのに。

 

「そんな事ないよ。セレスちゃんだって頑張っている」

「・・・そんな事ありません」

 

む。落ち込ませちゃったかな。

でも、競争心を持つなんて心が成長している証拠かな。

これも彼女にとって良い機会になりそうだ。

 

「じゃあさ、これから毎日一緒に特訓しよっか」

「・・・特訓・・・ですか?」

「そうそう。ルリちゃんやラピスちゃんに負けないように。俺も付き合うからさ」

 

ついでに言えば、仲良くなれる良い機会だし。

少しは慣れてくれると嬉しいんだけど。

 

「・・・それってデートのお誘いですか?」

「・・・え?」

「・・・え?」

「・・・・・・」

 

・・・よくそのような言葉をご存知で。

幼くても女って事ですか? セレス嬢。

 

「アッハハハ。コウキ君、甲斐性見せろよ」

「・・・ミナトさん」

 

なに大爆笑しているんですか? 

ま、まぁ、デートとしてなら付き合ってくれるのかな?

 

「・・・えぇっと、うん、そんな感じ」

「・・・ポッ」

 

えぇ!? 赤くなった!?

というか、擬音付きですか?

 

「もう。コウキ君ったら、女たらし」

 

えぇ!? 何ですか? その不名誉な勲章は。

というか、いつまでもニヤニヤしてないで下さい。

 

「えぇっと、それで、どうかな?」

「・・・襲いません?」

 

襲わねぇよ! そんな首傾げて可愛らしく変な事を訊くんじゃねぇ!

 

「駄目よ、コウキ君。襲っちゃ」

 

もう勘弁してください。ミナトさん。

襲う筈ないじゃないですか。

 

「だ、大丈夫だから。一緒にオペレートの練習をするだけ」

「・・・残念です」

 

えぇ!? 何故にシュンとなる!?

 

「罪な男ね。コウキ君」

 

楽しんでいるでしょ? ミナトさん。

 

「・・・御願いします」

 

コチョンと頭を下げるセレス嬢。

うむ。任されました。

 

「うん。頑張ろう」

 

あ。いつの間にか手がセレス嬢の頭を撫でていた。

む。これが魔力か。

 

「ちゃんと寝かせてあげなさいよ、幼いんだから」

「・・・ミナトさん。楽しまないでくださいよ」

 

ニヤニヤと変な事を言わない!

ミナトさん、自重。

 

「とりあえず今は予定コースに軌道を乗せようか」

「・・・はい。方向を修正します」

 

基本的にこういう移動はオモイカネがやってくれる。

ミナトさんには戦闘とか、緊急事態の時に役目が回ってくる訳だ。

後は繊細な移動とか? 機械以上に正確とか本当に尊敬しますよ。

 

「う~ん。こっちとしては指示が欲しいんだけど」

 

チラッと後方確認。

うん。まだ説教中だね。

いつ終わるのやら。

 

「そうですよね。何をしていたらいいかわかりませんもん」

「そうだよね。あ、じゃあさ、メグミさん、さっきの戦闘で何か異変がないか、各部署に訊いてみてもらっていいかな?」

 

戦闘だし、緊急発進だし、かなりの振動が生じたに違いない。

突然の揺れで誰かが怪我していたら困るだろ?

 

「あ、はい。分かりました」

 

やる事が見つかったからか、颯爽と作業を始めるメグミさん。

うん。退屈だったんだね。分かります。

 

「コウキ君。私は?」

「・・・そうですね。じゃあ、ミナトさんは進路方向に何もないか確認しておいてください。ないと思いますが、何か障害物があったら困るので」

「りょ~か~い」

 

海の上だから何もないと思うけどさ。

何かしらの島とかあったら避けないといけないし。

ま、オモイカネがそんなコースは取らないと思うけど。

 

「・・・予定コースに乗りました。あの・・・次は・・・」

「あ。乗った? それじゃあもう大丈夫。次は特にやる事もないから、そうだなぁ、オモイカネとお話しているといいよ」

「・・・分かりました」

 

オペレーターとオモイカネの仲が良ければ良い程、伝達速度も増す。

やっぱり相性ってのがあるんだろうな。

それにオモイカネにしたってまだ経験がないから子供みたいなもんだ。

子供同士、仲良くしてくれた方がこっちも安らぐ。

 

「ふふふ」

「何ですか? ミナトさん」

 

突然笑い出したりして。

 

「艦長より艦長みたいよ」

「そんな事ないですって」

 

責任者とか無理無理。そんな器じゃないから、俺。

 

「俺は補佐しているだけですよ。説教さえされてなければ艦長だって同じ指示を出していた筈です」

 

多分だけど。

 

「それでもよ。おかげでこっちも冷静でいられるわ」

「そうですか? ま、それなら、俺にも意味があったって事ですね」

 

全部サブ的ポジションだから、実は何にもやってないんだよね、俺。

実は一番の怠け者では?

 

「コウキさん。各部署、特に異変はないようです」

「そっか。それは良かった」

「ただ整備班の方で一人転んだ方がいて。腕を打撲してしまったようですが、軽症なので問題ないと」

「う~ん。一応医務室に行くように言っといて。何があるか分からないし」

「分かりました」

 

これから長い旅を共に過ごすんだ。

ちょっとした怪我でもきちんと治してもらわないと。

焦る必要もないし。

 

「やっぱり艦長らしいわよね」

 

だから、無理ですって。

 

 

 

 

 

「・・・アキトさん」

「・・・すまない。心配かけたな」

「いえ」

「・・・アキト。苦しそう」

「大丈夫だ。少し取り乱しただけだから」

「アキトさん。やっぱり、まだ・・・」

「さっきのユリカがあのユリカと違う存在なんだって事は分かっている。心配はいらない」

「・・・アキトさん」

「・・・アキト」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 



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ナデシコ占拠

 

 

 

 

 

「それで? 相談事って何?」

 

ほぼ毎日お邪魔しているミナトさんの部屋。

やばいな。普通に当たり前になっている。

本来なら違反行為だから、自重しないといけないんだけど。

・・・やっぱり落ち着くんだからしょうがない。

 

「テンカワさんが未来のアキト青年かもしれないという話はしましたよね?」

「ええ。確証は持てないけどって話ね」

「今日、確信しました。間違いなくテンカワさんは未来のアキト青年です」

 

テンカワ・アキトは死んだ。

これは劇場版でルリ嬢に言った言葉だ。

もうお前の知っているテンカワ・アキトではない。

だから、もう俺の事は忘れて、幸せを見つけてくれ。

俺はそう解釈している。

アキト青年は何よりルリ嬢の幸せを望んでいたんだと思う。

そして、ユリカ嬢にも。

 

「艦長と対面した時の無表情な顔。あえて突き放す言葉。艦長が来る前から囮を提案するという行動。間違いなく、テンカワさんは未来、というかこれからの事を経験しています」

 

スムーズに行き過ぎだ。

確実に知っているとしか思えない。

 

「そうね。違和感がないようであったもの。時間を稼ぐってのもマスターキーがないけどすぐに着くっていう前提だし。対応が的確過ぎだわ」

「はい。それに普通、幼馴染を突き放しますか? 久しぶりの再会だから何かしらあってもいいと思うし。そもそも再会した途端に死んだなんておかしいと思います」

「俺はお前の知っている俺とは違うんだ。これも相手が自分を知っていて何かしらの思い入れがある事を前提にしているわよね。久しぶりに再会した幼馴染に言う台詞ではないわ」

「変わったね、とか言われたら分かりませんが、会って唐突に告げる台詞じゃないですよね」

「私もそう思うわ」

 

対応がお粗末過ぎた。

あれじゃあ、二人の間に何かあったとしか思えない。

しかも、艦長は分かってなかったみたいだからテンカワさんの方が一方的に。

今頃、プロスさんあたりが艦長とテンカワさんの関係性を疑っているんじゃないか?

あ。でも、原作は突然の参入だったけど、今は前からのテストパイロットって形での参入だからプロスさん達とは信頼関係が築けているのかも。

どうなんだろう? そのあたり。

 

「アキト君が未来のアキト君だった。相談事はそれだけ?」

 

何をそわそわしているんだろう?

 

「いえ。それは、まぁ、大事なんですが、もっと大事な事があります」

「もっと? 未来のアキト君だって確信した以上に大事な事があるの?」

「ええ。想定外中の想定外が」

 

漸く繋がった点と点が。

 

「・・・それは?」

「未来の記憶を持つのはテンカワさんだけじゃないかもしれません。ルリちゃん、ラピスちゃんも、もしかしたらボソンジャンプで補完された可能性が」

 

あの電子の妖精と闇の王子を支えた妖精の二人が記憶を持って帰ってきたんだ。

闇の王子と共に。おそらく、未来を変える為に。

 

「・・・ルリちゃんとラピスちゃんが?」

「ずっと違和感があったんです。ルリちゃんの対応とか、ラピスちゃんのルリちゃんとテンカワさんに対する行動とか、ルリちゃんのテンカワさんの呼び方とか」

「呼び方って?」

「ルリちゃんは基本的に苗字呼びです。名前を呼ぶのは心を開いている証拠。この時期にテンカワさんに心を開いている訳がありません。会って間もないんですから」

 

きっかけは確か、ピースランド。

テンカワさんがアキトさんに変わるには長い月日ときっかけが必要だった。

今回、その過程が全て省かれている。

 

「・・・そうよね。それに、アキト君を見詰めるルリちゃんの視線には何か特別なものがあったわ」

 

それはどんな感情だろう?

アキト青年を大切な人と公言したルリ嬢の想い。

それをテンカワさんは理解しているのだろうか?

ルリ嬢の視線にはどこか悲しみが含まれていた気がする。

 

「それじゃあ、アキト君、ルリちゃん、ラピスちゃんの三人は未来の記憶を持っていて、多分、悲劇を回避する為に活動しているって事?」

「そうだと思います。ミナトさんには説明しましたよね、結末を」

 

簡単にだが、ミナトさんにはボソンジャンプの危険性と物語の結末を説明した。

原作も劇場版も。

 

「ええ。ボソンジャンプの独占に走った組織との決戦でしょ? それに、そこまでの間に多くの人が犠牲になった」

 

ヤマダ・ジロウの死。

サツキミドリコロニーの住民の死。

火星に残っていた民達の死

合流した女性パイロットの死

白鳥・九十九の死。

そして、拉致された火星出身の人達の死。

きっと未来を知るテンカワさん達はそれを回避する為に動くと思う。

 

「もし悲劇を知っていて過去に戻る事ができたら・・・どうにかして回避するのは当然だと思います。俺も過去に戻ってやり直したいと思った事がありますし」

「・・・それって、この世界に来た事を後悔しているって事?」

「え?」

 

悲しそうに見詰めてくるミナトさん。

・・・あ。誤解を解かないと。

 

「ち、違いますよ。後悔なんてしていません」

「・・・でも、前の世界にはコウキ君の友達とか家族が・・・」

「そ、そりゃあ、会いたいと思う事もありますが、俺はもうこの世界の住民ですよ」

 

俺がいた世界に戻りたいと思う事もない訳ではない。

でも、こっちの世界の居心地も悪くないさ。

 

「・・・後悔はしてないって事?」

「ええ。充実していますからね、割と。後悔なんてしていませんよ」

 

後悔はない。

俺が選んだんだ。

そして、居心地の良い所を見つけられた。

俺のあるべき所を。

 

「単純に恥ずかしい事とか後悔した事とかをやり直せたらって意味です。あの時ああしていればって思う事、結構ありません?」

 

俺は結構あるけどね。

テストが後一点足りなかった時とかマジで泣ける。

後悔してもしょうがないんだけどさ。

 

「ええ。まぁなくはないわね」

 

良かった。納得してもらえたか。

 

「そんな感じです。きっと俺が過去に戻ったら、最善を目指して頑張ると思うんですよ。それが最善なのかは分かりませんが」

「でも、運命は変えられないとか言うじゃない?」

 

あれ? ミナトさんらしくないな。

 

「運命は変える為にあるんですよ。というか、運命なんて信じません」

 

そう教えてくれたのはミナトさんじゃないですか。

 

「うふふ。そうだったわね」

 

うん。やっと笑ってくれた。

 

「人間の一生ってたくさんの選択肢を迫られると思うんです。学校の選択とか、結婚とかだって選択です」

 

二択、三択、四択。

何択かは分からないけど、必ず突きつけられる選択の時間。

生きるって選択じゃないかなって思う。

選ぶ時をやめた時が死なんじゃないかなって。

 

「俺はその選択全てに道があるんだと思います」

 

どの道を選ぼうと決められた道がある。

どれを選ぶとか、必ずそれを選ぶっていう事が運命という訳ではない。

ただ選択しただけ。

そこに運命なんてものは関与しない。

 

「運命とかじゃありません。運命だったら決められた道は一つしかないでしょう? 俺は全ての選択肢に道があるって思っています」

「それじゃあ、本当に運命なんてないのね」

「はい。運命を変える、というより自身の行動一つで世界なんて簡単に変わってしまうのではないでしょうか?」

「平行世界の概念ね」

「そうです。違う選択をした自分が平行世界に存在している。自分はその一つの存在に過ぎないんだと思います」

 

医者になっている俺がいたり、サラリーマンをやっている俺がいたり、こうやって違う世界に飛ばされる俺がいたり。

己という個が一つの選択をしただけで、世界は枝分かれする。

それが人間一人一人に与えられた世界を選択するという特別な能力。

だから、世界は無限大なんだ。可能性は無限大なんだ。

 

「難しい事を言うのね。コウキ君は」

「ま、これは俺なりに運命と選択の関連性を考えただけであって、本当はどうなのかなんて分かりませんよ」

 

ま、難しい話は放っておいて。

 

「それで、話を戻しますけど」

「えっと、何だっけ?」

「テンカワさん達の話ですよ。悲劇を回避するって奴」

「あ、ああ。そうだったわよね」

 

・・・頼みますよ。ミナトさん。

 

「だから、平行世界という概念がある限り、運命を変えられないなんて事はありません」

 

そういえば、遺跡も歴史の修正力なんてないって言っていたよな。

即ち、運命もやっぱりないって事なのではないだろうか?

 

「そっか。それじゃあアキト君達は」

「ええ。テンカワさんが言っていました。決められた運命に足掻くって。きっとそれを表していたんだと思います」

 

運命に足掻く。現実に足掻く。

あれが、テンカワさんの決意の言葉だったんだ。

 

「それで? コウキ君はどうするの?」

「え?」

 

真剣な表情でミナトさんが見詰めてくる。

俺はどうする? 

・・・そんな事、考えてもいなかった。

 

「アキト君達に全部話して協力する? 知らない顔して傍観する? 補佐に徹して影から支える?」

「え?」

 

・・・狼狽するしかなかった。

息つく暇もなく、考えが纏まらない。

 

「私はどれでも良いと思う。だって、コウキ君の人生だもの」

 

俺は・・・どうするべきなんだろう?

 

「私はコウキ君の出した結論に従うわ。コウキ君を助けるって決めたもの」

「・・・ミナトさん」

「悩みなさい。必死に悩んで、悩み抜いて、それで決めた答えなら、きっとそれが正しい答えだから」

 

全て話して協力する・・・まだ信頼し切れていない相手に俺の秘密は話したくない。

俺が知っているのは所詮、物語中の人格であり、内面までは理解していないのだから。

知らぬ顔で傍観する・・・傍観するつもりはない。回避できる悲劇なら回避したいし。

でも、もしかすると俺が何もしなくてもテンカワさん達の力で回避してしまうかもしれない。

裏から補佐に徹する・・・この方法が今の状況では一番適していると思う。

でも、いつまでもそれが成功するとは限らない。いずれボロを出して誰かしらに疑われかねない。

どうする? どうするのがベストなんだ?

どの方法にもメリットとデメリットがある。

とてもじゃないが、最善なんて―――。

 

「ほら。おいで」

 

・・・え?

 

「焦らなくていいわ。時間はまだたっぷりあるもの」

 

気付けば下からミナトさんを見上げていた。

後頭部に柔らかい感触があって、鼻腔に心地良い匂いが広がって。

あぁ・・・凄く落ち着く。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

無言だった。

でも、嫌な沈黙じゃない。

心が落ち着いて、頭から靄が晴れる。

 

「・・・ミナトさん」

「ん? なぁに?」

 

優しくて暖かい心地の良い声。

何だろう? ミナトさんの全てが俺を癒してくれる。

 

「・・・どれが最善かなんて分かりません」

「うん」

「・・・でも、ミナトさんは、俺を助けてくれますか?」

「ええ。私がコウキ君を支えてあげる」

 

・・・それなら、何だって出来そうだ。

 

「・・・あの、ですね」

「なぁに?」

「・・・眠ってもいいですか?」

「ふふふ。いいわよ」

 

凄く気持ち良くて。

心が落ち着いて。

俺の瞼はいつの間にか閉じられていた。

 

「おやすみなさい、コウキ君」

 

 

次の日、眼が覚めてから俺が混乱したのは言うまでもない。

何で同じベッドで寝ているんですか・・・? ミナトさん。

 

 

 

 

 

「そうはいかないわ! ナデシコは私の物よ!」

 

出航の日から何日か経った。

随分と長い間、ふらふらと飛び回っていたけど何だったのかな?

デモンストレーションって奴?

ま、ナデシコの性能をアピールしなっきゃ企業としてはやっていけないか。

 

「ん~。ホウメイさんの料理は相変わらず美味しいわね」

「そうですね。あ、セレスちゃん。溢しちゃっているよ」

「・・・ポッ」

 

現在、お昼の休憩中。

ミナトさんとセレス嬢と食事中です。

俺はAランチ、ミナトさんはBランチ、セレス嬢はお子様ランチ。

俺的にはBランチの方が良かったかな。好物が多い。

お子様ランチは子供が多いから急遽考えたらしい。

小さな事でも変化があるんだなって実感した。

 

「それにしても、ホウメイさんって一人で大丈夫なんですかね?」

 

テンカワさんがコックを担当していないという事実。

完全にパイロットのみらしい。

すると、だ。ホウメイガールズを除けばホウメイさんが一人でキッチンを回している事になる。

ホウメイガールズとて料理は出来るのだろう。だが、彼女達は接待係であってコックではない。

本質的に料理を作るのはホウメイさんのみだ。

今更だが、ナデシコクルーは軽く百人を超す。

まぁ、通常の戦艦ならもっと多いみたいだけど。

ナデシコは、ほら、オモイカネのおかげでかなりの人数を減らせるから。

スーパーAI恐るべしって所。

で、ま、とにかく、百人を超す全クルーの朝昼晩の食事を一人で受け持っている訳だろ?

それってさ。

・・・凄まじいと思うわ。

 

「そうよねぇ。美味しいのは嬉しいんだけど、大変そうよねぇ」

 

チラッとキッチンを見ながらミナトさんはそう告げた。

・・・忙しなく動き回っています、ホウメイさん。

俊敏過ぎるぜ。スプリットが半端ない。

ボクサー級だな。

 

「キッチンにあと何人か入れてもいいと思うんですけどね」

 

経費削減か?

それにしたって厳しいと思う。

 

「ホウメイさんレベルの人が見つからなかったのかしら?」

「ま、確かに美味しいですもんね」

 

和洋中全てに対応できてこの味は流石だと思う。

 

「でも、補佐する人ぐらいは入れてもいいんじゃないですか? 他の方達は接待がメインみたいですし」

「そうよねぇ。コウキ君って料理できたかしら?」

「出来ますけど趣味程度ですよ。素人ですもん」

 

アキト青年は、参入時には既に料理人として活動していた。

そんなアキト青年でもまだまだだね、レベルだ。

到底、俺が力になれる訳がない。

 

「そっか。私もそんなに上手じゃないからなぁ」

「ミナトさんの手料理美味しいですよ。俺は好きです」

「うふふ。ありがと。でも、やっぱり、ホウメイさんと比べるとね」

 

ま、それは否めない。相手はプロだもの。

でも、家庭料理ってホッとするじゃん。

ミナトさんの料理はそんな感じで落ち着く。

 

「セレスちゃん。美味しい?」

「・・・はい。美味しいです」

 

つたない手付きで箸を握るセレス嬢。

当然、ミナトさんは構いたくなるよな。

 

「可愛らしいわぁ」

 

可愛いもの好きは相変わらずですね。

 

ピコンッ。

 

『マエヤマさん。ブリッジの方へ御願いできますかな。お知らせしたい事がありますので』

 

あ。プロスさんからの通信だ。

遂に目的地の発表か?

 

「食事を終えてからでも構いませんか? 急ぎますので」

『ええ。構いません。それとハルカさんとセレスさんもそちらへいらっしゃいますよね? 連れて来て頂けますか?』

「了解しました。すぐに向かいます」

 

ピコンッ。

 

コミュニケの通信が切れる。

 

「何だって?」

「ええ。何でもお知らせがあるとかで、急いでブリッジに来て欲しいとの事です」

「そう。じゃあ、急ぎましょう」

「そうですね」

 

俺とミナトさんはペースを速める。

でも、セレス嬢はそんな事は出来ない。

今でも一生懸命に食べているのだから。

そして、そんな姿が微笑ましさを誘う。

 

「もう。この至福の時間が・・・。勿体無いわ」

「まぁまぁこれからいくらでも見られますよ」

 

ミナトさんを宥めつつ、セレス嬢をちょっと急がせる。

 

「ごめんね。ちょっと急げるかな? ブリッジに来て欲しいって」

「・・・はい。頑張ります」

 

ここでスプーンとかに変えたりはしない。

箸で頑張ろうとしているんだから、応援してあげないと。

甘やかしちゃ覚えないしな。

 

「父親みたいよ、コウキ君」

 

グサッ!

十九歳にして父親扱いされるとは・・・。

ま、まぁ、それぐらい若いパパさんもいるとは思うけどさ。

ぼ、僕は違いますよ。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「じゃ、行きましょうか」

「はい」

「・・・はい」

 

食事を終えて、片付けて、急いでブリッジへと向かう。

だが、しかし、廊下を走ったりはしない。

女の子はエレガントに、だ。

・・・俺は女の子じゃないけどさ。

 

「お待ちしておりました。マエヤマさん、セレスさん、ハルカさん」

 

お出迎えありがとうございます、プロスさん。

 

「お知らせとは何ですか?」

「ブリッジクルーの皆さんが勢揃い致しましたらお知らせしますので、席でお待ち頂けますか?」

「分かりました」

 

そう言われたら仕方ない。

 

「何なのかしらね?」

「目的って奴じゃないですか? ナデシコの」

「あ。そういう事」

「ずっと知らされていませんでしたから」

 

ミナトさんにはナデシコの目的を話してある。

でも、どのタイミングで知らされるかは教えていない。

だから、こういう形で説明した。

これなら、憶測って感じで疑われない。

相変わらず綺麗に合わせてくれるから流石だ、ミナトさん。

 

「お待たせしましたぁ! あ、アキトだぁ!」

 

パイロット席に座るテンカワさんを見て、入って来た艦長が騒ぎ出す。

正直に言うと、うるさいです。

 

「うぅ・・・。ユリカぁ・・・」

 

相変わらず綺麗にスルーされているから流石だ、ジュン君。

 

「皆さんお集まりのようですな」

 

あ。最後が艦長と副長だったんですか。

 

「本日お知らせ致しますのは我がナデシコの目的地です」

 

おぉ。プロスさんがいつもより輝いている。

演出流石だね、オモイカネ。

 

「これまで隠してきたのは妨害者の眼を欺く為なのです」

「妨害者? 妨害者なんているんですか?」

 

ま、誰かしら妨害するよね。

火星に行きたいなんて言えば。

心配からの妨害もあれば、利益からの妨害もあると思う。

・・・というか、デモンストレーションなんかしているから連合軍に眼を付けられるんじゃないの?

さっさと向かっちゃえば良かったのに。

 

「ええ。目的地が目的地ですから」

 

プロスさんの言葉に首を捻るブリッジクルー一同。

俺もハテナ顔をしておこう。

 

「その目的地とは?」

「目的地は―――」

「火星だ」

 

プロスさんの言葉を提督が引き継ぐ。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

そりゃあ黙り込むよな。

今の火星はもう壊滅状態だって情報だし。

 

「な、か、火星ですか!?」

「はい。火星です」

 

慌てるジュン君と済ました顔のプロスさん。

対照的な表情だ。

 

「そ、それでは、地球の事は放っておくというのですか? これ程の戦力があれば・・・」

「しかし、火星で生き残っている方がいらっしゃるかもしれません」

「火星は壊滅だって。そう軍が―――」

「軍の情報が全て正しいとは限らないでしょう? 生きているか死んでいるかは私達には分かりません。それならば、生きていると。そう信じ、救出にいく事こそが―――」

「ですが! 生きているか、死んでいるか分からない人を助けるより地球に残り、生きている人を助ける方が遥かに意味ある事では―――」

 

あ。その発言はまずい。

 

「ほぉ。それは、火星人は護るべき対象ではないと。そういう事だな?」

 

ほら。テンカワさん大激怒。

ブリッジ内の温度が何度か下がったような気がします。

とてもじゃないですが、一般人が出せる雰囲気ではありません。

 

「そ、そうではない。だが―――」

「それならば、何故そのような事を? どうでもいいと考えているからの発言ではないのか?」

 

射抜かんばかりにジュン君を睨みつけるテンカワさん。

初めて感じたよ。これが殺気って奴?

身体が勝手に震えてしまう。

 

「火星大戦から一年。我々は火星の壊滅を対岸の火事のように気にする事なく過ごしてきた。それは、木星蜥蜴が市民を襲わないという事が大きく影響しているのかもしれん」

 

対岸の火事・・・か。

耳が痛いな。

俺は彼らの現状を知っていて彼らの事を無視してきたのだから。

 

「だが、当事者である彼らはどうだろう? 地球から救出に来てくれるという希望に縋り、毎日を必死に生きているのかもしれん。絶望し、生きる事を諦めているのかもしれん」

 

現状では後者。

どうせ死ぬなら故郷に骨を埋めたいという者ばかりだった。

・・・そもそも彼らは裏切られたんだ。

護ってくれる筈の軍に。

ここに当時、指揮を執っていたフクベ・ジンとムネタケ・サダアキがいる事がその証明だ。

軍人は滅びる火星を余所目に逃げ出した。

そうでなければ、火星に駐在していた軍人がここにいる訳がない。

もちろん、彼らには彼らの都合があったのかもしれない。

火星大戦の情報を地球に送り届けるなどといった。

でも、火星の民が誰一人として救出されていないのはおかしいと思う。

上流階級の人間は分からないが、一般市民は確実に無視されている。

火星の民を護ろうと思うのならば、脱出の際に無理してでも保護するべきではないだろうか?

少しでも犠牲を減らそうと市民の脱出まで時間を稼ごうとするべきではないだろうか?

今までに軍によって助けられたという火星の民は誰一人としていない。

もしいれば、軍が支持を得ようと誇大表現しながら公表するだろうし。

それなのに、そのような事を一切しないで、フクベ・ジンを、チューリップを初めて撃沈した英雄というプロパカンダ、広告塔として掲げたのはその失態を隠したいからだ。

要するに、火星の民を見捨てた事を誤魔化しているんだと俺は思う。

火星の民が軍を信じていなかったのもそれを理解していたからではないだろうか?

自分達は軍に見捨てられた。そして、救出に来ないという事が地球にすら見捨てられたのだと。

 

「漸く、だ。漸く、火星に救出にいけるだけの環境が整ったんだ。今こそ火星に救出に行くべきではないか? いや、行かなければならないのではないか?」

 

機動戦艦ナデシコ。

地球で初めて木星蜥蜴に対抗できる力を示した地球最新鋭の戦艦。

火星が木星蜥蜴に占拠されている現状、救出を成功させるにはそれに打ち勝つだけの力がなければならない。

その力をナデシコは持っている。

 

「・・・・・・」

 

流石のジュン君もあれだけ言われれば納得するしかないか。

テンカワさんがどれだけ火星の事を思っているか、それが痛い程に伝わってきたもんな。

 

「・・・そうね。どうせやるなら人命救助の方が良いわよね」

「はい。火星に向かうのは怖くもありますが、苦しんでいる人がいるのなら、助けてあげたいと思います」

 

ミナトさんとメグミさんはテンカワさんの言葉に胸が響いたのだろう。

覚悟を決めた表情をしていた。

 

「・・・どうやら、納得して頂けたようですな」

 

周りの雰囲気を感じ取り、プロスさんがそう告げる。

ジュン君は俯き、何かを考えているようだった。

きっと、彼の中で葛藤があるんだろうな。

ジュン君だって間違った事を言っている訳じゃない。

地球だって危機に陥っているんだ。

それを解決できるだけの力があるナデシコを意味があるのかどうか分からない事に使用するのはもったいないと感じているのだろう。

地球を愛する心から発せられたんだ。

決して、これは彼のエゴではない。

軍人として市民を護りたいという誇りある考えなんだと俺は思う。

ま、影が薄くて印象が弱いジュン君が言ってもあんまり心に響かないかもしれないけど。

・・・あれ? 結構失礼な事を考えてないか? 俺。

 

「それでは、艦長」

「はい! では、機動戦艦ナデシコ発し―――」

「そうはいかないわ! ナデシコは私の物よ!」

 

突如、雪崩れ込む連合兵士。

 

「・・・あ。副提督の事を忘れていました」

 

・・・プロスさん忘れていたんですね。

そういえば、ブリッジクルー全員集まったって確認していましたもんね。

その時、気付かなかったんですか?

・・・かくいう俺も忘れていたので、こんな事は言えないんですけど・・・。

何故だ? 何故あんなインパクトの強い副提督の事を誰もが忘れていたんだ?

・・・あ。どうでもいいって認識だったのか。

それが裏目に出たって訳ね。分かります。

 

「何事だ!?」

 

ゴートさんが叫ぶ。

・・・落ち着きましょう?

銃が突きつけられているんですから。

 

「ムネタケ! 血迷ったか!?」

 

寡黙なフクベ提督の叫び。

それだけ、提督の火星行きに懸ける思いは強いって事か。

 

「あら? 血迷ったのはどちらですか? 提督」

「何ぃ?」

「これだけの戦力を火星なんか送ってどうなるんです? 墜とされるだけだわ」

「これだけの人数で何が出来る!?」

 

だから、落ち着いてくださいゴートさん。

銃を突きつけられているんですから。

 

「・・・コウキ君」

 

震えているミナトさん。

他の皆だって震えている。

銃を突きつけられて震えるのは人間として当然の事だ。

死を実感するのだから。

でも・・・。

 

「大丈夫です。彼らは撃てませんから」

「あら? 状況次第では撃つ事もありえるわ。私達軍人は市民を護る為ならなんだってするの」

「・・・市民を護る為に市民を撃つとは本末転倒だな」

「ふ~ん。強がっちゃって。どうにも出来ないのに随分と余裕ね」

 

テンカワさんをニヤニヤしながら眺める副提督。

 

「どうにも出来ない? そんな事はないさ」

 

そんな副提督に対しても表情を崩さないテンカワさん。

 

「今の状況、記録しているんでしょ? ルリちゃん」

「ッ!? 何で・・・それを?」

 

狼狽するルリ嬢。

だって、オモイカネにアクセスしていたの見えたし。

後は自分のコンソールから確認するだけだよ。

 

「え? 記録しているですって?」

「ムネタケ・サダアキ中佐。出世と名誉の為なら何でもやる狡猾な軍人。それが俺の得た情報です」

「な、それが何よ!? 当たり前じゃない!」

「そんな男が自らを追い詰めるような事はしないという事ですよ。自己保身には長けているでしょうから」

「へぇ。貴方も余裕そうね。でも、死人に口なしって言うじゃない? 覚悟は出来ているんでしょうね?」

 

多数の軍人から突きつけられる銃。

 

「コウキ君!」

 

大丈夫ですって、ミナトさん。

 

「その為の映像ですよ。現在、このブリッジの光景は全て録画されています。無力な市民に銃を突きつけている傲慢な軍人という絵柄で映っているんじゃないですか?」

「う、嘘よ!」

「殺します? そうなったら映像がきちんと記録されていますから、貴方の責任問題になるでしょうね。という事は、今まで貴方が築き上げてきた経歴は全てパーです」

 

正直言えば、今の俺は強がっているだけだ。

銃を突きつけられていて怯えない訳がないだろ。

でも、毅然としてなっきゃ示しがつかない。

 

「それに本当は弾なんて入ってないんじゃないですか? 威嚇射撃の跳弾で殺してしまったなんて事になったら本末転倒ですし。貴方は危険な橋は渡らない人でしょ?」

「・・・・・・」

 

これはカマかけ。

ムネタケ・サダアキの臆病さならそうすると思っただけだ。

 

「そ、そんな事な―――」

「機影反応。所属は連合軍です」

 

副提督の言葉を遮るように告げられたルリ嬢の言葉。

来たか、第二の爆撃が。

 

「ミナトさん。セレスちゃん。耳塞いで」

「え、ええ」

「・・・分かりました」

 

どうにか耳を塞いでもらえた。

俺達が耳を塞いだとほぼ同時にモニターに現れるカイゼル髭のオジサン。

来るぞ!

 

「ユリカァァァァ!」

「お、お父様!?」

 

連続爆撃。

不協和音で頭が痛い。

 

「ぐぉ!」

「・・・また聞こえませんな」

 

すいません。また救えませんでした。

 

「え!? お父様!?」

 

ま、驚くよね。

遺伝子的繋がりがどこにも見えないし。

 

「これは一体どういう事ですか!?」

「ユリカァ。私も辛いのだよ」

「ミスマル提督。どのようなご用件でしょうか?」

「コホン。私は連合宇宙軍第三艦隊提督ミスマル・コウイチロウである。機動戦艦ナデシコ。武装を解除し、停泊せよ」

「・・・・・・」

 

色々と台無しですよ。

 

「困りますなぁ、提督。ネルガルはきちんと軍に許可を得ている筈ですが?」

「このような戦力を民間企業に運営させる訳にはいかんのだよ」

「そういう事よ!」

 

この狐が!

後ろ盾が来たからって強く出やがって。

 

「はぁ。困りましたなぁ。我々にも目的があるのですが」

「そちらの言い分は後で聞こう。まずは停泊させたまえ」

 

毅然と告げるカイゼルオジサン。

こう見ると軍人らしいんだよな。

 

「それでは、交渉といきましょう」

「よかろう。但し、そちらのマスターキーは預からせてもらう」

 

有効的だな。

マスターキーがなければ何にも出来ないんだから。

だが、しかし、俺が擬似マスターキーを作った今、その策は無意味だ。

 

「艦長! 抜くな! これは敵の策略だ!」

 

結構、鋭いんだな。ヤマダ・ジロウ。

きちんとマスターキーについて理解している。

 

「いや! ユリカ、提督にマスターキーをお渡しするんだ!」

「・・・ジュン君」

 

この状況でよくそんな事が言えるな。

ほら。ブリッジクルー全員が白い眼で見ているぞ。

 

「こんな戦力をむざむざと無駄にする必要はない。これは地球を護る為に必要な艦なんだ」

「・・・・・・」

 

悩んでいるみたいだな。ユリカ嬢。

でも、すぐに抜くんじゃなかったか?

カイゼルさんに用があるからって。

 

「ちょっといいか?」

 

え? テンカワさん?

 

「ん? 何だね? 君は」

「テンカワ・アキト。この艦でパイロットを務めている」

「うむ。パイロットが何だね?」

「貴方はこちらの状況を理解しているだろうか?」

「ふむ。ナデシコが木星蜥蜴に有効であると―――」

「そうではない。連合軍の兵士達が今、俺達に何をしているのか理解しているかという事だ」

「致し方ないのだよ。我々はなんとしてもナデシコを確保しなければならない」

「市民を脅してでもか?」

「・・・市民を護る為に強い力を求めるのは当然の事だ」

 

苦々しい表情をしているな。

やはり市民を脅すという行為は嫌いらしい。

 

「だが、市民に銃を突きつけたという事実をどうするつもりだ? 我々はこの映像を記録しているが?」

「何!? ムネタケ君!」

「え、あ、その、それは・・・」

 

失態に狼狽えているといった所か?

 

「我々がこの映像を公開したらどうなるか分からない訳ではあるまい」

「・・・何が要求だ?」

「話が早くて助かる。我々の要求はナデシコを見逃す事。あくまでナデシコの運営権はネルガルにある」

「それは出来ない相談だ。我々は市民の為に何としてもナデシコを確保しなければならない」

「・・・なら、マスターキーはこちらで預かった上で交渉としてくれ。いざという時に動けないのは困る」

「木星蜥蜴の事かね?」

「ああ。何があるか分からないからな」

「その時は我々が諸君らを護ろう」

「ただの戦艦で対処できないからナデシコを求めているのだろう? そちらが我々を護れるとは到底思えない」

「・・・仕方あるまい。その要求を呑もう」

「感謝する」

 

・・・そうか。始めからそれが狙いだったのか。

チューリップに襲われた時、ナデシコが動ければクロッカスとパンジーを助けられるもんな。

テンカワさん達はそうやって護ろうとしたか。

俺の擬似マスターキー、無駄になっちゃったな。

 

「但し、諸君らには一箇所に纏まっていてもらう。何かされたら困るのでな」

「・・・致し方ない」

 

食堂に監禁って訳か。

ま、すぐに取り戻すんだろうけど。

 

「それでは、参りましょう。艦長」

「はぁ~い。お父様。待っていてください」

「うんうん。ユリカ。早くおいで」

「あ、ちょっと待って。僕も行くよ」

 

プロスさん、艦長、副長が出て行く。

あのさ、艦長がいなんだから副長が指示ださなくちゃ駄目でしょ。

副長ってそういうもんじゃないの?

 

「・・・クルーはどこに拘束されているんだ?」

 

テンカワさんが副提督に訊ねる。

 

「ふ、ふん。食堂よ。連れて行きなさい!」

 

・・・調子取り戻しやがった。

むかつく野郎だな。

 

「マエヤマ・コウキ。残念だったわね」

 

ニヤニヤした顔で、この野郎。

お前の手柄じゃないだろうが。

 

「結局は権力なのよ。これでナデシコは私の物」

 

言ってろっての。

・・・こうして、俺達は食堂で監禁された。

 

 

 

 

 



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気付いた想い

 

 

 

 

「ハァァ。夢の旅路もここで終わりか。また女房のケツに敷かれんのかよ」

 

ウリバタケさん。

駄目男に見えますよ。

 

「私達、これからどうなるんでしょうか?」

 

皆が皆、暗い顔をしている。

そうだよな。軍人にブリッジ占拠されて、監禁されているんだ。

不安になるのも当然か。

 

「おいおいおい。何を暗くなっているんだよ!」

「当たり前じゃないか。希望が絶たれたんだからよ」

 

そんなに家から逃げたいんですか? ウリバタケさん。

 

「そんな時はこれだ!」

 

ビデオテープを掲げるヤマダ・ジロウ。

噂のゲキ・ガンガーか。

 

「お? 何だ? 何だ?」

「元気が出る熱い奴だよ!」

「ほぉほぉほぉ。お前も男だな」

「おうよ! 熱く燃えるのさ!」

 

残念ですが、ウリバタケさんが考えているのとは違うと思いますよ。

というか、こんな公衆の面前でいかがわしいものはありえないかと。

 

「何だこりゃ? アニメかよ」

「なにぃ!? ゲキ・ガンガーを馬鹿にするな!」

 

わいわいと騒がしいな。

ま、元気が出て良いか。

雰囲気、暗くなくなったし。

 

「マエヤマさん」

「マエヤマ」

「・・・・・・」

 

ん? ルリ嬢とテンカワさんか。あ、ラピス嬢もいるな。

どうしたんだろう?

 

「お前は―――」

「コウキ君」

「ん? あ。ミナトさん」

 

テンカワさんの言葉を遮って俺に近付いてくるミナトさん。

何だろう? どうかしたのかな?

 

「何です? どうかし―――」

 

バチンッ!

 

「・・・え?」

 

殴ら・・れた?

頬が焼けるように痛い。

でも、そんな事より、何で?

 

「・・・・・・」

 

無言で俯くミナトさん。

俺からはどんな表情をしているのか分からなかった。

 

「・・・どうして?」

「え?」

「どうしてあんな危険な真似したの!?」

 

凄く怒っている様子。

あの優しさを感じさせる柔和な顔をこれ以上なく歪ませて・・・。

 

「危険な真似?」

「銃を持っている相手に挑発するなんて何を考えているのよ!?」

「ちょ、挑発だなんて、俺は」

「バカ!」

 

叫びと共に抱き締めてくるミナトさん。

その顔には涙が浮かんでいた。

顔を真っ赤にして、怒りながら・・・泣いていた。

 

「私、コウキ君が殺されちゃうんじゃないかと思った」

「・・・ミナトさん」

 

そっか。俺の為に・・・泣いてくれているんだ。

 

「撃たれないって自信があったのかもしれない。でも、相手は人間なの。逆上したら何をしでかすか分からないわ」

「・・・・・・」

「ずっと怖かった。いつかコウキ君が撃たれるんじゃないかって。・・・無茶しないで。私は貴方に死んで欲しくない!」

 

必死に縋りつくミナトさんが小さな子供みたいに見えた。

俺なんかの為に泣いてくれるミナトさんを愛おしく思った。

 

「・・・すいません。ミナトさん」

 

だから、俺には謝る事しか出来なかった。

弱々しく震えるミナトさんを力強く抱き締め、心の底から。

 

「心配・・・かけましたね」

「・・・・・・」

「本当にごめんなさい」

 

原作で誰も撃たれなかったから大丈夫だと思っていたんだ。

もう原作とは違うって理解していたのに。

殺される訳がないって過信して。

 

「・・・許さないわ」

「え?」

「絶対に許してあげない」

「えぇっと」

 

困ったな・・・。

 

「どうすれば許してくれるんですか?」

「・・・して」

「え?」

「・・・キス・・・して?」

「・・・ミナト・・・さん?」

「・・・キス。貴方がここにいるって私に教えて。私に貴方の存在を感じさせて」

 

・・・いつからだろう。

ミナトさんの事を想い始めたのは。

始まりは単純だった。

ミナトさんが俺に温もりと暖かさをくれたから。

きっかけはたくさん。

死んだら悲しんでくれるかなって思いを否定されたと誤解して勝手に心を痛めて。

悲しんでくれるんだって分かった瞬間、喜びが込み上げてきて。

想ってくれているんだと実感して、嬉しくなって。

近くにいてくれるだけで心が落ち着いて。

・・・傍にいてくれるだけで幸せで。

あぁ。やっと気付いた。

俺はミナトさんが・・・。

 

「・・・ミナトさん」

「・・・コウキ君」

 

・・・大好きだったんだ。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

コウキ君が殺される。

そう思っただけで心が引き裂かれるように痛かった。

失いたくない。傍にいて欲しい。

そんな想いが胸の中で膨らんできて・・・。

堪らなくなった。

暗闇の中を歩いているように、心が、身体が、恐怖で震えた。

怖くて怖くて堪らなくて・・・。

気付けば、頬を叩いていた。

どうしてそんな事をするのか?

何故、私の想いに気付いてくれないのか?

やり場のない怒りと悲しみで心がぐるぐると渦を巻いて。

そして、無意識に彼を求め、温もりを求めた。

視界は涙で滲み、足は恐怖で震え、腕は探し物を探すように彷徨う。

少しでも早く、少しでも強く、少しでも・・・。

私は必死に彼に縋りついた。

そこにいるんだって実感したくて。

死んでないんだって実感したくて。

でも、全然足りなかった。

温もりが、優しさが、私には全然伝わってこなかった。

存在を感じたい。

温もりを感じたい。

優しさで包まれたい。

だから、私は・・・。

 

「・・・ミナトさん」

「・・・コウキ君」

 

・・・唇で貴方を感じたの。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「・・・コウキ君。好きよ」

「・・・ミナトさん。大好きです」

 

暖かくて、ずっと抱き締めていたかった。

唇の感触が心地良くて、ずっと触れていたかった。

見上げるように見てくる彼女が愛おしくて、俺は・・・。

 

パチパチパチパチパチ。

 

「え?」

「え?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・あ。

 

「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「・・・グゥゥゥ・・・ギィィィ・・・おのれぇぇぇ!」

 

こちらを見る数多の視線。

女性陣の叫びと男性陣の血走った眼。

 

「・・・ミナトさん。これって」

「・・・え、ええ」

 

胸の中に収まるミナトさんと顔を見合わせる。

顔に赤みを帯びているミナトさんを可愛らしく思いながら、近くにいた女性に訊いてみた。

 

「あの、見ていました?」

 

すると・・・。

 

「うん。もう。バッチリ」

 

・・・素敵な返答をありがとうございます、お姉さん。

 

「・・・・・・」

 

興味やら歓喜やら憤怒やらの視線を向けてくる周囲を見渡した後、俺は見詰めてくるミナトさんを見詰め返して・・・。

 

「・・・とりあえず」

「とりあえず?」

「もう一回御願いします」

「もぅ。バカ」

 

見せ付けるようにキスしてやった。

 

「マーエーヤーマーコーウーキー!」

「テメェ! この野郎!」

「呪い殺すぞ! クソガキが!」

 

ふっ。ミナトさんは俺の物だ。

 

「開き直ると凄いのね、コウキ君って」

 

お褒めに預かり至極光栄。

 

「クゥ~~~! 熱いぜ。燃えるぜ。敵の策略に嵌り閉じ込められたクルー。助けを求める子供達。愛し合う男と女。一致団結し、基地を取り戻す主人公」

 

おぉおぉ。盛り上がっているじゃないか。ダイゴウジ・ガイ。

 

「自由を勝ち取れぇ! 基地奪還だぁ!」

「うるせぇ!」

 

ウリバタケさんの鉄拳がガイ、改め、ヤマダ・ジロウの後頭部へ飛んだ。

 

「グハッ!」

 

・・・痛そぉ・・・。

 

「おい! コラッ! マエヤマ!」

「何ですか?」

「テメェ! ミナトちゃんを俺に寄越せ!」

「馬鹿言わないで下さい。ミナトさんは俺の物です」

「コ、コウキ君」

 

誰にも渡さない。

掴んだ物は放さない主義ですから。

 

「クソォォォ! チッ! 野郎共ぉ!」

「へイッ! 御頭!」

 

・・・お前ら、どこの賊だよ?

 

「桃色の幸せを求め、こんな所抜け出してやろうじゃないか! 自由を奪え! 愛を掴み取れ! 次は俺達の番だ!」

「オオォオォオォオォ!」

 

凄まじい咆哮だな。

やる気が漲り過ぎだろ。

 

「な、何だ? 今の叫び声は」

 

叫び声が聞こえたんだろうな。

見張り番の兵士が扉を開けてこちらを覗き込んで来た。

 

「いくぞぉぉぉ! 続けぇぇぇ!」

「オオォォッォォオォ!」

「お? お? な、何だ? 何なんだ? うわぁぁぁ!」

 

哀れ。名も無き兵士は人の波によって押し潰されてしまいましたとさ。

 

「おい。マエヤマ」

「・・・テンカワさん」

 

怒涛の勢いで走っていく男性陣を見送る俺にテンカワさんが話しかけてきた。

 

「お前は食堂を護れ。時期が来たら連絡する。その後、ブリッジクルーをブリッジまで連れて来い」

「了解しました」

 

フッと笑って男達の方へ走り出すテンカワさん。

そして、男達の波の先頭に立って。

 

「ナデシコを取り戻す。ゴートさんと何人かは俺とブリッジへ。残りは格納庫だ」

「おう!」

「よし。行け!」

「うおっしゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

凄まじい勢いだな。おい。

 

「・・・コウキ君」

 

未だに胸の中にいるミナトさん。

どうしよう。放したくないけど・・・。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

女性達の好奇の視線に耐えられません。

 

「大胆ですね、マエヤマさん」

 

今更ですが、恥ずかしいので言わないで下さい、メグミさん。

 

「おいおい。熱過ぎて火加減間違えるだろ? 他所でやっておくれよ」

 

茶化さないでくださいよ、ホウメイさん。

ニヤニヤしていて丸分かりです。

 

「・・・ポッ」

 

子供にはちょっと早かったかな?

