トータルイクリプスサンダーボルト (マブラマ)
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第1部 インペリアルガード編
第1話 音楽厨2人の転生


その白く広大な光のような神であり回復術士であるケヤルガと名乗る人物の前に俺達2人音楽の好みが全く違う人間はいた。

「どの世界に行きたい?」

「何だっていい!せめてレースクイーンに似合う女と結婚して平穏に過ごすぜ」

「お前、高望みし過ぎだ」

「うっせぇ!」

俺の名は豊臣悠一

好きな音楽はフリージャズ、ジャズはいいぜ!

で、隣にいるのは義足野郎の徳川良平

お粗末な音楽を聴いてるお花畑の人間だ

何でこんなことになったのかって?

音楽趣味が合わない俺達は喧嘩別れした後、俺はトラックに轢かれそうになる義足野郎を助けようとしたが間に合わず一緒に事故死したんだ

喧嘩しつつ昇天する前に、魂だけの状態でケヤルガに引き留められた。

ケヤルガっていう胡散臭い神であり回復術士の話によると、とある人類が滅亡しかかっている地球へ行って、侵略しているBETAという化け物と戦ってほしいとのことだ。

これは俺達だけでなく、他の魂にも声をかけているようだが、引き受ける奴は中々いないそうだ。

そりゃそうだろ、化け物と戦うんだぜ?

これは後に知ったが、このBETAという化け物と戦うのは絶望的にハードで、肉体精神は勿論魂すら崩壊しかねないシロモノだ

義足野郎はこれは流石に受けねぇよな

「そのBETAって化け物は、お前が恐れるほど、そんなに強大なのか?」

受ける気なのか?おい、義足野郎!

「そうだ、無限にも近いエネルギーを持ち、無限ともいえる軍勢を生み出し宇宙中の星々を破壊し消滅させている……お前達2人ならやれる」

こう答えられても、まだ俺は楽観していた。世間知らずは怖いよな

「成る程な。それでその世界に行くにあたって、武器なり能力なり何か貰えるのか?」

「一つだけ奇跡を授かることが出来る。奴等と戦う武器なり能力なり好きに望めばいい」

「一つだけか……」

「一つで絶対の願いを決めなければ、幾つあっても同じだ」

エンターテイメントでは幾つでも願いを叶える神様もいるが、ケヤルガは違うみたいだ。仕方ない。最高の一つを考えるか

「んじゃ、俺はフルアーマーガンダムだ。サンダーボルトverの方な。義足野郎は?」

御一人様1つだぜ

義足野郎は即答した

「俺はリユース・P・デバイス実験用高機動型ザクIIで」

おい、義足野郎…なんで一つしかない願いがそれなんだよ!

「あのなぁ、もっと威力のある奴とかあるだろ?」

「ZガンダムやZZガンダムに搭載してるバイオセンサーはニュータイプしか扱えないし、キュベレイやνガンダムもだ。ドーベンウルフやシルヴァバレト等のインコムとかはニュータイプでなくても扱える機体だが、重力がある地球ではただのガラクタだ。ドラグーンやCファンネルも……BETAで対抗する機体といえばサイコザクで行くよ」

成る程。

流石、義足野郎だな

夢見ながら間違った選択したら大抵でっかい落とし穴に嵌るものだぞ。俺が言うことじゃないが。

それにしても『サイコ・ザク』か……。

まぁ、いい機体だが。

義足野郎にはとてもお似合いな機体だぜ。

「能力は要らないな……俺はジャズ聴きながら戦場駆けたいんだ」

「ラブポップス……」

お粗末な音楽だ

ガンプラ大会で互角に渡る程戦ったからな。

あの少年には勝てなかったがな。

話逸れたが、俺はフルアーマーガンダム

義足野郎はサイコ・ザクに決まった。

「モビルスーツだな、分かった。確かに聞き届けた。フルアーマーガンダム サンダーボルトVerとリユース・P・デバイス実験用高機動型ザクII…サイコ・ザク。それらをもって宇宙の邪悪”BETA”に挑むがいい!」

ケヤルガは俺達2人に近づかず掌を見せる

閃光に包まれたその瞬間、俺と義足野郎の意識は暗くなり、別世界へと飛ばされた




ゲストキャラとして『回復術士のやり直し』の主人公であるケヤルガを出しました。
因みに悠一だけはマブラヴの原作知識はありません。


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第2話 五摂家

悠一side

 

「う…………?」

俺は深い微睡みから目を覚ました。

確か、ケヤルガのいる神界から、BETAという化け物のいる世界へと送られた筈だ。

そしてもう1人……俺と同じようにこの世界に来ている筈の奴を思い出した。

義足野郎!

あれ、おい!ここにいねぇじゃねぇか!何処に消えやがった!?

クソ!

「起きなさい……」

青い軍服?を着てる1人の女性が俺を起こしに来た

誰だ?俺は眠いんだ、寝かせてくれ

「…さっさと起きてくださらないの?」

何だ、この高貴なお嬢様みたいな声は。それに……。

「起きなさい!いつまで寝てるの!?」

女性は俺がかぶってる布団を剥がし目が覚めた

その顔を見れば、おっ、綺麗な顔してる美しい女性だ

もう1人女性が部屋に入ってきた。

「崇宰大尉」

短髪で赤い軍服?を着てる女性だ。

……まぁまぁってところかな。

「如月中尉、例の機体は」

「はい、機体に関してですが我々の世界で見た事がなく、データベースには載ってない戦術機です」

崇宰大尉

如月中尉

……名前は覚えたぜ。あとは下の名前が気になる。

それにしてもここは何処だ?

「あ、おはようございます崇宰大尉殿」

ふと俺は失礼のないようにきりっとした顔で敬礼する

何だか呆れてる顔してるな

「はぁ…豊臣悠一少尉、貴方は…」

崇宰大尉が何か言いたそうだが如月中尉が割り込み話しかける

「貴様は欺衛軍を何だと思っている?大尉がどれだけ苦労なされたか理解してるのか?」

何だよ……朝から怒鳴って

美人な顔が台無しになるぜ

「あの、少し訪ねたい事あるが」

「何だ?」

「今、何年ですか?それにここは何処なんですか?」

俺がそういうと2人はまた呆れ顔になり溜め息ついた

「貴方ね……はぁ、認知症かしら?1997年10月6日、ここは欺衛軍と日帝軍が共同利用している嵐山基地。今貴方は貴方自身の部屋で爆睡し私は貴方を起こしに来たのよ」

経緯は分かった。

となると俺は……いやそもそも欺衛軍って何だよ!?

「模擬戦闘の時間よ。如月中尉が貴方のその根性を叩き付けるから本気で挑みなさい」

「貴様は例の機体に乗って貰う、どんな性能の戦術機か確かめる。いいな?」

「了解です」

と2人は部屋から出て行った

それにしても美人だな……色々聞きたいぜ

俺は即座に起き上がり更衣室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子side

 

私の名は崇宰恭子

日本帝国斯衛軍の衛士であり五摂家の一角である崇宰家次期当主よ

ある日、私は朝鮮半島に謎の戦術機が単体でBETAを殲滅しているという情報が入った

私はその存在を疑った

しかし、その戦術機は日本や海外の戦術機のデータベースには載っておらず未知なる未来の技術を使った戦術機だった。

早速、同じ欺衛軍衛士である如月佳織中尉と共に朝鮮半島へ視察

機体がある場所は、南朝鮮(韓国)の鉄原

韓国軍兵士や派遣任務に携わってる欺衛軍衛士もその機体を確認し管制ユニットを見たが、そこには誰にもいなかった

「誰もいないぞ」

「自動操縦……という訳か」

無論、私はこの機体を欲するべく韓国軍上層部、韓国政府に交渉し謎の機体を極秘裏で日本の嵐山基地に配備されることになった。

もし、あの機体が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)にあったら使えるだけ使い潰されるだけだっただろうと私は思っていた。

「その機体に関する情報は?」

「恭子様、管制ユニットを見ましたがこれを」

黒い軍服着てる欺衛軍衛士は私にその機体のマニュアルらしき本を渡す

中身を見ると……。

「ガンダム……?」

聞き慣れない名称の機体ね

形式番号はFA-78

勝色と白、深緋(こきあけ)色に塗られている

マニュアルを目を通し捲り続けたがまたも聞き慣れない名前を見てしまった

「モビルスーツ……?それがこの機体の名称なの?」

概念といった方が正しいかしら?

これを殿下に手土産に持ち帰れば……いや殿下にこれを見せるわけにはいかない

黒い軍服着てる欺衛軍衛士はサバイバルキットやパイロットスーツを見つけ確認する

「これも見慣れないパイロットスーツですね、強化装備ではないことは確かですが」

「別世界からやってきた機体が朝鮮半島の戦闘区域に自動操縦でBETAを殲滅。数は?」

「観測班からの情報だと、そのガンダムという機体は戦車級を…スターウォーズってご存知ですか?」

「え?アメリカが製作したSF映画ね、それと何か関連があるの?」

「関連あるもないも、これは紛れもなくライトセーバーですよ。光り輝いて刃物のようにバサッと叩き切る。それですよ」

「では右腕部に装備してるのは?」

スターウォーズ……私は斑鳩少佐に誘われて映画館で見たけど、正直私の趣向には合わなかったわ

「これもレーザー砲ですね、他は実弾兵器にミサイルポッドも」

これは戦力の一つの要になるに違いない

「これを帝都に持ち帰り極秘裏で管理する。これは最重要機密よ。殿下にはこの事はまだ知られてはならない…いいわね?」

「了解です、恭子様。直ちに輸送する準備をします」

「頼んだわよ」

殿下にはあとで知らせよう

今は知られてはいけない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

俺は深い眠りから目を覚ました。

確か、ケヤルガのいる神界から、BETAという化け物のいる世界へと送られた筈だ。

そしてもう1人……俺と同じようにこの世界に来ている筈の奴を思い出した。

まぁ、奴がいようがいないが俺にとってはどうでもいい

静かだ……ここは何処なんだ?

「あら?目が覚めたのね」

部屋に入ってきたのは花飾りをつけてるベトナム人の女性だ

「アンタは…」

「ここは東欧州社会主義同盟の戦術機母艦『ヴィリー・シュトフ』よ」

ここは空母の中か。

「私は第666戦術機中隊のファム・ティ・ラン大尉よ、お姉さんって呼んでくれると嬉しいな」

ファムと名乗った女性はニコッと笑みを浮かべる

え?これは夢なのか

「サイコ・ザクは!?」

「?」

「俺の機体、サイコ・ザクは何処にあるんだ!?」

俺は慌ててサイコ・ザクがどこにあるのか尋ねた

「落ち着いて、貴方の名前聞かせてくれるかしら?」

俺は本名の徳川良平と名乗ろうとしたが、天啓が閃きある名前を口に出した。

「ダリル、俺の名前はダリル・ローレンツだ」

「ダリル君ね、貴方の機体は飛行甲板にあるわよ」

良かった……願いは叶ったんだ。

「確かめに行く?」

「……いや、機体があっただけでホッとしたよ」

もう1人女性が入ってきた

茶色?オレンジ?のショートヘアで普段から鍛え上げている女性だ。

「お、ファム姉、ここにいたんだ」

「アネットちゃん、丁度いいところに来たわね」

アネット?

もしかすると……

俺は元の世界で家にとある本を読んだことを思い出した

「もしかして…アネット?」

「ふぇ?何であたしの名前知ってるの?」

怪しまれたか?

いや、寧ろ困惑している

「SF小説にそのキャラの名前あったからそれで…」

「そうなんだね」

とアネットは少し微笑む

俺の手を見ると、いつも付けてる義手と義足とは違う

これは……?

「ハンディキャップで戦術機……じゃない。モビルスーツ?に乗ってたなんて凄いし大した強者だよ」

部屋の中を見渡したが、ファムが何か小さい機械を持ってる

あれは俺のラジオ……。

「これ?貴方の機体の中からあったのよ」

「それは俺のラジオだ」

「あら?ごめんなさいね。壊れてないから安心してね♪」

そういう問題じゃないと思うんだが、とにかくラジオがあってよかった

ファムの笑顔を見ると何故か癒される

自由になった気分だ

「この母艦は何処に向かうんだ?」

「日本よ、戦艦カールマルクスにいる東欧州社会主義同盟総帥、ベアトリクス・ブレーメ総帥と榊首相と会談する予定よ」

ブレーメ総帥?

俺が知ってる結末と全然違う

という事は………この世界はベアトリクスが革命に勝利した世界線なのか!?

「サイコ・ザクの存在は知ってるのか?」

「……ベアトリクスは既に知ってると思うわ」

だろうな……ランドセルを見たら戦術機ではないと見抜くだろう

それだけ重宝されてるんだ、サイコ・ザクは

「そうか、俺は日本に入れるのか」

俺は期待に胸を膨らませ日本に入国した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

俺は更衣室に用意されてたパイロットスーツに着替え格納庫に入った

そこには崇宰大尉と如月中尉が既に格納庫にいた

2人の服装をよく見ると…何だ?そのピッチリと密着させたパイロットスーツは!?

おいおい、待てよ!

少し興奮したじゃねぇか!

「貴方、この強化装備をじっと見て興奮してるの?」

ストレートで言ってくれるぜ、崇宰大尉

そうだけどさ、これじゃ集中出来ねぇよ

「恭子様の強化装備をいやらしい目で見て……貴様は変態だな」

おめぇに言われたくねぇよ!

あれ?今恭子様って言ったよな。

そうか、あれが崇宰大尉の下の名前か

となると、あとは如月中尉の下の名前を聞くだけだな

「貴方もいつも強化装備を着て戦術機に乗ってるでしょ?変な目で見られるのはもう慣れてるわ」

「恭子様……」

2人は慎ましく笑みを浮かびながら互いに顔を近づけ額にくっつける

「お楽しみのところ悪いんですけど、そろそろ…」

「駄目だ!私は恭子様と一緒にスキンシップを取りたい気分だ。邪魔をするな」

何でだよ!

俺はこの為にパイロットスーツを着たんだぞ!

と思いつつ右へ振り返るとそこにはフルアーマーガンダムの姿があった。

「(フルアーマーガンダム!遂に願いを叶ったのか!)」

俺は誇らしげに笑みを浮かんだ

お2人さんが楽しんでる好きに俺はフルアーマーガンダムのコクピットに入りシートに座り込みシートベルトをかける。

「マニュアルは……」

コクピットの中にショルダーバッグを持ち込み中身を開けるとそこにはドラムスティックと小型ラジオがあった。

これだよこれ!

俺はイオ少尉になり切ってる気分だぜ

マニュアルを開きそれを目に通す

「成る程……動かし方は理解した!」

願いが叶って良かったぜ!

俺はコクピットの機器にドラムスティックでジャズが鳴り響き演奏してるように叩いた

「……」

恭子は俺の方を見る

「佳織、少し待ってて」

「はい」

如月中尉の下の名前、佳織か

良い名前だ

しかし俺には振り向いてくれないだろうな

って恭子が俺の方に近づいてきた

怒ってるのか?

「豊臣少尉」

「何でしょうか?崇宰大尉」

「その、機器を棒で叩くのは……」

「ドラムスティックですよ」

「そうね、貴方音楽好きなの?」

ん?ジャズに興味出てきたか

「ああ、フリージャズが好んでいてそれで…」

俺は恭子の強化装備姿を見つつ頬を赤らめ照れてる

「ジャズね……」

恭子は続けて言おうとするが黒い軍服を着た男性が恭子に何か知らせる

「……来たのね?」

「はい、舞鶴港に東欧州社会主義同盟の艦艇が」

東欧州?社会主義同盟って社会主義国家の集いか

俺は無断でコクピットのハッチを閉め操縦桿を握り機体をゆっくりと動かした

「え?ちょっと何処に行くの!?」

《その東欧州なんちゃらっていう連中を挨拶しに行ってくるぜ》

俺はラジオの電源を入れ周波数を合わせて音楽番組に流れているフリージャズを流し最大全速で嵐山基地から出て舞鶴港へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

俺は東欧州社会主義同盟という組織の母艦にいる

そこでファム、アネットと出会い話しかけてきた

本名を捨て、ダリル・ローレンツと言う名でこの世界で生きる決心した

飛行甲板で俺はサイコ・ザクの点検をしマニピュレーターの操作確認をする

「うん、機体の動作異常はなし」

モニターを表示し外の様子を見ている途中に何かが近づいてきた

戦術機……いや違う。この動きはモビルスーツ!

何か聴こえる…ジャズか!

彼奴……俺の足を馬鹿にした奴だ!

《何か近づいてくるよ、それにノイズ?違う……これはジャズだよ!ファム姉》

《戦術機……じゃないわ。アネットちゃん警戒して!》

「(ガンダム……彼奴か!)アネット、ファム。下がれ!ここは俺が引き受ける!」

サイコ・ザクのブースターを噴出し最大全速でガンダムに近づけつつ右手はビームバズーカ、左手はジャイアント・バズを握り構え発砲するが、ガンダムはそれを躱す

《ジャズが聴こえたら俺が来た合図だ!》

「!」

《その距離で狙い撃つとは、お前だろ…義足野郎!》

MiG-29 ラーストチカに乗るアネットは突撃砲を握り構え発砲

《何なの此奴!》

《は!これは挨拶代わりだ!アカ野郎共!》

2連ビームライフルで撃ってきた!

最大全速で飛行し攻撃を躱す

警報音が鳴り母艦にいる衛士は戦闘態勢に入る

《アネットちゃん、離れて!》

ファム機もアネット機のフォローに出る

しかし、戦術機の速度にモビルスーツの動きはついてこれず、突撃砲を破壊され喪失

《ダリル君、このままでは拙いわ。早く何とかして!》

「何とかって……」

ランドセル側面にサブアームでラックからビームサーベルを取り出した

俺はヒートホークで対抗する

《おい義足野郎!セッションしようぜ》

「誰がお前なんかと!」

《平凡な音楽を愛するお前にはジャズの魅力は分かんねぇよな》

「…!」

ヒートホークでガンダムに向け攻撃を仕掛けるが動きを察知されたかシールド2枚を棄てつつアネット機に当ててガンダムの後ろについてるランドセルにあるサブアームで掴まれ人質を取るように最大全速で上へ飛行しつつあの男は俺に挑発させる

《悔しければ撃ってみな!この女を殺す覚悟あるならな!》

《動きが…取れない…う、撃って!ファム姉!!あたしの事は構わないでいいから早く撃って!》

アネットは狂乱し平静に保てず錯乱状態になる

《何言ってるのよ!アネットちゃん。そんな事……出来ないわ!》

《早く何とかしてよ!》

ファムも相当参ってるようだ。

《ダリルなんて名前与えられてよ!お前は平和気取りか!俺達は殺し合う運命なんだ》

俺は堪忍袋の緒が切れヒートホークを棄て上部ロケットブースターに収納しているザクバズーカを両手に握り構えにっくきガンダムを向け射撃するが、アネット機の頭部に直撃

《きゃっ!》

《おいおいおいおい、何処狙って撃ってるんだ?》

あの男は鼻で笑い俺を見下す

《お前は女一人助けられない惨めな男だな》

「此奴……!」

左腕部に装備してるロケット・ランチャーを5連射し態と飛行甲板に向け当ててからビームサーベルでアネット機の管制ユニットに向ける

《終わりだ……》

その時、ガンダムに向け流れ弾が放ってきた

あれは…欺衛軍の瑞鶴

色は青と赤

後ろに白を塗装した戦術機が3機

あれに乗ってるのは恐らく鬼姫と呼ばれる崇宰家次期当主の崇宰恭子と如月佳織

間違いない……!

《豊臣少尉、貴様……断りもなく勝手に》

相当怒ってるようだ

此奴、軍規違反したのか?

《チッ、今日のところは引き上げてやる、次はないと思うんだな!》

アネット機をサブアームから放し母艦の飛行甲板に落下させる

そして、欺衛軍の戦術機5機と共に何処かへ飛び去って行った

アネットは即座に管制ユニットから降りて飛行甲板の床に足をつける

跪き泣き崩れた

ファムも慌てて機体から降りる

「大丈夫、アネットちゃん!?」

「ファム姉……あたし、うぅ…うあああああああん」

「大丈夫よ、お姉さんが傍にいるから。大丈夫だからね」

ファムはアネットを抱き締め介抱する

俺は、守れなかった……。

まだ未熟だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

俺は東欧州の連中に挨拶しに行った後、恭子がカンカンに怒って基地へ戻った。

で、今は執務室で軍法会議ごっこで説教中だ。

全くついてねぇよ

「ここに来た理由は分かってるわね?」

「はい…」

そう答えるしかないよな

「何故戦術機で無断出撃したの?これは立派な軍規違反よ」

「大尉殿、あれは戦術機ではなくモビルスーツです。この世界では存在しない概念、技術が詰め込まれてるんです」

俺は説教受けつつこう言った。

だが恭子は驚く様子なく顔一つ変えず言い返した。

「知ってるわ、そんなくらい。貴方、マニュアル見てなかったの?」

「……」

見たには見たけど軽く流す程度だ

「顔見なくても貴方はマニュアルを見たと判断するわ。私に誤魔化しは通用しなくてよ?」

軽くこう言い放つが、キリっとした表情だ

まるで武士みたいだ

「軍法第1条aに違反、軍法第2条bに違反……」

俺を睨み付けきやがった

冗談だろ、おい

「銃殺刑よ」

真顔で俺にこう言い放つ

俺は愕然した

BETAのクソッタレどもとやり合う前に死ぬなんてまっぴらごめんだぜ!

「でもこれはあくまでも軍事法廷での判決よ。ここは法廷ではないから言うけど欺衛軍の誇りがあるなら命令不服従は一切やらない事ね」

はぁ、助かった……確かにアンタの言う通りだ崇宰大尉

でもよ、俺はガンダムに乗ってBETAを殲滅すると心の底から思ったがよりによって何で欺衛軍に……。

「征夷大将軍や皇帝陛下の為に我々欺衛軍が存在してるの。私が言ってること分かるかしら?」

成る程な、それが欺衛軍って訳ね

史実とは全く違うんだな……理解したぜ

「崇宰大尉、今回の個人的な無断出撃は全て私の責任です」

「そうね」

「今後とも勝手な行動を慎むよう善処いたします」

こう言っとけば納得するだろう。

口だけだが、行動を示すことが優先だ。

「……分かればいいのよ、それと……」

ん?

恭子は俺に近づき手を握った

「罰として今日は私と付き合いなさい」

え?

マジかよ……。

「崇宰大尉が直々に……ですか?」

「ここは京の都よ、貴方の好きな要望何でも応えるわ」

ジャズ喫茶に行きたいです。と言いたいところだがここは敢えて恭子が好みそうなモノを

「宇治に行って茶蕎麦食べたいですね」

と俺は苦笑いした

「なら私のお薦めの店があるからそこに行きましょう」

おお、やったぜ!

恭子とお食事デートの約束取り付けた!

俺は歓喜し心の底から大いにただ喜んだ。

「絶対に来なさいよ、今回の事は大目に見るから私の顔を泥を塗らないように」

とにかくあの美人で気高く上品なお嬢様とデートするなんて夢みたいだ

好感度上げなきゃな……まずは始末書書いてからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子Side

 

私は豊臣少尉を叱責し食事デートの誘いをしたが、1人だけ不満そうな顔をしている女性がいた

如月中尉……何で寂しい目で私を

「恭子様……豊臣少尉とデートの約束を取り付けたのですか?」

「そうよ、貴女も行きたいの?」

「え?いえ、私はまだ軍の仕事が残っていますので」

私は佳織を抱き締め顔を近づける

「恭子様…」

「如月中尉……佳織、貴女はよく頑張ってるとわかってるわ」

私は佳織を連れ外へ出て人気がないところに移動する

「あの…恭子様」

「ここなら誰も来ないわ」

佳織の顔を見ると頬を赤らめ照れている

私は佳織の顔を近づけじっと目を見る

「いけません恭子様、私は如月家の一員であり征夷大将軍や皇帝陛下に仕える身で…」

「今は2人きりだから誰も来ないわ、それ以前に私達は普通の女性なのよ」

クスっと笑みを浮かべた私は目を瞑り佳織の唇をそっと優しく重ねる

そしてそっと離す

「……」

「佳織、私は貴女の事が好きよ」

「恭子……様……」

互いの唇を重ねながら腰に手を回し抱き締め合った

私は佳織に鼓動が聞こえるか確かめそっと離し再度じっと目を見る

5分後、私と佳織は個室に入り激しく愛を育んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私と佳織が個室に入り一緒に添い寝してから1時間経過した頃、ベッドから起き上がりパーティードレスに着替えて豊臣少尉との食事デートの約束の場所へ向かうが、全裸のまま寝ていた佳織が私を呼び止める

「恭子様、行かれるんですね」

「ええ、行ってくるわね」

私は佳織に向け優しい笑みを浮かび額に軽くキスする

佳織は喜んでいるが素直になれない表情ね

今はBETAの事は忘れて気分転換するのも悪くないわね

今は……。

佳織も軍服を身を包み、私の手を握りながら一緒に歩く

「恭子様をお守りします」

「あら?ありがとう。では車で送迎して貰えないかしら?」

「はい!恭子様の為なら何なりと」

嵐山基地に出て、車庫にある黒い塗装を施された全長5,270 mm全幅1,890 mm全高1,475 mmホイールベー3,025 mmの高級車に乗る

「明日の予定は?」

「はい、朝5時に起床した後、BETA侵攻を遅らせる作戦計画を練る会議で9時にシミュレーション訓練、9時30分に殿下との会談、10時には山百合女子衛士訓練校の視察…」

車を走らせようとするが、誰かが車に乗り込んだ

「へー、崇宰家次期当主様が高級な車をお持ちで」

豊臣少尉、貴方先に約束の場所にいる筈では?

ま、良いわ。

手間が省けたわ

「ところで崇宰大尉、五摂家とは何でしょうか?」

え?

「……五摂家とは武家のトップである政威大将軍を輩出する有力な力を持った5つの武家の事よ」

……。

あの男、本当に欺衛軍の衛士なの?

私は薄ら笑みを浮かんだ

「ふふ」

「何笑ってるんですか?」

「別に、今日は私にとっては最高の日になりそうよ」

佳織は何も言わずに車を走らせ約束の場所へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

俺は戦術機母艦『ヴィリー・シュトフ』の飛行甲板に置かれているサイコ・ザクの整備をしている。

整備してる途中にアネットに呼び掛けられる

「ダリル、少しいいかな?」

「ん?何だ」

表情が曇らせている

あのガンダムの件か……俺はどう説明するかは想像ついている

「気になる事あるけど、ガンダムってアンタがいた世界にある機体なの?」

「ああ、正確には宇宙世紀という暦がある世界で作られた機体なんだ」

「それってロボットアニメの?」

「そうそう、それだよ」

ガンダム知ってたんだな

いや、単なる偶然か

「あたしとファム姉は今でも衛士として活躍してるけど、あのガンダムの存在がなかったらファム姉は今頃生きてなかった」

あのガンダム?

「…ううん、何でもない。そのサイコ・ザクっていう機体さ、あたしでも扱えるの?」

サイコ・ザクに興味示したのか

……だがこれを動かすには手足を犠牲にしないといけない

残念だがアネットには絶対乗れない

俺はこう切り返しつつ言い放った

「俺しか扱えないよ」

「そっか……」

俺は小型ポータブルCDプレイヤーの電源を入れ曲を流した

温かくて優しさに包み込まれる音楽だ

「音楽好きなの?」

「ポップスが好んでてな……」

良いムードだ。

アネットの顔は優しい表情で笑みを浮かんでいる

俺は恵まれているんだな……。

その笑顔を失わせたりはしない

俺は……アンタを守って見せる

無理しなくていいんだ。

「俺はアンタの笑顔を失わせない為に戦うよ」

「え?あぁ、うん。その…ありがとう」

アネットは頬を赤らめ優しい笑みを浮かべた。

俺は一応この世界の事は少し知ってる程度だ

彼奴は知らないだろうな……BETAという存在を認知してもこの世界の事を無知で生きるのは苦労してそうだ

戦術機という人型兵器はモビルスーツみたいなものだが性能は高くはない

だが例外はある。

戦術機の性能と出力関係なく熟練した衛士ならモビルスーツと対等にやり合えると思う

狙撃手は勝ち負けや機体の出力や性能の差は関係ない

だからこそ俺以外の五体満足のパイロットは戦える

「ファム姉から何か聞かれたの?」

「ファム中尉から?」

「うん」

「いや、何も聞いてないよ」

何だろ?

「日本の武家の一つである崇宰家主催のジャズコンサートあるけど……行きたい?」

彼奴が喜びそうな催しだな

「あたしは滅多にコンサートとか行く機会はなかったから、アンタと一緒なら……」

そういう事か

確かに衛士はコンサートとか行く機会は滅多にない

アネットの願い叶えてやるか

「分かった、俺も行くよ」

と笑みを浮かべる

「ホント?やったー!」

喜んでる顔も素敵だ

「ファム姉に頼んでどんなドレス着ようか相談しようかな~、あー、楽しみだわ」

子供みたいな無邪気に笑みを浮かぶアネットは飛行甲板から去る際に俺に向け手を振った。




登場人物紹介です

豊臣悠一
欺衛軍側の主人公
男性。階級は少尉。一人称は「俺」大坂の陣で大坂城の羽柴宗家(豊臣家)の生き残りの末裔でありながら自身の経歴や肩書きを気にするような素振りは見せず、権威や上官に対しては反抗的な態度を取る。一方で逃れられない責務も自覚しており、モビルスーツ或いは戦術機と戦争を自身が「自由」になれる場所として愛している。
転生前はガンプラビルダーでありフルアーマーガンダム(サンダーボルトver)を愛用しガンプラバトル大会に挑んでたがあの少年(誰なのかは言及してないがガンダムビルドファイターズの主人公、イオリ・セイのそっくりさんだと伺える)に敗北した。
軍の検閲を抜けた海賊放送を任務中でも聴取することが趣味で、戦闘中もモビルスーツ(戦術機も含めて)のコクピット内に小型のラジオとドラムスティックを持ち込んでいる。好きな音楽のジャンルはフリー・ジャズ
容姿は機動戦士ガンダムサンダーボルトの主人公(地球連邦軍側)イオ・フレミングだが、転生された後何故かこの世の果てで恋を唄う少女YU-NOの登場人物である豊富秀夫になっている
乗機はフルアーマーガンダム(サンダーボルトver)

徳川良平
東欧州社会主義同盟側の主人公
男性。物語開始時はガンプラビルダーでありサイコ・ザクを愛用しガンプラバトル大会で準優勝した経験があった。
転生後は東欧州社会主義同盟に属しダリル・ローレンツという偽名でこの世界で生きファム、アネットを守り抜くことを決意する
乗機はサイコ・ザク
悠一と同じく、コクピット内に小型ラジオを持ち込んでいる。好きな音楽ジャンルはポップスのラブソング、オールディーズ、アニメソング、電波ソング
容姿は機動戦士ガンダムサンダーボルトの主人公(ジオン公国軍側)ダリル・ローレンツ

崇宰恭子
日本帝国欺衛軍の衛士。欺衛軍側のヒロイン
階級は大尉
五摂家の一つである崇宰家の次期当主
乗機は蒼の塗装を施されている瑞鶴
好きな音楽ジャンルは和楽

如月佳織
日本帝国欺衛軍の衛士
階級は中尉
恭子の側近で彼女の護衛を常に励んでいる
乗機は赤の塗装を施されている瑞鶴
好きな音楽ジャンルは和楽

アネット・ホーゼンフェルト
東欧州社会主義同盟第666戦術機中隊の衛士であり副官を務めている。東欧州社会主義同盟側のヒロイン
階級は中尉
乗機はバラライカ、ラーストチカ
好きな音楽ジャンルはポップス

ファム・ティ・ラン
東欧州社会主義同盟第666戦術機中隊の衛士であり中隊長を務めている。東欧州社会主義同盟側のもう一人のヒロイン
階級は大尉
乗機はバラライカ、ラーストチカ
好きな音楽ジャンルはポップス

カタリーナ・ディーゲルマン
東欧州社会主義同盟戦術機大隊ヴェアヴォルフの衛士
階級は中尉
乗機はチボラシュカ、アリゲートル、アリゲートルブリッツ
好きな音楽はポップス、アニメソング、電波ソング


次回のお楽しみに!


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第3話 欺衛と東欧州

悠一Side

 

俺は恭子とその護衛を務める佳織と共に食事デートの場所であるお薦めの蕎麦屋に向かっていた筈だが……予想外の展開が起きてしまった

それは……京都ホテルオークラだ

老舗のホテルじゃねぇか!

「ふふ」

不敵な笑みを浮かんでいる

そうか……俺を騙す為に事前に練っていたのか

「騙すだなんて人聞きが悪いわね」

心を読むなよ……。

俺は手鏡で自分の顔を見た

「うあああっ!」

何だ、この顔は?

俺………じゃない。

え?待て、焦るな。これは夢なんだ

俺は右人差し指と親指で頬を抓る

「いたた!」

夢じゃねぇ……ケヤルガの野郎!顔まで弄りやがったな!

髪型は何とかなりそうだが元の顔戻すには整形手術だな

ただ、そんな金はない!

貯金を貯めて、欲しいものは我慢するしかない

「自分の顔見て何驚いてるのかしら?」

俺は思わず恭子のドレスの胸元をじっと見てしまった

下心を出すな、これは好機かもしれない

五摂家である崇宰家の、婿入りになるチャンスだ

こんなチャンスはもう二度とないぜ

ならば……。

「ホテルで何か催しをなされるのですか?大尉殿」

「ええ、私の父親がジャズが大好きでね、今日は父親が主催する崇宰家ジャズコンサート行われるのよ。今まで内緒にしてごめんなさいね」

と恭子は俺に向け掌を合わせた

五摂家たるものは催しは手を抜かないってか?

「恭子様、到着しました」

佳織はホテルのエントランス前に車を止める

車から降りた俺を含め恭子と佳織はホテルマンに車のカギを預け地下駐車場に

そして会場である大ホールに入る

そこには華やかな光景がありピアノとトランペットが高らかに鳴り響く会場内では歓声ではなく静聴している人達が沢山いた。

サクラ、じゃないな。あんな高価な服装やドレスは一般市民が着そうなものじゃない。

ここにいる皆は全員、武家出身だからだ。

「唯依が大きくなったらこのジャズの音色聞かせてあげたいわ」

「篁候補生の事ですか?恭子様」

篁……誰だ?

「一般武家出身の豊臣少尉は唯依の名前くらい一度聞いたことあって?」

俺に問いかけてる

当然……。

「いやないです」

「……」

溜め息しつつ不敵な笑みを浮かべる恭子は俺の顔を見る

「いいでしょう、この場で教えるわね」

「お願いします」

と恭子は武家の事を俺に教えようとするが、義足野郎とラストーチカっていう機体に乗ってた女パイロットが会場に入りバッタリと会ってしまった

「お前が何でここにいるんだ?」

「アネットがジャズコンサート行きたいっていうから来ただけだ」

義足野郎の隣にいるのはアネットって小娘か

見た目は30手前だが、そこそこいい女だ

この世界に来てもう彼女ゲットしたのか?

アネットのドレスをよく見ると…胸元開いたセクシードレスだ

胸の大きさは貧乳ではないが普通の大きさだな

「あ、初めまして!あたしは第666戦術機中隊の……」

緊張しているな

もう1人はベトナム人か。

ふむ、30代後半だが何か包容力があるお姉さんキャラだ。

常に笑顔で振るまっている…花飾り付けてるな

アネットと同じく胸元開いたセクシードレスを着ている

嘘だろ、女2人恵まれたのか!?

クソ!義足野郎の癖に生意気だぜ。

「アネットちゃん、緊張し過ぎよ。ほらリラックスして」

「うん、ありがとうファム姉」

「貴方が崇宰家の次期当主、崇宰恭子大尉ですね?」

「そうだけど…貴女は?」

「第666戦術機中隊のファム・ティ・ラン大尉です」

とファムと名乗ったベトナム人女性は恭子に向け敬礼する

「で、私の隣にいるのはアネット・ホーゼンフェルト中尉、彼女は私の副官です」

成る程な

「義足野郎にしてはくじ当たったみたいだな」

「ジャズばかり聴いてるお前に言われたくはない。お前も彼女ゲットしたじゃないか」

「きょ…いや崇宰大尉は違う!」

「少し表出よう。ここだと話しづらい」

面倒事は御免蒙るってか

いいだろう、洗い浚い教えさせてやる

「少し席を外します」

「あら?お手洗いかしら。すぐ戻ってきなさいよね」

恭子は少し拗ねている

待たせてはくれないだろう

「俺も少し席外すよ。ファム大尉、アネットの面倒を頼みます」

「ええ、早く戻ってきてね」

俺と義足野郎は会場から一時出ていき男子トイレの手洗い場で話をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子Side

 

今日は私の父が主催するジャズコンサートが行われている

私と佳織、豊臣少尉は今その会場にいる

東欧州社会主義同盟の衛士2人と見慣れない男1人と一緒に会場に入り、その男と豊臣少尉は知り合いみたいな感じで彼等2人が一時会場から出て行った後、2人に話しかけた

「日本は初めてですか?ファム大尉」

「はい、実は一度来てみたかったんです」

ファム大尉は私に向け常にニコニコと笑みを崩さずに話しかけた

私の隣にいてる佳織は警戒を怠ることなくただ立っていた

666って言ってたわね……もしやあの666中隊!?

いや、違うと言いたいけど2人の顔見るとテレビでよく報じられ学校の教科書に載ってる衛士だわ

確か東ドイツ革命に参加した衛士だったわね。

本物……のファム・ティ・ランとアネット・ホーゼンフェルト。

私は2人の顔を見て眉を顰める

「崇宰大尉は何故軍に入ったのですか?親御さんが軍に入れと言われたからですか?」

「両親の意思ではなく私個人の意思で欺衛軍に入り崇宰家の為個の為お国の為に役に立つと思い心掛けているだけに過ぎませんよ、ファム大尉」

とクスっと笑みを浮かべる

「インペリアルガードって……確か」

アネットは疑問を感じ始める

「征夷大将軍殿下を護衛するために存在しているのよ」

殿下が国の指導者の立場に近いのは事実よ。

「そうなん、ですね………」

……。

ふむ、欺衛軍の事を興味示してくれたのかしら?

私はホテルの従業員から赤ワインが注がれたワイングラスを手にしそれを飲む。

「一度観光に行くことを勧めるわ。嵐山の川下り良いわよ」

「川下りですか」

「ええ」

他にもお寺巡りとかあるけど1日だけでは全部観回れない。

「私で良ければ、明日京都の観光名所案内するわよ?」

軍の仕事があるから相手の返答次第ね

「ふふ、明日休暇なので是非行かせて頂きます」

「良い返答ね、感謝するわ」

と私はクスっと笑みを浮かべ言い放った。

佳織が隣にいるけど気にすることはない

何故か拗ねている……仕方ないわね

「如月中尉、貴女も同行しなさい。ファム大尉とホーゼンフェルト中尉に怪我させたりしたら困るから」

「はい!有難き御言葉感謝します、恭子様」

佳織は満面の笑みを浮かべ私に向け一礼した。

「失礼のないように、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

数時間前

ジャズコンサートの会場へ行く為に俺はアネットのドレス選びをファムと共に協力した。

俺は正直、女の子にドレス選んで着させること自体慣れていない

「じゃーん、似合ってる?」

控えめなドレスだ

色は紫

肌の露出はあるが小さめだな

「うーん、似合ってると思うよ」

「あ!適当に言ってるでしょ?」

図星突かれた

「ダリル君、女の子はね。もっと上手に褒めなきゃだめよ」

成る程

「はい、目隠ししましょうね」

俺はファムにアイマスクで目隠しされた

アネットは数分着替えた後、俺はアイマスクを取り背中を大胆に露出したドレスを着たアネットを見た

色は黒

肘くらいまである白い手袋を付けてる

え?尻出してるのか

これは……

「ちょっと肌見せすぎかな?」

ちょっとどころじゃないよ!

「セクシーでよく似合ってるわ」

「本当かな~?ファム姉」

仲が睦まじい会話だ

「大胆だね」

と俺は即答

「即答するんだね」

え?ドン引きされた……。

好感度上げるの難しい……。

俺はファムに再度アイマスクで目隠しされる

数分後、アイマスクを取り胸元開いた緑色のドレスを着たアネットを見た

俺は思わず鼻血を出してしまった

「うん、これもよく似合ってるわよアネットちゃん」

ファムはアネットを褒め優しい笑みを浮かんだ

「なんかこれシルヴィアみたいだね」

アネットが言うこともわかる。

「黒いチョーカーとか付けたら凄く似合うと思うよ。カッコ可愛く見える」

と俺は正直な気持ちでアネットを褒めた。

「カッコ可愛い……?」

「カッコよくて可愛く見えるよ」

「あぁ、そういう意味ね」

ファムはいきなり俺の手を握る

「よく出来ました。ダリル君もやれば出来るじゃない」

褒めてくれた……。

「鼻血出てるわ、はいティッシュ。これで鼻血を拭いて」

ファムは俺を優しく接しつつポケットティッシュを差し出した

そして俺は鼻血を拭く

ファムは俺の目を再度アイマスクで目隠しようとするが

「あら?破れちゃったわ」

「ええ~っ」

「俺が目を瞑って着替え終わるの待つよ」

と俺は言ったが、ファムは俺の目を両手で覆い隠す

「ふふふ、これで見られる心配はないわよ」

変な行動を起こすのは良くない

俺は大人しくアネットが次着替えるドレスを着替え終わるまで待ち続けた

「今変な妄想したでしょ?ダリル君」

いやしてないよ。

「正直に言っていいのよ……」

本当にしていない。

ファムは目隠しするのをやめ壁の方に向け俺を抱き締めた

「ファム姉!?」

「大丈夫よ、ダリル君の顔は壁の方に向いたわ」

アネットは頬を赤らめ小さく笑みを浮かべた

「そ、そうなの?これなら覗かれる心配はないね」

まぁ、この体勢だったら覗かれないな

ファムは俺の耳元に近づけ囁いた

「今夜、私の部屋に来なさい」

これは……。

ドレスを着替え終わったアネットは誇らしげな笑みを浮かべる

「ふふ、着替え終わったよ」

俺はアネットの顔や服装を見た

胸元開いた黒色のセクシードレスだ。

「これも、うーんどうかな?」

「ふふふ、色気が増してとても似合ってるわよ」

「本当?じゃあ、これを着るわ」

良かったなアネット

それにしても胸元ぱっくりと開いてるな……下乳まで見えてるぞ

俺はアネットが着てるセクシードレス姿を見て欲情し興奮した

「……」

「……?」

「あまりジロジロ見ないでよね」

俺はアネットのセクシードレス姿を見惚れてしまった。

「美しい……」

その一言を放った一瞬、アネットの顔は赤くなり照れる

「ちょっと照れるじゃない!」

ドレスは決まったようだな

さて、自室に戻るか

水分補給した後、ファムからお誘いがあったな。

……緊張するが気を引き締めていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は一旦自室に戻り水分補給を取り、BDU(戦闘服)を上まで閉めつつファムの部屋に行く途中に男を虜にしそうなBDU(戦闘服)を胸元晒してはだけてる銀髪の女性にバッタリと遭遇した

この女性、どこかで見たような気が。

「何かしら?」

話しかけられた!?

どうする…俺が下手に行ったら殺される

「見かけない顔ね、誰なの?」

思い出したぞ!SF小説で見た事ある

「ダリル・ローレンツ少尉です。先日配属されたばかりで」

「あら、そうなの?知らなかったわ」

少し話しかけてみるか

「あの、もしかしてシルヴィア・クシャシンスカ……でありますか?」

「は?何で私の名前知ってるのよ、気味が悪いわ」

逆効果だったか……難しいな

「SF小説に出てきたキャラと同じ名前が出ていまして……」

そんな言い分通用しないだろうな

俺は一旦話を切り上げファムの部屋に行こうとしたがシルヴィアに腕を掴まれ引き止められる

「え?何でしょうか」

拙い、こっちをじっと見てる

疑い深い目だ

「あの化け物の機体、アンタが?」

「サイコ・ザクの事ですか?」

「何それ?」

だろうな。

「ふふ、冗談よ。ファムから聞いたわ。あんな機体死んでも乗りたくないわね」

その方がいいさ。

でも不思議だ……何でサイコ・ザクを知ってるんだ?

「ファムのところに行くんでしょ?行きなさい」

「シルヴィア……いえクシャシンスカ少尉はどちらに?」

「アンタには関係ない事よ、それに私は中尉よ」

と捨て台詞で言われ歩き去った。

俺は内心、好きなキャラが生存してたこと自体嬉しかった。

この世界に転生したことは本当に良かった。

でも気を抜いてはいけない

いつ誰かが死ぬか分からない

そう思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、俺はアネットとファムと一緒に崇宰家が主催するジャズコンサートに来たのだが、そこであの男とバッタリと遭遇する

おまけに崇宰家次期当主の崇宰恭子大尉までいる

顔を変えても俺には誤魔化せない

男子トイレの手洗い場で奴と話している

「おい、何で俺だって分かったんだ」

「顔は変えても俺には誤魔化せないぞ。それに何だその白い恰好は…これ欺衛軍の軍服じゃないか」

「俺に聞くなよ……なぁ義足野郎、俺はケヤルガに顔変えられちまった。こんな気障な男みたいな顔でよぉ」

お前が日頃の行いが悪かったとしか言えないだろ

顔変えられて当然か

「この世界どうなってるんだ?俺がガンダム乗ったら不思議そうな目で見る奴らがいたんだ」

「俺もそうだよ、でも何故かモビルスーツの存在自体は知ってたらしい」

俺達2人がこの世界に転生する前に何かあったに違いない

「アネットやファムはサイコ・ザクの存在を認知している」

「さっきの小娘と包容力あるベトナム人か。俺に紹介してくれよ。結構可愛かったぜ」

何を言ってるんだ此奴は

「お前は崇宰恭子大尉がいるじゃないか」

「おっと、そうだったな。で?この世界は一体何なんだ。説明してくれ」

此奴、そのうち恭子を篭絡させる気だろう。

口が軽いだけの悪運の男が

仕方ない、ここで争うのは面倒だ。説明するか

「お前、マブラヴという作品知らないだろ」

「まぶらほ?どっかで聞いたような…」

馬鹿か此奴は……何も知らずにこの世界に転生したのか。

ケヤルガもケヤルガだ、詳しい事はBETAという化け物以外は言ってなかっただろう。

「それはラブコメファンタジーの魔法物の作品だ。それを書いた作家さんはけんぷファーを書いた作家さんだ」

「ケンプファー!?だと…」

それはジオンのモビルスーツだ

「……とにかくマブラヴとまぶらほ。この2つの作品は全く関係ない作品だからな。俺は少しこの世界の事知ってるつもりだ。勿論欺衛軍や東欧州社会主義同盟の存在も」

「2つの作品は関係ないってことは分かったが……この世界も日本は戦争に負けたのか?」

疑問抱いてるな

少し教えてやるか

「この世界は日本は史実通り戦争に負けたが史実より1年早く終結している。ドイツはアメリカに原爆2つ投下され第三帝国総統アドルフ・ヒトラーは自決。軽く説明すればこんな感じだ」

彼奴は頷いた。

だがまだ理解していない部分はある

「因みに史実より技術は大幅に発達している。例えば宇宙開発とかだ」

「東西冷戦は史実通りか?」

「1年早く第二次大戦終結したから暫定政府はあったと思う。これを読めばわかるよ」

俺はシュヴァルツェスマーケン第1巻を此奴に渡した。

「シュヴァルツェスマーケン?何だそりゃ?」

「その作品はマブラヴシリーズの1つだ」

「え?まぶらほはシリーズ化されてたのか?」

「まぶらほから離れろ。別作品だから」

本を開いて読み始めた

目が細くなり凝視しつつゆっくりと読む

「うあぁ!嘘だろ……」

「ん?文字だけ伝わらないと思うからスマホの画像を見せるよ」

俺は転生前に持っていたiPhone12を出し写真フォルダから彼奴にイングヒルトの壮絶死の場面を見せる

「おいおい、冗談じゃねぇぞ。この展開まだ続くのか?」

「それがマブラヴの醍醐味だからな」

「1巻読み終えたぜ……続き気になってしょうがねぇぜ」

あ、沼にはまったみたいだ

「布教用のあるけど、欲しいか?」

「くれ!続きが気になってしょうがねぇんだ!」

「直ぐにはあげられないから直送で送るよ。このまま手渡しする訳にはいかないだろ」

「ああ、心の友よ!恩に着るぜ!」

本当にそう思ってるなら毎回毎回喧嘩はしてなかったよ

「ただ、俺が知ってる世界線では東ドイツは西ドイツでの民主的な国家統一の約束を交わし反体制派が勝利を収めシュタージは崩壊、第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケンは解散した筈だ」

俺が知ってる世界線が違う

これは現実として受け入れるしかない

「ネタバレするなよ……まぁ、あとで読むけど。違う点があるのか?」

「そうだな……ベアトリクスは知ってるか?お前も少しアニメだけ見た事あるだろ」

「あ、そう言えば……」

シュヴァケンアニメだけは見てたと確信する

マブラヴシリーズはどこからでも入れる

多分……。

「あの女悪役の……確か究極の戦闘国家を築き上げようとした……まさか!?」

「そうだ、ここはベアトリクスが革命に勝利した世界線だ」

彼奴はそれを知り顔面蒼白になった。

信じたくないのは分かるよ

でも、これは現実なんだ!

「嘘だろ……本当にあの女が、ベアトリクスが勝利した世界線だっていうのか!?」

「俺に聞くな。本来ならベアトリクスは既に亡き者であり崇宰大尉が活躍してる時代は存在しないんだ」

「あの女がねぇ………」

確かにベアトリクスは衛士として人一倍優秀な面があり政治面も活躍してそうな女傑だ

だが、やり方が違い過ぎた

しかし、この世界線ではベアトリクスは革命に勝利を収めている

不思議な感覚だ……親愛なる女傑指導者か。

「一度会ってみたいぜ、ベアトリクスって女をよ」

「やめた方がいいと思うよ。身勝手な振舞いをしたらそれこそ彼女に殺されるだけだ」

俺は蛇口を捻り水を流し義手を洗う

洗った後、ハンカチで水一滴残さず拭いた

「義手なのに洗うのか?」

「洗わないと汚れたままだからな。義手も定期的に洗わないといけない」

「あのベアトリクスが革命に勝利した世界線だってことは分かったが、少し質問いいか?」

「構わないよ」

「崇宰大尉とベアトリクスが対決したらどっちが勝つんだ?」

強さ議論か

俺は既に答えは分かってる

「ベアトリクスだな、確かに崇宰大尉は衛士として優秀で鬼姫と呼ばれる女傑だけど、彼女はベアトリクスと同じ操縦テクニックを全て備えているわけがない」

「!」

「格が違うんだ。鬼姫は人狼に負ける」

そうだ、あのテオドールですら苦戦した女傑なんだ

「でもよ、戦術機ってこの世界で運用してる機体だろ?そんな身体じゃお前には無理だな」

「俺の足を笑うのか?」

「ここだけの話だぜ、明日欺衛軍と東欧州社会主義同盟の交流を口実とした模擬戦が行われる」

え?本当なのか?

これが本当だとしたら参加するしかない

「俺はフルアーマーガンダムと学徒兵6人、お前はサイコ・ザクとアネットとファムの3人だけか?勝負は決まったな」

此奴………!

俺をコケにする気か!

「蹴散らしてやる、お前を必ず仕留める!」

「望むところだ……」

明日欺衛軍と東欧州社会主義同盟との模擬戦……俺は必ず勝つ!

「あ、そろそろ行かないとファムやアネットが拗ねてる」

「やば、俺もだ。崇宰大尉に叱られる」

俺達2人は急いで会場に戻った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場に戻った俺達2人だが、まだジャズの音色が鳴り響いている

そして案の定、アネットが近づき拗ねていた

「遅い!何してたのよ!」

「あ、此奴の話が長くてさ」

俺は此奴を指をさした

「指さすな!」

「事実だろ、何も知らなかった癖に」

ファムが俺達2人を仲裁する

「まぁまぁ、喧嘩はやめてみんな仲良くしましょう」

ファムの笑顔を見た俺はまるで一輪の花を咲いたように綺麗で美しいハイビスカスみたいだ。

俺は笑顔を振る舞い返した

「ごめんな、心配かけて」

「ううん、お姉さんは大丈夫だけど…」

ファムの後ろに恭子が不満そうな表情をしていた。

「崇宰大尉が…」

そうだろうな

あれだけ長話したら怒るの無理はないか

「豊臣少尉、貴方長話し過ぎよ」

「げっ、あ…申し訳ありません」

と彼奴は恭子に向け頭を下げる

「(あぁ、嫌われちまったか……いやまだだ、まだ嫌われたとは限らない。嫌われずに好かれる努力をしなければ)」

「じゃあ、お姉さんもそろそろ行くわね、アネットちゃん」

「うん、じゃあごゆっくり~」

「俺も行くよ、2人でゆっくりと時間過ごせよ」

と俺は彼奴に言い放ち、ファムやアネットと共に会場から去っていった




登場人物紹介2

シルヴィア・クシャシンスカ
東欧州社会主義同盟第666戦術機中隊の衛士であり次席指揮官を務めている。
かつてポーランドの亡霊と恐れられていた東ドイツ革命に参加した衛士の1人
階級は中尉
乗機はバラライカ、ラーストチカ
好きな音楽ジャンルはフリー・ジャズ





次回は欺衛軍と東欧州社会主義同盟の模擬戦闘です
お楽しみに


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第4話 模擬戦闘

悠一Side

 

山百合女子学園

それは斯衛軍衛士養成学校として未来の衛士の育成をし、何れ巣立っていく衛士候補生が集うところだ

俺は恭子と共にその学校の視察に来た

勿論、佳織もだ。

俺は欠伸を三回ほどしてから、訓練場へ入りそこで女学生6人と遭遇する

「唯依、訓練は励んでるかしら?」

と恭子はニッコリと笑みを浮かべ甘対応する

「は、はい、恭子様!」

俺や他の衛士の時は厳格に接してる癖に、このどこの馬の骨もわからん女の時は甘い態度とるのか

差別だぞ!差別

「あの…恭子様、その御方は?」

「紹介するわ、欺衛軍第16大隊の豊臣悠一少尉よ」

「豊臣悠一少尉だ、宜しくな!」

俺は欺衛軍候補生の女学生の前に気障な顔しつつ敬礼する

「豊臣少尉、我が欺衛軍が誇る未来の衛士達よ」

と恭子は女学生6人に自己紹介を仕向ける

「能登和泉です、宜しくお願いします!」

1人目は眼鏡をかけ、ウェーブのかかった髪をツインテールの少女だ

能登和泉……名前覚えたぜ

「わ、私は甲斐志摩子と申します。宜しくお願いします!」

2人目は黒いストレートロングヘアの一部をリボンで束ねている少女だ

ほぅ、緊張してるな?

「石見安芸です。宜しくお願いします!」

3人目はボーイッシュなショートヘアが特徴ある少女だ

如何にも陽気な少女ってか?

「山城上総と申します。宜しくお願いしますわ」

4人目は黒いストレートロングヘアが特徴ある少女か

おいおい、外見や中身を見ると資産家のお嬢様じゃねぇか!

こんな嬢ちゃんが戦場に行くってのか……冗談じゃねぇぜ

「蓮川です、宜しくお願いします!」

5人目は…ポニーテールの少女か

特徴は……ない!

「篁唯依訓練生です!」

6人目は生真面目できりっとした表情で俺の前で敬礼するショートヘアの少女だ

此奴は将来、大物になりそうだな。

能登和泉

甲斐志摩子

岩見安芸

山城上総

蓮川

篁唯依

……よおし、少し挨拶してやるか

「よお!欺衛軍候補生のクソガキ共が!」

俺は高らかに大声でハッキリと目の前にいる衛士候補生6人に挨拶した。

「武家の跡継ぎのお嬢様だが音楽の趣味は平凡だな」

俺は煽る

とにかく煽った

「そこの眼鏡の嬢ちゃん」

「はい!」

「ちゃんと教官の指示通りに動いているか?」

「はい!動いております!豊臣少尉」

直立不動

ちゃんと躾をされてるな

「そうか!能登と言ったな。ちゃんと授業受けていたらお前は生き残れるさ!」

「は、はい!精進して参ります!」

「んじゃ…そこの赤いリボンの嬢ちゃん!」

「私…でしょうか?」

「お前以外に誰がいるんだ…まぁ聞け。俺の言う事聞いたら崇宰大尉がとっておきのモノを献上してくれるらしいぞ」

俺はでっち上げで志摩子に嘘吐いた

が……。

「嘘はいけません、豊臣少尉」

チッ、勘付かれてしまった。

「はは、まぁ頑張るんだな」

俺は見栄を張る

「そこのラフランスガール!」

「げぇっ!」

ん?何かやらかしたのか

「何でコンビニでジャリジャリ君ラ・フランス味を買って食べた事知ってるんだよ」

「え?それは初耳だな…」

おいおい、まさかと思うが規則破ってコンビニでアイス買って食べてたのか

教官に見つかるとヤバいぜ

「俺は口が堅いから誰にも言わないよ」

安芸は安堵な表情を浮かんだ。

上総が手を挙げ何か言いたそうにしている

「発言の許可を」

「いいぜ」

「豊臣少尉、貴方は私達を馬鹿にしていますの?」

此奴、ただのお嬢様じゃねぇ……。

「何も言ってないのに私達は音楽の趣味が平凡だとか馬鹿にしてるようにしか見えませんわ」

!!

「ズバズバと言ってくれるな……」

まるで義足野郎みたいだ

いや、違う。

違うな…こんなお嬢様が義足野郎みたいに戦術機やモビルスーツに乗って戦えるわけがない

「それに私達は武家の娘……この山城上総がそう易々と倒れませんわ」

笑わせてくれる……なら教えてやる。俺の実力をよ!

「山城候補生の言う通りね、豊臣少尉!」

ヤバい、怒らせちまった

拙いな……どうしよう。

俺は蓮川の前に立とうとするが地面に落ちてる石に足をぶつけ転び恭子を押し倒した

「ひゃぁっ!」

「うおぉっ」

そして俺の手は恭子の胸を掴みつつその感触を感じつつ揉み触った

「え?」

「恭子様……」

「私しーらない」

皆がざわつき始める

「豊臣……貴様…」

「え?あぁ!これは事故だ事故なんです!崇宰大尉」

恭子は俺の頬に向け平手打ちした

「ぶぅ!」

顔が赤面になりながら俺に睨み付けた恭子は頭突きをした

「いだ!おいお前やりすぎにも程があるだろうが!」

「お前呼ばわりするなんて随分と余裕ね、豊臣少尉」

あぁ…怒らせちまった。

「如月中尉!帰るわよ」

「はい」

恭子は立ち去ろうとするが唯依に止められる

「待ってください恭子様!これは事故だったんです。豊臣少尉が自分の意思で恭子様に対する破廉恥な行為は一切していません」

俺を庇うのか!?

クソ……情けねぇ

「……唯依が嘘言ってるようには見えないし、ここは唯依に免じて赦してあげます」

はぁ、良かった……。

「但し!次同じような事したら相応な罰を下すからそのつもりでいなさい、分かったか豊臣少尉!」

今度ヘマしたら次はないか……。

確か義足野郎の情報によれば恭子は『鬼姫』と呼ばれる女傑だったよな。

はぁ、なかなか難しいな。武家の次期当主候補のお嬢様を口説くのがよ。

「……」

恭子は俺の顔を見ている

「何だ?」

「そういえば今日、東欧州社会主義同盟の交流を基づく模擬戦やる日だったわね。模擬戦を仕切る殿は貴方がやりなさい」

「は?俺が子守りするってのか!?冗談じゃねぇぜ」

「胸触られたことを上層部に報告します」

「分かった!分かったからそれは言わないでくれ!」

上層部に知られたら謹慎処分が妥当だろうな。

恭子は衛士候補生6人の前で俺の頭を撫でる

「貴方なら出来るわ」

「え?俺を」

「ええ」

「何で俺が殿を?」

「私を口説き落としたいのでしょ?言わなくてもわかってるわ」

衛士候補生の前でそんなこと言うなよ……

「他の男に奪われる前に貴方が一人前の衛士として成長し巧く口説き落としたら私と付き合う権利をあげるわ」

どういう条件だよ

まぁ、悪くねぇな……。

「分かったぜ、崇宰大尉。俺は殿を務める!そして一人前になってアンタを口説き落とす!必ずやって見せるぜ」

言ってやったぜ

「良い返答で宜しい。皆聞いたわね」

「はい」と言う者いればただ頷くだけの者がいる

上総だけ冷静沈着だ

こうして俺は恭子を口説き落とすために模擬戦の殿を務め長い道のりの戦いを始めた

本当に長い道のりだ

無事結ばれることはできるのか?

俺にはまだ分かんねぇ

ただ、良き衛士として成長していく方が一番の近道だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子Side

 

「宜しいのですか?恭子様」

「ええ、絶対に無理だとは言い切れなくてよ」

私は豊臣少尉に一人前の衛士として成長し巧く口説き落としたら私と付き合う権利をあげる。と唯依達の前に発言してしまった

一般武家である豊臣家と五摂家の一つである崇宰家

一般武家の衛士と五摂家に属する私が結ばれる……なんてあり得ないわ

外様武家の衛士の交流はあるけど、私個人としては深く関係を求めてはいけない

それが崇宰家の次期当主よ

「恭子様」

「何かしら?」

「あの……少し気になった点がありますが」

何かしら?

「ふふ、遠慮なく言って」

佳織は咳き込む

「コホン、では言わせて貰いますが恭子様の殿方は斑鳩家当主の斑鳩崇継少佐がいるのでは?」

「如月中尉、斑鳩少佐とはそんな関係じゃないのよ?あくまでも五摂家同士であり上官と部下の関係よ」

そう、崇継とはそんな関係じゃない

「ですが斑鳩少佐は恭子様を積極的に求婚してるじゃないですか」

「……はぁ、だからそんな関係じゃないのよ」

「豊臣少尉がこれを知ったら嫉妬するかと。俺のライバルだな、お前を必ず蹴り落としてやる!ジャズの音色が聴こえたら俺が来た合図だぜ。と斑鳩少佐にこう言うに違いありません」

あの豊臣悠一ならあり得そうね……。

今日は欺衛軍と東欧州社会主義同盟との模擬戦、これを機会に西と東の交流を築き上げ平和的解決……なんて上層部が口実にしている。

唯依達はまだ衛士訓練生

真田教官が首を頷くのは、ないと思うわ。

「真田教官が唯依達を模擬戦に参加させるのはあり得ない話よ」

「え?」

「普通はね、普通は」

そう、普通は参加させられない

上層部が圧力をかけない限りは

「では今回の模擬戦は普通での模擬戦と違うと?」

「そうね、東欧州社会主義同盟の戦術機母艦の飛行甲板にあった機体、見たでしょ?プロペラントタンクに、複数の光学兵器に実弾兵器。戦術機ではありえない」

「あれは別次元の機体ですね。我々では考え難い」

私は身の回りを気にしてキョロキョロと見渡す

「誰もいないわね」

「恭子様?」

「今回の模擬戦だけど私は参加しないわ、貴女もよ。如月中尉」

私は佳織を抱き締める

「あ…何をなされて」

「ここなら誰にも見られないわ、ふふふ、佳織」

私は佳織に向け優しい笑みを浮かべる

そっと頬を触り目線をじっと見る

誰もいないかキョロキョロと見渡し確認する

「……ふふふ」

私は目を瞑り佳織の唇を重ねようとしたその時、足音が聞こえた

気配を感じる

まさか、侵入者!?

そう察知した私は佳織から離れ身構えるが

「ん?あれ、こんな人気がないところで何してるんですか?」

チッ…こんな破廉恥な場を見せたら豊臣少尉は私を軽蔑するに違いない

……タイミングが悪すぎる

「もう唯依達と話すの終わったの?」

「まぁ、そんなところですよ。特にアンタが推してる篁唯依って訓練生。将来大物になりそうですよ」

当然、私と唯依は血が繋がっているのだから

「貴方も唯依の事をもっと観察すべきよ」

「そうだぞ、篁候補生は貴様より優秀な衛士になる!恭子様が断言しているから間違いない」

「はいはい、見習えばいいんでしょ?見習えば」

不貞腐れてるのね。

欺衛軍に相応しい態度ではないわね

まぁ、少しは大目に見てやりましょう

「模擬戦は貴方が乗ってる機体の増加装甲は全て外させて貰うわ」

「え?冗談はよしてくださいよ崇宰大尉」

「冗談ではないわ。想像してみなさい。そのまま出たら唯依達より目立つわよ」

使わせるだけ有難いと思いなさい

「成る程、試されてる訳か」

「そう好きに捉えて構わない。あと武装は光学兵器の使用は禁止、戦術機用の武装を取り換えるわ。ビームサーベルは廃止。ビームライフルは87式突撃砲に換装」

実弾は実弾で挑むべき

それが欺衛たる衛士の基本中の基本

「……分かりましたよ、実弾は実弾で挑めばいいってことですね?」

「そうそう、よくわかってるじゃない」

豊臣少尉は理解できたか私は優しい笑みを浮かべる

「じゃあ、恭子!今度ジャズの名盤を教えてやるぜ」

「馴れ馴れしく下の名前で呼ばないで、不愉快です」

調子に乗るんだから……馬鹿。

そうとなれば早急に準備しないと

「恭子様、考えたのですが戦術機同士でやった方が良いかと」

そうね…やっぱり戦術機は戦術機で勝負すべきよね

「気が変わったわ、モビルスーツそのものの使用を禁止する」

「最初からそう言えよ」

豊臣少尉の言動や態度を見て私はギっと睨み付ける

「何か言ったの?」

文句あるならはっきり言いなさい

あ、そうだ!

私は天啓を閃いた。

「瑞鶴にサブアーム追加して追加装甲を2つ装備させるのはどうかしら?」

豊臣少尉が納得する答えなのかは私にはわからないがとりあえず提案をしてみた。

「恭子様、それは瑞鶴の機動力が下がるだけです」

「この男が普通の装備で戦術機に乗れと言ったら納得すると思って?」

「……本気なのですか?」

私は本気よ

「如月中尉」

「はい!」

「その機体の存在を殿下に知られたら、それこそ欺衛軍の恥よ。だから戦術機同士で模擬戦するのよ」

そうよ、分かって頂戴……佳織

「分かりました、では早急に手配します」

「お願いね」

「はい!」

これでいい

これでいいのよ

あとは豊臣少尉の操縦技術次第ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

日本帝国の帝都である京都にある欺衛軍山百合女子衛士養成学校の生徒の交流を口実にした東西交流模擬戦の場所である演習場へ向かう前、サイコ・ザクの大型ランドセルについてるプロペラントタンクを取り外す作業が行われていた。

弾倉も全て訓練弾に交換

ファムとアネットも参加する。気を引き締めないと

「プロペラントタンクは全て外しますね、模擬戦の場所が森林地帯を模した演習場で行われますからね~」

ニッコリと笑みを浮かびつつ整備兵は俺に向け言った。

「ああ、助かるよ。身軽になった」

その時だ、戦術機12機と輸送ヘリ1機が『ヴィリー・シュトフ』の飛行甲板に着陸した

「あれは…」

機体は……チボラシュカ8機とアリゲートル4機だ!

先頭の機体は紅い塗装を施されている

まさかとは思うが……シュタージのヴェアヴォルフ大隊!?

整備兵達はざわつき静寂な空気になりつつ口を閉じた

紅い塗装施されているアリゲートルの管制ユニットから1人の女性が降りてきた

同時に輸送ヘリから護衛2人と指導者らしき女性が下りる

ベアトリクス・ブレーメ………。

「あらあら?見慣れない男がいるわね」

話しかけられた、どう答える

挨拶だけしておくか、それが礼儀だからな

「自分はダリル・ローレンツであります。本日付けで第666戦術機中隊に配属されたばかりです」

蒼い髪型の女性衛士が俺に近づき話しかける

「ダリル・ローレンツ少尉か……」

「はい」

「貴様がここに配属したと報告は受けてないが……どういう事だ?」

ファムとアネットが飛行甲板に来てベアトリクスに敬礼する

「ブレーメ総帥閣下、今回はどのような件でここに訪問しに来たのでしょうか?」

「訪問?決まってるじゃない。そこにいるダリル・ローレンツという男の尋問を許諾したい」

尋問!?

俺が何したっていうんだ!

確かにこの義手と義足では目立ちやすい

まさかサイコ・ザクを……奪おうというのか?

「発言の許可を」

「許可する、何だ?」

「このサイコ・ザクは自分しか操る事出来ない機体です。自分の手足を犠牲にしてまで動き戦闘へ出られる……それがサイコ・ザクという機体なのです」

蒼い髪型の女性衛士は驚愕しつつ目を細める

「貴様のその手足……四肢切断しないと動けない機体か……すまないがそんな機体は乗りたくないよ」

ドン引きされた。

「成る程ね、貴方しか動かせない機体となれば、その技術を入手し動かせる衛士を増やせばいい」

「申し訳ありませんが…」

サイコ・ザクは俺しか動かせない。

これは事実だ

だからと言ってこの世界で似たような機体を作るのか?

不可能だ

「そのサイコ・ザクは量産に向いてない機体です。四肢切断を積極的に希望するものはいないと思います」

「そう、残念だわ。南朝鮮に貴方が乗ってる機体と似たようなの飛んでBETA駆逐していたと情報があった。これについてどう説明するのかしら?」

不敵な笑みを浮かべ俺の顔を見ている

何をしようとしているんだ?

「そういえばインペリアルガードとの交流模擬戦だったわね。私の優秀な部下の1人、カタリーナを貸してあげる」

お断りだ

いや、戦力の要の一つとして力を借りる価値がありそうだ

どうでる?ファム

「その話は誠に有難いのですが、お断りさせて頂きます」

「3機で挑むつもり?相手は衛士候補生とはいえ、甘く見たら痛い目に遭うわよ」

とベアトリクスは注意喚起をする。

真顔だ

「総帥、私も模擬戦に参加させて頂きます。相手は衛士候補生であれ技術次第で我らの敗北は」

「敗北は許されない、西と東の交流とはいえ……これは良い機会だわ」

良い機会?

どういう意味だ。

俺は疑念を抱きつつ丁寧な口調でベアトリクスに嘆願する

「俺も戦術機に乗らせて頂けないでしょうか?ブレーメ総帥」

「ダリル君、貴方は……」

ファムは俺の腕を見て心配そうな表情を浮かべる

「負けられないんだ、理不尽な戦いを挑むこそ自分の戦いだ」

問題は操縦できるかだ。

「管制ユニットに入って動かすのは無理よ、普通ならね」

普通なら?

何を企んでいる?しかし……。

「バラライカのパーツを利用し、サイコ・ザクにバラライカの皮を被せる」

サイコ・ザクのコクピットを戦術機の管制ユニットとして取り換える

そう来たか

アネットだけはピンと来ず、ただ正直何が何だかわからないと思った。

「え?何言ってるか分からないけど……」

試してみる価値はある

「……それが可能ならば、乗らせてください!」

俺は承諾した。

「では早速皮を被せる作業始めるわよ。今日中に間に合わせろ……ニコラ」

「ハッ!」

「叩き潰してやるわ……相手が訓練生だろうと関係ない。絶対に勝ち取りなさい!」

勝たなければ粛清か

何とも言えないな

「はい、勿論です!」

そして俺は、準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

斯衛軍某演習場

《ではこれより、対人類戦略演習を開始する。状況を開始せよ!》

《篁候補生、了解!》

《能登候補生、了解!》

《甲斐候補生、了解!》

《岩見候補生、了解》

「此方、豊臣だ。了解したぜ」

返答を最後に、真田教官との通信が途切れる、今回の演習の付加要素の一つに、両陣営の壊滅が選択されている関係上、これ以降演習終了までの間真田教官との通信は無い。と、索敵作業を継続しながら、余裕がある表情してる俺の声が通信に割り込んできた。

「相手は東側の連中だ、訓練生だからと言う理由で負けたら真田教官が黙っちゃいないぞ」

《はい!》

良い返事だ、唯依

俺はウォークマンにカセットテープを入れ、曲を流す

「良いねぇ、盛り上がる曲だな『ジャイアントステップス』は」

リズム感で跳躍ユニットを噴出し俺が乗るサブアームに追加装甲2つ装備してる瑞鶴壱型はゆっくりと飛行し始めた

「行くぜ!ついて来い」

唯依達も俺について行くように飛行し始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子Side

 

「始まりましたね」

「ええ」

私は唯依達の模擬戦を望遠鏡で眺めつつ見守っている

「さて、如月中尉。この模擬戦の結果はどうなると思って?」

「まだ分からないですね……」

ヘッドセットから聞こえる唯依達の声が響く

《和泉、来るよ!》

《うん……!》

《相手も本気で来る……緊張するな~》

呑気にジャズを聴いてる豊臣少尉は……。

《近づいてくる……よぉし、俺が殿を務める!》

ちゃんと務めてるじゃない

やれば出来る衛士ね……。

「そろそろ来ます」

「ええ、私達は傍観しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

《跳躍ユニット良好、マニピュレーター異常なし、メインカメラ作動良好、網膜モニターは異常なし……バイタルも問題ないな》

「お疲れ様です、ミヒャルケ少佐」

俺は欺衛軍と東欧州社会主義同盟の交流模擬戦に参加しサイコ・ザクにバラライカの皮を被せた機体に乗っていた。

ファム、アネットはラーストチカ

ニコラはベアトリクスがかつて専用機として使用した紅いアリゲートルに乗っている。

《ダリル少尉は幽霊の存在を信じているのか?》

「幽霊……ですか?」

《ああ、私がまだ副官だった時、イングヒルトにもし私が死んで幽霊として現れたらどうするんだって聞いてみたんだ。それでイングヒルトが泣きながら怒ったんだ…『そんな不吉な事言わないでください!私、大尉がいなくなったら悲しいです…』と言われたんだ》

《アンタさ、イングヒルトに何話したのよ?》

アネットは会話に割り込む

《で、その…何だ?かつて東ドイツの激戦区でBETAにやられた衛士達の顔を浮かんでその幽霊達が見えないのかなって》

「自分は見えませんよ、少佐」

《良かった……それにしても酷いよな》

ニコラは思っていないことを俺に言い向ける

《旧式のバラライカの皮を被った機体に乗せられるなんて…ブレーメ総帥の考えは理解してるつもりだ。高性能、高出力の機体に乗りたかったんだろう?》

「スナイパーに機動性や性能、出力は関係ないですよ。例えバラライカだろうとチボラシュカであろうとアリゲートルであろうとどんな機体に乗っても自分は敵機を撃墜していく。それだけですよ」

と俺はニコラに向け優しい笑みを浮かべつつウォークマンにカセットテープを入れ、曲を流す

《呑気に音楽聴くとは随分余裕な表情してるな、私はそろそろ行くよ。ではご武運を》

ニコラ機はここから立ち去ろうとするがアネット機に止められる

《アンタも行くのよ、何自分だけ逃げようとしてるの?》

《え?だって機体傷付けたくないから…》

《何の為にここにいるのよ!馬鹿指揮官》

《貴様!態度を改めろ》

楽しい痴話喧嘩だ。

俺はスコープで欺衛軍の機体の位置を確かめる

ん?機影が見えた

数は5

あれは……撃震と先頭にいるのは白い瑞鶴

追加装甲2つサブアームで取り付けてる……まさか

「ファム、アネット。近づいてくるぞ!」

俺は突撃砲を構え砲撃準備を整える

《私についてこい!》

ニコラが勝手に前へ出て突撃砲を握り構えペイント弾で射撃

しかし唯依機はそれを躱す

「和泉、撃ってきたわ!」

《砲撃許可を》

《許可する、全機兵器使用自由!》

ニコラ機は唯依機を狙い突撃砲で発砲しつつ最大全速で接近

《我々を見縊るな!》

だが、和泉機の砲撃に当たり脱落した。

《当てられただと!?》

《あーあ、一人で勝手に前へ出過ぎるからだよ》

アネットは呆れ顔になる

アネット機の前に和泉機と安芸機が接近してくる

「アネット、前だ!」

《え?》

和泉機と安芸機は突撃砲を握り構えアネット機の右肩部分と左肩部分がペイント弾で当てられる

《嘘!?当てられた!?》

「管制ユニットは当てられてないから大丈夫だ!反撃するぞ!」

俺はアネット機のフォローしつつウォークマンに入ってるカセットテープを入れ替え別の曲を流す

「遠ざかる雲を見つめて♪まるで僕たちのようだねと君がつぶやく♪見えない未来を夢見て♪…」

《……!》

メロディを載せて歌いながら突撃砲で志摩子機をペイント弾に当てる

管制ユニットに直撃した

志摩子機は脱落した

残りは4

「ポケットのコインを集めて♪行けるところまで行こうかと君がつぶやく♪見えない地図を広げて♪」

余裕持ちつつ次の標的を……安芸機を狙いペイント弾で当てる。

安芸機も脱落だ

《うあッ!》

《こんのぉぉぉぉっ!》

アネット機は突撃砲を握り構えながら和泉機にペイント弾で管制ユニットに向け当てる

《きゃぁっ!》

和泉機も脱落

残り2!

「悔しくて 零れ落ちたあの涙も♪瞳の奥へ沈んでいった夕日も♪目を閉じると輝く宝物だよ♪」

《風に吹かれて消えてゆくのさ♪僕らの足跡♪風に吹かれて歩いてゆくのさ♪白い雲のように…♪》

アネットも便乗して歌い始めた

唯依機は俺の機体に目掛けて突撃砲でペイント弾を放つがそれを躱し返り討ちする

《!》

唯依機は脱落

残り1だ!

「風に吹かれて消えてゆくのさ♪僕らの足跡♪風に吹かれて歩いてゆくのさ♪白い雲のように♪白い雲のように♪白い雲のように♪…遠ざかる雲を見つめて♪まるで僕たちのようだねと君がつぶやく♪見えない未来を夢みて♪見えない未来を夢みて♪白い雲のように……♪」

これではシンフォギアみたいだな……。

歌いながら戦うのは

しかし残り1機となって高揚感掲げたが、悠長してる暇はなくなった。

あの瑞鶴……速い!

アネット機に接近し突撃砲を握り構えペイント弾を放ったがそれを躱し返り討ちにしようとするが追加装甲2つサブアームで保持している白い瑞鶴は躱した

《速い!あれが日本の戦術機……》

白い瑞鶴は追加装甲1つ放り投げアネット機に当てる

更にもう1つも放り投げファム機に当てる

《おい、脳筋女。ジャズが聴こえるか?お前を……脱落させに来たぞ!》

ジャズを流しつつアネット機に向け突撃砲で猛攻撃

模擬戦だぞ

アネットは恐怖を襲われる

顔面蒼白だ

《ひぃっ!ファム姉、何処にいるの?早く助けてよ!》

「アネット!下がれ!」

アネット機は模造長刀を握り構え白い瑞鶴に向け振り回しつつ当てようとするが躱され背後に……。

《え?》

「後ろだ!」

俺は突撃砲でアネット機を援護する

しかし、当てられない

《サイコ・ザクに別の機体の皮を被せても俺は誤魔化せないぜ、義足野郎!》

クソ!動力パイプが剥き出しだからバレたのか!?

ファム機は白い瑞鶴に向け突撃砲を握り構えペイント弾で当てようとするが躱される

《ほぉ、的確な距離を射撃するのは指揮官クラスの戦法だな…という事は間違いなくお前だろ?ファム・ティ・ラン!》

拙い、このままでは……!

俺は白い瑞鶴に向け突撃砲でもう攻撃仕掛けるが躱され接近しつつファム機に目掛け蹴りを入れる

《きゃっ!》

《ファム姉!》

白い瑞鶴は突撃砲を棄てナイフを握り構えファム機に目掛け管制ユニットに直撃し脱落される

ファム機は脱落した

《あとは頼むわね……》

「はい!(此奴……模擬戦なのに執拗的に攻撃仕掛けてくる)」

《瑞鶴壱型……それが俺が今乗ってる戦術機だ》

瑞鶴壱型!?そんな戦術機の名前聞いたことないぞ

《この瑞鶴壱型はただの戦術機じゃねぇ……性能、出力、速度を従来の瑞鶴に比べ3倍だ!》

「(こっちは戦術機の皮を被せたサイコ・ザクだ!勝負あったな……)敗北は許されない……悪いがここで終わらせる!」

俺は突撃砲を棄て白い瑞鶴……瑞鶴壱型にナイフを向け切りかかる

しかし躱され逆に瑞鶴壱型が接近しナイフで猛攻撃し受け止める

《やるじゃないか……義足野郎》

「くっ……いい加減に!」

俺はナイフを握り構え白い瑞鶴に切り込み管制ユニットに向け猛攻撃する

奴は脱落した

《何故だ!?何故勝てないんだ!?》

何故勝てない……か。

相手はまだ訓練兵で実戦経験はない、それ以前に悠一、お前は重武装に拘り過ぎだ

それがお前の敗因だ

この模擬戦の結果は東欧州社会主義同盟の勝利と結果になり、終了後両陣営との衛士と握手した。




登場人物紹介3

篁唯依
山百合女子衛士訓練学校に通う衛士候補生
譜代武家に生を受けた使命として、1日でも早く斯衛軍の正規衛士になれる様に志している。 代々武器拵の家系として将軍家に仕えてきた父を誇りに思い、父の開発した戦術機を鎧い戦場を駆ける日を待ち焦がれている。
好きな音楽ジャンルは和楽、ポップス

山城上総
山百合女子衛士訓練学校に通う衛士候補生。冷静で近寄りがたい雰囲気を常に纏っており、小隊メンバーとはおらず、一人でいることが多い。 外様武家でありながら数多くの衛士を算出しており、武に長じた家柄を背負って自身も衛士の任官を目指す譜代武家である唯依に何かと対抗しようとする。
好きな音楽ジャンルは和楽

甲斐志摩子
唯依の小隊メンバーである衛士候補生。
唯依とは一番付き合いが長い親友であり、登下校や学校生活において常に一緒に行動しているが、親友というよりは部下の様に立ち振舞っている。
尚、レズビアン気質がある
好きな音楽ジャンルは和楽、ポップス

岩見安芸
明るく活発な性格で、ついつい皮肉を言ってしまうお調子者な衛士候補生。 唯依の小隊内の盛り上げ役で、話題の中心に立つ事が多い。講義に対して不真面目な面が目立つが、人知れず努力している努力家。
「死の8分」に強いこだわりを持ち、負けたくない相手がいる。
好きな音楽ジャンルはポップス

能登和泉
唯依の小隊メンバーの一人。 難関と言われる山百合女子衛士訓練学校に入れたが無事に衛士になれるのか不安に思っている。 斯衛軍に幼馴染の彼氏がおり、手紙や電話のやり取りを頻繁に行っている事を安芸によくからかわれている。彼氏との写真を入れたロケットペンダントを大切にしている。
好きな音楽ジャンルはポップス

蓮川
唯依が通う山百合女子衛士訓練学校の衛士候補生。訓練課程では山城
上総と同じ小隊に所属している。初めは唯依たちと反目しあっているが、
志摩子とは次第に仲良くなるが、訓練中に事故起こし退校する
好きな音楽ジャンルはポップス、ロック








次回はいよいよBETAが日本列島に侵攻しますよ!
そして窮地に立った悠一は僅かな期間でしか訓練受けてない学徒兵を香織と共に率いることになりフルアーマーガンダムを掛飛、帝都を死守できるか!?
次回のお楽しみに
因みに良平は暫く出てきません


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第5話 帝都陥落

日本帝国欺衛軍……別名:インペリアルロイヤルガード。又はインペリアルガード

俺は欺衛軍第16大隊の豊臣悠一少尉として転生し鬼姫と呼ばれる欺衛軍の女傑衛士、崇宰恭子と出会い何故かフルアーマーガンダムやサイコ・ザクの存在を知りつつ国の事実上のトップである征夷大将軍にはモビルスーツの存在を隠蔽していた。

そして義足野郎は東欧州社会主義同盟という組織におりそれだけではない、なんと第666戦術機中隊のファム・ティ・ランとアネット・ホーゼンフェルトまで親睦深め仲良くなってやがる!

少し羨ましいぜ……義足野郎の癖によぉ!

あれから何か月経っただろうか……?

そんなある日、信じられない出来事が起きた。

重慶ハイヴから東進した大規模BETA群が朝鮮半島に侵攻

国連軍と大東亜連合軍の朝鮮半島撤退支援を目的とした作戦を掲げた。

光州作戦

脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍に彩峰中将が同調し協力したため、結果的に国連軍司令部が陥落。指揮系統の大混乱を誘発し国連軍は多くの損害を被った。国連は日本政府に猛抗議し、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求。国連の要求に従えば軍部の反発は必至、逆らえばオルタネイティヴ4が失速すると考えた内閣総理大臣榊是親は、最前線を預かる国家の政情安定を人質に、国内法による厳重な処罰という線で国連を納得させた。それに先立ち榊首相が彩峰中将を密かに訪ねた際、日本の未来を説き土下座する榊に対し彩峰は笑顔で人身御供を快諾。帰路の車中、榊は彩峰の高潔に心打たれ、静かに涙したという

韓国国民は済州島へ疎開し避難したが全員とは言えない

北朝鮮は南沙諸島に国民を疎開しつつ軍関係者が多く移住したが一般市民は少なかった。

そしてBETAは北九州に上陸

遅れて中国地方日本海沿岸部に散発上陸したBETA群に挟撃され、本土防衛軍西部方面部隊が壊滅。約1週間で九州、四国、中国地方が制圧される。事前の想定では四面を海に囲まれた四国の戦力が側面から戦線を支える想定であったが、あまりに速いBETAの侵攻に本州と四国を結ぶ巨大橋群の爆破が成らず、地続きと同様の浸透を許した。対馬、佐渡以外の沖縄を始めとする島嶼部はBETAの上陸を免れ、西日本占領後も前線基地として機能し続けた

西日本は失陥

舞台は帝都である京都に迫りつつあった……。

「BETAが北九州に上陸した?」

恭子は黒い軍服を着た兵士と話していた

俺は側近である佳織の隣にただ立っていた。

「ええ、中国、四国もBETAに」

「墜ちた……というのか」

BETAが帝都に……。

欺衛軍司令本部執務室の扉を開き慌ただしくなってる別の黒い軍服の兵士が恭子に現状報告する

「報告します!舞鶴と神戸を結ぶ帝都前面に3軍共同の防衛線を構築することをたった今上層部の方針で決定し訓練を繰り上げになった学徒兵も参戦させる模様です」

学徒兵!?

唯依達が戦線に出すというのか

「それは本当なの?」

「ええ、斑鳩少佐も黙ってはいないでしょう。何せ帝都が侵攻されるのが誰だって嫌ですからね」

マジかよ……。

俺は険しい表情しつつ恭子の顔をじっと見た。

当然のことだが義足野郎は今頃…自分だけ安全なところに逃げやがって……!

自分の意見をはっきり言うべきだ

このままでは……2人が。

「俺も参加させてくれ!」

「え?」

恭子は俺の一言で困惑してる

それもそうだ

俺は恭子の為に何かを成し遂げていない

このままだと振り向いてくれないだろう

「豊臣少尉…お気持ちは有難いがこれは私達の戦いだ。貴様の出番はない」

待ってくれ佳織、何故そんな風に俺を除け者扱いするんだ!?

俺だって、お前の役に立ちたいんだ!

「頼む!」

俺は恭子の前に腰を低くし頭を深く下げる

「……分かったわ、貴方も帝都防衛戦に参加を許可します!」

やったぜ!

「恭子様!何をお考えなられてるのですか!?」

「これは私の独断であり上層部の判断ではないわ。責任は私が取る」

恭子は断言し険しい表情になる

佳織は納得いかない様子だが、俺の顔をぎっと睨み付ける

「如月中尉と唯依達の他に多数の学徒兵の命は貴方に賭けたのよ?全員生き残る事は難しいけど少数の未来誇り高き衛士の命を救う事は出来る」

俺に預けた……のか。

「やはり瑞鶴で出撃を?」

と俺は言って、佳織はこう言い返す

「そうだ、私が率いる中隊はまだ実戦経験なく訓練をあまり積み重ねていない学徒兵ばかりだ。構成がそうなっている。貴様の瑞鶴は今調整中だ」

「そう、ですか…」

「フルアーマーガンダムで出撃するのだろ?なら貴様が乗った瑞鶴は自動操縦に設定し出撃させればいい。追加装甲2つとサブアームは外させて貰う」

その方が妥当な判断だ。

「良い案ね、如月中尉の案は採用するわ」

「有難き御言葉を感謝します」

……。

嵐山基地で保管している瑞鶴約12機を実戦に出す。

そして基地内にある戦術機が全て出撃したらフルアーマーガンダムを防衛戦に出しつつ佳織率いる中隊の後方支援射撃

俺は予備戦力扱いだ。

佳織が俺に近づき肩をポンと叩き歴戦の衛士みたいに凛々しい表情で話しかける

「恭子様に認められたい……その気持ちが私より強い想いがあるのであれば、足手纏いにならず攻めていけ」

ああ、分かってる…分かってるさ

「崇宰大尉、感謝します。如月中尉と数多の学徒兵の命……守り抜きます!」

俺は決意した

BETAのクソ野郎どもを一匹残らず殺すと!

「モビルスーツの存在は既に唯依達に知られているわ。殿下もそのうち知ることになる……隠蔽は不可能になった今これは好機かもしれないわ」

成る程、既に知られてしまったのか

隠しようがないな

「私は別件があるから本部に残る」

恭子は執務室から退室

そして俺は嵐山基地へと向かい出撃準備するため事前にフルアーマーガンダムの最終調整へと基地内にいる整備兵と一緒に実行した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年7月14日

日本帝国帝都 京都嵐山補給基地

 

嵐山基地に総動員した佳織率いる中隊は殺伐と含み気迫感があり数多の学徒兵の前にまじめな表情でこう言い放った

俺もここにいる

白い軍服姿でだ

因みに白い軍服を身に着けてる欺衛軍衛士は一般武家……又は外様武家の象徴と言える

「貴様らの任務はこの補給基地の死守にある!実戦経験のない、ましてや教練も満足に終えていない貴様達学生が前に出ても正規部隊の足手纏いになるだけだ!!」

そうだ、此奴らも訓練は終えていないヒヨッコばかりだ。

満足に戦えない

俺は真顔になり口を閉じ黙った

「今はここを守る事だけを考えろ!!」

「「「「「「「「はいッ!!」」」」」」」」

ハッキリと大きな声でここにいる学徒兵は返事をした。

学徒兵とはいえ、まだ子供だ

そこまで戦力不足してたのか……。

「解散する前に我が中隊の臨時次席指揮官の豊臣悠一少尉から御言葉がある!全員静聴!」

え?

おい、いつ俺がお前の中隊の次席指揮官になったんだよ。

勝手に決めるな!

お前が決める権限はないだろうが!

ん?待てよ。今中隊って言ったよな。

佳織の階級は中尉だから……臨時指揮官ってことかよ!

俺は佳織に右手を差し出し握手を求める

「何だ?」

「自分が次席指揮官に任命された今、やるべき事は山ほどある筈です」

胸を張らないとな

「貴様が今やるべき事は目の前にいる学徒兵に勇気づける言葉を贈る事だ。握手は後でいい」

堅苦しい……。

唯依達や他の学徒兵は困惑している

仕方ない、やるか

「……我々、欺衛軍ファング中隊は防衛線の先鋒として、2030に作戦行動を開始する。ここは補給基地である以前に最終防衛ラインであり死守しなければならない…BETAの侵攻を阻止し、BETA群へフルアーマーガンダム、もしくは如月中尉が乗る瑞鶴を無傷で導くとこがお前達の任務だ。お前達は俺や如月中尉の盾になれ。俺は途中の散発的な戦闘には加わらない。小型種の相手はお前達に任せる。それらの任務は温存した火力でBETA群を全て殲滅する事と…帝都にいる一般市民を避難させる事だ。ここは…BETAを一匹多く殺した奴が英雄と讃えられる異常な世界だ。平和な日常とのギャップに悩む奴が多いが…志願して、望んで戦争をやりに来るバカもいる…モビルスーツや戦術機って巨大兵器を自在に操る快感に魅せられ、戦場にいくしかない鈍い輝きが見たくて極限まで死の淵へ近づく…そんなろくでなしの集まりなのさ。どいつもこいつも…巨大な力を持つことを望み、巨大な破壊を見たいと望む。BETA大戦を終わらせる為の作戦を立てては戦い続ける…そんな無限ループは きっと永遠に終わりゃしない。プレイヤーは入れ替わっても、戦争って名のセッションは永遠に続くのさ。どんなに耳を塞いでも逃げられやしない……」

そうだ、逃げられやしないんだ。

ここにいる唯依達や他の学徒兵だって現実を突きつけられ思い知ることになる

「俺はモビルスーツが好きだ。そしてこの世界に生まれて戦術機という人型兵器が好きになった。戦場を駆けるのも。どうしようもなく好きで 全身が沸騰する程好きだ。こいつがどれ程業が深く罪深くても知ったことか。俺を縛るしがらみの全てにケリを入れて…地獄に落ちる最後の瞬間まで自分の命を懸けて戦い尽くしてやる」

俺はここにいる学徒兵の前に訓示を読んだ。

「……あばよ、同じ消耗品の学徒兵の皆、未成年だろうと関係ねぇ、生き残ったら、共に乾杯だ!」

俺の訓示を聞いた学徒兵は感涙し佳織は俺の顔をじっと見るが表情は小さな笑みを浮かんでいた。

上総だけは冷静に振舞い小さな笑みを浮かんだ。

そして、本格的にBETAとの戦闘は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時間経っただろうか?

俺は不安を募りつつある

無事生き残れるか?学徒兵を全員無事守れるか?

佳織を傷一つ付けさせず守り抜けるか?

大きな不安が俺に襲い掛かってくる

不安を募り悩んでいる時に、俺の部屋にある無線機で恭子から無線交信してきた

《事態が大変なことになったわ、BETAの先頭集団が突出し鷹ヶ峰付近まで迫ってる!》

マジかよ……まだ出撃前なんだぞ

「おい、それじゃ準備整えず出ろって事か!」

恭子は口を閉じ黙り込む

《……》

「黙ってないで何とか言えよ!」

《気になるなら外の様子見に行ったらどうかしら?》

俺は無線機のヘッドセットを放り投げ、部屋から出て行って基地の屋上に行き外の様子を確認した

そこから見えたのは、山奥に火が燃え上がっていて防衛線が次々と食い破られた光景だ

ボロボロになった撃震が基地に帰投しようとした次の瞬間、カカッと光って2機の撃震が管制ユニットに貫いた

もうここは最前線だっていうのかよ!

顔面蒼白となった俺は食事には手つかず自室に籠った

しかし長く籠るのはBETAは許してはくれなかった

基地中に警報音が鳴りアナウンスが流れる

《コンディションレッド発令!全衛士は格納庫に行き戦術機の搭乗を急げ。突出したBETA群、当基地の西10kmにまで接近中。コンディションレッド発令!全衛士は格納庫に行き戦術機の搭乗を急げ!》

「……チッ、急がねぇと」

ともかく俺は急いで更衣室に行ってパイロットスーツに着替え佳織や唯依達の戦術機が保管されてる格納庫ではなく別の格納庫に行きフルアーマーガンダムに乗り込む

俺が模擬戦の時に乗った瑞鶴壱型は自動操縦に設定しており佳織率いるファング中隊が嵐山基地から全機出撃した後、後からついていく

正規軍の戦術機は既に取り払われている

ここにいるのは多くの学徒兵と僅かに残る正規の衛士だ。

小型ラジオの電源を入れそれを機器の上に置き落ちないようにガムテープを貼る。

周波数を合わせ海賊放送の番組で『チュニジアの夜』が流れてきた

「ん~、これも盛り上がる曲だな、『チュニジアの夜』は。天下一品の美しさを持つ崇宰恭子大尉がこれを聴いたらすぐに惚れるぜ」

俺は自分を自惚れ根拠もない発言をする

しかし、オープン回線繋がったままか、駄々洩れだ

《豊臣少尉……余裕ある態度だな》

「こうでもしないと集中できないんですよ、如月中尉」

《はぁ、ジャズを聴くのは自由だが学徒兵の皆に変な事言い出すな。全部聞かれてるぞ》

《良い曲ですこと、私には性に合いませんわ》

山城上総……ジャズの魅力を感じないのか?

まぁいいさ、あの山城家のお嬢様だ

大人になれば分かるぞ

《恭子様に期待されてるから、貴様の事は一応信じる》

一応ってなんだよ!一応って!

《先に出撃する》

ファング中隊のオープン回線は切れた

自分の大義を果たすには、信頼を得なきゃな

俺は操縦桿を力いっぱい握り締め整備兵5名がフルアーマーガンダムの整備点検や補給を終えると格納庫から退避し誘導員が斜めに上げた両腕の肘から先を、内側に曲げ伸ばして振りフルアーマーガンダムをゆっくりと動かし歩き始めカタパルトに接続する

武装もシールドも問題ねぇ

あとは駆逐するのみだ!

《システム良好!フルアーマーガンダム、発進してください》

女性CPの声を聞いて俺は誇らしい顔で返答する

「豊臣悠一少尉、フルアーマーガンダム出るぞ!」

ブースターを展開し噴出しつつフルアーマーガンダムは嵐山基地から離れBETA迎撃に向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《第1小隊は補給コンテナから弾倉を装填する!第2小隊、前を任せるぞ!》

《ファング2、了解!》

《よし、基地の面制圧が効果を発揮している。新任どももこれまでのところは順調、何とかなりそうだな……》

あれがBETA……あれが敵……。

「おい、ガキ共!分かってると思うが、今は目の前にいる敵の殲滅に集中しろ!でないとやられるぜ」

隊列を乱さず、ファング中隊の中隊長、如月佳織中尉が乗る瑞鶴の速度を合わせフルアーマーガンダムは2連ビームライフルと大型ビーム砲を同時発射し小型種である戦車級を無視し突撃級や要撃級などのBETAを駆逐する

そして唯依が乗る黄色い塗装を施した瑞鶴は突撃級の突進を噴射跳躍で交わし、装甲殻のない背部を36mm砲弾を放つ、これまでの訓練で鍛え上げた結果なのか実戦に慣れようとしていた。

志摩子が乗る白い瑞鶴は大声で叫びながら36mm砲弾を突撃級に向け放つが弾き返される

「チッ…」

俺は舌打ちをした

《訓練を思い出して志摩子!!》

唯依、ナイスフォローだ

「突撃級が来るぞ!噴射跳躍しろ!」

俺は志摩子に指示を出す

志摩子は今までの訓練を思い出し突撃級の背後に回り装甲殻がない部分を36mm砲弾を放ち駆逐

《や、やった……やった!》

空中に舞い上がった志摩子機は立て続けにBETAに砲撃を加える

地面に降りてくるのを忘れてしまったかのように。

《駄目だよ志摩子!早く降りて!光線級が……!》

レーザー照射しようとするBETAがいる

光線級か……!

《やったよ唯依!私はお荷物なんかじゃない!私は…》

目の前の光景が目の当たりにする。

《何をしている、早く高度を下げろ!!》

佳織の怒号が響き志摩子に注意喚起するが肝心の志摩子はまだ舞い上がってる

「馬鹿野郎!何やってるんだ!早く高度下げろ!」

《唯依、私はお荷物なんかじゃないよね!?》

俺達が口々に叫ぶ警告が聞こえていないかのように、空中を舞い続ける志摩子。

通信機を通じて、光線級の初期照射を示す警報が聞こえている

対レーザー塗膜の効果を以てしても、あと数秒で志摩子の機体は……。

《駄目、志摩子ーーーーーーーッ!!!》

唯依の叫びは志摩子に届くはずだが彼女は気づいてなかった

《え?》

「チッ、馬鹿が…これでも喰らいやがれ!」

俺はランドセル左肩部に装備してる6連装ミサイル・ポッドに収納してる多弾頭ミサイルを射出

次の瞬間、空気をプラズマ化させる轟音と共に閃光が閃き、そして静寂に戻った

「光線級は殲滅した、甲斐少尉。早く降りろ!焼かれたいのか!?」

《りょ、了解!》

志摩子機は素早く高度を下げる

しかし、まだ終わりではなかった。

《うああああああああああああっ!?》

《安芸っ!?》

先程から小隊から突出して攻撃を繰り返していた安芸が、ついに逃げ場を失い要撃級の一撃を受けた

ダメージはそんなに大きくはないが駆動系がイカレちまった。

安芸の瑞鶴はその場から動かない。

ったく面倒事増やしやがる。

《安芸、早く立って!》

《…やったよ、唯依…》

《安芸…?》

この状況で不自然に穏やかな声を発する安芸、何かがおかしい。

《やったんだよ!死の8分を乗り越えたんだ!私達は》

目を見開いて歓喜の声を上げる安芸。

歓喜してる場合か!?

プシュッ

自分の首筋に、鎮静剤が流し込まれるのを感じる。

薬の効果で落ち着いて、唯依はもう一度声をかける

《安芸、落ち着いて。とにかくそこから動いて》

《はははっ……やった……これで彼奴の…》

要撃級が迫り振り上げられる前腕、間に合わない。

………させるか!

放っておいたらあのテオドールっていう男と同類になっちまう

恭子との約束を破るわけには……いかないんだ!!!

俺はトリガーを引き2連ビームライフルで要撃級に向け連射

「俺は約束したんだ!お前らを1人残さず生き延びて帰らすって!」

左腕部に装備したロケット・ランチャーを5連装連射

モニターをじっと見て他のBETA属種は何処にいるか確認する

レーダーに探知され重金属運の影響でよくわからないが数がうじゃうじゃといる

「あんな数じゃ学徒兵でも処理できないぞ」

シルエットが見えた…あれは、また突撃級か!?

……やるしかない!

「火力がある大型ビーム砲なら!」

大型ビーム砲を突っ込んでくるBETA群に向け砲撃

《……あれがモビルスーツの威力か……》

佳織は驚愕する

そりゃそうだろうさ。

唯依機が突っ込んで長刀で近接戦闘に挑み突撃級の背後に回り切り刻む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、周辺のBETA駆逐は完了した。救助部隊は学徒兵の救助にかかれ」

《凄まじいですな、この新型の性能は》

「ああ、単機でここまで戦えるとは(豊臣少尉……ちゃんと私の約束守ってくれたのね)」

《もう少し早く量産できていれば、我らが国土をここまで侵される事もなかったでしょうに》

「言っても詮無き事だ。それより今は1人でも多くの学徒兵を救助する。それが未来へ希望を繋ぐことになるのだから」

《ハッ、失礼しました崇宰大尉!》

試製98式戦術機……これが後に武御雷という名の戦術機の基礎だ。

蒼い塗装を施されている

他に白、赤、黄色等の機体がいる。

秘匿回線が繋がる

《崇宰大尉、少しいいかい?》

「これは斑鳩少佐……はい、今は小休止中です」

《其の様子だと貸与した機体は、活躍出来ているようだね》

「はっ、試製98式、聞きしに勝る壮絶なものです!本当に……心から感謝します。この機体で多くの命が救えます」

恭子は凛とした表情で斑鳩少佐とやり取りする

まさに鬼姫って感じだ。

《それはよかった。まだ私案だが、試製98式は「武御雷」の名を与えたいと考えてるよ》

「成る程、まさしく武神の名に相応しき戦術機かと」

《ところで、学徒兵の救助と並行して、君に託したい任務がある》

「はっ、如何なる任務でありましょうか?」

《亀岡戦域で孤立しているファング中隊……これも学徒兵部隊なのだが、帝国海軍による面制圧とBETAの侵攻とに挟まれ窮地にあるようだ。そう言えば……ファング中隊には篁家の息女が配属されていたね》

「…直ちに救援へ向かいましょう」

《このファング中隊と行動を共にしている正体不明の戦術機がいるみたいでね。君にはこの正体不明機の情報収集を頼みたい》

恭子は「承りました」と返答し亀岡戦域で孤立している佳織率いるファング中隊の救援を向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……まさか、全員無事に敵中突破を成功させるとはな……正直驚かされたぞ》

「とんでもない、アンタの指揮能力が発揮したから皆全員生き残ったんだ。俺はそれを手伝ったまでさ」

ホント、あれはきつかったぞ。

次々と突出してくるBETAがいたからな。

そのおかげでエネルギーは激しく消耗しちまった。

《そう言って貰えるならば、私も気が楽になる》

火力の差だよ、火力

まぁ、全員生き残ったのは奇跡としか言いようがない

1人でも見捨てちまったらテオドールと同類になるところだった。

《くくっ……妙な機体をよく扱えたな、豊臣少尉》

「まぁ、お褒め頂き感謝します」

そうは言ったが、まだ油断出来ねぇよな

《詮索するつもりはない、貴様が乗ってる機体は特殊なモノだと察している》

そんな感じ……かな?

俺が乗るフルアーマーガンダムは重装甲であり火力が半端ない代物だ。

この世界でも似たようなものが作られるのか?

いや、ないと言って等しい。

作られるわけがない…普通は。

ん?何だ、この戦術機は…色が青、白、赤、黄色の4色

「友軍機だ、救援に来たぞ」

俺は少し安堵な表情になる

《此方は帝国欺衛軍の崇宰大尉だ!》

恭子、来てくれたんだな……。

《ファング中隊指揮官、如月中尉です!》

あれ?おいおい2人共、何かよそよそしい態度になってないか?

そういえば義足野郎があの戦術機について語ってたな

回想を振り返る

それは欺衛軍訓練生と東欧州社会主義同盟の交流模擬戦が終わり別れ際に会話した時のことだ

(お前、武御雷は知ってるか?)

(タケミカヅチ?何だそれは)

(はぁ、聞いて呆れるよ。何でこの世界に来たんだって俺は心底呆れるよ)

何だと、義足野郎の癖に!

しかし、俺はこの世界の事は当初何も分からなかったのは確かだ。

(武御雷という戦術機は欺衛軍の運用を想定した特注の機体、所謂スペシャリティな高性能を誇った戦術機だ。頭部から見れば武将様の兜を訪越している。今までの戦術機とは比べ物にはならない)

普通の戦術機とは比べ物にならない程のハイスペックな機体なのか

少し気になるぜ

(で、以前はベアトリクスと崇宰大尉が戦ったらベアトリクスが勝つと俺は答えた。が、もしベアトリクスの機体より強い戦術機で挑んだら?)

(ベアトリクスのアリゲートルより強い戦術機?そんな機体あるのか)

(ある。アリゲートル、いやラーストチカよりもっと強い戦術機が)

それが武御雷か

(そうだ、崇宰大尉が瑞鶴から武御雷に乗り換えたらどうなる?)

(そりゃ、恭子が勝つだろうさ)

(悪運が強いお前がこう答えると思わなかったよ)

(で、これからどうするつもりだ?)

(日本海経由でカムチャッカに移動し、ユーコン基地へ行く予定だ)

暫くはセッション出来ないのか

少し寂しいぜ

(そうか、これだけは言っておくぞ)

(何だ?)

(俺とお前は殺し合う運命だ。俺に黙って勝手に死ぬんじゃねぇぞ)

(ああ、分かってるさ、いつでも俺は狙ってるぞ)

回想終わり

俺はオープン回線で恭子や佳織、唯依等の学徒兵の前に義足野郎から教えられた戦術機の名を口にする

「武御雷だ!そうだ、思い出したぜ……一度戦ってみたいが、またの機会だな」

《なっ……!?》

《豊臣少尉……?》

思い出させたらスッキリしたが、何故か疑いの目が俺に?

俺、何かヤバそうなこと言ったのか?

恭子、その怖い顔やめろよ!

《何故その名前を知っている?豊臣少尉!》

え?

嫌な予感が……。

《答えなさい!何故武御雷の名を知っている?》

おいおいおいおいおいおいおいおい、滅茶苦茶怒ってるじゃないか!

ヤバいぞ、これは!

「結構有名じゃないですか!ほら日本神話に出てくる神様の名前ですよ。その最新鋭機、実に素晴らしい!見事です!脱帽しましたよ!ははははは…」

笑って誤魔化す俺は恭子の顔を見る

《我らを愚弄しているのか?その名を口にできるのは限られた者のみ。何処からその情報を得たのか?》

地雷踏んじまったか……勘弁してくれよホントに。

《答えよ!答えないとあらば……!》

「すまねぇ、俺資料室でアンタがいつも持ってる資料の中身見ちまった!」

これなら疑いの目は晴れる

《嘘を吐くな!正直に答えろ!》

くっ……俺を北の工作員扱いにするのか!

これでは売国奴扱いじゃないか!

《答えなさい!何故この機体の事を知っている!?何処で知った!?》

「だからアンタが常に持ち歩いてる資料の中身を見たとさっき言ったばかりだろうが!」

《どの資料だ!?》

「そ、それは……」

口籠っちまった……どう言えばいいんだよ!

《何故口籠る!?貴様……》

「……俺はアンタの約束を果たした!学徒兵も全員無事だ!生き残ったんだ!!何故俺を疑うんだ!?お前こそこの機体を征夷大将軍殿下に報告せず存在自体を隠蔽した奴が言う事か!」

《……》

「……一度アンタと戦ってみたかったそれを敬意に表して相手になってやる!崇宰恭子!!」

俺は恭子が乗る試製98式に目掛け2連ビームライフルを向け砲撃しようとした次の瞬間、唯依機が恭子機に近づき仲裁を試みる

《お待ちください!恭子様っ!いえ、崇宰大尉!》

《唯依!?》

《大尉、豊臣少尉は何かしらの理由がある筈です!お引きください!》

《……唯依、貴女こそ引きなさい!これは大尉として、貴女の上官としての命令よ!》

《上申します!今は日本人同士で戦ってる場合ではありません!豊臣少尉は私達を命がけで助けてくれました!今前線から下げる事は帝国の益になりません!》

《彼は工作員の疑いがあるのよ!前線に置くわけにはいかないのよ!》

喧嘩し始めたぞ

これが鬼姫と篁家の跡継ぎ娘か

《それが間違いだと申し上げているのです!彼は工作員ではありません!我らと同じBETAを敵とする日本人です!》

一歩引き下がらない姿勢でいる

篁唯依……最初はただのヒヨッコの娘だと思ったが大和魂誇る娘だ。

《最早、問答は無用です!己が正しさ、刃で証明なさい!豊臣少尉もよ!!》

話し合いは成立ならずか……。

「ならこのフルアーマーガンダムとアンタが言う試製98式、どっちが強いか……」

もう自棄だ!

徹底的にやってやる!

「確かめてやる!」

俺はフットペダルを思い切り踏み速度を上げ恭子機に近づきサブアームで捕縛する

《くっ…!どういうつもりなの!?》

「幾ら鬼姫である御方がこの様子じゃ真面に動けないようだな」

《貴様……!》

ビームサーベルを出し恭子機の背後に向ける

「終わりだ………」

このまま穴を開けようとした時、CPから通信が来た

《欺衛本部CPよりハイドラ1、京都駅方面にてBETAの大規模増援を確認、応援要請あり。急行されたし。繰り返す、京都駅方面にてBETAの大規模増援を確認、応援要請あり。急行されたし…》

チッ、運がいい女だ

《ハイドラ1、了解。至急応援に向かう!》

俺はビームサーベルを収納する

《とりあえず放してもらえるかしら?本部から応援要請が入ったわ》

「すまねぇ、今放す」

サブアームで掴んでる恭子機を外し解放する。

《個人的な喧嘩は一旦やめましょう、如月中尉!》

《ハッ!》

《ファング中隊に豊臣少尉の監視を命じます……後の事、宜しくお願いします》

《ハッ!》

《唯依……成長したのね。誇らしく思います》

《あ、ありがとうございます》

唯依を褒める恭子

俺は何か違和感を感じた

何だ、この扱いの差は?

恭子機は応援要請に従い、京都駅に向かい飛び去って行った

「一段落した……か(あとで色々言われそうだな)」

《向こうに補給コンテナがある、補給を受けたらここを立ち去り、貴様の任務を果たせ》

「果たせって……俺の監視を命じられたのだろ!?」

《さっきまでみんなを戦ってた私達に監視しろなんて……。逃がせって言ってるも同然だよ》

唯依は表情崩さず即答した

そういう事かよ!

《”宜しく”という意味がそれだ……と私は判断した》

成る程

「んじゃ、有難く補給受けさせて貰おうか?連戦の上に消耗しきったからエネルギーも随分と危なかったし」

ピピッ!

レーダーに反応

戦域データリンク?

この付近は……京都駅

嫌な予感がするな

「……総員傾注!各隊員は京都駅に向かうぞ。嫌な予感がする」

《嫌な予感だと!?》

《えっ!?どういう事!?こっちの戦域データリンクにはそんな情報は言ってないよ》

「俺が間違えてるというのか!?とにかくだ、このままだと被害が甚大になる!先に行くぞ」

俺はフルブーストで京都駅に向かう

《ファング中隊、全機京都駅に集結する!遅れを取るな!》

《了解!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思ってたよりBETAの数が多い

それに京都駅に残っていた残存部隊も集結している

「(幾ら試製98式とはいえ、この数のBETAではキリがないぜ)」

レーダーに頼るしかない……反応がある筈だ

何処だ?何処にいるんだ?

「(見つけたぞ!)BETA共がぁぁぁっ!」

俺は戦車級BETA数十体に2連ビームライフルを向け砲撃

続いて唯依機が長刀で戦車級を切り刻む

《恭子様、大丈夫ですか!?》

《ええ…おかげで助かったわ……まさか貴女に助けられるとはね……。それと豊臣少尉にも……どうやら唯依の言う事が正しかったみたい》

「俺はお前を見捨てる訳ないだろ?それに誰かを見捨てるような事したらテオドールって男と同類になっちまうからな」

《ふふ…良い心構えね》

恭子はクスっと笑みを浮かべ俺を褒める

《私も、その気持ち、忘れずに居たいものね》

もう少し妥協しようぜ、恭子

褒められたのは非常に有難い

《まだ全てのBETAが片付いたとは限らないけど………。新兵中心のファング中隊は限界ね……そして私も》

全部片付くのは無理だろうよ

京都府全域にいる数の規模は…100万は超えている

俺が乗るフルアーマーガンダムは火力が高くてもエネルギーが無限にある訳じゃねぇ

限界が来る。

《ファング中隊は私と共に一旦帰投します》

まだ大丈夫とはいえるが、喧嘩腰で恭子と揉め合いしてる場合じゃないな。

「了解した、崇宰大尉」

《総員各衛士に告ぐ!これよりファング中隊は崇宰大尉と共に欺衛軍本部に帰投する!我に続け!》

俺達は恭子と共に欺衛軍本部へ帰投する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、欺衛軍本部に帰投したファング中隊と崇宰恭子

彼女らの戦術機に残されたログが彼…斑鳩少佐の元へと届けられた

「…驚愕……と、言わざるを得ないね……」

届けられたログを全て見る時間的余裕は勿論なかった。

しかし、その極々一部だけを見ただけでも、その戦術機……ではなくモビルスーツ、フルアーマーガンダムが尋常ならざる物である事は十分に理解出来た。

「(これまで見てきた戦術機とは全く異なる機体……何処で製造しこの機体を施した?)」

問題なのは………。

「(試製98式の欠点、調達コスト、運用コスト、そしてメンテナンス性……もしその謎の機体と大差がなければ武御雷はその存在意義を失いかねない……捨て置けないな……この機体、BETA大戦の行く末に大きな影響を与えかねない…)誰か!試製98式……いや武御雷の着座調整を用意せよ!私が出る。それと正体不明の機体の現在位置の確認を!」

「ハッ!」

「上申し上げます!崇宰大尉が謎の機体と共に帰投しました」

突如現れた黒い軍服の兵士が斑鳩少佐の耳に近づき報告する

「ほぅ、それは真か?」

「ハッ、朝鮮半島に現れた謎の機体……斑鳩少佐は何処まで存じているでしょうか?」

「ふむ、深くは知っていない程度だ」

「崇宰恭子大尉の報告ですが、この機体の事をガンダムと呼びました故に」

斑鳩少佐は右親指に顎を上げつつ人差し指で鼻を触れる

「崇宰大尉が?私は聞いていないが」

「征夷大将軍殿下も知らずの情報でしたから……崇宰大尉は何かしらの御事情があって報告を怠ったと思います」

「そうか……でも崇宰大尉らしくないね」

「斑鳩少佐?」

「私の独り言だよ、気にすることはない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い長い……気が遠くなるような長い夜がようやく明けた

公式には斑鳩少佐の率いる部隊の活躍によりBETAの脅威は帝都から排除された……という事になったが、遂にフルアーマーガンダム、サイコ・ザクの存在が征夷大将軍に知られ公に知られてしまった

排除されたと言っても一時的な事だ

まだ油断はならない。

腑に落ちない話だが、何か事情があるだろう。

幸い、ファング中隊からは人的な被害が出る事はなかったが、一般人、衛士、軍関係者問わず多くの人々が野戦病院に担ぎ込まれていた。

帰投した基地の傍にある野戦病院

新たなる夜明け……か。

「あら、こんなところにいてましたの?」

山城の声が聞こえる

無視…は出来ねぇよな。

「おう、生還おめでとう…と言いたいところだがBETAからの脅威を排除したとはいえ、時期にここは陥落されるのは避けられねぇ」

「ですわね」

山城……いや上総は俺に向け優しい笑みを浮かべる

唯依の姿が現れ上総に話しかける

「山城さん…」

「長い夜、でしたわね。篁さん…いいえ唯依」

「うん…」

「やっと夜が明けましたわね、唯依」

「えっ?あ…うん、そうだね上総」

その後の事だが、帝都は京都から東京へと還都し10日後、京都は陥落

唯依は欺衛軍の正規の衛士になり恭子率いる部隊に配属された

安芸は欺衛軍の正規の衛士になったものの、戦闘任務から外されデスクワークとして任務を励んでいる

志摩子は安芸と同じデスクワークになるが、後に恭子率いる部隊に配属される

和泉はそのまま恭子率いる部隊に配属

上総は和泉同様そのまま恭子率いる部隊に配属

俺は……帝国軍衛士として佐渡島に左遷され佐渡基地第三戦術予備部隊B中隊の衛士として防衛任務に励むが、帝都陥落から一か月後にBETA侵攻により佐渡島は陥落、そして新たなハイヴ…佐渡島ハイヴが建造された

A中隊の坂崎都大尉と交流はあったが、恋人関係までは発展せず音楽仲間として接したが佐渡島防衛戦で民間人や基地にいてた兵士や歩兵、正規の衛士を避難させ膨大な数のBETAの猛攻撃で戦死した。

残存の衛士は大陸に帰り戦力の温存を試みる。

B中隊中隊長の大倉鈴乃大尉は佐渡島奪還を悲願を掲げ佐渡島同胞団を設立

俺も、欺衛軍衛士として帝国軍衛士としてではなくこのクソッタレなBETAをこの世から殲滅することを決意した。

俺は坂崎大尉の事は本気で好きだった。

人の死や人の優しさ、命の尊さ……俺が知らない事まで教えてくれた

大事な人を失う人の気持ちがわかったよ………恭子、お前だけは絶対に守り切って見せる!

