吸血鬼の始祖がヒーロー社会で自分勝手に生きる話 (鈴木颯手)
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第一章【動き出す吸血鬼】
01・ヴィラン連合との出会い


「……おい、黒霧」

「は、はい」

「これはどうゆうことだ?」

 

 とあるビルの一室。バーの様な空間となっているそこで死柄木弔は傍に控える黒霧に尋ねた。しかし、声からは怒りの感情が漏れており顔を覆うように装着されている腕の間より射殺さんばかりの視線で睨みつけている。そして、睨みつけられている黒霧も困惑しつつもうまい言葉を言えない。そんな彼らを見つめるように無表情の少女がタブレットを持ち画面が自分の胸辺りに来るように相手に見せる形で待機していた。

 このような事になっている理由は黒霧が自らの”個性”である【ワープゲート】を用いてとある人物の下に向かいここに連れてくるはずだった。しかし、気づけばその人物はいなくなり代わりにこの少女がやってきたのである。

 対象の人物は連れて来れなかったうえに全く関係ない少女を連れてきたのだ。元々短気な性格の死柄木は呆気なく沸点に達したのである。

 

「どうするんだ? この餓鬼は。いっそ殺すか?」

「その方が良いのでしょうか?」

 

 黒霧は死柄木の短絡的な発言にたしなめようとするが分かっていないと思うがここを見られた以上処理するしかないだろう。そう思い実行に移そうとした時だった。少女が持つタブレットが起動し映像を映し出す。『Sound Only』と表示された画面から声が聞こえてくる。

 

「黒霧だったかな? すまないな。突然いなくなって。何しろ君を信用できなかったのでね」

「あ? 誰だてめぇ」

「そちらの少年が君のパトロンかな? 私はそこの黒霧君が連れて行こうとした者さ」

「っ! お前が……!」

 

 死柄木はその言葉にタブレットの方を見る。相手は音声のみだが死柄木の方を意識した会話を行っている。音声のみだがお互い視線を合わせていた。

 しかし、それを邪魔するように今度はバーの隅に取り付けられたテレビが起動し砂嵐が発生する。しかし、そこからは声が聞こえてくる。

 

『……驚いたな。まさか拒否されるなんてね』

「……おや、パトロンは君の方だったか……。そして納得だよ」

 

 タブレットの声はテレビから聞こえてくる声に一人納得したような声を出す。その正体に気付いたのだろう。笑いすら聞こえてくる。

 

「君が一体何を目的としているのかは分からないが、ここは挨拶をしておこうか。初めましてオール・フォー・ワン。この世の巨悪」

「こちらこそ初めまして、始祖王。”個性”ではない純粋な吸血鬼の始祖」

 

 両者はテレビとタブレットを介して挨拶を行う。今、二つの悪が触れ合おうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まりは中国の軽慶市で”発光する赤児”が発見された事だ。それ以降世界各地で超常現象が確認されそれらは”個性”と呼ばれるようになった。今では世界総人口の8割がこの個性を持った超常社会となっている。

 しかし、それに伴い個性を用いた犯罪が横行する事になった。これまでの社会では考えられない個性を用いた犯罪者は(ヴィラン)と呼ばれるようになった。誰だってそうなるだろう。非日常(フィクション)日常(ノンフィクション)となり自分に扱えるようになったと知った時、人々はどうする?誰だって使いたくなるだろう?特に理性がないような馬鹿や屑といった連中は。その結果、犯罪は世界各地で爆増した。

 個性を用いれば強盗、殺人、誘拐etc……。なんでも簡単に出来る。炎を扱える個性なら相手を焼死体に出来るし透明化の個性なら監視カメラに映らないように強盗も可能。誘拐だって転移系の個性を用いれば簡単だ。

 しかし、そう言った個性を犯罪に利用するようになると同時に個性を人助けの為に使う者も現れた。彼らは漫画やアニメの様にヒーローさながらの活躍を続け何時しかそれは人びとに認められる”職業”となった。

 つまり、この世界は個性を犯罪に用いるヴィランとそれを阻止するヒーローという存在が現れた世界なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな世界故に、俺は異端と言える。いや、違うか。人間が異端なのだ(・・・・・・・・)。俺は数千、もしかしたら数万の時を生きる”吸血鬼”、その始祖である。人間が猿から人へ進化している時、我ら吸血鬼は誕生した。十数人の始祖は人間に自分たちの血を与える事で眷属にしその数を増やしていった。

 しかし、俺を除く始祖は皆息絶えた。なぜか?一人は魔女狩りで、一人は老いで、一人は長い時を生きるのを苦痛に感じ自殺した。そうして数を減らしていき遂に俺一人となった。とは言え俺は孤独など感じていない。

 俺は世界中を旅してまわり美女たちや時の権力者たちと友好関係を築いた。中には俺の力を狙ったり恐れたりした奴らに襲撃を受けたがそう言った連中は国ごと消滅させてやったさ。そして、お気に入りの女を見つけては血を与え眷属にした。俺の血は特殊なのか相手が望んでいなくとも俺の意志次第で眷属に出来る。そうなれば後は俺に絶対服従する。相手が嫌でも、拒否してもそれはできないのだ。眷属となった女性たちは皆俺の言う事に忠実となり嫌がる事は絶対に出来なくなる。中には調教の様な行いをして廃人にした女もいるがそれはそれで面白かったさ。

 そうして俺は眷属たちとイチャイチャしながら生きていたら気づけば個性という物が出現し社会は様変わりしていたという訳だ。そうなればやる事は単純だ。個性を持っていて且つ、好みの女性を自分の(眷属)にするだけだ。そうして8000程いた眷属をさらに増やした。

 とは言えそんな事をしていれば俺もヴィランとして扱われるようになりヒーローたちに追われる身となったのだ。今では外を歩けばヒーローに攻撃を受けその辺のホテルに滞在すれば包囲されるくらいにはなった。

 まぁ、そんな有象無象では俺をどうこう出来る訳がないのだがな。受けた事は無いし受ける気もないが核にだって耐えられるだろう。条件付きで、だが。

 そんな訳で俺はこの超常社会ではヴィランとなった訳でが話は冒頭に戻り黒霧という奴に拉致されそうになったのを躱して俺のお気に入りの人形を向かわせた訳である。

 まさかオール・フォー・ワンがパトロンをしているとは思わなかったがな。ああ、因みにこいつらは(ヴィラン)連合と言ってこの少年、死柄木を頂点とする組織らしい。今のところはこの二人だけだが戦力強化の為に俺を勧誘するつもりだったようだ。

 

『どうだろうか? 彼に力を貸してくれないか?』

「まさか”悪の象徴”と言えるお前から声をかけてくるとはな。意外だ」

 

 このオール・フォー・ワンという男、俺と眷属以外で長生きしている存在だ。それを可能としているのは名前の通りの個性【オール・フォー・ワン(みんなは一人の為に)】。他者の個性を”奪い”、自分の物にするという凶悪な個性。更には他者に”譲渡”も可能という個性という名前が付けられた超常を否定するような個性だ。

 この個性を用いてオール・フォー・ワンは闇社会を支配し日本を裏から支配した。その後、”何かが起きて”裏社会から姿を消していたがこうして組織のパトロンになっていたとはな……。

 

『君は私にとって天敵とも言える存在だ。何しろ吸血鬼として出来る事は出来る上にそれ以外にも”切り札”を持っている。それも把握出来ない程に。そう言った者は個性を奪い取ればいいだけの話だが君のは個性じゃないから取れない。そんな実力を持った君には劣るが十分に厄介な眷属を数千単位で持っている。仲良くしておきたいと考えるのは当然じゃないか』

「お前が俺の眷属にちょっかいをかけた事は知っているがその時に把握したのか」

 

 十年前か?いや、もっと前かもしれない。買い物中の俺の眷属を襲撃しその吸血鬼の力をこいつは手に入れようとした時がある。しかし、結局奪えなかったうえにその眷属を殺す事も出来ずにいたところを他の眷属が襲撃しオール・フォー・ワン相手にボコボコにしたことがある。オール・フォー・ワンはその時に俺の事を色々と知ったのだろう。結局百人では押し切れずに痛み分けの様な結果で終わったがな。

 

『あの時の事が理由ならどうしようもないが私も謝ってじゃないか。手打ちにする代わりに君のお気に入りの眷属数人に強力な個性もあげた』

「あれは本当に感謝しているさ。何しろお気に入りだったのが更にお気に入りになったからな」

『満足してくれたのなら幸いさ』

「で、勧誘に関してだが。答えは部分的Noだ」

 

 俺が拒否した事で死柄木の視線が鋭くなる。どうやら自分の思い通りに全てを動かしたい子供の様な奴のようだな。とは言え俺は完全に拒否った訳ではないのだ。それを言わせてほしいな。

 

『弔、落ち着くんだ。彼は”部分的に”と言った。何か条件があるのだろう』

「その通りだ。俺としては誰かの下につくのはプライドが許さない。こう見えても紀元前から生きている存在なのでね。そんな訳で参加はしないが協力はしてやってもいいが先ずはこの組織の目的を聞いてからだ」

『確かに。説明していなかったね。ヴィラン連合の目的は”オールマイト”の抹殺だよ』

「オールマイト!? それは大きく出たな」

 

 予想外の人物の名前に俺は驚く。オールマイトとはこのヒーロー飽和社会と言われる現代においてNo.1ヒーローとして君臨し続けている存在だ。オール・フォー・ワンを裏の頂点とするならオールマイトは表の頂点だ。実力もその地位にふさわしい物であり俺も接敵すれば無事ではすまないだろう。

 そんな存在の抹殺を掲げるとは無謀とも言える。オール・フォー・ワンならともかくこの黒霧や死柄木に出来るのか?それが疑問だ。

 

『勿論、この目標を達成させるための準備は行っている。私の個性を用いて対オールマイト用の怪人を作る事に成功している。後はそれを実行できる場所、状況、人員を作るだけだ』

「成程、パトロンに君がついている以上生半可な準備ではなさそうだな。……良いだろう。君たちに協力しよう」

『本当かい? それは心強いよ。何しろ僕と互角に戦る眷属を従えているのだから』

「そのうちの一人を派遣しよう。分かるか? 十字架のペンダントを首から下げた炎の女性だ」

『……ああ、彼女か。確かに彼女は強かった。今でも彼女にうけた傷が疼くよ。できれば二度と受けたくはないな』

「加えてお前から貰った個性付きだ。あの時以上の実力を持っているぞ」

『それはそれは……』

 

 オール・フォー・ワンの口調は軽いが本音では本気で戦いたくないと言っているのが分かる。何しろ俺だっていやだからな。勝てないことはないが俺もただでは済まないくらいの実力を持っている。千年を超える付き合いだ。それだけあれば実力も高くはなるな。

 

「それとこの人形も派遣しよう。俺とお前たちをつなぐメッセンジャーだ。君たちの活躍はこのタブレット越しに観戦させてもらうつもりだ」

『勿論構わないとも。それでより多くの戦力を派遣してくれるよな戦いを見せよう。弔もそれで構わないな?』

「……先生が言うのなら」

 

 ずっと蚊帳の外にいた死柄木は若干不服そうにしているが素直に同意した。よほど彼の中ではオール・フォー・ワンの存在が大きいようだな。”先生”と言っていたくらいだからな。

 さてさて、このヴィラン連合とオール・フォー・ワンがどのような活躍を見せてくれるのか、一人安全なところから観戦させてもらうとしますか。

 




オール・フォー・ワンと眷属の戦い
オール・フォー・ワンが買い物中の眷属の一人を”吸血鬼の個性”と思い手に入れようと誘拐した結果起きた出来事。奪還しようと戦闘能力が高い眷属約百人との戦いとなった。互いに痛み分けで終わったけどオール・フォー・ワンは主人公の事を知り、主人公もオール・フォー・ワンを知るきっかけとなった。

吸血鬼に関して
主人公は現状唯一生き残っている始祖に分類される。霧になったり蝙蝠になったり出来るし空も飛べる。一方で弱点と言える日光や十字架、ニンニクと言ったものは長い年月をかけて克服した為実質弱点なし
血を口から飲ませる事で眷属に出来る。これは老若男女問わないが主人公は好みの女性以外では眷属にした事がない。眷属は主人公が望んだうえで血を飲めば強制的になり主人公と同じ吸血鬼となる。基本的に主には絶対服従であり命令は絶対。主が望めば自殺もするし感情を殺す事も出来る。これが他の始祖でも起きる事なのかは不明。

主人公に関して
紀元前から生きる始祖。美女に目がないうえにロリでも熟女でも行ける。変なプライドもあるメンドくさいタイプ。自制があまり出来ない為気に行った女性を攫っては眷属にしている。それは個性が発見される前から行っている為中には歴史上の人物もいたり……。
そんな事を超常社会でも行っていたらヴィランに認定された。とは言え吸血鬼としての能力をフルに使い捕まった事はないしオールマイトとも出会ったことが無い。


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02・雄英高校襲撃

「一かたまりで動くな!」

 

 ヒーローを育成する国立雄英高校のヒーロー科では初の災害救助訓練授業が行われようとしていた。『ウソの災害や事故ルーム』略してUSJと呼ばれるそこではヒーローであり教師でもある13号より個性についての説明を受けやる気十分でまさに挑もうとした時、中央にある広場を見てこの授業を行っている1年A組の担任である相澤消太は瞬時にそう叫んでいた。

 突然の事に驚くA組生徒だが広場に黒い靄が現れそこから大量の人が出て来た事でそこに注目がいく。恰好も姿もばらばらの十人を軽く超えるそれらはゆっくりと広場を埋め尽くす。

 

「なんだありゃ?」

「また入試のような奴か?」

「動くな!」

 

 困惑する生徒たちに対して相澤は直ぐにでも行動できるように身構え生徒が不用意な動きをしないように注意する。自らの個性である”凝視する者の個性を消す”力を十全に使えるようにゴーグルを付けると一言だけ言った。

 

「あれは……、(ヴィラン)だ」

 

 (ヴィラン)。それはヒーローを目指す者なら必ず相対する犯罪者たち。それがこうも早い段階で出会う事になるとは生徒たちの誰もが予想外だった。一方で、相澤や13号は何処か分かっていたような態度を取っており余裕はないが混乱している様子はなかった。

 

「やはり”先日の”はクソどもの仕業だったか……」

 

 相澤が言う”先日の”とは雄英高校の防壁を破壊してマスコミを侵入させた事件の事である。ただのマスコミにそんな芸当が出来るはずがなくそのせいで今回の災害救助訓練は相澤を含めた三人で行う事になっていた。

 そして、相澤と13号と共に教えるはずだった存在、オールマイトはこの場にはいなかった。今年より雄英高校の教師となったオールマイトだが”とある事情”で活動できる時間が少ないにも関わらず通勤中に人助けをしていたせいで本校舎の仮眠室で休んでいた。

 とは言えそれを知らない敵、ヴィラン連合を率いる死柄木弔は呟く。

 

「何処だよ。せっかくこんなに大衆を引き連れて来たのにさぁ。オールマイト、平和の象徴……。いないなんて、子供を殺せば来るのかな?」

 

 そう言って弔は笑う。初めて悪意を目にし、自分に向けられたA組の生徒は恐怖で顔を引きつらせているが中には冷静に状況を把握しようとしている者もいた。そんな彼らを見て弔の隣に立つ女性が言う。

 

「ヒーローの卵たちの中には将来大物になりそうな人材もいるようですね」

「お前、分かっているとは思うが」

「勿論です。今の私はヴィラン連合に所属する一人。我が()より承った命令をきちんと遂行して見せましょう」

 

 女性は首から下げている十字架のペンダントの下部を握ると口づけを行う。女性の優れた容姿も相まってその行いは神秘的であり平時なら同性ですら見惚れさしただろう。しかし、ここでは違う。その様な行いも恐怖を増長させる要因の一つにしかならなかった。

 生徒の様子を伺っていると相澤が一気に駆け寄って来る。それを見た射撃能力のある(ヴィラン)が攻撃を行おうとするが個性は発動せず相澤が持っている布に絡めとられて呆気なく無力化された。炭素繊維を練り込んだ特注の捕縛布でそう簡単に破れたり破損するような物ではなかった。

 

「へぇ、中々やるな」

「確かイレイザー・ヘッドでしたか? 個性を消せるというこの超常社会において最強と言える個性。それだけではなく本人の身体能力も高い」

 

 どんどん仲間がやられていくが女性と死柄木はのんきに分析している。それもそのはず、死柄木と女性、出入り口である黒霧にもう一人の巨漢の男?を除けば連れてきたのはその辺の裏路地で個性を持て余している様なチンピラなのだから。別に仲間でもなんでもない為彼らの生死に興味はなかったのである。

 とは言え本命ではない、全く相手にしていなかった奴に一方的にやられているのは不快感を催す様で死柄木は目に見えて苛立っていた。口調こそ普通だがその目には確かな苛立ちが宿っていた。それに気付いた女性が死柄木に声をかける。

 

「私が出ましょう」

「……いいのか?」

「ええ、そのために私は来ているのですから」

 

 死柄木は女性の提案を顎でしゃくることで同意する。女性はゆっくりとした足取りで相澤の下に向かう。騎士の様な格好をしているせいでヴィランとは思えないが現にチンピラたちは彼女に道を譲るように動きだす。

 それを見た相澤は女性に警戒を示すがまるで通行人に話しかけるように明るい口調で言う。

 

「こんにちは。今日はとても良い日ですね」

「……お前らクソどもが来なければな」

「そうですか? それは残念です」

 

 相澤はこれ以上話す事は無いとばかりに捕縛布を女性に放つ。なんの個性を持っているのか分からないが相手のペースに乗る必要はない。そう判断しての先手必勝だったが女性は捕縛布を簡単につかむ。

 

「っ!?」

「先手必勝とばかりの行動。御見それしました。ですが、私を相手にしたいのなら、何もかもが劣っています!」

 

 女性のその言葉と同時に女性が掴む辺りの捕縛布が燃え始める。個性が発動したと思い視線を向けるが一向に火が消える事は無くドンドン火力が上がっていく。

 

「なっ!?」

「個性を消すというのは確かに強力ですが個性を持たない者には無意味な行いです!」

 

 簡単には燃えないはずの捕縛布を半分ほど焼き尽くすと女性は相澤に一気に近づく。コマ送りで突然前に現れたような状況に相澤は一歩下がるがそれよりも早く女性が相澤の頭を掴み後頭部を地面にたたきつける。

 

「がっ!?」

「肉体もそれなりに鍛えている様ですが全然足りませんね」

 

 その二回、三回と後頭部を叩きつけていく。地面が陥没する程の威力で叩きつけられている為後頭部から大量の血が出ていた。その様に相澤を嬲っている間に黒霧は逃げ出そうとしていた生徒たちを自身の個性を使ってUSJ各地に散らしていた。ドーム型の施設であり出入り口は頑丈で重厚な鉄の扉があるだけ、そこを封じられた以上彼らはここに閉じ込められたという事になる。警報やアラームの類は予め作動しないようにしておき通信妨害の個性を持つ者で外部との連絡を遮断した以上中から外に出て助けを呼ぶか外の人間が異常事態に気付くしかない。

 

「生徒たちは散らしたみたいだし貴方も満身創痍。全滅も時間の問題ですね」

「……ほ、ほざけ……。俺の生徒は、お前らになどぐっ!?」

「まだ喋れましたか」

 

 相澤の悪態を途中で遮るようにもう一度後頭部を叩きつける。先程よりも力を込めて。半分ほど地面にめり込み動かなくなった相澤を離すと死柄木の方を向く。

 

「さて、私はこれからどうすればいいですか?」

「好きにしろ。俺はそいつ(相澤)で暫く遊ぶさ」

 

 オールマイトがいない事でやる気を失ったのか死柄木はそう答え相澤の下に向かって行く。彼の個性は【5指で触れた対象を破壊する】という凶悪なものだ。人間なら触れれば1分で塵に出来る程凶悪であり動けない相澤に対抗する手段はなかった。

 

「ならば私は我が神への報告を行います」

「そうか」

 

 死柄木は興味なさ気に答えた。呆気なく相澤を無力化した事で広場にいるチンピラたちは各地に散らばった生徒たちを殺そうとそれぞれ好きな場所に向かって行きこの場には一歩も動かない巨漢の男とタブレットを取り出し報告をする女性、死にかけの相澤とそんな彼をさらに追い詰めるように四肢を壊していく死柄木のみが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態が動いたのはそれからすぐだった。相澤の膝と肘を破壊し完全に動けなくした死柄木の下に黒霧がやってきた。黒霧は出入り口を抑えていたはずだったがそんな彼がこの場におり更に何処か焦っているようにも見えた。

 

「どうした黒霧? 13号は始末できたのか?」

「行動不能にはできました。ですが、散らし損ねた生徒がいまして……。一名、逃げられました」

「……は?」

 

 死柄木は黒霧の予想外の言葉に思わず聞き返した。プロでもない、ヒーローの卵とは言え子供に逃げられた。まさかの出来事に死柄木の息は速くなり首の両脇をかき始める。ただならぬ雰囲気に報告を終えた女性が戻って来る。

 

「黒霧、お前がワープゲートの個性じゃなければ粉々にしてたぞ……!」

「申し訳ございません」

「逃げられたのか? 流石にこの戦力で何十人ものプロを相手にするのは難しいよ」

「分かってる。ゲームオーバーだ! ゲームオーバー! オールマイトも来ないし、帰ろっか」

 

 死柄木の言葉に女性は苦笑する。目的がいない以上それもあり得る話だがまさかのゲームオーバーである。ゲーム感覚でいるとはさすがの彼女も予想外だった。

 

「……あ、そうだ。帰る前に平和の象徴の矜持を、少しでも壊してからでも遅くはないか」

「……? ……ああ、そうね」

 

 女性は一瞬なんの事か分からなかったが直ぐに何を示しているのか気付き死柄木と同じように”とある方向”に視線を向ける。そこには三人の雄英高校の生徒がいた。散らされた先で敵を倒しここまで戻ってきていたのだろう。しかし、完全と言える程無力化され死にかけの相澤を見て恐怖で固まっていた三人はまるで瞬間移動でもしてきたような動きを見せた死柄木の行動に全く反応できていなかった。そのまま死柄木の腕が三人の中で唯一の女性の顔に触れ……

 

「……ああ、本当にカッコいいぜ。イレイザー・ヘッド」

 

たが個性は発動せずその原因である相澤の方を見る。四肢を動かせず頭部を損傷しているが相澤は睨みつけるように体を起こし死柄木を見ている。もう動けないと思っていただけに死柄木は感嘆すら覚えるが個性を消していると分かった以上何時までもそうしている訳にはいかない。直ぐに女性が行動に出た。

 

「まだ起き上がれるのですか。ですがこれでお終いです!」

「がっ、ぁ……!」

 

 女性は相澤の胸辺りを思いっきり蹴る。体にめり込むほどの威力を受けた相澤の体は吹き飛び広場の端にぶつかり大きな煙を上げる。距離が開いた上に止めとも言える攻撃を受け相澤が動く事は無いだろう。

 そこで漸く我に返ったのか生徒の中で唯一ヒーロースーツではなく学校指定のジャージを着ていた生徒が動き出す。右腕を振りかぶり殴る姿勢を作る。右腕には赤く光る血管の様なものが浮き上がっている。そこで漸く死柄木も気づいたようでそちらを振り返るがその時には既に攻撃態勢が整っていた。

 

「手、放せぇ! スマッシュッ!」

「っ!」

 

 死柄木を中心に爆風が起こる。女性も吹き飛ばされないように固まる程の衝撃で攻撃時にスマッシュと言った事と合わせてオールマイトを思わせた。

 倒せたと思ったのか生徒の顔は明るい。しかし、顔を上げると同時にその顔は絶望に染まる。そこには巨漢の男が立っていたのだから。ヴィラン連合が出て来た場所から一歩も動かなかったが死柄木の危機と判断したのか一瞬で二人の間に割り込んでいたのである。しかも爆風が起こる程の一撃を受けても巨漢の男にダメージが入った後は見えない。

 

「あ、あ……」

「良い動きをするな。……”スマッシュ”ってオールマイトのフォロワーか?」

 

 その生徒は絶望の表情を浮かべており巨漢の男を挟んだ反対側にいる死柄木は興味を持ったのかそう口にするが直ぐに興味を失ったのかトーンを落とした声で呟く。

 

「……ま。いいや別に」

 

 その言葉が合図となり巨漢の男が生徒が突き出した右腕を掴み逃げられないようにする。そして掴んでいない方の左腕を振り上げ攻撃の動作を始める。そこで漸く女性生徒も動き出し蛙のような長い舌を出し巨漢の男に捕まっている生徒を助けようとするがそんな女生徒と残ったもう一人の生徒を殺そうと死柄木の両腕が迫って来る。女性は三人の生徒が死ぬと思い十字を切り三人が天に召される事を祈る。

 このままいけば三人の生徒はなすすべなく巨悪の前に死ぬだろう。

 

 

 

 

 

 しかし

 

 

 

 

 

 

 天はまだ彼らを見捨ててはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 突然出入り口にある鉄の扉が吹き飛ぶ。”外側”より受けた衝撃で内側にくの字で倒れ込んだ扉を無視するように足音が聞こえてくる。いきなりの事に巨漢の男も死柄木も攻撃が止まりそちらを見る。

 

「もう大丈夫」

 

 そこには生徒も、相澤も、13号もそしてヴィラン達でさえ待ち望んだ人物がいた。筋骨隆々で画風すら違って見えるNo.1ヒーローにして”平和の象徴”。

 

「私が来た!」

 

 オールマイトが到着したのである。

 

 

 

「ああ、コンティニューだ」

「あれが、オールマイト……。我が神が警戒する男……」

 

 破壊や絶望を振りまく”巨悪”と希望を照らす”平和の象徴”が今、相まみえようとしていた。雄英高校襲撃は最終局面を迎えようとしていた。

 




相澤君まさかの瞬殺……。目に後遺症は残らない代わりに原作より重傷で四肢を全てやられていますが多分生きていると思います

女性に関して
始祖が派遣した眷属。オール・フォー・ワン相手に傷を負わせるくらいには強く始祖との出会いは千年以上前。生まれはヨーロッパ。(キリスト)を信仰していたが死ぬ間際に始祖に助けられて以降眷属化による絶対服従と会わせて神と思うようになる。
あらゆる物を焼き尽くす炎を使う。炎は焼くというよりも破壊するという感じで死柄木の個性と似ているが本人に近ければどこにでも出せる為汎用性は高い。更に千年以上の間肉体を鍛え武術などを覚えてきた為素の身体能力も高い。


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03・オールマイト

初めて一話で6000文字も書いたかも……


 ヴィラン連合の目的は”平和の象徴であるオールマイトの抹殺”である。しかし、それを行うにはあらゆる困難が待っている。

 先ずはオールマイト自身の力。オールマイトは平和の象徴でありNo.1ヒーローとして頂点に立つ人物だ。当然その地位にふさわしい実力を持っており並みの人間では太刀打ちすら出来ない。それどころか一撃で倒されるだろう。それだけの力を彼は持っている。

 次に他のヒーローたちだ。オールマイトをどこで襲撃するかにもよるが大抵彼以外のヒーローがいる。彼ばかりに構っていればその後方から攻撃を受けるだろう。No.2であるエンデヴァーを始め実力だけならオールマイトにも劣らないヒーローというのはたくさんいるのである。

 他にもあるが現状ではこの二つがオールマイト抹殺を困難にしている。とは言えこれらを超える事が出来ればオールマイトの抹殺は可能なのである。

 

 そして、実行できるチャンスは簡単に訪れた。オールマイトの雄英高校教師に就任というニュースである。これによりオールマイトの位置はある程度固定された。後はカリキュラム次第では雄英高校の教師すら気付かないで襲撃も可能だろう。オールマイトを倒せる戦力もオール・フォー・ワンが用意したようだ。そこに俺の眷属が加わる事でオールマイトの抹殺は現実味を帯びてくる。

 そうなると俺も生半可な眷属を派遣する訳にはいかない。俺の眷属約一万のうち戦闘に特化した眷属は約千名。その内オールマイトやオール・フォー・ワン相手に戦える存在は三分の一。その中でもトップ10、いや5に入る者を派遣しよう。

 フランスで産まれ神の声を聴いたとしてイングランドとの戦争に参加し、最終的には異端として火刑されたはずのオルレアンの乙女(・・・・・・・・)、ジャンヌ・ダルクを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校にある災害救助専門の施設『ウソの災害や事故ルーム(U S J)』。そこではヴィラン連合による襲撃が行われておりそこに漸くオールマイトが姿を現したのである。事前に手に入れた情報とは違いオールマイトがいなかったことで帰ろうとしていた死柄木達はオールマイトに向き合う。

 そして、今まさに命が潰えようとしていた三人の生徒、緑谷出久、蛙吹梅雨、峰田実はオールマイトの登場に希望を持ったが只一人、緑谷出久だけはオールマイトの様子に気が付いていた。オールマイトが持つ個性【ワン・フォー・オール】は世間では超パワーなどと言われているがそれはこれまでに8人の継承者から受け継がれてきた超パワーを使う事が出来るもので緑谷出久はオールマイトより個性を受け取った継承者なのである。故にオールマイトの今の体、過去にオール・フォー・ワンより受けた傷が原因でその力が弱まっている事を知っていた。

 更にいつもなら笑って言うセリフすら真顔で言うほど余裕はなく何時力が尽きても可笑しくはない状況だったのだ。それでも、その事を知っているのはこの場において彼只一人であり生徒たちは希望を抱きヴィラン連合は目的達成の為に彼の方を向く。

 

「あれがオールマイト。写真では見ていましたが画風が全く違いますね」

 

 始祖より派遣された眷属である女性、ジャンヌ・ダルクはそう呟きつつ警戒を怠らない。まだ距離はそれなりに離れているがジャンヌ達のいる所からでも分かる強者の覇気に自然とそうしていたのだ。

 そして、オールマイトが死柄木達の方を向き、力んだと思った瞬間

 

「っ!?」

「くっ!」

「……え?」

 

 死柄木は顔を殴られジャンヌは辛うじて両腕で防ぐも苦悶の表情を浮かべ死柄木達と零距離の位置にいた緑谷達は少し離れた場所に立っていた。思わずと言った様子で峰田が疑問の声を上げるがそれだけオールマイトの成した事は理解が追い付かない事だった。

 

「え? あれ?」

「皆! 相澤君を頼む!」

「は、はい!」

 

 困惑する峰田をよそにオールマイトはそう言って三人を下がらせる。緑谷は心配そうにオールマイトを見ておりやがて決心したように話し始めた。

 

「ダメですオールマイト! あの脳みそヴィラン、ワン・フォー……。僕の腕が折れない程度の力で殴ったのに全然効かなくて! 多分……」

「緑谷少年!」

 

 緑谷出久の制止する声をオールマイトは遮った。そして、彼の方を向き笑顔で言う。

 

大丈夫!

