「青」と「黒」 (アメイジング長なす)
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狭間
狭間──雪の思い出


魔法使いの夜────映画化、おめでとう!!
ジョージボイスのロビン(願望)が動く姿が見たいぜ!!


 雪が降り積もる三門市の12月31日、つまりは大晦日。

 玉狛支部の隊員はそれぞれの仕事や訓練、休憩を取っていた。

 青子はリビングで一人、ソファに寝転がりながら、テキトーに雑誌を読んでいた。

 

「お、アオコか」

 小南と10本勝負をしていた遊真がリビングにやってきた。

「今日は何本取ったの?」

 雑誌から目を離さずに青子は言う。

「4本。5本の壁は厚い⋯⋯」

 口を3にしながらそう言う。

「私が最後に迅とやった時は1本よ? こっちは2本取るのに必要以上に壁が作られてるわ」

 青子は少し疲れたような声をだす。

 

 窓の外では雪だるまを作っている成人男性や、あろうことかその雪を試食している人間もいる。

 だが青子はそんなのには目もくれず、雑誌から目を離して積もった雪を見た。

「覚えてる?」

 青子が外を見ながら遊真に聞く。

「なにをだ?」

「私たちが初めてあった日のこと」

「確か、オレと親父が山を歩いてた時に⋯⋯」

「そ。私()()と出会ったのよね」

 青子は静かに笑う。珍しい、穏やかな笑みだ。

 

「私も小さい時にあったから、もう何年前かも忘れた」

「オレもだ。次にあったのが、親父が死んでから一年ちょっとした後だな」

 遊真は懐かしんで、感慨深い気持ちになった。

「さてと、行きますか」

 ソファから立ち上がった彼女は伸びをする。

「どこに行くんだ?」

「外。久しぶりになんか雪で作ろっかな──って思って」

 少し恥ずかしそうにはにかむ青子。

 

「あんたも来る?」

「暇だし、オレも行く」

 

 ☆

 

 外はやはり寒い。

 コートを羽織ってこの寒さ。だから雪も積もるわけだ。

「何作る?」

 青子は隣にいる遊真に声をかける。

「最初はやっぱり雪だるまだろ」

「決まりね。じゃあ私、胴体作っとくから、頭出来たら持ってきて」

 役割を決めた彼らは、効率とは無縁の、ただ楽しむためだけの仕事を始めた。

 フカフカしている雪を集めて、巨大な玉を作る。なかなかどうして、これが楽しい。

 青子も遊真も、作っているうちに自然と笑顔になってしまう。

 

 試行錯誤をして、さらなる完璧な完成品を作る彼ら。

 破壊に関しては稀代の魔女とも言われる青子だが、その魔女でさえ、この遊びはどれだけ時間を費やしても、滅ぼし、壊せないだろう。

 

 最初に出来上がった雪だるまは遊真より少し大きく、威厳がどこからか出ていた。

「久しぶりにしては上出来でしょ」

 喜ぶ青子。

「今度はオレが胴体を作るぞ」

「オッケー」

 遊真は唐突に思った。

 ──この青子はレアだな、と。

 青子は美人ではあるが、中身はバーサーカーと賢者のハーフとも言える混沌(カオス)である。

 そんな彼女がただ純粋に楽しんで雪だるまを作っている。珍しく、笑顔を絶やさずに。

 ──あれ? これ得してね? と思うのも無理はない。実際得してるから。

 

 2つ目の雪だるまは青子と同じぐらいの大きさだった。

 1つ目と並べられているので、夫婦とも見れないこともない。

「もはや芸術ね」

「これを超える雪だるまはたぶん誰も作れないな」

 2人とも満足しながら、そう言い合う。

「アオコ、提案なんだが」

 遊真が閃いた顔をしながら言う。

 

「コイツらの下に小さいのを大量に作るのはどうだろうか?」

「アンタ天才だったの?」

 

 ☆

 

 時刻は午後4時。

 玉狛支部に帰ってきた迅はリビングに入って早々に、面白いものを見た。

「迅さん、静かにな」

 遊真が小さな声で迅に言う。

「オッケー」

 遊真の横には、遊真にもたれて寝ている青子がいる。

「遊んでたのか?」

「うん。入口の近くに雪だるまがあったでしょ? アレ作ってた」

 そりゃまた凄いな、と心の中で呟く迅。

 あそこまでいったら、軽く人を呪えるだけの力はあるだろう。

 

「いつまで作ってたんだ?」

「レイジさんが帰ってくるまでだから、3時ぐらいまでだな」

「それって、いつから作ってたの?」

「11時ぐらいから?」

 迅は口を抑えて、笑わないように必死に我慢する。

 4時間雪だるま作りに勤しんだら、そりゃ疲れるよな、と思う迅。

 

「遊真たちだけで作ってたのか?」

「最初はそうだけど、途中でコナミせんぱいとかも参加してきたぞ」

 ちなみに頭が異様にデカいヤツがコナミせんぱいの作品──と付け足す遊真。

 胴体と頭の大きさの比が1:3の雪だるまのことだろう。

 恐らく今頃、コテッと頭が落ちてるに違いない。

「迅さんも作るのか?」

「後で作ってみようかな」

 

 ◇

 

「2人はどこで出会ったんだ?」

 目の前のソファに腰をかけて迅は遊真に聞く。

「初めてあったのは親父と旅をしてた時だな。山を歩いてたら、偶然出会ったんだ」

 遊真はその時のことを鮮明に覚えている。

 

「性格は今と全く変わってないし、正直怖かったけど──カッコよくもあった」

 そう言って横をチラリと見る。まだ本人は寝たままだ。

「その山は凄い雪が降ってて、積もってる量も多かった。そんな道を自然に歩いてたんだ⋯⋯雪なんてないっていうふうに」

 珍しく懐古する遊真の顔は──屈託のない、満面の笑顔だった。

「その後話してるうちに気づいたのは、オレは、こういう人間になりたがってるかも──ってことだな」

 迅は静かに耳をすましている。

 

「アオコは人間らしいんだ。たぶんどんな時でも自分の信条を良くも悪くも優先するぐらいには⋯⋯オサムとチカはアオコに似てると思う。

 だからアオコはアイツらともやれてるんだと思う」

 迅はそれを聞いて、「そっか」とだけ──しかし十分な思いを込めてそう呟いた。

「じゃあおまえは幸運だよ。そんな人間、滅多に会えないだろうし」

「だな」

 窓の外ではまだ、銀の花が舞っている。

もうじき夕飯の時間だ。

 

 ☆

 

 遊真が青子を起こすと、玉狛支部の全員が集まっていることに気づいた。

「ごめん、待った?」

「いや、今全員集まったとこ」

 宇佐美が返答をする。

「すみません、レイジさん。オレらまでご馳走になって」

「気にするな。今日ぐらいはお前も楽したいだろ」

 台所では京介とレイジが話している。

 どうやら、今宇佐美と小南の周りにいる弟たちのことについてらしい。

 

「おはよう、青子ちゃん。いい夢は見れたっぽいね」

 珍しくぼんち揚を食べずに迅がリビングに入ってきた。

「そうね──銀世界だったわ」

 その言葉の真意は遊真にしかわからなかったが──青子の顔は実に良いものだった。

 

 

 外の雪はまだやまない。

 この夜が続くうちは────そういうことだろう。

 花は咲いたばかり、雪の音は鳴り響いている。

 

 




ノリと勢いに任せて書いたけど、意外と楽しかった。
短いのは許して。

余談ですが、途中出てきた雪だるまを作ったり、雪を食べた成人男性は二宮さんです。




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プロローグ
プロローグ


頭をフルで活用して、頑張って書いていこうと思ってます。
あと、書きたいっていう欲求を抑えられなかった。


「いい? 赤は止まる──わかった?」

「わかった、赤はとまる、だな」

 一人の少女が目の前の少年に注意をする。

 

「あとアンタは正体がバレないようにすること──わかった?」

 言い方を前より強くして少女は言う。

「あんたがバレると私までバレるんだから、絶対にバレたらダメよ。もしバレたら⋯⋯わかるわね?」

「わ、わかった。バレないようにする」

 鬼のような形相と威圧感で少年に約束させる。

「それじゃ、遅刻しないようにしなさいよ。私は先に行くわ」

 彼女はそう言って少年の返事を待たずに部屋を出た。

 

 △

 

「なあ、転校生が来るって知ってたか?」

「マジで!?」

 場所は変わり三門私立第一高等学院、その二年B組でと米屋陽介(よねやようすけ)がその友達と話をしていた。

「てことはやっぱ知らねえか」

「? どーゆうことだよ」

「いや、その転校生のことなんだが、誰も見てねえって言ってんだよ」

 その言葉に米屋は首を傾げる。

 

「そりゃ校長室とかで話聞いてるから、誰も見てねえんじゃねーの?」

ここ(三門市)に転校してくるヤツって、スカウトされたヤツが多いだろ? だから気になったんだよ」

 

 

 △

 

 一方、その噂の転校生は──

『アオコ、ユーマが遅刻をした。そして学校にむかっている途中に車に衝突してしまった』

「⋯⋯」

 報告を受けて静かに怒っていた。

「で、()()()()()()()ってことはバレてないのよね?」

『ああ、途中で車と衝突した時に、住所や名前は言ったが、そのことは言っていない』

「そう。⋯⋯で? あのバカはなんでそんなことになったの?」

『学校に登校する前にボーダーを見にいったからだ』

 こめかみに青筋が現れた。朝からこんな気分になるなんていつぶりだろうと彼女は思い、もはや怒りを通り越して呆れた。

 

「レプリカ、私は今、遊真(アンタ)を殺したいぐらいに怒ってるって遊真に伝えといて」

『わかった』

 彼女は口調を朝以上にキツくして、言った。

 

「はあ⋯⋯これじゃあいつがあっちから来たってすぐにバレるかも⋯⋯」

 ため息を一つ。 それを消してくれる人間は残念ながらいなかったが、かわりに少しは気を紛らわしてくれる人間が来た。

蒼崎(あおざき)さん、そろそろホームルームの時間だから、教室にむかいましょうか」

 そう言われた少女──蒼崎青子(あおこ)は目の前の教師に自身が怒っていることをバレないように返事をした。

 

 ◇

 

「蒼崎青子です。今日からよろしくお願いします」

 自己紹介をした青子に二年B組の男子は喜んだ。あるものは感情を丸出しにして、あるものは心の中で喜んだ。

 栗色の髪をした可愛らしい少女が今日から同じクラスということに喜ぶ男子は多かった。

 ⋯⋯まあ、性格がわからないうちはただの可愛らしい少女に見えるのだろう。

 

「はーいみんな静かに! 質問とかは休み時間に。それじゃ蒼崎さん、あの空いてる席があなたの席だから」

 生徒たちを落ち着かせて青子に自分の席がどこかを教える。なるほど、あのカチューシャをつけてるのの横かと思う。

「オレ、米屋陽介! よろしくな!」

 元気よく挨拶をしてくる陽介に、よろしく、と彼女は挨拶をかえした。

 

 △

 

 一時間目が終わるとすぐに青子(転入生)の周りに生徒たちは集まった。転入生の(さが)である。

「どこから来たの?」

 もちろん、青子はこの質問に対する回答をキチンと用意している。

「外国ね」

「外国ぅ!? なんて言う国!?」

「いろんな所をまわっていたから、あんまり覚えてないわね」

 嘘ではない。半分は嘘ではない。

「なんか流行ってたこととかは?」

「鬼ごっこ⋯⋯だったわ」

「サッカーとかは?」

「あんまりしなかったわね」

 などなど、どこの学校でも転入生が来たら行われるイベントを着実とこなす。

 

 そんな会話の中に、三門市(この地域)独自の質問がやってきた。

「蒼崎さんはスカウトで来たの?」

「スカウト?」

 思わず聞き返す。

「そう、ボーダーにスカウトされてここに転入してきたのかってこと」

「ボーダー⋯⋯?」

 何を言っているのだ、ここの人間は──と言いたそうな顔をしてその単語を繰り返す。

「そうかぁーボーダーのスカウトで来たわけじゃなかったんだな」

「そのボーダーっていうのは何?」

 その発言に彼らは目を丸めたが、すぐに元通りになった。

 

「外国にいたんだもんな。そりゃ知らねぇわ」

「ボーダーっていうのは、うーん⋯⋯まあ自警団みたいなものだな。四年ちょっと前にここに『近界民(ネイバー)』ってヤツが攻めてきたんだよ。何人も死んだりしたよ。銃とかが効かなかったからもうみんなが死を覚悟してたんだ」

 

 そのとき! ──少年は言葉を強く発した。

 

「突然、謎の一団がそいつらを倒していったんだ! その人たちのおかげでそいつらは倒されて、みんな助かったんだ。そして! その人たちが所属していた組織こそ──!」

「オレらボーダーってわけ」

 いいとこ取りはやめろよな、米屋ぁ、と青子の隣の席の米屋がさっそうといいとこ取りをしていた。

「俺たち、ってことはあなたはそのボーダーの隊員なの?」

「おう。興味があるなら入隊試験でも受けたらどうだ?」

「そんな簡単に受かるわけでもないんでしょ、侵略者の侵攻を防衛する組織には」

 普通に考えたら軍にいる鬼教官みたいな人間ばっかりがいそうな組織である。

 が、残念ながらそれは間違い。なぜなら──

 

「俺でも受かったんだから、いけるだろ」

 目の前に成功例のバカがいるからである。

 陽介が言いたいことを青子は理解し、少し小さなため息を一つ。

「転入生に自分がバカだって伝えるのはどんな気分なの?」

 ついでに皮肉も一つ。

「事実だからしょうがねーな」

 目の前のバカは皮肉が皮肉と理解できないぐらいにバカだったことに、青子は再びため息をついた。

 

 ▼

 

 そこから先はとくに目立ったことはなく、放課後になった。

 今日は用事があるから、と一緒に帰ろうとしたクラスメイトたちに物腰柔らかな態度で説明して一人で帰路についた。

 ⋯⋯彼女の性格を知るものは、彼女の後ろに怒れる狂戦士(バーサーカー)が見えたと言うだろう。帰路についたのではなく、戦場に出向くように見えていただろう。

 

 それもそのはず。彼女は今まさに報告を受けていたからである。

『アオコ、ユーマが──』

「まさか、()()を使ったわけではないでしょうね?」

『いや、(ブラック)トリガーを使った』

 怒りを通り越して呆れてきた青子は頭を抱えた。

「⋯⋯アイツ今ドコ」

 ついに片言になってしまったらしい。頭の中のどこかがやられて(故障して)しまったらしい。

『今は()()()()の人間といる』

「その場所、教えて。そして遊真にそこから動くなって伝えて」

 だんだんと怒りがこみあがってくる青子の言伝(命令)を、レプリカはすぐに遊真に伝えた。

 そして青子は徐々に加速しながら向かっていった。

 ◆

 

「? どうした、空閑(くが)

 先程と雰囲気を変えて、なにやら暗い雰囲気が空閑遊真(ゆうま)に漂う。

「すまん、オサム。今からかなりヤバいのがくるから、気をつけてくれ」

 いわゆるお通夜ムード。顔を露骨に変化させて、気分がだだ下がりになる。

 今の言い方だけを切り取ると、猟奇殺人者や通り魔がやってくるように聞こえるが、今からやってくるのはそれよりももっと恐ろしい女子だ。

「まさか⋯⋯トリオン兵がここに!?」

 トリオン兵とはここ三門市に四年前に現れた近界民(ネイバー)が作った兵隊人形のことだ。

「いや、人間だよ。おれと同じ、あっちの世界からきた人間」

 その言葉で今からここに来る人物も近界民(ネイバー)ということを理解した。

 

「そいつは危険なのか?」

「ああ、ある意味トリオン兵の大軍よりも危険だ」

「ふーん。私もそのトリオン兵の大軍よりも危険な人間、ぜひ見てみたいわね。その人、どこにいるの?」

 

 空閑遊真に冷や汗がダラダラと。

 三雲修(みくもおさむ)には驚きが。

 そして──

「レプリカからいろいろと報告してもらったけど、説明してくれる?」

 蒼崎青子には怒りに満ちた笑顔と──こめかみに出現している青筋が。

 

 ●

 

「あ、あなたは」

「蒼崎青子よ。三雲修ね?」

 思わず、はいっ、と答えてしまう修。目の前に鬼軍曹がいるようだ。

「コイツにいろんなことを教えてくれてありがとう。コイツがトリガーを使ってたのは見たのよね?」

 有無を言わさぬ威圧感。肯定しか許さないというような空気が修を襲う。

「見ました」

「それとアンタ、ボーダーなのよね。ってことは空閑遊真(コイツ)のことを報告するなら⋯⋯」

 身構える修と構える青子。まるで被食者と捕食者が対峙しているようにも見える。

 

「待て、アオコ。おれは自分で判断してオサムを助けたんだ。オサムを殺すのは、筋が違うだろ」

 ⋯⋯朝からずっと彼女を怒らせている張本人が呑気にハンバーガーの包み紙をポケットにしまいながら言っている。

「アンタねぇ⋯⋯もし私たちがあっちから来たってことが知られたら、アンタの目的も果たせないのよ!?」

「そうだな。でも、おれたちとやり合って勝てるやつはいないだろ」

「そうかもしれないけど、その油断がダメだからこう言ってるんでしょ⋯⋯!」

 いよいよ青子の怒りが爆発する。

 

「ぼくは空閑のことを報告しません」

 突然、修が切り出した。

「え?」

「だから、ぼくは空閑と蒼崎さんが近界民(ネイバー)だって報告しないって言ったんです」

 目を丸くする青子。

「それ、信用できる?」

 今まで以上に空気を異質化させる青子。しかし──

「ついさっき出会った人の言うことは信用できないと思います。でも──今は信用してください、としか言えません」

 そんな空気なんて関係ない、と言うように真っ直ぐな目で青子を見据える修。

 

「⋯⋯それも、そうね」

 身構えていたのをやめる。それと同時に異質な空気は消え失せた。

「珍しいな。アオコがこんなに簡単に人の言葉を信じるのは」

「別に。コイツが言うように信じないと、いろいろと不都合なことが起きると予想して判断しただけよ」

 具体的に言うと指名手配になる可能性がある──と彼女はそう付け足した。

「それに、アンタもコイツが嘘をついてないって判断したんでしょ」

「うん、オサムはウソついてない」

 ならひとまず安心ね、とも青子は付け足した。

 

「修。アンタ、遊真に日本のことも教えてくれるんでしょ」

「そうですけど」

「ありがとね。コイツにモノを教えるの難しいと思うけど、まあ頑張って」

 ついでに勉強も教えてあげて、と勝手に要望する。

「いいですけど、蒼崎さんは日本のことを知ってるんですか?」

「姉貴がいろんなところに放浪したりしてるから、たまにここのことは聞くわ」

 そうですかと、納得する修。ついでにこの人のお姉さんも、こういう性格なのかと心配する。

 