そう決めたのだからな………。




中盤は漫画版帝都燃ゆを参照しましたが、途中からマブラヴSFのイベントシナリオ『鬼神の如く 前編-紅蓮荒ぶ帝都-』『鬼神の如く 後編-晩夏散らす吹雪-』を参照して書きました。
終盤はマブラヴアニメ第1話に出てきた坂崎都大尉や大倉鈴乃大尉が出てきましたが、上手く掘り下げることができませんでした、申し訳ない(-_-;)
2人に関しては外伝を書いて出します!
大倉大尉がクーデターに参加するのかまだ未確定の為、ここからは独自設定で書いていきます。
次は明星作戦ですが、その前に茶番みたいな話を出します
次回のお楽しみに


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第6話 不埒な欺衛の衛士

帝都陥落から5日後

1998年8月20日

欺衛軍は日本帝国軍と連携する形で共闘することになったが、それは表向きだ

その裏は五摂家にいる誰かが権力を握ろうと試みてる奴等が少なからずいる

恭子は五摂家の人間であるが権力を握ろうとは毛頭思ってはいない

俺はというと東京に移設した欺衛軍本部の資料室で今までの戦闘データや過去の戦争、内乱等の書いてる本を読み漁っていた。

面倒だが、欺衛軍の衛士である限りやらねばならない

そして恭子の為にもだ

そんな中、恭子が資料室に入り俺に近づき少し笑みを浮かべる

「ふふ、勉強熱心ね」

「崇宰大尉…」

恭子は俺の隣に椅子に座る

「隣良いかしら?」

「お、おう、いいぜ」

俺は恭子の顔を少し伺う

ニコニコと笑ってる、何かいいことでもあったのか?

「唯依が喜んでいたわ、お友達を救ってくれて感謝します。そのおかげで山城上総少尉と深く親睦し接したそうよ」

「良かったですね、ところで聞きたい事ありますが宜しいでしょうか?」

俺は畏まって恭子に話しかける

「何かしら?」

「斑鳩少佐は試製98式……武御雷の開発の関与をなされてるのですか?」

「そうね……彼は欺衛軍の為国の為個の為に全力で尽くしたそうよ」

笑みを浮かべながら即答された

「大尉は斑鳩少佐とどのような関係を築いていらっしゃるのですか?」

いつもなら冷静を振る舞い毅然とした態度をとるのだが、斑鳩少佐の名を聞いてドキッと感じた

「な……!何を、何を言ってるのよ。私と斑鳩少佐はあ…あくまでも上官と部下の関係、です!」

動揺してるじゃないか

分かりやすいな……。

「そうだったのですね……」

斑鳩少佐はハッキリ言って気障な男だ。

だが、悪人ではない。

欺衛軍の女性衛士からラブレター送られるほどモテてるとか

少し羨ましいぜ……どの部分がモテ要素なんだ?

「ん、あの時の台詞」

「?」

「忘れたとは言わせないわよ、少し……」

俺の顔を見るなり何かを思い出したか頬を赤らめる恭子はもじもじとしていた。

帝都防衛戦で恭子は俺に他国の工作員と疑い俺が咄嗟に言った台詞だ

(……俺はアンタの約束を果たした!学徒兵も全員無事だ!生き残ったんだ!!)

あー、あの時の事か

「50点をあげるわ」

「何の点数ですか」

「私の好感度を上げ恋仲に発展する事が出来るのか?の点数よ」

恭子は俺の頭を優しく撫でる

俺は恭子を抱き締めようとするが、他の衛士が見られるからここは抑える

「移動しましょう」

「そうですね」

と俺と恭子は読んだ本を本棚に戻し資料室から出ようとするが恭子は1人の男にぶつかった

「きゃっ」

ドッと胸にきつくぶつかり鼻を抑える

「いたた……」

「あれ?なんだ崇宰じゃん」

馴れ馴れしい態度だな、この男は

見かけない顔だな……黒い軍服に着ているから一般衛士か。

「伊藤少尉……」

「大丈夫?」

知り合いか?

心根の優しい性格に見えるが……。

「よお、初めましてだな」

「貴方は豊臣少尉じゃないですか」

「俺の名前知ってたのか」

伊藤って言ってたな……。

少し探るか

「帝都防衛戦でお前は何処にいてたんだ?俺は新兵中心のファング中隊の次席指揮官務めてた」

「俺は、その時休暇でしたよ」

「休暇ねぇ……」

この男怪しいな

「豊臣少尉は崇宰恭子大尉と知り合いですか?」

「彼女の部下……と言った方が正しい、かな」

「へぇ、そうなんですね」

此奴、白々しい態度で振る舞ってやがる

さっき崇宰って呼び捨てしたよな……やはり旧知なのか?

黒い軍服を着た女性衛士が資料室に入り伊藤に近づいてきた

「誠、こんなところにいたんだ。探したわよ」

「あ、世界、ごめん…」

彼女いてたのか

「紹介するよ、俺の彼女の西園寺世界だ」

「西園寺世界少尉です、豊臣少尉のご活躍拝見しました」

”世界”という女性衛士は俺に向け敬礼する

恭子は”世界”に話しかける

「西園寺世界少尉、帝都防衛戦の時貴女は何処にいたの?」

「私は伊藤少尉と同様休暇取っていました」

「戦場でなくて助かったわね」

”世界”は戸惑うが恭子はニコッと笑みを浮かべる

「で、どこの所属だ?」

俺は問いかける

"世界”はこう言い返した

「ホーンド大隊です」

ホーンド大隊?

「斑鳩少佐の率いる大隊ね、斑鳩少佐の許可は貰ったの?」

恭子は"世界"に笑みを崩さずこう言った

「はい、少佐から許可を貰い伊藤少尉と温泉旅行に行きました」

恭子は"世界"が言った事を聞いて呆れ顔になる

そりゃそうだろ、帝都が危機に陥ってるときに温泉旅行か

呑気な奴等だな

「そう?斑鳩少佐と私は五摂家同士の仲よ。それ以上の関係は築いていない」

伊藤は空気読まず"世界"と会話し始める

「世界、今度の旅行、何処に行きたい?」

「誠が行きたい場所でいいわよ。私は誠の彼女だから」

「じゃあ、札幌は?」

「札幌?北海道ね。行きたい行きたい」

あー、クソ!

俺と恭子の前でイチャイチャして……少しムカつくぜ

俺も本当だったら恭子と一緒に旅行行きたいが、今はそれどころじゃないよな

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。またな崇宰」

「ええ、業務頑張るのよ」

恭子は伊藤に手を振り"世界"と一緒に歩き去る姿をじっと見ていた

俺の手を繋ぎ少し笑みを浮かべる

「豊臣、伊藤誠少尉の身辺調査は如月中尉に任せて探らせるわ。貴方も手伝って貰えないかしら?」

「……怪しいですよ、斑鳩少佐の率いる大隊に伊藤誠っていう名の衛士いたのですか?」

「……本人に聞いてみないと分からないわ」

恭子は俺の手を繋ぎつつ資料室から退室

退室した後、資料室に向かっている佳織に遭遇する

「恭子様、資料室に?」

「ええ、今出たところよ。如月中尉頼みたい事があるわ」

「恭子様の頼みなら何でも聞きます」

「実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子は執務室で俺と佳織含めて3人で伊藤の事やその彼女の事を話し出した

「……伊藤誠と西園寺世界の身辺調査お願いしたいけど良いかしら?」

佳織は勿論「了解しました」と一言を添って言い放つ

「斑鳩少佐をお呼びしましょうか?少佐なら何か存じてる筈です」

「俺も行くよ、お前だけでは何巻き込まれるか分からない」

面倒事は御免被る

「結構だ、私1人で十分だ」

「意地になるのは良くないぜ、それに伊藤は何やらかすか分からない」

佳織は俺の発言を聞いて歪んだ表情をする

恭子は真顔で俺にこう言った

「そこまで如月中尉の護衛したいなら一緒に行きなさい。宜しいですね?」

と畏まりつつ俺に佳織の護衛を命じた

「有難き御幸せです、崇宰大尉」

と俺は恭子に向け小さな笑みを浮かべながら敬礼する

「では行って参ります」

そして俺と佳織は執務室から退室し斑鳩少佐がいる大隊執務室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斑鳩少佐がいる大隊執務室に向かってる途中、栗色のストレートロングヘアを、運動の邪魔にならないようポニーテールに纏めている女性と遭遇する

軍服の色は黒

この女も一般衛士か

「如月中尉、今日もお疲れ様です」

と誇らしげな笑みを浮かべ俺と佳織に向け敬礼する

「ああ、加藤乙女少尉。貴様もご苦労様だ」

佳織は答礼する。

俺は”乙女”に話しかける

「よお、アンタも欺衛の衛士だったのか。少し聞きたい事あるが……構わないか?」

「ええ、どうぞ」

「伊藤誠、西園寺世界……この2人は斑鳩少佐の率いるホーンド大隊に配属してるのかもしくは帝都防衛戦で2人は本当に休暇取っていたのか。確かめたくて今斑鳩少佐のところへ向かってるところだ」

”乙女”は少し困惑した表情になる

「伊藤と西園寺?」

「何か心当たりはないか?」

と佳織は冷静沈着に言った。

「2人はあの時、休暇じゃなくて第1防衛ラインに配置しその守備隊にいてた筈よ」

嘘吐いたのか?何だか雲行きが怪しくなってきたな

シャレになってねぇぜ

「第1防衛ラインにいてたのか?」

佳織は真顔で言い放つ

「ええ、でも何でそんな事聞くのですか?」

"乙女”はぶっきら棒で厄介事は御免被ると雰囲気のオーラを出しつつ更に困惑する

「加藤乙女少尉、申し訳ないが同行して貰おうか?」

「え?」

「豊臣、手錠を」

俺は無言で手錠を出し”乙女”の両手首に掛ける

「ちょっとどういう事なんですか!?」

佳織は強引に”乙女”を斑鳩少佐がいる大隊執務室に連行した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斑鳩少佐がいる大隊執務室に到着した俺と佳織は”乙女”を連行し扉を叩く

「斑鳩少佐、少しお話があります。宜しいでしょうか?」

佳織は斑鳩少佐に呼び掛ける

斑鳩少佐は「入って構わないよ」と返答し、大隊執務室に入室する

「如月中尉が私の元へ来るとは珍しいね」

と気障な笑みを浮かべ冷静に振る舞う

「私に話とは何かな?」

佳織は本題に入る

「はい、斑鳩少佐の率いるホーンド大隊に伊藤誠、西園寺世界の2名が属してると聞きましたが」

「その2人は私の大隊にはいないよ」

「それは本当ですか?」

おいおい、斑鳩少佐の大隊にいないという事は、伊藤は最低な野郎だな

自分を偽ってたって事かよ

「彼は帝都防衛戦で第1防衛ラインに配置していたが、BETAが京都に迫ってくると悟り戦線放棄し脱走したらしい」

脱走兵だったのかよ!

俺は怒りを露にする

「脱走兵……では何故本部に?」

「伊藤家は政治家の家系で父親は最低な政治家として悪名高い人物だ。恐らくここに戻ってきたのは父親のおかげだという事だ」

斑鳩少佐はそれを知って黙ってたのかよ

何でそんな下種野郎を野放しにするんだ

「加藤少尉が伊藤少尉の事を一部ではありますが情報を引き出すことが出来ました。ほら加藤、斑鳩少佐に何か言う事があるだろ?」

「はい」

”乙女”は斑鳩少佐の目線を合わし真剣な表情で口を動かし声を上げる

「斑鳩少佐、私加藤乙女少尉は伊藤誠少尉がこれまでの嘘を塗り固めたことを全て話します」

斑鳩少佐は頷く

”乙女”の発言からによると伊藤は欺衛軍の業務を他人任せにし放棄した事や戦闘の時は常に戦線放棄し脱走した事、そして西園寺世界という彼女がいるにもかかわらず欺衛軍の女衛士や帝国軍の女衛士を口説いて浮気してると腐るほど出てくる悪行三昧が暴露をした

斑鳩少佐は頭を抱え悩み始めた

「驚愕と幻滅としか言いようがないね……」

「如何なさいますか?」

佳織は冷静に振る舞いながら言い放つ

「そうだね………業務放棄並びに戦線放棄し脱走した事は問答無用だ。如月中尉、私に一つ考えがある」

「考え…」

斑鳩少佐の言葉を聞いて体から寒気が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斑鳩少佐との話は終わり、大隊執務室から退室した俺と佳織は恭子がいる執務室に向かう

”乙女”の処遇だが暫くの間営倉に入れることになった

クビにはならないようだ

俺は不安募る

「如月中尉」

「何だ?」

「聞きづらい話なんだが…」

「?」

俺はジト目で佳織の顔をじっと見つつ話しかける

「男性経験は、ない……のか?」

その一言を聞いた佳織は頬を赤らめ照れ否定する

「ない!ある訳ないだろ。私は恭子様一筋だ」

「そうですか」

そう会話しているうちに恭子とバッタリ遭遇した

「あら?2人共、情報引き出せたの?」

恭子は掌を出し何か渡したがってる

佳織は調査報告書を恭子に渡す

斑鳩少佐が態々作成してくれたのだろう

「伊藤誠少尉ですが、完全にクロです。業務を他人に放り投げ放棄し戦闘時に戦線放棄し脱走した事も含めて不特定多数の女性を口説き身籠ったらしいです。警察に駆け込んだ女性はいましたがほとんどが泣き寝入りです」

恭子は黙々と調査報告書に目を通す

それを見た途端、恭子は怒りを通り越して呆れてしまった

「こんな下種な男とは思わなかったわ!到底許せないわね……斑鳩少佐から何か言われなかった?」

俺は唾を飲み込み真剣に口を開き声を出す

「ああ、少佐からは『崇宰大尉が囮になり彼に制裁を加えてほしい。無論、シチュエーションは既に考えている』と…作戦立案書だ」

俺は斑鳩少佐から渡された作戦立案書を恭子に差し出す

「!……これは」

中身を見た恭子は驚愕しつつ呆れ顔になった

内容見りゃ無理はない

「それにしてもとんでもねぇ野郎だな、伊藤は」

「伊藤の父親は妻以外他の女性と付き合い子供を身籠ったらしいです。これは日本の政治家としての行動とは思えません」

と佳織は伊藤の事だけでなく父親まで糾弾し口を開き声を上げる

親も親だな……。

「一度目は子供を認知する形で許しを得ましたが、今度はそうはいきません」

認知すると言っても嘘にしか聞こえない

彼奴は淫乱男だ

問いかける佳織に俺と恭子は勿論頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3日後、伊藤が欺衛軍を除隊すると聞いた

俺は化けの皮を剥がすことにした

「今日の朝礼で豊臣少尉から話がある」

恭子は真剣な眼差しで唯依や上総、志摩子、和泉等の衛士達の前で元気よく声を上げる

「今回、この場を借りて話したいのは伊藤誠少尉についてです」

そう切り出すと列の中にいる伊藤の顔が歪むのが見えた

疚しい事隠してるだろう

そこから奴の悪行の暴露大会が始まった

「見ての通り、奴は欺衛軍の女性衛士だけでなく帝国軍の女性衛士まで手を出し孕ませやり終えたらすぐ捨てたのです」

勿論、斑鳩少佐から許可を得て佳織が纏めた証拠資料でその場にいる衛士達を見せた

「いや、これは……」

これを聞いた唯依と上総等の他の衛士達は怒りで真っ赤だ

「伊藤少尉、貴様…豊臣少尉が言った事は事実だな?」

「ええ、けどみんな俺に付き合ってくれたんだから今更別れたいって言うとは思えませんよ」

しかし、こんな事をしているだけあって伊藤は図太かった

伊藤誠最低な下種野郎だな

吊し上げの場に立っても微塵も動じない

「貴女、自分が何したか分かってるの!?」

「和泉やめて…」

「女を弄ぶような奴だったなんて……最低極まりないわ!」

「は?騙される女どもが悪いんだろ?どうして俺を接触する前に裏を取らなかったんだ」

なんと和泉からの責めの言葉を嘲りながらこう返す始末だ

怒りのあまりに襲い掛かる和泉

「くっ……許せない!」

「身の程知らずのバカ女が……」

伊藤は和泉の喉の急所に突きを打ち込んだ

此奴は素人じゃない

伊藤を制圧すべく俺は奴の肩を抑える

「何やってんだ!」

「俺は古武術の有段者だ。腕っぷしの強い君には勝てないよ」

奴が俺の手にそっと置いた、次の瞬間

突然、地面が消えたような感覚

「あ…」

「フハハハハ!俺に楯突くなよ!」

直後、体が浮き視界がぐるり180度回転した

「俺は政治家の息子なんだ、お前なんかすぐ消せるんだ」

「があ!」

奴に投げられた事に気が付いたのは後頭部に強い衝撃を受けた後だった

慌てて立ち上がると今度は蹴りが一気に4発飛んできた

間違いなく鍛え上げられた武道家の蹴り……!

「何でこんな事するんだ?」

「今の世の中、真面目に女と付き合っても馬鹿を見るだけ、俺は俺なりに複数の女性を抱き子供を産ませた。それが何悪いんだ?俺の子供が沢山産んで幸せだと思わないのが愚かなんだ!」

成る程、奴は不特定多数の女性を子供を産ませ、自分だけの王国を築こうとしてた訳か

欺衛軍にいる女性は品性があって上品なお嬢様ばかりだろう

あの下種野郎が目付けられたのも無理はない

だが、付き合った女性はどれだけ辛い思いをしたか、女は弄ぶだけの道具か。

「ふざけんじゃねぇ!欺衛軍の女衛士はお前の欲求不満を解消する性処理の道具じゃない!それを意図も簡単に裏切る最低な淫乱野郎は俺が完膚なきぶちのめす!」

俺の言葉を聞いた伊藤は嘲りの表情のまま次々と拳を繰り出してくる

「何を怒っているんだよ、より楽で頭のいい方法を選んだだけだろう!」

確かに此奴の攻撃は速い、だが

早いだけに綿飴みたいに軽い!

「!」

「ぐげぇあっ!」

伊藤はモロに拳を受け奴の背骨がいった

「アンタが今まで付き合った女性達はアンタの為だと思って誠心誠意で真剣に思い愛し続けた!」

俺は伊藤の顎に拳を当て粉砕する

「ごはぁっ!」

「そんな善意に唾吐き付けやがって!欺衛軍や五摂家の女性を舐めるの大概にしやがれ!」

俺は伊藤に向け拳で豪快にフルスイングした

「ぐぎゃああ」

それから伊藤が完全に伸びた事で俺は唯依、上総、志摩子に止められ

「豊臣少尉、やめてください!」

「落ち着いてくださいまし!もうそれ以上は拙いですわ!」

そのまま恭子がいる執務室へと引っ張られた

通報で駆け付けた警官達も唯依がやってくれた

「つまり彼の行動は正当防衛だと?」

「はい、本人は古武術の達人だと言っておりましたので」

伊藤を殴った事を庇ってくれたのは本当に助かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の伊藤も政治家である父親が釈放金を出し解放され、カムチャッカ半島に飛び逃げ。相変わらず女性を弄んでいたが……

「なあ、男に相手にされてないんだって、折角俺が付き合おうとしようと思ったのにッ、勝手なことばっか言いやがって」

「や、やめて…ください!嫌あああ、誰か助けて!!」

しかし……伊藤の背後から女の手が肩を抑える

「貴様……!」

「え?」

「私の恋仲に何をしているんだ!?」

奴は馬鹿だった

イングヒルトって女性を籠絡しようと試みたがヴェアヴォルフ大隊の大隊長の怒りを買ってしまい東欧州社会主義同盟総帥のベアトリクスに目付けられた

風の噂じゃベアトリクスは直々に伊藤をヘリに乗り込ませその高さで蹴り落とした後……。

「貴様は生きる価値がない外道で女の敵だ!」

「ぎゃあああああああああああ」

BETAに喰われてしまったって話だ

当然ながら死体は上がっていない

それが本当だとしても俺達には関係ない

これは佳織から後に聞いた話だが、西園寺世界は伊藤がいなくなったと知り半狂乱状態に陥り、拳銃自殺

加藤乙女は伊藤の件で責任取る形で衛士をやめ、その後オーストラリアに移住し静かに過ごしている

伊藤の父親は政治家生命を絶たれ失脚、その後自宅で首吊り自殺を遂げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年8月31日

恭子は伊藤の件を含めてそれを蔑ろにする事はなかった

「あんな問題起こしたら、私の面子が汚れてしまうわ」

怒りを通り越した呆れ顔だ

あの淫乱男を殴った事は後悔していない

「斑鳩少佐が処理してくれたけど、貴方は暫く反省する形で帝国軍の衛士として佐渡基地に左遷を命じる」

左遷か……幾ら伊藤が女性に対し酷く扱われたことを知って怒りを露にしてまで殴った事は良しとしないんだな。

「佐渡島…ですか」

「そう、自然と触れ合って佐渡基地にいるみんなと仲良くしなさい。司令官に連絡済みよ」

「え?欺衛軍の衛士が帝国軍の基地に行って宜しいのですか?」

何が何だか分からない

左遷って言われたら誰だって戸惑うだろうよ

「良いも悪いもこれは上層部の決定よ」

マジかよ、おい……。

フルアーマーガンダムはどうなるんだ?

「俺の機体も佐渡島に……」

「没収します、佐渡基地には撃震しか配備されていない。戦術機乗る機会が増えるきっかけになるわよ?」

成る程、要するに衛士の気持ちを考えて慣れ合いか。

面白い……なら付き合ってやるぜ

「とにかくよ、明日早朝に佐渡島に行きなさい」

俺は恭子に向け誇らしげな笑みを浮かべ敬礼する

「了解しました、豊臣悠一少尉これより帝国軍佐渡基地に行って参ります!」




今回は『School Days』の主人公、伊藤誠とその作品の登場人物の西園寺世界、加藤乙女をゲスト出演させました
原作での誠はかなり女たらしで優柔不断なんですが、やっぱりこのまま出すと面白みがないので古武術の有段者という設定付け加えました
世界の他に言葉や七海、刹那等のキャラを出そうかなと考えましたが却下しました
理由は
言葉:虚弱体質
七海:如月中尉と被る(?)
刹那:背が小さ過ぎるので論外
です。
次回はいよいよ明星作戦です!
佐渡島での左遷から本部に帰ってきた悠一はB中隊の中隊長だった大倉鈴乃を長にし佐渡島奪還を悲願とした組織、佐渡島同胞団を結成
欺衛軍や帝国軍への貢献度を誇示するため、過酷な作戦に戦術機とモビルスーツを編成した部隊を派遣する
その作戦の結果はどうなるのか?生き残ることが出来るか?
次回のお楽しみに


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第7話 Opration“Lucifer”

いよいよ明星作戦です!
久々に別視点からの描写を書きます


1998年9月24日

佐渡島はBETAの侵攻により陥落

北陸地方は完全にBETAの支配下となった

陥落から6日後、欺衛軍本部の会議室にて帝国軍将校を集い、俺を含めかつて佐渡基地第三予備戦術部隊B中隊の中隊長だった大倉鈴乃とその残存戦力と戦災難民で組織された一団『佐渡島同胞団』を設立した

佐渡島の奪還と復興を悲願とし、欺衛軍及び帝国軍への貢献度を誇示する為、数々の任務を遂行し部隊の作戦立案と物資、兵員の調達は、同胞団上層部によって行われている。

バラライカやラーストチカ等の海外の戦術機を調達できるほどの資金力を持ち、日本帝国の事実上の長である征夷大将軍や五摂家の崇宰恭子への貢献の象徴となることを期待し、鈴乃を同胞団の長に任命される

戦力は戦術機空母を中心に戦術機揚陸艦が5隻

無論、フルアーマーガンダムに乗っているのは俺1人を戦力の要の一つとして導入する

他は装甲車両や撃震、不知火等の戦術機を編成してる部隊だ。

1999年8月5日

過酷なBETA大戦においてはパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反攻作戦、明星作戦に参加。

横浜ハイヴの殲滅と本州島奪還が優先戦略目的。太平洋側と日本海側からの艦砲交差射撃による後続の寸断に始まった本作戦は、横浜ハイヴ攻略を今始めようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

《総員兵器使用自由。目標前面BETA群》

鈴乃の号令で戦術機とモビルスーツを混成した強襲部隊を編成し鈴乃は撃震に乗って殿を務め指揮を執る

《撃て!》

佐渡島同胞団の衛士達は、一斉に構えた武器を眼前より向かってくるBETA群相手に斉射した。勿論俺もフルアーマーガンダムで右腕部の2連装ビームライフルを撃ちまくり、倒しにくい大型種を一手に引き受けている。

残存戦力の寄り集まった同胞団にも関わらず、最近は最前線の一角を任される。まぁ、このフルアーマーガンダムの火力と性能、出力あってのものだが。

残存戦力では物足りないので正規の軍将校や俺の他に元の世界や別世界から転生した人間がごちゃ混ぜで、恭子や斑鳩少佐が苦労してやっと一団を編成しているという始末だ。

撃震5機が鈴乃機を通り過ぎ突撃砲で要撃級5体に向け放った。

鈴乃から連絡がきた

《豊臣、光線級の出現をCPが報告した。光線級吶喊の要請が来ると思うから、この地点で控えててくれ!》

「了解したぜ!しかし誰が光線級を」

《恐らくだが、国連軍だろう》

国連軍か……平和的に貢献する軍隊って感じだが、あまりいいイメージがないな

画面越しで鈴乃の顔を見ると、別嬪さんで母性溢れる女性だ

途端に嘆きの声が満ち、引き留める声が後を絶たない。

これはフルアーマーガンダムが戦線を離れると戦死者が相当数出る

撃震、不知火単機では無理だろう。

光線級吶喊など本来は正規衛士の役割だろうが、それをすると重金属雲を厚く巻いて数十数百もの部隊の犠牲を積み重ね、やっとなし得なければならない。

フルアーマーガンダムやサイコ・ザクなら、ただ一機で出来てしまうのだから仕方ない

桁が違うんだ、桁が。

《光線級群の位置を確認した》

不知火のパイロットの1人から通信が来る

何やら光線級が確認したらしい

鈴乃から指示がきた。

《非常に厳しいが頼む。欺衛軍からの情報で位置はここ、この辺り。作戦を検討した結果、もっとも成功確率の高いルートは………》

「正確なルートを行けばいいだけだろ!」

小型ラジオの電源を入れ音楽番組のジャズを流す

曲はオーネット・コールマンのRound Trip

良い盛り上がりだ

おぉ、漸くお出ましか?BETA共

「戦車級は無視!光線級だけ狙え!当たるなよ」

《了解!》

途中にいるBETAを吹き飛ばしたりやりすごしたり。

目標位置まで近付くと、早速光線級がレーザーの歓迎をしてきた。

しかし右に左に回避していくと、やがて突撃級の集団がこちらに向かってきた。

足の速い突撃級がこんな所にいるのは、おそらく光線級の護衛だろう。

「チッ…壁になって守りを固めるってか?」

大型ビーム砲を放ち、前方の2体が突撃級の足を綺麗に吹き飛ばした。

突撃級2体は派手に転倒し、隣の個体をも巻き込み、綺麗に道が空いた。

そこを火力と速度を緩めず突破。ついでに突撃級を背にして照射を防ぐ。

照射の瞬間を読んで回避行動をとっても、レバーを動かす時間と機体が反応する時間のコンマ数秒で遅れてしまう

距離を詰めながら接近してくるBETA群に向け2連ビームライフルで連射する

「殻を割ってやらぁ!」

俺のフルアーマーガンダムの威力を示された鈴乃は驚愕する

《凄い……あんな重武装で軽々とBETAを殲滅していく…》

どんなもんよ!

「大倉大尉もお気に召したようで」

ランドセル側面にビームサーベルをサブアームでラックからの取り出しつつ右手で握り光線級を切り刻み突っ込んでいく

6連装ミサイル・ポッドで多弾頭ミサイルを発射し50匹以上もいた光線級群を殲滅

撃ち漏らしがないか確認する

周囲を警戒

《よくやってくれた。が、まだ終わってはいない……》

「ハイヴを……だろ?」

《ああ、国連軍だけでなく大東亜連合軍が参戦してくる》

国連の意向を従わない軍の集まりが何でここに来たのかはさて置き今は目の前にいるBETA群の残存を殲滅することが先決だ

連中は好きにやらせとけばいい

「米軍は、参戦してくるのか?」

《……私達を見捨てて都まで殺した連中が今更……来るのが遅いのよ》

鈴乃?泣いてる…のか。

「あ、ああ悪かった。すまない」

俺はそういうと鈴乃は腕で涙を拭い少し笑みを浮かべる

《すまない、豊臣……取り乱してしまった》

鈴乃はオープン回線から秘匿回線に変え、通信を交わす

「秘匿回線……」

《公では話せない事あるから秘匿回線にした。他の衛士達の士気が下がるからね…》

俺はこの世界に来てから2年半だ。

もうBETAとは戦い慣れてきた

小型ラジオの電源を切り小型カセットレコーダーで雰囲気がいいジャズの曲を流す

《あ……曲変えたわね?》

「良い曲だろ?」

鈴乃はニコニコと満面の笑みを浮かべる

鈴乃や恭子、他の衛士達を守りながらBETAを排除することは出来る。

それくらい宇宙世紀の機体は圧倒的火力……いやこのフルアーマーガンダム自体がパラレル宇宙世紀の機体だから一般的に知られているフルアーマーガンダムとは異なるが、これはこの機体がロールアウトした時点でFSWS計画は発展途上であった事に由来し、様々な武装や機能が試験的に装備されている。

本来ならサンダーボルト宙域での運用を想定した機体だ

関節部のシーリング処理やサブアームを有した大型ランドセルを装備し、更にアポジモーターの増設やロケットブースターの追加によって、普通のMSを上回る火力を持ち、尚且つ重装甲でありながらも高機動MSに匹敵する推力を持つ。

それに加え、バックパックの大型メガ粒子砲や腕部二連装式ビームライフル、装甲内蔵式のミサイルポッドなどMSには過剰とも言える程の武装を持っており、本機の総合火力はMSの範疇を大きく超える。

 

両腕に装備されているビームライフルとロケットランチャーは上部にシールドを外装でき、更にサブアームで保持する分を合わせると、合計4枚のシールドを装備可能となっている。また、増加装甲及びランドセルは、搭乗者の判断で別個にパージが可能。

だからお気に入りになったんだ、フルアーマーガンダム(サンダーボルトVer)をな。

《ふふ、せいぜい任務を果たして実績をつける事ね。私は帝国の救世主。貴様は崇宰家の守護神》

「いやいや、俺は守護神じゃねぇ。ただ崇宰家次期当主を死なせたくないだけさ、それと鈴乃」

《?》

「お前は英雄になる器じゃねぇぞ」

《酷い言い方ね……》

不貞腐れてしまったか………。

「悪い、言い過ぎた」

《このまま貴様……ああ今は2人きりだから》

鈴乃は咳込みながら口調を変え話し続ける

《このまま貴方と一緒に帰りたい……》

「作戦行動中だぜ?」

《地獄を見るよりはマシでしょ?》

良いムードになったところで俺は鈴乃と抱き締めたいと思いから機体に降りようとするが、状況は一変し雰囲気は凍り付いた

オープン回線で佐渡島同胞団CPの報告を受ける

《観測部隊から報告です、米国は五次元効果爆弾、通称:G弾の使用を決定した。繰り返す米国は五次元効果爆弾、通称:G弾の使用を決定した》

G弾?

何だそれは

「鈴乃!G弾って何だ?」

《米軍が使用される兵器よ、使用は凍結したと聞いたけど》

五次元効果爆弾。通称:G弾。どのようなものかは知らないが、とにかく強力で、ハンパない被害をもたらすものだと聞いている。あの曲者の香月副司令が、断固として使用を反対したものだから相当ヤバイものだろう。

「国連軍は⁈」

《恐らく突入部隊の連絡途絶。先行部隊の壊滅。奇襲による損害の穴埋め。支配地域の放棄。上層部からは現状維持と伝達した筈……》

ふざけてるのか?

このまま黙ってみてろってか!

《こちらヴァルキリー01だ。司令部から聞いているか? 米軍の動きを》

ヴァルキリー01!? 

機体は不知火……識別は国連軍

《伊隅大尉か?》

「誰だそれは?」

《伊隅みちる大尉……国連軍の伊隅戦乙女中隊の中隊長で『鉄の女』とも言われる俊英だ》

成る程な

戦乙女か……。

《佐渡島同胞団の大倉鈴乃大尉です、通信障害が酷くて聞き取れませんでした。米軍がどうかしたのですか?》

《佐渡島同胞団?貴様は佐渡島の……そうか。『補給のついで』というには大回りだったが、わざわざここまで足を運んだ甲斐はあったな。実は帝国と米国が激しくやりあっている。ハイヴ突入隊の全滅をうけ、米国はG弾の使用許可を帝国に迫っているのだ》

《伊隅大尉!? あれは作戦計画から外されたんじゃ?》

おいおい、マジかよ……冗談じゃねぇぜ

恭子はそのG弾という兵器の存在を知ってるのか?

知らない筈がない……欺衛軍の一般衛士はまだしも五摂家に属する衛士が知らない訳ではない

知ってて知らないふりをしてるだろう

《復活したのだ。G弾使用はハイヴ攻略作戦失敗時の予備作戦として残してあったらしい。このままでは本当にG弾が使われる可能性が高い………いや、あえて言おう。米軍は確実に使用する。いまG弾の最新の情報を送る。被害予想範囲の項を見てみろ》

伊隅大尉から送られてきたデータリンクを見て、俺達は驚愕した。

「何だこりゃ……」

《!》

鈴乃も驚愕し困惑している

そりゃあんなもん見せられたら誰でも驚愕するだろうよ

横浜の殆どがその被害地域に入っている。

これでは横浜は終わりだ

《もう一度言う。米国は五次元効果爆弾、通称:G弾の使用を決定した。貴様らはいつでも撤収できるようにしておけ。撤退の命令が来たなら全力で効果予想範囲から逃げろ。他の部隊も既に撤退し始めている。以上だ》

「逃げろって何処に逃げればいいんだ!」

《それは貴様自身で考えろ》

伊隅大尉とその随伴機は、そのまま去って行った。

「……今の話、他の連中は知っていると思うか?」

《恐らく知らないでしょうね。私達は佐渡島同胞団の一員だがある程度の情報なら掴んでいる》

「見捨てられて見殺しか…そして機体は無事でも衛士はミートソースってか」

正直、横浜市内でBETAと交戦してる部隊の数は知れている

犠牲になった衛士は四肢切断され、溶解液で体を溶かされ跡形もなく遺体は消える

残った遺体は食べられてミートソースになる

笑えるかよこんなの……!

「どこから落とされるか分かんねぇな……」

《……》

「やるつもりなのか?」

鈴乃、まさか……。

《……》

「やめておけ!お前まで失ったら俺は都に会わせる顔がなくなっちまう!」

そうだ、お前はただのか弱き女性だ

ハイヴの中にいるBETAを一掃するという発想自体がどう足掻いても無理だ

俺がニュータイプではない限りは……。

「佐渡島を取り戻したいんだろ?お前がいなきゃ誰がやるんだ!」

鈴乃は管制ユニットから降りてヘッドセットで俺と通信を交わす

《降りてきて》

「え?」

《……少しだけ…少しだけでいいから》

そう言われ俺はコクピットのハッチを開け機体から降りる

俺が見えた光景は建物は並んでいるが大半が倒壊してるばかりのが多くみられる

鈴乃は俺に近づき抱き締める

「あの佐渡島でみた地獄の光景を夢の中で何度も何度も見たわ」

俺は鈴乃に抱き締め返す

「坂崎大尉が……都が私の夢の中に出てきて『死んでいった衛士の仇を取ってくれ』と」

都……駒木や俺達を佐渡島から脱出させたのはそういう意味だったのか

俺はあの時、撃震に乗っててボロボロの状態で両津港に

駒木は都が言った事は分からなかった

「そうか……鈴乃、俺はお前を守って見せる!だから……あの時の事覚えているか?」

「あの時の事?」

鈴乃は首を傾げる

「欺衛軍の本部で崇宰大尉の前で私と豊臣が姉弟の契りを交わした事ね」

そうだ、あの時の俺は泣き崩れてしまったからな

恭子は俺が鈴乃に介抱され泣き崩れた場面を見てドン引きしつつ悲しげな表情してたな

「あ、豊臣ではなく”悠一君”って呼んだ方がいいかな?」

「今まで通りでいいぜ」

「私の事は”鈴姉”って呼んでいいわよ?」

おいおい、それって……ファム・ティ・ランを対抗してるのか?

違うと願いたいぜ

「いや、俺も今まで通りに鈴乃って呼ばせて貰うぜ」

俺はニヒルに笑ってそう言った。

鈴乃はクスっと笑みを浮かびながら目を瞑り互いの唇を重ねた

「帰ったら続きやりましょう、今夜は」

「寝かさないか……俺もお前と一緒にいたい。ダメか?」

俺はそう言ったが鈴乃は笑みを崩さず言い放つ

「ダメじゃないわ………寧ろ一緒にいたい」

1999年8月6日

米軍が放ったG弾によって、人類はBETA大戦史上初のハイヴ占拠に成功した

それと同時にBETA群をほぼ一掃した。それに呼応して西日本を制圧していた残存BETA群は一斉に大陸に向け撤退を開始。戦術機甲部隊による追撃戦、艦砲射撃などによって敗走するBETA群に大損害を与え、歴史的な大勝利となり明星作戦は終結した。

佐渡島防衛戦で安保条約を一方的に破棄して撤退した米国が、なぜ本作戦に部隊を送り込んだのか。これについては様々な憶測と疑念を呼んでいるが、恐らくはそれが目的だったであろう無通告のG弾使用が、日本国民の心に更に深い反米感情を刻み込んだのは確実である。オルタネイティヴ4への牽制と、オルタネイティヴ5の優位性を誇示するためのG弾投下が、結果的にオルタネイティヴ4と香月博士に利をもたらしたという事実はもはや歴史の皮肉と言う他ない。

そしてまだこの戦争は終わらない

いや戦争という名のセッションは永遠に終わらない、ただプレイヤーが入れ替わるだけだ

人類はここからが反撃し始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1999年8月9日

横浜ハイヴ F層

人類は明星作戦という名により、BETAの巣の一つである横浜ハイヴを攻略

《CP from Bravo Leader Currently arrived at the central section at a depth of 1300m Start searching from this》

《It's a great hall!》

《There is no reaction of CP BETA from Bravo leader》

《Bravo Leader from CP Report any changes in the destruction situation without leaking details.》

《Bravo leader understands》

F-15 イーグルを主に編成した米軍のブラボー中隊は横浜ハイヴの中に入り探索活動していた

《Lieutenant!》

《What happened? !! 》

部下の一人が何かを見つけたようだ

ホールのど真ん中に……何かがある

《Bravo Leader Report the situation》

CPはブラボー中隊の現状報告を聞く

《This is Bravo Leader in the middle of the hall ... there is something》

中隊長は報告を続ける

《Many thin pillars extend from the floor to the ceiling, and the transparent part in the center is ... Check at maximum telephoto》

中隊長機は最大望遠で何かを確認を試みるが、それを見た中隊長は目を見開いて顔面蒼白で驚愕した

《Fucking! What a hell! 》

《Bravo Leader What happened! ?? Report the situation! Is it a survivor! ?? 》

《Human ... brain!!》

そうハイヴの奥に入るとそこには人間の脳みそがあった。

しかし、誰のかは分からない

中隊全機、ピクリと動かずただ驚愕するだけだった

そして横浜ハイヴ跡地は国連軍横浜基地として建設する

これが終わりではなく始まりだと気付かなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

東欧州社会主義同盟戦術機空母『ヴィリー・シュトフ』及び戦術機揚陸艦『ぺーネミュンデ』戦艦『カールマルクス』はカムチャッカ半島南部カムチャッカ州の軍港に停泊。

俺がこの世界に転生してから2年半経とうとしていた

そんな時、ある出来事を空母の中にある食堂に設置してるソ連の国営放送局であるソビエト連邦中央テレビに映ってるニュースを見た。

日本の帝都である京都が陥落した事、佐渡島がBETAの手に墜ちた事……そして1999年、明星作戦で米軍が横浜ハイヴ上空にG弾2発投下しモニュメントや構造物を消滅した事が報道された。

『アメリカ軍が事前協議なく持ち込み、独断で投下した2発の新型爆弾は、日本の横浜ハイヴの地表構造物だけでなく、横浜市街を含む半径数百mの範囲を、球状に削り去ったのです』

彼奴は今頃どうしてるんだろう、G弾に巻き込まれて死んだか。

それとも難を逃れて生き延びたか

彼奴の事だ、絶対に生き延びている

口が軽いだけの運がいい男だ、易々と死ぬわけがない

「アメリカ軍が、こんなのを持ち込んでいたのね」

ファム……分かるよ。

俺は今、悲しいんだ

「この戦いは理不尽な事はある。軍の上層部に逆らえなかった衛士にとって屈辱で悲惨だ」

「ダリル君……」

『許し難きアメリカの非道、時の合衆国大統領…』

俺はファムと共に食堂から出て中隊長執務室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

ダリル・ローレンツと名乗る男が現れてから2年半

私は東欧州社会主義同盟総帥として戦艦カールマルクスの艦長室でヴェアヴォルフ大隊大隊指揮官の二コラと共にラジオでモスクワ放送のニュース番組を聴いていた

《『新型爆弾の投下によって、人類は数十万の将兵、そして数千万の日本国民の生命が失われずに済んだ。経緯は遺憾だが、緊急状況故にやむを得なかった』と》

「何て自分勝手な発言だ!諜報員をアメリカに送り込んで大統領の暗殺計画を」

「ダメよ、今の私達が介入したらややこしくなるわ」

《新型爆弾……所謂G弾の投下は今も日本国民の心に、深く傷跡となって刻み込まれています…》

嫌気がさした私は番組を変え、オールディーズを流す

曲はドリス・デイのケ・セラ・セラ

「ユーコンにいるソ連政府に会談の準備をしなさい。忙しくなるわよ」

「ハッ、え?1人で行かれるのですか?」

ニコラは私の顔を見て困惑する

「ええ、ダメかしら?」

「ダメですよ、1人で行かれたら命がいつ奪われるか分からないです!」

心配してくれてるのね、ニコラ

「私も行かせてください。大隊の指揮はロザリンデに代行させます。宜しいですね?」

「ホント、私の事を思って行動してるわね…」

「総帥…」

「何かしら?」

「ブレーメ総帥はいつからオールディーズを好んだのです?あれはアメリカの音楽ですよ」

「音楽に罪はないわ。ただ私は不愉快なアメリカ政府の連中がやったことを毛嫌いしてるだけよ、ニコラ」

「成る程……」

ふふ、照れてるのね?

私はニコラの背後から抱き締める

「え?ブレーメ総帥…」

「いつも私についてくれて感謝するわ、これからも…」

私はニコラの耳元に近づけ囁く

「ずっと一緒にいてくれる?」

囁かれたニコラは「はい、勿論です!私はブレーメ総帥と一緒ならどこまでもついて行きます」と言葉を添え、私を抱き締め返した

「私もニコラの事が好きよ、だからずっと傍にいてね」




次回、出雲奪還作戦(本土防衛戦)です
トータルイクリプス第13話冒頭しか語られていないエピソードを独自解釈で書こうと思います
結構暴れ回ります
ジャズ聴きながらBETAと戦闘します
遂にあのパラレル宇宙世紀の最強機体が出てきますよ
誰が乗ってるかは……そこはお楽しみです。
次回のお楽しみに
暫くの間、本編書くのを一時中断し外伝を書きます


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第8話 出雲奪還作戦 前編

長くなるので前編後編の2部作でお送りします。


1999年8月6日

国連軍と大東亜連合によるアジア方面では最大、BETA大戦においてはパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反攻作戦である明星作戦が展開され、米軍のG弾を日本帝国・大東亜連合への事前通告なしに使用、モニュメントと呼ばれる地表構造物を破壊しBETA群をほぼ一掃した。それに呼応して西日本を制圧していた残存BETA群は一斉に大陸に向け撤退を開始。戦術機甲部隊による追撃戦、艦砲射撃などによって敗走するBETA群に大損害を与え、歴史的な大勝利となった

それ以降、人類はBETAに対し反攻を開始し日本帝国政府は帝国軍、欺衛軍、新たな勢力である一団『佐渡島同胞団』により連携を保ちそれを殲滅し島根県まで撤退させた。

2000年5月26日

残存BETA群を全て殲滅する為に帝国軍、欺衛軍、佐渡島同胞団の三大勢力による『出雲奪還作戦』を開始した。

戦力は

帝国軍:撃震、陽炎、不知火、吹雪

欺衛軍:瑞鶴、武御雷

佐渡島同胞団:撃震、陽炎、不知火、フルアーマーガンダム

出雲基地の会議室でその三大勢力により作戦会議を始めていた。

「我々はBETA群を大陸に向け撤退を追い込んだのは良いが、まだ油断はできない。この出雲基地が再びBETAの手に落ちるかまだ分からない」

佐渡島同胞団の長である鈴乃は真剣な表情を浮かび作戦を練る。

俺は鈴乃の事が心配でいつ何処でBETAにやられるか不安だ

勿論、恭子も含めて

彼女は日本の未来を救う女傑だ

目を瞑り、自分の心の奥底を覗き込むような表情で作戦内容を書いた書類の一枚を見る

恭子が会議室に入り、会議に参加する

着用してるのは……今まで見た事ない強化装備を身に纏った

「00式衛士強化装備……武御雷の性能を最大限まで引き出せることが出来る代物よ」

武御雷……あの武士みたいな形をしてる機体か

「いつもの強化装備じゃダメなのか?」

俺は恭子に問いかける

「ええ、従来の強化装備では武御雷の本来の性能は引き出せないからこの00式強化装備の着用を推奨してるのよ」

成る程、武御雷専用の強化装備って訳だな?

「武御雷専用の強化装備か」

「そう捉えて構わないわ」

いつもの恭子と違う

一段と美しく見える……俺は見惚れてしまった。

「今度、白い武御雷でフルアーマーガンダムみたいに重武装させたいが」

「却下します」

即答かよ!

「武御雷は我ら欺衛が誇る優良な機体、重武装だなんて甚だしい…身の程弁えろ!」

恭子の顔を見ると、鬼の形相みたいに怒っている

「分かった分かった!そのままの方が良いぜ」

「理解できれば宜しい」

この会議室にいるのは俺と鈴乃、恭子、佳織、唯依、上総、志摩子、和泉、安芸(緊急により恭子の率いる大隊に配属)帝国軍衛士数名、欺衛軍衛士数名、帝国軍将校数名、欺衛軍将校数名だ。

どうもこうも一つ気になる

何故出雲基地は無事だったのか?

それは分からない

恭子は地図を広げ出雲市街に出現するBETAの数を予想する

「出雲市街でのBETAの数は恐らく200~500体だと思われる。我が大隊は出雲市役所跡の周りにいるBETAを叩く」

「その数は妥当だと思うが、何か大きいヤマが来ると思うぜ」

「大きいヤマ?」

恭子は首を傾げる

「要塞級だと思われます。崇宰大尉」

鈴乃は恭子に即答する

「佐渡島にいた要塞級BETAは7体、7体で押し潰されたのです」

佐渡島の時はヤバかった……都は最後まで戦いこの島で死んだ。

俺は未練が断ち切れないぜ

「佐渡島を奪還する前にまずは出雲にいる赤い蜘蛛野郎と目ん玉野郎を掃討すべきだと思う」

「戦車級と光線級ね……」

鈴乃はそう呟き、恭子は死地に赴く軍人のように表情を引き締める

歴戦の衛士って奴だな

「どの種類のBETAが現れるか分からない。出雲だけBETAがいるとは限らないわ」

「確かにな……」

「鳥取県米子市周辺で確認されたと雨宮中尉からの情報よ」

恭子は出雲だけではなく米津市周辺までBETA出現すると断言した

俺は真顔になる

「俺が前に出て崇宰大尉の率いる大隊の支援砲撃、もしくは佐渡島同胞団の衛士が守りを固め大倉大尉が吶喊する……」

この戦術は正確ではない

俺がふと思いついただけの事だ

「だとしても、やらざるを得ない状況になるわ。とりあえずこの内容で行きましょう。失敗したならまた考え直せばいい」

そうだな、恭子……このクソッタレなBETAを一匹残らず殲滅しないとな

作戦会議を終え、各自更衣室で強化装備に着替え待機する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、パイロットスーツに着替えた俺は格納庫に向かう

フルアーマーガンダムのコクピットに入ろうとした途端、強化装備に着替えた鈴乃に呼び止められる

「豊臣、聞きたい事ある。今更だけど…」

鈴乃はなだめ顔で俺に問いかける

何だ?

「崇宰大尉の事だが、豊臣は崇宰大尉の事好きなのか?」

「……ああ、好きだ。彼女は日本の未来を照らす希望だ」

鈴乃は俺の返答を聞くと安堵な表情で笑みを浮かべた

「そうか、都が聞いたら笑うと思うわ。多分」

「ああ、そうだな。俺が本当に好きな人はいると言ったら怒られると思ったぜ」

俺は鈴乃にアニメやドラマ、映画に出てくる優しい父親のような顔をした

「そんな事ないと思うわ」

鈴乃は愛想笑いをして穏やかな表情を浮かべる

その笑顔はまるで天使みたいだ。

鈴乃と会話してるうちに恭子が俺に近づき小さな笑みを浮かべ話しかける

「大倉大尉、少し外させていいかしら?豊臣少尉と2人きりで話したい事があるの」

「ハッ!失礼しました。ではごゆるりと」

と鈴乃は恭子に向け敬礼し歩き去った

そして恭子は鈴乃が去ったのを確認し俺の顔を見て真顔になり話す

「豊臣少尉、ガンダムの事だけど…貴方が佐渡島に左遷させた直後に国連軍の香月夕呼博士が欺衛軍本部に来て調査されたわ」

「な……!?」

俺がいない間に国連の香月博士がフルアーマーガンダムを調査しに来ただと!?

一言も聞いてないぞ……。

「色々聞かれたわ。『貴女はあのフルアーマーガンダムって戦術機と共に欺衛軍に入ってるってことでいいのよね?』『G元素をハイヴ以外で手に入れるには、BETAの死骸を解体するしかないわ。でもそれは膨大な手間をかけて、ごく僅かしか取れない手間のかかるものよ。たった一日で研究に必要な分を確保できるとは思えないのよね』『貴女がフルアーマーガンダムの戦闘を行うというなら、それを観察しないわけにはいかない。帝国海軍に頼んで駆逐艦を出してもらい、そこで見せてもらう』と」

何だよそりゃ……じゃあ全部観られてるって事かよ

「私も貴方の機体勝手に乗って操縦したわ。戦術機の操縦と違って扱い慣れるの大変だったのよ……よくこんな重武装な機体扱えたわね」

噂段階で”重武装型の戦術機”とまで言われたフルアーマーガンダム

そりゃお偉いさん方には興味津々だろうな

「貴方の機体が今ここにあるのは斑鳩少佐のおかげだという事は忘れないで」

斑鳩少佐が香月博士と交渉したのか。

よく上手く交渉出来たな

「下手すればフルアーマーガンダムは香月博士の実験道具として海に放棄されるところよ」

斑鳩少佐お疲れ様だ

裏で色々と手回ししてまで策略してたんだな

「で、『ガンダムって名称。あれってどういう意味なの?どういった意図が込められているの?』って問われたからこう答えたわ。”人類が描いた戦争の夢と悪夢”と」

「違うぞ恭子、このフルアーマーガンダムは『互いに殺し合う運命の為に存在する機体』だ」

恭子は此方の心を何もかも 見透して、優しく理解するような目で俺の顔をじっと見つつ笑みを浮かべる

「下の名前、呼んでいいと言ってないけど。貴方なら出来るわ…豊臣、期待してるわよ」

「おう!お前を絶対に守って見せる!」

恭子は「口だけは一人前ね」と添えて笑みを浮かべながら武御雷の管制ユニットに乗りいつでも出撃準備を備えた

俺はコクピットに入りシートに座りつついつでも出撃できるよう機体を起動させた直後、基地内で警報音が鳴る

《コード991発令!出雲市街に蔓延るBETA群の活動が活発した模様!各衛士は管制ユニットに乗り出撃を備えよ!》

警報のアナウンスが流れ、俺のフルアーマーガンダムは動き出す

《豊臣、私の大隊が先に出る。貴様は後方支援で私達の盾になりなさい》

あの時みたいにか……京都では学徒兵が俺と佳織の盾になったが今回は逆のようだ。

上手くいけるだろうか?あの時みたいに

「ああ、了解した」

《それでいい》

恭子が乗る青い武御雷と別の衛士が乗ってる白い武御雷が前へ出る

唯依の率いる斯衛軍中央評価試験部隊『ホワイトファング』は恭子の率いる大隊と別行動を取る。

恐らく米子市に向かい先回りの形でBETA殲滅するだろう。

佳織の率いるファング中隊は待機

基地の保守任務に当たる

《ファング中隊は基地の保守任務に当たります!崇宰大尉、ご武運を》

《ええ、ありがとう如月中尉》

恭子の率いる大隊の戦術機は出雲市街に向かい出撃、ホワイトファング隊も同時に米子市街に向かい出撃した

マニピュレーター問題なし、武装はよし!アポジモーター問題なし、ロケットブースター展開良好、カタパルトに接続

「豊臣悠一、フルアーマーガンダム出るぞ!」

ロケットブースター展開し出雲市街に飛び向かった。

俺が出撃した直後、防護シートにくるまれた厳重な警戒のなか格納庫に運ばれている機体の姿があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出雲市街にBETAが現れ、掃討に向かう恭子率いる大隊の戦術機36機は積極的に突撃砲を握り構え120mm弾を放っていき、そのうちの1機は長刀で戦車級をバッサリと切り刻んでいく

殲滅は順調に進んでいた。が突撃級や要撃級10体が次々と襲い掛かってくる

《クソ!化け物共が!》

《出ていけ!私達の国から出ていけ!》

凄まじい砲撃、戦車級が次々と血飛沫が出てバッタバッタと倒れていく

要撃級も続いて砲撃に当たり次々と倒れていき突撃級も背後から120mm弾を放ち屍となった。

《撃ち方やめ!BETAの反応が薄れていく》

恭子の号令で各機は砲撃をやめ警戒態勢を取る

佐渡島同胞団CPから通信が来た

《報告します、帝国軍戦術機部隊の迎撃によりBETA反応は消失。これにより出雲市で蔓延る残存BETAは殲滅完了となります》

「ご苦労様、あとは米子市街だけね…」

恭子は真剣な表情をしつつ凄味ある笑みを浮かべる

出雲市にBETAがいなくなったことにより恭子は歓喜な気持ちになったが、その直後鈴乃から交信される

《此方ムーア1、ハイドラ1応答してください!》

「此方ハイドラ1。ムーア1、何があった?」

《米津市街にホワイトファング隊がBETA群と交戦中。弾薬が尽きるのも時間の問題です!》

「豊臣少尉は?」

《突撃級、要撃級、兵士級と交戦しています》

恭子は焦り始めた

その焦りから表情が歪み歯ぎしりをしつつ操縦桿をぎゅっと強く握る

「(あれだけ多くの数がいるというのか)ムーア1、今出雲市街での戦闘を終えたところだ。すぐに向かう」

《了解しました》

交信終了

「総員傾注!これより我が大隊は米子市街にてBETAと交戦してる戦術機部隊の援護に向かう!突撃に、移れぇぇぇぇぇぇっ!」

《了解!》

恭子の率いる第3大隊は跳躍ユニットを噴出し最大全速まで飛行しつつ唯依達がいる米津市街に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

米津市街にて唯依率いるホワイトファング隊は約数百体のBETA群と交戦してるが後方のHQが奇襲を受け壊滅していた

《ムーア8よりホワイトファング1!後方がやられた!直ぐ増援を!》

《ムーア9よりホワイトファング1!突撃級と要撃級が次々と増えてきてるぞ!》

《ホワイトファング1!応答しろ!クソ、ダメだ…》

《ぎゃあああああああああああああ!!》

ブチブチ!

何かが食いちぎられる

人間の手足だ

胴体も食いちぎられ体の一部分が次々と喰われ絶命していくものが続出

「(覚悟しろ、異星起源種共!)」

唯依は覚悟していた

自分の命を捨ててまでBETAと戦い続けることを既に決意していた

黄色い塗装を施されてる瑞鶴の背部兵装担架に収納している長刀を握り要撃級を次々とバッサリと切り込む

「(生きて日本を、出られると思うなッ!!)」

後方から突撃級1体が迫ってくるが白い塗装を施されてる瑞鶴3機が支援射撃

要撃級が数十体囲まれ孤立

《クソ!ホワイトファングは当てにならん!ムーア7、ムーア1応答してください!》

《ムーア1よりムーア7、此方も前方にいる戦車級数十体と交戦している。現状報告せよ》

《あ…10、11、12が反応消失!要撃級が迫って…がは!》

《ムーア7?どうした、応答せよ!ムーア7!他の欺衛軍戦術機部隊は!?》

鈴乃の怒声が響き流れる

唯依が他の部隊の事を気にせずBETA殲滅してるのを気にくわないだろう

《ぐ!迂闊だった…要撃級にぶつかってしまった。フレームが歪んで機体の一部が動かない》

《ムーア2よりムーア1!何があった!?》

《豊臣か?すまない、一旦離脱する》

鈴乃が離脱を試みようとするが、別の要撃級が迫り両脚部分を損傷し大破

《ぐ!……》

《ムーア1がやられた!誰か救援を!》

佐渡島同胞団の不知火3機のうち2機は大破した鈴乃機に担ぎ上げその1機は護衛に当たる

《ムーア2よりホワイトファング1!大倉大尉がやられた!何してやがる!さっさと動け!》

コード991

警報音が鳴り響く

《日本岸全域か師団規模のBETAが再上陸!》

ホワイトファング隊に属する雨宮中尉は焦りつつ報告する

「個体数が2万だと…?」

《恐らく大陸からの新上陸だ。ホワイトファング1》

恭子の率いる第3大隊が到着

「ハイドラ1、其方の状況は」

《我々欺衛二個中隊は何とか踏ん張っている。だが頼みの帝国軍は完全に恐慌状態だ。奇襲で米子のHQが壊滅したらしい》

マジかよ、おい冗談じゃねぇぜ

《これより我が中隊は前面に展開。敵侵攻の遅滞を試みる!》

《おい、ちょっと待て!お前1人で行くのか!?》

恭子は俺を無視し唯依の率いるホワイトファング隊に交信し続けた

《帝国残存戦力を後退させ、後方で再編成するまで時間を稼ぐ》

は?それって自分が殿となって務めるというのか。

相手は2万以上のBETA群だ。

1人でやれるわけがない!

《今や我が国にとって、兵士も照明装備も貴重だ》

……

《見殺しには出来ない》

俺達含め味方機を逃がすって訳か

残弾0になってまで戦い続けるのは無謀であり自殺するだけだ

「恭子様、貴女は……」

唯依は心配そうな表情をしつつモニターに映る恭子の顔を見て寂しげな顔をしていた。

《何よ、唯依。その顔》

恭子は死ぬ気だ

何を考えてやがる

《……我ら欺衛、戦場において常に先陣あり。退く機は殿を務む》

恭子、お前は……そこまで日本の未来の事を。

考えてたんだな、だからこそ崇宰恭子という女傑は日本の未来の指導者に相応しい…と思ってるのは自分だけだろうか?

そうだな、俺の妄想だよ。

《貴女がそこ動けば、伊豆の部隊は挟撃され全追討部隊の兵端が絶たれる。分かっているわね?》

唯依も苦渋の決断だった。

自分が生き延びるか?恭子を助けて自分が死ぬか?

究極の選択だ

唯依が選んだ答えは……?

「……分かっています」

《帝国を頼んだわよ》

恭子の交信は終了

唯依は後退し自分の命を選んだ。

《ホワイトファング、後退していきます!》

佐渡島同胞団に属する不知火の衛士が俺に報告する

「チッ、自分の命を選んだ……か」

俺は恭子が唯依を生かした理由は分からなかった。

その時だった、恭子機や他の武御雷に乗ってる衛士は要塞級が目の前にいたことを気づかず驚愕する

「要塞級……数は7体!(佐渡島の時と同じだ……)」

都は最後まで日本の為に戦い続け佐渡島で散っていった

何をすべきか分かってる

俺は……!

要塞級の鞭で白い塗装の武御雷と黄色い塗装の武御雷10機が撃墜される

恭子は恐怖を襲い掛かり絶望感をしつつ涙を流す

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

俺はビームサーベルで要塞級の鞭を切り込み他の要塞級が鞭で襲い掛かるがこれもビームサーベルで切り刻む

2連ビームライフルで要塞級2体を殲滅

「次だ!」

大型ビーム砲で3体目の要塞級を殲滅

だが、様子がおかしい

恭子機が全く動かない

モニターで確認すると、その表情はいつもの恭子と違い冷静さを欠けた絶望的な表情で涙を流し発狂していた

「おい、誰か!崇宰大尉の救援を!」

佐渡島同胞団の戦術機部隊と交信試みるが応答がない

重金属雲の影響か?

残りの4体の要塞級が俺に襲い掛かる

「くっ、デカいだけの目立ちたがり屋が!鞭で叩かなきゃ気が済まねぇのかよ!」

6連装ミサイル・ポッドの多弾頭ミサイルと全身の各部増加装甲内に格納されているミサイルを同時に全弾発射

残り3体

「くっ、此奴!調子に乗りやがって!」

2連ビームライフルで要塞級2体撃破

残りは1体となりビームサーベルで要塞級に向け突っ込み切りかかるが、要塞級での鞭の攻撃に当てかけられるが回避

「ぐ!」

機体は傷は付いてるが大丈夫だ

幸いまだエネルギーが残ってる

ビームサーベルで要塞級を突っ込み切りかかるが

恭子機が別の方角から来た戦車級が管制ユニットのハッチをこじ開ける。

「いやああああああああああああっ」

恭子の悲鳴が聞こえ、今に喰われそうな瞬間だ

気を取られてるうちに要塞級の鞭が機体を叩き飛ばす

「うが!」

クソ……俺は愛する人を守れず死ぬのか。

「!」

その時だった。

異変が起こったのは……

いきなり戦術機が現れたのだ!

いや、戦術機じゃない。

あの特徴的な兜のような顔……ガンダムだ!

「あのガンダムはまさか!?」

腰部に装着するブースターユニットを噴出しつつゆっくりと降下して右腕にレールガンを構え射撃し要塞級を撃破

「どうしてアトラスガンダムが……………ハッ! まさか」

左肩部にある紋章を見るとスパルタンの紋章ではない

あれは史実に存在する佐渡市の紋章が日本刀で刺し添えたモノだ

佐渡島同胞団の紋章だ。

そして誰が乗ってるんだ?

突如現れたアトラスガンダムに目も心も奪われ、その聳え立つ勇姿に釘付けとなってしまった。

暫し呆然とそれを見上げて固まっていたが。

《良く耐えたな豊臣、あとは私に任せろ》

鈴乃……だと!?

何でアトラスガンダムに乗ってるんだよ!

「鈴乃、お前…その機体は」

《説明は後から話す。今は崇宰大尉の救助を最優先だ》

「了解した」

俺は2連ビームライフルで恭子に襲い掛かってる戦車級を殲滅

周囲を見渡し警戒しつつ無事恭子を救出

恭子が乗った武御雷は放棄するしかないな……。

俺は恭子をフルアーマーガンダムのコクピットに乗せ抱き抱えそのまま戦線から離脱した。




何でアトラスガンダム出てくるんだよ!と思った皆様
外伝読めば分かります。
3部作にしようと思いましたが前編後編の2部作になりました。
さて、次回は後編です。
お楽しみに


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第9話 出雲奪還作戦 後編

後編です
ある理由で鈴乃はケヤルガによってアトラスガンダムを受領します。



鈴乃Side

私は大倉鈴乃

日本帝国軍佐渡基地司令部第三戦術予備部隊B中隊に属し中隊長を務め今は佐渡島同胞団の長を務めている衛士だ。

出雲奪還作戦で帝国軍、欺衛軍、佐渡島同胞団の三大勢力でBETA群と立ち向かい撃震に乗り駆逐していたが、要撃級にぶつかり両脚部分を損傷し大破

一時離脱を余儀なくしていた

出雲基地に帰投した私は管制ユニットから降りた直後、意識が失い倒れ医療室で衛生兵2人に手当てされ深い眠りに入り夢の中に浸っていった

夢の中に浸った後そこは、何もないただ白い空間が続くだけの世界だった。

声は果てしなく続く白の空間から響いてくる。

「はっ、ここは何処だ?それに私は……」

99式衛士強化装備を着たままだ

「鈴乃…」

聞き覚えがある女の声……まさか

「都……なの?」

何と死んだ筈の坂崎都が私の目の前に立っていた

「貴女は佐渡島でBETAと戦って死んだ筈じゃ…」

「肉体が死んでも魂だけは生き残る。鈴乃、お前に渡したいモノがある」

渡したいモノ……?

「渡したいモノって何?」

「本土の岩国基地で謎の戦術機が墜落した事……覚えているか?」

「ええ、覚えているわ。規格外の性能と未知の武装を搭載した謎の戦術機…この3機の事を”FG”、”PZ”、”A”の事ね」

都は険しい顔をして私の顔をじっと見る

「ああ、お前に言わなかったがその”A”は私が乗る予定だった。がそれを乗る以前に佐渡島で死んでしまった」

都がそう言うと、その場はいきなり宇宙になった。

そこにはいくつかの宇宙艦船、そして無数の戦術機のような人型機械がライフルを撃ち合い戦争をしていた。そして機械人形の持っている銃からは光の弾が発射され、それが当たると激しく爆発した。

「これは……宇宙戦争!?あ、この機体何処かで見たような気が」

「ケヤルガって胡散臭い回復術士が言ったが、あれはフルアーマーガンダム、サイコ・ザクという機体の名称だ」

ケヤルガ?回復術士?

何の事……なの?

「ごめんなさい、何言ってるか私には理解し難い」

「そうだろうな……私は最初信じなかったよ」

私の背後に本来は純粋で心優しい性格を持つ可愛らしいが人格が歪んでも破綻までは至らず本来の真っ当さも失っていない少年の姿があった

「こことは別の世界線、宇宙世紀と呼ばれる世界の戦争だ。こういったとある世界の光景は、異なる世界へと流出し、感性の高い人間の脳が受信して創作物として綴られることがある。因みに君の経験したBETA大戦もまた、別の世界では創作物と存在する」

「貴方は……?」

「自己紹介しよう、俺はケヤルガ。神であり回復術士さ」

「……?」

ケヤルガという少年は私の顔を見て凄味ある笑みを浮かんだ

「BETA。あれは異星より愛しき庭を食い荒らし滅ぼす害虫だ。滅びもまた一つの景色とはいえ、この害虫に滅ぼされるのは我慢ならない。故に手を打った」

「BETAという存在くらいは知ってる!貴様は何者だ?何の目的で私をここに呼び寄せた!?坂崎大尉を籠絡してまで…」

「落ち着け、鈴乃!これには訳があるんだ」

都は私を落ち着かせる

「…実はとある小物達に、BETAの侵攻を遅らせるべくとある奇跡を授けて君と坂崎大尉がいる世界へ送り出した。奴らが願った奇跡というのが、この宇宙世紀の兵器モビルスーツというものだ」

モビルスーツ……そう言えば豊臣から聞いた事ある

しかしどんな内容だったか忘れてしまった

ケヤルガは続けて私に向け言い放つ

「こんなものをそのまま送っても、燃料、エネルギー、整備のための資材などが調達出来る筈もない。どうにかその世界でも使えるよう、俺が手を加えて与えてやった。が、そのモビルスーツ。BETAとの戦いに有効だとみた」

ケヤルガは指をパチンと鳴らしそれと同時に宇宙戦争の景色は消え、代わりに実物大の宇宙世紀の機動兵器が現れた。

私は衛士として幾つもの戦術機、武装を見てきたが、これほどに存在感のある、そして禍々しくも力を感じる兵器は見たことがなかった。これに比べたら、今まで使ってきた戦術機等玩具に過ぎない

「俺が選んだパラレル宇宙世紀の超高性能機モビルスーツ。これをBETA駆逐の雫として垂らすことに決めた」

私は絶句した

何が何だか信じられないくらいに

これは現実なの……?

「大倉鈴乃大尉、使い手として貴様が選ばれたんだ」

都…貴女は。

「さて、決めてもらおう。奇跡は望まねば与えてやれないんだ。大倉鈴乃。我が申し出を受け、これを手にするか否か? BETAを滅ぼす絶対の剣を掲げ振るい、熾烈なる試練への渦へ入るか?」

佐渡島を取り戻す為、都の仇を取る為なら私は逃げない

「受けるわ」

「即答するんだ」

正直言えば怖い。

この機体の禍々しさ。人の作ったものとは思えない畏れすら感じる。

だが、同時にこれこそあのBETAを滅ぼすに相応しい得物だと確信することが出来る。

迷う事はやめた

「動かすにはそれなりに時間がかかる。いや、起動にすら辿り着かないかもしれない。何のバックアップも出来ないその世界では、俺が手を加えようとも動かすだけでも相当の試練となる」

私は不可思議空間に聳え立つ、白と黒、黄色に塗装を施された機体を見上げて聞いた。

「これはアトラスガンダムだ…地上戦を特化した試作機体というべきかな」

ケヤルガは自慢げにべらべらと語った

「名前の由来は…」

「ギリシア神話に出てくる神の一人……そうでしょ?」

私は真顔でケヤルガに向け言い放った

「そうだ。君に使えるかは疑問だが」

「それで、何が言いたいんだ?」

ケヤルガに睨み付け疑問を抱く

「俺の与える奇跡は一人にひとつ。これは違えることの出来ない絶対の決まり。故に君に機体を授ける以上、君をニュータイプには出来ない」

ニュータイプ……?

よくわからないけど、能力の一種の事を指してるのか

「私はBETAを殲滅するだけで充分だ、他は何もいらない」

「まずは健康状態を回復させようか」

そう言ってケヤルガは私の胸に手を翳し「ヒール」と呟く

そして体が、体力とスタミナ、健康状態が回復していった

回復し終えた後、私の体は身軽く肩凝りがなくなった

「肩凝りが…ない。嘘、でしょ…」

「BETAに殺された仲間達の敵討ちをし復讐する……」

ケヤルガが回復術士であり神でもある。

認めるしかない……。

「信じるわ」

「信じて貰わなきゃ困るよ、それと元気になって良かった。改めて自己紹介しよう、俺はケヤルガ」

「助けてくれて感謝する、ケヤルガ」

「さっき言ったように、俺は君をニュータイプには出来ない。だが機体には君の声と想いを届きやすいようにしておいた。もし、このアトラスガンダムが君の想いに応えたなら、或いは君をニュータイプの高みへと引き上げてくれるかもしれない」

成る程、そういう事だったのね。

能力は要らないけど

「不確実極まりないな。それが貴様のやり方か?」

私は歴戦の衛士みたいに怒りの表情を表す

「俺はかつて一騎当千の勇者と謳われた。俺は神になる前、武器は持たされず、薬漬けにされたり、暴力の捌け口にされる等、奴隷の様な扱いをされていた。賢者の石により時間を巻き戻し、自分が受けた境遇への復讐を誓った」

そんな事が……。

ケヤルガも私達より酷い扱いされてたのね

BETAに喰われるか慰み者にされるほど以上に

「俺の昔話を話そう。とある大きな村で育ち、子供の頃に両親を亡くして以来、遺されたリンゴ農園を一人で経営してきた」

ケヤルガは突如、自分の生い立ちや境遇を話し始めた

「一周目の世界の時に散々な仕打ちを受け、人間の醜いエゴを嫌という程思い知らされてきた事から、理性のタガが外れてしまうまでに人格が豹変し敵と見なした相手には一切の情け容赦をしない冷酷な人物となって、特に復讐の対象には死よりも残酷な仕打ちを与えようとする事さえあった。自らは正義感の強い紳士を気取りながらも「正義をふりかざす奴にロクなのはいない」と発言するなどの自己矛盾も…」

「待って、それは貴様がいた世界の話か?」

何を言うかと思ったら……一週目?

訳が分からない……。

「そうだよ、話を省略するが二週目の世界で漸く復讐を果たし生涯を全うした後は神に降臨した訳さ」

意味が分からない……が、ケヤルガも波乱万丈の人生を過ごしたんだな

「神になった後は私達がいる世界に別世界に存在する機体を送り込んでいると言いたいのか?」

「そうだ、強くなれるようにしてやる。俺の勇者の能力で」

「いや、要らない」

「そうか、まぁいいさ。俺は駒を配置するだけ。駒に意思がある以上、その結果はどう転がるかは誰にもわからない。故に強き意志ある君は、よりよき結果を引き寄せることこそを使命と心得ろ」

私は改めてその機体を見上げた。そう思ってみれば、神々しく見えるから不思議だ。

「アトラスガンダム………私達人類を救ってくれる神の器」

その機体は、役に立つかどうか試させて貰う

その高殿のような白い顔を虚空へと向けるだけだった

「都も転生するの?」

私は都に問いかけたが、都は私の顔を近づけ和やかな表情で笑みを浮かべた

「無用だ」

「え?」

「私は転生しない。死人はただこの先の世界の未来を傍観すべし……これが私の答えだ」

都は転生しないと答えた

「坂崎都に問いかけたが、頭が頑固で考えを曲げなかったんだ」

「頑固は余計だ。ケヤルガ!」

私は都の答えを聞いてこう思った。

私の犠牲は無駄じゃなかった、佐渡島で生き残った衛士達に未来を託す。と

「……都、必ず仇を取るから」

私は優しい笑みで都に言った

都も優しい笑みを浮かび「それでいい」と一言を添えた

「都!貴女と会えて本当に良かった……」

都は私を抱き締め和やかな笑みで涙を流す

「ああ、私もだ……」

泣き崩れた

「都、私…貴女がいなくなってずっと寂しかった……うぅ…うああああああああああん」

思い切り泣いて泣いて泣きまくった

感情を爆発するほど泣いた

その時だ、ケヤルガはCDプレーヤーを持ち出し私達の前に置いて電源を入れ曲を再生した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い夜を絞り尽くして

目が潰れるほどいつも泣いてばかり

そう神様をダムで洗いキスして

お祈りする娘のように

 

過ちだけこぼれ落ちてゆく

胸が割れそうなの

さっき泣いたばかり

でもね、愛して

でもね、出て行って

夜が明けても悪魔が笑う

 

夜明け前の一番暗い空

キッチンで踊るrhythm of blues

酷い夢から

目覚めた時いつも

恋は誰もいない

 

愛の証使い果たして

血が流れるほど今日も

歌うばかり

そう何もないのに

なぜか全てが

崩れてゆく予感がして

 

罪や嘘を犬が掻き集め

貪るほど増えて増えて

吠えるばかり

でも雨が降り続きこの街が

清められる

聖者のように

 

夜明け前の一番暗い空

ベッドで泣いてるBilly Holiday

死ぬ夢から

目覚めた時いつも

恋は誰もいない

 

恋は誰もいない

 

恋は誰もいない

 

恋は誰もいない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「切ないけど、良い曲ね」

「鈴乃、私の想いがお前を守って見せる」

都はそう言って目を瞑り私の唇を重ねる

涙を拭い、都の体は光に包み込まれる。

「何かあった時は私の名前を呼んでくれ。私はお前を憑りついてまで必ず守る…さよならは言わないさ」

光に包み込まれた都は別れの言葉を言わず消えていった

そして曲が流れ終え、ケヤルガも鈴乃の元へ去ろうとするが

「ケヤルガ、貴様の目的は何だ?」

ケヤルガは鈴乃の顔を見つつ小さな笑みでこう言い放つ

「俺は君を生き延びるために手伝ったまでだ。それ以上の事はしてはいない」

「……そう」

「では俺はそろそろ行くよ」

ケヤルガはそう言い残し、私の前から去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

「鈴乃、お前…その機体は」

《説明は後から話す。今は崇宰大尉の救助を最優先だ》

「了解した」

俺は2連ビームライフルで恭子に襲い掛かってる戦車級を殲滅

周囲を見渡し警戒しつつ無事恭子を救出

恭子が乗った武御雷は放棄するしかないな……。

俺は恭子をフルアーマーガンダムのコクピットに乗せ抱き抱えそのまま戦線から離脱したが、何というかコクピットに恭子を抱えたまま機体を動かしてるから操縦しづらい

そんな事言ってられねぇ!

とにかく戦線離脱する事だけ考えろ!

恭子はまだ起きていない。

欺衛軍の戦術機は……データリンクで位置確認するが第3大隊に属する機体の反応は……4機!

画面を表示し拡大させる

白い武御雷、アレに乗ってるのは上総、和泉、志摩子、安芸の4人に違いない

「ムーア2からハイドラ3!現在崇宰大尉を救助し戦線離脱してるところだ。今の現状は米子市街にいるBETA群はムーア1が対処している。黄色と白の2色を施されてる戦術機だ」

《ハイドラ3よりムーア2、何を言ってるか理解出来ませんが説明が無さ過ぎて意味が分かりませんわ》

「こっちもだ、崇宰大尉を此方に渡す」

《理解して欲しい訳でも、解決したい訳でも無さそうなので、わかりましたとだけ言っておきますわ》

おい、拒否するのかよ

五摂家に属する気高いお嬢様だぞ

「ホワイトファング隊は既に後退している。このままだと…」

《またBETAに再侵攻される。そんな事は分かっていますわ。貴方は貴方が今やるべきことをやってくださいな》

フッ、相変わらず気高く上品な山城家のお嬢様だな

少し惚れ直したぜ

「分かった、俺は崇宰大尉を連れて基地に帰投する。山城少尉、アンタは無茶しない程度にしとけよ」

《ふふ、その御言葉そのままそっくりお返ししますわ》

上総の表情は少し笑みを浮かべていた

《唯依は無事だって事は確かに把握しましたわ。では》

そう言いつつ上総は和泉、志摩子、安芸が乗る白い武御雷を率いる形で飛び去って行った

「恭子……」

俺は恭子の顔をじっと見た

この顔は歴戦の衛士ではなく、ただのか弱き乙女の女性の顔だ

泣いてるのか……?

怖かったんだろう、俺がいるからもう安全だ

「唯依……」

恭子は眠りに入りながら怯え恐怖を感じ唯依の名前を呟いた

助けを求めBETAに喰われる寸前で命乞いしてる夢を見ている

「いや…私を、触るな……汚い手で…私の体を、触らない…で…」

恭子はBETAに喰われそうだった

そして慰み者になる寸前だった

俺がもっと早く行ってれば……!

「クソ!」

俺は拳で機器を叩いた

叩いても何も起こるわけではない

「何をやってるんだ俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、俺は出雲基地に帰投し恭子を抱え医務室に向かおうとしたが恭子が目を開き俺に縋りつくように号泣した

「私…BETAに喰われそうになって…それで……それで私は…うぅ、うぅ…うあああああああああん」

俺は恭子が号泣してる姿を見て悲しい表情になった

「すまない、本当にすまない……俺はアンタを……」

「うぅ…ぐすん……」

情緒不安定だ

恭子は暫くの間、戦場から離れさせた方が良さそうだ

BETAに喰われそうになったことがトラウマになって真面に戦える状態ではない

あんな恭子見た事はない……強気で口だけは達者だが何事もなく平然と気高く振舞い美しい女性だが、今の恭子は衛士ではない。か弱き1人の女性だ。

「豊臣、少し構わないか?」

鈴乃が俺に話しかけてきた

「ああ、崇宰大尉を医務室に入れて休ませてから話さないか?」

「私も同行する」

「すまないな、お前まで迷惑かけちまって」

鈴乃、お前は恭子のことを配慮しているんだな

姉弟の契りを交わしてよかったと思うぜ

人の死を重く受け止め悲しさと辛さを感じる

「いいのよ、私は貴方の姉みたいな関係だから」

「……とにかく医務室に行くぞ」

俺と鈴乃は恭子を抱えながら医務室に向かった

恭子はまだ涙を流している

廊下へ歩き、そこで唯依と遭遇し恭子に話しかける

「恭子様……」

恭子は一言も喋らず返事はしない

「退いてくれ、今はお前に構ってる暇はないんだ」

唯依はぐったりとしている恭子に話し続ける

「唯依は、恭子様の進言通り生き延びました。今はごゆるりとお休みになられてください」

唯依はそう言って、歩き去った

今は構ってる暇はない

早く恭子を医務室に連れて行かなきゃいけない

そう思いながら10分後、医務室に到着し中へと入り鈴乃は軍医から事情と経緯を全て話して恭子を医療用ベッドに寝かせ強化装備を着用したまま布団を被せる

俺はパイプ椅子に座り恭子の様子を見る

鈴乃が難しい表情をしつつ俺に話しかける

「豊臣、貴方はガンダムに乗ってる事は既に分かってるつもりよ」

「ああ、フルアーマーガンダムの事だろ」

都は最初から知っていて俺には何も言わなかった

だが無駄死ではない

生かしたんだ

「で、何で鈴乃はアトラスガンダムに乗ってたんだ?」

俺は鈴乃に問いかけると鈴乃はこう答えた

「神様からモビルスーツを授けられ、BETAと戦うためにこの世界で生き残る事を決意したの」

神様?まさかケヤルガの事か

「おい、それってケヤルガの事言ってるのか!?」

「……深い眠りに浸って夢の中で都と会ったわ」

嘘を吐いてるようには見えない

「貴方も会った事あるの?」

「ああ、俺はこの世界に送られてきた転生者だ。まさか鈴乃がアトラスガンダムに乗るとはな。驚いたぜ」

正直驚いた

強化装備でアトラスガンダムに乗って戦場を駆けたんだ

鈴乃は「ふふ」と一言で添いながら笑みを浮かべ話し続ける

「次の戦闘では99式気密装甲兜を被って戦闘に挑むわ」

99式気密装甲兜?

ヘルメットの一種か

「ヘルメットに被って戦闘挑んでるのは俺も同じだぜ」

「私達の世界では99式気密装甲兜という簡易ヘルメットを被るのよ。別世界にあるヘルメットとは違う」

成る程な

俺は鈴乃に向け優しい笑みを浮かべる

「あとで説明するわ。ニュータイプという能力を加えられそうになったが私は断ったわ。そんな能力がなくてもBETAと戦えるだけで充分よ……ってね」

彼奴、鈴乃をニュータイプ能力を付けようとしたのか!?

「同じ人類同士、仲良く戦おうぜ」

「ええ、佐渡島を取り戻しましょう!」

俺は鈴乃と握手した

しただけならいいが、鈴乃が転んでしまい互いの唇を重ね合ってしまう

なんと、俺の手がしっかり鈴乃の敏感な膨らみを掴んでいた。

胸の部分に!拙いぞ……なんか、ここって敏感過ぎる反応を示している! 

「あ…豊臣、そこはやめて………ひゃうっ!」

なんか柔らかくて温かい触感を揉み始めた

鈴乃の胸って改めて思ったが温かくて柔らかいんだな。

まるでファム・ティ・ランみたいに包容力の塊で優しく包み込むようにだ

急いで立ち上がろうとした俺は、またしても滑って鈴乃に被さるように倒れた。

「ひゃあん!豊臣、崇宰大尉の前で……」

「す、すまない!」

まぁ、やっちまったもんは仕方ないよな

「でも嬉しいわ」

「え?」

「ふふ、とぼけても分かってるのよ」

と鈴乃は頬を赤らめながら悪戯っぽく笑みを浮かべた

「恭子の寝顔、可愛いな。鈴乃もそう思うだろ」

「ええ、そうね……」

2000年5月26日

出雲奪還作戦(本土奪還作戦)は終結した

崇宰恭子率いる斯衛第3斯衛大隊が展開するもBETAの侵攻から唯依達を逃すために殿を務めたが豊臣悠一が乗るフルアーマーガンダムの介入により命を奪われずに済んだ

だが、その代償は大きく確認出来るだけで武御雷を10機喪失し恭子自身の精神が崩壊寸前に陥り戦線から退いてしまった。

日本帝国軍、帝国欺衛軍、佐渡島同胞団の3つの勢力により中国地方に蔓延んだBETA群は更に後退させアトラスガンダムという機体を手に入れそれを乗りこなした大倉鈴乃は五摂家の一員である崇宰恭子を救助したという理由で豊臣悠一と共に征夷大将軍から勲一等旭日桐花大綬章を授与した

2人は『崇宰家の守護神』と称えられていった

そして崇宰恭子という崇宰家次期当主、欺衛軍の女傑衛士は一時的に戦線から退き療養生活を余儀なくされた。

いつか崇宰恭子が戦線に戻ってくる日が来ることを常に願って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

東欧州社会主義同盟戦術機母艦『ヴィリー・シュトフ』の食堂内にあるテレビで日本の本土がBETAの脅威を去る寸前までに至ったという報道が流れた

俺はファム、アネットと共に食事をとりながらテレビを見ている

《……明星作戦から1年経った今、日本はBETAに対し本土奪還を掲げ防衛戦を敷いています。これについてどう思いますか?》

ニュースキャスターの隣に座ってるとあるジャーナリストが淡々と語った

《日本がBETAの脅威を去った原因はやはり帝国軍の総力を挙げてまで押し寄せる形で地道に駆逐してるのがポイントに当たりますね》

《欺衛軍も総力挙げて連携を崩さずにBETA群と戦っていましたね。東ドイツの国家人民軍とシュタージ武装警察軍と大違いですね》

《はい、東ドイツの国家人民軍とシュタージ武装警察軍は上手く連携保ってはいなかったのが仇となり国土を奪われたのも理由の一つに挙げられます》

「日本は大丈夫かしら?」

ファムは心配そうな表情だ

彼奴がいる、このまま引き下がるような奴ではない

上手く殲滅出来ただろうな

「大丈夫ですよ、ファム中尉。日本はBETAの脅威が去る寸前……この機会を狙って次は佐渡島を叩きに行くと思います」

佐渡島は帝国領土だ。

俺とファム、アネットだけでなくベアトリクスやその部下達が安易に踏み入れるところではない

ベアトリクスが日本政府に脅し文句をつけてまで強行で佐渡島に入らない限りは

「それに日本は国連軍が駐留しています。アメリカ軍もそうですが2年前の佐渡島防衛戦はアメリカ軍は動かなかったみたいですよ」

「酷い話ね……佐渡島にいてた人達はもう」

「何十人何百人何千人……いや何万人の犠牲が生み出されています」

何のための安保条約だ

自分は関係ないから自分だけで解決しろってか

「ファム姉、確かあそこってインペリアルガードの連中もいてたんだよね」

アネットは戸惑いファムはアネットの顔を見て頷く

そう言えば崇宰大尉はどうなったんだろう?

無事生き延びたのか……いやそんな筈はないか。

「ダリル君、もうそろそろ慣れたかしら?」

「ファム姉って呼んで」

「え?」

何を言ってるんだ?

「恥ずかしがらなくてもいいのよ」

ここでは拙いな

「別の場所に移動しませんか?」

俺は場所を移そうとしたが……。

「ダーメ、呼んでくれるまで動かないわ」

と笑顔を添えて言われた

困ったな……。

抵抗あるけど呼ぶしかない

「ファム、姉……」

「はい♪やっと呼んでくれたわね」

……ファムの笑顔、いつも見てると癒される気分だ

それだけじゃなく楽しく感じる

「じゃあ、別の場所に行きましょう」

食事を終え立ち上がりファムは俺の手を握り引っ張る形で食堂から出た途端、艦内放送から音楽が流れてきた

オールディーズ…いやポップスか?

電波ソング……この世界に電波ソングとか流れてくるのか?

いや何かが違う……この声何処かで聞いたことある

誰なんだ……ん?こ、これはキャラソンだ!

何でキャラソンが流れてるんだ?

曲は…高木美祐の『WOO YEAH! 』……!

WUG!のキャラソン………。

この世界に存在しない筈の曲が何で流れてるんだ?

1人の茶髪サイドテールの女性が俺に話しかけた

「私がリクエストしたのよ、ダリル・ローレンツ少尉」

お前が流したのか?

ん?あの女、何処かで見たぞ

「良いノリの曲ね、踊りたくなるぐらいにね」

「そうだな…で?何故キャラソンを流したのです、ディーゲルマン中尉」

あ、思い出したぞ。此奴は確かベアトリクスの部下の一人だ

「昨年、カムチャッカ州アレウト地区の一角でふらふらと歩いてる日本人男性がいてね、その男は転生してきたんだ。訳が分からない言動言ってたけど、一つの鞄を渡されたのよ」

俺と彼奴の他に転生した人間がいたんだ

奇妙過ぎる……。

「その中に入ってたのはポータブルCDプレイヤーとその数十枚の曲が入ってるCDだった。パッケージがある奴は僅かな枚数よ」

成る程、つまり1人の転生者がカタリーナにポータブルCDプレイヤーとその数十枚の曲が入ってるCDを託したって訳か

何のために渡したんだ?

「自分は長くないから、その人は私に渡した後、意識が失いそのまま亡くなったわ」

そうだったのか……。

ファムとアネットは悲しげな表情をしてる

御気の毒に……。

「アニソン、好きなんですか?」

俺はカタリーナに問いかけ、優しい笑みを浮かびこう言い返された

「好きよ、この曲を歌ってる歌手……声優さんだっけ?一度会ってみたいけど無理よね」

「似たような女性はいると思いますよ」

「それ本人じゃないじゃん」

そうだけど……まぁ愛されてる声優さんだって事は確かだ

「明るくて楽しそうに笑いや感動を包んでる歌ね、ファム大尉、ホーゼンフェルト中尉もそう思わない?」

カタリーナはファム、アネットに向け優しい笑みを浮かび言い放つ

「そうね、何だか楽しそうで明るい曲ね」

「あたしもファム姉と同じだよ」

曲が明るい……明るく楽しく生きたい!

ファムとアネットはそう思ってる筈だ

「でも彼奴は違うと思うよ。インペリアルガードにいるジャズを好んでる衛士、何様のつもりなのよ……あたしの事脳筋って言ったのよ。ダリルは彼奴を倒したいと強くなりたい為に戦ってるよね?」

彼奴か……確かにあり得るな

「こんなキャピキャピした曲調、俺には理解できないぜ」「アニソンだ?おいおい、そんなの聴いてるだなんてお前は本当に音楽の趣向は平凡だな。正直ガッカリだぜ」とか言いそうだ

いや絶対に言うぞ、これは

「ああ、彼奴は俺の腐れ縁だ。出来ればの話だけどリユース・サイコ・デバイスみたいなシステムやOSがあったら戦局が変わるかもしれない」

「……四肢切断しないと動かせないシステムの事ね。ブレーメ総帥から全部聞いたわ」

カタリーナは真剣な表情になり俺の顔を見て話し続ける

「将来的にBETAに手足喰われ戦線復帰が厳しい衛士をサポートするシステムを開発するらしい。まだ決定事項じゃないけど障害を持った人間が戦術機に乗れる絶好の機会よ。国連の制裁加えられる覚悟がある奴だけ進めてるわ。勿論極秘裏でよ……」

そう言えば、元々は衛士を目指していたが、総合技術演習中に起こった事故で両足の切断を余儀なくされるほどの重傷を負ってしまった元衛士がいたな

顔は思い出したが名前が思い出せない……。

少し探るか

「ディーゲルマン中尉、一つ聞きたいことありますが宜しいでしょうか?」

「いいわよ、何?」

「元々は衛士を目指していたが、総合技術演習中に起こった事故で両足の切断を余儀なくされるほどの重傷を負ってしまった日本の元衛士がいるのですが、その人も乗れる適正とかはありますか?」

「乗れる適正ね……」

カタリーナは思い出したかのようにその元衛士の名を口にし俺に言い放った

「涼宮遥……彼女の事言ってるよね?」

涼宮遥……恐らくその女性だ

俺の直感が当たってたな

「ダリル少尉は何で彼女の事を知ってるの?」

………。

「やめときなさい、彼女を攫って実験台にさせるつもり?」

「いえ、そんな事は思ってません」

俺はそんな事はしない……仮に攫ったとしたら彼女の意思を踏み躙るようなものだ

カタリーナは俺の顔をじっと見たまま手を握る

「え?」

「ファム大尉、ダリル少尉を借りて良いかしら?」

黒い手袋だが少し肌の感触がある

アイドルみたいな細身の体型でよく戦術機に乗れたものだ

「ええ、じゃあダリル君また後でね」

ファムはアネットを連れ歩き去っていった

それを見守った俺はカタリーナについて行くことにする

「ついてきて」

とカタリーナは自分の部屋に行き廊下へ歩く

10分後、部屋に辿り着き中へと入る

その部屋の中は……。

「な、何だこれは?」

壁中に貼られてるポスターが何枚かある

プロパガンダポスターではない事は確かだ

あの7人の女性、この色分け何処かで見たぞ

「WUG!って良いわね…明るく楽しく笑って私を癒してくれるのよ」

声優ユニットだからな……カタリーナはWUG!にドハマりしたのか

シュタージの一衛士だったアンタがアイドルにハマるなんて……。

カタリーナのその表情はまさに子供染みた満面の笑みを浮かべている

「アンタがいた世界ってBETAがいない世界……そうでしょ?ダリル・ローレンツ…いや徳川良平」

!俺の本名何で知ってるんだ?

誰にも教えていない筈だ

「何で知ってるの?って言おうとしてるけど、我々の監視網は他の国とは規模が違うの。教えてようが教えなかろうが一つの証拠を押さえればアンタの本当の名前は分かる訳よ」

「何が言いたいのですか?」

「パンツのタグに名前書いてあったからよ」

タグか……。

「だからといってアンタを粛清するって事はないから安心しなさい」

と小さい笑みを浮かび俺の肩をそっと触れる

「17年前は不必要な粛清を行っていたのは事実だし覆せないわ。だから諸悪の根源であるかつてのシュタージ長官エーリヒ・シュミット…いやソ連のグレゴリー・アンドロポフを粛清しブレーメ総帥が君臨したの。ブレーメ総帥は世の中に蔓延る本当の生きる価値がない外道を葬ってる。今もそうよ」

拷問ソムリエ………ベアトリクスは優しさを捨ててまで無慈悲に外道を葬っているのか

確かに法の穴に抜ける奴は世界中に沢山いる

世の中を良くしているつもりでこんな事を……?

いや、今は考えるな。俺はここでやり遂げなければいけない事がある

それは第666戦術機中隊の長を務めてるファムとその副官アネットを守り抜くことだ

その笑顔を守りたいと誓ったんだ

「自分は何かをやらなければいけない事があります」

「何かしら?遠慮せず言って」

「仲間を守りたい。自分の我欲を満たす奴等は真の害悪だと思います!」

優しい笑みを浮かんでいるカタリーナは俺にハグした。

一瞬だったが躊躇いもなかった

「アンタならファム中尉を守れるわ、頑張りなさい」

と優しい笑みを浮かびながら言い放った

そして俺の額にキスする

「!」

「じゃあね、何かあったら私に頼りなさい」

「……はい!」

俺はカタリーナの部屋から出て手を振りファムがいる部屋に行った。




次回は出雲奪還作戦終結後の話になります
疲労満杯しつつ精神的に不安定になった恭子は暫くの間休息する事になった
果たしてどうなるのかは……次回のお楽しみに!


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第10話 鬼姫の休息

悠一Side

 

出雲奪還作戦終結から一ヶ月後

崇宰家次期当主である崇宰恭子は作戦遂行中に戦車級に喰われる寸前に俺は彼女を救助した。

が、その代償に戦車級に喰われそうになったトラウマを植え付けられ精神不安定に陥り戦線から退き休息の時を過ごしていた。

「……」

ここ第二首都として機能を始めた東京

その大学病院の病室で恭子は病室の窓で一つの木がある葉っぱを見つめていた

自分の命が散る時はその葉っぱが落ちた時だと自分で解釈し悟る

文部省唱歌の1つである『故郷』を口遊む

それだけではない、精神的ショックから幼児レベルへの精神退行を起こしてしまった。

欺衛軍衛士以前に崇宰家次期当主としての崇宰恭子はいない

今の彼女はただのか弱き女性だ。

業務をひと段落した佳織は病室に入り恭子の見舞いに来ていた

「恭子様……」

どこか寂しげな表情を浮かぶ

今の恭子を見た佳織は嘸無念と思ったのだろう

「……御守り出来ず大変申し訳ございません。一足早ければ私が助太刀していましたが状況が状況だったので無念としか言いようがありません故」

恭子は観察と好奇心と、信じる気持ちと、疑ってみる精密さの入りまじった表情をしつつ佳織の顔を見つめる

「恭子様?」

「お…父、様…」

「え?」

恭子は佳織の事を父親と思い込む

当然ながら佳織は困惑する

「何を……言って、るんです……か……?」

恭子は突如佳織に抱き着き甘えてきた

「怖かった……」

目を瞑り涙を流しながら佳織の事を「お父様」と思い込んだ。

「何を言ってるのですか!私は如月佳織中尉です!貴女の……」

恭子は幼い少女みたいな表情で駄々捏ねるように佳織を抱き締めそのまま号泣した

「怖かった、私…BETAに喰われそうになって……死ぬかと思った!うぅ…うあああああああああん」

佳織は困り果てつつ冷静に振舞い恭子を抱き締め背中を擦る

「もう安心してください、ここにはBETAはいないですし何より恭子様が生きて帰ってきてくれただけで私はとても嬉しく心の底から思ってます……」

佳織も涙を流しつつその表情は悔しいと表現してる顔だ。

後から来た唯依が病室に入り今の恭子を見て顔面蒼白しつつ驚愕しながら手で口を覆い涙を流し始めた

「恭子様、唯依は……唯依は…何も、出来ません……でした。悔やんで悔やんで悔やみきれない程…あぁ、良かった…恭子様が生きて帰ってきてくれて唯依は、とても…嬉しゅうございます…」

この病室は個室でありの中にいるのは恭子含め佳織と唯依の3人

2人共、泣き続け涙が止まらなかった

俺はと言うと病室の前で上総と話していた

「それでお医者様から何を言われたんですの?」

病状は精神疾患、幼児退行、記憶喪失

「山城、恐らくだが崇宰大尉はアンタの顔や名前は憶えて……ないんだ」

「ど、どういう事ですの?」

元の凛々しく気高く美しい顔を持つ女傑衛士に戻る可能性は低いとは言えない

50%確率だ。

「米子での戦闘で戦車級に喰われる寸前にトラウマを植え付けられて精神疾患発症して幼児退行、記憶の一部分が喪失したらしい」

残念だがこれは事実だ

「そんな……では崇宰大尉は」

「最悪の場合だが、衛士としての生命は途絶える。引退しそのまま生涯隠居生活を全うするだろう」

無事病気は改善し衛士として復帰する事を願ってるんだ

そう簡単に倒れる女じゃないだろ!恭子

皆、戻って欲しいと願ってる

斑鳩少佐もそうだ

彼も恭子の事心配しているに違いない、多分。

他の連中はどうだろう……上層部は重く受け止めているだろう

特に帝国軍本土防衛軍にいる鈴乃は複雑な心境になっている

都の死と駒木の件もあるが、今はそれどころじゃない

「大丈夫だ、崇宰大尉は必ず戻ってくる。必ずな」

俺は確証もないのに咄嗟に「大丈夫」と一言で添え上総を宥める

「……鬼姫は永遠に不滅……その血を分け与えたとしても彼女の意志を本当に信用できるのみの人間を継がせ永遠に刻む」

「何でもありませんわ、お気になさらないでくださいまし」

どういう意味か分からないが何となく察した

恭子が死んでも後に受け継ぐ者はいる。

鈴乃が恭子がいる病室の前に来て俺に話しかける

帝国軍に戻ったんじゃねぇのか?

「豊臣、崇宰大尉の容態はどうなの?」

「ああ……」

辛い……恭子があんな風になって俺は情けねぇよ

「自分を責めるな、貴方の所為じゃない」

そう言って両手で俺の肩を触れる

鈴乃……お前は優しいな

その目は、近所にいる母性溢れる包容力がある女性だ

「さっき、駒木と会った」

「え?駒木と会ったのか?」

鈴乃は頷く

「戦略研究会って知ってるか?」

……何だったっけな、ダリルの会話を思い出したが……彼奴は言及していない

俺は首を振った

「そうか、知らないなら教える。戦略研究会は帝国軍将校による勉強会よ」

勉強会か……。

「その主宰を務めてるのは、帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊所属の沙霧尚哉大尉だ」

鈴乃は俺に向け真剣な表情になり淡々と話し続ける

「勉強会と表向きだが、その実態は征夷大将軍を蔑ろにして統帥権干犯を繰り返す内閣や軍上層部に反感を抱く集い……駒木は彼を慕わってる」

あの真面目な駒木が沙霧大尉の腹心になり彼の背中についてきてる

まぁ、お似合いのカップルだろうよ

とはいえ、まだ断言した訳ではない

「前は草野と相思相愛だったのによ……今は武人を装った紳士の男性将校にお熱があるってか?冗談にもほどがあるぜ」

鈴乃は難しい顔をして俺の顔をじっと見つめる

その目はどこか寂しいと思わせる目だ。

「……佐渡島同胞団は解散。私は帝国軍の衛士として沙霧大尉と駒木のところに行く」

え………おい、嘘だろ

だが、鈴乃の放った言葉が嘘に言ってるようには見えない

「……それは、本気で言ってるのか?」

鈴乃は頷く

「佐渡島同胞団はアンタが長として佐渡島奪還と願望を成し遂げるために恭子や斑鳩少佐が帝国軍上層部と掛け合って築き上げた一団だぞ!」

俺は鈴乃に言葉を投げた

鈴乃は悔しい表情をしている

「分かっている…そんな事分かっている!でも私は帝国軍の衛士よ!」

「だから何だってんだ!?俺はアンタがいなきゃ佐渡島同胞団は纏らねぇ。内部分裂する可能性だってある」

お前がいなきゃ、佐渡島は取り戻せない

「これは欺衛軍の九條中佐と帝国軍の上層部が下した決定事項よ。撤回は……望めない」

九條中佐……?

何だよそりゃ……じゃあ、その九條中佐が圧力をかけてまで俺達をバラバラに散らそうってか?

「圧力をかけられたから解散を命じられたのか?」

そうとしか考えられない

「九條中佐の他に佐渡島ハイヴの存在を蔑ろにしようとしている将校がいる。恐らくだが……」

「目障りだから佐渡島同胞団を解散させて自分たちの利益を得ることで佐渡島ハイヴを放置する…か」

佐渡島を放棄……このままBETAの住処のままでいいって事か!?

冗談じゃねぇ!

俺は鈴乃の言葉を聞いて帝国軍や欺衛軍の上層部に対し怒りを露にする

ならやる事は一つだけ……貯金は溜まってきたな

そろそろ実行する時だ

「鈴乃、お前がそう言うなら俺は止めないぜ」

「すまない……」

上総は俺と鈴乃の会話を表情一つ変わらず何も言わぬまま立ち聞きしている

「俺、元の顔に戻して整形手術を受ける」

鈴乃は「え?」とキョトンとした表情を浮かべるが上総は何を言ってるか分からないと悟った

丁度、佳織と唯依が恭子の病室から出て俺はこう言い放った

「篁、如月中尉、俺が今から話すことをよく聞いて欲しい」

「何だ?」

唐突に言葉投げたが、恭子のそばにいる佳織なら理解してくれるだろう……多分

「上層部から佐渡島同胞団の解散命令とか出したのか?」

佳織は真顔で「は?」と一言添えつつ俺の顔を見つつ顎を撫でる

「何を言っているんだ、そんな報告受けてないぞ」

その言葉を聞いた途端、鈴乃は戸惑いを隠せずキョトンとした

「如月中尉……それは本当か?」

佳織も欺衛軍だ

内部事情は把握してる筈だ

「本当だ、九條中佐って九條卿の事を指してるのか?」

「あ、ああ」

「……欺瞞情報だな」

な!?

「九條卿が嘘を吐くとは思えない。誰かに脅されて言わせたか…それとも他国のスパイが九條卿に変装し我々を欺こうとしたか。その2つしか考えられん」

……。

「東欧州社会主義同盟側に付いた北の連中が日本に送り込んだ可能性は否定できん」

唯依は空気を読み黙り込んだ

上総も同じだ

鈴乃は北の国という言葉を聞くと怒りを込み上げ睨む

北の国……北朝鮮か

本来ならば、存在しない筈の国の連中がベアトリクスに流れ着いた

そしてその国家を築き上げたのはベアトリクスだって事を

ダリルはそこまでの事は知らないだろう

知ってるのは原作本編の結末や情報のみ

「如月中尉、それが事実だとしたら日本は…」

鈴乃は真剣な表情で佳織に言い放つ

「属国化になる……とまではいかないがこれはシュミットやアクスマンみたいな最悪の指導者に変わった場合だ。案ずるな、ベアトリクスは日本本土は手出ししない。これだけは断言する」

あのベアトリクスが日本本土を侵攻するなんてしない筈だ

何かしらの理由がない限りは……。

「私達をバラバラに散らそうと目論んでる黒幕がいるのか?」

鈴乃は佳織に真剣な眼差しで言い放つ

「黒幕がいる事は間違いない、佐渡島を蔑ろにし島ごと消滅されそれを歓喜するのは誰だと思う?いや誰とは言わないが何の組織だと思う?」

つまり佐渡島ハイヴを島ごと消滅させることが出来るのは……?

「国連軍」

鈴乃は難しい表情で佳織に向け話し続ける

「だが副司令である香月夕呼は対BETA戦に備えハイヴ攻略の為に開発してる兵器の存在がある。万が一の為に仮にその兵器を放棄し意図的に佐渡島丸ごと消滅出来る特殊な自爆装置がある…噂レベルの情報だが」

島ごと消滅……?

冗談じゃねぇ!あそこには都の思い出が沢山詰まってるんだ

そんな事はさせない……とは口では言えるが所詮俺達は衛士……パイロットだ。

止める権限なんて一切ない

「……我々を切り捨てようとする黒幕を探る。大倉大尉は帝国軍本部に戻らない方が良い…」

その言葉の意味は俺と鈴乃、恭子や佳織を陥れようとする黒幕には近づくな…そうだろ、佳織

「俺の顔、この顔でお前達と話すのも最後だな」

俺は正直に鈴乃、佳織、唯依に言った

「……如月中尉、私は豊臣少尉がこの世界に来る前の写真を見ました」

鈴乃は強張った表情で言うが、俺は元の世界似た頃の俺とダリルの写真を佳織に見せる

「今まで騙してすまねぇ、これが俺の本当の顔だ」

「……」

佳織は真顔で写真を見つめる

「元の顔に戻す……私は貴様の本当の顔を見たい。大倉大尉もそうだろう」

鈴乃は「はい」と一言添えて頷く

「じゃあな、また会う時は元の顔に戻ってるだろうさ」

俺はそう言って整形外科に向かって歩き去ろうとするが、上総に止められ一枚の紙を俺に渡した

「お待ちなさいな、わたくしの知り合いに美容整形外科運営してる人がいますわ。『山城上総の紹介出来ました』と言えば高杉院長に問診し手術して貰えますわ」

その紙に書かれたのは上総の知り合いである高杉院長が経営してる美容整形外科の住所と電話番号があった。

「お前、そこまで良くして……俺はお前の音楽趣向と真逆だぞ」

上総はジト目で小さな笑みを浮かべ俺に向け言い放つ

「そうですわね、わたくしの音楽趣味は清く正しく美しい音を奏でる曲を聴きます……が、貴方は…軽快で陽気な曲をよくお聴きになされていますわね」

上総はジャズを興味持とうとしている

あの山城上総がジャズを?

想像つかないしお嬢様と裏腹に理解ある優越な衛士だぜ

「わたくしにもジャズの名盤、教えてくださらない」

「いいぜ、整形手術終わったらゆっくりと教えてやるよ」

俺は上総に認められた……んだな

唯依、良い親友持ったな

ホント羨ましいよ

鈴乃は突如、俺の顔を見つつ目を瞑り抱き締めた

「鈴乃?」

「最後くらい私に甘えて良いのよ」

俺は鈴乃を抱き締め返す

「ああ、顔変えるだけだからすぐ戻ってくる」

「そうじゃなくて、私付添人として一緒に行くわ」

鈴乃………。

「ありがとう、一緒についてきてくれるか?」

「勿論よ」

と鈴乃はとびっきりの笑顔を浮かべ俺の手を握り引っ張りつつ上総が紹介した美容整形外科に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

ソ連領 カムチャッカ半島

カムチャッカ州 ペトロパブロフスク・カムチャツキー

カムチャツカ半島南東部にあり、太平洋に面している。アバチャ湾の奥にあり、天然の良港であり不凍港である。ただしロシアの他の都市と連絡する陸路はなく、生活物資の輸送や産業活動の展開は海路と空路に完全に依存している。

首都だったモスクワからの距離は約6200km、時差は+9時間。北海道からの距離は約1500km。

ペトロパブロフスク・カムチャツキー市の現在の人口は21万人

BETAが地球に降下する前は27万3000人と最大の人口を記録したが、1990年代半ばに突入すると、BETA大戦激化による失業と生活水準の低下によって人口が大量に流出した。

1999年には19万6700人と20万人を割ってしまった。2000年代になると人口の大きな減少は落ち着きを見せ、その後は増加と減少を繰り返し、人口は停滞している。また、日本の中核市程度の規模を持ち、ペトロパブロフスク・カムチャツキー市内の人口密度は約500人/km²とロシア国内ではもちろん、日本でも高い部類に入る。なお、カムチャツカ州全体の人口密度は0.7人/km²であり、州全体と州都の人口密度の差は、およそ700倍も開きがある。カムチャツカに住むほとんどの人が州都であるペトロパブロフスク・カムチャツキー市内に居住していることが分かる。

カムチャツカ州の首府として、カムチャツカ州全体の行政の中心となっている。

そのカムチャッカ州は街の一部を東欧州社会主義同盟に租借している

ソ連は東ドイツの同胞国だが、アラスカ・ユーコンに避難している政治官僚達が猛反発

当然、総帥であるベアトリクスは官僚達に半ば脅迫紛いで強制的に租借を承認した

そんな俺だが、ペトロパブロフスク・カムチャツキー市街でファムとアネットと共に買い物に出かけていた。

青空が綺麗だ……街の皆はBETAの脅威を知りつつ平和に過ごしていた

しかし、それは作り物の平和の光景だ

裏では軍人崩れを中心とした半グレ集団が女性衛士複数人を強姦したと言う事件が頻発している

中には少年兵数人が含まれていた。

俺は守り切れるだろうか?

義手義足で、ファムとアネットを守り切れるか心配だ

そんなこと思い込んでた次の瞬間、ファムが衛士1人の肩にぶつかり買い物かごを落とした

いや、あれは態とぶつかってるな

図体デカい体格してるのはリーダーだろうか

他はひよっこ……まだ子供じゃないか

それを含めて5人

「いってぇな、何するんだ!ボケ」

リーダー格の男は臭い息を吐きつつファムに怒鳴っていた

「ご、ごめんなさい…」

アネットは男が態とぶつかった光景を見て怒りを露にした

「ファム姉、謝る事ないよ。此奴態とぶつけてきたよ」

アネットはリーダー格の男と立ち向かった

当然リーダー格の男は快く謝罪することなく

「うるせぇんだよ、このアマ!」

バシィッ!

「ひゃぁっ」

「ひゃひゃ、ひでぇ鬼」

なんとアネットの頬を平手で叩いたのだ

流石にこれにはファムも見ないふりは出来なかった

「何をやってるの、相手は女性よ!」

「何だこのベトナム人が」

「どうした、死にたいの?」

ファムはアネットを救うべく半グレ5人へと抗議を行った。

しかしファムの言葉を聞くような奴ならアネットに手を上げたりはしない

「なぁにデカい口叩いてんだ、黄色い猿が!」

「う!」

半グレ衛士共が振るう暴力の矛先はファムに向いてしまった

子供に比べて暴力を振るう方も抵抗はなかっただろう

「もういっぺん言ってみろや!ゴラァ!」

リーダー格の男はファムに向け拳を握りそれを振るった

その半グレ少年衛士の一人がファムを羽交い締めし身動き取れないようガッツリと力を入れた

「ぐ!」

「ぎゃはははは」

半グレ衛士達の暴力は苛烈であり罪悪感は無いようだ

俺は見ていられずファムとアネットを助けるべく半グレ衛士達に立ち向かった。

「お前達、何をしているんだ!」

「あ?」

「何だこの雑魚は」

しかし俺の行いが悪夢のトリガーとなった

「オラァ!どうしたこのガイジが!」

ガッ!

「ぐあああああ」

「テメェもあのアマと一緒に地獄へ送ってやるよ!……がはっ!」

半グレ衛士達は角材を持ち出し俺に身体障害そのものを馬鹿にしつつ常軌を逸した暴力を振るった一瞬後、今度は女兵士の一人が背中から吹き飛ばされた

何が起こったのか分からない。そこにいたのは……。

「シルヴィア!?」

俺も、ファムも、アネットも、シルヴィアのいきなりの登場に、言葉を失っている。

「やめてくれない?街中で騒々しいのよ……クズ共が」

拒絶するような瞳で、全員を見回す。

「喧嘩なら他に当たりなさい。全く……」

「てめぇ……」

シルヴィアは軽蔑した目線で半グレ衛士と立ち向かうが、角材でシルヴィアの頭を目掛けて殴打しようとする。

しかしシルヴィアはそれを回避しその力いっぱい握ってる拳でリーダー格の男の顔面に向けフルスイングした

「女に手を出して……どういう神経してるのよ!ゴラァ!」

「ぶほぉっ!」

シルヴィアが振ったパンチは鋼鉄のように固い

絶対に避けれない速さだ

リーダー格の男は顔面陥没し再起不能となった

「アンタ達もよ…」

今度は半グレ少年衛士に向け1人ずつ顔面をフルスイングで拳を振るい膝蹴りした

「買い物してる女に暴力振う等言語道断よ!」

「ぐへぇ!」

な、なんて強さだ……。

あれがポーランドの亡霊……す、凄過ぎる。

30秒でシルヴィアはファムとアネットに暴力を振るい絡んでいた半グレ衛士全員を地べたに這わせていた。

言葉を失うほどの速さだ

「あ、ありがとうシルヴィア。助けてくれて…」

アネットの方を振り向くと、愛想笑いを浮かべ肩を両手で触れた

「……ああいう場合は早く逃げた方がいいのよ。それとダリル少尉」

「はい!」

シルヴィアの目線は俺の方に向いた

殴られるのか……?

まぁ、彼女は暴力系姉さんと一部のファンから呼ばれてるからな

本人の前で言ったら即死だ

「貴方、本当に守りたいと思えるなら、判断を誤らないで。自分は障害を持っていますと言う言い訳はあの外道共には通用しないわよ」

今まで義手義足になったのは障害者だからと言う理由で通っていたかもしれないが、この世界では通用しないんだな

戦術機に乗れるのは五体満足の身体を持ってる人間だ

義手義足は乗れないという訳ではないが操縦する時、操縦桿が上手く握れない

そもそも俺みたいな義手義足は適正あるだろうか?

ないに等しい。普通なら……。

「申し訳ありません…自分は理解しています」

「……」

シルヴィアは俺の義手をそっと触れる

「義手、磨いてる?磨かなきゃ錆が付くわよ」

「え……はい。毎日欠かさず磨いています」

「暇潰しに街へ出てみればこれね……全く、これだから…」

そう言ってシルヴィアは俺達に背を向けて去って行った

シルヴィアが叩きのめした半グレ衛士達は……いつの間にかいなくなっている。

ファムは、立ち上がろうとしていた俺に近づき両腕でぎゅっと抱き締める

「ファム…姉?」

「ごめんなさい、私の所為で……」

「ファム姉は何も悪くないよ。俺がこんな体で、自分が弱かったから……!」

「でも、とても嬉しかったわ。お姉さんとアネットちゃんを守ろうとしてくれたのから」

「え……」

「ありがとう、ダリル君……」

言葉を失う俺と、涙ぐむファム

アネットが、ふたりの会話に込められた何かを察し、ほっとしたように微笑む

だが俺は、ファムの表情に、悲しげな決意を宿っている事に気付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソ連の戦線に東欧州社会主義同盟と手を組んだ

これは現実なのか?

だが、それは事実だと俺は理解した

俺は戦術機空母『ヴィリー・シュトフ』に戻った直後、ロザリンデと言う茶髪ベリーショートヘアの女性がベアトリクスから呼び出し戦艦『カール・マルクス』の艦長室に出頭した。

「総帥、ダリル少尉を連れて参りました」

「入って良いわよ」

扉を開け、ロザリンデは「失礼します」と一言を添え、俺は艦長椅子に座ってるベアトリクスの前に立った

「何故態々、貴方を呼んだか?理解してるかしら」

ベアトリクスの行動、思考パターンは読めない

何仕掛けてくるか分からない……。

「いえ、全く理解できません。自分をここに呼び出したという事は…」

まさかとは思うが……この世界でリユース・サイコ・デバイスみたいなモノを作り上げる気なのか?

俺は「無理だ」と理解しつつ悟っていた

ロザリンデは俺の隣にいる

……俺は逃げないよ、こうやって話す機会与えられたのは神様のおかげかもしれないな

「……サイコ・ザク、貴方の機体調べさせて貰ったわ。そのリユース・サイコ・デバイスだけどこの世界で作り上げるのは無理だと思い込んでたわ」

”思い込んでた”?

この世界でも作れることが出来るのか?

