サノバウィッチに転生して、青春を謳歌したい (ミュウにゃん)
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キャラクター紹介

◆本作主人公:デュアン・オルディナ・フィア・レグトール/ミュウ

性別:男/女

年齢:17(精神年齢は軽く7桁以上)

職業:学生・魔女見習い?・バイト

契約者:?(母親)

《魔女の代償》

・水をかぶると性別が変化

・元に戻るのに魔法で生成されたお湯を被る。

 

能力:この世の理を捻じ曲げる能力

デュアン曰く「日常世界では持ってきてはいけない能力」と語っている。

基本、デュアンが魔法を生成できるのはこの能力のおかげでもある。

 

魔法具:?

自己想像(セルフイメージ)によって生み出される。

・武器は、この世の武器が想像(イメージ)に入っていれば、それを使うことができる。

 

魔法:

デュアンは、魔法を作ること可能。ただし"自然界の法則の理"を無視した魔法以外は作成可能。(能力と組み合わせれば、ルール無視に能力を作成可能)。作成時、心の欠片を消費する。消費する量は、作る魔法によって変化する。

 

《防音・防壁》

綾地寧々の自慰行動に協力の形で作り出された魔法(デュアン曰く「……今まで転生した中でくだらない魔術を作ったなぁ」とのこと)。

・自分が部屋に入っている状態で発動すると、その部屋は誰も入ることが出来ず、音を聞くことが出来ない(ただし、魔女は除かれる)。

・本人が気絶しても解除は出来ず、時間経過によって解除される(10分ぐらいに設定している)

 

代償緩和(レパレーション・リカバリー)

・自分以外の対象者の代償を緩和させることができる・・・のだが、あまりにもひどい状況だと緩和できない(思いが強ければ強いほど緩和確率が下がる)。

例外として緩和できない存在が居る(保科)

・効果は1日12時間。より強い衝動が発生した場合、時間がどんどん減少する(綾地さんの場合、1時間。発情が酷いと5分も持たない)(紬の場合、5時間00分)

 

・一日に3回までしか使用できず、同じ人間には1日1回まで。

 

《?????》

・魔女の代償を一時的に、引き受けることが出来る。

・アルプの契約とは、また別口の枠の魔法

 

綾地の場合、男の状態で使うことは出来ず、ミュウにならないと使うことが出来ず、使ったら「綾地さんの気持ちがよく分かる。確かに死にたくなる」とのこと。

 

木月の場合、転生前の記憶が一部吹き飛んでしまった。

 

《譲渡》

とんでも理論(何でもアリ)の魔法。

・回収・譲渡・吸収することができる。量は自身で決めることができる。

 

《心の結晶体》

デュアンが、綾地さんに渡した心の欠片の結晶体。

この結晶体は、綾地さんの魔法行使の人数を自分を含めた4人に選択し、同じ時間に飛ばすことが出来る。

 

 

趣味:家事全般 人間観察 

 

容姿:

童顔で髪が肩まで伸びている。時々、女性と間違われるレベル。

一部の女子生徒からは人気。

髪の色は水色、瞳の色は右が赤、左が水色のオッドアイ。

マフラーを常に着けている。デュアン曰く「表情を隠せて便利」のこと。

 

学生服は、本来なら留学するはずのものを着ている。

 

 

デュアン

身長170cm未満 体重38kgと華奢な体型をしている。

健康診断では、殆どがA+判定されている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

血液型はRh- AB型

 

ミュウ

身長100cm 体重15kgとマニアックな幼児体型。

 

説明:

姫松学院に通う。他人とは普通とかけ離れた存在。

原作主人公「保科柊史」とは友達の関係で、彼の安請け合いには頭を悩ませ、一緒に手伝ったりしたりする仲。

 

授業態度は不真面目だが、頭の良さはトップ1位、成績面は文句なしだが、本人のやる気次第では全国1位を狙えるが・・・姫松での学年順位は1年の時が11位。2年で8位となっている。

 

手先の器用さで、何でも出来てしまう。

 

彼女が自慰をしてる事自体は知っているが、それをどうこう言おうとはせず「それが人間の三大欲求だ……気にすることはない。魔法の契約の代償なら尚更しょうがない」と返答している。

 

 

転生直後は「エロゲの世界に転生とかふざけてんのか?」と思った。

 

また、木月千穂子とは面識がある。

 

また、シュバルツカッツェのお店のアルバイトを始めていた。客たちの悩みを聞き、解決している。相馬さんに迷惑をかけないように、悩みを聞けるのは2回まで。他言無用を通している。

 

精神はかなり弱く、心の闇を密かに隠している。

また、免疫力はかなり低く、季節ごとに風邪を引いたりする。

Chapter7、56話でアカギの宣言通り「交尾」してしまったことに罪悪感と恥ずかしさで、少し自己嫌悪してしまった。

 

Chapter8、65話で自分が異世界人であることと、転生したことを紬に明かした。

 

一人称:オレ/ボク

二人称:男子は呼び捨て 女子は一部を除けば全部~さん付け(Chapter7、54話で「椎葉さん」から「紬」と呼び捨てした。)

 

◆原作主人公:保科柊史

性別:男

年齢:17

 

説明:

原作の主人公。母親が願いを叶えた魔女であり、その力の一部とされる”人の気持ちを五感で感じる”能力を受け継いでいる。嫉妬や嘘などの負の感情を向けられると痛みなどを伴うため、人付き合いはしても何処か他人と距離をとっており、同級生の女子生徒からは”都合良く使える男”などと認知されている。人と深く関わることを恐れているため不器用で、しばしばデリカシーがないと苦言を呈されている。

 

海道、仮屋とは幼馴染

 

本作では、デュアンとは数少ない理解者。

原作と違い、本作のRESTARTは・・・・?

 

 

 

◆原作ヒロイン:綾地寧々

性別:女

年齢:17

職業:魔女/学生

契約者:相馬七緒

魔女の代償:発情

魔法具:銃

魔法:両親が"離婚"する前の時間に戻りたい。

好きな人:保科柊史(Chapter5で付き合い始めている)

 

説明:

柊史の同級生、オカルト研究部・部員。魔女。

その容姿やオカルト研究部(以下、オカ研)の活動内容もあり学院では男女共に人気が高いが何処か他人と距離を取っている女子生徒。

ある願いをかなえるべく魔女になるが、契約の代償として突然発情する”秘密”を抱えている。柊史やデュアンとは”秘密”を共有してから度々フォローしてもらっており感謝する反面、気を使われたり痴態を見られることに自己嫌悪している。

 

デュアンとは、小さい頃からの幼馴染。

 

デュアンは「気にするな」と言われ続けているが、どうしても気になるようだ。

デュアンの性別が変わると知るのは、綾地寧々を除いて保科柊史だけ。

 

 

◆本作ヒロイン:椎葉 (つむぎ)

性別:女

年齢:17

職業:魔女/学生

契約者:アカギ

魔女の代償:女の子っぽい服装になると気分が悪くなる

魔法具:ハンマー

魔法:

 

説明:

本作主人公のヒロイン。

 

柊史の同級生。学院に転入してきた女子生徒。魔女。

"女性らしい服装を着ると体調が悪化する"という契約の代償を課されて、女子でありながら男性用の制服に袖を通している。

 

転入の際にオカ研と関わりを持ちその縁もあってオカ研に席を置くことになり、そのつながりで寧々の"秘密"も知ることになる。

 

本人は女の子らしい服装が好きらしく、部室にて、めぐるとデュアンで"どこまで女の子らしくしてもいいか"を日々研究している。

 

Chapter7にて、デュアンを性的に美味しく頂いた。

 

Chapter8にて、デュアンが異世界人の転生者だと知り、デュアンと共に生きるために、デュアンと同じ時間を生きることを決意した。

 

本作RESTERT後では・・・・

 

 

◆海道秀明

 

「保科」の親友の一人。

 

彼は、仮屋和奏と付き合い始めた。

Chapter7の時点はまだ、プラトニックなお付き合いをしている。

 

海道曰く「乳繰り合いたい」と言っているが、和奏曰く「プラトニックもいいけど、そういう(エッチな)こともしてみたい。綾地さんは椎葉さんが羨ましい」とのこと。

 

◆本作オリジナル:井上カズマ

 

同じく、転生者。

 

海道とは、結構バカやっている。

 

デュアンみたいに壁走りなどが出来るが、デュアンみたいな動きは「無理」とのこと。

 

◆本作オリジナル:村上愛衣(めい)

 

イケメン先生である、高城先生のことが好き。

 

 




プレイ日:2021/9/19 23:00
綾地寧々√(Chapter0-0突入):2022/1/26 9:29
アフターストー リー:同年/2/24 23:38
エピローグ:同年/4/10 22:21
椎葉紬√(エピローグ):同年/2/17 1:59
アフターストーリー:同年/4/10 22:18
仮屋和奏√(6-6):同年/4/20 21:44
アフターストーリー:同年/4/20 20:34
エピローグ:同年/4/21 4:50
アフターストーリー:未プレイ
因幡めぐる:同年4/24 12:25

戸隠憧子ルート(エピローグ):2022/5/22 15:45
アフタストーリー:未プレイ


クリア順は綾地→椎葉→ルートなし(RPを重視した動きをした結果)→仮屋→因幡→戸隠→?End(ハロウィン祭に行かずのEnd)。



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1周年記念 小ネタ①

本作のネタバレを多々含んでいます。

また、原作のネタバレも含んでおります。

ご注意ください。


 

 

①綾地さんの着せ替え

 

 

    因幡「寧々先輩の着せ替えを作ってみました――!」

  デュアン「へぇ~……って、普通の魔女衣装じゃないか」

   綾地「?この衣装ッ!?はは、恥ずかしいのでやめてください~!!」

 

と止める綾地さん。

 

    因幡「落ち着いてください……これから可愛い服を着せていくので」

 

ほう?どういう衣装だろうか?

 

   綾地「あ……そうでしたか。それは楽しみです」

綾地さん、フラグだ。

 

   因幡「ばーん!」

とクリックすると・・・

 

  デュアン「おい!なんでキルラキルの衣装……?露出が高すぎるぞ……綾地さんが望む衣装とは違うぞ」

 

   因幡「えぇ~……じゃあ、これは?」

と「ばばーん」と言い・・・

 

   綾地「うわぁぁあ~ん!可愛い服は―――!?」

  デュアン「……(もう何も言うまい)」

と、深く突っ込まないようにした。

 

 

  デュアン「綾地さんは……そうだな、メイド服とかが似合うんじゃないか……そういう服は会長に似合うと思う」

 

需要アリそう・・・

 

   綾地「デュアンさん!」

と、綾地さんがぱあっと明るくなる。

 

  デュアン「後は……う~ん。」

と腕を組み考える・・・

 

   因幡「デュアン先輩ってそういう趣味があるんですか?」

と、引かれる・・・

 

  デュアン「因幡さん……お前にだけは言われたくないよ」

と殺気を込めながら言う・・・

 

  因幡「ハイスミマセン」

と尻込みした・・・

 

②因幡めぐる

 

   綾地「因幡さんは入学時にイメチェンをしたそうですね」

   因幡「リア充になりたくて~……昔はすっごい地味だったんですよ」

  デュアン「リア、充?」

   因幡「黒髪メガネでオタクで~」

   椎葉「確かに地味だね……」

   因幡「オタサー入ったら女子自分一人で皆すごい優しくて~プレゼントとかくれて~。そのうち皆何故かピリピリしただして……サークルがクラッシュしました……そんな地味な自分が嫌でイメチェンしました」

 

  デュアン「それ……言わいる……」 

   椎葉「姫ぇ―――――!?」

 

 

③椎葉紬

 

   戸隠「ちょっと視点をずらすだけで人生観は変わるよ」

  デュアン「あんた、何を言ってるの?」

とウィスキーボンボンを食べながらそう言うと・・・

    

   因幡「といいますと?」

   戸隠「椎葉紬 性別男の娘」

  《椎葉「……ボク女の子じゃないもん」》

   戸隠「嫌がる少年を無理矢理魔法少女に!」

何処のQB?

 

   戸隠「ちゃんと付いてる男の娘です!」

  《椎葉「……みっ見えっ///」》

   戸隠「いいね」

   因幡「いい……」

   椎葉「よくないけど!?ついてないしっ」

 デュアン「紬は可愛いなあ……オレはどっちにしてもいいかもしれないな……紬が男だろうと女だろうと……オレはそういう可愛い一面が好きだぞ、紬」

  

   紬「でゅ、デュアン君……」

 

④もったいない精神

 

   因幡「その服なんなんです?」

   戸隠「え?私服だけど……?」

   因幡「そうじゃなくて、なんですその三角形エリア

 

右に気の流れ、左に気の流れ、下に吸引力、桃源郷。

 

  デュアン「ッフ……くだらん」

   因幡「まるで指を入れろと言わんばかりn……え?」

 

   戸隠「え?」

  デュアン「男が胸だけで判断しねぇんだよ……重要なのは外見より中身だろう……まあとあるヤツの台詞だが……まあ胸がなくたって、愛があればいいんだよ」

 

 

   因幡「そ、そうなんですか……って、そうじゃなくて」

   戸隠「昔買ったカーデなんだけど……ボタンつけたら取れちゃってー……そりゃ、見事にスパァァァンと」

 

そんなでかい乳してたらそうなるわな

 

  因幡「貧乏性から生まれたエロス!?」

  デュアン「貧乏というより倹約家?」

ふむ・・・

 

ちなみに、因幡さんが着るとダボダボになってこうなります。

 

  デュアン「すっとん娘」

   因幡「何をぅ!!!」

  デュアン「おっぱいなんて脂肪の塊なんだから……あったら邪魔になるだけだし、肩が凝るし、体重で悲鳴を上げるし、常にぷるんぷるん動くし、男子の視線が顔から胸に移るし……ブラの大きさを買おうとすると、下手すりゃオーダーメイド品で金が掛かる……止めときな」

 

   因幡「うぐぐぐぐぐっ…………」

   戸隠「デュアン君はなんでそういう事情を知ってるのかな?」

  デュアン「以前に相談に持ちかけられたことがあった。逆に胸を大きくしたいって子も居た……だから、知識は知ってる。大きくできるし、逆に縮めることも……っは、女子は大変だなぁ」

 

オレは小馬鹿な嗤いをし、完膚なきまで2人を叩きのめした。

オレの中で少しイライラが治まった。

 

 

⑤姫松学院軽音部

 

   仮屋「ギター買ったんだ~♡」

  デュアン「あ……それちょっと値が張るヤツ」

   綾地「わ~……素敵です」

   戸隠「CDを出す気だね」

   仮屋「え"っ……そ……そこまで考えてなかったけど」

キラッという明るい仮屋さんを想像すると面白い

 

   戸隠「キャラソンどころか個別EDまで作詞作曲設定で歌っちゃって」

  

 デュアン「それ本編のネタバレ!」

   戸隠「とりあいず……にっこにっこにーとか言っちゃって……人気投票1位奪る気なんだ?」

   綾地「……(汗)」

 デュアン「会長……色んな人に訴えられれますよ?ラ●ライブとかに……」

 

   戸隠「メインヒロイン食う気満々だね……」

   仮屋「ち、違うし……何か嫌なことでもありました!?」

 デュアン「因みに、本作では仮屋さんは海道と付き合ってるし、綾地さんは柊史と紬はオレと……会長と因幡さんは男探し頑張れ」

 

⑥特別編 学園のYesマン

 

   保科「えーっと……これは?」

  デュアン「ぶっちゃけトークだ」

   保科「そうか?寧々……何を話したらいいんだ?」

   綾地「本編では話せないことやいろんなネタを話したら良いんじゃないですか?」

 

   保科「ふむ……実はオレ、超能力で人の心が読め、更に五感で感じる……悟り妖怪以上の効果の能力を持っている……勿論今まで出来なかったが……」

 

  デュアン「流石は柊史」

   

   保科「……これ以上、デュアンの心の中を除くのは止めておこう……危険と判断している」

 

 デュアン「HAHAHAHA……オレの深淵を覗いた時点で発狂して死ぬぞ」

   保科「このリアルクトゥルフ神話生物め」

 

 

⑦それぞれの恋人

 

 

    因幡「紬先輩、寧々先輩。彼氏が出来たんですよね?」

    戸隠「2人はどういう感じなのかな?」

 

    綾地「え……?別に普通ですが」

    椎葉「ワタシも……強いて言うなら、あんまりエッチなことをしてくれないことかな?」

 

    因幡「そうなんですか?!」

    椎葉「う、うん……無理矢理襲ったんだ」

 

    綾地「え……?」

    椎葉「だって……そうでもしないとデュアン君……エッチなことできないんだもん」

 

    因幡「デュアン先輩って……意外とプラトニックなんですね……」

 

    戸隠「保科くんはどうなのかな?」

    綾地「柊史くんですか?う~ん……基本はデュアン君に似てますね。此方が求めてきたら、ヤッたりしてますね。柊史くんから求めてきたことは……今のところは無いですね……キスはありますが」

 

    因幡「二人共意外とヘタレなんですね」

    戸隠「まあ……いいんじゃないの?うふふ……」

    椎葉「あっ……これ、アカギから聞いたんだけど、デュアン君……「エッチなことは、結婚してから」って言うんだよ?」

 

    因幡「うわぁ……古臭い」

    戸隠「そうだねー……」

    綾地「ま、まあ確かに」

 

 

それを部屋の外で聞いていた、保科とデュアン・・・・

 

    保科「…………ヘタレか」

   デュアン「……ふ、古臭い……か……あ、は……はは」

      

 

 

⑧アカギとデュアンの出会い

 

    椎葉「そういえば、デュアンくんって……アカギといつ出逢ったの?」

 

    綾地「気になるな……」

    保科「オレも……」

  デュアン「え?そんなに気になる?」

    椎葉「うん!ワタシ、気になる」

   アカギ「そうじゃな……あれは紬と契約する前じゃな……」

  デュアン「あの時、オレは姿容を完全に隠してたな……」

    保科「それは素顔的な意味で?」

  デュアン「いや、存在そのもの……木月さんと会ったのも、ほぼミュウの姿だったしな」

 

    綾地「デュアン君は……私と出会う前から、魔女の事を知っていた、のですか?」

 

  デュアン「いや……タイミング的には、綾地さんの後だな」

   アカギ「なんじゃ……小僧。七緒のところの後に会ったのか……」

    保科「じゃあ……デュアンが魔女になったのは何時なんだ?」

  デュアン「生まれてから、直ぐだったと思う……契約の内容もわからん内に、代償を背負ってしまった感じかな?」

 

    椎葉「そ、それって……知らないうちに借金してたってことだよね……ん?でも……そんな赤ちゃんの状態で契約って出来るのかな?」

 

    綾地「それに……アルプって人との間の子供を産めるのでしょうか……?」

 

  デュアン「人化してれば産めるんじゃないか?生物としての器官があれば生まれると思うぞ……」

 

   アカギ「人間と交尾なぞ考えたくもない」

    保科「でも……よくデュアン、そんな昔のこと記憶に出来るよな」

  

  デュアン「まあ……半分、能力の恩恵でもあるけどな。代償がデカすぎるけど」

 

    椎葉「ミュウちゃんだっけ?」

  デュアン「ちゃん言うな」

   アカギ「ま、小僧から小娘になったぐらい……小さいことじゃな」

    保科「生物としての壁が、小さい……だと?」

 

 

 

 

 



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番外編 デュアンについて

 

 

 

 

とある夏休みの日の部室でのこと・・・

 

 

    デュアン「……おふぇにひふもん?(俺に質問?)」

俺はパンを食いながら、そう言うと・・・

 

      保科「ああ……俺らって、デュアンの輪廻転生を知ったじゃんか?そこで……質問したいな~って思ってさ」

 

      綾地「はい……その通りです」

      椎葉「うん!」

      因幡「他にも、色々質問したいな~って」

      竹内「いいだろ?別に」

    デュアン「ん?ああ……別に構わんよ……どんと来い!」

 

      保科「んじゃ、俺からだな……ファンタジー世界って……何回行ってたんだ?」

 

    デュアン「う~ん……正確な数字は覚えてないが、軽く4桁以上ぐらいかな?」

 

剣とか魔法を使う世界ならそれぐらい行ってたはず・・・

 

      保科「逆に日常世界は?」

    デュアン「あー……8回ぐらいか?」

確か、そんな数だったはず・・・

 

      保科「少なっ」

確かに・・・神様も「日常世界をもうちょっと謳歌しなさい」とか言っていたな・・・

 

まあ・・・盾勇の世界みたいなクソみたいなヤツが居るのは勘弁願いたいが・・・

 

      椎葉「そういえば……前に書いたアンケートの答えを教えてもらっても良い?」

 

      保科「あっ……」

      綾地「私、それ気になります」

      因幡「確かに……気になりますね」

    デュアン「……んじゃ、これが答えだな」

 

2-A Dhuan orudina fiar regtorl

 

Q1 結婚願望はありますか?

A. 彼女が望めば、ある。望まなければ、ない。

 

Q2 どんな異性が好みですか?

A. 明るくて、太陽みたいな笑顔で、優しい子

 

Q3 交際する際は、何を重視しますか?

A. 彼女が求めているもの

 

Q4 結婚相手には何を求めますか?

A. 愛があれば何も要らない。

 

Q5 もし相手が浮気してしまったら、どうしますか?

A. 自分に非があるのか、話し合う。それがダメなら自殺する

 

Q6 得意料理を教えてください

A. ほとんどの料理。強いて言うなら中華系

 

Q7 どんなコースでデートしたいですか?

A. 彼女が望む場所なら何処へでも

 

Q8 一人の時はどんな風に過ごしていますか?

A. 本を読んでいるか、ゲームして遊んでいるか、寝ているか。

 

Q9 どんな風に告白して欲しいですか?

A.  直球?

 

Q10 女性のどこに魅力を感じますか?

A.  全部。好きになったら、全部が魅力。

 

Q11 禁断の恋についてどう思いますか?

A.  愛があれば、年齢だろうと性別だろうと問題ない

 

Q12 今、好きな人、気になってる人はいますか?

A.   身近に居る。

 

 

   デュアン「こんな感じだな」

     椎葉「こ、これ……告白する前に……書いてたんだね」

 

     竹内「まんま、椎葉さんを体現したような物」

     因幡「デュアン先輩……」

     保科「お前……ツッコミどころが一つあるぞ」

     綾地「そんな項目ありました?」 

     竹内「あったか?」

     因幡「ありましたか?」

     保科「問5の質問に対しての答え。ダメなら「自殺」って……なんだよ!これ」

 

   デュアン「別に、普通でしょ」

     竹内「いや、普通じゃねぇだろ」

     保科「そうだぞ、デュアン」

   デュアン「そうか……んじゃ、他に質問あるか?」

   竹内・保科「「流した!?」」

     因幡「デュアン先輩は数々の世界を渡り歩いてきたんですよね?その中で一番強かったのは誰だったんですか?」

  

   デュアン「そうだな……魔王学院の世界の魔王アノス・ヴォルディゴードだな……あいつに勝てるヤツなんて勇者カノンぐらいだろう……いや、そもそも転生特典をフル活用しても大戦時代の魔族や人間に勝てるかどうか……」

 

魔王アノスは規格外の強さを持っている。俺なんて一瞬で殺れる。というか、勇者カノンにも負けてるんだぜ?

 

ヴェヌズドドアやエヴァンスマナ装備の二人に勝つ確率なんて・・・宝くじを1等を当て続けるような物。

ガチャゲーで言うなら0.1%の排出率を100連続で引き当てるようなもの・・・100面ダイスを100回振って、1を出し続けるようなものだ・・・

 

というか、アノスの本気=俺の本当の死を意味をする。

 

     竹内「他の世界ではどうだったんだ?」

   デュアン「あぁ……最強賢者のガイアスも……勝てなかったな……転生して第四紋になってからは一度も勝てなくなった」

 

というか、アイツは第一紋の生産特化型なのに・・・まあ、あの世界の魔法戦闘師の年齢なんて当てにならないらしいからな。

 

転生後は・・・俺もイリスも「ガイアスさんにだけは第四紋を持たせちゃダメでしょ」と思ってしまった程だ。

 

     保科「うわぁ……デュアンも人間辞めてるけど……デュアンに勝てないヤツって本当に居るんだな」

 

   デュアン「"転生特典"はあくまでも、その世界で生きる為に必要な力であって、登場人物(キャラクター)に勝つことなんて土台無理な話だ」

 

    綾地「神様の転生特典って、そういう風に作られてるんですね」

 

    保科「それにしても……異世界かあ……行ってみたいなあ」

    竹内「なに柊史。興味があるのか?」

    保科「まあね……」

    椎葉「そう言えば……デュアンくんの元いた世界ってファンタジー系だったっけ?」

 

   デュアン「うーん……ファンタジーといえば、ファンタジーだが……ステータスが可視化されない世界で、弱肉強食が当たり前で……赤ちゃんを作らないと人族なんて直ぐに滅びてしまう世界だね……その上に、史上最悪のデスゲームを神が開催したやべぇ世界だったな」

 

    

まあ、その元凶をぶっ殺したお陰で・・・転生神に会えた訳だが

 

    竹内「だった?」

   デュアン「俺がそのデスゲームの神をぶっ殺したんだ……」

    因幡「神様を殺したって……」

    綾地「神様って死ぬのでしょうか?」

    保科「確かに……」

   デュアン「簡単だ……精神的にも肉体的にも残酷な殺しをしたからな……それを此処で言っちゃあ……、な」

 

    椎葉「あー……」

    保科「……、……っ……うぷっ……お前、……マジかよ。マジで?蘇生や治癒する度に致命傷を与え続けるとか……それを不眠不休で30年近く?ヤバくね?」

 

柊史の顔が真っ青になって、口に手を当てる

 

    因幡「うぇえ!?デュアン先輩人間ですか?!」

   デュアン「元々俺……人間じゃないし……というか神殺しの過程で人類カテゴリーに外れたと思うぞ」

 

イヴ・スティトルとの契約前では、既に理から外れた存在だった訳だし・・・

 

そういえば、オレの種族って・・・現在なんだろう?

 

32回目の転生で、既に「人間族?」って言われてたな・・・。

なんで「?」がついたんだ・・・?

 

    綾地「でも、どうやって殺したんですか?そんな不老不死の存在を……」

 

   デュアン「そりゃ……俺の能力で……」

     椎葉「デュアンくんの能力って……確か"この世の理を捻じ曲げる能力"だったっけ?」

 

   デュアン「うむ……その能力を流し続けて、……ね」

     因幡「凄い能力なのでしょうか?聞いていてもぱっとしないような……」

 

     保科「理ってのはルールなんだ……ルールを捻じ曲げる能力……」

 

   デュアン「世界の理を捻じ曲げる能力だな……魔法作成の他、自己再生能力や記憶などを捻じ曲げて、無効化する……まあ、簡単に言えば……デメリットを無効化させたりできるって解釈だな」

 

     保科「……恐ろしい能力だよな」

     椎葉「ん?でも……出来ないことはあるんだよね?」

   デュアン「一応、な。俺も詳しいことは知らん」

一応、因果律系統の能力だということしか知らん

 

 

     保科「自分の能力だろ?」

   デュアン「どんな結果になるのか、分からないんだ……相手の病気に対する理を操作し、元気にしたら……自分が病気に掛かりやすくなったりする……」

 

理を操作した力の反転がオレに流れ込んでくるのかと思えば、全然違うし。神様もこの能力については、説明不能と答えてたな。

 

球磨川先輩曰く「君の弱点(マイナス)から生まれた力だと思うよ」って言っていたな・・・更には「君は生まれた時は幸福(プラス)だったけど、人生を台無しにされちゃったから(マイナス)が生まれたんだね」と言っていたな。球磨川先輩には転生のこととか神様のこととか言っていないのに、凄いよなあ・・・と感じた。

 

 

     綾地「不思議な能力ですね……」

     竹内「んじゃ、俺から質問だけど……デュアンって……ファンタジー世界つまりステータスが可視化した世界の最高レベルは幾つだ?」

 

   デュアン「あー……最高レベルは、盾の勇者世界線で……盾の勇者で672、波の世界つまり鏡の眷属器として511だな」

 

女神討伐時は650。キョウを殺した時のレベルは96だったな

二度目の絆の世界に行った時は、285。鏡の眷属器に選ばれたときは、確か286?だったっけ?

 

     竹内「以外に高かった」

   デュアン「あとは、SAO世界では……125だったな……だんまち世界では、レベル7だったかな?」

 

正直に言えば、あんまり覚えがない。

 

     保科「だんまちって……偉業することで、ランクアップだったか?」

 

   デュアン「そうそう……この世界でもアニメや小説があるからね……」

 

     椎葉「他には?」

   デュアン「え?あー……ほかは覚えてない。木月千穂子の代償を肩代わりしてたから、記憶が消し飛んでる……」

 

     因幡「……」

   デュアン「他に質問ある?」

     綾地「デュアンくんの性転換は生まれ持った力ですか?」

 

難しい質問をするな・・・

 

   デュアン「神殺しした時だな……種族進化した時に手に入れた」

     保科「?つまり……人間から神になったってこと?」

   デュアン「違う……俺は元々人間じゃない……八尾の猫妖怪と神巫女との間に生まれた半妖だ」

 

     竹内「神巫女って?」

   デュアン「う~ん……神の力を卸すことが出来る巫女の事だ……まあ、代償が半端じゃないが……」

 

     保科「……どんな代償だ?」

   デュアン「時間……つまり命を対価にする」

     椎葉「命を対価にする力……」

   デュアン「俺が居た世界は……マジでヤバい……魔王学院の2000年時代並にヤバい」

 

     保科「例えるなら……?」

   デュアン「うーん、まず種族間での戦争は、まあマシだが……デスゲーム後は、ノゲノラの盟約が存在しない世界以上だな」

 

ノゲノラは無意味な戦いだったけど、俺の世界は強制された無意味だからな・・・次元がちげぇや。

 

     竹内「よくもまあ……両者が滅びなかったな」

   デュアン「まあ、それでも種族の約80%は滅びたぞ?」

確か、あの神を殺してから、転生神から聞いた話だと「85300人は生き残った」って言ってたからな・・・

 

     保科「それ、実質滅びてるのと同じだぞ」

   デュアン「……こんなことを言いたくはないが……女性は、子供を産み続ける為に居るようなもの……男は戦場で散っていくだけの存在だった」

 

まあ、最後は勝ったが・・・

 

     因幡「デュアン先輩って凄い人なんですね……」

   デュアン「まあ、殆ど……俺の仲間と俺が取り込んだ外宇宙の神のお陰でもある」

 

ま、その仲間も魂ごと殺されたけどな。俺が殺されなかったのは、魂を別の神に守られてたっていうのもある。別の神というのは、58体の邪神。神を殺したあとは、既に1体しか存在しなかったな

 

アザトースとかニャルラトホテプ、クトゥルーが消滅したのに、イヴ=スティトルだけ生き残ったのは不思議でしょうがない

 

 

     保科「うん?なんだか嫌な予感……」

   デュアン「イヴ・スティトルだよ」

     竹内「クトゥルフ神話生物!?」

     綾地「実際にいるのですね」

   デュアン「この世界には居ないが……俺のいた世界では邪神を降臨してでも神を殺すという国すら出てたからな」

 

異世界じゃよくある話である。勇者は神や精霊の力が宿る・・・というのもあるしな。勇者は神の加護を受け、精霊の力を

 

     保科「それだけ切羽詰まった世界だったってことか?」

   デュアン「それもある……んで、他に質問はあるか?」

     椎葉「それじゃあ……他に魔法使いになった世界ってある?」

   デュアン「ん?あー……まどマギか?」

     保科「まどかマギカ?」

   デュアン「ああ」

     竹内「あの世界って……この世界の魔女契約と同じ様なモノじゃなかったか?」

 

まあ、根本的な部分は同じだが・・・違うとすれば、契約の内容と魔法の発動ぐらいか?ソウルジェムが無いだけ、ありがたいと思う。

 

    デュアン「まあ、同じに見えるが……相馬さんやアカギの方が良心的だぞ?あのインキュベータはマジで殺し足りねぇよ」

 

魂レベルで破壊したい・・・オレの3台凶悪のトップ3に入るからな。あの時のオレは夜霧の力を借りられなかったからな・・・。

この"サノバウィッチ"の世界線では使用は出来ないが・・・

 

      因幡「何回殺したんですかっ!」

    デュアン「6300回かな?時間の巻き戻しを合わせるとそれぐらいだった」

 

      保科「殺しすぎだろ……いや、まどマギを見たことがあるから……同情出来ないが」

 

      椎葉「じゃあ、デュアンくんの尊敬しているのは何人居るの?」

 

    デュアン「俺が尊敬してるのは、二人だな。一人は魔王アノス・ヴォルディゴード……暴虐の限りを尽くした優しき魔王……そして、もう一人は、めだかボックスで、先輩でもあった……球磨川禊だね」

 

       保科「あー……デュアンの理想と言うか信念というか……つまり、その二人が唯一のお前の理解者なんだな」

 

というか、オレを理解できたのはあの二人ぐらいだ・・・

 

    デュアン「そう……魔王アノスからは優しさを学んだ……球磨川先輩からは人生という意味を、ね」

 

俺という世界にとっての異物は、時には「恐怖」を植え付けてしまう・・・誰かが言っていたな。「人は一人じゃ生きていけない。いつか孤独という病にかかる」と

 

 

     因幡「なるほど……デュアン先輩って、案外寂しがり屋なんですね」

 

     竹内「そうだなあ……聞いてみれば……そうなのかもしれない」

 

    綾地「デュアン君は、寂しがり屋さんですよ」

 

    椎葉「うん!たまに寝言で「一人にしないで」って幼い子供ぐらいに言ってるもん」

 

     デュアン「……、そう、なのか……そうか」

 

       保科「どうした、急にニヤけて」

     デュアン「お前の言う通り……俺は理解者が欲しかったんだ……紬が俺を認めてくれた……俺と運命を共にするって……だから、俺は……いつか、悩みも苦しみも無いような……お前らに胸を張れるような存在になりたい」

 

      竹内「それ、フラグになるやつや」

     デュアン「やめい」

 

 

こうして・・・俺の質問コーナーは幕を閉じた。

 

~~~~第二幕

 

    保科「なぁなぁ、デュアン……最近、「即死チート」のアニメが流行ってるんだが、デュアンはこの世界に行ったことがあるのか?」

 

    竹内「なんだっけ?」

  デュアン「異世界転移系の話……もちろん行ったことがある」

    保科「マジか!」

    綾地「デュアン君なら無双できそうですね」

    椎葉「だねー」

    因幡「正直な話……デュアン先輩は主人公に勝てるんですか?」

 

  デュアン「無理。高遠夜霧にだけは絶対に勝てない……いや、あいつに敵意や殺意を向けた瞬間に、転生できずにそのまま死ぬ……天界にバックアップ体があるが……あれは更新しなきゃ、経験値を引き継ぎできないからな……」

 

    保科「どんなことをしても?」

  デュアン「無理。あいつは殺意を感じた瞬間に「即死」させられる……オレがどうこうしようと……夜霧を殺すのは不可能だ」

 

アノスより強いんじゃないか?

 

    因幡「でも、即死なんですよね?」

  デュアン「んー……正確には「概念を終わらせる」力だったはず」

 

    椎葉「概念?」

  デュアン「ちなみに、オレにはどうすることも出来ない……概念を終わらせる……つまり、空から落としても「自分自身の落下距離を殺す」で普通にしてるし……第3門まで開放されたら、もうどうしようもない」

 

まあ、神様にはバレてないが、夜霧の能力に近い力を手に入ってるし・・・此処ぞという時にしか使わない。

 

そもそも、転生特典で「AΩ」を習得は出来ないからな。オレがアイツを解析した結果「人間」じゃない別の存在って認識だったからな・・・。アオイとかいう少女は夜霧を見た瞬間に心がポッキリ折れちゃったけど、オレは平気だったな。

 

つまり、AΩは高遠夜霧の付属部品ということになる。

 

殺意を放たずに、魔法や攻撃をしても・・・「概念で殺す」力で打ち消されるからな・・・よって、夜霧に対して殺害する方法はオレには無い。夜霧の能力に近しい力は、夜霧本人をベースにしているから、本人に使用すると、オレが死んでしまうからな。概念は殺されないが・・・・

 

    椎葉「そんなに強いんだ……」

  デュアン「だから、敵対せずに味方になったほうがお得」

    保科「概念を殺すってことは……レベルや魔法、スキルも殺せるのか?」

 

  デュアン「出来る……というか概念を持つものなら何でも殺せる」

 

    因幡「うわぁ、まさにチートですね」

  デュアン「即死耐性を持っていても意味がない……まさに敵対や殺意を持った瞬間に終わる」

 

    保科「他にどんな世界とかある?」

  デュアン「んー……落第騎士とか最弱無敗の神装機竜(バハムート)とか……あとは、ISだったり……うーんアブソリュート・デュオ……かな?」

 

    椎葉「IS……インフィニット・ストラトスだっけ?」

  デュアン「そそ……」

    竹内「あの世界って……女尊男卑のひどい世界じゃなかった?」

 

  デュアン「そうだな……逆に最弱無敗の方は男尊女卑だったな……旧帝国が滅んだら逆になったが……」

 

     保科「デュアンなら……普通に滅ぼしてそう」

  デュアン「ま、実際に殺してたからな……腐りきった人間を処分するのは、オレの十八番だから」

 

 

 



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同人誌ネタ

 

 

 

   デュアン「……柊史が言っていた、VRMMORPGか」

正直に言えば、SAOに近いゲームだ。

 

オレがバイトしている会社で、「アストラル能力」で作られてる。

 

Dhuan LV35

Kizna LV15

 

やっぱり、オレは狂ってるな。感覚が。

ちなみに、このプレイヤーネーム「Kizna」は我らのオカ研のメンバーの一人である「椎葉紬」である。

 

 

     椎葉「すっご~い……」

とはしゃいでいる。

 

   デュアン「そう、だな……凄いかな?魔法という非常識に慣れてるせいか……凄いのかどうか……」

 

しかもVRMMOって、SAO世界で何度もやってるし、極振り世界ではNWOをやってるからなあ・・・。

しかも今世は魔女やアルプがいるから・・・なぁ。

 

     椎葉「そう言えば……綾地さんと保科君は来なかったの?2人もプレイしてるんだよね?」

 

   デュアン「さあ?」

なんか、2人とも顔を真っ赤にして話を逸らしてたな・・・。

 

・・・・まさかな。そんな、まさか・・・。

 

ははは、オレは嫌な予感しかしない。

 

VRMMORPGってマーケティング的に13?SAOが倫理コードを外せば、エッチな行為が出来たけど・・・

 

まさか、このゲームに・・・そんなシステムは無いよな?このVRMMORPGに、そんな仕様は無いって信じてるぞ。

 

そうこうしてるうちに、俺らはクエストを受け、森林に来ていた

 

    椎葉「此処が依頼指定された、森?」

  デュアン「うぁ……ジメジメしてて如何にもってモンスターが居そうだ」

 

オレは、警戒心をMAXにしていたが・・・いきなり、モンスターが現れ、触手が紬を襲う。

 

感覚が慣れてないのか、咄嗟に反応が出来なくなってる。これは数々のVRMMO

 

 

    椎葉「きゃっ!?な、何このモンスター……」

触手が紬を弄んでいる。

 

  デュアン「っく!だぁあああ!!」

オレは、触手をぶった切った。

 

すると、切れた触手から霧のようなものが噴出された。

オレは咄嗟に腕で口と鼻を塞いだが・・・。

 

  デュアン「う、ぐ……なんだコレ」

オレの視界に見慣れないアイコンが多数存在する。

《興奮》《思考低下》《理性低下》《感情抑制低下》という名前のバットステータス・・・

 

  デュアン「……っ……っ……」

何だコレ。今まで感じたことのない感覚がオレを支配している。

紬を・・・犯したい、性欲を吐き出したい・・・という欲求がオレを支配している。

オレの感情を塗りつぶすだと?

 

ふざけるな!!

 

   椎葉「な、なにこれぇ」

触手が紬の太腿やお腹周りをぬるりと粘液を濡らしながら絡まっている。

 

  デュアン「……ぁぁあああああああああ!!」

オレは、ポッケに入れた「口封じダケ」「嗅覚低下ポーション」を食べ、匂いと口をバットステータスで塞ぐ。

3分間、ボイスコマンド及び、魔法などのスキルが使えないが・・・

紬を無理矢理、性欲の吐き出させるわけにはいかない。

それをやってはダメだと。オレの最後の理性が無理矢理オレを抑えている。剣の柄を血が滲むほど握りしめる。

 

    オレは・・・

 

  デュアン「!!!!!」

もう一つ腰に飾ってある剣を鞘から引き抜き、二刀流になる。

 

二刀流OSSスキル《イクスタキオン・ユニベーション》。

 

突っ込みながら、切り払い、突き攻撃、切り払い、上段攻撃、X字切り払い、切り上げ、切り払いを繰り返し行う13連撃技。

 

触手はバラバラになり、オレは剣を鞘に仕舞い、紬が落下してきたので、受け止める。

 

バットステータスが全部解除され・・・

 

   デュアン「ふぅ~……大丈夫か?」

     椎葉「~~~っ……だ、大丈夫じゃない……かも」

   デュアン「……え?」

     椎葉「わ、ワタシ……」

と、身体が触れた瞬間、俺らは自動ログアウトされた。

 

 

 

~~~~デュアンの家

 

   デュアン「うぅ……まだ変な感覚が残ってやがる」

     椎葉「わ、ワタシも……」

 

このゲーム、ナーヴギアより危険だろ・・・。このアストラル能力を扱っている会社、三司あやせや他の面々に文句言ってやる!!

 

なぜ?アイツ等の事を知ってるかって?オレも臨時バイトしてるんだよ!大学行って、まだ紬とは婚約関係だけど結婚まで早いと紬のお義父さんはおっしゃっていた・・・。「せめて安定した職や安定した生活費を稼がないと……結婚は認められないよ」とのこと。だから、オレは頑張っている。今のオレは6時間はあやせが運営している会社に出勤、6時間は相馬さんの所に、5時間は深夜の居酒屋バイト。睡眠時間はたったの3時間。まあ、これで月100万強もらえるからいいが・・・。年取ったら絶対にできないよな・・・大学卒業したら安定した職につかないと・・・。まあ、もう一つ秘密のアルバイトをしているが・・・それが公安の工作員。

 

だから、オレの今は月に600万近く稼いでいる。株とかの投資で2千万はいってるよな・・・。株とか投資はあくまでも趣味で稼いでいるレベルだ。この資金を増やして、タワマンを購入予定だ。

 

探偵業で、働こうかな?探偵って、安定した職だろうか?う~ん・・・まあ、オレには空のアカギ、地上の相馬さんが居るから・・・探偵職は合ってると思う。

 

まぁ、まだまだ勉強が足りないからな・・・太客を集めて、心の欠片を集めまくる。うん。その欠片を未だかつて人間なりきれないアカギに渡すか。紬と巡り合ったお礼として、ね。

 

まあ、いずれにせよ・・・

 

 

   デュアン「このVRゲームは二度とやらん」

     椎葉「でも、楽しかったよ?」

   デュアン「そう、か……?とにかく、明日は大学に行かなきゃならん……」

 

 

俺らの未来はまだ確定した訳ではない。

 

そう、卒業してすぐに結婚した和真と会長、綾地さんと柊史と違って・・・オレは大学3年になったら結婚を申し込む予定だ。

 

 

 

 

 

 

 



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番外編 クリスマス


※椎葉紬のアフターストーリーをベースにした、綾地寧々の時間遡行済みの話。



 

 

 

―――――紬が、再び魔女になる決断をし・・・柊史達と一緒に時間遡行し・・・2度目のクリスマスだ。

 

 

 

12月25日は、ごく当たり前の1日として過ぎていった・・・

 

 

   デュアン「イヴの24日は盛り上がるのに、クリスマス当日はなんか普通の日って感じだな」

 

     椎葉「まあ、平日で学院もあったからね」

放課後、オレ達は二人並んで下校していた。綾地さんと柊史も同じようにイチャイチャラブラブしながら帰っていったからな。海道とカズマ以外の男どもの嫉妬オーラが面白かったな。

 

話を戻そう。特に用事の無い日は、言えに集まるのが、最近の習慣になっている。

 

     椎葉「昨日のパーティーが楽しすぎたんだよ」

紬も、自然に腕を組んでくる

 

   デュアン「はは、……迷惑じゃなかった?」

     椎葉「全然っ、家族の皆はデュアンくんのこと素敵で面白い人だって言ってたもん」

そうだろうか?

 

    デュアン「面白い人か……?」

正直に言えば、怖い人だと思うんだが・・・

 

     椎葉「お母さんが言っていたよ?「あらあら、うふふ……孫が見れそうね」って言ったときのデュアンくんの顔が真っ赤になったり、真っ青になったり」

 

    デュアン「そりゃそうだ……高校生2年だぜ?オレら……近藤さんを使おうにも、お前が拒否するわ……がっちりホールドで決めるわで……、もっと……こう、健全でいこうよ」

 

     椎葉「むぅ……だってだって、デュアンくんと繋がってると……こう、満たされてる感じがするんだもん」

 

   デュアン「いやいやいや……紬。せめて、子供を作るなら……卒業後にしようぜ?」

 

     椎葉「いやだよぉ……だって直接出されたほうが気持ちがいいんだもん……それに、子宮の辺りがきゅ~っとなって、頭がふわふわする感じが好きだもん……だから絶対に譲れないよ」

 

   デュアン「ま、まぁ……確かに、それは同感……うん。でもな?流石に小学校から……続けてるんだぞ?」

 

頭が痛くなるよ・・・

 

     椎葉「そうだっけ?」

   デュアン「それに……青春時代の大事な時期……高校生中退で妊娠なんて……紬の親父さんにバレたら殺されるぞッ……確実になァ!」

 

     椎葉「お母さんが、その時に「あらあら、うふふ」って言いながら締め上げると思うよ?」

 

   デュアン「と、とにかく……紬に負担させたくないんだよ。……まぁ、それはおいおい考えるとして……今日はどうするんだ?」

 

     椎葉「今日、デュアンくんの家に泊まってもいい?」

  デュアン「構わんよ……しかし、まあ」

ふと、紬の制服姿をまじまじ眺める

 

     椎葉「ん?どうかしたかな?」

  デュアン「んいや、少しもったいないなあ、と思っただけだ……せっかく女の子の服になれるようになったのに、と……」

     椎葉「そうなんだけど……なんか、恥ずかしくて……」

紬は「えへへ」と照れながら言う

 

  デュアン「ま、……スカートだと脚とか出ちゃうもんな……しかし、う~ん……やはりもったいない」

 

既に魔女の契約から解放されてから、通算5年?時間遡行してるから5年近くだが、正確に言うならば数日だよな。

 

まあ、オレの前だけ女の子でいてくれるから、かなり嬉しいが。

 

う~ん・・・

 

    椎葉「そうかな?」

  デュアン「まあ……女の子の姿を独占できるから……オレ的にはおいしいんだが、……っは!」

 

    椎葉「もぅ……」

  デュアン「はははっ」

ちょっと照れてしまった。

 

そう言いながら、徒歩30分

 

   デュアン「ところでクリスマスイヴ、結局……みんなで過ごしただけになったけど……よかったのか?」

 

     椎葉「うーん、どうかな?ワタシにとっては充分特別だったよ」

 

   デュアン「そういうものなのかな……、……うんまあ、そういうものか」

 

自分で聞いておきながら、あえてさらっと流してしまう

 

たとえ君が満足でも、オレはそれ以上にもっと、もっと・・・それこそ未来永劫輪廻転生しても紬を大切にしてやりたいと思っている。

 

サプライズプレゼントを用意している。紬喜んでくれるかな?

 

 

~~~

 

    椎葉「あ、待って待って、デュアンくんはそこにいて?」

   デュアン「ん?」

    椎葉「いいからいいから」

帰宅してすぐに、なぜかドアのところで押し止められる。

 

紬は先に2つ先のドア・・・つまりリビングの奥へ行ってしまう。

 

   デュアン「ふむ」

    椎葉「じゃあ、デュアンくーん、入ってきていいよ?」

   デュアン「む?わかった」

リビングへ向かうと・・・

 

    椎葉「おかえりなさーい、デュアンくん」

ドアを開けると、紬がキッチンの方から小走りに駆け寄ってきた

 

   デュアン「……ただいま」

一瞬呆けてしまったが、すぐに立て直す

 

     椎葉「ちゅっ♪」

   デュアン「……~~っ」

そしてキスされたのである。これは・・・いわいる「新婚さん」というやつか?

 

    椎葉「えへへ、おかえりなさいのキスだよ?」

   デュアン「ふふっ、ただいま……ところで今の演出いる?」

    椎葉「うん……今のは、新婚さんっていう設定だったから」

   デュアン「ふむ」

    椎葉「だ、だって……このところ夜寝る前とかね、デュアンくんとこのまま結婚したら、どんな風かなっていっぱい想像しちゃったんだ」

 

   デュアン「なるほど……」

今度はオレのほうから抱き寄せて、唇を奪った

 

    椎葉「あっ、ちゅむ……んぅ、デュアンくん」

   デュアン「ただいま、紬」

    椎葉「え、えへへ、おかえりなさいのキスは2回目だよ?」

   デュアン「そうだったな」

 

それからペアのマグカップにココアを注ぎ、ソファへ移動する。

 

    椎葉「……ねえ、デュアンくん?もしね、サンタさんがいたらなにが欲しいってお願いする?」

 

   デュアン「えぇー1日遅いよ?」

そう言いつつも、欲しいものについて考える・・・

 

     椎葉「いいからっ、ほら、ワタシがサンタさんだと思って?」

   デュアン「そうだな……お嫁さんが欲しいかな?紬みたいな、優しくて、一生懸命で、一緒にいると、ほっと癒やされるようなお嫁さんがいいな」

 

ぶっちゃけ紬以外の嫁はあり得ないと思っている。ん?脳内の転生ヒロインズが猛抗議しているぞ?

 

     椎葉「えへへ……」

紬は照れたように笑いながら、膝の上へ横座りになってきた

 

     椎葉「じゃあ、はい……お嫁さんだよ?」

   デュアン「ふふふっ……やった」

こちらからも腰へ腕を回してやる

 

   デュアン「紬も、なにかサンタさんにお願いしたいものがある?」

     椎葉「そうだなー、ワタシも旦那様が欲しいかな?デュアンくんみたいな、やさしくて、頼りがいがあって……一緒にいると、ドキドキさせてくれるような、王子様がいいな」

 

   デュアン「旦那様で、王子様なの?」

     椎葉「そうだよ、ワタシの王子様?」

   デュアン「あははっ、オレに王子様は無理だよ……でも、かぼちゃの馬車に見えないこともないかな?」

 

     椎葉「ん?どういうこと?」

オレは、立ち上がり・・・ソファーの下に隠してあったプレゼントを差し出した

 

   デュアン「はい、クリスマスプレゼント……まあ、ちょっと気合い入れてみた」

 

これがオレのちょっとしたサプライズだった

 

     椎葉「……うそ、開けていいの?」

   デュアン「ああ、サンタさんじゃ、ちょっと思いつかないんじゃないかな」

 

紬は破かないように、丁寧に包装をほどいていく

 

一応、自信はあるつもりでいる。

 

けどそれでも、本当に気に入ってもらえるか、ドキドキしてしまう

 

     椎葉「あっ、ウサギのサンタさん?」

   デュアン「そう、ソリのところが小物入れになってるヤツ……前、というより時間遡行前に雑貨屋でいいって言ってたから、この間こっそり買いに行った」

 

     椎葉「デュアンくん……それにこれ、小物入れに入ってるの?」

 

ちっちゃいジャック・オー・ランタンが乗せられていたのだ

 

   デュアン「ハロウィンパーティーの思い出、でしょ?サンタの格好をしたランタンはみつからなくてさ、でもほら……ちょうどガボチャの馬車みたいでしょ?」

 

     椎葉「うん、そんなところまで、覚えててくれたんだ……」

紬の瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。

 

   デュアン「えっ、そそ、そこまで?」

     椎葉「だって……嬉しくて、本当に……シンデレラになれたみたいな気持ちなんだもん……、……ワタシも、もっといいのを用意しとけばよかった」

 

   デュアン「ひょっとして、紬もなにか用意してくれたのか?」

     椎葉「うん、ワタシも……がんばってプレゼントを用意してたんだけど……デュアンくんの後じゃ、ちょっと出しづらいな」

 

   デュアン「どうしてだ?紬がくれる物なら、なんでも嬉しいぜ?」

     椎葉「だって……なんだか、恥ずかしくて」

   デュアン「え?恥ずかしい……?」

     椎葉「……笑わないでね?」

紬が渡してくれたのは、手袋だった。

うむ?売り物にしては、編み目が荒いような・・・あっ、これ

 

   デュアン「これは……まさか、手編みなの?」

     椎葉「あーもう、やっぱり分かっちゃう?あんまり上手くないから、やめとけばよかったかなって、自分でも後悔してたんだから」

 

   デュアン「何言ってるんだ……上手くなくても、下手くそでも……そこに真心が籠もって、大好きな人のお手製なら嬉しいものだよ」

 

オレはそう言いながら、さっそく手袋を装着して見せる

 

   デュアン「おおぉー、すごく温かいや、これ」

     椎葉「でゅ、デュアンくん?部屋の中なのに、つけても仕方ないよ」

 

   デュアン「だって、だって……すごく嬉しいんだ!」

思わず、窓から斜めに入ってくる夕日へかざしてしまう

 

   デュアン「……宝物だな」

ストレージボックスにしまっとこう。まあ、転生前にだが

 

     椎葉「も、もう、本当に大袈裟だよっ……こっちの方が、ずっと宝物だもん」

 

オレがプレゼントした小物入れを大事そうに抱える

 

   デュアン「そ、そうか?」

     椎葉「えへへ……やっぱり手袋くらいじゃ、全然かなわないな」

 

   デュアン「そんなことないぜ?サンタのジャック・オー・ランタンがないなら、作ればよかったんだよな」

 

だけど、オレ・・・工作系のクラフトって得意じゃないんだよな

 

     椎葉「ううん、これがいい……これが一番、素敵なプレゼントだもん」

   デュアン「紬……この手袋だって、オレにとっては最高だ……ちゃんと毎日輪廻転生しても使うからな!」

 

     椎葉「えへへ、ちょっと恥ずかしいけど……そうしてくれると、嬉しいな……、……あれ?うーん……まあいっか。来年までには、もうちょっと上手になっておくね」

 

   デュアン「本当に?来年もくれるの?」

     椎葉「来年も、再来年もだよ……あっ、でも次はマフラーとかにするかもだけど」

 

   デュアン「マフラーは今つけてるのが気に入ってるから……さ」

     椎葉「じゃあ、別のにするね」

   デュアン「ありがとう」

     椎葉「やっぱり、もうちょっとデュアンくんを喜ばせてあげたいな」

 

   デュアン「気にするな、充分過ぎるくらい嬉しいって」

     椎葉「だーめ、ワタシが納得できないの」

オレの膝から降りると、紬は何故か少しはにかむようにした

 

     椎葉「……着替えて来るから、ちょっとだけ待っててくれる?」

 

   デュアン「そんなの持ってきたんだ?」

     椎葉「うん、それと……シャワー、借りちゃっていいかな」

   デュアン「ん?それは構わないよ」

     椎葉「えへへ……じゃあデュアンくん?ちょっとだけ、待っててね」

 

~~~~~~

 

ずいぶん、日が落ちるのが早くなったな・・・

 

いつもより、時間かかっているかな?

 

 

ふむ、多分着替えのせいなんだろうけど、流石にそわそわしてしまう

 

    椎葉「……デュアンくん?お待たせ」

けどそこで、先に紬が出てきてしまう。

 

   デュアン「い、いや、気にし……」

    椎亜「えへへ、びっくりしたってことは、覚えててくれたんだよね?」

 

   デュアン「ハロウィンの時にした小悪魔コス?」

    椎葉「うん、この角……デュアンくんが、つけてくれたんだよ」

   デュアン「服まで……用意したんだ?」

椎葉「大切な、思い出だから……また、でゅ、デュアンくんに見せるときが、来るかもって思ってたから」

 

   デュアン「うん、やっぱり可愛いよ、最高に」

    椎葉「えへへ、ワタシも……そう言ってくれたこと、ちゃんと覚えてたから」

 

    椎葉「これじゃ、お返しにならない?」

   デュアン「まさか!」

けど言葉にするよりも先に、身体が動いていた

 

    椎葉「ひゃんっ、でゅ、デュアンくん?」

デュアン「最高だ」

思いっ切り抱き締め、耳元へそう囁いた

すると紬の手も、背中へ回されてくる。二人の間で豊かな乳房が柔らかく潰れた

 

    椎葉「大好きだよ、デュアンくん……格好は、ハロウィンだけど……今日のワタシはデュアンくんへのクリスマスプレゼントなんだからね?」

 

デュアン「……紬」

    椎葉「デュアンくん……ちゅっ」

唇を重ねると後はもう、二人の情熱を止める術など、どこにもなかった。

 

   椎葉「はあっ……んぅ、デュアンくん……デュアンくん、んっ……んふっ」

 

  デュアン「うぉぅ……紬……紬……ど、どこでこんな知識をっ……くぅ、……はあ、はあ」

 

~~~~~~~

その夜

 

   デュアン「あ!!忘れてた……」

     椎葉「ふぇ?」

オレはリビングにある、本棚を整頓すると、本棚が動く

 

そこには金庫が置いてある。

 

家のカードをスキャンしたら、今度は壁からコード付きの双眼鏡が現れ、それを覗く。すると、今度は指紋認証が要求され、人差し指と中指に触れ、第二段回に以降した時に親指と中指を触れると、立体パネルが現れ、赤い文字で66秒66秒以内に24桁のパスワードを入力する。

すると、金庫の中身が開き、中には袋が入っていた

 

 

    デュアン「紬……これ、プレゼントだ」

      椎葉「此処で開けても良い?」

    デュアン「構わないよ」

紬が袋を開けると・・・・

 

      椎葉「こ、これって……ワタシが魔女姿の衣装だよね?デュアンくん作ったの!?」

 

    デュアン「まあな……」

      椎葉「完成度が高い……しかも帽子まで……」

    デュアン「まあ、このくらいしかできないからね……」

 

こうして、経28回も中出しをしてしまった。

 

・・・子供ができたら、腹を括るか。

 

 

こうして、長い長い12月25日は終わりを迎えた。

   

 

 

 

 

 



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Chapter1
Ep1 神も処女だったんだな・・・


   ???「貴方ってばことごとく、日常世界に転生しても……失敗するとか、アホなの?」

 

うわぁ・・・酷い言われよう。

 

  デュアン「……と言ってもよ……俺は"神殺し"の称号を持ち、尚且……お前の部下でもあるんだぜ?無茶言うなよ……俺が日常を送れば、送るほど……オレ(デュアン)と言う存在は薄れる」

 

とオレは神様に言ってみるが・・・

 

   ???「ま……私達の存在を殺すために、半妖の殻を捨て……外宇宙の神"イヴ・スティトル"と契約し、支配下に置くキミに……日常を送るっていうのが間違えだったのかもしれないね」

 

と嫌味を言うが・・・

 

  デュアン「支配下じゃねぇ……イヴ・スティトル……イヴはオレの分身であり、相棒だ。オレが出来ないこと……やれないこと、悩んでいることがあれば、相談してくれるヤツだ」

 

転生神はオレを逆撫でするのが好きなのか?

 

   ???「結局Toloveるの世界でも失敗するなんて……アホなの?金色の闇は貴方に恋をしてたと思うよ?」

 

  デュアン「……それは神としてのお告げか?それとも"女"としての感か?」

 

   ???「鈍感野郎……ラノベ主人公よりも鈍感とか手に負えないわー」

 

なっ!

 

  デュアン「オレがキリトや、達也達と以上だと?ふざけんな、この野郎!良いじゃねぇか!俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやる……言え!次の世界線は何処だ!」

 

   ???「……サノバウィッチ」

 

・・・・は?

 

  デュアン「エロゲじゃねぇか!しかも魔法使いが居る……う~ん……ミュウも持っていける……あ」

 

オレは気づいたぞ!気づいてしまったぞ・・・

 

 

  デュアン「お前……オレが"ミュウ"になれる世界を選んでやがるな……一部例外は除くが……ほとんど、ミュウになれる世界じゃねぇか……」

 

   ???「そうね……んで、貴方は"サノバウィッチ"で魔法使いという存在だわ……契約の代償が"水をかぶると女体化"……それで、契約の能力は"全ての理を捻じ曲げる程度の能力"」

 

うわぁー・・・とんでもない力だなあ・・・。

 

  デュアン「日常世界で一番持っちゃいけない能力をぶっこむね」

 

とオレはそう言うと・・・

 

   ???「それにしても以外だわ……貴方が"サノバウィッチ"というゲームを知っているなんて」

 

  デュアン「まぁ……最初に知ったのがTRPGのプレイ動画を見てた時に……あっ……面白いキャラだ。どんなのだろう?って調べてたら……エロゲだという事に……もっと言えば……いろんなエロゲを知ってしまった」

 

   ???「何でエロゲという恋愛シュミレーションゲームで……其処まで鈍くなるのか、逆に知りたいわ」

 

  デュアン「エロゲを恋愛コミュニティに変換する、お前の方がおかしいと思う……神が性欲を勧めるとかアホじゃねぇの?何?煩悩の神なの?」

 

   ???「……………」

どうやら、転生神は処女だな。童貞というより人間性を捨てた俺に"性欲"いいや"欲求"すら捨てた俺に、今更・・・う~ん・・・。

 

  デュアン「まっ……オレも人のこと言えないかもな……他の世界線のオレは童貞だったり、童貞卒業だったり……」

 

なんか、考えることがバカバカしくなった・・・

 

   ???「……扉を開くわ。貴方が誰を攻略するか楽しみよ……」

と良い、(ゲート)を開いてくれる。

 

  デュアン「ま……オレの萌ポイントを的確に当てられたら……その世界に天寿を(まっと)うするまで生きてやるよ……」

 

と言い・・・門を潜る。

 

   

 

 

 

 

   ???「……言質は取ったわよ」

と呟く・・・

 

   ???「恋人かあ……う~ん。今度お見舞いしてみるか」

と空を見上げて、呟く




今までプレイしたエロゲ:
始めた理由は、分岐ルートゲーがやりたかっただけ(ギャルゲーでも良いじゃん?と思ったが、一般向けはつまらない。

やはり、生々しいことは苦手(好きなキャラのエロシーンは絶対に見たくない)。

初見プレイが大好きです。

「サノバウィッチ」

プレイした理由:
TRPG「シリゴミ卓」の綾地寧々がどんな人物か?と調べてるうちに、エロゲキャラだと発覚した。エロシーンは苦痛でしかない為、ほとんど飛ばしている・・・(エロゲの意味は?

最初に攻略したのは、綾地寧々。
他のヒロインを攻略しようと・・・プレイしている。
「9-nine」
現在プレイ中。全般向けもある。

プレイ理由:
不明。

「いろとりどりのセカイ」
"二階堂真紅"を攻略するのに、ヒロインを全攻略とか・・・

作者は、最初に攻略した人物は"東峰つかさ"

プレイ理由:
これも不明。

「響野さん家はエロゲ屋さん」
結構面白い。

最初に攻略したのは幼馴染(当たり前だよなぁ!)
その次は、ヒロインの三女。

プレイ理由:
√ゲーをやりたいとおもったきっかけの一つ。









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Ep2 女の子にも賢者タイムはあるのか・・・ By柊史

―――――放課後。

 

  デュアン「……くぁぁあ~」

と欠伸を掻きながら机に突っ伏した

 

    保科「お前……寝てたくせに何で先生が指名された時に直ぐに答えられるんだ?」

 

とアホな質問する保科であるが・・・そんなの簡単じゃねぇか。

 

  デュアン「いや、保科。教師が言うのは……基本は教科書に載っていることだ……授業を始まってから、何処までやったかを計算すれば誰にだって……いや保科にだってできると思うぞ?」

 

とオレは答えを言う。

ま、俗に言うルルーシュ式回答方法である。ま、オレもできる時と出来ない時があるから、毎回できることではない。

 

    保科「ふむぅ……でも、授業はちゃんと聞くべきだとオレは思うぞ……何のために学校へ来てるんだ?」

 

と言うので・・・

 

  デュアン「親の遺言のため、かな?それに……高校までの学歴があれば就職活動に役に立つから、かな?」

 

とオレはそう言うと・・・

 

    保科「……お前も大変だな」

と言うと・・・

 

  デュアン「そういうお前も、な。秋田さんがお前を誘ってるから……オレは先に、失礼するわ、じゃあな」

 

    保科「お、おぅ」

  デュアン「……安請け合いだけはするなよ。尻拭いは基本、俺がやんなきゃならんからな」

 

と釘を差しとおく。

 

    保科「……(言えるはずがない……既に引き受けている……なんて)」

 

  デュアン「はぁー……ほどほどにしろよ?仮屋さんや海道にも言われてるだろ?んで、誰に頼まれたんだ?」

 

と溜息を吐き、ジト目で保科に聞く。

 

    保科「秋田さんの仕事を引き受けた」

あ、あの合コンの女王と呼ばれているヤツにか・・・

あ~・・・頭が痛い。

 

  デュアン「なぁ、保科。お前が断りにくい性格なのは知ってるんだけどさ……少しは気をつけたほうが良いと思うぞ?下手をすると本当に取り返しのつかないことになるぞ」

 

と頭を抱えて注意する。

 

    保科「それ、狩屋にも言われたよ……あと海道にも」

  デュアン「良心的な友達を持てて、オレは嬉しいぞ……まぁ、兎に角、オレはこの後、部活だから……」

 

    保科「部活……?あぁ綾地さんのオカルト研究部に所属してるんだっけ?」

 

  デュアン「あぁ」

    保科「面白い?」

  デュアン「最近は暇だな」

と言うと・・・

 

    保科「そうか……」

と言い・・・オレは、保科と別れる

 

~オカルト部~

 

  デュアン「…………」

    綾地「…………」

 

う~ん・・・気まずい。

 

  デュアン「綾地さん?もしかして怒ってらっしゃいます?」

と言うと・・・

 

    綾地「…………」

まじでだんまりはキツイぞ・・・

 

  デュアン「綾地さーん?もしもーし、聞こえてますか?アッ……コレハキコエテナイナコレハ」

 

と諦めながら、溜息を吐こうと、綾地さんの表情を見ると・・・おや?

 

    綾地「……」

おや?綾地さん。何でもじもじとしてらっしゃるんですか?

あれ?部屋から出ちゃった・・・

なっ!?ま、まさか・・・

 

  デュアン「防音防壁の魔法使わないとダメじゃないか?あっ……や、ヤバい……」

 

と冷静に分析する・・・

あ、頭が痛くなる。あと胃が痛い。

 

 

~図書室~

 

 

    綾地「……」

    ??「調べ物か?デュアン……こんな時間から?」

   デュアン「えぇ……ちょっと、綾地さんと一緒に調べれば30分もかからないと思います」

 

    ??「……。まぁ、綾地とデュアンなら信頼もできるか。分かった、それじゃ鍵を預けよう」

 

と言い、先生は俺に鍵を渡す。

 

   デュアン「じゃあ……終わりましたら返しますので……ありがとうございます」

 

    ??「うむ。後、施錠はしっかりするように」

    綾地「分かりました。ありがとう……ござ、います」

もう綾地さんは限界のようだ・・・

 

    ??「じゃ、そういう事で……」

と先生はそう言い、図書室へと出る。

 

    綾地「は、はい……気をつけます……っ……ハァ、ハァ」

とだいぶ興奮していく・・・

 

  デュアン「……行った、みたいだな」

と気配で探る。

 

 

    綾地「でゅ、デュアンさん……お願いできます、か?」

そんな切なそうな声で喋らないでもらえませんか?俺も男ですよ?感情や欲求はほぼ無いとは言え・・・少し変な気分になってしまう。と思いつつ防音・防壁の完全遮断魔法をしようする。この魔法・・・殺人事件に使われたら絶対に不可能犯罪密室殺人を作り出せる魔法だよな。

 

  デュアン「よし……後は……」

オレは、図書室の一角に隠れ、耳をふさぎ目を閉じ・・・全神経をシャットアウトする準備を整えようとした時・・・・妙な気配を感じた。

 

―――――――此処で、大問題を起こしてしまった(やらかしてしまった)のだ。

 

まさか・・・オレの他に見られたなんて・・・

 

    寧々「保科君。珍しいところで会いますね。図書室でなにか調べ物ですか?こんな時間まで大変ですね」

 

綾地、見られてるなら時既に遅し・・・だぞ?

 

 

    保科「え、あ……ああ、うん。綾地さんも」

保科は全部見ていたようだ・・・

 

    綾地「別に大変なんかじゃないですよっ」

もうごまかしきれんぞ・・・流石に

 

    保科「お、おう……そっか……そうだね、ごめん…………ってぇ!」

しかも、机もすっかりきれいになっている。あの数秒で、此処まで冷静んいなるとは・・・・さっきのは見間違えかと自分を疑いたくなる。

けど・・・動揺しているような気持ちも全然伝わって来ない。むしろ冷静過ぎて、ちょっと背中が冷たくなってくるぐらい・・・。

――――女の子にも賢者タイムってあるの?とオレはくだらんことを考えてると、デュアンに殴られる。

  デュアン「お前さ……もう少し、言葉を考えろよ……」

と保科に注意をすると・・・

 

    保科「え?じゃあ……ところで、あの、綾地さん……さっきのことなんだけど―――――」

 

 

なんてことを言うんだ!!

 

    綾地「え?なんですか?

鈍感系主人公スキル!?

 

    保科「い、いや……………ううん、なんでも……なんでも、ないです」

 

と諦める。

 

   綾地「そうですか。ところで……もう、帰らないといけない時間ですよね?」

 

とニコニコした表情でそう言うと・・・

 

   保科「あ、ああ、うん。実は図書委員の仕事を頼まれたついでに、奥で本を読んでいたんだ……けど、もう帰るところ……だったんだ、本当に。だから偶然だったんだけど、その……えっと……驚かせたなら、ごめん」

 

と素直に謝るのは良いところだが・・・今の綾地にとっては逆効果だぞ?

 

   綾地「…………」

と綾地は普段どおりニコニコしているが・・・

 

   柊史「…………いや、何でもありません。なんでも無いので、気にしないで下さい」

柊史は顔を引きつって笑っている・・・

 

   綾地「分かりました。私は用事が終わったので、先に帰りますね。保科くんもあまり遅くならないように、気をつけた方がいいですよ」

 

とニコニコしている・・・怖いぞ。

 

柊史「そう、だね。あっ、此処の鍵はオレが掛けておくから。先生にもオレが適当に説明しておくよ」

 

  綾地「ありがとうございます。それじゃあ鍵を」

 柊史「預かる」

  綾地「久島先生に返しておいて下さい。それじゃあ、私はこれで。さようなら、保科君」

 

柊史「じゃあ、また」

綾地さんは鞄を持ち、慌てず、笑顔を崩さず、ゆっくりと図書室を出ていく・・・。

 

 デュアン「バカバカしい……オレも帰ろうっと……じゃあね。保科」

と綾地のフォローしながら・・・帰る・・・

 

柊史と綾地さんのすれ違い様に・・・

 

  綾地「ありえない……これは夢……夢、悪夢……そう、悪夢……悪夢に違いない……そうじゃないとおかしい、こんなこと、ありえないありえないありえない……」

 

と綾地さんがそうつぶやきが聞こえた・・・

あーあ・・・綾地さんのSAN値が吹き飛んじまった・・・ま、当たり前か・・・クラスの子に自慰を見られるなんて・・・

 

少し、分かる気がする・・・。大変な代償だなあ・・・と他人事に思う、オレは・・・いつか罰が当たるだろう・・・と思っていた。

 

 

 

 



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Ep3 駄目だよ保科、それだけは絶対に駄目だ。

――――――次の日。

 

 

   保科「……(綾地さんはまだ来てない、か)」

と昨日落としていった生徒手帳を渡そうと思ったが・・・本人が来てないなら「アイツ」に渡すか?

 

   秀明「おはよう。どうかしたのか?」

と海道が挨拶してきた。

 

   保科「おはよう、別になんでも無いから気にするな」

 

   秀明「それで?昨日はどうだった?」

き、昨日だと!?

 

   保科「どっ、どうって!?いきなりそんなことを訊かれても!?」

や、やばい・・・昨日は・・・あっあっ・・・

 

   秀明「は??そんなに大変だったの()どおなんだ(・・・・・)?」

 

   保科「た、大変だった角o(ry」

オレが次のセリフを言おうとしたら・・・ハリセンでぶっ叩かれた。

 

  デュアン「おはよう、保科くゥ~ン」

とオレはどす黒い笑顔で挨拶する。

 

   秀明「おはよう、デュアン」

  デュアン「おう……おはよう、海道」

   秀明「…………」

海道が考え込んでしまった・・・

 

  デュアン「……」

   秀明「……何いってんの、お前。朝からいきなり下ネタ?」

と、海道は保科に憐れむ・・・いや、あれは可愛そうな子を見るような目で見ている。

 

   保科「え!?い、いや、そういうわけじゃないけどっ」

「こいつ余計なことを言うんじゃねぇだろうな?」と、デュアンの殺気が目立つ。こ、コワイ・・・だが、見る目が殺気に満ちてるのに・・・心はむしろ「殺す気がない」という感情になってる。

 

  デュアン「海道……悪いな。こいつは"エロ"という二文字に疎いだろ?そもそも、こいつに"下ネタ"が言えたことさえ奇跡に親しいんだ。今日が雪や槍が降ってもおかしくないんだ」

 

と、デュアンはフォローの欠片もない言葉だが。なんだか優しさも含まれてる。不思議。

 

   保科「オレの印象ひどくね!?」

   秀明「それも……そうか、保科が、ね~」

と海道の口がニヤけている。

 

 

―――――時は遡り、デュアンSide

 

  

   デュアン「はぁ~……憂鬱」

まさか、保科が綾地さんの自慰行動がバレるとは思わなかったぞ。保科が余計なことを言う前に処理しないとな・・・綾地さんの名誉の為に。それに・・・保科には綾地さんの恥ずかしいところの責任を取ってもらえなければ、よって、保科を綾地さんとのカップリングをさせることができるよな・・・。

 

 

 

   デュアン「……ん?あ、綾地さん……おはよう」

と、軽く挨拶する。

 

     綾地「あ、おはようございます、デュアンくん」

   デュアン「《緩和》……っと……一応、急な欲求不満は緩和される……あ、ちなみに10時間がリミットだからね……それ以降は普通に解除されるよ」

 

魔女の契約の代償は基本的に「緩和」はできる。もちろん「中和」も。だが、「中和」の場合・・・解除されたときが大変だ。

 

     綾地「はい。ありがとうございます……うん。ハイ」

綾地さんは、どんどんハイライトが消えていって・・・

 

   デュアン「はぁ~……前にも言ったが……綾地さんが求めるそれは……"人間として当たり前の欲求だ""人類の繁栄は、そういう行為で生まれる物"だ……良いか?お前は頭は良いが……バカだ」

 

    綾地「ふぇ!?」

と、情けない声を上げる・・・

 

   デュアン「……ま、オレもその"バカ"なんだけどな」

と、そう言いながら・・・教室へと向かう。

 

 

んで、丁度。保科が昨日の綾地さんの情事をバラそうとしたので、オレはバックからハリセンを取り出し・・・保科の頭を叩いた。

 

  

 

~時間を戻り、保科Side

 

   デュアン「…………」

     保科「……」

     綾地「あっ……おはようございます。保科くん、デュアンくん」

   

綾地さんは、ニコニコといつも通りの声色で、挨拶をする。だが、オレは感じる。二人の強い感情が・・・いやデュアンはそれ以上だ。「チクったら、お前を殺す」と。綾地さんは、ネガティブ思考?だが・・・なぜ、デュアンは、綾地さん以上の感情を抱いているのだろうか?もしかして・・・綾地さんとデュアンは付き合ってるのか?

 

     保科「なぁ……デュアン」

   デュアン「ん?どうした……?」

     保科「デュアンと綾地さんって……付き合ってるのか?」

と・・・オレは言うと

 

     秀明「何!?デュアンと綾地さんが……お付き合いしているだと!?」

 

クラス全員が食いついた・・・

 

   デュアン「いや、オレと綾地さんは……恋人という関係ではない。どちらかと言うと……オカルト研究部に所属している友達だぞ?なぜ、それでLoveという発想に抱いたのか……」

 

とデュアンは、オレの肩を組み・・・顔を近づけた

 

   デュアン「昨日見たことは……絶対に言うな。お前は、もう。此方側に踏み込んでしまった。その責任をとって貰うぞ」

 

あぁ。そういうこと・・・

 

     綾地「っ……デュアンくんは……私の幼馴染、ですよ?それ以外、それ以上の関係は無いです」

 

      

そうそう。俺と綾地とは幼馴染・・・。魔女になるときにも一緒にいたしな・・・。

 

 

   デュアン「そういうことだ、分かったかね」

と俺はそう言い、納得する海道と保科。

 

     海道「ほぅほぅ……成程」

と腕を組み、納得する。

 

 

この話を無理矢理に切り上げたデュアン。

 

成程、昨日の図書室の話題はNGということか。

 

 

すると、授業のチャイムが鳴り響く。

 

    海道「―――っと、チャイムだ」

    保科「あれ?仮屋がまだ来てないな」

俺はそう言うと・・・海道が「本当だ……珍しい。休みかな?」と答えた。

 

すると、廊下からバタバタと足音が聞こえ、乱暴にドアを開け、廊下へと入ってきた。

 

    和奏「とぉー!せ、セーフ?セーフ?」

と慌てて言う。

 

   海道「先生はまだ来てないな……だから、セーフじゃないか?」

とツッコミを入れた。

 

   和奏「良かったぁ……はぁ、はぁ……あー、しんど。寝起きの全力疾走は辛い……」

 

   保科「おはよう。遅刻ギリギリなんて珍しいな」

と俺はそう言うと・・・

 

   和奏「大したことじゃ無いんだけど、寝坊しちゃってさ。おはよ。2人とも」

 

とそういうと・・・・

 

    海道「おはよー。なんだ?夜更しでもしてたのか?」

  

 

 

―――――Side デュアンin

 

 

 

 

 

 

  



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Ep4 和奏さんはギターを買うようです

――――デュアンSide

 

   デュアン「……」

保科は・・・うん。釘を差したから言わないだろう。

 

さてと、綾地さんは何時あのことをバラさられるかハラハラしていて、授業に集中できないでいる。

俺は、数少ない親友の保科を信じている。  

 

あぁ・・・駄目だこの二人。似た者同士すぎるぞ。

 

   

 

 

 

―――――俺は席につくと、廊下から走ってくる音が聞こえ、振り向くと・・・遅刻ギリギリで教室に入ってきた和奏さんではないか。

 

三人は他愛のない挨拶を交わしている・・・

 

 

    和奏「例のバイト。もうすぐお給料が貰えて、目標額に達するんだ」

と嬉しそうに話す。そういや、仮屋さんは綾地さんに相談を持ちかけてたな。

 

    保科「へー。じゃあ本当に買うんだ、ギター」

    和奏「うん。でさ、思ってた予算よりも少し多めになりそうだから、改めて買うギターについて考えてたら、思った以上に時間が過ぎちゃってね」

 

まぁ、ぶっちゃけた話。ギターの値段って振れ幅が大きいんだよな。

 

え?この俺、デュアンが弾けるかって?そりゃもちろん、音楽のことなら前世で死ぬほど練習したからな。「ピアノ」「チェロ」「ギター」「ベース」と言った諸々。弾けない楽器なんてものは存在しないようなものだ。歌も完璧。正直に言えば、転生特典固定の「完全記憶能力」「瞬間記憶能力」「理解応用力」はチート過ぎたな。

 

    和奏「ふぁ~~~……眠い……」

仮屋さんは、可愛らしい大きな欠伸をした。

 

  デュアン「これでも飲んで……眠気をふっとばしたら?仮屋さん」

俺は、カバンから黒色の缶を渡した・・・

 

    和奏「ありがと……」

とお礼を言い、渡されたドリンクをごくごくと飲んだ・・・

 

    保科「で?どれにするのか決まったの?」

    和奏「ううんまだ。でも、目星は付けたから、あとは実際に触れてから決めるよ。んー、今から楽しみだー、うひひひ」

 

すごいテンションだ・・・・

 

    海道「デュアン……お前、和奏ちゃんに何を渡したんだ?」

  デュアン「モンエナ……俺が普段飲んでるヤツの下位版だな」

    海道「はぁ!?お前……まさか、一日に200ml缶5本飲んだら、天に召されてしまうあのトリプルチャージを飲んでるのか?!」

 

  デュアン「あぁ……俺が愛用してるのは500ml缶だけどね」

    保科「こいつ……いつか死ぬな」

    海道「あぁ……間違いなく」

  デュアン「?」

 

そんな他愛のない話をしてると・・・先生が教室に入ってきた。

 

   ?「全員席に付きなさい、出席を取るよ。名前を呼ぶまでに着席してないと遅刻扱いだ」

 

先生はそう言うと・・・仮屋は「うわっ!?そんなことになったら、全力疾走してきた意味が!?」と愕然としていた・・・

 

俺や、海道、保科は既に着席してるからな・・・

仮屋は急いで席についた。

 

教壇にたち、出席を取り始めるのは、我らの人気絶好調の久島佳苗先生である。現国の教師で、俺たちの担任・・・そして、オカルト研究部の顧問の先生でもある。

 

   佳苗「今日も欠席者なし。皆、健康で何よりだ。それでは今日も一日頑張るように」

 

と、久島先生はそう言うと、クラス一同は「はい」と返事をした。

 

  デュアン「…………」

俺は、目を閉じ右手で頬杖を付き、左手でシャープペンを持った。

完全に授業を寝て、起きたらメモを取る算段のつもりだ。

 

    佳苗「ああ、そうだ。それから保科」

先生は、保科を指名した。何か用でもあるのか?それとも保科がなにかやらかしたか?

 

    保科「……はい?」

保科が返事をすると・・・

 

    佳苗「昼休み、昼食後でいいから職員室に来るように。少し話があるから」

 

と予想通り、呼び出しを食らったようだ。

 

    保科「あー……はい。分かりました」

    佳苗「素直でよろしい。では、バックレないように」

保科の性格上、バックレるってことは絶対に無い。

 

    保科「……うっす」

と返事をした。

 

    和奏「おやおや」

    海道「まあまあ」

と二人が夫婦漫才が如く、返事をする。

 

    和奏「佳苗ちゃんが呼び出すなんて珍しい。何かしたの?心当たりは?」

 

おいおい、親友を疑うなんて失礼じゃないのか?いや、親友だから心配してるのか・・・

 

     保科「そうだなぁ……昨日のことぐらいかな?」

あぁ・・・読めてきたぞ

 

    海道「昨日?」

海道は腕を組み、少し考え始めた・・・・

 

    保科「図書館の仕事。作業自体は楽だったけど、時間が掛かっちゃってさ。結局俺が鍵を閉めて返却しに行ったんだ……多分、そのことで呼ばれたんじゃないか?昨日、なにか言いたそうな顔をしてたし」

 

昨日、久島先生が何か言いたそう・・・ふむ。成程

 

   和奏「ふーん、そうなんだ?」

   海道「仕事を変わった上に、呼び出しまでされるとは……貧乏くじだな……」

 

と二人は保科にいう・・・

ふむ・・・フォローはしとくか。

 

  デュアン「おそらく、久島先生が呼び出した理由はいくつか思いつくぞ……一つは"図書室の鍵の返却が遅延したこと"……まぁ、これはあくまでオマケだろう……2つ目は"保科が他人の仕事を引き受けることに疑問を投げかけられる"……まぁ、教師目線の心配だな。3つ目は"プライベートの時間を増やせ"だろうな」

 

本当に分かりやすい人だな。

 

    保科「なぬ!?」

  デュアン「まぁ……そろそろ、席に戻らないと……本当に遅刻扱いされるぞ」

 

と言い・・・全員を席につかせた

 

 

そうして、始まるいつも通りの授業。

教科書の中身を読む久島先生。

 

俺は退屈で、完全に寝てしまった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep5 マイナスになるなよ、綾地さん

――――――放課後。

 

   デュアン「……」

俺は5時間目以降の授業の内容をノートに書き写した。

 

5分で書き終わり、ノートを仕舞い、鞄の中へ入れ・・・オカ研へと向かった。

 

 

~オカルト研究部~

 

   デュアン「……」

     綾地「……」

綾地さん・・・黙ってないでなにか言ってくださいよ。

 

   デュアン「保科がアレをバラす確率は……限りなく0%に近いぞ。だから、そんな顔をするな」

 

と、慰めの言葉をかけるも・・・

 

     綾地「で、でも……」

   デュアン「でももへちまもねぇよ!大丈夫大丈夫……」

あんだけ釘を刺せば、大丈夫だろう・・・。

 

 

コンコンッと部室をノックする音が聞こえる。

 

   デュアン「ん?相談者かな?は~い……どうぞ空いてますよ」

と声をかけ、扉が開くと・・・学園一美しいと呼ばれている戸隠生徒会長と学園一YESマンと呼ばれてはいないが・・・綾地さんのアレを見てしまい、どう反応していいか分からない保科柊史くんでは無いか。

はて?この人物の組み合わせはとても珍しいな。

 

     戸隠「こんにちは、綾地さん、デュアンさん……ちょっと良いかな?」

と、上機嫌に喋る。

     綾地「戸隠会長」

と綾地さんは吃驚し、その後「―――と、保科、君」と言った。

 

     保科「お邪魔します」

と、珍しいコンビだ。

 

     綾地「…………」

   デュアン「保科、逢い引きしにでも来たのか?」

言うと・・・

   

     保科「違ぇよ!」

と否定する。

 

     戸隠「ちょっとだけ時間をもらえる?話があるから?」

     綾地「それは構いませんが……あの……その……どうして、保科くんが一緒に居るんです?」

 

     戸隠「保科クンって……君のことだよね?」

と、催促する。

 

     保科「え?あ、はい。保科柊史と言います」

     綾地「まさか……もしかして、学生会に報告を?」

と綾地さんの顔色が真っ青になりかけていた・・・

 

     戸隠「報告?って……何を?」

と会長は困った顔をしていた・・・

 

     綾地「ですから、そのっ、オッ……オ、オ、オ、オォォォ」

と自分で言ってどうする。と軽くチョップを入れ「自爆する気か?」と囁くと落ち着いたようだ・・・

 

    デュアン「会長は、悩み、相談事をしに来たのですか?」

     戸隠「ううん違うの……以前に話した他の用件だから」

ん?初耳だな・・・

 

    デュアン「綾地さん、他の用件ってなんだ?」

     綾地「……」

     保科「どういうことです?」

     戸隠「知ってるかもしれないけど、オカルト研究部には綾地さんとデュアンくんしか所属してないんだよね」

 

あぁ・・・なるほど。

 

    デュアン「成程……他の部員達が……二人しかいない部室。つまりオカルト研の部室を空け渡してくれ……って言いたいんですね」

 

とそう言うと・・・

 

     戸隠「うーん……そういう事になっちゃうね。私としても気が重いんだけど……これも会長の責任だから」

 

     戸隠「ということで、綾地さん……伝えた通り……」

     綾地「分かりました。仕方ありません」

    デュアン「(俺はその話……寝耳に水なんだが……)」

さて・・・・

 

     戸隠「あ、でもでも!10月までに部員数が規定の3人になれば、問題ないはずだからね?そこは今年度の初めに言った通りだよ」

 

ふむ・・・俺がいない間にそんな話があったのか。

 

    綾地「分かりました。ありがとうございます」

    戸隠「ということで、私の話はこれでお終い。じゃあ、あとは若い3人に任せて、お姉さんは退散するよ」

 

    戸隠「ふぁいと!あっ、でも学院内ではやらしーことをしちゃダメだよ?」

 

と具体的に言わない会長は策士だ・・・

 

    保科「だから、そういうのじゃありませんってば!」

と保科は否定する。

 

    戸隠「むふふ、ではでは~」

と会長は部屋から出る。

 

まぁ、当然だが・・・部屋には―――――

 

 

   綾地「………」

   保科「………」

二人が居る・・・しかもマイナスな方向で・・・

思わずため息が出る。

 

   綾地「………」

うぉぅ・・・綾地さんの目に光が宿ってないぞ。アレは殺意を含んだ目だ・・・怖ぇぇえ

 

   保科「……」

   綾地「それで……何の用ですか?」

  デュアン「そうだよ……保科が此処に来るなんて珍しいじゃないか……何だ?相談事か?」

 

と言うと・・・

 

   保科「昨日なんだけど―――」

綾地「昨日……やっぱり夢じゃ、ないんですね」

綾地さんは夢オチにしたかったみたいだな・・・あぁ。可哀想に・・・俺の凡ミスで・・・。

 

   保科「あ、う、うん……夢じゃないと思う」

なんで、保科はハッキリしないんだよ!!お前は見てただろ・・・いや、学校一の綾地さんが自慰していたら・・・そりゃ、夢や妄想って考えちゃうよな・・・はははっ

 

   綾地「………」

綾地さんは顔を真赤にしてビクビクと震えている・・・

 

  保科「いやでも!なんていうか、き、綺麗だったよ、思わず見とれたというか――――」

 

最悪のフォローだ・・・

 

  デュアン「お前はフォローしたいのか、綾地さんにトドメを刺したいのか?どっちなんだよ!!蒸し返すなよ」

 

と怒ったが・・・時すでに遅し

 

   綾地「――――ッ」

殺気を含んだ目で俺らを見る・・・

 

   綾地「……もうダメです……殺して……いっそ殺して下さい」

と、ネガティブな考えでそう言うと・・・

 

    保科「あ、いや、違うんだ、今のは、場を誤魔化そうとしただけで、ごめん。本当にごめん!!」

 

  デュアン「なぁ、保科。いっぺん、死んでみる?」

とにっこりと笑う。

 

    保科「わぁぁあ!!冗談冗談だって。用件は他にあるんだ」

ん?保科の用件?

 

   綾地「い……一体何なんです?」

   保科「これ、学生証。図書室で落としたでしょう?だから、届けに来たんだ。それと……授業中、綾地さんが俺のことを気にしてたから……ちゃんと話をしておこうと思って」

 

気にするのは当たり前だろ。女の子の自慰行動を見たんだぞ!魔女の代償とは言え・・・

 

   綾地「……話、ですか?」

   保科「そう。でも目立つとまずいでしょ?だから、教室内ではできなくて。ほら、その……内容が、内容だけに」

   綾地「そっ……そう、ですね」

 

どうやら、保科は自分の責任の取り方をしに来たようだな・・・

 

 

   保科「あの……昨日のは完全なる事故なんだ。あの時間に図書室にいたのは全く偶然で……」

 

  デュアン「あぁ……お前、秋山さんの手伝いをしてたもんな」

と言うと・・・保科は「あぁそうだ」と肯定した。

 

   保科「先生がいた時に声を出せばよかったんだけど、タイミングを外しちゃって、そのままズルズルと……だから。本当にゴメン!その……盗み見みたりして」

 

と保科は頭を深く下げた・・・誠意は伝わってるが・・・

 

   綾地「あっ、いえ、その……あの……私も悪い……と言いますか、責任は主に私側にあることは、ちゃんと分かってますから……」

 

まぁ、魔女の代償が大暴走しちゃったからな。

 

   保科「昨日のことは絶対に誰かに話したりしない。約束する、というか忘れる努力をするから……………………正直忘れられる自身は無いんだけど

 

まぁ、そりゃそうだわな・・・男ですもの。

 

    綾地「ですよね」

と、またハイライトが無い怖い顔をしている・・・

 

   保科「あぁ!?しっかりと聞こえていらっしゃった!?」

当たり前だろ。今の綾地さんはそういう話題に敏感だ・・・火に油を注ぐ様なものだ・・・

 

   保科「ど、努力はするから!今後はこの話題も口にしないし、誰かに漏らすこともないから!……あと……蒸し返すようなことをして、ゴメン」

 

   綾地「いえ、平気です。わざわざありがとうございます。保科くん」

 

   保科「少しでも安心してもらえたならいいんだ……あと、ついでと言っては何だけど……綾地さん?」

  

ん?

   

   綾地「は、はい?なんですか?」

と保科が綾地さんの名前を呼び、綾地さんが返事をする

 

   保科「余計なお世話もしれないけど……悩みとかあるの?話ぐらいなら俺も聞くよ?役に立てるかどうかはわからないけど」

 

まぁ、綾地の場合、契約の代償ですから・・・とはいえない。

 

   綾地「―――あ、あれは、違うです。別に悩みとか、ストレスじゃなくて……じ……事情が……ありまして」

と、綾地さんは顔を赤らめながら、保科に説明する。ただし、少し情報を暈して話した。

 

   保科「……事情?」

   綾地「……はい。ちょっと特殊な事情が、女の子にはあるんです……」

 

まぁ、間違ってはいないな。

 

   保科「そ……そうなんだ?あー、うん……なんか、大変そうだね」

絶対にわかってないなコイツ。まぁ、わかるわけ無いか・・・

 

   綾地「………」

顔を赤らめて、もじもじする・・・

 

   保科「……(図書館でオナる事情か……なるほどな、ふむふむ。)」

 

と考え込む保科・・・いや、わかるわけ無いだろ。とツッコミを入れる。

 

  デュアン「……はぁ~」

俺は、思わずため息をつく。「ため息をつくと幸せが逃げる」ということわざがあるが、今の俺は不幸せだ。

 

   綾地「こんな心配をされるなんて……変な女だと、普通じゃないと思われてる、どうしてこんなことに」

 

いや、綾地さん。貴方は魔女ですよね・・・「普通」じゃないですよね?あと、変な女だとは思われてないぞ。あれは内心「わかるわけ無いだろ」とかその辺を思ってるだろ。

 

   綾地「……いえ、私が悪いんですよね、ええ、そうですよね……分かってます、図書室でオナニーなんて……はぁぁぁぁぁぁ……最悪、最悪です」

 

おぉぅふ、綾地さんがブツブツと呪詛のように震えた声で喋るのはやめてもらえません?

 

  デュアン「ネガティブになるなよ……ステイクールに行こう」

人間、冷静になれば物事の視野が広く感じるぞ。ん?ステイクール?この言葉・・・誰に教えてもらったんだっけ?

 

    柊史「とにかく、絶対に他言はしないから。約束する」

保科はそう言うと・・・

 

  デュアン「ま、保科の場合……言っても信じてくれなさそうだけどな……学園の美少女がまさかの自慰行動してる……だなんてな」

 

俺は、フォロー?のつもりで言った。

 

 

 

―――――まぁ、俺が言うのも何だ・・・保科と綾地さんってどこか似てる気がする。



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Ep6 心の欠片 【前編】

   

   綾地「あ、ありがとう……ございます」

と、少し顔を赤らめて、お礼を言う綾地さん。

 

   保科「じゃ、じゃあ、俺はそろそろ」

保科が退室しようとした時・・・

 

   綾地「あっ、いえ、ちょっと待ってください」

と、綾地さんが保科を呼び止める。

 

  デュアン「ん?」

   保科「え?」

俺は、疑問符を浮かべ。保科は声のする方向へ振り向いた時

 

   綾地「―――ッ」

ゴンッ!と鈍い音ともに、綾地さんが声ともならない声を上げた。

うわぁ・・・あれは痛いぞ。地味に痛いぞ。

 

   綾地「ひぁっ、ぅぅぅ~~~」

綾地さんは、膝を摩りながらうめき声を上げる。

 

  デュアン「あ~あぁ……大丈夫か?どれ、見せてみろ……少し靴下をおろして見せてみろ」

と、膝を見せることになった。

  

  デュアン「青痣が出来てるな……ったく。昔からドジというかなんというか……ほっとけんヤツだな、お前は」

俺は部室にある棚から救急箱を取り、患部の辺りに湿布を貼り、その上から包帯を少し巻いてやった。

 

  デュアン「よし……これでいいだろ」

    保科「手慣れたものだな」

と保科は、俺を見た後、綾地さんが落とした私物を片付けている。

タロットカード、小さな髑髏のインテリアなどなど。

 

    保科「とりあいず俺が拾っておくから、綾地さんは無理しないで」

 

    綾地「すみません」

と、謝る綾地さん。

 

    保科「壊れたものがなきゃいいけど……」

保科はせっせと物を拾っている。

 

    保科「それで、どうしたの、綾地さん。さっき俺を呼び止めてたけど?」

 

    綾地「いえ、その……少し、お話をさせてくれませんか?」

ん?綾地さんらしくないなあ。

 

    保科「話?俺と?も、もしかして……それって……」

    綾地「保科くんと少し話がしたくて。何か困っていることは、本当に無いですか?」

 

珍しく熱くなる綾地さんだ。

 

  デュアン「話しづらかったら、俺は席を外すが……無論、俺もいても良いのなら、他言無用を約束する」

 

と言ったが・・・

 

    保科「あぁ、そのことか……。んー……けど、そう言われてもなぁ……特に無いんだけど……お?」

 

保科・・・お前は気づかないけれど、一瞬目をそらしたぞ。嘘をついた目だ・・・だが、大きな問題を抱えていることは確かだな・・・他人に言えないのか、それとも怖いのか・・・まぁ、当人じゃないから別にいいが・・・

 

  デュアン「どうした?」

と、俺は保科の方へ視線を向けると・・・保科が拾い上げた中に、魔女の道具の一つである心の欠片を集めるための瓶を持っていた・・・

 

    保科「これ……綺麗だね」

と、保科は感想を述べると

 

    綾地「あ、それは――――」

綾地さんが説明しようとすると・・・

 

瓶がいきなり光りだした・・・ん?こんな現象は見たこと無いぞ。

 

   保科「へ?……なにこれ?光ってる?」

   綾地「……え?」

綾地さんも驚いているな。本当に知らないんだろう・・・というか、俺でさえ知らん。そもそも、俺が集めてる心の破片は瓶とかに収まるんじゃなく、魔法の一部として蓄積されてるからなぁ・・・

 

   綾地「な、なに……それ、どういうことですか?」

   保科「え?いや、オレに聞かれても困るんだけど……というか、綾地さんにも分からないの?」

 

   綾地「そんな風に光るなんて、初めて見ました……一体何をしたんですか?」

 

保科が拾い上げた時・・・何もしていない。オレから見ればそうだ・・・だが、この光り方・・・まさか。

 

   保科「オレは別に何も。本当だよ、普通に拾い上げただけで……」

これ以上光が強くなると、不味いと思った瞬間・・・光が弾け飛んだ・・・

 

   綾地「きゃぁ」

  デュアン「っく」

   保科「うわっ!?眩しっ」

オレは急いで腕で目を覆い隠した・・・

んで、次に視界に入ったのが・・・

 

  デュアン「こ、これは……」

   保科「な……なんだ?」

何で、心の破片がこんなに沢山・・・?

 

   綾地「羽根……まさか……欠片?でもどうして?」

これはまさか・・・

 

   保科「これ……一体?」

保科は興味があるかのように手を受け皿のようにして、ゆらゆらと宙を漂う心の破片の動きに合わせる。ま、まさか・・・触れるつもりか?それに。保科は胸のあたりで受け止める。

 

  デュアン「……?」

なんだ、保科の様子がおかしいぞ

 

    保科「―――くっ……うわっ、あっ、あぁぁぁぁ――――」

保科が苦しみ始めてる・・・。

欠片は、保科の方へと集まっていく・・・いや、吸収されていってるのか?

 

    綾地「保科くん?」

と、心配する様に駆け寄る。

 

  デュアン「お、おい……保科。大丈夫か?いや、大丈夫じゃなさそうだな……っち」

 

オレは、バッグからタオルを取り出し、廊下を出て、水飲み場でタオルを濡らし、それを絞る

 

んで、急いで部室へと戻る。

 

    綾地「しっかりして下さい、保科君ッ」

綾地さんは、保科の肩を揺らす

 

  デュアン「よせ、綾地さん……落ち着くんだ。保科を床に寝かせて、このタオルを額に当てるんだ……」

 

オレは一つの仮説を立てることにする。保科が気絶した理由。まさか、今まで集めた欠片を無意識に読み取った?そんなことをすれば、ただじゃすまない。例えるなら、読み込み時間の長いデータを一瞬で引き抜くようなもの。

 

    保科「―――ぅあっ!はぁ……はぁ……あ、あれ?綾地さん……デュアン?」

 

    綾地「平気ですか?」

    保科「うん、平気…………いや、やっぱり平気じゃないかも、うっぷ」

 

と、保科は口に手を当てる。吐き気?

オレは最悪の事態を想定して・・・

 

  デュアン「……保科、水だ。それとコンビニ袋だ。吐きたくなったら、その袋で吐け」

 

と、オレはそう言うと・・・ぷるぷると震える保科が水を少し飲み・・・落ち着くと

 

    保科「サンキュー、デュアン……。それより……一体何が起きたんだ?今の羽根は……占いの演出とか?というか、どこへ消えたの?」

 

と混乱する保科。

 

   デュアン「保科の中へと入っていった。こんな不思議な演出……現実的じゃないだろ」

 

とツッコミを入れてみるが・・・やはり、保科は欠片を読み取ったふうに感じる。だが、読み取るぐらいじゃ・・・そうはならない。他人の感情を読んでも不快に思うだけだ。

 

    綾地「さっきも言ったように、私にも何が何だかさっぱりで……。それに羽根は……消えたと言うより、保科君の身体の中に沈んでいったように沈んでいったように見えましたよ?」

 

あれ?それぞれ見てるのが、違う?オレは吸収されていって様に見えて、綾地さんは沈んだように見える?そして、保科は消えた?

 

    保科「オレの身体に……じゃあさっきのは、幻じゃなかったの?」

 

やっぱり読み取っちまったのか・・・

 

    綾地「はい、幻じゃないはずです。私達も見ましたから」

    保科「……さっきの光と羽根は一体……突然あのガラス瓶が爆発でもしたみたいに光って―――」

 

   デュアン「落ち着け、保科。冷静さを欠くと……ろくな結果にならんぞ」

 

    保科「あぁ。すまない……。―――ん?ん??」

なにかに気がつく保科。

 

   デュアン「?っ……」

やっぱり、欠片は保科の中へ吸収されていってる。

その証拠に瓶の中はすっからかんだ。

 

    綾地「こんなことが起きたたのは初めてで、おかしいです。本当に、一体どうして…………あれ?」

 

    保科「……綾地さん?どうかしたの?」

と声をかけると・・・

 

    綾地「え?え?な、ない……?な、ない……欠片が、ない」

と探す綾地さん。いやだから、冷静さを欠くなって。

 

    保科「欠片?」

もう説明するしか無いぞ・・・

 

    綾地「ど、どうして……?一体どこに……欠片が……今まで集めた欠片が……やっぱりさっきの羽根は……」

 

    保科「あの、綾地さん。とにかく正気に戻―――じゃなくて、一旦落ち着いて」

 

ん~・・・落ち着けられないよなあ。綾地さんにとってはとても重要なものだからな。例えるなら大金とクレジットカードが入った財布のようなモノだ。オンラインゲームで例えるなら廃課金したデータが消滅したことかな?

 

   綾地「……そういえば……。さっきの羽根、保科君の中に入っていきましたよね?」

 

うん。オレは説明したはずだぞ?"吸収された"と。

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep7 心の欠片【後編】

 

 

 

   保科「え?あ……うん。そうみたいだけど、途中から意識を失って……」

 

  デュアン「そりゃ、お前。俺から見たら……お前は気絶してたからな……」

 

とそう言うと「マジか」と保科は呟く。

 

   綾地「意識を失っていたとき、変なことはありませんでしたか?」

   保科「変なことって言われても……身体が妙に熱くなったかな?あと……白昼夢を見たのか、幻聴が聞こえたような気がする」

 

確定だな。だが・・・何だか変だぞ。

 

   綾地「幻聴……ですか?」

   保科「そう。何か悔しがってる人や、怒ってる人の声とか……。あと好きな人と付き合えて喜んでる声とか。相手が……高安君?っていう名前で、本当に嬉しそうな声が―――ぐわっ!?」

 

保科が言い切る前に、綾地さんは保科の胸ぐらを掴み、揺らす。

おいおい、保科は気分がわるいのに・・・そんなに揺らしたらヤバいだろ。

 

   綾地「それっ、間違いありませんっ、私が今まで集めた欠片っ」

と泣きながら揺らす。

 

   保科「あ、あ、綾地さん!?」

保科がどんどん顔を悪くしているぞ

 

   綾地「返して下さい、お願いですからっ」

揺らすスピードが早くなる。あーあ。知らんぞ。

 

   保科「いや、そんな事言われても何が何だか、というか揺らさないで!ヤバいヤバい!危ないって!堤防が、胃液の堤防がぁぁあ!」

 

   綾地「やっぱりあの羽根は心の破片で、保科君が取り込んでしまったんですっ」

 

更に早くする。おいおい・・・部室が大変なことになるぞ。

 

  デュアン「綾地さん……そろそろやめたほうが」

    保科「何を言ってるのか、もう少し詳しく説明を―――いやそれよりもまず揺らさないで!そんなに揺らされたら困る!困るんだって!!デュアン止めてくれぇぇえ」

 

そうだよな・・・。

 

  デュアン「止めたいのは山々なんだが……無☆理☆」

と満面な笑みで断ることにした。だって・・・今の綾地さんは止められないんだもの。一度ああなったら知らん。放たれた弾丸の様なスピードで興奮した猪をどうやって止めろと?

 

    綾地「困るのは私の方なんです、心の破片を返して下さい」

はぁ~周りが見えてないな。

 

    保科「返せと言われても――いや、本当にダメだって。これ以上揺らされたら、ま、マズイから―――いや、まじでヤバい。襟首掴まないで!しかも、そんなに揺らされたら、出ちゃう、いっぱい出ちゃうっ!」

 

まぁ、6時間以上経過してるから・・・まだ残ってるかもな。それに水も飲んでるし・・・。

 

   綾地「出して、早く出して下さいっ、いっぱい出して下さいぃっ」

なんか発言がエロいですよ綾地さん・・・というツッコミをしたら、オレが煩悩まみれのヤツだと思われるから思考から外しとこう。

 

   保科「あっあっ!くるぅ、逆流してくる!きちゃうきちゃうぅ!ガクガクさせちゃらめえぇぇぇぇ!うっぷっ―――」

 

うん。発言を聞かれたら誤解を招くぞ。まぁ、もう17時を回って、お日様がすっかりと沈み始めてる・・・

 

   綾地「返して下さいぃぃ」

   保科「■☓◎§〒☆◆ДДД―――――」

オレは、急いで袋を拾い上げ、綾地さんを引き剥がし・・・袋を保科に渡し・・・吐き出した。

  

  デュアン「水で口の中のものを洗い流せ」

   保科「す、すまない」

 

―――――かれこれ、二人が落ち着くまでに数十分は掛かっただろう。

 

   保科「……はぁ……はぁ……」

漸く、吐き気も収まった保科。

 

   綾地「ごめんなさい、取り乱してしまって……私……」

   保科「いや、へ、平気……うん、平気だよ?」

 

   綾地「それで、気分はどうですか?」

   保科「吐く物はいたから少しはマシになったよ。スッキリしたって言えるほどじゃないけど」

 

あんだけ吐いたのに?不快感が残るのは変だな

 

  デュアン「…………」

まぁ、今は良いだろう。

 

   保科「それであの、話を戻すけど……さっき『返せ』って言ってたよね?心の欠片……だっけ?」

 

   綾地「…………はい」

   保科「ガラス瓶に入って突然消えたやつでしょ?それを、オレが取り込んだってことだけど……」

 

   綾地「……はい」

やはり、綾地さんは魔女であることを隠したいのか・・・

 

   保科「そう言われてもなぁ……そもそも、心の欠片って何なの?」

   綾地「その前に、正直に答えて下さい。保科君は"魔女"ではないんですか?」

 

おぉ、どストレートに聞くなあ。だけど、オレからすれば保科は"魔女"では無いんだよなあ。何というか魔力は感じるけど・・・出来損ない?みたいなものだ。中途半端にジグソーパズルを組み上げた感じ。"魔女見習い"な感じ・・・まどマギで言う魔法少女と魔女の中間地点に見える。

 

   保科「魔女?えーっと……なにかの隠語、ってわけでもなさそうだね」

 

まぁ、日常生活で「魔女」は使わなんよな・・・そもそも、この世界で「魔女」になるためには、「アルプ」と契約しなければならない。

仮に保科が魔女だとすれば、他人が集めた心の欠片を横取りすることは不可能だ。これは、オレが集めた心の欠片の瓶を千穂子という少女に渡しても、反応はしなかった・・・

まぁ、「譲渡」を使えば渡せるが・・・

 

   綾地「心の破片は……言葉通りです。"人の心の破片"喜怒哀楽を始めとした強い感情の一部です」

 

   保科「…………」

そう説明すると・・・保科は黙り込む。

 

   綾地「その微妙そうな顔、やっぱり誤魔化してるわけじゃなさそうですね」

 

   保科「えっと……綾地さんはそれを集めてるってこといいの?」

   綾地「はい」

   保科「な……なるほど」

 

  デュアン「ま……普通ならこんな話怪しくてバカバカしいだろうな……さっきの現象を見れば、多少は納得すると思うが……心あたりがあるんじゃないのか?保科」

 

   保科「……」

   綾地「……」

綾地さんは厳しい表情を崩すことはない。今は本音で話してるものな。

 

   保科「んんん――――………」

   綾地「やっぱり……こんな怪しげな話、簡単には信じてもらえないと思いますが……」

 

   保科「いや……、まあ……なんというか……非科学的な話だな―とは思ってる。けど、羽根がオレの中へ入ってくるのは一応見てたから……綾地さんの言葉が嘘だとか、妄想だとか、そんな風に思ってるわけじゃない。思ってないけど……どう受け取れば良いのか、ちょっと悩んでて……」

 

  デュアン「心の整理がつかないってやつか?」

   保科「うん」

成程・・・な。

 

   綾地「……そうですね。急かしてしまってごめんなさい」

   保科「それだけ大事な物なんでしょ?なら、仕方ないよ。えーっと……確認なんだけど、その心の欠片がオレの中にあるって思う理由は光景を見たことだけ?」

 

   綾地「いえ、もう一つ。さっき……『高安』という名前を口にしましたよね?」

 

   保科「あぁ、うん。幻聴で『高安』って聞いた気がするんだ」

   綾地「でも保科君はその名前に心当たりはないんですよね?」

と綾地さんは保科に再確認させる。

 

   保科「全然ない。初めて聞いた名前だよ。綾地さんの知ってる人?」

 

   綾地「はい、高安先輩はこの学院の3年の先輩です」

まぁ、普通なら先輩の名前は知らんわな。生徒役員以外は。

 

   保科「へぇ、そうなんだ?」

   綾地「つい先月、同じクラスの女子と付き合うことになったらしく、初めての彼女で非常に喜んでいたそうです」

 

   保科「何だか詳しいね、綾地さん」

  デュアン「相談を持ちかけられたからな」

   綾地「より正確には占ったんです、その高安先輩の交際相手である女の子の恋愛運を……。それで、どうすれば付き合えるようになるか、アドバイスも」

 

   保科「無事交際できるようになって、その時の嬉しい気持ちの一部を、あの瓶に……」

 

   保科「なるほど。じゃあ……オレが聞いた幻聴は、もしかして?」

   綾地「欠片に宿った感情といいますか、記憶を読み取ったんじゃないかと……。他にも聞こえたりしませんでしたか?例えば……試験の点数が悪くて困ってる人とか……友達と喧嘩してしまったとか」

 

   保科「いや、それは無い……と思う」

   綾地「だったら……部活のレギュラーが取れなくて悩んだり、恋人の浮気に関する悩みはどうですか?」

 

浮気かあ・・・そんなヤツはろくなやつじゃない。

 

   保科「それは…………聞こえた。レギュラーに悩むというか嫉妬するような声と、浮気に怒ってた声が……。つまりそれも、相談に来た人の悩みで、解決に関わったってことなの?」

 

   綾地「はい、そうです」

と返答する。

 

  保科「それってさ、オカルト研究部でお悩み相談を開いたりしてたのは……"心の欠片"を集めるため?」

 

   綾地「はい……そうです」

んー・・・喋る隙がないな。

 

 

   保科「心の欠片は強い感情だって言ったよね?なら……悩みを解決させることで、欠片を集められるって認識で合ってる?」

 

   綾地「はい、大まかには。人の心はとても繊細で、バランスが重要になります。ですがら、強い感情に偏ると、バランスが崩れて良くないんです」

 

  デュアン「まぁ……簡単に説明すれば、魔女はそのバランスの調整師と思ったほうが良いと思うぞ」

 

と付け加えることにする。

 

   綾地「はい。デュアンくんの言う通り……大きすぎるとバランスが崩れて、反動が生じてしまうので」

 

   保科「反動って……。例えば、仕事が好きで仕事してるのはいいけど、定年とかで会社を辞めたら無気力になっちゃう人とか?」

 

仕事中毒は、シオン・アスタールだけにしてくれ。

 

 

   綾地「そうですね。そういう人も含まれると思います。ですから、心にはバランスを取る必要があって、そのために余計な分を回収したものが"心の欠片"です」

 

   保科「……」

 

  デュアン「納得してないって顔をしてるぞ……まぁ、しょうがないか」

 

心の整理って大事だよな。

 

   保科「綾地さん、デュアン」

   綾地「はい」

 デュアン「?」

   保科「ひとまずその過程を受け入れたとしてだ……オレは心の破片っていうのを、どうやって返せばいいの?」

 

   綾地「え?あ、それは…………」

オレに目線を合わせる・・・

 

   保科「デュアンは知ってるのか?」

マジか。

 

 デュアン「……簡単に言えば、保科が満足する結果が出ていれば自然と返ってくるとは思うが……これは、あくまでも仮説に過ぎん。お前の満足する結果が分からない。悩みも分からない……ってなると、相馬さんに聞いたほうが良いと思う」

 

   綾地「七緒に?」

   保科「誰?」

   綾地「えっと―――」

 

と、説明しようとすると・・・タイミングをを見計らったかのように、ノックの音が飛び込んだ。

 

  デュアン「はい?」

   久島「まだ残ってるの、綾地、デュアン」

  デュアン「先生?」

 

   久島「……って、保科じゃないか?」

   保科「久島先生?どうしたんです、こんなところで」

   久島「それはこちらのセリフだ。キミの方こそ何をしてるんだ、こんなところで」

 

   保科「それは……まぁ……色々と」

と歯切れが悪い

 

  デュアン「保科から相談を貰っちゃいましてね……その相談を聞いてたんですよ」

 

   綾地「それよりも先生、どうかしたんですか?」

   久島「特別棟を占める時間。部活の鍵を返却して、早く帰りなさい」

 

  デュアン「え?!もうそんな時間……?」

とオレはスマホの時計を見ると・・・なんとびっくり19時を回っている。

 

   保科「本当だ、外が暗くなってる」

   久島「事前申請無しでこれ以上遅くなるようなら、部活停止になりかねないぞ?」

 

それは困る。オレも綾地さんも・・・欠片の回収効率が悪くなる。

オレは、シュバルツカッツェは相馬さんと一緒にバイトして、客の悩みを解決させたり、居酒屋のバイトで荒稼ぎしているが、綾地さんはそうもいかない。

 

   綾地「で、ですが……」

と綾地さんはそう言うが・・・

 

  デュアン「先生の言う通り……この相談はひとまず明日にしよう。保科も綾地さんも"時間"は大切だ。ひとまず、この話題は一日置いといた方がいい……そうしたほうが整理がつく」

 

と説得させる。

 

   綾地「そう……ですね。分かりました」

 

   久島「話は纏まった?だったらほら、早く帰りなさい」

と、俺らは外に出る・・・

 

   

 

    保科「えっと……これからどうしようか?」

    綾地「さっき言われた通り、ちょっと落ち着いて考えてみます。それに、相談もしたいですから」

 

    保科「あー……さっき、デュアンが言っていた「相馬さん」って人?」

 

まぁ、アルプだが・・・人になれるから一応人という分類(カテゴリー)だな。

 

    綾地「はい。私に、"心の欠片"のことを教えてくれた人に」

    保科「なら、今日は解散ってことで良さそうだね。じゃあ、オレは帰るけど……綾地さん、デュアンは?」

 

    綾地「このまま直接行こうと思います」

  デュアン「オレは……綾地さんが心配だし着いていくよ」

    保科「何か分かったり、試したいことができたら言って。返せるならちゃんと返すから」

 

    綾地「わかりました。ありがとうございます。あの、念のために連絡先を教えてもらってもいいですか?」

 

    保科「ああ、それは勿論」

携帯を取り出し、番号とメルアドを交換する二人・・・

 

    綾地「なにか分かったら連絡させてもらいますね」

    保科「デュアンも居るし……じゃあ。また明日だね。さようなら」

   デュアン「気をつけて帰れよ」

オレはそう言い、保科は大丈夫と手を振りながら帰った。

 

 

    綾地「じゃあ……向かいましょうか」

  デュアン「だな」

 



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Ep8 schwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)

――――朝起きて。

 

   デュアン「放課後が大変だなあ」

と呟きながら、朝飯を作る。

 

今日の朝飯は、サンドイッチ。レタス、焼いたベーコン、からしマヨにほんの少しの味噌を加えた。ベーコンレタスサンドだ。

レタスは40度ぐらいのお湯に少し浸したヤツを乗せている。

前世で、読んでいた「名探偵コナン」の安室さんサンドというものだ。

 

・・・次の転生先は「名探偵コナン」にしようかな?

 

う~ん・・・まぁ、それは神様との答え合わせ次第だな。

 

合っていたら・・・オレは、この世界で天寿を全うするまで生きる・・・。

 

綾地寧々をLoveで捉えるクラスメイトをよく聞くが・・・オレが綾地さんに抱いているのはLikeだからなぁ・・・。それに、綾地さんには保科がいないとダメなような気がする。

 

生徒会長は好きか?オレは少なくても苦手だな・・・

 

まぁ、くだらんことをしないうちに、もう時間がヘの字になってしまったから・・・そろそろ出ないとマズイな。

 

 

家の鍵を閉め、エレベーターに乗ると、少し下の階で止まり・・・そこでは綾地さんが居た。

 

     綾地「おはようございます。それで、昨日の話で。デュアンくん……いつ、保科くんが"魔女であって魔女じゃない"って気づいたんです?」

 

まぁ・・・相馬さんとの答え合わせで確信したんだけどな。

 

  デュアン「オレが気づいてたのは……4つ。1つ目……保科は確実に悩み事がある。だが、それはオレや綾地さんにも言えない……深い闇を抱えていること。2つ目……保科の両親のどっちかが契約完了した魔女であること。3つ目……保科の心に傷がある。心の傷を「心の欠片」で補われたこと……4つ目は魔女の集めた心の欠片は奪うことは出来ない」

 

のことを教える。

 

   綾地「……え?」

  デュアン「つまり……保科の心の傷で心の欠片に補填されたんだろうな……心のケアをすれば欠片は多分、戻ってくる……」

 

そう言うと、納得する綾地さん。だが、綾地さんよ・・・心のケアは多分、綾地さんにしか出来ない。とオレは思う。

 

歩いて、学院の目の鼻の先あたりで待つこと数分。

保科が来たのだった・・・

 

   綾地「おはようございます、保科くん」

   保科「おはよう綾地さん、デュアン」

 デュアン「あぁ、おはよう保科」

   保科「綾地さん、デュアン……こんなところでどうしたの?」

   綾地「保科くんを待っていたんです……一緒に来て欲しいところがありまして」

 

   保科「それって、昨日の一件でいいんだよね?」

   綾地「はい。昨日のことを相談したら会って確認したいと言われて……。だからお願いです、一緒に来てくれませんか?」

 

   保科「それはつまり、授業をサボって今から?」

   綾地「できれば。早いうちがいいので」

   保科「…………」

保科はちょっと悩んでいる・・・

 

 デュアン「勉強は後で教えてやるよ……体育以外ならな」

とハッキリ明言しとく。

 

   保科「分かった。行くよ」

   綾地「ありがとうございます、保科君」

保科はスマホを取り出し、メールを送ったのだろう・・・。

 

 

そして、歩くこと数十分。

 

   保科「ここが?」

   綾地「はい、私とデュアンくんの知り合いが営んでいる喫茶店です」

 

と言うと・・・

 

   保科「シュ……シュワルツ?」

 デュアン「保科……それはドイツ語だぞ」

   保科「ドイツ語?!」

と驚く保科。

 

   綾地「schwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)、ドイツ語で黒猫という意味ですね」

 

 デュアン「ちなみに、ドイツ語でおはようはGuten Morgen(グーテンモルゲン)……あ。shwein(シュバイン)は豚だな…Kugelschreiber(クーゲルシュライバー)はボールペン。ドイツ語って厨二病の塊だよね……」

 

と、ヘラヘラと笑う。

 

   綾地「ここに、会って欲しい人がいます」

と、真剣な表情をしてたから、オレもヘラヘラした顔をやめて真面目モード人ある。

 

  デュアン「んじゃ」

   綾地「入りましょう」

と、歩みだすが・・・

 

   保科「Closeの札が掛かっているけど?」

   綾地「約束しているので大丈夫です。それに、ちょっと……と言いますか、かなり不思議な話になると思いますから、他に人がいない方が都合もいいので」

 

  デュアン「まぁ、異質な話だからな……まぁ、人間が宇宙的存在と接触するより楽でいいから……」

 

   保科「ああ、それもそうか」

 

~シュバルツ・カッツェ

 

   相馬「いらっしゃい」

と俺達が入ると、挨拶をする相馬さん。

 

   綾地「七緒、彼が昨日話した人です」

   相馬「寧々とデュアンから話は聞いているよ。えっと……少年?」

 デュアン「まぁ、魔女の中間地点で……顔を見てなかったら女性って思うのは無理ないけど……っぷ」

 

とちょっと笑いが堪えきれなかった。

 

   保科「保科柊史です、初めまして」

と保科は軽く挨拶する。

 

   相馬「相馬七緒。『schwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)』のオーナーだ、よろしく」

 

   保科「よろしくお願いします」

   相馬「……………」

相馬さんは、保科を見て・・・

 

   相馬「ほぉ……成程。気配がするね。こちらに足を踏み入れている……いや、混じっている?これは珍しいな」

 

   綾地「混じっている?それってどういうことですか、七緒」

いや、綾地さん・・・朝説明したよね?

 

   相馬「デュアンの憶測が当たった……ってことさ」

   綾地「え?」

 デュアン「オレは説明したくないよ……今回は」

 

   相馬「その前に注文を聞こう。話には少し時間がかかりそうだ。寧々の気持ちはわからないでもないが、落ち着いた方がいい。どびきりのを淹れてあげよう」

 

 デュアン「綾地さん……前にも言ったがステイクールだよ?」

と言う。

 

   綾地「……じゃあ……ダージリンを」

   相馬「保科君は?ちなみに、私としてはブレンドがおすすめなんだが……コーヒーが苦手じゃないならどうだろうか?」

 

   保科「あ、はい。それじゃあブレンドで」

保科はアレだ・・・多分流され屋だな。

   

   相馬「デュアンは?」

 デュアン「う~ん……ロイヤルミルクティー、アイスで」

   相馬「畏まりました」

 

数分後・・・

 

   相馬「おまたせしました」

と、各テーブルに並べられる飲み物

 

   保科「ありがとうございます」

  デュアン「すまない、相馬さん」

と、保科はコーヒーを一口飲む

オレも此処のロイヤルミルクティーは欠かせないからなあ。

 

   綾地「ありがとうございます」

 

そうして、落ち着きを取り戻すお二人。んで、それを見てから、相馬さんがゆっくりと口を開く

 

   相馬「さて、説明しよう」

おぉ、解説サンクス相馬さん

 

   相馬「まず結論から言うとだね、保科君が取り込んでしまった"心の欠片"を回収することは、おそらく可能だ……んー……"欠片"について聞いているんだったかな?」

   

 デュアン「要所要所を省いていなかったと思うんで……多分、大丈夫だと思うぞ?」

 

   保科「はい、それは綾地さんから聞きましたけど……『おそらく』なんですか?」

 

   相馬「こんな事態は初めてで、想定外だ。だから確証はない。だが可能な筈だ」

 

そりゃそうだ・・・前例が無い。魔女であって魔女ではない存在なんて今まで無かったのだろう。

 

あっ、ちなみに魔女同士が欠片を取ろうとした時弾かれるのは知っているぞ。相馬さんには内緒にしているが・・・

 

   相馬「ただ、すぐに問題が片付くことは無いと思う……。それに解決できるかは、正直なところ保科くんにかかっている。というか保科くんにしか解決できない」

 

   保科「お、オレにしか?」

 デュアン「当たり前じゃん、何を今更」

と辛辣に言う・・・

 

   相馬「そもそも保科くんはどうして"此処の欠片"を取り込んでしまったのか?そこには大きな理由がある」

 

   保科「オレ、理由……一体、どんな?」

   相馬「保科くん、おそらくキミの胸には大きな穴が空いている……これはデュアンと一緒に仮説を立てたからね」

 

そう。心の欠片は、保科の欠損部分を補ったからでは?との推測を立てたが・・・アルプである相馬さんが言うのであれば間違えない。

 

   保科「穴……ですか?」

   相馬「もちろん肉体的な話じゃないさ、精神的な話……キミの心にはぽっかりと大きな穴が空いてるはずだ」

 

 デュアン「……(解決すれば……今の綾地さんの瓶に収まりきれないぐらいの量の心の欠片が回収できると思う)」

 

改めて思うが・・・保科の心の傷はそこまで深いんだな・・・。

 

   相馬「人の心は脆いものでね、ちょっとした感情でバランスを崩すこともあるし、時には欠けることも、穴が空くことだってある」

 

・・・オレも前世では大きな穴を開けて喪失感、虚脱感などに陥ったよなあ・・・後は自殺願望。

 

   綾地「穴って……私も初耳です、七緒」

   相馬「この年頃で、穴が空くのはかなり珍しいからな。言わなくてもいいかと思っていたんだよ」

 

いやいや、そこ重要なところでしょ。伝えなきゃダメでしょ・・・。

 

   保科「そんなに珍しいことなんですか?」

   相馬「まあ……"心に穴が空いている"というのは、そうだな……"諦めを受け入れている"といえば少し伝わるかな?」

 

   綾地「諦め?受け入れる?」

 デュアン「保科が悩みの元凶とも言えるんじゃないか?他人には言えない事……の闇の部分だと思うぞ」

 

   保科「…………」

   相馬「"心に穴が空く"というのはね、悩みを解決させることを諦めている状態によくあることだ。どうしようもないことと受け入れ、見限り、諦める……なにか心当たりはないかな、保科くん?」

 

   保科「それは…………」

やはり口を紡ぐか・・・。

 

 デュアン「保科が打ち明けない限り……欠片は返せないんだ……オレはお前の悩みがどんな内容だろうと受け入れてやるよ……数少ないお前の友達として」

 

   保科「…………」

   相馬「どうやらあるようだ。ならやはり、その穴に欠片は引き寄せられたんだろう。心にも傷を癒そうとする作用はあるからね。けれど他人の欠片では保科くんにの心を埋めることはできない」

 

   綾地「それじゃあ……欠片を回収するためには?」

   相馬「保科くんの心を埋める必要がある。つまり、彼の抱える悩みを解決させなければならない、ということだ。そのためにはまず、保科くんの悩みを聞かせてもらえないことには話にならないけど……」

 

   綾地「あの、保科くん……?」

 デュアン「……言いにくいなら……少し暈してもかまわないぞ」

   保科「…………わかりました。まず、オレは昔から人の気持ちを五感で感じ取れるんです――――」

 

 

保科は、実際に体験したエピソードを交えつつ説明したのだ。

 

 デュアン「……(やっぱり、保科が気絶したのは、五感で脳の情報処理が追いつかずに……)」

 

 

   相馬「他人の気持ちが伝わるか……成程。確かに軽々しく他の人間には言えない悩みだ」

 

 デュアン「まぁ、オレもそういう力を持っているから分かるぜ……全く別だがな」

 

   保科「感受性が強いとか、複合共感覚とか、エンパスとか、色々言われてきたんですけど……なにしろ確認もできなきゃ、なおるものでもないので」

 

 

 デュアン「…………」

   相馬「あくま体質であって、病気ではないだろうからね」

   綾地「あの……質問してもいいですか?」

   保科「どうぞ」

   綾地「それは、例えば私が今何を考えているのかも……わかったりするんですか?」

 

 デュアン「そりゃ……読めたら、保科は居ないだろ……多分、読めないと思うぞ?」

 

   保科「あぁ、デュアンの言った通り……流石にそこまでは。思考が読めるわけじゃなく、あくまで大雑把な気持ちが五感を通して感じられるだけだから……嘘や隠し事をしていることに気付くことが出来たとしても、その具体的な内容まではわからない」

 

 デュアン「……」

なにそれ、嘘つけないとか嫌だわ・・・人間はペルソナという嘘の仮面を被って生きてるんだぞ?

 

   相馬「まず間違えなく、キミの心の穴はソレが原因だろう」

   綾地「じゃあ、心を埋めるためにはその能力をなんとかしないといけないんですね」

 

多分、能力を前向きになればいいんじゃないのかな?

 

   保科「本当……どうしてこんな能力を持ったのか」

   相馬「うん?もしかして保科くんは……ご両親にもその能力について相談してないのか?」

 

   保科「え?相談はしてないですけど……オレがこういう能力を持っていることは、父も知っています。それがなにか?」

 

ん?相談はしてないのに知ってる?

 

   相馬「なら、母君は?」

あっ・・・地雷か?と一瞬だったが、保科の表情が暗くなった?

 

   保科「母さんは、オレが3歳になる前に事故で……」

   相馬「そうか……いや、それは申し訳ないことを聞いた」

   保科「いえ、気にしないで下さい。あんまり覚えていないですしね」

 

   相馬「そうか……だから、何も知らされていないのか」

 デュアン「あー……納得」

   保科「……?」

   綾地「七緒、穴を埋める方法についてはな何かないんですか?」

   相馬「具体的な方法は、今のところは思いつかない」

   綾地「そ、そうですか……」

綾地さんは落ち込む・・・

 

  デュアン「ま、保科が……能力を前向きに検討してくれれば良いが……五感を感じる能力で視覚、聴覚、味覚、触覚でジワジワと苦しめられてきてるから……前向きに検討は難しいだろうな」

 

   保科「ちなみに、具体的じゃなければ何かあるんですか?」

魔女になるしかないな・・・としか答えられない

 

   相馬「穴を埋めるっていうのは、要するに諦めを受容してる状態でなくなればいいと言うことだ……つまり、デュアンが言っていたように……前向きに明るく生きるようになればいいわけだ」

 

   保科「前向きって……そんなことを言われても」

 デュアン「だから……この提案はお前次第だ。保留にしてもらって構わない」

 

   保科「…………」

   相馬「そう。なりたいと思っても、簡単になれるものでもないだろう?」

 

   綾地「具体的な方法が思いつかないというのは、そういうことですか」

 

   相馬「方法は一つじゃない。ただ、どういう方法になるにしろ、全ては保科くんの心次第という訳だ」

 

ま・・・人がそう簡単に変われるなら、オレは転生を繰り返してないけどな。

 

   綾地「…………」

だめだこりゃ。

 

 デュアン「………」

能力のせいで、保科の心にダメージを負っているなら・・・

保科をオカ研に入部させるか?う~ん・・・

 

   保科「ちなみに綾地さんが"心の欠片"を大事というか、必要としてるのはわかったけど……何で集めてるの?集めるとどうなるの?」

 

あー・・・そっちからか・・・

 

   綾地「それは……えっと」

まぁ、綾地さんの場合は特殊っちゃ特殊だからな・・・。

言いづらいか・・・

 

   保科「いや、同じ結果が得られれば、って思ったんだけど……聞いちゃマズイことだった?」

 

   相馬「…………いや、そうだな。ここまで来たんだ。それに、保科くんも無関係ではないからね……」

 

   保科「え?オレだけ?」

 デュアン「オレはすでに知ってる……オレも魔女だからな……まぁ、魔女……うん」

 

   保科「?」

   綾地「七緒?それってどういうことですか?」

   相馬「保科くん、キミは先ほど『どうしてこんな能力を持っているのか』と言ったが、その答えを私は知っている。デュアンもね」

 

   保科「え!?」

と驚く保科・・・いや、普通気付くよ?

 

   相馬「キミの能力、それは魔法だよ」

   保科「…………え?」

   相馬「別にからかってるわけじゃないよ。戸惑う気持ちも理解できるが、まあ話を聞いて欲しい」

 

   保科「は、はあ……」

   相馬「魔法と聞いて、胡散臭さを感じるだろうけど、実際に魔法はあるんだよ。とはいえ、想像しているような自由なものじゃないけどね……デュアンは例外だけど」

 

オレに振るなよ。

 

   相馬「例えば、魔法を使えるのは一度だけ。しかも魔法を使うためには条件がある。その一つが、魔女になってとある契約を完遂させなければいけない。この"とある契約"というのが重要でね……と、ここまで言えばわかるだろう?」

 

   保科「……"心の欠片を集めること"、ですか」

   相馬「そういうことだ」

   保科「魔女……魔法……それは何かの比喩、ってわけじゃないんですよね?」

 

コイツ・・・此処まで来て信じてないな。

 

   相馬「ああ。そのままの意味だよ。保科くんなら、私が嘘や冗談を言ってるかどうか、わかるんだろう?」

 

   保科「それは……はい。確かに、相馬さんから特に変な感じは伝わってきません」

 

   相馬「説明を続けようか。なぜ"心の欠片を集めるのか"、それは魔法を使用するには魔力が必要となるんだが、魔力は自然に生じるものじゃない」

 

まぁ、オレの場合は別の条件で支払っているが・・・底をつきたら「心の欠片」で補うしか無いんだよなあ。

 

   相馬「魔力はね、人間の強い気持ちや感情を元として生成したものなんだ」

 

   相馬「まあつまり、自分の願いを叶えるために必要となる魔力は自分で集めなければいけない、という契約なのさ」

 

   保科「綾地さんは……自分の願いを叶えるために"心の欠片"を集めていた」

 

   相馬「瓶の中が欠片でいっぱいになれば、契約完了というわけだ」

   保科「そしてオレは、それを邪魔してしまった……のか」

 デュアン「思い詰めるなよ……欠片はお前の欠損部分を補ったんだ……そして、返ってくる……前向きになればだけど、な」

 

   保科「…………」

   相馬「私たちは、そうやって"心の欠片"を集める人間を"魔女"と呼んでいる。そして本題なんだが……保科くん」

 

   保科「はい?」

   相馬「キミの母君はおそらく"魔女"だろう」

 デュアン「ってか、確実に魔女だったと思うぞ?」

ってか、オレもバカだよな。魔力を感じ取れるのに・・・綾地さんの魔力反応で、他の魔力反応が鈍ってるな・・・以後気をつけないと。

 

 

 

   保科「…………はい?」

   相馬「寧々と同じ様に"心の欠片"を集めて、願いを叶えた人間のはずなんだ」

 

   保科「母さんが?」

   相馬「おそらくだが。見たときから気付いてたんだけれど……保科くんの身体からは微かに魔法の気配を感じる。さっき教えてくれた、キミの他人の気持ちを感じる能力。それは、母君の魔法の一部だろう」

 

うわあ・・・それって、人の思考とかを読める能力ってこと?恐ろしい力だなあ。というか、人間が、悟り妖怪みたいな能力を持ったら・・・それこそ、心が壊れるぞ。

 

   保科「それって……母さんも、同じ能力を持っていた?母さんは望んでこの能力を手に入れた、ってことですか?」

 

   相馬「同じではないかな。キミよりも強力だったはずだ。"五感を感じる程度じゃなく""人の心を完全に読む"ぐらいに……。保科くんが受け継いでるのは、あくまで一部だよ」

 

保科が『魔法とは?なんなのか』という具体的なイメージがつけば・・・多分だが、母親と同じ様な能力に進化するんじゃないか?

 

   保科「母さんがそんな力を……しかも自ら願って?」

   相馬「"心の欠片"が保科くんに反応したのも、その魔法の気配があったからこそだろうな」

 

   保科「………」

   綾地「あの……一つ、思ったことがあるんですが……」

何を言うつもりだ?綾地さん・・・

 

   相馬「どうした?」

   綾地「保科君も魔女の契約を結べば、その能力を消すことができるんじゃないですか?」

 

おぉふ。なんという暴論・・・だが。

 

  デュアン「多分、無理だと思うぞ?魔力を感じるってことは……魔法を宿している……」

   相馬「ああ。だから、保科くんには契約を結ぶことはできないだろう。それに安易な契約はオススメしない。寧々、それはキミが一番わかってるんじゃないか?」

 

   綾地「それは……」

  デュアン「……」

   保科「???どういうこと?」

   綾地「……」

  デュアン「…………」

俺たちは黙ってしまった。

 

   相馬「"魔女"が結ぶ"契約"。つまり、お互いに支払う物が必要になる」

 

   保科「だから、"魔法"に必要な"魔力"を集めるんですよね?」

   相馬「それは願いを叶えるための対価であって、いわば必要経費みたいなもの。契約金はまた別というわけだ」

 

本当に酷い話だよなあ・・・

 

   保科「なら一体……?」

 デュアン「保科は鈍いなあ……"心の欠片"で察しがつくだろう」

 

   相馬「契約を交わした"魔女"は自身の感情でも"魔力"を支払わなければならない。しかもその"魔力"は強制的に微取される。そしてなによりも、一度契約すると途中で解約はできず、完遂するしかない」

 

一昔流行った闇金みたいなものだよな・・・。

 

   保科「まるで悪魔の契約ですね、それ。なんというかエグい」

まあ、感情によるよな。うん・・・

 

   相馬「ああ、それは非常に正しい感想だ。そもそも"魔女"というのは、悪魔に身を売った者という意味だからね」

 

オレは、それ。初めて知ったよ?

 

   保科「じゃあ綾地さんも、デュアンも……強制的に魔力……つまり、強い感情を徴収されてるってことなんですね」

 

   綾地「――――ッ」

  デュアン「まぁ、オレのは感情だけじゃないってことにだけは言っとくか」

 

   相馬「寧々の場合は――――」

あっ、相馬さんが言おうとした時・・・綾地さんが必死に相馬さんの口を抑えながら・・・

 

   綾地「わーっわーっわーっ、やめて下さーーーいっ、私のことは言わなくていいんですよぅ」

 

うん。綾地さんはポンコツだ。やっぱりポンコツだよ。

 

   保科「?強い感情を無理やり?本人も逆らうことができない?ううぅん?」

 

おっと保科が気付いてしまった。

 

  デュアン「お、おい……保科っ……」

   保科「―――あぁっ!もしかして図書室のオナニー!?」

馬鹿野郎!!言うなと言っただろ。アホじゃないのか?

 

    綾地「いやぁぁぁ―――――ッ」

    保科「わ、悪い……つい、思わず」

    相馬「寧々……そんなことをしてたのか……?デュアンに抑えてくれなかったのか」

と、相馬さんが顔を赤くする。

 

  デュアン「いやあ……綾地さんの感情って強すぎるから……昔は5時間ぐらい持ってたのに……今じゃ10分も持たないんだよ?」

 

と言っとく・・・。今はフォローしないでおく。

 

   保科「oh……それだけ強いのか」

   綾地「ししし仕方ないですっ、さっき七緒が言ってたことじゃないですか、逆らえないって。だから"発情"してしまうのは仕方なくて……」

 

ちょっと、言い訳が苦しいぞ。

 

   相馬「だからって……図書室というのはどうなんだ?」

  デュアン「まあ、オレが作り出した防音、防室の魔法も役に立たなかったけど……既に中に居た人には」

 

とジトーとした目で保科をみる。

 

   保科「いや、あそこに綾地さんとお前が来たのは完全にイレギュラーだったからな?」

 

と保科が正論を言うとは・・・

 

   綾地「だってぇ、今まで誰にも見られたことなんてなかったんです。一昨日、保科くんに見られたのがはじめてなんですよぉ」

 

   保科「えっ!?今までに、何度も図書室であんなことを!?」

   綾地「――――ッ」

   保科「…………」

   綾地「……ぅ……ぅぁぁ……ありえない……新しい事実まで、しかも自分で言っちゃうだなんて……ありえないありえないありえない」

 

  デュアン「いまのは綾地さんの誤爆だからね?」

オレは黙ってたのに・・・

 

   相馬「わざわざ図書室なんて、不特定多数が利用する場所でしなくてもいいだろうに……あっ、そっか……デュアンの魔法があれば密室の防音が出来るのか……」

 

溜め息を吐きながら、相馬さんはツッコミを入れる。

オレも最初はそう思ってたさ・・・うん。最初は、な。

 

   綾地「そっ、れは……その……」

あー・・・また誤爆するぞこりゃ。

 

   保科「何か理由があるの?ま、まさか図書室でしなくちゃいけない、って制約まであるとか?!」

 

そんな制約だったら、オレだったらブチギるぞ。

 

   綾地「いえ、あの……発情にも波があって、酷い時は……普通じゃ足りないことも……それに、図書室にある机の角の丸みが、一番丁度よくて」

 

はあ~・・・本当に溜め息しかでねぇよ。

 

   保科「……あ、そうですか」

  デュアン「おい、保科。何を考えてた?」

とオレは、ポケットに入れたボールペンを首筋を立てて言った・・・

 

   保科「……いや、何も思ってない……ッス」

  デュアン「そうか、それは何より」

とオレは、ボールペンを仕舞った。

 

   綾地「……最悪……最悪です……もうやだ、お家帰るぅ……」

家に引きこもってもいいことなんて無いぞ。ただただ、暗い気持ちになるだけだ・・・やめとけやめとけ

 

 デュアン「とぅ!」

軽くチョップを入れる

 

   相馬「とまあ……寧々の場合は"発情"だな」

   保科「デュアンの場合は?」

   相馬「あー……これは特殊すぎて……。ただまあ、水を被ると女の子になっちゃうって言うことだけかな?しかも、元に戻るには魔力を含んだ水……つまり、デュアンが持つ魔法を水に含んだお湯を被らないとならない」

 

  デュアン「うぉぉぉぁぁああ!!」

と、思い出させないでくださいよ、相馬さん。

 

   保科「ええっと……性的に興奮する、ってことでいいんでしょうか?というか、デュアンの場合は、もはや漫画の領域?」

 

知ってるか、事実は小説よりも奇なり・・・なんだぜ?

 

   相馬「そういう興奮も含めて、強制的に気持ちよくなっていく……という方が正しいかな……寧々の場合は」

 

   保科「時と場所を選ばずに、そんなこと……本当に大変そうだ」

他人事だと思って・・・保科も半分は受け継いでるんだぞ

 

   相馬「何が代償として引き出されるのかは、契約者には選ぶことができないんだ……。オススメしない理由はわかっただろう?」

 

"契約者"には選べない?じゃあ・・・アルプが決めてるのか?それとも魔法を叶える重さの大小で決まるのか?千穂子の場合は、誰かの病気を治す為に叶えて・・・自分は記憶を失う、家族関係なく・・・重すぎじゃね?綾地さんも、離婚する前の両親に戻る・・・という選択をしてしまった。だが、引き出されたのは感情。

 

   相馬「とにかく"心の欠片"を回収するためには、保科くんの心を埋めなければならない」

 

   保科「そのためには……オレが自分で、何とかするしかないんですよね……。…………。あんまり自信はないな……能力を消すことが出来れば、一番早かったんですけど」

 

 

  デュアン「母親が遺したモノだぞ?言わば遺産だ……もっと大切にしろ……その能力はお前次第で進化するんだから」

 

まあ、その為には・・・「魔法」というものを理解しなければならない

 

   相馬「……仮に能力が消えたとしても、心が埋まるかどうかは怪しいと思うが……」

 

   保科「どうしてですか?」

   相馬「悩みが一つ消えたからといって、人が変わったようにポジティブな人間になれると思う?」

 

   保科「それは………ちょっとむずかしいですね」

   相馬「生きてる以上"悩みが無くなる"ことはないよ。だからこそ"悩みが解決する"ことが重要じゃないか」

 

まあ、生きていたら無限に悩みは増えるからな。逆に死ねば悩む必要もない・・・オレは今までいい加減に生きていたから、後者を選んでしまうな・・・好きな人ができたとしても結局は後者を選び続けてしまう。

 

  デュアン「そうそう、人というのは生きていたら無限に悩みが増え続ける……大小構わず……それを人生というのかもしれんな……逆に死ねば悩む必要も思い詰める必要もない……オレみたいに後者の考えは捨てたほうがいいよ」

 

   保科「……」

   相馬「まあこんな仮定も"魔女"になれない以上、無意味なわけだがね」

 

   保科「あの……ついでに質問なんですが……悪魔って本当にいるんですか?」

 

   相馬「ん?」

   保科「ほらさっき『悪魔に身を売った』って言ってたじゃないですか」

 

   相馬「ああ、それか。悪魔というのは、あくまでイメージの話だよ。本当は、どちらかというと妖精や精霊と呼ぶほうが近しいかもしれないな」

 

まあ・・・意味は一緒かな?。確か、ドイツに伝わる夢魔の一種だっけな。吸血鬼的な性格があるといわれ、猫や鳥などの様々な動物の姿になって現れる。猫は七緒で、烏はアカギ。

 

   保科「それじゃあ綾地さんも、その……妖精と契約を?」

   綾地「そもそも契約内容がおかしいんです……発情って……いくらなんでも発情はおかしいでしょう……だから学院内でオナニーなんて……」

 

おぅふ・・・闇が出てるぞ・・・。まぁ、オレからすればあれだけの魔法を行使するのに、発情だけで済んでるのは奇跡に近いよな。

病気を治すだけで記憶を失ったり・・・オレの場合は『この世の理を捻じ曲げる能力』だがな・・・理が捻じ曲がったから性別という理も捻じ曲がったんじゃないかな?

 

   保科「まだダークサイドから戻ってなかったのか、綾地さん」

 デュアン「保科はもし、親とか女子に見られたら……平然としてられるか?」

 

   保科「…………ごめんなさい」

素直でよろしい。

 

   綾地「え?あ、ご、ごめんなさい。つい考え込んでしまって」

   相馬「"アルプ"というんだがね、日本なら妖怪という言い方をするかもしれないな。まあ、そういった類の不思議な存在だよ」

 

 デュアン「ちなみに、ドイツでは夢魔の一種だっけな。吸血鬼的な性格があるといわれ、猫や鳥などの様々な動物の姿になって現れる……」

 

   保科「はあ、そうなんですか」

   相馬「要領を得ないか?そうだね……ならばアルプについて証明をしよう。そうすれば、今までの胡散臭い話も信じやすくなるだろう」

 

   保科「そんなことできるんですか?」

 デュアン「相馬さんはアルプだぞ」

   綾地「はい。七緒は人間じゃないんです。私が契約を結んだ、アルプなんです」

 

   保科「え?それってつまり……相馬さんは妖怪ってこと?」

お前からすれば、オレは妖怪と人間の子供ってことか。

 

   相馬「それを今から見せるのさ」

おぉ、華麗なフィンガースナップだ。

 

schwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)に相応しい黒猫だこと。

 

「にゃぁ~~」と可愛い子猫みたいな鳴き声をする相馬さん。うん。猫を飼おうかな?と思ったら、今住んでいる所はペット禁止だったな。

 

   保科「……猫?っ……かっ、可愛い」

と顔を赤くする保科。気持ちは分からんでもない。だが、相馬さんだよ?

 

   綾地「これが、七緒の本当の姿。人間ではなく、元は猫だったんです」

 

   相馬『まあ、そういうことだ。しかし……人間の姿で過ごすようになって長いからか、裸で人前で立つのはちょっと不安になるな』

 

念話の魔法って便利だよなあ。今度、作ってみようかな?

 

   保科「声が!?」

   相馬『テレパシーというか……まあ、これも魔法だ』

 

   保科「相馬さんは……魔法を何度でも使えるんですか?」

 デュアン「オレも使えるぞ……アルプじゃないけど」

   相馬『簡単なものだけだよ。そして、その代わり、自分たち自身が魔女になることはできない』

 

そりゃそうだ、そうなったら・・・大変なことになる

 

   相馬『つまり、寧々やデュアンのような魔女が望んでいる大規模な魔法を使うことは出来ないんだ』

 

   保科「全ての猫がアルプ?だしたっけ?そんな特殊な存在になるっていうわけじゃないですよね?」

 

   相馬『その点はどう説明すればいいか……強い感情……つまり魔力に長く触れることで動物の中に変化が訪れる者がいる。日本にも猫が年老いて猫又になるという伝説があるだろう?アレは、そういうことだ。まずこの時点で、長命になる……その上で長い月日を重ねていくと、この世の理以外の物が見えてくるようになり、こうして――――』

 

猫又は妖怪の類だったような気がするぞ・・・?原初のオレは八尾の猫妖怪・・・いや半妖だったぞ。

 

と、相馬さんが言い終わると・・・再び光に包まれ・・・・

 

黒猫から人間に戻った?いや変身した相馬さんが居た。

生まれてきた姿で現れるのは、ちょっと心苦しいから・・・視線をそらすことにした、オレ。

 

    相馬「人間の姿に変化できる存在になる、と言うわけだ」

    保科「そっ……そうなん……ですか」

    綾地「……どこを見て言ってるんですか?」

 

    保科「え!?い、いや、別に!?」

  デュアン「まぁ、保科も思春期だからね」

    保科「…………」

 

    相馬「とまぁ、概ね理解は出来たかな?」

    保科「えぇ……」

  デュアン「んじゃ、行くか……相馬さん。ご馳走様でした……」

と言い、オレと保科は学校に向かうことにした・・・

 

オレは、保科と一緒に登校し、綾地さんはその後で登校することにした。

一緒に遅刻になると変な勘ぐりを入れられるし、保科の能力が発動してるから、保科自身に大ダメージを受けかねない。

 

  デュアン「じゃあ、綾地さん。また後でね」

   綾地「はい……」

 

オレはそう言い、一万円札をテーブルに置いて、シュバルツカッツェから出た。

 

 

 



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Ep9 保科と綾地さんは何処か似ている Byデュアン

 

 

   保科「すみません、遅くなりました」

   久島「ん?あれ?保科?登校しても平気なの?体調不良だったんでしょう?」

 

   保科「はい。病院に行ってきたので、大丈夫です……それと、後少ししたらデュアンも来ると思いますので」

 

   久島「そう。無理はしないようにね。じゃあ――――」

と久島先生が言いかけた時・・・・

 

  デュアン「遅れました……」

   久島「デュアンも家庭の事情があるなら仕方ない……それじゃあ、授業を続けるよ」

 

と言った。

もしかして、オレ入るタイミング間違えた?

 

オレと保科は席に座り、授業を聞くことにした。

 

え?眠り魔のオレが、なぜ授業を聞いてるかって?だって、授業の途中から入ってきたから、どこまで進んでるのか分からん。

 

 

保科・・・上の空だったな。考え事か・・・。

 

本当はノートとか取る必要もないんだよなあ・・・でも、ノートは書かないと問題だからなあ・・・。

 

   

――――キーンコーンカーンコーンと授業の終わりを告げる鐘の音がなる・・・。

 

   久島「ああ、チャイムか。じゃあ、今日はここまで」

久島先生が教科書を閉じ、教室を出ていく・・・

 

 

オレは席に立つと、保科の数少ない友達の仮屋さんと海道が心配しているようだ・・・オレも話に加わろうっと

 

   仮屋「保科、大丈夫なの?」

   海道「病気なのか?」

まぁ、病気といえば病気だな・・・"心"だけどね

 

   保科「心配されることはないって。頭痛がしてたけど、薬をもらったからすぐに治ったから」

 

    仮屋「それならいいけど」

    海道「でも、遅刻してでも登校する辺りは真面目だよな。オレならサボる、絶対」

 

  デュアン「単位落とすぞ、海道……まぁ、気持ちは分からんでもない」

 

    保科「いや、オレの場合……家でボーっとしてても仕方ないからな」

 

保科は本当に真面目だよな・・・

 

    仮屋「ムリはしない方がいいよ。顔色がいつもより悪いかも」

仮屋さんは細かいところを見ているんだな・・・。

 

    保科「そうか?自分ではそんな感じはしてないんだけど」

あれだ、保科は自己犠牲が当たり前という認識をしている。これを去勢しないと、心の傷が回復しないな・・・。

 

    仮屋「んー……気にし過ぎだけかな?」

いや、確かに顔色が良くないぞ・・・ちょっと青ざめてる感じ?

 

   海道「悪いって言うほどじゃないと思う。けど確かに……元気はなさそうだな。まあ病院に行くぐらいだから当然か」

 

   保科「自分ではいつもどおりのつもりなんだけどな」

 デュアン「クラスメイトが素直に心配してるんだから……他に返す言葉ってものがあるだろ……お前はアレだ、ムリをし過ぎてぶっ倒れるパターンだ」

 

   仮屋「あー……確かに保科って身体を壊すまで気づかないかも」

   保科「そう、なのか?んー……でも心配してくれて、ありがとな」

   仮屋「ううん。変なこと言って悪いね」

   保科「いや、こっちこそ。心配かけて悪い。けど大丈夫だから」

   海道「調子が悪くなったら無理せず、早退とかしたほうがいいぞ」

   保科「ああ、そうするよ」

 

本当にいい友達に恵まれたな保科は・・・

 

 

 

 

――――6限目が終わり・・・

 

   

   保科「綾地さん、デュアン」

 デュアン「?」

   綾地「保科君?どうかしましたか?」

   保科「いや、用事ってわけじゃないんだ。ただ、今日はもう帰るよ」

 

   綾地「そうですか」

 デュアン「そうした方が気持ちに整理がつくしな……ゆっくりと考えな。これからの人生が180度変わるかもしれない……ああ、それと。保科に課題を渡しとくよ」

 

   保科「課題?」

 デュアン「"魔法"とは何なのか、"能力"を別視点から見ることだ」

   保科「分かった。家でちゃんと考えるよ、あと相馬さんから説明されたこと。だから、もう少し時間がほしい」

 

   綾地「はい、大丈夫です。焦ってもどうしようもありませんから」

一昨日焦ってたよね?ん?ん?

 

   綾地「それじゃあ、今日のところはさよならですね」

   保科「ああ、うん……。ちなみにさ、綾地さん」

   綾地「はい?なんですか?」

   保科「綾地さんはオレに悩みがあるって確信があったの?じゃないと、占いに誘ったりしないよね?」

 

オレは疑惑をもってたけど・・・綾地さんは確信してたのか?

 

   綾地「それは……ハッキリとした確信があったわけじゃありません。でも……」

 

   保科「でも?」

   綾地「どこか、私に似ている気がしたんです」

 デュアン「あー……確かに似てるな」

   保科「オレと綾地さんが、か?」

 デュアン「あぁ……まぁ。この答え合わせは、いつかしてやるよ……」

 

オレはチラリと見ると・・・

 

   綾地「クラスで見ていて思ったんですが……どこか、線を引いて付き合っているように見えたんです」

 

   保科「それは……、……ちなみにそれを、オレのどこに感じたのか……訊いてもいいかな?」

 

   綾地「そうですね……主には、全体の雰囲気が一番の理由なんですが……それでもあえて答えるなら、表情でしょうか……。楽しそうにしてるときでも、どこか楽しみきれていないと言いますか。そういう気持ちは、私にもありますから」

 

   保科「そっか、なるほど」

保科も綾地さんもまだ17年しか生きていないんだぞ?こいつらって何処か大人びてるよな・・・。

 

   保科「ありがとう、綾地さん」

   綾地「いえ、お礼を言われるほどのことでは」

 デュアン「その顔は……答えが見つかったな」

   保科「まだ具体的には、な。それじゃあ、また」

   綾地「あ、はい。また」

 

 

――――オカルト研究部

 

  デュアン「綾地さん……もしも、明日……保科がオカルト研究部に入部することになったら……受け入れてほしいんだ」

 

    綾地「え……?」

  デュアン「……保科の心は満たされるには……オカ研の悩みを解決する……これに答えが隠されてるんじゃないかな……と思うんだ」

 

保科は、他人の仕事をやって当たり前・・・と思っている節がある。だから、此処に入部して・・・お礼を言われるようになれば・・・少しは心が満たされるんじゃないのか?と予想する。オレは転生者だが、此処へ来る時のストーリーは既に忘れている状態だ。

 

    綾地「分かりました……」

  デュアン「ありがとう綾地さん」

 

綾地さんとオレは1時間ぐらい暇をつぶしていたが・・・今日は何故か、誰も来ない。これ以上居てもしょうがないから・・・

 

  デュアン「綾地さん、今日のところは此処で部活を閉めないか?」

   綾地「……そう、ですね……」

 

 

こうして、オレらは帰ることにした。

 

今日は金曜日・・・明日と明後日はschwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)でバイトだ。早朝の4時から夜の23時までの19時間シフト。

 

 



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Ep10 変化

 

 

 

―――――月曜日 放課後。

 

コンコンッとノックの音が聞こえる。

 

 

  デュアン「……来たか」

    綾地「はい、開いていますよ」

 

と扉が開くと、そこには保科が居た。

 

    綾地「あ、保科君?今日はどうしたんですか?」

    保科「例のことで、綾地さんに話があって」

    綾地「え?あ……ちょ、ちょっと待って下さいね」

 

綾地さんは扉を開け、外の様子をうかがう。

まぁ、他人には絶対に知られたくはないよな・・・俺ら三人には。もはや口にできない関係だ。オレは水を被ると幼女になってしまうこと。綾地さんはアルプと契約した魔女。保科は能力持ち・・・うん。

 

日常のはずなのに非日常にいる俺らって凄くない?

 

そして誰も居ないことを確認した綾地さんは、扉に鍵をかけた

 

    綾地「大丈夫です、外には誰もいません。大きな声を出さない限り、誰にも聞かれないと思います」

 

  デュアン「それじゃあ……オレの魔法の出番だね……15分間は……俺らの会話を聞くことは出来ない……安心して」

オレはくるくると親指を回しながら・・・魔法を行使した。

15分間、外から聞き耳で声を聴くことも、中に入る事も出来ない・・・完全な密室状態にする。

 

    保科「……。……それであの、先週のことを色々考えてみたんだ」

 

    綾地「そんなに慌ててなくてもいいんですよ?どのみち、1日2日でなんとかなる問題じゃありませんから……」

 

    保科「平気だよ。焦って答えを出したわけじゃないから。母さんの話を色々と聞いて……休みの間にちゃんと考えて出した答えなんだ」

 

つまり・・・保科はオカ研に入るんだな・・・?

 

    綾地「それは"心の穴"を埋める方法が見つかった、ということですか?」

 

    保科「いや、ゴメン。悪いけど、それは確約できない」

    綾地「……そう、ですね。仕方ないと思います」

 デュアン「……」

   保科「でも、心を埋めるための努力をしてみたい……。だから綾地さん、デュアン……オレをオカルト研究部に入部させてもらえないかな?」

 

   綾地「……え?」

   保科「はい、これが入部届ね」

  デュアン「予想的中だったな」

   綾地「はい……。ン、コホンッ」

綾地さんはそう言い・・・次に、保科に質問した

 

   綾地「あの……どうして部活に?入部することが、保科の心を埋めることに繋がるんですか?」

 

   保科「あー……それに関しては、オレにも分からないんだけど……思ったんだ」

 

    綾地「何をですか?」

    保科「もう少し、ちゃんと笑える生活を遅れるようになりたいなー……って」

 

 

  デュアン「そうだったな……お前の高校生活を1年半見てきてるが……純粋に笑ってる姿は見たことなかったな……お前の学生生活、灰色だったのか?」

 

と質問すると・・・

 

    保科「分からない。でも……まあ、その……今までずっと変われるなら、変わってみたいと思ったんだけど……それは思ってるだけで、実際に努力しようとしてなかった」

 

そこが保科の悪いところであり、欠点でもある。どこかで諦めている癖を直さないと、一生心の傷なんてものは埋まるわけがない。

 

    保科「けどこういう事態になって……もし本当に変えたいと思うなら、頑張ってみるのは今しかないんじゃないかって……」

 

  デュアン「……いいことだと思うぞ」

オレはそう言うと、保科は少し顔を赤くし・・・

 

    保科「……上手く言えなくて、背中がかゆくなってくるんだけど……、とにかく綾地さん、デュアン!」

 

  デュアン「?」

    綾地「は、はい?」

    保科「もしよければ、オレに手伝いをさせてもらえないかな?」

    綾地「……保科君の気持ちは分かりました……でも……正直に言って、上手くいくばかりじゃありません。失敗してしまうことだってありますよ?」

 

 

昔の人が言ってたな。"失敗は成功の元"って。何かを失敗しないヤツは成功することも、成長することも出来ない。寧ろトライアンドエラーが可能な学生だからこそ・・・失敗を経験したほうがいいとオレは思う。

 

 

    保科「いいよ。それに"心の欠片"を綾地さんに返すためにも、手探りでも何でも、今はやってみないと」

 

  デュアン「ま、男の責任のとり方ってわけか」

    保科「ああ!」

いいことだと思うぞ。ま、オレは部長でも副部長でもないしな。それを決めるのは綾地さんだ。オレが決めることじゃない

 

    綾地「でもですね、その……私には"契約"の件もあります……迷惑をかけてしまうかも」

 

    保科「あー……それは、まあ……で、できる限りフォローするよ」

 

  デュアン「確かに……俺的にも助かる」

最低5分間しか抑えられない欲情が暴発したら大変なことになるからなあ・・・。下手すると綾地さん自身に心の傷が負いかねない上に学校に来なくなる可能性だってある。

 

    保科「ま……と言っても、オレは男だから限界もあるわけで……綾地さんが嫌でなければ……だけど」

 

    綾地「………」

少し考え込んでるな・・・

 

    綾地「それじゃあ、これからよろしくお願いします」

  デュアン「よろしくな、保科」

    保科「うん。よろしく……あ、フォローも頑張るよ!図書室の前で見張りぐらいなら、いつでもするから!」

 

グサリッと言葉のナイフが心に刺さる綾地さん・・・

 

    綾地「……もう死ぬしか……腹を切るしかありません……」

オレはハリセンで保科の頭を叩く

 

  デュアン「お前はフォローしたいのか、トドメを刺したいのか……どっちなんだ!」

 

    保科「痛っ!ゴメン!本当にゴメン!そんなつもりじゃなかったんだ!」

 

    綾地「……気の利かない人は困りますが、だからってそんな変なことまで気を回さなくていいんです……嫌がらせですか……」

 

100%の善意の悪意って酷いよな・・・こういうのを「余計なお世話」というのだろうか?

 

    保科「本当にゴメンナサイ」

猛虎落地勢を見たの初めてかもしれない・・・。

 

 

 

――――とまあ、保科が入部したのであった。

 

―――これから、二人のフォローをしなければならないのか・・・。

 

―――――これから、部員が増えそうだが・・・

 



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Ep11 バカにして良いのはバカにされる覚悟のあるやつだけだ

―――――次の日。

 

    保科「おはよう」

 男子学生B「おはよう、保科」

  デュアン「ああ、おはよう……保科」

 男子学生A「おう、おはよう」

 

保科って、友達と呼べる人が少ないだけでコミュニケーションは取れてるよな・・・。

 

    仮屋「おっはよ!保科!」

  デュアン「おはよう、仮屋さん」

    保科「おはよう、仮屋。どうかした?なんだか妙にテンションが高いように見えるけど」

 

    仮屋「なんと今日は、念願の給料日なのさ!」

  デュアン「あー……そういやもうじき25日か。今月幾ら貰えるんだろうか……前回みたいに少なくなきゃ良いけど」

 

バイクは車検から帰ってきてないから、遠出は出来ないんだよなあ・・・いや、徒歩で歩けば良いが・・・。

 

    保科「ああ、アルバイトの?ギターを買うんだよな?」

    仮屋「そうっ!いやもう楽しみで楽しみで、そわそわしちゃってるのさ。買いに行けるのは週末なんだけどね」

 

えらくテンションが高いな・・・変なところで躓かないといいけど。

 

    保科「遠足前の子供みたいだな」

オレは、保科の肩をポンと乗せて・・・

 

  デュアン「初めて給料をもらう人は皆そういう気持ちになるんだよ……それに……学生は皆子供だ」

 

とツッコミを入れる。

 

    仮屋「自分でもそう思うんだけどさ、頑張ってバイトしたからどうしてもね、うひひ~」

 

本当にテンションが高いんだな・・・仮屋さん。

 

    保科「……そんなに嬉しそうだと、フラグが立ちそうだな」

    仮屋「フラグって」

  デュアン「へぇ~……例えば、どんなフラグだ?」

    保科「例えば……給料を貰えなかったり、落としちゃったり、親に勝手に使われちゃったり、ギターを買ったはいいけど、はしゃぎ過ぎてすぐ壊しちゃったり」

 

  デュアン「相馬さんのところはしっかりしてるから大丈夫だよ……まぁ、テンションが有頂天な状態だと落としちゃったり、壊しちゃったり……有り得るから怖い」

 

    保科「で、なんだかんだで残念な結末を迎えるフラグ」

    仮屋「うちの親はそんな外道じゃないって。それに、デュアンの言う通り、給料が滞ったりするところじゃないよ」

 

    保科「けど、浮かれすぎて落とさないように、気をつけないとな」

 

  デュアン「確かに……」

オレは保科の意見に同調する。

 

    仮屋「それは……そうかもね。うん、そこは気を付ける」

    保科「よし……安全のためにオレがバイト代を預かってやるよ」

  デュアン「は?なに言ってるの?」

    仮屋「ふ・ざ・け・ん・な♪」

キレられてもおかしくないぞ・・・今の。

 

    保科「そんな本気で拳を握らなくても」

と、我らが部長の綾地さんが教室から入ってきたのだ・・・

華やかさが更にアップしたな・・・

 

    綾地「おはようございます、仮屋さん、保科君……デュアン君」

  デュアン「おはよう綾地さん」

    保科「あ、おはよう、綾地さん」

    仮屋「おっはよ!」

    綾地「どうかしたんですか?なんだか今日はご機嫌ですね、仮屋さん」

 

    仮屋「例のギター、今回のお給料でようやく目標金額に達するんだ」

 

オレも何か楽器に趣味でも持とうかな?でも、前世の経験って・・・ヴァイオリン、ピアノ、リコーダー、吹奏楽器ぐらいしかやったことないんだよな・・・。やり方の講座をペラペラっと読むだけでその楽器の知識とか覚えられる。

 

    綾地「そうなんですか、おめでとうございます」

    仮屋「それもこれも、綾地さんとデュアンのおかげだから。ありがとね!」

 

  デュアン「ん」

    綾地「いえ、本当に大したことはしてませんから」

いや、バイトを紹介してくれるだけ本当に凄いと思うぞ?

オレは、1年からschwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)に働いていたが・・・その上に居酒屋でバイトしてたからなあ。まあ2年に上がった時に辞めちまったけど。今は相馬さんの仕事をフルに入れてる。

 

    仮屋「そんなことないよ。綾地さんにバイト先を紹介してもらわなかったら、今も悩んでたかもしれないわけだし。はぁ~、早く週末が来ないかなあ~」

 

    保科「………あの、綾地さん、デュアン」

  デュアン「ほいほい何でしょうか?」

    綾地「はい?なんですか?」

    保科「仮屋がすっごくはしゃいでるんだけど"心の欠片"ってもう回収してるの?」

 

回収してたらあんなハイテンションにはなってないぞ・・・。

 

 

    綾地「いえ、まだです。おそらく何も無いと思うんですが、万が一ということもあります。もし何かしらの事故が起きたりして、思った通りの結果にならなかったら……」

 

oh...まぁ、その時はオレが貸してあげればいいか。反動がデカすぎて、心の傷になるかもしれんが・・・。

 

    保科「ああ、そっか。それでもバランスが崩れちゃうのか」

    綾地「あくまで可能性なので気にし過ぎかもしれませんが、出来るだけタイミングも考えないと。嬉しい気持ちの時は特に……ですから、お給料を貰った時か、ギターを買った時が一番いいんじゃないかと」

 

    保科「なるほど。あっ……ところでさ、"心の欠片"の回収ってどうやるの?今更だけど具体的な方法を聞いてなかったから」

 

変身して、撃ち込めば良い・・・とは言いづらいよな。綾地さんの魔女コスチュームは、露出度が高い・・・本人が言わないとだめだよな。

 

    綾地「…………」

やはり、ズゥーンと気が沈んでいる。

 

    保科「あ、綾地さん?オレまた地雷を踏んじゃった?」

    綾地「あ、すみません。でもそれに関しては、ここではちょっと……」

 

と言うか、欠片を回収しちゃうと気絶しちゃうからなあ・・・。

 

    保科「そっか、分かった」

  デュアン「……頭痛ぇ」

オレは頭を抑えながら愚痴を呟いた。

 

    仮屋「三人とも何の話?」

  デュアン「世間話と言うより、保科が俺らのオカ研に相談を持ち込まれて……解決策を交互に出し合っている途中……かな?」

 

嘘は言ってはいない。嘘と本当のことを

 

    保科「あぁ……そうだな」

    仮屋「はぁ~、週末が楽しみだなぁ~」

オレと保科は微笑を浮かべた。

あんなに嬉しそうなんだから当たり前か・・・

 

    海道「おーい、柊史、デュアン」

  デュアン「?」

    保科「?」

    海道「佳苗ちゃんが呼んでるぞー」

久島先生が?何の用だろうか?

俺らの近くまで歩いてきた先生。

 

    久島「佳苗ちゃん言うな。ちゃんと先生と呼びなさい」

先生が言っていることは御尤も、至極正論の返しだ・・・

 

    海道「ええ?いーじゃないっすか、佳苗ちゃん。可愛いと思いますしね」

 

  デュアン「海道、お前……先生だぞ?教師だぞ……俺らよりも年上の人だぞ……」

 

オレは少しドン引きした。いや、でも・・・んー、何だろうか。「好きな人」に軽くじゃれつくような感覚なのか?

 

    久島「よくない。こういうのは普段からしっかりしないと、他の先生にも怒られるんだよ」

 

怒られなきゃ良いのか?と軽く思ってしまう。

 

  デュアン「まぁ……ぶっちゃけ先生は若いですし……俺らと指を数えられるぐらいしか歳離れてませんですしね」

 

ぶっちゃけ20代の人が高校の先生をやっていて、惚れるのは当たり前・・・なのか?

 

   久島「それは褒めているのか?」

  デュアン「さあ?オレは誰かを褒めるほど器用な人間じゃないよ……ぶっちゃけ不器用?」

 

オレが器用だったら、他の人がどうなるんだ?

 

    海道「分かりました……佳苗"先生"」

  デュアン「もう知らん。海道は一度怒られろ」

馬鹿か?とオレは思ってしまった。

 

    海道「ジョーダン、ジョーダンですってば。先生ったらそんなに怒るとシワが―――」

 

オレはハリセンで海道の頭をぶっ叩いた。

 

    海道「ぎゃぁあー!痛ッ」

海道は頭を擦った。

 

  デュアン「ダメだよ、海道。……女性にその言葉はNGだ」

 

オレはそう言うと・・・激怒寸前の先生を止めた。

 

    久島「…………」

    海道「すみません……あれ?先生おこ?おこなの?」

と謝る海道。

 

    保科「お前、煽ってどうするんだよ?」

  デュアン「もう知らん……お前は一度怒られたほうが良いと思う」

    海道「え?オレ、煽ったつもりなんて無いんだけど?」

  デュアン「あぁ、お前の中ではそうだろうな、お前の中では。俺らからすれば煽ってる風にしか見えなかったぞ?」

 

    久島「はぁ……もういい。次から気をつけなさい」

久島先生は溜息を吐き、海道に注意した

 

  デュアン「ああ……俺たちに何の用だったんですか?先生」

    久島「話があるんだけど、いい?」

    海道「また呼び出し?デュアンは珍しいけど……保科は結構な頻度で呼び出しされてるな、今度は何をした?」

 

オレは珍しい分類に入るのか?授業態度が不真面目だから呼び出しされる~なら分かるとは思うが・・・あぁ、毎回テストで90点代を出してるから、文句を言えるに言えないのか。ぶっちゃけ高校は単位、テストの点数と最低限の出席日数があれば進級や卒業できるからなあ。

 

  デュアン「オレは心当たりは全くない」

    保科「左に同じく……と言うか、今回は心当たりすらないぞ?」

オレも保科も先生に呼び出しされるようなことはしていない。授業態度が不真面目で怒られるなら授業が終わってから・・・なら分かるが授業前に怒られるのは流石に酷いと思う。

 

    久島「別に説教じゃないよ。ただの確認事項。いいからちょっと来なさい」

 

此処では話せない内容・・・?

 

     保科「分かりました」

 

俺らは教室から出て少し歩くと・・・

 

     保科「職員室まで行くんですか?」

    久島「ん?あー……別に此処でも良いか。大げさにすることでもないし」

 

どういうことだ?

 

    久島「ちょっと保科に確認しておきたいことがある」

  デュアン「オレを呼び出した理由は!?」

と軽く突っ込む

 

    久島「デュアンのはその後だ」

  デュアン「そうですか」

    保科「確認、ですか?なんですか?」

    久島「実は綾地が入部届を持ってきた。オカルト研究部の新入部員のね」

 

    保科「久島先生に?」

  デュアン「それがどうしたんです?」

部活の顧問は久島先生だしな・・・

 

    久島「オカ研の顧問はアタシなんだよ」

    保科「そうだったんですか?なら入部届を貰った時に、言っておけばよかったですね」

 

言ってないのかよ・・・。まぁ、知らなかったのかは無理はないか。

 

    久島「ということは、間違いないわけだ?」

    保科「はい、もちろん。オレの意思で入部しましたけど……それがどうかしました?マズイことでもありますか?」

 

    久島「そういう意味じゃないんだけど……ちょっと驚いてね」

  デュアン「保科が変わってきてることに?それとも……綾地さんが入部を許したことに関してですか?」

 

と言った時・・・保科が

 

    保科「あー……そういえば、部活入るつもりはないって言った直後でしたっけ?」

 

   デュアン「おい、保科。それは先に言えよ。オレが間抜けじゃないか……」

 

    保科「悪い、デュアン……。まぁ、ちょっとした心境の変化と言いますか、オカ研なら元々部員も2人だったので人間関係に悩むことはなさそうかなー……と思いまして」

 

まあ、数少ない友達と責任を取らなければならない女の子が居るしな。それに、オレや綾地さん的には・・・保科が居たほうが心の傷を見ることが出来るしな。

 

    久島「いや、保科の心境の変化も気になったんだけど、それより驚いたのは綾地の方だよ」

 

   デュアン「……?」

    保科「綾地さんに??なんでです?」

確かに素朴な質問をするよな。なんで綾地さん?

 

    久島「どうしてオカ研が今まで部員が二人だったと思う?」

まあ、魔女関連で言えばそうだろうな・・・。あまり広めたくなかったし

 

    保科「オカルト研究部の存在を知られていないから?オレもこの前、初めて知りましたよ?」

 

    久島「それもある。でもね、部員が綾地寧々なんだよ?入部希望者が他にいなかったと思う?」

 

言いたいことは分かる・・・なぜ保科が入部できたのか?という答えだろう。オレは事前確認を取っている。入部希望者なぞ沢山いた。だが、全て断ってきている。

 

    保科「…………言われてみると確かに。入って親しくなりたい女子もいたはずですね。男子は言わずもがな」

 

だが、実際に来たのは女子だけ・・・。まぁ、オカルト研究部を知ってるのは女子だけだしな。男子は殆ど綾地さんに集中狙いをするな・・・。つまり、オレの役目ってボディガード的な存在ってこと?

 

    久島「そう。入部希望者は今までにも居たんだよ。でも全員、綾地が断ってた……。それがここにきて、急に入部を認めたから驚いててね。もし入部できた理由に心当たりがあれば、教えてくれない?」

 

まぁ、綾地さんの魔女の代償である「発情」を見られたくはないよな。うち一人が幼馴染。うち一人はオナニー現場を見られた男子。うん。異質すぎて笑えてくる。

 

    保科「そう言われましても……ん~……。オレがイケメンだからじゃないっすかね」

 

外面の良いヤツは「イケメン」とは言わないぞ・・・保科。

 

    久島「あっひゃっひゃっひゃ!」

下品な笑いをする久島先生・・・

 

    保科「笑い方ゲッス!失礼だと思わないんですか、教え子をゲスく笑ったりして!」

 

    久島「無茶言うなよwwwこんなの我慢できるか、草生えるわwwwプゲラwっw」

 

イラッとしたオレ・・・

 

    保科「古っ!そんなんだから、結婚とかでき――――」

保科がそう言おうとすると・・・

 

    久島「あぁ?なんか言ったか、小僧?」

  デュアン「まっ……今のは言われてもしょうがないんじゃないですか?教え子に下品な笑いをして……。大人ならもっと諭した言葉を言うべきだったんじゃないですか?だから、婚期を逃すんですよ。もうちょっと大人な対応をすれば、先生にも来なかった春が来るかもしれませんよ?」

 

とオレは先生が反論できないような言葉を並べて口撃をする。

実際先生は若さと顔は良い方だ。だが、性格に少し問題がある。正直に言えば、オレ達からすると「この人と結婚はしたくないなあ」と思う。

 

    久島「っぐ……」

と悔しがる先生。

 

    保科「デュアン……ちょっと言いすぎだぞ?」

  デュアン「え?こんなのまだ軽いほうだよ……オレが本気で言葉攻めしたら……病んじゃうよ?」

 

    久島「で?心当たりは?」

切り替える辺り、本当に先生だ。

 

    保科「特別仲がいいってわけでもありませんからね」

  デュアン「言ってて悲しくならない?」

    保科「思わない……。あっ、けど、部員が少なくて部室を追い出されそうなんですよね?そのせいじゃないんですか?」

 

おぉ、保科はもっともそれらしい理由が言えたな

 

    久島「それに関しては、以前からわかっていたはずなんだけど……」

 

  デュアン「オレは初耳でしたよ?実際に戸隠生徒会長が来るまで寝耳に水だったし」

 

    久島「……しまった、あんたが休みの時に被ってたんだった……言うのを忘れてたよ」

 

マジかよ、この先生。本当に先生だな!と思ってしまった・・・。

 

  デュアン「ま、実際の所……保科が相談しに来て……それを解決するには部活に入ってみたら?という感じでしたから」

 

    保科「そうだったな」

    久島「綾地も保科も、デュアンも……ちょっと心配だったんだよ。他の学生とは距離を置くくせに、孤立もしてないからね」

 

まあ、人間関係が上手く言っている証拠じゃないか?保科は能力のせいあっての故だからしょうがないんだよな。綾地も「発情」がいつ襲ってくるか分からないから、他人との境界を避けてる感じがするんだよなあ。

 

    久島「ぶっちゃけ、距離感のバランスが取れてないと思うんだよね、キミらって」

 

  デュアン「いいんじゃないですか?似た者同士……」

    保科「そうそう。孤立しないっていいことだと思うんですけど?」

 

    久島「そりゃイジメは問題だ。でもキミらは『上手くやりすぎ』なの。確かにそういうスキルも必要だ。そこは認めよう」

 

だったら、何が悪いと言うんだ?オレは前世ではわざと孤立してたしな・・・人間関係も今ぐらいで止めたし

 

    久島「ただし、一度もぶつからないのも、それはそれで問題なの。そういうのは傷つき傷付けの経験と共に学ぶものなんだよ」

 

先生の言葉で・・・オレの脳裏で・・・

 

―――――『ぶつからなきゃ、伝わらないことだってある』という言葉を耳にしたことがある。誰からの言葉だっけ?いや、オレは知っている。いやそのセカイの恋人だった・・・。

 

  デュアン「……」

    保科「流石は年の功」

    久島「あ"?」

    保科「いや、敬意を払ったんですよ。流石は先生だなーって」

    久島「気持ちを伝えるときは正しい言葉を使いなさい。危うくぶっ飛ばすところだったよ」

 

    保科「気をつけます……」

    久島「で、保科自身はどうなの?どういう心境の変化で、入部することにしたわけ?」

 

    保科「それは……。う~ん……自分磨きってやつですかね?」

    久島「あっひゃっひゃっひゃ!自分磨きwww自分磨きとかwwwだから笑わせるなってwwwプギャーwww」

 

オレが言ったこともう忘れてるな。この先生。

 

    保科「プギャーとか本当に言っちゃう人初めて見た!」

 

  デュアン「おいおい先生、自分磨きは大切だと思いますよ?保科は変わろうとした……変わろうとしている人間にその言葉は無いと思いますが?と言うより、先生は保科を笑う資格はないと思いますよ……」

 

 

  デュアン「『先生』は『他人を笑える暇』があるんなら『いい男』を見つけて『結婚』でもするんですね。――――あっ!そっか『そんな性格』だから『先生』は『何時まで経っても』『結婚出来ないのか』あー……納得だわ。『先生』……女の賞味期限は短いんですよ。『婚期』を逃さないでくださいね」

 

オレはニッコリと笑う。

 

    保科「っ…………」

あっ・・・しまった保科にもダメージを受けちゃんだった。

前世で数少ない理解者で、球磨川先輩の真似は流石に堪えるか・・・

 

    久島「っ…………」

  デュアン「バカにして良いのはバカにされる覚悟のあるヤツだけだ……」

アメリカの小説家レイモンド・チャンドラーの小説「大いなる眠り」で、主人公「フィリップ・マーロウ」が放ったセリフを一部改変したものだ・・・本当は「撃って良いのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ」だけどな。まぁ、オレはそこを改変して、銃を「撃つ」方じゃなく「討伐」の方だけどな・・・「討って良いのは討たれる覚悟のあるやつだけだ」とね。

 

 

 

 

―――オレと先生は思った。デュアンを怒らせたらヤバいと。

 

 

 

――――――ヘラヘラと笑っているのにどす黒く濁っていてドロドロとした生温いスープを流し込まれ、味が苦い、甘い、辛い上にとてつもない激痛の後に、じわじわと癒やされる・・・この感覚はヤバい。気分が悪くなるとかそういう次元のレベルじゃない。

 

 

―――――――――その痛みを委ねてしまう。そんな感覚だ。



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Chapter2
Ep12 どうやったら人気者になれますか?


 

――――授業も終わり、オレと綾地さんはオカルト研究部に入った。

 

その数分後にノック音が聞こえる。

 

   保科『あの、保科だけど……入っても、いいかな?」

 デュアン「いいよー」

ってか、あいつ一々ノックをするのか?

 

   保科「あ、その……こんにちは」

   綾地「こんにちは」

 デュアン「……?……っ……ほうほう」

ニヤニヤとオレは笑ってしまう。

この二人、案外お似合いのカップルかもしれんぞ。ま、恋のキューピットはオレに任せなさい。

 

   綾地「適当に座ってくれていいですよ?」

   保科「じゃあ、遠慮なく」

 

何で保科は部屋の端っこの椅子に座る。そして、何で、オレは綾地さんの隣ではなく、一番左に座ってるんだ?

なんで、この二人はもじもじしてるんだ?これこそ草生えるだわ。

 

   綾地「あの、保科君も部員なんです。いちいち扉の前から声をかけなくてもいいですよ?」

 

保科はトラウマが出来てしまったな。まぁ、綾地さんのオナニーを見ちゃったら・・・そりゃトラウマが出来るな。

 

   保科「え?いや、でも――――」

ストップだ。保科・・・その言葉はあかん。

 

   綾地「そういう過剰な気遣いが続くと、怒りますよ?」

 デュアン「どうやら、本当に保科の中でトラウマが出来てしまったようだ」

 

   保科「…………。綾地さんでも怒ることってあるの?あまり想像がつかないんだけど」

 

  デュアン「喜怒哀楽は人間しか持ってない感情だぜ?オレみたいな薄情じゃないだろう……綾地さんは」

 

   保科「デュアン……アレで薄情だったのか?」

うわぁ、信じられねぇという顔をしてるな?

 

   綾地「勿論ありますよ。今だってかなり怒ってます。おこです。激おこです」

うん。怒ってる風に見えない。寧ろ可愛いよ?

 

   綾地「いいですか、過剰な気遣いはやめて下さい」

   保科「はい……。で、話は変わるんだけど……この部活って待ち体制が基本なんだよね?待ってる間、綾地さんとデュアンは何をしてるの?」

 

   綾地「私は、本を読んでます。そういう意味では、図書室がすぐそこにあるのは便利ですね」

 

   保科「図書室によく行くんだ?そっか……」

 デュアン「おい、保科……今何を想像した?」

   綾地「保科君?そういうことも考えなくてもいいですからね?」

   保科「何の事?気の所為じゃないかなぁ?」

すっとぼけたな?

 

   綾地「……嘘です、あの目は嘘の目です……図書室のオ、……オナニー……のことを思い出して、私のことをヘンタイだと思っている目です……」

 

  デュアン「おいおい、前にも言ったじゃないか……綾地さんがヘンタイなら全人類は皆、ヘンタイさ。そもそも人間は大半は性に飢えてるんだぜ?人の三大欲求をヘンタイと言うのなら、人類は繁栄してないさ」

 

   保科「そうだな」

保科が納得した後・・・

ノックをする音が聞こえ・・・

 

 デュアン「綾地さん、ノックだよ」

   保科「誰かが相談しに来たのかも、しっかりして!」

   綾地「え?あ、はい。どうぞ、開いていますから」

 

ゆっくりと扉が開かれて、奥からヒョコッと女の子が顔を覗き込んでいる。リボンの色からして後輩だな・・・。

 

   ??「あのー、ここってオカルト研究部ですよね?綾地先輩とデュアン先輩がここにいるんですよね?」

 

   綾地「はい?綾地寧々は私ですが」

 デュアン「デュアンはオレ……」

   保科「知り合い?」

   綾地「いえ。初対面のはずですよね?」

   ??「は、はい。綾地先輩とデュアン先輩のことは噂で知ってただけで、初めましてです」

 

   保科「ああ、綾地さんとデュアンって有名人だからね。デュアンは別の意味での有名人だが」

 

  デュアン「そうなの?オレそんな噂聞かないぞ?」

オレが有名なんて初めて聞いた。

 

    綾地「え?そうなんですか?」

    保科「え?自覚ないの?」

もし、変な噂だったら・・・噂の発信源を潰してやる。

女の子は小さな声で「本当に可愛い人」と聞こえたが、スルーをした。

 

    綾地「……?どうかしましたか?」

   ??「や、別に何でもないです。ちょっと見惚れてただけで」

   綾地「そ……そうですか」

ストレートな物言いに、呆気を取られてるな。なんだろう、綾地さんって押しに弱いのかな?

 

   綾地「それよりも、此処がオカルト研究部の部室と知って訪ねてきたんですよね?」

 

   ??「はい!噂を聞いてきたんです。此処に来れば、綾地先輩や、デュアン先輩が相談に乗ってくれるんですよね?」

 

   綾地「占いじゃなく、相談ですか?」

珍しいな・・・相談なんて。

 

   ??「ダメ……ですか?」

  デュアン「いや、ダメじゃないけど」

   綾地「いえ、困ってることがあって、私たちに力になれることでしたらお手伝いさせてもらいます」

 

   ??「ありがとうございます」

後輩の女の子がペコリと頭を下げる。

保科を見ると、本気で悩みがあるんだな・・・と思った。

 

   保科「それじゃ、えっと……」

  ??「あっ、失礼しました。自分は因幡めぐると言います。一年D組です」

 

   綾地「改まして、綾地寧々です」

 デュアン「同じく、デュアン・オrっと……」

オレの名前は長ったらしいからな・・・。入学時に名前を記入した時は、ぶつぶつと言われたからな。学校では「デュアン」と通している。

名字なし 名前はデュアンという風にしている。

 

   保科「保科柊史。綾地さんと同じクラスで、オカ研の部員だよ」

   因幡「よろしくです、先輩方。……ちなみに保科先輩もオカ研ってことは、一緒に話を聞くんですか?」

 

   保科「え?ん、まあ……そうなることになるかな?」

 デュアン「男子には相談しにくいことだったら席を外すけど?」

   因幡「いえ、大丈夫です。聞いててもらっても平気です」

   保科「あ、そう?」

   保科「はいっ」

   綾地「それで、因幡さんの悩み事は一体なんですか?」

   因幡「あの、綾地先輩にお願いがあるんです。自分を……」

 デュアン「自分を?」

   因幡「自分を人気者にして下さい!」

 綾地・保科「「…………」」

二人して固まっちゃったよ・・・

 

 綾地・保科「「はい?」」

見事なシンクロだ・・・

 

  デュアン「え?人気者?」

オレは目が点になってしまった。多分間抜けズラだろう。

 

  

―――――。

 

 

   保科「えーっと……話を纏めると、こういうこと?この学校に進学したものの、同じところから進学した友人は他にいない……しかも入学した直後に、病気になって1週間ほど休んだ、と」

 

   因幡「……風邪がひどくて……」

   綾地「そう言えば今年は、4月頃までインフルエンザが流行しましたね」

 

  デュアン「地獄を見たなあ……アレは」

   保科「そっか……2週間ぐらい休んでたもんな」

言うな・・・恥ずかしい。

 

   保科「話を戻す。で、次に登校したときにはクラスの中の人間関係が出来上がっていた……」

 

   因幡「出遅れちゃいまして……だからちょっと人間関係で悩んでまして」

 

すっごい重くて、解決困難な相談が来たなあ・・・。

 

    保科「それは大変だけど……」

    綾地「不躾ながら率直に言って、そんな風には見えませんね」

    保科「確かに。中々派手な格好なわけだし、むしろ友達がいない方が不思議な雰囲気なんだけど」

 

    綾地「まず先に確認させて欲しいんですが、孤立させられている、ということではないんですよね?」

 

   因幡「あ、はい。そういう相談じゃないです。ちゃんと会話もありますし、オカ研のこともクラスの子から聞いて。でもなんか居場所がなくて……会話はあるんですけど、ちょっと浮いてるといいますか、上手く馴染めないといいますか……」

 

  デュアン「ふむ……」

コミュニケーションが取れていない。

 

    保科「休日にみんなが遊びに言ったりするときには声がかからないとか……そういう関係?」

 

    因幡「そう、そんな感じです」

なるほど。

 

   因幡「実は自分、元々人付き合いが得意ではなくて、この学院に入った時に、その……イメチェン、みたいなことをしたんです」

 

  デュアン「………」

    保科「デビューってやつ?」

   因幡「そうです。髪型を変えて、服装やアクセの研究のために、色んな雑誌を読みふけって」

 

    保科「あー……。でも結局、上手く出来なかった、と」

   因幡「はい……でもだからって今更やめると、それはそれでなんかヤな感じじゃないですか」

 

  デュアン「そうか?」

    保科「確かに。そこは引いちゃいけない気がするな」

そうなのかー・・・・オレは人付き合いとかあまりしてないからなあ・・・。まぁ、確かに言われてみれば納得かもしれない。

 

    保科「ちなみに……暑くないの?」

  デュアン「おしゃれを研究してるんだぜ?だから、おしゃれに暑いも寒いも関係ないと思うぞ」

 

   因幡「はい、デュアン先輩の言う通りです。おしゃれは我慢、気温との戦いだって本に書いてありましたから」

 

どんな本だよ、ソレ!

 

  デュアン「まぁ……熱中症には気をつけないとね」

    保科「年がら年中長袖来てるお前が言うな」

   因幡「自分基本は寒がりですから、もう少ししたらこれで丁度良くなります!」

 

新陳代謝の低下に伴ってエネルギーの産生も低下してるのか?それとも血の循環があまり出来ていない?

 

――――――大きな病気でもしたのか?

 

    保科「そう。まあ、無理はしないようにね」

   因幡「あの、どうやったら綾地先輩みたいな人気者になれますか?」

 

   綾地「え?私みたい、ですか?」

本人が無自覚だから、その質問は難しいと思うぞ。

 

   綾地「そう言われても……私は人気者なんかじゃないですよ。だって私、友達いませんから」

 

ひどくね?それ、ひどくないか?

 

  デュアン「酷いっ……オレ、てっきり綾地さんとは友達と思ってたぞ?いや、そうでもないか……ただの幼馴染だったわ」

 

オレは納得した。

 

    保科「堂々と言いきれるのはちょっと凄いな、綾地さん、デュアン」

   綾地「そう言われても事実なので」

   保科「けど、いつも友達と話してるよね?」

   綾地「確かに、話しかけられるので返事はしてますが」

   保科「oh……クール」

綾地さん・・・その言葉を聞いてしまったら、クラスの連中は泣いてしまうだろう・・・ご臨終に。

 

   綾地「だって、いつも勉強の話ぐらいしかしていませんよ?」

   保科「いやまあ、オレが言える立場じゃないんだけどね。海道や仮屋、デュアンにも似たようなこと言われたし」

 

まぁ、"慕われている"というより"みんなの憧れ"だろうな・・・

 

   因幡「綾地先輩は、自分のグループというか、派閥みたいなものは作ったりしないんですか?」

 

作ったら最悪、俺ら2年が崩壊するだろうな・・・

 

  デュアン「ムリだと思う……綾地さんは、そういうことは多分興味がないと思う……そもそも、綾地さんはそういう人の多いところとか苦手だから」

 

   綾地「苦手というより……あまりそういうのに興味が……どちらかと言えば、私事(しじ)を優先したいので。この部活ですとか

 

   因幡「おー……なんか格好いい」

   綾地「私より、保科君やデュアンくんの方がアドバイス出来るんじゃないですか?」

 

お、俺たちに振るなよ。友達と呼べる人間少ないぞ・・・。言ってて悲しいけど・・・。

 

   因幡「えっ!?そうなんですか!?保科センパイってちょっと暗そうだし、友達が多いようには見えませんけど!?」

 

   保科「あはは、素直な子だなぁ。ぶっ飛ばすぞ」

保科は少し怒っているようだ。当たり前だよな。初対面の子に「友達多いように見えない」とか言われたら誰だって怒るよな。オレは怒らんが・・・事実だし。

 

   因幡「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんですけど……驚いたらつい口が滑っちゃって……だって目に生気を感じないので」

 

   保科「誤りながら追い打ちをかけるのは止めろ」

 デュアン「確かことわざでこんなのがあったな……『思いやりは友を作るが真実を語ると敵を作る』って……」

 

保科が不憫で可愛そうだ・・・

 

   保科「でも……友達って呼べるのは、海道と仮屋、デュアンぐらいだよ?教室で話すのも、大体あの3人だし」

 

 デュアン「言ってて悲しくならね?」

   保科「……」

   綾地「え?でも、よく頼られてるじゃないですか?」

   保科「アレは頼られてるってのとは違うよ」

 

まぁ、主に、合コンクイーンの秋田さんのせいだけどな。

 

   綾地「そうなんですか?」

   保科「オレに求められてるのは支援じゃなく、身代わり(スケープゴート)だから。オレみたいな方法は、絶対に止めておいた方がいいと思う」

 

  デュアン「ひゅ~♪経験者は語るねぇ~」

オレは口笛を吹き、そう言った。

 

   綾地「となると……デュアン君、お願いできますか?」」

 デュアン「あぁ、ごめん。オレも保科と同じで、親友って呼べるのは海道、仮屋さん、保科、綾地さんぐらいだから」

 

   保科「お前も友達少ねぇな!」

 デュアン「お前も人のこと言えないだろ……」

   綾地「…………アドバイスは難しそうですね」

   因幡「やっぱり……そうですよね……」

   綾地「でも、一緒に考えることはできます」

 デュアン「そうそう」

オレには、すべての知識を詰め込んでるからな・・・。

 

   因幡「……え?」

   綾地「少し時間をくれませんか?」

 デュアン「あぁ、時間さえくれれば解決してやる」

   保科「そうだね、デビューし直すわけじゃないけど、見せ方のアドバイスとか、なにかできることはあるはずだよね」

 

   因幡「い、いいんですか?こんな面倒なお願いを」

 デュアン「いやいや……因幡さんはまだ可愛い方だよ。本当に面倒なお願いは……」

 

 

1年の頃に、どうやって綾地さんと付き合えるか?という馬鹿な質問者が居たよな・・・。俺的には「本人に直接告白しろ。玉砕でも何でもいい……気持ちを伝えて、スッキリしろ」と言ってやった。

 

   綾地「はい、もちろんです」

   保科「少し時間がかかるかもしれないけど」

   因幡「よろしくお願いします!」

 

 

――――ー



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Ep13 魔女と心の欠片の回収

―――――夕方

 

   保科「けど、人気者って言われてもなぁ」

保科はそう言うと・・・

 

  デュアン「…………」

 

   保科「ねぇ、綾地さん、デュアン。こういう難しい依頼って今までにもあったの?」

 

   綾地「そうですね……私では解決できないような依頼も、いくつかありましたね……でも、デュアン君は私では解決できない依頼を解決してました……その代わり、デュアン君ができない依頼は私が解決してました」

 

循環だよな・・・一種の。

 

   保科「じゃあ……二人で解決できない依頼が来てたらどうしてたの?」

 

あったなあ・・・そんな依頼

 

   綾地「できる限りのことはしましたよ?アドバイス的なことは勿論、仮屋さんの時のような仲立ちも。でもほとんど力にはなれなくて……今回も難しそうですね……人気者になるための方法なんて、全然思いつきません」

 

   保科「オレも、そういう努力はしてこなかったからなぁ。寧ろそういうのは避けてきたからさ」

 

   綾地「デュアン君は何かありますか?」

 デュアン「クラスメイトとかに無差別に話しかけて趣味などを聞いたりとかして、話題作りとかしたらどうだ?」

 

   保科「あぁ。それも一つの手、か。デュアンも頑張ってし、オレも頑張らなきゃな……でも一つの手じゃ不安だな。オレも少し考えてみるよ」

 

   綾地「よろしくお願いします。では、今日はそろそろ部活を終わりにしましょうか」

 

   保科「もう日も暮れそうだしね」

   綾地「ところで保科君、デュアン君、今日これから時間はありますか?」

 

   保科「え?まあ、深夜とか遅くにならない程度なら」

 デュアン「ふむ……オレは別に構わんよ」

   綾地「では少し付き合ってくれませんか?一緒に来て欲しいところがあるんです」

  

   保科「それは、構わないけど……どこに?」

 デュアン「相馬さんのところだろ」

   綾地「はい」

 

 

―――――オレ達は学園を出て、相馬さんのお店「schwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)」に向かった。

 