「それじゃ、私たちは帰るわ」

「私たちって⋯⋯一緒に住んでるんですか?」

コイツ(遊真)の父親にはいろんな恩があるから、それをコイツでチャラにしようとしてるだけよ」

 なんとも冷たい言い方である。しかし同時に修は、青子の性格も少し理解した。

 

「じゃ」

「オサム、また明日だな」

「ああ」

 三人は帰路につく。

 この出会いが彼らの運命を大きく変えることは──今はまだ秘密。

 

 ☆

 

 彼には未来が見える。

 目を覚ました時、彼は未来が見えた。

 キレイな星が空を埋め尽くす夜。

 そこには知っている人物はもちろん、顔がわからない人物も何人かいて、その中には──

「⋯⋯最上(もがみ)さん」

 そこには彼の師匠である最上宗一(そういち)もいた。

 夜だからいつのことかはわからないが、彼にはその未来が高確率で起こる、と確信した。

 まだそれに至る過程の未来は見えないが、恐らくその過程では最悪を避け続け、最善に近いものを選び続けた後に、見えた未来は起こる。

 それはとても難しいが、今その未来が見えたということは、何かが起こったということ。

 ベッドから体を起こして、意識を覚醒させる。

 少なくとも、近いうちに起こることではない。ならば今は今の仕事をしなければ、と彼は思った。

 

 

 




誤字や一人称の違いがありましたら、報告してくれるとありがたいです。


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第一章 晴れのち雪
対面


次回に戦闘シーンを書くんで、微妙となところで終わってしまった。
赦してクレメンス。


(じん)さん、ねえ⋯⋯」

「どういう副作用(サイドエフェクト)なんだろな」

 副作用とはトリオン能力⋯⋯トリガーを使うための才能⋯⋯が高い人間に現れることがある超感覚のことである。

 現在、深夜の中学校にて、蒼崎青子と空閑遊真が調査をしていた。

 なぜなら昼にトリオン兵がこの中学校に突然出現したからだ。修と遊真のおかげで犠牲者を0人にできたが。

「にしても、緊急事態だったら訓練生でもトリガーぐらい使わせればいいのにな」

 ところが修はまだボーダーの正隊員ではなかったため、ボーダーの規定に違反してしまったことになった。

 そのことに思うところはあるだろうが、青子は何も言わない。

 

「もしかしたら、目をつけられたかもね」

「そうだな。オサムがボーダーで何言われたかわからないけど、昨日のブラックトリガーの件(あれ)は追求されたかもな」

 涼しげな顔をしている悠真をジト目で見る青子。

「? どうしたんだ、アオコ」

「⋯⋯いや、何言っても無駄なことね」

 頭にハテナが浮かんでいる遊真には目もくれず、青子は静かに怒りを抑えた。

 

「それにしても、夕方のあれはなんだったの?」

「夕方のあれ」とは、突然街に爆撃型トリオン兵、イルガーが現れたことだ。

「どっかの国が玄界(みでん)の今のトリガーのレベルを知りたくて、イルガーを放ったんじゃないか?」

「⋯⋯一理あるわね。イルガーを使う国にアソコがいるし」

「アソコ?」

 なんでもない、と青子は首をふった。

 

 ▲

 

 翌日、早朝。遊真と青子は遊真がブラックトリガーを使った所に来ていた。

 トリオン兵を木っ端微塵にして道にできた穴で彼らはあるものを見つけた。

「コイツか」

「コイツね」

 さて壊そう、と殺意マシマシでそれと向き合う青子。

『アオコ、手に持っているそれはなんだ』

 遊真のお目付け役のレプリカ──初見で見ると喋る炊飯器型ロボットに見える──が青子に問う。

「何ってハンマーじゃない」

 なにを言っているんだコイツは、なんて言い出しそうな顔をしてキョトンとする彼女。

「うおっ、どこからとりだしたんだ」

「そんなことどうでもいいでしょ。いいから壊すわよ、それ」

 目がかなりイッてしまっている彼女がハンマーを振り下ろしかけたそのときに、彼らは来た。

 

「空閑と蒼崎さん⋯⋯!? って、何やってるんですか!?」

「おうオサム⋯⋯と、どちらさま?」

「ほんとね。だれ?」

 修の横に立っている男に二人は注目する。

「おれは迅悠一(ゆういち)! よろしく!」

「ふむ? そうか、あんたがウワサの迅さんか」

「なんかチャラそうね」

 慣れているのか傷ついた様子はない迅。

 

「おまえ、ちびっこいな! 何歳だ?」

 遊真の髪の毛をわしゃわしゃ撫でながら訊く。

「おれは空閑遊真、背は低いけど15歳だよ」

「空閑遊真、遊真ね⋯⋯そちらの凛としているキレイな女の子は?」

 続けて質問する迅。

「蒼崎青子、17歳よ」

「青子ちゃんね⋯⋯ところで、おまえら()()()()()()から来たのか?」

 

 途端、身構える遊真と青子。

 修も迅の質問に驚いたが、青子がハンマーを構えたことにさらに驚いた。

「いやいや待て待て、そういうあれじゃない。おまえらを捕まえるつもりはない。ってか、ハンマーはシャレにならないからやめて」

 ある意味⋯⋯トリオンの反応がないという点において⋯⋯トリガーよりも厄介な凶器に、冷や汗を少しかきながらお願いをする。

 

「おれは()()()に何回か行ったことがあるし、近界民にいいやつがいることも知ってるよ。ただおれのサイドエフェクトがそう言ったから、ちょっと訊いてみただけだ」

 

 サイドエフェクトのことを疑問に思う遊真と青子。

「迅さんのサイドエフェクトって⋯⋯!?」

 オサムがそう言うと、迅は自身のサイドエフェクトを伝えた。

「おれには未来が見えるんだ──目の前の人間の少し先の未来が」

「「⋯⋯!」」

 そのことに驚く遊真と青子。さすがの歴戦の二人でも反応が顔に出てしまう。

 

「昨日メガネくんを見たときにこの場所で誰かと会っている映像が見えて、その「誰か」がイレギュラー(ゲート)の謎を教えてくれるって未来が見えたんだ」

「ああ、コイツね」

 それを蹴り上げて、修と迅に見えるようにする。

 

「コイツはラッドって言って隠密偵察用のトリオン兵。だけど、あのイレギュラー門を引き起こすように改造されたっぽいわね。あとはコイツに聞いて──レプリカ」

 青子に呼ばれ、にゅっと出てきたそれ──レプリカに迅は少し驚く。

『はじめましてジン、私はレプリカ。ユーマのお目付け役だ』

「おお、これはどうも。はじめまして」

 レプリカが言う。

 このラッドは大型トリオン兵のバムスターの腹の中にいて、バムスターから分離したあと、地中に隠れ、周囲に人がいなくなったら散開。その後、近くを通る人間からトリオンを集めて門を開く。

 

 修は思った。

「じゃあ、そのラッドを全部倒せば⋯⋯」

「いや〜きついと思うぞ」

「同感ね」

 遊真と青子は否定的な意見を口にする。

「さっきレプリカが調べただけでもコイツら、数千はいるってわかったから。全部駆除するなら何十日ってかかるわよ」

「いや、めちゃくちゃ助かった」

 ただ迅だけは違った。

 

「こっからはボーダーの仕事だな」

 ラッドを片手に、実力派エリートの顔を見せた。

 

 ▼

 

 ボーダーは訓練生の隊員までも導入し、昼夜を徹してのラッドの一斉駆除を結構。その結果、ラッドはすべて駆除された。

「やっぱ数の力は偉大だな」

「いやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って⋯⋯いや、速すぎない?」

 あまりの速さに頭がついていかなかったらしい青子。目がピンボールみたいに移動している。

 

「そりゃ遊真とレプリカ先生のおかげだよ。おまえがボーダーに入ってなくて残念だよ」

「ほう、じゃあオサムにつけといてくれ。いつか返してもらうから」

 驚く修。

「そりゃいい。B級昇格とクビは取り消し確実だな」

 そんな修を横に盛り上がる迅。

「パワーアップはできる時にしないと、いざっていう時に後悔するぞ。それに、メガネくんは助けたい子がいたから、ボーダーに入ったんだろ?」

「?」

「え、なに? 修、好きな子がいたの?」

「違います!!」

 話がてんで違う方向に向かっている青子の言葉に、修は強く否定した。

 

 ○

 

 ガタン。

 とある河川敷にて、そんな音が響いた。

 音の主は空閑遊真。向こうの世界からやってきた、いわゆる近界民である。

 そんな遊真を見て、真剣に考えている影が一つ。

 蒼崎青子。彼女もまた、近界民である。

「ハンドルを左右に少しずつ動かしながらはどう? それにあわせて、身体はハンドルの向きと逆に動かしたらできそうだけど」

「やってみる」

 

 ガタン。

 再びそんな音が響いた。

「次、私がやるわ」

「結構難しいけど、できるのか?」

「たぶん、さっき言ったようにするといけると思うのよ」

 自転車にまたがった。

 ペダルを踏み込む。

 チェーンが回る。

 それによって後輪が回る。

 そして前輪が動く。

 理屈はわかった。あとはバランスを取るだけ。

 青子は自信満々で、ペダルを踏み込んだ。

 

 ガッシャーン! 

 

 今までで一番酷い音を響かせて、自転車は転倒した。

「アオコ、どんまい」

「うるさい、同情するな!」

 

「あのー」

 そんな二人を見ていた人がいた。

「大丈夫ですか⋯⋯?」

「大丈夫よ」

「つまんないウソつくね、アオコ」

 遊真のサイドエフェクトは「ウソを見破る」というもの。なので青子のウソはすぐにバレた。

「ええ!? 大丈夫じゃないじゃないですか!」

「少し擦りむいただけだから大丈夫よ」

「バイ菌がそこから入るかもしれないんです、絆創膏ありますから使ってください」

 その子の勢いにやられ青子は「わかった、ありがたく使わせてもらうわ」と言った。

 

「ところで、貴女の名前は?」

雨取千佳(あまとりちか)です」

「そう、千佳、ありがとうね。私は蒼崎青子、コッチのチビは空閑遊真」

「よろしくな、チカ」

 シールを剥がして、傷口に絆創膏を慣れた手つきで貼る。

「なあ、チカは自転車こげるのか?」

「人並みにはこげるよ」

 

「千佳はどうやって自転車に乗れるようになったの?」

「兄さんに手伝ってもらって⋯⋯たとえば、後ろから押してもらったりしてもらいました」

「それよ!」

 パチンと指パッチンをして、閃いた! とでも言いそうな顔をする。

 

「そもそも一人でしようしたのが間違いだったのよ!」

「おちつけ、アオコ」

 そのとき、突然警報がなった。近界民が来たことを知らせるサイレンだ。

「ここは危険ね。遠くにいきましょ⋯⋯千佳?」

 青子はそう言ったが、時すでに遅し。

 彼女はさよなら、と言って去った。ただ、向かっていった方向は近界民がいる方だった。

 

「遊真」

 それだけで遊真は青子が言おうとしたことを理解する。

「まったく、アオコはヘンに優しいな」

「知り合って直後の人間が死んだら、誰だってイヤな気分になるでしょ?」

 青子はぶっきらぼうにそう答えた。

 

 ▲

 

 雨取千佳は近界民に狙われてきた。

 まだ、ボーダーが公表されてなかった頃から狙われてきた。

 その度に雨取千佳は心を空にしてきた。

 今回も彼女は心を空にしてやり過ごすつもりだった。

 

 突然、電話()が鳴った。

 

 近界民はそれに気づいてしまった。

 千佳には自衛手段はない。

 身体が恐怖で震え、目の前が真っ黒になりつつある。

諦めるしかない、と彼女は思った。

 

「よっと」

 

 近界民がこちらに攻撃をする前に、誰かが千佳を抱えた。

「遊真くん!?」

 顔を見ると、抱えたのはさっきであった空閑遊真だった。

「あのねえ、ワケありならなにか言いなさい、チカ」

 声がした方を見ると、そこには蒼崎青子がいた。

「まあ、もう大丈夫ね」

「? なんでだ、アオコ」

「一人、ヒーローが駆けつけてきたから」

 地面が少し揺れる。

 見るとそこには先程のトリオン兵を倒した三雲修と助言(手助け)をしたレプリカがいた。

 

「おーやるじゃん。さすがB級隊員」

「千佳!!」

「「⋯⋯へ?」」

 突然のことに目が点になる青子and遊真。

「なんでおまえが警戒区域にいるんだ! バカなことはやめろ!」

「ごめん⋯⋯街のほうにいたら危ないと思って⋯⋯」

 二人をそっちのけで話をする二人。

「なんだ、おまえら知りあい?」

 肯定する修。

 

「空閑、レプリカ、蒼崎さん⋯⋯今日は三人の知恵を借りたいんです」

 雨取千佳(こいつ)は近界民を引き寄せる人間なんだ──

 

 ▼

 

 近くにボーダーの隊員がいたため、場所を廃駅に移した四人。

 簡単な自己紹介をした後、本題に移る。

 遊真はトリオンが原因だと言う。曰く、あっちの人間はトリオンの強い人間がほしいから、千佳がしつこく狙われているならそれだけトリオン能力が高いらしい。

 

 そこで、トリオンの計測をレプリカにしてもらうことになった。

 結果、千佳のトリオン能力は「尋常ではない」とレプリカに言わせる程に、異常なトリオンを有していた。

 レプリカはボーダーに相談した方がいいと言うが、千佳は周りの人に面倒をかけたくないと言う。

 

 そんなとき、コツ、と足音が駅に響いた。

「動くな、ボーダーだ」

 

 学ランを着た 二人組が現れ、そう言った。空気が変わる。

 驚愕する修。

 それに対して、青子と遊真は二人組を見据える。

「トリガー──オン」

 姿が変わって武器を手に取る二人組。

 

 その二人組のうち、一人を見て青子はあることに気づいた。

「米屋くん?」

「ん? 蒼崎じゃねーか!」

 同じクラスの二人が対面する。

「知ってるのか、陽介」

「この前転入してきたヤツだよ! 」

 初耳だ、と無感情で答えたもう片方。

 

「なあ蒼崎、近界民はどいつだ?」

 まるで近所のコンビニに行くかのように気楽に言う。

「今、そのトリガーを使っていたのはその女だ」

 千佳がもう一人の方──三輪秀次(みわしゅうじ)の鋭い眼に映る。

 

「ああ、違うわよ。近界民は私と遊真(コイツ)よ」

 

 思わず目を見開いた米屋と三輪。

「⋯⋯間違いないだろうな?」

「ええ」

 その瞬間、三輪は二人に向かって銃を撃った。

 

「何してるんですか!!!」

「近界民を名乗った以上、見逃すわけにはいかない。近界民はすべて殺す。それがボーダーの務めだ」

 あくまで正当行為だと三輪は言う。

 

「おいおい⋯⋯おれたちがうっかり一般人だったらどうする気だ」

 しかし、遊真はシールドで、青子は隠し持っていたハンマーで放たれた銃弾を防いでいた。

 そのことに驚く三輪と米屋。⋯⋯米屋に関しては好戦的な笑みを覗かせている。

 

「私としては使いたくなかったんだけど」

 やるしかないわね──と目の色を変える青子。

『いいのか、アオコ』

「面倒なヤツに知られてしまった以上、やるしかないじゃない。

 ⋯⋯それに、いつかはこうなるって考えたら不思議なことじゃなかった」

「下がってろ、オサム。こいつらが用があるのは俺たちだ。こいつらとは──」

 

 おれたちがやる、とブラックトリガーを起動する。

「トリガー、オン」

 青子もトリガーを起動する。

 

 二人はトリオン体に換装する。

 遊真は黒い戦闘服に服装が変わるが、青子は私服のままトリオン体に換装する。

 

 [アオコ、どうする? おれとしては、穏便に収めたいのだが]

 [じゃあ『鎖印(チェーン)』使って、ぐるぐる巻きにしなさいよ。誘導は私がするから]

 通信を使って作戦を立てた二人(ネイバー)

 

 [どーする、秀次? ]

 [基本、俺が男の方を、おまえが女の方を相手にする形で、援護できる時にお互い援護をする。上に浮いたら、奈良坂たちが仕留める──わかったか? ]

 [了解]

 こちらも作戦を立てた二人(ボーダー)

 

 

 青子の右手が青く光り、魔法陣が右手に現れる。

「「!」」

 それを見て警戒する米屋と三輪。

「気になる? このトリガーのこと、知りたいなら教えてあげるわ」

 教えるのはその身体にだけど──青く光る魔弾が照射される。

 その魔弾が開戦の合図になった。

 

 

 




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近界民

相も変わらず変なところで終わります。


 青子の魔弾を回避。そして米屋は青子に、三輪は遊真に攻める。

 青子と遊真はなるべく穏便にすませたいので、あまり反撃はしない。

 ただ、無視できない一手を打っていく。

 

 あえて弾速がやや遅い魔弾を放つ。

 それは米屋は簡単にかわせるが、かわしたら三輪に当たるようになっている魔弾。

 その魔弾を冷静に処理して、反撃をする米屋。

 

 [遊真、『鎖』、つけれそう? ]

 [難しいな。この二人、連携と立ち回りが上手い]

 作戦通りにこなすのは難しいと判断する遊真。

 

 [同感ね、守りはできるけど予想以上に誘導が難しいわ]

 いっそ、足を切断するっていうのはどう、と提案したいが、それをすると修に迷惑がかかる。

 青子と遊真はなるべく、穏便に場を収めたい。

 

 [レプリカ、あんたが『鎖』でぐるぐる巻にしてくれない? ]

 [それをすると狙撃手(スナイパー)に狙撃される可能性が高くなる]

 レプリカにさせる案もあえなく消滅。

 狙撃手がいるかもしれない以上、レプリカにさせるのは得策ではない。

 

「おいおい蒼崎、こんなときに考えてんのか?」

 米屋の槍さばきがいっそう速くなる。

「ええ、どうすればそっちの刀の方は話し合いに参加してくれるかなって」

 青子は距離をとりつつ、米屋にとって無視できない一手を放っていく。

「そいつは諦めて大人しく踊れ(戦え)よ!」

 青子の一手をさばきながら、果敢に攻める米屋。

 

 遊真の相手をしている三輪も、ハンドガンで米屋の攻めを絶えさせない。

 同じく、米屋も槍の柄を長くして不規則に遊真に攻撃して、三輪の援護をする。

 [奈良坂(ならさか)古寺(こでら)、援護できそうか? ]

 三輪が狙撃手の二人に聞く。

 

 [厳しいな]

 奈良坂はマイナスの意見。

 [俺たちの存在を知って、立ち回っているみたいだ]

 [同感です]

 奈良坂の意見と賛成する古寺。

 [今狙撃で援護しても、先輩たちに当たりそうです]

 信じられないが、目の前の近界民二人はなぜか狙撃手がいることを知っている。

 そして米屋や三輪ごと撃ち抜かなければ、狙撃が通らないように立ち回っている。

 [わかった。なら、一つやってほしいことがある]

 そこで、三輪は一つの思い浮かんだ妙案を二人に伝えた。

 

「あら、今度はそっちが考えごとしてるじゃない」

「いやいや、そんな大層なことじゃねーよ」

 相も変わらず、青子は槍をかわし、米屋は三輪への妨害を槍でさばく。

 しかし──状況はかわった。

 

「っ!?」

 突然、目に光が直射された。

 それに対応できず、思わず目を閉じてしまった青子。

 その隙を見逃すほど、米屋は弱くない。

 槍は青子の右手にまっすぐ、吸い込まれるように速く進み──

「うっし、まずは右腕!」

 一本とられた。

 

 ⋯⋯位置から考えて狙撃手ね。

 考えたものだ。狙撃で援護できない立ち回りをするなら、あえて狙撃で援護しない。

 恐らくスコープの部分に日光を反射させて、青子の視界を奪ったのだろう。

 反射の影響を受けるのは青子だけ。狙撃手と同じ方向を向いている米屋にはこの反射の影響を受けない。

 ああ、良い一手だ、忌まわしい程に。

 

「よっと!」

 米屋が追撃をする。

 槍はまっすぐ、今度は首に進む。

「それはもうあたらない」

 今度はかわした。

 故に、当たるわけがない。

「⋯⋯と、思うじゃん?」

 

「っ!」

 しかし、米屋の槍は青子に届いていた。

 たしかに槍はかわしたはずなのに、青子の首に槍は当たった。

 ⋯⋯槍が変形した? 