だとしたら、今までBETA戦闘に参加した衛士が手足を失っても戦線復帰できるようサポートをするつもりなのか

「……作れるわ、障害と立ち向かう衛士としてまた戦えるなら戦力の要の一つとして利用する」

言ったな?あれを開発したら、国連から猛抗議されるのがオチだがそれでもこの状況下でやらざるを得ないだろう

「作れるんですか?」

「貴方の機体に搭載してるリユース・サイコ・デバイスはこの世界で…私達がいる世界で完全に再現するのは無理に等しい……が、私の戦闘データを参考にして開発する事は可能だ」

「……別世界で作られたモノが完全再現は無理でもこの世界でこの世界なりの技術で開発する事は可能と言いたいのでしょうか?」

ベアトリクスの戦闘データか……それを踏まえて作られるなら俺の手足は自由に動ける

四肢欠損でしか動かせない前代未聞の技術で作られた究極の戦術機に乗って戦える

「アイルランドの本部に詳細のデータを送った。総書記であるアイリスディーナの承諾を待つだけ…」

決定権はアイリスディーナにあるのか

俺は内心、義手義足で戦術機に乗って動かせるのが期待感を上げた。

「そうなると……このまま作っても貴方の体に合う機体はないと思うから…」

ん?何が言いたいんだ

何を発言しようとしてるのか読めない

「型を取らせて貰うわ」

シリコンで型を取るだと…。

まぁ、開発進むにはそれだと理解できなくはない

ベアトリクス・ブレーメ、世界の未来の先へ読んでる女だ

「自分がお役に立てるなら是非やらせてください」

四肢欠損でも戦術機を動かせる

俺でも役に立てることがあるんだ

俺がベアトリクスに何か言おうとしたその時、扉が叩き女の声が聞こえた

「失礼します、総帥少し宜しいでしょうか?」

ベアトリクスは「入って」と一言を添えつつ大隊指揮官らしき女性衛士が艦長室に入った

その女性の顔をよく見ると……ニコラだった

ニコラはヴェアヴォルフ大隊創設時にいるベアトリクスの側近として仕える衛士だ

ベアトリクスはニコラの顔を見た途端、棘が入る笑みを浮かべ妖艶にニコラに近づき目と目を合わせる

何なんだこれは……。

「収穫は取れたかしら?」

「はい、今日は外道5人を屠ってきました……ブレーメ総帥」

屠った?

ファムとアネットを襲った5人か

自業自得だな…手出しして暴力を振るうからこうなるんだ

「その外道はソ連の衛士?」

「はい」

「ふふ、大丈夫よ。ソ連軍の上層部には適当に言い包めたわ」

ソ連軍の上の連中に見捨てられたか……。

俺はただ2人の様子をじっと見ていた

ベアトリクスはニコラに手招きし「こっちへいらっしゃい」と猫撫で声で笑みを浮かべる

ニコラもベアトリクスの近くに…いやもっと近くに行き彼女を両腕を回しぎゅっと抱き締めた

ん?上官と部下……だよな。

こんな密着してまで接することもあるのか……。

俺がベアトリクス視点でならニコラの傍に近づき強くぎゅっと抱き締めてるだろう

ベアトリクスは真顔で俺に「下がって良いわ」と一言を添えロザリンデも含め艦長室から退室させ、2人きりの時間を過ごしていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子Side

 

私は出雲奪還作戦で戦車級BETAに喰われそうになり、そのトラウマを植え付けられ精神不安定に陥った。

大学病院の病室で私は虚ろな目で窓の外から見える景色を眺めていた

我ながら情けない感情だ

毎日唯依や佳織が見舞いに来てくれる……欺衛の衛士として無様な姿になった私を赦してくれるかしら?

戦線復帰は、症状が安定しない限り厳しいだろう

ある日、唯依は病室に置いてある花瓶をある花を飾り入れる

その花とは、スパイダーガーベラだ

花言葉は崇高な美と言う意味を持っている

正直、この崇高な美の花言葉を持つ花を飾られてとても嬉しかった

思わず涙を流した

感情を殺し、顔を隠さず……。

幼児レベルへの精神退行を起こしてしまった私は衛士として何も役に立てない

記憶は……覚えていない

如月中尉の事を「お父様」と思い込み唯依以外誰も覚えていない

花を持ってきてくれたのは初めてではない

唯依が沢山の花を私がいる病室に持ってきてくれたのだ

こんなに沢山の花、もう置き場所がなくて困ったわ

でも唯依がくれた花だから安易に捨てるわけにはいかない

「篁少尉……恭子様の為だからと言って毎回お見舞いを持ってこなくても大丈夫だ。そんなに持ってきても世話はできないぞ」

「恭子様が元気になってくれるまで、私は毎日お見舞いに来ます」

「もう花はいいぞ。次からは果物とか持ってきてくれれば恭子様はきっとお喜びになると思うぞ」

唯依が全くの親切心でやっているとは思っていなかったが、無下にもできない。そんな気持ちから、やんわりとしか伝えないでいたツケが今の病室だった。

頭を抱える佳織を、どうにかして新しい花瓶を置こうとしていた唯依が振り返る。

「ちゃんと鉢植えも椿の花も持ってきてないですよ」

一瞬何のことだか分からなかった。記憶を辿ると山城少尉にお見舞いのルールについて話をしたのを思い出す。何気ない会話だったが、覚えていてくれたことは嬉しい。嬉しいのだが

「それを覚えてたんだったら、常識の範囲内で花を持ってきて欲しかったよ」

佳織は思わず溜息をつく。きょとんとした顔は愛らしいが裏を知ればあざといとも言える。丸い目はすぐに細められ、笑った。その顔はいたずらを思いついた子どものようでもあった。

こんなやり取りができるようになったのはいつ頃からだろう? はじめの頃は少し話せばすぐに帰っていたような気がする。それが今では病室に上がり込み、唯依の持ってきた花を眺めている。枯れていく花たちを見ると胸の奥がきしむように痛んだが、その度に唯依が現れるので豊臣や大倉大尉の事はどうでもよくなっていた。

唯依はいつものように花を置くと、そろそろ帰りますねと言って腰を上げた。時計を見るといつもよりも遅い時間になっていた。

「もうちょっと居てもいいのに」

私は唯依に一言を添え、呼び止める

「え?」

少しずつ思い出していく……焦らずゆっくりと

「………唯依」

私は唯依の手を握りじっと顔を見つめる

「ありがとう、唯依。お父様の言う通り次からは花ではなく果物とか持ってきてくれるかしら?」

和やかな笑みを浮かべ唯依の顔を見つめる

「恭子様……」

喜びながら涙を流し前向きな姿勢で私の手を握り返した

「はい、必ず…必ず持ってきます。唯依は恭子様のご活躍をもっと、もっと見たいのです。だから…」

唯依と話していると心が安らぎ、少しずつ記憶を思い出しつつ欺衛の鬼姫としての崇宰恭子に戻りつつあった。

「恭子様は本当にカッコよくて気品で崇高な美の顔をお持ちする私が尊敬してる女性です!」

不意打ちの唯依の言葉が心に突き刺さる

「ありがとう唯依……本当にありがとう」

私は和やかな笑みで唯依に感謝の言葉を送った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

俺は上総に紹介された『高杉美容整形外科』という場所で鈴乃が付き添いする形で待合室で医師に呼ばれるまで待機していた

顔の整形するのはこの世界では初めてだ

元にいた世界はケヤルガに顔変えられる前だったから、今まで整形するという事はなかった

万が一整形失敗したら、そこが不安で恐怖を襲い掛かる

「手術中にさ、整形失敗したら俺の顔崩れるだろうな」

「そんな不吉な事言わないで!私が傍にいるから、崇宰大尉に振り向かなくとも私が貴方を支える」

普通の美容整形外科での手術後は必ず定期的にメンテナンス行わなければならない

しかしあの山城財閥のお嬢様のお墨付きの整形美容外科だ。

噂によれば術後はメンテナンスはしなくていいとの事だ

胡散臭い感じするが、元の顔戻すには受ける必要がある。

恐らく手術中に麻酔で俺を眠らせた後は、夢の中でケヤルガが現れる

ケヤルガは俺の顔を変えた神であり回復術士だ。

彼奴が俺の顔を元に戻してくれるとは易々と思えないが、覚悟は決めたんだ

「元の顔戻ったら俺は『欺衛崩れ』の衛士として、武家の恥晒しの一人となる。でもそんな事はどうでもいい!豊臣家の為とか欺衛の為ではなく俺個人の意思だ」

「豊臣……貴方は」

鈴乃は俺に寄り添い手を握る

その手は温かさを包む込む感じだ

「何回も顔弄り回すわけではないし、それに若返りなんて手間かかる。人間はいつか歳を取って生涯過ごすんだ。これは一度きりだ。二度目はない」

そう、一度だけだ、二度目はない。

待合室で待ち続けるうちに、慌てて走り血相を変えた表情で荒い息を吐いた上総が俺の元に来た

「はぁ…はぁ…」

急いで来たみたいだ

まさか佳織が何か掴んだのか?

「貴方達を陥れようとした真の首謀者が、分かりましたわ」

鈴乃は鋭い目線で上総に言い放つ

「誰なの?その首謀者は」

「豊臣少尉は獅子堂家存じて?」

獅子堂……?

滋賀県大津市、徳島県三好市、大阪府。事物。滋賀県大津市京町にある浄土真宗の栄泉寺の僧侶による明治新姓だ。

所謂一般家出身……黒服の衛士だ

「ああ、だが豊臣家とは既に縁を切っているし関わりたくねぇ連中だ」

「その関わりたくない連中が貴方達を陥れようとしたのですわ」

その名を聞いた鈴乃は難しい表情になる

「その名は……」

上総が放った言葉に、トラウマが蘇って来た

決して口にしてはならない名前……。

「彼奴か……明星作戦が終わった後、いきなり突っかかって来た奴か」

「獅子堂響鬼……貴方と揉めた黒服の衛士であり佐渡島同胞団を解散仕向けたのは長女である風音から圧力をかけたと思いますわ。響鬼は一番下の弟に当たりますわね」

響鬼

確か、最新鋭の機体に与えられ乗ってばかりいる衛士だったな。

……厄介な奴だ、挙げ句の果てに「斯衛の恥晒しが!お前なんていなくなれば良いのによ!」「俺の唯依に近付くな!」「お前とはもう既に絶縁してるから復縁はないし衛士界隈から消えろ!戦術機の事忘れてさ」とあらゆる誹謗中傷な言葉を連発した下衆野郎だ

付き合ってもいないのに唯依の事を狂信的に愛を語り独り占めしている

正直、二度と顔見たくない

「情報屋によると、獅子堂家の長女は黒い交際をしていますわ」

黒い交際……ヤクザか

欺衛軍の衛士の姉が暴力団と繋がりがあるっていうのか!?

ん?それにしても何故上総がこの情報を持ち込んだんだ

「わたくしは如月中尉から貰った情報を言ったまで…裏の世界にいる人達に協力してくれましたわ。正直言えば怖かったんですけど、表の情報屋……帝国情報省の人間が握ってるのは僅かな情報量ですわ」

上総は淡々と話し続ける

凛々しく

「そうか……山城少尉、危ねぇ事は程々にしとけよ。隙を狙われ殺されるぞ」

「分かっていますわ。唯依は私を止めようとしましたが、真実を知る為に探ると言ったら理解してくれましたわ」

鈴乃は突如、俺に抱き着きぎゅっと締め付けるように自分の豊満な胸を態と当てさせる

「鈴乃?どうしたんだ」

「不安なのよ」

「?」

「私は貴方がいなくなると……豊臣、いいえ悠一」

「なんだ?」

鈴乃は目を瞑り唇を重ねた

俺は鈴乃を抱き締める

その光景を見た上総は「お熱いですこと」と小さい笑みを浮かびながら一言を添える

「ん…続きは手術終わってからにしましょ」

鈴乃は満面の笑みを浮かべ恍惚に言い放った。

「ああ、付き合ってやるさ」

「ではわたくしはこれで失礼しますわ」

上総は言い残し、去って行った

数分経った後、漸く診察の準備が回り、看護婦が診察室から出てきた呼び出しする

「豊臣さーん、豊臣悠一さーん」

「んじゃ、行ってくるよ」

そして、元の顔を戻すために診察室へ入り医師から説明受けた後、手術した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の中に浸った後そこは、何もないただ白い空間が続くだけの世界だった。

声は果てしなく続く白の空間から響いてくる。

ここにいるのは俺だけだ

「ケヤルガ、何処にいる!出て来い!」

俺の顔を変えた奴を大声で叫び睨んだ

すると、面倒臭い態度を取る青年の姿が現れた

ケヤルガ……彼奴だ!

「久しぶりだな、随分と御活躍してるそうじゃないか」

「てめぇ、俺の顔を元に戻しやがれ!でないとぶっ殺すぞ」

「お前、そんな口で俺に歯向かうのか?」

ケヤルガは下種な笑みを浮かび見下す態度を取る

ムカつくな…此奴!

「で?元の顔を戻したいのか?」

ん?自棄に聞き訳が良いな

「ん?ああ、そうだ」

「そんな事したらお前は『欺衛軍崩れ』になるぞ」

「構わねぇ!俺は佐渡島で大切な人を失う意味が分かったんだ、鈴乃と姉弟の契りを交わして本当に大切な人を失う哀しみを知ったんだ!人類の為に戦っていると言ったら嘘になるが…愛すべき人を、守りたい!俺は俺の意思で自由に生きたいんだ!」

俺はケヤルガに言葉をぶつけた

しかし鼻で笑われる

「…フッ、お前が言いたい事は理解した。もう一度言うがお前は『欺衛軍崩れ』になるぞ」

「何度も言わせるな!早く顔を元に戻せ」

俺がそう言うとケヤルガは近づき顔面に右掌を翳す

ジト目で俺を睨みつき問いかける

「折角、俺が欺衛に相応しい髪型や顔を変えたのに……」

「俺とダリル……いや良平がマブラヴ世界だっけ…?その世界に転生する時も最初からやろうとしたのか?」

「……お前の髪型や顔は最初から変えるつもりだったよ。欺衛の衛士として転生させたの含めてだ。崇宰恭子と上手くいってるか?何なら勇者であった俺の恋愛テクニックを伝授してやってもいいぜ」

「要らねぇよ、自分の人生は自分で切り開く。例え豊臣家の直接的な血縁者であろうが、そうでなかろうが俺は振り回されねぇ!」

人生に棒を振った……元にいた世界で良平と仲良く出来ただろうか

ちゃんと本人の意見を聞くべきだったよな

「後悔するぞ?」

「構わない」

ケヤルガは「ヒール」と呟き、俺は閃光に包まれたその瞬間、意識は暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

欺衛軍の山城上総少尉の紹介でお墨付きである高杉美容整形外科に来て、悠一の付き添いとして待合室で手術終えるのを待っていた

「……」

不安を募る表情、正直不安ばかり襲い掛かる

5時間後、執刀医が手術着のまま私の元に来て話しかける

「手術は無事成功しました。あとは経過観察するだけです」

それを聞いた瞬間、私は胸を撫で下ろし安堵な表情を浮かべた

「それと彼に鏡を見せないようにしてください」

「分かりました……」

見せないようにって言われても……

崇宰大尉の件もあるし、今の悠一の顔を見せるわけにはいかない

顔が膨れてるのもある、すぐ治まるだろう。

偶然通りかかった看護婦に悠一の病室は何処にあるかを聞いてみた

「あの…豊臣悠一がいる病室って何処ですか?」

「向こうの廊下をそこに右に曲がってその突き当りですね」

「ありがとう」

私は急いで、悠一がいる病室に向かい鏡を撤去しようとしたが、病室に入ったら既に遅かった

「!(手鏡で顔を見てる…遅かった)」

顔を包帯にぐるぐる巻きした悠一は私の方に振り向いた

視線が見えないからか、鏡は手に持ったままだ

「鏡見るのは後にして」

「……分かってるよ」

「大丈夫よ」

悠一は包帯を取り、自分の顔がどうなったか確認する

そして手鏡を持ち自分の顔を見て落胆したと思われたが……

「……元に戻った……?」

何と顔の腫れが一つもなく悠一が元の世界にいた頃の顔に戻ったと悟り涙を流しながら喜んだ

「(流石山城財閥がお墨付きの美容整形外科と言うべきか……)」

私は悠一の顔をじっと見た

「ん?鼻に線みたいなモノ付いてるわよ」

線というより傷跡みたいね

「あ、ホントだ(ケヤルガの野郎、余計な事しやがって…!)」

「でも、元に戻ったなら良いんじゃない?厳つい顔だけど、前の顔よりカッコいいわ」

「お世辞は要らないぜ?」

「お世辞じゃないわよ、ふふふ」

私はクスっと笑みを浮かべ悠一の髪を触れる

「あとは、髪型を変えるだけね」

「そうだな、んじゃあ、少し休んだ後驚かしに行こうぜ」

欺衛軍らしくない顔、反抗的な態度、武家の為ではなく自由に生きる為

私は彼の事を理解していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

東欧州社会主義同盟戦術機空母『ヴィリー・シュトフ』の艦内で俺はファムの部屋でベッドに座り会話を楽しんでいた

俺は恵まれてるんだな

何だか幸せに感じるよ

ファムの顔を見るといつもニコニコと笑顔を浮かべている

「俺がここに来てから2年経った」

「そうね……貴方と初めてあった時、驚いたわ」

サイコ・ザクの事か?

「資料室でとある本を少しだけ見ましたが…こんなこと言うのも何ですが」

俺は話し続けるとファムは人差し指で額にツンと触れる

「溜口で話していいわよ」

俺はファムの顔をじっと見つめ頬を赤らめる

「……」

「言葉が詰まったみたいね」

「すみません」

俺は言葉を詰まり、ファムは俺の義手を触れる

少し緊張するな……。

資料室にあった本の内容を言おうとしたが、この雰囲気では言い辛い

もうこの際、どうでもいい

俺はファムの胸を飛び込み、身を寄せながら強くぎゅっと抱き締める

「ひゃん、どうしたの?いきなり抱き締めてきて…」

「甘えたくなってきたんだ」

「?」

「BETAを倒せば戦争っていう悪夢から解放される気がするんだ」

そうだ、BETAをこの世から消滅すれば皆が笑顔になれる世界を描ける。

そう思い込んだ

「そうなるといいわね……」

ファムはクスっと笑みを浮かび抱き締め返す

「目を閉じてくれるかしら?」

俺はそういわれると互いに目を瞑り、ゆっくりと顔を近づき唇を重ねる

ファムは俺の腕を掴み自らの胸を触らせた

「……」

「触ってもいいのよ?」

心臓がドキッとしつつ、反射的に俺の義手はファムの胸を揉んだ

「あぁん……ちょっと冷たい感触ね…」

胸を揉まれた途端、冷たい触感をしたファムは吐息する

俺は少し落ち込んだ

「ごめん、生身の肌で触れなくて……」

「あ、落ち込まないで……お姉さんは気にしてないわ」

良い雰囲気だ……

「俺は、今ドキドキしてるんだ。この胸の高鳴りが……ファム姉の事が好きになってしまった」

「ダリル君……」

俺はファムをベッドに押し倒し、BDU(戦闘服)を脱がそうとするが義手で上手く脱がせられない

「ふふ、自分で脱ぐわ」

そう言うとファムは、BDU(戦闘服)を脱ぎ黒いタンクトップとなり、恍惚な表情で笑みを浮かんだ

そして、俺とファムは激しい営みをした。




次回からは恭子が復帰し帝都城で集った軍上層部と会議を行い、出雲奪還作戦時に戦死せず生き残った事を糾弾される話となります
お楽しみに!


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第11話 征夷大将軍

出雲奪還作戦終結から三ヶ月後

俺はケヤルガの回復術で元の顔に戻ったが、気が緩めない事が幾つかある

恭子の症状と獅子堂家の存在

恭子の精神は安定になり回復し戦線復帰はいつでもいけそうだ

唯依は泣いて喜び抱き締めたそうだ

獅子堂家だが、これは厄介な連中でその当主である長女は黒い交際していると噂がある

俺は欺衛軍本部の中隊長執務室…恭子が使ってる部屋で佳織や上総が調べ上げた情報を記載してる書類を見ていた。

佳織が裏社会の情報屋を頼ってまで調べた結果、信じられない事が書かれていた

先ず獅子堂家長女の風音は両親の死後、獅子堂財団代表に就任早々、裏社会での繋がりを積極的に交流する

姉妹の中では母親的存在で、義理の弟である響鬼を陰に陽にサポートする

短気な性格で、売られた喧嘩は買う主義。腰にマウントしたRPG-7バズーカを構え、自ら戦う事もある

年齢は22歳、若いな……。

此奴が親玉か……佐渡島同胞団を潰そうとした悪の根源ってところかな?

先述の通り、風音は裏社会にいる住人との繋がりがあり、どんな理由であろうと徹底的に潰す女だ

次女の高嶺は冷静沈着で理知的。獅子堂家で唯一様々な剣術を使う衛士であり長刀使いだ

年齢は20歳

此奴は放置してもよさそうだな、害はない。

三女の秋葉は性格は明るく前向きだが、既に各々の立場を見出す姉妹に対し、自分だけ何もないまま日々を過ごしていることに少なからずコンプレックスを抱いており、自分にしかできないことを追い求めている

衛士ではないのか……軍に所属していない。

年齢は17歳か

此奴も放置だな

四女の那実も欺衛軍の衛士だが、此奴は問題児のようだな

年齢は14…訓練衛士か

……何があったかは詮索しないでおこう

五女の桜は12歳にして博士号を取得した天才。無邪気かつ舌足らずで、擬音を織り交ぜた独特の喋り方をする。その内容は……普通の人間では理解できない

で、義弟の響鬼は欺衛軍の衛士でありながら風音の権力で最新鋭の機体を与えられ、操縦センスは唯依と互角に渡る

年齢は19歳

俺にとっては嫌な印象しかないが衛士としての腕は一級品だ。

「ん?」

その書類を見続けると数々の悪事が露見した

蓮川の訓練事故は獅子堂風音が仕組んだ妨害工作であり、元々蓮川は衛士の適正はあるとは必ずしも言い難かったが、彼女も挽回の為訓練を励んでいた

だが、それを快くない連中は少なからずいたからか当時の女子訓練生を利用して蓮川が乗った訓練機のパーツの一部を欠如させ事故が起きたという訳だ

蓮川自身は結局退校し、清々しい笑顔で両親と共にオーストラリアに移住し平穏に過ごしている

もし蓮川が帝都防衛戦で学徒兵として参加したら確実に死んでいただろう

理由は分からず仕舞いだが、蓮川は衛士にならなくてよかったと思う

俺は溜息を吐き中隊長執務室を退室し手に持ってる書類を封筒の中にしまい、資料室に保管した

「元の顔戻ったとはいえ、この顔は欺衛軍に相応しくないな…俺としては良かったが」

「何が良かったの?」

隣に回復したばかりの恭子が俺に話しかける

「崇宰大尉……もう大丈夫ですか?まだ休まれた方が」

「何よ、私がそう易々と倒れると思ってるのかしら?それに他人行儀はやめなさい」

「?」

「元の顔戻って良かったわね……」

と恭子は俺の頬に触れつつ耳元に近づき囁く

「私の事は恭子と呼んでいいわよ」

それって……?

「勘違いしないで、私は貴方の恋人ではないし、まぁ…その、親しい愛する友人ってところかしらね」

凛々しい笑顔を浮かべる恭子は、お姫様みたいな表情で俺の手を繋ぐ

「私は貴方の事を信用してるわ」

「俺は衛士界隈から嫌われてる恥晒しの衛士だぜ?」

「関係ないわ、いつまで過去の事を引き摺ってるの?」

「……恭子、アンタ」

「悔しかったら結果を示しなさい。結果を」

この笑顔が、恭子のこの笑顔が見たかったんだ

まるで恋愛映画に出てくるヒロインみたいな感じだ

恭子は俺の顔をじっと見つつ真顔で説明口調で言い放った

「獅子堂財団……帝都を拠点とする人類史上最大最強最悪の大企業。素粒子工学技術を実用化しようと試み、スペースコロニーの開発に取り組んでいる。これによって人類は宇宙に進出することが可能となり、その功績から莫大な富と権力を手に入れ、全世界に大きな影響力を持つ……オルタネイティヴ5推進派の企業でもあるわ」

「オルタネイティヴ5?」

「詳しくは知らないけど、明星作戦でのG弾投下は存じてるわね?あれは米軍の主導だったけど獅子同財団と絡んでる可能性は否定できない」

何だと……!?

「獅子堂財団、佐渡島同胞団を圧力をかけてまで消滅しようとしているわ。御剣財閥からの支援は打ち切られるのも時間の問題ね」

恭子は険しい表情を浮かべる

佐渡島同胞団は御剣財閥が支援している……それが打ち切られたら、佐渡島は二度と奪還果たせず存在そのもの消滅する

「殿下は獅子堂家の連中を信頼している。暴力団と繋がっていることも知らずに……」

「おい、待てよ!その殿下は獅子堂家の連中の本性は未だに知らないと言いたいのか?」

俺がそう言うと、恭子は頷いた

「殿下を口で上手く誤魔化せても我ら帝国欺衛軍衛士の一人であり崇宰家次期当主であるこの崇宰恭子には誤魔化せは出来ない!」

恭子は般若みたいな顔になり征夷大将軍を欺いてる獅子堂家の連中を憎しみを込めて怒りを露にする

「気持ちは分かるけどさ、とりあえず落ち着こう。な?」

俺は恭子の怒りを収めつつ慰めた

「そうね、ここで血涙を流しても意味無き事……如月中尉から連絡聞いたかしら?」

「ん?いや何も」

「帝都城で五摂家と欺衛軍並びに帝国軍上層部の将校達が緊急招集されたわ。無論私も帝都城へ行く。貴方も行くわよね?」

帝都城……征夷大将軍殿下と御対面出来るのか

「ああ、恭子の頼みは断れねぇ。俺も行く」

正直、この世界に来てから一度も征夷大将軍とは面識がなかった

いよいよか……。

「あ、それと殿下の前に失礼な態度を取らない事。いいわね?」

と恭子は念には念を押す形で俺をジト目で見つめた

「はいはい、分かった分かった。己の態度を弁えろ……そうだな?」

「はぁ……理解出来たならよし。行くわよ」

恭子は俺の手を繋いだまま半ば強制的に資料室から出る

「何処って…」

「言ったでしょ?帝都城に緊急招集されたのよ」

「……了解しました、恭子様☆」

俺は軽いノリで恭子に向け「恭子様」と言った。

そして、俺と恭子は手を繋いだまま帝都城へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都城……所謂、日本帝国の事実上最高権威である征夷大将軍、煌武院悠陽の住処だ。

史実で言えば徳川幕府歴代将軍の拠点であった江戸城に該当する

煌武院とは五摂家の一つであり、日本における明治維新以降、将軍家でありながら代々歴史ある一族だ。

そして日本帝国軍とは独立した組織である帝国欺衛軍は城内省の管轄下であり独自の専用装備を使用することが伝統となっており、斯衛軍専用の戦術機として撃震の改修機である瑞鶴、局地戦用第三世代型戦術機武御雷を配備している。

だから色分けしてる訳だな

そう心の底から関心してた時、鈴乃も帝都城に来ていた。

理由は……言うまでもないな。

「崇宰閣下」

鈴乃は恭子に向け「崇宰閣下」と呼び真顔で敬礼する

恭子も真顔で敬礼し返した

「『閣下』は控えなさい。今まで通り崇宰大尉と呼んで構わないわ」

「しかし貴女は五摂家の一つの次期当主であり溜口で接する訳には」

「良いのよ、楽にしなさい」

とそう言って恭子は和やかな笑みを浮かべる

「帝国軍上層部並びに一部の将校が既に到着しています。悠一」

鈴乃は俺に話しかける

「駒木や沙霧大尉も来てるわ」

………。

「……ふふ、嘘よ嘘。駒木は別件で来れないから安心しなさい」

おいおい、驚かすなよ

本当に来るのかって思ったじゃないか……。

「念には念を押して言っておきます、征夷大将軍殿下は日の本の国の象徴であり尊敬すべき御方……くれぐれも失礼のないようにしてください、豊臣少尉」

恭子は他人行儀で真顔しつつ俺と接した

「はい、承服致しましたよ。崇宰大尉殿」

俺は軽い口調で「承服致しました」と一言を添える

「分かればいいのよ……ほら行くわよ」

「へいへい」

「何?その態度は」

「了解しました!」

さてさて、その征夷大将軍とやらのお偉いさんと御対面しますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は帝都城の中に入り大広間に入った

そこには五摂家の衛士達と帝国軍将校等が集っている

帝国軍欺衛軍の合同会議と言ったところか

俺は真ん中にいる女性が……おい、嘘だろ、まだ子供じゃねぇか!

あんなガキが征夷大将軍殿下かよ

日本の長が、1人の少女だとは驚いた

俺は欠伸をしつつ正座で座り込む

「こら、殿下の前よ。欠伸しないで」

欠伸くらいいいだろうが……。

征夷大将軍が真ん中で左側にいるのは欺衛軍、右側にいるのは帝国軍

勿論唯依達もいる

「煌武院悠陽……我が日本帝国の現・政威大将軍殿下よ」

恭子は静かに小さい声で俺の耳元で囁く

煌武院悠陽………此奴が征夷大将軍なんだな。

高貴で冷静沈着な性格であり穏やかな面はありそうだ

内心は不安で一杯だったがまったく不安に感じていない者が2人いた。

俺と鈴乃だ。

そして時刻は深夜0時になった時、悠陽は鈴乃に声をかけ前へ座らせた

「其方にいる女性、前へ」

鈴乃は真剣な表情で目の前にいる悠陽と対面し会話し始めた

「佐渡島同胞団の大倉鈴乃大尉です」

「貴女様の活躍は存じています。佐渡島の戦いは御辛かったでしょうが帝国軍の坂崎都大尉を失った事は極めて遺憾だと心の底から悔やんでいます故」

「ハッ、自分は一軍人として任務を遂行したまでです。坂崎大尉も一軍人として最後までBETAと戦ってまで自ら殿を務めていました。自分の無力さがあり、彼女を救えなかった事が……悔やんでおり悲しさを感じ涙を流しました」

鈴乃は都を救えなかったことを悔やんでいる

俺だって同じだ

都が下した最後の命令の意味は「生き延びろ」

その一言しか浮かばなかった

「では貴女様の目的は何でしょうか?ぜひお話して頂きたいのです」

佐渡島同胞団の存在意義だろうか?

それしかないだろう

「佐渡島同胞団という組織……その目的を是非お教えしたいのです」

「佐渡島同胞団の目的は我が日本帝国領土の島の一つ、佐渡島をBETAを追い払いそれを奪還する。存在意義は今のところ『佐渡島奪還悲願』という目的です」

日本の有力企業やらがバックについてる佐渡島同胞団が戦術機や艦艇を揃えられるのは御剣財閥からの支援と五摂家の斑鳩家、崇宰家が組織作成を図ったのもある

指揮系統煩雑化させる集団なんて作る理由がないと等しいが、佐渡島奪還悲願を目的を掲げていることは変わりはない

「佐渡島奪還と言う目的があるなら組織を作る必要性はないとわたくしは思っています」

悠陽は佐渡島同胞団の存在を否定してしまった。

おいおい、まさかとは思うが……。

そして黒い軍服を着てる衛士と1人の女性が会話を割り込んだ

「島1つを拘って今すぐ奪還する必要性はないと思いますわ」

「それにあんな島、他国にくれてやって良いと思います……で?天下の崇宰家次期当主様が何故生き延びたんですか?おかしいですよね、出雲の時は既に死んでいてもおかしくないくらいです。いっそいなくなった方が良かったのですが」

風音と響鬼が醜悪な論理で悠陽に向かって平然と言い放った

「殿下は存じてると思いますが、佐渡島ハイヴを攻略するのは多額の費用が必要かと、例えば……島1つ消滅させるほどの威力を持つ自爆装置を備えた機動要塞とか」

悠陽はその一言を聞いて唖然とした

これは流石に見ていられないと思い俺は悠陽の前に立った

「お待ちください殿下、佐渡島同胞団は必要な存在です。他国に売り渡すなど…殿下はお望みではないでしょう」

俺は悠陽に咆哮する

だが、風音が余計な一言を悠陽に言った

「必要な存在?何処なのかしら?」

「!」

この女……征夷大将軍の前だぞ

「我々獅子堂財団は佐渡島同胞団の存在意義は虚無に近いと思い、解散を命じて頂けないかと所存です」

……此奴!

「豊臣、戻りなさい!」

恭子は俺を戻ってくるよう命じた

だがな、こんな理由で解散とか納得いかねぇ!

「殿下は日本本土を再びBETAの手に墜ちる事は望んでいない……ここにいる皆だってそうです。世界中の衛士達が皆揃って必死に頑張ってるんだ!」

風音は怯む様子はなく次々と身勝手な発言を言い放った

「殿下、この不届き者の1人の甘言を耳傾ける必要はありませんわ。存在意義がない集団は解散すべき……佐渡島奪還は後からにしては如何かと」

悠陽は風音の言葉を聞き、とんでもない事を言った

「……大倉鈴乃大尉」

「ハッ」

「佐渡島同胞団はわたくしの命により解散を言い渡します」

風音の思惑通りになる

焦った俺は征夷大将軍である悠陽に対し暴言を言い放った

「……しれっと切り捨てんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!クソアマが!!」

その言葉を聞いたここにいる皆はざわつき始め恭子は立ち上がり俺の暴言で堪忍袋の緒が切れ怒りを露にし般若顔になり俺を近づいた

「貴様!殿下の前に無礼な態度を!!」

顔近づけられると……鬼だ

まさしく鬼姫と相応しい表情だ……。

「殿下に対し暴言を吐くなど言語道断!欺衛の衛士として恥を知らないのか!」

ああ、そうだよ!俺は欺衛の誇りとか武家のどうとかどうでもいい!

鈴乃の願いを、叶えたいんだ!!

「アンタはそれでいいのか?」

「!」

「アンタは佐渡島にいた住民の気持ちが分かるか?あの人達は故郷を失われ、苦しい生活を強いられて過ごしてるんだ!それを蔑ろにするのは……最早鬼畜の所業だ!!」

俺は怒りを露にし睨み付けてる恭子に言葉をぶつける

「アンタもだ、征夷大将軍殿下。民の気持ちを考えて行動を示してると思いがちだがそれは単なる思い込みだ!分かるか……大切な人を失った人の気持ちを!」

その様子を見た悠陽の側近の一人、月詠真耶は一喝した。

「貴様!殿下の御前であるぞ!!」

「今は俺と殿下が話してるから黙って聞きやがれ!!」

「な……何だその態度は!」

恭子は更に俺に睨み付け怒りを表す

「今すぐ謝りなさい」

沈黙……恭子の怒りのオーラがここにいる皆を黙らせた

「謝りなさい!」

恭子は俺に謝罪を要求する

……表情は般若みたいに怒りを露にしてるが涙を流している恭子は唇を噛み締める

「くっ………この愚か者が……!何故、言う事を……聞かない……!」

俺は恭子が悲しみつつ泣いていると悟った

冷静沈着で今までの様子を黙って傍観した斑鳩少佐は重い口を開いた

「お見事だよ、崇宰大尉……豊臣少尉も」

「あ?」

「(崇継……どう言う事なの?)」

「殿下の前で平然と暴言を吐き彼女の命を下したにも関わらず君はそれを叛いた……が君は単に殿下の前に暴言を吐いた訳ではないだろ?」

斑鳩少佐は俺の暴言を単に吐いた訳ではないと解釈し、佐渡島同胞団を解散を仕向けた風音と響鬼を糾弾する

「獅子堂風音……だったかな。君達の発言は日本に対する冒涜だ。島を他国に渡すなど笑止千万。これは冗談では済まされない事だよ」

「……しかし、同胞団の存在意義は」

「ないと等しい…その通りかもしれないね。大倉鈴乃大尉と豊臣悠一少尉の熱意は確と伝わったよ。佐渡島をそこまで拘ってまで奪還を悲願している……それを実現するのは我々欺衛の役目だと思っております。殿下」

風音は冷静さを欠け悔しそうな表情を浮かんだ

「君もだよ、獅子堂響鬼」

「な……斑鳩少佐、誤解です!自分は欺衛の為に」

「島1つを他国に渡すことが欺衛の為だと自分の発言を正当化するのかな?」

斑鳩少佐は響鬼に向け言い放ち、笑みを浮かんでいるが目は笑っていない

静寂な怒りだ

「それは……」

響鬼は表情が真っ青になり焦っている

「崇宰大尉を亡き者になればよかったという発言は如何に不適切な発言か君は分かっている筈だ。豊臣少尉も欺衛の衛士としては最低レベル。それは言うまでもない……好き放題で軍規違反してまで振る舞う事は凄いよ。殿下は外で起きてる出来事は全て把握してはいない」

そうか……征夷大将軍殿下は辛い事あるんだな

俺としたことが、見誤ったぜ

悠陽は斑鳩少佐の目を見た真剣な表情で話した

「斑鳩少佐、わたくしは豊臣悠一少尉の事は欺衛軍には相応しくない存在であり自由奔放である故に問題を頻繁に起こしてる者は嫌っています。なのでわたくしの評価だけでなく、殆どの人達は豊臣少尉の事を嫌っているとしか言えません」

「ならば、その嫌われ者を好かれる衛士に変貌させれば評価は変わってくると」

「そんな簡単に出来る筈がありません。貴方はそれを出来ると言いたいのですか?」

おいおい、斑鳩少佐…殿下に盾突くのか?

そんな人間じゃないだろ

「勘違いしないで頂きたいのですが、殿下に対し盾突くようなことはしていません。豊臣少尉に再教育が必要かと」

「再教育……ですか」

「無論、私ではなく崇宰大尉がそれを実行し欺衛のいろはを最初から最後まで教える形で佐渡島同胞団を存続するというのは如何でしょうか?」

恭子は斑鳩少佐の言葉を聞いて怒りが静まり呆れ果てていた

鈴乃も驚愕し言葉を失った

「崇宰大尉も、私の提案を受け入れてくれると有難い」

「………了解しました」

恭子はそう言うと悠陽の方に向く

「お話は纏りましたか?」

「殿下、佐渡島を奪還悲願を目標を掲げている佐渡島同胞団の存続をどうか受け入れて頂く所存であります!豊臣悠一少尉の再教育は私、崇宰家次期当主である崇宰恭子が全責任持って遂行して見せます!」

恭子は凛とした表情で悠陽に言い放った

「……そこまで言うのであれば、佐渡島同胞団存続を承認しあとの事は貴女に一任します。崇宰大尉」

「ハッ!有難き御言葉感謝します」

何とか事を収まり解決した……のか

欺衛のいろはを全て最初から最後まで叩き込まれる羽目になったが、悔いはない

都の仇を取り鈴乃の悲願を叶える

俺はとっくにそう誓ったから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都城から出て2時間後、合同会議を終え、俺は恭子と鈴乃と共に大手町のオフィス街に歩いていた

この街並みも元にいた世界と変わらないんだな

「全く、殿下の前に暴言を吐くなんて良い度胸してるわね……斑鳩少佐が丸く収めて獅子堂財団が佐渡島同胞団を解散を仕向けた証拠として反社会勢力と繋がりがあると証明されたわ」

「そうか……でも許せなかったんだ。故郷を失った国民を使い捨てるなんて、耐えられなかったんだ」

佳織の調査のおかげで悠陽は獅子堂財団を見限り信頼を失くしていった

だが、それは獅子同財団だけの事だ

肝心の獅子堂家の連中は信頼を失わず保っている

「だからと言って、暴言吐くことはないでしょ?」

確かにそうだ、常識的に考えれば……だがそうせざる訳があったんだ。

「……すまねぇ恭子、迷惑かけちまったな」

「ふふ、冗談では済まされない事で-50点と言いたいところだけど」

「?」

「100点満点よ、自分の意見を主張するのは良い事よ」

へへ、そうかい

少し照れるじゃねぇか……。

「但し!他人の意見も聞くことも大事よ。自分の主張ばかりだと皆から嫌われるわよ」

「おう、気を付けるよ」

「あとはそうね……我ら欺衛、戦場において常に先陣あり。退く機は殿を務む」

ん?出雲奪還作戦の時に言った台詞だな

「恭子、俺はその言葉の意味が分からねぇ。欺衛のいろはを身に付けたい…教えてくれないか」

俺がそう言うと、恭子は子供じみた表情でクスっと笑みを浮かべる

「ふふ、勿論よ。我ら欺衛、戦場において常に先陣あり。退く機は殿を務む……その言葉の意味は欺衛たるものの衛士が戦で常に前へ突き進み、退く機体は殿……分かりやすく言えば前線へ出て後ろにいる機体を守りに入る。そんなところね」

そういう意味だったのか………。

「知らなかった訳ね。少しずつ普通の欺衛の衛士として常識を身に付けましょう」

「了解です」

「うん、何年かかるか分からないけど貴方自身の努力次第で皆から好かれるようになるわよ」

好かれる衛士ね………。

「好かれる衛士ね……悠一なら出来るわ」

鈴乃も割り込む形で会話に参加する

「……一度失った信頼は二度と取り戻せないのよ。それを挽回する為に他人を罵らずに自分を磨くことが大事よ」

「要するに自分磨きか」

「そうよ」

恭子は突如立ち止まり、俺の方に振り向いた

「誰だって恐ろしい事はあるわ、恐れを知りつつ立ち向かう……今夜は深く眠れそうね」

と優しい笑みを浮かびつつ俺の手を繋ぎ始める

「では私も」

鈴乃ももう片方の手を繋ぐ

ん?どういう事だ…これは

何なんだこの構図は……!

「大倉大尉も付き合ってくれるかしら?」

「はい、恭子様の為なら何なりと」

鈴乃、いつから恭子の僕となったんだ?

圧迫……俺が真ん中で左右から挟まれ圧迫している

そう歩いてるうちに野次馬が俺達を3人揃って手繋ぎしながら歩いてるところを見られてしまった

「あ、恭子様だ」

「真ん中にいるのは誰だ?一般武家の衛士にしては髪型が似合ってないな」

「右にいるのは帝国軍の女性衛士だ。何で恭子様と共に挟んでるんだ?」

おいおい、見られてるぞ

「あ、此奴!豊臣家の恥晒しの衛士だ!」

「何で恭子様と一緒にいるんだよ!」

「ホント、恥晒してるだけでいいよな」

此奴等、好き放題言いやがって……!

「気にせず堂々と歩きなさい。欺衛たる者、無暗に怒りを露にせずそれを買わずべし」

そう…だよな。

こんな野次馬に相手してまで怒るのは恥晒しだよな

「私の家まで向かうわよ」

「お、おう」

そして3人揃って恭子の武家屋敷に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子の武家屋敷……崇宰家邸に到着した俺を含め恭子と鈴乃はその武家屋敷の中に入る

玄関に待ち受けてるのは、使用人らしき女性で青い蝶の飾りで黒髪ツインテールだ

あれ?よく見ればどっかで見たような……?

「おかえりなさいませ、恭子様。今日はお疲れでしょう。ご飯の支度は済ませていますので食べて行ってくださいね」

「ええ、ありがとう葵」

アオイ?

此奴は……そんな事よりまずは腹ごしらえだ

「紹介するわ、使用人の神崎葵よ」

「宜しくお願いします、話は恭子様から全て聞きました」

「貴方達2人は今日からこの武家屋敷で住み込みする形で修行を受けて貰うわ」

は?

おいおい、勝手に決めるなよ

第一、鈴乃が承服しましたという訳が

「承服しました。恭子様の頼みは断れませんので」

承服するのか!

俺は呆れ果てていた

「さぁ、あがって。葵、今日の夕食は何かしら?」

「はい、今日の夕食は天ぷら定食です」

恭子は笑みを浮かべつつ靴を脱いで玄関から上がる

俺と鈴乃も靴を脱ぎ玄関から上がった

「さあ、此方へどうぞ」

使用人の葵が誘導し食卓へ向かう

そこに並べていたのは海老、南瓜、薩摩芋等の天ぷらと味噌汁、白米があった

椅子に座り、割り箸を左右に割り食事に手をかけ食べようとするが

「はい、そこ!食事する前に一言添えなければいけない事あるでしょ?」

ん?礼儀作法か。

食事をする前に「頂きます」と言うのは当たり前だ

「あぁ……頂きます」

「それと割り箸を左右に割るのは縁起悪いからやってはいけないのよ」

恭子は割り箸を持ち両手で水平に持って上下に割った

「これが正しい割り箸の割り方よ」

これは厳しくなりそうだな………。

「和食では、どれだけ食事中のマナーを守っていても正しく箸を使えないようでは笑われてしまうわ。大倉大尉、割り箸を持って両手で割りなさい」

「承服しました」

鈴乃は割り箸を持ち両手で水平に持って上下に割り上側の箸は、人差し指と中指の間に挟み、親指を添え下側の箸は、親指の付け根と薬指で支えた。

「夕食頂きましょ、冷めてしまうわ」

安堵の表情で夕食を無言で静かに食べる

お通夜かよ……。

「……」

恭子は和やかな表情で笑みを浮かび天ぷらを一つ食べる

「豊臣、今夜良いかしら?」

「何がだ?」

俺は恭子が何を言いたいのか理解できずポカンとした。

何を言いたいんだ?

恭子は俺に「今日は一緒に寝たい」とサインを送り頬を赤らめる

え!?

初日から夜の営みかよ………冗談だろ?

だが恭子の顔を伺ってみると冗談ではなさそうだ。

俺は「勿論だ」とサインを送り返す

その光景を見ていた鈴乃は寂しそうな顔をしていた

「……」

「どうした鈴乃、寂しい顔して」

「都が生きてたらあの光景とかしてたんだろうなって思ってただけよ」

鈴乃は俺に寂しげな顔で言った。

「都……坂崎都大尉の事かしら?」

「あ、はい」

恭子は芝居がかった笑みを浮かべながら白米を一口を食す

「彼女の意思は貴女に託されたのよ、豊臣もそうでしょ?」

都の仇は絶対に取らなきゃいけない

分かってる

分かってるさ

「暗い話は御終いにしましょう、ご飯が冷めちゃうわよ」

会話は終え、俺達3人は夕食を楽しんでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を済んだ後、俺は1人で恭子がいる小広間に入った

そこには白装束の恭子が畳で正座しながら優しい笑みを浮かべ来るのを待っていた。

「待っていたわ、時間はぴったりね」

と恭子は小広間にある時計を見て時間針を見る

「あ、ああ…で、俺なんかで良いのか?」

「良いも何もこれは貴方の為に着たのよ」

俺は恭子に近づき目の前に正座する

緊張が隠せない……。

「初めて?」

「畳の部屋ではな」

「そう、緊張してるのね」

恭子は俺の手を掴み自らの胸を当てさせた

心臓だ、鼓動が鳴り響いている

「鼓動を感じてるかしら?」

感じてるも何も、ヤバい……興奮してきたぞ

「焦らないで、私は逃げないから」

恭子は白装束を脱ぎ、美しき白い肌を晒しつつ顔は上気して恍惚となって、宙に幻を追っている表情になる

何も着けてないのかよ

余計に興奮するぜ

「顔近づけなさい」

「では、失礼して」

俺は頭を下げ、恭子の顔に近づく

恭子は無言で俺の唇を重ね抱き締める

舌を上手く絡め唾液と唾液を重ね激しく激しく体と体を重ねながら抱き締める

甘く良い匂いが漂っている

「なぁ、恭子……」

「なぁに?」

「俺の告白聞いてくれないか?その…前回の時忘れてると思ったからよ」

「もう一回かしら?」

ぞくっとするほど艶かしい清く美しい、俺のモノにしてやる

「ああ、俺と結婚前提に付き合ってくれないか。お前の事一生大事にするから」

俺はもう一度恭子に告白した

「『付き合っていただけないでしょうか?』ほら訂正して…」

「俺と結婚前提に付き合って頂けないでしょうか?」

「『お願いします』」

「お、お願いします……」

火のように、いつまで燃えつづく情炎と、それに耐えうる豊満で厚艶な肉体の所持者だ

恭子は和やかな笑みで俺の顔を見つつ唇を重ねた

「ふふ、この事は唯依や他の皆には内緒よ」

「恭子、愛してるぜ」

「他の女性にその台詞を言ったんでしょ?」

「へへ、でも一番好きなのは恭子だからな」

「口が軽いだけの調子乗る男なんだから」

今まで恭子は何人かの女性が憧れ、その目標として衛士になった者もいれば、何人かの男は彼女を振り向いてくれると思い告白しようとするがそれを躊躇い高嶺の花として距離を置きつつ好きな女性衛士であることは変わりはない。

この日本国民全体で彼女に恋をしなかった者はいない

だが、それは昨日までだ

今日からは俺の『彼女』だ

「……私の事が本気で好きなら様々な修行と鍛錬を乗り越える筈よ」

恭子は和やかな笑みを浮かべる

「俺も乗り越えられるかな、正直不安だぜ」

「乗り越えられるわ、唯依まではいかないけど無理に高い目標を掲げる必要はないと思うわ」

そう言って笑みを崩さずキスし俺は恭子の首筋を舌で舐め回す

舐め回したら恭子は官能的な声を漏らし喘ぐ

「んん……ぁ、くすぐったい」

「ん、そろそろ入れようか?」

「まだ早いわよ」

「んじゃ、このまま抱き締めながら一緒に寝ようか」

「……」

恭子、どうしたんだ。

「明日は私が直々叩き込んであげるから覚悟はしなさい」

あぁ、そう言う事か

「こんな美人の女性からの頼みだったら断れないよ」

こうして俺は恭子とそのまま抱き締めながら深い眠りについた




次回、2人がいよいよユーコンへ出向します
お楽しみに!!


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第12話 出向

悠一Side

俺がこの世界に転生して3年が経ち帝国軍欺衛軍共同で毎日フルアーマーガンダムとアトラスガンダムの機動試験をやったり、ビームライフル等の射撃兵装の試射をしたり。要は2体のガンダムの構造を調べるテストパイロットをやっている。

俺と鈴乃のセッションはバッチリ合ってる、それだけでなく恭子から欺衛のいろはを教えたり作法やマナーを厳しく指導し竹刀での鍛錬を佳織や唯依等を参加を含めの3人…いや4人、ダブルスで修行を積み重ねていった

……が今日いきなり大きな転換期がきた。

俺と鈴乃は斑鳩少佐に呼び出され、欺衛軍本部の大隊執務室で唐突に海外派遣を命じられたのだ。

「アラスカのユーコン基地に2機のガンダムと共に出向…………ですか」

「うん、そうだよ」

アラスカって言ったよな……確かあそこって国連軍がいるところだよな

「あの……何故俺達2人が、それに大倉大尉は帝国軍本土防衛軍としての役割があり業務を抱えています」

鈴乃は帝国軍だ、普通なら一緒に行く筈がない

だが斑鳩少佐の顔つきを見ると、これは本気で言ってるようにしか見えない

「そうだったね、私が帝国軍上層部にいる将校達と話し合いしてその結果、大倉大尉は好きに使っていいという答えが返ってきたよ」

「え?斑鳩、閣下……それは本当、なんでしょうか」

「私が嘘吐く人間に見えると思ってるのかな、大倉鈴乃大尉」

鈴乃も驚いてる。スーパーのタイムセールで売ってる大根がいつも以上安売りしていてその価格を見た時みたいのようにだ。

「篁中尉は既にXFJ計画開発主任として先にユーコン基地に赴任している」

唯依は中尉に昇格した

努力の成果が実れたからか俺より更に上へと進み出世街道のレールに乗っている

俺もそのチャンスがあるという訳か

「君達は佐渡島同胞団所属の衛士としてユーコンへ出向、困惑してると思うけどこの任務を成功させれば、その功績で正式なモノに出来る」

俺は首を頷き納得したが鈴乃は何が言いたそうにハッキリと斑鳩少佐に向け言い放つ

「この時期に、ですか?」

「そうだよ、この任務を果たしその功績を帝国軍上層部に手土産として持ち帰れば少佐に昇格…いや中佐、大佐、それ以上の肩書や名誉をくれるかもしれないよ?」

「(確かに駒木は中尉に昇格したが、私はそこまで上へ行きたいという意思はない……が佐渡島奪還の近道になるなら受け入れる価値がある)崇宰大尉の恩返しはまだしておりません故、佐渡島奪還の近道になるならこの任務是非お受けさせてください!」

俺はアメリカへ行くのは気が進まない。それに日本を守る為に以前に恭子を愛し続ける事を前提にここに入ったのに。

何でアメリカなんだよ!

俺と鈴乃はいきなり斑鳩少佐からの命で戸惑いやる気は……下がっている

それを見た斑鳩少佐は笑いながら問いかける

「ははははは、やる気が出ないみたいだね。本来なら理由の説明なんてないけど、士気が落ちたまま向こうへ行かれても困るから説明しておくよ。昨日、夕方のニュースで東欧州社会主義同盟は一つ目の戦術機の機動試験をやったり、光学兵器の試射をしたり。要はその機体の構造を調べる様子が流れていたよ」

一つ目の戦術機だと!?

彼奴の機体……サイコ・ザクだ

「情報省の職員や裏社会の情報屋から聞いた内容によると、東欧州社会主義同盟のベアトリクス・ブレーメ総帥は将来的に四肢欠損の衛士をサポートする戦術機を開発すると誇らしげに宣言したよ」

「四肢欠損の衛士が乗る戦術機…………そんな機体作れる訳がありません!不可能です!!」

鈴乃は声荒げ、四肢欠損でも操れる戦術機の開発の存在を否定した

そりゃそうだろ……現実的に考えれば戦術機に乗るには適性がいる

それを四肢欠損の衛士を乗せてまでBETAと戦う……狂気の沙汰だ

だが斑鳩少佐は冷静を振る舞い、話を続ける

「うん、普通ならこう思うだろうね。でもベアトリクス・ブレーメと言う女傑は不可能を可能にさせる指導者だ。大倉大尉は不可能だと言ったね?逆に考えると四肢欠損でも操れる戦術機があってもおかしくはないし寧ろサポート出来れば良いと思ってる」

「はぁ…しかし私、いや我々日本帝国軍の衛士達には理解し難いです」

「崇宰大尉はその戦術機開発の存在は否定してはいないよ」

「え?恭子様…崇宰大尉がですか?」

「そうだよ」

おいおい、恭子も知ってたのかよ

夕方のニュースは流石に見るよな……知ってるも無理はないか

「向こうにガンダムを持って行ってデモンストレーションをして貰う。要するに今君達がやっている事をユーコン基地で崇宰大尉の修行の成果を発揮してほしい。戦術機開発に大きな発展があることを見せ、危険なG弾を使用せずともハイヴを攻略できる可能性を示して貰えば、有力者が向こうに流れるのを止める事が出来る……私が言ってることは間違ってるかな?」

「いいえ、間違ってはおりません」

その後、軽く現地での予定を聞いた。

現在そのユーコン基地では、帝国陸軍技術厰が米国企業と共同で主力戦術機である不知火の改修計画XFJ計画というプロジェクトをしている。そこの日本側開発責任者の中尉に俺達の世話を頼むのだそうだ。

その中尉は当然だが、唯依の事を指してる

斑鳩少佐の手腕ならやれない事はない

話が一段落した時、斑鳩少佐はふいに思い出したように言った。

「君達の機体についているガンダムと言う名称。どういう意味なのか…どういった意図が込められてるのかな?」

鈴乃は何か言おうとしたが、俺は軽く手で制した。

ガンダムを問われて、他人に答えを任せる訳にはいかない。

俺は少し考えて、こう答えた。

「人類が描いた戦争の夢と悪夢。その物語の名称……崇宰大尉がそう言ってましたが自分は『殺し合う運命の為に作られた機体』と解釈しています。BETA大戦という大きな悲劇の異星起源種との戦争。その終わりを齎す夢になれたら……それだけで充分です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くは慌しくアラスカ行きの準備の日々が続いた。

そして今日。出発の日を迎えることができた。

この海外行きは急遽決められたものだったのだが、向こうの技術者が早くガンダムを見たいとのことで、これだけ短い期間で行けることになった。

そして現在 帝国軍入間基地滑走路

出発準備をした俺と鈴乃は待機所にて、軍用輸送機に物々しくガンダムが搭載されるのをなんとなく見ていた。

機体全体を防護シートにくるまれ、厳重な警戒のなか輸送機に運ばれている。

「アラスカか……サーモンとか上手い料理食いながら酒とか進んで飲みたいな」

「観光に行くんじゃないのよ。全く恭子様が言った事忘れたの?」

「恭子が?」

「はぁ、その様子だと忘れてるみたいね。ふふ、だったら教えてあげる」

鈴乃はクスっと笑みを浮かびつつ、俺に恭子が言った事を教えた

何の事だ?

「私は貴方の為について行く。恭子様は激務で一緒に行けないから斑鳩閣下の命で」

「分かった分かった。鈴乃、お前は俺のパートナーだ」

「ええ、メンバー…沢山増えると良いわね」

「ああ、バンドをまた作って楽しくセッションしたいぜ。オリジナルでのメンバーでの演奏はもう二度と出来ねぇからな」

都は佐渡島で戦死

駒木は沙霧大尉のところに

草野は駒木を庇って戦死

村田は光線級に照射されて管制ユニットを貫き蒸発

早乙女は消息不明

鈴乃は今俺の隣にいてパートナーとして振る舞っている

「ま、悩んでもしょうがないな。恭子と斑鳩少佐なら上手くやってくれるだろう。俺達は戦術機開発の総本山にフルアーマーガンダムとアトラスガンダムを見せつけてやろうぜ!」

「ガンダムを見てどんな反応をするのか実に楽しみね。あと帝国第壱技術厰の巌谷中佐の姪に篁唯依中尉ってのがいるのよ。貴方は勿論知ってるわね」

「ああ、今は試験小隊の長だ」

「国連軍に出向してユーコン基地でXFJ計画の責任者……開発エリートの家系なのね。我が日本にも恩を売れる」

唯依が武家出身だって事は知ってたが、まさかエリートの家系とはな……。

どんだけ恵まれてるんだ?

父親は明星作戦で戦死

父親の意思を継ぎ、篁家としての誇りを忘れずにユーコンで出世街道か

母親も泣いて喜んでるだろう

大和魂誇る女性衛士ってか、凄過ぎるぜ篁唯依

帝国技術厰もガンダムの情報は欲しいだろうし、唯依なら抜かりなく徹底的に調べてくれるだろう。

搭乗時間になる少し前になった

白衣を着た女性が2人の国連軍の制服を着た女性を伴って俺達の見送りに来るのが見えた。

一人は短めの髪で凜々しい顔立ち。もう一人はポニーテールで気の強そうな女性。

「……!」

曲者の香月夕呼だ

そして背後にいるのは国連軍A-01部隊の長、伊隅みちる

その副官の速瀬水月

これから知り合いになるという意味か?

どういう風の吹き回しだ……。

3人が俺達の前に来ると、俺達は敬礼で挨拶をする。

「香月副司令、お見送り感謝します。私、大倉鈴乃大尉と豊臣悠一少尉はただいまよりアラスカ、ユーコン基地へ行って参ります」

「敬礼は良いわ、ここには、あたしらしかいないし」

香月副司令は軍人の敬礼が嫌いらしい

そう言うが、そうもいかないんだよ。

一応軍人だし。後ろの2人もやってる。

むしろそっちが敬礼に慣れてほしい。

はは、その様子だと無理のようだな……考えてることが分からないぜ

「で、何で国連軍であるアンタらが俺達のところまできて見送りに来てるんだ?話が出来過ぎてるぜ」

「帝国欺衛軍の斑鳩崇継少佐からの頼みがあって来ただけよ、別に貴方達の為に来た訳じゃないのよ。研究だってやらなきゃいけないし難題が次々とあるのよ」

………。

「A-01部隊指揮官の伊隅みちる大尉だ。香月博士と崇宰大尉から話は聞いている、豊臣悠一少尉……お前は衛士界隈から嫌われてるそうだが我々には無関係だ。好印象持つよう努力すればいい。大倉鈴乃大尉も佐渡島防衛戦で生き延びた衛士……そうだな?」

「はい」

「帝国軍本土防衛軍であるお前がアラスカに出向するとは……帝国軍上層部はそれを承認済みしたか?」

「斑鳩少佐の計らいで上層部は好きに使っていいと承認しました」

「帰国したら、佐渡島を」

「勿論です、伊隅大尉。貴女と共に戦える日を楽しみにしています」

と鈴乃は伊隅大尉に敬礼する。

「副官の速瀬水月中尉よ。あたしも扱き使ってやるから覚悟しなさい」

扱き使うって……俺は欺衛軍で鈴乃は帝国軍だぞ

「そうだな、共に戦えることを常に願っています。伊隅大尉、速瀬中尉」

俺も2人に向け敬礼する

伊隅みちる……『デキる女』そのものだ。

それに挨拶を返す鈴乃も貫禄負けしてない。やっぱり凄い奴だ。

「じゃ、あたしはそろそろ行くわね。色々忙しいのよ」

香月副司令はそう言って2人を連れ去って行った。

その後、恭子と佳織が俺達の見送りに来た

「豊臣、必ず生きて帰ってきて。約束できるかしら?」

恭子は俺に詰め寄る

「ああ、勿論だ。恭子」

佳織はただ恭子を見ているだけだ

「絶対に…私と一緒にいたいでしょ?だから生きて帰って…悠一」

そういうと恭子は目を瞑り俺の唇を重ね抱き締めた

俺は目を瞑り恭子を抱き締め返す

5分…10分……

佳織は目を瞑り見ないふりをした

唇から離し、和やかな笑みを浮かべる恭子は鈴乃に俺の事を託した

「大倉大尉、豊臣少尉の事頼んだわよ」

「ハッ、承服しました」

「ふふ、不定期で連絡するからそのつもりでいなさい」

「りょーかい」

俺は軽く敬礼し軽い口調で恭子に言い放った

「行ってくるぜ、斑鳩少佐に恭子の事宜しく頼みますと伝えてくれ」

「分かったわ」

恭子はそう言って、面白そうな顔で俺達を眺めていた。

俺と鈴乃は輸送機に搭乗し、2人に見送られて出発した。

高度が上がり、離れていく滑走路を見ながら思う。

まさかこういう形で日本を出るとは思わなかったな。

鈴乃も何やら思うことがあるのか、窓の外を名残惜しそうに見ている。

ふと俺の方に向き、陰りのある顔で言った。

「私達の任務は帰ってきてからが本番。この先、相当キツイ戦いが待っているわ……一応覚悟した方が良いわよ」

何なんだ。そのミステリアスな言い方。

俺の答えは既に決まってる

「ああ、この先、何処へでもついて行く。俺の傍から離れないでくれ鈴乃」

「ええ、勿論よ。離れたりはしないわ」

鈴乃は俺の隣に寄り添い俺の手を握った

俺達は航空戦術機輸送機でアラスカのユーコン基地へと向かっている。

数時間の空路での狭い客室の中。俺と鈴乃とつまらん会話……いや音楽の話でもするしかやる事がない

「海外は初めて?」

「ん、おう…そうだな。そもそも海外へ行く機会なんて滅多になかったからな」

「そうだったのね」

鈴乃はクスっと笑みを浮かび楽しそうな表情をした

「あ、言い忘れてたけど駒木も誘ったわ。『佐渡島奪還を志す意思があるなら同胞団に入らないか?』と」

駒木がそんな得体のしれない集団に入る訳がない

沙霧大尉が黙ってはいないし、一歩間違えると……処刑される

「駒木は何て言ったんだ?」

「『御誘致は感謝しますが、大倉大尉がいる佐渡島同胞団には入りません。私には沙霧尚也大尉と言う一軍人を支えなければなりませんので』と」

まぁ、駒木らしい答えだな

その答えの方が妥当だろう。

「駒木は自分の道へ進んだわ、それだけよ」

鈴乃は優しい笑みを浮かびつつ言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

東欧州社会主義同盟所属戦艦『カール・マルクス』の艦長室にいるベアトリクスは俺を直接出頭させた

艦長室の椅子に座ってるベアトリクスの表情は難色を示していた

「ダリル・ローレンツ少尉」

「ハッ!」

「明星作戦におけるアメリカの無警告によるG弾投下、あまりに強引すぎる気がしてブロニコフスキー少尉が調査してくれたわ」

ブロニコフスキー……イングヒルトの事を指してるのか?

だが彼女は既に亡き者……いや俺が知ってる世界線とは別だからか生存している

どういう経緯でイングヒルトは生き延びたかは俺は分からない

「その調査結果は?」

「キリスト教恭順派……『BETAは神の使いで、人類はBETAに滅ぼされるのが神のご意志』とほざいてる外道ばかりの集いでテロ組織でもある。中には半グレ集団が何人かはその組織にいるわ」

恭順派……

「目的は何でしょうか?」

「全人類の抹殺。それがBETAであれG弾であれ方法は問わない……我々も賛同してるわけではないのだけどそれよりもっと凄い兵器を作ったわ」

凄い兵器……まさかとは思うが

「核ミサイル……」

「BETAは核弾頭は有効ではない。仮に使うとしても小型種しか殲滅出来ない……これではシュミットみたいね」

ソ連のスパイだった売国奴……彼は東ドイツを乗っ取り全人類を破滅の道へ辿ろうとした鬼畜指導者だ

「だが、ハイヴごと殲滅出来る……ツァーリ・ボンバという水素爆弾は知ってるかしら?」

ツァーリ・ボンバ……ソ連が開発した人類史上最大の水素爆弾だ

その核爆発は2,000キロメートル離れた場所からも確認され、衝撃波は地球を3周した。

所謂ヤバい兵器だ

俺は警戒し強張る

「強張ってるわね?ツァーリ・ボンバはソ連が開発した人類史上最大の水素爆弾、我々はそれをG元素を含んだ水爆を開発した。それとキリスト教恭順派をまとめたテロリストのリーダーは指導者…マスターと呼ばれているわ。高いカリスマと不可能なはずの陰謀をなし得る恐るべき者。当時、小さな信仰集団だった【キリスト教恭順派】を世界最悪のテロ組織にまで育て上げた人類の敵……」

「そのテロリストのリーダーの名前は分かったんですか?」

「裏社会の情報屋の伍代という男によるとそのリーダーの名前はかつて第666戦術機中隊に属したテオドール・エーベルバッハ……その男がテロリストのリーダーの名よ」

テオドールは確かに666の衛士として活躍し、今俺の目の前にいるベアトリクスを倒した衛士でもある。

どの分岐でもテロリストになる事は避けられないのか

「彼は東ドイツ反体制派に属し反体制派のリーダーだったズーズィ・ツァプと共に我々には向かってまで私を倒そうとしていた。特にズーズィは半グレ集団と結託し我々の同胞を嬲り殺しした。顔が原型がなくなる程にね……」

テオドールも悪魔に魂を売ったって訳なのか

義妹であったリィズを失ったショックでテロリストに成り下がった

「先手は打たなければならない。世間は貴方のお母さんではないのよ?1人の義妹を失ったショックだけでテロリストに成り下がり堕ちるところまで堕ちたわ。エーベルバッハはリィズ・ホーエンシュタインを義妹として好意を抱いていた。本命であるアイリスディーナがいるのにホーエンシュタインを抱いた。それはもう義兄妹の一線を越えてるわ」

「自分は何をすれば宜しいのでしょうか?」

テオドール……指導者…マスター。

あの男がテロ組織の長だったのか

猶更、放っておく訳にはいかない

「ユーコン基地でサイコ・ザクを持ち込み、デモンストレーションをして貰う。要するに今貴方がやっている事をユーコン基地で我々に対する貢献や成果を発揮してほしい。戦術機開発に大きな発展があることを見せ、危険なG弾を使用せずともハイヴを攻略できる可能性を示して貰えば、有力者が向こうに流れるのを止める事が出来る……G弾使用せずハイヴを攻略すると言ったら嘘になるけど時にはやらざるを得ない時もある」

成る程、要するにG元素を含んだ水素爆弾……ツァーリ・ボンバツヴァイって事か

それにユーコン基地でサイコ・ザクを見せつけるのか……彼奴を倒す機会が与えられる

「貴方は666の衛士と一緒にユーコン基地に行くのよ。それとキリスト教恭順派の連中を全員粛清、テオドール・エーベルバッハの暗殺任務の命令を下す。これは今までにない極めて危険な任務よ、出来るわね?」

出来ません……とは言える訳がない

ベアトリクスの目を見ると、これは冗談ではなく本気の目をしている

やるしかない……いいややらなければいけない!

「その任務、是非やらせてください!」

「手始めに難民解放戦線のメンバーであるナタリー・デュクレールが経営している『Polestar』のバイト店員として潜入調査を行って貰うわ。彼女だけは生かしなさい」

「え?何故です」

何でナタリーだけを生かすんだ?

「哀しき境遇があり過ぎるからよ。ニコラ」

ベアトリクスと俺の会話に静聴したニコラはある衣服とエプロンを差し出す

これは……ソムリエの服装だ

「店の制服よ、大切にしまっておきなさい」

一度受けた任務だ、俺はやってやる

やって見せる!

彼奴を……彼奴が乗るガンダムを倒すなら何だってやって見せる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

アラスカ ユーコン基地

 

輸送機は無事ユーコン基地の滑走路に着き、俺達はその地に降り立った。

アラスカの広大ですばらしい大自然は、俺を圧倒した。

しかし、季節はもう冬……景色は冬の寒々しいものになっており、空気も冴え渡り冷たい。思わず身震いするほどに寒い。

そんな俺の内心も知らず、鈴乃は、出迎えにわざわざ航空路にきた彼女に元気よく挨拶をする。

唯依だ

国連軍の制服なんか着て、高みの見物してる気分になってるのか?

少し悔しいぜ

「出迎え、感謝致します。佐渡島同胞団試作戦術機ガンダムタイプ2機のテストパイロットを務めます大倉鈴乃大尉及び豊臣悠一少尉。ただいまユーコン基地に着任致しました。どうかアラスカ滞在中は宜しくお願いいたします。篁唯依中尉」

世話をしてくれる唯依の心情を聞くまでもない

日本にいる恭子と佳織、上総、志摩子、和泉、安芸の意思を尊重しこのユーコン基地にいる

相変わらず幼い顔立ちながら、凜々しく成長したよく知る彼女。

髪は長く伸ばし、冷ややかな強い眼差しで俺を睨んでいる。

あのヒヨッコだった唯依とは180度変わっている

成長した……か。

「……………………ああ、君達の滞在中は私が責任をもって面倒見ます。宜しくお願いします大倉大尉。そして…………豊臣悠一少尉。XFJ計画の現場責任の任務についている篁唯依中尉だ」

「佐渡島同胞団の豊臣悠一少尉です」

遠い異国アラスカにて俺と唯依は巡り逢った。

俺の前に立って敬礼する唯依

俺は敬礼し返す

おまけに彼女の部下みたいな国連軍の制服を纏った少女も……日本人ではないな

……アメリカ人か?

そんな事はどうでもいい、と思ったがやはり気になる

鈴乃は唯依の隣にいる少女の事を聞き出した

「篁中尉、その方は?」

「リダ・カナレス伍長だ、彼女はスペイン出身のCPだ」

「スペイン……欧州西部にある国ね」

鈴乃、察しようぜ

ともかく無事にアラスカ・ユーコン基地に到着した俺達。

車で司令部ビルへ連れていかれ、まずはプロミネンス計画の責任者であるクラウス・ハルトウィック大佐に着任の挨拶へと向かった。

そこで受けた説明によると、フルアーマーガンダムとアトラスガンダムの活躍は戦術機開発の業界を大きく刺激したようだ。

このXFJ計画も、通常なら1,2年は先になる見通しだったのに驚くほど早く進んで、現在はテストパイロットによる調整段階に移行しているのだという。

ガンダム様々だな

『戦術機技術の発展でG弾不要論を高める』

これは香月副司令の理論だ

しかし俺はG弾でハイヴを攻略しても良いという考えどころかそれを使用する事は正直どうでもいい

俺はあくまでも一衛士だ。

何使おうが手段選ばない

次に案内されたのは、テストパイロットの試験小隊隊長のところだった。

彼は中東系の壮健な士官で、『中尉』という階級も低すぎると思えるほどに戦士の貫禄のある男だった

「私はトルコ軍から派遣されているイブラヒム・ドーゥル。階級は中尉だ。試験部隊アルゴス小隊のまとめ役のようなものだと思ってほしい」

鈴乃は彼の自己紹介した名前に、ふと聞き覚えがあることに気がついた。

何だ鈴乃、彼の事知ってるのか?

「佐渡島同胞団の長を務める大倉鈴乃大尉です、あの少しお聞きして宜しいでしょうか?」

「大倉大尉、どうかしましたか?」

「ーーー松本駐屯地の司令だった豊田中将が大東派連合での共闘作戦を参加し中東から流れてきた者に、『イブラヒム・ドーゥル大尉』という高潔な部隊指揮官のお話を聞いたことがあります。その英雄的活躍に助けられた者は多く、大変尊敬していると仰っていました。貴方はその『イブラヒム・ドーゥル大尉』ではないのですか?」

「…………………私は中尉だよ。大倉大尉、軍人にとって階級は重大な意味をもつ。今後、私を『大尉』とは呼ばないように」

なんだ人違いか。つまらねぇ事を言ってドーゥル中尉の機嫌を損ねてしまったな。

俺も気を付けなければ

「さて。今日はうちの小隊と君らを会わせようと思ったが、明日にした方がよさそうだな。今日の所は基地及び格納庫の案内をさせよう」

格納庫か、確かここユーコン基地は各国の戦術機が次々と勢揃いしている

アメリカは勿論のことだが、西ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、ソ連、東欧州社会主義同盟……ベアトリクスが率いる組織もいる

「どのみち君らの試作戦術機を披露するのはもうしばらく後のことになる。アメリカ側のスタッフがまだ到着していないのでな。こちらの立場的に、アメリカより先に見るわけにはいかんのだよ。ではカナレス伍長。あとは頼んだ」

ドーゥル中尉が俺達の後ろに控えていたカナレス伍長に言うと、彼女は元気よく応えた。

「了解しました中尉。では私、リダ・カナレス伍長がご案内いたします。お二人とも、ついて来てください」

俺達は彼女の後について行き基地の中へと案内していった。

数分後、格納庫を案内されている途中で彼奴と会ってしまった

しかも666の衛士もいる

ん?1人は見かけない顔だな……写真集で見た事あるぞ

「よう、久しぶりだな……ダリル・ローレンツ」

「お前もここに来てたのか?」

鈴乃は666の衛士と初対面だろう

写真でしか見た事がなかったからな

少し驚愕している

「……佐渡島同胞団の長を務める大倉鈴乃大尉だ、お初にお目にかかります、第666戦術機中隊のファム・ティ・ラン大尉、アネット・ホーゼンフェルト中尉、シルヴィア・クシャシンスカ中尉」

「宜しく頼むわね、大倉大尉」

「……よろしく」

ファムとアネットは笑顔で振る舞ったがシルヴィアだけはふてぶてしい態度で挨拶していた

しかし俺の顔を見た途端、アネットは睨み付ける

「……俺とお前は殺し合う運命なんだ!まだ戦争は終わらねぇ」

「………俺はお前をいつも狙ってる!」

俺とダリルは闘志を燃やし互いに睨み付ける

此奴は、倒さなければならない

「ダリル・ローレンツ、俺はお前との決着をつけるまで死ぬ訳にはいかない!演習でケリをつける!」

「俺も、死なない……ファム、アネット、シルヴィ……いやクシャシンスカ中尉を守らなきゃいけないんだ!」

「なら俺は大倉鈴乃を守り切る、これでお互い様だ」

俺と此奴は殺し合う運命だ

俺は負けられないんだ……此奴だけは!

 

 

 

 

 

 

 

 

The end of Part 1




インペリアルガード編はこれで終了です!
長かった……3か月掛かってしまいました
マブラヴアニメ放送される一か月前で書き始めて漸く終わりました
裏話は活動報告で言います。
第2部はユーコン編です!
ユウヤとヴィンセント、V.Gも出てきますよ
どう戦うのかが問題ですね……TEサンボルはまだまだ続きますよ
では次回のお楽しみに!


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第2部 ユーコン編
第13話 錚々たるユーコン


まさか日本から遥か離れたアラスカで、唯依とここで会うとは思わなかった。

分かっていたが…唯依は出世街道を歩いている

それだけではなかった。

格納庫を案内されている途中にダリルと666の3人とバッタリと会った

互いに闘志を燃やし、鈴乃が軽い会話で済ました後その場から去った

数分後、アルゴス試験小隊の三人に偶然出会った。

彼らはカリキュラムを終えた直後らしく、衛士強化装備で何やら話していた。

そこの北欧系美女の衛士が俺達に気がつき、声をかけてきた。

「あら、カナレス伍長。その二人が今日、日本からいらした?」

「はいブレーメル少尉。あ、本当は明日会う予定でしたけど、今紹介しちゃいますね」

紹介された三人は以下の通り。

イタリア軍から派遣されているヴァレリオ・ジアコーザ少尉。通称VG。ラテン系の兄ちゃんだ。

スウェーデン軍のステラ・ブレーメル少尉。北欧美人で巨乳。衛士強化装備だと目のやり場に困るぜ。

ネパール軍のタリサ・マナンダル少尉。アジア系の子供みたいな奴だ。

「よう、アンタらがアルゴス試験小隊の……」

1人の女の子が俺の前に歩み出て、顔を覗き込んで言った。

「何だよ、見かけない顔だな」

「豊臣悠一少尉だ、ジャズが聴こえたら俺が来た合図だぜ。覚えておきな」

「フン!」

何だ、いじけてるのか?

「お、唯依姫に続いて二人目のお姫様か…」

VGは鈴乃の顔を見る

「日本帝国軍本土防衛軍から派遣された大倉鈴乃大尉だ、佐渡島同胞団の長を務めている」

「佐渡島同胞団……よくわからないけど鈴姫と呼ぼう」

な!!!!!?鈴姫ってなんだよ!!

まるで大河ドラマに出てくるお姫様じゃないか!

「ふふっ。でも篁中尉より話しやすそうね。日本のお姫様の衛士ってちょっと興味があるから、色々聞いてみたいわ」

拙い……これは説明して訂正しなければ

俺は説明しようとするが鈴乃が先に言い放った

「私は”お姫様”などと呼ばれるようなものではない。全く的外れな認識だ」

「因みに俺は一般武家の息子だ。欺衛崩れの衛士だけどな」

鈴乃は俺の頭に拳骨を喰らわした

「いで!」

「私は本来なら帝国軍本土防衛軍の一衛士だ。"お姫様"と呼べる存在ではない」

ポカーーン

みんな一様に呆けた顔をしている。

そして一番に認識を改めさせたいタリサという女の子は……

「ムニャムニャ…………んん? 終わったか、お姫様?」

「マナンダル少尉! 貴様眠ってたのか!? 私が説明している間ずっと!?」

鈴乃は怒りを露にしタリサを睨みつける

おいおい、鈴乃は意外と怖いぞ?

「任務中でもねぇのに、いちいち呼び方めんどくせぇなぁ。タリサでいいよ。ふわーぁあ」

階級2つ上の鈴乃に対し平然と欠伸する

「貴様はプロゴルファー猿……所謂その主人公の猿谷猿丸だ!これから”猿丸”と呼ぶ」

「ぬわんだとぉう!? 上等だぁ!」

何でプロゴルファー猿の主人公の名前から取ったんだよ!

と言うか漫画も詳しいんだな鈴乃は

鈴乃に飛びかかろうとした”猿丸”だったが瞬間、見事なコンビネーションでVGとステラが抑えた。

迎撃体勢をとった鈴乃には俺が抑えていた。

”猿丸”を抑えながらVGはヤレヤレといった感じで鈴乃に言った。

「あんたも、お互い苦労するな」

「いや、鈴乃は普段は苦労をかけるような奴じゃないんだが…………」

俺はチラリと"猿丸"を見た。

「そいつと壊滅的に相性が悪いらしい。俺の腐れ縁にもこんな感じの奴がいてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその夜。

俺達はアルゴス小隊の連中に連れられ、リルフォートの街へと来た。

ここはユーコン基地に所属する軍人・軍属とその家族を支える、基地内に造られた都市だ。

そしてそこにある『PoleStar』というバーで歓迎をうけた。

「それじゃ、お二人さんの着任を祝ってカンパーイ!」

「よろしくね。今日はいないけど、ここにはナタリーって友達の子が働いているから、あとで紹介するわね」

「ま、来たんならしょうがねぇ。せいぜい、がんばんな」

アルゴス小隊はそんな歓迎の言葉を述べる。

気のいい奴らみたいで、暫く共にするのは申し分ない連中だ、”猿丸”を除いて

「貴方方と行動を共にしますけど、ここのテストパイロットになった訳じゃないのよ」

「あーあ、そうなんだってな。お二人さんの任務ってのがイマイチわかんねぇんだが、機密じゃなけりゃ説明して頂けないかい?」

「ええ。俺達の任務は『ガンダム』という新概念の試作戦術機の演習をして…………」

つまり俺達はガンダムの演習をしてその圧倒的な力を見せつける。

そして別便できている政治家や技術者が、その派生技術をここに集まっている各国の戦術機屋に売りつけるのだ。

日本帝国の貢献として、同胞団の目的悲願達成の為に

商売を通じて各国への繋ぎを作ると同時に、各国の戦術機技術の底上げだ。

「つまり、お二人さんはセールスマンって訳か。しかし世界中の戦術機技術が集まっているこのユーコン基地で、売れるようなモンなんて出せるのかねぇ」

「あらVG。貴方聞いたことないの? たった1機で京都にいた学徒兵を守り抜きもう1機は単機で要塞級7体を殲滅したって噂の戦術機のことを。その”FG"と”A”が来てるのよ」

「あれか!? けどよ。そんなトンデモ戦術機がここ以外でできてりゃ、プロミネンスもアメリカも何なんだって話だぜ。なぁ悠一。いくらなんでもそりゃガセだろ?」

「それは演習を見て判断した方が早いと思うぜ」

さっきまで気持ち良さそうに酔っ払いの顔をしていたVGもシラフの顔になって俺を見つめている。

「その試作戦術機って…………」

「此方の機密に関わる事だ。豊臣少尉の言う通り演習をお待ちになって頂きたい」

鈴乃がそう言うと、アルゴスの皆はハッとしたような顔をした。

「あ、ああ、そうだったな。酔いがまわって脇が甘くなってたぜ」

「テストパイロットとして失態ね。それじゃ話をかえて、コイバナでもしましょうか」

コイバナか………ないな

「残念だが、聞かせられるような睦事など経験した事がないんだ」

鈴乃は凛々しい表情でステラに言い放った

嘘吐け!都と散々激しく抱き締め合ってた仲だっただろうが!

「同胞団の長である私がユーコンの試験小隊と行動を共にするなんて皮肉よね…悠一」

鈴乃は俺の顔を見てニヤリとほくそ笑んだ

何だよ?

「ふふ」

「強いて聞かせられる話なら私の隣にいる男と抱いた事かな?」

な!!?

おいおい、パートナーだからと言ってそれは恥ずかしいだろうが

「それよりさ、好きな音楽ジャンル聞きたいな」

俺は強引に音楽の話を振った

「ん?音楽かい、俺は……特にないかな」

「私は好きな音楽なら何でもいいわよ」

「あたしは優しく包まれる音楽が好きだな」

ん?”猿丸”よ、言ってくれるじゃねぇか

「オールディーズね?」

ステラはとびっきりな笑顔を振る舞う

「彼奴好みの音楽趣向か……まぁいいさ。見せてやるよ、俺達の実力が上だと思い知らせてやる」

俺は安堵な表情で”猿丸”に向け言い放った。



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第14話 紅の姉妹

ようやくアメリカ側のスタッフが今日到着するそうだ。

やっと俺達の任務であるガンダムの演習を行える。

演習は明日の予定だ。

さて、演習前日である今日朝のブリーフィング。

だが急遽本日、アルゴス小隊に広報のための撮影任務が入った事をドーゥル中尉が告げた。演習場の整備や撮影機材の関係だそうだ。

内容は……

「ソ連の戦術機とアメリカの戦術機との共同撮影よ、悠一」

「あ?」

だが俺はこれに、大いなる破滅の危機があることを発見した。

この破滅をさけるべく、俺は果敢に諫言を行うことを決行する。

「東西両陣営の雄・アメリカとソビエトの実験機が、母なる地球の象徴であるアラスカの大自然を背景に、エレメントを組んで飛ぶ……素敵な光景ね」

東西両陣営の雄・アメリカとソビエトの実験機が、母なる地球の象徴であるアラスカの大自然を背景に、エレメントを組んで飛ぶ……か。

俺は咄嗟に吹き笑った

「ぶは!」

笑いを堪えられず大声で高笑いをする

「ぐはははははははは」

「何笑ってるのよ」

「失礼、つい笑っちゃったぜ。まさかあの”猿丸”がアメリカのアクティヴイーグルを乗るとは笑える話だ」

「ああー? どういうことだテメー! アタシの腕がこの程度もできないヘッポコとでも言うのかぁ!?」

よりにもよって、”猿丸”がアクティヴイーグルに乗るのか

あのガキが、共産主義、社会主義思想で脳をやられているであろうソ連の衛士、ましてや同胞国等の欠片である東欧州社会主義同盟と仲良く撮影など出来る筈がない。

「マナンダル少尉! 発言は許可をとってからにしろ。豊臣少尉も仲間をサルと呼ぶのはやめろ」

「へいへい」

どうでもいいがこのブリーフィングの光景……小学校の自由時間の光景と言っても過言ではないな

ま、俺にやられるのが見え見えなんだがな

仕切り直しだ

「衛士としての腕は貶しません。むしろ大きく秀でたものがあることを認めます。ですがこの任務に求められるのは品性と実力。マナンダル少尉にソ連衛士と仲良く撮影飛行ができるとは思えません」

「貴方も品性の欠片がないでしょ」

「こりゃ一本取られたな」

俺は全員の顔を見回したが、一人を除いて全員「もっともだ」と言う顔。

「この任務に限っては、ジアコーザ少尉もしくはブレーメル少尉。どちらかが代わりにアクティブに乗る事を愚考致します。ドーゥル中尉、如何でしょう」

しかし俺が尽くした諫言は届かない。

アルゴスは破滅の昏い道を歩み行く。

「まさに愚考だな。撮影の求める飛行はかなり難易度が高い。両名ともしかるべき時間があれば熟すだろうが、撮影は今日だ。アクティブイーグルに乗り慣れ、操縦技術に優れるマナンダル少尉に任せる。マナンダル少尉、豊臣少尉の心配は杞憂だな?」

「勿論です! 豊臣の心配する事など何ひとつ、全く起こりません!」

おうおう、言ってくれるねぇ

フラグ回収ってとこか

”猿丸”と一緒に死ぬのは勘弁だぜ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、演習前日の今日よりやっとフルアーマーガンダムに乗れる。

俺と鈴乃の今日の予定は、互いのガンダムの機動チェック。アルゴスは撮影だ。

正式な衛士となったいま、流石に俺一人だけパイロットスーツはもう着れないので、衛士強化装備を着なければならない。ただし対G性能は普通のものより格段に向上させてある。

99式衛士強化装備弐型……これが俺が着る強化装備だ

因みに鈴乃は99式衛士強化装備着用しつつ99式気密装甲兜と言う名称の簡易ヘルメットを被り機体を操縦する

アルゴス小隊とともに衛士強化装備を着て格納庫に集合した。

互いのチームごとに今日の予定を確認する。

「明日の演習、準備は出来てる?」

「あだぼうよ、俺がそんなヘマすると思ってるのか」

「思わないけど、軍律も言葉使いもダメのようね」

「?」

「彼奴に勝ちたいんでしょ?ダリル・ローレンツに」

………そう、だな。

彼奴を倒すまで俺は絶対に死なねぇ

俺は鈴乃と傍にくっつきつつ笑みを浮かび合う

”猿丸”は「こいつウゼェ~!」とかほざいた。

「衆人観衆の中でハデに転んで泣いちまえ。お姫様」

「ソ連衛士と乱闘して営倉にブチ込まれなさい。”猿丸”が」

「ぐぬぬうぅ!」 と、睨む”猿丸”だが鈴乃は涼しい表情で無視した。

そこにアルゴス常識人2人がたしなめる。

「やめなさいタリサ。2人とも任務で争わないの。ミスが出ないよう、互いにフォローしあうのがチームよ」

「まっ、タリサのお守りはこちらの役目だ。互いに相手の仕事には口出しせず、自分の仕事を完璧にこなそうぜ」

しかし、これで互いに任務に出るのは少しおもしろくない。だったら………

「んじゃ、賭けと行こうか」

「はぁ? 何をだよ!」

「もし、お前が撮影任務を滞りなく熟したなら、俺達は以後サル呼ばわりはしない。そちらも、俺達が演習を完璧に熟したなら鈴乃を”お姫様”と呼ぶのをやめときな。こう見えても本土防衛軍で佐渡島防衛戦に生き残った衛士の一人だ。タリサだったか?お前が鈴乃に対し言ったのはそれは佐渡島の人間に対する冒涜だと俺は解釈するぜ」

「こう見えてもは余計よ」

ステラ、VGは「なるほど」と言うように頷く。

「良いんじゃないかしら? 仲直りのきっかけになりそうだし」

俺は確信している。以後も俺は彼奴を”猿”と呼び続けることを。

そして彼奴が鈴乃をお姫様呼ばわりをやめさせる完璧なプランだ。

「整備の連中に面白い博打を提供してやれそうだぜ。悠一。あんたもやろうぜ!」

まるで銀行のような博打だな、VGさんよ。

俺達の成功と彼奴の失敗にに預ければ、利子がついて返ってくる。

「ふふ、仕方ないわね。恭子様の頼みだもの……悠一のお守りは私の役目よ」

おっ、心強いな鈴乃は、いや前からそうか。

「しかしよタリサ。真面目な話、さすがにここまで舐められっぱなしじゃ、同じアルゴスとして立つ瀬ないぜ」

「そうね。衛士は戦闘だけじゃなく、あらゆる状況に対応し、滞りなく任務をこなすことも重要な資質よ」

「ああ、分かっているよ。ガキじゃないことを証明すりゃいいんだろ? ひとつソ連の冷血女どもと仲良く握手でもしてくるぜ」

撮影任務の機体搭乗前に、アルゴスの3人はソ連衛士の待機所へと向かった。

これは見逃がせないな。

「私も行ってくる。あの”猿丸”は確実にやらかす。だから決定的瞬間を見て、悪役中隊長の如く笑わなければな」

「……………程々にな。本当に仲が良いな、お前ら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。ソ連チームの待機所。

そこのソ連女衛士に、今日の撮影フレンドリーによろしくをしに行った”猿丸”の結果は……。

―――――――パアァァァン!!!

「……なっ……にすんだゴルァーー!!!!!」

握手に差し出した手を見事に振り払われた。

鈴乃は予定通り悪役中隊長の如く。気高く声を響かせて。

「クククク…あははははははははははははは、ははははは…! 流石は冷血ソ連衛士。”猿”と握る手は持っていないという事か」

幼い雰囲気の少女衛士を側に連れているソビエトチームの女衛士は、そんな鈴乃をジロリと見る。

「馬鹿笑いはやめろ享楽主義者。人前で声を立てて笑うなど、貴様は本当に衛士か? 西側の衛士育成機関は欠陥だらけのようだな」

そう言われると鈴乃は怒りを露にする

「日本帝国軍の一中隊指揮官だった衛士に喧嘩を売るのか? 少し気になってたが隣にいる子供はなんだ?そんな子供を連れ回し侍らせ、くっつきながら待機するのがソ連衛士の流儀なのか!?」

少女に指刺して言うと、女衛士は指先から少女を守るように前に立つ。

「………………イーニァはれっきとした我が国の衛士だ。復座仕様となっている私達の機体に、私とともに搭乗する大切なパートナーだ」

「訓練兵が何故ここに?ふふ……」

冷静になり鈴乃は佐渡島防衛戦の話をソ連の衛士に振る。

確かに衛士強化装備をつけてはいるが、訓練兵かと思ったぜ。

俺の決めつけだが平凡な音楽趣味のこの女が、任務に託けて随伴させ、隠れてイチャコラしてるのかと思ったぜ

「佐渡島防衛戦……東側である貴様でも知ってるだろ?」

「アメリカに見捨てられ島1つBETAに吞み込まれ挙句の果てに犬死になった衛士が沢山産んだ事だろ?流石に私達でも知ってる」

ソ連女衛士は鈴乃を侮辱し都が佐渡島で戦死した事含めて犬死と言い放った

「あの島には5万人が住んでて、その中には民間人が沢山いてた!新潟で佐渡島にいた衛士の殆どが徴兵されて島の守りが手薄になってしまった……あの時、地獄を見ていた。BETAに喰われる島の人間が犠牲になり橘司令や坂崎大尉が死んだ!不安で悲劇で…私は悲しかったんだ!それなのに貴様は坂崎大尉達の事を侮辱し貶した!最早鬼畜の所業だ!」

鈴乃は敵意を剥き出しソ連女衛士に怒りをぶつけた

「心中お察しするよ、我々は慣れ合いを好まない。二度と近寄るな!……………いや、貴様。さっきイーニァを侮辱したな。その罪、安くはない。覚悟しておくんだな!」

「貴様を完膚なきまで叩き潰す……!」

うわっ、険悪になってきたな……。

ヤバイ! 鈴乃がやらかした!?



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第15話 ESP

悠一Side

あのソ連の女衛士たちは、西側の間で紅の姉妹と呼ばれているそうだ。

姉のクリスカ・ビャーチェノワ。

妹のイーニァ・シェスチナ。

名字が違うので血は繋がっていないのかもしれないが、2人ともよく似ていることと、本当の姉妹のようにいつも一緒にいる事からそう呼ばれているそうだ。

秘密主義のソ連らしく彼女らの詳しいことは何もわからないが、訓練などを垣間見た者の話では相当のスゴ腕らしい。

……姉妹と言うより義理の姉妹だろ。

連中は便利な道具と扱っているだろう

恐らくだが、透視とテレパス……レーダーやセンサーの代わりに見て、無線の代わりに別の衛士と伝えられるし敵機がいたら確実に的確で狙い躊躇いもなく撃つ

……気に入らねぇな、特にクリスカって女は

能力を人為的に向上して実戦で使えるレベルの衛士だ

所謂扱いが難しい繊細な衛士って訳だ

あんな怪物を生んで作ったのがESP発現体

簡単に言えばデザインベビー…いやクローンと言うべきか?

俺が知ったこっちゃない!どうせ使い捨てられる

現在俺と鈴乃は基地の端の演習場にて、唯依の指揮のもと互いのガンダムの機動確認中。

実はこのアラスカの任務中は俺達は唯依の指揮下に入っているのだ。

演習の段取りなんかも彼女がやってくれている。

つまり彼女は指揮官として常にこちらをモニターしているのだ。

「鈴乃、一つ小話していいか?」

《任務中だぞ、私語を慎め》

「すぐ終わるから」

《……少しだけだぞ》

「ありがと、宇宙世紀と言う世界で1人のパイロットが『尖り帽子と噂されたジオンのニュータイプ…「ラ、ラ」って音が聞こえたらもう攻撃を受けて一巻の終わり………』」

《ふむ、それで?》

「『そんな神出鬼没の敵を倒したのは連邦のやはりニュータイプで…最初のガンダムを操るまだ十五、六歳の子供だった。あんな怪物共を養殖しようって事で作ったのが強化人間だろ?ゾッとする話だぜ』と」

俺は機動戦士ガンダムサンダーボルト第99話でとある人物が言った台詞を鈴乃に教えたが、クスっと笑みを浮かべる鈴乃はこう言い放った

《ふふ、そんなオカルト話誰が信じるのよ》

「俺も信じちゃいなかったが、ここにいてもおかしくはないくらいだぜ」

ニュータイプ……宇宙世紀においては、時空を超えた非言語的コミュニケーション能力を獲得し、超人的な直感力と洞察力を持つ、新しい人類とされる人間を指すが、その概念は明確にされず、さまざまな解釈が可能で想像の余地を残した形で描かれる。ニュータイプに対して、彼等のような特殊な能力を持たない従来の人類はオールドタイプと呼ばれ、やや軽蔑の意味合いを込めて使われるケースも多い。

つまりクリスカとイーニァは宇宙世紀の学者や研究者目線で言うとニュータイプだ

……多分。

《謎だな。けど今は演習に集中しろ。考えれば謎が解ける訳もなく私達に答えを知る術がある訳でもない》

小話を終え任務に集中しようとしたその時、そこには2機の戦術機が猛スピードでこちらに飛行してきていた。

それは撮影任務をしているはずの”猿丸”のアクティブイーグルとソ連のチェルミナートル。

それらが縺れるようにドッグファイトをしながらこちらへ向かっている。

追われるアクティブイーグルは高度な錐もみのような急速回避運動をとり続け、その動きは衛士の技量の高さを伺わせる。

されどそれを追うチェルミナートル。

それほどの動きを見せるアクティブイーグルに対し、なんと常に背後をとり続けている。

まさに、それは通常ではあり得ないほどの技量。

………………ニュータイプ? やはりか?

馬鹿が、あり得ない!

俺は顔から血の気が引いてきた。

――――――ゴオォォウッ!!

それらは轟音とともに俺達の上空を走り抜け、彼方へと飛び去っていく。

あまりに信じられない光景に呆然となって見送った。

まさか戦術機でドッグファイトとはな、俺の予想すら越える、どこまでも恐るべき奴なんだ

《推進剤が切れるまでやらせておきなさい。実弾を装備している筈もないわ》

「被弾していた。このままでは墜とされるぞ!」

俺の言葉に戦慄が走った。

《しかし何故、実弾を…?》

「分からねぇ…」

俺がそう呟くと、唯依が説明してくれた

《撮影には銃撃シーンも予定されていた。突撃砲を斉射する派手な絵もほしいらしくてな。待っててくれ。とにかくCPに連絡をとって状況を聞いてみる》

だが状況を見たところ、あのソ連衛士……紅の姉妹とやらは相当ぶっとんだ奴だ。

何があったにしろ、実弾で相手を撃つなど普通ではない。

今すぐ動かなければ間に合わないかもしれない。

「俺達を救援に行かせてください。ガンダムでなら追いつけます」

俺は決断した

《いいのか?機体は…》

「構いません!」

《……………分かった。CPに要請しよう。CP、こちらP-11で訓練中の篁だ。現在、撮影任務のはずの2機の暴走を見た。それについてだが、こちらで……………》

通信の向こうで唯依が暫くのCPとの会話のあと、やがて待望していた答えがきた。

《許可が出た。行け!》

「了解しました!」

瞬間、互いのガンダムは目標が飛んでいった方向へ向け推進する。

《私が先行する、後ろは頼んだぞ。豊臣少尉》

「ああ、前は任せた!鈴乃」

《だから任務中だ》

「へいへい、よぉし…楽しい楽しい戦場へと行くぜ!」

そしてドッグファイトをしている2機に向け、まっしぐらに飛行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

俺はベアトリクスが下した命令を基づきユーコン基地へと派遣され、リルフォートという歓楽街で1人、難民解放戦線のメンバーであるナタリーが経営する『PoleStar』というバーに来ていた

「命令書通り、ここが……俺が入る潜入するところか」

嘆いても何も起こらないのでバーの中に入り、そこにはバーテンダー服を着ていたナタリーが待ち構えていた

「貴方がダリル・ローレンツね?ヴァレンタインから話は聞いたわ、丁度人手が足りなかったから勧誘しようと思ったのよ」

ヴァレンタイン……難民解放戦線の実行部隊のリーダーの事を指してるな。

俺がテログループを潰すとも知らずに……。

「一つ目の戦術機……貴方が乗ってるの?」

「サイコ・ザクの事を言ってるのか?」

「ん?それが貴方が乗ってる機体の名称なのね……それは置いといて早速だけど面接行うわ」

やっぱそっちからだよな……。

マニュアル通りにやれば…何とかなる

「分かりました」

「ふふ、いい返事ね。事務所に行きましょ」

そして俺は事務所に行き面接を受けた

その結果は合格

俺は住み込みの形でナタリーが経営するバーで雑用係として雇われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タリサSide

 

けたたましく鳴り響くロックオン警報。

ヘッドセットからは飛行計画にない行為を激しく咎める管制官の怒声。

狭い管制ユニット内にこれだけの騒音でおかしくなりそうだったが、そんなものに構っていられなかった。

「ちくしょうっ! 何でだ!? 何で振り切れねぇんだ!?」

背中にへばりつて離れず、ときどき的確に撃ってくるソ連機・チェルミナートル。

自身の技量の限りを尽くし、強度限界ギリギリの回避機動をとっているにもかかわらず、いつまでも引き剥がせない。

きっかけは、あのソ連の冷血女が、あたしの握手に出した手を思いっきりブッ叩いて拒否したことからだった。

機体に搭乗し任務にはいったあともムカつき、あの高圧的な冷血女の顔がまぶたにチラついた。

だから細やかな意趣返しにと、チェルミナートルにロックオンをしてビビらせてやろうとした。

だがその瞬間――――

視界から奴が消えたと見え、と同時にそいつに後背に回られ、さらに相手の火器管制が実戦モードになったと警告ダイアログが立ち上がる。

―――マジか!? ロックオンされたとはいえ、警告もナシに他国機に実弾向けるなんて!

無論、原因はどうあれ、こうなったからにはこちらも自衛のための回避機動にうつった。

失速起動、旋回、変則、コンビネーション。

技術の限界を駆使し、高Gに耐えながら、あらゆる回避起動でヤツを振り払おうと死力を尽くした。

紅の姉妹の異名をとる相手は、聞いた以上のスゴ腕。いや、もはやバケモノ!

此方の回避などものともせず後ろに張り付いてくる上、本当に撃ってきた!

結果、予定の空域を大きく逸脱し、演習場を横断し、とうとう航空路にまで来てしまった。

運悪く、目の前に大型輸送機が着陸寸前。

―――衝突!…………寸前だったが、何とかその上を超えて回避。

されど限界は近い。

後ろに注目し、どうにか奴から逃れる術を探していたその時だ、後ろから奇妙なものが接近してくるのが見えた。

「……………あれは?」

それは妙に未来的なデザインの戦闘機。

それがこちらのスピードをものともせず、迫ってきているのだ。

「――――なぁ!?」

驚いたことに、それはそのスピードのまま、チェルミナートルに向け右に装備してる光学兵器で威嚇射撃した

「はは………マジかよ。作った奴、何考えてんだ」

フルアーマーガンダムと呼ばれる、伝説ともなった戦術機だ。

そしてそこから、やはりあの”お姫様”が通信でがなり立てた。

もう一つの戦術機、アトラスガンダム

レールガンを構え射撃体勢に入っていた

《マナンダル少尉。何故、私の予言通りの展開になっているんだ!貴様は本当にサルなんだな…人間ならあそこまで言われたなら、意地でもちゃんと成功させてみせると努力はしないのか》

「うるさーい! あのソ連の馬鹿姉妹が悪い! こっちが友好的に握手しに来たのに、あの態度はないだろうっ! だから………っ」

そうだ、あの馬鹿姉妹が悪いんだ

《あれは、貴様の笑顔があまりに怪しく気持ち悪く何か企んでいそうだったからだ。私にも妹がいたら、絶対近寄らせない……坂崎大尉もそうすると思う》

「なんだとっ!? ゴラァア!…………うあっ!」

ドカンッ!

機体を揺さぶる激しい衝撃。

ダメージ警報が鳴り響き、またしても被弾した事を理解。今度は致命的だ。

機体の推力がおちて速度維持ができず、グングン高度が下がっていく。

《撃ってきたぞ! マナンダル少尉、そいつはこっちで引き受ける。貴様はそのまま着陸を!悠一行くわよ!》

《おう、アンタはそのまま帰んな》

「気をつけろ………っ。そいつはスゴ腕な上にいかれてやがる。本気で撃ってくるぞ」

そんな負け惜しみを言うので精一杯だった。

損傷チェックを見たところ、右肺面の強化スラスターと右の跳躍ユニットがやられていた。

お姫様が彼奴を引きつけてくれることを祈りつつ、姿勢制御に全力を尽くすしかない。

テストパイロットの意地として、機体を捨てて脱出なんてできないんだから。

――――悔しくて涙が出た。

彼奴にはあたしの何もかもが通用しない。

十数分のドッグファイトの中、それを嫌というほど思い知らされた。

渾身の回避機動も、アクティブイーグル限界までの加速も、まるでなかったかのようにチェルミナートルは、次の瞬間には背面にピッタリついている。

ここまであたしがどうしようもなかった相手はいなかった。

だけど”負け”を認めることだけは出来ない。

あたしの中の何かがそれを拒絶する。

これはあたしの中に流れる勇猛なグルカ族の血と誇りか。

だから叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぼえていろよっ チクショォーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滑走路脇のうずたかく盛り上がった土砂。

そこがあたしの不時着した場所だった。

無敵だったF-15・ACTVアクティブ・イーグル。

それは情けなくもジ・エンド……兵士の如く仰向けに空を仰いでいる状態だ。

どうにか機体の損壊は免れたが、復活できるかは整備次第だろう。

「ああ、くそっ! 彼奴ら………っ! そうだ、あのお姫様は無事か!? まさか、ここの上に落ちてきたりなんかしねぇよな?」

あたしはチェルミナートルを引きつけているはずのあのお姫様が気になり、上空の様子を拡大望遠で確認した。

その瞬間、機体の先行きより、これからのことより、そしてあたしをさんざん追い回して墜としてくれた、あの紅の姉妹の恨みより、なお―――

拡大望遠で見るその光景に、あたしは新たな悔しさが湧き上がった。

「チックショウ。やっぱあのお姫様、”本物”かよ」

その空中には、お姫様が駆るアトラスガンダムとチェルミナートルが猛烈なドッグファイトを繰り広げている光景があった。

そしてあたしの時とは逆に、チェルミナートルはアトラスガンダムに常に背後をとられ続けていた。

それを引き剥がそうと猛烈なスピードと旋回で動き回るチェルミナートル。

されどその背後に影のようについて離れないアトラスガンダム。

後方支援するフルアーマーガンダム

さながら1機は激しくドラムを叩いて演奏したりあとの2機は激しいダンスでも踊っているかように華麗に空中を舞っていた。

どこの国で作られたかもわからない、されど無敵の戦術機。

それはテレビのニュースで写ったそのままの姿だった。

「ちくしょう。あんなお姫様に負けているだなんて、信じたくなかったんだけどな………」

青い空の向こう。

幾つもの高難易度の回避機動を高スピードでくりかえす二機。

それはまるで終わりがないようだった。

いつしかあたしは悔しさも忘れ、ただ、その華麗な動きに吸い込まれるように見入っていた

「…………………綺麗だ。まるで舞踏会のダンスだな、お姫様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

「くううっ! なんて機体だ!」

また何度目かになる、背後へまわってのロックオン。

アトラス相手にこの状態になったならば、この世界のいかなる戦術機も逃れる術などない。

――――その筈だった。

「うぐ!…またっ!」

だがチェルミナートルは、またしても瞬間にロックを外した。

あろうことか、ヤツは逆にこっちの背後へ回ろうとする!

その気配を瞬時に察知した私は、機体を最小半径で旋回させ、またしても相手の背後を狙う!

だが彼奴は複雑すぎる螺旋機動で回り込む!

―――――信じられない! 本当にコレが戦術機の動きか!?

「レールガンで仕留めて見せる!墜ちろ!」

私はアトラスガンダムの武装の一つであるレールガンを構え射撃した

が、チェルミナートルはそれを躱す

外れただと……!

だが、どれだけ難しかろうと、背後を完全にとって強引にでも奴を止めるしかない。

もう一発レールガンを構えチェルミナートルに照準を定めつつ射撃しようとした時――――

「!」

チェルミナートルからの殺気プレッシャーが増した!

と同時、奴はさらに荒れ狂い、動きは獣じみたものへと変化する。

攻撃が加速度的に増えていく。

雷の雨を捌いている気分だ。

躱す躱す躱す躱す躱す躱す躱す躱す躱す! 

「なっ!?此奴……」

完全な死角から38mm弾が飛んできた。

反射的に避けはしたものの驚いた。

《単機で彼奴では倒せない!俺達の連携プレーでいけばやれるかもしれない。鈴乃、力を貸してくれ!》

そうだ、連係プレーで攻撃を仕掛ければ

「いいわ、悠一!動きを合わせるわね?」

《俺達は息ピッタリ合うんだ!ケリをつけるぞ》

悠一はフルアーマーガンダムの二連装光学射撃兵装を構え連射し、私はレールガンを一発ずつ放った。

この攻防を穏便にすませることは不可能だ。そう見切った。

躱し躱されの螺旋から、ようやく2機が止まる瞬間がきた。

「残り18発……」

私はレールガンでチェルミナートルの管制ユニットへ。

チェルミナートルはアトラスのコクピットに突撃砲をロックオン。

ピタリ互いの急所を狙ったまま、どちらも微塵も動けない。

「佐渡島の奪還を夢のまた夢に終焉するなど私は……生きて日本に帰り異星起源種共を殲滅してみせる!」

レールガンで射撃しようとしたが、いきなり近距離通信が入った。

《待て!双方武器を下ろせ!互いにここで争う理由はない筈だ》

「え?何故だ」

《ユーコン基地の管制塔から演習中止と命令下った。アンタは俺より2つ上の階級だ。独断で止めることは出来ない》

「……分かった、これより帰還命令を下す」

私はレールガンを下げると、ゆっくりチェルミナートルから離れていく。

後方を確認したが、チェルミナートルはフルアーマーガンダムとアトラスガンダムの両方にしかける様子もなく、止まったままだ。

やがて悠一もこちらに来ると、チェルミナートルもソ連側の基地へと進路をとって小さくなっていった。

微かな戦闘の余韻を残してこちらも帰投していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《しかし乗ってたの、本当に人間か?》

帰還の途中、ポツリと悠一が言った。

「奇妙な感じがするわね。そう感じるほどの腕だったが、あれは人間だ」

《躊躇いもなく無慈悲で鈴乃を殺そうとしていた……的確な射撃、距離、判断力があるからあれはただの衛士じゃねぇ》

「ただの衛士ではない?」

《ああ、あれは殺戮者だ。ソ連だろうが日本だろうと関係ない》

「殺戮者………もしそうだとしたら本気でやらないといけないわね」

ソ連の衛士と戦ったが、確かにあの動きと射撃は今まで出会った衛士達と比べ物にならない

クリスカ・ビャーチェノワ、イーニァ・シェスチナ

見た目は普通の姉妹に見えるが、戦術機で戦ったら……戦いに慣れた真の殺戮者だ

「悠一、帰ったら私と付き合わない?」

《ああ、良いぜ。アラスカのサーモンを鱈腹食いたくなってきた》

私は和やかな笑みを浮かべ基地に帰投した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

チェルミナートルの件で鈴乃と共に帰投した後、リルフォートで『PoleStar』と言うバーに入り2人仲良くカウンター席に座り込んだ

鈴乃は俺とくっ付いて傍から離れず俺の腕を胸で挟んだ

「あら、お二人さん仲いいわね」

ナタリーは俺に話しかけ鈴乃の事を『彼女』と勘違いした

「はは、ただのパートナーだよ」

「彼女です」

な!!!!!!?

「ふふ、お熱い事。いっそ結婚しちゃいなさいよ」

「はは、なぁ鈴乃」

鈴乃は満面の笑みで俺に言い放つ

「そうね……私達結婚した方が楽になれるわ」

おいおい、俺には恭子がいるんだぜ

「で、何飲むの?」

「んじゃあ、バーボンウイスキーを頂戴するぜ」

「はいはい、バイト君出番よ」

ナタリーはそう言うと、一人の男がグラスに氷を入れバーボンウイスキーを注いだ

ん?此奴…どこかで見たような

「……」

俺はあいつの顔を見ようとしたがナタリーに遮られた

「どうしたの?」

「いや何でもないよ」

「そう?」

彼奴な訳ないか……少し冷や冷やしたぜ

とか言いつつ、彼奴もここにいる。

666の衛士達も

1人遠く離れた席に座ってる女性がぽつんとカクテルを飲んでいる

……此奴は、癖毛がある銀色の髪型、闘志を燃やすその目、戦闘服(BDU)を胸元開けてる姿

見間違えるわけがねぇ…この女はシルヴィアだ

俺はシルヴィアが座ってる席をチラリと見たが、気づかれたか彼女は俺が座ってる席に近づきその隣に座り鈴乃と挟み打ちされる形で身動き取れない状態となった

「少し良いかしら?」

「ん?」

「あまりジロジロ見ないでくれる?気持ち悪いのよ」

何だこの目は…復讐鬼!?

いや、それよりも何故俺に近づいたか気になるな

「……何故俺に近づいたんだ?」

「別に…」

おいおい、不貞腐れた態度だな

俺も人の事言えないか

「アンタ、666のシルヴィア・クシャシンスカ…ポーランドの亡霊と異名取る歴戦の衛士」

「だから何?それ慣れ合い?やめてくれない、私は半端な衛士とは慣れ合わないの」

「なら本気で競い合ったらどうだ?慣れ合うよりそっちの方がマシだろ」

俺も慣れ合いは苦手だけど出来る限りの事はやっている

「それ本気で言ってるの?」

「おう、それよりさ…好きな音楽ジャンルは何だ?」

「一昔前は何も興味なかったけど今はジャズを好んで聴いてるわね」

「おお、俺もジャズ好きだぜ。爽快感で駆け巡り、自由に走り回るような感じがするんだ」

俺は豪語しつつ自慢げで言ったが、シルヴィアは不貞腐れた態度をやめ無愛想な態度を取り俺と話す

「貴方とは気が合いそうね……」

「違った出会いなら俺のバンドメンバー加えてやろうと思ったが残念だな」

「ごめんなさいね、あと私はポーランド人よ」

そう話してるうちにナタリーが氷割のバーボンウイスキーを3つ差し出した

「あら、頼んでないけど」

ナタリーはニッコリと笑顔を振る舞う

「私からのサービスよ」

「どうも」

「ん、ありがとう」

シルヴィアと鈴乃は感謝の言葉を述べる

ナタリーも気が利く女性だな

「私が気が利く女性?そんなことないわよ」

心の中を読まないでくれ……それにしてもよく見ると良い女だ

一人の男がナタリーに話しかけた

「ワインの補充した方が良いですか?」

「うん、お願いね」

やはりここにいてたか……ダリル・ローレンツ

だが何でナタリーと一緒に働いているんだ?

ダリルは俺がここにいる事を気が付き、顔を伺う

「お前も来てたのか」

「よう、サイコ・ザクの次はナタリーの彼氏ごっこか?呆れてもの言えないぜ」

ダリルは俺を睨む

「俺とナタリーの仲を馬鹿にするのか?」

「そう熱くなるなって、『俺達付き合ってます』って顔に書いてるぜ?」

「ジャズにしか取り柄がない男が何を言うんだ?」

「てめぇ、言ってくれるじゃねぇか!」

俺とダリルは互いに口喧嘩し始めたが、ナタリーはパンパンと手を叩いて仲裁した

「はいはい、喧嘩はやめなさい。ダリルはこの人とお知り合いなの?」

「……因縁の相手ですよ」

「豊臣悠一ね?ふふ、タリサから話聞いたわ。日本の帝都防衛戦や出雲奪還作戦で活躍した凄腕の衛士。合ってるかしら?」

まぁ、合ってるには合ってるが

「ああ、合ってるぜ」

俺はグラスに入ったバーボンウイスキーを一気飲みした

鈴乃もバーボンウイスキーを口に含み俺の唇を重ねつつ口に移した。

「!」

「……惚気てるわね」

「ふふ、熱いわね…」

「……」

口から離し、鈴乃は

「今夜はスローバラードを奏でて一緒に……」

と一言を添え、鈴乃は妖艶な笑みを浮かべるといきなり抱き締めた

酔い潰れたのか?まだ一口しか飲んでないじゃねぇか

「……お前は良いな、羨ましいよ」

ダリルは俺と鈴乃を見て羨んだ。

ホント、アンタと出会って良かったと思う…鈴乃。

最高の女だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウヤSide

 

「よお、ユウヤ。見てみろよ。雄大なアラスカの大自然ってやつだぜ」

またヴィンセントが声をあげた。

全くガキじゃあるまいし、何かを見つけてはいちいち声をあげるのはやめて欲しい。

ここは国連軍超大型輸送機An-225ムリーヤの客室。

間もなく目的地のユーコン陸軍基地へと到着するため、着陸態勢にはいっている。

さっきから煩いのは俺の専任整備士のヴィンセント・ローウェル軍曹だ。

「いやー楽しみだぜ。なんせあの噂の”FG”と”A”があるってんだからな!」

「あんなの与太に決まっているだろう。たった一機で要塞級7体倒しただなんて信じられねぇ」

「はははは。尾ひれつきまくってるねぇ。けどよ、発表の演習するってんならなら、それなりのモンが出てくるんじゃねぇか? せいぜい楽しもうじゃねぇか」

「こっちはその伝説をブッ潰すのが任務だ。ヴィンセント。ステージは明日だが、大丈夫か?」

「任せろ! パーティーまでにラプターを最強に仕上げてやるよ」

「よし。明日そいつをブッ倒したらすぐ帰るぞ。観光の時間はないからな」

「……………それだがよユウヤ。勝ったからって本当にクソ上官がお前を戻すと思うか? 彼奴、日頃から問題を起こすお前を相当嫌っていたからな。何らかの理由をつけて、戻さないつもりかもしれねぇぜ」

「…………なに? 何かそんな臭いでもあるのか?」

その時、到着を示すアナウンスが鳴った。外を見ると、目的のユーコン基地。その滑走路が見える。

相棒は顔を和らげ、ジェスチャーを取った。

「いや、なんとなくそう思っただけだ。悪かったな。勝負前に不安を煽っちまって」

「脅かすな。この輸送機が墜落したみたいな気分に………」

 

 

――――――――ガクゥッ!!!!

 

 

いきなり機内が激しく揺れた!

「なッ!! どうしたッ!? 再アプローチか!?」

ヴィンセントが叫んだ。

だが違う。衛士の直感がそう告げる。

こいつは再アプローチなんて生易しいもんじゃない!

状況を知るため、すぐさま操縦室へ向かった。そこに入ると、パイロット達が管制と緊迫したやりとりをしていた。

その話の内容によると、訓練空域を外れた戦術機が2機、こちらの後方から急接近しているらしい。

「ちっ、どこのバカだ! …………マズイ! おいっ、ここで上昇するな!」

噴射音から、後方から来る戦術機の動きは、輸送機を飛び越えようと上昇することを予測しパイロットが操縦桿を引いて上昇するのを手で押さえて止めた。

俺の予想通り、2機はこちらを飛び越え衝突は回避された。

しかしその後、その2機は滑走路上空でメチャクチャに飛び回りながらドッグファイトを始めやがった。

「これでは滑走路を使えません! 予測不能の動きに、衝突の可能性が付き纏います」

…………ったく。ここの基地の衛士管理はどうなっているんだ。

ともかく俺はこう提案した。

「とにかく距離をとって観察しよう。あれがどうなるか報告は必要だろう。撮影ができるなら撮っておいてくれ」

「ユウヤの言う通り! ぜひ観察しましょう!」

いつの間にか来ていたヴィンセントが言った。

「ヴィンセント、お前も来たのか」

「おおよっ。俺達の歓迎にしちゃ、随分と手荒いじゃねぇか。それよりあのドッグファイト、ちょっと凄ぇぞ」

ヴィンセントは嬉しそうだ。こんなわけの分からない危機に巻き込まれたってのに。

もっとも、俺もあの戦術機どもの動きには目が離せない。

とくにソ連製らしき戦術機の技量には目を見張るものがある。

そのとき、格闘機動している2機の後ろから、飛来するものが見えた。

「おっ? なんだあの航空機は。見たことない形式……………なぁ!?」

その戦術機はレールガンを構えソ連製の戦術機に向け射撃していた

「バカな…………レールガン装備の戦術機ッ!? そんなものが既に実現しているなんて!」

「おいっ! アレってよ。噂の………まさかマジとは思わなかったぜッ」

「…………ああ、”A"だ」

やがてイーグル改修機の方はソ連機より被弾し地上へ。無事着陸できるだろうか。

それはともかく。あのイワン野郎、本気でイカレてやがる。

そいつは”A”とまでドッグファイトにかかりやがったのだ。

あんなふざけた機構をつけた戦術機が真面に戦えるわけがない

そう思ったのだが…………

「なんだよ、ありゃあ――――――」

ヴィンセントの呟きは俺の心も代弁していた。

空中で2機の戦術機は、信じられないほどの高速で格闘戦機動をしたのだ。

信じられないことに、”A”の方は先ほどイーグル改修機を圧倒したソ連機を相手に、レールガンで挑んでいる。

さらに信じられないことに、それで完全に優勢に戦っている!