 

「・・・いいなぁ・・・」

 

すぐに恋人できますよ。ホウメイガールズの皆さんなら。

 

「・・・私もアキトさんと・・・」

「・・・アキトと・・・」

 

口に出したらまずいんじゃない? その台詞。

 

「あの、さ、恥ずかしいんだけど」

 

背の関係で見上げるように俺を見てくるミナトさん。

潤んだ瞳と頬を赤く染めた顔が愛し過ぎる。

 

「嫌・・・ですか?」

「え? い、嫌じゃないのよ。ただ―――」

「じゃあ、いいじゃないですか」

 

ふっ。恥ずかしさも限界を超えれば問題ないのさ。

今の俺に羞恥心という言葉は存在しない。

 

「もぉ。人が違うみたいに大胆になって。普通は逆でしょ?」

「偶にはいいじゃないですか。いじられるミナトさんって可愛いですよ」

「ッ!」

 

息を呑んで、もっと赤くなる顔。

あぁ。もう駄目だ。末期だな。

 

「まだ放したくあ―――」

『こちらテンカワだ。ブリッジを取り戻した。至急、な、何だ?』

 

良い所なのに邪魔するからです。

 

「睨まないの。アキト君。分かったわ。すぐに向かう」

『りょ、了解した』

 

ちぇっ。他の男と話しちゃってさ。

 

「あら? ヤキモチ?」

「そ、そんなんじゃありませんよ」

 

何で分かるんだ?

 

「顔に出ているわよ」

「ふ、ふん。他の男と話すミナトさんがいけないんです」

「ふふふ。拗ねちゃって。可愛い。続きはまた後でね」

「し、仕方ないですね。それなら」

 

渋々、本当に渋々ミナトさんを放す。

 

「ほら。行くわよ」

「はい」

 

手を引かれながら、俺とミナトさんはブリッジへ向かった。

どうやら、これからもミナトさんに引っ張られる事の方が多そうだ。

 

「ねぇ? 私達の事、忘れられてないかな?」

「・・・仕方ありませんよ」

「・・・いく」

「・・・ポッ」

 

 

 

 

 

「ようやく来たな」

 

ブリッジに辿り着いた俺達の視界に映るのは縛られた兵士達と気絶したキノコ副提督。

あ。提督はここで監禁されていたんですか。

 

「アキト君は?」

「格納庫へ向かった。艦長とミスターを迎えに行くらしい」

 

ミスター、要するに、プロスさんと艦長を迎えに、ね・・・。

すると、テンカワさんは時間稼ぎにいったという訳か。

ところで、クロッカスとパンジーはどうなったんだ?

間に合ったのか?

 

「遅れました」

「すいません」

 

あ。忘れていた。

 

「・・・マエヤマさん」

 

ジト眼で見られてしまいました。

すいません。

 

「ごめんごめん。ルリちゃん、状況を」

「はぁ・・・」

 

呆れられちゃった。

 

「チューリップ、こちらに接近中。途中、連合軍所属クロッカス、パンジーの両艦が襲われたようですが・・・」

 

・・・クソッ。間に合わなかったか。

 

「乗組員は脱出済みです。怪我を負った方もいるようですが、全員、命は無事です」

「そう。アキト君の時間稼ぎが功を奏したのね」

 

ほっ。良かった。

流石です、テンカワさん。

 

「アキトさんが足止めしているので接近といっても微速です。今のうちに対策を」

 

・・・確か、原作だとチューリップに突っ込みつつグラビティブラストだったよな。

あれは相転移エンジンの出力が低くて、普通に撃つだけじゃ力が足りなかったからだろ?

今回はどうなんだろう?

 

『こちらダイゴウジ・ガイ。いっくぜぇ!』

 

おいおい、おい、ちょっと待て!

勝手に出撃するなっての。

 

「メグミさん。ウリバタケさんに―――」

『もう遅ぇ!』

 

あ。前方にヤマダ機確認。

苦労をおかけます、ウリバタケさん。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

・・・どうしようか?

 

「アキトさん。そちらにヤマダさんが向かいました。対処の方、お願いします」

『骨折しているのに無茶をするな、ガイの奴。了解した』

 

面倒をおかけします、テンカワさん。

 

「艦長の乗った飛行機を確認。アキトさん。ヤマダさ―――」

『ダイコウジ・ガイだぁ! ガイ! ガイ! ガイィ!』

「・・・両名はチューリップを引き付けつつ、艦長の防衛を」

 

どうやら、今回も同じ作戦になりそうだな。

 

「ルリちゃん。レールカノンで援護に入る。良いかな?」

「現在の指揮権は提督にあります。提督に許可を」

 

今まで結構、自由にやっていたよね? 俺達。

今更感が漂っているんですが。

 

「提督。よろしいですか?」

「うむ。じゃが、どうするつもりじゃ?」

「本体に当てるとこちらに注意が向く可能性がありますので、両パイロットを狙う触手を蹴散らします」

「む、無理です。この距離であんな細いものに当てるなんて」

 

ふっふっふ。ルリ嬢。

俺を甘く見てもらっては困る。

 

「オモイカネ。レールカノンセット」

『セット開始』

 

コンソールに手を置いて、オモイカネに指示。

その後、懐からサングラスのようなものを取り出す。

 

「コウキ君。それは?」

「ウリバタケさんの力を借りて作った精密射撃専用のシューティングレーダーです」

 

このサングラスみたいなのはイメージ次第でズームインやズームアウトを行え、かつ、レールカノン一つ一つの照準を合わせられる射撃モニターを映し出す。

また、逐一情報も送られてくるから、まるでエステバリスから射撃するように精密な射撃が行える。

手元の端末と同期してあり、コンソールからの指令にこいつは従ってくれる訳だ。

名付けて精密君。ごめん、嘘。

 

『セット完了』

 

誤差修正ソフト、未来予想ソフト、空間把握ソフト。

これらスナイパーにとって垂涎ものの精密射撃ソフトを導入しているんだ。

俺が狙いを外す訳がない。

 

『う、うわっと』

 

早速出番だ。

 

ダンッ!

 

「す、凄い。この距離を・・・」

 

驚くのはまだ早いぜ、ルリ嬢。

 

『ナデシコ。助かったぜって、うお!』

 

ダンッ!

 

世話が焼ける。

 

『よっしゃぁ。このダイゴウジ・ガイ様の勇姿。見てやがれって、ダハッ」

 

ダンッ!

 

「ねぇ、ルリちゃん。ヤマダ・ジロウ。下げられない?」

「言う事を素直に聞いてくれるとは思えませんが?」

「・・・それもそうだね」

 

まさか、触手に翻弄されているヤマダ・ジロウを助ける為だけにレールカノンを使う破目になるとは思わなかったよ。

ま、テンカワさんに援護なんて必要ないだろうけど。

 

「艦長、着艦しました。すぐに来るかと」

「了解した。援護を続ける」

 

メグミさんもミナトさんも自分の仕事をしている。

ラピス嬢もセレス嬢もルリ嬢のフォロー。

うん。艦長がいなくてもやっぱりプロだな。

誰もが何をすべきか把握して、きちんと動いている。

 

「ナデシコで対処致しますので退避してください」

『しかし・・・』

「再度申します。ナデシコ以外で対処できませんので、退避を御願いします」

『・・・了解した』

 

これで連合艦隊が巻き込まれる事はなくなったな。

ナイスです、メグミさん。

 

「コウキ君。射線上に何もない位置へ移動したわ。これでグラビティブラストを撃っても被害は皆無よ」

 

かなり細かい微調整だったでしょうに。

助かります、ミナトさん。

 

「グラビティブラスト装填完了」

「・・・いつでも撃てます」

 

よし。後は艦長を待つだけだ。

 

「ルリちゃん。チューリップの様子は?」

「ほぼ停止状態です。アキトさんとヤマダさんに引き付けられています」

 

対処可能な環境を整った。

後は艦長の裁量によるな。

 

「お待たせしましたぁ!」

 

帰ってきたみたいだ。

 

「いやはや。大変でしたぞ」

「・・・・・・」

 

やっぱりジュン君は忘れてきたんですね。

 

「状況を」

「チューリップは両パイロットによって停止状態。グラビティブラスト発射準備完了」

「ミナトさん。射線上にチューリップを」

「とっくに終わっているわよ」

「メグミちゃん。連合軍に退避するよう連絡入れて」

「完了済みです」

「わお。皆、早いですね」

「感心してないで指示を御願いします、艦長」

 

こうまで周りが優秀だと艦長も楽だろうな。

 

「それでは、チューリップに気付かれないよう微速前進。チューリップの口にナデシコを接近させます」

「え? チューリップにくっつけるの? どうなっても知らないわよ」

 

ま、まぁ、普通はそうですよね。

 

「御願いします」

「はぁ~い」

 

説明してないんだけどな。

結構、お気楽ですね、ミナトさん。

 

「こちらの合図でいつでもグラビティブラストを撃てるようにしておいてください」

「了解」

 

徐々に迫るチューリップの姿。

触手を使ってエステバリスを払う姿はチューリップというよりはハエトリグサ?

いや。違うか。

 

「もっとです。もっと、もっと、近付いてください」

「食べられちゃうわよ?」

「構いません」

「あ、そう」

 

いやいや。構おうよ。

 

「・・・・・・」

 

暗い空間の中に入っていくのって結構怖いよね。

気味が悪い。

 

「・・・食べられちゃった」

 

呆れるように告げるミナトさん。

貴方も大概余裕ですよね。

 

「グラビティブラスト、放てぇぇぇ!」

「グラビティブラスト、発射します」

 

艦長の感情の篭もった叫びにルリ嬢はクールに告げる。

ま、対照的な二人だけど、それが良いバランスなのかな? ナデシコでは。

 

「チューリップの撃破に成功。エステバリスは帰艦してください」

「やったぁ!」

「やはり逸材だな」

 

高評価を得て満足そうなユリカ嬢。

周りも一安心って所かな。

 

「無茶するわね、艦長って」

「ま、結果よければ全て良しって奴ですよ」

「それもそうね」

 

顔を見合わせてミナトさんと笑い合う。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

な、なんか、照れるな。

 

「見詰め合っちゃっているよ、ルリちゃん」

「構いません。作戦は終了していますから」

「・・・ルリ。興味あるのバレバレ」

「なっ!?」

「・・・ポッ」

 

・・・聞こえていますよぉ。

 

「うふふ」

「ははは」

 

もう笑うしかないよな。

 

「どういう事ですか?」

「私も気になりますな」

「後で教えてあげますよ。艦長、プロスさん」

 

・・・結局、テンカワさん達パイロット組が帰ってくるまで照れ隠しをしていましたとさ。

 

 

「あ。副長はどうしました?」

「ジュン君? そういえば、どこに行ったんだろ?」

「・・・忘れてきましたな。いやはや。歳を取るとは怖いものです。ハッハッハ」

「・・・可哀想に」

 

というお約束があったのも忘れちゃいけませんよね。

・・・はぁ。次はビックバリア突破か。大変だな。

ご愁傷様です、ジュン君。

 

 

 

 

 

「マエヤマ・コウキ。一人の介入者の影響がここまでとは」

「ミナトさんと結ばれてしまうなんて」

「ツクモさんと結ばれるべきだと思っていたんだが・・・」

「それもありますが、どことなく違和感があります。私がオモイカネに秘密で御願いしていたのを知っていましたし」

「ルリちゃんが本気で隠したのをあいつは簡単に見つけてしまったという訳か。電脳世界で最強を誇るルリちゃんの」

「ええ。彼の影響がどれ程になるかまるで検討がつきません。もしかすると・・・」

「俺達の計画に支障をきたすかもしれんな」

「あの精密射撃もそうです。あんな事、普通の人には出来ません」

「射撃には慣れていたつもりだが、あそこまでの精密射撃は俺にも無理だな」

「能力を隠している。何故かはわかりませんが、私はそう思います」

「隠さなければならない理由がある。そう考えるべきか?」

「はい。彼の本当の目的が何なのか。それを見極める必要がありそうです」

「仲間を疑わなければならないとはな」

「仕方ありません。私達の計画を邪魔される訳にはいきませんから」

「あの状況でバラされるとは思わなかったからな。どうにか交渉に利用できたが・・・」

「もともとオジサンとの交渉に使うつもりでしたからね。キノコさんはどうでも良かったんです。意味がなくなるかと心配になりました」

「これからもそんな事をされたらいずれ邪魔になる」

「・・・どうしましょうか?」

「・・・そうだな」

「・・・・・・コウキ。良い人だと思う」

「・・・それでも、計画の為なら仕方ありません」

「・・・分かってくれるよな? ラピス」

「・・・・・・」

「ラピス?」

「・・・分かった」

 

 

 

 

 

「あれ? ミナトさん。胸元。どうしたんです? いつも開けていたじゃないですか」

 

・・・・・・あれ? いつの間に食堂に?

あれ? 俺っていつの間に着替えていたの? あれ?

何で眼の前に朝食が? ま、いっか。食べよう。

 

「当たり前じゃない。あそこはコウキ君専用なの。もう誰にも見せてあげないわ」

「ゴホッ」

 

グッ! 器官に詰まった!

 

「な、何を言っているんですか!?」

「あら? 誰かに見せてもいいの? 私の胸元」

「胸元と言わず何でも見せたくありません。視界に入れる事すら嫌です」

「うふふ。独占欲が強いのね」

「・・・ご馳走様です」

 

何か昨夜からの記憶がないんだよな。朝とかどうなっていたんだっけ?

制服を着た覚えもないんだけど・・・。ま、いっか。食べよう。

 

「マエヤマさん、ボーっとしていますね。どうかしたんですか?」

「私の部屋に泊まっていったもの、コウキ君」

「・・・それって」

「ええ。昨夜は大変だったわ。コウキ君ってば初心だし。朝だって私が着替えさせてあげたのよ。ずっとボ~っとしていて」

「ゴホッ」

「・・・ご馳走様です」

 

グッ! 器官に詰まった!

 

「えぇっと、その、あの・・・」

 

お、思い出したぁ!

お、俺って・・・。

 

「あら。真っ赤」

「分かりやすいんですね、マエヤマさんって」

 

微笑ましいみたいな眼で見ないで下さい。

 

「あぁ~あ。せっかく狙っていたのに」

「ごめんなさいね。我慢できなくなっちゃって」

「いいですよ。お似合いですもん、ミナトさんとマエヤマさん」

「・・・・・・」

「思考停止中みたいね」

「結構、手馴れてそうに見えたんですけどね」

「女性経験が少ないんでしょ? ま、私としては私色に染められるみたいで嬉しいけど」

「姉さん女房って奴ですか?」

「そうね。コウキ君ってまだまだ頼りないし。私が引っ張ってあげなくちゃ」

「じゃあ、これからマエヤマさんをミナトさん色に染めちゃう訳ですね」

「そうよん。うふふ。楽しみ」

「・・・・・・」

「まだ思考停止中ですよ」

「まったく。コウキ君ったら」

「・・・・・・」

「フゥゥゥ」

「ひゃっ」

 

ゾ、ゾクっときた。

 

「な、何ですか? おぉ!? 近い近い」

「耳が弱いのよねぇ、コウキ君って」

「耳に息ですか。典型的ながら有効的な訳ですね」

「何を真面目に解説しているんですか、メグミさん」

「あら。いいじゃない。ゾクってきたでしょ?」

「そ、そりゃあ、きましたけど―――」

「フゥゥゥ」

「や、やめてください」

 

ゾ、ゾクっときた。

 

「朝からお腹一杯です」

「止めてくださいよ、メグミさん」

「フフッ。嬉しそうですよ、マエヤマさん。私は馬に蹴られたくないので失礼しますね」

「メ、メグミさん、待ってください」

 

・・・行ってしまった。

 

「恋人の前で違う女性を呼び止めようとするなんて、いけない子ね、コウキ君」

「ミ、ミナトさん」

「罰ゲームよ。フゥゥゥ」

「ひ、ひゃっ」

 

・・・周囲の視線が気にならなくなった日の事でした。

 

 

 

 

 



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防衛ライン突破

 

 

 

 

 

「現在、木星蜥蜴に対する備えとして地球側では七つの防衛ラインを築いています」

 

連合軍と仲が悪いまま、宇宙に飛び出そうっていうんだから凄いよね。

喧嘩を売られるに決まっているじゃん。あえて言わせて貰おう。バカばっか?

 

「我々は宇宙に飛び出そうとしているので、防衛ラインを逆走する形になりますな」

「はいは~い。その防衛ラインってどんなのがあるんですか?」

 

・・・艦長、貴方は士官学校卒業じゃないのですか?

それぐらいは把握しておきましょうよ。

 

「ルリさん、御願いできますか?」

「はい。オモイカネ、地球防衛ラインの情報を」

『はぁ~い』『了解』『任せて』

 

ハハハ。元気だな、オモイカネ。

 

「衛星軌道上から順に説明します。第一次防衛ラインは核融合動力のバリアシステム、通称ビックバリアです」

 

高出力の障壁で侵入を妨げるビックバリア。

・・・にしては、チューリップの侵入を許し過ぎじゃないか?

 

「第二次防衛ラインは衛星からのミサイル迎撃です」

 

衛星ミサイル。

・・・あれか。ジュン君がデルフィニウムの手を広げてナデシコを守るとか言った時の奴か。

でも、あれって何の意味もなかったよね。

 

「第三次防衛ラインは宇宙ステーションの有人機動兵器デルフィニウムの迎撃です」

 

一言だけ・・・ジュン君、ファイト。

しかし、好きな人の為だけにIFSを体内に注入させるとは健気だねぇ。

士官を始め、地球の軍人ってIFSを嫌う節がある筈。

出世の道を困難にしてまで愛する女の為に・・・か。

 

「・・・・・・」

「ん? 何かな? コウキ君」

「い、いえ。なんでもありません」

 

俺にもそんな事が出来るかな?

いや。しなければならないんだ。

ううん。するんだ。

愛する女の為に命を懸けるのが男なのだから。

 

「第四次防衛ラインは地上迎撃システムからのミサイル迎撃です」

 

移動中、最もお世話になる奴だな。

でも、ま、DFで全部防げちゃうけど。

DFを舐めるなっての。

 

「第五次防衛ラインは空中艦隊による防衛線です」

 

あ、無効化される奴か。

 

「第六次防衛ラインはスクラムジェット機による防衛線です」

 

これもこれも。

無意味のオンパレード。

 

「最終防衛ラインは通常兵器による迎撃です」

 

・・・思うんだけどさ。

最終防衛ラインまで侵入されている時点で通常兵器とか意味ないでしょ?

なんか、最終防衛ラインってあんまり意味がない気がしてきた。

というか、そもそも防衛ライン、配置順とか色々とお粗末じゃない?

ビックバリアで止められるとか過信しているからかな?

せめてビックバリアの前に防衛部隊とか配置しようよ。

相手戦力を少しでも減らせれば、阻止できる確立も上がるでしょ?

ビックバリアは完璧じゃないの。実際に突破されているんだから、もっと対策考えようよ。

 

「ご説明ありがとうございます、ルリさん」

「・・・いえ。仕事ですから」

 

再確認できて助かりました。

ま、第五次から最終までは役立たずになるからどうでもいいんだけどさ。

 

「そして、現在、我々は第四次防衛ラインを突破中という訳です」

「連合軍も頑張るわよね。こっちは一切ダメージを受けてないってのに」

 

一応、地球最新鋭ですから。

そう簡単に墜ちませんよ。

 

「第五次以降はどうなっているんですか?」

「一斉に動き出した事で木星蜥蜴を刺激してしまったみたいですね。その対応に追われ、私達の事にまで手が回らないようです」

「静かに眠っている子を刺激したら癇癪を起こすに決まっているじゃない」

 

そんな感じです、ミナトさん。

可愛げのない赤ん坊ですけどね。

 

「それじゃあ、私達は第四次から第一次を突破すればいいんですね?」

「はい。そうなりますね」

 

地上からのミサイルは大した威力もないから無効化が可能。

デルフィニウム部隊はテンカワさんがいるから余裕でしょ。

衛星ミサイルは・・・DFの強度次第だな。発動される前にある程度の高出力を得られるようにしないと。

問題はビックバリア。強引に突破可能だけど、突破しちゃっていいのかな?

あれでも一応は木星蜥蜴の侵入を妨げている訳だし、修理が終わるまでの連合軍の負担を考えると申し訳ないよ。

それにかなりのエネルギーとか使ってそうだし。

衝突して強引に突破って事はあっちがオーバーヒートとかしちゃう訳じゃん。

エネルギー過剰でどこかしらが爆発するんじゃないかな?

人的被害も馬鹿に出来ないでしょ? 地上に損害がでないかも分からないし。

これってかなりの問題だと思うんだよね。

 

「ビックバリアは突破できるんですか?」

「理論上は可能です」

 

メグミさんの問いにルリ嬢が答える。

おし。ここで話に入るか。

 

「しかし、ビックバリアを突破してしまってもいいんですか?」

「ほぉ。それはどのような意味で?」

 

睨まないでくださいよ、プロスさん。

 

「まがりなりにもビックバリアは地球防衛に一役買っています。それを破壊してはネルガルも立場が悪いですし、地球の人達に不安を与えしまうのではないでしょうか?」

「・・・それもそうよねぇ」

 

企業イメージも大事でしょうに。

軍との亀裂は会長のアカツキ青年が修復するみたいだけど、民間からの恨みはどうしようもないし。

 

「むぅ。困りましたな。正論ゆえ反論できません。ですが、それでは、諦めなければならなくなります。どうしましょうか?」

 

その眼は批判したんだから代わりの案を出せって事ですね。

ビックバリアに被害を与えずにナデシコが脱出する方法か。

再度、交渉・・・無理だよな。ユリカ嬢の御願いは余計向こう側を本気にさせちまった訳だし。

 

「利をもって交渉するとか?」

「ほぉ。その利とは?」

「ナデシコは木星蜥蜴に唯一対抗できる戦艦ですが、たった一艦ではどうしようもないと軍も理解していると思うんです」

「ふむふむ。何人かは理解しているでしょうな」

 

・・・何人かですか? 相当に少ないんですね。

大丈夫ですか? 連合軍。

 

「今回の火星行きはその能力を証明する為であり、稼動データを収集する為でもあると告げれば向こう側も納得してくれるんじゃないですか?」

 

それも一応は目的の一部でしょう?

本当の目的は火星にある遺跡の確保だろうけど。

 

「無論、それはもう説明してあります。ですが、納得して頂けないのです」

 

あ。そっか。一度は許可を貰っているんだから、その時にこの説得はとっくに使っているか。

というかさ、一度許可したなら追わなければいいのに。軍の面子以前に人として間違っているでしょ。

 

「それなら、ビックバリアを突破できるという証明を向こうに―――」

「無駄だと思います。彼らは止められると確信しているからこそ追ってくるんですから。たとえ証明できても信じてくれませんよ」

 

バッサリ切られました、ルリ嬢に。

 

「やはり強引に突破するしか方法はないようですな」

 

む~。どうにか方法はないのだろうか?

 

「あの・・・」

「ん? ルリさん。何でしょうか?」

「ハッキングしてみましょうか?」

 

ハッキング!?

連合軍にハッキングしてビックバリアの解除パスワードを得ると?

・・・ま、考えていたけどさ。バレたらまずいかなって。

 

「連合軍の情報網をハッキングするのは容易ではありませんぞ。幾重にも防衛線が引かれておりますから」

 

・・・まるでやってみたかのような言い草ですね。

 

「ですが、被害なく突破するには有効かと」

「ルリさんはハッキングを成功させる自信があるのですか?」

 

ルリ嬢って現実主義だからね。出来ない事はしないでしょ。

劇場版でもハッキング普通にしていたし。基地情報の取得とか簡単じゃない筈。

 

「私一人では無理かもしれません」

 

そう告げた後、ラピス嬢を見詰めるルリ嬢。

なるほど。妖精二人なら可能という訳だな。

 

「ですが、マエヤマさんの力を借りられれば」

「・・・え? 俺?」

 

え? だって、ラピス嬢と頷きあっていたじゃん。

何で俺なの?

 

「マエヤマさん、よろしいですか?」

「え、ええ。構いませんが・・・」

 

正直、混乱しています。

 

「落ち着きなさい、コウキ君」

「あ。はい」

 

ふぅ~っと深呼吸。

おし。大丈夫。

 

「では、私とマエヤマさんがハッキングを仕掛けますので、ナデシコの制御はラピスとセレスに任せるという事で良いですか?」

「構いません。ラピスさん、セレスさん、御願いできますか?」

「・・・分かった」

「・・・分かりました」

「セレスはラピスのフォローに回ってください」

「・・・はい。分かりました」

 

ルリ嬢としてはまだセレス嬢だけには任せられないらしい。

セレス嬢も結構、良いレベルまでいっていると思うんだけどな。

艦長とかやっていたし、そういう所は厳しいのかな?

 

「それでは、ハッキングを仕掛けます。マエヤマさん、御願いします」

「うん。分かったよ。俺もフォローに回るから」

 

経験的な問題で多分敵わないし。

 

「・・・了解しました」

 

今の間は何さ?

 

「・・・・・・」

 

深呼吸して、心を落ち着かせた後、コンソールに手を置く。

ハッキングとか失敗してバレたらかなりやばい。

で、でも、きっと、失敗してもネルガルが責任持ってくれるよね?

 

「改めてよろしく御願いします。マエヤマさん」

「うん。こちらこそよろしく」

 

電脳世界にやってまいりました。

この感覚は久しぶりです。こんなに集中しなっきゃいけない事は中々ないしね。

現在は分かりやすく映像化してあります。

たとえて言うなら、オモイカネの反乱の時に潜り込んだ図書館みたいな奴。

それが今回はどこかの基地?みたいな感じの建物になっている。

俺とルリ嬢はその門の所で隠れているって感じ。

かなり厳重である事は間違いないね。

 

「まずは管制室を占拠しましょう」

 

未来のルリ嬢の格好をしたルリ嬢が俺にそう言ってくる。

・・・何で未来の姿なの?

 

「その前にいいかな?」

「はい。何でしょう?」

「その格好って成長したルリちゃん?」

「ええ。それが何か?」

 

いや。何故わざわざ未来の姿をしたのかが訊きたかっただけなんだけどさ。

 

「い、いや。なんでもないよ」

 

そう睨まなくても・・・。

やっぱりまだ嫌われているみたいだ。

 

「イメージ次第で武器が具現化されます。敵兵士がいるので用心してください。出来れば、見つからないよう管制室に到着したいですね」

「うん。了解」

 

要するに、だ。

敵兵士が向こうの異常発見ソフトみたいもので、敵兵士の武器が迎撃ソフトみたいなもので、俺達がウイルスみたいなもんな訳だ。

見つからないように向かうっていうのは、巧妙にハッキングして相手方がハッキングに気付かないようにしろって事だし。

敵兵士を倒して進むっていうのは、力尽くで相手方の防衛線を強引にハッキングしろって事な訳ね。

おし。やってやろうじゃないか。

 

「この世界でなら、私も戦えますので」

 

むしろ、最強でしょ。

 

「まずは門を突破しましょう」

 

そう言うとルリ嬢の姿が消える。

おぉ。それがルリ嬢のハッキングスタイルか。

バレない為に己の姿を消しちゃう訳か。

俺のスタイルとは違うな。

俺はどちらかというと・・・。

 

「なるほど。偽装ですか」

 

そうです。偽装です。

あたかも相手方のように振舞う事で違和感なくハッキングするんです。

一応、今まで無敗ですけどね。

ちなみに、俺は敵兵士とまったく同じ顔、同じ格好、同じ仕草になっています。

俺の偽装スキルを舐めるなよ。現実世界じゃ芝居なんて到底出来ないけど。

 

「・・・・・・」

 

無言で門を潜る。

バレてない。バレてない。

それにしても、見えないな、ルリ嬢の姿。

うん。俺にだけ見えるようにしよう。

 

「なっ!?」

「どうかした?」

「な、何かし・・・いえ。何でもありません」

「そう?」

 

慌てちゃって。どうかしたのかな?

 

「管制室はこちらですね。案内します」

「うん。ありがとう」

 

堂々と歩くルリ嬢に付いて行く。

ま、周りはルリ嬢の姿なんて見えてないんだけど。

 

「・・・・・・」

 

敵の兵士とすれ違ってもスルーさ。

再度、言おう。俺の偽装スキルを舐めるなよ。

擬態だろうが、偽装だろうが、何だってやってやるっての。

 

「ここです」

 

うん。確かに管制室って看板があるね。

というか、むしろ、親切じゃね?

 

「流石にここは隠れていても仕方ありませんので、敵兵士は蹴散らせましょう」

「了解。ルリちゃんは下がっていて」

「いえ。私も戦えます」

「いいから。いいから」

 

久しぶりだしね。肩慣らしだよ。

大事なのは向こうのデータバンクをハッキングする時なんだから。

 

「分かりました。お願いします」

「任されました」

 

左手に銃を具現化し、右手に手榴弾を具現化する。

もちろん、無音で無力なものです。簡単に言うと閃光弾。

 

「ほっと」

 

扉を少し開けて、閃光弾を投げ入れる。

んで、すぐに扉を閉めて、三秒後に・・・突撃。

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

管制室を守る敵兵士を蹴散らす。

撃ち損なったのは・・・いないな。

 

「もういいよ」

「お見事です」

「いえいえ。ルリちゃんはここから色々と調べておいて。俺はやる事あるから」

「分かりました」

 

管制室の椅子にルリちゃんを座らせて、俺は銃を撃ち込んだ敵兵士のもとへ向かう。

 

「偽装は完璧にしなっきゃね」

 

兵士の頭に手を添える。

これは向こうの記憶、即ち、設定を変更する為。

はい。完了。

これで俺とルリ嬢はそちら側の人間だよって認識された。

この状態なら何をしていようが問題にされないのさ。

 

「次っと」

 

一人変更すれば周りも感化するんだけど、一応ね。

俺は管制室のコンソールに手を置いて、先程と同じ作業を行った。

 

「・・・よし。もういいや」

 

俺は偽装していた姿を元に戻す。

ま、いつもの俺って奴だからどうでもいいでしょ。

 

「・・・凄いですね」

「そうかな? ルリちゃんだって凄いと思うよ。誰にも気付かれなかったでしょ?」

「え、ええ。まぁ」

 

ハッキングのスタイルが違うだけ。

むしろ、俺はルリ嬢の方が凄いと思うけどね。

俺がやっても完全な透明にならないと思うよ。

多分、どっかが欠けるか、半透明になる。

俺には到底真似できないね。

 

「解除パスワード。判明しました」

「へぇ。流石はルリちゃん」

「いえ。後はこれを制御室の方で直接打ち込むだけです」

 

素っ気無いな。

どうにかして仲良くなりたいんだけど・・・。

 

「・・・何か?」

 

前途多難だよぉ。

 

「それでは、制御室の方へ向かいましょう」

「分かった。俺が護衛するよ」

「そうですね。御願いします」

 

もう制御室の場所は把握しているだろうから、俺はルリちゃんが制御室に行くまで守るだけ。

偽装は完璧だと思うけど、万が一の為にね。

 

「・・・マエヤマさんはこれ程のハッキングをどのように身に付けたのですか?」

 

ギクッとなる質問だね。

どう答えるかな。

 

「秘密ですか?」

「ん~。秘密にしておきたいかな。ミナトさんに怒られちゃうし」

 

ハッキングはいけませんと言われてから実は何度もやっている。

これがバレたら怒られるかもしれないし、何より嫌われるかもしれない。

絶対にバレる訳にはいかないんだ。

 

「・・・マエヤマさんはミナトさんが大事なんですね」

 

ミナトさんが大事だって?

 

「そんなの当たり前じゃん。お世話になったし、今は恋人だしね。恋人を護らない人なんていないでしょ?」

 

今の俺にとって何よりも大切な存在。

それがミナトさんだ。

何を犠牲にしても、それこそ、俺自身を犠牲にしてでも護らなくちゃ。

いや。それじゃ駄目か。

ミナトさんがまずは自分って言っていたし。

自分を犠牲にしちゃ駄目だよな。

それでも、いざって時は己を犠牲にしてでも護ってみせる。

それが人を愛する責任って奴だと俺は思っているから。

 

「そう・・・ですか」

 

納得してくれたかな?

というか、何か疑われていたのか?

 

「じゃあさ、ルリちゃんにも大切な人っている?」

 

こんな事、暢気に訊いている暇はないんだけど、折角の機会だから。

 

「私の大切な人・・・ですか?」

「うん。大切な人。友達だって家族だっていい。好きな人だってもちろんいいよ」

 

ルリ嬢を変えてくれたアキト青年。

ルリ嬢を支えてくれたミナトさん。

ルリ嬢のお姉さんだったユリカ嬢。

きっとルリ嬢には多くの大切な人がいるんだろうな。

 

「・・・アキトさんです」

 

そっか。その中でも一番はアキト青年って事か。

 

「テンカワさんか。ルリちゃんにとってテンカワさんってどんな人なの?」

「そうですね。自分を犠牲にしてでも大切な人を取り戻そうとする優しい人で・・・」

 

ユリカ嬢の事か。劇場版でのアキト青年の想いは確かに伝わってきた。

 

「その優しさのせいで罪の意識に苛まれてしまう弱い人で・・・それでも、罪に苛まれようとも、前へと進もうとする強い人です」

 

罪の意識に苛まれる?

それは劇場版の事だろうか?

確かに幽霊ロボットが多くのコロニーを沈めたって言っていたけど。

 

「マエヤマさんだったらどうしますか? 愛する人の為に多くの犠牲を出してしまった自分を責めますか?」

「・・・・・・」

 

愛しているから。

それが全ての免罪符になる訳ではない。

意味も分からず、一方的に犠牲になった人は一生許さないだろう。

その者達の中にも愛する人はいるのだから。

恨みは理性で制しきれないものだから。

 

「自分は罪人だからって取り戻した愛する人のもとに戻る事もせず、愛する人を傷つけた者達を罰しようと限界に近い身体を酷使しますか?」

 

火星の後継者。

アキト青年の味覚、いや、多分、五感全てを奪った存在。

パイロットである事よりも料理人である事を主張し続けたアキト青年にとって何よりも辛かったと思う。

ユリカ嬢の身体を遺跡の翻訳機として用いた存在。

インターフェースとして用いられて負担がない訳がない。きっと身体はボロボロで精神的にも辛い事があったと思う。

ユリカ嬢だけじゃなく、アキト青年とて傷付けられた。

それなのに、アキト青年はユリカ嬢を思って、自分の恨みではなく、ユリカ嬢を傷つけた事に憤怒して行動したというのか。

 

「自分の身体を痛め付けて、限界を超えても酷使し続け、私達がどれだけ帰ってきてと訴えてもあの人は・・・」

 

遂にルリ嬢の目元から涙が溢れる。

胸の中に必死に押さえつけていた感情が溢れ出してしまったかのように。

抑圧された感情が爆発したかのように。

とめどめのない涙がルリ嬢の顔を濡らしていた。

 

「必死に追いかけても逃げるんです。罪人の俺にその資格はないって。俺の事なんて忘れてくれって。私達の想いなんて気付いてもくれず・・・」

 

相手の幸せを望むからこそ引き離す。

それがアキト青年の選んだ道だったんだ。

己の想いを封印して、心が痛んでも、相手の幸せを求めた。

 

「挙句の果てに・・・」

「・・・・・・」

「愛する人に裏切られて」

「・・・え?」

 

・・・愛する人に裏切られた?

ユリカ嬢がアキト青年を裏切ったていうのか?

 

「・・・裏切られたって?」

「艦隊で襲われたんです。私がアキトさんを追い詰めた時に」

「な、何で、襲われたの? だって、テンカワさんは必死に愛する人の為に・・・」

「全てを知っている訳ではありません。真相を、裏で何があったかを知っている訳ではありません。でも、一つだけ、一つだけ分かった事があります」

「・・・それは?」

「愛する人は記憶処理を受け、アキトさんこそが愛する人を奪った張本人だと誤認していたという事です」

「そ、そんな事って・・・」

「傷付いたでしょうね。立ち直れないくらい、壊れてしまうぐらい心が傷付いたと思います」

 

痛いなんてもんじゃない。

想像を絶する激痛が心を襲うと思う。

 

「私達は襲ってくる艦隊から必死に逃げました。傷付いたアキトさんを護ろうと。でも、護られたのは私でした」

「ルリちゃんが護られた?」

「はい。私の方を先に攻撃してきたんです。それで、アキトさんが私を護ろうと前に出て」

「・・・ルリちゃんを護る為に犠牲になったって事か」

「傷付いていたと思います。自棄になっていてもおかしくなかったと思います。でも、私なんかを護る為に身体を張ってくれたんです。結局、アキトさんは優しいままだった」

 

アキト青年はどんな気持ちだったんだろうか?

愛する人に裏切られて。

でも、護るべき人がいたから、身体を張って。

・・・必死に護って。

身体を痛め付けて、心を傷つけて、それでも、前を向けるテンカワ・アキト。

・・・敵わないなって思う。

 

「・・・そっか。それがテンカワさんの強さか」

 

弱くて強い。

一見、矛盾した言葉。

でも、弱くて強いから、俺は強いのだと思う。

 

『そろそろ第一次防衛ラインに着きますぞ。そちらの準備はよろしいですかな?』

 

あ。そうだったな。

 

「ルリちゃん」

「ええ。行きましょう」

 

随分と長い間、話に集中していたみたいだ。

気付けば制御室が目の前にあった。

扉を開けて、制御室に入る。

 

「後はこれにパスワードを打ち込めば解除できます」

 

制御盤らしきものが置かれており、それを前にしてルリ嬢が告げる。

 

「分かった。こっちは準備完了です。プロスさん」

『了解いたしました。いやはや、凄いですな。まさか軍の中央部に対してハッキングを成功させるとは』

「・・・そんな事ないですよ」

 

・・・褒められてもな。

喜べるような状況じゃないよ。

 

『それでは、御願いします』

 

了解です。プロスさん。

 

「ルリちゃん」

「はい。・・・パスワード入力。緑の地球を護る盾」

 

ピピピとパスワードを入力していくルリ嬢。

 

『ビックバリア。解除されました』

 

告げられるアナウンス。

どうやら解除は成功したらしい。

 

「帰りましょう」

 

門が電脳世界からの出口。

ルリ嬢は背を向けて先に出口へと向かう。

その背中がとても小さく見えて・・・。

 

「ルリちゃん!」

 

・・・気付けば俺の口は勝手に開いていた。

 

「もし、俺が犠牲者だったら、テンカワさんの事は絶対に許さないと思う」

「・・・・・・」

「でも! 俺はテンカワさんの行動を否定しない。愛する者の為に壮絶な生き方をしたテンカワさんを俺は尊敬する」

「・・・・・・」

 

無言のルリ嬢。

今、ルリ嬢は何を思い、何を考えているのだろうか?

 

「罪に苛まれ、愛する人に裏切られ、それでも前に進めるテンカワさんを俺は尊敬する」

「・・・・・・」

「だから! ルリちゃん。君がテンカワさんを癒してあげて欲しい。罪に苛まれる心を癒し、共に罪を背負って欲しい」

「・・・私が?」

「今は何か目的があって、それに向かってガムシャラになっているから大丈夫かもしれない」

「・・・・・・」

「でも、ふとした時や目的を終えた時、テンカワさんは再度己を責めると思う。そんな時、ルリちゃん、君がいるだけでテンカワさんは救われると思う」

 

誰かが傍にいるだけでいい。

それだけで心はずっと楽になる。

 

「ルリちゃん。君はどうしたいの?」

「・・・私はアキトさんを支えたい。罪を背負えというのなら一緒に背負う。助けて欲しいというのなら全力で助ける」

 

その眼は覚悟を決めた眼。

復讐鬼を支えようとする妖精の誓い。

 

「・・・たとえその為に私が犠牲になろうとも、私はアキトさんが叶えたい夢を叶えます」

 

決意。覚悟。

それをルリ嬢は決めている。

 

「・・・障害があるのなら、私が壊します。何を犠牲にしてでも、何があっても、私は・・・」

 

これは・・・依存だろうか?

妄信的なまでにテンカワさんを・・・。

 

「マエヤマさん。もし、貴方が障害であるのなら、私は自分の手を血で染める事も厭いません」

 

狂信。盲信。依存。

ルリ嬢が抱える闇の一端を垣間見た気がする。

殺すと宣言されたのに、俺はそれを怖いと思わず、ただただ・・・。

 

「・・・お先に失礼します」

 

・・・悲しく感じたんだ。

 

 

 

 

 



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マシンチャイルド

 

 

 

 

 

「ヤマダ・ジロウは生存。ビックバリアはナデシコもビックバリア自体も無被害で突破。キノコ副提督は原作通り脱出。テンカワさんは着実に未来を変えつつある、か」

「・・・何か言いました?」

「え、ううん。なんでもないよ、セレスちゃん」

 

おっと。思わず口に出ていたか。

 

「・・・あの、ここはどうすれば?」

「あぁ。ここはね・・・」

 

セレス嬢に心配かけちゃ悪いよな。

せっかくの訓練中なのに。

 

「それにしても、子供に夜勤を強要するとはねぇ」

 

何が起こるか分からないから、ブリッジには誰かしらが待機してなくてはならない。

それは分かる。でも、大人達だけで回しても支障はないと思うんだよなぁ。

 

「・・・私、子供じゃありません」

「そっか。ごめんごめん」

 

原作のルリ嬢を思い出すな。

女の子って子供扱いされるのが嫌なのかな?

大人っぽくありたいって思うのにはまだ早いと思うけど。

 

「眠くない?」

「・・・大丈夫です。寝なくても問題ないように調整されていますから」

 

軽い口調の割に過酷な現実。

改めて、彼女達が遺伝子を弄くって造られた存在なんだって実感した。

 

「そっか。でもさ、寝る子は育つっていうよ?」

「・・・寝ないと育ちませんか?」

「どうだろう? でも、寝た方が育つんじゃないかな?」

「・・・それは、困りました」

 

調整なんて言うな。君達は普通の人間なんだから。

・・・そう言うのは簡単だ。俺だってちょっと特別な人間ぐらいにしか彼女達の事を思っていない。

でも、自分は人形なんだと思い込んでいる彼女達にその言葉は響くのだろうか?

唯のIFSですら拒絶する者達がいるのに、それに特化するよう生まれた頃から、いや、生まれる前から宿命付けられた彼女達を周りはどう思うだろうか?

ナデシコは優しい所だ。だから、皆が受け入れてくれる。ちょっと特別な人間程度にしか思わないでいてくれる。

でも、世の中はそんなに優しくない。きっと彼女達を拒絶する人間はたくさんいる。自分と違うだけで、国籍や肌の色の違いだけで差別されるような世の中なのだから。

そんな彼女の事を分かってあげられるのは同じ境遇の者だけ。傷の舐めあいかもしれないけど、理解してあげられるのは同じ境遇の者だけだ。

それなら、俺に何が出来る? 

君は人間なんだと何度も繰り返し告げる事で認識を改めさせればいいのか? 

・・・いや。そんなのその場凌ぎでしかない。

いずれ、彼女達は他人と違うんだと実感する場面が必ずやって来る。

他人と違う能力を持っているという事。それは確固たる事実なんだ。

自分は周りと違わないとか。自分は唯の人間なんだとか。そういくら訴えようと周りの認識が変わる事はない。

それなら、彼女達は周りと違うと自覚し、その上で強く生きていけるようにならなければならないと俺は思う。

その為に、俺は何が出来るのか?

悩んだ。何をしてあげるべきなのか悩んだ。

何もしない事も一つの選択肢だったが、俺は何かしてあげたいと思った。

何かしてあげようなんて傲慢な考え方かもしれない。それでも、自分という存在が彼女達の為に何か出来るのなら、俺はしてあげたいと思う。

その上で、俺は彼女達に何をしてあげられるのか?

幾つもの選択肢の中で俺が選んだのは簡単な答え。

マシンチャイルドという存在に眼を逸らす事なく、唯の人間として接してあげよう。

矛盾している答えかもしれない。唯の人間として扱おうとするのだから。

でも、たとえ君達が周りと違っていても、それを受け入れてくれる人だっているんだよって。

そう伝えてあげたい。

 

「お腹すいたなぁ。出前でも頼んじゃおうか?」

「・・・夜、何か食べると太ると聞いた事があります」

「大丈夫。大丈夫。子供は食べて大きくなるの」

「・・・私、子供じゃないです」

 

マシンチャイルドである事は変わりようのない事実。

どれだけ叫ぼうが、どれだけ訴えようが、その境遇は変わらない。

君達は特別でもなんでもない。唯の人間なんだ。

俺はそう説く事はしない。

君達は特別だよ。でも、唯の人間なんだ。

俺はそう説く。

逸らしたって変わらないなら、真正面から受けて立って欲しい。

厳しい道かもしれない。

報われない道かもしれない。

でも、それが何よりの彼女達の幸せの為だと思うから。

せっかく特別な能力を持って生まれてきたんだから、引け目じゃなくて、誇りを持って欲しい。

ま、行き過ぎも困るけどさ。

 

「それじゃあさ、どっちが長く徹夜できるか勝負しようか?」

「・・・考えさせてください」

「え? 嫌かな?」

「・・・育たないのは困ります」

「そっか。そうだね」

 

無表情ながらも少し困ったように眉を顰めるセレス嬢。

彼女達が人形じゃないなんて誰もが分かっている。

無表情に見えて、実はそうじゃないなんて誰もが分かっている。

いつか大袈裟なぐらい感情表現する普通の、ちょっと特別だけど、普通の女の子になって欲しいなって思った。

 

「セレスちゃんは将来美人になるよぉ、絶対」

「・・・そうですか?」

「うん。今でさえこんなにも可愛いんだもん。将来はやばいくらい可愛くなると思うね」

 

ま、今の可愛いと大人の可愛いはちょっと違うけどさ。

 

「・・・初めて言われました、可愛いなんて」

「へぇ。それは今まで周りにいた人の眼が節穴だったんだな。なんで気付かないんだか」

「・・・気味悪がっていました。金色の眼とか」

「そんな事、気にする必要ないじゃん。周りは周り。セレスちゃんはセレスちゃんでしょ。俺は綺麗だと思うけどね、その金色の瞳」

 

吸い込まれるような綺麗な瞳。

たかが色が違う程度でその綺麗さは失われないさ。

むしろ、白と金のコントラストが魅力的だと思う。

 

「セレスちゃんはさ。MCって事を気にしているの?」

「・・・はい」

「辛い事を聞くようだけど、何故なのか教えてくれるかな?」

「・・・研究所では酷い眼に遭いました。助けられてからもMCだって気味悪がられました」

 

そうか。ネルガルの職員め。呪ってやろうか?

 

「・・・マシンチャイルドで得した事なんて、今まで一度もありません」

 

悲しそうに俯くセレス嬢。

マシンチャイルドである事が彼女の負い目になっている。

そんな状況は打破してやらないとな。

 

「セレスちゃん。そんな君にとっておきの言葉を教えてあげよう」

「・・・とっておきの言葉?」

「そうだよ、セレスちゃん」

 

人は違うからこそ美しい。

そんな意味が込められた言葉だ。

 

「皆違って皆良い」

「・・・皆違って皆良い?」

「そう。人間は誰しもが違うからこそ仲良くなれる、好きになれる、幸せになれる。皆が同じ人間だったら何も面白くないでしょ?」

 

自分ばっかりの世界なんて想像もしたくないぜ。

 

「他人と違うなんて当たり前の事なんだ。だからさ、他人と違う事に引け目なんて感じる必要はないよ。違う事に意味なんてない。だって、それが当たり前なんだから」

 

マシンチャイルド?

いいじゃん、別に。だから何?