 それなら辻褄はあう。

 しかし、それは奇襲としては失敗だ。

「ギリギリ致命傷にならなかったかー」

 

 だが、三輪はその米屋の攻めを利用する。

 遊真と青子に弾丸を放つ。

 二人ともシールドで放たれた弾丸をガードする。

 だが──

 

「は?」

 その弾丸はシールドをすり抜け、青子に命中した。

 横を見ると、遊真も同じように食らっている。

 不意打ちと巧みな連携。

 この二人は毒蛇のように立ち回った。

「チェックメイトだな」

 命中した弾丸は重石になり、二人を地に伏せた。

 

「ダメージはない代わりに、シールドの干渉を受けないトリガー⋯⋯なかなかおもしろい発想するじゃない」

 青子は弱音を吐かないし、弱った顔を見せる気はない。

「強がりもそこまでだな、近界民。

 俺には遺言を聞くつもりもなければ、貴様らの強がりを聞くつもりもない」

 勝利を確信したのか、はっきりと地に伏せている二人を見下す三輪。

 

 それは──間違いだった。

 

「いや、強がるつもりはないわ」

 嘲笑し(笑い)ながら青子は言う。

「ただ──狙撃で殺せない位置で、敵を殺すまでは余裕になってはいけない、って今日わかるようになるわ」

 三輪は己の過ちを理解し、青子に刀を振り下ろす。

 米屋も遊真にトドメを刺そうと、槍を穿つ。

 

『解析完了。印は『(ボルト)』と『(アンカー)』にした』

OK(オーケー)

「チェックメイトはあんた達ね」

 青子がそう言った瞬間、遊真と青子の目的は達成した。

 

「『錨印(アンカー)+(プラス)射印(ボルト)』──四重(クアドラ)

 三輪が二人を地に伏せた鉛弾(レッドバレット)が、さらに重くなって米屋と三輪に次々と命中する。

 その重さに耐えきれず、立ち上がることすらできなくなった二人。

 

「ナイス、遊真」

「青子もな。最後に喋ってたのは助かった」

 そう言って立場が逆転した二人に話しかける。

「さて、話し合い、しましょうか」

 その時の青子は実にイイ顔をしていた。

 

 ▲

 

「どうせいるんでしょ、迅?」

「ありゃりゃ、バレちゃった」

 駅に入ってくる迅、後ろには奈良坂と古寺がいる。

「迅さん!」

「よっ、メガネくん。なかなか強かっただろ、そこの二人」

 

 迅は遊真と青子を見る。

「おー、二人ともけっこうやられてるじゃん」

「まあね」

「ふつうに手強かったしな」

 戦闘が終わってなのか、少しリラックスしてるように見える遊真と青子。

「まあ、でも、私たちが勝つのはふつうに考えれば当然のことだったから、あんまり気を落とさなくても大丈夫よ」

「貴様っ⋯⋯!」

 青子が放ったその言葉に噛み付こうとする三輪。

 しかし──

 

 

コイツ(遊真)、黒トリガー使ってたから、しょうがないって言ったら、しょうがないのよ」

 青子が何気なく呟いた一言に三輪隊の全員は驚いた。

「黒トリガーだと!?」

「? 『相手のトリガーを学習する』トリガーなんて、黒トリガーぐらいしか考えられないでしょ?」

 いつもの何を言っているんだおまえは、と言いそうな顔をする青子。

 

 この流れに乗って迅は、「今は普通の近界民でもごたごたしてるのに、黒トリガーなんて敵に回したらやばいからな。

 おまえらは『こいつらを追い回しても何の得もない』って、帰って城戸(きど)さんにそう伝えろ」

 迅はいつもの顔で三輪隊のメンツにそう言った。

 

「⋯⋯こいつらが街を襲う近界民じゃないっていう保証は?」

 奈良坂が迅に訊く。

「おれが保証するよ。クビでも全財産でもかけてやる」

 その言葉に修は迅のサイドエフェクトを思い出した。

 未来予知──無数に広がる未来を見ることができる、ボーダーのサイドエフェクト基準の中でも最上級のランクSに属する超感覚である。

 それを持つ迅がそう言うということは信ぴょう性があることになる。

 

「何の得もない⋯⋯?」

 ただ、三輪は完全に頭にきていた。

「損か得かなど関係ない⋯⋯!」

 姉を近界民に殺されている三輪にはそんなことを飲み込めるわけ、なかった。

「近界民はすべて敵だ⋯⋯!!」

 緊急脱出(ベイルアウト)──三輪がそう叫んだのと同時に、三輪の姿は消えた。

 

「緊急脱出ってこと?」

「ああ、ボーダーの正隊員にはトリオン体が破壊されると、自動的に基地に送還されることになってる」

「便利だなー」

 感心を口にだす遊真。

 

「一つ聞きたい」

 奈良坂が青子に話しかける。

「何?」

「どうして俺たちがいることを知っていた?」

 そう、奈良坂はあの立ち回りについて聞きたかったのだ。

 狙撃手がいるとわかっていないと、あの立ち回りは不可能だ。

「知ってはいないけど、アイツの性格から考えて、いるだろうと思ったのよ」

 

 アイツと言うのは十中八九三輪のことだろう。

「性格から考えた?」

「そう。

 あーゆータイプはたいてい攻撃の前衛と援護の後衛をバランスよく作るのよ。だから、さっきの立ち回りをしたってわけ」

 恐らく最初の駅のホームでの会話から、考え始めていたのだろう。

 性格から部隊の構成の目処を立てるとは、なかなかだ。

 近界民から学ぶのは癪だが、この考えは使える──奈良坂はそう思った。

 

「あら、動けないところを後輩に見られた米屋君じゃない」

 青子はニヤニヤしながら米屋に話しかける。

「恥ずかしいからやめろよー」

 そう言って空を仰いでいる。

 先程の恥ずかしいことを蒸し返されて、米屋は顔を手で見えないようにしている。

 

「あんたはさっきの⋯⋯えーと」

「秀次のことか?」

「あーそうそう。秀次と違って、近界民に恨みとかはないの? 

 なんか、戦った感じ、あんたは戦闘狂(バトルジャンキー)っぽかったんだけど」

「おれは近界民の被害受けてねーもん。あっちの狙撃手(二人)は違うけど」

 なるほど。

 つまり、あっちの二人は被害を受けたから恨みはあると。

 でも米屋は被害を受けていない。そして戦闘時には笑っていた。

 なるほど、やはりバトルジャンキーだった。

 

「あんたまさか、戦うのが楽しすぎて成績悪いっていうこと⋯⋯?」

 青子はおそるおそる質問すると、米屋は──

「⋯⋯と、思うじゃん?」

 次の瞬間。

 青子は米屋が反応できない速度で手を出した。

 

「ちょっと、蒼崎さん!?」

 思わず、青子を止めにかかる修。

「離しなさい修! 世の中には勉強したくても勉強できない子がいるのよ! 特に、あっちの世界では!」

 手を出された米屋はポカーンとしている。

 さっき迅がドヤ顔で言っていたことが、わずか五分足らずで覆されかけている。

「⋯⋯まあ、これは陽介が悪い気もするな。陽介、俺が言うことではないが、授業はちゃんと受けろ。居眠りなしだ」

「奈良坂さん!?」

 近界民に被害を受けた人間が近界民の意見に同意する。

 ああ、なんて皮肉なことなんだ。

 

 □

 

 ちょっとした事件のあと、米屋たちは本部に戻った。

「んじゃ、おれとメガネくんは本部に報告にいってくるから、終わったらまた連絡するよ」

 そう言って修と迅は本部に向かっていった。

「とりあえず場所、移動しましょ」

 残った千佳、遊真、青子は時間をつぶすために場所を移してお喋りをしにいった。

 

 本部では迅と修が駅のことを上層部に報告をしていた。

「報告御苦労」

 ボーダー本部の司令官である城戸が修と迅にそう言った。

 顔はピクリとも動かないので、本当にそう思っているのかは不明だが。

 

 ところで、城戸は『近界民死すべし慈悲はない』を掲げる城戸派閥の人物。

 そして部屋の中にいる玉狛支部の支部長、林藤(りんどう)とボーダー本部本部長の忍田(しのだ)を除く、メディア対策室長の根付(ねつき)や本部開発室長の鬼怒田(きぬた)、それに外務・営業部長の唐沢は同じく城戸派。

 つまり、黒トリガーの使い手が現れるとこうなるのである。

「その近界民を始末して、黒トリガーを回収しろ」

 実に単純。

 殺して奪う。そしてそれをボーダー隊員に使わせて、防衛力を強化する。

 

 しかし、困った。

 黒トリガーは強すぎるが故に、ボーダーでは黒トリガーを使う迅はS級という特別な位置に存在する。

 ようするに、強すぎる黒トリガーを相手にするのに最適解は、同じく黒トリガーの使い手を差し向けるということである。

 なので、迅は城戸にこう言われた。

「おまえに黒トリガーの捕獲を命じる」

 

「それはできません」

 迅はその命令に真っ向から拒否した。

 迅いわく、自分に命令できるのは直属の上官である林藤だけであると。

「⋯⋯林藤支部長、命令したまえ」

「やれやれ、支部長命令だ、じん。黒トリガーを捕まえてこい」

 ただし、やり方はお前に任せる。

 林藤はそう付け足した。

 

 ▼

 

「三雲くん」

 修が部屋から退室する直前、唐沢が修を呼び止めた。

「きみの近界民がコッチに来た目的とかは聞いていないか? 

 いやなに、相手が何を求めているか、わかれば交渉可能になる。たとえ、それが別世界の住人でも」

 鬼怒田と根付はなにを悠長に、と考えている。

 唐沢とは違い、彼らはせっかちさんなのだろうか。

 

「目的⋯⋯とかは聞いてませんけど、『父親の知り合いがボーダーにいる。その知り合いに会いに来た』とは言ってました」

「その父親の名前は? ⋯⋯いや、きみの友人の名前でもいい」

 唐沢が食い気味で聞いてくる。

 この人は欲張りなんだろう、と修は思った。

 

「父親の名前はわかりませんが、本人の名前は空閑遊真。

 それと、空閑と一緒に来た人の名前が蒼崎青子です」

 一瞬、沈黙が部屋を満たした。

 その後、すぐに『空閑』について林藤、忍田、城戸はピンと来たようだが、それと同じぐらい、修が気になったのは唐沢の反応であった。

「『蒼崎』か⋯⋯そういうこともあるな」

「知っているのかね、唐沢くん」

 

 城戸が唐沢に話しかける。

「ええ、本人ではないですけど」

「では一体誰を知っているんだ、唐沢くん!」

 鬼怒田は少しリラックスした方が良さそうだ。

 ここのところを考えると、彼には仮眠ぐらいはとってほしい。

「私が知っている──いや、会ったことがあるのは彼女の姉の方ですよ」

「姉? どういうことだ?」

 今度は忍田が質問をする。

 

「ボーダーに来る以前、蒼崎橙子(とうこ)という女性と商売の話をしていたことがあるぐらいですよ。

 話の途中で妹の話がちょっと出てきたぐらいですし、あと、不味い煙草をもらったぐらいですよ」

 なるほど、彼女は近界民だったのか、と一人で納得する唐沢。

 そのあと、空閑の父親、空閑有吾(ゆうご)の話をして、修は会議室から本当に退室した。

 

「唐沢くん、蒼崎青子について知っていることはなにかあるか?」

 修たちがいなくなった部屋で、城戸が唐沢に質問する。

「特には何も。ただ、壊すことに関しては素晴らしい才能があるって、彼女から聞いてたぐらいです」

 彼女には作る才能がありましたから、正反対ですね──と唐沢は言った。

 彼はそう言ったあと、ポケットからある煙草を取り出して、不味そうに吸った。

 

「それが例の不味そうな煙草か?」

「ええ。林藤支部長も吸ってみますか?」

「遠慮しとくよ。不味い煙草は趣味じゃない」

 林藤は笑顔を絶やさずそう言った。

 

 




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結成

キリがいいところで書き終わったら、いつもより少ない文書量になっちった。



「私たちがボーダーに⋯⋯?」

 修たちと合流した青子たちは、遊真の黒トリガー──遊真を守るために、遊真と青子にボーダーに入ることを勧めた。

「遊真はわかるけど、なんで私まで?」

「青子ちゃんにもトリガーがあるだろ? 遊真の黒トリガーが最優先だとしたら、次に重要なのはトリガーの技術だからな」

 つまり、黒トリガーの奪取が失敗して、もしも青子がボーダーに入ってなかったなら、青子が狙われる可能性が大いにあると迅は言った。

 

「もしボーダーに入るとしたら、本部に行くわけ?」

 青子は街のシンボルともなりかけている基地を指さす。

「いや、ウチの支部に来ないかってことだから、なにも本部に連れていくわけじゃない」

「どうする、遊真?」

 遊真に訊く青子。

 自分だけに関係することではないので、青子だけでなく、遊真にも決める権利はある。

「ふむ⋯⋯オサムもチカも一緒ならいいよ」

「よし、決まりだな」

 行き先は決まった。

 青子たちは迅について行き、玉狛支部を目指すことになった。

 

 ▲

 

 目的地の玉狛支部は川の中に立ってあった。

「川の真ん中に建物が⋯⋯!」

 元々は川の何かを調査する施設だったここは、ボーダーに買い取られて基地に回想されたらしい。

「何かって何?」

『川の何か』に反応する青子。

「たぶん水質のことだと思うよ。それか川の中の生物じゃないか」

 そんな話をしながら基地の中に足を踏み入れる青子たち。

「なっ⋯⋯!」

 開口一番、修がそんな声を上げる。

 彼らが見たものとは──

 

「しんいりか⋯⋯」

 動物に乗っているお子さまだった。

「まさかこのお子さま(コイツ)は玄界の新しいトリガーの一種⋯⋯?」

 一人だけ間違えた方向を考えるのがいた。

 遊真でさえそんな考えはしなかった。

「違うから。こいつは林藤 陽太郎(りんどう ようたろう)、ただのお子さま」

「⋯⋯」

 顔が恥ずかしさで赤くなる。遊真に至っては「考えすぎだろ」と言ってる。

 

「あの、青子さ──」

「オサム、今はアオコに話しかけない方がいい。八つ当たりくらうからな」

 余計な一言だと思ったのか、青子は遊真にチョップをした。

 余談だが彼女のチョップは、それはそれは見事だった。美しさを感じるほどには。

 

「あれ、お客さん?」

 二階の部屋から出てきたその子──宇佐美 栞(うさみ しおり)は、青子ら四人を見てなにやら困惑している。

「あんた私たちが来ることぐらい知らせなかったの?」

「実力派エリートにはそれなりの事情がありまして」

 チィッ、とひょうひょうとする迅に青子は舌打ちをする。

 

 応接室に通され、どらやきでもてなされる四人。

「っ⋯⋯おいしい」

「よかった〜口にあって」

 そんなにおいしいのか、と思った遊真は、自分のどらやきに手をさし伸ばしている不届き者(陽太郎)に気づいた。

「わるいなちびすけ、おれはこのどらやきというものに興味がある」

 その不届き者に制裁を下してから、どらやきを口に入れた。

「わたしのあげるよ」

 よかったな陽太郎。女神はいたらしい。

「きみ、かわいいね。けっこんしてあげてもいいよ」

 ⋯⋯ただ、貰ってからすぐに口説くのはやめておいた方がいいだろう。

 

 ○

 

「遊真、メガネくん、来てくれ。ウチの支部長(ボス)が会いたいって」

 残った青子と千佳は今日は玉狛支部(ここ)にお泊まりになったので、部屋の準備をすることになった。

「千佳、あんたは先に親御さんに連絡しときなさい。連絡してる間に私の部屋の準備を終わらすから」

「わかりました」

「じゃあ、えーと⋯⋯」

「宇佐美でも栞でもいいよ。たぶん年近いし」

「そう。じゃあ栞、部屋の場所を教えて」

 応接室から出て、今日泊まる部屋に向かう。

 

「それにしても空き部屋が多いのね。隊員は少ないのに、なんでこんな部屋が多い場所買ったのかしら」

「たぶん事故物件とかで売り出されていたんじゃない? それで格安だったからとか」

 残念ながら青子に事故物件という単語がどのようなものかは分からないが、あまりいい意味ではないのだなと理解した。

 

「はい、ここだよ」

「ありがとう」

 どこにでもありそうなベッドに、前にこの部屋を使っていた人間の机や椅子が置いてある、普通の部屋だった。

 

「用意するのは布団ぐらいね。

 栞、布団の場所を教えて。取りに行くから」

「アタシもいくよ」

「いや、たぶん千佳が待ってるから、千佳の準備の手伝いをしてほしいの」

 ああ、なるほど、と感嘆する栞。

「今日は確か暖かかったから⋯⋯布団があるのは屋上かな? 階段を上がっていくと着くから、おねがい」

「わかった」

 

 ▼

 