 

 緑谷出久を安心させるように言うその言葉を聞き彼は相澤の下に走る。その後を追いかけるように蛙吹と峰田も向かう。それを確認したオールマイトは改めてヴィラン連合達に向き直る。

 死柄木は殴られた衝撃で外れた顔面に装着した手を付けなおし荒れた呼吸を直す。一瞬にして情緒不安定になったその姿は何処か不気味さを覚えるがオールマイトにとっては倒すべき敵でしかない。

 たった一蹴りで死柄木の下に跳躍すると腕をクロスさせる。

 

CAROLINA(カロライナ)……」

「”脳無”」

「SMASH!!!」

 

 両腕でクロスチョップを死柄木にお見舞いするもその直前で巨漢の男、”脳無”に阻まれる。緑谷出久の時と同じように必殺の一撃にも関わらず脳無にダメージが入った様子はなかった。脳無はそのまま両腕で抱き着く様に掴みかかろうとするもそれをリンボーダンスの様な形で避ける。

 

「っ! マジで全然効いてないな!」

 

 オールマイトはそう言うと同時に右ストレートを脳無の胴体に叩き込むもこれもダメージを受けた様子はなく再び掴みかかろうとする。

 

「なら!」

 

 オールマイトは脳無の腕から逃れると左右の頬にストレートを決める。しかしそれすら効かず脳無は雄たけびを上げてオールマイトに襲いかかる。そのまま両者の攻防が行われるがオールマイトの攻撃はどれも通じない。その様子を死柄木は楽しげに見ていた。

 

「効かないのは【ショック吸収】だからさ。脳無にダメージを与えたいならゆっくりと肉を抉り取るとかが効果的だね。尤も、そんな暇があればの話だけど。オールマイト、お前の敵は脳無だけじゃないぞ」

「その通りだ」

「っ!」

 

 殴り合いに割り込むように走る炎。脳無すら巻き込む形で放たれたそれをオールマイトは上空に飛ぶ事で間一髪のところで避ける。その結果脳無は炎に飲み込まれる結果となりフレンドリーファイアのみとなってしまった。

 しかし、そこで漸くジャンヌ・ダルクの存在にも目が行くようになり炎の中からほぼ無傷で現れた脳無と挟まれる形となった。更にオールマイトは自身の一撃を苦悶の表情を上げていたが防ぎきる程の動体視力と身体能力をジャンヌ・ダルクが持っている事を先ほどの緑谷達を助ける際に判明している。

 前方には自身の攻撃が全く通用しない化け物(脳無)、後方を自分の攻撃を防ぎきれる能力と炎を操る女性(ジャンヌ・ダルク)に挟まれる事となりオールマイトは軽くだが窮地に陥り始めていた。

 

「オールマイト。我が神の為にここであなたを殺します」

「神? まさかそれはオール・フォー・ワンじゃないだろうね」

「勿論違います。私が仕える至高の御方、私の全てを捧げるにふさわしいあの御方は貴方の活躍に警戒を示しています。故に、我が神の心の重みを取り除くため、貴方には死んでもらうのです」

「それはそれは。悪いがまだ死ぬわけには、いかないな!」

 

 ジャンヌ・ダルクの火炎放射を避けると襲ってきた脳無の背後に回り込み押しを掴むとバックドロップを決める。瞬間、爆発したような衝撃が施設中を襲う。これには遠くから見ていた他の生徒や相澤を運んでいる緑谷達も歓声を上げる。

 しかし、煙が晴れると同時に彼らの目に飛び込んできたのは脳無がコンクリートの地面に突き刺さる光景ではなく黒い靄によってオールマイトの背中に上半身を出し左の脇腹に指を突き立てる脳無の姿だった。一転して訪れるオールマイトの危機に生徒たちは絶句する。そんな中、死柄木だけは愉快そうに笑っている。

 

「コンクリートに体を突き刺して動けなくする算段だったのか? 残念だったな。脳無はオールマイト並みのパワーがあるんだ。無駄な行いだぞ」

 

 苦悶の表情を浮かべるオールマイトは脳無の腰から手を離し自身の左わき腹を突き刺すようにして押さえつけている脳無の右腕を離そうともがく。しかし、オールマイト並みのパワーを持っていると言っている通り全く緩む気配はなかった。

 

「黒霧、よくやった。期せずしてチャンス到来だ」

「君ら、初犯でこれは……、覚悟しろよ!」

「今のあなたにそう言われても怖くもなんともないですわ」

 

 オールマイトの負け惜しみとも取れる言葉にジャンヌ・ダルクは嘲笑する。

 

「……黒霧」

「はっ。……私の中に血や臓物が溢れるので嫌なのですが、あなたほどの物なら喜んで受け入れましょう!」

 

 黒霧はそう言うと同時にオールマイトは黒い靄の方に引き寄せられていく。異変に気付いたオールマイトが確認するがその答えを言うように黒霧が話を続ける。

 

「超高速のあなたを拘束するのが脳無の役目。そして、あなたの体が半端に留まった状態でゲートを閉じて引きちぎるのが私の役目」

「因みに私はそれらを円滑に進めるための補助だよ。まぁ、私で殺してもいいと言われてはいるけどね」

「くっ!」

 

 オールマイトはこれから行われる出来事に歯を食いしばるが今の自身ではどうにもならず必死に頭を巡らせる。しかし、そこで視界の端に一人の少年が向かってくるのが見えた。

 

「(緑谷少年!? 君ってやつは……)」

「……先ほどの生徒か」

 

 オールマイトが気づいたようにヴィラン連合も緑谷出久が向かってきているのに気づく。迎撃に出たのは今この場で何もしていないジャンヌ・ダルクだった。飛び込んでくる緑谷出久の向けて炎を繰り出そうとする。そこに至り自分の行動が失敗したと気づくが時すでに遅かった。そのままジャンヌ・ダルクの炎が緑谷出久を包み込もうと……

 

「邪魔だぁ!!」

 

動こうとした時だった。横から別の生徒が現れジャンヌ・ダルクの顔に爆破を起す。その生徒、爆豪勝己はそのまま黒霧が首に巻いていた鉄製の襟をつかみその場に倒す。更に地面に氷が走り脳無の右足を伝い右腕のギリギリまでが凍る。雄英高校に推薦入学を決めた轟焦凍の一撃によりオールマイトへの拘束が緩む。更に死柄木に襲いかかるように生徒の一人である切島鋭児郎が飛び出してくるがk路絵は簡単に避けられ一旦下がる。

 

「てめぇらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた。どうやら当たっていたようだな」

「すかしてんじゃねぇぞ! モヤモブがぁ!」

 

 瞬く間に形成は逆転した。黒霧は抑えられ脳無は右半身が凍り、ジャンヌ・ダルクは爆破を顔面に受け倒れている。死柄木以外が無力化されてしまっていた。

 

「……出入り口を抑えられた。こりゃぁ、ピンチだな」

「ふん! このうっかり野郎め! 思った通りだ。靄状になれる部分は限られているからそこを靄で覆ってたんだろう? でなけりゃ”危ない”なんて言葉を言ったりしないもんなぁ?」

「クッ!」

 

 黒霧が生徒たちを散らす際に爆豪と切島に攻撃をされていた。その際に黒霧は”危ない”と口にしていたがそこから黒霧の個性と弱点が見破られたのである。

 この状況を打開するべく黒霧が行動を起こそうとした時だった。鉄製の襟で小さな爆発が起こる。

 

「動くなぁ! 少しでも怪しい動きをしたと俺が判断したらすぐに爆破するぅ! 今度はもっと威力を込めるぞ!」

「おいおい、それがヒーローを目指す奴の台詞かよ」

 

 爆豪の言葉に切島が呆れたように呟くが生徒たちのどこか余裕のある声とは違いヴィラン連合はまさに窮地に陥っているといってよかった。

 

「……こうならないように散らした先にはチンピラを送ってあるのに攻略された上に全員ほぼ無傷。……凄いなぁ、最近の子供は。ヴィラン連合を名乗るこっちが恥ずかしくなってくるぜ」

 

 死柄木は冷静に状況を把握する。しかし、その声は恐ろしい程落ち着いておりまるで窮地を感じていないかの様なふるまいをしていた。そして、死柄木は脳無の方を向くと名前を呼ぶ。

 

「脳無」

 

 その言葉と同時に脳無が動き出す。氷で動けないにも関わらず無理やり動いたため右足と右腕が割れるが脳無はまるで痛覚を感じていないように平然としている。そして、その瞬間氷を突き破り砕けたはずの右足と右腕が生えてくるがそれはオールマイト、緑谷出久にとってはあり得ない光景だった。何しろ彼らは【ショック吸収】という個性が脳無にある事を身をもって知っているからだ。にも関わらず脳無はまるで別の個性でもあるように(・・・・・・・・・・・)失った肉体を再生していく。

 

「なんだ!? 【ショック吸収】の個性じゃないのか?」

「別にそれだけとは言ってないだろ。これは【超再生】だな。脳無はお前の100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバッグ人間さ」

 

 死柄木がそう言い終わると同時に再生は完了し再び無k慈雨の脳無が自由となる。それを受けて生徒たちは警戒するがそんな事はどうでもいいとばかりに死柄木は呟く。

 

「まずは出入り口の奪還(・・・・・・・)だな」

「っ!」

 

 死柄木の言葉に標的が誰なのか瞬時に判明するがそれと同時に脳無が駆けだす。オールマイト並みの速度でまっすぐ黒霧を抑える爆豪に突進する。しかし、それを防ぐようにオールマイトが割り込み爆豪をどかす。それと同時に脳無のフルパワーの一撃がさく裂した。とっさに防御は間に合ったが後方にある壁まで押し出され衝突する。

 

「くっ! 加減をしらんのか」

「何だよ。ピンピンしてるじゃないか。それに仲間を助ける為さ」

 

 死柄木は黒霧たちの下にまで歩み寄りながらオールマイトを見る。そこから始まるのは死柄木に縁る演説。ヒーローは暴力装置と言いそれによって抑圧された世界にオールマイトを殺す事で”暴力は暴力しか生まない”と言う事を知らしめると語るがそれは直ぐにオールマイトによって嘘だとバレる。

 その後はオールマイトが再び脳無と殴り合うが今度は先ほどとは違い【ショック吸収】という無効ではないという事を生かして吸収できなくなるまで攻撃を行い続けて遂には脳無を吹き飛ばす事に成功した。施設を震わせるほどの衝撃が走る。オールマイトが来ているが現場を見ていなかった者達はオールマイトが行った事だと見抜き歓声を上げる。

 【ショック吸収】をなかったことにしたうえで吹き飛ばしたことによりヴィラン連合の戦力は大きく低下した。何しろオールマイトを抑える役目をしていた脳無がいなくなったのだから。しかし、そこで漸くもう一つの戦力が動き出す。

 

「……まさか、餓鬼にやられるとは」

「「「「「っ!!??」」」」」

 

 誰もが声の方を向けばジャンヌ・ダルクが忌々しそうに爆豪を睨みつけながら歩いてきていた。脳無とオールマイトの戦いの最中、気絶していたジャンヌ・ダルクは少し離れた場所に飛ばされそこで漸く意識を取り戻していた。火傷を負ったのか顔の皮膚は痛ましい姿をしているが不思議と少しづつ治っていた。

 

「!【治癒】系の個性か」

「ふん、そんな物じゃないさ。これは”種”として持ち合わせた能力であり恩恵だよ」

 

 死柄木と黒霧の横に並ぶように立つジャンヌ・ダルクは轟の言葉にそう答える。この場において彼女の正体を知るのは死柄木と黒霧だけ。それ以外には何の事か分からなかった。

 

「……死柄木。帰ろう。今日はここまでだ」

「なっ!? 待ってください! ここで退くのは……!」

「施設の外から複数の足跡が聞こえる。教師たちが到着するぞ」

「それは……!」

 

 ジャンヌ・ダルクよりもたらされた情報はヴィラン連合のゲームオーバーを示していた。教師がくればチンピラだけでは抑えられない。オールマイトを殺す事は不可能となるのだ。それが分かっただけに黒霧は悔し気にしながらワープゲートを開く。

 

「ほら、死柄木入れ」

「くそ、今回は失敗だが次は殺すぞ。平和の象徴、オールマイト……!」

 

 死柄木はそれだけ言ってワープゲートの中に消えていく。実行犯を逃がすわけにはいかないと爆豪たちが向かって来ようとするがそれを防ぐようにジャンヌ・ダルクが炎の壁を作る。

 

「なっ!? これほどの炎とは……!」

「オールマイト。貴方はどうやら我が神が警戒するに値するだけの力を持っているようだ。今日はこれにて帰らせてもらいます。……ああ、そうだ」

 

 ジャンヌ・ダルクは足をワープゲートに入れたところで何かを思い出したようにオールマイトの方を振り向くと笑みを浮かべてこう宣言した。

 

「我が神からはオールマイトを殺せなかったときは自己紹介を行えと言われていました。

私はジャンヌ・ダルク。フランス、オルレアンの乙女にして吸血鬼の始祖に仕える眷属の一人です。

次に会う時は貴方を殺せるくらいには力を付けておきましょう。ではさようなら、No.1ヒーロー」

 

「っ! 待て!」

 

 オールマイトの制止の声など届いていないとばかりに無視してジャンヌ・ダルクはワープゲートの中に消える。その瞬間、黒霧はワープゲートを閉じ連れて来たチンピラを置いてその場から消えるのだった。

 そして、教師たちがその場に到着するのはその数分後の事だった。

 




ジャンヌ・ダルクの補足
百年戦争で活躍した本人。始祖と出会ったのは火刑にあう前日。ジャンヌ・ダルク(の容姿)を気に入った始祖によって眷属にされ替え玉を用意してそいつをジャンヌ・ダルクだと思わせるようにして死を偽装した(歴史に名前が出てくる女性たちの中で眷属にされたものは大体こんな感じで替え玉と交換されている)
元々軍人だった事もあり眷属の中では最上位の戦闘能力を持っている他炎を操る事が出来る。
眷属化の影響で始祖を神と思い込むようになり狂信者とも言える人物となる。元々の性格は神を信じそれに従いつつも女性らしさを持った女性且つ超のつくほど真面目だったがその面影はほとんどない
雄英高校襲撃では相澤を瞬殺(殺してないよ)する。その後はオールマイトを倒すために脳無事焼き殺そうとしたり脳無と一緒に挟み撃ちにしたりする。オールマイトの危機に向かってきた緑谷出久を焼き殺そうとした際に爆豪の爆破を受けて意識を失い顔に重度の火傷を受けるが吸血鬼の能力で再生するがその最中にオールマイトと脳無の戦いの爆風で吹き飛ばされ体を打ち付ける。その衝撃で目を覚ます。最後は教師が向かっている事を察知し到着前に死柄木と黒霧と共に逃げるが最後にオールマイトに自らの正体を明かして去った。

因みに原作だと熱い展開のオールマイトと脳無の戦いはジャンヌ・ダルクが出て来ない為ほぼカットしました(予想以上に長くなって早めに切り上げたかったとかそんな理由ではない。決してない)


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04・襲撃の後

なんか結構伸びてる……
頑張らないと
それと、アンケートを取っている最中ですがキャラ出しても問題なさそうなので他作品のキャラを出す方向で動きます。因みに史実に存在する人物は全てオリキャラとなります(Fateとかを期待した人はすいません。流石に眷属化の事を考えるとだし辛かった……)


「今回は駄目だったな」

「くそ! 完敗だ。脳無はやられた。手下は役に立たなかった!」

「へぇ、負けたのか」

 

 怒りを露にする死柄木の言葉を聞き第三者の声が聞こえてくる。しかし、その声には聞き覚えがあり驚いたりはしない。ただ、怒りのままに声のした方にいる人形のような少女が持つタブレットに視線を向ける。そこには相も変わらず『Sound Only』とだけ書かれており声のみが死柄木達に伝わって来る。

 

「神よ! 申し訳ありません! ヴィラン連合を助けるという役目も十分には果たせずおめおめと逃げ帰ってきてしまいました!」

「いいさ。むしろイレイザー・ヘッドというマイナーとは言えヒーローを殺しかけたんだ。充分活躍はしているさ」

「神よ……。ありがとうございます!」

 

 始祖は決して怒っているわけではなくむしろ褒め称えていた。何しろ全滅という可能性さえ想定したのだ。その中でヒーローの無力化を行ったというのは高評価をしていた。

 とは言えこれはジャンヌ・ダルクが始祖のお気に入りだからという理由も存在する。もしこれが顔も存在も忘れていた眷属なら今頃死んでいただろう。眷属化を解けば人間に戻り彼女たちはこれまでの時間分体は成長をする。つまり、肉体は消滅するのである。これが眷属になって十年そこらの若者だったのならおばさん、おばあちゃんになるだけで済むが百年、二百年と生きていれば待っているのは”死”である。

 

「そんな訳でジャンヌは一旦戻ってきてくれ。死柄木、ジャンヌの代わりを用意してある。戦力は劣るが今すぐにまた襲撃を仕掛ける訳ではないのだろう?」

「……ああ、暫くは休養だ」

 

 目立った外傷はないとはいえ心を落ち着かせる必要があるし雄英高校にまた襲撃を仕掛ける事も出来ないだろう。その為暫くは潜伏を余儀なくされていた。

 

「お前もそれで良いな? オール・フォー・ワン」

『……勿論さ。そこの女性は君の物だ。僕たちは借りているだけに過ぎないからね』

 

 始祖の言葉に答えるようにバーに備え付けられたテレビから声が聞こえてくる。その声はオール・フォー・ワンの物で死柄木の先生にして数年前まで裏世界から日本を支配していた大物である。そんな彼の声に割り込むように別の声がする。

 

『それよりもワシと先生の共作、”脳無”はどうした?』

『回収していないのかい?』

「……吹き飛ばされました」

 

 苛立って回答すら拒むような死柄木に代わり黒霧が答える。その答えはオール・フォー・ワンとは別の声の主、ドクターにとって予想外の物だった。その証拠として声は焦っている。

 

『何!?』

「正確な位置座標を特定できないと探す事は出来ません。それに雄英高校の教師が迫ってきていました! その様な……、時間は取れませんでした」

『何と言う事だ……。せっかくオールマイト並みのパワーにしたというのに……!』

『ま、仕方ないか。今回は爪が甘かったという事だ。今回の失敗は次に行かせればいい』

「その通りだ。……おっと、そう言えば近々雄英高校で体育祭が行われるそうだな。今年の上玉を見に行こうと思っている」

『へぇ、雄英高校か。聖愛学院を支配した(・・・・・・・・・)って言う噂なら聞いた事があったけど』

「あ、それは事実さ」

「何と……」

 

 聖愛学院とはお嬢様学校という特色を色濃く持った女子高である。その女子高が謎の襲撃を受けたという噂が裏の世界で出回ったが信ぴょう性に欠けた噂として誰も気にしなくなった。しかし、その実態は襲撃どころか支配すらしていたものだった。

 

「去年だったか一昨年だったかにな。気に入った女子が五名程居たんでそいつらを眷属にした後に学院を支配したのさ」

『成程。君は能力を使う相手をなるべく女性のみにしたがっている。女子高である聖愛学院は都合が良かったと言う訳か』

「別に淫らな高校にしたわけではないぞ? 深層心理で俺への絶対服従に無抵抗。そしてこの事をどのような事があろうとも校外に持ちださないとしただけさ」

『君は社会の裏にすら姿を見せないくせに動くときは大胆に動くな。それが始祖として生き続けている理由か?』

「さあな。あまり気にした事は無いからな」

 

 始祖にとって動く要因は『好みの女性がいるか否か』だ。居れば動き、居なければ動かない。そうしているうちに気付けば今の今まで生きていたというだけだった。

 

「取り合えずそう言う訳だから俺を探そうとは思うなよ。連絡は1号を通して行ってくれ。黒霧、ジャンヌを指定する座標に送ってそこにいる俺の眷属を持って行ってくれ。座標は1号の持っているタブレットに送信する」

「分かりました」

 

 それだけ言うと通信は切れる。1号はタブレットの電源を落とし命令があるまで部屋の隅で待機する。まるで生きた機械の様な動きをする1号というメッセンジャー役の少女に不気味さを感じる黒霧。そして、始祖という存在がどれだけ強大なのか、その断片に触れた事で黒霧は始祖の力に恐怖するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死柄木という奴もまだまだだな。だが、見どころはありそうだな」

「そうでしょうか? 私には餓鬼の様なお馬鹿さんにしか見えないのですが。若しくは現実が見えていない愚かで救いようがないこの世に不必要なゴミクズと言った所でしょう」

「相変わらずの毒舌だなクレオパトラ」

 

 俺は豊満な体を使って俺の体に厭らしく絡みつく眷属、クレオパトラにそう言った。クレオパトラは俺の秘書のような役割をしてくれており俺が一番伽に呼ぶ人物だ。元は……、なんか男がいたらしいがそんな事はどうでもいい。対立していた……、なんだったかに力を少し貸して自殺を偽装して眷属にした。その時は40代一歩手前だったが眷属になった以上若々しい容姿は確定している。

 今だって絡みつかせている体は細くも肉突きが良く障り心地がとても良い。容姿だって20代前半、中盤と言える位の容姿だ。そんな彼女は右側のみだが腰までスリットが入ったタイトスカートを履き水着の様なしかし装飾品がついた豪華と言えるものを胸に当てていた。それは自らの主である始祖に惜しげもなく見せつけ触れさせていた。

 端から見れば情婦の如き行いだが本人は特に気にもしていない。何故なら眷属となった彼女の役目なのだから。二千年を超える時の間ずっと行ってきた行為を今更止める事など出来るはずがないし辞めるつもりもなかった。

 

「さて、雄英高校の体育祭だが誰を連れて行くか……」

「私としては狂信者で融通の利かない上に顔が割れてしまっている可哀そうな聖女(笑)なジャンヌさんやおこちゃま体型で主様と並ぶと兄妹にしか見えないボーデヴィッヒさんなどはお勧めしませんわ」

「いやいや、流石に人選はきちんとするつもりさ」

「なら私を連れて行ってはくれませんか? きっと極上の時間になると思いますよ」

「んー。でもお前の事だから直ぐに引っ付こうとしてくるだろ? それだと目立つから……、連れて行くことはないかな」

「そんな……」

 

 俺の言葉にクレオパトラはショックを受けている。俺が傍にいる時はこいつは何かと絡みついてくる。正直に言うと満足しているがさすがに外でもやられると目立ってしょうがない。だからこいつは何時も留守番だ。外では自制できる精神をしてくれていればよかったのだけどな。

 そんな訳で連れて行くのは誰にするか……。ジャンヌはあり得ないしクレオパトラはそもそも論外。他だと、マリーとかアメリアとかラクシュミーとかかな。皆俺が世界各地を渡り歩いた先で出会った(拉致った)最高の女たちだ。俺の隣に立たせるには十分すぎる。となると後は性格だな。マリーは基本大人しいし周囲に合わせるという事も出来る。アメリアは、競技内容によっては大はしゃぎしそうだな。ラクシュミーも競技によっては危ないか。何時もジャンヌと戦ってるし。というかジャンヌよりも五百年近く後に眷属になったのに張り合えているだけ凄いのか。

 そうなるとマリーか。見た目は10代後半くらいだし問題はなさそうだな。

 

「クレオパトラ。何時まで落ち込んでいるんだ。それと雄英高校の体育祭に連れて行く者は決めたから」

「あ、まさか私……」

「だからちげぇって。マリーだよ。あいつは適任だ」

「はぁっ!? なんであの小娘を連れて行くのよ! ちびで生意気な顔をしているのに!」

「いや、ちびって……。お前もほぼ同じ身長じゃないか。それに容姿は眷属になる過程で更に美人になるし」

「いーえ! 主様はあの小娘がどんな性悪娘か知らないのです! いつも私を見ては鼻で笑い、ちびのくせにあの脂肪の塊を見せつけるように歩くのですよ!」

「なんだ。胸に嫉妬しているのか」

 

 確かにマリーは巨乳だ。それでいて引っ込むところは引っ込んでいる、まさに男の理想の体型だ。それでいて身長は低めだし性格も大人しくそれでいて気品に溢れており相手を立てるのに長けている。良妻賢母の見本とも言える人物だ。

 

「兎に角、もうこれは決定事項だ。クレオパトラがどうこういっても変わらないぞ」

「そんなぁ……」

「……まぁ、その分今日は可愛がってやるさ。いや、今日もか?」

「あん♡ では早速……」

 

 そう言ってクレオパトラは抜き出す。艶めかしくも厭らしく脱いでいくが俺は途中で我慢する事を止めて押し倒すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィラン連合と名乗る者たちについて警察の方で洗ってみましたが……」

 

 誰もが寝静まる深夜、雄英高校の校舎の一室にて教師たちが集まっていた。そこには教師だけではなく警察官の塚内もおり今回の襲撃事件の報告を行っていた。

 

「死柄木という名前、触れたモノを粉々にする個性、20代から30代の個性登録に該当者なし。黒霧という者、【ワープゲート】の方も同様です。無国籍且つ偽名ですね」

 

 それがヴィラン連合の主犯である二人の調査結果だった。更にそれとは別にジャンヌ・ダルクの方の調査結果も言う。

 

「そしてジャンヌ・ダルクという女性に関してですが、今のところ詳しい情報は入っていません。もし百年戦争時代に活躍した本人だとしても調べようがありませんので」

「それはそうさ。DNAの鑑定ですら比べられる物がないからね」

 

 塚内の言葉に校長の根津が答える。根津は【ハイスペック】という個性を発現したネズミであり人間以上の知能を持っている。そんな彼だからこそ雄英高校の校長に就任できたのである。

 

「吸血鬼という事ですがそちらも詳しい事は何も。ただ、裏の世界ではそう言った”噂”なら個性が現れる前からあるそうです」

「噂か……。それだけでは分からないな」

 

 ジャンヌ・ダルクに関する情報が全くないせいでそちらの捜査は全く進まない。下手をすれば死柄木や黒霧よりも難しいだろう。それだけに彼女に関してよりも死柄木達の方に焦点があてられる。

 

「死柄木達は個性届を出していない所謂”裏の人間”で間違いないでしょう」

「という事は何も分かっていないという事か?」

「その通りです」

「しかし、早くしないとまた何かをするのではないか?結局無傷で逃げられたからな」

「ですが、死柄木という人間についてなら想像はできます」

 

 そう言ったのは実際に相対していたオールマイトである。数年前に負った怪我の影響で今は何時もの筋骨隆々の姿からがりがりにやせ細った姿になっているがこの場にいる全員がその事を知っていた。

 

「普通、雄英高校に襲撃を仕掛けるという事は思いついても行動に起こそうとは思わない。突然それっぽい事をまくし立てたり自身の個性を明かさずに脳無という者の個性を自信満々に明かす。何か気に入らないことがあると露骨に機嫌が悪くなる。この事から見えてくる死柄木という人物像は、”幼稚的万能感が抜けきらない子供大人”だ」

「子供大人……。成程、確かにそうだ」

「まぁ、個性を明かすという行為は私を誘導する意味もあったのかもしれないが……」

「でも対ヒーロー戦において個性を教えるという行為は愚策に思えるね」

「しかし、その子供大人が何かあるのか?」

 

 教師の一人であるスナイプの疑問に答えるようにオールマイトは続ける。

 

「考えてみて欲しい。そんな子供大人に賛同するように今回は大量のヴィランが参加している」

「こちらで捕らえた数は約70名越え。ほぼ全員が路地裏に潜むような小物ばかりでしたがそんな彼らが死柄木という男について行ったのです」

「ヒーロー飽和社会である現代では抑圧された悪意はこういった子供大人に惹かれる傾向にあるのかもしれません」

「だが、あの女性は別だ」

 

 誰もが納得しかけた中、オールマイトはジャンヌ・ダルクを思い出す。明らかにヴィラン連合に賛同して参加しているわけではない彼女。自らの主に言われて参加していた事からヴィラン連合に対して興味がなかったのが見て取れた。

 

「その主は今回ジャンヌ・ダルクを通じて初めて表舞台に痕跡を残した。これが一体何を意味するのか、今のところは分からない。だが、かつての巨悪”オール・フォー・ワン”並みの、いやそれを超える存在が動き出そうとしているのかもしれない」

「ヴィラン連合に参加したのはその準備体操のようなものと?」

「奴らの狙いが分からない以上断言しかねるがそう判断しても良いのかもしれない。もしかしたら、既に動き出している可能性すらある」

「そして、吸血鬼に関してですが……」

 

 オールマイトの警戒する声に対して塚内が言い辛そうにしているがやがてゆっくりと言い始めた。

 

「”上”からの命令でその吸血鬼を探すように言われています」

「上? 警察の上層部か?」

「それらを自由に扱える者達です」

 

 塚内はあえてぼかしたが一体だれを指しているのか分かり教師たちは眉を顰める。明らかに吸血鬼にありがちな不老不死を狙っていると思われる命令だけに嫌気がさしている。

 

「とは言え警察としてもヒーローのおかげで地道な捜査に力を入れやすくなっています。”上”からの命令はともかく真相が分かるように調査していくつもりです」

「うん。僕たちも何かわかったらすぐに報告するよ」

 

 塚内はそう言うと部屋を出ていく。会議も終わり解散となった時にオールマイトの隣に座る根津はぽそりと呟いた。

 

「子供大人。それは生徒たちだって同じだ。もし、私達の様にその子供大人を育てようとしている者がいるとしたら……」

「それは……」

 

 オールマイトは数年前に倒したはずのオール・フォー・ワンを思い浮かべる。そして吐き捨てるように言うのだった。

 

「考えたくない事ですね」

 




聖愛学院の才子さん、個人的に好きなんですよ。因みに始祖の好みは作者と同じにしてます。その方が考えるの楽だし……。

以下はキャラ紹介(何時ものやつ)

クレオパトラ
言わずと知れた三大美女の一人。アクティウムの海戦後に捕虜となったクレオパトラを眷属にした。更に関係者の記憶を弄り自殺したと思わせた。因みにクレオパトラは始祖を嫌悪していたが眷属化後は態度が一変する。始祖の情婦と言える程尽くしているが本来持っていたスペックが無くなった訳ではなく知略は健在。一方で毒舌家であり他の眷属やそれ以外の有象無象には辛辣な言葉しか言わない(普通に話すのは始祖かその命令で普通に話すように言われたときのみ)。マリーの事を眷属の中で一番嫌っている

マリー
ヨーロッパ産まれ。母はマリアテレシア。元夫はルイ16世
身長150センチ後半のスタイル抜群の巨乳。性格は大人しく相手を立てる良妻賢母な女性。一方でクレオパトラ曰く性悪な行いもしているそうだが詳細は不明

ラクシュミー
インド大反乱で活躍した女性。インドのジャンヌ・ダルクとも。グワーリヤル城に入る前に眷属となり代理を務めた女性は彼女に代わって戦死した。
戦闘狂でいつもジャンヌ・ダルクと戦っている。眷属の中でトップ3に入る実力を持っておりオール・フォー・ワンから個性を貰った一人(因みにジャンヌ・ダルクも貰っている)。雄英体育祭を見に行くお供として名を上げられるも戦闘狂という事で除外された。その内本編に出てくるかも

アメリア
ほら、あの……。飛行機の人だよ

ボーデヴィッヒ
あれだよ。インフィニットでストラトスな作品のキャラだよ。


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05・雄英体育祭 前編

好み的にはA組よりB組の方が多い(けど名前すら知らない娘ばかり)
今回は雄英体育祭のスタートから騎馬戦開始直前までとなっています


 雄英体育祭とは雄英高校で行われる体育祭だ。毎年4月に行われているらしく例年はそれまでの実力を十分に発揮させる三年ステージが人気らしいが今年に限っては一年ステージにも注目が言っている。それは何故か?ヴィランによる襲撃を受けたからだ。

 とは言え全員が軽傷以下で大した怪我は負ってはいない。ただし、教師である相澤と13号は負傷してしまっており特に相澤は未だに意識が戻っていないようで担任は18禁ヒーローもミッドナイトが行っているらしい。この辺はネットなどをあさった際に出てきた情報だ。

 

「よし、では行くか」

「はい」

 

 俺はマリーと共に一年ステージのあるスタジアムに入る。例年よりも警備が強化されているようだが俺達には無意味だ。顔は見られてないうえに顔を変えているから俺を認識できるのはオール・フォー・ワンと眷属たちぐらいだろう。マリーは眷属化に伴い御淑やかな美少女という風に顔が微妙に変わっている。誰もマリー・アントワネットだとは思うまい。

 そんな俺たちは『フランス人の女性と結婚した新婚夫婦』という設定でいる。結婚後最初のデートが雄英体育祭という事だ。マリーは笑顔で俺の腕に抱き着いてくる。豊満な胸が腕に当たる事で崩れ俺に柔らかい感触を与えてくる。正直人の目がなければすぐにでも押し倒したいほどだ。

 

「おい、あれを見ろよ」

「うわ。すげー美人」

「しかも隣の男もイケメン……」

「か、カッコいい……!」

 

 俺とマリーは周囲からの視線を一心に集める。マリーが美人なのは当然として俺は自分の姿を変えている。高身長で筋肉が引き締まっている細マッチョ系のイケメンだ。その為、男女両方から見られる結果となった。とは言えこれはまだマシだろうな。アメリアやラクシュミーなんかは場合によっては更に目立ってしまうからな。

 

「ふふ……」

「ん?どうしたマリー?」

「いえ、偶にはこういった事も良い者だと思いまして」

「そうか。マリーが楽しいならこれからも行っても良いぞ。新婚ごっこ」

「! それは本当ですか!? では、明日も……」

 

 マリーは少し恥ずかし気に頬を染めてそう言ってくる。その様子を見た男たちは内股となり女性ですら熱い視線を向け始めている。これ以上は手を出してきそうなやつが出てきそうなのでさっさと観客席に座るとしよう。

 一年ステージは今年に限り大盛り上がりで座る席の確保に苦労する程だったが数人の女性グループが顔を赤くしながら席を譲ってくれたおかげで座って眺める事が出来る。因みにその女性たちからは連絡先を貰ったが全員好みの女性だったので後で会いに行くとしよう。とは言え今はそれよりもこっちだな。

 

『へーい! 刮目しろオーディエンス! 群がれマスメディア! 今年もお前らが大好きな高校生たちの青春暴れ馬! 雄英体育祭がハジマリエブリバディ、アーユーレディ!? 一年ステージ! 生徒の入場だァッ!』

 

 雄英高校の教師であるプレゼントマイクの司会でいよいよ始まる。観客たちは歓声を上げ自らの熱気でスタジアムを熱くする。

 

『雄英体育祭ィッ! ヒーローの卵たちが我こそはとしのぎを削る年に一度の大バトルゥ! どうせあれだろ? こちらだろう! 敵の襲撃を受けたにも関わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新生! 一年A組だろォッ!?』

 

 その言葉と共に一年A組が入って来る。これが一年A組か……。へぇ、中々俺好みの女がそろっているじゃないか。特に紫色の肌の奴や耳たぶからコードが出ている奴とかな。

 

「マリー。一年A組、いやB組も合わせて生徒の情報を手に入れてあるか?」

「勿論です。ごsy……、旦那様が気になっている娘は紫色の肌の娘と耳の娘ですね?」

「そうだ。マリーにはお見通しか」

「ふふ、旦那様の好みくらい簡単に把握出来ますわ」

 

 そう言ってマリーは笑うがそう簡単ではないだろう。クレオパトラやジャンヌ・ダルクだって俺の好みを完全に把握出来ているわけではない。何しろ俺だって分かっていないのだからな。そう言う点でいえばマリーは観察力が優れているのだろうな。

 

「紫色の肌の娘は芦戸三奈、耳の娘は耳郎響香という名前です」

「芦戸三奈に耳郎響香か……。成程、覚えたぞ」

「攫いますか?」

「いや、それよりもどんな活躍を見せてくれるのか楽しみだ」

 

 将来眷属にする可能性のある娘達だ。他の生徒より応援したくなるのは当然だろう。しかし、A組は他にも見てくれの良い女子がそろっているではないか。蛙っぽい娘、高校一年とは思えない巨乳のポニテ女子、地味目だが麗らかな娘、容姿は分からないが透明化の娘。どれも世間では美人と言えるな。これは面白い年代になりそうだ。

 

『話題性では後れを取っちゃいるが、こっちも実力派揃いだぁ! ヒーロー科! 一年B組ィッ!』

 

 続いて入場してきたのはA組と同じくヒーロー科のB組だ。……ふむ、こちらも良いな。特にオレンジ髪のサイドテール女子。ついつい我慢を忘れて今すぐに眷属にしたい衝動にかられる。そしてやはりこちらも甲乙つけがたい容姿の者ばかりだ。これは全員眷属にして、並べて鑑賞するのもありかもしれないな。

 

「今度はオレンジ髪の娘ですね? あの娘は拳藤一佳という名前です。唾を付けに行きますか?」

「……いや、今回は雄英体育祭を見に来ただけだ。眷属にするつもりは今のところ(・・・・・)はない」

「ふふ、分かりました。何時でも動けるように情報を集めておきます」

 

 本当にマリーは俺の事を分かっているな。何時も自己主張が少なめであまり相手はしていないが今日は久々に朝まで可愛がっても良いかもしれないな。

 そして、拳藤含むB組の女子を見ている内に他の科の紹介が終わっており入場は済み選手宣誓が始まろうとしていた。正直他の科にどんな娘がいるのか気になったが仕方がないな。18禁ヒーローのエロい姿を鑑賞するとするか。

 

「選手代表! 1-A! 爆豪勝己!」

「爆豪? 男かよ」

 

 俺はミッドナイトの言葉にがっかりする。正直野郎には興味がない。名前と顔が一致しないレベルで興味がない。覚えているのはオールマイトやエンデヴァーなどの一部の上位ヒーローと死柄木に黒霧だけだ。オール・フォー・ワンは声は覚えているがあった事がないから容姿は知らん。

 

「宣誓、俺が一位になる

「は?」

「まぁ!」

 

 選手宣誓とは思えない言葉に一瞬場が固まり直ぐに生徒たちからブーイングが起こる。A組の生徒は何処かやると思ったというような表情で苦笑いを浮かべている。しかし、まさかあんな事を言うとはな。だが、あれは自身にあふれる傲慢な宣誓ではないな。どちらかというと自分を追い込む(・・・・・・・)様な言い方だ。背水の陣で挑むという決意か。中々面白いな。もし女子だったら眷属にしないでそのプライドが折れるまで調教してやりたいと思っていただろうな。男と言うには勿体ない奴だ。

 

「ふふ、珍しいですね。旦那様が男性に興味を持たれるなんて」

「ああ、本当にな。応援はしないが彼の功績はしっかりと見ておきたいと思える人物だ」

 

 もし、俺と敵として相対した時はプライドを破壊するように立ちまわるか。プライドの源を尽く破壊し二度と立ち直れないようになるまでボコボコにするのも面白いかもしれない。

 

「マリー。あれの情報も調べて置け」

「分かりました。旦那様が満足できるような情報を集めておきます」

 

 全く、今年の雄英生は興味をそそられる存在ばかりだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして始まった雄英体育祭。最初の競技は障害物競走でスタジアムの外周を回って戻って来るというものだった。これはスタジアムを出る時のゲートが狭く最初の関門と言えるものだったが氷を扱う轟という生徒が大半を脱落させるような動きを見せた。更に第一関門のロボの障害では無理な態勢の時に凍らせ自分が通った後に崩れるような知略を見せたりもした。

 

「あれはエンデヴァーの息子か?」

「その通りです。興味がありますか?」

「彼に、というよりも母親(・・)の方にな」

 

 エンデヴァーの妻である轟冷は病院に入院中だ。エンデヴァーとは幾度か戦った事がありその際に色々と調べた時に興味をもったのだ。何しろ美人だし好みのタイプだったからな。因みに入院の原因は息子にやけどを負わせたかららしいがそもそもの原因が夫のエンデヴァーが自分の個性にしか興味がなく精神的に不安定となった際に夫の個性を息子が発言したから、らしい。