目まぐるしく前後を入れ替え、互いの死角にはいらんと旋回をくりかえす。

さながら狂走のジャズダンス。

「お、おいユウヤ。衛士として聞きたいんだが、お前がアレに乗ってたらどうなっている?」

「無事なわけ………ないだろうッ!」 

管制ユニット内のGの変化は縦横に目まぐるしくきているはずだ。

強化装備のフィードバックでも打ち消せないだろう。

たとえ鍛え抜かれた衛士といえども、とっくにブラックアウトしていなければおかしい。

「まさか無人機? 操作はどこか別の場所で…………いや、遠隔操作では操作が反映されるのにラグがでる」

とすると、やはりアレを可能にする技量とGに耐えられる人間がいるのか?

俺はあの2体の戦術機の中にいる人間に、畏怖とも嫉妬ともいえるような感情を覚えた。

引き込まれたように目が離せない。

やがて超常の戦術機のジャズダンスにもフィナーレの瞬間がきた。

互いの管制ユニットに向け、互いに武器を差し向け合い止まったのだ。

だが、またしても目を見張る出来事がおこる。

一方がもう一方のユニットに銃口を突きつけているのに対し、もう一方はレールガンを構えもう一方のユニットに突きつけていた。

しかし”A”の後ろに重武装した戦術機”FG”が発光する弾丸を放ってきた。

「あれはビームライフルだ!2連装のだ」

「はぁ? SFじゃねぇか!」

「フィクションの技術を本当にしちまうなんざ、よくあることだろう? 戦術機だってSFのロボットを本当にしたものだしよ」

「それは…………」

いや、あの機動もSF染みていないか?

思い返せばあの戦術機は、俺が知る戦術機の限界を超えている。

機体技術も衛士の技量も理解不能なあれは…………あの未知の戦術機に見入っている俺達にクルーが言った。

「再アプローチします。今なら安全に滑走路が使えますので」

「あ、ああ、頼んだ。ヴィンセント、席に戻るぞ」

客席に向かいながらも、ヴィンセントは名残惜しそうにフロントガラスの向こうを見続ける。

「くううっ、もっと見ていたかったぜ! あの未知の技術、機動。間違いなくあれが…………ッ」

もはや疑う気持ちはなかった。

「ああ”FG”と”A”だ」

「多分だが、ありゃあ地球の技術じゃないぜ。俺はそれなりに戦術機の技術に触れてきた整備屋だがよ。あんな技術体系は見たことがねぇ。たぶんどっか別の世界のモンだ」

「はぁ? 別の世界って何処のだよ」

「さあな。ま、そいつは機密だろうが、乗っている衛士にでも会えりゃ少しは由来がわかるかもな。それより大丈夫か? 明日、あれとやるんだろ」

……………そうだった。

今夜は体調を整えるために休もうと思ったが、それどころじゃない。

一晩かけて対策を考えなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とヴィンセントが無事着陸したムリーヤから出ると、迎えの軍用四駆が来ていた。

「到着御苦労様ですブリッジス少尉、ローウェル軍曹。これからお二人を基地へご案内いたしますが、その前に寄り道をします。先ほど撃墜された衛士を回収して欲しいと要請がありました。お二人にも手伝ってほしいのですが」

ああ、そういや墜とされたイーグル改修機がいたな。

軍用四駆で航空路脇のイーグル改修機の不時着した場所へと赴き、ヴィンセントと協力して機体のハッチを開けた。

墜とされたとはいえ、あの機体の衛士も相当の技量を持っていた。どんなヤツなのか興味はあった。

だが、まさかあのハイレベル回避機動をとっていた衛士が…………

「ちっくしょぉぉぉ! あのイワン女どもめぇ!!」

まさかこんな子供………いや悪ガキみたいなヤツとは思わなかったぜ。

しかもなお悪いことに、そいつは女だった。

ともかくコイツを拾って基地に向かったのだが、車内でヴィンセントと喧嘩を始めて実に煩かった。

だが基地に到着し、コイツの上官らしき中東系の士官から怒鳴りつけられ青くなったサマを見ると、実に爽快だった。いい気味だ。

「名誉ある国連軍広報任務を任されながらこの体たらく。結局大倉大尉の言葉通りになってしまったな。貴様は自分が何をやらかしたのか理解しているのか?」

「あ…………ひっ…………」

「まずは医務局へ向かい精密検査を受けろ。貴様を締め上げるのはその後だッ。駆け足!」

”悪ガキ”は勢いよく敬礼。だが勢いつけすぎて、自分の顔に手刀くらわせて悶絶。

痛そうに片眼を抑えたが、上官に睨まれ、涙目になりながら駆けていった。

本当に悪ガキみたいなヤツだ。

アイツを呆れた目で見送ったその男は、こちらへ向き直った。

「さて、君達が米国からのお客さんだな。日本の試作戦術機の相手をしてくれるという」

「はい。テストパイロットのユウヤ・ブリッジス少尉及び整備のヴィンセント・ローウェル軍曹です。宜しくお願い致します」

「イブラヒム・ドーゥル中尉だ。試作戦術機のテストパイロットは現在ウチの試験小隊と行動を共にしている。おっと、丁度良く彼らがきた」

ドーゥル中尉の促す方を見ると、国連軍の軍装を纏った女が、衛士強化装備を身につけた一組の男女を連れてこちらにやってくるのを見た。三人ともやけに若い

1人は高校生あたりの年齢だが、あとの2人は20代前後だな。

だが問題なのは、三人ともおそらくは日本人。日系の俺に近い1人除いて肌と黒髪と顔立ちをしている。俺にとっては因縁のある国の人間だろうということだ。

「ドーゥル中尉。試作戦術機テストパイロットの大倉大尉、豊臣少尉2名ともただ今戻りました」

「ご苦労だった篁中尉。ウチの跳ねっ返りが迷惑をかけたな。このあとソ連への対応を協議したい。時間はとれるか?」

「はい。勿論です」

 ――――なっ!? 中尉だと!? こんなガキが!?

そう驚いた俺だったが、ドーゥル中尉はさらに驚くべきことを言った。

「大倉大尉、体に異常はないのか? あんなドッグファイトをやっていながら、普通に立って歩いているが」

「ご心配して頂き感謝します。宜しければ明日の演習の訓練に戻らせて頂きたいのですが」

何だとッ!? まさか、あの”A”に乗っていたのがそいつ!?

あれだけの空中機動テクを……しかも、あんな死んでもおかしくない格闘機動をしてなお、訓練を続けるだと!?

此奴の体はいったいどうなっているんだ!!!?

「ドーゥル中尉、発言の許可を」

「ん?何だ豊臣少尉、発言を許可するから言ってみろ」

「許可頂き感謝します、大倉大尉はそう言ってますがいつ体の体調を崩してもおかしくはありません。マナンダル少尉同様精密検査受けた方が良いかと」

「確かに…大倉大尉は申し訳ないが精密検査を受けて貰います」

「しかし…」

「私もドーゥル中尉と同意見だ。あんな無茶なドッグファイトをやったあとに演習など許可できん。明日は豊臣少尉のみで演習に出てもらう」

「大丈夫だ鈴乃、演習は明日だけじゃないんだ。任せろ」

もう一機の試作戦術機のテストパイロットがこの男か。そして明日の俺の相手。

見た目は不良に見えるが口が軽いだけの男ではなさそうだ

本当にここのテストパイロットはどうなっている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

結局、検査室に詰めることに。

夕暮れ時の現在、ガンダムの整備の名目でこの格納庫に逃れてはいるが、この後を考えると実に気が重い。

そんな訳で私と悠一は、格納庫にて明日に備えたフルアーマーガンダムの整備点検を行っている最中だ。主にやっているのは悠一だが。

”猿丸”の失敗はまぁ予想通りだが、そのとばっちりで私まで演習に出られなくなった

「残念だったな。それで今日だけじゃなく、明日もまた一日中検査だって?」

「元凶の貴様さえもう終わったというのに。着任してから検査ばかりで、やっと解放されてアトラスに乗れると思ったら、また検査室に逆戻りか」

赤髪の青年整備兵である紅林二郎少尉が話に加わった。

紅林は佐渡基地でB中隊の戦術機を点検、調整した1人の整備兵だ

佐渡島陥落以降、彼は私について行き佐渡島同胞団の一員として再び整備兵としてやってる

「大倉大尉、貴女は無茶し過ぎですよ。明日の演習のことを話します。豊臣少尉がユウヤ・ブリッジスってアメリカの衛士と一対一でやり合いするみたいですがどっちが勝つんですか?」

「本来の実戦で、戦術機が1機単独で戦いをすることなど、まずありえない」

「どういう意味です?」

「演習でもこんな状況で行うことなど殆どないが、今回はガンダムの機動性能を見せることが目的だ。故にこんな特殊な演習が行われることになったのよ」

紅林はポカンとした表情をしている

「それに、相手は米国の最新鋭機ラプターだ。しかも衛士は合衆国陸軍戦技研部隊の人間。フルアーマーガンダムでも絶対はない」

「何故です?それに負けたら拙いんじゃないんスか。下手になったら日本帝国軍衛士の恥晒しと貶されてしまいますよ」

「だから絶対に勝たなければならない。悠一は勝つわ……」

私はそう言ったが、紅林は何故か気が進まなそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

ユーコン陸軍基地・アルゴス小隊専用格納庫

俺はフルアーマーガンダムのコクピットの中でラジオの音楽番組で流れているジャズを聴きつつドラムスティックで軽快に機器に叩き込みながら演奏している

演習開始15分前。

開始位置へと移動させ待機。

そこは崩落したダミービルを模した建造物が一面に広がる演習場。

さて、このフルアーマーガンダム。演習のために、普段とは大きく変更されている。

まず大型ランドセルに左右付いてるビームサーベルは外し、代わりに65式近接戦闘短刀を装備。

ただし仮付けのため、一度外したら元へ戻せない。

さらに銃器も2連装ビームライフルではなく87式突撃砲。

機動試験のため、武装も標準装備にされている。

ビームライフルとビームサーベルが外れただけだ。

バックパックの右肩部には暗礁宙域の大型デブリを貫くほどの威力を持つ大型ビームキャノン、左肩部に多弾頭型の6連装ミサイルポッドが外したのは少し痛手だな……代わりに92式多目的自律誘導弾システムを装備

「………よし、演習場全体のマッピング及び敵の移動ルートの予想が終わったな」

相手はアメリカの戦技開発部隊でしかも相手は最新鋭ラプター。実戦ならともかく、こういった模擬戦じゃフルアーマーガンダムでも分が悪い

「だが、たった1機の戦術機相手に誰かに頼らなきゃならないような俺じゃ、フルアーマーガンダムに認められるなんて夢になっちまうな」

こんな人間同士の演習に、勝つこと以外に意味なんてない。

意味なんてない

……いいねぇ、この感じのノリ…まさしく戦場だ!ジャズが鳴り響いてヒートアップするぜ

――――――やがて開始の号令が演習場に鳴り響いた。

 

さあ、セッション開始だ!

 

 




次回はフルアーマーガンダムvsラプターとの演習です
お楽しみに!


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第16話 ラプター

悠一Side

 

鈴乃によれば、自分がシステムを弄ればステルス機でも探知することを可能にできるそうだ。

だが、あえて俺はそれをさせない。

どこから来るか、いつ襲われるかも知れないステルス機の緊張。

それを、どうしようもなく楽しんでしまう自分がいる

つまり俺だ。

「待ち兼ねたぜ」

あらぬ方向から砲撃が飛んできた。それを既に察知した俺は機体を急発進。

俺の居た場所には、ペイント弾の塗料がベトリ。

「はッ、いい腕だ。初弾を当ててくるとはな!」

これがラプター……素早く動いてるな

だがな…!

「死角から撃つとはな、ただの熱り野郎じゃねえ。これは戦術機じゃなくモビルスーツ。戦術機の網膜投影システムじゃ死角になっても、モニターにはバッチリまる見えなんだよ!」

初撃を外した敵は、すぐさまフルオートの斉射に変えてきた。

精密にして密度の高い良い斉射だ。

俺は水平跳躍で砲弾を掻い潜りながら移動。

あたり一面の爆発と轟音と黒煙が拡がる中を匍匐移動で進む。

フルアーマーガンダムの加速と旋回性は素晴らしく、この砲弾の嵐にもまるで当たる気がしない。

やがて戦術マップに突如敵性光点ブリップが出現。

ステルスも接近すれば反応は出るようだ。

光点ブリップ目指して進むと、やがて砲撃が止んだ。

「……………?」

疑問が湧いた。

ブリップマーカーが動かない

そんなバカな。砲撃が止まったのに動かないなんてあり得ない。

「俺も分かった。欺瞞だな。マヌケな俺を釣り上げるポイントは…………ここだ!」

俺は光点ブリップを無視して想定される狙撃地点へ向かう。

するとまたまた突然に敵性光点ブリップが出現。

「さて、終わらすぜヤンキー」

俺は機器にテープを貼ったカセットレコーダーの電源を入れ軽快なジャズを流した

ラプターが目視でハッキリ見えた。

機体動作に驚愕が伝わってくる。

魂を込めて撃って撃って撃ちまくる!

だが……………

「逃げられた!? 普通なら、これで終わりなんだがな」

ラプターは被害を小破にとどめ、いち早くこちらの有効射程範囲から離脱した。

流石ラプター…………いや、あれは機体性能だけじゃなく腕だな。

良い感じに振り回すもんだ。

「だが勝負は見えた。オーディエンスはなしだ!」

俺はフルアーマーガンダムを加速させ、兎狩りにはいった。

一度見つけてしまえば、あとは機体性能の差で距離をつめて、逃がさなければいい。

「ジャズが聴こえるか?アメ公!互いに脱落するまで最後まで勝負を楽しもうぜ!」

俺はラプターのパイロットを煽る

ラプターは爆走音も考えずフル・スロットで距離を取ろうとする。

されど此方のフルアーマーガンダムはあっさり併走。

そのまま突撃砲を撃ちまくる!

そして加速で接近しサブアームに付いてる追加装甲を放棄しラプターの背後からがっしりと掴む

「これで身動きは出来ねぇな……」

そしてジグザグ飛行でラプターを投げつつビルの窓に叩き付ける

サブアームで短刀を装備しつつその刃でラプターの管制ユニットに突きつける

「その状態じゃ限界が来たようだな」

もう一つのサブアームで短刀を振り回す

「終わりだ……アメ公!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

今日は主任務のはずの演習日。

なのに私は朝から今まで基地内医局で精密検査の一日だった。

流石、トップクラスの衛士精密検査。女の尊厳、踏み躙る事色々してくれるじゃない

医局の片隅でそんな風に黄昏れていたが、夕方頃、やけに医局内が騒がしくなった。

騒ぎの元の場所に行ってみると、それは幾人もの白衣の医療従事者が誰かを担架で搬送している現場だった。

「訓練中に事故でも起こったのか? あれは一体誰なんだ?」

「俺の今日のセッションの相手さ」

いつの間にか悠一の後ろに、紅林が来ていた。

「演習は終わったんですね。それで結果はどうでした?」

「まぁ、な。時間切れの優勢勝ちだったが」

悠一は歯切れ悪く言った。

「フルアーマーガンダムを駆ってまで、随分としょっぱいですね」

衛士も機体も並ぶものがないほど最強クラスの組み合わせなうえ、超ハイスペックな戦術ナビゲーター兼整備兵の紅林までいて、時間切れまで持った衛士がいることが信じられない。

紅の姉妹といい、この世界にはバケモノみたいな衛士パイロットがいる。

「この結果は相手の衛士を褒めるべきだな。45分、高速機動を続けて徹底的に俺に射撃のタイミングを許さなかった。その代償があれさ。ついでにラプターもスクラップだ」

悠一は緊急搬送で処置をうけているその衛士らしき男を親指で刺した。

あの痛々しい姿は、現代の戦術機で宇宙世紀のモビルスーツに抗った証か。そう聞くと、あれも勇者の姿に見える。

「でも、そこまで演習の勝負に拘って入院なんてバカみたいじゃありませんか。しかも最新鋭のテスト機までもスクラップにして。負けても死ぬ訳じゃあるまいし」

紅林は染み染みとした表情で言った

「向こうにも負けられない事情があったのかもな。それともバカみたいに負けず嫌いだったか……」

「相手の人、俺が救助でハッチを開けたとき泣いてたな」

「え⁈勝負に負けて泣く人だったのか?悠一」

「さぁな、戦場は男も女も関係ねぇ。平和な人生送るのは彼奴を倒してからだ」

「確かに衛士に男女の別はない。皆等しく戦場に出て命をかける戦士なのだから」

「それでもだ。男は女に無様な姿を見せたくないんだよ」

悠一とそんな話をしていると、そこに篁中尉が来た。

彼女は、演習の進行が忙しくて医局ここに来ることは出来ないと、言っていた筈だが、理由を聞いてみると、やはり仕事絡みのことらしい。

「実は、漸く我がXFJ計画の機体である不知火改修機が組み上がりテスト機動をおこなえるようになったと、連絡があった。貴様達のガンダムも参考にしたので、相当なじゃじゃ馬になるらしい」

「メインテストパイロットは誰に?まさか”猿丸”か!? あれがじゃじゃ馬に乗ったら、世にも恐ろしい暴走が起こるな」

「いや。メインテストパイロットを務めるのはユウヤ・ブリッジス少尉」

「………………誰だ?」

「どういう事だ、篁中尉!」

「ユウヤ・ブリッジス少尉はアメリカ陸軍戦技研の者であり、今日の豊臣少尉の相手を務めた衛士だ。どういう経緯か国連へ出向となり、我がアルゴス試験小隊に所属することとなった」

「成る程、それでこれから上官として挨拶に行く訳だな?」

篁中尉がこの基地内医局にきたのはそのためか。

「いや、この決定は本人であるブリッジス少尉抜きで決められたものらしい。私はその決定をブリッジス少尉に伝える役目を負わされた」

あ、軍内で嫌われているのか?

悠一と同じ境遇かもしれない

「そういう事なら、自分も連れて行ってください。今日の演習を務めてくれた事の礼と、これから暫くやっていく仲間として挨拶をしようと思います」

悠一が興味を示したので私もつき合うことになり、皆でユウヤ・ブリッジス少尉の病室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウヤ・ブリッジスは、自分がアルゴス小隊に入ることになったことを篁中尉に聞かされても、「そうか」と返しただけだった。

そして会話しようにも、まるで興味なさそうに「ああ」とか「好きにしろ」とか「くだらんことを聞くな」とか返すだけ。

唯一会話らしきことができたのは、部屋から出る前に悠一に話しかけたことだけだった。

「豊臣悠一……」

「何だ?」

「俺は負けていない」

「……………そうだな。だが、俺達が負けていけないのはBETAだ。俺との勝負なんて、高価なテスト機をぶっ壊してまで拘る事じゃねぇ」

「拘らずにいられないのさ。俺みたいな日本人の血が混じったアメリカ人にはな。いつか必ずアンタにもフルアーマーガンダムにも勝ってみせる」

それだけの会話で私達は病室を出た。

検査に行く悠一と別れると、私は院内ラウンジで篁中尉とユウヤ・ブリッジスについて話した。

「彼を部下として使っていく事は出来そうか?」

「衛士としての技量は相当優秀ですが、扱い難そうな男でした。苦労しそうです」

そうだな。自分が日系アメリカ人だと、どうして悠一との勝負に拘らなければならないんだ。全く意味不明な奴だ。

私は話を変え、佐渡島防衛戦について全部話した

「篁中尉、佐渡島防衛戦は知ってるな?」

「はい、確か北陸でのBETAとの戦いですよね」

「そんなところだ、私は佐渡島でB中隊の長を務めていた。京都防衛戦から一か月後、駒木と言う一人の女衛士が佐渡基地に配属され坂崎都大尉が率いたA中隊に赴任し、佐渡島と言う島の一つで皆平和に過ごしていた。いつBETAに襲われるか分からないまま……その9日後、佐渡海峡からBETAが襲来し私と坂崎大尉は奮闘したが第7波襲来した時点で燃料と弾薬が底を尽き次々と犠牲者が生まれた…衛士だけでなく民間人まで犠牲になった。シェルターに逃げてもBETAに喰われる人達もいた。生き残ったのは僅かな人数であり坂崎大尉は自ら殿を務め戦死した」

暗い話だが、それを聞いてる篁中尉は表情一つ変えていない

「私もその生き延びた1人だ。佐渡島陥落から数日後に佐渡島奪還を悲願を掲げ佐渡島同胞団を設立。支援は御剣財閥と山城財閥が全面協力している。佐渡島からBETAを追い払うのは私達の悲願だ」

「……」

「すまない、暗い話してしまって……」

「いえ、私は気にしておりません。一つ気になった事があります」

「何故帝国軍衛士である貴女がユーコン基地に来たのですか?」

「貴女の知り合いからの頼みで来てるのよ、帝国軍上層部から好きに使っていいと許可されたわ」

本当の理由は斑鳩少佐の計らいでここにいると言うのが正しい答えだが、無理あったか

「大倉大尉、その知り合いとは一体誰ですか?」

「帝国欺衛軍の崇宰恭子大尉だ」

「!」

篁中尉は突如、衝撃が走った

未知の生物を見てしまいそれを驚いたような顔をしている

「恭子様の……」

戸惑っているのか………いや寧ろ驚愕してる?

「豊臣少尉から伝えてください。『私は恭子様と違うから恭子様以上に厳しく指導するから覚悟して置け』と」

「分かったわ、本人に伝えておく」

 



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第17話 My Favorite Things

鈴乃Side

 

「広報任務のやり直し………だと? それに私も参加するのか!?」

「申し訳ありません大倉大尉。前回の失態で国連軍広報官オルソン大尉の面目を大分潰してしまった。故にアルゴス小隊としては、彼の要請を断る事は出来ないんです」

”猿丸”の尻拭いだと……!

「因みにこの任務にドーゥル中尉は参加しません。あまりに専門外だというので。全て私が指揮をとり、達成に導かねばなりません」

ドーゥル中尉にしては無責任な。

凄く納得できないが、監督責任で痛い立場に立っている篁中尉を見捨てる訳にもいかない。

撮影任務なんてサクッと片づけて終わらすとしよう。

そう軽い気持ちで引き受けたが……………

「これは軍の広報撮影だろ? 何故水着に、それもこんな破廉恥なものを身につけねばならないんだ!!」

私がそう言うと悠一が会話に介入してきた

「鈴乃も破廉恥な服着てるじゃないか?☆」

馬鹿悠一……空気を読め!空気を!

私は顔が赤くなり悠一の頭に目掛けて拳骨を喰らった

「いで!何しやがるんだ!」

「デリカシーって言葉の意味をそろそろ覚えたら如何か?」

「へいへい、どうやら俺は邪魔者だったようで」

そう言うと悠一は敷地の隅にあるフェンスに行った

任務の指定場所に着くと、私は水着に着替えさせられた。

篁中尉、ブレーメル少尉に”猿丸”もアルゴス女性陣全員が水着となり集合。

それも軍の競泳水着などではなく、露出度の高いビキニ

敷地の隅にあるフェンス向こうでは、もの凄い数の男性ギャラリーが、各々カメラやビデオを手に持ち、任務の開始を待ちわびていた。

今はまだバスタオルを羽織っているが、任務開始と同時にバスタオルを外さなければならない

くっ…獣が!

そして、半裸のビキニ姿があの無数のカメラの餌食にされてしまう

「あ、ああ。この水着に関しては一応説明は貰ったのだが、まるで理解できなかった。とにかくこの水着でなければいけないらしい。ほら、東側の彼女らもだ」

私達とは少し離れた場所には途方にくれたように水着姿で佇む2人のソ連衛士がいた。

紅の姉妹の2人だ。

それは良いのだが、何故か2人の水着は日本のスクール水着だった。

しかも旧型だ!

広報官のオルソン大尉という方、妙な方向でセンスがあるらしい。

「とにかくこの姿で、我々が世界一致する友情団結の表現を示すのだそうだ。いつもとは勝手の違う任務ではあるが、各々は各自役目を果たすように!」

アルゴス小隊女性陣は「了解」と一言を添え篁中尉に敬礼する

私は、呆然とした。

問題の企画人、オルソン大尉が重々しく登場した。

濃い眼鏡をかけたキレ者の顔をしており、威風堂々とした軍人の風格だ。

こんな馬鹿な事を考えた奴なのに、有能そうな軍人に見えるからタチが悪い。

私の苦手なタイプね

「諸君!今回、この撮影のテーマは『肉体』だ!」

は?これ、軍の広報……よね?

『エロティシズム』を求めてるのか!?

だが違った

「君たち鍛え上げた衛士の肉体を堂々と晒し! BETAに対する人類の不屈の闘志を表現する!さらに各民族が一体となった姿を表現し!全世界一致の団結を見せるのだ!」

この任務だが、実は女性だけの参加ではない。

青一点で参加している奴もいる。それが――――

「オルソン大尉殿!質問です!どうして自分もこの撮影に参加するのです!?」

ユウヤ・ブリッジス少尉だ。

少し離れた場所で男性水着を着用し、私達半裸の女性陣を微妙な目で睨んでいる。

「適任なアメリカ軍衛士が君しかおらんのだ。それに、女性ばかりではこちらの意図と外れたスチールになってしまう可能性がある。故にブリッジス少尉。栄光あるアメリカ軍代表として、中心で大きく構えてくれたまえ」 

「いやいや!明らかに男女比がおかしくあります!自分が彼女らの中心になったスチールや映像など、それこそ目的と大きく外れたものになってしまうと、愚考致します!」

ブリッジス少尉の言う通りだな

あのギャラリー共のオカズにされているのは、ビキニ姿の私達だけじゃない。

並んで撮られるユウヤも同様だ!

「がんばれユウヤぁ! アメリカ代表として、堂々と世界の女共を従えてみせろ!」

「アルゴス代表男の勇姿を見せつけてやれ! お前もついでにバッチリ撮ってやるからよ!」

ジアコーザ少尉と、ブリッジス少尉と共にきた整備士のヴィンセント・ローウェル軍曹はあそこか。ついでに悠一もヤレヤレといった感じでいる。

「ヴィンセント、VG! てめぇらっ!!」

ブリッジス少尉の絶叫が響くなか、撮影任務は始まった。

私達が囲って、嬉しそうにニッコリ。

……………なんだか、まるで自分がブリッジス少尉の彼女にでもなった気分だ。

篁中尉は心なしかちょっと嬉しそう。

「うむ。篁中尉の表情は実に良い。心からの歓喜が表れているようだ。それに比べブリッジス少尉、ビャーチェノワ少尉。もっと表情を柔らかくしたまえ。これは国籍を越えた友情の撮影なのだぞ!」

この男……センスが変だ。

「でもこういう撮影なら、ユウヤだけじゃなく悠一もいてほしいわね。欲張りなのはわかっているけど」

「そうだよなぁ。オルソン大尉、こういう所が片手落ちって感じだよなぁ。悠一がいりゃ完璧なのに」

ブレーメル少尉、マナンダル少尉まで何を言っている!?

「…………む? まぁ撮影だけなら、豊臣少尉の参加もアリか?」

篁中尉……。

「お誘いは感謝するが、俺は遠慮しておくぜ」

悠一は国連軍の簡易ジャンパーを私に着させ手を繋がれ引っ張られていく

「行くぞ鈴乃、茶番に付き合ってる暇はないんだ」

そう言って私は悠一に引っ張られ去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

俺はオルソン大尉っていう胡散臭い男の茶番に付き合ってられないから鈴乃を強引に連れ引っ張っていた

鈴乃を公然の面前で醜態を晒す訳にはいかない

何せ俺のパートナーで姉弟の契りを交わしてくれた女衛士だ

基地内の部屋に入り、鈴乃を服を着させようとしたが、振り払われた

「自分で着る」

「ああ、すまねぇ」

俺は後ろを向いた

今後の事について俺は推測した

まず、アルゴス小隊とは別行動になる可能性が大

クリスカとイーニァと言うガキと仲良くしてるからだ

毛嫌いしてるわけではないが、正直言って俺との相性は最悪だ

仲良く出来る訳がない

序でに俺と鈴乃以外の佐渡島同胞団に属する衛士と整備兵がユーコンに到着し佐渡島同胞団専用格納庫にいる

紅林が既に恭子と連絡し承諾済みだ

鈴乃が着替え終え、その服装は帝国軍の簡易ジャンパーとタートルネックを着ていた

ここ国連軍の拠点の一つだぞ

「私には国連軍の制服は性に合わない。この服装が気に入ってるよ」

そう言うと鈴乃は両手を広げ笑みを浮かべる

「?」

「遠慮せず私の胸に飛び込め」

俺は鈴乃の胸に飛び込み抱き着こうとしたがパソコンの画面から衛星経由で恭子から通信が来た

俺は画面に映る恭子と通信する

「はい」

《豊臣少尉、唯依と上手くやれてるかしら?》

「……まぁ、ぼちぼちと」

衛星経由の通信状態はあまり良くないのかスクリーン上の恭子の映像はノイズ混じりだったが、音声は問題なく会話ができた。

《……その様子だと上手くやれてないみたいね》

「ソ連の紅の姉妹、厄介だ……あれはとてもじゃないが仲良く出来る訳がない。距離を置きたいのですが…」

俺はアルゴス小隊の連中と距離を置こうと考えた

もう一度言うがクリスカとイーニァが共に付いてきてるからか、このままだと険悪な雰囲気になる

一緒に行動できるわけがない

特にユウヤはイーニァに好かれている

邪魔はしたくないんだよな……

《ソ連の?あの2人がどうかしたのかしら?まさか嫌だからとでも言うんじゃないでしょうね》

恭子は画面越しで俺に向け睨み付ける

画面越しでも怖ぇ……鬼だ

「え…と…何かやりづらくて」

下手に言えねぇ…

《……まぁいいでしょう。崇宰家次期当主としてある程度のことを話す。此方の状況が上向いたために、少しは話せるようになった。但しあまり此方側を覗き込むな。私に万一のことがあったら、情報を元に自分で活路を見つけるのよ》

「恭子……?」

《以前から私は、佐渡島同胞団本部の進めている計画の為に働いている。見返りは”FG”と”A”の派生技術を帝国技術厰が優先的に貰う事だ》

計画……?

どう言う事だ、話が見えてこないぞ

《計画については、私もどんなものか知らされていないから何とも言えない。貴方が国連を不審抱いてる事は承知の上。私は外交官のような真似もする。BETAへ反撃を望む技術を、日本に齎す為に》

成る程な、要するにガンダムの技術は一部国連側に提供して後は全て日本帝国軍に渡りそれを応用しつつ開発するって事だ

ビームライフルやビームサーベル等の兵装はこの世界ではまだ難しいと考え、その代わりに突撃砲や追加装甲を装備した機体を作る

そんなところだな

「俺達はこのままユーコンに滞在するのか?そろそろ帰国の予定の話があってもおかしくないが」

《この愚か者!まだ日本に戻せないわ。ガンダムが日本に持ち込まれた経緯。製造した機関。そういった事をまだ問題にする人間が多数いる。だから其方で唯依が預かるのよ》

おいおい、冗談じゃないぜ

だが恭子の歯切れが悪くなったような?

気のせいか

鈴乃が会話に割り込む

「正直、私も問題だと思います。有耶無耶にしていい問題だとは思えません」

《正論は向こうにあるわね。だが、それを有耶無耶にする代わりに日本には多くの見返りがきた。斑鳩少佐から聞いたけど『日米戦術機共同改修計画は日本の大きな分岐点になる』と言った。あのガンダムはそれ以上の分岐点よ》

あのガンダムはこの世界における分岐点の一つとなる

戦争ジャンキーの俺が乗っても自由に戦場へ駆ける……彼奴との決着があるしな

《国連の香月女史はG弾使わず戦術機だけでハイヴを攻略させようと目論んでるわ。何れ佐渡島も攻略すると思うけどいい結果にはならないわ……》

あの香月博士だ

戦術機より凄い兵器を開発してそれを利用しハイヴを攻略した後、島ごと自爆させ消滅する

残念だがそうはいかない。

何か手はないのか?

《…とにかく次の任務はその程度の協力じゃない。今ここで私が言う訳にはいかない》

「と言いますと」

鈴乃は真顔で疑問を抱く

《強いて言うなら…カムチャッカ半島よ》

「え?それは……」

《ソ連政府からの要請で前線に行って共闘作戦に参加して欲しいとの事よ。無論、アルゴス小隊の皆と別行動になる。戦術機揚陸艦『司馬』に乗艦しなさい》

前線を駆り出しか……国連軍の連中も当然ながらカムチャッカに来る

「……ですが、別行動とは言えアルゴス小隊の皆との接触は避けられません」

《避けられないなら……そうね、出来る限りあの2人の接触は避けた方がいいわね》

クリスカとイーニァだな

俺はあの2人がどうなろうが死のうがどうでも良い

初めて見た時、こう思った。

此奴らは本気で俺達を殺そうとしてる

「了解致しました、その……我々は国連軍の管轄下なんですか?」

《今はそうね、何れにせよ国連軍の言いなりになる訳にはいかない。今は耐えるのよ。佐渡島奪還作戦の時、国連軍の管轄下から抜ける》

抜けたら、香月博士は流石に手出ししないだろう

あの女はそこまで馬鹿じゃない

《私も香月博士は信用出来ない。彼女は佐渡島がどうなろうと知った事ではないと振る舞う。が、彼女がいる横浜基地は最新の設備を備え新たな戦術機の開発を積極的にやってるわ》

「…………我々はどうすれば?」

《従うフリをしなさい。そうすれば国連軍の連中は貴方達を信用を得る事が出来るわ。数多の戦場で甚大な命が散り、生き残った者はBETAがいつ襲われるか怯え、辛酸を舐めている。この佐渡島を奪還する事は貴女達の天命である筈よ!》

ま、従うしかねえよな

都や草野の仇を取らないと……国連軍側が先回りされたら佐渡島の再建は……ない。

《そろそろ通信切るわね、では》

「ハッ!佐渡島に再びの栄光を!!異星起源種に死を!!」

鈴乃はキリっとした表情でそう言い放ち恭子からの通信は終了した

「悠一、聞いての通りだ。カムチャッカでアルゴス小隊との支援とBETAの「場繋ぎ」「間引き」が主な任務だ」

唯依や”猿丸”達を支援任務か、悪くない任務内容だ。

「同胞団の威信を懸けて…必ず日本の貢献を!佐渡島奪還の為に!」

引き下がるわけにはいかない

鈴乃の願いを叶えなければならない

佐渡島奪還、再建を目指して

俺は鈴乃の命令に承諾し、敬礼した

「了解しました、大倉大尉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

 

東欧州社会主義同盟所属艦『カール・マルクス』艦長室

東欧州社会主義同盟総帥、私ベアトリクス・ブレーメは寝返った各国の要人のリストを見て、渋い顔をしていた。

「ふむ、憂慮すべき事態ね。ニコラ」

私の側近であるヴェアヴォルフ大隊大隊指揮官の二コラは直立不動のまま私の言葉を受けた。

「引き込んだ筈の各国の政治派閥が、次々に向こうへ流れていっているそうです。これでは香月夕呼を弾劾するための連携など不可能です。もはやこの計画は捨てるべきかと」

「重装備やレールガン等の戦術機技術を惜しみなくバラまき、前線国家の支持を大きく取り付けている。加えてプロミネンス計画の方も活気付いているわ。外道共はアメリカ主導であるオルタネイティヴ5を非難してる。自分らの手で祖国を守り取り戻すと」

「『戦術機の新たな可能性』……ですか。愚かな。戦術機がいかに進歩しようと、BETAの物量に抗しきれる訳がありません」

「外道共は香月夕呼を支持しているのが問題だ。このままでは本当にオルタネイティヴ5が潰されてしまう。それだけは避けなければならない……!何の為にツァーリ・ボンバツヴァイを開発し多額な金を積んだと思ってる」

「もはや時期を待っては状況は悪くなるばかりです」

「そうね、インペリアルアーミーの上層部は今頃焦ってるわ……」

長い時間をかけて切り崩してきた各国の要人を短い期間に逆に寝返らせ、彼女に仕掛けた政治攻勢の殆どが潰されてしまった。

彼女の勢いは止まらず、アメリカ主導のオルタネイティヴ5は瀕死の状態へと追いやられる寸前。

気に入らないわね……早く手を打たないと

「それとサイコ・ザクの構造を何度も確認しましたが、私達の世界では計り知れない技術です」

「それは既に知ってるわ、人権無視なのは承知の上……使えるだけの技術で四肢欠損になった衛士が扱える戦術機開発を積極的に実行する。貴女も賛同してくれるわね?ニコラ」

私の問いに、ニコラはニヤリと嗤って答えた。

「勿論です、ブレーメ総帥。私はどこまでもついて行きます!では『香月夕呼暗殺計画』の実行に移しますか?」

「そう焦らないの、日本政府を交渉して……佐渡島同胞団という得体のしれない組織を利用して佐渡島ハイヴ上空にツァーリ・ボンバツヴァイを投下しBETA群諸共殲滅…そして島を一時的に占領し再建を図る。どうかしら?」

「素晴らしい提案ですが、佐渡島は日本帝国領土です。我々が無暗に入ったら日本政府から何言われるか」

「それを黙らすのが我々の役目よ、そして我々の最終目的は国連軍の横浜基地を撃滅しその技術データを奪取、真の平和を達成する」

香月夕呼暗殺計画の実行の時は……まだまだ先

焦ってはいけない、慎重に進める

話を終えた私はニコラに近づき抱き締める

「総帥?」

「ニコラ、貴女はよく頑張ってると理解してるわ。だから私の傍から離れないで」

「……勿論です、私は傍に離れたくはありません」

ニコラも抱き締め返す

 

四肢欠損の衛士をサポートし戦場へ駆ける為の戦術機開発を実行した




クリスカとイーニァに関するエピソードは全部カットしました。
理由は本作主人公の一人である悠一との相性が悪いからです
個人的にカットしたくなかったのですが、残念ながらカットせざるを得ない事に(-_-;)
クリスカクラスタとイーニァクラスタの皆様ごめんなさい
次回からはソ連の戦線での話です
ラトロワさん、出てくるかもしれません
お楽しみに!


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第18話 ベスト・オブ・カムチャッカ

悠一Side

ソ連カムチャッカ州 アベチャ湾

佐渡島同胞団所属戦術機揚陸艦『司馬』甲板

 

接岸間近のアナウンスが流れ、俺と鈴乃は甲板へ上がった。

季節はもう真夏の8月。天候も晴れだというのに、ここには蒼天はない。

青みがかったライトグレーに鉛色のまじった、息苦しい空だ。

ソ連第一級の軍港であるはずのこの場所だが、その寂れた景観が気分を滅入らせる。

あちこちの港湾設備はどれも古くサビとタールまみれ。

桟橋に係留されたままの軍用艦は朽ちるままに放って置かれている。

「しみったれな場所だな、随分と寂れてるぜ」

「恐らく整備の人員も設備も前線に回さざるを得ない状況だっただろう」

「国連軍に不信感抱いてる俺達が国連軍の作戦を加えるだと?クソ上層部が何を考えてる?遂にイカレちまったか」

現在、アルゴス小隊のメンバーは別の戦術機揚陸艦で上陸前のブリーフィング中。

部外者の俺達は身の置き所がない。

「レーニンが築き上げスターリンが国民を大粛清しフルシチョフがスターリン批判して挙句の果てにゴルバチョフはペレストロイカを発動して国を滅ぼされたかの社会主義大国のソ連がこんなザマとはな。態々来て見たい景観じゃないぜ」

ソ連…ソビエト社会主義共和国連邦と言う社会主義国家は、俺とダリルが生まれる前に既に滅んでいる。

こっちのソ連は領土が殆どBETAに侵食しているにも関わらず、未だ存在している。

社会主義の統制経済というのは戦乱に強いシステムらしい。

最も、史実のソ連と異なりゴルバチョフが暗殺されたから存続してると言うのは正確的だろう

フルメタルパニック!かよ……冗談じゃねぇぜ

「それにしても演習のための客員であるはずの私達が、一体何故このような場所に来なければならないんだ?あまりの超展開に目眩がしそうだ……」

鈴乃、それは俺に聞いてるのか?

それは見当違いだぜ、知る訳がない。

「恭子も佐渡島奪還の為色々と動いている。斑鳩少佐もそうだ……」

「私達は未知の戦術機ガンダムの操縦者としてそれなりに注目されている……恭子様が貴方を期待している」

ソ連への出向が決まってから俺はずっと不機嫌だ。

何でも日本の方で対BETA戦線の趨勢を決める重要な計画があるらしいのだが、いつまでもそれに参加できないのでイライラしている

あの曲者の香月博士に手柄を先に取るわけにはいかない

佐渡島は俺達が取り戻す!

彼奴が仕切ったら実験道具として島ごと消滅させるのがオチだ

「ここペドロパブロフスク・カムチャッキー基地は北東ソビエトの最南端。日本の北海道はオホーツク海を挟んですぐそこだ。アラスカよりずっと日本の近くに来たじゃない」

鈴乃は俺に抱き着き慰める

胸当たってる……少し興奮してきたぞ

「それが慰めになるとでも思ってるのか?海外で全く関係のない戦術機開発の任務をやらされて貴重な時間を潰しているのは変わらねぇよ、山城と能登、甲斐、岩見は今頃どうしてるだろうな」

そうだ……アラスカ・ユーコン基地でのガンダム演習の後に恭子から命じられた次の任務は、唯依が主任となっている『XFJ計画』の手伝いだ。

それもソ連まで出向いて、不知火弐型という改修戦術機の実戦演習のサポートをせよとのことだ。

ふざけてるのか?

恭子は悪くはないが、クソ上層部…特に欺衛軍だ。

欺衛軍上層部はパワハラが蔓延し征夷大将軍殿下はそれを参ってる……シャレにならないぜ。

俺達が、全く関係ない戦術機開発の手伝いなどをさせられるのだろうか?

2機のガンダムという、この世界ではオーバースペックな戦力を計画から遠ざけている意味は何なのだろうか?

答えなんか知るかよ

「日本に帰るか?私達だけ2人で誰も知らないところでひっそりと過ごすのもいいかもしれないわね……」

「…………………任務を放棄して帰ってどうなる。ただ脱走兵として処罰されるだけだ。恭子がそれを許すと思ってるのか?」

手土産なしで日本に帰れない

「馬鹿な真似はやめておけ、都に合わせる顔がなくなっちまうだろうが……」

戦線放棄や任務放棄の脱走は本当に日本を敵に廻してしまう。

当然、恭子の信頼はなくなり二度と取り戻すことはない

ここは大人しく国連軍の言いなりになり任務に従事しよう。

「まぁ。軍の脱走というのは思った以上に重大事……それは従順承知している。文句は言わないのが大人だ」

鈴乃は嘘が下手だな

分かってるんだぜ?

「…今回のアラスカ任務の事を思い返してみろ。2機のガンダムの演習によって戦術機技術を売り、各国の戦術機技術の向上、及び各国の支持をとりつけることだ。そしてそれは大きく成功した」

俺達は香月博士の駒ではない

自由に駆け巡る一衛士だ

そしてモビルスーツは大好きだぜ…戦術機も含めて

戦場も……ここは自由だ!!

「俺達に日本に帰ってほしくない何かがある。となると、それは……………」

俺は何かを言おうとしたが、鈴乃を見るとハッとしたように我に返った。

「すまん、忘れてくれ。とにかく任務に励むとしよう。今はそれしかないからな」

「ええ、そうね」

寂れた港の景観から背を向け、俺と鈴乃は甲板から降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

XFJ計画部隊用 野外第三特設格納庫

 

「『試製99型電磁投射砲』か。ビームライフルを知らなきゃ、『スゲー』とか言っていただろうな。最も、帝国軍がこんなものまで造っていた事は驚きだが」

俺はこの格納庫の主役のその圧倒的体積の火器を見上げた。

今回の実戦試験には不知火弐型と並んでこの電磁投射砲の実戦運用も行う。

既にこれは各国への販売が決定してはいるが、実際の運用はまだなので、その実戦データが必要だというのだ。

俺達がソ連と協力してまで来させられた理由が、これのお守りの為だ

無論、建前であろうが。

俺が格納庫に出向いたのはこれを見る為ではない。

事前のソ連との取り決めで、各国の兵器を置く格納庫には、その国独自に防諜対策をする事が許されている。

つまりここはソ連内において数少ない盗聴の心配の無い場所であり、内密の話をするには打って付けって事さ

俺は電磁投射砲の前にただ一人立つ人物に敬礼をする。

「佐渡島同胞団ムーア中隊、豊臣悠一少尉参りました。ご用は何でしょうか、篁中尉」

俺を呼び出したのは、この遠征中の上官・篁唯依中尉だ。

可愛い過ぎる上官との付き合いも、それなりに長くなったものだが、俺だけが呼び出されたことは初めてのような気がする。

「来たか。悪かったな休憩中に。私の時間が今しか取れなかったのだ」

「構いませんよ…珍しいな☆大倉大尉抜きに自分だけを呼ばれるのは」

篁中尉は「ついっ」と恥ずかしそうに目を逸らした。

そんな顔も妙に可愛い。

不幸な事だ。軍人が可愛い過ぎて良いことなんて一つも無いというのに。

「う、うむ…それ故の気安さというか、馴れ合いがどうしても出てしまう。この話は完全に私情を挟まずにしたいのだ」

成る程な、そう言う事ね

あのポーランドの亡霊と異名があるシルヴィアなら慣れ合うのは嫌うだろう

そりゃそうだろ、任務以外での接触は避けたいと考えがあるだろうからだ

私情を挟まずにしたいか……んじゃあ、篁中尉の話聞かせて貰うとしよう☆

「どういったお話でしょうか、中尉殿」

「豊臣少尉、貴様はこのソ連遠征による実戦テストについて、どう思う?」

「日本国内で可能な実戦テストを態々ソ連に出向いて行うことも不可解な事ですよ」

BETAとの戦闘は日本国内にもいくつもある。

佐渡島に赴いても良いし、関西でも北九州でも選び放題だ

何か裏があるな……。

「そうだ。私もドーゥル中尉とよく話し合ったが、実に不可解な事が多い。この決定がいきなり決まった事も、我々試験チームの意見を聞かずに決められた事も、早過ぎる実戦テストへの移行についても。ソ連が何かしら謀略をたてている可能性も多分にある」

だろうな……ソ連のお偉いさんはとうとう頭のネジが外れたのか

獅子同財団と裏で繋がってる可能性は高いが、これは推測でしかない

恭子も何か隠してるのか?

いや、そんな事はないと願いたいぜ

「また、これは内密にして欲しいが、ソ連側の士官から『日本はアメリカより我々と手を結ぶ事を考えてほしい』といった内容を仄めかされた」

西と東が手を携える事でBETAは倒せますってか?

カティア・ヴァルトハイムじゃあるまいしそんなもんは出来っこない

阿保臭いとしか言いようがないからだ。非現実的過ぎる

ベアトリクスが言った台詞を思い出した

”人類は必ずしも一つには絶対になれない”

この台詞が印象強く残る……名言と言えるべきか

「しかしこれは無理な話だ。彼らが掲げる社会主義思想はソ連の力が低下した今でもなお脅威だ。我が国には皇帝陛下、政威大将軍殿下ならびに武家といった、古くから続く権威が数多くあるのだからな」

そりゃ社会主義にとっては美味しそうな粛清対象が数多くある。

下手に手を組んでその思想を日本国内に広められたら、最悪国は分裂する。

笑えねぇよ……まるで架空戦記物の作品だ

「故にこの場所に長く留まると何が起こるか分からん。諸君やアルゴス小隊の安全の為にも、速やかなアラスカへの帰還を果たしたい」

「最もなご意見です。自分はアラスカにではなく、ここから日本への直行を望みますが」

唯依は俺の本音まじりの冗談には答えず苦笑いをした。

この件に彼女にできるのは最も親近感があり尊敬している恭子へ尋ねることぐらいだからな。

言うんじゃなかったな。

「だが我々は軍人だ。命令とあらばどのような任務にも従事し、結果を出さなければならない。故にできるだけ早く結果を獲得し、速やかに帰還するのが理想と思われる」

「完全に同意です。自分も速やかな任務達成をのぞみます」

「その為に必要なものは不知火弐型およびこの電磁投射砲の実戦による規定数のBETA撃破の戦闘データ。これが理想値に達すれば、たった一回BETAの侵攻を迎えるだけで帰国が叶うかもしれない。かなり極端だが、ドーゥル中尉はこれを目指すべきだとの意見だ」

「おおっ!♡」

「だが、それを為すには、扱う衛士に無理をしてもらわねばならない。不知火弐型に搭乗するブリッジス少尉は初陣だというのに」

恭子から修行受けたのでこれは流石に理解している

死の8分

BETAとの戦闘による初陣の出撃で死亡する衛士の平均生存時間が8分だという。

BETAとの戦闘の過酷さをよく表す言葉だ。

故に初陣の衛士は無理をさせず、生き延びさせる事が指揮官の役目である。

つまりユウヤに真逆のことをさせてしまうって事か。

「実に危険極まりないが、ドーゥル中尉の意見では、貴様らムーア中隊がブリッジス少尉の直援につけば十分可能であるという。どうだ?」

それが今回の呼び出しの用件か。

しかしガンダム2機を随伴のお供に出撃とは。

王侯貴族のごとくじつに豪華な初出撃だな、不知火弐型。

「豊臣少尉。貴様が優れた衛士だということは、この付き合いでもよく分かる。それを見込んで聞きたい。貴様が考えてこの案についてどう思う。やはり『たった一回で全てを完了させる』というのは無理が過ぎるか? 正直な意見を遠慮無く述べてほしい」

一応ユウヤの為に真剣に考えてみた。

だが、やはり答えは決まりきっている。

そもそも初陣とはいえ、BETAとの戦闘に直援なんて豪華なものがつくことはない。

それに衛士は本来、無理をくぐり抜けるのが本分だ。

ユウヤ・ブリッジス、お前は優れた衛士だ。

お手並み拝見といきますか!

「やりましょう。要するに自分らはブリッジス少尉がBETAを倒している間、それの直援に付けば良いのだな? 任せてください。彼奴も不知火弐型も無事帰還させてみせますよ。その上で、彼奴に初出撃世界最高のスコアを出しましょう!」

「いや、流石にそこまでは求められん。だが、よかろう。もしブリッジス少尉も了承したなら、その方針でいく…………そう言えば遅いな」

「何がです?」

「いや、実は意思確認のために、当人であるブリッジス少尉もこの場に呼んだのだ。だが、いまだに来ていない」

「それは変ですね。近くを見てきます」

俺は踵を返して行こうとしたが、ふと目の前の電磁投射砲が目に入って、もう一つの疑問を思い出した。

「ところで電磁投射砲の操者は誰に? 自分が直援任務なら、別の者が扱わねばなりませんが」

「私だ。私が指揮所を離れ、武御雷で扱う」

アンタがやるのかよ!

でもまぁ、京都防衛戦で生き延びた1人だ

欺衛軍上層部に期待されてるのは理解できる

「篁中尉自身が?」

「電磁投射砲の試験運用は、アラスカへ来る前の私の任務だ。その長所も短所も知り尽くしている。私が扱うことが最も結果を出せるだろう」

ほぅ、ではお手並み拝見するか

「了解致しました。篁中尉もブリッジス少尉も必ず守ってみせます」

「いや、私の方はアルゴス小隊がつく予定だ。ムーア中隊はブリッジス少尉の直援に専念してくれ」

「了解しました。それは今からですね」

俺は今度こそユウヤを探しに格納庫を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

ユーコン基地に滞在してる俺と第666戦術機中隊衛士はベアトリクスから指令を下った

その内容は俺をサイコ・ザクの試験運用する為、ソ連のカムチャッカ半島南部に戻り国連軍との共同作戦に参加してほしいとの事だ。

命令に従い俺はカムチャッカ半島に戻り、ソ連軍の拠点の一つであるカムチャッキー基地に赴任。

そこにはヴェアヴォルフ大隊の衛士が待ち構えていた

「ダリル少尉、待っていたぞ!我が大隊との作戦参加感謝するよ」

「ミヒャルケ少佐、国連軍との共同作戦と聞きましたが具体的にどのような作戦内容ですか?」

どんな内容か知る必要がある

サイコ・ザクを持ち込んでカムチャッカに戻ったんだ、無謀だと思うがここは聞くしかない

「内容?国連軍と共に戦うのは心痛いが止むを得ん。同胞国のソ連の頼みは断れないからな」

東ドイツはソ連の同胞国の一つだ

社会主義体制が根付いてるどころか単に断れないだろう

「少佐、基地の中へ散策したいのですが許可をください」

「……カタリーナ」

「了解♪」

カタリーナは軽い口調で一言を添える

「ソ連軍の衛士がいるからウロウロしないようにね」

「了解です、ディーゲルマン……同志中尉」

「カタリーナで良いわよ、アンタは私達の同志だから、ね?♪」

ね?って……とにかく基地の中見なければ分からない

そういう訳で俺はカタリーナと共にソ連軍衛士も含めてカムチャッキー基地を散策した

基地内は広いな

ソ連軍衛士が色々と説明してくれて基地の中の様子は分かった

……だが、野外格納庫が立ち並ぶ一画の狭い通用路の片隅で十代の少年少女七人がソ連女衛士2人を取り囲んでいた。

「カタリーナ」

「どしたの?」

カタリーナもその光景を見たが、壁際に隠れ様子を見る

「助けないのか?」

「下手に動けばやられるだけよ。様子見しましょう」

様子見……そうだな

とりあえず少年少女の動きを見張る

「お前らか?アラスカから来た腰抜け共は」

1人は冷静だが、もう1人は怯えてるな

「クリスカ……」

「大丈夫よイーニァ」

「おいネーチャン無視してんじゃねーよ、それとも何か?俺達みたいな連中と口利いちゃいけねーってママに言われてんのか?」

一人の少年は2人を煽り嘲笑う

「私はソビエト陸軍中央戦略開発軍団331特殊実験開発中隊のテストパイロット、クリスカ・ビャーチェノワ少尉だ」

クリスカ?今クリスカって言ったよな。

その隣にいるのはイーニァだ。

紅の姉妹……スカーレット・ツインだ!

「中央のエリートさんですかぁ……」

「で、それがどうした?だから何だって?」

此奴等……知ってて煽ってるのか?

「私達は祖国の為に戦う同胞……なのにお前達はどうして敵意を向けるんだ?」

クリスカは怯まず少年少女と立ち向かい説得しようとしたが、俺が期待してた少年少女の行動とは真逆になり怒りを露にし荒い声で言われる。

「同胞ォ……?調子に乗ってんじゃねぇぞッ!党の雌犬がァッ!!」

何と醜悪な考えでクリスカとイーニァに不満をぶつける

「自分達だけさっさと逃げやがった癖に、何が同胞だクソがッ!!いざとなったら俺等は捨て駒じゃねえかッ!!散々搾取しやがってッ!!ぶっ殺すぞクソアマッ!!」

「ま、待ってくれ!お前達だってソ連軍の」

「違う……お前はロシア人だッ!!」

「ソ連なんて元からねえんだよッ!!」

「テメエ等ロシア人が押し付けたんだッ!!」

何を言ってるんだ……ソ連に住んでる人はロシア人の筈…。

そうか、この少年少女はソ連の傀儡国に住んでた人間

他民族か……此奴等は!

「……ロシア…人……?」

「惚けてんじゃねえぞ……お前の部隊はロシア人しか入れねえんだよッ!!」

「アラスカに逃げたのは殆どロシア人だろッ!!」

「前線で戦ってるのはそれ以外だッ!!」

此奴等が言ってる事は理解してるつもりだ

ソ連政府は他の民族の事はお構いなしでロシア人だけアラスカに移住し安泰な生活してる訳だ

特に政府関係者はBETAの恐怖から怯え、安全圏な場所でいる。

少年達が言ってる事はご最もだ。

それは政府関係者に言ってくれ

あの2人にぶつけても何も解決しないだろ

俺はそう思っていたが、突如クリスカの動きが鈍くなりふらつき始める

「クリスカぁ…!クリスカぁ…!」

「…だいじょうぶ……だよ……だいじょう……ぶ…」

「オイオイッ!!そんな小汚ぇ所にへたり込んで何しようってんだ!?」

「ビビり過ぎて漏らしちまったんじゃねーぇのッ!?」

少年の一人がクリスカの背中に軍靴で蹴り上げた

「チッ、やっぱり腰抜けじゃねぇか、みっともねえ……ッ!」

「こんなんで良く衛士とか言えるよな……クソの役にも立たねぇぜッ!」

彼奴等……好き放題で言って

俺は前に出ようとしたがカタリーナに肩を掴まれ止められる

「ダリル、ダメよ。私、シュタージの衛士として色々な現場や戦場を見てきたから分かるわ。あれは半グレ衛士よ」

カタリーナの言う通りだ

半グレ衛士か……筋は通ってる

イーニァは半泣きしクリスカは戦意喪失でふらふらになり意識が遠のく寸前だ

「此奴等どうする?剥いちまうか!?」

「ああ、金剛の刑なッ!8番格納庫のフェンスがいいじゃん!?」

何と半グレ少年衛士はクリスカとイーニァを慰み者にして二度と衛士としての活動を出来なくしようとしてるのだ。

「拙い…犯されるわ」

カタリーナは怒りを抑えるがすぐ切れる寸前だ

「おい~~332中隊のオヤジに喰わせるぐらいなら先にいただいちまおうぜ!!」

クリスカが動けまいと悟った半グレ少年衛士はイーニァを羽交い絞めしクリスカと無理矢理離れさせた。

「いやだぁ!!いやだよぅッ!!」

「ッ!?」

「はなれたくないッ!!いやだぁぁぁッ!!!」

「おいっ、そっちからも引っ張れ!」

「やめてくれ……ッ!!その娘は……その娘は私にとって……!!」

とクリスカは助けを乞うが当然そんな甘い考えでは通用せず半グレ少年衛士の一人はクリスカの前髪を掴んだ

「かはッ!!」

だがイーニァはただの少女とは思えない力を出し踏ん張っていた。

クリスカは……?

「んだよ此奴ッ!!チビの癖に凄ぇ力だよ……!!」

「やだやだやだやだやだやだやだああぁああッッッ!!!」

「こっちのネーちゃんとは大違いだなっ……と!!」

イーニァは嫌がりクリスカは力が尽きたか半グレ少年衛士により服を脱がされていく

「ーーーいやああああああぁぁぁ!!!」

イーニァは泣き叫び助けを求めた

クリスカの服を全部脱がした後、半グレ少年衛士の一人はズボンのベルトを外そうとした瞬間、一人の男が乱入しフルスイングで拳を半グレ少年衛士の頬を向け殴った

そしてその勢いで半グレ少年衛士は飛ばされ倒れた

「おい、大丈夫か!?何をされたッ!?」

「ゆぅ…やっ……ぅぅ」

イーニァは泣きべそかきながら一人の男の名を口にした。

ユウヤ…微かに聞こえたが今ユウヤと言ってたな

俺はその男の顔見ると……。

「ユウヤ・ブリッジス……」

間違いない……もう少し様子を見よう

「ブリッジスか……私は大丈夫だ……」

クリスカはそう言うとイーニァ泣きながらはクリスカに抱き着いた

「クリスカぁ…!……ぅぅ……」

ユウヤは少し笑みを浮かび安堵した束の間倒れた半グレ少年衛士が起き上がりユウヤに睨みつく

「オイオイ…何処の正義の味方だよ……!?」

ユウヤはクリスカとイーニァを保護し立ち去ろうとするが

「無視してんじゃねーよ、こっち向けやコラ」

「な…っ!?」

半グレ少女衛士はバタフライナイフを手にし一部除いて他の少年少女は鉄パイプを握りユウヤを絡む

「女の前だからってカッコつけると後悔するぜにーちゃん?」

「大体何なんだよお前はぁ……!死にてぇのかッ!?」

「(……ガ……ガキじゃねぇか……ッ!!)お…お前等こそ何だよ……整備兵か?」

「はぁ!?ふざけんなッ!よく見ろバーカッ!!」

半グレ少年衛士のリーダー格と思われる人は親指を左胸にあるウイングマークを指した

「ソ連軍の衛士微章……って、う……嘘だろ…!?」

こんな子供が戦術機に乗ることも珍しくはない

東ドイツだって最前線で戦い抜いたんだ。

「おいお前、何余裕かましてんだよ」

「殴った分はキッチリカタをつけっかんな……?」

俺は見ていられないと半グレ少年少女に立ち向かった

カタリーナも同時に半グレ共に立ち向かう

「何やってるんだ」

「東欧州社会主義同盟のカタリーナ・ディーゲルマン中尉だ!ユウヤ・ブリッジスだな、どういう状況か詳しく聞かせて貰おうか?」

「東欧州?何で欧州戦線にいるアンタらがここにいるんだ?それは置いといてまぁ見ての通り、こいつらに襲撃されている真っ最中だ」

「オーイオイオイ、まーた、どっかのお節介が来たのかよォ。ゲラゲラゲラ」

「外国のキレイなお姉ちゃんよ。アタシら、このエリートロシア女共にアタマきてっからよ。どーしてもボコらなきゃすまねーんだわ。コイツみてーに邪魔しねーで、大人しく『回れ後ろ』してくんない? そうすりゃ無事でいられっからよォ。アヒャヒャヒャ」

「それとも一緒に剥かれる? 裸にすりゃ、けっこうな見世物になるぜェ。ヒヒヒヒッ」

半グレ少年少女は醜悪な笑い声をしつつカタリーナを慰み者にしようと考えてた。

「おいおい、此奴義足付けてやがるぞ、何で障碍者がここにいるんだよ!」

「ブレーメ総帥閣下の命令でここに来ただけだ」

ベアトリクスの命令でここに来たことは事実だ

だが、ベアトリクスの名を挙げても半グレ少年少女は恐怖心抱かず怯まなかった

「は?それが何?まさかそんな身体で衛士だって言いたい訳?ふざけるのも程々にしやがれ!」

半グレ少女少女衛士が俺の義足を見て挙句の果てに障碍者を馬鹿にしている

此奴等……クリスカとイーニァを慰み者するだけなくカタリーナを慰み者をしようと試み俺の義足や全世界にいる障碍に立ち向かっている者を馬鹿にした

「……俺の足を笑ったな!」

半グレ少年少女は鉄パイプで周りをガンガン叩いたり、ナイフをペロペロしたりしている

此奴等は軍のフライトジャケットを着ているし、階級章もつけている。

軍に属している人間には間違いない。

幾ら子供とはいえ、度が超え過ぎてる

「呼び出しを受けたんで行く途中、イーニァの悲鳴が聞こえてきてな。来て見るとクリスカとイーニァがコイツらに襲われていたんだ」

「成る程ね、状況は把握したわ。そこのソ連兵!貴様らが今行おうとした事は下劣で醜く底辺な人間であり……生きる価値がない外道に過ぎない!ソ連衛士の皮を被ったアメリカの豚共が!!」

カタリーナは半グレ少年少女をアメリカの豚と煽り誹謗中傷した。

その言葉を聞いた半グレ少年衛士の一人はカタリーナに怒りを向ける

「………………お前、いま何つった?」

「あら、聞こえなかったのかしら?もう一度言うわ。貴様らは醜く卑劣で底辺な人間であるアメリカの豚よ、豚!ソ連衛士であるクリスカ・ビャーチェノワ少尉とイーニァ・シェスチナ少尉を我欲の為に慰み者しようとしおまけに私を慰み者しようとしたわね?これは国家による……いや、ソ連衛士達による反乱と侮辱としか極まりない!」

カタリーナは怒りを露にし覇気を出した

だが、東ドイツの人間がいるにも関わらず半グレ共は怯まなかった

「俺達がヤンキーみたいだと!! ああっ!?」

「ふざけんじゃないよ! こんな地獄の底で毎日BETA退治をやらされているあたし達のどこが、後方で偉そうに最新設備でふんぞり返ってるヤンキーに似ているってんだい!?」

「その態度だ、貴様らはソ連衛士としての誇りがないのか?そうだとしたら……貴様らは生きる資格等、ないッ!!!」

カタリーナは般若顔になり半グレ少年少女を生きる価値がない外道衛士と見做し怒りの言葉を言い放った

「許せねぇ…………! もう外からの客人だか知らねェがかまわねェ! やっちまおうぜ!」

「そうね! 此奴等が来るたび、こっちは余計な苦労をさせられて死人が出るんだもの。ここで思いしらせてやるわ!」

それはもう冷笑まじりの遊びのような目じゃない。

本当の本気に殺気を孕んだ人殺しの目だった。

人を殺してる経験がある、これは殺戮者の目だ

拙い、カタリーナがやられる!

「身の程知らずが」

半グレ少年衛士の一人が鉄パイプでカタリーナに当てようとしたが、カタリーナはそれを上手く回避し顔面を蹴り上げた

「同胞国の衛士を慰み者にしてどうする気だ!ゴラァ!!」

半グレ少年衛士は蹴りの一撃で倒れ、それだけで戦意喪失に陥った

「貴様らも同罪だ……覚悟しろ」

さっきまで威勢あった半グレ共は怯え、泣き喚いた

「ひぃ!」

そんなことお構いなしでカタリーナは半グレ少女衛士の一人をその拳で顔面に目掛けて殴った

「味方である衛士にレイプさせるな!死ね!!」

カタリーナは怒りをまだ収まらず、半グレ少女衛士の一人を拳で顔面陥没させ戦意喪失した

「無関係な人間を巻き込むな!下種が!!」

次々と半グレ少年少女を捕まえ拳で顔面陥没させ戦意喪失まで陥った。

クリスカがカタリーナを止め、言い放った

「貴様は状況を悪化させに来たのか? 彼らはあれでも祖国ソビエトの前線を守り続けてきた同胞。それをよりにもよって、一般兵士すらBETAとの戦闘を経験していない天国連中のヤンキー呼ばわりとは何事だ!」

「貴女を助けたのに、恩を仇で返すのか?」

俺は見ているだけではいかないのでカタリーナを止め怒りを収める

「やめてくれ!」

「何故止める!?此奴等はソ連の恥晒しだ!」

「もういい……カタリーナ。皆ドン引きしてる」

はぁ…カタリーナ、やり過ぎだ

「貴様たち、何をやっている!」

突然に通用路に、凜とした女性の声が響いた。

すると殺気をはらんで戦闘態勢を取り戦意喪失になった半グレ少年少女は、弾かれたように直立不動の姿勢をとった。

――――――カツカツカツ

規則正しい軍靴の音を響かせ、背の高いサングラスをかけた女性士官が現れた。

その後ろには彼奴とと女性将校が続く。

「貴様ら、それぞれの機体の整備補給の時間であろう! この命令違反は高くつく。今すぐそれぞれの持ち場に戻れ。駆け足ッ!」

 「「「了解!」」」

さっきまで狼の群れのようだった奴らが、訓練された犬のように整然と駆けていってしまった。

最前線の兵士は『狼のように獰猛で犬のように従順でなければ生き残れない』という訳か。

「ブリッジス少尉、無事か!?」

女性将校が青い顔をして俺達の元へ駆けてきた。

「ああ、大丈夫だ」

女性将校は、そこらに散らばった鉄パイプやナイフを見て眉を寄せた。

そしてカタリーナは立ち去ろうとする女性士官を引き留めた。

「お待ちくださいラトロワ中佐。貴女の部下が、私の部下に度を超した危害を加えようとしたようです」

「何者だ?」

「東欧州社会主義同盟のカタリーナ・ディーゲルマン中尉です」

「同じくダリル・ローレンツ少尉です」

ラトロワ……?

俺は女性士官が着てるフライトジャケットに付いてる紋章を見た

この紋章は……ジャール大隊だ

という事はフィカーツィア・ラトロワ中佐か

「そのようですな。どうも申し訳ない、ディーゲルマン中尉」

「中佐。彼らには処罰をして頂けるのでしょうね、其方の方から。二度とこのような事がないように」

「約束しよう。今回だけは許していただけるとありがたい」

「………ええ、今回だけ。ですが次回があった場合には、問題とさせて貰います。そして二度と外に出られないよう屠らせて貰います」

「感謝する。では、私はこれで」

女性士官は踵を返し、そのまま立ち去った。

何とも、貫禄のある人だ。

カタリーナはかなり怒っているらしく、彼女らの去った方向をいつまでも睨んでいた。

「……災難だったな。何があったんだ?」

悠一が話しかけてきた。

ユウヤはイーニァとそれを慰めているクリスカを顎で「クイッ」と指して言った。

「ああ。どうにもソ連内のいざこざで、この二人が襲われててな。見過ごせなくてそれに参加しちまったというわけだ。東欧州の人間も何故か来てくれたんだが、事態を悪化させてヤバかったぜ」

俺はカタリーナの顔を見て一言を添える

「やり過ぎだ、カタリーナ」

「ごめん、どうしても許せなかったのよ」

カタリーナは落ち込んだ表情でしょぼんとした

「ソ連のジャール戦術機大隊指揮官のフィカーツィア・ラトロワ中佐だ。呼び出したユウヤがなかなか来ないってんで探しに出たんだがな。そこで途中で出会って同行してくれた。『もしかすると自分の部下が悪さをしているかもしれない』ってんでな」

それで俺達と出くわしたと言うのか

「あの半グレの衛士、やはり衛士だったのか。ウイングマークを付けてたがあんなのが衛士だなんて信じられないな。親はどういう教育してたんだか」

「そして奴らジャール大隊が、外国から来訪の試験小隊の随伴を担当しているらしい。つまり実戦テストの間、俺達を安全に守っていただけるというわけだ」

「お前がここにいる理由は分かった。で、その隣にいる人は篁唯依中尉だろ?」

「平凡な音楽趣味を持ってるお前が知ってたとはな、少し感心したぜ」

「お前に褒められても嫌な男だ」

「……………こりゃ、頼もしい部隊に随伴していただけるもんだぜ」

不安だらけのこのソ連遠征に、さらに不安要素が加わった。

そして数日後。

いよいよBETAの大群が基地に襲来した。




折角なのでクリスカとイーニァの場面を出しました
お二方のファンが悲しむと思うので、内容はお察しください
次回は国連軍、佐渡島同胞団、東欧州社会主義同盟、ソ連の4つの勢力でBETA戦闘を繰り広げていきますよ!!
お楽しみに!!


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第19話 恋のエヴァンスク

悠一Side

2001年8月18日

ミーティングでエヴァンスク・ハイヴ近辺のBETAの増大が衛星情報で認められたことを告げられた。それら数万のBETA群が警戒区域であるミリコヴォ地区に侵攻中だという。

試験部隊はBETAの侵攻阻止を任務とするソ連軍部隊に随行して、いよいよ実戦試験が始まる。

というわけで、今日はそこの前線基地へと移動。

BETA到達予測は明日早朝らしいので夜間出撃は免れたが、今夜は自分の機体のある格納庫で即応待機である

「さて。アルゴスの連中は待機部屋でおねんねしてるが、俺と鈴乃は機体の整備をしなきゃならないよな」

撃震や不知火等の機体の整備はそれぞれの衛士がやっている

それを仕切ってるのは紅林だ

と言う訳で寝る前の今だが、機体を実戦状態にするために格納庫だ。

もっとも俺のフルアーマーガンダムと鈴乃のアトラスガンダムの方も然程特別な整備は不要だが、紅林が一応は点検しておく

すると頭を掻いて鈴乃もやって来た。

「参ったわね、初陣のブリッジス少尉に、アルゴスの皆がBETA戦のコツなんかを教えていたんだがな。その話の流れで、私のBETA戦の経験とか聞かれたわ。その殆どが佐渡島での戦闘だけどね」

「ベテランなのに初陣とはな…」

実は鈴乃の事を好意抱いてるのは確かだ、が彼女に隠し事はないのか聞いてみることにした。

「ところで鈴乃」

「ん?」

「俺に隠し事とかないのか?」

「ふふ、そういう悠一こそ隠し事はあるのかしら?」

おいおい、図星突かれたぜ

「ないな」

俺は誤魔化した

「私は知ってるのよ?貴方が隠してる事……当てて良いかしら?」

「いいぜ、当てるものならな」

鈴乃は人差し指で唇をそっと触れつつ妖艶な笑みを浮かべる

「当時佐渡島にいた時、シェアハウスの地下室の中にあるマッサージ室で都と激しい営みをしていた」

当てちまったよ……。

「違うかしら?」

「……」

「どうやら当たったみたいね」

「ま、今回俺らはほとんど戦闘をしない予定だからゆっくり過ごそうぜ」

不知火弐型の整備を終えたユウヤの専任整備士のヴィンセント・ローウェル軍曹が通りかかった。

「あれ、本当に衛士が整備やってるんスか。でも明日は早くから出撃ですよね。手間取るようなら、手伝いますよ」

「大丈夫だ。フルアーマーガンダムは、然程調整は要らないように出来ている…と言っても優秀な整備兵のおかげだけどな」

「アトラスガンダムも同じだ」

「そうですか、羨ましい事です。不知火弐型の方は速すぎる実戦調整のせいで大変なんですよ。ユウヤは初陣だってのに、こんなモンに乗せるなんて。お偉いさんのやることは!」

「ヴィンセント、溜口で構わないぜ。ユウヤが心配か?確かに明日は彼奴に頑張って貰わなきゃいけないが、それをフォローするのが俺らの任務だ。安心してくれていいぜ☆」

あのジャール大隊のガキ共がオレら派遣試験部隊に憎しみを抱くのは無理ないと思ってしまう。

「そうか。んじゃ、お言葉に甘えて。我ながら過保護だとは思うんだがね」

「気持ちは分かるが、テストパイロットとはいえ、衛士ならいつBETAの戦いに出されるか分からん。バックアップが整っているうちに初陣はすませた方が良い」

と鈴乃は真顔で言った

「まぁとにかく、ユウヤは、もうやるしかねぇんだよな。だったら明日はユウヤを頼む! お二人さん」

「任せときな!」

「ブリッジス少尉に華々しい初陣を飾らせ、帰還させてみせるよ」

と、そこへ唯依がハンガーへはいってきた。

なんだ、見回り監督とかしているのか?

俺達は敬礼をして迎える。

「今夜の就寝時間は普段より早めになる。明朝0600に作戦区域で部隊展開だからな。作業を早めに終わらせ、さっさと待機室へ行くように」

「了解しました」

即応待機は深夜でも緊急出撃ができるよう就寝も機体の近くになる。

なので今夜の寝床はこの格納庫内にある待機室でざこ寝だ。

「因みに女性陣は中華統一戦線のバオフェン小隊と一緒に寝ることになる。あそこの衛士は女性だけだからな」

そう言ってクルリ踵を返すと、足早に行ってしまった。

「フン、高みの見物で他人を見下しやがって……開発主任の肩書を与えられて嘸嬉しいだろうな」

「悠一、そういうところが嫌われる原因なのよ」

鈴乃が言ってる事は正しい

嫌われてるのは自分でも自覚している

「なぁ鈴乃、今夜は」

「分かってる」

とまぁ、本当に鈴乃にしがみつかれて激しいジャズを演奏するような一夜を過ごした翌朝。

防衛ラインまでフルアーマーガンダムに乗って出動。

支援砲撃の爆音と噴き上がる爆炎によって一日は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

ソ連軍による海上艦隊と支援砲撃の面制圧。

それを抜けたBETAに機甲部隊と戦闘ヘリによる二次面制圧。

無数の砲弾と炸裂弾の連続する爆発によって海岸線一帯は灼熱の地獄と化した。

だが…………

《砲撃が………薄い?》

《もしかして戦車の数が足りてないのか?》

あの面制圧は薄い。

あれでは相当数を撃ちもらし、予定より早くこの第一次防衛線に抜けてくるだろう。

俺はサイコ・ザクで旋回飛行しつつソ連軍や滞在している国連軍のアルゴス小隊の監視任務を遂行してる

《戦車の数が足りないのは今まで戦力を使い過ぎて消耗してるからだ》

紅いアリゲートルに乗り駆けるニコラはキリっとした表情で豪語する

《ソ連軍も国連軍双方激しい戦いだろう。だがな、我々ヴェアヴォルフ大隊が来たからには異星起源種を無能な国連軍より殲滅出来る》

それは暴論だ

そんなの出来たら苦労はしない

「我々が下手に動くと、同胞国であるソ連が不信感を抱く事になります、大隊長」

《それにだ、表の情報機関は役に立たないから裏の情報屋である伍代からの情報によると日本が開発した試製99式電磁投射砲をここミリコヴォ地区で運用試験行うらしい。我々はそれを強奪するんだ》

舐めてくれる。

試験部隊はお守りの必要な赤子か。

しかし試製99式電磁投射砲の強奪任務を遂行するとは思わなかったな

ジャール大隊のチェルミナートルが国連軍と共闘している

この試製99型電磁投射砲の威力は中々のものだ。

この程度の劣勢は覆せる程に。

「やりましょうか?」

《駄目だ、勝手な行動は許さん》

俺はニコラと言い争いになろうとしたその時、轟音が響き渡り、不知火弐型の持つ巨大砲から眩い光条が放たれた。

それは真っ直ぐBETAに突き刺さり、間断のない衝撃波と恐ろしい轟音が鳴り響き、BETAを極小の肉片に変えていく。

そして99式を全弾撃ち終わった頃。

戦場はBETAがまばらに点在するだけのものとなった。

《な…》

《これが電磁投射砲…》

《凄い威力ですね……》

当然だ、これだけでBETA群は殲滅出来るからな

一斉に各国の部隊は残ったBETAに襲いかかる。

アルゴス小隊の皆も

《ダリル、貴様が先に行け。我々はソ連軍の前線補給基地に襲撃し先ほど言った通り電磁投射砲を強奪する。ソ連政府からは許可を得ている》

俺がBETAを誘うための囮になる訳か

「了解しました。ダリル・ローレンツ少尉、ソ連軍及び国連軍の支援に行って参ります」

俺はサイコ・ザクのブースターを上げ加速し国連軍の支援に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

俺の仕事はメインのテスト機の護衛とデータ取り。

想定外にBETAの接近を許しでもしない限り戦闘はない。

戦闘中の不知火弐型及び搭乗者のユウヤの様子を細かくチェックしていく。

バイタル正常。格闘機動に歪みなし。

全く初陣のお手本になるくらい問題のない奴だ。

「試験は問題なく終わりそうね。あとは此奴等さえ、いなければ……」

鈴乃が言いたい事は分かる

楽なこの任務にも問題はある。

それはソ連軍ジャール大隊から分けて派遣されている俺達の護衛部隊だ。

《よーよー、そのオモチャみてぇな戦術機、ヘンな突撃砲、それでホントに戦えんのかよ。ちょいと、そこで死に損なってるBETAで格闘やって見せてくんね?》

《さっきから一匹も倒せてねーじゃねーか。ちっとは撃墜数稼がねぇと切り捨てられんぜ、お嬢ちゃんよ》

《そりゃないって。偉いトコのオジョーサマっしょ。こうやって後ろからお行儀良くついて行くだけでも戦果になる訳よ》

《ぎゃははは、そのための派手で使いモンにならなさそうな戦術機か! でっかいランドセルつけたあっちの兄ちゃんの戦術機といい、お国で飾りモンにするならBETAの体液なんてつけらんねーなぁ!》

此奴等…俺達を好き放題言いやがって、親はどういう教育してんだ!?

テスト機の随伴機なんだから、積極戦闘とかしないのは当たり前だろ!馬鹿が!

とにかく問題は、このジャール大隊分隊のガキ共だ。

万が一の場合に撤退支援をするのが任務であるはずだが、護衛対象であるはずの俺にやたら煽ってヤジを飛ばして来た

「おい、何とかならねぇのか?イヴァノワ大尉」

ナスターシャ・イヴァノワ……ラトロワ中佐の側近の一人でありジャール大隊の副官である

階級は大尉だが、年齢は15歳と言う大隊副官として最年少の女性衛士だ

15歳だぞ?

あんなのが副官とはな……だからガキばかりだったのか

冗談じゃねぇ、子守りなどまっぴらだ!

俺は不満を抱いたとき、一つ目の戦術機…いやモビルスーツが俺達の前に来た

サイコ・ザク……ダリル・ローレンツだ!

《ソ連軍ジャール大隊副官のナスターシャ・イヴァノワ大尉ですね、自分は第666戦術機中隊のダリル・ローレンツ少尉であります!》

《ダリル少尉、ラトロワ中佐から詳しく聞かせて貰った。カタリーナと言う女含め貴様は此奴等の恨みを買っている。故にこの程度は我慢しろ。適度にガス抜きをさせなければ、見境なく狙ってくるかもしれんからな》

あの茶髪サイドテールの可愛いルックスを持ったアイドルみたいな体型をしてる女の事か

東欧州も面子があるからな、恨みを買われたのは無理もないか

《自分は理解しているつもりです》

すっと答えやがった、何被害者面してんだよ……。

《それだけではない。あの件で奴らはラトロワ中佐にキツイ懲罰をくらった。逆恨みだが恨みは恨み。悪いが貴様の安全のためにも、私は介入するつもりはない。豊臣少尉も含めてだ》

《分かりました、では此方の意向に従います》

大人しく従ったぞ此奴

なんでラトロワ中佐に喰らった罰の恨みが、こっちに来るんだ!?

俺は関係ないだろ!

何よりフルアーマーガンダムとアトラスガンダム、サイコ・ザクへの冒涜、雑言は許しがたい!!

いっそビームライフルで真下から撃って蒸発させるか?

と、鈴乃の映像が立ち上がった。

《ムーア2、怒りを任せるな。この任務も結果上首尾でもうすぐ終わり。あと少しの辛抱だ》

俺は2連装ビームライフルのトリガーからそっと指をはなした。

なんて絶妙なタイミングで通信を送ってくる。

突然サイコ・ザクは機体を止めた

「おいおい、どうしたんだ?ダリル・ローレンツ。トラブルか?」

ダリルの声に応えず、感応の感度を上げる。

場所は………地下か!

ダリルは地下にBETAが潜って地上から出てくることを悟った。

《大方、急にビビっちゃったんじゃねぇの? シェルショックだけはカンベンしてくれよォ》

《幾ら楽しいBETA狩りがお預けだからって、アンタのお守りはゴメンだからね。怖いんなら自分の足で帰んなよ》

《見かけにビビんなよォ。コイツら、要はでっかい虫と同じだぜ。慣れりゃバカでも退治できるぜ》

もう、此奴等の煽りも気にならない。

迫る危機を知ったなら、ガキ共もこんな邪気塗れに笑っていられなくなる。

特に最後の奴。馬鹿はお前……退治されるのもお前だ。

BETAの知能はお前如きがバカにできるものじゃない。

佐渡島での戦闘で体に染みつくほど知ってしまったからな

《今、この真下の大深度地下ではBETAの大群が侵攻してくる。狙いは後ろの前線基地》

《ハァ?》

ダリルがそう言うなら、俺もそいつの進言を賭けるしかないな

「分かったよダリル・ローレンツ、お前の言葉を信じるぜ」

《お前に信用されても嫌な男だな……》

「今は互いに共闘する事を専念しろ。お前との決着は後回しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前線基地BETA襲撃により全試験部隊は試験任務を中止。

現在、試験開始地点まで後退。CPの指示待ちだ。

不安な待機時間のなか、いち早くBETAの基地襲撃に気がついたダリルは時間潰しの肴だ。

《な、なぁ。本当にその機体の震度計、地下のBETAが分かるのかよ?》

とか、タリサもちょっと慄いた感じだ。

「サイコ・ザクに震度計は付いていない、この機体は元々宇宙寄りだ。それに何でBETA群が地下にいるの分かったかは俺の直感だ」

直感ね……。

お前はニュータイプか!

馬鹿馬鹿しくなってきたぜ……。

《そりゃ凄ぇ! ウチの国じゃ何度も糞ッタレ共の地中進行にやられてよ。でもそいつがありゃ借りが返せるってもんだぜ!》

《なぁなぁ、そいつも販売しねーのかよ。地中進行は光線級と並んでBETAの最大厄介の一つだし、それだけで英雄になれるぜ!》

ならねぇよ!

しかしダリルもダリルだ

「無理だよ、だってこの機体は四肢欠損でないと動けない機体なんだ」

そりゃそうだ、誰があんな機体乗るんだ?

しかし中華統一戦線バオフェン小隊の連中。衛士とはいえ、もう少し女らしく出来ないのか。

俺は嫌いじゃないぜ

《…そ、そんなことより今はBETAだ! 地下BETAの侵攻は続いてる》

「な…まだ増えるのかよ。こりゃ、帰り道なんて無くなるぞ!」

《帰る場所そのものが無くなるかもしれないわね。BETAが前線基地を奪い、そこのエネルギーを得たなら、その後ろのペドロパブロフスク・カムチャッキー基地も危ないわ》

ステラの最悪な未来予想に、全員が色めき立った

《くッ、バオフェン1より各機!我が小隊はこれより基地に帰投する!》

《おい、落ち着け!推進剤も弾薬も試験で消耗したまんまだろ。ガス欠でBETAの渦に立たされたらどうすんだよ!》

《そうだ落ち着け。サンダーク中尉も説明していただろう。ここは地形的に航空爆撃が使える。被害は大きいかもしれないが、基地陥落、などという事態までには至らないはずだ》

そんなこんなで、わちゃわちゃやっていると、やがて基地との連絡会議で離れていたジャール大隊の一団が戻ってきた。

《全試験部隊、傾注! HQから指示が来た。ラトロワ中佐、お願いします》

イヴァノワの幼くも凜とした声が響いた。

改めて思うが、本当にこの部隊は損耗が激しいんだな。

こんな女の子が大尉で副官だし、隊員は全員中学生くらいだ。

ジャール大隊ただ一人の大人、ラトロワ中佐が貫禄ある声で続いた。

《全試験部隊の諸君、HQからの指示を伝える。これより大隊は、諸君らお客さん方を退避地点まで誘導する。我々はそこで補給を受けた後、戦線を構築するために離れるが、諸君はそこで別途指示があるまで待機して貰いたい》

待機か…………。

出来るなら、そんな指示なんか無視してフルアーマーガンダムで基地一直線。

群がるBETA共を手当たり次第になぎ倒して一掃したいのだがな。

しかし他国の軍属がそんな勝手をする訳にはいかない。

やったら軍法会議で死刑になるほどの、唯依や鈴乃に類が及ぶほどの重罪だ。

基地にいるドーゥル中尉やヴィンセントは心配だが動けない。

クソ!

同胞団の上層部も未だに動きがみられていない

《尚、殆ど戦闘をしていないムーア中隊には協力を要請したい。分隊と共に目標地点へと出向き、我々が補給を受け向かう間、時間稼ぎを願う》

!!!!

《この要請は断ってもらっても構わない。拒否によるペナルティーは何も無い。HQからの要請だが、大倉大尉。どうだ?》

拒否なんかする訳がない

鈴乃、アンタ次第だぜ?

答えはもう決まってる筈だ

《ラトロワ中佐。爆撃をするなら戦術機部隊の出動はありませんよね? それに時間稼ぎを自分らへ求めるほどの余裕のなさ。もしや…………》

お前には聞いてねぇよ!義足野郎!

《勘の良い坊やだね。そうだ。光線級まで出てしまった。『時間稼ぎ』は基地の人間が退避するための時間を作るものさ》

《やはりそうですか》

なんて冷静に状況を分析できる奴なんだ!

ダリルが『受けます』と言った瞬間、出力全開、全力疾走で誰も彼も引き剥がして、現場に飛び込もうとした俺とは真逆だ

そして光線級の名が出た途端、この場の誰もが戦慄している。

《で、それを理解したうえで聞きたい。この要請を受けるか否か》

《受けます》

《本当に良いのかい? 他国のために危険な橋を渡るよ》

《この前線基地が抜かれれば後ろのペドロパブロフスク・カムチャッキー基地が脅威に晒されます。そこは日本の真上にある対BETA最前線基地。ここまでBETAに迫られては、日本の極北方面へ多大な負担をかけることになります》

彼奴の言う通りかもしれない

だがお前ではなく鈴乃に聞いてるんだよ

何でお前が承諾するんだ!おい!

《私もです、ダリル少尉の言う通りこのままでは他国に向け脅威を晒されるかと》

鈴乃……お前は、優しいな

《だったら、しょうがないねぇ。ジャール2、自分の小隊を率いて付いていっておやり》

おいおい、何か嫌そうな顔してたぞ

ラトロワ中佐、本当はこの要請を断って欲しかったんだな。

《そしてこの防衛戦には我が国試験小隊のイーダル小隊も同行する。補給も優先して受けさせるように、とのことだ。イーダル。試験のあとの連戦になるが、やれるかい?》

あの2人も来るのか……だがここで嫌だと言える状況じゃない

やるしかない!

《当然です。祖国の防衛任務に否はありません。そして他国の者に遅れは決して取りません》

クリスカの奴。なんか、まだ俺を敵視している気がする。

俺はあんなヒステリックなサイコ女衛士と仲良くするのはまっぴらごめんだぜ

こっちから願い下げだ

ラトロワ中佐は最後に自分の大隊に向けて締めた。

《大隊傾注! この戦闘は時間稼ぎ。基地の人間が全員退避するまでの遅滞戦闘だ。ただし、現場には光線級が確認された。これを放置しておくことは被害の拡大を意味し、全力で撃破しなければならない。よって現地到着後、すぐさま光線級吶喊を行う!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳で、俺のフルアーマーガンダムと鈴乃のアトラスガンダムは4機の分隊に連れられ基地へ。

まぁ、その分隊もやはり悪ガキ共で、散々罵倒され煽られながらの移動。

でも、もう慣れたぜ。

そしてその隊長は中佐の副官。最年少の大隊副官であるイヴァノワだ。

15歳で大隊副官務めるなんてすげぇとしか言えない。

カティアが中隊副官として活躍すると同じだ

そんな事はあり得ないがな

《言っておくが、自分から行く以上シェルショックを起こしても面倒は見ない。BETAに恐怖しないよう、せいぜい心を強く持て》

「へいへい、ご注文承りました~♪」

俺は軽い口調で最年少の副官に向け返答した。

転生して暫くは感じてた気がするけど、今は思い出せない。

いや思い出したくないな

ケヤルガ……俺の顔を変えた事は水に流してやる。

結果を出す、今の俺はそれだけ考えるんだ!

《我々には余裕がない。光線級吶喊を行う作戦は必ず誰か損耗が出る。だから…………私が中佐を守るために参加したかったのに………無念だ》

そう言ったその少女の顔は、家族を心配する年相応の少女のようにも見えた。

BETAがいなかったら平穏で暮らしてただろうよ

家族と一緒に幸せに過ごして、友人も沢山できて仲良くしたり学生生活を満喫したり小学校、中学校、高校、大学。社会人になってからも常に幸せに暮らし彼氏彼女作って結婚し互いに夫婦となって子供を授かり子供の成長を見届けて孫の顔を見て生涯を全うする

だから思わず言ってあげた。

「大丈夫だ、もう誰も死なせない………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分隊と共に前線基地へと帰投したオレ達。

基地を一望できる丘陵のそこで見たものは…………

《な、なんだよコレ!基地が一面、BETAだらけじゃないかよ!》

《き、基地の敷地が埋め尽くされている……チクショウ、糞共め!》

「機体は……無事なわけないか。衛士達はミートソースになってるな」

前線基地敷地の中も外もすでにBETAで蹂躙され、あらゆる設備が刻々と破壊されてゆく。

分隊の子達にとってこの基地は家同然らしく、通信の声は無念に満ちていた。

《怯むな!命令通り遅滞戦闘を行う。まずは遮蔽物の多い場所に射撃地点を構築する。後、BETAの足を潰して浸透を遅らせろ。基地の人員が無事に安全地帯へたどり着く時間を死ぬ気で稼げ!》

イヴァノワちゃん勇ましいなぁ。

さて。俺にとっては先程の試験部隊のシッポとは違って、本当に久しぶりのBETA戦。

現場の基地は素敵にBETAに埋め尽くされて、実にヤバいぜ

これぞ本当のBETA戦だな……。

《基地がBETAに埋め尽くされてる……ここにいる戦術機や戦車はどうしたんだ!?》

「皆、やられちまったよ。誰も生きてはいねぇよ」

ダリル……お前は一体何をしに来た?

《お前と組むのは嫌だが、この状況ではそう言ってられない》

「んじゃ、蹴散らすとしますか☆てめぇら、機体から大きく離れろ!」

《どういうことだ!!まさか逃げる気か!?》

《逃がさん!こうなっては一機でも弾幕を張れる奴は必要だ。ここへ来ると言った以上、責任はとってもらう》

分かってるよ、そんな事は

分隊全員が一斉に突撃砲をこちらに向けての交渉

斉射体勢は一瞬だし、息もしっかり合っている。流石の練度だ。

《悠一、それとダリル少尉。我々の戦力で3機同時に連携すれば怖いものはない!》

鈴乃は俺とダリルで連係プレーを試みる

主機を引き上げ、フルアーマーガンダムの武装を展開にする。

BETAにはより高性能の電子機器に反応し、優先的に襲うという性質がある。

《ジ、ジャール2!西のBETA梯団が一斉にここに!》

《正面もだ!最大規模の梯団がこちらへ接近ッ!当地点はヤバい!!》

《うわあああ東までも!完全に囲まれた!退避経路なんてどこにもない!》

《なんだとッどういうことだ!?なぜ戦域全てのBETAがこちらに向かってくるっ!?概数はいくらだ!》

《よ、四千っ………いや五千ッ!わ、わからねぇ!とにかくマーカーが赤一色だ!!》

馬鹿が、フルアーマーガンダムやアトラスガンダム、サイコ・ザクを愚弄した罰だ。

恐怖に怯えてろ

「鈴乃、俺のフォローを頼む!ダリル……俺は」

《アンタとの決着をつけるまで勝負はお預けだ!》

「分かってるじゃねぇか!行くぞ!」

それまでの鬱憤を晴らすように500キロで疾駆。

まず目指すは光線級!

前方を要撃級が阻むようにふさぐが、軽くサブアームでビームサーベルを右手で握りそれを膾にしていく

やがてレーザー警戒区域にまで近づくと、それまでワラワラ寄ってきたBETAは割れるように道を開ける。

そして前方からレーザー集中砲火の歓迎。

快調快調

サイコ・ザクが前へ出てサイコバックパックに付いてるサブアームでザクマシンガンを連射

「おい、てめぇ!それは俺の獲物だ!」

《早い者勝ちだ、後れを取るから悪いんだ》

「ぐぬぬぬ…!」

鈴乃は呆れ、俺とダリルを仲裁した

《喧嘩は帰ってからにしろ。豊臣少尉。あとで私の部屋に来なさい》

「ああ、勿論だ」

レーザーを掻い潜りながら鈴乃やダリルと会話が出来る程に、光線級吶喊が余裕になってしまった。

慣れと言う奴か?

「身の程を知れ、目ん玉野郎」

2連装ビームライフルの有効射程に入った瞬間、躊躇いもなく射撃。

鈴乃もアトラスガンダムに装備してるレールガンを構え射撃

あっという間に光線級の一団は肉塊に変わった。

光線級を全滅させると、再びBETAが一斉に迫ってきた。

さっきまでの道が完全にBETAに埋め尽くされた。

まあいい。だったらBETAの死山血河を築いて強引に押し通るまでだ

と、思った瞬間、ダリルは天啓を閃いた。

《上だ!》

反射的に機体を強引に進ませる。

瞬間、巨大な衝角付き鞭数本が頭上から降り落ちてきて、躱した元の位置に突き刺さる。

迂闊にも周囲の要撃級、戦車級ばかりに気をとられ、かなり先にいる要塞級の一団には注意が薄かった。

「チィッ、上にも注意となると、ここは位置が悪い!」

移動しようにも、見回すと雲霞のごとく一面にBETAの群れ。

さらにレーダーにはBETAのマーカーが真っ赤になるほど集ってきている。

俺は大型ビーム砲でBETA群に向け砲撃し鈴乃はレールガンで射撃

ダリルは右手に持ち握ってるジャイアント・バズで乱射

接近を僅かに止めるだけでいつまでも減らない。

さらに鞭も散発的に襲ってくるので、体勢を立て直す暇すらない。

「ちょいと花火を上げてやるぜ」

6連装ミサイル・ポッドで弾幕の形成や集団戦で使われる多弾頭ミサイルを発射しつつアトラスガンダムのレールガンの音が響き、一体また一体と落ちていき、やがて全滅した。

《タフな要塞級はレールガンで一発倒せる威力があったとは改めて驚愕したわ》

「着弾を集中させれば、要塞級の巨体すら撃ち抜くことが可能だ」

別の方角から砲撃が流れてきて、目の前のBETAの群れ十数体が肉塊となった。

何処からの砲撃だ?

音声のみだが、女性らしき衛士の声が聞こえつつアニソン音楽が流れてきた

「何だ!?このキャピキャピした音楽はよぉ!これは……『少女交響曲』か!?」

《WUGちゃんの曲聴こえてる?アンタ達を援護しに来たわよ》

アリゲートルだと!?

しかも色別に緑、黄色、赤、青、水色、紫、オレンジの7機

いや後ろに付いてるのは背部兵装担架だが普通の戦術機とは全く異なるデザインだ

突撃砲2つに近接戦用長刀2つ

2連装突撃砲、ロケットランチャー

追加装甲2つ付いてやがる!

《アリゲートルブリッツ……カタリーナ、来てくれたのか!》

ダリルは嬉しそうな表情する

あの機体、アリゲートルブリッツっていうのか

《ピンチの時に来るのが我々の役目よ》

良く言うぜ、東ドイツ国民を散々無慈悲で殺しまくった癖によ

カタリーナと言う女はヴェアヴォルフの衛士だ

茶髪サイドテールにアイドルみたいな可愛い顔してる

「アンタらが来てくれて助かった。感謝するぜ」

《うん、それとアンタさ雑に戦い過ぎ。目標を達成したら速やかにこちらと合流しなさい》

「了解、そういや分隊の皆はどうしたんだ?」

《分隊?あぁジャール大隊の分隊ね。BETAの圧力が弱まった頃に別れたわ。優先的に狙われるのはこっちだし、別れた方が向こうは安全だからね》

イヴァノワ大尉達は無事か。

ホッとした自分に少し驚く。案外、あの生意気で凶暴な子達を気にかけていたんだな。

《ムーア1だ。ディーゲルマン中尉、援護を感謝する》

《よし、連携してここを抜けるわよ。まずは背中を守り合う。目の前の敵だけを倒しなさい》

アリゲートルブリッツはフルアーマーガンダム、アトラスガンダム、サイコ・ザクの背面に背中を合わせてつく。

そして猛烈な勢いで俺は2連装ビームライフルでフルオート乱射する。

次々に前面のBETAを肉塊に変えていく。

とにかく撃ちまくる!

背中からは絶え間ないフルオートの音。

前面後背ものすごい勢いでBETAの死骸は量産されていく。

《ムーア1よりムーア2、このまま微速で移動だ。基地から引き離して爆撃可能な位置まで誘引するぞ》

アトラスガンダムが先頭に立つ

眩いビームライフルやレールガンのスポットライトに包まれた、背中合わせ二機のガンダム。

観客のいない華やかなステージの自分がおかしくて、笑いが止まらなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラトロワSide

 

西部海岸 西地区臨時退避地点

 

 

 

試験部隊を無事に退避地点へ誘導した後、整備班への指揮と各所の連絡を終えると、後は補給の推進剤注入の完了待ち。

移動補給車両の跳躍ユニットへの推進剤注入装置は、あまりスペックは高くない。なので完了まで時間がかかってしまうが、全機満タンにすることを怠るわけにはいかない。

光線級吶喊ともなれば、光線級を始末した後に空中へ逃れるのに絶対必要だからだ。 

残量表示カウンターをぼんやり眺めながら、ここへ来る前のHQとの不可解な連絡を思い返していた。

《私は中央戦略開発軍団のロゴフスキー中佐だ。危急存亡の時ゆえ、私が直接基地の決定を貴官に知らせよう》

「(中央戦略開発軍団だと? 何故こいつらが防衛戦の指示にしゃしゃり出てくる?)」

中央戦略開発軍団……それはソ連軍特殊実験開発部隊を擁するエリート部隊で、主にいけすかないロシア人特権階級で固められた高等秘密組織ってやつだ。

今回の遠征に参加している曰く付きの組織連中の親玉だが、こんな状況に出しゃばるような奴ではないはずだ。

そんな自分の疑問に反し、あたえられた命令は至極まっとうなものだった。

ただ一つを除いて。

《………………以上だ。この任務には基地内にいる同胞すべての命がかかっている。貴官の忠誠に期待する》

「質問がある。我が国試験部隊のイーダルに協力させるというのは、まぁ良いさね。負担を考えればやらせるべきじゃないとは思うが、そっちの手駒のことだしね。だが他国の佐渡島同胞団ムーア中隊にまで協力を要請するってのはどういうことだい?」

《ムーア中隊は試験において射撃、戦闘機動共にしていない。推進剤も弾薬も十分なはずだ。貴隊が基地に到着するまでの間、被害を抑えるには適任だと思うが?》

「どうしてその小隊の試験の状況を………いやしかし、この難しい戦域に、実力未知数の他国の者を使うのはどうかと思うね。下手にしくじったら取り返しのつかないことになるぞ」

《ハハハ、その心配が杞憂なのは貴官もその目で見ただろう。今回派遣された試験部隊は、試験において皆高い撃破数を誇っている。未戦闘のムーア中隊もきっと活躍を期待できるだろう》

そいつらがピンポイントでポンコツだったらどうすんだ!

実力未知数の者を修羅場に置くなんざゴメンだ!

…………と言いたかったが、さすがに他国の衛士の罵倒は控えた。

「全世界社会主義国の盟主の面子はどうしたんだい。他国に祖国の危機を救ってもらうなんざ、大国の沽券に関わるんじゃございませんかね」

《基地の直近に光線級が出たのだ。国家の体面を気にしている場合ではないよ。今は他国に借りを作ってもこの危機を凌ぐことが重要。基地司令部はそう判断した》

今更らしくないことを……今までその大事な大事な体面のために、どれだけ現場の人命をすり減らしてきたと思っている。

「なるほど、賢明なご判断ですこと。ですがその苦渋の決断が、たった二機の戦術機の戦力を借りるだけってのは如何なもんだ。幾ら何でも、国家の面子の天秤に釣り合わないんじゃございません?」

《ラトロワ中佐。この協力要請は中央の承認を得た正式なものだ。疑念は挟まず、佐渡島同胞団ムーア中隊の豊臣少尉へ要請したまえ》

「……………了解。だけど、この戦いに機体が無事でいられる確率はないよ。相手にしてみれば貴重な実験機を他国の防衛戦でオシャカにしてしまうんだ。受けるとは思えないけどね」

《無論これは要請だ。相手の承認がないならば無理強いは出来ないよ。大倉大尉が断るなら、この話はここまでだ》

………………?

「光線級出現の話はしてもいいんだね? まさか『それは秘匿したまま要請しろ』なんて言うんじゃないだろううね」

《当然だ。そのような信義に悖る行いを中央が承認すると思うかね?》

思う。

というか信義など踏みにじって、何もかもブン獲って、後で屁理屈で押し通して済ますってのが昔からの上のやり方だったろう。

何故、この件に関してだけは誠実国家みたいなことを言う。気持ち悪い。

しかし言質は取った。

BETAと進んで戦いたがる変態はたまにいるが、光線級のいる戦場に出たがる奴はまずいない。

多分、戦場を体感させるためだけに送ってきた、という所か。

だったら光線級の話でもすれば体よく断るか。

「わかった。言うだけ言うよ。じゃ、重金属雲はケチらずにまきな。悪巧みばかり巡らせて、後方支援の役割を怠るんじゃないよ」

《ムーア中隊へつける分隊は貴官のもっとも信任のおける有能な者をつけたまえ。そしてそこの小隊の豊臣機の戦闘機動を映像に余す事なく記録するように》

なるほど。目的はあの実験機のデータか。

確かに従来の戦術機の構造とはまるで違った作りをしていた。

だったら、尚更そんな機密の塊のような戦術機を実戦に使う要請なんて断るだろうと思ってたが予想に反してたった一言で了承した。

ダリル・ローレンツはその顔に怯えも恐怖もなかった。

あれはもしや、歴戦か?

と、そこまで考えたとき、HQと連絡を取り合っていた部下が急を告げた。

「ラトロワ中佐、現場の状況が急変!それに伴い命令内容の変更があるそうです。通信お願いします!」

ちっ、やはり外国のお客さんは厄介を運んでくれる。

ターシャ、お前は私の副官だ。

こんなつまらないことで死ぬんじゃないよ。

部下から奪うようにマイクを取り、スピーカーの向こうのCP将校にがなりたてる。

「ラトロワだ!何がどう変わった。先行している分隊は無事か!?」

《ツェー04補給基地戦域において、先遣のムーア中隊により光線級群は既に撃破。BETA群、ツェー04補給基地より前面二千メートル地点へ移動。同中隊により急速に数を減らしている…ツェー04基地司令部発。ジャール大隊は直ちに補給作業を中断し戦域に向かえ。ムーア中隊がBETA群を全滅させる前に引き上げさせるように。以上です》

一体何がどうなっている!?

本当に外国からお客さんが来る時は禄なことがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコラSide

 

我がヴェアヴォルフ大隊はソ連軍のツェー04補給基地で襲撃を試み、日本が開発した試製99式電磁投射砲の強奪任務へと励んでいた

「総員傾注!これより我が大隊は国連軍やソ連軍においてBETA戦闘してる間にツェー04補給基地に襲撃し試製99式電磁投射砲を強奪する」

しかしそれは現実的ではない

何故ならソ連は我が東ドイツの同胞国だからだ

が、今のソ連政府は腐敗してることにありブレーメ総帥閣下が政府関係者を上手く丸め込み承諾した

《ニコラ、まさかソ連の基地で日本が開発した兵器があるとはな。どういう風の吹き回しだ?》

「理解し難いな、身分が高いものは安全圏に行きそうではない者は前線で戦い選択肢しかないのだからな、ロザリンデもそう思うだろ」

《カタリーナは分隊率いて別行動、ダリル少尉はジャール大隊や国連軍の支援に行った。で?強奪した後の事は考えたのか?》

………。

全く考えてなかった。

「ああ、勿論だ。ロザリンデ、成果を果たさないと意味はないからな」

私は見栄を張り嘘を吐いた

嘘吐いても何も得られないが、作戦計画をちゃんと練っておけばよかった

突如、ファルカから通信が来た

《大隊長、ダリル少尉からの報告です》

「何だ?今は作戦行動中だぞ」

《ハッ、手短に申し上げます。現段階でツェー04補給基地戦域において、先遣のムーア中隊により光線級群は既に撃破》

「ムーア中隊?佐渡島同胞団か」

《はい!》

どうなってるんだ?

《ですが全て殲滅した訳ではなく一部減らしただけです!このままだと我々はこの基地丸ごと全滅します!》

「任務放棄するわけにはいかない。13、14は基地の保守任務だ。ソ連軍衛士はもうここにはいない。早く電磁投射砲を強奪するぞ」

《13、了解》

《14、了解!》

もうすぐBETA群が…いやここにはBETAの死骸ばかりだ。

我々は慎重に電磁投射砲をゆっくりと互いに協力しそっと担ぎ込む

その時だ、別方角からBETAが迫ってきたのだ

数は……軍団規模だと!?

《我々だけでは対処しきれません!撤退を!》

「馬鹿者が!ここで手土産なしで帰る訳にはいかないだろ!!」

《ですが!》

ファルカ、分かってくれ

私はブレーメ総帥閣下の為に大義を成し遂げなければいけないんだ

《戦車級だ!》

《大隊長、命令を!》

戦車級……。

拙い、このままでは基地丸ごと鉄の塊になってしまう

「総員砲撃開始!兵器使用自由」

部下に命令を下し、迫ってくる戦車級に砲撃

その間、電磁投射砲を持ち帰る

よし、あと一歩だ

「早くしろ!電磁投射砲をBETAの魔の手に差し伸べるな!!」

時間がない

「ダリル少尉を呼べ!」

《え?ダリル少尉ですか?》

「そうだ!この電磁投射砲を担ぐ手伝いするほか目の前にいる赤蜘蛛を一匹残らず殺せ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

《悠一、弾幕を張れ!》

いきなり通信から鈴乃の声が響いた。

「あだぼうよ!一発ぶち抜いてやる」

2連ビームライフル、大型ビーム砲、6連装ミサイル・ポッドを同時砲撃し弾幕を張る

《3時方向から高熱源反応が来る! 索敵範囲よりさらに外からの攻撃だ!!》

カァァァァッ 

――――で、デカイ!!

何だ、この膨大な高熱線は!?

 

 

 

 ドォォォン ズゥゥゥン…………

 

 

 

 

 

《ト、トーニャ! キール!》

後ろのジャール大隊の幾つかの戦術機が爆散した。

通信から散った仲間を呼ぶ声が哀しく聞こえる。

隊を俺達より大きく離れさせたのが禍いした。全ての盾にはなれなかった。

《ラトロワ中佐、ここは私達に任せて撤退を!急いでください!》

《こんな訳も分からないままやられるのはごめんだ。全機退避!光線級のセオリー通り、高度はとるな!死ぬなよ佐渡島の衛士》

蜘蛛の子を散らすように撤退するジャール大隊と紅の姉妹

鈴乃は双方に向け敬礼した

いや、『私達に任せて』ってどうすりゃいいんだ!?鈴乃

この超展開……何がどうしてこうなったか、シナリオでも読ませてくれよ大倉鈴乃先生よぉ!

「おい、何に狙われたんだ!?」

《光線級のレーザーだ》

《ムーア2、重光線級の反応があるわ!警戒を怠るな!》

重光線級だと!?

上空にレーザーの閃光が走った。

すると残余のBETAの始末をしていた航空爆撃隊が、全て爆散した。

ペドロパブロフスク・カムチャッキー基地に来たとき説明されたが、この一帯は2000メートル級の成層火山アヴァチャ山に守られ、光線級のレーザーは空も含めて攻撃されない

《ムーア2、奴の狙いは私達だ。ジャールと逆方向に行く。アヴァチャ山を目指せ!》

言われるまま鈴乃のアトラスガンダムについて行く。

 

 

カァァァァッ

 

 

 

再び此方にレーザーがきたが、照射の位置とタイミングはわかるので、大きく避けて躱す。

「本当に照射してきやがった!」

《とうとうBETAが俺達を本気で狙いにきたという訳か……》

《BETAは戦った相手を学習し、それに対応した戦術を行う知能がある。だが、ガンダムは強過ぎた。【どのような戦術を駆使しても倒せない相手】BETAの大元はそう見たんだろう》

「おいおい、つまりアレか?新種のBETAが来るって訳か?」

レーダーに反応が来た。

これは戦術機……いや違う戦術機の形をしているBETAだ!

《2人共、新種のBETAが来るぞ!》

ダリルが声を上げる

《確認する……これは、戦術機!?馬鹿な!戦術機の皮を被ったBETAがいたなんて信じられない!》

鈴乃は驚愕し焦った

「数は?」

《4体、あとの2体は…》

ダリルが言いかけようとしたその時、戦術機の皮を被ったBETA2体が両目からレーザー照射した

「うあ!」

何とか回避だ!

《概在のBETAでは倒せない…………なら、新種のBETAを生むしかない。その答えがアレ、か。謂わば『戦術機級BETA』と『光線戦術機級BETA』。全く大物に見てくれたわね》

戦術機の皮を被ったBETA

戦術機級BETAか

「戦術機の皮を被った高所遠方から極大出力のレーザーを照射するBETAだと!?」

 

 

 

 

 

 カアァァァァァァッ

 

 ドォォォン………

 

 

 

こんな大出力なのに、おそろしく間隙が短い。

どうにか躱したが、このままではジリ貧だ。

いっそ光線級のセオリーの逆で空中を行くか。

躱さなきゃいけないなら……

《照射範囲は広くとも、20キロ以上先から照射してくるなら余裕で躱せる。別れましょう。私達が囮になる、その間に逃げて!》

「俺も連れていけ。俺達は逃げるんじゃない。奴を倒すんだ!」

《俺も行く!ここで退きさがったら生き延びれない》

鈴乃…ダリル……そうか、ならやる事は決めてるな?

やってやるさ

「分かった!出来るだけ近づいてみよう。奴の姿を見ながら倒す方法を考えろ、ダリル!」

《いちいち言わなくても分かってる》

「憎めないねぇ」

アトラスガンダムはサブレッグを乗せながら上昇。

サイコ・ザクはスラスターを展開し、旋回飛行

俺が乗るフルアーマーガンダムはレーザーを躱しながら、その元凶へと舵を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アヴァチャ山を越えて見たもの。

最初、俺はそれを小山の上に戦術機がいるように見えたが戦術機ではなかった

あれは戦術機級BETA、全長18m その他データなし

ただ言える事は戦術機級BETAの派生種である光線戦術機級は両目からレーザー照射するのが特徴であり何よりも戦術機の武装である突撃砲と長刀を扱える

背部兵装担架のようなものは手が2本ある

驚いたのは光線戦術機級のレーザー照射照準の正確性。

中央の広範囲極大レーザーすら苦労しているのに、突撃砲を握り構えてる戦術機級BETAにまで狙われてはたまらない。

《こんなことなら、地上を行った方が良かった?集中するのはレーザー照射する戦術機の皮を被った2体よ》

「どっちにしろ近づけないだろう。鈴乃でも距離が近くなれば躱すのは不可能になるぞ」

《近づいたとしても、素早い動きで交わされるし。ビームライフルは勿論、恐らくレールガンでさえ、かすり傷しか負わせられないと思う》

分析したダリルはさらに驚くようなことを言った

《俺が前に出て奴の動きを封じ網にかかる!》

戦術機の皮を被ったBETAの対策考えてたのか?

まぁいいさ、愛する人の為に守り抜く……恋愛映画だな

「俺達が引いたら彼奴は北東ソ連を皆焼き払っちまう。そしたら誰も彼も全滅だ!倒せなくとも無力化して時間を稼ぎたいが、どうすれば良いのか」

《それが出来たら苦労はしない、重武装に火力を拘り過ぎてるお前が言う台詞じゃないだろ》

「何だと……!?」

《2人共、喧嘩はやめろ!作戦行動中だ》

鈴乃の怒号で俺とダリルを仲裁した

こうやって飛び回って注意をこちらに向けているのがせめてもの時間稼ぎ。

攻めるなど、三銃士が剣を使って要塞攻略に挑むようなものだ。

《リユース・サイコ・デバイスならどんなBETAだって倒せる!》

ダリルはそう言い、加速を上げサブアームに付いてるザクマシンガンや右手に握り持ってるジャイアント・バズを連射

戦術機級BETA1体殲滅した

残り3!

「お前にしてはよくやるじゃないか!」

《偶々当たっただけだ》

続いては鈴乃がアトラスガンダムがレールガンでレーザー照射しようとしている光線戦術機級BETAに向け直撃した

残り2!

「残るのはお前等だけだな」

俺は増加装甲内ミサイルを展開し戦術機の皮を被ったBETAに向け弾幕を張り一斉攻撃

これで殲滅だな

ふと束の間、俺達は戦術機級BETA(光線戦術機級も含め)を殲滅した事は変わりはない

これで安心して帰れるぜ

と安堵に浸ろうとしたが、鈴乃が重い空気で複雑な表情で言い放つ

《……国連軍からの伝達だ》

「?」

《読み上げる…ジャール大隊は壊滅、帰還数は……なしだ》

は?

今帰還数がないって言ったよな

……そうか、ラトロワ中佐も覚悟を決めて戦場に散っていったか

そう感心していたが、それだけでは済まなかった

《……新たな情報が入った、補給基地で電磁投射砲が強奪されたわ》

何だって………!!!?

《……》

ダリルは何か知ってそうだな?

何を隠しているんだ?

「あそこはBETAに埋め尽くされてる筈だぞ!どうやって…」

《それを実行したのは……》

鈴乃がそれを指揮した人物を言おうとしたがダリルが先回りする形で言い放つ

《ヴェアヴォルフ大隊大隊長、ニコラ・ミヒャルケ》

「!」

《ウルスラ革命時は副官だったが、自分が掲げた作戦を見栄を張ってた無能指揮官だ》

その無能指揮官が何で生き延びたんだ?それが知りたいんだ

《大隊指揮官になったのは恐らくベアトリクスが革命に勝利したからのも含めて彼女の寵愛によるものだと思われる》

さらっと言いやがったな

カタリーナが会話に割り込む

《恐らく電磁投射砲を強奪して似たようなもの作ると思うわ》

《似たようなモノ?》

《ええ、我々が扱うとっておきの最強に誇れるとんでもない武器よ》

おいおいおいおい、まさかと思うがビッグガンとか言うんじゃないだろうな

幾らG元素を応用してもそれはあり得ないぜ

《その名は……》

カタリーナが東欧州版の電磁投射砲の名称を言おうとしたが、ニコラから通信が来た

《カタリーナ、良くやった。我が大隊は無事BETA群を避け電磁投射砲を手に入れた。帰還するぞ。ダリル少尉もだ》

《了解……》

カタリーナは落ち込んで呆然とした表情のまま6機のアリゲートルブリッツを率いて飛び去って行った

《俺も行くよ、ファムと連絡とらなきゃならないんだ》

「そうかい、じゃあお疲れさん。あとは俺と鈴乃がやっておくぜ」

《……今回はお前と共闘したが次はない。貴様との宿命を断ち切ってやる!》

「ふっ、その台詞はそのままそっくり返すぜ」

命をかけてBETAと戦ってきた連中を、自分らの都合が悪いからと抹殺するような奴らは、どうしても許せない。危険くらい買ってやるさ。

都、草野、早乙女、村田……俺はアンタ達の事は一生忘れない

仇は絶対に取ってやるからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報告

2001年8月19日

軍団規模のBETA群が突如としてカムチャッカ内陸部に出現

第3防衛戦を超えツェー04補給基地までの侵攻を許すも、ソ連軍第3軍第18師団第211戦術機甲部隊”ジャール大隊”の活躍と佐渡島同胞団ムーア中隊の奮闘と支援砲撃によりこれを殲滅

新種のBETAである戦術機級、光線戦術機級両方殲滅

極東戦線は瓦解の危機を脱する事に成功した

尚、今回の戦闘においてジャール大隊は壊滅、帰還機なし

同時に日本が開発した試製99式電磁投射砲は東欧州社会主義同盟戦術機大隊『ヴェアヴォルフ』により強奪

その一件の強奪によって東欧州社会主義同盟は技術を盗用していった。

日本に返還される事は…………なかった。




登場人物紹介4

紅林二郎
日本帝国軍本土防衛軍佐渡基地第三戦術部隊予備部隊に属した整備兵
B中隊付きの整備員を取りまとめる整備主任。階級は少尉(前任者がインフルエンザで死亡した為、相当の地位となる)
23歳の青年男子で、長身に体育会系の引き締まった体格をしている。
佐渡島防衛戦で生き延びた後、鈴乃と行動を共にし佐渡島同胞団に入り引き続き戦術機しつつ新たに配備したフルアーマーガンダムとアトラスガンダムを1人で整備する
モデルは名前の通り漫画系YouTubeチャンネル『ヒューマンバグ大学』の動画に登場するキャラクターである紅林二郎




次回からはブルーフラッグですが省く可能性があります
戦術機同士の模擬戦闘ですからな……(-_-;)
そこは見てのお楽しみという事で
次回のお楽しみに!