 屋上に向かう途中、いいことでもあったのか迅がニヤニヤしながらやってきた。

「なに? なにかいいことでもあったの?」

「まぁね、いい未来が見えたから」

 これから必要なものを取りに行く途中──と迅は言った。

「そう⋯⋯そういえば、遊真と修は何してるの?」

「メガネくんは今、さっき言った未来に向かってる途中。遊真は屋上にいるよ」

「? アンタ、どんな未来を見たの?」

 迅の発言に少し気になる青子。

 

「まだ秘密。サプライズが必要なんだ」

「ふーん⋯⋯」

 いろいろと気になるが、(目の前のヤツ)は未来予知ができるので、特に追及しない。恐らく、いい方向に向かわせようとしてるのだろう。自分にとってもいい未来かは知らないが。

 

「私は特にすることはない?」

「今回は、うーん⋯⋯必要ないな」

 なら、自分は自分の仕事をしようと青子は思う。

「布団は屋上に──」

 あるのよね、と言おうとしたが、迅は先手をうっていた。

「布団はリビングに置いておいたよ。暖房で少し温めてあるから、ぐっすり快眠できる」

 未来予知は便利だなぁ、と思う青子であった。

 

 □

 

「はあ⋯⋯疲れた」

 青子は暇だったので千佳と遊真、それに修の分もやってしまっていた。

「なんでこんなに動いてるんだろ、私」

 用意された自室のベッドに寝転がる。

 むこうの世界を思い出すように、まぶたを閉じる。

 

 むこうの世界でも、こんなに他人のために何かをするのは少なかった。

 それがどうだ。こっちの世界に来てから、まるで性格が反転したようだ。

「⋯⋯まさか」

 乾いた笑みを浮かべ、自嘲するように呟く。

 こんなに早く身内認定するなんて、ありえない──

 それでも、なぜか千佳と修には対しては自覚できるほど甘い。

 本格的に疲れがきたのか、青子は自分でも気づかずに、意識を手放した。

 

「すみません、青子さん、今いいですか?」

 声が聞こえたのと同時に青子はぼんやりと目を覚ます。

 声から察するに修が来たようだ。

 まだ覚醒してない意識のまま、無理やりベッドから身体を起こして、ドアに向かう。

「なに──って遊真と千佳も? アンタら何しに来たの?」

 

 ドアを開けて先にいたのは、三人だった。

「おれたち、チームを組むことになった」

「へぇー⋯⋯で?」

「アオコも入らないか?」

「なんで私が入るのよ」

 無愛想な返答もあいまって、青子の機嫌は少し悪いように見える。

 ようするに、客観的に言うと少し怖いのだ。

 

「──二人とも、私の手伝いをしてくれるんです」

 そんな青子との会話に、千佳が割って入る。

 予想外の発言に少し青子は驚き、「手伝い?」と疑うように呟く。

「わたしは近界民にさらわれた友だちと、あっちの世界にいった兄さんを探したいんです」

「⋯⋯厳しいことを言うけど、むこうの世界は広い。だから見つけ出すなんて不可能に近いし、第一──今、生きているとは限らない」

 

 青子の言葉には重みがある。

 それはむこうの世界にいた経験と、多くの国々を知っているから言えるからだろう。

 異人種に厳しい国、自国が第一の国──そんな国も珍しくない国を巡ってきた青子だから、言葉に重みがある。

 そして、たとえそれが信じられないような事実でも、彼女はハッキリと断言して告げる。

 

 千佳はまだ十四歳。

 その言葉は確かに心に深く刺さったが、彼女の目は曇らなかった。

「それでも、少しでも可能性があるなら──じっとしてられないんです」

 

 青子と千佳が目を合わせる。

 今、今朝のような気弱な千佳はいない。

 眼前には、ただ、自分の意志()を貫こうとする人間。

 一瞬の沈黙。

 

 千佳には怖い、という思いがあった。

 兄や友達と会えない、自身の死、己の周りの人間が巻き込まれる──そういった可能性すべてに、恐れを抱いている。

 それでも、それは修に影響されたか。

 それは千佳ですら分からないが──彼女は可能性があるのに、行動できない自分が嫌だと思った。

 

 青子は自分の間違いに気づいた。

 確かに千佳は気弱な印象だった。

 だが、その裏に隠れていたモノに気づいていなかった。

 

 ⋯⋯どこが気弱な少女。十四歳でこれは──異常だ。

 

「⋯⋯私が入っても、アンタの兄貴たちが生きているとは限らなし、もし極限状態で見つけても、助けれるとは限らない」

 ──だけど、私がいなかったから死んだっていうのは、迷惑。

 

「って言うことは⋯⋯!」

「特別に手伝ってあげるわよ。どうせ、やることも少ないし」

 三人の目に喜びが現れる。

「青子さん⋯⋯!」

「勘違いしないで、私は自分のためにアンタたちを手伝うの。そこを忘れないこと」

 遊真だけは気づいたが、あえて言わないことにした。

 青子はこういうところがあるから、おもしろい。

 

 ★

 

「おう、遅かったな」

 チーム結成のことを伝えるために支部長室に行くと、すでに四人分の入隊、転属用の書類が用意されていた。

「それとはじめまして、蒼崎青子ちゃん」

「どうも、ボス」

 玉狛支部長、林藤(たくみ)と青子が対面する。

 

 

「きみは有吾さんと知り合いだと聞いたが、どこであったんだ?」

「私の国にアイツが来たのよ。そこで借りができたから、今遊真の面倒をみてる」

 そうか、と言って煙草を灰皿に入れる。

「身の上話はここまでにしておこうか。きみは自分の話をするのは、あんまり好きじゃないだろ?」

「まあね」

 青子の話は終わった。

 

「さて、我が玉狛支部に入隊するんだろ?」

「知ってたから、このサプライズでしょ?」

「おれは実力派エリートだからな」

 

 四人が書類を書いて提出する。

「正式な入隊は保護者との書類が揃ってからだが、支部長としてボーダー玉狛支部への参加を歓迎する」

 

 ──たった今からお前たちはチームだ。このチームでA級昇格、そして、遠征部隊選抜を目指す! 

 

 

 修はチームの隊長としてやっていくことに緊張し、自分にできることを考えた。

 千佳はこれからチームに貢献するために、自分にできることを考えた。

 遊真は新たな目的と、それを達成するための大事な仲間がいることに笑った。

 そして青子は──昔のことを思い出して、笑った。

 

「このチームならできるな」

「間違いないわね」

 修と千佳は彼らの言葉を聞いて笑った。

 

「おまえらはいいチームになるよ」

「それは迅さんのサイドエフェクトで見たのか?」

「いや、おれのサイドエフェクトじゃなくて、おれがそう言った。

 未来なんて見るまでもなく、わかるよ」

 迅はいい笑顔でそういった。

 

 

 




誤字脱字等があったら、報告してくれるとありがたいです。


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玉狛式練習法

唐沢さんと!橙子さんを!会話させたい!!


「なるほど。ようするに私たちがA級に上がるためには、まずC級からB級に上がって、B級のランク戦で勝たないといけないのね」

 結成した翌日。

 玉狛支部では、青子たち四人は、宇佐美による解説が受講していた。

「その通り! じゃあ次はチームのポジションを決めようか」

 

 戦闘員には三つのポジションがある。

 攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)狙撃手(スナイパー)

 前者から順に、主に接近戦、中距離戦、遠距離戦をするポジションだ。

 遊真は攻撃手、千佳は話し合いで狙撃手となった。青子は、

 

「中距離って銃手だけなの?」

「厳密に言うと、銃手と射手(シューター)の二つあるよ」

 修くんは後者だね──そう細くする宇佐美。

「じゃあ私も射手にする。銃よりもそっちの方が、私と相性良さそうだし」

 使っていたトリガーのことも考えたか、射手にした。

 

 ドンッ! 

 

 その直後、勢いよく扉が開かれ、

「あたしのどら焼きが、ない!! 誰が食べたの!!?」

 謎の女子が乱入してきた。

 突如として入ってきたその女子は、

「おまえか!? おまえが食べたのか!?」

 陽太郎に尋問を始めた⋯⋯尤も、陽太郎は寝ぼけているので、効果は期待されないであろう。

 

「さわがしいな小南(こなみ)

「いつもどおりじゃないすか?」

 騒ぎにつられて落ちついた筋肉とモサモサがやってきた。

「おっ、この四人って迅さんが言ってた新人すか?」

 その言葉を受けてどら焼き女子が修たちを見る。

 

「新人⋯⋯? あたし、そんな話聞いてないわよ!? なんでウチに新人なんか来るわけ!? 迅!!」

 気が強そうなどら焼き女子は修たちのことを知らなかったらしい。

「実は──この三人、おれの弟と妹なんだ」

 は? 

 口に出すならこの一文字で、まさに一文字で表されるこの空気。

 青子は困惑を口に出そうとしたが、すんでのところでとどまった。

 

「えっ、そうなの?」

 ──待って、コイツ、嘘って気づいてない!? 

 絶句する青子を横目に、悠真を迅に似ていると言い出すどら焼き女。

 モサモサも嘘をついたのを加味しても、この信じようはおかしい。

 これは玉狛クオリティなのか? 

 

「レイジさんも知ってたの!?」

「よく知ってるよ。迅が一人っ子だってことを」

「!?」

 どら(じょ)は混乱する。

 栞に嘘だと伝えられ、理解したところで、この謎めいた現象は終幕した。

 

 ○

 

「モサモサした男前が烏丸 京介(からすま きょうすけ)、十六歳。

 こっちの落ちついた筋肉が木崎(きざき) レイジ、二十一歳」

 青子の第一印象は玉狛も共通だったらしい。

 

「さて、この四人は訳あってA級を目指してる。

 正式入隊日までの約三週間を使って、おれたち四人で新人四人を鍛えようと思う。

 具体的に言うと、マンツーマンの方針でいこうと思う」

 

 明かされる新人教育。

 これは支部長の命令なので断ることはできないらしく、新人入隊に反発してたどら女⋯⋯小南 桐絵(きりえ)という名前らしい⋯⋯は、しぶしぶ従っていた。

「⋯⋯わかったわ、やればいいんでしょ。でもそのかわり」

 にゅっ、と手を伸ばして、

「こいつはあたしがもらうから。

 あたし、弱いやつはキライなの」

 遊真を盗った。

「ほほう、お目が高い」

 見ただけで遊真の戦闘能力を見切った小南に、遊真が感心する。

 この二人、相性良さそうだ。

 

「じゃあ千佳ちゃんはレイジさんだね」

 千佳は四人の中で唯一、狙撃手の経験があるレイジが指導することになった。

「よ、よろしくお願いします⋯⋯」

「よろしく」

 体格差がアリとゾウのような二人。

 いや、ゴリラと少女と言うべきだろう。

 

「迅さんは誰を教えるんスか?」

 残るはシューターの二人。

 迅が選んだのは──

「おれは青子ちゃんを教えるよ。そうした方が良さそうだ」

 未来でも見たのか、そんな言い方をする迅。

「そっスか。よろしくな、修」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしく、青子ちゃん」

「よろしく」

 

 ○

 

「それじゃあ、射手の説明からしようか」

 基地の地下。

 トレーニングルームを使わなかった二人は、まず説明からになった。

 

「射手っていうのはこの弾丸の性能をいじって戦うポジション。

 いちいち弾をいじって戦うから、銃手と比べると少し撃つまでにタイムラグがあるのと、命中精度が少し荒いのが欠点。ここまではオッケー?」

 頷いて返事をする青子。

 

「それじゃあ次は弾丸のトリガー説明。

 まず、アステロイド──これは特殊な効果がない代わりに、そのぶん威力が高い。

 次にハウンド──相手を追跡する弾。でも、レーダーの反応を消されたら追跡ができなくなる。

 そして、メテオラ──着弾すると爆発して、広範囲に影響を与える。

 あと、バイパー──弾道を設定する弾丸」

「弾道を設定できるって──」

 反則じゃない、と言おうとする青子。だが、

 

「ただ、その弾道を設定するのが難しい。ハウンドより複雑な動きはできるけど、それが原因で自由自在に操れるのが少ない」

 それぞれの弾に長所と短所がある。完全に使いこなすのは難しいよ──と迅は付け足す。

 

「まあ、今から使うのは訓練用のトリガーだから、弾丸は一種類しか使えないけどね。

 何か使いたいのはあった?」

「⋯⋯とりあえず、操作に慣れないといけないから、アステロイドを使うわ」

「了解。じゃあこのトリガーだな」

 迅がトリガーを渡す。

 

「トリガーオン」

 トリオン体に換装し、手のひらにアステロイドを出す。

 言い忘れたけど──迅がそう言って、「弾丸の性能をいじるって言ってたけど、他にも弾速、威力、射程距離、弾丸の大きさも決めれる」

「ふーん。こういうこと?」

 見ると、青子はアステロイドを細かく分割していた。

 

「そんな感じ。じゃあ、次は模擬戦でもしようか」

 もうすぐメガネくんたちが帰ってくるし、と迅は未来を見て言った。

 

 ◇

 

 勝負が始まる。

 青子はアステロイドを分割して迅に放つも、全てかわされる。

「やっぱりそうなるわよね」

 未来予知でかわされるのは想定内。

 なら、迅に攻撃を当てるにはどうすればいい? 

 

 方法は二つある。

 迅がかわせないほどの弾幕で押し切る。

 未来を予知する時間を与えない。

 青子が選んだのは──

 

「弾幕で押し切る!」

 アステロイドを小さく、細かく分割するし、迅に放つが⋯⋯

「それも見た」

 今度はスコーピオンで捌かれた。

 もう少し威力と弾速があったのなら、ここで傷一つぐらいはつけられたのかもしれないが、そんな反省をする暇など今はない。

 なら次はどうすれ──

 

「迷ったらそこで試合終了だよ」

 考える暇も与えられずに、一戦目は青子の敗北で幕を閉じた。

 

 ○

 

「まだ0勝⋯⋯」

 現在、0勝8敗の青子。

「まあ、初めて使うトリガーだからしかたないんだけどね」

 今の青子には(勝者)のフォローも頭に来る。

「せめて、一回は勝つ」

 八回やって青子が気づいたことは、未来予知は万能じゃない、ということ。

 

 致命傷はいまだに与えれていないが、傷はいくつかつけられた。

 未来を予知できるからといって、絶対に負けないということはない、ということだ。

 攻略法は弾幕と予知の時間を与えない方法。

 使えるのはノーマルなアステロイド。

 さあ、青子()はどうする──? 

 

 アステロイドを分割して、腕の周りに円を描くように浮かばせる。

「おっ、やり口を変えたな」

 イメージはこれまで使ってきた自分のトリガー。

 アレとは撃つまでの過程が全く違うが、想像と同じ撃ち方をすると、

 

「!」

 無意識にやったのかはわからない。だが、命中精度や弾の性能が上がっている。

 事実、先程の撃ち方と比べると、格段に弾が迅に当たっている。

 それでも、まだ致命傷には至らない。

 ボーダーのトリガーに慣れていないからか、やはり少し感覚が狂う青子。

 だが、迅はそんなことお構い無しで近づいてくる──! 

 

「くっ⋯⋯」

 思わず距離をとる、否、とってしまった。

 しかし迅はそれを既に見ていたのか、スコーピオンを投擲する。

 顔の横を通るスコーピオン(敗北)を紙一重でかわすが、

「ホント、厄介⋯⋯!」

 もう一本のスコーピオンが青子を切りつけた。

 だが、裏を返せばそれは──

 

「ッ!? マジで?」

 迅の足を全力で踏みつける。

 トリオン体である以上、そこに男と女の筋肉量の差など存在しない。

 もしここで迅が足を自由にしたのなら、それは青子に執念が足りなかったということ。

 ──そんなことは起きるはずがない。今のこの状況ならば、勝者はもはや決まったのと同じ。

 

 迅の心臓付近に手をあてる。

 真のゼロ距離射撃。

「もらった──!」

 

 ○

 

 トレーニングルームから出てきた青子に、遊真が話しかける。

「アオコ、おつかれ」

「チィッ⋯⋯」

 舌打ちをする青子。

「あんたボーダーのトリガー使うの初めてよね?」

「⋯⋯そうよ」

 暗めのオーラで小南に返事を返す。

 

「なにも嫌がらせとかするつもりじゃないわよ。

 むしろ褒めることよ。射手用のトリガーを初見で迅相手に一戦でもあそこまで持ちこんだのは、凄いことよ」

 京介が珍しい、と思う。

 実際、強がりの小南が他人をこれ程絶賛するのは珍しい。

 だが──

 

「まあ、でも? 私の方が迅より強いから? あんたがボーダーのトリガーで、私に勝つのは、まだまだ先のことね!!」

 

 今の状態の青子に、無知とはいえここまで言う人間がいるとは。

 故に、もうじき、何がとは言わないが、凄まじくなる青子を抑えようと遊真が打った手は──

 

「こなみ先輩、オサムが今こなみ先輩のことカワイイって言ってたぞ」

 

 ──『相棒を売る』だった。

 厳密に言うと、相棒を売ることによって、何とかこの空気を変えようとする、ということだ。

 

「ッ!?」

 当然、混乱する修。

 そんな修に遊真は「頼んだ」とジェスチャーを、京介は神に祈るように手を合わせていた。

「えっ! そうなの!?」

 さて、すぐにお約束になるあっち側はさておき。

 

「射手のセンスは良かったから、あとは慣れるだけだよ」

 件の青子さんは栞と話していた。

「最後のはしかたないよ。あんなふうに相打ちをしたのは、あたしだって初めて見たし」

 そう、青子が問題にしているのはそこ。

 青子がトドメを刺す瞬間、迅は腕からスコーピオンを出して、青子のトリオン供給機関を刺したのだ。

 その結果、相打ちになり引き分け。青子は一勝もできなかった自分に苛立っていたのだ。

 

「勝ちがないって言っても、迅さんの未来予知に一回でも勝てたから、全然問題ないよ! 今の実力でもかなり上の方だから、練習したらすぐにもっと強くなれるよ!」

 栞の言うことはもっともだ。

 未来予知ができる迅に、初めて使うトリガーで引き分けを一回でも作れたら大金星だろう。

「たしかに⋯⋯」

 納得する青子。

 どうやら怒りはとうの昔に霧散したらしい。

 

「気分はどうだ、アオコ」

「まあまあね」

 先程よりはマシになったと伝える。

 それにホッと息をする遊真。

「それよりも、コレなに?」

 オサムは小南にギロチンをかけられているのを見て、青子は珍しくキョトンとしたのだとか。

「⋯⋯もしかしてオレの出番いらなかったか?」

 そんなことを思った遊真がいたそうな。

 

 ▲

 

 二日後、時刻は夜。

 夜特有の黒に溶け込む彼らが目指すは玉狛支部。

 レーダーに探知されぬ用にバックワームを着込み、最短距離を最速で駆け抜けていく。

 木戸司令の命を受けた彼ら、ボーダーの精鋭部隊──太刀川(たちかわ)隊、冬島(ふゆしま)隊、風間(かざま)隊、そして三輪隊は空閑遊真の黒トリガー、そして蒼崎青子のトリガーを奪取するために、結成された今宵限りの特別部隊。

 しかし、その精鋭集団に立ちはだかる者がいた。

 

「迅⋯⋯!」

「太刀川さん久しぶり。みなさんお揃いでどちらまで?」

 迅悠一、ボーダー最高戦力の一人で、黒トリガーの使い手。

 そして──暗躍の達人だ。

 

 ▲

 

「悪いけど、先手は打ってある」

 その一言で構える太刀川たち。

 それもそのはず。

 迅が使う黒トリガー、『風刃』は見える限りどこにでも斬撃を物体を伝って伝播させるモノであり、物体にその斬撃を仕込めるからだ。

 だが、迅が打った手というのはそんな乱暴なものじゃない。

 

「オレが打ったのは本部にだよ」

「⋯⋯どういうことだ」

 風間が殺気を出しながら迅に問う。

「オレがここで頑張っても乱暴な手段になるからね。

 そうならないために、特別なゲストを本部に送り込んだんだ」

 今音声繋ぐね、と柔らかい表情で言う迅。

 

「はい、繋い──」

 だ、と言い切る前にそれは流れた。

『──貴様! そんな要求が通るわけないじゃろ!?』

 鬼怒田の怒号。それも太刀川たち全員に聞こえるほどの大声。

 ──一体本部で何が起こっている⋯⋯? 