~~~~~

~~

 

入店すると、仮屋さんが応対してくれた

 

   仮屋「いらっしゃいませー!」

   綾地「こんばんは」

 デュアン「こんばんは、仮屋さん」

   仮屋「綾地さん、デュアン。いらっしゃい」

   保科「………仮屋?」

   仮屋「あれ?保科?何してるの?もしや、部活の帰りに早速デート?」

 

 デュアン「いやいや、オレも居るからね?」

   保科「部活の帰りなのは正しいけど、デュアンも居ることを忘れてるよね?数秒前の会話でデュアンに挨拶してたよね?……というか、なんで仮屋の方こそ……バイトって、この店だったのか?」

 

   仮屋「そだよ。保科の方こそ、このお店の事知ってたんだ?」

   保科「ああ、綾地さんとデュアンに教えてもだったんだ」

   仮屋「知り合いには知られたくなかったんだけどね。このお店、店員は制服着用だから恥ずかしくて」

 

 デュアン「分かる」

あんなフリフリな服・・・恥ずかしいよな。まぁ、男物の服があるだけマシな方だよな・・・。

 

   綾地「そうだったんですか?ごめんなさい、仮屋さんのコトを考えずに」

 

   仮屋「いや、いいって!知られちゃ困る程のものじゃないから。でも、言い触らしたら慈悲はない」

 

 デュアン「オレがそんな人間に見えるのか?オレも、此処のバイトしてるんだぜ?自ら首を絞めるような真似はしたくないぞ」

 

   保科「心得てます……ってデュアンも此処で?」

 デュアン「ああ。オレの場合は土日限定で朝の4時から23時までの19時間を2日入れてる。一ヶ月で171時間?夏休みとかの長い日は19時間働いてるな」

 

   保科「ようやるわ……」

   仮屋「デュアンが此処でバイトしてるのは知ってたけど、会ったことはないんだよね……会わない理由がこれとは」

 

 デュアン「シフトを確認しろよ」

   仮屋「ごめんごめん。さて……じゃあまあ、改めて。いらっしゃいませ、お客様。ご注文はお決まりでしょうか?」

 

切り替えは大切だ。立派な店員だ。

 

   保科「おー……そういう丁寧な仮屋って普段のイメージとは違うな。しかも制服はフリフリだし。ヒュー!かーわいいー!」

 

 デュアン「おまっ!?」

オレは必死に止めようとしたが・・・

 

   仮屋「ご注文はグーパンですねー?かしこまりー」

   保科「なんで?!褒めたのに……」

   仮屋「冷やかしにも慈悲はない」

 デュアン「あれを褒めたの?オレには煽ってるようにしか聞こえなかったが?」

 

   保科「ええー!?女の子の制服はとりあいず褒めておくべきだと聞いたのになぁ……」

 

 デュアン「誰から聞いたの、そんなアホな事……」

   保科「海道」

あいつ・・・保科にいらんことを吹き込みやがって。

 

  デュアン「あっ、仮屋さん。オレはロイヤルミルクティーのアイスで」

    保科「んじゃ、オレはブレンドで」

    仮屋「ブレンドとアイスロイヤルですね、畏まりました」

    保科「けどアレだぞ?似合ってると思うぞ、冗談やウソでも冷やかしじゃなく……マジで」

 

  デュアン「ああ……オレもそう思うし、誰だって可愛いと思うぞ?」

   仮屋「それに関しては…………まぁ、どうもありがとう」

  デュアン「うん。照れてる姿も可愛いよ……仮屋さん」

   仮屋「……簡単に可愛いとか言わないでよ

と、ボソボソと呟くが・・・あいにく、オレや保科には聞こえなかった。

 

   仮屋「コホン……お客様は如何なさいますか?」

   綾地「アールグレイをお願いします」

   仮屋「畏まりました。オーナー、アイスロイヤルとブレンド、アールグレイのオーダー入りました、お願いします」

 

   相馬「ああ、今行く」

と相馬さんの声が聞こえ、出てくると

 

   相馬「ん?なんだ、寧々と保科くん、デュアンじゃないか。3人でデートかな?」

 

  デュアン「デジャヴュ!」

   保科「ただの部活の帰りですよ。綾地さんとデュアンの方は、お店に用事があるみたいですけど」

 

とうとうツッコミを放棄した保科。お願いだからツッコミを放棄しないで欲しい。

 

   相馬「ほう……そうか。まず先にオーダーを片付けてしまおう。ブレンドとアールグレイ、アイスロイヤルだったね」

 

   仮屋「よろしくお願いします」

   相馬「あと、奥の掃除を頼めるかな?今日は客も少ないし、もう閉めるよ。終わったら着替えて、あがってくれていいから」

 

   仮屋「はい、わかりました。それではお客様、ごゆっくりどうぞ」

 

仮屋さんは奥へと向かった。

 

   相馬「で、寧々。今日ここに訪れた理由は……アレでいいのか?」

 

   綾地「はい。保科君もオカ研に入部して、協力してくれるそうなので……見てもらったほうが良いかと思ったり……。まあ、気は進まないんですけどね……はぁ……」

 

   相馬「そうだな。3人で行動することになったのなら、あらかじめ見てもらったほうがいいだろうな」

 

   保科「……?さっきから何の話です?」

   綾地「ここに付き合ってもらった理由です。今朝の保科君の質問に答えようと思いまして」

 

   保科「オレの質問って言うと……心の欠片の回収方法について質問したけど、もしかしてそのこと?」

 

  デュアン「Exactly(そのとおり)

   綾地「どうやって回収させてもらうか、その目で確認をしてもらおうと思って、ここに」

 

   保科「ということは、仮屋から回収を?」

   相馬「今日が給料日だからね。タイミング的には申し分ない」

  デュアン「そういや……もう25日だったな」

   保科「ああ。だからお店も閉めるんですか」

   相馬「他のものに見られると厄介だから」

相馬さんは、そう言い・・・俺たちに注文の品を出し終えて、そのまま外に出て看板を仕舞い始める。

 

   保科「ちなみに回収ってどこでもできるものなの?」

   綾地「はい。場所はあまり関係ありません。ただ、一目が多いと、困るといいますか……ちょっとイヤなんです」

 

まあ、あの服装は嫌だわな・・・露出度が高すぎる服って酷いよな。「発情」にあの服・・・本当に酷い話だ・・・皮肉を効かせてるというかなんというか。

 

   保科「そうなんだ?……オレたちは見てるだけでいいの?」

 デュアン「まあ、そうだな」

   綾地「はい。保科君に何かをしてもらう必要はありません。ただ、仮屋さんだけではなくこちらも見ておいてもらえますか?」

 

   保科「これは……例の瓶?」

   綾地「心の欠片はこの瓶に回収されますから、それを自分の目で確認しておいて下さい」

 

   保科「ん、分かった。なんか見てるだけでいいって言われても……緊張しちゃうな……」

 

 デュアン「まぁ、固くなるなよ」

今から緊張してもしょうがないしな・・・

 

 

   相馬「さて。店は閉めたし、後は給与の準備だな。今月は確か、出勤が12日だから……ひのふのみの、よ、いつ……」

 

相馬さんは指で数えていって・・・

 

   相馬「寧々とデュアンも準備を始めたほうがいいんじゃないのか?」

 

  デュアン「ええー……オレも?まぁいっか」

オレは綾地さんに近づき、認識阻害魔法を使う。この魔法は誰からも認識されることはなくなり、透明人間状態になる・・・のだが、魔女の関係者やアルプにはこの魔法の意味が無くなる。実は図書室の時に、使ってたんだが・・・。

 

   綾地「それは……わかってますが……」

   保科「……?」

   相馬「保科君にも見てもらうというのは、寧々自身がきめたことだろう?」

 

   綾地「それはそうなんですが…………」

もじもじと恥ずかしがる綾地さん。

 

  デュアン「綾地さん。そろそろ仮屋さん……来るよ?」

 

   綾地「……そもそもあんな服装でなければ、こんなに悩むことはないんですよぉ……」

 

   相馬「今更それを言っても仕方ないだろう」

   保科「服装?もしかして着替えるの?なら、外に出てるよ」

   相馬「いいや、その必要はないんだ、保科君。ほら寧々」

   綾地「…………むぅ……」

   相馬「回収、するんだろう?」

 デュアン「……10、9……8、7」

オレはカウントダウンを始める。そろそろ仮屋さんが来るからね。

 

   綾地「わかりましたよ、もぅ……」

諦めの息を吐く綾地さん。まぁ、しょうがないね。

綾地さんは保科の方をチラチラと確認しながら、顔を赤く染めた。

やっぱり・・・綾地さんは保科が好きなのか?

そんな保科は首を傾ける。綾地さんが目を瞑った時――――

 

   保科「まっ、また、この光―――ッ!?」

   綾地「…………」

   保科「え~っと――……その」

はぁ~・・・こうなるとは思ってたよ。

 

 デュアン「……クリエイトアイテム」

オレは無から服を作り出し・・・綾地さんに被せる

 

 デュアン「多少はマシだろう……上着を着るぐらいなら問題ないと思うぞ」

 

   綾地「ありがとうございます……」

特徴的な三角帽に、翻る大きなマントに、オレが渡した上着。

 

   保科「セクシーですね」

  デュアン「……」

オレは無言でハリセンを叩く。

 

   綾地「……何も……何も言わないで下さい……この格好が痛いことは、自分が一番知ってますから……」

 

   保科「いや、そんなことは1mmも思ってないってば……。それよりも何というか、えっと……よく似合ってると思うよ」

 

  デュアン「そんなフォローはフォローとは言わないぞ!」

   綾地「……そんな言葉、いらないです……こんな恥ずかしい格好が似合うとか、微妙すぎて、全然嬉しくありません……」

   保科「そ、そうですか……ごめんなさい」

   綾地「いえ、いいんです……いいんですよ、こんな格好をしなきゃいけない私が全て悪いんです……はは……」

 

はぁ~・・・

 

   保科「あの、服装に触れないで欲しいっていう気持ちはわかったんだけど、さっきの『しなきゃいけない』ってどういうこと?」

 

  デュアン「見れば分かるよ……」

    相馬「そうそう、今から分かるよ」

 

    仮屋「お疲れ様でーす」

    相馬「お疲れ様、仮屋さん」

    仮屋「あれ?保科とデュアンは残ってるのに、綾地さんはもう帰ったの?」

 

   デュアン「綾地さんなら電話が来て、外の方へ出ていっちゃったよ」

 

     綾地「…………」

     仮屋「ん?帰ってないの?電話かあ……」

   デュアン「ああ……多分、両親とじゃないか?」

ま、ウソだけど。眼の前に居るし・・・

 

     仮屋「ところであの……オーナー」

     相馬「ああ、心得ているよ。給与のことだろう?」

オレも貰っとこうかな?

 

     仮屋「はい。すみません、なんだか急かしてるみたいで」

     相馬「構わないさ。仮屋さんやデュアンには請求する権利があるんだから」

 

     相馬「それに……仮屋さんは今日の分で、欲しかったギターが買えるんだろう?」

 

     仮屋「そうなんです、うひひ」

     相馬「ちゃんと準備している。はいこれ、今月の給与だ、ご苦労さま……デュアンも」

 

相馬さんはそれぞれに茶封筒で渡してくる。

「wakana kariya」と書かれた茶封筒と「Dhuan ordina fiar regtorle」と書かれた茶封筒をそれぞれに渡してくれた。

 

     和奏「ありがとうございます」

満面の笑みを浮かべる仮屋さん・・・うん。可愛いと思う。

 

     相馬「ちなみに仮屋さん、今後はどうする?」

     仮屋「今後って言いますと?」

     相馬「このバイトのことだよ。もう、辞めてしまうのかな?」

オレは正式に入ってるしな・・・

 

     仮屋「期間限定って話でしたよね?」

     相馬「確かに最初はそういう話だったんだが……もしよろしければ、残ってくれるとこちらとしてもありがたい」

 

     仮屋「え、いいですか?」

     相馬「もちろん。仮屋さんがいてくれると楽になることも多いからね、助かるよ」

 

     仮屋「それ、実はアタシも助かります。他にも色々欲しかったりして……それにお店のバイト、結構楽しいですから!お言葉に甘えさせてもらってもいいですか?」

 

     相馬「むしろ、こちらからお願いする。今後とも宜しく」

  デュアン「よろしくな、仮屋さん。オレは基本土日か休日しか出られないからさ」

 

      仮屋「うん。よろしくお願いしますっ」

 

と、綾地さんは仮屋さんの背後に周りこみ、銃を仮屋さんに突きつけ――――

 

     綾地「―――んッ」

引き金を引いた。同時に、お店の中に白い羽が舞い散った。

オレは倒れる仮屋さんを抱え、椅子に座らせた。

 

    保科「これ……この羽根は、あのときと同じ……オカ研の部屋と同じ現象……。それじゃこの羽根は心の欠片?」

 

保科はそう言い・・・瓶を眺めてると・・・

 

   相馬「それが心の欠片というわけだ。今回は嬉しい気持ちだったから、仮屋さんから回収したのは僅かな量だがね」

 

   保科「あの、仮屋は?」

 デュアン「問題ないよ。少し意識を失ってるだけ。後数分で目を覚ますはずだ。後遺症も無いよ」

 

   保科「それなら安心ですけど……びっくりしましたよ。綾地さんがいきなり拳銃を手にしてるんだから。しかも撃った時は、頭が真っ白になったよ」

 

  デュアン「慣れるとそうでもないよ」

    保科「初めてみたんだぞ!無茶言うな」

    綾地「ごめんなさい。でも、これが欠片の回収方法なんです。肥大してしまった部分を打ち砕けたら、この瓶に余分な欠片が回収されます」

 

    相馬「これが、魔法だ」

    保科「むしろ物理のような気が……んじゃ、その服装は?」

    綾地「ち、違うんですよ、これは別に私の趣味じゃないですっ」

いやいや、保科はそんなコトを言っていないぞ

 

    綾地「といいますか、その……あんまり見ないで下さい。本当に恥ずかしいんですから……」

 

    保科「あ、ああ。ごめん……って、デュアンはいいのかよ!」

 

    綾地「デュアンさんは……服とかをくれる以外は、凝視してませんよ?」

 

見てもしょうがないしね。Toloveるで、慣れちゃってるし。

 

    相馬「私が説明しよう。その銃は特別な魔具でね、その服装とセットになった……魔女の正装みたいなものだな……まぁ、デュアンは例外で魔具を自由自在に変化できる。服装は武器を使う時に、ランダムで変わる」

 

片手剣と刀を使った場合は、黒い衣装にマントには夜空の星を思い浮かべるような文様とかな。

 

 

    保科「なるほど……じゃあさっき仮屋が綾地さんの姿が見えてなかったのも、それが特別な道具だから?」

 

    相馬「ああ。簡単に言うと、魔法に関わらない人間には見えなくなるような効果がある。あくまで相手に気付かれなくなるだけで、声は聞こえるし、身体に触れられたりして、意識を集中されると気付かれることもあるが……デュアンの認識阻害があれば、関係ないんだけどね」

 

    保科「成程……じゃあ、オレが綾地さんを見えてるのは?なんででしょうか?デュアンの認識阻害の魔法を使ってるんですよね?」

 

    相馬「いや、保科君は魔法を持っているからだろう。魔女同士も、お互いを認識できる」

 

    綾地「なんとも微妙な効果です。完全に気付かれないようになるなら、こんなに恥ずかしい思いをしなくてもいいのに……」

 

   保科「けど……大体は理解したよ。とりあいず、銃を撃つときや、その服装になる時は気をつけたほうがいいだろうね」

 

    綾地「はい。ですから、あの……そういう時にも、保科君に協力してもらえると助かります……デュアンさんは魔法をお願いします」

 

  デュアン「了解した」

んじゃ、魔法の構成を考えないとな・・・

 

    保科「分かった。何かあったら遠慮なく言って」

    綾地「ありがとうございます」

    保科「ちなみに、今現在、相談をつけてるのは……因幡さんだけで良いんだよね?」

 

    綾地「はい」

    相馬「なんだ、新しい依頼人が居るのか?」

    綾地「ええ。ここに来る直前に相談を受けたんです。クラスの人気者になる方法を教えて欲しいという相談で」

    相馬「人気者?それはまた面倒な依頼だな。画一的な方法なんてないだろうに」

 

    綾地「そうなんですよね……」

    相馬「特に相談相手がデュアンや綾地じゃな、友達なんていないんだから」

 

    綾地「七緒、うるさいです。放っておいて下さい」

    相馬「で、保科君の方はどうなのかな?」

    保科「オレ?オレなんて戦力外です。友達が少ないので。そもそも、そこまで深く関わらないようにしてきましたから……」

 

    相馬「まあ、保科君は保科君で特別な事情があるからな……なんにせよ、キミら3人が最も苦手とする部類の相談というわけだ」

 

    保科「ちなみに、相馬さんは何かアイディアとかありませんか?人気者とまで言わなくても、人から好意を持たれる方法とかあれば」

 

    相馬「喧嘩に強ければ、自然とその縄張りのボスになれるんじゃないのか?」

 

  デュアン「そりゃ、犬猫の野生生物の話です……人間基準でお願いします」

    綾地「七緒に訊いても無駄ですよ。七緒は猫なんですから」

まぁ、人間様と動物を比べるのはイカンよな・・・

 

    保科「いやでも……」

  デュアン「でももヘチマもないぞ」

    相馬「寧々の言う通りだよ。私には人の気持ちがわからない」

  デュアン「わからないのなら分かる努力しましょうよ」

    相馬「内面は変わらんよ……デュアン。アルプが魔女から無理やり魔力を集める理由もそこにある」

 

    保科「つまり……魔女の代償は魔力のためというより、人の気持ちや感情を集めてるってことですか?」

 

  デュアン「いつか本当の人間になるために」

    相馬「その通り。我々アルプは、魔力を通じて人の気落ちを知り、外だけでなく内も人を目指してるということだよ」

 

立派な目標だな・・・

 

    保科「そうなんですか」

    相馬「というわけで、人になりきれてない私には、君ら以上に荷が重い内容。とてもじゃないが力にはなれそうにない。悪いね」

 

    保科「ふむ。こっちで色々と考えてみますよ……一応、デュアンが候補をあげてくれたので」

 

    綾地「明確な答えのある問題なら、やりやすいんですけどね」

  デュアン「人生はそう単純に出来ていない……悩むのも人間の仕事だから気にすることはない」

 

    相馬「それはともかく寧々、元の姿に戻ったほうが良いんじゃないか?そろそろ仮屋さんが目を覚ますと思うぞ」

 

    綾地「……え?あ、~~~~っ!み、見ないで下さいッ」

 

―――――。

 

   仮屋「いや~、びっくりしたね。急に倒れるだなんて……貧血かな?」

 

  デュアン「ちゃんと寝てる?36度前後お風呂入ってる?レバーとか食べてる?水とか飲んでる?ふむぅ……」

 

オレは貧血を起こさないようなメニューや食事などをリストアップし、仮屋に渡した。

 

   保科「疲れが溜まってるってものあったんじゃないのか?」

   仮屋「んー、自分ではそんなことないと思ってたんだけどね。お給料も手に入って、嬉しくてテンション高まりすぎたのかも」

 

  デュアン「まぁ、何にせよ気をつけろよ」

   保科「で、もう大丈夫なのか?本当に?」

   仮屋「うん、平気平気!ちょっと寝たらスッキリ!」

   保科「ならいいけど」

   綾地「…………」

   仮屋「綾地さんもゴメンね、ビックリさせちゃったね」

   綾地「い、いえ。仮屋さんが無事なら、それで良いんです。心配ぐらい何でもありませんから」

  

   仮屋「んじゃ、アタシん家はこっちだから」

  デュアン「腹出して寝るなよ……風呂から出たら軽いストレッチだぞー」

 

   仮屋「分かってるって……じゃあバイバイ」

  デュアン「あぁ……また学院でな」

   保科「俺たちもそろそろ帰ろう」

   綾地「はい。それじゃここで。また明日」

  デュアン「じゃあな、保科」

   保科「あぁ、また明日」

 

――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 



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Ep14 綾地さんはそんなことを言わない! ☆

 

 

―――――次の日

 

   保科「おはよう」

 デュアン「おー、おはよう」

 

  男子学生B「でさー、モン猟で新しい期間限定クエが起きててさ―」

 

あぁ・・・天馬装備のヤツね

 

  男子学生A「あ、知ってる知ってる。でもあれ、結構難しくね?」

そうか?1時間もあればクリアできそうだが・・・後はコツかな?

昨日の時点でペガサスの涙が99個揃ってるしなあ。

 

と、女子の会話は髪留めの話をしている。買い物を誘っているようだ。

 

   保科「…………」

   綾地「おはようございます」

クラスメイトに挨拶している。

 

   秋田「おはよー、保科君☆デュアン君☆」

お・・・合コンクイーンの秋田さんなら・・・

 

   保科「いたー!狙って人気獲れる人いたーっ!」

   秋田「へ?な、何?どうしたの、保科君?」

此処は、保科に任せるか・・・

 

オレは寝る。

 

 

~~~

海道達が来たので、起きることにした

 

   海道「よぉ、どうしたんだ?秋田と何か話してたみたいだけど」

   保科「ん?いやまあ、ちょっとな……色々あって」

   海道「ごまかすような必要がある事?」

   保科「内容自体は別に普通なんだけど……ちょっとな」

   海道「……それってまさかとは思うけど、裏切りじゃないよね?密かに秋田に合コンのセッティングを頼んだとかじゃないよね?」

 

保科が合コン?ッフ・・・ありえんな。

 

   保科「違うって。オレみたいな人見知りに合コン行く勇気があると思うか?」

 

   海道「ああ、納得したわ」

   保科「なんか予想以上にあっさりと納得された―……」

  デュアン「お前の普段の行いだろ」

とツッコミを入れる

   海道「おはよう、デュアン」

  デュアン「ああ、おはよう。海道」

 

~~~~~

 

   保科「……んっ、んーーー。何か今日は疲れたな」

保科は軽く背伸びをした。

 

 デュアン「確かに」

   保科「じゃあ……オレ図書室へ行くよ」

 デュアン「んじゃ、オレは先に部室に行ってくるよ」

 

~~~~~~

~~~~

 

   保科「う~ん……本当に、ハードルが高そうだな」

   綾地「どうですか、保科君。デュアン君。因幡さんの相談、なにか思いつきましたか?」

 

   保科「ゴメン、芳しくない。綾地さんの方はどう?」

   綾地「私も同じです。一般的な意見なら、多少は集まりましたが……」

 

 デュアン「オレも知り合いや大人に聞いてみたが……これと言って収穫はなかったな」

 

友達なんて数えるほどしかいないし・・・。オレを当てにするだけ時間の無駄である。

 

   保科「ちなみにそれって、どんなの?」

   綾地「えっと……人を選ばず、別け隔てなく優しくするですとか明るくて話し上手ですとか」

 

まぁ、そんなものだよな普通・・・・

 

   保科「デュアンは?」

 デュアン「えーっと……基本はクラスメイトを無差別に話しかけていって、人気の話題とかを聞いて、知ってたら同調したりする。後は趣味趣向を聞くこと……ぐらい?」

 

オレが知ってるのはそのぐらい。というか昨日と同じ回答だよ。

 

   保科「やっぱりそんなものだよね……。オレも色んな人から話を聞いて、具体的なことも一応は入手してはみたんだけど……」

 

   綾地「え?なにか方法があるんですか?」

   保科「でもなぁ……この話を聞いたのって秋田さんだから、過度な期待はしない方が……って言う言い方は秋田さんに失礼か」

 

あの合コンクイーンの参考?嫌な予感がする・・・

 

   綾地「一体どんな方法ですか?」

 

予想以上に食いついてくる綾地さん。そして扉をノックする音が響く。

 

   因幡「あのー、因幡ですけど」

   綾地「いらっしゃい、因幡さん」

   因幡「どうも、こんにちは」

 

   保科「こんにちは」

デュアン「こんにちは、因幡さん」

   因幡「あ……はい……」

   保科「……」

 デュアン「保科がなにか失礼なことをしたのなら、先に謝るけど……」

   因幡「い、いえ。そ、それで綾地先輩!どうでしょうなにかいい方法はありますかね?」

 

   綾地「……ごめんなさい。色々考えてみたんですが……」

まぁ、綾地さんのはどれも普通だからなあ・・・。

   

   因幡「そうですか……まあ、そうですよね。簡単に人気者になる方法なんてあったら誰も苦労しないですよね」

 

   綾地「ですが、保科君が具体的な方法を見つけてくれたみたいです」

 

   因幡「え!?そうなんですか、センパイ!?」

   保科「まあ一応、調べはしたけど……因幡さんとはタイプの違う人の教えだから、期待には添えないかも」

 

   因幡「それは後から考えます。とにかく、センパイの調べた方法を教えて下さいっ」

 

   保科「……じゃあとりあいず、此処で練習をしてみる?」

   因幡「で、何をすればいいんですか、センパイ」

   保科「えーっとまずは『ぽややぁぁん』とした雰囲気を出す。これによって、相手の方から声をかけてくれるそうだ」

 

雰囲気を作り出す・・・か。

 

   因幡「『ぽややぁぁん』って、そんな擬音で言われても」

まあ、当たり前だよな・・・

 

   保科「どっちかって言うと擬態語だと思うよ?」

   因幡「細かいなぁ……それ、どういう違いがあるんですか?」

 デュアン「擬態語は物事の状態、身ぶりを、それらしく表したものだ。例えば、にこにことか、べったりだな。擬音は例えるならにゃーにゃーとかそんなあたり。違いは全然あるな」

 

と言うか、転生してから「ぽややぁぁん」という雰囲気の人に会ったことはないぞ。

 

   綾地「はい、デュアン君の言うとおりですね。わかりやすく言うなら全体の雰囲気で表現するってことです」

 

   因幡「でも『ぽややぁぁん』って…………すみません、ちょっと難しいので、できれば見本を見せてくれませんか?」

 

   保科「オレが?じゃあ、こう顔を緩めて……『ぽややぁぁん』って」

 

ほ、保科は目が死んでるから絶望的に似合わねぇ・・・。と言うか、失礼だが、ちょっと気色悪い

 

   因幡「うわっ、キモっ!センパイ、キモッ!」

保科に2回もキモいと言われ、傷つく保科・・・

 

 デュアン「絶望的だね。絶望的に似合わないよ」

オレはそう言うと・・・

   保科「やらせといてソレか!?失礼だな!んじゃ、そういうデュアンはどうなんだ?」

 

  デュアン「お、オレ?ふむぅぅ」

演技はあんまり好きじゃねぇけど・・・。

 

 デュアン「……『ぽややぁぁん』」

 

【挿絵表示】

 

オレは表情を緩みに緩みまくった笑顔を作り出す。

 

 

   保科「………………」

   綾地「………………」

   因幡「…………………」

 デュアン「何か言えよッ!」

オレがバカみたいじゃないか・・・

 

   保科「何か言ってほしいの?」

 

  デュアン「ったくしょうがない……それじゃ、因幡さんなりの解釈で続けてみようか」

 

   因幡「……わかりました」

   保科「ということでもう一度、『ぽややぁぁん』とゆるい笑みを浮かべる」

 

   因幡「ぽややぁぁん」

あ、アホ面だ・・・可愛いけど・・・アホだ。

 

   保科「…………」

   因幡「どうですか?」

   保科「アホっぽい」

   因幡「アホってなんですか、アホって!やらせたのはセンパイじゃないですか!!」

 

キレる因幡さん・・・当たり前か。

 

   保科「というか因幡さんだってさっきオレに『キモッ』とか行っただろ。あれと同じことだから。思わずつい、ってヤツだから」

 

 デュアン「だからって女の子にキツく言いすぎだ。デリカシーを考えろ、保科。後輩にムキになってどうする」

 

   保科「す、すまん」

   因幡「こちらこそ……すみません。センパイ」

 デュアン「こういうのは、綾地さんに見本をお願いしたらどうかな?」

   綾地「私が……ですか?」

デュアン「オレはノーコメントだったし、保科は気持ち悪がられたし……因幡さんは向いてなさすぎていた……残るは綾地さんだけなんだ」

 

   保科「確かに……綾地さんならそんなことないだろうし、同性だからより参考になるだろうし」

 

俺ら男子は言い訳しかできないよな・・・そこが男の悲しい(さが)だよな。

 

 

   因幡「よろしくお願いします、綾地先輩っ!」

   綾地「…………。あまり自身はありませんが……分かりました。私でよければ頑張ってみます」

 

   因幡「ありがとうございます」

   綾地「それで、具体的にはどうすればいいんですか?」

   保科「さっきも言ったみたいに『ぽややぁぁん』って。こう、緩い感じで」

 

綾地さんは見事に俺たちのリクエストに答えてくれた・・・

 

   保科「お、おぉ……なるほど、そういう事か」

と納得する保科。

 

   因幡「確かに、話しかけやすい雰囲気というか、構いたくなっちゃいますよね」

 

綾地さんだからだな。

 

   綾地「こういう感じでいいんですか?」

 デュアン「あぁ。大丈夫だ。しかしまあ、綾地さんはそういう才能があるんだなあ」

  

と遠い目をして納得する。

 

   保科「確かにデュアンの言うとおりだな。ごめん、綾地さん。その方向で問題ないと思うから、続けてくれる?」

  

   綾地「わかりました~」

   保科「えーっとそれから会話の例として、何かの際に『大丈夫?』って心配されたら『平気だよ~ぅ』って甘く答える」

 

   綾地「平気ですよ~ぅ」

他の男子が聞いたら悶絶ものだなこりゃ。オレと保科以外は、な。

オレは魅了耐性MAXだし・・・例え美の女神が裸踊りしても平気だぞ。感情がぶっ壊れちゃってるしな・・・。

 

    保科「で、相手の話には、どんなにくだらなくても笑う」

  デュアン「………」

くだらなくても笑う・・・か。

 

   綾地「やだも~ぉ、何を行っているんですか、保科君はおもしろ人ですね~ぇ」

 

   保科「さりげなくボディタッチも増やす。身体のバランスを崩した振りして、接触面を増やしたり、手や足(太腿の内側)に触れたりするのがオススメ」

 

  デュアン「さ、流石は合コンクイーン、秋田さんの参考だ」

あの人ならやりかねない・・・・

 

   保科「あと、目を潤ませながら上目遣いで相手の顔を覗き込む」

計算尽くされてる。これは人気者というより、男を堕とすテクだ。

 

   綾地「あっ、ごめんなさい。ちょっと眩暈が……」

   保科「い、いや、別に」

照れるなよ、保科。

 

   綾地「………」

   保科「………」

黙る二人・・・

 

   綾地「あ、あの……とっても恥ずかしいんですけど、これ。本当にこれで正しいんですか?」

 

   保科「あ、ああ、うん。秋田さんから聞いたままだよ」

   綾地「そうですか……人気のある人は、こんなことを……凄いですね」

 

いや、騙されるなよ綾地さん。それは人気のテクじゃない!!とツッコみたくなる。

 

   綾地「それで保科君、次はどうすればいいんですか?その、指示をしてくれないと……とても困ります」

 

   保科「えっと、そのまま普通の会話をしながら、相手の身体をフェザータッチで撫でる」

 

   綾地「フェザータッチってなんです?」

   保科「えっと、ベタベタと触るんじゃなくて、こう……触れるか触れないかの微妙なラインでくすぐるように指で撫でる感じ、かな?」

 

まぁ、合ってると思うぞ?

 

   綾地「こう……ですかぁ?」

そして、言われた通りに実行する綾地さん。HAHAHA!

 

   保科「ふぁっ!?あひっ!」

くすぐられて、悶える保科・・・なんだよ。可愛い所あるじゃねぇか。

 

   綾地「え?な、なんですか?何か間違えていましたか?」

   保科「あ、ううん!違う、あってる。気にしないで」

   綾地「は、はぁ……わかりました」

   保科「…………」

   綾地「じゃあ、続けますね」

綾地さんはスリスリと保科の太腿を撫でるように触る。あれは、声に出ちゃうよな。分かるぞ・・・あのゾワゾワする感覚。

 

   保科「――――ふひっ!」

顔を真赤にする保科。

 

   保科「~~~~ッ」

我慢する保科・・・頑張れ。オレは見てるだけで凄く楽しい。

 

   因幡「…………何悶てるんですか、キモ」

因幡さんは、ドン引きしている・・・まぁ、普通の人はそういう反応をするよな。でも、オレは違う。オレはからかうのが好きだから、こういう雰囲気が思わずニヤニヤしてしまう。

 

 デュアン「…………」

   保科「なっ!?何を言う!?」

   因幡「だってどう見たってセクハラじゃないですか、それ」

  デュアン「HAHAHA」

   保科「笑うな、デュアン!これはセクハラじゃない!本当にオレはこういう風に教わったの!それを実演してもらってるだけ!」

 

   因幡「本当ですかぁ~?あ~や~し~い~」

   保科「本当だって!消してやましい気持ちなどなひぃんっ!」

だ、台無しだ・・・。説得力がゼロになったぞ。

 

   因幡「…………」

   保科「いや、違うんだっ!今のはくすぐったくて、思わず声が……。止めて、その冷ややかな視線を止めてくれ!それに、デュアン……親が子を愛するような温かい笑顔をやめてくれ」

 

  デュアン「……」

オレはニコニコと無言で保科と綾地さんを見つめる

 

    綾地「……んん………」

ん?おや?

 

   保科「あああ、あの、綾地さん、さすがにそこまでなで続けられると擽ったくて……」

 

   綾地「そ、そうなんですか?……ハァ……ハァ……」

何だか、綾地さんの挙動がおかしいぞ?呼吸が荒いぞ・・・まさか!!綾地さん。このタイミンでまさかなのか!?今、因幡さんが居るから魔法の行使ができないぞ。

 

   保科「あ、あの……綾地さん?」

   綾地「……なんですか?」

  デュアン「……マズイのなら、席を外したほうが良いんじゃないか?」

 

オレは保科、綾地さんにしか聞こえないボリュームで喋る。

 

   保科「え?」

   綾地「すみません……私、なんだかヘンで……身体、熱くなってしまって……んん……」

 

   保科「どど、どうすればいいんだ!?」

  デュアン「落ち着け、保科。ステイクールだ」

慌てたってしょうがないだろ。そうだ、まだ慌てるような時間じゃない・・・安西先生が言ってだろ「諦めたらそこで試合終了」だって。

 

   綾地「あ、んん……ふっ……はぁ……はぁぁ……ふーーー……ふー………」

 

なんか、発情するスピードが前より少し早くなってる気がするんだが・・・?

 

   因幡「あ、あのー……綾地先輩はどうしたんです?何だか妙に色っぽい気がしますよ?」

 

ま、マズい。ここでバレたら綾地さんは寝込む事になる。よ、よしっ・・・此処は・・・

 

  デュアン「あー……これはアレだよ。アレ」

   保科「そうそう。演技を続けてるんだ。こうする方が、より魅力的だろ!?」

 

なっ!?何を言ってるんだ、お前はァ!

 

   因幡「確かに魅力的だとは思いますけど……」

なに納得してるんだ、因幡さん!!

 

   綾地「す、すみません、保科君の身体に触れているとドキドキして、クラクラして……いつもの、が……。ダメ……オナニーしたい、です」

   保科「―――――ッ!?」

 

このままでは確実に綾地さんが・・・。し、仕方ない。

 

   因幡「え?あの、綾地先輩……今……お、おおおおお、オヌァ……ィ……なにか変なことを言いませんでした!?」

 

き、聞かれてたぁぁあああ?!

 

   保科「言ってない!断じて言ってない!綾地さんがそんなことを言うわけないだろ!」

 

  デュアン「そうだぞ……。……ふむ」

閃いた!

 

   綾地「はぁ……はぁぁ……ちょ、ちょっと席を外します……だから、因幡さんの足止め、を……して」

 

  デュアン「……オレの魔法、必要か?」

   綾地「だ、だいじょ、うぶです」

・・・念のために、綾地さんの背中に触れ、遅延発動型の魔法を行使する。本当だったら、触れなくても良いが・・・因幡さんがいる状況で魔法の事がバレたくないからな。

 

   綾地「っ……ふぅー……」

   因幡「あのー……綾地先輩?本当に大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ?なんだか息も洗いし、さっきからもぞもぞしてるし」

 

  デュアン「大丈夫だ問題ない、因幡さん」

   因幡「え?いやでも……」

   保科「いいんです。平気なんです。女の子にはこういう日があるものだって本人が言ってたから!」

 

ちょっ!?なんてことを言うんだ。それに女の子の日ってのは、生理というものだ。あれは腹痛と貧血、トイレが近くなるのトリプルコンボ。まぁ、トイレが近くなるのは自分(ミュウ)だけだけどね。ドゥヒン☆

 

   因幡「自分にはありませんけど?」

当たり前だ。普通はない。

 

   綾地「へ、平気、です。平気ですから、気にしないで下さい、因幡さん」

 

  デュアン「一応、遅延発動型の魔法は行使している……だから、行くのなら今がチャンス」

 

   綾地「ちょ、ちょっと席を外させてもらいますね、因幡さん」

   因幡「本当に体調が悪そうですから、心配です。一緒に行きますよ?」

 

そ、そんなコトをしたら綾地さんが死んじゃう。精神的な意味で

 

   綾地「ひゃっ!?」

今の綾地さんは、時限爆弾が作動した爆弾そのものだ。

 

   保科「あ、綾地さん?大丈夫?」

   綾地「大きな声を出したら……また、波が……んんっ、くぅぅぅ……」

 

綾地さんは声を絞るような小さな声で保科に囁く。

 

・・・綾地さんの発情を引き受ける・・・か?いや、安易な自己犠牲はやめとく・・・いや、そもそも感情が壊れてるオレが発情をしたらどうなる?う~ん・・・今度試してみるか。

 

    因幡「す、すみません……綾地先輩」

    綾地「い、いえ。大きな声を出して、ごめんなさい。とにかく1人で大丈夫ですからっ、どうか待っていてくださいっ」

 

    因幡「は、はぁ……了解(ラジャー)です」

  デュアン「……(今回、綾地さんは1人で大丈夫と言った……それに、遅延発動型の魔法を行使した。発動した魔法は、姿や音を完全に遮断する魔法。)」

 

   綾地「それじゃあ……んっ、んっ……」

   保科「………」

多少ふらつく綾地さんの背中を見送る、オレと保科。

 

    因幡「自分……怒らせてしまいました?」

  デュアン「んいや、綾地さんは怒ったわけじゃないから。それだけは保証しよう……な、保科」

 

   保科「ああ」

   因幡「それじゃあ……どうしたんでしょう、急にあんな」

   保科「あーそれはきっと……トイレを我慢してたんじゃないかな?」

 

オレは、ハリセンで保科の頭を叩く

 

 デュアン「だ~か~ら、お前は少しオブラートを包むって言葉を覚えた方がいいぞ?」

 

   因幡「そういうことハッキリ言うの、デリカシーにかけると思いますよ?」

 

    保科「そ、そうなの?気をつけた方がいいの?」

  デュアン「ああ……気をつけた方がいい……でないと、女の子から嫌われるぞ?」

 

ま、一番嫌われるのは・・・鼻の下を伸ばして、デレデレしたり・・・女性の胸ばかりを凝視するヤツだったり、下品な言葉を使うヤツだったり・・・オブラートに包むコトを知らないヤツだったり、デリカシーの無いヤツだったり・・・後は、う~ん。無いな☆

 

   因幡「本人の前では、絶対に言わないほうが良いと思います」

まあ、時すでに遅し。だけどな・・・

 

   保科「分かった」

   因幡「それはともかく……やっぱり気になるので、様子を見に――――」

 

やめて、それだけはやめてあげて!

 

   保科「いや!それはどうかな!止めておいたほうが良いと思うな、オレは!」

 

 デュアン「オレもそう思う。それに、因幡さんだって……トイレについてこられたら嫌でしょ?だから、そっとしといてあげて――――まぁ、因幡さんが……連れション大歓迎!と言うのなら……オレは構わないけどね」

 

オレはニッコリと笑う。笑顔を貼り付けるように笑う。

 

   保科「……」

   因幡「スミマセン」

 デュアン「分かればよろしい」

 

 

~~~~10分ほど過ぎてから、いつも通り綾地さんが戻ってきた。

うん。目に光が宿ってない。怖いね☆

 



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Ep15 保科はデリカシーが足りない 

 

~~~~

 

   因幡「とにかくですね、保科センパイのメモはどう考えても、ビッチ育成法だと思います」

 

流石に秋田さんが可哀想だ。

 

   保科「いや、オレはちゃんと人気者になれるテクニックを教えてもらったんだけどな」

 

   綾地「確か、秋田さんに教えてもらったと言ってましたよね?」

   保科「そう。決して改ざんなんてしてません」

まぁ、そうだわな・・・。だって秋田さんだもの。

 

   因幡「うーん……ちなみに、秋田さんってどんな人なんですか?」

   保科「合コンの女王って呼ばれてる人気者」

   因幡「その人大丈夫!?軽くあざ笑われてません!?」

そんなことはないなあ・・・

 

   保科「けど人気があるのは間違いないんだ。この前もしっかり医者をゲットしてたみたいだし」

 

ま、オレの予想は別れるな、絶対に。がっつく女性はあまり好感が持てない。

 

   因幡「合コンで人気あっても、女子には嫌われますよ、それ」

 デュアン「それがそんなことはないんだよなあ……秋田さんってなんだかんだでクラスの人気者だし」

 

オレは関わりたくないから触れないでいる。

 

   因幡「……そ、そうなんですか?本当に?」

   綾地「はい、デュアン君の言う通りです。秋田さんは女子からも慕われていますね」

 

   因幡「それって……蔑まれないように、周りへのフォローがかなり重要になりますよね?」

 

   保科「それは確かにそうだね。彼女、そういう人間関係のバランス能力に長けてるから」

 

 デュアン「羨ましい能力だなあ……オレは人間関係のバランスはガタガタだからなあ……ま、自業自得の部分が多いから否定はしないが」

 

   保科「いや、秋田さんのが特殊なだけだから。……あと作ったキャラを崩したりしない辺りも。例え気づかれてもゴリ押しして、仮面をかぶり続けてるからね」

 

 デュアン「まあ、人に生まれた以上……嘘というペルソナの仮面を被らなければならないからな……」

 

ルルーシュが言ってたな「我々はペルソナなしでは生きられない」

 

   保科「お前の場合は、偽ってるって言うより……本性をぶちまけてる……って感じがする」

 

   因幡「それはそれで凄いですね。でも……今の自分の位置では難しいと思います」

 

 デュアン「全部を真似をしろとは言っていない……要所要所を参考にしていけばいいんだよ」

 

器用な人間ならできるよ。"器用な人間"ならね。

 

    保科「ある程度、中心にいて引っ張っていける位置にいないと、難しい気がする……。あっ、ちなみにさ、バイトとかして、まず他でコミュニケーション能力を磨くっていう案は?」

 

    因幡「……それも考えて、夏休みにアルバイトを探してみました」

 

    綾地「そうなんですか?どうでしたか?」

    因幡「その……緊張しちゃって面接を通らなくて、全滅でした」

  デュアン「見事に玉砕かあ……ふむぅ」

    綾地「とすると―――」

    因幡「やっぱりこういうことにマニュアルなんてないですから……自分で頑張るしかないですよね」

 

おぉっと、諦めるのか?

 

    綾地「え?ちょっと待ってください、因幡さん」

    因幡「お3人とも、相談に乗ってくれてありがとうございました」

 

    保科「いやでも、解決はまだしてないでしょ?」

    因幡「それじゃあ、ありがとうございました」

  デュアン「……逃げやがったな」

オレは、ぽつりと呟く。

 

    保科「これって……失敗だよね。ゴメン、綾地さん、デュアン」

    綾地「え?突然どうしたんですか?保科君に謝罪されるようなこと、ありましたか?」

 

綾地さんは、きょとーんとしている。

 

  デュアン「そうだぞ、こういう失敗はあるあるだから気にすることはないよ」

 

オレはフォローをする。

 

    保科「いやでも……因幡さんの件。結局全然まとまらなかったし、アレじゃ欠片の回収なんてできないでしょ?だから力になれなくて……ゴメン」

 

綾地「それは保科君の責任じゃありません。それに、力になれなかったのは私達も同じですから」

 

 デュアン「そうだぞ……悩んでいたってしょうがない。別の方法を模索するべきだったんだ……」

 

答えは何時だって一つとは限らない・・・

 

   保科「何とかできると良いんだけど……」

   綾地「そうですね。欠片とか関係なく、なんとかしてあげたいと私も思います」

 

 デュアン「……ま、綾地さんや保科が頑張るなら、オレも頑張らなきゃな」

少し笑みを浮かべる。

そうだ。二人が頑張るというのなら、オレもやるしか無いな。

 

   保科「ありがとう……。ところで、あの……綾地さん、デュアン一つ確認させてほしいことがあるんだけど」

 

   綾地「はい?なんでしょうか?」

  デュアン「ん?」

   保科「オレと部活するのって平気?」

何を言い出すと思えば・・・くだらんことを言うな・・・

 

   綾地「???どういう意味でしょうか?」

  デュアン「まるで意味が分からんぞ」

   保科「いやほら、なし崩し的に入部を認めてもらったような感じだし……二人で、そのデート気分を壊されたんじゃないかなーっと」

 

  デュアン「やれやれ。そんな事を考えてたのかい?オレと綾地さんはただの幼馴染と言ったはずだよ?付き合ってるわけではなく。彼女の手助けをしているだけだ」

 

一体何処で何を勘違いしているのだろうか?だいたい、オレと綾地さんとは性格が正反対で、オレみたいなヤツには高嶺の華だよ。

 

   保科「でも……因幡さんの話を聞いてて、実は綾地さん達がムリに合わせたりするのかなー……と、ちょっと不安になったり……とかね」

 

  デュアン「他人の言葉に惑わされるな……綾地さんは綾地さん、保科は保科だろ」

 

    保科「デュアン……」

    綾地「そう、ですね……確かに入部の経緯はアレですが、特に苦痛に思ったりはしていませんよ」

 

入部のきっかけが魔女つながりと発情・・・。

  

    保科「そっか……ありがとう。綾地さん、デュアン」

    綾地「でも過剰な気遣いや、そうやって図書室の、オ……オナニー……のことを忘れてくれないところは嫌いです。マジオコです」

 

  デュアン「…………」

暗い暗い暗いよ、綾地さん。怖いって

 

    保科「……はい。気をつけます」

  デュアン「因幡さんからも言われただろ……"デリカシー"が足りないと……妄想を抱いて爆発しろ」

 

いっぺん死ななきゃ分からんのかな?いや現代というより日常世界でスプラッター的なことはやめよう。後片付けが大変だ

 

――――――――~~~~~






   綾地「ところで、デュアン君が言ってた"ペルソナ"ってなんですか?」
 
  デュアン「ペルソナは、カール・グスタフ・ユングの概念。ペルソナという言葉は、元来、古典劇において役者が用いた仮面のことであるが、ユングは人間の外的側面をペルソナと呼んだんだ」

    保科「へぇー……」
  デュアン「ペルソナとは、自己の外的側面。例えば、周囲に適応するあまり硬い仮面を被ってしまう場合、あるいは逆に仮面を被らないことにより自身や周囲を苦しめる場合などがあるが、これがペルソナである。逆に内界に対する側面は男性の女性的側面をアニマ、女性の男性的側面をアニムスと名付けた。」

  デュアン「男性の場合にはペルソナは男らしさで表現される。しかし内的心象はこれとは対照的に女性的である場合があり、これがアニマである。逆に女性の場合ペルソナは女性的な側面で表現される。しかし、その場合逆に内的心象は男性である場合があり、これがアニムスである。ペルソナは夢の中では人格化されず、一般に衣装などの自分の外的側面で表されることが多い。しかし、仮面を被った自分もありのままの自分と仮定すれば、それらは全て、我である。 ……心理学を目指してるならこれくらいは知っとかないと、ね」



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Ep16 廃人という名の変態 

 

 

~チャイムがなり、昼休みが始まると教室内の空気が一気にほぐれた。

 

    海道「よう、昼飯どうすんの?」

    保科「ん?いつも通り学食だけど」

  デュアン「オレも学食で弁当食うつもりだけど?」

    海道「じゃあ一緒に行こうぜ」

    保科「それはいいけど、奢らんぞ?」

    海道「そんなの期待したこともねーよ」

  デュアン「なんだよ海道、お金が無いのか」

    海道「あるよ!じゃなきゃ誘わないって」

そうなのか・・・

 

    仮屋「あ、3人とも学食?アタシも一緒にいくよ」

 

俺らは教室へ出た・・・

 

 

     海道「今日は何を食べるかなー。A定のエビフライは美味しいけど、高いからなあ」

 

昼に1200円は出したくはないわな。

 

     保科「オレはどうしようかな、親子丼にしようかな」

親子丼は美味しいよな。490円とリーズナブルな値段。まぁ、弁当のオレには関係ないけど・・・

 

     海道「あー、丼物もいいよなー」

   デュアン「じゃあ海道はいくら丼で……海に冠する名前だし」

     海道「イクラ丼!?高けぇよ!」

たっぷりとイクラが入っていて、大葉の上にアトランティックサーモンが乗っかった海鮮丼。2850円もするなあ・・・

 

     仮屋「アタシは竜田揚げ定食にしようかなあ」

     海道「あー!竜田揚げもいいよな!迷うなー!」

  デュアン「海道、そうやって……迷ってばかりだから女の子からモテないんだよ」

 

ハッキリと物事をズッパリと決めないと本当にモテない。

 

     保科「いや、種類が多いから迷ってるだけだろ」

   デュアン「それもそうだな全30種類近くあるものから選ぶのは無理な話か、その日何が食べたいかなんて……気分で決まるからな。」

 

     海道「でも竜田揚げ定食とか大丈夫なの?和奏ちゃん、太っちゃわない?」

 

海道は失礼なことを言い出した・・・。女子に「太る」は禁止ワードだ。

 

   デュアン「お前さ、少し発言気をつけたほうが良いよ」

     保科「デュアンの言う通りだ。本当に一言多いよな?」

     仮屋「保科も似たようなもんだけどねー」

     保科「マジで!?」

   デュアン「こっちが、マジで!?だよ」

昨日のこと自覚なかったのかよ・・・マジもんのショックだわー

 

     仮屋「自覚なかったの?」

自覚のない一言とか酷いよなあ・・・・。

 

     保科「素で言われた……そうだったのかあ……。うん、気をつけよう、相手を怒らせたくないし」

 

保科はそう心に決めた・・・ああ。決めたのは良いが、同じ過ちを繰り返すんだろうなあ。

 

   デュアン「その方が良いよ。物事を全て達観しとけば良いんだよ」

そうすれば、何からも疎まれることも、怒らせることもない。

 

     仮屋「あのね海道、食べた分のカロリーをちゃんと身体を動かして消費すればいいわけさ」

 

仮屋さんって確か胸の大きさも気にしてなかったっけ?時々大きい胸の女性に目線がちらりと行っているが・・・。痩せると、胸が成長しないんだよなあ。おっぱい自体、脂肪の塊だし。

 

      海道「おー、なるほどな」

   デュアン「ちなみに、女性と男性とでは消費するカロリーも摂取カロリー量も違うんだ……男性は、運動して筋肉が付きやすいが……女性は逆に、筋肉がつきにくいんだ……だから、女の子の前で「太った」はNGだ」

 

正確に言えば脂肪の燃焼がしにくい・・・って言えば良いのかな?

 

    保科「へぇ~……」

    仮屋「ということで、身体を動かすからちょっとサンドバッグになれやこら海道」

 

拳を構えようとする仮屋さん・・・

 

    海道「ちょ、ちょっと待てよ!まさか本気で友達を殴るつもりなのか!?」

 

   デュアン「殴られても仕方ないよね。デリカシーのないことを言ったんだから、殴られても仕方ない、よね☆」

 

オレは一番な笑顔を見せる。

 

    海道「ありがとうございますっ!」

   デュアン「!?」

ふぁ?!何言ってるの?

 

    仮屋「うわぁぁっ!海道が気持ち悪いドMだって忘れてた!」

   デュアン「え?え?え?」

【挿絵表示】

 

オレは頭の中で困惑する・・・・

 

   デュアン「何、海道ってマゾヒストなの?」

保科に聞くと・・・

 

    保科「あー……うん。」

マジかよ。

 

    海道「ま、まあ仕方ないか……オレが口にした不用意な発言が原因だしな。それぐらいは我慢するさ……さあ来いっ!」

 

    仮屋「やだぁ、助けて保科、デュアン~」

    保科「手遅れだ、デュアン頼む」

  デュアン「いい加減目を覚ませ、海道」

 

オレはハリセンで思いっきり海道の頭を叩く。

 

アクシデントはあったが、俺達が学食に向かっていると、下級生が通りかかった。

 

     因幡「……あっ」

どうやら、こちらに気付いたようだ

 

     保科「あ……」

  デュアン「……」

    因幡「……」

慌てて目をそらし、昨日と同じ袋を持って、教室から離れてく因幡さん。

 

    保科「……」

    仮屋「ん?保科、デュアン?どうした?」

    保科「悪い、俺ら用事を思い出した。昼飯は別で食べるわ」

    海道「そうなの?」

    仮屋「昼ごはんを別で食べる用事ってなに?」

    保科「部活関係でちょっと野暮用が。わるいけど、じゃあな」

  デュアン「機会があれば、また誘ってくれ」

 

オレは保科の後を追っかける。

 

    因幡「……はふぅ……」

因幡さんは溜め息を吐いていた。

 

    保科「何をため行き吐いてるの?」

  デュアン「溜め息を吐くと、幸せが逃げるって言うよ。だから、あまり溜め息は吐かない方が良いよ」

 

俺たちがそう言うと・・・

 

    因幡「ひゃ!?なっ、ななななに!?ほ、保科センパイにデュアンセンパイ?こんなところで何をしてるんですか?」

 

因幡さんは驚いて、言動が挙動不審になっている。

 

    保科「え?何って、昼食に決まってるでしょ」

   デュアン「右に同じく」

    因幡「え?いやでもセンパイ方、さっき一緒にいた友達と食べるんじゃないんですか?」

 

    保科「アイツらは学食。けどオレはパンが食べたいから、別行動。デュアンは弁当……と言うわけで因幡さん」

 

まあ、朝作ったやつだけどね。本当だったら残り物を詰めようかと思ったが、昨日は夜は食べておらず、冷蔵庫の中も残り物とかは殆どない。

と言うか、オレは少食派だから、沢山作ることもない。

 

    因幡「はい?」

小さく返事をした。

 

    保科「今日はオレの昼飯に付き合ってくれない?」

  デュアン「んじゃ、オレは屋上で食べてくるわ」

    保科「いや、お前がいないと部室が入れないから……お前も一緒に食べようぜ」

 

  デュアン「綾地さんから借りればいいじゃん……と言うより、彼女が部長だから、鍵の所有権は彼女にあるんだぞ?」

 

オレは副部長でもないしね・・・。

 

    因幡「……はい?自分が、ですか?」

    保科「俺達と飯を食うのは嫌か?デュアンが嫌なら外すけど」

  デュアン「遠回しに、因幡さんはオレのこと嫌いって言っているようなものだ……もし嫌いで、顔も見たくないのなら消え失せるけど?」

 

この世からだけど。しかも、誰にも見つからない方法で。分子分解を爆発させれば、半径5mは跡形もなく消滅するからなあ。

 

    因幡「いえ、そんなことはないですけど……」

    保科「オッケ。じゃあ行こうか」

    因幡「はっ、はい」

 

~部室

 

    保科「おっ、因幡さんの弁当、美味しそうだな。ちなみにそれは自分で作ってるの?」

 

    因幡「いやまさか、お母さんですよ」

母親かあ・・・オレも一度、いや転生して「母親」という存在に合ったことがないな。だから母親の味ってのをが疎ましく思う時がある。

 

    保科「へぇー……。デュアンのも……誰かに作ってもらってるのか?」

 

   デュアン「オレのは手作り……朝作ってる。本来なら夜残ったものを詰めるんだけど……オレは少食派だからね。夜に残ることは無いからね。ちなみに今日はご飯70g、野菜20g、葉材10g、揚げ物20gだね」

 

何でも器用に熟せるのは如何なものか。

 

    因幡「デュアンセンパイが!?」

と因幡さんは興奮している。

 

  デュアン「そんなに珍しいことかなあ?」

    因幡「保科センパイは?いつもパンなんですか?」

    保科「パンか学食。まぁ、家庭の事情ってやつでね。あっ、でもデュアンから弁当を貰ったりしてる」

 

    因幡「そうなんですか……でも、育ち盛りの男の子だと、足りなくないですか?」

 

  デュアン「オレは逆に、保科が持っているパン一つで足りるぞ」

牛丼の並でお腹いっぱいレベルだ。それに卵とかトッピングして食べろ、と言われたら食える自信が無いぐらい少食だ。

 

    因幡「それは食べなさすぎなような気がします」

  デュアン「別に普通でしょ……」

    保科「デュアンは食べなさ過ぎるんだよなあ……オレは、まぁ少し足りないって感じかな。どうしてもって時は、家に帰ったらインスタントラーメンとか食べてるしね」

 

  デュアン「インスタントォ!?身体に悪いぞ、保科」

    因幡「そうですよ、デュアンセンパイの言うとおりです。仕方がないですね。お情けで、唐揚げを贈呈しましょう」

 

  デュアン「じゃあ、オレは全部やるよ。丁度手を付ける前だから」

オレは自販で買ってきた新商品[ライチ味のミルクティー]を飲むことにした。

 

    保科「いいの?」

    因幡「まあ、今日は特別です。この場所を使わせてもらったから……」

 

    保科「そういうことなら遠慮なく。ありがたく貰っとくよ」

  デュアン「んじゃオレは弁当ごとやるよ」

正直、人間はブドウ糖と塩、水だけで生きていけるからなあ。と言うか点滴で3年は持つからなあ・・・。

 

    保科「マジか!?お前の分が無くなるぞ?」

  デュアン「正直、お前はパンだけじゃ足りないだろ?」

    保科「……まぁね」

    因幡「あのー……私も食べてもいいでしょうか?」

  デュアン「オレよりも保科に聞いてみたら?もうその弁当の所有権は保科のだから」

 

オレは、二人が食べ終わるまで「不思議の国のアリス」の原書である「Alice's Adventures in Wonderland」を読んでいる。

 

    保科「……」

    因幡「……?どうかしたんですか?」

    保科「いや、マジで美味しいなと思って……デュアンの手料理も因幡さんのお弁当も」

 

  デュアン「料理なんざ、慣れれば誰だって美味しく作れる。最初は見て、勉強して……挑戦しての繰り返し(ループ)すれば、簡単に料理ができる」

 

    保科「そうなんだけどなあ……。因幡さん、卵焼きも一つ頂戴」

と保科は許可も取らず、因幡さんの卵焼きを取る。

 

    因幡「え?あっ、ちょー!なにするんですか、人の物を勝手に!」

 

オレは呆れて物が言えない。溜め息を吐くばかりだ。

 

    保科「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。卵焼きはもう一切れあるんだから」

 

    因幡「卵焼きは好きだから置いてたんですよ!勝手に盗るなんてサイテー!」

 

    保科「悪かった、悪かったてば。少しは落ち着いて。あ、分かった、卵焼きの代わりにオレのパンを食べさせてあげよう」

 

食べ物の恨みは怖いぞ、保科。食料一つで戦争が起きたって言う話をどこかで聞いたことがあるからなあ。

 

 

    因幡「ぎゃー!食べかけのパンなんていりませんよ!汚い!」

    保科「汚いは失礼だろ!ちょっと失礼すぎるだろ」

 デュアン「お前は少し、デリカシーって言う言葉を覚えよう、な?間接キスだからな……しかも、好きでもない相手に、だ」

 

    保科「仕方ないなあ……ほら」

保科は自分が食べた部分を千切り、残りのパンを因幡さんに近づける・・・。これで、確かに間接キスではなくなったな・・・だが

 

    保科「ちょ、近づけないで、顔に近づけないでよー!」

保科たちはギャーギャー言い合いをしながら、昼食を食べる。

正直煩すぎる

 

~~~~

 

   因幡「ご馳走様でした」

   保科「ご馳走様でした」

二人の昼食の時間も終わり、ゆったりとした時間が流れる。

 

    因幡「あの、センパイ方」

  デュアン「?」

   保科「ん?」

    因幡「今日はありがとうございました」

   保科「どうして礼を言われるのかわからないなー。今日はオレの頼みで、因幡さんに付き合ってもらったんだからー」

 

棒読みで言うな、わざとらしい

 

   因幡「そういえばそうでしたね」

   保科「まあ、アレだ。今日のお返しに、因幡さんが付き合って欲しい時はオレが付き合うよ。それに、言えば綾地さんも付き合ってくれるんじゃないかな?だから、気軽に声をかけてくれていいよ」

 

  デュアン「まあ、そういうことだ」

   因幡「……はい、ありがとうございます」

   保科「さてと……食べ終わったんだけど、もう教室に戻る?」

   因幡「センパイ方は戻ります?もう、鍵を閉めちゃいますか?」

   保科「いや、もう少し残るつもりだけど」

  デュアン「オレはどうしようかなあ……」

部室でゆっくりと本を読むのも良いが・・・

 

   因幡「じゃあ、自分も残ります。やりたいこともありますしね」

 デュアン・保科「「やりたいこと?」」

 

   因幡「これですよ、これ、じゃーん!」

因幡さんが取り出したのは、3DWだ。

 

   因幡「実は自分、モン猟が好きなんですよ。結構やり込んでるんですよ」

 

へぇー・・・

 

   保科「へー、そうなのか。ちょっと意外だな、女の子がモン猟だなんて」

 

それは偏見だぞ。

 

   因幡「本当はクラスのコミュニケーションツールとして買ったんですけどね、誰とも協力しないまま、ずっとソロ狩りで楽しんでます……時間はあるんで」

 

   保科「暗い暗い。そして重い」

保科も似たようなものだぞ

 

   因幡「……今、変な奴とか思いました?」

   保科「いや、まさか。ソロでやってるのはオレも同じだから」

 デュアン「オレもどちらかと言えば、ソロだな」

   因幡「先輩方も?」

   保科「一応。嗜む程度だけど」

 デュアン「オレは、読む本がない時とかに」

   因幡「じゃあ、協力プレイしませんか?今持ってます?」

   保科「持っているよ。ちょっと待って」

保科はポケットから3DWを取り出し、電源を入れソフトの起動を待っている。

 

オレも起動する。まあ、オレの場合DL版だから、起動時間は短縮できる。

 

   因幡「センパイは、協力プレイとかよくやるんですか?」

 デュアン「オレは入ってきたらやるレベルだな」

   保科「ほとんどやらないかな。たまーに野良で見知らぬ人とやる程度」

 

   因幡「自分も同じ様な感じですね。あ、協力プレイと言えば……実は昨日、面白い人と協力プレイしたんですよ」

 

ほほう?

 

   保科「……昨日?」

   因幡「あんまり上手じゃない……というか、正直下手っぴな人だったんですよ。槍なのにモンスターに必要以上に張り付いちゃって」

 

槍は中距離武装だからなあ。

 

   保科「……槍?」

   因幡「仕方ないから、治療弾で回復してあげるんですけど、お礼を言おうとして立ち止まって、モンスターに吹き飛ばされてるんですよー!」

 

そのプレイヤーはMMORPGとかは絶対に向いていないな。

 

   因幡「もぉ、おかしくっておかしっくて!ねー笑えるでしょー?」

  デュアン「あー……」

保科の3DWの方へ視線を向けて、気まずそうにした。

 

   保科「……」

   因幡「あれ?センパイ?どうしました?」

  デュアン「待機室に入ってくれば分かると思うよ?」

オレも待機室に入ると、各キャラクターの名前が表示されていた。

保科はウナジ。因幡さんはラビー。そしてオレは「hurting」。

 

2人とも初めて見る名前だ。

 

   因幡「……あ、ウナジ……さん」

   保科「なんでしょうか、ラビーさん?」

 デュアン「保科……重装備型中距離かあ」

デュアンは保科の装備を見て頷く

 

   因幡「デュアンセンパイは……なんて読むのでしょう?」

   保科「ハウティング?」

 デュアン「まぁそうだな」

   因幡「…………」

   保科「…………」

   因幡「で、でもまあ、誰もそういう時期がありますよね。なれてないと、そういうことってあるあるー」

 

フォローは時にして、人を傷つける。

 

   保科「昨日はありがとうございました。治療弾とか売ってくれて感謝してます」

 

   保科「……ど、どういたしまして」

   因幡「なんというか、あの、自分の方こそ、ありがとうございました。なんていうか楽し勝手ですよ、協力プレイ」

 

   保科「そっか、面白がってもらえてよかった」

   因幡「違うです、違うんですよぉ、別に文句じゃなくて、ほっこりしたというか、なんというか」

 

   保科「まあ下手なのは事実だから別にいいんですけどね……」

   因幡「うわああ、許して下さいよぉー!」

 

   保科「まあそれはともかく。どのくらいやってるの……2人とも?レベルは?」

 

   因幡「プレイ時間ですか?300時間ぐらいです。レベルは91とかで」

 

  デュアン「オレは1つ目のセーブデータのプレイ時間は572時間レベルは99、全クエストクリア済み……んで、2つ目のセーブデータが75時間レベルは99だな」

 

   保科「発売2ヶ月弱で!?なにそれ、廃人度凄ぇっ!」

   因幡「な……なんですか?いけませんか?」

 デュアン「別に、普通でしょ」

   保科「デュアンのは普通じゃなく変態だ!廃人を通り越して変態だよ……なんで100時間未満で99行けるんだよ!というか572時間って……買ってからほぼやり込んでるのかよ!!」

 

 デュアン「ASCを使えば75時間で99は簡単に行ける」

正式名称は「AutoStickControl」・・・3DWのアナログスティックに輪ゴムを挟めば・・・後は、テープとミニ四駆のモーターとかを使えば、自動戦闘化もできる。まぁ、これをやると素材集めが出来なくなるけどね☆

 

  保科「いや全然。ただ、オレなんて、まだ100時間もやってないから驚いただけ」

 

 デュアン「100時間もやれば良いほうだと思うぞ?狂った人間なら……999時間59分とかやる奴とかいるし、ね」

 

VRMMOの世界に行った時、不眠不休の1年とかね。後は、異世界転生で「勇者」になった時は、本当の不眠不休とかしてたなあ・・・。

 

  保科「はあ!?」

  因幡「確かに……デュアンセンパイのは異常ですね」

  保科「それにASCってなんだよ!」

 デュアン「AutoStickControlの略。輪ゴムとミニ四駆のモーターとテープとかを使えば自動レベルアップが可能だ……まぁ欠点といえば素材集めが出来なくなるんだけどよ」

 

   因幡「デュアンセンパイの装備って地味に天馬装備だったし」

  デュアン「素材なら99個あるぞ?」

   保科「ノォォオオオオ!!!

  デュアン「まぁまぁ落ち着けって」

   保科「というかさ、そんな趣味・特技があるなら先に言ってよ!そんだけやり込んでたら、クラスの人気者に簡単になれるって」

 

   因幡「そ、そうなんですか?」

  デュアン「まあ、ゲームで話題を振るってのも一つの手だったね。失念していたよ……というか、オレは普段ゲームとかあんましないし」

 

   保科「あんましないヤツが570時間以上もプレイするか?普通」

  デュアン「なに?570時間が普通の廃人じゃないのなら、何だというのだ?」

 

   因幡「ただの変態?」

変態というのなら、TASさんや縛りプレイをしている人に失礼だと思うぞ?いやTASさんは正真正銘の変態か・・・。縛りプレイは、初期レベルで、ラスボスを撃破しろ・・・のような物だ。アイテムが幾つあっても足りないよな。引き継ぎプレイなどがあれば、2周目で頑張れるが・・・それ無しの単体なら無理だな。いやそれを出来る人こそ変態さんじゃないか?

 

    保科「ってかそうだよ。寧ろ、タイミングは今しかない。因幡さん、協力プレイのサポートも上手かったし、絶対にいけるって……それに、今逃したら飽きる人も出てくる。だから、今がチャンスだよ!」

 

VRMMOが発展していれば、コミュニケーションツールとして役に立つよな。VRMMO系で無言プレイは絶対に無いからな。

 

  デュアン「そうだな……皆やり込んで、装備とかも揃っちゃって、目立たなくなるな」

 

   保科「そうそう。アピールするタイミングは今しかない!だから、とにかくやってみよう」

 

とオレと保科のアドバイス通り、因幡さんは指示に従う。

 

  デュアン「さて……オレは教室に戻ることにするよ。後は任せたよ……保科」

 

~~~

 

 

 







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Ep17 モン猟

 

 

~~~~~

授業も終わり、そして迎える放課後―――――

 

   因幡「もうサイテー、やってられませんよー。面倒くさいったらありゃしない」

 

因幡さんは部室に来るなり、愚痴を始める。他人の愚痴って、あまり好きじゃないんだよなあ。本気で悩んでいる愚痴なら聞くが、どうでもいいことに関してはイラッとする。まあ、相手は下級生で後輩だ我慢しよう。

 

   保科「……」

 デュアン「……」

 

   因幡「ちょっと聞いてます、センパイ方?」

と机をバンバンと叩く・・・。

 

   保科「聞いてる聞いてる。聞いているから、お願いだから机をバンバン叩かない……っていうか、なんでここに愚痴を言いに来てるの!?昼休み、あんなにクラスで楽しそうにしてたのに!」

 

   綾地「そうなんですか?一体どうやって……」

   保科「因幡さん、実はゲームが得意っていうことが発覚して、それを利用すればクラスに友達もできると思ったんだ」

 

利用できるものは何でも利用しましょう。精神は嫌いではないな。

 

   綾地「ゲーム?」

   保科「モンスター猟人っていうゲームだよ。知らない?」

綾地さんってゲームから程遠いから知らんと思うよ?

 

   綾地「すみません、知らないです。そういう物には疎くて……」

   保科「そうなんだ?テレビでCMとかもやってるのに……まあ、アクションゲームだよ。大きなモンスターと戦うゲーム」

 

   綾地「はあ、そうなんですか」

まあ、綾地さんは心の欠片の回収とかで・・・やっていなかったからなあ・・・と言うか部活とかでほぼ遅くなってるからなあ。オレも保科から教えてもらわなければ、買いもしなかったよ。

 

   保科「とにかく、そのゲームを使って、昼休みにクラスの人気者になったんだよ」

 

   綾地「なのに愚痴ですか……一体何があったんです?」

 デュアン「大方……一部の人から反感を買ったんじゃないか?容易に想像つくぞ」

 

よくある話だよな・・・。

 

   因幡「デュアンセンパイは、凄いですね……その通りなんですよ……一部の女子から反感を買っちゃったんですよー……もぉ、最悪」

 

  デュアン「ドンマイドンマイ……そういうのもコミュニケーションの一つだからしょうがないよ」

 

オレの場合は「反感?なにそれ、オレに向けるだけ時間の無駄だと思うよ?」と答えるね。まあ、そういうことをしてるから友達を作れないんだよなあ・・・しょうがないね。まあ、男子で友達は保科と海道ぐらいかな?殆どの男子はクラスメイトぐらいの認知だしな。

 

   保科「え?反感?何でまた……?」

いや、これも想像しやすい・・・

 

   因幡「受け狙いの為に男子が好きそうなゲームをしてるんだって」

それは偏見だと思うぞ・・・

 

  デュアン「それは流石に偏見すぎると思う。少女漫画を読む男子高校生だって居るだろうに……」

 

でも、少女漫画って下手なエロ本より生々しいことって偶にあるんだよなあ。

 

   保科「……それもコミュニケーションツールのひとつなの?」

  デュアン「まあ、女子と仲良くしたいが80%だと思うぞ?まあ……最近の少女漫画は生々しいんだぜ?」

 

オレは遠い目をした。

 

  保科・因幡・綾地「「「そうなの(ですか)!?」」」

  デュアン「んー……「げっちゅー♥」がそれかな?信じられるか?これ小学館に載せてるんだぜ?」

 

あれは載せちゃダメな内容だとオレは思う。もう一度言うぞ?あれは"小学館"で載せちゃダメな内容だ。

 

 

   綾地「…………」

綾地さんは心当たりがあるようだ・・・

 

   保科「そんなに酷い話なの?」

   因幡「???」

 デュアン「……そうだなあ。下手なエロ本の方が一番マシなレベルかな?」

 

あの少女漫画を見るぐらいなら、素直にエロ本を見た方がいい。個人的には、あの漫画はオレの中ではクトゥルフ神話TRPGの魔導書を読むレベルだからなあ・・・。

 

  保科・因幡「「は?」」

   綾地「デュアンさんの話は本当です……読めば分かりますよ……うん。読めば……ふふふふっ」

 

綾地さん暗い暗い。

 

   保科「話が脱線しちゃったね……そもそも300時間もソロでやり込めるウケ狙いの子はいないだろ」

 

 デュアン「そうだね。それこそ、変人か狂人の類だね……」

 

オレはから笑いをした。

 

   因幡「でしょう?そうですよね!?でもそんな風に思われるんですよ、女子には。理屈じゃないんです」

 

   保科「男の子っぽい趣味を持ってる子は大変だなぁ……マジ引くわー……あーでもそっか。タイミングのことがあったとはいえ、教室内でゲームするのはアピールっぽかったかな?いや……しかし、反感を買うほどか?ちょっと女子を甘く見ていたかもしれない」

 

  デュアン「まあ、所詮は餓鬼だね。そんな小さなことで反感を売るぐらいなら、スルーしたほうが時間の節約になるのに」

 

   保科「お前は、学生生活を灰色の人生にするつもりか?」

  デュアン「エコロジーと言ってほしいね……って違う違う!」

   保科「そうだったな。ゴメンな、因幡さん。オレの考えが足りなかったから……」

   因幡「い、いえ!違うです。あくまでちょっと思われた程度で、敵意を向けられてるほどじゃないですから」

 

  デュアン「まあ……虐めに発展するようだったら……くふふふっ」

とどす黒い笑いをする。口は三日月状に吊り上がっている・・・

  

   保科「うわー……デュアンの悪い癖だ。徹底的に心から折るつもりだな……」

 

失礼なことを言うなよ。ポッキリ折るだけだよ。

 

   綾地「一部ということは……そうじゃない人には、受け入れてもらえた、ということですか?」

 

   因幡「それは、えっと…………はい。モン猟、一緒にやる人、できました」

 

  デュアン「だが、男子層が多いのは少しマズイなあ……女子層には少女漫画かな?HAHAHAHA」

 

保科はデュアンから「この漫画を見て、悩め、苦しめ、苦悩しろ」という怨念が籠もっているような気がした。

 

   綾地「そうですか、それはなによりです。よかった」

   保科「ひとまず立ち位置ぐらいはできたってことか……そりゃなにより」

 

   因幡「はい。ありがとうございました、綾地先輩、保科センパイ、デュアン先輩。でも、あの……まだ完全に馴染むには、時間がかかりそうで……だから何かあったら、その時は……また此処に来ても、いいですか?」

 

   綾地「はい、構いませんよ。その時には遠慮なく来てください」

部長の綾地さんが認めるなら、オレからは何も言わない。

 

   因幡「ありがとうございます、綾地先輩」

 

   保科「で、今日はその報告をしに来たってことでいいの?」

 

   因幡「それもありますけど。今日はむしろ、保科センパイのために来てあげたんじゃないですか」

 

   保科「オレのため?なんで?どういうこと?」

保科は、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

 

   因幡「何言ってるんですか、天馬装備を調えるには、まだ素材が足りないはずです。だから、手伝ってあげますよ」

 

当然、オレは予備で99個持っている。コツさえ掴めば簡単に集まる。・・・反応速度、反射神経、動体視力がチート級だからなあ・・・そのせいかも。

 

   保科「いやでも、クラスの子としなくてもいいの?」

   因幡「男子は持ってきてましたけど、女子は持ってきてなかったので。あんまり男子とやってると、反感がね」

 

   保科「ああ」

   因幡「あと……お昼のお礼とかも……。や、なんでもないです。それよりもセンパイ、モン猟!イベントのアイテム、欲しいんですよね?」

 

   保科「ああ、助かるよ!ありがとう!でもなー、オレ下手だからなー、因幡さんの足を引っ張っちゃうかもな―」

 

棒読みやめれ。

 

   因幡「だから誤ったじゃないですか、ごめんなさいって!なのにこの態度!なにこの陰湿センパイ!」

 

   因幡「もぉぉ――――――!うっざ、この人本当にマジで面倒くさ――――い!!」

   

   保科「大声で失礼なことを叫ばないでくれないかっ!」

 

 

~~~~~



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Ep18 女子の価値観

 

 

~~~次の日

 

  デュアン「~♪」

オレは軽い歌を唄いながら廊下を歩くと、なにやら声が聞こえる。

 

 

   海道「もしかしてって……オレが人を好きになっちゃいかんのか?」

   保科「いや、勿論悪くはないけどさ……ちょっと想像がつかなくて、本当に驚いた」

 

  デュアン「ん?何がだ?」

   保科「ああ……デュアンか。いや、海道に好きな人が居るんだって……」

 

  デュアン「へぇ……」

オレはニヤリと口元が三日月状に吊り上がる。

 

   海道「っ……」

わかりやすいな。

 

   海道「あー!!そうだよ、悪いか」

  デュアン「悪くはないよ……ただ、オレから言わせれば……応援はしないでおくよ」

 

   保科「え……友達なんだから、応援ぐらいはしろよ」

  デュアン「期待しといて……"無理"と言われたら、それこそ海道が傷つくだろ……。だから、オレは応援はしない……でもまあ、本当に悩み、恋に恋焦がれてるのなら……オカ研に来い」

 

本気でその人を恋をしているのなら、応援はしないのが優しさってヤツだよな。まだ、オレの中で恋愛感情というのが理解しきれてないから・・・。

 

  保科「そうだな……デュアンの言う通り、悩んで悩んで、自分で解決しきれないようだったら俺らが相談にのるよ。オカ研も乗ると思うぞ……まあ、海道が良ければだけど」

 

   海道「…………」

   保科「いやマジで。からかうとか、暇つぶしのために言ってるわけじゃないって。友達として相談に乗るって言ってるだけだぞ?」

 

   海道「気持ち悪っ」

   保科「さすがにその言い方はひどいだろ」

   海道「悪い悪い。そうじゃなくて、そういうのは柊史のキャラじゃないだろ」

 

   保科「自分でも思わないわけじゃないけど、オレもオカ研に入ったからな。それに――――」

 

   海道「それに……?なんだよ、その続きは?」

   保科「いや、なんでもない……忘れてくれ。とにかく、悩みがあるなら言ってみろ……それにほら、オカ研に所属してるから、意見も聞けるぞ?」

 

   海道「あー……それは確かにいいことかも。俺らの女子の友達なんて……和奏ちゃんだけだからなあ」

 

   保科「……?仮屋はいいヤツだけど、性格的に男前なところがあったりするからな。一般的な女の子とは言い切れない部分が……」

 

  デュアン「それも個性というもの……せめて活発で元気な子って言ってやれよ……仮屋さんが可哀想だろ」

 

   海道「……まあ確かに」

   保科「???」

   海道「だぁぁあ!あーもーうるせー!!とにかく今は相談にするつもりはねーよ!」

 

ああ。きっと海道は仮屋さんが好きなんだろうなあ。黙っておこう。

 

   保科「あれ?けどお前、前に綾地さんとお近づきになりたいとか言ってなかった?」

 

  デュアン「え?そうなの!?」

   海道「それはそれ、これはこれ。機会があったら知り合いと呼べるぐらいの関係になりたいと思うのは、男として普通のことだろ」

 

  デュアン「そうだな……一般的な男子の理論だとそうなる、のかな?」

 

正直な話・・・確かに可愛いし、綺麗な部分もある。でも、恋愛感情になると話は別なんだよなあ・・・何でだろう?

 

んー???そもそも、オレは綾地さんを異性として見ているのだろうか?・・・いや、見てないな。友人関係、幼馴染。前言撤回、オレのほうが酷いな。

 

 

   保科「まあ、確かに」

 

~~~~

 

   久島「えー、連絡事項は以上かな……あ、いや違った。週明けの話だけど、特別棟の配管工事を行う予定だ。昼までには終わる予定だが、トイレが使えないからね。以上かな……うん。家に帰る者は真っ直ぐ帰れ。部活の者は性を出すように。じゃあ、解散」

 

さて・・・週明けはトイレが使用不能となると、綾地さんのアレを抑える魔法を改良しないと。薬でなんとかならないのかな?鎮静剤とかで・・・。

 

  デュアン「保科、一緒に行こうぜ」

   保科「そうだな」

 

――――特別棟に向かい、オカ研の部室に入ろうと手をかけようとすると・・・声が聞こえる。

 

    綾地『あっ、やだ、そこ、ダメですっ。あぁっ、無理無理無理、こんなのむりですよぉ、ああぁんっ』

 

    因幡「無理じゃないですって。ほら、こっちも』

二人はゲームをしてるんだろうなあ・・・とオレは思うが。万が一という可能性もある。

 

   保科「………入りづらいな」

  デュアン「…………だな」

とても入りづらい

 

    綾地『やだぁ、2ヶ所同時なんて、本当に無理なんです』

2ヶ所同時?あー・・・そういや、綾地さん超近接型装備だったな。

 

   因幡『何言ってるんですか、本番はココからですよ』

  デュアン「はぁ~……」

オレは手にかけたドアノブを下に降ろし、ドアを開ける。

 

   保科「…………」

  デュアン「…………」

俺らは更に死んだ目をしながら、席に着く。まぁ、定番の定番だったわな・・・。

 

   因幡「まだセンパイが持ってていいですから、頑張って下さい」

   綾地「ありがとうございます、因幡さん」

   因幡「それじゃあ次は、どのクエストにチャレンジしてみますか?」

 

   綾地「そうですね……もう少し簡単な物がいいので、難易度がちょっと低い、このクエストなんかが丁度良いかと」

 

   因幡「じゃあ早速チャレンジですね!」

 

  デュアン「…………」

   綾地「でもその前に、ちょっと休憩させて下さい。目が疲れました」

 

   因幡「集中してプレイしてると、目が乾きますもんねー」

   綾地「もう1時間ぐらいしてますから」

   因幡「個人的にはまだ1時間って感じですけどね」

   保科「それぐらいゲームに慣れてないってことだろうね。なれないうちは無理しない方がいいよ」

 

 デュアン「視力低下の原因にもなるし……今日はそこまでの方がいい」

   因幡「ですね。でも寧々先輩、デュアン先輩、この部活って結構暇なんですか?最近こんな感じですけど」

 

   綾地「毎日誰かが相談に来るということはありませんから、こんな日もありますよ。来る時はドッと来たりするんですけどね」

 

 

 デュアン「まあ……それだけ平和だということだよ。……あ、保科。ファンブルしたから1d100で振れよ?」

 

   保科「うぇ……マジかよ。……うげぇ24」

 デュアン「うん。一時的発狂と不定の2つのロール」

   保科「……6……ohえーっと不定は7。時間は……100時間!?」

 デュアン「マイナス方向へ進むな……ハスターの攻撃、あっ……クリった。ダメージ2倍」

 

   保科「回避だ……ってこんな時にファンブル?!」

 デュアン「13d6が2倍だから26d6だね……えーっと111ダメージ」

   保科「耐えられるか!HP-100で影も形も残らないまバラバラになって死んだわ!ふざけんなよ……これ難易度下げたんだよな?」

 

むぅ~・・・1人用シナリオなのに。ダイスの女神様が悪いんだな

 

 デュアン「おかしいなあ……難易度は下げたはずなんだが……1人プレイだし」

 

保科のRPは悪くない。全てはダイスの女神がクソビッチなのが悪い。

・・・そういえば、オレって・・・運は良い方なんだよなあ。

 

でも、この運って・・・ダンガンロンパの狛枝凪斗並の不運も襲ってくるんだよな・・・。というか同レベル?

 

   因幡「さっきから先輩方は何をしてるんですか?」

   保科「クトゥルフ神話TRPG……結構楽しいぞ」

 デュアン「保科は運に見放されたんだ」

保科は「ぐっ」と悔しがっていた。

と言うか、保科はリアル心理技能あるし・・・ある意味、クトゥルフ神話TRPGに向いているのかもしれない。

 

   綾地「結構面白いですよ?ダイスを使ったゲーム。RPが……うふ、うふふ」

 

綾地さんとやった時、チュートリアル開始からNPCを1人殴り殺したからなあ。このゲームって、武道が強みだよな・・・ダメボ次第では、素手で神話生物を殴り殺したよな

 

   保科「……触れないでおこう」

 

   因幡「意外ですね。寧々先輩やデュアン先輩がやってるなら、毎日満員御礼なのかと思ってました」

 

   綾地「最初の頃にはそういうこともあったんですが、気軽な相談の人が増えてしまうと、真剣に悩んでいる人が来づらくなるかもしれないと思って」

 

 デュアン「あれは大変だったなあ」

オレは遠い目をしていた・・・

 

   保科「そうなのか?」

 

   因幡「へぇ~……保科センパイも悩んでることなんてあるんですね」

   保科「悪いかっ!」

  デュアン「人には抱えきれないほどの悩みを持っているものだよ……保科やオレや綾地さんのように……口には出せない……大きな悩みを持っている……だから、本気で悩んでる人以外はお断りしてるんだ……」

 

   因幡「あー、それで。冷やかし半分とかの客は来ないんですね」

 デュアン「うむ」

   保科「話は変わるが……ところで因幡さん」

   因幡「はい?」

   保科「最近、オカ研に入り浸かりだけど、クラスの方はどう?」

   因幡「んー、そこそこ……ですかね。女の子のモン猟仲間もできましたから。けど、あんんまり目立ち過ぎちゃうと、色々面倒なんです。それに寧々先輩と一緒に居ると楽しいですからね」

 

   綾地「………」

少し恥ずかしがる綾地さん。慣れてないんだな・・・

 

   因幡「あっ、でも以前より楽になりましたよ、感謝してます。本当にありがとうございました」

 

   保科「そっか」

 デュアン「……」

   因幡「後のことは、まあ自分で何とかします。今のところは心配は必要ありません」

   保科「ちなみに因幡さん、クラスの友達に悩みを持った人とかいない?」

 

おいおい、オカ研自ら依頼を探すのはちょっとダメだろ。

 

   因幡「え?そうですねー……うーん……」

   保科「心当たりはない?クラスで浮かない顔をしている子がいたとか……女子なら恋愛に関する悩みとか多そうだし、相談し合ったりしてないの?」

 

   因幡「そりゃ悩んでる子は多いでしょうけど……女子同士ではそう簡単には言いませんからね」

 

   保科「それって恥ずかしいから?」

   因幡「それもありますけど、女子のそういう相談って

牽制目的だから、駆け引きがあるんですよ。タイミングとか」

 

   綾地「牽制……ですか?」

   因幡「はい。『私、○○君のことが好きなの』って言うのは『○○君は私が唾を付けたから、おめぇら手出すなよ?』っていう牽制」

 

怖っなにそれすげぇ怖っ・・・何?今の女子はそんなんなの?

 

   綾地「そんな意味が込められていたんですか?初めて知りました……私」

 

 デュアン「オレも……。そんな怖い話聞いたこと無いぞ……うぅ、背筋が寒い」

 

   保科「というか早いもの勝ちなの?」

保科は笑顔を引き攣っている。無理もない

 

   因幡「女子同士は言葉の裏を正しくとらえないと、大変な目に遭いますからね」

 

   保科「その点はデュアンは上手くできそうだよなあ」

 デュアン「HAHAHA……お前も人のこと言えないだろ」

相手の裏の裏を読むこともできるしな。保科も能力を上手く使えば、相手の心なんて丸裸にできるだろうに。

 

   因幡「なんだったら、その○○君が勝手に告白してきただけでもアウトです」

 

   保科「相手から告白されるとか、もうどうしようもないと思うんだけど……というか相手の気持ちは無視なの?」

 

 デュアン「うわぁ……世知辛い世の中だなあ……女子って」

   因幡「そういう物なんです。女子の……特に思春期の仲間意識の強い女子の間では、それが絶対のルールなのだ」

 

そんなルールの常識なんて捨てちまえ!何だそりゃ。好きな人に告白ぐらい良いじゃないか。・・・あ。そうか、だからオレは青春や恋愛と言った感情を捨てたのか。いやいや、そんな単純に捨てたのか?

 

闘いから逃げて、青春に走って、現実を見たら逃げ出す・・・。オレってとんだヘタレ野郎なんだな。と再認識してしまうな。

 

   保科「なのだって……そんな特殊ルールを暗黙の了解扱いされても困る」

 

 デュアン「右に同じく」

 

   保科「なんか……因幡さんの話を聞いて思ったんだけどさ」

保科はオレにしか聞こえないボリュームで喋る。

 デュアン「ん?」

   保科「純情男子が抱く女子の清純のイメージがぶち壊されていくんだけど」

 デュアン「そんなのは所詮、男子が抱いた幻想だ……勝手なイメージを押し付けないほうが良いぞ」

 

   保科「……デュアンってドライなんだな」

 デュアン「そうか?そうかもしれないな」

 

   綾地「男子だと、そういうことはないんですか?」

   保科「どうだろ?人によるとは思うけど……少なくても男子がそれを口にするのはあくまで悩み相談であって、牽制目的じゃない気がする」

 

 デュアン「基本は悩み相談だな……例え、好きな人が被っても……誰が先にプロポーズを受けられるか……という勝負はするかもしれないな」

 

   保科「あー……確かに、するかも。けど女子も、綾地さんやデュアンみたいに色んな人から相談を受ける場合ってどうなるんだろ?今までに恋愛相談してきた子もいるでしょ?」

 

   因幡「寧々先輩、恋愛相談される前に『誰が好き?』っていう確認をされませんでした?」

 

   綾地「そう言われると……確かにそういう質問をされた気がしますね」

 

 デュアン「………そうなのかー」

知らなかったなあ。1学期は5月まで休んじゃったからなあ・・・。1~3月はインフルで禄に動けなかった・・・というより、入院してたし4月は風を引いて寝込んでたな・・・5月は欠片集めだったな。

 

   保科「ちなみに、その質問にはどう答えたの?」

   綾地「正直に。誰もいません、と」

   因幡「それって寧々先輩が自分のライバルにならないか、ちゃんと確認してから相談してるんですよ」

   

   保科「はぁー、なるほどねー。けど、もし被ったらどうするの?」

   因幡「『えー、そうなんだ。どうしよう……私も好きなんだけど……でも綾地さん相手じゃ、私なんて敵わないよね』と、同情を買いつつ『そんなことないよ、頑張ろ』と言わせて、応援させる方向に持っていくんじゃないですかね?でもそれって、裏切りは許さないと言わんばかりに『おめぇは彼に近づくなよ?』って布石をうっておく」

 

   保科「うわっ……腹黒……」

それ以前に恋愛は勝負の駆け引きじゃねぇんだよぉぉぉお!!!何だそれ、戦争でもおっぱじめるのか?ふざけてるのか!

 

因幡「なので女子同士の悩み相談は、普通はそう気軽には行われないんですよ」

 

 デュアン「……女子ってマジ怖い」

   保科「同意だな」

   綾地「女子には色々あるんですね、本当大変そうです」

   保科「他人事みたいに言ってるけど、綾地さんも女子だからね?」

ボケとツッコミ・・・夫婦漫才かな?

 

   因幡「んー……でもそういえば、川上君が浮かない顔をしていたような気が……」

 

   保科「川上君って、クラスメイト?」

   因幡「はい。クラスの男子なんですけどね、なにやら暗い表情で元気がなかったように思うんですよね。いつもバカやってるイメージなんですけど……そうだ!まだ教室にいるかもしれないから、ちょっと見てきますよ」

 

   綾地「あ、でも……面倒じゃありませんか?」

   因幡「面倒なんてことはないです。それとも……自分、ウザいですか?」

 

   綾地「いえ、そんなことはありません。もし川上君が悩んでいるなら、相談に乗ってあげたいとも思ってます」

 

   因幡「なら、ちょっと探してみますね。寧々先輩には助けてもらったので、恩返しをしたいんですよ。だから、迷惑じゃないならさせて下さい」

そこに川上君というクラスメイトの子の意思がないぞ?

 

   綾地「因幡さん……ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせてもらってもいいですか?」

 

   因幡「はい!じゃ、いってきまーす」

因幡さんは元気に答えて、部室を出ていった。

 

   保科「……因幡さんって、素直でいい子だな」

保科はまるで母親の様な表情で感想を述べる。

 

   保科「それにしても……どんな依頼内容だろう?」

 デュアン「多分……誰かに恋をしてるんじゃないのか?普段はバカやってるヤツが元気がないとなれば……それはきっと誰かを恋してるんだと思うぞ」

   綾地「そうなんですか?」

 デュアン「感だがな」

   保科「お前の感って外れたことがないから怖いんだよなあ」

 

 

~10分後

 

   因幡「ただいまです!」

   川上「ちょ、一体何なんだよ、因幡!いきなりこんなところに連れてきて……」

 

   因幡「悩み、あるんでしょ?困ってるんでしょ?その相談に乗るから、からかうとかドッキリとかじゃないから安心して」

 

 デュアン「………」

それは、逆効果だぞ

 

   川上「そう言われてもよ……」

   因幡「寧々先輩!連れてきましたよー!」

そう言い、綾地さんを抱きしめる因幡さん。

 

   綾地「ありがとうございます、因幡さん」

   因幡「ふふふ~。寧々先輩に褒められるなんて、嬉しいですー」

   綾地「ありがたいですけど……ちょっと苦しいですってば、んむぐ」

   因幡「だって先輩、気持ちいいんですもーん」

   保科「因幡さん、意外とベッタリとしたコミュニケーションだよね」

 

確かに・・・秋田さんのアレが霞んで見えるよ。

 

   因幡「んー、一方的に合わせ続けるのは疲れますけど、こういうのはわりと好きな方なんですよー」

 

   保科「そうなんだ。そこはやっぱり女の子ってことかな」

   川上「おーい、因幡ー?オレ帰ってもいいか?」

真面目に聞く気が無いと思われちゃったな。仕方ないね☆

 

   保科「あー、ゴメン。オレは保科柊史。あっちで因幡さんに抱きつかれてるのは、綾地寧々さん。そして、オレの左隣にいるのが……」

 デュアン「デュアンです」

   川上「はぁ……オレは1年D組、川上光大っす」

   保科「川上君。確認なんだけど、悩みを抱えてたりしない?因幡さんから雰囲気が暗かったって教えてもらったんだ。もし本当に悩みがあるなら、俺たちオカ研に相談してみる気はないかな?」

   川上「は?先輩方にっすか?あの、それって、どういうことっすか?」

 

   保科「うん、普通は困惑するよな。でも別に、怪しいことじゃないから。とりあいず説明するから話を聞いてもらえないか?時間ある?」

   川上「時間ならまあ、ありますけど……」

   保科「ありがとう。じゃあまず、この部活の説明から」

オレは、川上君にペットボトルのお茶を渡した。

保科は川上君に簡単な説明をしていた。

 

 

   保科「……ってな感じで、俺たちは部活動の一環として、悩みの手助けを行っているというわけ」

 

   川上「そうなんすか」

 デュアン「……」

   因幡「嘘じゃないからね。女子の間では結構有名だから、安心していいよ」

 

そうだな・・・"女子だけ"という限定ならな

 

   川上「いや、別に疑ってはないけど……俺なんかを騙しても、何の意味もないだろうし」

 

 デュアン「おいおい、卑屈になるなよ少年……もっと前向きになろうぜ」

 

騙したら、何かを罰則するとかな。

 

   綾地「それで川上君、どうでしょう?もし悩み事があるなら、オカルト研究部に相談してみませんか?勿論どんな相談でも真面目に取り組みますし、秘密は守ります、絶対に」

 

 デュアン「俺と保科の命を賭けてもいいぜ」

   保科「命!?」

 デュアン「他人に秘密を知られたくはないだろう……俺もお前も……勿論、誰にだって……ね」

   保科「確かに……」

   因幡「あー、ちなみに自分も相談したけど、相談してよかったと思ってるよ。だから真面目は話、困ってるなら話してみない?」

 

   川上「…………」

 

 デュアン「まあまあ……全員で押しかけるように迫ってもしょうがないだろ……川上君次第なんだから」

 

   川上「だ、誰にも言ったりしないっすか?」

 デュアン「そこは明言しよう……誰にも、例え教師だろうが親だろうが友人だろうが神様だろうが……誰にも言わないことを約束しよう」

 

   綾地「はい、約束します。他言したりしません」

   保科「絶対に言ったりしない。川上君がここに来たこと自体、秘密にするよ」

 

   川上「因幡、お前も言わないか?」

   因幡「言わない。口は堅い方だよ」

   川上「………」

疑っているな・・・。まあ、仕方ないか

 

   保科「無理強いはしないけどさ。1人で悩んで解決しないなら、話してみない?」

 

  デュアン「それとも、話しづらい内容?」

   川上「分かりました。よろしくお願いします」

   綾地「はい。それで……川上君が悩んでいることは一体なんですか?」

   川上「それは……つい最近、か……彼女ができまして」

   因幡「えぇ!?そうなの!?川上君いつの間に!?」

 デュアン「ほー……」

   保科「もしかして秘密の付き合いなの?」

それはないな・・・

 

   川上「いえ、そんなことはないっす。わざわざ発表するような真似はしてませんけど……」

 

 デュアン「……」

   因幡「え?誰?誰と付き合ってるの?」

   川上「そうやって問い詰められるのが嫌だから言ってないんだよ」

   因幡「あ、ごめんなさい。つい気になっちゃって。話の腰を折ってごめんね。続けて」

 

   川上「で、今度の日曜に、彼女とデートするんですよ」

   保科「もしかして、初デート?」

   川上「はい。というか、そもそも俺……彼女ができたこと自体、初めてで……」

 

 デュアン「んー……もしかして、デートプランが決まらない……という感じなのか?」

 

初デートで彼女も初めてなら、この線が一番アリそうだよな

 

   川上「……はいっす……あーもう、恥ずいなっ」

 デュアン「恥ずかしがることはないよ……誰だって、初めてのデートはそういうものだよ。初めての彼女と初めてのデート。服装もそうだが、デートコースに食事、考えることは山ほどある……悩んでいても山が片付くわけないもんな」

 

   綾地「デートコースは、彼女さんと一緒に話し合うのはダメなんですか?」

 

  デュアン「綾地さん……男というものはね……悲しい生き物なんだ。初デートで彼女を喜ばせたいんだよ」

 

   川上「はい……デュアン先輩の言う通りっす」

   綾地「はあ……そういうものですか」

   保科「相談を他言して欲しくないのも、そこら辺が理由……ってことは、彼女はこの学院の子?」

   川上「……はい。もう本当にどうすればいいのか、わかんなくて。ネットで情報を集めたりしたんですけど、初回は映画でいいだろ、って意見もあれば、映画はやめとけ、って意見もあるし。情報を集めれば集めるほど、どこにも行けなくなるんすよ!それに俺、金もあんま持ってないから……はぁ……」

 

   保科「ふむぅ……あんまり遠出もできないか」

保科は腕を組み、考える・・・

 

 デュアン「…………」

俺も考えることにする。俺の場合は金は無限にあるが・・・そこを抜きにして、バイトしたお金で換算する。そして川上君はおそらくバイトはしていないだろうから学生で使えるお金は恐らく5000円~10000円、多くて20000円換算すれば・・・。

 

 デュアン「ちなみに親から借りるってのは出来ないのか?」

   川上「え?……うぅ~ん……多分無理だと思うっす」

 デュアン「ふむぅ……まあ、そこは川上君の交渉次第でお金の問題は解決するとは思う。多分だけど」

 

   保科「ちなみに、その子ってどんな子?」

   綾地「そうですね。相手をイメージした方が、的確にアドバイスもできると思いますから、よしよければ教えてもらえませんか?」

 

   川上「ちっこくて、女の子っぽくて……すげー可愛いんす。もう言っちゃうと、同じクラスの前田っていう子なんすけど」

 

   因幡「えー!?前田さんと川上君が!?いがーい!」

   綾地「因幡さんから見て、どんな子ですか?」

   因幡「んー、そうですね……ちょっと引っ込み思案で、控えめなところもありますけど、明るい性格だと思いますよ。前田さんなら普通のデートで普通に喜んでくれるんじゃないですかね?」

 

なるほど・・・。

 

   川上「そうは言うけど、女子って相手がどんなデートプランを練ってくるのか、楽しみにするもんだろ?」

 

   因幡「あー、そういう一面はあるかも」

   川上「だったらやっぱり最初って重要じゃん?だから、すげー悩んでるんですけど……質問っす。先輩方は、デートとかしたことあるんすか?」

 

う~ん・・・前世では何回かしたな。

 

  保科・因幡・綾地『……』

  デュアン「ないな……相手がいないんだもの」

俺はフッと自嘲した。

 

   川上「お邪魔しました……」

   保科「待った待った!ちょっと待った!結論が早いよ、少し落ち着こう。StyCool(ステイクール)でいこう」

 

   川上「けど参考になりそうな人が誰もいないじゃないっすか。もう諦めて別のヤツに話してみます。茶化されそうでイヤっすけど」

 

 デュアン「待て待て……他人の経験したデートプランを組み込むなんて碌な結果しか出ないぞ……やめろ、それだけは絶対にやめろ!」

 

俺は川上くんを止める

 

   保科「そうだデュアンの言う通り……けど、俺たち経験はない分利点がある。慣れてない分、川上君と同じ目線で意見が言えると思う」

 

   川上「それは確かに、そういうことがあるかもしれないすけど………うぅ~ん…………あっ!じゃあ、こういうのはどうっすか?オレが今考えてるプランがいくつかあるんですけど、それを先輩たちでリハーサルしてみて、アドバイスをください」

 

  デュアン「おぉ……ナイスアイディア!」

オレはフィンガースナップを鳴らして、言う。

 

   綾地「私たちでリハーサル?」

   保科「それって……」

   因幡「デートしてこいってことぉ!?」

 

  デュアン「なんだよ、本当に付き合う前提でデートするわけじゃないんだから……あくまでもリハーサル。いいじゃないか。デートの1つや2つ……俺らはオカ研だぜ?」

 

   保科「デュアン……」

 

~学園外

 

辺りはもうすっかり真っ暗だ。

 

   因幡「いやー、でもまさか、川上君と前田さんとね」

   保科「そんなに意外な組み合わせなの?」

   因幡「少なくてもタイプは全然違いますね。前田さんは大人しい方ですから、教室内でも2人はそんなに話してませんでしたし」

   

  デュアン「へー……」

なら、映画のジャンルは怖い系は無しだな。

 

   保科「それで綾地さん、川上君の提案だけど……?」

   綾地「そうですね、それで川上君の約に立てるなら、私としては断る理由はありませんね」

 

   因幡「マジですか!?だ、だってデートですよ!いくら川上君のためのリハーサルとはいえ、デート……初めてのデート」

 

 デュアン「さっきも言っただろ……付き合ってないんだから、デートのうちに入らないって……デートと思わなきゃ良いんだよ。休日に男女で遊ぶ……って感じで」

 

   保科「それ、根本的に依頼を断ってるようなものだぞ」

   綾地「もし気がのらないのなら、無理に付き合ってもらわなくても……これはオカルト研究部の活動ですから。ここは部員だけでも十分ですよ」

 

   因幡「いや、気が乗らないってわけじゃないですし、寧々先輩と一緒に遊びに行きたい――――というか、そういうの仲間外れみたいで……なんか嫌です。自分も行きたいです!というか寧々先輩クール過ぎっ!」

 

   保科「確かに」

   因幡「なんか意地になってきた!こうなったら絶対に行く!寧々先輩ともっと仲良くなるもんっ!」

 

   保科「……負けず嫌いなんだな」

 デュアン「だな」

   因幡「だってだってぇ!」

   保科「だったらいっそ、オカ研に入部したら?」

   因幡「え?自分がですか?」

   保科「本人もやる気があるわけだし、別に構わないよね?」

 デュアン「オレは部長でも副部長でも無いから……すべての決定権は綾地さんだから……綾地さんが良いというのならオレは文句は言わないよ」

 

   綾地「はい。私は別に構いませんが……」

   保科「ということなんだけど、因幡さん」

   因幡「はい!入部します!すぐに入部届けを書きます!」

   綾地「いえ、週明けで大丈夫ですから」

   因幡「わかりました!じゃあ、週明けに!」

 

   保科「それはともかく、デートが日曜だからリハーサルは明日しかないかな?」

 

   綾地「そうですね。おそらく……デートの開始は午後からですよね?」

 

 デュアン「早くても……12時からだと思う」

   保科「じゃあ、お昼に駅前に集合ってことでいいんじゃない?」

   綾地「はい。因幡さんも、問題ありませんか?」

   因幡「平気です。明日の午後ですね、了解(ラジャー)です。絶対に行きますっ」

 

   綾地「それでは、みんなで一緒に頑張りましょう」

 

 

~~~~~



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Chapter3
Ep19 デートプラン【前編】


 

 

 

~~~

 

   保科「う~ん……ちょっと早く着いたかな?」

  デュアン「何がだ?」

   保科「うぉ!?デュアン……お前は何時から居たんだよ」

  デュアン「10時ぐらい」

   保科「3時間も待ってたのか?」

  デュアン「銀行とか……な」

それから5分後ぐらいに、綾地さんが来た

 

   綾地「あ、保科君、デュアン君。すみません、おまたせしてしまって……」

 

  デュアン「ん。オレも保科も今来たばっかだから」

    保科「気にしないで、約束の時間にはまだ20分近くもあるんだし、綾地さんだって十分早い到着だよ」

 

    綾地「ところで保科君」

    保科「ん?」

    綾地「因幡さんが来る前に確認をさせて欲しいことがあるんですが……」

 

    保科「それって今日のことで?」

    綾地「はい。川上君の悩みは、本当にデートのことでいいんでしょうか?もしかしたら、デートはタダのきっかけで、他の要素で悩んでいるなんてことは?」

 

    保科「う~ん。オレもハッキリと心が読めるわけじゃないから、そうだなぁ……多分今回は、そのままでいいんじゃないかな?」

  デュアン「流石は保科レーダーだ」

    保科「誰がレーダーだ!」

    綾地「それなら、川上君がデートに自信を持って挑めるようにしてあげるのが一番良さそうですね」

 

    保科「そういう心配をするってことは、以前に何かあったの?」

    綾地「はい。相談されたことと、悩みの根本がずれているということは、よくあることです」

 

  デュアン「保科が入部してくれて助かるよ……マジで」

    綾地「ただ、本人もそれに気付いていないことも多いですから」

  デュアン「天然さンだよな」

    保科「天然さんって……けど、今日に関しては、普段どおりに過ごせば、デートとしては十分なんじゃないかな?」

 

    綾地「そうですね。よし、良いデートになるように、頑張ってリハーサルをしましょう」

 

    保科「ところで話が変わるけど、因幡さんの心ってどうなの?欠片の回収はできそうにない?」

 

    綾地「はっきりと確認したわけではありませんが……多分ダメだと思います」

   

    保科「そうか……」

    綾地「ただそれは、"まだ"回収できる状態じゃないということだけで、しばらく様子を見る必要性があるという意味ですね」

 

    保科「なるほど……じゃあ……因幡さんの欠片を回収するためには……どういう状態に持っていく必要があるの?」

   

    綾地「おそらくですが……心を許してもらえるような相手がいれば、そのときにはきっと」

    

    保科「あー、なるほど」

  デュアン「なるほどね……因幡さんの入部を認めたのも、そこら辺が理由だったのね」

 

   綾地「???どういう意味でしょう?」

   保科「前に久島先生から聞いたことがあるから。オカ研って今までにもいた入部希望者を断っていたんでしょう?魔女の秘密とか隠したいとか沢山あるから、希望者を断ってたのかなって思ってたんだけど。希望の因幡さんが入部する気満々だったことに、綾地さんは特に何も言ってななかったからさ」

 

確かに、今までの綾地さんなら断っていただろう・・・

 

   綾地「そこまで考えていたわけじゃないんですが……その、あんな風に無邪気に来られると雰囲気に流されてしまうと言いますか……」

 

 デュアン「あー……確かに、子犬っぽい感じだからかな?断ると、捨てられた子犬のようにしょぼーんとしそう」

 

   保科「その気持は分かる……ああも無邪気だと、ぞんざいな扱いをするのは心が痛むよな……子犬とか子猫を見ると、思わずニヤニヤしてしまう感じで」

 

 デュアン「ほぅ?因幡さんは、小動物だと言いたいわけか?」

   保科「例えばの話だよ」

   綾地「それに、私も因幡さんと一緒にいることは、嫌じゃありませんから。ゲームも楽しいですしね」

 

綾地さんがゲームに興味を持つのは珍しいな・・・。まぁTRPGですら楽しんでたから・・・いいのかなー?

 

   保科「そっか。それならいいんだ」

と、話してるうちに因幡さんが来た

 

   因幡「ちゃろー、保科センパイ、デュアン先輩、寧々先輩……あれ?自分が最後ですか?自分、遅刻してないですよね、約束の時間にはまだありますよね?」

 

   綾地「はい、大丈夫ですよ、時間はまだ10分程余裕がありますから」

 

  保科「俺たちもさっき合流したところだから、そんなに気にしないでいいって」

 

 デュアン「ああ……」

   因幡「よかったぁ、時計がズレてるかと思ってビックリしました」

   保科「じゃあ揃ったことだし、移動しようか」

   因幡「ういーっす」

   綾地「はい」

 

~~~~

 

   因幡「んー、着きましたねー!こっちまで出てきたのは久々ですよ」

 

まあ、用事が無ければこんな所には来ないわな

 

   綾地「普段は頻繁に来たりするんですか?」 

   因幡「頻繁って言うほどじゃないですけど、それなりには。服を買いに来たり、ゲームを買いに来たりしますよ」

 

   綾地「そうなんですか。私はあまり、こういう場所を訪れたりしないもので何があるのかよく知らないんですが」

 

   因幡「大抵の物は揃いますよ。そこのショッピングモール、かなり大きいですしね。しかも買い物だけじゃなく、遊ぶことも出来ますからね」

 

   綾地「なるほど。ところで、あの……なんだかさっきから、見られている気がするんですけど……私の服装、どこか変ですか?」

 

 デュアン「んいや、変じゃないよ……気にするな」

   因幡「そうですよ。寧ろその逆です。寧々先輩が可愛いからですよ。自信を持って、むしろ見せつけるぐらいの気持ちで」

 

   綾地「そんな恥ずかしいこと出来ませんよ」

 デュアン「綾地さんだしな……HAHAHAHA」

   保科「オレだけ場違いのようなきがするんだが……気のせいだろうか?」

 

 デュアン「何いってんだ……気のせいだろ」

   

と考えていると・・・

 

   男「ねぇねぇ、君たち暇なの?もしよかったら俺らと一緒に遊ばない?」

  

  デュアン「は?あんた何言ってるの……?彼女が嫌がってますよね。嫌がる女の子を誘い出すつもり?」

 

憤怒の表情で睨みつける

 

    保科「悪いが……彼女達は俺たちと用があるんだ……手を出さないでもらえませんか?」

 

  デュアン「もし手を出すのであれば……それ相応の覚悟をしてもらいますよ」

 

オレは口を三日月状に吊り上げ、嘲笑った。

 

    男「ひぃぃぃ!!ごめんなさーい!!」

男は逃げ出した・・・

 

  デュアン「っふ……ナンパをして良いのは振られる覚悟のあるやつだけだ……」

 

   保科「さてと……此処にずっといても仕方ないし、早く移動しないか?」

 

 デュアン「そうだな……」

オレは軽く、保科を突き「労いの言葉をかけてやれ」と言い

 

   保科「……二人共よく頑張ったね」

と言い、二人の頭を撫でる。

 

  綾地・因幡「「…………」」

ぽーっと顔を赤くする二人・・・

 

  デュアン「さっさと移動しようぜ」

    綾地「そ、そうですね……恥ずかしいので移動しましょう」

 

大丈夫か?この二人・・・

 

    因幡「で、川上くんのプランだとどうなってるんですか?」

    保科「えーっと……最初は、映画を見るってなってる。見る映画ももう決めてるみたいだ……恋愛要素もある、ヒューマンドラマみたい。最近だと一番評価がよかったな、ネットで調べた限りだと」

 

  デュアン「ふむ……実際に見ないとわからないな……こういうのって感想が大事だし」

   

    因幡「ですね……その映画を見ましょうか」

    綾地「そうですね。いくら評判がよくても、恋人同士で見て楽しめるかどうかは別ですからね」

 

確かに・・・男と女の価値観はぜんぜん違うもんな

 

    保科「なら、一番近い上映時間は……あと30分ぐらいだな。急いだほうが良いかもしれない」

 

 

~~~

 

   スタッフ「大変申し訳ありません。その回の上映ですとお二人様だけ席が離れてしまいまして……もしくは前の列で、少々見づらいと思いますが、構いませんか?」

 

    因幡「えー、そうなんですか?」

    綾地「どうしましょうか?時間、ずらします?」

    保科「ふむ……川上君の予定表だと映画の後も詰まってるんだよ。この回で見ないと、後の予定がなぁ」

 

  デュアン「予定をずらせば?なにも川上君の指示通りの予定表の行動しなくたって良いんじゃないか?何事もイレギュラーは付き物だ……」

 

    保科「確かに……う~ん……どうしよう。凄く悩む……ん……ん……じゃあ、次の回で4枚準備してもらえませんか?」

 

  スタッフ「分かりました。座席はどうしましょうか?」

    保科「ん~……通路の面しているこの席でお願いします」

  スタッフ「学生4人で6000円となります」

  デュアン「あっ……1万円札で」

   

 

 

 

~~~~~

 

   因幡「結構人気なんですね、あの映画。満席だなんて」

 デュアン「土曜の映画はそんなものだろ……人気なら尚更か」

   保科「公開してから3週間ぐらい経っているから余裕だと思ったんだけどな、考えが甘かったみたいだ……」

 

   綾地「このことは、川上君にも伝えておいたほうがいいですね」

   因幡「そうですね。今どきはネットで予約もできるだろうし」

   綾地「それで、これからどうしますか?スケジュールでは映画だったんですよね?」

 

   保科「映画の後は、ウィンドウショップだったから。入れ替えて次の上映時間までブラブラしない?此処ってかなり広いから、暇つぶしにも困らないと思うんだ」

 

   因幡「そうですね。2時間ぐらいなら案外あっさりと過ぎますからね」

 

   綾地「そうなんですか。じゃあ、行ってみましょうか」

   因幡「ちょっと待った!お店を回るのはいいんですけど、もう少し目的を絞った方がいいと思います」

 

 デュアン「ほぅ?」

   保科「適当にぶらぶらじゃダメなのか?」

   因幡「ダメじゃないですけど……ここの広さは半端ないですから。適当にお店を見ながら一周、なんて言ってたら痛い目見ますよ?」

   

   保科「確かに広くあるけど、それはちょっと大袈裟なんじゃない?」

 

 デュアン「大袈裟あるもんか……4時間は掛かっちゃうよ」

実際体験してわかったことがある。店の種類が多すぎなんだよ!

 

   綾地「いえ、大袈裟じゃなさそうですよ。ほら、あそこに地図があります。お店の数も多いですし、地図はゾーン分けされてあります。一周するだけでも想像以上に時間がかかりそうですよ?」 

 

   保科「それだけお店があるなら……予め店の目星は付けておいた方がいいのかもしれないな……」

 

   因幡「そうそう、興味ないゾーンに突入しちゃうと、雰囲気が壊れちゃうかもしれないですよ」

 

 デュアン「壊れちゃったら叩いて直せばいいんだよ」

   保科「それで直るのは古いテレビ……」

 デュアン「……ふむ。そうなると前田さんの趣味が重要になりそうだな……」

 

   因幡「普通に可愛いものでいいと思いますよ。服も雑貨も……ここら変ですかね」

 

 デュアン「なるほど……」

 

オレは今までのコトをメモしといた。

・映画はなるべく見やすい位置ではなく、通路側を選ぶべし(もしも、彼女さんor川上君がトイレに行きたくなった場合を考慮すると通路側が便利)

・因幡さん曰く、可愛いもの系が好きなようだ。(ぬいぐるみならゲーセンでワンコインで取れるかもしれない)

   

   綾地「流石慣れてますね、因幡さん」

   因幡「適当に歩いて回りきれなくて、欲しい物が変えないっていうのは初心者がよくやっちゃう失敗ですからね」

 

 デュアン「…………」

   保科「因幡さんも失敗したの?」

 デュアン「言わないのが男ってもんだぞ」

   綾地「とにかく移動しましょうか」

 

 

~~~~~



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Ep20 デートプラン【中編】

 

~~~~~~

 

   保科「せっかくだし、皆で移動しないか?」

 デュアン「此処は別々で分かれた方がいいだろ……」

   保科「いや、話が盛り上がりそうなお店の下調べをしに行こうかな……って」

 

 デュアン「ふむ……」

   綾地「次の上映は2時間後ですから、1時間半ぐらいを目処にして移動しましょう」

 

   因幡「そういえばセンパイ。どうして通路側のチケットを撮ったんですか?」

 

   保科「どうしてって……」

 デュアン「理由が居るのか?」

   因幡「だって……真ん中の方が見やすいじゃないですか。なのになんでわざわざ通路側?」

 

   保科「ああ、それは……映画館で飲み物とか飲むからさ……トイレに行きやすくなっちゃうんだよ。流石に通路側をこっそりと抜け出すのは他のお客様に迷惑しちゃうだろ?」

 

 デュアン「確かに一理あるな……コーラやコーヒーを飲んだら、トイレが近くなっちゃうよな」

 

ま、本当は綾地さんの為でもあるんだよな・・・

 

   因幡「なるほど……そういう理由なら仕方ないですね」

   綾地「確かに……カフェインは利尿作用がありますからね」

   保科「ああ」

   綾地「…………。あ……もしかして……?」

   保科「~♪さてなんのことやら」

保科は口笛を吹き、適当にごまかした。

  

   綾地「……あの、ごめんなさい、ありがとうございます」

   保科「え?いや……なんのことか分からないが、どういたしまして?」

 

 デュアン「そうだぞ……綾地さん。予期せぬ出来事を予測したほうが良いじゃないか……ま、高校生にもなってお漏らしは流石に恥ずかしいもんな……保科」

 

   保科「確かに……」

 

   因幡「3人共、何してるんですか?早くいきましょうよ」

 デュアン「はーい!今いくよ」

   綾地「はい、そうですね!」

   保科「あ、そうだ綾地さん。ここはゲームの新作を売ってたりするらしいよ。本体もあるだろうから、モン猟も売ってるんじゃないかな?」

 

   綾地「本当ですか?丁度いい機会ですから、いっそ買ってしまうのもいいですね」

 

   因幡「おぉ!ついに買いますか?そんなに気に入ってもらえたなら、紹介した方としても嬉しいです」

 

ハイテンションとしている。

 

   綾地「慣れると想像していた以上に楽しいですね、モン猟」

ストレスでも溜まってるんだろうな・・・綾地さん

 

   綾地「現実でないとはいえ、ズバズバとモンスターを切り刻む、快感……というんでしょうか、それがもうたまらない感じなんです……ふふ……うふふ」

 

あー・・・病んじゃってるよ。

 

  デュアン「ま……現実で体験すると、生き物を殺した感覚、血の生暖かさ、手に残る感触……それらを直面すると発狂してしまうぜ?」

 

俺も転生前は何度か発狂したよな・・・転生後も慣れなかったし・・・。生き物を殺すということ・・・やっぱり某探偵が言っていたな「撃って良いのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ」と・・・。

 

   保科「うわあ……想像したら吐き気が」

  因幡「……あの保科センパイ……寧々先輩とデュアン先輩がちょっと怖いんですけど……?」

 

   保科「うん、まあ……あれだ。綾地さんもストレスが溜まることも多いんだろう……デュアンは、あいつは異常者だからしょうがない」

 

 デュアン「おいコラ……誰が異常者だ?……まあ言われて否定出来ないのが悲しいな」

 

死神なんて言われたり、神話生物を内包したり、49億年の無限地獄を彷徨ったり、神様殺したり、人間を大量虐殺したり、仲間を裏切って自分を討たせたり・・・自分に核爆弾を搭載して、神風特攻したりしてるな・・・あとは、剣で銃弾防いだり。うん。異常者だわ。こんな変態で異常者・・・恋人ができたとしても、その恋人が可哀想だわ。

 

   保科「……デュアン?」

 デュアン「お?おぉ……保科」

   保科「お?じゃないよ……綾地さん達……先に行ってるぞ?」

 デュアン「マジ?」

 

こうして、綾地さんのモン猟を購入しつつ、川上くんのデートのための情報を仕入れていくのだった・・・。

 

~~~~~








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Ep21 デートプラン【後編】

 

 

~夕方

 

   因幡「あー、もうこんな時間ですね」

あ・・・夕焼け。

 

   綾地「もうすぐ日も沈みますが、川上くんの予定ではどうなってるんですか?」

 

   保科「ええーっと……この後は特に。夕食を食べたら送る、とだけ」

 

   因幡「ご飯はどこで食べるんですかね?」

 デュアン「さあ?学生でも行ける所といえば……ジョイフル?」

   保科「コスパは良いが、デートとして行くのはオススメしないぞ……川上くんのパンフレットだと……これ?」

 

   綾地「ここですか……」

   因幡「なんだか高そうなお店ですね」

 

   保科「う~ん……そんなに高いかな?確かにそこそこいい値段かな~と思うけど……でも、初デートだし、そこは気合を入れておきたいんじゃない?」

 

 デュアン「バーロ……それでデートが成功したら……世の中はリア充だらけだ……川上くんの彼女の前田さんって子の性格からすれば……遠慮しがっちゃうんじゃないか?逆効果すぎる」

 

   因幡「確かに……」

   保科「そこは彼氏として、川上くんが出すつもりなのでは?」

 デュアン「あいつ……あんま金無いって言ってなかったか?」

   因幡「それだと、まるでたかってるみたいで嫌ですよ。前田さんもそういう子じゃないと思いますよ」

 

う~ん・・・デートらしい場所。老若男女楽しめる夕飯時。

 

   保科「なるほど……それで、候補は見つかったか?」

 デュアン「全然……悪いが俺はこの手のことはポンコツ以下の素人だと思ってくれ」

 

   綾地「もう少し、気安いほうが良いんじゃないですか?学生に見合ったお店の方が」

 

 デュアン「すき家とかなか卯とか」

   保科「それで好感持てたらすげぇよ……じゃあ、ラーメンとか?」

デュアン・因幡『それは無い。ナイナイ絶対に無い』

 

   保科「どうして?」

 デュアン「匂いが気になるだろ?女子の思春期はそういうお年頃なんだ……」

 

   綾地「デュアンさんの言うとおりです。川上くんはしっかりプランを組んでたりしているんですから、むしろ川上くんが嫌がるかもしれませんね」

 

   保科「確かに……男だもんな……ときには意地もあるか……」

   因幡「最終候補は川上くんが選んだお店でいいとしても、まず先に無理せず前田さんと相談するのが良いんじゃないですかね?」

 

 デュアン「ほむ……」

   因幡「食べたいものなんてその日の気分で変わりますって」

   綾地「私もそう思います」

   保科「でもそういう場合『どこでもいい』って言うくせに、いざ選ぶと『えー、そこー?』とか言われたりしない?」

 

 デュアン「確かに……」

   因幡「それはかなり偏った女性像ですって。それに前田さんならちゃんと相手を立ててくれるタイプだと思いますから」

 

なるほど、いい彼女さんを持ったな・・・川上君。

 

   綾地「何が好きか、嫌いか、そういう食事の話で盛り上がるのもいいんじゃないですか?」

 

   因幡「流石綾地先輩!そうやってお互いを知り合っていくのがいいんですよね」

 

   綾地「とりあいず、最初に川上君が選んだお店は選択肢の一つとして、前田さん本人に相談してみる、というのが一番だと思います」

 

 デュアン「だね」

   保科「ついでに訊くけど、デートプラン自体はどうだった?」

   因幡「んー……基本的はいいけど、ちょっと気合い入れ過ぎな気もしますね。映画とかウインドウショッピングとか、一つ一つはいいんですけど、休憩がないからちょっと疲れるかも」

 

     綾地「もし映画を見るなら、その後はカフェでゆっくりするほうが良いかもしれません」

 

   保科「なるほど……その方が良いかもしれないな。男同士だと、映画、ゲーセン、飯とかで休憩がないことなんて良くあるもんな……。アドバイスを上げるとしたら、それぐらい……?」

 

   綾地「他にもあるとしたら……前田さんのことをしっかりと見てあげることでしょうか?」

 

   保科「どういうこと?」

   綾地「速く歩きすぎていないかなど、気にすることは沢山あると思うんです。靴によっては足を痛めてしまいますから」

 

 デュアン「そんなことになったらおんぶだろうね」

少女漫画あるあるのネタだ。げっちゅー?え?なにそれおいしいの?