それぐらいに考えていいと思う。

 

「違う事に意味なんてない。ならさ、マシンチャイルドである事とそうでない事に意味なんてないんだよ。少なくとも普通に生活する限りはね」

「・・・それでも、マシンチャイルドだから、私は嫌われる」

 

嫌われる事に恐怖する。

ハハ。何だ、考え方だって唯の子供じゃん。

マシンチャイルドも普通の子供も大して変わんないんだ。

 

「マシンチャイルドだからって俺は嫌ったかい?」

「・・・え?」

「ミナトさんは? メグミさんは? 他の皆だってそうだ。セレスちゃんがマシンチャイルドだからって嫌う人がいたかい?」

「・・・いません」

「セレスちゃんがマシンチャイルドだって事は一生変わらない、うん、変わらないんだ」

「・・・・・・」

 

小さく息を呑むセレス嬢。

まだ、マシンチャイルドである事に開き直れていない。

ま、そんな簡単にうまくいくなんて思ってないけど。

 

「でも、マシンチャイルドでも嫌わない人はいる。嫌う人もいるかもしれないけど、嫌わない人だっているんだ」

 

絶対にそうとは言い切れない。

でも、少なくとも、ナデシコクルーは嫌わないでくれる。

 

「マシンチャイルドは他の人と違う。それは仕方のない事だ。でも、違う事に意味なんてないんだから、周りが違うっていうんなら言い返しちゃいなよ。同じ人なんていないって」

「・・・・・・」

 

無言のセレス嬢。

まだ結論は出ないって所かな。

ま、それもそうか。

コンプレックスがすぐに解消される訳ないもんな。

俺だってコンプレックスの一つや二つぐらいある。

誰だって一つぐらいは必ず持っているもんだ。

マシンチャイルドであろうとそうでなかろうと老若男女問わず必ずな。

セレス嬢がコンプレックスを抱えるのも生きている上では必然って訳だ。

解消方法は色々あるけど、やっぱり一番は時間かな。

時間がいつの間にかコンプレックスを解消していたなんてよくある話だ。

セレス嬢のコンプレックスも時間が解決してくれるかもしれない。

セレス嬢の一生はまだまだ長いんだから。

 

「急に変な事を言ってごめんね。でも、覚えておいて。セレスちゃんがマシンチャイルドだからって他人と比べる必要はないんだって事。他人は他人。自分は自分だよ」

「・・・はい」

 

少しでもセレス嬢のコンプレックスが薄まっていたらいいなと思う夜の事でした。

 

 

 

 

 

「そっか。特別扱いしつつ唯の人間だって自覚させたいのか」

「はい。普通の人間だよって諭してあげるのも良いと思いますが、いずれ他人とは違うと気付く事態に直面すると思うんです。その時、そっちだと受け止められるのかなって」

 

毎晩恒例の膝枕。

すっかり癖になってしまいました。

多少、遅くなってもミナトさんの部屋を訪ねるぐらいですから。

だ、だって、仕方がないでしょ。

あんなに気持ち良くて心地良くてゆっくり出来て癒される時間なんてないよ!

一度やったらやめられない。

あれはもう、あれだね、麻薬みたいなものだね。

常習性が高過ぎます。

膝枕依存症です、僕。

 

「そうね。私はそこまで考えてなかったわ。ただ普通の子供のように扱ってあげようって」

「それでいいと思いますよ。ただ、マシンチャイルドである事に眼を逸らさせないように接すれば良いんです」

「可哀想って思っちゃいけないのね。そう思う事自体が差別しているって事だもの」

「ええ。違うのは当たり前なんです。ちょっと特別な生まれをしたってだけで可哀想だなんて思っちゃ駄目ですよ」

「それもそうね。ふふふ。まさかコウキ君に諭される日が来るなんて」

「ば、馬鹿にしないでくださいよ。俺だって色々考えているんです」

「拗ねない。拗ねない」

 

優しく微笑んでくれるミナトさん。

あぁ。癒される。

弄られているのに癒されるとはこれ如何に。

今なら、前の世界の友達の気持ちが分かるような気がする。

 

「それにしても、ルリちゃんがそんなにアキト君の事をね」

 

ルリ嬢から聞いた事をミナトさんにも話した。

劇場版の時のルリ嬢とアキト青年の思いと共に。

 

「大切な人って断言していたぐらいですから。きっと長い間、追いかけていたんでしょうね」

「愛するが故に引き離す。愛するが故に私情を捨てる。方法は間違っているけど、アキト君の想いは本物ね」

「やっぱり間違っていますか?」

「ええ。だって、アキト君はルリちゃんの思いを無視して独り善がりな態度だったんだもの。正面から一度話し合った方がお互いに幸せになれたと思うわ」

「俺もそう思います」

 

言葉にしなくちゃ伝わらない。

話さなくても伝わる事はあるけど、話さなくちゃ伝わらない事の方がずっと多い。

 

「俺は尊敬しますよ、愛する人の為に修羅になりきれるテンカワさんを」

 

俺にそんな事は出来るのだろうか?

五感を失って、夢を失っても、絶望せず、生きる事を諦めず、戦い続ける事が。

 

「修羅・・・か。コウキ君にはなって欲しくないかな」

「ミナトさん?」

「愛する人を取り戻す為に修羅になった人を見るのは辛いもの。きっとコウキ君も同じように距離を置こうとするでしょう?」

 

そんな事になった時、俺が取る行動。

 

「俺の事は忘れて違う人と幸せになって欲しいと。そう思うと思います」

 

俺は相応しくないからって。

きっと距離を置く。

 

「誰だってそう思うものよ。私だってきっとそう思う」

「ミナトさんも?」

「ええ。・・・別に私はアキト君を軽蔑している訳じゃないわ。むしろ、立派な事だ思う。そこまで愛される人は幸せだと思う」

「幸せ・・・ですか」

「でも、私は傍で愛して欲しい。遠くからじゃなく、近くで」

 

傍で・・・か。

テンカワさんも葛藤があったんだろうな。

俺にその資格はないって。

帰りたいけど帰れない、いや、帰らない。

罪の意識はテンカワさんにとってそれだけ重たかったんだ。

 

「どうしようもなかったんだと思います。巻き込まれたのはアキト青年のせいじゃないですから。不幸の始まりは・・・」

「分かっているわ。アキト君を攫った組織が悪いって事は。そうでなければアキト君は素直に傍で愛していられたって事も」

 

どうしようもなかった。

攫われたアキト青年が悪いだなんて思える筈がない。

アキト青年はあくまで被害者なのだから。

 

「理不尽なのね、世界って」

「・・・ええ」

 

強くなりたい。

理不尽に抗える力が欲しい。

テンカワさんはきっとそう強く思っている。

経験したらこそ余計に。

 

「コウキ君は力が欲しい? 理不尽に抗える」

「分かりません。経験のない俺には」

 

その時にならないまで力を求める事はない。

人間ってそういうもんだと思う。

変な所で楽天的で、いざという時に楽天的だった己を恨む。

実際に経験しないと分からないんだ。

経験した人の話を聞いても、どこか他人事のように思って。

 

「そうね。それじゃあ、私が死んだら、コウキ君はそう思ってくれるのかな」

「・・・死なせませんよ、絶対に」

 

絶対になんて断言できる訳がない。

それでも、俺は断言する。

これは俺の誓いだから。

 

「俺も生き抜いて、ミナトさんも生き抜いてもらいます。俺の目指す平穏な生活にミナトさんは欠かせませんから」

「そっか。それじゃあ死ねないわね」

 

死なせない。

戦争が何だってんだ。

 

「俺、色々と考えているんですよ。ナデシコを降りた後とか」

「あら。気が早いのね」

 

夢を考えるのに早い遅いはありませんよ。

 

「プログラマーとしてきちんと仕事に就くってのも良いですが、教員免許を取って教師なんてやってみるのも良いかなって」

「へぇ。教師か。コウキ君は面倒見がいいからもしかしたら向いているかもね」

「ミナトさんもどうです? 教員免許、持っていましたよね」

「うふふ。それもいいかもね。一緒に教師か」

「あ。でも、色々と心配だから専業主婦にしません? ガキ共が色目を使いそうなので」

「あら? 養ってくれるの?」

「それぐらいの甲斐性はみせますよ」

「ま、考えとくわ」

 

きっと楽しい生活に違いない。

未来に思いを馳せるのは生きる者の特権だ。

誰だって幸せになりたいのだから。

 

「それじゃあ、そろそろ・・・」

「え、えぇっと、その、ですね・・・」

「いいから、いいから、いらっしゃいな」

 

今日の夜も長そうです。

 

 

 

 

 

「すいません。アキトさんの事を話してしまいました」

「構わないさ。事情を知らなければ混乱するだけだろうからな。それより、どうだった?」

「結論から言いますと、彼は唯の人間ではありません。私と同等のハッキング能力があります」

「ルリちゃんと同等か。確かに普通の人間ではないな。IFS強化体質か?」

「あの年齢のMCは記録上では存在しません。それに、彼の経歴に怪しい点はありませんでした」

「両親が研究者か。もしやナノマシン工学を?」

「経歴ではそうでした。ですが、マエヤマという研究者の名前は聞いた事がありません」

「知らなかっただけという考えもあるが・・・ありえないか」

「はい。もし、通常の人間がMC並のオペレート能力を得られるようなナノマシンを開発したら、今頃知らない人はいない程に有名になっている筈です」

「もしや・・・」

「どうかしました?」

「あいつの両親も殺されたのではないか? 俺の両親のように」

「・・・確かに二年程前に両親共に死去していますね。たしか交通事故だった筈です」

「危機を察知したあいつの両親は息子のあいつにそのナノマシンを託して地球に戻らせた。そのナノマシンの恩恵で天才プログラマーとして名を馳せている」

「しかし、それが事実だとしたら、有名になった彼を見逃す訳がありません。必ずナノマシンを確保しようと―――」

「だから、ナデシコに乗ったとは考えられないか? 危険を察知して。ナデシコならば、とりあえずは周りと隔離される」

「・・・なるほど。可能性はありそうです」

「真相は分からんが、何となくあいつの正体は掴めてきたな。頭が回るのも両親の影響か」

「かもしれませんね。得られた情報は僅かですが、試してよかったです」

「ビックバリアの解除とあいつの調査を同時に行う。悪くなったな、ルリちゃん」

「色々ありましたから。艦長の経験はこういう所でも役に立っています」

「そうか。何はともあれ注意は必要だな」

「・・・はい」

 

 

 

 

 

「これより相転移エンジンの全力稼動テストを行います」

 

急遽告げられる稼動テスト。

サツキミドリに到着する時間を早める為って所か。

じゃあ、要求したのはテンカワさんかルリ嬢だな。

 

「どうして、そんな事を?」

 

おぉ。ジュン君。

頑張って目立ってくれ。

ビックバリアの時、戻ってきた事にすら俺は気が付かなかったから。

 

「リーダーパイロットであるテンカワさんの希望でしてな。宇宙空間においてどれだけの出力を得られるのか。全力で稼動させたらどれだけの出力になるのか。把握しておきたいとの事で」

「流石はリーダーパイロットだ」

 

絶賛する前に自分で気付きましょうよ、戦闘指揮係さん。

でも、理由としては最もらしい。考えたな、テンカワさん。

 

「万が一、エンジンの稼動に問題があっても、サツキミドリコロニーで改修できますからな。いやはや、提案して頂いて助かりましたよ」

 

そっか。一度もテストしてないから、どうなるか分からないのか。

開発途中で稼動テストをしたって話も聞かないし。実験艦って事? まさかね。

 

「そもそもどうしてサツキミドリコロニーに向かうんですか?」

「サツキミドリコロニーではパイロットが合流する予定なのです。また、物資を確保しておきたいと思いましてな」

 

パイロット三人娘か。

全員、キャラが濃いんだよなぁ。

 

「慌てて軍ドックから脱出したので、全ての物資を載せる事が出来なかったのですよ。現状でも火星までの往復は出来ますが、念の為です」

 

三日前に強引に出航だもんな。

予定通りに行かなかった訳だから、載せる予定の物資も載せられなかったと。

 

「合流するパイロットはどんな奴なんだ?」

 

気になりますか? ヤマダ・ジロウ。

原作では合流する前に脱落だもんな。

せっかく死なずに済んだんだ。生き抜いてくれよ。

 

「全員女性ですね。長くチームを組んでいた三人組ですので、連携も素晴らしく、各々の腕も高いです」

 

近距離担当のスバル・リョーコ。

中距離担当のアマノ・ヒカル。

遠距離担当のマキ・イズミ。

そこに近距離担当、というか、近接馬鹿のヤマダ・ジロウと万能のテンカワさんが加わる訳だ。

もし、俺がパイロットとして戦場に出るなら、中・遠距離を担当すべきだな。

ま、格闘技も何も身に付けてない俺だ。射撃の方がまだ頑張れるだろ。

ゴートさんから筋が良いって褒められたし。

必須能力である視力の良さは誰にも負けないぜ。

 

「そうか、そうか。所でよぉ、マエヤマ・コウキ!」

 

ん? 突然、何だろう? 俺、何かしたか?

 

「何だ?」

「てめぇは何なんだ!? パイロットなのか、そうじゃないのか!? ハッキリしやがれ!」

 

ハッキリしろと言われても。

 

「俺は予備パイロットですから。緊急事態や絶対数が足りない時のみ出撃します」

「それが中途半端だって言っているんだよ! どっちかにしやがれ! パイロットなのか、そうでないのか」

 

・・・困ったな。

今となってはパイロットになる事にそこまで拒否感はない。

でも、人数的に充分な気もするし、俺の役目はない気がするのだが。

 

「マエヤマさんには万が一の為に控えてもらっているのです」

「秘密兵器ってか? それ程の腕がそいつにあるのかよ?」

 

俺って舐められている?

ねぇ? 舐められているのかな?

 

「いいですよ。そこまで言うのなら、サツキミドリコロニーでパイロットが合流したらシミュレーションで模擬戦をしましょう」

「・・・コウキ君、子供みたいよ」

 

呆れないで下さい、ミナトさん。

男は舐められたら見返してやらないといけないんです。

 

「よっしゃ。いいだろ、このガイ様が相手をしてやるぜ」

 

ふふふ。調子に乗っていられるのも今の内だぞ、この野郎。

 

「蜂の巣にしてやる」

「お、お手柔らかにね、コウキ君」

 

負けられない戦いがそこにはある!

やぁぁぁってやるぜ!

 

 

 

 

 

「こちらネルガル所属機動戦艦ナデシコ。着艦許可を御願いします」

「こちらサツキミドリコロニー。了解しました。それよりも、君、可愛い声してるねぇ。どう? この後なんて」

「う~ん。どうしようかなぁ」

 

声だけで判断しない方が良いんじゃないかな、お互いにさ。

まぁ、ちょっとした挨拶みたいなもんだと思うけど。

 

「・・・サツキミドリコロニーって襲われるのよね?」

「・・・今回は予定より早く着きましたからね。襲撃前に間に合ったのかと・・・」

 

でも、この後、どうするつもりなんだろ。

早く着いたからって対処できる訳でもないし。

住民を逃がそうにも、どうやって説得するのさ。

いきなり襲われるから逃げろっていっても相手は納得しないよ、多分。

会長命令とかならいけそうだけど、アカツキ会長はテンカワさんと繋がっているのかな?

その辺りがイマイチ分からん。

どうするんだろう? テンカワさん達。

 

「それでは、これより休憩と致しましょう。明日出航する為、今日中に戻ってきて頂ければ結構です。メグミさん、艦内放送を御願いします」

「はい」

 

ほぉ。休憩ですか、プロスさん。

ま、ブリッジクルーは交代でとか言うんだろうけどね。

食堂とか整備班とかはどうなるんだろ?

ま、どっちも班長がその辺りをきちんと仕切ってくれるか。

ウリバタケさんもホウメイさんもリーダーシップがあるし。

 

「ブリッジクルーは交代で休憩としたいのですが、よろしいですか?」

 

ま、当然だよね。いざという時に困るし。

襲撃はいつなんだろう? 詳しい日時が分からん。

 

「アキトォ! 私と一緒に―――」

「俺はやる事があるのでな。失礼する」

 

ユリカ嬢がデートに誘う前にテンカワさんはブリッジから抜け出す。

あ。ユリカ嬢が灰になっている。

 

「ユリカ。それなら、僕と一緒に―――」

「えぇぇぇん。アキトが私を置いていったぁ。あ、違うわ。きっと私のプレゼントを買う為の別行動なのよ。もう、アキトったら、照れ屋なんだから」

「ユ、ユリカ?」

「もうもうもう。アキトったら・・・」

 

そこまで妄想できる貴方が凄いと思います。

ついでに隣で灰になっている人に気付いてあげてください。

 

「ブリッジクルーは交代で休憩としたいのですが、よろ―――」

「よぉし、俺は街でゲキ・ガンガーグッズの掘り出し物を探すぜ。レッツ・ゲキガイン!」

 

元気だね、ヤマダ君。

 

「ブリッジクルーは交代で休憩とし―――」

「コウキ君、どこか行く?」

「ミナトさん、話を聞いてあげましょうよ」

 

プロスさんが可哀想ですから。

 

「・・・・・・」

 

ほら。頭を抱えていらっしゃる。

 

「プロスさん。私が残りますので皆さんで休憩するのがよろしいかと」

「残るというのですか? ルリさん」

「はい。私はブリッジでする事がありますので、休憩の必要もないですし」

「いえ。そんな訳には」

「・・・私も残る」

「ラピスさんもですか? しかしですね」

 

ルリ嬢とラピス嬢が残ると言い出す。

用心の為に残っていたいという訳か。

つまり、テンカワさんも待機しているって訳だな。

 

「ワシも残ろう。出歩くのは疲れるのでな」

 

フクベ提督もか?

 

「俺も残る。特にやる事もないのでな」

 

ゴートさんまで。

 

「私が言いたいのは誰が残るではなく、順に休憩して欲しいという事で」

「私は休憩扱いで構いませんよ。どうせ、外に出る事もないでしょうし」

「・・・私も」

「ワシは自室で茶を飲むくらいじゃ」

「特にやる事もないのでな」

 

プロスさん、やっぱり、胃薬あげましょうか?

とても痛そうに胃を摩っていますし。

 

「そうですか。それでは、皆様方はお休み下さい。残るのは構いませんが、必ず二人はブリッジにいるように御願いしますぞ」

 

そう言って、胃に手を当てながら去っていくプロスさん。

心中、お察しします。

 

「ねぇねぇ、折角だから遊びにいきましょうよ」

「そうですね。折角の休憩ですから」

 

休憩していいなら休憩しますよ。

但し、すぐに動けるようナデシコが停泊している港周辺だけのつもりですが。

 

「どうしよっかなぁ。誘われちゃったし、お茶してこようかな」

 

メグミさん、マジですか?

 

「ユリカはどうするの?」

「う~ん。折角だし私も外に―――」

「あ。艦長は書類整理を御願いします。溜め込まれたら各部署に支障が出ますので急いで処理するように。では」

「・・・・・・」

 

再度、灰になるユリカ嬢。

というか、プロスさん、なんてナイスなタイミング。

これ以上ないってタイミングで戻ってきましたね。

すぐ行っちゃったけど。

 

「ユ、ユリカ。元気出して。僕も手伝うから」

「うぅぅぅ。ありがとう、ジュン君。やっぱりジュン君は最高の友達だね」

「う、うん。友達の為なら何だってするよ」

「流石ジュン君」

 

・・・心の涙に気付いてあげてください、艦長。

というか、実際に心ではなく涙を流していますから。

見えませんか? 悲しみの涙が。

 

「可哀想にね。あのままじゃ気付いてくれそうにないわよ、艦長」

「副長の押しが弱いのかと。友達宣言に噛み付くぐらいの事はしないと駄目ですよ」

「うふふ。これからが楽しみね」

 

他人の恋愛観察が趣味みたいなものですからね、ミナトさんは。

 

「・・・・・・」

 

ん? セレス嬢。

 

「・・・・・・」

 

どうかしたのかな。ボーっとしているけど。

 

「セレスちゃん。えっと、どうかした?」

「・・・いえ。休憩と言われても何をしたらいいのか分かりませんから、どうしようかと考えていました」

 

ま、また軽くヘビーな話を。

 

「ミナトさん。あの・・・駄目ですか?」

「もぉ。しょうがないわね。今回だけよ」

 

一言だけで分かってくれるミナトさんは素敵な女性だと思う。

 

「セレスちゃん」

「・・・何ですか?」

「一緒にお出掛けしない? きっと楽しいよ」

「・・・お出掛け・・・ですか?」

「そうそう。買い物したり、映画見たり、食事したり。とにかくきっと楽しいから、一緒においでよ」

「・・・いいんですか?」

 

何を不安そうに。

聞き返す必要なんてないっての。

 

「当たり前じゃん。こっちから誘っているんだからさ」

「・・・じゃあ、御願いします」

「任されました」

 

頭を下げてくるセレス嬢の頭を撫でながら了承。

ハッ! いつの間に手の平が頭に。これが魔力か。

 

「それじゃあ、出掛けるから着替えておいで」

「・・・私、着替えありません」

「え?」

「・・・制服しか持っていませんから」

 

おいおい。ネルガルさんよぉ。そりゃあないだろ。

もっと女の子として扱ってやれよ。

 

「ミナトさん」

「ええ。決まりね。まずは洋服を買いに行くわ」

 

相変わらず素敵です、ミナトさん。

何も言わなくても理解してくれるんですから。

 

「その前に私の部屋にいらっしゃい。服あげるから」

「え? ミナトさんの服をですか?」

「念の為に子供の時の服を持ってきておいたのよ。やっぱり正解だったわ」

 

準備が良いですね。最早、流石という他ありません。

 

「ほら。セレスちゃん。行くわよ」

「・・・はい」

 

セレス嬢の手を握って去っていくミナトさん。

ま、集合場所と時間は後で連絡すればいいか。

コミュニケで通信したら着替え中でしたなんていうベタな事にはならないようにしないとな。

 

「とりあえず、俺も着替えてくるとしますか。それじゃあ、留守番、御願いしますね」

 

待ってもらう四人に頭を下げた後、俺もブリッジから抜け出した。

さて、着替えて先に待っていますか。女性の着替えは長いですからね。

 

 

案の定、三十分程待たされました。

ま、覚悟していたから気にしないけどね。

むしろ、よくぞ三十分で済ませてくれた。

俺の友達は男の癖に一時間遅刻してきやがったからな。

思いっきり蹴ってやった記憶がある。

元サッカー部のキック力を甘くみんなって所だ。

 

「ごめんごめん。待った?」

「いえいえ。今来たところですよ」

 

と、ベタな会話をこなしつつ、デート?プランを決める。

 

「まずはセレスちゃんの服を買いにいきましょう」

「無論です」

「その後はコウキ君のエスコートって事で」

 

えぇ? 俺に任せるの早くない?

まずって言ったから結構計画してくれているのかと思っていたのに。

 

「女の子をエスコートするのは男の義務よ。これも勉強、勉強」

「き、緊張するんですけど・・・」

 

俺としてはミナトさんに任せたかった。

そっちの方が気楽だし。

俺が決めるとなると、間違ってないかなとか不安になるし。

ぐあぁぁぁ。どうしよう。

 

「そんなに深く考えなくていいわよ。軽い感じでさ。高級レストランにエスコートしなさいって言っている訳じゃないんだから」

 

それでも緊張するものは緊張するんです。

・・・相変わらず情けないな、俺。

 

「こ、ここは恒例のウィンドウショッピングですね。雑貨店って回るだけで楽しくありませんか?」

「ま、合格ね。そうしましょう。もちろん、コースはコウキ君が決めるのよ」

「え、ええ。任せてください」

 

ま、まぁ、その場凌ぎで何とかなるだろ。

 

「さて、コウキ君、出掛ける前に何か言う事ない?」

 

えぇっと、何だろう?

 

「いえ。特には」

「・・・・・・」

 

無言で睨むのはやめて下さい。

非情に居心地が悪いです。

 

「もぉ。減点。失格。退場」

「えぇ!? 始まる前から大失態!?」

 

な、何だ? 何なんだ?

 

「せっかく気合入れてきたんだから、気付きなさいよね」

「気合?」

 

あ。そういう事でしたか。

不慣れなもので。

 

「えぇっとですね・・・」

 

でもさ、こういうのって眼の前で言うのかなり恥ずかしいよね。

クゥ。世の軟派男の勇気を少しでいいから分けて欲しい。

オラに勇気を分けてくれと叫びたいが恥ずかしいからやらない。

 

「と、とても似合っていて、えっと、素敵だと思います」

 

真っ赤だろ? そうだろ? 真っ赤です。

それぐらい自覚しています。恥ずかしいものは恥ずかしいのです。

 

「ズバッと言わないと男らしくないぞ」

 

頬をつんつんしないで下さい。これでも頑張った方です。

 

「はい。次」

「次?」

 

ミナトさんの次?

あ。セレス嬢。

 

「セレスちゃん」

「・・・はい」

「とっても可愛いね。良く似合っているよ」

 

セレス嬢の銀色の髪と純白のワンピースが眩しいくらいに映える。

妖精って言われても違和感ない。むしろ、俺が妖精と讃えたい。

 

「・・・あ、ありがとうございます」

「何でセレスちゃんの時はズバッと言えるのよ」

 

照れる顔も可愛らしい。

ミナトさん、それは仕様です。

 

「セレスちゃんは何を着せても可愛くてね。悩んで悩んでこれにしたの」

 

そうですか。それで時間がかかったんですね。

というか、何着持ってきたんですか? 子供服。

 

「じゃあ、離れ離れにならないように手を繋いでいきましょうか」

「そうですね。じゃ、俺がセレスちゃんの左手を」

「私がセレスちゃんの右手ね」

「・・・御願いします」

 

颯爽と飛び出す俺達。

繋がれた右手からはどこか楽しそうな雰囲気が伝わってくる。

ミナトさんも笑顔だし、セレス嬢もちょっと頬が緩んでいる気がする。

楽しんでくれたら嬉しいな。

 

「・・・・・・」

 

右手に感じるセレス嬢の小さな手の感触。

なんか、昔の事を思い出すなぁ。

俺が小さくて、周りも小さい頃、従妹の手をこうやって繋いでいたっけな。

今は成長していて、そんな事はさせてくれないと思うけど。

・・・皆、元気にやっているかな? 

あの世界にはちゃんと俺がいるから、心配はないと思うけど。

やっぱり・・・少し寂しいかな。

 

「ほら。行きましょ。コウキ君」

「・・・いきましょう」

 

でも、今の俺にもこうやって一緒に歩いてくれる人がいるんだ。

寂しいけど、俺の世界はもう既にこっちの世界だもんな。

俺はこっちの世界で幸せに暮らすんだ。

俺の手を引っ張る小さな手の感触と二つの暖かな笑顔を前に俺はそう再度誓った。

 

 

 

 

 



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サツキミドリ攻防戦

 

 

 

『パイロットのスバル・リョーコだ』

『アマノ・ヒカルでぇ~す』

『マキ・イズミ』

 

予定より早く着艦したから、繰り越しでパイロット合流となった。

うんうん。やっぱり濃い三人組だなぁ。

プロスさん、司会の方、御願いしますね。

 

『それでは、恒例の質問タイムに移りましょう。皆さん、挙手を御願い―――』

『はい!』

 

元気ですな、整備班の方々。

 

『俺達にも漸く春がやってきた!』

『マエヤマの野郎のせいで鬱憤が溜まっていたんだ。これで、俺達にもチャンスが』

『な、何だってやってやるぞ。か、彼女達の為なら』

 

今までパイロットは男だけだったもんな。

整備班って役職的に女性とかいなさそうだし。

あ、でも、技術士官って大抵女性のイメージがあるんだけど、どうなんだろう?

やっぱり、連合軍とかはそうなのかな?

ま、こっちは開発主体じゃないもんな。

あくまで整備班だし。

 

「元気ねぇ」

「あ。ミナトさんも、そう思います?」

「叫び声が聞こえるじゃない。画面越しだけど」

 

呆れた表情を見せるミナトさん。

ま、男達のああいう叫びは呆れるか。

 

「コウキ君は行かなくてよかったの?」

「えぇ。艦長を始め多くのブリッジクルーが格納庫に行っちゃったじゃないですか。流石にブリッジを空には出来ませんよ」

 

艦長も副長もどっちか一人は残ろうよ。

というかさ、残っているのが提督と俺達とセレス嬢だけってどうなの?

まぁさ、俺が通信士をやればとりあえずは何があってもある程度は運営できるけど、自己紹介の為にいちいち格納庫に行かなくても。

いずれブリッジまでやって来るんでしょ? その時でいいじゃん。

 

「ルリちゃん達まで行ったのは意外ね。あの子、性格的にこっちに残りそうなのに」

「そうですね。俺も残ると思っていました」

 

確かに意外だ。

ルリ嬢もラピス嬢もわざわざ格納庫まで出向くなんて。

どうしてだろ?

 

「何か気になる事でもあったのかしら?」

「さぁ? 何を気にするんでしょうか?」

 

格納庫に向かった理由ね。

まさか、このタイミングで襲撃!?

い、いや、それなら、ルリ嬢が持ち場を離れる訳ないし。

多分、違う。

それなら、どうしてだろう?

 

「ま、私達が考えても分からないものは分からないわ。後で訊いてみましょ」

「そうですね」

 

考えても仕方ないか。

逆に考えて、ルリ嬢がいないって事はまだ襲撃もないって事だ―――。

 

「・・・前方より機影反応。木星蜥蜴です」

「ま、マジで? セレスちゃん」

「・・・マジです」

 

か、艦内放送。

非常事態だよ、エマージェンシーだよ、おい。

 

「艦内全クルーに告げる。前方より木星蜥蜴迫る。前方より木星蜥蜴迫る。直ちに持ち場に付き、戦闘準備を。前方より木星蜥蜴迫る。直ちに持ち場に付き、戦闘準備を」

 

いつもはメグミさんがいる所に飛び移り、急いで通信。

緊急事態だから急いでくれ。エマージェンシーコールもそろそろ鳴るから。

 

『な、何々?』

「艦長。急いでブリッジまで戻ってきてください! 木星蜥蜴が現れました! 指揮を御願いします」

『は、はい。とりあえず、出港準備を始めておいてください。急いで戻ります』

「了解しました」

 

ユリカ嬢からの通信を受け、俺達も準備に移る。

 

「セレスちゃん。俺も手伝うから発進シークエンスを」

「・・・はい」

「ミナトさんはいつも通りに」

「はいはぁい」

 

気楽な返事ながらその行動は的確かつ素早い。

セレス嬢とて一緒に訓練してきたんだ。多少覚束なくとも仕事は早い。

この分なら・・・。

 

「お、お待たせしましたぁ!」

 

準備中、急いだ様子のユリカ嬢の到着。

その後ろからは・・・。

 

「・・・む」

「遅れました」

「・・・遅れた」

 

ゴート氏に肩車された少女二人もご到着。

うん。ゴートさん。少女でも女性ですからね。

分かります。顔真っ赤です。

 

「す、すいません」

「申し訳ありません。はい」

 

メグミさん、プロスさんも到着っと。

 

「メグミさん」

「はい。代わります」

 

パッと席を立ち、自分の席に戻る。

さて、念の為にレールカノンの準備をしておくかな。

 

「パイロットは先行出撃。守護隊と共に迎撃に当たってください。メグミちゃん、サツキミドリ側の対応を訊いて」

「はい」

 

懐からサングラス的なものを取り出し、装着。

 

「オモイカネ。レールカノンセット」

『レールカノンセット開始』

 

まるで自分の身体から新しい腕が生えたかのような感覚。

俺のナノマシンでなければ、こんな感覚は味わえないだろう。

普通のだったら、ただ両手でそれぞれ銃を持っている程度だと思う。

だが、俺の場合は何百に近い腕の感覚がある。

俺とて怠けていた訳ではない。最初にこれをした時は頭痛で二時間ほど苦しんだが、今では大分慣れてきた。

日頃のシミュレーションも馬鹿に出来ないぜ。

 

「・・・発進準備。完了しました」

 

良くやったぞ、セレス嬢。

 

「機動戦艦ナデシコ、発進!」

「機動戦艦ナデシコ、発進します」

 

まずは襲ってくる蜥蜴野郎共を蹴散らさないとな。

俺のレールカノンが火を吹くぜ。

 

「グラビティブラスト発射準備」

「グラビティブラスト発射準備開始します」

『レールカノン、セット完了』

「DFを張りつつ前進。敵をナデシコで食い止めます」

 

サツキミドリを優先って事か。

目的を最優先する艦長なら物資の積み込みも終わったし、とっとと逃げるんだろうけど。

ま、ナデシコでそんな事は考えられないか。

 

「グラビティブラスト発射直前にDFを解除します。マエヤマさん、その際に敵を絶対に近付けないで下さい」

「了解」

 

絶対とは断言できないが、やれるだけやってやる。

 

「発射後からDFを発動するまでの間は無防備になります。ルリちゃんはその間に弾幕を。マエヤマさんは絶対に敵を近づけないで下さい」

「了解」

「りょ、了解」

 

注文が多いっての。

というか、同じ事を繰り返し言わなくても大丈夫ですよ。

分かっていますから。

 

「グラビティブラスト発射準備完了。いつでも撃てます」

「メグミちゃん。投射線上から退避するようパイロットに通信を御願いします」

「はい」

 

戦闘時の通信士の役目ってかなり大きいかもしれないな。

 

「退避完了です」

「DF解除」

「DF解除します」

 

さて、俺の出番か。

コンソールに手を置き、意識を集中させる。

眼を閉じ、眼を開くと画面に映るのは多くのカメラ映像と敵の情報。

その一つ一つを解析し、瞬時に照準をつけて発射。

ロックオン機能搭載かつ多重ロックオンだ。

外してたまるか。

前方はグラビティブラストに任せるとして、俺はそれ以外と接近中の敵を殲滅する。

 

「グラビティブラスト発射ぁ!」

「グラビティブラスト発射します」

 

駆け巡る黒い波動。

重力波が敵を押し潰し、前方の敵を踏み躙っていく。

おっと、見惚れている暇はないな。

後ろ!

 

「グラビティブラストチャージと同時にDFの発動準備」

「グラビティブラストチャージ開始」

「・・・DF発動まで一分かかる」

「マエヤマさん。一分間、敵の攻撃に耐えてください」

「はいよぉ」

 

クソォ。いくら撃っても敵が減らない。

前、横、後ろ、上、下。

全方位から迫る敵を対処するのは脳に負担がかかりすぎる。

俺の脳がオーバーヒートしちまうっての。

 

「エステバリス隊はどうなっていますか?」

「サツキミドリコロニーより重力波を支給してもらい、サツキミドリの防衛に当たっています」

「・・・マエヤマさんを信じます。サツキミドリを絶対に護り切るよう伝えてください」

 

え? エステバリスのフォローはなし?

マジかよ!?

 

「ルリちゃん、弾幕は?」

「現状でナデシコの出せる弾幕は限界です。後はマエヤマさんにお任せするしかないかと」

 

嘘だろ!? こんなんでナデシコを守り通すつもりだったのか?

弾幕薄いぞって。何やってんのって。

 

「後方のバッタよりミサイル一斉発射。弾幕、間に合いません!」

「マエヤマさん!」

 

ひ、引き受けなっきゃ良かった。

何だ? これ。 何の拷問!?

クソッ! やってやるぜ!

ナデシコの後ろ側に配置されている全レールカノンを一斉に操作。

全ての照準を後ろに回してロックオン。

 

「発射ぁ!」

 

絶える事なく撃ち続ける。

数が数だから仕方ない。

視界一面ミサイルってかなりの恐怖感ですから。

ん? うわ、やばっ!

 

「ミサイル数発が弾幕を潜り抜けました」

 

解説どうも、ルリ嬢。

揺れるけど、許してくれ!

それと整備班さん、苦労をおかけしてごめんなさい!

 

「ほっとぉ」

 

ん? あら? あれれ?

揺れない。

攻撃喰らったんじゃないのか?

 

「回避成功ってね」

 

さ、流石、ミナトさん。

俺には見えないけど、きっといつもの頼もしい笑顔を浮かべているに違いない!

 

「私がフォローするから頑張りなさい、コウキ君」

 

そこまで言われたらやるしかないだろ。

 

「・・・DF発動する」

 

・・・さいですか。

 

「お疲れ様です、マエヤマさん。次の発射まで休んでいてください」

 

あと何回グラビティブラストを発射する機会があるのだろうか?

その度にこれだと頭がぶっ壊れちまうって。

 

『こちらテンカワ。ブリッジ応答願う』

「あ、はい。こちらブリ―――」

「あぁ! アキト、どうしたの? 私になんか用?」

 

・・・はぁ。

どうしてテンカワさんが絡むとこうなっちゃうかな。

戦闘中はかなり頼りになる艦長なのに。

 

『サツキミドリの守備が足りない。マエヤマを出して欲しい』

「・・・え?」

 

俺っすか?

え? マジ?

 

「マエヤマさん。御願いします」

「えぇっと」

 

そう御願いされてもな。

いきなり過ぎてちょっと心の準備が。

 

「サツキミドリが危険です。急いでください!」

 

あぁ。もう!

分かったよ!

 

「了解しました」

 

コンソールから手を放してレールカノンの操作をオモイカネに返す。

 

「ルリちゃん。ごめん。後は任せた」

「任されました」

 

オペレーターのリーダーであるルリ嬢に連絡を終えた後、急いで俺は格納庫へ向かう。

 

「無理しないでね、コウキ君」

「・・・頑張ってください」

 

背中にかかる応援の声でやる気を漲らせながら。

 

 

 

 

 

「おう。話は聞いているぞ。知っていると思うがお前のはあれだ!」

 

メタリックシルバーの俺専用エステバリス。

OG戦フレームの武装は・・・。

 

「武装はどうなっています?」

「腰の所にイミディエットナイフが二本。ラピッドライフルはすぐに持ってこさせる」

 

ナイフとライフルだけか。

やっぱり貧弱だな。もうちょっとバリエーションが欲しい。

レールカノンの予備パーツとかで武器を作ってもらおう。

 

「了解しました」

 

タラップを利用してアサルトピット内に乗り込む。

俺の為の俺による俺だけの改造アサルトピット。

自慢じゃないが、俺以外が動かそうとしても無理だと思う。

多分、すぐに頭が痛くなるだろうし。

制御も容易じゃないよ。俺のナノマシン以外だと。

ウリバタケさんからはお前馬鹿だろ? 使いこなせる訳がねぇよって言われた。

それからは使ってない時には普通の状態にして、俺が使う時だけ特別仕様にする事にした。

そうじゃなっきゃ変に思われるでしょ? ありえない程に高機能だし。

だから、ウリバタケさんからは普通のアサルトピットにしか思われてない。

だが、しかし、俺の手がコンソールに触れると・・・。

 

『搭乗者確認。マエヤマ・コウキ。カスタム状態に移行します』

 

命名、カスタム。

普通の名前でしょ? でも、この性能は半端ない。

きっとさるお方もナデシコのエステバリスは化け物か!? って言ってくれる筈さ。

 

「準備完了です」

 

ブリッジに連絡。

腰のナイフも確認。

両手にライフルを持ち、発射台に立つ。

 

『発進御願いします』

「エステバリス0G戦フレーム。行きます!」

 

動き出す発射台。

 

「ク、クソッ! 何てGだ。これでも緩和しているってのに」

 

簡易的だけど、重力緩和装置を搭載したのに。

それでもこれだけのGってどゆこと?

ジェットコースターは苦手な部類に入ります。

自分で動かす分には大丈夫なんだけどね。

という訳で、現在、結構やばいです。

 

「艦外に出ます。御気をつけて」

「了解」

 

頑張りますよ。通信どうもね、メグミさん。

しかし、今更だが、俺ってこれが初陣じゃん。

やっば。心臓がバクバクいってきた。

 

『マエヤマ。重力波はサツキミドリからもらえる。まずは急いでこっちに来い』

「了解しました」

 

全速で飛ばす。

全身に纏わり付く恐怖の感情を忘れるように無我夢中で。

だが・・・。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ」

 

・・・そんな事は無駄だった。

怖い。怖すぎる。

全身が恐怖で震える。

唇は乾燥し、頭の奥が痛み出す。

想像するのは死。

ありえる、いや、失敗すればいとも簡単に死ねる。

これはゲームなんかじゃないんだ。死んだらお金を入れてコンティニューなんて事は絶対に出来ない。

死んだらそれでおしまいなんだ。無情に無慈悲に死は訪れる。

何を俺は気楽に考えていたんだ。

俺は凄いって? そんなのシミュレーションの中の話だ。

ナノマシンが凄いとか身体能力が凄いとか、そんなの今の俺には全然関係ない。

身体は思い通りに動かないし、イメージする余裕なんて一切ない。

無理。無理だよ。絶対に無理。俺には戦えない。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

意識が朦朧とする。

視界がぼやけて息苦しい。

こんな事していたらやられるって分かっているのに、身体は動いちゃくれない。

イメージ? 機体を動かすイメージをしろって? そんなの無理だ。自分が死ぬイメージしか湧いてこない。

あぁ。俺はこのまま・・・。

 

『コウキ君。落ち着きなさい』

 

ミナト・・・さん?

 

『ゆっくり息を吸って』

「スーーー」

『そう。次はゆっくり吐いて』

「ハーーー」

『そうよ。その調子。ゆっくり深呼吸して』

「スーーーハーーー」

『落ち着いて。大丈夫だから。コウキ君なら出来る』

「スーーーハーーー」

『緊張するのも怖いのも分かるわ。私だってコウキ君が危ない眼に遭うと思うと怖いし胸が痛い』

「スーーーハーーー」

『活躍しようなんて考えなくていいわ。ゆっくり自分の出来る事をやってらっしゃい。無理だけはしちゃ駄目よ』

「・・・行ってきます。ミナトさん」

『ええ。行ってらっしゃい』

 

怖くなくなった訳じゃない。

今だって指先は震えているし、頭の奥で甲高い音は聞こえる。

でも、少し心が軽くなったのも事実。

こんなんじゃ到底活躍なんて出来そうにないけど、やれるだけやってみよう。

落ち着け、俺。いつものようにやればいいだけだ。

 

『来たか、マエヤマ』

「はい。遅くなりました」

『構わんよ。急だったからな』

「いえ。それで、状況は?」

『現在、サツキミドリの連中はシャトルで脱出中だ。合流した新パイロットの三人にその援護を任せてある』

 

シャトルで脱出か。

その分なら被害は減るな。

 

『ガイ、俺、お前の三人は敵を引き付けつつ各機撃破だ。離れすぎると孤立するからな。常にレーダーで確認しろ』

 

引き付けつつ撃破。

初っ端にしては厳しいミッションだな。

だが、やるしかないんだ。

俺の頑張りが脱出に繋がるのなら。

 

「了解しました。ヤマダ機が近接距離で戦闘しているので、俺は後ろから援護します」

『了解した。頼むぞ』

 

レーダーを確認。

ヤマダ機が引き付けた敵をテンカワ機が殲滅していく。

時にラピッドライフル、時にイミディエットナイフで容赦なく潰していくその姿は、まるで死神が死を運んできたかのようで。

・・・俺はテンカワさんに戦慄を覚えた。

 

「・・・あ。ボーっとしていちゃいけない」

 

思考停止状態からすぐに抜け出し、俺はライフルを両手に持つ。

気分は二丁拳銃のガンマン。

絶え間なく打ち続けられるスタイルな気がする。

命中率だけは自慢できるしな。

弾に限りがあるから調子に乗れないけど、外さないから許して欲しい。

 

「並列思考なんて立派なもんじゃないけど、シューティングゲームで培った同時射撃を見せてやる」

 

照準補正ソフトが勝手にロックオンしてくれるから、後は俺が把握できるだけの敵を全てロックオンして右と左とで撃ちまくる。

同時に左右で撃つからちょっと頭を使う。でも、それでも、俺はやり切ってみせる。

 

ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!

 

撃つ度に衝撃が走るが、そんな事は百も承知。

宇宙だとそれで勝手に移動しちゃうからより複雑な操縦技術が必要だけど・・・。

 

「シミュレーションだけは欠かしてない!」

 

飛び込んでくるバッタ。

スラスターを吹かして避ける。

その後、振り向き様に蹴り上げ、ライフルの弾で貫いた。

 

「まだまだぁ!」

 

格闘戦をこなす為に取り付けられた反重力推進機関の推進力を利用して向かってくるバッタを踏み台にする。

バッタを蹴ると同時に自らも飛び上がり、距離を置き、ライフルを放つ。

 

『マエヤマ、離れ過ぎだ。孤立するぞ』

 

いつの間にか遠くに来過ぎていたみたい。

道理で遠距離から援護のつもりが囲まれていた訳だ。

 

「離脱し、すぐに戻ります」

『応援は?』

「いりません」

 

この程度にテンカワさんの手を煩わせる訳にはいかない。

 

「何の為の二丁拳銃だって話だろ」

 

反重力機構によって足場を作り、そこにドッシリと降り立つ。

ここから動くつもりはないという事だ。

 

「ダァァァ!」

 

乱射。とにかく乱射。

両腕をあらゆる方向に動かしながらとにかく撃ち続ける。

但し、確実にロックオンはしている。

命中率は下がるが、それ程ではない筈。

 

「無駄弾もあったけど・・・殲滅完了だ」

 

周囲のバッタは全て残骸へと成り果てていた。

一応はきちんと狙っていたが、周りからは子供の癇癪みたいに見えただろうな。

泣き叫び、喚き出し、手をバタバタさせて敵を屠る子供。

・・・ある意味、怖いな。

幼女が巨大化してドラゴンと戦うゲームを思い出したよ。

・・・違うか。ドラゴンで巨大化した幼女と戦うゲームだ。

 

「さて、急いで戻らないとな」

 

こういう所が経験不足だと思う。

きちんとレーダーを見て確認しろって言われていたのに、戦闘に入ったらすぐに忘れちゃうし。

まだまだ修練が必要だな。

テンカワさんに鍛えてもらうか。

あ、後、ゴートさんにも射撃の練習を見てもらおう。

照準補正ソフトがあるから別に俺自身の技能はそんなに必要ないんだけど、イメージの問題だしね。

あぁ~。誰か俺に剣術とか格闘技とか教えてくれないかな。

俺の経験なんて体育の授業の柔道とチャンバラごっこぐらいしかないぞ。

はっきり言って、使えん。

ま、はっきり言わなくてもそうなんだけどさ。

 

「すいません。戻りました」

『了解した』

「サツキミドリの方はどうですか?」

『現在もシャトルが脱出している。あと少しと言っていたな』

「無事、脱出できたんでしょうか?」

『そうだな。脱出したシャトルの内、七割は生存、二割は撃沈、一割は行方不明といった所だ』

「そう・・・ですか」

 

助かった人もいた。でも、助からなかった人もいたんだ。

これが死。選択する事もできず、抗う事もできず、唯の物になってしまうという事。

・・・やっぱり、死ぬのって怖いな。

 

『死ぬのが怖いか?』

 

問われる。

多くの者を殺してきた者から。

 

「・・・もちろんです。誰だって死ぬのは嫌ですし、怖いものです」

『・・・俺は何度も死にたいと思ったがな。死んで楽になりたいと思った』

「それは例外ですよ。聞きました、ルリちゃんから。貴方は多くの犠牲を出してここにいるって」

『・・・・・・』

「犠牲になった者の怨念を感じましたか?」

『・・・ああ。いつだって感じているさ。悪夢として毎晩見るからな』

「それなら、それが貴方の罰です。死にたいと願うのは逃げだと思います。怨念を感じる? 当たり前です。誰が殺されて喜びますか?」

『・・・厳しい事ばかり言う』

「ルリちゃんは言っていました。貴方の罪を一緒に背負うって。貴方が楽になりたいからといって死んだ所で悲しみは消えないし、余計悲しむ者も出てきます」

『死ぬまで生き続ける事。それが俺の罰か』

「そうですね。それで赦される訳ではありませんが、罪を犯して何もないなんて事は絶対にないですから。等価交換って奴です」

『罪を犯せば罰が下る。当たり前の事だな』

「ええ。自分以外に裁く者がいない以上、貴方が貴方自身を裁くしかないんですから」

 

罪を犯してしまった。

刑務所に入れば罪が赦されるのか?

釈放金を払えば罪が赦されるのか?

どっちも違う。罪を犯したという事実は何も変わらない。

人を殺したという事実はその後に如何に人命を救おうと消える事はない。

一生、背負わなければならない業なんだ。

罪を犯したから自殺する。

そんなものは何の贖罪にもならない。

自分が殺した命と自分の命が同価値だなんて思い上がりでしかない。

一生罪に苛まれ、心に傷を抱えて、ようやく楽になれても及ばないと思う。

それでも、自殺という逃げ道に走るよりはずっと良い。

 

「休んでいる暇はありませんでしたね」

『・・・ああ。ガイの援護を頼む。俺は突撃する』

「テンカワさんなら大丈夫だと思いますが、気をつけてくださいね。貴方が死んで、悲しむ者はたくさんいるのですから。もちろん、俺も」

『ああ。分かっている。死にはしないさ。逃げたくないからな』

 

どこかテンカワさんには自殺願望があったのではないかと思う。

だから、俺は改めて思う。ルリ嬢やラピス嬢に彼を支えてあげて欲しいと。

押し潰されないように、隣で支えてあげて欲しいと。

 

「調子はどうですか?」

『ヘンッ。この程度で敗れる俺じゃねぇ!』

「そうですか。援護に入ります。無茶してください」

『おうよ! 予備パイロットは俺の華麗な機動を眼に焼き付けていな』

 

スルーされましたよ。

俺のボケってレベル低いのかな?