 個性婚というより強い個性を生み出すためにかつて流行ったらしいが個人的には理に適っていると思うが倫理的には受け付けないのだろう。強い個性というだけでこの社会では引く手あまただろうからな。

 そんな訳で今のところは手を出していないがもしエンデヴァーが自身の妻と向き合い、”本当の家族”になれた時には目の前で寝取ってやり絶望させるのもいいかもしれない。そう言う意味ではエンデヴァーの娘も眷属にするのが効果的なのだろうが残念ながら微妙に惹かれなかったのだよな。

 そんな事を思っていると第二関門は通過しており最終関門の地雷原を抜ける段階にまで来ている。どうやら今年の一位は爆豪か轟で決定だな、と思った時だった。地雷原の最初の方の辺りで巨大な爆発が起こりピンク色の煙が大きく広がる。決して地雷一つで起きたとは思えない爆発だが直ぐに誰かが飛び出してくる。

 

『1-A緑谷ァ! 爆風で猛追! いや、追い抜いたぁ!?』

 

 緑谷という少年らしいそいつはロボの板を使って前に出たようだ。これなら地雷を気にする必要もなく突破できるだろう。とは言えそれは一位を奪われた爆豪と轟の足の引っ張り合いを止めさせる結果となったが。爆豪は自身の個性らしい爆破を手のひらより生み出し前進し轟も地面を氷で凍らせ地雷が発動しないようにして走る。

 しかし、流石は雄英生か。緑谷は失速し、地面に衝突する瞬間に板を地面にぶつけ追い抜きそうになっていた爆豪と轟の妨害をし自身はその爆風で更に前に出て地雷原を突破した。そしてそのまま緑谷は一位となった。

 

「アイツ、個性を見せずに一位を取ったな……」

「A組は彼ら三人を中心に回りつつあるようですね」

 

 緑谷出久……。ジャンヌ・ダルクの報告にあったオールマイトと同じ超パワーの少年か。中々無謀な事を平然と行うような危なっかしさを持っているらしい。それは今の障害物競走を見ていればそうだろうなと思う。一位になるために爆風を利用するなど中々できる事じゃないし思いつく事じゃない。思いついても利用できるかはまた別問題だ。それにもかかわらず緑谷は行った。そして成功させ一位になった。試合前は全く興味さえ向かっていなかった人物だけに緑谷の株は急上昇だろうな

 その後、次々と選手が戻ってきていくが巨乳ポニテの背に紫髪のガキが張り付いているのが無性にイラっと来たがそこはどうでもいい。俺が個人的に応援していた芦戸三奈、耳郎響香、拳藤一佳はそれぞれ19位、21位、28位だった。予選は42位までは通過する為無事に全員クリアできたという事だ。しかし、B組は下位に沈んでいるな。これはA組との差がそこまで出ているのかそれとも、何かの作戦なのか……。どちらにしろB組の真相はここから分かるだろう。

 そして第二種目が発表された。種目は騎馬戦。だが、世間一般とはルールが異なっている。先程の順位を元にポイントが分けられており42位から5ポイントずつ上がっていくようだ。そして、一位は1000万ポイントと多すぎない?というポイントになっている。騎馬は2~4人で作りその全員の合計ポイントが騎馬の得点となる。その得点が書かれた鉢巻を首に巻き相手から奪い取った鉢巻は首に巻く。騎馬は鉢巻を取られても、騎馬が崩れても失格にはならず試合終了までずっと参加できる。つまり一度身軽になって後半で奪い取るといった戦術も行えるという事だ。

 

「1000万か。彼とチームを組む者は果たして現れるのだろうか……」

「分かりませんがもし余った場合はそれで固まるのではないでしょうか?」

「それはそれで大変そうだな。しかし、この騎馬戦は面白そうだ。今度眷属交えてやってみるか」

「それは楽しそうですね。ですが私は観戦だけさせてもらいますわ」

「そこは流石に強制しないさ。何しろ戦闘出来る眷属は百人はいるからな」

 

 そんな風に話していると騎馬が作り終わったようだ。ほぼ全チームが同じ組同士で組んでいる。さて、一位の彼は……、中々面白そうな組み合わせだな。女子二人に男子一人か。男子はカラスみたいな頭をしておりモンスターの様な物を出している。成程、あれは便利そうだ。攻防一体で汎用性も高そうだな。

 

「それでは! 試合開始!」

 

 主審ミッドナイトのその言葉で体育祭本選、第二種目である騎馬戦が幕を切った。俺はヒーローの卵たちがどんな活躍を見せてくれるのか楽しみにしながら騎馬戦を観戦するのだった。

 




因みに眷属たちによる騎馬戦について
初っ端始祖と誰が組むかで大揉めし発案者なのに不参加となった始祖。そこから12組の騎馬が出来上がった。ポイントは少し前に行われた強さの順位で決められた(因みに壱位は1000ポイントに減らしている)。
結果、吸血鬼の力を十分に発揮しクレーターが出来る大乱戦となったうえに日頃から嫌っている奴への攻撃ばかり行う者やチーム同士で同盟を組む者などが現れ白熱した戦いとなる
最終的にチマチマとした動きに苛立ったジャンヌ・ダルクの炎がまき散らされた結果一部の眷属(主に騎馬を組んでいた者)が消し飛びかけて中止となり二度と開催される事はなかった

エンデヴァーと始祖
始祖は気に入った娘を眷属にする際は必ず直接行くため次第に顔が割れた(一話でヒーローに攻撃されると言った理由はそれ)。中でもエンデヴァーとは数回接敵しておりその度に炎を受けるが逃げきっている。因みに始祖は顔を変えられるので雄英体育祭を普通に見に行くことが出来る。
とは言えエンデヴァーの攻撃は鬱陶しいと感じているので奥さんを寝取る方向で計画をしている。エンデヴァーが奥さんと和解し本当の家族となった時には寝取られる運命となっている為実は今のままが家族としている事が出来るという皮肉。


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06・雄英体育祭 後編

補足入れときます。相澤先生は原作より違う意味で重症ですが体育祭前には退院して原作通り解説やってます


 1000万という破格のポイントを持ったわけだがやはり試合開始と同時に狙われる緑谷出久。実質的な1000万の争奪戦となった訳だ。

 真っ先に仕掛けたのはB組の騎馬だ。確か体を固くできる奴だったか?そいつが騎手を務める騎馬の前騎馬が個性か何かで地面を沼にする。緑谷チームはどんどん足が埋まっていくが何かバックパックの様なもので空を飛び回避している。しかし、あの沼は便利そうだ。敵を捕らえるにはもってこいだが空を飛べたり空中を足場に出来る奴には弱いな。

 他も良い感じに鉢巻の奪い合いが起きている。そして早速緑谷チームに危機が訪れた。先程のB組チームが前方よい迫り後方から、なんか背中が覆われている人が走って来る。一人ではできないはずだからあの中にチームメイトがいるのか。あの様子からして体格の小さい、巨乳ポニテの背中に張り付いていた奴が入っているのだろう。

 入り口を一つにして奇襲を受けないような工夫はとても良いな。あれなら鉢巻を奪うのは至難の業だろう。

 

「マリー。今年は面白い奴が多いな」

「そうですね。個性も便利そうなものが多いですしダメもとでオール・フォー・ワンに貰えないか聞いてみてもいいかもしれません」

「オール・フォー・ワンか……。流石に直接会う気は起きないしヴィラン連合を経由する事になりそうだな」

 

 どちらにしろ一度襲撃を受けた雄英高校に再び襲撃を仕掛けるのは難しい。となると雄英高校とは別の場所、修学旅行や林間合宿の様な行事を襲撃するのがよさそうだな。

 と、そんな事を考えている間に試合は更に進んでいる。試合開始より7分経過といった所か。試合は15分だから凡そ半分といった所か。そこで今のポイントが表示されたわけだが……、あの爆豪が鉢巻を取られている。しかも緑谷チーム、轟チーム以外のA組は軒並み0ポイントだ。どうやらB組の作戦らしいが、正直に言って予想外だな。

 

「あのB組の男、物間という方は中々の策士の様ですね」

「とは言え今はまだ7分。ここから奪い返される可能性だってなくはない。勿論このままポイントが動かない可能性もあるがそうなれば最終種目に出場する大半がB組となるだろう」

 

 俺個人としてはその場合は拳藤一佳も出場できるようだし特に不満はない。だが、他の客は違うだろうな。ヴィラン連合の襲撃を退けたにも関わらずその大半が敗退。A組の人気は失墜し、B組の評価が上がるだろう。

 爆豪は緑谷を狙っていたようだが鉢巻を取られたからか奪っていった奴らを標的にするようだ。そしてその緑谷には轟を始め0ポイントの騎馬が襲い掛かっている。ある意味では妥当な展開だ。0ポイントの騎馬にとって緑谷の1000万ポイントというのは魅力的だ。何しろそれを持っているだけで一位で通過出来るのだから。更に緑谷がどんな個性を持っているのかは分からないが轟や爆豪を狙うよりも簡単だろう。何しろ二人の個性は純粋に強い。加えて鉢巻を一つとってもその数字はバラバラだしそれだけで通過出来るポイントが手に入るわけではない。

 

「!? これは……」

「あらあら」

 

 轟チームの後騎馬の一人が雷を放つ。どうやら操る事は出来ないようで味方は感電しないように対策を取っている。しかし、それはあくまでチームメンバーのみ。他は諸に電撃を浴びて動きは止まる。その隙を突き轟は個性を使い氷漬けにする。これだけで四つ程の騎馬が無力化され……

 

「あいつ! 拳藤の鉢巻を取って……!」

「だ、旦那様!? 落ち着いてください!」

 

 あの半分野郎!強い個性を持っているからって調子に乗りやがって!決めた!あいつは何時か倒s……、待てよ。アイツはエンデヴァーの息子なら……。

 

「マリー。アイツの母親を拉致ろう。そして眷属にしてアイツと戦わせるというのはどうだ?」

「それはおすすめできません。彼と母親の仲もエンデヴァー並みに悪いので和解するまではあまり効果は期待できないかと……」

「くそっ! なんであの家族はこうも……!」

 

 いかん……。少し苛立ち過ぎた。今は騎馬戦の様子を見るか。緑谷チームは半分野郎()と一騎打ちをしている。氷により狭い空間に閉じ込められ逃げ場はなくなった。しかし、半分野郎()は攻めあぐねており五分間ほど膠着状態となっている。そして残り時間は1分ほど。最後の追い込みだ。そう思っていた時だった。

 突然轟は加速した。正確には前騎馬の男が普通の人間には見えない速度で走ったという感じだが。その結果、轟は1000万ポイントの鉢巻を奪い取る事に成功した。だが、どうやら奥の手だったようで前騎馬は大きく消耗している。そりゃ消耗が少ないなら予選の障害物競走で使っているよな。そして両者の攻防戦は立場が逆転する事となる。

 ぶっちゃけ、ここからはこれまでの15分に勝るとも劣らない濃厚な攻防戦だった。緑谷は初めて個性らしきものを発動させた。同時に轟も左手から炎を出すがそれは超パワーと思われる緑谷によって振り払われた。その隙を突き鉢巻を奪うもそれは70ポイント。4位までが最終種目に進めるというのが分かっている現在では圏外である6位。一瞬硬直するもそこへ氷の壁を破壊して爆豪が乱入してきた。奪われた鉢巻のみならず奪っていった奴から全て奪い取った爆豪は元々の狙いである1000万ポイントを狙いに来たのだろう。

 そして、爆豪が轟が1000万ポイントを持っているときづき狙いをそちらに変更、緑谷も攻撃を行おうとしたタイミングでブザーが鳴り騎馬戦が終了した。緑谷は6位という圏外で敗退が決定したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、思っていたが実は違っていた。というよりも順位は中間、というか終了直前から大きく変動した為1位から言って行こう。

 

 1位は1000万と490ポイントを取った轟チーム。

 2位は1360ポイントを取った爆豪チーム。

 3位はいつの間にかなっていた普通科で唯一予選を勝ち上がった心操が騎手を務めたチーム。ポイントは1125。

 そして、4位は685ポイント(・・・・・・・)を取った緑谷チームだ。

 

 そう、緑谷チームはいつの間にか轟チームの初期ポイントである615ポイントを取っていたのだ。どうやら轟が爆豪や緑谷に気を取られている隙に前騎馬を務めたモンスターを使える奴が奪ったようだ。それが分かった緑谷は号泣しているが正直何処からそれだけの水が出てくるのか不思議だ。騎馬を組むときにも流していたしこれで体中の水分全てが放出されたんじゃないか?そう思わせる量だ。

 

「予選の時に注目を浴びた三人。無事に突破しましたね」

「ああ、だがここからどうなるのかは分からないぞ。何しろ雄英体育祭は毎年一対一の戦いを行う傾向にある。ここまで緑谷が来れた理由の一つは彼が肉体ではなく知力を持って戦ってきたからだ。超パワーを何故使わないのか? いざという時まで温存する為? 情報を奪われない為? 違うだろう。恐らくだが個性を扱いきれてない。これが正解だろうな」

「コントロールができないという事ですか?」

「おそらくな。誰だってリンゴを潰すのに車を潰せる力を使おうとはしないだろう。もしかしたら体の負担も大きいのかもしれない。まぁ、どちらにしろ彼の力は最終種目で分かるだろう」

 

 そして昼休憩を挟みいよいよ最終種目、の前にレクリエーションを挟む。レクリエーションは最終種目に出場する人は参加しなくても良いらしく英気を養えるようだ。そしてレクリエーションに行く前に最終種目であるトーナメント方式のガチバトルの組み合わせ抽選が行われる事になったがその時にひと悶着あった。心操チームに参加していた尻尾を持つ生徒が辞退を申し出たのである。どうやら個性によって操られていた様で自分の実力で突破したわけではないのに出場する事に我慢できなかったようだ。同様の理由からB組の生徒も辞退し二名程繰り上がる事が決定した。

 

「という事は惜しくも落ちてしまった拳藤が出るのか!?」

「旦那様、落ち着いてください」

 

 マリーに引き留められるほど興奮してしまったが結局拳藤一佳含む女子たちは別のチームを推薦した。途中まで3位をキープしていたチームだ。あのチームにも女性はいたが……、あまり好みではないんだよな。

 そんな訳で二名の繰り上がり出場者を含めてトーナメントが発表された。耳郎響香は予選落ちしてしまったし唯一出場できた芦戸ちゃんを応援するか。せめて一回戦は突破してほしい物だ。

 

『よーし! それじゃぁトーナメントはひとまず置いといてイッツ・ツカノマ! 楽しく遊ぶぞレクリエーションン!』

 

 そして、その言葉と共にレクリエーションが始まった。最初の競技は借り物競争らしくやる気のある人は皆それぞれのお題のモノを借りようとしている。ん?あの巨乳ポニテの背につかまっていた奴、『背油』とか書いてあるな。流石は雄英、一歩間違えれば苦情が来そうな内容のものまである。

 

「っ! すいません! そこの人、一緒に来てくれませんか!?」

 

 そんな風にどんなものがあるのか眺めていると拳藤一佳が俺の方を見ながら言ってくる。一瞬誰に言っているんだ?となるが拳藤一佳はその疑問を解消するようにお題を見せてきた。書かれていたのは『超が付くイケメン』。それをみた俺の付近の全員の視線が俺に集中する。確かに俺の今の容姿はイケメンだ。そうなるように顔を変えたがまさかこのような事になるとはな。

 

「……俺か?」

「っ! ハイ! オネガイシマス!」

 

 何やら俺が視線を合わせると顔を真っ赤にしてカチコチになる。瞬間、先程までの「ああ、こいつの事かよ」という視線から「爆死しろ」という嫉妬の視線に変わった。マリーは可笑しそうにくすくす笑っているし……。仕方ない。

 俺はそれなりの高さのある観客席から飛び降りる。そして綺麗に拳藤一佳の隣に着地する。ふむ、やはりとても可愛らしいな。ついつい手を出しそうになるが今は我慢だ。こんな目立つところで行ったらめんどくさい事になるからな。俺は拳藤一佳に話しかける。

 

「確か、拳藤さんだったね。行こうか」

「ハ、ハヒ……」

 

 ……完全にフリーズしてしまっているな。仕方ない。俺は彼女の膝裏と背中に手を回すと持ち上げる。所謂”お姫様抱っこ”と言う奴だ。

 

『おおーっと!? 滅茶苦茶顔の良いイケメンがB組拳藤をお姫様抱っこしているぞぉぉぉっ!? なんてうらやま! 爆死しろ!』

『落ち着けマイク』

 

 観客たちからは黄色い歓声と嫉妬のブーイングが起こる。前者は女性で後者は男性だ。というか先ほどから拳藤の反応がない。俺が顔を見てみれば……

 

「……キュゥ」

 

 失神している。姉御肌的な人物かと思ったけど意外とこういう事に弱いのか。それなら眷属にした後はこういった事をして彼女をあたふたさせよう。決して慣れさせず常に顔を真っ赤にして恥ずかしがるような感じにしてもいいかもしれない。そう思うと興奮してくるしレクリエーションとは言え一位にさせてあげたいと思えてくる。本気を出すつもりはなかったが少し力を出すか。

 俺は力を少し込めて走る。とは言えそれだけでも十分に早い。轟チームの前騎馬を行っていた生徒並みには早いぞ。

 

『おいおい! あのイケメン足も速いじゃないか! 拳藤一佳、本人気絶してるがまさかの”お題で借りて来た人”の活躍で一位だぁ! ちくしょー! イケメンで足も速いとかまじでうらやま!』

『あれはいいのか?』

 

 

「あ、あれ? 私は……」

「お? お目覚めかな? お姫様」

「え? ……? ……っ!!??」

 

 自分が今どのような状態にあるのかを察した拳藤一佳は水が沸騰できそうな程顔に熱がこもる。軽く湯気すら出るほど混乱と羞恥を味わっているようだ。これ以上は流石に可哀そうだし下ろしてやる。若干ふらつきながらも俺の方を向く。

 

「あの、えっと……! あ、ありがとうございます?」

「ああ、こちらも雄英体育祭のレクリエーションとは言え参加出来てよかったよ。それに、こんな美人さんに指名してもらえたのだからね」

「っ!!!!」

 

 俺がそう言うと拳藤一佳は明らかに動揺している。目を回しそうになっているしこれ以上ここにいるのは不味いだろう。

 

「さて、流石に生徒でもなんでもないただの観客である俺がこの場にいるのは不味い気がする。拳藤さん、申し訳ないけど出口まで案内してもらっても良いかな?」

「あ、はい。勿論です……」

 

 俺は拳藤と並んでステージから出る。その後は軽くお喋りしたりして拳藤一佳との仲を深めた。最後には携帯番号を交換するくらいには彼女からの信頼を得る事に成功した。……眷属にした時、彼女は俺を第一に考え俺の降伏の為に動く様になる。そうなればこんな会話も難しくなるのだろうな。なら、せめて。彼女を眷属にしても良いと判断した時までこの微妙な関係を続けさせてもらうとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みにその後のトーナメントは白熱した展開だったが拳藤一佳との会話には勝らない。芦戸三奈も二回戦で負けてしまったしな。ただ、緑谷出久はパワーを扱いきれていない事、轟が何やら和解できそうな雰囲気になっている事、そして何より今年の生徒たちの個性、性格をある程度は把握出来た。

 雄英体育祭も終わりその帰り道、俺はマリーと並んで歩く。未だに嫉妬の視線が向けられているが今はそんなのどうだって良い。今の俺は確かな充実感を得ているのだから。それを感じ取ったのか、マリーが話しかけてきた。

 

「ふふ、拳藤さんを随分と気に入られたようですね」

「ああ、是非とも彼女は俺の眷属にしたい。きっとここ数百年ぶりの充実した、とても楽しい日々を過ごす事が出来るだろう」

「眷属にするタイミングは何時頃にしますか?」

「”今は”厳しいな。ただでさえ襲撃の後だ。チャンスとしては夏休みを挟んだ二学期だな。そこで隙を見ていただく」

「なら、その予定で準備を進めさせてもらいます」

「頼むぞ」

「お任せを」

 

 かつての王妃然とした態度とは違う。策士と思えるような笑みをマリーは浮かべている。とは言えこちらも同じだ。気に入った女性を手に入れるその時を待ち遠しく思える俺の顔はきっと、大きく歪んでいるのだろうな。

 




拳藤一佳
始祖のお気に入り。始祖曰く”数百年ぶりの充実した、とても楽しい日々を過ごせるかもしれない”と言うほど気に入っている。原作とは違いお題は『超が付くイケメン』になった。始祖から気に入られている為死亡しない限り眷属化の未来が待っている。しかも割と早めに(他だと芦戸三奈と耳郎響香)


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07・ステインと始祖

先に言っておきます。保須が滅茶苦茶になるし原作キャラじゃないけど人が死ぬ描写が出てきます。苦手な方は注意してください


 雄英体育祭も終わり一息ついていると俺はオール・フォー・ワンから呼び出された。正確にはヴィラン連合の下にいるメッセンジャーを通してだが。そして、俺が見ている映像の先には今世間をにぎわしている存在がいた。

 

 ”ヒーロー殺し”ステイン

 

 17人ものヒーローをこれまでに殺害してきた(ヴィラン)の中でもトップクラスの大物。一つの地区で数人のヒーローを殺害するという法則を取っており中にはヒーローの意識を高める結果に繋がっているともいわれている存在……、という情報をクレオパトラやマリーから聞いてはいたが成程。確かにある種のカリスマを持っているな。やっている事は”悪”かもしれないがその心には折れない芯を持っている。どんなに自分が変わろうとも、歪もうとも絶対に変わらない芯を。

 あまりお近づきにはなりたくない相手だな。俺なんてあちらから見ればその辺のチンピラと変わらないだろうしな。

 そんな訳でステインが死柄木達の前に立っているという事は勧誘したいのだろう。彼が入るだけで純粋な戦力強化につながるが決してそれだけではない。ステインに心酔する者もヴィラン連合に興味を持ち近づいてくる可能性がある。……もし、ステインをヴィラン連合に引き入れる事が出来ればこの組織は大きな変動を迎え成長するだろう。今にも強風でへし折れそうな弱弱しい苗木はステインという養分を吸収する事で地に根を張り、どんな強風にも耐えうる巨木へと至る。

 だが、そのために必要なのは死柄木の思想だ。現にほら

 

「興味を持った俺が浅はかだった。お前は、俺が最も嫌悪する人種だ」

 

 ステインは死柄木を認めてはいない。実際そうだろう。今の死柄木は駄々こねる子供と変わらない。俺から見てもそうだからな。そんな俺が協力しているのはオール・フォー・ワンが関わっているからだ。

 

子供の癇癪に付き合えと? 信念無き殺意に何の意義がある?

 

 ほら、ステインは死柄木を殺す気でいる。黒霧は止めようとしているがオール・フォー・ワンは教育の一環として全く止めようとはしない。それをみた黒霧はこちらを見るが俺だって止めたい訳じゃないしアジトの場所が分からない以上向かう事も出来ない。故に助けるのは無理だ。諦めてくれ。これで殺される様ならその程度の器だったという事だろう。

 そして、あっという間に両者は制圧された。黒霧はステインの個性故か、動く事が出来ないようで死柄木は右肩の付け根を差され床に縫い付けられるように押し倒されている。更に首には刀が向けられておりステインの動き次第で簡単に分断できるようにされている。

 

「ヒーローが本来の意味を失い、偽物が蔓延るこの社会も、いたずらに力を振りまく犯罪者も、粛清対象だ」

 

 そう言ってステインが死柄木の首を切り落とそうとした時だった。死柄木の右腕が刀を掴む。

 

「ちょっとま、この手だけは駄目だ」

 

 そう言うと同時に力を入れ刀に日々を入れた。そして、

 

殺すぞ?

 

 決して大きい声だったわけではない。だが、俺は確かに何か(・・)を感じた。ただのガキだと思っていた死柄木の中に燻り蠢く何かを……。

 

「口数がおおいなぁ。信念? そんな仰々しいものなんてないね。強いて言えば、そうオールマイトだな。あんなゴミが祭り上げられているこの社会を滅茶苦茶にぶっ潰したいなぁ、とは思っているよ」

「っ!!??」

 

 刀が破壊され更に振り払うように死柄木が手を振るとステインは後ろに大きく飛びのいた。死柄木はゆらりと立ち上がると話を続ける。

 

「ったく、人の体に傷をつけやがって……。こちとら回復キャラはいないんだよ。責任取ってくれるのかぁ?」

「……それが、お前か」

 

 苛立っているのか首をかきむしる死柄木にステインはそう言った。

 

「はぁ?」

「俺とお前の目的は、対極にあるようだ。だが、”今を壊す”。この一点において俺たちは共通している」

 

 そう言うステインの顔は笑っていた。自分の事を理解してくれない人間が、自分と同じ考えをしている人と出会えた。そんなような笑みだ。だが、それはあくまでステインの方だ。死柄木にはそんな事は不快そうにしている。

 

「っざけんな。帰れ、死ね。”最も嫌悪する人種”なんだろ?」

「真意を試した。死線を前にして、人は本質を表す。異質だが、重い歪な信念がお前には宿っている。お前がどう芽吹いていくのか……。始末するのはそれを見届けてからでも遅くはないだろうな」

「結局始末するのかよ……」

 

 その時、漸く動けるようになったのか黒霧は自身の腕を眺める。それに気づいた死柄木が黒霧に話を振った。

 

「黒霧、俺は嫌だよ。こんなイカれた奴をパーティーメンバーに入れるのは。あの吸血鬼野郎とは違った意味で嫌だね」

「死柄木弔、彼が加われば大きな戦力になる。……交渉は成立した」

「要件は済んだ。さぁ、俺を保須へ戻せ。あそこには、まだなすべきことが残っている」

 

 そう言うステインの目には歪で、歪んだ信念が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、その前に」

 

 しかし、そこでステインは思わぬ行動に出る。こちらを見ているのだ。正確には俺の眷属が持つタブレットを通して画面に映らないはずの俺と。ああ、そうだ。確かに俺とステインは”視線があっている”。

 

「貴様は誰だ」

「俺か? なに、ただの協力者さ」

「その人形からは信念何処から何も”感じない”。そして、お前からは異質(・・)な気配がする」

 

 へぇ?流石はヒーロー殺し。俺を見てもいないのにも関わらず見抜くか。

 

「俺は吸血鬼の始祖だ。人類がまだアフリカを出たばかりの頃より生きる最古の生きた生物だ」

「……成程、人間ではなかったか(・・・・・・・・・)

「ん? 俺が人間じゃないならどうだって言うんだ?」

「貴様とは根本的に相いれない。俺の勘がそう告げている。そして”戦うな”とな」

 

 人間の本能か。確かにそうかもしれないな。かつて俺を殺そうとした奴は大勢いた。一人の時もあれば団体や組織、国の時も。一番大きかったのは十字軍だ。あれは楽しかった(・・・・・)。沢山殺し、眷属もたくさん死んだ。あの時は半分の眷属が死に俺も傷を負ったな。あれ以来力が強まったのか二度と傷を受ける事は無くなったがな。

 

「何故貴様の様な存在がこいつら(ヴィラン連合)に力を貸す? 貴様ならこんな者たちに力を貸す必要もないはずだ」

「そうだな……。暇つぶし。そう答えたらどうだ?」

「いや、むしろそうであって欲しいとさえ思う。貴様が何か大きな目的があるのなら、それは人間にとっては大なり小なり影響を与え混乱を生み最後には混沌へと至る」

「おいおい、人を化け物みたいに……」

「我ら人間からすればお前は、お前たちは(・・・・・)化け物以外の何物でもない」

「……そうか。だが、どちらにしろヴィラン連合に手を貸すのなら俺たちは実質仲間だ。争いを生むような事は互い避けていこうぜ」

「……ふん」

 

 ステインは信用していないのか鼻で笑うと黒霧の方を向く。さっさと保須に送れという事だろう。黒霧はワープゲートを開きステインはそれに飛び込んでいくと一旦閉じた。

 

「私達は怪我の手当てをしたら保須市に向かいます。貴方はどうなされますか?」

「そうだな……。久しぶりに暴れようかな(・・・・・・)。ステインと話していたら昔の事を思い出してしまった。ヒーローの一人か二人を殺し一暴れしようと思う。勿論保須でな」

「そうですか。では保須市で会いましょう」

 

 手当てを終えた黒霧は死柄木を連れてワープゲートで消えて言った。俺もタブレットの通信を切る。ずっと座りっぱなしだったから少し体が硬くなったな。少し伸びをすると俺は立ち上がる。

 俺がいるのは次元の狭間に作ったアジトだ。一万近い眷属たちを一か所に集めるとどうしても目立つからな。こういった、普通の人間ではたどり着けない場所にアジトを構えるのが良いからな。

 

「ジャンヌ・ダルク」

「はっ!」

 

 俺の呼びかけにすぐにジャンヌは現れる。ここでは俺の声は何処までも聞こえる。名前を呼べばこの空間にいる眷属たちは直ぐに向かって来れる。とは言え今回は久しぶりに暴れたい気分だ。せっかくだしパーティーの様に派手に行きたいな。

 

「ラクシュミー」

「ここに」

「E-001から084まで」

「「「はい」」」

「あとは……、よし徴側と徴弐」

「お呼びでしょうか」

「久々に暴れるの?」

 

 これだけいれば問題ないだろう。計88人による大襲撃だ。これだけいるんだ。保須市だけじゃなくてその周辺地区でも暴れてやろうじゃないか!

 

「俺は久々に暴れたくなった。保須市を中心に血染めの宴を始めるぞ!」

 

 さぁ、ヒーローよ。俺を満足させてくれよぉ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久にとって目の前に広がる光景はまさに地獄と言ってよかった。同級生にして友人である飯田天哉の兄がステインに襲撃を受けてからというもの彼の事を心配していた。そして、その飯田が職場体験を受けている保須市にもうすぐ到着するという時に彼の乗る新幹線が急に襲撃を受けたのである。

 新幹線の外壁を破壊し中に入って来たのはゴシックロリータに身を包んだ少女だった。しかし、その少女は口の端から血を流して、いや口の中にある人間の肉から出てくる血が溢れているという一目でヴィランと言える事を行っていた。その少女はターゲットを新幹線の中にいる人たちに決めたようで一番近くにいる女性の首を手刀で切り落とした。それを見た緑谷出久の職場体験先のヒーロー、グラントリノは自らの個性ジェットですぐに近づくと少女と共に外に出てそのまま近くのビルに激突する。唐突な出来事に破壊された外壁部分から見た保須市は地獄だったのである。

 あちこちで火の手が上がっており人々の悲鳴が聞こえてくる。爆発音に破壊音が響くそれは”戦争”と呼ぶにふさわしい光景だった。

 緑谷出久は止まった新幹線から出るとグラントリノの下に向かおうとする。しかし、その瞬間だった。緑谷出久が出て来た穴に向かって何かが高速でぶつかり大爆発を起こした。爆風によって出久の体は持ち上げられ吹き飛ぶ。更に二発、三発とぶつかり新幹線は破壊され同時に支えていた土台も壊れ崩れ落ちる。

 

「ぐっ! 何が……!」

 

 上空で体勢を整えた出久は危なげなく瓦礫の上に着地するがそこで目にした光景に彼は目を見開く。

 先ほどまで乗っていた新幹線の残骸、人々の死体があった。何が起きたのか分からないまま死んだのか不安そうな顔をした死体がいくつもある。見ただけで死体しかないと思える状況に出久は腹からこみあげてくる胃液を必死で抑え込む。数分程そうして格闘して漸く落ち着きを取り戻した出久は淡い願いの下に人命救助を始める。

 

「だ、誰か……。居ませんか? 生きている人は、いませんか?」

 

 出久は声を張り上げているつもりだったがその声は掠れている上に震えていて周囲の喧騒にかき消されている。瓦礫を取り出し新幹線の残骸から生きている人を探す。その行為は死体しかないのを出久が認める事が出来るまで続く事となる。

 

「どうして、こんな……」

 

 出久は体中に襲いかかる恐怖とはまた違った感情が溢れその場に泣きながら座り込むのだった。ヒーローを志す緑谷出久という人間が初めて経験する戦争の如き悲惨さは今後の彼に大きな影響を与えていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に『保須戦争』と呼ばれるようになるこの事件はステインとヴィラン連合の脳無も参加していたにもかかわらず脇に追いやる程の被害を出した始祖の存在を世界中に知らしめる事となり人間とは違う別の知的生命体と人間がどう向き合っていくべきなのか?その疑問を持たせ社会に大きな影響を与える事となる。

 そんな保須戦争はまだ、始まったばかりである。

 




E-とは
一時期多すぎる眷属故に名前が被ったり覚えきれなくなった始祖が行った眷属の整理の際に出来た番号の一つ。簡単に言うと「眷属の中でもあまりいらない」と思われた者達の集まり。名前を奪われる=眷属の中で最も下というイメージを植え付ける結果となっている。使い捨てにされる割合が多く損耗率も比較的高い。原作で脳無が行った緑谷達が乗る新幹線への襲撃を行った眷属はこの中の一体。
基本的に戦闘用、家政婦用、雑用と大雑把に分けられておりE-グループは戦闘用に分類されている為全員戦闘能力はそれなりにあるがジャンヌ・ダルクと戦えば全滅する程度には弱い(トドのつまりUSJのチンピラの上位互換的な感じ)。しかし、眷属なので吸血鬼の特性は持っているから単純な戦闘能力では測れない程厄介。

徴側、徴弐
徴姉妹と呼ばれるベトナムの偉人。ジャンヌ・ダルクより前の時代の人だが『ベトナムのジャンヌ・ダルク』の異名を持つ。
始祖が持つ眷属たちの中で最も強い。姉はきっちりとした性格で妹の方は軽い口調で話すサイコパス


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08・保須戦争 前編

結構えぐい描写が序盤にあります。注意してください


 保須市にいるヒーローの一人ライトニングは何が起きたのか分からないまま仰向けで倒れている。起き上がろうにも彼は四肢を失い胴体に大きな穴が開いていた。口からは血がとめどなく溢れており自身の死が近い事が分かる。しかし、何故そうなったのか考えても分からなかった。

 彼は突如として始まった保須への攻撃を止めるべく現場に急行したがそこで見たのはゴシックロリータを身に纏った少女たちだった。当初こそこんな少女が?という思いが強かったがヒーローの一人が殺されるところを見て油断はできないと考えて身を引き締めた。

 そして自身の個性【疾風】を用いて少女たちに攻撃を行う。見た目が見た目なので心苦しいがこれ以上の被害を抑えるべく少女たちの腹や顎を狙い気絶させる。

 しかし、【疾風】という素早く動ける個性を持っている自分に少女たちはまるで見えている(・・・・・)かのように即座に対応をして来る。腹に蹴りを入れれば両腕でガードを行い顎へのアッパーは後方に下がる事で回避される。更に相手は数が多く一人のヒーローに付き三人ほどの割合で対応していた。当然数に負けて傷を負い地面に倒れる者が増えていく。ライトニングも体力を消耗し体中に無数の傷を作っていた。なのに相手は誰一人として倒れるどころか傷一つ負っていなかった。

 

「くそっ! これ以上はもたな……!」

 

 その瞬間、彼は何が起きたのかが分からなかった。彼が分かったのは唐突に目の前に何かが降って来たという事だ。しかし、彼が分からなくても仕方がない。何しろ振ってきた物は彼の頭上から音速のスピードで落ちて来て大爆発を起こしたのだから。しかし、とっさの判断で両腕で防御したため両腕と両足は失ったが命を長らえる事は出来た。しかし、続けて放たれたモノが彼の体を貫通して遠くの方で爆発を起こす。

 

「な、ぜ……?」

「あれ? 姉さま、この男まだ息してるよ?」

「何? まさか耐えられたのか? 仕方ない。徴弐、後始末は任せるわ」

「任せてよ! 姉さま!」

 

 そんなライトニングの耳に聞こえてきたのは二人分の声だった。両方とも女性らしい声をしており片方は明るくて元気な声、もう片方は真面目という印象を受ける声だった。そして唐突に彼の視界一杯に女性の顔が映る。年齢的には10代後半ごろだろうか。女子高生にも見えるが制服を着て居なければ女子大生にも見える、そんな大人と子供の間に位置するような容姿。もし、こんな女性と付き合う事が出来れば男にとっては一生に残る思い出となるだろう。

 しかし、それはあくまで”ここにいなければ”の話だ。この場においてはこの女性がいる事も、ましてや笑顔を浮かべている(・・・・・・・・・)のも違和感しか残らない。そして、先程の会話から予想できるのは最悪の想定であった。

 

「君、意外と整った顔立ちをしているんだね!」

 

 マスクを外され素顔を晒したライトニングに向かってそう評価する女性。先程の会話から徴弐という女性という事が分かる。中国っぽい名前にライトニングは薄れそうな意識で誰なんだと考えるが直ぐに彼の瞳は見開かれた。

 

「それじゃ始めようか♪」

「……!?」

 

 そう言うと同時に見せられたのは彫刻刀や手術用のメス、ドライバーやアイスピックなどだった。今この場で出される事によりライトニングはこれから自身がたどる運命を悟ると同時にそれから逃げようともがく。しかし、元々死にかけで四肢は失っているのだ。一歩もその場から逃げられず結局徴弐が興奮を覚えるだけで終わり彼女は恍惚とした笑みと何処か艶っぽい視線をライトニングに向けた。

 

「ふふ♪ 楽しみましょう」

 

 保須戦争終結後にライトニングは死体で発見された。しかし、死体がライトニングだと判断するのにはDNA鑑定を行い結果が出た後だった。何故ならいくつもの細く、鋭利な物で刺された穴が体中にあり、皮膚が剥がされ肉が露出していた事。顔は脳が見える位に皮膚は削られ穴が開き目玉はくりぬかれて近くの地面に踏みつけられて潰されていた。鼻が陥没し歯は全て溶けて固まり(・・・・・・)舌は強い力で引き抜かれていた。

 最初に発見したものはあまりの惨状に気絶し大きなトラウマを植え付けられる事となった。そして、彼が死ぬまでの間、どれほどの苦痛を感じていたのか想像するだけで誰もが吐き気を覚える事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! なんだ此奴は!?」

 

 緑谷出久のインターン先のヒーロー、グラントリノは対峙する少女に対して吐き捨てるように言う。新幹線を襲撃したこの少女を自分と共に外に出したグラントリノはそのまま拘束しようと動くが予想以上の動きを見せ軽い膠着状態に陥っていた。周辺では爆発音に破壊音が連鎖して怒っており保須市は大きな襲撃を受けている事が分かるが彼はこの場を離れる余裕などなかった。

 少女は襲撃時には持っていなかった短刀二つを両手で逆手に持つとグラントリノに向かって行く。普通の人間とは思えないスピードで突っ込んでくるがグラントリノの個性は【ジェット】。足裏に存在する噴出口より空気を出し素早い動きを可能としている。その個性を十全に使い少女の突進を躱すと同時に瞬時に背中に回り込み蹴りを放つ。

 確かな感触と共に少女は吹き飛ぶがまるで痛みなど感じない(・・・・・・・・)というように態勢を立て直し短刀を構える。これが十回目の出来事でありグラントリノは決して倒れない少女に何処か得体のしれない物を感じる。かつて雄英高校で一年間だけオールマイトを指導していた経緯から彼はUSJでの一件を細かに聞いていた。オールマイトの手紙に書かれていたジャンヌ・ダルクと名乗る吸血鬼と目の前の少女は何処か似たところがあった。

 

「はっ! まさかこんなに早く出くわす事になるとはな!」

 

 そして保須市全体で起こっている襲撃が全てこの吸血鬼たちの仕業ならヴィラン連合を超える脅威と言える。グラントリノはこれ以上時間をかけている暇はないと全力を出そうと決めた時だった。

 横から炎が現れ少女の体を一瞬にして包み込んだ。更に二発、三発と続き巨大な火柱を形成する。

 

あ”、あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!