  

   因幡「その点でいうと、保科センパイは歩くのちょっと速すぎですね、デュアン先輩を見習ってください」

 

   保科「うっ……そういや、全然気にしてなかった」

 デュアン「俺もかなり早歩きだったと思うぞ……?」

   綾地「デュアンさんは、私達に歩幅を合わせてたので……」

   因幡「そういう気遣いができるのは女子としてポイント高いですよ?」

 

 デュアン「へぇ~……」

   保科「わかった……気をつけることにするよ」

 デュアン「さて……今までの意見をメールで分かりやすく丁寧に纏めて……」

 

俺は川上君にメールを送る。

 

   因幡「メールできました?」

 デュアン「ああ」

   綾地「それじゃ、私たちはどうしましょうか?帰ります?」

   因幡「えー!?帰るんですか!?自分、一緒に食べると思って、夕食はいらないって言っちゃいましたよ!?」

 

   綾地「じゃあ、一緒に食べましょうか。保科君とデュアン君はどうしますか?」

 

   保科「せっかくだから行くよ。帰って作るのも面倒くさいし」

 デュアン「俺も……ヘトヘトで帰るから、飯を作る気力がない……そもそも、食材がないから今日は外で食べるよ」

 

   因幡「先輩達がご飯を作るんですか?」

   保科「そうだよ。家事全般、俺の仕事なの。ウチ、母親とは死別してて、父親と二人暮らしだから」

 

保科のスペックってすげえよな・・・。主夫の鏡だ。

 

 デュアン「俺も小さい頃に両親と共に死別。一人暮らしです……HAHAHAHA」

   因幡「え……それって……」

   保科「別に聞いちゃいけないような話じゃないから気にしないでいいよ。微妙な空気を作られる方が嫌なぐらいだ」

 

 デュアン「そうだぞ……いつも通りの方がこっちとしては助かる」

   因幡「は、はい。了解(ラジャー)です」

   保科「綾地さんは大丈夫なの?」

   綾地「はい、私も一人暮らしですから何の問題もありません」

   因幡「一人暮らし?なんだか格好いいー」

 デュアン「そんなに良いもんじゃないぞ?」

   綾地「そうですよ?そんなに良いものじゃないと思いますよ」

   保科「苦労のほうが多いだろうしね……大変だろうなあ。俺も家事はするけど、父さんに代わってもらう日もある。一人だとそれもできない……しかも、綾地さんって確かお弁当だった筈」

 

 デュアン「まあ弁当は基本、昨日の残り物を詰めるだけだからな……簡単ちゃ簡単だ……時間があればだけど」

 

   因幡「そういうもんですかね。じゃあ、今日は3人とも家事のことを忘れて、パーッと食べましょう、パーッと!」

 

   保科「パーッと食べるのは良いけど、何を食べる?」

   綾地「私はなんでもいいですよ。嫌いなものも特にありませんから」

 

 デュアン「俺もなんでも良い……食べられればそれで良い」

カロリーメイトと水だけで十分なんだよなあ・・・

 

   保科「じゃあ、今の気分は?食べたいものとか?」

 デュアン「ん~……」

   因幡「はいはーい!シースー!ハナキンザギンでシースーがいいです!」

 

 デュアン「しーすー?」

   保科「因幡さんっていくつなの?昭和世代なの?」

   因幡「失礼な事言わないでください。めぐるは花も恥じらううら若き乙女ですとも」

 

   保科「……因幡さんって、自分のことを『めぐる』って呼ぶの?」

   因幡「え?あ……それは、実はこの学院に入ったときに修正したんです。ただ、つい癖が出ることもあって……やっぱり変ですか?」

 

   保科「いや、別に良いんじゃない?そっちのほうが楽なら無理をしなくて」

 

 デュアン「そうそう、一々人の一人称にケチを付けるヤツは碌なヤツじゃないよ」

 

   因幡「本当に?」

 デュアン「ああ……一人称でとやかく言うことはない……」

   保科「だな……。まぁ、使い分けは必要になることもあるとは思うよ……けど、俺やデュアンは別に気になってない」

 

 デュアン「ああ!だから、今はそんなに気にしないで良いんじゃない?綾地さんも気にするタイプじゃないだろうし」

 

   因幡「そう言ってもらえると……助かります」

   保科「で、綾地さんは……因幡さんの希望通りでいい?」

   綾地「あの……シースーとは、食べ物ですか?確か、ケーブルなどの芯を保護するカバーのことだった気もしますが……知らない料理ですね」

 

   保科「え!?シースーって本当にある物なの?」

 デュアン「俺は買ってるぞ……結構便利だぞ?」

   保科「ほぇー」

保科は関心したようにうなずく・・・。

 

   綾地「え?違うんですか?もしかして私が知らないだけで、シースーって常識だったりするんですか?」

 

 デュアン「いや違うでしょ……俺もシースーの意味がわからない」

何だよシースーって・・・

 

   因幡「常識かと訊かれると……昭和世代の人の言葉っていうイメージはありますけど。あのですね、シースーって言うのは……真面目に説明するのは、ボケを解説するみたいで恥ずかしいなぁ」

 

昭和世代・・・?

 

   保科「こうなったら店に行った方が早い。綾地さんもデュアンも興味があるみたいだし、シースーに行こう」

 

 デュアン「???シースー……」

 

俺たちは、保科や因幡さんに着いていった・・・

 

 

 

~~~~~~

 





 


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Ep22 シースー

 

 

~~~~~

 

  綾地「なるほど。シースーというのは、お寿司をズージャ読みをしたものなんですね、納得です」

 

  因幡「ず、ズージャ読み?せ、センパイ方、なんですかね、ズージャーって。思わなぬカウンターを食らったんですけど」

 

 デュアン「あぁ、ズージャー用語ね。たしか、太平洋戦争終戦後の昭和中期、米軍キャンプやキャバレーなどを営業で回るジャズバンドのバンドマンの間で用いられていた隠語だっけ?」

 

  保科「だな……」

  因幡「さらなるカウンター!?無知なの自分だけ!?」

 デュアン「簡単に言えば、隠語を作る時に倒語(逆さ言葉)だな。日本語で昔からある手法であり、「ドヤ街」を宿町、「ダフ屋」を札屋、「ドサ回り」里回り……などがよく知られるな。ジャズ界では人名も逆さにすることが多いぞ」

 

   保科「流石はデュアペディア」

   因幡「……デュアン先輩って……頭が良いんですね」

 デュアン「知識が豊富なだけだ……」

 

   保科「それより、綾地さん。お寿司で平気だった?しかも回転寿司だけど」

 

   綾地「はい、何の問題もありません。むしろ楽しみですよ。私、回転寿司に来たのは初めてですから」

 

  デュアン「俺は中学の頃に何回か来てるな……一人で」

   因幡「そうなんですか?」

   綾地「外食をあまりしたことがないので、ドキドキしますね」

   保科「……まあ、女の子だもんな。俺らの年頃だと女子同士で回転寿司なんて入らないだろう……」

 

  デュアン「確かに……」

   保科「知ってる、綾地さん?この回転レーン、突然逆回転するから。巻き込まれないように気をつけてね」

 

   綾地「そうなんですか?へー、凄い……」

   因幡「嘘ですね、嘘。センパイもやめてください、寧々先輩に恥をかかせるような嘘を教えるのは」

 

  デュアン「実は嘘じゃないんだよなあ……。だいたいラストオーダーになると、逆に回ってきて、残飯処理のところに通るんだよ」

 

   因幡「マジ!?」

  デュアン「マジだ……でも、このお店には無さそうだな……あるところと無いところがあるみたいだ」

 

   保科「マジか……俺が適当に言ったのがあるとは」

   綾地「いえ、気にしないでください。それよりも本当に回ってますね。あっ、プリンまで……」

 

俺は綾地さんが取ろうとしたプリンを取って、綾地さんに渡す」。

 

   保科「因幡さんはよく来るの?」

   因幡「そんなに頻繁じゃないですけど、家族で行ったりしますね。むしろ回ってないお寿司屋さんに行くほうが少ないです。センパイ方は?」

 

   保科「……考えてみると、俺は外食は少ないかな?ウチの親って休日出勤も多いから。まあ、まるっきり初めてってわけじゃないけど」

 

 デュアン「俺は、相馬さんの付き合いで何回か、回らない寿司は行ったことはあるが、正直に言えば……自分で寿司を握ったほうが安く仕上がる」

 

   保科「へー……今度、食べてもいいか?」

 デュアン「構わんよ……巻物に握りに軍艦……リクエストが有れば作ってやる」

 

   綾地「でゅ、デュアン君は何でもできて少し羨ましいです」

 デュアン「何でもは出来ない……出来ることをマスターしてるだけだ」

 

   綾地「ところであの、この蛇口っぽい物はなんですか?」

   因幡「あ、回転寿司って基本的にセルフサービスなので―――――」

 

   保科「そういえば……その蛇口で手を洗って濡れた手をおしぼりで拭く、とかいう冗談があったなー」

 

   綾地「なるほど。それは親切設計ですね」

 デュアン「綾地さん、それやったら大火傷だよ?」

   因幡「そうですよ!ダメですって……センパイも止めてくださいよ!初心者にそういう変な事を言うのは!」

 

   保科「あの、綾地さん……さっきのは性質の悪い冗談だから。本当はお茶用のお湯が出てくるんだよ。で、そこの箱にお茶のパックが入ってる。熱いから気をつけて」

   綾地「あ、お茶用なんですね。本当に騙されちゃうところでした」

   

 デュアン「因みに、店員さんに言えば"ワサビ寿司"を出してくれるよ」

   保科「あー……結構美味しいんだよなあ……でも、有るかな?」

   因幡「そんなお寿司ありませんよ!デュアン先輩も悪ノリしないでください」

 

 デュアン「本当にあるぞ?回っている所ではあまり見ないな……まあ、あれは新鮮じゃないと出せない物だし」

 

ワサビ寿司は美味しいよなあ・・・爽快感があって。

 

  保科「なんだか楽しそうだね……綾地さん」

 デュアン「そうだな」

  綾地「実は一度、来てみたかったんですよ。でも一人では敷居が高くて、入る勇気が持てなくて」

 

確かに、一人寿司はちょっと勇気はいるな

 

  因幡「確かにお一人様レベルは高めですよね。まあ、楽しんでもらえてるなら、来て良かったです」

 

ちょこんとした動作で、マグロを取る綾地さん。

 

   綾地「マグロ取っちゃいました。3人は取らないんですか?」

   因幡「あ、すみませーん。ヒラメ下さい」

   綾地「……????」

   保科「あ、俺はタイと、ビントロ」

  デュアン「俺はワサビ軍艦と、ネギトロ、焼きサーモン」

   店員「ヒラメとタイとビントロ、ワサビ軍艦にネギトロと焼きサーモン、ありがとうございまーす」

 

   綾地「―――、………、――――、………」

綾地さんは自分が取ったお寿司を何度も見ている。

 

   因幡「どうかしましたか?」

   綾地「あの、保科君、因幡さん、デュアン君。回転寿司って、レーンの寿司を取るものじゃないんですか?」

 

   因幡「基本はそうですけど、最近は直接注文しても大丈夫なことが多いですよ?」

 

   保科「店によっては、注文票をおいてるところもあるしね」

   綾地「……そうなんですか」

 デュアン「綾地さんも、レーンに並んでない物があったら、店員さんに注文して良いんだよ?」

 

   綾地「……そうなんですか」

   保科「そんな残念そうな表情を浮かべないで……楽しく食べようぜ?な?」

 

 デュアン「ああ、保科の言う通り……誰が何を注文したり取ったりするのは自由なんだから」

 

   保科「食べたい物が目の前に無いときは、遠慮なく注文して良いんだよ」

 

   綾地「……嫌です。回転寿司に来てからには、私は回ってるお寿司を食べます」

 

  デュアン「謎のこだわり……まあ、悪くはないな」

    因幡「寧々先輩は、好きなネタとかあるんですか?」

    綾地「そうですね……アジやコハダ、カワハギなんかが好きですね」

 

    保科「……意外と渋いね」

    綾地「あと、アワビなんかも好きですね」

    保科「へぇー……アワビねー……アワビかぁ……」

  デュアン「アワビは高タンパク質の食べ物だよなあ」

    綾地「因幡さんはどうですか?」

    因幡「マグロとか玉子とか。あと、ヤリイカに、アイナメも好きです」

 

    保科「なぜヤリイカと限定したんだ……普通のイカじゃダメなのか?」

 

  デュアン「ヤリイカはしなやかで甘みも感じたような感じがするんだ、逆に普通のイカは磯臭くて嫌いな人も居るみたいだぞ」

 

    保科「へぇー……アワビとかヤリイカとかアイナメとか……さっきからエロい―――じゃないや、渋いぞ二人共」

 

  デュアン「そうか?」

    綾地「ヤリイカ、いいですね。私も好きですよ……あ、ちょうどヤリイカが回ってきましたね」

 

    因幡「それ、取るのは止めておいたほうがいいですよ。カピカピになってますから」

 

    保科「カピカピに!?」

    因幡「はい、ヤリイカがカピカピに。きっと回りすぎちゃったんでしょうね」

  デュアン「時間が経つと美味しくなくなっちゃうのが難点だよなあ……因みに、お湯に数分つけてから食べると食感がもとに戻るよ……まあ、後はガスバーナーで炙ったりすればもっと美味しくなる」

    綾地「カピカピヤリイカですか……そういう事にも、気をつけないといけないんですね。奥が深い……回転寿司」

 

    保科「お茶でも飲んで一旦落ち着こう……ずずず……」

    因幡「あと"スジコ"も好きですね!」

    綾地「あ、それなら私は"とびっこ"が好きです。あの弾けちゃう感じがなんとも気持ちよくて」

 

    保科「ぶーーーーっ!?げほっ、げほ」

  デュアン「どうした、保科……お茶が変なところに入ったか?」

    因幡「うわっ!?急に何ですか!?汚いな……もぉー」

    綾地「大丈夫ですか?」

    保科「いや、ごめん。お茶が器官に入って……げほ、げほ」

  デュアン「たまにあるよな……お茶をぐいっと飲んでると、変なところに入って、噎せちゃうこと」

 

    因幡「でも、一番好きなのは、おいなりさんですね!あの、甘いお汁がなんとも言えなくて、お口いっぱいに頬張っちゃいますよー」

 

   保科「ぶーーーーっ!?

 デュアン「保科?保科ぁぁあああ!!」

   保科「さっきから変なことばっかり、ワザとか!?ワザとなのか!?」

 

 デュアン「何の話をしてるんだ?」

   因幡「はぁ?何言ってるんですか?変なことなんて何も言ってな……い…………、…………~~~っ!?ぬぁ、なななななに考えてるんですか!?このエロ!信じられない、マジエロセンパイ!!」

 

何を顔を真赤にしてるんだろうか?

 

   保科「気づく時点で同類だぞ!因幡さんもエロだぞ!」

   因幡「うわ、サイテーです!女の子に向かて変なこと言わないで下さいよ!!」

 

   綾地「あっ、甘エビ~♪」

  デュアン「おっ、コーン軍艦」

 

~~~~~

 

 



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Ep23 惚気

~~~~

 

   保科「……はぁ、疲れた」

   因幡「疲れたのはこっちですよ……はぁ……」

   綾地「楽しくて、美味しかったですね、回転寿司」

 デュアン「そうだね」

   保科「まあ、綾地さんが楽しんでくれたなら良かったよ」

   綾地「はい。また行きたいです」

   因幡「じゃあ一緒に、今度は違うお店に行きましょうね」

   綾地「その時はよろしくお願いします」

   因幡「それで、川上君から返信はありました?」

 デュアン「ああ……さっき届いたよ……『ありがとうございます。これを参考にして頑張ります』だって……」

 

   因幡「うーん……ここまでくると、ちゃんと成功するか気になりますね。いっそデートを陰から見守ってあげたいぐらい」

 

   保科「やめなさいって。たとえ親切心だとしても、本人からすると嫌がらせにしか思われないぞ」

 

 デュアン「小さな親切、大きなお世話ってね」

   因幡「わかってますよ。いくら何でも、そんな事しませんって」

 デュアン「…………」

   綾地「じゃあ、週明けの報告を楽しみにして。今日は解散ということで……」

 

   因幡「そうですね。それじゃ今日はお疲れ様でしたー」

   保科「お疲れ様」

   綾地「今日はとっても楽しかったです、ありがとうございました」

   因幡「そんな~、自分も楽しかったですよ。また、一緒に行きましょうね」

 

   綾地「はい、よろしくお願いします」

   因幡「まあ、その時は、マジエロセンパイも誘ってあげてもいいですよ?」

 

   保科「何故に上から目線?」

   因幡「まあ、同じ部活の仲間ですからねー」

   保科「……因幡さん……。正確には、週明けに届けを出さないと、まだオカ研とは言えないんだけど」

 

 デュアン「それは言わないのがお約束だ」

   因幡「此処でそれを言う!?空気を嫁!マジエロセンパイ!」

 

 

~帰り道

 

  デュアン「……ん?」

俺は、揉める声が聞こえたので・・・その方向へ視線を向けると・・・

 

    ??「離して下さい……!」

     ?「そうなのじゃ……しつこいぞ、お主ら」

二人の女の子が嫌そうにしている・・・。一人は男装?もう一人は・・・アイツは確か・・・アカギ?なんでアイツがこんな所に?ってことは、あの男装した女の子は、アカギの契約者か。

 

  デュアン「やれやれ……こんな時間にナンパとは、まあ……こんな時間にしかナンパが出来ない"器の小さな男"だ」

 

俺は挑発した態度、ヘラヘラとした声でそう言うと・・・

 

    男「何だテメェ」

 デュアン「相手が嫌がってるだろ……ナンパをして良いのはフラれる覚悟のあるヤツだけだ……お前は既にフラれたんだ、諦めろよ」

 

俺はそう言うと、男は逆上した

 

    男「この女にモテたくてカッコつけてるのか!?」

と、胸倉を掴んでくる・・・

 

 デュアン「……ふむ……カッコつけかあ……」

俺は頭を軽く掻き、考える。

 

    男「……?」

 デュアン「………………」

俺は、口を三日月状に釣り上げた。

 

    男「っ!?」

 デュアン「困ってる人を助けるのが、カッコつけ?世の為、人の為になるのがカッコつけ……と言うのならそうだろうな。ナンパして何度も失敗してるお前にはそう見えてるんだろうな……お前は女に一生モテなそうだ……」

 

俺は目を伏せ・・・

 

 デュアン「俺の前で、無様を晒すなクソ野郎」

と低い声と共に睨む・・・

 

   男「ひ、……ひぃ!?」

男は逃げ出した・・・

 

 デュアン「はははは……この程度で怯えるなんて、情けない奴だ」

俺はそのまま帰ようとすると・・・

 

 

    ?「あ、あの……助けていただき、ありがとうございます」

 デュアン「いいよいいよ……困ったときは、お互い様。じゃあね……」

と言い・・・帰る。

 

 

 

――――――次の日。

 

 

   綾地「――――んッ」

綾地さんは、魔具の銃のトリガーを引くと、心の欠片が散らばる。

 

   保科「この光景を見るのは3回目だけど……やっぱり幻想的だな……っと」

 

 デュアン「ああ……」

保科は倒れ込もうとした川上君を受け止め、椅子に座らせた。

 

というのも、昼休みに俺たちは川上君からデートの報告を受けていた。

彼は嬉しそうに昨日の事を語り、映画で手を繋いで、歩くときは腕を組んで、別れ祭にはキスまでしてしまったと興奮気味に報告をした。

 

   保科「人の惚気を聞くと胃がムカムカする」

 デュアン「そうか?俺は微笑まし限りだぞ?」

   保科「お前はそうかもしれんが……あー、ピンポイントで隕石とか落ちてこないかなぁ……」

 

 デュアン「その場合、俺らも巻き込まれて死ぬけどな」

   保科「言ってみただけだ……だけど、心から感謝されるのは悪くないな」

 

 デュアン「……そうだな」

保科もだいぶ明るい顔をしてきた・・・

 

   保科「そうだ……綾地さん。欠片はちゃんと回収できた?」

   綾地「はい。ばっちりです」

   保科「それはよかった。なによりだ、うん」

   綾地「………?保科君、どうかしたんですか?さっきから落ち着きがないみたいですけど」

 

そうかあ?

 

   保科「え?そ、そう?そんなこたぁ、ないんじゃないかな、あはは」

 

 デュアン「……」

まあ、動揺するのも無理はない。綾地さんの格好を見れば・・・。ツッコミを入れない俺は優しいな。

 

   保科「……あれ?なんだか仮屋の時よりも、回収できた量が多くない?」

 

 デュアン「仮屋さんの気持ちは喜びだったからなあ……」

   綾地「はい。川上君の場合は不安や恐怖心が回収の対象となって、解決してしまえばその殆どが不要となります。だから喜びに比べると量も多くなるんです」

 

   保科「なるほど……。それで、川上君から回収できた欠片の量って多いの?それとも少ないの?」

 

   綾地「そうですね……どちらかというと、多い方でしょうか。川上君、かなり不安を抱えてたみたいですね」

 

   保科「そっか。ならよかった……。人の助けになってるのが、目の形で確かめられるのはやる気が出るね」

 

   綾地「確かにそうですね。お礼の言葉を言ってもらえたりするのも、とてもうれしいものですからね」

 

   保科「ちなみにだけど、俺が取り込んじゃった欠片は、どのくらいの量だったの……?」

 

   綾地「そうですね……そこそこ、ですよ」

ウソをつけ・・・瓶には殆ど貯まってただろ。

 

   保科「そ、そっか……」

   綾地「……?どうかしました?」

   保科「いや……別に」

   綾地「そ……そんなに見つめられると、困ります。恥ずかしいですよぅ」

 

  デュアン「因幡さんが居たら……"マジエロセンパイ"って言われるぞ」

   保科「あ、いや!違うんだ!べ、別に、変な意味で見てたわけじゃなくて……ちょっと考え事をしてただけ……マジで!」

 

   綾地「……そんなに慌てるなんてなんだか怪しいです。一体、何を考えていたんですか?」

 

   保科「……人の助けになれるって、なんというか……結構嬉しいものだと思ってさ。今まで俺がしてきた人助け……というか、いいように使われてきたのは、全く違ってさ」

 

  デュアン「まあ、お前の場合は"生贄"といえるスケープ・ゴートだったけど」

 

   綾地「じゃあ、保科君の心も埋まりそうですか?」

  デュアン「現段階じゃあ……無理だろ」

   保科「ゴメン……そこまでの自信はまだないかな。けど満足感というか、達成感……みたいなものは感じてるから、前向きになれるかもしれない、とは思ってる」

保科らしいっちゃ、保科らしいが・・・まあ、常に前向きな人生を送れるやつなんて居ないだろう・・・。

 

  デュアン「良いんじゃないか?お前が前向きになったことは、友達として嬉しい……俺とは違って

俺は最後の言葉はボソッと零してしまった。

 

俺は、前向きに生きる理由がないからな・・・。この世界では前向きになれるかもしれない・・・。でも、自分のもう一つの仮面では「何を今更ほざいている?シャルやユウキ、フェイトやヤミと……何で付き合ってあげられなかった?」と囁く声が聞こえる・・・。

 

―――――俺の中の俺が「許さない」と。闘いに戦って、日常も悪くないと思えてしまう・・・。

 

バカだな。オレは・・・

 

   保科「?珍しいな……お前がそんな暗い顔をするなんて……」

   綾地「私も……です」

 デュアン「オレにも、好きな人が出来たらなあー……って思ってさ」

   保科「……?そう、だな」

保科の表情からして、オレのウソがバレたのだろう。"ウソ"と"真実"のごちゃ混ぜが得意だったのに・・・。

 

   綾地「そうです、ね……デュアン君は多分、好きな人が出来る……より、相手がデュアン君を魅了しそうですね」

 

 デュアン「…………」

何時ぞやの記憶のない初夜を過ごす記憶だけは絶対に見たくない・・・と言うか、どこぞの世界線のオレが「女の子と一緒に寝ること」を拒んでいる・・・。あれ?そもそもどこの世界線のオレが初夜を過ごしたんだ?

・・・無いかも。オレって童貞?いやどこぞの小説見たく大賢者?いやそれ以上かもしれん。精神年齢は6桁?いや7桁は越してるかからなあ。

 

 

  久島「では教科書の236ページを開いて」

 デュアン「…………」

オレは、少し考えることにした。今後の人生に・・・

だが、そんな考えも一瞬で吹き飛んでしまう・・・。

 

なぜなら――――――

 

 

   綾地「…………」

 デュアン「……?」

 

  久島「それじゃあこの文を……綾地、読んでくれるかな?」

  綾地「は……はい」

おや?何で、綾地さんは顔を赤らめてるんだ・・・?

ん・・・もしや?

 

綾地「いつ頃であったか、こんな夢を見た。桜の花が咲き、人々が酒と団子で楽しむ中、男は門の下から桜を見上げ、静かに愛でていた」

 

エロい発想が出てくるオレは、バカだろ。と自分のボケにツッコミを入れてしまう。

 

  綾地「ハラハラと散る花びらを見つめながら、深いため息を吐いた……んっ……んんんっ……ふーー……んふーー……」

 

こ、これマズイんじゃ・・・?こんな集団監視の中で魔法の行使は危険すぎる!それ以前に、何で部室から帰ったときに掛けなかった!バカだろ・・・数分前の自分を殴りたい

 

  久島「お、おい?綾t―――」

 デュアン「保科?具合が悪いのか?ん?そうかそうか」

オレは保科を利用する。

 

   保科「先生?」

  久島「なんだ、どうした保科、デュアン」

 デュアン「保科が頭がクラクラして体調が芳しくありません……倒れたら大変だー……綾地さん?保科を連れてっては貰えないだろうか?」

 

や、ヤバい・・・とっさの誤魔化し、マシなウソは無かったのか――――!何で綾地さんを・・・?い、いや保科は部員・・・い、いや待て、何でオレが行かないことを説明できない?

 

 久島「そ、そうか?なら、綾地……保科を見てやってくれ」

 デュアン「……じゃ、頼んだ……保科」

   保科「………失礼します」

   綾地「……」

綾地さんの方が危険度はあるな・・・。魔法隠蔽にスキルを磨きがかからんからなあ。どうしようもない。

 

 デュアン「はぁ~………」

 

 

―――オレは、ふと思う。保科の精神力。可愛い女の子がオナニーする現場を目撃してしまったら、その子をオカズにしてしまうかと。だが、保科にその様な邪な気配は感じられない・・・。

 

オレは、既に全ての感情を削除(デリート)してるから、分からんが・・・。

 

~授業が終わり・・・

 

   保科「…………」

 デュアン「だ、大丈夫か?」

   久島「お?気分だどう?」

   保科「少し寝たら……スッキリしました」

な、何があったんだろうか?聞くのが怖いからやめとこ」

 

   久島「まあ、足取りもしっかりしてたから、保科の心配はそこまでしてなかったけど……綾地の方は?」

 

   保科「その……オレよりも綾地さんの方が体調を崩しちゃったみたいで……今は休んでいます」

 

 デュアン「そうか……」

   久島「そっか……確かに変だったからね。早退はするの?」

   保科「本人は、少し休んでから戻ると」

   久島「そうだといいな。実はキミらオカルト研究部に頼みがあってさ、放課後ちょっと時間を空けておいて欲しいんだ」

 

 デュアン「先生がオカルト研究部に頼み、ですか……」

   保科「先生が、オカ研に?」

   久島「なに?もしかして悩み相談って学生限定?」

 デュアン「いえ……そんなことはないですけど……」

   保科「先生が学生に頼るなんて珍しいと思って……つい」

   久島「まあね。本来なら教師として学生を頼りにするわけにはいかないんだけど。今回はちょっと例外的なことが起きてね」

 

 デュアン「へぇー……」

   久島「是非とも綾地やデュアンに頼みたいことがあるの。ああ、ついでに保科にも」

 

   保科「……教え子を傷つけて楽しいですか?」

   久島「保科は反応がいいからね」

鋭敏すぎる気が・・・。

 

   保科「…………」

   久島「ま、冗談はさておき。綾地の体調に問題がなければ、放課後にお邪魔するから」

 

   保科「分かりました、綾地さんにも伝えておきます」

   久島「よろしくね」

 

俺らは教室へ戻ると・・・

 

   仮屋「おっ、帰ってきた」

   海道「どうした?大丈夫か?お前がサボるなんて」

   保科「一応、サボってたんじゃなく体調不良なんですけど?」

 デュアン「説得力皆無」

   海道「ああ……あれだけ足取りも口調もしっかりしてて、何言ってるんですか、貴方は」

 

おお、ウニ頭のツンツンヘアーの少年のごとし、の説教タイムってか?

 

   仮屋「確かに。はたから見ると、どう考えてもアレは体調不良の雰囲気じゃなかったよね」

 

 デュアン「ウソを憑くなら、上手い嘘をつかなきゃ。心理状況を掌握し、相手を騙さないと」

 

   海道「うへぇ……お前の将来、危なさそう」

 デュアン「安心しろ……オレの将来は墓場だから」

   海道「結婚するのか?」

 デュアン「いや、寿命をガリガリ減らす……24時間48時間休眠休憩なし、水食料一日1回までの生活をすれば、すぐに寿命が無くなるだろ?」

   海道「……お前は狂気そのものだわ」

   保科「だな」

   仮屋「だねー」

お、おう?その発想は普通だと思うが・・・

 

   保科「おっほん。でも、そういう決めつけはよくないぞ、3人共」

   仮屋「ま、保科が下らない理由で授業をサボるとも思えないから、何か理由があったんだろうけど」

 

   海道「にしてもだ、綾地さんを連れ出したのはまずかったんじゃね?」

 

 デュアン「そうか?……そうでも、……あるかもな」

   保科「………やっぱり?」

う~ん・・・確かに、周囲の視線が気になるな。

 

   海道「上手いことやったもんだって、みんな思ってるぞ」

   保科「……………そういうのじゃないんだけどな」

保科は腕を組み、悩んでいる・・・

 

 デュアン「人気って怖いね」

   仮屋「あれ?そういえば綾地さんは?まだ帰ってきてないけど?」

   保科「ああ、それが……どうにもオレよりも体調が変だったみたいで、今は休んでいるよ」

 

   海道「確かに変だったもんな、彼女」

いえ、それは単なる発情です。多分、今は呪詛のようにブツブツと言っているだろう。オレはそれを一時的発狂と称している。

 

   仮屋「大丈夫なの?保科も綾地さんも」

   保科「オレの方は今はもう平気だ。保健室で軽く寝たりしてたからかな?寝不足だったのかも」

 

 デュアン「因みに、人間は7日寝ないと発狂するぜ……人格が変わったかのような感じで……最初は頭痛で、途中から幻覚を見たりする……まあ、幻覚を起こした時点で……普通は寝るんだけどな」

 

   海道「へえー……流石はデュアペディアさんだ」

 デュアン「いや、オレを何でも知っているペディアさんに言われても……」

 

   仮屋「でも実際……そういう知識って結構役に立ったりするからね……普通なら学院内1位……ううん全国1位取れるんじゃない?」

 

 デュアン「あー……3人にしか言わないが……。オレのは単なる点数操作だ」

 

   海道「……」

   保科「お前……芸術的な点数を作れるってヤバいだろ」

 デュアン「因みに、小学校の頃、99点を1年間続けたらバレて怒られたことがある」

 

   仮屋「…………」

   海道「…………」

   保科「…………」

 デュアン「"才能の無駄遣い"って顔をしてるね。困ったなあ」

 

   保科「オレは別な意味で頭が痛い」

 海道・仮屋「「同感」」

 

   仮屋「でも、あるよね。睡眠不足からの頭痛って。どうしようもなく気分も悪くなるし、大変なんだよね、アレ」

 

 デュアン「あー……だから仮屋さん、平均女子より身体の成長しないわけだ」

 

   海道「そうなのか……?」

 デュアン「ああ……寝不足は成長を阻害するからな。因みにオレの身長は中学1年で止まった」

 

   海道「お前の今の身長は?」

 デュアン「んー……確か160は超えたと思うぞ……体重は40kgはいってないぞ……」

 

   仮屋「っく……」

あ、これ女子には地雷だったか。

 

   保科「……ま、まあ……おれはさっきの授業のを片付けてしまわないと」

 

~放課後

 

――――授業も終わり、帰り支度をする生徒がちらほらと。

 

   仮屋「それじゃ、お先に―」

   保科「今日もバイトか?お疲れさん」

   仮屋「ありがと、保科。でも平気。あのお店のバイトは楽しいからね。それに……ギターの道具を買えるも嬉しいし、うひひ」

 

うん。太陽な笑顔だね

 

   仮屋「部活が忙しいのかもしれないけど、機会があったらまた来てよ。サービスするからさ。デュアンは、バイト姿を見せてよ」

 

  デュアン「……オレはクラスメイトにあんな格好を見られたくないのだが?」

 

あんな女装姿に近しいのはゴメンだな。相馬さんは「客層が増えて嬉しいんだけどなあ」と言っていたが。

 

   保科「……サービス……しかもあの制服姿でサービスって言われると、なんかエロい気がする」

 

  デュアン「アレよりマシだろ」

   保科「………言うな、絶対に言うな。オレも思ったが、それだけは本人に口走っちゃダメだ」

 

    仮屋「誰のこと?」

   デュアン「秘密」

    保科「本人にバレたら……」

 デュアン・保科「「殺されちゃうからね」」

実際、「一緒に死にましょう!」と言ってたからな。因みに、言わなくても綾地さんの魔女姿だ。

 

    保科「で、どんなサービス?」

    仮屋「ギター始めてから握力も上がってるから、ウェルカムアイアンクローでいい?」

 

  デュアン「そこは普通に流すところだろ」

とツッコミを入れる。

 

    保科「わー、いいサービスだなー。現役学生のメイドさんにアイアンクローしてもらえサービス……それはそれでお金になりそうな気もするぞ」

 

  デュアン「ドMの海道量産化計画でもする気か?オレはドMを見るのはアイツだけでいいと思う」

 

    保科「まあ、その内また顔を出すよ。ブレンドが美味しかったから。それに仮屋の可愛いお淑やかな姿を見られるのはあの店だけだもんな」

 

確かに、レアな光景だ。

 

    仮屋「普段はガサツみたいな言い方が気に入らない」

  デュアン「ガサツ……と言うより、女の子らしい行動をあまりしてないだろう?まあ、そういう活発で元気な子という意味だけどな。海道と保科はそう思ってるんじゃないか?」

 

    保科「だな」

    仮屋「……けどまあ……待ってるよ。そいじゃね」

  デュアン「ああ、相馬さんによろしく」

近いうちに顔を出さないと、アカギがこの地域に来たことを教えないと。

 

    保科「さてと、俺たちも行こうか」

  デュアン「だな……」

俺らが教室から出ようとすると、綾地さんが来る。

 

   女子学生C「あ、綾地さん!もう平気?大丈夫なの?」

     綾地「はい、ありがとうございます。もう平気ですから……」

   女子学生C「そっか、よかった」

     保科「あ、あの……えっと、なんというか―――」

     綾地「え?なんですか?

おぉうふ光を宿していないあの瞳はヤバい。

 

   保科「い、いや……わかった。うん、後で綾地さんに部活の依頼も話したいこともあるし」

 

    綾地「そうなんですか?」

  デュアン「ああ……此処では話せないし、部室で話すよ」

    保科「依頼人は久島先生」

    綾地「え?久島先生が?」

まあ、驚くよな。オレも驚く・・・

 

    保科「そう言われたんだ……だから、部室へ行こう」

    綾地「あのっ、先に行って下さい。私はちょっと、その……ゆっくりとしか、動けなくて」

 

・・・?あーあ・・・想像付く。

オレもミュウの姿になってからは、慣れるまで・・・漏らしてたりしたもんな。パンツとして機能しなくなってしまったんだろう。可哀想に・・・。

 

    綾地「いえ、そうじゃなくてですね、その…………スースー、しますから」

 

何も言わなくても・・・

 

   保科「……?……あ、あの―――いや、えっと……」

   綾地「で、ですからスースって言うのは、今スカートの下には何も穿いていない、ノーパンで……だからスースするということで……」

 

IS世界のシャルを彷彿とする。何でパンツ以外を着用しないという発想に至らなかったのか?

 

  デュアン「綾地さん……それ以上はいけない。暴露してしまうぞ」

   綾地「……もうやだぁ、泣きたい……お家帰るぅ」

あーついに発狂が幼児退行までしてしまったか

 

   保科「待って……それだけは待って。部活の話もあるから」

   綾地「だって、保科君が私を辱めて、イジメるからぁ!」

   保科「オレは何もしてないぞ」

オレは軽くポンッと保科の肩を置く。

 

  デュアン「見たことが既に罪だ」

   保科「なんという理不尽!」

それが星が下した運命(さだめ)というものだよ、保科柊史くん。

 

   綾地「ノーパンだからスースする……なんて恥ずかしいことを口で説明させたじゃないですかぁ!」

 

   保科「そこは自爆だよね?いやまあ、オレの返答もよくなかった。ゴメン、ゴメンナサイ。謝るから落ち着いて」

 

落ち着け・・・というのも無理な話だな。

 

   保科「今日は久島先生とお約束もあるから、できれば部活をさ」

  デュアン「勝手に約束を取り付けただろ……俺ら」

   保科「ぐっ……」

   綾地「………そうですね、すみません……ちょっと取り乱しました」

   保科「気にしないでいいから」

綾地さんの一つ一つに行動を気にしてたら、こっちが発狂してしまいそうだ。

 

   保科「それよりも突然"衝動"に襲われたときに、なにかこう、自分を抑えられるような秘密兵器とか、あるといいのに」

 

そんな都合のいい道具・・・あるんだよなぁ

 

   綾地「秘密兵器、ですか?」

   保科「オレも具体的なアイディアは思いついてないんだけど」

   綾地「……秘密兵器……ちょっと、考えてみます」

 

   保科「それじゃあ、俺らは先に行った方がいいんだね?」

   綾地「は、はい。その……周りに誰かがいられる方がきになりますから……」

 

   保科「なんか大変だね……」

裾がめくれたら、大変なことになるな。Tolovるではそういう経験がリトに訪れてたな。ノーパン。

 

オレは、アイツの苦労は痛いほど分かる。リトに、保科の能力が加われば・・・凄いことになりそうだ。

 

  デュアン「というか、綾地さん」

    保科「今思ったんだが……」

    綾地「は、はい?」

    保科「スカートの下に、体育の短パンとか穿けばよくない?今日、確か体育があったよね?」

 

    綾地「……、……あっ!」

今気づくか。IS世界でも思ったが、ラウラも相当抜けてるよな。

 

オレの周囲の知人・・・いや、どの世界線でも、頭のネジが一つや2つ抜けてるやついるよな。科学サイドの「一方通行(アクセラレーター)」しかり、ラウラしかり・・・。

 

    綾地「そっ、そういうことは、もっと早くに言って下さいよぉ!」

 

  デュアン「普通は気づくものだが」

 

 

~部活

 

   因幡「寧々先輩、デュアン先輩……この部活には先生たちも結構来たりするんですか?」

 

   綾地「そんなことはないですよ。先生方でも、オカ研の活動内容を知ってる人は少ないでしょうから」

 

   因幡「じゃあ、先生からこんな風に頼まれるのは珍しいんですね」

 デュアン「教師が生徒に悩み相談を持ちかけられたのは初めてだと思うが……」

 

   保科「そうなのか……ちょっと怖いな、何を頼まれるんだろ」

保科は手を動かしながら、口を動かす。

 

   因幡「というかセンパイ、さっきから何をしてるんですか?」

   保科「数学の課題。明日提出なんだよ……」

 デュアン「オレの貸してやろうか?」

   保科「……ああ、わからないところがある。見せてくれ」

 デュアン「どうぞ」

   保科「サンキュ」

オレは、カバンからノートを取り出し、保科に渡す。

 

  

   因幡「センパイって、意外とちゃんと提出するんですね、そういうの」

 

  デュアン「お前は保科にどんなイメージを持ってるんだよ!」

    保科「……今の一言で、因幡さんがオレのことどう思ってるのか、わかった気がする」

 

  デュアン「マジで!?」

    因幡「え?あ、あはは、考えすぎですよ、やだな、もぉ」

 

と慌てる因幡さん。すると、ノックが聞こえる。

 

 



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Ep24 転校生

 

 

 

――――ノックの音が聞こえ・・・

 

   因幡「あ、ノック!誰かが来たみたいです、きっと久島先生ですよ!」

 

誤魔化したな。

 

   綾地「はい、どうぞ」

 

   久島「ああ、約束通りいてくれたな、よかった」

 

   因幡「センパイ、先生が来ましたよ」

   保科「ああ……ちょうど課題も終わったところだよ」

 

ノートを閉じる保科が、先生の方を見た。

 

   久島「悪いね、遅くなってしまって」

 デュアン「いえ、構いませんよ」

   綾地「それで……私たちに頼みごとというのは?」

   久島「この学院の案内を頼みたい」

   因幡「学院の案内?」

   保科「来客の対応を任される、ってことですか?」

 デュアン「……ふむ、転校生ですか?」

   久島「ああ……その通りだよ、デュアン。おーい、入っておいで」

久島先生が扉の外に呼びかける。

 

すると、遠慮がちにゆっくりと扉が開かれた・・・。

 

   保科「……ん?」

   久島「明日からこの学院に転入する子でね、ウチのクラスに入ることになっている」

 

   椎葉「えと、椎葉紬です。よろしくお願いします……あ、昨日ナンパから救っていただき、ありがとうございます」

 

  デュアン「ナンノコトカナーワカラナイナー……一体ダレノコトヲイテイルンダロウー」

 

オレは凄い棒読みをする。

 

   保科「ナンパ?」

・・・黒確定だな。土曜日はナンパが嫌で男装姿の格好をしているのかと、アカギが居たのは偶然じゃないか?と思ったが、どうやら椎葉さんは魔女だ。男性の学生服を着ている事から、多分代償は「女の子らしい格好を身につける」といった行為が出来ない類だろう。

 

綾地さんに引き続き、木月さんと良い。デカければデカいほど代償がデカいよな。

 

オレのは、魔女の呪いというより神の呪いだけど。"この世の理を捻じ曲げる能力"を日常世界に持ってきた代償が水をかぶるだけで幼女化はもはや軽すぎるけどな。木月さんの特定の誰かを治す代わりに記憶を失うよりかは比較的に比べたらなあ・・・。

 

そう思うと、オレは魔女にった時に叶うリスク報酬も頷けるし、大体のデメリット計算もわかった気がする。

 

・綾地さんは、両親の離婚する前に戻りたい。という時間遡行に近しい行為が彼女の発情のリスク。

 

・木月さんは、特定の誰かの病気がデカすぎる上に・・・自分の記憶がどんどん失われた。これは、最終的に死のリスクだ。特定の誰かが死ぬ病だったんだろう。

 

・椎葉さん。これは完全な推測だが「可愛い服が欲しい」とかで、常に男装しなければならない。というリスクだろう、破れば体調不良になるとかか?

 

そうなれば、保科の母親のリスクは・・・聴覚?いや。人の心を読み解く。という悟り妖怪に近しい行為・・・聴覚だけですまされない。だから・・・もともとは聴覚が弱かったと仮定すると、そこを補完された?

 

だから、叶った代償に(等しい)感情などのリスクを支払われる。

 

綾地さんは2年弱やって、完遂寸前。

木月さんは、早かったよな・・・。

 

 

魔女衣装の説明は・・・それぞれの代償の具現化か?

綾地さんはほぼ全裸に近しい姿?無理だ、一致しなさすぎる。

 

木月さんのは、ナースのコスプレに近かったな。

 

椎葉さんのは、なんとなく予想付く。

 

    保科「どうした、デュアン」

  デュアン「いや、ちょっとな。此処では説明できないから……帰りに、な」

 

保科にしか話せないな。

 

   綾地「こんにちは、綾地寧々です」

   因幡「因幡めぐるです。自分は1年なんで、後輩になりますね」

   保科「オレは保科柊史……だ?」

 デュアン「なぜ疑問形?オレはデュアン。保科、なぜジロジロと因幡さんを見てる?」

 

   保科「いや……男にして華奢過ぎてな」

 デュアン「言っとくが……椎葉さんは女性だぞ?」

   保科「ふぁあ!?」

   久島「おい、保科、停学にしてやろうか?」

   因幡「このマジエロセンパイ」

いやまあ、観察眼を保有してないと無理があるだろ。

 

   椎葉「…………えっち」

 

 デュアン「いやいや、保科は男の格好をした椎葉さんが、"男性にして鳩胸じゃすまないだろ"って顔をしてからね。HAHAHA、実に愉快だ」

 

   保科「なぜ教えてくれない!なぜ、オレは誹謗中傷を受けなければならない……なぜだ、答えろデュアン!」

 

 デュアン「ふふふっ……オレはなんでも知ってるペディアさんだろう?それぐらい常識の範囲内だ」

 

ニヤリを笑う。いやあ、保科はからかいがいがあるよな。

 

   保科「ちょっと待って!確かに失礼な視線を向けたかもしれない。謝罪もします、ごめんなさい……でもですよ、見ても仕方ないじゃないですか!学ラン着てるのに、顔とか声とか女の子っぽくて」

 

  デュアン「そういうのは男の(むすめ)と書いて「男の娘(おとこのこ)」というのがあってだな……そういうコンセプトがあるんだよ。まあ、椎葉さんのは完全な逆。つまり男装少女だ」

 

   保科「だからって……それに、その……体付きとか……下心があるわけじゃなくて、あくまで確認として見てただけなんですって!!」

 

 デュアン「ほう?それは法廷で証明できるのかね、保科柊史くん?本当に下心がゼロだと証明できるかい?」

 

   保科「援護射撃!?というか法廷って……」

 デュアン「今の女性社会はめんどくさいよ……満員電車なんか乗ってみろ?今の保科の表情で、痴漢冤罪に会うぞ」

 

オレはそういうのはゴメンだから、ついミュウの体型を利用することがある。

 

   保科「……マジか。もはや怖い」

   椎葉「それは……確かに、そこはワタシの責任なんだけど……」

 デュアン「まあ、だから……今回は50:50(フィフティーフィフティー)ってことで、無かったことにしようぜ」

 

赤井秀一の名台詞「過失の割合は50:50」って。

 

   綾地「でも……保科君がエッチなのは事実かもしれないですね」

   保科「オレにだけ当たりどころひどくない!?デュアンだってムッツリスケベかもしれないぞ」

 

 

男がスケベで何が悪い?変態で何が悪い?

思春期男子は殆どが性欲のモンスターだぜ?

 

 

ほとんど綾地さんの自爆だろ。あの日だってオカ研で魔法を発動してればバレなかったのに。新しい事実を知ったのだって、自分で暴露したようなモノ。

 

   保科「…………」

 

   綾地「……」

どうやら、保科と綾地さんに溝が出来てるな。

 

   因幡「保科センパイ?何かしたんですか?」

   保科「別に何も」

ま、綾地さんのは完全な事故なんだよなあ。誤爆する綾地さんも悪いんだが・・・。

 

   綾地「あの、失礼な確認だとは思うんですが……椎葉さんは、女の子なんですよね?」

 

  デュアン「間違いなく言えると思うぜ……体格、身長、声、腕の細さ……薬指と人差し指の長さで性別の判定は出来る……一番なのはお尻の大きさかな?」

 

   保科「マジで!?……てか、お尻の大きさって……」

  デュアン「女性の薬指と人差し指の長さは普通、だいたい同じ何だが……男性の人差し指は多くの場合、薬指より短い。オレは多くには含まれてないな」

 

   保科「……マジだ」

保科は自分の手を見ると驚く。

 

   綾地「……本当」

   椎葉「え!?」

 

  デュアン「確か、カナダだかの記事で……「薬指が人差し指より長い男性はその反対の男性に比べ、親切で思いやりが有る傾向が強い」という結果を示す。この研究では155人の男性を20日間に渡って調べ、薬指が長い男性はそうでない人に比べ、笑う、協調する、他人を褒める、他人にほほ笑む傾向がより強い事が分かったという。……だから、この研究を行った科学者によれば、指の長さから導き出せる結論は他にも幾つかあるらしい」

 

   因幡「へー……因みに他のはどんな結果だったんですか?」

  デュアン「確か、"薬指が人差し指より長い人は魅力的"で、"人差し指が薬指より長い人が、性的嗜好"、"薬指が人差し指より長い人は、性活動が活発"、"薬指が人差し指より長い人は経済力がある"、薬指が人差し指に比べ長い人は……"う~ん女性の前では言えんな。次だ。"薬指が人差し指に比べ長い人は、前立腺がんに罹りやすい」

 

   因幡「前立腺って?」

  デュアン「肝臓の位置のしたの辺りだったっけな……。以上が男性の指の大きさで個性がわかる人でした。」

 

   久島「ふむ……指の大きさで個性か」

  デュアン「……本当かどうかは分かりませんよ?全員が全員。そうじゃない……少なくても、先生には"包容力があって、一家を支える大黒柱の男性"……いや、そもそも先生の性格上、春のが来るのかどうかも怪しいな」

 

   久島「っぐ……」

  デュアン「まあ、いい人は見つかるんじゃない?多分34まではには結婚できると思うよ」

 

   保科「そんなこともわかっちゃうのか!?」

  デュアン「いや、先生の性格上の問題だ……って、話が超脱線してしまった」

 

   椎葉「その……男子の制服は、色々あって……。間違いなく女子だよ。内面も男子ということもなくて、正真正銘の女の子」

 

まあ、魔女の代償だからしゃーないわな。

 

   綾地「それならどうして……いえ、すみません。言えない事情があるんですね、深くは尋ねません」

 

   椎葉「そうしてもらえると助かるかな」

と苦笑いをする椎葉さん。

 

 デュアン「まあ……大体の理由は分かる気がするよ。お察しします」

と呟く・・・

 

   保科「……別に文句があるわけじゃないんですけど、学院側としてはいいんですか?」

 

   久島「いいか悪いかで答えるのなら……ぶっちゃけた話、学院長たちはいい顔をしてないよ」

 

 デュアン「なんか……差別的な扱いだよな」

   久島「確かに……今時は、色々うるさいからね……それに、あの子はちょっとした理由があってね」

 

   保科「理由……詳しいことは知りませんけど、先生って大変な職業ですね」

 

 デュアン「聖職者はそういうものだよ、保科」

   久島「ああ、気苦労が絶えないのは事実だけど、その原因の一人に気遣われてもなぁ……はぁ、胃に穴が空きそうだ」

 

   保科「………だから本人の前でそういうこと言うの止めてくれません?」

 

   久島「だったら言わせないで欲しいね」

 デュアン「言わないのが、大人の対応ということですよ……先生って案外ガキですね」

 

   保科「お前、人には目上の人には敬意を払えとか言うくせに……自分は、容赦ない口撃をするんだな」

 

 デュアン「相手が容赦なく歳下を虐めてるんだ……そんな人に敬意は払えないね」

 

   保科「ふむ……」

   久島「まあ、とにかく……そういうストレスを減らすために、キミらに彼女を頼みたい」

 

   綾地「単純に学内を案内すればいいということじゃないんですか?」

 

 デュアン「そう単純だったら、教師が生徒に頼まないだろ……予は馴染ませて欲しいんじゃないのかな?まあ、一番の目的は……椎葉さんの服装についてだろうけど」

 

   久島「デュアンって……人の心を簡単に見透かしてくれるから怖いんだよなあ……まあ、デュアンの言う通りなんだけど」

 

椎葉さんの服装は目立ちすぎだからな・・・

 

   椎葉「ご迷惑をおかけして、本当にすみません」

 デュアン「気にすることは無いよ」

   久島「だからせめて、先に事情を知ってる子を作って、フォローをして欲しいんだ。そういう意味では、デュアンや綾地が適役だからね」

 

   綾地「フォローと言われましても、具体的にどうすればいいか分かりませんが……できる事は協力します」

 

   久島「そんな難しいことじゃない。服装のことでからかわれたりしないようにと、困ったときは相談する相手になって接して欲しいということだ……ほら、さっきの保科みたいに、エロい視線を向ける輩が多いかもしれないだろ?」

 

 デュアン「保科は悪くないんじゃないか?あれは……ただ観察する眼が無かっただけで」

 

   保科「まったくだ……」

   久島「それに椎葉は遠方から引っ越してきて、まず土地勘自体ない。そういう意味でもフォローを頼みたいというわけだ」

 

   椎葉「よ、よろしくお願いします」

   久島「もしなんだったら保科にも頼っていいぞ?まあ保科に頼る機会があるかどうかは別として」

 

   保科「嫌味?嫌味ですか?」

   久島「とにかくだ、女子に相談するなら綾地。男子に相談するなら保科かデュアンだ。保科、変なことをしたら退学もあり得るからな?」

 

保科が変なことを?

 

  デュアン「……ッフ、ありえんな。保科にそんな度胸はない」

もし、変なことをしてるんだったら綾地さんをとっくの昔に襲ってる。そういう意味では、保科な最強だな

 

   保科「鼻で笑われた……。オレ、そんなに信用がないんですか?」

  デュアン「信用は無いが、信頼はされてるんじゃないか?」

   久島「ああ……ただ釘を差しただけさ。それにキミは、退学や逮捕されるほどリスキーな行動は取らない小心者だとね」

 

ヘタレだと思うが・・・言うのは可愛そうだから言わないでおこう。

 

   久島「まあそういうわけでよろしく頼むな」

   綾地「はい、わかりました」

 デュアン「了解」

 

   綾地「椎葉さん、よろしくおねがいします。困ったことがあればいつでも」

 

 デュアン「ま、男に相談しづらいことだったら、綾地さん。綾地さんに相談しづらいことだったら、オレか保科に聞いてくれ。ま、俺らの出番はほとんど無いかもしれないが……」

 

異性より同性の方がいいに決まってる。

 

   椎葉「あ、ありがとう、綾地さん、デュアン君」

   保科「よろしく、オレたちが力になれることなら何でも言って、椎葉さん」

 

   因幡「自分は学年が違いますけど、見かけたら気軽に声でもかけて下さい」

 

   椎葉「うん、ありがとう。よろしくね」

   久島「じゃあ後は任せた。適当に学内を散策しながら友好を深めてくれ。椎葉も終わったら、直帰していいからな」

 

   椎葉「はい、わかりました」

 

椎葉さんが返事をすると、久島先生は部室から出ていった。

 

   保科「………」

 デュアン「……」

オレは脇腹を突く・・・

 

 デュアン「……お前、そういう目線で見るから……変な勘違いされるんだぜ?」

 

と小声で言うと・・・

 

   保科「し、仕方ないだろ……」

と呟く。

 

   因幡「ねえ、センパイ方、男子の制服を着る事情って一体何でしょうね?」

 

   保科「さあ、なんだろ?マンガやアニメだと、男を望んだ父親が男服しか着させないとか、そういう設定がたまにあるけど?」

 

オレの中では答えが出ちゃってるからな。魔女の代償以外ありえんな。

 

   因幡「それなら、実家が空手とか道場で、後継ぎになるために軟弱なところは見せない!とかも王道ですね」

 

 デュアン「なんか子供が親の所有物みたいで、オレは気に食わないなあ……」

 

   保科「設定に文句を言われても……」

   因幡「で、そういう子に限って、実は女の子っぽい服装が大好きなんですよ」

 

   保科「何かにつけて『オレは女だー!』って叫ぶまでが一連の流れだな」

 

  デュアン「…………」

遊んでやがる、この二人

 

   因幡「そうそう!でも結局イケメン顔だから、似合わないんですよね」

 

   保科「まあ、可愛いとは思うけど、似合ってないパターンの方が多いよな」

 

   因幡「でも……椎葉先輩は、可愛いですよね。女の子っぽい服装も全然似合いそう……というか、むしろ男装の方に若干違和感があるかも」

 

   保科「童顔だし、立ち振舞いも女の子っぽいからな」

 デュアン「女の子だからな?それに、童顔って……オレもそれに当てはまるからな?」

 

   保科「HAHAHA、さっきのお返しだ」

   因幡「……なんか、ああいう人を見てるとウズウズしちゃいます」

分からんでもない。改造したいんだろう・・・

 

   保科「ウズウズって?」

  デュアン「女の子っぽく改造したいってことだろ?」

   因幡「そうそう!」

   保科「あー……まあ、因幡さんは色んな雑誌で勉強をしたから、余計にそう感じるのか……」

 

   保科「コーディネートはこーでねーと」

  デュアン「保科、それを言うなら"コーディネートはこうでないと"じゃないか?」

 

   因幡「……」

   保科「あれ?聞こえなかったのかな……コーディネイトはこーでねーとっ!」

 

   因幡「うわぁ、また言った!?人がせっかくスルーしてあげたのに、2回もいっちゃった!この人引くわー……」

 

   保科「もう口にしてしまったんだから、スルーせずにせめて拾ってくれてもいいじゃないか!」

 

   因幡「それが優しさってこともあるんですよ?」

   保科「会話には区切りが必要なんだから!」

  

   椎葉「二人は仲良しなんだね」

 デュアン「そうか?」

   因幡「そんな大層な物じゃないですよ。この人、セクハラも多いですしね」

 

 デュアン「土曜日の件……あれも50:50な気がするんだが」

まあ、考えちゃうのは無理ないが・・・。

 

   因幡「っ……でもまあ……一緒にいても気を遣わないでいいのは、楽ですけど」

 

 デュアン「ぶっちゃけた話……オレと保科は親友同士だし……本音を一番ぶつけやすいんだよな……」

 

   保科「容赦ないけどな……お前のは」

 デュアン「そこは否定しないさ、だが海道や仮屋さんと同じぐらいの態度だぞ、オレはいつも」

 

   保科「お前はもうちょっと心のA.Tフィールドを広げたほうが良いと思う。何で、女子にいつも"さん"付けなんだ?」

 

 デュアン「……くたばる前に当ててみな」

   保科「おk……お前が教える気が無いことは分かった……とりあいず、部室を出ないか?学院の案内をしながらでも話はできるんだからさ」

 

 デュアン「確かに」

   因幡「ですね」

   綾地「それじゃあ、行きましょうか」

   因幡「よろしくお願いします」

学院内を要所要所案内をする。

 

 

~~~



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Ep25 3人目のオカ研メンバー

 

~~~~

 

 

   椎葉「ねえ、久島先生に教えてもらったんだけど、君たちってオカルト研究部なんだよね?」

 

   保科「そうだよ」

   椎葉「オカルト研究部って、具体的には何をしてるの?やっぱり幽霊?それとも宇宙人?」

 

  デュアン「まあ、そういうイメージが強いのが普通かな?」

   因幡「自分はどっちかって言うと、黒魔術のイメージが強かったですけどね」

 

  デュアン「魔術書でも読むかい?屍食教典儀、セラエノ断章?エルトダウン・シャーズ……それとも、グラーキの黙示録……」

 

   保科「クトゥルフネタはやめろ……」

   綾地「私たちのオカルト研究部も、元々は黒魔術だったみたいですよ?」

 

へえー・・・

 

  デュアン「まあ、名残があるからね」

   綾地「今は、主に占いでしょうか」

   椎葉「へえー、占いかあー」

   因幡「そういうの、興味ありますか?」

   椎葉「うん、もちろん。雑誌でも、占いの箇所はやっぱりチェックしちゃうよ。といっても、傾倒しるわけじゃないけどね。験担ぎぐらいの軽い感じで、いい時だけ信じてるぐらいかな」

 

   因幡「それぐらいでちょうどいいんじゃないですかね」

   綾地「あとは占いの延長で、最近は色んな人の相談を受けたり、その解決を手伝ったりしていますね」

 

   保科「だからまあ……ザックリ言うと、人助けをする部活かな」

正確には"心の欠片"の回収する為の部活でもあるんだけど・・・。

 

   椎葉「人助け?」

   綾地「そう言うと仰々しい感じもしますが、それほど大げさな物じゃありませんよ。話を聞くだけという場合の方が多いですから」

 

   椎葉「でも、助けるんだよね?久島先生も頼ってるみたいだし」

   綾地「そうですね。と言っても、先生が頼ってくることは少ないですよ」

 

 

    椎葉「人助け、人助けかぁ………興味深い部活だね」

  デュアン「……」

    保科「……、……?」

    椎葉「そんな部活、他じゃ見たことないよ」

そりゃ、そうだ。オレも見たこと無いよ

 

    保科「確かに……」

    椎葉「ねえ!もしよかったら、ワタシにも部活の手伝いをさせてもらえないかな?」

 

  デュアン「ふむ……」

椎葉さんの性格上、欠片を横取りするような性格じゃ無いよな・・・椎葉さんのアルプのアカギは話は別だが・・・。

 

    保科「え?オカルト研究部に入りたい、ってこと?」

    椎葉「うん。といっても、細かいことはまだ分からないから、出来ればしばらくは体験入部とかでお願いしたいんだけど……ダメ?」

 

   保科「えっと、それは……」

  デュアン「綾地さん、どうかな?俺的には……転校してきたばっかだし、部活とかなんにも分からない状態だから……俺らがいる、オカ研なら……椎葉さんの負担とか減らせるじゃない?」

 

椎葉さんが魔女云々じゃなく、先生から頼まれた以上は仕事の遂行はしなければならない。

 

    綾地「あの、多分想像しているよりも大変だと思いますよ?」

    椎葉「そこはほら、その大変さを知るための体験入部だから」

    綾地「………」

  デュアン「ま……オレは副部長でもなければ、部長でもない。綾地さんが決めればいいと思うよ」

 

    綾地「……分かりました。椎葉さんが希望するなら、構いませんよ」

 

    椎葉「本当?ありがとう、綾地さん!」

    綾地「いえ、お礼を言われるようなことじゃありませんから。それよりも、よろしくお願いします」

 

    因幡「よろしくです、椎葉先輩」

    椎葉「うん。よろしくね!」

    保科「よろしく、椎葉さん」

  デュアン「よろしく」

と俺らは挨拶をする。

 

綾地さんと保科がコソコソ話を終えた後・・・

 

 

   デュアン「(保科、帰りに話したいことがある。もちろん、二人きりだ。ちょっと、椎葉さんについて話がある)」

 

     保科「(……?今じゃダメなのか?)」

   デュアン「(本人の前では言えない……)」

     保科「(分かった……)」

と話を終わらせると。

 

   デュアン「さて……それじゃあ、案内の続きと行きますか」

     保科「だな」

     椎葉「その前に……ゴメン。ちょっと……あの……」

ん?モジモジして・・・あー

 

     保科「ん?」

     椎葉「その、お手洗い……に行きたいんだけど」

     保科「あー……じゃあ、オレはココで待ってるよ」

     綾地「案内しましょうか?」

     椎葉「あ、平気平気。あの角のところにあるのがそうだよね?じゃあ、悪いけど待っててね」

 

と小走りする椎葉さん。我慢しないで、最初に言ってくれれば良かったのに・・・。

 

   デュアン「ねえ、綾地さん……念のためについて行ってもらえる?」

 

     綾地「え?」

   デュアン「今の椎葉さんの姿をみて、なんとも思わないのか?お前ら」

 

     保科「えーっと……」

     因幡「っは!椎葉さんって男子の服装を着た女の子じゃないですか!」

 

     保科「そうだね。今更、どうしたの?」

     因幡「トイレって一体どっちに入るのかなーって、思って」

   デュアン「分からないのか?何も事情も知らない女子たちはどう思うか……」

 

     保科「はっ!」

     綾地「あー!!」

 

気づいたときには、もう時すでに遅し。

 

     因幡「ね、寧々先輩!早く行かないと!」

     綾地「は、はい、大事(おおごと)になる前に誤解をときましょう」

 

  デュアン「いってらっしゃーい!」

と手を振って、二人を行かせる。

 

    保科「オレが思ってる以上に苦労が多そうだな、男装って……しかし、男装ってことは……下着はどうなってるんだ?」

  デュアン「そこは、女の子の下着じゃないのか?定番中の定番で」

 

    保科「で、綾地さんがいない今がチャンスだよ?」

  デュアン「ああ……そうだった。椎葉さん、魔女だと思うよ」

    保科「ま、マジで?」

  デュアン「オレはそう結論付けた。学校にも男装しなければならない事情……それに、土曜日に椎葉さんと会った時にアルプを連れてた」

 

    保科「………ウソ、じゃないんだな?」

  デュアン「ほぼ間違えない。それと、オレは魔女の代償について、大まかだけど分かった」

 

    保科「それも!?」

  デュアン「まあ、パズルみたく組み立てただけだから……実際に叶える契約によるけどな」

 

オレのは例外中の例外。他の魔女たちを当てはめれば、簡単だ。

 

   保科「お前……将来は探偵になれば?」

  デュアン「安定のしない職には就きたくないなあ……」

ローンとか大変だし。

 

 

~~~~~

トイレから出てきた、椎葉さんは綾地さんと因幡さんの3人と一緒に出てきて、今日は解散ということになり、俺らは学園の外へと出た。

 

   保科「これで、大体回り終えたかな?」

  デュアン「クラス、トイレの場所、図書室、特別棟、職員室……食堂、売店、ジュースの販売機……うん。だいたいは終わったと思うぞ」

 

   綾地「普段使いそうなところは、これで全部だと思います」

  保科「今、関係ない教室まで説明するとわけわかんなくなるだろうし。トイレの場所は階によって変わるもんじゃないから」

 

  椎葉「うぅ……トイレ」

引きずってるのか?まあ、仕方ないか

 

  因幡「そんな悲しそうな顔をしないで下さい。勘違いだってすぐにわかってくれたじゃないですか、ね?」

 

 デュアン「そうだよ、因幡さんの言う通りだ。椎葉さんは悲しい顔するよりも、もっと笑顔の方が可愛くて似合うと思うよ」

 

と言った。

 

  保科「お前、何ですぐに歯の浮くようなセリフを言えるわけ?」

 デュアン「え?でも実際に悲しい顔よりも笑顔のほうがいいじゃん。ネガティブよりもポジティブってね」

 

  保科「確かに……」

  椎葉「うん……ありがとう。ごめんね、迷惑をかけて」

 デュアン「大丈夫……迷惑だなんて思ってないから」

  椎葉「これからも、ああいう勘違いをされるのかな……はぁ……原因はワタシだから何とも言えないんだけど」

 

何とかしてあげたいよなあ・・・。綾地専用の代償緩和魔法を少しアレンジしてみるか・・・

 

えーっと・・・。う~ん・・・あぁ!これをこうして・・・ふむ。

 

  保科「そういうことがないように、俺たちが紹介されたんだ。あんまり考え込まない方が良いよ……な?」

 

 デュアン「ああ。事情があるなら仕方ないよ。それをサポートするのが俺らオカ研の役目なのさ……それに椎葉さんは転校生なんだから、最初のうちは仕方ないよ」

 

オレは迷惑だなんて思ってないしな。

 

   椎葉「服はともかく……せめてもう少し女の子だって分かりやすく、髪型とか変えた方がいいのかな?」

 

 デュアン「でも、ナンパ対策にはなるよ?」

   椎葉「……」

   因幡「いいんじゃないですか?椎葉さんの髪、長くて綺麗ですし、つやつやですもん。可愛いのも似合うと思いますし、そういうの一つ付けるだけで、印象ってかなり変わったりしますからね」

 

だろうね。

 

   椎葉「でも、あんまり可愛いのを身につけることはできないから……」

 

 デュアン「ふむ……じゃあ、今度……オレがコーディネイトしてやるよ。女子と男子の同じ様なファッションがちょうどあったし」

 

  因幡「そんなのあるんですか!?」

 デュアン「ああ……男が女の子っぽい姿をしたりする週刊雑誌があった……それを参考にすれば、少しは印象が変わるのでは?」

 

  椎葉「ホント!?」

 デュアン「まあ……オレは、あくまでも"女の子っぽい姿"……可愛くコーディネイトなら因幡さんだな」

 

最悪、無理やり魔法で抑え込めるしか無い。でも、どういうリズムで狂うのか分からんな。オレの魔法って融通訊かないし・・・。

 

   因幡「はい!」

椎葉さん用の代償を緩和させる魔法は即興だけど形にはなってるな。

 

  椎葉「あ、いやでも……それはちょっと、マズイかも……本当にそうなれたら、嬉しんだけど……」

 

  因幡「大丈夫ですって!椎葉さんは元も可愛いですからね。自分たちにお任せ下さい、準備しておきますから」

 

  デュアン「………」

いざとなれば、代償をこっちに受ければいいしな。

 

  椎葉「あ、いや、その…………じゃあ、よろしくお願いします」

  因幡「はい!」

 

そうして家路についた椎葉さん。

もう日暮れだし、今日の部活はここまで、かな?

 

   綾地「じゃあ、今日の部活は終わりにしましょうか」

  デュアン「分かった……保科はどうする?」

   保科「あ、オレはジュースを買ってから帰るよ」

  デュアン「そうか、それじゃあな。保科、綾地さん」

   綾地「そうですか、分かりました。お疲れ様でした」

   保科「おつかれー」

  デュアン「おう」

   因幡「お疲れ様です。また明日!」

 

~~~~~



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Ep26 二人のアルプ

 

 

~~~~

オレは、schwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)に来た。

なぜ、来たかというと報告も兼ねて、ロイヤルミルクティーを飲みたいからだ。

 

  仮屋「いらっしゃいませー……あれ?デュアン」

 デュアン「こんばんは、仮屋さん……可愛いくて似合ってるよ」

  仮屋「……ありがと……ご注文は?」

 デュアン「アイスロイヤルミルクティー」

  仮屋「此処に来るたびに頼むよね……好きなの?」

 デュアン「ああ、ここのロイヤルミルクティーは絶品だからな……スターバックスとか、他の高級店よりも此処のが好きだな」

 

  仮屋「へえー……っと、気を抜きすぎちゃった」

 デュアン「今はお客はオレ一人なんだからいいんじゃないのか?」

  仮屋「コホン……。畏まりました、お客様」

切り替えが早いな、仮屋さんは

 

 デュアン「ああ、頼む」

 

  仮屋「オーナー。ミルクティーをお願いしまーす」

  相馬「今行くよ……ああ、デュアンじゃないか。いらっしゃい」

 デュアン「少し、2,3点報告したいことがあって」

  相馬「?」

 デュアン「えーっと……ちょっとアルプとして話たいので、少し……仮屋さんに外すように頼めますか?」

 

  相馬「分かった。おーい、今日はもう上がって大丈夫だから」

  仮屋「分かりました」

と言い・・・奥へと入っていく、仮屋さん。

 

  相馬「さて……話というのは?」

 デュアン「うちのクラスに魔女が来ました」

  相馬「……なに?」

 デュアン「最初に知ったのは土曜日、絡んでいたから助けたんですけど……たまたまアルプを見ていてね」

 

  相馬「…………」

 デュアン「アカギです……何をしに此処へ来たのかは分かりませんが……一応、それが2点の報告です」

 

  相馬「残りは?」

 デュアン「これはあくまで、現段階での仮説でしかありませんが……魔女の契約の代償について、なんとなくわかった気がします」

  相馬「つまり、叶える代償がなんなのか分かったのか?」

 デュアン「えぇ……今日転校してきた魔女と綾地さん以外に一人……魔女と出会ってますからね……契約の内容とかもそこで」

 

  相馬「……キミは凄いな」

 デュアン「オレは凄くない……単なる知識の寄せ集めでしかない……本当に凄いのは魔女である綾地さんや……あの二人だよ」

 

尋常じゃない苦痛もある。それこそ、心の欠片が回収できるほどだ。

だが、魔女同士の心の欠片の回収はできない。

 

  相馬「さて、できた。お待たせしました」

 デュアン「いただきます」

オレは飲もうと、手を伸ばす時、店の扉が開く。

 

  アカギ「なかなかの立派な店じゃな」

 デュアン「久しぶり……でもないか?アカギ」

  アカギ「げっ……お主は……デュアン」

   相馬「今日は如何なさったんですか、お客様」

 デュアン「…………」

  アカギ「そんな怖い顔をせんでもいいじゃろうに」

 デュアン「お前の普段の行いが悪いからだろ……まあ、二人の昔の争いは聞いているけど……」

 

  アカギ「だから、挨拶じゃよ。別に喧嘩をしたいわけではないんじゃ。実は諸所の都合によって、暫くこの地区で世話になることになった」

 

   相馬「……そう」

  アカギ「以前のこともある。後で揉めるのも面倒じゃろ?予め挨拶しに来ただけじゃ。他意はない」

 

   相馬「都合とは?」

 デュアン「そりゃ魔女が此処に来たんでしょ」

  アカギ「そうじゃな……」

 

木月さんと良い、椎葉さんと良い・・・情の深いアルプだよな、アカギは。"人間"の心を理解したいがうえに、"人間"の心が理解できない。

 

オレとは大違いだな。オレは人間というそのものを理解したいとは思えない・・・まあ、理解しようともしないが。

 

   相馬「………まあ、挨拶に来た気持ちは認めよう。私も争い事は好まないからね」

 

  アカギ「うむ、よかった。そういうことで、今後ともよろしくな」

   相馬「ただし――――」

  アカギ「ああ、わかっているとも。こちらも、揉め事を起こすつもりはないのじゃ」

 

本当かな?もう既に揉め事を起ころうとしてるぞ?

 

 デュアン「ま……オレも、椎葉さんとは敵対関係になりたくないし、せっかくの友達を邪険にもしたくないし……今は中立で居てあげるよ」

 

  アカギ「お主も、難儀よの……"永遠に遂行できない願い"を持ってるとは……」

 

   相馬「……」

 デュアン「ま……オレの場合は、アルプと魔女の境目だからね……。それに……オレには約束がある」

 

  アカギ「……?」

   相馬「それは……寧々の?」

 デュアン「さあな……アルプは長命だ、くたばる前に答えてみろよ。それじゃ、美味しかったよ……相馬さん。ごちそうさま」

 

と言い、オレは机に1000円札を置いた。

 

 デュアン「アカギ、ミルクは奢ってやるから……大人しくしてろよ?また、魔女を増やすような真似はしないことだ」

 

オレはそう呟き・・・シュバルツカッツェから出ていった。

 

 

 

~~~~~次の日

 

   椎葉「あ、あの、初めまして。椎葉紬です、よ、よろしくお願いします」

 

ふむ・・・クラスは若干ざわついてるな。

 

   久島「ということで男子、喜ばしいことに可愛い女子の転入生だ」

 男子クラスメイト『『…………』』

 

  デュアン「………」

オレは、外の景色を見た。

ああ、なんて曇りのない空なんだろうか。

 

   久島「椎葉は家の事情で引っ越してきたそうだ。色々と困ることも多いだろうから、みんな手を貸してやるように」

 

  デュアン「了解しました……」

   保科「は~い」

とオレと保科は返事をする。

 

   久島「それから椎葉の席は窓側の一番後ろだ……」

げっ・・・オレの後ろかよ。転校生特権というやつだ

 

   椎葉「はい」

と返事をして、椎葉さんは・・・オレの後ろの席に座る。

 

  男子学生A「あれって……女の子、でいいんだよな?」

  男子学生B「先生もそう言ってたし、間違いないだろ」

  女子学生C「そうだよね。胸もあるみたいだし」

私語は慎めよ・・・と思ったが、普段サボっているオレからしたら「どの口が言うんだ」とツッコミを入れられそうだから黙っとく。

 

  男子学生B「ならどうして、男子の制服を着ているんだ?」

  デュアン「それは、イケないことか?大体、この学院の校則自体に書いてないだろ……」

 

  男子学生B「そ、それはそうだが……」

  デュアン「なら、黙ってろ……中傷的な差別だったら、オレは許さんぞ?」

と言うと、皆黙った。

 

 

  女子学生A「でも小柄でかっわいいー♪」

それで良いのか?あんたは・・・と思い、これ以上は何も無いため、黙ることにする。

 

   久島「静かにしなさーい。小学生じゃないんだからいちいち騒ぐんじゃないの。ほら、もうすぐ授業が始まるぞ」

 

オレは、授業の半分は寝てしまった。

 

―――――

 

   椎葉「ふぇぇ~……疲れるなぁ」

   綾地「お疲れ様です、椎葉さん」

 デュアン「おつかれ」

   椎葉「あ、うん、お疲れ様、綾地さん、デュアン君。といっても、授業はまだ続くんだけどね……無言で見られるのは、疲れるなぁ」

 

   保科「ああ……分かる気がする」

お前のは比喩表現じゃなく、実際の表現になるから・・・椎葉さんの気持ちやクラスのわいわいとした雰囲気がダイレクトに感じてるんだよなあ。すげぇ、不便な能力だよな。

 

   綾地「今はまだ数時間しか経ってないですからね、すぐに馴染めますよ」

 

   椎葉「そうだといいなぁ……」

   綾地「次は体育ですから、着替えに行きましょう」

げっ・・・そういや、そうだったな。

 

   椎葉「そうだね。あれ、でも更衣室ってどこだっけ?」

   綾地「ごめんなさい。昨日の案内では、更衣室のことをすっかり忘れてしまっていて」

 

   椎葉「ううん。それは気にしないでいいんだけど……でも体育かぁ……」

 

   綾地「体育、苦手なんですか?」

オレは、苦手というより・・・嫌いに分類するだろうな。

 

   椎葉「身体を動かすことは苦手じゃないよ?ただ、体操服も一人だけ男子だからね……また目立ちそうだなって。それがちょっと憂鬱」

 

   綾地「ああ、そうですね……しかも合同授業ですから、他のクラスの人も疑問に思うかもしれませんね」

 

他のクラスか・・・

 

   椎葉「でもサボるわけにもいかないから……行こっか」

サボりは最大の敵だぞ?余計に怖くなる。

 

   保科「大変だよな……椎葉さんも」

 デュアン「だな……」

   海道「おい、着替えに行かないの?遅れちまうぞ?」

あー・・・サボりたい。

 

   保科「すぐに行くよ。けど、その前に………」

何やら保科は、仮屋に話があるようだ。

 

オレは、話を聞くわけでもないし・・・先に更衣室へと向かう。

 

あ~・・・憂鬱だ。マジで、体育の授業はやりたくない。適当にあしらっとこうかな?

 

 

~~~



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Ep27 想定外は、突然やってくる

 

 

 

―――――体育の授業も終わり

 

  デュアン「どうした?保科」

    保科「いや、久島先生が部室の鍵……デュアンが持ってるって言ってさ」

 

  デュアン「あー……お前が課題ノートを忘れるからだろ。オレも困ったぞ」

 

    保科「なら、オレのノートもついでに取りに行ってくれないか?」

  デュアン「りょーかい」

 

 

特別棟に向かい、部室の鍵を開け、ドアを開くと・・・

 

  デュアン「………ん?」

    椎葉「………」

  デュアン「ふぉわぁああ!?」

オレは驚く。な、何故だ、Why?マジで何が何だか分からない。

凄い速い思考を巡らせる。こんなに焦るのは、初めて見た綾地さんのオナニー現場以来だ。

 

    椎葉「デュアン君が叫ばないでよぉお!」

 デュアン「す、すまない!」

オレは急いでドアを閉める。

ふぅ・・・心臓に悪い。一度見た記憶は二度と忘れないのが、この能力。だが、二度目の動揺は見せない。

だが、ドア越しでも分かる椎葉さんの気持ち。

 

    椎葉「ふぇえええぇぇぇぇぇぇぇっ!」

まあ、叫ばずにはいられないよな。

 

 

~放課後

 

    因幡「サイテーですね」

  デュアン「……弁解する余地もない」

事実だからしょうがない。

 

    椎葉「…………」

椎葉さんは、恥ずかしくてモジモジしているようだ・・・。

 

    保科「デュアン……どうしてそうなった?」

  デュアン「オレが聞きたい……と言うか、予測不可能だろ……いや言い訳か……」

 

    保科「お前って、割り切れる所が凄いよな……オレだったら弁明の余地が欲しいよ」

 

  デュアン「事実、覗いてしまったからな……すまない、椎葉さん。本当にすみません」

 

オレは頭を下げる。これは言い訳のしようもない事実だから、素直に謝ることにする。

 

    椎葉「いや、休み時間で鍵もかけたんだから……ワタシが使ってるなんて普通は思わないよね」

 

  デュアン「それでも……可能性はあったかもしれなかった。授業前は、更衣室を使い……授業後は、違うところで着替える可能性」

 

オレはそう言った・・・

 

    保科「いや……それを"完全に予想外"というんだ……可能性云々にしても」

 

    綾地「ごめんなさい。私がデュアン君にちゃんと連絡しておくべきでした」

 

  デュアン「いや、綾地さんが謝ることじゃないよ……全ては結果だ。結果的にオレが悪いんだから……」

 

    椎葉「ううん。体育の後だったから、そんな余裕はなかったよね?だから……仕方ないよ」

 

    保科「これがデュアンの50:50(フィフティーフィフティー)か」

 

  デュアン「いや、過失の割合が50:50だったかもしれんが……うぅむぅ」

 

社会的だったら通用しないと思うぞ・・・

 

    椎葉「本当に気にしないで。というか、その……謝られるより、忘れて欲しいから……だから、な、何も見なかったってことで、ココはどうかひとつよろしく」

 

  デュアン「すまない……それは無理だ。一度見たことは絶対に忘れないのが、オレの完全記憶能力だ……」

 

    保科「話をややこしくするなよ!」

すまない・・・これは言わないと無理だ

 

    椎葉「ふぇぇぇぇえ~!」

顔を真っ赤にする椎葉さん。

 

    保科「お、お前……空気を読めよ!」

  デュアン「すまん」

    因幡「というか、椎葉先輩もなんで部室なんかで着替えてたんですか?」

 

    綾地「私が勧めたんです。更衣室で着替えるのを恥ずかしそうにしていたので……。鍵は私が持っていましたから、すぐに使える部屋といえば部室かなって……」

 

トイレとかあっただろ・・・

 

    保科「恥ずかしい?けど……女の子同士でしょ?」

  デュアン「お前は、椎葉さんの制服を見て何も思わなかったのか?多分経緯はこうだろう……」

 

と説明すると・・・

 

    椎葉「ほとんど正解なのが怖い」

    保科「デュアンは、可能性さえあれば……それが不可解なことでも当てられるからな……他人の秘密とかもすぐにバレる……つまりは、嘘をつけないってことだ」

 

お前も、嘘発見器になるだろ。

 

    椎葉「みんなは制服を脱がずに器用に着替えるんだもん」

  デュアン「そりゃ……スカートじゃないから……女子はスカートの下から、着替えるからだろ」

 

    保科「同性なのに?」

    椎葉「同性なのに」

    因幡「ですね。それに、着けてる下着で笑われたりすると嫌ですから」

 

  デュアン「笑ったのなら笑い返せばいいのに……何なら」

    保科「みんながみんな……お前みたく器用な人間じゃないんだよ……。でも、そういうものなのか?」

 

そうか・・・そうでもあるかもしれんな。

 

    綾地「着心地ですとか、下着にも色々ありますから。やっぱり着心地がいいと頻度も高いんですが……そうやって使用頻度が上がってしまうと、くたくたになったりしてしまって……って!変なことを言わさないで下さいよぉ!」

 

    保科「理不尽っ……っていうかオレはそんな現実聞きたくなかったぐらいだよ!」

 

  デュアン「じゃあ、適当にSAN値に-2にしとけ」

    保科「女性の下着の現実を知ることが、惨殺死体の動物並って高すぎじゃね?」

 

    椎葉「でもワタシはズボンを脱がなくちゃいけないでしょ?だから絶対に、その……下着が見えちゃって」

 

  デュアン「お、お前等……落ち着け、一旦落ち着け……お茶やるから、一旦落ち着くんだ!これ以上、自分から暴露してどうする」

 

数本のお茶を手渡す。

 

    椎葉「んぅく……ごくごく……ふぅー……とにかく、そんなこんなで、更衣室で着替えるのが恥ずかしくて……綾地さんに相談したら、部室の鍵を貸してくれて」

 

    因幡「なのに……もっと恥ずかしいことになっちゃいましたかー……」

 

ため息を吐きたいのはこっちだぞ。

 

    保科「デュアンって、想定外なことが起きると慌てたりするよな……普段は平静を装ってるけど」

 

    綾地「でも、いつまでも部室で着替えというわけにはわけにはいきませんし……色々考えないといけませんね」

 

  デュアン「…………」

    椎葉「そうだよねー……はぁ……」

    因幡「ふっふっふ。そこで自分の出番というわけですよ」

何か解決策でもあるのだろうか?

 

    綾地「どういう意味ですか?」

    因幡「ほら、昨日言ったじゃないですか。椎葉先輩の髪型」

    保科「ああ……髪飾りを変えるだけでも、印象って違うかも、ってやつ?」

 

    因幡「それです。ということで、準備してきましたよ」

    椎葉「ほ、本当に!?」

オレは嫌な予感がする為、カバンからコンビニ袋を用意する。

 

    因幡「はい!ということで、そこに座って下さい、セットしてあげます」

 

    椎葉「え、えっと……じゃあ、よろしくお願いします」

 

  デュアン「はい、念のために」

オレは椎葉さんにコンビニ袋を取り出す。

 

    保科「……あ」

保科は気づく。

 

    綾地「……???」

 

因幡さんは椎葉さんの髪を櫛で解かす。

 

  デュアン「……」

なんていうか、う~ん・・・オレって、髪の長い女性が好みなのか?

いやいや、最弱無敗の世界線ではアイリを好きになってたんだぞ。

 

そうなると、好きになる女性のタイプって・・・なんだろうか?

 

    椎葉「な、なんだか恥ずかしいなぁ。こんな風に髪の毛を触られるのって、初めてだから」

 

    因幡「そんな恥ずかしがることないですよ。椎葉先輩の髪、ツヤツヤで羨ましいなー。自分もツヤツヤになりたいなー」

 

  デュアン「カラーやパーマを何度も繰り返したり、ヘアアイロンやコテでスタイリングしたり……洗う前にブラッシングしたり予洗いをする……ああ。指の腹で洗い、しっかり流すのも重要だな。タオルドライで水分をできるだけ取って、洗い流さないトリートメントを付け、髪の毛から離し、根元から乾かす。これだけでもツヤツヤになるぜ」

 

   保科「うわぁ……凄い面倒くさい手順。女子って可愛くするのにそれだけの苦労をするんだな」

 

   椎葉「でも、因幡さんの髪だって、ふわふわで可愛いじゃない」

   因幡「自分的にはツヤツヤサラサラがいいんですけどねー。でも本当に、椎葉先輩の髪って素敵~」

 

   綾地「そんなにですか?」

   因幡「ほらほら、寧々先輩もちょっと触ってみて下さいよ」

   綾地「それじゃ、ちょっと失礼して……わ、本当にツヤツヤですね。いいですねー……確かにこれは羨ましいかもしれません」

 

  デュアン「なあなあ、保科よ」

    保科「なんだね、デュアン」

  デュアン「俺らが居るってこと忘れてないかな?」

    保科「それを言わないのがお約束じゃないか?ほら、俺らって女子の空間では空気だし」

 

  デュアン「ふむ……そうだな……そうだよな」

と保科とオレは三人を観察する。

 

    因幡「えー、寧々先輩は羨むような必要ないじゃないですか。ほらこんなにサラサラで」

 

    綾地「あ、だ、ダメですよ、変なところ触っちゃくすぐったいですから」

 

    因幡「ほほぅ、寧々先輩は首筋が弱点なんですね」

  デュアン「後は脇腹かな?」

    保科「何で、お前はそんな事を知ってるんだよ」

  デュアン「オレと綾地の付き合いは、長いんだぞ」

少なくても10年は、あるぞ・・・

 

    因幡「じゃあ、椎葉先輩はどうなのかにゃぁ~?」

    椎葉「ふぇ?あ、ちょっ、まっ!やぁぁぁんっ!?」

頭が痛くなってきた・・・。何やってんだろう、因幡さん。

 

    保科「……」

    因幡「ふっふっふ、椎葉先輩は耳がポイントみたいですねぇ、にゃるほどにゃるほどぉ」

 

    椎葉「もう、本当に堪忍してぇ~」

  デュアン「…………」

    綾地「因幡さん、嫌がっていることをするのはダメですよ?」

    因幡「はーい。椎葉先輩、ごめんなさいでした。そんなつもりじゃなかったんですけど」

 

ごめんなさいでした・・・?うぅむ?

 

おはようございました。ああ、懐かしきオレンジ卿。

 

    保科「ふむ……そんなにツヤツヤなんだ……」

  デュアン「どんな手触りなのだろうか?」

ミュウの時もそうだが、基本はサラサラなんだが・・・

 

  綾地・めぐる・椎葉「「「…………」」」

  デュアン「怖い怖い。そんな眼で見ないでもらえるかな?思っただけなのに」

 

   保科「……」

保科にダメージを受けたことが可哀想だから、やめとこ。こっそりと謝ることにした。

 

   椎葉「よ、よろしくお願いします」

   綾地「椎葉さんは、どんな髪型がいいとか、そういう希望はあるんですか?」

 

   椎葉「希望は……特に無いかな。とにかく可愛い感じになるといいなぁって思って」

 

   因幡「可愛い感じですね、了解(ラジャー)です。じゃあ、この髪飾りとか……いやいや、こっちかな?どっちの方がいいかな?」

 

オレは、ペロー童話の「La Belle au bois dormant(ラ・ベロゥ・ボイ・ドロモン)」を読む。

 

   保科「それは?」

  デュアン「これか?和訳だと眠りの森の美女だな……原作版の眠り姫」

 

   保科「それ、読んでも良いか?」

  デュアン「……」

オレは無言で、渡す。

文字通りの原本だけど、読めるかな?フランス語なんだけど。

保科は「ふむ……眠り姫ってこんな話なんだ」と呟いていた。

 

   綾地「可愛いということなら、こっちの方がいいんじゃないですか?」

 

   因幡「あ、それもアリですね!さすが寧々先輩、いい趣味してますよ」

 

   椎葉「あ、あのね、あんまり慣れてないというか、不安があるから……ちょっとずつ、ちょっとずつでお願いします」

 

   保科「そういえば、相馬さんが言ってたけど……デュアンって、水をかぶると女の子になるんだよな?見てみたいよ」

 

  デュアン「あー……今度見せてやるよ」

だいぶ慣れてきたからな・・・トイレも、走るのも。

 

   因幡「そんなに不安になる必要はないと思いますけど……じゃあまずはアクセサリーじゃなく、髪型で変化を出してみましょうか」

 

そういい鼻歌を口ずさむ因幡さん

 

   保科「女の子って、こういう時、本当に楽しそうにするよなぁ」

 デュアン「お洒落は、女の武器の一つだからね……仕方ないと思うぞ」

女の子は無意識にお洒落してしまうもんだ。Toloveる世界でも、変幻兵器(トランスウェポン)と呼ばれたヤミやメアやメネシスもそうだったように・・・。

 

   保科「お前って、本当に何でも知ってるよなあ」

 デュアン「何でもは知らない……知っていることは知っているだけ」

完全に蚊帳の外のオレと保科は、他の女子には聞こえないボリュームで喋る。

 

   椎葉「………」

 

   保科「……っ!」

 デュアン「はぁー……」

オレは、保科の表情からして・・・そろそろヤバイのか。

 

   因幡「男子の制服に合わせて、ってなると……ここはやっぱり――――」

 

   綾地「三つ編みとか、おさげですか?」

   因幡「ですね。漫画とかでは、男の子も三つ編みにしたりしてますから、試してみるにはちょうどいいと思うんです」

 

   椎葉「ワタシ、三つ編みってしたことないんだけど」

 デュアン「……」

   因幡「大丈夫ですってば。長さも十分ですし、難しい物でもないんですよ」

 

今思えば、部員全員髪長いよな・・・。オレはどちらかというと肩ぐらいまで伸びてるんだが・・・。

 

   因幡「束を3つ作って、端の束を重ねて、逆を重ねて――――……できたー!どうですか、椎葉先輩」

 

   椎葉「えーっと……あ、うん。これぐらいなら平気っぽい……」

   因幡「でもこれだけだと、やっぱり物足りないから……可愛いリボンをつけてみましょうか!このピンクのやつとか」

 

   椎葉「わぁ、可愛いリボンだねー」

   因幡「きっと似合いますよ、ということで、ここにリボンを結べば……ほらできた!」

 

   綾地「あ、いいですね。女の子らしさがグッと増していますよ」

増しちゃダメなんだよな・・・。

 

  デュアン「似合ってるよ、椎葉さん。女の子っぽくて素敵だよ」

   保科「だな」

と素直な感想を述べる。

 

   椎葉「そ、そうかな?えへへ……そう言われると照れちゃうんだけど、嬉しいな……でも本当によかった。これぐらいなら、ワタシにもでき―――――うっ」

 

   保科「でき……う?」

   綾地「……?椎葉さん?」

   因幡「あれ?もしかして、お気に召しませんでした?」

いや、そういう問題じゃない。

 

   椎葉「……うっ……うっ……」

マズイな・・・

 

 デュアン「……」

オレは無言で椎葉さんにコンビニ袋を渡す。

 

   椎葉「うぇ……えろえろえろ―――」

と決壊する。あのときの保科の様に・・・

胃の中の物が土砂崩れの要領で吐き出してしまった。

幸いなことに、オレはコンビニ袋を渡しているため・・・部室が大変なことにならなかった。

 

   保科「うわっ、ちょっ!?どうしたの、椎葉さん!?」

   綾地「しっかりして下さい、椎葉さんっ」

オレは、椎葉さんの背中を優しく擦り

 

  デュアン「保科、カバンに開けてない水があったと思うから……それをくれ」

 

   保科「お、おう」

保科から手渡された水を開け、椎葉さんの口に含ませる。

 

  デュアン「これで、口の中の違和感を洗い流しな」

   椎葉「う、うん……」

この瞬間に、緩和魔法で少しだけ違和感を消させる。

 

  

―――――数分後が過ぎ・・・

 

   椎葉「ご迷惑をおかけしてしまって……本当にごめんなさい」

  デュアン「気にすることはないよ」

   保科「ああ……そんなことで気にしないでいいんだけど……」

保科が余計なことを言う前に蹴りを入れる。

 

   綾地「大丈夫ですか?もし気分が悪いなら、無理せずかえったほうがいいんじゃないですか?」

 

   因幡「ごめんなさい、自分が調子に乗っちゃったから」

   椎葉「ううん、違うんだよ。そうじゃなくて……これはその……体質なの」

 

難儀な代償だよな・・・綾地さんも椎葉さんも。

 

   保科「………」

   因幡「それって緊張したらお腹が痛くなっちゃう、みたいな?」

そんなレベルで済めば良いんだけどな・・・

 

   椎葉「似たようなもの……かな?全然違うといえば違うんだけど……ワタシの場合は、その……女の子っぽい格好をすると、我慢できなくなっちゃうんだよね」

 

酷い話だよな・・・本当に。一体、どんな願いを込めたんだ?椎葉さんは・・・

 

   因幡「女の子っぽい格好をすると……」

   保科「我慢できなくて、吐いちゃう?」

   椎葉「…………」

コクっと頷く椎葉さん。

 

   綾地「なにか精神的な問題でしょうか?」

 デュアン「いいや……案外綾地さんと似たような境遇だとオレは思うね」

 

と綾地さんにヒントを与えることにする。

もちろん、綾地さんにしか聞こえないボリュームで・・・

 

   因幡「なにか、女の子っぽい服装にトラウマでも?」

   保科「……」

保科が黙ってしまった。保科には

綾地さんはオレのヒントにクエスチョンマークを浮かべている。

 

   椎葉「ううん、気にしないでいいよ。トラウマとかそういうのはないから。というより、むしろワタシは女の子っぽい格好の方が好きだよ」

 

   因幡「じゃあやっぱり、特殊な体質なんですかね?」

 デュアン「体質というより、呪いって言ったほうが良いんじゃないか?」

   保科「呪いかあ……」

   椎葉「呪い……うん、まあ、そんな感じかな」

   保科「……?」

   綾地「どうかしたんですか?保科君」

   保科「いや、なんでも無い……」

保科もこれで確信が出来ただろう。

 

   因幡「じゃあさっき、ちょっとずつって言ってたのは、その体質……呪いのことを気にしてなんですか?」

 

   椎葉「うん……さっきみたいに、少しぐらいならできる格好もあるんだけど、いつ限界が来るかわからなかったから」

 

   因幡「でも限界が来て、吐いちゃったんですか……」

   椎葉「……本当にゴメン。女の子っぽくなれるのが嬉しくてつい……もう少し我慢できるかなって……。……やっぱり……変だよね、こんなの」

 

  デュアン「……」

   因幡「じゃあ今度は、髪型じゃなくてもっと小さなアクセサリーから試してみましょうか!」

 

アクセサリーか・・・自作してみようかな?幸い知識は本があるしな・・・。

 

   椎葉「……え?」

  デュアン「オレも手伝うよ……。椎葉さんの悲しそうな顔をしたら……オレも手伝いたくなってきてしまったよ……余計に、ね」

   因幡「あ、あれ?もしかして嫌ですか?こういうの、しない方がいいですか?」

 

   椎葉「う、ううん!そんなことないよ!むしろワタシとしては嬉しいよ!でも……引いちゃったり、してないの?」

 

  デュアン「引く?何が?何に対して?」

   椎葉「その……」

  デュアン「オレはな……椎葉さん……いいや女の子が悲しそうな顔を見るのが嫌なんだよ」

 

   保科「デュアン……よくそんな恥ずかしいことを言えるよな」

  デュアン「そうか?オレに恥ずかしいという辞書はないぞ」

恥ずかしいセリフ?ッフ・・・オレは存在そのもの恥ずかしいぞ。

髪は水色だし、瞳の色は誤魔化しているが、カラコンを外せばオッドアイだし・・・。

 

  デュアン「あれ?よくよく考えると、オレの方が恥ずかしくね?」

 

 

すると、ノックの音が聞こえ、入ってくる・・・

 

    戸隠「やあやあ、頑張ってるかなー?」

  デュアン「会長?何の用でしょうか?」

    綾地「どうしたんですか?なにか連絡事項が?」

    戸隠「んーん。今日は完全に別件。実はオカルト研究部にお願いがあって来たんだよ」

 

  デュアン「会長がオカ研に……」

    綾地「それはつまり、相談事ですか?」

    戸隠「そう。確か、相談に乗ってくれるんだよね?」

    綾地「はい……ですが珍しいですね、戸隠先輩が相談だなんて」

確かに・・・明日は雪が降るんじゃないかってぐらい珍しい。

 

    戸隠「大抵のことは、自分で解決するようにしてるんだけど……今回はちょっとお手上げなんだよね……だから、助けてもらえないかな?」

 

  デュアン「会長がお手上げ……って、なんだろう?」

    綾地「それはもちろん、出来ることがあればお手伝いさせてもらいますが……保科君、さっきの話なんですが」

 

    保科「ああ、大したことじゃないから気にしないで。先輩の相談の方が重要だ」

 

    綾地「そうですか……じゃあまた後日にでも聞かせて下さいね」

    戸隠「ところで、そっちの二人は?初めて会うけど、もしかして新入部員だったりするのかな?そういえばそんな報告が……あれ?でも報告だと、新入部員は一人だったような?」

 

    因幡「あ、はい。多分、それは自分です。1年D組の因幡めぐるです」

 

    戸隠「初めまして。学生会長の戸隠憧子です」

    椎葉「あの、ワタシは制服は男の子ですけど、れっきとした女の子で……今日から2年A組に転入した椎葉紬です」

 

    戸隠「あー、聞いてる聞いてる。ちょっと特殊な事情を抱えた子が転入してくるって……そっか、キミのことなんだね。特殊っていうのはそういうことなんだ」

 

    椎葉「個人的に色々と事情がありまして……すみません」

    戸隠「気にしないでいいよ。学院が許可してるんだからオッケーオッケー。そういう子がいてもいいんじゃないかな。……それで、キミもオカルト研究部に?」

 

    椎葉「まだ体験入部で、うまくやっていけそうなら入部させてもらえれば……って思ってます」

 

    戸隠「ほほーぅ。ますますハーレムだねぇ、保科クン」

  デュアン「あれ?オレのことはスルーですか?会長」

    戸隠「じゃあ、デュアン君も」

  デュアン「オレはゴメン願いたいな……女子が多すぎる空間は息が詰まりそうだ……保科が居なきゃ、オレはここに居なかったね」

 

    保科「別にそんなつもりは、まったくないんですけど……」

    戸隠「またまた~、嬉しいくせにぃ。男の子なら垂涎物の空間じゃない。保科クンやデュアン君なんて若いから、色々と大変じゃない?むふふ」

 

  デュアン「会長……悪ふざけはやめてください」

    保科「そうそう……何気なく下ネタ挟むの止めて下さいっ……部活にはみんな真面目に取り組んでいますから」

 

    戸隠「そかそか、それなら安心」

  デュアン「安心?………安心……安心院だけ、に……?」

オレはブツブツと言う。

思い出そうにも、霧がかかって・・・思い出せる部分と出せない部分がある。

 

    戸隠「椎葉さん、今後ともよろしくね。何か困ったことがあったら、いつでも言って頂戴」

 

    椎葉「はい。よろしくお願いします、戸隠会長」

    戸隠「と言っても……会長はもうすぐ引退する予定なんだけどね」

 

    椎葉「そうなんですか?」

    戸隠「もう秋だからねー、会長は引退―――の予定なんだけど、このままだとどうなることやら……」

 

  デュアン「どういうことですか?」

    保科「引退しない……なんてことはありませんよね?」

    戸隠「それは勿論、引退はさせてもらうよ。留年するつもりはないからね。ただ次の会長がねぇ」

 

    綾地「そういえば……会長候補の公示はまだでしたね。時期を考えると、そろそろ公示されてないとマズイんじゃないですか?」

 

確かに・・・空白の席の状態はマズイよな・・・

 

    保科「そうなんだ?でもそっか。戸隠先輩もただ引退すればいいだけじゃなく、引き継ぎとか色々あるもんな」

 

  デュアン「引き継ぎをしなかったら、阿鼻叫喚の地獄絵図になりそうだ……もう二度と生徒会の仕事はしたくない」

 

    保科「デュアン、生徒会の仕事をやったことがあるのか!?」

    綾地「初耳です」

  デュアン「言えるわけ無いだろ……重要なことだったし……もう二度と去年のハロウィン祭みたいなことが無いようにしてくれ」

 

あんな量の仕事、コードギアス線で仕事量を覚えてなかったら、速攻で投げ出していたレベルだ。1~2日で終わる量じゃなかったことは記憶に新しい

    保科「でも、デュアンはその資料……覚えてるんだよな?」

  デュアン「ああ……一言一句全部記憶に入っている」

    戸隠「秘密だよ?」

  デュアン「わかってますって……会長」

 

    保科「……公示しないのには、何か理由があるんですか?」

    戸隠「できるのならしたいんだけどね……できないから困ってるの」

 

    保科「じゃあ、戸隠先輩がオカ研に来たのは?」

 

    戸隠「うん。相談したいのは、そのことなんだよね」

    保科「あの、ちなみにそれって、学生会と関係ないオレたちが聞いてもいいことなんですか?」

 

  デュアン「さあ?」

    戸隠「別に機密にしなくちゃいけないわけじゃないから安心して」

 

    綾地「それで、戸隠先輩の悩みなんですが」

    戸隠「実は会長候補がまだいないんだよ。だから公示したくてもできなくって……このままだと最悪、引き継ぎもできずに引退することになるかも」

 

    保科「それは、なかなか面倒な事になってますね」

  デュアン「最悪、学生会が機能しなくなる……」

オレは、意気消沈してしまった・・・。

もう、二度とやりたくないぞ。

 

    因幡「あのー、自分は1年なんでよく知らないんですけど、候補者って毎年そんなに集まるものなんですか?自分のイメージでは、立候補者なんて2人いればいい方だと思ってました」

 

  デュアン「……集まらないから困ってるんじゃないか?」

そもそも、集まっているのなら・・・会長は此処には来てないと思うぞ。

 

    戸隠「そうなの……毎年候補者が集まらなくて、大抵は信任選挙になるね」

 

    保科「でも今年は、信任選挙すらできそうにない、と」

    戸隠「これが書記や副会長なら、まず会長を決めちゃって後から指名でお願いする、って方法もあるんだけどね」

 

    綾地「その会長が決まらなければ、そういうわけにもいかないということですね」

 

    戸隠「そうなんだよ。だからもう、頭を抱えちゃってて」

ふむぅ~・・・と腕を組み考える。

 

    綾地「ですが戸隠先輩、慣例でいえば、最低でも現職の2年生役員が会長職に立候補するものじゃありませんでしたか?」

 

    戸隠「確かにそのパターンは多いからね、わたしも元は書記だったから。ただあくまで慣例だから、無理強いはできないよ」

 

  デュアン「…………」

    保科「戸隠先輩の目からみて、誰かいい人はいないんですか?」

    戸隠「いるよ、現学生会の副会長で越路(こしじ)さんって言う子。後は、デュアン君かな?」

 

  デュアン「オレを巻き込もうとしないで下さいよ会長」

    戸隠「ごめんごめん。越路さんは、とっても可愛くてね、肌もスベスベのもちもちで、魅力的な女の子だよ」

 

  デュアン「アーアーナニモキコエナーイ、ナニモキコエナーイ」

    保科「棒読みやめろ……今の褒め方は推し方としては間違ってる気がしますけど……越路さんか……いいんじゃないですか?」

 

  デュアン「ああ、オレもそう思う」

    因幡「知り合いなんですか、先輩方」

    保科「1年の時に同じクラスだった。そういえば、学生会の仕事があるからって何度かクラスの仕事を代わったことがあったな」

 

  デュアン「尻拭いをしたのも忘れるなよ」

    保科「ご、ごめん。それで……彼女、副会長でしたっけ?」

    戸隠「去年の秋の選挙で、会計から副会長になってる」

  デュアン「へー……」

    因幡「……先輩方、もうちょっと興味を持ちましょうよ」

    保科「いや、それは……確かにそうだけど。けど寧ろ、これがウチの一般学生の認識だと思うぞ?」

 

   戸隠「そうなんだよねぇ。立候補する人が少ないのは、興味を持ってる人が少ないってことなんだよねぇ~……学生会としてもチラシを配ったりして、候補者がいないことをみんなに知ってもらう努力はしてるんだよ?」

 

   保科「あ、思い出した。先輩、昨日越路さんと話ししてましたよね?あれってもしかして?」

 

   戸隠「見てたの?恥ずかしいな……でも、そういうこと。会長に立候補してくれるようにお願いしてたんだけど、断れちゃって……求心力もあって、1年生の頃から仕事をしてくれてて、わたしよりも優秀。越路さんに後を継いでもらえると一番嬉しいんだけどねー」

 

   椎葉「どうして立候補しないんですか?」

理由はいくつかあるんだけどな・・・

 

   戸隠「理由は言ってくれなくて。会長に立候補しないどころか、学生会からも身を引くって」

 

このタイミングで、会長と共に辞める越路さん・・・。

 

   保科「それは急に?以前に、何か学生会を辞める気配みたいなものは?」

 

   戸隠「んーん。学生会のみんなも驚いてた。立候補してくれると全員が思い込んでいたからね」

 

なるほど・・・越路さんの辞める理由は分かってきたような気がする。

 

 

   保科「デュアン、その顔は辞める理由がわかったのか?!」

 デュアン「まあ……な(あくまでも確率論だが……。それに、これは他人には知っちゃダメなような気がする。)」

 

   椎葉「学生会の仕事が面倒になった、とかですか?」

   戸隠「見ていた限りだと、そうじゃなさそうなんだよね」

多分だが、会長が好きなんだろうな・・・越路さん。でも、会長・・・いやこの部活全員が恋愛に奥手というより無知すぎるからこんなことに。人のこと言えないが・・・。

 

   保科「確かに……なんか、越路さんらしくないかも」

   戸隠「学生会の出席率もいいし、楽しそうに仕事もしてくれてたし、よくわたしと二人で最後まで残ってくれてたのに」

 

それは貴方が居たからでしょ。とは言えないんだよな・・・う~ん。

 

  デュアン「最悪、オレが学生会長になるんだろうなあ……」

   保科「お前が会長職?ガラじゃないだろ」

  デュアン「ああ……オレなんか雑用とかで十分だ」

オレと保科はこそこそ話をする。

 

   椎葉「じゃあ一体何が理由なんだろ?」

  デュアン「好きな人でも出来たんじゃないか?」

これは言っとくか。でも"誰"とは言わないでおく。でもイコールやめる・・・ということにはならないんだよなあ。

 

   椎葉「えぇえ!?恋?恋……」

   戸隠「恋かあ……」

   綾地「恋、ですか……」

   因幡「そう言われると……納得しちゃうかもです」

   保科「でも誰に?」

  デュアン「これも大凡検討は付く……が、言いふらすような真似はしたくないね。越路さんだって、言われるのは多分嫌いだと思うから」

 

   保科「そうだな……聞くのは野暮ってもんだな」

  デュアン「まあ、保科は悪魔的な心理で相手の心を見透かしちゃう時があるからすぐに分かっちゃうんじゃないかな?」

 

   保科「……知りたくもない情報を知るのは嫌だなあ」

オレもそう思う。特に女子のあれこれを知るのは心労に響く時がある。

 

   綾地「……では、戸隠先輩の相談は、越路さんをどうにか説得すること、でいいんですか?」

 

   戸隠「あ、ごめんごめん、そうじゃないんだよ。さっきも言ったように、無理強いはできないからね」

 

そうだな・・・強制は出来ない。それは相手を縛る行為に等しい。

 

もし、理不尽な行為だったら・・・オレは全力で守るし、敵は誰だろうと許さない。それが相手がアルプだろうが、教師だろうが警察だろうと・・・全てを敵に回してでも全力で守る。それが"オレ"というものだ。

 

  デュアン「では……会長はどうして欲しいんです?」

   戸隠「えーっと……会長に立候補してくれる子を探すのを手伝って欲しいの」

 

   綾地「現学生会の人たちで、他に立候補者はいないんですか?」

  デュアン「居たら、会長は此処へ来てないと思うよ」

   戸隠「んー、微妙かなぁ……みんな越路さんが適任だと思ってるから、尻込みするというか、二の足を踏むというか。最後の手段としては考えてるけど、出来れば自発的に手を上げてくれた方がいいから。一般学生から立候補者が経てばなー……と思ってるの」

 

  デュアン「……ん~……」

オレは腕を組み考える・・・。

 

   戸隠「ほら、保科クンみたいに興味を持ってない人が多いでしょ?現状を知ってもらえれば、誰かが『やります』って言ってくれるかもしれないかなって」

 

  デュアン「無理だと思うぞ……大抵の人は『面倒くさい』で一蹴されると思う」

 

   保科「あー……ありそう」

   

   綾地「戸隠先輩のお話はわかりました」

   戸隠「じゃあ……引き受けてくれる、ってことでいいのかな?」

   綾地「はい。どこまでできるかわかりませんが、お手伝いさせていただきます」

 

   戸隠「ありがとう、助かるー!」

   綾地「それで、学生会と会長職について、いくつか確認させて欲しいんですが……」

 

 

~~~~~~



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Ep28 人脈の少なさ

 

――――陽も傾きはじめ、もう夕方になる。

 

   戸隠「会長職としては、こんなところかな?」

   綾地「ありがとうございました。それじゃあこれで、みんなにも話を聞いてみます」

 

   因幡「あの、1年生でも会長になれるんですか?」

  デュアン「なれるけど……大変だぞ?そうなったら、オレはフォローは絶対にしないぞ……二度と学生会の仕事はゴメンだ」

 

   戸隠「もしかして因幡さん、興味ある?興味あるなら、わたしが教えてあげるよ?手取り足取り腰取り、色々ね……むふふ」

 

  デュアン「因幡さんを骨抜きにするつもりですか……会長」

   因幡「い、いえ、自分はノーマルなんで……というか、自分には無理ですよ、会長なんて。周りに興味がある子がいないか、訊いてみるだけですから」

 

   戸隠「そう?残念。でも本気でやってくれる気があるなら、実務に関しては、周りのサポートもあるから安心して」

 

安心できねーよ。とツッコミを入れるのは野暮だからやめとく。

 

   因幡「わかりました。そう言っておきますね」

   戸隠「だから、転入したばっかりでも、やる気さえあれば大歓迎だよ」

 

   椎葉「えっと……考えておきます」

 デュアン「椎葉さんには、無理だと思うぞ」

   綾地「どうして、ですか?」

 デュアン「今日のことを振り返ってみろ……服装で注目されてるんだ……これが全国生徒の前だと……目立ち過ぎて、最悪大変なことになる」

 

保科は論外すぎる・・・。全校生徒の目の視線で五感にダイレクトアタックされるからな。

 

   戸隠「じゃあ、わたしの力不足で申し訳ないんだけど……」

   綾地「はい、やれるだけやってみます」

 

綾地さんの返事を受けて、会長は安堵した様子で部室から出ていった。

 

   因幡「選挙か……実際のところ、どうなんですか?立候補者を集めることってできるんですかね?」

 

   保科「正直、微妙じゃないかと個人的には思ってる」

 デュアン「まあ……1.3%ぐらいの望みはあるんじゃないか?だけど……時期を考えれば、多分0%だと思う」

 

   保科「でも、絶対にいないとは限らないんじゃ……」

 デュアン「この広い学院の5割は何らかの職についているんだぞ?残りの1割がバイト。つまり3~4割の人間を片っ端から声をかけるのか?」

 

   保科「確かに……現実的じゃない、かもしれないが……諦めるにはまだ早いと思うぞ」

 

 デュアン「わーったよ。まったくもう」

   椎葉「ゴメンね、転入したばっかりのワタシは、力になれそうにないかも」

 

オレはそっと、椎葉さんの頭を乗っけて・・・優しく撫でる。

 

 デュアン「バーロー、椎葉さんのどこに落ち度がある?落ち度があるとしたら、俺ら……オカ研だろう」

 

   保科「そうだな……オレたちだって、できることは少ないからね」

   綾地「でも、周りの子に興味がないか訊くぐらいしかできませんね」

 

   因幡「でも、訊いてみたら案外とあっさり誰かが手を上げてくれるかもしれませんよ」

 

 デュアン「世の中はそんな甘くは出来ていない……単純でもないんだ……」

 

   保科「お前は苦労するよな……」

   因幡「ということで、明日から頑張りましょー!」

 

でもなあ、心当たりと言ったら・・・「海道」と「仮屋」ぐらいしか居ないんだよなあ。「井上」は別クラスだし

 

 

~次の日・・・

 

保科は早速、"海道"と"仮屋"さんに話しかけたな・・・

 

オレの心当たり、これにてしゅーりょー!だな。

 

べ、別に悲しいだなんて思ってないんだからねっ

 

   仮屋「急にどうした?保科が学生会に興味を持つなんて」

   海道「オレと同じぐらい、お前には学生会は似合わないぞ」

   保科「分かってるよ、ガラじゃないのは。それに立候補するつもりもない、気苦労が多そうだからな。」

 

 

オレは、これ以上の会話は入れないから寝ることにした。

 

なんか揉め事のようだ・・・

 

   和奏「いきなりおっぱいを持ち出すとかセクハラもいいとこ。むしろ蹴りで済んでラッキーと思いたまえ」

 

 デュアン「?」

   保科「……全くだな、最低だぞ、お前」

   椎葉「……保科君だって見てたよね?ガン見してたよね?ワタシの……む、胸……」

 

   保科「いや、アレは……しょうがないだろ」

   海道「自分のこと棚上げしているお前の方が最低じゃね?」

   仮屋「制裁っ!」

   保科「あうっ!?思った以上にいったぁいっ」

   仮屋「まあ、二人の言いたいことは分かるけど」

 デュアン「分かっちゃうの!?

   仮屋「というか、いいなぁ。背にそこまで大きな背はないのに……どうして、ここの差がそんなに大きいのか…………泣いてもいいかな?」

 

 デュアン「?なんだ……仮屋さん、胸を大きくしたいのか?」

   仮屋「出来るの!?」

 デュアン「出来るよ……早寝早起き、24時前には就寝すること。適度な胸のマッサージで血の巡りを良くしたり、後は豆乳を飲むことをおすすめするよ。お風呂はぬるま湯で入ると効果があるよ」

 

   保科「毎度ながらデュアンの知識はやべぇよな」

   海道「小さいは小さいなりに需要があるんだよ?特に成長した女の子のぺったんは貴重だからね」

 

   仮屋「ぺったん言うな、ぶっ飛ばすぞ」

   保科「そんな気にしなくても、胸だけで判断するような相手はロクでもないって」

 

 デュアン「良いことを言うじゃないか保科」

   仮屋「……保科……」

   海道「ハーイ、ココで質問です。柊史君とデュアン君はアリとナシだったらどっちの方がいいですか?」

 

   保科「う~ん……まあ、あるに越したことはないかな」

   仮屋「上げて落とすお前等の方がロクでもないわ――――!!」

   海道「待って待って!デュアンの好みを訊いてないって」

 デュアン「そうだなあ……正直に言えば、中間地点だろうな」

   仮屋「?」

   保科「中間……?」

 デュアン「そ、中間……大きくてもダメ、小さすぎるのも魅力っちゃ魅力だが……真にオレが好きな胸の大きさは……手のひらサイズに収まればいいかな?ってさ」

 

   仮屋「…………」

 デュアン「心音を聞くのも便利だし……なんか手のひらサイズの方が落ち着く?かな?それが世界の真理だと思う」

 

オレも転生しまくったせいでアホになったのかな?おっぱいの語りで、熱くなってるようなきがする。

 

   椎葉「ぷっ、あははは」

   仮屋「笑い事じゃないんだけど!?」

   椎葉「ご、ゴメンね。でも、楽しそうだなって……保科君やデュアン君も、部室で話したときより面白い人だし」

 

   保科「…………え?オレが?初めて言われた」

  デュアン「保科は分からんかもしれんが……オレも?」

   仮屋「でも保科ってちょっと変わったよね」

それは能力を前向きに見始めてきた証拠だもんな

 

   海道「あ、それはオレも思ってた」

   保科「そうか?」

   仮屋「やっぱり部活に入ったからかな?雰囲気が柔らかくなった」

   保科「そうかな?」

   椎葉「以前の保科君は、違ったの?」

   海道「性格が大きく変わったわけじゃないけど、話しやすくなったな」

 

そりゃ、寄せ付けないオーラがあったからねぇ・・・

 

   仮屋「あと、表情も明るくなったよね」

   海道「あー、それわかる。前はいっつもつまんなそうな、景気の悪い顔してたもんな」

 

   仮屋「そうそう。なんというか……死んだ魚みたいな?」

   保科「お前等までそれを言うの!?親からも友達からも死んだ魚と思われてたとか……一体オレはどれだけ酷い顔をしてたんだよ!?」

 

  デュアン「……でも、今は"普通"に近づいてるから安心しろ」

   保科「まだ普通じゃないってのか!?……親からも友達からも死んだ魚と思われてたとか一体オレはどれだけヒドイ顔をしてたんだよ!?」

 

  デュアン「保科……どんまい」

   保科「……」

   椎葉「あ、ワタシが初めて会った時には、死んだ魚じゃなかったよ」

 

  デュアン「(フォローになってないよ、椎葉さん……)」

   保科「気遣ってくれてありがとう、椎葉さん。にしても……そんなに変わったかなぁ?」

 

   海道「だってお前、世話焼きじゃなかったじゃんよ」

   仮屋「そだね。椎葉さんに気を回すとか、学生会の事を気にするとか、全然保科らしくない」

 

   保科「それはオカ研に入部したからであって――――」

   仮屋「だからさ、そんな世話焼きの部活を続けられてる時点で変わってる、ってこと」

 

   保科「そういうものだろうか?」

   海道「で?今の相談者は学生会長か?」

   保科「ああ。立候補してくれる人を探してるんだって」

   椎葉「昨日、オカルト研究部に相談しに来たんだよね」

   仮屋「ん?もしかして、椎葉さんもオカ研に入部したの?」

   椎葉「まだ体験入部なんだけど、一応……だから、二人も悩み事があれば、是非相談してね」

 

   仮屋「私はもう解決してもらってるからなぁ……でも、また何かあったら、相談させてもらうよ」

 

   椎葉「はい、いつでもどうぞ」

   海道「なんかハーレムじみてるな、おい」

  デュアン「海道……一つ言っとくぞ」

   保科「周りに女子しか居ない空間って……」

  デュアン「結構居心地が良いもんではないぞ……寧ろ、息苦しいぞ」

   海道「そういうもんか?はたから見てると羨ましいけどな」

  デュアン「……保科が入部してなかったら、オレはオカ研やめてたかもしれん」

オレは、女子しか居ない空間は居心地が悪すぎて、ヤバいもんだ。

 

   保科「マジか……お前が居なくなったら、孤立無援になる……頼むから、やめないでくれ」

 

  デュアン「やめないって……」

    海道「……なんか想像したら、ちょっと怖いな」

    椎葉「仮屋さんは、立候補してくれる人に心当たりない?」

    仮屋「心当たりはないかなぁ、残念ながら」

    海道「同じく。まあ推薦したい相手ならいるけど」

    椎葉「え?誰?」

    海道「そりゃもちろん――――」

 海道・仮屋「「綾地さんとデュアン」」

だろうな・・・って!オレもかよ!」

 

    仮屋「綾地さんなら安心して任せられる。学院をちゃんと引っ張っていってくれそうだしね」

 

    海道「逆にデュアンはカリスマ性の指揮で纏められそうだからな。デュアンと綾地さんは人気もあるから、当選間違いなし。これ以上の逸材はないね」

 

    椎葉「でも昨日、綾地さんとデュアン君が断ってたよ、残念ながら」

 

  デュアン「そんな面倒くさいことしたくないし……オカ研が一番落ち着くよ」

 

   仮屋「そっかぁ……そりゃ残念」

   海道「まあ……部活もあるだろうからな」

  デュアン「(ま、綾地さんは"発情"があるしな……下手すりゃ、全体集会中に壇上で、全学生に見つめながら発情する可能性……これ以上考えてはいけないな……綾地さんの名誉の為にも)」

 

   仮屋「となると他に思いつく人はいないかな。今の学生会の誰かがなるのがいいんじゃないかな?」

 

   海道「お前ら、他にあてがあったりしないのか?」

   保科「お前ら2人の他にいるわけないだろ」

 デュアン「右に同じく」

オレと保科は人脈が壊滅的だからな・・・

 

   海道「そんな悲しいことで威張んなよ」

   保科「………」

 

お、保科が秋田さんのところへ行った・・・・。

話がついたと思ったら・・・落ち込んでる・・・失敗したな。

と思ったら、綾地さんに呼ばれてる・・・。

 

 

   保科「デュアン。お昼休みに作戦立てるぞ」

  デュアン「了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 



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Ep29 立候補者【前編】

 

~~~~昼休み

 

   綾地「それで、どうでした?」

   保科「オレはダメだった。元々知り合いも少ないから」

 デュアン「オレもだ……」

   因幡「こっちもダメです。やっぱり1年で会長になるほどのやる気のある子はいないです」

 

   椎葉「ワタシは、訊ける人がいないから、学生会の宣伝活動を今朝、見学を兼ねて手伝ってみたよ」

 

ふむ・・・手伝い、か。

 

   保科「あー、それでチラシを持ってたのか」

   綾地「どうでしたか?」

   椎葉「受け取ってくれた相手の反応を見る限り、あんまりいい雰囲気じゃなかったね……やっぱり興味がない人が大半だと思う」

 

   因幡「寧々先輩はどうでした?」

   綾地「芳しくありません。忙しそうと思ってる人が多いみたいで、自分の時間が潰れてしまうのを嫌う人がほとんどでして」

 

    保科「学生会って面倒くさそうだからなぁ」

  デュアン「実際に面倒くさいぞ……」

    保科「あっ察し」

   因幡「となると……ここはイメージアップを図るべきなんでしょうか?」

 

    保科「学生会はそんなに大変じゃないよ、って?」

    椎葉「それはよくないと思う。そういうのって、実際楽じゃないと思うから」

 

  デュアン「椎葉さんの意見に賛成だ……」

    綾地「後で、大変だってわかって、顔をださなくなったりしたら、学生会の機能が麻痺してしまいますからね」

 

    保科「……ところで何してるの?」

    因幡「何って……髪飾りで、椎葉先輩に可愛らしくなってもらおうと思いまして」

 

    椎葉「……ダメかな?」

   デュアン「いや、ダメとは言ってないが……大丈夫なのか?」

    保科「似合ってるとは思うが……大丈夫なのか?」

    椎葉「えへへ……心配してくれてありがと。でもまだ大丈夫」

    因幡「バレッタは大丈夫ですか?」

    椎葉「う、うん。まだ平気だよ」

    因幡「じゃあ、次はシュシュで髪をくくってみましょうか」

2人は「椎葉さんを女の子にしましょう」計画をやっているため・・・

 

    保科「それはともかく、何か案を考えないとな」

   デュアン「案か……ふむぅ」

オレは、腕を組み考えることにする・・・。

 

    因幡「じゃあ、学生会は仕事が大変かもしれないけど、入るとこんなメリットがありますよ!っていうアピールはどうでしょう?……例えば、そうですね……『私は会長になったおかげで恋人ができました!』とか」

 

   デュアン「うわ……胡散臭すぎて誰も入らなさそう……」

     保科「同感だ……それに、学生会の機能の事を考えると……やっぱり、メリットで釣るようなことはしない方がいいんじゃないかな?」

 

   デュアン「保科の言う通りだな」

損得感情で動いたら、碌な目に遭わないことは転生してから未来永劫輪廻転生になっても変わらないよな。あと、女心も分からんな・・・

 

     綾地「理想を言えば、保科君の言う通りですね。ダメだったからやり直せばいい、ということはできませんから」

 

こんな時に、時間操作の魔法を使えたら良いんだけどなあ・・・。無いもの強請りをしてもしょうがない・・・。人生は一度しか無いんだ。

ま、その人生もオレには何の意味も持たない。

 

    因幡「そりゃまあそうなんですけど……」

    椎葉「となると…………」

    因幡「……う~~ん、やっぱり突然『会長になって』って言われても難しいですよね」

 

    綾地「考える時間を取るために、選挙の告知期間をもう少し取る、ぐらいでしょうか?」

    椎葉「あと、認知度を上げるために、もっと精力的な宣伝もした方がいいかもしれないね」

 

   デュアン「……」

     保科「………」

保科は席を立ち、部屋から出ようとする・・・

 

    因幡「センパイ、どこか行くんですか?」

    保科「ちょっとね」

  デュアン「……ほほう?別の方法を見つけたわけか……。アプローチを変えるのは良いが……オレも少し考えるか」

 

オレはそのまま考えることにした・・・。

 

~~~

 

   因幡「あー、やっと帰ってきた。随分と長い野暮用でしたね」

  デュアン「どうせ、保科のことだ……越路さんの説得しようとして、失敗して……先生に見つかったんじゃないのか?」

 

   保科「ははは……よくわかったな、流石はデュアンだ。っと……綾地さん……話があるんだけどいいかな?」

 

   綾地「話……ですか?でも、もうすぐお昼休みも終わりますよ……?」

 

   保科「時間は取らせないから」

   綾地「わかりました。それじゃあ、ひとまず解散ということで」

   因幡「わかりました」

   椎葉「じゃあ、ワタシは先に教室に戻ってるね」

 デュアン「オレも戻るわ」

 

~~~放課後

 

   海道「んーー……やっと終わったぁ」

身体をほぐす海道。

 

 デュアン「お疲れさん」

   仮屋「さて、アルバイトに行くか」

   海道「和奏ちゃんは今日もバイトか。柊史とデュアンは?」

   保科「学生会選挙の手伝いかな」

   海道「ああ、椎葉さんがチラシもらってたやつか」

   仮屋「アタシはバイトで力になれそうになくて悪いけど」

 デュアン「大丈夫だって」

   保科「気にしないでいいって」

   綾地「あの、保科君、デュアン君」

   保科「ああ、うん。わかってる……あれ?椎葉さんは?」

  デュアン「………さあ?」

オレは口を三日月状に吊上げ、そう言う。

 

   綾地「それが、放課後になるとすぐに教室を出たようで」

多分、久島先生の心の欠片を回収しに行ったんだな。

 

   保科「……もう行ったのかな?」

  デュアン「オレたちも行こうか」

   保科「だな」

 

 

 

~~~~~~

 



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Ep30 立候補者【後編】

 

~~~

 

   保科「すみませーん、学生会選挙、よろしくお願いしまーす。ただいま会長に立候補してくれる方、大募集してまーす」

 

保科は、下校する学生にチラシを配り、声をかける。

 

  デュアン「……ふむ」

芳しくない・・・というより、これはもう行き渡っているな。

 

    椎葉「ごめんなさーい、遅れましたーっ!ちょっと個人的な用事がありまして」

 

    戸隠「気にしないでいいよ。今朝も手伝ってもらってるんだから」

    椎葉「でも、もう終わりましたから。すぐに手伝いますね」

    戸隠「うん、ありがとう」

会長からチラシを受け取った椎葉さんが、オレの方に駆け寄ってきた。

 

    椎葉「どんな感じかな?調子は?」

  デュアン「受け取ってくれる人もいなくなってきてた……」

    椎葉「そっかぁ………」

  デュアン「チラシ作戦はもうこの辺で切り上げたほうが良いと思う……宣伝効果で、みんなには伝わってるから……前向きにとらえることもできるけど――――」

 

    椎葉「とはいえ、実際に候補者が立ってくれないことには、意味がないよね」

 

   デュアン「ああ。地道な広報活動も、この辺が限界だな」

    椎葉「何か他の方法を考えないといけないね」

   デュアン「まあ……その辺は保科が上手いことやってくれるよ」

    椎葉「保科君が?」

   デュアン「ああ……技量はアイツ次第だけどな」

    

~~~~

太陽が沈み、夕日が出始めた・・・

 

    戸隠「んー……みんなの反応が鈍いね。もうチラシの効果もなさそう。チラシをピンク色にしたら、みんなもっと真剣にみてくれないかな?特に男の子とか」

 

   デュアン「頭の中がピンク一色の会長の話は置いといて……チラシはこれ以上やっても効果は無いと思いますよ」

    保科「戸隠先輩……疲れてるんですか?」

    戸隠「ゴメンゴメン。でも冗談じゃなく……確かにチラシはこれぐらいにしておこっか」

 

    椎葉「いいんですか?」

  デュアン「良いも悪いも……これ以上は無意味。だいたいは伝わってるから……そこだけは収穫かな」

 

あんまりしつこいと、返って逆効果だと思う。

 

    戸隠「そうだね……。それに引退する身とはいえ、まだ会長だからね。しなきゃいけないお仕事もあるんだよ。だから遠慮してるわけじゃないんだよ」

 

    綾地「それじゃあ戸隠先輩」

    戸隠「後は、宣伝効果があるかどうか様子を見ながら、わたしの方で何とかするよ」

 

    因幡「ちなみに越路さんって方以外に、いい人はいるんですか?」

 

    戸隠「そうだねぇ……もう一人の副会長はサポートの方が向いているだろうから、説得するなら書記の子かな……。とにかく、そこら辺はわたしの仕事だから、まーかせて」

 

    綾地「……わかりました。ですが、引き続き手伝えることがあれば、何でも言って下さい」

 

    戸隠「ありがとう綾地さん」

    綾地「お力になれず申し訳ありません」

    戸隠「そんなことないよー。みんなが手伝ってくれたから宣伝しつつ、他の学生会メンバーには通常業務をしてもらうことができたんだもん」

 

    綾地「他にも何かあれば、いつでも言って下さい。お手伝いさせていただきますので」

 

    戸隠「うん、ありがとう。何か手が足りないことがあったら、お言葉に甘えて頼らせてもらうからね。それじゃ、今日はもう解散ということで」

 

    因幡「根本的な解決方法を考えないとダメかも」

    椎葉「でもその結果が、お昼の行き詰まりなんだよね」

    因幡「ですねー……はぁ……」

    保科「とにかく移動しない?ココで話してても仕方ないし」

    綾地「今日はもう解散しましょうか、日も暮れちゃいますからね」

 

   デュアン「……あぁああ!!!タイムセール!!!」

やべぇ、すっかり忘れてた・・・

 

    保科「お前は主夫だな……」

   デュアン「倹約家と行ってもらおうか……」

 

    因幡「寧々先輩、一緒に帰りませんか?」

    綾地「ごめんなさい。今日は用事がありまして……一緒には帰れません」

 

    因幡「そうなんですか……残念。椎葉先輩は?何か用事ありますか?」

 

    椎葉「ワタシ?ううん、別に。家に帰るだけだけど……ワタシでいいの?」

    因幡「もちろんです。迷惑でないなら、よろしくお願いします」

    椎葉「そんな、こちらこそよろしくお願いします」

    因幡「やった!」

    椎葉「えへへ」

    因幡「あ、保科センパイとデュアン先輩はどうします?」

    保科「誘ってくれるのは嬉しいけど、ゴメン。オレもちょっと用事があって」

 

  デュアン「オレもだ……すまない」

綾地さんには説明しとかないとマズイかもしれないな・・・。

 

    保科「それで、綾地さんの用事って久島先生の?」

    綾地「はい。どこかに呼び出して、そこで」

 

    保科「じゃあオレが連れてくるよ」

    綾地「先生は職員室でしょうか?」

    保科「多分そうだと思うけど」

 

~~~~

 

    保科「先生、結構忙しそうだね」

    綾地「ですね。及び伊達するのはちょっと申し訳ないですね」

    保科「撃って、欠片を回収したら、しばらくは意識を失っちゃうしね。とすると、どうしよう?もうちょっとタイミングを探す?」

 

    綾地「ですが……時間を空け過ぎると回収ができなくなりますから」

 

    保科「あー、心も自然に回復しちゃうからね」

    綾地「あれだけ反応が弱い欠片ですと、特に」

    保科「じゃあもう回収できない……なんて可能性も?」

    綾地「いえ、さすがにそれは。お昼に見た反応から考えると2、3日は残っていると思います」

 

    保科「けどそれも、時間を置けば置くほど、回収できる量が少なくなるんだよね?」

 

    綾地「そうですね。といっても、数時間程度ではそれほど変わりません。ですから今も――――え?」

 

   デュアン「………」

    保科「……どうしたの?」

    綾地「いえ……その……反応が、ないんです」

    保科「っ……欠片が?」

    綾地「はい……今まで経験ですと、お昼と同じぐらいの光が宿るはずなのに……変ですね」

 

    保科「………個人差があることは?」

    綾地「心の問題ですから、確かに個人差はありますが………うーん………」

 

   デュアン「新しい魔女が現れて、回収した可能性を考えてるなら……それは正解だぞ」

 

    綾地「知っていたのですか!?」

   デュアン「ああ、それが誰だと言うことももう既に分かっている……」

 

    保科「デュアン……お前を敵に回らなくて、本当によかったと思ってるよ」

 

   デュアン「……オレもだよ、保科」

 

 

 

~~~~~



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Ep31 百合な越路 ☆

 

―――――次の日。

 

~~~~~

 

   久島「だからこの文は、4行前にかかれてある箇所の言い換えとなっているわけだ。そこさえ気付けば、後はもう簡単でしょう?」

 

  女子学生C「……」

  男子学生B「……えーっと

 

授業が終わった・・・・。

 

 

  デュアン「?」

今、妙な違和感を感じた・・・。なんというか魔力に近しいモノ。

でも、一瞬だったし気の所為・・・だろうか?

綾地さんでも椎葉さんでもない第三者の・・・考えても仕方ない。

 

~~~

 

  相談者A「あの、すみません。ここで相談に乗ってくれると聞いたんですが……」

 

   綾地「はい。大丈夫ですよ、どうぞ入って下さい」

  相談者A「ありがとうございます。失礼します」

   綾地「それで、今日はどんな相談ですか?」

  相談者A「それは……あの……」

 

俺ら男子には言えない事情か・・・

 

  デュアン「ああ……分かった、行くぞ。保科」

    保科「ん?分かった。オレとデュアンでジュース買ってくるわ」

 

と言い、部屋を出る。

 

 

~~~~

 

   保科「なあ、デュアン。椎葉さんが魔女だって確信してるんだろ?なんで綾地さんに内緒なんだよ」

 

  デュアン「別に話しても良いけどさ……居心地が悪くなるのは嫌なんだよ……」

 

   保科「そうなのか……?」

  デュアン「ま……保科のおかげでもあるよ。椎葉さんが魔女だということに確信が持てたのは」

 

   保科「どういうこと?」

  デュアン「お前のその五感。椎葉さんが服装の事情ことでなにか誤魔化してた……って感じてただろ?顔に出てたぞ」

 

   保科「そうか……だから、あの違和感だったのか」

  デュアン「んで……これからどうする?この事を綾地さんに言うか?それとも、正体をバレるまで言わないか……もし、綾地さんにこの事を話すのなら、オレが推理したことはバラすな。保科の五感の違和感で分かったぐらいで言え」

 

   保科「お前の手柄じゃなくなるぞ?」

  デュアン「オレは手柄欲しさで、言ってるわけじゃない……うげっ、会長だ……オレは先に戻るわ」

 

 

オレは、携帯電話で綾地さんに「先に帰る」と伝え、手ぶらで帰ることにした。

 

   保科「あっ―――おい!」

保科の声がするが・・・オレは気にせず逃げる。

 

~~~~

 

   デュアン「相馬さん……今日はお願いしますね」

     相馬「そういえば今日だったね……さて、この服を着てもらおうか」

   デュアン「了解した……」

 

1時間後ぐらいに、誰かが来た・・・

 

   デュアン「いらっしゃいませ」

 

     越路「あの、ここで待ち合わせしてるんですけど」

     保科「越路さん」

保科が軽く手を上げて、店の中を見回す越路さんに声をかける

 

     越路「オレンジジュースをください」

   デュアン「畏まりました……お客様」

オレは店の奥へ行き、オレンジジュースを作る。

 

     保科「店員が可愛いなあ……あれ誰だろう?」

保科は気づいていないな・・・オレの正体を。

まあ、カラーコンタクトで水色にして、髪をパーマをかけて、もこもこの姫ヘアーにすりゃ、誰もオレだとバレないよな。後は、喉のツボを押して、フィジカルボイスチェンジをする。まあ、この方法は暫くは大きな声が出せないのが難点だけど・・・やれば、完全な女性声を出せる。

 

・・・え?何で、ミュウの姿になって接客をしないか?だって?

決まっている・・・相馬さんのところでバイトする時の決まりごとだ。社会のルールって厳しいね。まったく

相馬さん曰く「面白そう。客層が増えるかも」と。

 

 

     保科「あれ?キミ……どっかで見覚えがあるんだけど、気のせいかな?」

 

     越路「そうかな?」

保科め・・・オレの観察眼を磨きをかけたな。心まで読めるようになったら、質が悪いぞ。

 

でも母親と同じ能力になるまで・・・まだまだ経験値が足らないな。

 

  デュアン「あははっ……お客様ったら冗談が上手いんだから……それでは、ごゆっくりどうぞ」

と、営業スマイルを駆使し、厨房へ戻った。

 

 

     越路「それにしても……よくこんなお洒落なお店、知ってたね」

 

オレは、コップを拭きながら・・・食パンをトースターで焼く。

コップを拭き終わったら、戸棚に置いてから「レタス」「トマト」「ベーコン」「からしマヨネーズ」「オリーブオイル」「味噌」を机に出し・・・

 

レタスは35度ぐらいに温湯に数秒浸け、水気を切る。トマトはヘタを取り、3等分に切る。ベーコンをカリカリまで焼き、キッチンペーパー油分を拭き取り、オリーブオイルを軽く塗る。

メインのからしマヨネーズに小さじ一杯分の味噌を加えて、混ぜる。

 

食パンがトーストになったら、レタスの上に軽くマヨネーズを塗り、トマトを両端と真ん中に乗せ、ベーコンを右から順に乗せ、最後にトーストを乗せ、斜めに切る。これで、トーストに出来上がり。

後は、ポテトチップを軽く乗せ、パセリを乗せる。

 

   デュアン「相馬さん、これを保科達に」

    相馬「美味そうなサンドイッチじゃないか」

   デュアン「まあ……とある探偵のサンドイッチの物真似ですけどね……相馬さんの分も作ってあります。後で賄いで食べちゃって下さい……」

 

    相馬「あい、分かった……」

   デュアン「お客さんも来てないし……保科達の話を聞いてみます」

    相馬「いいのか?勝手に聞いて」

   デュアン「これも部活の一環です。まあ、今の姿ではデュアンだとは誰も思いませんよ」

 

 

    保科「つい最近、オレも教えてもらったんだよ」

軽く挨拶をし、5分ほどした時に、越路さんの注文したオレンジジュースと、保科が注文したサンドイッチを置いた。

 

【挿絵表示】

 

 

   デュアン「では、ごゆっくりどうぞ」

 

    保科「……」

    越路「……軽蔑、するかな?」

何の話だ?

 

    保科「え?軽蔑?オレが?なんで?」

    越路「だってアタシの好きな人って、保科君が言った通り……戸隠、会長だから……」

 

モテモテだなあ・・・会長も。まあ、包容力があって、脂肪の塊をぶら下げてればモテるよな。

 

ミュウの姿で好かれるのは、ロリコンだからだろうか?

 

 

    保科「確かにびっくりはしたけど……オレはそんなことでは軽蔑なんてしない」

 

確かにな・・・好きだった人がたまたま女性だった。越路さんの場合は、女性が好きになったというわけだ。

 

オレは、昔の知り合いで幼女が成人男性を好きになっちゃって、結婚したという実例もあるからな。オレはその幼女の行動の速さに引いたが。

 

    越路「そう、なの?」

    保科「あの、こんな質問、アレだとは思うんだけど……ちなみに越路さんって、そっち専門?それともどっちもいけるの?」

 

百合なのか、両手なのか・・・。

 

    越路「専門だと思う。今までは、ずっとそうだから……にしても、本当にアッサリしてるね、保科君」

なるほど・・・

 

   保科「共感できるとは言えなくはないけど……そういう人もいるな、って……オレは悪いとは思わないけど」

 

   越路「そう言い切れる人って結構少ないと思う」

   保科「そうか?デュアンだったら"好きを好きで何が悪いんだ?たまたま好きな人が女性だっただけじゃないか。他人からとやかく言われる必要性無い"って言うだろうな」

 

まあ、恋愛は人それぞれだからなあ・・・・

 

   越路「あんたもデュアンも変わってるよ」

   保科「そうかな?……それは今まで、他人との関わりが薄かったからもしれない……だから、そういうことに、特別な偏見を持ってはいないのかも」

 

   越路「少なくても、アタシの周りにはいなかったよ。気持ち悪いって思ってる人の方が多かった」

 

   保科「何だそりゃ……好きになったものはしょうがないじゃないか?何で他人の意見を訊かなきゃならんのだ」

 

格好いいな保科、流石は保科。

 

 

  越路「アタシさ、わりと昔から男の子より女の子の方に興味があったんだけどね……ハッキリと自覚したのは、小学5年生の頃かな……同じクラスの、仲の良かった子でね……スキンシップも多くて、多分初恋だった。でもアタシは……この頃はまだ、自分が特殊だってことに気付けてなかったんだ」

 

越路さんは、苦しそうに話す。

 

  保科「それじゃあ、もしかして」

  越路「うん。告白してみた」

  保科「……そ、それで?」

  越路「『好き』って言ったら『わたしも好き』だってさ」

  保科「けどそれは……」

  越路「うん、そう。それはあくまで友達として。それに気づかず調子に乗ってキスまでしちゃってさ」

 

人生の大恥だなあ。オレは大恥の化身だからなあ・・・・

 

  越路「さすがにキスまでは受け入れてもらえなかった。で、翌日には女子がアタシを遠巻きに見始めた。勿論変な雰囲気でね。なんかこう、妙に他人行儀になっちゃってさ、その後は女子と遊びに行くことは、一度もなくなっちゃったわけ。流石にその状況がキツくてさ……アタシは知らない子しかいないところに進学したわけ。進学先では、ちゃんと男の子を好きになろうと努力もしたんだよ」

 

大きすぎる傷だな・・・。保科よ。解決できんのか?

 

  保科「けど、やっぱり女の子の方が好きだった、と……なるほど」

  越路「うん。だからさっきの専門だと思うって言ったのは、もう試してみたことなんだよね」

 

ふむぅ・・・・

 

  保科「そっか」

  越路「この趣味はずっと隠して、誰にも心を動かさないようにしてきた。実際、この学院に入るまではそれをやってこれたんだ。けどあの人に、会長に出会っちゃった。そしたら気持ちを抑えきれなくなっちゃってさ」

 

流石は会長。魔性の女。人を魅了するサキュバスの様な人だ・・・

それにしても、保科の周りの人間って隠し事多くないか?

綾地さん、オレ、椎葉さん、越路さん。

 

  保科「で、1年の頃から学生会に入ったのか」

俗物な理由だな・・・嫌いじゃないが。

好きな人の為に学生会を入るのは・・・シンパシーを感じるからかな?