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第20話 The blue flag was lost

ブルーフラッグ

プロミネンス計画総責任者、クラウス・ハルトウィック大佐が発案した

ユーコン基地に所属する各国実験小隊参加の大規模模擬戦闘プログラム

参加機体は……

・国連軍アルゴス試験小隊

F-15・ACTV アクティヴ・イーグル

XFJ-01a 不知火弐型

・ソビエト連邦イーダル試験小隊

Su-37UB チェルミナートル

・東欧州社会主義同盟グラーフ試験小隊

MiG-29OVT ファルクラム

・欧州連合第一スレイヴニル試験小隊

JAS-39 グリペン

・欧州連合第二

F-5E トーネードADV

・豪州

F-18EA アドヴァンスト・ホーネット

・大東亜連合ガルーダ試験小隊

F-18E スーパーホーネット改

・中東連合アズライール試験小隊

F-14Ex スーパートムキャット

・アフリカ連合ドゥーマ試験小隊

ミラージュ2000-5 MK.2

・統一中華戦線バオフェン試験小隊

J-10 殲撃10型

 

その概要はAH演習によって互いの技術を評価研鑽する事を目的とした、総当たり形式の戦術機同士の模擬戦である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

アラスカに戻った俺と鈴乃だが、佐渡島同胞団専用格納庫内で恭子からの指令を待ち構えていたが……。

「何でガンダム出れねぇんだよ!」

「悠一、良く聞いて。ブルーフラッグは戦術機同士で競い合うイベントなの。ガンダムは別世界の技術を携わった機体だから参加できない」

ガンダムは別世界の技術を携わった機体……ああ、その通りだ

本来ならこの世界に存在してはならない。しかし納得いかねぇんだよ

俺は不満たらたらで意地張ると鈴乃は優しい笑みでガンダムではない別の機体を指で指した

「その代わり、貴方はこの機体で参加させるわ」

「これは……」

俺が見た戦術機は……。

不知火を基にした戦術機で関節部のシーリング処理やサブアームを有した背部兵装担架を装備し、普通の戦術機を上回る火力を持ち、尚且つ重装備でありながらも撃震や瑞鶴に匹敵する推力を持つ

頭部はデュアルアイではなくツインアイになっている

武装

2連装突撃砲

ロケットランチャー

突撃砲×4

近接戦用短刀(両腕部に2つ)

追加装甲(サブアーム保持で2つ)

近接戦用長刀(オプション装備)

92式多目的自律誘導弾システム

おいおい、これはフルアーマーガンダムの戦術機Verか!!?

だが、この装備を見る通り、火力が半端ない!

「94フルアーマー……不知火を基にした重装化機体よ」

鈴乃はそう言いながら俺に優しい笑みを振る舞った

「……」

俺は口が開いたまま驚愕し何も言えなかった

「どう?光学兵器が付いてないのは残念だけど、火力と重装備好きな悠一なら気に入ってくれると思って、紅林が態々不知火を調達してそれを重装備させたのよ」

「うっす、俺一人でやったんで大変だったっスよ」

紅林、ご苦労様だ

「ふふ、気に入ってくれたかしら?」

俺は歓喜し鈴乃を抱き締めた

「おお!俺の為に調達してくれたのか!サンキュー鈴乃☆」

「ちょ…兵が見られてるわよ」

「あの、そろそろ時間が」

紅林の一言で俺は鈴乃を抱き締めるのをやめた

「ブリーフィング、行ってくる」

「待って」

鈴乃は俺を止め顔に近づきそっと俺の唇を重ねる

「!」

「……続きをやりましょ、2人で」

「……すぐ戻るさ、2人で乾杯だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーコン基地のブリーフィングルームでは各国の試験小隊の衛士達が集い模擬戦闘中継の映像を見ていた

「わりぃ、遅れた」

VGがにやけた表情でユウヤを絡みヴィンセントが俺に「ちょっとこっち来なよ」と一言を添える

ん?ユウヤどうしちまったんだ?

「悠一、ユウヤの奴さ、ソ連から戻ってこっちどうも様子がおかしいと思わないか」

あ?何の話だ?

ユウヤ困ってるだろ

「…あ?何の話―――」

「戦術機馬鹿のお前が模擬戦中継より唯依姫に夢中なんだもんなぁ?」

「―――はあッ!?」

おいおい、マジかよ

あの唯依がユウヤを!?

「ぶはっ!」

俺は思わず吹き笑った

「ぶ…くくく…ぐははは」

「悠一?どうしたんだい」

「うはははははははは」

「ユウヤ、悠一が笑ってるぞ」

ヴィンセントが俺が吹き笑い大声出してる事を指し、ユウヤは焦りつつ顔が赤くなる

「ぐははは……や…失礼……ぶ!ぐぶ!ククク…やべぇ、テンション上がってつい本音が…ぷ…くくく…」

「おう、そう言う事かい。という事はとうとうやったのか~オイ!?」

VGの脳内にユウヤが唯依と互いに手を携え身を委ねつつ激しく営みをする場面が浮かんできた

VG、ヴィンセントはともかく俺はまだ大声で笑っていた

「わかるぜ~最初反発し合った分、逆に燃えるんだよなぁッ!?」

ヴィンセントはそう言うが、ユウヤは

「バッ……バカかお前等そんなんじゃねぇッ!!」

否定した。そうだよな

あの篁家の一人娘が易々と恋人同士になれる訳ないよな

「聞きましたか?ミスタ・ジアコーザ」

「な……何だよ」

「……勿論です、ミスタ・ローウェル」

ヴィンセントとVGは広い面積のブリーフィングルームで衛士達の前に声を上げた

「オ~イみんな!此奴、篁中尉の事”唯依”って呼んだぜ~ッ!!」

「しかも見つめて「ジュテ~ム」とかいってンだぜ~ッ!!」

ユウヤが「ンな事言ってねぇ!」と言おうとしたが、ステラと”猿丸”によりVGとヴィンセントは制裁された

「ステラ怒らすとやべぇな…」

と俺は心の底からそう思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総合デブリーフィングをほったらかした俺はすぐ鈴乃達がいる佐渡島同胞団専用格納庫に行った

「あら、もう帰ってきたの?」

「バックレた」

俺はそう言うと、鈴乃は怒りを露にせず、呆れた表情を浮かび溜め息吐いた

「はぁ…貴方ね。自分が何やったか分かってるの?恭子様から指令が来たわよ」

「恭子から?内容は」

「ブルーフラッグは参加しない」

「な……どう言う事だ!?」

不参加って事かよ!

何考えてやがる、恭子

「安心しなさい、東欧州社会主義同盟のベアトリクス・ブレーメ総帥から特別に模擬戦闘する機会を設けてくれたわ」

何だよそれ……幾らお偉いさんでもそんなことは出来ねぇだろ!?

「出来る筈がない……と思い込んでるけど、私と貴方の立場をもう一度思い出しなさい」

鈴乃は何か意味深な事を言い出した。

あ、俺は嫌われてるんだったな……。

理解してくれている衛士以外は

特にクリスカは毛嫌いされている

イーニァは俺が怖いと思われたから近づいてこない

「どう?少しは理解したでしょ」

鈴乃が言ってる事はご最もだ

そう言う事か

衛士界隈から嫌われている

それは紛れもない事実だ

何にせよ、俺の戦い方が卑怯で悪役みたいな感じだ

「そうだったな、そうか…参加できないのか」

「ベアトリクス・ブレーメと言う女傑はね、ウルスラ革命で勝利を掴み東ドイツを戦闘国家として生まれ変わり数々のBETA戦闘で貢献した列記とした指導者なのよ。彼女は不可能を可能にすることが出来るほど優秀な女性よ」

彼奴もベアトリクス側だったよな

この機会は二度とないかもしれない

だったら受けるしかないだろ

「その模擬戦、受けるぜ!彼奴との勝負なら引き下がれないんでな」

「では恭子様から伝えておくわね」

「ああ、頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

ソ連での遠征任務を終えた後、俺はユーコン基地に戻り東欧州社会主義同盟専用格納庫に入りラーストチカやファルクラムが並んでる一番端っこにあるサイコ・ザクを見つめていた

「ブルーフラッグだけど、戦術機同士の模擬戦だから…」

「分かってる、ファム姉は俺の事を理解している」

理解し難いのは分かってる

サイコ・ザクに代わる機体があれば俺はまだ戦える

「ダリル君がこの中にある戦術機では乗るのは無理ね……」

ファムは寂しげな顔をした

分かるよ…俺も戦術機で戦いたい

でも無理だよな……。

と思った時、シルヴィアが俺に声をかける

「ダリル、見せたいものがあるわ。ファムも良いかしら?」

「え?ええ、勿論よシルヴィア」

「あたしも行っていい?」

アネットはファムの傍にくっつく

「ふふ、アネットちゃん付いてくる?」

「ダリルがサイコ・ザクに乗って参加できないのは分かるよ。見たいのよ…サイコ・ザクみたいに反応良好な戦術機を」

ファムは「じゃ、私の傍から離れないでね」と言葉を添えシルヴィアは「相変わらず仲いいんだから」と呟き俺は地下格納庫にある戦術機を見に行った

数分後、地下格納庫に入りシルヴィアはある機体を指で指した

「これよ」

それを見た時、俺は驚愕した

「ベアトリクスが私達のところに送ってきたのよ。こんな機体、誰が扱えるかってその一言でしか言えないわね」

シルヴィアはこの機体を見た途端、呆れ顔になっていた

ファムは少し感心そうな表情を浮かべる

「これはアリゲートルじゃない…旧型の戦術機が私達のところに来たって言うの」

「あーもう!また中古なの?何で新しい機体とか送ってこないのよ」

アネットの顔を伺うと、呆れ顔になっているがこの様子だと何度も中古の機体に乗らされてたって事が分かる

でもラーストチカやファルクラムは東欧州社会主義同盟においては最新鋭機だ

第666戦術機中隊はかつて反体制派側にいてたもののそれほど重要な役割を得て前線で戦ってる

つまり貴重な戦力だ。

「後ろよく見なさい、背部兵装担架なんか普通の奴に比べて少し変わってないかしら?」

シルヴィアがそう言うとアネットはその機体の後ろに付いてる背部兵装担架を確認する

「あ、ホントだ、この左右についてるアレは何?」

「さあ?」

「ねぇ、ダリル…あれは何なの?」

アネットがそう問いかけると俺はこう答えた

「あれはサブアームだよ、アネット。ここに届けられたという事は」

アネットは悟った

これは俺が乗る戦術機だという事を

「まさか『リユース・サイコ・デバイス』を搭載した戦術機なのか……」

「え?」

普通ならあり得ないだろう、「何でリユース・サイコ・デバイスがマブラヴ世界にあるんだ?」と

だがベアトリクスはそれを作ってしまった

このBETA大戦で人権など気にしてる場合じゃないと俺は確証した

「となると、この戦術機は俺が扱えるように管制ユニットは特注なモノを換装されてる筈だ」

「あたし達が扱えない戦術機。それって……?」

「この戦術機の名は……サイコアリゲートルだ」

サイコ・ザクの戦術機Ver……。

しかしそんな戦術機ある筈がないし作れるわけがないと思っていたが、俺の目の前にある戦術機は紛れもなくサイコ・ザクには似ても似つかないがそれらを模倣した戦術機

アリゲートルをベースに、パイロットの四肢を義肢化し管制ユニットに接続することで戦術機を衛士の身体の延長のように操縦することを可能にする機能を搭載した実験機。

サブアームは2つ付いており、突撃砲を保持しても使用可能

既に旧式化された為近代改修を施し両腕部はラーストチカの腕部を流用しモーターブレードを装備している。

従来の管制ユニットでは四肢欠損された衛士での搭乗は不可能であり特殊な管制ユニットに変えている

武装

突撃砲×4(サブアーム保持含めると6)

モーターブレード(両腕部)×2

それがサイコアリゲートルだ

そう確信した瞬間、一人の通信兵が俺に電報を伝える

「ダリル少尉、ナタリー・デュクレールさんから電報です『”カムチャッカ遠征慰労パーティー”を私の店で行うから是非来てね♪』との事です。如何なさいますか?」

”カムチャッカ遠征慰労パーティー”か

ナタリーのお誘いが来たら断れないな

行くか……あ、ファムとアネット、シルヴィアの3人どうしよう

「あたしも行きたい!カムチャッカに遠征した衛士に労いたいから……ねぇダリル、良いでしょ?」

アネットは行きたがっている

一応誘うか

「うん、良いよ。アネットも一緒について来るか?」

「え?いいの?やったー!ファム姉も行こうよ~」

「ファムも一緒に行こう」

俺はファムを”カムチャッカ遠征慰労パーティー”に誘った

どう反応出るか?

「あら、お姉さんも行っていいかしら?」

「うん、俺は皆と一緒に飲みたいんだ」

後はシルヴィアだけか……パーティーは慣れ合う機会が多い場だから断られるかもしれない

俺がシルヴィアにパーティーを誘おうとしたが、先にシルヴィアが無愛想な表情で言い放つ

「私は遠慮しておくわ。ここにいる整備兵や衛士の面倒見なきゃいけないから」

と断られてしまった。

「冗談よ、私も行くわ。アネットがやらかしそうだから」

「ちょ、シルヴィア。あたしがやらかすってどういう事よ!」

結局は3人共行くんだな

俺は嬉しいよ、ああ……幸せだ

そして俺含め3人はナタリーが経営してるバーで行われてる”カムチャッカ遠征慰労パーティー”に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

「すげぇ人込みだな……」

俺は今ナタリーが経営してるバー『Polestar』で行われてる”カムチャッカ遠征慰労パーティー”に来ていた

うあぁ、何だこれ

おいおい、”猿丸”がバニーガール姿で接客してるぜ

ヴィンセントとVGが笑ってるのも分かるぜ

ナタリーまでバニーガールだ

「(すげぇ…俺もナタリーを口説いてデートに行きたいぜ)」

そう思った俺だが、それだけじゃない

アルゴスオペレーター3人組もだ

う~ん、まぁまぁってとこだな

感心してたが、俺の背後から鈴乃が俺の頭に拳骨を喰らわした

「で!何しやがる!」

「鼻伸ばして……ほぅ、そうか」

鈴乃はバニーガール姿のナタリーに指をさす

「ナタリーみたいな女性がタイプだったのね」

「ば、ちげぇよ!」

喧嘩に発展しかけるが、ナタリーが仲裁に入る

「はいはい、二人共喧嘩はせず仲良くね♪」

しかし、あの3人すげぇ似合ってるぜ

ユウヤの後ろからステラが肩をポンとそっと触れる

「――――ハイ、ユウヤ、楽しんでる?」

ステラの声を聴いたVGとヴィンセントは声揃って「本命キターーーーーーッ!!!」と叫んだが、その服装はバニーガールではなくエプロン姿だった

ん?おたま……何か作ってたな?

「………あの……なんでエプロン…」

「……なんでしょうか……」

2人共は期待し過ぎたからか落胆した

お望みのバニーガール姿見れなくて残念だったな

「私だけじゃないわよ」

ステラが目線を右に向いた先は圧力鍋を持ったエプロン姿の唯依がいた

顔は何故か頬を赤らめている

「……お前………そ、その格好は……」

ユウヤは唯依に問いかけるが唯依は頬を赤らめたまま何も言わない

「…………」

チッ、面白くねぇな

俺は一旦、離れカウンター席で飲むことにした

スコッチ・ウイスキーを頼み、ナタリーがそれをグラスに注ぎ俺の元へ置く

俺はグイっと一気飲みした

お代わりを頼もうとした次の瞬間、ダリルがファムとアネットを連れバーの中に入る

ダリルは「お疲れ様」と一言を添える

「今日は非番なんだ、ナタリー。アイリッシュ・ウイスキーを頼む」

「気にしないで、今日は一緒に楽しみましょう♪」

女子力満載じゃないか!

アイリッシュ・ウイスキーを頼んだダリルは俺の顔を伺う

「良いのか?アルゴス小隊の連中と飲まないのか?」

「俺には鈴乃がいるんだ。彼奴だけいりゃそれだけで充分だ」

「他の女と同じような台詞使いまわしてない?」

「ちょ、余計な事言うなよ、鈴乃!」

鈴乃は悪戯っぽい笑みを浮かべる

「少し待ってて」

そう言うと鈴乃は席から離れユウヤとステラ、唯依のいる席に行き、唯依は皿に何かを盛りつけ鈴乃にスプーンを渡した

席に戻ると鈴乃は皿に盛りつけた料理をカウンターに置いた

「はい、篁中尉から貰って来たわ」

そう言うと鈴乃はスプーンを俺に渡す

「あ、これは肉じゃがだ」

ダリルはその盛りつけた料理の名前を言った

「ふふ、ダリル少尉は知ってたのね。これは肉じゃがと言って、日本の伝統的な家庭料理なんだ。栄養バランスも優れているから是非食べては如何?」

それくらい俺でも知ってるよ!

でもまあ、肉じゃがなんて久々だな……俺のお袋がよく作ってたな

子供の頃が懐かしいぜ

俺はスプーンを手にして、肉じゃがを一口食べた

「熱いから気を付けて」

口に含んだ肉じゃがをよく噛んで食べる

「……美味いよ、参ったぜ」

俺がそう言うと鈴乃は優しい笑みを浮かび頬を赤らめた

「そうか……喜んでくれてよかった」

「お前が作った料理じゃないだろ」

俺が突っ込むと鈴乃は「そこは突っ込まないの!」と言われた

「俺も食いたいよ」

「あたしも!」

「お姉さんも良いかしら?」

3人揃って……!

ファムとアネットが肉じゃが食べてる姿一度見たい

どんな反応するか…。

鈴乃はもう一度席から離れユウヤとステラ、唯依のいる席に行き、唯依は皿に肉じゃがを盛りつけ鈴乃にスプーンを渡した

席に戻ると鈴乃は肉じゃがをカウンターに置いた

「はい、どうぞ。召し上がれ」

そう言うと鈴乃は3人にスプーンを渡す

3人は肉じゃがを一口食べる

感想は……

「美味いよ、凄く美味しい」

「美味しい!」

「美味しいわね」

3人共美味しいと何回も言って喜んだ

「篁中尉にお礼言いなさい」

「おう、そうしておくぜ」

クリスカとイーニァ見かけねぇな

まぁ、あの2人に関しては眼中にない

楽しければそれでいい

俺はユウヤ達がいる席を遠くから覗いた

そこに鈴の飾りがついたツインテールの女性がユウヤの前にいた

彼奴は…………!

確か……誰だ?

鈴乃は俺にこう呟く

「鈴の飾りが付いてる女性衛士、私もにわかだけど名前だけは知ってるわ」

「中国…台湾…そのどっちに属してる衛士だろ?」

「統一中華戦線は知ってるか?」

鈴乃が問いかけると、俺は少しだけ思い出した

カムチャッカにいた中国人か!

「いや、知らないな」

「あの女性は統一中華戦線バオウェン小隊の崔亦菲中尉」

イーフェイ……?

「2つの祖国を持っている……衛士の一人でもあるわ」

中国、台湾

東ドイツ、西ドイツ

北朝鮮、韓国

これらの3つの共通点は分断国家だ

史実世界では東ドイツと西ドイツは統一出来たがあとの2つは政治的事情により統一していない

と言うより指導者がぶっ飛んでて何考えてるか分からない

史実もこの世界と同じ境遇だってのか?

冗談じゃないぜ

本来なら東ドイツはウルスラ革命で反体制派がシュタージを打倒したことにより勝利を掴み急速に民主化を進んだのだが、ここはそうではない。

ここはベアトリクスが革命に勝利した世界線だ

つまりこの世界線にいるカティアは現実を突きつけられ、生きてるとしても軟禁生活送ってるだろう

ズーズィは指導者に向いていない。あれは私怨だ

ハイムは社会主義体制の東ドイツ存続は望んでいない事から指導者としては相応しいが残念ながら社会主義体制の指導者としては相応しくはない

そう、革命と言うセッションは終わっても戦争と言うセッションは終わらない

まだ戦争は終わらない

プレイヤーが入れ替わるだけさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

東欧州社会主義同盟所属戦艦『カール・マルクス』艦長室

 

私はアイルランド本部にある戦術機開発を携わってる研究施設の長と連絡を取り合っていた

「そう、完成したのね」

《ええ、イェッケルン議員やベルンハルト総書記からは猛反対されたのですが、我々の熱意が伝わり漸く完成しました!試作機をユーコン基地に移送し無事配備されました!》

アイリスディーナが猛反対したぐらいの戦術機開発だから彼女の気持ちは分からないまでもない

BETAに手足喰われた衛士にサポートする為に開発を尽くした

今更人権など気にしてる状況ではない

「よくやってくれたわ、これでBETA大戦はいち早く終わらせる事が出来る」

《ただ、問題なのは国連の副司令である香月夕呼です。彼女は黙ってはいないでしょう》

あの女狐か……。

始末するにはまだ早い……早まってはいけない

「人権などこの状況下でいちいち気にしてる暇はどない。気の毒だと思うがやらざるを得ないのよ」

《それと『リユース・サイコ・デバイス』を搭載した戦術機、サイコ・ザクと似たような機能を備え付けました。ベース機はアリゲートル。旧型の戦術機ですが従来のアリゲートルより反応が素早く動ける筈です!》

リユース・サイコ・デバイスか………確かパイロットの四肢を義肢化しコックピットに接続することでモビルスーツをパイロットの身体の延長のように操縦することを可能にする機能だったわね

《名前をそのまま使う訳にはいかないので別の名称とかあれば…》

サイコ・ザクの存在のおかげで四肢欠損でも操れる戦術機を開発することが出来た

私は机に置いてある戦術機のデータが書かれてる書類を見てふとこう呟いた

「『リユース・ベアトリクス・デバイス』…これが我々の世界における概念の機能よ」

《『リユース・ベアトリクス・デバイス』…閣下、ご自身の名前から付けるんですか?》

「構わない。リユース・ベアトリクス・デバイス装備アリゲートル……長いわね」

不敵な笑みを浮かび口元をニヤリとしつつ私は言い放った

「サイコアリゲートル……その名前の方がしっくりと来るでしょ?」

《では私はそろそろ研究に励みに行きますのでこれで》

と言い残し研究施設の長との通信は途絶し連絡を終えた

「……」

安堵な表情で艦長室から出ようとした時、ロザリンデが血相な顔しつつノックせずに艦長室の扉を開き中へ入った

「ブレーメ総帥!大変です!」

「ロザリンデ、どうした?部屋開ける時はノックしなさいと親から教わった筈よ」

「ブルーフラッグの模擬戦結果ですが……」

ブルーフラッグ?

ああ、役立たずのグラーフ試験小隊か

彼奴等に関しては期待していない

結果が出さなければ粛清するのみ

ロザリンデはタブレットを差し出す

そこに映っていたのは

「あら、これは中東連合のスーパートムキャットね。これがどうかしたの?」

「紅の姉妹が乗るチェルミナートル、悪魔ですよ!これは我々が敵う相手ではありません!」

「それで?」

「それだけです」

私は呆れ顔になり溜め息をついた

何しに来たのよロザリンデ

冷やかしに来たのかしら?

「そうだとしても我々は勝利を掴まなければならない」

「しかし!」

「下がれ」

「ハッ、失礼しました!」

ロザリンデは私に向け敬礼しそのまま去って行った

「……単機で一個小隊相手に、驚異的ね」

チェルミナートルの資料データを見た私は呟く

「あれが、紅の姉妹……何れ切り捨てられる哀れな衛士がねぇ…」

ブルーフラッグに参加してるのはグラーフ試験小隊

第666戦術機中隊は戦力の要の一つとして補う為不参加

佐渡島同胞団という組織も不参加のようだけど、私が手配した模擬戦演習を実行すれば問題ない

不参加同士の1対1の勝負

私は艦橋にいる乗組員にカムチャッカからアラスカまで出港を命じた

「私だ、今すぐアラスカに向かえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

俺と鈴乃は基地内の個室でブルーフラッグの模擬戦映像中継をテレビで見ていた

相手は……統一中華戦線か

どんな戦い方してやがる?

おいおい、”猿丸”の奴苦戦してるな

あの動き、相当慣れた剣術だ

長刀を上手く扱ってる

VGとステラも焦りだしたぞ

「動き出したわ」

「ああ」

撃ってきやがった!

上に撃ったぞ

だがビルに当たってるな、何を考えてるんだ?

ユウヤが乗る不知火弐型の上空からビルの破片が飛び散り、それを何か回避する

猪突猛進か、まるで伊之助じゃねぇか

これ以上近づけさせまいと不知火弐型は背面撃ちで突撃砲の120mm弾を後ろからくる敵機に向け射撃するが、逆に敵機が突撃砲を捨て長刀を構え接近し加速し始めた

距離は詰まれる

長刀を振り回した敵機は突撃砲を一刀両断

そのまま放棄させるに追い込まれた

そして不知火弐型も長刀を握り曲芸飛行で敵機が持つ長刀を受け止め着地した

「おいおい、これどうなるんだ?」

目では見えない速さ

長刀を何度も受け止め衝突する

敵機は何度も切りかかる

今度は敵機が不知火弐型を挑発し誘い込んだ

おいでってか?舐めてやがるぜ

不知火弐型も敵機に向け長刀を振り回し切りかかる

しかし怯まない

この時点で不知火弐型は傷だらけだ

長刀同士での一騎打ち

跳躍ユニットを噴出し最大限まで性能を発揮しつつ加速を上げ長刀を振り回す

斬り返しは……不知火弐型の方が先手を取り敵機を一刀両断した

「あれが不知火弐型……同じ不知火とは思えない速さだ」

鈴乃は驚愕し感心した

そりゃそうだろうよ

この結果からみればユウヤが乗る不知火弐型の圧倒的勝利となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

 

私は戦艦『カール・マルクス』含め戦術機揚陸艦『ぺーネミュンデ』を率いりアラスカへと向かった

『カール・マルクス』の艦橋で周りの様子を伺った。

ロザリンデがまた血相な顔をしつつ荒い息を吐き慌てた様子で艦橋に駆け走り私に報告する

「はぁ…はぁ…大変です!」

「今度は何だ?冷やかしなら結構よ」

「はぁ…はぁ…はぁ…ブルーフラッグで我々東欧州社会主義同盟グラーフ試験小隊とアメリカ軍の派遣部隊インフィニティーズとの対戦結果ですが…」

「早く言いなさい、私は暇じゃないのよ。それにまだ始まったばかりじゃない」

ロザリンデの口から信じ難い結果を言い放った

「対戦結果が撃墜4。アメリカ軍側の損害は0。尚、状況が確定するまでの所要時間は……4分です」

………この役立たずが!

私は冷静に振舞い鬼のような目で睨みつきこう言い返した

「もうあの小隊にいる衛士は役に立たないという証拠になった。その結果だ!」

「と申しますと……?」

「ユーコン基地にいるグラーフ小隊の長と連絡取れるか?」

「ハッ、確認します」

ロザリンデは通信兵に無線機を借り、ユーコン基地にいるグラーフ小隊の長と連絡を試みる

「ブーフだ。グラーフ小隊の小隊長と話がしたいが構わないか?」

ロザリンデは通信越しで何度も頷き、相手側が了承を得たからか難しい表情を浮かべる

そして、私に無線機を渡す

「ブレーメだ、貴様……よくも私の顔を泥塗ってくれたわね」

《も、申し訳ございません!アメリカ軍のラプターがこんなに速かったとは思わなくて…》

口答えする気か、この愚鈍が

「誰が喋っていいと言った?貴様のくだらぬ意思でものを言うな」

《私はブレーメ総帥閣下のために命をかけて戦います!》

「貴様は私の言う事を否定するのか?」

《いいえ、次こそ!次こそは必ず!必ず勝ち取って見せます》

馬鹿か此奴は、もう敗北されたと言うのに「次こそは勝つ」と命乞いで言ったわ。

私は鼻で笑う

「……私が問いたいのは一つ。何故貴様等小隊はそれ程まで弱いのか。ステルス戦術機のラプターに敗北したと言って終わりではない。そこから始まりだ。より他の衛士を超え、より強くなり、私の役に立つための始まり。革命から18年、第666戦術機中隊とヴェアヴォルフ大隊は顔ぶれが変わらない。犠牲者含め引退した衛士を除けばBETA大戦早期終結に常に貢献してるのは、第666戦術機中隊だ。しかし貴様等グラーフ試験小隊はどうか?何度入れ替わった?」

沈黙、何も言えない、か。

「最期に言い残すことはないのか?」

《もう少しだけ御猶予を頂けるならば、必ずお役に!》

しつこいわね此奴……。

「具体的にどれ程の猶予を?貴様はどのような役に立てる?今の貴様の力でどれ程のことができる?」

《寵愛を…総帥閣下の寵愛を受けて頂ければ!私は必ず今度こそインフィニティーズに勝って見せます!より強力な衛士となり戦います!》

「何故私が貴様の指図で寵愛を受けなきゃいけないの?甚だ図々しい……身の程弁えろ」

《……!違います!!違います!!私は!》

何が違うと言うの?ホント、身の程弁えてほしいわね

「黙れ、何も違わない。私は何も間違えてない。全ての決定権は私に有り、私の言うことは絶対だ。貴様に拒否する権利はない。私が”正しい”と言った事が“正しい”貴様は私に指図した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラーフ試験小隊Side

東欧州社会主義同盟グラーフ試験小隊専用格納庫

 

待合室でブルーフラッグでアメリカ軍の派遣部隊インフィニティーズのラプターに敗北した責任で小隊長は突如連絡が入ったベアトリクスと無線機でやり取りしていた

《もう一度言う、最後に言い残すことはないのか?》

「あぁ…あ…」

恐怖心で怯え何も言えない小隊長

必死で命乞いをする

《グラーフ試験小隊は解体する。結果が出せなかった貴様等の行いを後悔するがいい》

「待ってください!」

通信が途絶された後、待合室の中から国連軍憲兵を扮した者達が囲まれ、小隊長は恐怖の連続で何も抵抗しなかった。そして……。

ダァーン!

凶弾に撃たれ絶命した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナタリーSide

 

「お待たせして申し訳ありません」

事務室に入った私はコーヒーをお盆に乗せて片手で持ち、ある男と対面しタオルを渡した

「……緩み切っているな」

「ご勘弁を。ここではその方が目立たないのです」

男はタオルで両腕を拭き顔まで満遍なく拭いた

「そうではない、この基地全体に漂う空気の話だ。お前達はよくやっている」

男はそう言った

私はテーブルの上にコーヒーを置く

「スケジュールはどうだ。遅れが出始めていると聞くが」

「申し訳ありません。突発的な大規模演習やそこへの米国派遣など色々ありまして、大事を取って一時的に搬入を止めました。遅れは挽回可能な範囲に止めています」

「そうか、”民間人”がそろそろ動き始める頃だ。奴等に後れを取るな」

「は―――”指導者”の到着までには帳尻を合わせます」

「……む」

男はコーヒーを口を含みこう言った。

「―――インスタントであっても合成品ではないな。こんな高級品が出回っているのか……」

「南北アメリカ大陸では誰もBETAと戦争なんかしていないんです。ご存知ありませんでしたか?少佐?」

顔や腕を拭き終わった男は左手に胸を当てこう言い放った

「では――――この大陸の連中にも教えてやろう。戦争の興奮と愉悦をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男との会話を終えた私は店を閉め、店内の清掃作業を行った

ダリルが私に声をかける

「手伝おうか?」

「あら、じゃあお願いしようかしら?」

何なの、このときめく感じは

心臓がドキドキしてる

「ダリル君、トイレ掃除お願いね」

「了解♡」

頼もしいわね、ダリル君

あ、そうだ。誘い込もうかな……義手義足だけど後方支援なら役に立てる

カウンターやテーブル、床を拭き磨き汗をかいた

数分が経ち、ダリルはトイレ掃除を終え「次何すればいい?」と問いかけた

「じゃあ、そうね……私から素晴らしい提案するわね?」

勧誘すれば入ってくれる筈……ダリル君は分かってくれる

「ん?何だい?」

私は凄味ある笑みでダリルにこう言い放った

「貴方も私の同志にならない?」

「入る」と言ってくれる筈…だが予想外な返答を言われた

「良いよ、但し条件がある」

「ホント?ん?条件って」

「俺と彼奴の勝負を見届けてくれないか」

それは模擬戦の観戦を誘いに来た

「ふふ、悠一の事を指してるのね?良いわよ、ダリル君が戦術機に乗って戦うところ、見たかったの」

「うん、すぐ来た方が良いよ。これから始まるから」

「でも…」

私が口籠るとダリルが私の手を握り引っ張り店の外へ出て走る

「ちょ、何処に」

「大丈夫だよナタリー、俺はアンタの味方だ」

私はダリルの事を信頼するようになり身を受けてくれた。




シャロンやレオンを出そうと思いましたが、主人公の嫌われ者設定により残念ながら全部カットしました。
シャロンクラスタの皆様、申し訳ありません(-_-;)
次回はブルーフラッグ不参加の衛士だけ集うレッドフラッグと言う模擬戦プログラムの話です
悠一と良平がいよいよ対決しますよ!
お楽しみに


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第21話 Take The A TSF

レッドフラッグ

東欧州社会主義同盟総帥、ベアトリクス・ブレーメが発案した

ブルーフラッグ不参加の衛士2人の為に設けた大規模模擬戦闘プログラム

参加機体は

・日本帝国佐渡島同胞団ムーア中隊

94フルアーマー

不知火

・東欧州社会主義同盟第666戦術機中隊

ラーストチカ

サイコアリゲートル

ブルーフラッグ同様、その概要はAH演習によって互いの技術を評価研鑽する事を目的とした、総当たり形式の戦術機同士の模擬戦である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東欧州社会主義同盟Side

 

アルゴス試験小隊専用格納庫から10km離れてる特殊演習場では東ドイツのベルリン市街の一部を再現して作られた特別な場である

そして何よりもここは元々映画『1983-国家に反抗した哀れな衛士たち‐』の撮影セットで、それを身に付けたベアトリクスはこのセットは映画会社から解体する予定だったが、手間が省けた

予定通りでは5ヶ月かかっていた。

そしてブランデンブルグ門の復元した建物の前でアラスカに到着したベアトリクスは壇上に立つ

「ブルーフラッグは各国の試験小隊が集う場である。より他の衛士を超え、より強くなり、国の為に役に立ちたいと強い想いを持つ競い合う…所謂、模擬戦闘プログラムだ」

ベアトリクスは目の前にいる2つの代表衛士達に言い放つ

勿論、悠一とダリルも参加する

互いに闘志を燃やしていた

この人に勝ちたいという思いで

「ブルーフラッグ不参加の代表の皆は存じてるだろうが、参加できない理由は自分の頭で考え理解してる者は答えを導いてる筈だ」

この演説を傾いて聞いてる悠一はベアトリクスが何考えてるか分からないとそう思った。

ダリルは逆にベアトリクスの考えを理解している振舞いをした。

「ブルーフラッグは試験小隊の集まりだが、このレッドフラッグはブルーフラッグ不参加の衛士達が競う模擬戦闘プログラムだ、悠一……」

「フン、最後は必ず俺が勝つんだ。お前は敗北する運命だ」

悠一は勝ち誇った表情でダリルに向け言い放った

勝利に拘る素振りが見えてる

「アメリカと我が同胞国のソ連は互いに友好に築きたいとこうほざいてるがそんな筈がない。”人類は必ずしも絶対に一つにはなれない”この一言でしか言えない。が、アメリカは日本に対し佐渡島を見捨てたことは事実でこれに限っては覆されない。そんな国の政治家が日本の事を考えているとは程遠い」

ベアトリクスは在日米軍が佐渡島を見捨て、都合が悪くなったら即撤退した事を怒りを表している

「ここは馬鹿な衛士2人と戦わせるために…失礼、優秀な衛士2人を戦わせる場だ。私からの話は以上だ」

と言い放った後、壇上から降りて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

レッドフラッグに参加した俺と鈴乃は第3格納庫でブリーフィングルームにてムーア中隊の衛士を集い作戦を練っていた

「第666戦術機中隊の機体編成はMiG-29 ラーストチカ11機、その1機はMiG-27 アリゲートルがそれぞれ12機。さて、紅林少尉。斯様に手強い”シュヴァルツェスマーケン”に我々が付け入る隙があるとすれば何だと思う?」

鈴乃は紅林に問いかける

「はい、今回の戦闘に置いて戦力の要の一つとすれば豊臣少尉の存在です。戦法は卑劣で敵味方問わず機体を盾にして敵機を撃墜すると思います。が不知火をベースにした94フルアーマーはまだ実戦経験がなく、既に現役機として実戦で信頼を得ている不知火、そして練習機としての役割を得ている吹雪はBETAどころか対人戦は未知数です」

成る程な…って俺の戦い方をケチ付けるな!

紅林は話し続ける

「最も警戒すべき衛士がノーマークに近い機体に乗っています。これが彼女らにとって――――また我々にとっても相手へ付け入る隙となります」

「成る程、その分析から取るべき戦術は自ずと導かれるな。誰か提案ある者はいないか?」

「はい!」

黒髪セミロングの真ん中分けでサングラスの男性が挙手した

年齢は30代ぐらいと思われる細身の風貌で、やや額が広めの中分け、帝国軍の簡易ジャケットに濃紫色のYシャツと、中々に奇抜な出で立ちをしている。ただし、休日の旅行地の気候では上着を脱いでシャツの袖をまくっていたり、逆に防寒着をまとっていたり、ラフな柄シャツ姿であったりと微妙な差異も存在する。

髪型は2本のアホ毛が特徴だ

何者だ?此奴は

「鬼頭少尉、言ってみろ」

「はい!え~まずは弱い機体を後ろにするセオリーを狙って豊臣少尉の94フルアーマーを後列に置きます。すると敵は豊臣少尉が我々の弱点だと確信して回り込んで来る筈です。ところがこっちの豊臣少尉がトップの逆配置が本当の狙い……豊臣少尉は囮になりつつ攻撃の中心となります。紅林少尉が長距離支援で大倉大尉と紅林が追い込み豊臣少尉が喰う」

「ほぅ…」

「これを基軸プランにあとは状況によって…」

「貴様が言いたい事はよくわかった」

鈴乃は小さな笑みでこう言い返した

「いいだろう。今回は鬼頭少尉、貴様のプランで行く。サブプランの検討は……私の判断で考えて決める。異論はないな?以上解散!」

そう言うと、鈴乃はブリーフィングルームから立ち去り強化装備を着替え演習開始まで待機した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習開始から10分経過、俺達は第666戦術機中隊の戦術機と模擬戦演習をしていた

この時点で始まった直後に4機が脱落

残り8機に陥った

「クソ!いつの間に回り込んでやがる!」

《第666戦術機中隊は市街戦慣れしてる、東ドイツのウルスラ革命で活躍した伝説の中隊だからな。生半可な気持ちでは倒せないぞ!》

鈴乃は俺に念には念を押し言い放った

「分かってる!とりあえず…」

俺は2連装突撃砲で乱射しつつ、目の前にいるラーストチカに向ける

666中隊側は12機

損害数0かよ……。

アネットのラーストチカが94フルアーマーに向け長刀を構え切りかかる

《このぉぉぉぉっ!》

真上だったが、何とか回避

2連装突撃砲を発砲

「突っ込めりゃいいってもんじゃないぜ!」

ロケットランチャー射出しアネット機に向けたが躱された

アネット機は長刀を構え、94フルアーマーに切りかかるが、背部兵装担架に収納してる突撃砲で一回転しつつ背部射撃する

《ぐ!》

アネット機は再度切りかかるが、俺はサブアームに付いてる追加装甲で受け止める

「ウルスラ革命に参加した歴戦の衛士はその程度の戦力だったのかよ!ガッカリだぜ」

《煩い!アンタはあたしがやっつけるんだから!》

この構え、長刀を両手で握り態勢を整えただと!?

そして俺に突っ込み……

《このぉぉぉぉぉぉぉっ!》

拙い!やられる!

当たりかけたが、鈴乃が乗る不知火の突撃砲で乱射する

《無暗に突っ込むな、豊臣!》

「あ?何でだよ!」

《相手は666だぞ、本気でやらなきゃ倒せないぞ》

「なら、ちょいと付き合ってくれ」

俺は追加装甲2つをアネット機に向け投げ当てる

《ぎゃ!此奴……何する気なの!?》

そして鈴乃機を盾にして突っ込む

「これなら敵さんも脱落出来るぞ」

《ちょ、貴様!私を盾にして》

「一気に攻める!」

鈴乃の言動を無視して俺はただアネット機に2連装突撃砲で砲撃

サブアームに掴まれ盾となった鈴乃機は観念したか突撃砲で発砲

これらの流れ弾なら躱せない

そしてアネット機の管制ユニットに当たった

アネット機は脱落した

《そんな……あたしが、やられた…》

俺は次の獲物を狙う

残り11機

これはキツイな………。

《アネットちゃんがやられたわ!》

《これが日帝の戦術機……こんな重装備で良く動けるわね。戦い方が卑怯だけど》

ファムとシルヴィアか。

俺は一旦鈴乃機をサブアームから放す

「確かに生半可な気持ちだと倒せない相手だな……」

《やっと理解出来たわね》

「バラバラになったが……ここから本気で仕掛けるぞ!」

俺は機器にガムテープで固定してるカセットレコーダーの電源を入れ軽快なジャズを流しつつ颯爽とファム機とシルヴィア機に向け最大全速でジグザグ飛行し2連装突撃砲で連射

《此方ムーア3、敵機3撃墜しました。残りは8です!》

紅林、よくやった!

で、肝心の鬼頭って男は?

《ムーア2からムーア4!敵に囲まれた援護を!…ぎゃあああああああっ》

ブツ!

《ムーア4!どうした?クソ、また1機やられた》

鈴乃が焦りだした

残り7かよ!

《シュヴァルツ1より各機に告ぐ!敵の数が少なくなった。ここで一気に叩き込む!》

ファム機が俺に向け突撃砲を構え発砲し突っ込んできた

2連装突撃砲の残弾は少なくなってきた

《ムーア5、2機撃墜!作戦継続します!》

残り9

《ん?このアリゲートル速いぞ!旧型にしては…ぐあっ!》

え?

何が起こったんだ?

《アリゲートル!?ウルスラ革命で活躍した戦術機が……!》

鈴乃は何か気が付いたようだ

「どうした!?」

《……気をつけろ!このアリゲートル、ただのアリゲートルではない》

「もう一度盾にしようか?」

《それは愚策だな、同じパターンは通用しない》

7対9か……。

「予定とは大幅違うが、何かやれる気がするぞ!」

俺はファム機に向け最大全速で突っ込み2連装突撃砲で連射

《ファム!危ない!》

放った弾丸はファム機の管制ユニットに当たりかけるがシルヴィア機が追加装甲で防いだ

2連装突撃砲の残弾は10

シルヴィア機が跳躍ユニットを噴出し水平飛行で94フルアーマーに接近し膝蹴りを喰らわす

膝蹴りされた94フルアーマーが装備してる2連装突撃砲はシルヴィア機に目掛けて叩き付け投げ棄てる

「くっ!」

ファム機の背後にラーストチカ3機が俺と鈴乃に向け一斉射撃

鈴乃機は頭部がやられるが機体はまだ動けるようだ

《案ずるな、メインカメラがやられただけだ》

紅林が俺らのところに来てラーストチカ3機に向け突撃砲を構え発砲

3機とも、管制ユニットに命中

ただの整備兵ではないな、此奴は

《中隊長!援護に来ました》

《紅林か?残存は?》

《それが……4機全部アリゲートルにやられ俺と豊臣少尉と貴女だけです》

嘘だろ……おい。

アリゲートル1機で4機を……。

面倒臭いが、少し派手にやるか

「鈴乃、紅林!離れてろ。俺が全部やっつけてやる」

俺は92式多目的自律誘導弾をラストーチカ6機に向け放出

《ぐは!》

《がは》

《回避…うが》

3機撃破、残りの3機は上手く躱してやがる

《サブアーム付きの背部兵装担架を外したらただの不知火だ!やれるな?》

サブアーム付きの背部兵装担架を外し、鈴乃から長刀を借りそれを握り構える

「奴との決着をつけねえと……」

アリゲートルが俺の94フルアーマー…いや不知火に急接近

サブアームに付いてる突撃砲や両手握ってる突撃砲で同時連射

おかしい……何かが

旧型にしちゃ、両腕がアリゲートルのモノではない

「くっ、近づけさせないってかよ!」

速い!これが666の力と言うのか!?

反応が良好だ!動きが鈍くはない

「鈴乃!紅林!あのラーストチカ2機は任せる、俺はアリゲートルを!」

《了解したわ》

《了解です!》

長刀を握り構えながらアリゲートルに切りかかる

しかし躱されつつ、距離を取る

《お前にしてはなかなかやるな》

やはりな、どうりでおかしいと思ったわけだ

「……!」

俺はもう一度長刀を握り構えダリル機に突っ込みつつ切りかかる

また躱された!

その時だ、互いの夢を見た事を振り返る

 

私もいつか心から笑いたい

 

 もう貴方を愛しません…そうすれば沙霧大尉の為に忠誠を尽くす事が出来る

 

私に出来る細やかな思い……テオドール君がいつかベルンハルト大尉と一緒に幸せに暮らせる日が

 

 あの頃に戻りたい……今でも夢に見る程です…草野少尉、村田少尉に早乙女少尉、坂崎中隊長の仇を!

 

テオドール君……早く戻ってきて

 

貴方ともう一度…

 

テオドール君……

 

 この苦しみを……貴方も背負えばいいわ…貴方なんか坂崎中隊長の何が分かると言うんですか!

 

 私は迷いはありません、坂崎中隊長の仇は……貴方が取ればいいんだわ!

 

 もう戻ってこないんですよ……どんなに足掻こうと……だから私は、民を導いていない日本を…変えて見せる!

 

俺が見た夢は駒木が今までの自分と決別した会話

ダリルの方はファムがテオドールをアイリスディーナの元に戻って欲しいと願う夢の内容だ。

我を振り返り、互いの機体と衝突し合う

猪突猛進でダリル機に突っ込み長刀を振り回しつつ攻撃を躱し、的確に切りかかる

サブアーム1つ切り落とす

ダリル機はもう1つのサブアームで保持してる突撃砲と両手握ってる突撃砲で同時連射

不知火の頭部左半分に直撃

「……」

警報音が鳴り響く

「チッ!視界を半分潰されるとは…やってくれるぜ……!!」

俺は長刀を握り構えながら後退

「来い…機動力は失ったが」

そこに脱落したラストーチカ1機が棄ておいた突撃砲を拾い上げ左手で握り構える

「置いてけぼりの突撃砲があって良かったぜ。火力は僅かだが残ってる」

そう油断してるうちにダリル機が急速に突っ込む

《墜ちろ!!》

「これで終わりだ!!大人しく脱落しろ!!」

俺は突撃砲を構え発砲

ダリル機の左腕に直撃

そして同時にその衝撃で俺の機体は倒れ機体は動かなくなった

「……!」

冷静さを振る舞い俺は機器を弄り不知火を再起動させる

ブオン

「再起動完了…流石94フルアーマー…頑丈に出来てる。跳躍ユニットも2つとも無傷だ」

突撃砲と長刀を棄て両腕部に収納してる近接戦用短刀を取り出し握る

「あと20分……奴とのセッションも次で最後だな。ケリをつけてやる!!」

最大全速で突っ込み、近接戦用短刀を握り構えつつダリル機に急接近を試みるが

《ここから先は通さないわよ!》

シルヴィア機が邪魔入った

鈴乃、紅林はやられたのか?

「邪魔だ!」

俺はシルヴィア機に蹴りを入れ近接戦用短刀で管制ユニットを攻撃し墜落する

《が……!》

俺はシルヴィア機が握り持ってる突撃砲を奪い管制ユニットに向け直撃

シルヴィア機は脱落した

ファム機のマーカーが付いていない……鈴乃か紅林がやったのか

シルヴィア相手によくやったもんだ

互いに残り1……

ダリル機が最大全速で近づいて来る!

残弾は0みたいだが、油断は出来ない

俺はダリル機に向け近接戦用短刀を投げ突撃砲を構え発砲

これで終わるかと思ったが……

「ジャズが聴こえるか?義足野郎。貴様を脱落させに来たぜ」

ジャズが鳴り響く

激しく鳴り響く

「俺の…勝ちだ…!!」

ダリル機の左腕に内蔵してるモーターブレードで機体を一刀両断した

真っ二つになった機体はそのまま倒れた

「何故だ!?何故奴に勝てない!?何故だ!!」

俺は脱落した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

レッドフラッグは無事終了し、俺達はナタリーが経営するバーへ向かいカウンター席に座った

「遠くから観戦させて貰ったわ。あの旧型のアリゲートル、貴方が乗ってたの?」

ナタリーは俺に問いかける

「……ああ、俺が乗ったよ」

「ふふ、嘘が上手ね」

「本当だよ、信じられないと思うけど俺みたいに手足が失った衛士は沢山いるんだ」

ナタリーは和やかな笑みを浮かべ優しい目線で俺の顔を見る

「……そんな戦術機があったら国連から何言われるか予想付いてると思うわよ」

そう言いつつ、ナタリーは何も言わず氷が入ったグラスにウォッカを注ぎそれをカウンターに置く

「ん、頼んでないけど」

「私からのサービスよ♪」

ナタリーの表情見ると一見笑ってるように見えるが目は笑ってはおらずどこか寂しい感じがしていた

「ファムはアネットを連れ先に戻ってくれ。俺はナタリーと大事な話があるんだ」

「分かったわ、ダリル君先に帰ってるわね」

ファムはアネットを連れ、基地に戻って行った。

「なぁに?私と大事な話って」

ナタリーは優しく声をかけ俺を問いかける

「以前、『貴方も私の同志にならない?』と言ってたけど」

「うん、忘れるはずないじゃない」

「……」

ここはカマかけてやるか

「ナタリー、君は親切で優しい女性だと思ってる」

「あら、嬉しいわね♪私の事好き?」

「ああ、好きだよ。1人の女性として」

まさかナタリーがテロに加担してたとは思わなかったな

潜入任務ならここは奴等の巣に入るチャンスがある

「考えたよ、俺は…この先どうすべきか?」

「それで私の同志になってくれるのかしら?」

これは潜入任務なんだ。

ファム、アネット、シルヴィア……お前達を巻き込みたくない

でも分かってくれ、これが俺の本来の任務だ!

「俺はお前を安全な所へ行かせて平穏な生活を暮らさせたい!」

「?」

「同志になるよ。ナタリー、俺を利用して構わない…どんな状況だろうと俺は守って見せるよ」

俺がそう言うと、ナタリーは誇らしげな笑みを浮かんでこう言った

「賢明な判断ね。幸いここには誰もいないわ。そろそろ店閉めようと思ったところなの」

「営業時間まだあるのに?」

「臨時休業よ」

ナタリーは俺に近づき棘がある笑みを浮かべながら手を差し伸べた

「ふふ、ようこそ難民解放戦線へ。歓迎するわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後、俺は専用格納庫に戻り俺のサイコ・ザクを見つめていた

そんな中、ファムが俺に声をかける

「随分と長い時間いたのね、ダリル君」

「ファム姉……話したい事がある。聞いてくれないか?」

この事は包み隠さず話しておきたい

「何かしら?」

「薄々気づいてると思ってるけど、俺は難民解放戦線に潜入し破壊工作を行う」

「え……?」

俺がそう言うとファムの表情が凍り付いた

「ブレーメ総帥の命でテログループの壊滅及びにそのリーダーの粛清任務があるんだ」

「ダリル君……」

「俺はこれから戦場で戦い続けたい。俺の体を最大限に活かす最高の戦術機で最高の敵と!」

ファムは戸惑ってる

そうだよな、いきなり潜入して破壊工作するとか言ったら戸惑うのも無理はない

これは極秘任務だからな

「アネットの事、頼んだ」

「そんな……危険よ!貴方は自分が何しようとしてるか分かってるの?」

分かってるさ

でも、今更退けないんだ

「大丈夫だ、ファム姉を巻き込ませたくはない。何かあった場合はサイコ・ザクを自動操縦に設定してリモコンで動かしてくれ」

俺はサイコ・ザクの遠隔操作用リモコンをファムに渡した

「これは……?」

「ボタン押すだけで動くよ、それとここも何れ襲われる可能性が高い」

俺はここから立ち去ろうとするがファムは涙目で俺を抱き締めキスした

「……」

「……必ず帰ってきて。寂しい想いはしたくないの」

「うん、必ず……必ず帰ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テログループSide

 

「いよいよその時が来たのだ諸君――――後は決行するのみである」

褐色の女性と左側に額と眉毛の間に傷がある屈強な体格を持つ男性と数人の構成員で作戦会議をしていた

「確かに――――作戦は順調だわ。慌てて繰り上げた割に気持ち悪いくらいにね」

「ほぅ……何か問題があるとでも?」

女性は眉間にしわを寄せつつ冷静に言い放つ

「いきなり始まった例の大演習……あれは完全なイレギュラーよね?基地のレベルも当然上がってるしその分リスクも高くなった」

女性は言い続ける

「なのに演習の終了を待つ事もなく、寧ろ計画を前倒しにするなんて私にはどうしても理解できないわね」

「……完全な計画がないように完璧な状況もあり得ない。ここに来て失敗を恐れているのか?」

「違う――――私達はあんたやあんたの部下みたいに兵隊だった訳じゃないわ。大きな疑問を棚上げしたまま、ただ命令に従うなんてできないって言っているの」

「………」

男は口籠った

その直後、ある男から通信が来た

《―――君の心配はもっともだ、ヴァレンタイン》

赤い髪で年齢は30代、その顔立ちはかつてアイリスディーナと共にし仲間達を親しんだ少年が成長した姿だ

《計画や作戦は何度でも立て直す事が出来る……だが人の命は一度きりだ。主が与えたもうたそれらを無駄にするべきではない》

「―――はい」

《なればこそ―――私は今こそが好機だと確信している。ソ連遠征とそれに続く大演習は彼らにしても寝耳に水だった。警戒レベルこそ上がってはいるが準備が万全ではない事は潜入班の報告がそれを証明している。これこそ正に主の導き……私にはそう思えてはならない。行動しよう……救われるべき子羊の為に》




次回はユーコンテロ事件です!
いよいよですね……長かった
このままいけばオルタまでいけそうかも?
悠一はフルアーマーガンダムで難民解放戦線の衛士が乗る戦術機と衝突
ダリルは難民解放戦線に潜入して情報を漏洩し悠一達にリークする
お楽しみに!


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第22話 Unchained Melody

悠一Side

2001年9月21日

国連軍ユーコン基地 佐渡島同胞団専用格納庫

 

俺は鈴乃と一緒に互いのガンダムを整備していた

「紅林ばかり任せっきりじゃ私達が悪く思われちゃうでしょ?」

衛士強化装備でアトラスガンダムのコクピットに乗り点検する

いつ見ても美しいぜ鈴乃

勿論、俺も衛士強化装備着用している

「何?」

おっと、目が合ってしまった

下心を隠せ俺

落ち着け、落ち着くんだ

「…」

鈴乃は鼻で笑い、ジト目で誇らしげな笑みを浮かべる

「さては私の強化装備姿を見て興奮したな?」

「え?いやそんな事は」

「この変態…」

鈴乃はそう言うとコクピットから降り俺を抱き締め互いの唇を重ねた

「体力は保たないと長くセッションは出来ないわよ」

と言って、再度唇を重ね「ちゅっ」と音を立て色気を増した

「ふふ、今日の私は少し熱ってる……一緒に寝て構わないか?悠一の部屋に」

「…ああ、良いぜ」

俺は鈴乃を抱き締めようとするが、紅林が血相な顔して俺と鈴乃に近づいた

「大倉大尉、豊臣少尉。大変です!」

「どうした?血相な顔して……何があったんだ」

「基地に……中東連合専用格納庫でテロリストにより襲撃され機体を強奪し司令部との連絡は途絶しました!」

マジかよおい……これは笑えないぞ

「あと、東欧州社会主義同盟第666戦術機中隊専用格納庫も襲撃されました。ラーストチカ35機とファルクラム1機強奪され格納庫にいた衛士は全員死亡しました」

ラーストチカって……彼奴と666の衛士がいるところじゃねぇか!

ファムとアネット、シルヴィアは無事なのか?

クソ!何も出来ねぇ!

辺りは騒然としていた

各国試験小隊の戦術機が強奪され基地司令部との連絡が途絶し通信が使えない

「紅林、アルゴス小隊の連中は!?」

「篁中尉達は無事でしょう、そう易々と倒れませんよ」

良かった……唯依は無事だったんだな

「恭子と連絡取れるか?」

「確認します」

紅林は折り畳み式の携帯電話でアンテナを伸ばし日本にいる恭子と連絡を試みる

一体何がどうなってやがる!

軍用通信だけが使えないだけだ

民生用でなら使えるというのか?

そうなんだな紅林

でもジャミングで妨害されてるから期待はしないがな

「……もしもし?崇宰恭子さんは今其方にいらっしゃるでしょうか?」

おい、何処に電話してんだよ!

まさか恭子の武家屋敷か?

「はい……至急で……はい……そうです……」

………。

「あ、はい!そうです、今ユーコン基地で大変なことが起きまして……はい、そうです……」

いつまで時間かかってんだ?

もう襲撃されてもおかしくないぞ

早く助けに行かねえと

「はい、少々お待ちください……豊臣少尉、恭子様が貴方に話があると言っています」

俺は紅林が持ってる携帯電話を持ち耳に傾ける

「お電話代わりました」

《代わりましたじゃないでしょ!貴方、今までユーコン基地で何してたの?》

相当怒ってるようだ

面倒臭いがここは自分で処理しないと

「今の状況を報告すると、ユーコン基地にテロリストにより襲撃されたらしい。唯依と連絡取れないし司令部まで連絡取れねぇ!」

《唯依は無事なのね?》

「……そう願いたい、いや生きてる。アンタが見込んだ衛士なら絶対に死なない筈だ」

彼奴は生きてる

この携帯電話はジャミング対策とかしてるのか……流石日本の技術ってとこか

《私は日本から一歩も出られないからアドバイスだけしておくわね。唯依を必ず生かしなさい…!あの娘は私と血の繋がってる可愛い娘同然だから……もし死なせたりしたら私が許さないわ》

つまり絶対に助けに行けって事かよ

場所分からないのにどうやって……?

《ガンダムのデモンストレーションの効果はどうだったかしら?光学兵器はダメでも実弾兵器での戦術機開発は可能よ》

「最初は皆驚愕したが、戦術機とは遥かに及ばないオーバーテクノロジーだからか……ダメだった。いい結果出せなくてすまねえ」

ブルーフラッグ以前に構造が全然違うから作れないよな……。

《何処で作った会社なのかは聞かれてなかったみたいね》

アナハイムエレクトロニクスとか言ったら「聞き慣れない名前の会社だ」と言われる始末だ

《大倉大尉に代わって。彼女にも伝えたい事があるわ》

俺は頷き、鈴乃に携帯電話を渡し代わる

「大倉です、恭子様お久しぶりです」

《久しぶりね、元気そうにしてるわね。貴女に伝えたい事あるわ》

「はい?それは…」

《佐渡島での戦闘で早乙女まどかと言う衛士の名は聞き覚えがあるかしら?》

「早乙女……あ、はい。確か佐渡基地に赴任してた衛士の1人ですが…彼女がどうかしたんですか?」

《帝国軍公式では戦死と記述してるけど、全く異なる事実よ。能登少尉が機械に詳しかったから帝国軍のデータベースにハッキングし漸く真実が知ることが出来た》

早乙女が生きてるっていうのか?

確かに彼奴だけは船にいなかった。

では今まで何処に…?

「早乙女少尉が生きてると言うのですか?」

信じられない……しかし恭子が嘘吐いてるようには見えない

《1人だけ基地に孤立しBETAから逃れたみたいね。当時新兵だとしても脱走した素振りは見えなかった》

どうやって生き延びたんだ?

それが知りたい

《豊臣に代わって頂戴》

鈴乃は携帯電話を俺に渡し代わった

「俺はガンダムで出る。アンタは唯依の事が好きだろ?」

《口の利き方は相変わらずだけど、この件が終わったら日本へ帰国させる。これ以上ユーコン基地に留まる訳にはいかない》

やっと日本に帰れる

俺はふと安堵したが、今はそう言ってられない

《外に出たら全ての外部からの通信での交信はできない。戦術機同士の交信はある程度使える》

「……了解したぜ。俺達は日本に帰る!それまではお預けだ」

《……ふふ、口が軽い男。じゃそろそろ切るわね》

恭子はそう言って、携帯電話を切り通話終了した

俺はフルアーマーガンダムのコクピットに入り機体を起動した

鈴乃もコクピットに入り機体を起動させ迎撃態勢を取る

互いの機体のハッチを閉め同時出撃しアルゴス小隊の衛士達がいる専用格納庫に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

俺はナタリーから事前に渡された”義手”を今使っていた義手と入れ替えた後、難民解放戦線が占拠したユーコン基地の中央作戦司令室で国連軍MPに変装しここにいる国連軍将校を銃口向けていた

無論、俺は撃つつもりはない

ただ、様子を見るだけだ

ヴァレンタインと言う難民解放戦線の実行部隊の長を務める女性は”指導者”と通信しやり取りしていた

「マスター、中央作戦司令室の占拠を完了しました」

《―――現状の報告を頼む》

「は――――」

ヴァレンタインの報告内容はこう記述した

全細胞は15時丁度に作戦を開始

国連駐留部隊の監視システムをハッキング

15時07分 通信センターを占拠

15時15分 『ゴルフ』を狙撃 これを排除

15時40分 『神の剣』の守護者に潜伏細胞が合流

同15時40分 強襲部隊が第二作戦司令室を占拠

15時43分 各演習場にて試験中の開発部隊を制圧

15時45分 三軍の即応部隊を同時襲撃 これを掌握

戦術機部隊が行動を開始し現在各国試験小隊の戦術機破壊を実行中

作戦開始までは約40分を予定――――

良く出来た作戦だが、この戦術を仕掛ける人物は恐らくファムとアネット、シルヴィアが良く知ってる人物1人しかいない

我ながら参ったよ、とてもじゃないが1人で立ち向かうのは無理だろう

《頑張ってくれているな……彼らの献身を讃えたい》

「はい、皆この為に生きてきました。『ゴルフ』と『インディア』は確保しましたが『ホテル』の所在は不明、発見次第報告致します」

国連軍MPに扮した構成員が何らかの変化が気付いた

「―――外部に通信試みている者がいます!場所は―――司令部ビル4階第6通信室」

《ほぉ……司令部内でまだそんな真似ができる者がいるのか》

「マスター――――私が行きます」

《君が行ってくれるのはとても頼もしいな。だが行動はくれぐれも慎重に―――君を失いたくない》

「お気遣い感謝しますマスター、声明前には必ず戻ります」

《ああ、是非そうしてくれ》

間違いない、あの男は………ファム達の戦友だった衛士の一人だ

テオドール・エーベルバッハ…………かつてウルスラ革命でシュタージに立ち向かった一人の青年

その青年が何故テロリストになったのかは俺は知る由もない

これは推測だが………義妹のリィズ・ホーエンシュタインを喪った事が原因だ。

しかし、彼女は既に精神崩壊しとてもじゃないが正気ではいられなかっただろう

テオドールとリィズは普通の義兄妹だった

俺は怒りを覚えた

この男が、世間知らずで自らの我欲で人類を消滅しようと目論む

擁護できないただのテロリストのリーダーに成り下がった外道だ!

俺が、仕留めなければならない相手だ!

彼を憎んだ

《全世界に我々の意思を示す名誉は、君にこそ相応しいのだから》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前に遡る

俺はナタリーが経営していたバーの事務所で、ナタリーは俺の義手を差し替える

「今の義手では、重火器類は使えないから入れ替えるわね」

そう言うと、今まで使った俺の義手はボストンバッグの中に入れる

「……ありがとうナタリー、これで俺は満身創痍で戦える」

「うん、あの…こんなこと言うのもなんだけど良いかしら?」

ん?ナタリーの様子が変だ

体が熱って顔は赤くなっている

「私、貴方と初めて出会ってここに来た時は既に…心臓がドキドキしてたの」

何が言いたいんだ、これはもしや

まさかと思うがカミングアウトするのか

「でも、私……幼少期に出身地のフランスからカナダへ疎開してきた難民だったの。貧しくて苦労の連続での生活だった。それで救われるものを救いたいと言う理由から難民解放戦線に入ったの」

そういう境遇だったのか……俺はナタリーの事何もわかっていなかった

辛い人生だった……彼女の顔を見るとそう思えてくる

「それで、うん……」

ナタリーは急に口籠った

言えない事とかあるのか?

俺は優しい表情でナタリーに話しかける

「誰にも言わないよ、ほら…二人だけの秘密として俺に話してくれないか」

「誰にも言わない?」

「うん、約束するよ」

その約束を果たせることが出来るか…俺は正直不安だ

ナタリーは更に衝撃な発言を言い放った

「男の人とこうやって話すのは、ダリル君が初めての相手よ。実は私、同性愛だけど貴方がこうやって話してると心が癒されていく……ときめくのよ」

同性愛だったのか……しかも俺が初めての相手

男性との恋愛感情を芽生えたナタリーは両性愛になっていった。

「俺の事を恋愛感情抱いてくれたんだね。嬉しいよナタリー」

「ふふ、ありがとう」

ナタリーは俺を抱き締め顔を近づける

「私の事、好きになった?」

「とっくに好きになったよ」

「彼女、いいの?ほったらかして」

ファムの事言ってるのか?

俺はこう誤魔化した

「ただの戦友だよ」

「私の想いが、貴方を守られたい…」

ナタリーは俺の唇を重ね抱き締める

互いの舌を絡め合い、ナタリーは身を委ねる

事務所の中で俺とナタリーは抱き締め合う

バーテンダー服を脱がし、赤い下着を包んだ豊満な胸を露にした

「来て…」

「……」

俺は唾を飲み込み、ナタリーの胸を揉み触りながら首筋を舐め回す

「あぁ…ん。くすぐったいわ」

「ごめん…」

「ふふ……偶には恋人気分は良いわね」

そして俺とナタリーは甘く切ない行為をしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

東欧州社会主義同盟ヴェアヴォルフ大隊専用格納庫(旧グラーフ試験小隊専用格納庫)

 

ユーコン基地にあるグラーフ試験小隊専用格納庫は我々が使う事になり、新たに配備されたファルクラム、既存のラーストチカはシュタージカラーに塗り替えていった

私の部下であるカタリーナは整備兵の服装に着替え戦術機の整備作業を仕切る

「急げ!モタモタするな!」

あらあら、やる気が出て良い事ね

しかし、私は既に察知していた

ユーコン基地にテロリストに襲撃されてる事を

その首謀者は……

「総帥、第666戦術機中隊に交信しましたが連絡取れません」

ニコラは私に現状報告

「こんな事するの、調べるまでもない」

「裏社会の情報屋の伍代ですか、信用していいのですか?」

「今まで伍代に頼りっぱなしだったから今回はそうはいかない。今すぐ出れるか?」

ヴェアヴォルフはいつでも出撃出来る

あの男はアイリスディーナをほったらかしてまで何をしたいのかしら?

鬼畜の所業とはこういう事ね……彼の顔を思い出すだけで甚だしい

666の衛士だった青年がテロリストになった

実に馬鹿馬鹿しいわ

「出撃許可をください!いつでも出られます」

「……推進剤の注入は」

「は――既に完了してます」

………このままでは埒が明かない

「出撃させろ。私も出る!ファルクラムを用意しろ!」

「は――直ちに」

再び、我々を歯向かおうと言うのか………。

エーベルバッハ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

俺と鈴乃は互いのガンダムに乗り出撃し、アルゴス試験小隊専用格納庫に向かっていた

俺は不安だ、彼奴らがどうなってるか

もしかしたら死んでる?いやダメだ

そんなの恭子が許すはずがねぇ!

絶対に日本に帰って日本にいる獅子堂家を見返してやる!

「鈴乃、状況は?」

《もうすぐ着くぞ、準備は良いな》

「おう、ここは二手で別れよう」

《私は666の専用格納庫、悠一はアルゴス試験小隊専用格納庫に行って》

「了解したぜ」

俺と鈴乃は二手に分かれる

10分経たず、アルゴス試験小隊専用格納庫に到着したが、俺が着いた頃には既に戦闘は始まっていた

数は……分からねぇ

マーカーを確認する

「アメリカのイーグルとファルコンか……あのイーグルはアルゴス試験小隊が保有してる機体だ。となるとファルコンが……」

俺は機器にガムテープで固定しているカセットレコーダーの電源を入れ軽快なジャズを流しながらそのまま敵のファルコンに向け突っ込む

「ジャズが聴こえるか?クソ野郎共!貴様の命を貰いに来たぞ!」

2連装ビームライフルで敵機を次々と撃破

《くっ……何故だ………!何故だッ!!》

アルゴスの連中と交信する暇はない

連中も今忙しい

《それにノイズ……いやジャズが聴こえる!まさか”FG”……!?》

テロリストらしき女性衛士の悔やんでる

目的を果たさなくて単に悔やんでるだけだろ

同情の余地はないと俺は心を鬼にしてテロリストのクソ共が乗る戦術機に向けその1機をサブアームでシールドを投げ当てその機体の背後から掴み盾代わりにする

《うわ!な、何なんだ!?》

《貴様、何する気だ!?》

「俺を撃つ気なら本気で撃ってみろ、この衛士を殺す覚悟があるならな!」

《撃て!撃ってくれ!ジゼル!!》

テロリストが乗る戦術機数機は俺が乗るフルアーマーガンダムに向け突撃砲で連射するが当然ながら当たる筈もなく軽々と回避する

《クソ!速いッ!》

「は!俺からのプレゼントだ!」

俺はジゼルと言う少女が乗っていると思われる機体を目掛けてランドセル左肩部に装備してる6連装ミサイル・ポッドで大型弾頭を射出しサブアームで掴んでる敵機を放し飛ばす

《が!》

「光れーーーーーーッ!」

ドフッ

敵機は爆散する

《貴重な戦力を………》

アルゴス小隊の連中は次々と敵機を撃滅

軽々と払い除ける

《よくも……ッッ!》

ゴォッ

ジゼルが乗る機体は俺が乗るフルアーマーガンダムに向け急接近

そんなに死に急ぎたいのか………。

俺も最大全速で加速飛行し、スコープで照準を定め大型ビーム砲で砲撃しジゼル機の頭部を破壊

恐慌状態になったジゼルは焦りだし怒りと怨念を露にしつつ両腕保持してる突撃砲で俺に向け……ではなくユウヤが乗る不知火弐型の後ろで砲撃する

《何も……知らない癖にぃぃぃぃぃぃぃッ!!!》

クソ!ユウヤに当たる

その時だ、長刀を握り構えている兜のような形をしてる頭部がある戦術機がジゼル機の左脚を切断した

黄色い武御雷……!

あの戦術機に乗ってるのはただ一人しかいねぇ。

「唯依か?」

《なァッ――――――!!》

ジゼル機はそのまま墜落していった

が、俺は逃さない

墜落したジゼル機に突っ込み2連装ビームライフルの銃口で管制ユニットのど真ん中に叩き付けた

《ぐ!》

「そんな身体じゃお前はここで限界だな」

《此奴ッ!無慈悲で…》

俺はランドセル側面に装備されてるビームサーベルをサブアームでラックから取り出しそれを握る

「終わりだ………」

《マスター……少佐……申し訳ありません。姉さん……ごめん》

刃を向けそのまま葬った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァレンタインSide

 

「クリア」

「ここもか……」

難民解放戦線の実行部隊のリーダーとして私は国連のユーコン基地に襲撃し関連施設を次々と制圧していった

「――――クリア」

「奪われた無線機で我々の動きを盗聴されているな」

「はっ」

「追跡班に伝達―――指示があるまで無線の使用は禁ずる」

正規の軍人と我々ではこれほどの差があるというのか……

私はそう悟った次の瞬間、照明が消え、真っ暗になり銃声が鳴り響く

そして私についてきた構成員は全員死んだ

私の背後に誰かが銃口を突きつける

「動くな――――!武器を捨てて両手を挙げろ」

「……」

この声は聞き覚えがあるような……

私は観念し武器を捨て両手を挙げる

「話を聞かせて貰う……貴様達の人数は?誰の手引きで侵入した?」

「……答えるとでも?」

「……それは困るな、素直に話して貰いたい。私も外道には身を落としたくない」

目線を右に向けると私が知ってる人物がいた

「……―――!ドーゥル大尉……!?」

イブラヒム・ドーゥル大尉

かつて私の命を救ってくれた恩人だ

「……!?貴様は……」

私は包み隠さず正直に答え正体を明かした

「私の名前はメリエム・ザーナー、かつてラシティのキャンプで貴方に命を救われた者です。我々は難民解放戦線です。貴方は多くの難民を救い、手を差し伸べてくれた英雄だ。是非我々と行動を共にして欲しい」

「……私は英雄などではないし大尉でもない。難民解放と言えどもテロリストと手を組んでいる貴様達に荷担するなどあり得ない」

………。

「………声なき者の声を世界に発信し認めさせるには……綺麗事だけで済むとは考えていません。世界に変革を齎す貴い犠牲なのです」

「あの時……私の命令で部下達が死んだ。部下達が命を賭して守った子供が成長し難民解放運動の闘士として私の前に現れた。この運命の皮肉を亡くなった部下達に詫びるつもりはない、何故なら私は自分が生きてきた結果の全てを受け容れると決めているからだ」

ドゥール大尉は冷静に私と話しかけ説得する

「……大……尉、私は……」

ピピッ

ヘッドセットから交信が来た

ピピ

ピピ

「……」

ピッ

「……なんだ」

構成員の一人から交信し私は瞬きしつつ頷く

「―――――……え……、…………そう……か。分かった、すぐ戻る」

……。

「妹が死んだ、たった今……」

「……君の妹も難民解放戦線に……?」

「優しい子だった。母親を亡くした後、悄然とする私を慰めてくれた。……私は姉だというのに彼女に何一つしてやられなかった……」

あぁ、やっぱり私は最後まで戦わなければいけない

救われるものを救うべき……最後まで

「……その身をくべる事で妹は私の心にもう一度火を点けてくれた……やはり私は戦わなければいけない」

私はドーゥル大尉に別れを告げる

「お別れですドーゥル大尉、我々と歩みを共にして貰えないのは残念です……」

「考え直せメリエム!君の妹は君が不幸になる事を望みはしない!」

「……戦いを望んでいるのは私自身だ。撃ちたければ撃つがいい」

そう言い残し立ち去った

「……その先は茨の道でしかない―――何処にも繋がっていない可能性すらあるのだぞ、メリエム・ザーナー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

第666戦術機中隊専用格納庫に到着した私はアトラスガンダムから降り、中へと入ったがそこには死体がずらっと並んでおり戦術機は一つ残らず強奪された形跡がありもぬけの殻だった

「何だ……これは……」

衝撃的だった、もうここには誰も生きてる人はいないのか

そう思い込みアトラスガンダムのコクピットに戻ろうとした時、銀髪の女性が声を掛けられた

「待ちなさい」

「!」

目の前に現れたのはシルヴィアだ

「生きてたのか?他の人は?」

「ファムとアネットは無事よ。整備兵数人も……あとは」

「襲撃されて死んだ……」

シルヴィアは私の手を引っ張り地下へ降りていき、地下格納庫へと入る

「私達の機体は無事よ。地下に隠しといて正解だったわ」

「……盗まれた機体は?」

「あれは666中隊仕様に塗装する予定だった機体ね、ファルクラムはファムが乗る予定だったけどそれも白紙撤回に」

塗装前の機体だったのか

私は眉間にしわを寄せる

地下格納庫を見渡すと見覚えがある戦術機があった。

”PZ”だ

「……」

「ん?アレね、ダリルのサイコ・ザクよ」

「サイコ・ザク……?」

「そう、で?貴女は何故ここに」

あ、そうだ。現状報告しないと

「ああ、心配でここに来たんだ」

「私があんな下種野郎どもに殺される訳がないでしょ?お馬鹿さん」

揶揄ってるのか?

いや今は怒鳴ってる場合ではない

「クシャシンスカ中尉、私は大尉だ。発言に気をつけろ」

「あらこれは失礼」

軍律はそこそこだが、悪い人ではないな

「シルヴィア!今すぐ来て、難民解放戦線の声明が」

アネットが血相な顔で慌てながらシルヴィアに近づきタブレットに映ってる女性の映像を見せる

《BETA大戦勃発以来30年、BETAによって故郷を追われた我々を待ち受けていたのは難民としての過酷な生活でした。人として生きる事を我々難民は否定され続けてきました。今、世界には許されざる悪行が蔓延しています》

「ジャミングが弱まって……これは司令部からの放送!?」

シルヴィアは「そうみたいね」と一言を添えアネットはただ頷いた

《人を人として見ず己の欲望の為にのみ生きる者……特に米ソ連両国並びに国連は悪質です。安穏とした後方に居を構え世界の不正義と不平等に目を瞑る者。難民達を自らの盾として使役する者、何れも等しく神の手によって裁かれるべき存在です、我らは神の剣となりて断罪します》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

 

我々東欧州社会主義同盟戦術機各部隊はユーコン基地でのテロ行為を鎮圧すべく総出撃していた

目標はユーコン基地司令部ビル

下等なアメリカに任せたら碌なことがない

という訳で私は景気付けに音楽を流すことにした

「景気付けに音楽を流しなさい、私が許可する」

《は―――》

ニコラはスピーカーの電源を入れ軍歌を流す

 

前進!前進!前進!また前進!♪

 

 

 

炎の中で♪

 

鋼鉄が鍛えられるように♪

 

 

試練の中で♪

 

我らは強くなる♪

 

 

不敗の女傑に従い♪

 

万難に勝ってきた♪

 

誇らしい行路で♪

 

自信は百倍する♪

 

 

我らは止まらない♪

 

我らは恐れを知らない♪

 

我らは暴風を拭かせて進む♪

 

社会主義 勝利の道へ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女達、ヴェアヴォルフに入った甲斐があったわね……目標の現在位置は?」

《ここです》

リルフォート……歓楽街に外道が潜んでいるとでも?

そう言いたいのねニコラ

「よし、リルフォートで3つに分かれて迎え撃つわよ。」

《は――》

「カタリーナ小隊は念の為だ、ソ連領域の基地へ向かえ!」

《総帥、難民解放戦線の声明があります》

「見せろ、音楽を止めなさいニコラ」

《は――》

ニコラは音楽を止めロザリンデは難民解放戦線の声明と見られる映像を表示した

《我々はユーコン基地を完全に制圧しここに住まう10万を超える人間を人質としました。我々は人質諸共この地に散る覚悟があります、我らの要求は以上の通りです。ひとつ、世界のすべての国々が即時難民を受け入れる事―――》

馬鹿が、貴様らテロリストの言葉を聞く耳持つと思うのか

気持ちは分からないまでもないけど

でも難民を介抱すると口先で言ってるだけ

最早鬼畜の所業だ

「テロリストは全員粛清しろ」

貴様等みたいなテロリストが生きてても意味がない

そう、”本当の生きる価値がない外道”と判断し葬る!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルヴィアSide

 

「動き出したわね…」

「うん」

専用格納庫にいるのは私含めファム、アネット、大倉大尉のみ

ファムも後からきてタブレットに映ってる女性の声明を見て聞いていた

《―――交渉中であるにも関わらずアメリカは爆撃機を出撃させました。司令部の近隣には市街地があり今なお数万の民間人が存在しているというのに!アメリカは自国の権益を守るために彼ら諸共我々を処分しようとしているのです。我々はテロリストとして処断されるのは覚悟しています》

何、彼奴……結局は自己満足を得たいだけのイベントしたいだけでしょ?

《しかし考えてみて頂きたい、だからと言って平然と民間人を見捨てるアメリカも正義と呼べるのかを!》

基地に爆撃機ね、何がしたいの?

「こんな……」

「カムチャッカの時と同じだわ」

アネットは困惑し大倉大尉は難しい表情を浮かべる

ダリルがいない……私達に何も言わずにいなくなってファムが寂しがってるわ

「だからと言ってテロリストには屈しない。そうでしょファム」

「ええ、ダリル君……今何処にいるのかしら」

ファムは涙目で本当に寂しがっている

私のヘッドセットに通信が来た

《……お!漸く繋がった》

「……誰?」

《おいおい、しらばっくれるのはよせよ、シルヴィア♡》

大倉大尉が私のヘッドセットを奪い通信のやり取りをしていった

「今何処にいるの?」

《鈴乃か?この様子だと666の格納庫にいるって事だな》

アンタこそ白々しいわよ

ま、関係ないけど

「で、アルゴス小隊の連中は無事なの?」

《ああ、皆無事だ……と言いたいところだがそうはいかない状況となった》

!?

一体何が起こったの?

私は再度タブレットに映ってる女性の映像を確認した

《アメリカの非道な行いはこれに留まりません。今から公開するのはアメリカ大統領とソ連書記長の間で直接交信された内容の録音です……》

《此奴を見る限り本気でやるつもりだぞ!俺は今アルゴスの連中と合流して強奪されたラーストチカと交戦中だ》

「分かった、私も其方に向かう」

《おう、頼むぜ》

交信終了

大倉大尉はヘッドセットを私に返却した

「クシャシンスカ中尉、出撃できる機体はあるか?」

「地下格納庫にある機体ならいつでも出られるわ」

強奪を免れた機体は666の塗装やエンブレムを施した戦術機だけ

いつでも出られる

「あの、私もアトラスガンダムのコクピットに入れて貰えないでしょうか?」

ファムは突然アトラスガンダムのコクピットに入りたいと言い出した。

何考えてるのよ、ファム

秘策でもあるの?

「アトラスガンダムは全天周モニターだ、下が丸見えになるが構わないか?」

「構いません、私はやるべき使命があります」

ファムの目は熱意を秘めており大倉大尉はそれを伝わった

ん?ファムが持ってるのは何かしら?

ラジコンのリモコン………に見えるけど

考えるまでもないわね

「ファム、私達はいつでも出られるわ。出撃命令を出して頂戴」

私の言葉を聞いたファムは出撃の号令を出す

「……総員傾注!これより我が中隊はテロリストの鎮圧に向かう。奴等に黒の宣告を下せ!」

私達と大倉大尉はそれぞれの機体に乗りテロリスト鎮圧に向かった。




いよいよ『レッドシフト』発動です!
さて、悠一とダリル
鈴乃、ファム、アネット、シルヴィア
それぞれの立場で交差しテロリストに立ち向かう!
次回のお楽しみに!


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第23話 The Dreaming Girl In Me

良平Side

 

俺はナタリーと行動を共にし運送業者に変装しつつウォークスルーバンに隠れつつ国連軍兵士の銃撃戦を繰り広げていた

「数が多いわね……」

「……ああ、これを乗り越えれば」

残弾は……あと1戦分か。

銃撃が鳴りやまない

俺はナタリーを守るために盾となり真正面から武器など持たず突っ込もうとしたその時、突如、思わぬ事態が発生した。

グォォォォォォ

上空から戦術機の飛行音が鳴り響く

あの機体は……。

「チボラシュカとアリゲートルにラーストチカ…………何でここに」

「分からないわ」

ナタリーは混乱している

何が何だか分からない

《リルフォート歓楽街にいる皆さん、安心してください。我々は東欧州社会主義同盟です!テロリストを鎮圧しに来ました!》

ニコラ!?

来てくれたのか!

12機って事はカタリーナや他の衛士も!?

「どうする?あの戦術機……」

「俺の味方だよ、ナタリー」

俺はナタリーに手を差し伸べる

「……」

しかしナタリーはウォークスルーバンの中から銃身を切り詰めた垂直二連式猟銃を取り出し握り構える

「ありがとうダリル、でも私の我儘だけど最後まで戦いたい」

俺はそれを見た瞬間、咄嗟に国連軍兵士達に銃口を向ける。

その直後、バーンという音とともに、国連軍兵士の一人は脇腹を焼けるような痛みに襲われ、ぶっ倒れた。

しかし一人倒れたところで増援が来るのも変わりはない

1人

また1人

また1人

また1人

しかし弾が切れ、ナタリーは俺の手を掴み握る

俺は頷き、ナタリーの手を握ったまま引っ張り逃げ走る

「これからどうするの?」

「俺の仲間のところに行く、大丈夫だ、俺が何とかする!」

ナタリーがやった事は敵前逃亡だ

当然ながら難民解放戦線の構成員の一人は逃げる隙を与えず咄嗟に拳銃を握り構えナタリーの後頭部に目掛けて射殺しようとするが……

ガガガガガガガガガガ

ニコラ機の120mm弾でテロリスト構成員が使用してる車両を目掛け発砲し爆風を起こす

幸い、ここは敵の戦術機はいない

命拾いした……もしニコラ達が来なかったら俺とナタリーは殺されてただろう

俺とナタリーの前にニコラが乗る紅いアリゲートルが降りて、跪き手を差し伸べる

《ダリル少尉、ご苦労だった。テロリストの連中を屠るの手間かけずに済んだ》

「これは運命だ、ナタリー。この先の未来がどうなるか確かめたいんだ」

ナタリーは黙り込む

「俺は難民解放戦線の連中が伝えたい事は分かるよ、でも無関係な人間を巻き込んで殺すのは間違ってる」

「……ダリル君……貴方…」

《貴様は利用されてたんだ、自分の脳みそ使って良く考えろ》

ニコラ、少し黙っててくれないか

話が抉れる

「その紅いアリゲートル……ウルスラ革命で活躍したシュタージのベアトリクス・ブレーメ専用機……図書館で本を見たからわかるわ」

ナタリーはそう言いつつ複雑な表情になる

「……タリサに申し訳ないわ。自分が間違ってる事をしてると気付かなかったのは事実よ」

ナタリー……そうだね、辛かったんだ

「私はマスターの為に忠誠を尽くし救われるべき者は救うべしと言い訳にしてずっと戦ってきた。今日までずっと……」

ナタリーは垂直二連式猟銃を捨てニコラ機の左掌に乗る

「それも今日で終わりよ。私は難民解放戦線を抜けて祖国フランスに帰りたい!誰の為でもないわ。今日から私は自分が望む平和な人生を送りたい!死ぬなんてまっぴらよ!!」

ナタリーは泣き崩れ俺は介抱する

「良く決心ついたね、一緒に行こう」

《ナタリー・デュクレール、安心しろ。私達は味方だ。テロリストに囚われ利用され、自由を奪われていた貴様を解放しただけだ》

ニコラ機は俺とナタリーが左掌に乗ったのを確認した後、離陸しゆっくりと上昇する

「(さよなら、タリサ……みんな)」

《大隊長!テロリストの声明文にアラスカにレッドシフトを実行するようです!》

レッドシフト……アラスカの大地に仕込まれた数戦の水爆が一斉起動しBETAを殲滅すると同時に新たな海峡を築き防衛線の再構築を図る事だ

《早く見せろ》

《は―――》

女性衛士の一人は難民解放戦線の実行部隊のリーダーであるヴァレンタインの声明と見られる映像を表示した

《……そこに住まう人々の犠牲を考慮せず、そして何よりこの事実はアメリカとソ連の共謀の元に全て隠匿されてきた。これら各国政府に我々の生命と地球の運命を任せるわけにはいかない》

見下げた奴だな、ヴァレンタイン

お前を見限って正解だよ。

《―――我々は最後の一人が討ち滅ぼされるまで戦い続ける。心ある方々は我々と共に戦って欲しい。それが我々の願いです》

テオドール・エーベルバッハ―――――ナタリーを利用した憎き相手

俺達の………敵だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

「おいおい、マジかよ!アラスカが真っ二つに割れるっていうのか!」

俺はアルゴス試験小隊との合流は成功したものの、状況が悪くなる一方だ

アメリカが極秘裏に抱えていたBETA研究所のセキュリティを解除された

という事で俺は独断でアルゴス試験小隊と別行動に

ここはユウヤに任せるとしよう

幾ら東側諸国のファルクラムでも追いつけない

しかしそこに待ち構えていたのはテロリストに墜ちたラーストチカ5機だ

「邪魔だ!」

俺は2連装ビームライフルで連射し5機全部撃墜

そして鈴乃がいる666中隊専用格納庫に向かおうとするが

《悠一、聞こえるか?》

鈴乃、来てくれたんだな

「はは、先回りしてきたわけって事か」

《他の連中もいるわよ》

鈴乃のアトラスガンダムのコクピットの中に身に覚えがある女性が衛士強化装備着用で乗り込んでいた

ん?何でそこにいるんだと突っ込みたくなるがそれどころじゃない

《まぁ、本人が望んでた事だから》

「それよりBETAだ!早くやっちまわないと他の皆が」

《大丈夫よ、あたし達がぜーんぶやっつけちゃうんだから。ね?ファム姉》

《ごめんなさいね、お楽しみのところ邪魔して》

ここから先はユウヤ、お前の物語だ!

唯依、俺はお前が武家出身とか何たらと拘ってはいない

自由に駆け回りたいだけだ

”猿丸”、ステラ、VG、ヴィンセント、ラトロワ中佐、イヴァノワ大尉、ドーゥル中尉、ナタリー

自分の人生は自分で築き上げる

まだ終わらないこのBETA大戦で俺は不自由なく興奮してきた

だがな、俺だって愛すべき人がいるんだ!

退くわけにはいかない……。

「鈴乃、迎撃命令を出してくれ。俺はいつでも行ける」

《……異星起源種共を迎撃しろ》

「よっしゃあ!行くぜ!おい脳筋女!グズグズするなよ」

《脳筋言うな!》

ユウヤ、唯依の事は任せたぜ

俺は何も知らないし聞きたくもない

だがそこから先は衝撃的な事実を知ることになる

クリスカ、アンタとは最後まで敵視してた

イーニァってガキの子守りはアンタが適任だ

そして俺達は北米大陸に迫りくるBETA群に立ち向かい666のラストーチカ2機とフルアーマーガンダム、アトラスガンダムの4機で迎撃していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

 

リルフォートで三個中隊に別れ、研究施設から放たれたBETAを殲滅

テロリストの連中も全て屠った

《総帥、BETA反応が薄れていきます!》

「……アルゴスの連中が始末してくれたみたいね。状況報告を」

《は―――、ダリル少尉は難民解放戦線の構成員であるナタリー・デュクレールを拘束。それに加えこれは地上部隊の報告と情報屋の伍代によると、ユーコン基地司令部でテロリストの実行部隊のリーダーらしき女性が死亡、その他は自決しました》

「そう、ご苦労様」

《観測班からの情報です、BETA殲滅に加わったソ連軍のチェルミナートルが暴走しその現場に駆け付けたカタリーナ小隊は7機共大破、衛士は無事です》

カタリーナがやられた……?

恐らくそれに乗ってるのは……。

《あとインペリアルガードの武御雷と日米共同開発の実験機、不知火弐型がチェルミナートルに立ち向かい奮闘しましたがそれも虚しく……》

ふーん、そうなの?

どうでもいい報告ね、カタリーナの件を除いて

それほどまで強い衛士……以前、ロザリンデにブルーフラッグでの模擬戦中継見たわ

”悪魔”だと

「……紅の姉妹ね」

《?》

「我々で数がどれだけ多くても必ずしも絶対に勝てないわ。そんな相手に立ち向かうのは無謀だと思わないかしら?」

下手に介入したらどれだけ損害が出るか予想するまでもない

「総員撤収」

《は――》

あとは、あの2人に任せるわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????Side

 

景色は綺麗な空とは言えないが平和で長閑な山がある風景を見て列車の特等席で私の同志たちとワイングラスに注がれた赤ワインを片手に持ち冷静を振る舞った

「――――今回の成果は如何でしたか?マスター」

「……皮肉はやめてくれ、マスターなど柄ではないと言っただろう。―――目的を同じくする者達の失われた血と魂の総量に見合う十分なモノを得る事はできた。我々はこれより『本国』へ帰投する。原隊復帰までの36時間は休息に当てて欲しい」

同志達に乾杯の言葉を送る

「―――諸君、ご苦労だった。では………殉教者たちに――――」

私は、いや俺はもう今までの俺と決別した

「友よ……楽しみにしといてくれ。我等が再び世界の表舞台に立つ。その日を―――」

かつての仲間たちと決別し俺の唯一の肉親だった義妹を喪った事により今までの俺と変わった。

心の底から愛した女性は「何やってるんだ?」と言われるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

テロが終息した後、俺は佐渡島同胞団専用格納庫として使っていた場所にフルアーマーガンダムをただ見つめていた

つまり帰国命令が出された

俺と鈴乃、紅林は日本に帰国するが鬼頭だけ「私には数々の秘境や寄食が待っている」と言って長期休暇を取り旅に出かけた

いつ戻ってくるか分からないと本人が言った

そんな中、ダリル1人だけ俺の元に近づき話しかけた

「……こんなところで暇を持て余してるとはいつからお前は偉くなったんだ」

「……」

「ユウヤ・ブリッジス……あの衛士は将来、出世街道に入ってお前より偉くなるかもな」

……ダリルには申し訳ないがこんなところで油売ってる場合じゃない

「ダリル、悪いが今日だけは大人しくしてくれ。お前のくだらない音楽趣味の話を付き合う気分じゃないんだ」

と俺は言ったが、ダリルは急に黙り込み口籠らす

そして正直な気持ちでこう言い放った

「………俺はテロを許さない。国民の安全と財産を守るのが俺達の仕事だ」

「仕事ね……お前らしくないな」

「らしさってのは自分の個性それぞれだ。それらを否定する奴等は”本当の生きる資格がない外道”……黒の宣告の鉄槌を下す」

生きる価値がない外道……か。

確かに言えるな、難民解放戦線の連中もそれに該当する

でも好きでここに入った人は少ない

大半が信仰心がある狂気を持つ人間だ

「法を逃れ罪なき人間の人生を台無しにする奴は許せないしそれ相応の罰を下し外道を屠る……それがベアトリクス・ブレーメと言う女傑衛士だ」

成る程な、俺は理解できないぜ

だがな、やっぱひとりじゃ手が届かない時もある

「俺は日本へ帰るがお前はどうすんだ?」

「ここに残るよ、次の命令下るまで動けないから」

「そうかい、ほとぼり冷めたら欧州に行くんだろ?その時は……」

「俺とお前は殺し合う運命だろ?お前が言った事じゃないか」

そうだったな……忘れてはいけねぇ事を忘れそうになったぜ

そうだ、ダリル・ローレンツ……俺とお前は殺し合う運命だ

「ああ、そうだな。俺とお前は殺し合う運命だ、ダリル・ローレンツ」

戦争は終わらない

まだ終わらない

こうしてユーコンテロ事件は多くの犠牲者を出し幕を閉じた

辿り着くべき場所は遥か多い

困難な坂道のまたずっと先にあるのかもしれない

例え回り道によってその道のりが遠のいたとしても距離だけは確実に縮まることが出来る

俺は歩き続け戦い続ける

最後まで諦めることなく彼奴を倒すまで戦い続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

 

戦艦『カール・マルクス』の艦長室で私はとある女性とオンライン通信でやり取りしていた

《臨時政府の公式発表で聞いた、説明して貰おう。ユーコンテロ襲撃は私のかつての同志の一人が仕組んだ事だと言いたいのか?》

「そう簡単に私の口から言えると思ってるのかしら?総書記閣下」

《総書記はやめろ、私には性が合わない》

「革命終結から何年経った?もうあの男は幾ら貴女が待ち続けても戻ってこないわ」

彼の今の姿見れば、私の親友は絶句するだろう。

無論、666の衛士達もだ

「1人の唯一の肉親を喪っただけでテロリストに成り下がった男なんか見たくないでしょ?」

《………》

「キリスト恭順派、難民解放戦線を纏めたカリスマ的な存在になり何れ自分が『キリストの生まれ変わり』と自称してる男の正体はテオドール・エーベルバッハ、あの男はかつて私を倒そうとした貴女が鍛えた教え子同然の衛士よ」

《……!》

「貴女は彼を殺す覚悟があるの?アイリスディーナ」

《………欺萬情報だな》

「真実かどうか確かめてみる?」

《………》

「……彼は全世界に敵回した典型的なテロリストであり外道の一人よ。貴女が悪くはない……彼の日頃の行いが悪かったのよ」

――――異星起源種『BETA』の侵攻により人類は未だに滅亡の淵に立たされていた――――

 

 

 

 

 

 

 

The end of Part 2




TEの中で一番肝心な場面であるユウヤ、唯依とクリスカ、イーニァの戦闘場面は全部カットしました、申し訳ありません
理由としてはやはり悠一が介入しても話が変わってしまうからです(特に戦闘時に敵味方問わず盾扱いし無慈悲でやるから、悠一が介入したらクリスカとイーニァは死んでしまうから)
という訳でユーコン編はこれで終了です!
一か月も経っていないかな……裏話は活動報告で言います。
第3部はインペリアルアーミー編です!
時系列はオルタ本編ですね
タケルちゃんは……一応出てくるかな
頻繁には出さないけど(-_-;)
帝都クーデターからですかね……因みに鈴乃は関与しません
どうしようかな……伊隅大尉(国連軍)側に付くか、クーデター軍(沙霧大尉や駒木中尉等)側に付くか迷ってるんです(-_-;)
それを見た恭子はどう思うかですね……TEサンボルはまだまだ続きますよ
では次回のお楽しみに!


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第3部 インペリアルアーミー編
第24話 Speak Low


帝都防衛戦、佐渡島防衛戦から3年

人類は異星起源種「BETA」と数十年にわたる戦いを未だに続けていた。

滅亡の危機に追い詰められた人間たちが、

過酷な運命の中でどのような生き様をみせていくのか―――

そしてある1人の少年が地球にいる人類を救うために戦う事を決意していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

2001年10月22日

 

ユーコンテロ事件から一ヶ月後、俺と鈴乃は日本に帰国し恭子の命令により帝国軍衛士として練馬駐屯地へと赴任

事務仕事に励んでいた

帰ったらデスクワークかよ……俺はまだまだ戦えるってのに

フルアーマーガンダムとアトラスガンダムだが全て帝国軍が管理する事になりモスボール保管する事になった

ここ練馬駐屯地は佐渡島同胞団の拠点の一つだ

因みに本部は帝国陸軍省の地下にある。

さて、一時的にガンダムを乗れない俺と鈴乃、今日は地道に業務をこなす日々を過ごしていた

「クソ上層部が、俺と鈴乃をデスクワークだぁ?アメリカの犬に寝返ってトチ狂ったか」

どうも怒りが収まらねぇ

不貞腐れてる

その態度を見た鈴乃は俺に一喝した

「馬鹿者、戦ってばかりでは衛士は務まらないぞ!」

と気迫ある歴戦の衛士みたいな顔で言った。

久々に見たぞ、その顔

これから先どうするのか……

「ガンダムに乗れないのは悲しいけど、双方の機体のデータを極秘裏に作成し参考してまで開発した戦術機がある。ブルーフラッグやレッドフラッグの事もう忘れたのか」

94フルアーマーか

ビームとかは出ねぇけど火力がある機体だって事は変わりはない

武装はてんこ盛りだしな、俺好みの戦術機だ

「ああ、あれ気に入ったぜ」

と誇らしげな笑みを浮かんだ

鈴乃は小さな笑みを浮かんでこう言い放った

「ふふ、気に入ってくれて何よりだ……でも無茶しないで」

「鈴乃……」

「この先私達どうなるのかな……」

鈴乃が寂しげな表情を浮かびそう呟いた後、俺達の前で見慣れた女性と偶然会った

その女性は鈴乃に向け笑みを浮かびながら敬礼する

「お久しぶりです、大倉大尉……豊臣少尉もお元気そうで何よりです」

その髪型に真面目そうな態度を取る女性……まさかと思うが

「早乙女か?」

かつて佐渡基地司令部第三戦術予備部隊A中隊に属した早乙女まどかだ。

「はい、少尉も相変わらず口が軽い男ですね」

早乙女はニコッと俺に向け笑った

早乙女の笑顔見たの久々だな

「生きててよかった……」

鈴乃は早乙女を抱き締め涙目で言葉をかける

「え?ちょ、大倉大尉!?」

「今まで、何処ほっつき歩いてたんだ……心配したのよ……うぅ…う…ぐすん」

「………何も言えなくて申し訳ありません、大尉」

鈴乃は抱き締めながら泣き啜った

「うぅ…早乙女の……馬鹿者が……うああああああん」

早乙女は泣き崩れた鈴乃の頭を撫で寂しげな表情した

ふと突然消えてしまった早乙女が今ここにいること自体正直驚いた

「大丈夫です、大丈夫ですから……もう勝手にいなくなったりはしません。だから泣かないでください」

早乙女は悲しげな表情で鈴乃を慰める

「そっか、とにかく生きててよかったぜ」

「……」

早乙女はジト目で俺の顔を見る

ん?何だ、俺の顔に何か付いてるのか?

「五摂家の崇宰恭子大尉と戯れてるようですね、羨ましいですね」

「あ?待て待て、確かに恭子と抱いて寝たことはあるが戯れだなんて」

「それが戯れだっていうんですよ!」

そんなに怒るこたぁねぇだろ!

「早乙女、一応言っておくが恭子の事は本気で愛してるからな」

「口だけは一人前ですね。それで?崇宰大尉から何か言われたんですか?」

恭子は今までは異名の通りまさに鬼姫で清く美しく正しき指導する女性だが、最近は俺には相変わらず手厳しいが、表情が柔らかくなっている

転生されてから4年の月日が流れたのだから、本当の恋人同士に……いや恋仲ってところかな?

「ずっと会えなくて寂しかったと言ってたぜ」

と俺は半分冗談交じりで言った。

「豊臣少尉があの恭子様と……想像つかないですね」

「3年間、今までどこにいたんだ?鈴乃も心配してたぞ」

3年も消息不明になってたんだ。

どうやって生き延びたのかそれを知りたい

「……私はあの時、BETAが佐渡島に侵攻したのを知りつつ現実から逃げていました。死ぬのが怖くて……いつかBETAに喰われて死ぬんじゃないかとぞっとしたら…本当に怖くなって……出撃命令が出ても、強化装備に着替えず、民間人に装って誰にもバレずに佐渡島から脱出しました」

え?おい、これって無断で、突然戦線離脱したってことなのか?

脱走、したのかよ………。

「ちょっと待て。お前は都と鈴乃、草野、村田、駒木がまだ戦っているにもかかわらず自分だけ逃げたって事か?普通なら重い処罰下される筈だ。二度と衛士として活動することはなくなる」

「斑鳩中佐が、コネクションを使って私を庇ってくれました」

斑鳩少佐が?いや中佐に昇進したから斑鳩中佐か

その斑鳩中佐が何故帝国軍の一女性衛士を擁護したんだ?

あの気障な男に限って何考えてるか分からない

五摂家の一員として圧力をかけたっていうのかよ

非現実的過ぎる

「えへへ、斑鳩中佐に恩返ししなくちゃいけませんね♪」

と舌をペロッと出し微笑んだ

早乙女、斑鳩中佐にちゃんと感謝の言葉を送れよ

「ユーコン基地、行ったんですね。どうでしたか?」

鈴乃は泣き止み、早乙女に向け優しい笑みを浮かべる

「各国の戦術機が勢揃いしてたわ、アメリカは勿論だが、ソ連、イタリア、スウェーデン、東西ドイツもその他諸々……一番印象残ったのは篁中尉が開発主任としてとある計画と関係してる不知火弐型という戦術機を手掛けてる。ボーイング社のハイネマン氏も関係してるがな。そこでガンダムの売り込みしたんだが、ダメだった」

そりゃあな……この世界で光学兵器を作る事は困難だ。

「でもここにいるってことは早乙女も?」

「はい!佐渡島同胞団ムーア中隊に所属することになりました。改めて宜しくお願いします!大倉大尉」

早乙女は誇らしげな笑みを鈴乃に向け敬礼

鈴乃は早乙女に握手を求める

「ああ、佐渡島に再びの栄光を…異星起源種に死を!」

早乙女も鈴乃の手に両手でがっちりと握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

国連軍・ユーコン基地に残った俺含む東欧州社会主義同盟の衛士達は、アルゴス試験小隊の衛士達の活躍をただ、ただ傍観してた

俺達がユウヤ達の輪に入るのは傍迷惑だと思い不干渉となった、がそれは表向きでその実態は東欧州社会主義同盟の事実上トップであるベアトリクスが不知火弐型のデータを盗み、それを似たような戦術機を開発しようと目論んでいる

ソ連のクリスカ・ビャーチェノワ、イーニァ・シェスチナはユーコン基地内で知名度あるのは当然だが、もう一人クリスカと瓜二つの顔を持つ衛士がいたのだ。

マーティカ…マーティカ・ビャーチェノワだ。

マーティカはクリスカと同じくらい匹敵するぐらいの操縦センスを持つ衛士だった。が廃棄同然の扱いをされ処分された。敗北という理由で。欠陥品だから

そう、最初からクリスカ、イーニァ、マーティカの3人は人権なんてなかった。

ESP発現体だからだ。

事実を知ったユウヤは自分と似た境遇であったクリスカに共感して助けることを決意

俺達は怒りを通り越すほど呆れ、これを聞いたベアトリクスは大激怒

ESP発現体増産に深く関わったペリャーエフ博士とその当事者であるイェシー・サンダークを粛清しようとしたが、総書記であるアイリスディーナは「ソ連政府の許諾なしで不可能」と言われ、2人の粛清は一時断念したそうだ。

ユウヤはクリスカ、イーニァを連れPhese3に換装した不知火弐型1号機を強奪、テロリストと同様扱いされアメリカ、ソ連、国連軍から追われる立場になる

事前にアメリカからは接触がありアメリカに逃げ込めばいい条件で何とかなったがクリスカやイーニァがモルモットになるので断念

サンダークとの一騎討ちは何とか逃げることに成功

だがクリスカやイーニァは一定時間内に薬飲まないと体組織が壊れることが判明

唯依との一騎討ちは何とか退けるが唯依も本気ではなかった

クリスカの故郷に行くが、不知火弐型Phese3は超高性能でラプターより段階上のステルスと敵機の弾薬燃料から自機に補給できたりする能力があり逃避行は問題なかったが、逃げてる途中でクリスカは力尽き死亡

イーニァは最重要機密なのでクリスカより薬飲まないといけない期限は長かったためまだ余裕はあった

ソ連と複雑な関係のバラキン基地指令に保護される

薬は裏からサンダークが手を回していたため手に入った

同じくバラキン基地指令に保護されていたラトロワ中佐達と合流

これ以上ユーコン基地にいる理由がないのでベアトリクス達はユーコン基地から出て、カムチャッカ経由で補給を受け佐渡島に向かう

俺達も含めてだ

ユウヤがその後どうなったかは知る由もない。

何故、東欧州社会主義同盟の戦艦や戦術機揚陸艦、戦術機空母が佐渡島に向かうのか?

これには政治的な理由がある

まず一つ目は同胞国であるソ連、仮想敵国であるアメリカがベアトリクスの意向を逆らったらどうなるか思い知らせる為だ。

半ば脅迫紛いに近いが……国連軍より先回りして佐渡島ハイヴを攻略する意欲があるのも言える

二つ目は以前、国連軍副司令の香月夕呼の暗殺計画を企てていたが急遽それは白紙撤回し、彼女の思惑をわざと野放しにする形でその通りにする事だ。

具体的な理由としては彼女がいる横浜基地は最新鋭の設備が揃えており彼女の言葉だけであらゆる面で兵器開発を携わり、他国と交渉する術があるからである。

三つめは強引に佐渡島を占領し再建させる事

何やらニコラ曰く『人類の命運に全て香月女史に託したらとんでもない事になる』と

確かにそう言えるかもしれない

国連軍は佐渡島が仮に消えたらその島の存在自体蔑ろにされ最初からなかったという扱いにされるのだ

ベアトリクスは国連軍が仮に佐渡島ハイヴを攻略したらどうなるかを考察していた。

最初は上手くいくが、何らかのトラブルが発生し、とある兵器を放棄

回収不能になり、島ごと消滅させる

………しかし、幾ら考察しても国連軍の動きがどうなってるかまではわからない。

もしかすると日本政府と交渉して強引に佐渡島ハイヴの上にG元素が含まれる水素爆弾を落とそうとしているのか?

そして現在、俺達は戦術機空母『ヴィリー・シュトフ』の格納庫で俺はモズボール保管されたサイコ・ザクを見つめていた

サイコ・ザクに乗れないのは寂しいが、モズボール保存する理由は『リユース・サイコ・デバイス』を戦術機としての技術を転用しそれを参考にした戦術機を開発する為である。

勿論、構造は全然違うのでそのままサイコ・ザク量産なんていうのは絶対に不可能だ。

サイコアリゲートルが作られたのはその為である。

「ありがとうサイコ・ザク……またな」

またサイコ・ザクに乗れる日が来るまで俺は待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

練馬駐屯地の第三会議室で俺と鈴乃、早乙女の3人だけで会議をしていた

佐渡島同胞団は今国連軍の管轄下に置かれている状況でこの先どうなるか分からない

「今後の方針だが現在、我々は国連の管轄下に置かれている。いつ解散命じられてもおかしくはない」

鈴乃は難しい表情で言い放ち、早乙女も強張った表情をしつつ言い放った

「では我々佐渡島同胞団に新兵が入ってくると?」

「ああ、”人類の救世主”ってところだな。豊臣少尉」

俺は鈴乃の顔を見て返事し敬礼する

「は――」

鈴乃は会議室の外に待たせている新兵に「入れ」と一言を添えて、その新兵が「失礼します」と言ってから第三会議室に入ってきた

鈴乃が片手に持ってるバインダーに挟まれた書類によれば……

白銀武

………小さな愛国者ってか?

「小さな愛国者だ。しっかり面倒見てやれよ、豊臣」

「はあ?」

「上層部から先程連絡が来た、『我が同胞団は国連軍横浜基地の保衛に当たり訓練衛士を死守せよ』との事だ」

新兵は俺の顔を見て珍しそうな目で向ける

「207B分隊の白銀武訓練生です!あの…貴方が”FG”の衛士ですよね」

ヒヨッコじゃないか

勘弁してくれよ

「我が国が異世界の技術で作られたガンダムを参考にして戦術機を開発して造る訳だ…今や少年少女の憧れの的……貴様と私は英雄だ。無論ガンダムを操る衛士もな」

鈴乃は誇らしげな笑みで語った

………

………冗談じゃない、子守りなんぞまっぴらだ。

「あの香月副司令の事だ、ここに白銀武訓練生が来たのは挨拶だろう」

な……あの女狐!

何を考えてやがんだ!

頭の中がモヤモヤしてるが、鈴乃に抗議しても意味がない

「尚、貴様だけだと不穏な空気があるから早乙女少尉も付いていくことにした」

鈴乃がそういうと早乙女は前に立ち敬礼する

「早乙女まどか少尉です、以後お見知り置きを」

前々から思ったが、早乙女ってヴェアヴォルフのファルカに似ているよな

その真面目な態度

規律をしっかりと守る駒木と同様典型的な衛士の見本と言っても過言ではないだろう

……クソ面倒臭い事推し付けやがって!

「で?俺と早乙女も訓練学校からやり直せと?そう言いたいのか」

「そうだな……一度恭子様に相談して貴様を訓練生に降格してやろうか?」

恭子だったらやり兼ねない……下手に怒らすと拙い

国連軍横浜基地訓練学校第207衛士訓練小隊B分隊は訓練小隊だ。

斯衛軍で言えば……規模が全然違うが佳織が率いたファング中隊に近い

ファング中隊は訓練も禄に満足受けてはいない学徒兵ばかりだったがB分隊は本当のヒヨッコ衛士が集う正真正銘の訓練分隊だ。

それを俺が纏めるって訳だ。

「尚、207衛士訓練小隊の教導官は神宮司まりも軍曹。そうだな白銀訓練生」

「はい!」

白銀は真顔で言った。

「だから俺と早乙女が横浜基地に……」

「ああ、御剣財閥の次期当主候補である御剣冥夜は知ってるな?」

御剣……そういや佐渡島同胞団のバックには御剣財閥が支援してくれてるよな

まさか、あの御剣冥夜か?

「名前だけ知っています。直接は会った事ありません」

「そうだろうな……他に総理大臣、貿易商、帝国軍将校、国連関係者の父親がいる女性もいる」

「あの、香月副司令の命令で自分はここに来ただけですが発言の許可を!」

「許可する」

「自分は地球にいる人類を救う為に来た人間です!」

そりゃあ、良かったな

ん?今なんて言った

人類を救う為に来た人間……救世主って言いたいのかよ

本当に人類救済したいなら誰もこんなクソッタレな戦争はしてないぜ

「それだけか?白銀武訓練生」

鈴乃は問いかけるが、白銀は俺にこう言い向ける

「……豊臣少尉、貴方は国連軍を嫌ってるみたいですが何か嫌う事情とかあるんでしょうか?」

「事情?へっ、嫌うも何も俺は国連軍の連中は全く信用してねぇ!これが本音だ」

俺は白銀に国連の不満をぶちまけた後、第三会議室に突然入ってきた女性がいた

香月夕呼だ

「あら?佐渡島同胞団の皆さん揃って白銀に何吹き込んだのよ」

鈴乃と早乙女は香月副司令に敬礼する

俺はバルカン式敬礼をした

「敬礼はやめて頂戴、私軍人の敬礼って苦手なのよね……で、豊臣少尉…だったっけ?ごめんなさい、私最近物忘れが酷くて」

おちょくってやがる

物忘れって絶対嘘だろ

「それに何?敬礼のつもり?」

「スタートレック御存知ないんですか?副司令」

「知らないわよ、それ映画なの?悪いけど私は研究で忙しくて見る暇ないの。ごめんなさいね」

此奴……絶対見返してやる!俺達が、佐渡島を取り戻すと!

「あ、そうそう。基地の見学は自由よ。その代わり国連軍のBDU着て頂戴。帝国軍制服だと周囲の目で変に見られるわよ」

まぁそうなるよな、横浜基地か……。

仕方ない、国連軍のBDUに着替えるか

「私は本部に行く、上層部に色々と報告しなければならない事があるからな。横浜基地の見学楽しんで来い」

「はぁ、了解しましたよ。大倉大尉」

とにかく俺と早乙女の2人は見学という形で横浜基地へ直接行くことになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

東欧州社会主義同盟所属戦艦『カール・マルクス』

艦長室

 

アラスカから出港しカムチャッカ経由で給油を受ける形で佐渡島に向かった私含め我が同胞達

艦長室で私はニコラに例の開発データの記録を取る準備をさせた

「準備は完了です、総帥」

「では、始めて頂戴」

民生用ビデオカメラでニコラは艦長室の椅子に座り机に両肘をつけ両手を重ね組んでる私を撮影した

「……これは個人的な記憶であり自分の冷静を保つための独白である。私はベアトリクス・ブレーメ。東欧州社会主義同盟総帥として戦艦カール・マルクスに乗艦している」

一枚のフロッピーディスクを手に持ちカメラに向ける

「私直々の下でリユース・ベアトリクス・デバイス……長いからRBDと呼ぶわ…その開発を積極的に力入れ携わってきたが、その機能は完成し、データは全てフロッピーディスクに入っている、がこれをアイルランド本部に持ち帰らないといけないのだが、このままでは努力が水の泡だ」

ニコラは真剣な表情でビデオカメラで私の記録映像を撮影する

「両手両脚を失った衛士をサポートする為に奮闘し、RBDを搭載した戦術機、サイコアリゲートルが完成しレッドフラッグでその性能と出力、運動性、速度を下等なアメリカ等の西側諸国の連中を思い知らせ見返してやった。自分の手足のように自由動けて機動性を保つことが出来る。分からない人がいると思うから特別に教えてあげる。これは戦術機開発史上圧倒的な脅威を誇り旧型のアリゲートルが最新鋭機と対等に戦えるように仕上げている………カメラ一旦止めて頂戴」

ニコラは私の指示通り、カメラを止める

「最後のところは編集しておきます」

「いや、このままにしておきなさい」

「了解しました」

私はニコラにブロニコフスキー少尉の事を問う

「……ニコラ、最近ブロニコフスキーとちゃんと話してる?」

「はい?」

「彼女は寂しがり屋さんなのよ、一緒にいてあげなさい」

ユーコンテロ事件以来、ブロニコフスキーと話す機会はなかったわね

ニコラには休暇を与えるか。一番良く頑張ってるもの

「ニコラ、貴女は暫く休暇を与えるわ。ゆっくり休みなさい」

「了解です」

ニコラは恍惚の笑みを浮かべ艦長室を出た。

ニコラが艦長室から出た後、私はノートパソコンを立ち上げ極秘裏に入手した国連主導のとある計画の全貌が掲載してるフロッピーディスクに入れ閲覧し始める

インテグレート計画

各国の軍を統一してBETAの脅威に立ち向かうという思想の計画であり計画の中の1つとして国連で独自の新型の戦術機の開発し今現存する戦術機を改修して戦闘データを取りつつ、同時に各国の戦術機の性能を底上げする計画というものが国連主導で進められている内容だ

……各国の軍を統一?

現実的にあり得ないわ……遂に国連軍の連中も頭が狂ってしまったか

人類は必ずしも絶対に一つにはならない………考えるだけで馬鹿馬鹿しくなってきたわ

「そうよ……何れにせよあの計画は空中分解して頓挫するに決まっている。RBDのデータでそれを搭載した戦術機を量産すれば、BETA大戦終結の近道になる……」

そろそろ私も休もうかしら、疲れが出てきたわ

私はそう思いつつ、艦長室から退室し自室で休息する形で眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

俺と早乙女は鈴乃の進言により国連軍横浜基地に来て見学という形で中へと入ろうとしたが

「待ちなさい、そのまま入るつもり?」

香月副司令は俺には理解しがたい言葉を交えつつとある計画の事を説明した

「まぁ実際基地に入ってから説明した方がわかりやすいんだけど私は研究で忙しいからここで言っておくわね。実は国連でインテグレート計画という各国の軍を統一してBETAの脅威に立ち向かうという思想の計画があってね。その計画の中の1つとして国連で独自の新型の戦術機の開発をするという計画が進められているの。だけど中々これが行き詰っててね、今現存する戦術機を改修して戦闘データを取りつつ、同時に各国の戦術機の性能を底上げする計画というものが国連主導で進められている。無論日本主導のオルタネイティヴ4も含めてね」

……根っからのオルタネイティヴ5を反対している立場だけの女じゃなさそうだ

インテグレートかインテリジェンスか知らねぇが、各国の軍隊が統一してBETAの脅威に立ち向かう……?