「ヒーロー殺しを狙っていたんだが……、タイミングの悪い奴だ。そこのご老人、後は俺に任せて置け」

 

 そう言ってやってきたのはオールマイトに次ぐトップヒーローの一人、エンデヴァーである。個性【ヘルヘイム】を駆使してヴィランを倒すヒーローだ。

 

「あああああああっ!!!」

「ほう、これを耐えるか。なら!」

 

 炎の中から飛び出しエンデヴァーに短刀を向ける少女。しかし、その動きは先ほどまでのグラントリノとの攻防の時よりも鈍くなっている。決して炎が効いていないわけではなく確かにダメージを与えてはいたが倒すには不十分だったのである。

 しかし、エンデヴァーも流石はトップヒーローの一人というべきか。冷静に後方に下がり炎の槍を作り出すと自らの剛腕を持って槍投げの要領で放つ。少女の着地と同時に心臓の部分に突き刺さる炎の槍は少女の体を貫くとその体を引っ張って壁に突き刺さる。胸を炎の槍に焼かれながら壁に縫い付けられる形となったが絶叫を上げながらもがく。

 

「……こいつは本当に人間か?」

「雄英高校を襲った吸血鬼、知っておるな? それとは違う個体じゃろう」

「成程、つまりこの襲撃はヴィラン連合の仕業か」

 

 グラントリノの言葉を聞き納得するエンデヴァー。しかし同時に手早く決着をつける必要を感じ少女の下に向かうとその顔を掴むと炎を起す。しかし、その炎の色は赤から青へと変わっていく。温度がどんどん上がって行っており少女は手足をばたつかせて抵抗するもやがてブランと手足が動かなくなり抵抗がなくなった。

 エンデヴァーが手を離せばそこには炭化しつつある少女の顔があった。辛うじて呼吸音が聞こえている為生きてはいるが明らかな重症だったが人間離れした動きと回復力を見ているグラントリノからすれば当然とも言える対応に思えた。

 

「さて、この少女をさっさと拘束してヒーローに引き渡す。……と、行きたいところだがどこもかしこもヴィランだらけだ」

 

 そう言うとエンデヴァーは炎の槍を消して少女を自由にすると俵担ぎの要領で肩に乗せる。どうやら連れて行くようだ。少女の方も抵抗する力が残っていないようで無抵抗のままである。はたから見ればエンデヴァーの姿は少女の誘拐犯にしか見えないが状況が状況である。誰も気にする余裕などないだろうし正体を知ればある意味で納得するだろう。

 

「さて、ご老人には悪いが今から言う座標に向かってくれ。襲撃犯への対応はこのエンデヴァー一人で事足りる」

 

 そう言うとエンデヴァーはグラントリノに返事も聞かずに走り出す。グラントリノは全く……、と呆れつつも言われた座標に向かうのだった。

 保須戦争は未だ収集の目途はたっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……、誰だ貴様」

 

 ”ヒーロー殺し”ステインは背後から現れた女性にそう問いかけた。一方でステインと対峙していた緑谷出久と轟焦凍、飯田天哉はその女性に見覚えがあった。何しろその女性、ジャンヌ・ダルクはUSJ襲撃の際の犯人の一人だからだ。ステイン並みに凶悪でこの場にいてほしくない存在の登場にその場の緊張が上がる。

 

「”ヒーロー殺し”ステイン。何やら信念のもとに行動していると聞きましたが、その程度の力で何をなそうというのですか?」

「……ああ、()()()の眷属か」

「我が神の眷属の一人、ジャンヌ・ダルクと申します。()()()()()『オルレアンの乙女』と言われておりました」

 

 ”人間だった頃は”。その言葉に三人は驚く。ジャンヌ・ダルクの正体に関しては緘口令が敷かれ雄英高校の教師及び一部の警察、”上”の人間以外には全く知らされていなかった。

 しかし、驚く三人を置いて二人は話を続ける。

 

「それで……、ハァ……。何の用だ?」

「いえ、私があるのはそこの三人です」

 

 そう言ってジャンヌ・ダルクの視線は三人へと向けられる。その瞳に宿るのは”享楽”。三人と戦い殺す事に快感を覚えているのだ。ステインとは違った殺意とは違う吐き気を催す不快感に三人は一瞬固まる。特に飯田天哉はステインの個性によって動けない。ジャンヌ・ダルクにとっては最初に狙うターゲットとなる。

 ステインを無視して彼らに突っ込もうとするジャンヌ。しかし、その前にステインが立ちはだかる。

 

「……何の真似でしょうか? 邪魔をしないでいただきたい」

「それはこちらの台詞だ。こいつらの相手は俺がする。貴様はどこか別の所に行け」

「……私は神に仕える眷属。神以外の言葉などに従う気はありません」

「そうか……、ハァ……。ならば仕方ない」

 

 ステインは刀を構える。ジャンヌも左手に炎を出し右手に西洋剣を持って構える。騎士の如き立ち振る舞いを見せるジャンヌだがその瞳は騎士の様な立派な物ではなく酷く濁り、歪んでいた。

 

「「っ!!!」」

 

 両者はほぼ同時に行動を開始する。そしてそのまま刀と剣をぶつけ合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はヒーローという存在が嫌いではない。何故なら彼らは総じて”強い”からだ。ヒーロー飽和社会にして超常社会。個性というこれまでにはない特殊な力を手に入れた今の世の人々はその力を振るう事に躊躇をしない。

 ヴィランは当然としてヒーローも()()()()()()()()()()への攻撃を躊躇しない。

 故に、故に!俺はこの世界が好きだ!誰もが俺をヴィランと認定し襲い掛かって来る!そこには躊躇などはない!本気の攻撃だ!そしてそれを防ぎ!近づき!命を刈り取る!それがたまらなく楽しい!

 かつての人間は剣を、槍を、弓を、棒を武器に襲いかかり!科学が進めば銃で、砲で、ミサイルで、核で襲い掛かって来た!そして今は個性という力を武器に俺と対峙する!

 

「ああ、本当に楽しいよ」

 

 俺はそう語る。聞き手は周囲に倒れ伏すヒーローたちと我が眷属たち。血の池の上に立ち、役を演じるように大げさに話す。

 

「ヒーローは時に勝てない相手にすら立ち向かわなければいけない。逃げた者にヒーローを語る資格などはない。……この男のようにな」

「ひ、ひぃっ!」

 

 そして俺は一人の男を舞台へと上げる。倒れ行くヒーローを前に逃げだした偽物。下半身を濡らし、恐怖で体を震わせるその姿はその辺の一般市民と変わらない。

 

「何故このような覚悟も、力もない偽物がいる? これが女で、好みの者なら構わない。だが、貴様のような男がその様な事をするなど反吐が出る」

「う、うぅぅぅぅっ!!??」

 

 その屑を眷属が地面に抑え込む。両腕を伸ばし顔を地面に押さえつけられた男は情けない悲鳴を上げる。……ああ、反吐が出そうだ。俺は愛用する剣を取り出す。人間の骨やいらなくなった眷属の骨や皮を混ぜ込み、我が血に漬け込み出来上がった魔剣と呼ぶにふさわしい一品。屑に使うにはもったいない気もするがこの剣の力を考えれば仕方がない。

 

「さぁ、何か言い残す事は無いか? 逃げたとは言え貴様はヒーローだ。素晴らしい一言を期待するぞ」

「た、助けて……」

 

 俺の期待に応える事も出来ずにその屑はそう言った。こういうのを失望というのだろうか?どこか読めていたとはいえヒーローなら「やれるものならやってみろ!」くらいの啖呵を期待したのだが……。

 俺は剣を振り上げる。自分の死が近づく事に恐怖を感じたのかその屑はもがき暴れ泣き始める。ヒーローを語る屑よ。その命を持って償うがいい。俺は迷うことなく頭部へと振り下ろした。

 何かが潰れる音と共に血が辺りにまき散らされる。しかし、クズの体から噴き出した血は一滴残らずに剣に集まり吸収されていく。我が最高の魔剣。切ったものから溢れた血をみずからに取り込む能力を持ちため込んだ血は腕を通して俺に供給される。吸血よりも簡単に吸収できる為この能力を重宝している。とは言えやはり屑の血。眷属たちの血とは比べ物にならない程不味い。これで俺の力にならないならただのウイルスと変わりはないな。

 

「……っと。どうやら次のお客様は常連のようだな」

「貴様ァッ!」

 

 やってきたのはオールマイトに次ぐトップヒーローにして俺を何度も捕まえようとして来た相手、エンデヴァーだ。肩には……E-004を担いでいる。どうやらエンデヴァー相手では手も足も出なかったようだな。俺は彼を見て笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだな。エンデヴァー。また出会うなんて奇遇だな」

「ほざけ! 貴様の周りにいるのは此奴と同じ吸血鬼だな? という事は貴様がこいつらのボスか」

「洞察力も高いな。その通りだ。俺は吸血鬼の始祖にしてこいつら眷属の主だ」

「……貴様が誘拐していた女性たちは皆眷属にしたのか? それとも吸血鬼らしく血を吸ったのか?」

「まさか! 両方だよ。眷属にして体力を増やし従順にした後で美味しくいただいたさ」

「なら貴様をこれ以上好きにさせる訳にはいかないな! 貴様はこの場で倒す!」

「君に出来るかな? 万年オールマイトに次ぐNo.2のヒーローさん。……おっと」

 

 俺のあおりに対する答えは炎だった。俺はそれを軽く飛び跳ねる事で回避する。そのままエンデヴァーの後方に着地をすると剣を構える。何時もは攫った女を相手にする事を優先して逃げていたが今日は違う。オールマイトが弱っている以上最強のヒーローとの殺し合いを楽しもうじゃないか!

 

「行くぞエンデヴァー! 俺を楽しませて見せろ!」

「貴様に与えるのは刑務所への直行便だ!」

 

 俺とエンデヴァーの戦いはこうして開始された。

 




ライトニング
本作オリジナルキャラクター。保須にいたヒーローってほとんど名前知らないから仕方なく作られたキャラ。序盤で徴弐の拷問を受けてむごたらしく死ぬ。
個性:【疾風】
素早く動ける。それ以上は特に考えていない

一応感想に会ったのですがジャンヌ・ダルクがUSJで使っていたのは個性ではなく吸血鬼の能力です。オール・フォー・ワンより貰った個性は別にあります。
ジャンヌ・ダルク以外の個性を貰った人物やその個性についてはその内出します

因みにヒロアカのWiki見て驚いたことが二つ
13号先生が女性だったこと
蛙吹梅雨の声優が碧ちゃんだったこと


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09・保須戦争 後編

ヒェッ、7000字いってしまった……


 最初の頃、エンデヴァーにとって始祖に対する興味はなかった。連続女性誘拐事件、その犯人はそれまでに20人を超える女性を誘拐しており何度かカメラに映っていた事がきっかけで指名手配されていた。

 エンデヴァーが出会ったのはその頃であり丁度パトロール中に裏路地に女性を引っ張っていく始祖を見かけたのである。

 

「待て! 連続誘拐犯!」

「ん? ……なんだよ。野郎に興味はないぞ」

 

 始祖は男であるエンデヴァーを見て吐き気を催したのか顔をしかめている。そんな彼の右腕には抱きかかえられた女性の姿があった。気絶させられたのかぐったりとしており抵抗する様子はなかった。しかし、それによってエンデヴァーの個性【ヘルフレイム】は封じられたに等しかった。流石の彼もヒーローであるため女性ごと炎で焼くという行為はできない。多少なりとも抵抗していればそちらに始祖が意識を持っていかれた隙を付けるがそれも出来ない。

 とは言えエンデヴァーはオールマイトにこそ劣るがNo.2のヒーローである。炎が使えない状況でのヴィラン対峙などお手の物であった。しかし、それが始祖に通じるかは別として。

 結果として始祖は逃げおおせた。炎の槍を生み出し始祖に放ったり炎の壁を作り行く手を防いだりしたにもかかわらず槍は弾かれ炎の壁は蹴りの風圧で消し飛ばされた。更に狭く入り乱れる裏路地を猛スピードで突き進み呆気なくエンデヴァーの追跡を振り切ったのである。この時、エンデヴァーは小物ヴィランを始めて取り逃がす事となった。後に小物ではないと気づくもその後も捕まえる事も負傷させる事も出来なかった。

 

 故に、エンデヴァーにとって目の前の光景は驚愕に値するものだった。幾人ものヒーローと一般市民の死体が無数に転がり彼らから流れ出た血だまりの上に立つ男。誘拐する時に見せる表情とは違い快楽の笑みを浮かべている。それまで一度として感じた事のない()()()()()()()()()すら出しておりエンデヴァーは初めて始祖が態々逃げていた事に気付いた。その気になれば()()()()()()()()()()()()()()()()一切それを見せて来なかった。何故なのかは分からないがエンデヴァーは自分の命が費える可能性すら想定し対峙する。

 

「貴様はここで捕らえる!」

「やってみろ!」

 

 先手は始祖。剣を握り大上段より振り下ろす。武芸、それも剣術は行っていないのだろう。その振りは達人からすれば赤点を下される様な素人の攻撃だ。しかし、本人の力が合わさる事で達人すら出せない神速の一刀へと変化している。

 だが、エンデヴァーはそれを刀と並行になるようにして回避する。僅かな動きで命を失いかねない一撃を躱すエンデヴァーは反撃とばかり右手に炎を出す。振り下ろし終わる前に始祖の顔面めがけて拳の形をした炎が飛び出す。通常の人間なら顔面に喰らいそのまま全身に炎が周り軽く表面を焼くだろう。しかし、相手は始祖である。炎の動きを()()()()()()()回避する。そのまま後方に跳躍し一旦距離を取る。僅か数秒の間に起きた出来事は両者の実力の高さを見せると同時にエンデヴァーは苦々しい顔を、始祖は楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「(やはり届かんか!)」

「(オールマイトの様な超パワーではなく炎を用いた多彩な攻撃に本人の素の身体能力が合わさり最高の敵となっている!)」

 

 エンデヴァーは始祖との実力差を感じる。全身全霊を込めて放った一撃を()()()()()のだ。エンデヴァーの炎は正面からでは当てづらいという事が証明されたのである。

 一方、始祖はエンデヴァーを最高の敵と認定していた。エンデヴァーに負ける気は無いが気を抜いて適当に相手できる者でもない。個としては最高ランクの実力者であり力をだして”戦い”が出来る相手であると。

 

「ハハハハハハハハハハっ!!! やっぱりオールマイトに次ぐトップヒーローだけの事はあるな! 楽しいよぉ! エンデヴァー!!」

「くっ!」

 

 地面が陥没する程踏み込み一気に近づく始祖。一回の瞬きの間に懐に入られたエンデヴァーは全身を炎で覆う。しかし、普通の人間なら炎に怯むか火傷を負うが始祖にそんな事は効かない。剣を持っていない左手を握るとエンデヴァーの腹に深々とめり込ませる。骨が軋み、肉が引き裂かれる音が聞こえてくる。

 

「ぐぅっ!」

「まだまだ!」

 

 素早く拳を抜くとその勢いを利用して体を回転させる。右足を高く上げエンデヴァーの頭部へと蹴りを入れる。頭の左側面に強力な一撃を喰らったエンデヴァーは視界が歪み一瞬だが、気を失う。しかし、蹴りを喰らった勢いで地面を転がりながら吹き飛んだ影響ですぐに覚醒する。

 

「へぇ、俺的には頭だけ吹き飛んでいくと思っていたが頑丈だな」

「このくらい、で! 死ぬほど、柔ではない!」

 

 視界が歪み、体はぐらつき、全身の何処かしこも大なり小なり痛みが走っているがエンデヴァーはそれらなどまるで存在しないかの様に立ち上がる。その姿はどんなことがあろうとも決して折れない不屈の闘志を思わせる。とは言え始祖から受けたダメージはきっちりと入っている。このままでは近いうちに倒れる結果となるだろう。

 

「……なら、もう少し力を入れてみるか」

 

 始祖はそう呟くと再びエンデヴァーの懐に飛び込むと今度は一つ一つが致命傷となりえる拳の連打を打ち込む。頭部、両肩、腹部、胸部、両腕……。上半身を中心にありとあらゆる箇所を殴りつける。連打を受けエンデヴァーの体は大きくのけぞるがそれでも倒れる事は無い。少しづつ後退しつつも決して倒れる事は無い。故に、拳のラッシュは何時までも続く事となる。

 

「ほらほらぁ! どうしたエンデヴァー!? これじゃただのサンドバックだぞ!」

「分かって、いるさ……!」

 

 エンデヴァーはビルの壁まで追い込まれるともう後ろに下がる事も倒れる事も出来なくなった。壁と拳に挟まれる形となるエンデヴァーの体が先程よりもダメージを与え始める。そこから数分程だろうか、始祖は一度ラッシュを止める。軽く息が上がっており浅い呼吸を繰り返す。

 対するエンデヴァーは倒れるでもなく壁に背を預けるようにしながら立っている。しかし、ラッシュが止まっても動く気配はなく始祖は死んだと判断した。

 

「は、はは。結構楽しめたぞ。今日はこれくらいで十分かもしれないな」

「……俺は、まだだ」

「っ!?」

 

 始祖がエンデヴァーに背を向けた時だった。鋭い眼光で始祖を睨みつけるとそのまま腕ごと体を抱きしめて拘束する。一瞬の事に驚き、硬直する始祖に構わずにエンデヴァーは足裏から炎を射出しビルを超え遥か上空に上り始める。

 

「貴様! 何を……!」

「ふむ、ここならばいいだろう」

 

 そう言うとエンデヴァーは炎を噴き出す。先程よりもどんどん熱は上がっていく。ここで漸く始祖もエンデヴァーが行おうとしている事に気付き焦ったような声を出しながら離れようともがく。

 

「エンデヴァー!? まさか……!」

「俺はこの言葉が嫌いだ。奴がよく言っている言葉だからな。だが、この()にこれほどふさわしい言葉はない! まだ未完成で生物相手には行った事はないが貴様を倒すにはもってこいの技だ!」

 

PLUS ULTRA! プロミネンスバーン!

 

 瞬間、夜の保須市を巨大な炎が照らす。吸血鬼に襲われ絶望し、命を潰えようとしている誰もがその炎を見た。そして、その炎は絶望していた人々に希望というものを与える事となった。

 数秒間炎の塊はその場に留まっていたがやがて中心部が落下していき巨大な爆風を生むのだった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 エンデヴァーは爆心地にて荒い息と共に倒れ込む。自身の持てる全てをつぎ込んで放った必殺技。その威力はすさまじく現に喰らった始祖は()()()()()()()()()()()()()。体のそこまで炭と化したのか落ちた衝撃でいくつもの破片となっている。燃え尽きた炭の如き灰と化していた。

 倒した。そう安堵するエンデヴァーだが次に見た光景で固まる。

 

「……まさか、ここまでとはな」

 

 灰と化したはずの始祖の体から血の霧が吹きだし少し離れた個所でまとまり始める。それはやがて人の形を作り、焼け死んだはずの始祖が現れた。倒したと思ったはずの存在の復活にエンデヴァーは明らかに動揺する。

 

「馬鹿な……!?」

「いやいや、こちらだって無傷ではないからな? 体の8割が今の攻撃で焼け消えた。今だって始祖としての能力を用いて元の姿になっているに過ぎない。先程のような戦いはもうできないさ」

 

 始祖はそう言うがエンデヴァーの現在持ち得る全てをつぎ込んでも倒せなかったという事実は彼の心を大きく傷つけた。相手も戦えないかもしれないがエンデヴァーは逃げることどころか立ち上がる事さえ出来ない。今すぐにでも気を失っても可笑しくはない状況だったのだ。

 それを知ってか知らずか、始祖はエンデヴァーの下に近づくとその頭を思いっきり踏みつける。軽く地面にめり込むエンデヴァーに笑いながら話しかける。

 

「まったく、あんな隠し技があったとはな。おかげで暫くは血の補充をしないといけない。その原因となったお前にはもう少し罰を受けてもらおうか」

 

 始祖はそう言って笑うと動けず、気絶しかけているエンデヴァーの体を踏みつけていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、裏路地でのジャンヌ・ダルクと”ヒーロー殺し”ステインの戦いは苛烈を極めていた。ジャンヌの炎から逃れられるように裏路地から表通りに出た二人は剣をぶつけ合う。二人の体は大小さまざまな傷が出来、血を流していた。今回で何十回目の切り合いが行われ剣と刀が激しくぶつかり合う。

 

「ハァッ!」

「フッ!」

 

 ステインが胴を狙って左手の短刀を横なぎに払う。しかし、それをジャンヌは炎を出現させる事で牽制し一瞬怯んだ所を見て剣に力を込めていく。右手のみでは抑えきれないと判断したステインは一旦下がり再び距離を取る。

 

「ハァ……。厄介な」

「その台詞、そのままお返ししよう」

 

 ジャンヌはステインの戦闘能力の高さに舌を巻く。眷属の中ではトップ5に入る強さを持っていると自負するジャンヌだがステインとは互角の戦いが続いていた。理由はステインの個性に関係しており彼に血を舐められてから明らかに動きが鈍くなった。しかし、ステイン的にはあり得ない事だったのか明らかに目を見開いて驚いていた。

 ステインの個性【凝血】は本来なら舐めた血の持ち主の動きを止めるものだ。しかし、ジャンヌは動きが鈍くなろうとも動き続けていた。眷属になった影響かは分からないがこれによりステインは何時もの動きである”血を舐めとって動きを奪ってから殺す”と言う事が出来なくなった。

 その為、ジャンヌの剣と炎に警戒しつつ接近戦を仕掛けるしかない。ステインに逃げるという行為は存在しない為ジャンヌをどのように排除するかを考えていた。しかし、それはジャンヌとて同じでステインの技量の高さ故に数分で決着を付けると思っていたのに未だに有効打を与えられていなかった。

 

「……仕方ない。()()を用いるのはあまり好きではないのですが」

 

 そう言うとジャンヌは剣を仕舞う。すると体に変化が現れた。体が光り始めその背中より天使を思わせる羽が出現し頭には輪っかが生まれる。ゆっくりとジャンヌの体は持ちあがり浮かび上がる。そして光は収まっていくが体を覆うように光がうっすらと出ている。

 オール・フォー・ワンより受け取った発動型の個性【天使】。天使の如き行いが出来るという強個性でジャンヌはステインを見下ろす。

 

「それでは、決着を付けましょうか」

「ハァ……。できるものならやってみろ」

 

 ジャンヌは右手をステインに向ける。するとビームが出てステインを襲う。大きく回避すれば大爆発を起こし爆風でステインの体を吹き飛ばす。態勢を整えようとするステインだがそこにジャンヌの追撃は入る。光で出来た巨大なハンマーを思いっきり振り回しステインの体に当てる。当たった瞬間、大爆発を起こしステインは再び吹き飛び今度はビルにぶち当たる。

 

「これは強いのですが私には似合いませんね」

 

 ステインを潰したと判断したジャンヌが元々狙っていたターゲットの下に向かおうとした時だった。遥か上空で炎が巻き起こる。夜の街を照らすほどの炎に鬱陶しさを感じるジャンヌは何かに気付いたのか焦ったような表情をすると個性を仕舞い跳躍して中心地から落ちてくる炎の下に向かって行った。

 残された表通りは静かとなるが直ぐに応急手当をした緑谷出久達が現れる。それと同時にビルに突っ込んだステインが姿を現した。

 

「ヒーロー殺し!?」

「ハァ……。あの女はどこかに行ったようだな。なら……」

 

 ステインは軽く辺りを見回しながらそう言うと右下にいる緑谷出久達に目線を向ける。明らかな殺気を感じ緑谷出久達は身構えた。

 

「最初の目標を殺すとしよう」

「っ! 来るぞ!」

 

 中断されたステインと緑谷出久達の戦いが再び始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎が落ちて言った場所にたどり着いたジャンヌはそこに立っている始祖を見て悲鳴のような叫び声をあげた。

 

「神!」

「おお、ジャンヌか。そっちはどうだった? ()()()()()?」

「それどころではありません! 神があの中にいると分かった時、私は生きた心地がしなかったのですよ!?」

「すまないな。少し油断をしてしまった」

「ご主人様!」

「ご主人様~!」

 

 そこで都合よく徴姉妹がやって来る。妹の方は楽しみの途中だったのか首だけの死体を持ってきている。断面の様子から頭を掴んでそのまま持っていこうとしたため途中でちぎれたと思われる。そんな頭だけの死体の表情は絶望で歪んでおり死ぬ前によほどの事があったのだろう。しかし、この場において彼を気にする者などおらず持っていた徴弐はもういらないのかその辺に投げ飛ばして始祖に抱き着いた。

 

「ご主人様~! 死んじゃいやです~!」

「ご主人様、どうか自らの体をご自愛くださいませ。我々はご主人様あっての存在。ご主人様亡きこの世界に生きる意味はありません!」

 

 泣きじゃくる徴弐と悲し気な表情を見せる徴側を見て「悪い事をしたな」と反省する始祖。自らをここまで慕う美女たちの様子を眺めながらもう少し慎重に行くべきだったかと思う。そして、始祖は遠くの空を眺めるとひところ言った。

 

「……どうやら半数はやられたようだ。他の市に向かった者は全滅、保須市を囲むようにプロヒーローたちが集結しつつある。これ以上の戦闘は他はともかく俺は無理か」

「我が主、遅くなりました」

 

 そこへ一人の女性が再び現れる。インドを思わせる民族衣装に身を包んでいるがその下にはタイツの様な物を着込んでいる女性は始祖にむあって膝を付き頭を垂れている。

 

「ラクシュミーか。お前も楽しめたか?」

「はい。ヒーローを幾人か討ち取りました。弱かったですがヒーローらしくたち向かってくる者ばかりで戦闘が楽しめました」

「それは良かった。それとそろそろ引き上げようと思う。残った眷属はここに集めて一斉に戻す。それまでの間ここで殿の指揮を頼むぞ。ここから離れなければ戦闘も可だ」

「! ありがとうございます! お任せください!」

「では、頼んだぞ。ジャンヌと徴姉妹もそれで良いな?」

「私としては欲求不満ですが始祖の体が気になりますので構いません」

「私はたくさん拷問できた(遊べた)から良いよ~!」

「私も、恥ずかしながら建物の破壊や密集する市民への砲撃は軽く絶頂を覚えました……///」

 

 始祖は三人の様子に満足げに頷くと真っ赤な霧を生み出すと四人を覆いやがてその場から姿を消した。撤退を確認したラクシュミーは懐から閃光弾を取り出すと空高くに打ち上げる。これで生き残った眷属たちが一斉に向かってくるだろう。その際に向かってくるであろうヒーローとの戦いを予想するとラクシュミーの口角は上がり狂気の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に保須戦争と呼ばれる事になる保須市襲撃はステイン、ヴィラン連合の脳無、そして始祖率いる100近い吸血鬼の攻撃により破壊された。ヒーローは数十人規模で死亡し、それと同じくらい重傷者を出した。その中にはエンデヴァーもおり上半身の複雑骨折を始めとする怪我を負い入院する事となっていた。

 更に一般市民に至っては数万規模で死傷者を出しており逃げ出そうとしている所に敵の砲撃が降り注いた結果だった。保須市は復興の目途がたたないほどしたいと瓦礫の街と化した。

 一方でヴィラン側はほぼ無傷と言ってよかった。ステインは捕らえる事に成功し、ヴィラン連合の脳無は全て撃退した。吸血鬼も40名以上を倒し、拘束していたが首謀者は誰一人として捉えられなかった。更に、捕まえた吸血鬼たちは途中で暴れだし、()()()()()()()()()という謎の現象が起こり全員が死亡した。更に死体も灰となり遺体すら残らなかった。

 幸いな事にDNA鑑定は行う事が出来たため調べた結果、そのうちの一人は超常黎明期の人間であることが判明した。既に百年近く前の人間が若々しい姿で生きていたという事実はあっという間に緘口令が敷かれ上層部のみが知る事実となった。

 政府は本格的に始祖の力を欲しがるようになり警察を通じてヒーローに必ず捕まえるようにと圧力をかけ始めた。一方で、ステインが拘束前に言った言葉も世間を大きくにぎわせた。

 

誰かが、血に染まらねば……! ヒーローを、取り戻さねば……! 来い! 来てみろ偽物ども! 俺を殺して良いのは、本物のヒーロー! オールマイトだけだぁっ!