決して、綾地さんをLoveになった訳じゃない。寧ろ、オレは綾地さんを援助する形だろう。

友達が困ってるんだ、助けるのが友達だろう。

 

  越路「その節は仕事を代わってもらったりして、お世話になりました」

 

  保科「恩を感じてくれるなら、会長に立候補して借りを返して欲しいな」

 

  越路「それとこれとは話が別」

  保科「……頑なだなぁ」

  越路「だってさ……2年間一緒に学生会で過ごして、思い出とか色々作っちゃったんだよ?」

 

  越路「そんな空間にいたら、思い出しちゃって忘れられないじゃん。報われない恋なのに、忘れられないって、辛いでしょ」

 

  保科「なるほどね……だから、学生会自体から身を引こうとしてるのか」

 

  越路「なーんで好きになっちゃったかなぁ」

  保科「人を好きになるのに理由なんて要らないだろ……一目惚れに理由なんて要らないだろ……その人を本気で好きになったのなら好きで居続ければいいじゃないか……"好きなっていいのは、フラれる覚悟のあるヤツだけだ。フラれる覚悟も無いやつに告白しないのは逃げだ"ってね」

 

  越路「かーっ、くっさー!アタシはそういうのいいわー!!」

  保科「今のセリフ……デュアンだからな!デュアンが言ってたからな!!でもまあ……くさいセリフだよな」

 

余計なお世話だ。そう・・・好きで居るのなら告白をするべきだ。

フラれるのが嫌なら、悩まなければ良い。

全員が全員、同じ考えができるわけじゃないことは知っている。

 

  越路「でもまあ、その通りかもね。頭では抑えなきゃって思っても……心は反応しちゃってさ」

 

あるあるだな。でも、オレの場合は抑えきれなくなって爆発するタイプだな。そんなヤツが恋愛なんて出来るわけがない。オレを怒らせるのは盾の勇者世界線に居た女神やビッチもといヴィッチぐらいの性格の歪んだやつぐらいだろう。でも、性格がマイナスに歪んでいる球磨川先輩にキレた事は一度もないんだよな・・・寧ろ、尊敬に値するよ。っと話が脱線してしまったな。

 

まあ、予は当たって砕けろ。だな。

 

オレから誰かに告白したことが無いんだよなあ・・・。大抵、告白される側。なんだろう・・・神様がそういうのを転生特典に組み込んでるような気がしてならない。

 

だって、登場人物のキャラの一人から選ばれる・・・て。

う~ん・・・これは帰ったら問い詰めよう

 

    保科「人の事言えないぐらい、越路さんもクサいよ」

    越路「はは、保科君やデュアン君に影響されたのかもね」

保科はいいが、オレに影響されるのは精神などの衛生上問題があるぞ。

オレなんて歩く災害、神殺しなんて呼ばれてるんだ。オレを参考にしたらロクな人生を歩まない。絶対に。確実にな。

 

    保科「告白は?もう小学校の頃とは違うんだから、昔みたいなことにはならないと思うよ?」

 

    越路「そうだとしても、会長を困らせるだけだよ。あとアタシも傷つくだけだしさ……だったら、何も言わずに自分で諦める方が、傷は浅いでしょ?」

 

    保科「越路さんはそれで良いのか?」

    越路「……え?」

    保科「デュアンが……"昔、オレが"好きだった"女性が言っていた言葉があった"って……『ぶつからなきゃ分からないことだってあるんだよ』ってね」

 

ソードアート・オンラインの世界線。ユウキの言葉だ。SAO世界で2年・・・いや幼馴染だから10年近く付き合ってきた。相棒であり、親友であり・・・恋人。

 

だが、オレはアリシゼーション編で・・・原作の茅場と同じ様に電子ネットワークに意識をコピーして、脳のフルスキャニングを行って死んだ。

 

愛する恋人を捨て、次の世界では恋人・・・本当にロクでなしだよ、オレは。

 

    越路「…………」

    保科「だが、越路さんはそれで良いのか?学生会を辞めたところでやっぱり忘れられないんじゃないのか?」

 

    越路「……ちぇっ、痛い所をつくなー」

まあ、保科に隠し事は基本無理だと思え。

ウソと本当のごちゃ混ぜ・・・球磨川先輩みたいな人間になれば、保科を騙すことが出来る。

 

    越路「これが一番いいんだって。告白するのも、フラれるのも、アタシだし……言ったらもうお終い、可能性なんて無いんだからさ」

 

    保科「…………」

    越路「てなわけで、アタシの話はこれで終わり」

越路さんはテーブルの上にオレンジジュースの代金を置いて、席から立ち上がる。

それでいいのか・・・本当に。

 

    越路「このことは他言無用だからね?」

    保科「オレは……それでもちゃんと、口にして想いをぶつけたほうが良いと思う」

 

    越路「は?なんでさ?」

    保科「だって、抑えきれないぐらい、苦しくなるぐらい好きなんでしょ?伝えないで好きを引きずっていると……後悔する。それに、見ていれば分かるからさ」

 

そうだ、伝えないで想いを引きずれば・・・心に大ダメージを負う。

例を上げるなら、やっと親孝行できると思ったら両親が死んでしまった。と・・・

 

    越路「……しつこいなー。なんか、本当に変わったね。そんなウザい熱血じゃなかったはずだよ、保科君」

 

    保科「はははっ……それはきっと綾地さんやデュアンが居るオカ研のおかげだと思う。オレ……2人には感謝してるんだ……いや、数少ないオレの親友で、オレを変えてくれたからな」

 

保科・・・。そうだな、親友って思ってくれてるなら・・・苗字読みも失礼か。改めて言わせてもらうか・・・。

「ありがとう、柊史」。

 

    保科「ゴホンッ……とにかく、好きだって想いを否定するって……自分自身を否定するすることになるから。そういうの……放っといたら絶対に後悔する」

 

    越路「……」

    保科「諦めることが普通になると、自分にとって大切な物まで、捨ててしまうことしか選べなくなると思う。だからそうなる前に、たまには自分のことを大事にしてやりなよ」

 

柊史。それ、他の人が聞いてたら絶対にこういうぞ「お前が言うな」って。本人の経験談だから重みがあるからなあ。

 

    越路「保科君……かーっ、青くっさ!熱血とか、マジでウザい、実はちょっと引いてる」

 

そうか?オレはこれが、本来の柊史だと思うぜ

 

    保科「……」

    越路「で?青臭い保科君の意見としては、アタシに告白しろと?」

 

    保科「なにかしら、ちゃんとしたケリをつけた方がいいんじゃないかって思う。じゃないと後悔して大きな傷になる……大きな傷というより穴が開くな、オレみたいに

 

保科は最後の言葉は越路さんには届いていないだろう。

 

    越路「だからクサいっての……、……あぁ……もう、本当にそういう事言わないでくれない?もう決めたつもりだったのに……揺らいじゃうから」

 

    保科「その決心を揺るがすために言ってるから」

    越路「……はぁぁ……もう、面倒なことになったなぁ」

ため息を吐く越路さん。

 

  デュアン「お客様、オレンジジュースのお代わりは要りますでしょうか?」

 

   越路「すみません……ください」

オレは越路さんが飲んでいたグラスにオレンジジュースを注いだ。

そして・・・

 

  デュアン「ではごゆっくりどうぞ」

 

 

オレはそのまま奥へと入る。

 

~~~~

 

   相馬「ありがとうございました」

  デュアン「またのご来店をお待ちしてます」

   保科「…………」

  デュアン「はぁ~……疲れた」

   保科「?」

  デュアン「全く……気づかないなんてバカだろ」

オレはウィッグを取り、ルルーシュ式の高速のコンタクト切り替えを行った。

 

   保科「っげ?!デュアン……!?」

  デュアン「んっごほん」

フィジカルボイスチェンジをOFFにして・・・

 

  デュアン「90点だったぜ、柊史」

   保科「……お前のおかげだよ」

   相馬「随分と難しい依頼を受けたものだね、保科君」

  デュアン「そうかぁ?オレはそうは思わんな……好きを隠すことに何の意味があるんだ?」

 

   保科「どういうことだ?デュアン」

  デュアン「まあ、オレからすれば女と女の結婚もアリなんじゃないか?ってね。単なる生産性に過ぎないからな」

 

   相馬「それは……う~ん……」

  デュアン「本当に好きというのはそういうのを含めて覚悟を背負うことだ……」

 

   相馬「告白なんて、絶対に成功するわけじゃない……まして、同性ともなると……」

  デュアン「この世に"絶対"という言葉は無ェンだよ……0.1%でも残ってれば……希望はあるだろ?」

 

   保科「告白が成功しないのは、越路さんも……いやデュアンすら分かってる」

 

  デュアン「まあな……でも、想いは伝わるはずだ。断られることが失敗に直結するとは思わんしな」

  

   保科「だな」

   相馬「ダメと思いつつも言うのか?ふーむ……正直、私には理解不能で、実に興味深い行動だ」

 

  デュアン「それが人間という本性なのさ……誰を好きになろうと、ね……アルプが人間と結婚するようなものだ」

 

   相馬「うむぅ……それを言われると反論ができない」

   保科「でも……非効率的だなぁ」

  デュアン「そりゃ子供が生まれなければ非効率かもしれんが……それは所詮、付いているか付いていないかの差……些細なことさ」

 

   保科「性別の壁が些細なことっていったぞ!」

  デュアン「ああ……それと、保科。オレがこの格好のことは、クラスの皆には言うなよ?勿論仮屋さんにも」

 

   保科「わ、分かった」

 

~~~~



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Ep32 ついに現れる魔女

 

 

~~~~~

 

―――――最近、幼い頃の夢を見る・・・

 

  

綾地さんが相馬さんと契約を結ぶところだ。

 

 

綾地さんが時間遡行を望むのだから・・・・オレは綾地さんの為に――――――

 

 

オレは、中学2年になる頃には、姫松市全域にある全ての心の欠片を徴収することにした。学校がある日は放課後から夜中まで、土日や祝日、学校がない日は24時間フルで・・・中学校を卒業する前には木月さんと知り合った・・・。多分、椎葉さんとも出会ってると思う。

 

アカギは木月さんの契約中に椎葉さんと契約をしたんだっけ?

 

――――――そこで目が覚める。

 

  デュアン「……っ……怠いな……」

オレは別途の近くに収納スペースがあり、そこから体温計を取り出す。

40秒もしないうちにピピピとアラーム音が鳴り、体温を見ると

――――37.6℃。と表記されていた。咳は無い。けど喉は痛い。目眩は・・・今のところなし。なら学校に行けるな。よし

 

着替えて、マフラーを被って・・・黒いジャンバーを羽織って、フードを被り・・・家を出る。

 

 

~~~~~

 

  デュアン「すまない……綾地さん、ちょっと放課後休むわ」

    綾地「え……えぇ構いませんけど……どうしたんですか?」

  デュアン「ちょっと風邪っぽくて……37.6で、喉の痛みがあるんだ……」

 

    椎葉「37.6!?その熱で放課後まで授業を受けてたの!?」

    因幡「デュアン先輩……無茶はダメですよ」

    綾地「分かりました。では、デュアン君……また」

  デュアン「ああ……また」

 

 

~~~~

 

  デュアン「ゴホゴホ……うぅー……やべぇ、上がったかも」

触診でだいたい38度はあるだろう・・・。

薬局で「リポビタンDX」「冷えピタ」「ユンケル」「チオビタ」「カロナール」などを購入して2万円も使っちゃったよ。ドゥヒン☆

 

  デュアン「……ん?あれは……保科と会長と越路さん?」

薬局の帰りに、会長と越路さんと柊史が相馬さんが経営している「schwarz・katze(シュバルツカッツェ)」に入っていった・・・

 

好奇心に取り憑かれたオレは・・・そのまま入っていった。

 

オレは普通にジャンボロイヤルミルクティーを頼んだ。

生クリーム+シナモン+オレンジピールをトッピングをした。

 

   デュアン「ついでに蜂蜜レモンティーのホット一つ」

     相馬「何だ……風邪でも引いたのか?」

   デュアン「えぇ……まあ大した熱じゃないから」

     相馬「話を聞きに来たんだろう?ほら……此処なら聞けるぞ」

   デュアン「助かります」

 

すると、声が聞こえる・・・

 

     戸隠「改まって言うから、お姉さん緊張しちゃったよぉ~」

     保科「すみません、こんなことに付き合ってもらって」

     戸隠「いいよいいよ、私も甘いものは好きだからね。こんなお願いなら大歓迎。それじゃあ、いただきます」

 

会長はそう言うと、スプーンでパフェを掬うとそのまま口に頬張った。

会長が食べてるのは、いちごのパフェ。

 

     戸隠「あむ……んー、美味しい~」

そりゃそうだろう。それはオレが苺のシロップから生クリーム、ケーキ生地を一から作ったパフェだ。

 

     保科「男が一人でパフェを頼むのは流石に恥ずかしくて……でもクラスの女子だとほぼ毎日顔を合わせますから……気まずくて」

 

それは建前だろ・・・オレを誘えばよかったじゃねぇか

 

     戸隠「そこで、学年の違うわたしと、クラスの違う越路さんにお願いをしたってことだね?」

 

     保科「はい」

より正確には「越路さんのデートに参加している」が正しいな。会長自身は知らない。

 

     戸隠「でも、越路さんに頼めるのなら、どうしてわたしまで?」

 

ご尤もな意見ありがとう。それは越路さん本人が誘ったからだ。

 

     保科「2人で行動すると、それはそれで違う誤解を生みそうですからね……現にオカルト研究部はハーレム目的で入ったんじゃないか?ってね」

 

     戸隠「そかそか。うん、事情はだいたい察したよ。わたしも保科クンと越路さんのことを勘ぐっちゃったしね」

 

   デュアン「(まただ……微量ながら誰かの魔力を感じる。誰だろう……保科とは別パターン……アルプにしては少なすぎる……もやもやするな……とりあいず、今を集中っと」

    

     保科「ずっと興味があったんですけど、どうしても手を出す勇気がなくて……本当はデュアンを誘いたかったんですが……アイツ体調不良と聞いたし……二人に頼んだんです……本当にすみません」

 

     戸隠「だから気にしないでってば。それにとっても美味しいよ、このパフェ」

 

ふふふふっ・・・いちごはブランド物で10kg10万円もする・・・だが、知り合いの伝でタダ同然にしてもらってる。持つべきは農家の知り合いだな。米も10kg送ってくれるしな

 

     保科「……(そのパフェ、デュアンの自作を相馬さんが手を加えた物……本物のデュアンが作ったパフェはやべぇ……仮屋や綾地さんを虜にした……正真正銘の魅了のパフェだ。オレと海道ですら堕ちかけたんだ)」

 

     戸隠「良いお店を教えてもらっちゃった、ラッキーだよ~」

 

     越路「……会長の素敵な笑顔が見れてラッキー……あぁ、会長……、ハァ、ハァ」

 

駄目だこりゃ。見惚れすぎて、ちょっと変になりかけてるな・・・。

 

     保科「越路さん、越路さん、もっと普通にしたほうが良いって……フランクだよ」

 

    越路「それはわかってるんだけど……会長が魅力すぎて……鼻血出そう」

 

    保科「本当に出したらドン引きされるから気をつけて」

越路さんはハァーハァーと息遣いが荒くなっている・・・

 

    越路「あぁ、会長、素敵です」

    保科「普通に話さなくていいの?」

    越路「勿論話したいけど……いざってなると緊張しちゃって……ハァ、ハァ……」

 

    保科「そりゃ緊張じゃなくて興奮だっ!しっかりしてくれよ……軽く目がイっちゃってるよ、越路さん……」

 

    戸隠「本当に美味!保科クンはこのお店によく来るの?」

    保科「まぁ偶に……デュアンとならよく行くし……試作のレモンタルトケーキなんてものを作ったりするから……1ヶ月に一回は必ず来ますね」

 

    戸隠「そうなの?じゃあ、このお店で食べてて大丈夫なの?」

    保科「今日のバイトのシフトは休みだそうなので、その心配はありません」

 

    越路「そっか。ところで越路さん、チョコレートパフェの方はどんな味?美味しい?」

 

 

~~~~

  

   デュアン「……(本格的に風邪を引いてしまったようだ)ごちそうさま、相馬さん」

 

オレは、お金を置いて店を出る・・・。

 

 

~~~~~次の日

 

  デュアン「……何故、熱が下がらん。38.6度?オレの平熱は34.6だから……高熱じゃん。うぅー……頭がグラグラする」

 

仕方ない、ビボビタと解熱剤を飲んで急場を凌ごう。

 

オレはそのまま学校へ・・・

 

 

~~~~

 

   保科「……疲れた」

  デュアン「なんだ……失恋に財布に攻撃をされてダメージを受けて、疲れ果てたのか?」

 

   保科「大当たり……」

  デュアン「……越路さんの件、半分は聞いた。だから迷惑料を半分払おうか?」

 

   保科「いや……大丈夫だ。そもそもオレ、金はあまり使わないほうだ」

 

  デュアン「それは問題があると思うぞ……お前がそういうならいっか」

 

と、柊史と登校していると・・・・

 

    因幡「あ、センパーイ達、ちゃろー」

古いなあ・・・何年前だ?ちゃろーって・・・。

 

    保科「おはよう、因幡さん」

  デュアン「あー……Привететт(プリヴィエット)、因幡さん」

 

    因幡「なんか眠そうですね、保科センパイ……それに、デュアン先輩はいつものテンションじゃない……どうしたんですか?」

 

    保科「ちょっとね。昨日は色々あって……ふぁぁぁ~」

保科は軽い欠伸を欠く。

 

  デュアン「オレは熱が下がらないどころか熱が上がった……でもまだ授業できる元気はある」

 

    保科「無理すんなよ!ったく……んで、因幡さん。そっちは?オレがいない間に特別なことはあった?」

 

    因幡「いえ、特には。相談してきた女子の悩みを解決させて……あと、紬先輩を女の子っぽく仕上げたりしてましたよ。今回は軽く化粧などをしてみまして……」

 

  デュアン「化粧……か。香水とかも試す価値はあるんじゃない?」

    保科「あー……最近の男子も香水を浸けてるやついるもんな……」

 

  デュアン「最初は手首の方が良い……椎葉さん、髪が長いから……髪にまで付けると、ナンパ野郎が来そうだ」

 

    保科「それは避けたほうが良いね……それで、結果の方は?」

    因幡「リップはいけたんですけど、アイメイクの途中で限界が来ちゃいまして……」

 

ふむ・・・。ということは、椎葉さんに感情抑制または代償緩和を使えば、代償緩和の方は6時間00分までは持つかな?感情抑制は綾地さん用の魔法だから魔力パターン、波長を椎葉さんにすれば、大丈夫かな?

 

    保科「そっか……化粧もか。大変だな……肌のケアとかどうしてるんだろう?」

   

  デュアン「紫外線防止のスキンケア、毎回のように脂っこいもの、お菓子、甘い物を控えれば肌は荒れることはない……あと、ぬるま湯で顔を毎日洗うなどをすれば……肌荒れはしないぞ」

 

    因幡「そうだったんですか!?」

なぜ、知らん。

 

~~~~~~

 

   因幡「そうだ、聞いて下さい、先輩!実はめぐる、今度クラスの女子と一緒にケーキを食べに行く約束をしたんですよ!」

 

  デュアン「ほーぅ」

    保科「おー、それはなにより……良かったじゃん」

   因幡「だから寧々先輩やデュアン先輩、保科センパイには感謝してます。本当にありがとうございました」

 

    保科「大したことはしてないよ。ちゃんと仲良く慣れたのは、因幡さんの努力だろ」

  

  デュアン「そうそう……一歩前進したじゃないか。それは因幡さんの努力の賜物……俺らは背中を少し後押ししただけだ」

 

    保科「なんにしろよかった……ん?」

  デュアン「?」

    保科「いや、張り紙が……」

ん?ああ、学生会の告知か。

 

    因幡「張り紙?あ、本当だ、学生会選挙の公示じゃないですか、いつの間に?」

 

保科が頑張った証だな。今回、オレは何もしてないしできてないからなあ・・・。少し頑張るか。

 

    保科「そりゃ……昨日の放課後になかったんだから、今朝じゃないか?」

 

  デュアン「それにしては、かなり急だな……まぁ、限界ギリギリだったから仕方ないのかな?」

 

    因幡「にしても、やっと立候補してくれる人が出てきたんですね。2-Cの越路美穂さんか……」

 

  デュアン「2-C……か(井上がいたな……中学の頃、"高校で絶対に彼女作るぞ"宣言してたけど……彼女出来たのかな?)」

 

    保科「どうした?」

  デュアン「んいや、なんでも無い」

    保科「ん?因幡さん……今、"越路さん"って言わなかった?」

    因幡「言いましたよ。越路さんって確か会長さんが推してた人ですよね?説得に成功したんですかね?」

 

説得に成功したのは、柊史だけどな・・・

 

    保科「いや……多分、説得じゃないと思う」

  デュアン「そうだな……自分の意志で決断したんだ。良いことだと思うぞ」

 

他人に流される人間は損をする。

 

 

~~~~~夕方

 

  デュアン「さてと……オレに相談なしに2人で魔女を引っ捕らえるなんて……」

 

    綾地「す、すみません……」

    保科「でもこのまま放っておくことは出来ないだろ……欠片の奪い合いなんて……今後の仲が亀裂を生じるかもしれないんだぞ」

 

  デュアン「はぁー……オレはそうは言っていない……ったく」

俺はそう言い、3人で越路さんの様子を見る。

 

    保科「ありがとな……デュアン」

  デュアン「柊史や綾地さんが他人の為に此処まで手を尽くしてるんだ……それを手伝うのが友達だろ」

    

 

    越路「これでお知らせの張替えは終わりかな。んーーー……よし、戻ろ」

 

越路さんは、学生会室へと戻ろうとする・・・

 

    綾地「……来ませんね」

  デュアン「……(うぅ……オレの近くに2人の魔力が邪魔して……魔力サーチが出来ない……困ったぞ)」

 

前世でも今世でも魔力操作は苦手だ。そもそも、オレは魔法という概念を苦手としている。オレが辛うじて使えてるのは「複写魔眼(アルファスティグマ)」や完全記憶能力、瞬間記憶能力などのサポートあってだ・・・。

 

    保科「来ないねぇ……」

    綾地「やっぱり、気付いていないんじゃないですか?若しくは、そもそもわたしの考え過ぎということもありますから」

 

    保科「いや、それは無いよ……デュアンから事前に誰か、というのも聞いているし……な」

 

    綾地「えぇえ!?」

 

    保科「それにしても遅いな……読み間違えたか?」

  デュアン「……30分も後をつけるなんて……ストーカーみたいでオレは嫌だぞ……」

  

    保科「そうだな……うん、分かった。長引かせてゴメン、綾地さん、デュアン。もう回収しよう」

 

    綾地「いいんですか?わたしは別に、後日改めてでも構いませんよ?」

 

    保科「いや、今の方がいいよ。欠片も結構大きいんだよね?もし不用意に長引かせて、予想外のアクシデントが起きたら困る……回収のこともそうだけど、越路さんの心にとってもそれはよくないことなんでしょ?だから、今のうちに」

 

  デュアン「良いことを言うじゃねぇか保科」

    綾地「……そうですね。分かりました、それじゃあ」

綾地さんは魔女コスチュームへと変化した。オレは、認識阻害の魔法を使う。

 

    綾地「やっぱり慣れません。誰かに見られながらこの格好になるのは」

 

  デュアン「だったら上を羽織れよ……」

オレはクリエイト・アイテムの魔法で綾地さんに服を作った。

この魔法、何でも生成できるのは良いが・・・生成した物によっては魔力を大きく持っていかれる。しかも、今オレは体調不良状態、ヘタに魔力の連発は出来ない。と言うか、もう既に身体が重いよ。

 

    保科「ゴメン……でも、見ちゃいかんというのはわかっているんだけど……男の(さが)というかなんというかチラチラと見てしまうんだよ」

 

  デュアン「まあ……しょうがないな」

オレも男だ。初めて見たときは見とれていた・・・とはいえない。

 

    越路「さてと、戻ったら書類仕事だ」

    綾地「あ、戻っちゃう前に回収して、早く制服に戻ることにします」

 

    保科「う、うん」

  デュアン「……」

 

綾地さんは腕を伸ばして、越路さんに狙いを定める。

格好いいな。

 

    綾地「撃ちます」

軽く息を吸い、口元を引き締める綾地さん。

銃は身体の重心が大切だからな、バランスが1mmでもズレると対象物に当たらないんだよな。オレは、拳銃などは不得意だが、長距離のスナイパーライフル程度なら簡単に当てられる・・・。今はそんなことどうでもいいか。

 

綾地さんが銃爪にかけた指を引いたその時―――――

物陰から、誰かが出てきた。

 

    保科「え―――ッ!?」

射線を人影が遮った。

 

 

    綾地「――――ッ」

綾地さんも気付いたようだが、力を込めた指は止まらない。

そのまま銃爪が絞られて、銃口が光を放射する。

 

   ???「ッ!?」

魔女は驚く。

 

放たれた光弾は、射線に割り込んだ人影に向かって一直線。

その小さな身体に命中する・・・はずだったが、何故か光弾が弾け散った。

 

 

~~~~~~

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep33 和解

~~~~

 

  デュアン「……」

    保科「っ!?!?!?」

  デュアン「柊史、お前は今『何故綾地さんが放った光弾が、砕け散ったか』と考えてるだろ」

 

    保科「あ、あぁ

  デュアン「光弾がハンマーに直撃したからだ……見ろ」

    保科「ガンダムバルバトス……」

いや、確かに似ているが・・・違うぞ、柊史。

 

  デュアン「違う……確かに似ているが」

    保科「冗談だって……」

まさか、柊史が「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」を見ていたとは・・・。

 

    綾地「まさか、本当に……」

予想は的中した。やはり椎葉さんの魔女コスチュームの服は女性者の可愛い服だ。

 

    保科「魔女……でいいんだよね?」

    綾地「おそらく……で、でも、そんな、アレが魔女だなんて……?」

 

そりゃ綾地さんにとってはショックだわな。綾地さんとは違って、彼女は普通の魔女衣装(コスチューム)なんだもの。

 

    綾地「そんな普通に可愛い服だなんて卑怯ですっ。私なんてこんな恥ずかしい格好なのにぃ理不尽です~」

 

そりゃ、契約の内容がアレだからだ。マイルドな願いだったら普通の魔女衣装だったかもな。

 

     保科「そんなこと言ってる場合ッ!?」

柊史と綾地さん、オレと、見知らぬ魔女は対峙する。

と言っても、オレは様子を見てるだけだが・・・

 

間違いなく、椎葉さんだ。

 

既に越路さんは階段を降りてしまっており、廊下にはオレたち4人のみ。

 

    ???「………」

     保科「……」

オレは、少し 柊史の様子を見た瞬間、椎葉さんの方が先に動いた

 

    ???「ッ!?」

     保科「あっ!逃げた!?ま、待って!」

   デュアン「お、おい……柊史!」

柊史は、椎葉さんの後を追い、走る。

 

     綾地「ほ、保科君、危険ですっ」

     保科「けど、このまま放置もできないよ!それに……話し合えるはずっ!」

 

     綾地「……はず?」

     

走ること、数分。

 

     保科「くっ、結構速いな」

   デュアン「そりゃ、華奢な身体付きで背が小さいなら速いもんだよ……」

 

     保科「あんなヒラヒラした服装で、マントまで身に着けているのに……なんか意地になってでも捕まえてやる!ってか、お前も追いついてる時点で十分おかしいからな!」

 

解せぬ。普通だろ!とツッコミしたくなる。

柊史は階段を駆け下りた。

 

    ???「え!?わ、ちょっと―――!?」

     保科「うわっ!?」

   デュアン「危ない!!」

オレは全力で2人に追いつくために、壁を蹴って走り二人の前に追いつき、転ぶ瞬間に2人を抱え、オレが下敷きになるように落ちる。2人はオレをクッションになるため、怪我はしないだろう。と思ったその瞬間、二人分の重さがオレの右肩が嫌な音を立てた。

 

   デュアン「ッ!?」

す、すげぇ痛い・・・もしかして、はずしちゃった?

 

    ???「ぅう……いった、くない?」

     保科「本当だ」

   デュアン「二人共どいてくれ……頼むからどいてくれ」

2人はオレに抱かれたまま動かない。2人が動いてくれないと、オレが起き上がれない。

 

     保科「わ、悪ぃ」

    ???「だ、大丈夫?」

   デュアン「それは、こちらのセリフだ……二人共、怪我は無いか?」

 

     綾地「デュアンさんは大丈夫なのですか?落ちた時にすごい音……いえ、それ以前に何で落下した2人よりも早く落ちれるんですか……!?」

 

   

   デュアン「反射神経と運動神経、反応速度があれば誰でも出来る……オマケとして動体視力も良い方と思う。オレは生まれつき良い方だから」

 

オレたちの転生組は、基本誰でも出来る・・・よな?

オレの反射神経は0.0001秒と人間とは思えない反射神経してるし、運動神経は枢木スザク並だし、反応速度はキリトと同じレベル・・・いや、リミッター解除で0.0001秒になれる時点で、十分人間離れしてるわ

動体視力に関しては、機関銃をぶっ放しても遅いし、スロットマシーンのドラムロールなんて止まって見える・・・。ああ、人間離れしてるな。

 

    綾地「壁走ってましたよね?壁を蹴って、距離を稼いでましたよね?」

 

   デュアン「まぁ良いじゃないか……こまけぇことは気にするな」

     保科「細かくねぇだろ」

   デュアン「魔女がいる世界で、壁を走ったりするのは出来て当然だ……何なら5階から飛び降りて無傷で済む方法を伝授してやろうか?」

 

まあ、その前に身体が悲鳴をあげるけどな・・・

 

    ???「デュアン君がどういう人かわかった気がする……」

   デュアン「さてと……」

オレは2人がどいてくれたので・・・右肩を左手で抑え、思いっきり叩く。これで、外れた関節は元に戻った・・・

 

     保科「は、外した関節を嵌め直すとか……正気の沙汰じゃない」

 

  デュアン「別に普通でしょ」

オレは、身体に異物が入ったり、切断したり・・・首が吹っ飛んだり、身体がバラバラになったり、火炙り・・・ect。

 

まあ、そんな事はどうでもいい・・・。

 

そのまま、部室へ直行した。

 

 

  デュアン「漸く話を出せるな……」

    保科「そうだな……」

  

    椎葉「……」

    綾地「……」

    保科「とりあいずオレもデュアンも綾地さんも、椎葉さんを傷つけるつもりはないから……そこんところは安心してほしい」

 

  デュアン「安心できないなら、オレはこの場で死んであげるけど?」

オレはカッターで頸動脈部分に当てる。このまま引くように手を下ろせば、オレの頸動脈は切れて・・・数分で死ぬだろう。

 

    保科「やめろ!!部室を血まみれにするつもりか!」

  デュアン「それとも、此処から、頭から落ちようか?」

    保科「それもやめろ!学校の評判が悪くなるだろ」

    椎葉「デュアン君……」

    綾地「デュアン君、やめてくださいね」

  デュアン「わかったよ。椎葉さん、少しは安心できた?」

 

    椎葉「う……うん……。綾地さんも魔女だったとは……オカルト研究部が、相談を受け付けていたのも、欠片集めのためなんだね」

 

    綾地「椎葉さんが入部しようとしたのも、同じ理由なんですよね?」

 

    椎葉「……うん」

    綾地「そうですか……。でもどうしてデュアン君は、椎葉さんが魔女だと気付いたんですか?」

 

    椎葉「え!?き、気づいてたの!?」

 

  デュアン「それは、ほとんどの答えが柊史のおかげでもあった。頼むぞ、解答者」

 

柊史の能力のおかげでもある。あの違和感と、あの一件を組み合わせたパーツの答えが椎葉さんだったからな。

 

    保科「オレに投げやりかよ……分かったよ。はぁー……まず、デュアンが椎葉さんと初めて会った時に子供を連れてた……普通は妹と捉えていただろう。でも、このデュアンという狂人(ヘンタイ)は違う」

 

  デュアン「HAHAHA、煽てても何も出ないぞ」

    保科「まぁ、デュアンの推理を付け足しただけの状況証拠だからな」

 

保科は、語る。前もって準備した言葉を言った・・・

 

    保科「久島先生の傍にいる人が、新しく魔女になった。でも、デュアンが言っていたことが本当だとすると……」

 

    綾地「魔女になったのは最近とは限らず、移動してきたということですね」

 

  デュアン「オレはそう思ってるよ」

    保科「お前はいつから気づいてたんだ?」

  デュアン「少なくても椎葉さんと出会う前かな?いや記憶がないだけで多分、小学校か中学校……の辺りで会ってるはず」

 

記憶の欠落はあり得ない・・・が、木月さんの代償を一度だけ引き受けたことがある。それで欠落した可能性がある。転生特典も万能じゃないからなあ・・・

 

    保科「何にしろ……魔女には一つ大きな特徴がある。自分の願いのために契約を交わしている……つまり、相手も何かしらの……いや、椎葉さんの場合は可愛い格好または女の子らしい服を着ると体調不良を起こす代償を払っているという事になる……自分の意思ではどうにも出来ないことを悩まされているはず……」

 

オレの推理を混ぜ合わせたな・・・

 

    綾地「凄いです……保科君」 

  デュアン「流石は柊史」

    保科「半分はお前の推理だろっ!……ったく。女の子の服を着られないのは特殊な事情つまり魔女の代償と関係があると思ったんだ」

 

    椎葉「……うん。その通りだよ」

    保科「苦労してるね、椎葉さんも……」

  デュアン「なぜ、こっちを見る……柊史」

    保科「いや~……90%以上はお前の手柄なのにオレの手柄になってるからさ」

 

    椎葉「本当、どうしてこんな身体になっちゃったのか……ぅぅぅ……いや、自分のせいだってことはわかってるんけどね……でもまさか、綾地さんも魔女だったなんて……」

 

    綾地「私だけじゃありませんよ……魔女は」

    椎葉「へ?」

  デュアン「オレも魔女……いやオレの場合は、アルプに近づいてるのかな?」

    保科「マジかよ……」

なにせ、自分の境界線がおかしいことになってるからな。

 

    椎葉「……にしても、すごい格好だね。二重の意味で驚いたよ」

    綾地「こ、これは、違うんですっ、この服装は消して私の趣味じゃなくてですねっ」

 

    椎葉「うん、わかってるよ。魔具も服装も選べるものじゃないから」

 

  デュアン「魔具は知らんが……服装に関しては選べるかもしれないぜ?」

 

  椎葉・綾地「「えっ!?」」

   デュアン「オレはその法則性を分かったんだ……わかったのは代償と服装だけだけどね」

 

    綾地「……ぅぅぅ……」

  デュアン「とりあいず、二人共制服姿に戻ったら?いつまでもその格好はやめといたほうが良いんじゃね?椎葉さんは分からんが、綾地さんは解除した方が良いと思う」

 

    椎葉「う、うん……そう、だね」

    保科「……?どうしたの?何か、問題がある?」

  デュアン「問題大有りだ……椎葉さんは魔女の格好じゃないと女の子らしい服装になれないんだぞ」

 

    保科「そっか……ごめん」

    綾地「……ずるいです。本当にずるいです。ずるい……ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい」

 

呪詛を唱える綾地さん。怖いよ・・・

 

    保科「その目でそれを言うと本当に怖いからやめて」

  

 

 

~~~~~

 

   椎葉「ところで保科君とデュアン君は、どうして綾地さんの手伝いをしてるの?」

 

   保科「まあ……色々とあってさ」

   綾地「とある事情から、私が魔女であることが露見してしまって。そこから手伝ってもらっているんです……デュアン君は、魔女で……私の協力者でもありますし、理解者でもあります」

 

   椎葉「そうなんだ……って、えぇぇぇぇ!??デュアン君が魔女!?男の子が魔女!?」

 

まあ、半分は女だな。「ミュウ」という呪われた存在に関しては。

 

  デュアン「そのリアクションは次の連休中に家に来てくれたら見せてあげるよ……ハハハ……」

 

   保科「椎葉さんの方は?なにか魔女関係の事情で、この学院に転入してきた……なんてことは?」

 

   椎葉「あ、それはないよ。ワタシは本当に父親の仕事の関係で引っ越してきただけだから……」

 

  デュアン「……家族か」

オレは空を見上げて考える・・・。オレには、家族と呼べるものが居ない。オレの記憶には両親という思い出が無いからだ。無垢のオレは、どんなのだったのだろう?転生後は、色々あり過ぎてる。

 

   綾地「まあ……そうですね。よほどの特殊な事情でもないと、見ず知らずの土地に引っ越すことは、欠片集めにとってデメリットでしかありませんからね」

 

まあ、木月さんは凄かったな・・・偉大な魔女だったよ。

 

   椎葉「そうなんだよ。知り合いが一人もいない土地に引っ越すことになったから……どうやって欠片を集めようって悩んでたんだ……でも、転入した先ではすぐに友達もできて、お悩み相談までしてる部活があって……だからつい」

 

  デュアン「ま、そりゃ頼りたくはなるよな……」

オレは、人に頼る事をしなくなったからな・・・。裏切られるからだ。裏切られるのが嫌になったから・・・だから、人に頼ることをしなくなった・・・。

 

    保科「まあ……でも、心の欠片を集めるのは、普通に暮らしているだけじゃかなり難しいもんな」

 

  デュアン「う~ん……バイトでお客さんとの接客で悩みを聞いて、解決するってのもアリだけどな」

 

その場合、あり得ない地獄を見るが・・・

 

    保科「そんな事を出来るのは、お前ぐらいの狂人だ」

 

木月さんも似たような事をしてたなあ。まあ彼女はなりふり構わず・・・ってのが多いが

 

  デュアン「まあ、椎葉さんも綾地さんも"時間"があるんだ……"彼女"と違って……」

 

オレはそう2人に言う。別に、気分が悪くなったり発情したりするのは・・・まだ良い方だと思う。

 

木月さんは、回収すればするほど記憶を失っていく・・・。オレが居なければ廃人コースだっただろう。まあ、それでも・・・全ての人を忘れるぐらいで済んでいる。言葉や字の書き方、箸の使い方、食べ方を忘れないだけ・・・まだ軽い。

 

そう・・・この世は理不尽だらけだ。誰かの幸せで誰かが必ず不幸になる・・・。当たり前のことだけど・・・オレはそれが気に食わない。

 

    椎葉「あの、保科君……お昼にワタシと話したときに、妙に意味あり気に言ったのって」

 

柊史のヤツ、なにか言ったのかな?

 

    保科「ん?アレか?あー、うん。ワザとだ。騙すようなことして、ゴメン」

 

  デュアン「情報の虚偽に真実のごちゃ混ぜは凄いぞ……流石は柊史だ」

    保科「それ……絶対に褒めてないだろ」

  デュアン「オレは誉めてるぞ?」

    保科「とにかく。もし本当に椎葉さんが魔女なら、あれで回収しに来るかな、って。あのタイミングは偶然だけど」

 

 

    椎葉「そっか、見事につられちゃったわけだ」

 

  デュアン「感心するのはいいが、階段を走るなよ……下手すりゃ大怪我だぞ」

 

   保科・椎葉「「ごめんなさい」」

 

    綾地「そうですよ……デュアン君が居なかったら……どうなっていたか……」

 

  デュアン「まあ……この話は終わりにしよう。二人共反省しているし……」

 

    椎葉「あの、ゴメンね、綾地さん!邪魔をしちゃったみたいで」

    綾地「いえ、気にしないで下さい。知らなかったんですから仕方ありません。まさか魔女なんて特殊な存在が、狭い地域で一緒になるなんて考えてませんよね。私も予想外でした」

 

  デュアン「あるぇ?オレも一応魔女だぞ?」

    保科「ただし、男は魔女として含まれません」

  デュアン「何だそりゃ……欠片だって集めてるのに?」

 

    綾地「えぇ!?欠片、集めてるんですか?!」

  デュアン「ほれ」

オレはマフラーの下から欠片の瓶を取り出す・・・

 

    保科「すっげぇ……満タン?いやそれ以上だ……」

  デュアン「この量を換算すると……丁度、椎葉さんと柊史が綾地さんから吸収した量を足して丁度286倍の数かな?」

 

なにせ、社会人や浪人生の悩みはヤバいからな。人の心の闇を覗くような行為だ。殺人未遂を未然に防ぐようなことをしたりしたら、一度に集まる量は軽く一人分の魔女の欠片の完遂の量だ。オレはそれを7年続けた。

 

    保科「限界突破してんじゃねぇか!叶えたい魔法があるんだろう?」

 

  デュアン「残念だがそれは無理だ……オレの母がアルプで、既に死亡している……だから、この欠片をどうこうすることは出来ない……貯めることしか出来ないんだ」

 

まあ、オレの魔法の作成で持っていかれるが・・・無限に湧けるからな。

 

    保科「他人に譲渡出来ないのか?」

  デュアン「そういう魔法を作ってある……が、この魔法はまだ未完成なんだ……下手に行使すれば、欠片がバラバラに散って一から集めなきゃならん……しかも、そこに人が居たら柊史以上のノックバックになって、よくて廃人コース、最悪死亡だな」

 

そもそも、生まれたばかりのオレに母が強制的に契約した内容なんて覚えていない。死者蘇生とかか?輪廻の環を外れすぎてる。叶える範疇を超えている。オレが無事で済んでるはずがない。だからオレの願いは些細なことだったと思う。

 

魔女の契約は代償の等価交換だ。

前に説明した通り、綾地さんは「両親が離婚する前に戻りたい」という時間遡行。それが発情に繋がる。発情の代償を持っているから、魔女衣装も奇抜?な格好だ。

 

木月さんは、「他者の病気を治したい」という願いで、記憶消失という代償になった。そして、魔女衣装も願いの比例でナースコスみたいな格好だったな・・・。まあ、その病気が軽ければ、記憶消失なんて代償にならずに済んだが・・・対象者が重い難病だったからな。しかも生死に係わる事柄だったから代償も重かった。

 

 

椎葉さんは、「女の子っぽい格好になると吐くなどの気分が悪くなる」という代償。多分、願いは多分、些細な願い事だったと思う。多分「可愛い服が欲しい」とかだろう。でなければ魔女衣装の説明がつかない。

 

オレの魔女衣装は特殊すぎるからな・・・

 

  綾地「それでですね、これからなんですが……」

  椎葉「あ、あのね!ワタシは別に揉めるつもりはなくて、もちろん奪い合うとか、争うつもりもないんだよ」

 

  デュアン「残念だが、争いで、魔女同士の攻撃で欠片を奪うことは出来ない……魔女同士のルールだからね」

 

ま、例外として、アルプが、人の心を傷つける方法もあるみたいだし。

 

椎葉「欠片集めの邪魔もしない。元々ココには綾地さんが居たんだから」

 

  デュアン「交代性でよくね?」

    椎葉「だから、その……できればこれからも、みんなと一緒にいちゃダメ……かな?」

 

あれ、オレの発言無視?スルーですか?

 

 

  デュアン「何言ってるんだ……いいに決まってるだろ」

    保科「同感だな」

    綾地「いえ、大丈夫ですよ。私も争うつもりはありませんから。今まで通りでいられるなら、私もそちらの方がありがたいです」

 

  デュアン「オレも別に……邪魔はしないさ。手伝いはするかもしれないが」

 

    椎葉「あっ、ありがとう…………よかったぁ。もしダメだったらって思ったら、不安で不安で」

 

    保科「……あ、もしかして即座に逃げたのは、そういう理由?それにあの時も、別に邪魔をしたわけじゃなく、欠片の回収するタイミングがたまたま被っただけで……そんなつもりはなかった……と?」

 

    椎葉「うん、保科君の言う通り。もし逃げ切れたら、今後は学内では回収しないように気をつけて……二人共今まで通りにできればな、って」

 

    綾地「あの、そこなんですが、むしろ協力をしませんか?」

    椎葉「え?協力って……どういうこと?」

    綾地「椎葉さんはああ言ってくれましたが、私は別にこの学院を自分の領土だなんていうつもりはありません……ですから、一緒に集めていきませんか?」

 

いいことを言うなあ、綾地さんは。

 

    椎葉「いやでも、そんなの悪いよ。後から割って入るようなことをしたんだから」

 

   デュアン「人の親切は素直に受け取りなよ。椎葉さん」

     保科「だな」

     綾地「でも、欠片がないと、椎葉さんも困りますよね?」

     椎葉「それは、まあ……そうなんだけど……」

     綾地「気にしないで下さい。困ったときはお互い様です。それに……」

 

     保科「?」

   デュアン「……それに?」

     綾地「椎葉さんの気持ちは、わかります。痛いほどわかります……大変ですよね、契約の代償って」

 

確かに・・・オレに関しては永遠に解除できないからなあ・・・

 

   デュアン「はは……2人はまだいいよ……欠片さえ満たせば良いんだもの……オレは、アルプが死亡してるから欠片を満たしても無理なんだぞ!」

 

     保科「綾地さんも苦労してるが、デュアンも苦労してるなあ……」

 

達観する柊史、悟りを開くオレ。

 

     綾地「言わないで下さい……思い返しても、最低なことばっかりなんです。本当、信じたくないことばっかり……ああ……ありえない……」

 

     椎葉「そういえば……綾地さんやデュアン君の支払ってる代償ってなんなの?」

 

     綾地「―――――ッ」

ビクッと震える綾地さん・・・

 

   デュアン「オレは、水を被ると性別が変わっちまうことかな……しかも、元に戻るのに特殊なお湯が必要となるが」

 

     椎葉「えぇぇぇえ!?水を被ると女の子に!?」

     保科「オレは最初見たときはびっくりしたよ……あれは幼女?」

 

言うな柊史・・・言わないでくれ・・・。

 

     椎葉「……綾地さんのは……訊いちゃダメだったかな?無神経なことだったかな……ゴメンね」

 

     綾地「い、いえ……協力を持ちかけているのは私なんですから、隠し事はない方がいいですよね。お互いの信頼が重要ですから……。……実は、その……私の代償は…………発情、です

 

言いにくいよな・・・

 

   椎葉「え?は、はつ……?ご、ゴメン、今なんて言ったの?」

   綾地「はつ、じょう……発情っ、なんです……」

   椎葉「ハツジョウ?はつじょう……発情!?えっ!?はつじょうって、まさか発情!?」

 

  デュアン「5回も言うな5回も」

綾地さんが可愛そうだろう・・・

 

   保科「五回だけに誤解ってね」

  デュアン「洒落は言いなしゃれ」

適当に流しとく・・・

 

   綾地「…………」

相当恥ずかしがってるな・・・当たり前か。

 

  デュアン「前にも言ったが……それが人間の三大欲求の一つでもあるんだ……発情がなければ、種の繁栄はしないって……だから割り切っちまいなよ」

 

   保科「確かにそうだが……お前は、人前に……例えば好きな女の子の前だったり両親の目の前で自慰行動を見られたらどう思うよ?」

 

  デュアン「……普通に死ねるな。明日どんな顔をして、その子を見れば……いや普通に登校拒否かな?」

 

考えたこともなかった。オレの居た世界では、子作りが当たり前の世界で、子作りをしなければ種の繁栄が失われて、人間族が滅びの状態だったからなあ・・・。人間族が滅びれば妖怪も精霊も神族も滅びを意味するからな・・・。まあ、転生後は好きな人とエッチなことをしたいんだなあ・・・と考えるようになった。同時にエッチな気持ちが無ければ、種の繁栄は無かっただろう。とも考えてるため、綾地さんの自慰行動は別にどうも思わない。ただただ「仕方のないこと」なのだから。

 

「仕方のないこと」はどうしようもないんだ。

 

    保科「ま、まぁ……その代償のせいで、綾地さんはその……なんだ……自分の意志とは無関係に、急に身体が火照ったりするんだよ」

 

  デュアン「最近じゃ……オレの緩和魔法も意味を成さなくなってきてる……思春期だからか?」

 

前は15時間ぐらい持ってたのに、高校に入ってから1年が15時間が3時間。2年の一学期は30分。現在では15分。昂りすぎると10秒も持たない。

 

    保科「……思春期関係あるのか……?」

  デュアン「さあ?女性は男性よりも性欲が高いって誰かが言ってたような気がしてた」

 

    保科「それ……動物じゃね?」

  デュアン「人間も昔は動物だったんだぜ?まぁ今はこんな話どうでもいいっか」

今はどうでもいいか・・・

 

    保科「まぁ、オレが魔女の事を知ったのも、そこら辺がきっかけで……」

 

    椎葉「そ、そうなんだ……それは、ワタシよりも大変そうな代償だね」

 

    綾地「どちらの方が大変とか、不幸自慢をするつもりはありませんが…………はぁ……大変は大変ですね。本当に、どうしてこんな代償に……」

 

あぁ暗いよ綾地さん・・・その瞳は怖い。

 

  デュアン「……」

    保科「…………」

全員が魔女関係だからなあ・・・。柊史も母親が魔女。オレは魔女とアルプの堺・・・。

 

    椎葉「ワタシもたまにそう思う。……なんで、こんな嫌がらせみたいな代償なんだろうね」

 

  デュアン「それは……キミらが望んだ魔法の代償だからだ。綾地さんのはまだ軽いほうだと思うぞ」

 

    保科「そっか……デュアン。算出できたんだっけ?」

    綾地「何が……です?」

  デュアン「支払われる代償と魔女衣装かな?」

    椎葉「えぇぇええ?!」

  デュアン「だから……苦しいならオレを頼れ。オレがその代償を緩和させてやる」

 

    保科「ま……デュアンはこういうヤツだから」

 

~~~~~次の日

 

    越路「どうしたの、こんなところに呼び出したりして?まさかとは思うけど、アタシに惚れたりした?よもや告白するつもりじゃないよね?」

 

    保科「残念ながら、惚れてません」

    越路「だろうねー。でもそうなると、本当に何の用?」

    保科「それなんだけど……ゴメン!越路さん!」

    越路「な、なに?なんでいきなり謝るの?」

    保科「それは……ちょっと、あの時……強引すぎたって意味もある……」

 

   デュアン「…………」

椎葉さんがハンマーを振りかぶり―――――

 

    椎葉「―――えいッ!」

    越路「ッッ!?!!??」

打撃部が越路さんの身体を強く打ち付ける

 

    保科「やっぱりマジカルっていうよりフィジカルだよなあ」

  デュアン「言うな……中にはぶっ太い注射を武具にしてる魔女が居たんだぞ」

 

    保科「その人は?」

  デュアン「完遂したよ……丁度因幡さんと同じ歳かな?契約時は中学校で、完遂した年数は11ヶ月弱」

 

    保科「は?!」

  デュアン「……いつか、話してやるよ。悲しく優しい魔女の話をな」

    保科「それはそうと……いつ見てもこの光景は幻想的だなあ」

  デュアン「だな」

 

    椎葉「……あの、越路さんは?」

  デュアン「大丈夫……受け止めたよ」

倒れる直前に受け止めて、椅子に座らせたからな・・・

 

    椎葉「そっか。よかったー」

    保科「それで椎葉さん、回収の方はどう?」

    椎葉「うん。できてるよ、しかもこんなに沢山の量を一度に回収できるなんて初めてだよ……すごぉい」

 

それほど思い詰めてたんだな・・・まあ、彼女の好きな相手が叶わぬ恋だったからな・・・。

 

    椎葉「それだけ、大きなことに悩んでいたんだよね」

    保科「まあ悩みに関しては守秘義務があるから言えないが……それほど大きな悩みがあったんだよ」

 

    椎葉「うん……ワタシも欠片を回収してきたからね……。不用意に尋ねたりはしないよ」

 

  デュアン「まあ、今後のオカ研の信用問題にもなるしな……」

    保科「ああ……」

    椎葉「でも、本当に良かったの?この欠片、ワタシが回収させてもらっちゃって」

 

    綾地「何度も話したじゃないですか。気にしないで下さい」

    椎葉「うん…………うん、ありがとう、綾地さん!えへへ」

 

何やら綾地さんとこそこそ話をしている。

なら、オレは椎葉さんの話し相手になるとしますか。

 

  デュアン「椎葉さんは気にすることはないよ」

    椎葉「で、でも……」

  デュアン「じゃあ……俺らが困ったときは、力を貸してほしい」

等価交換ってヤツだ。まあ、オレは困ることは無いと思うが・・・

 

    椎葉「わ、分かった!」

  デュアン「まあ……オレが困るってことは無いから、綾地さんや柊史を重点的に助けてやってくれ」

 

    椎葉「えぇ?!デュアン君は悩みとか無いの?」

  デュアン「オレは、悩み事なんて考えはガキの頃に捨てちまったよ……何もかも。まあ、オレが望むことは"死"そのものだね」

 

オレが望むのは、希望の生のリピトーじゃなく、"死"という絶望のデストルドーだね。

 

    椎葉「……そんな悲しいこと言わないで」

椎葉さんはオレの左手を両手で握る・・・

 

  デュアン「……っ……」

オレは、その椎葉さんの悲しい表情が・・・何処となく、彼女たちを重ねてしまった・・・

 

    椎葉「デュアン君にも生きる目的があるよ」

  デュアン「……、……オレに生きる目的?……っ……そうだな、じゃあ……残りの1年で椎葉さんがオレに生きる目的を見つけてくれるというのなら……"死"を望むのをやめてやるよ」

 

オレを愛してくれた彼女らに、そして転生神との約束の為にも・・・

 

 

あちらも、話を終えたようだ。

 

~~~~~

 

   綾地「それじゃあ今後とも、よろしくお願いします」

   椎葉「あ、いえ!こちらこそ、何卒よろしくお願いしますっ!」

   綾地「それじゃあ、オカ研には正式入部ということで大丈夫ですか?」

 

   椎葉「うん!お願いします」

やっぱり、椎葉さんは笑顔が素敵だ。無垢な笑顔の子が好きなのか?オレは・・・。

 

   綾地「はい」

   保科「じゃあ、話もまとまったところで、お昼ごはんだな。オレは学食に行くよ」

 

  デュアン「……」

財布・・・家なんだけど。弁当、作ってない・・・スマホに電子マネーが数万円とクレジットカードしか使えんぞ?当然、学院内でおサイフケータイが使えない。

 

   保科「デュアン?どうした……行くぞ?」

  デュアン「わ、悪い……財布も弁当も持ってくるの忘れた」

   保科「はあ?!」

  デュアン「ついでにいうと、電子マネーが数万円とクレジットカードしか無い」

 

   保科「お前……オレも人に貸せるほど持ってきてないぞ」

 

   綾地「私はお弁当です……因幡さんと約束してるので……すみません」

 

  デュアン「いや、謝られても困る……弁当を忘れたオレがバカだからさ」

 

   保科「ちなみに椎葉さんは?」

   椎葉「…………」

  デュアン「……椎葉さん?」

   椎葉「……え、え?なに?」

   保科「だから、昼食。オレは学食、綾地さんは因幡さんと一緒に弁当。デュアンのバカは財布と弁当を忘れた為、絶賛苦悩中……椎葉さんは?」

 

   椎葉「あ、うん。お弁当だよ」

   保科「ってことは、どうするんだ?」

  デュアン「まあ……自販機は使えるわけだから……カロリーメイトとミルクティーを買うよ」

 

ぶっちゃけ、オレにあんまり食べないし。作りはするが・・・

 

   綾地「そ、それじゃ……せっかくですから一緒に食べましょうか」

綾地さん、オレのことは気にしないでいいから。

 

  デュアン「はぁ~……財布、もう一つ作ろうかな」

ぶっちゃけ、あの財布・・・札しか入ってないんだよなあ。小銭を作るために学生服に数万円ほどの小銭と数万円を入れる財布を作ろうかな?」

 

   保科「……のほうが良いと思うぞ」

  デュアン「ま……ってことで、別行動だな」

   椎葉「う、うん……ありがとう」

  デュアン「だから!オレのことは気にしないで!楽しんでくれよ!財布を忘れたのオレだから」

 

オレはそそくさと逃げる。敵前逃亡は作戦のウチってね

 

~~~~~

 

 

 

 



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Ep34 オカ研がピンチ?!

 

~~~~

 

そうして椎葉さんがオカ研に正式入部して数週間が経過したのであった。

 

その間に学生会選挙も終了。

 

結局、越路さん以外には会長に立候補する人もおらず、信任投票の結果、越路さんは見事に会長に就任って訳だ。

 

    

 

~~~~~~

 

   綾地「このカードは、人への優しさを表します。優しい気持ちや落ち着いて行動することで、状況が前向きに転がることを意味してます」

 

  相談者「それって、具体的にはどうすればいいと思う?」

   綾地「そうですね……まず落ち着いて、相手の話を最後まで聞いてあげるところから始めるてみるのがいいんじゃないでしょうか」

 

  相談者「相手の話を最後まで……うん、分かった。ありがとう、綾地さん。参考にしてみるね」

 

   綾地「はい。また何か困ったことがあれば、いつでもどうぞ」

   保科「お疲れ様」

   綾地「ありがとうございます」

   因幡「最近は、相談と言うよりも占いのほうが多いですね」

  デュアン「まあ、今までも占いのほうが多かったりするけど」

 

   綾地「そうですね」

   椎葉「占いだけって言うのも、結構あったりするの?」

   綾地「はい。悩みを抱えてるというよりも、後押しをして欲しい人も沢山いますからね」

 

   椎葉「ああ、そっか。確かに、自分の中で結論は出てるけど……っていう場合もあるよね」

 

取捨選択が出来ない・・・からその取捨選択を他人に任せるのも、また一つの選択肢だもんな。

 

   保科「まあ時期が時期だから、それぐらいの方がオレたちとしても助かる……」

 

まあ。毎回毎回、心の欠片の回収問題だったら疲れるわな。

2人の負担もヤバいし、柊史の能力でのフィードバックも。

 

   綾地「定期テストが近いですからね。悩みがあっても、まずは目の前のテストに集中したい人が多いですよね」

 

   保科「オレも勉強しないと……」

  デュアン「オレも勉強しないと……」

まあ、覚えるだけの単純作業

 

   因幡「保科センパイってそういうとこ、意外と真面目ですよね」

   保科「まあ、オカ研に入る前は、勉強以外に特にすることもなかったから……」

 

  デュアン「…………」

他人との距離感が掴めないアホ2人だった頃だな。

 

   椎葉「じゃあ、点数はいい方なんだ?」

   保科「自慢できるほどじゃないよ。平均よりもちょっと上程度かな?」

 

   因幡「……くっ。センパイは絶対に赤点追試で、簡単な問題で合格するという省エネタイプだと思ったのに」

 

柊史は意外と勉強熱心だぞ?

 

   保科「キミは本当に失礼だな」

   椎葉「めぐるちゃんは成績いいの?」

   因幡「……ヤなこと訊かないでくださいよぉ」

その反応だと、赤点スレスレなんだろうな・・・

 

   椎葉「その様子だと、あんまりよくなさそうだね。じゃあなおさら、ちゃんと勉強しないと」

 

   因幡「ぅぅぅ~~……」

   椎葉「因みにデュアンくんはいい方かな?」

 デュアン「オレ?オレは……テストの点数は操作してるし……授業態度を加味して……普通よりちょっと上ぐらい?」

 

   保科「意外だな……オレは普通ぐらいだと思ってた」

 デュアン「まあ、授業態度を直せば……オールAは確実かな?」

   椎葉「すごーい」

   保科「まあデュアンだしな……」

 デュアン「ま……頑張れ、因幡さん……」

   因幡「うぅぅ~……」

   保科「来週からはテスト期間で部活も禁止になるんだから。時間ならあるよ?」

 

 デュアン「寧ろ増えるぜ?」

   因幡「時間があるから勉強します、なんて簡単にできたら苦労はしないんですよ」

 

 デュアン「因幡さんって……勉強嫌いなのかな?」

   保科「分からん……」

 

 デュアン「因幡さん……気持ちは分からんでもない……が、やらないと困るのは自分だぜ?」

 

まあ、完全記憶能力と瞬間記憶能力のオレは、テストの点とか関係ないんだけどね

 

   因幡「ヤだ!そんな正論、聞きたくない!」

   椎葉「あはは、ダメだよ、そんなことばっかり言ってちゃ」

耳を塞いで嫌々と首を振る因幡さん、それを宥める椎葉さん。

 

と、2人を見ていると・・・

 

コンコンッとノック音が聞こえ、ドアが開かれる。

 

   越路「失礼するよ」

   保科「あれ?越路さん」

  デュアン「どうしたの?」

   越路「どうも、お久しぶり」

   保科「ああ、うん、久しぶり。その節はどうも。会長就任おめでとうございます」

 

   越路「あーうん。嫌なこと思い出させてくれて、どうもありがとう。その件ではお世話になりました」

 

  デュアン「……」

あれか。

 

   保科「あ、いや、その……どういたしまして。すみません」

地雷を踏みぬく、柊史。

 

  デュアン「越路さんは今日はどんなご用件なんだい?」

    越路「ちょっとね、挨拶も兼ねて話があるんだ」

    保科「話って?」

    越路「えーっと、綾地さんが部長でいいんだよね?」

    綾地「はい。私がオカルト研究部部長、綾地寧々です」

    越路「この度学生会長になりました越路美穂です。今後ともよろしく」

 

    綾地「よろしくお願いします。それで……挨拶も兼ねて、と言うのは?」

 

何か途轍もなく悪い予感がする・・・のは何故だろう?

 

    越路「ああ、うん。そこなんだけど………アタシの前に、まず話をしたい人がいて。会長ー!ほら、早く入ってきてくださいよー」

 

  デュアン「……」

    保科「会長?」

  デュアン「戸隠先輩のことじゃないか?」

    保科「あーなるほど」

    戸隠「こ、こんにちはぁ……」

  デュアン「こんにちは……それで、会長。何のご用件ですか?」

    戸隠「それが、その……ごめんなさい!」

  デュアン「?」

    保科「え?」

    綾地「どうして戸隠先輩が謝るんです?」

  デュアン「まさか……まさかとは言いませんよね……まさか、部室の件……なんて、そんなことは言いませんよね?」

 

保科が入った時点で、部員はクリアしてるはずだ・・・

 

    戸隠「うん……その部室の件なんだけど」

    因幡「部室の件ってなんですか?」

    保科「元々、オカ研には綾地さんとデュアンの2人だけだったんだ。けど学院から部の扱いを受けるためには、最低3人の部員が必要だから大目に見てもらってたらしいけど、以前から忠告は受けてたんだ。もし部員が足りなければ、部室を空けるようにって」

 

 

    椎葉「そうなんだ?でも今は、保科君にめぐるちゃん、ワタシも入部したから合計5人だよね?」

 

  デュアン「ってか、保科が入ってきた時点で規定数は達してるはずですが……?もう問題は無いはずですが?」

 

    戸隠「うん。そう……なんだよね。わたしとしても、そのつもりだったんだけど……」

 

あー・・・なるほど話の筋が見えてきたぞ・・・

 

  デュアン「……規定人数だけじゃダメだったんですか?」

    戸隠「うん……その通りなんだ、本当に申し訳ないです」

    綾地「あの、ですからどうして謝られているのか、その説明をしてほしいんですが」

  

    戸隠「それなんだけど……部員が揃えば、今まで通りにこの部屋を使えるって、わたし言ってたよね?」

 

  デュアン「えぇ……言ってましたね。バッチリ言ってました」

    綾地「その反応はもしかして?」

  デュアン「だろうな……」

    戸隠「ごめんなさい!本当に、ごめんなさい!部員の数だけじゃダメでした」

 

    綾地「つまり、私たちはこの部屋から出ていかなければいけない、ということですか?」

    戸隠「…………うん……今のままだと、そういうことに……」

 

   椎葉・因幡「えーーーーー!??」

 

  デュアン「なるほど。部員の人数が揃っても、ちゃんと部活しているんか。そこら辺が不透明だと?」

 

確かに、オカ研が幽霊扱いされてるからな・・・。男子にとっては都市伝説みたいなことになってるよな・・・。少なくても二学期始まってから、保科と海道は知ったみたいだったような感じだし。

 

   越路「うん。最初はさ、会長……じゃないか、もう戸隠先輩か。とにかく最初は先輩が言うように部員の人数だけだったんだったんだよね。実際、人数さえ揃えば、現状維持ってことになる予定だったんだよ。でもオカ研は一体どんな部活をしてるのか?そもそも活動実績は?って学院側から話をされてね……本当にごめんね。なんでもお詫びします」

 

  デュアン「なんでも……ねぇ」

このオレを騙すとはいい度胸だ。

まあ、意図的に騙したわけでもないし、こういうのは学院の意向もあるからなぁ・・・・

 

   戸隠「あっ、今"なんでも"って言っちゃったけど、いやらしーお願いには答えられないから……」

 

  デュアン「安心して下さい……オレはそんなくだらんことをお願いするぐらいなら……死んだほうがマシですから」

 

   椎葉「うぇ!?だ、ダメだよ……」

  デュアン「HAHAAHA」

   保科「お前は、綾地さん以上の極上の闇を抱えてそうだな」

  デュアン「……ふぅー」

   保科「どうした?」

  デュアン「大した問題じゃないなってね」

   保科「どういうことだ?」

  デュアン「二人の話を溶接すると、ちゃんとした実績があれば文句は無いんじゃないか?」

  

   保科「なるほど……確かに、それらしい実績は無いよな……でも、いいアイデアだな」

だいたい、オカ研の実績って何だろう?

黒魔術の使い方?占い?

 

   越路「それならいいけど……」

   戸隠「うん、そこはデュアン君の言う通りだよ。学院側もオカ研を廃部にしようとしてるわけじゃないから」

 

なら、まだ勝ち目はありそうだな。と言うか、何で部室が足りない問題が続いてるんだ?

 

   保科「チャンスは一応あるみたいですね」

   綾地「ですが、時期が問題ですね」

 デュアン「確かに……あんまり残されてないよなあ」

次の発表は10月31日のハロウィン祭。

 

   椎葉「というと?」

   綾地「文化祭は春に終わってしまってます。文化部なので対外試合なんてできませんし、大会も……」

 

と言うか、文化祭の日は休んじまったからな・・・風邪で。

 

   因幡「オカルト研究部の大会なんて聞いたことありませんね」

  デュアン「普通はそうだろうな……普通は」

   保科「もしあってもシュールだろうな、その大会」

  デュアン「……」

オレは再び思考の海へとダイブすることにする。

 

   保科「文化祭で何もしてなかったのがなぁ……痛いな」

   綾地「……ごめんなさい」

   保科「いや、綾地さんは謝る必要なんて無いんだよ?」

   椎葉「でも何か考えないと、まずいよね?この部屋から出ていかなきゃいけなくなるなんて」

 

   保科「大丈夫だ……オレたちが考えなくても、デュアンが答えを導いてくれるさ……」

 

   越路「まあ、落ち着いて。一つ、こっちで代案を考えたから」

代案?学生会・・・ああ

 

  デュアン「それって……10月にやるハロウィン祭の準備の手伝い……だなんて言いませんよね?」

 

   越路「っ!」

   戸隠「っ……そのとおりだよ、凄いね」

 デュアン「はぁ~……そんなことだろうと思ったぜ。秋の中間考査の結果……かあ」

   椎葉「確かにありませんけど……テストでオカ研の実績が作れるんですか?」

  

 デュアン「椎葉さん、中間考査はあくまでも通過儀礼にすぎないんだ……つまり、その先のことだ、ハロウィン祭。ハロウィンならオカ研を十分発揮できる」

 

   戸隠「正解だよ。怖いよ、デュアン君」

   保科「それがデュアンクオリティですよ、戸隠先輩……」

   戸隠「ま、まぁ転入してきた椎葉さんと1年生の因幡さんは知らないかもしれないけど、秋の中間考査の後にパーティが催されるの」

 

   因幡「パーティー?」

   戸隠「そうハロウィンパーティ」

   保科「ああ、そういえば去年もありましたね。アレって毎年なんですか?」

 

   戸隠「そうだよー。いつから始まったのかは私も知らないんだけど、代々行われてるものだよ」

 

先輩が知らない?学生会なら、ハロウィンパーティの創立年数ぐらい分かるだろう。記録が残るし。

 

  デュアン「……」

会長は、本当に知らないのだろうか?とすぐに疑うのは悪い癖だな。

 

   綾地「パーティで、占いを披露すればいいということですか?」

綾地さん、それじゃあ意味がない。

 

   戸隠「まあそれでもいいんだけど、それだけだと弱いかなって思うだよね。だから――――」

 

  デュアン「ああ……なるほど」

つまりは、学生会へのメリットで、他の部活の文句を言わせない・・・か。

    保科「?」

  デュアン「まあ……オレは嫌いではないが好きでもないやり方だな」

権力を振りかざして、相手を黙らせる・・・か

 

    越路「先輩、そこからはアタシが。あくまで学生会からの依頼ですから」

 

    戸隠「あ、うん。ゴメンね、出しゃばっちゃって。いやー、まだまだ癖が抜けてないみたい」

 

    越路「いいえ、気にしないで下さい。そんなお茶目なセンパイも……ふへっ……」

 

  デュアン「ようは学生会の手伝いをすれば良いんだろう?」

    越路「流石はデュアン君……つまり、オカ研に依頼したいの―――」

  デュアン「依頼内容は"ハロウィンパーティの運営"かな?」

    越路「うん当たり」

 

    保科「お前……本当、人の心を見透かしてるよな」

観察眼を鍛えれば、答えは見えてくるぞ・・・

 

  デュアン「ははは……保科も観察眼を鍛えれば、人の心なんて簡単に見透かせるよ」

 

魔法や能力なんて無くたって、人間観察をすれば・・・相手が何をしようと、どういう行動をするか分かる。まぁ、コールドリーディングの極限まで極めれば、もっと分かる気がする・・・。オレはその極限とは言わないが・・・。

 

    綾地「えっと……すみません。どうしていきなりパーティの運営という話に?」

 

    戸隠「ハロウィンっていうイベントは、オカルト研究部の雰囲気にピッタリでしょ?」

 

  デュアン「それじゃあ理由が薄いですね……まあ、大方の理由は、学生会じゃあ手が借りられない……オカ研は猫の手になるわけだ」

  

    保科「お前……怖いぞ」

  デュアン「1学期、学生会の仕事をちょこっとだけ手伝ったことがあるんだけど……あれでよく回せてるよなあ」

 

オレは、しみじみと思う。もうちょっと人数を増やさないと、居残りレベルになる。

 

    保科「そうか……けどそれで大丈夫なんですか?学生会から無理してもらったりとかしたら、また文句が出るんじゃ?」

 

    越路「そこは問題ない。ほら、今年の選挙は時期が遅かったでしょ?いや、アタシが言えることではないんだけど……これを受けてくれれば、不満はアタシが言わせない。もし仮に出たとしてもこっちで対応はしとく。それぐらいの借りはあるつもりだから」

 

    保科「別に貸した覚えはないが……まあでも、ありがとう」

 

    因幡「借りって、なんですか?」

    越路「ん?いやいや、まあ……個人的なことだよ。気にしないで」

 

   デュアン「そうだぞ……我ら、オカ研は他人の悩みを話したりしてはダメだ……越路さんは、柊史に何かを依頼した。だから、その依頼内容は、たとえ部長の綾地さんにも話さないのだ」

 

そう・・・人には言えないことがある。

 

    因幡「すみません……そうでした」

  デュアン「分かればよろしい」

    越路「ということで、以前の約束と変わっちゃったのは申し訳ないんだけど……今回の依頼で、手を打ってくれないかな?だから、パーティを文句なくこなしてくれたら、今度こそ学生会が責任を持って部室を維持させてもらうから」

 

    綾地「ありがとうございます、越路さん、戸隠先輩。お困りでしたら手伝わさせて頂きますが……ただ、こういったイベントは、部室の件を抜きにしても失敗はマズいですよね」

 

  デュアン「だな」

    綾地「私たちだけでなく、他の多くの学生にも影響を及ぼすことなんですから……」

 

綾地さんには無理か?こんなでっかい責任を背負うのは・・・

中間考査まで残り一週間ちょい・・・

そして、テスト実施期間があるだろうから、おそらくその翌週に答案が返却されるはず。で、その週末にパーティ。

 

残った時間は三週間ってところか?オレは平気だが・・・柊史達にとっては、勉強とかもあるだろうから、結構ハードスケジュールだな。

 

ここは、オレが人肌脱ぐか

 

 

    越路「そこは心配だと思う。失敗するのはマズい上に、何も知らない人間だけに任せるのは学生会としても無責任だ」

 

    戸隠「そこで、再びわたしの出番というわけ」

  デュアン「なるほど……」

    保科「そっか。学院で先生を除けば、一番ノウハウを持ってるのは戸隠先輩ですもんね……デュアンもなんだかんだで知ってそう」

 

  デュアン「オレが何でもかんでも知ってると思ったら大間違いだぞ……知らない情報は無理だからな」

 

例えるなら、初めてやるゲームを1から100の知識を知るようなモノ。そんな芸当、神様でも無理だぞ。

 

    戸隠「うんうん、そういうこと。わたしがオカ研に来たのは謝罪とお手伝い、その両方のためだよ。1年の頃から学生会で働いてたからね。こういうことは任せておいて!」

 

    綾地「でもいいんですか?戸隠先輩は学生会を引退されたのに……」

 

    戸隠「オカ研との約束を守れなかったのは、完全にわたしがやり残した問題。だから、気にしないで欲しいな……ということで、今日からオカルト研究部に入部する戸隠憧子です。よろしくね」

 

  デュアン「ぶふーっ!」

オレは思わず、飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

吹き出した先には柊史が居た

 

    保科「お前……」

  デュアン「ごほごほ……わ、わりぃ。動揺した」

    保科「好きなのか?」

柊史はオレが吹き出してしまったお茶を拭きながらそう聞く。

 

  デュアン「苦手な分類の人だ……」

オレはそう答えるしか無かった。ああ言うタイプは苦手だ。

 

    綾地「…………ありがとうございます、戸隠先輩」

    越路「ただしこれは今回限りの対応ね。今後はちゃんと何かしらの発表をして、自分たちで何とかしてね」

 

だが、今後はどう対応しようか迷う・・・。

 

    綾地「はい、わかりました。気をつけます」

    越路「じゃあ、あとはよろしくお願いしますね、先輩」

    戸隠「合点承知!」

古いネタを知ってるんだな、会長って。

 

    越路「じゃあアタシはこれで」

そう言って、越路さんは安心した様子で、部室から出ていった。

 

 

    椎葉「なんか大変な事になっちゃったね」

    因幡「でもいいじゃないですか、パーティ……なんか楽しそう」

    椎葉「確かに楽しそう……ハロウィンパーティって具体的には何をするの?」

 

    保科「いや、オレも知らない」

  デュアン「右に同じく、知らん」

    因幡「へ?何でですか?」

    椎葉「去年も開催したんだよね?」

    保科「パーティー自体は自由参加なんだ。オレは参加しなかったから」

 

  デュアン「オレは風邪を引いてダウン」

まあ、ひどい風邪で12月の後半まで休んじまったが・・・。

 

    椎葉「保科君が以前に言ってた、死んだ魚の目をしてた頃?」

死んだ魚の目って・・・

 

  デュアン「ド直球」

    因幡「あー、保科センパイですもんね。そういう派手な場所を避けてたんですね。なんか納得です」

 

    綾地「あの、ちなみに私も参加して無くて、よくわからないんですが」

 

    因幡「あー、寧々先輩ですもんね。そういう派手な場所に出ちゃうとちょっとした騒ぎになりそう。仕方ありませんよ、納得です」

 

温度差がやべえ。

 

    保科「オレのときとはなんか良い方が違わないか!?」

  デュアン「オレなんかスルーだから、気にするな」

温度差がやべえのと、スルーだからな。

 

    戸隠「保科クンが言ってた通り。自由参加のパーティでね。毎年中間考査の後に実施されてるの。文化祭は春、体育祭は夏前にやっちゃってるから、秋のイベントが少ないでしょ?で、学生会主導のイベントを開催したのがきっかけらしいよ」

 

    因幡「あのーちなみに冬もないんですけど?」

    戸隠「一時期は12月24日のパーティなんかも考えられたそうなんだけどね……集まりが悪くて」

 

    椎葉「そうなんですか?」

 

  デュアン「まあ、クリスマスイヴは家族と過ごしたいとか、恋人と過ごしたいとかありますからね……」

 

オレには永遠にわからない気持ちだな。

 

    因幡「あーわかります。2人並んで歩いてると、冷えた風が吹いて『寒いね』って手を掴んで、自分のポケットに一緒にいれる。そして後は雪でも降れば……」

 

    椎葉「いいね!そういうロマンチックなのっていいよね!」

    因幡「ですよね!いいですよね!ほらほら、みんなで遊ぶのも悪くないですけど、クリスマスはやっぱり好きな人と……」

 

    椎葉「はぁぁ~~……憧れるなぁ~~~」

 デュアン「理想を抱いても、行動しないんじゃ、結果が出ないとオレは思うぞ。ロマンチックに浸るのも良いが、現実を見ないと」

 

    保科「デュアンは、そういうロマンチックは抱かないタイプだもんな……」

 

  デュアン「まあロマンよりリアリティーを見てるからな」

 

    保科「でも、2人の言いたいことは分かるけど、みんながみんな、恋人がいるわけじゃないのでは?」

 

たしかにそうだ・・・

 

    戸隠「クリスマスにパーティーだと恋人探しみたいで、恥ずかしくて参加しない子も多かったみたい。それなら、カラオケとか行って、自分たちで騒ぐ方が楽しいって意見もあって……結局、各人におまかせってことにね……」

 

 

 

    因幡「なるほど。まあ、冬休みとかお正月とか、他にも色々イベントはありますもんね」

 

    戸隠「そこら辺が理由かな……あれ?何の話だっけ?」

  デュアン「ハロウィンパーティーの内容ですよ。なんで皆で話を脱線させてるの?」

 

    戸隠「あっ、そうだったね。話を戻すと、パーティーは自由参加。あと、簡単な料理と飲み物も準備されてる。出し物は、その年によって色々変わるね。ない年もあったはずだよ。まあ、あると盛り上がるんだけど……簡単なのだと、ビンゴゲームとか」

 

運ゲーは、くじを引く時にとっておくからなあ。オレの運って、なあなあな運率だからな。

 

    保科「けどそれって、賞品が必要になりますよね?」

    戸隠「学生会がパーティーの予算を組んでるから、その中でやりくりしてもらえれば、賞品を用意することも可能だよ。そこは運営の腕次第」

 

    保科「じゃあ、必要な準備は……料理と飲み物。あと、誰かに出し物の打診……可能なら、盛り上がるゲームもですか」

 

    戸隠「ああ、あとね、ここからが重要なんだけど、参加するときの服は自由なんだよ」

 

    因幡「それって私服OKってことですか?」

    戸隠「私服OK、制服もOK、何でもOK。あ、でも裸はNGだよ?あくまで常識の範疇での話ね」

 

  デュアン「裸は服じゃありませんよ。まあ、こういうのはPTOにあった服装ですかね」

 

    保科「PTO?」

  デュアン「PaidTimeOffでPTOだ……」

    椎葉「じゃあもしかして、ハロウィンに合わせた衣装でもいいってことですか?」

 

完全なコスプレだな・・・。

 

    戸隠「うん。毎年コスプレで参加する子も多いの!まあ、さすがに行き帰りは普通の服じゃないと怒られるけどね。結構コスプレに力を入れてる子もいてね。まあ、そこら辺は参加者任せだから、何か準備が必要ってわけじゃないけどね」

 

ふむ・・・・

 

    綾地「とにかく運営のすべきことは、保科君が言ったことと、先生方の折衝もでしょうか?」

 

    戸隠「あと体育館の飾り付けと、それらに関する買い出しかな。あ、体育館の使用許可はわたしが会長の間に申請しておいたから、安心して」

 

用意がいいな・・・。

 

    因幡「なんだか楽しそう!コスプレもありだなんて……あっ、運営の人間も、楽しんでいいんですかね?」

 

    戸隠「勿論だよ。当日にも多少は仕事があるはずだけど、そこは学生会の人間も手伝ってくれるしね」

 

    保科「運営するとなると……出席は決定的……か」

  デュアン「……そうだな」

柊史の能力がキャパを超えそうだな・・・。

本当は負担をかけないような魔法をかけたいが。何故か保科には対象外になる。つまり代償とは別枠ということになる。

 

この枠を埋めれば、保科の能力が進化する・・・はずだ。

 

    因幡「保科センパイ、今回は逃げられませんからね」

    保科「たった今覚悟をしたところだよ」

  デュアン「柊史が頑張るなら、オレも頑張らないと……」

まあ、ありふれた日常を過ごすのも良いのかもしれないな。

 

    因幡「ハロウィンかぁ……なんだかすっごく楽しみになってきたなぁ」

 

    椎葉「パーティーもそうだけど、準備も面白そうだよね」

    戸隠「お、乗り気だねー?いいねいいね、みんなで一緒に頑張ろー!」

 

   椎葉・因幡「「おー!」」

    戸隠「あ、そうだ。一つ大事なことを良い忘れてた。パーティーに参加するには条件があるんだった」

 

    保科「そんなのありましたっけ?」

    綾地「え?姫松の学生なら誰でも参加できるんじゃないんですか?」

 

    戸隠「んーん、違うの。実は参加が認められない子もいるんだよ」

 

    因幡「えぇ!?期待させておいて、そんな今さら!」

    椎葉「それって一体、どんな条件なんですか?」

    戸隠「と言っても該当者は殆どいないから、そんなに重く考えなくて平気だよ。中間考査で赤点を取らなければいいだけだから」

 

    保科「赤点?それだけですか?」

    戸隠「うん、それだけ」

わりかし、どうでもいい条件だったな。オレと柊史、綾地さんには無縁の生き物だ。

 

    綾地「条件が赤点なんでしたら、確かにそれほど心配はなさそうですね」

 

    保科「確かに……問題は無さそうだな。この学院に進学してきた人間なら、特に問題は―――」

 

   椎葉・因幡「「………」」

あれ?二人共黙っちゃった・・・

 

  デュアン「あれれ?どうしちゃったの?二人共……まるで、気分がすぐれないような暗い顔をして、もしかして?」

 

    因幡「あの、それって運営だから免除されるなんてことは……?」

 

  デュアン「そんな特別が通る訳ないだろう……」

    椎葉「あの、それって1教科でも?こう、スリーストライク的な物だったりしませんか?」

 

    戸隠「一発アウトだねー、残念ながら」

現実は非情である

 

   椎葉・因幡「そうですか……」」

  デュアン「おいおい……マジですか」

    綾地「あの……失礼なことを確認しますが、椎葉さんは編入試験を受けているんですよね?」

 

    椎葉「そりゃもちろん!でも、ワタシが以前いたところよりもこの学院の方が進み具合が速くて……編入試験は夏休み前の範囲が重点的だったから……ちゃんと授業で習った箇所と習ってない箇所の隙間があって……あ、勉強はしてる!してるけど、あんまり自信が……」

 

  デュアン「……ふむ、それで因幡さんは?」

    因幡「お、乙女には色々と必要な付き合いがあるんです!」

  デュアン「確かに必要なのかもしれんが……誤魔化しは無しだ」

    因幡「うっ……その……ケーキ食べに行ったりとか、服を買いに行ったりとか……あと、素材集めとか……」

 

    保科「ああ……つまり遊び呆けてたってことね」

    因幡「ぶっちゃけそういうことです。すみません~……」

  デュアン「はぁ……」

オレは深いため息を吐く、柊史も同じ様にため息をする。

 

    綾地「ちなみに因幡さん、危ない教科はどれですか?」

    因幡「英語と数学と現国と古典と化学と生物と現代社会と日本史と……」

 

  デュアン「おいおい……それ中間考査の全部だろ……スリーアウトどころの話じゃないぞ」

 

オレも数科目程度の点数は引き上げ可能だが、全部となると無理だぞ。物理的にも精神的にも・・・

 

    因幡「だってだってぇ!」

 デュアン「だってもへちまもあるかい!」

勉強しなさすぎだ。人の事は言えないが・・・

 

    保科「ちなみに、現段階でデュアンはどの程度、点数を引き上げ可能だ?」

 

  デュアン「椎葉さんの答え次第」

 

    椎葉「あ、ちなみにワタシも違うよ?数学とか、化学とか。積み上げが必要になる教科だけかな?」

 

    因幡「紬先輩の裏切り者ぉっ!」

 

    保科「あー……けどオレも打ち明けると、古典が苦手だ……」

    綾地「それは、赤点を取りそうなほどにですか?」

    保科「いや大丈夫だとは思う……でも、今まで75点を超えたことがないんだよ」

 

  デュアン「………」

オレの中でぷちんっと何かが切れた音がする・・・

 

    綾地「そうなんですか……これはパーティーのことを抜きで考えても、よくない事態ですね」

 

   因幡・椎葉「「ごめんなさい」」

    保科「すまない」

  デュアン「ふ……ふふ……ふふふふ……ふふふふふ……」

オレの中で、何かが弾けてしまった・・・

 

    保科「でゅ、デュアン……?」

    椎葉「な、なんで……そんな怖い笑みを浮かべてるのかな?かな?」

 

  デュアン「……全員を改造してやる……90点は取れるようにしてやるよ……」

 

    保科「ま、マジか!?って……まさか、デュアン。お前が教えるのか?」

 

  デュアン「大体のテスト範囲は把握している……まあ、ヤマが当たってれば90点。外せば70点かな?」

 

    綾地「つまり……?」

  デュアン「オレが纏めて全員を教えてやる……」

    因幡「本当ですか、デュアン先輩?!」

    椎葉「ごめんね……迷惑をかけちゃって」

  デュアン「気にすることはないさ」

 

    保科「なら、オレも手伝うよ……古典じゃないなら教えられる。どうせ改めて復習もしなきゃいけないし……デュアンの教えは、怖いからなあ

 

なに、ボソッと言ってるんだ。

 

    因幡「保科君もありがとう」

    保科「といっても、オレは綾地さんやデュアンぐらい余裕があるわけじゃないから、力になれるかどうかは微妙……?」

 

    戸隠「ようがす!そういうことなら、わたしもお手伝いしましょう」

 

    保科「え、戸隠先輩がですか?」

    戸隠「あーっ、なにその反応。失礼しちゃう。こう見えてもお姉さん、成績はそれなりにいい方だよ?」

 

    保科「いえ、それは重々承知しています。今の驚きは先輩の成績を信用してないんじゃなくて……」

 

    綾地「戸隠先輩はご自分の勉強もあるのでは?」

    保科「そう。オレが言いたかったのもそこですよ」

    戸隠「平気平気。この時期になると授業も一通り終わってて、あとは弱点克服とかに目を向けられてるから。試験も実力テストとそう変わらないの」

 

    因幡「そうなんですか……大変そうですね、範囲がないって」

    戸隠「大変なのですよ。だから一部を重点的にじゃなく、全体的に勉強する必要があって、1、2年の授業内容を復習するのはいいことだから」

 

まあ、練習あるのみだからな・・・。人に教える場合は、弱点科目から狙いを定めて撃ち抜いて、後は自信のない科目を狙い撃ちすれば、なんとかなる。得意な科目は寝る前に予習すればいいだけだしな。柊史の場合は飲み込みが早かったか、わりかし早く終わったな。海道は飲み込みは普通だが、80点は取れてたな。

 

    戸隠「それにこれもパーティーを成功させるのに必要なことだもん!是非手伝わせて欲しいな」

 

    綾地「そういうことでしたら……お願いできますか?」

    戸隠「うん!まっかせて」

 因幡・椎葉「「よろしくお願いします」」

    綾地「はい。一緒にパーティーに出席できるよう、頑張りましょう」

 

    戸隠「わからないことは、なんでも聞いてね」

 

    保科「はは……ははは……オレ、デュアンや綾地さん、先輩が居てくれるならオレなんて必要ないだろうな……」

 

  デュアン「何言ってるんだ……人では多いほうが良いに決まってるだろ……」

 

    保科「ですよねー……んで、今後の進め方はどうしようか?パーティーの準備も、本格的に動くのはまだまだとしても、簡単な計画ぐらい立てたほうがいいと思うんだけど」

 

    綾地「確かにそうですね。戸隠先輩、今までは準備にどれくらいかかってましたか?」

 

    戸隠「んー、そうだねー……食事はケータリング。サンドイッチとか巻き寿司とか、手で食べられる簡単な物だけ。これは連絡だけで手間はかからないかな……飲み物は運営がペットボトルを用意するけど、当日あれば問題なし。買いに行くなら、飾り付けと一緒に買い出しに行ってもいいし、人手があるなら一日で済むはずだよ」

 

  デュアン「ふむぅ……」

    戸隠「一番作業が多いのは体育館の飾り付けだけど、これは中間考査の後じゃないと動けない、人手も時間も必要になるから……飾り付けは学生会も手伝ってくれる予定だから……やっぱりアイディア出しが一番大変かな。あと、実現させるための交渉とかね」

 

  デュアン「……」

重要なのはアイディアと交渉か・・・。飾り付けは人手があればどうにでもなるしな・・・。問題はアイディア。

 

    綾地「となると……実際に動くのはテスト後がほとんど、ということで大丈夫でしょうか?」

 

    戸隠「そうだね。ただ、必要な物のリストなんかは早めに出してる方がいいかも。よく買い忘れとかあるからね」

 

 

    綾地「それでは……ひとまず今週は、パーティーの出し物について考えましょう」

 

    因幡「了解(ラジャー)です」

    綾地「ただし、この企画立案については、私と保科君、デュアン君、戸隠先輩で行います」

 

    因幡「え?寧々先輩たちだけで、ですか?」

    椎葉「めぐるちゃんと、ワタシは……その間、どうするの?」

  デュアン「勉強だと思うぞ……弱点が、どこかピックアップだ」

    保科「ああ、それで部活動が禁止になる来週、集中的に勉強するってことか」

 

  デュアン「そういうこと」

    椎葉「……わかった。それじゃあ、今は自分の方に集中するよ。力になれなくて申し訳ないんだけど……」

 

  デュアン「気にすることはないさ……参加することが第一だからな」

    因幡「でも保科センパイも古典がヤバいんですよね?」

  デュアン「保科は大丈夫だ……苦手ってだけで凡ミスをしなければ赤点はしない方だ。というか因幡さん、仲間を増やそうとするな……人の心配よりも自分の心配をしなさい」

 

    因幡「……はーい……」

    綾地「パーティーの企画に関しては、今週中に決めてしまいます。内容ではなく時間を優先させていきましょう」

 

    戸隠「うん。ちょっと残念だけど、仕方ないね。内容にこだわりすぎて、テストに影響を出したり、本番で失敗したりする方がマズいからね」

 

  デュアン「ふむ……一理あるな」

    戸隠「提案なんだけど、今週末に、みんなで集まらない?」

    綾地「それは……全員ですか?」

    戸隠「全員。勉強会っていうの?どうかな?」

    因幡「あ、なんだか楽しそう!」

  デュアン「……」

    椎葉「でも気持ちはわかる。合宿とか、お泊まり会とか、そういう雰囲気って楽しそうだよね」

 

  デュアン「なら……短い勉強合宿を開けばいいんだよ」

    椎葉「うぇ!?」

    綾地「たしかに……いい考えかもしれません」

    保科「でも、場所はどうするんだ?テスト期間に入るから部活動も禁止。学院の開放はしてないよね?」

 

    因幡「う~ん……ファミレスとかですかね?」

    戸隠「できればもう少し、静かに集中できるところの方がいいんじゃないかな?」

 

    椎葉「静かで、この人数で入れるところ……」

    保科「どこだろ……図書館とか?」

  デュアン「遠いだろ……。場所提供してやろうか?」

    保科「デュアンの家に、か?確かに……」

    綾地「あー……デュアン君の家でしたら……この人数余裕ですね」

 

    戸隠「え?大丈夫なの?ご家族の迷惑にならない?」

  デュアン「オレも綾地さんも一人暮らしだから大丈夫」

むしろ、部屋が余り過ぎてるんだよな。と言うか、両親が死んでから物が余り置かれてない。

 

    戸隠「それじゃあお言葉に甘えて、お邪魔させてもらおっか」

    因幡「デュアン先輩の家ですか……」

  デュアン「物色しても構わんが、散らかすなよ」

    

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 



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Chapter4
Ep35 お勉強会


 

~~~~

 

 

   綾地「おはようございます」

   因幡「おはようございます」

   椎葉「おはよう」

   戸隠「おはよー、綾地さん」

   保科「おはよう」

 デュアン「おはようございます。会長、柊史、因幡さん、綾地さん、椎葉さん」

 

   綾地「全員揃ってますね」

 デュアン「それじゃあ行こうか……」

   因幡「デュアン先輩の家かあ……どんなのだろ?」

   椎葉「一人暮らしなんだから、普通のアパートじゃないのかな」

 デュアン「んー……綾地さんのマンションだけど……3LDKだな」

   椎葉「うぇ?!3LDK?!」

   保科「うへぇ……デュアンって意外と金持ち?」

 デュアン「まあ……毎月はこれくらい?」

中指と人差し指と親指を立てる

 

   保科「30万……を毎月かあ」

 デュアン「いや、実際には3万程?部屋を購入してるからな……」

両親は老後に蓄えてたんだろうか?それとも、オレに譲るために購入したのか、しらんけど。少なくても、親父は老後のためだろう。母はアルプだったしな・・・。

 

何で3万かというと、住民費や駐車料金でそれぐらい持ってかれるからだ。

 

   保科「へえー……因みに、デュアンは賃貸と購入どっちがいいんだ?」

 

  デュアン「ん~……微妙かな?それぞれにデメリットメリットがあるから……老後のためなら購入、定期的に引っ越すなら賃貸……だろう」

 

   保科「一応参考程度にとどめとくよ」

  デュアン「ああ……そうしな」

 

~~~~~

 

   紬・戸隠「はー……」

驚いているようだ。これくらい普通だろう。

 

    保科「相変わらず、バカ広いな此処は」

  デュアン「バカは余計だろう……まあ、一人暮らしには不要な広さだろう」

 

   因幡「広っ!リビング広っ!?」

  デュアン「別にこれくらい普通でしょ」

   綾地「……普通なのでしょうか?」

   保科「絶対普通じゃないと思う」

  デュアン「まあ、適当に寛いでなよ……」

   因幡「あ、はい。どうもです」

   椎葉「なんだか落ち着かないね……こんなに広いと」

  デュアン「そうかな?」

   戸隠「いやー……わたしもこれには驚いた」

   綾地「?」

何度か来たことのある柊史や綾地さんは、驚いた反応はしないだろう。

 

  デュアン「……なんか飲みたい人いる?」

    保科「あー……オレは珈琲かな?」

    因幡「私はジュース系で」

    椎葉「う~ん……甘い系かな?」

    綾地「私は紅茶で」

    戸隠「じゃあ、わたしも紅茶で」

  デュアン「了解した……」

オレは、それぞれの注文通りに飲み物を置く。

 

    保科「デュアン……お前って、相変わらず家事全般はすげぇよな」

 

  デュアン「意外に好きだからな……家事は」

    綾地「デュアン君は、将来の夢は主夫でしょうか?」

  デュアン「そういうの、まだ決まってないんだよなあ……」

    保科「そういうものなのだろうか?まあ、人の事は言えんが……」

 

  デュアン「……ッフ……オレは多分、一生孤独だからな」

オレは誰にも届かない声でそう呟く・・・

 

    椎葉「デュアン君?」

  デュアン「どうしたんだい?」

    椎葉「う、ううん……なんでもないよ」

  デュアン「……、そうか?……」

 

    保科「さて……勉強を始めるか」

  デュアン「だな……そうだな、まず苦手教科から始めようか」

    保科「了解」

 

さて、オレは椎葉さんの勉強を見ることにするか・・・

 

  デュアン「すみません……会長は因幡さんの勉強をみてもらえないでしょうか?綾地さんは、柊史の苦手科目を頼みます」

 

    保科「ツーマンセルで組んでどうするんだ?」

  デュアン「とにかく、今から2時間は苦手科目を克服させる……それで30分、休憩を挟んだ後、1時間は相手の得意科目と自信がない部分を補う……だから、次は……因幡さんとオレ、綾地さんと椎葉さん……そして会長と柊史だ。んで15分の休憩して……3時間、オレが全てをまとめて教える」

 

    保科「な、なるほど……でも、最初っからお前が教えたらいいんじゃないのか?」

 

  デュアン「一気に教えるのではなく重点的に当てた方が良い……。まあ、安心しろ……赤点を回避させてやることを約束してやる」

 

    椎葉「お手柔らかに頼みます……」

  デュアン「……(ヤバいのは因幡さんだ。中間考査の範囲全ては流石にヤバい……)」

 

流石に、全ての点数をカバーする気力は無いぞ・・・と言うか、普通に教えられれない。

 

    保科「わ、分かった……」

    椎葉「でも、綺麗に片付いてるんだね、一人暮らしって、もう少し散らかってるのかと思ってた」

 

  デュアン「家事洗濯は得意だからね……それに、この家に散らかる程の物は無いぞ」

 

あるのは、参考書とかそういう本ばっかりだな。

まぁ、服とかあるだろうし・・・

 

   因幡「もしかして、自分の部屋のクローゼットとかに、無理矢理押し込んだ感じですか?漫画でよくあるような?」

 

  デュアン「漫画と現実を一緒にするな……それとも見て来るかい?」

クローゼットとかに物は何もないしな・・・。

ミュウの服は、別の場所にあるしな・・・

 

   綾地「無駄ですよ……デュアン君の家は荷物さえ引っ越せば、生活痕が残らないほど何もありませんから……」

 

   因幡「そう言われると、ちょっと探索したくなっちゃうなぁ。例えば、そこの引き出しとか―――――」

 

と、因幡さんは引き出しを開けるが・・・

 

   因幡「なんか色々ある……このケースの中は何だろう?」

 デュアン「それに触れるな!!!」

   因幡「あ~やしいなあ~」

 デュアン「因幡さんは、自分の部屋を物色されても……良いと言うのかね?」

 

   因幡「す、すみません……」

 

   保科「んで?あのケースの中身は何だ?」

 デュアン「教えない」

 

   保科「そ……そうか」

 デュアン「そうなのだ」

あの中身って・・・魔法で作成した《性転換薬》なんだよな・・・。

しかも失敗して、他人が使ったら・・・ミュウみたいな幼女化してしまう。

 

   保科「何しに来たんだ?俺ら」

 デュアン「そうだぞ……今日は勉強しに来たんだろ?なに寄り道してるんだよ……ちなみに、後で中間考査の簡易テストをやってもらう。それに赤点を取ったら……明日、個人的にもう一回やってもらうから、そのつもりで」

 

   保科「なるほど……本気で中間考査の回避を目指してるんだな……流石はデュアン」

 

 デュアン「勉強嫌いを更生して、勉強好きにしてやるよ……」

   因幡「はーい!」

   椎葉「じゃあ、早速始めようか?」

   綾地「そうですね」

 デュアン「んじゃ……それぞれに分かれますか」

 

 

~~~~

 

   綾地「基本的に、ここら辺は暗記するしかありません。ですから演習、間違えたら問題の見直し、もう一度演習です」

 

   保科「反復練習ってことか……」

   因幡「それにしたって、覚えるのが多いですよぉ……」

   保科「そりゃ……今まで勉強してこなかった因幡さんが悪い……正直に言えば、まだ綾地さんとオレの教えは生易しい方だぜ?デュアンが教えたらスパルタ以上の教えだ」

 

   綾地「確かに……でも、点数は確実に跳ね上がりますよね」

   保科「そこがムカつくところだ」

 

~~~~

 

   椎葉「……んー……」

  デュアン「椎葉さんは、どこが分からないんだ?」

   椎葉「あ、うん。実はここの漸化式の問題がよく分からなくて」

  デュアン「漸化式には「等差型」「等比型」「階差型」「特殊階段」と言われるものが4つある……」

 

   椎葉「デュアン君は分かる?」

  デュアン「解き方は……こうだな……一番簡単に説明すれば……ここをこうして、こうすれば……」

 

 

オレは椎葉さんのノートに問題の解き方を書いた。

そして、解き方の方法も。

 

   椎葉「あれ?でも式が足りないような……」

 デュアン「やべ……いつもの癖で……正式な答えは……こうだね」

   椎葉「す、凄い……分かりやすいよ……ありがとう、デュアン君」

 デュアン「うむ……でも、オレがやった式の足りない答えを書くと不正解になるから気をつけろよ?」

 

なんせ、オレがやったことは、式を省略化したんだから。

 

 デュアン「それで、さっきの説明でわかったか?」

   椎葉「大丈夫」

 デュアン「……?」

   椎葉「えへへ……なんだかいいよね、こういうの」

 デュアン「……確かにな」

   椎葉「だから、最近は転校してきてよかったって思ってるんだ……それに……デュアンくんにも会えたし」

 

 デュアン「……」

オレに?変わったやつだな・・・・

   椎葉「その、秘密の共有……っていうのかな、そういう相手ができると、気が楽っていう感じがして……」

 

  デュアン「確かに……でも、あまり依存しすぎると……ロクな目に合わないぞ?それに……オレは魔女の代償を何とか出来るから……椎葉さんも代償に苦しんだったら……一度、オレの代償で緩和してやろうか?」

 

   椎葉「本当?!」

 デュアン「ああ本当だとも。それに……今日の夜……綾地さん達と一緒に例の体質を見せるよ。それにしても凄い親密な関係みたいな言い方だね」

 

互いの秘密の共有?まあ・・・意味はあってるはずだが

 

   椎葉「え?あっ!?いや、これは、ち、違くてっ、そんなつもりは全然ないんだよ!」

 

 デュアン「ないのかー……まあ、別に知っていたが」

今更、どうこう言われても・・・オレの心に響かないからな・・・

 デュアン「……ッフ」

   椎葉「と言うか、デュアン君、ワタシをからかってるでしょ?」

 デュアン「ハハハッ……悪い悪い……椎葉さんが面白い反応をするからさ……ごめんな」

 

オレはぽんっと椎葉さんの頭を置き、優しく撫でる

 

   椎葉「ふぇぇえ!?」

 デュアン「だから……これは、オレの意地悪でもあるよ……と言うか面白い反応をしてくれたお礼だよ……」

 

とオレはそう言い、椎葉さんの耳元に近づいて・・・

「これは、キミの罰でもあるんだよ、紬」と囁くと・・・

ボンッと顔を真っ赤にして机に突っ伏した・・・

 

 デュアン「本当に可愛い反応をしてくれるなあ……」

 

~~~~~~~~

 

 

   因幡「ぬぁ~~……疲れましたよぉ。ちょっと休憩しましょうよ~」

 

 デュアン「そうだな……2時間立ったな……オッケー1時間の休憩でもするか」

 

   椎葉「んー……疲れたぁ」

全員疲れてるようだ・・・

 

確か、クエン酸系のジュースがあったはず・・・・

 

  デュアン「みんな、これを飲んでみてくれ」

   

   全員「「「酸っぱいっ!」」」

 

   椎葉「な、何これ……酸っぱいよぉ」

   保科「これ……クエン酸ジュースだな」

   因幡「めちゃくちゃ酸っぱいですよぉ」

   綾地「でも……疲れが少し取れたような気がします」

 

オレは冷蔵庫からケーキを取り出す・・・

 

   保科「お前っ……そのケーキいつから作ってたんだ?」

  デュアン「昨日作って……漸く今完成かな?」

   綾地「凄いです……お店で並んでるようなケーキですよ……これ」

  デュアン「そうか?単なる自作だよ……これを食べて、あと一息頑張ろうぜ」

 

と言い、全員頑張った・・・最後の1時間の勉強を終えた。

もう既に、夜に差し掛かろうとした時・・・

 

  デュアン「んじゃ……勉強は一時中断にして……」

    保科「だな……気分転換も兼ねて、パーティーのことを話しますか?」

 

    戸隠「それがいいかもしれないね」

  デュアン「それじゃお茶を淹れ直してくるよ」

    椎葉「ありがとう、デュアン君」

    綾地「ありがとうございます、デュアン君」

    保科「暗くなってきたな……」

    因幡「明かりをつけましょうか。デュアン先輩、点けていいですよね」

 

  デュアン「ああ……ちょっと待ってろ」

オレはスマートフォンで、電気を付ける。

 

   保科「便利だよな……スマホ一台で何でも出来るなんて」

  デュアン「そうかあ?そうでもない」

 

 

~~~~~

 

   戸隠「それじゃあ、パーティーの話をしよっか」

   因幡「ずっと勉強してたので知らないんですけど、今はどんな感じなんですかね?」

 

   綾地「軽食の方は予約を済ませて、ソフトドリンクもネットでなるべく安いものを注文しています……と言うより、ソフトドリンクコーナーを平気で買ってしまう、デュアン君が凄いと思います」

 

 デュアン「まあ、個人には要らないものだから、学校側に寄付する形になるだろうな……炭酸ガスは1万円ぐらいするが……他のジュースはセットで3000円ぐらいだからな」

 

   綾地「パーティースタッフについては、学生会と話もしてシフトを組んでいるところです。そちらは問題ないと思います」

 

  デュアン「まあ、シフト通りに動けばの話だからなあ……」

    保科「どうした?」

  デュアン「いや、シフトってコロコロ変えるからさ……今のうちに余裕をもたせたほうがいいかな?ってね」

   

    保科「先の先まで考えてもしょうがないだろ……とにかく、楽しむことを優先しろ」

 

 デュアン「へーい」

   綾地「飾り付けも、ついでにネットで頼んで、学院におかせてもらえるように許可をもらいました。できるだけセールを行っている通販を利用して、費用を抑えて、忘れてしまったものだけ買い出しに行く予定です」

 

   因幡「おー……知らない間に準備が整ってる」

   戸隠「やっぱり綾地さんは優秀だね。ワタシの手伝いなんて必要ないぐらいだよ」

 

まあ、半分以上はオレの参考を、綾地さんが上方修正だからな・・・。

 

   綾地「そんなことありません。戸隠先輩のお話を聞けたからこそ、効率よく進めることが出来たんです……それに、ワタシの力だけじゃ多分無理だったと思います」

 

   椎葉「おー。じゃあ順調なんだね」

 デュアン「ああ……予算もかなり抑えられたと思うぞ?」

というか、オレが個人でドリンクバーを買っちまったからな。

ジュース代がかなり浮いた。

  

   綾地「出し物意外は、ですが」

 デュアン「…………」

そこなんだよなあ・・・

 

   因幡「出し物は何も無いんですか?」

   戸隠「あるよ。吹奏楽部が協力してくれるから」

   因幡「それじゃあダメなんですか?」

 デュアン「ダメではないと思うが、当日にならないと……十分かどうか分からない……オレはアドリブで動くのは好きじゃないからな」

 

   保科「アドリブ……台本もなしにいきなりコレをやれってのは流石に……か」

 

   戸隠「そうだね……でも保険としてもう一つぐらい、みんなでこう……ぐわーっ!って、盛り上がるようなものもあると安心かな?」

   

   椎葉「ぐわーっ!ですか?」

   因幡「騎馬戦とか?」

   保科「体育祭なら盛り上がるだろうね……」

残念ながら、今は秋のハロウィンパーティで盛り上がりだ・・・

 

   因幡「パン食い競走?」

   保科「何で体育祭のネタなんだよ!」

   因幡「じゃあ、演劇は?」

  デュアン「…………」

オレはその言葉にフリーズしてしまった・・・

 

   戸隠「それも考えたんだけど……文化祭ならともかく、パーティーで長時間舞台に注目し続けるのは、疲れるんじゃないかな?」

 

   保科「それに時間もないから、さすがの演劇部も受けられないって」

 

  デュアン「台本なしのアドリブ劇場ならなんとかなると思うが……」

   保科「無理だな」

  デュアン「ああ」

   綾地「もう3年は引退していて、春の文化祭の演目でも練習が必要になりますからね」

 

   因幡「そうですかー……あ!じゃあ、ハロウィンにちなんで……お菓子交換タイムなんてどうですか!?参加者は全員お菓子を用意して、皆で交換し合うんです」

 

   綾地「それはむしろ、クリスマスのイベントじゃないですか?」

   保科「お菓子の交換だと、ハロウィンにちなんでる気もするけど……全員が参加ってなると少しだけハードルが上がる気もするね。もっと……なにかこう……気軽に全員が参加できるけど、参加しない人がいても盛り上がるような……う~~~ん。あ!そうだ……コスプレコンテスト、なんてどうかな?」

 

  デュアン「甘いな、保科……それに少し手を加えて、全員を阿鼻叫喚の地獄絵図に落とさないと」

 

   保科「お前、コスプレに何の恨みがあるだよ!」

  デュアン「この際だから、男でも女の子の格好をしても良いという新ルールを追加させる。無論、女子も男の格好もすることもおkするんだ」

 

   綾地「え?え?コスプレコンテストに、男女関係なく服装自由?」

  デュアン「別に構いませんよね?女装しようが男装しようが……コスプレには違いないんだから」

 

   椎葉「うん?今回のパーティーではコスプレを必須にするってこと?」

 

  デュアン「ああ……でも、それじゃ面白くない。だから男も女の格好させたり、女も男の格好させたりとハロウィンにふさわしいカオスを披露すれば良いんだよ」

 

   綾地「えぇっと……女装と男装の意味が分からないのですが……」

  デュアン「椎葉さん一人だけじゃ仲間はずれみたいで嫌だろう?」

   保科「……そのコスプレが一番気合が入っているかとか、コスプレがにあっているとか、皆の投票で決めるのか?」

 

  デュアン「だな」

   保科「もし、男子が女装して1位取ったら、流石に可愛そうじゃないのか?」

 

  デュアン「……んじゃ男装女装は無しの方向で……」

椎葉さんがまた一人になっちまうな・・・ふむ。

 

   因幡「ミスコン……みたいな感じですか?」

   保科「雰囲気はそんな感じかな。そこまで大々的なものじゃなくて。エントリーは設けるけど、アピールタイムとか特別なことはなし。性別で分けたりもしない」

 

 デュアン「ふむ……それなら気軽に参加できそうだな……皆」

オレは参加しないけど・・・

 

   保科「あっ、運営チームは必ず参加すること……で、そうだな……賞品は学食の食券とか。それぐらいなら、予算も足が出ないよね?」

 

 デュアン「まあ……まだ予算は沢山余裕あるが……」

   保科「投票するだけなら、誰でも参加できると思うんだけど」

   戸隠「そかそか、なるほどね。確かにそれなら盛り上がりそうだね」

 

   椎葉「水着審査とか変なこともしなくて済むなら、エントリーする人もそれなりにいる気はするね」

 

  デュアン「水着って……今、10月だぞ?」

   保科「でもこれ……参加者がちゃんといてくれるか、そこがちょっと不安かも」

 

    綾地「確かにそうですね。いざ蓋を開けたら、一人も居ないという事態もあり得ないわけじゃないですしね」

 

    戸隠「それなら大丈夫だよ、最低でも6人も居るんだから」

  デュアン「え?まさか……」

    戸隠「うん。此処に居るでしょ?」

    保科「1?」

    因幡「……2?」

    椎葉「……3?」

    綾地「……4?」

  デュアン「…………」

    戸隠「5!ほらデュアン君も」

  デュアン「っち……6!」

 

オレがコスプレ?ははは・・・何の冗談?

 

 

    保科「ああ、確かに……これなら盛り上がりそうだ。トトカルチョでもすれば、一儲けできそうな面子だ」

 

  デュアン「賭博は禁止だぞ」

    保科「わかってるって……比喩だよ比喩」

  デュアン「むしろ、オレは要らないんじゃないか?」

    保科「そうだな……オレも要らないんじゃないでしょうか?」

    戸隠「んーん、必要。男の子でも参加できるってアピールをするためにはね」

 

    保科「まあ、そういうことなら」

  デュアン「保科が居るなら。オレは必要ないと思いますが?」

    戸隠「ダメです」

  デュアン「…………」

 

    椎葉「でもそれって、ワタシたちは絶対にコスプレをしなくちゃいけないってことだよね?」

    因幡「そういうことになりますね」

    椎葉「なんか……普通だね。めぐるちゃんは恥ずかしくないの?もしかして経験ある?」

    因幡「いえ、自分も初めてですよ。そりゃ、ちょっとは恥ずかしいですけど……でも、コスプレしたほうが楽しそうじゃないです?こうして準備から手伝うんです。折角だから、パーティーを目一杯楽しみたいじゃないですか」

 

二人共凄いな・・・コスプレは・・・嫌な思い出しか無いな。男女逆転祭り・・・あれで全てが終わったからな・・・。

 

    椎葉「そりゃ、まあ……ね」

    因幡「それに、別にエッチな格好をしなきゃいけないわけじゃないんですから……。コスプレする人が他にもたくさんいるなら、チャレンジしてみるのもいいかなって」

 

    椎葉「それは……そうかもしれないけど」

    保科「椎葉さんはコスプレするのが嫌?」

オレは鉄拳を柊史に落とす

 

   デュアン「空気読めよ……椎葉さんには代償があるだろ」

     保科「わ、忘れてた」

 

    因幡「じゃあ、一緒にコスプレしてみましょうよ、紬先輩!こういうチャンスはなかなかないんですから」

 

    椎葉「……あ、あんまり恥ずかしくないのなら」

 

 

まあ、そりゃそうだろうな・・・・

 

 

 

 

 

~~~~~



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Ep36 勉強お疲れ

 

 

~~~~~

 

  デュアン「皆、お疲れさん」

    戸隠「うん。お疲れ様。いやー、勉強したねー」

    綾地「そうですね……」

    因幡「あわわわ……」

    椎葉「後半のデュアンくんの教えで何とかなりそうかな……中間考査のテストは……うん。平気かも」

 

    保科「オレも大丈夫だ……だが、因幡さんがトラウマができちゃったな」

 

    綾地「今日覚えたことを忘れちゃ意味がないんですよ。ちゃんと反復して、覚えましょうね」

 

  デュアン「そこんところは大丈夫……ノートに範囲マークを付けてある。苦手なところはかなり重点的に教えたから……ノートを開くたびに、覚えられるように刷り込ませた」

 

やっていることは、洗脳に近い行為だがな。

忘れたら処刑だ。

  

    椎葉「デュアン君、今日は部屋を貸してくれてありがとう」

  デュアン「気にするな……それに……たまには皆で騒ぐのも良いのかもしれないな」

 

    椎葉「うん、ワタシも楽しかった!」

    保科「色々教えてもらって助かったよ、デュアン、綾地さん」

  デュアン「気にするな……」

    綾地「いえ、いつも助けてもらっているのは私ですから」

 

    戸隠「因幡さんはどうかな?赤点、回避できそう?」

    因幡「あ、あははは……」

ぶつぶつと教えた範囲を呪文のように唱えている

 

  デュアン「頑張れ、因幡さん」

    保科「さてと、いつまでもここで立ち話しているわけにもいかないから、そろそろ解散でも……」

 

    椎葉「そうだね。じゃあ、また来週」

    因幡「ありがとうございました、デュアン先輩」

  デュアン「気にすることはないさ……」

    戸隠「今日はお邪魔しました」

  デュアン「ああ」

    綾地「お疲れ様でした」

 

  デュアン「綾地さん、オレは柊史と一緒に三人で送るよ」

    綾地「分かりました……ではお先に」

 

 

~~~~

 

    戸隠「じゃあ、わたしは電車だからここで。お疲れ様――」

    因幡「お疲れ様です」

  デュアン「お疲れ様です、会長」

    椎葉「今日はありがとうございました」

    戸隠「テスト、赤点取らないように頑張ろうね!それじゃあ、またね」

 

    保科「はい、また学院で。今日はお疲れ様でした」

  デュアン「…………」

オレは上空を見て、不自然な鴉が一匹飛んでいる。

 

    保科「さて、2人の家は向こうの方だっけ?ここまで来たんだから、送ってくよ」

 

    因幡「いいですって。ここからなら、家はすぐそこですから。それに紬先輩と一緒なんです。そこまで心配しなくても大丈夫ですよ」

 

  デュアン「痴漢、ナンパ撃退法を教えるよ……もし遭遇した場合は逃げることをお勧めする。勿論人通りの多い所を目指してね。捕まってしまった場合は、噛みついたりして、逃げる」

 

    椎葉「それでもダメだったら?」

  デュアン「相手の股間を蹴り上げろ……かな?」

    保科「oh……クリティカルヒット」

  デュアン「とまあ……本当に困ったときは、すっ飛んできてやるよ……。じゃあな……二人共気をつけて帰れよ……まあ、椎葉さんには送迎があるから心配ないか……?それじゃあな、二人共」

 

    因幡「はい、お疲れ様です」

    椎葉「じゃあまたね」

    保科「ああ。また来週……」

と俺らは2人を見送った・・・

 

    保科「さて、俺らも帰るか」

  デュアン「泊りがけで勉強する?」

    保科「ん~……お前のお陰で殆どは点数は取れると思う」

  デュアン「そうか……んじゃ、また来週だな」

 

 

オレは、保科を置いて、帰路に向かう・・・。

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

  

 

 



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Ep37 俺ら、今回被害者だろ ☆

 

 

~~~

それからの日々は早かった。テスト期間になり、部活は完全に休み。

部室も空けることは叶わず、この期間は綾地さんの鍵も念のために回収される。

 

オレは、みんなの勉強を見るために放課後に図書館に集まって、毎日勉強を教え続けた。正直、頭の中がパンクしそう。SAO世界線や盾の勇者世界線、極振り世界線で使っていた「並列処理能力」が欲しい。

転生特典は選べるが、あまりにもチート人間化すると・・・この世界の情報自体が書き換わっちゃうからなあ・・・。

 

 

~~~~

そして、テスト当日

 

  デュアン「……こんなものか、な?」

オレは開始5分で全ての答案用紙に記入した。100点は取りたくないから、問題の3、4問は答えをずらしたり、惜しい答えを書き加えた。

90点台かな?赤点は無いがな

 

 

   久島「はい、ペンを置いて、試験終了だよ。後ろから答案用紙を回収してきてー」

 

 

   保科「ん~~……漸く終わったぁ」

   海道「疲れたなー」

   保科「調子はどうだ?」

   海道「んー……まあ、上々かな。赤点は無いけど、良くて60点、悪くて平均かな……そっちは」

 

   保科「オレもいつも通りか……ちょっといいぐらいかもな」

   海道「さてと、せっかく昼前に終わったんだから、どこか遊びに行くか?」

 

   保科「オレとデュアンは部活だ」

   海道「今日もか?いろいろ大変だな」

   保科「まあな」

   海道「相変わらず、意外と大変そうな部活だよな」

   保科「大変は大変だが……裏方作業も楽しいもんだぞ」

  デュアン「……」

   海道「ふーん……お前がそう言うなら、今年はオレも参加してみようかな?」

 

  デュアン「良いんじゃないのか?仮屋さんに告白するチャンスかもよ?」

 

   海道「何でオレの好きな子をお前が知ってるんだよ!」

  デュアン「表情」

   保科「態度」

  デュアン「話し方」

   海道「怖っ……」

 

   保科「あっ、そうだ……仮屋」

   仮屋「にゃっ!?」

   保科「何逃げようとしてるのかな?」

オレは仮屋さんの前へ出て・・・

 

  デュアン「どこへ行こうとしたのかな?かな?」

 

   椎葉「保科君、デュアン君、部活は?今日は戸隠先輩が、大切な用事があるからって言ってたけど?」

 

   保科「あー……悪い、遅れるって言っておいてくれない?」

   椎葉「時間は結構かかりそう?」

  デュアン「だろうね」

 

 

~~~~

 

  デュアン「んで、話は終わったのかい?」

    保科「デュアン!?あ、あぁ……なんか、いつの間にか……オレと海道と仮屋とデュアンの4ピースバンドをやることになった」

 

  デュアン「は?なんでオレまで?」

    保科「知るか……それに、これから練習があるんだよ……デュアン、付き合ってくれるか?」

 

  デュアン「はぁ~……仕方ねぇな……綾地さんに申請しとくか」

けいおん世界線はギターを囓ってたし、ラブライブでは、ピアノやらなにやらやってたからなあ・・・。

 

    保科「んじゃ、行くか」

  デュアン「おう!」

 

俺らは部室へと向かう・・・

 

    保科「先輩たち怒ってないだろうか?」

  デュアン「大丈夫と思うぜ……」

と、部室の前まで来て、ドアを開けようとすると・・・声が聞こえる。

 

    戸隠『むふふ、やっぱり若い子の肌はスベスベだねぇ』

オレは、頭に疑問符を浮かべてしまった。

 

    綾地『あっ、せ、先輩、そこはだめですよぅ』

  デュアン「……」

 

【挿絵表示】

 

 

    椎葉『というか戸隠先輩だって1歳しか違わないじゃないですか』

 

 

  デュアン「…………」

    保科「デュアン?」

なんか嫌な予感がするんだよな・・・

 

    戸隠『その1歳が大きかったりするんだよ?』

たかが1歳だぞ?

 

    因幡『といいますか、自分からすれば戸隠先輩だって綺麗で憧れですけどね……あっ、寧々先輩は動かないで下さい』

 

オカ研の女子たちは一体何をしてるんだ?

 

    綾地『あ、はい』

    保科「すみません、遅くなりまし―――」

  デュアン「バカ!注意せず開けるのは間抜けがやることだ……ぞ?」

 

オレは眼の前の光景に絶句をした。

 

    因幡「…………はい?」

  デュアン「はい?はこちらのセリフだよ……何でほぼ全裸?なにかの新しいプレイですか?と言うか風邪引いちゃうよ?」

 

    綾地「―――――ッ!?」

綾地さんは顔を真っ赤にしていた、完熟したトマトみたいに・・・

 

    保科「なんですかこれ?」

    戸隠「え?あ、ちょ、ちょっと、保科クン、デュアン君?」

  デュアン「言い訳は結構です……オレは説明を求めます」

    椎葉「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

  デュアン「ふぇぇぇはこっちのセリフだ……どういうことだ?これは……?」

 

    保科「色んな意味で凄いですね……うん」

  デュアン「……」

    因幡「じっと見るな―――ーッ!」

  デュアン「HAHAHA……見られたくなかったら最初っからカギをかけることをお勧めするよ」

 

誰かがメジャーをぶん投げたが、あまりにも遅い投擲だった為、左にずれると、ズレた先に柊史の顔面に直撃した・・・。

 

    椎葉「とにかく扉を閉めて」

  デュアン「分かった……扉を閉めるんだね」

オレは、保科が外に出ていく・・・

 

    椎葉「何で、デュアン君がさぞ当然のようにいるの!!」

    因幡「デュアン先輩も出ていくんですよ!!」

と今度はシャレにならない物まで投擲してきたため、全て手で受け止めて机に置き、部屋に出ていくことにした。すると、また投げてきたので、それをキャッチし、部屋から出た。

 

~~~~~

   

  デュアン「何だこれ……メジャー?これでスリーサイズを図ってたのか?」

 

    保科「コスプレの衣装か……?でも何故裸でやる必要があるんだ?」

 

  デュアン「普通に服の上からやればよかったんじゃなかったのか?」

服屋はそうする。まあ、ブラは流石に上半身を裸にしないと測れないからなあ・・・

 

   保科「どうするんだ?」

  デュアン「オレは謝らないぞ」

   保科「何故?」

  デュアン「裸になってたあいつらが悪い。男もいる部員の考慮じゃないよね?もし考慮してるんだったら、ただの露出狂だよ」

 

オレはやれやれと言ってやった。

 

 

~~~~~~

 

   戸隠「採寸をしてたところだったの」

  デュアン「はい、わかりますね……このメジャーが証拠ですね」

   保科「採寸?あぁ……ハロウィン衣装のか」

  デュアン「察しが悪いぞ、柊史」

   綾地「そうです……」

   戸隠「今日中に採寸を終わらせて欲しいって言われててね……だから集まってもらったの」

 

  デュアン「うん……まぁ分かりますね」

   戸隠「でも、保科クン達は遅くなるって聞いたから、先に女の子の方を終わらせようとして……」

 

   椎葉「だからわざわざ下着にまでなる必要はないんじゃないかって言ったのに」

 

  デュアン「そうだ……そこだよ問題は、何で裸で居たんだ?風邪でも引きたかったのか?」

 

もう10月だよ?と言うかいくら部室が暖かいと言っても、限度があるぞ。

 

   戸隠「だって、せっかく作ってもらうんだから、きっちり採寸しないと」

 

  デュアン「…………」

バンッ!とオレは机を思いっきり叩きつける。

 

  デュアン「いい加減に悪ふざけもいい加減にして下さい、会長……採寸なら服からでも出来ますよね?ぴったりで作る必要性無いですよね?そこんところはどうなんです?会長……必要性があったんですか?オレと柊史は男子ですよ?そこんところわかっててやってるなら、あんたは最低な人ですよ」

 

オレはそう言うと・・・

 

    保科「デュアンがキレた……」

    綾地「なにしろ……全ては今更ですよね」

    椎葉「うっ……うっ……また見られた、見られたよぉ」

  デュアン「俺らだって……不本意に見ちまったから……そこは謝る……だが、他は謝らない」

 

    戸隠「うん……鍵をかけてなかったのはマズかったねぇ……失念してた」

  デュアン「言っとくが、鍵はオレも持ってるんだ、意味はない」

    因幡「だから服の上からでも十分だって言ったのに……ショップで測るとしても、普通にシャツぐらいは着てますよ」

 

  デュアン「…………」

    保科「いや、これはやっぱりオレが悪いですから」

    因幡「そうです。理由はどうあれ、女子の裸を見るなんて、男の責任ですよ、まったくもぉ」

 

  デュアン「は?柊史もオレも悪くねぇし……」

    因幡「うわっ……男のくせに責任逃れをするつもりですか!?」

  デュアン「………………」

    保科「既にデュアンがキレてるのに……マジギレしそうだ」

 

  デュアン「だいたい、裸で居たお前らが悪い……常に最悪を想定しろよ……この際誰が悪いとかの問題じゃねぇんだよ!」

 

オレは、思いもよらない感情を表に出している・・・。

 

  デュアン「裸で採寸する大馬鹿は誰?当日の事考えてやってるの?ズレが出て着られなくなったらどうするんだよ」

 

    戸隠「大丈夫だよ、そこのところは絶対に安心だから」

  デュアン「この世に絶対とか100%大丈夫とか使うんじゃねぇーよ……ふざけてるのか?あ?会長」

 

オレは此処まで頭に血が上ったのは生まれて初めてかもしれない・・・

いや、日常でキレたのは初めてだな。

 

  デュアン「これがオレや柊史だったから良かったかもしれないが……他の男子生徒に見られたらどうなってたぐらい想像しろよ……いくら自分のプロポーションが良いからって他人を巻き込むんじゃねぇよ……マジでふざけんなよ!次同じことをしたら……マジで許さんからな」

 

    保科「何もそこまでしなくても……」

  デュアン「痴漢冤罪だったんだぞ?」

    戸隠「……だって、……盛り上げようとしたんだもん」

涙目になる会長。オレは引けない・・・

 

  デュアン「会長の行動には毎回やりすぎな部分があるんですよ……服の採寸ぐらいなら服から図れるでしょ……そこから布地面積やらを計算すれば大体は分かるだろう……と言うか、この1ヶ月で太ったり痩せたりしたら着られなくなりますよ」

 

オレはフォローも忘れずに・・・

 

    保科「デュアン……その辺にしといたほうが良いぞ」

  デュアン「………、……オレだって怒りたくて怒ってるんじゃないぞ……ったく。」

オレは怒った顔を手でスーッと覆い、覆った後、左ポケットに突っ込んだ

 

  デュアン「はいはい……あぁ、そうだ。オレと柊史は今後の部活について話さなければならないんだった」

 

    綾地「話というと?」

    保科「うん、これから暫くの間、部活に参加する時間を大幅に減らしても問題ないかな?デュアンも含めて」

 

    因幡「なんです?どうかしたんですか?」

    椎葉「もしかして、部活を辞めたい、とか」

  デュアン「もし、今みたいな状態になったら辞めるかもしれないね……だけど違う」

 

    綾地「それじゃあ、一体どうしてですか?」

    保科「その……例のパーティーで舞台の出し物をしようかと思って」

 

    戸隠「え?そうなの?」

   デュアン「…………」 

    因幡「なになに?一体何をするんですか?」

   デュアン「あぁ……オレと柊史と海道と仮屋さんの4ピースバンドだよ」

 

    因幡「バンド!?先輩たちって楽器とか出来るんですか?」

  デュアン「オレは出来る……海道もアマプロだが、出来る……仮屋さんは……まぁ、柊史はできそうだな」

 

   保科「お前の教え方が上手いからな……だからこれから覚えることにする」

 

   椎葉「覚えるって……あと2週間もないんだよ?」

 デュアン「なあに簡単だ……2週間もある……」

 

オレが教えればアマチュアレベルまで育てられる。

 

問題は楽譜だな・・・保科には耳コピをして、もらう。

 

 デュアン「オレには、絶対音感がある……柊史の練習コースは既に決めてある」

  保科「マジ?」

 デュアン「マジだ」

  保科「とにかく、その練習のために、部活ん参加が少なくなりそうなんだ……一応、毎日顔をだすようにはするし、万が一問題が置きたら部活を優先する。けど……結局的には任せちゃってもいいかな?」

 

   綾地「そういうことでしたら、はい。大丈夫ですよ、パーティの準備もしばらくは事務的なものが多いでしょうから」

 

一応、綾地さんには、困ったことがあったら、対処法を書いて渡したからな。必要最低限のことは書かれているから大丈夫だと思う

 

 

   戸隠「舞台を盛り上げてくれるなんて、お姉さん嬉しいよ!」

   椎葉「うん、いいんじゃないかな。舞台を盛り上げるための練習も、パーティーの重要な準備だよ」

 

   稲葉「バンドとかちょっと格好いいですね。盛り上げてくださいよ」

   保科「ん、んー……最善は尽くす」

 デュアン「俺がいる……安心しろ」

   保科「お前の特訓は下手をすると地獄なんだよ」

 

   保科「……少し不安だなぁ」

 

   綾地「こちらのことは気にしないで下さい」

 デュアン「あぁ……了解した」

   保科「ありがとう。任せることになってゴメン、綾地さん」

   綾地「いえ、舞台に出るなんて私には出来ないことですから。がんばってくださいね。」

 

   保科「何とか頑張ってみるよ……けど、過度な期待はしないでね」

   戸隠「ようがす。それでは保科クンが抜けた穴は私が埋めましょう」

   保科「戸隠先輩とオレじゃ、比較にもなりませんて。むしろお釣りがじゃんじゃん出るぐらいです」

 

   戸隠「そう言ってもらえると嬉しいねぇ。その評価に恥じぬように頑張らせてもらっちゃうよ」

 

   保科「じゃあ、そういうことでオレは練習に――――」

  デュアン「それじゃあ――――」

とオレは部屋を出ようとすると・・・

  

  保科・デュアン「「はい?」

   戸隠「コスプレは、保科クンとデュアン君の分も作るんだよ?だったらほら、先に採寸を済ませちゃわないとねぇ……むふふ」

 

  デュアン「………」

    保科「あの、採寸は分かるんですが……なんでそんな怪しげに笑ってるんです?」

 

  デュアン「会長?なんでジリジリと寄ってくるんですか?」

 

   戸隠「さぁ、採寸の時間ですよ~。脱ぎ脱ぎしましょうね、上も下も脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」

   

  デュアン「はぁ!?」

    保科「いや、ちょっと待ってください。上は分かりますが、下まで脱ぐ必要はないですよn――――」

 

    因幡「いやいや、折角ですからきっちりクッキリ採寸しましょう。自分だけ逃れようとか、そうは問屋が御ろしませんよ?」

  

    椎葉「あ、ワ……ワタシも手伝うよ、採寸」

柊史に集中砲火してるな・・・。

 

    保科「顔が真っ赤じゃないか!そんな無理にしなくていいんだって!」

 

    椎葉「む、ムリなんてしてないもん!」

    保科「嘘だ!絶対に嘘だ!」

    椎葉「ワタシだって、見られっ放しじゃないんだからね!」

仕返しなんだな・・・

   

    保科「なにその意地……何の意味があるの!?」

柊史はその場から逃げ出そうとしたが・・・

 

カチャン、と施錠音が聞こえる。

残念、柊史に逃げ場は無いようだ・・・

 

    綾地「採寸するときは、ちゃんと鍵を閉めないといけませんね」

    保科「あ、綾地さん!?」

    椎葉「たまにはいいじゃない、見られる側に回るのも」

    保科「それとこれとは話が違うような気が……」

    戸隠「そんな恥ずかしがらずにー♪」

    因幡「センパーイ」

    椎葉「ふ、フフフ」

    綾地「さあ、保科君」

ジリジリとにじり寄ってくる女子たち・・・

 

    保科「……い、いや、止めて……でゅ、デュアン……止めてくれ……綾地さん達を……」

 

  デュアン「ゴメン」

    保科「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

    

    戸隠「それじゃあえっと、胴回りは……おぉっと、意外といい身体付きだねぇ……それとも、年頃の男子ならこれぐらいは普通なのかな?」

 

これくらいなら、普通だろう。

 

 

     椎葉「わっ、わっ、わっ……」

     綾地「保科君、結構細いですね。でも、意外としっかりしてる……」

 

     因幡「……お、男の人なのにくびれがある……え?もしかしたら、自分より?くっ……なんか悔しい……うぅぅ」

 

     戸隠「はーい。それじゃあ次は肩幅だから、背中を向けてねー」

 

本来なら、オレと柊史は、やるつもりは無かったんだが・・・まぁ、日頃の鬱憤を晴らしたいんだろう。

 

   デュアン「HAHAHA、己の不幸を呪うがいい!オレは、逃げさせてもらうから」

 

     因幡「密室の状態でどうやって逃げるつもりです?」

     綾地「あ……」

     椎葉「あ……」

オレは、二人が気づいた瞬間、窓を開ける。

    

     保科「逃さないぜ……一人だけいい思いをするなんてずるいぞ」

 

   デュアン「っち……」

     保科「お前も地獄を見ろ……一緒に覗いたんだ、なら一緒に罰を受けるのが当然だろう?」

 

   デュアン「……はぁー」

そして、服を脱がされる・・・

 

     因幡「うわっ……腕とかお腹周りの肉が全然ありませんよ……」

 

     戸隠「運動は苦手なのかな?」

     保科「ああ……コイツ、運動神経はヤバいんで」

     因幡「壊滅的な意味で?」

     保科「異次元的な意味で」

     椎葉「あー……そういえば、ワタシと保科君が階段から落ちた時に、デュアン君が壁を走って、蹴って……距離を詰めてくれて、ワタシたちを助けてくれたもんね」

 

     因幡「えぇ!?」

     保科「それだけじゃない……コイツのおかしいところは、ジャンプ力だ……下手すりゃ3mは飛べるんじゃないか?」

 

   デュアン「そんなには飛べない……せいぜい2m20cmかな?」

     保科「バク転も上手いしな」

   デュアン「因みに、20mシャトルランは195回が限界だったな」

     因幡「ギネスレベル?!」

     綾地「他には何が得意なのですか?」

   デュアン「飛んできた物はだいたい躱せる……マシンガンやライフル程度の速さは見切れる」

 

     保科「お前……どこのアサシン?」

   デュアン「別に普通でしょ?」

     綾地「でも本当に筋肉ありませんね……」

   デュアン「因みに、BMIは驚異の-3%。体重は……3年前と変わらず40kg未満だな」

 

     椎葉「ワタシより軽い!!」

     因幡「BMI-3%!?」

     綾地「もう……デュアン君の普通の基準が分からなくなってきた」

 

   デュアン「う~ん……素手でガンダムと闘えるスペックを持ってたり、ノートに名前をかかれなくても死なない、死んでも蘇る……のは普通じゃないってことに気づくな」

 

もう転生慣れしてるが、オレが一番狂ってると思ってるのはルルーシュの頭脳や枢木スザクの身体能力だ。枢木スザクの動きは流石に真似できん。

 

   デュアン「もういいだろう……服を返してくれ」

     椎葉「それにしても……この学生服、本来なら何処の学校なの?」

 

   デュアン「あー……それはオレが作った制服だ」

     保科「裁縫も出来るのかよ」

   デュアン「HAHAHA」

     保科「くそう……女子にモテそうなポイントを根こそぎ持ってやがる」

 

     椎葉「実際にモテモテでしょ?」

   デュアン「HAHAHA……彼女いない歴=年齢だぜ?」

     保科「そういや、不思議に思ってたんだが……何でデュアンに誰も告白しないんだ?」

 

   デュアン「オレが綾地さんと幼少期の頃からの幼馴染で付き合ってると思われてるからじゃないか?」

 

実際そうだったしな・・・「付き合ってない」とカミングアウトしても信じられなかったんだと思う。

 

     椎葉「へぇー……」

     因幡「なんか可哀想な人ですね」

   デュアン「同情するの止めてもらえませんかね?殺意が湧くから」

     保科「……この質問はデュアンにとっては地雷だったようだな……もうやめよう」

 

 

~~~~~~~

学校から出るオレと柊史。

 

   デュアン「そろそろ落ち込んでないで……行くぞ」

     保科「そうだな……さっさと海道と合流しよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep38 ハロウィン祭へ向けて練習【前編】

 

 

 

~~~~

 

   デュアン「悪い、海道……遅れた」

     海道「いや、大丈夫」

     保科「んで、今回のスケジュールは?」

   デュアン「オレが用意した」

     海道「流石はデュアン」

 

~~~~

 

   デュアン「柊史……1フレットは1フィンガーを意識しろ。フレットのきわを抑えるポジションを掴むんだ」

 

     保科「あ、あぁ……」

 

 

   デュアン「ベースはギターと違って、弦が太いんだ……」

     保科「それにしてもキツイなこれ」

 

練習してから、かれこれ3時間は経過しただろうか?

 

   デュアン「メトロノームのウラを弾くんだ……」

 

     保科「はぁ……指いてぇ」

   デュアン「……ギターより弦が太いから力がいるだろ?だから、まだそれは生易しいほうだ……これから酷くなるぞ」

 

     保科「ひぃぃ……マジかよ」

   デュアン「……柊史、少し肩の力を落そうか……休むか」

     保科「ふぅー……」

 

10分間、休憩させた。そして・・・引き始める。

 

   デュアン「強く抑えるのも重要だが、抑え過ぎると音が出せなくなるからな……ポジションを固めて慣れろ……後はリズム感を鍛えろ……ぐらいだろう……オレが言えるのは」

 

保科は、そこを完璧にマスターすれば大丈夫だろう。

 

オレは、楽譜を付け足し、更にアレンジを加える。

要は、保科の個性に合わせたアレンジ楽譜。

 

~~~~

 

   海道「いやー、悪かったな、急に練習を頼んじまって」

 デュアン「別に、友達の頼みだからな……」

   保科「ありがとな……デュアン、海道」

   海道「おう!と言うか、これから本番までオレたちと練習が優先だからな」

 

   保科「わかってるて。じゃあオレは、早速家に帰って復習するから」

 

  デュアン「いや、保科。お前の家より俺の家に来い……練習を続けるぞ」

 

 

   海道「うわぁ、出た……デュアンの鬼練習」

  デュアン「……練習中は衣食住は提供してやる……だから、必死に頑張れ」

 

   保科「わ、分かったよ……だが、親父には連絡させてくれ」

  デュアン「へいへい……」

 

 

――――15分後

 

   保科「許可を貰った……デュアン……頼むぞ」

  デュアン「アイアイサー」

オレは、ヴァイオリンとベースなどの楽器をレンタルした。

 

   海道「頑張れよ……じゃ、また明日な」

  デュアン「あぁ……また明日」

   保科「海道、気をつけて帰れよ」

 

~~~~~~~~~

帰ってから1時間と数十分の休憩を挟みながら練習を続ける。

 

  デュアン「だいぶ上手くなったんじゃないか?」

    保科「お前の引き方を真似すれば……嫌でも上手くなるわ!嫌味か?」

 

  デュアン「んじゃ……次は……」

オレは6フレット、4フレット、2レットを抑えながら弾く・・・

 

    保科「すげぇ……なんかそれっぽく弾けてる」

  デュアン「これを弾くんだ……んで、6フレットは抑えながら、-2フレットずつ下げ、上げを繰り返してくれ」

 

    保科「わ、分かった……ッ」

柊史の手は、太い弦を抑え続けていて、指先が赤くなっている・・・

 

  デュアン「痛み止め飲む?」

    保科「だ、大丈夫だ……それにしても本当にギターより力が居るな、これ」

 

当たり前の事を・・・・

 

  デュアン「ちなみに、弦が細すぎると切れやすいし怪我の元に繋がる……ギターも力は使うし、ピックも使うからな……」

 

    保科「うぅ……痛み止め飲んでるのに……痛い」

  デュアン「15分休憩するか」

 

長く練習しても指を酷使するだけだ。

 

  デュアン「イメージトレーニングも大切だ……風呂でも入って来い」

オレは柊史に指示を出す。

 

    保科「分かった……」

 

風呂入ってから、2時間弾き、1時間休憩し・・・丁度2時回り始めた頃

 

  デュアン「今日はここまでにして寝よう」

    保科「え……でもまだオレは……」

  デュアン「練習も良いが、本番で駄目になったら努力の無駄だぞ」

    保科「ちぇ」

柊史はオレのベットを使い、オレは地面で寝た。

 

 

~~~~次の日

柊史は、完全にベース練習に入っているようだ・・・

 

 

オレは、楽譜を付け足しながら・・・考える。

 

 

部活に顔を出し、問題がないため、俺らはスタジオへ行く・・・

既に仮屋さんと海道が来て、柊史をサポートしている。

 

 

そして、柊史は俺の家で練るまでベースを続ける。

 

現在の保科は5時間しか睡眠を取れてない。

朝と夜を含めれば10時間は練習に使っている。

 

~~~

あれから、数日が経過した・・・

柊史は軽いノイローゼを感じているな・・・さすがの10時間練習はヤバかった・・・。

 

柊史は、授業中に寝ちまっている・・・

 

   久島「居眠りしてないで、答案を取りに来なさいっ!」

   保科「す、すみません!」

   久島「ったく……はいこれ。今回は頑張ったみたいだね。古典の先生も、いつもよりいい成績だって言ってたよ」

 

   保科「勉強会とかしましたから」

   久島「今後とも精進するように」

   保科「はい」

 

 

  デュアン「柊史、古典は大丈夫だったのか?」

    保科「ああ……デュアンのテスト範囲のお陰で91点だったよ」

  デュアン「やるじゃん」

    保科「ああ……今まで古典でこの点数は出したこと無い……ありがとな」

 

  デュアン「気にするな……他の教科は、……大丈夫そうだな」

範囲全て90点台を取ったな・・・

オレは、ほとんど97点だけどな。歴史は85点だったけどな。

 

    保科「デュアンは大丈夫だったのか?」

  デュアン「あー……歴史を外してしまった」

    保科「へー珍しい……何点?」

  デュアン「85点」

    保科「赤点を取ってないだけいい方だと思うぞ?」

  デュアン「ま……見せる親も居ないし……点数は何点でも良いんだけどね。落第しない点数をキープでもするかな……」

 

    保科「進級に響くぞ?」

  デュアン「まあ……そうなったら、第三志望校だった"鵜茅学院"に転入するまでだけどな」

 

    保科「確か……穂織だっけ?」

  デュアン「そ……」

    保科「なににせよ……中間考査も終わったから。これで、なんの憂いもなくベースに打ち込める」

 

  デュアン「だな……」

俺らがそう言い・・・

 

    椎葉「あ、なんだか点数良さそうだね。ホッとしてるよ」

    保科「成績自体は普通だよ。赤点がなくてホッとしてるのは事実……どれもこれもデュアンのおかげだよ。それで、椎葉さんの方は?数学と化学、不安だったんでしょ?」

 

    椎葉「うん、バッチリ!みんなに教えてもらえたおかげだよ、ありがとう!」

 

    保科「オレは大したことできてないし。お礼ならむしろ綾地さんやデュアンじゃないかな?」

 

    綾地「はい?私がどうかしましたか?」

  デュアン「いや、みんなのお陰で……赤点を回避できたんだ」

オレ一人だったら・・・間違えなく積んでいた

 

    保科「オレの方も大丈夫だった。赤点はなかった」

    綾地「そうですか。よかった」

    保科「綾地さんは?大丈夫だった?って、確認するまでもないか」

 

    椎葉「教えてもらうとき、わかり易かったもんね。ちゃんと理解してる証拠だよ。赤点なんてないでしょ?」

 

  デュアン「HAHAHA、オレは分かりづらかったのか?」

    保科「お前のは……人間的に教わった感覚がない」

ひでぇな柊史は・・・

 

    綾地「はい、大丈夫でした……でも、デュアン君の教え方も上手でしたよ?」

 

  デュアン「そうだったのか?」

    椎葉「うん、わかり易かった……」

    保科「わかり易すぎて、勉強してる感覚がなかった……なんかこう本当に人間的じゃなかった」

 

  デュアン「ヒドイなあ……」

    保科「そっか、じゃあ揃ってパーティーに出席できるね」

  デュアン「だな」

    椎葉「あ、そう言えば……バンドの方はどう?パーティーに間に合いそう?」

 

楽譜は完成しているが、保科の弾き方後少し・・・だな

 

    保科「今のところは大丈夫だが……ちょっと不安だな」

  デュアン「柊史は、少し癖が出てるからな……そこを直せば大丈夫だと思う」

 

    保科「マジか……」

    椎葉「頑張ってね」

    綾地「楽しみにしてますよ」

    保科「そういう事を言われると、プレッシャーが……」

  デュアン「頑張れ、柊史……プレッシャーに押し潰されないのも、上手くなるコツだ」

 

    

 

    久島「はいはい、静かに。これで答案は全て返却されたね。赤点の者は補習と追試のお知らせがあるから、掲示板を確認しておくように……。なにか分からないことがあったら、ちゃんと担当の先生に教えてもらうこと。いいねー?」

 

みんなが「分かりました」と返事をする。

 

    保科「……あ、そうだ」

  デュアン「海道、仮屋さん、テストの結果はどうだった?」

    仮屋「なんとかイケた!赤点はないよ!保科とデュアンは?」

  デュアン「問題ない」

    保科「大丈夫だ、問題ない」

    海道「オレの方も大丈夫だったぞ……デュアンがテストの範囲が書かれたノートを貸してくれなかったら……ヤバかったかもしれん。一応、80点は取れてる」

 

すげぇな・・・

 

    保科「結果が全てだから……。参加できればそれでいいさ」

  デュアン「ああ……」

    海道「おうよ!これで安心して本番に向けて練習できるぜ!」

    仮屋「赤点がないことには安心したけど……違う点で不安だよ……保科、大丈夫?」

 

    保科「え?何が?」

    仮屋「顔、真っ白。体の調子が悪いんじゃない?」

    保科「そうか?別になんでもないけどな……」

    仮屋「ウソだよ。さっきだって船を漕いでた。というか、居眠りも今日だけじゃないくせに」

 

    保科「そんなに見つめられてたなんて……照れるじゃないか」

    仮屋「冗談のつもりはないんだよ、保科」

ちょっとスパルタ過ぎたかもしれないな・・・反省しなければ。

 

    保科「……まあ確かに、寝不足気味かもな。けどそれだけだ、他には何も問題ない……こともないか……左手が超痛ぇ」

 

柊史はそう言って手の平を広げて見せた。

 

  デュアン「柊史……此処まで酷い状況になる前に言えよ」

    保科「これだけ練習してるのに、今更中止するほうが嫌だぞ、オレは……結果はどうであれ、形にしたいと思ってるんだ……それに、デュアン。言ったら、お前だったら止めるだろ」

 

  デュアン「……」

    仮屋「………」

    海道「柊史がこう言ってるんだ。俺らは俺らで、ベースの練習をさせてる責任を取るのが一番ってことだ。和奏ちゃん」

 

  デュアン「そうだ、な……柊史は本気で取り組んだんだ……オレたちも頑張らないと」

 

    仮屋「そっか……保科のためか……うん……じゃあアタシも、もう謝ったりしない。全力で挑むよ!」

 

    保科「ああ、そうだ。謝ったりしたら許さない……俺らは全力でハロウィン祭を挑まなきゃいけないんだ」

 

柊史の目つきが変わった・・・。

 

    仮屋「でも……人前で演奏するのが初めてなのはアタシも同じ。恥をかかされるのは、寧ろ保科の方かもよ?」

 

    保科「ベース初めて1週間ちょっとでステージに挑むんだ。最初っから恥をかくつもりでやってるよ」

 

  デュアン「最初っからぶっつけ本番なんだ」

    海道「んじゃま、本番に向けてラストスパートといきますか!」

    仮屋「おうさ!」

    

 

~~~~~~

    

 

 



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Ep39 ハロウィン祭へ向けて練習【後編】

 

 

~~~~~

 

    海道「ほら、またリズム外した」

    保科「悪い」

あと一押なんだよなあ・・・。

 

    仮屋「ほ、保科、今度はちょっと早くなってない?」

    保科「わ、悪いっ」

オレはヴァイオリンで海道と仮屋さんのペースに合わせながら、弾く。

 

    保科「あ、あぁ……」

    海道「焦るな焦るな、焦ったら余計にリズムが崩れるぞ。ミスした分をリカバリーしようとせずに、落ち着きを取り戻せ」

 

    保科「お、おう!」

 

~30分後

 

    海道「今更曲は変えられないけど、もう少しベースラインを簡単にアレンジするか?」

 

  デュアン「それ……オレが提案したけど……」

    保科「いや、いい!今更そんなことしたら負けた気分になる」

  デュアン「だとよ」

    仮屋「保科って意外と負けず嫌いなんだ」

  デュアン「男だからな……戦場ではバカをみるタイプだと見たね」

    海道「よく言った!じゃあ妥協はしない!」

    保科「おう」

    仮屋「あ、そうだ。お父さんから指のケアにいい薬を教えてもらったから、よかったら使って」

 

  デュアン「んじゃ、少し休憩を挟むか……サンドイッチを摘みながら……オレが柊史のミスの修正するよ」

 

オレは、海外で流行ってる「ZONE DragonFruits」というのを飲んで見る・・・

 

  デュアン「……(不味い……ドラゴンフルーツにコーラを足して飲んでるみたいだ……)」

 

オレは、柊史のミス部分をマークを付けた・・・

 

    保科「この丸のマークとバツのマークと三角のマークは何だ?」

  デュアン「丸は修正アリ、バツは問題なし……三角はもう少し力を抜け……という意味だ」

 

    仮屋「へぇ……デュアンって絶対音感持ち?」

  デュアン「練習次第じゃ、習得可能だよ」

    海道「マジか……俺らも出来る?」

  デュアン「え……まぁ、仮屋さんなら分かるけど……まぁいいや……今度教えてやるよ」

 

それこそ、地獄を見るぞ・・・

 

    保科「クリーム……ありがとう、仮屋」

  デュアン「バンドの仲間なんだから、これぐらい当然!」

 

更に30分後

 

   保科「悪いっもう1回初めから頼めるか?」

   海道「無理せず、今日は此処までにしたほうが良いんじゃないのか?」

 

   仮屋「そうだよ。根を入れすぎても、あんまり良くないって」

   保科「いや、もう一回だ。失敗したまま、置いておきたくない。せめて此処のフレーズだけでも」

 

  デュアン「それで最後だからな……後は俺の家で練習だ、いいな?」

    保科「分かった」

    仮屋「やっぱり強情だぁねぇ」

 

15分後・・・

 

    保科「やった!出来た!」

    海道「いや残念。本当に残念。一箇所ミスってますよ、保科柊史君」

 

    保科「うっそ!?」

    仮屋「ほら、ここのフレーズ。ちゃんと次の音まで伸ばさないと」

 

    保科「あーっ、そっか、そうだった!あのさ――――」

    仮屋「はいはい。できるまでやるんでしょ」

    海道「なるべく早めに身体に覚え込ませろよ」

    保科「わかってるっ」

 

~~~~~~

 

   保科「ああ、くそっ。最後の部分さえ間違わなかったら、出来てたはずなのに」

 

   仮屋「惜しかったね」

   海道「ま、最後を失敗しなくても、ギリギリアウトだったけどな」

 デュアン「ああ……そうだったな」

   保科「マジか!?」

   海道「サビのところで、リズムがまだ微妙にズレてる」

 デュアン「強いて言うならメロディーに入った部分に若干の遅れてるよ……観客は気にしないと思うが、オレは気にするね」

 

   保科「流石はデュアン……」

   仮屋「あー……確かにちょっと速い箇所と遅れてる箇所があったかも」

 

   保科「ぐぬぬぬ……」

 デュアン「まだまだだね」

   保科「わかってるよ!デュアン、練習頼む」

 デュアン「了解だ」

   仮屋「アタシも練習頑張る」

 デュアン「…………?」

オレは何か違和感を感じる。少し、仮屋さんの顔色が優れてない?

 

   海道「3人共、あんまり無理するなよ?練習しすぎて本番に体調崩すとかは無しだぞ?」

 

   仮屋「分かってるって」 

   保科「気をつけるようにはする」

  デュアン「そうだな……」

 

 

 

~~~~

 

    保科「……痛っ……イタタタタッ……っ、小指つったっ!?」

  デュアン「しょうがないな……」

オレは柊史の指を優しく握り、少しずつ小指の体温を温めていく。

 

    保科「もう大丈夫だ……ありがとう」

  デュアン「少し休んだほうがいい……酷使し続けると壊れるぞ」

    保科「ああ……そうするよ。それにしてもベースって、想像以上に大変なんだな。指を限界まで開かないといけないとか」

 

  デュアン「そりゃそうだ」

    保科「こんな動き、普段は絶対にしないしな」

  デュアン「因みに、限界まで行くと指が手の甲に届いたり……指自体が固くなったりするぞ」

 

    保科「けど、ちゃんと動くようになってきた。先週と比べたら薬指もしっかり動いている」

 

  デュアン「未経験だったからな……ま、成長してるよ、柊史は」

    保科「やべぇな……此処最近、練習しすぎて……身体が怠くて敵わないぞ」

 

  デュアン「あぁ……今日くらい休んだって罰はあたらないさ」

    保科「で、でも……油断はできない」

  デュアン「あー分かった分かった。んじゃ、練習頑張れ」

 

オレは、柊史が寝息を立てたので、布団を深く掛けて、そっとドアを閉める。オレはリビングの灯りを蛍光色にし、ノートパソコンを机に置き、調べ物をする。片手にはメロンパンを頬張りながら・・・とある記事を見つける。

 

[犬神憑きの里でまた犠牲者か?!]

 

犬神憑きの里とは、穂織の別名で、忌み嫌われてる別称だ。

 

 

  デュアン「……」

オレは、そっとパソコンを閉じ、目を閉じた。

完全には眠らないが、身体を休める。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~次の日

 

   保科「……うー……眠い」

  ミュウ「柊史、おはよう」

   保科「でゅ、デュアン!?何でミュウの姿に?」

  ミュウ「ああ……朝のシャワー浴びようと思って、お湯をオンにするのを忘れて、冷水被っちまったんだ」

 

   保科「そ、そうか……なんか幼女が料理してる所を見てると、背徳感が半端ないんだけど」

 

まぁ、そりゃそうだわな・・・

 

  ミュウ「気にするな……」

   保科「そう言えば、その姿になって、生理とか来たりするのか?」

  ミュウ「来るよ……と言うか、来たら地獄だ。学校を休むぐらい体調不良、下腹部の痛み……」

  

   保科「じゃあ綾地さんみたく、発情とかは?」

  ミュウ「お前……それ、綾地さんに言ってみろ……殺されるぞ?まぁ、デュアンもそうだが、感情が壊れてるからな……何とも言えない……けど、我慢は出来る……けど、パンツが濡れるけどね」

 

我慢汁的な意味で。と言うか、此処ではないどこかでレイプされた覚えがある。初めてだったし、痛くて、怖くて、気持ち悪かった。の三拍子揃ったヤツだった。まぁ、前戯もせず無理矢理入れたら痛いのは当たり前だからな・・・い、いや身長差もあったか。こっちは幼女体型、向こうはおっさんだ。

 

うぅ・・・思い出しただけで気持ちが悪くなってきた。記憶の隅に封印しよう。

 

   保科「もし、エッチしたくなったら?」

  ミュウ「男と?だったら、オナった方がマシ?と言うか、一応子供は作れるんだよなあ……産めるかどうかは、命に関わるからな」

 

身長と体力の問題で・・・

 

   保科「……と言うか、赤ん坊とお前の身長差で産めるのか?」

  ミュウ「さぁ?でもネットニュースで危険度は高いらしい……子供体型で産んで、生存確率は30%未満と聞くが……と言うか、その前に帝王切開するんじゃないか?」

 

と言うか、オレって・・・男なの?女なの?

 

・・・出産で死んだ記憶がねぇんだよな。けど、レイプされた事は覚えてる。意味がわからない

 

   保科「そう言えば……聞いた話によると、男は出産の痛みに耐えられないらしいな」

 

  ミュウ「あー……下手すると死ぬからな」

   保科「死ぬの?!」

  ミュウ「痛みってのは人間の危険信号を発してるから、"逃げろ"という合図だからな」

 

   保科「……亡くなる方も居るの?」

  ミュウ「居るよ……痛みによるショック死?」

   保科「そっか……」

  ミュウ「……ちなみに、聞くが……朝から何でそんな話を?」

   保科「いや……気になってただけだ」

  ミュウ「柊史は、ボクとの子供が欲しい訳?」

   保科「嫌だよ……肉体は女の子でも、精神が男じゃキツイ」

  ミュウ「HAHAHA……同じことを君に返そう」

   保科「デュアン……オレ、そろそろ学校に行くわ」

  ミュウ「早くね?まぁいいや……オレは用事があるから、先に行っといてくれ。一応、久島先生には言ってある」

 

   保科「分かった」

 

保科が家を出て、オレは食べ終わった皿を洗って、水気を拭き取って、皿を仕舞う。

 

~~~~~~保科Side

 

   保科「ふああぁぁ~~~」

   綾地「大きな欠伸ですね」

   保科「ふぁ?あ、綾地さん……んむ、おはよう」

しまった。誰もいないと想ってたら、綾地さんが居た。

間抜けにも欠伸をしながら教室に入ってしまった。

 

綾地さんが居ると分かってたら、こんな姿は晒さなかったのに

 

   保科「は……早いんだね」

   綾地「今日は目が覚めてしまって。それよりも……大丈夫ですか?なんだか日に日に顔色が悪くなってるように見えますが」

 

   保科「平気平気。ちょっと慣れないことをしてるだけだから」

   綾地「バンドの練習ですよね?」

   保科「そう。結構、手間取っててね……んんっ、本当に難しくて厄介だよ……まぁ、デュアンの練習法のお陰でなんかなってるんだけどね」

  

   綾地「………」

   保科「ん?どうかした?」

   綾地「いえ、厄介と言ってるわりには、楽しそうだなぁ、と想って」

 

   保科「楽しそうって……オレが?」

   綾地「はい。確かに疲れが溜まってるみたいですが……辛そうには見えませんよ」

 

   保科「そう、かな?」

まあ、デュアンの練習法は嫌いじゃない・・・寧ろ、わかり易くて、弾くのも楽だ。なのだが、スパルタなんだよな・・・

 

   綾地「違いました?」

   保科「いや、綾地さんの言う通りかも……苦労するのが、こんなに楽しいと思えたのは初めてかもしれない。それぐらい、楽しいと想ってるよ」

 

   綾地「……保科君?」

   保科「いやいやっ!なんでも無いです!」

オレはブンブンと手を振ってその場を誤魔化す。

 

   綾地「……あ」

   保科「え?」

   綾地「左手、どうしたんですか?怪我してますよ。楽器を弾くのに、もっと大切にしないとダメですよ」

 

   保科「いや、これは楽器の練習をして作ったものだから」

   綾地「そうなんですか?練習するだけでそんな風になるなんて……ちょっと皮が剥けちゃって、真っ赤になっちゃってますよ」

 

   保科「……」

   綾地「楽器って大変なんですね。右手の方もやっぱりひどいんですか?」

 

   保科「右手平気だよ。けど左手は持ち方とか、指の動きとかあるから。慣れればこんなこともないんだろうけど、オレは初心者だから……ここら辺は、仕方ないかな。チャレンジするって決めたときから覚悟してたことだし」

   

   綾地「……すみません」

   保科「え?なんで綾地さんが謝るの?」

   綾地「パーティーを盛り上げるために、こんな苦労をかけてしまって」

 

   保科「いや、さっきも言ったけどこれはオレが決めたことだから。綾地さんは気にすることは無いよ……それにほら、その分パーティの準備は任せっきりにしちゃってるんだから」

 

   綾地「そうは言っても、今は準備もまだ手間が掛かる段階じゃありません。何かお手伝いができるといいんですが……」

 

   保科「その気持は嬉しいけど、こればっかりは自分で努力するしかないしね」

 

   綾地「そうですよね……それなら……あ、そうです」

   保科「っ!?」

突然、オレの左手をギュッと両手で包み込んだ。

そして――――

 

   綾地「痛いの痛いのとんでけぇ~」

   保科「……」

   綾地「……ど、どうでしょう?これでも一応、一生懸命祈ってみたんですけど……」

 

   保科「……」

お、女の子の手って柔らかい。デュアンがミュウになった時は、ちっちゃくて柔らかいけど・・・綾地さんは何だろう、優しさが籠もってる。

 

   綾地「な、何か言って下さいよぅ、こういうの、とても恥ずかしいんですよ?」

 

   保科「あ、いや、なんか……驚いちゃって」

まさかいきなり手を握って、そんなことをするなんて思いもしなかったから。

 

   綾地「そこは……できればサラッと流して欲しかったです。そういう反応をされると、余計に恥ずかしくなります」

 

   保科「そう言われても……オレだって混乱してて、なにせいきなりだったから……」

 

   綾地「そ、そうですね、すみません。急にこんなことをしてしまって」

 

恥ずかしそうに、オレの手を離す綾地さん。

 

   保科「あっ……」

優しくて柔らかな手の平が離れてしまった。

もう少し、握ってほしかった……とか、また恥ずかしいことを思ってしまった

 

それくらい、綾地さんの手は柔らかくて、気持ちよくて―――

 

もう一度握ってほしい・・・と思った。

 

   保科「……あのさ、綾地さん」

   綾地「はい?」

   保科「いきなりすぎてちゃんと覚えてないから……綾地さん、さっきしてくれたことをもう一度やってみてくれませんか?」

 

   綾地「う、嘘っ、それは嘘ですよ!絶対に覚えているはずですっ」

   保科「やっぱり、ダメ……か?」

   綾地「……別にダメというわけではないんですが……」

   保科「え?本当?」

   綾地「保科君のことを、応援していますし……それが、応援になるというのでしたら……もう一度……で、でも、もう一度だけですよ?二度はしませんからね?今度は覚えてないって言っても、しませんよ」

 

そう言って、少しむくれた表情で、顔を真っ赤にした綾地さんが改めて、オレの手を両手で包み込んだ。

二度目で、今回はタイミングも分かっていたのに、それでも胸がドキッとした。

こんな可愛い人と、これだけ近くに居たら・・・それも仕方ないことだよな。

   綾地「それじゃ……いきますよ?痛いの痛いの、とんでいけ~」

 

   保科「……」

   綾地「だからちゃんと反応して下さいっ。私を辱めるのがそんなに楽しいですか、もう……保科君はイジワルです。そんなイジワルされると本当に怒りますよ、マジオコですよ」

 

   保科「いや、別にイジワルをしてるつもりはないんだって。本当に励みになったよ……ありがとう。綾地さんのおかげで、こんな手でも練習を頑張れそうだよ」

 

   綾地「そうですか、そう言ってもらえると、私としても……恥を忍んだ甲斐がありました」

 

当然ながら、さすがに痛みがなくなったりはしない・・・が、やる気はもの凄く出た。

 

これならきっと、痛みを堪えて最後までやりきれるはず

 

   綾地「がんばってくださいね。応援してますから」

   保科「ありがとう、綾地さん。パーティー、絶対に成功させようね」

 

   綾地「はい!」

 

 

~~~~

 

 

 

 



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Ep40 ハロウィン祭の前準備 ☆

 

 

~~~~

 

   因幡「あ、保科センパイ!ちゃろー」

   保科「あ"~~~………」

   因幡「な、なんすか?どうしたんですか?まるでゾンビみたいですよ?」

 

   保科「寝不足と疲労がピークでな」

   因幡「大丈夫ですか?もしかして、体調悪い?」

   保科「絶好調ではない。けど、問題って言うほどのこともない。まだ午前だしな……午後になればもう少し普通になるよ」

 

   因幡「なら良いんですけど……それで、部活サボって練習した成果はどうですか?」

 

   保科「ん?まあ……なんとか形にはなった。デュアンが居なきゃ……自信がつかなかったと思う。だから、期待だけはするなよ」

 

   因幡「ふーん。ちなみに、背負ってるのってギターですか?」

   保科「これはギターじゃなくてベース」

   因幡「え?ギターとベースって違うんですか?同じじゃないの?」

   保科「えーっと、デュアン曰く……弦の数と弦の太さだな。低音、高音……ベースがギターより低い音を出せる……だっけな」

 

   因幡「へぇー……デュアン先輩って本当になんでも知ってますね……あれ?でも一昨日から姿を見てないですね」

 

   保科「そういや、アイツ……2日前に用事があるとかで、遠出しているんだよ……それで、デュアンの家で練習できずに、オレは帰宅……ちなみに、学校には昨日を合わせて来ていない」

 

   因幡「用事?何の用事でしょう?」

   保科「さあ?」

ま、本当は魔女関連の仕事だと思う。あれ?そういや、最近・・・五感の能力があまり機能しなくなってきてるような・・・?