それとも、あっちが気付いてないのか?

ま、多分そうだろう。あっちが悪い。

さて、弾の残量は・・・。

うん。一段落したら補給に戻ろう。

 

『ガイ・スーパー・アッパー!』

 

激しい攻撃だな。

でも、向こうってそんなに強くないし、攻撃後の隙が大き過ぎると思うんだよ。

 

ダンッダンッ!

 

ま、それをフォローするのが俺の役目なんだけどさ。

 

『お。やるじゃねぇか。予備』

「予備言うな。射撃に関しては負けねぇよ」

『お、それがお前の素か。敬語なんてやめとけよ』

「善処するよ」

 

何か、熱くなければ本当に男前でカッコイイんだよね。この人。

原作でも兄貴肌って感じでアキト青年と仲良くなっていたし。

パイロット技能も実はテンカワさんに負けてない?

性格が災いしているって所か。

近接格闘技能だけを見るなら、かなりのレベルだもんな。

よし。模擬戦の時は挑発しつつ、遠距離から攻めよう。

それなら、勝てる。

 

「ヤマダ・ジ―――」

『ガァイィ! ダイゴウジ・ガイだぁ!』

 

これがなっきゃカッコイイんだよな。

減点。大きく減点。

 

「ダイコウジ・ゲキ」

『ガイだ! ・・・だが、う~ん、悪くねぇ。ゲキ・ガンガーをリスペクトしてやがる』

 

この人、単純だな。

でも、結構、面白い。

 

「ゲキガン野郎」

『クゥゥゥ! 貶されているようで褒められているというこの矛盾。クソッ! どうすればいい?』

 

ククッ。おもしろ。

 

「ガイ! ゲキガン・ファイヤーだ!」

『おし。ゲキガン・ファイヤー! ってどうやるんだよ!?』

「こう。両手を突き出して飛び込めばいいんじゃないか?」

『なるほど。ゲキガン・フレアが合わさってゲキガン・ファイヤーになる訳だな。よし。やってやろうじゃねぇか! ゲキガン・ファイヤー!』

 

威力は分からんが、ポーズは正直・・・かっこ悪いな。

両手を突き出して飛び込むっていうのは、そうだな、某パンのヒーローが空を飛ぶポーズで敵に飛び込むようなものだ。

再度言うと、威力は分からんが、ポーズ的にはヒーローじゃない。

どちらかという間抜けだ。

あれはパンのヒーローだから良いのであって、エステバリスみたいなロボットがやるのはあまり推奨しない。

 

「ガイ! そのままゲキガン・トルネードだ!」

『ゲキガン・トルネード!? 何だ!? そのカッコイイ技名は!?』

 

そうかな? カッコイイかな?

 

「そのポーズのまま回転して敵に突っ込むという究極奥義だ。間違いなく、ゲキガン・フレアを上回るぞ」

『おっしゃぁぁぁ! ゲキガン・トルネード!』

 

回転しながら敵に突っ込むダイコウジ・ガイ、改め、ヤマダ・ジロウ。

欠点は眼が回る事だな。恐らくフィギュアスケートの人でも眼を回すと思う。

あれで頭部だけ回っていないという不思議現象すらも可能に出来たら、中の人的に繋がるんだけど・・・。

ま、狸君のタケでコプターな道具と同じで首がひん曲がるか。実際にやったら。

 

『ぜ、全滅したぜ。眼、眼がぁぁぁ。あ。ついでに気持ち悪い』

 

案の定って奴だな。

 

「一旦帰艦する。付いてきてくれ」

『お、おうよ!』

 

フラフラのヤマダ機をフォローしつつ、ナデシコに帰艦する。

 

「ウリバタケさん。すいませんが、ラピッドライフルを」

『おう。ちょっと待っていな』

 

コミュニケ越しに武器を要求する。

流石は整備班。すぐに準備された。

 

「ヤマダ機は格闘戦が多く、損傷している箇所が多いと思います。少し休ませてから再出撃させてください」

『おう。了解した。気をつけろよ』

「はい」

 

俺は基本的に遠距離ばかりだったからそれ程は損傷していない。

ヤマダ機は、ほら、機体以上にパイロットがやばいと思うから。

 

「急がないと」

 

戦線をテンカワさんだけでもたせるのはきついと思うので、急いで向かう。

 

「・・・やっぱりダントツで凄いな」

 

戦場に戻ると凄まじい機動で動き続けるテンカワ機が見えた。

一つ一つの射撃が的確、武器の持ち替えのタイミングも的確だし、接近戦では無類の強さを誇る。

あの接近戦に対抗できるのはヤマダ・ジロウぐらいだろう。

・・・対抗できるだけ凄いと思うが。

 

「俺も頑張らないと」

 

再度、両手にライフルを持つ。

 

「・・・俺も回転しながらライフルでも撃ってみるか?」

 

・・・いや。無理だろ。

眼が回るのがオチだ。やめておこう。

 

「シンプル・イズ・ベスト。無茶はしないで、普通の動きをしよう」

 

普通を極めるものこそが最強と聞いた事があるけど、どうなんだろう?

基本は大事って伝えたいんだと思うけど。

 

ダンッダンッダンッダンッダンッ!

 

近付いてくる敵を優先にライフルを撃ちまくる。

その場で止まりながら撃つスタイルだ。ほぼ外さなくて済む。

 

『シャトルの全機脱出を確認。各機、帰艦してください』

 

・・・やっと終わったか。

とりあえず、こっちに来る奴らを攻撃しながら下がるとしよう。

あぁ。汗でびっしょりだ。早く湯船に浸かりたい。

 

「マエヤマ・コウキ。帰艦します」

 

それから、どうにか無事に帰還する事が出来ました。

パイロットは予想以上に辛い。よくアキト青年はやり遂げたな。

そう深く感心してしまう。俺だったら、途中でリタイアしていてもおかしくない。

いきなり戦場に出されるとか、俺には耐えられる気がしないよ。

帰艦後、疲れからか、その場で寝てしまったのは勘弁して欲しい。

というか、何故、眼が覚めたらミナトさんの部屋にいるの?

あ。先にお風呂に入らせてください。汗臭いので。

一緒に入る? む、無理ですから! か、勘弁してください!

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

コウキ君が戦場に出る。

・・・そっか。これが怖いって事か。

今までどこか遠い眼で戦闘を眺めていた私。

でも、今は怖くて仕方がない。

以前、とても昔の戦争の事が描かれた文献を読んだ事がある。

それから日本は戦争をしなくなったらしく、日本という国における最後の戦争を示した文献だ。

その文献で、戦場に出向く夫を沈痛な表情で見送る妻という描写を見た。

今なら、その人の気持ちが判る気がする。

きっと、今の私と同じ気持ちだと思うから。

どうか無事にいて。その為だったら私の命だって惜しくない。

そう思いながら祈る自分がいた事に言われて初めて気がついた。

愛する人が戦場に行く事がこれ程怖くて、心細い事だなんて・・・。

改めて、気安く予備パイロットになればいいなんて言った自分を責めたくなった。

そう言われて泣きそうだったコウキ君の顔は二度と忘れないと思う。

戦場がこんなにも怖いものだなんて。

私は現実を甘く見ていた。

 

「マエヤマ機。帰艦しました」

 

その言葉を聞いただけで、心から安堵した。

そして、すぐにでも迎えに行きたくなった。

生きているという事を全身で感じたくなった。

でも、持ち場を離れる訳にはいかない。

きっと、そんな無責任な事をしたら後でコウキ君に怒られるから。

ふふっ。変な所で堅いんだから。でも、それがまたとっても良い子だって思わせてくれる。

ああいう、無責任な事を嫌う責任感のある人は将来的に優しい夫でいてくれると思うしね。

 

「パイロットの方はブリッジまで御願いします」

 

ああ。コウキ君に会えるんだ。

何だか、久しぶりに会う気がする。

さっきまで一緒にいたのに。

たった数時間が数日にも、数年にも感じられた。

ふふっ。何だか思春期の女の子みたいね。

私がこんな風になるなんて思いもしなかったわ。

でも、それでもいいかなって思える自分もいるから恋って本当に不思議よね。

 

「・・・はぁ。疲れた、疲れた。風呂ぐらい入らせてくれてもいいだろ」

「まぁまぁ。急いで入るよりゆっくり入った方が気持ち良いよぉ」

「ふっふっふ」

 

あ。彼女達が合流した新しいパイロットか。

皆、若いわね。コウキ君もそうだけど、パイロットが皆若すぎると思う。

一人ぐらい、ベテランを入れてもいいと思うんだけどなぁ。

 

「・・・・・・」

「あ。アキトォ! お疲れ様ぁ!」

「・・・ユリカ」

「ふぅ。ゲキ・ガンガー見たいから早くしてくれよな。あぁ。気持ち悪」

 

アキト君とジロウ君。

アキト君達は相変わらずね。

ジロウ君は・・・どうかしたのかな?

気分が優れなそう。顔色も悪いし。

 

「む。マエヤマはどうした?」

 

コウキ君が遅い。

何かあったのかな?

背中に嫌な汗が流れる。

 

「メグミちゃん。マエヤマさんに連絡取れる?」

「先程から試みているのですが・・・」

 

反応が・・・返ってこない?

え? どうして? だって・・・。

 

「まさか・・・怪我しているんじゃ?」

 

ユリカちゃんの一言にドキッとなった。

意識不明になる程の怪我をもし負っていたとしたら・・・。

 

「いや。目立った被弾はなかった筈だ」

 

アキト君がそう告げる。

でも・・・信じられない訳じゃないけど、安心は出来なかった。

不安が胸を締め付け、焦燥に駆られて、気付けば、私は走り出していた。

 

「ハルカさん? どこへ?」

 

そう問われても答えられるだけの余裕はなかった。

いや、問われた事にすら気が付かなかったんだ。

周りの声を声として認識する事なく、私は無我夢中でブリッジから抜け出し、格納庫へ足を向けた。

恐怖が身を包み、全身が震え出す。

叫びたい気持ちを必死に抑えて、震える身体を必死に動かし、私は駆けた。

こんなに早く走れたっけとかどこか他人事のように考える自分もいて、それでも足が止まる事はなかった。

 

「コウキ君!」

 

肩で息をしながら、必死に叫ぶ。

汗だくで、化粧も崩れていると思う。

足もガクガクで今にも倒れそう。

私が思う可愛い女性には程遠い姿だったけど、今の私にはそんな事を気にする余裕はなかった。

ただ無事な姿を見たい。ただ私に笑いかけて欲しい。

ただそれだけを願ってコウキ君の傍へ駆けた。

 

「お、おい。ミナトちゃん」

 

制止の言葉も振り切って、コウキ君が乗っていた銀色のエステバリスに駆け寄った。

 

「コウキ君!」

 

ひたすら名前を呼ぶ。

早くて出て来てと願いを込めて。

 

「コウキ君!」

「おい。ミナトちゃん」

「放して! コウキ君!」

「ミナトちゃん! マエヤマの野郎ならあそこにいる!」

「・・・え?」

「まったく。恋は盲目ってか? 大人っぽいミナトちゃんもまだまだ女の子だったんだな」

「・・・そっか。良かった」

 

ハハハ。安心したら腰が抜けた。

地べたに座るなんて女性として恥ずかしい事なのに。

でも・・・良かった。本当に良かった

 

「羨ましいぜ。こんなに愛されているあいつがよ」

「・・・すいません」

 

ウリバタケさんに手を差し出され、その手を借りて立ち上がる。

思い返すと・・・私って随分と恥ずかしい事していたわね。

 

「ほら。真っ赤になってないで早くあいつん所に行ってやんな」

「ありがとうございます」

 

格納庫から少し離れたベンチで穏やかな寝息をたてる彼。

もぉ。私の気も知らないで。

 

「心配させないでよね。バカ」

「う、う~ん」

 

頬をつんつんすると眉を顰めるコウキ君。

それが楽しくて時間も忘れてつんつんしていたのは仕方がないわよね。

 

『あの~ハルカさん』

「・・・あ」

 

忘れていた。

 

「す、すぐに戻ります」

『いえいえ。今、そちらにテンカワさんが向かいましたので、彼からお話をお聞き下さい。今日はそのままお休みになって下さって構いません。マエヤマさんもハルカさんも』

「分かりました」

 

申し訳ない事しちゃったな。

まさか、私が暴走するなんて。

ウリバタケさんの言う通り、私もまだまだ大人じゃなかったみたい。

 

「ミナトさん」

「あ。アキト君。ごめんなさいね」

「いえ。マエヤマは疲れているだけみたいですので、俺が運びます」

「そう。あ、じゃあ、私の部屋に運んで、案内するから」

「・・・分かりました」

 

コウキ君を軽々と担ぐアキト君。

そんなに筋肉質には見えないのに。

かなり鍛えこんだのね。きっと、夢の為に。

 

「ブリッジの話は何だったの?」

「サツキミドリコロニーの被害状況とこれからについてです」

「サツキミドリの被害状況は?」

「半分以上は脱出に成功しました。ですが、残り半分は・・・」

「そう」

 

コウキ君は全滅だって言っていた。パイロットを除いて。

それなら、半分以上は救えた事になる。

それでも、アキト君の顔は晴れない。

きっともっと力があればとか、何の為に戻ってきたんだとか、思い詰めているんだと思う。

 

「半分しか救えなかったって後悔しているの?」

「・・・いえ」

「嘘ね。顔が何より物語っているわ。悔しいって、救える筈だったのに救えなかったって」

「ッ!?」

「でもね、全てを救えるなんて思い上がりよ。誰にだって限界がある。全てを救う事なんて誰にもできない」

 

似たような事をコウキ君にも言った気がするわ。

どこか似ているのかもね、この二人。

 

「それにね、いつまでも悔やんでいたって何も変わらないの。それを糧にして前に進みなさい。こんな所で歩みを止めるような夢じゃないでしょ?」

「・・・敵いませんね、ミナトさんには。貴方は何も変わらない」

 

未来の私なんて知らないもの。

それに、私は私。貴方の知るミナトとは違うのよ。

 

「そうですね。救えなかったと嘆くのではなく、何が足りなかったかのか? それを考える事にします」

「そうしなさい。そうやって強くなっていくのよ」

 

泣きそうな顔をしているアキト君。

でも、少し晴れたかなって思う。

無理に無表情に徹しようとするアキト君だけど、それを変えるのは私の役目じゃない。

私はほんの少し晴らしてあげただけ。

ちゃんとした意味で、本当に晴らしてあげるのは、ルリちゃん、貴方の役目よ。

 

「これからですが。物資の積み込みも終わったのでそのまま火星に向かうそうです。道中、今回被害に遭った方の葬式を行うとも言っていました」

「分かったわ。ありがとね」

「いえ」

 

火星・・・か。

コウキ君曰く、全ての始まりの場所、そして、全てが終わる場所。

眼に焼き付けておきましょう、火星という場所を。

これから、幾度となく眼にする機会があるのなら、尚更。

 

「あ。ここよ。ごめんなさいね。わざわざ」

「いえ。それでは」

 

やっと到着の私の部屋。

最近は殆どこっちの部屋ね。

偶にコウキ君の部屋にお邪魔するけど。

 

「あ。ベッドまで運んでくれると助かるんだけど。寝かせてあげたいし」

「・・・しかし」

 

あ。アキト君もコウキ君と同じみたいね。

 

「あら? 襲うつもりなの?」

「そ、そんな事」

 

対応まで同じ。

やっぱりどこか似ているわね、この二人。

 

「うふふ。冗談よ。私じゃそこまで運べないから御願いしているだけ」

「・・・分かりました」

 

女性の部屋に入るなんてって奴ね。

意外と可愛らしい所あるじゃない。

 

「・・・・・・」

「女性の部屋をジロジロ見るのは失礼よ」

「そ、そんな事はしていません」

 

弄り甲斐もありそうだし。

もっと周りに心を開けばいいのに。

 

「・・・それでは」

「ありがとね」

 

一礼して去っていくアキト君を見送る。

扉から出ようという時、不意にアキト君が振り返った。

どうしたんだろうと思うと同時に口が開いていた。

 

「何? まだ見足りない?」

「いえ。最後に、ミナトさんに聞きたい事がありまして」

 

弄りに反応しないなんて。

・・・真剣な話みたいね。

 

「ミナトさんはマエヤマの事を愛していますか?」

「・・・そんなの当たり前じゃない。私はコウキ君を愛しているわ」

 

予想外の質問に返答が遅れたけど、これは紛れもない真実。

誰がなんと言おうと、私はコウキ君を愛しているの。

それは何があっても変わらない。

 

「・・・そうですか」

 

未来で何があったのかを私は知らない。

もしかしたら、私はコウキ君ではなく、違う人と恋に落ちたのかもしれない。

もしかしたら、私は誰とも結ばれる事なく、死んでしまったのかもしれない。

でも、そんなの所詮はIFの話。

未来の私を知っていようとも、それは私であって私じゃない。

この世界における私の事は全て私が決める。

これは誰にだって干渉できない私だけの事だわ。

 

「それでは、失礼します。マエヤマにお疲れ様と伝えておいてください」

「ええ。分かったわ」

 

今度こそ、アキト君は去っていった。

アキト君が何故あんな事を訊いてきたのか。

それは私にも分からないけど、きっと何か意味があったんだと思う。

今度は胸を張って即刻断言してあげよう。

私はコウキ君が大好きなんだって。

私の気持ちに嘘偽りはなく、この気持ちは変わらないんだって。

 

「ね。コウキ君」

 

スヤスヤと眠るコウキ君を見詰めながら私は改めてそう思った。

 

「生きていて良かった」

 

早く貴方の存在を感じたい。

我慢できずに唇に唇を落としてから、漸く私も一息つく事が出来た。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 



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道中の些細な出来事

 

 

 

 

「よっしゃぁ! このダイゴウジ・ガイ様の力を見せてやらぁ!」

 

約束通りの模擬戦。

三人娘の合流も済んだし、早速やりましょうか。

 

「ガイィ! ガイィ! ガァァァイィ!」

「うるせぇ! てめぇなんてどうでもいいんだよ! おい、こら。テンカワ! 俺と勝負しろ!」

 

スバル・リョーコ。

熱い戦闘狂。

ボーイッシュな美人なんだけど、男勝りすぎてちょっとな。

 

「よろしくね。コウキ君だっけ?」

「あ。はい。コウキであっていますよ。よろしく御願いしますね、ヒカルさん」

「うんうん。コウキ君は爽やかだねぇ。お姉さん、感心しちゃう」

「えぇ~っと、どうもです」

 

アマノ・ヒカル。

独特なテンポの持ち主。

明るい可愛い系で、同級生とかだったら楽しそうだな。

 

「・・・・・・」

「あ。よろしくです。イズミさん」

「・・・・・・」

「えぇっと、はい」

 

マキ・イズミ。

まるでキャラが掴めない人。

シリアスなの? ギャグなの? これから大変そうだ。

 

「模擬戦を行うというが、どのような組み合わせにするんだ?」

 

テンカワさんもリーダーパイロットとして参加。

戦力把握にもなるんだし、当然かな。

 

「やいやい。テンカワ。俺と勝負しろ!」

 

断固としてテンカワさんを狙うスバル嬢。

じゃあさ、こうしよう。

 

「それじゃあ、テンカワさんとリョーコさん、俺とヤマダ―――」

「ガイだ! ダイゴウジ・ガイ!」

「俺とゲキが戦うってのはどうでしょう!?」

「クソッ! そう呼ばれたい俺もいる。どうすればいいんだ!?」

 

さっきからうるさいよ。ゲキガン野郎。

 

「てめぇ、誰が名前で呼んでいいって言った?」

「あ。すいません。名前の方が呼びやすくて。スバルさんの方が良いですか?」

「別に呼ぶなって言ってうる訳じゃねぇ。好きに呼べよ」

「そうですか。それなら、リョーコさんで」

「ふんっ。勝手にしろって言ったろ」

 

じゃあ、何でいちゃもんつけるんですか・・・。

 

「照れ隠しだよ、あれ」

 

あ。そういう事ですか。

 

「俺とスバルがか?」

「はい。戦いたいそうなので、俺もゲキガン野郎と決着をね」

「ふんっ! 予備なんかにゃぁ負けねぇよ」

 

既に勝った気でいますね。

でも、思った通りにはいかせない。

蜂の巣にしてやるから、覚悟しろよ。

 

「予備ってどゆこと? コウキ君」

「俺は色々と兼任していましてね。パイロット一筋という訳にはいかないんです。それで、予備扱いとして緊急事態だけにパイロットを引き受ける事になったんですよ」

「ふぅ~ん。そうなんだ」

 

そうなんです。

 

「はぁ!? 予備かよ? そんなの相手にならねぇな」

 

カチンッ!

そうですか。そういう事を言っちゃいますか。

 

「コ、コウキ君。落ち着こうよ」

 

ヒカルさん。残念ながら、そうは行かないんです。

 

「テンカワさんが終わったら俺とやりましょうよ。蜂の巣にしてやります」

「へっ。いいだろ。やってやるよ」

 

ほくそ笑むとはこういう事だろうか。

てめぇは俺を怒らせた。

 

「じゃあさ、私達は見学って事で良いのかな?」

「そうだな。後でチーム単位での模擬戦をするつもりだから、それまでは休んでいてくれて構わない」

「了~解っと」

 

さて、早速。

 

「ガイ。フィールドは宇宙空間。フレームは0G戦フレーム。武器はイミディエットナイフ、ラピッドライフル。それでいいか?」

「おうよ。かかってこい」

 

後悔させてやるからな。

近接馬鹿め。

ついでに、近接こそが最上の認識を改めてやる。

 

「それじゃあ、お先に失礼しますね」

「ああ。いいぞ」

 

シミュレーターの中へ飛び移る。

テンカワさん達も勝手に違うシミュレーターでやるでしょ。

俺は俺の模擬戦に集中だ。

 

「行くぞ! ゲキ!」

『おうよ!』

 

ゲキって言葉に反応しなくなってきたな。

受け入れたって事か?

それじゃあ、ちょっと弄くってG・G・ダイゴウジとかどう?

あ。なんか、どっかのライオンなチームの人みたい。

 

「レッツ!」

『ゲキガイン! って、お前、分かっているじゃないか!』

 

変なスタートの合図。

色々と弄くりながら戦おう。

笑える。

 

『よっしゃぁ! 行くぜぇ!』

 

モニターに映る宇宙空間。

深く暗いくせにどこか優しい。

宇宙に初めて出た時の感動を俺は忘れないと思う。

 

「ほぉ。いきなり必殺技とはな。ヒーローの風上にも置けない」

『な、何ィ!?』

 

突っ込んでくる体勢から突如停止するヤマダ機。

やはりヒーローという言葉には敏感なんだな。

 

「俺は断言しよう。最後の最後に必殺技を出してこそのヒーローであると」

『そ、そうだったのか・・・』

 

俺としては何故最後にしか必殺技をしないのかが疑問だけどね。

あれか? 弱らせないと捕まえられないポケットなモンスターみたいな感じで、必殺技も相手を弱らせてからじゃないといけないとか?

速攻で決められそうな奴にもいちいち格闘戦に付き合ってあげているとか。

ヒーローは空気に優しいね。空気をきちんと読んであげている。凍りつかせるような事はしない。

 

「必殺技は確実に決めてこそ必殺技だ。避けられてしまうような必殺技は・・・必殺技にあらず!」

『グ、グォッ!』

 

精神的なダメージを負わせて勝利する。

それもまたヒーロー。外道なヒーローさ。

 

「お前の武器は何だ!? そう。拳だ! お前はただ拳のみで敵を打倒する拳闘士なんだ!」

『拳闘士!? 何てカッコイイ響きだ!』

「男になれ! 肉体こそが男の武器だ! さぁさぁ。男として俺に立ち向かって来い!」

『よっしゃぁぁぁ!』

 

ラピッドライフル、イミディエットナイフ。

それら武装全てを投げ捨てて、肉体、即ち、機体のみで迫ってくるヤマダ君。

 

『うわぁ~。コウキ君って爽やかに見えて腹黒だね。散々男を主張しておいて自分はちゃっかりライフル構えているし』

 

ふっふっふ。勝てば官軍という言葉を知りませんか? ヒカルさん。

 

ダンッ! ダンッ!

 

『な、何ィ!? てめぇ男じゃねぇぞ!』

「お前の武器は拳かもしれん。だが、俺の武器はこいつだ。男にはそれぞれ心の武器がある。ただ得物が違っただけさ」

『そ、そうか。それもまた男の武器か。それなら仕方ないな』

『うわっ。それで納得しちゃうの?』

 

納得しちゃうのがゲキガンクオリティです。

 

「お前が本当のヒーローならば拳のみで倒せる筈。さぁ! お前はヒーローなのか!? そうでないのか!? 俺に示してみろ!」

『言われるまでもねぇ! 俺こそがヒーローだ!』

 

近接されたらおしまいなのでバーニアを吹かして後退します。

 

『うわっ。示してみろと言いつつ後退。コウキ君ってかなりの腹黒だね』

 

ダンッダンッダンッ!

 

後退しつつラピッドライフルを放つ。

 

『ふっふっふ。無駄無駄! 俺のスペースガンガーにはゲキガンバリアがある』

 

ディストーションフィールドだね。きちんと覚えようよ。

しかし、自分で張るとしたら頼もしい盾だけど敵に張られると厄介だよな。

よし。言葉攻めだ。責めじゃないよ。攻めだよ。

 

「ほぉ。拳が武器と言い放つお前が己の肉体ではないバリアなどに頼るとは・・・。ふぅ・・・」

『な、何だ? その溜息は!? いいだろう! バリアなんか張らん!』

 

自分の言葉でここまで自分を追い詰める人って中々いないよね。

 

ダンッダンッダンッダンッ!

 

『うおっと! ダァ! タァ! オラ!』

 

流石に反応が早いな。

あれだけ際どい所に撃っても全部避けるなんて。

 

『今度はこっちの番だぜ』

 

拳を突き上げて迫ってくるガイ。

接近戦で来られる以上、DFは意味がない。

それなら・・・。

 

「イメージ。イメージ」

 

右足に全DFを纏わせる。

向こうはDFを応用しようとも思わっていない筈。

ゲキガンフレアは封じたも同然だな。

拳のみが武器って言っていたし。

 

『よっしゃぁぁ! ゲキガン・パンチ!』

 

唯のパンチに技名なんか付けるなっての。

 

「その程度か!? ガイ!」

 

ゲキガン・キックなどと変な名前は付けない。

俺のは蹴りで充分だ。余分な技名なんていらん。

 

ガンッ!

 

『グォ!?』

 

迫ってくる右手を軽く避けながら、右足でローキック。

ただの蹴りでも充分ダメージを喰らうが、DFを纏わせているんだ。

小破では済まないだろ。

 

『ク、クソッ。まさかキックとは』

「全身が武器という事だ」

 

というより、反射的に俺は手ではなく足が出る。

多分、喧嘩とかしたら足での攻撃ばかりになる筈だ。

サッカー部だった事が原因なんだろうなぁ。

 

「左足が潰れたかな?」

『ふんっ。左足の一つや二つ。俺には関係ねぇ!』

 

関係あるよ。たとえ宇宙でもね。

右足がある限り、バランスが悪いでしょ?

両足がなければ、偉い人にはそれが分からんのですって断言してもいいけどさ。

 

『オラッァァァ!』

「考えもなしに飛び込んじゃ駄目だって」

 

ガンッ!

 

『ダハッ!』

 

動体視力は自慢です。

ガムシャラに飛び込んでくる程度の攻撃は容易に避けられます。

 

「次は左腕だな。どうする?」

『ふんっ。腕の一本や二本。俺には関係ねぇ!』

 

左腕と左足を失うという状況に追い詰められてまだいきり立つか。

勇気と言えばいいのか、無謀と言えばいいのか。いや。無謀だな。

 

「ギブアップをお勧めするが?」

『ヒーローは諦めない! 何度も何度も立ち上がり、そして、勝利を得るんだ!』

 

ヒーロー、ヒーローとうるさいな。

ヒーローなら何でも出来ると思ってんじゃねぇぞ。

 

「理想に溺れて溺死しやがれ!」

 

迫る右手を左手で掴み、向こうの攻撃手段を失くす。

その後、瞬時に右手にライフルを持ち、零距離射撃。

文字通り、蜂の巣にしてやった。

 

『ま、負けた』

 

気が抜けているジロウ君は放っておこう。

すぐに復活するでしょ。

 

「お疲れ様。コウキ君」

「あ。ども、ヒカルさん」

 

シミュレーターから出るとヒカルさんが労ってくれる。

やっぱり同級生に欲しいな。こういう人。

 

「さっきのはさ。コウキ君が強いのか、ガイ君が弱いのか。どう捉えればいいんだろう?」

「ガイは強いですよ。ただ精神的にムラがあるだけです」

 

ガイ自身は強いと思う。

反応も優れているし、格闘技能も冷静でいられれば強い筈。

元々軍人なんだし、射撃技能もあるのではないかと俺は思う。

精神的に安定すれば俺なんて相手にもならないんじゃないかな。

ま、それに関してはテンカワさんに丸投げするけど。

頑張ってください、精神修行。

 

「それにしても、コウキ君って見かけによらずあくどいね」

 

笑いながら告げるヒカルさん。

そうかな? あくどいつもりはないけど。

 

「ガイが単純なだけですよ。あれだけ断言しちゃえば、自分を縛り付けているようなものだし」

「いやいや。思考誘導も流れるようだったし、ガイ君じゃなくても引っ掛かるよぉ」

「少なくともリョーコはね」

 

あ。イズミさんが話しかけてきてくれた。

無言だったから、どうしようかと思っていたんだよ。

 

「あ。ノーマルモード」

 

え? まさか、シリアスモード、ギャグモードの他にノーマルモードがあったのか?

・・・知らなかった。俺はてっきりどっちか一方かと。でも、ま、あれだ。日常生活が極端だとやりづらいもんな。

 

「あ。そうそう。敬語なんていらないよ。同い年ぐらいでしょ?」

「え、そう? 分かった。ヒカルさん」

「さん付けもいらないって。その代わり、私も呼び捨てにしちゃって良い?」

「いいよ。ヒカル」

「うんうん。そっちの方が親しくなった気がして良いよ」

 

友人モード突入。

実は同じぐらいの歳の友人って初めてじゃない?

男性はミナトさんの事で眼の敵にしているし、俺の事。

女性はこっちから話しかけるのとか緊張して無理だし。

やっぱり友達感覚で話せるのって嬉しいかな。

 

「ダァ! チクショウ! 勝てねぇ!」

「まだまだだな、スバル」

 

お。テンカワさん達も終わったみたいだ。

でも、テンカワさんレベルならもっと早く終わったと思うが・・・。

 

「あ。二回目だよ、あれ。一回目速攻で終わったから」

「テンカワさんどうだった?」

「もうビュってズバってドカンって感じ」

「えぇっと、接近してナイフで突き刺して終わりって事?」

「おぉ。ご明察。そこまで分かってくれるとは流石だね、コウキ」

「ま、まぁね」

 

擬音ばっかりでも何となくは掴めますよ、はい。

 

「リョーコさんだって凄いんでしょ?」

「もちろん。私達だけでやったらどうなるかな? イズミ」

「状況次第では私達が勝てる。でも、真っ向勝負なら負ける」

「だってさ。そんなリョーコが瞬殺だもん。凄いよ」

 

やっぱり凄いんだな、スバル嬢。

 

「コウキ君なら勝負できるかもね」

「いやいや。無理でしょ」

 

近付かれたら終わりだし。

ガイに勝てたのは単純な動きだったから。

きちんと考えられた上での攻撃はどれだけ反射神経と動体視力が良くても避けられないよ。

 

「ダァ! 悩んでいても仕方ねぇ! おい。次だ! 予備、来い」

 

怒りの矛先が俺に向かいましたか。八つ当たりですね。分かります。

 

「どうせなので、男性陣対女性陣で模擬戦しながら決着つけましょうよ」

「ほぉ。一対一で負けるのが怖いからテンカワに頼ろうって事だな? 予備は腰抜けだな」

 

カチンッ!

い、いや。落ち着こうか。

怒りは模擬戦中にぶつければいいし。

 

「むしろ、チャンスじゃないですか? 俺とガイを倒せば三人でテンカワさんに挑めるんですから。チーム単位ですから卑怯でも何でもないですよ」

「ケッ。いいじゃねぇか。それでやってやる」

 

納得して頂けた様で。

 

「お~い。ガイ」

 

模擬戦の事を教えてやろうとガイのいるシミュレーターに向かうが・・・。

 

「・・・・・・」

 

見事に固まっていますね。

 

「ガイ。予備に負けた気分はどうだ?」

「・・・負けたのか? ヒーローが」

「ヒーローなら誰にでも勝てるという訳ではないだろ? それよりも、ガイ、男の武器は拳だけじゃないんだぞ」

「な、何ィ!? 俺の武器は拳だと・・・」

「お前が信仰するゲキ・ガンガーは拳で戦うか? 違うだろ? 剣や銃。多くの武器が搭載されている」

「た、確かに。じゃあ、俺の武器は何だというんだ・・・。何故、俺は拳だけで」

「ガイ。俺はお前に知って欲しかった。拳を含めて接近戦だけじゃ勝てないという事を」

「男は格闘戦だろ!」

「違うぞ、ガイ。お前にはライフルの悲鳴が聞こえないのか!?」

「ラ、ライフルの悲鳴だと?」

「そうだ。武器の一つ一つに魂が込められている。お前は魂の声が聞こえないのか!? 俺にはライフルの悲鳴が聞こえたぞ!」

「ラ、ライフルは何て言っていたんだ?」

「何故、自分を使ってくれないのかと。そう嘆いていた。武器は使われてこそ本望。ヒーローを目指すのなら多くの武器と触れ合い、語り合え。そして、使いこなしてみろ」

「そ、そうか。そうだったのか。格闘戦こそがロボットの醍醐味だと思っていた」

「ああ。それも一つの醍醐味だろう。だが、格闘戦だけと己を縛る事が正しいとは思えん。射撃で敵を撃つ事もロボットの醍醐味だと俺は思っている」

「あぁ。今の俺なら、その気持ちも分かるぜ。俺はライフルの喜びの声が聞きてぇ!」

「そうだ! ガイ! 格闘、射撃、その全てを極めてこそ、お前はヒーローと呼ばれるに相応しくなるんだ。もっと大きな男になれ!」

「オォォォ! やってやるぜ! 俺はもう格闘だけに拘らない。射撃も極め、一流のヒーローになってやる」

「それでこそ、ダイゴウジ・ガイだ! スーパー・ダイゴウジ・ガイだ!」

「オォ! 俺の魂の名がより一層光輝いてやがる!」

「ああ! 輝ける。お前なら出来るんだ! 輝け! ダイゴウジ・ガイ!」

「オォォォォォォ!」

 

ふっふっふ。計画通り。

 

「・・・コウキ。黒いよ。黒過ぎるよ」

「俺のキャラじゃないからな。勘違いするなよ」

 

呆れるヒカルを前にほくそ笑む俺。

乗せる為とはいえ、らしくない事をしちまったぜ。

 

「いや。多分、コウキもそんな所が―――」

「ない。断じてない」

 

テニスの人じゃないんだから。俺はそんなに熱くない。

熱くなれと激励する事はあるが。

 

「でも、流石の腹黒さだったね。単純だから、ガイ君、まっしぐらじゃない?」

「腹黒と言われたくないな。でも、ま、ガイはこれですぐに突っ込むような事はしなくなるだろ? ・・・うん、多分、きっと・・・そうなって欲しいなぁ」

 

ちょっと自信ない、実は。

 

「実際のガイのパイロット技術はかなり良いんだよ。性格でかなり低く見られるけど」

「ふ~ん。ま、それは模擬戦で見させてもらおうかな」

「今はまだ突っ込む癖が直ってないから分からないけど。ま、これから変わっていくでしょ。テンカワさんが指導すると思うし」

「そっか。それじゃあ、コウキ、いざ尋常に勝負」

「はいよ。お手柔らかに」

「あら? 何か気が抜けたよ」

「作戦」

「うっそだぁ」

「おら! さっさと来いよ。ヒカル、イズミ」

 

せっかちだねぇ、スバル嬢。

 

「テンカワさん。ガイの戦闘思考修正案を考えておいてください」

「そうだな。あいつは腕が良いのに勿体無い」

 

ほら。テンカワさんも認めている。

 

「火星に到着するまでには修正しておきたいな」

「お任せします。あ、修行には付き合ってくださいね」

「無論だ。リーダーとして全員の底上げをしなければならんからな」

 

責任感が強い事で。頼りにしています、テンカワさん。

 

「おら! 始めんぞ!」

 

スバル嬢の言葉をきっかけに模擬戦が始まった。

結果?

テンカワさん無双でしたよ。

あ、スバル嬢は提言通りに蜂の巣にしてやりました。

ガイと格闘戦している所を強襲です。

卑怯じゃないですよ? チーム戦ですから。

油断するのがいけないんです。

ほっ。スッキリした。

 

 

 

 

 

「あれ? メグミさんはどうしました?」

 

昼食を終えて、一人でブリッジへ。

そうさ。まだ一緒に飯を食べてくれる人はいないのさ。

はぁ・・・。男友達できないかな?

と、鬱になっているとある事に気付く。

通信士の席だけ空いているのだ。

要するにメグミさんが留守。

昼前までいて、俺より先に食事に行ったからもうとっくに帰ってきていると思ったのに。

 

「あら? 知らないの?」

「え? 何の事ですか?」

 

予想外と言わんばかりに眼を見開くミナトさん。

えぇっと? 知らないのって俺だけ?

 

「じゃあ秘密ね。こういう事は他人に言うものじゃないから」

「・・・気になるんですけど」

「それでも、秘密よ」

 

優しくない。

グレてやろうか。

 

「それにしても、暇ねぇ」

「ま、後は予定コースを通るだけですから」

 

緻密な操縦が必要な時以外はミナトさんの仕事はないもんな。

原作だと寝まくっていたし。

 

「とりあえずはオモイカネに任せておけば大丈夫です。もし、木星蜥蜴が攻めてきても・・・」

「木星蜥蜴、接近」

 

現れるバッタ達。

 

「DF正常発動」

 

攻撃するもDFに全て弾かれる。

 

「撤退しました」

 

結果、あっちもすぐに諦める訳だ。

DFは常時発動ですから。

 

「と、こうなる訳ですから」

「そうねぇ。緊張感なんてないに等しいわね」

「一応、緊急事態に対応する為にいるんですから。気を抜いていちゃ駄目ですよ」

「もぉ。真面目ねぇ。抜ける時に抜いておきなさいよ」

「は、はぁ・・・」

 

・・・そうですね。

 

「それでは、失礼します」

「・・・失礼する」

「うん。お疲れ様」

 

俺が来た事でルリ嬢、ラピス嬢は交代だ。

現在は時間帯毎にシフトを定めていて、俺が昼休憩から上がると彼女達は今日のシフトを終える訳だ。

朝からブリッジにいてもらったから、疲れている事だろう。お疲れ様です。

 

「メグミさんって違いましたっけ?」

 

これはシフトが違うかって事。

 

「交代してあげたのよ。私がここにいるでしょ」

「あ。そういえば、ミナトさんも午後は休みでしたよね」

「ええ。駄目よ、コウキ君。恋人のシフトを忘れるなんて」

「す、すいません」

 

シフトじゃなくても暇な時、ブリッジに顔を出していたからなぁ。

あんまり気にしてなかったんだよね。

 

「何で代わってあげたんですか? 何か用があるとか?」

「何でもパイロット組の休みにあわせたらしいわ。健気ね、メグミちゃん」

「あぁ、そういえば、今日は休みだって言われていました」

「そこじゃないでしょ。本当に知らないの?」

「え? 何がです?」

 

健気ってどゆこと?

 

「はぁ・・・。本当に知らないんだ。まぁ、コウキ君は色々忙しいものね」

「えぇっと、そろそろ教えて欲しいんですけど」

「耳貸して」

 

内緒にしなっきゃいけないような事なんですか?

何だろう?

 

「メグミちゃんね。ヤマダ君と付き合っているんだって」

「・・・・・・」

「コウキ君?」

 

・・・え?

 

「え、えぇ!? マ、マジですか!?」

「え、ええ。そんなに予想外?」

「い、いえ。そうではありませんが・・・」

 

ま、まさかガイとメグミさんが付き合うとは。

・・・でも、ま、せっかく生き残ったんだからな。

幸せになって欲しいもんだ。

 

「良かったわね。コウキ君」

「ええ。こういう事を聞くと俺の存在も無駄じゃなかったんだなって思います。まぁ、ガイに関してはまったく関与していないですが・・・」

 

ガイを助けたのはテンカワさんだ。

ムネタケ達が逃げる時にガイとシミュレーション室にいたらしい。

ムネタケが逃げたのを確認してから、ゲキ・ガンガーシールを張って良いと許可した。

勝てなければシールを張る資格はないぞと挑発したらしいが、見事にガイを操っているな。

流石は元親友。俺以上にガイを操るのが上手い。

 

「いいじゃない。もしかしたら、何か関与しているのかもしれないし。それに、コウキ君の存在が無駄だなんて誰も思ってないわよ」

「そうなら良いんですけどね。俺ってば補佐ばっかりだし」

「補佐だって大事な役職。コウキ君流に言えば、ブリッジで欠かせない役職なのよ」

「ハハッ。やる気出ました」

「貴方も単純よね」

 

そう笑うミナトさん。

別に単純じゃないですよ。

素直なだけです。

 

「それにしても、どういう経緯で?」

「サツキミドリコロニーの時にね、メグミちゃん、人が死んだって事で塞ぎ込んじゃったのよ」

 

あぁ。アキト青年が慰めた時と同じか。その代わりをガイが務めた訳ね。

 

「一応覚悟していたみたいだから、戦闘の途中で仕事を投げ出すような事はしなかったんだけど、その後に色々と考え込んじゃったらしくて」

 

原作では戦闘中もショックで動けなくなっていたよな。

戦艦だって事を少し自覚させてたからかな?

 

「でも、ヤマダ君の元気な姿を見たら少し気が晴れて、思い切って話しかけてみたらしいの。そうしたら、ヤマダ君はヤマダ君で死について考えていたみたいで」

「ガイは何と?」

「それは秘密だってさ。メグミちゃんが大切にしたいって言っていたわ」

 

メグミさんって一途だね。

というか、それら全てメグミさんが話したんですか?

 

「それで、メグミちゃんはきちんと死を受け入れられるようになって、今に至るって訳。一緒にいて楽しいって惚気ちゃってくれたわ」

「もしかして、今までの話って」

「そうよ。全部惚気で聞かされた事よ。でも、良かったじゃない。メグミちゃんも幸せそうだし」

 

原作ではアキト青年と恋に落ちながらも、結ばれずにナデシコを降りた筈。

それからアイドルになって、もしかしたら幸せだったのかもしれないけど、生涯の伴侶はいなかった。

ガイも折角生き残ったんだ。二人で幸せになってくれたら本当に嬉しい。

 

「何だか嬉しい事ばかりですね」

「そうね。きっとアキト君達はもっと喜んでいるんじゃないかしら」

「はい。でも、俺はテンカワさん達も幸せになって欲しいです」

「私もそう思うわ。アキト君達だって幸せになる権利はあるもの。幸せになって欲しいわ」

 

うん。何か今日は気分が良い。

 

「ミナトさん。今日の晩飯一緒に食べましょう。奢りますから」

「あら? 気前が良い。どうして?」

「気分が良いので。贅沢したい気分です」

「そう? じゃあ、御呼ばれになるわ」

 

偶の贅沢。

一人じゃ寂しいでしょ?

一人でやるくらいなら、奢った方がマシだ。

ミナトさんなら特に。

 

「さて、これからずっと暇ですが、何してましょうか?」

「コウキ君は何かやる事ないの?」

「最近は読書ですかね。オモイカネが色んなデータを持っているんですよ」

「へぇ。小説みたいなもの?」

「ええ。時代は進んでも内容はあまり変わらないんですね。でも、やっぱり感動する本は感動します」

「感受性豊かだもんね。コウキ君」

「そうですか? そんなつもりはないですが」

「あら? この前、映画のワンシーンで泣いていたじゃない」

「え? 見ていたんですか?」

「もちろんじゃない。コウキ君の泣き顔なんて中々見られないしね。写真に撮っておけばよかったかしら」

「それで弄るつもりだったんですか? 悪女」

「悪女だなんて人聞きの悪い。コウキ君は弄られるの好きでしょ?」

「いやいや。それじゃあ変な人ですって」

「あら? 変な人って自覚はないのね」

「え? 変ですか? 俺」

「さぁね。あ、そんな事よりさ・・・」

 

それから、結局会話だけで時間を潰しました。

いやぁ。時間なんてあっという間ですね。

楽しい時間はすぐに去ってしまいます。

もちろん、晩飯はとことん贅沢してやりました。

ナデシコ食堂の中でも最高級に当たる料理を頼んでやりましたよ。

あまりにも高過ぎて誰も手をつけなかったネタだけど伝説の料理という奴を。

しかも、一度に二つ。

ふふふ。英雄だったさ、正に。

犠牲は大きかったが、それだけの価値がありました。

・・・多分、二度とやりませんが。

あれは高過ぎです。

と、まぁ、こんな事ばっかりやっていました。

日常のちょっとした一ページです。

 

 

 

 

 

「へぇ。航海日誌を書いているんだ」

「・・・はい。書くように頼まれまして」

 

休日で、特にやる事がなかったから、ブリッジに顔を出してみた。

すると、セレス嬢が一生懸命にコンソールの前で何かやっているではないか。

これは気になる、と声をかけてみたら・・・。

 

「・・・航海日誌です」

 

・・・という言葉が返ってきた。

航海日誌ってあれでしょ? 艦長が書くべきものなのに、悟りを啓くとかでルリ嬢が押し付けられた奴。

なるほど。今回はセレス嬢という訳ですね。

艦長、迷惑かけていますよ。いいんですか?

 

「そっか。どんなの書いているの?」

「・・・何を書いていいのか分からず、ルリさんに聞いてみた所、その日にあった事を好きに書いたらいいって言われました」

「そうなんだ。まぁ、ナデシコは毎日のように何かあるからね。退屈しないでしょ」

「・・・はい」

 

ドタバタコメディだもんな。

騒がしいくらい毎日何かあるぜ。

 

「少し読ませてもらってもいいかな」

「・・・はい。構いません」

「えぇっと、何々・・・」

 

○○月××日

オペレートの練習をしました。コウキさんに褒められました。嬉しかったです。

○○月××日

オペレートの練習をしました。課題が終わりました。コウキさんに頭を撫でられて気持ち良かったです。

○○月××日

オペレートの練習をしました。課題を与えられました。頑張ります。

○○月××日

オペレートの練習をしました。いつもより早く終わった気がします。そうコウキさんに言ったら成長したんだよって褒められました。嬉しかったです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「えぇっとさ、これって」

「・・・何ですか?」

 

コテンッて首を傾けられてもね。

 

「オペレートの事ばかりだね」

「・・・はい。駄目でしょうか?」

「え、ううん。駄目じゃないよ。でもさ、他にも色々あったじゃん」

「・・・好きな事を書いて良いって言われました」

 

な、涙目!?

 

「そ、そっか。ウン。大丈夫。よく書けているよ」

「・・・ありがとうございます」

「うん。偉い偉い」

「・・・ポッ」

 

あ。また勝手に手が頭を撫でていた。

それにしても・・・これはどう解釈すれば良いんだろう?