『それにウソはないのだな──』

 

 蒼崎青子──その名前は精鋭部隊を凍りつかせた。

 

 

 

 

 




誤字脱字などがありましたら、報告してくれると幸いです。
相変わらずの低クオリティですみません。
許して!


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蒼崎

交渉戦ムズすぎん?



 事の発端はトレーニング中。

 アステロイドの分割作業が上達させている最中、青子は迅にこんなことを聞いたことから始まった。

「あんた、夜中に出歩くのとか好き?」

 その質問を不思議に思う迅。

「と言うと?」

「昨日、夜中に目が覚めた時にあんたが外出してたのが窓から見えたから」

 

 なるほど、だからか、と納得する迅。

「外に出たのは、オレの趣味は暗躍だからだよ」

「そういえば、あんた未来見えるもんね」

 理解したらしい青子。

 迅はそんな青子を見て、新しい未来の一つを見た。

「ねえ青子ちゃん」

「なに? 暗躍の理由? たぶん私と遊真関連でしょ」

 

 ──話しがはやい。

「そのことなんだけど。明日あたりに本部の精鋭部隊がウチに攻めてくるんだよね」

 その事実に反応する青子。

「⋯⋯遊真の黒トリガー?」

「それと、青子ちゃんのトリガーもね」

 考え込む青子。

 対して迅はもう未来の行く末がわかっているのか、ソファに寝転がる。

 

「あんた、私に何言いたいわけ?」

 待ってましたとばかりに破顔した。

「頼みたいことが一つ。

 オレはここに来る途中の本部のチームの足止めをするから、それまでに──」

 本部に行って上と話をしてほしい──そう迅は青子に告げた。

 

「後ろ盾も無しで本部に行けるわけないの、わからない?」

「そこら辺は大丈夫。もう手を組んでるところがあるから」

 

 ○

 

「迅が言ってたのはここね」

 翌日の夜。

 青子は後ろ盾との待ち合わせ場所に指定された場所で待っていた。

 冬だからか人は少なく、道路にはまばらに通過する車だけ。

 本来、女子高生を一人で待たすのは危険なことだが、もしそういった輩が来ても壊滅するだけだろう。

 

「遅れてしまってすまない」

 少しするとスーツ姿の大人がやってきた。

「君が蒼崎青子くんで間違いないかな?」

「あってる、で貴方の名前は?」

 忍田真史、とその大人は答えた。

 時刻も時刻だから、本部まで歩く。

 

「貴方はこの街が第一の派閥の人間なのよね?」

 忍田に確認する。

「その通りだ⋯⋯ところで空閑さんの──遊真くんは元気なのか?」

 声色が少し柔らかくなる。

 忍田にとって空閑の息子である遊真を心配をするのは当然であり、必然だ。

「ええ、あっちでは私に生意気言って来たりするぐらい」

 忍田は少し微笑んで、「そうか、年相応の態度ってことであってるかな?」

「ドンピシャよ」

 青子は少しつっけんどんに返した。

 

 ▲

 

 この時間、ボーダー本部には訓練生はもういない。

 いるのは本部に寝泊まりしているB級やA級、エンジニアや上層部ぐらいなものだろう。だから今廊下には誰も見かけない⋯⋯それは彼女にとって好都合だ。

 初めて体験するエレベーターなるものを体験して、青子はある扉の前に立っていた。

 

「ここが──」

 目的の部屋。

 未来が決まる場所。

 ⋯⋯『そういえば』を青子は思い出した。

 

 あれは寒い夜のこと。

 彼がいなければ恐らく死んでいたであろう場面。

 彼は最も純粋で──あの中で最も異常だった。

 その彼に、青子は修を重ねていた⋯⋯どこか歪なところを持つ者どうしだからかもしれない。

 

「準備はできたかな?」

 忍田が確認をとる。⋯⋯その顔は優しい大人の顔だった。子供の代わりに何かをする時の顔。

 まるで、今なら引き返せる、とでも言いたそうな顔だ。だが、その気遣いは青子に不要だ。

「当然──こんなの簡単なことよ」

 青子は力を入れて扉を開けた。

 

 √

 

 突然の来訪者に警戒する上層部達だが、顔を見てさらに警戒度をあげる。

 城戸が目を細めて青子を見据える。その目は異物を見る目と何ら変わらない。

「近界民!? それに忍田本部長!? どういうことだ!?」

 鬼怒田が異常事態に怒鳴る。

「迅は遊真たちのために忍田さんの派閥と手を組んだ。もちろん、今日玉狛に攻めてる精鋭部隊に対しての措置よ」

 事実だけを淡々と述べる。

 交渉に置いては、冷静でないといけない──もちろん、それはこの場面においても正解だ。

 

「私はここに迅の代理としてきた。

 迅の要求は一つ──空閑遊真と蒼崎青子のボーダー入隊を許可することだけよ」

 その要求に鬼怒田がまたしても怒鳴る。

「そんな要求、飲めるわけないじゃろ!」

「もちろん、そんな一方的な要求はするつもりなんてないわ。

 だから、もしこの要求を飲んでくれるなら──迅は風刃を本部に渡す」

 少しだけ、息を飲む音が聞こえた。

 

 もし風刃を手にしても、近界民二人が持つトリガーは手に入らない。

 黒トリガーは使えなかったとしても、この女が持つトリガーの技術は調べれることができる。

 ならば──

「その要求は通らない。私達の行動原理は近界民の駆除だからだ」

 城戸がそう告げる。

 当然だ。今の風刃の価値は、太刀川たちボーダーの精鋭部隊数隊より下だと思われているのだから。

 迅も言っていたが、今の風刃にはこの場を動かせるだけの箔が足りない。

 

 だから──この状況は予想通りだ。

 

「でしょうね。風刃一本で許可してもらえるなんて思ってなかったわよ」

 だから──青子は小さなチップような物を取り出した。

「私からもこれを出す」

 城戸派の一派が目を細め、それを見た。

「これには私がいたあっちの世界の情報が詰め込まれている。

 いや、私だけじゃない。姉貴からぶんどった物だからそれ以上の情報が詰め込まれている」

 今度ははっきりとしたざわめきが聞こえた。

 当然だ、それぐらいの反応がないと困る。

 これは──青子たちの切り札なのだから。

 

「具体的にどういう情報が入っているんだ?」

 今度は唐沢が質問する。

「私と姉貴が滞在した国の情報、位置、その国の軌道とか⋯⋯あとは生きてる黒トリガーとか、あっちの世界のロクデナシのヤツら」

「生きている黒トリガーだと!?」

 鬼怒田が眼球が飛び出しそうな驚き方をする。

「どういうことだ!?」

「どういうこともないわよ。言ってる通りの訳がわからないバケモノよ。ヒトだったり、人外だったり」

 この場にいる全員が信じられない、という顔をしている。

 

「なぜおまえはそこまでしてボーダーに入隊しようとする」

 城戸が口を開く。

 そう言われればその通りだ。風刃やあちら側の世界の情報を引き換えにするが、彼らには青子にボーダーに入隊する理由を知らない。

 

「──修ともう一人、危なげないアイツらが遠征に行って、あっちの世界にいる家族を探すって言ってるのよ。

 でも──ハッキリ言ってアイツらは、ある意味異常者そのもの」

 

 独白のように、青子は続ける。

 

「修は自分のことを考えずに、周りの人間ばっかり助けようとするし、もう一人の方⋯⋯千佳は修と似てるんだけど、あの子も助けれる可能性が少しでもあるなら、助けようとする。

 もちろん、遊真もついていくけど、三人をだけだったら絶対誰かが死ぬ。

 ──だから、私もついていってあげないと、アイツら、泣くことになるでしょ?」

 

「──それは本当か?」

 ──蒼崎青子、と城戸がさっきとは違う目をして、青子に問う。

「見つかる可能性は限りなく少ない。むしろ死んでいる可能性の方がずっと高い。それを考慮して、彼らは遠征に行きたい、と言っているのか?」

「ええ、そのことを知ってもまだ言うんだから、つくづく歪んでるって思い知らされるわ」

 城戸の目の色は変わらないが、少なくとも目付きは変わった。

 

「⋯⋯いいだろう」

「城戸司令!?」

 根付が驚嘆の声をあげる。

「こいつは近界民なんですよ!?」

「たしかに目の前にいるのは近界民だが、その近界民はボーダーのために利用できる近界民だ。

 ──勘違いするなよ、蒼崎青子。

 私はボーダーのために迅の要求を飲む。おまえたちの目的が果たせるかどうかは別問題だ」

「それで構わないわよ」

 青子は情報(対価)を机の上に置いて退出した。

 

 ○

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「一応聞くけど、オレ、青子ちゃんになんかした?」

 青子が玉狛に向かって歩き出した直後、未来でも見て時間の調整でもしたのか、迅がやってきた。

 時刻はもう夜真っ只中だ。だというのに、青子が思っていたほど、夜は寒くなかった。

 

「いやー、青子ちゃんに任せてよかったよ。交渉が成功したから、戦闘にならずに済んだ」

「あっそ、お気に召したなら良かったわね」

 歩みを止めずに真っ直ぐ玉狛に向かうその最中、パラパラと降り出したものが。

 

「雪?」

「そういえば今日、雪の未来が見えてたな」

 激しくなく、淡々と雪が振り続ける夜の三門を、街の街灯に照らされながら歩く。

「ねえ青子ちゃん」

「なに?」

「暖かい食べ物、食べたくない?」

 少し考えてから青子は、「何を食べるの?」

「コンビニのおでんとか」

 おでん、という単語に首を傾ける。

 青子にとって日本の食べ物は未知の物だが、ところどころで「おでん」は聞いていたり、見たりしているので興味を持っていた。

「⋯⋯食べてみたい」

「オッケー。じゃあコンビニに行こうか」

 

 ○

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 現在、コンビニのおでんコーナーの前で、おでんと睨み合っているのは蒼崎青子、その本人だ。

 文字は読めるのだが、「しらたき」や「はんぺん」などの具の姿を想像できないので、悩みが深くなっていく。

 一方、迅は既に玉狛支部青子以外の全員の分を選び終わったところだ。

 ⋯⋯笑って見ているところを考えると、迅はこの未来を見たから、コンビニに来たのかもしれない。

 

「決まった」

 覚悟が決まったような、何かを犠牲にしたような顔をして、青子はそう言った。

「しらたきと、大根、それに卵が食べたい」

「はいはい」

 最後の注文をして、おでんを受け取る。

 

 コンビニから出て、再び歩きだす。

 雪はまだやんでいない。

「雪におでんに月、なかなかいい日だね。屋上で食べたいぐらいだ」

「私に日本の風流とかはわからないけど、()()()()()()すごい幻想的な画になりそうなのはわかった」

 街にはもうほとんど人がいない。

 帰宅ラッシュの時間は過ぎ、今は家でリラックスしている人が大半だろう。

 

「あんた、遊真がこっちに来た目的って聞いたのよね?」

 おもむろに青子が話しかける。

「ああ、聞いたよ。有吾さんを元に戻すためって聞いたけど」

「そう。私がこっちに来た理由はわかる?」

 目をつぶった迅。

 おそらく考えながら、未来でも見ているのだろう。

 

「有吾さんに借りを返すために、遊真を見てるんじゃなかったっけ」

「半分はそれであってる。でもそれだけじゃないのよ」

 そう言って右手を一瞬、見つめた青子。すぐに右手から目を離して迅に言う。

「姉貴と繋がりがある人間がここにいるか知りたかったのよ」

 青子の姉貴というと、唐沢が言っていた蒼崎橙子だったはずだ。

 

「姉貴はあっちの世界でもトップクラスの人形師でね、遊真の身体をなんとかできるんじゃないかって思ったのよ」

 それともう一人、と小さな声で付け足す青子。

「確実に姉貴がいないと達成できないことがあるのよ⋯⋯まあ、言ってしまえば、ただの私情なんだけど」

「⋯⋯なんで、それをオレに言うの?」

 暖かいおでんを持ってはいるが、迅の手は冷たい。

「あんたは未来が見れるから、なんとなく言っておいた方がいいって思ったのよ」

 青子は前だけを見てそう言った。

 支部まではあと少しだ。

 

 □

 

 1月8日──つまり、ボーダー隊員正式入隊日になった。

「私たち以外みんな白色の服ね」

「オレたちが近界民(アレ)だからじゃないか?」

 こんな場面においてもいつものペースを崩していないところを見ると、近界での生活もある意味役に立つらしい。

「アタッカーとシューターはあっちだから⋯⋯」

 忍田の演説が終わり、入隊指導(オリエンテーション)が始まる。

 千佳はスナイパーなので、少しの間別行動だ。

 

 嵐山の説明によると、どうやらB級に上がるためにはポイントを4000にしないといけないらしい。

 ほとんどは1000ポイントからだが、人によってはそれ以上のポイントからスタートの人間もいるみたいだ。ちなみに遊真と青子は1000ポイントからだ。

 

 戦闘訓練をするために移動し始めた時、修は木虎(きとら)に呼ばれた。

「遊真、あの子知ってる?」

「ボーダーの上位5%のA級の木虎。嵐山先輩の隊にいるぞ」

「あんた、会ったことあるの?」

「学校にモールモッドが現れたときにな」

 へぇ、という顔をする青子。

 

「あの、すみません」

 木虎が青子に話しかける。

「私のことを聞いてたみたいですけど、何か用ですか?」

 木虎の対人欲求は『年上に舐められなく、同年代に負けたくなく、年下に慕われたい』、なので必然的に口調が強くなる。

「何もないわよ。修と話してたのを見たから、遊真も知ってるかって聞いてただけよ」

 そうですか、と木虎は短く返した。

 

 青子たちが鮮烈デビューを果たすまで、残り僅か。

 

 

 




誤字・脱字などがあったら、報告してくれると幸いです。
ワートリの交渉ほど難しいものはないと思ふ。


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第二章 青
晴れ──のち、曇り


徐々に投稿頻度が遅くなってきてますが、気にしないで気長に待ってくれると嬉しいです。


 目の前の小型バムスターを見据える。

 なんてことない、ただのバムスターが訓練生用になってあるが、それでも、ただの訓練生から見ればこのバムスターは大きい。

 ⋯⋯無論、青子と遊真にとっては殺しやすくなってくれてありがとう、と言いたいぐらいではある。

 

遊真(あいつ)には負けたくないから⋯⋯」

 遊真の訓練生用のバムスター討伐時間は0.4秒。

 青子はそれを超えるためにアステロイドを設定する。

『3号室用意──』

 構える。

 シューターの基本動作は四つ。

 弾を出す、分割、狙いをつける、発射。

 初めてボーダーのトリガーを使ったとき、分割は苦手だったが、もう克服した。

『──始め!!』

 

 青子が狙うのはただ一つ、口にある弱点だけ。

 閃光のように光るアステロイドが、蒼崎青子の技術と経験によって最速で撃ち放たれる。

「これはいい線いったでしょ」

 記録⋯⋯0().()4()秒。

 

『0.4秒⋯⋯!?』

 遊真の時と同様に、周りの人間が驚きだす。

 特に、58秒という結果を残した、ある一人は同じシューターとしての格の違いを思い知った。

 

 もちろん、悔しくないわけが無い。なんなら噛みつきたいぐらいだ。

 しかし⋯⋯そんな彼の思いは、自分のことをある程度理解しているが故に消え失せた。

「もっかいしたいんだけど」

 そんな思いをよそに、青子は二回目を要求していた。負けず嫌いとは、突き詰めるとこうなるのか──と、周りの訓練生は思ったらしい。

 

 ◇

 

 その後、修が風間と戦うことになったが、青子はその場から立ち去った。

 冷たい、と言われるかもしれないが彼女はどうでもいい、と足蹴にするだろう。

「自分で決めたことは自分でしなさい」

 蒼崎青子は良くも悪くも、そういう性格なのだ。

 

「君、ちょっといいかな?」

 と、スーツ姿の男が呼びかけてきた。

「貴方、あの時会議室にいた──」

「唐沢克己、よろしく」

「なにか用ですか?」

「用があったから来たんだよ⋯⋯まあ、オレの私情を挟むことだけだから、そんなに警戒しなくていい」

 唐沢は青子にそう言った。

 ようするに、今は城戸派の唐沢ではなく、ただの1ボーダー職員の唐沢として来た訳だ。

 

 唐沢は近くの自販機で缶コーヒーを二つ買って、一つを青子に渡す。

「それで、聞きたいことはなんですか?」

「そんなにかしこまらなくていいよ。

 ⋯⋯オレは君のお姉さんと話をしてた時に、その単語は出たんだ」

「姉貴⋯⋯?」

「そう⋯⋯オレは橙子さんと仕事の都合で話したことがあったんだが、そのときから気になってたことがあるんだ」

 青子は缶を開けてコーヒー口に運ぶ。

 

「姉貴と会ったことがあるって⋯⋯」

「そのとき、オレはボーダーの職員じゃなかったから、それなりに色んなタイプの人間と知り合ってるのさ。

 ⋯⋯話を戻そう。オレが気になったことって言うのは『魔法』だよ」

 その単語に少しだけ反応する青子。

 

