UMBRELLA CORPS (amane0904)
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序章

静かな息遣い、永遠に続くかのような深淵に繋がる湿ったコンクリートの廊下、時々聞こえる物音はこの状況が男に実戦を意識させ神経を尖らせるには充分だった。

そんなゲームかアニメのダンジョンの様な廊下を3人組が歩いている、その3人組の動きは洗練され、まさに一つの生き物の様だった。漆黒のBDUに身を包み、表情を隠す様に貼り付けられた昆虫を醸し出すS10ガスマスクを付け、手には独特な形状の短機関銃が握られている。湾曲し3人組が着けてるガスマスクに干渉しない形状のストック、薄い四角の箱の様フォルムからフォアグリップと呼ばれる前方の握りと、.45ACP弾が30発装填される弾倉が装着されているこの短機関銃の名前は『KRISS Vector』アメリカ軍とクリス社が共同開発したこの短機関銃はクリス スーパーVという反動吸収システムを搭載し、発砲時の反動を抑制し低反動を可能にした。その姿、持ち物がこの陰湿な雰囲気に合っていた。

 

「こちらレイブン、予定地到着」

 

先頭の人物が左拳を握り頭の横にあげると全員が停止し、真ん中の人間が喉元に装着された咽喉マイクのPTTスイッチを押し無線を飛ばした。

 

「了解、今回の任務は目標の回収だ、その施設の廃墟には極めて貴重なサンプルが残っている、諸君達にはそのサンプルを回収してもらいたい」

 

無線の先の男は淡々と抑揚の無く自分の目的を伝えた、感情の無いその口調は他者に協力を依頼すると言うよりは命令のそれに近かった。

 

「了解、これより施設内に潜入する」

 

無線の先の男の口調に気にする事なく返事をするとレイブンと言った男は前後の警戒に当たっていた二人に合図をすると再び前進を再開した。

 

しばらくすると前方に大きな鉄の扉が現れた、その鉄の扉は大きく所々剥げてはいるが赤と白を交互に配色した傘を開いて真上からみたようなロゴマークの下に『UMBRELLA』と記されていた。13年前解体された一大製薬会社は1968年に設立され2004年に倒産するまでの36年間、Bio Organic Weapon通称『B.O.W』と言われる生物兵器の開発を実施し軍需産業の独占を図っていた、しかし1998年に発生した『ラクーンシティ壊滅事件』が原因により株価が暴落2004年に事実上の倒産をした。この施設はそのアンブレラが設立した研究施設の一つだった。

扉の横にあるコントロールパネルに一人近付きパネルを操作すると見えない所にある歯車が動き扉がゆっくりと観音開きに開き始めた、扉が開いていくと気圧の変化で空気の流れが変わり3人の背後を風が駆けていく。扉が開き切るとその先は漆黒の世界だった、マスク越しでも湿った鼻につく腐敗臭が3人を包んだ。

 

『クソ!鼻につく臭いだ、なんだってこんな所に来たんだか』

 

無線でレイブンと言った人物の横に悪態をつきながら男が1人近づいた、男は扉の先の漆黒をみると肩をすくめレイブンの方を見た。

 

『なら降りるかジェイ?報酬は後払いだ問題あるか?』

 

レイブンはマスクで表情は読めないが、冷ややかに煽るように悪態をつくジェイの方を見た。ジェイは大きなため息をつき先頭を歩き出した。その様子を見届けた後レイブンは振り返り、後方を警戒していた人物に声を掛けた。

 

『カイト行くぞ』

 

警戒の体制を取っていたカイトと呼ばれた男はゆっくりと膝立ちの姿勢から立ち上がると振り返りレイブンの隣を通り過ぎた。レイブンは2日前の任務で欠員が出たこのチームに補充されたこの男の実力を測りきれていなかった。チームを率いるリーダーとしてチームメイトを変更は最新の注意を要する、チームのリズムが乱れるという事は即ち死に即決する、チームメンバーの軽口を叩くジェイとは組んで約1年になるがレイブンは彼を信頼をしていたしジェイも同じようにレイブンを信頼していた、経歴についてはわからないがジェイの動きは高い練度を保持している、お互いの背後を預けるのになんの不安要素は無い。しかしカイトについては分からない事だらけだった、この稼業については欠員が出るのはそう不思議な事では無かった。勿論チームメンバーの選定はリーダーとしてある程度の時間をかけるつもりでいたが、先の任務で一人抜け、2日後の任務の予定はずらす事など出来ず、仕方ない増強ではあった。しかし今日の動きを見る限り今のところ問題なくレイブンとジェイのリズムに付いてくるカイトには少し安堵した。その反面実力の高さに疑問が少し生じているのも事実だった。

自分の前を歩くカイトの背中を見つめながら、レイブンも漆黒の門の内側に足を踏み入れた、リーダーとして不安を抱えて任務につきたくは無かったが、どうしても心の片隅の一抹の不安は拭えないでいた。



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