幾つか考えてみると・・・。

1、まだオペレート以外に興味がないのか。

2、興味がないのではなく、ナデシコ艦内のドタバタを知らないのか。

3、己惚れじゃなければ、俺との特訓を大切にしてくれているのか。

う~ん。三番目だったら嬉しいけど、他だったらちょっと問題かな。

もっと周りに眼を向けるようになって欲しいし、ドタバタを見て笑って欲しい。

いや、マジで笑えるから。下手なお笑いより全然。

原作を知っている身としては、こういうドタバタも見せて欲しかった。

メインキャラクター以外にも至る所でドタバタコメディが起きているというこの喜劇。

これがナデシコかと深く感心してしまったものだ。

笑うって事は感受性を成長させる事になるから良い経験なのだ。

見るだけでも触れ合っている事になるし、色々な経験を積んで欲しい。

たとえそれがコメディ一色であろうとも。

 

「それじゃあさ、今度はナデシコの事を書いてみようよ」

「・・・ナデシコの事ですか?」

「うん。今日、ナデシコで何々がありました。きっと何々が原因でしょう。結末は何々です。私だったら何々すると思います。そんな感じの文章」

「・・・私のじゃ駄目ですか?」

 

ハッ!? また涙目!

 

「違う違う。しっかり書けているけど、オペレートの事だけじゃその日に何があったのか分からないと思うんだ。ナデシコは色々な事があるからさ。それを皆にも教えてあげようよ」

「・・・分かりました」

 

ほっ。何とか理解してもらえた。

折角書くんだからな。色々な事に眼を向ける良い機会にして欲しい。

 

「セレスちゃんの書いた日誌を誰かが見て。へぇ。こんな事があったんだって思わせる日誌がいいかな」

「・・・頑張ってみます」

 

ハッ! また撫でていた。

ハニカミ笑顔が止まらないんですもの。

無論、セレス嬢の。

というか、微笑ましさは抜群です。

僕の顔も勝手に緩みますから。

 

「それじゃあ、また今度見せてね」

「・・・はい。楽しみに待っています」

 

それは俺に会心の出来を見せるという自信から来る言葉だな。

それじゃあ、俺も楽しみに待っているとしよう。

 

 

後日、日誌を見せて頂きました。

 

「読んでも良い?」

「・・・どうぞ」

「ありがと。えぇっと。どれどれ・・・」

 

○○月××日

今日、ナデシコの格納庫で騒動がありました。きっと男の人が暴れだしたのが原因でしょう。結末は減俸です。私だったら良く分からないので何もしないと思います。

 

「あぁ。格納庫の騒ぎね。あれは大変だった」

「・・・何があったんですか?」

「ちょっと分かりづらいかもしれないけど・・・」

 

格納庫騒動。

これは整備班の一人がある一言を発してしまったが故に始まった騒動である。

・・・と格好付けても実際はしょうもない事なんだよ。

その一言は・・・。

 

「結局、誰が一番可愛いんだ?」

 

はい。来ました。整備班といったら騒動。整備班といったら女の子。整備班といったらスパナ。あれ?

数多のファンクラブが存在する整備班の中でその一言は禁句でしょ。

 

「俺はやっぱりヒカルちゃんかな。可愛いし、明るいし」

「馬鹿言え。リョーコちゃんだろ。ボーイッシュとか堪らんね。男勝りであればある程良い」

「極端だな。俺はミステリアスなイズミちゃんがいいけどね。あの人、スタイルいいよ、かなり」

 

というパイロット三人娘の話から、話が発展していった訳だよ。

ま、次々と妄想が出てきたけど。

 

「罵られたい・・・」

「お兄ちゃんって呼ばれたい・・・」

「見下して欲しい・・・」

「ツンデレって欲しい・・・」

 

数多の煩悩を引き連れた整備班が熱狂するのは時間の問題。

それぞれのファンクラブの代表が机を並べ、誰が一番かの討論会が始まる。

 

「てめぇらが分かんねぇのが分かんねぇ。いいじゃねぇか。コスプレしてくれるんだぞ。一緒にコスプレを楽しめばいいじゃないか」

「素が男勝りな女の子が女の子っぽい格好している所とか見たくないのかよ。いいぞぉ。恥らいの笑みは」

「謎の雰囲気があるから支えたくなるんだろうが。満面の笑みを向けてくれたら、あれだね、死んでもいいね」

「姉御肌の女性に勝る者なし。包容力に勝る女性のステータスはない。それが何故分からないんだ!」

「理性がもたん時が来ているのだよ!」

「年下に勝る強さはない。いいじゃないか。微笑ましい笑顔。可愛らしい笑顔。小動物のような放っておけない保護欲を湧かせる仕草。最高だね!」

「は、反論出来ん。だ、だが、年上こそが最強。俺はあんな身体に溺れたい。溺死したって構わない」

「天然娘を忘れてはならんな。問われた疑問に少しズレた答えで返す天然さ。そのちょっとしたズレがまた良い」

 

・・・妄想って怖いな。

 

「てめぇ! この野郎!」

「何ぉ!」

 

いつしか、掴み合いの喧嘩になるのは自然の理。

それもまた愛故か。

 

「何を暴れているんですか! あぁ。そこにある機材が幾らするか・・・。減俸です! 言語道断、減俸です!」

 

それを収めるは百戦錬磨の交渉人。

項垂れる者達に愛故の説教が飛んだ。

 

「・・・聞かなかった事にしてくれる?」

「・・・よく分かりません」

「そっか。それなら、大丈夫。気にしなくていいよ」

 

○○月××日

今日、食堂で非常事態がありました。きっと人手不足が原因でしょう。結末は無事に終わるです。私だったらお手伝いすると思います。

 

「そういえば、セレスちゃんもお手伝いしてくれたね」

「・・・はい。頑張りました」

「偉い偉い」

 

ちょっと文章が変だけど問題ないでしょ。

正しくは私もお手伝いしましたとかかな?

ま、ちょっと後で教えるとしよう。

これは葬式料理の時の奴だな。

料理の数が多すぎて人手が足りない時があって、暇だった俺が連れ出されたんだよ。

それを見て、セレス嬢が手伝わせてくださいって。

忙しい中、大丈夫かなって思ったけど、トコトコ歩く姿に癒されて仕事効率もアップみたいな感じで。

無事に、乗り切る事が出来ました。

いや、それにしても、ホウメイさん大変だなと実感した。

葬式料理ですら全て自分一人なんだから。

皿洗いや野菜切りしか出来なかった自分でも終わった時は達成感がありました。

ホウメイさんとその後、お茶会をしましたが、ホウメイさんは良い人です。

サイゾウ氏に並ぶ尊敬する大人として認定されました。

 

「また御手伝いする機会があったら来てくれるかな?」

「・・・はい。頑張ります」

「ありがと、セレスちゃん。それと最後の文をちょっと変えようか」

「・・・どうやってですか?」

「私だったら御手伝いすると思いますだとセレスちゃんがせっかく手伝ってくれたのに何もしてないみたいでしょ? だから、お手伝いしましたにしよう」

「・・・コウキさんに教えてもらった文と変わっちゃいます」

「え? あ、別にそのままじゃなくても・・・」

「・・・嫌です。このままが良いです」

「う、うん。このままでいいよ」

 

○○月××日

今日、ナデシコのブリッジでルリさんがアイゲームをするという事がありました。きっと退屈が原因でしょう。結末はハイスコアです。私だったら高得点は取れないと思います。

 

「あぁ。あのゲームやっていたんだ」

「・・・難しかったです」

「ま、ゲームは慣れだから。セレスちゃんだっていつか高得点が取れると思うよ」

「・・・頑張ります」

「うん。頑張って」

 

○○月××日

今日、ナデシコの食堂で辛い物を食べるという事がありました。きっと好奇心が原因でしょう。結末は辛かったです。私だったら二度と食べません。

 

「へぇ。辛いもの食べたんだ。舌とか痛かった?」

「・・・痛かったです。今でもちょっとヒリヒリします」

「セレスちゃんにはちょっと早かったかな。大人になればきっと食べられるよ」

「・・・む。私、子供じゃありません」

「じゃあ、もう一回食べてみる?」

「・・・シュンッ。子供のままでいいです」

「すぐに食べられるようになるよ」

 

何故にいつも擬音を声に出すのだろうか?

ま、いっか。とりあえず、今日の所はここまでだな。

 

「うん。何があったのか伝わってくる良い日誌だね」

「・・・ありがとうございます」

「また見に来るから、頑張って」

 

偉いぞって子供を褒める時は頭を撫でてしまいますよね?

あれは不可抗力です。自然の理です。

 

「・・・楽しみに待っています」

「うんうん」

 

色々な経験を積んで子供は成長するんだ。

日誌じゃなくて絵日記風にするよう提案してみようかな。

え? 日誌じゃなくなるって?

子供に描かせている艦長が悪い。

俺はセレス嬢の成長の為ならプロスさんにだって立ち向かってやるぜ。

 

 

後日、絵日記にさせる事に成功。

絵心はそれ程でもありませんでしたが、一生懸命絵を描く姿は和みました。

セレス嬢の航海絵日記を読む事が一日の楽しみになっている僕でした。

 

 

 

 

 



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切り札は裏目に

 

 

 

 

 

「そろそろ火星。ともなれば・・・あれだな」

「あれって?」

 

珍しくブリッジの全クルーが揃った今日。

きっとその珍しい事態はこれから起こるイベントの為だろう。

でも、現時点でそういう関係にある人がブリッジクルーで少なくとも二組はいる訳でしょ。

あぁ。俺達へのバッシングが凄まじい事になりそうだ。

まさかミナトさんとこういう関係になれるなんて予想してなかったからな。

嬉しい事なのは確かだけど、また血走った眼で見られるのはちょっと怖くて嫌かな。

 

「ミナトさんには話してなかったですね。ちょっとした事が起こるんですよ。多分、今日ですね」

「ちょっとした事? それって―――」

「反乱ダァ! 我々は正当な権利を持ってこの項目の改善を訴える! 我が賛同者は続けぇ!」

「オォオォッォ!」

 

ブリッジに雪崩れ込む兵士とパイロット。

その顔は真剣以外の何ものでもなく、手には銃を持っていた。

真剣の度合いを示す基準にもなるけど、仲間に銃を突きつけるのはちょっといただけない。

 

「・・・という事です」

「ちょっと待って。何がどうなってこうなるの?」

 

混乱するミナトさん。

ま、当然そうなるよな。

いきなり雪崩れ込んできて銃を突きつけられれば。

あ。ガイがいる。そりゃあ改善しないと誰かさんと熱くなれないからな。

意外と律儀そうだし、そういう所。

 

「ガイさん、これは一体?」

「おぉ、メグミ。これを見てくれ」

 

通信士の席に座っていたメグミさんが困惑で固まっていると、多分、ガイの姿に気付いたんだろう、すぐに硬直が解けてガイに近付いていった。

銃を突きつけられているという恐怖でさえ乗り越え無邪気にガイに近付くとは。

恐るべし、愛!

 

「え? こんな項目があったんですか?」

「おぉ。こんなのあったら、これから困るだろ? 俺達はこれからもっと―――」

 

バキッ!

 

「てめぇ! このゲキガンオタクが! 打ち殺すぞ!」

「い、痛いっすぅ」

 

当たり前だよ、ガイ。

彼らは女性と接近したいからこういう事をやっているのさ。

そんな彼らの前で桃色吐息なピンクオーラを出したら当然やられるよ。

自重、自重。

 

「ウリバタケさん、これはどういう事ですか!?」

 

銃を突きつけられながらも毅然とした態度を取れるユリカ嬢。

このあたりは流石だなと思う。

 

「これを見ろ!」

「・・・これは・・・」

 

ウリバタケ氏から契約書を受け取り、上からゆっくりと読んでいくユリカ嬢。

その後、呆然。

その後、絶叫!

 

「え、え、えぇ!? な、何ですか!? これは! これじゃあアキトと何にも出来ないじゃないですか!」

「そうだろ、そうだろ。許せないよな! 横暴だよな!」

「はい。許せません。横暴です」

「よし。レッツ反乱!」

「レッツ反乱!」

 

あぁ・・・。艦長まで乗せられちまったよ。

原作で見ていて、分かったけどさ。もっと責任持った行動を取ろうよ。

騒動を収めるのが艦長の仕事でしょ?

便乗して余計騒がしくしちゃ駄目だって。

 

「結局どういう事なの?」

「あれですよ。異性とは手を繋ぐまでって奴。あれが許せないらしいです」

「あぁ。あれか。まぁ、確かに許せないでしょうね」

 

余裕の笑みを浮かべるミナトさん。

これもまた、変更済みだからこそ浮かべられる笑みか。

 

「おい! マエヤマ! お前はどうなんだ?」

「え? 何がです?」

「こっちに来ねぇのかって聞いてんだよ! てめぇだってこんなの許せねぇだろ! ミナトちゃんと良い関係のてめぇはよぉ」

 

どこか私怨が含まれたかのような言葉ですね。

 

「そうだぜぇ! コウキ! お前もこっち来て俺と愛の為に戦お―――」

 

バキッ!

 

「てめぇは黙ってやがれ。ぶちのめすぞ」

「す、すいませんっした」

 

あらあら。可哀想に、ガイ君。

ま、自業自得だからね。フォローはしないよ。

今のは獣の群れの中でいきなり肉を食いだすような事だから。

 

「あ。ウリバタケさん。俺はその項目変更済みですから」

「な、何?」

 

何ですか? その大好きな子にいきなり告白されたかのような驚きようは。

 

「プロスさんには言ったんですけどね。絶対問題になるから恋愛は自由にさせて方が良いって。でも、駄目だったんですよ」

「そ、そんな事は関係・・・なくはねぇが、その前にだ。てめぇはこの項目を変更してなしにしてやがるんだな?」

「ええ。給料15%カットですけどね。気付けて幸いでした」

 

ま、知っていたんだけどね。

 

「ク、クソッ。裏切り者が! ・・・だが、これは改善できる可能性も出てきたという事か。・・・だが、しかし・・・」

「困りますなぁ。何の騒ぎですか? これは」

 

ぶつぶつ危なく呟くウリバタケさん。

それを中断するようにプロスさんが現れる。

凄腕交渉人の仕事が始まったな。

銃を向けるウリバタケさんと契約書で立ち向かうプロスさん。

何故だろう? 契約書が凶悪な銃にすら見えてくる。

ま、あの二人の議論は平行線だろうから、無視して。

 

「何やってんの? ヒカル」

「え? だって面白そうじゃん」

「面白そうって理由なの?」

「ま、ちょっと許せないかなって気持ちもあるかな。束縛とか嫌だし」

「まぁ、そうだろうけどさ、銃はやりすぎじゃない?」

「てめぇは変更しているからそんな余裕なんだよ!」

「あれ? リョーコさん。そんなに恋愛したい人がいるの?」

「えぇ!? そうだったんだ。リョーコ。いやいや、隅に置けないね」

「ち、ちげぇよ! そ、そんなんじゃなくてだな! 自分の事を誰かに決められるのが―――」

「いや。青春だね。リョーコさん」

「うんうん。リョーコにも漸く春が・・・」

「違うって言っているだろ!」

 

リョーコさんも面白い人だよな。

ヒカルが合わせてくれるから楽でいいし。

 

「見事なまでのかわし方。腹黒ね、コウキ君」

 

なんか最近の評価が腹黒ばかりな気がする。

 

「ん?」

 

そういえば、テンカワさんの姿が見えないな。

 

「テンカワさんは参加してないの?」

「ううん。誘ったんだけど、用があるって」

「あぁ。そうなんだ」

 

議論中に襲撃に遭うんだっけ?

テンカワさんには取るに足らない反乱って事?

そもそもテンカワさんは変更したのかな?

 

「困りますなぁ。契約は絶対なのですよ」

「ふんっ。聞いたぞ。マエヤマは変更しているそうじゃないか」

「ええ。マエヤマさん、ハルカさん、テンカワさん、ルリさん、ラピスさんはそれぞれ変更しています」

「何!? 他にもいたのか!?」

 

ギロッとこちらを見てくるウリバタケさん。

少なくともテンカワさん達は俺と関係ないぞ。

 

「何であいつらは良くて俺達は駄目なんだよ!?」

「彼らは契約の前に自ら申し出ています。貴方達は契約を結んでから申し出ています。その違いです」

「あぁん!?」

 

睨み合いが続く。

あ。艦長が動き出した。

 

「プロスさん。私も納得できません! 変更してください!」

 

おい!? やっぱりそっちかよ!?

 

「艦長。貴方はこちら側の人間でしょう?」

「私とアキトの恋路を邪魔するものは何であろうと許しません!」

「艦長が何と言おうと契約は絶対です!」

 

ジュン君、早く止めて。

 

「ユ、ユリカ。艦長なんだから率先して止めにはいらないと」

「ジュン君! 邪魔しないで! 私の将来が懸かっているの!」

「ユ、ユリカァ~・・・」

 

もっとだ。もっと押せよ。

熱くなれよ!

 

「コ、コウキ君」

「え? ・・・あ」

 

気付けば整備班の皆さんに囲まれていました。

 

「お前は良いよなぁ。綺麗な彼女もいて、ちゃっかり契約内容も変更していて」

「女性ばかりのブリッジ勤務でよぉ。俺達なんて男臭くて堪らないってのに」

「その上、予備パイロットだと!? 男女比一対一ですら羨ましいわ!」

「この野郎、セレスちゃんにまで手を出しやがって。ミナトちゃんだけじゃ満足できないってのか!? ああん!?」

「どっちか寄越しやがれ!」

 

最初はタジタジしてましよ。

セレス嬢に手を出したという不名誉にも反発は覚えましたが、何より最後の言葉は許せません。

ええ。絶対に許す事は出来ません。

 

「寄越せとは何ですか! 二人は俺の大切な人です! それをまるで物のように」

「え、え~と」

「反乱!? 抗議!? そんなの勝手にやってください! ブリッジを占拠しようと状況は変わらないでしょ! プロスさんに直接抗議してください!」

「あ、あのな・・・俺達も―――」

「子供に銃を突きつけるのが大人ですか!? 己の目的の為に手段を選ばないのが大人ですか!? 見てください!」

 

隣の席で俯き震えるセレス嬢に視線を落とす。

 

「こんなに怖がっているでしょうが! 俺は貴方達が形だけで銃を突きつけていると知っています。仲間を撃つような事は絶対にしないと!」

「・・・・・・」

「ですが、突きつけられれば怖いんですよ! どれだけ信じようとも、銃を突きつけられれば、ナイフを突きつけられれば、怖いものは怖いんです!」

 

たとえ冗談でも危ないものは危ない。

何があるか分からないのだ。誤って傷つけてしまったら悔やんでも悔やみきれない。

 

「契約書を見なかったのが悪いとは言いません。こんなに巧妙に隠すネルガルが俺も悪いと思います。性質が悪いです。でも、他にやりようがあったのではないですか!?」

「・・・そ、そうだな」

 

血走った眼で迫ってくる整備班の内の一人がそう告げる。

 

「子供に、いや、子供だけじゃない。仲間であるナデシコクルーに銃を突きつけてまでやる事じゃねぇよ」

「・・・ああ。こんなに怖がらせて、俺達は何をしていたんだろうな」

「ごめんな、セレスちゃん」

 

・・・分かってもらえたみたいだ。

仲間を怖がらせてまでやる事じゃない。

気に喰わないのは分かる。変更している俺に当たるのも分かる。

でも、それにもルールがあるだろ。

銃は何があっても反則だ。

 

「・・・コウキって怒ると怖いんだね」

「・・・ちょっとやりすぎだったな」

「・・・ええ」

「ガイさん。正義のヒーローがやる事じゃないです」

「・・・すまん。反省している。俺は間違っていた」

「分かれば良いんです。ガイさん」

「・・・ああ。メグミ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

抱き締めあうガイとメグミさん。顔が近いです。

・・・それよりも、よくこのシリアスムードの中でピンクになれますね。

何か、呆れて怒る気にもなれません。

 

「おい。てめぇら。銃なんか捨てろ。俺達に武器はこの肉体だ! 今こそ―――」

 

ゴキッ!

 

「てめぇは黙っていろ! このピンク野郎!」

「グハッ!」

 

自業自得。でも、音が音なだけにちょっと心配。

 

「だが、ゲキガンオタクが言っている事も間違ってねぇ。俺達の武器は銃なんかじゃねぇ。俺達の魂は・・・こいつだ!」

 

そう言って取り出すはスパナ。

流石。それでこそウリバタケさんです。

 

「プロスのダンナ。俺達は抗議が受け入れられないならストライキを起こす事すらも辞さない」

「はぁ・・・。困りましたな。どうしましょうか?」

「艦長命令です! 変えちゃいなさい!」

「あ。艦長。貴方はどちらにしろ駄目ですからね」

「ほぇ?」

「艦長はクルーの鑑たれ。艦長が風紀を乱すような事が許される訳ありません」

「そ、そんな・・・」

 

壮絶に落ち込むユリカ嬢。

ま、まぁ、どうにかなるよ。ユリカ嬢。

 

「どうなんだ!? プロスのダンナ!」

 

今更だけど俺だけってのもちょっと罪悪感があるな。

俺の意見なんかで変わるか分かんないけど、少し試してみよう。

 

「プロスさん。やっぱり問題起きたじゃないですか」

「率先して風紀を乱した方に言われたくありませんな」

 

グサッ!

そ、それを言われると反論できないのですが・・・。

 

「もしかして、怒っています?」

「如何わしい行為はしないと誓っていただけたかと思いますが?」

 

もしかして、藪蛇ですかぁぁぁ!?

 

「おい。こら。如何わしいってどういう事だよ?」

「あん!? てめぇはもうミナトちゃんと大人の関係って事か? そうなのか?」

「まだ成人もしてねぇような奴が生意気しているんじゃねぇ」

 

もしかして、またもや囲まれていますかぁぁぁ!?

 

「あら? 当たり前じゃない。もう大人だもの」

「ゴラァァァ! マーエーヤーマー!」

 

火に油を注がないでください! ミナトさん!

 

「ス、スパナで殴られたら僕死んじゃうかな~って思うんですけど」

「いや。お前は既にあの身体に溺れているんだ。死ぬタイミングが早まるだけ」

「で、溺死はしませんよ」

「そうそう。溺れても人工呼吸してあげるもの」

「マーエーヤーマー! 死ねぇぇぇ!」

 

ミナトさん! 火薬庫に火を投げ入れないで下さい!

というか、皆さん、怖い! 怖過ぎます! 眼が赤く染まっていますから!

 

「プロスさん!」

「こちらも変更を許してしまった以上、眼を瞑るしかありませんでした。私がどれだけ気を揉んだか・・・」

 

胃に手を当てるプロスさん。

すいません。ですが、理性で抑えきれないのが恋の病なのです!

練習だってサボってしまうのが恋の病なのです!

 

「と、とにかくですね。ストライキを起こされて生じる損害と艦内恋愛を認めて生じる損害とを比較すればすぐに決まると思いますが?」

「しかしですね。恋とは恐ろしいものなのです。この私も・・・コホン、色々あったのです」

 

な、何があったんですか!?

非常に気になる。

 

「も、もちろん、仕事をサボったりする事はありませんよ。むしろ、やる気が漲ると思います! ね! ウリバタケさん」

「お、おう。当たり前だろ!」

 

突然、振ってすいません。

ですが、慌てていても返事するのが流石です。

 

「心配されるかもしれませんが、彼らはプロです。プロが恋に惑わされる事なんてありませんよ。確実に成果を残します」

「しかしですな。私は心配で―――」

「御自分で選んだクルーが信じられないのですか!?」

 

あ。ユリカ嬢の火星での名言を言っちまった。

ユリカ嬢。すまんが、二番煎じになっちまう。

 

「む。そう言われてしまうと反論できませんね」

 

やはりこの台詞は効果的みたいだな。

交渉人の心理を突く一言。やるな、ユリカ嬢。

 

「きちんと成果を残す。必ず時間を守る。人前でしない。それで妥協しませんか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

眼は逸らせない。

俺の背中には何人もの人の期待が乗っかっているんだ。

 

「・・・はぁ・・・。分かりました。妥協すると致しましょう」

「ありがとうございます」

 

ほっ。良かった。

 

「マエヤマ! お前はむかつくが、良くやってくれた!」

「おお。むかつくが、お前のおかげだ」

「ああ。死んで欲しいぐらいむかつくが、胴上げしてやる」

 

全員、むかついているんですね。分かります。

結局、僕は涙を流しながら胴上げされる破目に。

そして、こんな時に・・・。

 

ドドンッドドンッドドンッ!

 

「な、何事だ!?」

「木星蜥蜴が接近中。この数は・・・迎撃が必要です!」

 

こういう事が起こるんだから、世の中って不思議だよね。

というか、いたんですね? ゴートさん。

最近、驚き役が板についてきています。

 

「オラァ! 野郎共! クーデター成功だ! 後は結果を残すぞ! 勝利は己の手でもぎ取れぇ!」

「オォォォオォオォ!」

 

凄まじい勢いで去っていく整備班。

呆然と立つ艦長に眼も向けずに走っていった。

それはまぁ、いいよ。たださ、これだけは言わせて。

いくら揺れたからって空中の俺はスルーするのは酷くない?

めちゃくちゃ腰が痛いんですけど。あ。地面にぶつけたからだからね。

 

「・・・ガイさん」

「心配するな。必ず帰ってくるから」

「はい!」

 

あぁ・・・。ガイ。自重。

 

「早く来い!」

 

ゴンッ!

 

「グハッ!」

 

あぁ。リョーコさんに引き摺られていく哀れなガイ。ドナドナが聞こえてくるよ。

 

「じゃ、行ってくるね」

「気を付けろよ、ヒカル。イズミさんもお気を付けて」

「うん。じゃあね」

 

去っていくパイロット達。

彼らの腕なら大丈夫だろう。

今回はガイもいる。心配はいらない。

 

ギュっ!

 

「イタッ!」

 

だ、誰だ? 俺の脇腹を抓ったのは。

 

「・・・・・・」

「・・・どうしました?」

 

ミナトさんでした。珍しく口を尖らせています。

 

「随分と仲良さそうだったじゃない? ヒカルちゃんと」

「え? そうですかね?」

 

ギュっ!

 

「イタッ!」

「早く準備なさい!」

「は、はいぃ!」

 

こ、怖いですよ。ミナトさん。

 

「・・・バカ」

 

ま、ヤキモチだって分かればそんなに悪い気分じゃないかな。

腰と脇腹はまだ痛いけど・・・。

 

「・・・・・・」

 

あれ? ここですぐに指示が出される筈なのに・・・。

 

「艦長。指示を!」

「・・・・・・」

「あれ? 艦長?」

 

あ。固まっていらっしゃる。

硬直時間が長すぎですな。誰か硬直を解いてあげて。

 

「・・・ユリカ。テンカワの勇姿を見なくて良いの?」

「あぁ! そうだった! 教えてくれてありがとね、ジュン君」

「・・・ううん。いいんだ」

 

涙を流しながら、良くぞ告げてくれた。

恋敵の名を使うのがどれ程、悔しく、悲しい事か。

ジュン君、大人になったね。・・・情けないけど。

 

「エステバリス隊はどうですか?」

「現状で発進できるのはテンカワ機だけです」

 

あ。テンカワさんはこれに備えていたんだ。

準備が早い。

 

「テンカワ機は先行発進。他のエステバリスも準備が終わり次第、発進してください」

「了解」

 

どれだけ早く発進させてもDFがある限り、エステバリスも迎撃活動に移れないからな。

発進の手間を考えるとさっさと発進させてDF近くで待機していた方がいいって訳か。

 

「グラビティブラスト発射と同時に迎撃活動に移ってください」

 

その時はDFを解除するからな。

タイミングとしては丁度良い。

 

「マエヤマさん! 御願いします!」

「オモイカネ。レールカノンセット」

『レールカノンセット開始』

 

俺の役目はDFを纏わせるまでの迎撃活動。

基本的にナデシコはDF纏って時間稼いでGBをチャージしてGB発射して大量破壊してDF纏って・・・という行為を繰り返す事が戦術となる。

その合間、合間にある隙を埋める事が俺の役目だ。

現状でGBに勝る攻撃方法はないからな。

最高戦力のお膳立ても大切な役目だ。

 

『レールカノンセット完了』

「レールカノン準備完了」

「エステバリス。全機発進しました」

 

さぁ、舞台は整った。始めようか。

火星降下前の最後の戦いを。

再び火星の地を踏む為に!

平穏生活を成就する為に!

火星よ! 私は還ってきた!

・・・落ち着こう。俺。

そもそも俺は経歴では火星育ちになっているが、実際に来たのは初めてなんだから。

冷静に、冷静に。

 

「グラビティブラスト発射!」

「グラビティブラスト発射します」

 

DF解除と同時にGBを放つ。

さて、やりますか。

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

 

どれくらい繰り返したかな?

グラビティブラストを放った回数なんてもう覚えてない。

一発撃つ度にフォローに入るとか。

心身共に疲労が溜まります。

ま、弱音なんか吐いていちゃパイロットの皆さんに申し訳ないか。

 

『こちらスバル・リョーコ。残弾が残り少ない。一度補給に戻る』

『こちらダイゴウジ・ガイ。発進準備完了だ。いつでも出られるぜ』

 

スバル嬢が補給に戻り、ガイが再び戦場に。

機体も万全でまだまだ元気なガイだ。

テンカワさんと協力すれば、敵の艦隊に大損害を与えられるかもしれん。

流石に原作のアキト青年みたいに一人で突っ込ませるのは危険過ぎる。

 

「ゴートさん。これを」

 

あたかも解析したかのようなデータを戦闘指揮のゴートさんに送る。

ゴートさんなら指揮を執っても問題ないだろう。

 

「これは?」

「敵艦隊を現状の武装で倒す為に必要な戦術を考えてみました。成功する確率が高いようでしたら参考にしてください」

「む。これは・・・いけるか?」

 

前回の戦闘からウリバタケさんに協力してもらって作り上げたエステバリス専用のレールカノン。

これと原作のアキト青年が無茶したイミディエットナイフでの特攻を組み合わせれば・・・。

 

「敵のDFは少なくともナデシコよりは軟いです。レールカノンでDFの出力は低下させつつ、イミディエットナイフのような先端が尖っているものなら・・・」

「敵のDFを突破できるかもしれん。データでは正面から無理だとなっているが?」

「角度的な問題です。真正面から立ち向かっては面と面。DFを突破するのなら、まずは斜めから突っ込む事でDF全体を消滅させます」

 

アキト青年はナイフだけで成功させた。

それなら、レールカノンとの複合はより成功率も安全性も高い。

 

「恐らく接近するナイフの役は発進したばかりのガイに、レールカノンでフォロー及び突破後の射撃にはテンカワさんが良いかと」

「お前のデータを信じよう。テンカワ、ダイゴウジ。作戦を告げる」

 

無茶な作戦かもしれんが、成功させてくれよ。

提案しておいて言うのも何だが、まだお前には死んで欲しくないからな。

メグミさんに睨まれるのも嫌だぞ、ガイ。

 

「ガイ、聞こえているか!」

『おう。コウキか。どうだ? 俺の戦いは』

「ああ。出航したばかりのお前が嘘のようだ。ガイ、ヒーローに近付いたな」

『ハッハッハ。まぁな!』

「作戦は聞いたか?」

『おう。まずはDFの突破。んで、ナイフで装甲を剥ぎ取ればいいんだろ? それをアキトが破壊してくれる』

「そうだ。すまない。お前に負担が大きい作戦で。恨むなら提案した俺を恨んでくれ」

『フッ。誰が恨むかよ。死んだら腕のない俺の責任だ。てめぇのせいなんかにしねぇよ』

「・・・ガイ、何だかカッコイイぞ」

『当たり前だろ! ヒーローはカッコイイものさ』

「絶対に死ぬなよ。ヒーローに憧れて死ぬなんて事は―――」

『馬鹿野郎。恋人を残して死ねるかよ! 帰って来るって誓ったんだよ!』

「・・・ガイ、お前こそ男だ! 行って来い!」

『おうよ! 後は任せろ! おっしゃあぁぁぁ!』

 

誰かの犠牲になって死ぬみたいな事にガイは憧れを抱いていた節がある。

それは美しい死に方なのかもしれない。

だが、少なくとも守られた方の心に一生傷を残す。

俺はガイにそんな死に方をして欲しくなかった。

だから、忠告しようとしたけど・・・。

心配はいらなかったみたいだな。

恋が人を強くする・・・か。

本当にヒーローみたいだ。

 

「ガイは精神的に強くなった。なら、俺も・・・」

 

ガイに負けずにやってやる。

全力でガイを援護してみせる。

 

「ガイとテンカワさんを援護します。DFを解除してください」

「・・・信じていいんですね?」

「ええ。一切近付けず、見事に援護をやり通してみせましょう」

「私も協力するわ。多少のミスはカバーしてあげる」

「心強いですよ、ミナトさん」

「・・・頑張ってください、コウキさん」

「ありがと、セレスちゃん」

 

フーっと深呼吸。

眼を閉じ、心を落ち着かせて・・・。

 

「フィードバックレベルを最高値に。情報伝達速度を最高値に。全レールカノンを制御下に」

 

弾幕として幾つかオモイカネの制御下にあったレールカノンを完全に俺の制御下に置く。

視覚データの伝達、命令の伝達を反射のレベルに近い最高速度に。

導入したソフトを最高スペックで発揮、得られた敵情報を一瞬で解析、全てを同時に把握。

・・・終わったら寝込むかもしれないな。

だが、俺も男をみせてやる。

 

 

「・・・す、凄い」

「ル、ルリちゃん。レールカノンの命中率は?」

「・・・信じられない事に80%台をキープしています。距離には関係なく、外すのは爆風など想定外の要因が絡む時のみ」

「敵の攻撃は?」

「・・・全てシャットアウトです。他の弾幕として使われている武装の射撃コースすら一瞬で予想していて無駄弾がありません」

「・・・恐ろしいですな。全てのレールカノンを自由自在に操り、かつ、外す事がない」

「あれ程の射撃をこなせる奴が世界に何人いるか・・・」

「・・・皆無じゃろ。これ程の者をワシは見た事がない」

「・・・コウキ君、頑張って」

 

 

頭が割れるように痛い。

痛くて熱くて、少しでも早く気を失いたいとさえ思う。

指先は震え、心が凍りつく。

まるで自分が人間じゃないかのように。

俺は人間なのか? ただ眼の前にいる標的を撃ち尽くすだけの機械ではないのか?

人間としての感情を失い、心を失くし、ただ条件反射のように敵が映れば腕を動かす。

考える事すら億劫。思う事すら億劫。何も考えず、何をしているかも分からず。

・・・気付けば、俺は意識を失っていた。

ひたすらに標的を撃ち続ける機械の腕を残して。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

コウキ君の様子がおかしい。

その事に気付いたのはヤマダ君とアキト君が敵艦隊を撃破した時。

敵は全滅に近くて、後はナデシコがグラビティブラストを撃てば終わりだというのに、コウキ君が戻ってくる事はなかった。

いつものコウキ君なら、終わってすぐに頼もしい笑顔を浮かべてくれる筈。

まだやり残した事があるのかな?

そうやって軽く考えていた時、それは起こった。

 

「え!?」

「ルリちゃん。どうしたの?」

「レールカノンがエステバリスにロックオンされています! マ、マエヤマさん!」

「・・・・・・」

 

ダンッ!

 

何の戸惑いもなく放たれるレールカノン。

その弾丸はスバル機のDFを容易に貫き、エステバリスの右腕を損傷させた。

 

『おい! どういうつもりだ!?』

 

激昂するリョーコちゃん。

当たり前だと思う。いきなり、しかも、味方から撃たれたんだから。

 

『ブリッジ! どうなっている!?』

「わ、分かりません。マエヤマさんが。調べてみます」

『マエヤマが! チッ! 何が目的だ』

 

リーダーパイロットのアキト君が怒気で顔を染める。

待って。きっと何か理由が。そうじゃなければコウキ君がこんな事をする筈がない!

 

「ゴートさん! マエヤマさんをコンソールから引き離してください!」

「了解した」

 

艦長の指示でゴートさんが動く。

あんな巨体だ。コウキ君は簡単に引き剥がされる筈。

これで安心できる。

そう考えた私が愚かだった。

私は失念していたの、コウキ君の異常な身体能力を。

 

「う、動かん!」

「え? 嘘・・・ですよね?」

「嘘などついてはいない! 事実、動かんのだ!」

 

どれだけ巨体で力持ちであろうと、所詮は人間。

コウキ君が全力で抵抗すれば力勝負で勝てる筈がない。

 

「クソッ!」

 

青筋が立つ程に全力でコウキ君を持ち上げようとするゴートさん。

でも、それでも、まるで動く様子がない。

その間にも、コウキ君の動かすレールカノンが止まる事はなかった。

 

『な、何だ? 何だ?』

『ど、どうなっているの?』

『包まれる暗黒の海。あぁ。私は墜ちるのね』

『え、縁起でもねぇ! どうなってんだよ!? 答えろ! ブリッジ!』

 

エステバリスのパイロットの腕がいいからどうにかなっている状態。

きっと他の人だったらとっくに墜ちてる。

・・・コウキ君が人殺しの罪を背負う事になる。

そんなの・・・いや!

 

「コウキ君! しっかりして!」

 

肩を懸命に揺らす。

コンソールに置かれた手を必死に引き離そうと腕を引っ張る。

それでも、非力な私の力では引き離す事が出来なかった。

 

「ジュン君!」

「うん。やってみる」

「私も手伝いましょう」

 

副長やプロスさんも加わり、コウキ君を囲む。

それぞれが全力でコウキ君を動かそうとするが、それでも動く事はなかった。

 

「な、何なんだ!? 一体! この力は!」

「普通じゃない! こんな力は普通じゃない!」

「まいりましたな。被害が増える一方です」

 

どうして?

どうしてこんな事をするの?

幸せで平穏を望むといってコウキ君は嘘なの?

貴方は、本当はこうやって―――。

 

「私の馬鹿! 何を考えているのよ!」

 

誰よりも私がコウキ君を信じてあげなくちゃ駄目でしょ!

コウキ君を疑うなんて馬鹿げているわ!

 

「コウキ君! コウキ君! 返事をして! コウキ君! しっかりして!」

 

・・・遠かった。

私の声なんて聞こえてない。

遠くて、遠くて、必死に追いかけても追いつかない。

その遠さが、その距離が、堪らなく悲しくて。

・・・堪らなく悔しかった。

こういう時に救ってあげるのが恋人でしょ!?

何でよ!? 何でこういう時に何もしてあげられないのよ!

・・・自分の存在が本当に嫌になった。

何も出来ない自分が本当に嫌になった。

 

「艦長! 原因が分かりました! 無理に引き離してはいけません!」

「説明して! ルリちゃん!」

「現在、マエヤマさんは心を失っています」

「え?」

 

心を失っている?

 

「おそらくフィードバックの暴走が原因です。必要以上の情報を脳が受け止め切れずにマエヤマさんの脳は意識を失わせる事で対応」

 

フィードバック?

そういえば、さっきフィードバックレベルを最高値にって言っていたわ!

 

「その代わり、今のマエヤマさんは機械のように眼の前の標的を撃つ事だけしか考えていません。言わば、システムに意識を奪われている状態です」

「それなら急いで離れさせないと!」

「駄目です! 今、引き離すと良くて植物状態、下手すると死に至る事もあります」

 

死ぬ?

コウキ君が死ぬの?

そ、そんな事って・・・。

 

「脳の活動を補助脳が上回れば本来の脳としての活動を停止してしまいます」

「どうにか! どうにかできないの!?」

 

どうにかして!

コウキ君を死なせないで!

 

「ラピス、セレス。マエヤマさんの制御下にあるシステムをハッキングして停止させます。オモイカネすらも受け付けない強固な守りです。協力してください」

「・・・分かった」

「・・・やります。絶対にコウキさんを」

 

・・・御願い。

神様・・・御願いします。

 

「ミナトさん。気を強く持ってください」

「・・・メグミちゃん」

「恋人なら支えてあげてください。信じて待っていてあげてください。私も戦場に出るガイさんを見ているのは怖い。でも、逃げたりしません」

「・・・私には何も出来ないの。何もしてあげられないのよ!」

「だから! 気を強く持って、マエヤマさんを信じてあげてください! ルリちゃん達を信じてあげてください!」

「・・・ルリちゃん・・・?」

「見てください。彼女達だって必死です。全力でマエヤマさんの為に力を尽くしています」

 

額に凄い汗を浮かべて、必死な顔で作業するルリちゃん。

ラピスちゃんもセレスちゃんも辛そうに表情を歪めているのに、諦める事なく頑張っている。

 

「私達には祈る事しか出来ません。でも、絶対に帰って来るって。そう信じれば、必ず帰ってきてくれるって。そう信じるしかないんです!」

 

諦めていたの?

私はもう無理だって・・・。

 

「辛いのも苦しいのも分かります。でも、必死に頑張る仲間を信じてあげてください。それに・・・」

 

穏やかに笑うメグミちゃん。

 

「恋人を残して勝手に死ぬような人じゃないですよ、マエヤマさんは」

 

・・・そう。

そうよ。今の私にだって出来る事はある。

泣き崩れる事が今すべき事じゃない。

コウキ君の死を拒んで自暴自棄になる事じゃない。

混乱して、泣き叫ぶ事が私のするべき事じゃない!

 

「コウキ君! しっかりなさい! 戻ってきなさい!」

 

必死に訴える。

システムに乗っ取られた?

その程度でへこたれるような男じゃないでしょ!

取り戻しなさい! 貴方にはそれが出来る!

 

「エステバリス隊! 聞こえますか!」

『ああ。どうなっているんだ?』

「システムの暴走です。管制システムが暴走しただけです。すいませんが、回避に専念してください」

『・・・後で事情を聞かせてもらう。が、了解した』

『チッ! システムの暴走ならしょうがなねぇな。避け続けてやるよ』

『ねぇねぇ、当たった人は奢りにしない?』

『ふっふっふ。闇の底で賭け事に走るなんて。甘美ね』

『おいおい。遊んでいる場合じゃ―――』

『へぇ~。逃げるんだ?』

『へっ。この俺が逃げるだと? そんな馬鹿な事がある訳―――』

「真面目にやってくださぁい! ガイさん! 怒りますよ!」

『お、おう。すまねぇな。だがよ。何があったかしらねぇが、気にする必要なんてねぇぞ。この程度に当たる奴が悪いんだ』

 

そう笑うガイ君。

きっとそれがガイ君の優しさなんだって思った。

誰がレールカノンを操っているかなんて誰だって知っている事なのに。

お前に責任はないぞって。

そう伝えてくれている。

素敵な彼氏ね、メグミちゃん。

 

『そうそう。狙うならもっとちゃんと狙えってな』

『速攻で当たった人が言う台詞じゃないよぉ』

『ば、馬鹿。あれは、そう、油断って奴だ』

『戦場で油断するなんて愚かね』

『おい。こら。イズミ。てめぇはどっちの味方なんだ』

『戦場で散る方の味方』

『死ねってか!? 死んだ方の味方だってのか!?』

『うるさいよ、リョーコ』

『俺か? 俺が悪いのか!?』

 

ほら、コウキ君。

皆、こうやって貴方を支えようとしてくれているのよ。

それを、貴方は裏切るの?

そんな子じゃないでしょ?

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・ハッキング成功・・・」

「・・・はぁ・・・システムと・・・意識を・・・切り離した・・・はぁ・・・」

「・・・はぁ・・・もう・・・はぁ・・・大丈夫です・・・」

 

・・・良かった。

助かったのね。コウキ君。

 

「ありがとう。本当にありがとう」

 

息も切れて汗も掻いて。

必死に助けてくれた。

コウキ君の為に力を尽くしてくれた。

本当に感謝のしようもない。

 

「仲間ですから。当然です」

「・・・コウキの為。当たり前の事」

「・・・コウキさんへの恩返しです。私にはコウキさんが必要ですから」

 

小さな女の子にこんなにも感謝する日が来るなんて思わなかった。

でも、本当に感謝している。恥も外聞も捨てて、頭を下げたかった。

本当にありがとうと。何があってもこの恩は絶対に返すって。

 

「システムの掌握に成功。お疲れ様でした。帰艦してください」

『『『『『了解』』』』』

 

メグミちゃんにもパイロットの皆にも感謝している。

メグミちゃんが暴走と報告してくれたからコウキ君への追及が逸らせた。

コウキ君のせいだって事は皆分かっていると思うけど、怒りを向けられる事はなかった。

パイロットの皆もそう。

一機でも墜ちていたらコウキ君は苦しんだと思う。

人を殺してしまったという罪を背負って。

たとえ意識がない時、自分が知らない間に起きた事だとしても、コウキ君は絶対に己を責めるから。

コウキ君の心に傷が残らなくて本当に良かったって思う。

 

「ゴートさん。申し訳ありませんが、マエヤマさんを医務室まで運んで頂けますか?」

「了解した」

「問題行為に対する厳罰は追って連絡するとマエヤマさんに伝えるよう担当の方に伝えておいてください」

「そ、そんな!? コウキ君は」

「・・・了解した」

「ゴートさん!」

 

そんな事って・・・。

コウキ君はナデシコの為に無茶をした筈なのに。

 

「何があったかは分かりませんが、味方を撃ったという事は事実。罰を与えない訳にはいきません」

「そ、それは・・・」

 

反論出来なかった。

たとえパイロットが気にしてないって言ってくれても事実は事実。

罰を与えないと示しがつかない。

 

「・・・・・・」

 

私は背負われ気絶したままブリッジから去っていくコウキ君を見送る事しか出来なかった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 



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未来を押し付けられて

 

 

 

 

 

「・・・ここは?」

 

眼が覚めたら知らない天井でした。

というか、ここは・・・医務室?

何がどうなってこうなったんだっけ?

 

「あ。眼が覚めましたか?」

 

医務室の女医さん。

クルーに女性が多いから、そういうのを気にしたのかな?

ま、男としても女性の方が嬉しいか。

 

「あ、はい。あの・・・どうしてここに?」

「それは、何故医務室に運ばれたのか、ですか? それとも、医務室にいるのは何故か、ですか?」

「えぇっと」

 

同じような気がしますが・・・。

 

「と、とりあえず、どちらも御願いします」

「分かりました」

 

よく分からない人だ。

だけど、美人。

ナデシコってさ。

能力があれば、性格は問わない。

でも、容姿が整っていれば尚良いとか。

そんな感じで集めたんじゃない? もしかして。

メインクルーの殆どが容姿端麗だったではないですか。

戦艦らしからぬオーラを放つのはそれが原因かもしれん。

 

「色々考えている所で悪いけど、お話させてね」

「あ。すいません」

「ふふふ。いいのよ。お年頃の男の子が考えている事なんてお見通し」

 

妖艶に笑うお姉さん。

・・・美人に笑顔を向けられて嬉しい筈が、寒気を感じます。

それと、きっとお姉さんが考えているのと僕が考えているのは違いますよ。

ついでに、一瞬で性格変わりませんでしたか?

 

「貴方が運ばれてきたのは今から三、四時間前ですね。あれはそう、私が―――」

「とりあえず、僕の事を御願いします。後でお話は聞きますので」

「言いましたね。最後まで聞いてもらいますよ」

「・・・はい」

 

焦って変な約束をしてしまった。

・・・すいません、色々と。

 

「私も詳しくは分かりませんが、戦闘中に貴方は気絶してしまったみたいですね」

「気絶・・・ですか?」

「分かっているわ。若い男の子が気絶するなんてアレしかないよね、妄想。どれだけ激しい妄想をしたら気絶するのかしら?」

「それで、俺の身体に異常はありました?」

「あら。スルーなんて。悲しいわ」

「どうなんでしょう?」

「・・・コホン。特に異常は感じられませんでした。ちょっとした疲労でしょう。但し当分は頭痛が続くかもしれませんが我慢してください」

「あ、はい。分かりました」

 

そういえば、何か自分の頭じゃないかのような違和感が。

ま、勘違いだろ、俺の。

 

「異常はないので帰らせてもいいと思いますが、上からの命令でしばらくここに寝ていてもらいますね」

「えぇっと、俺ってもしかしたら何かやらかしたんでしょうか?」

「私からはちょっと。もしかして、覚えてないんですか?」

「ええ。何にも」

「ふふふ。それは若さゆえの過ちを犯したのを認めたくないからよ、きっと。認めちゃいなさい」

「変わり過ぎです。ついでに若者の認識を改めて頂きたい」

 

どうしてそうそっち方面に持っていくのかな、この人は。

 

「何でも貴方には追って連絡があるそうで、それまで待機してなさいって事だと思いますよ」

「なるほど。それなら、少し休ませてもらってもいいですか? ちょっと頭が痛いので」

「はい。構いませんよ。ゆっくりお休み下さい」

「ありがとうございます」

「あ。添い寝しようか? 寝かせないわよ?」

「おやすみなさい」

「あらら。またスルーされたのね。お姉さん、悲しい」

 

深い眠りに落ちた。

医務室の神秘に出会った気がする。

 

 

それから数時間後。

ま、俺は寝ていたからな。

正確な時間は分からんのよ。

 

「マエヤマさん、体調の方はどうですかな?」

 

やって来たのはゴートさんを連れたプロスさん。

何かゴートさんから睨まれているんだよなぁ。

ホントに俺は何をやらかしてしまったのだろうか?