「オレと話してたとき、彼女はもう一人の世界のことを匂わせることを言ってたんだ⋯⋯オレは少し黒い所で働いていたから、その世界が裏社会かなにかと認識してたけど、今はその世界が近界ってわかったけどね」

 唐沢は話を続ける。

 

「だから、その世界のことを話していたに出てきた『魔法』がずっと気になってたんだ。

 知りたいんだよ──『魔法』がそっちの世界でなにを表しているのかを」

 

 青子はコーヒーを一気に飲み干す。

「⋯⋯魔法って言われているのは全部で五つ、その時代で実現不可能な出来事を可能にするもの。

 ⋯⋯って言っても、そんなに大層なものじゃない」

 それに唐沢はその発言に驚きつつも、再び質問する。

「魔法はトリガーとは違うモノなのかい?」

 

「トリガーだけど、形はないのがほとんど。

 というかトリガーというより、『神秘』って表す方が適してる」

「神秘?」

「そ、神秘。

 普通のトリガーみたいなのじゃなくて形がないのに、効果は発揮できるからそっちの方がわかりやすい。

すごい分かりやすく言うと、形のない黒トリガー」

 飲み終わった缶をゴミ箱に投げ捨てる。

 心地よいカコンッ、という音がなった。

 唐沢は教えてくれてありがとう、と言って、来た道を戻っていった。

 

 ○

 

「満点の訓練一つで20点⋯⋯しょっぱいな」

 休憩と修たちの模擬戦が終わった後、遊真と青子は訓練を受けた⋯⋯一位と二位は二人が総ナメしていたのはご想像通りだ。

「だからランク戦で稼げるようになってるってことね」

 C級ランク戦のロビーでは訓練生たちが和気あいあいとしていた。

「ランク戦のやり方を教えるよ、空いてるブースに入ろう」

 嵐山隊の時枝に教えてもらい、彼らはランク戦を始めた。

 

「こいつなんかどう? ちょうどいいポイント持ってるし」

()()()()()()()()()

 

 ◇

 

「真の強者は危ない橋を渡らない」

 さて、そんなことを誰もまだ気づいていない時、真の強者らしい彼は自論を仲間にいきいきと語っていた。

「おっ、見ろよ、贄が自分から来やがったぜ」

 ポイント1050が二人連続で彼らを指名していた。

「あんまりやり過ぎるなよ」

「先のない人間に引導を渡してやるのは強者の務め──だろう?」

 彼は自信に満ちた顔でそう言う。

 

 対戦ステージに転送される。

 そこで彼が戦う相手とは──

「おっ、新3バカ1号」

 黒い隊服をまとった、白い悪魔だった。

「対戦よろしくおねがいします」

 

 一方、時を同じくして新3バカのうちの一人も対戦ステージに転送される。

 彼がそこで見たのは──

「あんた、こんなにポイント持ってたんだ」

 黒い隊服をまとった、負けず嫌いの化身だった。

「対戦、よろしく」

 

『C級ランク戦、開始』

 瞬間、彼らは反応することすら許されない速度で攻撃を受けた。

 ⋯⋯余談ではあるが、彼らは三回ほど周回され、心が割とまずいラインまでいったらしい。

 

 ◇

 

「あれが空閑の息子か」

 場所は移り、ある会議をするための会議室にて、城戸は空閑遊真のランク戦の様子を見ていた。

「⋯⋯風間、おまえの目から見て、やつはどうだ?」

「戦闘用トリガーを使えばおそらくマスターレベル⋯⋯8000点以上の実力はあるでしょう」

 その言葉に驚く忍田。

 

「風間、もう一つ聞きたいことがある。

 蒼崎青子の動きについて何か気になったことはあったか?」

 質問の趣旨がわからない顔をする忍田たちだったが、すぐにその質問の意味を理解した。

 

「戦闘慣れしている点はともかく、トリオンについて少し疑問に思ったことが⋯⋯」

「なんだ?」

 矢継ぎ早に聞き返す城戸。

「オレが見てきた訓練生の中で、アステロイドの威力が一番高いように見えたのです」

 城戸は林藤の方を向き、「やつのトリオン能力の数値はいくつだ?」

「平均通りの7だね。

 たぶんアイツの弾が高いのは、トリオンの質がいいからだよ」

 

「質、だと?」

 どういうことだ、というような表情をして復唱する。

「そう、質だよ。

 ボーダーのトリガーは個人のトリオン能力に依存する部分が多いじゃん? だから出水とか二宮はデカくて威力が高い弾をバンバン撃てる。

 でも、アイツは違うんだよ。量は数値通りの7程度、でも質は異常なほど高いから、弾は普通ぐらいの大きさだけど、威力は数値以上だってこと」

 それを聞いて会議室の面々は納得した。

 

 ▲

 

「どもども遅くなりました、実力派エリートです」

 しばらくして、迅が会議室に入ってきた。

 それを見て、忍田は本題に入る。

「今回の議題は──近く起こると予測される⋯⋯近界民の大規模侵攻についてだ」

 会議室の空気が引き締まる。

 

「迅の報告によると、街の住人が死んだり、連れ去られたりするなどの未来が見えたらしい⋯⋯迅、詳しく説明してくれ」

 忍田は迅に詳細を求める。

「了解、忍田さん。

 オレがいつも通り、散歩しながら街の人の未来を見ていたら、酷い未来が見えた。

 避難する未来は全員に見えて、中には忍田さんが言ってたような未来も見えた。⋯⋯単刀直入に言うと、今回の防衛作戦はボーダーの全戦力を回した方がいい」

「その理由は?」

 城戸が間髪入れずに質問をする。

 

「未来を見て気づいたんだけど、街の被害は大きくわけて二つ。

 一つ目はトリオン兵に連れ去られたり、トリオン器官を奪われて死ぬパターン。

 それで、ここからが一番のポイントなんだけど──ただ殺されるパターンがあった」

 迅は珍しく、笑顔を消した表情で言う。

 

「ただ殺されるだけなのか? トリオン器官も奪われずに?」

「風間さんの質問は最もだよ。でも、その通りなんだ。ただ殺されてる。

 一つ目の方はボーダー隊員も捉えられたりしてる⋯⋯諏訪さんが立方体になったりしてる未来が見えたし。

 ただ、二つ目の方は隊員よりも住人に被害が出てる。多分、街を優先的に狙うタイプのトリオン兵か、近界民だと思う」

 

 それを聞いて城戸は考えて、答えを出した。

「⋯⋯迅の報告と提案を踏まえて、全戦力を三門市に集中させろ。

 忍田君、草壁隊と片桐隊にスカウトを中止させて、本部に戻るよう連絡をしろ。

 迅、ボーダーの全戦力が防衛作戦に参加した場合、作戦の成功率はどれほどになる?」

「⋯⋯絶望的な成功率から上がるけど──それでも、いいとこ五分五分かな」

 そうか、と城戸は静かに反応して、目を閉じた。

 

 ○

 

 三輪は悩んでいた。

 理由は近界民についてのことだった。

 先日の襲撃は本部に乗り込んだ近界民によって潰され、余計なことに迅の過去を知ることになった。

 迅は自分が憎み、憎悪している相手に家族を殺された。だが、それでも迅は玉狛の考えに賛同している。

 

 ⋯⋯今、彼は玉狛と近界民、それと自分の考えを一晩中考えに考えたが、結論は出なく未だ悩んでいる最中なのだ。

 そんな彼が廊下を歩いていると、ある二人組が見えた。

 

「なんで鉄の方より紙の方が価値が高いんだ⋯⋯」

「財布の中身が鉄まみれだったら持ち運ぶのに不便だからじゃない?」

「ふむ、それなら一応納得できる⋯⋯」

 件の近界民二人組が自販機で買い物をしていた。

 

「買い物したらおカネが増える⋯⋯これも謎だ」

「1000円で200円のモノを買ったら、いくら余ることになるか分かる?」

 買い物というより、教育をしている様に見える。

「800円残るな」

「だから、その800円をこの機械は返してきたのよ。

 でその余った分が細かくなって帰ってきたわけ。で、これがこの世界の『おつり』だから、覚えておきなさい」

「ふむ、理解した」

 青子()の方は遊真(チビ)と違って教育を受けていたのか、それなりにわかりやすい説明をした。

 

「お⋯⋯?」

 ふと、三輪と遊真の目が合った。

 それにつられて、青子も三輪を見た。

「久しぶり、三輪君。去年ぶりね」

「気安く名前を呼ぶな──近界民⋯⋯!」

 三輪は青子にそう言って、自販機で飲み物を買う。

「どうした? 元気ないね。前はいきなりドカドカ撃ってきたのに」

 

 三輪の顔色の悪さと元気のなさを、遊真は気になって聞いた。

「本部がおまえらの入隊を認めた以上⋯⋯おまえらを殺すのは規則違反だ」

 それを聞いて、青子は三輪のことを少し理解して、同時に、少し気になったことができた。

「あんた、トリオン兵に家族、殺されたんでしょ?」

「⋯⋯!! なぜそれを⋯⋯!?」

「アンタが私たちに憎しみを抱いていたのは、前にわかったし、それ以上に、あっちの世界の人間全員にも同じような気持ちがあるのは今日、わかった」

 ズケズケと、容赦なく青子は三輪の心の奥に踏み込んでくる。

 過去のことも、彼の気持ちも、全て理解した上で、土足で踏み込んでくる。

 

「アンタが望むなら、仇討ち、手伝ってあげようか?」

「⋯⋯!?」

 三輪の理解が追いつかない。

 自分のことを憎んでいる相手にそんなことを持ちかける、目の前の(近界民)が理解できない。

「レプリカが詳しく調べたら、アンタの家族を殺した国のトリオン兵か結構絞れるかもしれないけど──」

 

「──ふざけるな⋯⋯! おまえらの力は借りない⋯⋯!」

 三輪は声を震わせて、拒絶した。

「近界民は──全て敵だ⋯⋯!!」

 やはり、三輪の答えは変わらなかった。

 その姿勢は頑固なようにも見えるが、決して変えてはならない、ルールのようなモノだと、青子は解釈した。

 

 ▲

 

 その男は計画を練り直していた。

 理由は簡単、これから侵攻する国に「ブルー」がいたからである。

 直前まで敵の戦力を調べていると、一人抜きんでた実力の持ち主を発見することは珍しくない。

 だが、それでもあの国に彼女がいたのは計算外であった。

 

「隊長、そろそろおやすみになった方がよろしいかと⋯⋯」

 声をかけられて後ろを振り向いた。

 ⋯⋯自分でも驚くほど没頭していたらしい、と彼は一人思った。

「ああ、わかっている」

「⋯⋯ブルーですか?」

 彼女にはお見通しだったらしい⋯⋯彼は素直に肯定した。

 

「ブルーがいる以上、計画を練り直さなければならない⋯⋯ブルーが我々と対立するならば、相手をできるのはヴィザ翁か、俺ぐらいだからな」

 彼は少し自信なさげにそう言った。

 それに彼女は少し表情を変えたが、すぐに元に戻した。

「ラービットだけでなく、()()も使うべきかもしれん」

「っ! ⋯⋯それは本当ですか?」

 彼はその質問に「ああ」と答えた。

「もともとアレは失敗作だ。ならば、ここで使い潰しても損にはなるまい」

 男の表情は変わることなく、冷淡なことでそう言った。

 

 




誤字脱字等の報告いつもありがたいです。
できれば発見した場合、容赦なく報告してくださると嬉しいです。

あと2,3話ぐらいで、多分大規模侵攻に行けるんじゃないかなぁ。


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ボーダー本部にて

遅くなって申し訳と思っています。
今回は箸休めと、リハビリ回。炒飯でも食べながらどうぞ。


「おっ、黒トリの白チビと蒼崎じゃん⋯⋯って秀次?」

 米屋は遊真達を見かけて来て、三輪の様子に気づいた。

 三輪は米屋に何も言わず、来た道を戻って行く。

「秀次、どこ行くんだ?」

「⋯⋯⋯⋯会議に出る」

 そんな彼らを青子は眺めていた。

 

「なあ秀次になんか言ったのか?」

「復讐の手伝いでもしてあげようかって言っただけ」

「あ〜」

 米屋は青子の説明で理解した。

「ところで、なんで米屋君(アンタ)と陽太郎が一緒にいるの?」

「クソガキ様のお守りしてんだよ」

「陽介はしおりちゃんのイトコなのだ」

 クソガキと言われても気にしないあたり、仲がいいことが分かる。

 

「⋯⋯それにしても珍しいな、アオコが他人の手伝いをしようとするなんて」

 遊真が言っていることは失礼なことだが、実際そうなので青子は反論をしない。

「別に親切心で言ったわけじゃない」

「そうなのか? アオコはなんやかんや困ってるヤツは助けるヤツと思ってたが」

 

「アイツの家族が死んだのはアイツの責任じゃないでしょ? 

 自業自得⋯⋯アイツの責任で家族が死んだんだったら別だけど、そうじゃないから言ったのよ。

 やられたのに絶対、やり返してはいけない──なんて偽善にも程があるもの」

 青子はそう言うが、遊真には、やはり、親切で言っているようにしか見えなかった。

 

 ◇

 

「じゃあ私たちランク戦行ってくるから」

「あ、そういやオレ、白チビ(おまえ)と戦うって約束してたよな! ヒマならいっちょバトろうぜ!」

「オレはいいけど、正隊員と訓練生って戦えるんだっけ?」

「ポイントが動くランク戦は無理だけど、フリーの練習試合ならできるぜ」

 そう言って、米屋は遊真を連れて対戦ブースに行った。

 青子も飲み物を買って彼らを追いかけようとした時、背後から声がかかった。

 

「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」

 振り返るとそこには、訓練生とは違う⋯⋯正隊員の隊服なのだろう⋯⋯を身にまとった女性がいた。

「いいけど、なに?」

「あなたとあの白い男の子、一秒切りしたんでしょ? 

 あ、私は加古 望(かこ のぞみ)、よろしくね」

 那須が手を出してきたので、青子も「蒼崎青子よ、よろしく」と言って、その手を握り返す。

 

「それまでの最速記録が4秒だから、一秒切りをした子は初めて見たわ」

「でしょうね。周りの反応がいちいち大袈裟だったから嫌でも理解した」

 

「アタッカーならまだしも、シューターで一秒切りはホントにすごいのよ? 

 私もシューターだから分かるけど、シューターって他のポジションと比べると慣れるまでが大変でしょ? 

 扱いが上手いのね」

 加古は青子を賞賛する。と、同時に、先に行っている遊真を見る。

 

「アイツがどうしたの?」

 青子が加古の視線の先にあるものに気づいた。

「あの子の名前って空閑遊真くんって言うのでしょ? だからスカウトしに来たのよ」

 遊真の背中が見えなくなって、ようやく加古は青子に視線を戻した。

 

「私の隊はイニシャルが『K』で統一してるチームなの」

 イニシャル、という言葉を知らない青子は、加古が言っていることを理解できない。

「イニシャルってなに? 私もアイツも最近日本に来たから、あんまり日本の言葉を知らないの」

「外国育ちってことね、ますますいいわ。

 イニシャルが『K』っていうのは、名前の頭文字が『か行』ってことよ」

 説明を聞いて、青子は加古が言っていることを理解した。

 

「ねぇ、あの子のこと紹介してくれない?」

「申し訳ないけど、アイツはもう私達とチームを組むことにしてるの」

「あら、それは残念⋯⋯」

 加古はそう言っているが、青子にはまだ諦めていないようにしか見えなかった。

 

「あなたとあの子って玉狛所属なの?」

 加古が服の所属先を示すワッペンを見た。

「そ、だからもう決まってるってわけ」

 そう言うと、今度は少し残念そうな顔をした。

「確かに玉狛所属なら、もう先のことは考えてそうね⋯⋯話に付き合ってくれてありがとうね。

 あ、今、時間ある? あるなら、ご飯、作ってあげるけど」

 

 ──────なぜだろう、イヤに死の気配が近づいた気がした。

 

「いや、もうランク戦しに行くから、ご飯は大丈夫」

「そういえば、空閑くんもランク戦しに行ってたわね。

 ヒマだし、ついていっちゃおうかしら」

 足を進める加古望。

 蒼崎青子はそんな存在をなるべく知らないフリして、ランク戦ブースまで行くのであった。

 

 ○

 

「すげぇ、緑川(みどりかわ)が全然勝てなくなってる!」

 ランク戦ブースでは巨大モニターに、A級の緑川とC級の遊真が戦っている様子が映し出されている。

 現在の対戦成績は2対5。

 C級が遊真の実力を理解し始めたころ、青子と加古はブースに入ってきた。

 

「何この騒ぎ?」

「こんなに盛り上がるなんて、二宮(にのみや)くんでも来たのかしら?」

 加古はモニターを見ると、口角を上げて

「やるじゃない」

 素直な賞賛の声をあげた。

 

「加古さんじゃん! 珍しいっすね、バトリに来たんすか?」

 米屋が加古達を見つけると、すぐに声をかけてきた。

「私は空閑くんをスカウトしに来たのよ」

「⋯⋯うん? 