 

――――――魔法とは何か?とデュアンに聞かれた時、オレは「答えられない」と言った。

 

だが、最近は「魔法とは、何かの願いによって生まれるもの」と考え始めるようになった。

 

綾地さん、椎葉さんの願いが何なのか知らないが・・・オレは、もっと心を知りたい、ドキドキワクワクを知りたい。とそう願った。

 

すると、オレの心の奥底から何かが湧き上がってきた・・・。

 

何だこれ?と、とにかく・・・今はハロウィン祭を成功させなきゃ。

 

~~~~

 

   保科「おはよう」

   椎葉「おはよう、保科君」

   因幡「ちゃろー!」

   椎葉「ちゃろー、めぐるちゃん」

伝染してる?!

 

   綾地「おはようございます、2人とも」

   保科「デュアンがまだ来てない……な」

   綾地「本当ですね……」

と椎葉さんが声をかけようとした時、部室が開き、入出してきた。

 

  デュアン「すまない……遅れた」

    綾地「デュアンさん……おはようございます」

  デュアン「ああ……おはよう、綾地さん」

    因幡「おはよう、デュアン君」

  デュアン「おはよう……椎葉さん」

    保科「遅かったな、デュアン」

  デュアン「悪いな柊史……ちょっとした野暮があったからな」

    綾地「そうですか、何にせよ……部員が全員集まったんです」

    椎葉「だね……それについに本番だね、調子はどう?」

    保科「……訊かないで。そうやって言われれる度に、プレッシャーを感じる」

 

  デュアン「……、……?……」

あれ?デュアンの心の声が聞こえる。

"柊史のヤツ、なんか綾地さんや椎葉さんレベルまで魔力が上がってる?まさか……進化したのか?"と心の声が聞こえた。

 

    保科「…………」

  デュアン「どうした、柊史?」

    保科「……い、いや……なんでも無い」

  デュアン「顔色が悪いぞ、少しリラックスしとけ」

    保科「あ、あぁ……そうする」

    椎葉「ごめんね、保科君」

    保科「き、気にしないで……そ、それよりも仕事をしよう。なにかしてる方が落ち着く」

 

 

    保科「オレはカボチャをくり抜いて、ランタンを作る作業でいいかな?」

 

  デュアン「あ、オレもそれやりたい」

    綾地「はい。よろしくお願いします」

    椎葉「ワタシたちは?保科くんとデュアン君2人じゃ大変だろうから、ランタン作る?」

 

    綾地「いえ、そちらは力仕事でもありますから、学生会の男の子にも手伝ってもらいます」

 

    因幡「じゃあ、飾り付けですかね?」

    綾地「そうですね。今、戸隠先輩が越路さんたちと買い出しに行っています。戻ってきたら、体育館の飾り付けを始めましょう」

 

    椎葉「それで、午後からはお菓子作りでいいのかな?」

    綾地「はい。その予定です」

    因幡「よぉーし、それじゃあパーティに向けて、最後の仕事を頑張りましょう!」

 

~~~~~~~

 

~~~デュアンSide

 

   デュアン「…………」

オレは、カボチャに、片手ナイフで顔を描き・・・右手で頭の部分をドンッと叩くと、描いた部分が綺麗に切り抜かれた。

 

     保科「す、すげぇ……」

   デュアン「そうか?練習次第で誰でも出来るぞ」

オレは既に20個近く作り上げていた。

 

     保科「オレも頑張らないと」

柊史はそう言い、残りのカボチャを切り抜く作業をする。

 

   デュアン「んじゃ、オレは自分の量を終わったし……後は頼むぜ」

     保科「どこへ行くんだ?」

   デュアン「休憩がてら、料理チームの手伝い」

     保科「そっか……がんばれよ」

 

~~~~~

 

   デュアン「んぅ~……終わった終わった」

オレは、適当にベンチに座る。飲むのは・・・ブラックコーヒーだ。

 

   デュアン「……、……」

オレは、とある魔法を保科に飛ばした。

それは、柊史の魔法の行使がオンオフで切り替えられるようにするための、特別な魔法だ。欠片の1/4持っていかれたが・・・まだまだ欠片は残っている。

 

さて、後は柊史自信が気づくかどうか・・・。

 

 

オレは此処で一つの疑問点が生まれた。

 

綾地さんの代償と行使する魔法は分かった。

椎葉さんも代償から推測どおりの結果だった。

柊史は母親から一部を受け継ぎ、能力を得ている。

 

オレは?能力がアレなのに、代償が性別が変わるだけ・・・ってのは釣り合わなさすぎる。オレの能力"この世の理を捻じ曲げる能力"は文字通り、自然界のルールを捻じ曲げられる。そんな能力、普通はもっと重い代償があるはずだ。魔法作成の付与まで出来ている・・・破格すぎる

 

木月さんの魔法行使は治癒。そして自ら記憶を失う。デメリットがデカすぎる分、叶えた対象者の病気が完治する。

 

・・・・オレは、知らないうちに何かを担がされているのか?

 

オレは、母親に契約をしている。その契約が遂行不能だとしたら?

 

つまり、オレが母親に願ったのは"この世の理不尽という因果律に立ち向かいたい"って願ったのか?

 

いや違う。

 

契約者=アルプの有無?

 

・・・・猫、鴉・・・

 

・・・・何かが引っかかるんだよなあぁ

 

  デュアン「……」

なんだか分からなくなってきたな・・・頭を使う作業はやめとこ。

 

とりあいず、頭の片隅にでも置いとくか。

 

 

オレは、もう一つの瓶を見る。

 

既に180%溜まっている。

 

この瓶には、綾地さんが時間遡行した場合に発生する魔法。最大2人まで、綾地さんと同じ記憶保持した状態で、時間遡行が可能になる。

 

綾地さんが、恋人が出来た時に渡す予定の魔法だ・・・。

そして、オレにも恋人が出来た場合・・・。どうするかだ。

 

・・・・。オレは綾地さんのサポート上、綾地さんが時間遡行した場合、オレも時間遡行することが可能だ。

 

・・・・また頭を使ってる。今はハロウィン祭を成功させるために、何か考えなきゃな。

 

 

さて、どうするべきだろうか?

 

・・・サプライズでもするか。

 

 

~~~~~

 

オレは、ハロウィン祭に着るコスプレを見た時、絶句した。

オレは、渋々着替えながら、黒いマントを羽織った。

こんな姿は晒せないな・・・

 

こうして、オレは部室に入る

 

   因幡「じゃっじゃーん、どうですかね?がおー!食べちゃうぞー!なんちゃって」

 

   保科「おー、よく似合ってるよ」

 デュアン「良いんじゃないか?上手くRPできていいと思うぞ……」

   因幡「そうですかね?なんか照れますね……へへ」

   保科「見た目もそうだけど、元気そうなところとか、ピッタリだ」

   因幡「ありがとうございます。保科センパイもよく似合ってますよ」

 

   保科「まあ、服装自体は特殊なものじゃないからな」

 デュアン「保科は吸血鬼のコスプレか」

   保科「まぁな」

   因幡「似合ってるのが一番ですって」

   保科「そりゃそうだ」

   因幡「寧々先輩も、似合ってますよ」

   綾地「ありがとうございます。でもちょっと落ち着かないですね、着慣れない服は」

  

 デュアン「だな」

   保科「そういういうものなの?」

 デュアン「そういうものだ」

 

   保科「とても似合ってるよ、綾地さん」

 デュアン「ああ」

   綾地「そうですか、ありがとう……ございます」

    

   椎葉「うぅぅぅ……ごめんね、せっかく作ってもらったのに」

   被服部「ううん。気にしないで」

  デュアン「あ、悪いんだけど……その衣装、貰ってもいいか?」

   被服部「え?う、うん……」

 

   椎葉「とっても可愛い衣装で、着たかったのになぁ」

  デュアン「そんなしょぼくれることもないさ……ハロウィン祭の夜に着させてやるよ」

 

   椎葉「え?」

  デュアン「まぁ、とにかく願いは叶えてやる」

 

 

   戸隠「困ったねぇ」

  デュアン「困ってるのは、会長……貴方の格好にですよ」

   戸隠「あれま、どうして?変かな、この格好。似合ってない?」

   保科「いや、似合ってますよ。文句の付け所がないぐらい似合ってます……しかし」

  

  デュアン「流石にTPOを考慮するべきですよ」

   椎葉「そう言えば、まだデュアン君の衣装を見てないよ?」

  デュアン「ぐ……」

   戸隠「むふふふ」

   綾地「見てみたいです」

   因幡「どんなのか、めぐる……気になります!」

 

  デュアン「わ、笑うなよ……」

オレは黒のマントをバッと脱ぎ、コスプレの姿を晒す

 

  デュアン「あ、明らかにおかしいだろ」

 

【挿絵表示】

 

 

     保科「ぶふっ!」

柊史は吹いた

 

  デュアン「この衣装を選んだヤツに殺意が湧いてくる」

    椎葉「か、可愛い衣装だね」

    綾地「に、似合ってますよ」

    因幡「せ、先輩……似合いすぎます」

    戸隠「か、可愛いわよ?」

こ、コイツ等・・・笑いを堪えてやがる・・・

 

  デュアン「……、……全然嬉しくねぇ。オレのSAN値はボドボドダァ」

    保科「オンドゥル語はやめい」

  デュアン「ナスダァ?ビィイラギシ」

    保科「ふふ……」

  デュアン「デデーン!柊史アウトー!」

    保科「お、お前っ」

 

    椎葉「?デュアン君と保科くんは、何の話をしてるんでしょ?」

    因幡「さぁ?」

    綾地「椎葉さん、因幡さん。保科くん達は「仮面ライダー剣」っていう特撮がありまして……セリフが……ふふ」

 

なんてこったい、綾地さん。そのネタを知っているとは・・・

あ、教えたのオレだったわ。

 

  デュアン「あ……こんなバカな話をしてるうちに、そろそろ体育館に向かわないとマズくね?特に俺ら」

 

    保科「あ。もうそんな時間か……」

 

    椎葉「ねえ、デュアン君達は一体誰に投票する?」

投票、ねぇ。投票はあんまり良いイメージがしないんだよなあ。

というか、なんか投票ゲームで。

 

    保科「ん?何のこと」

    椎葉「ほら、コスプレコンテストの」

    保科「……そうだな」

  デュアン「んー……そうだなあ、この中を選ぶとしたら……。か」

 

因幡さんは、活発で元気なオオカミ少女で可愛いよな。でも、綾地さんみたいな魅力を引くタイプも捨てがたい。会長は・・・魔性の女を感じさせて、苦手だ・・・。

 

    保科「オレは、綾地さん……かな」

    椎葉「綾地さん可愛いもんね。かなりの票数を獲得しそう」

    保科「間違いなくするだろうね」

  デュアン「だろうね」

    椎葉「それでそれで……デュアン君は?」

おおぅキラーパスだ。

 

  デュアン「オレは……そうだな……この中で誰かを選ぶことはできない、かな?今は」

 

    保科「と、いうと?」

  デュアン「今は、ハロウィン祭を成功させたい」

    保科「デュアンの答えは現実的すぎてつまらんな」

  デュアン「……でも、誰に投票させるかは……決まってる。だが、それを言ったら……つまらんだろう?」

 

オレが投票するのは、決まってる。

 

    椎葉「ワタシは、誰に入れようかな」

  デュアン「……、……オレに入れるのだけは勘弁してくれよ?優勝しても嬉しくもねえ、虚しいだけだ」

 

    保科「お前のはほぼ女装に近いよな」

  デュアン「……」

オレは柊史の脛を思いっきり蹴る。

 

    保科「痛ッ!ま、まぁ参加者もまだわからないんだから焦らなくていいんじゃないか?」

 

    椎葉「そうだね。会場についてから、考えることにするよ」

 

    戸隠「よぅし、もうすぐ本番だよ!みんな、準備はいいかな?」

    因幡「あ、はい!大丈夫です」

    綾地「私も平気です」

    椎葉「それじゃあ、そろそろ―――――」

と、椎葉さんが発すると・・・

携帯の着信音が鳴り響く。

 

    椎葉「あれ?誰か携帯鳴ってません?」

オレはありえんな。常にマナーモードをしている。

 

    保科「あ、オレだ」

    因幡「もぉー、せっかく勢いをつけるところだったのに」

    保科「ゴメンゴメン。はい、もしもし?」

柊史、何を焦ってるんだ?

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 



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Ep41 Halloween in Live

 

 

~~~~

 

   仮屋「ごめ"ん"……風邪引い"ち"ゃった"」

   保科「……、……えぇぇぇぇぇ!?」

驚きすぎだ。まあ、驚くわな。どうすんだ?

   

   仮屋「本当にごめん……ケホッ」

おいおい、声がガラガラじゃねぇか。ヴォーカルどうするんだ?

 

   保科「い、いや……仕方ない。それより無理せず、家出寝てた方がいいんじゃないのか?」

 

   仮屋「ううん。熱もないし、咳も治まってる。風邪は治ってるんだ……ケホ」

 

  デュアン「……喉をやられたのか」

   仮屋「うん……大丈夫。ギターだって問題なく弾けるんだよ!ケホ」

 

   保科「……、ふむ」

柊史は、仮屋さんの額に、手の平を当てている

 

   保科「……確かに熱はなさそうだな」

   仮屋「でしょう?」

   保科「…………」

   仮屋「ここまで来て、辞めるとか言わないよね?」

   保科「い、いや……そうは言うけど……」

手を痛めてまで、頑張った柊史の為、仮屋さんの意思を汲み取ってあげる為にしても・・・

 

   海道「和奏ちゃんの言葉を信じて、ギターは任せるにしても……ヴォーカルの問題がなぁ」

 

   仮屋「うっ……それは……」

   保科「うむぅ……問題はそこなんだよなあ」

  デュアン「仮屋さんはギター……ギターヴォーカル……歌うのは無理だ……誰かが歌を担当しなければならない」

 

 

   仮屋「保科が歌うとか」

   保科「無茶言うな……デュアンに鬼の練習で演奏する自信はあるが……歌と一緒にやったら失敗するぞ……間違いなく、絶対」

 

   仮屋「じゃあ、海道は?」

   海道「オレも自信ねーよ。いきなり演奏しながら歌えって言われても……流石にその経験はない……。下手すると、歌とリズムの両方がダメダメになると思う。あとマイクを気にして、思いっきり叩けなくなりそうだ」

 

   仮屋「じゃあ……デュアンは?」

  デュアン「オレにヴォーカルバイオリンをしろと?」

無理、ではない。やれないことはない・・・

 

  デュアン「できない、ことはない……やってやれないことはないが……無理だ」

 

第一、オレは音外すこと有るし。

 

    仮屋「……やっぱり無理かな」

そんな悲しい顔をされると・・・こっちが参る。

  

    海道「和奏ちゃん……悲しい顔をしないでくれ。やる……オレはやるぞ」

 

    保科「ああ……もうオレは退けない……此処まで手を酷くしてまでやってきたんだ……今更辞めるなんて言わない」

 

  デュアン「おk……降参だ。案を考えよう」

    海道「う~ん……あ!ヴォーカルは居なくても演奏はできるから。なんとかなるって」

 

  デュアン「却下だ」 

    海道「何故?」

    保科「いい案だと思うぞ?演奏することに、影響は無いと思うが……」

 

  デュアン「……盛り上がらない」

    保科「おい」

  デュアン「オレは事実を言ったまでだ」

    仮屋「………」

 

此処は、仮屋さんが納得する形で・・・丸く収まる案・・・

 

    保科「……とにかく、演奏はやろう。3人は準備をしててくれ。それが終わったら、普通にパーティーを楽しんでくれればいいから」

 

    海道「お前はどうするんだよ?」

  デュアン「なにか案を見つけたのか?」

    保科「ヴォーカルを探してみる」

    海道「探すって、お前……」

    保科「別にオリジナル曲をやろうってわけじゃない。知ってる人もいるだろ」

 

オレは知らんかったぞ。まあ、好きなジャンルじゃなかったけど

 

    保科「合わせをしてる時間はないから、ぶっつけ本番、出たとこ勝負になるだろうな……」

 

    海道「他に方法はないか……まあ、それでも俺らが歌うよりはマシだろうな」

 

  デュアン「だろうね」

    保科「仮屋もそれでいいか?」

    仮屋「それでいい、というよりもそれがいい!アタシも手伝うよケホッ、ケホッ!」

 

    海道「はいはい、落ち着いて。さらに喉を痛めちゃうからね」

    仮屋「う、うん……」

    保科「とにかく、ヴォーカル探しはオレに任せておいてくれ」

  デュアン「なら頼むぞ」

    海道「心当たりはあるのか?いや、ないよな……柊史にそんなのあるわけないよな。悪い、変なこと訊いて」

 

  デュアン「オカ研しか居ないもんな……現状。人の事言えないが」

オレの知人って、オカ研しかいないよな・・・あと仮屋さん。

 

オレも少し、人脈を探そうかなあ?

 

    保科「じゃ、じゃあ……オレ行ってくるから」

柊史は、走りながら・・・校舎に走り出す。

 

  デュアン「さて……じゃあ、行こっか。海道、仮屋さん」

    海道「あ、あぁ」

    仮屋「う、うん……」

 

~~~~

 

   デュアン「ま、まさかの綾地さん……かぁ」

     綾地「もしアレが来たら……壇上で、みんなに見なれながら、この前みたいなことに…………ぅぅぅぅぅぅぅ……」

 

   デュアン「はぁ~」

オレはため息を吐きつつ、綾地さんの頭を軽いチョップをかませた

 

     綾地「あいたっ!」

   デュアン「今から緊張してたら、潰れちまうぞ……」

     綾地「だってぇ~」

   デュアン「……《代償緩和(レパレーション・リカバリー)》!これで、1時間は持つぞ。とにかく今は歌のことに集中して……ほかを空っぽにしなさい」

 

     綾地「っ……、……はい。だいぶ楽になりました。ありがとうございます」

 

  デュアン「ああ……」

 

    椎葉「綾地さん。飲み物貰ってきたよ」

    綾地「ありがとうございます、椎葉さん……言わなきゃよかった言わなきゃよかった言わなきゃよかった言わなきゃよかった言わなきゃよかった」

 

    保科「か、かなり緊張してるなー」

    因幡「無理もないと思いますけどね。何の練習もなしに、いきなり舞台に上がれ、なんて言われたら」

 

    海道「おーい、デュアン、柊史。そろそろ俺らの時間だぞ?」

  デュアン「マジか……」

オレは急いで、海道の方へ行く。

 

 

    保科「仮屋、体調は大丈夫か?風邪がぶり返してきたとか」

    仮屋「喉が痛い以外は問題なし」

    海道「当然俺も問題なし。となわけで、期待のヴォーカルを拾って舞台に向かいますか」

 

    保科「そのヴォーカルなんだけど、緊張し過ぎでちょとヤバいかも」

 

    海道「おいおい、今更代えはきかんぜ?探す時間がない」

    仮屋「それに、綾地さんが歌うイベントがあるて、もう噂が流れちゃってるみたいだから」

 

  デュアン「情報漏れるの早ッ」

    保科「……下手すると、それだけで非難を受けそうだな」

    海道「どうしても無理ってことなら仕方ないが……できる限り、出てもらいたいもんだ」

 

  デュアン「ま……ぶっつけ本番の上、練習もロクにして無くて……人前に立つことをしてこなかった綾地さんだからなあ……無理も無いけど」

 

    保科「綾地さん、平気?舞台に出られそう?」

    綾地「だ、ダメかも知れません。このままだと、心臓が爆発してしまいそうで……」

 

    保科「そっちもだけど、発情の方は大丈夫そう?」

    綾地「お、思い出させないで下さいっ」

  デュアン「酷くなければ……大丈夫だ」

    保科「そうか……」

    綾地「で、でも……やります。今更逃げ出したら、色んな人に迷惑が掛かりますから。いえ、舞台に上がっても迷惑をかけてしまうでしょうが」

 

  デュアン「確かに……今此処で逃げたら迷惑を掛けるだろうな……でもな、オレは逃げるのも良いと思う。本当に辛くて苦しいのなら……逃げても誰も文句は言わない」

 

    保科「デュアン……?」

  デュアン「オレはそれでもいいと思う……綾地さんが、その選択を選ぶというのなら、オレはその意思に尊重する……だが、頑張るというのなら……オレはいくらだって手伝ってやる。柊史も、綾地さんの味方で居続ける」

 

    綾地「い、いえ……やります」

    保科「大丈夫!」

    綾地「ほ、保科君?」

    保科「大丈夫だよ、綾地さん。迷惑をかけるのはオレの方なんだから」

 

    海道「そうそう。綾地さんはそんなに緊張しなくていいんだって。ほら、よく考えてみなよ。準備不足で、ロクな練習もなく、いきなりバンドを組んで舞台に立つなんて最初から無謀。失敗して当然……そして、こんな舞台に引きずり出したのは、全部柊史の責任だ」

 

  デュアン「……でも、バンドを組もうと言い出したのは……海道だよな?」

 

    保科「ああ……だから海道、お前にも責任があるぞ」

    海道「そうだっけ?」

    保科「だいたい、ベースなんて触れたこともない素人なんだぞ。そんなオレに2週間でなんとかしろとか……おかしいだろ」

 

  デュアン「でも、実際はなんとか形にしたじゃないか」

    仮屋「確かに。狂気の沙汰だわ」

    綾地「私、楽器については詳しくありませんが……それが無茶だということはわかります」

 

    海道「あ、あれ?もしかして、俺一人が悪者パティーン?」

    保科「いや、俺にも責任がある。だからまあ、悪いのは全部、俺と海道のせいだ」

 

  デュアン「オレは?」

    保科「お前は……まあ、今回は被害者?と、とにかく……失敗して笑われても、仮屋と綾地さんは悪くない。観客と一緒に笑ってくれるぐらいでいいんだよ」

 

    仮屋「……あー……なんか自分の心配をしてる場合じゃない気がしてきた。むしろ超初心者の保科を心配するべきだ」

 

    綾地「そう……かもしれませんね。私なんて歌うだけなんですから、保科君に比べたら、簡単な方ですよね」

 

    保科「……オレのプレッシャーを増やすの、やめてくれません?もうプレッシャーに押しつぶされて、ボドボドディナディソル」

 

    海道「気にすんなって。どうせ下手なんだから」

  デュアン「ま……まあ、オレの練習法で形にしたとは言え……まだミスが残ってるからなあ……でも、数か所のミスだから……」

 

    保科「フォローは嬉しくない……それに、事実とは言え、そう言われるとムカつくぞ、海道」

 

  デュアン「……柊史」

    保科「と、とにかく綾地さん、どうせオレが失敗すると思うから。綾地さんは楽しく明るく歌ってくれればいい。それだけで、十分だから」

 

    綾地「ど、努力します」

 

    椎葉「おーい、みんな。コスプレ大会の発表もあるから、そろそろ始めてくれないか、って」

 

    綾地「わ、わかりました」

    保科「それじゃ、行くか」

    海道「楽しく行こうぜ!オレたちが楽しむことが一番大事だ!そしたら客もノッてきてくれるって。あ、これは経験談だぞ」

 

    仮屋「よしっ、やっちゃる!」

    海道「久々のライブだー!」

 

 

    戸隠「続きまして、有志によるバンド演奏です。準備はいいですか? それではどうぞー」

 

戸隠会長のアナウンスに促され、壇上に出ると、一気に視線が俺らに集まる。

 

  デュアン「だ、大丈夫か?柊史」

    保科「うぇっ、大丈夫じゃないかも……気持ち悪……っ」

  デュアン「……頑張れ」

 

お前には綾地さんが居て、友達がいるんだ。乗り越えられるさ

 

 

    綾地「え、えーっと……こんばんは。今日のハロウィンパーティー、楽しんでもらえてますか?予想よりも多くの人に集まってもらえて、準備した者としては嬉しい限りです」

 

    綾地「この後、コスプレコンテストの発表もありますから、皆さん投票をよろしくお願いします。あ、すみません。長々と話してしまって。こんなに喋るつもりじゃなかったんですが、ダメですね。緊張してしまって。えー、見てわかると思いますが、バンドを……あの、ユニット名ってあるんでしょうか?」

 

あるわけ無いだろう。考えていないし・・・

 

    綾地「え?決めてないんですか? すみません、決めてないそうです」

 

たどたどしいものの、必死な様子の綾地さんの姿に、会場がわかりが巻き起こる。

少しぐらいなら柊史がマシになっただろう。

 

    綾地「と、とにかくですね。今日を盛り上げるために一生懸命練習をしてきたので……といっても私は急遽、歌うことになった代役なんですが……よかったら訊いて下さい。そして、盛り上がってくれると嬉しいです」

 

綾地さんの言葉が切れると同時に、会場に溢れ出す音の濁流。

オレは、意識を楽器に集中させ弾く。

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep42 デュアンの決意

 

 

   

   デュアン「んぅ~……終わった終わったっと」

何事もなく、寧ろ大成功で終わったな。綾地さんの歌声は素晴らしかったな・・・。

 

オレは自動販売機でロイヤルミルクティーを買おうとした時・・・綾地さんと保科が居た。これは二人の空間だ。隠れて、二人のことを見守っていた。

 

   デュアン「ん?」

オレは、思わず話し声がする・・・とりあいず隠れるか。

 

 

 

   保科「お疲れ様、綾地さん」

   綾地「ありがとうございます、保科君」

柊史は、綾地さんから受け取ったジュースを一気に飲む。そんなあおる様に飲んだらむせるぞ?

 

   綾地「ぷぁ、はぁぁ…………疲れました」

お疲れ様、柊史、綾地さん。

 

   保科「今日は本当にありがとう、綾地さん。ヴォーカルを引き受けてくれて……おかげで助かったよ。バンドも成功して、舞台も盛り上がって」

 

   綾地「いえ、そんな。運営には私も関わっているんですから、お礼を言われるようなことじゃありませんよ。これも仕事の内ですから」

 

本当に濃密なハロウィン祭だったな・・・。

 

   保科「そうかもしれないけど、あそこまで盛り上がったのは、綾地さんが歌ってくれたおかげだ」

 

皆が頑張った結果だぞ、保科。

 

   保科「あの分だと仮屋の"心の欠片"回収できるんじゃないかな?海道は慣れてて無理っぽいけど」

 

   綾地「そうかもしれませんが……今は本当に疲れていて」

   保科「うん。ひとまず、ゆっくり休もう……。にしても……上手だったなぁ、綾地さんの歌。綺麗な声だし、丁寧で……演奏しながら聞き惚れそうになったよ」

 

まぁ、数か所ミスったり音程が数テンポズレてたりしてたけど・・・アレンジだと思えば気にならないレベルだったぞ?

 

   綾地「そ、そんなことは……歌詞を間違えたり音程を外したりミスしたのは一度や二度じゃなくて勢いでなんとか誤魔化していただけで」

 

   保科「……デュアンが言っていたんだ"ミスするのは当たり前、ミスをしない人間なんて、この世に一人も居ない"ってね……だから、盛り上がったのなら、この場合は成功でしょ?」

 

そう。人は失敗して成長するもの。ミスをしない人間は成長しないのだ・・・。オレみたいに大きな失敗、ミスを出来ない所で大きなミスを犯し、取り返しのつかない事になれば、死んでループするというバカとは違うんだ・・・。綾地さんや保科は学生だから・・・まだミスをしても取り返せるレベルだ。

 

・・・本当に綾地さんは・・・・

 

・・・・・バカだよ。"取り返しのつかない"ことを"無かったことに"するなんて・・・出来るわけないのに・・・。

 

   綾地「……そうかもしれませんね」

   保科「うん。だからやっぱり、綾地さんのおかげだ」

照れ隠しするように、綾地さんはコップに口をつけたが、さっき飲み干してしまっていたらしく「あれ?」といった表情を浮かべる。

 

   保科「お代わりとってこようか?」

   綾地「いえ、大丈夫ですから。それよりも、保科君の方こそお疲れ様でした。保科君のリズムのおかげで、とっても歌いやすかったです」

 

   保科「そう言ってもらえると、左手をボロボロにした甲斐があるよ……って言っても、デュアンが即興アレンジ楽譜で弾きやすかったけどね」

 

オレを引き合いに出すな!お前の努力だろ?それでいいじゃないか。と大きな声で喋ろうかと思ったが、二人はいい雰囲気だ。邪魔をするのは良くないと思う。

 

   綾地「ベース、このまま続けたりしないんですか?」

   保科「流石にそれはちょっと。あのベースだって借り物だし……それにほら、オレには部活もある。今回のも、部活の一環っていう気持ちが強いかな」

 

惜しいな、数ヶ月練習すれば・・・路上ライブできるレベルまで出来るのに・・・。保科は少し我儘を言ってもいいレベルだぞ?

 

   綾地「そうなんですか」

   保科「そういう綾地さんは?また歌ってみたいとか?」

   綾地「まさかっ、やっぱり人前に立つのは緊張します。それに、いつ"アレ"が起きるか不安ですから、私には無理ですよ」

 

まぁ、幾らオレが代償を緩和した所で、それ以上の波が来るなら無理だけどな。

 

   保科「けど、今日は大丈夫だったんでしょ?」

   綾地「どうしてもという必要があれば別ですが……ああいうのは、もう懲り懲りです。それに私も保科君と同じで、あくまで部活の一環ですからね」

 

オレはどうだろうか?オレは正直に言えば、幼馴染の綾地さんの力になりたくて、心の欠片集めを手伝っている。オレにこれといった趣味は無い。全ては作業なもの。必要な知識があれば本を漁って経験値にしていて、暇な時は読書、ゲーム・・・料理製作、手芸、音楽などと言ったことをしている・・・だが、あくまでも暇つぶし程度。何かを興味するということは無いのだ。

 

 

   保科「……そうなんだ?そっか……」

   綾地「……?あの、なんですか?どうかしましたか?」

   保科「いや、もったいないと思って。オレ個人としては、また聞きたいなって」

 

   綾地「こんな恥ずかしいこと、もうしません。コスプレなんて派手な格好で、沢山の人の前に立って……そのくせにミスも多くて、完璧には程遠い、人前で披露できるような歌じゃなくて。今だって、自分のミスが頭の中をぐるぐる回っていて」

 

綾地さんも、保科も・・・なにか勘違いしてないかな?絶対という自信がなければ・・・完璧という言葉も無い。

 

それは、人間も、妖精(アルプ)も、化け物も一緒だ。何かを経験して、初めて一人前をする。オレは、その過程をすっ飛ばし「マネをする」という結果しか出来ない。だからそれ以上の成長は出来ない。

天才と模倣(コピー)では絶対の差がある。

 

   綾地「普段の私なら絶対にしなかったことです。今こうして考えても……ああぁぁ……恥ずかしい」

 

   保科「……、……茶化すとかじゃなく、本当によかったと思ってるよ。歌も、歌ってる綾地さんの姿も」

 

   綾地「あ……ありがとう、ございます」

   保科「……もしかして後悔してる?舞台に出たこと」

   綾地「え?いえ、その……保科君は満足しているんですよね?」

   保科「うん。オレは後悔なんてしてないよ。予想通り下手な演奏だったけど、満足はしている」

 

下手・・・ではないが、要所要所がミスがあったぐらいだ。まあ、気にならないレベルだからいいんじゃないのかなあ?

 

   綾地「私も自分なりに満足できて……嬉しく思ってます」

   保科「そう言えば……ヴォーカルの件を引き受けてくれた時、綾地さんから強い意思を感じた。状況に流されたとか、オレたちが困ってたからとか、そういうのとは違う綾地さんの意思、というか……なんか、そういうの」

 

   保科「そもそも、綾地さんはどうして今回のことを引き受けてくれたの?」

 

   綾地「……」

   保科「あ、いや、言いたくないことなら、いいんだけど」

   綾地「言いたくないというわけじゃないんですが……ちょっと、恥ずかしい理由なので……」

 

   保科「は、恥ずかしい理由なのっ!?」

   綾地「そこに食いつかないで下さいっ、保科君が考えてるような理由じゃありませんからっ」

 

   保科「ん……」

   綾地「なんでそんな残念そうな顔をするんですか……」

   保科「いや、別に残念そうな顔なんてしてない……というか綾地さんは、オレが一体どんなことを考えてると思ったの?」

 

   綾地「そ、それは……その……し、視姦、プレイ、ですとか……」

そこまでヒドイことは考えてないだろう・・・

 

   保科「……視姦プレイて」

   綾地「もぅ、どうしてそういうことを言わせるんですか!」

   保科「いやいや!オレが言わせたわけじゃないと思うんだけど!」

   綾地「保科君、私を辱めて面白がってますね。本当、いやらしいです」

 

   保科「い、いや……そ、そんなことないよ!?」

   綾地「……保科君、顔がニヤついてます。とってもイヤらしい顔してます。イジワルです……」

 

そうかあ?オレからすれば、綾地さんの反応が可愛くてほっこりしてるようにしか見えてないんだが?

 

   保科「……」

   綾地「とにかくですね、そんな変な話じゃなくって。保科君の左手です」

 

   保科「オレの?」

   綾地「その左手……そんなになるまで練習をしたんですから。その努力がふいになるのは残念といいますか、嫌だと思ったんです。だから、私が力になれるならって……せめてもの恩返しのつもりでした」

 

   保科「恩返し?オレに?」

   綾地「保科君やデュアン君には随分とお世話になってきましたから。これぐらいは、と思って」

 

   保科「そんな、世話なんていえるようなことは」

   綾地「いいえ、お世話になってます。だから、少しでも力になれて、保科君が満足してくれたなら、私も嬉しいです」

 

2人のええ雰囲気やなあ・・・

 

   保科「綾地さん、欠片は?例の欠片の瓶は?」

   綾地「え?あ、はい。持っていますが……どうかしたんですか?」

   保科「量は?欠片がオレの心から、そっちに戻ってたりしない?」

   綾地「えっと……あ、確かに。以前よりもちょっと増えてますね……。バンドのおかげですか?」

 

   保科「う~ん……多分、そう……かな?けど、バンドは今日でお終い。流石に左手が限界だ。だから週明けからはまた、オカ研の部活に戻るよ」

 

   綾地「こちらのことは気にしないでいいんですよ?……こうして欠片が戻ったということは、保科君も嫌に思ってるわけじゃないんですよね?」

 

   保科「楽しかったのは、事実だけど……やっぱりオレは、舞台に上がるよりも裏方をしてる方が性に合ってる」

 

確かに、俺も表舞台はあまり好きとはいえない。

 

   綾地「そうなんですか?」

   保科「確かに欠片を返せるぐらいの達成感を得てるし、演奏も……まあ楽しかったよ、正直に言うとね。けどやっぱり、視線が集中するのは苦手だ。さっきだって、下手したら舞台の上でエレエレしてたと思う」

 

   綾地「そんな風には見えなかったですが」

   保科「もしそうだとしたら……初めて立った舞台だからかな?」

   綾地「格好よかったですよ、保科君の演奏する姿」

 

これ以上、見るのは・・・無粋・・・というもだ。

 

デュアンは、クールに去るぜ。

 

 

 

 

~~~~

 

 

   デュアン「なんか静かだなぁ~……ハロウィン祭も終わったからかな?……ま、関係……、なくねぇな」

 

やべぇ、椎葉さんとの約束を忘れてたな

 

スマホを取り出し、メールを打つ。

内容は・・・そうだなあ。

[中庭の自動販売機にて、待つ 

Dhuan]

 

 

メールを送ってから、数分で来た。

 

   デュアン「椎葉さん……お疲れ」

     椎葉「デュアン君もお疲れ」

   デュアン「あ、ああ……まぁ、今回は柊史や綾地さん達がMVPだったな」

 

なんだかんだ頑張ってくれたおかげだよ

 

     椎葉「いやー、できればもう2、3曲聞きたいぐらいだったな」

勘弁してあげてくれ

 

   デュアン「柊史の指が壊れちまうよ……ま、独奏で良いなら……再演奏(リクエスト)してあげないこともないが……」

 

     椎葉「本当!?」

   デュアン「ああ……」

     椎葉「…………」

   デュアン「……、……どうした?椎葉さん」

     椎葉「ワタシも、できればハメを外してみたかったな。コスプレとかして」

 

   デュアン「ならすればいいよ」

     椎葉「……え?」

   デュアン「ちょっと待っててね」

 

オレは、オカ研の部室に行き、椎葉さんが着る予定だった衣装を取りに行き、戻る。

 

   デュアン「おまたせ……はい。これコスプレの小物」

     椎葉「え……でも、ワタシ、女の子の服は……」

   デュアン「うん。だから椎葉さん、例の魔女の服になってくれないか?」

 

     椎葉「え?誰かの欠片を回収するの?」

   デュアン「いやいや……とにかく頼む」

     椎葉「うん……それは別にいいんだけど」

と、変身する椎葉さん。うん・・・その服も可愛い・・・。

 

ん?

 

     椎葉「これでいいの?」

  デュアン「バッチリだ……。で、借りてきたこれを持って。んで……マント、外せるかな……あ。外れた」

 

椎葉さんはクエスチョンマークを浮かべたが問題はない。

 

  デュアン「ふむ……じゃこれをこうして、こっちを頭につけてっと……ふむぅ……少し髪型も弄るか。あ、気分が悪くなったらすぐに言えよ?」

 

    椎葉「わかった……でもこれって一体……」

  デュアン「すぐにわかるよ。えぇっと髪をこうして……ふむ。飾りも身に着けて……んー……こんなものかな?よし、完成っと」

 

んー・・・半分、オレの趣味が入っちゃったが・・・まぁ大丈夫だろう。

 

    椎葉「デュアン君……これ……」

  デュアン「完成、デーモン?小悪魔系?まあ、そういうの」

小さな角と、オモチャの三叉の槍を持った椎葉さん。

服の色的にちょっと無理があるかもしれんが・・・まあ、許容範囲内かな?

 

  デュアン「うんうん。よく似合ってるよ……。気分は大丈夫?」

    椎葉「今は、これぐらいなら大丈夫みたい……だけど……」

  デュアン「まあ、その服だと他人には見えないから、はっちゃけることはできないけど、ハロウィンにちなんだコスプレ!ってことで……どうだろうか?」

 

    椎葉「………」

頬を赤らめる椎葉さん。マズいな・・・怒ってる?

 

  デュアン「わ、悪い……それぐらいしか思いつかなかった」

    椎葉「う、ううん、そんなことない!嬉しいよ!小悪魔コス……コスプレか……えへへ」

  

  デュアン「……!」

オレは、椎葉さんの笑顔に惚れ込んでしまった・・・。

太陽みたいな笑顔・・・守りたいと感じる。この気持はなんだろう?

 

    椎葉「ありがとう。コスプレなんて諦めちゃってたから、嬉しいな……」

 

  デュアン「そう言ってもらえるなら、よかった」

    椎葉「ねえねえ、本当に似合ってるかな?」

  デュアン「ああ……似合ってる、可愛いよ。これはお世辞でもなんでもなく……本気と書いてマジで」

 

    椎葉「えへへ……なんだか照れるなぁ」

可愛いすぎて悶え死ぬかも・・・。

 

  デュアン「ンッコホン……あ、そうだ」

オレは軽い咳払いをする

 

    椎葉「?」

  デュアン「はいこれ……」

オレは、紙を渡す。

 

    椎葉「あれ?この紙って……コスプレコンテストの投票用紙?」

  デュアン「うむ……オレは、椎葉さんに投票する」

    椎葉「ふぇ……ふえぇぇぇぇ」

  デュアン「ま……椎葉さんはエントリーしてないだろ?投票するより……椎葉さんに直接渡したほうがいいかと思ってね」

    椎葉「…………」

顔を更に赤くする椎葉さん。

そして、受け取った紙をジーッと見つめる椎葉さん。

 

    椎葉「っ!っ!っ!」

椎葉さんは顔を真っ赤にして、三叉の槍で膝を突く。

 

  デュアン「いたっ、いたっ、いたたたっ!」

弁慶の泣き所は反則だぁ、マジで痛いぞ

 

    椎葉「っ!っ!っ!」

  デュアン「ちょっと、落ち着いて、本当に落ち着いて?ね?200円で手を打ちません?」

 

    椎葉「むぅー……デュアン君って、もしかして遊び人?」

  デュアン「??なんだそりゃ……オレって友達が少ないんだぜ?」

    椎葉「でも、こんなことをするなんて……絶対慣れてる人のすることだよ」

 

  デュアン「えー……それは椎葉さんの思い込みだよ」

    椎葉「だって……こんなの……」

  デュアン「ん~……あれかな?経験が豊富だからさ。それだけのことだよ」

 

慣れてる人か・・・まぁ、間違った言い方ではないが。人生経験は、間違いなく学生1000回分だろう。

 

    椎葉「本当に?」

  デュアン「ああ……本当に」

    椎葉「あーやーしーいーな」

女の子って、結構勘が鋭いからな。

 

  デュアン「大体、そんなに大したことじゃないって、これぐらい」

誰だって、この答えに行き着くと思うぞ?

 

    椎葉「そんなことない。そんなことないよ……ワタシ、嬉しかったもん」

 

  デュアン「そ、そうか……」

    椎葉「……ありがとう……」

  デュアン「……!」

なんだか恥ずかしくなってしまった。

 

    椎葉「えへへ」

 

オレは、どうやら・・・椎葉さんを本気に好きになってしまったようだ。

転生して、転生しまくって・・・

 

ユウキと同じぐらい好きになってしまったようだ。

 

だが、この答えは・・・まだ椎葉さんには出せない。

 

この気持ちを隠すか・・・それとも、打ち明けるかは。まだ早いとオレは思う。

 

~~~~~

 



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Ep43 憂鬱な綾地さん

 

~~~~~

 

   女子学生C「あ、綾地さーん、パーティの舞台見たよ。よかった!」

 

   女子学生A「うんうん。思わず見入っちゃったよ」

確かに、あの歌声はインパクトがあって・・・誰もが魅了されただろう。まるでローレライみたいに。

 

     綾地「あ、ありがとうございます……」

   女子学生B「え?なになに?どうしたの?」

   女子学生C「先週のハロウィンパーティーでのこと」

   女子学生B「あー、あれか。用事があって参加できなかったんだけど、どうだったの?」

 

   女子学生A「結構楽しかったよ、みんなでワイワイできて。それにね、綾地さんが舞台で歌ったの」

  

   女子学生B「綾地さんが?歌を?」

   女子学生C「びっくりするぐらい上手で、しかも綺麗な歌声で。もう会場にいた全員の心を鷲掴みだよ」

 

   女子学生B「そんなに!?」

     綾地「い、いえ、違います。大げさに言ってるだけですよ。音程も外してばかりで、実際は大したことないんです」

   

   女子学生A「またまた~ご謙遜を」

   女子学生C「そうだよ、自信を持っていいよ、あれは」

   女子学生B「えー、聞きたかったなー」

     綾地「本当にお願いですから、もう止めて下さいっ!そ、それにですね、凄かったのは私じゃなくて、演奏ですから」

 

あ・・・この野郎、オレの方へ売ったな。

・・・っと、柊史が登校してきた。

 

 

    保科「ふう、酷い目に遭ったな」

    椎葉「あ、保科君。おはよう……なにかあった?」

  デュアン「おはよう……あれ?かなり羽まみれだぞ?なんか遭った?」

    保科「おはよう。デュアンに椎葉さん……大したことじゃないが……よく分かったね?」

 

  デュアン「ほら……頭の上に、羽がついてるぜ?」

    保科「マジか……あ、本当だ」

    椎葉「ひょっとして、カラスに襲われたとか?」

    保科「いや、大丈夫……別に襲われたわけじゃないから」

  デュアン「……」

    保科「けど黒い羽根って格好良くない?ほら、漆黒の堕天使って感じで……ふっ」

 

  デュアン「う~ん……そんな格好いいものでは無いと思うぞ……堕天使は、地獄に落ちた天使の名を冠する名称だからな」

 

    保科「すみません、調子に乗ってました」

    椎葉「え?う、ううん!そうじゃなくて、保科君のことじゃないから、気にしないでっ」

 

 

    保科「じゃあ、誰のことだったの?」

    椎葉「だ、だから気にしないで欲しいかな」

  デュアン「(まあ十中八九、アカギが絡んでいるだろうな)」

    椎葉「それより気をつけたほうがいいよ。カラスってね、人の顔を覚えられるんだって」

 

  デュアン「存じ上げております」

    椎葉「悪戯すると、一生付け狙われることもあるっていうでしょ?あれ、本当の話だから」

 

    保科「うっ、カラスに毎日待ち伏せされるのは嫌だな」

    椎葉「うん、鳥類は目もいいからね。男の人とか、女の人かもわかるらしいよ?」

 

  デュアン「ふーん……」

    椎葉「え?そんなことないよ、だって友達に聞いたことあるだけだし」

 

  デュアン「……アカギだろうな」

    椎葉「そう言えば……よく考えたらデュアン君、自分で友達少ないって言う割には、いっつも女の子と一緒だよね?」

 

  デュアン「そうか?教室でつるむのはいつものことだと思うが……?」

 

そこで、海道が教室へ入ってくるのが見えた。

 

    海道「おお、デュアンに柊史。今朝は早いじゃないか」

  デュアン「そうそう。丁度よかった!オレにも男の友達がいると証明……って、どうしたんだ?」

 

    海道「へへへ……どうやらオレの中でまた、バンドやりたい熱が盛り上がったみたいでな……それに……」

 

  デュアン「それに?」

    海道「和奏ちゃんと……正式に付き合えることになったし……ドラムも叩きてえ、またライブとかやってみたいよなー」

 

  デュアン「ハロウィンパーティーで告白して、成功したのか……ヘタレのお前にしては以外だったな。congratulation」

 

    海道「でも、告白が成功したのは……デュアンのおかげでもあるよ……サンキューな」

 

  デュアン「ああ……(告白が成功……か。柊史は綾地さんに告白したのだろうか?……いや、あいつのことだ。してないと思うな)」

 

でも、雰囲気的には告白すれば成功すると思う。

 

    仮屋「保科、海道!おっすおっす」

  デュアン「おはよう、仮屋さん」

    保科「ああ、おはよう。喉風邪はもういいの?」 

    仮屋「それはもうバッチリ全快、その節はご迷惑お掛けしちゃったねー」

 

ピースサインする指にテーピングが巻かれてるということは・・・

 

    海道「おっ、ひょっとして和奏ちゃんもあれから、ずっとギターの練習をしてたとか?」

 

    仮屋「うん!なんかギターが手から離れてくれないんだよー」

    海道「わかるわかる、一度ライブの熱気に触れると、癖になっちゃうもんな」

 

  デュアン「なら、2人でツーバンドでも組めば?」

    仮屋「ふ、2人で?!」

    海道「バンド……」

    

    保科「ギターとドラムだけの?」

  デュアン「あれ?ティラノザウルス・レックスっていうバンド名があってな」

    

    保科「聞いたこと無いよ」

    仮屋「うーん……ライブは暫くいいかな。でも、目標みたいのはできちゃったかもねー。もっと上手くなりたいってくらいなもんだけどさ」

 

    保科「へー」

  デュアン「良いことだと思うよ……目標を持つことは」

オレなんか、目標なんて無いようなものだよな・・・

 

    

    綾地「デュアン君、保科君、椎葉さん……ちょっと」

    椎葉「……う、うん」

 

 

    保科「まさかと思うけど、2人同時に欠片が回収できる状態なのか?」

 

    綾地「そのまさかです」

  デュアン「ほへー……案外お似合いのカップルだったのかもしれないな」

 

    綾地「仮屋さんと海道君から、欠片を回収しましょう」

  デュアン「綾地さん……あのさ。欠片の回収を椎葉さんに譲ってもらえないか?勿論、海道と仮屋さん……のどっちかにするよ」

 

    綾地「はい。私もそのつもりでしたので」

  デュアン「ありがとう……綾地さん」

 

~~~~

 

    海道「おー、さみぃ~、流石に11月ともなれば、外は冷えるな」

  デュアン「ま、わざわざ中庭まで出てくる学生は、他にいないみたいだな……」

 

昼休み、オレは海道を連れ出し、中庭まで来ていた。

 

    海道「本当にここで飯を食う気か?」

  デュアン「話したいこともあったし……な」

    海道「?デュアンが、……?珍しいこともあるもんだな」

オレを何だと思ってんだよ、コイツ・・・

 

  デュアン「なあ、お前……仮屋さんに告った時、どんなことを言ったんだ?」

 

    海道「え?そりゃ普通に……ありふれたセリフだぞ」

  デュアン「そう、か……」

    海道「なんだなんだ……デュアンにも好きな人ができたのか?」

  デュアン「まあ、な……でもこの"想い"がLikeなのかLoveなのか……まだ分からないんだ……此処まで答えを出かかってるのに」

 

 

    海道「魚の骨が取れないみたいな?」

  デュアン「そんな感じ」

    海道「ふむ……誰?」

  デュアン「教えない……けど、答えが出るようになったら教える」

これは、紛れもない本心だ。オレの中で椎葉さんという存在は、オレの心の中を満たしてくれている・・・けど、これが友情などの好きなのか、愛に焦がれてるのか。まだ完全に答えは出ていない。

 

オレの中で椎葉さんという色で塗られた感じだ。

 

 

    椎葉「…………」

オレは、椎葉さんが立つ前の方へ海道を誘導し、座らせた。

魔女に変身すれば、その姿は魔女やアルプ、柊史みたいな特殊な人間にしか見えなくなる。それにオレの魔法で隠蔽している。カメラにも視認できない完全な透明人間。まあ、例外はあるが・・・

 

海道は気付かず、膝にスティックを打ち付けていた。

 

    海道「~~♪……~~~♪」

  デュアン「ふふ……せめて食ってからにしたらどうだ?そんなに練習したら、腱鞘炎(けんしょうえん)になるぞ?」

 

    海道「だーいじょうぶだって。確かにちょっと手首は痛いけど、そういうもんだからな」

 

  デュアン「ふむ……練習もやり過ぎなはよくないって。パーティー前から、柊史の練習に突き合わせたわけだしさ……お前が身体を壊したら、流石に責任感じそうだ……後、仮屋さんにぶっ飛ばされそう」

 

    海道「ははは、まさかデュアンに心配されるとはな」

  デュアン「オレを何だと思ってんだ?!」

    海道「わかったわかった、じゃあ、もう1フレーズだけ……よっ!」

 

手首を使い、一際激しくスティックを打ち付ける。

その直後――――

 

    椎葉「ごめんね、海道君……え、え~~いっ!」

ハンマーを振り下ろし、海道の頭に直撃・・・

 

    海道「ごわっ!?」

ハンマーに打たれ、海道が気を失った。

同時に、白い羽根のような欠片が飛び散る。それが椎葉さんの小瓶へと吸い込まれていった。

 

    椎葉「ふう、いつものことだけど、ちょっと悪い気がしちゃうな」

 

  デュアン「仕方ないよ……欠片の回収には必要な儀式みたいなものだし……でもまぁ、見ようによっては、後ろから鈍器で襲いかかるわけだもんな」

 

    椎葉「もう、デュアン君はすぐからかうんだから」

  デュアン「すまんすまん、でも気持ちも大きくなり過ぎると怪我の元だ……まぁ、予防接種だと思えばいいんだ、気にしない気にしない……だから、ありがとう。椎葉さん」

 

    椎葉「えっ……ふーん、デュアン君って結構友達思いなんだね」

  デュアン「オレはいつだって他人思いだぞ?」

オレは、他人のために命を捧げられるぞ。「死ね」と言えば、喜んで他人のために「死ぬ」こともできる。

 

    綾地「2人とも、お疲れ様です」

    保科「おつかれ、デュアン」

2人と合流してくる。

 

    椎葉「綾地さんこそ、お疲れ様!でも、よかったの?先に回収しちゃって……」

 

    綾地「はい、大丈夫です。仮屋さんは、明日シュバルツ・カッツェに来るそうなので」

 

    保科「まあ、許可を出したのは綾地さんだし……オレからは何も言わないよ」

 

    綾地「それに……」

と同時に綾地さんは、欠片の瓶を出す。

 

  デュアン「ほぅ?前より増えてるな……」

    椎葉「わっ、すごい!心の欠片が、こんなにたくさんっ」

    綾地「ええ。私の方は、後もう少しで溜まりますから」

    保科「綾地さん、いつの間にそんなたくさん?」

  デュアン「おそらく、保科が持っていった欠片の分だろう」

    綾地「ええ……その通りです」

    椎葉「待って、保科君から?あのとき回収したってこと?」

  デュアン「う~ん……回収したっていうより……戻った、かな」

    保科「椎葉さん……回収したんじゃなくて、多分心の穴が埋まったってことだと思う」

 

    椎葉「心の穴?」

  デュアン「……」

    保科「そう言えば椎葉さんには、ちゃんと話したことなかったっけ?」

 

  デュアン「ないね」

    保科「うっかりしてたな……綾地さんと椎葉さんが和解してくれたおかげで、つい自分のことは話そびれていたみたいだ……この機会に説明しとく、か」

 

    椎葉「そうだったの?単に2人が友達だから、協力してるのかと思ってたよ」

 

  デュアン「友達でも……魔女は一般人には視認されないんだぜ?」

これは、共通のルールだ・・・。

 

    椎葉「う、うん、言われてみたらそうなんだけどね。前に………発情の?現場を見られたせいって聞いてたし、追求しづらくて」

 

    綾地「最悪です、最悪です最悪です……やっぱり最悪です~」

  デュアン「落ち着け、綾地さん」

    保科「ほら、落ち着いて……綾地さん。椎葉さんも、それはきっかけに過ぎなかったんだって」

 

    椎葉「わかってるよ。保科君も、結構大変だったんだね」

    綾地「すみません、私もうっかりしていました」

  デュアン「それを言うのなら……オレもだな……まさか防壁を使った密室の中に居たとは……」

 

でも、この魔法・・・魔女やアルプには無意味なんだよな・・・。保科も多分、例外じゃないと思う。

 

    椎葉「いいよ、別にそれくらい教えてくれなくても、ずっと綾地さんのことは友達だと思ってたし」

 

    綾地「椎葉さん……ええ」

  デュアン「…………」

オレは、見逃さなかった。いっぱいになりつつある小瓶を眺め、綾地さんが名残惜しそうというか後悔というかそういう表情をしている。

 

    綾地「あと少しで、椎葉さんや保科君、デュアン君と協力し合うことも、なくなってしまうんですね」

  

  デュアン「…………」

    椎葉「そんなことないよ。綾地さんが魔女を卒業しても、ワタシ達友達だよね?」

 

  デュアン「……っ……」

    保科「……デュアン?」

  デュアン「…………」

    綾地「ええ……もちろんです」

やっぱり、後悔してるじゃないか・・・

 

嘘つき

 

いや、嘘つきは・・・お互い様か。

 

 

~~~~

 

   因幡「えっ!ひょっとして……乗った!?寧々先輩がモンスターに乗った!」

 

   綾地「乗ってしまいました……確か、連射すればいいんですよね?」

 

どうやら、モン猟をやってるようだな。邪魔するのも無粋だし、オレは読書を楽しむとするか。

 

   椎葉「わ、わッ!頑張って綾地さん」

   綾地「頑張ります」

 

   保科「……?」

 デュアン「……」

   保科「モン猟を楽しんでる三人に対して……デュアンは読書?」

 デュアン「ああ……今月発売の探偵小説の2巻だが……犯人とアリバイトリックが分かったんだが、まだ動機と凶器の隠し場所が分からんのよ」

   保科「は?お前……名探偵になれると思うぞ」

 デュアン「いや……推理すりゃ……分かる。だけど、なぜ殺したのに至ったのか?が分からん……仮定をすっ飛ばして結果だけを求めるのは、バカがやることだ」

 

   保科「お前も人の事言えないからな?」

 デュアン「ご尤もで」

 

 

 

   椎葉「すごい綾地さん、連射早ーい!わっ、でも相手の子も対抗してっ……あっ、ああ!?」

   

   因幡「落ち着いて、寧々先輩!そこは、Rボタンを押さないと……あっ!」

 

   椎葉「あー……」

   綾地「申し訳ありません」

   因幡「いえいえ、気にすることありませんって、寧々先輩の成長力は半端じゃありませんからっ」

   椎葉「うん、今のは惜しかったよ、ワタシ横で見るだけなのにドキドキしちゃった。きっと次は上手くいくよ」

 

   綾地「はい、頑張ります」

   椎葉「あっ、保科君、デュアン君、ちゃろー」

   保科「ちゃろー、椎葉さん……と言っても、俺ら最初からいたけどね」

 

   因幡「ちょっと、センパイは勝手に使わないでくださいよ」

   保科「え?ちゃろーには、因幡さんの許可がいるの?」

   椎葉「ごめん、ひょっとしてワタシもダメだったかな?」

   因幡「いえいえ、紬先輩はいいんですよ……でも保科センパイが使いたかったら、一緒に寧々先輩のランク上げを手伝ってください」

 

   綾地「すみません、期間限定のクエストへ参加するには、まだ私のランクが足りないようで」

 

   因幡「そこで手に入る新装備が、すっっっごく可愛いんですよ!ね?」

 

   綾地「……はい、是非手に入れなくては」

見た目重視の装備はロクな思い出がないな・・・。

 

   保科「ふむ……了解した。でも椎葉さんは一緒にやらなくていいの?」

 

   椎葉「うん、見てるだけでも楽しいから」

 

   保科「一緒に遊べば、もっと楽しいのに」

   椎葉「あはは、それがワタシ、携帯ゲーム機って持ってなくて」

   保科「そっか」

   因幡「じゃあじゃあ、紬先輩も思い切って買っちゃいましょうよ!寧々先輩みたいにモン猟のためにっ、本体ごと」

 

本体とソフトのセットって・・・確か、税込み2万近くするよな・・・学生が気軽に買えるものじゃ、無いと思うぞ。

 

   綾地「因幡さん、あまり無理を言うのもよくないですよ?」

   椎葉「ごめんね、今ワタシ……あんまりお小遣いないから」

  デュアン「……オレの貸そうか?」

   椎葉「え?それは悪いよ」

   保科「ってか、デュアンも手伝ってくれよ」

  デュアン「んー……わりぃ今回はオレはパス」

 

 

 

・・・その後、戸隠会長が来て・・・。

 

 

~放課後

 

  女子学生D「綾地さん!ぜひとも私たちとバンドを組もうっ!ビッグドリームをこの手に掴もう!」

 

    綾地「すみません……あれはあくまで、ピンチヒッターとして出ただけですから」

 

  女子学生D「良い声してるって!綾地さんさえいれば、世界だって夢じゃない!」

 

    綾地「そう言ってくれるのは嬉しいんですが……本当にごめんなさい。続けるつもりはないんです」

 

  女子学生D「そっか、残念だな……頂点(トップ)が取れると思ったのに……でももし、気が変わったってやる気が出たら、いつでも声をかけて!待ってる!ずっと待ってるから!」

 

    綾地「は、はあ……わかりました」

残念そうに部室から出ていく少女。まあ、無理もないか。

 

    綾地「はぁ……」

    戸隠「お疲れ様、綾地さん。はいこれ、お茶でも飲んで」

    綾地「ありがとうございます、戸隠先輩」

綾地さんは、差し出されたお茶をゆっくりと飲む。

 

    戸隠「人気者も大変だねぇ」

   デュアン「会長……それにしても、なんでオカ研に?」

    戸隠「それがね、今までずっと学生会で働いてきて、急に暇になっちゃったから……こう、手持ブタさんでねー、家に帰っても勉強するしかなくて、ずっとしてたら息が詰まるんだよ」

 

そりゃそうだわな。休憩なしの勉学はつまらないことこの上ない。

 

    戸隠「だからもしお邪魔でないなら、此処に居させてもらえないかな?」

 

   デュアン「オレは構いませんよ……まあ、すべての決定権は綾地さんに委ねてますが……」

 

    綾地「私は全然構いませんよ」

部員も納得してるようだし・・・。

 

 

    因幡「それにしても、今日はこれで3人目ですね。バンドの誘いに来た人は」

 

    椎葉「ううん、教室でも声をかけられてたから、それ以上だよ」

  デュアン「ざっと数えると6人かな?」

    保科「マジか……」

    綾地「今日は本当に疲れました……」

    保科「雰囲気が物語ってるなぁ」

    戸隠「綾地さんにやる気がないってわかれば、この騒ぎもすぐに収まるよ」

 

    因幡「でも、突然ヴォーカルが歌えなくなった、なんてときには寧々先輩が頼られるかもしれませんね」

 

ありそうで怖いな・・・

 

    綾地「……本当に困ります。まさかこんなに目立ってしまうとは……ちょっと後悔しています」

 

  デュアン「公開だけにな、なんつって、HAHAHA」

なぜ、固まる・・・

 

    保科「…………」

  デュアン「これっぽっちも面白くなかったのか……」

    戸隠「来年の文化祭辺りとか、また大変になるかもね」

    綾地「そういう億劫になりそうなことを言うのは止めて下さい、戸隠先輩」

 

    戸隠「ごめんごめん。でも、覚悟はしておいたほうがいいと思うよ?」

 

    綾地「へ、平気です。来年の文化祭は、オカルト研究部で何かしらの発表をしますから。それを言い訳にしますから」

 

  デュアン「……、………」

    保科「それで諦めてくれるといいんだけどね」 

  デュアン「ま……無理だろうな」

    椎葉「今心配しても仕方ないよ。来年になれば学内の雰囲気も変わってるだろうし、考えるのはそれからでも遅くないんじゃないかな?」

 

  デュアン「……」

    保科「そうだな。実際にそういう依頼がくるとかどうかも分からないんだから」

 

    綾地「でも……そのことを想像すると、ちょっと鬱になりそうです……はぁ」

 

深い溜息をつく綾地さん。そうとう堪えてるな。

 

  デュアン「そんな"不確か"で"不確定"で"まだ分からぬ未来"の事を考えても仕方ないだろ……切り替えていこうぜ。負荷(マイナス)な事を考えれば、もっと(マイナス)になっちゃうぜ」

 

    保科「なあ、デュアン……マイナスって?」

  デュアン「マイナスはマイナスさ」

    椎葉「どういうこと?」

  デュアン「……、……ほぅ?深淵の底を覗きたいのか?」

と、オレはニヤリと口を三日月状に吊り上げ、嗤う。

 

   デュアン「『不条理』を『理不尽』を……『いかがわしさ』『インチキ』『堕落』『混雑』『偽善』『偽悪』『不幸せ』『不都合』『冤罪』『見苦しさを』『みっともなさ』を『風評』を『密告』『嫉妬』『格差』『裏切り』『虐待』『巻き添え』『二次被害』……これらを全部愛しい恋人のように受け入れることだ……そうすれば少なくても楽になれるよ」

 

    保科「それ、人として終わってるから」

  デュアン「ま……それが過負荷(マイナス)だよ。深淵の闇そのもの」

 

    保科「悪かったって……本当に悪かったからやめてくれ」

  デュアン「…………ふぅー……分かった」

    保科「もう5時半か……」

    戸隠「この部活は普段、いつまでやってるの?」

    綾地「日によっては違いますが、大体6時というところでしょうか」

 

    保科「今日はもう上がっていいんじゃない?運動部だっていくつかは、もう帰り始めてる時間だよ」

 

    戸隠「そうだね、綾地さんも大分疲れてるみたいだもんね」

    因幡「無理はしないほうがいいと思いますよ、寧々先輩」

  デュアン「(ま、半分はゲームをやっていたってのもあっただろうな……言わないオレって優しいよな)」

 

    椎葉「明日も学院はあるんだから、ゆっくり休んだほうがいいんじゃない?」

 

    綾地「そうですね……それじゃあ……皆さんのお言葉に甘えて、今日はもう終わりにしましょうか」

 

    因幡「それじゃあ、お疲れ様でした」

    綾地「はい。お疲れ様でした」

 

 

  デュアン「さて……俺も帰るか」

オレは、カバンを持ち・・・部室へ出る。

 

 

    戸隠「デュアン君。待って」

  デュアン「はい……何でしょうか?会長」

    戸隠「これ、クリスマスも兼ねてプレゼント」

  デュアン「遊園地のペアチケット?2枚もくれるんですか?」

    戸隠「うん。デュアン君にプレゼント」

  デュアン「柊史でも良かったんじゃ……」

    戸隠「ううん……これは、きっとデュアン君が適任だよ」

  デュアン「誘う相手居ないぞ?」

    戸隠「頑張れ♪」

  デュアン「会長には何を言っても無駄なんだな……わかりましたよっと……まあ、この埋め合わせは何時か精神的に返すよ」

 

 

~~~~~

 

   デュアン「はぁ~……といっても遊園地か……」

     椎葉「あれ?どうしたの……そんな溜息を吐いて」

   デュアン「ん?ああ……まあ、大したことじゃないんだが……遊園地のペアチケットを会長から貰っちゃってさ」

 

     椎葉「えっと……戸隠先輩から?」

   デュアン「ああ……だけど、オレには誘う相手が居ない……残念だけどね」

 

このチケットは破棄か、誰かにあげるのが妥当・・・なのだが、それでは会長が可哀想だ。ふむぅ・・・

 

   デュアン「じゃあ……オレと行く?」

     椎葉「……実はデュアンくんには話してないことがあるんだ……」

   デュアン「……女子っぽい服装を着なくても、遊園地に行くぐらいなら構わないんじゃないのか?友達感覚で」

   

     椎葉「実は……格好だけじゃないんだ……女の子っぽい行動をしても気持ち悪くなることがあるんだよ?」

 

   デュアン「……!?」

なんてこったい・・・一体椎葉さんはなんのお願いをしたんだ?因果律を捻じ曲げるお願いでもしたのか?

 

     

  デュアン「……、……そうなのか」

オレが考えた「魔女の代償」の算出方法を洗い流さないとダメだろうな・・・。

さて、どうするか・・・

 

 

     ?「何をしてるのじゃ、紬」

この声は・・・アカギか。

 

  デュアン「…………」

     椎葉「わっ、あ、アカギ!?迎えに来てくれたの?」

    アカギ「まさか近くへ来たついでに、様子を見に来てやっただけなのじゃ」

 

  デュアン「嘘つけ

昼頃から気配を感じてたぞ。

 

    椎葉「そういえば、デュアン君ってアカギの事を知ってるの?」

  デュアン「昔に少し、な……コイツ、椎葉さんの他にもう一人契約を交わしてたからな……」

 

   アカギ「その節はどうもなのじゃ」

  デュアン「……そりゃどうも」

 

   アカギ「……む?」

この眼、オレをまるで品定めをするような・・・冷たい目をしている。

 

  デュアン「…………」

ここで、戦場で行きた、殺意を出せば・・・椎葉さんがただじゃすまない。だから・・・ここは静観しとくか。

 

    椎葉「それじゃ……デュアン君。また明日」

  デュアン「ああ……また明日」

と椎葉さんはぺこっと頭を下げるや、慌ててアカギを追っていった。

 

 

  デュアン「…………何が起こるか」

 

オレは、そのまま帰路に向かう。

 

~~~~



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Chapter5
Ep44 アカギの悪巧み


 

~~~~

 

    保科「おはよー」

  デュアン「おはよーって、保科……どうした?」

    保科「ああ……ちょっと胃もたれしちゃって」

  デュアン「脂っこいものでも食べたのか?」

    保科「昨日、商店街で買い物してるときに、綾地さんと会って、綾地さんがラーメン屋に行きたかったから……そのまま食べに行ったんだ」

 

  デュアン「あー……海道やオレとお前と一緒に行った……次郎丸か……2人で分け合って食べたのか?」

 

    保科「……いや」

  デュアン「?」

    保科「それが……綾地さんが頼んだのが"チャーシュダブルのメンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ"を頼んで……」

 

え・・・?今なんと仰ったんです?柊史さん

 

  デュアン「……あぁ、もう一度言ってくれ保科……綾地さんが何だって?」

 

聞き間違えであって欲しい

 

    保科「いや……綾地さんがジロリアンも顔向けの「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ」を頼んでさ」

 

綾地さん・・・・2chの例のアレを見たのかな?

 

  デュアン「あんなバカげた量よく小柄体型の綾地さんが食えるな。俺すら無理なのに……いや、そもそも次郎系ラーメンって食えた試しがないんだよな……ハーフでさえキツイのに」

 

   保科「それは食べなさすぎだろ……いや、因幡さんと回転寿司に行ったときも……デュアンは少食してたよな……10皿未満でお腹いっぱいとか……お前は女子かっ!」

 

とペシッと叩く。いやいや・・・柊史。それは偏見すぎるぞ

 

  デュアン「それで、綾地さん……食べ切れたのか?」

   保科「ああ、食べ切れたよ……スープまで。それにしても、メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ……なんて恐ろしい暗黒呪文」

 

あの量は、マジで無理。オレみたいな少食には食べ切れん。

オレには理解できない領域だ。

 

  デュアン「確かに……恐ろしい暗黒呪文だな」

 

 

    椎葉「おはよー、デュアン君、保科君」

  デュアン・保科「「おはよう、椎葉さん」」

    

    保科「ん?あれ教室がいつもと雰囲気が……?」

  デュアン「確かに……――――ッ?!」

 

一瞬だけ、誰かに睨まれた。誰に?

 

  デュアン「……、……?」

    保科「どうした?」

  デュアン「い、いや……なんでも無い。多分、気の所為だ」

それにしても、一体誰がオレを睨んだ?

 

    椎葉「どうしたの?」

  デュアン「カラスか、何かに睨まれた気がする……と言うか、今朝から見られてる気がする……」

 

    椎葉「そう、なんだ……」

    保科「お前も災難だな……俺も一昨日睨まれたぞ」

  デュアン「ハハハッ……互いに不幸が降り掛からないといいがな」

    

    保科「あれ?そう言えば、綾地さんの姿が見えないけど……」

    椎葉「うん。まだみたいだよ。姿も見てないし、カバンだってないみたいだし」

 

  デュアン「(まあ、確実に次郎丸の暗黒呪文を頼んだ反動だと思うぞ……)」

 

    椎葉「もしかしたら……寝坊かな?綾地さん、昨日は疲れてたみたいだから」

 

  デュアン「ま……あの勧誘の押しかけで疲れないわけがないわな……」

 

    椎葉「この分だと、遅刻しちゃうかな?」

  デュアン「ま……休息も必要だろう」

と俺がそう言うと、チャイムが鳴る。

 

    椎葉「あ、チャイムだ」

    保科「間に合わなかったか……」

欠片の回収。明日に回すか。

 

 

    久島「ほらほら、早く席に着きなさい」

HRが始まった。

 

 

~~~~授業中

 

  デュアン「…………」

オレは、頬杖つきながら授業内容を聞く。

オレは一通のメッセを綾地さんに送る。

すると「明日にしませんか?」とメールが来た。オレは「了解した」とメッセージを送る。

オレは、携帯を机にしまい。ふと空を見上げる。

 

やはり、誰かがオレを見ている。でも姿が見えない。実に気持ちが悪い感覚だ。前世で使っていた"視覚情報強化"は、この世界じゃ使えない。

本当に不便だ。

 

授業が、終わり・・・保科は久島先生の所へ行ったようだ。

 

 

  デュアン「………」

    椎葉「???」

 

~~~~~昼休み

 

    海道「おーい、飯食いに行こうぜ」

  デュアン「そうだな……柊史、行こうぜ」

    保科「悪い。今日は用事がある」

    海道「用事?昼休みなのに?」

    保科「悪い。とても重要な用事なんだ」

  デュアン「あー……分かった。じゃ、海道……お前は仮屋さんと2人で行って来い、オレはパスだ」

 

    海道「……ああ……分かった」

 

 

~~~~外

 

  デュアン「……」

オレはベンチに寝そべって、空を見上げる。

自然と、左手を伸ばし・・・太陽の方へと向けていた。

眠くなってきたな。太陽がポカポカして・・・

 

  デュアン「……少し、眠るか」

 

 

――――――今更、何をほざく

 

 

   デュアン「ッ……夢、?」

 

 

~~~~~放課後

 

    因幡「えー!?一人で寧々先輩のところにお見舞いに行ったんですか!?」

 

    保科「あ、ああ、うん。昼休みに学院を抜け出して……久島先生にも頼まれたから、さ」

 

    因幡「声をかけてくれればよかったのに」

    椎葉「そうだよ。ワタシなんて同じクラスなのに、何も言ってくれないなんて」

 

    保科「ゴメンゴメン。軽く様子を見に行くだけだったから」

    椎葉「にしたって、一言ぐらいあってもよかったんじゃないかな?」

 

    保科「慌ててたんだ。昼休み中に戻ってこないといけなかったから」

 

  デュアン「ま……柊史が午後の授業を遅れて怒られてまでしたんだ……称賛に値すると思うぜ?」

 

    保科「……」

    因幡「それにしたって……」

    椎葉「ワタシだってお見舞いに行きたいのに」

    因幡「そうですよ」

 

  デュアン「………」

今日は疲れた。見えない誰かに睨まれて、苛立ってる上に、2人の愚痴は堪える。

 

    戸隠「まあまあ、それぐらいで。それで保科クン、綾地さんの様子はどうだったの?」

 

    保科「意識はしっかりしてましたよ。熱もなくて、1人でも心配はなさそうでした……ただ、まだ辛いみたいで、部屋で寝てましたけど」

 

    戸隠「そっか。少し心配したけど……外に出られないなら色々困るだろうね。それに、ちゃんと栄養を取らないといけないしね」

 

    椎葉「お昼からそのまま順調に体調が戻っているかも、気になるね」

 

ま、心配は無いだろう。柊史のことだ、色々作り置きはしてるだろう。

 

    因幡「それじゃあ、今からお見舞いに行きましょうか」

    椎葉「そうだね、それがいいかもね」

    戸隠「でも事前に連絡はしとかないと。綾地さんの番号、知ってる?」

 

    因幡「あ、自分が知ってるので任せて下さい」

    椎葉「じゃあ電話して、体調を聞いて、それに合わせた夕食を買い出しに行って……」

 

    保科「消化にいい物がいいとおもう。風邪じゃなくて、胃や腸の調子が悪いみたいだったから」

 

    戸隠「でも……部室を空にしちゃうのはマズイかもねぇ。ほら、綾地さんが休みのことを知らずに来ちゃう人がいるかもしれないでしょう?」

 

    椎葉「確かにそうですね」

   デュアン「ふむ……」

    保科「……オレが残りますよ」

   デュアン「じゃ、俺も残る」

    椎葉「え?いいの?」

    保科「いいよ。オレはお昼に行ってるわけだから」

   デュアン「それに、あんまり大勢で押しかけるのも悪いだろ?此処は女性陣に任せることにします」

 

    保科「だな。男がいると、困ることもあるだろうしさ」

    因幡「本当にいいんですか?一緒にいかなくて」

    保科「戸隠先輩が言うように、誰かが残る必要があると思う……ま、デュアンと一緒にいればなんとなく解決できそうだしな」

 

    戸隠「保科クンとデュアン君がそう言ってくれるなら……ここは任せようか」

 

    椎葉「わかった、綾地さんにはちゃんと伝えておくね。行きたがってたけど、みんなのために残ったって」

 

  デュアン「ああ、"柊史"を誇張するといいよ」

    保科「おいこら。そんな大層な話でもないけど、よろしく」

    因幡「はい!任せて下さい!」

    戸隠「それじゃ、いってくるね、保科クン……デュアン君」

    椎葉「また明日」

    因幡「いってきまーす」

    保科「はい。いってらっしゃい」

みんなを見送って、部室に2人で残る。

 

   

 

    保科「なんか静かだな」

  デュアン「部活メンバーも居ないしな……」

  

    保科「なあ、前から気になってたんだけどさ」

  デュアン「?」

    保科「デュアンって……何者なんだ?」

  デュアン「…………」

その質問か

 

    保科「デュアン?」

  デュアン「その答えが欲しければ……オレはお前に問う……お前にとっての"魔法"ってなんだ?」

 

    保科「……オレにとっての魔法は……多分、綾地さんの様な朧げで手の届かないようなモノだと思う」

 

  デュアン「好きなんだな……綾地さんの事が」

    保科「……そうなのか」

  デュアン「ま……俺もその感情に悩まされてる……どっちの好きなのか?ってね」

 

    保科「……だな」

 

 

 

 

~~~~次の日

 

   仮屋「おはようございまーす、オーナー……って、保科とデュアン、綾地さん?椎葉さんまでいるじゃん」

 

  デュアン「すまないな……仮屋さん」

    綾地「ごめんなさい……椎葉さんにも此処をオススメしたくて」

    椎葉「うん!」

 

   仮屋「ふーん、綾地さんやデュアンならしょうがないけど……あんまり広めすぎないでよ?特に海道には」

 

  デュアン「彼氏の海道には恥ずかしくて見せられないもんな」

    仮屋「なっ……!?」

  デュアン「安心しろ……海道には黙ってるよ」

    仮屋「……ま、此処でバイトしてることを黙ってくれればそれでいいや」

 

俺も此処がバレると、俺の姿を見られる。それは嫌だな。

 

    綾地「すみません、仮屋さん」

    仮屋「ううん、綾地さんはいいんだよ?綾地さんは」

    保科「……おい」

 

    相馬「仮屋さん、来てくれたのなら、早く着替えてくれると助かるんだけどね」

 

    仮屋「あっすみません、オーナー!かしこまりー」

 

    相馬「さて、椎葉紬さんだったね」

    椎葉「あっ、はい!相馬七緒さんでしたよね?……綾地さんのアルプの」

 

    相馬「寧々から話は聞いてるよ。だから、そう緊張しないで欲しいかな」

 

    椎葉「……え?」

    綾地「2人を直接会わせるのは、初めてでしたね」

    椎葉「綾地さんには、いつもお世話になってます。なのにご挨拶が遅れて、申し訳ありませんっ」

 

    相馬「いや、それは構わない。そういった判断は、すべて魔女である寧々に任せてある」

 

    椎葉「そ、そうなんですか!」

    相馬「不服かな?もともと私達アルプは、人間同士が交わす情に疎い……なら下手に口を挟まず、魔女同士話し合って決めてくれたほうが効率的だ。少なくても私はそう思ってる、私はね」

 

    椎葉「……は、はあ」

    保科「なんか……含みのある言い方をしてるね」

  デュアン「ま……そりゃそうだわな」

    保科「デュアンまで……オレだけ除け者?」

  デュアン「気にするな……お前には、今のところ無関係だ……今のところ、はね」

 

    保科「???」

 

    相馬「信用出来ないかな?」

    椎葉「いえまさか!むしろ感心しちゃって……アルプにも、いろんな方がいるんだなって」

 

椎葉さん・・・それ、軽くアカギをディスってね?ま、アイツは魔女と契約してるのに、更に契約したようなヤツだからな・・・それに、高圧で高飛車の様なヤツだ・・・ディスられても仕方ないわな。

 

    相馬「人それぞれであるように、アルプもそれぞれというだけさ」

 

  デュアン「……」

    綾地「2人とも、そろそろ仮屋さんが出てくる頃ではありませんか?」

 

    相馬「……ああ、ちょうど今、更衣室のドアが開く音が聞こえた」

 

    椎葉「じゃあ、ワタシ達も準備しないと」

    綾地「え、ええ……」

白く輝く光に包まれて、2人は魔女の姿へと変わっていった。

 

    

    仮屋「お待たせしましたー……ってあれ?綾地さんと椎葉さんは?」

 

    保科「ああ、うん、お手洗いじゃないかな?」

    仮屋「え!2人揃って?そこのトイレに?」

  デュアン「……」

無理あるだろ・・・

 

    椎葉「そっか!回収するのは綾地さんなんだから、ワタシまで変身する必要なかったんだっ」

 

たしかに・・・。

 

    保科「え、えっとそれは……」

    相馬「ところで、仮屋さん?少し顔色がよくないようだけど、平気かな?」

 

    仮屋「あっ……すみません、実はちょっと、寝不足気味で、はは……だから大したことありません」

 

    相馬「いいや、うちも一応、客商売だ。そんな顔でホールに立たれるのは困る」

 

    仮屋「そ……そうですよね、申し訳ございません、オーナー」

    相馬「気にすることはないよ。その代わり、顔色がよくなるおまじないを教えるから、実行してもらえないかな?」

 

    保科「おまじない……」

柊史はボソッと何か言ったが・・・気にしなかった。

いや、柊史よりも・・・見えぬ誰かの視線を気にしすぎて気に入らなかったからだ。

 

    仮屋「へ?そんなのあるんですか!」

    相馬「もちろんだ。まずそこの席に座って、それからテーブルの上で腕を組むようにする」

 

    仮屋「はい……、……はい、こんな感じでしょうか?」

    相馬「そう、そんな感じだ……それから腕のクロスしてる部分に額を引っ付け、目を閉じる」

 

  デュアン「そして、リラックスをする。身体に力を抜くんだ……自然にいる様に……風が吹き、木の葉が舞うような想像(イメージ)をする……」

 

    仮屋「あ、あの……オーナー、デュアン」

    相馬「なんだ?」

   デュアン「どうした?」

    仮屋「これって、学院で居眠りするときの姿勢じゃありません?」

   

    相馬「5分ほど、そうしてればいい」

    仮屋「……うちも一応、客商売じゃなかったんですか?」

   デュアン「客商売だが、店員の気遣いしてるんだ……相馬さんの言葉に甘えた方がいいよ」

 

    相馬「そうそう……幸い今は他に客もいない」

    保科「え?一応、俺も客なんですけど?」

    仮屋「しししっ、保科ってオーナーにも客扱いされてないじゃん」

 

    相馬「こらこら、目を開けない……この子らは、君の級友だから特別だ。さあ、他の客が来る前に、おまじないを終えないとな」

 

これは魔女2人に向けたんだろうな・・・

 

    椎葉「すごーい、相馬さんってすごく賢いんだねっ」

    綾地「ええ、頼りになります。では、そろそろ回収を」

綾地さんが銃を構える・・・

 

    綾地「たびたびすみません、少しでも寝不足の解消になることを祈ってます」

 

   デュアン「綾地さん……回収」

     綾地「はい、もちろん」

 

引き金が絞られる。

仮屋さんは眠るように気を失い、心の欠片が白い羽根のように舞い散った・・・。いつ見ても、この光景は幻想的だ。

 

・・・ん?

 

   デュアン「!?」

     椎葉「え!ええっ!?」

小瓶へ吸い込まれそうになった欠片が寸前で動きを止めたと思ったら、椎葉さんのポケットへ吸い込まれた。

 

     椎葉「ご、ご、ごめんなさい!わざとじゃないんだけど……あれ?ど、どうして?」

 

   デュアン「……なるほどォ」

オレは、怒りに支配される・・・がまだ冷静になれる。

 

     相馬「どういうつもりだ――――アカギ?」

     椎葉「……へ?」

    アカギ「くっくっく、それはこっちの台詞じゃ、七緒」

   デュアン「……………………」

 

     椎葉「ア、アカギ!なにしてるの、ひょっとして今の、アカギがやったの!?」

 

     綾地「知ってる方なんですか、2人とも」

   デュアン「俺も知ってるぞ?綾地さん」

     綾地「え!?」

    アカギ「そちらの黒猫とは、昔いろいろあったのじゃ、七緒の魔女よ」

 

     綾地「……なるほど、魔女が見えてるようですね」

   デュアン「鴉のアルプだからね」

     椎葉「いろいろって、そうなんですか?」

     相馬「なに、大したことではない。アルプの世界にも、いろいろとルールがあってな。こいつはそれをよく理解してないようだったから、先輩として話をしただけだ」

 

 

    アカギ「……少しじゃと?あっちの膝を反対側へ折り曲げ、その姿勢のまま3時間も座らせおった癖に」

 

   デュアン「お前が悪いことをするからだろ……」

 

    保科「いやいや、デュアン……膝を反対側だぞ?拷問?」

    椎葉「ふぇぇええ~っ、痛そうだよ」

  デュアン「そうか?」

    保科「そういや……お前……脱臼した腕を無理矢理治してたな……」

 

    相馬「誤解しないでくれ、たまたま話し合いの場に選んだのが座敷だっただけだ。あの時、2人とも普通に正座をしていた。だが鳥類は、人間とは反対に膝が曲がるだろう?」

 

   デュアン「それに……アカギは鴉のアルプだ……膝に反対に曲げたぐらい……平気だろう?」

 

    保科「デュアン……マジギレしてる……学院で見た非じゃないってぐらい……怖ぇぇえ」

 

・・・あの時は、頭に血が上ってたが・・・今は冷静だ。

 

    アカギ「ふっ、バレてしまっては仕方がないの。あっちは紬のアルプ、アカギという者じゃ!」

 

  デュアン「……」

    保科「ま……そうだよね」

    相馬「それで?いったい、どういうつもりだ」

  デュアン「揉め事を起こすつもりはないんじゃなかったのか?お前は……」

 

   アカギ「状況が変わったのじゃ」

    相馬「勝手なことを、以前にも私の縄張りで勝手に魔女と契約しただろう」

 

木月さんのことかな?あのときも、怒られてたけど・・・

 

    相馬「そのときもう、充分話し合いをしたはずだと思うがな、膝を反対側に折り曲げて」

 

    保科「えっと、相手に正座させたまま、話を聞かせたってことですよね?」

 

    椎葉「それって……ただのお説教なんじゃ?」

    相馬「いいや、話し合いだ。アルプ同士の暗黙の了解や人間社会でやってはいけないことなど、細かく講義をしてやった」

 

それを人を説教と呼ぶ。

 

    相馬「だというのに、こいつと来たら」

   アカギ「ふっ、相変わらず哀れなヤツじゃな、七緒?」

お前・・・煽ってどうする。

 

   アカギ「アルプになってまで、ルールに縛られるとはな」

  デュアン「………………」

冷静になれ・・・俺。

 

    相馬「……とまあ、ご覧の通り」

  デュアン「仕方ないんじゃない?鳥類で……物覚えが悪いんじゃないのかな?フッ」

 

煽りには煽り返すのがいい。

 

    保科「あー……なんか、もう椎葉さんが職員室に呼び出された我が子を見る、母親のように見える」

 

  デュアン「ッフ……いいなその例え」

 

   アカギ「もっとも、今回ルールを破ったのは七緒、お前のほうじゃ!」

 

    相馬「……はあ?」

予想外の答え。

 

   アカギ「ふっ、図星を指されて声も出んようじゃな?」

    相馬「いや……まったく心当たりがないのだが」

 

綾地さんは話についていけないらしく、柊史と一緒に、俺へと目配せしてくる。正直に行っていい?俺も知らん

 

   アカギ「白々しい!紬よ、そいつから離れるのじゃっ!やはりお前は騙されていたのだ!」

 

   デュアン「???」

    椎葉「へ?わ、ワタシ?」

    保科「ちょっと待って!悪いけど、もう少し説明してくれないかな?」

 

   アカギ「紬に近づくではない!特にお前はじゃっ!」

    保科「俺?なんで俺?」

   アカギ「そうじゃ、お前がよからぬ企みを持って紬へと近づいていることぐらい、見通せぬと思ったか!」

 

  デュアン「だとよ、柊史よ……心当たりあるか?」

    保科「全然……これっぽちもない。寧ろ心当たりがなさすぎて、こっちが困ってる」

 

  デュアン「ですよね」

   アカギ「純粋な紬を誑かし、その身を蹂躙しようとしてることくらいなっ!」

 

  デュアン「そうなのか!?」

    保科「いやいやいや……」

全員の視線が柊史の方へと集まっている

 

  デュアン「寧ろ、誑かそうとしてるのはオレかな?」

    保科「え?!」

 

    椎葉「ちょちょちょっ、ちょっと、な、何を言い出すの、アカギ!?それにデュアン君も」

 

    保科「ご、誤解だ!!」

   アカギ「誤解なものか!お前が大量の心の欠片を集めていることくらい、たやすく感じ取れるぞ」

 

それ、オレにも言えることなんですが・・・柊史はどちらかというと、綾地さんから吸い取った分?

オレなんか、綾地さんの100倍は持ってるぞ?

 

   アカギ「つまり、七緒の魔女はそちらのハレンチな娘だけではなかったのじゃ」

 

    保科「それは失礼じゃないか……?綾地さんだって、好きでそんな格好をしてるわけじゃないんだから」

 

  デュアン「…………」

なんか、キレたオレがバカバカしくなってきた。

 

   アカギ「密かにもう1人の魔女を使い、紬のことを探らせていたのであろう、七緒!」

 

  デュアン「あ~……アホくさ」

    保科「魔"女"?……オレが?」

    相馬「デュアンの言う通り……馬鹿馬鹿しい」

   アカギ「なんじゃと!?」

  

    綾地「ありえないありえない、私だって……どうせなら椎葉さんみたいな可愛い格好が良かったのに、ありえないありえないっ」

 

あーあー・・・病んじゃった。

 

   デュアン「…………」

     保科「………」

相馬さんは、肩掛けを仮屋さんにかける。

完全にスルーした。

 

   アカギ「こら!どうして無視するのじゃっ!これだけ心の欠片を集めているのは、魔女以外にありえんじゃろ!?しかも、こいつには魔女が見えておる。そうじゃろ?ぐすっ、どうして誰も答えんのじゃ!みんなであっちを無視するでないっ」

 

    椎葉「……ひょっとして大量の心の欠片って……保科君が一昨日言ってた?」

 

    保科「たぶん、そういうことなんだろうな」

   アカギ「小僧!なにを紬とこそこそ話しておるのじゃ」

  デュアン「馬鹿らしい……柊史、言ってやれ」

    保科「誤解だ、オレは魔女じゃない。実は……」

 

柊史は、綾地さんの欠片の吸収していたことを話す。要点だけを言って

 

   アカギ「待て、それだけでは魔女が見えることまで説明できておらぬ」

 

    椎葉「言われてみれば、そうだね」

  デュアン「あれれ?俺も見えてるよ?」

 

    保科「あーごめん……」

   アカギ「紬も知らぬようではないか?やはり、騙していたのだなっ」

 

    保科「待て待て……今からそれを説明するから」

  デュアン「いいのか?」

    保科「今更だろ……それに、隠したって気まずいだけだ」

   アカギ「いいや、聞く耳持たぬのじゃ!今まで話さなかったことが既に信用ならん」

 

    椎葉「アカギ、落ち着いて?保科君の話を聞いてみようよ」

もう完全に母親の雰囲気だな、椎葉さん。

 

・・・意外と、母性本能をくすぐられるのが好きなのか?オレは?

 

自分自身が本当に分からなくなってきた。

 

  アカギ「紬もこれ以上、雄の口車に乗せられてどうする!こうなったら、手っ取り早く白黒つけるのじゃ」

 

    椎葉「へ?白黒って?」

  デュアン「まさか……バカなことをするんじゃないだろうな?」

   アカギ「無論、七緒の魔女から心の欠片を根こそぎ奪い取るのじゃ!」

 

きょ、強硬手段だ

 

    椎葉「えぇええええ~~~~っ!?!?」

   アカギ「そうすれば、お前も晴れてお役御免。あっちもこの土地を離れれば、ルールに縛られる七緒は下手に追ってこれぬ。あっち達の全面勝利というわけじゃ、はっはっはっは!」

 

それができれば苦労しないし、柊史の場合は・・・まだ問題解決してないから奪えないんだよなあ・・・・

 

   椎葉「嫌だよ、絶対そんなことやらなからね!」

  アカギ「なに甘いことを言っておるのじゃ!せっかく大義名分できたのじゃぞ?ルール違反は七緒の方じゃ!第一、あっちをバカにした態度が気に入らぬっ」

 

   保科「完全な逆恨みだよね、それ」

   椎葉「嫌なものは嫌だよ、それにアカギ……負けたときのこと、ちゃんと考えてる?」

 

怖ぇぇえ・・・椎葉さんが凛々しく見える。

 

  アカギ「ぬっ、つ、紬が勝てば問題ないのじゃ!行けっ、やるのだ、先制攻撃だ!」

 

ポケモンかい!とツッコミを入れそうになったぞ。

 

   綾地「はあ……七緒、あんなことを言ってますが、どうします?」

綾地さんがため息を吐いたぞ・・・珍しいこともあるもんだ。

 

   相馬「言ったはずだよ、寧々。キミに全て任せる、魔女同士で話し合って決めればいい」

 

  アカギ「なんじゃ、自分の魔女を置いて逃げるつもりか?」

   相馬「私の魔女と協力者君は優秀だからな。それにもともとアルプには、魔女へ命令する権利はない」

 

相馬さんの方が、より人間っぽくみえる。

 

   相馬「いったん契約してしまえば、あとは勝手に心の欠片を集めてくるのを待つしか無いものだ」

 

相馬さん・・・カウンターに引っ込んじゃった。

 

  アカギ「くっ、ふふふ……格好をつけて、逃げおったな!」

 デュアン「もうバカバカしくて……聞くのも堪えなかったんだな……可哀想な相馬さんだ」

 

かわいそうまさん。

 

   保科「デュアン……オレの意思は?」

  デュアン「好きにさせとけ……どうせ無駄に終わる」

  

 

   アカギ「あっちちの勝負を避けおったのじゃ、これで2対1じゃ!2人がかりなら、必ず勝てるぞっ。ゆけ、紬!同時にかかるぞ、紬?どうしたのじゃ、紬!紬!?」

 

    椎葉「はあ……わかったよ。こうするしかないみたいだね」

おや?

 

  デュアン「ま、まさか椎葉さん?」

    保科「え?」

椎葉さんは、ハンマーを振り下ろした。アカギの真後ろで

 

    椎葉「えいっ!」

オレは思わず、眼を閉じてしまった。

 

   アカギ「ンがッ!!?」

    保科「ありゃー痛そう」

ボゥンと煙のようなものが立ち昇り、鴉へ戻ってしまう。

 

    椎葉「ごめんなさい、ごめんなさい!綾地さんも、保科君、デュアン君、本当にごめんなさいっ」

 

   デュアン「いや、椎葉さんが謝ることじゃないから……気にしないで」

 

    椎葉「もう本当、他になんて言っていいかわからないよ」

    綾地「いえ、私は最初から椎葉さんが攻撃してくるとは思ってませんでした」

 

    椎葉「ありがと、でも綾地さんが回収するはずだった欠片まで横取りすることになっちゃったし」

 

    綾地「いったん瓶へ入ってしまったものは仕方がありません」

  デュアン「ったく……しょうがないな……」

オレは、自分の瓶に入っている欠片を取り出した・・・

 

  デュアン「綾地さん。これ……」

    綾地「これ……デュアン君の欠片じゃないですか!?」

  デュアン「とりあいず、これで……アカギの蛮行を許してあげてくれ……ほい《譲渡》っと」

 

    保科「デュアン?」

  デュアン「アカギが、こんなバカな真似をしたのは……きっと、椎葉さんの為だと思うんだ……素直になれないからこんな、空回りをしてるんだ」

 

さっきのアカギの台詞で確信した。

 

    椎葉「え?!」

  デュアン「あ……この事、アカギには絶対言うなよ」

    椎葉「……う、うん……でもそれでもごめん!アカギにはよく言って聞かせるから、相馬さんにも謝っておいてくれる?」

 

    綾地「七緒なら、きっと気にしていませんよ」

  デュアン「あー……確かに」

 

    椎葉「うん、だといいけど……デュアン君、ごめんね」

  デュアン「気にしてないよ」

オレは無意識に椎葉さんの頭に乗せ、撫でる。

 

    椎葉「むぅ……」

  デュアン「アカギは、椎葉さんの為に行動してたんだと思うから……それを忘れないでほしい」

 

   保科「オレは気にしてないよ……」

 

    椎葉「けどなんていうか……アカギは、うちの子だから」

椎葉さんは気絶したままのアカギを優しく抱き上げた。

そこへ綾地さんが大きなタオルを差し出した。

 

   綾地「使ってください」

   椎葉「ありがとう」

  デュアン「悪い、綾地さん……柊史」

   綾地「はい……追いかけてあげてください。仮屋さんの様子は、私と保科君が見ておきますので」

 

  デュアン「ありがとう……」

 

   保科「行って来い」

  デュアン「了解した」

 

~~~~~

 

  デュアン「……」

   男の子「ねえねえ、お母さん!あの人、男の子?女の子?」

シュバルツ・カッツェを飛び出してすぐ、男の子の声が聞こえてきた。

 

  男の子の母親「ダメでしょ?静かにしなさい」

   男の子「でも、女の子みたいな顔なのに、男の子みたいな格好をしてるよ?ねえねえ、どうして?お母さん、どうしてー?」

 

  男の子の母親「ごめんなさいねぇ」

     椎葉「いえ、あはは…………はあ」

「それはね、坊や。彼女はナンパ対策をしてるからだよ」

 

     椎葉「……え?」

   デュアン「こんな風に、ね」

オレは、椎葉さんに近づいた

 

     椎葉「ふぇぇえ!?デュアン君」

   デュアン「椎葉さん……鞄を持つよ……アカギを抱いたままじゃ大変だろう?」

 

    椎葉「えっ、いいよいいよ、悪いから」

  デュアン「気にするなって……椎葉さんは女の子なんだからさ……」

    椎葉「も、も、もう~、デュアン君ったら……またそういうこと言って」

 

  デュアン「何のことだ?」

    椎葉「見てたんでしょ?」

  デュアン「悪いが何のことかさっぱりだ……オレは椎葉さんが心配で追っかけてきただけだ……」

 

    椎葉「ああいうこと、時々あるんだ。小さい子だから仕方ないって分かってるんだけどね」

 

  デュアン「……、……、……」

オレは優しく椎葉さんを抱きつく・・・

 

    椎葉「……え?」

  デュアン「椎葉さんは椎葉さんだ……髪が長くて、リボンもして、可愛らしい表情をしてるんだ……充分、女の子らしいよ」

 

    椎葉「むぅ……あっ、それより、どうかした?わざわざ追いかけてきてくれたんだよね」

 

  デュアン「んー……いや、オレの杞憂だったかもしれない……明日から部活に来づらくなったんじゃないかって、心配してたんだよ……主に柊史と綾地さんがね」

    

   椎葉「え?」

  デュアン「アカギのこと、柊史たちより、椎葉さんが気にしてるみたいだったからさ」

 

   椎葉「ごめんね、デュアン君?アカギもね、きっと悪気があるわけじゃないんだよ」

 

  デュアン「ンなこと最初っから知ってたさ」

   椎葉「動物的な本能に従って、いろんなこと判断してるから……時々勘違いで暴走しちゃうことがあるだけで……悪い子じゃないんだよ」

 

  デュアン「知ってるよ……あのときだって、紬を全力で守ろうとした……アカギはきっと、彼氏に相応しいか品定めをしてるんだと思うぞ……小姑みたいな感じで」

 

   椎葉「デュアン君……」

  デュアン「……なあ、椎葉さん……本当はどんなお願いをしたのかな?」

 

   椎葉「え?」

  デュアン「………仕方ない。オレの秘密を教えるよ……オレは……少なくても15年前に母親と契約している。魔女の代償は性別転換」

 

   椎葉「……じゃ、じゃあワタシも……。ワタシが魔女になった時の願い事」

 

  デュアン「いいのか?」

    椎葉「大した話じゃないのに、もったいぶって恥ずかしくなっちゃった」

 

  デュアン「気にすることはないさ」

    椎葉「でもできれば、笑わないでほしいかな?」

  デュアン「ああ……約束する」

    椎葉「ワタシにとって、女の子らしい可愛い格好をするのはこだわりだったんだ」

 

  デュアン「……なるほど」

    椎葉「その頃、どうしても……欲しい服が会ってね……」

  デュアン「……ま、まさか……」

    椎葉「だから、ワタシの願いは……売り切れた服を、もう一着だけお店に並べてほしいって事ででね」

 

  デュアン「そうか……同じ服が二着も存在しない……つまり、因果律によって、もう一着が生まれたのか……はぁ~納得だわ」

 

   椎葉「それで……アカギに魔力の前借りをしちゃったんだ」

  デュアン「~……」

   椎葉「…………」

  デュアン「はぁ~……なるほどね……だから、男装だったのか……納得したわ」

 

   椎葉「服ってシーズンが過ぎると、もう再販されないものなんだよ?」

 

  デュアン「作ってやるよ」

    椎葉「~~~~……そう言えば、デュアン君……服も作れたね」

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 



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Ep45 認めたくない自分(オレ)

 

 

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夢をみた。それはそれはとても昔。何度も輪廻転生を繰り返す前の・・・俺が居るべき世界の。

 

とある神が、すべての生物にデスゲームを強要した。参加しないものは、容赦なく神が、殺した。

 

オレはそんな理不尽な世界で生まれ、理不尽にもオレの親は殺された。あっけなく。それもオレを守ろうと・・・

 

当時5歳だったオレは、親を失った。

 

オレは、5歳で憎しみを覚えた・・・殺意を覚えた。だが、立ち向かえるほどの勇気は持ってなかった。

 

10歳の頃・・・オレは、とある禁呪が書かれた本を見つけた。オレはその本で1つの外宇宙の神を呼んだ。イヴ=スティトル。

 

15歳の頃、オレはその神を完膚なきまで叩きのめし、殺した。だが5年という歳月を費やした・・・だから、オレは復活の呪文を使い、神を・・・5年間殺し続けた。飲まず食わず・・・ただ只管、狂ったように殺し続けた。殺し方も毎度変えて・・・神の心を殺した。

 

25歳・・・何もない、何一つ喪うこともなくなったオレは・・・ただ只管に、命をすり減らしながらも、神の残党を殺し続けた。

 

28歳・・・ついにオレは死んだ。終わりがやってくる。と思ったが、そうではなかった。

 

そこで、オレは転生神と出会い・・・「ただ、死ぬのはもったいない。キミは何も知らない……人の愛を」と。

 

そこで、話し合いで「永遠と繰り返す輪廻転生」と「神殺し」の異名を貰った。「転生特典」はあくまで神様からのご褒美だそうだ。あの神を殺してくれた報酬らしい。転生特典が無限大に選べるのも、無茶苦茶な転生特典を選べるのもそれが理由らしい。

 

オレは1000を超える転生を繰り返したが、やはり恋心というものが分からかった。相手がオレを好きになる理由も分からなかった。

 

転生を繰り返しても、自殺行為をしまくってるうちに・・・神は呆れてしまったのか。日常世界の舞台に重点的に転生をしていた。

 

   デュアン「……昔の夢か。もう見ることは無かったのになあ……」

 

 

 

 

 

~~~~~

 

   保科「あ、綾地さん」

   綾地「あ、おはようございます、保科君」

   保科「おはよう……って、デュアンは今日は見てないのか?」

   綾地「ええ……休みでしょうか?」

   保科「ふむ……まぁ、疲れて風邪でも引いたんだろうきっと」

   綾地「そう、かもしれませんね……」

 

  デュアン「おはよう……」

    保科「お、おはよう……」

    綾地「おはようございます、デュアン君」

  デュアン「おはよう、綾地さん」

    保科「でゅ、デュアン……凄い顔色悪いぞ」

    綾地「見たことも無いってぐらい顔色が悪いです」

  デュアン「え?そんな顔色悪い?」

    保科「人の事言えないが……死んだ魚の目をしてるぞ……7割増しで……」

 

  デュアン「……」

死んだ魚の目、ねぇ・・・

 

    久島「はーい、出欠を取るぞー……ん?どうした?」

    綾地「先生、デュアン君の具合が悪そうなので、保健室へ連れて行ってもいいでしょうか?」

 

  デュアン「ちょっと待て……オレは別に具合が悪いわけじゃ……」

    久島「あーいや、そんな死人みたいな顔で言われても説得力ゼロだ……綾地、頼めるか?」

 

    保科「お前……今にも死にそうな顔をしてるぞ……無理するな」

  デュアン「……そうかあ?」

    綾地「はい、椎葉さんも手伝ってもらえますか?」

 

 

欠片か?・・・今のオレの状態は、多分、心を大きく損傷している。柊史以上に・・・。普通ならオレの欠片で補えるはずなんだが・・・

 

 

    椎葉「う、うん、分かったよっ」

2人にドナドナされて行った。流石に逆らう気力が起きないから・・・そのまま2人にされるがまま連行された。

 

~~~~~

 

   椎葉「デュアン君、大丈夫?ちゃんと歩ける?」

  デュアン「大丈夫だ……歩ける……ん?もしかして、部室へ向かってる?」

 

   綾地「ええ、肉体的な変調なら、むしろ問題ないんですけど……」

 デュアン「肉体ではなく……精神的な要因があったわけか」

   綾地「ええ……。先に私達で調べたほうがよさそうだったので……だから椎葉さん、今はあまり近づき過ぎないほうが……」

 

   椎葉「で、でも……こんなデュアン君、初めて見たから」

 デュアン「……ありがとな。2人とも……心配してくれて」

オレは椎葉さんの頭を軽く撫でた。

 

 デュアン「ふむ……」

もしかして、オレの体調不良って魔女いやアルプが原因か?

 

アルプだとしたら、犯人はアカギだろう。相馬さんは、こんな回りくどいことはしない。魔女が犯人はありえ・・・ない。

 

   綾地「それを確かめるんです、さあ着きました」

 

~~~~~

オレはいつもの席に座った。

 

    椎葉「でも綾地さん、確かめるってどうやって?」

  デュアン「綾地さんが持っている欠片を近づけさせるんだ」

    綾地「椎葉さん、欠片を入れてる小瓶は持ってきていますね?」

  デュアン「ついでに俺も持ってるよ……」

    椎葉「あっ、それが……今朝、アカギが持っていっちゃったみたいで、手元ににないんだよ」

 

  デュアン「ふむ……」

心の欠片の入った瓶は、単体じゃ役に立たない。

魔女とセットで初めて発揮する。

   

    綾地「そうだったんですか?なら、椎葉さんに気をつけて貰う必要はなかったかもしれませんね。まず、私の小瓶を見てください」

 

  デュアン「っ……」

    椎葉「え!?な、なにこれっ」

    綾地「それが……デュアン君へ向けると、瓶の中の欠片が輝きを失っちゃうみたいなんです」

 

  デュアン「……(トラップ)を仕掛けられてしまったか」

    椎葉「瓶の中でざわついてて……ワタシ、こんなの初めて見たよっ」

 

おそらく、俺の心の闇が他の心の欠片と一緒になりたくない・・・と騒いでるんだろう。オレの心の闇は、人間の比じゃないからな。

いや、そもそも元は半妖だし、外なる神(イヴ=スティトル)を内包したから人間ですら怪しい。

 

 

   綾地「私も観察するのは初めてです。前は保科君があの現象を起こしてしまいましたから……。つまり、デュアン君の心が何らかの理由によって損傷した可能性があります……それに、欠片の回収ができないほど……昨日、なにかあったんじゃありませんか?」

 

一つしか無いな・・・

 

  デュアン「ふむ……何かって言われてもなあ。昨日は綾地さん達と仮屋さんの心の欠片を回収して……その後は、椎葉さんとお茶をしてから……送って帰ったぐらい?」

 

    椎葉「えっ嘘! 昨日、最後までデュアン君と一緒にいたのって、まさか……わ、ワタシのせい!?」

 

    椎葉「落ち着いてください、確証はありません」

  デュアン「StyCool(ステイクール)だ、椎葉さん」

    椎葉「で、でも……!」

  デュアン「それに、椎葉さんのせいじゃないよ……確実にね」

    椎葉「デュアン君……」

    綾地「本当に心当たりはないんですか?」

    椎葉「うん、なにもないのに、たった1日でこんなになったりしないと思う……。順番に思い出してみたら?」

 

  デュアン「ふむ……心当たりといえば、夢を見た……」

    綾地「夢ですか?」

  デュアン「ああ」

    綾地「念のため、聞かせてもらえませんか?」

  デュアン「……すまないが、教えられない……」

    椎葉「ねぇ、デュアン君……昨日の約束覚えてる?」

  デュアン「……、……ああ」

    椎葉「嫌なことがあったら、辛いことがあったら、ちゃんと話してくれる約束だよね?」

  デュアン「そうだが……そうなんだが……悪い、こればかりは……話せない」

 

オレの悩み・・・そのものが"死"だからな。深い、深い・・・眠り。魂そのものの死を望んでるから。生きることに疲れたオレに悩みなんてものは無い。

 

    椎葉「…………」

椎葉さんにまっすぐ目を覗き込まれる、まるで強い意志で・・・数々の世界でオレを愛してくれた女性の・・・真剣な瞳をしていた。

 

  デュアン「……、………はぁー……了解。負けたよ……i resign(オレの負けだ)

 

オレは、転生の事、昔なにをしたのかを隠してた。

 

・自分に生きる希望があまりないこと。

・生にしがみつきたい理由がない。

という2つを話した。流石に死にたいとか言い出したら、止められる。いや、柊史に伝わると、オレは隠し事ができなくなる。騙して欺ことはできるが・・・

 

     椎葉「……~~っ」

     綾地「………」

  デュアン「そんな辛い顔をされると……困るんだけどなあ」

     椎葉「……そんな悲しいこと言わないでよ。デュアン君……一人でそんな思いをしてきたってことだよね?」

 

精神年齢軽く5桁は超えるよな・・・。もともとは、人間と妖怪の間の子供。そして母親の愛を知らない。

 

  デュアン「な、泣くなよ……別に普通だろ。流石に皆と居る時は、考えていないさ……一人になると、たま~にネガティブな思考になるが……」

 

     椎葉「デュアン君の心の穴、なんとか埋められないかな?なんとか埋めてあげないと」

 

神様も同じことを言ってたな・・・。オレに足りないモノって。それは、欠点(マイナス)だと。欠点は一人じゃ埋められないとも言っていたな・・・

 

 

  デュアン「……だが、それが原因じゃないことぐらいは知ってる。欠点(マイナス)を自覚してるやつは心の穴にはならない」

 

まあ、自覚してないだけかもしれない。だが・・・オレの心の欠片が無くならないのはなぜだ?

 

人の心では、オレの心は埋まらない?・・・とんだ、化け物だなオレは。

いや、化け物は人の心を知りたい・・・か。何様だろう、オレは。

 

    椎葉「じゃあ、一体何が原因なんだろう?」

    綾地「とにかく、七緒に相談してみましょう」

綾地さんが携帯を取り出した。

 

   アカギ「くっくっく、その必要は無いのじゃ」

ほう?自ら認めるとは・・・滑稽だな。

直後に窓ガラスがバーンと激しい音を立てて震えた。

 

  デュアン「…………」

    綾地「……何か黒いものがぶつかったようですが?」

    椎葉「あ!アカギっ、大丈夫?アカギ!?」

椎葉さんが慌てて窓を開け、ぐるぐるとマンガみたいに目を回す鴉を抱き入れる。

ぼぅんと煙を上げて、人の姿に変わった。

 

   アカギ「あいたた、あいたたた……くっ、くくく。その必要はないのじゃ!」

 

さっきの台詞を言い直した。

 

  

    綾地「……もしもし、七緒ですか?」

綾地さん・・・スルースキルが半端無いな。

 

   アカギ「必要ないと言っておるのじゃっ」

なんと綾地さんから、携帯を奪ってしまう。

怒られるのが嫌なんだな。

 

    椎葉「アカギ!人のものを取ったりしたら、めっ!だおっ」

椎葉さん・・・母親のようだ。微笑ましいよ

 

   アカギ「やかましい、少し借りるだけじゃ……。七緒か?」

    相馬『なんだアカギか。用がないなら、切るが?』

   アカギ「待て待て、いきなり切るヤツがあるか!」

    相馬『必要ないと言ったのは、お前だろう?』

   アカギ「ふっ、お前にも聞かせてやろうと思ったのじゃ」

    相馬『面倒くさいヤツだな、私にはどういう状況かもわからないのだがな』

 

電話越しじゃあ、流石に分からんな。内容は大体察する。

 

   アカギ「昨日、デュアンとかいう小僧は、保科とかいう小僧と同じくらい穴が空いていると聞いた」

 

あの会話・・・盗み聞きしてたな。

 

   アカギ「そこにお前の魔女が集めた欠片が吸収されたんじゃったな」

 

正確には、柊史が吸収した。いや代替えで補完した。かな

 

    相馬『……それがどうかしたのか?』

   アカギ「ようやく、興味が湧いたようじゃな」

相馬さんを逆撫でするように挑発したら後が怖いぞ。

 

   アカギ「あっちは人間などには、同情せぬ。そんなものは、出来損ないのアルプのすることじゃ」

 

出来損ないのアルプで、すんませーん。というか境界線だからね。ドゥヒン

まあ、人間に同情しないのは同意するかな。よほどのことではない限りでは。

 

   アカギ「そこに回収可能な欠片があれば、回収するまでじゃ」

マッチポンプだな。嫌いではないな・・・

 

    椎葉「アカギ?な、何を話してるの?」

アカギは極意げに口角を上げ、椎葉さんへ小瓶を突き出す。

 

    椎葉「ワタシの?あれ、なんかずいぶん量が増えてるような……え?」

 

   アカギ「人の心は脆い、特に心の空いた心はな」

残念。人と比べるぐらい心が脆いです。豆腐メンタル・・・いや豆腐と比べるだけでも豆腐が可哀想なぐらい。

 

   アカギ「あっちの鉤爪で、眠っているところを突いただけでボロボロと崩れてこの通りじゃ」

 

HAHAHA!自白しやがったよ。

 

    綾地「……っ」

    椎葉「嘘……でしょ?」

あーあ・・・2人とも絶句しちゃってるよ。

 

  デュアン「……」

オレは、怒るということができない。これも多分、椎葉さんの為の行動だから。まあ、柊史に手を出したのならば・・・八つ裂き決定だったけど。

 

   アカギ「くくく、ルールに縛られたお前には真似できまい」

無駄なんだよなあ・・・。心の欠損した状態で、欠片を吸収しようとすると・・・魔女が保有する心の欠片が弾け飛び、回収しようとした持ち主の心の欠損部分を補っちゃうからな。

 

柊史が言ってた「吸収したのなら、魔女の武器を使えば解決するんじゃないのか?」って。だが、相馬さんは無理だと答えた。

 

   アカギ「どうだ、悔しいか?お前の魔女が集め、小僧が吸収した欠片も、あっちが回収してやったわ!」

 

 

    七緒『……』

   アカギ「おっと、まさか文句は言うまいな?」

・・・此処で、一つ疑問点が生まれる。

 

魔女も心の穴が生まれる。どうやって補う?

・・・いや、その心の穴が代償?

これは例外中の例外だ。

 

   アカギ「さあ、紬よ!これでお前も、あと少しで魔女の契約から開放され……」

 

    七緒『お前はバカか?』

   アカギ「なんじゃと!」

    七緒『バカじゃないと思うなら、その小瓶をデュアン君に近づけてみたらどうだ?』

 

   アカギ「ふっ、何をいうかと思えば、負け惜しみか?そんな事をして一体なんの意味があるか知らんが、いいじゃろう」

 

    椎葉「あっ」

アカギがこちらへ小瓶を突き出す。

魔女同士の心の欠片を奪うことはできない。が、心の欠損した状態で・・・そんなことをすれば・・・

 

その瞬間、小瓶の栓が飛び、白く輝く羽根のような光が溢れ出した。

 

まあ、そうなるわな。欠損部分を補うからな。

 

   アカギ「ぬあっ!!?な、なんじゃ?せっかく集めた欠片が小僧の中へ吸収されていく、ど、どういうことじゃ!!?」

 

    椎葉「このこと?綾地さんが、近づかない方がいいって言ってたの」

 

  デュアン「だろうね……」

    綾地「ええ」

 

    相馬『確かに、人間の心は脆い。だが、同時に修復しようとする強さも持っているんだ。そもそも健常な者の心なら、私達の爪や牙などなんの役にも立たないよ』

 

   アカギ「七緒~、こうなると知っていたな?謀ったのか!」

    相馬『自分で言っていたじゃないか?誰にも、デュアン君の心に所有権などない。それはもともとデュアン君のものだったというだけだ』

 

   アカギ「だとしても紬の集めた分まで、全部吸収されてしまったのだぞ!」

 

    相馬『椎葉さんには悪いことをしてしまったが、お前の勉強不足が悪い。第一、どうして我々アルプが欠片の回収にわざわざ魔女と協力すると思うんだ?一見、非効率的なやり方だ』

 

   アカギ「ぬっ? ぬぬぬ……手分けした方が、手っ取り早いからではないのか?」

 

・・・?手分け?手っ取り早い?

 

    相馬『間違いではない。だが、いいか?我々には人間の心を完全に理解することが出来ない。つまり、アルプには力加減ができないんだ。そして必要以上に相手の心を壊してしまえば今見た通り、元の木阿弥へ返ってしまうんだよ。以前、縄張りのことで揉めたとき、ルールには理由があるということも話してやったつもりだったがな……ひょっとしてお前の鳥頭では、3歩歩くと忘れてしまうのか?」

 

   アカギ「あっちをニワトリなどと同じにするな! カラスは賢いのだっ」

 

  デュアン「……本当に賢かったら、相馬さんの小言を言われずに済むのではないだろうか?」

 

オレはボソッと喋る。

 

    相馬『せめて、自分のやらかしたことを理解してから言ってくれ。そんなことだから、お前はいつまで経っても人化を維持できるようにならないんだ』

 

   アカギ「なんじゃと! どういう意味じゃ、七緒っ、七緒!?……あいつめっ、一方的に切るとは非常識なヤツだ!まったく、これだから礼儀のなってない女は……むっ?』

 

    椎葉「……」

    綾地「……」

あれれ?別の意味で怖いぞ・・・この2人。某バーサクヒーラーさんを彷彿とする。

 

   デュアン「……」

ふむ・・・怒りたくても怒る気力がない。だって、ブーメランだもの。

まあ、とりあいず・・・オレはヘラヘラ笑っとくか。

椎葉さん、綾地さんの2人でアカギを囲んでいた。

 

   アカギ「む? ど、どうしたのじゃ、みんな、なにをそんなに怒った顔をしておる?」

 

   デュアン「……オレは別に怒ってないよ?うん、オレは、ね」 

    アカギ「これ、紬まで何をそんなに怒っておる?あっちは、ただ……」

 

     椎葉「もうっ、アカギのバカッ!!!?」

 

椎葉さんの説教が始まった・・・。

 

 

・・・・

 

   椎葉「ごめんなさいごめんなさい、ほんっっっっとうに申し訳ございませんでした!」

 

説教を喰らわせて、椎葉さんはアカギの頭を押さえつけ、一緒になって土下座をしていた・・・

 

   デュアン「…………」

誰がここまでやれといった。今の心情はこれだ。

 

    アカギ「うッ、うッ、どうしてあっちが、板の床で膝を反対に折り曲げねば……」

 

    椎葉「ほら! アカギもちゃんと頭を下げてっ」

やっぱり椎葉さんは母親のように見える。ああ、ほっこりする。

 

   アカギ「痛い痛い痛いっ、もう足が痺れて動けんのじゃ!そんなに押さえつけては、体重がかかって、いたたたっ!」

 

  デュアン「ふむ……まあ、一旦落ち着こうよ、椎葉さん。……それに椎葉さんが頭を下げる理由は何一つ無いよ」

 

    綾地「ええ、私など自分のアルプが七緒でよかったと実感してるくらいです」

 

それ、軽くアカギをディスってね?ちょっと毒舌の綾地さん。

ふむ・・・綾地さんが椎葉さんみたいな母親の説教だったら・・・

 

・・・・いかん。想像つかん・・・。ほわほわしてる母親の説教はマジで想像つかん。

 

    椎葉「ううっ、そう言ってくれるのは嬉しいけど、ワタシの躾が悪いせいでもあるから」

 

   アカギ「ほれ、せっかく相手がもういいと言っておるのじゃから、手を離さぬか」

 

俺らは椎葉さんに言ってるだけであって、アカギには言ってないんだよなあ・・・。

 

    椎葉「アカギはっ、もっと反省してっ!」

   アカギ「いたたたっ!だからあっちの膝は、そっちに曲がるようには出来ておらぬと」

 

お前、それでよく人化を目指したいって言うよな・・・まあ、正座は痛いもんな・・・慣れればそうでもないが。慣れるまでがヤバい・・・というか、血行が悪くなる。まあ、姿勢は正せるがな

 

   アカギ「ひたたっ、ひたたたたっ!!」

無限ループ・・・まあ、此処は一つ。

 

  デュアン「とりあいず、椎葉さん。オレの方こそすまない。せっかく集めた心の欠片も、全部吸収しちゃったな……返せるとは思う……いつになるか……分からんが」

 

オレの中の欠片をどうやって埋めるかは分からん。というか現状は、柊史と同じ状況。

あ・・・オレの能力、「この世の理を捻じ曲げる能力」。

文字通り、(ルール)を捻じ曲げることができる・・・この力。

これを・・・オレに適用すれば。

 

    椎葉「そ、そんな、とんでもないよ!デュアン君が一番の被害者なんだから……」

 

・・・この答えが正解なのか?これでいいのか?

 

―――――「これでいいのか?デュアン。デュアン・オルディナ・フィア・レグトール

 

 

――――――いつまで自分の心を偽ってるんだ。いつまで前に進まないつもりだ?救えない命もあるだろう。(ルール)に縛られてるのは、どっちだ。

 

ダメだ。考えれば考えるほど・・・自分の心というものが分からなくなってくる。

 

  デュアン「気にしなくていいよ」

    椎葉「そういうわけにはいかないよ!欠片のことなら、綾地さんにだって迷惑をかけちゃったし」

 

  デュアン「元を辿っても、椎葉さんのせいじゃないじゃん」

 

    綾地「そうですよ」

  デュアン「まあ、綾地さんの欠片は柊史が補完してくれるからな……」

 

    椎葉「だ、ダメだよ!昨日も、仮屋さんの欠片を横取りしちゃったばっかりなのにっ」

 

  デュアン「オレがチャラにしたじゃん」

    椎葉「でもっ!」

    綾地「いいんです……3人の協力で回収できた欠片もありますから……それに、デュアン君が言ってたじゃないですか『チャラにした』って」

 

  デュアン「…………」

    綾地「それより今回のことで心の穴が開いたままなのが、どれだけ危険か分かりました」

 

  デュアン「まあ、オレのは完全に非常事態(イレギュラー)だけどね」

 

これでも、アルプと契約した魔女状態。・・・いや、魔女になっても心の穴を開けるのか?

 

・・・仮に、開けると仮定する。

 

・・・・自分の心の穴が開いた(マイナス)の状態で、人の心の欠片を回収できるのか?

 

いや、無理だ。むしろ欠点(マイナス)を増やすはずだ。

球磨川先輩のように。

 

つまり、導かれた答えは、心の穴が開いた状態の魔女が、他人の心を欠片を回収しようと武器を使った時。本当に武器となって、他人の心の傷を広げる。

 

    椎葉「……うん、もしデュアン君があのままになっちゃったら、とんでもないことになってたはずだもんね……だからデュアン君、せめて償いをさせてくれないかな?」

 

  デュアン「え?」

    椎葉「ううん……心の穴を埋めるお手伝いをさせてください」

  デュアン「いや……自分の心の穴(マイナス)は理解できてるし……」

 

    椎葉「それに、オカルト研究部の活動は、悩み相談をすることなんだよね?」

 

・・・。

    綾地「ええ、今は他に相談へ来ている学生もいませんし、次はデュアン君の相談へ乗るのもいいかもしれません」

 

え?なにその妖艶な笑顔。すごく怖いです。ハイ

 

  デュアン「……え?」

    綾地「日頃からお世話になりっぱなしですし……」

    椎葉「ありがとう、綾地さん」

ダメだこりゃ。

 

  デュアン「だけど……解決できるのだろうか?自分の心を分かってないオレが……」

 

    椎葉「デュアン君は、もう少し人の心を理解することを分かって欲しいかな?」

 

・・・他人の心を理解しているつもりが、理解していなかったんだ。

 

    椎葉「だから、どれだけ時間が掛かっても、最後まで続けるつもりだよ。ワタシにチャレンジさせてくれないかな?」

 

  デュアン「……椎葉さん」

あー・・・了解だ。負けだ。負け、オレの負けだ。

 

   アカギ「くっくっく、そんなのは簡単じゃ」

ふむ、どんな案だろうか?

 

   椎葉「アカギ!ひょっとして、手伝ってくれるつもりなの?」

   アカギ「無論じゃ。あっちとて何も手立てがないのに、ここまでの無体はせん。この小僧の心の穴を埋めるくれいわけないと知っていたからこそ、出来たことなのじゃ」

 

  デュアン「ほぅ?」

   綾地「七緒から聞いてることと、ずいぶん違うようですが?」

ひぇ・・・凍りついた声。いつもの綾地さんじゃない。

 

  アカギ「ふっ、七緒は知らなかっただけじゃろう……朝飯前じゃ」

   椎葉「そう、なの?」

  デュアン「さあ?」

   綾地「……嫌な予感しかしませんね」

  デュアン「ああ……同感だ。とりあいず、どんな方法か、聞かせてもらえるか?」

 

 

オレは、そう言い・・・お茶を飲もうと口に運ぶ。

 

 

   アカギ「決まっておる!オスの心に空いた穴を埋めるくらい……交尾をさせてやればいいだけじゃ」

 

    椎葉「こうびって……え? ふぇえええっ!?」

 

  デュアン「……ぶふぉ!?ゴホゴホッ」

飲もうとしたお茶を吹きかけてしまった。うぉ、お茶が変なところに入った。地味に痛い

 

   アカギ「オスは単純な生き物じゃからな。しかもおあつらえ向きに、その小僧は紬と交尾したがっておるのじゃ」

 

  デュアン「あのさ、ものには順序ってものがあるんだぞ?確かに男は単純さ。ああ……それは認めてやるよ……でもな、誰しもそうだとは限らん……」

 

男って悲しい生き物なのさ。いつの時代、いつの世界だって・・・男は女に敵わない。絶対的な法則。宇宙の真理

 

    椎葉「そ、そそそそ、しょしょ、しょうだよ! でゅ、デュアン君がそんなこと……」

 

  デュアン「まずは落ち着いて」

   アカギ「まったく、何を恥ずかしがることがある?人間とはおかしな生き物じゃな」

 

  デュアン「そりゃ動物界では交尾ぐらい普通かもしれんが……人間界では、そういうのは……遊び感覚でやらない!」

 

少なくても、そんな遊び感覚なら・・・オレが説教してやる

 

    椎葉「か、簡単に言わないで!だいたい、本当にそんなので心の穴が埋まるの?」

 

    綾地「七緒からもそんなこと一度も聞いたことがありません」

  デュアン「…………」

   アカギ「ふんっ、今まで、得をするのは七緒じゃったからな……だが今は、紬の欠片を回収できるかどうかがかかっておる。あっちにとっても大問題じゃ」

 

  デュアン「オレは、簡単に交尾の提案するお前が大問題だと思うんだが?」

 

まあ、興味というより・・・肉体的な繋がりって転生してから1000を超えるが・・・無いんだよなあ。えっちぃのはいけないと思います!って感じで。

 

本当はどうだろう?興味がないわけではない。知識はある。経験がない。

他人を傷つけてまで、自分の欲望を吐くやつはロクでなしだ。

 

いや、言い訳にすぎないのか?オレ自身を守るため?

 

   アカギ「紬も、交尾くらいさせてやればいいじゃろう……それにチャレンジすると言っていたではないか?小僧の心の穴を埋めたいのじゃろう」

 

昔誰かが言ってたな「処女と童貞は同列に出来ない」

 

    椎葉「うっ、うぅっ、そうだね……デュアン君」

なんと、真っ赤になった椎葉さんが、一歩こちらへ近づいてくる。

 

  デュアン「お、おい……まま、待ってくれ!落ち着け……StyCool(ステイクール)だ、椎葉さん」

 

オレは椎葉さんの行動力に驚き・・・一歩下がる。

 

    椎葉「言っていたよね? デュアンくんの心の穴を埋めるお手伝いがしたいって……だから……ちょっとだけ、チャレンジしても、いいかな?」

 

だが、椎葉さんは・・・オレの前へと一歩ずつ足を進める。

 

  デュアン「……やめろ」

自分の身を汚してまで、自分を簡単に売るなよ・・・オレはそんなんで心の穴が埋まるなら、首を掻っ切って死んでやるぞ!

 

    椎葉「じゃ、じゃあ、行くね、デュアン君」

  デュアン「待っt―――――」

椎葉さんは、オレの顔を胸に押し付ける。

 

    椎葉「チャレンジ、してみたけど……どうかな?デュアン君?」

  デュアン「ほわぁ?!……っ……」

変な声が出てしまった。む!程よい弾力と柔らかさに心地よい温かさ。身を委ねたいという気持ちと、本当にこれでいいのか?という疑問が渦巻いている。

 

・・・オレは、椎葉さんの背中をタップする。

これ以上は、ダメだ。

 

     椎葉「だ、ダメだよ、デュアン君?ワタシだって恥ずかしいの我慢してるんだから、動いちゃダメだよ……だからその代わり、ワタシのことお母さんだと思って、甘えていいからね?」

 

ああ。そうか・・・オレは椎葉さんの好きになった理由が分かった。いや、転生を繰り返して、オレが本気で好きになった理由が分かった。

 

   デュアン「……」

     椎葉「よしよし、いい子いい子」

頭を撫でられたのは、何度目だろうか?撫でる方は数え切れないほど、やってきたが、撫でられるのは指で数えるぐらい、かな?

不思議と温もりを感じる。だが、同時に恥ずかしいという気持ちになる。

 

オレって、大人って思ってるが・・・実はガキなんじゃないか?

 

    椎葉「ふふふ、保科君はいい子だね、よしよし」

なんか悔しいなあ・・・よぉーし。此処は大人の余裕を見せてやる。伊達に精神年齢を食ってる意地を見せてやる。

 

   デュアン「…………」

    椎葉「大丈夫、大丈夫、デュアン君の心の穴は、ワタシが埋めてあげるから」

 

此処で問題。これって交尾というより、バブみを感じてないか?

オレは赤ん坊プレイなんて望んでない!!

だが・・・心は満たされる。

 

  デュアン「………」

    椎葉「ふふふ、こうしてると、デュアン君も小さい子と変わらないね?」

 

オレの身長・・・160未満だからか?でも、椎葉さんより身長あるよな?

柊史や海道と比べたら、負けてる。

此処は、オレが人との距離を縮めたせいだろうか?

SAO世界線でも、キリトやユウキ・・・他の攻略組のメンバーも、オレに歩み寄ってくれた。"友達"と認めてくれた。こんなオレを"好き"だと言ってくれた。

 

  デュアン「……」

この状況、綾地さんに見られてるんだよなあ。

 

   アカギ「おお!小瓶に心の欠片が戻ってきたようじゃぞ」

 

俺も・・・そろそろ、「昔の自分(オレ)」を捨てて「今のオレ(じぶん)」に歩まなければな。

 

割り切りも・・・大切、か。

 

  デュアン「……」

   アカギ「交尾でない分もの足りぬが、でかしたぞ紬!」

だから、交尾言うな!

 

    椎葉「……っ」

    綾地「………………」

綾地さんの目に光が宿ってない。いや何かブツブツ言い始めた・・・と思ったら、顔を赤らめた。

 

  デュアン「し、椎葉さんも……少し落ち着く」

オレは椎葉さんの拘束を無理矢理解く。

 

   アカギ「なんじゃ……小僧。紬に魅力がないとでも言うつもりかっ」

 

  デュアン「……これ以上は言わないでやろうと思っていたが……もう我慢の限界だと言ってるんた」

 

   椎葉「……え?」

  デュアン「まず、椎葉さん……簡単に身体を売るような真似は絶対にしないでくれ……そんな事をされても全然嬉しくないし……むしろ、オレは椎葉さんをに傷ついてほしくないんだ」

 

   綾地「……デュアン君は、エロです」

弁解もしようもないか・・・まあ、心は満たされたからなあ。

・・・本当に本能のまま交尾してしまったら、オレは生きていけないぞ・・・精神的にも社会的にも。

 

オレは椎葉さんの肩を掴み、離れる。

 

  デュアン「椎葉さん、熱意は伝わった……優しさは伝わってる……少しは楽になった。ありがとう」

 

   椎葉「…………」

  デュアン「ま、まさか……椎葉さん。まさかだよね?」

   椎葉「が、我慢、我慢するから……早く離れて、デュアン君にかけちゃう、うぷっ」

 

やばいやばい・・・ビニール袋がないぞ。

こうなったら・・・理を捻じ曲げて時間を止める魔法を開発するか?

 

  アカギ「そうなっては大惨事じゃな」

 デュアン「一体誰のせいでこうなってると思ってンだァァアア!!」

落ち着け・・・落ち着くんだ。オレ、解決方法は・・・あるのか?

 

 デュアン「そんなこと気にするな……」

   椎葉「……え?」

 デュアン「後どのくらい持つ?」

   椎葉「……一歩でも動いたら、で、出ちゃうから、お手洗いまで絶対保たないから、うううっ」

 

なるほど・・・決壊するまで、時間が無いというわけか。

椎葉さんの魔力と欠片の繋を感知したから、いけるな。

 

  アカギ「いや、方法ならあるぞ……今よりもっとオスらしい格好をさせれば、収まるはずなのじゃ」

 

 デュアン「…………」

椎葉さん専用の代償緩和完成まで残り・・・2分か。

仕方ない。

 

 デュアン「とりあいず……」

オレの上着を脱いで、椎葉さんに被せてみる。

これで時間稼ぎをするぞ

 

   椎葉「ダメだよっ、汚しちゃうよ……デュアン君の制服、うぷっ」

 デュアン「気にするな……それより、やっぱり治まらない、のか?」

   椎葉「そ……それは、ちょっとだけマシになったみたいだけど」

 デュアン「だったら着ててくれ」

さて・・・残り1分だ。

 

   綾地「デュアン君、そこのクロスでねじり鉢巻きを作ってみたのですが」

 

 デュアン「なるほど……応援団っぽく見えるかな……うむぅ」

早速、椎葉さんの頭に巻いてみる。

 

 デュアン「ふむ……まだ足りなさそう?」

   椎葉「うううっ、マシにはなってるけど……はな、離れてくれないと、ほッ、本当にもうっ」

 

 デュアン「気にするな……ッ……、……よし」

オレは、椎葉さんの頭に手を乗せると共に・・・

 

 デュアン「……《代償緩和》!!!」

オレの周りに魔法陣が幾つも展開された。

 

  アカギ「っ……」

   綾地「これは……魔女の代償を抑える魔法?!」

 デュアン「椎葉さん用に調整した魔法だ……いつ持つか分からんが……綾地さんみたく数分しか保たない……ということにはならんと思う」

 

   椎葉「ううう……え?」

 デュアン「椎葉さん、どうだろうか?」

   椎葉「あっ……うん、もう、平気みたい」

 デュアン「そっか……良かったよ」

   椎葉「ごめんね、油断してたよ……もう少しで部屋の中、汚しちゃうところだったもんね」

 

 デュアン「そうじゃなくて、椎葉さんが気にすると思ったからさ……気にするな。だいたい、魔女の代償ならしょうがない……もし、吐いちゃってもさ……掃除すればいいことだからさ。オレは気にしない」

 

綾地さんだって、同じ様な目にあったからな・・・。

 

   椎葉「デュアン、くん……?」

   綾地「……」

 デュアン「……まあ、結果オーライということで」

  アカギ「だが紬よ、いい加減諦めて、下着もオスの物を身に着けてはどうじゃ?」

 

  デュアン「それは最後の一線だ……」

人の事言えないが・・・ミュウになった時、普通に女児物を履いてるからなあ・・・デュアンとミュウの身長が同じだったら、男物でも良かったんだが・・・今更だよな。

 

  アカギ「そうすれば、最初からこの程度、問題にならなかったはずじゃぞ」

 

   椎葉「嫌だよ!お、男の子のパンツ履くなんて、絶対嫌だからね」

そりゃそうだ・・・。

 

  デュアン「ん……?あれ?どういうことだ……」

そういや、椎葉さんの代償に違和感があるぞ。男の子っぽい服で代償を抑えてるなら・・・

 

   椎葉「あっうん、ワタシの代償はね、なんていうかポイント制みたいなんだ……下着を替えれば、その代わりスカートを履いても平気だったり」

 

  デュアン「なるほど……ね。今度実験してみる?」

   椎葉「実験?」

  デュアン「オレの代償緩和魔法で、どの程度堪えられるか……」

   椎葉「……抑えられるんじゃないの?」

  デュアン「いいや……緩和するんだ。綾地さんは魔女になってから2~3年までは12時間持ってたが……今は1時間、より酷い状態に陥れば5分も持たないな」

 

   アカギ「……小僧、本当に何者じゃ?」

  デュアン「……さあ?オレがくたばる前に当ててごらん」

   アカギ「……魔法を作れるじゃと?そんなことできるわけが……」

  デュアン「契約した時の内容は忘れちまったが……ちゃんと作れる。自然界の法則の理を無視した魔法以外はな」

 

   アカギ「…………」

    綾地「……それは、自然界の法則ならば……どんな魔法でも作成できる……ということですか?」

 

  デュアン「可能だよ……まあ、作成するのに……心の欠片が必要なんだがな」

 

    椎葉「えぇ!?わ、ワタシの為に……そんな」

  デュアン「代償緩和は綾地さんで作ってたし、椎葉さんのはアレンジだから気にすることはないよ」

 

    椎葉「デュアン君……」

  デュアン「さて……話はここまで。綾地さん、オレの心の穴を埋めるのは、椎葉さんに任せちゃっても大丈夫かな?」

 

    綾地「はい。それじゃあ、デュアン君の心の穴を埋めるのは、椎葉さんにお任せしますね」

 

   アカギ「ほほう、その方が後で欠片の横取りされる心配もなし、よいのではないか」

 

  デュアン「ただし、柊史の心の穴を埋めるのは綾地さんに任せる……あの欠片は綾地さんの物だしな……」

 

   アカギ「ま、まあ、結果的に七緒の邪魔も出来たようじゃしな」

  デュアン「悪いけど……オレが契約したアルプは相馬さんじゃないからな」

 

   アカギ「え?」

  デュアン「オレの母がアルプだったからな……」

    綾地「そうだったのですか!?」

    椎葉「えぇえええ!?」

  デュアン「親父は、母と契約した魔女だったみたいだけど……ま、いつかは話すよ。"いつかはね"」

 

    綾地「では正式にオカルト研究部として、デュアン君の悩み相談は椎葉さんに一任したいと思います」

 

    椎葉「わかったよ……デュアン君?というわけで、明日からよろしくねっ」

 

  デュアン「了解した……椎葉さん」

 

~~~~~

 

 

    

 

 



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Ep46 立場を超えた恋愛話 【前編】

 

 

~~~~~次の日

いつものように、部活をしていた・・・

 

 

  椎葉・因幡・戸隠「「「えーっ!?」」」

    椎葉「ほ、ほ、本当に?」

   デュアン「珍しいな……村上さんがオカ研に相談事なんて……それも……お前のクラス担任の先生を好きになるなんて」

 

     保科「知り合いか?」

   デュアン「ん?ああ……まあな」

     村上「はい……好きなんです」

     保科「なんか……凛々しいというか男前というか」

     村上「恥ずかしがっても仕方ないじゃない……それに、話を聞いてもらいたいんだもの」

 

やっぱり変わったヤツだ。嫌いではない。

 

     因幡「可愛い村上先輩と、イケメンの高城先生。互いの立場を超えた、禁断の恋」

 

まあ、教師と生徒の禁断の恋はマズイよな・・・個人的にはどうでもいいが・・・。

 

村上は、たしかに綾地さんに並ぶ可愛さを持っていて、男にも負けない根性を持っている・・・ダブルスコアなんだけど・・・

 

村上って・・・身長125cmなんだよなあ。つまりチビってこと。

高城先生って、誰にでも優しいしイケメンだし、身贔屓もしない。分からないところはちゃんと優しく教えてくれてる。あの人の教科の担当をしたら必ず赤点を回避し、80点以上は確実に取れる。人柄も良いし、身長もオレや保科、海道に負けないぐらい高い。高城先生って確か来年で24だっけ?

 

・・・高城先生って他の資格をたくさん持ってたよな。

転生を繰り返し、瞬間記憶や完全記憶能力を持っているオレから見れば、高城先生は確実に天才の部類に入るよな。

 

     椎葉「超えちゃいけない壁について悩み、苦しみ」

     因幡「けれど互いの気持ちを押し留めることは出来ず」

     椎葉「2人は手に手を取って、知り合いのない土地へ」

     因幡「互いに協力しながら、狭い四畳半の風呂なしの部屋で始める新生活」

 

風呂なしの1Kは家賃は多分1万円弱かな?アパート。

 

     椎葉「2人で通う銭湯の入り口で先生が待たされて、手拭いをマフラー代わりにして」

 

   椎葉・因幡「「萌えるー!」」

 

    保科「最後の昭和は、本当に萌えるのか?」

  デュアン「まあ……うん。いいんじゃないか?」

感性は人それぞれ。ロマンチックでいいんじゃないのか?

まあ、ロマンよりリアリティだからなあ・・・。

本当に、

     村上「……別にドラマチックな展開を希望してるわけじゃないんだけど」

 

  デュアン「ふむ……」

    戸隠「それじゃあ……高城先生の個人的な秘密を探り出して、脅迫し、悔しがる先生を毒牙にかける……甘美なる調教の罠によって、高潔な教師の肉体は淫蕩な奴隷の肉体へと開花され、いけないとわかりつつ堕ちていく学淫教師……『悔しい、でも感じちゃう、ビクビク』なーんて展開をお好みなのかなぁ?」

 

どこのくっころ騎士かな?

 

  デュアン「生々しい表現やめろ……」

    村上「いやまさか、そんなこと……よく妄想したりする程度ですよ」

 

  デュアン「………………」

    保科「デュアン?」

  デュアン「……オレは……オレの常識が……おかしいのか?それとも、周りの常識がおかしいのか?ああオレの中の常識が……あばばばば」

 

そのままスルーする。

  

    村上「いい?デュアン、女の子だって性欲ぐらいあるよ」

  デュアン「んなことぐらい知ってる!!男がいる所で性癖をオープンで語るな……恥ずかしくなってきたぞ」

 

    因幡「た、たしかに……それはありますね」

    保科「デュアン……お前って、エッチな話とかやるのは嫌いなのか?」

  デュアン「嫌いとは言っていない……何方かというと興味はある方だ……だけど、異性の前で喋るのはどうかと思う……それだけ」

 

    戸隠「ヘーキだよ、わたしはそれぐらいで引いたり、軽蔑したりしないから。そ・れ・に……」

 

嫌な予感・・・・

 

    戸隠「お姉さん、実はそういうのも好きだったりして」

 デュアン・保科「え!?」」

    戸隠「むふふ、やだなぁ、冗談だってば。真に受けて、そんなイヤらしい目をしちゃダメだよ? いやん、エッチ」

 

  デュアン「……は?」

オレは声のトーンを低くして言った。

 

    保科「……ねえ、村上さん」

    村上「なんですか保科さん」

    保科「なんか年上好きになる気持ちも……ちょっとわかったかも。こう、大人の余裕と色気? そういうの、素敵ですね」

 

    村上「でしょ?でしょ?」

  デュアン「…………」

オレには永遠に理解できない代物だ。オレはイラッとしたぞ・・・でも、嫌いではないかもしれない。単純に年下が、余裕を見せてるような感じ?

高城先生と村上って7歳差しかないんだよなあ・・・。

 

    綾地「………」

  デュアン「(おや?綾地さん……どうして保科の方へと見て、ムスッとしてるんだ……?)」

 

ふむ。

    綾地「……ふーん。そうですか……保科君はそういうのがお好みなんですか」

 

  デュアン「(あっ……これ嫉妬だ。ほほう?綾地さんは柊史のことが好きなのか……案外お似合いじゃないのか?)」

 

    保科「あ……いやね、好みとかそういう話じゃなくてですね?あくまでちょっと気になったとか、そういう部分は、男なら仕方ないと言いますかね」

 

    椎葉「と……言ってますが、デュアン君はどう思うの?」

  デュアン「ふむ……まあ、オレの好みではないが……男は(みな)単純ってことさ……悲しい生き物だね」

 

    綾地「別に私に言い訳しなくて良いんですよ、保科君」

綾地さんがなんか怒ってるな。あれは嫉妬だ。

 

    保科「綾地さん、なんだかその笑顔が怖いよ?というか、痛いんですけど……」

 

柊史の場合は比喩じゃなく本当に"痛い"んだよなあ。

 

    綾地「……それは私のせいじゃありません。私の感情は無関係です」

 

    保科「なにか怒ってない?」

    綾地「怒ってません」

うそだあ・・・トーンが少し低いぞ。嘘をつくならもっと上手くやらないと。まあ、柊史という嘘発見器があるからなあ。

 

    保科「いやけど―――」

    綾地「おこってません」

   デュアン「柊史、これ以上突くと大蛇が出るかもしれん。やめとけ」

 

    保科「そうする。……わ、わかりました……ゴメンナサイ、変なことを言いまして」

 

    綾地「それよりも、村上さんの話です」

    村上「……ふむ」

    綾地「まず確認なんですが」

    村上「ん?なにかな?」

    綾地「村上さんの最終的な目標はどこですか?先生に想いを伝えることですか?」

 

    村上「ううん、そうじゃない!私は自分が楽になるためだけに告白をしたいわけじゃあないんだ」

 

   デュアン「ほう?」

    村上「目標は高城先生と付き合い、愛し合い、乳繰り合って、幸せに至ることっ!振られるために告白するなんて、高城先生にも失礼だからね」

 

この場合は、振ったほうが傷つくのではないだろうか?

 

    保科「何故乳繰り合うまで口にした?」

    村上「愚問だね。最重要項目でしょ、乳繰り合うのは」

   デュアン「いや、その理屈はおかしい」 

    保科「まあ、その気持はわかるんですけれども」

    因幡「わーやらしー。下心満載ですよ、センパイ」

    村上「そうかな?愛があればなんでもおkだよ」

   デュアン「…………」

まあ、わからんでもない。愛があれば年齢差なんてないようなものだしなあ・・・イヴとギャリーが良い例だな。まあ、あれは吊り橋効果の所以だが・・・。当時9歳のイヴが20のギャリーに告白してたからなあ。

ギャリーは「結婚できる16になるまではダメ」と言っていたが・・・実際は14の頃に、ギャリーを食べちゃってるからなあ、性的な意味で。

 

   デュアン「まあ、愛があればいいのかな?オレの昔の知り合いに、14歳の女の子が、三十路手前の男を性的に食っちまったからな……そう考えると、愛があれば……良いんじゃないか?」

     因幡「デュアン先輩!?」

     保科「本気か?」

   デュアン「まあ、オレ的には愛があれば年齢も性別も立場も関係ないと思う。しかし、無理矢理襲うのは三流で、三下の悪党がやることだ」

 

     保科「いや……でも、年齢は……」

     因幡「それに、性別が関係ない?」

   デュアン「だってそうだろう?所詮は付いてるかついていないか……生産性の問題だ」

 

     綾地「た、たしかに……」

     因幡「デュアンさんって……そっち方面?」

     椎葉「えっ!?」

   デュアン「オレは男よりも女の子が好きだよ」

     村上「まあまあ……それに……現実的な路線でね、先生には勿論、親にも迷惑をかけるようなことはしたくないからさ」

 

話を戻すが、イヴの場合は、母親はノリノリ、父親は渋ってたけどな。父親の気持ちは分からんでもない。と言うか、イヴの母親は・・・イヴが7歳の頃にもそれとなく言ってったし・・・よくギャリーは、イヴが14歳になるまで我慢できたな・・・素直に賛称に値するよ。

いや、ギャリーは立派だよな。実際。球磨川先輩と同じぐらい尊敬する。

 

   デュアン「……ふむぅ」

海道と同じ様な真面目タイプか・・・。根が真面目というかなんというか。

 

     綾地「……とにかく、付き合うことが目標なんですね……ただ、相手が先生となると……」

 

     因幡「いいじゃないですか、応援してあげましょうよ、寧々先輩!」

 

     椎葉「ワタシも手伝いたい!」

   デュアン「ま……俺も手伝うぜ」

     保科「お2人さん、禁断の愛への憧れだけで言ってない?」

     綾地「ですが……」

   デュアン「綾地さんの言いたいことは分かる……だけど、やるだけやってみればいいじゃないか?」

 

いざとなったら・・・あっちの世界で使っていた、左目の力を使えば・・・ふむ、左目の力で無理矢理操ったら、どうなるんだ?

心の欠片の回収は出来るのだろうか?

・・・多分、無理だな。

ギアスに頼ると、ルルーシュ見たく。うっかりギアスで大惨事になりかねない。ユーフェミアみたいな大虐殺未遂だけは避けなければ。

 

でも、この焦がれた恋をなんとか成就させたい。これはオレの我儘だ。

そういや、この世界線にCの世界ってあるのだろうか?無かったら、普通にギアスが使えないんだが・・・

 

     綾地「……」

     村上「私の目的というか希望に関しては、何とかして欲しいって頼んでるわけじゃなくて、あくまで意見を聞かせて欲しいだけ。気軽に考えてもらって大丈夫なんだけど……」

 

     因幡「ほら、こう言ってらっしゃるんですから……寧々先輩」

     椎葉「ダメかな、綾地さん……?」

2人に縋られて、困った表情を浮かべる綾地さん。椎葉さんは、アカギ相手だと母親のようだけど・・・今は親にお菓子をねだってる子供みたいだ。

俺的には捨てられた子犬のように「くぅーん」ってなってる感じで少し微笑ましい。

 

やはり、椎葉さんのことが好きなんだな・・・俺ってほんと単純。

そうか、俺が椎葉さんを好きになったのは、椎葉さんの優しさだけじゃないんだ、全てが好きになったんだ。

 

     綾地「………」

   デュアン「(やっぱり気にしてるじゃねぇか)」

     戸隠「ちなみに村上さんは、高城先生にそういうアピールしたことは?」

 

     村上「アピールですか?」

     戸隠「デートに誘ってみたりとか、探りを入れたりして異性として見ていることをわかってもらう、そんなの」

 

デートは無理だろう。教師と生徒との付き合いって、プライベートでは無理な話だ。異性として見るのはNGだ。

 

・・・でも、この学校って色々緩いからなあ。案外寛大なのかもしれんな。

 

     村上「うぅ~ん……アピールはしてたかな?」

   デュアン「曖昧すぎて、難しいな」

     保科「……だな」

   デュアン「こういう時って…… 男って無力だよな」

     椎葉「そうかな……?」

   デュアン「オレと柊史は恋愛なんてものには疎いからな……意見を求められても……正しい答えは見つけられない。答えが分からない問題文なんてやってられないぞ」

 

     保科「ぶっちゃけた話、俺たちの場合、人間関係を構築してこなかったってのもあるよな」

 

   デュアン「そうだな」

オレの場合、小学校5~6年の時に綾地さんと友達関係兼魔女の手伝いをしてきた。中学校も親しい友人は居なかったな・・・高校から柊史、海道、仮屋さん、会長、村上、井上、秋田さんかな?親友と呼べるのは柊史、海道、仮屋さんぐらい?

女性陣が多いのは気の所為だと思いたい。きっと気の所為だ。

 

気の所為といえば、久島先生の欠片の時の事件で・・・一つ、何か見落としてたことがあったな。

 

あの時、オレは、誰の魔力を感知したんだ?綾地さんは、中学からよ~く知ってるし、柊史の魔力は弱々しいが感知している。椎葉さんもハロウィンの時にようやく分かってきた。――――しかし、誰も該当しなかった。アルプのアカギでも無い。むしろ、木月さんの時に出会ってたから識別は容易だ。無論、相馬さんも綾地さんと同じぐらい知っている。

オレが知った魔女でもアルプでもない・・・。

会ったことも無い人物の魔力の特定は不可能だ。いや弱すぎて探知が出来ない・・・と言ったところか。

 

  デュアン「…………(なんか気持ちが悪いな。ちょっかいも出さないし、干渉してこないから……いっか)」

 

すっきりしないが・・・綾地さんや、椎葉さんの邪魔さえしてこなければ、オレはノータッチで行く。

 

     村上「あのー……」

     戸隠「現状確認すると、基本的には良好な関係だけど、それ以上の深いお付き合いはないということだね?」

 

     村上「そうですね」

     戸隠「じゃあ、先生のプライベートに関することは?趣味とか……好きなタイプとか」

 

     村上「いえ、そういうことも全然……」

   デュアン「……お前、よくそれでお付き合いしたいって言えるな……"他人"を好きになるなら……"好きなもの"ぐらい把握しなきゃ」

 

     保科「デュアン?」

   デュアン「例えば、好きな食べ物を知るだけでもいいと思うぞ?」

     戸隠「じゃあじゃあ……わたしたちオカ研で、高城先生に関する情報を集める。好みの女性とか、そういうのね。でも、そこから先には関与せず、村上さんが1人で決断する。っていうのはどう?」

 

     村上「それだけでも大分違いますよ!」

     戸隠「うんっ。ということで、どうかな綾地さん」

     綾地「……分かりました。それぐらいなら力になれますね。村上さんがそれで構わないなら」

 

     村上「よろしくお願いします」

こうして、村上さんの恋を応援することになった・・・

 

――――のだが

 

    保科「さて……どうやって調べようか」

  デュアン「普通に聞くのもな……」

    因幡「村上先輩の気持ちを、気付かれないようにしないといけませんからね」

 

    保科「それに、集めるのはどんな情報がいいんだろ……?」

  デュアン「小さいことから大きいことまで……集めるだけ集めたら?」

 

    椎葉「じゃあ……されてみたい告白とかは?」

    因幡「いいですね、それ!とっても有益な情報だと思います」

    保科「なるほど……でも、今回の相談相手、女子だぜ?普通男が女子にされたい告白って相談なら分かるが……その逆って大変じゃね?」

 

  デュアン「ま……ぶっちゃけ、関係ないけどな。男だの女だの……この際置いとくぞ」

     保科「そうか……んー……ちなみに、因幡さんや椎葉さんの場合はどんな告白がいい?」

 

     因幡「自分ですか?そうですね……。一緒に帰ってる時とか、2人きりでいい雰囲気の時に、自然な流れで言ってもらうシチュエーションが結構キますね。悶ます」

 

     因幡「イケメンボイスで耳元に囁かれるとさらにグッときます」

 

   デュアン「因幡さん……乙女ゲーも好きなのか?」

     因幡「え!?な、なんで知ってるんですかっ?もしかして……人のカバン漁りましたか!?」

 

   デュアン「っふ……誰でも分かるよ。イケメンボイスと言った時点でね」

 

     保科「イケメンボイス好きとか、完全にアウトでしょ……」

 

 

     椎葉「ワタシは……やっぱりロマンチックなのがいいかな。運命を感じちゃうような甘い言葉を、2人っきりで言ってもらうのが……」

 

ハードな試練だな・・・難しいなあ。椎葉さんの告白は・・・二人っきりで甘い言葉?

 

・・・・甘い言葉って何だろう?

 

     椎葉「って、こういう理想を言うのって、かなり恥ずかしいね。なんか、顔が赤くなっちゃう、あはは」

 

  デュアン「ッ……」ズキューン

オレの中で何かが射抜かれた。

か、可愛い・・・

 

    保科「……?」

     椎葉「変かな?やっぱり、ワタシの理想って変かな?」

  デュアン「変じゃないよ……理想は大事だと思うよ。なあ、柊史」

    保科「そうだな、その通りだな」

    戸隠「んーん、デュアン君や保科君の言うように、素敵な理想だと思う」

 

    椎葉「あ、ありがとうございます。あの、先輩はどうなんですか?」

 

    戸隠「わたし?わたしは……そうだねぇ……あんまり考えたことがないけど……ちょっとS目の上から目線とか、いいかもね。思わず"う、うん……"って答えさせられちゃうようなのが」

 

  デュアン「……会長」

 

    因幡「へー、戸隠先輩はそういうタイプなんですねー。でも確かに、上からっていうのもいいですよねぇ」

 

そういう男のタイプって・・・

 

  デュアン「オレはそういう男ってロクなヤツじゃないと思うぞ?そういう男って……大抵、浮気とかDVとかしそう」

 

    保科「ん~……お前の偏見じゃね?」

  デュアン「そうだろうか……ふむぅ」

 

  デュアン「そういえば、綾地さんは、一体どんな告白が好きなのかな?」

 

    綾地「わ、私ですか?」

  デュアン「ああ」

    綾地「私は……告白の方法よりもずっと一緒に、お互いが好きであり続けるのが一番だと思ってます」

 

  デュアン「確かにな……」

綾地さんは両親のことを引きずってるんだな・・・こういう答えも悪くはない。

 

    椎葉「うん、気持ちを確認しあった後も、凄く重要なことだね」

    因幡「さすが寧々先輩、とっても素敵な答えです」

    保科「……、……?」

    因幡「にしても、見事にバラバラですね」

    

    戸隠「この際だから、男の人の意見も取り入れようよ」

  デュアン「げっ……矛先が此方に」

    因幡「いいですね……」

    椎葉「2人の意見も聞きたいな~」

    綾地「そうですね……高城先生も同じ男の人ですし……」

    戸隠「保科君はどんなタイプが好き?」

    保科「オレ?オレは……そういう考えを今までしてこなかったからな……人間関係を構築してなかったし」

 

    戸隠「デュアン君は?」

  デュアン「あー……オレの場合は……う~ん。……秘密♪」

オレは悪戯っ子みたいな笑みでそう答える。

 

    保科「ほほう?好きな人が出来たんだな」

   デュアン「……内緒♪」

 

     椎葉「ずる~い!」

   デュアン「仕方ないだろう……もし、告白して失敗したら……失敗……したら、あ……あ……ああ……」

 

や、やべぇ・・・・考えてなかった。

 

     保科「凄い震えだ……バイブレーションだな」

   デュアン「……、……失敗したら……失敗したら…………」

     因幡「失敗したら?」

   デュアン「……、……、…………死のう」

うん。恋愛に二度目は無い。一度好きなった人からフラれたら死ぬ。

     因幡「ええ!?」

     椎葉「しししし、死ぬって?!」

     綾地「だ、ダメですよ……デュアン君!」

     保科「そうだぞ!幾ら何でも……」

     戸隠「死ぬなんて……幾ら何でも極端すぎるんじゃ……」

   デュアン「それくらい好きなんだ……愛おしくて……苦しくて、辛くて……その人を考えると、感情が抑えきれない……それぐらい好きなんだ」

 

     保科「じゃあ……その人が他の誰かを好きになったら?」

   デュアン「盛大に祝ってから……それから死ぬ」

     保科「愛が重い」

   デュアン「……、……でもこれだけは言える……言わずに後悔するより、言って後悔したほうがいいってね」

 

     椎葉「確かに……悪い意味でもいい意味でも……言って後悔した方が気持ち的に楽になるね」

 

     因幡「私はその意見には反対です……だって、怖いじゃない」

     綾地「でも……怖がって言わなかったら……後悔します」

  デュアン「ま……俺流に言わせれば"告白して良いのはフラれる覚悟のあるやつだけだ"……恋に年齢も立場も性別も関係ない。好きだというのなら告白をしろ……ってことだね。好きという気持ちを隠し続け、重圧に潰れるよりかはマシだろう?」

 

     椎葉「た、たしかに……」

     戸隠「今回の件……確実に成功できると思ってるのかしら?」

  デュアン「今は無理でしょうね……情報が欲しい」

     保科「情報かあ……乗り込む?」

  デュアン「やめとけ……今は役員会議で忙しい時間だ」

     椎葉「う~ん……そんな意味深すぎる質問をしたら、先生も怪しんじゃうよ?」

 

     綾地「それでは……本命の質問だけでなく、無関係なダミーの質問も織り交ぜれば、怪しさも薄くなりませんか?」

 

  デュアン「なるほど……嘘と真実のごちゃ混ぜ……ミステリーの定番だね……いいと思うよ」

 

    戸隠「それだけじゃちょっと弱い気もするから……あ、他の先生方にも訊いちゃう?アンケートということで」

 

    保科「確かにいい案ですけど、アンケート理由はどうします?」

  デュアン「そんなもの……新聞部に協力してもらえばいいんじゃね?」

 

    戸隠「そうだね……新聞部のアンケートで年齢性別問わず幅広い意見を集めてる、っていうのはどうだろう?」

 

  デュアン「なるほど……それなら怪しまれない」

    因幡「でも、勝手に新聞部の名前を出して、後で問題に鳴りませんか?」

 

  デュアン「あいつらはネタに飢えてるからな……そのへんは大丈夫だと思うぞ」

 

    戸隠「そうそう……意見をまとめて……例えば、"モテる秘訣!異性のホントの気持ち!"とかタイトルを付けちゃえば、乗ってくれると思うんだよね」

 

  デュアン「悪くはないと思う」

    保科「確かにそれなら、いけそうな気がしてきました!」

    戸隠「ふふん、でしょう?」

    綾地「それでは新聞部との交渉は、戸隠先輩にお任せしてもよろしいですか?」

 

    戸隠「合点。今からちょっと行ってくるよ」

   

 

~~~~

 

   戸隠「というわけで交渉成立。二つ返事でOKしてくれたよ。ブイ!」

 

  デュアン「流石は新聞部……」

  因幡・紬・柊史「「おぉー!」」

3人はパチパチと手を叩いて、会長の功績を称える。

 

    綾地「ありがとうございます。戸隠先輩」

    戸隠「なんのなんの。これぐらい軽いものだよ。あ、それでこれがアンケート用紙ね」

 

  デュアン「ふむ……」

Q1『結婚願望はありますか?』Q2『どんな異性が好みですか?』

Q3『交際する際は、何を重視しますか?』などなど。

 

ど直球ストレートな質問ばかりだな・・・。

アンケート用紙に書かれた項目はざっと10個だ

どれも恋愛に関することばかり。バカじゃないの?

 

    保科「変に勘ぐられることもなさそうかな?」

  デュアン「う~ん……」

    戸隠「あ、そうそう。一つ条件があって、皆もアンケートを書いてね」

    綾地「私達もですか?」

    戸隠「学生側の意見もいくつか集めたいんだって。だから、わたしたちだけじゃなく他にも集めるらしいよ」

 

    綾地「わかりました。そういうことでしたら」

    因幡「なんか、恥ずかしいですね、このアンケートに答えるの」

    椎葉「でも無記名だから。個人が特定されることはないよ」

    保科「デュアンなら特定されそうで怖いなあ」

  デュアン「個人情報を特定するような真似はしないから……悪質じゃない限りは」

   

    因幡「あ、でも高城先生の分も分からなくなっちゃいません?」

   デュアン「そこは適当に折り目とか印とか回収する時に一番下に入れるとか……方法はいくらでもある」

 

オレの場合は、筆跡で誰かが描いたかは分かるがな・・・

 

    保科「じゃあ……行くか」

   デュアン「ああ……そうだな」

 

 

~~~~~~~

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep47 立場を超えた恋愛話 【後編】

 

 

~~~

 

   デュアン「あっ……高城先生、こんにちは」

     高城「こんにちは、デュアン君、椎葉さんも……どうしたのかな?」

   

高城先生は優しく微笑む

 

   デュアン「アンケートに協力しては頂けませんでしょうか?」

     椎葉「新聞部の来月号に乗せるので……無記名で構いませんので……ご協力お願いします」

 

     高城「?分かった……」

 

    

オレは、保科の方へ向けると・・・久島先生に渡した。

 

~~~~次の日

 

   デュアン「これが……高城先生の回答アンケートなんだが……」

 

Q1 結婚願望はありますか?