 

 この動画は削除とアップのいたちごっこが繰り返されるがステインが所属していたヴィラン連合に、バラバラだった悪意が集まるきっかけとなっていくことになる。そして、エンデヴァーすら倒せる存在がヴィラン連合と手を握っているという話も広まり人々はオールマイトという平和の象徴によって守られてきた世界が少しづつ崩れていくのを感じる事となった。

 そして、これらの存在と戦う事になるという事実は現職のヒーローたちに重くのしかかる事となった。ヒーローたちは本当の命のやり合いを行うという事実に心が折れ辞職する者も現れ始めステインが掲げていた”英雄回帰”という思想が正しかったという事実を証明する事となるのだった。

 




英雄回帰とは
”ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない”
というステインの主張。原作ではステインのこの主張が正しいと証明されるのはオール・フォー・ワンやステインがタルタロスから脱獄した後だがこの世界では少し早めに起こる(とは言えまだ仮初の平和は維持できている為原作ほどの深刻な状況ではない)。

ジャンヌ・ダルクの個性について
個性:【天使】
天使っぽい羽と輪っかを出して体が光りだすという個性だが光を集めてビームを放ったり触れると大爆発を起こす武器の形に出来る(ワンピースの黄猿がやった剣を出したやつな感じ)
他にもいろいろできる為強個性に分類されるが本人としてはあまり使いたがらない。理由は「かつて信仰した(キリスト)を思い出すから」。これを使わなくても本人は強い為特に問題は起きていないがこれを使えば眷属の中でトップに君臨できるだけの実力が出る。

ステインの【凝血】が効かなかった理由
眷属と化した影響で血が人間とは微妙に変化したため。それ以外は考えてない(ごり押し)

次話は保須戦争のその後を書く予定


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10・保須戦争 その後

アンケートの結果次第で次回が劇場版か林間合宿になるか決まります


 保須戦争で受けた被害は圧倒的にヒーロー側は上だった。幾人ものヒーローが殺され命のやり取りをする事を恐れた一部のヒーローが辞職をするほどの影響を与えた。保須市の復興は数日が経過した今でも以前として目途がたたず各関係者は対応に追われていた。

 では被害が少ない皮のヴィラン側は宴会ムードかと言えば違う。始祖は大きく損耗しその補填をするべく静養中であり始祖を心配する眷属たちは引きこもりお通夜の空気となっている。当の本人はそんな事になっている事に苦笑しているがそれだけ心配してくれていると悪い気はしていなかったがどちらにしろ直ぐに力を取り戻す必要がありゆっくりとしていられなかった。

 そして、一番雰囲気が悪くなっていたのはヴィラン連合である。特に死柄木の機嫌は急降下しておりステインや吸血鬼たちの事ばかりを特集するマスコミに苛立っていた。

 故に、死柄木はバーにいる彼の人形経由で連絡を取った。

 

『何の用だ? 死柄木弔』

「お前、なんで保須に現れた?」

 

 死柄木の利きたい事は完結であった。手柄を横取りするかのような始祖の動きは最初から気に入らなかった。こいつらのせいでヴィラン連合の功績が奪われたと感じている死柄木の表情は険しかった。

 

『……ああ、それか。何、久しぶりに暴れたくなっただけさ。それで、ステインや死柄木も保須に行くと言っていたからな。俺もそこで暴れただけさ』

「そのせいでこちらは脳無をただ失っただけに終わったんだぞ! どうしてくれるんだ!」

『勿論それは承知している。ジャンヌ・ダルクだけではなく他にも何人かを……』

「ふざけるな!」

 

 派遣する眷属を言おうとする始祖を遮り死柄木は声を荒げる。突然の怒声に始祖は黙り込んだ。死柄木は続ける。

 

「てめーがそうやってこっちに増やせば増やすほど世間は俺たちではなくお前を見る! そうなればヴィラン連合としては終わったも同然だ! てめーが動くたびにこちらはその余波を受けるんだよ」

『……成程。確かにそうだな。悪かったよ。ならば何が他の望みがあるか?俺に出来る事なら何でもするぞ』

「なら言おう。暫くお前らは動くな」

『……それだけで良いのか? てっきり吸血鬼にさせてくれとか言うと思ったが』

「ふざけるな。誰がてめーの玩具になるか」

 

 死柄木は知っている。眷属となった者は始祖に絶対服従するように何もかもが変えられてしまう事を。しかも本人が嫌がっていても始祖が望んだ状態で血を摂取すれば眷属になってしまう。そんな物に、死柄木はなりたくなどなかった。

 

『どちらにしろ眷属になれるのは俺が気に入った女性のみだ。死柄木、お前ではなれないからな。とは言えそちらの要求は承った。暫くは力を取り戻す事に専念しないといけないからな。大体二か月ほどは動けないさ』

「そのくらいで構わない。絶対に騒ぎを起こすんじゃないぞ」

『分かった分かった。こちらは絶対に動かないよ』

 

 それだけ言うと始祖は通信を切る。ノイズのみが走る事数秒。メッセンジャーである少女の手によってこちらからも通信が切れた。少女はそれだけの動作を行うと再び置物の様にピクリとも動かなくなった。死柄木は始祖も目の前の少女も気に入らず舌打ちをすると奥の部屋へと引っ込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校に通う轟焦凍にとって実の父であるエンデヴァーは憎むべき対象だった。自らオールマイトを超える事を諦めたエンデヴァーは個性婚という古びた行為で轟の母親と結婚した。長男は死に次男と長女は求めていた個性が出なかった事から興味を失い唯一自らが望む力を発現した轟にスパルタ教育を施した。

 更に精神的に参っていた母親から拒絶された事をきっかけに轟はエンデヴァーを憎み、父親の個性である左側()は絶対に使わないと心に決めた。しかし、同じクラスの緑谷出久の右腕を犠牲にした説得により炎を使うようになりそれまで一度もお見舞いに行かなかった母親の元へ向かい和解した。そして、父親とも未だ溝や壁はあるが向き合う事を決めた。……その矢先だった。

 ステインを捕縛しようとしていたエンデヴァーは保須戦争に巻き込まれ意識不明の重体となった。上半身を中心に傷を負い未だ目覚めていなかった。そんな父親を窓越しに眺める轟。

 

「親父……」

 

 轟は向き合うと決めた訳だが他の家族はそうではない為見舞いには来ていない。尤も、母親は入院中であるためお見舞いに来たかったとしても来れる訳ではないが。

 

「……」

 

 轟は暫く眺めた後その場を離れる。その右腕は強く握られ父このような姿にした人物への怒りを募らせていく。しかし、ステインに憎しみを募らせ目を曇らせた飯田天哉の様な真似はしないように気を付けながらいずれ対峙して捕まえると心の中で誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故ですか!?」

 

 警察官の塚内は自身の上司に食って掛かる。同じ部屋にいる警官たちは塚内の怒声に驚き彼の方を見るが直ぐに自身の仕事に戻っていく。一方の上司は予想していたのか軽く息を吐くと言った。

 

「”吸血鬼を見つけた際は相手が暴れていない限り手を出してはいけない”。これに不満があるんだろう?」

「その通りです! 彼らは保須市を襲撃し大量の死傷者を出しているのですよ!? 何故、こんなふざけた命令が……!」

「吸血鬼のDNA鑑定をした結果百年以上前の人間だと判明した。分かるか? これは”上”の人間にとって喉から手が出るほど欲しい物なのだ。死体は全て血が無くなっており体さえも灰になった。だからこそ現状では唯一吸血鬼に出来るであろうあの”男”の不評を買いたくないのだろう」

「そんな馬鹿な……!」

「……お前の気持ちは分かる。俺もこれには反対だからな。だがな、その結果がこれだよ」

 

 そう言って上司が見せたのは一枚の紙だった。上司の降格と地方への左遷という内容であり塚内は絶句する。上司は熱血というほどではないが警察として優秀な成績を残したうえに不正を許さない人物でもあった。それだけに今回彼が受け入れた事が驚愕だったのだが事実を知らされて塚内は顔を青ざめる。

 そんな塚内に上司は言った。

 

「それだけ”上”は本気という事だ。近いうちに接触が持たれる。”上”は何十、何百、何千と犠牲にしてもこの力を欲しているようだ。塚内、お前は不満かもしれないがここは従ってくれ。決して俺の様になってはいけない」

「……くっ!」

「お前はまだ”上”の目には入っていない。今のうちに仲間を集め来る日に動けるように準備をしておくんだ。……塚内、俺は何時でもお前の活躍を見守っているぞ」

 

 数日後、塚内の上司は左遷された。そしてその約一月後、変死体で発見される事となる。

 上司がいなくなった数日後には交渉の使者を出すも……。その使者は全身の血が抜かれた形で見つかった事で”上”は方針を転換し始祖の捕縛に全力を注ぐように指示を出す事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ……」

 

 日本の片田舎に住むその女子高生は順風満帆な人生を送ってきた。【コピー&ペースト】という強個性を持ったが父の跡を継いで農家となるつもりでいた。個性を使う事に興味はなくヒーローへの憧れは無かった。それでも両親の愛を一心に受けて育った彼女はいずれ良い婿を見つけ家族で仲良く日々を過ごすと思っていた。

 だが、それも今は過去の話だ。それなりに広い実家の居間。その空間は地獄絵図と化していた。両親()()()()()が辺りに飛び散り白を基調とした空間だった居間を真っ赤に染め上げている。そんな空間を学校より帰宅した彼女は見て固まった。

 故に、目の前に立つ二人の少女など視界に入っていなかった。

 

「おい二コラ。こいつであっているのか?」

「ええ、キアラ。間違いありませんわ。さっさと確保してこの場を離れますわよ」

「はん! 言われるまでもない」

「……え?」

 

 二コラとキアラという女性は未だ固まる彼女に近づくと両腕を掴み()()()()。ゴシャという奇妙な音が居間に響く。次いで彼女を襲う激痛。思わず悲鳴を上げようとするがキアラが口を、二コラが喉を抑える事で声が聞こえないようにする。

 

「ー!? ーーー!!!」

「おいおい、騒ぐなよ。直ぐに楽になるからな」

「ええ。その通りですわ。だから安心して生を実感してくださいな」

 

 三人の周りに真っ赤な霧が出現し周囲をグルグルと回る。やがて周囲の景色が見えなくなるまで霧が濃くなるとすぐに霧は晴れる。しかし、そこは先ほどまでの居間ではなく薄暗い空間だった。

 二人は彼女から手を離すと部屋の中心に向かって歩き膝をついて頭を垂れた。

 

「マスター。任務完了しました」

「ご命令通り両親を殺害後目的の人物を確保しました」

「そうか。ご苦労だった」

 

 そう言ってその人物、始祖は任務を終えた二人の眷属の頭を撫でる。それだけで二人は顔を赤くして狂信的な瞳を始祖に向ける。暫く撫でていたが連れて来た女が逃げようとしているのを確認すると一瞬で目の前に立つ。

 

「ひっ!?」

「ふむ、顔は悪くはないが。好みではないな。予定通り()()()()

「やめて、お願いだから……あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁっ!!!???」

 

 両腕を潰され腰が抜けた女は必死に命乞いをするも始祖は耳を貸すことなく彼女の腕を引っ張りかぶりつく。潰されたとは言え未だ神経は通る腕を引きちぎり咀嚼する。血をすすりながら笑みを浮かべる様はまさに吸血鬼と呼ぶにふさわしいだろう。

 だが、その行為では上手く血を取れなかったのか。眉を顰めると魔剣を取り出し女の胸に深々と突き刺した。ドクンドクン、と鼓動をしながら急速に女から血を抜き取っていく魔剣。血を抜かれた女は直ぐに声も出せなくなり青白く体を染め上げていきやがて動かなくなった。そして魔剣を血を吸い取り終えたのか血を吸う事は無くなった。それを確認した始祖は剣を抜き取る。そこには血が一滴も付着していなかった。

 始祖は魔剣から血を吸い取ると手を握りながら何かを確認すると言った。

 

「……これで漸く3割か。完全回復まで後7割か。まだまだだな」

「それよりも()()()()()()()の確認をした方が良いのでは?」

「ん?それもそうだな。早速試してみるか」

 

 始祖はそう言うと二コラに手を伸ばす。やがて何かを感じ取ったのかかざすのを止め次いでキアラに手をかざした。数秒ほどそうすると二人に言う。

 

「キアラ。二コラの持つ個性を()()してお前に()()()。試してみてくれ」

「分かりました」

 

 キアラは始祖に背を向けると足に力を入れた。瞬間地面が凍っていく。それを確認した始祖は笑みを浮かべた。

 

「どうやらきちんと作動したようだ。これで二コラの【氷結】とキアラの【火炎】が二人とも使えるようになった。流石はオール・フォー・ワンに似た個性だ。中々に凶悪だ」

 

 始祖がその女子高生を知れたのは偶然だった。あまりにも強い個性を持ったことで女子高生の両親は【コピー】として個性届を提出した。しかし、偶々偵察中だった眷属の一人が真相を聞き始祖に連絡したという訳である。結果女子高生を攫ってきて血を吸う事で個性を得られるか確認したという訳である。女子高生が好みの人物なら眷属にする事も考えたが好みではなかったため力を取り戻す事も含めて血を奪い取ったのである。

 

「これはアニー・ビーンに渡せ。アイツなら喜ぶだろうからな」

「分かりました。ではその後に、その……」

「ああ、任せろ。今日は二人とも可愛がってやるよ」

「マスター///」

 

 始祖に抱き寄せられた二人は顔を染め熱っぽい顔で見上げる。しかし、大事な命令を受けた二人は名残惜しくも離れ女子高生の遺体を二人がかりで持つと部屋を出て言った。一人、残された始祖は両腕を見ながら笑みを浮かべた。

 

「これで眷属たちは個性を持つ事が出来る。更なる戦力増強はこれで成ったな」

 

 始祖はそう言うと笑い声を上げるのだった。

 




女子高生について
田舎に住む女子高生。見た目は可愛いが始祖の好みではなかった。強個性を持って生まれたがその個性が狙われる可能性を考えて彼女の両親によって物間と同じ【コピー】となった。しかし、偶然発見した眷属により襲撃を受け両親は殺され女子高生も血を抜かれて死亡する。
個性:【コピー&ペースト】
オール・フォー・ワンと似た個性。半径2メートルほどにいる人物の個性をコピーする。コピーした個性はそのまま自分の個性として扱うできるほか他者に与える事が出来る。コピーしている為同じ個性を複数の人間に与えると言った事も出来る。しかし、特殊な個性である【オール・フォー・ワン】や【ワン・フォー・オール】などの個性はコピーできない。更に与える側の人間によってなじめなかったり強すぎる個性故に体が吹き飛んだりする。因みにあくまでコピーの為与えたら最後、取り外す事はできない。また、同じ個性を与えられるのは一人に付き一回まで。
始祖が眷属たちの強化の為に欲しがった結果奪われる。基本的に眷属は人間よりスペックが高い為事実上ノーリスクで個性を与えることが出来る。
元々作者が別の作品で考えていた個性だが結局没になった為こちらで登場させた。

二コラとキアラ
戦場のヴァルキュリア4に登場する敵キャラ。作者が戦ヴァルで一番好きなキャラ。
超常黎明期に始祖がロシアで拾った孤児で拾ってくれた恩と眷属化の影響でジャンヌ並みの狂信者となる。特殊部隊的な動きをする事が多い。

アニー・ビーン
ソニー・ビーンの子供のうちのどれか。ソニーと同じくカニバリズム(人食者)であり眷属となってからは誘拐してきたが好みじゃよく見るとなかった人物とかの後処理を任されている。その関係から戦闘向きではない為戦場に出る可能性はほぼ皆無。


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11・ヴィラン連合の拡大

アンケート結果を踏まえて次回から林間合宿に行きます
そして原作キャラが死にます(唐突)


 保須戦争と名付けられた俺たちが起こした戦争から大分経った頃、俺は再び死柄木より呼び出しを受けていた。いつも通りにタブレット越しで話すが最近では直接会っても良いかもしれないと感じていた。オール・フォー・ワンは未だ警戒するべき相手だが死柄木は()()()()()は警戒するよりも信頼を得る方が良いと感じてきた。

 最初こそヴィラン連合と言う存在が分からずに警戒したが一度中に入ればその必要はないと感じる。次の計画の前に一度顔合わせをしてもいいかもしれないな。

 通信を開始し、映るのは何時もの薄暗いバー。そして死柄木と黒霧。だが、いつものとは違い知らない顔が三つほどあった。一人は女子高生と思われる少女。中々に好みだ。そして何より()()()()()()()を感じる。きっと俺たちに近い者か趣味がそう言う者なのだろう。ぜひとも眷属に欲しい逸材だ。二人目は何やらつぎはぎだからけの青年。二十代前半くらいと思われるが何処かエンデヴァーに似ている気がするが気のせいか?

 そして最後の一人は白髪の眼鏡をかけたおっさんだ。確か、裏では有名なブローカーだったはず……。クレオパトラがいれば聞けたかもしれないが今は別件で近くにはいないし態々連絡する必要もないな。

 通信が始まっているのに気づいたのだろう。青年が俺の方を向く。

 

『……お前が吸血鬼か?』

「おや? 映像は付けていないはずなんだがな」

『ただ、そう感じただけだ』

『もしかして吸血鬼ですか!? 私見てました! 良いですね! 私、血が好きなんです!』

「……成程。なら俺の眷属にならないか? 毎日血が浴びるほど飲めるぞ」

『本当ですか!? 私なります! あ、私トガヒミコっていいます!』

「トガちゃんね。よろしく。……あ。死柄木はそれでよかったか? もしふざけんなって言うならそっちを優先するけど」

『俺は餓鬼が嫌いなんだよ。そっちで引き取ってくれて構わない』

 

 どうやら死柄木は餓鬼が嫌いなようだ。それが雄英高校襲撃より後なのか前からなのかは分からないがな。それにしても……

 

「死柄木。こいつらはお前の仲間候補か? それなら邪魔しちゃあれだしまた今度にするが」

『何言ってんだ。こいつらが来たから通信させたんだろうが。お前も協力者なら見極めに協力しろ』

「とは言っても俺に出来る事など限られているが」

 

 死柄木はいら立っているのか若干いつもより当たりが強い。まぁ、嫌いな存在(ガキ)がいるんだ。仕方ないかもしれないな。

 

『死柄木弔。あの大物ブローカーの紹介です。戦力的には期待できますよ』

『なんでもいいが手数料は頼むよ。黒霧さん、取り敢えず紹介だけでも聞いておきなよ。まず、こちらの可愛い女子高生は名前も顔もしっかりメディアが守ってくれちゃっているが連続失血死事件の容疑者として追われている。半分ほどはそこの吸血鬼さんの仕業だったりするがな』

「それは失礼した。とは言え流石に証拠は残さないようにしているんだがな」

『だからこそ分かるのさ。トガ君の仕業とされている半分は()()()()()()()()()()()()だったからな。大体そう言ったのは家の中で起き暴れた痕跡だけが残っているという奇妙な状況だ』

「成程。死体以外の証拠は隠滅していなかったな」

『そんな訳で自己紹介だ』

『トガです! トガヒミコ! 吸血鬼に憧れてます! 眷属になりたいです!』

『……そう言う訳だ。すまないね。ヴィラン連合への紹介のはずが吸血鬼さんの方への紹介になってしまった』

『別に構わないさ。俺はガキが嫌いだ。その隣の様な礼儀知らずもな』

 

 死柄木は呆気なくトガちゃんを俺に任せてくる。俺としてもそれで構わない。後で黒霧に転送を頼むとするか。しかし、まさかこんなかわいい娘がいたとはな。最近じゃ眷属が可愛い娘を連れてくることはほとんど無くなったからな。俺自身で確認する必要が出てくる。

 

『次にこちらの彼。目立った罪は犯してないが”ヒーロー殺し”の思想に偉く心酔していてね』

『……不安だな。この組織。本当に大義はあるのか? 加えて、そこの吸血鬼も気にくわない。本能のままに暴れる獣にしか見えない。このイカレ女を引き込もうとする辺りもな』

『えぇ!?』

 

 青年は平坦な声でそう言う。確かに、人間からすれば俺たちは本能のままに楽しみ、攫い、殺戮を行う獣だろうな。だがな、()()()()()()()にそう言われるのは納得しない。恐らく、この世界で俺と対等に話したり見下したり否定していいのはオール・フォー・ワン、オールマイト、そしてステインだけだ。彼らは力がある、威厳がある。決して青年の様なただの人間が貶していい存在ではない。

 

『おいおい、そこの破綻Jkですら出来ている事をお前はできていない。先ずはまずは名乗れ。大人だろうが』

『今は荼毘と名乗っている』

『てめぇ、舐めてんのか?本名を名乗れ』

『出す時になったら出すさ』

 

 ふむ、破綻しているというのは死柄木と同じかもしれないが礼儀はできているな。確かに自己紹介の場において名を名乗るのは当たり前だ。それが出来ていないのだから礼儀知らずと苛立っても可笑しくはないな。

 

『とにかく、ヒーロー殺しの意志は俺が全うする』

『聞いてない事は言わないでいいんだよ。全く、どいつもこいつもステイン、ステインと……』

 

 死柄木がゆらりと立ち上がる。ああ、これはめんどくさい事になりそうだ。それは黒霧も同じように思ったのだろう。死柄木の名前を呼んでいるが当の本人は全く聞いておらず恐らく荼毘と名乗った青年の方を凝視している。

 

『気分が良くない。駄目だお前!』

 

 そう言うと死柄木は荼毘に両手を伸ばす。荼毘も煙が上がる右手の手のひらを死柄木の顔に近づけるがお互いの手が触れる前に黒霧のワープゲートが発動しお互い背中の方から腕が出ている。因みにトガちゃんは楽しそうに笑いながら二人の様子を見ていた。流石は犯罪者。見た目は可愛らしくも中身は立派なヴィランのようだ。

 

『落ち着いてください死柄木弔! あの貴方が望むがままを行うには組織の拡大は必須。奇しくも注目されている”今が”拡大のチャンス排斥せずに、利用しなければ。彼の残した”思想”も全て……』

『……』

 

 流石に相手の前で利用という言葉を使う事は控えたのか黒霧が頭だけを伸ばして死柄木に耳打ちしている。死柄木は不服そうだが納得はしたのか手を引っ込める。

 

『うるさい』

『どこへ行く?』

『うるさい!』

 

 大物ブローカーの言葉に怒鳴るように言い返すとそのままバーを出ていく。その後ろ姿を大物ブローカーは呆れたような態度で見送る。

 

『取引先にとやかく言いたくはないが若い、若すぎるよ』

『気色わりぃ』

『殺し合いたかったなぁ……』

「とは言え死柄木は分かっているだろう。出なけりゃここから出て言ったりしないさ。ヴィラン連合は今のままでは駄目だという事も、お前らみたいなのも受け入れる必要がある事をな」

『……ところで、お前は何故アイツに協力する』

 

 俺が話し始めたからか荼毘がこちらに問いかけてくるがその疑問はよく言われる事だ。俺がその気になればオール・フォー・ワンを倒し死柄木達を屈服させる事も可能だ。何しろこちらは吸血鬼という人間を超える存在だ。しかもそれが一万以上存在するのだ。更に吸血鬼の能力をフルに活用すればこの世界を滅ぼす事も可能だ。最近じゃ【コピー&ペースト】という便利な個性も手に入れたからな。力は単純計算で倍増していると言える。

 

「簡単な話さ。最初は死柄木のパトロンが意外だったから協力関係になったが最近は死柄木の成長が楽しみというのもある」

『……あいつにそれだけの成長があるのか?』

「勿論だ。出なければステインが死柄木を認め協力しようとはしなかっただろう」

『……』

「じっくり考えるといいさ。ヴィラン連合だって今すぐ返答するわけではない。だが、これだけは覚えて居ろステインは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ステインの思想を受けつぐのだろう? 是非とも考えてくれたまえ」

『……ふん』

「あ、トガちゃんはこの後俺の所に来てくれ。黒霧、悪いが俺が今から言う座標に送ってくれ。後は俺の眷属で回収する」

『分かりました』

『早速ですか! 楽しみです』

 

 ああ、俺も楽しみさ。トガヒミコと荼毘。二人の紹介は()()()()()()()()。今後は続々とステインの思想に共感する者や憧れる者がヴィラン連合の門戸を叩くだろう。そしてそれらを飲み込んだとき、ヴィラン連合の力は爆増する。雄英高校襲撃の時の比ではない、裏に君臨する最高の組織へ至る筈だ。その頂点に立つ死柄木がその時にどんな奴になっているのか?今から楽しみでならないな。

 

 

 

 

 そして、その数日後。死柄木は”信念”を得て戻ってきた。”オールマイトを殺し世界がいかに脆弱かを知らしめる”。信念と言えるかは微妙かもしれないがそれに向かって突き進む目標が出来たのはいい事だ。これを受け荼毘はヴィラン連合の一員となった。トガヒミコも無事に眷属となり次いでに彼女の個性【変身】のほかに個性を与えた。流石に戦闘向きではない個性のみというのは可愛そうだ。戦闘で役立つ個性を与えたよ。

 そして、世間一般の高校が夏休みへと至る中。ヴィラン連合は着々と力をつけ始めている。このままいけば雄英高校襲撃時よりも戦力を集める事が出来るだろう。その時は、オールマイトを殺すために動き出すだろう。その時までに、俺も力を取り戻さなければ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある病院にエンデヴァーの妻にして轟焦凍の母親である轟冷はいた。轟焦凍が幼い頃にエンデヴァーの教育方針に耐え切れずに心が壊れてしまった際にやけどを負わせたことから病院に入れられていた。焦凍は一度として見まいに行かず、姉の冬美がかいがいしくお見舞いに行くのみだった。

 そんな彼らに転機が訪れた。雄英体育祭にて焦凍は緑谷出久との戦いを通して家族と向き合う事を決め久しぶりに母の下に向かい、和解を果たした。未だエンデヴァーに会うのは勇気が出ずにいるがいずれは話をして本当の”家族”になりたいと願っていた。

 しかし、その願いを断ち切るようにエンデヴァーは保須戦争において瀕死の重傷を負い未だ意識不明で集中治療室にいる。起きる可能性は五分五分な上に後遺症が残ると示唆されており以前のようなヒーロー活動を出来るようになるのかは不明との事だった。

 これは家族間でもそうだが世間でも大きな衝撃を与えた、ただでさえオールマイトが雄英高校の教師に就任しヒーローの活動が少なくなっている所に彼に次ぐヒーローがいなくなりそうなのだ。

 

「あの人は、まだ目を覚まさないのね……」

 

 冷はいつも寝ている部屋のベッドに腰かけて焦凍と冬美と話し合っていた。焦凍が和解を果たしてからこういう風景はよく見るようになり少しづつだが昔の様な家族に戻りつつあったがエンデヴァーの重傷で少し暗くなっていた。

 

「大丈夫よ。どうせその内目を覚ましてまたヒーロー活動を再開するわよ」

「そう、よね……」

 

 冬美は母親を勇気づける目的でそう言うがあまり表情は晴れない。それは隣に座る焦凍も同じでありずっと何かを考えている様だった。

 

「……焦凍、あんた何時までもそうしているなら一階の売店で何か買ってきな。」

「ああ、そうする……」

 

 とは言え何時までもそうしていれば晴れる気分も晴れない。冬美は焦凍に気分転換を兼ねてお使いを頼んだ。焦凍も特に嫌がる事無く病室を出ていく。

 売店で軽食や飲み物を買う焦凍は考える。

 

「(俺は、どうすればいいんだ……)」

 

 父親の復讐をしたいのか、それとも父が敵わなかった相手を倒す事で父を超えたいのか最近の焦凍には分からなかった。加えて父を倒した相手が具体的に誰なのかさえ分かっていない。これは父が意識を取り戻すまでは進展しないなと結論を出し売店を出た時だった。

 突然、病院全体を揺らす爆発が起こる。病院にいた人達は悲鳴を上げその場に座り込むが焦凍は状況判断に努め爆発音の位置を探ろうとする。

 

「(おそらく二階より上、それでいてここから少し遠め……。まさか!)」

 

 焦凍は嫌な予感に襲われ駆けだす。エレベーターは使えなかったため階段を全速力で駆け上がり母親の病室に向かう。近づくごとに増える煙とすれ違う人々。その中に母親も姉もいない。無事でいてくれという思いを募らせながら彼は固まった。

 先ほどまでいた母親の病室。扉は吹き飛び部屋からは煙が上がっている。地面や壁は罅が入り爆心地という事を嫌でも思わせる風景に焦凍はこう直後直ぐに部屋の中に入る。

 そこは、先程までの部屋とは全く違っていた。窓側にあった母親のベッドは()()()()()()()()()()()()無くなり焼け焦げたカーテンや崩れ落ちる地面や天井。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()がすぐ目の前に転がっていた。

 

「な……、あ、」

 

 焦凍はその場にに崩れ落ちる。そして、絶叫を上げた。

 

 

 

 

 警察の調査聞き込みにより爆発と共に空中へと飛んでいく()()と母親の姿が目撃されていた。狙いは自身の母親であり姉の方は必要なかったため口封じの為に殺したと予想された。

 更に、ほぼ同時期に兄の夏雄が通っていた大学が襲撃を受け夏雄を含め百人近い学生が殺されていた。それだけではなく焦凍の実家では火災が起こり火の回りが異様に早く全焼した。その結果からエンデヴァーの家族を狙った襲撃であると結論付けられ犯人の割り出しが行われる事となる。

 焦凍は、母親に姉と兄を失い家すら消えるという状態へとなるのだった。父であるエンデヴァーも目を覚ましていない事から、焦凍は母方の実家に預けられる事となり学校はそこから通う事となる。

 




トガヒミコは始祖の眷属となりました。
個人的に好きです。性格は別ですが……
そして作中でも言っていた通り”家族”となり始めた轟家は呆気なく崩壊しました。……これってNTRのタグとか必要なのだろうか……?


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12・林間合宿襲撃

 雄英高校の一年生は夏休みから行事がある。林間合宿だ。どうやら元々は2年前期に行われる仮免試験を前倒しにして始めるようだ。とは言えこれは雄英高校側が内々で行っている事だ。それをヴィラン連合や俺たちが知っているのは情報が洩れているからかそれとも内通者がいるのか……。流石に俺は分からない。もしかしたらオール・フォー・ワンはそう言った事を調べる事の出来る個性を持っているのかもしれないがな。

 そんな訳でヴィラン連合と俺達は林間合宿に来ている雄英高校の生徒A組とB組の生徒を襲撃する事になった。雄英高校は予定を変更して四人組で活動するヒーロー、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツが所有する森にいるようだが、こちらからは筒抜けと言う訳だ。……それにしても

 

「マンダレイとピクシーボブ……。欲しいな」

「はぁ? だったらてめぇで回収しろ」

 

 俺の()()()()死柄木が冷静な突っ込みを放つ。俺は黒霧から貰った酒を一気に飲みこむ。吸血鬼は毒なんかを体の中で勝手に分解してくれる便利な体をしているがそのせいで酒で酔うという事が出来ない。精々炭酸の様に刺激的な味を感じる事しか出来ない。まぁ、スピリタスなんかを直で一気飲みすれば酔えるかもしれないがその場合は確実に酔うとは違う状況になりそうだ。

 因みに、俺と死柄木はタブレット越しではなく直接会っている。ここもヴィラン連合のバーだ。荼毘がメンバーとなってから凡そ一月。その期間の間に直接対話を行った。まぁ、轟家の襲撃がバレて殺されかけたりもしたがな。今じゃ知人程度には仲良くなれたと思う。

 

「黒霧。次だ」

「いえ、あの……」

「どうした? まだまだあるだろ?」

「既に在庫の半分は飲んでいますが……」

「お前飲みすぎだよ。何時間飲み続けるつもりだ」

「大丈夫さ。オール・フォー・ワンが何とかしてくれるさ……多分

「おめぇ小声で”多分”って言ってるじゃねぇか。酒飲みたいだけなら帰れ。ここはバーじゃねぇ」

「いやいや。どう見たってバーだろ。酒が並び、バーテンダー(黒霧)もいる」

 

 そう言いながら黒霧が差しだしてきたカクテルを飲む。アルコール中毒の危険性もない為味わいつつ一気飲みをする。フルーティーな味わいとアルコール特有の刺激が走るが胃に近づくごとにそれらは消えていく。何なら喉に入った時点で消えているかもな。食欲も睡眠欲も俺にとっては日々の生活を潤す娯楽でしかない。

 

「そう言えばてめぇはここで遊んでいていいのか? お前も襲撃に加わるんだろう?」

「ああ、大丈夫さ。自分で行けるからな」

 

 黒霧にあった時点で【ワープゲート】のコピーは完了しているし幾人かの眷属に与えてある。これで俺たちは真の意味で世界中のどこにでも行けるようになったわけだ。

 

「だったらさっさと行けよ。そろそろ襲撃が始まるぞ」

「お? そうなのか? ならそろそろお暇するか」

 

 俺は咳から立ち上がり【ワープゲート】を発動する。右手を中心に黒い靄が生まれ俺の目の前にゲートが出現した。それを見て死柄木が呆れたように声をかけてくる。

 

「お前が手に入れた個性、チート過ぎるだろう。複製も譲渡も可能とか、先生みたいだ」

「そのせいでオール・フォー・ワンからはぐちぐち嫌味を言われたがな」

 

 オール・フォー・ワンが俺が手に入れた【コピー&ペースト】を知った時は「流石は吸血鬼の始祖だ。僕の想像の斜め上を行く。それでいて僕と似たような個性を手に入れておきながら黙っているのは信頼関係に水を差しかねない行為だ。今後はこう言う事はきちんと言って欲しいよ」と言ってから数時間に渡る嫌味を言われた。通信を切ると数秒後に勝手に通信が入り嫌味が再開されまた切るとまた接続、切る、接続を繰り返して途中で俺が諦めた。

 日本を支配した裏の大物とは思えないぐちぐちとした嫌味だったな……。二度と思い出したくない物だ。

 

「さて、では行くか」

 

 俺は一歩、黒い靄へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校は林間合宿を”絶対に安全”と自負していた。それだけを言うだけの準備を行いルートを偽装し当日になっても分からないように工夫を行った。更にオールマイトが狙われている以上彼は林間合宿には同行しなかったことから安全は確保できていると()()()()()

 そう、思っていたのである。事態が急変したのは三日目の夜、AB対抗の肝試しを行っている最中だった。最初の異変は焦げ臭いにおいでありそれは火事だと気づくには時間はかからなかった。そして、肝試しの順番を待っていた緑谷出久、飯田天哉、峰田実、口田甲司、尾白猿夫たちとラグドールを除くワイルド・ワイルド・ピクシーキャッツはその様子を少し離れた個所から見ていたがピクシーボブの体が発行し何かに引き寄せられるように彼らの下を離れた。そして

 

「あぐっ!?」

 

 後頭部を強打しその場に倒れ込む。そんなピクシーボブの上に跨るように立つ男と両脇を固める爬虫類の如き皮膚をした男とサングラスをかけた大男が堅めそれらの後方から大量の少女が現れた。

 ゴシックロリータに身を包んだ大量の少女。それはこの場にいる者達、特に緑谷出久と飯田天哉は身をもって知っていた。二月以上前に保須市で起きた事件。そこに関与していた吸血鬼たちだ。

 

「やぁ、初めましてヒーロー及びその卵たち。俺は……、いや先にこちらが先か。スピナー、言え」

「はぁ!? 普通そっちが先だろうに……!」

 

 スピナーと呼ばれた爬虫類系の男は中央に立つ男より前に出ると腕を広げた。

 

「ご機嫌宜しゅう雄英高校! 我らヴィラン連合”開闢行動隊”!」

「ヴィラン連合!? 何でここに……!」

 

 スピナーの紹介に尾白が驚いたような声を上げる。彼の言葉はこの場の誰もが思った事を代弁しておりワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのマンダレイと虎は慢心する事無く()()()()に警戒している。その様子に中央の男は口角を上げた。

 

「流石はプロヒーロー。俺を中心に警戒するか」

「その中で一番貴方が危険だと思ったからよ」

「そりゃそうか。改めて自己紹介を。我は……、おっと。すまないな、俺に名はない……。が、”始祖”と呼ばれている。全吸血鬼の主だ」

「っ!? そんな大物が出てくるんて……」

 

 マンダレイはそう吐き捨てるように言うが正直に言えばこのままでは危険だと感じていた。生徒たちは逃がすとして二人だけで全員を抑えるのは不可能だった。ただでさえ吸血鬼の主を名乗っている男に個性が分からないヴィラン連合の二人。そして、プロヒーローですら苦戦する吸血鬼が見ただけで数十人はいた。とてもではないが質でも、量でも勝てる見込みは薄かった。

 しかし、ここで始祖は驚きの行動に出た。

 

「さて、スピナーとマグネには悪いがここで待機してくれ。マンダレイと虎は俺が相手をする」

「……へぇ? 全員で襲い掛からないのね」

「勿論さ。ヴィラン連合は別の目的があるようだが俺が欲しいのはこのピクシーボブとマンダレイ、君だよ」

 

 そう言って始祖はマンダレイを指さすが名指しで呼ばれた本人は背筋をはいずる気色の悪さを感じていた。始祖の顔は整っており女性なら誰もが見惚れるだろう容姿をしているが口角は上がり、瞳はマンダレイの全身を舐めるように見ている。

 

「そんな危ない視線を向けるなんてイケメンが台無しよ」

「ああ、問題ないさ。俺は別に人間に好かれようとは思っていないので、ね!」

「っ!!??」

 

 言葉を区切ると同時に踏み込みマンダレイの懐に入る。エンデヴァーとの戦いで見せた始祖の高速移動は初見という事もありあっさりと懐への侵入を許した。そしてそのまま右の手のひらを腹に当てる。瞬間、マンダレイは目を見開きビクリと体を震わせるとそのまま崩れ落ちた。倒れるマンダレイを始祖は両手で抱きしめるように受け取める。

 

「マンダレイ!? 貴様何を……!?」

「ああ、お前はいらないんだ」

 

 虎が最後まで言う前に今度は背後に回り込むと再び手のひらを今度は背中に当てる。すると、マンダレイの時とは違い虎は口から大量の血液を出すとその場に崩れ落ちた。

 たった一撃ずつでプロヒーローがやられた事に緑谷達は驚愕する。そして、仲間であるスピナーとマグネと呼ばれた大男は感心したような声を上げる。

 

「へぇ、やるじゃない」

「まったくだ。ここまで手際が良いとはな」

「まぁ、初見だったという事もあるのだろう。さて……」

 

 始祖は何かを確認するように右手を握ったり閉じたりをすると未だ固まる緑谷達を見る。しかし、先程とは違い穏やかな表情をしていた。

 

「緑谷出久。君の事は雄英体育祭で見ていたよ。そしてジャンヌ・ダルクからは超パワーを使いこなしていたという報告も聞いている」

「っ!?」

「死柄木と同じように君の活躍が気になってしょうがない。だから!」

 

 始祖は再び手をかざす。しかし、出てきたのは黒い靄であり素早く緑谷達の下に付くと飲み込んでいく。

 

「これは! ワープの!?」

「君たちはここでは殺さない。だが今回はサービスだ。次に出会った時は、殺すからな」

 

 始祖がそう言うと同時に転移は終わり靄は消えた。とは言え今度はヴィラン連合の目的からすれば目をつぶれない行いだった。

 

「ちょっと! なんで生徒たちを逃がすのよ!」

「ん? ……ああ、そうだったな。悪い悪い。お目当ての奴を手に入れたから、賢者タイムになっていた」

「え!? あの短時間でか!?」

「流石に”物”は出してないさ。それよりも、マンダレイを潰したことで雄英側は全体での共有は不可能になった。異変は感じても何が起きているのか? 俺たちの目的は何なのか? 雄英でそれをはっきりと分かる者はごく少数だろう」

「だけど……もう!」

 

 マグネは諦めたのかそう言うとその場に座り込んだ。そんな彼に給仕役の眷属がお茶の入ったペットボトルを差し出してくる。それを「あら、ありがと」と受け取って飲むマグネ。それを見た始祖は【ワープゲート】を発動。中に入っていく。

 

「ん? どこか行くのか?」

「ああ。拳藤一佳が気になってな」

「お前が一番熱を上げている少女か。全く。こちらは予定が大分狂っているというのに……」

「まぁ、その分の埋め合わせは行うつもりでいるよ」

 

 それだけ言うと始祖はワープゲートをくぐりその場を後にした。残されたスピナーとマグネは肩をすくめて始祖の行動に呆れているが直ぐに自分たちをジッと眺めている数十人の少女の視線に気づき急速に居心地が悪くなっていくのだった。始祖の命令に”のみ”忠実に全うする少女たちは仲間と言えるが命令権を持っていない二人の話を聞く訳がなく給仕役の眷属が世話をしてくれる以外二人を凝視する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワープゲートをくぐり拳藤一佳の下に来たはずだったが丁度そこは霧の真っ只中だった。視界には……カラシ?と……切島だっけ?なんか違うがB組の切島だ。後は拳藤一佳がいた。

 

「!? 誰だ!」

「うん? なんかめんどくさい時に来てしまったな」

「それはこちらの台詞ですよ。貴方は別の所の担当だったのでは?」

「そっちは終わったからな。もう一つの目的を実行しにな」

「っ!!」

 

 俺はカラシにそう言うと拳藤一佳の方を見る。彼女も俺の目的を悟ったのか身を固くしている。そして切島君、気づいていないと思っているのかもしれないがバレバレだからな?