 なぁ、蒼崎。白チビっておまえらとチーム組むんじゃねーの?」

 青子は呆れた顔をして、頷く。

 

加古(そこの変質者)にはスカウトしても無駄って言ったのに、まだ諦めれないらしいのよ」

「変質者は酷くないかしら?」

「素直な感想を口にして酷いと思うなら、それは言われた本人自身が言われたことに同意してるって知ってた?」

 青子はもう言うことはない、というような顔をして加古から離れる。

 

「そう言えば米屋君」

 思い出したかのように米屋に青子は声をかける。

「ん? オレとバトリてーの?」

「違うわよ。

 冬休みの宿題って、終わった?」

 それを聞いた米屋は突然笑い出して、

「おいおい蒼崎、いくらオレでも提出日まで2週間ある宿題なんて、終わったに決まってるだろ」

 米屋は胸をはって、自信満々に力説した。

「出てる宿題いくつあるか言ってみて」

 

「えーっと、数学、国語、英語の3つだろ?」

「古典は?」

「は?」

「だから古典はって」

「いや、古典はないぞ?」

「──────」

 

 絶句した。

 この男、宿題すら確認してないのか──と。

「古典、あるわよ」

「⋯⋯結構量ある?」

「英語と同じぐらいある」

 

 英語の教師、竹田は二学期までの復習と銘打って、『ドキドキ! 英語復習プリントセット!』なるものを出した。

 基礎の基礎⋯⋯それこそ中学生レベルの範囲⋯⋯から出されたものなので、必然、量はグロデスクと言ってもいいほど多かった(おかげで青子はある程度、英語を理解した)。

 それを一週間もない期限で終わらせるなど──ほぼ不可能である。

 

「⋯⋯蒼崎、お願いがあるんだけど」

「自分でやりなさい」

 米屋は泣きながらうつむいた。

 

「おっ、終わった」

 勝敗──遊真対緑川は8対2で、遊真の勝ちとなった。

 加古はブースから出てきた遊真を見るやいなや、遊真の方へ歩き出した。

「ちぇー、オレ戦えねーじゃん」

 米屋はこれから始まる地獄と、単純に戦えない欲求不満から、涙の量が増えていく。

 

 と──そこへ、

「おっ、珍しいメンツだな」

「! 迅さん⋯⋯!?」

 突然迅が現れた。

 さすが暗躍の達人──なのかはわからないが、突然出現することに関しては向こうの世界を含めても一番だと思われる、セクハラ派エリートがやって来た。

 

「遊真、青子ちゃん、それにメガネくん、ちょっと来てくれ。城戸さんたちが呼んでる」

 驚く修と、遊真を手放すことになり、少し不服そうな加古。

「カコさん、申し訳ない」

 遊真がそんな加古に一言告げる。

「入りたくなったら何時でもうちの隊室にきなさい」

 それでも大人だからか、セレブ感を所構わず振りまく彼女は、そのオーラが一人立ちしないような対応をした。

「⋯⋯」

 青子はそんな加古に不信感を抱いたが、抱かれた本人はそんなこと、少しも知らない。

 

 ▲

 

 迅に連れられ、やってきたのは前回とは違う会議室だった。

 その中には上層部や風間、そして三輪がいた。

 上層部は近いうちに来たるX-DAY(大規模侵攻)に向けて、遊真と青子の意見を参考にしよう、という魂胆らしい。

 

「そういうことならオレの相棒に訊いた方がいいな」

 遊真がそういうと、どこからともなくレプリカが遊真から出てきた。

「はじめまして、私の名はレプリカ。ユーマのお目付け役だ」

 青子は疑問の目でレプリカを見るが、そんなのはどこ吹く風なレプリカ。

 

「私はユーマの父、ユーゴに作られた多目的型トリオン兵だ。

 私の中にはユーゴとユーマが旅した近界の国々の記録がある。おそらく、そちらの望む情報も提供できるだろう」

 その言葉に感心する開発部長。

 

 だが、

「しかし、ボーダーにはネイバーに対して無差別に敵意を持つものもいる。

 青子はともかく、私はまだボーダー本部を信用していない」

 と言った。

 その言葉に、まあそうか、と納得する青子。

 

「ボーダーの最高責任者には私の持つ情報と引き換えに、アオコとユーマの身の安全を保証すると約束して頂こう」

 修は本当に保証するか、サイドエフェクトで判断する為だと理解した。

 

「⋯⋯よかろう」

 城戸は重苦しい口を開く。

「ボーダーの隊務規定に従う限りは、隊員──空閑遊真と、蒼崎の安全と権利を保証しよう」

 会議室の者の反応は様々だ。

 驚く者、変わらなかった者、笑った者。

 修は驚く者であり、青子と迅は変わらなかった者だ。

 

『確かに承った。それでは望む情報を提供しよう』

 

 ◎

 

「蒼崎くんから貰った情報から、今、こちらの世界に近い国で最も攻めてくる可能性が高いのは──アフトクラトルだと、我々は認識している」

 忍田が本部で出た結論をレプリカに知らせる。

『正しいだろう。今、近づいているのはアフト以外にも3カ国ある。だが、イルガーを使った時点で確率が高くなったのはキオンだ。それか、どこかの乱星国家ぐらいだからな』

 レプリカがそう言うと、青子が疑問を口にした。

 

「姉貴の情報にアフトの現状とか書いてなかったの?」

「対トリガー使い用のトリオン兵、ラービットが開発していたことと、黒トリガーが12()本あるということが書いてあった」

 それにレプリカが微かに反応した。

(黒トリガーが一本、減っている⋯⋯?)

 

「でも黒トリガーって大抵守りに使われるから、遠征にはあんまり行かないのよね」

 青子はそう言い、レプリカも頷く。

『故に、攻撃には卵にして大量に運用できるトリオン兵を使い、遠征の人員はなるべく少数に絞るのが基本だ』

 なるほどと上層部も頷く。

 

「ひとまずは人型の参戦も考慮しつつ、トリオン兵団の対策を中心に防衛対策を詰めていこう。

 三雲くん、きみは爆撃型と偵察型、両方の件を体験している。なにか気づいたことがあったら、いつでも言ってくれ」

「は、はい!」

 

「遊真くん達には我々の知らない情報の補足をお願いする」

「了解了解」

「了解よ」

 

「さあ──近界民を迎え撃つぞ」

 

 

 

 




誤字脱字等の報告、いつも助かります。


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開戦

 遅くなって申し訳ない。
 これからはこういう一か月ちょっとに一本ぐらいの投稿ペースになるかもしれません。
 失踪しないで、ランク戦までいけるかな……?


 ジリリリリ。

 

 いやに耳障りな音が聞こえる。

 その音で目を覚ますと、窓の外がほんのり明るくなっていることに気づいた。

 まだ1月、日の出が少し遅いのも納得だ。

 

 ピ。時計を止める。

 

「──」

 青子は身体を起こして、あくびをした。

「なんだか寝足りない⋯⋯」

 昨夜は特に何をしていた訳でもない。むしろ早く床に就いた。

 なのにまだ寝足りない。

 ベットからグラつく身体に力を入れて立ち上がる。

「⋯⋯ああ、そうだった。遊真は玉狛に泊まってたんだった」

 思い出した。

 いつも起こさせているヤツがいないから、いつもより早く起きるようにしたからだ。

 

 今、この家にいるのは青子ただ一人。

 つまり、冬特有のこの部屋の寒さを吹き飛ばす、暖房をつける便利なヤツがいないということだ。

「今は⋯⋯まだ学校まで時間はある」

 現在、6時36分。

 学校が始まるのは8時30分。

 少しゆっくり目に朝ごはんをとっても、余裕でお釣りがくる……というか、早く起きすぎた。

 

「──ん?」

 青子はケータイにメッセージがきているのに気がついた。

 食パンをトーストに入れタイマーをして、ケータイを手に取る。

 メッセージの差出人は米屋だった。

「────」

 内容を見て、青子は絶句した。

 要約すると、

「宿題終わってないから手伝って(●︎´▽︎`●︎)」

 と書いてあったのだ。

「自業自得ね」

 青子は冷酷に、そして一般的にその要望に応えないことにした。

 

 メッセージを無視して、洗面所に向かう。

 蛇口をひねると、冬の成分(寒さ)が存分に含まれた水が出てきた。

 その水を手にすくって、顔を洗い、タオルで水を拭く。

 

 顔を上げて、洗面台横の洗濯機に使い終わったタオルを入れる。

 そうして、いつもの習慣を終えて洗面所から出ようした時だった。

「──────」

 振り返って、目をしばたたく。

 一瞬、鏡を通り過ぎた時、鏡の隅に、赤い(ドレス)不審人物(ナニモノか)を見た気がした。

「──────、ふぅ」

 どうやら、いつもの勘違いだったようだ。

 青子は深呼吸をして、洗面所から退室した。

 

 

 


 

 場所と時は移って、学校の昼休み。

 米屋と隣の席であることが災いして、青子は米屋の愚痴に付き合うことになった。

「小森はあの問題をオレが解けないことを知って、当ててきたんだろーな」

「愚痴を言う前に、あんたは小森に何をしたのか自覚した方がいいと思うけど?」

「そうだぜ、槍バカ。これはおまえが悪いな」

「えー?」

 米屋の席の前に座っている出水(いずみ)もそう言う。

 

「あ、そういえば」

 そんな言葉を全く意に介さず、米屋は話を変えた。

「大規模侵攻のことって、C級に伝達されてんの?」

「一応は、ね。C級は市民の避難の手伝いが第一だって」

「伝達はされてんのか⋯⋯でも蒼崎、おまえは戦いに行くんだろ?」

 米屋が好戦的な顔を覗かせ、出水が興味深そうに青子を見る。

 

「場合によるけど、たぶん戦うと思うわよ。そういう経験もあるし」

「なあなあ、蒼崎」

 出水が小さな声で青子を呼び、顔を近づけさせる。

「槍バカから聞いたんだが、おまえのトリガーって弾系なんだって?」

「そうだけど、それがなに?」

 

「今度機会があったら、撃ち合おうぜ!」

「嫌。第一、そんな機会は本部で訪れないし」

「じゃあ玉狛で⋯⋯」

「なんでそんな戦いたいわけ?」

「弾バカだからだろ?」

 呆れてため息をつく青子。

「今、話すべきことは侵攻が始まった時の段取りでしょ? 

 今このタイミングで始まったらどうするの?」

「そんなの簡単」

 米屋が自信満々で言い切る。

 

「蒼崎は生徒を避難場所まで避難させて、それ以外は全員戦場にGO!」

「C級のトリガーで? しかも、か弱い乙女一人に?」

「どこがか弱いんだよ」

 あ、キレた──と出水は思った。事実、青子は笑顔だが、それでも隠しきれないほどの怒りのオーラが溢れている。

 

 その時だった。

 

「おい、アレなんだ!?」

 一人の生徒が窓の外を見て、そう言った。

 青子たちが外を見ると、夥しいほどのゲートが三門市中に開いていた。

 しかも、この学校の付近でもいくつかのゲートが開いている。

「ねえ、米屋くん」

「⋯⋯」

「あの量をか弱い乙女のC級一人で何とかしろって言うの?」

「まあ、なんとかなるんじゃね?」

 米屋にげんこつが一発、いい音が響いた。

 

「トリガー、起動(オン)

 トリオン体に換装した青子たち。

「さっきはああ言ったけど、あんたたちはここから離れてもいいわよ」

「じゃああのげんこつはなんだったんだよ⋯⋯」

「蒼崎はあの量相手にいけるのか?」

 米屋を無視して、出水が悩み気味に青子に聞く。

 

 が、愚問だったようだ。

 

「あの量は敵のうちに入らない。さっさと避難誘導させて、私も防衛に参加するから、先に行っといて」

 青子は余裕の笑みを浮かべて、そう伝えた。

 

 ▲

 

「目的は雛鳥の確保。そして、可能ならばここで『ブルー』を排除する」

 とある船にて──彼らは作戦の再確認をしていた。

「『ブルー』の排除⋯⋯ですか?」

「それについてだが、これは機会ができたのならば、の話だ。

 必ずしも排除できる機会がくるとは限らない。とりあえず頭の隅に置いとくだけでいい」

「了解です」

 

「隊長、あのトリオン兵はどう扱うつもりですか?」

 ある兵士が隊長と呼ばれる者に質問をした。

「あれは敵の主要戦力を分散させるための駒だ。使う時は各自の判断に任せる」

「ケッ⋯⋯ンなもんいらねーよ。『ブルー』つっても、雑魚黒トリガーを持ってるだけの小娘だろ? 

 なんならオレ一人で、全員皆殺しにしてやろーか?」

 一人が挑発気味に提案する。

 

「⋯⋯おまえが出陣する時は俺が決める。もし、おまえがワープした場所に『ブルー』がいたら──そのときは殺してもいい。おまえなら可能かもしれないからな」

 隊長は薄っぺらい笑みを浮かべた。

 

 √

 

「先生、私が誘導するので生徒を連れて避難してください」

 青子の言葉を受けて米屋と出水は先に防衛戦に参加した。

 この学校にいた他のボーダー隊員たちは生徒と教師に避難するように言って、戦場に行ったらしい。

 

 ──となると、この学校にいるC級は私だけか。

「焦らず、確実に、いつも通りに振る舞うだけね」

 走らず、早足で廊下を歩く生徒。

 青子は彼らの様子を見ながら、同時に外の状況も確認する。

 ──トリオン兵はいない、と。

 どうやら、他のボーダー隊員たちがここらのトリオン兵を一掃しているらしい。

 窓から飛び降りて、グラウンドに出る。

 

「落ち着いて行かせれば、被害はなさそうね」

 グラウンドに出て来た生徒と教師たちも多くなってきた。

「先生、今から言うことを彼らに伝えてください」

 青子はその中で、一番使えそうな教師に、これからのことの伝言を頼む。

「⋯⋯ああ、わかった。蒼崎君は気をつけて、生きて帰ってきなさい」

「言われなくてもわかってます」

 そう言って、足早に青子は戦場へ向かった。

 

 ──トリガーオフ。

 心の中でそう宣言して、換装を解く。

「トリガー、オン」

 そして、自身の最も信用するトリガーを起動する。

「やっぱり、これじゃないと」

 換装をしなおし、トリオン兵が溢れかえっている警戒区域を見る。

 

「西と北西は大丈夫そうね。他は⋯⋯東と南、それに南西か。

 南西は少し厄介ね⋯⋯」

 青子が通っている三門市立第1高等学校は、警戒区域から見て西南西にある。

 つまり、トリオン兵の一団と進行方向が、少し一致しているのだ。

「じゃあ南西は私が担当するか」

 

 方針は決まった。

 青子は真っ向からやってくるトリオン兵に、自ら向かっていくのであった。

 

 ▲

 

 戦闘を有利に進めるのは何か、と聞かれると何を思い浮かべるだろうか。

 単体の圧倒的な戦力? 

 圧倒的な量の兵器? 

 戦略と戦術? 

 はっきりとはわからないが言えることは一つ。

 当然のことだが、それら全てが相手を上回るなら──勝利は近い、ということだ。

 

 現在、ボーダーは相手に先手を取られている。

 相手のトリオン兵の大群を駆除させるために、各地に戦略をバラけさせている。

 それで耐えている状況。追加戦力もあるにはあるが、まだもう少し時間がかかる。

 ここからさらに手を打たれると、命の選別も余儀なくされるかもしれない。

 

 忍田はこの状況をそう感じていた。

 ─────そして、次の一手は無慈悲に指された。

 

『忍田さん、こちら東! ラービットと思われる新型トリオン兵と遭遇した! アイビスを防ぐだけの装甲がある!』

 ──このタイミングで⋯⋯。

「⋯⋯わかった、増援が来るまで上手く凌いでくれ!」

 さらに、

「現在、ラービットと遭遇した部隊は東隊を含めて、3部隊です!」

 沢村が忍田に新たな情報を伝達する。

「どこの舞台だ?」

「諏訪隊と鈴鳴第一です。諏訪隊に関しては、諏訪隊長がラービットに捕らえられました⋯⋯そして、そのラービットの相手を風間隊がするそうです」

 忍田は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 東と村上たちが遭遇するのは痛い。

 動かせる部隊が減ってきている⋯⋯しかし、まだ増援部隊は到着しない。

 とすると、やることは限られている。

 

「B級の部隊に告ぐ! 今新型と交戦していない者たちは合流して、『避難が進んでいない地区』を優先して防衛、そしてA級の各部隊は新型の相手をせよ!」

 

「B級全部隊!? それでは⋯⋯東、南、南西の1箇所ずつしか回れんのじゃないのかね!?」

「その通り。1箇所ずつ、確実に、敵を排除していく。

 その間、他の地区の被害はある程度、覚悟していただく」

 驚愕した根付に忍田が冷静にそう答えた。

 

 ▲

 

 南西にて。

 青子は迫りくるモールモッドを相手に、一歩も引かずに、むしろモールモッドの大群に突っ込んでいた。

「──」

 そして、次々にそのモールモッド(ガラクタ)を壊していく。

 青子にとっても、この数のモールモッドと戦うのは初めてだ。

 

 だが、似たような経験ならある。

 身内が作った人形たち。

 出身地を出て、戦争地域で戦ったトリオン兵たちと、トリガー使い。

 そして、久しぶりに会った遊真とともに戦った、敵国の軍。

 

 ──それらの経験と、培われた状況把握能力、そして使い慣れたトリガー。

 いつも通りに、落ち着いて焦らず戦えば、この程度の量は敵ではない。

「たいしたことないわね」

 言葉通りに、青い魔弾は打ち抜き、ガラクタは花のように砕ける(散る)

 有象無象の敵に臆することなく飛び込むその姿は、まるで─────

 

 その時だった。

 

 後ろの方から、腹を破るような、気味が悪い音がした。

「──?」

 後ろ髪を引かれた青子が後ろを見ると、そこには会議で名前が出た──ラービットがトリオン兵の内部から這い出てきた。

「──へぇ。私を捕まえれると思ったの?」

 好戦的な笑みを浮かべながら、青子は構える。

「悪いけど、今はそんなに機嫌がいいわけでもないの。私を捕まえたいのなら──」

 ラービットは青子をめがけて跳躍して、剛腕を叩きつけた。が──

 

「──接続(セット)

 ラービットの渾身の一撃をバックステップで回避して、目の前の敵を見据え、宣言する。

「──―行使二層、直流数紋」

 自身の右腕(主砲)の中身のトリオン伝達回路(ピース)を、慣れた手つきで迅速に、そして丁寧に組み替えていく。

「あんたじゃ無理だから、他のヤツを連れてきなさい───!」

 青子はそのセリフとともに、先程までとは段違いの威力の魔弾を放った。

 

 

 ラービットはとっさに腕を交差させて防御したが、その魔弾は片方の腕を打ち抜き、もう片方の腕にヒビを入れ、その威力でラービットを吹っ飛ばした。

「……意外と耐えるのね」

 それは、青子にとって意外な出来事であった。

 青子はラービットに対して、素早く倒すのに適切な威力の弾を、放ったつもりだった。

 しかし、実際は違うらしかった。その証拠に、ラービットはまだ生きていて、立ち上がろうとしている。

「思ってたより、かなりしんどくなるかもね……」

 青子はそう呟いて自身の認識を改め、ラービットにとどめの一撃を与えた。

 

 

 




 誤字脱字等を発見したら、報告してくれると嬉しいです。
 いつも報告してくれる人、ありがとうございます。


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未来への戦い

 投稿がめちゃくちゃ遅れてすみません。
 しかも久しぶりの投稿なのに文字数がいつもの半分程度しかないのも申し訳ないです。

 次回からはいつも通りの4000以上、5000未満くらいの文量になるようにするつもりです。
  


 青子がラービットと交戦しているのと同時刻。

 遊真と修はラービットと遭遇した。

「ラービットっ⋯⋯!」

 その声が聞こえたのか、ラービットは修を見て、その剛腕を振り下ろした。

(シールド)モード!!」

 修は咄嗟にレイガストの盾モードで防御する。

 しかし、ラービットは一発では物足りないらしく、追撃を振り下ろそうとする。

 

『強』印(ブースト)──五重(クインティ)

 