A. 今のところ考えてない。

 

Q2 どんな異性が好みですか?

A. 一途で真っ直ぐな女の子

 

Q3 交際する際は、何を重視しますか?

A. 特には考えてない。

 

Q4 結婚相手には何を求めますか?

A. 相手が幸せなら、何も求めない。

 

Q5 もし相手が浮気してしまったら、どうしますか?

A. 自分に魅力がないのかと、虚脱感を覚える。

 

Q6 得意料理を教えてください

A. ザウアーブラーテン

 

Q7 どんなコースでデートしたいですか?

A. 相手の望む場所ならどこでも

 

Q8 一人の時はどんな風に過ごしていますか?

A. 料理の勉強

 

    椎葉「ざうあーぶらーてん?ってどんな食べ物なの?」

    保科「あー……確か、ドイツの料理だよ。確か肉料理?」

    綾地「私もあまり詳しくは知らないですが……」

  デュアン「酢、水、香辛料および調味料を混ぜた漬け汁でマリネしてから調理する。ザウアーブラーテンは伝統的に赤キャベツ、Kartoffelklöße(カルトッフェルクレーセ)、シュペッツレ、麺を添えて提供される料理だったな」

 

ドイツ料理って・・・上手く出来ないんだよなあ。

 

    保科「カルトッフェルクレーセって?」

  デュアン「ん?ああ……ぶっちゃけ言うと、ジャガイモの団子だな」

 

    因幡「それにしても……この人を好きになった、村上先輩は……心配要らないような気しますね」

 

    綾地「そうですね」

  デュアン「ま……"フラれる覚悟のないやつが告白する"なんてアホがやることだ……脅迫結婚?というのも……」

 

    保科「物騒なことを言うなよ」

    戸隠「脅迫結婚ってことかな?」

  デュアン「ん?あー……まあ、できちゃった結婚と意味合いは一緒だ」

 

    保科「最低な発想ありがとう……マイナス100をくれてやるよ」

と、保科は親指を下向きにした。

 

  デュアン「ま……立場を超えた恋愛が上手くいく方法なんて……相手を無理矢理押し倒して、快楽に溺れさせるか……先生の弱みを沢山かき集めて、それを突きつけるか……相手を束縛するか……だな」

 

    因幡「ヤンデレ思考じゃないですか!!」

  デュアン「そうか?オレが今まで客商売した悩みを持ってたのを参考にしたんだがな?」

 

    因幡「怖っ」

  デュアン「まあ……いいや……ん?この字は……久島先生のか……どれどれ?」

 

Q1 結婚願望はありますか?

A. ある

 

Q2 どんな異性が好みですか?

A. 軽い男はお断り

 

Q3 交際する際は、何を重視しますか?

A. 連絡がこまめじゃない男

 

Q4 結婚相手には何を求めますか?

A. 年収

 

Q5 もし相手が浮気してしまったら、どうしますか?

A. 泣いて謝るまで鉄拳制裁

 

Q6 得意料理を教えてください

A. 冷奴、あとビール

 

Q7 どんなコースでデートしたいですか?

A. 焼き鳥、あとビール

 

Q8 一人の時はどんな風に過ごしていますか?

A. テレビ。あとビール

 

   全員『……………』

   因幡「うわぁ、この人ダーメだぁ」

   椎葉「結婚願望本当に持ってるのかな?」

   戸隠「年収って書いちゃうんだから……1000万とか、そういう感じなのかな?」

 

1000万って少なくないか?

 

    保科「高城先生から、これは……温度差が……温度差が」

   デュアン「確かに……温度差がやべぇよ……、……温泉とプールだろう……」

 

    因幡「いや、さすがに洒落じゃないでしょうか?ほら、ちょっとしたネタのつもり……とか」

 

    綾地「冷奴が得意って……一体どういうことなんでしょう?え?もしかして大豆からお豆腐を作るんでしょうか?」

 

   デュアン「豆腐は大豆の発酵食品……素人が作ると、食中毒を起こすぞ、綾地さん」

 

手作りのソーセージは美味しいが・・・人に食べさせるのはちょっとなあ・・・。

 

    保科「そうだよ……それにビールも書いてるし、お酒を勝手に作ったら犯罪になるから」

 

   デュアン「確か……アルコール度数1%未満なら合法だ、カクテルや梅酒を作るときは……この法律に引っかかっちまうぞ」

 

梅酒も美味しいが、カクテルの方が好きかな?

 

    保科「流石はデュアペディア」

   デュアン「…………」

そのネタ、もうお腹いっぱい。

 

    因幡「ネギと醤油を美しく掛けられるとか?」

   デュアン「料理じゃない……盛りつけと言うんだ」

    保科「ああ……そんなものは料理とはいえない」

    椎葉「焼き鳥とビールは、デートコースって言えるのかな?」

   デュアン「言えません、そんなのはデートじゃなく……飲み会とか、合コンの類だ」

 

    保科「まあ……食事は重要なデートの要素の一つではあるんじゃないかな?庇護するつもりは一切ないけど」

 

    椎葉「それはそうだけど……でも焼き鳥とビールかぁ。焼き鳥、美味しいけれど……」

 

まあ、焼き鳥好きだけどな。たまに買い食いするし

皮とかぽんじり、砂肝、ハツとかせせり、レバーが好きなんだよな。勿論味は塩だ。タレも美味しいが、塩派だな。オレは塩派だ

 

    因幡「なんかオッサンっぽいですよね」

  デュアン「絵に書いたようなオッサンだ……」

    保科「あと……なんでこの人『あとビール』って常につけてるの?」

 

    戸隠「なんか、コピペ元を消し忘れたみたいになってるね」

    因幡「手書きですけどね、これ」

    保科「これが本気なら、なんか久島先生が結婚できない理由が垣間見えた気がする……」

 

    綾地「でも……村上さんなら、大丈夫ですよねっ!」

   デュアン「……比べたらアカン」

高城先生と久島先生じゃ、月とスッポン、豚に真珠だ。比べるだけ失礼だ。

そもそも、料理できない時点で・・・女子力で負けてるような気がする。

いや、家事全般を男がすれば・・・完全な主夫だな。

 

 

    保科「デュアン的には、久島先生が結婚できると思うか?」

   デュアン「無理☆」

あはははっ・・・この人が結婚できたら、お祝い金を50万くれてやるよ。

 

    保科「いい切ったなあ……」

   デュアン「誰だって……これを見たら、無理だと思うだろう」

    戸隠「まあまあ、落ち着いて……」

    保科「そうだな……」

 

    戸隠「ちゃんと望んでたことも手に入ったよね」

   デュアン「ああ」

高城先生の表紙を再び見る・・・

 

Q9 どんな風に告白して欲しいですか?

A.  直球

 

Q10 女性のどこに魅力を感じますか?

A.  笑顔

 

Q11 禁断の恋についてどう思いますか?

A.  終わりよければいいのかもしれない

 

Q12 今、好きな人、気になってる人はいますか?

A.   多分、居ないと思う

 

 

    戸隠「うぅ~ん……これは」

    保科「直球ドストレートに決めろって……言ってるよね」

    戸隠「うん。ストレートな言葉って結構威力が高いからね」

  デュアン「……確かに」

    保科「漠然とですが、もっとロマンチックな方がいいのかと思ってました」

 

  デュアン「あー……川上君がそれだったな」

学生同士の恋愛ならそれでいいのかもしれんが・・・相手は、教師と生徒だ・・・ベクトルが違いすぎる

 

    戸隠「青いなぁ、若人よ。ダメだよ、もっと異性を勉強しないと」

 

    因幡「人によりけりだと思いますけどね……」

    椎葉「勝手な印象だけど、多分……ドストレートに言えば、成功するんじゃないのかな?」

 

どうだろう・・・

 

    保科「どう思う……デュアン?」

   デュアン「オレに聞くな……でも、これは……告白しても成功率は30%未満じゃないかな?」

 

    戸隠「ストレートな言葉は汎用性が高い上に、結構グッとくるものなんだよ?」

 

    保科「なるほど……あれ?でも……それは、男性が女性にかける言葉だよな……」

 

   デュアン「良いんじゃないか……男は可愛い女の子に告白されれば……イチコロじゃないんか?」

 

    保科「否定できないのが悔しい……。よし、とりあいず……この結果を村上さんに伝えるってことでいいかな?」

 

    綾地「はい。よろしくお願いします」

    因幡「ちなみに、この回答から導き出せる突破口ってありますか?」

 

    戸隠「それは、村上さんのアピールポイント次第かな……」

 

    椎葉「じゃあ、ひとまずこれで解散、かな?」

 

    戸隠「あっ、その前に。わたしたちの分を回収しておきたいんだけど、みんなはちゃんと書いてきた?」

 

書くには書いてきたが・・・見られると恥ずかしいよな。

 

    因幡「はい。ここに」

    椎葉「ワタシも書いてきました。見ないでくださいね、恥ずかしいですから」

 

   デュアン「オレも書いてきたが……」

 

    戸隠「わかってるよー。じゃないと無記名にした意味がないもんね。裏返しでいいよ。適当に混ぜておくから……でもでも、デュアンくんの好みは気になる」

 

    椎葉「ワタシも……」

   デュアン「あはは……見たら、どうなるか……分かってるよね?」

ニコッと笑いながら、殺気を込める。そんな事をしたら、心の穴を開けてやるからな・・・

 

    因幡「怖っ」

    保科「あー……すみません。忘れてました」

    戸隠「保科クン、約束はちゃんと守ってくれないとー」

    綾地「ごめんなさい……実は私も」

    戸隠「綾地さんも?」

    因幡「なんか寧々先輩が、こんな凡ミスするなんて珍しい」

  デュアン「人間誰しもミスはするさ……仕方ないことだ」

    戸隠「用紙は持ってきてる?」

    保科「すみません。机の上に置きっぱなしにしちゃったみたいで……」

 

    綾地「あ……わ、私も忘れてしまって……本当にすみません」

    戸隠「忘れちゃったならしょうがないね。じゃあ明日、明日の放課後にはちゃんと提出してね。そのまま新聞部に持っていくから」

 

    保科「はい」

    綾地「分かりました」

 

~~~~~~~次の日

 

    因幡「えー!どうしてですか、紬先輩。今度のは自信あるんですよ?実はメンズの中にも、女の子がつけえもおかしくないくらい可愛いのがあって……それを使って、ガーリーに見せる方法を考えてみたんです」

 

    椎葉「えっ、男の子用の小物で、女の子っぽくできるの?」

    因幡「ですです!男性アイドルにも、かわいい系の人っているじゃないですか?例えば……ハロウィン祭の時にデュアン先輩が着てた……アレとか」

 

やめい!思い出しただけで、恥ずかしくなるわ

 

    椎葉「う、うーん……確かに、いけそうな気がするけど」

オレのライフをこれ以上減らさないでよっ。

と・・・まあ、椎葉さんにとっても、女の子の格好をするのは拘りだと言っていたな・・・。

 

    椎葉「ごめん、めぐるちゃん!せっかく用意してくれたのに悪いんだけど、暫く待ってくれない?」

 

    因幡「だからどうしてです?男の子用でも、ちゃんと可愛くしますよ?」

 

    椎葉「実はオカ研の悩み相談を、ワタシが担当することになったんだ」

 

半強制的に依頼を押し付けるようなことだろう・・・アレ。・・・機を見て、オレが異世界人のことをバラすか。

 

    因幡「そうなんですか?でも……そんな人、来てましたっけ?」

村上さんのことは、綾地さんと柊史が何とかしてるだろう。

 

    椎葉「来てたっていうか、身内なんだよ」

そこで、ひょこっと綾地さんが現れた。

 

    綾地「はい、椎葉さんには、デュアン君の悩み相談へ乗ってもらうことにしました」

 

    椎葉「あっ、綾地さん」

    因幡「デュアン先輩の? えーっ、あの人悩みなんかあるんですかね?」

 

失礼な後輩だな、この世に悩みのない人間なんて、存在しないぞ

 

少なくても、見たことがない。輪廻転生を繰り返してるオレからすれば。

んー・・・精神年齢が7桁とか言うけど、実際の平均寿命は18歳だよな・・・。ま、真面目に生きてなくてそれだから。

 

    綾地「みんなに相談するというわけにはいかない問題のようです」

 

    因幡「……でもお二人は聞いたんですよね?」

    椎葉「ごめんね、別にめぐるちゃんが信用できないってわけじゃないんだけど……。これはワタシにも責任あることだし、しばらくはそっちに集中したいっていうか」

 

ま、正確には・・・加害者の保護者かな?

 

 

    因幡「よくわかりませんけど、それなら仕方ないですね。でも……はあ、せっかく紬先輩に似合うと思って用意したのにな」

 

ぷくっと膨れる因幡さん。

 

    椎葉「はは、それは本当に後ろ髪引かれるんだけどね……」

   デュアン「…………」

    椎葉「あ、おはよう。デュアンくん」

   デュアン「う、うん……おはよう」

ずっと居たんだけどなあ・・・まあ、こまけぇことはいっか。

 

    椎葉「今朝はどう?あれから、気分が悪くなったりしてない?」

   デュアン「う~ん……今の所は大丈夫、だと思う」

    椎葉「よかった。欠片を吸収しても心の穴は閉じたわけじゃないから」

 

まあ、欠損部分を補ってる訳だからな。例を出すなら砕けた石という心を接着剤という欠片でくっつけてるようなモノ。

 

 

    椎葉「また……あの時みたいになってないか、ちょっと心配してたんだよ……あれ?デュアン君、ちょっと顔色よくない?」

 

背伸びして、顔を覗き込まれる。

 

  デュアン「っ……気の所為だよ、椎葉さんが心配するほどではないよ」

 

    椎葉「あっごめん、だったらいいんだけど……とにかく、今日から一緒に頑張ろうね」

 

  デュアン「……」

    椎葉「まずは、ちゃんと方針とかも決めたほうがいいと思うんだ」

 

  デュアン「…………」

    椎葉「後で話し合いたいんだけど……デュアンくん?」

  デュアン「……やってもらえば、いいんじゃない?」

    椎葉「え?」

  デュアン「少しでも、女の子らしく見せたいんだろう?」

    椎葉「ひょっとして、聞いてた?」

  デュアン「椎葉さんにだって悩みはあるんだし、オレのは付きっきりになるほど酷いわけじゃないんだろう?今更迷惑かけてまで、なんとかしたいわけじゃ……いや、これは言い訳だな」

 

  デュアン「ごめん、なんか昨日から不安になったり、イライラしたりして、気持ちが落ち着かないんだ……だから、しばらく、そっとして欲し……、……椎葉さん?」

 

制服の袖を掴まれた。何故に?

 

    椎葉「お願い、綾地さん。部室の鍵、貸してもらえないかな?」

    綾地「もちろん、かまいませんよ」

  デュアン「ちょっと待て、部室に行くのか?まだ余裕あるけど、HRまでに戻ってこれるのか?」

 

    椎葉「気持ちが不安定になるのは、心が疲れてる証拠だよ」

 

  デュアン「……、……そうか……疲れてるのか……?」

    椎葉「やっぱりまだ、ダメージが残ってるんだと思う」

  デュアン「しかし、椎葉さんに迷惑掛けてしまう……」

    椎葉「デュアン君っ!もし今迷惑掛けてくれないんだったら、ワタシ怒るからね!」

 

背伸びしながら、精一杯睨みつけられてしまう。でも、そんな彼女が可愛いと思う、オレは本当に心が壊れてるか、疲れてるんだろう。でも、本気なのは伝わった。

 

  デュアン「……すまない。迷惑を掛けさせてもらう」

    椎葉「ううん、ワタシこそごめん。先に部室へ行って、待っててくれる?」

 

  デュアン「分かった……」

 

~~~~~



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Ep48  決心

 

 

~~~~

 

  デュアン「…………」

オレは、部室に入り、いつもの席に座る。

 

暫く待っていると、椎葉さんが入ってきた

 

    椎葉「お待たせ、デュアン君」

ようやく姿を現した椎葉さんは、なぜかやたらと胸の前を気にしている。

 

  デュアン「いいよ、時間を取らせてるのはこっちだから……それと、さっきは変な態度を取ってすまない」

 

    椎葉「デュアン君こそ気にしないで、それよりこっちへ来てくれない?」

 

  デュアン「?ああ……」

    椎葉「じゃ、じゃあ行くよ……え、……えいっ!」

椎葉さんはぎゅっと、オレを胸元に近づけ抱きつく。

 

  デュアン「!?し、椎葉さん?!」

    椎葉「お……一昨日はこれで心の穴が埋まったはずだし、気持ちも落ち着くんじゃない?どうかな?」

 

  デュアン「いや確かにそう……だが……、……椎葉さんこそ、また気分が悪くなるんじゃないの?」

 

    椎葉「大丈夫、アカギから聞いたでしょ?」

  デュアン「ポイント制だったっけ?」

    椎葉「そうだよ……」

  デュアン「し、しかし……下着でほぼ使い切ってるはずじゃ……って、あれ?」

 

あれれ?

 

  デュアン「……、……、……、……」

感触が・・・違う?柔らかさは変わらない。しかしなにかこう・・・生っぽい気がする。

 

    椎葉「し……下着はね、さっき替えてきたんだ。何に替えてきたかは、き、……聞かないで欲しいかな」

 

  デュアン「……、……、……」

ノーブラですか。多分パンツは男物か、履いてないか。

 

 

    椎葉「よしよし、よしよし」

と、椎葉さんはオレの頭を撫でる。

 

  デュアン「………………」

 

―――――ハロウィンの時、あんなに小悪魔のコスプレで喜んでくれたのに。

 

―――――男の格好しかできず、あんなに悩んでいたのに。

 

――――因幡さんの誘いを断ったのも、オレの悩み相談を第一に考えてくれたからなのか?

 

―――――一昨日みたいに、途中で気分が悪くなったら困るから?

 

本気で、オレの悩みを解消しようと・・・。

・・・此処までしてくれる椎葉さんに、オレは・・・

オレは・・・『椎葉さんを信じる』ことにする。

 

 

    椎葉「ど、どう?少しは、心の穴が埋まってきそうかな?」

  デュアン「……っ」

優しく声を掛けられ、どうしてか目頭が熱くなってしまう。

 

   椎葉「わっ!?ちょっと、デュアン君?……えっ?」

背中へ腕を回し、思い切り椎葉さんの胸へ顔を埋めていた。

 

・・・今は、涙を見られたくなかった。いや、涙を見せられなかった。

でも、どうもそれに気付かれたらしい。

 

   椎葉「もう、しょうがないなあ」

椎葉さんは、オレが好きになった子と同じ・・・感じがする。

優しさ、温かさ、他人の思いやり・・・。

 

椎葉さんは、ウソと隠し事をしているオレに裏のない笑顔を見せてくれる。

 

癒やされてるんだ。

 

   椎葉「よしよし、ふふ……デュアン君、ワタシより背が大きいのに、ワタシの方がお母さんみたいだよ」

 

  デュアン「オレ、母さんのこと、全くと言っていいほど覚えてないけど……、……そうだな」

 

   椎葉「えっ……」

  デュアン「椎葉さんは……母親みたいな温もりと優しさで……安心する」

 

   椎葉「そうなんだ……だったら、いいよ。しばらく、デュアン君のお母さんでいてあげる、よしよし」

 

椎葉さんは優しく撫でてくれる。

流石にこんな姿、他の人には見られたくないな。でも・・・

それでも、甘えたくなってしまうから不思議だ。

 

  デュアン「凄いな、椎葉さんは……本当の母親もこんな感じなのかな?」

 

   椎葉「ふふっ、さすがにそれは保証してあげられないかな?」

  デュアン「……そうかな?」

   椎葉「そうだよ……だって、こんな男の子みたいな格好をしたお母さんはいないと思うよ」

 

  デュアン「格好なんて関係ない……それでも椎葉さんは可愛いし、……、……オレ的にはとても安心して落ち着ける」

 

オレは、そう言う・・・

 

   椎葉「はいはい、でも普通お母さんに可愛いなんて言う?……どっちにしろ、ワタシじゃ貫禄不足だよ」

 

そうか・・・なら

 

  デュアン「……じゃあお母さんじゃなくて……椎葉さんだから落ち着くのかな?」

 

   椎葉「……、……ふ……ふぇぇっ」

今思ったが、ふえふえ言うのって・・・盾の勇者の世界線のリーシアみたいで面白いな。

 

  デュアン「ん?椎葉さん?」

   椎葉「~~ッ! ッ! ッ!」

背中をポカポカと叩かれてしまう。

 

  デュアン「いたた!……ひょっとしてオレ、また変なことを言った?」

 

オレは、別に普通のことを言ったんだけどなあ・・・

 

   椎葉「デュアン君は自覚ないところが質悪いよっ、もうおしまい!」

 

  デュアン「分かった分かった……だから、怒らないでほしい」

お母さん呼ばわりしたことを怒っているならまだしも、一緒に居て落ち着くで怒られるのが分からん。女心ってものは永遠にわからないものだな。

 

    椎葉「それは、わかってるつもりだけど……デュアンくんの心の穴が少しでも埋まってくれればワタシも、あれ?」

 

椎葉さんは欠片を入れた小瓶を出して、首を傾げる。

 

    椎葉「あんまり欠片が戻ってきてないみたい」

  デュアン「えぇ?!凄い癒されてたのに……」

冗談だろう!?

 

    椎葉「うーん……」

  デュアン「すまない……」

    椎葉「ごめん、疑ってるわけじゃないんだよ」

  デュアン「これじゃ本当は感謝してなかったみたいじゃない?一昨日、同じ事してもらった時は、ちゃんと回復したのに」

 

    椎葉「うん、だからじゃないかな」

  デュアン「?と言うと……?」

    椎葉「同じことをしても、あんまり効果がないだけかも……刺激に慣れちゃうんじゃないかな」

 

  デュアン「慣れたって感じはしなかったけどな……ふむぅ。でも同じことをしても、同じところまでしか回復しないって可能性はあるか」

 

    椎葉「うん、それも踏まえて、今後の方針を決めた方がいいかもね」

 

ふむぅ・・・どうするべきだろうか?

アカギが言う『交尾しろ』なんて言ってたよな。それで心が満たされたら、オレは完全に終わってるよな。

 

  デュアン「………」

    椎葉「デュアン君、どうかした?」

  デュアン「いや……なんでもない」

    椎葉「そう? さすがに授業が始まる前には戻った方がいいだろうから……続きは放課後に話そう」

 

  デュアン「分かった」

ふむぅ・・・一方的に協力してもらってるだけだな。やっぱり過去のことも話すべきだな・・・せめて、椎葉さんにだけは。それだけじゃ足りないからお礼も兼ねて。

 

~~~~~

 

   デュアン「……よし」

オレは全ての授業が終わるとすぐ、椎葉さんの席へ向かった。

 

   デュアン「椎葉さん、ちょっといいかな?」

     椎葉「うん、話し合いするんだよね」

   デュアン「それだけど、Schwarz・katze(シュバルツカッツェ)へ行ってみないか?」

 

一応、綾地さんから許可は貰ってるしな。

 

     椎葉「相馬さんのところ?」

   デュアン「ああ……あそこなら込み入った話もしやすいしな……。部室だと魔女のこと知らない人が何人か居るしさ」

 

主に、因幡さんと会長だよな。

 

     椎葉「そうだね……ちょうどいいかも。ワタシも一度、相馬さんに直接謝らなきゃと思ってたから」

 

   デュアン「あー……アカギのことか」

     椎葉「うん、綾地さんの欠片をワタシが回収することになっちゃったでしょう?」

 

   デュアン「その件だったら、オレの欠片を渡したからノーカンだぞ……」

 

     椎葉「それでも……だよ。それに間接的に迷惑掛けちゃったわけだし、電話でも凄く失礼な態度だったから」

 

   デュアン「椎葉さんが気にすることないのに」

     椎葉「そういうわけにはいかないよっ……ワタシはいつか魔女を卒業できるけど、アカギはアルプ同士付き合っていかなきゃいけないはずなんだから」

 

   デュアン「完全に母親だなあ」

まあ、話し合うだけが目的じゃないしな・・・

 

~~~~~~

 

    相馬「なんだ、そんなことか。私は気にしていない」

シュバルツカッツェに来て、まず詫びを入れることになった。

けど案の定、相馬さんは苦笑いを浮かべていた。

 

    相馬「むしろ被害を受けたのは、デュアン君や椎葉さんのほうだろう」

 

確かに、あの揉め事がなきゃ・・・椎葉さんも綾地さんも半々で納得してたのに、な。

 

 

    椎葉「すみません、ありがとうございます」

    相馬「まあ、そちらが気になると言うのなら、ここは喫茶店だ。デザートでも注文してくれると助かるけどね。ちなみに、うちのお奨めはパフェだ」

 

ふむ・・・・あのパフェか。夜は完全に飯いらなくなるよな・・・

 

   デュアン「分かった、注文させてもらいますね。椎葉さんも、いいでしょ?」

    

     椎葉「う……うん、そうだね。じゃあ、えっと……オレンジパフェなんてあるんですね、これで」

 

   デュアン「オレはそうだなあ……桃のパフェで」

前に桃のミルクティ飲んだら、桃が食べたくなったからなあ・・・

一応、家に桃味のアイス2Lサイズを買ったし、桃も何個か買い置きしてたな。

 

     相馬「かしこまりました」

相馬さんは、カウンターへ戻っていく。

 

   デュアン「ところで椎葉さん?ここのパフェ、オレに奢らせてくれないか?」

 

    椎葉「え! ふぇぇ~、悪いよ、自分の分は自分で払うから……そのつもりだったら、もう少しやすいのにしたよ」

 

   デュアン「ダメだよ。そう言うと思ったから、注文してから言ったのに……それに今日は最初っから、奢るつもりだったんだって」

 

    椎葉「そうだったの?でも、どうして?」

   デュアン「いや、ただ単純に、椎葉さんにはこれからお世話になるわけだし……既に結構迷惑を掛けているだろ?だから、オレからもお返しがしたかったんだ……ま、オレの我儘でもあるし」

 

     椎葉「デュアン君に迷惑掛けてるのは、こっちのほうだよ……それにワタシがやりたくてやってることでもあるんだから、やっぱり自分で払うよ」

 

   デュアン「椎葉さんは、オレの心の穴を埋めてくれるんでしょ?」

     椎葉「へ?うん、そのために来たはずだよね」

   デュアン「ああ、それにはオレが、諦めないで自分のやりたいことをちゃんとやれるようになれればいいはずなんだ……今、オレがやりたいのは椎葉さんにパフェを奢ることなんだよ」

 

と言うか、格好を付けさせろ。

 

     椎葉「……デュアン君って、ときどき強引だよね。いくらなんでも、こじつけっぽいよ」

 

   デュアン「ダメだったか?」

     椎葉「ダメじゃ、ないけど……本当にいいの?」

   デュアン「勿論さ、そのほうがオレも気兼ねなく椎葉さんに頼れるからさ」

 

     椎葉「……そういうもの?でも……ふふふ、変わってるね、デュアン君。そこまでして、おごろうとする人、珍しいと思うよ」

 

   デュアン「そうか……?」

     椎葉「うん、絶対変、えへへ」

   デュアン「そうなのか……」

 

     相馬「飲食業をやってる私の経験から言えば、そう珍しいことでもないがな」

 

   デュアン「そ、相馬さん!?」

     相馬「私は耳がいいんだ。お待たせいたしました、お客様?」

     椎葉「わあ、すっごく可愛い!」

椎葉さんも女の子だ、運ばれてきたパフェに瞳を輝かせている。

 

     相馬「お奨めだと言っただろう?見た目でなく、味も保証しておこう」

 

     椎葉「楽しみです。ところで……珍しくないってそうなんですか?」

 

     相馬「ああ、私は動物の雄と男の違いだと認識している」

おい、コラ。動物で例えるな。

 

     相馬「どうも男というのは、特定の女の前にすると、財布の紐が緩くなる生き物らしい。要するに、人間独特の求愛行動の一種なんだろう」

 

超短絡的すぎるだろう・・・。まあ、間違ってないのが困るんだよなあ・・・。でも、まだ、タイミングが大事だよな。

 

     椎葉「きゅ、きゅうあ?……ふぇ、ふぇぇぇぇッ!?」

顔を真っ赤にする椎葉さん

 

   デュアン「ちょ、ちょっと相馬さん!これは椎葉さんへのお礼のつもりで言っただけなんだけど……」

 

オレは少し、顔を赤くしながらそう言う。

 

     相馬「なんだ、違ったのか?まあいい、溶けないうちに食べてくれ」

 

だが当の本人はあっけらんとして、引き上げてしまう。

まあ、微妙に合ってるのが・・・な。

 

     椎葉「……~~~っ」

   デュアン「椎葉さん?え、えっと……せっっかく頼んだんだし、食べてみない?……ってか、別に椎葉さんのこと、餌付けしようとかじゃないからね、本当だよ?」

 

     椎葉「餌付けだったの?」

   デュアン「ちゃうわ!それは言葉の綾だ。う~ん……」

     椎葉「ふふ、わかってるよ。デュアン君は、誰が相手でも優しいもんね」

 

   デュアン「そうか?」

オレが優しい、ね。

・・・その逆は昔から言われてるけどな。

 

椎葉さんは、気を取り直したように、長スプーンを手に取った。

 

     椎葉「あ……」

   デュアン「ん?どうしたんだ?」

     椎葉「う、うん、今更だけど……パフェって可愛い食べ物だよね?ちょっと女の子っぽいかなって、一瞬、警戒しちゃっただけ……でも、多分大丈夫だから」

 

おいおいおい、それもポイント制に入るのか?改めて、大変な代償だよな。人のこと言えないけど。

 

 

   デュアン「男だってパフェやスイーツを食べたい時だってあるぞ……行きにくいだけで……ッ美味い!」

 

確か、アイツも無類の甘党だったよな。オレも、頭を使う時は甘いものを食べたいからな。

 

オレは、そう言い、食べる。

 

    椎葉「もう、デュアン君ったら大袈裟なんだから……あむっ」

椎葉さんもスプーンへ口をつける。

 

けど感想はなく、代わりに続けてもう一口。そこでようやく、ほっぺたをとろけそうに緩めた。

 

    椎葉「美味しいぃ~~~~~~っ♪」

その声に、カウンターの奥で新聞を広げていた相馬さんもかすかに頬を緩めた。

 

   デュアン「はははっ、そんなに美味しいの?」

    椎葉「うんっ、オレンジソースの酸味が強くてね、アイスの甘さと合わさると、もうぅ~~甘酸っぱくて最高なんだよ!」

 

   デュアン「ほぅ……ピーチも美味しいけど、そっちも良さそうだ」

普段、あんまり甘いのを食べないからな・・・。

 

    椎葉「うんうん!デュアン君も一口食べてみなよ、本当に美味しいからっ」

 

   デュアン「それじゃあ、一口ずつ交換する?」

    椎葉「いいよ!実はピーチも気になってたんだ」

椎葉さんはにこやかに応じてくれる。

やっぱり、女の子なんだな。と思った

 

    椎葉「わっ、ピーチも美味しいぃ~~~♪甘くて美味しい」

  デュアン「いや、オレンジパフェも言うだけあるよ!柑橘系のパフェって珍しいけど、かなり美味いぞ」

 

    椎葉「生クリームって、レモンを垂らすと固まってクリームチーズぽくなるでしょ?」

 

  デュアン「あー……確かに」

    椎葉「珍しいのは扱いがちょっと難しいからじゃないかな。それも含めて、完成度高いと思う」

 

   デュアン「ふむ……確かに」

     椎葉「ワタシもパフェは作ったこと無いけど、こんなに美味しいなら今度挑戦してみようかなー」

 

あー・・・オレも試してみるかな?

 

     椎葉「ふふふ、美味しいものって食べると笑顔になっちゃうよね」

 

   デュアン「だな」

椎葉さんは言葉通り、幸せそうにパフェを口へ運んでいる。

良かった。

その顔を見て、心からそう思えた。椎葉さんをここへ誘ったのは正解だな。

 

     椎葉「あれ?」

急に椎葉さんがポケットへ手を伸ばす。

 

   デュアン「ん?」

     椎葉「そうじゃなくて、欠片の小瓶が……やっぱり、中身が戻ってきてる!」

 

   デュアン「え?まさか、オレの心の穴が埋まったってこと?」

     椎葉「そんなにパフェが美味しかったの?」

多分、違うと思う。

 

   デュアン「いやいや、さすがにそれはな……ッ」

何だ・・・今の感覚。

心臓が激しく鼓動を刻んだ・・・

 

     椎葉「デュアン君?どうかした?」

   デュアン「ん……なんでもないよ」

未だ暴れる心臓を押さえつけるように胸を押さえた。

 

本当に恋というものが分かってきた気がする・・・

 

     椎葉「けどどうして、心の穴が埋まったんだろう?もちろん、良いことだと思うけど」

 

それは多分、椎葉さんの笑顔のお陰だと思う。それだけじゃなく、本当に椎葉さんが好きで、好きな女の子の笑顔で満たされたんだと思う。

 

   デュアン「……さ、さあ。オレには皆目検討が付かんよ」

椎葉さんがパフェを口へ運ぶ。オレも釣られて、パフェを食べた。

 

さて、どうしたものか。オレは嘘ばかりを吐いている、愚か者だしな。でも、気持ちだけは嘘をつくことはできなかったようだ。

 

   デュアン「あっと」

無造作にスプーンを差そうとして、思わず止めてしまう。

さっき一口ずつ分け合ったとき、椎葉さんがスプーンを入れた場所だった。

 

     椎葉「デュアン君?」

   デュアン「ふむぅ……理由が分からないと、方針とか決めづらいよな……って」

 

オレはそう言いながら、ほんの少しずらしてスプーンを差す。

よく見ると、椎葉さんもオレが口付けた部分を避けながら食べていた。

 

    椎葉「そうだね、でも思ったより簡単に埋まっていきそうでよかったかな」

 

   デュアン「だな」

心に穴が空く、というのは諦めを受け入れてしまってる状態だったな。

 

オレは、最初っから諦めていたんだな・・・。

・・・だとしたら

 

    椎葉「デュアン君、そんなに考え込まなくても、パフェが溶けちゃうよ?」

 

   デュアン「お、おお……ん?」

いつの間にか、椎葉さんが口をつけたところ以外、もうスプーンを付ける場所がなくなっていた。

神の悪戯か!と言いつつ、気にして気にしてもしょうがない。それに椎葉さんも普通にしてるんだから、ほら!

 

    椎葉「え……えっと……~~~っ」

・・・って、あれ?椎葉さんまで、スプーンを付ける位置に困っているようだ。

 

   デュアン「おやおやー?ひょっとして、オレが口を付けたところ、気にしてる?」

 

ちょっとからかってやろう。と軽口を叩いた。

すると椎葉さんの顔が、首から額へ向けてみるみる赤く染まっていた。

ああ、可愛いな。ほっこりする。

 

    椎葉「でゅ……デュアン君だって、ワタシが食べたところ避けてるでしょ?」

 

   デュアン「oh……気付いていたの?」

    椎葉「だ、だからワタシもマナーとして、一応避けてるだけ」

   デュアン「えー……じゃあ、椎葉さんはオレと間接キスになっても……ぐ!」

 

自分で口にしておきながら、恥ずかしさの余り口から煙を吐き出しそうだった・・・。流石に異性と間接キスは・・・

 

いや、間接キスが何だ!別に、ペットボトルの飲みかけや、食べかけじゃあるまいし、スプーンで付けたわけじゃない。

 

   デュアン「ふふ……オレは平気だ」

    椎葉「そ、そんな全然平気そうじゃない言い方されたら、余計意識しちゃうでしょうっ」

 

そのとき、がさっと音がして振り返ってしまう。

相馬さんが顔を隠すように、新聞を持ち直していた。

バレバレですよ・・・

 

    椎葉「むー……こ、これくらい友達同士なら、普通じゃない?」

ふむ・・・ん~・・・一理あるかもな。でも一応、異性だぜ?

とう言うか、昔のオレだったら、絶対に気になかったのに・・・

 

 

   デュアン「そうだな……普通に一口交換したもんな」

    椎葉「そうだよ、ワタシの方がお母さん役なんだから、大きな声で騒ぐほどじゃないよ」

 

   デュアン「そうだな……そうかな……?」

    椎葉「もちろん、残さず食べないと失礼だもん」

   デュアン「それもそうだな」

オレもスプーンでパフェをすくい、食べる

意識してもしょうがない・・・

 

    椎葉「……~~っ……~っ」

椎葉さんの顔が桃色に変わっていく。更に朱色、鮮紅色とみるみる赤みを増していった。

 

   デュアン「やっぱり、意識してるじゃないか!!って……」

    椎葉「ぶほッッッ!!?」

椎葉さんの頭の上から、ボンッと勢いよく煙が出たように感じた。

 

   デュアン「ほわっ!?……椎葉さん、大丈夫?」

オレはへんな声でびっくりし、椎葉さんに声をかける

 

    椎葉「……っ、……っ!」

突然、椎葉さんのスプーンが伸びてきて、残りのオレのパフェがごっそり奪い取られてしまう。

 

   デュアン「ほわぁ!?何をするだァーッ……これじゃもう、どこへ口を付けても……間接キスじゃないか」

 

    椎葉「でゅ、デュアン君が……悪いんだからねっ」

なぜかピーチパフェを口いっぱいに頬張りながら、睨みつけられた。

解せぬ。

 

    椎葉「だ、だって……デュアン君のせいで、ち、ちっとも味がわからなかったんだもんっ」

 

   デュアン「ほら……頬に付いてるぞ」

オレは、椎葉さんの頬に付いていたクリームを親指で取り、それをペロッと舐めた。

 

     椎葉「~~~っ」

椎葉さんは顔を真っ赤にし、そのまま手洗いへ駆け込んでしまう。

 

   デュアン「椎葉さん?……、……気分でも悪くなっちゃったのかな?……それともトイレを我慢してたのかな?」

 

と頭を搔きながら、そう呟くと、相馬さんが新聞を下ろして声をかけてきた。

 

     相馬「デュアン君、パフェはアイスが溶けきる前に食べきってほしいものだな」

 

   デュアン「す、すみません……相馬さん。で、でもしょうがないじゃないですか……間接キスですよ?」

 

     相馬「ふむ、私に人間の気持ちは分からない。でも君なら椎葉さんと同じことをすれば、彼女の気持ちが理解できるかもしれないぞ」

 

   デュアン「椎葉さんの気持ち……か」

     相馬「間接的唾液交換のことなら、椎葉さんだって覚悟の上だろう。気にすることはないさ」

 

   デュアン「いや……流石に異性相手だと……意識してしまうもんだ……くそっ……オレ初めてこんな気持になったぞ」

 

少なくても、前はこんなんじゃなかったな。

 

すると、御手洗いの方向からどんどんと扉を叩く音が聞こえた・・・

動揺しすぎだよ、椎葉さん。いやそれが普通か。

 

     相馬「さあな、私には人間の気持ちはわからない」

   デュアン「……オレもこんな気持になったのは初めてですよ!」

確かに、死ぬほど恥ずかしいわな・・・

 

     椎葉「お、お待たせ」

   デュアン「大丈夫だ問題ないよ……それより、さっきの音は?」

     椎葉「えっ、な、なんのこと?ワタシは聞こえなかったけど」

   デュアン「え!?う~ん……気の所為だったのかな?」

確かに、叩く音が聞こえた・・・のかな?

 

     椎葉「………」

   デュアン「……」

再びテーブルを挟むものの、目を合わせられない。

分からんが、顔から火が出そうなほど熱くなってるのが分かる。

頭の中が真っ白で何も言葉が出てこない。

 

     椎葉「……デュアンくんも、食べたんだ」

   デュアン「ん?」

     椎葉「パフェ」

   デュアン「まあ……残しちゃったら、もったいないお化けが出るからな……」

 

     椎葉「……平気なんだ」

   デュアン「気にしたら負けだ……それに、気にしてたら、完食できないよ?」

 

     椎葉「そうだけど、デュアン君は平気なんだなと思ったから」

   デュアン「あのな……オレは平気じゃなく、平気を装ってるだけだよ」

 

     椎葉「え?」

     相馬「パフェは、溶けないうちに食べてくれると嬉しいんだがね」

 

     椎葉「え、ええ、そうですよね」

   デュアン「ああ、溶けて混ざっちゃったら、せっかくの盛りつけが台無しだもんな」

 

オレは、そのまま二口目を食べる。

 

    デュアン「…………」

      椎葉「……~~~~~~~っ」

悶絶しそうになるのを必死に堪らえながら、平静を装う。

何故か椎葉さんまで身をくねらせていた。本当に謎だ

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep49 不機嫌

 

 

 

~~~~~~

 

  デュアン「そういや、今日は金曜日だったな。……、……そうか……金曜日か」

 

明日から2日間会えないのか・・・。

2日会えないぐらいでこんなに苦しいものだったのか?

 

オレは、この気持ちで、他の愛する女性にこんな事をしたのか?しかも死別という最悪の別れで・・・。

 

・・・・。オレは本当に最低な男だな。

 

オレは、飯を食べ終わり、学校へ着く。

そして、悩みや深い考えなど、一旦隅に置く。

 

 

 

~~

 

   デュアン「……あっ」

廊下で、ばったり椎葉さんと出くわしてしまった。

途端に心臓が暴れ出す。し、心臓麻痺?!とジョークを考えられるなら、大丈夫だろう。てか、心臓麻痺は、心臓の機能が停止することだよな。

 

     椎葉「おはよう、デュアン君!」

   デュアン「お、オハヨウゴザイマシタ……椎葉さん」

オレは、あまりにも緊張状態で、変な言葉で挨拶を返してしまった。

 

     椎葉「ふふふっ……どうしたの?デュアン君」

   デュアン「悪い……ちょっと、ね」

此処は誤魔化すことにする。

 

     椎葉「そう?……じゃあ、また後でね?」

    デュアン「おう」

実にあっさりしたものだ。あっさりしたラーメンよりもあっさりしたもので、椎葉さんは御手洗いの方へ行ってしまう。

オレだけ、意識してるとか・・・やっぱり、オレは単純だな。

 

いや、パフェのことで過剰になりすぎたのか?間接キスが何だ。オレはガキか?

 

     保科「おはよう、デュアン」

    デュアン「ああ、おはよう……柊史」

オレは、数少なき友達に挨拶をした。

 

     海道「おお、デュアン、柊史!お前達も今来たとこか」

     仮屋「聞いてよ、デュアン、保科。こいつ、明日遊べるか、誘ったんだけど……遊びに行く場所聞いたら何処へ行く?って聞いたら……ひどいんだよ」

 

    デュアン「何処へ行くって行ったんだ?」

     海道「ん?ホテル」

     保科「ホテル?泊りがけってことか?」

     海道「いや、ラブホだけど?」

     保科「は!?」

    デュアン「ちなみに、何しに行くの?」

     海道「え?休憩にラブホって行かないのか?」

    デュアン「……どうだろうか?まあ、確かにルームサービスがあるし、休憩するなら……安いっちゃ、安いのかな?」

 

学生だけで泊まることは出来ないからね。

ラブホって、休憩で約5000円弱だからな・・・

泊まっても1万円も行かないよなあ。

寧ろ、最近のラブホって、カラオケとかあるし・・・。

地方によっては、2000円ぐらいで済むんだよな。ルームサービスは無いが・・・

 

ま、泊まるならマンガ喫茶がオススメかな?俺的には。

って、誰に説明してるんだ?バカか?オレは・・・

 

     仮屋「ええ!?何言ってるの……デュアン」

     保科「そうだぞ、デュアン」

   デュアン「別にイヤらしい目的で行くわけじゃないんだろう?」

     海道「いや、イヤらしい事をしたいかと言われれば、したいけどさ……そういうのって……もうちょっと親密になってからのほうが良いんじゃないのか?」

 

     保科「まあ……軽はずみでやるもんじゃないな……」

   デュアン「ああ……その通りだ。まあ、流石にデートプランにラブホはないな……」

 

よくよく考えれば、デートプランに組み込むとかバカだろ。

 

     仮屋「そうだよね!やっぱりそうだよね?」

     海道「ネットって役に立たないな」

     保科「……とにかく、自分で考えろ」

     海道「わ、分かった……」

     仮屋「……」

   デュアン「海道……お前が立てたデートプラン、オレに見せろ」

     海道「?ああ……」

 

海道は、メールで内容を送ると・・・

 

   デュアン「……」

う~ん・・・構成自体は大丈夫だが・・・。

やはり、ラブホは無いよ。無い無い、絶対に無いわ

 

   デュアン「ラブホは外すんだ……その代わり」

オレは、耳打ちで海道に「ギターとドラムを練習出来る場所」を幾つか提供する。

 

俺が提供する場所の運営は、一応ドリンク飲み放題だからな。

まあ、せいぜい頑張れよ。

 

     海道「おぉ~!それはナイスアイディアだ……ありがとな、デュアン」

 

   デュアン「おぅ、頑張れよ」

告白には成功している。後は、デートプランで徐々に好感度を上げるしか無いな。愛を深め合えば・・・いずれ、ね。

 

    保科「………、……」

柊史は、何か思い詰めている。何を思い詰めているのだろうか?

まあ、綾地さんの事が好きだけど、告白するか踏みとどまってるのか?

いや、告白自体はしてる、のか?

こりゃ、綾地さんの反応を見てみるしか無いだろうな・・・

 

と言うか、人の心配するより、自分の心配したほうが良いだろうな。

 

~~~~~

 

  デュアン「……」

オレは、窓を開け、外の景色を眺めている。

すると、視線を向けられた気配がし、その方向に目を向けると、椎葉さんが此方を見ている。しかし、直ぐに向き直した。

 

オレも椎葉さんが気になる為、椎葉さんに視線を向ける。

 

 

・・・もうすでに、答えが出ている。

 

相手から告白を待つのは、男として負けてる気がする。何を怖気づいてるんだ?死ぬのは怖くないのに、告白が怖い?そんなのオレらしくない。

 

 

~~~~~

昼休みに、柊史に呼び出されていた。

 

   デュアン「どうした?」

     保科「なあ……デュアン。綾地さんの願い……知っていたのか?」

 

   デュアン「昔から知っていた。……、……だがな。それは叶わない願いなんだ……そして、綾地さんは絶対に後悔する」

 

     保科「どうして、だ?」

   デュアン「……、……綾地さんの願いはそう単純じゃないってことだ……"離婚する前"がどういう意味を持つ?現在、綾地さんの母親と父親は別々に結婚している」

 

     保科「……そう聞いてる」

   デュアン「綾地さんは……気づいていない。それが、どれほど愚かな事なのか」

 

     保科「両親が戻って来てほしいという願いが、何故……愚かなんだ!」

 

   デュアン「いいか……"両親の離婚を、なかったコトにする"って願いは間接的な時間遡行の意味を持つ」

 

     保科「!!!」

   デュアン「お前は、綾地さんに告白した。綾地さんも……多分、柊史の事を好きだと思う。……、……だが、綾地さんの恋愛は叶わない……だから、多分。苦しい決断で断ったんだと思う」

 

     保科「……ッ……」

   デュアン「オレは、綾地さんの願いを叶えられる可能性がある魔法を所持している」

 

     保科「その……魔法……とは?」

オレは、柊史にその魔法を教えることは出来なかった。この魔法の行使は、まだ未完成だ。

 

  デュアン「……、……この魔法に関しては、まだ完成していない……10年以上掛けてるのにだ」

 

    保科「……、……」

  デュアン「それに、保科もON/OFFの切り替えが出来るだけで……母親と全く同じ能力に進化してるわけじゃ無いだろう?」

 

    保科「?ああ……まぁな」

  デュアン「綾地さんが完遂するまで……5ヶ月も無いと思う。お前は1ヶ月以内に能力を進化させろ……ではなと、オレの魔法も完成できない」

 

    保科「……わ、分かった」

 

~~~~~

 

放課後になっちまったな。

さて、どうやって・・・告白しようか。

 

    綾地「えっ、こんな短期間に?もう、ここまで欠片が戻っているんですか?」

 

    椎葉「ワタシもびっくりしてるんだけど……あっ」

    保科「?」

  デュアン「……???」

    綾地「デュアン君、ちょうどよかったです」

  デュアン「何が?」

    椎葉「き……昨日のこと、綾地さんにも報告してたところなんだ」

 

  デュアン「ああ……欠片のことね。まあ、それもこれも、椎葉さんのおかげだね」

 

    椎葉「そんなことないよ、た、大したことはしてないし。少なくても半分は、でゅ……デュアン君が自力で回復したんだと思うよ」

 

  デュアン「謙遜することはないよ。結果は出てるんだからさ」

椎葉さんは、恥ずかしげに頬を染めている。

うむぅ、やっぱり側にいるだけで照れてしまう。

 

    保科「ほほぅ?」

  デュアン「な、なんだよ……柊史」

    保科「い~やぁ……べっつにー」

柊史はニヤニヤと笑っていた。

 

    綾地「えっと、いったいどうやって穴を埋めたのか気になっていたんですけど……ひょっとして、その、お2人は……こ、交尾をされたわけではないですよね?」

 

    保科「!?」

    椎葉「ふっ、ふぇぇぇぇ~っ!あ、あああ、綾地さんなに言い出すんだよ!?」

 

  デュアン「HAHAHAHA」

面白くて笑っちゃうぜ

 

    綾地「いえ、お2人の様子がおかしいというか、ただならぬものに感じてしまって、つい」

 

    保科「オレも気になるんだよなー」

  デュアン「ただならぬものって……」

    椎葉「ごめん、ワタシが一人でテンパってて、それがデュアン君に伝染したみたいで、ね」

 

  デュアン「?オレのが椎葉さんに伝染したのかと思ってたぞ」

    椎葉「ふぇぇぇ?そ、そうなの!?」

    綾地「とにかく、様子がおかしいのは、心の穴と無関係ということですか?」

 

そう言われると・・・微妙な感じだよなあ・・・・

 

  デュアン「無関係と言えばウソになるが……関係あると言えば無い……が今の状況かな?」

 

    椎葉「……本当のことを言うと、ワタシにもどうしてこんなに順調なのか分からないんだよ」

 

  デュアン「…………」

    保科「デュアン?」

 

    椎葉「昨日なんか、一緒にパフェを食べただけで欠片が戻ってきちゃうし」

 

    綾地「一緒にパフェを?」

  デュアン「ん?ああ……急に食べたくなっちゃって、他にも用事があったん――――そうだ!昨日は結局、今後の方針について、殆ど話せなかったんだ」

 

忘れるところだった。いや忘れないけど・・・

 

    椎葉「そうだよね、ワタシも気になってたんだけど……。なぜか今日は、デュアン君に声を掛けるのを躊躇っちゃって……」

 

  デュアン「ふむ……椎葉さんも?」

    椎葉「へ?」

あっ・・・やべぇ

 

  デュアン「いや……こっちの話」

バカかオレは、椎葉さんがオレごときに意識を向けるわけ無いだろう。

期待しすぎ・・・

 

    綾地「なるほど、もうそんなに……羨ましいです

 

  デュアン「?」

 

今、綾地さん。何か言ったのか?

    

    椎葉「綾地さん?なにか言った?」

    綾地「いえ、話し合いをするなら、部室でないほうがいいかもしれませんね。そろそろ因幡さん達も来る頃ですから」

 

    保科「あとは、オレと綾地さん達に任せろ」

  デュアン「ありがとな、柊史」

    椎葉「じゃ、じゃあまた、ふ……2人で話し合いだね」

  デュアン「ああ……そ、そうだな」

嬉しい。そう思えるほど・・・オレは人間に振り切ってきてる。

 

~~~

部室から出ると、因幡さんと会長と出会った。

 

    因幡「あれ?デュアン先輩と紬先輩」

    戸隠「おやま、せっかく様子を見に来たのに、もう帰るところなのかな?」

 

  デュアン「あー……ひょっとして、なにか用事でした?」

    戸隠「あれ、前に言わなかったかな?部室へ遊びに行っては、後輩のじゃまをするのがわたしのあこがれだって」

 

  デュアン「遊ぶのは構いませんが、相談者が来たら……ちゃんと仕事してくださいよ……一応、綾地さんとオレの信頼も掛かってるんですよ」

 

    戸隠「公私混合はちゃんと分けるつもりでいるよ?」

  デュアン「なら良いですが……」

すると、椎葉さんが、学ランの肘を掴んで引っ張ってきた。

 

    椎葉「早く行かないと、また話し合いの時間無くなっちゃうよ?」

   

  デュアン「ああ……すまない」

椎葉さんに向かって、謝罪する。

 

   戸隠「おやま、お邪魔だたかな?」

   椎葉「ご、ごめんなさい、今ちょっとワタシがデュアン君の悩み相談を担当することになってて」

 

   因幡「昨日の朝に言ってたヤツですよね?」

  デュアン「ああ」

   因幡「仕方ないですよ。あのとき、先輩の様子がおかしかったですし」

 

  デュアン「えっ!?見てわかるほど変だった、のか?」

    因幡「紬先輩から挨拶されて、露骨に不貞腐れた顔をしてたじゃないですか。先輩のあんな顔、初めて見たから、私びっくりして声かけられなかったですもん」

 

  デュアン「いや……あれは違う!椎葉さんに向けたんじゃないんだ……うぅっ、そんなに酷かったのか?」

 

    因幡「紬先輩に感謝したほうがいいですよ?よく普通に対処するなって感心しちゃいましたよ」

 

・・・・。

 

    因幡「はは、ワタシは原因も知ってたからね」

    戸隠「ふーん、因幡さんでさえドン引きしてたのに、椎葉さんは平気だったんだ………むふふ、なにかが始まっちゃった予感がするね」

 

    椎葉「ふぇぇ~っ!な……何かって、なんです?」

    戸隠「大丈夫、安心して。わたしは応援させてもらうから、ねえ、因幡さん?」

 

    因幡「うーん、先輩にはちょっともったいない気がしますけど、私は紬先輩の味方ですからね!」

 

  デュアン「……、……」

    椎葉「め、めぐるちゃんまでっ、そ、そそ、そんなこと言われても……」

 

  デュアン「会長、因幡さん……二人して、椎葉さんを困らせないでくださいよ」

 

オレは、椎葉さんの袖を引っ張り、2人の間から救い出す。

そして、お姫様抱っこをする。

 

    因幡「まさかの先輩がナイト役にっ……それに紬先輩がお姫様!?」

 

    戸隠「これは本格的にお邪魔みたいだね」

  デュアン「だから、そういうんじゃないですよ……椎葉さんが困ってたから助けてあげただけだから……」

 

    戸隠「ふふふ、ようがす。そういうことにしておくね」

  デュアン「……、……」

ふたりとも、部室へ戻った。

オレは、椎葉さんを下ろした

 

     椎葉「え、えっと、なんかごめんね、デュアン君」

  デュアン「気にすることはないよ、それに協力してもらってるのはこっちだ。迷惑じゃなかったかい?」

 

     椎葉「ううん、デュアン君こそ、迷惑だったんじゃない?」

  デュアン「全然迷惑じゃないよ」

     椎葉「ふふ、なんかおかしいね、ワタシ達。もう、さっさと行こう」

 

  デュアン「ふふふっ……そうだな」

 

~~~~~~~~

夕方に差し掛かってきていた。

 

    椎葉「けど、本当に迷惑じゃなかった?」

  デュアン「全然……気にしてないよ」

    椎葉「よく考えたら、もっとちゃんと否定しておくべきだったかもって……もし部の中にデュアン君のす、好きな子がいたら……誤解されちゃうんじゃない?」

 

  デュアン「~~~~ッ」

    椎葉「えっ!ひょっとして、本当にいたりする?」

  デュアン「居るよ……」

    椎葉「じゃあ、同じクラスの誰かとか?」

  デュアン「ほぅ?」

    椎葉「……デュアン君?」

  デュアン「クラスメイトに居て、部室のメンバーに居る……それがヒントだ……(ほぼ答えだがな)」

 

    椎葉「まさか、あっちこっちに好きな女の子が居るの?」

  デュアン「まさか……オレはヘタレの中のヘタレ何だぜ?告白も出来ない……キングオブヘタレに好きな人が何人も居るわけがないだろう」

 

    椎葉「だって教室なら仮屋さんとか、部室ならめぐるちゃんや綾地さんといるときも、凄く楽しそうじゃない?」

 

  デュアン「それは気のせいだ……綾地さんには柊史が居る。それにオレと綾地の関係は幼馴染だ。仮屋さんは、海道と付き合い始めてるし……因幡さんは、彼氏を作るって言うより、友達募集だろうな」

 

    椎葉「戸隠先輩とも、ずいぶんと仲良さそうだったし」

  デュアン「会長を恋愛対象には取れないね……ドゥヒン。それに……椎葉さんはまだオレのこと、未だにプレイボーイだと思ってるの?」

 

    椎葉「隠してるだけで、実は結構モテてそうな気がする」

椎葉さんはボソッと呟く。

 

  デュアン「ッフ……ありえんな。俺がモテるなら、海道や柊史はモテモテだろう……一応、これでもある程度、相手の心理とか読めるんだぜ?」

 

コールドリーディングやメンタルトレースとかな。

 

    椎葉「えっ!?わかるの?」

  デュアン「さあ?それを教えちゃ意味無いだろう……俺がくたばる前に当ててみなよ」

 

    椎葉「……」

  デュアン「……?椎葉さん?」

    椎葉「やっぱり全然わかってなさそう」

  デュアン「そりゃ、オレは椎葉さんじゃないからね」

    椎葉「………?」

  デュアン「まあもういいんじゃないか?今はどうやって心の穴を埋めるか話し合うんだよね?」

 

    椎葉「一緒にパフェを食べるだけでいいんなら、いっそ他の子にも頼んでみたら?」

 

何を怒ってるんだ?

 

  デュアン「ひょっとして、嫌になっちゃった?」

    椎葉「そうじゃないけど、悪い気がして……ねえ、デュアン君だってそのほうがいいんじゃないの?ワタシといるときより、みんなといるときのほうが楽しそうに見えるんだもん」

 

  デュアン「……"見えるけど見えないモノ"ってなんだと思う?」

    椎葉「え?」

  デュアン「いいから答えてみてよ」

    椎葉「……幽霊?」

  デュアン「ハズレだ……ヒントは形の無いモノだ」

    椎葉「………」

  デュアン「……?

 

    椎葉「……」

椎葉さんは走って行ってしまった・・・

 

  デュアン「ちょっと待って……椎葉さん!!」

 

まずいな・・・怒らせちゃったかもしれん・・・

~~~~

 

   椎葉「デュアン君は、こっちじゃないでしょう?」

  デュアン「……なぜ、怒ってる。オレ、なにか悪いこと言ったか?」

   椎葉「そんなの、ワタシにもわからないよっ」

  デュアン「……、……そうか……これだけは、言わせてもらうよ。椎葉さんがオレの心の穴を埋めてくれたんだ……」

 

   椎葉「そ……そんなのわからないじゃない、他の子でもいいかもしれないでしょう?」

 

  デュアン「わかった……。オレの心の穴を埋める手伝いをするのが嫌になったんだね。じゃあ辞めようか」

 

   椎葉「……、……え?」

  デュアン「椎葉さんがイライラしてるなら、無理に手伝う必要が無いでしょ?それに、心の穴が中途半端になっても……問題ないし。綾地さんからは適当に誤魔化しとくよ」

 

   椎葉「……ワタシはそんなこと言ってない!!」

  デュアン「オレは言ったよ……"椎葉さんといると安心する"って」

   椎葉「自信がなさそうな言い方だよ」

  デュアン「……なら、こうしよう。今日は一緒に、手をつないで帰ろうか」

 

   椎葉「えっ、ふぇぇぇ!?な、な、なに言い出すの、デュアン君」

  デュアン「……嫌なのかい?これで心の穴が埋まったら嘘じゃないって証拠になるよ……どうだ?」

 

   椎葉「で、でもそんなの、は……恥ずかしいよ」

  デュアン「これで心の穴が埋まるなら安いものだろう?」

   椎葉「で、で、でも……突然だし、脈絡がないよ」

  デュアン「……椎葉さんはオレを疑って来たのに、それを晴らそうと……差し伸ばした手を振り払うんだ……傷ついたなー。あー……手を繋いでくれたら、癒やされるのになー……残念だわー」

 

   椎葉「うっ、うぅぅ~、そ……そもそも、どうしてワタシと、て、手なんか繋ぎたいの?」

 

  デュアン「んー……椎葉さんじゃなきゃダメだという証明かな?」

   椎葉「へ……変なことしない?」

  デュアン「手を繋ぐくらいで、変なことなんかできないよ」

オレは椎葉さんの隣に並び、おそるおそる差し出された手を迎えに行った。

 

 

   椎葉「……ッ!!?」

  デュアン「………ッ」

手と手が触れた瞬間、いきなり心拍数が跳ね上がる。

心臓が口から飛び出しそうなんて言葉があるけど、比喩表現でもなんでもなかったらしい。本当に飛び出しそうになる。

これが・・・好きな人と手を繋ぐ・・・か。

 

俺たちはただ、黙ったまま信号待ちをし、黙ったまま横断歩道を渡った。

 

   椎葉「………」

 

会話がない。

何も会話せずとも、汗をかいていても、どちらも手を離そうとしなかった。

 

やがて、分かれ道が近づいてくる。

 

あの角を曲がったら、もう真っすぐ歩くだけだ。

 

   椎葉「……っ」

  デュアン「…………」

それでもまだ、何を行って良いのか分からない。

 

そのとき、微かに椎葉さんの手に力がこもった。

 

   椎葉「ね……ねえ、もう少しだけ、ゆっくり歩いてくれる?デュアン君、ワタシに歩幅を合わせてくれるのは……ありがたいんだけど……もう少しだけ一緒に居たいの……」

 

  デュアン「ああ……分かりました、お姫様」

と言うと・・・椎葉さんは顔を真っ赤にした。

 

もう10Mも無い。さっさと告白しちゃいたいのに・・・言葉が詰まる。

 

   椎葉「ふふっ」

椎葉さんは、はにかんだように笑みを浮かべていた。

 

  デュアン「?」

   椎葉「本当に……デュアン君は優しいんだね」

  デュアン「……そうか?」

   椎葉「うん……そうだよ。歩幅を合わせてくれたり、歩道を歩くとき、自分は車道の方に歩いたり」

 

  デュアン「……それは、優しさとは言わないよ。ただ当たり前のことをしてるだけだよ」

 

そう言いながら、ゆっくりと歩く。

でも、限界はある。

 

   椎葉「あっ……デュアン君のうちはそっちだっけ?」

  デュアン「……ああ」

   椎葉「……」

  デュアン「…………」

わかってるはずなのに、別れの言葉を繰り出すことも、手を離すのも躊躇ってしまう。

今までのオレとは大きく違っている。

 

明日から土日で学院は休み・・・。

椎葉さんと2日も会えなくなる。

たかが2日だ。6桁以上は生きているオレからすれば一瞬の出来事なのに。何故か、長いと感じてしまう。

 

   椎葉「じゃ、じゃあ、そろそろ……」

  デュアン「……っ……待ってくれ」

   椎葉「え?」

  デュアン「その……、……えっと」

   

   男の子「あー!見て見てお母さんっ、この間の人がいるよー」

このタイミングで邪魔をするとは・・・しかも、この間、椎葉さんを男の子みたいだと指差していた親子連れか・・・。

 

最悪のタイミングだ・・・

 

   男の子「あの人、お姉ちゃんだったんだね、女の子だ」

    椎葉「……え?」

   男の子「だって、男の人と手を繋いでるよ?お父さんとお母さんみたーい」

 

    母親「こ、これっ……ふふふ、いつもごめんなさいね」

  デュアン「……オレは問題有りませんよ」

 

親子が通り過ぎていくのを2人で見送ってしまう。

 

    椎葉「デュアン君と手を繋いでいれば、この格好でもちゃんと女の子に見えるんだね」

 

  デュアン「椎葉さんっ」

こうなったら・・・出たとこ勝負。博打だ。

 

告白して良いのは、フラれる覚悟のあるヤツだけだ。

 

    椎葉「は、はい?」

  デュアン「会長から貰った遊園地のチケット、まだ残ってるんだ……だから土曜日か日曜、一緒に行ってくれないか?」

 

    椎葉「……っ」

  デュアン「椎葉さんと、行きたいだ……ダメかな?」

 

再び沈黙が走る・・・。

 

答えを待つ。

 

 

~~~~~~~



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Ep50 高熱が出たときほど本音が出やすい

 

 

~~~~

金曜日の放課後、椎葉さんを再度、遊園地へ誘った。

しかし―――――

 

   椎葉『ご、ごめんなさいっ』

と断られてしまった。

 

 

  デュアン「………………」

此処まで、ダメージが大きいとは。

何もかもやる気がしない。とは・・・・

 

・・・フラれて。精神的ダメージを受けて・・・寝込むのは流石にヤバいだろ。流石は豆腐メンタルと自負していることだけはあるぜ。

 

 

誰も居ない、寂しい。眠い・・・

 

  デュアン「……、……」

オレは、柊史に「学校を休む。先生には風邪を引いたと伝えてくれ。」の旨のメールを送った。

 

 

  デュアン「……林檎でも食べるか……」

オレは、怠い身体を駆使して、台所へ立ち、林檎の皮を剥く。

 

するすると剥けたが・・・ミスって、ざっくりと親指の静脈と手の窪みを深く切ってしまった・・・。

ダラダラと血が流れているが・・・痛いというより、熱い。

それに、心がズキズキして・・・手の痛みより心が痛い。

 

・・・これは、オレにとっての罰なのだろうか?

 

・・・。

 

今は、誰とも会いたくない。会えても、どんな顔をしたらいいのか分からないからだ・・・。

 

剥いた林檎をカットし、食べる。

ウィーダーゼリーを飲み、空になったウィダーゼリーをゴミ箱へ捨て、睡眠薬を飲んで、横になろうとした・・・その時、窓ガラスを叩く音がした。

此処、最上階だぞ?

多分、アカギだろう・・・

 

   デュアン「……開いてますよ~」

と声を掛ける。

 

    アカギ「なら、入るぞ」

と入った途端、人間の姿になる。

 

   デュアン「どうしたんだ?たかが、病気と精神が弱っているオレに何の用だ?」

 

    アカギ「わざわざ羽を運んでやったというのに、随分とご挨拶じゃな」

 

   デュアン「そりゃどうも……ご苦労様で」

    アカギ「お前が吸収してしまった紬の欠片、回収が遅れているようなので様子を見に来てやったのだ」

 

   デュアン「ほとんど返したはずだぞ」

    アカギ「足りん」

   デュアン「…………」

何もかも気力が失せる。

 

生きてるってことにも・・・

 

   アカギ「前に教えてやっただろう?どうして、さっさと紬と交尾しないのだ!」

 

  デュアン「本気で言ってるのか?……動物の価値観を押し付けるな……人間の交尾ってのは好きな人同士でやるものだ……」

 

   アカギ「まったく、お前もオスの癖に情けない……紬にも減るものではないのだから、さっさと交尾して来いと説得したのだがな……いきなり枕を投げつけられて、拒否された」

 

  デュアン「当たり前田のクラッカーだ……お前は、一度、貞操観念というものを勉強しろ。」

 

クラクラする。なんでこんな事を説明しなきゃならんのだ。

 

   アカギ「仕方がないから小僧、お前のところへ来てやったのじゃ」

  デュアン「椎葉さんが嫌がってるんだろう?なら、オレに協力を仰いでも無駄だ……オレは嫌がる相手に無理矢理するのは絶対に嫌だね。それをするぐらいなら……、……意味なんて無い」

   アカギ「意味ならあるじゃろ?欠片が回収できる」

  デュアン「っ……!」

オレは怒りに染まった・・・

 

  デュアン「……け……な……よ」

   アカギ「?」

オレは此処まで頭に血が昇ったのは、盾の世界以来?いや、あれは憤怒の力の作用だ。

 

  デュアン「ふざけンじゃねェぞ!クソ鴉!椎葉さんの為、椎葉さんの為って言いながら、椎葉さんを一番傷つけてるじゃねぇか!!っぅゲホゲホ」

 

オレは、無意識にアカギの胸ぐらを掴み、血が流れた左手を握りこぶしを作る。

 

あまりにも頭に来て、大声を出した為、咳をしてしまった。

 

  デュアン「それに、椎葉さんは格好だけじゃなく、女の子っぽい行動も取れないはずだろ。それに実行しても、代償のせいで上手くいくはずがない」

 

   アカギ「たとえば口づけなどすれば、即嘔吐かもしれん」

  デュアン「椎葉さんにとっても、最低のファーストキスになる……一生癒えぬトラウマものだな……」

 

男女のキスがそうなら、ミュウになった状態で椎葉さんとキスをした場合・・・どうなるんだろうか?

 

今はそんなことはどうでもいい、か。

 

   アカギ「だが交尾には、オスもメスも関係ない。動物の行動じゃ」

  デュアン「……ま、確かに交尾なんて……所詮、付いているか付いていないかの差か……いやいや、人間にとってはそうじゃないんだよ、だから椎葉さんも嫌がってるんだ」

 

今は動物じゃなく、人間の話をしてるんだ。

 

交尾つまりセックスを恥も愛も無いなんて・・・何千年前の話だよ。

俺が元居た世界は、種の存続の危険だから、10歳で子供を作る家庭も存在してたよな・・・。

 

  デュアン「…………」

   アカギ「やれやれ、たかが生殖行動に意味を求めるのは、人間だけじゃぞ」

 

  デュアン「そりゃ……太古の昔にアダムとイヴというご先祖様が禁断の果実《知恵の実》を食べてしまったからだ……。それに、オレは結婚するまでは肉体関係を持つつもりは無いぞ……というか、どうやって椎葉さんを説得するつもりだ?」

 

   アカギ「まあそのときはそのとき、あっちがなんとかしてやろう」

  デュアン「……?」

   アカギ「ルールには抜け道もあるものだ、七緒は知らんだろうがな」

 

  デュアン「その抜け道とやら……魔女の代償を他者に代替わりさせるやつだろ」

 

一度試したことがあるな・・・・

 

   アカギ「何故知ってる!」

  デュアン「そりゃ知ってるさ……一度やったことがあるからな」

 

中学1年の頃に、綾地さんの代償をオレに代替えした事があったが・・・あれは、安易にオススメできない。

 

昔、綾地さんの代償を俺が引き受けたことがあったな。綾地さんの発情を引き受けて、ミュウになった途端、発情が襲ってきたな。我慢しようにも身体が熱く、凄くあそこがムズムズして、おへその辺りきゅ~なって、呼吸が乱れて・・・頭の中がおかしくなりそうな感覚。あれを我慢しろって言うのは無理難題だ。

すげぇよ、綾地さん。クールでカッコよくて・・・そして、誰よりも優しく、凛々しい・・・。

 

っと・・・話が逸れたな。

 

  デュアン「椎葉さんの代償を俺が肩代わりするってことだろう?それは、俺が女装することになるんじゃないのか?」

 

オレは外見上は女装しても何の問題も無い。ただ男女逆転したデートになるだけだ。・・・初見でそんなデート嫌だな。

 

   アカギ「安心せい……別の方法がある」

代償の肩代わり・・・か?

 

  デュアン「なんだか安心できないな……っ」

オレは、ソファーに寝そべった

 

   アカギ「しかしお前はいつまで寝ているつもりだ?」

  デュアン「さあな……」

   アカギ「もっとも、紬もこの二日ほど、ずっと部屋でゴロゴロしていたようだがな」

 

  デュアン「そうなのか……?それで、椎葉さんは今日はどうしてるんだ?」

アカギは椎葉さんを優先しているからな。風邪ではないだろう。

 

   アカギ「今朝はもう学校へ向かったはずじゃ」

  デュアン「それはなによりだな……オレは行く気が無いけどな」

   アカギ「ん?ひょっとしてお前、病気なのか?」

  デュアン「情けないことに風邪を引いちまったんだよ……」

オレは後ろ向きで、アカギと会話する。

 

   アカギ「だったら早く言わんか!感染ったらどうするのじゃ」

  デュアン「勝手なヤツだな……知るか、そんなこと……だったら、椎葉さんの所へなり、相馬さんの所へなり行けばいいだろう……病人のオレなんか放っておいてくれ」

 

オレはそう言う。

 

 

   アカギ「……人間は病気になると、すぐに死ぬのだからな」

  デュアン「人間はそれほど脆いんだよ……言葉一つで簡単に心が壊れ、死ぬヤツだっている。……、……人間は弱く脆く、そして我儘な生き物なんだよ……アカギ」

 

薬の効果が効いてきたのか?目が霞むんだが・・・?

あれ?眠気が来ない・・・違う。

 

高熱で、目眩がしてきてる・・・頭がくらくらする上に金槌で殴られたかのような痛み、喉が尋常じゃない痛み、全身が怠いを通り越して、激痛を感じている。それと、気持ちが悪い。吐き気もある。

・・・本格的にやべぇ。

 

   アカギ「……ん?どうした、小僧。おい今のは言葉の綾じゃ。まさか、本当に死ぬつもりないだろうな?」

 

  デュアン「……さ、ぁ……どうかな?」

   アカギ「それは困るぞ?欠片が回収できなくなる」

  デュアン「少しは、……寝かせ、……て……くれ、よ……。あぁ……疲れたよ、パトラッシュ……」

 

思考が追いつけず、意識が途切れるってことは・・・42度いってるな・・・と思いつつ

 

意識が完全に途切れてしまった。

 

   アカギ「おい、聞いてるのか?小僧!小僧!?」

 

 

……………………

…………………………

…………………………

………………

 

……?

 

     椎葉「あーっ、アカギ!窓が開けっ放しになってるよ?」

椎葉さんの声?あれ・・・幻聴まで聞こえてきてる?

 

    アカギ「なんじゃそれくらい」

アカギの声。意識が途切れる前に会話してたから・・・あれ?

どのくらいの時間が経過してるんだ??

 

    アカギ「あっちが玄関へ回って鍵を開けてやらねば、紬だって入って来れなかったのじゃぞ?」

 

     椎葉「むぅ……そうだけど、ずっと開いてたわけじゃないよね?」

 

    アカギ「無論じゃ。それに空気の入れ換えをせんと、伝染ったらどうする?」

 

確かにそうだ・・・。

とにかく、現状を確認しよう。

現在の体温・・・、41.6度だろう。意識を失ったってことは42度に到達してたんだろうな。

・・・・でも、あれ?本当に意識を失ったのか?

ダメだ、直前の記憶が完全に無くなってる。本当に意識を失ったんだな。

アカギが居なきゃ、本当に死んでたな

 

    椎葉「あ、そっか」

   アカギ「あっちはさっさと退散させてもらう、紬もほどほどにしておくのじゃぞ」

 

    椎葉「わかった、ありがとう。わざわざ知らせに来てくれて」

   アカギ「ふん、あっちは欠片が心配なだけじゃ」

    椎葉「そういう割には、ずいぶ慌ててたみたいだけどな?」

・・・ツンデレってヤツか?幼女でツンデレとか誰得?

 

ゆっくりと瞼を開けると、椎葉さんが目の前に居た。

 

  デュアン「っ……」

    椎葉「あっ、ごめん!デュアン君、起こしちゃったかな?」

  デュアン「……夢?」

    椎葉「へ?」

  デュアン「……椎葉さんが俺の部屋にいる筈がないないし……それに、なんだか……頭がぼんやりしてて……幻覚?」

 

身体がまるで鉛を付けられてるかのように重く、身体を動かすことが出来ない。金縛りとは違う感覚だ・・・。

 

    椎葉「デュアン君……ちょっといい?」

  デュアン「?」

椎葉さんの手が額に触れる。冷たくて心地いい。

 

    椎葉「わっ!?凄い熱だよ、なにか冷やす物とか、いつも使ってるお薬とかうちにある?」

 

  デュアン「……椎葉さんの手のほうがいい……どうせ、夢なんだから」

 

    椎葉「ダメだよっしっかりして、デュアン君?冷やす物と薬箱の場所だよ?」

 

  デュアン「多分、玄関を入って、すぐに収納スペースの部屋がある。そこの4番目の引き出しに入ってると思う……風邪薬は無いけど、中に氷枕があった筈だ」

 

    椎葉「わかった、探して見るからちょっと待ってて」

軽く前髪を撫でると、すぐ離れてしまう。

 

 

・・・寂しいものだな。顔を合わせづらいと思ってたけど、それでも会いたい。

本当に、本当の意味でオレは人を好きになったんだな。いや・・・今までなかった感情。

 

 

 

人を好きになるって・・・こういうことなのだろうか?

 

オレを好きで居てくれた。

 

 

  

・・・・・

 

 

 最低だな、オレ

 

・・・・・・

 

    ・・・・・・

 

 

    デュアン「……、……っうひぃ、冷たっ」

突然、冷える感覚を感じる。

 

      椎葉「ごめん、アイス枕あったから、使わせてもらったよ。このほうがゆっくり眠れると思ったんだけど、目が覚めたならついでにお薬飲んじゃって」

 

あるぇ?風邪薬なんてあっただろうか?

・・・あっ、去年のか。

 

    デュアン「……椎葉さん?あれ?どうしているんだ?」

      椎葉「え?ひょっとして、本当に夢だと思ってた?」

   デュアン「そうか、夢なのか……そうだよな……」

    椎葉「う、うん……とにかく、お薬飲んで?」

手もとが怪しいらしく、渡された錠剤を落としてしまった。

 

や、やべぇ・・・手の力が入らない程熱が高いのか。こりゃマズイぜ

 

    椎葉「あっ、ごめん。ワタシが飲ませてあげるから、少し起きれる?」

 

   デュアン「っ……、……」

無理矢理動かそうとすると、全身に痛みが走る。尋常じゃない痛み。

こりゃ、動けないぞ。というか魔法の行使も出来ない。

 

   デュアン「すまない……起きれそうもない。全身が痛く、鉛のように重い」

 

    椎葉「わかった、手伝ってあげるからちょっとだけ身体起こして……よいしょっ」

 

背中へ細い腕が回され、ほとんど抱き締めるように上半身を起こされる。

 

   デュアン「…………」

このまま抱き締められたい。と思っているオレは、病気で精神が弱ってるせいなのか・・・それともオレの本音なのか。

 

    椎葉「はい、口開けて?」

   デュアン「……、……うぅ、なんかほんのり苦く、ジャリジャリする」

 

味覚が殆ど感じない。オレ、本当に死ぬんじゃねぇのか?

 

    椎葉「ふふふ、お水あげるから、ゆっくり飲んでね?」

   デュアン「……、……」

高熱で、喉が渇いたのか、一気にゴクゴクと飲んでしまった。

 

    椎葉「あっ、ダメだよ!デュアン君?」

   デュアン「……ッ……げほっ!ごほっ!?」

む、噎せた。

 

    椎葉「大変、ほら拭いてあげるから、じっとしてて」

ティッシュで口元や手を丁寧に拭いてくれる。

 

ふと、顔の近さを意識してしまう・・・。

キスができそうな距離に、椎葉さんがいた。

 

    椎葉「はい、できたよ……ん? デュアン君?」

  デュアン「オレと結婚してくれないか?」

    椎葉「ふぇ!?も……もう、はいはい、いくら風邪だからって、あんまりからかうと怒るよ?」

 

  デュアン「……、……そう、だよな。デートにだって断られたのに、結婚なんて……してくれるわけないよな……、……」

 

初めての異性。つい口から溢れた本音。というか、デートやキスといった段階をスキップして、いきなり結婚のプロポーズがまずあり得ないよな。

 

    椎葉「あっ……」

  デュアン「夢の中までフラれるなんて、もっと都合のいい夢が見たかったなぁ……、……なんか、……もう疲れたよ。夢の中の椎葉さん。オレをこのまま、パトラッシュやネロみたいに安らかに眠りたい」

 

    椎葉「あ、あのね、デュアン君はフラれたわけじゃ、ないと思うよ」

 

  デュアン「……え?」

顔を上げると、椎葉さんはまるでオレの風邪が伝染ったように赤くなっていた。

 

    椎葉「先週説明したこと忘れてるでしょ?デートは無理だって言ってるのに、まったく同じ場所へ誘うんだもん」

 

  デュアン「……別に遊園地ぐらい、誰と行ったって一緒だって行ったのは、椎葉さんじゃないか。いくら体質があるからって……いや、そうだよな。椎葉さんは女の子の格好だけじゃなく行動も制限されちゃうんだよね……」

 

   椎葉「……うん。色々工夫して、反対にもっと男の子っぽくなれば……行けると、思う……でもね、もしオッケーしたら、ワタシにとって生まれて初めてのデートになるんだよ」

 

  デュアン「分かっている……初めてのデートぐらい……女の子らしい格好をしたいもんな。俺だってそうだ」

 

   椎葉「だったら、分かるでしょ?男の子だって初めてのデートはビシッと決めたいと思うんじゃない?一生、忘れられない思い出になるのに……男の子同士みたいな格好では行けないよ」

 

  デュアン「……椎葉さんにとっては、初デートで男が女装で現れたみたいなものってこと?」

 

   椎葉「ぷっ、ふふふ、ワタシが男装して、デュアン君が女装姿で遊園地行くこと想像して笑っちゃった」

 

  デュアン「実際に女の子になれるしな」

   椎葉「あははっ……確かに」

  デュアン「……」

   椎葉「もちろん冗談だけど、どうせデートするなら、女の子として見られたいんだ……それで相手の人にも、か、可愛いって思って欲しいから」

 

 

  デュアン「……、……うぷっ」

    椎葉「デュアン君っ、大丈夫?ひょっとして、戻しそう?」

慌てて背中をさすってくれる。

 

  デュアン「だ、大丈夫……うぅッ!?」

    椎葉「ちょっと待って……ゴミ箱で悪いけど、この中で大丈夫?後でちゃんと洗っておくから、我慢しないほうがいいよ」

 

高熱と頭痛による吐き気・・・本当に重症化してるじゃねぇか。

 

  デュアン「いくら夢でも、し、椎葉さんの前では……げほっげほっ……うぇっ!!」

 

ツンとした異臭が鼻を突く。

我慢しきれず、戻してしまった・・・不覚。

 

やってしまった・・・なのに、椎葉さんは嫌な顔一つせず、背中をさすり続けてくれている。

 

    椎葉「もう平気?胃液しか出てないけど、ちゃんとご飯食べてる?」

 

  デュアン「……朝にウィダーゼリーと林檎を食べてから……そこから何も食べてない気がする……それよりもごめん。話の途中で、汚い……もの……」

 

    椎葉「なに言ってるの?デュアン君だって、こないだワタシが戻しそうになったとき、助けてくれたでしょう……そのお返し。だから病人は、気にしちゃダメなんだからね?」

 

微笑みに一切の嘘偽りを感じない。本当に心から思ってることだ。

 

 

  デュアン「やっぱり、結婚してください……椎葉さん」

    椎葉「どうせまた寝て起きたら忘れてるんじゃない?これも夢だと思ってるんでしょ」

 

  デュアン「オレは……完全記憶能力持ちだと忘れているだろ……」

とボソリと呟く。

 

    椎葉「さ、今は安静にして、後でちゃんとお薬飲み直そうね」

  デュアン「なあ、どうしたら……結婚してくれるの?どうしたら、椎葉さんもオレを好きになってくれるんだろう」

 

    椎葉「し、しつこいよ?結婚なんて、まだ早いし…………えっ、椎葉さん、も?」

 

  デュアン「……、……椎葉さんは……太陽みたいな笑顔が素敵で、優しくて……そして可愛い。生まれて初めての初恋なのかもしれない」

 

オレを今まで好きだった彼女らはオレを好きになった。そして、オレは好きになった彼女らの為に、恋心を勉強した。だが、ズレが生じている。

確かに、好きという気持ちはあったかもしれないが・・・

 

オレから恋をするのは・・・生まれて初めてだ。

 

  デュアン「……、……他の人とは、違うんだ。オレはオレ自身が初めて恋をしたんだ……綾地さんや因幡さん、会長とは違うんだ」

 

    椎葉「デュアン君?」

  デュアン「オレは、やっぱり椎葉さんの事が好きだ。魔女の体質で、女の子らしい格好をしなくたって……十分可愛いとオレは思う。いや椎葉さんがそう思わなくても……、……いやこれはオレの傲慢か?。……オレは、どうやったら女の子と仲良くなれるのかよく分からないんだ……すぐ怒らせちゃうし、デリカシーの欠片も無いし……うん。嫌われて同然だわな……はははッ」

 

  デュアン「けど……もし結婚するなら、椎葉さんとしたいって本気で思ってる」

 

    椎葉「だ、だからね……嫌われては、いないと思うよ?」

  デュアン「……多分、もっとちゃんと考えて誘わなきゃいけなかったんだよな……、……オレの自己中(エゴ)を椎葉さんに押し付けてしまったんだ……、……オレは自分の意見よりも他人の為になにかするはずなのに……。初めての感情だよ」

 

そうだ・・・オレは、こんな自己中心的に動いていなかった。常に他人のために命を使っていた。・・・いやそうでもないのか?オレは意外と自己中だったか?

 

    椎葉「えっと……デュアン君は、ちゃんと優しい人だよ?ワタシだって、わかってるつもりだよ。誘ってくれたとき、う、嬉しかったけれど……。どうしていいかわからないのはワタシも同じで、つい逃げ出しちゃっただけでね」

 

  デュアン「逃げることが何が悪いんだ?オレは別に悪いとは思ってない。……、……答えがほしいだけなのかもしれない」

   

    椎葉「……ふぇ?」

  デュアン「女の子の格好ができるようになったら、結婚してくれるのかな?」

 

    椎葉「で、デートの話じゃなかったの!?」

  デュアン「ふふっ……いいじゃないか、夢の中なんだから」

    椎葉「も……もう、はいはい、もしそうなったらデートくらいしてあげます」

 

  デュアン「本当かっ!?」

    椎葉「もちろん、デュアン君もよくなってからだよ?デートしたかったら、ちゃんと風邪治そうね」

 

  デュアン「……ああ」

 

言質はとったぞ。

 

オレは、横になると・・・椎葉さんが毛布を掛け直してくれる。

 

その温かさに包まれながら、オレは再び眠りに落ちていった。

 

 

 

    ・・・・・・   

       ・・・・・・・

   

・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

~~~~~

 

  デュアン「んぅ……あれ、もう夜?」

 

随分と長く寝てたんだな。

 

・・・現在の体温は多分38.4度ぐらいだろう。

 

身体が重い感覚は少し取れたが、まだ頭がガンガンする。だが、動けないレベルではない。

 

   デュアン「……夢だったのか?……、……」

いや・・・多分、あれは夢では無いと思う

 

ガチャと聞こえ、身体がビクッとなった。

 

    椎葉「あっ、デュアン君、起きてたんだ」

  デュアン「し、椎葉さん!?」

    椎葉「やっぱり覚えてないんだ、電気点けるよ?」

  デュアン「あ、あぁ……」

 

夢だと思って、結構本音を吐いちまった気がする。物理的にも精神的にも・・・

 

    椎葉「どう?少しは食欲出てきた?勝手に台所使って悪いと思ったんだけど、おかゆ作ってみたんだ」

 

  デュアン「すまない……ありがとう」

お盆の上には、美味しそうな卵がゆが乗せられていた。

 

    椎葉「よかった、じゃあ身体起こせる?」

  デュアン「あ、ああ……少し身体が重いが動けるレベルまで回復している」

 

なんとか自力で半身を起こし、器を受け取ろうと手を出す。

 

    椎葉「……ふぅ~……ふぅ~」

  デュアン「ふぉわっ!?し、椎葉さん?」

    椎葉「はい、あ~んして?デュアン君」

  デュアン「い、いや……其処までして貰わなくても……自分で食べられるよ」

 

    椎葉「ダメだよ、お薬飲むときも、こぼしてたでしょう?おかゆじゃ火傷しちゃうよ」

 

  デュアン「う~ん……結構恥ずかしいな」

    椎葉「もう今更じゃない?それとも、正気に戻った?もっと恥ずかしいことも言ってた癖に」

 

くすくす笑っている。椎葉さんは、気にしていないようだ。

うん。やっぱり椎葉さんは笑顔が素敵な女の子だ。

 

  デュアン「や、やっぱり……恥ずかしい事を言ってたんだな」

    椎葉「うん、熱でうなされながら、うわ言みたいな感じだったけどね。でも覚えてないんだったら、なしってことでいいよ」

 

  デュアン「……結婚して欲しいって、言ったと思う」

レンゲに乗ったおかゆが、ぼとりと器の中へ落ちた。

 

・・・なしにされたら、オレは嫌だと思ったからだ。

 

    椎葉「お……覚えてたんだ」

  デュアン「ハッハッハ……オレは完全記憶能力を持っているんだぞ……たとえ高熱だろうと、映像以外の事象は事細かく繊細に覚えられる」

 

    椎葉「えぇっ!?う~ん……そういえば、そんなこと言ってたような……」

 

  デュアン「それに、椎葉さんも女の子の格好が出来たら、デートしてもいいって」

 

    椎葉「でゅ、デュアン君も風邪治さないとダメなんだよ?そ……そのためには、ちゃんと食べなきゃだよ、はいっ」

 

再びレンゲを差し出さ、今度は口に含む。

 

    椎葉「……あっ」

  デュアン「……、……、……ん?どうしたんだい?」

    椎葉「ううん、自分でやっといて、ドキッとしちゃった。美味しい?」

 

  デュアン「あぁ……美味しいぞ。しかも、好きな女の子の手料理なら尚更だ……椎葉さんって、料理が上手なんだね」

 

    椎葉「うちのお父さんとお母さんは、仕事が忙しいからね。自然と覚えちゃっただけだよ」

 

  デュアン「そう、なのか……お父さんとお母さん……、……か」

オレは物心が付く前から両親は死んでいるからな・・・。幾ら転生して、人生経験豊富でも・・・孤独感は半端ない。

 

    椎葉「デュアン君のお父さんとお母さんは?」

  デュアン「俺が物心付く前から死んだ。だから、今は一人暮らししている」

 

    椎葉「無神経だったかな、ごめんね」

  デュアン「気にするな……」

    椎葉「じゃあ台所は、デュアン君が使ってるんだね」

  デュアン「ああ」

 

おかゆも次の一口をよそってくる。

 

  デュアン「……ねえ」

    椎葉「もうちょっと待ってて、ふぅ~……ふぅ~」

  デュアン「やっぱり、今のままデートへ行くのは無理?」

    椎葉「……その話、続けないとダメ?」

  デュアン「ダメだね。それに、どうやって俺の心の穴を埋めるのか、まだ決められてなかったよね?それに椎葉さんが魔女の契約を完了するためにも、心の穴は産めないといけないはずだ」

 

    椎葉「そうだけど……それとデートが関係あるの?」

  デュアン「ああ……あるよ。心の穴を埋めるためには、椎葉さんとデートするのが一番なんだから」

 

    椎葉「こ、こじつけじゃないよね?」

  デュアン「そんなわけあるか……穴が埋まって欠片がもどってくるのは、2人で居る時だけだっただろう?」

 

    椎葉「それは……そうかもしれないけど」

椎葉さんが小瓶を出して見せる。明らかにこの間より、かさが増していた。柊史が綾地さんの欠片を吸収する前のちょうど1.5倍ぐらいだ。

 

  デュアン「……、……」

かなり集まってきている。多分、俺の譲渡を使えば、完遂できると思うが・・・。

 

それでは、俺の心が埋まらないまま完遂することになる。それでは、椎葉さんの為にはならない。・・・なら。此処は頑張ってもらうしか無い。

 

    椎葉「で……でも、今じゃないとダメ?ワタシが女の子の格好をするには、魔女の契約を終えなきゃいけなくて……魔女の契約を終えるには、保科君の心の穴を埋めなきゃいけないわけだから、えっと」

 

  デュアン「確かに、ややこしいけど……椎葉さんは今のままでも、十分可愛いよ。一緒にデートへ行ってくれたら、う……嬉しいと思う」

 

    椎葉「デュアン君……」

  デュアン「先に言っておくけど、からかってるとか、みんなに同じこと言ってるとか……そういうことじゃないからね?もちろん遊園地じゃなくてもよくて……椎葉さんと、どこかへ行ってみたいんだ」

 

    椎葉「……」

  デュアン「ダメ、か?」

    椎葉「あ、あのね、デュアン君……わ、ワタ、ワタシもね、本当はっ」

 

突然、ブーブーと携帯電話が鳴る

 

  デュアン「着信は……げっ、柊史からだ」

    椎葉「ふぇぇっ!?」

  デュアン「……」

オレは電話を出ることにした

 

  デュアン「もしもし……」

    柊史『あっ、デュアン……お前大丈夫なのか?』

  デュアン「まぁ……椎葉さんが来てくれたからなんとかなったが……その前は42度で、本当に意識を失ってたけどな……あっははは」

 

    柊史『おいおいおい……本当に大丈夫か?』

  デュアン「ああ……多分、大丈夫だと思う……熱も……今は38度台まで下がってるから」

 

    柊史『……本当に大丈夫なのか?』

  デュアン「まだ関節痛が治ってないから……一概に大丈夫だとは言えないが……まあ、多分大丈夫だろう」

 

    柊史『そうだ、今から部活の皆でお前の家行っていいか?』

  デュアン「ふぁ!?お、お前バカか……こんな時間にお前とオカ研の皆で来るとかアホか?」

 

    柊史『いや……んー……本当に大丈夫なのか?』

  デュアン「心配するな……ただの急性上気道炎だ……多分」

本当に風邪なのだろうか?インフルだったら、次の日・・・椎葉さんが風邪をひくよな・・・。

 

    柊史『急性上気道炎!?って……ただの風邪ってことか?』

  デュアン「ああ……多分な。明日、熱が引かなかったら。流石に病院へ行くつもりだ」

 

    柊史『なんで熱が上がった時に行かなかったんだよ』

  デュアン「あー……もうその時には多分、40度超えてたと思う。全身痛かったし……意識を失って……気がついたら、椎葉さんが居た感じだったし」

 

    柊史『そうなのか……って、お前の家の鍵……誰が開けたんだ?』

 

  デュアン「そうだな……魔法使いの使い魔さんが魔法で鍵を開けた、かな?」

 

流石に最上階まで上がってこれたアカギに感服だ。今度、なにかお礼をあげなきゃな。

 

    柊史『……あー……なるほど納得した……じゃあ、本当に行かなくて良いのか?』

 

  デュアン「今日の所は、皆引き返してくれ……それに、椎葉さんと今後の事も話したかったし」

 

    柊史『分かった……じゃあ、明日学校来れたら、また明日な』

  デュアン「ああ……そうしてくれ」

と電話を切る。

 

    椎葉「急性上気道炎って?」

  デュアン「ああ……風邪のことだ……喉の痛みから……そう呼ばれてるらしい」

 

    椎葉「詳しいんだね」

  デュアン「まあ、医学の知識を詰め込んだだけだけどね……っと、もう17時半だぜ?」

 

    椎葉「えぇ!?もうそんな時間!?」

  デュアン「もうそんな時間だ」

    椎葉「ご、ごめんね……帰らなくちゃ」

  デュアン「ああ……椎葉さんも気をつけてね」

    椎葉「うん……それじゃあ、また明日」

  デュアン「ああ、明日学校で会えたらね」

 

食べ終わったお粥の皿を片付けて帰ってしまった。

 

  デュアン「……、……結局答えを聞けなかったな」

と苦笑いをしながら、立ち上がると・・・

 

   アカギ「小僧、逢い引きならできるぞ」

  デュアン「おわっ!?い、居たのか……、……ん?今なんて言いました?」

 

   アカギ「要は、紬が一時的にでもメスの格好ができるようになればよいのじゃろ?だったら簡単じゃ」

 

  デュアン「契約してる時に、そんなこと……、……いや確かにできるが……、……いや確かに。それだと……」

 

ルール。

オレに備わっている、現実世界に持ってきてはいけない禁断の能力「この世の理を捻じ曲げる程度の能力」

 

文字通り、(ルール)を捻じ曲げる。

 

ダメだ。オレの能力は永久付与という呪いがある。迂闊に使ってはダメだ。

 

   アカギ「じゃがもちろん、リスクもある」

  デュアン「そりゃそうだ」

   アカギ「取引だ、小僧。乗るか反るかはお前次第なのじゃ」

  デュアン「ふむ……悪魔との取引というヤツか。……、……良いだろう……結ぶぞ、取引(ディール)だ」

 

~~~~~

 

 

 

 



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Chapter6
Ep51 もう一日だけ・・・


 

 

~~~~~

翌朝、まあ、体調はあまりよくないが、起き上がれるまで回復したから・・・学校へ行くか

 

オレは制服を着て、マフラーをする。

 

   デュアン「……さて、もう行くか」

 

と、オレは家を出る。

 

 

現在の時刻は6時40分。学校へ着くのが、おそらく7時15分ぐらいだろう。

 

暇だし・・・どうしようかな?

 

 

~~~~~~

 

    保科「デュアン、もう大丈夫なのか?」

    仮屋「おはようデュアン!ちゃんと生きてたみたいだね」

    海道「いやいや和奏ちゃん、そこまで酷くはなかったんじゃないのか?」

 

  デュアン「いや……マジでヤバかったかもしれん。椎葉さんが来なかったら死んでたかもしれん」

 

    海道「うぇ!?」

    仮屋「マジで!?」

  デュアン「なんせ……42度まで上がったからな」

    保科「そういや……いつから意識を失ったんだ?」

  デュアン「お前にメールを送って、食事を取った2~30分後ぐらいだったかな?」

 

正確には、アカギとの会話の途中でプッツンしちゃった感じかな?

 

    海道「うぅ~ん……お前、今の体温は?」

  デュアン「多分37.6……かな?」

    仮屋「微熱で学校来たの!?」

  デュアン「大丈夫……咳も出てないし、頭痛も少しだし……関節痛も酷くはないから」

 

    海道「お前……」

  デュアン「なんだよ」

    海道「本当にマジで、何時か死ぬぞ」

  デュアン「ふむ……そうなのか?」

    保科「自覚がないとか、お前……お前」

    仮屋「本当に死んじゃうよ?」

  デュアン「まあ、死にかけるぐらい……誰にだって経験ぐらいあるだろう」

 

  海道・仮屋・保科「「「ねぇよ!!」」」

 

  デュアン「そうなのか……」

オレ的には、自分の危機管理なんてものは存在しないからなあ・・・

 

    保科「お前……その顔、「自分には危機管理なんて存在しないなあ」って考えてるだろ」

 

  デュアン「……なぜバレた」

    保科「お前と何年友達やってると思ってるんだ!」

    仮屋「まあ、デュアンは……結構わかりやすい所あるよね。でも、わかりにくいところもある」

 

    海道「そうだな……デュアンって、あんまり笑顔を見せたり……泣いたりとかあんまりしないよな……弱音も吐かなそう」

 

  デュアン「そんなことねぇよ……オレだって笑ったり、弱音だって吐くぞ」

 

 

俺らはそう話していると、綾地さんが声をかけてきた。

 

    綾地「何の話をしてるんですか?」

    仮屋「あっ……綾地さん。おはよう」

    海道「おはよう、綾地さん」

    綾地「おはようございます、仮屋さん、海道くん……あっ……しゅ……、……保科くんも」

 

    保科「あっ……あぁ。おはよう、綾地さん」

  デュアン「……、……」

あぁ。柊史と綾地さん・・・恋人同士になったのかな?

 

    綾地「それで……どんな話をしてたんですか?」

    仮屋「あー……それがね。デュアンの危機管理が酷いんだ」

    海道「そうそう。それに笑顔とか弱音とかも吐かなそうって話てたんだよ」

 

    綾地「デュアン君が?……確かに弱音は吐いた所はあんま見ないですが……笑顔とかは見ますよ?」

 

    保科「そうだな……笑顔は、出さないだけで見るぞ」

  海道・仮屋「えぇー!?」」

心外だな・・・

 

  デュアン「オレは鉄仮面じゃないぞ」

    綾地「でも、危機管理が酷いのは……まあ、昔から知ってました」

 

  デュアン「……そうだろうか?」

    綾地「自覚なかったんですか!?」

    保科「デュアンは……他人の痛みは理解できるけど、自分の痛みは分からなそうだよな……」

 

  デュアン「……、……はて?そうだろうか?」

    綾地「確かに……デュアン君は人に優しすぎます……これ以上無いってくらい……」

 

    仮屋「そうだね……怒ってるところとか無いよね」

    海道「確かに……優しいのは理解できるし、怒ってるところも見ないね」

 

  デュアン「マジギレはないが……怒ったことは割かしあると思うぞ」

    綾地「そうなのですか?」

  デュアン「ああ」

と頷き。無意識に視線が椎葉さんを探していた。

 

    椎葉「……~っ」

目と目が合う瞬間 好きだと気づいた・・・と心の中で思ってしまった。

 

    椎葉「……」

ふむ。少し困ったように笑うだけで、自分の席に戻ってしまった。

・・・部活やるとき気まずくね?

 

    仮屋「どうしたの、デュアン?なんか、がっかりしてない?」

  デュアン「……そうだろうか?」

    保科「ああ……心ここにあらず……って感じだったぞ」

    綾地「まだ、本調子じゃないんじゃ……」

  デュアン「そそ、そんなことないぜ……」

    海道「ははあ、そういうことか」

  デュアン「?」

    仮屋「なにさ、自分だけわかったような顔してさ」

    保科「そうだぞ」

    綾地「なにか知ってるんですか?」

    海道「まあまあ、和奏ちゃん。デュアンは俺達だけじゃなく、綾地さん以外にも部活の仲間にも挨拶しときたいんだろ?」

 

  デュアン「……、……ふむ。ああ、その通りだ。よくわかったな。それじゃちょっと席を外すよ」

 

オレは、椎葉さんのところへ向かう。

 

 

    デュアン「おはよう、椎葉さん。昨日はマジで助かったよ。ありがとう」

 

     椎葉「う……ううん、大したことしてないよ。それより、本当にもう大丈夫?あんなに熱があったんだから、油断しないほうがいいよ」

 

    デュアン「まあ、まだ微熱だけど……、……椎葉さんに会えないぐらいなら多少の無理ぐらいするさ」

 

     椎葉「……っ」

    デュアン「それに……中途半端になっちゃった話があったよね?」

 

     椎葉「う、うん、遊園地のことだよね?ごめんねっ、そのことだけど、やっぱりもう少し考えさせて」

  

    デュアン「ふむ……了解した」

まだ、時間は必要か。

 

     椎葉「誘ってくれたのは、本当に嬉しかったんだよ?でもだからこそ、いろいろ考えちゃうみたいで……」

 

   デュアン「その気持は分かるよ……それじゃあ、椎葉さんの答えが出るまで、オレは待つよ」

 

     椎葉「うん、ありがとう。できるだけ、早く答えを出すつもりだから」

 

   デュアン「……焦りすぎると、かえって答えが見つからない時もある……。だから、オレは気長に待つよ。……、……でも、俺の本音は、早く答えが出るといいなって感じている。それくらいドキドキしてるってことだよ」

 

    椎葉「う……うん、ワタシもデュアン君と遊園地へ行くこと、想像するとね……」

 

椎葉さんが、心臓を抑えるように胸の前で手を組む。

 

   デュアン「……?」

    椎葉「あっ!えっと、とにかく……近いうちに答えは出すから、もうちょっとだけ待ってて」

 

   デュアン「了解した」

 

 

~~~~~~~~

 

 

   デュアン「うぅ~ん……待つとは言ったものの」

オレは、昼食をどうするか。迷っている。弁当は作ってきてないしな。柊史は綾地さんと一緒だし・・・海道と仮屋さんは多分一緒。

 

椎葉さんを昼食に誘うべきか・・・とおもったら、弁当を持って、教室へ出てしまった。直前にメールを確認してたから・・・まぁ多分だが

 

60%の確率で因幡さんだろう。30%で綾地さん。大穴狙いで会長か。

 

   

~~~~~~

 

そうだ、オカ研のみんなにも心配をかけたかもしれないから、他の友人にも顔を見せておくか。居なかったら、放課後出直せばいいか

 

・・・ん?話し声が聞こえるな。よしっ

 

    デュアン「やあ、こんにち……」

      椎葉「フェェェ~~~ッ!!?」

いきなり、嘔吐寸前になった椎葉さんのどアップに出迎えられる

 

     戸隠「あら~、ダメだったみたいだねぇ」

     因幡「うーん、メンズ商品でも、攻めすぎはNGなんですね」

   デュアン「因幡さん、会長まで……これはまさか……また女の子っぽいおしゃれの限界に挑戦してたのかい?」

 

     綾地「どうやら、そのようです」

     保科「難しいものだ」

  デュアン「全員集合……か」

     綾地「私達はたまたまいただけです」

"私達"ね・・・。いいよな、綾地さんと柊史は。

いや、他人の恋路に文句を言うやつは馬に蹴られて死ぬからな。深い詮索はやめとこう

 

  デュアン「大丈夫かい?椎葉さん」

    椎葉「はあ、はあ……うん、外せば……どうってことないから」

    因幡「けど結局、先輩まで来ちゃいましたか」

    戸隠「オカ研部員、大集合だね」

  デュアン「ふむ……もしかして、皆で約束してたの?」

    戸隠「んーん、わたしは誰かいないかな~ってふらふらしてただけだよ」

 

    因幡「私は紬先輩に、おしゃれのことで相談したいと言われまして」

 

  デュアン「なるほど……」

    戸隠「そうそう、デュアン君。風邪はもういいのかな?」

  デュアン「微熱は残ってますが、もう大丈夫です」

    因幡「それ、大丈夫って言いますでしょうか?」

    綾地「言いませんね」

    保科「言わないな」

    椎葉「うん、言わない」

    戸隠「言わない言わない」

ひ、酷ぇ・・・皆して否定しやがって・・・。

 

  デュアン「そんなこと言われても……俺が大丈夫と思えば」

    保科「いや、お前の大丈夫は大丈夫に入らないから」

  デュアン「酷っ」

オカ研全員によるダイレクトダメージ。オデノゴゴロハボトボトダァ

 

    因幡「でも……紬先輩には負けますけどね」

  デュアン「……え?」

    椎葉「え!そ、そうかな?」

    保科「……」

  デュアン「そういえば、椎葉さんがお見舞いに来てくれたのって、まだ学院のある時間だったのかな?ふむぅ……?」

 

    椎葉「ちょ、ちょっとデュアン君、それは!」

    戸隠「へえ、早退してまでお見舞いへ行っちゃったんだ」

    因幡「ガチのヤツじゃないですかっ」

  デュアン「いやあー……あの時はマジで助かったよ。」

    椎葉「……とにかく、し……心配したんだからね?」

 

   デュアン「改めてありがとな」

     椎葉「そう言ってくれるのは嬉しいけど、まあ、良くなってくれたんだからいいよ」

 

    因幡「でもこれで、紬先輩がおしゃれを再開してくれる気になった理由、わかった気がしますよ」

 

    保科「確かに」

    椎葉「ふぇぇ、ま、まだなんにも決まってないんだからね?」

 

   デュアン「ふむ……」

    椎葉「だって、ワタシも……さすがにもう、女の子らしい格好は無理だって諦めてるけど……。遊園地へ行くなら、ちょ、ちょっとでも普段よりも女の子っぽいところも、見て欲しいんだもん」

 

確かに、初めてのデートでおしゃれをしたい・・・と言う気持ちは分かる。

 

   デュアン「椎葉さん……」

    戸隠「遊園地?ひょっとして、わたしのご褒美、有効活用してくれてるのかな」

  

    椎葉「あっ!そ、それは、えっと……」

椎葉さんが困ったように視線を送ってくる。

ふむ・・・。

 

   デュアン「オレから改めて椎葉さんを誘ったんです」

     椎葉「ふぇぇ~っ、い、言っちゃうの!?」

     因幡「先輩がしれっと認めた!」

     保科「……」

     綾地「そうでしたか」

おやおや。綾地さんも聞いていたのか。

 

    デュアン「あははっ……」

     戸隠「うんうん、そっかそっか。でも2人とも気付いてる?あのチケット、確か有効期限、今週中だったと思うよ」

  

     椎葉「ふぇ!?デュアン君、そうなの?」

   デュアン「そうだったのか?気付かなかった」

     戸隠「もう、デュアン君ったら。ちゃんと確認しないとダメだよ」

 

   デュアン「すまない、会長」

     戸隠「椎葉さんも、まだまだ先は長そうだけど間に合いそう?」

 

     椎葉「ううっ、さすがに……今週中は厳しいかもです」

     戸隠「そうなんだ、じゃあデュアン君?遊園地はお姉さんと行こうか」

 

   デュアン「HAHAHA☆……だが、断る。オレは一度約束したことは必ず守る男でね。たとえ有効期限が切れたとしても……ポケットマネーから出しますから」

 

     保科「格好いいねぇ~」

     戸隠「あれ、お姉さんとじゃ不満だったかな?じゃあ因幡さんや綾地さんとでも、いいと思うけどな」

 

     因幡「ええーっ、私ですか!」

     綾地「私は構いませんよ、以前映画にも行きましたから」

     保科「……っ」

柊史。一瞬だけ顔を歪ませたぞ。

 

     椎葉「あ、綾地さん?」

     綾地「もっとも、デュアン君が誘ったのは椎葉さんです。椎葉さん次第だと思いますが」

 

     戸隠「うんうん、チケットは有効活用しなくちゃいけないもんね。椎葉さん、どうする?」

 

追い込んでどうするんだよ!って思っちまった。

 

     椎葉「うぅぅ~~っ、そ、そんなこと言われても……。他にも、まだまだダメだと思うところ、たくさんあるし……できれば、それも直したいし」

 

     保科「まあ……デュアンは、あまり気にすること無いんじゃないのか?」

 

   デュアン「……」

     保科「デュアン?」

   デュアン「オレは気長に待つと言ったんだ。オレからは何も言わない……椎葉さんとの約束だしね」

 

オレは約束は必ず果たす男だ。・・・嘘つきだけど。

人を傷つけるような嘘は()かない。

 

     椎葉「す、すぐには答えられないよ、ご……ごめんなさぁ―――いッ」

 

そのまま、部室を飛び出してしまう。

 

    デュアン「……まったく」

      

オレはそのまま椎葉さんを追いかけることにする。

 

~~~~~~

 

  デュアン「……いたいた。おーい、椎葉さん!」

椎葉さんを捕まえられたのは、ようやく教室の近くまで来てからだった。

 

    椎葉「でゅ、デュアン君、追いかけてきたんだ」

  デュアン「す、すまない迷惑だったか?」

    椎葉「そんなことないけど、ごめんね……逃げ出したりして」

  デュアン「気にすることはないよ。それに言っただろう?今週中じゃなくてもいいと」

 

    椎葉「えっ、でもチケットの期限があるんだよね?」

  デュアン「まあ、このチケットは柊史にあげて……リアルマネーから出すと……それに遊園地じゃなくてもいいんだ。オレは椎葉さんと出かけたいんだって」

 

    椎葉「デュアン君……」

デュアン「椎葉さんが来てくれないなら、他の誰とも行くつもりないから……オレは椎葉さんと行きたいんだ……それだけ、伝えておこうと思って」

 

オレは椎葉さんの頭をぽふぽふと優しく撫でてあげる。

 

    椎葉「ふふ、なんかそれ、ひさしぶりだね」

  デュアン「そうだろうか?」

    椎葉「そうかも……けどおかしいね。ドキドキすればするほど、その人へ近づくのが難しくなるなんて」

 

  デュアン「……人というものはそういうもの……心の何処かで信用しきれてない、この人は本当に信じていいの?ってね」

 

人を信じることは、生きる以上に大変だからね。人の本質を見極めるなんてことは、誰にもできない。

 

    椎葉「……もう一日だけ、待ってくれる?明日には自分で、答えを出すから」

頭の上に置いた手へ椎葉さんが両手を重ねてくる。

赤くなった顔を肘で隠していた。

 

  デュアン「わかった」

そこでようやく、椎葉さんも笑ってくれた。

 

   デュアン「……うん。やっぱり、椎葉さんは笑顔が一番に似合ってるよ。オレみたいな影が……椎葉さんの太陽みたいな笑顔で、オレを照らしてくれる」

 

と小さくボソリと呟く。

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep52 自覚する初恋

 

 

 

~~~~~~

 

  デュアン「………」

正直、返事については期待していいのではないかと思っている。もし、椎葉さんが答えが見つからなければ、このチケットは明日にでも柊史に渡すか。

 

 

今思ったんだが、俺が高熱で倒れたときに言った「結婚してくれ」は大胆な告白してしまったようなものだろう。

 

オレは逃げないし、言い訳もしない。男は当たって砕けろ。いや、それに前からオレも言ってただろ「告白していいのは、フラれる覚悟のあるヤツだけだ」と。

 

そう。フラれる覚悟で、オレは告白したんだ。

 

だが、マイナスに考えてもダメなんだ。マイナス思考をすればするほど失敗する。

 

    デュアン「ぐだぐた考えれば考えるほど……アホだ。さっさと学校へ行くか」

 

オレは、学院へと向かう。

 

――――――――――――

 

    椎葉「お……おはよう、デュアン君」

  デュアン「し、椎葉さん!?」

驚いた。まさか登校途中に一緒に会えるなんて・・・

 

   デュアン「もしかして、待っててくれたの?」

    椎葉「うん、すぐに伝えないと……決意が鈍る気がして」

   デュアン「……ッ」

心臓がバクバグと鳴っている。

 

    椎葉「オッケーです」

   デュアン「…………」

    椎葉「えっと、もちろん遊園地のことだけど、オ、オッケーです」

   デュアン「………」

    椎葉「あ、あれ?デュアン君?」

   デュアン「はっ……はぁあああ~~~~~っ」

息を吐き出し、ようやく呼吸が止まっていたことに気づく。

こんな経験、二度と味わいたくないな・・・。

 

   デュアン「よかったぁ~~っ、ありがとう、椎葉さん!」

    椎葉「もう相変わらず、なんだから」

   デュアン「いやいや、もしノーだったら……おぉふ」

オレは、最後のセリフを言いながら、失意体前屈ポーズを取った。

 

    椎葉「そ……それより。週末は、よ、よろしゅくお願いしましゅ……あ、あれ?」

 

   デュアン「ふふっ……」

これで、オレの悩みは一つ解決したも同然だ。後は・・・オレの秘密をどうやって、打ち明ければ良いんだろうか?

 

    椎葉「もう、デュアン君笑いすぎ、ずっとにやにやしてるよ?」

   デュアン「そうだろうか……?でも……答えが聞けて、ホッとしてるんだ……口角が緩むのはしょうがないだろう?」

 

    椎葉「そういうものなのかな?ふふふ」

   デュアン「椎葉さんだって、笑ってるじゃない」

    椎葉「だって、えへへ……デュアン君のが伝染ったんだよ?ほら、ワタシまでにやにやしてきちゃう。恥ずかしいから、あんまり見ないで」

 

   デュアン「そっか……でも、にやにやしてる椎葉さんもレアな可愛さがあるけどね」

 

     椎葉「はいはい、にやにやしてるデュアンくんも格好いいですよ」

 

   デュアン「ふふ……」

     椎葉「えへへへ」

 

こんなにも嬉しい気持ちになったのは、生まれて初めてかもしれない。この世界に転生してきて、本当に良かった。

 

神様が言う青春って・・・こういうものだったのかな?

 

 

    椎葉「はあー、もっと早くにオッケーしちゃえばよかったね。これでも、結構1人で悩んでたんだよ?けど、オッケーした方がずっと楽だったな。わけもなく、嬉しくなってくるんだもん……おんなじドキドキでも、あったかくなってくるよ……」

 

  デュアン「それはオレも同じだ……、……でもよくオッケーしてくれたね」

    椎葉「あんまり待たせちゃ悪いと思ったから……それにワタシが断ったら、デュアン君……また病気になっちゃうかもしれないでしょ?」

 

  デュアン「……へ?」

    椎葉「心の穴も埋める約束だったんだし、チケットの有効期限もあったから……。悩むより、もうなるようになれって感じで決めちゃった」

 

  デュアン「そうか……」

心の穴は、完全に俺が悪いからなあ・・・・。

 

さて、オレにも椎葉さんにお返ししてあげられないだろうか?

 

アカギと取引はしたが、まだ完全に成立したわけじゃない。答えが見つかるまでは・・・成立させないようにしていた。

 

――――あのとき。

 

   アカギ「紬がメスの格好になれないのは、魔女の代償による。ルールの抜け穴というものは、一時的に代償を別の者へ肩代わりさせてしまうというものなのじゃ。ただし、先程も言ったようにリスクもある。たとえば2時間だけ肩代わりさせたとしても、相手は20時間ほど払わなくてはいけなくなる」

 

  デュアン「……10倍かよ」

   アカギ「小僧、お前がそれを払ってやればよいのじゃ」

  デュアン「ふむぅ……すでに魔女の呪いの俺が……どんなリスクを負うのか全く見当もつかないな」

 

   アカギ「それはわからん。どんな代償を受けるかは、個人の資質による。アルプであるあっちにも分からんのじゃ」

 

  デュアン「ふむぅ……」

   アカギ「だが紬のことが好きなら、それくらいしてやれるのではないか、ん?」

 

 

取引はすると言ったが、引き金がまだ必要だった。弾は揃っていて。引き金は、椎葉さんの気持ちだった。

 

それに、勝手に契約をしたら、椎葉さんは怒るに決まってる。

代償の肩代わりさせるなんて、それも10倍返し。

優しい椎葉さんが受け入れるはずがない。そんなの、わかりきっている。

 

―――――――

 

  デュアン「うぅ~ん……」

悩んでいてもしょうがない・・・か。直接本人に聞いたほうがいい。別にサプライズプレゼントする訳でもないし・・・

 

  

   デュアン「椎葉さん、ちょっといいかな?」

     椎葉「うん、どうかした?」

   デュアン「なにかオレにして欲しいことってないか?」

     椎葉「へ?随分唐突なんだね」

   デュアン「いや、今までもいろんな人の悩み相談に乗ってきたでしょ?それで心の穴が埋まっていったわけだし、もし椎葉さんにして欲しいことがあるなら叶えてあげたいかなって」

 

     椎葉「うーん、そう言われても……あっ、そうだ!」

   デュアン「おっ!なにか思いついた!?」

     椎葉「え、えへへ……大したことじゃないんだけどね。デュアン君のシャープペンシル、貸して欲しいかなって」

 

   デュアン「へ?まさか筆記具、持ってくるの忘れたとか?」

     椎葉「う、うん、そういうわけじゃないんだけど……ダメかな?」

 

   デュアン「ふむ……構わないよ」

んー・・・占いだろうか?それとも・・・

 

オレは机に戻り、シャーペンを持ってきて渡してみる。

 

     椎葉「ありがとっ、じゃあデュアン君はこっちのシャーペン使って」

 

   デュアン「えっ、これ椎葉さんのシャーペンじゃないの?」

     椎葉「うん、だって自分のなかったら、デュアンくんも困るでしょう?」

 

   デュアン「まあ、そうだけど……んー……???」

     椎葉「いいからいいからっ、もう次の授業始まっちゃうよ?」

 

ふむぅ・・・

 

     久島「したがって、この問題は……」

     椎葉「~♪」

なんだか、嬉しそうな椎葉さん。

 

謎だ。女の子って本当に謎だ。考えてることが、予測が不可能だ。

 

  デュアン「ふふふっ」

    椎葉「……っ」

  デュアン「!」

授業中なのに目が合ってしまう。反則級の可愛さだ・・・

 

~~~~~~

 

    椎葉「へ?もっと難しいお願いをして欲しいの?」

授業の後、次はもう少しハードルをあげて欲しいと頼んだのだ

 

  デュアン「いいからいいから、なにかない?」

    椎葉「そうだな、ワタシ普段はお弁当なんだけど、前から購買のパンで気になってるのがあったんだ」

 

  デュアン「パン?」

    椎葉「実はこっちの購買ってあんまり行かないから、ちょっと行きづらいんだよね……デュアン君が買ってきてくれたら、ちょっと嬉しいかも。いちご蒸しパン」

 

  デュアン「わかった。自分のついでに買ってくるから……、……でも難易度上げて、それなの?」

 

    椎葉「そう?もう少し難易度、上げたほうがいい?だったら……」

 

~~~~

 

   デュアン「やっぱり直接聞いても、わがままなんて言えないものなのかもな……」

 

購買の帰り道、思わずぼやいてしまう。

椎葉さんのお願いは、いちご蒸しパン2つ買ってきて欲しいというものだった。

 

しかし、お弁当の後に、同じパンを2つも食べるのか?

 

    椎葉「おかえり、デュアン君」

  デュアン「ああ、ただいま椎葉さん。迎えに来てくれたの?……、……それにお弁当の包を持っているみたいだけど、まだ食べてないの?」

 

    椎葉「うん、買い物へ行ってもらってるんだから、先に食べ始められないよ……それに、はい……ありがとう、デュアン君」

 

学院の自動販売機で買ったらしいパックの牛乳を手渡される。

 

   デュアン「……?」

     椎葉「パンを買ってきてくれたお礼だよ」

   デュアン「そ、そんな悪いよ、お金を払うから」

     椎葉「いいよいいよ、どうせデュアン君だって、ワタシからお代を受け取るつもり無いんでしょ?」

 

此処は男として格好いいところを見せたいんだよ。

 

     椎葉「だったら、物々交換にしようと思って」

   デュアン「いやいや、でも俺が椎葉さんの役に立ちたかったんだってば」

 

貸し借りなしになってしまう。

 

     椎葉「うーん、だったら次のお願いしてもいい?」

 

 

~~~~~~

 

    椎葉「ちょっと風が冷たいけど、いい天気だね、デュアン君」

  デュアン「お、おぅ……」

椎葉さんは、自分の分の牛乳へストローを差して幸せそうに笑っていた。

今度のお願いは、一緒にお昼を食べてほしいというものだった

 

    椎葉「はい、こっちのパンはデュアン君の分」

いちご蒸しパンを1つ返却されてしまった

 

  デュアン「へ?最初から、このつもりだったの?」

    椎葉「う……うん、だって美味しそうなパンだったから、デュアン君と一緒に食べてみたいなって……ダメだった?」

 

  デュアン「い、いや……そうじゃないんだけど。お願いを聞いてるつもりが、なんだか手玉に取られちゃったな」

俺って、カッコつけようとすると失敗するよな。どの世界でも・・・自分から意識してカッコつけると失敗する・・・。

 

    椎葉「ひょっとして、迷惑だったかな?」

  デュアン「ううん、全然。俺も前から椎葉さんをお昼に誘いたいと思ってたから」

 

    椎葉「本当?実はワタシもね、前から、デュアン君を誘いたかったんだ。それでね、どうやったら上手く誘えるかなって、作戦はたくさん考えたりしたんだよ?でも、実行する勇気はなくて……。今日、デュアン君がお願い聞いてくれるって言うから、思い切って結構しちゃいました、えへへ」

 

  デュアン「……むぅ」

オレは顔を赤らめ、左手でマフラーをくいっと口元を隠し、右手で椎葉さんの頭を撫でる。

 

ダメだ。破壊力が違いすぎる。

 

    椎葉「ふぇ?」

  デュアン「……」

椎葉さんを知れば知るほど、好きになる。

 

前のオレだったら、恋は最低限と思っていたが・・・。実際蓋を開ければ、こんなにも愛おしく・・・苦しくなるなんて思わなかった。

 

だけど、この苦しみは・・・嫌ではないと感じている。

 

  

満面な笑顔で、いちご蒸しパンへかじりついていた。

 

 

    椎葉「美味しいね、デュアン君♪」

  デュアン「ああ、凄く」

椎葉さんが笑ってくれるから、より一層そう感じるんだろう。

大好きな人が好きな物は、自分も好きになるものらしい・・・今まであんまり買わなかったパンだけど、明日も同じ物を買ってしまいそうだ。

 

~~~~~

結局、放課後になってもまあ、椎葉さんの役に立てたという実感は持てないままだった。

 

    因幡「これなんかどうですか!ボーイッシュでありながらも、ワンポイントで女子力アピールですっ」

 

    椎葉「うんうん、さすがめぐるちゃん!これなら……うふえぇえぇえぇ~っ」

 

女子力を上げると、ダメなんだって。まったく

 

    因幡「あー……ダメでしたか」

 

   デュアン「はぁ~……」

     保科「デュアン?」

   デュアン「ん?どった?」

     保科「いや……元気が無いなって」

   デュアン「そりゃそうだ……、……綾地さんと告白して上手くいったのか?」

 

     保科「ああ……、……あー……うん」

なんだ、顔が赤いぞ?ま、まさか!

 

   デュアン「ちょいちょい……柊史耳を、貸せ」

     保科「……?」

   デュアン「……、……エッチしたのか?綾地さんと」

     保科「っげほげほ……なんで知ってるんだ?!」

   デュアン「そりゃ、綾地さんを見れば分かるよ。でも、まあ……幸せそうだから……いっか」

 

本当に、幸せそうに・・・・。

 

身体をあげた綾地さんは、これから・・・更に傷つくと知らずに。

 

なんで「時間遡行」なんて・・・。

 

早急にアレを完成させなければならないな・・・

 

――――と考えてる。

 

 

    椎葉「ごめんね、めぐるちゃん」

    因幡「いえいえ、週末、遊園地へ行くことにしたんですよね?だったらタイムリミットはそこです!時間が許す限り協力させてもらいますから、気合い入れていきましょうっ」

 

    椎葉「うん、ありがとう。めぐるちゃん、よろしくお願いするね!」

 

"女の子らしい格好"。やっぱり、それが椎葉さんにとって一番の願いなんだろう。

 

     綾地「どうやら無事、椎葉さんのOKはもらえたようですね」

   デュアン「あ、あぁ……皆のおかげだな。綾地さんも」

「柊史と付き合いが上手くいっておめでとう。ただ……次からは近藤さんは使ったほうがいいよ」と綾地さんに耳打ちをした。

 

     綾地「ぴゃ!?な、なんで知ってるんですか!!」

   デュアン「気づく人は気づくぞ……ただ、言うつもりは無いから安心しなさい」

 

   デュアン「そうそう。昨日の相談者の人、どうだった?」

     保科「実はな……」

柊史と綾地さんは説明をした

 

   デュアン「なるほど……、……ね」

     綾地「このこと、椎葉さんにも話しておくべきでしょうか?」

   デュアン「……」

因幡さんと一喜一憂する姿を、チラリと見る

 

   デュアン「やめたほうがいいと思う……」

     保科「どうしてだ?」

   デュアン「簡単に解決しそうにない問題だし、それに……、……同情して落ち込ませるだけだ……」

     綾地「そうですね、私もそう思います」

     保科「だな……それに、デュアンの気持ちは分かる気がするよ」

 

   デュアン「……」

 

     因幡「ちょっと、デュアン先輩!先輩もなにか意見言ってあげてくださいよ。ある意味、先輩のためにやってあげてるんですからねっ」

 

   デュアン「ごめんごめん」

     椎葉「い、いいよ、めぐるちゃん!デュアン君には、後で見せるんだから」

 

     因幡「そうですか?うーん、確かにサプライズ感がなくなっちゃいますもんね。じゃ、デュアン先輩はいいです。むしろ、見ないでください」

 

   デュアン「あーはいはい」

・・・腹を括って決めるか。

 

~~~~~~

明くる日の放課後、椎葉さんと繁華街まで足を運んでいた。

 

    椎葉「わあ、ちょっと電車で移動するだけで、こんな場所があったんだね」

 

   デュアン「すまないな……オレの買い物に付き合わせちゃってさ」

 

実はそう言って、誘い出したのだ。

 

    椎葉「ううん、初めて来たから楽しいよっ。それにね、でゅ、デュアン君が誘ってくれるなんて……嬉しかったから」

 

 

   デュアン「椎葉さん……」

くそう。可愛い・・・って違う違う。また誘ったこっちが喜ばされてしまった。

 

まあ本当の目的は、オレの買い物じゃないんだよね。

椎葉さんを楽しませるために、連れてきたんだから・・・

 

    デュアン「それじゃ、行こうか」

    椎葉「ところでデュアン君、買い物ってなにを買うつもりなの?」

 

   デュアン「ん?うん、家で使うような雑貨を見たくて……あっ、ほら!あのお店なんか可愛いものがたくさんあって、つい欲しくなっちゃわない?」

 

    椎葉「わっ、本当だ!」

椎葉さんがショーウィンドウへ駆け寄っていく。

女の子らしい可愛い物が好きなのは、先刻承知だ。勿論この店の前を通ったのも偶然ではなく、事前にネットで調べていた。

身につけるのは無理でも、見るだけなら問題ないはず

 

本当の目的は、椎葉さんとウィンドウショッピングを楽しむことだ。

 

    椎葉「この兎の小物入れ、可愛い~!わっ、見て見て!あの子、サンタさんの格好してる~」

 

   デュアン「ウサギのサンタさんか、ははは、そりを引いてるのはちゃんとトナカイなんだ」

 

そりの上に乗ったプレゼントの箱に、小物を入れられるようになっていた。

 

ふむ。

 

     椎葉「よく見るものでも動物同士だと、なぜか可愛く見えちゃうよね。どんな小物を入れたら可愛いかなぁ~」

 

  デュアン「ふふっ、入れ物を決めてから、何を入れるか決めるの?」

    椎葉「えっ、変かな?」

  デュアン「変じゃないよ。でもこういうのって、片付けたい物があるから買うんじゃないの?」

 

    椎葉「デュアン君だって、どんな雑貨が欲しいか決めてるわけじゃなさそうだけど」

 

  デュアン「ん?うん、まあ見て決めようと思ってたから」

    椎葉「でしょ?ショッピングって、もともとそういうものだよ」

オレのはただ口実だからな。

だが、昔なにかで聞いたことがあったな・・・。男子のショッピングは買う物を決めてから行く、女子のショッピングは欲しい物を探しに行くものって。

 

    椎葉「あ、けどこのお店にある物じゃ、男の子には可愛らしすぎるかな」

 

  デュアン「いや、椎葉さんがいいと思うものをどんどん教えて欲しいかな」

 

クリスマス・・・クリスマスプレゼントに、なにかと役に立つだろう。

知識は豊富だが、椎葉さんの趣味趣向が合わなきゃ意味ないもんな。

 

それに・・・キラキラ目を輝かせる椎葉さんを見てると、癒される。

 

    椎葉「でも、デュアン君のうちに置くんだよね?」

  デュアン「え?あ……ほらさ。オレの選ぶヤツって結構適当だから。女の子の目線で選んでもらえたら助かるっていうか……まあ意見聞くために来てもらったんだ」

 

    椎葉「うーん、そういうものなの?」

  デュアン「多分……でも、椎葉さんだって欲しい物がみつかるかもしれないでしょ?このウサギのサンタ、いいと思うよ」

 

    椎葉「ふふ、だよね!あっ、あっちのはハロウィンの売れ残りかな?ジャック・オー・ランタン!」

 

  デュアン「本当だ、思い出すなー……ハロウィンパーティでの椎葉さんのコスプレ」

 

    椎葉「えへへ、うん……デュアン君が、アレンジしてくれたんだよね? きっとあのこと、これからもハロウィンの度に思い出しちゃうな」

 

  デュアン「ああ……そうだな」

    椎葉「うん……これもなんだか欲しくなっちゃうかな、けど買っても来年まで飾れないもんね」

 

ふむ・・・

 

  デュアン「いっそ、ジャック・オー・ランタンもサンタのコスプレをしてくれたら、クリスマスにも使えるのにね」

 

    椎葉「あはは、それいいかも!もしそんなのあったら、ワタシ絶対買っちゃうな」

 

無いのなら、作ってみるか?オーダメイド品にしてプレゼントするのもありなのかもしれない。

 

 

   デュアン「ねえ椎葉さん、あそこの服屋さんも見ていかない?」

     椎葉「えっ、けど女の子の服だよ?」

   デュアン「でも、椎葉さんが好きそうだと思ったからさ……ついでにどうかな」

 

椎葉さんが、にこっと笑う。

 

     椎葉「うんっ、好き!」

や、ヤバい。可愛すぎる

 

   デュアン「…………」

あまりにも、可愛くて見惚れてしまった。

遅すぎる恋心を自覚し始めてしまったようだ。

 

 

     椎葉「だから悪いんだけど、ちょっとだけ見てきていい?」

   デュアン「もちろん!構わないよ」

本当は、その顔を見たくて誘ったんだから・・・

椎葉さんは、幸せそうになら・・・オレも幸せになってしまう。

 

椎葉さんは、ウィンドウに張り付き、感嘆したように長い息を吐いていた。

 

     椎葉「わああぁぁ~~~~っ」

    デュアン「いっそ、お店の中にも入ってみようか?他にも気に入る服があるかも」

 

     椎葉「お店の中で気分悪くなったら、迷惑だろうし」

    デュアン「えっ。、それだけでもダメなの!?」

     椎葉「触ったりすると、ちょっとだけね」

    デュアン「なんてこったい」

それは知らなかったぞ。

 

     椎葉「だから魔女の契約から解放されたとき、ああいうの着て、こういうことしたら楽しいかなとか……想像の中でいろんなことして、遊んでたりするんだよ」

 

    デュアン「そうか……」

これは・・・かえって悪いことをしたんじゃないか?

欲しいのに、見るだけで手に入れることは出来ないなんて、ただの生殺しだったかもしれない。

 

     椎葉「あっ、ひょっとしてデュアン君、今暗いと思ったでしょ?」

 

暗い・・・というより、生殺しなんてひどすぎるよな・・・・

 

    デュアン「す、すまない……すっごく大変そうだと思っただけで……」

 

     椎葉「本当かなー?想像するだけでも、違うんだよ……よしっ、それを現実にするために頑張ろうと思えたりするんだから」

 

   デュアン「……椎葉さんは強いんだね」

     椎葉「え?」

   デュアン「前向きなところは尊敬するよ」

     椎葉「それくらい、ワタシあってうじうじしてることも結構あるよ」

 

   デュアン「オレは一度もそんな事を考えたことがないよ……常に達観視してる部分があるから……だから心の穴を開けられるんだ……それに、前向きになれるなら、椎葉さんを早く契約から解放してあげられるかもしれないわけでしょ?」

 

     椎葉「ふふ、それはそうかも……だから、早く心の穴を埋めて、ワタシの夢を実現させてね?」

 

   デュアン「ははは、責任重大だな……、……それにしても本当に好きなんだな、可愛い系の服。前にもこだわりだって言ってたけど」

 

     椎葉「うん」

   デュアン「(可愛いな)」

 

     椎葉「実はワタシね、ちっちゃい頃も男の子の格好で過ごしてたんだよ」

 

   デュアン「え?そうなの、どうして?」

 

まあ、男装する理由は何個かあるよな。ナンパ対策だったり・・・

 

     椎葉「お父さんとお母さんの方針だったんだけど、あっ、別にいじめられてたわけじゃないからね?」

 

   デュアン「そうなのか……」

     椎葉「当時はワタシも気にならなかったしね……だけどだんだん、あれ?おかしいな、って感じることが多くなって……それでも急には治せなかったんだよね。スカートは履けても可愛いっぽいのは恥ずかしくて無理だったんだ……だっていきなり変わり過ぎたら、変に思われそうでしょ?」

 

まあ、確かにそうだな。オレは気にしないが・・・

 

 

   デュアン「けど本当に椎葉さんでも、うじうじすることあるんだな」

 

     椎葉「ふふふ、そういうこと……でもね、我慢してる間に、どんどんどん願望だけは強くなっていって……ある時、もう思い切ってイメチェンするしかない!って思い立ったんだ」

 

やっぱり強いな、椎葉さんは。オレは怖いからそういう行動は移せないよな。

 

    椎葉「それでバイトしてお金を貯めながら、雑誌を見たり、ネットを見たり、お店を回ったりして……やっと理想通りの服を見つけてね、これを買おうと決めたんだ」

 

   デュアン「なるほど……」

    椎葉「あはは、うん……結局、服は買えても、着ることは出来なかったんだけどね。けど周りの友達にも、イメチェンするんだって宣言してたのに……反対に思いっきり、男の子の格好しかできなくなって、事情も説明できなかったから……あの時は、結構本気で凹んじゃったなぁ」

 

もしかして、椎葉さんの魔女の代償はこれが理由だったりして・・・。俺がもし、神様が選択した呪いがなく・・・通常通りの代償だったら・・・どんな結果があったんだろうか?

 

   デュアン「……そうか」

     椎葉「???」

   デュアン「……魔女になって、後悔してるのかなって思ってさ」

     椎葉「後悔がないって言えばウソになるけど……でも、おかげでデュアン君や保科君、綾地さんとも知り合えたわけだしね」

 

   デュアン「そうだな……魔女にならなければ、俺らと出会うきっかけも仲良くなるきっかけも生まれなかったかもしれない、からね」

 

     椎葉「そうだね」

   デュアン「でも……オレは思うんだ。どんなに選んでも……結果が全てだと」

 

未来は決定してるわけじゃない。個人が選択して、初めて選べる道なんだ。魔女の関係が無くても・・・選択した道さえあれば、出会うことができる。

 

     椎葉「結果が……全て……」

 

   デュアン「……、……辛気臭い話は此処までしてっと……さあ。買い物の続きでもしようか」

 

     椎葉「そうだね。デュアン君って素直じゃないね」

   デュアン「そうだろうか?」

     椎葉「だって本当は買い物へ行きたいっていうのも、嘘なんでしょ?」

 

うげぇ・・・なぜバレたし。

 

   デュアン「え!な、なぜ?」

     椎葉「だって……男の子が好きそうなお店は素通りして、ワタシが好きそうなお店ばっかり選ぶんだもん」

 

   デュアン「ふぅー……バレちゃあしょうがないな、ああ。そのとおりだよ……椎葉さんを楽しませてあげたかったんだよ」

 

     椎葉「そういえば、昨日からそんなこと言ってたもんね」

   デュアン「だってよ、オレばっかり椎葉さんのお世話になってる気がしてさ」

 

     椎葉「え?そんなこと無いと思うけど……デュアン君は、そう感じるってこと?」

 

   デュアン「ああ」

     椎葉「分かった。じゃあ、さっきのお店、戻ろ?」

 

ウサギサンタの小物を見つけたお店まで連れて来られる。

 

     椎葉「ワタシ、これ可愛いと思うな」

椎葉さんが見せてくれたのは、マグカップだ。

 

   デュアン「マグカップ?さっきの小物入れじゃなくて?」

     椎葉「うん、さっきも気になってたんだけど、言えなかったんだ……。嫌じゃなかったらなんだけど、デュアン君が、これ買ってくれたら……嬉しいかも」

 

   デュアン「ああ、もちろん構わないよ……って、あれ?椎葉さんもレジに並ぶの?」

 

     椎葉「うんまあ、いいからいいから、早くお会計済ませちゃお」

 

椎葉さんは持っている物を胸へ埋めるように隠してしまう。

見るのは野暮ってものか・・・何を買うのかわからないが、商品が羨ましい。って何を考えてるんだ!オレは・・・

 

~~~~

 

     椎葉「はい、じゃあ……こっちはデュアン君にあげます」

   デュアン「ん?俺が買ったのと、同じマグカップ……の色違い?」

俺が買ったカップは、すでに椎葉さんの手へ渡っている。

椎葉さんに渡したのはピンク色、そして今、俺の手にあるのは、淡い空色をしていた。

 

   デュアン「ひょっとして、このマグカップ……ペアカップだったのか!?」

 

     椎葉「そ、そう見えるかな?でゅ、デュアン君も、家で使ってよね。あとね、できたら学院の友達にも、ワタシ達が同じカップ持ってるのは内緒にして欲しいかな。このことは、2人だけの秘密にしてくれると、嬉しいかも、です……」

 

   デュアン「あ、あぁ……了解した」

     椎葉「えへへ、大事に使ってよね、割ったりしたら承知しないよ?」

 

   デュアン「当たり前だよ!……、……椎葉だと思って、大事にするから」

 

うわあ、俺ってば・・・何でこんな恥ずかしい言葉を言えるのだろうか?

 

     椎葉「う、うん、本当?ワ、ワタシもデュアン君だと思って、大事にするね……えへへ」

 

ああ、また椎葉さんのことを好きになってしまった。

 

この恋心。なんで今まで自覚できなかったのだろうか?

 

なんで、今まで転生して気付かなかったのだろうか?

 

・・・そして、オレは選んでしまった。

 

破滅への道を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

地元へ戻ってきたときには、だいぶ夕闇が迫ってきていた。

 

   デュアン「途中まで送っていくよ」

     椎葉「えっ、悪いよ……でも、いいの?」

   デュアン「構わないよ……それに暗くなってきてるし、なにがあるかわからないから……さ」

 

せめて、それくらいはしないと。

 

   デュアン「それに……もう少しだけ、椎葉さんと一緒にいたいんだ」

 

     椎葉「うん、ワタシも」

 

―――――

 

椎葉さんと一緒に歩き・・・細い道へ差し掛かったところだった。

 

子犬の鳴き声が聞こえた。

 

     椎葉「あれ?」

 

そこで布切れの固まりが、もぞもぞ動いてるのを見つけたのだ。

 

   デュアン「……、……(なんだろう、この子犬。すっごく違和感を感じる……、……上手く説明が付かない)」

 

オレの気の所為だといいが・・・・

 

     椎葉「わあ、子犬だ!可愛いー、もふもふしてるよ」

   デュアン「でも、どうしてこんなところに?ん?この布、よくみたら、犬用の服みたいだけど……大きいな……大型犬用か?」

 

ますます怪しいな・・・

 

     椎葉「お母さんの物なのかな?」

   デュアン「ふむぅ……母犬も近くにいるのか?」

気配を探るが・・・それらしいものはなかった。

 

 

   デュアン「捨て犬ってことはないよな?」

子犬がわん!と吠える。

 

   デュアン「おわっ……な、なんだ!?」

突然、椎葉さんの腕からこちらへ飛び移ってきた

 

   デュアン「って、こらこら……マフラーをかじかじするな!よだれでべとべとになるだろう」

 

 

     椎葉「ふふふ、デュアン君に懐いたんじゃない?」

   デュアン「普通はこういう動物は、女の子に懐くものだけどな……それより、飼い主を探したほうがいいかな?さすがに小さな犬を、この寒空に放置するわけにもいかんだろう……」

 

     椎葉「……うん。でもこの子、首輪してないよね」

   デュアン「……、……小さいから、まだつけてないだけかもしれないだろう?わかりやすくダンボールに入ってたわけじゃないんだし、捨て犬とは限らないよ」

 

     椎葉「そう思いたいけど……どうして、犬用の服と一緒なんだろう?お母さんの匂いがする布と一緒に入れられてて、抜け出してきちゃったって考えられないかな?」

 

   デュアン「ありえる話だが……」

なんか引っかかるんだよな、この犬。

 

大型犬の服に包まれた子犬。

 

   デュアン「椎葉さん、しばらく預かってあげること出来ないか?」

     椎葉「ええっ、ご、ごめん、うちはペット禁止だから……デュアン君に懐いてるんだから。デュアン君、飼ってあげられないの?」

 

   デュアン「うむぅ……オレ一人暮らしだし……昼間は誰も居なくなる……流石に……とてもじゃないが飼うことはできない」

 

暗くなってきてるし、飼い主も近くに居ない。

 

    椎葉「誰か心当たりは居る?綾地さんもマンションだったよね?」

 

   デュアン「どうだろう……」

    椎葉「因幡さんや、保科君、戸隠先輩は、どうだろ?」

   デュアン「オカ研の皆か……う~ん……あっ!」

    椎葉「誰か思い当たる人がいたの?」

   デュアン「分からんが……連絡してみる価値はあると思うが……」

 

    

オレは、すぐに綾地さんに頼んで、厚真さんの連絡先を教えてもらった。

 

 

 

   椎葉「……本当に来てくれるかな?」

  デュアン「分からんが……まあ、子犬を放っておけない人だと思う」

 

そのとき街灯の向こうから、見覚えのある学生が近づいてくるのが見えた。

 

  デュアン「よかった、厚真さんですよね?」

   厚真「ええ、貴方は……確かオカ研の部室にいた?」

  デュアン「はい、急に電話してすまない。オレはデュアンで、もう1人は椎葉って言います」

 

    椎葉「はじめまして」

    厚真「……それで、貴方が抱いてるのが、問題の子?」

  デュアン「ええ……やっぱり、飼い主の人は現れないみたいで……暫くの間だけでも、預かってもらえると助かるんですけど」

 

    厚真「……、……可愛い子ね」

厚真さんは黙って、子犬の顔を覗き込む

 

  デュアン「ですよね?だったら……」

    厚真「ごめんなさい、やっぱりダメよ……うちに置いたら、絶対に情が移っちゃうし」

 

確かに・・・そうだな。

 

  デュアン「……、……」

    厚真「どうしてもコジローのこと、思い出しちゃうから……あんなに仲良しだったのに……最期は少しずつ、少しずつ息が出来なくなっていくのを、黙って見てるしかなくて……何も出来なかった……!あんなに仲良しだったのに、何もしてあげられなかったの」

 

    椎葉「厚真さん……」

厚真さんが、暗がりの中で肩を震わせる。

 

  デュアン「……」

    厚真「だからごめんなさい、私にはもう二度と犬を飼う自信なんて……」

 

子犬がくぅ~んと鳴く。

そのとき腕の中から首を伸ばし、子犬が厚真さんのほっぺをぺろぺろと舐め始めたのだ。

 

    厚真「や、やめてよ、犬のそういう優しいところが苦手なのっ」

  デュアン「……、……」

    厚真「コジローも同じだったから……!」

 

オレは黙って見てることしか出来なかった。言いたいことがあったが。心が衰弱している彼女に俺が言えば、傷つけてしまう。

 

生き物は必ず死ぬ。それは自然の摂理。

 

  デュアン「……、……厚真さん、俺にはコジローとの絆は分からないけど……今目の前にいるコイツは人間の助けを必要としてるんです」

 

    厚真「私には無理よ」

  デュアン「でも、来てくれた……本当は捨て犬かもしれないと聞いて、放っておけなかったんでしょう?」

 

    厚真「まだ、そうとは決まってないんでしょう」

  デュアン「ええ……だからしばらくの間だけでもいいですから、保護してあげて欲しいんです……しばらくの間だけ、迷子になって困ってるこいつを助けてあげて欲しい」

 

    厚真「……~っ」

厚真さんはしばらく子犬とみつめあったまま黙っていたが・・・

 

    厚真「コジローにしてあげられなかった分を……この子にしてあげろって言うの?」

 

  デュアン「まさか……そこまでは言いませんよ。でも厚真さんは、絶対に子犬をステたりしない人だと感じたから」

 

    厚真「そうね……こんな可愛い子を捨てる人がいるなんて、信じられない」

 

厚真さんが手を出すと、子犬も自分からそちらへ移っていった。

 

    椎葉「わあ、きっと厚真さんがどういう人か、わかるんですね」

  デュアン「きっと賢いんですよ」

    厚真「さあ、どうかしらね。でも……温かいわ、この子。だから、寒さで風邪を引かないようにしてあげないとね」

 

  デュアン「ええ……」

厚真さんは子犬を落とさないよう、大切に抱えたまま去っていった。

 

    椎葉「よかったね、デュアン君」

  デュアン「そう、だな……厚真さんにとっても、いい方向へ向かってくれるといいんだがな」

 

    椎葉「きっと大丈夫だよ」

  デュアン「それより付き合わせて悪かったな……改めて送ってくよ」

    椎葉「ううん、気にしないで……デュアン君が誰にでも優しいのは知ってるから」

 

  デュアン「俺が、か?」

    椎葉「うん、だってそうじゃない?みんなに優しいと思う」

  デュアン「そうだろうか……でも、椎葉さんには負けるよ」

    椎葉「えー、絶対デュアン君の方が優しいと思うけどな……子犬のこともそうだけど、急にワタシのお願いを叶えたいって言い出したり」

 

  デュアン「椎葉さんだって、嫌な顔を1つせず看病してくれたじゃないか……デートをOKしてくれたのも、また俺が倒れないようっていうのもあったんだろう?」

 

    椎葉「な……何言ってるの、デュアン君?」

  デュアン「あるぇ?そう言ってなかったか?」

    椎葉「ひょっとして、ワタシが困ってる人を見たら、誰とでもデートすると思ってる?」

 

  デュアン「い、いや……そういう意味じゃないけど」

    椎葉「……」

  デュアン「…………」

き、気まずい・・・

 

  デュアン「あ、あの、椎葉さん……え?」

    椎葉「……~~っ」

急に椎葉さんが、俺の手を握ってきた。

 

    椎葉「………」

  デュアン「……」

手を繋いだまま、黙って歩く。

 

    椎葉「あ……あのね、確かにこの間、そういうこと言っちゃった気がする」

 

  デュアン「う、うん」

    椎葉「でもね……あのね……たとえ、本当の気持ちでも……はっきり言うのは、勇気が要るんだよ」

 

  デュアン「……あ、ああ」

    椎葉「だから、言い訳とか、口実とか……嘘じゃないけど、本当の気持ちと少し違うこと……つい、言っちゃうこともあるんだ」

 

確かに椎葉さんとはいい感じの関係を構築している。だけど、恋人という関係ではない。

 

~~~~~~

 

やがて、分かれ道が近づいてくる。

このまままっすぐ進んでしまったら、1分も待たず別れなくてはならなくなる。

 

   椎葉「ねえ、ちょっとだけ遠回りしてみない?」

  デュアン「いいけど、家の人、心配しないか?」

   椎葉「うん、だからちょっとだけ」

  デュアン「了解」

 

   椎葉「あのマグカップ、使ってね?ワタシも早速使うつもりだよ……デュアン君のこと、考えながら」

 

  デュアン「ああ……俺も椎葉さんのこと考えながら使うよ」

 

だからこそ、伝えなきゃいけない言葉がある。

 

  デュアン「ねえ、椎葉さん……デートの後、少しだけ話したいことがあるんだ」

 

    椎葉「うん、ワタシも……デュアン君に伝えたいことがあるよ」

 

あぁ。これが幸せというやつか。これが俺の初恋なのか。

 

 

だから・・・彼女の夢を叶えてあげなくては・・・

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 



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Ep53 契約の上乗せ(ディール・ベット)

 

 

~~~~~

 

  デュアン「こんにちは、厚真さん」

    厚真「あら、昨日のオカ研の人……綾地さんも一緒なのね」

    綾地「ええ、昨夜は勝手に連絡先を教えてしまって、申し訳ありませんでした」

 

    厚真「いいのよ、少しびっくりしたけどね」

まあ、そりゃそうだわな・・・

 

    綾地「そのチラシは?迷い犬の飼い主、探しています……ですか?」

 

    厚真「ええ、預かってる子の写真と特徴、みつけた場所を書いて、情報を募集することにしたの……もし捨てられたんじゃなく、迷っただけなら、飼い主の方はきっと凄く悲しんでるはずだと思ったから」

 

飼い主・・・そんなもの本当にいるのだろうか?