無理に決まってるだろ、そんな事は

計画が頓挫するのがオチだろうな

非現実的だ

「そんなのアメリカにでもいる国連軍にでもやらせておけばいい。開発衛士なんて俺には合わねぇ。俺は戦術機が好きなだけで自由に戦場を駆け回りたいんだ」

「…全部話すと長くなるから省くわ。それとこの計画、日本側が他の国に比べて多額の資金を提供しているの。だから日本を選んだというのも理由の1つ」

「……資金を他より多く提供する代わり日本側には優先的にデータを寄こせって事か?」

香月副司令は思わせぶりな顔つきをする

「そういうこと。日本はハイヴ保有国だからより戦術機の開発に焦っている。実際日本は戦術機の開発に技術的な手詰まりはしていると聞くわ」

「日本も手段は選んでられないっていう感じか」

「まぁ見方によってはそういう風にも考えられるわね。手続するから一緒に入って」

そして香月副司令と雑談をしている間に基地の中へ

青いメットと国連軍の装備を着た黒人とちょび髭の衛兵が入口に立っている。

香月副司令は無言で衛兵に許可証を提示する。

「確認が取れました。どうぞお通り下さい副司令」

そしてそのまま横浜基地の敷地内へ香月副司令と共に俺と早乙女は一緒に入っていく。

中に入るとそこには案内役を務める黄色いショートヘアの女性士官がいた。

「横浜基地通信士官のイリーナ・ピアティフ中尉です」

イリーナという女性が横浜基地にいる一人の通信兵……所謂CPだ

「佐渡島同胞団の豊臣悠一少尉だ」

「同じく早乙女まどか少尉です」

「じゃ、あとはお願いね」

香月副司令はそう言い残し、歩き去った

イリーナは「基地へ案内します、此方へどうぞ」と澄ました顔で言葉を添え俺と早乙女に基地の中へ案内した

無論、ここにいる衛士の接触は避けブリーフィングルーム、会議室、食堂、格納庫等イリーナの指示に従い基地の中へ見学した

「私達、国連の衛士として配属されるんでしょうか?」

早乙女は不安げな表情で俺に問いかける

「挨拶しに行くだけだ」

「そうですか……私は一帝国軍衛士として全うしたいです」

数時間後、案内し終えたイリーナは「あとは自由行動ですのでごゆっくりとご覧ください」と一言を残し、去っていった

国連軍のBDUを着てる俺と早乙女は基地の中へと歩いてる途中、セキュリティパスカードが廊下に落ちておりそれはそれを拾った

「これは……」

そしてBDUの胸ポケットの中へ入れる

「何やってるんですか?」

「へへ、頂き☆」

カードを見つめながらそう呟いた。このレベルのセキュリティパスの権限が与えられる人間は恐らく極僅かだ。

セキュリティパスカードに書かれてる名前はシモーネ・レージンガー

階級は少佐

当然だが、ウルスラ革命に参加したシモーネ・レージンガーとは全くの別人である

生きていれば30代半ばだな。

横浜基地の下から嫌な感じがする。この基地は普通じゃない。どうしても気になって仕方がない。確かめてやる……。俺自身の目で。

俺と早乙女は地下へと向かっていった。段々と副司令室のあるほうに向かっていく。

部屋に入ると中は書類やら本などでかなり散乱としていた。

「お世辞にも綺麗とは言えねぇな……相対性理論とか物理学の本ばかりだ」

「ダメですよ、勝手に入ったら何言われるか分かりませんよ」

「大丈夫だ、狭苦しい部屋でよくここにいるな……」

部屋には国連のマークがついた青い旗に”Alternative(オルタネイティブ)Ⅳ”と書かれたものが部屋に飾られていた。

「……普通の国連の基地ではないと思っていたが。いよいよキナ臭い匂いがしやがる。こっちの部屋は……この奥から」

もう1つある奥の部屋をカードを使い開ける。

「何だ?部屋は暗くて……!?」

「……これ、人間の脳…ですよね?」

「……ああ、人間の脳だ」

俺は一瞬戸惑った。暗い部屋の中に人間の脳が青いシリンダーに浮かんでいたのだ。見たこともない光景だった。

「何だ?部屋は暗くて……!?」

何なんだ此奴は!?

「ねぇ、もう出ましょうよ……私…怖くなりました」

早乙女は涙目でここから立ち去ろうと俺に言うが、基地の中に少女が一人いた

見た目は中学生か……ガキが何でここにいるんだ?

訳分からねぇ

頭にうさぎの耳みたいな機械をつけているが、国連の制服を着ているということはおそらくこの基地の人間なのだろう。

「あ…」

「おい、お前この部屋は何だ?ここで何をしている」

「……」

だんまりかよ!

「……」

「おい……俺の質問に答えろ」

………クソ!イライラする!

「黙ってねぇで何とか言ったらどうなんだ!?あぁ?」

俺は目の前にいる少女を睨みつけ執拗的に問いかけようとしたが次の瞬間、俺の背後から拳銃を片手に持った香月副司令が銃口に向けられる

「答えるのはアンタよ!」

俺はこの部屋の事と少女に気をとられ完全に油断していた。

「チッ……!」

「ご、ごごごごごごめんなさい!私は豊臣少尉と一緒についてきただけで」

「両手を挙げてゆっくりこっちを向くのよ」

俺と早乙女は観念し両手を挙げた

付いてねえよ……

「私は一衛士として、その…あの……」

「少し黙ってくれるかしら?気が散るわ」

おいおい、動揺し過ぎだぞ早乙女

「…このフロアに武器は持っていけない筈よ。……でアンタこんな場所に潜り込んできて何が目的なの?」

「俺は誰かさんのセキュリティパスカードを拾い、この部屋に入っただけだ。別に疚しい事とかはしていない」

「はぁ……?」

香月副司令は拳銃を構えながらそう言った。

「大丈夫です。この人は嘘を言っていません……。ただ本当に純粋にここに来たかっただけです……」

「まぁ、社がそういうなら」

そういうと拳銃を降ろした。どうやら香月副司令は青髪の少女の言っていることには絶対的な信頼を置いているように俺には思えた。でなければこんな場面で拳銃を降ろす筈がない。

「日本人じゃないが、日本語が通じないと思っていたけど喋れるんだな?」

「……」

「何でこんな場所に脳みそがある?俺には理解し難いね。まさかと思うがここで人体実験してるのか?」

「そんな非人道的な事流石の私でもやらないわ。無断で入ってきた奴に答えられる訳ないでしょ?それと何?私の質問に答えてくれたらアンタの質問にも答えてあげなくもないわよ?」

「俺がこの基地に来てからどうも下から誰かがずっと泣いているような気がした。それを確かめに来た。ただそれだけだ」

ハッタリだがこう答えるしかない

「あっ……」

「……」

俺がそう答えると二人は何か思い当たる節があるのか、一瞬顔に緊張が走ったように思えた。

「ふぅん……面白いこと言うわね……」

あ?何がだよ

「私は香月夕呼…自己紹介するまでもないけど。こっちは社霞。私はこの国連軍の横浜基地の副司令をやっているわ」

早乙女は初対面だったな

初めて会った相手が国連軍の副司令だなんて……とまぁそれは置いとくか

「貴方が斯衛軍問題児、豊臣悠一。全くここに来てさっそく副司令室に無断に入るなんて……」

「さて、質問には答えてやったぞ。もう1人そこにいる女は何だ」

「機密事項だから細かいことは答えられないけど、まぁ私の助手ってとこかしらね」

「……わかった次の質問だ」

俺は一呼吸置いて次の質問をした。

「この基地の地下に何がある?」

「……反応炉よ」

「……BETAのか?」

「えぇ、この基地は横浜ハイヴを再利用して現在建設中なのは知っているわよね?」

俺と鈴乃に恭子は流石にこの事は知っている

忘れる筈がねぇ

「明星作戦に参加した衛士の一人だから流石に知っている」

「この基地はハイヴの研究を行っているから他の国連基地とは違ってちょっと特殊なのよ。そういった事情もあって現在も研究の為反応炉だけは稼動状態にあるって訳」

成る程な、ここは特殊な基地なんだな

しかも研究の為に反応炉だけ稼働しているなんてシャレにならないぜ

「最後の質問……この青いシリンダーの脳みそは何だ?」

「その質問に答えることは無理ね。この横浜基地の最重要機密にあたるから」

答えられない、やっぱり疚しい事あるんだな!?

「どうあっても答えられないと?」

「えぇ」

香月副司令がそう言うと俺は脳が入ったシリンダーの方へと近付いていった。

「答えられないっていうなら、自分で調べるまでだ」

「はぁ?どうする気」

「な、何する気なんですか?豊臣少尉」

「……こうするんだよ」

「あっ……!」

俺はシリンダーに手を触れた。

しかしシリンダーに俺の手が触れた瞬間

「!!!!……うっ!!!」

な、何だこの感覚は……⁈

頭が、いてぇ!

俺の頭の中に、誰かの声がしてやがる

(タケルちゃんに会いたい……)

脳に直接声が響いた……とても悲しい叫びだった。

!!!!…うっ!!!な、なんだこれは!?

手に触れた瞬間強烈なまでの強いし思念のようなものが俺の頭の中に言葉が響いた。

タケルちゃん……?

まさか白銀の事言ってるのか?

頭の中にイメージが広がっていく。

何だここは……どこだ?この景色は……。

沢山の人がいる……。街がある。……みんな楽しそうにしている。BETAなんていない……これはまさか俺とダリルがいた元の世界か?

誰だお前は!

(タケルちゃんとの思い出たくさんある。タケルちゃんに……会いたい)

何を言っているんだ……や、やめろ……!俺の中に……俺の頭の中に……

「入ってくるなぁぁぁぁぁ!!!!!ぁぁぁあああっ!!!!俺は白銀武じゃねええええ!!!お前なんか知るかよッ!!!俺は、ジャズを好んで愛する一人である豊臣悠一だ!!覚えておけ!!!」

そして俺はその場で気絶してしまった。

脳のシリンダーに触れた後、俺はどこか知らない世界に連れていかれた感じがした。

…………暫くすると意識が戻った。

「うぅっ……」

「気が付いたみたいね」

「豊臣少尉!死なないでください!」

「勝手に死なすな!」

何とか動けるようになった。俺は意識を失っていた間ソファーに寝かされていたようだ。

早乙女は泣きべそをかいていた

「俺は……気絶してたのか」

「えぇ。突然アンタが叫び出した後ね。まぁ数分程度だけど」

「……数分」

だが脳が入っているシリンダーに触ってから……俺はかなりの時間が経過したように感じた。

そう……何か月という時間が……

あれは何だったんだ?あの景色……そして……。

「アンタ何したのよ?あれに触ったりして」

「……安心しろ。別に危害を加えることなんかしてねぇよ」

そう言って俺はソファーから起き上がる

「――悪かった。邪魔したな……」

「あら、もういいの?」

「ああ、練馬に戻る。あばよ、曲者の副司令さんよ」

「また遊びにいらっしゃい。とりあえずあんたのセキュリティレベル。この部屋に入れるぐらいは上げといてあげるから」

「ばいばい」

少女は俺と早乙女に手を振る

「……あぁ気が向いたらな」

そういうと俺と早乙女は薄暗い部屋から出ていった。

あの脳みそ、あれは何だったんだ?だがとても調べられる代物じゃなさそうだ……。香月副司令もあれを使って何かしようとしているみたいだが……結局分からず終いだ。それとあの霞とかいう奴、どう見ても日本人には見えねぇ……。

色々と疑問に思いながらも、それ以上は無駄だと思い練馬駐屯地に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――練馬駐屯地 戦術機格納庫

2001年11月下旬

朝の起床、俺の乗る機体、94フルアーマーの整備がほぼ完了したという鈴乃から連絡があった。

そして俺は格納庫へと向かった。

昨日は奇妙なもん見ちまった

アレに関しては二度と触れねぇけどな

深く詮索しないでおこう

そこには鈴乃ともう1人見知らぬ女性が隣にいた。

「おはよう、豊臣少尉」

「ああ、おはようさん。昨日は変なもん見ちまったぜ」

「変なもの?まぁそれは置いといて、紹介しよう、我が同胞団で戦域管制を担当することになった根岸千恵曹長だ」

「根岸千恵曹長です!以後宜しくお願いします」

「豊臣悠一少尉だ、スピーカーは常にONにしてな。ジャズが聴こえたら俺が出撃する合図だ」

そしてこちらをじっと見つめてくる。しかし表情からは何も感情を読み取れない。だが心の奥底のようなものに悲しみや恐怖のようなものが見え隠れしているように見えた。

「……俺の顔に何かついているのか?」

「いえ何も…」

無表情で何を考えているのかよく分かんねぇ

偶然通りかかった整備兵主任の佐竹博文技術大尉が千恵の姿を見て目を丸くし驚愕した

「千恵!?」

「え?博文、ここにいてたのね」

ん?何だ恋人同士かよ

佐竹の顔を見た千恵は満面の笑みを浮かべ話しかける

「な、何で君がここにいるんだ!」

「えへへ、ムーア中隊の戦域管制を担当することになったのよ」

ここでイチャイチャするんじゃねぇ!

俺だって恭子とイチャイチャしてぇけどそれをやる機会がないんだよな……。

「戦域管制?CPって事か」

「うん、博文に心配かけたくないから無理しないようにここにいる衛士達をサポートしたいのよ」

あんなんで上手くやっていけるのか?

「すまねぇが、イチャイチャするなら他へ辺りな」

「あ、すまない。千恵は俺の恋人なんだ」

そうかい、どうでもいいけどな

鈴乃は咳込み無理矢理2人をイチャイチャするのを止める

「…さて、紹介も終わったし本題だ。あれが豊臣少尉に搭乗して貰う戦術機だ」

鈴乃が指した方向に収納されている戦術機があった。

94フルアーマー……俺がこれから戦場へ駆けて行く相棒だ

正式名称:94式重装備型戦術歩行戦闘機

「紅林君が手掛けた戦術機は丁寧に整備してあるな……」

と佐竹は呑気な表情で言い放った

「各関節部にシーリング処理はしてある。几帳面があって豊臣少尉好みの武装てんこ盛りの機体に仕上げてある」

鈴乃はこう説明した。

「へぇ、結構凄いんですね」

「メインカメラはデュアルアイではなくツインアイ、色は緑から黄色に変更。機体色は勝色と白、深緋色に塗られている。更に追加装甲2枚で2連装突撃砲、ロケットランチャー、92式多目的自律誘導弾システムだ」

まぁ俺が乗る機体だからな

同胞団が帝国軍に金を積んだまで造られてる

紅林曰く「佐渡島ハイヴ攻略での運用を想定した機体」と語っている。

「で、その隣にあるのは…」

鈴乃は94フルアーマーの隣に収納してる機体を指で示した

「94サブレッグ……不知火をベース機として開発した水陸両用戦術機。正式名称:94式水陸両用戦術歩行戦闘機」

94サブレッグ……?

「腰部に装着する飛行用ブースターユニットであるサブレッグは本機を象徴する装備であり背部兵装担架の代わりに性能を発揮するんだ」

これは言うまでもないがアトラスガンダムの戦術機Verだな

「跳躍ユニットが破損しても脚部にあるウォータージェットを装備しているからな。第二の跳躍ユニットと呼べる代物の機体だ。これは私が乗る」

佐竹は「ええ!?貴女が乗るんですか?」と驚愕しつつ言葉を添える

鈴乃は誇らしげな笑みでこう言い返す

「ああ、そうだ。実際この戦術機に乗りたい衛士は誰もいなかったからな」

サブレッグがなかったらただの配色が黄色と白、黒色に塗られた不知火だ。

これを失うと機動力と武装の半分以上が失われるため、装備を越えて生命線とさえ言える。

「この2機の他に94ブルGという機体はあるにはあるのだが……中途半端に作られた戦術機でこれが帝国軍の次期主力機有力候補の1つだとは思えないわ」

佐竹は「そうなんですか」と一言を添える

その恋人である千恵はだんまりと立っている

「元々は不知火弐型の発展試作機として開発されたが、篁中尉が携わった『XFJ計画』によって作られた一つでもあるな」

「不知火弐型?あの機体がですか」

「全く違うな……これでは94フルアーマーと変わらん。少しテコ入れしておいた」

俺は94ブルGの頭部をよく見たが、不知火の頭部にラーストチカのセンサーマストを無理矢理取り付けた頭部だ。

頭部の容……メインカメラも不知火というよりラーストチカに酷似している

武装は…

突撃砲×4

近接戦用短刀(両腕部に2つ)

追加装甲(サブアーム保持で2つ)

近接戦用長刀(オプション装備)

92式多目的自律誘導弾システム

増加装甲内ミサイル

特殊機能はサブアーム

背部兵装担架に4基備わっている簡易マニピュレータ。武器の保持や使用が可能。

………化け物クラスの戦術機だ

こんなの普通に考えれば造れる筈がない。

「アメリカの戦術機の部品で組み立てようと考えたが、国連が所有してる機体には施せられない。我々の立場からすれば裏ルートでソ連の戦術機の部品を入手しそれを組み立てるぐらいしかないからな」

だからこんな形の戦術機か………

「豊臣、この機体はいつからラーストチカ顔になったんだ?と思ってるだろ」

言われてみりゃそうだな、日本にソ連のスパイがいるのではないか?と疑われるぐらいのレベルだ

「資料通りに戦術機開発は必ずしもないぞ。何でもかんでもアメリカのストライクイーグルではなくソ連のラーストチカの冠さえ付ければ売れると思ってる人間はいると思うよ」

「成る程……」

と佐竹は感心しつつ頷いた

「…この3機の実戦データを取りつつ、大尉は日本主導で戦術機を作らせる……そう言いたいんだな?」

「私はしがない中隊指揮官よ。最終的に戦術機に関する会社や御剣財閥に任せればいい」

鈴乃は冷静に振る舞い凛とした表情で言った。

「……豊臣少尉、すぐ私の部屋に来てくれないか?話さねばならないことがある」

「ああ、分かった」

俺は鈴乃についていき鈴乃の部屋に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、鈴乃の部屋についた俺は部屋の中に入り、ベッドの下に座り込んだ

鈴乃は俺の隣に座りつつ真剣な眼差しで俺に話しかける

「横浜基地に何か不審な点があったのか?」

そう問いかけるが、隠してもしょうがないので俺は全て話した

「……明星作戦でアメリカが横浜ハイヴにG弾投下した事は知ってるな?その下にBETAの反応炉があった」

「……見学コースと違うルートに行ったのね。それで?」

「暗い部屋の中にシリンダーがあってそこに入ってるのは人間の脳だ」

信じられないが、こればかりは事実だ

しかし、一体何だったんだ?

俺がシリンダーを触れた途端、少女の声が聞こえた

何かのメッセージを白銀に送ろうとしていた

「……」

鈴乃は少し黙り込み、俺を包むこむように母性をあふれ出すような感覚で抱きしめた

「もう喋らなくていい。悠一……横浜基地で見たモノは最初から見てなかったことにすればいい。それ以上の詮索はしないで」

「鈴乃……」

俺は鈴乃の顔を覗くと少女みたいに無邪気な笑みを浮かんでいた

「もう3年経つのね……佐渡島で起きた地獄の日々の事」

鈴乃はその手で俺の頭を撫でた

冷たい手だ……眠たくなってきた……ずっとこのまま鈴乃といられたら

「ん?」

「ふふ、悠一。白銀武という少年は何かしでかすかもしれないぞ」

どうしちまったんだ?鈴乃

白銀が何をしでかすと言うんだ。

地球にいる人類を救う為にこの世界にいる……か。

おめでたい事だな

佐渡島同胞団は国連軍の管轄下だ

白銀やヴァルキリーズの連中と共闘する機会が増える

負けられねぇ……彼奴との決着はまだ付いてないから物語の舞台から退場する気はない

鈴乃は笑みを崩さず格納庫で見た94ブルGの事を話した

「94ブルGの事だけど、あの機体は元々都が乗る予定だったの。でも完成される前に佐渡島で戦死してしまったから誰も乗りたがらないのよ。『坂崎大尉が乗るべき機体は指一つ触れられません』ってね」

94ブルG……名前からにしてはどっかで聞いたことがあるような戦術機…ではないな。だとするとモビルスーツ

ブルGというモビルスーツの存在は俺やダリルも知っている

まさか、ブルGまでもこの世界に!!?

「これは非公開の情報だけど、3年前に滋賀県で”BG”という謎の戦術機が確認されたが、調査隊が到着する前に自爆したそうだ。機体を奪われたくないからだろうな……」

やはりか、全然気付かなかった

「でも、何でその事を俺に言わなかったんだ?」

「色々事情があったのよ……それで機体の残骸を回収し、ここ練馬駐屯地にある訳よ」

「残骸だけ拾ってもな……もう動けないんだろ」

ブルGか……確か高出力・重武装によるフルアーマータイプの機体だ

元々はガンキャノンIIの発展試作機として開発されており、頭部も当初はガンキャノン系列の物が搭載されていたが、一年戦争でのガンダムの活躍にあやかりガンダムタイプの頭部に変更されている

何でもかんでもガンダム顔に変えていいものではないぞ

ガンダムもどき……だな。

「そうだな…修復することなく開発研究という口実で残されてる」

だから94ブルGを開発することが出来たのか

「悠一はもし都が生き延びてここにいたら”BG”に乗って私達と共に戦ってたと思う?」

「ん~そうだな、都なら「無用だ、2人だけユーコンへ行ってこい」と言われたかもしれない」

「そっか、都ならそういうかもしれないわね」

と言った後、鈴乃は突然帝国軍制服を脱ぎネクタイを緩んだ。

妖艶な笑みを浮かび、シャツのボタンを胸元全開まで外しつつ俺を誘惑する

誘ってるのか?これは

俺は誘い込み鈴乃をベッドに押し倒す

「きゃっ」

ベッドに押し倒された鈴乃は子犬のような可愛い声を出した

目を瞑り頬を赤らめ照れた鈴乃は色っぽい声で「早く来て」と呟いた

俺は鈴乃の要望を聞く形で目を瞑り互いの唇を重ね抱き締めつつ鈴乃の胸を揉み触りながら唇を重ねるのをやめ首筋を舐める

「あぁ…♡ちょ、くすぐったいわ♡」

鈴乃は喘ぎ声を少し出しつつ妖艶な笑みを浮かべる

「鈴乃……」

手つきがいやらしく鈴乃が履いてるタイトスカートを脱がせようとするが鈴乃に止められる

「ん…ダメよ…」

「どうしてだ?」

「そう慌てることはないわ」

俺はもう一度鈴乃の唇を重ねようとしていたその時、佐竹が突如ノックもせず部屋に入る

「失礼し…大倉大尉、何をしてるのですか!?」

鈴乃は佐竹の顔を見てギッと睨みつける

「佐竹!貴様、ノックもせず部屋に入るとは非常識にもほどがあるぞ」

「ご、ごめんなさい!それよりこれを」

佐竹は慌てた表情で手紙を鈴乃に渡した

「手紙……?誰からだ」

「分かりませんよ、ただ、送り主は『イギリス戦略研究会主宰代行 ジョナサン・チャーチル』と書かれています。勿論イギリスにはそんな研究会は存在しません」

戦略研究会……沙霧尚哉大尉か!

「ジョナサン・チャーチルっていう人は誰でしょうか?」

ジョナサンはジョジョ第1部の主人公の名前

チャーチルは第二次大戦中に就任してたイギリス首相だ

となると……

「これは何らかの暗号かもしれない。中身見て構わないか?」

鈴乃は服装を整えさっきまで緩んでいたネクタイを締め直す

「どうぞ、俺には理解できませんよ」

鈴乃は手紙の封筒を開け内容を読む

 

拝啓 霜秋の折、貴殿におかれましてはますますご活躍のこととお喜び申し上げます。

さてこの度、近年日本帝国政府は朝鮮半島の件についてを含め征夷大将軍殿下を蔑ろにした現体制に不満抱き、民を導きなく苦しい生活を強いられてる現状です。

このままだと日本は滅亡の道へ進むだけです。

一刻も早く決起しなければ異星起源種と対抗してまで戦場に出るのは不可となる

大倉大尉も存じておるでしょうが、我は日の本の衛士である以前に民の一人です

我々と共に決起致しませんか

帝国斯衛軍の恥晒しの豊臣悠一少尉も含め征夷大将軍殿下を迎えいる為、親愛なる日本国民であるならば協力が必須です。

返答はいつでも待つ所存です

 

帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊 沙霧尚哉

 

「これは……!」

鈴乃はこの手紙の内容を見て呆然しつつ驚愕している

俺もただ、驚愕した

おいおい、これってまさか俺らをクーデターに加えようとしてるのか!?

冗談じゃないぜ!

沙霧大尉は日本の為に動いてるのは分かるが、こんなの意味あるのか?

「沙霧大尉がクーデター決起しようとしてるのは……恐らくだが国民ではなく、軍の都合が優先されてる」

つまり帝国軍のクソ上層部が征夷大将軍である煌武院悠陽の名を勝手に使ってまで国民は苦しい生活を強いられてるのかよ

決して意味はないわけがないが、帝国軍及び斯衛軍のクソ上層部がこんなザマとはな

「これは本人はこの事知ってるのか?」

「知らないでしょうね……このままだと悠陽殿下と国民の心が離れていく」

互いに難しい表情浮かび話してる中、早乙女が部屋に入り会話に介入した

「大倉大尉、ブリーフィングに来ないかと思ったら豊臣少尉と……」

「早乙女少尉、大倉大尉宛に手紙が」

佐竹は困惑し早乙女は鈴乃が片手に持ってる手紙の内容を覗き絶句した

「何ですか?これ」

「我々をクーデターに加えようとしている。沙霧大尉にね」

「……前々から上層部の人達が何考えてるかおかしいと思ってたんですよ。沙霧大尉が言ってる事は理解し難いとは言えませんが……」

鈴乃は早乙女の顔を伺い真剣な眼差しでこう言い放った

「天元山の火山噴火……悠一は知ってるわね」

「ああ、新聞で見ただけだが」

「殿下の名を使い国を守るためと口実に民間人に麻酔銃を使い強制的に連れ出した様子がニュースで一部始終映ってたわ」

そんな国が本当に人を守る事が出来るのか

今の日本は本当に人のための国と言えるのか

国民の象徴である殿下の意思が政治にされないという事は、国民の意思も政治に反映されない

沙霧大尉の言う通り、こんな状態だと日本は消滅する

誘いに乗るか?断るか?

選択肢は二つに一つだ

「私はこのクーデターに参加はしないし関わりたくないな。何か嫌な予感がする」

鈴乃はクーデターに関わらないと言った。

これは参加拒否という事だな。

「申し訳ありませんが私も辞退させて頂きます」

早乙女も参加拒否した

鈴乃は佐竹にクーデター参加するのか問いかける

「佐竹は参加するのか?」

「え?幾ら日本の為とは言えこんなバカげた騒ぎに参加する訳ないじゃないですか!」

佐竹も参加拒否

というか佐竹がクーデターに参加しても足手纏いになるだけだ

「紅林もこの事知ってるのか?」

「知る訳ないでしょ!仮に知ってたとしても断りますよ」

紅林の性格からにすれば妥当な判断だ。

彼曰く『お天道様に顔向けできない』と。

「鬼頭さんは長期休暇で旅行出かけていますし、もうどうしたらいいんだぁ……」

佐竹は頭を抱えて悩み始めた

「横浜基地にいる国連軍側と協力しクーデターに参加する連中を鎮圧するしかないな」

となると、ヴァルキリーズと共闘作戦か

確かに伊隅大尉はきりっとして美しい女性衛士だが、他の衛士は平凡だな

まぁ、あの伊隅大尉と一緒に戦えるとなら光栄だね

「悠一は何方側につくんだ?」

鈴乃は俺に問いかけ眉根を寄せて真剣な顔をする

「沙霧大尉の誘いに乗ってクーデターに参加するか?参加を拒み、国連軍と共闘し鎮圧させるか?クーデターに参加した場合、貴方は賊軍扱いされ最悪の場合死刑になることもあり得る」

俺は唾を飲み込み汗を垂らした

「参加を拒んだ場合は伊隅大尉率いるヴァルキリーズと共闘作戦加えクーデターを鎮圧する。私は後者を選択するわね」

俺はどっちを選べばいい?

考えなくても理解はしている

「俺は………国連軍と共闘する選択肢を取る」

恭子が俺がクーデターに加担しただなんて喜ぶわけがない

寧ろ嫌われる以前に関わりたくないと言われるオチだ

「それは、本当だな?」

「ああ、愚策だが国連軍と共闘する術しかないからな」

「……分かった、沙霧大尉宛に断りの手紙書いて送るわ」

「おう、すまないな」

「大丈夫よ、私は一衛士としてやるべきことをやったまでだ。佐竹、斯衛軍の能登少尉から送られた両陣営のデータ確認出来るか?」

鈴乃は佐竹に和泉から送られた国連軍、クーデター軍の個人情報が掲載してるデータを確認を試みる

和泉は衛士としての活動ではなく斯衛軍のハッカーだな

易々と国連軍のセキュリティを突破し国連が管理するコンピュータからデータを窃取することが出来る

その高度な知識や技術は和泉の父親譲りだろうな、多分

「はい、確認します」

佐竹は手に持ってるノートパソコンを開き国連軍、クーデター軍の個人情報が掲載してるデータを俺と鈴乃、早乙女に見せた

「此方です、ご確認を」

画面を覗くと……国連軍側の情報が膨大な数の個人情報が載っている

第207小隊の所属衛士は

白銀武

御剣冥夜

榊千鶴

彩峰慧

珠瀬壬姫

鎧衣美琴

……全員訓練兵か、どっかから寄せ集めた新米だろ

ん?ちょっと待て、一人だけ正規兵がいるな

名前は……神宮司まりも、か……。

顔写真から見れば美人だが帝国軍出身で当時の階級は大尉

都や鈴乃と同じ階級だったのか

で、今は軍曹か……帝国軍から国連軍に衣替えしたら同じ階級という訳にはいかないってか?

「本来なら不正行為ですが、遠田技研の能代浩行社長の計らいにより帝国軍及び佐渡島同胞団上層部は承諾を受けました。これにより帝国斯衛軍の能登和泉少尉のハッキング行為は正当化されることになります」

佐竹はこう説明した

「よく目通しておけよ、神宮司軍曹除いてこの中にいる衛士は単なる寄せ集めではない」

「鈴乃、言わなくても分かるぜ?」

俺はそういうと、鈴乃は小さな笑みを浮かべ俺の頬を触り佐竹や早乙女の前に一瞬だけ唇を重ねた

すると佐竹は驚愕し早乙女の顔は恥ずかしそうに赤く染まる

「大胆だ…」

「大倉大尉……」

俺も鈴乃を抱き締め唇を重ねつつ舌を絡め10分間ディープキスする

互いに口から離し鈴乃は俺の頭を撫でる

「ふふ、悠一は覚えが早いな……」

「そうか?」

「そうよ、ちゃんと人の言うこと聞いて口が軽いのは相変わらずだけど一歩一歩成長してるわ」

鈴乃は俺の顔を見て和やかな笑みを浮かべた。

佐竹や早乙女がまだいることに気づき笑みを崩さずこう言い放つ

「鬼頭少尉を急遽ここに来させろ、出来るか?」

佐竹は難しい表情になり困惑しながら言った

「無理ですよ、彼はアフリカにいるんですよ」

アフリカ大陸はBETA支配下から逃れている

鬼頭はそれを逆手に取りアフリカに行って旅行しているだろうな

「そうか、下がっていいわ」

「「は――」」

佐竹と早乙女は部屋から退出し去っていった。

「鈴乃、お前を死なせたくない。だからクーデターに参加するとか馬鹿な真似はやめてくれ」

「さっき言った筈よ、私は参加しない……安心して、私は死なない。死んだら…都の仇が取れない…」

俺はもう一度鈴乃を抱き締める

そして数時間激しく営みを励み互いに昇天した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子Side

帝国斯衛軍本部にて現体制の日本政府が不穏な動きがあり帝国軍にいる一部の人間がクーデターを決起しようとしているという情報が入り、私は今、大隊長執務室で中佐に昇格した斑鳩崇継と1対1で話していた。

「君の働きは素早いね、斯衛の為だけではなく佐渡島同胞団をサポート役まで携わるとはまさに天上天下唯我独尊だよ、崇宰大尉」

崇継は気障な笑みを浮かびつつ私の顔を見て話す

「今更でございますが、中佐になられたのですね。おめでとうございます斑鳩中佐」

「無理に丁寧口調で言わなくていいよ。そうだね、2か月前に昇格したよ」

「いえ、そうは参りません故。五摂家の斑鳩家当主の前で失礼な態度を振る舞うことは出来ません」

私は崇継の前にお辞儀し深く頭を下げる

「頭を下げなくていい、帝国軍の動きは察知している。目的は恐らく朝鮮半島の件だね」

私は崇継がそう言われると頭を上げる

「光州作戦……ですか」

光州作戦……3年前、国連軍と大東亜連合軍の朝鮮半島撤退支援を目的とした作戦。後に光州作戦の悲劇と呼ばれる彩峰中将事件が発生する。

光州作戦の悲劇とは脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍に彩峰中将が同調し協力したため、結果的に国連軍司令部が陥落。指揮系統の大混乱を誘発し国連軍は多くの損害を被った。国連は日本政府に猛抗議し、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求。国連の要求に従えば軍部の反発は必至、逆らえばオルタネイティヴ4が失速すると考えた内閣総理大臣榊是親は、最前線を預かる国家の政情安定を人質に、国内法による厳重な処罰という線で国連を納得させた。それに先立ち榊首相が彩峰中将を密かに訪ねた際、日本の未来を説き土下座する榊に対し彩峰は笑顔で人身御供を快諾。帰路の車中、榊は彩峰の高潔に心打たれ、静かに涙したという。

「他にも明星作戦でのG弾投下や日米安保条約の一方的な破棄、佐渡島の件も含まれるね。帝国軍の沙霧尚哉大尉がクーデターを決起しようと試み、日本で東ドイツのウルスラ革命を再現しようとしている……」

崇継はニヒルな笑みで拳に頬を当て机に肘をつき寛いだ。

「そんなの……絶対に不可能です!!仮にウルスラ革命を日本で再現したら、空中分解され日本は滅びていく運命を辿る事になります!!」

「うん、革命を成し遂げるには誰かが革命の象徴として壇上に上がらなければならない。東ドイツはカティア・ヴァルトハイム、アイリスディーナ・ベルンハルト、そしてベアトリクス・ブレーメの3人が挙げられる。日本は誰が革命の象徴として壇上に上がると思うんだい?」

誰って……私が知ったことではないわ

ここは……私の名前を挙げるか

「……私でしょうか?」

「君がかい?」

「斑鳩中佐が仮に日本で革命を起こそうと考え誰を革命の象徴として君臨するかこの私、崇宰家次期当主の崇宰恭子の名を挙げるかと」

貴方が考えてる事は御見通しよ、崇継

そうやって私を利用する気なのよね……でも悪くはないわ

「革命とクーデターの意味は違うのは理解している。が征夷大将軍殿下の名を利用して国民を欺き蔑ろにされてる事は見過ごせはできない」

でしょうね、これが事実だとしたら

「BETAと戦う以前の問題として国が崩壊する可能性がある、その現状を打破するのが…沙霧大尉や彼を慕わってる衛士達の最終目的だ」

これが沙霧大尉の目的……成る程、要するにクーデターはBETAとの戦いにもとても重要

「こんな状況でも政府と国民が一丸になれず、揺らいでいる今の日本が、BETAに勝てるわけがない……ベアトリクスなら日本に対しこう発言する筈だ。『日本帝国はアメリカの犬であり、鬼畜の所業だ』『私の考えは間違ってなかった、人類は必ずしも絶対に一つにはなれない』『鬼畜米帝の犬に成り下がった日本は外道中の外道であり、政府関係者だけでなく軍上層部は私利私欲のために金を貯え他人を陥れ、国民の生活を苦しめている』『日本人の皮を被ってる貴様等に日本を守る資格はない!』『害悪の巣窟である日本は今やアメリカの犬ではなく国連の犬に成り下がろうとしている』と」

確かに…あのベアトリクスなら言うでしょうね

「日本はスパイ天国と世間から言われている。情報省の役人達も他国のスパイが日本にいるか確かめてるが見つけるのは難しい」

「然り、我等五摂家の不始末であり他国のスパイが日本に流れていく……この罪は何れ問われるというのですか?」

「いや、私と君含め日本国民全体は時流れば、殿下は民の信用を得ることは出来ると思う」

殿下は、日本の象徴であり我々が敬愛せねばならぬお方……。

崇継が放った言葉はどういう根拠があるのか私は疑問を抱いた

クーデターか……嘆かわしい

いつも側近として私の傍にいたファング中隊の長だった佳織は今日で衛士としての活動は引退し衛士訓練学校の教官として全うすることになった。

「……如月中尉は衛士を引退し訓練学校の教官に転向するようだね」

「――は、大変寂しいです。私の傍にいつもいた彼女は退いても私を尊敬しますと、言ってました」

寂しい―――でも出会いあれば去る者は追わず来る者は拒まず

いつか私も、退き時が来る

不安を募っている……まだ未熟ね、何の為に斯衛の衛士として活動してる

「佐渡島同胞団はクーデターに加勢しない……よいな?」

「は――」

そして数日後、帝都でクーデターが勃発した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

2001年12月5日

カムチャッカ半島経由で佐渡島に向かってる東欧州社会主義同盟所属戦術機母艦『ヴィリー・シュトフ』艦内で俺はファムから呼び出しで艦橋に向かう

廊下へ歩いてる途中、周囲に見られ俺を注目していた

「あれが、ダリル・ローレンツ少尉か…」

「ユーコンで試作戦術機のサイコアリゲートルに乗った衛士。見ろよあの手足」

「すげえな…本当に四肢が義手義足だ」

「リユース・ベアトリクス・デバイスという機能を装備したサイコアリゲートルと繋がると戦術機を自分の手足のように操れるんだろ?」

「それで切断?」

「いや、元々は五体満足だったが、細菌性髄膜炎という病気にかかって全部切断したらしい」

皆、俺を見ている……義手義足で戦術機に乗って戦う衛士は過去の戦闘で一切そのような衛士は一人もいなかった。

勿論、過去のBETA戦闘に置いて手足を失くした衛士は引退するかCPに転向する道しかなかったが、それも今日までだ。常識は変えられた

そして新しい義手を取り換えてくれた

慣れないと思うが、馴染むまでのリハビリだ。

艦橋の入り口でファムが待ち構えており俺は敬礼した。

「ファム大尉、新しい義手を用意して頂きありがとうございます」

「ふふ、貴方はエースパイロットよ。その義手を使いこなして一日早く慣れてね♪」

ファムは笑みを浮かび敬礼し返す

艦橋に入り、ファムは通信兵にアイルランド本部にいるアイリスディーナとの映像回線を優先ケーブルで接続させた

「艦長の許可は事前に承諾したわ、ダリル君はベルンハルト大尉と話すのは初めてね」

ファムはニコニコと笑みを浮かべ俺の顔を見て話す

確かに初めてだが、緊張している

”救国の女神”とご対面か……。

「音声回線も同期完了!交信どうぞ!」

艦橋内にある大画面でアイリスディーナの映像が映った。

《ファム、御苦労様だ。ユーコンの件は大変だったそうだな》

「大尉、其方の状況はどうなってるんでしょうか?」

《……現状維持だ。欧州戦線は西側のツェルベルスやフッケバインが対処している……ん?お前がダリル・ローレンツ少尉か。色々と聞きたい事あるが、話に付き合って貰えないか?》

断れないな、これは

「は―――お初にお目にかかります、ベルンハルト『大尉』」

アイリスディーナは少し笑みを浮かべ会話を始める

《……ユーコンの時は難民解放戦線に潜入しそのメンバーであるナタリー・デュクレールと接触し拘束したそうだな。彼女はアイルランドに移送する形で事情聴取を受けて貰う。テログループの本拠地の所在や最終目的とか聞かなければならない》

ナタリーは今、『ヴィリー・シュトフ』の営倉の中にいる

酷い扱いは受けてないはずだ

《……本来ならば、貴様達は欧州戦線に戻って貰いたいところだがそうではない状況になってしまった》

「と言いますと」

《日本でクーデターが勃発した》

クーデターだと……何か理由があるはずだ

《朝鮮半島の件も含め米軍のG弾使用、日米安保条約の一方的な破棄…それが原因だろう》

日米安保条約の一歩的な破棄は日本にとっては許し難い事だ。

俺はアイリスディーナにある人物の事を聞いてみた

「ベルンハルト『大尉』少しお聞きしたい事があります」

《何だ?》

「……テオドール・エーベルバッハという衛士は御存じでしょうか?ブレーメ総帥閣下はテログループを仕切ってるのは彼だと断定しています」

黙り込んでしまった……アイリスディーナは数分、いや数十分口籠り考え込んだ後、クスっと笑みを浮かべる

《その名を聞くのは久々だな。テオドール・エーベルバッハはかつて私の部下であり私の意志を成し遂げようとした同志の一人だった。ダリル少尉はウルスラ革命を知ってるな?》

「―――は、聞き齧り程度ですが」

《なら問題ないな、今から話す事をよく聞いてくれ、あれは彼がまだ心の灯があった頃に遡る…》

俺とファムはアイリスディーナが東ドイツでの革命…ウルスラ革命の事やテオドールとベアトリクスの決戦、カティアの死、テオドールが何故キリスト恭順派を身を寄せテロリストに成り下がってしまったかを全て耳を傾け話を聞いた。

……テオドール視点でアイリスディーナの話を聞くと、義妹のリィズが反体制派に処刑させられたことにきっかけでタガが外れ、その矛先はベアトリクスに向けシュタージそのものを打倒しようとした

しかしベアトリクスの部下以前に本来亡き者であったイングヒルトの機転によりテオドールはベアトリクスに敗北。

そしてカティアの死がきっかけで彼はテロリストになってしまった

………どう言えばいいか分からない

けど、彼には彼なりの事情があったはずだがナタリー等の他の人間を利用し切り捨てるなんて俺は許せない!

彼奴の所為でナタリーは不幸になっていく……!

《……という経緯だ、テオドールはもう私が知ってるテオドール・エーベルバッハには戻らないだろう》

アイリスディーナは寂しげな表情をする

《ダリル少尉は何故私とファム達がこの時代に生きているんだと疑問思っただろうが、簡潔に話すぞ。私は”救国の女神”として称えられベアトリクスによって生かされた。私含め666中隊の衛士は戦力の要の一つとして利用しているから失いたくはないだろう》

それは言えるかもしれない

アイリスディーナとベアトリクスは元々仲がいい親友だったが、彼女の兄、ユルゲンの死によって2人の友情は修復不可能と言われるほどヒビが割れてしまった

元には戻らないだろうと彼女はそう腹を括っていたはずだ

「そうだったのですね。ブレーメ総帥と今も…」

《革命終結するまで仲が悪かったままだが、ベアトリクスは『アクスマンに利用されてユルゲンを殺させた』『ユルゲンは貴女を生かしたのね。今まで誤解してごめんなさい』と言われて修復したよ》

成る程……。

《話が大分逸れてしまったな、日本でのクーデターの件は我々東欧州社会主義同盟は関与しない。本部からの決定事項だ》

下手に関われば国際問題になりかねない

ここは、傍観するしかないな

《交信終了する、祖国万歳!》

と言い残し、アイリスディーナの交信は終了した

「ファム姉、頼みたいことがあるが…構わないか?」

「?」

「俺が彼の代わりに意志を継ぎ、欧州を、いや全人類を救ってみせる!だから協力してくれないか」

「貴方がテオドール君の代わりに?」

分かってくれなくていい

でも俺はファムの…みんなの笑顔を守りたいんだ。

ただ、それだけなんだ

「ああ、ファム姉。改めて思ったが君と出会えた事が奇跡だ。一生ファム姉を愛し遂げる」

「ダリル君……私も貴方が好きよ。ありがとう……」

俺とファムは艦橋から出て、部屋で愛の営みを励んでいった




次回から帝都クーデターの話です!
タケルちゃん、出るかも?
悠一は国連側につきクーデター軍と対峙します
そこで偶然見た者は……
お楽しみに!


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第25話 星に願いを

悠一Side

2001年12月5日

帝国議事堂で銃声が響き、帝国軍将校は首相官邸含めそれを占拠し、一人の勇敢なる衛士が演説し日本国民全体に向けて自らの言葉を放った

帝都でのクーデター決起……12.5事件である

練馬駐屯地にいる俺は国連軍の横浜基地へ行く準備をしていたが、早乙女が血相な表情しつつ「今すぐ来てください!」と言葉を添え無言で俺の手を引っ張り第三会議室の中に入りその中にあるテレビに映ってる映像を見せられた

《国民の皆さん。私は帝国本土防衛軍、帝都守備連隊所属・沙霧尚哉大尉であります》

こ、此奴が沙霧尚哉か……クーデターの首謀者

鈴乃も第三会議室にいる

想いを伝えたい……日本国民全体を

《我が帝国は人類の存亡をかけた戦いの最前線となっており、我が輩は日夜生命を賭して戦っています》

日本は佐渡島ハイヴがある

横浜基地は横浜ハイヴ跡に建てられてる為か反応炉だけ存在する

人類一丸となってBETAと立ち向かう

西と東は関係ない……。

《しかしながら政府および帝国軍はその責務を十分に果たしておらず先日の災害救助作戦、報道では美辞麗句が並べられていましたが、しかし退去に応じない住民を就寝中に麻酔銃で襲撃、難民収容所に移送した。これが救助作戦の実態なのです》

軍のお家芸って奴か

横暴であることも含め非人道的だけど命あっての物種って言葉もあるし難しい

これが今の現状だ

《これは氷山の一角に過ぎない。作戦の多くが守るべき国民を蔑ろにしています!奸臣共はその事実を殿下にはお伝えしていないのです。このままでは…日本は滅びてしまうと断言せざるを得ない!》

沙霧大尉が言ってる事は一理ある

西側諸国だろうが東側諸国だろうと関係ない

征夷大将軍殿下の名を語り、「殿下の命令だ」とほざいて他人を傷付いてる連中もいるだろうさ

という訳で俺は単身、横浜基地に向かい香月副司令のアポがあると入り口に立ってる衛兵2人に許可を得てから中に入る

俺の前に待ち構えていたのは見た目はおっとりしているが、とても芯が強いロングヘアとホワイトリボンの女性兵士がいており敬礼した。

「特殊任務部隊A-01のCP将校の涼宮遥中尉です。戦域管制を担当しています。お待ちしてました豊臣少尉」

「あ、ああ…初めまして」

涼宮遥か……名前と顔覚えたぜ

可愛い女性だが、正直言えば俺のタイプではない

今度、音楽趣味は何が好みか聞いてみるか

それはさておき、俺は遥の後についていき伊隅大尉達がいるブリーフィングルームに向かった

到着した頃は遥はブリーフィングルームの扉を開き中へ招く

その中にいたのは言うまでもなくA-01部隊の衛士達だ

「我々に協力をしてくれて感謝するよ、豊臣少尉」

伊隅大尉は…改めてみるとホント、美人でカッコいい

少し揶揄ってみるか

「伊隅大尉と一緒に戦うことが出来て光栄です!」

俺は伊隅大尉に敬意を表し歓喜で敬礼した

「一度紹介したが改めて自己紹介する。A-01部隊部隊長の伊隅みちる大尉だ。今日は我々に協力してくれて感謝するよ。大倉大尉や崇宰大尉の話は全部聞かせて貰った……覚悟してもらうぞ。では次、速瀬」

あの伊隅みちる大尉と一緒に戦う事が出来るなんて光栄だね

アドレナリンが活発しそうだ!

言わなくても分かってると思うが、A-01部隊……伊隅戦乙女中隊…ヴァルキリーズは女ばかりだ

「はっ!A-01部隊副官を務めさせて貰っている速瀬水月中尉よ、腕に自信がある奴はタイマンでも何でも受けて立つわよ」

オラオラ系か?いや違うな

清楚……なのか?

……そこは想像に任せるぜ

「――そいつは楽しみですね速瀬中尉。期待していますよ。ところで好きな音楽は何です?」

「そうねぇ、ポップスに…オールディーズでしょ。あとGSね」

グループサウンズか……こりゃあ渋い音楽趣向の女性がいたな

しかも彼奴好みの音楽趣向でもあるな

「……私語はブリーフィング終了後で会話してくれ。では次、宗像」

「フフッ、A-01部隊の宗像美冴、階級は中尉だ。宜しく頼む」

何だ此奴は?宝塚歌劇団にいてそうな役者さんだな

男役で!

どの組にいてそうなのかは………わからん

「失礼、宗像中尉。少し聞きたい事ありますが」

俺は宗像中尉に問いかけ、揶揄った。

「何だい?」

「その…宗像中尉は宝塚に入ったご経験とかは?」

「ないよ」

即答かよ!

宗像中尉は少しずつ俺に近づいていき顔を近づけた

なんだなんだ?

「中々の逸材じゃないか……ん~」

「ほ、誉め言葉として受け取っておくぜ」

「口が軽い男は運がいいとでも?」

そういうと宗像中尉は俺の唇を重ねようとするが伊隅大尉に止められる

「何バカやっている、次!」

「次は私ですね。A-01部隊の制圧支援を担当させてもらっている風間祷子少尉です。趣味はクラシックとか音楽全般です。宜しくお願いします、豊臣少尉」

ほぅ、彼奴とは全く異なる音楽趣向をお持ちのようだ

だが、悪くはない!

「クラシックか…悪くはないな。落ち着いて和やかになれるよな。でも俺はジャズが好みなんだぜ」

「あら?そうなの?」

「おう、こっちはいつでもいいぜ!宜しくな!」

風間少尉…祷子…彼女とセッションするのもいいかもな

クラシックジャズで奏でたいぜ

「……次!」

「はい!A-01部隊の強襲掃討を担当を務める涼宮茜少尉です!」

ん?此奴も小さな愛国者ってか…?冗談じゃないぜ!

ツンデレ娘か……だがな、これは戦争なんだ。恨みっこなしだぜ?

「おう、宜しくな!」

彼女に聞きたいことは何もないな

でも気になる。茜はどんな音楽趣向なんだ?

どうせ彼奴みたいな音楽趣向だろうよ

「次、柏木」

「砲撃支援を務める柏木晴子少尉です、宜しくね!」

ほぅ、人懐っこい女性か

常に冷静な視点で物を捉え、時には非情とも思える考えを持っているな

「豊臣悠一少尉だ、ジャズが聴こえたら俺が来た合図だ!」

バスケ部にいそうな女性でもある。運動神経はかなり高いと推測する

この女も一筋縄ではいかねぇな

「豊臣は本当にジャズが好きなんだな…次、築地と高原」

俺をフォローした伊隅大尉は2人同時に自己紹介させる

「築地多恵少尉です!」

「た、高原萌香少尉です!」

おおっ、この2人は逸材のメンバーに相応しい

勧誘したいぜ!

……っとそれはブリーフィングの後にするか

「ブリーフィングを始める!」

伊隅大尉の声でここに集ってる衛士達は速やかに着席した

「……現在帝都はクーデター部隊によってほぼ制圧されている。最後まで抵抗を続けていた国防省が先程陥落した」

国防省陥落…嫌な予感しかしないな

「臨時政府はクーデター部隊により…榊首相をはじめとする閣僚数名が暗殺されたことを確認した!」

伊隅大尉の一言でざわつき困惑し始めるが俺だけは冷静に振る舞った

榊首相の死は俺には関係ない事だ。

「沙霧大尉以下自ら首相以下の閣僚を殺害した……この状況になった今は我々はクーデターに介入することもあり得る。心してよく聞け!国連は日本が不安定な状態に陥ることを望んではいない」

大方そうだろうな

沙霧大尉の行動を見て知った軍の上層部は大慌てし真面な対応は出来なくなっている

日本を盾としてしか考えていない……俺が言える事ではないが混乱してるのは確かだ。

日本を切り捨て逃げ出した国…アメリカ

俺は伊隅大尉の話を聞き、内容を纏めた

クーデター勃発し榊首相やその他もろもろの政府官僚、その関係者は死亡

沙霧大尉は日本の為に征夷大将軍の為に自ら動き出した

国連は帝都でのクーデターを介入しようと試みている

しかもアメリカ太平洋艦隊が展開しているという情報があった

佐渡島陥落と同時に日米安保条約を破棄したアメリカはその義務と権利の一切を大東亜連合に委譲した

そんな国が国連の要請で日本の地に踏み入れた

馬鹿馬鹿しいぜ…アメリカは独自行動に踏み出す機会を伺っている。

一部の日本人がオルタネイティヴ4を完遂させたい動きがある。

俺はそんなの関係ない……と思いきや俺は一人の女性の存在を思い出した

駒木だ

彼奴は今、沙霧大尉の腹心となり心酔してる

駒木が出てくる可能性は高いな……だがここは、人を多く殺したヤツが英雄と称えられる異常な世界だ

男も女も関係ない

オルタネイティヴ5の発動とアメリカの独断専行は香月副司令の立場なら許されないことだろう

G弾を本土以外でバンバン使って戦後の地球に君臨したいだけ……結局アメリカは本土が戦場になるのを避けたい

考えが見え見えだ

伊隅大尉の話を聞き続けてるうちに通信兵がブリーフィングルームに入り伊隅大尉の耳元で何かを囁きつつ伝言した

「それは本当か?」

「ええ、香月副司令が」

「御苦労、下がっていい」

「は――」

伝言した後、通信兵はブリーフィングルームから立ち去った

「国連安全保障理事会はアメリカ第7艦隊を編入することを決定した。当横浜基地はアメリカ軍の受け入れを開始したと情報が入った」

俺は疑問を抱き、伊隅大尉に質問を投げかけようとしたその時だ、先程の通信兵がブリーフィングルームに入り血相な顔で伊隅大尉に報告する

「大変です!基地の周りに帝国軍が!」

クーデター部隊……アメリカ軍を日本に招いたのは間違いだったようだな、香月夕呼

伊隅大尉は動揺せず、プロジェクタの電源を入れスクリーンに今の状況の様子を映し皆に見せる

これは、イーグル…ではない。陽炎か

完全に包囲されてるじゃないか

「国連軍の基地内とはいえ他国に軍隊が無断で上陸してきたんだ。主権国家としては当然の措置だな」

相手は本気のようだ

潰しにかかるぞ

俺は挙手し伊隅大尉に問いかける

「発言の許可を」

「許可する、何だ?」

「横浜基地で帝国軍の戦術機に囲まれたのに何故鎮圧に行かないんですか?」

「目的は同じであっても重んじるものが違えば道を違える事もある」

BETAに勝つことよりもか?

俺はベアトリクスの言葉を思い出した。

人類は必ずしも絶対に一つにはなれない

確かにその通りだ。それは理解している

だが、複雑だ

「決起部隊は帝都城に背を向け銃口を殿下には向けてはいない。それも事実だ。何故なのかは分かるな?」

征夷大将軍殿下は日本の象徴たるものであり斯衛軍帝国軍問わず、絶対にお守りしなくてはならない御方……だな

恭子から教わったさ、それは分かってる

「失礼ながら申し上げますが、国家の主権がどうこう言っている場合ではないかと思います」

正直な気持ちで言った。

伊隅大尉は表情変えず冷静に振る舞う

「豊臣少尉、貴様は斯衛軍にいたそうだな。崇宰家次期当主の崇宰恭子大尉から世話焼かせてるじゃないか」

「聞き捨てならんな…と言いたいところだが貴様の気持ちは理解しているつもりだ。良かったな、ここに崇宰大尉がいなくて」

恭子なら般若顔でそういうに違いない

斑鳩中佐は遠回しで言うかもしれない

唯依は……彼奴も恭子と同じ言葉を言い放つな

「それは人類の未来があってこそだと思います!国連の力を借りて早急と鎮圧すれば済むことでは」

「国連の方針が特定の国家の世界戦略を色濃く反映するものであったとしても貴様の答えは同じなのか?」

伊隅大尉が俺に問いかける

俺は一瞬、伊隅大尉の顔と恭子の顔が重なる

(この狼藉者が!アメリカが今まで何をしてきたのか理解しているのか!一方的な安保条約破棄、アジア圏からの撤退、明星作戦におけるG弾投下。この国の人間であれば理解出来る筈よ!)

………。

「ん?どうした豊臣、私の顔に何かついてるのか?」

おっと、いけねぇいけねぇ

つい見惚れてしまったぜ

「いえ、何も!」

「……時間が経つほど帝国軍の体制が整いアメリカ軍が介入してくる危険もある。帝都が戦場になる可能性に備え帝都圏に散在する斯衛軍駐屯地の各部隊は帝都城に集結すると考察して構わない」

アメリカ軍が日本のクーデターに介入してくるだと……政治的事情としか思えないな

ユーコン基地にいたユウヤやクリスカ、イーニァが今何してるかは知る由もない

噂によれば機体を強奪して行方不明になってる、が俺はそんなのどうでもいい

今起きてる事だけ考えて行動を示すんだ!

「我々も207Bと合流し作戦行動を移す。私も日本人だ、彼らが言ってることは理解できない訳ではないが…」

「分かっています伊隅大尉、必ずクーデターの連中を討ち取ってご覧に入れます」

と誇らしげな笑みを浮かびつつ伊隅大尉に向けて敬礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、国連軍の軍事的支援を仙台臨時政府が正式に受け入れ基地からも各部隊の出撃準備中だ

先程帝都で戦闘が始まり帝都城を包囲していた歩兵部隊の一部が斯衛軍部隊に向け発砲

それに対し斯衛軍第二連隊が応戦。沙霧大尉の戦闘停止命令も発表されたが混乱は収拾されていない

先発した第一戦術機甲大隊はアメリカ第117戦術機甲大隊と共に品川埠頭に強襲上陸を敢行、現在敵部隊と交戦中……事態は深刻化してるな。

遂に東京が戦禍に………。

全く、暇を弄んでるのか?アメリカ軍は

…とそれはさて置き、俺は何しているのかというと横浜基地のA-01部隊専用格納庫で強化装備を着用し俺が乗る不知火の調整をしていたが……。

「火力が足りねぇんだよ!火力が!」

突撃砲、長刀、短刀というシンプルな装備してる不知火を見て不満たらたらと流していた。

「え?」

萌香は俺の言葉を聞き困惑し始めた

「何でシンプルな装備品ばかりなんだ!もっと武装を増やせ!チボラシュカ…アリゲートル…ラーストチカみたいに出力を上げろよ!」

とにかく喚き散らした

強化装備を着た多恵は俺が喚き散らしてるのを見て呆れ顔になりジト目で冷たい視線しつつ溜息をついた

「はぁ…」

「武装てんこ盛りによ!火力さえあればクーデターの連中だって一発で倒せるんだ!」

萌香は俺に声をかけ少し怒りを表す

「無茶言わないでください!私達がいるヴァルキリーズは機動力重視です。シンプルな武装であるこそBETAと対等的に戦えるのですよ」

「そうそう、戦術機は基本的に機動力重視だからね…」

多恵は苦笑いで言った。

「なあ、高原」

「はい」

「この基地に配備してる機体はシンプルな装備ばかりだが」

「先程言った通り、ヴァルキリーズは機動力重視で戦闘挑む中隊です♪」

萌香はニコッと笑みを浮かびこう言い放った

「豊臣少尉は火力重視の機体を好んでますが、仮にてんこ盛りにしてしまうとただの砲台としか使えませんね♪」

笑顔で返すな!笑顔で

でも、悪くはない

「分かった分かった、とりまアレだ。鎮圧することだけ集中すればいいんだな?」

「それだけではないと思いますが…」

「どういう事だ!?」

格納庫に入った速瀬中尉と茜が俺にちょっかい出してきた

「あら~?新しい機体与えられて御不満でもあるのかしら」

「贅沢は敵だよ!」

ぐぬぬ……!

このアマ……。

待てよ、よく考えてみると萌香の言ってる通りかもしれない

カマかけてやるか

「よう、高原少尉と話してる途中だがアドバイスくれてな。嬉しい限りだよ」

萌香は「え!?」と驚愕し困惑する

速瀬中尉は「ホントに~?」と一言を添え茜は無言でムスッとした顔になった

「えっと、豊臣少尉?」

「?」

萌香はもじもじとして頬を赤らめながら何か言おうとしている

何だ?告白か?

絶対に違うな

「わ、私と付き合ってくれませんか!」

え?今なんて言った?

”付き合ってくれませんか”?

おいおい、マジで告白しやがったぞ

こういう時はなんて返せばいいんだ?

それってまさかとは思うが、結婚前提に付き合うって訳かよ

……酷なことだが、断りを入れよう

「あ、わりぃな。俺付き合ってる人いるんだ」

「え?」

「俺が好きな人は…」

「え?あのそっちではなくて模擬戦の方です…」

そっちかよ!

「模擬戦闘か。ああ、良いぜ」

「ありがとうございます!」

「機動力重視って事はこの中にある機体は何かタネや仕掛けとかあるのか?」

萌香は笑みを崩さず機体に搭載している新型OSについて丁寧に説明した

「タネや仕掛けはありませんが、香月副司令が開発した新型OSを私達の機体に搭載してるらしいですよ」

新型OSか……ユーコン基地にいた連中が聞いたら驚くだろうな

「機体の性能と出力を頼ってばかりはいられないよな……」

「そうですよね」

俺と萌香が談笑してるうちに、何故か恭子が横浜基地の格納庫に入り一緒にいる伊隅大尉と話しながら俺の行動をしっかりと見ていた

「ふふ、少しは成長したわね…伊隅大尉は豊臣少尉を傭兵として扱う事は出来るかしら?」

「癖がある男ですが、単にジャズが好んでいて口が軽い男ではないですね」

「そう、傭兵として扱うならそれで結構よ」

「では少しの間ですが豊臣悠一少尉を我がヴァルキリーズに預からせて頂きます」

「お願いね」

「は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーデター軍Side

 

沙霧大尉が主催する戦略研究会に集った衛士達は情報を集め、征夷大将軍殿下を探していたが既に帝都から離れたと察知し血相な顔して慌てる者もいた

「将軍殿下が既に帝都におられぬだと!?」

「帝都城から地下道で複数方面に脱出する動きが確認されておりその中におられた模様…」

「早急に部隊を向かわせろ!帝国軍や斯衛軍、ましてや国連には断じて先を越されるな!」

皆、必死であり慌てている

沙霧大尉の隣に立っている駒木は冷静な振る舞いで対応し沙霧大尉は静かに耳を傾ける

「情報省…例の男の情報、信用に足るものでしょうか?」

「戦においてはその反足るべし…か。不甲斐ない」

「やはり…殿下は御自ら囮となって!?」

「我等は降伏だ。あの方の礎となるに何の迷いがあろう」

そして彼は立ち上がり、ここに集う者たちは覚悟が出来てると悟りこう言い放つ

「殿下をお迎えに上がる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

香月副司令の命令により俺を含め伊隅大尉率いるヴァルキリーズは出撃命令が出され、クーデター軍の連中を鎮圧に向かった

さーて、貧乏クジは誰だ?

《あらら~。あっちに持っていかれちゃったか》

《偶には守衛に回れるかと思ったんだけどな》

速瀬中尉と柏木少尉の会話は弾んでる

《柏木~。向こうに行きたきゃ止めないわよ?殿下のために一人陽動を買って出る。泣かせるシチュエーションだと思うけど?》

《あはは。私偉い人の前だと緊張しちゃうんで遠慮しま~す》

そんな楽しい会話を2人で楽しんでる中、伊隅大尉の一言できりっとした表情になる

《さて貴様ら。楽しいバカンスはここまでだ。我々は箱根に移動する。ヒヨッコ共が無事花道を通れるよう赤絨毯を敷いておいてやれ!》

速瀬中尉と柏木少尉は「了解!」と一言を添え全機隊列を乱さずクーデター軍にいる方向へと飛んで行った。

さあ、始めようぜ。最っ高に運命的なセッションをな

国連カラーに塗装した不知火に搭乗した俺はゆっくりと速度を上げ隊列を乱さず直進飛行

現状を説明すると、10分程前厚木基地の通信が途絶、続いて小田原西HQも沈黙

厚木基地は確か前線司令部があるところだ

現在明神ヶ岳山中にて敵と交戦し敵主力は現在二手に分かれ南下中だ

厳しい状況になってきたな……これは楽しくなりそうだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーデター軍Side

 

《こちら604C!現在交戦中!至急増援を…うわぁー!》

不知火同士での戦闘が始まりクーデターに加担しない帝国軍衛士は『烈士』と書かれたクーデター軍の不知火を向け迎撃していたが、熟練した衛士がいたおかげだからか軽々と躱され返り討ちに遭う

《クソが!同じ機体なのに!》

1機接近してくるクーデター軍側の不知火は最大全速で長刀を片手で持ちクーデターに加担しない不知火は…

《どういうことだぁー!》

管制ユニットごと斜めで真っ二つで斬撃した

「帝都の守りを預かる我等精鋭の力!……見くびるな!」

そのうちの1機は両手で長刀を握り構える

クーデターに加担しない帝国軍衛士は全員死亡

そして、アメリカ軍のストライクイーグル8機がクーデター軍に接近

「来ました!機影8、アメリカ軍のストライクイーグルです!」

クーデター軍衛士の一人は接近してくるアメリカ軍にこう言い向けた

「アメリカ軍に告ぐ。戦闘行為を停止せよ。繰り返す。戦闘行為を停止せよ」

クーデター軍側の不知火や撃震は自動翻訳機能を無効に設定しているからかアメリカ軍側は何言ってるかわからないと悟り困惑していた

《Tell the machine of unknown affiliation. Enable immediate automatic translation. Or communicate in English, the official language of the United Nations, in accordance with the United Nations Military Code. 》

「諸君の行為は重大な内政干渉である。直ちに戦闘行為を中止せよ!」

《repeat. Communicate in English. I don't know what you're talking about 》

そしてクーデター軍衛士の一人は冷酷な目線でアメリカ軍戦術機部隊に突撃砲を向けこう言い放った

「アメリカ軍に告ぐ。英語などクソくらえ。繰り返す。英語などクソくらえ!」

《What?》

背部兵装担架に収納してる長刀を握り構え、アメリカ軍戦術機部隊に近づき速度を上げる

「尻尾を捲いて逃げ帰った貴様らが今更日本に何の用だ!忘れ物でもしたのか!間抜けめ!」

アメリカ軍も突撃砲で迎撃

「撃ってきました!」

「ストライクイーグル8機、手強いぞ!鶴翼参陣で包囲殲滅!兵器使用自由!」

互いに弾幕を張り終わりが見えない戦いを始めた直後、7時方向より新手の戦術機がクーデター軍側の戦術機に向け砲撃した

撃震1機がストライクイーグル1機に向け長刀を握り構え切りかかるが、性能差と機動力が違うからか苦戦し何とか撃墜した

「撃震でストライクイーグル相手と近接戦闘は無茶だ!2機連携を崩すな!」

クーデター軍の前に7時方向から接近してくる機影が見えた

「7時方向より砲撃!いきなり機影が!」

「馬鹿な!レーダーに反応が…」

「識別該当データなし!アメリカ軍の新鋭…ラプターです!」

「全機散開ッ!フラットシザーズッ!」

アメリカ軍の最新鋭機、F-22A…ラプター

ステルス機だから敵機を不意討ち出来る代物だ

何でBETAと戦うための機体にステルス機能があるというと隠密任務を特化してるからだ

音もなく素早い動きで敵機やBETAを殲滅出来る

普通の戦術機では太刀打ちできないだろう……普通の戦術機では

そんな束の間、クーデター軍側の戦術機は次々と撃墜され、そして

「馬…鹿な…」

沈黙していった

ラプター4機が機体の状態を確認

「Damage report for each machine」

《Spike 2, all green》

《Spike 3, no problem》

《Spike 4, all ok》

「It's good. I'll hunt enemy troops besieging allies from the edge 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

鎮圧した……これがアメリカ軍の最新鋭機のラプターの真の実力か

ユーコンにいた時はラプターと戦ったが、あの時はガンダムに乗って無双してたからな

今もそうだが……そんなことはどうでもいい

恭子から教わったが、征夷大将軍殿下は「殿下は操縦の心得は多少あり。飾りとはいえ軍の最高司令官よ。とはいえ、戦術機の操縦時間は実機で96時間程よ」と言われたな。

俺はともかく、恭子や鈴乃、都より乗ってる

まあ、搭乗時間多いからって実力があるってわけじゃない

故あって今は手元を離れているが征夷大将軍殿下専用の機体もあるだと言う。

将軍専用機ってことは随分ご立派なモノ持ってそうだな

恭子曰く「将軍家、または五摂家に生まれし者は戦においてその先頭に立つ責務がある」と

そしてそのような者達を守護するために斯衛軍がある

ん?秘匿回線…誰なんだ。作戦行動中だぞ

《あ、豊臣少尉。無断で秘匿回線使ってごめんなさい》

萌香からの秘匿回線だ

言いたいことは察している

「(高原か…)何だ?愛の告白を言いたいのか?」

《この任務を遂行し終えたら、私とバンドを組みませんか?私、風間少尉みたいにバイオリンとかは弾けないのですが…ピアノなら少し弾けますよ》

勧誘か……では俺からも誘いますか

「良いぜ、俺のバンド入りたいのなら大歓迎だ」

《バンド組んでるのですか!?凄いですね♪逆に惚れちゃいそうです…》

惚れちゃいそう…か

ここでいい所見せるとしますか

外部からの回線を切断し萌香からの秘匿回線に繋ぐ

これで外野から漏れることはない

そして不知火の跳躍ユニットを噴出し曲芸飛行を萌香に披露した

隊列を乱したが気にすることはない

「うほ♡はえぇ」

この感覚は…今まで味わったことがない速さだ

Gに耐えられるか。

《ちょっと、隊列乱しちゃダメですよ。伊隅大尉に怒られますよ》

「高原、ジャズは興味あるか?」

《萌香、私の下の名前は萌香です。気軽に読んでくださいね♪》

おいおい、天使みたいな笑顔じゃないか

よっしゃ!絶対に俺のバンドメンバーに加えてやる!

《隊長、豊臣少尉が列から離れます!》

《何をしている豊臣!早く列から戻れ!どうした豊臣少尉!…》

やば、見つかったか!

速瀬中尉の慌てぶりと伊隅大尉の怒声が響く

にしても、この戦術機は機動力重視だけでなく速度も向上してる

俺は秘匿回線を切りオープン回線に切り替え外部からの回線や映像が映り、モニター画面を確認する

「あれは吹雪……ということはその機体に乗ってるのは白銀とヒヨッコ共か」

鈴乃の言葉をふと思い出した

 

”人類の救世主”ってところだな。

 

小さな愛国者だ。しっかり面倒見てやれよ

 

『我が同胞団は国連軍横浜基地の保衛に当たり訓練衛士を死守せよ』との事だ

 

 

そういえば言われてたな……要するに白銀達を守れってか

地球にいる全人類が一つになれたらベアトリクスの言葉は覆されることになる。

本当にそんなことが出来るのなら、証明して見せろ!白銀武

小田原西インターに到着しクーデター軍と接触

《いいか?貴様等、腹を括って攻めろ!我々ができることは任務を全うすることだけだ!》

伊隅大尉の一声でヴァルキリーズの衛士全員はクーデター軍と戦闘開始

《頑張ってくださいね!》

「ありがとよ萌香……さぁ行くぜ。これからワックワクの、蛇の巣穴に手を突っ込むような、クソ任務へとお出かけだ!」

《何言ってるか意味分からないです……》

と萌香は苦笑いする

俺は機器にガムテープで固定してるカセットレコーダーの電源を入れ軽快なジャズを流しクーデター軍の連中を突撃砲で38mm弾を放ち迎撃していった

《馬鹿者が!任務中に音楽流すな!》

伊隅大尉はそういうが、俺は無視した

「……(来たな、『烈士』という文字が書かれてる機体がクーデター軍の戦術機か)」

ジャズを流したからかクーデター軍側から気づき始めヴァルキリーズに高速で接近

「ノイズ?…いや、これはジャズだ!」

「馬鹿め!自ら死に急ぎしてるようなものだ」

「相手が誘ってるんだ!撃て!敵機殲滅だ!」

クーデター軍側も迎撃開始

《撃ってきました!》

《音楽を切るんだ!豊臣》

速瀬中尉の慌てぶりや伊隅大尉の焦りが見える

だがな、伊隅大尉よ。俺は単にジャズを流したわけじゃないんだぜ?

俺はクーデター軍側の迎撃を躱し、120mm弾で返り討ちにしてやった

「いい的だ!このまま墜ちろ!」

俺は次々とクーデター軍の戦術機を撃墜しこれ以上問題起こしたくないからか伊隅大尉は多恵、萌香、茜の3人を俺の援護射撃に回した

《何やってんのよ!この馬鹿!》

《私達を全滅させるつもりなんですか?》

《伊隅大尉怒ってますよ……》

そんなつもりは毛頭ないぜ

クーデター軍側の戦術機3機が俺達を挟撃しようと試みる

そこを逆手に取り、俺は跳躍ユニットを最大限まで噴出し上空射撃

「素早い…いい反応だ」

そして煽る、煽りまくる

「おい、そこのクソ野郎共!お前の命、貰いに来たぞ」

クーデター軍側の動きが変わった。

後退しながら砲撃し3機のうちの1機が長刀で萌香機に切りかかるが横やりで多恵機が的確に射撃し撃墜した

《あ…》

「すまん。借りが出来たな」

2機に残ったクーデター側は俺に向け突撃砲を構え発砲

俺も最大全速で砲撃

おうおう、敵の動きが読めるぜ

「クソ!化け物が!!なんて速さなんだ!?」

敵は焦ってるな

誉め言葉として受け取っておくぜ

そしてここにいたクーデター軍の連中は全滅した

とは言え、まだ親玉が出てきていない

ここは粘り時だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーデター軍Side

 

《冷川における殿下のご奉迎ならず!繰り返す!殿下のご奉迎ならず!》》

「箱根に増援を送ったはず!どうなっている!?」

87式自走整備支援担架の簡易設備にいる沙霧大尉は刀持って座ってる時の佇まいをしていた

通信兵はただ状況を把握せざるを得なかった

《小田原西インターで国連軍部隊と接触!第一陣…全滅》

「全滅…だと…」

一人の女性が沙霧大尉のサポート役を務める為に立ち上がる

「大尉。ここは私が出ます。大尉は厚木へお急ぎください。殿下を…宜しく頼みます」

駒木咲代子

沙霧尚也

そう、不平不満をアメリカにぶつけ征夷大将軍の意思を蔑ろにさせないために同胞を集め国連軍、アメリカ軍と立ち向かっていった

「(日米安保条約を破棄したアメリカが悪いのよ……国を導く殿下の意思を伝える為私は……潰す!)」

駒木の目は闘志を募った赤い炎みたいに今までの鬱憤を晴らす時が来たと悟った。




次回、ヴァルキリーズとクーデター軍が衝突しますよ!
因みに暫くの間、良平は出てきません
お楽しみに


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第26話 Mystical Lady

悠一Side

 

小田原西インターで俺含め伊隅大尉率いるヴァルキリーズはクーデター軍と交戦し殲滅し終えた後、状況確認していた

『烈士』と書いてる不知火が炎に包まれ燃え盛っていた

《上出来だ!全員生きているな?》

《新型OSのテストが人間相手なんて…》

多恵、言いたいことは分かるぜ

皮肉だな、まさか対人戦でテスト行われるなんてな

笑えねぇよ

《築地少尉。今は任務に集中なさい》

祷子は冷静な対応を取る

全集中……か

集中……呼吸を整えて意識を高める

《ここを突破できない限り彼らは目的を達成できない。次は本腰を入れてくる筈》

《ですが!命までは奪わなくても!》

多恵は人を殺した経験はなかったのか。

「不知火をここまで苦しめたんだ。誇っていいんだぜ?」

《え?》

「相手は帝国軍の強者だ。ウジウジしてたらいつまでも自分のセッションは奏でられないぜ?そうだろ、速瀬中尉」

《……まぁ、アンタが言ってることも一理あるわね。圧倒的な差を見せつけることが犠牲を最小限にする唯一の方法なんだ》

《うん……》

覚悟と正義のぶつかり合い

これだけは言っておくぜ多恵

戦争っていうセッションは永遠に終わらないんだ

《全員聞け!我々ヴァルキリーズは人類を保護する天の切先。いかなる任務であれそれを遂行する!》

伊隅大尉の一言でヴァルキリーズ衛士全員戦闘態勢を構える

《その妨げとなるのならBETAであれ人であれ排除するのみ!》

そうだ、その通りだぜ伊隅大尉

人類を保護するために人を排除とはなんとも皮肉な事だが、これは戦争だ

男も女も関係ない

対人戦なんて本来したくない筈だ。

萌香、多恵、クーデターに加担しない鈴乃と早乙女も

皆同じなんだ、そんな甘ったれな事言ってる場合じゃねぇ!

「中尉殿、高原少尉と築地少尉にお叱りの言葉を送りたいのですが許可を願えませんか?」

《え?ああ、分かったわ。伊隅大尉》

《許可する》

「んじゃ、お言葉に甘えて…高原少尉、築地少尉!俺達は戦い続ける宿命だ。BETAだろうが人であろうが立ち向かわなければいけないんだ!お前の甘言でクーデターが収まると思うのか?」

俺の言葉を聞いた多恵は一瞬ポカーンと固まった。

《それは…》

多恵は口籠り不安そうな表情をした

ま、他人の命を奪うのは罪だが戦争はそうはいかない

命を奪い合う場なんだ、多恵

その甘さが命取りになるぜ?

「……少しは分かったか?場を盛り下げるのはやめて頂きたいね。冷めちまうぜ」

沈黙

皆全員黙り込む

「セッションはまだ始まったばかりだぜ、お二人さん☆」

説教終えた後、伊隅大尉から「気が済んだか?」と一言を添え俺は「はい」と返答した。

赤いマーカーが表示され、レーダーに機影が見えた

クーデター軍が目の前に近づいてくる

《来るぞ!》

クーデター軍と接敵したヴァルキリーズは全機、跳躍ユニットを噴出し最大全速で突撃していった

不知火同士の対決……!

すげぇ、比較になんねぇな!これが………ヴァルキリーズか

6対6、俺含めたら7対6

機動力はヴァルキリーズの方が上だ

前方にクーデター軍の戦術機と既に接敵したが、1機だけ動きが違う

《ここを確保すれば南へ増援を送り込める!》

クーデター軍衛士と交信する女性の声……。

この声は、まさか……!!!?

《一気に突破するぞ!全機!突撃!》

間違いない、この真面目さがある女性の声忘れる訳がない。

的確に戦況を把握しゆっくりと分析するその行動力

「(駒木だ、あの野郎…クーデターに加担するとは、沙霧大尉が傍にいるから盲目的に心酔したか)」

俺は駒木が乗ってると思われる機体に向け大声で叫んだ

「駒木!!俺の名を言ってみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萌香Side

 

私の名前は高原萌香

国連軍A-01部隊…ヴァルキリーズに所属してる衛士よ

私の上官である伊隅みちる大尉は私達に生き延びる術を厳しく頭に叩き込み、それを教えてくれた

衛士としての腕はまだまだだけど、いつかきっと私も一人前の衛士として前線に行ってBETAと戦いたい。本気出せば戦術機同士の戦闘は勝てる……と思い込んだのはある男が横浜基地に来て傭兵としてヴァルキリーズと行動を共にするまでだった。

出撃する数時間前、ブリーフィング後に更衣室で強化装備を着替えてる中私は多恵といつも通り楽しく会話をしていた

「萌香、ここ横浜基地にね。佐渡島同胞団っていう組織にいる衛士が私達と協力するんだって」

「ブリーフィングで聞いたよ。斯衛軍の豊臣悠一少尉だよね。あの人って見た目は不良だけど悪い人ではなさそうだし」

豊臣少尉の初対面での印象は、衛士界隈内で問題起こしてた人だって事は分かったけど私はそんな風には見えない

「そうかな……萌香はダメな男に惹かれやすいのね?」

「え?」

「何て言うか…デリカシーがない所とかね」

互いに強化装備を着替え終え、私は更衣室から出ようとしたが多恵が私の背後に胸を両手でゆっさゆさと揺らし揉み触る

「ひゃぁん!」

「ほれほれ、少しは大きくなった?」

多恵はいやらしい手つきで私の胸を揉み触り耳元に息を吹きかける

「ふぅ」

「あぁん!ちょっと何するのよ」

胸が大きくなったところで別に男と戯れたいとか思っていない

ただ、ひとつ気になることがある

それはBETA大戦終結まで生き延びられるか?

それだけが不安を募り気になった

私は多恵の両手を触れ自分の胸を揉み触り観念した

「あぁ…んぁ…」

吐息を吐いて妖艶な笑みを浮かべる

そして私は多恵の唇を重ねられ舌を絡められ強くぎゅっと抱き締めお互いに興奮をした

でも多恵は茜の事が好きな筈、なんで私に?

これは夢なの?いや現実だった

私は多恵の胸を試しに触った

「萌香?あぁん♡ちょ、やぁ…♡」

茜の胸と多恵の胸の体積比率は1:4。

香月副司令より大きい……なんて弾力なの!?

私と多恵が興奮し欲情した頃には既に自我を失っていた

「ん…♡多恵の…胸大きい♡」

「あぁ♡萌香…らめてぇ」

「私の胸を散々揺らして揉み触ったのに、自分のを揉まれたら都合が悪いのはダメだよ」

唇を重ね互いの胸を引っ付き合い舌を絡めつつ抱き締め合っている

「ん…♡ちゅ♡ちゅるちゅる♡」

「んぁ…♡萌香…ん♡ちゅぱ♡ぁん♡」

10分後、自我が戻り、互いの目線を合わせる

「多恵、私は貴女の事好きになっちゃった」

「ん…萌香、ありがとう。任務終えたら続きやろ☆」

深呼吸し、更衣室から退室

格納庫に入り、自分が乗る戦術機の管制ユニットに入ろうとするが一人の男の喚き声が聞こえそっちに向かうと豊臣少尉の姿があった

「火力が足りねぇんだよ!火力が!」

「え?」

私は豊臣少尉の言葉を聞き困惑し始めた

「何でシンプルな装備品ばかりなんだ!もっと武装を増やせ!チボラシュカ…アリゲートル…ラーストチカみたいに出力を上げろよ!」

強化装備を着た多恵は豊臣少尉が喚き散らしてるのを見て呆れ顔になりジト目で冷たい視線しつつ溜息をついた

「はぁ…」

「武装てんこ盛りによ!火力さえあればクーデターの連中だって一発で倒せるんだ!」

私は豊臣少尉に声をかけ少し怒りを表す

「無茶言わないでください!私達がいるヴァルキリーズは機動力重視です。シンプルな武装であるこそBETAと対等的に戦えるのですよ」

「そうそう、戦術機は基本的に機動力重視だからね…」

多恵は苦笑いで言った。

性能と出力、火力だけを頼ってちゃBETAは倒せないよ

「なあ、高原」

「はい」

「この基地に配備してる機体はシンプルな装備ばかりだが」

「先程言った通り、ヴァルキリーズは機動力重視で戦闘挑む中隊です♪」

私はニコッと笑みを浮かびこう言い放った

「豊臣少尉は火力重視の機体を好んでますが、仮にてんこ盛りにしてしまうとただの砲台としか使えませんね♪」

「分かった分かった、とりまアレだ。鎮圧することだけ集中すればいいんだな?」

「それだけではないと思いますが…」

「どういう事だ!?」

格納庫に入った速瀬中尉と茜ちゃんが豊臣少尉にちょっかい出してきた

「あら~?新しい機体与えられて御不満でもあるのかしら」

「贅沢は敵だよ!」

贅沢は敵……言われてみればそうかも

「よう、高原少尉と話してる途中だがアドバイスくれてな。嬉しい限りだよ」

私は思わずは「え!?」と驚愕し困惑する

速瀬中尉は「ホントに~?」と一言を添え茜ちゃんは無言でムスッとした顔になった

「えっと、豊臣少尉?」

「?」

私はもじもじとして頬を赤らめながら言い放った

「わ、私と付き合ってくれませんか!」

模擬戦闘の相手として豊臣少尉を誘ったが……。

「あ、わりぃな。俺付き合ってる人いるんだ」

「え?」

「俺が好きな人は…」

何か勘違いしてるから一応訂正しておこう

「え?あのそっちではなくて模擬戦の方です…」

「模擬戦闘か。ああ、良いぜ」

「ありがとうございます!」

「機動力重視って事はこの中にある機体は何かタネや仕掛けとかあるのか?」

私は笑みを崩さず機体に搭載している新型OSについて丁寧に説明した

「タネや仕掛けはありませんが、香月副司令が開発した新型OSを私達の機体に搭載してるらしいですよ」

「機体の性能と出力を頼ってばかりはいられないよな……」

「そうですよね」

私は豊臣少尉に優しい笑みを浮かべる

「えっと、シミュレータールームに行きましょう。そこでなら…」

そして私と豊臣少尉はシミュレータールームに行き、1対1での模擬戦を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦始まってから3分後、私は豊臣少尉の戦闘スタイルを翻弄され苦戦していた

互いの機体は不知火

不知火同士なのに何でこんな卑劣な手を!?

私は……豊臣少尉の盾になってしまった

《おいおい、もうお終いか?つまんねぇな》

「!」

私の機体は豊臣少尉機から振り払い突撃砲の銃口を向け38mm弾を放った

これで当たった……訳ではなく躱された

 

そして……。

1時間経たずに私の敗北という結果で終わってしまった

模擬戦終了後、私はシミュレータールームから退室

横浜基地のPXで京塚のおばちゃん特製生姜焼きをゆっくりと食べた

PXとは酒保、簡単に言えば売店ね

食堂としての備えだけではなく日用品から各種記念品まで売られている

合成食ばかりだけど贅沢は言ってられない

私の隣に豊臣少尉がいつの間にか座っており私と同じ生姜焼きを食べていた

「よう、隣いいかい?」

「ええ、どうぞ」

何なの、あの男は

ストーカー?

そんな訳ないよね…単に運が良いだけの口が軽い男しか見えない

10分間、黙々と食事を手に付け食べ終えた後私は部屋に戻ろうとしたその時、豊臣少尉に声かけられる

「高原」

「何でしょうか?」

「ちょいと気になってな、アンタが好きな音楽は何だ?」

軽い口調で私に話しかけ好きな音楽趣向について聞かれた

「あー、私は特に何もないです」

好きな音楽か……うーん、何もないや

「何もないか……」

「はい」

「んじゃ、高原に興味持つ音楽趣向をみんなに聞くぜ」

え?

「じ、自分で探しますから!いいですよ!!」

「そ、そうか……」

豊臣少尉ってジャズを好んでるけど、「実は私もジャズが好きなんです」とか言ったらどんな反応するのかな?

「あの、豊臣少尉。ごめんなさい!私嘘吐いてました」

「あ?」

「私もジャズが好んで聴いてますよ。ただどんな曲なのかまでは分からないです」

「おお、高原もジャズの魅力が分かるか!」

ふふ、良い反応♪

よし、ここでグイグイと話すか

「あははは、聞き齧りですが…」

「そうかそうか、ジャズの名盤教えてやるぜ」

「お手柔らかに…」

まさか、自分がこの後死ぬなんてこの時は思いはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

任務開始から2時間経過、俺含め伊隅大尉率いるヴァルキリーズはクーデター軍の戦術機部隊と交戦

新型OSを搭載した不知火を駆けて俺は次々とクーデターの連中を捻り潰していった

《速い!》

そりゃそうだろうよ、連中の面子が丸潰れだ

しかし追加装甲で防御するクーデター軍の戦術機の1機がヴァルキリーズの弾幕を張られるのを粘る

《チッ…そう簡単に崩れないよね》

晴子は悔し紛れで敵機の動きを読む

《敵陣に誘い込まれるな!向こうの目的は時間稼ぎだ!アローヘッド1で左翼から突入!端から一気に削り落とすぞ!》

おうおう、そう来たか。

左から端を削るとはな……流石沙霧大尉の腹心といったところか

だがな、相手が悪かったな駒木

ヴァルキリーズ相手に牙を剥くとは無謀だぜ

《そのまま陣形を維持!機動性を生かして攪乱するんだ。動き回って囲い込め!》

伊隅大尉の文字通り、そのまま陣形を維持し機体の機動性を生かして攪乱させ動き回りクーデター軍部隊を囲い込もうと試みる

《うっ…ちょこまかと!》

クーデター軍部隊も猛攻し砲撃を続ける

欠伸が出るほど遅い動きだ

《うわっ!》

遅い!遅すぎるぜ!

《な…なんだあの機動は!?》

《こんな動きが戦術機に…!》

夜間戦闘は京都で経験済みだ

俺はクーデター軍側の機体の頭部をサッカーボールみたいに蹴り上げメインカメラを使えなくさせた

そして管制ユニットに向け120mm弾を放った

その繰り返し……次々と撃破

萌香機が直接前へ出て突撃砲を構えクーデター軍の戦術機に向け120mm弾を放とうとするが

《いける!この新型OSがあれば帝国の精鋭とも渡り合える!》

しかし萌香機の上から長刀を握り構えた不知火が……

「!高原、避けろ!」

《え?》

萌香機を真っ二つにさせ撃破された

「!」

《た…高原ぁー!!》

速瀬中尉の悲痛な叫び

「くっ……!」

燃え盛る萌香機の残骸

もう我慢ならねぇ!

俺は確信した。萌香を殺したのは駒木だって事を

その頭上からの長刀を使った切り捌き

的確な攻撃

そう思い私怨で駒木機を攻撃しようとしたその瞬間、速瀬中尉機が駒木機に突っ込み長刀で切りかかる

《よくも…よくもあんた達!》

しかし別方角から敵機が速瀬中尉機の背後に

《しまった!》

伊隅大尉が突撃砲で背部兵装担架に収納したまま速瀬中尉機の背後にいる敵機を背部砲撃

左手に長刀を握り駒木機と対峙する

《馬鹿者!余所見をするな!こちらは私が抑える!》

燃え盛る萌香機の残骸を見た多恵は号泣し叫んだ

《いやぁー!!》

機体の動きが止まった

馬鹿か死ぬ気か!

《うっ…》

真正面からクーデター軍の砲撃

拙い、当たってしまう!

多恵は動かないし、俺は何もできねぇ!

《多恵!足を止めちゃ駄目!動き回って!》

《茜ちゃん……》

俺は機体の残骸を盾代わりに使おうと目論むが、萌香機に盾代わりしたら伊隅大尉が怒るだろうな

多恵には申し訳ないが……ダメだ、やめておこう

《しまった!晴子!このままじゃ大尉が孤立する!援護を!》

《わかってるって!でも!こっちも結構…きついんだよね…》

万事休す

緊迫感が溢れる

練度が高いな……本土防衛軍の力は一筋縄ではいかないな

《茜ちゃん!》

多恵はクーデター軍の戦術機2機に向けバレルロールを展開し旋回飛行で砲撃

動きが滑らかで凄い

しかし、茜機の背後に敵機が長刀で切りかかる

チッ…こうなりゃ自棄だ!

俺は最大全速でジグザグ飛行しつつ突撃砲を構え敵機に向け砲撃

敵機の頭部を蹴り上げる

「動きがのろいぜ!そんなに死にたいならさっさと潔く退場しろ!それが嫌なら動け!」

俺は俺らしくない言動で多恵と茜を叱りの言葉を送る

「いいか!?戦争っていうセッションは永遠にループし続けるんだ!ただプレイヤーが入れ替わるだけだ!その甘ったれな言動で貴様等は高原を死に追い込んだ!戦争ジャンキーの俺だが大切な人を喪った人間の気持ちは分かる伊隅大尉の代わりに俺は言わせて貰う!動かない衛士は奴等に殺されて来い!その方が部隊の負担も減るというものだ」

悪いな伊隅大尉、台詞を取らせて貰ったぜ

それを聞いた伊隅大尉は何かを察したか小さな笑みを浮かべる

《そうだ…これ以上死なせるもんか。この戦いを終わらせて…私達は生きて帰るんだ!》

多恵は涙を流し泣き終えた後、その目は闘志を燃えていた。

「うっしゃあ!そう来なくてはセッションが出来ないぜ!」

俺はアドレナリンが活発し突撃砲で駒木機に向け照準を合わせる

120mm弾の残弾は100

38mm弾はまだ余裕で行けそうだ

後退し伊隅大尉を先行させ駒木機と長刀で交わる

互角の操縦センスだ。一歩も引き下がっていない

《投降しろ!最早追撃は間に合わん!これ以上無駄な血を流させるな!》

伊隅大尉は駒木に咆哮

武力をもって降伏させようとするが

《日本語!?貴様日本人か!》

駒木機は伊隅大尉機に近づき長刀を握り刃を向ける

《現状を見てもなお殿下を連れ去ろうとするか…売国奴め!!》

《我々は軍人としての責務を果たす!必要なのはそれだけだ!》

《そういう言葉を言い訳にして皆が現実から目を背けた結果がこれだ!》

ちょいと強くなってきたな駒木

伊隅大尉に喧嘩を買うなんていい度胸してるじゃないか

刃を向き合う双方は猛攻し合う

俺はただ見守るだけで介入することはできない

《己の利益や立場を守ることしか考えずそのために他者を貶めるならBETAと何が違うというのだ!!》

練度がえげつない!

近距離での突撃砲全部回避する伊隅大尉

……いい盛り上がりだぜ伊隅大尉

《繰り返す!武装を解除して部下達を投降させろ!貴様達の計画は既に破綻している。これ以上の問答は不要だ!》

最後通告、これ以上はやめた方がいいぜ駒木

都が喜ぶわけがないし軽蔑されるぞ

《第2小隊…ぐわーっ!》

《我…行動不能…先に逝きます…駒木中尉…》

次々と撃墜されていくクーデター軍側の戦術機

駒木機は最後の悪足掻きをしたが伊隅大尉の練度が高過ぎたか左腕が切断され倒れた

《ここまでだ。殿下は間もなく国連軍保護の下戦域を離脱される》

これ以上邪魔をしようってんなら、容赦はしない

伊隅大尉はそう思った。

《既に追撃は不可能。貴様の目的は潰えた》

俺は突撃砲を下げ、伊隅大尉機に近づく

《この戦乱もここで終わりだ》

伊隅大尉はそう言い放ち、駒木は弱弱しい声で何か呟いた

《既に雪は降り出した…地に積もった雪は日に照らされ冬の終わりを告げる雪解け水となる…夜明けは近い…我等は清流となりこの国の汚濁を洗い流す…日の差す所に…雪が残ることはない》

上空から何かが飛んできたぞ

《上空を何かが通過します!》

《これは!》

これは、日本帝国軍の輸送機

空挺部隊か!?

増援かよ……ということは駒木はそれの時間稼ぎしてたって事か……陽動って訳かよ!クソ!嵌められた!

高度を置きギリギリまで下げる輸送機

これはBETA対策の一つだ

光線級がレーザー照射されないためにギリギリまで高度を下げる

エアボーンだ……クーデター軍の主戦力が地上に投下させ地面に付ける

海上の制空権は何故かアメリカ軍が抑えている

内陸を飛んできたというのか……恐れ入ったぜ

そしてある男が国連軍やアメリカ軍に向けこう言い放った

《私は本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊所属沙霧尚哉大尉である》

スペシャルなゲストのお出ましだぜ!

分かってると思うが、沙霧尚也大尉はクーデターの首謀者だ

《直ちに戦闘行動を中止せよ!我等の目的は戦闘ではない!》

おいおい、正気かよ

こんな時に対話か?

双方は好きでこんなことやってるわけではない

それは分かってる。穏便に済ませたいというのか

《故あって決起し立場を異にする諸君らと対峙しているが、我等は諸君らが無法にも連れ去ろうとしている殿下をお迎えに上がったのだ!聊か一方的ではあるが諸君らにただ今から60分間の休戦を申し入れる》

「何言ってやがる……?」

《尚、この休戦は煌武院悠陽殿下の御存命にかけて履行されるものである。我等からそれを破ることはあり得ない》

………。

《諸君らにとって現実的で誠実な対応を取られることを切に願う。60分後再び呼びかける。返答なき場合我等も全ての手段をもって事態の収拾を図る。そう心得られよ。以上》

……さて、どうするか?

「どうします?伊隅大尉」

《どうするも何も、我々ができる事は見守るだけだ。休戦を応じるべきか》

「それよりこの不埒な衛士をどう落とし前を付けるか?自分はそう思っております」

駒木の拘束は後回しだな

今は沙霧大尉の動向を見守るしかない

総力戦か、面白い……!

俺は期待感を高め闘志を燃やしていった。




大変申し訳ないと思いますが一番重要な場面を書きたかったのですが残念ながらカットしました。
理由は悠一がヴァルキリーズの隊列から離れてタケルちゃんのところに行ったら不自然ではないかと思ったからです
これは結構重要な場面ですね
ウォーケン少佐とイルマ少尉出したかったのですがこれもカット(-_-;)
その重要な場面はタケルちゃん視点ばかりですから他のキャラ視点だと書くのが難しいんです(-_-;)
自分はイルマ少尉好きですよ
クーデター勃発前の彼女の物語が見たいな……。
そんな訳で次回はクーデター最終局面かな?
多分最終局面です
次回のお楽しみに


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第27話 Oh God. I`m Alone

鈴乃Side

 

12.5事件…帝都クーデター

日本帝国軍の一衛士の沙霧尚也大尉が引き起こした出来事である

その目的は今の政府は民を導けず征夷大将軍殿下を蔑ろにされ、このままでは日本はBETAに飲み込まれる

……ざっと言えばこんな感じだな。

しかし私はクーデターに関与はせず、練馬駐屯地の第三会議室でテレビのニュースを視聴しその動向を見守るだけだった

「緊急放送特番でクーデターの事を報道していますよ」

「……」

「いいのですか?介入しなくて」

早乙女はぶっきらぼうな態度で私に話しかける

「貴様も関与しないと言っただろ?」

「それもそうですね」

この時は知らなかった

駒木がこのクーデターに加担しているという事を

「助けを求めても私はクーデターには加担しない」

話を終わろうとした時、佐竹が会議室に入り慌てた表情で私に報告する

その内容は理解し難いものだった

「た、大変です!観測部隊からの報告ですが…!」

何だ?何を言おうとしている

「何だ?早く言え」

佐竹が挙動不審してる中何も言い出せなかった

突如アフリカから帰ってきた鬼頭が嬉しそうな表情で会議室に入り自慢げに言い放った

「はは、只今戻ってきました!大倉大尉聞いてください。アフリカでゴリラの肉を食べてる途中に現地のガイドが大倉大尉の知り合いとそっくりな衛士を見たと聞きましてね。その時は驚愕しましたよ」

私の知り合い……?

「鬼頭!その知り合いってまさか…!」

「佐渡島にいた駒木っていう女性です。何で知ってるのかと疑問抱いたんですが、現地のガイドの親友が日本人で佐渡島の衛士として活動した人でしたよ。はははは!やはり私の推理は間違ってなかった!」

私は鬼頭の胸倉を掴み血相な顔で言葉攻めした

「駒木!?あの駒木か!?鬼頭!駒木がクーデターに加担してるとそういいたいのか!」

「ちょ、落ち着いてください!大尉。本当です!赤い淵の眼鏡をかけてたのをちゃんと見ましたから駒木本人に間違いないです!」

でも、何故アフリカにいた鬼頭は駒木がクーデターに加担してると言い張っているんだ?

「貴様が知ってしまったという事は……クーデター軍の内部にスパイがいるかもしれん。誰かは分からないがもしこれを知る人間がいるならば情報省の鎧衣課長、アメリカのCIA、FBI、東欧州社会主義同盟…いやそれ以外かもな。鬼頭、一応聞くが駒木はクーデターに加担してるのは事実か?」

「だから言ってるんですよ!駒木咲代子本人と間違いないと!」

………加担してると薄々思ってたが、まさか本当だとは正直心底呆れる

此奴には都の敵討ちする資格がない

酷い言い方だが、私だってこんなこと望んでいない

私は鬼頭の胸倉を放し、冷静になる

「あ、そうだ!大倉大尉にお土産あげようと思って持ってきたんですよ」

鬼頭は呑気にアフリカ土産を私に渡した

「…何だこれは!?」

私に渡されたのはネズミの置物だ

「いやぁ串焼きネズミを持ち帰ろうと思ったのですが、税関に引っかかってしまって仕方なく置物にしたんですよ」

怒りを隠す私は作り笑顔を浮かべる

「そうか…それは嘸楽しい思い出作ったわね」

「あ、今度コリアンタウンで犬肉買って料理作り振る舞いますよ」

「それは動物虐待になるから絶対にやめろ」

話最初から話さなくてはいけないな……。

佐竹は不安な表情を浮かんでいる

「それにしても大尉は駒木しょ、中尉の事よく知っていますね」

「彼女はA中隊の衛士であり坂崎大尉と梯子酒した仲だったよ」

「皮肉ですね……何で駒木中尉は沙霧大尉の元に行ったんでしょう」

「今までの自分を捨ててまで日本を守りたい気持ちがあったんだろう。が彼女はやり過ぎた。民を導けず蹂躙され今の政府は杜撰な対応で司法と法律は信用せずに見えない敵と戦い続けている」

「どうすればいいのか分かりませんよね……」

沙霧大尉が決起してまで日本を変えようとしている

「大尉はベアトリクスの名言は御存知ですよね?」

「”人類は必ずしも絶対に一つにはならない”衛士訓練学校で習ったから流石に知ってる」

佐竹、何を言おうとしてるのか私は分かる

人類は一つになってBETAと戦える

「あの白銀っていう衛士はとんでもないですよ。結構優秀な衛士でして」

「それはどういう意味だ?」

「次世代の新型OS開発に携わったのは白銀武で、従来の戦術機より動きが良くなり敏感に反応する化け物クラスのOSですよ」

訓練衛士が戦術機の新型OSを?

信じられないな、どういう発想で作ったんだ

「国連の香月副司令が絶対に関わってるからあの白銀が新型OSを作り出したのは事実と受け止めるべきだ」

私は誇らしい表情で佐竹に向け言い放った。

鬼頭が私に疑問をぶつける

「ん~、その白銀武が新型OSを…ですか?」

「そうだ、信じられないだろ?」

「しかし、東欧州社会主義同盟は四肢欠損でも戦術機を動かせる機能を開発したようで、白銀が作った新型OSとベアトリクスが作った機能を搭載した戦術機と戦ったらどっちが勝つと思いますか?」

リユース・ベアトリクス・デバイスか

裏の情報屋に聞いたからそれは知ってる

”人類は必ずしも絶対に一つにはならない”

白銀武はそれを覆そうとしている。

「愚問だな、直接戦ったことはないからまだ断言できない。決起に走った者達はその想いが強すぎた。確かに沙霧大尉達は同胞を殺めるという重い罪を犯しその罪は法によって裁かれ相応の報いを受ける。駒木も例外ではない」

早乙女はただ私達の話を耳傾けたまま黙り込んでいた

「駒木に相応しい戦術機は既に用意している。死刑にならなかった話だがな」

早乙女は口を開き真面目な表情で言い放った

「それは何です?まさか…」

「ふふ、そのまさかだ」

「その機体の名は?」

「94ブルG」

私達はこのクーデターを最後まで傍観していった。

通信兵が第三会議室に入り私に報告する

「!」

「確かのようです」

「クーデターが終わったというのか?」

通信兵は頷いた

「そうか、御苦労。下がっていいぞ」

「―――は」

戦争とは結局のところ命の奪い合いだ

クーデターだって同じ……殺し合う宿命を我々の手で断ち切る

その為に沙霧大尉は日本を変えるために戦い続けた

やり方は間違ってたかもしれないけど沙霧大尉もただ日本を護りたかっただけだった。

その遺志を継いで戦うんだ

死んで言った衛士たちの為に

佐渡島を再び栄光を

異星起源種に死を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子Side

《本日13時23分最後まで抵抗していた反乱軍部隊が投降。これをもって仙台臨時政府はクーデター事件の終息を宣言した》

帝都でのクーデターが終息した直前、私は斑鳩中佐の命により国防省の地下にある佐渡島同胞団本部の会議室にて面談を行っていた

男性将校2人と女性将校1人が椅子に座り私に疑いの目を持ちつつ言葉を投げかける

「非常に残念だ崇宰大尉、帝都でのクーデターは君の情報網をかけていち早く終結を模索したが今回の首謀者である沙霧大尉の死で最悪の結果を招いた。これまで帝国軍斯衛軍双方内部で君の理解者として後方支援を続けてきた」

「は――今回のクーデターの件は双方にとっては全く望んだ結果ではないとそれは存じています」

「うむ、御剣財閥が支援打ち切りになった今…今回の結果には大いに失望している」

「これ程の犠牲者を出しては、今後国防省で君を庇う事は難しいだろう」

「貴女には責任を取って頂きます。まずは今率いてる大隊の指揮権を剥奪、城内省への出頭の上更迭を覚悟してください」

責任か……穏便に済ませようと裏で画策したのは私だから更迭される覚悟は出来てる

でも唯依には何て言えばいいのよ

私はそんなこと思いつつ将校3人は今後の事について話し始めた

「佐渡島に向かってる東欧州社会主義同盟の艦隊は今度行う甲21号作戦に介入する可能性がある」

「ここに至り仙台臨時政府は東欧州社会主義同盟の行動が理解し難い」

「帝国海軍は大和、信濃等の艦隊を発進させ面制圧を展開。短くとも3日後には国連軍が佐渡島ハイヴを殲滅するでしょう。帝国軍戦術機部隊も時期に佐渡島に上陸します」

「クーデターの首謀者沙霧尚也が日本の為に戦ったことは従順承知してるが彼らは国に対する想いが強過ぎた。テログループを率いるテオドール・エーベルバッハがどんなテロ攻撃を日本に対し仕掛けてこようとも、我々は全力を挙げて阻止する構えだ。五摂家である斑鳩家、崇宰家で対処しそれを指揮した佐渡島同胞団は以後我々が引き継ぐ。我々も事の重大さに気付かされた」

何を、言ってるの?

何もしなかった貴様等が何を言うんだ!

「クーデターに参加した駒木咲代子中尉についての処遇は一応崇宰大尉に言っておく。数多の命を奪い罪なき人々を殺した彼女は極刑下されることは免れないだろう」

……

私は怒りを抑え将校3人の会話をただ聞いた

「君が育てた豊臣悠一は、ある意味戦果を挙げたとも言えるが……どんな戦術機に乗ろうが一歩間違えるとユーコン基地でテロを起こした連中みたいな害悪でしかない」

「崇宰大尉には申し訳ないが本件が解決するまでの間、国連軍直轄として監視する」

「貴女から詳細な報告書が来るのを期待してるわ、……書く時間はたっぷりある」

な!?

……怒りを堪えるのよ。堪えて…。

胸が痛い……!

「御苦労だった。面談終了。テオドール・エーベルバッハを拘束したら君にも会わせてやろう。例えそれが遺体でも……」

将校3人は椅子から立ち上がり、会議室から退室していった

私はただ茫然とし座り込んだままだ

将校3人が立ち去った後、訓練学校の教官としている筈の佳織が私の傍に来て、携帯電話を私に渡した

「恭子様、遠田技研の能代社長から話がしたいと」

「如月中尉、何でここに…それに私がここにいるって何故分かったの?」

「時間がありません。通話をお願いします」

私は佳織に言われるがまま、携帯電話を取り遠田技研の能代社長と通話した

「お電話代わりました」

《崇宰大尉、色々と御苦労だったね》

「はい、社長もお元気そうで何よりです」

《佐渡島同胞団や君への支援は続けるよ、崇宰大尉。結果的にクーデターは沙霧大尉の死で終息したが君は裏工作でクーデター軍と穏便に済まそうと試みた》

「いえ、結果的には失敗に終わりました。犠牲者を少なくしようとしたが為に何も出来ませんでした」

《征夷大将軍殿下の言葉を聞いて政府や帝国軍、斯衛軍が漸く危機感を持ち重い腰を上げたところで愚鈍な官僚達に何ができる?更迭の処分撤回と君の選抜した衛士達へ我が社から増援を約束しよう。無論駒木中尉もだ。彼女を死なせるわけにはいかない》

「は――有難きお言葉を感謝します」

テオドール・エーベルバッハ…彼が唯依とそのお友達を傷つけた張本人

とてもじゃないけど許せられないわね

次の標的を選ぶとしたら……国連の横浜基地と帝都…或いは佐渡島、どちらかだ

《ベアトリクスが自ら開発を指揮した機能、リユース・ベアトリクス・デバイスとサイコアリゲートルの技術は何としても我々遠田技研が手に入れたい。この戦術機には我々の想像を遥かに超えた可能性がある…》

日本もリユース・ベアトリクス・デバイスとサイコアリゲートルの技術を欲してるのか

興味あれば手に入れたいのは分かるけど、ベアトリクス本人がそれを承諾するのか?

そこが問題ね

「BETA大戦で日本は人権を気にする余裕はないと?」

《一刻も早くBETAを殲滅したいからね……そして日米の技術を組して開発した傑作機…XFJ-01 不知火弐型》

唯依のお友達の一人が乗った機体ね。

《アメリカ軍にいたユウヤ・ブリッジス少尉のおかげで不知火弐型はどの戦術機でもどのBETA属種でも対応出来る優れた戦術機だと証明出来た》

「能代社長、不知火は富嶽重工業、光菱重工、河崎重工の3社で共同開発した機体です。それを関わってない遠田技研が介入するなど愚策に過ぎないかと」

《確かに、不知火は撃震、陽炎に続き新たなる戦術機として開発され、それ故に…様々な新技術を取り入れる下地がある。サイコアリゲートルの技術も不知火なら苦も無く取り込めるだろう》

本気で言ってるの!?

これは戦術機開発史上前代未聞になる

適正が必要なく障害を乗り越えてる衛士でも乗れる戦術機……。

《私は完璧と呼べる戦術機が欲しい…リユース・ベアトリクス・デバイスを使った不知火をどんな障害でも乗り越えてる衛士が操縦すれば……》

「圧倒的な武力が傘となり…この世界の平和は作られる。94パーフェクトの実現こそG弾に次ぐ新たな抑止力になります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2001年12月7日

クーデター終結から1日が経ち、私は悠一達がいる練馬駐屯地の格納庫に入った

その中を見ると奇抜な機体が3機並んでおり、それを見た私は少し驚愕した

「ん?貴女は確か、崇宰恭子大尉…ですか?」

この男は確か佐竹博文技術大尉だったような気が……髪型から見ればそうに違いない

「ええ、そうだけど。貴方は…」

「あ、お初にお目にかかります。自分は佐竹博文技術大尉です。佐渡島同胞団ムーア中隊整備班主任として務めています!」

長話してる暇ないから早く悠一に会わなければならない

佐竹には悪いけど、その場から立ち去ろうとするが佐竹に呼び止められ悠一たちの居場所を教えた

「待ってください、豊臣少尉に用事があるのですね?彼は大尉と共に第三会議室にいますよ」

「ありがとう佐竹、案内は結構よ」

「は――」

格納庫から出て第三会議室に向かう

3分後、第三会議室に到着し、扉を3回叩く

「どうぞ入ってください」

女の声が聞こえ、私は扉を開いた

その中にいたのは悠一と大倉大尉に、早乙女少尉の3人だ

「昨日は大変だったわね、豊臣少尉」

私は悠一に向け敬礼する

「いえ、自分の任務を遂行したまでです。崇宰大尉」

悠一も敬礼し返した

そろそろ本題に入ろうかしら?

言わなきゃならない事が山ほどある

「豊臣少尉、大倉大尉、早乙女少尉……クーデターに加担した駒木咲代子中尉の処遇だが、警察病院で治療施した後東京拘置所で無期限拘留として正式に処理された。裁判もなし!今我々は貴重な戦力の要の一つを喪うわけにはいかない!新たに部隊を編成しユーコンテロ事件の首謀者であるテオドール・エーベルバッハの追撃と佐渡島ハイヴ攻略……佐渡島奪還作戦を執行します!これ以上好きにはさせない!犠牲となった多くの衛士達に報いるためにも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

クーデター終息してから2日、横浜基地で今ここに、新たな歴史が生まれようとしていた。

佐渡島同胞団ムーア中隊の長である鈴乃の指揮の元、新たな一歩を踏み出そうとしていた。

その第一歩の演説が始まった

 

「私は佐渡島同胞団の大倉鈴乃大尉です。佐渡島防衛戦で生き残った衛士でもあります。2日前起きたクーデターは沙霧尚也大尉の指揮で国連軍及びアメリカ軍と衝突。御存知の通り数多の犠牲者を出し首謀者である沙霧大尉は死亡、クーデターは終息しました。しかし、それはこの国を、そして世界を救う為だったのです。今、世界は人類における敵である異星起源種BETAの驚異に曝されています。アメリカの陰謀により我々日本国民は危機を迫っています。最早時間はなくBETAを倒すには人類が一つに団結して戦わなければならない!しかし東欧州社会主義同盟総帥のベアトリクス・ブレーメはそれを全否定。”人類は必ずしも絶対に一つにはならない”と断言したのです!」

人類同士の争いは終わり……な訳ないよな

争いの種は一度は消えるが、ほとぼり冷めた頃には火に油を注ぎ争いが起こる。その繰り返しだ。

「一人の少年が新型OSを作り上げ戦術機開発における歴史を刻み込み人類を救う為に立ち上がった!まだ戦いは終わっておりません!未だにBETAが世界各国に侵食しており、その掃討と殲滅が完了していない為、驚異は健在です!このままでは世界はBETAによって人類が消滅し支配し続けます!!」

その通りだ。

BETAを一匹残らず殲滅する!これは確かだ

背いてはならない

現実から背いてはいけない

「家族や友人、同僚が殺されてしまい、人類同士と殺し合う事があってよいのでしょうか?当然断じてあってはなりません!何としてもこの世界を救うのです!その為にも、我々は必ず勝利します!国連軍とアメリカ軍の皆さんも我々と共にBETAを倒しましょう!私の親愛なる衛士であり友人の坂崎都大尉は最期にこう言い残しました…『現実から逃げずそして生き残れ』この一言だけで私は如何なる手段でもBETAを消滅させみんなの仇を取ると決意しました!彼女こそ佐渡島の地で最後まで戦い続けた英雄です!彼女の……坂崎大尉の死を無駄にしてはならない!」

壇上に立っている鈴乃の後ろに旗棒があり、紅林と早乙女は旗を2つ掲揚した

その旗は日本帝国軍本土防衛軍と佐渡島同胞団の紋章を記された旗だ

「我らの旗に!佐渡島を再び栄光取り戻すために!異星起源種に死を!」

鈴乃の演説が終わり、10万人の兵士の前で誇らしい表情を浮かび互いに敬礼した

まだ終わってはいない。BETAを殲滅するまで……その前に彼奴と決着付けなければならない

彼奴と決着付けるまで俺は舞台から退場しない

俺は心の底からそう思い、奴との決着を付ける為その闘志を密かに燃やしていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12.5 Coup d'etat end




皆さん本当に申し訳ない
征夷大将軍殿下とタケルちゃん達の会話全部カットしました
ウォーケン少佐の場面入れたかったけどそれもカット(-_-;)
さて、どうしたものか……
次回からは佐渡島奪還作戦。いよいよですね!
その前にヴァルキリーズ模擬演習(横浜事件)ですが…ここで一旦休止します
お楽しみに


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第28話 My Favorite Things

悠一Side

 

2001年12月11日

国連軍 横浜基地

 

佐渡島同胞団ムーア中隊vs国連軍A-01伊隅戦乙女中隊”ヴァルキリーズ”&A207小隊

国連横浜基地に装備性能評価演習―――XM3トライアル演習を実施する事になった。

新型OS搭載機で他部隊との対抗戦に挑む。そしてその内容を計測するという流れだ

漸くお出ましだ、あの伊隅大尉と戦える日が

俺は待っていた。無論白銀達も例外ではない。

そんな訳で俺達は演習開始前に伊隅大尉達がいる会議室に行くことにした

俺と鈴乃、早乙女に紅林、佐竹、鬼頭の6人じゃブリーフィングルームはとてもじゃないが人数オーバーだ

その途中に神宮司まりも軍曹と遭遇し俺は鈴乃達を先に行かせ彼女に話しかける

「お初にお目にかかりますっと、神宮司まりも軍曹☆」

俺は軽い口調で神宮司軍曹に敬礼

「豊臣悠一少尉、私に何か御用ですか?」

「少し仕事上の話に付き合わせて悪いな。アンタがあの白銀武を育て上げたのか?」

「白銀少尉は他のA207小隊衛士を厳しくご教授したまでです」

ご教授ね……成る程な

「伊隅大尉率いる部隊の戦術機だがその新型OSって今までの戦術機の動きより凄かった。俺を自由に空を飛んでる気分だった。何か知ってるんじゃないのか?」

「XM3の事を指していますね」

エグザムスリー………?

それが新型OSの名称か。

「ほぅ、期待できそうですね軍曹☆」

「これからの時代はXM3搭載の戦術機です。旧型OSを搭載した戦術機に乗る衛士は少なくなると思いますよ少尉殿」

「よせよ、俺は堅苦しいの苦手なんだ。と言いたいところだが自分が衛士である以上与えられた任務を全うするしかない」

神宮司軍曹……いやまりもちゃんと呼ぶべきだろうか

「公務に無関係なこと言うが、『まりもちゃん』って呼んで構わないか?俺はアンタとセッションしたい。だから仲良くしようぜ」

「『まりもちゃん』と呼んでも構いませんが公務の時は『神宮司軍曹』と呼んで頂けると幸いです」

きっちりと軍律守ってるな。駒木みたいにガッツリと固く守ってるタイプではない。

恐らく、しっかりとしたお姉さん的存在

まりもも辛かっただろうな……人が沢山死んでるんだ

トラウマ植えつけられるのも無理はない。がこれは戦争なんだ

生きるか死ぬかのデスゲームなんだ

「我々ムーア中隊は伊隅大尉率いるヴァルキリーズと白銀少尉達がいるA207小隊とXM3トライアル演習の対戦相手になってな……香月副司令が「このまま旧型OSとやり合うのは不釣り合いだから特別にアンタ達が乗る機体に新型OSを搭載したわ」と得意気な笑みを浮かびながら言ってたぜ」

まりもは複雑な表情になる

何か間違ったこと言ったか?俺は

全く見当ないぜ

「そうですか……副司令は公平に模擬戦を行いたかったでしょう」

だろうな。でなきゃ俺達の機体を新型OSを載せる事なんて出来はしない

俺はまりもの表情を伺い、斑鳩中佐みたいにニヒルで気障な笑みを浮かびこう言った

「では軍曹、俺が伊隅大尉や白銀少尉達に勝ったらデートに付き合って貰えないでしょうか?」

「考えときます」

まりもは俺のデートの誘いを保留にして苦笑いをした

これは絶対に断られるパターンだな

そうだと思ったが……。

「昨日の事覚えていますか?私が休暇だった日で街で貴方とぶつかって缶コーヒーの中身を零して挙句の果てに服まで汚してしまった事……」

ん?初対面だぞ。

「アンタとぶつかった憶えはないが……」

「それもそうですね、私がハンカチで貴方の服の汚れのシミを拭こうとしたら貴方が慌てて走り去りましたから」

ん~、そう言えば昨日帝国軍の制服を着て一人で街へ散策した覚えがある………あの後鈴乃に般若顔で怒られたからな……とうとう鈴乃まで恭子みたいに鬼姫になったのか?