 

「ほい!」

「ぐあぁぁ!?」

「鉄徹!?」

 

 俺は切島君を回し蹴りで蹴り飛ばす。体は固くなっていたがそのうえで叩き潰し遠くの方へ吹き飛ばす。それを見た拳藤一佳が腕を大きくしてこちらに殴りかかって来る。ふむ、俺としては防御はできるが下手に触ると傷をつけてしまうな。……よし。

 

「カラシ君。出番だ!」

「は? がっ!?」

「な!?」

 

 俺は隣にいたカラシ君の首根っこを掴むとそのまま拳と俺の間に持ってくる。カラシ君は拳の一撃を諸に受けてマスクが粉砕しそのまま気絶した。気絶した事で霧というかガスが晴れていくが別に構わない。俺はカラシ君をその辺に放り投げると拳藤一佳と相対する。

 

「さて、ガスも晴れお互いの顔をよく見えるようになったな」

「お前、仲間を……!」

「んー、確かに仲間と言えるが別に俺はヴィラン連合に所属している訳ではない。こいつが加入したのも遅かったしな」

 

 ステインの思想に当てられた者が多い中、こいつは雄英憎しの思いで入ってきた。恐らく雄英の試験に落ちたのだろうな。自分の能力が低かったくせに落ちたら逆恨みとかみみっちい奴だな。

 

「まさか、保須市を襲った……」

「お? 知っているのか? なら改めて自己紹介を。俺は始祖。吸血鬼を束ねる主だ。そして、拳藤一佳。俺はお前を気に入ったのでね。眷属にして持ち帰るつもりだ」

「なっ!?」

「大丈夫だ。眷属になるのは簡単だ。俺が望んだ状態で血を飲み込むだけだ。後は痛みが走るが肉体を吸血鬼に変化させ記憶を弄りつつ俺に従順な存在へと生まれ変わる。だからいくら抵抗しても最後には俺のお人形(眷属)さ」

「ヒっ!?」

 

 拳藤一佳は自分の運命を悟ったのか小さい悲鳴を上げてその場に倒れ込む。顔は青ざめ恐怖で歪み、涙を目じりに貯めている。うん、やはり彼女を眷属にすれば楽しい日々になるぞ。それは間違いない!

 では、さっそk

 

「ふざけてんじゃねぇぞぉぉっ!!!!」

「ぐっ!?」

 

 俺は突然右頬に走る激痛と右からの衝撃で吹き飛ぶ。一瞬見えた視界には先ほど吹き飛ばした切島君、いや鉄徹がいた。……どうやら、戦闘不能にさせるには威力が弱かったようだ。そのまま二人は森の中に消えていく。正直、受けたダメージはそこまでデカくはない。既に回復してあるし俺の脚力があれば一歩で追いつく。だが、今回は俺への戒めにするつもりだ。

 倒したと思い込み、手に入れたと思って周囲への確認を怠ったうえで奇襲を受けて逃げられた。今回の事を忘れないために彼らは追わないでおこう。拳藤一佳。君を俺の下に連れてくるのは諦めないがまだ今度だな。それまでに、精々俺と相対できる程度には強く成ってくれよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? もう戻ってきたのか?」

「ああ、今回は逃がす事にしたんだ。それと、カラシ君はやられてしまった」

「カラシ……? それってマスタードの事じゃないか?」

「ああ、そうだよ。マスタードだ。どうも男の顔と名前を覚えるのは苦手だ」

「あら? そう言う割には私達の事は覚えているじゃない」

「そりゃ、あれだよ……。なんでだろう?」

 

 戻ってきた俺にマグネとスピナーが近づいてくる。先程よりもげっそりしているように見えるが……、ああそう言う事か。見た目は良いとは言えこれだけの少女に見られるのはキツイよな。

 

「ルイズ。給仕役、ご苦労だった」

「このくらい、なんともありません……」

 

 相変わらずルイズは俺に対して恐怖を覚えているのか。修道院に入っていたこいつを攫ってくる際に大分痛めつけたからな。眷属になった今でもそれがトラウマになっているのだろう。五百年近くたった今でもそうなっているとかよほどのトラウマだがな。

 

『開闢行動隊と始祖殿に告ぐ! 目標回収達成だ!』

「お? どうやらあのマジシャンが役目を果たした様だな。俺達も帰るか」

「その様だな。【ワープゲート】を頼む」

「任せろ」

 

 俺はワープゲートを開き二人を中に入れる。その後開きなおしてマンダレイとピクシーボブを担いだ眷属たちを通らせる。……それにしても、流石にこの人数はいらなかったな。開闢行動隊全10名のうち、果たしてどれだけ生き残るのか。これらを達成した彼らは確実にヴィラン連合の力となってくれるだろう。そうなれば、死柄木も頂点に立つ自覚が出来より良い成長を見せてもらえるだろうな。

 全員を通し、俺が最後にくぐるときに誰に言う訳でもなく俺は呟く。

 

「雄英高校、お前らがどんなに頑張ろうとも俺たちはその上を行く。自覚せよ、自らの無能さを。理解せよ、何をしても勝てない事を。そして諦めよ、それが生き残り、次の時代を見れる唯一の道だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィラン連合”開闢行動隊”による林間合宿中の襲撃は僅か一時間にも満たない時間で終了した。ヴィラン連合は襲撃した者のうち三名を捕縛されたが雄英は40人の生徒のうち15名がマスタードのガスを吸い、意識不明の重体。重軽傷者11名。無傷で済んだのは、13名だった。そして、ヴィラン連合によって誘拐されたのが1名、爆豪勝己。更にプロヒーロー6名のうち1名が死亡、2名が攫われ、1名が多量の血痕を残して行方不明となった。事実上ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツは壊滅した事となる。

 この結果を受け雄英高校は非難の的となり学校は一時閉鎖となったが夏休み中という事が幸いしたが雄英高校の信頼を大きく損なう結果となった。

 一方で、今だ情報がない吸血鬼の実態。始祖を名乗る男を絶対君主とする形態となっている事など、眷属になる過程などの事が分かったがそれらの情報に見合う損害とは言えない上に”上”からの圧力で情報は一部の人間以外に出回る事は無かった。

 しかし、ヒーロー側とてただ指を咥えてみているだけではなく勝利を掴み浮かれているヴィラン連合の首を獲ろうと密かに動き始めているのだった。

 ヒーローとヴィランが、再び相対する日は近い。

 




USJの時に比べてあっさりと終わりました。トガヒミコとかいろいろ書ける部分はあったと思うけど書けなかった……。トガちゃんが眷属になった後の話は次回以降にでも
始祖が使った個性
【ワープゲート】
ヴィラン連合の黒霧の個性。初対面時にコピーして自分にペーストした。言わずと知れた転移系の個性でワープゲートは物理的な攻撃が効かない。更に【ワープゲート】の個性は他の眷属にも付与されており始祖がいないときにも使えるような状況を作っている。

【浸食】
手のひらを相手の体に張り付ける事で発動できる個性。効果は様々あり麻痺をさせたり気絶させたり、体内を破壊する事も出来る。死柄木の【崩壊】とは違い強弱を選べる。
裏路地で個性を持て余していた奴から奪った個性。偶々血を吸収した際に得られた個性で【コピー&ペースト】は用いていない。

因みにヴィラン連合の個性は荼毘とマスキュラーの個性をコピーしている。トガヒミコの個性は吸血鬼にとって必要ない(自由に顔や姿を変えられるから)しマスタード、ムーンフィッシュは微妙だったから。スピナーもトカゲっぽい事が出来るだけだから必要なく他は量産するのはちょっとかわいそうな便利な個性で確実に必要な個性ではなかったからコピーはしていない。


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13・ヒーローたちの反撃

注意! 原作キャラ(というかマンダレイとピクシーボブ)が悲惨な目に遭った上でやばい事になります。注意してください
それとトガちゃん出てきません。ごめんなさい


 ヴィラン連合の目的である爆豪勝己の回収は成功した。こちらもワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのピクシーボブとマンダレイは確保した。拳藤一佳や耳郎響香に芦戸三奈の回収もしたかったがそこまで望む事ではないな。

 そんな訳で林間合宿襲撃から戻ってきてすぐに俺はマンダレイとピクシーボブの眷属化を始めた。眷属化に置いて重要なのは血の量だ。血が一滴でも体内に入れば眷属化は行えるがその者の気力や能力によっては抗える時がある。故に俺は眷属化を行う時は200mlは用意する事にしている。これだけあればどんな強靭な肉体を持ち、強固な精神を持っていようと数分から数時間で完了する。

 

「うう、ああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「ぁぁぁぁぁぁ……っ!!」

 

 マンダレイは未だ耐えているがピクシーボブの方は8割ほど吸血鬼となっている。因みに、二人が居るのは手術室を思わせる白い部屋で二人は大の字で拘束されている。拘束具は吸血鬼ですら外すのが容易ではないほど頑丈な物だ。人間である二人に外せる物ではない。

 

「くっ! テレパス……! なんで!? なんでぇぇぇぁぁぁぁぁっ!!!!」

「悪いがテレパスは使えないぞ。ここは次元と次元の間にある空間。テレパスを行いたい対象者はこの空間にいないからな」

「お前! だけは……!」

「精々足掻け。足掻けば足掻くほど血はより早く巡り順応していく。お前は4割ほどと言った所か。ピクシーボブの方は……。終わったか」

 

 俺はピクシーボブの方を見てそう判断した。暴れる事を止め、荒く息を吐きつつも少しづつ息を整えている。そして何より()()()()()()()()()()()()()()()()()()。眷属を作った時に起こる何時もの事だ。俺はそれを確認すると拘束具を外す。少しすると目を開けゆっくりと体を起こしていく。

 それを見たマンダレイが思わず叫んでている。

 

「ピクシーボブ! そいつを捕まえて!」

「……信乃」

 

 ピクシーボブはマンダレイの本名らしき名前を呟くと()()()()()。それを見たマンダレイは絶望したような表情になる。

 

「我が主、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私はこれから主の為に全てを捧げます」

「そんな……、どうして……」

「……ごめんなさい、信乃。だけどあなたも終われば分かるわ」

 

 そう言うとピクシーボブは立ち上がりマンダレイの顔に近づけて軽く舐める。

 

「ヒッ!?」

「また一緒に過ごせることを願っているわ」

「ピクシーボブ、来い」

「分かりました」

 

 やはり眷属になった直後は平坦だな。だがここから数日かけて元の性格が戻って来る。だが、俺を優先し俺の命令に逆らえず、俺の命令を全うする事に幸福感を感じるようになる。もう、ピクシーボブはワイルド・ワイルド・プッシーキャッツとして活躍し31という事で婚期に焦るような女性ではなくなり、俺の為に動く永遠の美貌が約束された最高の存在(吸血鬼)へと至ったのだ!

 

「マンダレイ。君も後一日で全ては終わる。その時はピクシーボブと共に可愛がってやるさ」

「あん♡ ご主人様……♡」

 

 俺に抱き寄せられ甘い声を出すピクシーボブと共に俺は部屋を出る。一人、残されたマンダレイはうめき声と共に鳴き声が聞こえてくるようになった。だが、それもすぐに終わったよ。計31時間。ピクシーボブは怪我をしていたから順応が早く進んだとは言え随分と持ったな。では約束通り、二人を同時に可愛がってやるとするさ。俺は()()()()()()()()()に三人で入っていき丸一日、二人の体を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……。ご主人様ぁ」

「はぁん。ご主人様ぁ」

 

 俺は自室にてヴィラン連合にいるお気に入りの人形が持つタブレットと通信をつなぐ。そんな俺の太ももでは猫の様に甘える二人の女性がいる。吸血鬼となった事で20代前半並みの若さとなったマンダレイとピクシーボブ改め信乃と流子。二人は戦いも出来る疑似愛玩ペットとなった。今度二人には戦闘向きの個性を幾つか見繕って与えるつもりだ。ヒーローだけあって素の身体能力も高かったし直ぐにジャンヌやラクシュミーに追いつく事が出来るかもしれないな。流石に徴姉妹までは難しいだろうけどな。

 話がずれたが映し出された光景は若干狭く感じるようになった何時ものバーと全身拘束された爆豪勝己の姿があった。どうやら本格的にスカウトを開始する様だな。とは言え彼が仲間になるとは思えないがな。……ああ、ほら。拘束を解いた全身タイツ野郎を跳ねのけて爆豪は死柄木に爆破を行っている。あの爆破はとても便利だ。【コピー&ペースト】で複製させてもらったが中々素晴らしい個性だったよ。

 

「おいおい、死柄木。そいつが仲間にならないことぐらい分からなかったのか?」

『……』

「見た目も性格もヴィランだが此奴の中にはオールマイトへの憧れがある。そうである以上対極の位置にいる俺たちに協力なんてするはずがないさ」

『そうだな。少し舐めていた。黒霧、アイツが何かしたら動け。コンプレス、もう一度丸めろ』

『全く、ここまで人の話を聞かないとはな。逆に感心するぜ』

 

 コンプレスというマジシャンが近づくと爆豪は一歩下がる。彼とて理解はしているのだろう。この場の全員を相手にする事など出来ないと。そして、逃げ出すチャンスを狙っているな。一瞬のスキをついて爆破を起し後ろの扉から逃げる。そう思っているのだろう。ほら、()()()()()()()()()()()()。だが、残念だが爆豪君のやり方では無理だぞ。大人しくしている方が良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコン

 

『どうも、ピザーラ神野店でーす』

 

 扉をノックする音と共にピザ屋を名乗る声。それにその場の誰もが固まり扉の方を向いた、その瞬間だった。

 

『SMASH!!!』

「なっ!?」

 

 扉がある壁の右隣の壁が吹き飛びそこから一人の巨漢が現れた。スーツに身を包みアメコミのような画風を持った男、オールマイトだ。一瞬の出来事に真っ先に反応したのは死柄木だった。流石にとっさの判断力はついているようだがそれをさせないように新たなヒーローが現れた。恐らく木を操る個性と思われる攻撃でバーにいる全員を拘束する。勿論俺の眷属も拘束された為タブレットは破壊され通信が切れてしまった。

 とは言え別にこれは問題ではない。俺は眷属の目や耳から情報を受ける事が出来る。タブレットを用いていたのは集中しないと使えない上にその間は他の事が無防備になるからだ。俺の眷属しかいないこの空間ではあってないようなデメリットではあるがな。

 神経を集中し、眷属の目と耳と合わせる。そして俺は眷属の目から現在の状況を把握する事が出来るようになった。どうやら数秒の間に爺によって荼毘は気絶させられたようだ。遠距離攻撃が出来る者を真っ先に狙ったあたりかなり計画を立てて行動しているようだ。

 

「もう逃げられんぞ、ヴィラン連合!

 

何故って?

 

我々が来た!

 

 この場にいるのは三人だが確実に外にもいるだろうな。この五感の共有は気配までは探れない事が難点だな。全身タイツ野郎が何やらもがいているが拘束が解ける様子はない。眷属だが非力な方に分類されるこの人形でも逃れる事は難しそうだ。

 

「攻勢時ほど、守りが薄くなるものだ。ピザーラ神野店は、俺達だけじゃない」

 

 すると、扉の隙間を抜けて来たらしい忍者っぽいヒーローが現れると扉の鍵を開けた。そこには武装した警官の姿がある。……どうやらマジでヴィラン連合のピンチのようだ。

 

「そして、外は手練れのヒーローたちと警官が包囲している。吸血鬼対策も出来る限り備えてある」

 

 忍者はこちらを見て言ってくる。まさか銀の武器を使うとか言わないよな?十字架も、ニンニクも俺たちには効かないぞ。

 

「……そっちも仲はそれだけじゃないだろうがそれはこちらだって同じだ!」

 

 死柄木はまだまだ抗う気でいる様でそう叫んだ。

 

「黒霧! 持ってこれるだけ持ってこい!」

「! 脳無か! だが、我々がそちらの対策をしていないと思っているのか!」

「何?」

「死柄木弔! 所定の位置にあるはずの脳無が……、ない!」

「……は?」

「やはり君はまだまだ青二才だな」

 

 そう言ってオールマイトは爆豪の傍によると死柄木の方を向く。……ああ、脳無がいる方も抑えられたのか。マジでヴィラン連合の危機じゃないか。

 

「ヴィラン連合よ。お前らは舐め過ぎだ。少年の魂を、警察の弛まぬ捜査を! そして! 我々の怒りを!」

 

 破壊された壁より光が入って来る。それがオールマイトの後ろから射し威厳を何倍にも高めている。

 

「もうここで終わりだ、死柄木弔!」

 

 その瞬間、感じるのは強大な威圧感と圧迫感。成程、これが平和の象徴か。そう言われるにふさわしい圧を持っている。エンデヴァーとて悪くはないが見る者全てを安心させるような感覚は持っていなかった。正直、エンデヴァーの方が強いとさえ感じた事もあったがそれは間違いだったようだ。これで弱体化しているというのだから()()()()

 俺は一度感覚を切ると人形に()()()()()を下し立ち上がる。俺の太ももに頬ずりするようにくっつかっていた信乃と流子は切なげな表情で見上げてくる。俺は笑みを浮かべると二人の頭に手を置いた。

 

「少し出かけてくる。良い子で待っているんだぞ」

「「はい! ご主人様!」」

 

 二人は仲良く返事をする。眷属化前からの仲の良さは変わっていないようだな。安心した。中には眷属化を機に性格が変わりいがみ合うようになった奴もいたからな。勿論、その逆もいたが。

 さて、今はそんな事を考えている場合じゃない。俺は【ワープゲート】を発動すると一度とある部屋に入る。そこには待機しているE-型が座っていた。要はこいつらの倉庫という訳だ。

 

「E-型、全員立て」

 

 俺の言葉に反応し、立ち上がる。数はおおよそ二百。保須市で投入した半分ほどがやられたがまだまだそろっているし【コピー&ペースト】を用いてこいつらは個性を幾つか与えている。保須市の時よりも厄介さは上がっているだろう。

 

「命令を下す。”今から送る先にいるヒーロー及び警察を俺の命令があるまで攻撃せよ。殺す事も構わない。確実に我らの力を示せ”」

 

 それだけ言うと俺は【ワープゲート】を開き百体程をバーに送る。そして残りを全て脳無格納庫に送る。唐突に現れた吸血鬼をヒーローはどう対応するのだろうか。きっとすぐに対応するが上手く行かないだろうな。俺はそんな事を考えつつ靄を潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、唐突に起きた。死柄木達を拘束しようとオールマイトが一歩前に踏み出すと同時に黒い靄が発生し大量の吸血鬼たちが姿を現した。【ワープゲート】の個性を持つ黒霧はNo.5ヒーローエッジショットによって気絶させられていた。にもかかわらず【ワープゲート】が発生したことについてオールマイトは覚えがあった。

 林間合宿でヴィラン連合と共にやってきたという吸血鬼の主を名乗る始祖。彼が黒霧と同じ個性を使っていたと飯田天哉達から聞いていた。オール・フォー・ワンから個性を貰ったとも考えられるが彼は”個性の複製”は行えない事から違うと判断していた。

 

「シンリンカムイ! 絶対に拘束を外すんじゃないぞ!」

 

 オールマイトは死柄木達を拘束するシンリンカムイにそう言うと吸血鬼たちに攻撃を行う。見た目は愛らしい少女だがこの場においてそうだと言って舐める者は一人もいない。全員が吸血鬼の強さを知っているのだから。

 だが、本来ならオールマイトの力さえあれば簡単に制圧は可能な力程度しかない。ジャンヌ・ダルクやラクシュミー、徴姉妹と言った吸血鬼の中でも上位に位置する戦闘能力を持つ者達ならいざ知らず彼女たちは名前を消され、言う事を聞くだけの人形と化した者達だ。オールマイトが負けるはずがなかった。

 しかし、現実はオールマイトが拳を放つのを()()で抑えられた。ゴシックロリータに身を包んだ他の吸血鬼とは違い一人だけ全身鎧の者だったがまるで()()()()()()()()()()()()()()()()くらいには楽に受け止めていた。

 

「オールマイトの一撃を!?」

「くっ!」

「……」

 

 オールマイトが後方に下がると同時にその場に黒い鉄球が落ちてくる。オールマイトよりデカい鉄球の登場に驚愕するがそれを行った少女は既に次の攻撃のモーションに入っていた。外を包囲する警察に動きはない。下でも戦闘が始まっているのだから。故に、シンリンカムイに向かって投げられたビー玉ほどの大きさの粒がシンリンカムイにあたる直前で先ほどの鉄球と同じ大きさになった際には誰も対応が出来なかった。

 顔を中心に鉄球がぶつかる。顔を覆っていたマスクが粉々に砕け散り、死柄木達を拘束していた樹木はシンリンカムイの腕に戻っていく。当の本人は鉄球と共に地面へと落下していく。幸い鉄球の下敷きになる事は無かったが頭部をやられた事で気絶し、現段階では無力化されていた。

 そして、そのタイミングを狙ったように制圧して全て確保したはずの脳無が出現する。黒い液体から出て来た脳無は吸血鬼を避けてヒーローや警察の機動隊に襲いかかる。一方で脳無への被害などお構いなしな吸血だが自ら攻撃しない辺り対象ではない事がうかがえた。

 

「ごぽっ! なんだ! これ!」

「っ!? 爆豪少年!?」

 

 そして、一瞬のスキを突かれ爆豪の口から同じような液体が噴き出すとあっという間に全身を包み込んでいく。オールマイトがとっさに抱き着いて確保しようとするが抱き着くと同時に液体ははじけその場に爆豪の姿はなくなっていた。

 

「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 爆豪勝己を救いだせなかった事でオールマイトは思わず絶叫するがそんな暇など与えないとばかりに脳無と吸血鬼たちが一斉に襲いかかる。

 そんな中、死柄木はオール・フォー・ワンの声が聞こえていた。

 

”もう大丈夫。僕がいるよ”

 

 その声と共にヴィラン連合全員を液体が包み対応する間もなく全員がその場からいなくなった。ヴィラン連合のアジトへの襲撃は吸血鬼と脳無の介入により失敗に終わろうとしていたが、そんな事は知らないとばかりに事態は大きく動き始めていた。

 平和の象徴、オールマイトと人間とは別種の知的生命体である吸血鬼の長、始祖の邂逅は近い。

 




前回で忘れていたルイズについて
大人気小説の王道のツンデレキャラではなくその元ネタとなった人物の方。修道院に入る際に始祖が眷属にした。その時に激しく抵抗したため半殺しにしてから眷属化を行った。それが原因で始祖に対して恐怖の感情が強い(だからと言って反抗する勇気もないが)。給仕役で戦闘能力は皆無。何時も恐怖で心が支配されている為かつての知力や勇気は見る影もない

軽く触れた全身鎧の吸血鬼
E-01。E-型のリーダー的存在。だからと言って優遇されている訳ではなくただただそれっぽい位置にいるだけ。ただし戦闘能力は一歩とびぬけている。
筋力増加系の個性を手に入れた事で身体能力だけならオールマイトに匹敵する。
因みに一応実在した人


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14・光の失墜、闇の大頭

三日ぶりになってしまいました。予想以上の難産な上に色々と足りない事ばかりですが温かい目で見て欲しいです……
次回こそは色々と詳しく書きます


 バーの襲撃への失敗から少し遡る。神奈川県横浜市神野区。ここにはヴィラン連合が使用している脳無の格納庫が存在していた。勿論ここも警察とヒーローたちは分かっており襲撃対象となっていた。

 巨大化の個性を持つMt.レディによる強襲から始まりNo.4ヒーローのベストジーニストやNo.10ヒーローのギャングオルガなどによってすぐさま脳無は捕縛された。更に行方不明となっていたワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのラグドールの保護にも成功し完璧な勝利で終わったはずだった。

 その様子は爆豪勝己の奪還に動いていた緑谷出久、飯田天哉、轟焦凍、切島鋭児郎、八百万百にも分かり邪魔にならないと脳無格納庫の傍から離れようとした時だった。

 

「いやはや。ここまで手際よく制圧されるとはね」

 

 格納庫の奥から足音が聞こえてくると同時にそんな声が聞こえてきた。そこから出てきたのは黒いスーツに身を包んだ男性だが、その顔は呼吸器のようなものがついたマスクで覆われており明らかに一般人とは言いづらい様相を呈していた。

 

「っ!」

 

 それを見たベストジーニストはすぐさま自らの個性【ファイバーマスター】を使いマスクの男性を拘束する。

 

「ちょっ!? ベストジーニストさん! もし一般市民だったら……!」

「状況を考えろ。その一瞬の迷いが現場を左右する。ヴィランには何もさせるな!」

 

 そう言うと【ファイバーマスター】で男の衣服をコントロールして締め上げていく。マスクの男からぎちぎちとした音が聞こえてくる。本来ならこれで終わり、そのはずだった。しかし、

 

「っ!?」

 

 ベストジーニストはとっさにその場にいるヒーローたちの衣服を操作し外へと運ぶ。しかし、完全に運びきる前に衝撃波が襲う。脳無格納庫の前を一瞬で更地にする。ベストジーニストたちヒーローはその上にボロボロになって倒れている。

 それを見てマスクの男、オール・フォー・ワンは拍手をする。

 

「流石はNo.4ベストジーニスト。完全に消し飛ばしたと思ったのだけどね。皆の衣服を操作して逃がすとはね。恐れ入ったよ」

 

 ベストジーニストは動けない中、必死に目を見開いてオール・フォー・ワンを見る。その脳裏に浮かぶは襲撃前に行った会議にて話されていた事。

 

 -ヴィラン連合には確実にブレインがいる。そいつの強さはオールマイトに匹敵、いや互角と言っていい。そのくせ、狡猾で用心深い。己の安全が確保されるまで表には姿を現さない

 -吸血鬼の事もある。ブレインと吸血鬼が動く前に死柄木達を捕らえたい

 

「くっ!」

 

 ベストジーニストは個性を用いてオール・フォー・ワンへ攻撃を行おうとする。しかし、

 

「おっと、邪魔だ」

「がっ!?」

 

 突如頭の真横から蹴りを入れられベストジーニストの体は回転しながら吹き飛んでいく。途中でボールが跳ねるようにバウンドをしながら遠くへと吹き飛んでいった。そして、そのままベストジーニストは意識を手放し動かなくなった。それを見たオール・フォー・ワンは呟く。

 

「成程、訓練と経験による強さか。弔とは性の合わない個性だ」

「確かにな。俺としても練習はめんどくさそうで欲しいとは思わない」

 

 オール・フォー・ワンの言葉に相槌を打つように答える男、始祖は目の前に立つと口角を上げた。

 

()()()()()()。オール・フォー・ワン。顔を合わせての挨拶は初めてだな」

「そうだね。初めまして。吸血鬼の始祖」

 

 両者は挨拶こそすれ握手などは行わずに一定の距離を保って話す。決して信用せず信頼しない。だが、背を合わせる事もしない代わりに互いの前に立たない。それが二人が程よく付き合える距離感だった。方や、個性を奪い、与えを行って日本に君臨した男。方や人類の歴史の裏で生き続け幾人もの女性を眷属にし続ける始祖。その二人が漸く顔を合わせたのである。

 そんな始祖の後ろから百体程現れる眷属たち。それと同時に黒い液体が出現しそこから爆豪勝己が出てくる。液体を飲んだのか若干咳き込んでいる爆豪。

 

「何だこれ! くせぇ!」

「悪いね爆豪君」

「ああ!?」

 

 爆豪の喧嘩を売っているようにしか見えない態度にオール・フォー・ワンは答えない。しかし、その後ろから液体が再び発生し先ほどまで捕まっていたヴィラン連合の面々が出てくる。

 その様子を見た始祖は推測を立てる。

 

「ほう、転送系の個性か」

「その通りだよ。僕の下に連れてくるか僕から送り出す事しか出来ない個性さ。とは言えこう言った時には意外と使えるからね。重宝しているよ」

「転移系の個性はそれだけで十分魅力的だ。とは言え使い勝手が悪いと意味ないがな」

「てめぇ、始祖か」

「おう、バーで飲んだ時以来だな」

 

 死柄木は始祖を睨みつけるような目線で見るが始祖は特に気にした様子も見せずに普通に挨拶をする。

 

「弔、今回は負けだ。だが、またやり直せばいい。仲間は取り返した。君が必要だと感じた駒もここにある」

「負けは問題ではないからな。そこから何を学ぶかが重要だ」

 

 オール・フォー・ワンの言葉に始祖が補足するように付け足す。爆豪はオール・フォー・ワンの目の前に転送させられた為動こうにも動けず何時でも攻撃できる態勢で固まっている。だがその瞬間、オール・フォー・ワンと始祖が同じ方向を見る。

 

「やはりきているな」

「へぇ……、流石だな」

 

 言い終わると同時に姿を現したのはオールマイトだった。遠く離れたバーからここまでやってきたのである。そのままオールマイトはオール・フォー・ワンに殴りかかるが難なくキャッチされ爆風が起こる。

 

「全てを返してもらうぞ! オール・フォー・ワン!」

「また僕を殺すか? オールマイト!」

 

 地面が割れ、風圧でヴィラン連合や始祖たちを吹き飛ばす。土煙が起こり二人の姿を隠す。危なげなく着地をした始祖は厳しい表情で中心部を見る。

 

「随分とかかったじゃないか。バーからここまで5キロあまり、僕が脳無を送り始祖が吸血鬼を送ってから優に一分は経過しての到着……。衰えたね、オールマイト」

 

 オール・フォー・ワンは右手をプラプラと揺らしてしびれをほぐすような動きをしてオールマイトを見る。とは言え本当に見ているのか分からないが相対している以上間違いではないだろうな。

 

「貴様こそなんだ? その工業地帯のようなマスクは。大分無理してるんじゃないか?」

 

 オールマイトは競技前のアスリートのように軽くジャンプをして体を慣らしながらそう言った。始祖は二人に介入する気がないのか未だ倒れている爆豪の背中に立つ。

 

「がっ!?」

「爆豪少年!?」

「オール・フォー・ワン。こっちは気にせずに旧交を温めると良い。こいつとは個人的に話したい事があるからな」

 

 そう言うと始祖は爆豪の上でそのまま話かけた。

 

「初めまして、爆豪勝己。君の事だ。目と目を合わして話をしようとすれば爆破を行ってくるだろうからこのまま進めさせてもらうよ」

「くそっ! ふざけnがァッ!?」

 

 始祖は反抗しようとした爆豪の後頭部を掴むと【爆破】を発動する。これだけ近くにいれば個性をコピーできるうえに雄英体育祭でどういったものなのかを始祖は理解している。爆豪は自身と同じ個性を後頭部にくらい気絶しかける。始祖はそれで終わらずにそのまま地面に顔面を押し付ける。地面にめり込むほどの一撃をくらい爆豪は抵抗をやめた。

 

「お? 話を聞く気になったようだな。では少し話そうか爆豪勝己」

「……て、めぇ。と、話す事なんか、ねぇ……!」

「そっちにはなくてもこっちにはあるんだよ」

 

 そう言うと始祖は爆豪の上でしゃがむ。更に【筋力増加】の個性を使い体重を増やし爆豪が暴れないようにする。

 

「君はヒーローになりたいのか?」

「あたりめぇだ。てめぇのようなヴィランを、倒す! 為になぁ!」

「! まだ反抗するのか」

 

 始祖を背中の上からどかそうと立ち上がろうとした爆豪に始祖は【爆破】を発動し【浸食】で麻痺状態にする。更に【ワープゲート】を両腕だけが通る大きさに限定すると爆豪を大の字にうつ伏せにして四肢を通していく。

 

「これで少しは大人しくなるだろうな。麻痺で動く事も出来ず、例え麻痺が切れて動こうとしても【ワープゲート】で四肢はあらぬ場所にある。引っ張り出そうとしてもその前にゲートを閉じればちぎれる」