 

オレはまだ、どこか違和感を拭いきれなかった。

 

    厚真「だからまだ、あの子には名前もつけてないのよ」

    綾地「なるほど、そうですか」

  デュアン「……、……」

    厚真「だけどやっぱり貴方の口車に乗せられて連れ帰ったのは、失敗だったわ……家にいる間、ずっと後を追いかけてきて、ベットにまで潜り込んでくるし……あれだけ懐かれると、ね」

 

なんだろう・・・やっぱりどこか引っかかっている。

 

  デュアン「はは、すみません」

 

今は、考えることを放棄するか。

 

    綾地「万一、飼い主の方が見つからなかったときは、どうされるつもりです?」

 

    厚真「……今は、考えないようにしてる。こんなことしてるのも、結局まだあの子と暮らしていく自信がないだけかもね」

 

厚真さんは、自嘲するように笑うと、階段を下りていった。

 

    綾地「よかったです、気持ちが少し上向きになったようですから」

 

  デュアン「だといいが……」

    綾地「何か引っかかるんですか?」

  デュアン「いや……オレの杞憂で終わば良いと思ってる」

    綾地「???」

 

綾地さんと会話を切り上げた。

 

 

窓の外に、大きなカラスが止まっているのに、気付いていた。

 

 

~~~~~

 

  デュアン「……アカギ、もう出てもかまわないぞ」

こちらから中庭へ出て、声をかける。

 

 

   アカギ「ようやく、取引を開始する気になったと思ってよいのであろうな?」

 

  デュアン「2時間で20時間、こちらが代償を肩代わりすればいいんだったな?」

 

   アカギ「それも特別に、利子無しの後払いで構わんぞ……それっぽっちでは、利子を取っても取らなくても、大差ないからな」

 

木月さんの場合は、オレの記憶の一部分が消し飛んだからな。今となってはなんの記憶が消えたのかが分からない。

 

   アカギ「ではさっそく……」

  デュアン「待て、一つ聞かせてくれないか?」

   アカギ「なんじゃ?明後日の日曜日には、遊園地へ行くと聞いておるぞ……決断するには、もう時間が無いと思うがな」

 

  デュアン「肩代わりする時間を2時間上乗せ(ベット)する……それと、もう一つ、アカギ……お前はなぜ人間になりたいんだ?」

 

   アカギ「人間が、自由な生き物だからじゃ」

  デュアン「……」

   アカギ「自分で聞いておいて、なにをぼけっとしておる?」

  デュアン「アカギ……本気でそう思ってるのか?オレからすればお前のほうがよっぽど自由に見えるぞ」

 

   アカギ「ふんっ、人間は鳥をどこへでも好きなところへとんでいける生き物と思ってるようじゃからな」

 

  デュアン「……そうは思ってないが……"翼"を捨ててまで、人間になろうとしている気持ちが分からないだけだ」

 

   アカギ「あっちは、ただのカラスではない……人間共がオオガラス、ワタリガラスと呼ぶ、歴とした渡り鳥なのじゃ」

 

  デュアン「なるほど……」

   アカギ「もともと、島国へ渡ってくるのも、冬の間だけ……他の季節はまた、さらに北の地で暮らしていた……あっちは季節が変わる度、否応なく旅立たねばならん身の上だったのじゃ……それに比べ、人間は違う……渡りなどせず、好きな街に好きなだけ留まっていることができる。どこへ行かずに済む自由が欲しいのじゃ」

 

  デュアン「なるほどな……だけど人間だって、そんなに自由ってわけではないぞ……人間にはその自由の代償としてルールと責任が伴う生き物だ」

 

   アカギ「それでもじゃ」

  デュアン「そうか……変わった目的だな」

   アカギ「くく、人間にはわかるまい……だが、たが、あっちにも昔、人間の友達がおったのじゃ……そいつはまだ、オスの雛でな。いつもいつも白い壁に囲まれた消毒臭い巣に閉じこもっておったよ」

 

  デュアン「(病院の無菌室……か?)」

   アカギ「基本的に人間というのは、あっちらカラスを忌み嫌う……餌場に仕掛けをして、嫌がらせまでしてくる」

 

  デュアン「そりゃ、人間からすればゴミを漁られて、散らかされるのが嫌なだけだろう……」

 

   アカギ「でも……そいつだけは違ったのじゃ」

  デュアン「……」

   アカギ「他の鳥と同じように扱い、エサを分けてくれた。おそらく自分のエサであろうパンくずをな。そのうち、あっちが窓辺に止まると話しかけてくれるようになったのじゃ」

 

アカギは当時を思い出してか、心なし楽しそうに笑っている。

 

  デュアン「……、……」

   アカギ「もっとも当時のあっちには、人間の言葉はほとんどわからんかった……シュジュツ……おそらく、手術のことだったのだろう。それを受けるのが不安で、あっちと話していると落ち着くようなことを言っていたように思う」

 

  デュアン「それで、どうなったんだ?」

   アカギ「わからん」

  デュアン「……え?」

   アカギ「そいつの親鳥に、フキツだなんだと言われて追い払われてしまってな……それからはいつでもカーテンが掛けられるようになって、中の様子はわからんかった。だからあっちは、コンコンと2回、クチバシで窓を叩き挨拶をするようにした……するとあちらからも、コンコンと2回窓を叩く音がするのだ……最初は、それだけで満足だった」

 

   アカギ「だが、少しずつ少しずつ、返ってくる音が弱々しくなっていった……やがてあっちが叩いても、返事は返って来なくなったのじゃ」

 

  デュアン「……っ」

   アカギ「それでも毎日、窓を叩いた。しかし冬が終わり、渡りの季節が近づいてきた。あっちらワタリガラスに、こちらの春は温かすぎる……飛びだつ仲間に遅れては、もう二度と群れへ入れてもらうことは出来ん……正直、どうして返事をしてくれんのか?あっちは気になって仕方がなかった」

 

その答えは、おそらく・・・退院したか、死んだか、集中治療室(ICU)に入ったかの3パターン。

 

  デュアン「……」

   アカギ「だから、もうどうしても飛び立たねばならぬというその日……2回だけではなく、何度も何度も窓を叩いた。返事があるまで、そうするつもりでいたのじゃ……返事はあった。だがカーテンを開けて、そこに立っていたのは別人だった……白い服を着た、人間のメスじゃ……おそらく言付けを頼まれていたのであろう、来年のクリスマス、またここで会おうという意味のことを言われた。あっちはその言葉を信じ、旅立つ決意をした」

 

   デュアン「……」

    アカギ「だが次の年、そのまた次の年も、そいつは姿を現さんかった……あれから50年経つ」

 

   デュアン「ご、50!?」

    アカギ「毎年毎年、あっちに羽根を運ばせながら、まったく約束を果たそうという気配がない」

 

   デュアン「アカギ……」

    アカギ「あるいはどこかへ渡っていって、そのまま戻り方がわからくなったか?」

 

   デュアン「……」

    アカギ「ともかく、あっちも人間になりさえすれば、もう人間に追い払われる心配もなかろう……そしてあいつを見つけ出し、文句の1つも言ってやるつもりじゃ……でないと、あっちの気が済まん」

 

諦めの悪いところはいいことだとは、思うが・・・もしも、それが行動源にしてるなら・・・いや、まだ死んでると決まってるわけではない。だが、50年という月日が経過している。

 

    アカギ「そのためにも、あっちは早く人間にならねばならん……人間の寿命は短いからな。ここまで努力をしたのに水の泡となってはかなわん」

 

  デュアン「確かに……」

   アカギ「だからあっちは少しでも早く、たくさん心の力が欲しいのじゃ……小僧、お前が取引に応じるならば、あっちは余分に心の力を手に入れられる。紬は一時的でもメスの格好ができるようになり、お前も心置きなくデートを楽しめる。みんなが得をする、悪い取引ではないはずじゃぞ」

 

  デュアン「……ああ。たしかにな。取引に応じよう。オレもデートを思い切り、楽しみたいからさ!」

 

   アカギ「ふっ、最初からそう言えばよいのじゃ……取引成立じゃな」

 

  デュアン「ああ」

アカギは手を差し出してくる。オレはそれを握る。

 

    デュアン「……、……」

   アカギ「契約の証じゃ」

 

    椎葉「デュアンくーん!ってあれ、アカギも一緒だったの?」

タイミング良く、椎葉さんがこちらへやってくる

 

   デュアン「あ、ああ。椎葉さんこそ、どうかしたのか?」

    椎葉「ああ、ワタシも厚真さんの様子が気になってたから……綾地さんと見に行ってくれたんだよね?」

 

   デュアン「多分大丈夫だろう」

オレは、途中で綾地さんと柊史にパスしたからな。

 

    椎葉「そうなんだ、よかった」

   アカギ「それより、紬よ……特別にデートの日、4時間だけメスの服を着ても平気にしてやってもよいぞ」

 

    椎葉「へ?ええッ!?ほ、本当に?」

   アカギ「小僧に吸収された心の欠片は順調に返ってきているようだが、まだまだ足りぬ……それをなじっておったところじゃ、のう?」

 

  デュアン「そうだな」

どうやら取引のこと、ちゃんと椎葉さんには内緒にしてくれるつもりらしい。ありがたいことだ

 

   アカギ「この機会で一気に回収してしまうがよい……それには、可愛くなった紬を見せてやるのが一番じゃろう」

 

    椎葉「で……でも、4時間だけでも、代償を止めるなんて……そんなことしても平気なの?あとで、大きな利子を払わなくちゃいけないとか」

 

   アカギ「だから特別じゃ、心配ない。小僧の心の穴さえ埋めてしまえば、それ以上の利益があるのだからな……いわゆる、センコウトウシというヤツじゃ」

 

    椎葉「アカギ……」

  デュアン「よかったじゃないか、前に言ってたよね?買ったのに着られなかった服があるんだよな?それを着て来てよ……オレ、楽しみにしてるからさ」

 

    椎葉「デュアン君……うんっ」

  デュアン「ああ」

    椎葉「ありがとう、アカギ!」

   アカギ「わっ!?こ、こら、紬ッ、いきなり抱きつくのではないっ」

 

    椎葉「だって、だってもう、諦めてたんだもんっ……おかげで理想通りの、夢に描いた通りのデートができるよ、ありがとうっ、ありがとう、アカギ」

 

   アカギ「う……うむ、そうか」

あ。アカギのヤツ・・・少し罪悪感を感じてるな。別にアカギが悪いわけじゃないし・・・この契約だって、オレから進んでやったことだしな。

 

   デュアン「ふふ」

    アカギ「笑うでない!」

   デュアン「微笑ましい光景だなぁって」

オレはそれだけそういうと、アカギは切り替えていった

 

    アカギ「あっちも、紬には少々世話になっておるからな、本当に特別なんじゃぞ?」

 

少々?結構な頻度に世話になってるんじゃないのだろうか?

 

    椎葉「うん、わかってるよ、わかってるから本当に感謝してるんだよ」

 

実際に代償を肩代わりするのは、オレだけどな。だけど、ここまで喜んでくれるなら、やっぱり取引してよかったな。たった40時間、我慢するだけでいいんだから。・・・どんな代償を受けるのは分からんが。

今までの魔女と代償の肩代わりを経験上、綾地さんの発情の肩代わりをした時、男の時は理性で押さえられるけど、(ミュウ)になった時は・・・理性という制御(ブレーキ)が効かなくなって、えらい目にあったな。木月さんのは、前世の記憶の一部分が消し飛んだよな。

 

   アカギ「これこれ、もう離さぬか。あっちはそろそろ行く……学院というのは、部外者がいると目立つものじゃからな」

 

そういや、魔女は関係者以外認識されなくなるんだよな・・・アルプ自身はどうなるんだ?認識はできるが、言葉が交わせないってことになるのか?

 

    椎葉「あ、そっか」

   アカギ「小僧も、紬のことは任せたぞ」

  デュアン「……!ああ、任された」

アカギはどこか満足そうな笑みを浮かべると、カラスの姿に戻って飛び去っていった。

 

    椎葉「ふふふ、よかった……明後日の遊園地、楽しみだね、デュアン君、えへへへ」

 

  デュアン「ふふ、椎葉さん、すごいニコニコしてるよ?鏡があったら、見せてあげたいくらい」

 

と言いつつ、オレはスマホで写真を撮る。なぜか、シャッター音はならなかった。

 

    椎葉「もうだって、仕方ないよ。本当はね、ちょっと不安だったんだもん。明後日は、ワタシにとって、特別の日になるはずなんだよ。なのに……いつも通りじゃ、ちゃんと特別な気持ち、デュアン君に伝わらないんじゃないかって」

 

  デュアン「そんなことはないよ」

 

    椎葉「ううん、ワタシ……結構我が儘なんだよ?100の気持ちは、ちゃんと100分かって欲しいんだもん……そのうちの90とか……ううん、99でも不満に思っちゃうかもしれない……。けどもう、そんな心配しなくていいんだよね?」

 

  デュアン「ああ、4時間の制限時間付きだけど、きっと特別な4時間になるな」

 

    椎葉「ふふふ、なんだかシンデレラみたいだな……ワタシ、童話のお姫様にも憧れることあったから、明後日はたくさん夢が叶いそう。……デュアン君が、叶えてくれるんだよね?」

 

  デュアン「ああ、頑張るよ。流石に王子様なんて柄じゃないかもしれんが、最高の初デートにしようぜ!」

 

    椎葉「……はい」

椎葉さんが、はにかむように俯いてしまう

 

  デュアン「(可愛いな……)」

    椎葉「デュアン君、ふつつか者ですが、日曜日はよろしくお願いするね」

 

  デュアン「ああ……こちらこそ、椎葉さん」

いよいよ待ちに待った椎葉さんとのデート。

アカギとの契約の上乗せ(ディール・ベット)し、椎葉さんの魔女の代償による負担を少しでも減らしたのは、正解だったのかもしれない。

4時間だけの夢の魔法だが・・・。

 

とにかく、日曜日が楽しみだ。

 

 



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Chapter7
Ep54 ファーストデート【前編】 ☆


 

――――ついに、日曜日がやってきた。

起きたのが、6時00分。オレはシャワーを浴び、バスタオルで身体を拭きながら、服を選ぶ。

 

  デュアン「うぅ~ん……Tシャツは黒がいいよな、ズボンも……黒、フード付きの長袖を一枚着て……後は、蒼と白と黒のコートだな……、……よし」

 

 

【挿絵表示】

 

 

財布の中を確認っと。1万円札が15枚、5千円札が8枚、千円札が25枚あれば、十分だろう。小銭袋に500円玉が11枚、100円玉が10枚、50円玉が8枚、10円玉が24枚あればとりあいずなんとかなるだろう。

 

 

とりあいず、行くか。

 

 

 

~~~~~~

待ち合わせより、1時間早く着ちまったな。

 

  デュアン「(やばい、早くも緊張してきてしまった)」

まだ顔も見ないうちから、心臓がばっくんばっくんいってる。

 

  デュアン「(とりあいず、心臓を落ち着かせなきゃな)」

オレは、別のことを考えて、切り替える。デートの最後に告白するつもりだ。タイムリミットは4時間。可能な限りデートにだけ費やすために、色々回る場所も告白する場所も考えてきてる。

 

   ???「待たせたな」

アカギの声か?

 

  デュアン「なんだ……アカギか、椎葉さんは?」

   アカギ「紬は準備中じゃ。しばし待て」

  デュアン「ふむ」

   アカギ「時間をたっぷり使うために、来てから着替えるようにしたのじゃろう」

 

  デュアン「でないと、現地集合の意味ないもんな……ところでアカギ?チケットは椎葉さんにしか渡してないはずだけど……」

 

   アカギ「おかしなことを聞く小僧じゃな。いくらでも、そこから入ってこられるじゃろ?」

 

アカギは空を指差している。

 

  デュアン「はは……ですよねー」

   アカギ「ところで、小僧?お前に話しておきたいことがあったのじゃ」

 

  デュアン「?」

   アカギ「ほれ、耳を貸せ」

  デュアン「念話じゃダメなのか?」

   アカギ「えーい、だったらそう言わん。いいから、耳を貸さんか」

  デュアン「っ……!?」

オレはアカギの言う通りにしようと、しゃがもうとした瞬間。

普段と全く違う装いに身を包んでいるものの、恥ずかしそうに俯くその子が、顔を上げる。

心臓が激しく跳ね上がる。遠くからでも目が合ったのだ。

 

お、オレの現在の心拍数は多分120オーバーじゃないのか?

 

   椎葉「お、お待たせ、デュアン君……待った?」

  デュアン「い、いや……大丈夫だ、もも問題ない」

面食らってしまった・・・。輪廻転生を繰り返して、何度か恋人になったが、オレがこんな感情になったのは、椎葉さんが初めてだ。

 

   椎葉「でゅ……デュアン君?あれ、どうしてなにも……」

  デュアン「可愛い」

   椎葉「ふぇぇ?」

  デュアン「言ったでしょ?オレも見たらきっと、可愛いって言うはずだって」

 

   椎葉「そ、そうだったかな?」

  デュアン「ああ、本当だったと思って」

椎葉さんが特別な格好をしていれば、もっともっと特別になれる。

 

  デュアン「今日の椎葉さん……す、すげぇ可愛いよ」

   椎葉「でゅ、デュアン君……い、いつもはクールにさらっと言う癖に……本気にしちゃいそうだよ、そ、そんな言い方」

 

  デュアン「クールになれないぐらい今日は今まで一番……いや!今までも、本気で言ってたけど……普段よりさらに、か、可愛くなるなんて……一瞬言葉が出なかったけど……お、お姫様みたい、です」

 

   椎葉「……~~~~~っ」

顔を見ていられるのは、そこまでが限界だった。

こ、これ以上はオレの頬が緩んでしまう・・・と思い、マフラーで口元を隠す。

 

   椎葉「でゅ、デュアン君こそ、王子様だよ」

  デュアン「……へ?」

   椎葉「こないだ、自分は柄じゃないって言ってたけど、そ……そんなこと、ないよ。デュアン君こそ……お、王子様みたいなものだから」

 

  デュアン「……」

オレは、王族という立ち回りってあんまり好きじゃないんだよなあ。

 

   椎葉「ワタシのこと、お姫様って言ってくれて、そ、そんな風に言ってくれると思わなかったし……す、凄く嬉しいよ……ありがとうっ」

 

  デュアン「し、椎葉さ……いや」

オレにも今日実行しようと思っていたことがあった。今まで女性に下の名前を言うのは、恥ずかしいと言うより、オレの中で壁があるような気がしてた。だから、今日。その壁を取っ払ってやる!

 

  デュアン「こっちこそ、今日は来てくれてありがとう、つ……(つむぎ)

 

意識して言うと、恥ずかしいぞ。こりゃ。

 

   椎葉「はい?」

  デュアン「……、……さん」

   椎葉「……」

  デュアン「えっと……そう呼んじゃまずいだろうか?紬、さん」

呼び捨ては、やっぱり恥ずかしい。頭が沸騰しちゃいそうだ。

なんか、ようやく人間らしいことが出来たような気がする。

恥ずかしながら、マフラーで口元を隠し、顔を見られないようにそっぽを向く。

 

   椎葉「じゃ、じゃあ……、……あ、あれ?デュアン君の下の名前……なんだっけ?」

 

そういや、椎葉さんはオレの下の名前知らないんだったな。まあ、オレの下の名前は、綾地さんと柊史、海道、仮屋さんぐらいしか知らないか。後は、久島先生と相馬さんかな?

 

  デュアン「デュアンでいいよ……でも、いい機会だ。オレのフルネームを教えるよ」

と一度、咳払いをして・・・

 

  デュアン「俺の名前は、デュアン・オルディナ・フィア・レグトール……だから、デュアンって呼んでくれ」

 

デュアンって名前がオレにしっくり来るよな。レグトールくんじゃ、オレの存在が無いような気がする。結婚する時は、椎葉さんの性を使うことにしよう。

 

   椎葉「わ、分かった……デュアン、くん」

  デュアン「うむ」

   椎葉「ふっ……えへへ」

  デュアン「ふふっ」

 

   椎葉「実はほら、最近よく授業中に目が合ってたりしてたでしょ?」

 

  デュアン「うぐっ……す、すまない」

   椎葉「どうしてデュアンくんが謝るの?……ワタシが、デュアンくんのこと、見てたせいだよね?ワタシ授業中だって言うのに、デュアン君のこと……下の名前で呼びたいなって考えてたことがあるんだ」

 

  デュアン「……え?」

   椎葉「あはは、変なことばっかり考えてるせいだよね……気がつくと、授業中でもいつもデュアンくんのこと……目で追ってるんだもん」

 

  デュアン「ま、待って……紬さんが?」

   椎葉「うん、心の中で……」

  デュアン「まさか俺と同じことを考えてた?」

   椎葉「へ、デュアンくんと同じって?……え!」

  デュアン「お、俺も……下の名前で呼ぶところ、想像してた」

まあ、行動に移せなかったんだけどな。

 

   椎葉「……ほ、本当に?」

  デュアン「ああ……」

人が傷つくような嘘は言わない。嘘つきだが・・・な

 

   椎葉「そうなんだ……」

  デュアン「……」

   椎葉「………」

互いに俯いたまま、照れ合ってしまう

 

   椎葉「じゃ、じゃあ……デュアンくん?」

  デュアン「なんだい?紬さん?」

   椎葉「~~~ッ」

  デュアン「???」

   椎葉「デュアンくんっ」

  デュアン「紬さん!」

   椎葉「え……えへへ、デュアンくん、デュアンくん、デュアンくんっ」

 

可愛いな、もう。

 

  デュアン「つ、紬さんっ」

ああ、名前を呼び会えるだけで、反則的までに幸せだ。

 

・・・本当に幸せだ。

 

・・・・・。時間遡行する時に本来なら俺と柊史のみだったが、紬のことが好きになった以上、柊史と紬を時間遡行させよう。

 

俺の"この想い(恋心)"を紬に渡せば、過去の俺なら・・・気づくことはできるだろう。過去のオレなら、この恋心で、時間遡行するということに気がつく筈だ。

 

だから、今は余計なことを考えず、現在(いま)の事を考え、告白しよう。素直に。

 

 

   アカギ「……おい、あっちがいることを忘れておらぬかえ?」

 

  デュアン「ほわぁっ!?あ、アカギ、まだいたのか?」

    椎葉「ワ、ワタシは忘れてないよ?ちょっとの間だけ……デュアンくんしか見えなくなってただけで」

 

   アカギ「やれやれ、さぶいぼが立つくらいのデレデレぶりじゃな」

    椎葉「も、もう、アカギは最初から鳥肌でしょ?」

突っ込むところが違う。

 

   アカギ「ふふっ。ほれ、小僧も話の途中だったはずじゃぞ?耳を貸せ」

 

  デュアン「そういや、そうだった。あまりにも紬が可愛くて……頭から完全に抜けてたわ」

 

完全記憶能力といっても、衝撃的な出来事が起きれば・・・記憶からすっぽ抜けるって、完全に致命的だよな。名前負けしてる。瞬間記憶能力も、容量がデカすぎる出来事が起きれば、使えなくなっちゃう・・・とにかく、それくらい紬が可愛いんだ!

 

   アカギ「忘れるでない!」

  デュアン「だ、だが……流石に恥ずかしいぞ」

見た目が幼女に耳を貸すのは恥ずかしいな・・・いや、見た目が幼女って人のこと言えないよな。

 

   アカギ「さっきの会話の方が、余程恥ずかしいわ!」

ま、まぁ・・・第三者から見れば恥ずかしい、のか?と思って、素直に耳を近づけると、アカギは唇を寄せてくる。

 

    椎葉「……っ」

   アカギ「延長したくなったら、いつでも言うのじゃ」

と言ってきた。

 

  デュアン「ふむ……」

   アカギ「もっとこのままでいたいと思うのは、雄雌の常じゃ」

ま、まあ・・・確かに言えてる。

 

   アカギ「無論、その分代償はいただくがな」

4時間=40時間すでに使っちゃってるんだが・・・まあ、紬の為なら幾らだって使ってやるよ!

どんな代償を受けるのか、分からない・・・。分からないからこそ面白い。狂気の沙汰ほど面白いものはない。

 

  デュアン「一応、考えておくよ。きっちり240分で片を付ける」

片を付けられるといいが・・・不安要素のために+2時間上乗せ(ベット)したんだ。

 

   アカギ「そうか?まあ、気が変わったらいつでも言うのじゃ」

  デュアン「了解した」

   アカギ「心の中で、語りかけてくれれば、あっちはそれを聞いておるぞ」

 

流石はアカギ。流石はアルプ。

 

   デュアン「……まさしく魔法だな」

     椎葉「も、もう、2人ともいつまで話してるの?くっ付きすぎだよ」

 

紬さんに腕を引っ張られてしまう。

 

     椎葉「デュアンくんは、ワ、ワタシとデートに来てるんだからね?」

 

   デュアン「す、すまない……そんなに長く話してた?」

     椎葉「そ、そうじゃないけど……ずるいよ、アカギ?」

いや、アカギは人間になりたいんだろう?オレ・・・というより、人間に恋愛感情なんて抱いていないだろう

 

     椎葉「ワタシだって、デュアンくんと、そ、そんなに顔を近づけて話したことないのに」

 

    アカギ「おや?そうだったか?まあ、あっちは紬が楽しいなら、それでよい」

 

     椎葉「……アカギ?」

    アカギ「2人とも、制限時間は4時間。こんなところでもたもたしていてよいのか?……そうであろ?」

 

     椎葉「ああ、そ、そうだね」

ふむぅ・・・更に2時間上乗せするか?6時間で60時間となり、2日と12時間。ほぼ3日の代償を受ける・・・どんな内容なのか。これ以上はやめとくか・・・。

 

   デュアン「じゃあ、紬さん……、……え?」

     椎葉「デュアンくん、あれ?」

手を差し出すと、紬さんもこちらへ手を出していた。

 

   デュアン「ふふっ」

     椎葉「えへへ……じゃ、じゃあ、行こうか?」

2人でぎゅっと手を繋いで、歩き出す。いつの間にか、アカギは姿を消していた。上空へ逃げたな、あいつ。

 

     椎葉「まずは何乗ろうか?デュアンくん」

   デュアン「ふむ……遊園地といえば、ジェットコースターかな?」

遊園地って、輪廻転生を繰り返してるけど数回しか行ったことないんだよなあ。

 

     椎葉「そうなの?でも……凄く並んでるみたいだよ」

   デュアン「うげっ……本当だ……えっと、……40分待ちかよ……論外だ」

 

     椎葉「どうする?」

   デュアン「そうだな……う~ん」

     椎葉「いいよ別に。ワタシ、絶叫系はあんまり得意じゃないから」

 

   デュアン「ふむ……、……あれはどうだろうか?一応、空いてるっぽいぞ」

なら、どうするか。

 

     椎葉「えっ、お、お化け屋敷!?」

   デュアン「嫌だったか?」

     椎葉「ワ、ワタシ、ホラーって苦手だから!映画も最後まで目を開けてられないもんっ」

 

   デュアン「そ、そうか……可愛いかも……いや可愛いな」

     椎葉「もう、でも……デュアンくんがどうしても入りたいって言うなら」

 

   デュアン「……え?」

     椎葉「えっ、て?」

   デュアン「いや、よく考えたらオレもホラー系が得意ってわけじゃないな(嘘だけど……)」

 

此処は無理して入ることはないだろう。

 

     椎葉「だったら、どうして指差したの?」

   デュアン「う~ん……デートでは定番かと思ったんだ……」

雑誌の情報だけどね。

 

     椎葉「ふふふ、ワタシが得意だったら怖がるデュアンくんを見るのも、楽しかったのにな」

 

山梨県の某ランドの戦慄迷宮とか、浅草の桜の怨霊だっけ?あれも怖いような気がする。というか、ホラー苦手のやつは気絶か失禁するレベルかもな。というか、ほとんど感情を捨てたオレに効くだろうか?

 

   デュアン「紬さんこそ、絶叫系もホラー系も苦手なんでしょ?遊園地っていえば、それ系が中心じゃない?」

 

     椎葉「だって、デートでは定番かと思って」

   デュアン「ふむぅ……もしかして、遊園地、そんなに好きじゃなかった?」

 

     椎葉「そんなことないよ?だってワタシ、ああいうの好きだよ?」

 

紬さんはメリーゴーランドを指差していた。

 

    デュアン「お、おぅ……」

     椎葉「ほら、デュアンくん!見に行ってみよ?」

手を引かれて側へ行く。

柵の外側に立つと、紬さんは眼をキラキラさせて回転木馬を眺め始めた。

 

    デュアン「あれ?乗るんじゃないのか?」

     椎葉「それは後で。だって、ほら!デュアンくん、見て見て小さい子が手を振ってくれてる」

 

一緒になって、小さく手を振り返してみる。すると、他のお客さん達まで、縁もゆかりもない俺達へ手を振ってくれたのだ。

日常生活ならそんな人は、少数派だろう。だけど遊園地という空間では違う。日常のしがらみという(さく)から解放されたように、誰もが笑顔を向けてくれる。オレの今まで生きた中で一番の幸せな時間、そして世界だ。

 

     椎葉「ワタシ、遊園地ってみんな楽しそうにしてるから好きだな」

 

   デュアン「ああ……そうだな。遊園地って、人の心を広くするのかもしれないな」

 

     椎葉「ふふ、だって楽しまなきゃ損だもん」

   デュアン「それじゃあオレ達も乗ってみる?それとも、もう少し見て回る?」

 

     椎葉「うーん、そうだね……」

そのとき、小さな子供が元気よく俺達を追い越していった

 

    子供A「パパ~、ママ~、早くー!」

どうやら、兄妹だったらしい。兄妹・・・か。兄妹といえば、オレの中では伝説の最強ゲーマの空白を思い出す。その後を大人達が微笑ましそうに、追いかけていく。・・・よく見てみると、そこに並んでいるのはほとんどが家族連れだった。

 

     椎葉「さすがにメリーゴーランドは、あの子達に譲った方がいいかも」

 

   デュアン「だね。んー……じゃああれはどうだ?あれも同じ回転系だけど」

     椎葉「わっ、コーヒーカップ!こういうのまだあるんだね、懐かしいなー」

 

これも子供向けなんだろうけど、メリーゴーランドよりは大人率が高い。つまりカップルで乗れるのもポイントだろうな。俺達のような男女のペアも結構目につく。

 

   デュアン「これなら、オレ達が乗っても平気そうだ」

    椎葉「う、うん、男の子と2人で乗る人も多いんだ、ちっちゃい頃は気付かなかったな。ねえ、デュアンくん?ワタシ達も……あの人達みたいに、見えるかな?」

きゅっと握ったままの手に力が込められる。

 

    椎葉「見えてると、いいな」

   デュアン「そうだな。……、……さあ、オレ達の番みたいだな」

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 



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Ep55 ファーストデート【後編】

 

 

~~~~~

 

    椎葉「わっ!ふふふ、意外と早いね、あははは」

  デュアン「ふふ、ならもっと加速させちゃう?えっと……確か、これを回せば早くなるんだよな?」

 

オレ達は手を重ね合わったまま、真ん中のハンドルを握っていた。

 

    椎葉「ダメだよっ、これ以上早くしたらデュアンくんの顔、ちゃんと見えなくなっちゃうから」

 

  デュアン「そうだな……オレも紬さんの顔が見れなくなるのは、困るな……、……ってっ、ほわぁ!?逆回転っ」

 

    椎葉「あははは、どうしてだろうね?回ってるだけなのに、すっごく楽しいな」

 

  デュアン「そりゃだって……」

紬さんの手を握る手に、今度はオレのほうから優しく力を込めてみる。

 

    椎葉「ふふふ、デュアンくんったら、少し大胆」

  デュアン「そうだろうか?」

    椎葉「でも、今は回転しながらだし、なんだかワルツを踊ってるみたいじゃない?……本当に、お姫様みたいなんだもん」

 

  デュアン「ああ……椎葉さんは……本当にお姫様みたいだよ。お姫様と遊園地へ来れるなんて、至極光栄の極みです」

 

    椎葉「ふふふ、デュアンくんだって王子様役なんだよ?せっかくだから、なりきってみて」

 

なら、なりきってみるか。と一度、咳払いをして

 

  デュアン「(つむぎ)姫、(わたくし)円舞曲(ワルツ)を踊って頂き、ありがたき幸せです……とか?」

 

    椎葉「それじゃあ、騎士と姫だよ」

  デュアン「難しいんだな……」

オレには、皇族のマネごとは無理だな。

 

    椎葉「ふふふふ。でも、一生懸命なのは、伝わってるよ?」

  デュアン「そう言われると助かる。……、……でも紬さんがその格好で現れたとき、本当にお姫様だと思ったよ。一瞬で、紬さん以外、なにも見えなくなったくらいなんだから」

 

    椎葉「も、もう……デュアンくんったら、褒め過ぎだよ?それに今のは、全然王子様っぽくないよ」

 

  デュアン「い、今のは王子様としてじゃなく……"デュアン(オレ)"の本心だから」

 

    椎葉「だ……だったら、やっぱり王子様だよ」

  デュアン「え?」

    椎葉「デュアンくんは、ワタシの王子様だから」

  デュアン「~~~ッ」

    椎葉「~~~ッ」

だ、ダメだ恥ずかしすぎる。オレは緩んだ口元をマフラー隠す。

だけど、紬さんから目が離せなかった。回転するカップの中では、景色を見るわけにもいかないからな・・・。気が付くと、少しずつ顔を近づけていたらしい。

 

    椎葉「デュアンくん……?」

  デュアン「あ、あれ?」

オレはなにをしようとしたんだ?なんの考えもなく、本能的な行動するなんて・・・オレらしくないぞ。

まだ告白もしてもいないし、返事も貰ってない相手にキスをしたいと思ったのか?

マジで、オレはどうしたんだ?

 

  デュアン「(ここは誤魔化すか)……そうだ!や、やっぱりちょっと加速させてみないか?」

 

    椎葉「へ?ダ、ダ、ダメだよ、デュアンくん……早い早い。さっきのくらいがちょうどよかったよ?えっと……あれ?」

 

  デュアン「ごめんごめ……え?紬さん、どうして加速させてらっしゃるんです?」

 

    椎葉「ま、間違えちゃった、えっとさっきどっちへ回したっけ?こっち?」

 

  デュアン「ほわぁ!ますます加速してるよ!さ、殺人的な加速だッ」

    椎葉「だって、あれ?またどっちに回したのか、わかんなくなっちゃった、あれ?」

 

  デュアン「落ち着け、SteyCool(ステイクール)だ!なにを動揺してるんだ?」

 

    椎葉「だ、だって……さっき、その……一瞬、キスされるのかと思ったから……」

 

  デュアン「(やっぱり、バレてらっしゃったか……ま、まあ……女の子だもんな。こういうことには過剰反応するよな)」

 

ますます慌ててハンドルを回し始める。

 

    椎葉「そうだよね!違うよね!なのにワタシ、右も左もわからなくなっちゃって、は、はれ?」

 

  デュアン「だから……これ以上、加速させると、ほわぁ!?」

    椎葉「ふ、ふぇへぇええええぇぇぇ~~……目が、回って……」

三半規管がおかしくなって、気持ちが悪くなるぞ・・・。このくらいの回転ならまだ、耐えられるオレだが・・・

 

しばらくして、ようやく止まった。

 

    椎葉「……」

  デュアン「……」

無言でアトラクションから降り、無言で早足に歩き、無言で側溝のところで前のめりになった。

 

    椎葉「おふぇえぇぇ~~~っ」

  デュアン「うぷっ……だ、大丈夫か?」

えずいてしまった紬さん。幸いなことに中身をぶちまけるほどではなかった。

 

    椎葉「ふぇぇ~、め、目が回っちゃったよ~」

  デュアン「大丈夫か?」

    椎葉「ううん、ある意味なれてるから……」

そこで、ふっと目が合う。

 

    椎葉「ぷっ、ふふ」

  デュアン「ははは、何やってるんだろうな、オレ達?」

思わず、笑いが漏れる。こんなに笑える日が来るとは・・・な

 

    椎葉「なったくだよ、ははは。遊園地へデートに来て、2人でおえおえ言ってるなんて、ワタシ達くらいじゃない?」

 

  デュアン「はは……ハンドルをぐるぐる回すからだよ」

    椎葉「だって本当に、ふふ……右も左も、わからなくなっちゃったんだもん、ははは」

 

  デュアン「すごい、初デートの思い出になっちゃったな」

    椎葉「いいよ、来るまでは完璧にしなきゃと思ってたけど、ふふふ。これもいい思い出だよ、きっと何度も思い出して、何度も笑っちゃうね」

 

  デュアン「そうだな……失敗も最後は笑えるなら、いいものかもな」

自然とまた手を繋ぐことが出来た。

 

  デュアン「少し、寒くなってきたね?」

    椎葉「そう?……あっ」

その手を一緒に、コートの中へ入れてやる。

 

  デュアン「こうすれば暖かくないか?」

    椎葉「ふふふ……うんっ」

  デュアン「さぁて……次のアトラクションはどうしようか?」

    椎葉「て、手を繋いだまま、乗れるのがいいかな」

ふむ・・・ジェットコースターは手を繋げるよな。観覧車?う~んと唸っていると

 

    椎葉「今は、この手を離したくない、気分だから……」

  デュアン「あぁ……オレもだよ」

    椎葉「えっと……あ!ほら、観覧車っ」

  デュアン「いいね」

その後、紬さんと乗ったアトラクションは、総じてまったりしたものが多かった。2人でゆっくり過ごせるだけで十分だったから・・・。

 

けど時間は、あっという間に過ぎていくんだな・・・

 

 

~~~~~

   

    椎葉「だ……だいぶ、日が暮れるのも早くなったね」

  デュアン「そうだな……」

4時間なんて、あっという間だったな・・・。

とはいえ、紬さんが女の子の格好でいられるのもあと少しだ。タイミング的に、夜景が見える場所が良かったのだが・・・。文句は言えないな。

 

    椎葉「………」

  デュアン「(どうする……オレ。デートをして、告白しないなんて……そんな情けない男だったか?)」

 

オレは、ありとあらゆる覚悟をしてきたのに、今更、好きな女の子に告白できないヘタレなのか?死ぬ覚悟はできてるのに、告白はできないってか?

 

そんな馬鹿な話・・・あってたまるか!!

 

   デュアン「つ、紬さん……、……あれ?どうしたの?」

     椎葉「あっ、ごめん。あのクマ、可愛いなと思って」

   デュアン「クマ……あそこの景品になってるぬいぐるみ?」

あれは確か・・・ボールを投げて的に当てるというアナログのゲームだな。縁日や遊園地なんかでは、定番のゲームだったな。

 

     椎葉「うん、あの子、この遊園地のマスコットでもあるみたい」

 

   デュアン「ふむ……、……よしっ」

いいところを見せれば、告白に弾みが付くだろう。

俺が今まで輪廻転生を繰り返し、戦場や非日常の世界に経験値を込めて、挑戦してみるのもアリかもしれんな。

 

   デュアン「すみませーん!挑戦させてくれないだろうか?」

     椎葉「デュアンくん!ひょっとして取ってくれるつもりなの?」

 

   デュアン「ああ……取れたらプレゼントするよ」

     椎葉「けど、悪いよ……、……本当にいいの?」

   デュアン「オレが紬さんへ贈りたいんだ……それに……男はな、好きな子の為なら格好をつけたいものなのさ」

 

――――――――結果。

 

   デュアン「……す、すまない……無理だったみたいだ」

と、謝る。

 

     椎葉「お、惜しかったね」

   デュアン「最後の1つをミスするとは……」

と落ち込むと・・・突然、アカギの念話が聞こえた。

 

    アカギ「(おい、おい小僧?)」

   デュアン「(アカギか?どうした……?)」

    アカギ「(そろそろ4時間経つぞ?延長したくなったのではないかと思ってな)」

 

   デュアン「(げっ……マジか。う~ん……)」

     椎葉「デュアンくん、どうかしたの?」

   デュアン「あ、いや……大丈夫」

 

これ以上、オレのヘタレで代償を払うのはバカげてる。

 

   デュアン「(悪いが……延長は無しだ)」

オレはそう心の中で言うと、アカギが鼻を鳴らすのが聞こえた気がした。

 

   デュアン「……、……椎葉さんっ」

     椎葉「は、はい!」

   デュアン「デートの後で、話したいことがあるって言ってたよね?」

 

     椎葉「……うん、ワタシも話したいことがあるから」

   デュアン「そ、そういえば、そうだったな」

     椎葉「ワ、ワタシから話したほうがいい?」

どうする?オレの秘密を此処で明かすのもアリかもしれない。だが、いや・・・秘密を明かすのは後にするか。

 

   デュアン「いや……オレからだ」

そうだ。せめて告白するときくらい、男らしくありたいぜ。

 

     椎葉「けど、ワ、ワタシから言いたい気もするんだ、ワタシにとってデュアンくんは王子様だから」

 

オレは王子様というより・・・魔法使いに唆されたアホな王子だけどな。

 

   デュアン「紬さんこそ、オレのお姫様だから……王子様だと思ってくれるなら、ここはオレから言わせてくれないか?」

 

     椎葉「う……うん、わかった」

すぅー、はぁー、と深呼吸を二度する。現在の心拍はおそらく100だ。心を落ち着かせろ。冷静に・・・なるんだ。と

 

   デュアン「……、……ぁ」

    椎葉「やっぱり、ワ……ワタシから、言うね?でゅ、デュアンきゅんのこと、しゃ、しゃいしょは……は、はれ?」

 

噛みまくりだ。

 

   デュアン「紬さん?」

     椎葉「ちょっと待って!やっぱり、ちょっと待って……あれ?今は普通に話せるのにな、あれ?」

 

   デュアン「落ち着こうか……深呼吸し、冷静になるんだ」

     椎葉「そ……そうだね、落ち着こう?深呼吸しよう。すぅーー……はぁーーー……すぅーー……はぁーーー」

 

向かい合ったままラジオ体操のようにポーズを付けて、深呼吸をした。

 

何やってんだ・・・オレ達。

 

     アカギ「(もう時間がないぞ?)」

   デュアン「(わ、わかった。よしっ)」

    

此処は・・・

 

   デュアン「つ、紬さ……」

     椎葉「デュアンくん!」

だが一瞬早く、言葉を重ねられてしまう。

 

    椎葉「デュアンくんのことっ、最初は助けてくれて、優しくて、でも甘えん坊で、弟みたいだと思ってた」

 

お、弟!?オレって、そんな印象なのか?

   

    椎葉「でも……でもね、不器用だけど一生懸命で、すっごく優しいのに、少し抜けてるところがあって……ときどき、格好いいときもあって。一緒にいると、男の子の格好しかできないワタシを、本当の意味で……女の子の、気持ちにさせてくれて……この人がワタシの王子様なんだって、信じさせてくれる人です」

 

   デュアン「紬さん……」

     椎葉「だ、だからね?心の穴を広げてしまった責任とか、病気にならないようにとか……そういうのは、本当は全部ただの言い訳でね……今ではもう、一緒にいるための口実になっちゃったんだと思う」

 

   デュアン「……」

     椎葉「けど口実なんかなくても、なにも理由なんかなくても、でゅ……デュアンくんと一緒にいられたら、どんなにいいかって。だ……だから、だからね?言うね?ワタシはっ、デュアンくんのことが、す……しゅ……しゅっ……しゅきだか……しゅっ」

 

ああ。また肝心なところで?いや、違う。これは魔女の代償で、女の子の格好ができないときの……!こんな大事なところでタイムアップなのか?肝心なところで!

 

    アカギ「(いかんっ、時間切れじゃ)」

こんな肝心なところで、大事なところで大失敗すれば・・・紬さんが傷つき、悲しんでしまう・・・なら

 

   デュアン「(アカギ、延長だ)」

好きな人の為なら躊躇などしてられるか!

もう、こうなったら・・・・

 

     椎葉「……ちゅっ、え?」

オレは、咄嗟に紬さんを優しく抱きしめて、キスをする。

 

こんな行動はしたくなかったが・・・いたってシンプルな愛情表現だ。

 

   デュアン「……、……」

     椎葉「だ、ダメだよっ、ワタシまた、気分が……あれ?治まっ、てる?」

 

   デュアン「好きだ、紬。この地球上の……誰よりも」

     椎葉「へ?え?」

   デュアン「紬はいつでもあったかくて、優しくて……嬉しいときも、怒ってるときでも本気で……オレなんかと違って、いつでも優しくて、いつでも一生懸命で……いつも助けてばっかりだ」

 

     椎葉「そ、そんなこと、ないと思うけど」

   デュアン「いいや……紬と一緒にいると心が救われるんだ……紬以外の人を、こんな風に感じたことはない」

 

これは、嘘ではない。どんな世界線でも・・・オレの心を本気で救ってくれたのは、紬だ。ユウキはシャルは確かに救ってくれたが、オレの心の闇を払うことはできなかった。

 

だけど、紬は違った。オレの心の闇を本気で払ってくれた。

 

   デュアン「これが好きじゃないなら、他に何が好きって事なのか分からない……だけど、それくらい、紬が好きなんだ!だからオレにも、……いやオレという存在を賭けてでも、紬を守らせて欲しい。助けられるばっかりじゃなくて、君を守れるように頑張るからっ……だから、……オレの恋人になってください!」

 

     椎葉「……はいっ」

再び、唇を重ねていた。子供っぽい強引なだけのキスだったな。ムードなんてあったものじゃない。だけど・・・紬が幸せいっぱいに笑ってくれたから。今は・・・

 

     椎葉「本当に、夢のようだよ?男の子の格好しかできなくなったとき、これが終わるまで初恋はお預けなんだと思ってた。なのに、今本当にお姫様になれたみたいだよ。きっと、デュアンくんの……キスのおかげだね?気分悪くなって、台無しにしそうだったのに。それも全部、綺麗になくなっちゃった……ワタシもデュアンくんが、好きです……好き、大好きだよっ」

 

今度は紬の方から、唇を重ねてくる

 

   デュアン「ちゅっ、んむっ……紬……」

     椎葉「デュアンくん、ちゅっ……ちゅむっ、んんぅ」

オレの中で、パズルのように魔法というピーズが嵌っていった。

 

紬が、オレの彼女になってくれた・・・。ああ。今まで経験した中で一番の幸せだ。

 

暮れなずむ夕日を全身に浴びながら、新しく生まれ変わっていくようだった。

 

そうだ・・・このぬくもりを守るためなら、オレはなんだって犠牲にできる。なんだってしてあげられる。

 

彼女が、オレを変えてくれたのだから。

 

~~~~~~

 

その後も別れ難く、なんとオレは紬の部屋へ案内してもらえることになった。

 

   デュアン「ここが紬の部屋か……」

     椎葉「あーダメだよ?今日来てもらえると思ってなかったから、あんまり片付いてないし」

 

   デュアン「すまない……ところで、どうして変身したんだ?」

     椎葉「あはは、そろそろ時間切れのはずだったし。これならすぐ着替えられるから」

 

延長したんだから、着替えるくらいの余裕はあったはずだと思うんだが・・・ま、いっか。

 

     椎葉「そ、それに、この格好が、一番限界を気にしなくていいはずだから」

 

   デュアン「ふむ……」

     椎葉「う、ううん!それより、なにか飲み物がいるよね?」

   デュアン「ああ、おかまいなく……、……そう言えば、黙って上がっちゃったけど良かったのかな?親御さんにご挨拶とか」

 

     椎葉「ご、ご挨拶って……ああ、大丈夫、今日2人とも帰ってこないから」

 

   デュアン「紬のご両親は共働きなのか……、……それと今、ご挨拶の意味、ちょっと勘違いしただろう?」

 

まだ結婚するという歳じゃないぞ。

 

     椎葉「うっ、だってワタシ達……恋人になったばっかりなんだから、い、意識しちゃうよ」

 

   デュアン「ふふっ、いくらなんでも結婚の挨拶は早すぎるよ……(せめて高校卒業かな?)」

 

     椎葉「わかってるよ、ワ、ワタシの彼だよって紹介するくらいのつまりだったし……それともデュアンくん?お父さんに娘さんを下さいって言ってくれる?」

 

   デュアン「そ、それは……」

言えるが、言うとしても1年後かな?時間遡行すれば、婚約状態まで持っていけると思う。

この前まで、2人までしか指定できなかったのが・・・いつの間にか3人まで指定できるようになっていた。

 

     椎葉「ふふふ、ごめんごめん。困らせるつもりじゃないから、心配しないで」

 

  デュアン「いや……言えるよ。"義父(おとう)さん、紬さんを下さい"ってね。だけどそれは就職したりして、ちゃんと家族を養っていけますって証明できる身分になってからじゃないと……な。オレが嫌なんだ」

 

幾ら、投資して、月500万円貰えてるとは言え・・・まともな職につかないと、将来子供が出来た時に、ダメな親だとは思われたくないし。

 

   デュアン「だって、結婚するなら……紬をちゃんと幸せにできる条件をって……先走りすぎかな、オレ?」

 

     椎葉「ううん……ふふふっ、もうそこまで考えてくれてるなんて……嬉しかったよ、デュアンくん」

 

   デュアン「紬……」

オレは優しく微笑む。

 

     椎葉「ちゅっ、あむっ……ちゅっ、んんぅ……あうっ、デュアンくん、んっ」

 

   デュアン「紬……ちゅっ、んぅ」

部屋に2人っきり、紬の両親は帰って来ない。

 

落ち着け、落ち着け。StyCool(ステイクール)だ。デュアン。

 

     椎葉「ちゅぅ……えっ、もう……おしまい?」

   デュアン「……ふぇ?」

     椎葉「う、ううん!そうだよね……け、けど、もう少しこうしててもいいよね?」

 

紬が身体を寄せてくる。

 

   デュアン「(お、おいおい……まさかとは思うが……そんなこと、ないよね?)」

 

     椎葉「今、2人っきりなんだから……誰にも、見られることないんだから……」

 

腕の中へすっぽり納まってしまう華奢な身体、それでもしっかりと柔らかさを伝えてくる。

 

   デュアン「ああ……オレ達……恋人になったんだな」

     椎葉「そうだよ、だからワタシが抱き締めて欲しいと思ったとき、デュアンくんはちゃんと抱き締めてくれないといけないんだよ?」

 

   デュアン「そうだな……でも理性的な意味では大変だな」

オレの性欲の理性は鋼やダイアモンドよりも固いからな。メンタルは豆腐だけど・・・

 

     椎葉「理性的な意味って?」

   デュアン「2人っきりなんだろう?」

     椎葉「……~っ」

   デュアン「安心しろ……オレはそんなことしな……あれ?紬、さん?モシモシ?アレェ?キコエテル?アッキコエテナイナコリャ」

 

紬はオレの胸元へ顔を埋めたまま、黙ってしまった。

 

   デュアン「すまない……気に障ったのなら謝る……ごめん」

     椎葉「……ううん、ちょっとね、安心した」

   デュアン「え?それはどっちの意味で?」

     椎葉「ワタシでもちゃんとそういう気持ちになってくれるんだって……ワタシだけじゃなかったんだなって」

 

   デュアン「……、……」

や、やべぇ。言葉が出てこない。ら~ら~ら♪言葉にできない。

 

どうしよう・・・

 

     椎葉「ねえ、今はまだ平気みたいだけど……ワタシ、他の女の子みたいに、いつでもこういうことできるわけじゃないんだよ?」

 

   デュアン「っ……」

     椎葉「代償があるから……」

紬は知らないはずだけど、今こうしていられるのも延長しているからだ。

 

だから次はいつ、抱き締めてあげられるかわからない。

 

   デュアン「……、……」

此処は、今の愛情を伝えるしかないな。

 

   デュアン「紬……ちゅっ」

     椎葉「あっ、デュアンくん……」

額へキスをして、顔を上げさせる。

告白はほとんど紬からさせてしまうことになってしまった。なら・・・

 

   デュアン「つ、紬……キミはどうして欲しいんだ?」

     椎葉「……え?」

   デュアン「オレは……一応、高校卒業するまでは……プラトニックに接するつもりだ……、……だけど、もし紬が望むのであれば……その要望に応えたいと思う」

 

     椎葉「……~っ」

   デュアン「どうする?ヤッたら……後戻りが出来なくなってしまうかもしれない」

 

オレ的には、此処で断って欲しいと思っている。

 

     椎葉「……、……」

   デュアン「だけど……望むというのなら、オレは紬……キミを一生大切にすると約束しよう」

 

     椎葉「……はい」

   デュアン「本当にいいんだな?」

     椎葉「ふふ、デュアンくんなら、本当に……一生大切にしてくれるって……信じてるから。だから、デュアンくんに、もらって……欲しいです」

 

うぐっ・・・まさか此処までの覚悟ができてるとは・・・

此処で逃げたら、男じゃない!

 

   デュアン「わかった……紬」

     椎葉「あっ、ちょっとだけ待って?あ、明かりは消して欲しいかな」

 

   デュアン「わかった……」

 



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Ep56 違和感ある日常 ☆

 

 

~~~~~~

 

  デュアン「……、……」

な、中でたくさん出してしまった・・・ご、ゴムも付けないで。ご、ゴムをつけようと言っても、紬の強引さで無理やり生。しかも、外に出そうにも・・・ガッチリとホールドされてしまったのだ。

 

だ、大丈夫だよな?

 

   椎葉「すぅーー……すぅーー……」

紬が小さく寝息を立てているのを確かめ、オレは紬の前髪を優しく撫でて、そっとベッドを抜け出していた。

 

大切にすると誓った気持ちに嘘はない。オレは一度約束したことは必ず守る男だ。――――嘘つきだが。人が傷つくような嘘は生まれてから輪廻転生、一度もない。

彼女を抱いた経験も、他に代え難いほど素晴らしいものだった。

 

だからこそ、もう一度、アカギと話しておく必要があるな。

 

~~~~~~~

 

   アカギ「ようやく出てきたようじゃな」

  デュアン「待ってたのか?すまないな」

   アカギ「呼んだのは、小僧であろう?しっかり声が聞こえておったぞ……いったいなにを話すつもりか知らぬが、あっちの言った通りであったろう?オスの心に空いた穴など、交尾をするだけで十分埋まると……実際、すべてでないにしろもうほとんど塞がっているように感じるぞ」

 

  デュアン「そういうものなのかね……自分ではわからないな」

   アカギ「すでに、紬の小瓶は満たされつつある……小僧の心の穴が完全に埋まれば、後は欠片を1つ集める程度で、おそらく契約は完了するじゃろう」

 

  デュアン「そうか……紬が、魔女でいるのは……」

   アカギ「む?どういうことじゃ?」

明日になれば、シンデレラと同じく魔法の時間は終わる。これでオレと紬は下手にイチャイチャすることも出来なくなってしまった。

そうなったら、きっと、紬は自分を責めるだろう。決して彼女のせいじゃなかったとしても・・・それはわかる。ならどうすればいい・・・?

 

  デュアン「アカギ……オレの秘密とオレが今後行動することを話す……だから、取引だ」

 

   アカギ「……?」

 

  デュアン「まず、このオレ。デュアン・オルディナ・フィア・レグトールは……元々はこの世界の住人じゃないんだ……神様によって、この世界に転生された存在。そして……オレは綾地さんの為に……とある魔法を作り、完成させた」

 

   アカギ「……その魔法とはなんじゃ?」

  デュアン「綾地さんの契約完遂後、綾地さんの魔法が発動した時に、特定多数を選び、綾地さんと共に時間遡行する魔法だ」

 

   アカギ「じ、時間遡行じゃと!?じゃあ……お主……七緒の魔女が完遂したら時間遡行すると言うのか」

 

  デュアン「ああ。既に指定したのは3人。……、紬、柊史そしてオレだ」

   アカギ「小僧、それを話して……何がしたいんじゃ?」

  デュアン「お前は長い間、紬と一緒に居たんだろう……だから、親御さんみたいなものだろう」

 

   アカギ「…………」

  デュアン「それで……取引したいんだ……」

 

~~~~

 

 

―――――淡い陽光に、椎葉紬は思わず薄く目を開けていた。

透明な窓ガラスの向こう側は、シンと冷たい空気に支配されているようだった。

 

    椎葉「んぅ~……朝?わっ!ワタシ、あのまま寝ちゃったんだ!?」

 

剥き出しの素肌を、慌てて毛布で覆い隠す。そりゃあこんな格好では、寒いに決まっている。けど部屋の中にはもう、他に人の気配はなかった。

 

    椎葉「……デュアンくん、帰っちゃったんだ、あれ?」

テーブルの上には、クマのぬいぐるみと一緒に手紙が置かれていた。

 

【挿絵表示】

 

 

    椎葉「うそっ!これって、昨日行った遊園地のマスコットじゃ?確かあのとき、景品は取れなかったはずだよね?」

 

ともかく、手紙を呼んでみる。

 

『急ですまない!ちょっとした事情で、しばらく欠片の回収に向かわないといけないことになった。多分、電話にも出られないと思う。本当にすまない。心配をかけるかもしれないけど本当にすまない。ああ、それと昨日は一緒に過ごせて嬉しかったぜ、ぬいぐるみはオレからのささやかなプレゼントだ。 ――――Dhuan Ordina Fiar Legtorl(デュアン・オルディナ・フィア・レグトール)

 

    椎葉「ええぇぇ―――ッ!?本当に急だよ、昨日はなにも言ってなかったのに……でもデュアンくん……欠片の回収って、誰の欠片を回収するんだろう?」

 

そう自分を納得させようとするものの、やはり寂しさが勝ってしまう。

 

    椎葉「いったい、いつの間に買ってたのか知らないけど……ぬいぐるみなんかより、ちゃんと自分の口で説明してほしかったな……。もうデュアンくんのバカ……、……ねえ?」

 

   ぬいぐるみ「……」

    椎葉「けど、君に罪はないもんね?……あっ」

手を伸ばすものの、一瞬躊躇してしまう。ぬいぐるみは、女の子の持ち物だ。また気分が悪くなってしまうかもしれない。

それでも、おそるおそる指で突いてみる

 

    椎葉「うん……平気、っぽいかも」

思い切って、膝の上に乗せる。

するとむずむず堪らない気持ちになって、ぎゅ~~っと抱き締めてしまう。

 

    椎葉「わあ、君って温かいんだね?それに不思議だな、ちっとも気持ち悪くならない……デュアンくんが、くれた物だからかな?昨日なんかデュアンくんがキスしてくれたら、気持ちが悪いのが治まっちゃったし。抱き締めても、もっと……すごいことしても、なんともなかったもんね」

 

思い出すだけで、とくんとくんと胸が高鳴ってくる。

 

    椎葉「やっぱりデュアンくんがワタシの王子様だから、特別……な、なんてっ。……早く着替えて、学院行かないと」

 

いったんぬいぐるみをベッドに置き、朝の準備を始めることにした。

 

制服に着替え、髪にブラシをかけておく。ちょっとおしゃれをして、色付きリップも塗ってみた。

 

    椎葉「……デュアンくん、今日は学院も休むんだろうけど、いつ戻ってくるか分からないもんね?……、……どう、クマくん?似合ってるかな?……ふふふ、わからないよね……それにクマくんじゃ、さすがに適当すぎるかも……名前、名前か……」

やがて、いいアイディアが浮かんだらしい。

紬は頬を染め、もじもじし始めたのだ。

    

    椎葉「レ、レグトールくん……えへへ、いいよね?デュアンくんがくれたんだし、勝手にどこか行ってワタシを寂しがらせるデュアンくんがいけないんだよ。だから君は、いつでも一緒にいてね?ふふふふっ」

 

またも思いっきり抱き締めた後、なんと通学用のカバンへクマを潜り込ませたのだ。

ファスナーを閉める前、そっと人差し指を唇に当ててみせる。

 

    椎葉「見つからないように、こっそりついてきてね、レグトールくん?」

 

~~~~~~

 

    戸隠「あら、おはよう椎葉さん」

    椎葉「戸隠先輩!おはようございます」

学院へ着いたところで、憧子と出会った。

 

紬は小走りに駆け寄っていた。誰かに、デュアンとのことを話したくて仕方なかったのだ。突然いなくなったことは許せないが、やっぱり自慢したい気持ちが強かった。

 

    椎葉「遊園地のチケット、ありがとうございました」

    戸隠「ああ、椎葉さんが使ってくれたんだね」

    椎葉「……へ?」

けど思ったような反応はなく、きょとんとしてしまう。

 

    戸隠「そうそう、今日は学生回の方へちょっか……顔を出すつもりだから……オカ研には行けないかもって、念のため伝えておいてくれる?」

 

    椎葉「え、ええ、それはかまいませんけど」

    戸隠「ありがとう、よろしくねー」

そのまま、階段のところであっさり別れてしまう。紬は首を傾げていた。

あんなにけしかけるようなことを言っていたのに、まるで興味がないようなのだ。

 

    椎葉「(ワタシの方から振った方が良かったのかな?それとも、他人の惚気話には興味がないとか……ううん、綾地さんや保科君の時は、すごい興味だったのに……)」

 

釈然としないまま、教室までやってくる。

 

    綾地「おはようございます、椎葉さん」

    保科「おはよう、椎葉さん」

    椎葉「あっ……お、おはよう、綾地さん、保科君」

    綾地「昨日、遊園地はどうでしたか?」

    椎葉「えっ」

    綾地「どうかしましたか?デュアン君もまだ来てないようですし、気になっていたんですが」

 

    保科「本当だ……デュアンのやつ……遅刻かな?」

    椎葉「う、うんっ!すっごく楽しかったよ。それとデュアン君のことだけど、欠片の回収に向かったみたいで……」

 

    保科「そういや、デュアンって……色んなところに言って欠片の回収してたよな……そういえば」

 

    綾地「そうでしたか、なるほど……ふふ、2人は名前で呼びあうようになったわけですね」

 

    椎葉「そ、それを言ったら、綾地さんや保科君だって」

    綾地「っ……そ、そそんなことないですよね?しゅ……保科君」

    保科「そそ、そうだな……n……綾地さん」

話の通じる相手が現れて、紬は嬉しくなってしまう。

 

    椎葉「綾地さんと保科君なら、見せちゃってもいいかな?みんなには、内緒だよ?」

 

    保科「?」

    綾地「はい、なんでしょう?」

    椎葉「実はね、デュアンくんにもらったんだけど、ほら」

カバンに入れたクマを見せてしまう。

 

    椎葉「えへへ、あんまり可愛かったから、こっそり連れてきちゃった」

 

    綾地「私も可愛いと思います……なんというキャラクターなんです?」

    椎葉「遊園地のマスコットなんだけど……なんて言ったかな?まあ、ワタシは……レ、レグトールくんって呼んでるんだけど」

    

    綾地「ふふ、言われてみると目元が似てるかもしれませんね」

    保科「確かに……」

    仮屋「おー、そのぬいぐるみ可愛いじゃん、どうしたの?」

    海道「そうかあ?愛嬌はあるけど、なんか間抜け面してないか?」

 

そこへ仮屋と海道の2人にも、見つかってしまう。

 

    綾地「名前はレグトールくんというそうです」

    仮屋「へー」

    海道「ふーん、でもなぜかそんな感じするな」

    椎葉「?」

2人はすぐにクマから興味を失ったらしい。

 

    保科「……?」

授業開始が迫っていたせいか、さっさと自分の席へ戻ってしまったのだ。

 

    綾地「ところで、この命名はデュアン君の許可はもらっているんですか?」

 

    椎葉「え?……ううん、本人には内緒にしとくつもり……本人がいないときだけね、本物のつもりで可愛がろうと思ってたから」

 

    保科「……」

    綾地「なるほど、そういうこと……おや?」

急に、寧々がクマの顔を覗き込む。

 

    椎葉「どうかした?」

    綾地「いえ……気のせいでしょう、なんでもありません」

    保科「……、……(なんだろう、なんでクマのぬいぐるみから感情が読み取れるんだ?オレの気の所為か?)」

 

    椎葉「……そう?」

そのまま、寧々と保科も自分の席へ戻っていく。

けどなんとなくみんなの反応がおかしい気がして、紬はクマを持ち上げて眺めてしまう。

 

    椎葉「(うんっ、ちゃんと可愛いよね?えへへ)」

思わず抱き締めたくなるほどだった。でも、さすがに教室では我慢することにした。

 

~~~~~~

放課後を迎え、今度は部室へ向かっていた。

 

    椎葉「ちょっと遅くなっちゃったな」

休んでいるデュアンのために、ノートのコピーを作っていたのである。

紬は授業中もずっと、空いたままの席が気になっていた。

だから自分のできることをしてあげたいと思ったのだ。

けど・・・

 

    椎葉「(なんだか先生までデュアン君が休んでること、あんまり気にしてないみたいだったな)」

 

そのとき、廊下の向こうを見知った学生が歩いてるのを見つけた。

 

    厚真「…………」

    椎葉「厚真さんだ、でも……?」

なぜだかやたらと無気力な顔で、ふらふらと歩いているのだ。

声を掛けづらい雰囲気だ。それでも気になって、つい彼女が階段へ消えていくのを見送ってしまう。

 

    椎葉「(ひょっとして、あの子犬のことでなにかあったとか?うーん……後で綾地さんと保科君に聞いてみようかな)」

 

~~~~~

 

   因幡「あっ!来た来た、紬先輩遅いですよ?」

   椎葉「ごめんね、めぐるちゃん」

   因幡「後は戸隠先輩……今日は来るんでしょうかね?」

   綾地「いえ、私も何も聞いていませんが」

   保科「オレもだ」

寧々はいつもの定位置で、文庫本を呼んでいた

 

   椎葉「あっ、そう言えば今日は学生会の方へ行くって」

   因幡「じゃあ、今日のところはこれでオカ研メンバー勢揃いってことですね」

 

   保科「……」

   椎葉「え?……う、うん(デュアンくんが休んでることは、綾地さんと保科君が伝えてくれたのかな?)」

 

   因幡「紬先輩?実はまた、女の子らしく見せるアイデアを考えてきたんです」

 

   椎葉「そ……そうだったの?」

   因幡「だからほらほら、そっちへ座ってくださいよ」

背中を押され、鏡の前に座らされる。

下準備なのか髪にブラシまでかけてくれる。その間、紬は膝にクマを置いて大人しくしていた。

 

   因幡「あ!それって、遊園地のマスコットじゃありません?」

   椎葉「えへへ、うん、わかる?」

   因幡「もちろん、知ってますってば、可愛いですもんね!……ひょっとしてぬいぐるみ系は、平気だったりするんですか?」

 

   椎葉「へ?う、うん、それはものによるみたい、この子はどうしてか平気なんだ」

 

   因幡「へーでも、今までキャラものは避けてきましたけど、うーん……ものによってはありなのか……、……今度、そっちも考えてきますね」

 

デュアンと遊園地へ行ったことは知ってるはずなのに、あっさり返されてしまう。

 

    椎葉「(あれ?)」

    椎葉「綾地さん、まだ厚真さんと話したりするの?」

    綾地「先週、掲示板にチラシを貼ってるのを見掛けて以来ですが……なにか気になることでもありましたか?」

 

    椎葉「うん……気のせいかもしれないけど、さっき落ち込んでるっていうか……すごく疲れてるように見えたから」

 

    保科「(なんだろう、違和感があるな……デュアンのこともそうだが……厚真さんのことも気になる)」

 

    綾地「そうなんですか?あのときは、回復へ向かってるように感じましたけど」

 

    椎葉「だったらやっぱり、気のせいかな?」

    綾地「さあ、念のため確かめておきましょうか?厚真さんのことは、もともと私と柊史くんの担当でしたから」

 

    椎葉「ごめんね、変なこと言って……でも、綾地さんがそうしてくれるなら安心かも」

 

紬は1つ、胸のつかえが下りた気がした。もっとも別の違和感が、大きく育ち始めていたけども

 

    因幡「よしっ、じゃあ今日のアクセ、さっそく付けてみましょうか!」

 

    椎葉「う……うん、お願いするね?めぐるちゃん」

 

~~~~~

 

   椎葉「いただきます」

紬は自分で作った料理にも、律儀に両手を合わせる。

テーブルの向かい側には、クマのレグトールくんが座らされていた。

 

   椎葉「……レグトールくんが、デュアンくんなら、一緒にご飯食べられるのにな。でも、最近は1人でご飯が多かったから、だんだん慣れて来ちゃったけどね……お父さんは転勤したばっかりなのに、いきなり出張へ行かされちゃうし……お母さんはまだ前の職場の引き継ぎが終わらなくて、行ったり来たりしてるから」

  

   ぬいぐるみ「……」

   椎葉「ふふ、けどレグトールくんがいるだけでも、結構違うものだね。いつもより、ご飯があったかく感じるよ」

 

   ぬいぐるみ「……」

    椎葉「うんっ、美味しい」

1人でご飯を食べて、お風呂にも入る。

その後は明日の予習をするのが日課だった。けど、今夜はなかなか身が入らず、携帯が気になってしまう。

 

    椎葉「電話に出られないって言ってたけど……メールくらい、しても平気かな?……、……せっかく恋人になれたのに、今日はデュアンくんの顔どころか、声も聞けなかったな……」

 

   ぬいぐるみ「……」

結局、そこそこにしてノートも閉じてしまう。

 

    椎葉「今日はさっさと寝ちゃおうか?レグトールくん」

   ぬいぐるみ「……っ」

    椎葉「へ、レグトールくん?」

胸に抱いてベッドへ連れて行こうとすると、どうしたわけかぬいぐるみが恥ずかしがってるように感じたのだ。

 

    椎葉「ふふ、そんなのあるわけないか。なんとなく今日はみんな、様子がおかしかったから、そのせいかな?」

 

鼻先をぬいぐるみの中へ埋める。

 

    椎葉「けどどうしてだろう?レグトールくんって、デュアンくんみたいな匂いがする。だから一緒にいると、こんなに安心するのかな?」

 

  ぬいぐるみ「……」

    椎葉「今夜はデュアンくんの代わりに、レグトールくんが添い寝してくれるよね」

 

  ぬいぐるみ「……」

 椎葉「だったらきっと、寂しくないはずだから」

 

~~~~~~

 



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Ep57 クマのデュアンくん

 

 

~~~~~

 

    椎葉「すぅーーー……すぅーーー……」

   ぬいぐるみ「……」

ベットへ入ると、紬はすぐに眠りへ落ちてくれたらしい。

 

そのことにクマのぬいぐるみ―――オレは、ほっと胸を撫で下ろしていた。

もう紬は、薄々勘づいている。というか、柊史にはバレてるかもしれない。あいつ自分の能力を進化させて、母親の心を読む力と、受け継いだ五感を感じる能力をON/OFFの切り替えが出来るようになったからなあ。

 

 

クマの正体がオレ、つまりデュアン・オルディナ・フィア・レグトールだということに。

 

~~~~~~~~

 

   デュアン「それで取引したいだ……」

昨日の夜、オレはアカギにそう持ちかけた。

 

   デュアン「これから毎日、数時間だけでいい……紬が女の子でいられる時間を作ってやれないか?肩代わりが必要なら、オレが引き受ける」

 

    アカギ「なるほど、今日した取引をこれからも続けようというわけじゃな……だが、わかっているのか?魔女の代償がどんなものになるのか、それはアルプにも、魔女自身にもわからない……もちろん肩代わりをする場合も、同じじゃ」

 

  デュアン「推測が立てられれば十分だ……それに、そんなことは先刻承知」

 

    アカギ「……いや、むしろより大きな代償を払う羽目になるじゃろう」

 

  デュアン「覚悟の上だ……紬の為なら、全てを捧げると決めている……命も、この身体も……何もかもだ」

 

オレは、すべてを捨てられる覚悟を持っている。前世でも友達の為に命を捨てられた。

 

   アカギ「……言っておくが、あくまでこれはルールの裏道に過ぎん。あっちもこういう特殊な取引を継続的に結んだことはない、だから何が起こるかは想像もできん」

 

  デュアン「ふっ……オレは利用できるものなら何だって利用するさ……それが悪魔だろうが、邪神だろうが……ね。それに、後少しで欠片は集め終わるんだよな?なら取引も長く続くわけじゃないはずだ」

 

   アカギ「……うむ、それはそうかもしれんが」

  デュアン「だったら、オレも紬と同じ気持ちを共有したいんだ」

   アカギ「まさかそのために、あえて代償を受けたいと言うのか?」

  デュアン「ああ……それに、オレはファッションなんて気を遣ったことがないしな……それに女の子の格好ができないのが、どれくらい大変か、半端にしか理解できてない気がするんだ……。たとえ自己満足だとしても、それで少しでも紬の負担が減るなら、構わない」

 

   アカギ「人間は不思議なことを考えるものじゃな」

  デュアン「それに……木月さんの記憶消失の代償の肩代わりをしたオレに今更だな」

 

   アカギ「……そうじゃったな」

  デュアン「それに……大切な人の気持ちを理解してやりたいって思うのが人間なのさ」

 

   アカギ「なるほど、わからん……だが小僧、お前が代償を支払うなら、その分あっちは余分に心の力を貯めることが出来る。あっちにとっては得しかない取引じゃ」

 

  デュアン「それじゃあ……いいのか?」

   アカギ「後になって、文句を言うでないぞ」

  デュアン「後悔したとしても……文句は言ったことがないんだぜ……これでも」

 

   アカギ「ならば、契約完了じゃ!」

 

 

~~~~~~

 

そうしてオレは、なぜかぬいぐるみになってしまったのである。

ちなみに置き手紙は、アカギが代筆してくれた。助かるぜ。

 

ま、まあ。ぬいぐるみならまだマシか。永久的に幼女状態になったら、それこそ後悔だ。

 

    椎葉「……すぅーーー……すぅーーー」

でも、こんな姿に変えられたんじゃ、紬になにもしてやれないな。

 

    椎葉「ん、んぅ~……デュアン、くん……ッ」

  ぬいぐるみ「……っ」

そのとき、目の端にキラリと光るものが見えた。

やっぱり寂しいんだな・・・。そう思って、胸が締め付けられた。

 

オレはバカだからな。本物のバカになっただけだ。と思った瞬間。

 

ぬいぐるみから生身へと戻った。

 

   デュアン「……、……へ?」

     椎葉「んっ、んんんぅ……へ?」

落ち着け、オレ。なぜ戻った?

・・・まさかとは思うが、人間に戻ったら、紬は女の子の格好が出来ない、のか?違うな・・・多分。

 

     椎葉「きゃああああ~~~っ!!?でゅ、でゅでゅでゅでゅっ、デュアンくん!?ど、どどどど、どうして!」

 

   デュアン「いや、これは……」

言い訳、できないよな。流石に・・・

 

 

   デュアン「すまない」

オレは謝ることしかできなかった。

 

 

 

~~~~~

 

   アカギ「い、痛ひ痛ひ痛ひ~っ!あっちは膝を反対に折り曲げて座るのが苦手だと言っておるじゃろっ」

 

床に正座させられ、アカギが悲鳴を上げていた。

 

オレは再びぬいぐるみの姿になってしまい、椅子の上に座らされている。

 

アカギ、すまない。弁解しようにも喋ることが出来なくなってしまった。

 

    椎葉「まったく、2人ともワタシに内緒でそんな取引をしてたなんて!つまり、こういうこと?」

 

どうやらオレが受けた代償について、認識の間違いがあったようだ。

このままずっと、クマのぬいぐるみとして過ごすわけではなかったらしい。

オレが肩代わりしたことで、紬は1日に数時間、女の子の格好ができるようになっている。実はそれと同タイミングで、オレも人間の姿に戻れるようなのだ。まあ、ひとまずは安心した。

ただどうやら、代償はそれだけではないようだ・・・

 

    アカギ「ど……どうも、アルプと魔女以外の人間は、小僧の存在自体を忘れているようなのじゃ」

 

変だな・・・代償にしてはデカすぎるよな・・・。

 

    アカギ「この世に生まれ落ちたときより、ぬいぐるみだったという認識に変わっているのやもしれん」

 

・・・この世の理を捻じ曲げる能力の副作用だったり?いや、この世界に来てから、使った覚えがないぞ?

 

    椎葉「道理でおかしいと思ったよっ!綾地さんと保科君以外は誰もデュアンくんの話をしないんだもん」

 

まあ、下手に捜索願を出されたり、余計な心配を掛けずに済むのはありがたいんだけどな。

 

    椎葉「何言ってるの、デュアンくん!他人事みたいにっ」

 

・・・え?

 

    椎葉「ワタシはデュアンくんに対しても、怒ってるんだからね?勝手に代償を肩代わりするなんてっ、そんなことされてワタシが喜ぶと思った!?」

 

い、いやあ、まさかここまで重い代償を受けるとは・・・って、あるぇ?

オレ今、声に出してないよな?

 

    椎葉「何言ってるの、変な言い訳しないっ」

 

す、すみません。

 

ぬいぐるみに向かって真剣にお説教をする姿は、もし第三者が見たらシュールなものに映ったろう。

 

そうオレは今、ぬいぐるみのはずなんだ。

会話できること自体が、おかしいと思うだけど?

 

    椎葉「え?そ、それは言われてみれば、そうかもだけど」

   アカギ「どうやら、小僧の正体を認識している相手とは会話もできるようじゃな」

 

へー・・・なら、柊史を含む魔女やアルプ限定で、しかもこのことを知っている人とだけ会話ができるってことか?

 

   アカギ「そういうことじゃ、意識して会話と思考を切り離してみるのじゃ。さっきからダダ漏れになっておるぞ?」

 

思考と会話を切り離す・・・か。

 

  デュアン『……こんな感じか?』

   アカギ「ふむ、小僧にしては上出来じゃろ」

  デュアン『念話みたいで……結構面白いな……コレ』

    椎葉「ちゃんと話ができるのは助かるけど、2人とも!まだお説教の途中なんだからねっ!アカギも、勝手に足を崩さないっ!」

 

  デュアン『は、はい、すみません!!』

   アカギ「ひぃ~、だ……だが紬よ?そうは言ってもじゃぞ……小僧が肩代わりをしてくれねば、気分が悪くなって嘔吐していたはずじゃ」

 

    椎葉「うっ、それはそうかもしれないけど……そんなことのために、デュアンくんがぬいぐるみになっちゃうなんてっ」

 

  デュアン『オレはただ、紬にお礼をするためにカッコつけたかっただけなのに……とほほ……』

 

オレって、本当にバカ

 

   アカギ「まあ、そのおかげで欠片も大量に戻ってきたことじゃし、紬ももっと前向きに考えてはどうじゃ?」

 

  デュアン『そうそう、全ては終わったことだし……前向きにならなきゃ』

 

    椎葉「デュアンくんとアカギは全然反省してないでしょ?」

   アカギ「紬が魔力を集め終えれば、この状態も終わる……1日数時間は、一緒に過ごせるのだぞ。ならばどんどん交尾をして、小僧の心の穴を埋めてしまえ」

 

その発言、火に油を注いでるんじゃ・・・

 

  デュアン『……』

   アカギ「人間の好きな口実とやらもできるのだから、ちょうどいいではないか」

 

    椎葉「あ、あのねえ、アカギ」

   アカギ「それにあっちも、小僧が大きな代償を払ってくれているおかげで……かなりの長時間、人間の姿を維持できるようになったのじゃ!」

 

あ、アカギ・・・知らんぞ。

 

 

  デュアン『……』

   アカギ「むしろあっちは感謝しておるぞ、あっはっはっ」

地雷原の上でタップダンスをよくできるよな・・・

し~らない、しらない

    椎葉「……」

紬は無言で、アカギを部屋から叩き出した。

 

   アカギ「な、何をするのじゃ!開けてくれっ、開けてくれ、紬!」

    椎葉「ダメだよっ、反省するまでうちへ帰って来ないで!ご飯も抜きだからねっ」

 

  デュアン『そ、それは……』

いくらなんでも・・・可哀想だろう。

 

   アカギ「そ……そんなっ!あんまりなのじゃっ、紬!紬ぃ~!」

言っていることは、完全にお母さんみたいだ。こ、怖いな。

普段、絶対怒らない人だけに、恐ろしや。

 

    椎葉「さて、デュアンくん?」

  デュアン『お、おぅ……なんでしょうか?』

    椎葉「ワタシに許して欲しいかな?」

  デュアン『は、はい……それは、もちろんでございます』

    椎葉「だったら、ワタシのお願い1つだけ聞いてくれる」

  デュアン『はい!喜んで』

すると、今度は急にもじもじし始めた。

 

    椎葉「じゃあ人間でいる間は、目一杯いちゃいちゃしてください」

 

  デュアン『……へ?……そんなのでいいのか?』

赤くなっていたのも、これを言おうとしていたから?

 

    椎葉「そ……そうじゃないと許さないからね!わかった?」

  デュアン『ああ……分かった』

オレは多分一生、この子には頭が上がらないだろうな。

それにしても、いちゃいちゃかあ・・・。

 

    椎葉「さあ、そろそろ学院に行かないとね」

  デュアン『え?オレも行くのか?』

    椎葉「元に戻れるまでの間に、勉強遅れたら大変でしょう?」

いや、流石に聞いていれば、どの範囲やったかは記憶できるし・・・テストだって本気を出せば満点を取れるぞ。

 

そんなよそに、抱き上げられ、カバンの中へ突っ込まれてしまう。

 

  デュアン『ちょちょ、ちょっと待って!』

    椎葉「あっ、ひょっとして痛かった?」

  デュアン『いや、ぬいぐるみだからかな?痛覚敵なものはないっぽい。けど軽々と持ち上げられると、結構びっくりする』

 

カバンから頭だけ出した状態で、そう言う。

 

    椎葉「あはは、なんだか可愛いね」

  デュアン『むぅ……まぁ、自業自得ではあるんだけど……』

    椎葉「わかってるよ。できるだけ、びっくりさせないようにするから……一緒に行こうね、デュアンくん」

 

~~~~~~~

 

本当に学院まで連れて来られる。なんか、凄く目立ってるような気がする。

カバンからはみ出たオレを、みんながちらちら見ていくのだ。

 

   デュアン『大丈夫かな?オレ、没収されたりしないか?」

     椎葉「大丈夫だと思うよ?だって、女子はカバンにぬいぐるみっぽいストラップつけてる子、多いでしょ?」

 

   デュアン『まあ……確かに、ストラップとは思えないくらいデカいのつけてる子もいるね……だが、オレはストラップじゃないぞ』

 

     椎葉「だったら、紐を縫い付けてみようかな~?」

   デュアン『それだけはやめて下さい……』

クマに紐・・・亀甲縛りを思いつくのは、なぜだろうか?

 

     椎葉「あははは、だと思った」

   デュアン『むぅ』

     椎葉「先生に何か言われたら、オカ研の備品だとでも説明するから大丈夫だよ……それとも、部屋に1人で置いてかれるほうがよかった?」

 

   デュアン「まさか……現金かもしれないけど、こんな状態でも……紬と一緒にいられるのは嬉しいよ」

     椎葉「……うん。ワタシもだよ、デュアンくん」

   デュアン「本当にごめんな……勝手なことして」

 

まあ、選択したことに後悔は無い。

 

     椎葉「そうだよ、ワタシはまだ怒ってるんだからね?だけどおかげで、いつでも一緒にいられるのも、本当だから……一緒にいられることを楽しんじゃおうよ、ね?」

 

   デュアン「そうだな」

 

~~~~~~

そして、午前の授業

 

   デュアン『(柊史。柊史よ。聞こえてますか?今、貴方の脳内に直接語りかけています。』

     保科「!?……?、?、???」

柊史はビクッとして、あちらこちらキョロキョロしていた。

 

   デュアン『(うぷぷっ……面白ッ)」

さて、からかうのは此処までにしてっと・・・

 

   デュアン『ねえ、椎葉さん。まさかとは思うけど、一緒に楽しむって勉強のことだったりする?』 

 

     椎葉「うんっ、一緒に勉強するのって楽しいよね」

   デュアン『まあ……わからんでもない』

こっそりオレをカバンから出して、黒板やノートが見えるよう、細かく位置を調整してくれるのだ。自分も授業を聞きながら、大変じゃないのかな?

わからないところがあったら、教えてやろう。

でも、紬は、楽しそうな顔でニコニコと笑っている。

 

     椎葉「デュアンくんって、学院の勉強は嫌いな人?」

   デュアン『嫌いではない……別に好きでもないよ。でも……紬と一緒なら、楽しいかも』

 

     椎葉「ふふふ、勉強が好きになれば、学院はもっと楽しくなるよ」

 

そういうものだろうか?オレって、一度見たものは一瞬で記憶できるんだよなあ。と思っていると、紬がきゅっと軽く抱き締めてくれる。

・・・そりゃ、楽しいに決まってる。

 

~~~

 

    椎葉「デュアンくんは、お腹が空いたりしないの?」

  デュアン『ん~……平気だな。腹が減ったり、喉の乾きはないみたいだ。……どっちにしても、ぬいぐるみの身体じゃ、ご飯は食べられないよ』

 

    椎葉「……それもそっか」

なににしろ、学院で元に戻らないことを祈るしかないな。

 

   女子学生C「椎葉さーん、お弁当一緒に食べない?」

紬の友達だろう、クラスメイトが声を掛けてきた。

すでに机を引っ付け合い、グループを作ってるようだ。

 

    椎葉「ごめんね、今日はもう約束しちゃったんだ」

   デュアン『……』

   女子学生C「えー残念、でも仕方ないっか」

 

~~~~~~

 

    椎葉「ここなら、他に人はいなさそうかな?」

紬は適当なところに腰を下ろして、お弁当を広げ始める。

その横にオレオちょこんと座らせてくれた。

 

   デュアン『あれ、誰かと約束してたんじゃないのか?』

    椎葉「あはは……嘘ついて悪いことしちゃったな。でもデュアンくんと一緒がよかったから」

 

   デュアン『ふむ?』

まあ確かにぬいぐるみを抱えたまま、友達と一緒に昼食というわけにはいかないだろう。もちろん今みたいに話しかけるなんて、もってのほかだ。

 

     椎葉「それにデュアンくん?一緒にいることを楽しもうって言ったでしょう?」

 

確かにこれも約束といえば、約束だな。

 

   デュアン『でも学院じゃ、オレの声が聞こえるのは、紬と柊史だけだぞ?あまりこっちばっかり優先してたら、変に思われないか?』

 

     椎葉「うーん、そうだ!気になるんだったら、いっそこうしちゃおっか?」

 

   デュアン『……ほわぁ!?』

魔女の姿に変身してしまったよ。

 

     椎葉「えへへ、変身しちゃった、どう?デュアンくん」

   デュアン『どうって、いいのか?』

     椎葉「うん、ワタシはもともと魔女の格好になるの好きだし……これなら学院でも人目を気にせず、イ……イチャイチャ出来るよね?」

 

   デュアン『かもしれんが……(柊史と綾地さんには見えるんだぞ?)』

 

     椎葉「じゃあ、さっそく……デュアンくん?むぎゅ~~~っ!」

 

   デュアン『つ、紬!?』

     椎葉「ふふふ、デュアンくんは抵抗できないんだよ?ワタシにいっぱいむぎゅ~~~ってされるしかないんだからね、ぎゅ~~ぎゅ~~~、えへへへ」

 

か、可愛い。けど・・・

 

   デュアン『お、お弁当を食べるじゃないのか?』

     椎葉「うーん……でもその前に、デュアンくんを食べちゃいたいかなって」

 

   デュアン『ほわぁっ!?』

     椎葉「ほら、デュアンくんが人間に戻っちゃったら、こういうこともできないんだからっ」

 

い、いや・・・流石にヤバいって。せめて二回目は近藤さんを使おう。そう心に刻み込む。

 

     椎葉「どうかした?」

   デュアン『いや……なんでもないよ。……オレもぬいぐるみである我が身を受け入れるよ、もう好きにしてくれ』

 

     椎葉「ふふふ、いい覚悟だよ、デュアンくん?」

   デュアン「(もう、どうにでもなれ……)」

     椎葉「じゃあさっそく、ぎゅ~~っ、ぎゅぎゅ~~~っと、ふふふふ」

そうして紬にされるがまま。オレもまた何食わぬ顔で、イチャイチャして過ごすことにした。

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 



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Ep58 キスはデザートっぽい優しい味

 

 

~~~~~

 

そして、放課後を迎える頃には、オレもぬいぐるみであることに開き直れるようになっていた。

 

   デュアン『そういえば、綾地さんにオレのこと報告しなくていいのか?』

 

     椎葉「……うーん、やっぱりそう思う?」

   デュアン『むしろ、いつもの紬なら一番に報告するんじゃないか?』

     椎葉「なんとなく、タイミングが合わなくて」

   デュアン「あー……柊史と綾地さん……いつも一緒だからなあ……」

あの2人はお似合いのバカップルだもんなあ・・・。あの様子からすると、またエッチなことをしてるんじゃないのか?なんか、綾地さん。すっごく、お肌がツヤツヤしてたからな。

 

     椎葉「あっ……目が合った……こっちに来てくれるみたい」

     綾地「椎葉さん、申し訳ございません。今日の部活は、お休みにしようかと」

 

     椎葉「そうなんだ、珍しいね」

   デュアン『……』

     綾地「ええ、実は七尾に相談しなくてはいけないことがありまして」

 

   デュアン『……、……(まさか魔女の契約のことか?……、……いや違う。厚真さんのことか?)』

 

     椎葉「だったら仕方ないけど、2人で行ったほうがいい感じ?」

 

綾地さんはなぜか、一瞬、窓の方へチラリと視線をやる。

アカギを見たのか?

 

     綾地「……申し訳ございません」

     椎葉「わかった、ワタシでも役に立てそうなことがあったら、いつでも相談してね」

 

     綾地「ええ、ありがとうございます。……ではお先に失礼します」

 

   デュアン『あっ……結局、こっちのことは相談できなかったな』

     椎葉「うん、それなんだけど……実は、ワタシもちょっと躊躇ってるんだ」

 

   デュアン『ん……?どうしてだ?』

     椎葉「だって綾地さんには、ずいぶん欠片を譲ってもらってるでしょ?このこと話したら、また譲るって言い出すかもしれないから」

 

   デュアン『……ふむ』

     椎葉「うん、綾地さんには綾地さんの願いがあるはずだから」

   デュアン『……そう、だな……』

     椎葉「もちろん、デュアンくんにとっては、そのほうがいいと思うけど」

 

   デュアン『いや、いいよ!こっそりイチャイチャするのも楽しくなってきたところだし』

 

ここはあえて明るく、そう言ってみることにする。

 

   デュアン『それに……柊史にはバレてるけど……もう少しだけオレと紬だけの秘密にしておくのも悪くないかもなってね』

 

     椎葉「もう、デュアンくんったら……でもワタシだって、そんなに長くぬいぐるみのままでいて欲しいわけじゃないからね?そのためにも、まずはワタシ達だけで努力してみよ?」

 

   デュアン『もちろんだけど、努力って?』

     椎葉「もちろん、欠片を集めるんだよ……相談者を待つだけじゃなくて、たまにはこっちから欠片を持ってる人を探しに行ってみない?……それには部活が休みになったのも、ちょうどよかったかもね」

 

   デュアン「そうだな」

 

~~~~~

 

さっそく、2人?で街へ繰り出した。

人が多ければ、それだけ欠片を持った人に出会う確率は高くなる。オレも小学校の頃にやったことがあるな。中学の頃は、繁華街。ってね。紬は女の子だから、繁華街は危険だ。

 

    椎葉「うーん、やっぱりこれだけ人がいると、小瓶が反応してるのかしてないのか、よくわかんなくなっちゃうね」

 

   デュアン『……』

    椎葉「デュアンくんは、どう?」

   デュアン『……オレも同じだな』

    椎葉「もう少し、場所を絞ったほうがいいかも」

  デュアン『ふむ……具体的にどこへ行く?』

    椎葉「スポーツの試合会場とか、結婚式の二次会に使われるレストラン前とか……昔はそういうところに張り込んだこともあったんだけど」

 

  デュアン『ふむぅ……だけど、この季節に結婚式はいないと思うぞ……結婚ってだいたい6月にやるもんだしな……』

 

    椎葉「確かに……ジューンプライドって言うしね……でもスポーツ会場ならどうかな?」

 

  デュアン『……冬にやるスポーツか……時期的には秋……9~11月に行うもんだからな……期待はしないほうがいいと思う』

 

    椎葉「なるほど……」

  デュアン『他に心当たりとかあるか?』

    椎葉「うう、とりあいず人の多いところへ来ただけで、ワタシは全然土地勘がないから」

 

  デュアン「ふむぅ……んー……ライブ会場とか?小さいライブハウスなら、近くにあるぞ」

 

    椎葉「いいかも!前にデュアンくんの友達からも、回収ができたもんね」

 

記憶どおりにやってくると、ちょうどライブが終わったところだったらしい。

吐き出されてきたお客さんが、出入り口の周りにたむろしている。

 

    椎葉「あっ、やった!反応してるみたい……けどこの中の誰だろう?デュアンくん、わかる?」

 

  デュアン「……、……ふむぅ……多分だが、あの辺りの誰かだろう」

 

柊史と違って、対象者の心や感情を五感で感じることは出来ない。コールドリーディングやメンタルトレースの応用で、かろうじて読める程度だからなあ・・・

 

     椎葉「ワタシもそう思う、あっ移動するみたい」

どうやら、みんな駅へ向かってるみたいだ。それを後からつけていくしかなかった。下手すりゃストーカーだな。

 

   デュアン『……、……』

     椎葉「ホームで別れてくれれば、さらに絞れそうだけど」

   デュアン『電車の中は人が増えるぞ……?』

電車に乗って、地元の駅へついたときだ。

 

     椎葉「あっ!反応が消えちゃった、あの人じゃなかったのかも」

 

   デュアン『こっちの地元で降りてくれたときは、ラッキーだと思ったのにな……ま、下手すりゃ終点まで付き合わされる可能性もあったわけだし……結果オーライだね。』

 

     椎葉「うーん、これだから街で直接捜すのは、難しいんだよね」

 

   デュアン『空振りだったけど、ダメージは最小だったと思うしかないか』

 

     椎葉「そうだね、そういうこともあるから、結局、オカ研の悩み相談が一番効率いいんだよ。あの方法を編み出した綾地さんは、本当にすごいと思う」

 

   デュアン『確かに……不審者扱いされる心配もないもんな』

     椎葉「そうそう、そこもこの方法のネックなんだよねぇ……でも、デュアンくんの欠片ってどうやって……あんな大量に集められたの?やっぱり、綾地さんと一緒にオカ研やってた時?」

 

   デュアン『いや……小学校の頃に、自殺志願者の悩みを解決させて、一気に回収……それを卒業するまで繰り返して……中学の頃に、繁華街を中心に仕事のことだったり、就職する学生を中心に……集めてたぞ……高校1年から、schwarz(シュバルツ)katze(カッツェ)で無差別に客の悩みを解決かな……』

 

     椎葉「な、なるほど……」

   デュアン『悩みがデカければデカいほど欠片の量が増えるし、……まあ、紬や綾地さんにはオススメできないやり方だね』

 

     椎葉「どうして?」

   デュアン『それほど……大人というのは汚いんだよ』

     椎葉「そ、そう……。……そういえば綾地さんが相馬さんに相談があるって言ってたけど……何の用なんだろう?」

 

   デュアン『オレの予想では、厚真さんのことだろう……様子が変だって気にしてたでしょ』

 

     椎葉「どうかな?それだったら、ワタシ達にもそうだんしてくれたんじゃない?」

 

   デュアン『……、……』

それが作為的じゃないことを祈りたい

 

ん?今一瞬だが、見覚えがある子犬が映ったような・・・

 

     椎葉「デュアンくん、どうかした?」

  デュアン『いや……気の、せいかもしれない』

 

    アカギ「こ、これ、紬よ」

     椎葉「アカギ!どうしたの、こんなところで?」

    アカギ「様子を見に来てやったのであろう?」

  デュアン『……』

     椎葉「アカギももう反省してくれたはずだよね?」

    アカギ「ふんっ、さあな」

  デュアン『(素直じゃないヤツ)』

     椎葉「……ご飯抜きでもいの?」

    アカギ「ぐっ、し、知らんのじゃ!それよりも、よいのか?そろそろ小僧が人間の姿に戻る時間じゃぞ?」

 

     椎葉「え!そうなの?」

   デュアン『なんだ、わざわざ教えてくれたのか……ありがとな』

    アカギ「ふん、小僧の心の穴が埋まらなくては、あっちも困るというだけじゃ」

 

  デュアン『それでも、ありがとな』

   アカギ「……小僧も人前で、元の姿に戻っては困るのではないか?」

 

  デュアン『そう、だな……ふっ、やっぱりツンデレだろ、アカギ』

   アカギ「なんじゃそれは?その言葉は、酷くバカにされてる気がするぞ」

 

    椎葉「ふふふ、まあまあ、ありがとうアカギ。デュアンくんも、急いで帰ろうか?人間になってる間は、わかってるよね?」

 

   デュアン『あ、ああ……』

たくさん、イチャイチャする約束だもんな。

 

~~~~~

紬の部屋へ戻ると、ほどなくオレは人間の姿に戻ることが出来た。

数時間ほどで、またぬいぐるみに戻ってしまうわけだが・・・

 

     椎葉「はい、デュアンくん、あ~ん♪」

  デュアン「あ、あ~ん」

テーブルには、ご馳走が並べられていた。

紬が手ずから食べさせてくれるのだった。

ちょっと、恥ずかしいが・・・新婚さんみたいで、新鮮な感じだな。

 

    椎葉「えへへ、美味しい、デュアンくん?」

  デュアン「ああ……とても美味しいよ。だけど、よくこんなたくさん用意できたな……放課後、わざわざ街まで出たんだから疲れたんじゃないか?」

 

    椎葉「だって、デュアンくんが人間でいられるのは、この時間だけなんだよ?だからできるだけのこと、してあげたくて」

 

  デュアン「紬、ありがとう……でも、流石に食べ切れる自信は無いな」

 

    椎葉「ああ、もちろん無理なら残してくれてもいいんだよ?いちゃいちゃするって言ってみたけど、考えてみたらワタシ、具体的になにすればいいかよくわからなくて……手料理を作ったのは、他に思いつかなかったっていうのもあるんだ」

 

  デュアン「確かに……よく考えたらオレもパッと思いつかないな」

    椎葉「ふふふ、だからせめてね、目一杯おうちデートを楽しめたらいいかなって」

 

  デュアン「なるほど……それで服も、デートの時と同じなんだな」

    椎葉「うん、そういうこと。あっ……変だった?」

  デュアン「んいや、まさか……何度見ても……お姫様みたいで、最高に可愛いよ」

 

    椎葉「も……もう、デュアンくんこそ、ワタシの王子様だよ?」

  デュアン「ふふっ、今はぬいぐるみの姿が、デフォだけどね(カエルの王子様ならぬ、ぬいぐるみの王子様、かな?)」

 

    椎葉「関係ないよ、だってカエルの王子様ってお話があるでしょ?たとえ姿はカエルでも、王子様は王子様なんだよ」

 

  デュアン「あれ?そんなお話だったっけ?」

    椎葉「ワタシの中ではそうなのっ、それよりほら、食べて食べて?」

 

勧められるまま、料理に手を付けていく。

 

  デュアン「どれも美味しいよ。オレも毎日料理してるけど、紬の方が上手いかも」

 

オレのは、単なる技術とレシピを記憶しただけの模造だからなあ。

 

    椎葉「そっか、デュアンくん……1人だったね」

  デュアン「まあ、ね……オレの両親はオレが物心付く前に死んじまったし……親戚もいるのかさえも分からん」

 

    椎葉「す、凄いんだね……デュアンくんって」

  デュアン「そうだろうか?」

    椎葉「だって、今まで1人で生きてきたんだよね?」

  デュアン「まあ……そうだな」

    椎葉「……、……」

  デュアン「あっ……そうそう。クラスの中で、誰かオレが居なくなって困ってる人とかいた?」

 

    椎葉「……ワタシは気付かなかったかな?」

  デュアン「そうか……ならよかった」

    椎葉「……?」

  デュアン「それより、もっといちゃいちゃしなくていいの?オレ、なんでもするよ?」

 

    椎葉「じゃあまた……あ~~んってするから、デュアンくん、目を閉じて?」

 

  デュアン「……?こうか?」

    椎葉「うん、それでね、ワタシが何を食べさせたか、当てて欲しいかな」

 

  デュアン「了解した」

オレは、眼を閉じる。ここにあるのは、どれも絶品の料理ばかりだ。

なにも心配はない。

 

    椎葉「まずはこれかな、あ~んして?、……はーい、わかった?」

 

  デュアン「ふむぅ……これは……唐揚げかな?」

    椎葉「ちょっと惜しいかな」

  デュアン「ああ……じゃあ、竜田揚げだ」

もちろん、さっきまで見てたんだから、一口食べてすぐ分かっていた。だけど、それじゃ面白くないような気がしたからな。

 

再び眼を閉じ・・・

 

    椎葉「じゃあ、次はこれ……あーん」

  デュアン「あ!このナスの煮浸し、美味しかったよっ……ただのナスとは思えなかったぐらいに」

 

    椎葉「ふふふ、今度レシピ教えようか?」

  デュアン「ああ……頼む。隠し味がありそうだけど……分からないな」

ナスって一度、揚げてから冷水に入れると、皮が剥けやすいからなあ・・・それの応用したヤツだろうか?

 

またまた眼を閉じ・・・

 

    椎葉「じゃ、じゃ、じゃあ……最後はこれね」

  デュアン「……?」

    椎葉「ちゅっ♪」

 

  デュアン「……、……え?」

一瞬フリーズしてしまい、思わず目を開けてしまった。

 

    椎葉「ど、どうしたの、デュアンくん、ひょ……ひょっとしてわからなかったのかな?よかったら、も……もう一口、食べてみる?」

 

ど、どうする・・・素直に答えてみるか?い、いやしかし・・・

わ、分からないが・・・此処はあえて言おう。

 

  デュアン「そ、そうだな、もう一口食べてみないとわからないかな」

衝撃なこと過ぎて、記憶ができなかった。

 

    椎葉「じゃあ、また目を閉じてくれる?こ……今度は、ゆっくり味わってね、あ、あ~ん」

 

 

    椎葉「ちゅっ、ちゅぱっ……ちゅっ、んっ、んちゅ……ちゅちゅ~……、……どう、かな?どんな味が、しましたか?」

 

お、おぅ・・・まさか、ディープキスをされるとは思わなかった。

 

  デュアン「そ、そうだな……すごくデザートっぽい優しい味がするかな?」

 

    椎葉「うーん、惜しいかな?もうちょっと……具体的に答えてみて」

 

  デュアン「ぐ、具体的に?うーん……う~ん……」

ど、どうする・・・あ、頭が沸騰しそうだ。それぐらい恥ずかしい。

くそぅ・・・答えなきゃいけないのに・・・。

・・・こうなったら

 

   デュアン「もう一口、たべてみないとわからない、かな?」

     椎葉「ふ、えへへ……もうデュアンくんは、欲張りなんだから、ちゅっ」

 

ふっ、ふっ、ふっ・・・やられっぱなしのオレだと思ったら大間違いだぜ?反撃開始だっ

 

     椎葉「あっ、んちゅ……でゅ、デュアンくん、んちゅっ……ちゅっ、あふっ、んぅ~……そ、それじゃあ、ご飯どころじゃ……なくなっちゃうよ?」

 

   デュアン「……そう、だな」

唇を話すと、2人の間で透明な糸が引かれた。

 

    

   デュアン「でも、これはこれで、世界で一番のご馳走だな」

世界で1つだけのご馳走だな。

 

     椎葉「あっ、デュアンくん……」

紬を優しく抱き締める。びっくりするくらいいい匂いがした。な、なんだろう?イケない気分になりそう。

 

オレらしくないぞ!落ち着くんだ。オレ。

 

     椎葉「ほ……本当に、ご飯どころじゃ、なくなっちゃうよ?」

   デュアン「そうだけど……でも、なぜだろうか……紬のことも、離したくないな」

 

なんでだろうか?本当にオレらしくない・・・。

胸元に置かれた手に、きゅっと力が込められる。

 

     椎葉「うん……ワタシも、だよ。たくさん、いちゃいちゃする……やくそくだもんね」

潤んだ瞳が、オレを見上げてきた。

 

   デュアン「ああ、たくさんイチャイチャしよう」

その瞳が静かに閉じられる。オレ達は再び、唇を重ねるのだった。

 

 

・・・・、・・・

 

・・・・・オレはどうすれば、いいんだ?

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter8
Ep59 犯人探し


 

 

~~~~~

 

   紬「んぅ~……デュアンくん……」

け、結局合計5回もしてしまった。な、なぜだ紬。なぜ近藤さんを付けるのを嫌がるんだ!まだ俺らは、高校2年生だぞ・・・。下手すりゃ中退になって、就職活動に大きく影響してしまうぞ。

 

  デュアン『……(考えても仕方ない、か……、……女性の方が性欲があるって……本当だったんだなあ……)』

 

と考えてると、紬はオレを離そうとせず、抱き枕にされてしまった。

 

  デュアン『……』

抱き返してやりたい、起こさないようそっと頭を撫でてやりたい。そう思うものの、オレにはされるがまま抱かれてやるくらいしかできないのだ。

 

   アカギ「どうやら、上手くやっておるようじゃな」

  デュアン『っ……なんだアカギか、帰ってきたのか?』

   アカギ「鍵の隠し場所は知っておるからな。入って来ようと思えば、いつでも入って来れるのじゃ」

 

  デュアン『そうか……でもそんなこと言ってると、紬に怒られると思うぞ』

 

   アカギ「何を言う?やはり、あっちは間違っておらん」

  デュアン『ふむ……』

   アカギ「わざわざ街まで繰り出し、紬は以前に増して欠片の回収にも、積極的になった……最初は嫌がっていた交尾も、積極的にこなしておるのではないか?すべては小僧、お前のためじゃろう」

 

  デュアン『そう、だな』

   アカギ「取引によって、あっちは余分に心の力を手に入れた……だがそれ以上の効果があったのじゃ!まさに僥倖というものじゃ……おかげで、人化を維持できる時間が長くなっただけではない……以前はうるさいとしか思えなかった音楽も、写真があるというのに絵画をありがたがることも、あっちには理解不能だったが……今なら、少しはわかる」

 

アカギは紬の机から、絵ハガキを拾って眺めていた。

それには確か、童話をモチーフにしたイラストが描かれていたな。

 

   アカギ「この調子なら、あるいは七緒より先に人化を終えられる可能性さえあるじゃろう」

 

  デュアン『……アカギ、が?』

   アカギ「そうじゃ、だが得をしてるのはあっちだけではない。紬にとっても、小僧にとっても、いいことばかりではないか。すべてあっちのおかげじゃ、よかったな!」

 

  デュアン『……たしかに、お前のお陰かもしれない。そこには礼を言わせてもらうよ……だけど、アカギ……人間にはまだほど遠いよ……お前はオレと同じだ』

 

   アカギ「なんじゃと?どういう意味じゃ?」

  デュアン『人間の感情を理解してないからだ……、……それが証拠だよ』

 

   アカギ「わかるわけないじゃろう?紬はお前がぬいぐるみでも、一緒にいられる時間が長くなって嬉しいのだ……人間でいられる時間が短いからこそ、積極的になっておるのではないか」

 

  デュアン『……そ、それはそうかもしれないが……だけど……』

   アカギ「わかっておらんのは、お前のほうじゃ」

  デュアン『……以前のオレなら、紬の笑顔を嘘の笑顔だと思い込んだかもしれない』

 

   アカギ「なにを……なッ!」

    椎葉「デュアンくん……ごめんね……」

紬は眠ったまま、一筋涙をこぼしていた。

 

  デュアン『……昼休みだったかな……紬の笑顔の裏に、何かを感じた……分かりにくいけど……確かに何かあると思ってた……だけど、わかったんだ……それは、たぶん……寂しいっていうことじゃないか……ってね』

 

紬は、この状況を楽しもうと言ってくれた。でもこんなの寂しくないはずがない。辛くないはずがない。

友達から昼食の誘いを断ったのは、オレが疎外感を覚えないか心配したからだろう。

本当に馬鹿だよな。オレが今更疎外感なんてもの気にしないのに。

でも今のオレに、意思疎通できる相手は限られている。

だからもともと部活にも、顔を出す気はなかったんだろう・・・。明るく振る舞うのも、オレがこれ以上、気に病まないようにしてるんだ。

 

・・・こうなったのは、全部オレの自業自得なのによ。

 

いつも通り、明るく振る舞おうとしてくれる。

 

  デュアン『確かに、紬が頑張るのは、オレのためなんだと思う……けど……これは"オレのせい"ってヤツなんだ……、……本当に紬は優しい子なんだよ……オレはそんな優しい子を傷つけてる、だから……あんな取引をして本当にバカだったと思う……本気で反省しなきゃいけないと思える。心の底から、この子を大切にしなくちゃいけないと感じるんだ……だから紬が必要以上に気に病まないよう、バカみたいに明るく振る舞ってるんだよ』

 

   椎葉「……すぅーー……すぅーー……」

  デュアン『いちゃいちゃするのも、もちろん嬉しいし、楽しいからだけど……人間というのはそれだけじゃないんだ……アカギ』

 

   アカギ「な……なんだそれは?嬉しくて楽しいなら、それでいいではないか!」

 

  デュアン『……そうかもな、でもそうはいかないんだ』

   アカギ「ふんっ、まさか同情でもして欲しいのか?あっちは人間に同情したりせん。それは出来損ないのアルプがすることなのじゃっ」

 

  デュアン『紬の涙を見て、なおそんな事をいえるのか?』

   アカギ「っ……っ……!」

行ってしまったか・・・。

 

  デュアン『……オレに偉そうなことを言う資格なんてないのに……』

オレが此処まで感情的になるのって・・・いつ以来だろう。

 

 

~~~~~~~

 

  アカギ「(なんじゃ、この気持は……?あっちは間違っておらん!間違っておらんはずなのに……胸がチクリと痛むのじゃ)」

 

  アカギ「(こんな気持ちになったことなど、今まで一度もないというのに)」

 

~~~~~~~~

次の翌日。

 

   海道「……あれ?……あそこの席、どうしてあんな中途半端な場所が空いてるんだっけ」

 

   仮屋「さあ?前からそうだった……っけかな?たぶん」

   海道「昨日から、なんとなく気になってたんだけど、まあいいか!それより、飯だ飯!」

 

   仮屋「なんだいそりゃ?自分から振っておいて、自己解決してるよ」

 

ふむ・・・記憶はなくなっても、気にはしてくれてるのか・・・?

 

    

    椎葉「ふふふ、よかったねデュアンくん?」

   デュアン『戻ってきてたのか、紬』

紬は、先に手洗いへ行っていたのだ。

 

    椎葉「完全に忘れ去られたってわけじゃ、なかったんだね」

   デュアン『痕跡は、完全に消すことは出来ないからね……、……それよりも今日も、中庭へ行くのかい?』

 

    椎葉「お昼休みのデュアンくんはワタシが独り占めするつもりだよっ」

 

   デュアン『わかった……』

 

 

~~~~

 

    綾地「椎葉さん、少しいいですか?」

    保科「ちょっと話したいことがあって、ね」

  デュアン『……?』

廊下へ出たところで、綾地さんと柊史に呼び止められた。

 

    椎葉「綾地さん、保科君……もちろんいいよ」

    綾地「ありがとうございます。実は放課後、一緒にシュバルツ・カッツェへ付き合って欲しいのですが」

 

    椎葉「シュバルツ・カッツェに?ひょっとして昨日、相馬さんと相談してきたことと関係あったりする?」

 

    綾地「……ええ、少し」

  デュアン『……』

綾地さんには珍しく、歯切れが悪いな・・・。何かあったのだろうか?

 

    綾地「詳しいことは、向こうで話しますので」

    椎葉「わかった、ワタシもちょうど話しておきたいことがあったし」

 

ふむ、オレのことかな?

 

    保科「……」

    椎葉「綾地さんにはさんざんお世話になってきたもんね、ワタシで役に立てるならなんでも言って」

 

  デュアン『……』

    綾地「いえ、そういうたぐいの相談ではないのですが……とにかく、よろしくお願いしますね」

 

    保科「じゃあ……また後で、椎葉さん、デュアン」

綾地さんは、早足に立ち去って、柊史はその後を追っかけていく。

 

なんだろう・・・後ろめたいことがあるのか?いや、何かを隠してるな。何を隠してるんだ・・・二人とも。

 

    椎葉「いったい、なんなんだろうね?」

  デュアン「十中八九……厚真さんのことだろう」

それしか、考えられない。

 

    椎葉「え……?どうして?」

  デュアン「どうしてって……そりゃ、綾地さんの真剣さ、から……だと思う」

 

~~~~~~

放課後、綾地さんについてシュバルツ・カッツェへ向かった。

 

    綾地「……」

    保科「……」

オレの中で、もう一つの疑惑が浮かんだ。それは綾地さんに残された時間が少ないことの可能性。

 

    椎葉「相馬さん、元気にしてる?」

    綾地「ええ」

    保科「元気だな」

    椎葉「そうそう、オカ研の方で何か進展が……」

    保科「すまない……」

    綾地「それはまた後で……」

  デュアン『……』

ムカムカメータ15%。さっきから何を隠してるんだ?

 

    椎葉「あー……、……そっか」

    綾地「……」

    保科「……」

    椎葉「………」

本当に何があったんだ?誰かのお通夜か?

 

~~~~~

 

    椎葉「あれ?臨時休業になってるみたいだけど」

  デュアン『ってことは、誰かに聞かれたくない内容か……』

    綾地「今日は貸し切りにしてもらったんです、どうぞ」

    椎葉「う、うん……」

柊史がドアを開け、綾地さんが入り、続けて紬も入る。

 

    椎葉「相馬さーん、こんにちはー……あれ?」

  デュアン『……?』

妙だな、相馬さんの姿が見えない。

 

    綾地「七緒なら、今はいませんよ」

  デュアン『(なるほど、読めてきたぞ……アカギを探したんだな……つまり、厚真さんのアレは作為的。現状最も怪しいのはアカギということか。)』

 

    椎葉「え!てっきり一緒かと……思ったん、だけど?」

    保科「相馬さんには……もう一人を探しに行ったんだ」

綾地さんは、出入り口を塞ぐような位置に立っていた。

 

  デュアン『(紬のことも疑ってるんだな……綾地さん)』

    綾地「ところで、最近アカギはどうしてます?」

    椎葉「……どうって?あの、綾地さん?」

  デュアン『……』

    綾地「なんでもアカギに限らず、鳥のアルプは自由に飛び回れる特性を活かして……魔女を常に見張る者が多いそうです、心当たりはありませんか?」

 

    椎葉「い、言われてみれば、タイミング良く現れることが多いかな?けどそれがどうかした?……今日の綾地さんと保科君、ちょっと変だよ」

 

    保科「すまない……」

    綾地「ごめんなさい、自覚はあります。その上で、あつかましいお願いをしてもよろしいでしょうか」

 

    椎葉「うん、それはいいけど……?」

いきなり、綾地さんが、魔女の姿に変身する。

 

    保科「……」

 

銃口をぴたりと、紬の眉間へ向けた。

 

  デュアン『っ……!』

オレは堪らえた。ここで庇い立てや助言はかえって、紬の容疑が増えるだけだ。

 

    保科「椎葉さん……お願いがあるんだ」

    綾地「怖がる振りだけ、していただけませんか?」

    椎葉「ふぇ?」

そのとき、綾地さんの後ろから蹴破るような勢いで扉が開いた。

 

    保科「来たな……」

   アカギ「貴様ぁーーっ!やはり七緒は、紬の欠片を狙っておったのか!?」

 

  デュアン『よせ、アカギ!』

    椎葉「アカギ―――」

   アカギ「紬、今助けるぞっ」

あ、あちゃー・・・

 

    椎葉「―――危ない!」

   アカギ「なに?……~っ!?」

アカギのさらに背後。黒猫姿の相馬さんが飛び出してきた。

 

声を出す間もない一瞬で、勝負は決した。

 

気が付くとアカギは床へ取り押さえられていた。

 

    相馬「油断したな、アカギ?鳥は空にいるから、自由なのだ……ひとたび地上へ降りれば、猫はお前の天敵だ」

 

   アカギ「七緒ぉ~!貴様、なんのつもりじゃ!?」

    椎葉「そ、そうだよ、相馬さんも綾地さんも保科君も、いったいどうしたの?まさかアカギをおびき出すために、ワタシを呼んだの?」

 

    綾地「申し訳ございません、椎葉さんが一切関わっていないことはわかっていました」

 

    保科「オレからも……すまない。罠を仕掛けるような真似をして……だけど」

 

    綾地「ですが私や柊史君にも、どうしても許せないことはあります」

 

    椎葉「許せないことって、アカギなにかしたの?」

   アカギ「知らん!こんなことをされる覚えなどないっ」

まあ、確かに・・・

 

    相馬「厚真沙耶子の名前に聞き覚えはないか?」

ま、無いと答えるだろう、アカギは。

 

    椎葉「へ?えっ、どうして、そこで厚真さんの名前が出てくるの?」

 

  デュアン『(そりゃ……厚真さんの心の傷を広げた第一容疑者がアカギだからだよ)』

 

今は黙って沈黙しとくか・・・

 

   アカギ「紬、知ってるのか?誰だそれは、あっちは知らんぞ!」

    相馬「白を切ってるのか?本当に知らないのか?それとも襲った相手の名前など、いちいち覚えていないということか」

 

    椎葉「……襲っ、た?」

  デュアン『……』

ありえんな。アカギはどうしようもないヤツだが・・・それは紬の為に行動するヤツだから・・・関係ない赤の他人を襲うようなヤツではない。

 

   アカギ「違う!な、何の話をしておるのじゃ!?」

    綾地「厚真さんの心は、回復へ向かっていたはずです……だというのにある日突然、無気力になってしまったようなんです」

 

    保科「それは……まるで、全てを諦め……受け入れてしまったかのように……な」

 

やっぱり、厚真さんの心の穴が空いたのか。アカギが犯人なら痕跡が残っている。魔力という拭いきれない痕跡が。だから、アカギは絶対に白だと断言できる。

 

    椎葉「うそ……まさかワタシ達が、余計なことしちゃったせいなんじゃ」

 

    保科「いいや……椎葉さんじゃない」

    綾地「ええ……。繰り返しますが、彼女の心は回復へ向かっていたんです……だから、少し調べさせてもらいました。すると心を強引に削り取った痕がみつかったんです!」

 

    保科「まるで、デュアンと同じ状況のように……」

   アカギ「なッ!」

    相馬「もともと穴が空きかけて、脆くなっていたせいもあったんだろう……だがそんな真似が出来るのは、魔女かアルプだけだ」

 

    椎葉「ま、待ってください!だからって、アカギが犯人とは限らないんじゃ?」

 

    綾地「椎葉さん、忘れたんですか?アカギが、強引にデュアン君の心を削って穴を広げてしまったことを」

 

    椎葉「あ、あれは」

  デュアン『……』

 

    保科「今のところ、アカギが一番怪しんだ」

    綾地「デュアン君も、厚真さんも、とても心の優しい人だと思います」

 

オレが優しい、のか?

 

    保科「だけど……そんなお人好しで優しいやつほど……」

    綾地「傷つきやすいんです……もしわざわざ、そういう人を狙って襲ったんだとしたら、到底許す気にはなれません」

 

いやいや、アカギがオレの心を引き裂いたのは、紬の為だ。語弊があるぞ。しかも、厚真さんに関してはコレ以上無いってくらいの真っ白だ。

 

    椎葉「綾地さん……け、けどいきなりこんな風にしなくても、先に話を聞いてあげれば……」

 

会話に割り込みたいが、ぬいぐるみになってる以上、アカギが黒塗りされる可能性がある。やりにくいな。

 

    相馬「悪いが椎葉さん、こいつに飛ばれたら私でも追うことは出来ない……そしてこの土地は、私のテリトリーなんだ、責任もある」

 

   アカギ「ぐっ、だからといって……好き勝手していいとおもっておるのかぁ~っ」

 

  デュアン『(あ、アカギ……お前が言うか。過去に2人も魔女にしたお前が言うか?)』

 

思わず突っ込んでしまった。

 

    相馬「そのセリフは、そっくりそのままお前に返してやる」

これが、本当のブーメラン。

 

  デュアン『(……だとすると、厚真さんの心の傷を広げたのは……推測だが……あの子犬か?)」

 

大型犬の服を着ていた子犬。一番、違和感を感じた。しかし、あの時・・・魔力を感じた覚えはない。

 

    相馬「だがもちろん、弁解の機会は与えてやろう……ただし短期間で急にお前が人化が進んだことなら、事前に調査で掴んでいる」

 

  デュアン『……(あっ……その原因はオレだけどな)』

    相馬「簡単には、言い逃れできないと思ってくれ」

いや、それが簡単に説明できちゃうんだよな・・・

 

   アカギ「……なんじゃと?」

  デュアン『アカギ……オレと契約したってバラしちゃったほうがいいんじゃないか?』

 

    椎葉「あっ、あぁ~……それなん、だけど」

    保科「あ……、あぁ……そういうことか」

    綾地「え?椎葉さん、柊史くん……なにか知っているんですか?」

 

    椎葉「え、えっと、ごめんなさい!」

椎葉さんは慌てて、カバンからオレを引っ張り出した。

 

    保科「っ……っ……」

笑いを堪えている柊史。お前・・・覚えてろよ。

 

    椎葉「でゅ、デュアンくんです」

    綾地「……え?」

    椎葉「もっと早く説明しておけば良かったんだけど……ワタシの代償を肩代わりしようとして、こんな姿になっちゃったっていうか……デュアンくんなんです」

 

    綾地「いったい、なにを言っているんですか?……え?どういうことでしょうか?」

 

    保科「うぅ~ん……オレもよく分からんが、そのクマのぬいぐるみはデュアン御本人なんだよなあ……」

 

  デュアン『そうそう、デュアンです」

 

あれ?なんで綾地さんと相馬さんがぽかんとしてるんだ?

ふむ、確かオレの声が聞こえるのは、魔女かアルプで、オレをオレだと認識しないとダメなんだっけ?

 

  デュアン『えーっとつまりだな。紬の代償を1日、数時間分だけ肩代わりする取引をしたんだ……んで、その代わりに、オレも1日の数時間は人間でいられるんだけど、それ以外だとこの姿になるみたいだ……あはははっ……参ったね」

 

    綾地「まさかっ、契約の代償で?ぬいぐるみになるなんて、ありえるんですか?」

 

    相馬「もちろん通常の契約ではあり得ない、本当にデュアンなのか?」

 

  デュアン『Exactly(そのとおり)

    相馬「……まったく君も、バカな取引をしたものだ」

  デュアン『いやぁ~……それほどでもないよ』

    保科「いや、褒めてねぇよ!」

    相馬「アカギもルールを無視してイレギュラーな取引をすればろくなことにならないと、いい加減学んだらどうだ」

 

  デュアン『いや……それを持ちかけたのオレなんだけど』

    相馬「……」

    保科「やっぱ、バカだ」

   アカギ「ふ、ふんっ、とにかくあっちが無実とわかったじゃろ」

    相馬「さあな、これだけでは証明に……んっ、お前?」

驚いた相馬さんの隙きを突いて、はねのけてしまう。

 

   アカギ「言いがかりもたいがいにせいっ、お前はあっちを犯人に仕立て上げたいだけなのじゃ!」

 

  デュアン『いや……お前には前科があるから疑われてるんだよ』

    保科「……」

    相馬「テリトリー内でことが起きてしまった以上、私には犯人を捜す義務がある……悪いが、現時点でお前が有力な容疑者であることに変わりはない」

 

  デュアン『……』

    相馬「一度見逃してやったことが原因なら、なおのことな」

   アカギ「なっ、なんじゃと!あっちは最初からやってないと言っておるじゃろっ」

 

    椎葉「ア、アカギ、落ち着いて」

   アカギ「だって……あっちはやってないっ!やってないと言ったら、やってないのじゃ!」

 

というか、嘘発見器の柊史なら・・・こんなことすぐに分かるはずなんだが・・・

 

そのまま、シュバルツ・カッツェを飛び出していく。

 

    綾地「……見当外れだったんでしょうか?」

    保科「ま……あんな反応されちゃあ……」

    相馬「容疑者は他にいない、少なくとも今の時点ではな」

    椎葉「あ、あの、アカギは違うと思いますけど」

  デュアン『だな……というか、アイツは犯人候補から外してもいいんじゃないか……と」

 

    相馬「ふっ、わかっているよ。だがそれでも無実が証明されるわけではない。そもそもこの付近で、最近縄張りを変えたアルプは、アカギしかいない……それもわざわざ私の縄張りへ入ってくる者もな」

 

    椎葉「けど……」

    相馬「むしろ君は、自分の恋人にそんな代償を支払わせるようなアルプを信用しているのか?」

 

  デュアン『(いや、その代償を持ちかけたの、オレなんだが……)』

    椎葉「信用してるというか……アカギは確かに酷いこともするし、嘘をつくこともあります。けどほんとうの意味での嘘はつけない子です……演技をしてまで、やってないと言い張るなんて、そんなのアカギじゃないです」

 

  デュアン『……』

    相馬「確かに一理ある、あいつはそこまで賢くないか……もしそうなら、とっくに自分の状態に……」

 

    保科「相馬さん?」

    相馬「いや、アカギも人化が進んだことで知恵をつけた可能性もゼロとは言えないだろう……他に真犯人がいるかも含め、あらゆる可能性を考えなくてはいけないようだからな」

 

    椎葉「それは、そうかもですけど」

  デュアン『オレはアカギは真っ白だと思う』

    保科「その心は?」

  デュアン『アカギは、紬の為に行動している……オレの心の傷を開いたのだって、紬を守るために行動した結果だ。オレはアカギとは昔から知っている……契約した魔女の身の危険で攻撃する……』

 

    保科「うぅ~ん……まあ、そう言われると納得か?」

  デュアン『それに……痕跡を残さず、心の穴を広げるなんて芸当……無理に決まってる」

 

    相馬「痕跡……?」

  デュアン『前に話したと思うが……魔女やアルプって、必ずしも微弱な魔力を発している』

 

    綾地「え……でも、そんなの感じたことないですけど……」

    椎葉「ワタシも……」

  デュアン『普通は無理だ……アルプでも500年単位で漸く身につけられるレベルだからな」

 

    相馬「ちょっと待て……それが本当なら、なぜ君は探知できるんだ?」

 

  デュアン『オレの母がアルプだったからだ……そして、その探知方法も教えてもらったし、なにしろオレ自身も生まれてからアルプと人間の狭間の存在だからな」

 

    保科「っ!?」

    相馬「なるほど……君が無制限に魔法を使えるのは、そのせいでもあるのか……」

 

  デュアン『まあ、たぶん他にも理由があると思いますが……今は置いといて……』

 

    保科「そうだな……今は誰が厚真さんの心の穴を広げた、か」

  デュアン『アカギが犯人……というのは無理がある……痕跡云々にしても……アカギは一度契約した魔女とは絶対に距離を離さない』

 

    保科「……」

    相馬「では一体誰が……」

  デュアン『さあ?』

 

 

~~~~~~~

 



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Ep60 まだまだ子供

 

 

~~~~~~

部屋まで帰ってくると、中には人の気配があった。

 

   アカギ「うっ……うっ、ひっく……ひっく」

    椎葉「アカギ……やっぱり泣いていたんだ」

紬は電灯のスイッチへ手を掛けていたものの、結局明かりはつけないことにしたみたいだ。紬は黙って隣へ行くと、背中をさすっていた。

 

   アカギ「やめんかっ、同情など……して欲しくはないっ」

  デュアン『……』

    椎葉「そうか、ごめんね?」

   アカギ「どうせ、紬も……小僧も、あっちを疑っているのじゃろ?」

  デュアン『疑ってねぇよ……それに、紬は庇ってくれただろ?』

    椎葉「いいよ、だって……一瞬だったけど、ワタシもひょっとしたらって思っちゃったから」

 

  デュアン『……』

   アカギ「……~っ」

    椎葉「デュアンくんの心の穴を無理矢理広げた前科があるって言われたときも、何も言い返せなかった……デュアンくんは反論してたけどね」

 

  デュアン『事実だろう?』

 

   アカギ「……」

    椎葉「アカギ?今までのこと、ちゃんと反省しなくちゃいけないと思うよ。それが伝わってないから、疑われちゃったんじゃないかな……今のままじゃ、もし真犯人を見つけて無実がわかっても、同じようなことが起きたときまた疑われるよ……そのときもこうやって、膝を抱えて泣くつもり?……ワタシだったら、嫌だな」

 

   アカギ「な……なんのじゃ、それは?あっちを信じておるのか、疑っておるのか、どっちなのじゃ!あっちはやってない!やってないのに、どうしてまたお説教をされなきゃいけないのじゃっ」

 

  デュアン『アカギ……紬の言ったこと、もう少し考えたほうがいいぞ』

   アカギ「知らん!知らんっ、結局、お前達もあっちのことを疑っておるのじゃ!」

 

  デュアン『お、おい!……、……ここを出てどうする気なんだ?』

    椎葉「デュアンくん、いいよ……ワタシがちょっと、偉そうなこと言い過ぎたせいだから」

 

  デュアン『そんなことないって……あれは相手のこと本当に思ってなくちゃ、出て来ない言葉だった……少なくてもオレはそう感じる。……少し時間を置いとかなきゃな……いつかは理解してくれるようになるさ……きっとね』

 

アカギは、人化の維持といっても・・・まだまだ成長していない子供だ。

母さんは、天然が入った大人の女性だった、な。相馬さんも大人の女性だ。だが、アカギはどうだ?わがままで、やっていることが全部成熟していない子供が取る行動じゃないか?と思った。

 

 

    椎葉「……だといいけどな」

カーテンの隙間から、月の光がかすかに忍び込んでくるのをただ眺めた。

 

  デュアン『……』

    椎葉「ねえ、ワタシ達で真犯人を探せないかな?」

  デュアン『ああ……オレも同じことを考えていたよ……』

    椎葉「うん、ありがとう……、……綾地さんが犯人を許せないって言った気持ち、ワタシもわかるから……アカギにもわかって欲しかったんだ」

 

  デュアン『……、……それは無理だとオレは思う』

    椎葉「……え?」

  デュアン『アカギは、アルプだと言っても……姿容が子供だ……やっている行動全てが子供と同じなんだ……だから、時間をかけて言わないと、アカギに伝わらないし……理解もしない……そもそも人化を維持できるといっても、心が人間に染まってない時点で理解もくそもないと思うがな』

 

    椎葉「デュアンくん……で、でも……」

  デュアン『言っとくが……相馬さんを例えにするのはお門違いだからな……アカギはコレ以上ないってぐらいプライドの塊だ……」

 

    椎葉「プライドが邪魔をしてるのかな……かなぐり捨てればいいのに」

  デュアン『プライドはそう簡単に捨てられない……オレだって、捨て切れてないしな』

 

輪廻転生前は、かなり痛い目にあったし・・・転生直後から何回かの輪廻転生を繰り返してたな。20回目で漸く捨てられた感じかな?

 

    椎葉「デュアン君もそういうのある感じなの?」

  デュアン『ああ……少なくても」

 

 

~~~~~~~

 

    綾地「犯人捜しに協力したい、ということですか?」

翌日、オレ達はさっそく綾地さん達に声を掛けた。周りに気にせず話せるよう、部室まで足を運んでもらった

 

    椎葉「うん、やっぱりアカギは犯人じゃないと思う。だとしたら、他に犯人がいるわけだよね?」

 

    保科「容疑者が他にいないってことは、今のところ手がかりもないわけでしょ」

 

   デュアン『捜査するなら人海戦術が基本だぜ、柊史』

     綾地「え、ええ」

なんだろう、オレの方を見て、話しづらそうだな・・・

 

   デュアン『……、……ひょっとしてオレがいると、話しづらいか?』

 

     保科「そりゃそうだ……今のお前は……ッフ……くまのぬいぐるみだぜ?」

 

鼻で笑われた・・・。そりゃぬいぐるみだからな。

 

     綾地「デュアン君だとわかっているんですけど……なんだか、ぬいぐるみとお話しているようで、少し恥ずかしくて」

 

  デュアン『まぁ……傍から見ればシュールな光景だよな』

    椎葉「そうなの?これはこれで可愛くて、いいと思うけどな」

 

速報、オレの恋人は少し天然のようだ。

 

     綾地「とにかく提案については、私たちとしては是非お願いしたいというところなんですが……」

 

     椎葉「相馬さんは、まだアカギのこと疑ってるのかな?」

     綾地「七緒は可能性の問題だと言っています……万一、犯人の可能性がある者へ情報が漏れて被害が拡大したら?そのリスクは背負えないと」

 

     椎葉「要するに念のためってこと?」

     綾地「おそらくは……」

     保科「ま……正論であるだけに、意見を変えてくれる可能性は無いだろうな……けど、綾地さんや、デュアンの考えは違うんだよね?」

 

     綾地「はい……昨日も言いましたが、私は犯人が許せません……厚真さんは親しい友人の死を受け入れ、新しい友人との関係を築こうと必死でした……私が集めた欠片を吸収させて、なんとか安定はさせましたが……知っての通り、これは一時しのぎに過ぎません」

 

   デュアン『くそっ……おれがぬいぐるみになってなきゃオレの欠片を渡していたのに……』

 

     保科「いや問題はそこか?」

     綾地「はい、ですがこの場合、欠片は犯人から奪い返せばいいんです」

 

     椎葉「でも奪い返すって、どうやればいいのかな?」

     綾地「私の銃か、椎葉さんのハンマー……今は戦力外ですが、デュアンくんの魔具で叩けばいいようです」

 

   デュアン『なるほど……』

     保科「つまりいつもの回収の方法と同じでいいってことか……」

 

     綾地「まだ私も試していませんが……七緒によると、無理矢理削り取った欠片は元の持ち主へ返ろうとする力が強いようなんです……だから散らしてしまえば、あとは自動的に戻るはずだと」

 

     保科「つまり犯人が削り取った欠片を厚真さんに返し、綾地さんの分はその際、厚真さんから返して貰う形になるのかな?」

 

    綾地「はい……概ねその通りです」

  デュアン『犯人をとっちめればいい……うん、至ってシンプルだ』

    椎葉「じゃあワタシがやってもいいってことだよね?」

    綾地「もちろん、そうなります……手分けして捜査するというのはどうでしょう?一緒に行動するのは七緒の方針に逆らうことになってしまいますが、それなら問題ないはずです」

 

    保科「確かに、捜査方針で下手に対立するよりはいいかもね」

    綾地「ええ、その上で私達以外の魔女やアルプがいないか捜索していきましょう。それに……デュアンくんが言ってくれたように、まだ発見されていない被害者もいるかもしれません……」

 

    椎葉「その可能性も十分あるよね……そ、捜索範囲が広すぎだよ」

 

  デュアン『……』

    綾地「欠片を回収可能な人を見つけ出すのが難しいように、心が削れてるほど弱ってる人を捜すのも難しいはずです……見つけ出すだけでも、なかなか骨が折れそうですが……」

 

  デュアン『……いや、そう悲観することは無いと思う』

    綾地「……え?」

  デュアン『柊史には悪いが、能力を使って捜査してもらえばいい……厚真さんの自宅から3km以内の周囲を集中的に探せば、きっと次の被害者が見つかるはず』

 

    保科「なるほど……オレが鍵ってことか?」

  デュアン『そういうこと』

    椎葉「うぅ~ん……ワタシ達はどうするの?」

  デュアン『俺らは駅周辺で探索だな』

    保科「なるほど……犯人が暴れれば暴れるほど、尻尾を掴める可能性も高まるわけだな……」

 

    綾地「そういうことです……すでに七緒は周辺のアルプにも連絡を入れて、情報を募っているようです……常習なら、他の地域でもやってる可能性がありますから」

 

    保科「もしそうなら……活動範囲が広すぎて、お手上げだな」

    椎葉「けどワタシ達にやれることをやるしかないよ、余所の地域は他の魔女やアルプがなんとかしてくれるよ」

 

    綾地「ええ、私達もまずは……学院周辺から、デュアン君が言ったように厚真さんの自宅から3km周囲を洗っていくつもりです」

 

  デュアン『んじゃ、俺らは駅周辺だな……了解した』

    椎葉「なにか進展があったら、報告するね」

    綾地「ええ、私達からも報告は入れるようにします」

    保科「まだまだ手がかりが少なすぎて、どうにも雲を掴むような話しだよなぁ……」

 

  デュアン『ああ……それと、オレからのアドバイス。人化ができるアルプ=犯人という先入観は捨てたほうがいいぞ』

 

    保科「?!」

    綾地「どういうことです?」

  デュアン『もし、無差別に心の傷を広げてるなら……手っ取り早く、アルプに進化すると思うからだ……それに、俺らがいる姫松の周辺は魔女とアルプが1セットいる……そこから、魔力を吸収し……アルプになろうとする動物が居ても不思議じゃないだろう?』

 

    保科「わ、分かった……一応……その線でも洗ってみる」

   

~~~~~~~~~

 

   デュアン『さてと……駅に着いたのはいいが……アカギや相馬さん以外のアルプや、魔女がいるのだろうか……?』

 

     椎葉「ねぇ、デュアンくん」

   デュアン『ん?何だ……?」

     椎葉「さっきの話……本当なの?」

   デュアン『アルプになろうとする動物……のことか?』

     椎葉「うん……」

   デュアン『アルプの語源はなんだか知ってるか?』

     椎葉「えっと……鬼や妖怪の類だって……聞いたことがあるような……」

 

   デュアン『アルプは元々、ドイツに伝わる夢魔の一種なんだ』

     椎葉「へぇ……」

   デュアン『吸血鬼的な性格をしていると言われ、猫や鳥などの様々な動物の姿になって現れると伝わっているんだ……』

     椎葉「様々……つまり、すべての動物を疑えってことなの?」

   デュアン『それに……アルプは、女性の夢の中に入って精気を吸うことから、アルプは男性とされているという話だ』

 

     椎葉「結構、詳しいんだね」

   デュアン『……これでも本やネット知識だけどな……さて、そろそろ捜索するか』

 

     椎葉「だね……。……そういえば前にワタシが編入したときは、どうやって捜そうとしてたの?綾地さんの他に魔女がやってきたことはわかってたんだよね」

 

   デュアン『あー……あれは、オレの観察眼と頭脳、そして柊史の能力で当てたものだ』

   

     椎葉「な、なるほど……」

   デュアン『それに、紬はナンパに絡まれてただろう?その時に、アカギと一緒に居たから……「アカギが新しく連れてきた魔女か」ってなったんだ』

 

     椎葉「え?前の魔女のことも知ってるの?」

   デュアン『ああ……木月さん……木月千穂子って名前の子なんだけど……たった半月で契約を完遂させた、最短の魔女だよ……』

 

     椎葉「へぇ……その子は今……どうしてるの?」

   デュアン『……、……どこか遠い国でひっそりと暮らしてるんじゃないか?』

 

     椎葉「……え?」

   デュアン『木月さんの魔法は、とある人物の重病を完治させる……という綾地さん以上に重い代償を背負った子だからね……オレの魔法で軽減してなきゃ……死んでたか、廃人だったと思う』

 

     椎葉「ど、どんな代償だったの……それ」

   デュアン『欠片が集まれば集まるほど、記憶がどんどん消えていく……ってヤツだな』

 

     椎葉「え……記憶で……命の危険になるの?」

   デュアン『感情の記憶、思い出の記憶……まあ、様々な記憶があるんだが、例えば……思い出の記憶が全部無くなったとする……』

 

     椎葉「うん……」

   デュアン『思い出の記憶が無くなったら、自分が何者かがわからなくなり、周りの人間の名前も思い出せない……だけど、魔女になってる以上……心で動くしか無い……無くなったものから、現在あるもので代用するしか無くなるわけだ……当然、次第に記憶が無くなっていき、ついには歩き方や手の動かし方も分からなくなる……そして、ついには呼吸の仕方まで忘れてしまう……そうなったら、生命維持装置でしか生きられない身体になる……それに、排泄物の出し方まで忘れちまえば……待っているのは、死だな』

 

     椎葉「その木月さんは、何処まで酷くなっちゃったの?」

   デュアン『……一応、全員を忘れたぐらいで済んだな……その代わり、オレの昔の記憶が消し飛んじまったが……』

 

     椎葉「それが、思い出せない契約の内容」

   デュアン『ああ……さて、話は以上だ。本気で捜すぞ』

 

     椎葉「それで、探し方なんだけど……いい方法があるよ?」

   デュアン『?』

     椎葉「ワタシが魔女に変身して、ワタシが見えてる人を捜すとか?」

 

   デュアン『ダメだ、危険すぎる……犯人は確実にこっちがわかるが、俺らは違う……オレが動けない以上、紬がそんな危ないことさせられない……そういうのは、オレの専門だ』

 

     椎葉「他に方法がないなら、やるしかないよっ」

   デュアン『はぁー……無茶だけはするなよ』

     椎葉「わかった……」

   デュアン『まず、アルプはオレにしか捜しようがないから却下だから……紬は魔女の存在を捜すんだ」

 

     椎葉「魔女は大量の欠片を持ち歩いてるはずだからね」

   デュアン『ああ……魔女さえ見つかれば、芋づる式にアルプも見つけられる……』

 

 

 

~~~~~~

 

    デュアン『………』

      椎葉「?どうかしたの……?」

    デュアン『……もうじき人間に戻るっぽいぞ』

この姿に馴染んできたのか、時間が経つと感覚で分かるようになってきた。

  

      椎葉「へ?もう?」

    デュアン『らしいな……もともと一定の時刻に戻れるわけじゃないけど、今日は早いみたいだな』

 

      椎葉「どうしよう、人目のつかないところまで行ったほうがいいよね?」

 

    デュアン「だが、紬の家まで保ちそうにないぞ……」

      椎葉「だよね?だったら……そうだっ、あそこへ行ってみない」

 

    デュアン「?」

      椎葉「ふふふ、デュアンくん忘れてるでしょ?」

    デュアン「???」

~~~~~

 

    デュアン「オレの家か。なるほどね」

と、いえの中に入った瞬間にボンッと煙と共に人間の姿へ戻った。

 

    デュアン「超ギリギリだったな……」

オレは久々のソファーに座り込んだ。

 

      椎葉「デュアンくん、もう忘れちゃったの?」

    デュアン「ああ……そうだったな、人間になってる間は、イチャイチャする約束だったな……」

 

      椎葉「ならばよろしい」

   

 

そのままたっぷり15分は頭を撫でられていた。

 

    デュアン「なんか扱いが、人間の時までぬいぐるみっぽくなってないか?」

 

      椎葉「ふふふ、デュアンくん、愛してるよ」

    デュアン「ああ……オレもだよ、紬」

 

~~~~~

 

部屋へと入る。

 

   デュアン「やっぱり……一人暮らしだと……少し埃が溜まっちゃうものだな……」

 

     椎葉「えー?綺麗な方だと思うよ?」

   デュアン「そういえば、紬は一度……この部屋に来たことがあるんだっけ?……、……?」

 

そういや、オレ・・・リビングで倒れたのに、何時の間にか、この部屋で寝てたな・・・・高熱で意識不明の状態で、無意識に来てたのかな?」

今はいっか。

 

     椎葉「それで、着替えはどこ?」

   デュアン「ああ、服は……クローゼットの中のタンス」

 

さっそく紬がタンスを開ける。

 

     椎葉「わっ、でゅ……デュアンくんのパンツっ」

   デュアン「パンツぐらい……何を今更……俺らは裸同然の行為をしたんだぜ?今更布地ぐらいで……恥ずかしがるのか?」

 

     椎葉「で、でも……これも必要だよね?」

そう言いながら、持ち帰ろうとする姿がなんだか犯罪チックだ。普通は逆じゃないか?いや、オレはそんなことしないが・・・。いや、所持している時点でアウトか

 

     椎葉「ねえ、デュアンくん……このクローゼットの奥にある鍵がかかった収納は何があるの?」

 

   デュアン「そこには、ミュウの姿になった時の服や下着は一式揃ってる」

 

     椎葉「へぇ……」

   デュアン「な、なんだよ」

     椎葉「なんでもないよ……えへへ」

   デュアン「……、……(とてつもなく嫌な予感)」

 

 

~~~~~

 

   デュアン「……、……」

俺の部屋は防音対策しててよかった。まあ、綾地さんの自宅も音漏れの心配はない。

 

     椎葉「ねえねえ、これ持っていこうよ」

   デュアン「ペアで買ったマグカップ?ああ……構わないよ」

オレと同じく、紬も使ってないんだろうなあ。まあ、オレの場合は・・・将来の為に?

 

     椎葉「ありがとう、デュアンくん」

   デュアン「ああ……さて、行こうk……」

ボンっと音と煙と共にぬいぐるみに戻ってしまった。

 

   デュアン『す、すまないが……頼む』

     椎葉「えへへ……しょうがないなあ」

~~~~~~~~



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Ep61 犯人はあの子 ☆

 

 

~~~~~~~

 

    綾地「そうですか、そちらも手がかりはなしということですね……」

 

    椎葉「そちらもってことは、綾地さん達も?」

    保科「ああ……そのことを相馬さんに相談したら……」

    綾地「ええ……七緒も不思議がってるくらいで……別のアルプがいるなら、匂いでわかるというのですが」

 

    保科「デュアンが言うように……野生動物にも視野を広げてみたんだが……広すぎて、分からん」

 

  デュアン『……』

これじゃあ、アカギが黒塗りにされてしまう・・・何かないのか?方法が。

 

    保科「アカギが協力的になってくれればいいんだが……」

    椎葉「うん……あれから姿を見せてくれないんだよね」

  デュアン『ま……下手に行動すりゃ、容疑が固まってしまうからな……無理もない』

 

まあ、アカギが取る行動は・・・読めるからな。

 

    綾地「ともかく、簡単にはいかないということでしょう」

    椎葉「だね、地道な捜査を続けていくしかないのかも」

    保科「まあ、最悪被害者が次々みつかるなんて自体も想定できたわけだし……そうならなかっただけ、マシだと思うしかないか」

 

    椎葉「ねえ、綾地さん?もっと効率的な捜査方法はないものかな」

 

    綾地「私が教えて欲しいくらいですから……何か思いついたら、相談させてもらいますね」

 

    保科「なあ、デュアン……お前なら、効率的な方法知ってるんじゃないのか?」

 

  デュアン『う~ん……あるにはあるが……オレみたいなヤツってそうそう居ないだろう?』

 

    保科「……?っ……なるほど。囮捜査か……バカじゃねぇの、却下だ却下」

 

  デュアン『だよねー……』

 

    綾地「ともかく……明日から週末になりますし、携帯で報告し合うようにしましょう」

 

  デュアン『げっ……マジかよ』

    保科「どういう意味で驚いてんだ?」

  デュアン『遊園地から一週間が経過してるって……このままだと、オレ退学になるぞ』

 

困ったなあ・・・・

 

    保科「まあ、幸いデュアンの事を知ってるのは、魔女とアルプのみだから……大丈夫じゃないか?」

 

  デュアン『そういう問題なの、か?』

 

 

~~~~~~~

 

 

    椎葉「やっぱり、見つからないね」

  デュアン『そうだな』

やっぱり、アルプになりかけという前提が間違ってるのだろうか?

いや、そんなはずはないと思う。

 

・・・くそっ、早く元の姿に戻りたいぜ。

 

    椎葉「一度切りの犯行だったのかな」

  デュアン『いや、そんな訳がない……このまま大人しくしているのは、あり得ない』

 

    椎葉「どうして、そう言い切れるの?」

  デュアン『人の心の穴を開けてまで、欠片を持っていったヤツが大人しくしているはずがないからだ……絶対に尻尾を出させる』

 

    椎葉「でも……犯人をどうやって見つけるの?」

  デュアン『……』

方法はある。アカギと同じで、手当たり次第に綾地さんの銃や紬のハンマー、オレの武具で手当たり次第に当てればいい話だ。

 

    椎葉「今日はどうしようっか」

  デュアン『ん~……考えてもしょうがないし、今日は帰るかな?』

    椎葉「……ん?あれアカギじゃない?」

  デュアン『本当だ……』

 

今向かったのは、保科の家の方向か?

    

~~~~~~~~

次の日、新たな被害者が見つかってしまった。

 

その日早く、綾地さんを通じ、相馬さんから連絡があった。

それを聞くなり、紬はオレを抱えて飛び出した。

 

    椎葉「はあ……はあ……!」

 

 

    保科「……、……デュアン」

  デュアン『っ……柊史の親父さん』

まさか、まさか・・・そんな馬鹿な。

 

    綾地「七緒がたまたま路上で倒れているところを発見したときには、すでにこの状態だったそうです」

 

    相馬「かなり、強引なやり方をしたらしい」

見てわかる。まるで、鍵が掛かった扉を無理矢理こじ開けたかのような・・・ずたずたに引き裂かれている。

 

  デュアン『……(アカギの魔力を感じる……だが、これは直接的な攻撃をしたわけではない)』

 

    相馬「心をボロボロにされて……完全に穴が空けられている……まさか、保科君の父親が狙われるとは、想像力が足りなかった……」

 

    保科「……いえ……想像力が足りなかったのは、オレも同じです」

 

  デュアン『……、……(今のところ、何らかの形で魔女と関わりのある人物が狙われてる、のか?いや、いくらなんでもこじつけが過ぎるぞ……)』

 

最初に襲われたのが厚真さん。オカ研に相談したことで「オレ」「柊史」「綾地」さん「紬」はみんな魔女だ。偶然だと思うだろうか?

 

そして、次に襲われたのは柊史の父親。柊史の母親も魔女で、柊史も魔女の一部を受け継ぎ、魔女の能力を覚醒させた、魔女見習いだ。

 

偶然にしては出来すぎている、のか?

 

    保科「……、……こんなことをしたのは誰なんですか?」

    綾地「柊史くん?」

    保科「オレの父さんをこんな目に遭わせたのは、どこの誰だッッ!!?何で父さんが!」

 

  デュアン『……』

いま、一番怪しいのはアカギだ。アカギが最重要容疑者だ。昨日、あの時間にアカギは柊史の家へと向かっていった。

 

・・・・いや、待て。なぜ人化した状態で家に向かう必要がある?

鴉の状態で飛んでいけばいい話だ。

 

なにか引っかかるぞ。

 

・・・人化、アルプ、魔女。

 

・・・・通常、魔女はアルプと契約することでなれる存在で、相馬さん曰く「契約は、一匹に付き1人」という不可侵条約がある。だが、それはルールだ。アカギはそのルールを一度だけ破り、木月さん、紬とのダブル契約をしている。理由は、人間になりたいという至ってシンプルな答えだ。アカギの性格上、現在魔女である紬を守るため、いやオレを敵だと誤認して、オレの心の穴を広げた。

 

アカギは絶対に、無関係な人間を傷つけるほどバカじゃない。だが、オレが幾ら取り繕っても証明ができない。

 

無理だ。今の、柊史を納得させられる材料がない。今の柊史は犯人を絶許状態だ。

 

    保科「どうしてだッ、くそっ!ちくしょう……どうして父さんが、ちくしょうッ、ちくしょう!」

 

    椎葉「……~っ」

    綾地「…………」

  デュアン『……』

すると、紬と綾地さんが小瓶を出して柊史の親父さんへかざした。

 

途端に光輝く白い羽根のようなものが溢れ出し、柊史の親父さんの中へ吸収されていった。

 

   保科の父「ああ……不思議だな、その光は……とても温かいんだね」

     椎葉「おまじないです、楽になったら……」

     綾地「少し眠ってください……」

     椎葉「それが、いいと思いますから」

     保科「ありがとう……相馬さん、綾地さん、それに椎葉さん」

柊史はお礼を言って、親父さんを寝室へと運ばれていった。

 

  デュアン『よかったのか、せっかく集めた欠片をまた』

    椎葉「いいよ、この分は犯人に返してもらおう」

    綾地「そうですね……10倍返しにしましょう」

二人共、怒りで闘志が湧いているようだ。

 

    椎葉「柊史くんのお父さんの心は、お父さんのものなんだから……そうだよね、綾地さん」

 

    綾地「ええ、もちろんです……七緒も、かまいませんよね?」

    相馬「勘違いしてはいないか、寧々?しょせん、アルプの世界のルールは、アルプ自身を守るためのものだ」

 

    綾地「……七緒?」

    相馬「必要以上に人間を傷つけては、魔女と円満な共闘関係を築くのは難しくなるからな」

 

  デュアン『……』

    相馬「だが、こいつは許せん!私のテリトリーでこれほど癪に障る真似をされたのは、生まれて初めてだッ!草の根分けても探し出し、決して野放しにしにはしないっ……必ず犯した罪を償わせてやると約束しよう!」

 

  デュアン『んじゃ、オレから大事なヒントを教えようか……。目先よりも、人化を重要視するんじゃなく……アルプとして覚醒していない……念話も使えないアルプのなり損ないを捜すと良い……』

 

    綾地「っ!?」

    相馬「デュアン……お前、何か知ってるな」

    椎葉「ねえ、どういうこと?」

  デュアン『……これはオレの予想と言うより、こじつけの問題だからな……犯人に一番疑わしいヤツをオレは既に出会っている』

 

    相馬「……、……」

    綾地「私達が知る人物ですか?」

  デュアン『間接的に知っている……というより、多分……この事件、意図していない状態で俺達も関わっている……と思うんだ』

 

    綾地「……わかりました。もし、デュアン君が黒だと思った時は直ぐに連絡してください」

 

  デュアン『ああ約束しよう』

 

    椎葉「アカギにもこのことを報告を……え?」

窓の方から、鳥が羽ばたく音が聞こえた。

 

アカギだろう・・・あのサイズ。

 

   デュアン『やあ、アカギ。盗み聞きとは感心しないなあ、幾ら白き容疑者でもね』

 

    綾地「また椎葉さんを見張っていたのでしょうか?」

   デュアン『……多分、違うな』

    椎葉「……え?」

   デュアン『……質問に答えてくれ、アカギ。なぜ、昨日……柊史の父親の後を追っていった?』

 

    綾地「え!?」

    相馬「つまり、見張っていたのは椎葉さんではなく、保科君のお父さんだった可能性があると?」

 

    椎葉「あっ、もちろん犯人っていうより、なにか知ってるかもって」

 

    相馬「やれやれ、犯人じゃないなら怪しい行動を取るのはやめてほしいものだな」

 

    綾地「少なくても、犯行を目撃した可能性は高いのでは?その道へ入っていったなら、柊史君のお父さんが倒れいた場所は通り道のはずです」

 

    相馬「ならなおのこと、見たことを話していけばいいものを」

    椎葉「あ、……」

  デュアン『相馬さん……何を言っているんですか?』

    相馬「……え?」

  デュアン『厚真さんが襲われた時……真っ先に犯人扱いして疑って……それで、今度は「相談しろ」だと?ふざけるなよ』

 

    相馬「っ……」

  デュアン『アカギはこう思う筈だ……「あっちを疑ってる七緒に、相談したところで信じてくれんじゃろ!」ってな』

 

    綾地「で、ですが……」

  デュアン『疑うのはいいが……だが、間違ったことに対して素直に"すみません"って言うことだな……』

    椎葉「アカギのことはワタシたちに任せてもらえませんか?多分、アカギは素直になれないだけだと思いますから」

 

    相馬「……いいだろう、私ではケンカになるだけかもしれないからね……他に気になることがあるなら、話しておいてくれ。情報は共有しておこう」

 

  デュアン『そういや、柊史のヤツ……犬を飼ってたな……飼育道具はどこにあるんだ?』

 

    椎葉「それなら、そっちにあるよ」

  デュアン『……肝心な犬が居ねぇぞ……というか使われた痕跡も無い……変だな』

 

    相馬「散歩の途中で襲われて、逃げられたということだろうか?」

 

  デュアン『ありえなくはないですが……』

なんだろう、凄く何かをミスしたような気がしてる。

 

    綾地「そういえば……柊史君言ってましたね……子犬を拾ったって……変ですね。昨日の今日でご飯を食べた形跡が無いなんて……」

 

  デュアン『(……食べた形跡すら無い?そんなバカな……)』

    椎葉「どうかしたの……?」

    綾地「いえ、厚真さんが預かっている子犬も、行方が分からな無くなっているのを思い出したんですが……」

  

    椎葉「えっ」

点と点がつながった。厚真さん、柊史の父親の心の欠片を奪った犯人は・・・子犬だ。

 

    相馬「待ってくれ、どちらも子犬なんだな?成犬ではなく」

   デュアン『厚真さんが拾った子犬は……まるで、成犬から子犬に縮んだような感じでした……』

 

    相馬「!!……ひょっとして……そういうことなのか?デュアンくん」

 

   デュアン『オレは可能性の話をしただけですからね』

    綾地「七緒、デュアンくん……なにか?」

    相馬「いや、確証はない。いずれにせよ、アカギの話を聞き、デュアンくんが最終的な答えを出してくれるはずだ」

 

~~~~~~~~~

 

    椎葉「まずは、スーパーに寄ろう」

  デュアン『へぇー……その心は?」

   椎葉「今ならタイムセールがあるはずだから」

  デュアン『ほぅ?』

 

~~~~~

 

   椎葉「よしっ、できたよ」

  デュアン『超美味しそうなご飯がね!』

テーブルの上には、アカギが大好物な「鶏団子」「カブの水炊き」「焼きつくね」などがズラリと並んでいた。

 

さすがは紬。食べ物で釣ろうとするなんて、オレには出来ないことを平然とやってのける。そこにシビれるあこがれるゥ

 

   椎葉「これは作戦だから!」

  デュアン『食べ物で釣るのが作戦?』

   椎葉「うんっ、アカギは鶏団子が大好物なんだよ」

同じ鳥類なのに?

 

  デュアン『はははっ……アカギはカラスのアルプだよな?』

   椎葉「今更それがどうかしたの?」

  デュアン『鶏団子って……鶏肉だよな?』

   椎葉「だからどうして当たり前のこと……ふぇ?」

  デュアン『弱肉強食の世界で生きてるのかは知らんが……それって共食いにならないのかな?あっ、でも魚も小魚を食べるって話だし……案外普通なのかもしれんな、AHAHAHA』

 

   紬「ひょ、ひょっとしてワタシ、ず、ず、ずっとアカギに共喰いをっ」

 

  デュアン『HAHAHA……所詮この世は弱肉強食。弱いものが死に絶え、強者だけが生き残る……そういう世界なのさ』

 

昔のオレの生き方だよな。転生してから、そういう考えの生き方を変え、弱者の為に強者を討つ・・・という考えを持ったもんな。

 

窓が開き、アカギが入ってくる。

 

    アカギ「同じ鳥だからといって、あっちをニワトリなどと同じにされては困る」

 

  デュアン『ニワトリは飛べないもんな……ってか、本当に来たよ』

   アカギ「べ、別に食べ物に釣られたわけではないからな。なにか話がありそうなので、寄ってやっただけじゃ」

 

  デュアン『(いや……思いっきり食べ物に向かって言われても説得力が皆無だぞ)』

 

というか、紬は紬で白いご飯をよそって渡してるし・・・

 

    椎葉「はい、アカギ」

   アカギ「うむっ……紬?ポン酢が出ておらんぞ」

し、渋いぞ。鶏団子をポン酢をかけて食べるなんて・・・

 

  デュアン『……』

   アカギ「鶏団子にはポン酢じゃろう』

  デュアン『……ふむ』

   アカギ「だから共食いではない!人間とて、同じ哺乳類でも猿の肉を喜ぶものは少ないだろう……だが、牛や豚の肉を食べるではないか」

 

オレは何方かというと羊とか兎とかの肉が好きなんだよな。猿の肉は今じゃ禁止されてるぞ。

 

  デュアン『まあ……食人鬼が居るわけだし……わからんことでもない、かな?』

 

    椎葉「えぇ!?」

   アカギ「それに同じ鳥類でも、あっちとニワトリでは種としての品位に差があるのじゃ……」

 

鶏は3歩歩けば忘れるが、鶏肉は美味いし、卵を産むし、卵は美味い。だが、同じ鳥類でも鴉は、ゴミを漁るし、烏の肉はあまり美味しいとはいい難い、カエルの肉を食べたほうが絶対に美味い。そして鴉の卵は食えない。

あれ?むしろ、鴉って品位として最低じゃね?

 

  デュアン『……』

   アカギ「あっちには、哺乳類も2本足か、4本足かの差しかないように思えるがな。だいたい飛べもせんヤツらと一括りにされてるのは納得いかん」

 

アカギは焼きつくねを串ごと頬張りながら、反対の手には箸で鶏団子をポン酢につけていた。

 

   アカギ「……うむっ、やはり紬の料理は絶品じゃな」

  デュアン『おっ……そうだな』

   アカギ「あっちが人間になった暁には、専属料理人として雇ってやってもいいくらいじゃ」

 

    椎葉「ふふ、アカギと一緒に食事するのも、ひさしぶりだね」

ごはん抜きって言ってたよな、紬。

 

   アカギ「ふんっ、それで?話があったのではないのか」

    椎葉「うん……アカギ、知ってるんだよね?柊史くんのお父さんが襲われたこと」

 

   アカギ「無論じゃ、エサに使わせてもらったのだからな」

  デュアン『柊史が聞いたらキレてたと思うぞ……まあ、アカギが取った行動は間違ってはないな……』

 

オレも昔、同じことをやっていたからな。犯人が来ないのならエサを撒けばいい。

 

   アカギ「うむ。犯人は心が脆くなってる者を選んで襲っていたのだろう?なら、エサをみつけて襲いに来るのを待つ方が賢明であろう」

 

  デュアン『……』

    椎葉「アカギ……」

箸に鶏団子を刺して、突きつける。

 

    椎葉「犯人を、見たんだね?それをワタシ達に教えてくれるつもりで、出てきてくれたんじゃないの?」

 

   アカギ「ふんっ、犯人はアルプでも魔女でもない。だから七緒もみつけられず、苦戦しておるのじゃろう……あっちも最初、目の前にいることに気付かなかったくらいじゃ……小僧の予想は大当たりだったじゃがな」

 

  デュアン『ほぅ……』

   アカギ「小僧の予測通り……"アルプ"になりかけているだけのただの動物じゃ……ルールはもちろん、善悪の区別もつかず、暴走してるだけなのだろう」

 

  デュアン『なりそこない……か』

なるほど・・・な。

 

    椎葉「そ、それで……アカギ。犯人は誰なの?」

   アカギ「シュウジくん」

    椎葉「……え?」

  デュアン『……』

   アカギ「……」

  デュアン『(紬には辛すぎる真実だな)』

 

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オレはムスッと考える。

 

    椎葉「じゃあ、やっぱりあの子なの?ワタシ達が厚真さんに預けた、あの子犬なの?それをまた、保科君のお父さんが拾ったってことなの?」

 

   アカギ「そうなるのであろうな……なあ、小僧?」

  デュアン『ああ……だいたい、あの子犬は怪しかったんだ……何もかも、最初っからな』

 

    椎葉「どういうこと……?」

   アカギ「見た目の姿はアルプになる寸前、アルプとしての年齢に書き換えられる……子犬に見えても、実際には(よわい)20に近い老犬じゃろう」

 

    椎葉「……」

  デュアン『あの子犬を見た時、成犬用の服の中にくるまっていた……、……オレは此処で怪しいと思った。幾ら何でも違和感がありまくっていた……、……まさか、あの時に"アルプ"になりかけとは……、……考えようによっちゃ、"オレ"が厚真さんに預けてしまったせいで起こったようなものだな』

 

殺意なき殺人のようなものだ。

 

   アカギ「そうなるかもな」

  デュアン『はははっ……手厳しい』

   アカギ「だが成り立てであれば、自分でもアルプになりかけていることに気付かぬ場合もある……幾ら頭のいい小僧でも気付かなくても、無理はないと思うがな」

 

そういう問題だろうか?