「もしかしてあの時の?」

「思い出してくれましたか」

いや分からねぇ、顔ちゃんと見てなかったしついうっかりと忘れていた

「横浜市街で見たあの時の?」

「そうです、思い出してくれましたか?」

……。

「あ、ああ…クリーニング代は要らないぜ、こういっちゃなんだが白銀達は俺が倒す」

俺がそういうとまりもは優しい笑みを浮かべる

「勝てるのですか?白銀少尉達は私が育てた衛士ですよ」

まりもがニヒルな笑みを浮かべると俺は得意気な笑みを浮かべ言い放った

「ああ、俺が潰す。斯衛崩れの衛士だけどよ…一度受けた勝負は退ける訳にはいかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

東欧州社会主義同盟所属戦術機空母『ヴィリー・シュトフ』

中隊長執務室

俺は彼奴がそう簡単に死ぬわけがないと既に悟っている

日本で起きた帝都クーデターもそうだ

結果的に多数の犠牲者が生んだが、俺達はアイリスディーナの命で介入せず関与しない形でその動向をただ傍観していた

彼奴との決着はまた付いていない

決着付くまで俺は退場はせず、ファム達を守ると決意を固めた

ファムがいる中隊長執務室で俺は呼び出されソファーに座り雑談していた

ラジオはクーデター関連の報道ばかり、この戦術機空母にいる乗組員達含め衛士達は憂鬱になってる

《沙霧尚也大尉が決起したクーデターの終息から5日の時が経ちます。現場は戦術機の残骸ばかりでその中には日本に派遣したアメリカ軍衛士の遺体が発見され、その遺体の身元が判明しました。アメリカ陸軍第66戦術機甲大隊のアルフレッド・ウォーケン少佐、同じ部隊に所属していたフィンランド出身のイルマ・テスレフ少尉……》

「連日こればかり報道してるわ…」

ファムは複雑な表情で寂しい顔している

何か言わないと……。

「あのクーデター、何か裏があると思うよファム姉」

「裏って……どういう事なの?ダリル君」

言わなくてもわかると思うが一応言っておくか

「これは俺の…いやシルヴィアの推測と思って聞いてほしい、このクーデターはアメリカとキリスト恭順派が仕組まれた事だと思う」

そういうとファムは動揺し一人の男の顔が思い浮かぶ

信じたくはない。

だが現実なんだ

「テオドール君……?」

俺は頷く

信じたくはないのは分かるよ

「こんな事……ベルンハルト大尉が望んだ事じゃないのに。何でそんな事を」

「ベアトリクスも正規の情報網や裏の情報網を利用してまでテオドールを追跡してるが、まだ所在が分かっていない。裏の情報屋でも彼の拠点を把握していないんだ」

「……」

ファムは口籠り黙った

信じたくない。その思いが強い事は俺に伝わった

いつか彼がファム、アネット、シルヴィアだけでなくアイリスディーナと皆で笑い合える日が来る事が

ファムはその思いを強く願っていた

「でも……もう、あの頃のテオドール君は戻ってこないのは分かってる。それでも強引に連れ出してベルンハルト大尉に謝罪させたいの!」

そう言うとファムは涙を流し泣き崩れた

「うぅ……う…ぐすん」

ファムが流した涙は意地でもテオドールを連れ出してアイリスディーナに無理矢理にでもいいから謝罪させたい気持ちが俺に伝わった

俺はファムの涙を拭い強く抱きしめる

「俺が彼を捕まえてファムの元に行かせば……理解してくれると思うよ」

そうだ、もう引き返せない……テオドールをファム達の元に連れて謝罪させる

そして彼奴との決着を付けなければならない

「ダリル君が言いたい事は理解したけど、テオドール君は手強いわよ。ベアトリクスと互角に渡り合った大尉が育てた衛士だから……」

「サイコアリゲートルでどんな戦術機が出てこようと俺が倒して見せる!だから見ててくれファム姉、RBDがどんな機能なのか分かっている筈だ」

重く暗い空気の会話してる中、シルヴィアが中隊長執務室に入室しファムに封筒を渡した

無言で封筒を渡したシルヴィアの表情は……とてもイラつきこの世とは思えないほど怒りを露にしていた

「彼奴、最低よ。ベルンハルト大尉やカティアの意思を傾倒し私達、いや全人類をBETAに吞み込ませようと考えてるわよ……!」

……自分を中心に世界を回ってると思い込んでるのか

ファムは彼を擁護しようとしている

複雑な気持ちだ

「あの時と同じなのね…テオドール君とベアトリクスが革命に勝利を掴む為に互いに対峙していた。結果的に反体制派は革命に勝利を掴む事は出来なかったけど私達を戦力の要の一つとして喪う訳にはいかないからこうして生き延びた。でもテオドール君は不信感を更に高まり続けていきカティアちゃんが死んだ直後にテオドール君はもう……」

「キリスト恭順派を始め難民解放戦線や日本赤軍、真理教同盟等のテロ組織を纏めテログループのリーダーとして君臨したと……ファム、今更言うけどテオドール・エーベルバッハはもう駄目よ。彼奴は義妹のリィズを喪い彼女の死を受け入れる事なくずるずると引き摺って過去に囚われていったのよ」

日本赤軍は本やニュースで見たことある

確か…日本革命を世界革命の一環と位置付け、中東など海外に拠点を置いた日本の新左翼系の国際極左テロ組織…この時点で既に解散してる筈だ

テオドールは日本赤軍と交流があったのか……?

シルヴィアは怒りをゆっくりと静め呆れ顔でファムを宥める

「諦めなさい、もう一度言うけどテオドール・エーベルバッハは壊れたのよ。人格否定してる訳じゃないけど彼はこんな事好きでやってる訳ではないと分かってる」

壊れたか……彼がテロリストに成り下がった理由は恐らくそれだ

好きでやってる訳じゃない……シルヴィアが言ってる事は御尤もだ

シルヴィアが話を続けようとした次の瞬間、ニコラ、カタリーナ、ファルカが中隊長執務室に入る

「ファム・ティ・ラン大尉、シルヴィア・クシャシンスカ中尉、ダリル・ローレンツ少尉……ホーゼンフェルト中尉はどうした?」

「アネットちゃんは部屋にいると思うわ」

ニコラはカタリーナに命令を下す

「カタリーナ、ホーゼンフェルト中尉を会議室に来いと伝えろ」

「了解」

とカタリーナは一旦中隊長執務室から退室

ファルカはとある書類をファムに渡した

「ソ連の研究施設から脱走した衛士1人を見かけたとユーコン基地にいる同胞からの情報です」

シルヴィアもとある書類を見る

「この顔……まさかと思うけど」

「え?嘘……リィズちゃんなの?」

ファムは驚きを隠せず動揺している

死人が何故生きているんだ?

ファルカはゆっくりと言葉を投げかける

「ええ、リィズ先輩…この顔や髪型、リボンは紛れもなく私が知ってるリィズ・ホーエンシュタインです。でも何故生きて…」

リィズは既に死人だ

ここにいる筈がない

そうなると……?

「……ESP発現体」

「え?」

「?」

「何それ?」

「何ですか、それ?」

俺の言葉でファム、ニコラ、シルヴィア、ファルカの順に困惑したような目つきで驚愕していた

「人工的に造られた人間……簡単に言えばクローンかデザイナーベビーだ」

そうとしか考えられない

「俺はユーコンでそれらしき衛士を見かけた。クリスカ・ビャーチェノワ、イーニァ・シェスチナ……俺が見たのはその2人だけだ」

オルタネイティヴ3

1973年 BETAの地球襲来をきっかけにスタート

ESP能力者とは対象の思考を読み取ったり、対象に自身の持つイメージを投射する能力者。いわゆるエスパーだ。

それによるBETAとの意思疎通、情報入手計画。

具体的には、ESPの素質を持つ人間同士を人工授精により交配・遺伝子操作・人工培養を行うことで強力なESP能力者を人為的に生み出し、言葉の通じないBETAを相手に思考を直接読み取らせる事によって情報を収集したり、直接イメージを投射することで停戦の呼びかけなどのコミュニケーションを実現することが目的だった。

結果としては、リーディング自体は成功しBETAにも思考があることが証明されたものの、BETAは人類を生物として認識しておらず一切の呼びかけが成立せず、計画としては失敗に終わった。

ちなみにESP能力の発現には対象との距離が重要となるため、生み出された能力者はBETAとの接近のために戦術機で出撃したものの、帰還率はわずか6%であった。

俺が知ってるのはクリスカ、イーニァ、マーティカ、もう一人……横浜基地にいる社霞だ。

ソ連主導の計画の一つであり、その全貌を知ってる人間は極僅かである

その結果を接収し始動したのがオルタネイティヴ4に繋がる訳だ

……少し聞き齧り過ぎたか。

「スターウォーズで言えばクローントルーパーだね。それと同じだと思う」

シルヴィアは疑いの目を持ち呆然した

「クローンね……人をポンポン生み出して戦争の道具として利用してまでBETAを殲滅してるのは驚いたわ。幾らクローン人間作っても戦況は変わっていないのはどういう事かしらね」

シルヴィアからにしてみれば信じがたい出来事だろう

ファムは驚愕を隠せなかった

「じゃあ、このリィズちゃんは?どう説明するの?」

「本物のリィズ・ホーエンシュタインは18年前に死んでる。ここにはいない……彼女の皮を被ったクローンだ」

ニコラは険しい顔になりファルカは何か考えている様子だ

「そうだな、リィズ・ホーエンシュタインはこの世にはいない」

「……」

ファルカが何か言おうとしている

何だ?

「リィズ先輩のクローン……リィズツヴァイ、ですか」

リィズツヴァイ……確かにそう言えるだろう

「とにかくだ、早く会議室に向かおう。話はそれからだ」

とニコラは中隊長執務室から退室した後、ファルカはファム、シルヴィア、俺を連れ会議室に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

横浜基地第二演習所にて両チーム演習の準備が完了したことを確認した。

緊張するが、まりもに約束した通り必ず勝利を掴む

萌香がいないのは残念だが、伊隅みちる……この女は手強いと確信した。

機体編成は…

・ムーア中隊

94フルアーマー

94サブレッグ

撃震(早乙女まどか専用機)

不知火(帝国軍仕様)

 

・伊隅戦乙女中隊(ヴァルキリーズ)

不知火(国連軍仕様)

吹雪(国連軍仕様)

 

簡単に纏めればこんな感じだ

 

《此方ムーア1、全機配置完了した》

鈴乃は配置完了の知らせをCPの根岸千恵少尉に伝える

《――了解……ムーア中隊全機配置完了を確認》

《ヴァルキリー01全機配置完了した》

《了解……副司令、ヴァルキリーズ全機配置完了しました》

白銀達は…後方支援か

練習機の吹雪は確かピーキーな機体であるためか扱いづらいと聞いたことがある

演習場から1キロ離れたところに別の演習場にあるビルの屋上に恭子がいる。本来であれば普通こんな演習場に来る筈がない

それに恭子は斯衛軍の衛士だ

……ま、俺は嬉しいけどな。

《何をニヤニヤと笑ってるんだ?豊臣少尉》

《鈴乃か、何でもねぇよ》

《ほぅ、何でもない…か》

何が言いたいんだ?鈴乃

《全く…崇宰家次期当主を籠絡しただけでなく大倉大尉まで籠絡したのですね。これだから口が軽い男は…》

早乙女まで……つまりアレか?他人に興味を持てとそう言いたいのか

《早乙女少尉、豊臣少尉を揶揄うなよ》

《失礼しました大尉》

……俺の機体の背部兵装担架に収納してる突撃砲は実弾を密かに仕込んである

鈴乃と早乙女、紅林や鬼頭は訓練弾を装填し入れ替えてる

演習だからって実弾使う予定はない?そんなの知らない

本気でやらせてもらうぜ

《カウントダウン開始します》

根岸が演習開始のカウントダウンをして合図を送る

《演習開始まで5秒前4、3、2、1……戦闘を開始してください》

両陣営が確認をし、いよいよ始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイリスディーナSide

東欧州社会主義同盟アイルランド本部

総書記執務室

 

革命に勝利したベアトリクスは私とその部下達を粛清されると思ってたが、BETA大戦においてこの状況下で戦力の要を喪う訳にはいかないという口実で、私、アイリスディーナ・ベルンハルト率いる第666戦術機中隊は存続し、彼女が望んだBETAに対抗できる究極の戦闘国家としての東ドイツが実現した

私は総書記という肩書を与えられ任命され、その後、ファムが大尉に昇格し666の長となりアネットは中尉に昇格、副官に任命した

シルヴィアも中尉に昇格、ヴァルターの後任として次席指揮官を務めることになった

政治将校であったグレーテルは衛士を引退し東欧州社会主義同盟の政治家になった

カティアは「東ドイツを資本主義に変貌させ無理矢理東西統一させる象徴」としてアメリカに亡命したが、表向きはフィラデルフィアでテロに巻き込まれ死亡したことになってるが本当のところで言えば軟禁状態

国外から出られなくなってしまった。

肝心の私が最も信頼していたテオドール・エーベルバッハは………その後の消息が不明だ。

テロリストのリーダーになったと噂流れてるが、私は信じていない

ベアトリクスも勿論だが、私と兄さんは英雄として拝められ崇拝する者が続々と現れ、そして韓国政府と裏で政治交渉したベアトリクスは朝鮮半島北部を統治。朝鮮自治区が樹立された

朝鮮自治区は事実上ベアトリクスにより支配し朝鮮軍を纏め朝鮮民主主義人民共和国…北朝鮮という国家を樹立させ頑強な国家体制を鉄原ハイヴが建設されるまで維持していた

朝鮮半島がBETAの侵攻により南北朝鮮、北朝鮮と韓国は陥落

北朝鮮は南沙諸島に疎開、東ベルリンと平壌の面積を合わせた人工島、第3平壌市に避難し国家体制を維持するも完全にベアトリクスの傀儡となった…しかし国民全員救ったとは言い切れなかった

韓国は済州島に疎開し臨時政府を樹立、以後国連の直轄で国家体制を維持している

革命終結から18年……私は未だに彼の事を想いつつ私達の元へ戻ってくると信じ切ってるが、それも時間の問題だろう

ユーコン基地でのテロ事件は彼による犯行だと聞いた

その事実を知った私は彼を心底まで失望した

長年、彼を待ち続け戻ってくると信じた私がバカだった。

現在、私は総書記執務室で欧州戦線での立ち直しとその内政干渉に関する執務を励んでいる

「……」

机にある書類を目を通した

リユース・ベアトリクス・デバイス……手足が失った衛士をサポートをして今までの戦術機と比べ物にならないくらい旧型の戦術機でも最新鋭機を勝てると謳われてる機能だ

衛士を確保するのはいいが、手足を失った衛士を利用するのは間違ってる

しかし、この状況下で人権など気にしている場合ではない

可哀想だが、受け入れるしかないのか。

扉がノックされ一人の女性が「失礼します」と一言を添え私は「入っていいぞ」と添え返し、総書記執務室の中に入らせた

ショートヘアで黒縁眼鏡をかけてるド真面目な女性

紛れもなくかつて666の政治将校だったグレーテル・イェッケルンだ

最終階級は中尉。

面と面を向き合い、目を合わしながら話し始めた

「リユース・ベアトリクス・デバイス……『大尉』は…」

「ああ、手足を失った衛士をサポートする機能…とベアトリクスは自慢気に言ってたが人道外れだ。そこまで衛士不足しているのは理解はし難くないが」

「人権に構ってる暇はない。使えるだけ使うんだと確信します」

グレーテルは強張った表情している

認めたくないが認めざるを得ない

この戦況でどう変わるか少し気になる

「イェッケルン議員、ベアトリクスはこの戦争を早期終結を目指している。これは事実だ」

「ええ、理解はありますが四肢欠損になった衛士を戦場に送り込むなんて国連が黙ってはいないでしょう」

「経済制裁か。それくらい覚悟は出来てる……」

一人の兵士が「失礼します」と一言を添え私に近づき、テログループのリーダーの所在について報告した

ガセだろう……見つけることは極めて難しい

私は「分かった、下がれ」と兵士に言い放ち退室させた

執務室にあるテレビの電源をつけニュースを視聴しタイトルに『時事カメラフォーカス』と書いてる文字を強調し番組は始まった

《最近、南朝鮮軍が国連軍横浜基地副司令、香月夕呼と手を結び、BETA大戦の毒牙を更に露骨に表しています》

番組は進み、ニュースアナウンサーはこう告げる

《BETAの脅威に対処した強力な対応体制維持、南朝鮮国連軍米軍合同軍事演習正常化、作戦計画21更新》

作戦計画21は国連軍、日本帝国軍共同で行う佐渡島ハイヴ攻略する作戦である甲21号作戦を意味を表す

《口角泡を飛ばしながら、挑発的な暴言を躊躇なく吐いているのは、瓶をひっくり返して吠えている犬ころと同じです。軍部の好戦狂共が、横浜基地軍事合意書採択以後、外面的には『対話』と『平和』、『緊張緩和』、『佐渡島消滅』について騒ぎ立て後ろを向いて妨害する軍事的敵対行為に切れ目なくしがみ付いてきたのは、自他が認める事実です》

番組を進行し続け視聴してる私は頭を抱えた

《このように夜の猫のように行動していた南朝鮮やアメリカ、国連の軍部好戦狂共が来年の2月から軍事演習を公開的に行い、その種類と規模を拡大する事を公然と宣言するに至りました。こうして、今まで擬装用に使っていた平和と協力の仮面は完全に脱ぎ捨て国連軍、米軍主導の鉄原ハイヴ攻略作戦計画実現の追従者、突撃隊としての南朝鮮軍部の正体ははっきりと露にしました。そして南朝鮮、国連各界と情勢専門家の中から、『軍部が対BETAハイヴ先制打撃のような無差別な野望を抱いている当選者と拍子を合わせて刀踊りを始めた』、『保守勢力の戦争演習狂気が度を越えた』、『こんな事していたら、人類は滅亡する』という憂慮の声が次々と出ています》

こんな事していたら、人類は滅亡する……か。

確かに言えてる、シュタージ打倒しカティアの願いが叶ったとしたら、ベアトリクス曰く『シュタージがなくなったら国民全体が騒ぎ立てるだけでなく世に蔓延る外道…半グレやマフィア、ギャングの連中が好き放題で犯罪し続ける。普通の警察や司法が裁かなければどんなに法に背いても罰を与えられない者達も存在するわ。私は必要悪としてここにいるのよ?』と述べている

考えるだけで頭が痛くなる

《結局、その時になって、南朝鮮、米軍、国連軍部好戦狂共が対決と侵略の毒牙を表した結果がどれほど残酷なものなのかを骨に染みるほど後悔しても関係ないというのが、内外の一致した評価です》

エンドロールが流れ番組は終了した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

演習開始から20分経過

俺は鈴乃のペアでヴァルキリーズの連中と模擬戦を繰り広げていたがどうもそう簡単に撃墜って訳にはいかないよな

生憎、俺が乗る94フルアーマーは従来の不知火より火力が高い

……少し不安が過った

「ん!?何だ速い……」

ヴァルキリーズの不知火の機影が見えた。

突っ込んでくるな、こりゃあ

負けてられねぇ……!

《隊長機の動きではないな、あれは下っ端だ。豊臣少尉、相手の動きを読んでから行動に移せ!》

「了解…っと早速ぶち込んで早急に撃墜させてもらうぜ……!♡」

トリガーを引き94フルアーマーの2連装突撃砲で36mm弾を牽制で撃つ。

相手の不知火が反撃してきた。

オロオロとした動き……築地か!?

紅林が乗る不知火が築地が乗る不知火に向け突撃砲を握り構え120mm弾を放つ

《豊臣少尉、フォローをお願いします》

「おう!ケツはアンタに任せるぜ」

俺は築地機を追撃し2連装突撃砲で迎撃

築地は後退しようとしていたが、どうやら紅林機の砲撃から振り切れないようだ。

「逃がすか!」

俺は躊躇なく築地機の背後に120mm弾を放ち脱落させた

トリガーを引き94フルアーマーの36mmを牽制で撃つ。相手の不知火が反撃してきた。

この動きは……副官クラスか!

しかしあんな麗しさな動きするのは、宗像だな

と感心した途端、宗像機は離脱

「ちッ……逃げんのかッ!」

一撃離脱戦法……宗像は離脱しつつ後退しようとしていたが、どうやら94フルアーマーを振り切れないようだ。

 

《くっ……しつこい男は嫌われるよ!しかしほんとによく動く……》

「褒め言葉として受け取っておくぜ」

《――宗像!援護するわよ!そらそら!私からのご挨拶よ!》

もう1機をレーダーで確認した。速瀬は120mmを94フルアーマーに砲を向け射撃を行うが不意打ちの射撃を紙一重で躱す

「腕は良いようだが、並の衛士だったらやれたかもしれねぇけど……俺には当たんねぇな」

94フルアーマーは急降下し、地面に着地して避けまた跳躍ユニットを吹かし速瀬機に照準を合わせる

《軽い動き……しま》

戸惑った速瀬は冷静になって回避

そして94フルアーマーの回避運動をモニターを見た鈴乃、紅林、鬼頭は今の動きを見逃さなかった。

《油断は禁物だ……紅林、鬼頭。今見た動きをよく覚えとけ。後々役に立つかもしれないぞ?》

《了解っす…大倉大尉は物好きですね》

《流石、B中隊の長を務めていただけ甲斐があったか的確な動きを見抜いてる》

《鬼頭、あの動きは昆虫で例えると何だと思う?》

《バッタですね》

《いやイナゴだと思いますよ鬼頭さん》

《これはバッタの動きだ》

おいおい、揉めるなよ……痛々しい会話だぜ

今回、俺達ムーア中隊の演習での勝利条件は敵機を撃墜する

ただ、それだけの勝利条件

でもヴァルキリーズ戦終えたら白銀達がいる小隊と相手だからな

「このまま撃墜させて貰うぜ!」

進路を妨害するように伊隅大尉の不知火が射撃を行う。

「もう1機…隊長機の御出座しか」

《よし!速瀬、頭を抑えろ!》

《了解です大尉!……さぁ~て上を取ったわよッ!》

……ッ!2対1かよ。

ハッ!そんな事は予想済みだ。

俺は勝機があると確信したと思い込み92式多目的自律誘導弾システムに搭載してる弾頭ミサイルで伊隅機と速瀬機に目掛けて放った

そして……

「頂き!」

伊隅機に目掛けて2連装突撃砲で36mm弾を放つが躱される

「そこよっ!」

速瀬機に背後から回され0距離で120mm弾を放とうとしたが次の瞬間、稲妻みたいに光り肉眼では見えない速さで速瀬機を狙い撃った

《速瀬ッ!高度を下げろッ!》

《――えっ!》

突然の長距離射撃警報が鳴り速瀬機は即座に躱す

《くぅッ!……》

レールガン……鈴乃か!

《避けられたか……!早乙女少尉。これを預かるぞ》

《了解です!》

早乙女機はサブアームで94サブレッグのレールガンを掴む

鈴乃が乗る94サブレッグはサブレッグに懸架された専用コンテナに収納している突撃砲を握り構える

俺…ではなく鈴乃に向かってくるのはさっきから一番動きが良い隊長機。伊隅大尉の不知火だ。

拙い、鈴乃がやられる!

《同じ不知火で幾ら動きが速いだろうと…》

94サブレッグは跳躍ユニットと同時にブースターユニットを噴出し伊隅機に36mm弾を放つ

《対応力が遅かったら意味がない!》

大型追加装甲を伊隅機に投げつけ突撃砲を収納し急接近しナイフシースで短刀を握り切りかかるが振り下ろしてきた伊隅大尉が乗る不知火の長刀を短刀で弾き返す

94サブレッグと大尉の不知火が鍔迫り合いを演じている。不知火の長刀と94サブレッグの短刀の激しい摩擦熱で火花のようなものが散る。

弾き返した後、今度は此方から伊隅大尉に切りかかる

《くっ……なんて重い一撃だッ!こっちは演習用の長刀だというのに短刀一つで…》

短刀で長刀を受け止める

《駒木を倒したのは貴女だったとは……やりますね。流石国連軍のエースというべきか》

《駒木……?クーデターに参加した衛士か》

《鬼籍になった坂崎大尉に代わり私、大倉鈴乃が貴女を……倒す。貴女を倒させて貰います!》

鈴乃は気迫ある表情で伊隅機を襲い掛かる

《大尉ッ!こちら速瀬中尉と交戦中。其方は》

《早乙女か!貴様は速瀬中尉を抑えろ》

《了解です!》

おいおい、俺の役目はどこ行っちまったんだ!?

伊隅大尉は鈴乃に任せよう

俺は他の連中とやり合うぜ

「残ってるのは伊隅大尉含め、速瀬、風間、宗像、柏木に涼宮だけか」

よぉし、早乙女は速瀬に食いついたか

紅林と鬼頭は風間と宗像

俺は柏木を撃ち落とす!

レーダーで探知して敵機の位置を確認する

……俺はにやりと笑みを浮かべ操縦桿を握りフットペダルを踏み最大全速で2連装突撃砲で120mm弾を放った

「逃がしはしないぜ!」

柏木機は俺が放った弾を躱した

油断してるうちに左腕に装備してるロケットランチャーで弾頭を躊躇いもなく発射し柏木機に直撃

柏木は脱落した

「さぁて、誰の援護しようか?」

鈴乃は圧されてないみたいだ

となると……

「紅林と鬼頭だな」

あの2人に関しては……どうでもいいか

俺は早速、御二方の援護に向かう

残機は、俺含め鈴乃、早乙女、紅林、鬼頭だけか

乱戦状態ってか……

とりあえず俺は紅林と鬼頭のところに向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどかSide

 

《さぁて、佐渡島の衛士としての腕前、見せて貰いましょうか?》

「――望むところです。速瀬中尉」

長刀を構えた私が乗る専用機が近接の間合いに踏み込んでいく。

「ッ!早い」

紙一重でギリギリ躱す。

ここで足止めさせて……長刀を振り回す

しかし、速瀬機は躱し続ける

頭部、両腕、両足、管制ユニットに向け長刀を切りかかるがそれも外れ躱される

《何処狙ってるのかしら?》

そう言って速瀬中尉は銃口を向ける

申し訳ありませんが、ここで摘ませて貰いますよ

そう言葉を投げた同時に速瀬機は空を裂いた

《日本帝国本土防衛軍の早乙女まどか少尉!アンタ本当に強いの?撃震で不知火を挑むとは良い度胸してるじゃない!》

凄まじいスピード、距離が一瞬で0になる

《ほらほら!最短距離で終わりよ!》

《くっ…!》

速い!これがXM3……

拙い、管制ユニットに当たりかける。

がまだ動ける

今まで長刀使いや短刀使い等は散々見てきた

《スピードアップよ!この連射はどうするかしら?》

速瀬機は120mm弾を放つ

ギリギリで躱したが、こんなに速く射撃する衛士は見たことがない

くっ…こんなの躱しきれる筈がない

「…ッ!」

悔しいですが才能が違う……操縦テクニックが私とは違い過ぎる

異次元のスピードに加えて速瀬機の射撃は変幻自在

《突撃砲ばかり気を取られちゃあダメよ》

「ぐぅ…!」

悔しい……速瀬美月は頭までキレキレです

そして速瀬機が放つ120mm弾が私が乗る専用機の頭部を貫いた

《止まって見えるわよ!捉えたわ!》

「がああああああ!?」

頭部が損壊しメインカメラがやられた

「良い射撃ですね」

《ふふ、ごめんね。恨みはないけどアンタを脱落して貰うわ》

ここまで来れば嫌でも分かる。スピードと射撃センスに差があり過ぎです

本当に理不尽ですね……この戦争は

私は生きるか死ぬかの修羅場を潜って潜って乗り越えて坂崎中隊長の遺志と大倉大尉の願望……やっと少し強くなれたのに

速瀬中尉は頭もキレて、こんなに強い

《いい加減墜ちなさい!このおお!》

「ぐっ…!」

左側の跳躍ユニットがやられた……更にスピードが上がってくる。不平等過ぎますよ

速瀬機の攻撃は防御することが極めて難しい

《アンタは何の為に衛士になったのよ!蹴りを食らわしてあげるわ!》

「ぐがああああ」

何とか放たれた弾を外したが、いつかは必ず捉えられる……!

……そうよ、私には才能がない。

坂崎中隊長や大倉大尉、草野少尉、村田少尉、沙霧大尉に……駒木中尉

衛士には向いてなかったのかな……そんな事は知ってますよ

「そろそろ……決着付けさせて貰います…」

《よくそんな状態で言えるわね。じゃあそうさせて貰うわ》

だが、衛士には向いてない人間には衛士には向いてない人間の戦い方があるのよ

分かりますよ、速瀬中尉…無傷で私を完封できると思っているのですか?

《少し痛くなるけど、抉らせて貰うわ!》

「ぐぅぅぅ……っ!」

才能のある衛士はいつだって一方的に勝てる

速瀬中尉、貴女は本気でこの模擬戦で実戦に活かして命を差し出せるか……

「……かかってこい!速瀬美月ぃぃぃぃぃっ!!」

腕がなくなっても足がなくなってもBETAに勝ちたいと思えるか

《遅い!抉らせて貰うわ!》

「!」

サブアームで掴んでるレールガンを握り構える

《――ちょーっとこれは拙いかもね》

サブアームで速瀬機を掴む

「捕まえた……」

掴んだ瞬間、握力を緩めなかったら抜けない

「速瀬中尉…貴女は将来有望で欲があります。だから……」

私は怖い顔で速瀬中尉を威圧する

《!》

「貴様はここで脱落しろ!」

「拙い、なんて力なの……抜けられない」と悟った速瀬中尉は少し不安な表情を浮かんだ

千載一遇のチャンスです…死んでも離しません!

こうなったらスピードは関係ない

「貰ったああああ!!」

《ぐああああああ!?》

ナイフで速瀬機の管制ユニットに向けレールガンを放つ

捉えましたよ……これでイーブンですよ……。

これは坂崎中隊長に習った奥の手

 

 

(早乙女、才能がある衛士は無傷で帰ろうとするんだ、その時は相打ちに持ち込むんだ)

(え?でも自分がやられたら…)

(馬鹿者!それをやれなかったら手も足も出ず貴様が死ぬだけだ。対人戦でやり合った時は気合いが入ってる方が生き残る。それをよく覚えとくんだぞ)

 

 

この話を始めて聞いた時は正気の沙汰じゃないと思った。

《ぐぅぅッ!……うぅッ!》

「ぐぼぉっ!」

互いに吐血ですか…結構深くいきましたね

もう一回やったら確実に死ぬ

模擬戦の途中で死ぬなんて…情けない

だが、私は逃げない!これしかない

速瀬中尉の顔色が真っ白に変わった

「隙が出来ましたね……これで」

速瀬機をサブアームから離しそのまま放り投げる

バランスを崩す速瀬中尉の不知火。

ゆっくりとゆっくりと墜落し地面に叩き付けそのまま倒れていった

《――速瀬機、管制ユニットに直撃と判断。致命的損傷、機能停止》

ヴァルキリーズのCPである涼宮中尉が速瀬中尉に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

伊隅大尉の不知火と激しい撃ち合いをしている最中、ムーア中隊CPである根岸から報告が入る。

《大倉大尉、早乙女少尉が速瀬中尉を撃墜しました》

「――ッ!……ん?早乙女が速瀬中尉をやったのか」

 

「速瀬がやられたか。馬鹿者め……だが、大倉大尉……私を倒せると思うなよ?」

 

お互い縦横無尽に動き回る。

「(少しずつ圧されているが、ペースを落としてそこから120mm弾を)」

私はサブレッグのブースターユニットを噴射し上昇しつつ収納している突撃砲を握り構え120mm弾で発砲

弾が外れた、駒木を倒されたのも無理はない

射撃は正確、スピードは上がって距離を詰めようとしている

同じ不知火だぞ、そんなに変化はない筈……いや、違う。あのヴァルキリーズなら性能と出力が従来の不知火とは違う

機転を利かして戦ってる……与えられた任務を最優先する典型的な指揮官

そう撃ち合ってるうちに時間が経つばかり、そろそろ息遣いが荒くなってきた

ほんの一瞬の隙も見逃さず

「ッ!?」

 

 

 

 

「っ……!今の射撃も躱すか」

 

 

「(1対1か……相手は駒木を倒した伊隅大尉。そう易々と引き下がる訳はない。仕掛けるポイントは……)」

私はサブレッグのブースターユニットを噴出し最大全速で突撃砲を握り構え左旋回

「(左から回る!)」

網膜モニターで突撃砲の残弾を確認し伊隅機を捉えた

「そこだッ!」

36mm弾を放つ

しかし、躱される

焦りを感じ態勢を崩し伊隅機も反撃に出る

「!」

 

「伊達にヴァルキリーズの隊長務めてはいない!」

伊隅機が放った120mm弾が94サブレッグの命綱とも言われるサブレッグ左側を損壊

「サブレッグが…」

もう片方のサブレッグで右へと方向転換しつつ噴射しもう一度突撃砲を握り構え発砲

左腕に命中!

「くっ……!佐渡島の衛士は普通の衛士ではないというのか」

 

「(相手の態勢が崩れていない……ここまでか)」

突撃砲の残弾は5……予備のも含めてだ

近接戦闘をもう一度挑むしか

そう考えた直後、中破した早乙女機が94サブレッグに近づいた

ボロボロになった機体でよくここまで持ち応えたな……。

《大倉大尉、遅れて申し訳ありません。レールガンを返却します》

そう言った後、早乙女機は握り構えてるレールガンを94サブレッグに渡し返す

「感謝する、早乙女少尉。貴様は退くんだ」

《了解です》

早乙女機は大人しく退却した

「形勢逆転ね……」

 

「いい気になるなよ……」

伊隅機は94サブレッグに向かって最大全速で距離を詰める

「悪いが、脱落させて貰う!」

レールガンを握り構え伊隅機に目掛けて………!

「こっちこそそのままそっくり返すわ!」

放った

 

「ッ!此奴!」

 

直撃は出来なかったものの、時間が経つうちに推進剤はもうそろそろ限界に近付いてきた

私も含めて……舐められたら同胞団の長なんかやっていられない

「……レールガンの残弾はまだまだいけるが、推進剤は」

推進剤がなくなる前にレールガンを握り構え再度伊隅機に照準を向ける

《――こちらムーア4、今のとこ……レーダーに感あり!これは……》

紅林からの通信が来た

《ムーア5がやられそうです。援護要請を!》

「それは出来ない、早乙女機が速瀬中尉との戦闘でボロボロになった。真面に戦える状態じゃない」

《なら腕っぷしでやります、衛士の方である涼宮少尉は俺が拳で倒しました》

「……」

《その必要はないぜ!》

悠一の声だ

「ムーア2、現在地を」

《やっと紅林のとこに着いたからよ。一気に叩くぜ》

残るのは伊隅大尉、風間少尉、宗像中尉の3人

「分かった、風間少尉と宗像中尉の相手は豊臣、貴様に任せる」

《OK☆そうと決まれば徹底的に行かせて貰うぜ》

「……頼んだぞ」

あとは悠一に任せよう

もう片方のサブレッグを外し、レールガンを握り構える

「機動力は50%になったが……まだいける。サブレッグを失ったらただの不知火だ」

ツインアイが光り、態勢を崩さずそのまま突っ込む!

伊隅機は突撃砲を捨て長刀を握り構え、此方に斬りかかってくる

「ふふふ……」

私は嘲笑い、トリガーを引きレールガンを放った

 

「!」

 

伊隅大尉の不知火の管制ユニットに直撃。

《伊隅機、管制ユニットに命中。致命的損傷と判断、機能停止》

涼宮中尉が通信でそう告げた。

《――状況終了。模擬戦の結果、ムーア中隊の勝利となります。お疲れ様でした大倉大尉》

根岸曹長が通信でそう告げ激励の言葉を放った

 

 

 

「……風間、宗像は紅林を抑えられなかったか」

 

 

 

「……すいません大尉」

 

 

 

「2人共、紅鬼を甘く見たな」

 

 

 

「紅鬼……紅林二郎!?あ、あの帝国軍の……いや衛士訓練生の時に他のグループにいる衛士候補生達と喧嘩し一度も負けたことがないあの紅林なのですか?」

 

 

「知っていたか。まぁ……事前にそれを教えれば2人共プレッシャーになるかもしれないと思って言わなかったのだがな」

 

 

「……そういうことでしたか」

 

 

「とりあえず理由は後で聞く」

 

 

「「――了解ッ」」

 

 

 

 

 

国連軍副司令直属の部隊『ヴァルキリーズ』との模擬戦……勝ちはした。

しかし私は何故か釈然としなかった。

伊隅大尉が八百長で態と負けたのか?それとも本気で戦ったのか?

それは私には理解出来なかった

模擬戦が終わり、94サブレッグの推進剤切れと跳躍ユニット、左側のサブレッグが損壊で自力での帰投は難しかったので私は悠一の94フルアーマーに簡易ベルトを着けて2人乗りで格納庫へと帰投した。

94サブレッグはトレーラーに積んで回収するとの事だ

「――悠一」

「どうしたんだ?鈴乃」

「――今日助けられた分は必ず返す」

そう力強く私は悠一に言った。

「へへ、気にすんな。俺は俺の役目を果たしただけだ」

「……」

「そんなのは良いよ。同じ中隊の仲間だろ。助け合うのは当たり前さ」

「……借りっぱなしというのは私自身がどうも嫌で、恩返ししたいの」

「……鈴乃」

格納庫に機体を収容し、機体から降りると崇宰大尉と根岸軍曹が迎えに来てくれた。そして2人の前に私達中隊は集合した。

「お疲れ様です皆さん、まさか副指令の直属部隊に勝てるとは思いませんでした」

「そうね。みんなよくやってくれたわ。……特に大倉大尉、よく伊隅大尉を抑えててくれたわね」

崇宰大尉が労いの言葉をかける。

「――はい」

「ん……どうしたの?」

気の無い返事をしてしまった。

勝てた事は私は心の底からは喜べはしなかった。あの状況に陥るまでにもっと私には出来る事があった筈だ。動き回って94サブレッグに負担をかけさせたのもその要因の1つだ。

「……いつもの鈴乃なら『私の実力だから当然』だろ?みたいなこと言うと思ったぜ」

悠一は少し笑みを浮かべてこう言った。

「……まぁまぁ、いいじゃないですか。きっと伊隅大尉との戦いで疲れているでしょう。94サブレッグはとりあえず部品の強度にまだ問題があるというのも今回の模擬戦ではっきり分かった事です」

と早乙女少尉は言ったが、貴女の撃震で不知火を挑んだのは勇気ある行動だ

捨身の戦法は恐らく都から教えられた。私はそう確信している

次の相手はB207小隊

無傷で収容した機体は僅か3機

……棄権するしかないな

XM3トライアル演習の成績だが、第一演習場にいるB小隊が圧勝

新米衛士とは思えない動きで、先任達を圧倒していた

一方、第二演習場は我がムーア中隊の圧勝だが、伊隅大尉率いるヴァルキリーズとの模擬戦で激しく消耗しており、次の模擬戦の開始まで出撃できる機体は先程言った通り3機しかない。

「紅林少尉、鬼頭少尉、佐竹、早乙女、豊臣少尉。1時間後、ブリーフィングルームに集合だ」

「え?俺まで…何でです?」

佐竹は疑問抱く

「大事な話を含めて、他の部隊との模擬戦闘を観戦だ」

「はぁ……」

とりあえず、ブリーフィングルームに集合かけた

彼らには話すべき事が山ほどある、ズルズルと引き摺る訳にはいかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後

国連軍 横浜基地

ブリーフィングルーム

 

私は強張った顔で、モニターに映ってる他の部隊との模擬戦闘を観戦しながらここにいる皆の前に話し出した

「今回の模擬戦闘、御苦労だった。これで我々は新たなる希望を見出す力を手に入れたことを意味する」

佐竹は「はぁ」と溜息をつき他の皆は頷く

早乙女は口を閉じたまま沈黙を貫いた

「XM3搭載機の動きどうだった?」

紅林が真顔で私に言い放つ

「はい、最初はGに耐えられるか心配だったんですが乗り心地は従来の戦術機と何も変わりません。ただ以前より動きが速くなりました」

紅林もそう思っていたか

「端的に言えば、撃震でアレは驚異的だと思います。大尉」

ほぅ、鬼頭もそういう風に捉えたのか

「俺も御二方の意見と同感です。改修を重ねているとは言え、撃震は鈍重な第一世代機。それがあれだけ身軽に動けば凄いとしか言えません」

悠一は淡々と言った。

佐竹は不安そうな表情で私に問いかける

「大倉大尉達が搭乗してる機体は不知火ですが、第三世代機で動きもいい筈ですがあまり差がなかったような気が……」

佐竹が言ったことは一理ある

差がない…か。

「佐渡島に配備された撃震の訓練は沢山見ましたが、あんなものじゃなかったですよ。ガッチョンガッチョンガッチョンと機体の重さの影響だからか動きが遅かったですね」

「ん?佐竹はXM3搭載の機体を配備され戦線へ投入する意味は全然あったと言いたいのか?」

「鬼頭さん、そういう意味になりますね」

このXM3搭載の戦術機が世界各国に広まれば、戦況はガラリと変わっていくに違いない

「それに、幾らXM3になれてるとは言えB207小隊のスコアがダントツですね」

「白銀武だったか?」

「ええ」

「操縦技術は見た事ないが、機体の特徴や欠点を見抜いて一人の少年が国連軍の副司令に直談判してまで新しいOSを作った事は凄いよ」

「完全に能力を引き出してるのが丸分かりだと言いたいんですか」

佐竹は白銀がXM3の考案者だと信じていないらしい

佐竹には悪いがこれは事実だ、受け止めろ

早乙女が口を開き真っ直ぐな目で私を見つめつつ話しかけた

「大倉大尉、少しよろしいですか?」

「何だ?」

「申し上げ難いのですが、白銀武は何やらせても無双かと」

「白銀本人はどう思ってるかは分からんが、個人的な考えではそうなるだろう」

「午後の部は参加するんでしょうか?」

「いや、棄権しようと考えてる。国連軍の戦術機を借りてまで模擬戦に挑みたくはない。部品交換や修復は時間がかかる。開始時間まで間に合わないよ」

「そうですか…午後の部は観戦するだけですね」

早乙女は残念そうに落ち込んだ表情を浮かべていった

「でもこれでBETAを倒すのが楽になると思いますし死ぬ確率も減少しますよ!」

と紅林はそう言って、私は左手首に付けてる腕時計の針を見て時間を確認し凛々しい笑みを浮かんだ

「言いたい事は山ほどあるが、その前にPXで食事を摂るぞ。食べる時間が無くなるからな」

私達はPXで食事をした後、午後の部の模擬戦闘が開始され暫くの間、拝借した会議室でその模擬戦闘の様子を観戦した。

恐らく誰もがXM3を認め、各国の軍隊での採用を願っていたと思う

対抗戦による評価も、勝敗は勿論だが、生まれ変わった機体を存分に味わう機会になり、どの部隊も午前とは比較にならないぐらい動きが洗練され、OSの新概念に衛士が慣れてきた事が伺えた。

この演習は大成功。誰もが未来への希望を見出して明るい気持ちで終わる――――筈だった。

安堵したその時、警報が鳴り響く

「何だ!?」

「!」

「これって…」

「警報が鳴ったって事はまさかBETAがここに来るって事か!」

佐竹は困惑し深く思い込んだ。

BETAの行動は人間には予測できない、そして同時にBETAの定期侵攻はいつやってくるかわからない。この演習期間中にBETAがやってこない場合だってある。

それが今、現実となってしまった。

悠一は即座に格納庫に向かう

「何処に行く!?」

「まさかBETAが現れるだなんて予想してなかった……俺は一足先に強化装備着替えて機体に乗り込む!鈴乃、今やるべき事は分かってるだろ?」

分かってるよ、それくらいは

「紅林、鬼頭は機体に乗って出撃準備を。私も出撃する」

何故BETAが横浜基地に現れたか分からないけど、出てきた以上完膚なきまで潰す!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

《HQよりホーネット3、詳細を報告せよ!》

《―――第二演習場トライアルエリア2にコード991発生!目視確認で3体!それ以上は不明ッ!》

《HQよりホーネット3、現在即応部隊が出撃準備中、敵の侵攻を阻止せよ!繰り返す敵の侵攻を阻止せよ!》

《馬鹿野郎!こっちは丸腰なんだ!ハンガーまで下がらせろ!》

《繰り返す、敵の侵攻を阻止せよ》

《―――クソッタレ!分かったから早く武器よこせ!》

クソ!格納庫で機体に乗り込みコクピットハッチを閉めた途端で他部隊の通信聴くと揉め事か?

こんな時に…大人しく従え!

《―――HQより各部隊へ。防衛基準体制1へ移行。繰り返す、防衛基準体制1へ移行》

《HQより演習参加中の各部隊へ。演習は即座中止。ソード、クラッカー、ストームの各隊は、ホーネット隊へ合流し――》

一体何が起こってるんだ!

冗談じゃない……と言いたいが俺はユーコン基地でBETAと交戦した経験がある

その中にある研究施設でBETAが放たれたんだ

笑い事ではない、これは

《エリア3のシャーク、ファルコン、ムーア、B207の各隊は即時合流し、敵の侵攻を備えよ》

画面モニターから根岸の姿が映った

《豊臣少尉、我が中隊の機体の中で唯一無傷なのは94フルアーマーと紅林機、鬼頭機だけです。敵は3体です。御武運を》

「…了解だ」

フットペダル踏み込もうとした時、佐竹が介入する

《豊臣、機体に傷付けるんじゃないぞ。修理やメンテが大変だからな》

「分かってるよ、んじゃ行ってくる!」

フットペダルを踏みこみ跳躍ユニットを噴出させ加速を上げそのまま出撃

「豊臣悠一少尉、94フルアーマー出るぞ!」

軍規に縛られてる状況じゃ真面な思考回路ではないな

紅林機と鬼頭機が94フルアーマーに近づく

《少尉、我々も御供します》

《大倉大尉を悲しませる訳にはいかない。君もそうだろ?》

「紅林…鬼頭…お前ら…」

と俺は涙ぐんでたが、そうは問屋が降ろさなかった

被害に遭った演習場に着くと、そこには溢れかえるBETAの群れでの光景であり部隊マーカーが次々と消えていく

これは訓練ではない、ただのデータでも何でもない!

実質にマーカーが消える度に………人が死んでいく……ッ!

おかしいだろ!?みんな経験者の筈だ!

凄腕の衛士の集いだったと思ったが、モブキャラみたいにあっさりと死んでいく

がっかりだぜ、一部の部隊を除いて

そうだ、BETAは俺達を戦争の魅力を強いられて取り込もうとしている

だから意図も簡単に衛士達は消えていくんだ

このままでは基地がやられてしまう

「……俺達は…俺達は生きて絶対に……!」

既に覚悟を決めていた、この世界に転生した後色々とあったが守るべき人が出会った

死んでいった衛士達の為に俺は、この戦争を……94フルアーマーで……!

「絶対に生きて帰る!恭子…鈴乃…もう誰も喪わせない!都の仇を取るまで俺達は死ぬわけにはいかねぇんだよ!!!」

そうさ、これ以上喪わせたくない!

「これ以上破壊させて……たまるかあああああああああっっっっ!!!」

だが、突然の事で情報は錯綜、指揮系統も混乱、その結果、実践装備に換装出来ない戦術機が続出。

決して多くはない数のBETAに翻弄され、残骸の山を築き、極東最大の国連軍基地は図らずも微弱さを露呈していった。

俺達もその残骸の仲間入りを果たそうとした、まさにその時―――。

上空から飛来する一団があった

《――ヴァルキリー全機、BETAを狩れ!一匹たりとも逃がすんじゃないぞ!!》

《了解――》

横浜基地司令部直轄の特殊任務部隊、A-01部隊―――通称ヴァルキリーズ。

圧倒的な強さでBETAを駆逐していく戦術機が本当の実力……そういう存在だと知ったのは、事が終わった後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっちはどうだ?」

《大丈夫だ、BETAはいないようだ》

《此方も異常なしです。豊臣少尉》

紅林と鬼頭が無事で何よりだ

鈴乃が現場に到着したのは事が終わった後だった。

国連軍カラーの撃震だ

《遅れてすまない、機体を借りる手続きが手間がかかってしまった……佐竹が、借りる機体を間違えて御覧の有様だ》

つまり時間がかかったって言いたいんだな。

《佐竹は佐竹でヘマをする部分あるからな》

鬼頭は呑気に笑う

《しかしこれでは…俺達以外は安心して調査も出来ないかと》

紅林が言ってる事は一理ある。

後始末が大変だな……面倒なのは分かる。

《いついきなり瓦礫の陰からBETAが現れるか分からないからな……怖いと思わないか?》

まぁ、確かに…鈴乃も油断は禁物と自分の心で釘を刺す

《絶対安全領域…と思った場所に酷い目に遭ったな。無理もない……佐渡島の住民達も、あんな風に喰われたんだ……亡くなった人達の事を思うと悲しいと思ってる》

安全だと思った住民避難用シェルターが瓦礫の陰からBETAが入り込み、何人何十人喰われたんだ。

全く……一体誰が基地にBETAが現れるなんて予想できるんだ?

ふと思ってると鈴乃から秘匿回線が繋がり交信した。

《御二方に不安させたくはない。悠一、ユーコン基地での出来事覚えているか?》

「ああ、基地内にあるBETA研究所から流出されたんだろ?」

《これは個人的な推測だが、真面目に聞いてほしい》

ん?

《おかしくないか?》

「?」

《BETAがこの基地に現れたのは研究所がテロ襲撃され流出……恐らくキリスト恭順派の仕業だ》

テオドール・エーベルバッハ……!

彼奴が、仕掛けたっていうのか!

《彼の行動は表裏関係なく居場所ですら掴めていないんだ》

彼奴は、ベアトリクスにとっては因縁の相手であり『人類の敵』だ

早く…葬りたいのだろう

彼の行動だけは予想できない

これが今の現状だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は戦術機を操縦してるだけであって気にせず行動できる

いきなり襲われたって死ぬなんてない。

その上、強化装備を着て本物の機体の管制ユニットにいると来たもんだ。

そのおかげだからか他部隊のデータリンクは異常なし。全方位的に状況を見渡せる。

この安堵感がどれほどのものか、初めて知った。

BETAと戦った事は何度もあるのに、こんな思いしたことがなかった。

逆に言えば各国の衛士達が今までどれだけ身体を張っていたか分かる

唯依がXFJ計画を遂行し新たな戦術機の開発に感じていた意義は今ならわかる気がする

俺達が想像する以上の機体だろう……。

「…約一部隊、ガシガシと凄く動いてるのがいるぞ」

《ああ、『みんな』を助けてくれた衛士だろう》

『みんな』ね……。

ここは国連軍基地だからアメリカ人やドイツ人が一人二人いてもおかしくはない。

はは、戦術機のワールドカップだ。

《機体も違いますしエリートって感じしますね》

《そうだな…我々もよりよくテキパキと動かなきゃならないな》

鈴乃は紅林に対しこう言い返した

《紅林、不知火という戦術機の意義は分かるな?》

《94式戦術歩行型戦闘機……撃震、陽炎に続いて自国で開発した世界初の第三世代機…ですね》

《そうだ、横浜基地ではあの部隊しか配備されてない》

ヴァルキリーズの事を指してるな。

確かにあの部隊だけは特別扱いに近い

謎の戦術機部隊で闇深い。

《他の部隊と違って悪く言えば独占しときたかった。そう解釈するしかないですね》

鬼頭はスラスラと考察した

《国連軍では、その基地が建設された国の戦術機を配備するのが通例だそうだ》

鈴乃は冷静に解説し小さな笑みを浮かべる

渡したくないけど渡さなきゃいけないから数を絞った

だが1機2機渡した時点で同じじゃないか?

《詳しい事は分からんがな》

「気持ちは分かるけどよ、だからって撃震や陽炎みたいな機体を増やしてもな……機体の特徴や性能、出力、機動性、火力を考慮しないと動く棺桶だぜ」

《……撃震を見縊らないで頂きたい!》

ヤバ…怒らせてしまったか?

《確かに第一世代機であり旧式化となりつつ現役でまだ活動しているが、そのまま運用してる訳ではない。改修を施しかなり性能が向上している。がどんな機体であろうが必ず欠陥が出てくる。それでも現場で直行する衛士達は誇りをもって戦っている。今に至っては世界各国の戦術機ランキングでは常に上位だ。安全性、性能、機動力、シンプルな武装…全てにおいて高評価を得ている。開発に携わった技術者が浅水垂らして…》

ベラベラと長話し始めた鈴乃は撃震という機体の素晴らしさを語る

10分間だ

《…という事だ、分かったかな?》

全部理解した…とは言い切れないが、紅林と鬼頭が呆れ返ってる

《では一つ質問するぞ…豊臣少尉》

「はい!」

《本気で闘ったとして、熟練の衛士が操縦する撃震に敵うと思うか?》

そう言われると無理ゲーだ。

都ですら倒せなかったんだぞ

「……無理だ」

《俺は倒せると思います》

紅林が割込み答えを言い放った。

その自信どっから来るんだよ

《それは本気で言ってるのか?紅林》

《自分は元々整備兵です。機体の特徴はよく理解しています。武器がなくても腕っぷしでやれば何とかやれます》

まぁ、ヴァルキリーズの不知火を武器なしで脱落させたからな

《やり過ぎるとマニピュレーターが壊れるぞ、自分で改修してるなら私は構わないがな》

《豊臣少尉が呑気なだけで楽観的に考えてるように見えますね》

ぐ……!

言ってくれるじゃねぇか紅林

《大丈夫だ、私はお前の事を頼りにしてるからな》

鈴乃はクスっと笑みを浮かび俺に激励の言葉を放った

《そろそろエリアに移動する……ん?》

「どうした鈴乃、何か異変あったのか?」

《おい、あそこにいるのは……白銀武か?》

ん?

網膜モニターで確認すると、座り込んでる白銀と後ろ姿のまりもがいた。

《あ、本当だ。あの吹雪、白銀少尉が乗った機体でしょうか?》

《そうだろうな》

《なんて酷い……あれでよく生きてたな。まるで佐竹みたいだ》

おいおい、どういう意味だよ

白銀武がアンデッドマンだって言いたいのか?

それにしても落ち込んでるな――――まりもが話しかけている

だが怒られてる感じではない…

《無茶でもして戦術機を壊したな…あれは。佐竹みたいだ》

鈴乃、お前までもか!

とことん弄られてるな佐竹……察するよ。

《状況が状況だから仕方がない》

鈴乃は複雑な表情を浮かべる

《コクピットの中でじっと見ているだけではつまらない。大倉大尉、白銀武と神宮司軍曹の会話が気になりますが会話の傍受許可を》

鬼頭は白銀とまりもの会話を聞きたいと許可を得ようとした

気にはなるけどよ……プライベートの侵害にならないか。

《はぁ、仕方がないな。却下しても鬼頭は駄々捏ねるかもしれん》

許可を得たぞ…いいのかよ大倉中隊長さんよ。

《マイク感度最大にしろ。静かにしろよ》

「りょーかい」

俺は軽い返事を躱す

2人の会話を傍受しようとしたその時、まりもの背後から兵士級1体がそろりと近づいてきた

「…待て!神宮司軍曹の後ろからBETAがいるぞ!」

《!…》

鈴乃は察したようだ。

早く助けないと…そう思いつつ操縦桿を握り突撃砲でまりもの背後にいる兵士級を銃口に向けた。

《神宮司軍曹、早く逃げろッ!》

しかし整備不良なのか撃震の動きが遅い

ダメだ間に合わない!

《悠一ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!》

鈴乃が俺に合図し俺の94フルアーマーの二連装突撃砲で兵士級に向け120mm弾を放った。

―――やったか!?間に合ったのか!?

狂乱状態になった白銀が叫び荒れ始める

「―――うああああああああああああああ~~~~~っ!!!!」

―――ッ!!?

ヴァルキリーズの不知火3機が現場へ駆けつけその長である伊隅大尉が白銀を呼び掛けた

《―――おい大丈夫かッ!?しっかりしろッ!》

―――何がどうなってやがる!?

《――ヴァルキリー2、貴様はそいつを見ておけ!ヴァルキリー6、貴様は周囲を警戒!防疫班と医療班の到着を待てッ!》

《了解!》

《了解!》

《残りはついてこい!それから貴様!深緋色の不知火の衛士……豊臣少尉!》

御指名されたなこりゃあ。

黙ってはいられない、返答しよう

「ああ、大丈夫だ!!」

《良い腕だ》

誉め言葉として受け取っておくぜ、伊隅大尉

伊隅大尉やその部下2人が乗る不知火が現場から去った後、白銀がまりもの生死を彷徨い大きく叫び声をあげた。

「―――まりもちゃんッ!まりもちゃんッ!まりもちゃあぁぁんッ!!」

《―――おい貴様ッ!やめろ!それに触れるなッ!》

「――まりッ――まり――うあああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事が終えた後、俺達は横浜基地に戻り乗ってきた機体は格納庫に収納し管制ユニットから降り強化装備のまま話し合いをしていた。

「…神宮司軍曹は一体どうなったんだ!?」

鈴乃は詳しい表情で言い放った

「分からない…別の不知火や装甲車の陰になって、見えなかった」

……。

「気になるなら聞きに行きましょうか?」

と佐竹はこういうが、どんな顔で合わせればいいんだ?

「佐竹よ、万が一にも万が一だったらどうするんだ?」

鬼頭は佐竹を咎める。

確かに一理はある……が確認しない訳にはいかないよな

「それはともかくだ、ここにいてもする事はないしとりあえず一度部屋に戻ろう」

「だな。一度着替えて部屋に戻ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい時間経っただろうか

横浜基地は今慌ただしい状態となっている

白銀達もあの光景を見て驚いただろう

………まりもは、今どうしてるだろうか?

借用してる会議室の中でムーア中隊の面々がコーヒーをゆっくり飲んでる途中、慌ただしい表情の佐竹と複雑な表情を浮かんでいる根岸の2人が鈴乃の元に駆け寄り現状報告する

「大倉大尉、朗報です!神宮司軍曹は生きてます!」

鈴乃は佐竹の言葉を聞いた途端、脳裏で『?』を浮かぶばかりだ

「すまない、詳しく聞かせてくれないか?」

とそっけない表情を浮かんだ。

根岸が佐竹の代わりに報告する

「博文下がってて。大倉大尉、神宮司まりも軍曹の生死についてですが」

「神宮司軍曹がどうしたんだ?」

………。

「今はICUで徹底的に検査と治療を受けています。病状次第すぐ回復するかと」

生き延びた……のか?

根岸は報告終えると安堵な笑みを浮かんだ

「ん?」

早乙女はキョトンとしつつ小さな笑みを浮かべる

俺も、少し安心してホッとした

「神宮司軍曹、無事だったんだな」

「はい!これも大倉大尉達がギリギリのところで救助したおかげですよ」

と根岸は言ったが、鈴乃は小さな笑みを浮かべる

「いや、私は陰で見えなかった。悠一が神宮司軍曹を救ったんだ。それを誇りに思え」

俺は……やっと一人前の衛士になったんだな。

嫌われ者だった俺が……結果を示したんだ。

「それでみんな様子がおかしかったんですね…」

佐竹は少し安堵な表情を浮かぶ

「まぁ、そういうこったぁ。俺は一人の衛士の命を救った……でもその事を受け入れられない連中がいる。言われっぱなしでは何も出来ませんでしたっていうのは言い訳にしか捉えられねぇ」

俺がそういうと鈴乃が誇らしい笑みを浮かびながら言い放つ

「では私から言わせて貰う。『みんな』は神宮司軍曹を救い出した。ただ、36mm弾の直撃を受けたBETAは原形を留めない程破壊されて、軍曹はその残骸の中に埋もれてしまった。最初は不安の気持ちがいっぱいだったけど、ちゃんと救出された!そうだな?根岸」

「はい!」

そうか、白銀が半狂乱で叫んでいたのは、そういう事だったのか。

「ただ、BETAの体液を全身に浴びてしまいましたから…」

精密検査が必要って訳だ。

体液を浴びて死んだ例がある訳でもないが……溶解液や硫酸で皮膚が爛れ体が溶けて死んだ例がある

きっと大丈夫だろう、大丈夫だ。

「皆は安心して、終わったことを喜べ。さあ、カップを持って…」

鈴乃はコーヒーカップを持つ乾杯する

「よく頑張ったな!そして生還おめでとう!カンパーイ!」

鈴乃は祝杯の言葉を言うと、皆揃ってコーヒーカップを持ち乾杯した。

……終わったのか。そうか、終わったんだ。

終わったんだ……。

……いやまだ終わってない。彼奴との決着をつくまで舞台から退場する気はない

平和ってのは戦争が始まる前のインターバルだ。

まだ終わらないこの戦争を、藻掻き足掻き俺達は人類を救おうとしている

それだけは事実だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

―――実のところ、XM3トライアル演習でのBETA奇襲では、私達の預かり知らないところで多くの犠牲者が出ていた。

あの瞬間、まさに横浜基地は戦場だった……刹那の判断が生死を分けるといった事が至るところで見られた

即ち神宮司まりも軍曹の生還は、単なる戦場でのよくある一幕で過ぎなかった。

私と悠一、紅林、鬼頭、佐竹、根岸。その他諸々もそれを理解していなかった訳ではない

ただそれでも、目の前で死に直面していた人間を救うことが出来た充実感は、私達の心に深く刻み込まれていた。

特に、悠一は私の人生の中で最も深い関係まで至った男だ。

想いは相当強かったかもな……。

最初出会った時は口が軽い男だったが、今に思うと口が軽いだけでなく衛士としては嫌われてるが戦術機の操縦センスはある。

この出来事は私達想像以上にこの世界の未来に影響を与えていた。

何故なら、この一件は神宮司軍曹だけでなく、一人の少年の運命を大きく変えたからだ。

その少年の名は―――――白銀武。

落ち込む彼を励ましていたまりも。

そのまま死んでいたら彼はそれを自分の責任だと思っただろう。

ところがそうはならなかった。彼は…白銀は大きな心の傷を抱えずに済んだからだ。

これが何故、世界の未来に影響を与えたと言えるのか?

それを語るには、白銀武についてももう少し詳しく知る必要がある

私は横浜基地の格納庫で情報屋の伍代と遭遇し彼の情報を聞く為、彼の存在について着目した

「態々すまないな、伍代。白銀武について聞かせてくれないか?」

見た目は20~30代と見られる男性で白髪のセミロングに左目の泣きぼくろで黒のロングコートと衣装を身に纏い煙草を吸ってる男こそ伍代だ。

顔を合わさずに彼と接触し情報を聞き出す

「白銀武か……大倉大尉、この情報は高いぞ」

「ああ、報酬は必ず払う」

「表でも裏問わず有名人だよ、彼は香月夕呼から期待感を抱いている」

「それは分かってるが、冷静に考えてみればただの少年にしては頭が冴え過ぎている」

「まぁ、大尉の言いたい事は御尤もだ」

伍代は本題に入り白銀武の素性を明かした

「まず彼はこの世界の人間ではない。大尉には信じ難い事だけど別世界から転移したんだ」

別世界……それってつまりBETAがいない世界

信じ難いが、伍代が言ってる事は信憑性がある。

「2か月前、彼はこの世界に来て横浜基地に単身で入って来たんだ。勿論不審者と思われ警備兵に拘束されたが彼は何かを知ってるような素振りを見せた」

そこに現れたのは国連軍副司令の香月夕呼博士という訳ね

「彼は元々普通の人間だ。この世界のようにBETAは襲来せず人類の存亡の危機はないさ」

彼は何故この世界に来たのか…何故BETAと対峙し人類の未来のために戦うのか?

それは私だって同じだ

「彼の境遇は運良く香月女史の研究欲を刺激し、破格の待遇で基地に置いて貰った…そして第207衛士訓練分隊に配属され、『彼女』達と再会」

成る程……そういう事が。

道理で戦術機の新型OS…XM3を推奨する訳か

「パラレルワールドって言ったら分かるかい?」

伍代は小さな笑みでこう語る

「一言で言えば並行世界……もう一度言うけど白銀武はこの世界の人間ではない」

彼がこの世界の人間ではない事は理解した。

ただの少年ではないと

「最初は分隊のお荷物だった。が彼はこの厳しい訓練課程を熟し総戦技演習に合格。そして…」

「XM3の開発、その演習トライアルに繋がった……」

私は頭に追いつくのを必死だ。この世界で何が起こってるのか―――

分からない……がXM3のおかげで戦術機開発は一歩前進したことは確かだ。

「彼はオルタネイティヴ5を阻止しようとしている。人類がBETAに負けた時は一部の人類を宇宙に逃がして第二の地球を探す旅に出発するのは彼にとって悲しい出来事になり得るからだ。地球に残った人類は自分達だけ何とか凌がないといけない」

確かにそうだ。

残った私達が地球に蔓延るBETAと戦うのは、正直厳しい。

白銀はそれを阻止しようとしている

「でも、それを納得できない者がいるのは大半だ。この戦争を早期終結させたいと強く思う女性がいる」

「……!」

早期終結…BETA大戦を。

心当たりがあり過ぎる

私は悟った。

「ベアトリクス・ブレーメ……」

「ご名答だ。彼女は一刻も早くBETAを消滅したいだろう」

恐る恐る話を聞き続ける。

気持ちは分からないまでもないが…………。

「話を戻そう。白銀武は地球にいる人類と一致団結して戦っている……それは事実だ」

と誇らしげな笑みを浮かべ煙草を一本吸いながら語り続ける

「『人類の滅亡を防ぐには仕方がないかもしれない。けどG弾を落とされて地球が無事で済むはずがない』彼の立場からすればそうだろうな。G弾は横浜ハイヴ上空で2発壊滅させた代物だ…それを大量に投下したらどうなると思う?」

下手すれば地球が消滅する

そう言わせたいのね……。

「地球が…」

「そうだ。香月夕呼はそんな最悪の計画を後ろに控えた最後の砦だ。地球を取り戻す最後の希望…」

最後の希望……香月副司令が地球の運命を。

白銀は何としても成功させたかった―――――。

「彼の技術を皆に共有し香月女史はそれを元に新型OSを開発して貰った。それがXM3だ」

………。

「彼は香月女史に利用されてる――――これも事実だよ」

「……それで?」

「使い棄てにするとしてもまだまだ利用価値がある……彼にしかできない事。彼はただの衛士ではない。ここまで言ったらもう理解出来てると思うが」

人類の救世主……白銀武が救世主。

私は死地に赴く軍人のように表情を引き締め伍代の話を聞き続ける

「と思っていた彼はあの演習で神宮司まりもを救ったのは白銀ではなく豊臣悠一。斯衛軍の問題児が彼女を救った。そして今に至る」

ご立派な事だ……確かに悠一が神宮司軍曹を救った。

白銀武の事については十分理解した。

私はそっけない顔で伍代にテログループのリーダーであるテオドール・エーベルバッハの潜伏先やその情報を聞き出した。

「テオドール・エーベルバッハか……ああ、彼も白銀同様表も裏問わず情報が乏しすぎるけど、貴重な口コミでやっと掴んだよ」

「聞かせてくれ」

「良いだろう―――ただ、この情報だけは高く付くよ」

「構わない」

「まず、彼の潜伏先は………東ドイツのベルリンに拠点としている。が、その拠点として住処にしてるのは国家人民軍のベーバーゼー基地、ラーテノー、ノイルピーンの2つは『別荘』。テロリストのメンバー達の憩いの場所だ」

ベルリン……彼の本拠地はそこで間違いないだろう

故郷が恋しくて再び帰ってきたとでも……狡賢いやり方だな

「他はソ連の研究施設の一部を接収し研究員数十名が人質という形でESP発現体を製造し極秘裏で、ある『少女』のクローンを11体を『戦場』に送ったのさ」

ある少女……誰なんだ?

全く想像がつかない……何の為に。

「その『少女』は18年前の東ドイツで義兄であるテオドールの手によって処刑されたリィズ・ホーエンシュタイン……彼女そのものだよ」

「リィズ・ホーエンシュタイン……?」

「そうだ。彼は恐らく義妹を喪った悲しさを紛らわす為にリィズそっくりのクローンをソ連の研究員達が11体作らせたんだろう」

――――非現実過ぎるが、存在してるのは間違いないだろう

だが、どうやって彼女の遺伝子を?

「シュタージの武装警察軍参謀だったハインツ・アクスマンが作った負の遺産の一つだ。彼はリィズを強姦し、不特定多数の人間により心や精神を崩壊した。当然そんな事を毎日繰り返したら子供は生まれる。しかしアクスマンはリィズの意思を背きその赤子を堕胎したんだ」

胸糞悪い話だ―――リィズは彼の慰み者として……いや玩具にされたんだ。

子供を産めない体に……。

私はリィズの遺伝子をどうやって入手したのか問いだした。

「どうやって手に入れたんだ?アクスマンは……」

史上最低最悪の機械主義者として当時の世間は彼の行動を批判した。

「精子ドナーを使い、彼女の血筋がある人間を他国に住んでる家族に託したんだ」

「養子として託したのか?」

「これはリィズの意思かどうかは分からないが『本当の幸せを私の血筋が流れてる子供達を、他の国に住んでる皆に託したい』自分の子供達を彼女みたいにはなりたくなかったんだろう」

本当の幸せ……彼女が最期に託した希望という訳か。

成る程……。

「それを実行したのは第666中隊潜入任務から……3年前だ」

「アクスマンに攫われた時点で彼女の運命は悪い方向に進んでいっただろう。本人は既にこの世からいないから真相は闇の中だよ」

伍代はそう言いつつ吸い終えた煙草をエチケット袋に入れる

そしてテオドールの個人情報を記載している書類を私に渡した

「大倉の姐さん、これはサービスだ」

書類の中身を見ると………?

その中身を見た私は怒りを通り越して厳格な表情になった。

「此奴、ナタリー・デュクレールを見捨てようとしていたのか!」

「ああ、彼は彼女の事を使い棄ての道具として扱われたそうだ。そしてヤクを染めてハイになってるそうだ」

彼は何故東ドイツの『最後の希望』として英雄になったのか?

当時の第666中隊の衛士達は何のために革命に参加したんだ?

シュタージを打倒する為か?自己欲求の為か?

テオドールは何故テロリストに堕ちてしまったのか?

それは本人しかわからないだろう……。

「ベアトリクスの姐さんは相当激怒してるようだ」

ベアトリクスに知れ渡ったという事はリークしたのか。

テオドールは東ドイツシュタージを打倒しようとしていた英雄であるが、テロリストに堕ちていった事はかつての仲間達に知れ渡っている

人類の敵だ。と

世界中に敵回されても彼は動じない訳か

「こんな悲劇ばかりが次々と目の前に起こるのが『主』とやらの定めた事でなければ、自分たちは何の為に戦い、何の為に血を流し、何の為に散っていったというのか。BETAは何の為にこの地球へとやって来て、その目的も意図も告げることなく人類を好き放題に蹂躙し、殺戮と破壊を繰り返しているのか。そして人類は、矮小で愚かな人類は何故、この期に及んでも手を取り合えぬどころか争いを絶やすことが出来ないというのか。……己の内に巻き起こる幾つもの疑念を全て貫く答えを寄越してくれるものは」

ん?

何が言いたいんだ?

「当時の彼はこう思ってただろう。666の副官のアネットも政治家のグレーテルも最後まで、彼の考えに賛同を示してはくれなかった。だがそれでもテオドールの信念は変わらなかった。そう、かつてカティアが東と西とで手を取り合おうとしていたように、別たれたものを一つにしようとしていたように、自分もそれをするだけでありその為にはこの地上にある全ての穢れを取り払わなければならない。西も東も大国も亡国も関係なく、愚かで醜い争いを続ける人類同士を一つにする。その唯一の方法。それは恭順派の唱える通り、主の思し召しの下に全ての人類を集わせる事……」

それがキリスト教恭順派の最終目的か。

「いつまで経ってもバラバラの世界と人類をこの手で一つにしその果てに、国家や体制といった得体の知れないものに全てを奪われ引き裂かれるような悲劇は、テオドールやリィズを行き止まりへと追い詰めたあんなおぞましい出来事は、二度と起こさせたくない……ユーコン基地に占領した難民解放戦線やそれを加担した人間が可哀想だ」

「!」

「察してると思うが、利用されたのさ…ナタリーはテオドールによって戦力の駒として扱われた。これは事実だ」

……彼は骨の髄まで腐ってしまった

もう手遅れだ

テオドールは…………何れ暗殺される。

「一つ聞いて良いか?」

「何だい?」

「何故そこまでテオドール・エーベルバッハやベアトリクス・ブレーメの事を知っている?」

「街中ではあらゆる人間が何かを見ている。人目を忍ぶなんて不可能さ」

危ない橋を渡ってまで情報を入手してるのか

凄い収集能力だ……。

「感謝する伍代、恩に着る」

「姐さんも気を付けて。彼はアイリスディーナの部下であった故、相当強者だ」

伍代は冷静な笑みを浮かんだ

「あ、言い忘れたけどベアトリクスの姐さんは子供いるらしい」

「え?」

「とは言っても恋人だったユルゲン・ベルンハルトの間で産んだ子供ではないよ。恐らく、当時の心境ではハニートラップを主とした任務が多くて不特定多数の男達を籠絡しまくった。当然の如く、彼女は妊娠と出産を繰り返し任務に支障が来るからかその子供はすぐに施設に預けたらしい」

絶句……絶句だ。

「リィズとは違い彼女は子供を産めない体になる事は避けている。常に避妊具やピルを所持していたからだろう」

成る程、事前に仕込んでた訳か

「それと彼女はシュタージに入省した時、既に処女を喪ってる。ユルゲンに捧げたんだろう……」

「そうか、改めて感謝する」

私は情報を入手しその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀が正気に戻り精神的に落ち着いた

数時間前は狂乱状態だったのに今は何ともなく通常の健康状態だ

伍代が掴んだ情報を入手し格納庫から出て、第三会議室に戻ろうとするがそこで白銀と遭遇した

「白銀少尉」

「……ん?」

私の顔を見た途端、キョトンとした表情を浮かんだ

元気のない顔だな。

「知らない衛士と話すのは緊張するのか?」

私は彼に向け言い放った。が

「大倉鈴乃大尉ですよね?」

「ああ、そうだ。今は――」

「大丈夫、知ってます。オルタネイティヴ4関係……訳アリで呼ばれたんですよね?」

まあ、大方それで合ってるが……本来の目的はXM3トライアル実習の参加という口実だけだ。

香月副司令は何を考えてるか理解し難いが、我々人類の為に奮闘しているという熱意だけは伝わった。

「ご想像にお任せするわ。で、今まで医務室にいてたのか?」

「まあ……俺もBETAの体液浴びましたからね、まりもちゃんを……いや、神宮司軍曹を探してる時に……」

あれが溶解液だったら確実に即死だ。―――白銀武という少年は運がいいんだか悪いんだか…。

「ただ、強化装備を着てたんで、検査も軽くて済んだって訳です。それでも今までかかりましたけど」

どうやら異常は見られないようだ。

良かったな、白銀。

「それはお疲れ様だ。元気のない顔して……部屋でゆっくり休め」

「あ、いやこれは……」

何だ?

「いや、何でもないです」

何でもないって事はないだろ?

目が泳いでる……誤魔化しは通用しないぞ

「…何か悩んでいるのか?」

「いや、そんな事は―――」

「そういう時は素直に白状すればいい。少しお喋りしようか?」

「いやでも……」

「実は私、確かに訳アリだが、豊臣少尉とは少し事情が違うんだ。白銀少尉がみんなより物知りなら、何か分かるんじゃないか?と思ったのだが……」

「はあ……。でも俺だって、知ってたって言えない事ありますよ」

「喋れる範囲で構わない。隠し事は無用だ」

「……?」

「気になったか?」

「はあ~、分かりましたよ。お喋りしましょう。でもまずは大倉大尉からですよ?」

私は白銀に全部正直に話した。

佐渡島での戦いや佐渡島同胞団設立、明星作戦、出雲奪還作戦、ユーコン基地での出来事やその場所でテロリストに占領された事件の事まで隅々まで話していった。

2時間くらいか、いやそれ以上だ。

「じゃあ次は、白銀少尉の話を聞かせて貰おうか?」

「いいですけど……別に、単に自信を失った奴の泣き言ですよ?」

「いいんだ。誰かに聞いて貰えばサッパリする事だってあるだろ?」

「そう……かもしれないですね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は第三会議室に戻り伍代から渡された封筒の中身を空け皆に見せつけ知らしめつつそれについて話した。

「何だありゃ?」

「白銀武についての情報だ。他のもあるがまずは白銀の事を話す」

「おいおい、こんな情報どうやって手に入れたんだ?」

「あとで話す」

悠一、早乙女、佐竹、鬼頭、紅林、私の6人だけの共有だ。

私は白銀に関する情報に記載している書類を手にし、伍代が調査した情報源を読み上げる

内容は………。

白銀武が秘密裏に行っていた実験……それは、『元の世界』に戻り、とある理論を回収してくる事だった

その世界の物理教師、香月夕呼が思いついた理論。

詳細は不明だが、それは人間の人格をまるごとコピーしてしまう革新的な技術だった

とは言え、戦術機に関節思考制御が採用されている事からも分かるように―――人間の思考をデータ化して利用するといった技術が、この世界にない訳ではない。

また、白銀武の帰還実験には量子力学上の、所謂『シュレディンガーの猫』で語られる理論に基づいた装置が使われた。

その実験では、一時的に『この世界』の誰もが彼の事を忘れ去る副作用があったのだが――実験終了後に記憶が戻らない場合の対策として、彼女は記憶のバックアップシステムを用意していた。

世界の全員が『彼』の存在意義を忘れたままでも、『彼女』が憶えていればどうにかなると考えたのだろう

記憶のバックアップが可能だという事は人間の思考をデータ化している事を示している。

白銀が理論を回収することに何の意味があったか?

それがオルタネイティヴ4の成否に大きく影響するからだった。

では、その理論を元に香月副司令は一体何をしようとしていたんだろう?

思考をまるごとコピーする。やりたくても出来なかった事が、白銀のおかげで半ばチート的に解決を見た。

彼女の行動……その全ては―――――

「……悠一、横浜基地の副司令室で何か見たことは覚えてるな?」

「え?ああ…あのシリンダーに入ってた人間の脳味噌の事か」

「そうだ」

「あれがどう関係しているんだ?」

早乙女は目を瞑り頷く

佐竹は挙動不審

鬼頭は唖然としている

紅林は絶句とした表情を浮かんだ

「人間の脳味噌が横浜基地に……」

鬼頭は唖然としつつ驚愕した

「私が入手した情報は正式なものではなく裏で入手したものだ。そこは理解してくれ」

悠一は「ああ、分かったよ」と一言を添える

「そのシステムの名は――――00ユニットだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕呼Side

 

「……社、いよいよ仕上げにかかるけど………いいわね?」

「………はい」

「最後に何か伝えることはある?もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれないわよ」

「…………またね」

「あら」

「もう一度会えますから、会いたいですから」

「そう……。じゃあ、始めて頂戴」

これは00ユニット開発の最終局面よ

この時、僅かに手が空いた隙に、私はふと、別の事を考えた。

気を散らしていい場面ではない事は分かってる……もう一つ重大な懸案があったのよ。

対策は打ってある。だから心配は無用―――改めてそう判断した。

けれでも何故かスッキリしない。

経験上、これは何処かに思考の漏れがある事だとは信じていた。

だが、それを追求する事は出来なかった。

スタッフの声が彼女を現実に引き戻したから―――そう、この先も私にはこれを追求する暇は与えられなかった。

00ユニットに想定外の問題が発生し、その対策に尽力せざるを得なかった。

そしてそれが、誰もが予想だにしない未来へと繋がる事になるけど、今はまだ語る時ではない。

私は天才で優秀な物理学者だけど神の領域にまでは達していない

即ち、抗えない運命が待ち受けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

東欧州社会主義同盟所属戦術機空母『ヴィリー・シュトフ』

中隊長執務室

 

中隊長執務室で俺は呼び出されソファーに座り雑談していた

アネットもいる。

横浜基地でのBETA襲来は俺達のところでも知られていた

基地内でBETA研究所が何者かに襲撃されそれを解放していた

考えなくても誰の仕業か分かっている……。

彼奴だ……彼奴が仕組んでいた

幾ら考えても何も答えが出ない

ニコラから送った情報は少し見覚えがある

XM3という新型OSだ

それを開発したのは、白銀武

だが、RBDならXM3だろうがどんな戦術機だって勝てると俺は信じていた。

中隊長執務室にいるのはファム、アネット、俺の3人

厳粛な空気だ……下手な行動は出来ない。

テレビに映ってるのは子供向け番組のように見えるが、これはプロパガンダだ。

『時事カメラフォーカス』と書いてる文字を強調し番組は始まった

北朝鮮のアナウンサーは生粋な朝鮮語でナレーションを読み上げる

《昔から伝わる話に『瓶商人の九九』もあります。ある日、瓶を売る為に市場に向かっていた瓶商人が道端に背負っていた瓶を置いて、こんな皮算用をしたとのことです――――まず、瓶を売って雌鶏1羽を買おう。次は卵を産ませて、10羽、100羽に増やそう。次は、多くの鶏が産んだ卵で牛も買い大きな立派な家も建てよう。将来の自分の姿を想像しながら手足をバタバタさせていたら、瓶を倒して割ってしまったという瓶商人の九九》

番組の途中、アナウンサーは政治的な発言を放とうとした瞬間。番組の途中、ファムがリモコンで別のチャンネルに変える。

音楽番組が放映され高岡早紀の『悲しみよこんにちは』が流れてきた。

観たくないものは蓋をするとはこういう事だ

「この曲は良いわね」

満面の笑みで曲を聴いている

夢の中でこの歌、このメロディが流れている。特にこのサビの部分は何度聴いても鳥肌が立つ

―――――俺は、今回も生き残ってみせる…!

佐渡島での作戦の準備は整えてる

いつでも出撃できる……!

俺の運命は、俺が決める!

ファム達を守るのは……俺なんだから

心の底から深く思い込んだ

いつかBETAがこの世から消滅する事を常に願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

The end of the Yokohama incident




今回の話は殆どマブラヴSFの本編シナリオを参照して書きました。
マブラヴアニメ第二期放映される訳ですが、第一期ではクーデター編で終わってそこからがXM3トライアル演習…横浜事件から始まると思います。
今作はアニメより追いついてしまったので今後はマブラヴSFの本編シナリオを参照して書くかもしれません。
ここからが凄い展開だよね……。
次回はいよいよ甲21号作戦……佐渡島奪還作戦です。
漸く来たか……佐渡島を無事奪還できるかがポイントですね
次回のお楽しみに
2部作になるかも?


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第29話 Sado Island Recapture Strategy 前編

佐渡島奪還作戦……甲21号作戦です!



XM3トライアル演習襲撃…横浜事件から13日後

国連軍、日本帝国軍、斯衛軍、佐渡島同胞団は佐渡島にあるBETAハイヴ『甲21号目標』制圧を目的とする、佐渡島復興を掲げる為の大規模共同作戦、甲21号作戦……佐渡島奪還作戦を始動

国連軍は佐渡島ハイヴ攻略を担当する佐渡島同胞団が損害を重ねる姿を見て正規軍投入を思案したものの、同胞団本部はこれを頑なに拒否した。諸説あるが、佐渡島奪還の戦果を“よそ者”である国連軍に奪われたくない為であったという説が濃厚である。国連軍はそれ以上追及せずにあっさりと引き下がったが、これは近日中に東欧州社会主義同盟がBETAとの戦争が終結することを予見し、堅固な防御力を有する佐渡島ハイヴ攻略にわざわざ国連軍の正規部隊を投入するメリットが薄かった故である。何にせよ国連軍が故郷奪還に奮起する同胞団を冷めた目で見ていたことは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

2001年12月24日

横浜事件から13日……佐渡島同胞団所属戦術機空母『司馬』のブリーフィングルームで佐渡島奪還作戦の事前説明をしようとした時、突然佐竹が意外な人物をここに連れてきた

右側に括ったサイドポニーテールの少女だ

この顔立ちと容姿は……?

「大倉大尉、新しく入った衛士です」

「……豊洲多恵子少尉です」

彼女は豊洲多恵子と名乗った。

しかしあれはどう見ても横浜事件で死亡した築地多恵だ

本人だとしたら何故ここに?と疑ってしまう。

「佐竹、そんな報告聞いてないが」

鈴乃は佐竹に対し冷たい視線を送る

「え?」

「え?じゃないだろ……確認を怠ったな?」

「……すみません。実は訳アリで報告遅れまして」

訳アリで報告遅れた?

どういうこったそれは―――少し気になる

紅林と鬼頭は物珍しい顔で彼女を眺めており、早乙女も疑いの目で見ていた。

「……おかしくないですか?」

紅林が咄嗟に豊洲と名乗る女を疑った。

「この作戦の直前で新しくここに配属されたって事はスパイの可能性があります」

鈴乃もこればかりか疑いを晴らすために正直に全部言うまで問いだした。

「……豊洲多恵子だな?」

「え…はい」

「貴様は何者だ?何故ここに配属された?何の目的で?我々を陥れようと考えてるのか?」

鈴乃は次々と質疑を問いだすが返答がない。

当然、彼女は泣き崩れ言葉を放とうとするが何を言えばいいのか分からなくなった。

「……ぐす…うぅ…」

紅林は彼女を鈴乃の代わりに問いだす

「何があったか説明して貰えるか?」

彼女はあっさりと全部正直に話した

彼女の話を纏めると……

横浜事件でBETAの襲撃に遭い、死を直面したが天羽組と名乗るヤクザ3人によって救出され生き延びることが出来た

3人は国連軍兵士に扮したキリスト教恭順派の連中を粛清しに行く途中だった。

『生き延びたとしても、香月女史は見捨てるだろう。つまりアンタは使い棄ての駒だったって事だ』と178cmの長身かつ細身の体格で明暗の灰色二色に別れた癖毛と青い瞳、鋭い目付きに眼鏡、青いワイシャツと黒いネクタイに上下白のスーツが特徴。一見華奢に見えるが、服の下は筋骨隆々の逞しい体をしているヤクザの一言で豊洲…いや多恵は国連軍に不信感を抱え、偽名を使いここに流れた訳だ。

道理で公式の資料は戦死と表記してたのか……。

佐竹が報告遅れた理由は香月女史の説得に長引いたからだ。あの女は他人を見下した態度で俺達をボロ雑巾になるまで利用する気だっただろう。

結局、佐竹だけではどうにもならず斑鳩中佐や恭子、遠田技研の能代社長が交渉したが、それでも香月女史は引き下がらず最後まで抵抗したが、『築地多恵は国連軍からの公式の資料は戦死』という結論が至り多恵は国連軍から引き抜き佐渡島同胞団に転籍していった。

それにしても、この世界でもヤクザがいたんだな―――――驚いたぜ。

「状況は理解した。国連軍にいた頃は辛かっただろう…」

鈴乃は沈んだ表情を浮かべ多恵を慰める

「いえ、そんなに辛くはありませんでした。ただ……えっと、その…」

多恵もどん底の表情を浮かべる

俺は多恵が何を言おうとしてるのか問いだした

「高原萌香少尉の事を引き摺ってるんだな?」

そう言うと多恵は「はい」と一言を添え頷いた。

「香月副司令は、悪い人ではありません。あの人はあの人なりで私を配慮したんだと思います」

成る程な。

配慮ね……俺はそうは見えないが。

「配慮か…」

俺は心底呆れた

「アンタを配慮したなら、衛士を切り捨てるような真似はしてないぜ」

「…」

…………。

「あの、豊洲多恵子は築地多恵って事は分かりましたし、扱いはどうすればいいのですか?」

佐竹は空気を読まず呑気な顔で言い放った

「佐竹さん、私の事は『豊洲』と呼んでください」

と多恵は苦笑いで言った。

「ま、仲間が増えて良かったし…鈴乃」

「そうだな」

鈴乃は小さな笑みを浮かべ腕を組んだ。

「とにかく人が増えたという事は戦力が上がったと意味を表している。彼女が今後、我々に貢献する逸材の衛士になるかは『豊洲』次第だな」

多恵はヴァルキリーズの一員だった。

恭子と斑鳩中佐がそれをヘッドハンティングしたんだ。

バンドメンバーを加えるチャンスだ……やってやる。やってやるぜ。

俺と鈴乃が多恵が佐渡島同胞団ムーア中隊に加わった事で歓喜していたが、佐竹が突然、痛みを訴える

「う!」

突然、腹に刺すような痛みが走り倒れた

足まで痺れる感覚…おいおい、まさか下痢してたのかよ!

「が…はぁ…」

これを見た鈴乃は血相な顔になり早乙女に佐竹を担ぎトイレを行かせた

「早乙女!トイレに行かせろ!」

「りょ、了解です!」

力が入らずもつれる足を動かせて早乙女は佐竹を担ぎ便所に駆け込んだ

幸いギリギリのところで佐竹は粗相を免れた

彼奴は元々衛士だ。頻繁的に病が発症する為か整備兵になったらしい。

それを背中に押したのは都だ。

鈴乃はそれを知りつつ佐竹を整備主任として雇っているわけだ

数分後、佐竹はブリーフィングルームに戻ったが、鈴乃は佐竹に詰め寄る

「佐竹、『豊洲』少尉についてもう一度経緯を聞く必要があるな」

「え?もう一回聞くんですか?」

「そうでないと貴様は納得しないだろう」

鈴乃はこういうが、佐竹は多恵の経緯を理解していた。

「俺は香月副司令に交渉した一人ですよ。経緯ぐらいは理解しています」

多恵の事を疑いの目で見ていた早乙女は眉根を寄せて真剣な顔をする

「成る程、よぉく分かりました。豊洲多恵子…いや築地多恵少尉、貴女は天羽組の人間に助けられそれを快く思わなかった香月副司令は戦死扱いし見捨てられた……そういう解釈で宜しいでしょうか?」

「……貴女達がどう思われようと関係ありません」

あの香月夕呼ならそう思われただろう―――ヤクザ者の人間が堅気の衛士を救出し生かせた事を。

 

「……佐竹主任、拾ってくれてありがとうございます」

「え?いや俺じゃなく天羽組の人間に言ってくれ」

「ええ、勿論そのつもりです」

早乙女は天羽組のヤクザと接触してたのか……

どんな境遇してたんだ……?気になるがここは聞かない方が良さそうだ。

「なあ、鈴乃。今日は12月24日だよな」

「ああ、そうだが……悠一、今日って」

わりぃ、鈴乃。クリスマスプレゼントすっかり忘れちまった。

クリスマスイブだな……。

「プレゼント―――クリスマスの……」

鈴乃は首を傾げる。

「クリスマスプレゼントか?」

「ああ」

俺が頷くと、鈴乃は優しい笑みでこう言い放った

「このご時世ではクリスマスとか祝う暇はないからな…気持ちだけ受け取っておくわ」

そう言うと鈴乃は俺を抱き締めた

嬉しいけどよ…早乙女達に見られてるぞ

「いいなぁ…大倉大尉は」

「これぞ真実の愛だ」

佐竹は羨ましそうに眺め鬼頭は誇らしい笑顔を浮かべる

早乙女は呆れつつ小さな笑みを浮かべる

「ホント、御二方は仲が良いですね」

「悔しかったら早乙女も彼氏を作ったらどうだ?」

「大尉、揶揄わないでください!」

鈴乃は揶揄い早乙女は頬を赤らめる

「それより作戦の事前説明を」

紅林が鈴乃に指摘すると、鈴乃は抱き締めるのをやめて目を光らせ、決死の表情で作戦の事前説明をし始めた。

何か妙にピリピリとした雰囲気が出てきたぞ。これぞ最終局面の継続ばりの緊張感だ

「総員傾注!これよりブリーフィングを始める。早乙女、スクリーンを」

「はっ!」

鈴乃は早乙女を指示しスクリーンを展開し映像プロジェクターの電源を入れる

その映像には佐渡島ハイヴが映っていた

「これ佐渡島ですよね?」

「見れば分かるだろう、佐竹よ。あれが我々が取り戻すべき島だ」

佐竹は少し驚愕し困惑していたが鬼頭は冷静に凛々しい顔していた。

「―――この度、帝国軍及び国連軍は共同で佐渡島ハイヴ―――甲21号目標の掃討作戦を実行する事となった。この作戦には我々佐渡島同胞団も参加する。がヴァルキリーズや他の国連軍部隊と別行動になる」

妥当な判断だ。

無理に白銀達と合流してまで作戦遂行する必要はねぇ

彼奴らは彼奴らの戦いがある。それを介入したら……香月女史が黙ってはいないだろう。

「先の12.5事件…帝都クーデターでは豊臣少尉が国連軍のA-01部隊と共闘し、活躍は目覚ましいものがあった。それを踏まえた話だ。今回の作戦は厳しいものとなるが、より一層の奮戦を期待している」

緊張してきたな

早乙女の表情は冷静沈着で多恵は強張っている。

佐竹の奴…困惑しているな。

死んだ筈の少女がここにいるんだ。分かるぜ?

「緊張しているようだな?だが安心してくれ。作戦には参加して貰うが、我々ムーア中隊が先に戦場に赴く必要はない」

え?どういう事だ?

教えてくれよ、大倉先生よ!

「ハイヴ攻略の講義は受けている者はいると思うが、内容にはない激しい戦闘が想定している。覚悟は良いか?貴様等……」

ああ、覚悟は出来てるぜ、鈴乃。

それと早乙女、随分肚が据わった顔になったな。都は喜ぶと思うぜ?

「将来的には遠隔操作で動く戦術機――――――無人機に近いかな?それを導入して戦線に出撃しようと遠田技研の能代社長が技術エンジニアを含め社員にこう発言したが、現段階では難しいだろう」

佐竹が咄嗟的に挙手し意見を言い放った。

「大倉大尉、東欧州社会主義同盟が開発したリユース・ベアトリクス・デバイスについてどう説明するのですか?遠隔操作機のキモは、香月女史が開発した新しい通信技術の根幹であり現在使われている技術とは根本的に異なる高確率の通信があってこそ遠隔操作機は意味があります」

あの女なら絶対に言いそうだな。

気に食わないが全世界に貢献した人物だって事は確かだ。そこだけは認めてやるぜ

「佐竹の言う通り、それが出来ないとただのガラクタだ。ラジコンとは訳が違う」

「インフラが整ってないから開発は困難なんですか……」

「そうだ。それ以前に量産化は意味ないな」

リユース・ベアトリクス・デバイスか………あれはヤバい代物のシステムだ。

そうなるとベアトリクスが佐渡島の利権を欲したいまで介入してくる可能性は高い

実験場代わりにしてまで植民地支配しようとしている……普通はそんな事あり得ないが彼女の場合は別だ

ブリーフィングの途中、鈴乃は厳しい表情で佐竹に報告を漏らしてないか確認する

「佐竹、他に報告すべき事は?」

「他、ですか?」

「そうだ」

おいおい、まだあるのかよ。勘弁してくれ佐竹

「えっと……もう一つの報告は駒木咲代子中尉がここに配属されるそうです」

「!!」

駒木の名を聞いた途端、鈴乃の顔が顰めっ面になった。

「………」

急に無言になったぞ……説教か?

「大尉?」

「佐竹、私に近づいてきて」

佐竹は言われるがまま鈴乃の傍に近づく

「近づきましたけど…」

「もっと近づけ」

更に近づける

何やらかすんだ?

「あの……大尉?」

鈴乃は佐竹の顔に近づける。

「ええ!?」

そして彼の頬を抓る

「い!いででででで!」

「佐竹、嘘だったら海に沈めるぞ」

「そ、そんな!怖いこと言わないでくださいよ!本当です!信じてください!」

佐竹は鈴乃に真剣な眼差しを向ける

その目は嘘吐いて………いない

「これが嘘吐いてる目に見えますか!」

「う~む」

手厳しいな……何やらかすんだ?

「……信じよう。駒木をここに連れていくことはできるか?」

「はい…もうすぐ来るかと」

佐竹はそう言うと、眼鏡をかけた女性がブリーフィングルームに入る。

俺達の目の前に現れた女性は紛れもなくあのクーデターに関わった張本人だ

「ムーア中隊に配属されました、駒木咲代子中尉です」

そして真顔で敬礼する

「駒木中尉!?ここに配属されたんですね!」

早乙女は涙目で喜びつつ敬礼する

「早乙女少尉もここにいてたのね。久しいけど随分肚が据わった顔になったわね」

駒木は早乙女に敬礼し返す

「駒木中尉もですよ。お互い色々と修羅場潜り抜けてきましたが私達の仲間です!頑張ってください」

と早乙女は駒木に握手を求める

そして駒木も和やかな笑みを浮かびながら早乙女に握手を交わした

佐渡島奪還…いよいよ行われる

負けられない――――都達の思い出の場所を取り戻す!

今はそれだけしか考えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐渡島同胞団Side

 

2001年12月25日

 

甲21号作戦は開始された

衛星軌道上に展開する国連宇宙総軍甲駆逐艦隊による軌道爆撃

敵迎撃と同時に帝国連合艦隊第2戦隊が長距離飽和攻撃を開始

重金属雲の発生後、全艦多目的運搬砲弾による砲撃に切り換えての面制圧を開始

地表に展開する光線級集団の撃破を目指す

信濃、美濃、加賀の戦艦3隻を基幹とした帝国連合艦隊第2戦隊真野湾へ突入

艦砲射撃を以て、旧八幡から旧高野、旧坊ヶ浦一帯を面制圧

同時に帝国海軍第17戦術機甲戦隊が雪の高浜へ強襲上陸し、橋頭保を確保

 

 

佐渡海峡上空に雷雲が浮かぶ

真っ黒になり、ピカっと光りつつ地面に落下

静寂な空気が一変し慌ただしい空気になる

《放電現象確認!帯電した発電所跡の残骸が原因と思われます》

《重金属雲濃度確認!艦隊はこれより佐渡海峡に入ります》

佐渡島同胞団の現段階の編成は……

同胞団艦隊

・戦術機空母『司馬』

・戦術機揚陸艦『阿仏坊』

・戦術機揚陸艦『両津』

・戦術機揚陸艦『相川』

の4隻。

戦術機部隊

・ムーア中隊

94サブレッグ:ムーア1:大倉鈴乃

94フルアーマー:ムーア2:豊臣悠一

94ブルG:ムーア3:駒木咲代子

不知火:ムーア4:紅林二郎

不知火:ムーア5:鬼頭丈二

不知火:ムーア6:豊洲多恵子(築地多恵)

撃震:ムーア7:早乙女まどか

撃震:ムーア8:

撃震:ムーア9:

撃震:ムーア10:

撃震:ムーア11:

撃震:ムーア12:

・リーア中隊

撃震:リーア1

撃震:リーア2

撃震:リーア3

撃震:リーア4

撃震:リーア5

撃震:リーア6

撃震:リーア7

撃震:リーア8

撃震:リーア9

撃震:リーア10

撃震:リーア11

撃震:リーア12

・ルウム中隊

撃震:ルウム1

撃震:ルウム2

撃震:ルウム3

撃震:ルウム4

撃震:ルウム5

撃震:ルウム6

撃震:ルウム7

撃震:ルウム8

撃震:ルウム9

撃震:ルウム10

撃震:ルウム11

撃震:ルウム12

・フランチェスカ中隊

撃震:フランチェスカ1

撃震:フランチェスカ2

撃震:フランチェスカ3

撃震:フランチェスカ4

撃震:フランチェスカ5

撃震:フランチェスカ6

撃震:フランチェスカ7

撃震:フランチェスカ8

撃震:フランチェスカ9

撃震:フランチェスカ10

撃震:フランチェスカ11

撃震:フランチェスカ12

・ガイア中隊

撃震:ガイア1

撃震:ガイア2

撃震:ガイア3

撃震:ガイア4

撃震:ガイア5

撃震:ガイア6

撃震:ガイア7

撃震:ガイア8

撃震:ガイア9

撃震:ガイア10

撃震:ガイア11

撃震:ガイア12

の5個中隊で60機編成だが、何故不知火の配備が少な過ぎるというと香月女史の圧力によるものだろう。

そもそも小規模である同胞団が不知火を配備させるのは彼女にとっては不釣り合いな考えだ。

それに対し国連軍側は帝国軍の戦力を含めたら膨大な数だ

アメリカ海軍の戦艦まで参戦している

94フルアーマーと94サブレッグ、94ブルG。紅林と鬼頭が乗る不知火、早乙女が乗る撃震だけはXM3搭載しており、それ以外は従来のOSだ。

不平等だと思うが、佐渡島奪還の悲願を達成する為に致し方がない事だった。

「戦術機各部隊は発進急げ!!」

先に出撃し佐渡島ハイヴを迎撃するのはフランチェスカ中隊だ。

「聞け!童貞ども!出撃命令が出た!作戦目標は佐渡島に蔓延る異星起源種の排除だ!!」

中隊長である30代後半の男性衛士はきりっとした表情で部下に言葉を放った

「この3年間待ち構えた甲斐があり、漸くBETAのクソどもを倒す時が来た。BETAの巣穴に手を突っ込むようなクソ任務だが、貴様等のようなクソ童貞にはピッタリの任務だ!!女の味知りたきゃ敵を倒して生き残れ!!分かったか!?」

中隊長の言葉を聞いた部下達は『了解です!!』と言葉を揃えた。

そしてフランチェスカ中隊は全機出撃

「フランチェスカ中隊出撃完了!!」

「陣形を組み作戦区域へ向け前進!!」

戦術機空母『司馬』の艦橋にいる大倉鈴乃大尉は、艦長を務める日系ドイツ人女性将校、クローディア・行成中佐の承諾を得て艦内マイクを使い全戦術機部隊に向け通達する

「全戦術機部隊各員に告ぐ!本作戦の目的は佐渡島ハイヴの消滅、加えて佐渡島の奪還である。この島は現在、BETAの支配領域であり朝鮮半島南部にある鉄原ハイヴへの補給ルートに使われている可能性がある。人類とBETAの戦争は最終局面に近づきつつあり、敵の補給ルートを断つことは、戦局に大影響を与えるだろう!!」

佐渡島の風景が見えた途端、鈴乃はそれを指をさし意固地な顔で言い放った。

「この防壁や家屋、戦術機の残骸があるのは我々の故郷…佐渡島だ!!甚大な同胞の命が失われ、生き残った同胞も今なお難民として辛酸を舐めている。この島を奪還する事は我々の天命である!!」

鈴乃だけでなく同胞団に参加している帝国軍衛士達も同じ思いだ。

早く取り戻したい……故郷に帰りたい―――そう思う者は必ずしもいる。

「故郷を破壊した卑劣な敵を許してはならない!佐渡島再建の悲願を果たすため、我々『佐渡島同胞団』は帝国に貢献し続けねばならない!佐渡島に再びの栄光を!!異星起源種に死を!!」

艦内マイクをクローディア艦長に返した後、鈴乃は急いで更衣室で強化装備を着替え格納庫に向かい自分の機体である94サブレッグに乗り込み、出撃命令を下されるのを待機していった。

フランチェスカ中隊は突撃級の密集したエリアから侵攻する

「光線級重光線級との距離を詰める。ついて来いよ童貞ども!」

中隊各機は次々と戦車級を駆逐していく

ここまでが順調に進み光線級や重光線級の裏をかくことを意図した作戦は危険極まりないものであったが、密集した突撃級の存在が侵攻部隊の盾となることも期待されていた……筈だった。

「突撃級にぶつかるなよ!データリンクだけでは頼るな!自分の勘と腕を信じろ!」

中隊長がそう言った次の瞬間、光線級1体がレーザー照射し管制ユニットに貫通し爆散

「がちょおおおん!!」

断末魔が響き中隊長は戦死した。

「た……隊長!!」

「当てやがった!!」

「中尉、指示を!!」

「お、俺!?」

「かたまるな、散開しろ!!」

「ひええ」

「突撃級の群れを抜けるぞ!!」

突撃級の群れから脱したフランチェスカ中隊は中隊長を喪い、指揮系統が崩れていく

「探せ!!光線級…いや光線属種の位置を…」

カッ!

ドン

「!!」

………。

「あう」

ドドウ

光線級が次々と増え、機体に次々とレーザー照射し撃墜される

「なんで!?なんで奴等は俺達が見えるんだ!?」

「敵の射点位置算出!!無茶苦茶だよ!!」

「くそお!!BETA共め!!」

「撃て!!撃て撃てェ!!」

最後に残った1機は無理強いでハイヴの中に突入を試みるが……

「わあああああああ!!」

カッ!

「イモ!」

ジュッ

重光線級の照射で撃墜され失敗、これによりフランチェスカ中隊は全滅した。

同胞団は戦術機を使い潰す結果となり、残存戦力はムーア中隊、リーア中隊、ルウム中隊、ガイア中隊となる。

「フランチェスカ中隊全機消失!」

「生還した衛士は0です!」

『司馬』の副長である咲野秀介少佐が焦りしつつ嘆きだした。

「情けない……!!帰還した戦術機が一機もないとは!!同胞団本部に増援を頼まねば…衛士の補充も」

「レーダーに感!!光線属種反応!!」

「…」

「群れを作りながら接近!!」

オペレーターの適正な判断で咲野少佐は衛士達に出撃命令を下す

「空母『司馬』はこれより佐渡島に接近する!!ムーア中隊、リーア中隊出撃せよ!」

《――は!》

《直ちに出撃します!》

ムーア中隊は鈴乃が乗る94サブレッグを先頭に立ち、その後ろにいる94フルアーマー、94ブルG、不知火3機、撃震6機を率いり出撃準備

《出撃命令が出た。今回の作戦は我々帝国軍軍人だけでなく佐渡島を取り返す同胞団の軍人も全身全霊かけて戦場に出るんだ。私のケツについて来い!》

先にリーア中隊の撃震12機が出撃しリーア中隊の中隊長がモニターに映る鈴乃に向け敬礼した

《先に行かせて貰いますよ、大倉大尉》

《うむ、リーア中隊はムーア中隊の援護を》

《了解です》

因みにリーア中隊の中隊長の階級は中尉である

謂わば中隊長代理だ。

《ムーア中隊出撃するぞ!》

鈴乃機が先行し後ろの機体は鈴乃機についていく形で出撃した次の瞬間、外の景色が大きく変化した。佐渡島ハイヴから出てきた光線種がいきなり上空へレーザーを発射した

光線種の目標にしている位置からはだんだん佐渡島に近づいてきていることがわかる。

《来るぞ!散開!》

鈴乃は部下に散開させ警戒

急な速度で佐渡島上空に突破

重光線級はさらに激しくレーザーで歓迎。

鈴乃機はレールガンで射出しながらそれを一撃、二撃と躱す。躱して落ちる。

されど天登る雨のごとく射たれるレーザー。やがて躱しきれなくなる。

リーア中隊の撃震が次々と脱落していきムーア中隊が先頭に立ち佐渡島ハイヴに向かう

「このまま突っ込むのか?」

《悠一!》

悠一は悟ったのか92式多目的自律誘導弾システムでミサイル発射し光線属種を殲滅する

「出しゃばってんじゃねぇ!セッションは始まったばかりだぜ」

鈴乃は残りの光線属種でのレーザーの集中砲火から遠ざける。

そのまま跳躍ユニットで落下地点への位置を調整。

……重光線級が迫ってくる。

鈴乃機はその勢いで地面に着地。

素早くレールガンを早乙女機のサブアームに掴まり預け突撃砲へと武装変更

周囲の重光線級はこちらを向き、レーザーの照射体勢へとはいっている。

大目玉にエネルギーを充填するその様を見ながら、思わず笑みがこぼれた。

「あまりに遅い」と。

「距離さえなければ貴様等など雑魚だ!訓練兵時代の私でも、もっとましな射撃が出来てたぞ!」

一番早くに充填がきそうな個体に喰らわせる120mm弾!

そのまま回転しながらサブレッグのバーニアを噴射しつつバランス良く突撃砲を乱射!

次々に重光線級を屠る。屠りながら周る。

この光景を見た紅林や鬼頭、多惠、まどかは驚愕していた

「大倉大尉、凄い動きで……」

「凄まじい射撃だ……」

「これが、佐渡島の……衛士の実力?」

「大倉大尉は的確な範囲で射撃します。『豊洲』少尉とは違いますよ」

皆、鈴乃の動きや射撃を見惚れていた。

キッチリ一回転する間、70体ほどの重光線級はその場に死骸となっていた。

「成功だな。これで光線級撃破のレコードを塗り替える事が出来る……」

長らく待機していたルウム中隊、ガイア中隊が到着。

佐渡島ハイヴ突破までもう少し……目論見通り作戦は大成功だった――――と思った次の瞬間

「大倉中隊長、後方2㎞地点で巨大飛行物が接近してきます!」

「巨大飛行物……?!」

鈴乃はモニターの画面を見た

それに映ってたのは…

「何だあれは!?」

そう、戦術機ではなくまるで動く要塞

その全高は戦術機の約6.5倍もある。

1975年からアメリカで開始された「戦略航空機動要塞開発計画」によって生み出された戦略航空機動要塞の試作2号機、凄乃皇・弐型だ。

鈴乃は情報屋伍代から入手した情報を思い出す

「(白銀武という少年は我々に驚愕せざるを得ない究極のOSを香月女史の監修で開発…オルタネイティヴ計画…00ユニット……横浜基地……)ッ!」

凄乃皇・弐型は00ユニット専用機だ

それを扱えるのは………

鈴乃は凄乃皇・弐型の射程圏内から離脱し部下に命令を下す

「総員傾注!この『巨大飛行物』は味方の機体と判断し我がムーア中隊は離脱する。ルウム中隊、ガイア中隊、リーア中隊の残存衛士は個人の判断に委ねる――強制はしない」

《佐渡島同胞団の戦術機部隊に告ぐ。国連軍A-01ヴァルキリーズの伊隅みちる大尉だ。凄乃皇・弐型の射程圏内から退避しろ。間も無く佐渡島ハイヴに向け攻撃開始する》

鈴乃にとっては想定外だった。

そして下された決断は―――――。

「――――伊隅大尉、御忠告感謝します。丁度この戦域から離脱するところです」

《あとは我々に任せろ。貴様は部下を率いて退避だ》

鈴乃は伊隅大尉の機体を見つつ敬礼

誇らしい笑みを浮かびこの戦域から退避した直後、ヴァルキリーズの不知火13機が一斉砲撃

鈴乃達に襲撃しようとしてくるBETA群は見事に殲滅!

私達は死なない――――もっと頑張らなければいけない

鈴乃はそう思い込んでいた

次の刹那!

凄乃皇・弐型に搭載している荷電粒子砲が放たれた!そして―――

「………ハイヴが、砕けただと…」

この光景を見た鈴乃は凄乃皇・弐型という兵器はどんな威力なのか思い知らされた

それは倒壊ではなく地表構造物が一撃で消去されたのだ。

感涙してる鈴乃を見て悠一が呟く

「俺達の勝利だな……」

「ええ、やっと我々の故郷を取り戻した……ハイヴが砕けた以上佐渡島同胞団の存在意義はもうなくなるだろう」

「いや、まだあるぜ」

悠一は小さな笑みを浮かべる

「え?」

「佐渡島の本来の美しい光景を復興させる。それを成し遂げるこそ佐渡島同胞団の存在意義があると思うぜ」

一撃で構造物が吹き飛んだ――そして再度荷電粒子砲が放つ!

まるで閃光!一瞬にBETA群を全て屍となった。

これで全てが終わったと思いきや―――。

「何だあれは…?」

鈴乃が異変に気付く

砕けたハイヴの瓦礫の下から残存のBETA群が現れ、戦車級、要撃級、兵士級等鈴乃達に襲い掛かる

「まだ残っていたのか!?」

《大倉中隊長!ヴァルキリーズと合流して共闘しましょう!》

駒木がそう進言するが鈴乃は首を振らなかった

「いやここは自分達でやるべきだ。伊隅大尉達に甘えてる暇はない!」

戦車級10体が襲い掛かって来た

「総員砲撃開始!BETA共に我々の力を見せつけてやれ!」

ルウム中隊、ガイア中隊、リーア中隊の残存機体も便乗する形でBETA群を砲撃

次々と殲滅していくが、別の戦車級が50体現れ再度襲い掛かる

そんな最中、弾切れになった機体が次々と続出し脱落。

リーア中隊の残存機体は中隊長含め全滅

ルウム中隊、ガイア中隊も弾切れになる機体が増える。

《リーア中隊全滅!ルウム中隊、ガイア中隊損傷機体続出!無傷の機体は我々ムーア中隊だけになります!》

「グウウ…あとちょっとで私達の―――」

あとちょっとで事が終わる――――佐渡島が救われる奪還できる

鈴乃の思いは今目の前のBETA群により打ち砕かれようとしている

《クソが!近付いてんじゃねえ!》

「紅林!よせ!」

紅林機がマニピュレーターで要撃級一体を叩き付け頭部を陥没させた

そして続いて鬼頭機が120mm弾で応戦

駒木機は左腕に装備している二連装突撃砲で120mm弾を放った。

「絶対やらせない!」

豊洲機が右腕に装備してるアームナイフ型の突撃砲で36mm弾を放ち、アームナイフの先端部分で要撃級10体を薙ぎ払った

さらに早乙女機が36mm弾で要撃級に向け放った。

残存のBETAと戦闘してから1時間後、漸く落ち着いた

しかし安堵に浸ってる暇はなかった

《ムーア中隊、聞こえるか?咲野少佐だ。現状を伝える。『司馬』の艦長、クローディア中佐が国連軍の香月副司令とコンタクトを取り、佐渡島を消滅させないでほしいと嘆願したが残念ながらそれは叶わぬことになり無念であるが佐渡島を放棄するしかない》

「え!!?」

《あの航空機動要塞はG弾20発分の自爆装置が備えている。起動したら貴様等も道連れにされてしまうぞ!早急に離脱せよ》

「少佐!何かの聞き間違いでは!?」

《もう一度言う。佐渡島を放棄しろ……これは同胞団上層部が下した結果だ》

鈴乃達の願望はこのまま果たせぬまま香月女史の思惑で佐渡島消滅を許してしまうのか?