「く、っそがぁ!」

「それだよ、それ。爆豪、お前の言動と態度はヒーローにふさわしくない」

「ふざけんな! てめぇに言われたかねぇ!」

「実力はあるだけにその態度はいただけないな。よし、俺は()()()。君に”挫折”の光景を見せてやる」

「っ! 何する気、だぁ……」

 

 爆豪の額に手を付けるとそこから”何か”を流し込む。流し込まれた爆豪は意識を保てなくなりその場で意識を失った。それを見て始祖は笑みを浮かべる。

 

「想定は”ヴィランを追いかけて倒した際に民間人を巻き込んでしまい世間からバッシングを受ける”だ。運が良ければこれからのヒーローとして成長するきっかけとなるかもしれないが……、っと」

 

 唐突に発生した突風にあおられ始祖は少しよろける。が、すぐに態勢を立て直すと突風が発生した方を見る。そこにはいたはずのオールマイトが居らずオール・フォー・ワンが左手を突き出した形でいるだけだった。オール・フォー・ワンの前方に何かが吹き飛んでいったあとがありそこから大体の事が予測できた。

 

「へぇ、流石はオール・フォー・ワン。強いねぇ」

「いくつかの個性の組み合わせさ。使いこなせれば君でもできるようになるだろう。さて、君を足に使うようで申し訳ないけど【ワープゲート】を開いてくれ。場所は君の使者が何時も黒霧と会っていた場所で構わない」

「……全く、”申し訳ない”と言うのなら少しは声に感情を乗せろ。そう思っていない事がバレバレだぞ」

「それはすまなかった。どうも罪悪感というのがあまり分からなくてね。それに、断るのなら黒霧の方を無理やり発動するだけさ」

 

 そう言うとオール・フォー・ワンは指を黒い棘のようなものにして見せる。あれを用いて個性を強制発動させるのだろう。始祖はめんどくさそうに頭をかくと靄のゲートを生み出す。

 

「死柄木。ここは僕に任せて君は逃げなさい」

「だけど先生! あなたのその体じゃ……!」

「良いから逃げろや」

 

 始祖はオール・フォー・ワンを心配し動きそうにない死柄木を軽く蹴り押し出す。その先にはゲートがあり死柄木を呆気なく押し込んでいった。そして、そのタイミングでオールマイトが上空に飛ぶとこちらに向かってくる。それを見たオール・フォー・ワンも空中に浮かびあがりオールマイトと対峙する。

 

「死柄木達は頼んだぞ」

「お代はきっちりいただくからな」

 

 それだけ言うと始祖は残ったヴィラン連合の面々に向き直る。

 

「よし、お前らもさっさとくぐれ。バーの方は一進一退の攻防が続いているが一人、こちらに凄いスピードで向かってきているしそれとは別に複数のヒーローの気配がする。いずれ囲まれるぞ」

「お、おお。そうか」

 

 始祖の言葉にスピナーが答え靄を通る。マグネは気絶している荼毘を担ぎくぐり残ったトゥワイスとMrコンプレスは黒霧を肩に担いでくぐっていった。全員がくぐり終えたのを確認した始祖はゲートを閉じると先ほどとは違い苦し気な表情で眠っている爆豪を見下ろす。

 

「さて、残るはこいつだけか。……そうだな」

 

 始祖は少し口角を上げると()()()()()()()()()()()()()()言った。

 

「将来の活躍を危惧して()()()()()()()()。それとも()()()()()()()()()()()家族を奪おうかな?」

 

 その瞬間、始祖が見ていた場所から巨大な氷と緑の雷のようなものを覆った人影が飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久は恐怖で震える中オール・フォー・ワンたちの様子を伺っていた。脳無格納庫が面する裏路地から中の様子を伺っていた。その時にはヒーローの突入が始まる直前であり脳無格納庫を瞬時に制圧していたのを見た時は見つかる前に退散しようと考えていたがオール・フォー・ワンの登場により周辺は瓦礫の山と化したが運よく五人がいた場所は無事であり塀だった部分に隠れていた。

 緑谷出久は爆豪が出てきた際に取り戻そうとしたがこれ以上ヒーローの資格がないのに飛び出そうとしないように見張る役目の為についてきた飯田天哉と八百万百が止めていた。その間にオールマイトがやってきたがオール・フォー・ワンに抑えられていた。結局ヴィラン連合は始祖が出したゲートをくぐり逃げてしまい残ったのは始祖たち吸血鬼と気絶している爆豪のみだった。

 このままでは危ない、緑谷出久が策を練ろうとした時だった。緑谷は始祖と目があった気がした。そして……

 

「将来の活躍を危惧して()()()()()()()()。それとも()()()()()()()()()()()家族を奪おうかな?」

 

 その言葉を聞くと同時に緑谷と()()()は動いていた。最大出力の氷を出す轟焦凍と弾かれるように飛び出していた緑谷。とっさの出来事に八百万や飯田は抑えきれなかった。

 

「かっちゃんを! はなせぇっ!!」

「緑谷出久!」

 

 始祖は緑谷が飛び出してくるのを察知していたのか笑みを浮かべて向かいうつ。……が、すぐにその場を離れる。数秒も経たずにその場に氷がやってきた。轟の個性である。それを見た始祖は轟の方を見る。

 

「轟焦凍。エンデヴァーの息子か。なんだ? エンデヴァーの敵討ちがしたいのか?」

「ンな訳ねぇだろ。お前だろ? 母さんを連れ去り姉さんと夏兄を殺したのは!」

 

 そう言うと轟は最大出力の氷を生み出す。しかし、始祖はそれを爆豪の個性である【爆破】を用いて防ぐ。爆豪ほどの威力は出ていないがそれでも迫って来る氷を吹き飛ばす力はあった。更にその横から殴りかかって来る緑谷の攻撃を一つ一つ躱し隙をついて蹴りを腹に入れる。

 

「ぐっ!?」

「雄英体育祭の時よりも成長はしているようだがまだまだだな!」

 

 緑谷を吹き飛ばすと今度は轟の方を見る。轟は鋭い視線を向けており明らかに怒りの感情が浮かんでいた。

 

「ああ、お前の家族か。確かに俺が、というより俺の命令で眷属が殺したな」

「っ!」

「それと君の母親はまだ吸血鬼には至ってないから安心しろ。そうする時はエンデヴァーと再び対峙した時と決めているんだ。見ものだろうよ! 家族としてやり直そうとした矢先に自分の力不足で負けた相手に攫われたんだからよ!」

「お前ぇ!」

 

 轟は怒りに身を任せて氷を放ってくる。強力な攻撃だが代わり映えのしない一撃に始祖は少し退屈気味に後ろに下がって回避する。だが、その瞬間を狙ったように轟は叫ぶ。

 

「緑谷! 爆豪を!」

「は?」

「任せて!」

 

 始祖は轟の言葉の意味を図りかねたが轟の氷で気付けば爆豪と大分離されていた。そして、緑谷が回収するとそのまま離れていく。そして、そこで漸く始祖は自分の失態に気付き取り戻そうと動こうとした瞬間だった。

 始祖の行く手と視線を阻むように氷の壁が出現する。それを出した轟が反対側から始祖に声をかけた。

 

「俺はその場にいたが誰がやったのか、その確証がなかった。まぁ、十中八九お前だろうとは思っていたからこの機会に聞いてみただけだ。俺達の目的は鼻っから”戦闘をしないで爆豪の救出”だ。俺が怒りに任せて攻撃したと思わせればお前だって意識はこっちに向くだろう。後は氷結を操作して爆豪から遠ざけた」

「……は、ははははははは! してやられたな。まさか、怒りで我を忘れていなかったとは」

「俺は怒りで動くとどうなるかを知っている。だから、絶対に道は間違えない」

 

 轟はそう言うとその場を離れていく。ご丁寧に氷を張り直ぐに追い付けないようにしていた。始祖は軽く息を吐く。そこへオール・フォー・ワンが近づいてくる。

 

「してやられたようだね」

「ああ。どうやら将来のヒーローたちは想像以上の成長を遂げているようだな。肉体的にも、精神的にも……。って、オールマイトはどうした?」

「ああ、それなら……」

 

 オール・フォー・ワンが最後まで言う前に背後にオールマイトが現れた。既に攻撃のモーションに入っており数秒もしないうちに攻撃が行われる事は確定していた。加えて、その攻撃が通った先にいるのは始祖。一気に両方を倒そうとしていたのである。

 しかし、両者もオールマイトとやりあえる人物である。オール・フォー・ワンは即座に振り向いて放たれた拳を掴み、始祖は後方に大きく跳躍して回避する。更には掴んだ事によって発生した突風を利用してかなり離れた場所に飛ぶ。

 華麗に着地を決めた始祖は氷の壁の先を見る。大分離れてしまっておりヒーローが向かってきている以上追いかけるのは至難の業だろう。始祖はやれやれと肩をすくめるとオール・フォー・ワンに叫んだ。

 

「オール・フォー・ワン! 俺はそろそろ失礼する。後は君だけで対処すると良い」

「勿論そのつもりさ。戦闘面でも君の力を借りようとは思わない。その場合、どんな要求をされるのか分からないからね」

「俺が望む”者”は決まっているだろうが」

「……ふ、そうだね。君はそう言う人物だ」

 

 オール・フォー・ワンは少しおかしそうに笑う。始祖も野性的な笑みを浮かべると【ワープゲート】を発動する。完全に輸送業者と今回は化した始祖だがヒーローの卵たちが思わぬ成長を遂げていたという嬉しい事実も合わさりご機嫌であった。ゲートをくぐる始祖は逃がしたくはないがオール・フォー・ワンに邪魔をされているオールマイトに言った。

 

「オールマイト。君は素晴らしい実力を持っているがこれでさよならだ。次に会う時がある事を願っているよ」

 

 その言葉と共にゲートは閉じられ始祖は完全に神野区から姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 それからすぐにオールマイトとオール・フォー・ワンの周囲をいとわぬ決戦が始まった。しかし、守るものが多いオールマイト相手にオール・フォー・ワンは圧倒し一度は勝利を掴んだと思ったがオールマイトの民衆の思いが乗った”UNITED STATES OF SMASH”が突き刺さりオール・フォー・ワンは敗北した。

 ヴィラン連合のバックにいたオール・フォー・ワンや大量の脳無、いくつかの吸血鬼を確保したが多数のヒーローの死亡に加えてオールマイトの引退という手痛い打撃を受ける事となった。平和の象徴がいなくなることに不安を覚える声が続出するがそのすぐ後にエンデヴァーの意識が戻り数日の入院とリハビリを終わらせて直ぐに現場に復帰した事である程度は抑えられる事となった。

 しかし、エンデヴァーですら一度は敗北し重傷を負ったという事実は覆る事は無く巨悪を抑えられる力が()()ない事が深く民衆の心に刻まれる事となり個性使用の制限緩和を求める声が続出していく事になる。

 




始祖が爆豪に使った個性:【悪夢(ナイトメア)
名前のまんま。触れた対象に悪夢を見せる。見せられる内容に上限はないが合計8時間以上見せる事はできない。一度見せ始めると解除するか8時間が経過するまで解ける事は無い。見せる悪夢の設定によっては心を破壊する事も出来る程深い傷をつける事も出来るがそれをするには明確なイメージが必要な為想像力に欠けると中途半端で悪夢とすらいえないものになる。
因みにイメージをしないで発動した場合は対象とした相手の記憶にある”最も心に残っている嫌な出来事”が延々と流れ続ける事になる。


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15・終わりにして始まり

神野区の話も終わったし次は仮免でヤクザか……。壊理ちゃんどうしようかな


「で? 何の用だ、死柄木弔」

 

 神野区でオール・フォー・ワンとオールマイトが激突してから数日後、俺は死柄木弔に呼び出されていた。場所は廃ビルの一室だと思うがそこにはヴィラン連合の面々が勢ぞろいしていた。別に驚く事ではない。死柄木の機嫌がとてつもなく悪い事を除けば……。

 

「分からないのか?」

「予想は付くが本人から言われたわけではないからな」

「なら教えてやるよ。何故先生を見捨てた?」

 

 死柄木の要件はやはりそれだったようだ。傍から見れば俺の行動はオール・フォー・ワンを見捨てたと捉われても可笑しくなかったからな。例えオール・フォー・ワン本人が俺に助けられる事を望んでいなかったとしても、俺が態々助けてやる気がなかったうえにまだ信用も信頼もしていなかった結果だったとしても。彼にとっては理解できないし納得できない事だったのだろうな。

 

「その事なら単純だ。オール・フォー・ワンは俺との共闘を嫌がった。俺も共闘を嫌がった。ただそれだけさ」

()()()()だと? ふざけるなよ」

「……死柄木。今回は警察やヒーローがお前たちを捕捉するのが速かっただけだ。そして迅速に対応しお前らは逃げの一手、いや詰みかけていた。それを俺のせいにするのはいただけないぞ」

「誰も俺たちの事は聞いてない! 何故! お前が! 先生を助けなかったのか聞いているんだ!」

「……」

 

 俺は息を吐くと死柄木を見つめる。多分今俺の視線は冷めた目で見ているだろう。死柄木やヴィラン連合の面々が少し後ずさっている。

 

「あいつはプライドを優先したのさ。俺と組みたくない、俺の力を借りたくない。自分の力で十分だというプライドをな。俺もそうさ。アイツを助けるのがめんどくさい、望まれてもいない事をやる気になれない。そんな気持ちがあったからこそ俺は助けなかった

いいか死柄木?俺はお前を買っているがあくまで俺とお前は対等な関係だ。お前が俺に命令する事はできないし俺もお前に命令できない。それを忘れるなよ? 今回は見逃してやる」

「……」

 

 死柄木は悔しそうに歯を食いしばっているがそれも彼にとっては成長を促進する栄養となるだろう。今回の出来事を飲み込み、前に進んだときにこいつは今よりもずっと強くなる。俺はその時にこいつがどうなるのかが見たくて一緒にいるんだ。下に付いたりとかいいなりになったつもりはない。精々俺を利用したり買収して動かす事だな。

 

「なに、オール・フォー・ワンからは君たちの事を頼まれてはいるんだ。見捨てたりせずにこれからも協力は惜しまないつもりさ」

 

 それだけ言うと俺は【ワープゲート】を使いゲートを開く。既に使い慣れたゲートをくぐっていく。その間、俺の背中を死柄木はずっと睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捕らえた脳無はこれまでと同様に人間的な反応はなく、新たな情報を得られそうにはありません」

 

 東京都警視庁本部庁舎の一室にて警察のみの会議が行われていた。参加するのは全員警察内部において絶大な権力を持つ者達であり彼ら一人一人の発言が人々を大きく動かす力を持っていた。

 そんな彼らであるから、今回の出来事を深く重く受け止めていた。

 

「保管されていたという倉庫は消し飛ばされており彼らの製造方法についても追って調査を進めるしかありません」

 

 報告を行う者の言葉を簡潔にいうなら”何も分かっていない”。これに尽きた。そして、報告はこれだけではない。

 

「そして、吸血鬼に関してですがバーと神野区双方に200体近くが出現しました。数だけ見れば保須市の時の倍以上です。残念ながら神野区に出現した方は”始祖”の退場と共に消え、バーの方はヒーローと機動隊で大量の死傷者を出し20体を確保しました。残りは全て取り逃がしています」

「……確か保須市では吸血鬼の上位互換と思われる存在も確認できていたな。そいつらは現れたのか?」

「いいえ、現れていませんでした。しかし、今回出現した吸血鬼は全て増強系の個性を持っていました」

「それはつまり吸血鬼も個性を使いだしたという事か?」

「正確には分かりません。ですが同じ個性を持つ者が数十体も出現したのです。吸血鬼たちは、()()()()()()()()()()を手に入れた可能性が高いです」

「ただでさえ厄介な吸血鬼が今以上に強く成るのか……」

 

 会議の雰囲気が更に暗くなる。

 

「大本は捕らえたものの、死柄木を始めとした実行犯らは丸々取り逃がした……。しかも吸血鬼はほぼ取り逃がしたうえに捕まえたやつは血が無くなり体は灰になった。最大限甘く採点して”痛み分け”と言った所か」

「ンな訳あるか。平和の象徴と引き換えにだぞ? 加えて、参加した機動隊は倉庫の方は全滅、バーの方は半分がやられた。ヒーローも倉庫、バー共に無視できないダメージを受けた。オールマイトの弱体化が世間に晒され、今までの”絶対に倒れない平和の象徴”はいない。国民にとっても、ヴィランにとってもな」

「たった一人にもたれかかったツケだな」

「馬鹿も集まりゃここまで出来るとみんなが知った。俺は恐れているよ。死柄木の最初期のプロファイリングでは”子供大人”とさえ言われたが今では立派なヴィランのボスだ。襲撃を重ねるごとに強く、姑息になっている。奴は考え成長しているという証拠だろう。そしてオールマイトが崩れた。ヴィラン連合も数を重ねるごとに成長している。こうも上手く行くものかね?」

「これもすべて計算のうちと?」

「偶然ではないのか?」

「そこは分からない。……が、一つだけ確実なのは奴らは必ず捕らえなければいけないという事だ。これ以上成長させてはならない。オール・フォー・ワンを超える巨悪になる可能性だってあるんだからな」

「それに吸血鬼の事もありますからね。”上”はまだ諦めていないのでしょう?」

「ああ、今は違うアプローチを試しているとの事だ。まったく、永久にも近い命というものはそこまで人を魅了するのかね」

 

 彼らが”上”と呼ぶ政府は未だ吸血鬼を取り込む事を諦めてはいなかった。それどころか最近では他国の諜報員も狙い始めておりいくつかの国は既に接触しているという報告まで上がっていた。しかし、それと同時に成功したという話も聞かないためいろいろな方法が模索されていた。

 

「どちらにしろ俺たちも改革が必要だ。何時までも”ヴィラン受け取り係”なんて言われていられる状況ではない。これからの社会の為にもな」

 

 警察官の一人は真剣な表情でそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖愛学院はヒーロー科が存在する女子高である。元は超常黎明期から存在するお嬢様学校だったが近年ではそれ以外の女子生徒の受け入れも行われた。更にヒーロー科が作られた事でヒーローを目指す者も入って来るように活気づいていた。

 しかし、2年近く前に始祖が襲撃を行い秘密裏に学院の掌握に成功していた。好みの女性のみを眷属にしつつ自らの眷属を生徒や教師として潜り込ませ、全寮制にする事で生徒や教師が外に出る機会を制限した。

 始祖が【コピー&ペースト】を手に入れてからは個性を用いた洗脳や認識改変を行い始祖が廊下を歩いていても誰も驚かないような環境へと変貌していた。彼女達は卒業後は吸血鬼の外部協力者という位置づけで情報収集や暗殺、ハニトラなどを行うようになっていく。

 そんな聖愛学院の校長室に一人の女性がいた。聖愛学院の制服に身を包んだその女性の名はトガヒミコ。ヴィラン連合に協力する大物ブローカー義爛が連れて来た者の一人で始祖が気に入った為眷属化を施し吸血鬼となっていた。

 林間合宿ではヴィラン連合に協力して生徒たちを襲撃したがその後はアジトに待機状態となっていたが始祖の命令で聖愛学院ヒーロー科に所属する女生徒となっていた。

 

「どうやらサイズはぴったりな様ですね」

 

 そう言って制服姿の着心地を確認しているトガヒミコに話しかけたのは聖愛学院2年の印照才子である。学院掌握後に入学した女性の一人で好みのタイプだった為始祖によって眷属とされていた。今では聖愛学院のリーダー的存在としてまとめ上げている。卒業後は教員資格を取り聖愛学院の教師に赴任する事が決定されており今後も聖愛学院を取りまとめる存在となる予定である。

 

「……」

「? トガさん、どうかしましたか?」

「何か、可愛くないです」

 

 トガヒミコは不服そうな表情をしながらそう言った。彼女が着ている制服はお嬢様と言えるような服装だったが彼女的にはお気に召さなかったようだ。ブーブー言いながらクルリと回ったりしているが本人の容姿もありその姿は可憐と呼ぶにふさわしかった。

 

「我慢しなさい。貴方はこれからは始祖様の眷属トガヒミコではなく聖愛学院ヒーロー科1年”小嵐琉衣(こあらし るい)”として生活をするようになるのですから」

「学校は嫌いです……」

「始祖様のご命令は絶対ですよ。貴方もそれは分かっていますよね?」

「それは、分かっていますけど……」

「貴方の目的は次に行われる仮免試験で他の受験生の様子を伺う事です。これらはその為の準備でしてよ」

 

 才子はトガヒミコに容赦なくそう伝える。始祖でもない限り聖愛学院内においては彼女がトップの権力を持つ。例えジャンヌ・ダルクやマリー、クレオパトラでさえ聖愛学院の中では彼女に逆らう事は許されていない。

 それだけ信用されているからこそ聖愛学院後の将来もきちんと計画されているのだ。

 

「仮免試験後は聖愛学院にいる必要はありません。始祖様の下に戻っても構いません」

「うーん、短い期間ですし我慢します」

「それと学院内で負傷させるような行いはしない事。きちんと生徒としてのふるまいを行う事をきちんと守ってください」

「うー。……分かりました」

 

 トガヒミコは不貞腐れつつ返事をする。こうして彼女は短い期間だが聖愛学院の生徒として過ごすようになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「おいおい、いい加減飯を食べたらどうだ?」

 

 次元の狭間にある始祖のアジト。そこにある牢獄のような一室に轟焦凍の母である轟冷はいた。ベッドに机、椅子以外は何もないその部屋に無遠慮に入って来たのは監視担当のキアラ・ロジーノである。言動が悪くすぐに暴力に訴えるような性格をしており出した食事に一切手を付けない冷に切れかかっていた。

 

「……」

「ちっ、だんまりか。マスターから眷属化予定だって言われていなかったら殴ったり出来るのによ」

「……」

 

 一切反応を見せずに反対方向を見ている冷にキアラは鼻を鳴らすと鋼鉄の扉を閉めて部屋を出ていく。重い音と共に扉が閉まると冷はうつむく。その表情は今にも泣きそうになっており体は震え始める。

 連れ去られてからずっとこの部屋に閉じ込められ外部の情報が一切入ってこないここでずっと怯える日々を過ごしていた。食事は毎日三回ずつ出てきておりそれが唯一時間の流れを教えてくれていた。紙やペンすら与えられず暇を持て余すような状況を過ごしている内に最初は反抗的だった態度も今では無視するだけに留まっていた。知らず知らずのうちに精神的に追い詰められていたのである。

 

「……焦凍」

 

 ぽそりと呟くのは自らの息子の名前。病室から出ていた事で無事だったと思うが今頃どうしているのか気になっていた。冬美は無事なのだろうか?夏雄は?あの人(エンデヴァー)は?何もない現状では思考はどんどん悪い方向に考えてしまう。

 気付けば冷の瞳からは涙がこぼれておりそれに伴い声も出る。冷は顔を覆うと静かに泣き始めた。その様子を鋼鉄の扉に腕を組みながら寄りかかり聞いていたキアラは不快そうに眉を顰めると歩き始めた。向かう先は待機所とも呼ばれている共有スペースである。

 

「あら、キアラ。今日はもうおしまい?」

「二コラ……。ああ、そうだよ。いつも通りだ」

 

 共有スペースの端にある椅子に座って読書をしていた二コラはキアラに気付きそう声をかけた。キアラもイラ正し気に隣に座る。普段はいがみ合い、始祖の寵愛をどちらが多く取るか競っているが仲は比較的に良くこうして愚痴を言い合う事があった。

 

「まったく、マスターはなんであんな奴を眷属にしようと考えているんだよ! あたしだったら絶対にいらないね!」

「キアラ、マスターの考えを否定してはいけませんわ。貴方が苛立つ気持ちは分かりますが命令はきっちりこなさないと」

「分かってるよ! だけどアイツ全然食事を摂らないし作るだけ無駄な気がしてならねぇ!」

「なら、食事を出さなければ……。って訳にもいきませんか」

「そうだよ。だから困っているんだよ」

 

 食事を出さないという事は”殺そうとしている”と取られても可笑しくない行動だ。故にその選択肢はないがこのままでは餓死するだろう。そうなってしまえばキアラは罰を受ける事になる。一万人以上のライバルがいるのだ。皆、こぞってキアラを追い落とそうと動くだろう。特に現状では数少ない褐色系の眷属だ。それだけで寵愛の回数は多い為たくさんの嫉妬を買っていた。二コラもキアラとセットで扱われるため多少なりともキアラの恩恵を受けていた。

 

「ならば今度マスターに相談してみるのが良いと思いますわ。私達だけで考えていても仕方ありませんわ」

「二コラ……。そうだな、そうだよな。そうしてみる」

 

 キアラはそう言うと笑った。それを見た二コラは少し顔を染めてうつむいてしまう。不思議に思っていると二コラは

 

「きょ、今日は何もありませんし私の部屋に来てもらえますか? 見せたいものがあるので……」

「? 分かった。行こうか」

 

 キアラはそう言って二コラの部屋に向かう。その日、二人は部屋から出てくることはなく翌日以降二人の仲はそれまでより良好なものとなっていくことになる。

 そして冷は始祖の持つ個性と吸血鬼としての能力を掛け合わせて食事を摂るようにさせられた為餓死の心配はなくなりキアラは監視役をきちんと全うしていくことになる。

 




印照才子
アニメオリジナルキャラクターで聖愛学院2年生。原作だと八百万達を一次試験で襲うが返り討ちに遭った。
今作では聖愛学院が始祖の手に落ちており才子も眷属となっている。基本的に聖愛学院の管理を行っており学院内だと始祖の次に権力が高くなる。管理を行っている上に学生という身分の為保須戦争や神野区の戦いには参加していない。眷属だが戦闘はあまり得意ではない。
個性:【IQ】
紅茶を飲んで目を閉じてる間だけ、IQが増幅する。増幅の大きさは紅茶の種類によって違いが出る(Wikipediaより)
原作で才子が持っていた個性。因みに始祖は紅茶を飲まない為持ってはいない。
他にも管理の補助に使えそうな個性を幾つか保持している。

聖愛学院
始祖が二年ほど前に好みの女性を眷属にするために襲撃し乗っ取った。今作では全寮制の女子高という設定で始祖がヒーロー側の情報を得る際に使われている他外部協力者の育成機関と化している。
そして、それ以上の設定は考えていない為矛盾している所とかがばがばなところがあるかもしれいないけど都合よく解釈してください


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第二章【崩れ行く社会とヴィラン】
16・罅を立て始めた社会


軽く雄英の話をしたら一気に壊理ちゃんの話まで行きます。というか眷属化が多いのはなん特なく予想していたけどヴィラン連合への加入が多くてびっくりした


 オールマイトの引退より約二週間が経過した。ヴィラン連合は今捜査かく乱の為に各地に散っている。それ以外にも仲間集めも行っているようだが、

 

「仲間集めはあまり上手く行っていないようだな、荼毘」

「……あんたか」

 

 俺は路地裏とは言え遠慮なく青い炎を放つ荼毘にそう声をかけた。炎で燃えているのはチンピラ同然のヴィラン。USJ襲撃の時なら役に立ったかもしれない程度の小物たちだ。荼毘やスピナーを見た後だと必要とすら思えない者達だ。

 荼毘はそんなチンピラの焼死体に一瞥するとこちらに向き直った。相も変わらず凄い見た目をしている上にその瞳から敵意がにじみ出ている。最初にあったころと比べると大分関係は悪化しているがヴィラン連合に協力しているという事もあるのかこちらに手を出そうとはしてきていない。

 何故、このような事になっているかは分からないが()()()()()()()()()()()()()こうなっている事を考えるとある程度は推察できるが事実は分からない。それだけ、こいつの情報はないのだ。本名だって分からないしな。

 

「死柄木から連絡を受けてな。一度集まりたいとの事だ。全く、人を足に使うんじゃねーよって話だよな」

「お前には丁度いいんじゃないか」

 

 荼毘は俺の愚痴にそう返す。明らかに不満だらけです、と言った態度に俺は苦笑する。ここまで嫌われるなんて俺本当に何かしたのか?いや、そもそも()()()()()()()()()()()()()()大間違いだ。そちらが準備をしている間に俺が先に行っただけだ。実力不足だというのならそもそも論外だ。

 

「じゃぁな。俺は確かに伝えたぞ」

「……死柄木にはよろしく伝えて置け」

「はいよ」

 

 全く、本当についてないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は()の背中を見ながら見送る。黒霧からコピーしたらしき【ワープゲート】を用いてさっさと消えてしまった。……正直に言ってアイツは嫌いだ。

 最初こそ獣と変わらないと思っていたが()()()()()()()()()()()()を半殺しにしたことで多少は好感を持っていた。とは言っても一方的なものだったがな。アイツが意識不明の重体で入院していると知った時は小躍りしそうになったものさ。俺としてはこの手でそうしたかったがそこまでは望むまい。アイツだって生きていたし今では退院してヒーロー活動に勤しんでいるみたいだからな。チャンスは何時でもある。

 だがな、その後の行動は俺の心を苛立たせた。あの糞野郎、エンデヴァーの家族を襲撃した事だ。既に()()()()()()()()()()とは言え大切な存在には変わりはない。襲撃犯は捕まっていないが十中八九始祖の眷属で間違いないだろう。死柄木も気づいて小言を言っていたからな。

 だからいずれエンデヴァーを社会的にも、精神的にも殺した後はあいつを殺す。吸血鬼と名乗っているくせに日光は普通に浴びるわニンニク入りの料理を普通に食べるわ十字架は平気だわと弱点となり得そうなものがないが炭化させれば蘇生は難しい事が分かっている。不意を突き一撃で決めてやる。それまでは、背中を任せる位はしてやるからさ、俺を信頼しその時に油断していてくれよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰だ、貴様等」

 

 京都府にある志韋羅町の郊外にはそれなりの標高を誇る山がある。そこの頂上には平安より続く寺があり一人の住職が一人で切り盛りしていた。立地ゆえに訪れる者は体力のある若い人以外は中々訪れない為に何かあった際には住職が山から降りてくることがあった。

 そんな場所ゆえに明らかに異質な気配をまとった二人の女性を見て住職日暖(ひだん)は警戒する。僧侶の服装の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体を用いて一瞬たりとも警戒を解いたりしない。それを見た二人の女性、徴姉妹は感心する。

 

「ねぇねぇ、姉さま。この人強いよ」

「ええそうね。事前情報で知った個性も合わせれば最高の逸材と言えるわ」

「……何を話しているのか知らぬがさっさと去れ。ここはおぬし等のような悪意ある者が居ていい場所ではない!」

 

 日暖は戦闘の構えを取り目の前の徴姉妹に神経を集中させる。空気がどんどん重くなっていき日暖を中心に振動が発生する。明らかに武人として優秀だと思わせる目の前の住職を前に、二人の態度が変わる事は無かった。

 徴姉妹の妹の方、徴弐はニコニコと笑みを浮かべると普通に歩き近づいていく。まるで目の前の日暖の姿が見えないように。そして、徴弐が日暖のすぐそばまで近づいた時だった。

 

「ふん!」

「アハッ!!」

 

 日暖の正拳突きが徴弐の懐にめり込む、と思った瞬間にアクロバティックな動きで正拳突きを囲むようにイナバウアーの形で避ける。その瞳には快楽の感情が浮かんでおりこの攻防を楽しんでいるのが日暖にも分かった。

 

「ちぃっ! 小癪な!」

「良いよぉっ!もっと戦おうよぉっ!!」

「戦狂いの類か! なら!」

 

 戦闘狂相手に長期戦を行うなど愚の骨頂と判断した日暖は己の鍛え上げぬいた肉体だけではなく個性も用いて短期決戦で挑む事にした。空手の様に握った拳を腰の位置に置き深く深呼吸をする。それを隙と捉えた徴弐は右手の指の間に挟んだ彫刻刀やドライバーを日暖の胸部に突き立てようとする。

 しかし、触れる直前で日暖の両腕が炎に包まれる。突然の事に徴弐は一瞬動きが止まりその隙をつく形で日暖の正拳突きが徴弐の腹部を捕らえた。骨の折れる音、肉の割ける音が響き更に肉が焼ける音と匂いが一瞬日暖の鼻で感じるが直ぐに徴弐の体は吹き飛びお堂を囲むように存在する塀を突き破り木々をなぎ倒して地面に倒れる。

 明らかな重傷を負った徴弐を姉である徴側は一瞥だけするとため息をつく。

 

「まったく、あの娘は何をやっているのでしょうか……」

「次はお主か?」

 

 頭を抱えている徴側に日暖が問う。徴弐が吹き飛んでいった音は町からでも聞こえていたはずで誰かしら様子を見に上がって来る可能性があった。そうなった場合人質を取って来る可能性もあり日暖はさっさと無力化をするか追い返したかったのだ。それを知ってか知らずか徴側は日暖に向き直ると言った。

 

「私としてはパワータイプの者と一対一で戦うのは苦手なのです」

「……ならばもう一人の女性、お主の妹だろう者を連れてさっさと去れ。今なら見逃してやる」

 

 日暖は確信していた。この者達は危険だと。一刻も早く逃げるか無力化せよ、と己の本能が何度も知らせていた。日暖はその本能で感じている事に歯向かうつもりはなく本能に従い戦闘を行った。

 しかし、徴側は去るつもりはないらしく徴弐が吹き飛んでいった塀の方を見ると叫んだ。

 

「徴弐! 何時まで寝ているのですか! さっさと戻ってきなさい!」

「……お主、何を言っt「もう! 姉さまったら! 傷を治すところなんて誰にも見られたくないのに!」馬鹿な……!」

 

 日暖は驚愕した。徴弐と呼ばれる女性の腹部に正拳突きをくらわした際に感じた感触からして二度と歩けないと思わせるほどの一撃を与えていた。しかし、塀から飛び出してきた徴弐は服こそ破れ、乱れているものの、傷は一切残っておらず彼女もくるくると軽やかな動きを見せていた。

 人間離れした回復力を見て日暖は二つの可能性が思い浮かび最も当たって欲しくない方の予想を言う。

 

「貴様等、吸血鬼か?」

「あれ? 姉さま、バレちゃったよ?」

「ブラフの可能性もありますが別に今更隠す必要はありませんね。その通りです。私は徴側、隣の妹は徴弐と言います」

「やはりか(当たって欲しくはなかったが厄介な……!)」

 

 日暖は自らがかなり窮地に立たされている事を悟った。渾身の一撃は通用するが直ぐに回復されてしまう上に基礎的な身体能力はほぼ互角と言えた。そのうえで相手の個性次第ではこちらが不利になる可能性が高かった。自らの本能が鳴らした警告に狂いはなかったと思うと同時に逃走の手段を考え始めていた。

 彼女たちの狙いが分からない以上この場で戦闘を続けることは出来ない。応援なり助けを呼ぶ方が良いだろうと判断して日暖は徴姉妹の隙を探す。

 

「……姉さま。こいつ、逃げようとしている」

「っ!?」

 

 しかし、その動きはあっさりと徴弐にバレた。日暖は徴弐と目が合った瞬間、全身からブワッと汗を噴き出す。絶対に勝てない、戦ってはいけない、早く逃げろと己の中で本能が荒れ狂いながらそう伝えてくる。その様子に徴弐は楽しそうに嗤う。その顔は、弱者をいたぶろうとする者とよく似ているがそこに映る狂気は比べ物にならないほど大きく、そして歪んでいた。

 

「逃がさないよ」

「くっ!?」

 