 

「ええ。ちょっと頭が痛いですが、他は正常です。少し休ませて頂ければすぐにでも復帰し―――」

「残念ですが、マエヤマさん、貴方にはこれから五日間程、独房に入ってもらいます」

「・・・え?」

 

・・・独房?

・・・俺が?

・・・何で?

 

「その様子では報告通り何も覚えていないようですね」

 

はぁ・・・と溜息を吐くプロスさん。

正直な話、俺には意味がまったく分からない。

 

「あの・・・俺って何かしでかしたんですか?」

「・・・ええ。意識を失っていた貴方に言うのは大変申し訳ないのですが、真実をお話します」

 

そこで聞かされた俺の罪。

頭を抱えたくなった。

とにかく、謝りたかった。

許してもらえるまで、何をしてでも、俺は謝りたい。

それ程の罪を俺は犯してしまった。

 

「・・・俺が・・・エステバリスを?」

「ええ。嘘偽りのない事実です。貴方はレールカノンを操り、味方に被害を与えたのです」

 

呆然とした。

視界が揺らいだ。

手先の感覚がなくなって、でも、俺は必死にベッドの毛布を掴む。

それは独房に送られるのを拒んでいたからだろう。

認めたくない自分が必死に何かに縋っていた。

でも・・・。

 

「貴方に何があったのか? それは私共にも分かりません。ですが、事実は事実。厳しく罰しさせて頂きます」

「・・・ええ。分かりました」

 

・・・抗う事の出来ない事実と突きつけられ。

俺は首を縦に振る事しか出来なかった。

独房で五日間の監視。

火星にいる間、俺は何も出来ないんだと悟った。

 

 

 

 

 

「謝りたいんです」

「コウキ君。貴方の責任じゃ―――」

「俺の責任です。何が理由であろうと俺が意識を失っていようと俺の責任なんです」

「・・・分かったわ」

 

火星降下までの僅かな時間。

独房にいる俺に会いに来てくれたミナトさんに頼んだ。

俺に謝らせて欲しいと。

弁解がしたい訳じゃない。

言い訳がしたい訳じゃない。

ただ頭を下げて、謝りたい。

ブリッジで散々銃を突きつけるのはいけない事だと言い放った俺。

そんな俺が銃を突きつけ、更には実際に撃ってしまったという取り返しのつかない過失。

軽蔑されてもいい。嫌われてもいい。

それだけの事を俺はやったのだから。

でも、それでも、謝りたかった。

 

「・・・連れて来たわよ」

 

わざわざナデシコでも一番に利用しない所に来てもらった。

俺なんかの為にこんな所まで来てもらった。

それなのに、俺は顔をあげる事が出来なかった。

冷たい眼で見られるのが怖かった。

罵られて、睨まれるのが怖かった。

どんな表情であろうと、どんな言葉であろうと、俺にとっては恐怖でしかなかった。

・・・謝りたい。ただ一言謝りたい。

でも、その一言が酷く遠い。

 

「おい。顔をあげやがれ」

 

ビクッ!

 

言葉が胸を貫いた。

続きの言葉が怖くて仕方なかった。

 

「顔をあげろって言ってんだろうが!」

 

・・・そうだよな。

激怒していて当然だ。

俺は撃ったのだから。

・・・味方を・・・この手で。

やり場のない怒りと悲しみ。

何故あんな事をしたんだという己に対する怒り。

何故意識を失ったんだという己に対する怒り。

何故こんな能力を身に付けたんだという遺跡に対する怒り。

何故俺はこんな世界にいるんだという己と遺跡に対する嘆き。

そんな感情が己の胸の中で渦を巻いて。

・・・涙が出てきた。

胸の痛み。頭の痛み。

・・・心の痛み。

全身が痛くて堪らない。

死んじまえと言われた方がむしろ楽なのかもしれない。

・・・無責任にこの世を去れるから。

散々、殺したのだから苦しむのが罰だと能書きをたれながら、俺自身は簡単に死を選んだ。

死ぬという選択肢以上に楽な事なんてない。俺はテンカワさんの気持ちを分かったつもりでいて、まったく分かっていなかった。

生き地獄だ。俺なんて誤射しただけで生き地獄だ。テンカワさんのように人の命を背負うなんて事になったら間違いなく発狂する。

 

「殴らせろ! てめぇが気絶するまで殴らせろ!」

「リョーコ! やめな!」

「言い過ぎだよ。リョーコ」

「うるせぇ! 俺は撃たれたんだよ、こいつに。俺には正当な権利がある」

 

殺しかけたんだ。

殴られるだけで済むのなら軽い方だと思う。

・・・殺されてもいいぐらいだった。

 

「俺にも殴らせろ。味方を攻撃なんてヒーローにあるまじき行為だ。断じて許せん」

「ガイ君!」

「こいつは俺に男というものを教えた。そんな人間が男として許せない事をした。俺は教えられた者としてこいつを殴らなければならない」

 

あぁ。殴ってくれ。

気が済むまで殴ってくれ。

そして・・・俺を許してくれ。

償い方が分からない。

・・・俺はどうしたらいい?

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

黙ってないで怒れよ。

あぁ。いいんだ。殴っていい。

罵っていい。もう・・・何でもいいから・・・。

 

「・・・許して・・・下さい・・・ごめん・・・なさい・・・許して・・・下さい・・・」

 

身体が震えた。

口はまるで極寒の中に身を置いたかのようにカチカチとうるさい。

耳は全ての音をシャットアウトしたかのように全ての音を拒んだ。

縛られた両手。

こんな腕、折ってしまいたかった。

仲間を傷つけるような腕なんて折ってしまいたかった。

誰でもいい。縛りを解いてくれ。

俺が、自分で、折るから。

 

「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

ひたすら呟く。

まるで壊れた機械のように。

ただ一言を繰り返す。

ごめんなさいと。

・・・ただ繰り返す。

 

「・・・許してください・・・許してください・・・許してください・・・」

 

言葉とは裏腹に俺は許して欲しくなかったのかもしれない。

懺悔のように紡がれる言葉は他者の言葉を聞きたくないから。

許して欲しい。でも、許して欲しくない。

裁かれたい。裁かれたくない。

何も聞きたくない。何か聞きたい。

誰かに触れたい。温かみを感じたい。

でも、その資格はもう・・・裏切り者の俺にはない。

 

「・・・許して・・・許して・・・許して・・・」

 

視界が揺らぐ。

涙で滲んだ視界が更に暗転する。

そのまま、意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

これが・・・コウキ君?

明るくて優しい朗らかな好青年のコウキ君。

私の大切な恋人のコウキ君。

これが、まるで人形のように呟き続ける彼が本当に私の知っているコウキ君なの?

 

「・・・許してください・・・許してください・・・許してください・・・」

 

全身を震わせ、カチカチと歯を鳴らせ、血が出る程に拳を握り込んで。

 

「もうやめて! コウキ君!」

「・・・許してください・・・許してください・・・許してください・・・」

 

私の言葉は届かない。

ここにいる誰の言葉も届かない。

そして、彼の言葉も私達の中の誰にも向けられていない。

 

「・・・許してください・・・許してください・・・許してください・・・」

 

心が痛い。

彼をここまで追い詰めてしまった自分が許せなかった。

何をどう、私は間違えてしまったの?

 

「・・・許して・・・許して・・・許して・・・」

「コウキ君!」

 

倒れる彼の身体。

すぐに抱き締めてあげたかった。

彼の為なら何だってしてあげたかった。

でも、邪魔をする。

鉄の棒が私の邪魔をした。

少し歩けば触れる距離。

それが、こんなにも遠い。

手を伸ばしあえば触れ合える距離。

それが、あんなにも遠い。

私は・・・無力だ。

 

「・・・コウキ」

「チッ! 軟なヤツ」

「リョーコ!」

「味方の誤射ぐらいが何だってんだ!? それぐらい当たり前だろうが! 味方の誤射で死ぬ方が多いぐらいなんだぞ! それを! コイツは!」

「それは貴方の考え方よ。彼に押し付けるのはよくない」

「そうだよ。それに、どうしてわざわざあんな追い詰めるような事を言ったの!?」

「一発だ! 俺は一発殴れればそれでよかった! それで全部チャラにするつもりだった」

「それなら、そう言えばいいじゃない。気絶するまで殴らせろだなんて」

「俺は・・・そんなつもりで・・・。クソッ!」

「リョーコ! どこ行くの!?」

「シャワーでも浴びってスッキリしてくる!」

「リョーコ!」

「フンッ! ・・・誤射ぐらいで怒る訳ないだろうが・・・」

 

去っていくリョーコちゃん。

 

「・・・そうね。私も帰るわ」

「イズミ!」

「私がいてもどうしようもないもの。後は彼が立ち直るだけ。立ち直ろうという意思を見せるだけ」

「・・・イズミ」

「人を殺すという罪の重さ。私達のようなパイロットは神経が麻痺するのかもね。彼みたいな反応こそが普通なのかもしれないわ」

 

去っていくイズミちゃん。

 

「・・・拳で眼を覚ましてやろうと思ったんだけどな。空回りしちまったか」

「・・・ガイ君」

「俺は信じているぜ。コウキならすぐに立ち直って戻ってくるってな。コイツはそんな軟な男じゃねぇよ」

 

去っていくヤマダ君。

 

「・・・・・・」

「・・・アキト君」

「俺は人を殺し過ぎた。今の俺にコイツの気持ちは分からん」

「・・・アキト君は・・・」

「俺は罪人だ。コイツはその寸前まで行って戻って来る事ができた。それが・・・少し羨ましくもあるな」

 

去っていくアキト君。

結局、ここには私とヒカルちゃんだけが残った。

 

「・・・ごめんなさいね、ヒカルちゃん」

「ミナトさん。どうしてミナトさんが謝るんですか?」

「皆の心が離れ離れになっちゃって。私が無理に頼んだから」

「・・・皆、悪気があった訳じゃないんです。味方の誤射で死ぬ事なんて戦争中はいくらでもあったと言われていましたし」

「・・・でも・・・」

「パイロットは誰も気にしてないんです。コウキが誤射した事なんて。だから、一発殴らせれば許してやるよって笑って言っていました」

「それなのに・・・って事?」

「コウキが悪いんじゃありません。こっちの言い方が悪かったし、何よりこっちの考え方を押し付けてしまったのが悪いんです。コウキはパイロット志望じゃないんですよね?」

「ええ。何でもシューティングアクションゲームのスコアでスカウトされたって」

「それなら、きっと、今までもゲーム感覚だったんだと思います。向こうはパイロットのいない唯の虫型ロボットだったんですから」

「ゲーム感覚だったのが、現実感覚になったって事ね。しかも味方の死という形で」

「覚悟がないならパイロットになるな。そう言われた事もあります。それは味方を殺す可能性もあるという意味だったのかもしれません」

「覚悟。コウキ君には覚悟が足りなかったのかな?」

「分かりません。でも、いきなり味方の死。しかも、自分が知らない所での。自分の身体に恐怖を覚えてもおかしくないと思います」

「自分の身体に恐怖・・・か。もし知らない間に友人を殺していたなんて事になったら考えるだけで胸が怖いわね」

「コウキはその痛みを味わっているんだと思います。仲間を殺してしまったかもしれないという罪悪感。自分の身体が自分じゃないかのような恐怖感。その二つに苛まれて」

 

仲間を殺してしまったかもしれないという罪悪感。

コウキ君が友達を大切にする子だという事を私は知っている。

知り合いになれば、誕生日や記念日などを覚えていて必ずプレゼントを贈っていた。

仲が良い子ならもっと大切にしていた。

コウキ君にとってパイロットの皆は同じ戦場を共にする友人以上の関係だったのかもしれない。

そんな友人をいつの間にか殺していた。しかも、異常を抱える自分の身体で。

コウキ君は自分の身体を嫌がっていた筈。こんな能力はいらなかったって。

異常を抱え、親しい友人を殺す自分。

そうよね。とてもじゃないけど、普通の人には耐えられるような事じゃないわ。

対人恐怖症になってもおかしくない。

親しい人を自分は殺してしまうなんて考えたら誰とも知り合いになりたくないもの。

 

「そっか。ありがとね、ヒカルちゃん」

「いえ。友達ですから、コウキは。あとは恋人のミナトさんに任せます」

「ええ。本当にありがとう」

 

去っていくヒカルちゃん。

これで残されたのは私一人。

コウキ君と私だけ。

 

「どうしてこうなっちゃったの? コウキ君」

 

いつもなら穏やかな寝顔。

それが今は恐怖で引き攣って、涙で濡れた酷い寝顔だった。

 

「抱き締めれば安心してくれるの?」

 

でも、それも出来ない。

 

「口付けしたら私を感じてくれるの?」

 

たったそれだけの事も私は出来ない。

 

「どうすれば・・・いいのよぉ・・・」

 

泣きたかった。

どうしていいのか分からない。

コウキ君の為に何が出来るのか分からない。

コウキ君の為に何をしてあげられるのかが分からない。

分からない事ばかりで、己の無力さを呪う事しか出来なかった。

 

「・・・また、来るわね。その時はいつもの元気な姿を見せてね。コウキ君」

 

ひとしきり泣いて、私もその場を後にした。

私にはもうコウキ君の強さに賭けるしかなかったから。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

暗かった。

ただ暗い道を何も持たずに歩いていた。

光が現れては消え、消えては現れて。

この闇はいつまで続くのだろう。

光を追う。

・・・俺は光を掴むまでただ黙々と歩き続けた。

 

 

 

 

 

「アキトさん。私は決めました」

「・・・マエヤマか?」

「はい。彼は危険です。私達の計画の邪魔になります」

「どうしてもか?」

「はい。アキトさんも見たでしょう? マシンチャイルドを上回る情報処理能力を。あれだけの数のレールカノンを同時制御する事なんて私にも出来ません」

「・・・・・・」

「それだけじゃありません。私に匹敵するオペレート能力もあります。いざという時、立ち向かわれたら一番の障害になります」

「障害になる。それだけで消すのか?」

「今回の件をお忘れですか? 今回のような事があれば、大切なナデシコクルーを失いかねません」

「システムの暴走。あれはマエヤマのミスなのか?」

「フィードバックレベルを上げ過ぎです。あれではシステムと己を一体化させているようなもの。あれ程の情報量を人間の脳が支えきれる訳ありません」

「よく無事で済んだな」

「それがおかしいのです。あの状態になれば瞬時に廃人化するのが普通です。マエヤマさんの持つナノマシンの異常さで助かったようなものです」

「ルリちゃんでも無理か?」

「絶対に無理です。私ではもって数秒でしょう。あれだけの情報量が一気に押し寄せれば確実にパンクします」

「それはあれだけの時間もたせた。ルリちゃんが警戒するのも分かる。だが・・・」

「ミナトさんですか?」

「・・・ああ。マエヤマを殺して悲しむ者もいる。それを忘れてはならない」

「ミナトさんにはシラトリさんがいます。何の問題もありません」

「・・・・・・」

「今から行きます。いいですね?」

「・・・ああ。分かった」

「・・・ルリ・・・」

「・・・たとえ仲間だとしても、計画の為なら・・・殺します」

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

億劫だった。コウキ君が独房入りしてからずっと落ち着かない。

火星に降下する時間になっても、気分が晴れる事はない。

火星が赤くない? そんなのどうでもいいの。

ネルガルの研究所を回る? そんなのもどうでもいい。

許されるのならコウキ君の傍にいたかった。

許されるのなら、一緒に独房入りしたかった。

それなら、コウキ君に触れられる。温もりを感じられる。

 

「あの・・・このまま火星に降りちゃってもいいんですか?」

「どういう事? メグミちゃん」

「以前、マエヤマさんにナデシコについて教えてもらったんですが、火星に降り立つとナデシコの性能はガタ落ちするじゃないですか。それでもいいのかと」

「大丈夫、大丈夫。ナデシコは今まで多くの敵を退けてきた最強の戦艦だよ。問題ないって」

「えぇ? 本当ですか? ミナトさんはどう思い・・・」

「・・・・・・」

「・・・大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

一人で独房にいるコウキ君に私は何をしてあげられるの?

どうすればコウキ君の心を救う事が出来るの?

 

「休ませてやれよ、プロスさん。何にも聞こえてねぇって」

「むぅ。ですが、ここから細かい移動が多いですからな」

「んなもん、今の状態じゃ余計無理に決まってんだろ? なぁ、ヒカル」

「え? う、うん。ちょっと無理かなぁ~って。あ、あはは」

「・・・そうですな。仕方ありませんが、セレスさん、お任せしますね」

「・・・はい。分かりました」

 

考えが纏まらない。

何も思い浮かばない。

 

「そういえば、ルリとラピス、あ、テンカワもいねぇな。あいつらはどうしたんだ?」

「何でも用があるとかで」

「まったく。あいつらは何をしているんだか。せっかく火星が見られんのによぉ」

「テンカワさんも火星出身でしたな。・・・マエヤマさんも火星育ちでした」

「重いんじゃねぇのか? 五日間って?」

「いえ。妥当かと。それに、彼には休ませる時間が必要です」

「・・・それもそうか。俺達パイロットには何にも出来ないからな」

「笑って迎えてあげる事ぐらいかな?」

「・・・そうね」

 

・・・コウキ君。

 

「ハルカさん」

 

ッ!?

 

「あ、はい。何でしょう?」

「マエヤマさんの様子を見てきてもらえますか? そろそろ眼を覚ますと思うので」

「・・・はい」

 

あれから、コウキ君は眠り続けている。

非情な現実を認めるのを拒むように。

安楽な夢の中から抜け出すのを拒むように。

 

「・・・はぁ」

 

ブリッジを抜け出した所で深い溜息が出た。

私、何をやっているんだろう?

こんな事していたらコウキ君に怒られるのに。

無責任な事は絶対に許せませんって。

今の貴方は無責任にも私を放っているのにね。

・・・御願いだから、早く元のコウキ君に戻って。

 

「せっかく気を遣ってくれたんだもの。コウキ君の所へ行こう」

 

ブリッジクルーの皆に迷惑をかけて。

本当にもう。私は何をやっているんだろうか。

 

「・・・です」

 

ブリッジから独房までの最短コースを走る。

廊下を走っていたら、女の子はエレガントに、ですよ、とかコウキ君が変な事を言っていたわね。

思い出すだけで笑みが零れちゃうわ。

・・・本当に面白い子で、楽しい子で。

だから、笑顔が見られないのが本当に悲しい。

 

「・・・さん」

「・・・わかってる」

 

独房の入口に差し向かう所で声が聞こえてきた。

 

「誰? こんな時間に、コウキ君に用がある人なんて・・・」

 

食事を運んでくれる人でもない。

様子を見に来る医療班の人でもない。

どっちも時間帯が決まっているから。

今の時間帯は誰もいない筈。

じゃあ、今いるのは?

そ~っと、壁に隠れながら様子を窺う。

あれは・・・。

 

「ルリちゃんとアキト君? あ、ラピスちゃんもいる」

 

ブリッジにいる筈の主要クルーの三人。

その三人がわざわざ抜け出してコウキ君の所に?

何で?

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

距離は遠いし、小声だし、何も聞こえない。

こんな所で何をしているんだろう?

 

「・・・ですが!」

「・・・やはり駄目だ!」

「・・・ルリ!」

 

いきなり騒ぎ出す三人。

ルリちゃんの手には・・・銃!?

 

「や、やめて!」

 

いつの間にか飛び出していた。

何故、ルリちゃんがコウキ君を殺すのか?

そんな疑問を思い浮かべる前に、止めに入ろうと身体が勝手に動く。

 

「・・・だ、誰です!? ・・・え? ミナトさん?」

「・・・・・・」

 

ルリちゃんに銃を向けられて驚く。

でも、身体が止まる事はなかった。

コウキ君とルリちゃんの間に身体を入れて、両手を広げた。

 

「どういう事?」

「ミナトさん! どいてください!」

「どかないわ! どうしてコウキ君が殺されなければならないの!?」

「マエヤマさんが危険だからです。彼はナデシコクルーを殺しかねません」

「今回、暴走してしまっただけじゃない。殺されそうだから殺すの?」

「もう暴走しないとは限らないじゃないですか。それなら、殺される前に殺します」

「間違っている! そんな考え、間違っているわ!」

「間違っていません。大事なナデシコクルーを殺しかねないんです。放っておく訳には―――」

「それは変よ。コウキ君だってナデシコクルーの一員。ルリちゃんにとってコウキ君はナデシコクルーじゃないって事? 貴方も仲間だから助けて当然って言っていたわよね」

「そ、それは・・・。仲間を犠牲にするような方は仲間でもなければ、ナデシコクルーでもありません!」

「・・・ルリ!」

「ルリちゃん! それは違う!」

「どいてください。ミナトさん。私は貴方を殺したくありません」

「どかないわ。絶対にどかない」

「どうして分かってくれないんですか!? マエヤマさんは危険な存在なんですよ?」

「彼は私の大切な人なの! 誰が大切な人に死んで欲しいなんて思うのよ」

「大丈夫です。すぐに良い人が見つかります。私が保証します」

 

すぐに良い人が見つかる?

未来の記憶を持つ貴方達がそういうのなら間違いなんでしょうね。

でも・・・。

 

「未来がどうであろうと今の私にはコウキ君が一番大切なの! すぐに見つかるから納得しろって? そんなの無理に決まっているわ」

 

この世界で私が愛しているのはコウキ君だけ。

愛し続けるのはコウキ君だけよ。

 

「ミナトさんの運命の人はマエヤマさんじゃありません。別の人です」

「運命? そんなの誰が決めたのよ? 私の好きな人は私が決める」

「ミナトさんは絶対にこれから出会う人の方を好きに―――」

「もうやめて! いい加減にして!」

「ミナト・・・さん?」

「未来を知っているからって何でも貴方達が選んだ道が正しいだなんて思わないで!」

「なっ!?」

「何が運命の人よ。何がこれから出会う人の方を好きになるよ。そんなの余計なお世話! 愛する人は私が決める。貴方達が望んだ人と結ばれるなんて事は絶対にない!」

「・・・・・・」

「貴方達のエゴを人に押し付けて! 何でも自分が正しいと思っているの!? 思い上がりもいい加減にしなさい!」

 

運命? 未来ではこうだった?

そんなの私には関係ない!

私はこうするべきだなんてエゴを押し付けて。

私は貴方達が操る人形劇の人形じゃないの!

 

「何でも貴方達の思い通りになるなんて大間違いよ! 私は貴方達が描く物語の登場人物じゃないの! 何もかもを勝手に決めないで! 私が愛しているのはコウキ君だけよ!」

「わ、私はそんな事―――」

「出て行って! 出て行きなさいよ! いいから出て行って! 二度と来ないで!」

「・・・ルリちゃん」

「・・・・・・」

「・・・アキト。ルリ」

「・・・俺達が間違っていたんだ。行こう」

「・・・はい」

「・・・うん」

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

去っていくアキト君達を私は息を切らせながら見送る。

休む事なく叫び続けたから、息が切れても仕方ないわね。

 

「・・・コウキ君」

 

振り返って最愛の人を眺める。

苦しそうに表情を歪めて眠る彼の手を取って上げたい。

暗闇の中、光を求めて彷徨い歩く彼を導いてあげたい。

でも、それが私には出来ない。

本当に私は何にも出来ない女だ。

 

「・・・ミナト・・・さん」

 

ッ!?

コウキ君の声!?

 

「コウキ君!」

 

項垂れていた顔を上げ、コウキ君を見詰める。

その眼は、確かに開いていた。

 

「・・・コウキ君。良かった。眼を覚まして」

 

もしかしたら、一生、覚まさないんじゃないかって。

ずっと不安に思っていた。胸の奥に必死に押し込めて気にしないようにしていたけど、時折不安に襲われていた。

・・・安心したら涙が出てきちゃった。

 

「・・・ミナトさん。また、俺のせいで泣いていますか?」

「ううん。コウキ君のせいじゃないわ。安心したら涙が出てきただけよ」

「・・・ハハハ。やっぱり俺のせいじゃないですか。俺ってミナトさんを泣かせてばかりですね」

「ふふふ。女泣かせの達人ね。コウキ君は」

「・・・ミナトさん限定ですよ」

「もぉ。バカな事ばっか言って」

 

少し元気が出てきたのかな?

いや。今のは私に合わせてくれているだけ。

本当にそういう所は変わらず優しい。

 

「・・・ミナトさんの声、聞こえました」

「え?」

「・・・愛しているって。こんな俺でも愛してくれているんだって。そう聞こえたから、ここにいるんだと思います」

 

こんな私でも貴方を導く事が出来たの?

こんな無力な私でも。

 

「・・・俺は自分の身体が怖いです。自分の身体が恨めしいです。どうしてこんな身体なんでしょう?」

「・・・コウキ君」

「・・・いえ。本当は俺が悪いんだって分かっています。調子に乗って無茶な事をした俺が。でも、どうしても、この身体を恨んでしまうんですよ」

 

俯いて話すコウキ君が、自身が持つ異常な力とは大きくかけ離れた弱々しい存在に私には見えた。

ううん。もともとコウキ君は異常な力を持つのに相応しい人じゃない。考え方だって本当に普通の人。そこら中にいる普通の男の子だわ。

 

「・・・知らない間に味方を撃って。知らない間に味方を傷付けて。知らない間に多くの人の心を傷付けた。俺が。俺のせいで」

「コウキ君はナデシコの為に一生懸命だったんでしょ。誰も責めないわ」

「一生懸命にやれば許されるんですか? ううん。そんなに世の中は優しくありません。事実は事実。俺は味方を撃った危険因子なんですよ」

「・・・コウキ君」

 

自らを危険と言うコウキ君はどれ程に自分の心を傷つけているんだろう?

私にその傷付いた心は癒して上げられるのだろうか?

 

「コウキ君は反省している。そうよね?」

「・・・ええ。あんな無茶な事はもうしませんよ」

「それなら、糧にすればいいのよ。きちんと皆に謝って、それで己の糧にしなさい」

「・・・皆は許してくれますかね?」

「許してくれるわ。誠心誠意謝りなさい。私が傍にいてあげる」

「・・・それは心強いですね」

 

弱々しく笑うコウキ君。

たった一日で、ここまでコウキ君を消耗させた。

コウキ君の自分に対する罪の意識は相当に重いみたいね。

 

「一人一人、丁寧に謝りなさい。ゆっくりでいいから。自分の想いをぶつけなさい」

「・・・お母さんみたいですね、ミナトさん」

「男の子はお母さんを求めるらしいわ。きっとコウキ君もそうなのよ」

「・・・ミナトさんみたいなお母さんなら友達に自慢できますね」

「ふふっ。ありがと」

「・・・もう少し眠ってもいいですか?」

「ええ。ゆっくりお休み」

「・・・はい」

 

そう言って寝息を立てるコウキ君。

さっきの苦しそうな顔が少しだけど穏やかになっている。

こんな私でも少しはコウキ君を癒せたって事かしら?

・・・そうならいいわね。

 

「おやすみなさい、コウキ君」

 

母のように抱き締めながら寝させてあげたかったけど、今は無理みたい。

貴方が独房から出てきたら、いくらでも抱き締めてあげるから。

早く元気になるのよ、コウキ君。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 



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歓喜の涙

 

 

 

 

 

「・・・アキトさん。私は・・・」

「運命に足掻こうという俺達がミナトさんを運命で縛っていた。愚かだな」

「・・・私は間違っていたのでしょうか? マエヤマさんを殺そうなんて」

「マエヤマも大切なナデシコクルー。どうしてそれが俺達には分からなかったんだろうな」

「・・・私は仲間を殺そうとしていたんですね。大切なナデシコクルーを」

「いいんだ。ルリちゃんは俺の為を思ってやってくれた。その罪は俺が背負う」

「・・・私は自分が怖くなってきました。何の話し合いもせずに、殺される前に殺せ、そんな風に考えられる自分が」

「震えなくていい。ルリちゃんが間違っていたら俺が正すから」

「・・・はい」

「・・・アキト。ミナト、私達が未来から来た事を知っていた」

「・・・ああ。知っていたな」

「ありえません。ボソンジャンプだって今のミナトさんは知らない筈ですし」

「・・・コウキが教えたのかもしれない」

「その線が妥当だな。もしかするとマエヤマもボソンジャンプで帰ってきたのかもしれない。俺達と同じように」

「・・・それでは、私は、もしかして協力者を殺す所だったのですか? 頼りになる協力者を」

「ルリちゃん。犯した過ちは何があってもなくならない。俺達は背負っていくしかないんだ」

「・・・はい」

「この言葉はマエヤマから言われた。もしかするとあいつは俺の罪を全て知っていて、俺にそう言ったのかもしれない」

「それでは、火星の後継者を知っている可能性も」

「ああ。もしかすると俺が壊したコロニーにいたのかもな」

「・・・それはないと思う。コウキはアキトを恨んでない」

「辛い事をお聞きしますが、攫われた火星人の中にマエヤマ・コウキという名はありませんでしたか?」

「・・・すまんが、記憶にない。俺も全ての火星人を把握している訳ではないからな」

「そうですか。いえ。一つの可能性を考えてみただけです」

「犠牲になった火星人の一人か」

「・・・でも、そんな経歴はなかった」

「あれ程のオペレート技術を持っています。捏造するぐらい簡単ですよ」

「・・・一つ、気になるのだが、いいか?」

「・・・はい。何でしょう?」

「・・・うん。何?」

「アカツキが言っていた匿名のメールとはマエヤマが送っていたのではないだろうか?」

「・・・可能性は高いですね。研究所をハッキングするのにはかなりの技術が必要ですが、マエヤマさんレベルなら調査も容易かと」

「・・・ハッキングしてバレないには技術が必要。コウキなら多分できる」

「あれに関して、俺はお手上げだった。場所が分からなかったからな。あの匿名メールがなければ何も出来なかったよ」

「あの時の私は絶望していましたから。アキトさんも救えず、ラピスも救えずで。調べる気力もありませんでした」

「・・・私は保護されるまで実験の繰り返しだったから何も」

「ラピスのデータも匿名メールからだ。更に言えば、セレスもそうだった」

「・・・それでは、私はラピスやセレスを始めとした多くのマシンチャイルドを救ってくれた恩人に銃を向けたという事に・・・」

「・・・もしそれが本当だったら俺達は感謝こそすれ疑うなんて愚かな事だったな」

「・・・私はどうすればいいでしょうか? 殺そうとしたマエヤマさんに私はもう合わせる顔がありません」

「俺達が取るべき道は一つ。マエヤマに謝り、マエヤマとじっくり話す事だ。マエヤマが何を考え、何をしようとしているのかを知っておくべきだと思う」

「・・・私はミナトさんにも銃を向けてしまいました。私はもう・・・」

「ルリちゃん。ミナトさんにもマエヤマにもまずは謝ろう。俺達は仲間に銃を向けるという最低の事をしたんだ。謝らなければならない。許してもらえるかどうかは別としてな」

「・・・はい。私は愚かな事をしました。きちんと謝りたいです」

「ああ。俺も同罪だ。一緒に謝らせて貰う」

「・・・私も謝りたい」

「きちんと謝って。話を聞かせてもらおう。まずはそれからだ」

 

 

 

 

 

「すいませんでした!」

「まったく。独房から出たら一発殴らせろよ。誤射ぐらいで狼狽えてんじゃねぇ」

 

スバル嬢の愛のムチ。

予約入りました。

 

「すまん! ガイ!」

「おう。やっちまったもんは仕方ねぇ。きちんと反省しろや。あ、もちろん、俺も殴るかんな。男として一発お前を目覚めさせる必要がある」

「お、お手柔らかに」

 

ガイの熱血パンチ。

予約入りました。

 

「ごめん、ヒカル」

「私は大丈夫だよぉ。もう。心配させないでよね」

「ああ。ありがとう」

 

優しい声をかけて頂きました。

 

「すいませんでした」

「暗黒空間が襲ってきたわ」

「え?」

 

怒っていらっしゃらないようで。

 

「テンカワさん! 本当にご迷惑おかけしました」

「ああ。システムの異常と聞いた。心配はいらない。俺も独房は経験した事がある。ま、ゆっくり休め」

「あ、ありがとうございます」

 

い、今のは笑う所? 突っ込む所?

 

「それと、時間が空いていたら色々と話を聞きたい。いいか?」

「え? あ、いいですけど」

「助かる。それじゃあな」

 

よ、良かった。

皆、許してくれた。

 

「ミナトさん!」

「ええ。皆はもう許してくれているのよ。コウキ君が必要以上に悪く考えちゃっただけ」

「はい!」

 

仲間を裏切った俺がまた迎え入れてもらえる。

こんなにも嬉しい事はない。

 

「ミナトさんにも本当にご心配をおかけしました」

「私はいいのよ。当然だもの」

「それでもです。ありがとうございました」

 

こうやって忙しい合間を縫って様子を見に来てくれた。

パイロットを一人一人呼んでくれた。

ミナトさんには本当にお世話になりっぱなしだ。

何より、俺を元気にしてくれた。

 

「俺はもう大丈夫です。ミナトさんはミナトさんの仕事をしてきてください」

「あら? 私がいちゃ駄目なの?」

「ミナトさん。正直に言えば、ずっとここにいて欲しいです」

「しょ、正直に言われると照れるわね」

「でも、火星の人が救えるか、救えないのかの瀬戸際なんです。ミナトさんの力を貸してあげてください」

「ええ。私だって助けたい命は助けたいもの」

「俺はここから動けないので何も出来ませんが、テンカワさん達もいます。だから、きっと・・・どうかしました?」

「・・・え? ううん。なんでもないわよ」

 

俺、何か変な事、言ったかな?

何か複雑そうな顔していたけど。

 

「テンカワさん達なら必ず火星の人達を救おうとする筈です。その為の考えもある筈。テンカワさん達の指示に従っていれば間違いないですよ」

「・・・そうね。そうするわ」

 

えぇっと、やっぱり俺、変な事、言ったのかな?

 

「俺、変な事、言いました?」

「う、ううん。なんでもないわ。頑張ってくる」

「はい。頑張ってきて下さい」

 

複雑な表情をしながら去っていくミナトさん。

・・・何かおかしいな。

後できちんと訊いてみよう。心配事なら相談に乗れるかもしれないし。

・・・うん。これからの事を考えてみよう。

 

「そもそも火星に降りたんだろうか?」

 

確かヒナギクみたいな名前で、飛行機型の大きな搭載機がなかったか?

あれをシャトル代わりに使えるのではないだろうか?

実はイマイチ大きさが分からないだけどさ。

でも、あれを利用すれば多少性能が落ちる程度の高度で保っていられそうだし。

 

「・・・俺だったらどうするか」

 

とりあえず、ナデシコを降下させないという前提で考えよう。

以前、相転移エンジンについて説明したし、誰かが止めるだろ。

テンカワさんやルリ嬢も止めると思うし。

その条件下で考えられる選択肢としては・・・。

1、ヒナギクで飛び回り、生き残りを探す。その後、全てを回れるコースを考え、ナデシコでさっさと回収して逃げる。

2、火星にいる木連の兵器全てを破壊する。その後、悠々自適に人命を救出して、研究データを回収する。

3、一直線にユートピアコロニーに向かう。その後、最速で救出して、即行で帰る。

ふむ。俺的には1かな。

2はちょっと無理がある。流石のナデシコとテンカワさん達優秀なパイロットでも火星にいる全ての木星蜥蜴を倒すのは不可能だ。

下手すると停止状態の機体も起動させてしまうかもしれない。全方位に囲まれた一瞬で撃沈されてしまうだろうしな。

3は・・・理由がないな。いきなりユートピアコロニーだなんて誰も納得しないだろうし。

やはり1か? 手間が掛かるが、ほぼ宇宙空間と言える高度にナデシコを保ちつつ、ヒナギクを降下させる。

ヒナギクで様々なコロニー、研究所を回って、各々を調査する。こうすれば、データも生き残りも見つかる筈。

但し、難点としてはヒナギクに対する負担が大きい事かな。危険も大きいだろうし。

あまり俺としてはお勧めしたくないけど、ミナトさんがヒナギクを操縦してくれると可能性が高いと思うんだよな。

ヒナギクってIFS対応だったっけ? それだと困るけど。

でも、ウリバタケさんとかがすぐに操縦桿を備え付けてくれると思う。

原作との違いはナデシコ自体が地上に降下しない事。ユートピアコロニーにアキト青年が単機で向かわない事。

恐らくだけど、木星蜥蜴はナデシコに向かってくる習性があるんだと思う。原作を見る限りはだけど。

あれか? 相転移エンジンか? それとも、高出力のエネルギー反応か?

まぁ、どちらにしろ、ナデシコがユートピアコロニーに向かえば原作と同じになる事は間違いない。

いちいち大型のナデシコで回るよりヒナギクの方が小回りも利くだろうし。

俺だったらヒナギク降下作戦で行く。

艦長はどうするつもりだろうか?

テンカワさんはどうするつもりだろうか?

・・・気になる。

独房にいる自分が恨めしい。

皆のおかげで心は楽になったが、ナデシコがどうなったか心配で胸が痛くなる。

はぁ・・・。今更ながら後悔が。

何にも出来ないっていうのがこんなに不安で辛い事だとは思ってなかったよ。

・・・ボソンジャンプで脱出する? 無理無理。バレた時の事を考えると到底できません。

・・・檻を壊す? それも後々を考えるとまずい。今は大人しくしているのがベストだ。

はぁ・・・。誰か俺に情報を伝えてくれないかなぁ・・・。

 

 

 

 

 

「マエヤマ」

「・・・え?」

 

何もする事がなく、ひたすらボーっとしていた。

今が何時か? あれから、何日経ったのか? 

残る頭痛が意識を朦朧とさせ、細かい日時を把握できてなかった。

大体という予想すら付けられない。

そんな時、仏頂面の大男、ゴートさんがやってきた。

何て嬉しい来客だ! 

ゴートさんの姿を視界に入れた時、頭の靄が晴れた気がした。

何としても、今の状況を知っておきたい。

 

「ゴ、ゴートさん! 今、ナデシコはどうなっていますか!?」

「あ、ああ。落ち着け」

 

思わず檻の鉄の棒に身体を乗り出してしまった。

 

「あ。すいません」

「いや。お前のナデシコを思う気持ちが伝わってきた」

 

そう言い微笑むゴートさん。

何だろう? いつもより優しい気がする。

 

「一応だが、俺とお前は射撃の師弟関係だからな。お前の事を知っておきたかった」

「俺の事・・・ですか?」

「ああ。お前がナデシコにとって危険だかどうかを判断したいと思ったが・・・」

 

ふふっと笑うゴートさん。

・・・申し訳ないですが、初めて見た気がします。

そして・・・その笑みがちょっと怖いです。

 

「愚問だったな。お前はナデシコの為に身体を張った。それが結果として裏目に出てしまっただけだ。誰もお前を責めるつもりはない」

「・・・あ」

 

・・・涙が出てきた。

ゴートさんから優しい言葉がもらえるなんて。

ナデシコの皆が俺を許してくれているんだってグッと心が軽くなった。

慰めから出た嘘かもしれない。それでも、胸の奥にあった重たい何かが軽くなった気がする。

 

「・・・ありがとう・・・ございます」

 

きちんと言えなかったけど、ゴートさんは笑みで返してくれた。

怖かった笑みがとても優しい笑みに見えて・・・。

許してもらえたという安堵で胸が満たされた。

 

「何があろうともお前はナデシコのクルーの一人だ。早く戻って来い」

「・・・はい」

 

俺はナデシコのクルーでいていいんだ。

裏切り者の俺を皆はまた迎え入れてくれる。

嬉しさで更に涙が増した。

 

「まったく。男が泣くな。まぁ、俺以外見てないがな」

 

ただでさえ大きいゴートさんが更に大きく見えた。

ゴートさんもまた立派な大人なんだなって。

口下手で無表情だけど、自分という個を持った男なんだなって。

頼り甲斐のある大人なんだなって。

そう心強く思った。

 

「マエヤマ。これを渡しておく」

「・・・え? コミュニケ? 俺の?」

 

独房入りの際に没収されていたコミュニケ。

それをゴートさんに投げ渡される。

 

「お前に反抗の意思はないからな。大人しくしているだろ?」

「え、ええ。反省していますから。そもそも暴れる意味もありませんし」

「それなら、お前にもナデシコの情報が伝わるようにしておいた方が良いだろう。好きに使っていいぞ」

「え? い、いいんですか?」

「暇だろうしな。それに、お前は物事をきちんと考えているし、知識量も多い。意見を訊く事もあるだろうから、逐一情報を把握していて欲しい」

「えぇっと、はい。分かりました」

 

・・・そんなに考えているつもりはないんだけどな。

でも、期待されているなら、その思いに応えたいと思う。

 

「じゃあ、早速ですが、今の状況を教えてくれませんか」

「ああ。もともとそのつもりで来たようなものだからな」

 

わざわざ申し訳ないです。

でも、ゴートさんが来たって事は今の所、戦闘はないって事だよな。

更に言えば、ミナトさんもいない。

 

「現在、ナデシコは火星に降下し―――」

「降下しちゃったんですか!?」

 

・・・嘘だろ? 

ナデシコを火星に降下させた?

何て事を!

 

「な、何故、降下させたんですか!?」

「火星の民を救出するのならナデシコで迎えに行くべきという意見が挙がり、艦長が降下を指示した」

「そ、そんな・・・。誰も止めなかったんですか!?」

「ああ。一応、大丈夫なのか? という意見は出たが、艦長が大丈夫だと判断してな」

「て、テンカワさんは! テンカワさんは止めなかったんですか!?」

「火星降下の際にテンカワは用があったらしく席を外していた。確か、ホシノ、ラズリの両名もだったな」

 

テンカワさんは何をしていたんだ!?

火星に降下する事が危険だと俺よりも知っている筈なのに!