 だが、その追撃よりも早く、遊真が黒トリガーでラービットを蹴飛ばす。

 ラービットはかろうじて腕で蹴りをガードするが、それでも数メートル、離された。

「うおっ⋯⋯こいつ、かってーな」

「空閑!おまえ⋯⋯」

 そんな遊真に修は、

「黒トリガーは使うなって言ったろ!ぼくや林藤支部長じゃかばいきれなくなるぞ!」

「けど、このままじゃチカがやばいんだろ?」

 その言葉は事実だったので、修は反論できなかった。

「それに、アオコも自分のトリガーを使ったらしいぞ」

「なにっ!?」

「アオコが使ったってことは、オレが出し惜しみしてる場合じゃないってことだ。一気に片付けるぞ」

 遊真はそう言って、ラービットに追撃しようとするが──突然、遊真に銃弾が撃たれた。

 

「命中した!!やっぱこいつボーダーじゃねーぞ!!人型の近界民だ!!」

「本部、こちら茶野隊!!人型近界民と交戦中!!」

 彼らは遊真が敵と認識して、修に逃げろと言う。

 

 ──が、それが間違いだった。

 先程のラービットが彼らを捕獲しようとしていた。

掴まれる茶野隊の2人。

修は助けようと動いた──が、それよりも速く、ラービットの上空には無数の弾幕が展開されていた。

ラービットは防御すらできず、

「目標沈黙!」

為す術なく、機能を停止した。

 

「嵐山さん!」

「三雲くん!無事か!?」

その後、嵐山の取りまとめで茶野隊の誤解は解け、本部に連絡は──できなかった。

本部の方を振り向くと、そこには──。

「爆撃型トリオン兵⋯⋯イルガー!」

イルガーが本部に自爆特攻をしていた。

 

 

 その光景を青子も見ていた。

「イルガー?」

 相手の目的は何かと、青子は思考する。

 指揮系統の破壊?それとも緊急脱出先の破壊?もしくはその両方……いや、それ以外に────

 そこまで考えたところで、青子は歩み始めた。

 今は考えることよりも行動することの方が優先だ。

 そこに、

 

「ちょっといいかな?」

 実力派エリートこと、迅が現れた。

「一つ、お願いがあって」

「なに?」

 青子は立ち止った。

「オレが見た未来のことなんだけど、もう少しで厄介なトリオン兵が出てくるっぽいんだよ」

「トリオン兵?」

「そう。今のところ、A級はラービットを倒しに各地に分散して、B級が警戒区域からトリオン兵を漏らさないように動いてる。だけど──」

 一瞬、迅から珍しく笑顔がなくなった気がした。

 

「もう少しで出てくるヤツがA級のほとんどを倒して、防衛が困難……というより、失敗する未来があるんだよ」

「じゃあ私はソイツを倒せばいいってこと?」

「いや、やってほしいのはそれじゃない。

 青子ちゃんには、人型を倒してほしい」

「人型?」

「具体的にキチンと言うと、今からいう場所に行って、そこで一人倒してから、もう一人──そいつの足を止めてほしい」

「倒さなくていいの?」

「負けない戦いをしてくれたらいい」

 青子はうなずいた。

 

「それだけで未来は格段に変わるし、なにより、最悪の未来を回避できる可能性が上がるから」

「最悪の未来って?」

 青子は気になった、つい聞いてしまった。

「眼鏡君が死ぬんだ」

 迅はいつも通りに、しかし残酷にそういった。

「修が?」

「まだ決まったことじゃないよ。第一、それを止めるために、オレはこうして頼んでいるんだから」

 

木虎が捕らえられ、敵の目的がC級隊員だと把握された直後。

 本部は新たなトリオン兵の反応を検知した。

「新たな新型が東、南、南西、に5体現れました!」

「ラービットか?」

「いえ、これは……」

 

 ソレを最初に見たのは出水たちであった。

「おい槍バカ、あいつ」

「この前情報がきたのとは違うな」

 本部で見たラービットの姿とは全く異なる異形。

 身長はほとんどラービットと変わらない。

 しかし、腕、脚、頭の大きさはラービットよりも細い。

 そして、最も印象的なのは、顔。

「なんていうか──」

 

 言葉を紡ぐ前に、ソレは顔を上げ、彼らを見た。

「────」

 言葉に直せない唸り。

 彼らは第六感で理解した。

 

「弾バカ!」

「わかってるよ!」

 出水はアステロイドとメテオラを威力重視に編成し放つ。

 ソレは自分がただ直撃するのを見た。

 

 だからわかった。

 敵を。

 殺すべき相手を。

 一つが多に情報を伝達してところで──。

「─────!」

 今度は高らかに、意思があるかのように鳴いた。

 

「マジかよっ!」

 ソレに与えたはずのダメージは、無に等しかった。

『本部!こちら出水!ラービットじゃない、新型と交戦開始する!!』

 その情報に、本部は驚嘆する。

 そして、理解した。

 

 迅が全部隊を三門市に集結させるように言ったのは、コイツが原因だと。

 忍田は出水が送った映像を見て、つぶやいた。

 

 人狼────と。

 

 ▲

 

 太刀川もまた、人狼を見ていた。

「ん? ありゃ伝えられたのとちがうな」

 ラービットを切り続けていた彼には、その人狼とラービットは、どこか似ているように感じた。

「……どう考えても、こいつをほっとくのはダメだよな」

 彼は半分まじめに、半分切りたい、と思いながらつぶやく。

 忍田は自分に新型を切ってこい、と命令した。

 

 新型とは文字通り『新しい型』である。

 すなわちボーダーが見たことのないトリオン兵はすべて新型である。

「──んじゃ、切るか」

 彼が二本の弧月を構えなおした瞬間。

 

 人狼は動き出し、太刀川を──

「やしゃまるシリーズをごちゃ混ぜにしたって感じか? 」

 ──認識して、拳を振り落とした。

 

 太刀川は身を引いて避ける。

 それを見た人狼は──

「────っ危ねぇ」

 今度は確実に、かぎ爪を太刀川に当てた。

 太刀川は何とか弧月で防御する──が。

 今後は脚で、追撃が命中する。

「────オーケイ、これぐらい切りがいがあった方が、良いってもんだ」

 追撃をくらっても、太刀川は笑って、人狼を見据えた。

 こうしている間にも距離をつめてくる人狼に、彼は。

 

「────旋空弧月」

 ボーダー本部において最強である師匠直伝の、二筋の伸ばした刀の刀身を、お返しとばかりに浴びせた。

 

 だが、

「硬えな」

 まともにくらったはずなのに致命傷はおろか、僅かなトリオンすら漏れだしていない。

「────」

 人狼は太刀川を切り裂かんと、かぎ爪を大きく振りかぶり、下した。

 彼はその一撃を避け、避ける途中に弧月で先程と全く同じ個所を、渾身の一撃でたたき切った。ようやく微かにトリオンが漏れ出した。

 

 

 ここで、人狼は避けた太刀川を無視して、一直線に駆け出した。

「! そういうことか」

 太刀川はその行動の意味を理解した。

『本部、こちら太刀川』

『なにかあったのか、慶?』

 応答に出たのは忍田だった。

 太刀川は内心、ラッキーと思いながら、

『さっきまで人狼と戦っててわかったことが』

『なんだ? 』

『まず強度が段違い。俺が弧月で全力で切っても、かすり傷程度。もう一回全く同じとこに当てて、ようやくちょっと傷がつく。たぶん、動きを止める方が楽っすね。

 それと────あの人狼、たぶん市街地に出ようとしてますよ』

 

 その情報に、上層部は絶句した。

 ただでさえA級がラービットに時間をかけているところに、ただでさえ硬いラービット以上の装甲を持つ人狼型。

 これがもし市街地に出てしまえば、市民の虐殺は避けられない。

『慶、おまえは引き続きラービットの方を切ってこい』

『人狼の方はどうするんすか?』

『あれは私が相手をする』

 

 その言葉に、上層部は納得しながらも、ここからのことを考えて不安になる。

「忍田君、もしこの先人型が出てきたら、誰が相手をするのだね!?」

 広報部長の根付が尋ねる。

「隊員たちに任せます」

「しかし、それではすぐに──」

「見くびらないでいただこう」

 忍田が根付の発言を遮る。

「隊員たちはこのような日のために、訓練をしてきた。簡単に負けるはずがない」

 

「……万が一、A級でも人型を止められなかった場合は────どうする」

 城戸が静かに忍田に問う。

「そうなれば────()()を使うまでだ」

 そう言って、忍田は指揮を城戸に託し、戦場へ向かっていった。

 

 ▲

 

 

「ミラ、報告をしてくれ」

 アフトクラトルの遠征艇で、隊長であるハイレインが部下のミラに命令する。

「現在、ミデンの精鋭たちがラービットと交戦中。交戦中の精鋭たちの背後を捉えられる位置に人狼を出撃させました。5機のうち1機が戦闘中です」

「ヴィザ翁たちの状況は? 」

「ヴィザ翁とヒュースは金の雛鳥の確保に。

 エネドラは主力部隊の一つと交戦中。

 ランバネインは……」

 そこで、ミラは口を閉ざした。

 

「どうした? 」

「……隊長、作戦に少し狂いが生じました」

「──まさか」

 ハイレインは気が付き、納得した。

 この段階では、思いもしなかった相手の名前だったからだ。

 

 √

 

 それは、ランバネインにとって願ってもないことだった。

 噂に聞いていた強敵。

 今回、戦える相手ではないと思ったからだ。

 それがどうだ?

 

 現実は奇なり。

 

 あろうことか、そいつは自分を探していたのだ。

 彼女が何のために戦うのか、わからない、いや、わからなくていい!

 今はこうして戦うことに集中しなくてはいけないのだから!

 

 戦闘以外に頭を使うな!

 撃て!

 飛べ!!

 そして、勝て!!!

 それが仕事だ!

 それが至福だ!

 

「そうとも、これはもう、二度とないかもしれんからな。

 さあ────楽しもうじゃないか!」

 

「おしゃべりする余裕があるなんて、なめられたものね──」

 彼女は心底、嫌気がさしたようにため息をつく。

 以前、経験した記憶と相まって、彼女は誰が見てもわかるほど、腹を立てているように見える。

 

「その羽────捥いでやるわ」

「さあ俺に見せてくれ!『魔法』とやらを────!」

 

 瞬間、蒼白い弾丸と、青の魔弾が、互いに向けて、放たれた。




 誤字脱字がありましたら、躊躇なく厳しく報告してください。


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アフトクラトル 1

5ヶ月も経ってました。のんびり気長に書いてくことにしたので、次は1年後かもしれません(1年経ったら覚えてるはいないでしょう…)

気長に待ってくれないなら、加古さんのチャーハン届けに行きます


 

 

 √

 

 現在、敵の精鋭たちと交戦している隊は2つある。

 一つはボーダー最強と謳われる「木崎隊」。

 そして、もう一部隊が、

『帯島ァ、気ィつけろよ。角が黒い──黒トリガーだ』

『ッス!』

 ボーダー主力部隊、B級部隊、それも上位の一角を担う「弓場隊」。

 

 彼らが対峙するのは、

「あぁ? クソ猿2匹? 俺もなめられたもんだな」

 黒トリガーの使い手、エネドラである。

「まぁいいぜ⋯⋯おまえら殺してさっさと違う猿どもを殺しに行くとするか」

 距離をとりつつ、弓場はホルダーに手をあて、すぐに撃てるように構える。そして帯島は孤月を正眼で構える。

 対するエネドラは構えない。

 

『帯島ァ』

『ッス!』

『コイツを、どう思う?』

 弓場が帯島に問う理由としては、成長の確認。

 ランク戦を通じて、どれほど戦術・戦略眼が養われたのかの確認。

 

 そしてもう一つ。

 互いの認識を共有するため。

(構えてない⋯⋯だから)

 黒トリガーとは理不尽の権化。

 風刃然り、黒トリガーというものは『非常識』を可能にする───いわば常識外の存在。

『──』

 

 瞬間。

 弓場は右手で帯島を後ろに投げ、同時に自身もバックステップをしたが、左腕と右脚を失った。

 帯島はそのおかげもあり、身体のあちこちが削られ、大幅にトリオンを削られたが、四肢と供給機関に致命傷は入らなかった。

 

「帯島ァ!」

 彼は彼女が口を開く前に、彼は残った右手で自身の武器を取り出し、

「離脱しろ!!」

「ああ? 逃がすと思ってんのか!?」

 弓場がエネドラに向かって、六発の弾丸を放つ。

「早くしろ、帯島ァ!!」

「理解しろよ、クソザルが! てめぇらはオレに、勝てねぇんだよ!!!」

 だが、彼の弾丸は全て意味をなさず、お返しと言わんばかりの大量のブレードの波が放たれる。

「「─────ベイルアウト!!」」

 彼らは同時に宣言し、撤退した。

 

 √

 

 さすがに手強いな──ランバネインは口には出さなかったが、本心では敵ながらあっぱれ、と言いたい気分であった。

 

 ───『消費・消滅を担う最新の魔法使い』。

 

 それだけでなくとも、彼女は自国に滞在していた、あの女の妹でもある。捕まえて人質として使い、あの女をおびき寄せることにも使えるかもしれない。

 故に。

 本来ならばなんともしてでも彼女を捕まえたい、というのがアフトクラトルの本意であるが─────。

 

 今はブルーではなく、金の雛鳥を手に入れるのが最優先。早いところ決着をつけたいのだが…………。

 

「──ッ!」

 放たれる魔弾を雷の羽(ケリードーン)で避ける。同時に、自身の蒼弾をブルーに向け穿つ。

 

「クソ───ッ!」

 遮蔽を使って射線を切る。命中しなかった蒼弾は全て地面に吸い込まれ、地面が半壊していく。

 

 決定打が届かない────! 

 青子の魔弾なら難なくヤツの体を撃ち抜けるだろう。だが、その相手が魔弾よりも早く移動するため、当たらない。

 加え、 同時に反撃をしてくるので、一度に放たれる魔弾の数は限られている。

 次第に焦燥感が募っていく。

 

 彼らは互いの目的のために殺意に塗れた牙を見せ合い、睨み合う。

 

「仕方ない───本来なら、まだコイツは使いたくなかったが、な」

 彼はそう言いながらも、喜びを含め、一人─────。

 

 ▲

 

 ケリードーンの強みは空中を自在に飛行できる点と、圧倒的な威力を誇る弾を連射できる点だ。

 射線が通っていなくとも、真上に飛んで無理矢理通すことができる。

 

 青子のトリガーの強みは青子のトリオンの質を活かし、少ないトリオンで高威力の弾を撃て、その他にもいくつかの機能が備わっている点だ。

 自身を銃身として、トリオン回路を改造し、さらに威力を上げることも可能。

 

 青子は以上のような強みを考え、機動力と威力はあちらの方が上。しかし、トリオンの応用という点においてはこちらの方が上だと判断した。

 脚にトリオンを回し、脚力を強化する。

「──」

 初速で最高速近くまで速度を上げ、その際──ランバネインを補足して、自身の魔弾を撃ち込む──。

 

「───読み通りだな」

 ランバネインはシールドを張らなかった。

「──なっ」

 予想外の一手に呆気を取られ、足を止めてしまう───それが命取りだった。

 突如として空間が開き、()()()()()()()()が降り立ち、魔弾を受け止めた。そして───

「─────!!」

 目の前の怨敵に最短距離で殺しにかかる──! 

 

「チッ──!」

 間一髪、人狼の攻撃を避ける。が───

「オレのことも、忘れてくれるな──!」

 頭上から、ランバネインによる弾幕が降り注ぐ。

 脚力を強化、そしてシールドを張り、すぐに近くの民家に入り、最高速度で家を走り抜ける。

 しかし───。

「─────!!!」

 その剛腕は壁を壊し、青子を撃ち抜かんと突き出される…………! 

 

「今──」

 避けずに、どころか、青子は白兵戦を挑む。

 左脚で地面を蹴りだし、人狼へ身体を向かわせる。

 

「あんたに───」

 剛腕が顔を掠める──だが、それは脚を止める理由にならず──

 

「かける時間なんて────」

 右足に溜まっていた力を、力いっぱいに撃ち出す───! 

 

「ないのよ─────!!」

 正中線に撃ち込まれた青子の蹴りにより、人狼は、ほんの一瞬、体勢を崩した。

 

「熱くなっているところ悪いが──」

 再度、弾幕が降り注ぐ。

「オレの相手もしてもらわくては、な」

 ランバネインの作戦は最初からコレだった。

 人狼を囮にして、人狼ごとブルーを生き埋めにする。

 

 反撃を許さない弾幕が降り注ぎ、まだ活動を停止していない人狼が牙を向ける。

 彼女は───。

 

 ▲

 

 人狼型トリオン兵は、ラービットの元となったトリオン兵だ。

 アフトクラトルのある研究者が⬛︎⬛︎から構想した兵器。

 ⬛︎⬛︎のような耐久力と戦闘力を再現することを目標とされた人狼型は、運用するために必要なトリオン量があまりにも多く、燃費も悪く、何より、トリガー使いを捕獲するためのリソースが足りなかったので、お蔵入りとなっていた。

 

 だが、注いだトリオンは、人狼を運用しない限り、トリオンを消費することはない。

 ハイレインが数年前に作っておいた人狼を残していたのは、殲滅戦等を想定していての事だった。

 そして、この侵攻において、2度目の実戦投入がなされたわけのだ。

 

「数が多すぎる──」

 戦況は芳しくなかった。

 人狼型は敵と味方の識別ができるようで、出会った部隊はトリオン兵の大軍と人狼型を同時に相手とらなければならない。

 現在人狼と交戦している部隊は3つ──二宮隊、草薙隊、風間隊だ。

 

 3部隊とも手間取っているらしく、精鋭たちにラービットを処理を任せる予定が狂ってきている。

 今ラービットを殲滅している隊員は主に太刀川慶と小南桐絵。

 二人ともラービットを処理してはいるが、それ以外にもトリオン兵が迫り来るため、どうしても相手が一手早い。

 

 故に、考える余裕も時間もなく。

 ただ目的のために走っていた。

 

 √

 

 レイジがヴィザに倒されたとき、ハイレインは機をうかがっていた。

「今の状況を詳しく報告してくれ」

 遠征艇に窓が開き、ミラが艇に戻る。

「玄界の精鋭部隊とみられる大半はラービット、人狼型と交戦中。主力部隊は合同で確実に一箇所ずつ排除することにしたようです」

 

「金の雛鳥はどうだ?」

「ラービットに追跡させています。仮にラービットがやられても、すでにヒューズが磁力片をさしているため、場所は特定できます」

 

 ランバネインがブルーを抑えている──これは予想外だ。

 何故か奴は『魔法』を使わないらしい。もしくは使えないか? だが、どちらにしろ、好都合なのは変わりない。

 

「俺の人狼を3体、ヴィザ翁、ランバネイン、ヒュース達の援護に回してくれ。それと、残りの人狼の半分を俺とおまえの権限下に置いておけ」

 そうして、彼は席を立ち、窓をくぐって行った。

 

 

 

 




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