 徴弐がそう言うと同時に日暖の視界より消え瞬間、右足に激痛が走る。そこには刃先が違う彫刻刀が四本地面に縫い付けられるように刺さっており右足を固定していた。

 立つ事すら辛い激痛を感じつつ日暖は周囲を確認する。相も変わらず徴弐の姿を眼で終えておらず一瞬で行った出来事故に焦りが出始めていた。

 

「日暖。本名は炎藤空介(えんどう くうかい)。個性は【腕部の炎熱操作】」

「っ!」

「腕および周囲の空気の熱を上げ炎を起す事が出来る個性。炎に対応できるように腕の皮膚は頑丈でこれを生かして武術に置いて強力な攻撃を放つことが出来る」

「ぐぁ!?」

 

 徴弐が一言話すたびに体のどこかに彫刻刀かドライバーが突き刺さり日暖の命を削っていく。そして喋り終えたからかそれまで刺してこなかった腹部に五本の彫刻刀が突き刺さりその場で膝を付く。日暖の息は荒く体中から脂汗を出していた。そんな彼の前に徴弐が現れゆっくりと近づいてくる。

 

「安心して。()()殺さないから。ご主人様の下に連れて行って血を全て抜いて殺すからそれまでは絶対に死なないから安心してね!」

「っ! そんな事をさせると思っているのか!!」

 

 日暖はそう叫ぶと瞬時に腕に炎をまとわせ正拳突きを放つ。本来の姿勢ではないため威力は落ちるが奇襲としては十分と思われた。しかし、徴弐はそれを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。最大威力とは言えないがそれでも高威力の自分の攻撃を軽々と受け止めた事で日暖は目見開いて驚き徴弐はや足い笑みを浮かべた。

 

「結構強いね。でもさ、本気で私達吸血鬼に勝てるとは思っていないよね? だって、()()()()()()()じゃ私達は直ぐに回復できるよ? それこそオールマイト並みのパワーがないとさ」

 

 そう言うと徴弐は日暖の背中に彫刻刀とドライバーを交互に突き刺していく。背骨のある位置に等間隔に突き刺さる彫刻刀とドライバーに日暖は無音の悲鳴を上げる。そんな日暖に徴弐は止めとばかりに頭部に蹴りを入れる。吸血鬼としての身体能力に筋力増加系の個性を用いた一撃は日暖の意識を奪い真横に吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。日暖は塀を突き破り木々をなぎ倒すという先ほど徴弐にした事と同じ事をされた。

 それを見た徴側は呆れたような表情をして話しかける。

 

「徴弐。貴方はやりすぎです。これだけの騒ぎを起こしたのです、直ぐにでも人が来るでしょう。さっさと要件を済ませますよ」

「はいはーい! すぐに回収してくるね!」

 

 徴弐は満身創痍の日暖を持って来ると抵抗できないようにロープで縛る。更に両手両足には彫刻刀が突き刺さり動かせないようにされた。それを見て安全だと思ったのか徴側は【ワープゲート】を発動する。徴弐は生み出された黒い靄の中に躊躇なく飛び込み徴側も周囲を確認した後に入る。数秒後、靄は消え周囲には戦闘の後だけが残された。

 

 

 

 

 

 日暖の様に襲撃を受け拉致される件数は日を追うごとに多くなっていた。そのほとんどが多少なりとも腕に覚えのある実力者たちであり市民は不安を覚える日々を送っていた。

 ヒーローや警察が必死に防ごうとするが【ワープゲート】や姿形を変えての隠密行動などを吸血鬼たちも行っていくようになりまともな成果を出せない日々が続いていた。

 オールマイトの引退より一月後、このころになると犠牲者は百人を超えるようになり少しづつ表の戦力がそがれ始めていた。

 吸血鬼たちが実力者を狙って襲撃をするという観点から眷属にして戦力強化を狙っていると考えられたが女性ばかりを眷属にするという始祖の行動を知っている者は違うと判断し、始祖の強化の為に攫っていると仮定していた。その場合、始祖の力は格段に上がっていると思われヒーローや警察は始祖が直接動き出した時の対応をどうするのかを想定していくことになる。

 日本の社会は今、始祖の動きを中心に大きな渦となって混乱しようとしていた。オールマイトという支柱を失った社会に抗う術は、ほとんど残されていなかった。

 




徴弐
徴姉妹の妹の方。マジでやばい戦闘狂。やってること的にトガちゃんと気が合いそう。
彫刻刀やドライバーを武器に戦う。相手を戦闘不能にしてから皮をはいだり目玉をくりぬいたりする本人曰く”遊び”が一番大好き
戦闘能力は吸血鬼の中でトップに近い実力の持ち主。個性も便利そうなものを中心に持っている。姉とはセットで動く

日暖
オリジナルキャラクター。筋骨隆々、ゴリマッチョな坊さん。「殿といっしょ」の本願寺のお坊さんを参考に出したキャラだが登場するのはこれで最後。武道を極め、個性と合わせて地元では最強と言われている人物。個性を普通に使っていた件はあれよ、私有地だから(寺は私有地に入るのだろうか……?)。滅茶苦茶強いが吸血鬼(というか徴弐)には敵わなかった。最後は手足の筋を切られ二度と動かせなくなったうえに脊髄を大きく損傷したので寝たきりは確定していたが始祖に血を取られて死ぬためある意味では幸せ?
個性:【腕部における炎熱操作】
腕および周囲の熱を操れる。頑張れば炎を生み出し炎をまとった拳になれる。熱に対応できるように皮膚は異様なほど耐火性能に優れている。その分冬は苦手だが周囲の熱を熱くする事で冬でも半袖で過ごせるようにも出来る。

始祖の血液事情
始祖は血液を取り込めば取り込むほど強く成っていく。生きるのに必要な物ではない為始祖は定期的に摂取するのを忘れている。引きこもっていた時は数十年単位でそれを怠っていた為実は徴姉妹の方が強かったりする。保須市でエンデヴァーに燃やされた後は己の強化の為に血を集めている。強い者から集めているのは強者の血の方が大きく強化できるため


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17・写真撮影

次回からヤクザ編に行きます


 特田種男はフリーのジャーナリストである。痩せ気味の体をしており何処か胡散臭げな人物だが18年前に父親をオールマイトに助けられて以降恩人として尊敬していた。故に、オールマイトの神野区での言動から”後継者がいる”と言う推察に行きつきその真実を確かめようと雄英高校に向かっていた。

 

「お客さん、雄英高校に何か用で?」

 

 特田が雄英に向かうためにタクシーに乗り込むと40代程の男性運転手がそう尋ねてくる。明るい笑顔を見せる彼に特田もついつい喋ってしまったのは仕方ないことかもしれない。

 

「いやなに、寮生活となった雄英生の事が知りたくてね。特に一年A組」

「ああ! 体育祭では盛り上がっていましたからね! 私も実際に見ましたがいやー盛り上がりましたね!」

「私はその時九州の方に行っていたのでテレビで観戦していましたよ」

 

 そんなたわいもない話をしつつ特田は考える。オールマイトが本当に後継者を見出していた場合、特田は記事にするつもりはなく早とちりで終わらせるつもりであった。雄英生にいる場合、その力が芽吹くのはまだまだ先だろうと予測している為知らせる訳にはいかなかった。

 

「(もし仮説が当たっていたら、取材許可を取ってくれた編集長に何か雄英でしか見れないオールマイトの様子を撮って渡そう)」

 

 特田はそう考え雄英高校に到着するのを待つのだった。

 

 

 ……運転手の目つきが鋭くなっている事に気付かないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特田は雄英高校の1年A組が済んでいる寮、ハイツアライアンスにやってきていた。午前8時より午後6時まで且つ今日一日だけの取材であり特田は寮のドアをくぐり中に入っていく。中では担任である相澤先生が説明をしており邪な事を考えていた峰田実を縛り上げていた。

 

「相澤先生、そんな事はしなくて大丈夫ですよ。私は、生の雄英生の寮生活が見たいのですから」

「特田さん……、まだ入って良いとは言ってないのですが」

「取材時間開始である午前8時は過ぎていますよ? 時間は有限ですよ」

 

 特田はそう言って左腕に付けている時計を見せる。その時計は午前8時を過ぎており特田の言葉に信ぴょう性を持たせていた。それを見た相澤先生は峰田実を拘束を解き捕縛布をしまう。特田は改めて1年A組に向き直ると挨拶をする。

 

「皆さん、記者の特田です。今日は一日よろしくお願いします」

「「「「「「お願いします!」」」」」」

「特別何かをしていただく必要はありません。皆さんの普段の生活の様子を撮らせてもらうだけですので。あ、偶に質問するかもしれないのでその時はよろしく」

 

 そう言って特田は笑みを浮かべる。それを見て女子は特田を爽やかイケメンと言っていたり峰田実は明らかに女性じゃなくてがっかりしている。他も少し緊張気味だが特に抵抗はないようだ。特田は早速その様子を一枚、カメラに収めた。

 相澤先生は少し特田を警戒するそぶりを見せているが正規の手続きを踏み且つ、本人から悪意が感じられない事もあり”何か企んでそうな胡散臭い記者”程度だった。そんな相澤先生の警戒も特田が普通にカメラを持って写真を撮っているだけの現状で次第に薄れていくことになる。

 朝食から始まり、授業風景や昼食、午後の授業などを得て学校後の寮生活の様子を写真に収めていく。このころになると緊張気味だったA組の生徒も自然体となっていき思わぬ瞬間を取れる頻度が増えて言った。

 特田は幾つか写真を撮ると”真の目的”の為に動き出す。ここまでの間にリサーチをしてきた事を踏まえて一人の生徒と対面した。

 

「緑谷出久君、ちょっといいかな?」

「は、はい?」

 

 外で体を動かしていた緑谷出久に特田は話しかける。その前にオールマイトが持ってきた肉まんの差し入れを受け取ったりしながら特田は緑谷と話す。

 

「特田さんはオールマイトのファンなんですか?」

「うん、そうだよ。18年前に起きた事故で父を助けられてからね。それに、僕らの年代でファンじゃない人なんていないんじゃないかなって言うくらいには人気だったさ。最近じゃエンデヴァーへの関心もあるけどね」

「エンデヴァーですか?」

 

 そう言って緑谷が思い出すのはクラスメイトの轟焦凍。エンデヴァーの実の息子であり林間合宿の前に母と兄、姉を吸血鬼に殺されていた。エンデヴァーも焦凍もその件に関しては沈黙を貫いているが神野区の一件で仇を取りたいという気持ちがある事が発覚した。普段の生活に特に変わった事は無いが時折影を落とすようになったのはA組ならだれもが知っている事だった。

 

「オールマイトが引退した以上、この社会はエンデヴァーに対して大なり小なり期待せざるを終えない。とは言えエンデヴァーは一度吸血鬼に敗北している。命こそ助かり最近は活動を再開したけど世間の目は厳しい」

「それは……、知ってます」

 

 緑谷は幾度となく組まれた特集記事でエンデヴァーが叩かれているのを眼にしていた。

 

-平和の象徴亡き今エンデヴァーに対する不満が続出

-一度敗北したエンデヴァーにオールマイトの代理は務まるのか?

-読者アンケート! エンデヴァーは信頼出来る? 結果発表!

-某ヒーローが暴露!? 「エンデヴァーは期待できない」

-犯罪発生率が急上昇! エンデヴァーでは抑止力足りない

 

 どれもこれもがエンデヴァーを叩き不安をあおるような記事を出していた。それを見た緑谷は世間の怖さやヒーローに対する不信感をあおるマスコミに疑問を持つ程だった。

 

「同じ記者として彼らのやっている事は可笑しいと思っている。エンデヴァーを叩いたところでオールマイトが戻って来るわけではないんだ。にもかかわらずエンデヴァーを叩き、民衆の不安をいたずらにかき回す。本当に最悪だ」

「特田さん……」

「だからこそ、今回の取材は必要だと思っている。雄英生という将来を担うヒーローの卵たちの様子を見せて世間の不安を少しでも減らしたい。記者である私に出来るのはそのくらいさ」

 

 特田はそう言って空を見上げる。そんな特田を複雑な思いで見る事しか出来ない緑谷。暫くの間、二人に会話はなかったが気分を変えるように特田は明るい口調で問いかけた。

 

「そう言えば、君なんだろう? オールマイトの後継者は?」

「……えっ!? それは……!」

 

 唐突な言葉に緑谷は慌ててしまう。それが何よりの証拠として特田に教えていたが当の彼は笑いながら緑谷の肩をポンポンと叩く。

 

「ははは、ごめんごめん。唐突過ぎたね。安心ていいよ。この事を記事にするつもりはない。ただ確認したかっただけさ。”平和の象徴”はいずれ再び戻って来る。それが確認できたからね」

「特田さん……」

「さて、そろそろお暇しようかな。相澤先生にはよろしく言っておいてくれ。今日は一日ありがとう」

 

 そう言うと特田は入り口に向かって歩いていく。その後ろ姿に緑谷は黙って頭を下げた。その行為にどれだけの意味が込められていたのか?それは当人しか分からないだろう。

 

 暫くして、”ヒーローの卵たちの寮生活”と言う名前で記事が作られた。”ヒーローの卵たちはきちんと育っており、雄英の管理体制も見直されつつありオールマイトに比肩しうるヒーローがいずれ誕生するかもしれない”と言う一文はオールマイトの引退や吸血鬼の動きで不安な日々を送っていた人々に小さな希望と安らぎを与える結果となった。

 この記事の効果かは分からないがエンデヴァーを叩く記事も減っていき異様とも言えたエンデヴァーたたきは鳴りを潜めていく事になる。

 

 

 

 

 そして、この記事の写真を提供した特田種男は写真を提供した後、行方不明となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お疲れ様でした』

「ああ」

 

 とある街の裏路地にて特田種男はスマホで一人の女性と話をしていた。電話の相手の女性は凛とした声で特田をねぎらう言葉をかけ特田も軽く返事をした。

 

『それでどうでしたか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 女性の言葉に特田、いや特田を乗っ取った始祖は口角を上げて答える。

 

「最高だったよ。特田の個性を使い雄英高校の寮を中心に写真を撮る事に成功した。これで雄英高校を()()()()際は楽にできるだろうな」

 

 そう言いながら始祖は特田の容姿から何時もの姿へと戻る。偶々タクシー運転手として潜んでいた眷属から報告を受けた始祖は雄英高校に侵入できるチャンスとして特田を殺し血を奪って特田に成り代わり侵入したのである。特田の記憶も血を摂取する際に一通り確認済みであり本人しか知りえない、少なくとも始祖が知らない出来事に答える事が出来ていた。その後は特田=始祖という事が分からないように写真を提供していたのである。

 

「フリージャーナリストで助かった。こいつなら行方不明になっても気づく奴はそう居ない。雄英高校の襲撃を行った者らしくない行動も取って来た。特田が雄英高校の取材前には死んでいたなんて誰も思わないだろうな」

『一応こちらでも対策は取っておきます』

「ああ、頼む。……そう言えば才子から連絡は来たか?」

『はい、予定通りに仮免試験に参加し参加者の個性及び容姿の確認を行ったそうです。トガヒミコに関しては別行動をとっていたようですが少なくとも正体を現すような行為は行っていないそうです』

「【変身】は使わせずに別の個性を使わせているな?」

『勿論です。本人もその辺はきちんと分かっていたようです』

「ならいい。引き続き才子には聖愛学院の管理をさせろ。それとトガは戻りたいなら戻って良いと伝えろ」

『かしこまりました』

 

 そう言うと通話を切りスマホをポケットにしまう。そのまま歩き続ける始祖は雄英高校の様子を思い出す。

 

「轟焦凍は復讐心を糧にして行動している。爆豪勝己も雄英体育祭で見せたヴィランと見間違う性格は鳴りを潜め大人しくなっていた。……他も大分仕上がってきている。そして何より」

 

 始祖は一枚の写真を取り出す。緑谷出久が外で自主練をしている姿だ。それを見て始祖は狂気的な笑みを浮かべた。

 

「オールマイトの後継者。君がヒーローとなり俺の前に立つときが楽しみだ。その時は二度と立ち上がる事も出来ないほどにボロボロにして破壊してあげるよ」

 

 そう呟くと始祖は()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始祖……」

 

 薄暗い部屋の中で唯一光源となりうる光があった。パソコンと思われるその画面に映されているのは神野区に姿を現した始祖の隠し撮りの写真である。ネットに投稿されたこの一枚の写真から人々は始祖の姿を知る事となり不安を募らせる結果となった。

 しかし、その者は不安を抱えている様子もなくかと言って憤りに駆られているわけではない。ただただ眺めていた。

 

「貴方は()()動き出して何をしたいの?」

 

 その者の呟きは誰にも聞かれる事は無く消えていく。しかし、その者はいずれ始祖との()()が近いと感じるのだった。

 この者と始祖が出会った時、何が起こるのか。それはまだ誰にも分からない。

 




特田種男
アニメ第4期第1話に登場したフリーの記者。推定年齢28歳で10歳の時(18年前)にオールマイトに父親を助けてもらった経緯を持つ(その際に個性で撮った写真が新聞の一面に乗り記者となる道を選ぶきっかけとなった)。オールマイトが後継者を作っていた事に(ヴィランやヒーロー以外で)唯一気付いた人物で原作だとその者が誰かを知るために雄英高校1年A組の下に取材しに行く。取材前から緑谷出久が後継者という事に気付いており緑谷出久と話した際に調べた事を生かして推察を話した。記者という事で記事にするのかと思いきや父を助けられた恩からこの事は秘密にした。取材許可を取ってくれた出版社には「肉まんを食べるオールマイト」の写真を代わりに提供した(こちらはこちらで好評だった)。どうでもいい余談だが作者がアニメに出てくる名前ありのマスコミキャラの中で一番好きなキャラ
しかし、今作だと雄英高校に向かう途中で始祖に喰われて死亡する。特田が行うはずだった事は全て敵情視察を兼ねた始祖が行っていた。結果、ハイツアライアンスを中心に雄英高校の情報を与えてしまう事となる。
個性:【全身レンズ】
全身からレンズを出して写真を撮れる。左胸にはプリンター機能もありその場でプリントアウトも可能。個人的に特田の個性は敵情視察とかで滅茶苦茶便利だと思う。

爆豪と轟
轟は何度か話した通り母を攫われ兄と姉を殺された事で怒りと復讐心はあるが飯田の様にそれをぶつける事は無く力の一部としている。なので表面上は原作と変わりはない。
爆豪は【悪夢(ナイトメア)】を喰らった事でトラウマを植え付けられ以前のようなとげとげしい態度を取る事は無くなり一転して無口になる。たまに思い出しては体を震わせているが本人が人前で見せない為気づいている者は少ない。これを乗り越えれば将来の糧になるとは思うが乗り越えるのは中々難しい

他の面々は原作とあまり変わりはないが吸血鬼が派手に動いている事から原作以上に訓練に励んでいる為ちょっと実力は高めとなっている。

仮免試験
原作でもあった出来事。A組は轟と爆豪以外が合格できた(B組は意外な事に全員合格している)。原作だとトガヒミコは士傑高校の現見ケミィに成り代わっていたが今作はそんな事は無く聖愛学院の生徒の一人として行った。
聖愛学院は才子を中心に参加者の情報収集に徹したため一次試験で全員不合格となったがその分様々な学校の生徒の個性が始祖に知られる結果となった(原作だと八百万達が倒してクリアするけど別の人たちを倒してクリアした)。トガヒミコは【変身】の個性を用いずに用意された個性で適当に戦っていた


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18・ヴィラン連合と死穢八斎會

感想にあったやつを参考に壊理ちゃん作りました。多分原作とは結構違ってくると思います


 死柄木弔は苛立っていた。ヴィラン連合の一員であるトゥワイスが連れて来たヤクザ、オーバーホール。彼との会合に失敗しマグネを殺されMrコンプレスの左腕を奪われたのである。更には「服従しろ」という要求までされる始末であり怒りは頂点に上っていた。

 しかし、オール・フォー・ワンが倒れて意向死柄木は理性というものが備わったのかヴィラン連合のボスらしいふるまいが出来るようになっていた。故に、バーの時と変わらない眷属のタブレットを通して始祖と話をしようとしている時にもそれが現れていた。

 

『……随分とお怒りのようだな』

「少なくとも無駄話をする気にはなれない程度、にはな」

『そうか。なら要件を聞こうか』

 

 平坦な声でしゃべる死柄木に対して始祖はそう言った。2、3か月前の死柄木なら癇癪を起して会話どころではなかっただろう。死柄木の確かな成長を始祖は感じ取っていた。

 

『(いずれオール・フォー・ワンを超える大物になるかもな)また伝言か何かか?流石に足に使われるのは勘弁だぞ』

「違う。死穢八斎會というヤクザは知っているか?」

『まずヤクザが存在している事自体を始めて知ったな。どんな組なんだ?』

「絶対に仲良くはできない奴が若頭をやっている組だ。マグネを殺されMrコンプレスの左腕を奪って行った」

『……それはそれは。成程、苛立ちの原因はそれか』

「だが俺たちはあいつと組もうと思っている。その際に俺の護衛を頼みたい」

『……へぇ? 俺に頼むってことはそれだけ警戒しているという事か?』

「先生がいない以上お前にしか頼めない。またうちの奴を殺される訳にはいかないしお前なら問題なく捌けるだろう?」

『信頼してくれている様で嬉しいな。分かった、時期を知らせてくれ。会談が失敗しても無傷で逃がしてやるよ』

 

 始祖は太鼓判を押して言う。死柄木は時期を知らせると通信を切る。ソファーに深く腰掛けていた死柄木はジッと、眷属を眺める。最近ではこういう時間が増えていた。

 

「……オーバーホール。マグネを殺したツケをきちんと払ってもらうからな」

 

 そう呟く死柄木の瞳には始祖と話した先ほどよりも強い”怒り”の感情が籠っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この超常社会においてヤクザが生き残っているのは中々レアな話だ。ヒーローが誕生するとほぼ同時期に多くのヤクザは解体、摘発されていった。今も生き残っているほとんどがヴィラン予備軍とみなされて監視されている。俺が所属する死穢八斎會もその一つだが組長はヴィラン予備軍なんて言われ方に我慢ならないようだ。俺としても社会の底辺で燻っていたところを拾ってくれた恩がある。だから組長の怒りには賛同できるし納得も出来る。

 そんな俺だが最近では不満を貯め込んでいる。今の組はオーバーホールと名乗り始めた治埼によって運営されている。何故若頭が組長を差し置いて組の運営を行っているのか? 簡単だ。組長が倒れたからだ。誰もが治埼の仕業だと気づいているがアイツの個性は強い。だから誰も逆らう事が出来ていない。

 何やら特殊な弾丸を生成しているようだが詳しい事は分からない。組長の孫である壊理ちゃんは地下室に監禁されてしまっているようだ。

 だが、俺はそんな壊理ちゃんの前に立っている。理由は単純だ。壊理ちゃんのお世話係に任命されたからだ。孤児院出身で小さい子の面倒を見ていたという経歴から採用されたようだが正直上手くできるとは思っていない。

 壊理ちゃんがどんな事を受けて来たのか分からないが全く心を開こうとはしてくれない。玩具やお人形を上げて気を引こうとするけど効果なし。最近ようやく目を合わせてくれるようになったが話しかけて無言、気を引こうとすると無視を決められる。他の人ならキレてい手も可笑しくはないかもしれないがこんな境遇の子供だ。こうなっても仕方ないと俺は特に気にしてない。そんな俺に出来るのは真剣に壊理ちゃんと向き合う事だけだ。

 

「……おじさんは良い人?」

「っ! そうだよ、おじさんは痛い事はしないよ!」

 

 ついに、遂に!壊理ちゃんが話しかけてきてくれた。壊理ちゃんのお世話係になってから早半年。ここまで来るのに長かったな。

 

「……」

「壊理ちゃん! 何か欲しい物とかある? おじさんが用意するよ」

 

 話しかけてくれたという嬉しさから詰め寄るように話しかけたがまた無言になってしまった。どうやら怖がらせてしまったようだ。とは言え今のは俺も悪かったからな、そう思い離れようとした時だった。

 

「このままでいて」

「壊理ちゃん?」

「動かないでね?」

 

 壊理ちゃんが両腕で俺の頭を抱きしめてくる。子供特有の体温の高さが感じられ少しイケナイ感情が出てくるが必死に抑え込む。今年で8()()になる筈の壊理ちゃんだがそれにしては細いな。きっと治埼の奴は食事をsせていないに違いない。 でなkれば¥こんあにやている蓮ががななななi 

 こここれれれれが。。。。おわつtらばばおーるー?にkっりりりとととととiuののおももも¥¥¥!!¥>><????&&&ri"s#la))))k

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

「初めましてヤクザの若頭」

「お前が始祖か。もっと威厳のある人物だと思っていたが大したことはなさそうだな」

 

 死穢八斎會の地下に広がる施設の一室にて始祖は死柄木と共に訪れていた。若頭、オーバーホールは始祖が来るとは聞いておらずその事も踏まえて煽るような事を言う。しかし、始祖は特に気にしていないのか死柄木の横にドカッと座る。

 遠慮もない始祖の態度にオーバーホールは一瞬眉を顰めるが直ぐに死柄木に向き直った。

 

「んで? 先日の電話の件は本当なんだろうね? 条件次第でうちに与するというのは」

「ンな訳あるか。都合よく解釈してんじゃねーよ」

 

 人形の如く背の低いヤクザにそう返事をすると死柄木は足をテーブルにたたきつけるように置きふんぞり返る。

 

「そっちは俺達ヴィラン連合の”名”が欲しい。俺達は勢力を拡大したいお互いニーズは合致している訳だ」

「……足を下ろせ汚れる」

 

 死柄木の話を聞いているのかいないのかオーバーホールはそちらに気を取られていた。だが、死柄木は関係なく続ける。

 

「足を”下ろしてくれないか”? そう言えよ若頭。本来はお前らが頭を下げるべきだろうが

まず、お前らの傘下にはならん。俺達は俺達の好きなように動く。五分、いわゆる()()という形なら協力してやるよ」

「……それが条件か」

「もう一つ、お前の言っていた”計画”。その内容を聞かせろ。名を貸すメリットがあるのか知るためには自然な条件だろ? ……尤も」

 

 そう言って死柄木が懐に手を入れた瞬間、二つの影が動く。一つは死柄木の後ろで待機していた側近の一人であるクロノスタシス、もう一人は人形の如き小さな体を持つミミックだ。クロノスタシスが拳銃を死柄木の頭に、ミミックが体からごつい腕を出して押さえつけようと動くがそれらが行われるより先に始祖が動いた。

 拳銃を右手で掴みミミックから出るごつい腕を左手に纏わせた【ワープゲート】を使いクロノスタシスの右肩にあたるように座標を動かす。

 その結果、拳銃は塵となっていきそれに驚く暇もなくゲートから通って来たミミックの腕に肩を叩きつけられる。

 

「ぐっ!」

「なっ!?」

 

 クロノスタシスは脱臼しそうになるほどの激痛を受けその場に膝を付き味方に攻撃したことで怯んだミミックに始祖の拳が顔面のマスクにめり込む。そのままミミックはオーバーホールの後ろの壁に激突し倒れる。

 

「……流石は始祖。実力行使は難しそうだな」

「ったく、何様だ? お前たちの使い捨て同然の雑魚と引き換えにこちらは引石を殺されてるんだぞ。加えて、コンプレスの腕一本分だ。それくらいしないと割に合わないだろうが」

「……そうだな。話の途中だったな。続けてくれ」

「お前らの計画、その内容を話せ。まぁ、ある程度察しはついているが」

 

 始祖が座りなおすと同時に死柄木は懐から”ある物”を取り出す。それは針のようなものが付いた赤い弾丸だった。

 

「こいつを打ち込まれた直後からコンプレスは暫くの間個性を使えなくなった。……なんだこれは?」

 

 死柄木の脳裏に浮かぶのは最初の会合の時の様子。オーバーホールの物言いに切れたマグネが個性を使い引き寄せたがオーバーホールの個性らしきものによって上半身を吹き飛ばされた。更に乗り込んできた死穢八斎會の者達と交戦した際にコンプレスがこれを打ち込まれ個性が使えなくなっていた。そして反撃をくらい左腕を失ったのである。

 

「これで、何をするつもりだ? 教えろ

「……理を壊すんだ。オール・フォー・ワンは個性を奪い支配したと聞くが俺はそのやり方を少しブラッシュアップする。既に根は全国に張り巡らせてある。少しづつ、少しづつ計画的に準備を進めている」

「……という事はそれを売りさばく事が目的か? んな訳ないよな? おそらくやりたい事はマッチポンプだろ?」

「始祖殿は察しは良いようだな。その通りだ。今俺はこの”血清”を開発している。とは言えほぼ完成していると言っていい。後はこれをヒーローに売りつける」

「……成程な」

 

 死柄木は目を細めて呟く。死穢八斎會の計画が分かった事で死柄木は組む事を決めたようで話を続けた。その後、細かい部分を話していくがその中で受け入れられないものがあった。

 

「黒霧と分倍河原をこちらに寄越せ」

「は?」

「始祖殿にも何人か戦闘系の眷属をいただきたい」

「へぇ……」

 

 引き抜きをしたいのかオーバーホールはそう提案してきた。死柄木は苛立ちを感じており始祖は感情の読めない笑みを浮かべながらオーバーホールを見ている。そんな事など気にしてないようにオーバーホールは将棋盤と駒を取り出す。

 

「将棋はやるか?」

「やらねぇしルールも知らん」

「俺は結構やるぞ。チェスよりも好きだ」

 

 死柄木を対戦相手と想定していたオーバーホールだが予想以上に始祖の方が乗り気になったためそちらち対戦を始める。局面は始祖の優位だった。オーバーホールが一手打つと素早く駒を動かして時間を与えない。それでいて戦術に無駄がなくまるで流れ作業の様に戦っていく。やがてオーバーホールは両手を上げて降参のポーズをとる。

 

「負けた。予想以上に強かった」

「そちらこそかなり強かったぞ」

「全然そうは見えなかったがな」

「死柄木……。雑魚ならあの半分で倒せた。予想よりも大分強かったせいで何度も戦術を変える羽目になった」

 

 放置されていたからか、死柄木は不貞腐れたようにそう呟く。その言葉に始祖が苦笑して答えるがオーバーホールは真剣な表情をして言った。

 

「信頼を築くためには必要な事だ。今はまだ遺恨を残している。こちらは計画の全貌を差し出したのだ。次はそっちの番だ。仲間は、大事なんだろう?」

「……なら何故俺にも求める?」

「そちらはついでだ。失敗して当然、成功すれば儲けものの気分で提案しただけだ」

「悪いが今眷属たちはどいつもこいつも忙しい。そちらに構っている暇はない」

「最近騒がれている連続失踪事件か」

 

 日本では主に強者の失踪が相次いでおり百人近くが行方不明となっていた。これを受けて政府は対策を取ろうと必死になっているが【ワープゲート】を自由に使っている事や吸血鬼の能力のせいで全く対応できていないのが現状だった。

 

「最近じゃ中国やアメリカなんかが調査に乗り出しているという噂もあるがどうなんだ?」

「んー、それっぽい連中は何度か見かけた事ならあるな。というか三人くらい喰らっている」

 

 強者を狙っているにもかかわらず諜報員に強者を選んだ理由は分からないが抵抗も出来ぬまま始祖に血を抜かれていた。もしかしたら強者を向かわせる事で確実に接触できるようにしたかったのかもしれないと始祖は後から思ったがそれだけであり特に接触しようとしたりはしなかった。

 

「まぁ、俺の事はどうだっていいのさ。今は死柄木との話が先だろう?」

「それについてはもういい。こっちは了承した」

「へぇ?」

 

 死柄木はオーバーホールと始祖が話し合っている内に答えを出したのかそう言った。しかし、先程と同じように死柄木は答える。

 

「ただし俺から出せるのはトゥワイスだけだ。黒霧は今別任務で傍にいない。何時戻って来るかも分からない」

「……仕方ない。今はそれで妥協する事にしよう」

「それならこちらも一人だそう」

「ん? 忙しいのではなかったのか?」

「そうなんだが、一人暇を持て余している奴がいた。死柄木、覚えているか? トガヒミコって」

「……あの時の餓鬼か。林間合宿の襲撃にも参加していたな」

「あいつを出す。アイツに誘拐をさせると血が残っていない状態でやって来るからな。任せられないんだよ」

「そんな奴を出すのか。オーバーホール、ご愁傷様と言っておくぞ」

「別に構わないさ。”吸血鬼がこちらに協力した”と言う実績が作れるからな」

 

 オーバーホールは機嫌よさげに答える。吸血鬼からも協力を得られてホクホクなのだろう。その後も機嫌よく会話を行い始祖と死柄木は部屋を離れ再び長い廊下を歩いていくことになる。

 二人が居なくなった後、ミミックはオーバーホールに問う。

 

「若、よろしかったので?」

「勿論だ。両方とも適当な場所で出して懐柔するなり事故に見せかけて殺すなりすればいい。俺達は名を上げ資金を得て仲間を得る。吸血鬼はともかくヴィラン連合の足を確実に鈍らせる事が出来る。問題ないさ」

 

 一方、廊下を出て地上に戻ってきた二人は始祖が出したゲートをくぐりヴィラン連合の現在の拠点である廃ビルに戻ってきた。そこで始祖は問う。

 

「良いのか死柄木? 確実にあちらの狙いはヴィラン連合の動きを封じる事だぞ」

「問題ない。トゥワイスはこちらで説得する。お前はトガとか言うガキの準備をしろ」

「はいよ」

「オーバーホール、お前は俺達を出し抜いていると思っているかもしれないがそれは大きな間違いだと教えてやるよ」

 

 死柄木はそう言って笑った。始祖も狂気的な笑みを浮かべて死柄木に続く。

 

 

 

 そしてトゥワイスとトガヒミコが死穢八斎會に出向した数日後、死穢八斎會の本拠地にヒーローと警察が摘発の為に突入するのだった。

 




トガヒミコとトゥワイス
原作だとペア的な存在となっている二人だが残念な事に原作のような相棒的関係はない。ただ、トガヒミコは(全く触れていなかったけど)原作通りに林間合宿襲撃に参加しているのでお互いの存在は知っている。トガちゃんなら直ぐに仲良くなれるかもしれないけど……

壊理ちゃんのお世話係だった人
ヤクザをやっているとは思えないほど常識人だが自分を拾ってくれた組長に恩義を感じ組長が倒れる原因をオーバーホールがやったと思っている。
孤児院出身で子供の相手をしていた事から壊理ちゃんのお世話係に任命される。原作に出て来たプリン頭の様に雑な扱いをせずに本心から接していたが中々心を開いてもらえなかった。やっと心を開いてもらえたと思ったら……

壊理
壊理ちゃんはほら、いろいろあったんだよ

将棋
将棋は楽しいぞ~。なお、筆者は下手の横好き

マグネ
本名は引石健磁。トランスジェンダーの女性でありそれが原因で今の社会から爪弾きにされていた。その為今の世の中を変えたいと思っていた。原作だとトガヒミコとトゥワイスから「マグネェ」と呼ばれていた
始祖との絡みはスピナーと同程度しかないがヴィラン連合だと林間合宿襲撃で捕まった奴らとMrコンプレスがまだ直接的な絡みがないのでそれなりに絡んでいた方。男(ではないが)の顔と名前を覚えるのが苦手(というか覚える気がない)な始祖が珍しく(一応協力している組織の一員だが)顔と名前を憶えていた人物。
原作と同じく連合初の死亡者。


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