 

「止められないんですか?」

「一度、降下の体勢になってしまったら不可能だ。テンカワも慌てていたが、ナデシコは危険なのか?」

「火星の大気では充分な出力は得られません。それに、木星蜥蜴がナデシコに反応したらナデシコは沈んでしまいます」

「・・・現状では木星蜥蜴を打倒できないという事か?」

「正確には分かりません。ですが、あえて危険な方法を取る必要はなかったと思います。少しでも危険の可能性があれば避けるべきです」

「む。耳が痛いな。俺にも止めなかった責任がある」

「艦長はどんな指示を?」

「テンカワが提案してな。ナデシコは谷の間に隠れるように待機し、ヒナギクでコロニーを回る事になった」

 

・・・ナデシコで移動しないのが唯一の救いか。

ナデシコで移動すれば、囲まれるのがオチだからな。

 

「相転移エンジンはどうなっていますか?」

「反応を消す為に落としている。現在は地上に着陸している状態だな」

 

相転移エンジンは落とされているか。

すぐに移動できないという欠点もあるけど、反応を消すには仕方ないな。

 

「ヒナギクには誰が?」

「テンカワ、ヤマダの両名はナデシコで待機。残りのパイロットとミスター、整備班少数がヒナギク担当だ。パイロットは護衛としてだな」

「エステバリスで囲んでいるんですか?」

「ヒナギクに搭載しているだけだ。出来る限りバッテリーの消費を防がねばならんからな」

 

外付けのバッテリーを搭載してもエステバリスの稼働時間は短い。

時間的観点からも戦略的観点からも妥当だな。

エステバリスの反応を敵が把握している可能性も高いし。

出来る限り、敵にこちらの事を知らせたくない。

 

「ナデシコは火星から脱出できるんですか?」

「空域さえ確保できればな。木星蜥蜴に襲われれば・・・そうか、俺は何故気付けなかったんだ? ・・・脱出途中で襲われたら脱出は不可能になるではないか」

 

・・・思わず頭を抱えてしまった。

明らかに降下はミスじゃないか。

木星蜥蜴が占拠しているって分かっているんだから、火星からの脱出まで考えないと。

いくら火星の重力が地球より軽いからって油断しちゃ駄目だろ。

 

「・・・すまない。今更、ミスに気付いた」

 

ゴートさんとて少し考えれば分かった筈。

いや。マジで頼みますよ、ゴートさん。

 

「いえ。艦長の指示ですし。仕方ありませんとは言えませんが、それは後です。そんな事より、どうするべきかを考えましょう」

「・・・ああ。そうだな。ブリッジのクルーにも意見を訊きたい。俺はブリッジに戻るから、コミュニケで話に参加してくれ」

「分かりました」

 

・・・想定外だ。

ナデシコが火星に降下するだなんて。

クソッ! ユリカ嬢にも相転移エンジンの説明をしておくべきだった。

ユリカ嬢程に優秀な頭脳があれば、危険だって分かった筈。

補佐に回ると決めたんだから、きちんと説明しておかなければならなかったんだ。

艦長なら把握している筈だなんて、原作の事を知りながら甘く考えていた。

・・・いや。そんな事を考えている暇はない。

さっき自分がゴートさんに言った通り、これからの事を考えるべきだ。

誰を責めたって現状は変わらない。

 

『マエヤマさん』

「あ。艦長ですか? あの・・・」

 

突然映ったのがゴートさんではなくユリカ嬢で困惑してしまった。

謝るべきなんだろうけど、言葉が出てこない。

 

『どうかしました?』

「あ、いえ、何でもありません」

『えぇっと、ゴートさんから聞きました。何でもお話があるとか』

「ええ。ブリッジの皆さんに意見を聞かせて欲しいのですが」

『分かりました。それでは、モニターにマエヤマさんを映しますね』

「あ、はい。御願いします」

 

プツンと画面が消えて、すぐに違う映像が映し出された。

これは・・・ブリッジの全体図だな。

 

『コウキ君。大丈夫なの?』

「ええ。大丈夫です。・・・皆さん。ご迷惑をおかけしました」

 

頭を下げる。

ブリッジクルーの皆には本当に迷惑をかけた。

 

『大丈夫ですよ。マエヤマさんを責める人なんていません』

『私の指示が厳し過ぎて無理をさせてしまいました。こちらこそごめんなさい』

『誰もてめぇを責めたりなんかしねぇよ』

『若い者の過ちを背負うのが年寄りの仕事。気にする必要はないんじゃぞ』

『・・・コウキさんは悪くありません。頑張ってくれました』

『・・・マエヤマさん。貴方は何も悪くありません』

『・・・コウキは悪くない』

『マエヤマ。君は悪くないよ』

『先程も言ったが、心配する必要はない。お前に責任はないからな』

 

・・・ブリッジクルーの誰もが俺を許してくれた。

俺なんかを、裏切り者の俺なんかを。

 

「ありがとうございます、皆さん」

『・・・・・・』

 

泣いている情けない俺を皆は優しい笑みで迎えてくれた。

仲間を撃った裏切り者の俺を皆は仲間だと認めてくれた。

それが嬉しくて堪らない。涙が出る程に歓喜で胸が溢れる。

だからこそ、絶対に彼らを無事に火星から脱出させなければと心に強く誓う。

俺に出来る事なんて現状では皆無かもしれない。

でも、それでも、俺の考えが少しでも役に立つのなら、俺は伝えたい。

俺なんかを笑顔で迎えてくれる大切なナデシコクルーを護る為に。

 

「ナデシコが火星に降下した以上、俺達は火星からの脱出方法を考えなければならないと思うんです」

 

木星蜥蜴が占拠している火星。

襲われない事の方がおかしい。

 

『大丈夫ですよぉ。ナデシコなら襲われても返り討ちですから』

 

ユリカ嬢、冷静に状況を見極めてください。

 

「確かにナデシコなら返り討ちに出来るかもしれません。ですが、もしもの事があった時を考えるのも生き残る為には必要です」

『確かに。マエヤマの言う事も間違ってないよ、ユリカ。僕達は最悪の事態を想定しなければならないんだから』

 

ジュン君、ナイスフォロー。それでこそ副長だ。

 

「火星が木星蜥蜴に占拠されている以上、敵戦力は予想できません。人海戦術で来られたら流石のナデシコも厳しいと思います。クルーの精神的にも」

『・・・そうですね。気付かせてくれてありがとうございます、マエヤマさん』

「いえ。俺が臆病なだけですよ。心配性なんです」

 

ナデシコが無事に脱出する事は無理かもしれない。

チューリップに飛び込むという案も今の状況で提示する事はおかしい。

今、俺に出来る事は何があっても冷静に対処できるよう心に余裕を持たせる事だけなんだ。

 

「現状で、火星から脱出する方法はどんな案がありますか?」

『単純に地球と同じようにナデシコ単体で―――』

「加速する前に叩かれたら厳しいですよ。少なくとも脱出する為の空域を確保しなければ」

 

戦艦は最大速度は凄まじいが、加速に時間がかかる。

だからこそ、エステバリスのような小回りが利く機体が必要になるのだ。

その加速の隙を突かれたら厳しいものがある。

 

「どちらにしろ、安全空域の確保は必須です。ヒナギクとの合流地点にもなりますし、危険性を低める為にも」

『はい。私も賛成です。ですが、どのように確保しましょうか?』

「俺の稚拙な案で良いですか?」

『稚拙だなんて。御願いします。参考にさせてください』

 

空域の確保だなんて素人の俺には難しい。

でも、俺の意見は参考程度だ。あとは専門職である士官組が答えを出してくれる筈。

遺跡の知識は所詮知識であって応用は利かない。ここは天才艦長の頭脳に任せよう。

 

「まずは安全空域となる、いえ、安全空域とする場所を決めましょう。どこに敵が潜んでいるか分からない以上、自分達の力で確保すべきです」

 

どこが危険なのか分からないんだ。

それなら、運に任せないで自分達で確保した方が良い。

 

「ナデシコの高出力のエネルギーでは敵方が反応してしまう可能性がありますので、エステバリスで先行して地道に敵を片付けるのが良いと思います」

 

エステバリスで反応しないとは限らないが、ナデシコで移動するよりは可能性が低いと思う。

 

「その後、エステバリスで警戒作業に入ってもらいます。レーダーで敵反応を常に調べておいた方が対処しやすいと思うので」

 

稼動状態でなければ反応が出ないかもしれないが、警戒してれば反応は出来る。

安全なのか、危険なのかもすぐに知らせられる筈だ。

 

「エステバリスなら小回りも利きます。囲まれる前に脱出する事も不可能ではないでしょう」

 

ナデシコは囲まれたら終わりだ。

だが、エステバリスなら大丈夫だと思う。

テンカワさんもガイも頼れる腕前だ。

 

「この程度ですが、どうでしょう?」

 

一応、形としては成り立つと思う。

参考までに、という事だから、これで満足してくれると助かる。

 

『助かりました。後はこちらで考案してみます』

「はい。俺はあまり詳しくないので、後は艦長にお任せします」

 

任せました。ユリカ嬢。

 

「俺からは以上です。後は任せました」

『はい。任されました』

 

プツンっと通信を切る。

 

「ふぅ・・・」

 

これで少なくとも万が一があるかもしれないという意識は持ってもらえた筈だ。

予想外の事態に直面した時、冷静でいられるかどうかは大切だからな。

後は皆に任せるしかない。

頼んだぞ、皆。

 

 

 

 

 



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和解と決意

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

艦長、副長、提督、ゴートさん。

四人が地図を見ながら頭を悩ませていた。

私達には詳しい事なんて何も分からないから、後は艦長達に任せるしかない。

それがもどかしく感じるけど、不安はない。

だって、艦長達なら最善の策を打ってくれると信じているもの。

・・・それにしても、コウキ君。泣いていたわね。

でも、あれは喜びの涙。やっと本当のコウキ君の笑顔が見られたわ。

正直、ホッとした。ナデシコクルーがコウキ君を責める訳がないって分かっていたけど、それでも心配だったもの。

 

「・・・ふぅ」

 

安堵したら溜息が零れちゃった。

何だかんだ言って、私も気を張っていたんでしょうね。

何だか、解放された気分だわ。胸が軽い。あ、心って意味よ。

早くコウキ君と楽しくお話したいなぁ。

もう大丈夫だって思ったら、ウキウキしてきちゃった。

コウキ君の傍に行きた―――。

 

「・・・ミナトさん、少しいいですか?」

「・・・アキト君。それに、ルリちゃんとラピスちゃんも」

 

・・・カッとなった。

込み上げてくる怒りを必死に抑えて三人を見る。

さっきまでのウキウキ気分はとっくに消え失せた。

・・・私の大切な人を殺そうとした三人。

コウキ君はお人好しだから、きっと簡単に許すと思う。

でも、私は当分許せそうにない。

 

「・・・何か用かしら?」

 

邪険に扱ってしまうのは仕方がないと思う。

彼らにどんな事情があるかどうかは分からないけど、私も理性だけで生きている訳じゃないの。

我慢できない事はいくらでもある。

 

「・・・お話があります。貴方とマエヤマと二人に」

「事情を話してどうするというの? 納得してもらって殺すの?」

「違います! 私は・・・」

「・・・ルリちゃん?」

 

叫ぶルリちゃん。

とてもじゃないが、あの時の冷酷な眼をしたルリちゃんには見えなかった。

 

「・・・私は・・・愚かな事をしました。・・・何度謝ろうとも許されない程に愚かな事を」

「・・・・・・」

「・・・私はミナトさんとマエヤマさんに謝りたいんです」

 

・・・ルリちゃんが泣いている。

大人びたルリちゃんが子供のように顔を歪めて、溢れる涙を拭おうともしないで。

・・・必死に頭を下げていた。

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

消え去るような弱々しい声。

心から謝っている事が嫌でも伝わってきた。

でも、それでも・・・。

 

「・・・私は貴方達が描く台本通りに動く人形じゃないわ。もちろん、コウキ君だって貴方達が都合良く利用できるような存在じゃない」

「・・・分かっています」

「分かってない。邪魔だから、危険だから、そんな理由で簡単に人を殺せる貴方達が分かっている筈がない」

「・・・ごめんなさい・・・」

「・・・席を替えましょう」

 

涙を流すルリちゃんとその後ろに立つ二人。

ブリッジでこんな事を話すのは間違っていたわ。

メグミちゃんもセレスちゃんもこちらを心配そうに眺めているもの。

・・・心配かけちゃ悪いから。

 

「・・・艦長。少し席を離れてもいい?」

「えぇっと、はい、少しぐらいなら」

「ありがと。・・・私の部屋でいい?」

「・・・すいませんが、マエヤマの所にしてもらえますか?」

 

・・・何か企んでいるのかとも思ったけど、話があるとも言っていた。

本当なら許したくない。コウキ君がやっと元気になってくれたのに、また銃なんか突きつけられたら悲しむに決まっている。

 

「・・・いいわ」

 

でも、必死に謝ってくるルリちゃんを信じたいと思った。

・・・私も何だかんだ言ってお人好しよね。

 

「・・・行くわよ」

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「・・・ボソンジャンプか。クロッカスとイネス先生がいればスムーズに話を持っていけるかな?」

 

火星からの脱出が不可能であるならば、やはりボソンジャンプによる脱出しかない。

その為に欠かせないのはクロッカスの存在とイネス先生の存在だ。

クロッカスがあるからこそ、ボソンジャンプが瞬間移動かもしれないと疑惑を持ち、イネス先生の理論に希望を見出せる。

俺がいくら証拠を並び立てて説得しても、誰も納得してくれないと思うし。

そんな危険な真似は出来ないって。もっと安全な方法がある筈だって。

それでも、やっぱりボソンジャンプが唯一の脱出方法なんだよなぁ。

・・・どうするか?

 

「コウキ君」

「あ。ミナトさん」

 

現れたのはミナトさん。

俺の元気の源。

今回の件で益々好きになった気がする。

・・・俺も結構単純だな。

 

「いいんですか? ブリッジ空けて。俺は嬉しいですけど」

「えぇっとさ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、真面目な話がしたいの」

 

真面目な話?

 

「な、何でしょうか?」

 

そのあまりにも真剣な表情に言葉が震える。

・・・俺は何かしでかしてしまったのだろうか?

それとも・・・愛想尽かれた?

・・・そうだったら死にたい。

 

「・・・アキト君、ルリちゃん、ラピスちゃん。いいわよ」

「え? テンカワさん達?」

 

・・・はっきり言って事態がまったく呑み込めません。

何故、テンカワ一味が?

 

「・・・マエヤマ。お前と話がしたくてな」

「えぇっと、はい」

 

俺に話?

え? もしかして、テンカワさんは許してくれてないって事?

・・・胸が痛くなってきた。

 

「・・・ルリちゃん」

「・・・はい」

 

テンカワさんに促されて前に出るルリ嬢。

え? 俺に用があるのってルリ嬢?

テンカワさんじゃないの?

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

顔全体を涙で濡らしながら必死に謝ってくるルリ嬢。

何故、謝られているのか? まず、それが分からない。

そして、俺のせい、かどうかは分からないけど、こんなにも涙を流させているという罪悪感が胸を襲う。

正直、小さい子に泣かれるのは物凄く辛い。

と、とりあえず、意味を知りたい。

 

「どうして謝るの? 俺って何かされたっけ?」

「・・・え? 知らないん・・・ですか?」

「いや。身に覚えがないんだけど」

 

実際、俺にはまったく意味が分からない。

謝らなければならない自覚はあるが、謝られる自覚はない。

頼むから、泣き止んで欲しい。

胸がズキズキ痛むから。

 

「・・・ミナトさん、話してないんですか?」

「・・・コウキ君に話したら傷付くと思ったから、話してないわ」

 

え? 俺ってば傷付くの?

・・・今でも充分、胸が痛いんですけど。

 

「・・・私が自分で話します」

「えぇっと、とりあえず、涙を拭いて、ルリちゃん。泣き顔で話されても困っちゃうからさ」

「・・・はい。すいません」

 

制服のポケットからハンカチを取り出し、涙を拭くルリ嬢。

まったく場違いだけど、きちんとハンカチを制服のポケットにしまっているルリ嬢に感心した。

 

「・・・お話します」

「・・・うん」

 

真剣で、それでいて、怖がるように話すルリ嬢。

本当に、一体、何があったんだろう?

俺は何をしてしまったのだろう?

 

「・・・許して頂けるとは思っていません。私はそれだけの罪を犯しました」

「・・・・・・」

「・・・マエヤマさん。私は貴方の命を奪おうと思ったんです」

「・・・え?」

 

俺の命を奪う?

それって・・・。

 

「・・・はい。貴方を私は殺そうとした。そういう事です」

 

え? 何で?

何で俺がルリ嬢に殺されるの?

・・・俺がテンカワさんを誤射したから?

 

「・・・な、何で?」

 

・・・答えを聞くのが怖い。

ルリ嬢の大切な人を奪おうとしてしまったのは事実。

それを理由に殺されるというのなら、俺は反論する事も許されずに殺されるべきなのだ。

大切な人を失うというのは何よりも辛い筈だから。

 

「・・・私達の計画に邪魔だから。そんな理由で私は仲間を殺そうとしたんです」

 

・・・計画。

きっとテンカワさん達が目標としている事の達成だと思う。

俺は・・・邪魔をしていたのか。

思っていたのとは違う理由だったけど、下手するともっとショックだな。

俺は空回りしていたのだと分かってしまったのだから。

必死にやって邪魔になっていたなんて馬鹿みたいだ。

 

「・・・邪魔だったかな? 俺」

 

きちんと真実を伝えて手伝った訳じゃない。

でも、影ながら助けようと必死になっていたつもりはある。

でも、ルリ嬢達にとっては、邪魔でしかなかったんだな。

 

「・・・ごめん。邪魔するつもりはなかったんだ。少しでも助けられたらって」

「・・・え?」

 

・・・やはり、俺みたいな存在しない筈の人間はいるべきじゃなかったんだ。

介入者なんて、いるべきじゃなかった。

当事者に・・・任せるべきだったんだ、何もかも。

 

「・・・ごめんね、ルリちゃん。・・・うん。分かったよ。すいません、ミナトさん」

「・・・え?」

「俺、地球に帰ったらナデシコを降ります。俺はここにいるべきではありませんでした」

 

余計な事だったんだ。

俺がしてきた事は全部余計な事。

俺はテンカワさん達の計画を阻害する邪魔な存在だったんだ。

 

「コウキ君! そんな事―――」

「いえ。いいんです。結果として俺は邪魔をしていたんですから。俺はここにいても邪魔になるだけなん―――」

「ちょっと待ってください!」

「え?」

 

ルリちゃん?

 

「少しでも助けられたらってどういう意味ですか? マエヤマさんは私達を助けようとしていてくれたんですか?」

 

驚いているルリ嬢。

テンカワさんもラピス嬢も眼を見開いている。

・・・そうだな。ここまで来たのなら、俺もきちんと話しておこう。

ナデシコから降りる前に、俺がどういう存在なのかを、きちんと。

 

「テンカワさん、確認してもいいですか?」

「あ、ああ。何だ?」

「貴方は、いえ、貴方達三人はボソンジャンプの事故で過去へ戻ってきた。それは間違いないですか?」

「な、何故それを・・・」

「・・・やはり、マエヤマさんもボソンジャンプで過去へ戻って来たのですか?」

「・・・正しくは、ちょっと違うかな」

 

ボソンジャンプでこの世界に来た事は事実だ。

でも、過去に戻ってきた訳ではない。

 

「テンカワさん達は平行世界をご存知ですか?」

「平行世界?」

「・・・何かの要因で時間軸がズレた世界の事ですよね?」

「うん。そう。その平行世界。俺はその平行世界からボソンジャンプでこの世界にやってきたんです」

 

二十一世紀初期の日本から。

 

「俺は三人の事を知っています。俺の世界はこの世界を観測できる世界でしたから」

「・・・観測?」

「テンカワ・アキト。ナデシコでの本来の役職はコック兼予備パイロット。得意料理は中華」

「なッ!?」

「ホシノ・ルリ。ナデシコでの本来の役職は今と同じオペレーター。出身はピースランドでお姫様」

「そ、そんな事まで・・・」

「ラピス・ラズリ。そもそもナデシコに乗っていない俺と同じイレギュラー。復讐鬼テンカワ・アキトを支えた桃色の妖精」

「ッ!?」

「俺は全て知っています。ナデシコ、木連、熱血クーデター、テンカワ夫妻のシャトル墜落事故、そして、火星の後継者の事も」

 

悲劇の原因も。そして、その結末も。

 

「最初、俺も疑問に思いました。テンカワさんはコックじゃないし、ルリちゃんは既にナデシコクルーに心を開いているし、ラピスちゃんはテンカワさんを慕っているし」

 

原作とあまりにも違う現実に戸惑った。

 

「ですが、ルリちゃんの話を聞いて、ようやく分かったんです。三人はボソンジャンプで精神、きっと記憶を持って戻ってきたのだと」

 

あまりにも原作とかけ離れた人格、能力。

あたかも先を知っているかのような行動。

あまりにも違和感があり過ぎた。

 

「それから、俺は考えました。テンカワさん達はどんな行動を取るのだろうかと。きっと犠牲になったガイや火星の民を救う為に動くのではないかと」

 

誰だってやり直したい過去はある。

そんな機会に恵まれたのだ。誰だって必死に取り組む。

 

「俺だって知っている悲劇なら避けたい。それなら、俺も協力しようと思ったんです。影ながらですけどね」

「何故、俺達にそれを教えてくれなかったんだ?」

「正直な話、俺は三人を完全に信用していていませんでした。本当に信頼できる人にしか教えるつもりはありませんでしたから。知っているのはミナトさんだけです」

 

誰よりも信じているのはミナトさん。

そして、ミナトさんは全てを知った上で俺を支えてくれている。

 

「俺達は信じるに値しなかったか?」

「それって本気で言っています?」

「・・・どういう意味だ?」

「出航当初からずっと俺に敵意を示してくれていましたから。避けられているんだと自覚していました」

「そ、それは・・・」

「いえ。別にそれは気にしてないんです。当たり前ですから。存在する筈のない存在がいれば警戒するのは」

「・・・・・・」

「とにかく、俺とテンカワさん達の間に溝があった事は事実です。俺にとって徹底的に隠さなければならない秘密を話すにはあまりにも距離が遠過ぎました」

 

ミナトさん以外に教えようとも思わなかった俺の秘密。

敵意を持つ相手に教えられる筈がない。

 

「事実を話す訳にはいかない。それなら、影から支えればいいと。そう思いました」

 

話せなくても、出来る事はある。

そうやって、俺は活動してきた。

 

「レールカノンも後々に木星蜥蜴、いえ、木連ですね、彼らに有効であるから、鍛えておこうと思いましたし」

 

テンカワさん達の事を知ってからでもない。

その前から、俺なりに活動してきたつもりだ。

 

「ナデシコに乗ると決めてから、助けられる人は助けたいと思っていました。擬似マスターキーとかも作ったんですよ? 無駄になりましたが」

 

ナデシコが動けない時困ると思って作った擬似マスターキー。

今では机の奥底で眠っている。

 

「火星に降りる危険性を訴える為にも相転移エンジンの話をしました。結局、無駄になってしまいましたが・・・」

 

・・・何だか、俺のしてきた事って無駄な事ばかりだな。

邪魔扱いされても不思議じゃないか・・・。

 

「・・・マシンチャイルド救出の為の匿名メールもお前かやっていたのか?」

「え? 何でテンカワさんが知っているんですか?」

「・・・やはりマエヤマだったか・・・」

「ええ。まぁ。ラピスちゃんの境遇は何となく知っていましたから、似たような子がいるかもしれないと思って調べたんです」

 

火星の後継者に攫われる前から試験管のようなカプセルの中にいたラピス嬢。

きっと酷い扱いを受けていたに違いないと思って調べてみたんだ。

そしたら、案の定・・・。

 

「酷いものでした。人を人と思わない人体実験。泣き叫ぶ小さな子供はトラウマになりましたよ。人は醜いって、心底思いました」

「・・・コウキ君。私はそんな事知らされてないわよ」

「ミナトさんに見せるようなものじゃありませんでしたから。ミナトさんは優しい人です。きっと心を痛めていたと思います」

「それはコウキ君も同じでしょ! 何で教えてくれなかったの!? 私にだって出来る事はあったと思うわ!」

「ミナトさんには抱き締めて頂きました。あの時、俺は救われたんですよ、ミナトさんに」

「・・・あの時の事ね。・・・コウキ君はその時から人の闇に触れていた。私、何にも知らないで、何にも出来なかった」

「ミナトさんは俺を癒してくれました。何にも出来なかったなんて言わないでください。ミナトさんがいなかったら俺はここにはいませんでしたよ」

 

きっと潰れていたと思う。

人の醜さを知り、人の闇に触れ。

人間不信にならなかったのもミナトさんのおかげだ。

 

「・・・知っているか? ラピスもセレスもお前のおかげで助かったんだぞ」

「はい。知っていますよ。セレスちゃんとラピスちゃんが助かった事でルリちゃんに姉としての自覚が生まれたら嬉しいなぁとか一人で思っていました」

「ッ!?」

「自己満足でしたが、救えて良かったと思います。セレスちゃんが笑ってくれた時は涙が出ました」

「・・・そう。それで、コウキ君はセレスちゃんやラピスちゃんと話す時に穏やかな顔をしていたのね」

「・・・コウキ、ありがとう。コウキのおかげで私は酷い眼に遭わずに済んだ」

「ううん。俺が自己満足でやっただけ。それにね。君達を酷い眼に遭わせていたのは俺と同じ大人。同じ大人として俺は謝りたいぐらいなんだ」

「・・・それでも、コウキのおかげで助かった」

「そっか。そう言ってくれると俺がこの世界に来た事に意味があったって思えるね」

 

俺がこの世界に来た意味。

何の意味もないかと思っていたけど、少なくとも彼女達を救えた事は俺の存在価値になる。

 

「・・・わ・・・私はなんて事を・・・」

「ルリちゃん?」

「・・・私は・・・私達の為に必死になってくれていたマエヤマさんを殺そうとした・・・」

 

せっかく拭いた涙がまた零れる。

倒れるように地面に座り込み、涙で床を濡らした。

 

「・・・私達の為を思って行動してくれたマエヤマさんを裏切り。・・・こんな私の事すら案じてくれたマエヤマさんを敵視した」

「仕方ないと思うよ。イレギュラーだったんでしょ? 俺の存在が」

「それでも! 私は許されない事をしました。私達を助けようとしてくれていたマエヤマさんをあまつさえ邪魔な存在だなんて。なんて恥知らず。なんて恩知らず」

「・・・ルリちゃん。俺も同罪だ。君一人で背負う必要は―――」

「違うんです! 私は話を聞こうともせず、一方的に邪魔にしかならないと決め付け、殺そうとしたんです。味方を敵として!」

「・・・・・・」

「何が大切なナデシコクルーですか!? 何が犠牲になった人を救いたいですか!? 私は私の勝手なエゴで人を陥れ、殺そうとする最悪な人間なんです!」

「・・・ルリちゃん」

「自分の都合を人に押し付け、自分が正しいと思い込み、恩人に恩ではなく仇で、しかも、殺すという最悪の形で返したんです! 私と同じマシンチャイルドを救ってくれた大恩人を」

「・・・・・・」

「ミナトさんがどれだけマエヤマさんを愛しているか知っていて、セレスがどれだけマエヤマさんを慕っているか知っていて、私は・・・私は・・・」

 

泣き崩れるルリ嬢。

彼女が何を思い、何を考えて俺を殺そうとしたのかは分からない。

感情の吐露。今のは抑えきれない想いが溢れて出た言葉だと思う。

 

「ルリちゃん。そんなに自分を追い詰めなくていいんだよ。俺はきっと邪魔ばかり―――」

「違います! マエヤマさんが邪魔をした事なんて一度もありません。いつだってナデシコの為に動いてくれました。私達を助けてくれました」

「・・・え? でも、さっき・・・」

「私はナデシコの為に頑張っている貴方を危険だと。自分の知らない所で勝手に動いていて、計画が思い通りにいかない要因になると」

「・・・・・・」

「全て思い通りに運べないと満足できなかったんです。人の意思を無視して。人の思いを無視して。自分本位な考え方で貴方は邪魔だと」

 

思い通りにいかない要因。

全ての人の意思を操ろうとする自分勝手な考え。

まるで出航前の俺みたいな考え方だなと思った。

 

「決められた未来を変える為に私は人に決められた道を強要したんです。自分勝手で傲慢で・・・私は自分が嫌になります」

 

・・・鉄の棒が恨めしい。

檻なんかに閉じ込められていなければ、気にしなくていいと伝えられる。

言葉という全てを伝えきれない方法ではなく、全身で伝えたかった。

でも、今の俺には言葉しかなくて・・・。

 

「ルリちゃん、顔をあげて」

「・・・はい」

 

涙を拭こうともせず、くしゃくしゃの顔でこちらを見てくるルリ嬢。

・・・とてもじゃないけど、怒る気になんかなれなかった。

 

「ルリちゃん。確かに君に殺されかけたと聞いて少し胸が痛かった」

「・・・ごめん・・・なさい」

「でも、俺は君の思いが伝わってきたとも思った」

「・・・え?」

「どんな事をしてでも未来を変えたい。その思いの強さ、覚悟の強さがルリちゃんにそんな行動を取らせたんだと思うよ」

「ち、違います! 私は勝手なエゴで―――」

「人間だもの。エゴを人にぶつけるのは当然だよ。誰だってエゴを持って生きているんだから」

 

人を好きになるという事。人を愛するという事。

自分が人を想う気持ちは利己的なものだ。愛されたいから尽くす。愛したいから尽くす。

全て自分本位。でも、それこそが人間の真理だと想う。

 

「俺を殺そうとしてまで成し遂げたかった。その気持ちは痛い程に伝わってきた」

「・・・マエヤマさん。私は・・・」

「謝ってくれたでしょ? もうルリちゃんは俺を殺そうとしないでしょ?」

「・・・は、はい・・・はい」

「それなら、もう気にしなくていいよ。ま、俺としてはもうちょっと冷静になって欲しいけどね」

 

そうやって笑ってみせる。

俺が気にしてないんだから、君も気にしなくていいよと伝える為に。

・・・殺されかけたのに甘いのかな? 俺。

 

「・・・マエヤマ。お前はそれでいいのか? そんな簡単に許していいのか?」

「俺は当事者ではないので分かりませんが、テンカワさんがどれだけの苦悩を背負って今を生きているか。ルリちゃんとラピスちゃんがテンカワさんをどれだけ想っているか」

 

復讐を支えた桃色の妖精。

去り行く復讐鬼をただの大切な人として追い求め続けた蒼銀の妖精。

その想いは俺なんかには計り知れない程に、深く、重い。

 

「それを少しは理解しているつもりです。その想いが故の暴走であれば、許せる、という訳ではないですが、理解してあげられます」

「・・・マエヤマ、お前はお人好しだな」

「ハハハ。よく言われますよ。それに、ですね」

「それに?」

「可愛い女の子を泣かせていたらこっちが悪いみたいじゃないですか。俺は楽しくて平穏な生活が好きなんですよ。泣かれるのはこちらも心が痛みますし。笑っていて欲しいですね」

「・・・・・・」

「コウキ君。シリアスが台無し」

 

あれ? 皆さん呆れていらっしゃる?

 

「ほら、ルリちゃん。泣き止んで。俺が気にしてないって言っているんだから、君がいつまでも気にしていたら俺も気が重いじゃない」

「・・・マエヤマさんはそれで良いんですか? 私は貴方を」

「俺は良いって言ったよね? いつまでもそんな事ばかり言っていると本当に怒るよ」

「・・・はい。すいませんでした」

 

そう言って泣きながら笑うルリ嬢を見て、やっと心が楽になった。

女の子に泣かれるとありえない程に胸が痛くなる。きっとそれは皆同じだよね。

うん。何はともわれ、和解できたと思うと嬉しいかな。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

・・・本当にお人好し。

殺されかけたのに、まるで何もなかったかのようで。

実際に銃を突きつけられた所を見た訳じゃないから、気にしてないのかもしれないけど。

 

「コウキ君。私の怒りはどこにぶつければいいのよ」

 

思わず溜息を吐いてしまう。

コウキ君が殺されると思って湧き出た憤りをどこにぶつければいいんだろう。

ルリちゃんをコウキ君が許しちゃった以上、この三人にも当たれないし。

ここはやっぱりコウキ君にぶつけましょう。

理不尽? そんな事ないわよ。正当な権利。

 

「それじゃあ、俺は、邪魔はしてないって事だよね?」

「はい。マエヤマさんが何を考えているか分からず、警戒していた内に感情的になってしまって」

「・・・まぁ、暴走しちゃったからね。仲間を殺しかねないって思われても仕方ないよ」

「・・・すいません・・・」

「あ。いや。怒っている訳じゃなくてさ。そりゃあ、仲間を殺すかもしれないと思ったら警戒したくなるって」

 

そう気楽に話すコウキ君。

意外と楽天家なのかもしれない。

普通、殺されかけた相手に気楽に話してられるかしら?

 

「はぁ・・・」

 

いつまでもこんなんじゃ一人だけ子供みたいじゃない。

まったく。変な所で男を見せなくてもいいのに。

 

「コウキ君。貴方ってお気楽ね。私がどんなに心配したか」

「えぇっと、すいません」

 

謝られても困るんですけど。

 

「あの・・・ミナトさん!」

「・・・ルリちゃん?」

「すいませんでした! 私はミナトさんの想いを踏み躙って、勝手な事ばかり言って。本当に、勝手な事ばかりで」

「あ~。いいのよ、ルリちゃん。コウキ君が許しているのに私が怒っていても馬鹿みたいじゃない」

「え、えぇっと・・・それでいいんですか?」

「ええ。もういいわ。でもね、一つだけ言っておくわ。私は運命なんて信じないの。私の事は私が決めるわ。今、私が愛しているのはコウキ君だけよ。分かった?」

「はい。私が間違っていました」

「そう。それなら、別にいいわよ」

「一つだけじゃない気がするんだけどな・・・」

「うるさいわよ、コウキ君」

「は、はいぃ」

 

失礼ね。最近の憤りの全てをコウキ君にぶつけるから覚悟してなさい。

 

「えぇっと、今、黒いオーラが出ていましたよ。ミナトさん」

「あら? 何の事かしら。この鬱憤をコウキ君にぶつけようだなんて思ってないわよ」

「言っている! 言っていますよ、ミナトさん! 俺にぶつけないでください!」

「嫌よ」

「グォ! 理不尽だ!」

「理不尽で結構。私を心配させた罰」

「あの・・・お手柔らかに御願いします」

「嫌よ」

「マ、マジですか?」

「マジ」

「テ、テンカワさん! どうにかしてください」

「・・・すまないが、俺に出来る事は何もない」

「ル、ルリちゃん!」

「・・・すいません。私にも何も」

「ラ、ラピスちゃんは俺の味方だよね」

「・・・コウキ、諦めた方が良い」

「ク、クソォ。四面楚歌。孤立無援。俺に味方はいないのか!?」

 

嘆くコウキ君。

ふふふ。こんな形だけどいつものコウキ君が見られたのは嬉しいわね。

さっきまでの重い空気もどこかにいっちゃったし。

 

「・・・ま、いいか。ミナトさん、お手柔らかに」

「だから、嫌だって。誤魔化そうとたってそうはいかないわ」

「分かっています。ええ、分かっていますとも。本当は嘘な―――」

「嘘じゃないわよ」

「・・・勘弁してください」

「もっと嫌」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

こんなやり取りが面白い。

本当にコウキ君は楽しい子だ。

これでこそコウキ君だと思う。

 

「はぁ・・・。まぁ、その話は後です。いや、永遠に忘れていてください」

「嫌だけど、話の展開には付き合ってあげるわ」

「・・・えぇっと、テンカワさん」

「何だ?」

 

私とコウキ君のやり取りを後ろで聞いていたアキト君達。

呆れていたのかしら? やるせない表情をしているわ。

 

「どうしてナデシコを火星に降下させてしまったんですか? 何か考えでも?」

「・・・いや。気付いたら降下準備に入っていた」

「ゴートさんから聞いたんですが、降下の時に用があったとかでブリッジにいなかったそうですね。何をしていたんです?」

「そ、それはだな・・・」

 

慌てるアキト君。

あ。そっか。コウキ君はナデシコが降下した後に降下した事を知ったんだものね。

 

「・・・私がマエヤマさんを殺そうとした時です。アキトさんとラピスは私に付いてきてくれて」

「・・・ちょっと待とうか」

 

呆れ? 怒り? 

今のコウキ君は複雑な顔をしている。

 

「三人とも! 俺を殺そうとしている暇なんてないでしょうが! そんな事よりもっと大事な事を優先してください」

「・・・すまない」

「・・・面目ありません」

「・・・ごめん」

 

あのさ。そんな事扱いするのもどうかと思うんだけど。

 

「まったく。俺なんかに気を取られて計画が失敗したら本末転倒じゃないですか」

 

俺なんかって。ここは呆れるべきなの? 怒るべきなの?

 

「やはりボソンジャンプですか?」

「脱出方法の事か?」

「はい。ナデシコが普通に火星から脱出するのは厳しいと思いますから。どう考えても火星に降下してしまった以上、ボソンジャンプしかありません」

「・・・ああ。そうだな。俺もそれしかないと思う」

 

ボソンジャンプでの火星脱出。

DFを張れば問題ないと聞いたけど・・・。

 

「八ヶ月飛ぶんだっけ?」

「ええ。無茶なジャンプは時空を超える。八ヶ月を無駄にしてしまうのはもったいないですが、仕方ないかと」

 

八ヶ月かぁ・・。

長いわよね。まぁ、無事に脱出できるならいいけどさ。

 

「マエヤマ。お前はどこまで知っているんだ?」

 

アキト君達が真剣な表情でコウキ君を見詰める。

敵意なんて感じられないから、きっと協力体制を築く為にもって事だと思う。

 

「細々とした事は分かりませんが、大まかな流れは把握しているつもりです」

「大まかな流れ?」

「はい。ナデシコが辿った道筋とルリちゃんがヒサゴプランの事を調べ始めた所から火星での決着まで。俺が知っているのはそれぐらいですね」

「随分と限定的な知識なんだな」

 

それは仕方のない事。

だって、コウキ君は物語という形でしか知らないんだもの。

どうするの? 全部話すの?

 

「テンカワさん。バレてしまった以上、きちんとした形で協力したいと思います。いいですか?」

「ああ。お前がいてくれると心強い」

 

クルーの心を引き締め、かつ、余裕を持たせた。

レールカノンで敵の侵攻を食い止め、見事に援護してみせた。

コウキ君はそうやって周りの信頼を得てきたのね。

 

「それでは、俺の正体を話します。信じられない事ばかりだと思いますが、話を聞いてください」

「・・・了解した」

「・・・分かりました」

「・・・分かった」

 

それから、コウキ君は三人に語った。

遺跡に出会い、この世界に飛ばされた事。

遺跡によって与えられた四つの異常の事。

この世界が平行世界である事。

そして、私達の世界が物語の世界であった事。

アキト君達三人は最後まで黙って話を聞いていた。

信じられない事ばかりだろう。唖然としたり、驚きで顔を染めたり。

でも、物語であったと知った時、三人は怒りで顔を染めた。

 

「運命だったとでもいうのか!? あんな眼に遭ったのも、俺がそうなる運命だったとでも言うのか!?」

 

激昂するアキト君。

私だって信じられなかった。運命が決まっていて、私の選択も物語のストーリー通りで。

まるで自分が自分じゃないような。意思を他人任せにしているような。そんな錯覚を感じた。

 

「ガイが死に、火星の民を押し潰し、多くの人を犠牲にし、火星の民の全てを惨殺された。それすらも、物語であり、運命であったというのか!?」

「既にこの世界は平行世界で―――」

「そんな事は関係ない! 俺の全てが運命であったなど! 信じられるか!」

「・・・テンカワさん」

「・・・俺は・・・」

 

項垂れるアキト君。

コウキ君が語ったアキト君の生涯は不幸な事ばかりだった。

幼い時に両親を殺され、ようやく幸せを掴んだと思った途端に拉致され、復讐する立場となった。

これがあらかじめ決められていた事だなんて信じたくないに決まっている。

やり場のない怒りを抱えるに決まっている。

 

「・・・マエヤマさんはマシンチャイルドという事ですか?」

「俺はマシンチャイルドではないと思っている。でも、遺跡によって強化体質にされた事は事実かな」

「・・・マエヤマさんのナノマシンも」

「うん。遺跡が勝手に入れた奴。俺の身体にはどんな種類のナノマシンがどれくらい入っているか分からないんだ」

「・・・怖くないんですか? 自分の身体が」

「・・・怖いよ。怖いに決まっているさ。異常な身体能力、異常なナノマシン。俺は何より自分の身体が怖い」

 

異常な力を持つが故に背負わされる責任。

暴走するかもしれないという恐怖。

コウキ君が抱える闇も相当に根深く重いものだ。

 

「こんな能力が欲しいなんて言ってない。俺は普通に生きたかった」

「・・・コウキは能力が欲しくなかったの?」

「初めは良かったよ、楽が出来るって思ったから。でも、次第に苦しくなるんだ。それだけの能力を持っているのにお前は何もしないのかって誰かが囁くんだ」

 

強迫観念からの幻聴。

どうにかしなければならないと自分を追い込んでいるからこその苦しみ。

 

「お前に与えた能力はその為にある。そうふとした時に聞こえてきて。俺はどうすればいいのかって悩んで」

「・・・コウキも苦しんだ。その上で私を助けてくれた」

「普通の暮らしを望んだ俺でも出来る事はしたかったんだ。匿名にすればバレないと思ったし、知っていて無視する事なんて出来なかった」

「・・・本当にありがとう、コウキ」

 

あの時、コウキ君が苦しんでいた理由を今更知った。

支えたい。助けたい。そう誓ったあの日、私はもっと踏み込むべきだったのかもしれない。

そうすれば、私もコウキ君の苦しみを共有できたかもしれないのに。一緒に背負えたかもしれないのに。

 

「テンカワさん。貴方達が未来を変えたいというのなら、俺も手伝うつもりです。でも、その前に確認しなければなりません」

 

そう言って真剣な表情になるコウキ君。

その顔は迷いを捨てた確固たる決意を持った顔だった。

影から悟らせないように振舞うのではなく、自ら表舞台に立つ決意を。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 



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心的外傷

 

 

 

 

 

「テンカワさん。貴方達が未来を変えたいというのなら、俺も手伝うつもりです。でも、その前に確認しなければなりません」

 

俺が隠してきた全てを話した。

今まで散々距離を置いてきた俺達だ。

協力体制を取るのなら、隠し事はなしにしたい。

俺の目的、向こうの目的。

その全てをきちんと共有しておきたい。

俺の目的を聞いて呆れられようが、怒鳴れようが、二度と疑われない為にも。

 

「・・・何だ?」

 

テンカワさん、ルリ嬢、ラピス嬢。

それぞれが真剣な顔付きでこちらを見ている。

その少し離れた所でミナトさんもこちらを見ていた。

 

「貴方達が目指すものとは何ですか?」

「俺達の目指すもの?」

「はい。ナデシコをどうしたい。火星の為に何かしたい。そんな事ではありません。もっと個人的なものです」

 

大きな夢を叶える。

その夢に隠れる個人だけが持つ大きな希望。

 

「俺はナデシコに最善の結末を迎えさせ、その上で、普通の暮らしをする事こそが俺の目指すものです」

「・・・普通の暮らし?」

「ええ。戦争を終わらせたという名誉。多くの戦績を残したという名誉。英雄? そんな称号はまったく欲しくありません。俺は平穏な生活だけを望んでいます」

 

個人的、本当に個人的な目的。

結局の所、俺の目的はここに辿り着く。

 

「それでは、何故ナデシコに?」

「怒るかもしれませんが、俺はこの世界に来た当初、ナデシコに関わろうとしませんでした。むしろ、避けようと思っていました」

「ナデシコを避ける?」

「はい。未来を知りつつ、俺は人任せにしようとしていたんです。俺が望む平穏な生活を得る為に」

「・・・あれだけの悲劇を知りながら、お前は無視しようとしていたのか?」

 

怒りの表情を浮かべるテンカワさん。

そうだろう。当事者であればそう思うに決まっている。

 

「ええ。未来を知り、それを改善できるだけの能力があるのに、俺は介入しようと思っていませんでした」

「何故だ!? 何故、そんな事が出来る!? 力があり、悲劇を知り、何故、改めようとしない!?」

「能力があったら必ずしなければならないんですか? 未来を知っていたら、必ずしなければならないんですか?」

「何?」

「自分の目的を諦め、自分を犠牲にしてまで、何故他人を助けなければならないんですか?」

「マエヤマ! 貴様!」

 

激昂し、憤怒の表情で迫ってくるテンカワさん。

檻という鉄の棒に阻まれてなければ、掴みかかっていただろうな。

 

「テンカワさん。貴方は罪の意識で動いていませんか? 贖罪というくだらない理由で動いているのではないですか?」

「ッ!? 貴様に何が分かる!?」

「分かりません。俺は実際に経験した事がある訳ではありませんから」

「なら、黙っていろ! 俺は! 俺は、あんな未来など認められない! その為ならたとえ何を犠牲にしてでも!」

「それが間違っているって言ってんだよ!」

 

気付けば叫んでいた。

そのあまりにも無責任な自己犠牲が一瞬で頭が沸騰するぐらいに怒りを湧かせた。

 

「・・・コウキ君?」

 

いきなりの大声と素の口調で誰もが驚いていた。

対象のテンカワさんでさえ。

 

「・・・・・・」

 

・・・落ち着け、俺。

感情的になったって、仕方ない。

 

「テンカワさん。貴方には、自分の念願を達成した先に何が待っているんでしょうね」

「・・・どういう意味だ?」

「俺には目的があります。蜥蜴戦争を生き抜いて平穏な暮らしをするという。でも、貴方は目的自体が歴史の改変。終わった後、貴方は死を選ぶのではないですか?」

「ッ!?」

「ア、アキトさん!? そ、それは、本当ですか!?」

「・・・アキト」

「・・・・・・」

 

罪の意識。贖罪。

そんな最終目的であれば、何の意味もない。

確かに明確な目的だ。その意識がある限り、最大の力を発揮できるだろう。

だが、そのあまりにも分かりやすい目的だからこそ、達成した時が問題。

達成した瞬間、満足感と共に生きようとする意志を失くしてしまうかもしれない。

俺にはそれが心配だった。

 

「俺は戦争終了後に目的があるからこそ頑張れます。戦争終了後、テンカワさん、貴方は何をしますか? どうしたいですか?」

「・・・俺は・・・そんな事・・・考えた事がなかった」

「悲劇を食い止めたい。その思いは立派です。ですが、俺は何よりも自分の幸せの為に頑張って欲しい。テンカワさんは戦争に死を求めているような気がします」

「・・・・・・」

「目先の事を全力で行う事も大切です。ですが、テンカワさんはもっと先の事を考える必要があると思います。生き急いでいると感じるのは俺だけではない筈です」

「・・・そうね。私もそう思うわ。アキト君」

「・・・ミナトさん」

 

遠くから会話を聞いていたミナトさんが近付いてくる。

 

「昔、コウキ君にも同じ事を言った覚えがある。義務感や責任感、貴方は罪の意識ね、そんなもので己を縛らないで、自分の幸せを求めなさいと」

「・・・ですが、俺は多くの罪を犯しました。そんな俺が幸せになんて―――」

「馬鹿ね、アキト君は。本当に馬鹿よ」

「・・・え?」

「自分すら幸せに出来ない人間が他人を幸せにする事なんて絶対に出来ない。自分の事すら救えない人間が他人を救おうだなんて、思い上がりもいい加減にしなさい」

「・・・・・・」

 

ミナトさんの言葉は深く胸に響く。

ミナトさんの言葉が俺の道標となってくれる。

だから、きっとテンカワさんの胸にも響いている筈だ。

 

「貴方の幸せを見つけなさい。贖罪なんて自己満足でしかないわ。なら、同じ自己満足でも幸せになる道を探しなさい」

「・・・俺の・・・幸せ?」

「貴方が罪を背負いきれないのなら背負ってくれる伴侶を見つけなさい。そして、二人で幸せになりなさい」

 

テンカワさんが心に抱く自殺願望と重い罪の意識。

その二つを受け入れてくれる心の強い女性がテンカワさんには必要だと思う。

 

「アキト君とコウキ君の絶対的に違う所。それは、貴方は死を求め、コウキ君は生を求めているという事」

「・・・俺が死を?」

「もし完全に追い詰められた時、きっとアキト君は今までの成果で満足し、抗う事なく、死を迎え入れると思うわ」

「・・・・・・」

「でも、コウキ君は必死に抗うでしょうね。生きたいから。その後に目的があるから。それが先を見ている人間と見ていない人間の違いよ」

「・・・俺は先を見ていないのか?」

「第一の目的なんか利己的であればある程いいわ。その方が必死になれる。生き抜こうと思える」

 

自分本位の目的。それの何が悪い?

人は己の幸せを求めてなんぼだ。

自分ひとりすら幸せに出来なければ、恋人だって幸せに出来ない。

友人だって幸せに出来ない。

 

「副次的に多くの人を救えばいいのよ。己の身を犠牲にして何かを成し遂げる事を誰が喜んでくれるの? そんなのただの独り善がりな自己満足よ」

「・・・・・・」

「貴方が今、一番しなければならないのは貴方の幸せを見つける事だと思うわ。もっと簡単に言えば、生きる意味を見つけなさい」

「・・・生きる意味」

「生きる意味が死に場所を探す為だなんて悲し過ぎるわ。貴方が戦争終了後に何をしたいのか、どうしたいのか、それをゆっくり考えてみなさい」

 

生きる意味・・・か。

平穏な生活を求めるなんていう素朴な夢だけど、俺はこの夢を絶対に叶えたいと思う。

それを何としても成し遂げる。それが、俺の生きる意味かな。

 

「・・・はい。探してみます、俺の生きる意味を」

 

俺の言葉の何倍もミナトさんの言葉はテンカワさんに届いた事だろう。

言いたい事を全部言われてしまった気がするけど、俺より説得力があるんだからきっと良かったのだろう。

 

「ルリちゃんやラピスちゃんはどうなのかな?」

 

テンカワさんだけじゃない。

俺は二人の思いもきちんと知っておきたかった。

 

「私は以前、マエヤマさんに話した通りです。幸せになる。私達を縛る多くの柵から解放され、私の幸せを見つける事です」

「・・・色々な事をしてみたい。色々な所に行ってみたい。自分の足で、自分の意思で」

 

強い意思を込めた力強い表情でそう告げる二人。

あぁ。彼女達ならテンカワさんを救える。

そう、眼の前の二人を見て実感した。

 

「・・・三人の考えは分かりました。微力ながら、俺も御手伝いさせて頂きます」

「私も協力するわ。私にだって出来る事はある筈だもの」

「・・・ありがとうございます。ミナトさん、マエヤマ」

「・・・御願いします。ミナトさん、マエヤマさん」

「・・・よろしく。ミナト、コウキ」

 

俺は俺の出来る事をする。

きっと、できる事はそんなに多くない。

むしろ、少なすぎて、力不足を嘆く事の方が多いだろう。

それでも、出来る限りの事をしようと思った。

そう・・・誓った。

 

「・・・細かい話を色々としようと思ったが、そろそろブリッジに戻らないとまずいのでな」

「そうですね。まずは火星の民を救出しなければなりません。今の俺には何も出来ませんが、何かあったら連絡下さい。少しは役に立てると思いますので」

「ああ。頼りにさせてもらう」

「あ。それと、出来れば、逐一情報を教えてくれると助かります。俺としてはきちんと把握しておきたいので」

「それは私がやります。常にブリッジにいますから」

「うん。よろしくね。ルリちゃん」

「・・・コウキの分はきちんとフォローする」

「ありがとう、ラピスちゃん」

「それじゃあな。色々とすまなかった」

「・・・またお話しましょう。私はまだ貴方の事をきちんと理解していません。貴方の事がもっと知りたいです」

「・・・また来る」

 

去っていくテンカワさん達。

今までは交わる事なく別に道を歩いてきた。

でも、これからは協力して同じ道を歩くのだ。

なんとも心強い背中だった。

 

「・・・これで良かったの? コウキ君」

 

残されたのは俺とミナトさん。

ミナトさんが心配そうに訊いてくる。

 

「何か心配事でも?」

「貴方は殺されかけているし。それに、ずっと秘密にしてたかった事なんじゃないの?」

「ルリちゃんは一途なんですよ。テンカワさんの為を想って行動したに過ぎません。きちんと話し合っていれば、防げた事でもあります」

「・・・秘密はバラしてよかったの?」

「同じ目的を共にする同志です。秘密事はなしにしたいじゃないですか。それに、俺だけ一方的にテンカワさん達の事を知っているのは申し訳ないですよ」

「もぉ。本当に甘いんだから」

「ミナトさんだって心にもない事を言っています。秘密の事は心配してくれたんでしょうが、ルリちゃん達の事はもう許しているでしょ?」

「あ。分かっちゃう?」

「ええ。ミナトさんの事ですから」

 

もちろんです。

それぐらいは分かりますよ。

 

「心配はいりません。きちんとコミュニケーションを取れば、うまくやっていけると思います」

「そう。それじゃあ心配はいらないわね」

「はい。大丈夫です」

「そっか。じゃあ、私もブリッジに戻るから、大人しくしているんだぞ」

「どっちにしろ、今は何にも出来ませんよ」

「それもそっか。またね」

 

去っていくミナトさん。

ありがとうございました。

やはり貴方にはお世話になりっぱなしです。

 

「・・・おし」

 

今回、きちんとテンカワさん達と向き合った事で、俺の原作介入は本格的なものになる。

後悔しないよう、きちんと考えて動かないとな。

あくまで俺は平穏を目指すんだ!

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「それでは、作戦を発表します」

 

独房でのこれからに対する重大な話を終え、ブリッジまで戻ってきた。

コウキ君の心は大分落ち着いていたみたいだし、アキト君達とも歩み寄れた。

始まりはあまり良くなかったけど、結果的に良い方向に進んでくれたのかな?