 

  デュアン『あの時に見捨てるべき、だったのか?……、……所詮この世は弱肉強食。弱いやつは生きて、いけない……、……っ』

 

ダメだ。そんな・・・"昔の自分(デュランダル)"の考えでは!現在(いま)の"自分《デュアン》"を好きと言ってくれた紬、柊史・・・異世界転生した時に出逢った仲間達が・・・"理不尽な強者を守る、弱者の味方"のオレが好きと言ってくれた。

 

だから・・・オレはその考えを否定する!!

 

 

    椎葉「デュアンくん、他の人が拾わなくてよかったんだよ?それじゃ、誰も気付けないまま被害者だけ増えることになったと思う……事情を知っているワタシ達だから、おかしいって気付けたんだから」

 

  デュアン『……ああ、わかってる……分かっているんだ……、……これで真犯人ははっきりしたんだ』

 

 

わかったのはいいが、今回。オレぬいぐるみなんだよなぁ・・・

 

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Ep62 アカギの気持ち ☆

 

 

 

    椎葉「うん、後はみんなで協力して捕まえよう」

   アカギ「みんなで?なぜじゃ?」

なぜ?って・・・お前が見つけたんだろう。

 

   アカギ「みつけたのは、あっちじゃぞ?お前達は雁首揃えて、何もできなかったのではないか。そのままお前達だけで捜査を続けたとしても、成果をあげられたかどうかさえ怪しいもんじゃ」

 

   デュアン『HAHAHA……確かに否定できんところだな』

囮を使う方法はオレも思っていた。だが、それは他人ではなく自分に使おうとしていた。

 

   デュアン『だが、それがなんだって言うんだ?』

    アカギ「あっちはただ七緒より先に犯人を見つけて、ギャフンと言わせてやりたいだけじゃ……人間にどれだけ被害が出ようと、あっちには関係ないことじゃな』

  

   デュアン『とても、"人間になりたい"と思っているヤツのセリフとは思えんぞ、今の発言』

 

    アカギ「なのに協力などしたら、目的が果たせなくなってしまうではないか」

 

   デュアン『……』

    アカギ「もともとあっちは人間が嫌いだと言わなかったか?……実はもうねぐらも押さえてある、後は踏み込めばいいだけ、どっちにしろ協力など不要じゃ」

 

   デュアン『そうか、単独行動をするというのなら別にそれはそれでいい……せめて、犯人が奪った心の力を奪い返してくれないか?』

  

    アカギ「バカを言え、あっちがみつけたんだから、あっちがいただく」

 

     椎葉「アカギ……!」

   デュアン『それは違うぜ!』

    アカギ「な、なんじゃ、その顔は?あっちは当然の権利を主張しているだけじゃ」

 

もし、そうなら「盗まれたお金」を見つけたなら、その権利は私にある。と言っているようなものだ。そんなこと道理を通すわけにはいかない。

 

     椎葉「……どうして、そんなに無理をしているの?」

ん?無理をして、いる?アカギが・・・?

 

    アカギ「なに?」

     椎葉「ワタシには、アカギが無理して悪ぶってるようにしか見えないよ……だって、アカギはそこまで悪い子じゃないはずだもん」

 

こ、心が痛くなる。凄く心が痛くなる。オレも昔、コードギアスの世界線でも盾の勇者世界線でもどの世界線でも、必ず「悪ぶる演出」をしていた。オレは悪を演じてるからこそ、誰かが悪ぶってるなコイツ。となぜ思えなくなったんだ?

 

オレが人間に近づいた証拠なのか?それとも、オレがその事実さえ忘れてしまったからか?何れにせよ・・・紬は、アカギを悪ぶってると思ってるらしい。

・・・オレはアカギに対して何も思わなくなっている。それは「アイツの言っていることも、また"正しい"」と思っているからだ。

 

だが、そんな事をすれば確実に今いる人間関係の構築がジグソーパズルのようにバラバラに崩壊してしまう。相馬さんだって、あれだけ怒ってるのは、アカギの為を思ってのこと。紬もアカギのことを思って言ってくれている。

 

構築が崩壊してしまって、アカギを怒る人間やアルプが居なくなったら・・・それこそ終わりだ。

 

まだ、なにか言ってもらえるだけありがたいんだ。無視をし続ければ孤独を感じ、いずれ心のバランスが崩壊する。

 

    椎葉「どうして……どうして、無理してまで悪い子になろうとするの?お願いだから、保科くんのお父さんや厚真さんを元に戻してあげて!」

 

   アカギ「……~~っ」

さすがのアカギも動揺しているらしいな。

 

うん、オレがよく知っているアカギの顔になったな。

 

   アカギ「あ、あっちはもともとこうしてきたのじゃ!ずっと、こうしてきたはずなのじゃ!今まで遠慮してきたが、もうあっちのほうが上なのじゃぞ?あいつのように、あっちは人間に同情したりはせんっ……同情などしては、効率よく欠片を集めることができんではないか!そんなのは出来損ないのアルプがすることなのじゃ」

 

ほほう?

 

   デュアン『……なあ、アカギ?前に話してくれた、アカギが人間になりたい理由……あれは嘘だったのか?』

 

【挿絵表示】

 

 

     椎葉「……え?」

   アカギ「ふんっ、友達とそれ以外の人間は違う」

ふむぅ。球磨川先輩みたいな説得(ちょうはつ)をすれば、アカギの志まで砕いてしまうからな・・・此処は大人しく静観しとくか。

 

   デュアン『紬のことも友達じゃないって言うつもりか?』

    アカギ「そ……その通りじゃ!魔女とアルプの間に、友情などあってたまるか……もともとお互い、目的のため利用し合う関係なのじゃ」

 

   デュアン『確かに本来は利用し合う関係なのかもしれない……、……だけどオレは紬とアカギはただの契約関係には見えない……本当の姉妹いや母娘みたいに見えた。アカギ……お前はなんて悲しいことを言うんだ?』

 

     椎葉「デュアンくん、もういいよ」

    アカギ「……紬?」

     椎葉「アカギ?ワタシ、ちゃんとわかってるつもりだから……魔女の契約をするとき、無茶な前借りを申し出るワタシに本当は困って、止めようとしてくれたこと」

 

    アカギ「!」

     椎葉「デュアンくんが風邪で倒れた時、本当は慌てて知らせに来てくれたこと……それを見てワタシは、ただ事じゃないって思ったんだから」

 

ヒェ・・・おれアカギが居なかったら確実に死んでたな・・・

 

     椎葉「遊園地へ行く前の夜、あんまり嬉しくて、ワタシなかなか眠れなかった……あのときワタシのとりとめのない話を、ずっと隣で聞いててくれたでしょう?アカギ、迷惑そうにしながらも嬉しそうに笑ってたんだよ?」

 

   アカギ「……」

    椎葉「だから、後でデュアンくんとおかしな取引をしてたと知ったときも、本気では怒れなかった」

 

あ、アレで本気じゃない・・・と、流石は紬ママだ。

というか、あの取引は完全にアカギのせいじゃないからなあ。オレが招いた自業自得。アカギが提案し、オレはその取引に乗っただけだ。借用書に名前を書くようなものだ。

 

 

    椎葉「……アカギなりに、ワタシ達を応援しようとしてくれたんだって、わかってたつもりだから」

 

紬がまっすぐにアカギを見た

   

  デュアン『……』

    椎葉「ワタシはずっと、アカギを友達だと思ってた……今もそう信じてるから」

 

    アカギ「く、くだらん……」

目を逸らしたな・・・

 

    アカギ「あっちは自分の目的に従ってきただけじゃ!それ以上でも以下でもない」

 

     椎葉「そうなのかな?」

    アカギ「当たり前じゃ、そんなに信じたければ、勝手に信じていろ……せいぜい裏切られて、泣かんようにすることじゃな!」

 

勢いよく箸を置き、立ち上がってしまう。

 

   デュアン『好物なんだろう?全部食べなくていいのか』

    アカギ「バ、バカにするではない!あっちは……」

     椎葉「じゃあ、残りはまた今度食べよう?ちゃんとアカギの分も、残しておくから」

 

    アカギ「くっ……か、勝手にするのじゃ!」

アカギは来たときと同じく、カラスの姿になってベランダから飛び立っていった。

 

やっぱり、ツンデレじゃないか。

 

     椎葉「とにかく、相馬さん達にも報告したほうがいいよね?」

   デュアン『……そう、だな』

真犯人は分かった。もし、アカギが欠片を独り占めするなら、オレは動かなければならないな。オレの魔女姿?魔装姿か。

とにかく、今度こそ、みんなでアカギを追わなければくちゃいけなくなったな。

 

まったくめんどくさいヤツだ。

 

紬は相馬さんに電話を数コールして電話に出た。

 

    相馬『なるほど、そういうことか』

一通り報告を終えると、相馬さんも神妙な声色になっていた。

紬が携帯をオープンマイクに設定してくれたので、オレにも会話が聞こえている。流石は紬。出来た嫁さん?いや彼女か。

 

    相馬『真犯人については、デュアンくんの推察通り、子犬が関わってると聞いた時点で予想はしていた……だがアカギ1人で対処させるのはマズイ』

 

    椎葉「ええ、まさか本気とは思いませんけど、万一欠片を自分の物にするつもりなら……」

 

  デュアン『無理だな……アカギはほぼ人間になりかかっている……暴走しているアルプに襲われたら……大変なことになる』

 

    相馬「なっ……デュアンくん。まさかそこまで知っていたとは……、……だが、アカギは多分、自分じゃまだ気付いていないのだろう」

 

    椎葉「どういうことですか?」

  デュアン『そうだなぁ……アルプの成体に近づけば近づくほど、人間に近い心を持つようになっていくんだ……今のアカギは75%は人間、15%はアルプ……そんな状態で、襲われたら……大変なことになりますよね?ねえ、相馬さん』

 

アカギは人間になりたいと願っている。その理由は友達を探している。だが、50年も待っていたら、心のどこかで諦めがついているはずだ。そこを突かれたら、アカギの心の欠片が奪われる。

 

    相馬『その通りだ、デュアンくん』

    椎葉「まさか!」

  デュアン『……くそっ……ぬいぐるみじゃなきゃ……行動してたのに……っち」

 

オレは後になって後悔するんだ。ちくしょう

 

~~~~~~~

 

   子犬『フゥー……フゥー』

そいつは酷い興奮状態にあるらしかった。荒い息を吐き、ぼたぼたとヨダレを垂らす。さながら、狂犬の様相を呈している。爛々と光る瞳は新たな獲物を求めるのか、落ち着きなく動き回っていた。

だが、ねぐらから這い出し、街を徘徊する様子を、上空から観察する者があった。アカギだ。

 

やがて、子犬は1人の通行人に狙いを定めたらしい。

黒い翼をたたみ、アカギはその側へ舞い降りた。

 

   子犬「ウウゥゥゥゥーーーーッ」

低いうなり声を上げ、今にも襲いかかりそうな姿勢を取っている。

だが、それでもまだ、通行人は背後に気付かぬらしい。

 

まったく小僧以外の人間というのは、野生の本能をまったく失っているのではなかろうか?

 

  アカギ「やめておくのじゃな、あれは食っても美味しそうにない」

   子犬「!!」

声を掛けると、子犬はさっさと飛び退いて身を低くした。

狩りになれた者の動きである。やはり見た目通りの歳ではない。

 

  アカギ「どうした?まだ人化はできんのか?それとも同類に合うのは初めてと見えるな……」

 

今度はうなり声もあげない。こちらを睨みつけたまま、アカギを中心に円を描くように動いていた。

 

  アカギ「お前は知らんようだが、欠片集め方にもルールがある……新米は、先輩アルプからそれを教わるものじゃぞ」

 

かつて七緒からルールをたたき込まれたことを思い出し、苦笑いを漏らしそうになる。だが、もちろんアカギにはただで面倒を見てやる気はない。

 

  アカギ「勉強代じゃ、お前が無茶な方法で集めた欠片は、あっちがいただこう」

 

   子犬「グルルルルゥ~」

  アカギ「ほう、威嚇しておるつもりか?それとも人化もできぬひよっこが、生意気にテリトリーを主張しているのか?まあよい、身の程を教えてやるのも、教育の一環じゃろう」

 

   子犬「……ッ」

ついに子犬が飛びかかってくる。だがアカギとて、伊達に長く野生に生きてきたわけではない。ひらりと躱して距離を取っていた。

 

  アカギ「なかなか素早い動きじゃが、まさかあっちを弱いと思っておるのか?」

 

   子犬「この程度では、触れることも……む!」

なんと子犬は背中を向けて、駆け出していたのだ。

 

  アカギ「逃げるか?いや、そうではなさそうじゃ……もしや!?」

 

~~~~~~

 

   子犬「ガウッ!」

  通行人「わっ!?」

アカギを無視し、先程の通行人を追っていったのだ。

その背中に、正確にはその心に向かい、鋭い牙を突き立てようと飛びかかる。

 

だが――――――

 

   子犬「……キャウッ!?」

反対に弾き飛ばされたのは、子犬の方だった。その間に通行人は逃げ出し、アカギは悠々と追いついていた。

 

  アカギ「バカなヤツめ、人間の心は脆いようで、案外、強いのじゃ……欠片を回収できるのは、通常より大きくなり過ぎたときだけ……強引に削り取るには、相当に弱っていなくては、そのような目に遭うのがオチなのじゃ」

 

嘲笑しながら、ふとアカギは自分が人間を誇らしく感じていることに気がついてしまう。

 

 

  アカギ「(……バカな、あっちは何を考えておる?あっちは人間に同情などせんっ、出来損ないのアルプではないのじゃ)」

 

だが葛藤は、隙きを生んでしまう。再び子犬に逃げられてしまったのだ。

 

  アカギ「ええい、面倒なヤツじゃな!どうせなら、立ち向かってこんかっ」

 

逃げ回る子犬に、ようやく追いついたとき――――

 

   男の子「うえぇ~~んえんえん、お母さぁーん!」

迷子にでもなったのか?前方で、小さな子が大声で泣いていたのだ。

 

子犬はそれを目指してまっすぐに走っていく。

 

  アカギ「あいつ、もしや!」

心が弱っている者を捜していたのか?

 

だがアカギには、ギリギリで追いつく自信があった。飛びかかった瞬間、がら空きの背中へ一撃すればいい。ただし、子供の安全を考慮しなければ、だ。直線上に並んでいる関係上、巻き込んでしまう可能性は高かった。なにより、子犬の狙いはあくまで子供の方なのだ。

自分の身もかまわず、牙に突き立てようとするかもしれない。

 

  アカギ「……チッ」

それは葛藤を挟むいとまもなく、咄嗟の判断だった。人間の子供など、どうなっても知ったことか。頭ではそう考えていたはずが―――気が付くと子犬に掴みかかり、揉み合うようにして地べたを転げ回っていた。

 

一瞬の攻防の後、互いに飛び退いて間合いを取る。

 

   男の子「……ふぇ?」

  アカギ「逃げぬか、小僧!さっさと親鳥のところへでも帰るのだなッ」

 

背後に足音を聞きながら、子犬と対峙する。今度は逃さない。なぜか、使命感のようなものまで湧いてくる。次から次へ弱い者を狙うことに、怒りさえ感じていた。柊史の父・太一が襲われたとき、アカギは側にいながら、子犬が危険な存在と気付くことができなかった。なにかあったとしても、すぐ助けに入ると高をくくっていたのだ。その結果が、あの様だった。

 

言い訳はできない――――せいぜい、柊史の前では強がるくらいが関の山だったのだ。

 

   アカギ「これ以上、お前の好き勝手にはさせん。お仕置きがして欲しいなら、望むだけくれてやろう!」

 

    子犬「グルルルゥ~」

しかし、どうしたわけか?先程より、子犬の動きに余裕が感じられる。

逃げようという素振りも見せない。

 

   アカギ「ほう、まだ力の差がわからぬと見え――――ッッ!?」

突然、がくりと膝から力が抜けた。わけもわからず、自分の腕を見る。

そこに小さな傷ができていた。先程、揉み合ったときに、子犬の牙が触れたのだ。

だがそんなもので、ここまでダメージを受けるはずがない。

 

アカギが普通の状態ならば――――

 

  アカギ「な、なんだ? も……もしや、これはあっちの!……あっちの心が!?」

地面に、光る羽根のような物が落ちていた。それでようやく、自分自身でも気付くことが出来たらしい。心の形がいびつに歪み、脆くなっていたことに。その尖った部分が欠けて、転がっているのだということに―――!

 

ずっと、50年もの間、果たされずにいた約束があった。でも本当はアカギも気付いていたのだ。友人はあの時もう……亡くなっていたのではないかということに。彼女の心が人間に近づけば近づくほど、その気持ちは強くなっていった。"早く人間にならなくては!"と

 

そう焦りながらも、同時に恐れていた。

こんなことは無駄だと、諦めを受け入れようとする自分自身の弱さを。

 

    

   子犬「……ウゥ~っ」

子犬はアカギが立ち上がれないのを見極め、ようやく欠片の方を向いた。

 

  アカギ「や……やめんか!」

阻止しようと手を伸ばす。だがたった数メートルの距離が、今のアカギには無限に感じられた。もちろんそれで遠慮してくれる相手ではない。

欠片に向かって飛びかかってくる。

 

  アカギ「やめろっ、それはあっちの……"大切な約束"なのじゃ!やめてぇ!!」

 

   椎葉「アカギぃ―――ッ!!」

そこへ突然、小柄な身体が割って入ってきたのだ。

 

  アカギ「……え?」

 

~~~~視点切り替え デュアン

 

相馬さんにアカギの匂いを辿ってもらい、ようやくオレ達が駆けつけたとき。アカギが子犬の前に膝を折っているのが見えた。

オレも今はちょうど人間になっていられる時間だ。

 

けど男のオレよりも、アルプである相馬さんよりも、先に飛び出したのは、紬だった。

 

    椎葉「アカギぃーーーッ!!!」

   アカギ「……え?」

たかが子犬に、紬の方が吹っ飛ばされてしまう。

 

  デュアン「……っ!」

 

やはり見た目通りではない。

 

  デュアン「紬!大丈夫か、紬ッ!」

オレは慌てて紬を抱き起こす。

 

アカギは状況についていけないのか、ぺたんと尻餅を突いたまま固まってるらしい。

 

   アカギ「あ、あああ……!」

    相馬「やってくれたな?」

  デュアン「ああ……穏便に済まそうと思ったが……お前はオレの大切な友達やアカギを傷つけた……もうお前を許す訳にはいかなくなったぜ」

 

    綾地「こんな子犬が犯人だったとは、見かけによらないようですね」

 

    保科「ああ……オレも驚いている」

    子犬「……~っ」

子犬は状況を不利と悟ったのだろう。脱兎の如く逃げ出した。

 

    相馬「私が追おう、後のことは任せる」

    綾地「頼みます、七緒」

  デュアン「オレも……ッ」

    保科「気持ちは分からんでもない……が、今は相馬さんに任せたほうがいい」

 

  デュアン「……、……分かった。相馬さん、お願いします」

   アカギ「紬……紬……?」

ようやく、アカギもオレ達の側へやってくる。

 

    椎葉「いたたたっ、大丈夫……ちょっと、びっくりしちゃっただけ」

 

  デュアン「びっくりしたのはこっちだ。まったく、無茶するから……」

 

    椎葉「ごめんね。でもほら……アカギ?」

紬の手には、光る小さな羽根が握られていた。

 

   アカギ「あああ……それは、これは……!」

アカギの心の欠片、か。

 

    椎葉「半分くらいは向こうへ持って行かれちゃったみたいだけど、なんとかこれだけは守れたよ」

 

紬はそれを、そっとアカギの手の平へ戻してやる。

 

 

   アカギ「あっちの……あっちの……」

    椎葉「ねえ、アカギ?自分の心を失うのは、とても痛いことだったでしょう……とても酷いことだったでしょう?だからアカギには、同じことして欲しくないな……もっと欠片が必要なら、ワタシがもっと頑張るから、それじゃいけないかな?」

 

   アカギ「ウッ……ウッ……!」

いつの間にか、アカギの目から涙が溢れていた。

 

   アカギ「おかしいのじゃっ、あっちは……おかしくなってしまったのじゃ……今まで平気で出来たことが、平気じゃなくなってしまったのじゃ……」

 

  デュアン「……アカギ?」

   アカギ「一番、大切な約束だったはずなのじゃ!なのに……なのに、他のことも大切に思えてしまうことがあるッ……ときに一番大切なことまで、霞んでしまうくらい……だから、だから以前……小僧に、まだまだ人間にほど遠いと言われたとき、グサリときた」

 

  デュアン「…………」

   アカギ「もう……50年も経ってしまったのじゃ!もっと、もっと急がねば……もっと最短距離で約束を果たさねばならぬのに、迷ってしまう……だから今まで通りのあっちに戻りたかった……戻れないのは、人間にほど遠いせいなんじゃろう?……一番、一番大切なはずなのに……どうして、あっちは……!あっちは、アルプとしても……人間としても、出来損ないなのじゃ」

 

  デュアン「ああ……確かに今のお前は"アルプ"として出来損ないだ……だが……それは、アカギ……お前自身が欲しかった"人間"として完成しかかっているんだ」

 

   アカギ「どういうことなのじゃ」

涙ぐみながらアカギはそういうと・・・

 

  デュアン「人間は困ったり、照れたり、緊張したり、なんかこう上手くいかなくなったとき……いつも通りの自分でいようとするものだ……まあ、それでかえって上手くいかなくなったり、すれ違ってしまったり、な。」

 

そう。オレは異世界転生しても、結局は仲間と"すれ違ってしまう"んだ。

どの世界線でも・・・。

 

オレは、人間でありながら「心」は人間とは別次元。「神」や「化け物」なんだろうな。常にオレには取捨選択というものを放棄している。自分が助かりたいが、為に・・・

 

でも・・・人間というのは完璧ではなくて、もともと失敗をやらしてしまうものなんだ。

 

"完璧"の人間性なんて、そんなの人間じゃない・・・。"絶対"という言葉が無いようなもの。

 

  デュアン「だから、間違っていたのはオレだ……お前は充分、オレより人間らしいよ」

 

   アカギ「デュアン……」

    椎葉「ワタシもそう思うよ、アカギ?」

   アカギ「紬……ありがとう、ありがとう、2人とも……あっちの"約束"を守ってくれて……ありがとう」

 

取り戻した欠片の一部を、アカギは力いっぱい握り締めていた。

周囲に人だかりができつつあったものの、綾地さんと柊史が上手く追い払ってくれているようだった。

 

そこへ相馬さんも戻ってくる。

 

    相馬「すまない……一部とはいえ、アカギの欠片を吸収したせいだろう……私でも単純な追いかけっこでは勝てそうもない」

 

    綾地「そうですか、厄介ですね」

    保科「オレ達が追っていることにも、気付かれたはずですから」

    相馬「おそらく、アカギが掴んだねぐらも変えてくるだろう」

    綾地「今後はますます、捜しづらくなりそうですね」

    保科「……デュアン、何か無いか?」

  デュアン「ふむ……あるぞ」

    椎葉「え……デュアンくん?」

  デュアン「あいつを見つけ出す方法なら、あるぜ」

 

オレの怒りは有頂天に達している。紬を傷つけ、アカギの"想い"、厚真さんを裏切り、柊史の父親の心の傷を広げた。

 

オレは絶対にあの犬を許す訳にはいかない。

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep63  Skirt ☆

 

 

翌日、オレが再び人間の姿になれるのを待って、作戦は実行へ移されることになった。

 

    相馬『感度はどうだ、デュアンくん、保科くん』

    保科「あ、はい、ちゃんと聞こえてます」

  デュアン「こちらも良好だ」

    椎葉『えっと、ワタシの声はどうかな?他のみんなも聞こえてる?』

 

    綾地『ええ、聞こえていますよ』

耳に突っ込だ無線イヤホンから、次々とみんなの声が届けられる。

スマートフォンのアプリを使ったグループ通話を行っている。

 

    椎葉『ワタシ、こういうの初めてだからドキドキしちゃうな』

   アカギ『人間というのは、いろいろ便利な物を作り出すものじゃな』

 

その中にはアカギも加わっていた。

 

    綾地『ともかく、これでなにかあっても対応できるはずです』

    保科「寧々……もし、危なくなったら……ちゃんと逃げてくれよ」

 

    綾地『柊史君……』

  デュアン「ン……ゴホンッ」

オレは軽い咳払いをし、会話を遮らせる。

 

オレと柊史が提案した作戦。

 

それは、オレと柊史が囮となって犯人をおびき出すというものだ。

 

柊史は、まだ完全修復に時間がかかっていている。オレか柊史を確実に狙ってくる筈だ。

 

    相馬『君達もあのとき姿を見られている。警戒して出て来ない可能性も高い……すぐに成果が出せるとは限らないことは、肝に命じておいてくれ』

 

  デュアン「……」

    保科「わかっています……でももともと削り取れるほど心が弱っている人間は少ないんですよね?」

 

  デュアン「オレと柊史は心に穴が空いてること、あのときあいつが気付いたかどうかはわかりません……けど」

 

    保科「気付いていたなら、おあつらい向きの獲物だと感じたはずです」

 

  デュアン「ああ……耐えきれなくなって襲ってくる可能性は高いと思う」

 

    椎葉『デュアンくん、ワタシ達から離れすぎないようにしてね?』

 

  デュアン「なるべく努力するようにするよ」

    綾地『柊史君っ、油断しないでください』

    保科「ああ、そのつもりだ」

    綾地『相手は人化の術を覚えている可能性もあるんですよ?人間に見えても、ぼんやりしないでしっかり警戒を』

 

    保科「あ、ああ、そこら辺はデュアンがレーダーになってくれる」

 

   アカギ『だが囮は目立たなくては意味がない……いったん人の多い道へ出てから、人気のない道へ入るのじゃ……そうすれば相手も襲いやすいはずじゃ』

 

   デュアン「了解した……それを繰り返せばいいんだな」

     椎葉『け、けど、危なくないかな?人の多いところで襲われる可能性もあるよね』

 

     相馬『危険はあるが、効率的なのは確かだろう……保科君やデュアン君次第だと思うが、どうする?』

 

     保科「やってみます。向こうから近づいてくる人がいたら、ちゃんと警戒するから」

 

   デュアン「オレは警戒を解いてるよ……秘密兵器を用意したしな」

     椎葉『デュアン君!?』

     保科「秘密兵器って……すげぇ気になる」

   デュアン「まあ、これからのお楽しみだ……クックック……紬、アカギ、厚真さん、柊史の父親を傷つけた罪……償わせるために、徹底的に追い込んで……アルプとして生まれてきたことを後悔させてやる……ふふふっ」

 

     相馬『……』

    アカギ『……』

     綾地『デュアン君を怒らせるのは……』

     椎葉『本当に怖い』

     保科「……ま、まあ、とにかく」

   デュアン「危険は承知の上だ、今回だけの、ね」

     椎葉『デュアンくん……ワタシも、止めるつもりはないよ?でも本当に気をつけて』

 

   デュアン「ありがとな」

     椎葉『それより分かってる?2人の時間も犠牲にしてるんだから……無事に終わったら、あとでたっぷり埋め合わせしてよね」

 

   デュアン「ああ……これが終わったら、目一杯甘いに甘え……濃密な時間を過ごそうな」

 

オレは優しい表情でそう答える。

 

     椎葉『うんっ!』

 

    保科「……」

 

~~~~~

 

作戦通り、何度か広い道と狭い道を行ったり来たりしてみることにした。途中で柊史と別れて行動した。

 

   デュアン「……」

けどなかなか思うような成果は得られなかった。

 

     相馬『やはりこの辺ではもう、狩りをしないつもりなのかもしれないな……狩り場を変えたのだとしたら、厄介だ』

 

    綾地『もっと捜索範囲を広げてみますか?』

   アカギ『いや、あっちは反対じゃな』

  デュアン「ああ、その意見には賛成だ」

   アカギ『場所を変えては、相手もこちらを見つけづらくなる……一度、場所を決めたら、あとは待つしか無いものじゃ』

 

    相馬『アカギの言う通りだ、だからこそ厄介なんだよ』

    綾地『なるほど、それが動物の習性というものかもしれませんね』

 

    保科『……』

   アカギ『ところで1つ、わからんことがある』

  デュアン「……、……?」

    相馬『なんだ、言ってみてくれ』

   アカギ「昨日はやけに凶暴化しておったが……小僧の親父を襲う前までは、特に不審な様子は見られなかったのじゃ』

 

    保科「あー……確かに、父さんが拾ってきたときは大人しかったな……デュアンと椎葉さんはどうだった?」

 

    椎葉『そう言えば、ワタシ達が最初に見つけたときも凄く大人しかったよね?』

 

  デュアン「そう言えばそうだな……紬よりオレに懐いていたな、そう考えると、少し変だったかな?」

 

    保科『その時、魔力とか感じなかったのか?』

  デュアン「魔力以前に違和感だらけだったから……分からんかったよ」

 

    相馬『アルプになりかけているとき、不安定になる者は多い』

   アカギ「だがあそこまで暴走するものか?お前の時は、どうだったのだ、七緒』

 

    相馬『私はすぐ、あるがままの自分を受け入れられたが?』

 

何かが引っかかってもどかしい気持ちだ。イライラとしてくる。

何に引っかかってるんだ?

 

   アカギ『ふんっ、優等生ぶりおって』

 

今は、捕まえないことには始まらないだろう。

 

もう少しこの辺りを歩き回ってみるか。

 

 

~~~~~

 

  デュアン「……近づいてくる者、追ってくる者ともに無しか」

そろそろ、欠片を使うべきか?  

 

    椎葉『デュアンくん、そろそろ疲れてきたんじゃない?少し休憩する?』

 

  デュアン「遠慮する……人間になっていられる時間は短いから……ギリギリまでは頑張るつもりでいるから」

  

    綾地『いえ、申し訳ないのですが、私達の方が少し疲れてきました……10分ほど通話を切らせて頂きたいのですが。ねえ、七緒?』

 

  デュアン「……へ?」

    保科『悪いな……オレも少し休憩させてもらう……少し切らせてもらうぜ』

 

  デュアン「????」

    相馬『うむ?そうだな。アカギも通話を切れ』

   アカギ『なに、あっちはまだ……』

    綾地『もちろん、椎葉さん達は、通話を続けても結構ですから』

   アカギ『……ふむ、ひょっとしてこれが空気を読むということか?……、……よかろうなのじゃ』

 

 

    綾地『わかっていただけて、なによりです』

    椎葉『ちょ、ちょっと、みんな?』

    綾地『では、ごゆっくり。周囲の警戒は、私達でしておきますので』

 

  デュアン「お、おい……どういうことだ???誰か説明をもとm……、……あっ、切れた」

 

何がどうなってるんだ???

 

    椎葉『あはは……なんだか気を遣われちゃったみたいだね』

  デュアン「ま……焦ったところで、何の成果は上がりそうにないもんな……」

 

魔力の流れ、魔力の気配は今のところ無いしな・・・

仕方ないからオレは、石垣にもたれかかる。

とはいえこの状況で、どんな話題を振ればいいんだ?

 

    椎葉『明日から、また学院だね』

  デュアン「そうだな……でも夜中はしばらくこれが続くのかな?……あっ、クリスマスはどうやって過ごす予定?」

 

    椎葉『うちは家族みんなで集まるしきたりだけど……今年はどうしようかな』

 

他愛のない話題が一番だな。だけど・・・ふと、紬のことでちゃんと聞いてなかったことがあるのを思い出す。

 

あくまで他愛のない話の延長として、ちょうどいいように思った。

 

   デュアン「しきたりって言えば、前に言ってたっけ……確か、子供の頃"男の子の格好をする"のがしきたりだったみたいなことを言っていなかった?」

 

     椎葉『ああ、それ?しきたりっていうか、おまじないっていうか』

 

   デュアン「なるほど……」

     椎葉『そんなに古いものじゃないんだよ?昔ね、うちのお婆ちゃん身体が弱かったんだって』

 

   デュアン「ふむ……、……お婆ちゃんだから、女の人だよな?」

 

身体が弱かった。"男の子の格好をする"しきたり・・・この言葉で、アカギが探している50年前の友達は紬のおばあさんである確率が高いな。

 

     椎葉『ふふふ、何言ってるの?当たり前だよ。あーけどその頃ね?お婆ちゃんのお母さんが占い師の人か何かに相談したらしくて……男の子の格好をさせれば、元気に育つって言われたそうなの』

 

   デュアン「時代を感じる話だな……病は気からってことわざにぴったりな話だ」

 

     椎葉『だよね?でもそのおかげで、無事大きくなれたって思ったらしくて……以来、ワタシのうちでは、女の子は男の子の格好をさせられちゃうみたいなの』

 

デュアン「……やはりはた迷惑だよな……本人からしたらな」

    椎葉『あはは……』

  デュアン「それじゃあ、そのお婆ちゃん、病院に長期入院したり、手術したり……なんて、さすがにあるわけ……」

 

    椎葉『どうして知ってるの?あっでももちろん、今は全然平気なんだよ?手術したのも、確か50年くらい前の話だから』

 

あー・・・ビンゴだ。

 

  デュアン「ほぅ……50年、前なんだ……」

    椎葉『うん?……多分、逆算しても、あってると思うけどな』

 

喜べアカギ。世間は狭いと言うが・・・本当のことだったみたいだ。お前が50年も追い求めていた友達は生きていて、しかもお前が契約した魔女の孫じゃないか。

 

    椎葉『それがどうかしたの?』

  デュアン『いや……なんでも……っ……いやどうやら時間切れっぽい、ぬいぐるみに戻りそうだな』

 

    椎葉『そうなんだ!じゃあ、すぐむかえに行くね』

みんながこちらへ手を振っている。

 

ともかく、今日はここまでか・・・。と魔力のパターンを感じた!

 

    子犬『……うぅ~ッ』

  デュアン「……」

オレに来るとは、大当たりだったぜ。だが、お前にとっては大外れだ!!

オレはぬいぐるみに戻る瞬間を狙って、犬にあるものを投げつけ、貼り付けさせた。そのタイミングでぬいぐるみに変化する。

 

あ、あぶねぇ・・・ギリギリだったな。

 

    子犬『ガウッ!!』

  デュアン『……』 

   アカギ「しまった!」

    椎葉「でゅあんくぅーーんッ!!」

ぶんぶん振り回される視界の中、みんなの姿が遠ざかっていく

足に噛みついたまま、4つ足で全力疾走してるらしい。

残念だったな、もはやお前の居場所は完全に割れた。

変身前に投げたのはスマホと連携してGPSを辿れるモノだ。お値段は28000円。

 

    相馬「とにかく追うんだ!二手に分かれよう」

  

・・・・・・

 ・・・・・・・

   ・・・・・・・ 

     ・・・・・・・

 

~~~~~~

ここは・・・

 

   アカギ『どうして?どうして、返事をしてくれぬ?あっちは、毎日窓をつついているというのに、どうして、なにも答えてくれぬのじゃ』

 

これは・・・アカギの欠片、か?

   

  保科の父『どうして、どうして頑張れたんだ……大切な人を失った後も、どうして……』

 

柊史の親父さん?

 

    厚真『一番の友達なのに、どうして?どうして、なにもしてあげられないのっ』

 

厚真さん?

 

・・・欠片の影響、か。

 

視点が変わった・・・、な。

 

   親類A『あの犬、どうするつもりなのかしら?保健所から引き取ってきてから、もう10年以上も生きてるんだって』

   親類B「でも雑種でしょう?お義父さんみたいな物好きじゃあるまいし、欲しがる人なんて」

 

一体誰だ?伝わって来る、この匂い・・・死臭か?

棺桶、物言わぬ主人。大好きだった彼は、白黒の絵になって・・・かつてと同じ笑顔を向けてくる。

 

なるほど・・・これは、この犬の記憶か?

 

    老犬『……くぅ~ん……くぅ~ん』

その犬は老いた身体を引き摺るように、1人旅へ出る決意をしている。

 

・・・・。・・・・。

 

とりとめなく、時間が飛ぶ。今度は、いきなり厚真さんの顔がアップになった。

 

    厚真『んふっ、こら……やめなさい?そんなに懐いたって、私は飼ってあげられないわ……もう、友達を失うのは嫌なのよ』

 

友達・・・・か

 

    子犬『やっぱり……この人も、大切な人を失ったんだ』

 

この声は・・・犬?しゃべる犬なんてカーレッジくんで充分だぜ。

   

    子犬『もし……貴方が、人間と同じくらい長生きだったら』

 

そんな不確かな願いを呟いてしまったら・・・

 

    厚真『なんて、駄目駄目っ、都合よく考えたって仕方がないわ……さあ、そろそろミルクが冷えた頃ね』

 

 

    子犬『もしボクが人間だったら、君を慰めてあげられるのかな?君は多分、僕と同じだから……おや?なんだろう、あれは?」

 

子犬には、厚真さんの心の状態が見えていた。欠片を求めるのは、アルプとしての本能だったのかもしれない。

 

    子犬『あれは君の一部なのかな?あれを手に入れれば、君と同じになれる気がする』

 

だ、ダメだ・・・やめろ。それを手にしたところでなんの解決にもならない!!

 

   子犬『そうだ、僕なら……ずっと、君の側にいてあげられるんだ、僕なら……!』

 

やめろ、やめろ!!それはそんな都合のいいものじゃないっ

 

だが子犬は、厚真さんへじゃれつくように飛びかかると、その心へ小さな牙を――――

 

  デュアン『やめろぉぉぉぉぉぉおおッ!!!!!!』

 

 

~~~~~~

   

  デュアン『っ……は!?』

目を覚ますと、此処は・・・学院の中庭、か?

あの犬に噛まれた直後の記憶が無い。

 

    子犬「ワオォーーン!……ワオォーーーン!」

子犬が月へ向かい、遠吠えをしている。

 

さっきの夢は・・・この犬の心の中を覗いてしまったから、か?

 

   子犬「……ワオォーーーン!ワオォーーーン!」

子犬はまだ、遠吠えをしている・・・・

 

  デュアン『なるほど……欠片を吸収できていないのか?どちらにせよ……』

 

    子犬「ワオォーーーン!……ッワオォーーン!」

  デュアン『………………』

 

コイツは皆の心を傷つけた。絶対に許せない存在・・・なのに。こいつの心を覗いてしまったら・・・オレは、もう・・・

 

厚真さんを傷つける気はなかった。だからこそ、さぞ驚いたろう。

 

第一の事件の厚真さんの事件は故意で発生したものではなかった。思いがけず新しい主人を傷つけてしまい、混乱したまま欠片を吸収できなくなってしまったのではないか?

 

・・・・その結果、混乱が大きくなったんだろう。

 

普通、自分とは違う心が入り込んできたようなものだ。まともでいられるはずがない。

 

オレはバケモノで、転生者。こういうのは慣れてるが・・・な。

 

混乱した理性では、本当に逆らえるはずもない。

 

本能は欠片を集める。だが集めれば集めるほど、心の中ではてんでバラバラになっていたことだろう。例えるなら、ジグソーパズルのようなものだ。これが、望んでいた結果なら、どんどん遠ざかる。

 

本来、人のありとあらゆる心を覗くのは毒でしか無い。

 

こいつにとっても、いい状態ではない。

 

しかしこれだけでは、あんな夢まで見てしまった理由は・・・なんだろうか?シンプルな理由があるのか?

 

    子犬「ワオォーーーン!ワオォーーーン!」

 

これは、一種の"叫び"ではないか?訴えてるのではないか・・・?

 

 

   デュアン『……』

    子犬「ワオォーーーン!……ワオォーーーン!」

 

助けて!助けて!と。こいつ自身が、助けを求めているのではないか?

 

   デュアン『……お前はやり方を間違えたんだ。もっと正しく学ぶべきだったんだ』

 

    子犬「……ウゥ~?」

子犬がこちらを見る。

 

   デュアン『オレも同じだ、間違えてばっかりだ。何度も、何度も……輪廻転生を繰り返してばっかりの、ズルしてまで間違いを治そうと……いや、これは言い訳か。間違いに気付くことの自覚を持てなかった……。この世界に転生してから、その癖を治そうと頑張ってきたが……また、間違えた』

 

子犬が警戒するように、オレの周りをぐるぐる回り始めた。

 

   デュアン『大切な人の為と思って、こんな姿になって……他にも、オレを大切に思ってくれる人のことがいることが見えなくなって……だから、今でもオレは代償を支払い続けている』

 

     子犬「ウゥ~……」

   デュアン『なあ、聞いてるのか?答えろよ、答えてみろよ……アルプの出来損ない!』

 

オレはそう言ってみるが・・・。いや、もしかして聞こえてないのか?

 

周りをうろつくばかりで、近づこうとしないのだ。どうも人間なのか、ぬいぐるみなのかわからず、戸惑っているらしい・・・

 

オレがこの姿じゃなきゃ、とっくに欠片を回収していたのに・・・くそっ。

 

さて、そろそろGPSを辿ってきてくれるだろう。

 

   デュアン『……』

ビンゴだ。紬とアカギが来てくれた。

 

気配を探ると、相馬さんと綾地さん、柊史も近くにいるな。

 

    子犬「……ウゥ~」

   デュアン『(確か紬のハンマーで一撃すれば、欠片は持ち主の元へ戻るんだっけたな?これは、綾地さんにも当てはまる……"一撃"でも命中すればいい)』

 

さて、オレがやるべきことは・・・。

 

ただ、アカギは前日の負けで、力が出ない様子だ。紬にしても変身したからといって、身体能力があがるわけではない。

 

身体能力が狂ってるオレや転生者の和真と違って、ね。

 

さて・・・この姿で隙きを作ってやるしか無い。

 

   デュアン『そんな警戒することはないんじゃないか?オレはぬいぐるみの姿だけど、人間だ!そんなに欠片が欲しいなら襲ってきていいんだぜ?背中はがら空きになるだろうけどなっ』

 

     子犬「……?」

   デュアン『……』

ふむ、肝心のコイツが無反応じゃ意味はない。

っち、今回は本当に役立たずだな、オレ。

 

     椎葉「……あっ」

   デュアン『!』

小枝か何かを踏み折る音?先程、紬達が顔を出した方からだ。

 

子犬は瞬時に反応すると、猛然と駆け出してしまう。

 

   デュアン『~ッ!!』

やばい、あいつは昨日も紬をあっさり吹っ飛ばしていった。アカギに至っては心が弱っているのだ。狙われたら、ひとたまりもない。

 

     椎葉「わっ、わああぁーー」

そこへ紬が校舎の影から飛び出してくる。

子犬は本能的に背中を追った。

 

   デュアン『や、やめろ……やめろ……やめろぉーーーーッ!!』

    アカギ「ふんっ、バカ者が。所詮は、ただの犬っころじゃな?」

   デュアン『なっ!?』

気付くと、アカギがすぐ後ろに立っていた

 

    アカギ「せっかく捕まえた獲物を置いて、紬を追いかけていくとはな」

 

   デュアン『アカギ、いつの間に……』

    アカギ「お前達の囮になるという案を採用してやったのじゃろうが」

 

   デュアン『バーロー!だからって紬を囮に使うヤツがあるか!』

    アカギ「そうか、ならやはりお前が囮になるのじゃ」

   デュアン「どうやってだ!?って……へ?』

アカギはオレを掴み、盾にでも使うように構えた。

 

    アカギ「おい、犬っころ!いつまで、女の尻を追いかけておる!このままコイツを連れ帰っても良いのか?」

 

     子犬「!?」

   デュアン『なるほど……』

ようやく紬を追うのをやめ、こちらへ掛け戻ってくる

 

   デュアン『おお、よくやったぞ!アカギ……それで、この後、どうするんだい?』

    

    アカギ「知るか、今のあっちではあいつには勝てんからな」

   デュアン『お前っ!!そりゃない……いや、案外ナイスかもしれないな……』

 

紬を離すのにはうってつけだ。アカギも分かっている。なぜなら、アカギの悪巧み?をするときは口角が釣り上がる

 

子犬はもうオレ達にいつでも飛びかかれる距離に近づいていた。

 

     椎葉「はぁぁぁーーーーッ、行かせないよ!!」

     子犬「!?」

   デュアン『子犬君……君は窒息END(スマザード・メイト)……にハマるようじゃ……」

 

ブンと重々しい風切り音が、夜の闇を震わせた。

後ろから犬に追い付いただけでも驚きだ。なのにあの紬が、あんなに大きいハンマーを立て続けに振り回しているのだ。

子犬は軽やかに避けていくものの、こちらからどんどん離れていく。

 

    アカギ「当然じゃ、あっちの選んだ魔女が弱いはずないじゃろ」

   デュアン『そうだったな……真に強いのは"心"や"優しさ"だったな』

 

     椎葉「くっ……まだまだ!みんなの心の欠片を、返してもらうんだから」

 

   デュアン『紬、左4方向に後ろに下がり、21.6秒後にしゃがめ』

     椎葉「え!?逃がす訳にはいかないハズでしょ?」

   デュアン『GPSを仕込んである……それにオレは言った……窒息END(スマザード・メイト)だって』

 

   デュアン「柊史、紬の援護を、綾地さん……そこから銃身24度角度を下げて、丁度位、オレの頭に命中するぐらいに向かって、銃弾を打ち込め、そして、相馬さんは綾地、柊史のフォローです」

 

   全員「わ、分かった」

綾地さんは言われて通り、命中した。これでオレの心の欠片が露出する。

それをチャンスと言わんばかりの子犬が・・・回収しようとした時・・・

 

    椎葉「やぁあぁああああ!」

  デュアン『だ、ダメだ……24F足りない!』

実戦で、相手に断ってから責めるなんて・・・!

 

    椎葉「わっっ……きゃあああ!?」

かろうじてハンマーの柄で防御したようだが、攻撃を正面から受けてしまう。

 

力で上回る相手に、それは愚策だ。

 

紬は背中から地面へひっくり返ってしまったのだ

 

  デュアン『紬ぃぃぃいい!!!』

   アカギ「まずいな」

子犬は追撃せず、こちらへ向かってきた。

 

  デュアン『俺らをエサとして認識しているんだ……アカギだけでも逃げろ!』

 

   アカギ「バカなことを言うな。紬の言う通り、もう逃がすわけにはいかん」

 

  デュアン『言ってる場合か!』

   アカギ「デュアン!次はどこの誰が被害に遭うかわからんのじゃぞ!」

 

  デュアン『っ……だが、お前……さっきは敵わないって……』

 

    子犬『ガウッ!』

子犬が飛びかかってくるのを、すんでで躱す。

 

   アカギ「おっと、危ない危ない……紬があいつから一本取ってくれるなら、それが一番だったのじゃがな……」

 

  デュアン『……』

   アカギ「1つ、訂正しておかねば、後味が悪いと思ってな」

アカギはかろうじて、子犬の攻撃を避けていく。

 

  デュアン『す、すげぇ』

   アカギ「あっちは紬のことも、友達だと思ってる」

  デュアン『ッフ……ツンデレめ、そういうのは本人に言ってやれよ』

   アカギ「バカ者。デュアン、お前のこともじゃ」

  デュアン『そいつは光栄だね……』

   アカギ「過去の友達だけではない、あっちは今いる友達のことも大切に思っているぞ」

 

  デュアン「……アカギ?」

嫌な予感がする。でも、こいつがろくでもないことをしようとしてるのは分かる。嘗てのオレみたいな・・・そんな雰囲気を漂わせている。

 

   アカギ「デュアン、お前との取引は破棄させてもらう……そうすれば、お前は今すぐ人間に戻れるじゃろう」

 

  デュアン『待て、アカギ……お前の"人間になりたい"という願いはどうなるんだよ!しかも、一方的な破棄はデメリットが存在するはずだ』

 

   アカギ「ああ……そんなことは先刻承知。今度はあっちの方が代償を払う羽目になるじゃろうがな」

 

  デュアン『お前……それはせっかく集めた心の力を一気に失うことを意味するんだぞ!お前は、人間になるんじゃなかったのかっ!』

 

   アカギ「デュアン、お主はこんなあっちにまで優しいのじゃな……」

 

  デュアン『オレは、優しくなんかないっ!アカギ、まだはっきりと言えないけど、ひょっとしたらお前がずっと捜してた人はすぐ近くに……!』

 

   アカギ「デュアン、お前こそ皆を救うのではないのか?」

  デュアン『そこにアカギが入ってないだろ!!オレは、助けたいと思う人……全てを救いたいんだよ!!』

 

   アカギ「我が儘を言うでない……デュアン、選択肢は無いんじゃ」

  デュアン『……ッ、~っ……アカギ』

   アカギ「すまなかったな、あれはあっちのミスじゃ」

  デュアン『ばか……謝るな……これは、オレが一方的に決めた契約した結果だ……アカギは悪くない』

 

オレがアカギに無理矢理契約させたものだ。アカギは悪くない。

 

    子犬「ガウッ!」

またしても子犬が飛びかかってくる。それを大きく後ろへ飛んで避けた。

 

   アカギ「さあ、デュアン!覚悟を決めろ。あっちにはあれを止められん!だが……お前なら、なんとかできるじゃろうっ」

 

  デュアン『アカギ……だから、お前は……』

   アカギ「泣き言は許さん、できるのか?できないのか、どっちじゃ!」

 

・・・相手はただの子犬じゃない。だが、このデュアン・・・輪廻転生で培った経験があれば・・・

 

  デュアン『ああ……分かった。アカギ……お前の願い(けいやく)を結ぶぞ』

 

   アカギ「良い返事じゃ、任せるぞデュアン!紬!?」

子犬が弾丸のように突進してくる

 

アカギはオレを正面へ突き出し、背中を押した・・・

 

 

すると、みるみると人間の姿へと戻った

 

 

  デュアン「残念だが……ゲームオーバーだ!」

オレは魔装の姿になり、魔具の剣を取り出した

 

飛び込んできた瞬間、剣を地面に落として・・・パンッと手を叩き、犬の動きが封じられた瞬間、抱きかかえるように止める。

 

    子犬「ぐるるるるるぅ~っ!!?」

  デュアン「往生際が悪いんだよ、このっ!」

オレは犬じゃ絶対に解けない拘束固めをする。人間にやると、本当に動くことができない。

 

  デュアン「この……暴れるなッ!聞けッ、お前がなろうとしてる人間って生き物はな!!失敗を何度もやらかさなくては学ぶことができない、それくらいバカなんだよ!お前もオレもやり方を間違えてるんだよっ、……でもな……だからこそ向き合わなくちゃいけないんだっ!オレは……紬に支えてもらった分は、一生掛けてでも返していくつもりだ!!他の皆にも、たくさん世話になって、迷惑も掛けて……それでやっと半人前だけど……弱い自分を受け入れていくしか無いんだよ、人間ってヤツはよぉ!!」

 

    子犬「ぐぐっ、ガウウッ?」

 デュアン「お前も目が覚めたら、お前の新しいご主人さまに恩返しをするんだな!いや……みんなに、みんなに、恩返しをするんだ!いいな?約束だぞ……だからまずは間違って集めた物を、みんなに返すんだっ」

 

  デュアン「紬ぃぃいいいい!」

オレはそう叫ぶと・・・

 

    椎葉「うんっ、デュアンくん!はぁぁぁーーーーーッ!!」

    子犬「!!?!!!!!!!?」

ハンマーが叩きつけられ、眩いばかりに光が溢れ出す。最初、まるで無数の蛍のようにオレ達の周りを旋回していた。まるでお礼を言うように。やがて光は持ち主の元を目指し、今度は無数の流星となって一斉飛び去っていく。

 

    椎葉「あっ……綺麗」

思わず、紬もそう呟くほどだった。そのときドデカいハンマーで叩かれたはずの子犬が、けろりとして立ち上がる

不思議そうに左右を見回し、やがてどこへともなく駆け去っていく。

 

・・・多分、厚真さんのところに戻ったのかもしれない。

まっ、大幅に心の力を失ったアイツが、すぐアルプになることはないだろう。それはまた数年後、あいつ次第なんだと思うな・・・

 

   デュアン「……、……」

オレは魔装モードを解除した

 

     椎葉「はあ、なんとかなったみたいだね、デュアンくん?」

   デュアン「そうだな……お疲れ様、紬」

     椎葉「でも……あれ?アカギは?打ち合わせではね、デュアンくんのこと、少しだけ人の姿に戻す方法があるみたいに言ってたけれど、……ねえ……デュアンくん?それって……やっぱり……」

 

   デュアン「ああ、アカギは、自分の心の力を使って……オレを元に戻してくれたんだ……だから……」

 

    カラス「カァー!」

そのとき、黒い大きな鳥が甲高い声を上げた

 

     椎葉「アカギ、なの?」

   デュアン「……」

    カラス「カァー!カァー!」

   デュアン「お前……人の言葉も話せなくなってしまったのか?それじゃもう、新しい魔女を勧誘することも……50年前の約束を、守ることだって……何十年も何十年も掛けて、あそこまで人に近づいたはずなのに……お前というやつは……なんだよ……、……こうなるって知ってたのかよ?」

 

     椎葉「デュアンくん、大丈夫……みたい」

   デュアン「それは……欠片を入れた小瓶!?」

オレと柊史の父さんの心を埋めるのに、使ってしまったはず。

なのに蓋がガタつき、今にも溢れ出さんばかりに満たされていた。

 

     椎葉「きっと、デュアン君の心の穴が埋まったんだよ……むしろ利子を付けてもらったくらい、こんなに凄い反応は初めてだよ」

 

   デュアン「そうか……オレの心の穴が……」

正直、何かが変わったという実感はない。

 

     椎葉「さあ、デュアンくんも持って!」

   デュアン「あ、あぁ……小瓶が欠片で満たされたってことは?」

     椎葉「うん、ワタシがアカギに前借りした魔力を返せるんだよ?」

 

それはつまり、同時に紬も、魔女としての契約から解放される。という意味だ。

 

     椎葉「アカギ、こんなものじゃ足りないかもしれないけど……」

 

  デュアン「それじゃ……オレからも」

オレは左胸ポッケから小瓶を取り出し、アカギから貰った心の力の量を測定し、オレの小瓶から4%ほどの量の心の欠片を取り出し・・・

 

    椎葉「受け取って!ワタシ達が集めた心の欠片っ」

  デュアン「オレからも受け取れ……」

 

【挿絵表示】

 

    椎葉「ワタシが魔女として果たす最後の役目だよ……いつか、アカギが人間になって……当たり前の友達になれるように、ずっとその手助けがしたかった……ようやく、叶えられるね」

 

   カラス「かぁーっ!!」

ついに小瓶から光が溢れ出す・・・

この瞬間にオレの欠片の4%を送り込む。

輝きは幾筋もの虹を描き、オレ達の友達を包み込んでいく。が失ったものに比べれば、ちっぽけなものだったのかもしれない。けど、これがお前の夢を叶える助けになってくれるなら・・・

この光がお前にどんな変化を起こすのか、それを見極めようと、虹が晴れるのを待った。

 

~~~~~~~~~

 

 

 

〈AnotherViewer〉

日に日に深まる冬の寒風は今夜、いよいよ雪を運んでくれるそうだ。

だが凍えるように肩を縮めながらも、みなどこか足取りは軽やかだった。

街全体にも、どこか浮き浮きした空気が漂っている。

 

それもそのはず。

 

12月24日、今日はクリスマスイヴなのだから。

 

    老婆「ふぅー……困ったわねえ、来るのが早過ぎたかしら」

1人の老婆がベンチに腰掛け、寒さに手を摺り合せていた。

 

どうやら誰かと待ち合わせをしているらしい。

 

そこへどこからか、一羽のカラスが飛んできて背もたれに止まったのである。

 

    老婆「あら、ごきげんよう。あなたも誰かと待ち合わせ?」

   カラス「……」

    老婆「ふふふ、ひょっとして私が驚かないのが不思議かしら?でもね、私には昔、少し変わった友達がいたのよ。あなたによく似て、喉のところの羽毛がふさふさしてた……普通のカラスと違って、オオガラスっていうそうだけど、こんなところにも飛んでくるのね」

 

老婆は懐かしそうにカラスを眺めていた。

 

    老婆「ごめんなさい、じろじろ見ちゃって……なんだか思い出しちゃって……私ね、小さい頃、男の子の格好をさせられてたことがあるの……私は身体が弱かったから、強い子に育つためのおまじないなんだって言われたわ」

 

   カラス「……」

    老婆「けど当時はそれが嫌でね……病気が治ったら、他の子みたいに白いワンピースが着てみたいって駄々をこねたこともあったわ……今じゃそんなの、似合わないだろうけど」

 

けど今度は少し、俯きがちになってしまう。

 

    老婆「その友達とね、約束したの……また来年、ここで会いましょうって……ふふふ、変でしょう?でもその子とはちゃんと言葉が通じる気がしてたのよ……けど幸か不幸か、私はもうその病院へ戻ることはなかったの……引っ越しなんかもあったから、子供が1人で行けるような距離ではなかったし……、……なんて、言い訳ね?でもずっと、約束を守れなかったことが気に掛かっていたの……私が元気になれたこと、ちゃんと報告できなかったから、心配させている気がしてね」

 

    老婆「娘や孫にまで、おまじないを続けさせちゃったのも、その子に気付いて欲しかったからかもしれないわ……迷惑なおばあちゃんね、ふふふ」

 

カラスはいつの間にか背もたれではなく、老婆のすぐ隣へ寄り添うように止まっていたのだ。

 

    老婆「もしあなたが、私の友達と会うことがあったら……約束を守れなくてごめんなさいって、伝えてもらえるかしら?」

 

   カラス「カァー!」

    老婆「そう、ありがとう」

    椎葉「お婆ちゃーん!ごめんごめん、待った?」

    老婆「あら、孫が迎えに来てくれたみたい……実はね、今日は孫が彼氏を紹介してくれるんですって、ふふふ、隣りにいる可愛い子がそうかしら?」

 

    椎葉「もう、お婆ちゃん?誰と話してたの」

    老婆「?まあ……いなくなっちゃってるわねぇ」

  デュアン「あ、あの……紬さんの御祖母様ですよね?お、オレはデュアン。デュアン・オルディナ・フィア・レグトールと言います」

 

    老婆「まあまあ、ふふふふ、孫がいつもお世話になってます」

男がガチガチに緊張しながら頭を下げているのをカラスは少し離れた街灯から眺めていた。

 

    椎葉「もうお婆ちゃんったら、そういうのはあとあとっ……今日はデュアンくんも来てくれたから、家族みんなでファミリーパーティなんだから!」

 

紬は老婆の手を引いて、歩き出す。

 

    老婆「ええ、楽しみねえ、とても」

   カラス「カァー!」

カラスも思わず、甲高い声で鳴いてしまった

 

それに気付き、男が呆れたように振り返る・・・

 

  デュアン「おいっ、他人の振りするなよな……お前だって大事な招待客なんだから、勝手に帰るんじゃないぞ、アカギ」

 

   アカギ『ふん、わかっておるよ』

  デュアン「(あれから……調子は大丈夫そうか?人化に影響や言語に問題ないか?」)」

 

   アカギ『大丈夫じゃ……デュアンと紬のお陰で、元の状態、とは言えないが……それぐらい完成度はできておる』

    

~~~~~~~~

 

  デュアン「……お、おぅ」

    椎葉「も、もうお婆ちゃんも、お母さんも、あんまりからかわないでっ」

 

  デュアン「娘が、彼氏を連れてきたんだ……そりゃ誂うだろう?」

    椎葉「……けど、そうなってくれたら、いいなぁ」

  デュアン「どういうことだ!?」

   アカギ『やれやれ、見せつけてくれるな……中で交じることもできんのに、料理だけ出されてもな』

 

文句を言いながらも、皿に盛られたローストチキンをついばむ

アカギは言葉こそ取り戻したものの、前みたいに人化の術の維持が難しくなってしまったのだ・・・元の力を取り戻すには、しばらくかかるだろう。最低年月だろう・・・・。

 

   アカギ『しかしおかげで、古い友達とも再会を果たせた……これで思い残すこともない……あの2人なら、きっと幸せになってくれるだろうからな……行くか、北へ』

 

    椎葉「ちょっと、アカギ?どこ行くつもり」

   アカギ『ぬっ、紬か」

旅立とうと、屋根に登ったところで厄介な相手に見つかったらしい。

 

   アカギ『この土地にいるのも、いい加減飽きてきての……しばし旅へ出ることにしたのじゃ』

 

    椎葉「アカギは渡り鳥だもんね、旅をするのが自然なことなのかもね」

 

   アカギ『そういうことじゃ、世話になったな?……でも、まさか……お前の祖母があっちの友人だったとは思わんかったぞ』

   

    椎葉「ワタシもびっくりしちゃった……でもお婆ちゃんが、ワタシとアカギを結びつけてくれたようにも思うんだ」

 

   アカギ『かもしれん』

 

2人して、今にも降り出しそうな空を見上げた。すぐに飛び立てねば、遠くへ行くのは難しくなるだろう。それでも、なかなか翼を広げる気にはなれなかった。

 

    椎葉「ねえ、アカギ」

アカギ『なんじゃ?』

    椎葉「ひょっとして、人間になるのはもう辞めちゃうつもり?だて、おばあちゃんに会えたことである意味、目的は果たしちゃったわけでしょう」

 

   アカギ『バカ者」

そうクチバシから滑り出したのは、アカギにとっても意外なことだった。

 

    椎葉「?」

   アカギ「目的など、大して重要ではなかったのじゃ……今度は友人として、いつかあの輪の中へ入っていきたい」

 

すぐ下のベランダでデュアンが話を聞いてることも、アカギは気付いていた。

 

   アカギ『今はまた別の気持ちで人間になりたいと思っておる……あっちにとっての自由とは、自分のいたい場所にいつまでもいられることなのじゃから』

 

    椎葉「よかった、クリスマスプレゼントが無駄にならなくて済みそうで」

 

   アカギ『なに?あっちになにかくれるつもりなのか?』

    椎葉「えへへ……気になる?」

   アカギ『あっちは貰えるものなら、なんでももらう主義じゃ……、……で、どんなプレゼントなのじゃ?』

 

    椎葉「今、アカギが一番必要としているものです」

   アカギ『なに?なんであろうな?エサならもう、たらふく食ったが……』

    椎葉「違う違う……人間になるんだったら、心の欠片を集める魔女がいるでしょう?」

 

   アカギ「……ッ、紬?」

    椎葉「そしてその魔女の願いはね、友達が人間になれることなんだよ…いつかその子とも一緒に、パーティができるように」

 

アカギは上を向いてそれを誤魔化した。

 

    椎葉「あっ、雪」

   アカギ『……うむ、そうじゃな』

    椎葉「ふふふっ、デュアンくん!やったね、ホワイトクリスマスだよっ」

 

   デュアン「そうだな……とても綺麗だな」

    アカギ『バカ者、雪など嬉しいものか……これではとても、遠くまで飛んでいくことはできん……もう少し、この場に留まらねばならんようだ」

 

    椎葉「うん、そうしよっ、アカギ?これからも、よろしくね」

 

 

 

~~~~~~~~~~~




今年中に紬ルートのお話が完結しました。


来年も「サノバウィッチに転生して、青春を謳歌したい」をよろしくお願いします。



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Ep64 覚悟の証



綾地x柊史ルート 開始




 

 

12月25日

 

~~~Another

 

   保科「寧々にも笑って欲しい。オレのことを気して、悲しい表情になってほしくないんだ……だから笑ってくれないか?寧々の笑顔を、オレは見たい」

 

   綾地「……、……そうですね……はい。柊史くんがそういうなら、笑います。ちゃんと笑いたいと思います……だから、笑うために……これで、最後にしますから……今だけは……」

 

   保科「……いいよ。受け止めてから。全部、受け止める」

腕に力をしっかりとこめて、寧々の身体を引き寄せて抱き締めた。

 

   綾地「…………」

オレも寧々も離れたくない。そんなことは確認するまでもなく分かっている。だが、デュアンの魔法が完成しない以上、オレと綾地さんと同じ時間を歩むことはできない。

 

   綾地「そろそろ、戻りましょうか?」

その顔は、先程の約束通り、いつも通りの笑顔が浮かんでいた。

 

   保科「ああ……そうだな」

それに、放課後になったら因幡さんたちも来るだろうし・・・な

デュアン、空気を読んでくれるだろうか?

 

   綾地「ところで、あ、あの……1つお願いがあるんです」

   保科「?」

   綾地「週末に……わ、私と、デート……してもらえませんか?」

   保科「デート……椎葉さんやデュアンが行ってたし……別にかまわないんじゃないのか?」

 

   綾地「その、私の発情のせいもあって、色々と順番を間違えてる気がするんですが……デート、したいです。柊史くんと」

   保科「ああ……オレもだよ……寧々……オレとデートして下さい、よろしくお願いします」

 

   綾地「はいっ、喜んで」

 

~~~~~~

 

  デュアン「……綾地さん、柊史……覚悟は決まったか?」

    綾地「……、……はい」

    柊史「あぁ……オレは綾地さんと共に一緒に過去へ飛ぶ」

  デュアン「柊史……言っとくが、子供時代に戻ると……ON/OFFの切り替えが更に難しくなる……下手すりゃ心が壊れる可能性だってあるんだぞ……しかも、今のお前は……母親の"心を読む力"と柊史が元々持っていた魔女の継承の証の"相手の感情を五感で感じ取れる力"の両方が両立してるんだ……それでも、過去へ飛ぶんだな?」

 

    柊史「ああ……男に二言は無い」

  デュアン「分かった……綾地さんの欠片はほぼ満タンに近しい量だ……多分、おそらく……後1週間も無いだろう」

 

    柊史「……そう、か」

    綾地「……デュアン君も来るんですよね?」

  デュアン「分からない……だが、紬を送ることにはなった」

    柊史「椎葉さんを巻き込むのか?」

  デュアン「了承を得た……そして、アカギは……綾地さんと同じ時間に飛ぶようにセットしてある」

 

前に、アカギに「綾地さんの時間遡行する際、オレは柊史や紬を過去へ飛ばす……アカギはどうする?」と言ったときに「飛べるなら、あっちも飛ぶ」となり・・・過去へ飛ぶことになった。

 

    綾地「デュアン君……欠片の量……足りますか?」

  デュアン「正直に言えば……記憶保持状態で飛ばすのは足りていない……せいぜい誰かが記憶保持を諦めて、"想い"だけを過去に送ることしかできないかもしれない……」

 

    柊史「そうか……」

  デュアン「あっ……そうだ。肝心なことを良い忘れてた」

    柊史「?」

    綾地「なんでしょうか……?」

  デュアン「綾地さん……時間遡行した後の行動は慎重に動くんだぞ?」

 

    柊史「どうしてだ?」

  デュアン「歴史の修正点ってのはバカに出来なくてね……。同じ行動をしたとしても全てが同じになるわけではない」

 

    綾地「……それはつまり?」

  デュアン「この時間軸と同じになるとは限らない……だから動く時は慎重に動くんだぞ?」

 

    綾地「分かりました……気をつけます」

    柊史「過去に飛んで、最初に綾地さんとコンタクトを取ったほうがいいのか?」

 

  デュアン「綾地さんが両親と離婚したのがちょうど小学校5年の後半辺り……つまり、綾地さんが姫松に来るのは中学辺りなんだ」

 

    柊史「オレはずっと姫松にいたからな……小学校では無理か」

  デュアン「紬にもこのことは伝えてある……つまり、どうあがいても柊史が綾地さんと会えるのは中学校からだ」

 

    柊史「そう、か」

  デュアン「まあ……綾地さんが小学校入学する前の時間に飛ばすことを視野に入れれば良いが……今の綾地さんには不可能で、オレにはそこまでの欠片の力を持っていない」

 

    柊史「魔法作成にしたって心の欠片は必要だよな」

  デュアン「ああ」

    綾地「大丈夫です……デュアン君、なんとかしてみます」

  デュアン「分かった……それじゃあ、次会う時は……欠片で満たした頃だろう……」

 

 

~~~~~~~

 

   デュアン「さて……と」

オレは考える全ての可能性と現存する欠片、能力を駆使して・・・すべてが丸く収まる方法を考える。

 

――――――そうこう考えてると、時刻が16時を刻む。

 

   デュアン「そろそろ出かけなきゃな……」

オレは、マフラーをし、コートを着て、部屋から出る。

 

 

オレは、駐車場に停めたバイクに乗り、フルフェイスを被る。

 

 

バイクを走らせながら、約束した場所へと向かう。

 

 

オレも、そろそろ紬に話さなければならないことがあるしな。

 



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Ep65 オレは異世界人だ

 

 

~~~~~

 

  デュアン「……」

オレは、バイクを定位置に停め、雪の降る寒空の下で紬を待っている。

 

バタバタと鴉が、一匹オレの肩に乗っかってきた・・・

 

  デュアン『どうした、アカギ?』

   アカギ「デュアン……お主、明日は暇か?」

  デュアン『?ああ……特に予定は入っていないが?』

   アカギ「デュアンに会わしたいヤツが居るんじゃ」

  デュアン『魔女絡み、か?』

   アカギ「簡潔的に言えば……そうなのじゃ」

  デュアン『了解した』

   アカギ「すまぬな」

そう言って、アカギは羽ばたいて、どこかへ行ってしまった・・・

 

魔女絡み・・・か。オレに相談ということは、多分・・・相馬さんにも相談できないこと、もしくは過去の魔女か?

 

考え事をしてると、紬がキョロキョロした様子で居る。

 

オレはフルフェイスを外し、紬を呼ぶ

 

   デュアン「こっちだ……紬!」

     椎葉「デュアンくん!バイクで来てたんだね」

   デュアン「今日はバイク移動だから……ほれ」

オレは、フルフェイスを紬に渡す。

 

     椎葉「の、乗るの!?」

   デュアン「そうだ……流石に徒歩で行くのはヤバいからな」

     椎葉「今日は行くところって……?」

   デュアン「ちょっとしたオシャレな場所だ」

     椎葉「う、うん……」

 

オレは、バイクで飛ばし・・・1時間ぐらいして

 

   デュアン「よし……」

オレは、駐車場にバイクを停めて、ヘルメットを外す

 

     椎葉「此処って……つい最近出来たんだよね?」

   デュアン「ああ……此処の地上28階の展望レストランに予約してあるんだ……」

 

     椎葉「ふぇぇぇええ!?」

   デュアン「オレ持ちだから大丈夫だ、問題ない」

 

オレはエレベーターに乗って。28階の展望レストランの個室を予約してある。オレはレストランに入ると、受付からカードを貰い、部屋を案内された。

 

オレは、部屋の横にある機械にスリットさせると「Access:Dhuan様」と表示され、鍵が開いた。

 

オレは、部屋に入り、席に座る。

 

    デュアン「紬も座れよ」

      椎葉「う、うん……此処、高そうだけど……大丈夫なの?」

    デュアン「値段は気にするな……とりあいず、好きなの注文しなよ」

 

      椎葉「う、うん……」

 

色々注文していき・・・2時間ぐらいが経過した

 

    デュアン「なあ、紬。これから話すことは……絶対に誰にも言わないって約束できるか?」

 

オレは、まっすぐ紬の眼を見て言った

 

      椎葉「え?」

    デュアン「いいから……答えてくれ」

      椎葉「わ、わかった……」

覚悟を決めるぞ・・・デュアン。

 

    デュアン「……オレは実はこの世界の人間じゃないんだ……実は……」

 

      椎葉「へ?」

    デュアン「云わいる"異世界転生人"なんだ……」

      椎葉「ふぇぇえ!?」

    デュアン「オレの本当は人間じゃないんだ……前に、アカギに"オレはお前と同じ、人間の出来損ない"って言っただろ?」

 

      椎葉「うぅ~ん?そうだった、かな?」

    デュアン「そうだったの!それで……オレが死ぬことで転生神によって、別世界に転生してもらえるんだ……、……だから紬。も、もし……よかったら、オレと一緒に輪廻転生の旅に付き合ってくれないか?」

 

      椎葉「それって、ワタシも異世界転生が出来て……デュアンくんと同じ強さを得られるってこと?」

 

    デュアン「それはわからんが、多分……地獄を何度も経験すれば、できると思う」

      椎葉「ワタシ、デュアンくんのためなら輪廻転生を受けるよ!」

 

紬は嘘偽りなく言った。

 

    デュアン「その覚悟……本物のようだな……なら」

オレは、神話言語で神様に話しかけた

 

      椎葉「?」

    デュアン「"転生神の権能にして、最上級神の使徒の名に置いて命ずる。椎葉紬を輪廻転生の許可受諾の申請!"」

 

すると、紬とオレにしか聞こえない声で・・・

 

    『最上級使徒=神殺しデュアンの権限及び転生神の輪廻転生の受託を確認。以後、椎葉紬は使徒デュアンの配下となり、使徒を司る天使としてデュアンのバックアップ補佐に任命されました。この世界で絶命、天寿を全うした時、天界へ転送されます。』

 

    デュアン「あっさり通ってしまったな……もし、輪廻転生に飽きたら、オレかアークさんに言え」

 

      椎葉「どういうこと?」

    デュアン「神殺しだからな……オレとアークさんは」

      椎葉「それが、デュアンくんの秘密?」

    デュアン「ああ……本来なら勉強せず、株や経営者側でがっぽり儲かって……一生遊んで暮らすはずだったんだけ……神様との約束で「せめて日常生活ぐらい謳歌しなさい」って言われたんだよね」

 

      椎葉「デュアンくん……」

    デュアン「まあ、転生の秘密はまた次回に話すとして……問題なのが、綾地さんだな」

 

      椎葉「えっ?綾地さん?」

    デュアン「綾地さんの願いは"離婚する前の両親と再会したい"という、とんでもないデカい願いだ」

 

      椎葉「?それってデカいの?」

    デュアン「綾地さんのご両親は既に離婚して、再婚している……だから、綾地さんの魔法は限定的な時間遡行……なんだ」

 

      椎葉「そうだったの!?」

    デュアン「そして……オレが今……保有している、この心の欠片」

 

オレは胸ポッケから小瓶を取り出した。

 

      椎葉「溢れ出さんばかりの量だね」

    デュアン「オレは、綾地さんの心が壊れない為に……オレは、小学生の頃に、綾地さんの魔女として完遂した時に発動する魔法を作り出した……」

 

      椎葉「そ、その魔法とは?」

    デュアン「その魔法は"綾地さんの魔法に乗っかって、多数を綾地さんと同じ時間軸へ飛ばす"魔法だ」

 

      椎葉「……、……」

    デュアン「当然パラドックスが発生し、この時間軸にいる綾地さんは消滅する……」

 

      椎葉「デュアンくんは……指定してるんだよね?」

    デュアン「ああ……、綾地さんは既に柊史を恋人にしてるから柊史も入っている……勿論、オレの恋人である椎葉さんも入っている」

 

      椎葉「でも……小学生のワタシは……姫松に居ないよ?」

    デュアン「そこは紬の腕次第だ……んで、最後にアカギを入れた」

 

      椎葉「え?アカギを?!」

    デュアン「バックアップさせるつもりだ……まあ、記憶保持する人数が減った為、オレが紬に対する想いを心の欠片として具象化させるから……もし、オレと出会うなら、それを使うと良い」

 

      椎葉「わ、わかった……でも綾地さんが完遂するのって……何時だか分かるの?」

 

    デュアン「早くて今年、遅くて1月10日には完遂できる」

      椎葉「ワタシが魔女になってまで手に入れた服はどうなるの?」

 

    デュアン「ちゃんと持っていけるよ……っ、さて……今日はどうする?外泊するか?それとも解散するか?」

 

      椎葉「う~ん……せっかくだし……あのハートマークの宿に行こうよ」

    

    デュアン「ラブホ?まぁ……構わんが……」

 

オレは部屋のキーをフロントまで行って、合計金額が15万だ。オレは黒色のクレジットカードで支払った。

 

そして、紬の要望通りにラブホテルに宿泊した。

 

~ラブホテル

PM 21:30

  

  デュアン「ふぅー……」

オレはマフラーを取り、コートを脱いで、ハンガーにかける。

オレはベットに横になると、紬が奥で「すご~い」と騒いでいる。

 

オレはベットから起き上がり、紬のところへ向かうと・・・

 

    椎葉「ここのお風呂、全面ガラス張りだよ?しかも、トイレもお脱衣所も鍵が無い……それにあの透明な液体はなんだろう?」

 

  デュアン「潤滑剤だな……ふむぅ……色んなのがあるな」

    椎葉「この卵みたいなものは何?」

  デュアン「あぁ……それはローターといって、クリに当てたり、膣に入れて、気持ちよくするための道具だな……」

 

オレにこんな説明しても恥ずかしくないのは、きっと・・・オレの中で「感情のコントロール」が上手く出来ている証拠だな。

 

でも、紬とのエッチするときはすげぇ、恥ずかしい。

オレから"求めたい"という気持ちを押し殺して・・・我慢をしなきゃな・・・

 

     椎葉「せっかくだし……一緒にお風呂入ろうよ」

   デュアン「婚約はしたが……結婚をすっ飛ばして、一緒に入浴?」

     椎葉「え?別に普通でしょ……」

   デュアン「普通、なのか?」

 

まあ、シャルと一緒に風呂はいったこともあるし、ヤミとも入ったこともあるし・・・ユウキはVRMMO中だけど入ったこともあったから・・・普通、なのだろうか?

 

     椎葉「だめかな?」

そんな捨てられた子犬のような眼で見ないでくれよ・・・

 

   デュアン「わかったよ……その代わり、タオルで隠せよ?」

     椎葉「流石に裸は恥ずかしいよ」

   デュアン「俺ら裸より恥ずかしいことをしたんだぞ?何を今更……」

 

オレはふふふっと笑う。

 

     椎葉「脱衣所……先に借りるね」

   デュアン「おぅ……」

オレはバッグから、紬の魔女衣装を取り出した。

文化祭の前に完成はしていた・・・

オレは魔女衣装を仕舞って、3分が経過したから、オレは脱衣所へと向かう。

 

~脱衣所

 

オレはマフラーを外し、コートを脱ぎ、長袖を脱ぎ、Tシャツを脱ぎ、その次にズボンとパンツを脱いだ。

そして、オレはタオルを全身に巻き・・・風呂場に入る

 

    椎葉「あ、あれ……男の人って腰を隠すんじゃないの?」

  デュアン「今夜はエッチなことをしないように……」

オレは右側の蛇口を捻り、冷水のシャワーを浴びる・・・

 

   ミュウ「ひぇ……つ、冷たい」

    椎葉「むぅぅ……」

   ミュウ「そんな膨れるなよ……だいたい、婚約してるとはいえ……近藤さんを使わないセックスは流石に……まずいだろう」

 

学生中に妊娠が発覚したら、紬の親父さんに殺される・・・。普段優しいけど、絶対に怒らせたらヤバいという雰囲気がある。紬のお母さんも紬と同じほわほわした雰囲気してるけど、怒るとやべぇだろうな・・・。

 

   ミュウ「とにかく、これでエッチはできまい、ふははははっ」

    椎葉「ねぇ、デュアンくん……ううんミュウちゃん」

   ミュウ「なんだね?紬くん」

    椎葉「女の子同士のエッチも凄いんだよ?えへへ……B組の稚花ちゃんから聞いたんだけど……やってみようよ」

 

   ミュウ「ほ、ほわぁ!?」

    椎葉「ま、それもお風呂入り終わったら……ね」

 

B組の稚花って宮澤さん?!まさか・・・そういうのに興味あるとは・・・

 

   ミュウ「ま、まぁいいや……」

 

 

 

このあと、風呂から出たあと・・・メッチャクチャエッチした。

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep66 恋の相談

 

 

次の日、いつもの日常でオカ研の部屋で・・・

 

    

    保科「今日は、先輩は……来てないね」

    綾地「戸隠先輩なら、今日は学生会の方に用事があるって言ってましたよ?」

 

    椎葉「なんだろう?イベントかな?」

    因幡「えぇ?!クリスマスの後のイベントって流石に無いですよね……?」

 

    綾地「えぇ……」

   デュアン「……、……」

    

 

コンコンッとノック音がする。

 

    綾地「はい。どうぞ」

    保科「……」

 

 

   デュアン「っ……!」

      ?「あのー……相談したいことがありまして」

   デュアン「和真……お前がオカ研に相談事があることなんて珍しいな」

 

こいつ、基本的におちゃらけてるからな・・・

 

     和真「オレにだって、悩みごとの一つや二つあるぞ」

     保科「そうなのか?」

     和真「柊史よ……人間に悩み事が無いなんてことは……絶対にあり得ない……完璧な人間と同じく、な」

 

     因幡「デュアン先輩がそれに該当しそうですが……」

     椎葉「た、たしかに……」

     綾地「同じく」

     保科「あー……」

   デュアン「みんなして、オレを何だと思ってんだ!!」

 

オレを完璧超人だと思ってるだろ!

 

     椎葉「えっと……完璧超人?」

     和真「スパコン並の演算力と瞬間記憶能力?」

   デュアン「演算力は勝手に身につくぞ?記憶能力は、生まれつきだからしょうがない」

 

     保科「記憶能力かぁ……いいよなぁ。テストとか絶対に赤点とか取らない便利要素の一つだよな……」

 

   デュアン「でも、瞬間記憶能力って……脳に負担がかかって、不便だぞ……六法全書クラスを数ページを一瞬で読めば、まず嘔吐は確実、全ページを読めば、気絶は待ったなし」

 

リリカル世界線だが、ジュエルシードや大結界を張った時に複写魔眼(アルファスティグマ)で、術式を見た時は、ヤバかったなあ・・・

 

 

     椎葉「うぇ!?」

   デュアン「オレのことはどうでもいい……和真。お前の要件を言えよ」

 

     保科「あっ……そうだった」

     綾地「ゴホンッ……それで、井上くんはどういう要件で来たのでしょうか?」

 

     和真「えーっと、だな。実は好きな人が出来て、さ」

   デュアン「ほぅ?珍しいな」

     和真「お前にだけは言われたくないぞ……」

     保科「た、たしかに……」

     綾地「あ、はは……デュアン君は、人の好意に鈍感すぎますからね」

 

   デュアン「っるせ……オレはただ、愛に気付けなかっただけだ……だから、こうやって紬と恋人になったんだ」

 

オレは、紬の方へ顔を向け、にっこりと微笑む。

 

     椎葉「デュアンくんっ」

紬は照れてしまった

 

     綾地「それで……好きな相手、とは誰のことでしょう?」

     因幡「あっ……私も気になります」

     和真「先輩だな」

   デュアン「先輩……和真が好きになる相手って大抵は学校の人気者だからな……クラスで人気者で先輩となれば……」

 

     保科「戸隠先輩だな」

     和真「ちぃ……これだから頭のいいヤツは嫌いなんだ」

   デュアン「オレと柊史が居れば……ウソや隠し事が出来ないと思ったほうがいいぞ……柊史はリアル心理学を持ったヤツだからな」

 

     因幡「えっマジですか?!」

   デュアン「大マジだ……だいたい、ウソや隠し事をしてるって見抜くのは結構簡単だぞ」

   

     因幡「うっそだー」

   デュアン「ちなみに、柊史はその上位互換版で相手の先を読むことができる「コールドリーディング」を習得している」

 

     和真「すげぇな……って、相談に乗って欲しいんだよ!」

   デュアン「……お前が戸隠先輩が好きなのは分かった……んで、俺らオカ研に何をして欲しいんだ?」

 

     椎葉「もぅ……デュアンくんったら」

     因幡「井上先輩が戸隠先輩のことが好きなんて珍しいですね……」

 

     和真「そう、なのか……?」

   デュアン「そうなのだろうか……」

     保科「どうだろうか……?」

     綾地「そうなのでしょうか……?」

     椎葉「えぇっと……そうか、な?」

     因幡「……先輩方!?」

     保科「また、話が逸れたぞ……」

   デュアン「おっといけないいけない……相談だったな」

 

だが、実際のところ。和真は、海道と違ってしっかりしている。成績はまぁまぁ優秀の部類だ。不真面目で、目立ちたくないオレとは正反対な性格をしている。和真は目立ちたがり屋というより、好きな相手には積極的なアピールをしている・・・動物で例えるなら犬かな?

 

と言うか、オレが単に捻くれてるだけだけどな。

 

     和真「んで……戸隠先輩の好きな物とかを調べて欲しいんだ」

   デュアン「会長の好きな物か……知らんな。そもそも、オレ……会長のこと、苦手意識があるし」

 

     椎葉「えっ……そうなの?」

     保科「そういや……そうだったな。理由までは聞いてなかったけど」

 

     和真「ふーん……デュアンらしかぬ発言だな……デュアンって女子なら誰でも好きそうなイメージだと思うんだが」

 

   デュアン「そんな訳なかろう」

     保科「なんか……話が脱線してるぞ。和真……お前は相談しに来たんだろう」

 

     和真「そうだったそうだった……会長の好きなものとか、好きなタイプとか居たら教えてくれ」

 

   デュアン「了解した……明後日までに答えだしとくよ」

     保科「もう27日だぞ……」

     綾地「冬休みに入っちゃってますからね……」

 

それ以前に、オレと柊史と綾地さんと紬には時間が限られている。

 

 

つまり・・・和真の依頼を受けようが受けないが時間遡行しちゃったら、リセットされてしまう。

だから、次の時間軸でやることは・・・

 

・小学校地点で、綾地さんと柊史を会わせる。

・早い段階で、紬と一緒になる。

・高校の1年で和真と会長をくっつける

 

難しいが・・・やってやれないことはない。

 

   デュアン「大事なことをいい忘れていた……和真、お前……会長のこと何時から好きだったんだ?」

 

     和真「え?そりゃ……1年の頃から……いや中学の頃かな?」

     保科「えっ……和真って、何時から会長と出会ったんだ?」

     和真「少なくても中学の春ぐらいかな?」

   デュアン「…………」

 

なるほど・・・やることが増えちゃったが。やれないことはない。

 

いい情報だ。

 

     和真「?」

   デュアン「和真……とりあいず。schwarz・katzeで会長を誘え。そして、好きなのおごってやるって言って……雰囲気を作るんだ」

 

     因幡「?どんな風に、ですか……デュアン先輩」

   デュアン「んなものオレが知るか……オレは和真じゃないし、オレの取り柄ってほどんどねぇからよ」

 

     保科「た、たしかに……だけど、お前は優しさって取り柄がるだろ!」

 

     綾地「そうですよ……デュアン君は誰にでも優しいじゃないですか」

 

     椎葉「うんうんっ……人だけじゃなく、動物にだって」

   デュアン「……、……オレは優しくない」

 

昔を思い出す。

 

オレは、優しくなんて無い。

 

世界を敵に回してでも、一個人を救い・・・その救った個人にオレを殺させたり・・・

 

オレを好きだって言ってくれた人を置いて、自害に近いことをして、死んだりしたからな。

 

人でなしが充分お似合いの称号だ。

 

     デュアン「とにかく、オレにアドバイスできることは……それくらいだ……悪いが、帰らせてもらうな」

 

       保科「お、おぅ……」

       綾地「お疲れ様です……」

 

オレは、荷物を纏め。バッグを肩に背負い教室へ出ていく。

 

      

 



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Ep67 条件魔法

 

 

 

キラキラと舞い散る、心の欠片。

 

雪と混ざり、幻想的な風景を描いている。

 

 

    デュアン「これで……7人目か」

後4日か5日がタイムリミットだろう・・・オレは、オレで時間遡行できる人数の領域を増やさないとな。

 

オレは、自分の心の欠片の瓶を見つめていた・・・

 

     アカギ「ここにおったのか……デュアンよ」

   デュアン「っ……アカギ、よく此処が分かったな……というか、全身黒でフードまで被ってるオレをよく見つけられたな」

 

     アカギ「なにを……黒は、孤独を意味する色でもある……紬が心配しておったぞ」

 

紬に心配させちゃってたか・・・だけど、未来のためにも多少は無理をさせなければ・・・な

 

   デュアン「それは、悪いことをしちゃったな……」

    アカギ「デュアン……本気で、七緖の魔女の魔法に乗っかって時間遡行する気でいるのか?」

 

   デュアン「ああ……オレの我が儘であり、綾地さんとの約束でもある……それに、アカギ。お前もその過去に乗るんだぞ」

 

    アカギ「……それは、紬の心が壊れない為か?」

   デュアン「……っ!」

    アカギ「やはり……時間遡行する心のエネルギーの充填してない状況で、お主の魔法を使ったら……」

 

   デュアン「あぁ……代償というとんでもない暴利の利子が来るだろうな……記憶消失か、男物の服が着られなくなる、か……」

 

何方にしても、紬が傷つかない方法を選んでいる。だが、やはりオレの考えは間違っている、のか?

 

    アカギ「お主個人がこの世から消える可能性もあるわけか」

   デュアン「あぁ……その可能性もある。だから、アカギ……時間遡行した時に……一時的に、紬の記憶からオレに関わった事柄の記憶を消してくれないか……?」

 

    アカギ「悪いが、断る……デュアンは紬を好きなんだろう?番になったんじゃろう?一度繋がったのなら、離すんじゃない。繋ぎ止めるのじゃ……契りを破るモノは最低じゃぞ」

 

   デュアン「……、……そうだな……裏切りは良くないな」

 

頑張るしかないな・・・学校は冬休み。綾地さんと柊史達が居ればオカ研は大丈夫だろう。

 

 

    アカギ「ッフ……それでこそ、我が友じゃ」

アカギはそういい人化から鴉になって飛んでいった・・・

 

 

~~~~次の日

 

 

   デュアン「……なあ、紬。今日、オレの家に泊まりに行かないか?」

 

     椎葉「いいの!?」

   デュアン「ああ……なんだか、最近。1人が居るのが少し寂しくて、さ」

 

アカギの言葉で、オレの心が孤独を感じている。昔は感じたことなんてなかったのに・・・他人と触れ合い過ぎた、のかな?

 

 

     椎葉「最近、元気がないのはそのせい?」

   デュアン「いや……俺らは時間遡行するだろう?」

     椎葉「う、うん……」

   デュアン「オレの今の心の欠片のエネルギーじゃあ、せいぜい記憶保持できるのが3人弱なんだ」

 

     椎葉「え……?」

   デュアン「オレの分を除外して……時間遡行したオレに紬が好きと言われても、多分オレは「そうか、オレも好きだよ。友達として」と答えると思う……オレは人の好意には鈍感だからな」

 

     椎葉「……、……」

   デュアン「だから、紬。明日から、オレは4日間遠くへ行って、欠片を集めてくる。その、……待っててくれないか?」

 

     

ぎりぎり綾地さんの時間遡行までに間に合う、か?

 

・・・出し惜しみは無しだ。本気でやってやる

 

 

――――――その日の夜

 

布団を二つ敷いて、オレの横で紬が寝る形となる。

 

    デュアン「なんだか新婚さんみたいな風になっちゃったな」

オレはそう言うと・・・

 

      椎葉「そうだね……えへへ」

ああ。可愛いなあ・・・。

オレは自然と紬を抱きしめていた・・・

紬は「ふぇぇええ」と慌てふためいた。

 

    デュアン「……」

オレは紬の暖かさを感じたかった。オレは数分もしないうちに寝てしまった。

 

〈Another View〉

 

    椎葉「デュアンくん……」

ワタシはボソリと呟く。ワタシも寝ようと、した時だった・・・

 

  デュアン「……ぅ……、……オレを……、……独りに……、……っ……ノ……、言わ……くれ」

 

デュアンくんは、悪夢でも見ているのかな?それとも、前世の?

 

     椎葉「大丈夫だよ……デュアンくん。ワタシが着いてるよ……もうデュアンくんは独りじゃない……孤独を感じる必要なんて無いんだよ」

 

ワタシは優しくデュアンくんの頭の後ろを撫でると、デュアンくんは涙を流していた・・・

 

デュアンくんは落ち着きを取り戻し、安定した寝息を整えた。

 

 

 

 

 

~~~~次の日

 

〈Dhuan View〉

 

   デュアン「……んぅ……」

オレは目を覚ますと、紬の顔が目の前に・・・

後数ミリ単位で接吻間近な距離にいる・・・

 

 

     デュアン「(俺、寝てる間に……紬に抱かれた?)」

寝相は悪くない方だが・・・?と、とりあいず・・・ホールドを解除しなければ・・・と、動こうとした時

 

     椎葉「んぅ……、や!」

寝ぼけてるのか、それとも抱きまくら感覚で俺にしがみついているのか?

ホールドを解除してくれない・・・。

 

    デュアン「紬、離してくれ……起きてくれ」

      椎葉「……や、離さない」

ふむぅ・・・どうしたものか。

 

 

    デュアン「……(時間が残されてない……、……ならもう最後の手段で能力を使うとするか)」

 

『この世の理を捻じ曲げる能力』。異世界によっては『全ての理を捻じ曲げる能力』に進化するんだが・・・

 

俺には、時間操作能力の適性がほぼ無いからな・・・。アノスの時間操作(レバイド)を複写模倣し、改変しても・・・時間を停められるのは、せいぜい3分弱、時間を消し飛ばせるのは1分が限界。この世界で、時間遡行するには、綾地さんの魔法を利用して跳ぶしかない。

 

流石、アノス様だわ。彼を殺せる勇者って、考えるだけでやべぇわ。俺、アノスの味方で友達でマジで良かったわ。

 

俺の転生の中でアノスと達也だけは別格でやべぇと思える。というか、アノスと本気で戦闘(マジでバトル)したら10000回殺される自身を自負できるわ、と言うか転生不能なダメージを食らう。それは、俺の人格や今まで得た経験値

 

 

時間の操作を転生特典で選んで無理矢理適正を伸ばしても、必ず限界を感じる。例えるなら、最初っから剣術のチートを授かっても、何百年訓練した熟練の剣士には勝てない。俺が、物語の主人公に戦って勝てない理由の一つだ。

 

主人公の長所に、全力で挑んでもバカを見るのがオチだ。俺は、転生特典は物語の主人公の人の為に使うと決めている。私情も有るが、まぁ・・・そんなこと些細な事だ。

 

 

だがそんなバカでも、俺には能力である『この世の理を捻じ曲げる能力』がある。それは、絶対に生きるモノが持ってはいけない能力の一つでもある俺の原初のチカラで、神すら匹敵する俺の最弱の武器。

 

この能力は世界の理、ルールを強制的に捻じ曲げる能力。しかも、下手をすれば、取り返しのつかない能力だ。強いて言うならば、めだかボックス世界線での球磨川先輩の「手のひら孵し(ハンドレッド・ガントレット)」の系統の「大嘘憑き(オールフィクション)」レベルだ。いや、それの狂化版だな、これ。

 

 

・・・ちょっとズルいが、俺の根源とも呼べる魂を消費して、時間操作魔法を使えるように調整するしか無い・・・か。

 

 

そもそもこの世界の魔法の行使は、心の欠片を使って「一度」だけ奇跡という魔法を使える訳だ。まどマギ世界線で言えば、魔女との契約だな。

 

QBに例えるのは、アカギや相馬さん、この世界のアルプに失礼な発言だな。失敬失敬

 

なぜか、俺は魔法には、その枠組に入らない。おそらく、アルプの力の一部なんだろうと推測する。

 

 

とりあいず、魔法は完成した。

 

200年分の魂を削り取られた気分だ。木月さんの代償を肩代わりした時に発生した記憶喪失化が起きた感じだ・・・。

 

まあ、限定的な時間遡行魔法を作り出したんだ、200年分の魂ぐらいどうってことないな、むしろ安い代償だ。

 

まあ、魔法発動にも条件があるんだが・・・、これはあくまで綾地さんの魔法に乗っかるという絶対条件で成り立ってる。俺は欠片の消費量をベースにしてる。

    

     椎葉「……んぅ、……あれ。デュアンくん?」

瞼をゆっくりと開ける紬。

 

まあ、これ以上考え込んでもしょうがない。

 

   デュアン「おはよう、紬……とりあいず、ホールドを解除してくれると助かる」

 

俺は微笑を浮かべる

 

     椎葉「ふぇ、ふぇぇえ。ごめんね?苦しくなかった?」

   デュアン「いや、大丈夫だ……」

     椎葉「そっか、……そういえば、デュアンくん」

   デュアン「ん?」

     椎葉「昨日……泣いていたけど、どんな夢を見てたの?」

   デュアン「え?」

 

俺が、泣いていた?・・・どんな夢、と言われれば・・・どんな夢だったんだろう?

 

・・・とても、悲しくて、辛いのに思い出せない。いや、そもそも夢の内容を鮮明に覚えてる方がおかしいのか。

 

     椎葉「デュアン、くん?」

   デュアン「ふっ……夢なんて覚えてる訳ないよ」

 

そもそも、俺は人であることを既にやめている存在だ。生物上では人間だが、精神や魂は既に別次元の存在となっている、がな。

 

 

     椎葉「え……完全記憶能力なのに?」

   デュアン「完全記憶でも、記憶できないことはあるよ……俺の直接的な干渉しない情報は無理な話だ」

 

     椎葉「それって、映像も?」

   デュアン「ああ……映像は無理だな、それは……脳の記憶の限界でもある……」

 

     椎葉「……ん?あれ?そういえば……ワタシが初めて魔女の姿の時……保科君と一緒に「ガンダムバルバトス」って言ってなかった?」

 

   デュアン「俺は言ってない……心の中で思ってただけで……」

     椎葉「そうだった?」

   デュアン「うむ……言ってたのは柊史だぞ」

ばったばた死んでいくオルフェンスは、転生したことが有る。鉄華団を全員生存+アイン、マクギリス、ガエリオを生存させる無茶ゲーをしたなぁ・・・というか良く達成できたよな。俺が考えたオリジナルガンダムがなきゃ、ハシュマル戦で死んでいたと自負している。

後は、転生の経験値も大きいか。

 

 

・・・どうやら失われる情報はランダム?怖いな。今後は魂に負担をかけないようにしなきゃな。それか神様に魂の保存をさせるか・・・。

 

勇者カノンみたいに7つの根源に分ける?。俺には盾の勇者世界線で7つの大罪を極めた神殺しに不可能は無い・・・けど、確実に"あちら側"に堕ちるなきっと。

 

 

 

まあ、俺のチカラは後回しだ

 

     椎葉「で、……最近……デュアンくん……何をしてたの?」

 

   デュアン「欠片を集めまわってた……それも膨大な量を、ね」

     椎葉「え?!」

   デュアン「まあ……本当は数日を掛けて欠片を集めるつもりだったけど……それも終わりになったよ」

 

     椎葉「え……ま、まさか!?」

   デュアン「そう……魔法を創造(クリエイティブ・マジック)……未完成だった魔法を綾地さんの魔法を条件(トリガー)に発動する……条件型時間遡行魔法だよ……ま、その作成条件に200年分の記憶とちょっとした魂の消費で済んだけど、ね」

 

     椎葉「じゃ、じゃあ……綾地さんと一緒に」

   デュアン「ああ……準備完了だ」

 

 

再会は、最低でも中学後半辺りかな?

 

 

 

 

でも・・・この魔法。綾地さんの一定の距離じゃないと発動できないのは、痛いよなあ。

 

     椎葉「……、……デュアンくん?」

   デュアン「…………」

俺は紬を目一杯抱きしめる。コレ以上無いくらいかってぐらいに目一杯甘えて。

 

    

・・・本当、俺は最低だ。

 

 



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Ep68 時間遡行 ★

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

   デュアン「相馬さん……貴方も、時間の流れに逆らってみませんか?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

     相馬「……そんなことがキミにできると、でも?」

   デュアン「できますよ……もちろん、アルプの経験値を引き継げるし、記憶も引き継げる……どうです?」

 

     相馬「……」

   デュアン「貴方は寧々の契約者だ……貴方が嫌と言っても、無理矢理でも連れていきますけど、ね」

 

     相馬「条件がある……」

   デュアン「それは?」

     相馬「また、シュバルツカッツェで働いてくれないだろうか?もちろん、仮屋さんも……ね」

 

   デュアン「……綾地さんとオレは小学校からの幼馴染で、高校の時に、柊史と海道と一緒だったな……ふむぅ」

 

調整すると、どういう風に未来が変わるのか。分からんよな・・・

未来を変えると、木月さんが、文字通り命を賭けて助けた、"あの子"にも影響があるかもしれない。

 

そもそも木月さんとは、中学になってから知り合っている。木月さんはアカギと契約している。しかも、同時期に紬とも契約している・・・

 

     相馬「……そんなに悩むことなのか?」

   デュアン「いえ……その件はわかりました。どちらにせよ、中学の辺りでお世話になります……仮屋さんも高校入ったら、教えます」

 

     相馬「……他にも悩みが?」

   デュアン「特に無いですね……それでは、次は過去で」

 

 

そう言い、オレはschwarz・katzeを出ることにした。

 

やるべきことはやった。準備も整った。

 

正直に言えば、後は綾地さん次第。

 

そして―――――

 

 

12月29日の夕方に差し掛かった時、綾地さんから連絡があった。

 

 

『欠片が完遂しかけている』と。とどのつまり、柊史に引き金さえ引けば、綾地さんは魔女から卒業できることの意味を差している。

 

 

 

 

 

~~~~

 

    綾地「……、……」

    保科「デュアン……」

  デュアン「2人は覚悟はできて、……いるのか?」

    綾地「私はできて……、……います」

    保科「……俺もだ」

2人はそう言っているが、明らかに暗い顔をしている。

 

  デュアン「……、……そうそう、大事なことを言い忘れるところだった。……綾地さん、……保科と早く出会いたいのなら、……今のうちに連絡手段を取ることだね……」

 

 

オレは、魔女の変身衣装になろうとした、その時・・・部室の扉がバンッと開く

 

    椎葉「でゅ、デュアン君!先に行かないでよ」

  デュアン「悪い悪い……HAHAHA」

 

     保科「それで……デュアン。魔法は完成したんだよな?」

  デュアン「ああ……綾地さんが魔法を展開してくれれば、その魔法に乗っかって行ける。ただ……」

 

     椎葉「ただ?」

  デュアン「……、……いや何でも無い、そろそろ始めるか」

     保科「本当に時間遡行できるのかな、……?」

  デュアン「確率を上げるために、準備をしてきたんだぜ?」

オレは、そう言い。ズボンのポケットから欠片の瓶を見せる

 

     椎葉「わぁ……すっごい量」

     綾地「私の10倍、いえ……30倍はありそうです」

  デュアン「そりゃあるだろうよ……幼少期から集めまくってたからよ……んじゃ、始めますか」

 

瓶の蓋を開け、紬と柊史に振りまいた。

 

     綾地「準備は良いですか?」

  デュアン「ああ……良いぜ」

オレは魔女の衣装に切り替え、魔具を取り出す

 

     綾地「それでは……、……柊史くん」

     保科「ああ……やっちゃってくれ」

綾地さんが、銃のトリガーを引き、柊史の心の欠片を回収し、綾地さんが持つ瓶の中身が満タンになったのを見計らって、オレは瓶を宙に投げ、それをオレが魔具で叩く。

 

 

  デュアン「条件型時間遡行大規模発動!」

 

オレが持っていた瓶に溜まっていた心の欠片が舞い散り、部屋を包み込む・・・

 

眩しい光と共に―――――――意識が失った。

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter0
0-0以降 キャラ紹介




22/12/2に紅葉555さんから、主人公である「竹内蓮太」さんをお借りすることが出来ました。

紅葉さんの小説のリンク↓
https://syosetu.org/user/365790/


 

 

◆本作主人公:デュアン・オルディナ・フィア・レグトール/ミュウ

性別:男/女

年齢:17(精神年齢は軽く7桁以上)

職業:学生・魔女・バイト

契約者:Mariel(マリエル)(母親)

〈魔女の代償〉

・水をかぶると性別が変化

・元に戻るのに魔法で生成されたお湯を被る。

 

能力:この世の理を捻じ曲げる能力

デュアン曰く「日常世界では持ってきてはいけない能力」と語っている。

基本、デュアンが魔法を生成できるのはこの能力のおかげでもある。

 

デュアンが知らないだけで、デュアン自身はアルプと契約している。その結果がこの能力。アルプが死亡した状態で、完遂できない。という不具合が発生しているため、魔女の代償が解けることはない。

 

魔法具:?

自己想像(セルフイメージ)によって生み出される。

・武器は、この世の武器が想像(イメージ)に入っていれば、それを使うことができる。

 

 

趣味:家事全般 人間観察 

好きな食べ物:全部(辛い食べ物は結構好き)

苦手な食べ物:激甘な食べ物(グラブジャムクラスの甘さ)

 

 

容姿:

童顔で髪が肩まで伸びている。

髪の色は水色、瞳の色は右が赤、左が水色のオッドアイ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

身長は、Ep0-0の時は152cm 29kg。

1週目は、168cm 42kg。

 

服装は、アッシュフォード学園をイメージした改造制服。

 

説明:

姫松学院に通う2年生。

原作主人公「保科柊史」とは友達の関係で、彼の安請け合いには頭を悩ませ、一緒に手伝ったりしたりする仲。

 

Re;startでは、綾地さんの魔法に介入し「柊史」「紬」「アカギ」「相馬」のは記憶を保持したまま、綾地さんと共に時間を遡行した。

 

一人称:オレ/ボク

二人称:男子は呼び捨て 女子は一部を除けば全部~さん付け

 

◆原作主人公:保科柊史

性別:男

年齢:17

 

〈?〉

本作オリジナルで、デュアンの協力の元で作られた魔法。

元々持っていた「五感で感じ取る能力」と、母親が持っていた「他者の心を読む力」の2つの能力が合わさってON/OFFの切り替えができる「他者の心を読み取り、五感で感じ取る能力」へと進化した。

 

悟り能力に保科自身の能力が合わさった力とも呼ぶべき力。デュアン曰く「ON/OFF切り替えができなかったら、通常の人間には絶対に持ってはならぬ力」と言われている。

 

一度、デュアンの心を読み取ったら「泥沼に嵌りながら、途轍もない人肌の甘いケーキを優しく、一つずつ食べさせてるような感覚」

 

説明:

本作では、デュアンとは数少ない理解者。

 

原作と違い、本作のRESTARTは、中学生の時点で綾地さんと恋仲になっている。

 

デュアンが「魔法」が何なのか?ということを教わり、「気持ちを五感」を「On/offで切り替えることが出来る」様になり、更に、「人の思考を完全に読み取ることが出来るように」進化してしまった・・・。

デュアン曰く「よほど状態じゃない限り、絶対に使うなよ」と念を押されている。

 

Re;startでは、子供時代まで時間を遡行し、ちゃんと小学校時代からお付き合いする仲になっている。

 

 

◆本作ヒロイン:綾地寧々

性別:女

年齢:17

職業:完遂した魔女/学生

契約者:相馬七緒《完遂済み》

好きな人:保科柊史

 

説明:

Re;startでは、デュアンの言いつけ通りの行動をし、無事に保科と再会を果たし、バカップルになっている。

 

◆本作ヒロイン:椎葉 (つむぎ)

性別:女

年齢:17

職業:完遂した魔女/学生

契約者:アカギ《完遂済み》

 

説明:

本作主人公のヒロインで、中学校ではようやく再会できていた。

 

デュアンと恋仲の関係で、泊りがけの度にエッチを要求しているが、デュアン自身「せめて、高校を卒業してから」と言っているが、ディープキスからの手錠をかけ、半強制的に致している。

 

◆???????:竹内蓮太

性別:男

年齢:17

職業:学生

 

容姿:

身長174cm。O型。

容姿のイメージと近いキャラクターは結城理のこと。

 

 

説明:

特料は理全般。嫌いな物は昆虫類全般のこと。

 

 

彼にも秘密が・・・・?

 

◆デュアンの友達:井上和真

性別:男

年齢:17

職業:学生

 

容姿:

身長160cm

黒髪で、珍しい黄緑色の瞳をしている。

茶色の学生服を着ている。

 

説明:

デュアンとは、とあるきっかけで知り合った。

 

1週目で、戸隠先輩が好きだということをオカ研に持ち込んでいた。

 

 

 

 







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Ep69 未来の変化

 

 

〈Another View〉

 

 

    椎葉「……、……っ……成功したのかな?」

ワタシは急いで、携帯で日付を見た。確かに時間が戻れた。

 

でも、でも・・・デュアンくんに暫く会えないのが寂しい。

 

そう思っていると、宛先不明からメールが届いた。

 

  

ワタシはそのメールの送り主がわからず、クエスチョンマークを浮かべていると、窓を叩いている一羽のカラスが居た。

 

    椎葉「も、もしかして……アカギ?」

ワタシは、窓を開けると・・・ボンッと変身し、人型になった

 

   アカギ「紬よ!そのめーるとやらを確認するのじゃ」

    椎葉「……え?」

   アカギ「良いから」

    椎葉「わ、わかった……」

 

ワタシはアカギに急かされメールを開くと・・・電話番号が記載されていた。それぞれ番号が記載されており、番号の隣には保科君、綾地さん、そしてワタシの大好きで彼氏のデュアンくんの電話番号まで記載されてあった。

 

   アカギ「お主……デュアンのめーるあどれすを忘れるとは……」

    椎葉「ええ!?これデュアンくんのメールアドレスだったの?!」

 

   アカギ「それしか考えられるまい……、……さて……あっちはデュアンと約束したことがあるから……それを遂行しにいってくるのじゃ」

 

アカギはそう言って、また飛んでいった。

 

    椎葉「いつの間に……デュアンくん……アカギとそんな約束したんだろう?」

 

   アカギ「そんなことはどうでもよかろうに……」

 

ワタシは、デュアンくんとはまだ会えないけど、会話できることになんだか嬉しくなった。

 

そうだ!お父さんとお母さんに言って、デュアンくんと同じ中学校に通おっかな?

 

 

 

~~~~~

 

〈View〉

 

 

   デュアン「さて……時間遡行組全員にメールを送った……、……うん……さてどうしたものか」

 

小学5年生。オレの親は既に他界している。オレの親の親戚はいないし、父方の祖父母は既に死んでいると言われていた。

 

オレ、まだ働いてないからクレジットカード作れん。う~ん・・・綾地さんの家のマンションも良いが・・・

 

オレは、不動産屋に寄ることにした。

 

オレの新しい住居は・・・とりあいず、紬と一緒に登校するために、オレはオレで頑張るとするか。

 

 

~~~~~~~

 

 

さて、あれから3ヶ月が経過した。

そして、今日、皆で会おうということになったのだ。

 

 

   デュアン「……、……久しぶり?」

     保科「久しぶりといえば、久しぶり……」

     綾地「そうですね……久しぶりですね」

     椎葉「でも……過去に戻ってるから、正確には初めまして、じゃない?」

 

   デュアン「まあ、そうだろうな……」

当たり前と言えば当たり前、か。

 

     保科「デュアン……お前はどこの中学に行くつもりだ?」

   デュアン「ん?あー……まだ決めてない。住居もまだ」

     綾地「え!?」

     椎葉「うそぉ!?」

     保科「マジかよ」

   デュアン「過去に戻ってきたのが……ちょうど親が死んで1年が経過してるからな……親が住んでた場所は既に売却したし……今はネカフェで寝泊まりしてる」

 

     綾地「わ、私の部屋……余ってますから使いますか?」

     保科「オレもだ!親父に頼めば……きっと」

     椎葉「わ、ワタシも!」

   デュアン「んー……いや遠慮しとくよ……気持ちだけは貰っておく」

 

     保科「え?」

     綾地「な、なぜ!?」

     椎葉「なんで!?」

   デュアン「んー……そうだなぁ、理由は複数ある。……、まず綾地さんから理由を話そう」

 

     綾地「……」

   デュアン「理由1、綾地さんは親が契約したマンションで住んでいる……つまり、綾地さんと暮らすとなると、親が話さないとならない……泊まる分には良いが、……理由その2。彼氏である柊史に、嫉妬される可能性がある」

 

     保科「むぅ」

   デュアン「まあ、綾地さんの理由はそれ、かな?」

     綾地「た、たしかに……」

   デュアン「次は柊史だ。親父さんに悪いからだ……」

     保科「それだけかよ」

   デュアン「次に紬。お前の親はオレを知らない。娘が、いくら小学生だからと言ってオレをいきなり住まわせてといっても困惑するだけだ……」

 

     保科「……、……お前の親戚とかは?」

   デュアン「オレの親戚は全滅している状態だ……オレの母はアルプ……親父の方は全滅だな」

 

そもそも、アルプに親なんていない。いや動物から人化を覚えて、そこから人間に変化する。

 

     綾地「デュアン君……」

     保科「お前……」

     椎葉「よく、施設入りせずに済んでるね……」

たしかに・・・。でも理由としては、金を積ませてるからな。

自立はできている。

 

   デュアン「だろうね……」

     保科「でも……お前、どうするんだ?」

   デュアン「……んー……まあ、前回と同じ動きをするだろう」

 

オレの親権は、無いから。

 

     保科「そういや、前回のお前って……ブラックカードだったよな?あれって確か……」

 

   デュアン「ああ……年収1000超えで持てるカード、まだ。オレの収入1000万いってない」

 

     椎葉「で、でも……収入はあるんだ」

   デュアン「んー……月収換算で言ったら60万程度、かな?」

     綾地「……」

     保科「小学生が、サラリーマンの2倍以上稼いでるって……ちょっとした事実にオレはSANチェックしそうだ」

 

   デュアン「コツさえ覚えれば、誰にだってできるぞ?」

     綾地「デュアン君……ちなみに聞きます。何で、稼いでるんですか?」

 

   デュアン「……んー……ちょっとしたプログラムの開発だな」

 

まあ、これは延長線上の話だ。

 

     保科「それで……どうやってブラックカードまで稼げたんだ?」

 

   デュアン「稼いだ元金を使って、株を買って……不動産投資をする……パソコンでオート化すれば……2000万はいけるぞ?」

 

     保科「マジか!?」

   デュアン「機会があれば教えてやるよ」

     保科「頼む!」

     綾地「デュアンさんって……永久に借金には無縁かもしれないです……」

 

     椎葉「だねー」

 

むっ。そんなことないぞ?最初の世界で金稼ぎはとんでもなく大変だったぞ。少なくても、人生で何度か大損ぶっこ抜いていたぞ。

 

   デュアン「綾地さんは、前の世界の知識を使って……宝くじとか買わないのかい?」

 

      綾地「えぇ!?そ、そんなこと……しないですよ。ズルをしてお金を得るなんて……バチが当たりそうで嫌です」

 

   デュアン「そ、そうか……」

オレは、ここじゃない前の世界で何度かやっている行為だったな。これに関して、神様は何のお咎めも無かったな。そういうところは寛大なのか?よく分からん。

 

まあ、いつかバチが当たりそうで怖いが。

 

     保科「宝くじに当たったことあるのか?」

   デュアン「1等、2等は無いな……もし、当たることがあるなら……隕石が東京都に墜落するぐらいの確率で無い」

 

まあ、どこぞの駄女神に転生した某最弱冒険者の彼なら宝くじなんて1等を当てられそうだが・・・

 

     椎葉「デュアンくんって……あんまギャンブルしなさそう……」

 

まあ、嗜む程度で遊んでいるが・・・

 

   デュアン「ギャンブルで金稼ぎはしないな……せいぜい遊ぶ程度。というか、オレの動体視力は……普通じゃないからな」

 

枢木スザクというお化けもそうだが、SAOでのキリトとの攻防、ISや機竜の生身戦闘が身についちゃってるから、下手すりゃミニガンを余裕綽々と避けられそうだ。ただ生身が追いつけない。せいぜいマシンガンを避けるぐらいしかできない

 

 

 

     保科「そういや、デュアン……お前って、ガチャとかダイス運には恵まれてるよな……」

 

    デュアン「そうだなぁ……でも、運を使っちゃうと、他が酷いことになるけどな。オレの幸運って振り子の様にブレブレだからなあ……」

 

うん。オレが尊敬する狛枝先輩並に発揮するからなあ。

 

     椎葉「え?それって、どういう意味?」

     保科「こいつの運……シナリオ中クリティカルを連続で出すけど、途中で大暴落するかのように失敗、ファンブルを繰り出す。前に海道と仮屋と和真でTRPGした時。酷かったなあ」

 

あ、あれかー・・・。

 

   デュアン「ま……そんな話はまた後日にするとして。今日は遊びますかっ!」

 

     保科「ああ……そうだな」

     綾地「はい!」

     椎葉「うん!」

 

 

俺たちは、高校生生活の殆どを契約の完遂で自分の為に時間を注ぎ込まなかったからなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――そして、中学1年の頃に未来へ変化が訪れた。いや、オレが捻じ曲げてしまったのが正しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep70 未知組織《アストラル》

 

 

~~~~そう中学1年になった時だ。

 

 

〈姫松学園中学校 部室〉

     

 

    保科「……、……これ。お前だろ」

柊史はスマホを操作して、例のヤツを見せる・・・

 

    綾地「"今現在、後天性性転換病という病気が流行っています。この病気にかかると、現在の性別が逆転してしまうことが分かりました。この病気に掛かった患者は速やかに病院に行き、医師の診断書を持っていき、市役所に持っていってください"……、……デュアンくんの仕業ですよね?」

 

信用ないなぁ・・・・まあ、オレだけど。

 

   デュアン「まあ……アストラルという組織で偶然開発してしまったんだよね……ああ……ちなみに、ミュウになってから、インフルエンザーに発症した時に、空気感染したモノと性転換薬を組み合わせた……あるウィルスが完成したんだ」

 

これは、オレも予想外だ。

 

 

    椎葉「もしかして……?」

  デュアン「性転換病を強制的に発症し、幼女化してしまうウィルスだな……」

 

    保科「うへぇ~……って」

    綾地「性転換病って言いましたよね……?治療薬ってあるんですか?」

 

  デュアン「んー……発症を抑えたり、戻したりする薬は完成してるんだけど……発症を防いだり、治療薬はなぜか完成しない」

 

不思議だ。水をかぶると女になる体質を抑えようとしたら、別の薬が完成してしまうのが・・・

 

    保科「ロリ化ウィルス……ちなみに、その薬って危険性は?」

  デュアン「正直に言えば……悪影響は無い……この薬は投与した時点から4週間すれば元の姿に戻れる……」

 

    綾地「その……幼女化する以外に症状は有るのですか?」

  デュアン「そうだな……現在、研究施設内で使った結果。少しの風邪気味と微熱を発症するぐらいだな……」

 

    椎葉「……?そういえば人体には影響ないって言ったけど……その他の要因があるの?」

 

  デュアン「んー……このウィルス、薬品を熱で気化したり、-30度以上にして放置すると、インフルエンザの約13800倍のウィルス増殖し始め、無差別感染させてしまうんだ」

 

恐ろしいよな・・・突然幼女化するなんて・・・

 

    保科「うはぁ……恐ろしいウィルスと薬を開発したんだな……」

  デュアン「ちなみに、そのウィルスと性転換薬はオレのポケットと家の中、研究施設に置いてある」

 

一応、ミュウの時に打てば、元に戻ることは実証されてるしな。

 

    保科「持ってるのかよ!!」

  デュアン「オレの治療薬だ……他の人が使えば性転換してしまう……」

 

    椎葉「ロリ化ウィルスに、VRMMO、超能力……人工知能……一体、アストラルって何の目的ってなんだろう?」

 

  デュアン「そうだなぁ……一番考えられる選択肢は2つかな?」

 

転生しまくって、輪廻転生を繰り返しているオレからすれば・・・自ずと答えが分かる気がする・・・。しかも、アストラルの組織のボスはオレの能力を知っていた・・・

 

理由は、転生者を集めた組織機関らしいが・・・

 

ま、オレの友人に害を及ぼすなら、組織をぶっ潰せばいっか。

 

 

    保科「そうそう……デュアンの家、行きたいんだけど……良いか?」

 

  デュアン「俺の家?ああ……前と変わってるから、金曜日に泊りがけで来なよ」

 

多分びっくりするぜ・・・

オレも当初は驚いたもんだ。

 

金曜日・・・・

 

 

〈デュアンの家 エントランス〉

 

  デュアン「……」

ピポパとデュアンは部屋番号を入力後、黒と銀色で装飾されたカードを機械に通すと、扉が開く。

 

紬、寧々、柊史は俺の家へと通る

 

    保科「すげぇ、防犯システムだな」

  デュアン「近いうちに、タワマンにも導入予定するみたいだぞ……っとカードキーと刺しながら、鍵を回す……っと」

 

便利なんだが・・・めんどくさい。工程を省くと、速攻で警備員に通報されるからなあ。

 

  デュアン「まだ何にもねぇけど……入ってくれ」

    保科「お邪魔します」

    綾地「お邪魔します」

    椎葉「お邪魔するね」

 

 

こうして、元高校生の濃厚な一日が過ぎた・・・

 

  デュアン「海道と仮屋を恋愛として突っつけることに成功したし……残るは和真だけだな……」

 

 

姫松高校で1年以内で恋愛フラグを建てられるだろうか?

 

いや、立てて見せる。

 

 

 

 

 

 



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Chapter 1-1
Ep71 みんな一緒


 

 

 

あれから、中学を卒業し、高校生になった。

 

 

 

     保科「いやぁ~……まさか、一緒のクラスになるとは……奇跡だなあ」

 

     綾地「そうですね……でも、知り合いが同じクラスになるなんて……なんだか作為的な感じが……」

 

     椎葉「確かに……ワタシとデュアンくん、綾地さんに保科君……それに海道君や仮屋さんと一緒だなんて……」

 

   デュアン「そりゃ……作為的に作ったにきまt……しまった」

やべぇ、余計な事を喋っちまった。

 

     保科「お前っ……な、なな何をした!!」

   デュアン「まあ、痕跡を残さず……データの改竄をしたってぐらい?ハッキングや改竄はお手の物だ……」

 

ハッキング技術はルルーシュに教わったけどな。それに頭脳はスパコン並だからな。比喩じゃない、文字通り全ての知識は記憶している・・・

 

    綾地「デュアン君……だめですよ?」

    保科「……お前というやつは」

    椎葉「でも……書き換えても、名簿とかで……」

  デュアン「抜かりは無い……それも書き換えを済んでいる」

    綾地「……私、デュアン君が味方で良かったと思ってます」

    保科「オレもだ」

    椎葉「うん……」

  デュアン「よっぽどじゃない限りプライバシーを覗く趣味は無いよ……」

 

前の世界で軍事機密を見ちゃったのは失敗だったな。

オレは温厚?な性格だから、そんなことはしない。

 

オレは、「弱い子」「理不尽」の味方。

 

     綾地「……えぇー」

   デュアン「悪用はしないよ」

     椎葉「本当かな?」

   デュアン「ああ。本当だよ……」

     保科「とりあいず……今日は、授業も無いし……帰らないか?」

 

   デュアン「そうだな……オレは自販で飲み物買ってから帰るとするよ」

 

 

オレは、皆を分かれ。自販で飲み物を買いに向かう。

 

 

 

     ???「……、……」

   デュアン「……独り言?……っ……、あっ……午後の紅茶が売り切れてやがる。んー……、……何にしようかな」

 

 

まあ、いいや。明日シュバルツカッツェに行こうっと。相馬さんの記憶も知りたいしな・・・

 

~~~~~帰り道

 

 

    椎葉「ねえねえ、デュアンくん」

  デュアン「ん?なんだ?」

    椎葉「性転換薬って持ってるんだよね?」

  デュアン「ん?ああ……持ってるぞ」

 

そんなことを聞いて、どうするんだ?

 

    椎葉「ワタシ……デュアンくんがミュウちゃんの姿になって……一緒に具合わせをしたじゃない?」

 

  デュアン「っ!ごほごほ……」

 

飲んでいた緑茶を吹きかけてしまった・・・

 

    椎葉「というか、デュアンくんが自らワタシとエッチしたこともないじゃない?基本、ワタシからしてるし……」

 

いや、なんかすっご~い抵抗がある。紬を好きだ。生まれて初めての恋。それに嘘偽りは無い、本心で思ってる。

 

けど、好き=エッチはなんか違うと思う。

 

  デュアン「んー……少なくても結婚してからじゃないと……色々大変じゃん……」

 

    椎葉「で、でも愛の形は……」

  デュアン「いや、わかるよ。エッチは一つの愛の形ってのは……けど……けどな?それで……高校生で子供が出来ちゃったら、今後の就職が大変なんだよぉおお!!そもそも、紬のお母さんが卒倒しちゃいそうだ……いや、その前に紬の親父さんにぶっ殺されそう……」

 

「紬になにしやがる!嫁入り前に孕ませる?何考えてるんだ!」って言って、頬骨を砕く勢いでぶん殴られる・・・この世界に治癒魔法が無い。無理難題な怪我をしてきたけど、流石に紬を悲しませるわけにはいかん。

 

  デュアン「少なくても……両親は悲しむぞ?」

    椎葉「えぇー……寧ろウェルカムだと思うよ?」

  デュアン「嘘だろう!?」

 

そ、そんなバカな・・・?オレの常識が・・・

オレの常識が間違っていたのか?

 

・・・いや、オレの元いた世界では当たり前のようにやってたな。というかオレが居た世界では愛なんて関係なかったな。

 

なんせ種の存続に関わることだったからな。異世界転生して、日常になってから、恥ずかしくなるようになったのか。

 

    椎葉「本当だって、今の時代……当たり前のようにセックスしてるんだよ?」

 

いやいや、そんな訳ないだろう

 

 

  デュアン「ばば……バカ!そんな恥ずかしいことをよく平然と……」

 

ほれみろ、通行人が顔を真っ赤にしてるぞ・・・

 

    椎葉「かわいい反応するね……」

  デュアン「なっ!?」

 

オレの彼女は、どうして・・・こう肉食系なんだろう?

 

  デュアン「……よぉ~し……いいぜ、その喧嘩買ってやる……紬、確か……今日、親御さん夜遅いよな?」

 

    椎葉「う、うん……ま、まさか」

  デュアン「うちに泊まりに来い……好きな料理を作ってやるよ」

    椎葉「ふぇぇえええ……お、お泊り」

  デュアン「別に良いだろう?ホテルで泊まってるし、……それに裸の付き合いをした仲だ……恋人が泊まりに来るのは当たり前じゃないか?」

 

    椎葉「それもそうだね」

  

 

~~~~~~

 

陽も落ち、月が出始めた頃。

紬と合流した

 

 

   デュアン「紬……なんかリクエストあるか?」

     椎葉「えへへ……デュアンくんが作る料理なら何でもいいよ」

   デュアン「ふむぅ……困ったなあ」

 

リクエストがないと困るんだよなあ。う~むぅ

 

     椎葉「?」

   デュアン「……この時間帯なら、値引きされてるだろう」

 

紬と一緒に近くのスーパーに行くことにした。

 

     椎葉「デュアンくんって……そういうの気にするタイプ?」

   デュアン「まあ……たまには贅沢はしたいが……毎日やってたら、あっという間にご破産よ」

 

今は27億あるが、それも遊んで使っていたら1年も持たないだろう。

 

     椎葉「家庭的だね」

   デュアン「まあ……ね」

 

節約は基本だからな。さてと、何を作ろうかな?

 

     椎葉「あっ……お肉食べたい」

   デュアン「ふむぅ……んじゃ、適当に買って帰るか」

 

スーパーで適当に買っていけばいっか。

 

 

~~~~~~~

 

空が完全に暗くなり、時刻は19時。

 

   アカギ「あっちを誘うとは……デュアンも紬も変なヤツじゃの」

  デュアン「そうか?まあ……強いて言うのなら、友達だからだ」

アルプだろうが、バケモノだろうが、神だろうが"心"さえあれば、友達になれる。そして"人間"にも・・・

 

    椎葉「そうだよ……そして、デュアンくんがご馳走してくれるんだから……今日ぐらい、素直になりなよ」

 

  デュアン「アカギはツンデレさんだから、無理じゃないか?」

   アカギ「なにを言うか……あっちは素直なのじゃ!」

やれやれだ・・・

 

  デュアン「そうかそうか……それじゃあ、そんなアカギには……これだ」

 

500円のステーキだ、一応柔らかくしてはあるが・・・

 

ミートハンマーでステーキを叩き、香辛料や塩コショウ、にんにくを擦り込み・・・玉ねぎで1時間漬け込んだやつだ。

 

バターとにんにくで炒めたライスに切ったステーキを乗せ、ステーキを焼いた油に醤油、酒、砂糖少々、ステーキに漬け込んだ玉ねぎを炒め味付けをして。ステーキの味付けをする。

 

ステーキは、赤ワインでフランベをする。

 

 

・・・ふむ。こんなものだろう。

 

 

~~

 

 

   デュアン「ほい……なんちゃって『ステーキピラフ』だぜ」

    アカギ「おぉ……美味しそうじゃな」

     椎葉「本当に……美味しそう」

   デュアン「まあ……本当だったら……もうちょっと仕込みたかったが……時間がなかったから、雑になっちゃったぜ」

 

    アカギ「こ、これが……雑、じゃと?」

     椎葉「さ、流石……」

 

まあ、しっかりと時間があれば・・・なぁ

 

   デュアン「さて……食べますかな、んじゃ」

 

  デュアン椎葉・アカギ「「「いただきます(のじゃ)」

 

    アカギ「ん~……美味しいのじゃ」

     椎葉「うん!肉が柔らかくて、ステーキソースがとても美味しい」

 

   デュアン「そうか。それはなによりだ……」

    アカギ「それにしても……デュアンは、此処まで美味しく料理ができるのじゃ?」

 

   デュアン「経験だな……最初は失敗や美味しくなかったり、してたけど……最後は努力が身に結ぶ」

 

まあ、オレのは7桁以上の輪廻転生を繰り返してるからなあ。料理に関しては、盾の勇者の岩谷尚文に近づく!が目的だからなあ・・・

 

いや、尚文の料理を一度食べたことがあるが、あれを真似できるのは、無理!絶対に無理だ・・・

 

   デュアン「まあ、転生したオレでも料理に叶わないヤツはいるがな……」

 

    アカギ「デュアン以上、じゃと?」

     椎葉「どんなに美味しいんだろう?」

   デュアン「そうだなあ……あいつは、……人の好み、異世界人、動物と言った……ありとあらゆるモノの味を合わせられ、なおかつ料理の向上できるヤツだからな……」

 

     椎葉「凄っ……」

 

ああ。凄いぞ、尚文は。

 

 

 

―――――アカギと一緒に泊まることにした。

 

えっちぃのは、よくないと思いますっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep72 オカ研でお寿司屋

 

 

 

――――入学式から5日。全員が部活に入り込み、そろそろ?という具合の頃にオレと柊史、紬と綾地さんがオカ研に入部した。

 

いやあ、それにしても・・・

 

 

   デュアン「分かっていたが……この部室、人気無さすぎ」

     椎葉「綾地さん……入部当初から、こんな感じだったの?」

     綾地「はい……」

     保科「う~ん……とりあいず、仮屋を誘い込んだから……雪雪崩式に来ると良いが……」

 

   デュアン「まだ1年生だ……オレら、これからの事を考えればいいさ。なあ、綾地さん、柊史」

 

オレは、ニヤリと笑う。

 

     保科「えっ」

     綾地「はい……」

   デュアン「……もうすぐ5時かあ……」

この部活は、あんまり活動ないからなあ・・・どうしようか。

 

     椎葉「チラシ?ああ……タイムセール」

     保科「タイムセールかあ……」

     綾地「タイムセール……」

俺等、それぞれ家の事をやりくりしてるから。

 

 

   デュアン「……買い物が済んだら、さ……皆で寿司でも食べに行かないか?」

 

     保科「寿司?ああ……因幡さんと一緒に行った、あそこか……」

 

     綾地「懐かしいです……また行ってみたいですね……」

     椎葉「いいなあー……」

   デュアン「思えば、紬と出会ったのもあの時か……懐かしいなあ……」

 

遠い過去のできごとの様だ・・・

 

     保科「確かに……あの時は、デュアンや寧々、因幡さんと食べたよなぁ……」

 

     綾地「はい。懐かしいですね」

     椎葉「いいなあ……ワタシ、デュアンくんと外食したのって……魔女を卒業して、数日後だったから……」

 

   デュアン「いやいや……」

     保科「デュアンは、椎葉さんの魔女の代償を気にしてたんじゃないか?」

 

     綾地「なるほど……」

まあ、半分はそうなんだけどね。もう半分は、自分の秘密を他の人に聞かれたくないってのもあった。今のところは、恩義のアカギと・・・将来を、これからの"未来"を歩む紬には知って欲しかった。

 

   デュアン「まあ、その通りなんだけどね……あははは」

     保科「じゃあ……買い物を済ませてから、皆で行こう」

   デュアン「全員で寄るから、関係なくないか?」

     保科「いや……4月と言っても、食材が痛むだろう。だから、一旦帰ってから、行かないか?」

 

     綾地「確かに……」

     椎葉「でも……デュアンくんって……マフラーしてるよね?」

   デュアン「そりゃ……まだ肌寒いからな」

     保科「お前……まあ、デュアンだしな」

 

 

~~~~~~~

 

買い物も終え、紬達と一緒に回転寿司へ向かった。

 

    保科「久しぶりだなあ……お寿司」

  デュアン「だな」

 

    保科「寿司……お寿司……さ、流石に……下ネタは来ないよな?」

 

ああ。とびっこ、スジコ・・・お稲荷さん

 

  デュアン「う~ん……どうだろう?紬の好きなネタって……あんま聞いたことがないかも……」

 

    保科「個人的には、青物はあまり好きじゃなさそう」

  デュアン「どうだろうな……でも、貝類は駄目かもしれん……前に、干しイカを食べてたら、紬が微妙そうな顔をしてた」

 

    保科「ふむ……」

と、わいわいと会話していると・・・

 

 

    椎葉「おまたせ~」

    綾地「お待たせしました……柊史くん、デュアン君」

  デュアン「いや、オレらもいま来たところさ」

    保科「気にすることはないさ」

 

 

さて、明日は明日でやることがあるな・・・

 

過去改変した今。木月さんは、記憶の喪失は無い。

 

なんせ、オレの残りの欠片を全部木月さんに譲渡したからな。

 

   デュアン「そうそう……オカ研で、今後もお悩み相談するんだろう?」

 

    綾地「え?えぇ……そのつもりですが」

   デュアン「欠片の回収は、今後オレに任せてもらってもいいか?」

    椎葉「そういえば、デュアン君も魔女だったね……」

   デュアン「ああ……完遂不能の永久的な魔女?だがな……」

    綾地「え?完遂不能って……どういうことです?」

   デュアン「魔女の卒業は、欠片を瓶の中に満たすことで魔法が行使できるんだ……これは今までの紬や綾地さん、木月さんを見てきたから分かることなんだが……願いの大小によって、欠片の満たす速度に比例することが分かった」

 

    綾地「そ、そうなのですか?」

    椎葉「回収できる量と違うの?」

  デュアン「器だね……例えば……ペットボトルと貯水タンクかな?」

    保科「なるほど……ちなみに、デュアンの予想はどのくらいなんだ?」

 

  デュアン「ん?ああ……量的に言えば……オレは既に完遂した量になっていた」

 

    椎葉「???」

    綾地「今は無いんですか?」

  デュアン「去年……というより、綾地さんの時間遡行魔法に手を加えただろう?あの時に、結構消費した」

 

そのうち、転生のこととかも話とかないとな。

 

オレは、独りじゃない。友達がいる。

 

・・・いや、できたんだ。

 

   

歩きながら喋ると、前に来た寿司屋に到着した。

 

    保科「椎葉さんは、初めてだったりする?」

    椎葉「ううん……小さい頃に連れてってもらったことがあるよ」

 

    綾地「そうなんですか?」

  デュアン「ま、……綾地さんの場合。家庭の事情ってのもあるよな……」

 

小さい頃の綾地さんは、とても暗い子だった。それこそ、保科並に他人と距離を取っていたな・・・

 

     保科「……」

   デュアン「ま……話は此処までにして。美味しいものを食べようぜ……すみませーん!大将。カワハギに、イクラ、わさび巻、焼きサーモン、はまち、えんがわ、真鯛をくださーい」

 

店員はオレの注文した物を確認し、作り始める

 

 

     保科「オレは、そうだな……オレも鯛とビントロ、わさび巻、はまち、ネギトロ軍艦くださーい」

 

     綾地「むぅ……みんなは、レーンの取らないんですか?」

   デュアン「いやぁ……まあ、……」

     保科「鮮度があんまり良くないからね」

     椎葉「あっ……卵焼き。デュアンくん、取ってもらって良い?」

   デュアン「どうぞ……」

 

ちなみにだが、オレの隣に椎葉さん、正面には保科が居る。

 

     保科「うぅ~ん……わさび巻って結構旨いんだな……」

   デュアン「オレのお寿司屋の中ではベスト5に入るぞ」

まあ、新鮮なわさびじゃないと出ないけどな・・・

 

     椎葉「辛くないの?」

     保科「いや……結構新鮮な風味だぞ?」

   デュアン「そりゃ生わさびを刻んでるからな……」

     綾地「なるほど……」

   デュアン「あっ……そうそう。椎葉さんは、嫌いなネタとか無い?」

 

     椎葉「あー……生臭いものはちょっと苦手かな?」

   デュアン「じゃあ……生牡蠣とかダメだな……」

     保科「生牡蠣は……リスクがあって、食べにくい」

     綾地「?そうなんですか……?」

   デュアン「ああ……当たったら……ヤバいからな」

     保科「ノロウィルス……っていう恐ろしいヤツだ」

   デュアン「下手すりゃ入院コースだからな……アレは」

ノロウィルスは無いが、アニサキスには当たったことがある。

 

 

     保科「……」

     綾地「……」

   デュアン「ん?どうした二人共、呆けて」

     保科「いや、珍しいものが見れたなあって……」

     綾地「えぇ……」

   デュアン「だから、俺は鉄仮面じゃねぇよ」

俺をなんだと思ってるんだよ・・・

 

     保科「いや、お前……」

   デュアン「人の心を読むなっ!」

俺は、保科が頼んだネギトロ軍艦を一つ食べた

 

     保科「ま……デュアンの場合、馬鹿みたいに笑い合える友達って少ないよな……」

 

     椎葉「そう、かな?」

     綾地「そうですね……なんとなく分かります」

   デュアン「まじで、俺をなんだと思ってるんだよぉ」

 

     綾地「そういえば……デュアン君。最近、どこかに出かけてませんか?」

   デュアン「ん?ああ……木月さんの手伝いだ」

     保科「初めて聞く名だ……」

     椎葉「魔女関連?」

   デュアン「ああ……時間遡行したアカギに頼んだからな……」

     椎葉「どういうこと?」

   デュアン「彼女が契約しないと、因幡さんの命は無い……とだけ」

     椎葉「どど、どいうこと!?めぐるちゃんの命って……」

     綾地「そうですよ……説明、お願いします」

   デュアン「……木月さんと出会った頃に……「もし、私が全てを忘れちゃっても、"めぐちゃんに「気にしないで」って伝えてあげて。できればめぐちゃんに「私」の記憶も消してもらえない?"って言われたことがあったんだ」

 

     保科「お前は……それを実行したんだな……遡行する前の時間で」

   デュアン「……ああ」

     椎葉「どうして……そんなことを?」

     綾地「……」

   デュアン「木月さんの願いは"因幡めぐるの病気の完全治癒"そして、代償は"時間経過に対する記憶の欠落"なんだ」

 

めちゃくちゃ重い代償だ。考えられない程の・・・

 

     保科「き、記憶の……」

     椎葉「欠落……って」

     綾地「いいえ……私は、なぜ因幡さんの記憶までも消さなければならないのか……そこに疑問を抱いてるのです」

 

   デュアン「少し、話を変えよう。とある能力者が「抵抗を操る」力を持っていた。しかし、使えば使うほど記憶が失われていく……さて、此処でクエスチョン。記憶がなくなったら……その能力は、どうなる?そして使えると思う?」

 

俺はそう言うと・・・

 

     椎葉「使えないんじゃないかな?完全に記憶が消滅しちゃったら、能力の使い方まで忘れちゃうから……使用不能になる……」

 

     綾地「私も、椎葉さんの意見に賛成です」

二人共、そういうことだから・・・

 

     保科「デュアン……質問いいか?」

   デュアン「ん?ああ……何が聞きたい?」

     保科「記憶は時間と捉えて良いんだよな?」

   デュアン「そうだな……積み重ねだからな……」

     保科「……なら、"答え"は能力は使えるが、次に失うのは……"寿命"だな……最終的には植物人間か廃人になる……が答えだろう?」

 

   デュアン「まあ、柊史の答えは概ね正解だ……椎葉さんの答えも、及第点をあげる……より正確的には……感情の無く、喋ることもできない人間の出来上がり……って訳……そして、それ以降は寿命を代償にする……木月さんはこれに該当するんだ」

 

     椎葉「あっ……前に最短で魔女の契約を完遂したって言ってたのって……その子なの?!」

 

   デュアン「ああ……俺も手伝ったから……契約して75日で完遂した魔女。そして……俺の介入が無ければ、すべてを忘れて、動くことも出来ない状態になっていただろう……」

 

     保科「んで、デュアン……お前はどうするんだ?」

   デュアン「代償緩和と一時的に代償を引き受ける力を使う……そして、俺が持つ欠片で補えば……最低でも幼少期の記憶ぐらいで済むと思う」

 

 

     椎葉「わ、ワタシも手伝うよ」

   デュアン「……頼んだ……。さて、寿司を食おうぜ」

     保科「お、おぅ……切り替えが早いな」

   デュアン「はははっ」

 

 

 

まあ、もう既に準備は整っているんだけどな。

 

 

・・・・だが、俺がもう一つ疑問に残ってることがある。

 

 

・・・・・アルプの出来損ないみたいな魔力があること。そして、この時間軸にも居る。これは一体、誰のだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ep73 さあ、始めよう・・・



あけましたおめでとうございます。

今年も「サノバウィッチに転生して、青春を謳歌したい」をよろしくお願いします。


 

 

 

~~~~

 

 

オカ研に入ってから2週間。時期は夏に差し掛かってきた・・・

既に、アカギから「木月千穂子との契約した」と連絡が来たので行動に移す。

 

そして、現在

 

 

    木月「貴方……私が見えてるの?」

  デュアン「……木月千穂子……それ以上の魔具の使用を使い続ければ、お前の記憶が全て失ってしまうぞ」

 

    木月「それでも、構わない!めぐるちゃんの為にも……」

  デュアン「……果たして、因幡めぐるは……それを望んでいるか?大切な親友が全てを失ったと知った時……悲しむんじゃないのか?」

 

    木月「……それでも、めぐるちゃんの病は刻一刻を争う……もう時間がないの」

 

  デュアン「ならば、俺も手伝おう……俺も、また魔女だ」

    木月「男なのに……?」

  デュアン「ああ……だが、その前に……代償を緩和させる魔法っと、代償を引き受ける魔法を掛けた……12日の間、代償は緩和されるし、12日間、木月さん……君の代償は俺が受け持つことになった」

 

    木月「へ……?そんなことをしたら……君の記憶が消えちゃうよ?」

 

  デュアン「大丈夫……」

 

俺には魂年齢が6~7桁もある転生者。そして、数々の世界を渡り歩いている。世界を歩んだ記憶は消えるが、"経験値"が消えることは無い。俺の"経験値"は魂に刻まれている。

 

    木月「……それで、手伝ってくれるのはありがたいけど……どうするの?」

 

  デュアン「俺の欠片を半分やる……そして、俺の魔法を掛けたから……以後12日間は記憶の欠損は俺に代償が行く……欠片も効率よく満たせば……大丈夫だ。もし友達や両親の記憶を失ったら……俺がその時にフォローしてやる」

 

 

 

    木月「どうして……そこまでするの?」

  デュアン「……前の時間では君を助けられなかったからね。それの償いかも知れない」

 

    木月「……前?」

  デュアン「俺の幼馴染の子が「時間を巻き戻す」魔法を行使したからね……」

 

    木月「ものすごい重い代償じゃなかった?」

  デュアン「魔女衣装はまあ、裸に近いマントだったな……代償は発情だったな」

 

    木月「……同情するね」

  デュアン「木月さんも、"因幡めぐる"の病気を治すために……自分の命を捨てようとしてるんだ……他人事ではないよ」

 

    木月「……え?」

  デュアン「記憶を失う……その先を考えていない」

    木月「…………?」

  デュアン「記憶を失った先……つまり、歩行能力、運動能力……次は感情だな……此処まで来ると植物人間となり、それを超えると……呼吸の仕方も忘れる……まあ、そこに行く前に決着はつくから大丈夫だ」

 

    木月「未来から来た人の言葉は安心する」

  デュアン「……用心だけはしとけ……んじゃ、俺は帰る……」

俺はそう言い、認識阻害魔法をかけ・・・闇夜へ消える。

 

 

~~~~~~~~

 

次の日の放課後

 

   

   デュアン「……君は確か、1-Cの竹内蓮太だよな?」

     竹内「ん……ああ、そうだよ」

   デュアン「……何が視えてるんだ?」

     竹内「……は?」

   デュアン「いや、何も無い場所で喋ってたからさ……」

     竹内「……」

   デュアン「沈黙の回答は是なりと受け取るが……まあ、誰にも喋ったりはしないさ……」

 

     竹内「……そうか」

   デュアン「悩みがあるなら……特別棟のオカ研に相談すると良い……絶対に馬鹿にしたりとかはしないさ」

     竹内「気が向いたら……相談するよ」

   デュアン「そうか……」

 

オレは、自販機で適当にジュースやお茶を適当に買っていく

 

25本買って10回当りか・・・いや、ここで運使いたくねぇよ!

 

~~~~~~

 

   デュアン「はい、柊史……お茶。綾地さんは?ジュースかお茶どっちがいい?」

 

     綾地「では、ミルクティーをください」

   デュアン「はい……どうぞ」

     椎葉「それにしても……すごい量だね……35本も買ったの?」

   デュアン「いや……25本だ」

     保科「ふぁ!?10回当たったってことか?とんでもねぇ運の持ち主だな」

 

   デュアン「いや、オレも予想外だ……というか、こんなところで運を使いたくねぇよ……ダイスやガチャ運があるのに……」

 

     保科「ソシャゲにガチャか……」

   デュアン「……、……あ、ぁあ……」

     綾地「ど、どうしたんですか?」

     保科「こいつ……オレがまだ、オカ研に入部する前に……かなりガチャを回してたからな……28万ツッコんだんだろう?」

   

   デュアン「言うな……他に運を使いすぎたんだ」

     椎葉「デュアンくんって……極端な運を持ってるよね」

   デュアン「そうだな……昔に……オレと海道と柊史、仮屋さんで32個入りのロシアンルーレットのたこ焼きを食べたことがあるんだが……ガチャで運を使いすぎた結果、8個中7個当たったんだ」

 

     綾地「それはそれで……運が悪いですね」

     保科「逆だ……コイツの運は、とにかくブレ幅がヤバい……その後の運はヤバい……」

 

   デュアン「……」

     椎葉「そんなに凄いの?」

     保科「なんというか……うん。とにかく、ギャンブルの神様に愛されてると言っても……オレは驚かないぞ」

 

   デュアン「(神様、ね……オレの幸運については、神様曰く「貴方が取り込んだ邪神が原因ではない」と答えてたな……そういや、ミュウ姿に似た神と、銀髪の神……確か双子神だっけ?あいつらが原因じゃないのかな?)」

 

どう考えても、ほとんどの世界・・・特にファンタジー系統の世界での転生特典がほとんどの確率で「無限」は、やり過ぎだと思う

 

まあ、常識内の転生特典の数は最低限に押さえて入るが・・・

 

     椎葉「それで……何がすごかったの結局」

   デュアン「ん?あー……その後、コンビニに行って、くじ引きを引いたんだけど……「ラスワン賞」「1位」「2位」が当たったんだよ」

 

     綾地「……、……うん」

     椎葉「それは、流石に……」

   デュアン「あっ……そうそう、柊史。例の特訓は今でも続けてるよな?」

 

     保科「ん?あぁ、アレね。うん……まあ、持続時間はあまり続かないが……それなりにできてると思う」

 

     椎葉「何の話?」

   デュアン「あぁ……ほら、昔というのも変だけど……。柊史と紬で一緒になって転んで怪我をしそうになった時に、オレが壁走りと階段の一気抜けをした技術を柊史が覚えたいって言ってね……」

 

     綾地「え?あんな人間を辞めた動きの練習を?」

   デュアン「オイ……地味に酷いぞ」

     保科「まあ……壁走りぐらいなら……30秒を維持して走れるようになったかな?後は、3階程度なら飛び降りても着地が楽になった……あぁ、後は……なぜか知らんが、ジャンプ力も強化された」

 

     綾地「柊史くんまで……人間を辞めたなんて……」

     保科「いや、普通に人間です……デュアンが教えた練習方法をやったら、壁走りぐらい……できる」

 

  デュアン「まあ、脚力を鍛えれば……普通にできると思うぞ?」

    保科「普通だよな」

    綾地「絶対に普通じゃありません!」

    椎葉「うんうん!」

まだ、柊史は可愛い方だ。オレも人間ではないからノーカウント。

ただし、枢木スザク。テメェはダメだ。

 

マシンガンを避けたり、壁を走ったり・・・明らかに人間の動きをしていない。というか、蹴りで槍をへし折ってたよな?

 

   デュアン「運で思い出したんだが……あのロシアンたこ焼き、そんなに辛くなかったと思うんだが……?」

 

     保科「はぁ?お前……何言ってるんだよ。海道が転げ回って、咽て、大変なことになったのを見ていただろ」

 

   デュアン「いや、オレ……辛いの平気だし」

     椎葉「デュアンくんが辛いと思うのは……あるの?」

   デュアン「まあ……ウルトラデスソースで、ちょっと辛いぐらいだな……」

 

中本の北極ぐらい余裕で食える。

 

     綾地「デュアン君……」

     椎葉「どんだけ……なの」

     保科「逆に甘すぎるのはダメなんだよな」

   デュアン「ほどよい甘いのは大丈夫だが……、……グラブジャムだけは無理だ」

 

あんなもの食えたものではない・・・・

 

     綾地「グラムジャム……確か、インドのお菓子だったはずです……食べたことはありませんが」

 

     保科「あー……あれは女性にはおすすめできん食べ物だ」

     椎葉「どうして?」

   デュアン「1缶で2560kcal(カロリー)もある……しかも、死ぬほど甘い」

 

     綾地「死ぬほど……ですか」

     保科「まあ、美味しいには美味しい……な」

     椎葉「どんな食べ物だろう……」

   デュアン「んー……団子型のドーナッツに砂糖とシロップが混ざった食べ物……」

 

     保科「美味いことには美味い……だが、食べたくない……一つ食べられれば十分だ」

 

まあ、太る原因って・・・食べ過ぎ、運動不足、食べ方、遺伝的体質、ジャンクフードの摂取、人工甘味料や添加物の摂取あとは脂質とかだったよな。文字通りカロリーと同じぐらいのエネルギーを使えば、太らないけど・・・

 

オレは太りにくい体質の上、食べる量も少ない上にエネルギー消費率が激しいから、どんどん痩せている。というか、去年の肥満率はマイナス45%、体脂肪が0%だったな。現在の体重が32.7kgで身長が166だったな

 

     保科「太る……か」

     綾地「わ、私ですか!?私は太ってませんよ?」

     保科「違う違う。デュアンだよ……」

   デュアン「ん?オレか……?オレは、太りにくい体質だし……食べる量も少ない……加えて、エネルギーの消費は激しいから……かなりを超えた痩せ型だ」

 

     椎葉「ふ、太りにくい体質……羨ましい」

   デュアン「まあ、女性の場合、太りにくい体質だと……胸が膨らみにくくなるから……」

 

     保科「え?そうなの……?」

     綾地「初めて知りました」

   デュアン「いや、綾地さんも、居ただろ……一度目の1年の頃のお悩み相談で」

 

     綾地「……、……あー……確かに言ってたような……?」

     椎葉「どういうこと?」

   デュアン「まず、女性の胸って……ほとんどが脂肪の塊なんだ……オレみたいな、やり方だと絶対に胸は膨らまない」

 

というか、ホルモンバランスは崩れる上、その上体脂肪率が0%になれば、月経異常や体調不良の原因となるホルモンバランスの乱れが生じる可能性があるしな。あとは、寒さを感じやすかったり皮膚や髪のつやが失われたりすることがあるみたいだからな・・・・

 

     保科「デュアン、お前……一日に何食食べてんだ?」

   デュアン「んー……一週間で14~16食?いや……盛りすぎたな、12食だな」

 

だいたい、水とブドウ糖の生活をすれば、人間は生存できるからな。

 

     椎葉「……同居し始めたら、ワタシが食事管理しないと……危ないかもしれない」

 

     保科「と……オレも、デュアンのことは言えんが……」

     綾地「柊史くんも、デュアン君と同じことを!?」

     保科「いや、オレの場合は……食べる量は普通より、やや食べる方だが……エネルギーの消費率は、とんでもなく激しい」

 

あの特訓は、確かにエネルギーを使う。

 

      綾地「……デュアン君?」

    デュアン「大丈夫……保科の場合は、ね」

      保科「危ないのはデュアンの方って、か?」

    デュアン「うむ!というか、死期を早める行為だからね……訓練された人間じゃないとダメだ……デュアンお兄さんのお約束だゾ」

 

オレは可愛く言った。ていうか誤魔化した

 

      綾地「デュアン君?」

      保科「本気で怒るぞ?」

と釘を差された・・・

 

   デュアン「……あ。もう18時だ……そろそろ部活も閉めよう」

     綾地「そうですね」

     椎葉「今日も暇だったね」

   デュアン「ま、……まだ3ヶ月だからね……こんなものだよ」

 

     

     保科「この後、どうする?」

   デュアン「んー……今日の特売は、そんな大して売ってないしな……」

 

     椎葉「デュアンくん……今日泊まっても良い?」

   デュアン「明日学校だぞ?」

     椎葉「だって、お父さんもお母さんも今日は帰らないって言ってたし……それに……久しぶりに、えへへへ」

 

紬が顔を赤らめながら笑っていた。

 

   デュアン「ふむぅ……んじゃ、許可が下りたら……いいよ」

     椎葉「うん!分かった」

 

     綾地「柊史君……私も柊史君の家に泊まっても良いでしょうか?」

 

     保科「オレは親がいるぞ?」

     綾地「柊史君の手料理が食べたいです」

     保科「男の手料理だぞ?まあ、寧々がそういうのなら……別にいっか」

 

 

柊史と綾地さんは、学院内、お悩み相談中や他の人前ではイチャイチャを見せないのだ。だから事情を知っているオレ等の前では爆弾が爆発したかのようなイチャイチャを見せる。

 

まあ、オレも柊史とは違うがあまりイチャイチャはしない。紬が気を緩んで、イチャイチャした事はあるが・・・

 

学院内の皆には「付き合いたて、かな?」ぐらいに思われている。ただ、柊史も綾地さんも本当はイチャつきたいのだろう。だが、綾地さんはこの周でも、高嶺の花の存在で、皆から嫉妬を買われないようにしている。

 

柊史もうっかり能力をONにしてるし・・・

 

   

 

~~~~~~

 

  デュアン「……」

暗い部屋にいると、スマホがバイブ音が聞こえる。

 

電話の着信履歴を見ると、アカギからのようだ

 

 

  デュアン「どうした?アカギ」

   アカギ『お主……千穂子の記憶の代償を代替わりしたようじゃな?』

 

  デュアン「ああ……悪いか?」

   アカギ『……お主、記憶が飛ぶのは怖くないのか』

  デュアン「別に……転生前の記憶が無くなるのは、怖くないし……むしろ、無くなったほうが、こちらとしてはありがたい方だ」

 

   アカギ『それでは……お主が築き上げた力まで無くなるかも知れんぞ?』

 

  デュアン「そういう基礎の力や能力、魔術、剣術といったありとあらゆる戦闘センスだけは、魂に刻み込まれてるから……無くなりはしない」

 

使う時は、違和感を覚えるが・・・

 

   アカギ『ま、……お陰で人化できるスピードはものすごい勢いで早くなっているのも事実……だけど、デュアン。紬にバレたら怖いぞ』

 

  デュアン「確かに……怖いな」

 

 

   アカギ『ま……わしからは何も言わないでやるわい』

  デュアン「……それで、木月さんの欠片集めはどうなってる?」

   アカギ『うむぅ……ものすごい速い速度で集まっているのだが……やはり、欠損は激しい……それはお主にも分かることじゃろ?』

 

アカギに言われ、オレは記憶をたどる・・・・

確かに、失われた記憶はある。ただ、毎回ランダムに失われるから始末におけない。この世界の記憶は、なぜか消えないようだ。

 

・・・何かあるのか?

 

  デュアン『ま……失っても困るようなものじゃないし……別に良い……あっ、そうだ。アカギ……今夜紬が泊まりに来るんだが……お前も来るか?飯と寝床は用意できるぞい?』

 

   アカギ『わしが居たら交尾の邪魔にならんか?』

  デュアン「ばっ……い、いや……流石に明日学校だぞ?紬もそこら辺は良識を持ってるはず」

 

   アカギ『……お主がクマのぬいぐるみになった時はどうじゃった?』

 

  デュアン「……まあ、流石にアカギが居るから大丈夫だと思うぞ』

 

オレはそう思いたい

 

   アカギ『ま……お邪魔するかの』

 デュアン「頼む……」

 

紬のストッパー役になってもらおう・・・

 

   デュアン「アカギ、また後で」

   アカギ『ああ』

 

アカギとの連絡を切り・・・これから、どうするか?

 

そんなの決まっている。

 

 

   デュアン「さあ、始めよう……前の時間よりより良い世界へ……」

 

覚悟なんてものはとっくの昔に決まっている。

 

既に、海道と仮屋はくっつけた。

柊史、紬、アカギも遡行の記憶に問題ない。

 

綾地さんと柊史も、前よりも絆が深めてるようだ。

 

オレも紬との仲を深めないとな・・・エッチなこと以外で。

 

 

というか、そろそろ・・・柊史と綾地さんにもオレが「異世界人」ということを話さないとな。






2024/4未定、本作「サノバウィッチに転生して、青春を謳歌したい」をリメイクすることに決定しました。



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