何はともあれ、ここで和解できた事はアキト君にとってもコウキ君にとっても良い事だったと思う。

 

「私達ナデシコが火星から脱出する方法は二つ、ナデシコ単体での加速で脱出するか、マスドライバーによる加速で脱出する事です」

「しかし、マスドライバーが火星にある確立は極めて低い」

「大部分が破壊されてしまっているからね」

「そこで、私達はナデシコ単体での加速で脱出するしかないという結論になりました」

 

うん。ボソンジャンプ以外ではその方法しかないと思う。

マスドライバーを探している余裕もないだろうし。

でも、本題はそこから。ここまでは前提に過ぎないんだもの。

 

「その為にはマエヤマさんがおっしゃっていたような安全空域の確保は必須となります」

 

合流するにしろ、脱出するにしろ、安全空域は大事。

でも、コウキ君もアキト君達も普通に脱出する事は不可能だって言っていた。

だから、これはあくまでナデシコ単体での脱出ではなく、合流を円滑に進める為に安全空域が必要だって意味なのよね。

 

「エステバリスに外付けのバッテリーを搭載させ、一機を掃討担当、一機を防衛担当として配置します」

 

ガイ君とアキト君。

どっちがいいのかしらね。

 

「担当はテンカワが掃討、ヤマダが防衛だ。テンカワは連絡があり次第、すぐに戻れるようにしておいてくれ。但し、引き付けないよう慎重にな」

「・・・了解した」

「基地を守る為に一人残る俺。おっしゃぁ! この俺がナデシコを護ってやる! アキト! 後方の心配はしなくていいぞぉ!」

「ああ。頼りにしているぞ、ガイ」

「・・・ガイさん。無茶はしないでくださいね」

「おう。必ず帰ってくるから安心して待っていろ」

「でも、心配で・・・」

「大丈夫だって。お前を残して先には逝かねぇよ」

「ガイさん・・・」

「メグミ・・・」

 

・・・見せ付けてくれるわね、ラブラブしちゃって。

私だって・・・本当は・・・コホン。

そ、そもそもアキト君がそうやって送られる立場じゃないかな。

ガイ君って攻められなくちゃ危険じゃないんでしょ?

 

「ナデシコは核パルスエンジンで起動させ、最低出力でエステバリスの援護に入ります」

 

相転移エンジンに引き付けられるとしたらこの方法は有効ね。

でも、単純にエネルギーだったとしたら、場所を知らせてしまう事にもなる。

ちょっとした賭けと言えるわね。エステバリスだけに任せるよりは良いかもしれないけど。

 

「全ての行動を慎重に御願いします。あえて敵に接近しますが、こちらの位置がバレれてしまったら、何の意味もありませんので」

 

よし。頑張りましょう。

私も協力するって決めたんだし。

火星の人達を助けたいしね。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「そっか。イネスさんがね」

『火星の方々は何度も拒否されたそうですが、粘り強く交渉された結果、イネスさんが説得してくれたようです』

「やっぱりプロスさんは流石って所かな」

『ええ。そうですね』

 

良かった、とただ一言。

せっかく助けられる命なんだ。

火星の人達もよくぞ決断してくれたよ。

 

「ヒナギクでイネスさんが合流して、ナデシコで最速で救出するんだっけ?」

『ええ。イネスさんにどのように救出するのが効率的か訊こうという事になりまして。私達はユートピアコロニーに詳しくありませんから』

「確かに。よく知っている人に協力してもらった方が成功するだろうね。そもそもイネスさんは天才的な頭脳の持ち主だし」

 

あの頭脳こそイネス女史最大の武器。

これから何度もお世話になるナデシコの知恵袋だ。

 

「ま、後は説明好きさえどうにか出来れば」

『・・・諦めるしかないかと』

「・・・そうだね」

 

ま、説明があの人の趣味だ。

どうにかして回避する方向で頑張ろう。

 

『・・・やはりマエヤマさんは私達の事を知っているんですね』

「あれ? 信じられてなかった?」

『い、いえ。そうではありませんが、突然、貴方達は物語の登場人物ですよと言われても意識できないというか、納得できないというか・・・』

「まぁ、信じられないと思うけどね。俺自身もこの世界に来た時は驚いたんだよ」

『そうですね。しかし、物語の中に自分自身が入ってしまう・・・ですか。なんか、少し憧れますね』

「ルリちゃんも女の子だね。ファンシーな可愛い世界とかを経験したいのかな?」

『ええ。未来では電子の妖精と呼ばれた私ですが、本当の妖精や天使などに会える事なら会ってみたいと思っています』

「きっと電子の妖精の方が可愛いよ」

『そ、そうですか。ありがとうございます』

 

そうやって少し照れるルリ嬢。

何だかこんな変な話が出来るってのも感慨深いな。

今まで敵意剥き出しだったけど、心を開いてくれたって感じでなんか嬉しい。

 

「真面目な話、ナデシコがユートピアコロニーに辿り着いて救出し終わる前に襲われる可能性はどれくらいある?」

『間違いなく100%でしょう。最大速度で行っても、全ての救出が成功する前に襲われます』

「それに対してナデシコはどう対応する?」

『エステバリスで周囲を囲みつつ、敵の迎撃に当たってもらいます。要するに時間稼ぎです』

「時間を稼いで、全員救出できたとしよう。その後、その状況から離脱できるのかな?」

『ナデシコを最大出力で退かせれば可能です。前回はDFを発動させながら後退に成功しました』

「なるほど。上手く退いて、クロッカスのいる方に行かないとね」

『ええ。私達では説得力がありませんから。イネスさんにクロッカスを目撃させて、ボソンジャンプの説明をして頂かないといけません』

「理論は完成しているんだろうけど・・・。やっぱり証拠がなっきゃ駄目か」

『そうですね。それに、そもそもチューリップがなければ意味がないので』

「う~ん。そこは原作と同じでいいでしょ。たださ、今回はどうするの? フクベ提督」

『・・・犠牲になって頂くしかありません。前回、助かったという事が唯一の救いですね』

「でも、今回も同じようになるかは分からないんだよなぁ」

「・・・ええ」

 

フクベ提督の犠牲。

クロッカスによってナデシコが抜けた後のチューリップを沈めないといけない。

原作では捕虜になっていたっぽいけど、今回もそうなるとは限らないし。

・・・あ、そうだ。

 

「ルリちゃん。ソフト組めない?」

『え? ソフトですか?』

「うん。たとえば、ナデシコを追尾するようにして、ナデシコの反応が消えたら自爆みたいな」

『なるほど。それぐらいなら、出来そうです』

「それなら、ラピスちゃんと協力して組んでおいて欲しい。どうなるかは分からないけど、準備しておいて損はないからね」

『はい。・・・やはり頼りになりますね、マエヤマさんは。それなのに、私は・・・』

「いつまでも気にしていちゃ駄目だって。そうだな。今度、何か奢って・・・いや、年下に奢らせちゃ駄目でしょ。・・・うん。俺の事をコウキって呼んでくれたら許してあげる」

『え? それだけ、ですか?』

「ほら。ルリちゃんが名前を呼ぶのって心を開いてくれた証拠かなって。ごめんね、こんな事を知っていて」

『いえ。構いません。・・・そうですね。それでは、コウキさんと呼ばせていただきます』

「うん。それで完璧。いつまでも気にしていちゃ俺が困る。分かった?」

『はい。ありがとうございます』

 

うん。流石は妖精。可愛い笑顔だ。

ミナトさんの落ち着く笑顔とは方向性の違う癒される笑顔だな。

 

「出来るだけ被害を失くしたいから、迅速に救出できるといいね」

『ええ。DFを発動させながら救出は出来ませんから、迅速な行動とエステバリスの防衛に全てがかかっています』

「ごめんね。俺がいればせめてレールカノンで援護できたのに」

『いえ。マエヤマさん―――』

「ルリちゃん。失格」

『・・・あ。コホン。コウキさんに負担ばかりかけられません。私達に任せてください』

「そっか。うん。任せる」

『はい。私、ラピス、セレスの三人できちんと対処してみせます。コウキさんは安心して待っていてください』

「うん。分かったよ」

『では、ソフトを組まなければなりませんので』

「了解。何かあったら連絡よろしく」

『分かりました』

 

コミュニケでの通信が切れる。

ルリちゃんが任せろと言うんだ。

仲間だもんな。信じて待っていよう。

そもそも俺に出来る事なんて何もないんだから。

 

『やぁ、コウキ君。大丈夫?』

「あ。ミナトさん。特に問題なしです」

 

再び、コミュニケが動く。

今度はミナトさんみたいだ。

 

「いいんですか? 俺と通信していて」

『今の所、私にはやる事ないもの。ヒナギクと合流してからよ』

「ミナトさんなら心配いらないと思いますが、気をつけてくださいね」

『ええ。ユートピアコロニーの人達を助けて、更に被害を少なくする。私の頑張りにかかっているのよね』

「そうです。ミナトさんの頑張り次第ですよ。緊張します?」

『もちろん。でも、それで潰される程、私は軟じゃないわ』

「それでこそミナトさんです。頼りにしています」

『まったく。戦闘中にコウキ君が隣にいないのなんて初めてだから、力が出ないじゃない。早く戻ってきなさい』

「はい、できるだけ早く。と言っても、俺にはどうする事も出来ないんですけどね」

『うふふ。それもそうね。でも、ちょっと心細いわ』

「ちょっとですか?」

『ふふっ。凄く心細いわよ』

「・・・自分で言っておいて照れますよね、これ」

『相変わらずね。ま、私としてはからかい甲斐があっていいけど』

「大好きですもんね。からかいとか弄くりとか」

『ええ。生きていく為の糧みたいなものよ』

「大袈裟ですよ。まぁ、構いませんが」

『早く弄られに帰ってきなさい』

「弄られるのが前提ですか? どうしよう。檻に避難してようかな」

『駄目よ。貴方は私に弄られる運命なの。弄りつくされる運命なのよ!』

「運命なんて信じません!」

『はい。シリアスぶっても駄目。貴方は私に弄られる。それは必然なのよ』

「うぅ。ミナトさんが黒い」

『黒くもなんともないでしょうに』

「ま、俺も早くミナトさんの隣に戻りたいですからね。待っていてください」

『ええ。待っていてあげるわ』

 

ニコリと笑うミナトさん。

あぁ。やっぱりこの笑顔が一番好きかな。

 

『じゃ、元気そうだから、そろそろ切るわね』

「ええ。作戦に集中してください。頼みましたよ、ミナトさん」

『任せなさい。振動の一つも感じさせないであげるわよ』

 

心強い一言で。

 

「じゃ、また連絡するわ」

『はい』

 

コミュニケが切れる。

本当に気を遣ってもらっちゃっている。

わざわざ連絡くれるなんてな。

やっぱりミナトさんを好きになってよかった。

 

 

 

 

 

ガタンッ! ゴトンッ!

 

「な、何だ!?」

 

する事がなくて考え事をしていると、突然ナデシコが振動で揺れた。

これは・・・木星蜥蜴に襲われているのか?

 

「クソッ。状況が掴めない」

 

きちんとした状況は分からないが、少し考えてみよう。

多分、ナデシコがユートピアコロニーに辿り着いたんだろう。

それで、救出中にナデシコのエネルギーに反応した木星蜥蜴が襲い掛かってきた。

予想が当たっていれば、現状でも救出中で、エステバリスでナデシコを護っている所。

クソッ! 何にも出来ない自分が恨めしい。

こういう時に何も出来ないなんて俺がここにいる意味がないじゃないか。

 

『マエヤマさん!』

「か、艦長? 何ですか?」

『艦長命令で貴方の拘束を解除としました。急いでブリッジまで来てください』

 

緊急事態発生って事か!?

独房にいる俺を釈放にしていいかは分からんが、俺としては何にも出来ないよりは全然良い。

感謝します、艦長。

 

「分かりました! すぐに向かいます!」

『今、そちらに鍵を開けにクルーの一人が行きましたの!』

「了解です! 艦長は指揮を!」

『はい!』

 

早く、早く来てくれ。

俺の行動が無意味になる前に!

早く! 早く!

 

「お、お待たせしました!」

「すいませんが、早く開けてください」

「は、はい!」

 

慌てた様子でガチャガチャする男性。

その音が俺を更に焦らせる。

早く! 早く!

 

「あ、開きました」

「ありがとうございます!」

 

感謝もおざなりに、俺は独房から飛び出した。

ナデシコが危険に陥っているんだ。勘弁してくれよ。

 

「・・・・・・」

 

ただ走る。ブリッジに向かった無我夢中に。

途中、何度も揺れて体勢を崩したが、転んでいる暇なんてないと無理矢理立て直した。

人間、しようと思えば無理な事でも出来るものだ。

とにかくブリッジへ!

 

「艦長!」

「マエヤマさん、待っていました。レールカノンで援護を御願いします」

「はい!」

 

ユリカ嬢にそう言われ、俺は段差を下がる事も面倒だと上から飛び降りた。

もちろん、下の様子を確認してから。

 

「コウキ君!」

 

俺が現れて驚いたのだろう。

ミナトさんが声を荒げた。

 

「コウキさん、すいません。私達だけでは」

 

さっきの会話を気にしているのかな?

気にしなくていいのに。

 

「大丈夫。よくやってくれたよ、ルリちゃん達は。後は俺に任せて」

「はい。御願いします」

 

ルリちゃんに一言告げて、俺は自分の席に飛び乗った。

そして、コンソールに手を置き。

・・・そこで俺の身体は石のように固まってしまったんだ。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「コウキ君?」

 

コンソールに手を置いてまま動かないコウキ君。

いつもなら、サングラスみたいなのを取り出して、レールカノンを準備するのに。

 

「コウキさん、どうしました?」

「・・・コウキ?」

「マエヤマさん? どうしたんですか?」

 

周りの皆も怪訝な顔付きでコウキ君を見ている。

今が戦闘中だなんて忘れるくらい、まるで時が止まったかのように、コウキ君は微動だにしない。

 

「マエヤマさん! 援護を!」

 

艦長が必死に叫んでもコウキ君が動く事はない。

 

「マエヤマさん! 何をしているんですか! 早く!」

 

副長が危機に陥っているのに何もしない事を責める。

でも、ちょっと待って欲しい。様子がおかしい。

 

「コウキ君? どうしたの?」

 

動かない身体。動かない表情。

どうしたんだろうと近付いてみると・・・。

 

「・・・落ち着け。落ち着け。落ち着け」

 

必死にそう呟いていた。

その呟きが聞こえるようになると、次はある事に気付く。

全身が微妙に揺れているのだ。

 

「・・・震えるな。震えないでくれよ。頼むから」

 

額に汗を浮かべ、必死な表情でコンソールを見詰める。

 

「・・・クソッ。オモイカネ。レールカノンセット」

『精神状態からお勧めできません』『休んで方が良いよ』『無理しちゃ駄目』

 

モニターに浮かぶ文字。

直接リンクするからこそ分かるコウキ君の様子。

精神状態が悪い? それって・・・。

 

「・・・いいから。頼むよ。成功するか失敗するかの瀬戸際なんだ。頼むから」

『・・・分かりました。レールカノンセット開始』

 

顔面を蒼白にして、全身を震わせるコウキ君。

 

『レールカノンセット完了』

「・・・頼むぞ、俺」

 

そう呟いてから、サングラスを取り出す。

いつものようにそれを装着して、ここからコウキ君の凄まじい射撃が始まる。

きっと、誰もがそう思っただろう。

でも、そうはいかなかった。

コンソールに置かれた手が異様に震えだし、その震えが全身へと回る。

遠くから見ても震えていると分かる程にコウキ君の身体は震えていた。

 

「・・・クソッ! ・・・震えるな! ・・・ちゃんと動けよ!」

 

それでも、必死にコンソールに手を置く。

呼吸も不自然になり、顔は汗で濡れ、歪む。

 

「・・・心的外傷ね」

 

ポツンと呟かれた一言。

小さな声だけど、その声はブリッジ中に響き渡った。

バッと誰もが振り返り、イネスさんを見る。

 

「・・・心的外傷?」

「ええ。分かりやすく言えば・・・トラウマ」

 

・・・トラウマ。

心の傷。癒えぬ事なき心の傷。

 

「私には彼に何があったかは知らないけれども、あれはトラウマに触れた時の反応よ。トラウマに関する物を回避しようとする無意識下の行動」

 

トラウマに関する物を回避する。

じゃあ、コウキ君のトラウマって・・・。

 

「見た限り、IFSを使用する事ではなく、何かを攻撃するという事を拒んでいるようね」

 

・・・また味方を撃つかもしれないという恐怖。

ただそれだけで、コウキ君は震えている。

また、意識を失い、味方を撃ってしまうのではないか。

今度は誰かを殺してしまうのではないか。

この救出作戦を自分の存在が邪魔してしまうのではないか。

きっと、コウキ君はそんな事を無意識に考えている。

それが、コウキ君を震わせている。

 

「ど、どうすれば? マエヤマさんじゃなければこの局面は・・・」

「無理にさせても心の傷は広がるだけね。まぁ、それでもいいのなら、強引にやらせなさい」

 

シビアな一言だと思う。

コウキ君の心の傷を広げて、火星の人達の命を救うか。

コウキ君の心を優先して、火星の人達を危険な眼に合わせるか。

その二択。艦長にとって決断しなければならない重い選択。

 

「・・・・・・」

 

悩む艦長。

お願いだから、コウキ君の心を傷つけないで。

・・・そう言えたらなんて楽なんだろう。

でも、今のコウキ君は震えながらも必死に成し遂げようと頑張っている。

・・・その気持ちを裏切るなんて出来ない!

 

「コウキ君! やりなさい!」

「ミナトさん! 何を!?」

「後悔したくないでしょ! 出来る限りの事でいいから、全力でやり抜きなさい!」

 

残酷な事を言っている自覚はある。

私はコウキ君の心の傷を広げようとする酷い女だ。

でも、きっと、コウキ君は今ここで救えなかった方がきっと深く傷付く。

今、心の傷を広げるよりも、救えなかったと知った時の方が何倍も傷付く。

もしかしたら、そう思っているのは私だけかもしれない。

コウキ君はそんな事は思ってなくて、独り善がりな考えかもしれない。

でも、私はこれが最善だって思うから・・・。

恨まれたっていい。憎まれたっていい。罵倒されても構わない。

コウキ君が立ち直れないぐらい傷付く事を避けられるのであれば・・・私はそれでもいい!

 

「今やらないでいつやるの!? 今こそ踏ん張る時でしょ! コウキ君!」

「ミナトさん! マエヤマさんが可哀想です! やめて下さい!」

 

メグミちゃん、貴方に何が分かるの?

コウキ君の事を一番知っているのは私なの!

コウキ君の事を一番理解してあげられるのは私なの!

今のコウキ君の想いを理解してあげられるのは私だけなのよ!

 

「コウキ君!」

「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「コウキ君!」

「・・・はぁ・・はぁ・・・うぁ・・・うわぁぁぁ!」

 

叫び出すコウキ君。

同時にレールカノンが放たれる。

近付く敵を蹴散らし、遠くにいる敵を蹴散らし・・・己の心を傷付けていく。

 

「うわぁぁぁあぁぁぁ!」

 

悲しい叫びだった。

堪らなく悔しかった。

コウキ君にここまで負担を与えてしまう事が。

何にも出来ない事が。

堪らなく悔しかった。

 

「・・・ごめんなさい。コウキ君」

 

・・・小さくそう謝る事しか私には出来なかった。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

どれくらい経ったんだろう。

トラウマで身体を震わせるコウキ君に無理させて。

必死に叫ぶ事で己を奮え立たせるコウキ君を傷付けて。

さっきから、ブリッジではコウキ君の痛みを訴える叫び声しか聞こえていない。

誰もが痛々しい視線でコウキ君を眺めていた。

 

『全員搭乗しました!』

 

その時、漸く待ち望んでいた一報が入った。

安堵でもなく、喜びでもなく、ただコウキ君に対する罪悪感が湧き出た。

 

「艦長!」

「はい! エステバリス隊! 全機帰艦して下さい! 戻り次第DFを発動させます!」

 

早く、早く戻ってきて!

コウキ君を早く楽にさせて。

 

「全機帰艦しました!」

「ルリちゃん! ディストーションフィールド発動!」

「ディストーションフィールド、発動します」

「マエヤマさん! もういいです。もうやめて下さい」

「・・・あ」

 

スッと崩れ落ちるコウキ君の身体。

 

「コウキ君!」

 

慌てて抱き止める。

ありがとう。ごめんなさい。

眼を覚ました時、私は最初になんて言ってあげればいいのかが分からなかった。

 

「ミナトさん、最大速度で後退してください」

「・・・・・・」

 

涙が溢れてきた。

私は、違う、私がコウキ君を傷付けた。

愛する人をここまで追い詰めた。

 

「ミナトさん! マエヤマさんの頑張りを無駄にしないで下さい!」

「・・・了解」

 

歪む視界で必死にナデシコを動かす。

身体は重く、心も重い。

・・・それでも、私に出来る事はこれだけだから。

 

「・・・私」

「・・・・・・」

 

胸が痛い。心が痛い。

コウキ君を傷つけた自分が嫌になる

コウキ君を無理させて自分が嫌になる。

でも、こうしなければ、コウキ君は後悔したと思う。

きっと一番傷付いたと思う。

そうやって理論武装する自分がいて。

そんな自分がまた嫌になった。

そして、そんな私の気持ちを分かってもらえる事はなく・・・。

 

「私、ミナトさんの事、見損ないました」

 

・・・その一言が私の胸を貫いた。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 



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少女が見せた涙

 

 

 

 

「・・・ここは」

 

残念。

知っている天井でした。

 

「眼を覚ましたのね」

「えぇっと、お久しぶりです」

「ええ。久しぶりね。といってもあれから一週間も経っていませんが」

 

気付けば、医務室。

また記憶がこんがらがっている。

どうしてここにいるのだろうか?

 

「覚えてない?」

「えぇっと・・・」

「紹介が遅れたわね。私はイネス・フレサンジュ。貴方は?」

「あ、はい。マエヤマ・コウキです」

 

ボーっとしているとイネス女史がやってくる。

あ。いつの間にか怪しい女医さんの姿がない。

・・・可哀想に。これから医務室はイネス女史の魔窟ですよ。

貴方の出番は最早ありません。お労しや。

 

「随分と余裕ね」

「えぇっと、何がですか?」

「ここに貴方がいるのは何故?」

「すいませんが、覚えてないんですよ」

「ちょっとした記憶の混乱かしら。それとも自我が喪失を恐れて記憶を失くさせたか・・・」

「あ、あの・・・」

 

自分の世界に入っちまったよ。

イネス女史、戻ってきてぇ。

 

「コホン。貴方の事は色々と聞いているわ。なんでも、ナデシコの降下の危険性を訴えたとか」

「相転移エンジンの特性を知っていれば、誰もが疑問に思う事ですよ。敵の占拠下にある火星に出力低下状態でいて大丈夫なのかと」

「艦長は知らなかったようだけど?」

「それをフォローするのが周りの役目です。艦長はどちらかというと情報を集めるタイプではなく、与えられて動くタイプですから」

「なるほど。艦長の事、よく分かっているのね」

「足りない所を補う。そんな役目がブリッジに一人ぐらいいても良いと思いませんか?」

「それが貴方という事?」

「まだまだですけどね。艦長に降下の危険性を訴えなかったのは俺のミスです。ところで、ナデシコはどうなりました?」

「貴方の活躍でどうにか危機は脱したど、損傷がない訳ではないわ。単体での脱出は無理そうね」

「え? 俺が何かしたんですか?」

 

駄目だ。何も覚えてない。

 

「本当に覚えてないようね。貴方、半狂乱になりながら、レールカノンを撃ちまくったのよ」

「・・・え?」

 

俺がまたレールカノンを?

俺はまた記憶がない。

それって・・・俺がまた暴走したって事か!?

 

「あ、あの! 俺はまた暴走してしまったんですか!? 味方を撃ってしまったんですか!?」

「そう。貴方は過去にそんな経験があるのね。それでトラウマになっているのか」

「答えてください! イネスさん! 俺はまた・・・」

 

想像したら身体が震えてきた。

俺は反省もせずに、同じ過ちを繰り返して・・・。

 

「大丈夫よ。暴走はしてないわ。きちんと敵だけを狙って撃っていて、味方に損傷はない」

「・・・はぁ。良かった」

 

身体の震えが止まる。

・・・本当に良かった。

誰だって同じ過ちを二度も繰り返せば許容できなくなる。

また味方を撃ったなんて事になったら、俺にはもうここにいる資格はない。

・・・怖いよ、自分の身体が、本当に。

 

「貴方はトラウマを抱えているのよ」

「・・・トラウマ?」

 

トラウマ。

確か心的外傷だったっけか?

幼い時とかの虐待がフラッシュバックしたりする奴。

身近なので言えば、夜にホラー映画を見た時に、トイレに行くのが怖くなったり、夢に出てきたりとかそんな感じの。

でも、トラウマっていきなり言われてもよく分かんないんだけど。

 

「そうよ。そうね。これを持ってみて。もちろん、弾は入ってないわ」

 

そう言って渡されたのは銃。

俺がよくゴートさんと練習する時に使う奴だ。

 

「これがどうかしましたか?」

「構えてみて」

「はぁ・・・。構いませんが」

 

言われた通りに構えてみる。

自分で言うのも変だけど、なかなか様になったよな、俺。

 

「・・・なるほど。やっぱりIFSでの攻撃に意味があるのね。すると・・・」

「あの・・・もういいですか?」

 

また自分の世界に入ってしまった。

難儀なお方だ。

 

「あ。・・・コホン。ありがと。もういいわ」

「あ、はい」

 

銃を手渡す。

一体、何だって言うんだろう。

 

「ちょっと待っていて」

「分かりました」

 

イネス女史ってマイペースなんだな。

振り回されっぱなしだ。

 

「・・・コウキ君」

「あ、ミナトさん」

 

イネス女史に連れられて来たのはミナトさん。

物凄く暗い表情をしているけど、何かあったのかな?

 

「大丈夫ですか? ミナトさん。顔色悪いですよ」

「え? コウキ君こそ、大丈夫なの?」

「俺って何か心配されるような事しました?」

「・・・イネスさん。これは?」

「恐らく防衛本能が働いたのね。さっきの事が完全に記憶から消えているわ。結構、根が深そうよ、このトラウマ」

「・・・そうですか」

 

深刻そうな表情の二人。

まるで意味が分からないんだけど。

 

「とりあえず、何があったのか知りたいんですけど」

 

気になって仕方がない。

 

「そうね。話しておきましょう」

「イネスさん。話して大丈夫なんですか?」

「私は一応カウンセラーの資格を持っているわ。だから、安心なさい」

「・・・ですが」

「こういうのはきちんと自分と向き合わないといけないの。まずは自覚する事からスタートよ」

「・・・分かりました。それなら、私が話します」

「そうね。詳しい事情を知らない私より貴方の方がいいかもしれないわ」

 

・・・凄く酷な現実を突きつけられそうだ。

あんなにも真面目というか、深刻な顔は初めて見た。

俺はまた、何かしてしまったのだろうか?

 

「コウキ君。よく聞いて」

「・・・はい」

「前回、貴方は無意識の内に暴走して、味方を狙撃してしまった。そこまではいい?」

「もちろんです。反省しています」

「そう。貴方はもう二度と味方は撃たない。意識は失わない。そうやって反省したのね?」

「え、ええ。大まかにはそんな感じです」

 

自分の身体が怖い。

でも、きちんと制御しなければと思って・・・。

だから、もっと練習しなければ、慣れなくては、そう思った。

 

「コウキ君。貴方は無意識下でまた味方を撃ってしまうのではないかと怖がっているのよ」

「・・・無意識下・・・ですか?」

「自分の事を信じていないんじゃない? また暴走してしまうかもしれないって」

「・・・それはあります」

 

知らない間に味方を狙撃していたんだ。

今度もそんな事があるかもしれないと思うと怖くて仕方ない。

 

「コウキ君。貴方はその恐怖に縛られているの。また味方を撃つかもしれないという考えに貴方は苛まれている」

「・・・俺はどうなったんですか?」

「レールカノンを撃とうという時、貴方は恐怖で全身を震わせた。意識を失う程に錯乱して、漸く貴方はレールカノンを撃てたのよ」

「・・・それでは、俺はまた暴走を?」

「今回はフィードバックの値を弄くってないから、システムに乗っ取られるような事はなかったわ。きちんと敵だけを狙って撃っていたもの」

「・・・なら、その時の記憶がないというのは?」

「トラウマを抱えながら無理をしたから本能が護ろうとしてくれたんだって」

「本来ならトラウマをきちんと克服してから行うべきだったんだろうけど、緊急事態だったから仕方なかったのよ」

 

ミナトさんの言葉をイネス女史が引き継ぐ。

要するに、俺はトラウマを抱えちまったって事か。

すぐには解放されないあくどいトラウマを。

はぁ・・・。何だかな・・・。

 

「その、緊急事態というのは?」

「ユートピアコロニーの民をナデシコへ移動させている時よ」

「その事に関しては私もお礼を言わないとね。ありがとう」

「あ、いえ。お礼なんか言わないで下さい。下手すると被害を与えていたのは俺ですし」

「それでもよ。素直に礼は受け取っておきなさい」

「え、あ、はい。どういたしまして」

 

イネス女史に礼を言われるとはなぁ。

この人って原作では全然気にしてないみたいな感じだったから、結構冷めた所があると思っていたけど・・・。

そうでもなかったって事か。

そうだよな。誰が一緒にいた人達が押し潰されて喜ぶんだって話だ。

 

「コウキ君。体調は?」

「あ、いえ。特に問題はありません」

「それなら、ブリッジに行きましょう。色々と意見を訊きたいって艦長が」

 

俺も状況を把握したいしな。

 

「分かりました。でも、俺ってここにいなくても大丈夫なんですか?」

「いいですよ。特に問題ありませんから。あ、それともぉ、ここで私と休んでいく? 心身ともに癒してあげるわよ」

 

わ。怪しい女医さん再登場。

粘り強いね、魔窟の中でも生き残れるかもしれん。

 

「ちょっと、どういう意味ですか?」

「あら? 若者を導くのが女医の仕事よ」

「違うでしょ! 人の恋人に何を言っているんですか!?」

「もぉ。冗談よ、冗談。本気にしないで。彼氏だっていつもスルーなんだから」

「え? あ、すいません」

 

シュンとなるミナトさん。

あ。何だか可愛らしい。

 

「そういう訳で、マエヤマさんの退室を許可します。また来てくださいというのは縁起が悪いですが、お休みになられたい時はいつでもどうぞ」

「ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか」

 

女医さんに向かって一礼してから、医務室を去る。

向かう場所はブリッジ。後ろにはイネス女史とミナトさんが続いている。

 

「変な女医さんね」

「ハハハ。そうですね」

「私、初めて医務室に来たから驚いたわ」

 

うん。最初は俺も驚いた。

何もしてない時は普通に癒し系の美人女医なのに。

どうしてあんな妖艶な危ない人になっちゃうんだろう。

 

「これから私も医務室にいると思うから、いつでもいらっしゃい。貴方はお話相手として楽しそうだもの」

「俺はイネスさんみたいに博識じゃないですから。きっとご期待に沿えないと思いますよ」

「大丈夫よ。何だかんだ言って付いてきそうだもの」

「そうならいいんですけどね」

 

イネス女史は話のレベルが高そうだ。

お茶目な所もあるから、楽しくはなると思うけど。

 

「コウキ君。私の事を放っておき過ぎじゃないかしら?」

 

ジト眼で見詰めてくるミナトさん。

・・・そういえば、ずっと独房にいたし、出たら気絶だしで、ミナトさんと触れ合ってない。

 

「・・・すいません」

「謝られても困っちゃうんだけどなぁ」

 

こ、困るといわれても困る!

 

「じ、時間が出来たら必ず行きますから」

「・・・・・・」

「御願いですから、そう白い眼で見ないで下さい。俺にも色々と事情が」

「ふふふ。分かっているわよ。冗談、冗談」

 

冗談には見えないんだけど。

まだ眼が笑ってないし。

 

「私の前で見せ付けてくれるわね」

「・・・あ」

 

そうだよ。イネス女史もいたんだよ。

あぁ・・・。恥ずかしい。

 

「あら。初心なのね。これは弄くれって事かしら?」

「コウキ君を弄くれるのは私だけですよ」

「ウフフ。弄られっ子は誰もが弄っていいのよ。そういう星の下に生まれてきたの」

「いえ。私だけです。私こそがコウキ君をもっとも弄れる存在なんです」

 

あの、俺の前でそんな話はするもんじゃないと思います。

互いに意地を張っているようですが・・・俺の意思は無視ですか?

 

「と、とりあえずですね。弄らないという方向で話を進めれば―――」

「あ、それはなしね」

「ええ。駄目よ」

 

な、何故ですかぁ!?

 

「イネスさんの言葉を借りるみたいだけど、貴方は弄られる為に生まれてきたのよ」

「ええ。貴方程に弄って面白い人はいないと思うわ」

「お、俺としては弄りこそが我が生き甲斐と思っているのですが・・・」

「あら。どっちも対応なんて凄いわね」

「ニュートラル? ハイブリット? どちらにしろ、それもコウキ君の個性よ」

 

あぁ。駄目だ。

久しぶりに思ったよ。

年上の女性は敵に回しても絶対に勝てない。

というか、この二人が組んだら誰も勝てない気がする。

彼女達に弄られる人を不幸に思いますってか俺じゃん!?

俺って不幸・・・。

 

「何だかんだいって楽しんでいるんでしょ?」

「え、まぁ。楽しいですから」

 

実際はそう。弄られるのも悪くない。

楽しいし。むろん、弄るのも好きだけど。

 

「じゃあいいじゃない」

「自覚はあっても認めちゃいけないんです。認めたら負けですから」

「変な所で男の子なのよね、相変わらず」

「ま、意地っ張りという事でいいじゃない。余計弄りたくなってきたわ」

 

藪蛇? ミス? 余計な事を言った?

標的にされちまうの? 俺。

 

「元気出てきたわね」

「・・・え? もしかして、元気付けてくれたんですか?」

 

そうだよな。

ここ最近色々な事があり過ぎて落ち込んでいたからな。

久しぶりに楽しい気分を味わっている気がする。

 

「え? 違うわよ」

「え? 違うんですか?」

「ええ。私が楽しんでいただけ」

 

ええ。ええ。分かっていますよ。

まずは自分が楽しもうという事ですね、ミナトさん。

でも、それも違うって分かっています。

ミナトさんは優しいですから、なんだかんだで結局、俺の為を想ってくれたんですよね。

・・・そうであってください。

 

「お似合いじゃない。二人とも」

「え? 本当ですか?」

 

ミナトさんなら俺なんかよりもっと良い男をゲット出来そうだけど。

それでも、お似合いって言われるのは嬉しいな。

ミナトさんは本当に良い女ですから。

 

「ええ。弄り役と弄られ役。丁度いい配役よ」

 

・・・あ。そういう意味でしたか。

若干、落ち込む。

 

「ウフフ。本当に楽しい」

 

楽しまないで下さい、イネス女史。

そして、ミナトさん、貴方まで何をニヤニヤしているんですか。

 

「そうそう。コウキ君」

「あ、はい。何ですか?」

「無精ヒゲも中々似合うわよ」

 

無精ヒゲ?

あ。そうか。俺ってずっと独房だったから・・・。

 

「あぁ!」

「ど、どうしたのよ? 突然!」

 

よ、良く考えろよ。

ずっと独房にいたって事は風呂に入ってない。

という事は・・・。

 

「は、離れて下さい! ミナトさんも! イネスさんも!」

「ど、どういう事よ?」

「あぁ。お年頃だものね」

「え? イネスさん。それって・・・」

 

・・・はぁ。最悪。

 

「体臭を気にしているのよ。男の子だって気にするわ」

「あら。そうなの? コウキ君」

「あ、当たり前じゃないですか! ずっと風呂入ってないんですよ」

 

汗臭いのとか嫌われるじゃん。

誰だって好きな人に臭いなんて思われたくない。

 

「私は大丈夫よ」

 

ちょ、ちょっと!

言った傍から近付こうとしないでいただきたい!

 

「ミナトさん。自分がもし汗臭かったら誰にも近付かないでしょ?」

「ええ。でも、コウキ君は迎え入れてくれるでしょ?」

「え? そりゃあミナトさんですから、拒みませんよ。汗臭いぐらいじゃ」

「じゃあ、私もそういう事よ。気にしないわ」

「俺が気にします!」

 

受け入れてくれるっていうのは嬉しいけど。

それでも、やっぱりわざわざ臭いと思われるのはヤダ。

 

「初心ねぇ。人によっては汗臭いのが好きって人もいるのに」

「それは特殊な人です!」

「あら? いいじゃない。男の汗ってそそられるものよ」

「え? ミナトさんも特殊な人ですか?」

「あ。私は違うけど」

「じゃあ、駄目です!」

 

あぁ。風呂に入りたい。

でも、状況が許さないだろうな。

ま、駄目もとで。

 

「あの・・・風呂入ってもいいですか?」

「駄目よ。そんな余裕はないわ。今でも緊急事態は脱してないもの」

「コウキ君。一人だけお風呂に入っていたら怒られるわよ」

 

ですよねぇ~。

 

「じゃあ、これ使う?」

 

そう言って渡されるのは香水。

ないよりはあった方がいい。

 

「えぇっと」

 

腕にちょっとだけ吹きかけて、匂いを嗅ぐ。

 

「へぇ。甘い匂いですね」

「この匂いが好きなのよね。コウキ君は爽やか路線だから丁度いいんじゃない?」

「じゃあ、お借りしますね」

 

目立たない程度に吹きかける。

腕やって、耳の後ろやって、最後にちょっと服にかけて、おし、完璧。

 

「こうやって貴方色に染めるのね」

「香水を恋人にプレゼントする気持ちが分かりました」

「あら。惚気てくれちゃって」

 

へぇ。香水をプレゼントか。

今度考えてみようかな。

 

「でも、あれね、臭いのを香水で誤魔化すっていうのは歴史を感じるわね」

「え? どういう意味ですか?」

「あぁ。あれですよね。平安時代とか、某革命の国とか」

「あら。知っているの?」

「ええ。それなりに」

 

服装の手間からお風呂に入らないで、匂いを香水で誤魔化していたりとか。

肉食で体臭が気になるから香水産業が発達していたりとか。

確かにそう言われてみれば、歴史を感じるかもしれない。

 

「私だけ置いてけぼりじゃない」

「ほら。やっぱり何だかんだいって付いて来る」

「偶然ですよ。偶然知っていただけです」

 

うん。偶然だよ。

イネス女史には通常状態では絶対に敵わない。

遺跡にアクセスすれば別だけど。

 

「ウフフ。興味が湧いてきたわ、貴方に」

 

やばい。チェックされた。

 

「イネスさん、駄目ですよ」

「大丈夫よ。そういう意味じゃないから」

 

そ、それはそれで悲しいような・・・。

イネスさんも美人だしな。変わっている、うん、凄く変わっているけど。

 

「コウキ君もデレッとしないの」

「し、していません」

「あら? 私って魅力ないかしら?」

「あ、いえ、そんな事ないですよ。魅力的です」

「ウフッ。ありがと」

「コウキ君! 恋人の前で口説くなんて何を考えているの!?」

「す、すいません!」

 

ぐわぁ!

どうすればいいんだぁ!?

 

「っと。着いたわね」

 

あ。いつの間に。

 

「時間が忘れられたでしょう?」

「え、あ、まぁ。楽しめました」

「そう。それが弄られ役の利点よ。何もしなくても楽しめられる」

「・・・さいですか」

 

・・・嬉しくないですよ、その利点。

俺は弄って笑いを取るタイプなのに。

 

「いるのよね。弄られキャラなのに弄りキャラだって勘違いしている子って」

 

あ。俺の事ですか。

 

「い、行きましょう!」

「誤魔化しちゃって」

「さぁ、私の説明の時間ね」

 

説明大好きですよね、イネス女史。

 

「あ。マエヤマさん」

 

ブリッジに入った途端向けられる視線。

・・・皆して俺の方を見なくてもいいのに。

 

「あの・・・大丈夫なんですか?」

 

心配そうに訊いてくるユリカ嬢。

何か、落ち込んでいる?

 

「大丈夫ですけど、どうかしました?」

「えぇっと、私のせいでマエヤマさんに辛い思いを」

 

あ。艦長命令だったんだ。

 

「えぇっとですね、謝ってもらっても、覚えてないので」

「え? 覚えてない?」

「心的外傷を抱える人にとっては珍しい事じゃないわよ。トラウマから心を護る為にね」

「そ、そうですか」

 

えぇっと、とりあえず、俺の席に戻るか。

 

「あ。マエヤマさんはあちらの席に座ってください」

「あちら?」

 

あれって、今は亡きキノコ副提督の席じゃないですか?

フクベ提督の隣の。

 

「えぇっと、何でですか?」

「え、あ、いやぁ。ここならすぐに相談できるかなって」

「え~と、なら、いいですけど」

 

何かしらの理由があるんだろう。

艦長命令みたいなもんだし、素直に座るか。

 

「じゃあ、ミナトさん、俺はあっちみたいなので」

「ええ。分かったわ」

「それなら、私はコウキ君に付いていこうかしら。情報交換したいし」

「イネスさん。くれぐれも」

「ウフフ。貴方こそ可愛らしいわね。嫉妬だなんて」

「そ、そんな事ありません」

「ま、いいわ。心配しないで。ただのお話相手よ、お話相手」

 

えっと、嫉妬してもらっているんだ。

何だか嬉しいな。

 

「貴方も単純ね」

「・・・えぇっと、顔に出ています」

「頬を緩めてれば分かるわ」

 

そんな呆れた眼で見ないで下さい。

嬉しいんだから仕方ないです。

 

「それじゃあ、マエヤマさんは元気という訳ですか?」

「そうですね。トラウマって突然言われてもよく分からないですし」

「そ、そうですか。安心しました」

「ご心配をおかけしました。皆さんも本当にすいません」

 

ユリカ嬢だけではあく、全ブリッジクルー、パイロット組にも頭を下げる。

何だか、最近は迷惑をかけてばかりだ。それに、謝ってばかりだと思う。

 

「おうおう。今回は素直に助かったからな。褒める事はあっても責める事はねぇよ」

「助かったよぉ。コウキ。結構あの状況は辛かったからね」

「そう? でも、俺何も覚えてないから」

「ま、それでもさ。ありがとうはありがとうだよ」

「蟻が十・・・なんでもないわ」

「あ、はぁ・・・」

「おう。コウキ。元気そうで何よりだ」

「ああ。ガイ。相変わらず熱いな」

「ハッハッハ。まぁな」

「別に褒めてないけど」

「マエヤマ。平気か?」

「今の所は大丈夫です。トラウマと言われても何があったか覚えてないので」

「そうか。しばらくはコンソールに触れずに艦長の相談役になってやれ」

「はぁ・・・。テンカワさんがそう言うのなら」

「頼むぞ」

 

パイロット組は相変わらず元気だなと何故か感心してしまう。

結構、今の状況って厳しいんじゃないの?

 

「体調はどうだ? マエヤマ」

「元気そのものですよ。異常は感じません」

「そうか。それは良かった」

「ところで、俺の謹慎期間はどうなりました? しばらくしたらまた独房ですか?」

「いやはや。マエヤマさんにはご迷惑をおかけしましたからな。先程の件で放免と致します」

「そうですか。助かりました。独房は辛いので」

「そうですな。私も二度と入りたくありません」

 

あ、貴方は何をしたんですか?

 

「マエヤマ。元気そうで良かったよ」

「えぇっと・・・」

「ジュンだよ! アオイ・ジュン! 副長の! 一緒にブリッジ当番した仲だろ!?」

「えっと、知っていますよ」

「・・・え?」

「何て答えようか迷っていただけです」

「そ、そんな、僕の勘違いというのか!?」

「副長。影が薄いって自覚あったんですね」

「クソォーーー!」

 

クックック。オモシロ。

 

「なるほど。貴方の弄りスキルも中々ね」

「ナデシコは面白い人ばかりですね。俺の弄り心をくすぐるんです」

「私もコウキ君を見ていると弄り心がくすぐられるわ」

「イネスさん。勘弁してください」

「ウフフ。冗談よ」

 

絶対に冗談じゃねぇ。

 

「マエヤマさん。大丈夫ですか?」

「あ。メグミさん。心配かけてごめんね」

「いえ。大丈夫ですよ。あの・・・」

「ん? 何?」

「ミナトさんに気を付けてください。では」

 

一方的に言って去っていくメグミさん。

気を付けろって何をさ?

 

「・・・コウキ」

「・・・コウキさん」

「あ。ルリちゃんにラピスちゃん。ごめんね。大事な時に」

「いえ。私が情けないからコウキさんに辛い思いを」

「・・・ごめん、コウキ」

「えっと、何があったかは覚えてないけど、これだけは言える。二人は全然悪くない。悪いのは俺」

「・・・でも・・・」

「二人は頑張っているよ。俺がいなくてもいいぐらい」

「コウキさんは必要な方です。ブリッジクルーの中でも欠かす事のできない重要な方です」

「・・・コウキ。いなくてもいいなんて言っちゃ駄目。悲しくなる」

「うん。そうだね。ありがとう。ルリちゃん、ラピスちゃん」

「はい」

「・・・うん」

 

本当に和解できて良かったと思う。

こうやって可愛らしい笑顔を見られただけで満足してしまう自分がいるのは何故だろう?

・・・うん。やっぱり女の子には勝てないね。

 

「・・・コウキさん」

「・・・セレスちゃん。心配かけ―――」

「・・・コウキさん!」

 

・・・抱き付かれた。

席に座っている俺を脇から。

 

「・・・ずっと、ずっと心配でした。コウキさんがいなくなっちゃうんじゃないかって」

「・・・セレスちゃん」

「・・・やっとコウキさんの姿を見られたと思ったら今度はあんな事になっちゃって。どうしたらいいか分からなくて」

 

必死に言葉を紡いでくれるセレス嬢。

頬を涙で濡らして、身体を震わせながら必死に・・・。

俺はこんなに小さな子にも心配かけていたんだな。

俺って、馬鹿野郎だよ、本当に。

 

「ありがとう、セレスちゃん」

「・・・え?」

 

抱きついてくるセレス嬢を抱き上げて、膝に座らせる。

正面に見えるセレス嬢の顔は涙で濡れながらも驚いた顔で、場違いながらも微笑ましさを誘った。

 

「心配してくれてありがとう。ごめんね、心配かけて」

「・・・いえ。無事に帰ってきてくれました。それだけで充分です」

「そっか。本当にありがとう」

 

涙を拭こうと目元を手でこするセレス嬢。

俺は頭に手を置いて、ゆっくり頭を撫でつつ、目元から涙を払う。

 

「・・・あの」

「嫌かな?」

「・・・いえ。気持ち良いです」

 

そう言って恥ずかしそうに笑うセレス嬢。

それが本当に可愛らしくてゴシゴシと強めに頭を撫でてしまう。

 

「・・・痛いです」

 

上目遣いで睨んでくるセレス嬢。

怒っても可愛らしさしか感じられないから不思議だ。

 

「ごめん。ごめん」

 

ちょっと失敗したな。

優しく。優しくっと。

 

「・・・あ。気持ちいいです」

「それは良かった」

「・・・え?」

 

セレスちゃんをもう一度抱きかかえて、セレスちゃんの向きを変える。

小さな背中を胸で支えるような形だ。

 

「・・・安心します。それに、とっても暖かいです」

「そっか。じゃあ、いつでもおいで。またしてあげるから」

「・・・はい。じゃあ、あの、その・・・今から御願いできますか?」

「うん。いいよ」

 

可愛らしくて、微笑ましくて。

俺の気持ちも癒された。

 

「・・・女誑しね」

「イネスさん、失礼ですね。誰だってこの可愛らしさには勝てません」

「その言葉は否定しないけど、貴方は女誑し決定よ」

 

何故女誑しなんだか。

あぁ。昔を思い出すなぁ。

こうやって従妹を膝に乗せていた気がする。

 

「凄く癒されているね、コウキ」

「でも、微笑ましいじゃない」