苦渋の決断だった………。

「佐渡島を…」

鈴乃が「佐渡島を放棄する」と言いかけたその時

《そのお言葉聞き捨てにはなりませぬ》

青の武御雷…それに乗ってるのは五摂家の崇司恭子。

恭子は咲野少佐と対峙し反論し始めた

《帝国斯衛軍!?しかも五摂家の崇宰家次期当主の崇宰恭子だと!?》

それは咲野少佐にとっては予想外の展開

《咲野少佐、佐渡島を香月副司令に委ねて彼女の実験道具扱いとして放棄するつもりで?》

《崇宰大尉、何故我々同胞団の決定を反旗を覆すのですか?これは香月副司令が》

《自分の故郷を彼女に託して実験道具にされるのがそんなに嬉しいのか?》

恭子は咲野少佐に鋭い眼光を向ける

それは日本全体の希望…佐渡島に住んでた人達の願望の為に恭子は理解していた。

《国連の香月副司令は佐渡島を犠牲にしてまで消滅を目論んでいる。これは日本人として見過ごす事は出来ない。少佐は佐渡島に住んでた人達を敵回してまで彼女を庇うのですか!?》

《ぐ…それは―――だから香月副司令に》

咲野少佐の優柔不断で恭子は怒髪天状態で喝を入れた

《……いい加減にしろ!その機動要塞とやらの兵器は確とこの目で見た。がどんな理由であろうと佐渡島を犠牲にしてBETA共を排除しようなど言語道断だ!!考え直しなさい。もう一度彼女とコンタクトを取って交渉しなさい!》

恭子の般若顔を見た咲野少佐は怯え焦り出した

《……上層部に報告しなさい――いいわね?》

《ぐぬぬ…》

咲野少佐は渋々恭子の要望を受け入れ戦術機空母『司馬』艦長のクローディア中佐に委ねる

《クローディアだ。恭子様、少佐の不躾な発言をお許しください。あとでキッチリと叱っておきます。香月副司令の事は私にお任せください。もう一度コンタクトを取ります》

《お願いね》

《は――恭子様、御武運を》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東欧州社会主義同盟Side

 

そんなことは露知らず、戦艦『カール・マルクス』の艦橋でベアトリクスは艦長席に座り優雅に遠くから見える佐渡島の景色を眺めていた

「そろそろ佐渡島に着く頃ね」

「はい、でも宜しいんですか?佐渡島は日本帝国領土……我々が介入する大義名分はないのでは?」

ニコラは和気藹々とベアトリクスに話しかける

「ふふ―――その為に香月女史が来る前に先回りしたのよ」

とベアトリクスは誇らしい笑みを浮かべる

香月女史が起案した作戦は佐渡島に住んでた人達が抗議するほどの内容だ。

そう、彼女は最初から佐渡島を無事奪還するつもりは毛頭なく、00ユニットの実験道具扱いとして生贄に捧げる――――これが香月女史の目論見の一つだ

オルタネイティヴ4を成功させるために佐渡島を消滅させる

「香月女史はホントぶっ飛んだ女狐ね。これでは鬼畜シュミットと変わらないわ」

「では――」

「アイルランドに護送する予定のナタリー・デュクレールを潜入部隊の長として利用する。彼女はまだ利用価値はあるわ」

ベアトリクスはタイミングを伺っていた

ナタリーを如何にどうやって戦力の駒として扱うのか?を。

それは1ヶ月前に遡る

ベアトリクスは事前に国連軍の動きを監視しつつ厳戒態勢で各戦術機部隊を佐渡島ハイヴを包囲しつつ現地に配置

ソ連の基地から強奪した日本が開発した試製99式電磁投射砲をデッドコピーし『ビッグガン』を製造させた

無論、正規量産ではなく試作量産と言う形だ

しかし、この兵器には問題点があった

推進剤の消耗は激しく連射不可能。エネルギー充填まで約3時間かかる為だ

そして日本の試製99式電磁投射砲と違い脚架がないと運用できない。

簡単に言えば移動しながらの射撃は不可能と言う事だ

主に配備されたのはアイルランドやイギリス、欧州大陸で戦っている戦術機部隊ではなく第666戦術機中隊とヴェアヴォルフ大隊のみだ。

ベアトリクスは無理強いでもこのBETA大戦を早期終結すべく動いていた

「ビッグガンを早急に配備させるのは困難なのは理解している―――あの兵器は日本の電磁投射砲を参考にした代物よ」

「四方八方からハイヴの中にいるBETAを殲滅できるんですね総帥」

「でも少し予想外の事起きたわ――――空飛ぶ移動要塞がハイヴを砕いたのよ」

ベアトリクスの言葉を聞いたニコラは『?』と浮かび何を言ってるのか理解できなかった

「空飛ぶ移動要塞…?(そんな兵器はありません……とは言えない)」

「それに天羽組の組長さんの頼みは断れないのよ――――香月夕呼という女は仁義外れなのか?彼等は見極めているわ」

佐渡島は日本帝国の領土なのは確かだ。

しかし、その利権を握ってるのは天羽組と言う極道組織―――所謂シマ…縄張りなのだ

その縄張りを香月女史が荒らすのか?天羽組組長は試している

「幾ら日本帝国の領土だと大きい声で叫んでも利権は天羽組が持っている。ハイヴだけ消滅して復興を成し遂げる―――それが佐渡島同胞団の最終目的よ」

「つまりどうしても無傷で佐渡島を取り戻したい――と?」

佐渡島の住民にとっては故郷でありまたそこに住みたいと熱い願望を持っている人達はいる筈だ。

なら何故香月女史は佐渡島消滅させてまでハイヴを叩くのか?答えはもう分かる筈だ

彼女にとっては佐渡島という島は単なる00ユニットの実験道具にしか見えていなかった

「仮に空飛ぶ機動要塞があったとしても、我々がそれを鹵獲するのですか?」

凄乃皇・弐型を仮に鹵獲して戦力の要の一つになるのか?とニコラは疑心暗鬼を生む。

もう一度言うが凄乃皇・弐型は00ユニット専用機―――素人が扱うのはとてもじゃないが不可能と言っても近い

「RBDを搭載した戦術機を空飛ぶ移動要塞にドッキングしたらどうなるかしら?」

それは常識では最も考えられない発想だった

サイコアリゲートルを凄乃皇・弐型にドッキング機能を追加し運用するというのだ。

当然ながらニコラは反論する

「香月女史が絡んでる兵器にドッキングするなどあり得ません」

「ならその00ユニット要素を排除して改良しなさい」

カタリーナから無線が届きベアトリクスは冷静を保つ

《ブレーメ総帥、工作部隊は香月女史が乗り込んでると思われる『最上』の侵入に成功しました。我々もいつでもいけます!》

それを聞いたベアトリクスは艦内マイクで各戦術機部隊を通達し作戦開始の合図を送る

「――――各戦術機部隊に告ぐ。我々は人類存亡の為異星起源種共と戦争してから28年。愚鈍なアメリカや南朝鮮、そして腐敗した国連軍とは違いこの戦争を早期終結しなければならない。奴等の好き放題にはさせない――――現時刻を持って作戦計画21を発動する。不埒な西側諸国の連中に我々の恐怖を植え付けてやれ!我に栄光あれ!」

合図を送った後、佐渡島同胞団の戦術機空母『司馬』艦長のクローディアから秘匿回線がきた

「総帥、佐渡島同胞団の『司馬』から秘匿回線です」

「繋ぎなさい」

「は――」

オペレーターは秘匿回線を繋ぎクローディアと無線通信とのやり取りを始めた

《佐渡島同胞団戦術機空母『司馬』艦長を務めるクローディア・行成中佐です。国連側の作戦はもう把握してると思いますが凄乃皇・弐型に搭載しているG弾20発分の自爆装置を作動させ佐渡島全体を消滅しようと香月女史は目論んでいます》

「この戦争には犠牲が付き物…彼女なら言いそうね――――で?我々にどうしろと?」

《佐渡島を……我々佐渡島同胞団だけでは凄乃皇・弐型の暴走は止められません。BETAの殲滅はともかく佐渡島の住民の居場所をなくすような事はあってはなりません!》

このままでは佐渡島は消滅してしまう

どうすべきか?ベアトリクスは模索する

「(あれを鹵獲出来たら00ユニット要素は排除して戦術機のドッキング機能を搭載した兵器が作れる――だが彼女は鹵獲されたくない為に佐渡島消滅してまで自爆装置を作動させる。ここは同胞団の言い分を受け入れるべき………ね?)国連の管轄下から抜けたら貴方達は香月女史を敵に回すことになるわよ?それでもいいかしら?」

《帝国斯衛軍の崇司恭子大尉もブレーメ総帥と同じ考えだと思います。”どんな理由であろうと佐渡島を犠牲にしてBETA共を排除しようなど言語道断だ”と》

「あの鬼姫と呼ばれる五摂家のね……既に駒は事前に配置している。それを阻止するのは我々東欧州社会主義同盟の役目――――――いいわ、協力しましょう。あの女狐は悪いけど舞台から退場して貰うわ。ニコラ」

「は――第666戦術機中隊に佐渡島に残存してるBETA群を全て殲滅させます」

「宜しい。では始めるわよ――クローディア中佐も働いて貰うわ」

《では同胞団艦隊は合流を?》

「ええ、頼んだわよ」

クローディアとの秘匿回線を切りやり取りを終えた。

そしてこの時は知る由なかった。ベアトリクスが佐渡島の戦域に介入する本当の理由を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐渡島同胞団Side

 

戦術機空母『司馬』 艦橋

一方その頃、佐渡島同胞団側は凄乃皇・弐型の起爆装置を作動させない為にあれこれ必死に奮闘していた

そして漸く香月女史と回線が繋がりクローディアは正直に話した

「香月副司令、やはり起爆させるのは反対です!このままだと我々の戦力は全滅するのは承知です。佐渡島に住んでた人達の事を考慮してください!!」

《それは出来ないわ。事前に聞いてなかったかしら?この作戦は佐渡島消滅するのはやむを得ないと》

「そんなの…貴女の実験道具にしたいだけでしょうが!」

クローディアがここまで怒るのは理解できる

だが香月女史は冷ややかな目線で言葉を言い放つ

《はぁ…佐渡島は私の実験道具ね……クローディア中佐、貴女は何を企んでいるの?私達の計画を邪魔する気?それに佐渡島同胞団は国連の管轄下よ。独断行動は許さないわ》

「ッ!」

《この戦争は犠牲が付き物よ。貴女中心で地球が動いてる訳じゃないのよ―――それに島一つくらいなくなったって何のメリットもないわ。勝利を掴むためには対価を払う必要なのよ》

「………」

《もういいかしら?私は貴女に構っていられる暇がないのよ》

香月女史が話を打ち切ろうとしたその時、足音が響きアサルトライフルを構える複数の兵士が香月女史の背後にいた。

《動くな!動くとテメエの頭を風穴開く》

気配が感じなかった……しかし、銃口を向けられたのは香月女史だけだった

そして……

《ちょっと何よ!アンタ達》

《天羽組の小峠だ。佐渡島の消滅を阻止しに来た。ウチのシマを荒らしやがって…おまけに島ごと消滅だぁ?舐めてんのか!ゴラァ!!》

香月女史の後頭部に銃口を突きつける男は極道組織天羽組にいる武闘派ヤクザ、小峠華太だ。

《小峠……貴方は確か日本帝国軍の元衛士ね。何故極道である貴方がここにいるの?》

香月女史は華太の威圧を受けても動じなかった

《お前等他の奴は手出しするなよ。此奴等は無関係の人間だ――――この艦内にいる乗組員の命は保障する。狙いは香月夕呼…テメエだけだ》

この生々しい会話は耐え難いとは程遠かった。

クローディアはこのまま無線を繋いだままにして一部始終を見る

《要求は何?》

《佐渡島は俺達天羽組のシマだ。利権証明書もここにキッチリと記載している。よく見ろ》

そう言うと銀色のショートヘアの国連軍憲兵に変装してる男は香月女史に利権証明書を渡した

これを見せれば佐渡島は助かる―――そう思い込んでいた筈だった。

《貴方達がやってる事はテロリストと同じよ。悪いけどその要求は呑めないわ。ピアティフ中尉、ヴァルキリーズの状況はどうなっているの?》

《現在、後退中との事です》

《そう、さっさと後退急ぎなさい。00ユニットは回収したわね?白銀》

《はい!無事回収出来ました―――夕呼先生、後ろに誰かいますけど》

香月女史は武とやり取りしようとするが華太が割り込む

《白銀武だな?俺は天羽組の小峠華太だ。見ての通りアンタの先生は人質になっている》

今の状況を把握した武は困惑。

《夕呼先生をどうするつもりですか!》

武の発言を聞いた華太は冷徹な表情を浮かべる

《……作戦は今まで通り遂行しなさい。余計な事はしないで》

銃口を向けられても動じない香月女史は冷静な判断を取っている

《アンタ世界を救いたいんでしょ!ならば今自分がやるべきことを成し遂げなさい!》

武は今の状況を困惑するも香月女史の進言で与えられた任務を遂行する

《分かりました。先生、無事でいてください!必ず帰ってきますから》

武はそう言い残し無線を切った

まだ終わっていない……。

《あー、ごめんなさい。繋ぎっぱなしだったわね》

香月女史は申し訳なさそうにクローディアと話しかける

「いえ、香月副司令……どうなさるつもりですか?」

《佐渡島の消滅阻止ね》

「はい」

香月女史は後頭部に銃口を向ける華太の顔を伺い鋭い目線を向ける

《もし佐渡島を消滅したら本土にいる佐渡島の住民達が横浜基地に来て暴動を起こすだろう》

《たかが島一つで、ギャーギャー騒ぐほど暴れ出すの?》

《たかが一つだと?》

華太は怒髪天状態になり香月女史の胸倉を掴む

《テメェ日本人だろ?キリスト教恭順派を喜ばせてぇのか…ブチ殺すぞ!クソボケェ!》

《離しなさい。もう決まった事なのよ…残念だけど諦めて頂戴》

「香月副司令…貴女って人は」

クローディアは嘆く

折角ここまで来たのに最悪な形で佐渡島は消滅する

こんな事はあってはならない

無論、華太もその一人だ。

《俺だってアンタを撃ちたくない。ただ俺の戦友の…坂崎都大尉の思い出を消したくねぇんだ!アンタだって思い出一つ二つあるだろ!自分の故郷が核爆弾を落とされて喜ぶと思うか?》

《故郷ね…横浜の街があんなに滅茶苦茶荒らされたら誰も喜ばないわ―――でもこれは戦争よ。感情に浸ってる場合じゃないのよ。起爆装置を作動させずに佐渡島に残存してるBETAを全部殲滅する方法はあるの?クローディア中佐》

「一つ、あります」

《何?》

「……東欧州社会主義同盟と手を組みBETAを全て殲滅する事です」

なんと香月女史に東欧州社会主義同盟の協力要請を嘆願した

普通の常識ある軍人とは考え難い行動だ……これはもしや?

《社会主義のオンパレードじゃない。何であの連中と協力しないといけないの?》

「時間がありません。ブレーメ総帥は既に配置したと言ってます」

《……信用できると確証あるの?》

「彼女は有言実行する女性です。必ずやってくれます」

《分かったわ。一応信じましょう…ただその賭けは危険だと理解してるなら自己責任よ。あとは好きにしなさい》

香月女史は面倒臭そうに言ったが、それを聞いた華太はこの場にいる兵士達にアサルトライフルの銃口を降ろした

《賢明な判断だ。ここにいる皆さんも大変ご迷惑をかけてすみません。我々の要求を呑んだと解釈しますよ香月副司令》

《別に…アンタの為にやったわけじゃないから。用は済んだでしょ?》

《では解放する形でこの場から去ります。失礼しました》

要求を呑んだと解釈し安堵な表情を浮かんだ華太は国連軍憲兵に変装した人達を率いりその場から立ち去ろうとするが、香月女史に呼び止められる

そして回線を切断した

「ベアトリクス……信用して宜しいですね?」

咲野少佐が険しい顔でクローディアに言い詰める

「ええ、彼女こそこの戦争を終わらせる最後の希望よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

甲21号作戦は既に発動している

そして国連軍が所有している航空機動要塞、凄乃皇・弐型の荷電粒子砲により佐渡島ハイヴは玉砕

見事粉砕していった

しかし瓦礫の中から残存のBETA群が現れ、国連軍は最悪の場合、凄乃皇・弐型に搭載している起爆装置を作動させ佐渡島ごと消滅させようとしていた

血の涙もない奴等の好きにさせてはならない!

事態は思っていたより深刻で特に帝国海軍の艦隊や戦術機の被害が大きかった。

BETAの数は勿論だが、影響は士気の低下まで至っていた。

そこで俺が取った行動は日本の試製99式電磁投射砲をデッドコピーした兵器『ビッグガン』でサイコアリゲートルに装備しBETA群を叩く

狙いを定め―――真っすぐと

「……」

そして接近してくるBETA群に向け

「ロックオン…」

電磁投射砲の砲門から電撃を放ち長距離射撃した

見る見るうちに消える…消える…消えていく

砲撃を終えると残存のBETAはまだいないか確認する

「これだけ威力あればより早く一掃出来るな―――これが電磁投射砲。凄い威力だ」

エネルギーが0になり充電を開始する。

完了まで2時間掛かる――――推進剤はまだいけるな?

《お疲れ様ダリル君、あれだけ派手にやればあとは私達でも見えるわね。休んでいいわよ》

「しかし…」

《上官の命令よ。休んでおかないと体壊しちゃうわよ》

「ありがとうございます。あと充電切れになりました…残りのBETA群はロックオンしたので後はクシャシンスカ中尉にお任せします」

俺はファムの好意を受け取り小休憩を取る形で居眠りしていった

《寝てしまったわね―――戦車級と兵士級を叩くだけの仕事になったわ》

ラインメイタル Mk-57中隊支援砲を構えてるラーストチカに乗ってるのはシルヴィアだ。

アネットは通常装備だ。

《いいな~。あたしもそれ撃ちたいよ》

《アンタは壊すかもしれないからダメよ》

《ええ~?ちょっと酷くない?》

《事実でしょ》

シルヴィアはアネットと言い争いしようとしたが黒い笑みを浮かんでるファムが仲裁に入る

《はいはい、喧嘩はやめてね。営倉入りたいの?》

《あ、いやアネットにアレを使わすのはまだ早いと思っただけよ》

何の変哲もない会話をしている途中でオープン回線が繋がりベアトリクス直々に指令が下された

強制起床剤を注入され俺は目を覚めた。

プスー

「寒っ…!あ…強制起床剤か…」

《皆、起きてるかしら?今から指令を下す。凄乃皇・弐型を鹵獲しろ。あれは人類存亡の為にBETA大戦を早期終結の鍵だ―――国連側の交信電波で該当の兵器の位置を把握している》

座標は北韓37度59分25秒東経138度28分15秒―――――A-02擱座地点!

ベアトリクスは真面目な表情を浮かんでいるが何か裏がある。

―――――あれは00ユニットでしか動かせないんだぞ!

どうやって運用しようって言うんだ?!

凄乃皇・弐型の位置を確認した後、ヴェアヴォルフの衛士達は了承の言葉を放った

《ヴェアヴォルフ02了解》

《03了解》

《04了解》

《鹵獲作業はヴェアヴォルフが担当する。他はBETA掃討任務を励め!》

カタリーナは強張った顔で俺達に言い向けた

「了解です」

《私から以上だ。無事を祈ってるわね――》

ブツン

妖艶な笑みを浮かぼつつ言い残し回線を切断した。

小休憩が終わり再度今まで通りにスコープで目の前にいる残存のBETA群を狙いを定めた次の瞬間

「―――ッ!」

予想外の事が起きてレーザー照射警報が鳴り響く

なんとそこには要塞級7…いや10体が現れそれと同時に光線級約20体が俺達に襲い掛かる

《総員傾注!光線級、要塞級が出現したわ。各員警戒を緩めないで!来るわよ!》

クソ!充電はまだ出来ていない。

シルヴィアはラインメイタル Mk-57中隊支援砲で光線級1体を目掛けて弾丸を放つ

1…2…3…4…5…そして10体命中!

《このぉぉぉぉっ!》

アネットは前へ出て突撃砲で120mmを放ち光線級を狙い撃った

5体撃破したもののまだ要塞級10体と残存の光線級が10体いる

―――アネットの様子がおかしい。

《あたしなら…あんな奴等にぃ!》

《アネットちゃん!拙いわね…興奮剤が強過ぎて自我が失ってるわ。鎮静剤を打つわ》

ファムは冷静な判断でアネットに鎮静剤を打つ

《ぐ……死ね…死ね…死ね……死ねええええええええ》

鎮静剤の効果は全くない

興奮状態のアネットは突撃砲から長刀に持ち替え、要塞級に突っ込む!

それと同時に要塞級の『鞭』がアネットに襲い掛かる!

バックステップで躱すアネット

力いっぱい操縦桿を握り、フットペダルを踏んだまま跳躍飛行で要塞級の頭部を斬りかかる…振りをして長刀持ったまま突撃砲を再度持ち36mm弾を放った

だが歯応えが……あった!

要塞級1体が崩れ倒れ見事殲滅

だが、安心してる場合じゃない

充電完了まであと50%……まだ撃てない

《はぁ…はぁ…はぁ…》

息を荒げ自我を失ったアネットは別の要塞級に狙いを定める

補給コンテナは………?

国連に援護して貰うと選択肢あるが、応援を要請したら来る前に俺達は死んでしまう。

俺の機体…サイコアリゲートルは『ビッグガン』に繋いだままだ、移動は不可能だ。

興奮状態から5分経過し、漸く正気に戻り自我を保った

《………》

アネットはかつてのテオドール・エーベルバッハみたいに要塞級を1体殲滅したかったのだろう

本来なら無謀な行為だ。

「日本帝国海軍の連合艦隊が面制圧砲撃する筈だ。ここは射程圏外…砲弾には届きはしない」

《市街地の砲撃は出来ないわね――インペリアルアーミーならそう判断するわ》

充電完了まであと60……

別の要塞級がアネット機に襲い掛かる

そして次の瞬間!

俺は独断で充電完了せずに『ビッグガン』の砲門から―――

「見えたッ!アネット、射線上から離れろ!」

即座にアネット機は射線上から退避する…

さらに電撃が放ち目の前にいる要塞級や光線級は殲滅した

『ビッグガン』のケーブルを外し事前に用意していた補給コンテナにある背部兵装担架を接続

《『ビッグガン』から離れるの?危険よ。ファム》

《今のところ問題ないわ。ダリル君、『ビッグガン』はどうなってるの?何か異常はなかった?》

「砲身が使用限界を越えました…」

もう限界だ

あれは放棄するしかない…名残惜しいが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕呼Side

 

00ユニットの試験データは充分取れた

凄乃皇・弐型は人類存亡の為に希望を齎す鍵…だが最悪な事が起きてしまった

凄乃皇・弐型が墜落し機体機能は全て正常にもかかわらず再起動コードが受け付けない

ひとまず死ぬような状況ではないけど――遠隔操作で手記の再起動が出来ない理由は00ユニットが自閉モード

所謂、『人間が気を失ったような状態になっている』

白銀に00ユニットの回収含め戦域離脱するよう指示を出す

作戦プランGに従って最終的には爆破処理の工程に取り掛かろうと模索したが、艦内に何故か天羽組の小峠華太や国連軍憲兵に変装した組の構成員と思われる人間が艦橋に侵入し一時的にシージャック…乗っ取られたのよ。

何故極道組織の一人が『佐渡島を道連れする』ほどの起爆装置が搭載されてるのを気付いたか?

……そんなこと考えるのは時間の無駄よ。

帝国との最低限の約束は守れると確信したが、小峠はそれをよしとはしない。

『佐渡島は天羽組のシマの一つ』だからだ。

とりあえず伊隅には凄乃皇・弐型の自律制御の再起動を急がせた

小峠曰く『佐渡島の住民を敵回す気なのか?』

爆破したら私は天羽組に殺される

爆破しなかったらA-01部隊含め白銀達が巻き込まれ戦死する

苦渋の決断だった――――

そして私は東欧州社会主義同盟との連携する事を選択した。

連合艦隊もほぼ無傷で湾内侵入…奇跡だわ。

ここからが正念場ね――――白銀武。

しかしそうは問屋は卸さなかった――白銀達はよくやってるわね。

伊隅がプログラムにアクセス出来たと私に報告する

《副司令!プログラムにアクセスできましたッ!!》

「―――おおッ!?」

「良くやったわ!それで!?」

《主機の手動制御は全て確保しました!現在、自律制御と起爆プログラムの立ち上がりを―――》

「―――ふっ、副司令!Sエリアに旅団規模のBETA群出現…進路は―――A-02擱座地点ですッ!!」

「――…!」

小峠が再び私の後頭部に銃口を向ける

「おい、シマ荒らしたらどうなるか分かってんだろうな?」

「…」

「―――副司令!」

ああもう…今度は何よ!?

「SWエリアで第二戦隊と交戦中のBETA群が南下し始めましたッ!」

「――――ッ!?」

最悪な形になってしまったわ……

《副司令!プログラムがフリーズしました…反応ありません!》

「何ですって!?全く何処も彼処も何がどうなってるのよ!?」

くっ……爆破作業に取り掛かれない

「テメエ、今爆破作業に取り掛かろうとしているな?」

「……くっ…」

「爆破したらこの場で殺す」

「…BETAが迫ってるのよ」

「関係ねぇ。天羽組のシマを荒らしたら死ぬだけだ。アンタは極道を舐め過ぎた――本来なら射殺すると考えたが生憎そうはいかない」

あくまでも縄張りを荒らされたくないって言うの!?

「プログラムの再起動急がせろ!」

「―――――再起動急いで頂戴」

《ッ……!―――了解》

A-01は現在後退しつつBETA戦闘行っている。

連合艦隊も被害遭ってるが何とか凌いでいる。

どうすれば―――いいのよ!?

と思い悩んでいたその時だった。

なんと東欧州社会主義同盟総帥ベアトリクス・ブレーメから回線が接続された

《思い悩んでるようね――香月副司令》

「ぐ…東欧州社会主義同盟のアンタが何故日本領土である佐渡島にいるの?!》

当然の摂理だ、東欧州社会主義同盟の連中に何故佐渡島にいるのか?疑問を抱いた。

「……天羽組のヤクザが『最上』に潜入したのはアンタの仕業だったのね?」

《ふふ、さぁ?それはどうかしら――――私達がこの戦域に介入した理由知りたい?》

「別に聞きたくないわ――どうせ佐渡島をアンタ達の植民地にしようと目論んでるんでしょ?なら天羽組がここに入ってきてシージャックしたのも…」

《…確かに我々東欧州社会主義同盟は天羽組と協力し佐渡島の利権を入手したわ。でもそれは天羽組が利権を握るという条件。我々ではない―――天羽組の人間は貴女と同じ日本人よ》

この女、最初から最後まで―――――。

《佐渡島は無傷で取り戻す。悪いけど考えが釣り合わないから貴女が掲げる最終手段は納得できないわ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

佐渡島同胞団上層部から直々に指令が下った

それは東欧州社会主義同盟との連携作戦だ

……となると彼奴も佐渡島にいるのか

ムカつくが今はそんな事言ってる場合じゃない

《クローディアだ、ムーア中隊――ルウム中隊、ガイア中隊も…上層部から指令の内容は皆聞いた通り東欧州社会主義同盟の戦術機部隊がSWエリアに向かっている。同胞団艦隊は東欧州社会主義同盟の旗艦『カール・マルクス』と合流し戦力を立て直す》

「……(何故連中が佐渡島にいるのかは聞かないでおくか)」

《所定のルートはもうすぐBETAの支配下になるが我々はそれを阻止するのが任務だ。国連軍や帝国軍の衛士達も奮闘しているが時間の問題だ》

内陸を目指せってか?

脱出ルートは確保してある。

補給は…

《補給についてだが2㎞先に補給コンテナがある。三個中隊分武器と弾薬、推進剤があるからそこに向かって小休憩だ》

《ムーア1了解。これより補給に向かいます》

鈴乃は了承を得た

《では健闘を祈る》

と言い残してクローディアとの交信は切断した

《聞いての通りだ。クローディア中佐は補給を受けた後、SWエリアに展開するBETA群を掃討しながら東欧州社会主義同盟の戦術機部隊と合流しろと言う事だ》

選択の余地はない

こっからが正念場って訳かよ―――。

《紅林、鬼頭、早乙女、駒木、『豊洲』も補給を受けた方が良い。弾薬を装填しないと戦術機に乗ってる意味ないからな》

当たり前だがそうとしか言えない。

疲れたな……小休憩するか

《睡眠剤を打つ。休憩終わったら強制起床剤を打って任務再開するぞ》

「ムーア2、了解」

《ムーア3、了解!》

《ムーア4、了解しました!》

《ムーア5、了解した!》

《ム、ムーア6…了解!》

《ムーア7、了解です!》

あー、ねみぃ…眠たくなってきた――――。

そして俺は目を閉じ補給が終わるまで眠りに入った。

眠りに入ってから10分後、突如強制起床剤が打たれ補給を受けてる機体に乗ってる衛士全員が目を覚ます

プスー

「う!さびぃ!補給は終わったのか……」

《目が覚めたようだな―――ムーア中隊はA-02擱座地点に向かう。ルウム中隊とガイア中隊は後方に当たれ!》

《ルウム1、了解しました》

《ガイア1、了解です!》

「メインカメラ異常なし、マニピュレーターも異常なしだ」

一応、点検しておくか…事故ったら拙いしな。

《推進剤漏れはないな?では移動するぞ私のケツについて来い》

よし、凄乃皇・弐型の位置は把握できた。

あとは伊隅大尉達の所に行くだけだ。

5分後、全ての機体が補給終えた後補給コンテナから離れ、伊隅大尉達がいると思われるA-02擱座地点に向かった。




今回の話は殆どマブラヴSFのイベントシナリオ『命を賭した勝利(甲21号作戦外伝)』を参照して書きました。
マブラヴアニメ第二期始まりましたが、OPEDに第一期の第1話に出て来た佐渡島の少女がヴァルキリーズの衛士として出てきましたね………築地少尉の姿が全く見かけません(-_-;)
どう活躍するのか分かりませんし想像出来ません
と言う訳で次回のお楽しみに
余談ですが、最近ヒューマンバグ大学の動画毎日見ています(笑)


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第30話 Sado Island Recapture Strategy 後編

晴子Side

 

大尉がリフトを使って離脱するまで1分……耐え抜いてみせる!

―私は逃げていた。みんなが戦っているのに、他人事みたいに冷めた目で見て…巻き込まれない場所を探していたのかもしれない―――だから国連に行こうとしたのかも。

だけど今は違う。人類は勝てる。日本を――家族を――弟を――太一を護ってやれる!

「―――凄乃皇がッ!!」

見ると凄乃皇に多くの戦車級が張り付いていた。このままでは装甲を食い破られてしまう。

「しまった!このままじゃ大尉が――――」

 

 

 

瞬間、警告音が鳴り響いた

同時に強い衝撃。首が痛い。機体は大破、そう直感した……筈だった。

ゴロ…ゴロゴロ…

キカ!

ガラガラガラガラ

雷が鳴り響き目の前にいる要塞級に落とした

そして黒焦げになり崩れ倒れる

「え……?」

そして、帝国軍の不知火5機と不知火擬き1機、そして撃震1機が凄乃皇に接近しそのうちの1機が私の機体に駆け寄る

《晴子ちゃん、大丈夫!?助けに来たよ!》

アームナイフ型の突撃砲を構えてる不知火に乗ってるのはXM3トライアル襲撃で茜を庇って戦死した筈の築地多恵だった。

「築地…?」

築地機はアームナイフ型の突撃砲を構え守りに入る

《大丈夫だから…大丈夫だからね!》

《此方佐渡島同胞団ムーア中隊の大倉鈴乃大尉だ。聞こえるか?国連軍の衛士……いやA-01部隊の柏木晴子少尉》

佐渡島同胞団という組織に属する戦術機中隊の大倉大尉が中隊率いて応援駆け付けて来た。

《ムーア2、左側にいるBETA共を駆逐しろ。ムーア3は私の警護だ。ムーア4とムーア5はムーア2の援護に回れ!》

《了解!》

《承服しました!》

《了解です!》

《了解しました》

その様子を見ると、戦車級数体が歯が全部折れたり陥没してる個体も…さらに不知火擬きは長刀を構え最短距離で兵士級数体辻斬りし要撃級は二連装の突撃砲で120mm弾を放ち次々と殲滅していった

「(築地が何故生きてるのかは後回し…今は目の前にいる敵を叩く)」

絶対に許してはならない…どんな理由であろうが私達の仲間を傷つけた代償払って貰うからね!

とは言っても凄乃皇は無防備状態、私は築地に守られている

死の直面を見てしまった私は情けなく感じつつ小さな笑みを浮かべ涙を流した。

泣いてる場合じゃないのは分かってる。

操縦桿をぎゅっと強く握り120mm弾で…私も戦わなきゃ誰が大尉を…!

生きる希望を掴んだ私は120mm弾を放ち接近してくる戦車級BETAを殲滅

それと同時に築地機はアームナイフで凄乃皇に張り付いてる戦車級を次々と斬りかかった

《離れろ!離れろ!絶対にやらせはしないよ!》

次の瞬間、築地機が凄乃皇から離れ…

キカッ

ガラガラガラ

また雷が落とし…凄乃皇に直撃した!

伊隅大尉は未だに凄乃皇の中にいる

無事だといいけど……

《今日の天気は雷か?気象予報は外れたとでも言うのか?》

《外れる事は良くありますからね。大尉―――鬼頭さんはどう思いますか?》

《天候は変わりやすい。いつ雨降るか分からないんだよ紅林君》

《そんなもんですかね……》

戦闘中に会話……随分余裕あるね。

で、一人はジャズを流しながら戦車級や兵士級を駆逐している

その時、見慣れない戦術機が凄乃皇に急接近してくる

撃震や不知火じゃない…あれは、アリゲートル!!?

しかもサブアームに追加装甲が2枚付いている

《東欧州社会主義同盟ヴェアヴォルフ大隊のカタリーナ・ディーゲルマンだ。貴様達を援護に含めその航空機動要塞を鹵獲しに来た》

《待ってください、ディーゲルマン中尉。あれは我々だけでは鹵獲出来ません!》

そりゃそうだよ。凄乃皇は人類の希望ともいえる兵器なんだよ。

何の考えなしで鹵獲する事なんて不可能だよ。

そう思いつつ、東欧州の連中の会話に大倉大尉が割り込む

《ディーゲルマン中尉、それを持ち帰ってどうする気だ?》

《我がヴェアヴォルフ大隊はブレーメ総帥の命を受け任務遂行しに来ただけだ》

《その任務は凄乃皇・弐型を鹵獲なのか?》

馬鹿じゃないの?あれは00ユニットしか動かせない兵器よ。

どうやって運用するっていうのよ

《その通り、その中に誰かがいるのか?》

カタリーナという衛士は凄乃皇に近付くが、コクピットハッチを探してる

《他の者はBETA共を殲滅しろ。私はコクピットハッチを探る》

コクピットハッチを探ってる次の瞬間、一ミリも動かなかった凄乃皇が突如動き出し飛行し始めたのだ

そう、伊隅大尉は手動での自律制御の起動を成功した

それを見たカタリーナは凄乃皇から離れる

《ッ!》

呑気に見ているうちに伊隅大尉から内部無線が繋ぎモニターに映った

《柏木、よくここまで持ち堪えたな!》

「伊隅大尉…」

《……全く世話を焼かす部下だな。あの雷がなかったら凄乃皇は起動できなかった。奇跡って起きるものだな―――帰ったら一から鍛え直してやるから覚悟しとけよ!》

「了解!」

凄乃皇が動く瞬間を見た佐渡島同胞団の衛士達も驚愕していた

《大倉大尉、凄乃皇が…》

《何だと!?馬鹿な…動けなかったんじゃなかったのか?!》

《と、とりあえず退避しましょう!》

《早乙女の言う通りだな。総員退避だ!》

と大倉大尉の号令で戦術機中隊の機体は退避させた。

《逃がすな!あれは人類の勝利を導く兵器だ。傷付けるなよ》

《了解!》

東欧州のアリゲートル5機は凄乃皇に張り付き動きを監視する

大倉大尉はカタリーナの行動は不可解と感じ少し怒りを露にした

《ディーゲルマン中尉!本気で言ってるのか!》

《本気も何もこれは我々ヴェアヴォルフが頂くわ》

ありゃりゃ~、これは全く分かってないね……。

《ふざけるのもいい加減にしろ!あれは香月副司令が作り上げた航空機動要塞だぞ!!》

怒るのも無理ないよね~。私はドン引きするよ。

《……貴様にどう言われようと私の勝手だ》

その時、カタリーナ機が鈴乃機に突撃砲の銃口を向ける

《人類は必ずしも絶対に一つにはなれない……ブレーメ総帥の名言よ。それを忘れたのか?貴様は》

確かにそうだけど今は人類を一丸として戦わなきゃいけないんだよ

揉め事なら他に当たってよ

《だが、それを覆そうとしてる少年がいる!》

《誰だ?》

《国連軍の白銀武だ―――一人の少年が我々人類に希望を与えた英雄だ。彼も必死に奮闘している》

《たった一人の少年が英雄だと?ふふ、まるでテオドール・エーベルバッハね。要塞級殺しや東ドイツの英雄と称えられていたのに今はテロリストに墜ちた…白銀武と言う少年も何れエーベルバッハみたいに闇墜ちするに決まっている!》

怒声を上げ生々しい会話をしてる二人を見て私は呆然とした

このまま仲間割れして対人戦になりかけるがカタリーナは冷静に対処した

白銀達は既に『最上』に向かって後退している

となれば……?

《どうかな?その少年を甘く見ているな》

《何が言いたいの》

私は二人の会話に介入し、説得させる

「白銀君の事、そんな風に見ていたのですか?」

《そんな風に?》

「彼はそんな事するような人じゃありません!私は分かります。白銀君が00ユニットを必死に守ってまで回収し私達の為に頑張っている――発言を撤回してください!」

《……》

全員沈黙

1分後、カタリーナは申し訳なさそうに私達に謝罪した

《…発言を撤回するわ。申し訳ない…彼の苦労が理解してなかったわ》

私はその言葉を聞いて安堵な表情を浮かんだ。

白銀達は上手く後退したみたいね……あとは凄乃皇を―――。

そして、甲21号作戦は終局に近付いてきた………あとは頼んだわよ白銀君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

 

東欧州社会主義同盟所属戦艦『カール・マルクス』艦橋

 

「ヴェアヴォルフ大隊、SWエリアに到着。BETA群と交戦し始めました」

「同時にXG-70が再起動確認。ヴェアヴォルフ大隊のカタリーナ・ディーゲルマン中尉の判断で誘導しています」

「佐渡島同胞団の戦術機部隊と合流、戦闘に入りました」

「戦車揚陸艦『ツヴァイクレ』、佐渡島にてT-72戦車部隊『クリーベル』の上陸を確認!」

「南沙諸島から朝鮮人民軍の艦隊や戦車揚陸艦、戦術機部隊が佐渡島に接近し増援に参りました!」

騒がしいけど、皆頑張ってるみたいね

国連軍とインペリアルアーミーも奮闘してるけど時間の問題…後退し佐渡島から離れる筈よ

「上手く行ってるみたいね―――ニコラ」

「はい、切り札使いますか?」

ツァーリ・ボンバツヴァイ…同胞国であるソ連が開発した爆発規模が最大の水素爆弾ツァーリ・ボンバをG弾2~5発分搭載した曰くつきの水素爆弾。

これを投下するのは………必要ない

「いや、アレの投下は凍結しましょう」

「え?しかしハイヴを攻略するには反応炉を」

「RBDを搭載したサイコアリゲートルなら反応炉を破壊出来る筈よ」

「サイコアリゲートル……ダリル・ローレンツ一人で?」

無理と言いたいのねニコラ。

………いや、無理とは必ずしも言えないわ

「ただの戦術機とは違うのよ。彼なら必ずやるわ」

今は見守るしかないわね

そう思った次の瞬間、オペレーターの一人が私に報告した

「第666戦術機中隊!A-02擱座地点に到着!」

「直ぐに移動しろと伝えろ。場所は佐渡島ハイヴの中にある反応炉だ!」

「は!第666戦術機中隊応答せよ!此方カール・マルクス、第666戦術機中隊応答せよ!」

《此方シュヴァルツ01、了解。移動を開始します》

《シュヴァルツ02、了解》

《シュヴァルツ03、了解》

《シュヴァルツ04、了解――――ブレーメ総帥、反応炉に行けばいいんですね》

時間がないわ、急がせるか

「ああ、途中で佐渡島同胞団の戦術機部隊と合流するから彼等と協力しなさい。ダリル少尉、貴方一人で反応炉に行くのよ。その戦術機があれば今までの戦術機より遥かに敏感に反応すると証明できる。出来るわね?」

私が望む答えは来るのか……分かってはいるけど

《はい!やってみせます!あと敬礼が出来ず申し訳ありません》

「ええ、頑張ってね」

私はモニターに映ってるダリル少尉に向け敬礼し彼等を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

東欧州社会主義同盟の連中と合流した俺達だが、不穏が感じる

何か裏があるんじゃないか?と

だが今はそんな事どうだっていい

俺達はあくまでも鈴乃達の思い出の場所を守らなければいけない――そう決意して化け物の巣穴に突っ込もうとしている

「残弾はまだ余裕がある。巣穴に入るまでは持つかどうか分からないが、やってやる…やってやるぜ」

ハイヴは既に凄乃皇・弐型によって砕かれた

しかしまだ中にBETAがうじゃうじゃといやがる

俺達だけで…彼奴等と組んでまでやれるのか?

……出来る訳がねえ

しかし弱音を吐いたら自分が死ぬだけだ

《ハイヴが砕けたとはいえここにいるBETAはまだ健在だ。消耗戦になるが覚悟は出来てるな?》

覚悟は出来てるさ、鈴乃。

俺は「はい」と一言を言う前にカタリーナが割り込む

《中途半端な覚悟だったら貴様が死ぬだけだ。腹を括れ》

言うじゃねえか……。

凄乃皇・弐型と国連軍の不知火は健在だ。

不知火に乗ってるのは伊隅大尉か柏木少尉のどちらかだ。

《フランチェスカ中隊の機体の残骸です…全員やられたんですね》

《ああ、彼等はよく頑張ったと思う》

最初に突っ込んだ中隊か………

ハイヴを攻略しようとしたんだ…無駄死にではない。

気合を引き締めて目の前の現実を受け入れ異星起源種との戦いを挑もうとしたが、突如クローディアからオープン回線が繋がれた

《我々佐渡島同胞団は東欧州社会主義同盟の艦隊と無事合流し朝鮮人民軍の戦術機揚陸艦3隻とフリゲート艦1隻や戦術機部隊も加勢していくそうだ。ムーア中隊はヴェアヴォルフと合流したな。帝国海軍と国連軍は佐渡島から戦線離脱した…》

《クローディア艦長、まだ離脱していません》

隣にいる咲野少佐がツッコミを入れた。

おいおい、勘違いかよ…こっちの世界のクローディアは抜けてるところあるな

俺が知ってる『クローディア・ペール』と全く異なるようだ……。

《…国連軍A-01部隊『ヴァルキリーズ』隊長、伊隅みちる大尉聞こえるか?》

クローディアは手動での自律制御で飛行している凄乃皇・弐型に乗ってる伊隅大尉に問いかける

《クローディア中佐、何用で?私は副司令の命令を従ってる一衛士です》

《分かっている。貴女を巻き込んでしまって申し訳ないと思ってる》

《いえ、其方も苦労なされてますね。心中お察しします》

まぁ、伊隅大尉は香月女史の命令に従ってるだけだから彼女一人の責任ではない

香月夕呼……狡猾過ぎるマッドサイエンティストだ。

《中佐、私の部下達に最期の言葉を伝えたいのですが、許可を願えませんか?》

伊隅大尉はこう嘆願する

《香月副司令と話したいのか?》

《それも含めてです》

《……分かった。許可する――――》

柏木少尉は伊隅大尉の言葉を聞き黙ってるわけではなかった

《大尉!それでは私も…》

《ああ、記録上戦死した事になる。私はここで退場させて貰うよ》

伊隅大尉の決意は変わらなかった

自分が死んでも部下が受け継いでくれて最後まで戦い続けると。

「…」

俺は静かに黙るしかなかった

鈴乃は悲しげな表情で言い放つ

《伊隅大尉……理解した上でそう言ってるんですか?貴女が死んだ事になれば二度と部下達の顔見れなくなりますよ》

《柏木も一緒だ》

と伊隅大尉は前向きで言い放った。

《大倉大尉、本土に帰ったら香月副司令に頼んで病院に私と柏木の死亡届を作成してくれ。そうしたら私達は一生消え続けてやる》

………。

《伊隅大尉……》

《私と柏木の死体を確認したと白銀達に伝えてくれないか?地球にいる人類を守る為なら喜んで死んでやるさ》

クローディアは伊隅大尉の頼みを呑み咲野少佐にそれを伝える

《…何で…何で貴女だけこんな……!》

鈴乃は悔しい表情しつつ涙を堪えた

《各戦術機部隊に告ぐ!伊隅大尉の『最期の言葉』として国連軍の…帝国軍の秘匿回線を繋げ。咲野少佐》

《了解しました、クローディア艦長》

《全員静粛!》

そして俺達含め他の戦術機部隊の衛士も静寂に…なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀Side

 

俺は元の世界に戻る為―――地球にいる人類を救ってBETAを倒すべく夕呼先生が主導するオルタネイティヴ4を完遂する為に奮闘している

横浜基地に残ったまりもちゃんも冥夜や委員長、彩峰にタマ…美琴を見送り俺達の帰りを待っている

全てを終わらせるべく先生は佐渡島を犠牲にしてBETAを殲滅しようとしていた

それは人類の勝利を掴む為だから犠牲は付き物だと俺は割り切っていたが…俺にも予想できなかった出来事が起き、天羽組っていう極道組織の小峠がそれを阻止してまで夕呼先生達が乗ってる戦艦を乗っ取ったんだ。

佐渡島は天羽組のシマの一つだ―――この時はまだ知らなかった。

裏に東欧州社会主義同盟が絡んでいた事を……。

それを知った俺はどうすべきか?

今はそれを考察してる場合じゃない。00ユニットを…純夏を…そしてここにいる人達を守らなければ!

巨大なモニターの全面には、伊隅大尉が映し出されている。

その顔は以外にも清々しく思えた。そのモニターの前には俺がいる。本来、私的な通信は不要なのだが戦艦最上に、帝国側の指揮官達が要請し、有線の秘匿回線を繋いでくれた。

――――大尉…数分後にはもういなくなってしまうなんて…

ダメだ…!顔に出すな!!

俺が大尉に返せるとしたら衛士として一人前の態度を見せるくらいしかないんだ…!!

《―――白銀》

大尉が話し始め俺に最期の言葉を投げかける

《…00ユニットは無事らしいな。よくやったぞ》

「…ありがとうございます。あの…そっちは大丈夫ですか?」

《ああ―――主機に雷に打たれて動いたからな。ラザフォードフィールドが守ってくれている》

凄乃皇は無事動かすことが出来たんだ

でも、数時間は持たないだろう…。

《佐渡島同胞団の連中と東欧州社会主義同盟の連中が揉め合っていたが、今は落ち着いている―――副司令の取り計らい、多少気が引けるのは確かだ》

「え?」

《全く…貴様ももう少し広い視野を持てればいいんだがな。私は何人もの部下を殺し、多くの人の死を関わって来た私にはこのような死に場所を与えられただけでも十分なんだ》

「そんな………大尉は立派じゃないですか…自分の生命と引き換えに多くの人達を救うじゃないですか…ッ!!」

こんなのってアリかよ

大尉がいなくなるなんて俺は…俺は…!!

《勘違いしてるようだが白銀にも言っておく。私の本音は貴様が思っているほどの御立派なものじゃないんだ》

え…?

《今、私が一番強く思っているのは、結果的に救う事になった多くの命の事でも人類の未来でもない。ましてや神宮司軍曹の事でもない――――》

何処がいけないんだ―――!?

大尉はオルタネイティヴ計画の為にずっと自分の手を汚してまで戦ったんだ!

人類の為だろうが戦友の為だろうが家族の為だろうが…汚れ役をやって来たのは事実だ!!

「結果的に大尉のおかげで多くの命が救われるのは事実じゃないですか!?最後の数分に―――心の中で家族や恋人の事を考えるのはそんなに悪い事ですかッ…!?…俺は誰がなんと言おうと大尉を尊敬します。大尉の行いは――――立派だと思いますッ!!」

…くそっ、泣くな。ここで泣いちゃダメだ。

ここで俺が涙を見せちゃダメなんだ…!!

《…白銀、部隊の連中を頼んだぞ。貴様の強さをみんなにも分けてやってくれ…》

「…俺は全然強くありませんよ…」

《白銀―――貴様は十分強い。貴様の戦う理由が何処か達観している訳が、貴様が特別なのだと感じる訳が…今日ハッキリ分かった》

「え…」

《…00ユニットの被験者は貴様の恋人なのだろう…?》

―――――…!!

大尉は知っていたのか…!?

《貴様が名を呼んで彼女を抱き起こしたときに分かった。純夏と言う名は昨日聞いていたからな…》

………。

《―――貴様と彼女に降りかかったであろう。悲劇と心の傷の深さは…想像を絶する。00ユニットの真実を知りながら第四計画の中枢任務を熟すなど――――私には絶対に耐えられないだろう。今までの貴様の働きを思い返すと貴様の強さを知ると同時に自分の弱さが情けなくなる―――》

「違います…!大尉が考えているようなことじゃ…!!」

俺はそんな大層な事してない――ただ純夏を守りたいだけなんだ。

《多少の違いなど問題じゃない。彼女に対する貴様の態度を見ればわかる…》

大尉は最初から気付いていたのか

《貴様がたまに見せる甘さ――というか独特の優しさは、私が今までに出会った誰もが持っていないものだ。それだけの悲劇を体験しながらそういう優しさを失っていない貴様は…強いと思う》

伊隅大尉は俺の事を一人前の衛士として認めてくれた

これは事実だ―――俺が行った事は全て無駄じゃなかったんだ

《そして、衛士としての才能も持ち合わせている…もしかしたら貴様は『人類の救世主』なのかもしれないな…》

そんな事は無い…と言い切れない

俺はその甘さの所為で散々人に迷惑かけて来たのに…!

救世主…俺はそうありたい

でもそれは俺一人じゃ出来ない――――

だから大尉や神宮司軍曹のような人達が傍にいて欲しいのに…!!

《今日の戦闘での貴様は――とても新任とは思えなかったぞ》

「…それは大尉のおかげじゃないですか。大尉がしてくれた催眠療法があったからで――」

そうだ、俺一人で努力を重ねてきた訳じゃない

みんなのおかげだ

《ふふ…安心しろ。貴様はそれを自分で克服したんだ。あの時貴様が受けたのは特殊な効果は何もない――ただの安静プログラムだ》

…!?

《この作戦が終わったら種明かしをするつもりだったが――伝えられてよかった。――これで文字通り…貴様に怖いものはなくなった筈だ》

そうか――大尉は俺に自信をつけさせようと…

「…はい、ありがとうございました…」

《さて―――長くなってしまったな。皆にもお別れさせて貰おう》

もう――――大尉とはこれで…!!

俺は涙を堪えつつモニターに映ってる伊隅大尉に敬礼した

そして同時に大尉は敬礼し返した。

「…お世話に――なりましたッ…!!」

涙が止まらない…これで本当に、別れるなんて…いなくなるなんて

《…泣くな…男だろう》

もう、堪えられない―――

「…ッ……す…すみませ…ッ…――――オレは…ッ。もっと大尉に…色んな事を、教えて…貰いたかったのに…………っ!!」

《……》

……悔しい

正直悔しい……一人の衛士を助けられないなんて

「……ッ。く……」

《―――私も多くの先輩と同じく基地に咲く桜となって貴様達を見守る。何かあったら…桜並木に会いに来い。人類を…頼んだぞ》

「……はい……!オレが…オレが必ず守ります!」

《…さらばだ…白銀》

「……さようなら、大尉ッ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大尉の最期の立ち会い――――そのモニターの前にはA-01部隊のメンバーが揃っている

本当にこれが最期なんだと俺は確信した。

全員何も言わずにモニターに映ってる大尉に敬礼を行う

《―――伊隅だ。困難な任務ばかりであったが…今日までよく耐え私について来てくれた。貴様達は最高の衛士であり私の誇りだ》

タマ、委員長、美琴、彩峰、冥夜も―――俺も含めて最高の衛士だと大尉から評価された

《任務半ばで先立つことは甚だ遺憾であるが、貴様達であれば安心して後を任せられる。私亡き後も人類の勝利とオルタネイティヴ4完遂に向け、これまで以上に精励してくれることと確信する》

そう言い告げると速瀬中尉に言葉を放ち、A-01部隊の後釜を託す

《―――速瀬、部隊の指揮は貴様に任せる…宜しく頼むぞ》

「――――はい!お任せください!」

宗像中尉も大尉に向け名残惜しそうな表情を浮かびながら言葉を放った

「大尉…お世話になりました。あの世は退屈でしょうが…暫く我慢していてください。いずれ私も―――」

《―――余計な心配はするな。向こうには柏木達もいる。貴様達の顔は当分見たくない》

「大尉…」

《…貴様達は急がなくていい。私達だけで十分だ》

「……」

速瀬中尉の顔を覗くと誇らしい表情を浮かんでいた

……俺達は、大尉の――伊隅大尉の遺志を継ぐんだ。

それを成し遂げなきゃいけないんだ。

《神宮司軍曹の言葉…忘れるなよ》

「――――はい!!」

そして涼宮中尉に最期の言葉を投げかけた

《―――涼宮》

「…はい」

《部隊を頼む…戦場でも後方でも、貴様の存在が部隊に与える安心感はとても大きい。速瀬を上手く扱えるのはお前だけだ――――しっかりやれ》

「―――はい!」

これが…残された時間でA-01の部隊長、伊隅みちる大尉の最後の仕事…全て俺達に―――。

《――白銀》

「―――はい!」

《せっかく貴様に教えて貰った温泉作戦…決行できず無念だ。その代わり―――貴様は必ずあの命令を遂行しろ》

「…はい。必ず―――今までの償いをします!」

《…よし、後は頼んだぞ》

「―――はいッ!!」

みんな―――安心してくれ。俺が…俺達が必ずBETAを殲滅するから

そして――――全世界の人間が戦場に出なくて済むようにするから……!

必ず、やり遂げてみせる!

絶対に―――俺はこの時そう決意していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

我々佐渡島同胞団は国連軍A-01部隊の長、伊隅みちる大尉の嘆願で部下達に最期の言葉を投げかけた

静寂の中、私達は伊隅大尉の言葉の真意を、理解したような気がする

そして30分後、漸く終えた

《――…―――終わった…》

《もう、宜しいですね?》

《ああ、部下達には会えないのは寂しくなるが――致し方あるまい》

『司馬』艦長のクローディア中佐は伊隅大尉の嘆願を応え、少し笑みを浮かんでいた

仕事を終えたように安堵していた。しかし

《間も無く佐渡島ハイヴに近付きます!》

ムーア中隊の他に後方に任せてるルウム中隊とガイア中隊がいる

さらに東欧州社会主義同盟のヴェアヴォルフ大隊まで佐渡島の戦域に介入していた

「総員傾注!」

私は号令をかける

「もうすぐBETA共の巣窟に向けこれを殲滅する。が我々だけでは戦力が足りない。ヴェアヴォルフ大隊と共闘しハイヴの中にいるBETAを全て殲滅させる!気を引き締めていけ!」

《――了解!》

部下達含め他の中隊の衛士は私の指示に従い既に砕けた佐渡島ハイヴに向かった

当然、BETAも私達に襲い掛かってくる

「漸くお出ましだ―――各機、敵を殲滅せよ!我に続け!!」

《おっと、俺も行かせてくれよ♡》

悠一が乗る94フルアーマーが94サブレッグの隣に寄せつつ砲撃準備を整える

《アローヘッド・ワンで仕掛けるぞ!悠一!》

《OK!合言葉はトラストだな?》

もう、すぐに調子に乗って……それが貴方の個性ね。

《承服しました!》

駒木は以前よりやる気が出てるな―――その顔はまるで歴戦の衛士だ。

速度を上げ最大全速で全機飛行しつつ外のBETAを…殲滅する!

戦車級や兵士級などの小型種が少数だった為すぐに殲滅したのだが、ここで詰んでしまった

「ッ!」

《どうした、鈴乃!?》

「…入り口が塞がれてる(何と言う事だ。これでは無駄死になるだけじゃないか…クソ!もうすぐ取り返したのに)」

ハイヴは砕け切っている

原型もなくだ

しかし入り口が塞がれてはどうしようもない

……ではBETAは何処から出て来た?隙間からか……隙間!?

「早乙女、レールガンはあるか?」

《は!ありますがそれで何をするのです?》

早乙女は預かったレールガンを返し、それを構え隙間を狙いに定める

「凄乃皇・弐型の荷電粒子砲を頼るのもアリだが、伊隅大尉はそれを動かすのがやっとだ」

《申し訳ない――私はそれを動かすだけで精一杯だ。だが、守りには活用出来る》

ラザフォードフィールド………それしかないか。

突如、柏木少尉が乗る不知火が地上に着陸し動きが止まる

《柏木、貴様はここまでだ。よく守ってくれた》

《いえ、面目ありません。私は指示に従っただけです》

ん?左側の跳躍ユニットが破損している。しかも推進剤漏れだ

このままハイヴの中に入って戦っていたら間違いなく即死だ。

《ヴェアヴォルフ、聞こえるか?》

伊隅大尉はヴェアヴォルフに任されてるカタリーナに言い向ける

《何だ?》

《柏木を頼む。勝手に粛清はするなよ―――その時は、貴様を撃つ》

カタリーナは小さな笑みを浮かびこう答えた

《ふふ、今は共闘してる身。やらないわよ?命の保証は…約束するわ》

その目は濁っておらず嘘を吐いていなかった

本当だと確信する

「少し離れてください」

私はレールガンでハイヴの隙間を目掛けて放った

そして、その衝撃で中にいるBETAが外に出る

《大倉大尉!BETAが出てきました!》

《戦車級、兵士級に要撃級…小型種ばかりだがまだ中に大型種がいるかもしれん》

紅林は戸惑いつつ驚愕してたが鬼頭は冷静にBETA属種を特定した。

ハイヴの外に出て来た戦車級、兵士級、要撃級はまず早乙女機に襲い掛かる

《……死に晒せ!この化け物共がッ!!》

ガガガガガガガガガガ

早乙女機は120mm弾で応戦、戦車級を次々と撃破!

まだまだ数が増える……早乙女機は怯まず再度120mm弾を放った

ガガガガガガガガガ

《駒木中尉!援護を!》

《分かったわ!早乙女、無茶はしないで》

駒木が乗る94ブルGも加勢し早乙女機を援護!

2連装突撃砲で120mmを放った

早乙女機はサブアームについてる追加装甲2つを管制ユニットに覆い尽くす形で守りに入り突っ込む

《異星起源種が……舐められたら衛士を語る資格はありません》

次の瞬間

《粉々にしてやる……!》

早乙女は普通の女性とは思えない威圧をかけた顔になり目の前にいる戦車級数体を目掛けて120mm弾を放った

駒木はそれを便乗する形で兵士級数体に120mm弾で迎撃

見る見るうちに数が減っていく――――私が出る幕ではないと思ったがそうは問屋は卸さない。

私もレールガンで要撃級に向け放つ

しかし連続で使用したら当然の如く、弾が切れてしまう

補給コンテナは恐らく仮にあるとしたら間に合うかどうか分からない

1時間後、放出されたBETAはこれで全部殲滅…問題は中にいるBETAが何匹いるかだ

「各機、残弾報告!」

《弾と推進剤は節約して温存している。まだいけるぜ》

《120mm弾の残弾数があと5発です》

悠一はまだいけるのか…駒木は120mm弾除いてまだ余裕ある―――と。

《拳で戦ってきたので弾はまだあります!》

《同じく》

《まだいけます!》

紅林、鬼頭、『豊洲』もまだいけそうだな。

「紅林、マニピュレーターが壊れるぞ。突撃砲を使え!」

《了解です》

全く、しょうがないな――――しかし紅林が倒したBETA数体を見るとどれもこれも陥没してる

特に兵士級は原形を留めていない……。

《折角武器あるんだしさ、有効的に使おうぜ。ガンダムファイトかよ》

悠一は困惑した顔で紅林にそう言った。

確かに言える。BETAを倒す方法は基本的に突撃砲と長刀、短刀の3つでシンプルな武装だ

――――ん?ガンダムファイト…って何だ?

《あの、ガンダムファイトってなんスか?何かの競技ですか…?》

《いや、拳と拳で語り合う競技だ。まぁ、そういう作品に出てくる競技だけどな》

《あ、なんだ架空の競技なんスね》

作品内に出てくる競技か

「そもそも戦術機は『ガンダムファイト』という競技に当てはまらないだろ?TSFファイトなら分かるが」

戦術機同士の拳の語り合いの競技なんてある筈がない―――あったらオリンピックの競技の一つに含まれるのか?

…今はそれどころじゃない。伊隅大尉がここにいるんだ。集中しなければ中隊の士気が下がってしまう

《収まったみたいだな…》

「ええ、だがこの穴の広さでは凄乃皇・弐型は入れない」

レールガンで隙間を広げたのはいいが、この大きさでは凄乃皇・弐型は入れない

終わったな………と思っていた

「(古いデータだが、これを賭けるしかない)総員傾注!今からハイヴの中に突入しBETA群を殲滅する。ハイヴの構造データを送る」

私はハイヴの中の構造を掲載してる貴重なデータである『ヴォールクデータ』を各戦術機部隊の衛士に送信した

《これって、ハイヴの中の構造か!?》

《大倉大尉、これってまさかと思いますが…》

「ああ、そのまさかだ」

これを見た悠一と駒木は唖然

《大倉大尉、これってヴォールクデータですよね…?当てになるんですか》

「ハイヴの構造のデータはこれしかないからな。他にあったら誰か教えて欲しいものだよ」

疑心暗鬼だが、攻略するにはこれを賭けるしかない。

私は戸惑いを見せず、戦術機が入れるほどの穴に恐る恐る入る

《おい、どこ行くんだ!そっちはBETAが沢山いるんだぞ!》

「だからこそ入るんだ。何を怖がってる悠一――――お前らしくないぞ」

《鈴乃…》

凄乃皇・弐型はここまでだ。

伊隅大尉には悪いがここで待たせる術しかないな

察したのか伊隅大尉は凄乃皇・弐型の動きを止め着陸させた

《大倉大尉、中は危険だがやると思えばやるしかない――与えられた任務は全て遂行すべきです》

伊隅大尉……その通りだ。

一衛士として与えられた任務は遂行するのみ…それは理解している

「突入の合図をカウントダウン5秒数えろ。早乙女!」

《は!カウントダウン開始します――5……4………》

緊張感が走るこの鼓動

心臓がバクバク動いている――――。

《……3……2………1……》

次の瞬間

《0!》

「全機突入!」

カウントダウンを終え合図を送り他の戦術機部隊を連れハイヴの中へと入る

その中は――――――まるで別世界であり至る所にBETAがうじゃうじゃと沢山いた

数は………約数百万

《おぉ……》

《何これ……》

《なんじゃあ!これは》

《こ、これが佐渡島ハイヴの中なのか……秘境ハンターとしての私はこれを求めていた!》

鬼頭が佐渡島ハイヴの中を直視し『秘境』と言葉が出て来た。

「鬼頭、確かにそれは言えるかもな。だがここは秘境ではない!」

《分かっています。我々はあくまでも異星起源種の殲滅のみ――――危険だと承知です》

なら良いが……彼奴は彼奴なりの解釈があるだろう。

《伊隅大尉が叩こうとしたハイヴの中……私達生きて帰れるんでしょうか…?》

『豊洲』が半泣きで私に問いをかける

「我々衛士は殲滅だけではなく生きて帰るのが任務だ。『豊洲』」

『豊洲』なら理解してる筈だ

《はい!》

「……宜しい――――総員砲撃開始!」

私は砲撃を命じて部下達が乗る機体は前へ出て突撃砲を構え120mm弾を放った

殲滅していく戦車級。だがまだまだ増え続ける

駒木が乗る94ブルGは120mm弾を一発、戦車級に放つ!

《く…残弾4――――》

次々と殲滅していくがまた増え、増えて増え続けていく

《大尉!この数、キリがありませんよ!》

「弱音を吐くな!早乙女。最後まで戦い続けるんだ!」

《了解!》

そう言いつつ、やがて後方支援していた機体が次々と脱落

「……このまま突っ込むぞ!」

そしてガイア中隊が全滅され、残ったのはムーア中隊とルウム中隊のみ

これ以上の戦闘は危険だと判断しカタリーナに回線を繋ごうとしたが

「ヴェアヴォルフ、応答せよ!ハイヴの中がBETAだらけだ。これ以上の戦闘は危険だと判断と見做す――――援護を!」

繋がらなかった

恐らく無視してるだろう――――自分だけ無傷で生きて帰るのか!?

最早、今度こそ詰んだ……そんな時だった。

《此方第666戦術機中隊、ムーア中隊援護します!》

「ッ!?」

機体はラーストチカ。左肩にあるエンブレムは――――

《666中隊だと!?》

《え…?》

《うお…》

《このエンブレムを見る限り、本物のようだ》

《…》

《佐渡島に……何故この戦域に?》

皆戸惑うだろうな。欧州戦線にいる筈の戦術機中隊が佐渡島の戦線に介入しているんだ

あり得ない……と思ったが。

数は12機か……それでも足りない

と思いきや今度はアリゲートルを編成した師団規模の戦術機部隊が突如ハイヴの中に入り攻撃を仕掛けた

《此方朝鮮人民軍第1022戦術機甲師団『ピョンヤン』だ。日本の衛士達、援護するぞ!かかれぇ!》

なんと朝鮮人民軍―――北朝鮮の戦術機部隊が私達の援護しに来たのだ

北朝鮮はベアトリクスが支配する独裁国家の一つであり本当に生きる資格がない外道だけ裁く国家としてイメージがあるが正直なところあまり良い印象ではない

だが、今は西と東は関係ない!互いに手を携える時だ!

「援護感謝する!動ける者は前へ出て駆逐しろ!そうでないものは退却せよ!」

ルウム中隊は戦線離脱。ハイヴから脱出した

そしてムーア中隊は今援護に来た第666戦術機中隊と北朝鮮の戦術機部隊と共闘!

一気に片付ける!

666の機体12機のうち1機が閃光のようなスピードで突撃砲を放った

《サイコアリゲートル……ダリル・ローレンツか!》

悠一は戸惑いを見せずそう言い放った

ダリルとはユーコンの時何度も助けてくれたり悠一とレッドフラッグで模擬戦を繰り広げた衛士だ

彼の手脚は義手義足……これがリユース・ベアトリクス・デバイスの力、いや能力。

彼が駆けるサイコアリゲートルは軽々と光線級重光線級のレーザー攻撃や要塞級の『鞭』攻撃を躱しつつ連続砲撃!

そんな時だった。ハイヴの中に国連軍の不知火1機単体でBETAと戦闘中の94ブルGに飛び掛かる!

《!》

駒木は超反応で94ブルGの跳躍ユニットを噴出して不知火の攻撃を躱した

《何だ貴様は!?》

モニターの中に現れたのは3年前の佐渡島陥落で救助されたあの時の少女が成長した姿だった

《おかしいと思った。凄乃皇の自爆を阻止されるのは想定外だったわ》

《あ、貴女は……?!》

少女は憎しみを込めた顔で駒木を睨み付ける

《分かりますよね?かつて私は貴女に救われた……恩を仇で返すのは心苦しいですが、やむを得ない》

駒木は困惑し理解が追いついていない。

誰だこの少女は?

誰なんだ!?

《もう忘れたんですか?私は寂しいですよ》

誰なんだ?!!

《私は……………城ヶ崎賢志の妹だ!!》

BETAと対峙し戦ってる最中、城ヶ崎と名乗る少女は駒木が乗る94ブルGに襲い掛かる!

《あの時の少女……まさか衛士になっただなんて?!》

《…佐渡島陥落した後、身寄りの親戚は誰一人引き取って貰えず施設に入る寸前だった。その時、私を拾ってくれたのは城ヶ崎賢志―――私の兄、お兄ちゃんが私を拾ってくれたのよ。そこからは裏社会での抗争で大変だったけどお兄ちゃんが何とか私を守ってくれたの―――羅威刃という半グレ組織の長として香月副司令と接触して私は金で衛士の道を志した。勿論訓練は厳しかったけどお兄ちゃんのお陰で乗り越えることが出来た。ある抗争でお兄ちゃんが死んだ後、国連軍に入りA-01部隊のA小隊の隊員のポジションをやっと掴めた。お兄ちゃんの仇を打つ為にどんなことでも乗り越えた……駒木咲代子!お前を殺して私も死ぬ!お互い肉になろう!》

彼女は悪魔のような笑みを浮かべる

ある抗争―――京羅戦争の事を指してるのか。

私は直接関わりはなかったが、風の噂だと駒木が羅威刃のメンバーの一人を葬ったって逸話がある。

そうか……そう言う事か。

彼女は般若顔で駒木に怒りをぶつけた

《私はただ、普通の生活を送りたかった!BETAの所為で私の母親や祖父達は喪ったけど、それ以上に守りたかった人達は沢山いたの!》

駒木はかつて京極組と手を携え羅威刃と戦っていた

帝国軍総動員してまでもだ――――だが、彼女にとっては羅威刃は家族同然のような存在だった。

リーダーであった城ヶ崎は敵味方問わず無差別で無関係な人間まで殺したテロリストと同類の男だった。

しかし駒木は気付いていた。彼女は城ヶ崎賢志の『妹』ではなく『臼杵咲良』という名前だと言う事を!

《私の家族、私の幸せ、私より先へ―――私より上!》

臼杵の不知火は攻撃を緩めず駒木に向け120mmを放った

そして駒木はそれを躱し続ける

《!》

《お兄ちゃん達だけじゃなく高原さんまで殺したの!?》

臼杵は狂気を満ちた顔で躊躇なく駒木を撃ち放ったが、弾が切れ長刀に握り構え再度襲い掛かる

《分かってるのよ――――お前が、お前が……私の『家族』や親友を殺した!》

家族を喪った事は理解できる―――しかし城ヶ崎率いる羅威刃が崩壊されたのは自業自得だ

庇いきれない………奴等がしたことを考えれば当然の結果だった

駒木は二連装突撃砲を投げ捨て、光線級のレーザー照射によって消滅

そして長刀で光線級を袈裟斬りにしつつ臼杵機を斬りかかる

《――――――城ヶ崎の妹だと……!?貴様はそんな理由の為に衛士になったのか!!?》

《佐渡島は私の故郷よ。でも香月副司令が凄乃皇を自爆してまで佐渡島を消滅されるのは仕方ない事よ!》

なんと臼杵はヘラヘラと笑い声を上げ、佐渡島は自分の故郷だけど香月女史が島を犠牲にしてまで消滅させようとした事を正当化した

その一言で駒木は怒髪天状態で臼杵の発言を全否定した

《佐渡島を犠牲してまで消滅………ふざけるな!自分の故郷だったら自分で守るのは普通の人間だろうが!》

長刀で握り構え臼杵機が握り構えてる突撃砲を真っ二つにした。

《ぐ……!》

《みんなと明日生きたいのよ!出来ればずっと生きたい―――坂崎中隊長、大倉大尉、早乙女、沙霧大尉…他のみんなを心底愛してるのよ!私は戦友の未来の為なら死ねる!》

《全く…理解できない!愛する人などいないから守るものなどないからお前はクーデターに加担して国を逆らったんでしょ!私はいつ死んでもいい!明日になんの期待もしていないから…私は…私は!》

《違う!命は何にだって一つだ!どんな経緯あろうと彼は最初から利用する気だったのよ!貴様は自分の幸せを自分で掴め!彼みたいになるな!だからその命は貴様だ!彼じゃない!》

《ッ!》

その時、臼杵の脳裏に母親の言葉を過った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲良、お母さんは戦地へ赴くことになったの。また咲良に会えるかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《うううううう…》

次の瞬間、94ブルGは臼杵機に斬りかかる…筈だった。

《……!》

《ここで貴様が死んだら、戦力がさらに不足する》

《う…あ》

《クーデターに参加した罪滅ぼしとしてこの戦域で戦っている。共闘しましょう――今は争ってる場合じゃない》

臼杵はその言葉を聞いて涙を流した

そして臼杵機は長刀を握り構えたままハイヴの中にいるBETA群と立ち向かって行った。

《………これが終わったら貴女の話、詳しく聞かせて貰えませんか?》

《ええ、良いけど―――国の意向を反したただの負け犬衛士の戯言よ》

時間は刻々と進み、我々ムーア中隊は少数ながら地下まで到達することが出来た

無論、666中隊や北朝鮮の戦術機部隊もだ。

これは奇跡としか言えない

奥へ進むと……反応炉が見えた!

《あれが、BETAの――》

悠一は呆然しつつ驚愕した。

ヴェアヴォルフは結局動いてなかったか―――何しに来たんだ彼女等は。

私は反応炉をどう対処するか、自分の頭で考え込んだ。

考える最中、数多のBETA群を全て殲滅したサイコアリゲートルに乗るダリル少尉は目を見開きこう呟いた

《頭脳級……あれがハイヴの中心――――》

そう私達はBETAのエネルギー生成、捕獲した炭素系生命の生命維持活動、上位存在との通信などを行う、いわば「現場指揮官(あるいはコンピュータ兼通信機)」のようなものであり、自己のハイヴに属するBETAが収集した情報を上位存在に報告、上位存在からの命令を自己のハイヴに属するBETAに伝達する役割を担っている属種を殲滅しようとしていた

これを破壊すればハイヴとしての機能はなくなる

「悠一、94フルアーマーの残弾はあるか?」

《ああ、まだ使ってないロケットランチャーがあるが》

「それで一発撃ち込め!」

《おいおい、冗談だろ?》

「冗談ではない」

早くしないと――――

《やってみる価値はあるが…》

悠一はそう言ってサイコアリゲートルに乗ってるダリル少尉の方へ向く

《ここで争ってる場合じゃないぜ。ダリル・ローレンツ――――やるべき事は分かってる筈だ》

《俺もお前と同じ考えだ》

「……」

みんな同じなんだ

大切な人を守る為に…友人、家族―――――それぞれの想いが私達の希望の光

目の前の現実を背けてはいけない―――そうでしょ?都。

次の瞬間

臼杵機が頭脳級に特攻を試みる

「!」

《私が突っ込めば奴等の動きは止められると思います!》

「何を考えてる!やめろ!死ぬ気か!?」

私は臼杵に向けて叫んだ

臼杵機は跳躍ユニットを噴出し最大全速で頭脳級に特攻した筈だった

《え?》

悠一は臼杵機を退き迷いもなくロケットランチャーを射出

《此奴を破壊すりゃ一石二鳥ってな!》

そしてダリル機は最短距離で閃光のようなスピードを駆け突撃砲6門を一斉発射

《終わらせる!全てを!乗り越えて見せる!》

さらに私は…レールガンを構え頭脳級に目掛けて放った!

「これで終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…反応炉―――――――頭脳級を私達含めて666中隊と北朝鮮の戦術機部隊によって完全に破壊された

2001年12月25日―――甲21号作戦…佐渡島奪還作戦は終結した

帝国本土からのBETA一掃という作戦目標は叶えられたが、それは作戦に参加した国連軍、帝国軍、佐渡島同胞団の多くの将兵の生命の代償を払ったのものだった

そして――――A-01部隊(伊隅ヴァルキリーズ)の部隊長、伊隅みちる大尉とその隊員の柏木晴子の2名は世間一般では死んだ事になり、真実を知るのは私と駒木、早乙女、悠一、佐竹、鬼頭、紅林。国連軍では香月女史だけとなった。

消滅を免れた佐渡島は東欧州社会主義同盟が占領し、佐渡島同胞団の将校の一部や派遣された日本のとび職人と建築家の主導により復興作業を始めた

ベアトリクス曰く北朝鮮の人間は一人も関わっていないとの事だが、信用していいものだろうか?

復興作業は私達の仕事ではない。建築家やとび職人に任せよう

作戦を終え、地獄の戦場へ生き延びた私達は日本本土に帰っていった

あの時、駒木が救助した臼杵も含めて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

2001年12月26日

俺達は帰ってた。あの戦場を生き延び、練馬駐屯地へ――――。

帰ってきて直ぐに帝国軍制服に着替えた後、第三会議室に招集される。

そこには恭子の姿があった。

「みんな、この困難な任務を達成し無事生き延びた。私は最後まで戦ったみんなを誇りに思う」

そう言い恭子は俺と鈴乃、早乙女、駒木、紅林、鬼頭、佐竹、根岸、多恵に向け話を切り出す。

「一方で国連軍の伊隅大尉、柏木少尉の2名は世間一般では戦死扱いとなった」

オルタネイティヴ計画に関わった衛士の処遇は当然の結果だな

表向きは軍事訓練中の死亡と言う事になったらしい

……だから世間一般的には死んだことになったのか。

でも、伊隅大尉達これからどうすんだ?

実際、オルタネイティヴ計画に関わっている衛士達はその情報漏れを防ぐ為に敢えて機密情報扱いとなる。

納得いかないものではあるが、それが軍隊だ。

恭子は顔色を変えず話し続ける

「……人類は僅かではあるが勝利に近付いていることは確かよ。貴方達の奮戦に期待してる」

恭子の言葉にこの場にいる全員が「はい!!」と一言を添えつつ応える

2時間後、第三会議室を後にした俺と鈴乃は地下格納庫でモスボール保管してる今は忘れ去られた謎の戦術機2機―――――フルアーマーガンダムとアトラスガンダムを懐かしそうな笑みを浮かべて眺めていた

「フルアーマーガンダムとアトラスガンダムか……今となっては懐かしい代物の機体になっちまったな」

「ええ……あの頃はよく暴れたわね。そう言えばこの機体は別世界のモノだったわね」

「ああ……すげぇ爽快感を味わった。またいつか乗りたいと思ってるが。俺はこの世界に転生してから4年だ。今更感があるよな」

「あれが94フルアーマーと94サブレッグの原点ね」

俺は懐かしさを浸っていた

再びガンダムに乗ろうかな?と

いや、ガンダムに頼るのはやめよう

2ヶ月前は一時的に乗れないと思ったが、国連軍の連中を除いて戦術機だけで佐渡島ハイヴを攻略できたんだ

これが決め手となり俺はガンダムには乗らないと強く決意した

あの作戦でガンダムを投入したら凄乃皇・弐型は要らねぇだろ………。

だがその影響で戦術機級BETAが現れたのも事実だ。

今後は苦しい戦いを強いられるのだろう。

「そうね。この2機は永久に保管しよう」

「ああ、鈴乃」

「?」

どう言えばいいか……

俺は小さな笑みを浮かべる

「俺はお前の事愛してるからな。頼りになる中隊指揮官だと思うぜ」

と俺は言った後、鈴乃は優しい笑みを浮かべる

「ありがとう。悠一…私も悠一の事、頼りにしてるわ」

この戦いが終わったら俺と恭子、鈴乃の3人で暮らそう。

そう思った時だった

次の瞬間、早乙女が血相な顔をして俺達に近付いた

「大倉大尉、大変です!PXで半グレ衛士同士で揉め合いが!」

「何だと…」

鈴乃は俺の頬にキスした後、「先に行ってくる」と言葉を添えた

そして般若顔で早乙女と共にPXへ走り向かった

「舐めた真似を……此奴等全員懲らしめてやる!早乙女!」

「は、はい!!」

俺達の戦いはまだ終わっていない

BETAが人類の脅威である限り、戦いが終わる事なんて絶対にない。




これにて甲21号作戦……佐渡島奪還作戦は完結です。
マブラヴアニメ第二期、既に始まりましたが甲21号作戦でまさかの戦車部隊が投入
これって原作でも描写したのかな?詳しい人いればコメントください。
駒木さん、やっぱそうなるよね…第九九九懲罰大隊の衛士として佐渡島の戦線を赴くとは(-_-;)
一番気になるのがアニメオリジナルキャラの臼杵咲良
本編での描写を見ると純粋な少女として描かれてますが、この作品では本編とは異なる描写してます。(悪魔のような笑みを浮かべる、狂気を満ちた顔、ヘラヘラと笑い声を上げる等)
本編では双方どうなるんでしょうか?駒木さんは死なせないで欲しいですね。
咲良は……アニメ系YouTuberのせーやさんが言ってましたが、多分死にます。
仮に生き延びたら、まだアニメでは描かれてない横浜基地防衛戦や桜花作戦の展開は少し変わるかと(-_-;)
まだ分かりませんよ。
何で臼杵咲良が駒木と対峙し戦ったのかと言うと、これはですね。Pixivで投稿した『マブラヴオルタネイティヴ 京極の魔女』や番外編の『臼杵咲良伝説』を見ないと分からないと思います。
当作品での臼杵咲良は巨大半グレ組織のリーダーだった城ヶ崎の腹違いの妹という設定です。つまり城ヶ崎の父親が咲良の父親です
簡単に言えば『浮気相手の女性の間に生まれた少女』です。
バグ大本編でも最低な父親として強調されてますからね(-_-;)母親に暴力振るうわ子供に飯を与えないわ挙句の果てに子供を捨てる最低な父親です。
当然ですがマブラヴアニメ本編での咲良は普通の幸せな生活を暮らしていたと思いますね
城ヶ崎とは真逆ですね……(-_-;)
次回は横浜基地防衛戦なんですが…どうしようかな
これって国連軍ばかりですよね……帝国軍側での戦いではないので残念ながら割愛する可能性は高いと思ってください
大倉中隊長と早乙女少尉のほのぼのとした話書こうかな
第二期終わった後、第三期の発表とかないのかな?
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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第31話 But Beautiful

甲21号作戦終結後の話です!



あきらSide

 

ボクの名前は伊隅あきら

佐渡島での戦いに参加しこの地にいた異星起源種共を所属していた部隊の衛士と共に立ち向かい自分が窮地に陥った時に帝国斯衛軍の衛士達に助けられ無事生き延びた日本帝国軍の女性衛士だ。

佐渡島での戦いの影響で疲労困憊になりつつ今日、日本武道館で行われる『佐渡島戦没者追悼式』に参加していた

慰霊式典なんて言っても…隊長やみんなの遺体はどこにもない

それどころか佐渡島は東欧州社会主義同盟に占領された。

風の噂では国連軍は最初からG弾を使うつもりだったらしい

そうだとしたらボク達は―――G弾を安全にハイヴまで運ぶ手伝いをさせられていたんだろうか?

……――――こんな考え…隊長達を辱めるだけだって分かってるのに…。

そう考えてるうちに追悼式典は終わり、武道館から出た直後、一人の女性の姿を見かける

此方に手を振っている

顔をよく見ると…まりかちゃんがいた

「…まりかちゃん」

「……あきらが無事に帰ってきてくれてよかった」

「……」

「あきら達のおかげで…日本は救われたんだよ…ありがとう」

……ボクは何もしていない

「……ボクたちのおかげ…?」

何もしていないんだ。

「ボクは―――何もしてないよ…」

何も…できなかったんだよ…

ボクは弱気な言葉を放った

そしてまりかちゃんが明後日の方向に振り向くと見慣れた女性の姿がいた

やよいちゃんだ。

「あ…やよい姉ちゃん」

「え…」

やよいちゃんはボクに声をかける

「あきら…お帰りなさい」

やよいちゃんは涙ぐんだ表情でボクを強く抱き締める

「無事に帰ってきてくれて…本当に嬉しいわ」

「…やよいちゃん」

温かい…やよいちゃんの胸を飛び込むと穏やかな気持ちになる

ボクの頬にそっと優しく触れ心配そうな顔を浮かべる

「…お父さんとお母さんは元気?」

「ええ、とっても。年明けにみんなに会えるのを…楽しみにしているって…」

ボクも会えるの楽しみだよ。やよいちゃん

まりかちゃんは突如、複雑な表情を浮かべる

「…父さん達のコンサート。私――――見に行けないと思う…」

「え?」

「甲21号作戦の影響で防衛ラインの再編が行われるから、近々、西への配属転換があるかもしれないって…」

………。

佐渡島は東欧州社会主義同盟に占領された

それだけは事実―――でもいつ日本本土に侵攻されるかは分からない

そう警戒している筈だ

やよいちゃんは残念そうな表情を浮かべる

「そう…仕方ないわね」

「正樹も九州戦線配備だって言ってたから、年明けは多分無理だと思う…」

「…残念ね」

まりかちゃんはみちるちゃんと連絡をしたのか問いかける

「…そう言えばやよい姉ちゃん、みちる姉ちゃんに連絡ついた?」

それを聞いたやよいちゃんは悲しげな目線をボク達に向けポツリと言った。

「……みちるは…来ないわ」

「あ…そうなんだ」

「久々に4人揃えばよかったんだけど、やっぱり国連軍じゃそうそう都合つかないよね」

みちるちゃん、忙しいんだね…4人揃って沢山話したかったな

「…まりか、あきら。貴女達に…見て欲しいものがあるの」

「え?」

「…何?」

やよいちゃんが手にしてるのは一通の手紙

「あ―――――もしかしてみちる姉ちゃんからの手紙?開けていいんだよね?」

「…ええ」

「……」

ボクとまりかちゃんはその手紙の内容を確認した

そこに書いてあるのはみちるちゃんからの手紙ではなく

「―――…!?」

「………これ…って…」

国連軍からの死亡告知書……その名前には

「死亡…通知―――死亡者姓名…伊隅―――みちる……!?」

みちるちゃんの死亡告知書だった

まりかちゃんは無論、これを受け入れられるはずがなく困惑した

「…な…なに…これ……」

当然ながらボクも疑った

みちるちゃんが、死んだ?

嘘だよ…嘘に決まってる

再度確認するが…

「死亡原因――――戦術機による訓練中の爆発事故…っ…!?」

…死亡日時、12月…25日…

「跳躍ユニットの爆発が増漕に誘導して遺体は残らなかったそうよ…」

「………うそ…嘘…!」

ボクは絶望に陥れたような顔で叫んだ

「―――ウソに…ウソに決まってるよ。こんなの………ッ!!…みちるちゃんが、みちるちゃんが…事故死だなんて…!!」

悔しい表情を浮かびつつボクは信じられない……みちるちゃんが死んだと受け入れず涙を流し咆哮した

「なんで…なんで。よりによって甲21号作戦の最中なんだよ…なんでボクみたいな半端な衛士が生き残って、みちるちゃんが―――――戦場ですらない場所で、死ななきゃならないんだよぉ……ッ!!」

そして目の中に絶望の色が虚ろい泣き叫んだ

「……うっ…うあっ…あ……うわあああああぁぁあぁあぁぁぁぁあぁ―――――――――ッ!!」

もうみちるちゃんはいないんだ………信じたくないけど…信じたくないけど…でも、悲しいよ

この時ボクは知らなかった。みちるちゃんが……本当に死んだ理由を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???Side

 

「………佐渡島は東欧州社会主義同盟に占領されたが、甲21号作戦自体は成功した」

黒髪の中年男がテログループの指導者、テオドール・エーベルバッハに報告する

「―――見解が異なるわね」

銀髪の中年女が疑わしい表情で言った。

「投入戦力の14%失い、虎の子の機動要塞は東欧州社会主義同盟率いるベアトリクスの指示で鹵獲。そして何より奪還すべき帝国領の喪失…これはまさに奇跡よ。だが、これらは全て彼女が招いたもの……責任は追及されて然るべきよ」

テオドールは不敵な笑みを浮かび語り始める

「ベアトリクス……久しい名前が出てきたな。だが大衆はそう取らないな。彼女の開発した新型OSは多くの将兵の命を救い、日本帝国は東西分断の危機を脱した。リユース・ベアトリクス・デバイス…いやRBDと呼ぶべきか…長過ぎる。あれは四肢を切断しないと動かせないらしい―――何やらこれから出てくる新しき戦術機に旧式の機体でも勝てる構造だ。私は死んでも乗りたくないな」

と嬉々した笑みを浮かべるテオドールは銀髪の中年女に向け言い放つ

「……嬉しそうね?」

「そうでもないさ」

髭を生やした老年男性がポツリと言葉を放つ

「…欧州が第四計画に転べば、情勢は一変しかねんな。ふむ、戦後の絵図が崩れるか……」

「看過出来る話ではない。即時、手を打つべきね…」

「実力を行使せよ、と?」

「検討に値するわ」

テオドールは静かな怒りで語り続ける

「……あの女、ベアトリクスは以前に我々…当時の東ドイツ反体制派の作戦や計画を見破った。流石は人狼と言ったところか……。あの横浜の女狐同様、容易に狩れる獲物ではないな……」

黒髪の中年男はテオドールの言葉を聞き沈黙した

官僚風情の男がこう言い向ける

「少し泳がせてみてはどうでしょうか?00ユニットの試作生産やリィズシリーズが正式生産可能になった今、機動要塞の存在が大きい。あれは此方の戦術でも活用できる。あの女を自由にさせて、その上がりを―――」

銀髪の中年女が慌ただしい態度で反論する

「――悠長な事を。既にあの女に主導権を握られているのよ」

「彼女の知性は利用できる。―――本格的に邪魔になった時点で排除すればいいのでは?」

「あの女の影響力が強まっていくのを許せと?委員会がそれを許すと思って?」

「委員会には私が説明してもいい」

「そうやって自分を売り込むつもり?姑息だわ。貴方は昔からそう」

白衣を着てる男性が会話に割り込む

「00ユニットとリィズシリーズが完成したということは、異星起源種との対話準備ができたということだよね」

「……」

「そのような世迷言、まだ信じているのか?」

黒髪の中年男は疑わしき言葉を言い放つ

「生態不明、社会構造も不明。本当に言語を使用しているかさえも不明―――――そのような化け物と本気でコミュニケーションが取れる、と?」

官僚風情の男が反論する

白衣を着てる男性も反論し返す

「それは誰にも分からない。でも、ひとつだけいいかい?00ユニットを介して異星起源種と折衝する場合、当然ながら人類の代表はコーヅキが務めることになるよね」

香月女史が人類の代表となると断言した

「………」

「実に興味深いねぇ。――――人類に残るであろう変人と異星起源種の対話……そこで何が語られるのか……。ははっ、どんな結論が出てもおかしくはないよ。日に千人の処女を生贄に捧げることになったりね。ふふふ、これじゃまるで神話だ……」

「………」

「ああ―――ひょっとしたらコーヅキがBETAを組んで、我々を攻撃してくるかもしれないね」

「………」

銀髪の中年女は呆れ返った。

白衣を着てる男性は言い続ける

「まさか――とは言えないはずだよ。我々の中で誰がコーヅキを理解している?コーヅキは不可能を可能にしてきた。異星起源種との対話も成功させるかもしれない」

「…やはり消すしかないでしょう。―――仕込みの時間はどれだけ必要なの」

それらの会話を聞いたテオドールは冷静に話しかける

「証拠が残ってもいいなら3日。残さないなら3ヶ月は―――」

黒髪の中年男も焦りつつ言葉を放つ

「――いや、時間は必要ない。私が予備を仕込んである」

髭を生やした老年男性はこう言った

「…ほう。それは聞いてなかったな。我々に断りなしに仕掛けたのか?」

「あくまでも予備だ。使うつもりはなかった。だが、これ以上、あの女をのさばらせる訳にはいかない」

テオドールは冷静に言葉を放った

「……指向性タンパクか?」

「そうだ。あれは使い勝手がいい。誰が背後にいるか洗えんよ」

「……」

リィズシリーズとは文字通りテオドールの義妹、リィズ・ホーエンシュタインの遺伝子を利用したESP発現体

所謂クローン。戦闘マシーンでもある

どうやって彼女の遺伝子を残したのか不明だが一説によるとシュタージの作戦参謀だったハインツ・アクスマンにより彼女の遺伝子を入手したという

無論、こんなバカげた話は信じられないというのもあるが、真意は不明だ

彼は、テオドール・エーベルバッハという男はリィズの死を未だに引き摺っており過去の自分を追いかけている

リィズは当時どこにでもいる演劇が大好きな舞台女優志望の少女だった。しかしある日、両親と義兄であるテオドールと共に西側へ亡命しようとしたが失敗

その結果、両親は拷問死。テオドールは軍の道へ歩み、リィズはアクスマンによって滅茶苦茶にされ尊厳まで踏み躙り、処女を奪われてしまった。

そしてシュタージに強制的に入省する道しかなかった

最終的にリィズはシュタージの犬として数々の修羅場を乗り越え666中隊の長だったアイリスディーナやその他諸々の軍人達が反体制派と関わってる可能性があると見て彼女率いる中隊に潜入

最初はテオドール除きシュタージの犬ではないかと疑われたが徐々に警戒を緩められ見事に拘束

ここまではよかった…しかしテオドールが選んだのはアイリスディーナであり彼女が長年思い浮かべていた『義兄と一緒に幸せな生活を築きたい』というのは実現はできず、遂に……リィズは当時ベアトリクスの副官だった二コラの手で射殺した

彼女はアクスマンに籠絡された時点で手遅れだった。生きる価値がない外道に陥り無関係な人間を殺めてしまった事は事実であり彼女の事をどんなに擁護されようがされまいが本当に生きる価値がない外道と変わりはなかったのだ

リィズの死によってテオドールはベアトリクスに敗北し、その後キリスト教恭順派などのテロ組織を纏めたテログループのリーダーとして君臨した

銀髪の中年女性はGOサインを出した

「同意するわ。やってちょうだい」

「……賛成だ」

「仕方あるまい」

そしてテオドールも許諾

「……好きにしろ」

白衣を着てる男性もにやけた笑みでゆっくりと言葉を放つ

「彼女とBETAの交渉を見てみたいものだがね。でも君達の計画に反対しないよ」

「それでは―――香月夕呼、ベアトリクス・ブレーメを排除する」

テオドールは不敵な笑みでかつて可愛がった義妹の名前を口にした

「今度こそは我々が勝利を掴む時だ。私はまた君と出会えて嬉しいよ―――――――リィズ」

彼の前に現れたのはリィズの顔、姿見が瓜二つの少女だった

感情は……嬉々した笑みを浮かんでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

2001年12月28日

日本帝国軍練馬駐屯地

 

甲21号作戦…佐渡島奪還作戦終結してから3日が経ち、俺達は練馬駐屯地の第三会議室で国連軍A-01部隊の長だった伊隅みちる大尉、柏木晴子少尉の2名の処遇やテログループの対策を考えていた

臼杵咲良って少女は国連軍の横浜基地に戻り引き続きA-01部隊の衛士として活動している

後に駒木から聞いたが、臼杵は佐渡島でのBETA侵攻で唯一生存した民間人だった

俺が臼杵と直接であったのは一度きりだ

その後、音沙汰なしだ―――――――にしても、あの女が唯一生き残っただなんてこれは特異体質とか何かの能力じゃねえのか?

俺はそんな事はありえないとバッサリ切り捨ててるがな。

――――――臼杵が生き延びるか生き延びないかは俺は知ったこっちゃねえ

ただ、一つ言えることはこの世界は『ベアトリクスが革命に勝利した世界線』

俺とダリルが知る『東ドイツ反体制派が革命に勝利した世界線』じゃねえ

異星起源種…BETAは今も健在だ

未だに世界中の軍隊が必死に戦っている………。

みんな、戦っているんだ。必死に――――。

そう深く考えながら居眠りしようとしたら、俺は鈴乃の怒声を浴びる

「豊臣少尉!聞いてるのか?」

「!」

「……疲れてるのは貴様だけじゃない。みんな疲れてるんだ。厳しいこと言うが、この調子ではテログループの壊滅という目標は達成できないかもしれないな」

分かってるけどよ。どうもこうも疲れが取れないんだ

「申し訳ありません大尉殿」

俺は鈴乃に謝罪する

「うむ、貴様は確かに強いし戦術機の腕は抜群だ。ただテログループの殲滅とBETA殲滅とは訳が違う」

鈴乃はきりっとした表情で俺に言った。

その目は―――闘志を燃やしている

「では一つ聞くぞ。テログループのリーダーであるテオドールが真正面から我々に立ち向かうと思うか?」

その問いをかけた鈴乃は俺に答えを求めている

俺が答えた言葉は…

「―――思いませんね」

「何故だ?」

「彼の戦術は普通の将校が考える作戦と違うからです。『味方を増やせないなら敵を減らす』という戦法で仕向けてくるかと」

俺の答えを聞いた鈴乃は真顔で言った。

「成る程…確かにあり得るな。彼の戦術の方法なら我々を潰す事は容易いだろう。正解というべきか」

どうやら鈴乃が求めた答えだったらしい

しかし、俺の答えを聞いた伊隅大尉が反論する

「豊臣、少し反論させて構わないか?」

「ん?あぁ、構いませんよ」

「では遠慮なく反論させて貰う―――――彼の事はともかく我々衛士が成すべきことはあくまでもBETAを殲滅するだけだ。感情論でテログループを潰そうとする直前に返り討ちに遭うかもしれんぞ」

「テログループの殲滅は後回しにして先にBETAをこの世から殲滅する事を優先すべきでは?と私は思うが」

伊隅大尉の言葉を聞いた鈴乃はこう言い返した

「伊隅大尉、確かに貴女の言う通りかもしれません。異星起源種はこの世から消滅すべき――――ですが、悠長に考えて行動したら連中は好き勝手暴れるだけです。これ以上奴等の好きにはさせません!」

「彼が何者かそれを分かってまでやると言うのか?大倉大尉」

伊隅大尉は強張った顔で言葉を放つ

早乙女が割り込み言葉を放った

「私もです!テオドール・エーベルバッハ率いるテログループはこの世から消え去るべきです!」

それに続いて駒木も同じ事を言った

「早乙女少尉の言う通り、これ以上放っておいたらBETAを消滅される前に我々が死ぬだけです!」

「駒木……貴様」

「伊隅大尉、貴女の部下の一人を殺めた事は謝罪します。許してくれとは言いません…ですが衛士としての誇りは捨ててはおらず死んでいった同胞達の想いを引き継いで戦う事が筋だと思います!これは私にとって…贖罪なんです」

紅林も鬼頭も佐竹も同様の言葉を放つ

「俺もです!テオドール・エーベルバッハのクソ野郎を野放しする訳にはいきません!例え親しかった仲間が許してもお天道様が許す筈がありません!」

「俺もだ!伊隅大尉、テオドール・エーベルバッハを野放しにしろとそう言いたいのですか?」

「お、俺もです!彼がどんな境遇あろうとこんな事許す訳がない!」

この光景に伊隅大尉は驚愕した

「………」

「伊隅大尉…」

柏木は悲しげな顔を浮かぶ

「………私は死人だ。この世からいない存在となってしまったからな。私がもし生存しても豊臣、貴様はそれでもテオドール・エーベルバッハと戦うと選択するだろうな」

物分かりが良くて助かるぜ。伊隅大尉

みんな、テオドールの事は敵と認識している

ユーコンでテロ起こした張本人だ。こんな事許されるはずがねえ

伊隅大尉はGOサインを出した

「分かった。テログループの件は了承した――――私の処遇はどうなるんだ?大倉大尉」

伊隅大尉は鈴乃に自分の処遇はどうなるのか?を問いだす

「伊隅大尉達の処遇は…上層部から下された命令は特殊部隊の配属だ」

「特殊部隊?」

伊隅大尉は特殊部隊に属する衛士になったと鈴乃から告げられる

自分は中隊指揮官の指揮権を剥奪されるのかと考えていたが鈴乃から言われたのは予想外の命令文だった

「伊隅大尉、貴女がその特殊部隊の長に任命されたんだ」

「私が?何故…」

「駒木を倒した元国連軍の優秀な衛士だからだ。それだけだ」

鈴乃が言葉を締めた後、柏木が挙手する

「何だ?」

「私はどうなるのですか?」

「ああ、貴様も伊隅大尉と同じ部隊に配属されるだろう――――また一緒に戦えて嬉しいだろ?」

鈴乃は誇らしげな笑みを浮かんだ

しかし世間一般的に死んだ衛士が表に出たら白銀や生き残った衛士達はビックリする筈だ

当然、本名のまま活動する事は許される筈もなく鈴乃は伊隅大尉達に偽名を与えた

これも上層部からの命令の一つだ

「伊隅大尉、柏木少尉。死人となった御二方に新たな名前を与える」

「新たな名前?」

鈴乃は凄みある笑みを浮かび高らかにこう言い放った

「今日から貴女は『大地久美子』だ」

「は?」

「それが貴女の新しい名前です」

それを聞いた伊隅大尉は頭を悩ませるが…そこは冷静に対処した

「死人の衛士を活躍する方法は私達に偽名を名乗れと……成る程、同胞団の上層部も常識を逸脱した考えがお持ちのようだ。了解したよ」

それに対し柏木に与えられた偽名は

「今日から貴様は『麻里アンヌ』と名乗れ」

「マリアンヌ……ハイカラな名前ですね」

「気に入らないのか?」

そして柏木は了承の言葉を一言を添えた

「了解でーす」

こうして伊隅みちる、柏木晴子という国連軍の衛士は世間一般的に死んだ事になった。

そして俺達佐渡島同胞団の仲間入りになった。

会議は一段落した直後、多恵が遅れて会議室に入ってきた

「遅れて申し訳ありません!大倉大尉…ってあれ?」

「お前…築地か?」

「伊隅大尉もいたんですね」

「そうか…お前も死人の仲間入りになったんだな―――再会出来て嬉しいぞ」

感動の再会はいいが、鈴乃が少し怒ってるぞ

ヤバい…とばっちりが来る。

「はぁ…『豊洲』、貴様は衛士としての自覚はあるのか?」

「も、申し訳ありません!(ひぃ~、怖い…けど頑張らなきゃいけない!)」

「え?『豊洲』って…築地、お前の偽名なのか?!」

伊隅大尉は多恵の登場により困惑しつつ言葉を放つ

「はい、『豊洲多恵子』という名前で活動してます」

「下の名前は本名と全然変わらないが」

「ただ”子”って漢字を付け足しただけですよね。『大地』大尉」

伊隅大尉と柏木もそれをツッコむ

「うぅ…あんまりですぅ。でも気に入った名前なので何言われようと構いません」

おいおい、言ってくれるじゃねえか。

多恵も少しずつ強くなっている

このまま鍛えていれば俺よりもっと強くなるかもしれねえな

「会議はこれで終了だな。総員解…」

「待ってくれ大倉大尉」

会議を完全に終えようとした時、伊隅大尉が少し疑わしい表情を浮かび、鈴乃に問いかけた

「佐渡島はどうなったのですか?凄乃皇は?」

これを聞いた鈴乃は答えを出した

「佐渡島は東欧州社会主義同盟に占領され凄乃皇も鹵獲された」

「!(副司令が鹵獲させたくないと言ったのはその為だったのか!?)」

「香月女史がやろうとしたことは佐渡島住民にとっては外道な行いだ。幾ら優秀な科学者であろうと佐渡島の消滅は認められない」

「極道組織の天羽組が介入したのは佐渡島に住んでた人達の期待を裏切られたくないと香月副司令を止めたと。そう言いたいのですか」

「残念ながらそういう事になります。佐渡島奪還は佐渡島住民にとって…いやそこにいた衛士達にとっての悲願だったのです―――――――『大地』大尉」

あれは苦渋の決断だった

恭子がいなかったら佐渡島は消滅していた

佐渡島同胞団は既に解散していた筈だ

「BETAは?佐渡島ハイヴの地下から地中に潜り本土に迫って来る筈…」

「ニュースは見てなかったのか?『日本からBETAの脅威は去った』と。でもこの報道見ただけでは安堵出来る筈がない。もし本土にBETAが迫ったら先手を打つ…」

「………」

伊隅大尉は黙り込んだ

これには俺から言う言葉も何もなかった

鈴乃は伊隅大尉に一枚の書類と30枚の写真を見せる

「何だこれは?」

「佐渡島復興作業の様子と残存BETAを殲滅してる東欧州社会主義同盟の機体の写真です」

この写真を見て、伊隅大尉は絶句した

「ふむ、10%復興してるな………信じられない。柏…いや『麻里』少尉、これを見てどう思うんだ?」

そう言って伊隅大尉は柏木に写真を見せる

「えっと……正直絶句としか言えませんね」

と困惑しつつ作り笑顔で言葉を放った

そりゃそうだろうな……香月女史がそれをよしとしなかったんだから

というかまだ偽名に慣れてないのか

一日だけじゃ多恵くらいしかいない

彼奴は呑み込みが早い

「大倉大尉、これを私達に見せてどうしろとでも?佐渡島の復興が異常に早過ぎる…何か魔法でも使ってるのか?」

「伊…『大地』大尉、何か絡繰りがある筈ですよ」

「うーむ…」

伊隅大尉は写真30枚の中5枚だけ異変に気付いた

「大倉大尉、この銅像と壁画は貴様が知ってる衛士か?」

「え?」

鈴乃も写真を覗き見る

「嘘……み、や……こ……」

そう、この銅像と壁画に描かれてるのは3年前佐渡島の地で最後まで戦った坂崎都そのものだった。

彼女はベアトリクスによって英雄を仕立て上げられた

この地で最後まで戦い抜いた衛士だと。

「その様子だと知ってるみたいだな」

「……」

鈴乃は突然、涙を流した

「………やっと貴女の遺志を最後まで全うする事出来たわ。これで安心してゆっくり休める………そうでしょ?都」

鈴乃が涙を流してる姿を見た伊隅大尉は察していた

そして、鈴乃は……泣き始めた

「貴女が必死に、最後まで戦い抜いた…佐渡島は貴方に救われたのよ。でも、都がいなくなって、寂しい…もっと沢山話したかったしずっと一緒にいたかった。いっぱいいっぱい楽しいことをして貴女が笑ってる姿をもっと見たかった……」

鈴乃は悲しみを隠し切れなかった

伊隅大尉は悲しげな目で泣いてる鈴乃を見た

「……」

しかし、何も言えなかった。どう返したらいいか分からないのだ

しかし一人だけ違った。多恵がハンカチを取り出し鈴乃に渡したのだ

鈴乃はそれを受け取り涙を拭う

「……すまない。取り乱してしまったようだ」

「どう言ったらいいか正直私には分からない。ただこれだけは言える。坂崎都大尉は佐渡島の地で最後まで戦い抜いた佐渡島の英雄だ」

なんと伊隅大尉は都を『佐渡島の英雄』と評価した

これには驚いた俺達は伊隅大尉の事は『デキる女』と評価していった。

伊隅大尉が俺達の仲間にいてくれると頼もしいぜ

俺は期待感を高め、その後の事を考えつつ泣き止んだ鈴乃を見つめた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀Side

 

伊隅大尉の死後、俺達が所属しているA-01部隊の長は速瀬中尉が引き継ぐことになった

速瀬中尉曰く『伊隅大尉いなくとも私達は伊隅ヴァルキリーズよ』と

純夏は今のところ安定している―――何もなかったようだ

佐渡島は東欧州社会主義同盟に占領されて凄乃皇も鹵獲された

凄乃皇を鹵獲しても東欧州の連中が扱えるわけがない。

00ユニットを運用するための機動要塞だからだ

……普通はそう思うが、夕呼先生も俺と同じことを思っていた

”あれを鹵獲しても誰も扱えるわけがないわ”

確かに言われてみればそうだ

そんな俺と夕呼先生は、極道組織の天羽組の事務所に訪れた

「夕呼先生、ここって」

「天羽組の事務所よ。立派な門してるわね」

まさか俺がヤクザの事務所に行くなんて思わなかった……怖いけど、夕呼先生なら何とかしてくれる

「アンタとあたしがここに呼び出されたのは佐渡島住民に対する謝罪よ」

「え?!俺は関係ない筈じゃ…」

「関係大アリよ。佐渡島を消滅するなと小峠って男が喚いてたくらいだから…」

「そんな理由で…」

複雑な表情を浮かぶ夕呼先生は俺と一緒に天羽組事務所の門に向かう

そこにいたのは組の下っ端構成員2人だ

「国連太平洋方面第11軍横浜基地副司令の香月夕呼よ。天羽組長と話がしたい。アポは取ってあるわ」

しかし下っ端構成員は怒声を上げる

「ああん!お前、佐渡島を消そうとした女か!」

「死にに来たんかコラァ!舐めてんのか!」

当然だけど中へ入ることなど出来る筈もない

そこへ現れたのは小峠だった

「うお…小峠の兄貴」

一切の会話もせず夕呼先生に接近した。

「親っさんから話は聞いている。中に入れ」

「ありがとう。気が利くわね」

そして俺と夕呼先生は事務所の門を潜り抜け中に入る

小峠の案内で組長室に辿り着いた

「中に親っさんがいる。アポは取ってあんだろ――とっとと入れ」

「白銀、ここから先はアンタは口出し禁止よ」

「あ、はい!(不安だな…)」

そして組長室へ入り出迎えたのは天羽組の組長だ

「ようこそ。御足労を掛けてすまない。どうぞソファーに座ってください」

「感謝するわ」

天羽組長の指示でソファーに座る

「話によっちゃあ生きて帰れねぇぜアンタ」

「お時間を頂き感謝します」

天羽組長がソファーに座ると夕呼先生に鋭い目線を向ける

「ああ、手始めにアンタは――――佐渡島を本当に取り戻そうとする気はあったのか?それを確かめたい」

「甲21号作戦の事を指してるのですか?」

夕呼先生は冷静な態度を取る

「ああ、その通りだ」

「それで”佐渡島を本当に取り戻そうとする気はあったのか?”とはどういう意味ですか」

天羽組長は厳格な表情を浮かべる

「あそこはな、アンタのとこいる臼杵っていう少女の故郷でな。3年前の佐渡島での戦いで死んだ坂崎都大尉の思い出の地だ。アンタがやってる実験は何なのかは詮索しねぇ―――だがな、佐渡島はウチのシマだ。シマ荒らしをする奴は仁義と任侠がない恥晒しの外道だ」

「実験?凄乃皇・弐型の機動実験の事かしら?あれは機密事項の情報の筈です。何故貴方方がそれを知って――」

「東欧州社会主義同盟のベアトリクス・ブレーメ総帥が教えてくれたのだよ。俺達天羽組にこれを知ったのは裏の情報屋だろう。アンタがどんなに上手に隠蔽しても俺達の目は誤魔化せない」

それで佐渡島は消滅を免れたのか……。

「……佐渡島に住んでた人達の期待を裏切ろうとしてしまい申し訳ありません(とりあえずこれでやり過ごせば)」

夕呼先生の謝罪の言葉に返って来たのは納得がいかないという天羽組長の顔だった。

「アンタ、何を言ってるんだ…佐渡島に住んでた人達全員謝罪するまで俺達は許すことはねぇ」

「お怒りは重々承知しております。ただ聞いて頂きたいのは、これは全人類を掛けた戦争なんです。凄乃皇・弐型を佐渡島ごと消滅させるのはBETAが日本本土に再侵攻を防ぐ為です!帝国軍は出来る限りの約束しました」

「ダメだねえ―――まずアンタは数多な衛士を犠牲にして佐渡島をアンタの実験道具として生贄にしようと目論んだ。腐ったもんだな国連軍も―――司令官は優秀…副司令はマッドサイエンティストか」

天羽組長の言葉を耳にした夕呼先生はキレる寸前だった

彼らの言ってることは理解出来ないまでもないけど、これは人類に対する戦争なんだ

でも天羽組長含めて小峠や坂崎都大尉の思い出を吹き飛ばしたら俺達は……?

「……そうね、あたしはマッドサイエンティストかもね」

開き直ったぞ!?どういうつもりなんですか。夕呼先生

開き直った夕呼先生は拳銃を取り出し蟀谷に銃口を当てる

それを見た髭が生えてる金髪モヒカンの男が狼狽の声を上げる

「そんなもん隠しとったんか!クソアマァアア!」

「野田、待てえ!大丈夫だ!」

すると俺達の目の前で

「あたしを殺すなら殺してみなさい。そうなれば日本はまたBETAに荒らされるオチよ――――あたしはこの命をかえても地球にいる人類を守ってやりたい。彼奴は…伊隅大尉達はあたしの命令を忠実に従っただけよ。ただそれだけの事なのよ…そこにいる白銀武もその一人よ」

その時、夕呼先生は拳銃のトリガーを引いた!……筈だった。

そして

「!」

「親っさん、止めてよかった……ですよね?」

小峠がギリギリのところで止めた。

ビックリした…全く夕呼先生は冷や冷やさせるんだから…。

すると険しかった天羽組長の口角が少し上がった。

「ああ、小峠。よく止めてくれた。香月副司令…アンタの覚悟はよくわかった。保身や命の惜しさじゃねえな―――人類の未来の為か?」

「はい」

「アンタの言う通り、BETAを全て葬らなければならない。だがな、佐渡島以前に国そのものを消滅させた方が最も罪が重いんだよ……ましてや我欲に塗れた生贄、報復は正義だ」

「全くその通りだと思ってます」

そうか、夕呼先生は自らの意思で戦争犯罪を犯してまで最後までやり遂げようとしたのか

非難轟々される覚悟はあったと思う

それは俺にはできない勇気ある行動

「一方で白銀がアンタの指示に従った事も理解できる。佐渡島が消滅すれば永遠に終わらない戦争になるだろう…そしてアンタ、自分がここで死ねばが地球にいる人類を救う人々達をアンタの遺志を継ぐ事になると思ったな?」

「はい、お見通しで…」

腹の底まで読んでる。

天羽組長は夕呼先生を試してたのか?

「その我欲なき行動を評価する。手打ちの条件を出そう――――まずは詫び料、3億とXM3搭載の戦術機を世界各国の軍隊に配備させる事だ」

「うぅ!さんお…」

天羽組長はなんと夕呼先生に詫び料3億の支払いと俺が開発したOSのXM3を搭載した戦術機を世界各国の軍隊を配備させる事と言った。

XM3を世界各国の軍隊にある戦術機を搭載すれば、BETA大戦は早期終結出来る

「そして佐渡島に関して国連軍関係者は永久に立ち入りを禁止。ただ、横浜基地には用があれば…ウチのモンが出入りしますがね」

「わ、わかったわ……前向きに検討しておくわ」

完全な不平等条約だった…しかし夕呼先生は迷うことなく条件を呑んだ。

「アンタの覚悟と信念は確かに受け取った……御苦労だった…」

「光栄です……では失礼します」

そして夕呼先生と俺は天羽組を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、横浜基地に戻った俺と夕呼先生は冥夜や委員長達等をブリーフィングルームに集めた

「甲21号作戦は我々の勝利よ。でも気を抜かないで頂戴。ここからが本番よ」

皆、静寂

速瀬中尉と宗像中尉は強張った表情を浮かんでいる

臼杵もそうだ。他の者も

「凄乃皇は東欧州社会主義同盟の連中に鹵獲されちゃったけど、支障はないわ。もう一機、事前に用意してあるし、それに奪還するつもりは毛頭ないわ。下された任務を集中しなさい」

単身、天羽組へ乗り込んだ夕呼先生の方針に異を唱える者はいなかった。

そして、夕呼先生は最後にこう言ったという

「A-01部隊は次の作戦に移行する」

「!」

「…いよいよね」

「甲20号目標……朝鮮半島南部に位置する韓国の鉄原ハイヴよ!地球にいる人類の全存在をかけて徹底的に叩き潰す!」

ここを潰せば、オリジナルハイヴを攻略する道は近くなる

本気でやらなきゃダメだ

俺が……人類を、守って見せる!

そして純夏も、守ってやる――――俺はそう決意した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリクスSide

 

我が東欧州社会主義同盟は甲21号作戦終結後に佐渡島を占領

これにより佐渡島東欧州社会主義政府が設立

無論、行政主席は日本人―――――でも私の傀儡よ。

日本と協力し復興作業に取り掛かるが、まだ10%しか復興出来ていない

完全復興するまでの期間は不透明……佐渡島ハイヴ跡地に新佐渡基地を建設

これもまだ完成に至ってない

市街地は優秀な建築家や工事業者のおかげなのか少しずつ復興してる。

私は『視察』と称して黒色のウェットスーツを着用しハンググライダーで国中平野上空を飛行していた

所謂スカイスポーツだ。

これが、佐渡島の……BETAの死骸を綺麗さっぱり片付ければいい街並みに変貌するわね

そんな時だった―――随伴してたかつて私が使用した紅いアリゲートルに乗ってる二コラが注意喚起される

《ブレーメ総帥、単独での飛行は危険です。ただでさえ日本政府から許可を得るの苦労したのですよ》

「心配は無用よ。国の重要施設や周辺は飛行してないから大丈夫よ」

もう二コラったら心配してるのは分かるけど、そんな間抜けな事はしないわよ?

《『カール・マルクス』にお戻りを》

「嫌よ。もっと楽しませて頂戴」

《………》

辺りを見渡す限り、緑一つも残っていない

BETAの影響だからか――――これは自然に木や草を生える事は永遠にないわね

生えられないなら……人工で植えつくしかない――――か。

「何もないわね。緑も木も自然も何もかも全部なくなってる」

私の言葉を聞いた二コラは複雑な表情を浮かぶ

荒らされた山や大地を眺めるのを楽しんでる途中、次の瞬間…警報音が鳴り響きファルカから通信が来る

《大隊長!大佐渡山地からBETA反応が!》

《何!?馬鹿な!あり得ない!まだBETAが残存してるというのか!》

騒がしいわね………何やらBETAがどうのこうの言ってるけど。

《数は?》

《少なくとも大隊規模かと…》

私は2人の無線通信での会話を介入する

「何があった?」

《ブレーメ総帥、佐渡島に残存してるBETAが…どうすればいいのでしょうか?》

あら、まだ残ってたのね?

佐渡島復興の邪魔される訳にはいかないので私は新佐渡基地に戻って早急に対応する事にした

「(ビッグガンは固定荷電粒子砲……持ち出しは不可能。北の軍隊は既に撤退済み―――――ならばこれを賭けるしか…)第666戦術機中隊を出撃させろ。私は新佐渡基地に向かう」

《了解です!全てはブレーメ総帥の為に》

そう言ってファルカは通信を切った

私は不敵な笑みを浮かび新佐渡基地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、新佐渡基地の仮設指揮所でヴェアヴォルフ大隊の衛士達を集い、佐渡島に蔓延る残存BETAの対処する口実で作戦会議を開いた

「佐渡島を我が軍門に下ったとはいえ、油断禁物よ。恐らくハイヴ跡地の地下の奥深くで潜んでた可能性は高い。ファルカ」

「は―――。此方に」

ファルカは書類と1本のビデオテープを私に渡す

書類を見通す私はロザリンデにビデオテープを渡し、ビデオテープレコーダーに入れ、再生させた

そこに映ってたのは紛れもなく異星起源種―――――BETAの姿だった。

種類は…要塞級はいないわね。戦車級と兵士級だけ。

少な過ぎる――――本当に大隊規模の数なの?

「ファルカ」

「はい!」

「本当に大隊規模の数のBETAがいたのか?何か引っかかるわ」

「と申しますと…」

ハイヴは確かに砕けた―――それ故に反応炉はもう殲滅した筈……。

仮設指揮所の外に鹵獲した凄乃皇があり、今技術スタッフがそれを分析している

まさか、BETAの目的は凄乃皇?

あの自爆装置はG弾20発分の威力がある。

安易に使えない………解体するしかないわね

「二コラ、こっちに来なさい」

「は!」

私の言葉通り、二コラは私の傍に近寄る

難しい表情を浮かんだ私は苦渋の選択を迫っていた

どうするか…?アレをアイルランドに持ち帰れば、戦争を終結させる鍵となる。

―――――数分が経ち、漸く決断した。

「二コラ、鹵獲した機動要塞―――――凄乃皇はこの場で解体する」

「え?!折角手に入れた貴重な機体を解体するのですか!?」

「あんなデカブツはBETAの標的となりやすい。爆破解体するにはこの佐渡島を放棄しなければならない―――――何の為に占領したのか分からないわ」

私が悩み始めた時…

「第666戦術機中隊、大佐渡山地に到着。作戦を実行してください」

CPの一人が第666戦術機中隊が大佐渡山地に到着したと告げる

早く終わらせて欲しいわね……。

「急がせろ。復興に支障がきたす」

「は!第666戦術機中隊、BETAの数を全て殲滅してください」

戦車級と兵士級だけだから楽勝………。

「念の為にサイコアリゲートルを出撃させろ」

「既に出撃済みです」

「あ、そうだったわね(666の機体として登録してあるんだったわ)」

そう安堵した私は早急に終わると確信した

「この調子なら早く終われるわね。あとは頼む」

私は二コラと共に仮設指揮所から出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良平Side

 

俺はベアトリクスの命令で第666中隊と共に佐渡島に蔓延る残存BETAを討伐しに行った

だが、想定済みだ

頭脳級を倒したとはいえ、戦車級や兵士級などの小型種はまだ残ってる可能性はある

四肢切断しないと動かせないこのサイコアリゲートルならどんなBETAだって倒せることが出来る

俺はそれを巧みに操縦する

《ダリル君、あと少しよ。頑張ってね》

「了解!これで最後かッ!」

突撃砲6門一斉発射しつつ全て撃破

まだ残存のBETAはいないか辺りを確認しつつ、いないと確認したらこれで任務完了だ

全て殲滅した―――のか。

《みんなお疲れ様。よく頑張ったわね――――ダリル君》

「いえ、自分は任務を遂行しただけです…」

《総員撤収。新佐渡基地に帰投するわよ》

任務を完了したとファムの判断で俺達が駐留してる新佐渡基地に帰投した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰投後、仮設格納庫に衛士強化装備に身を包んだファムがラーストチカの管制ユニットから降り、姿を現した

そしてサイコアリゲートルの管制ユニットの中にいる俺を抱える

「アネットちゃんも手伝って」

「分かった」

アネットも俺を抱える

「いつもすまないな」

「いいのよ。困った時は助け合うのが筋よね?アネットちゃん」

とファムはクスッと笑みを浮かべる

「そうだね。うん――――あたし、ファム姉がいたからここまで来れたと思う。だって、あたしがファム姉みたいに」

アネットが言おうとした時、ファムはそれを止めた

「そんな事ないわよ。アネットちゃん――――貴女はよく頑張ってる」

ファムはアネットを褒めた

「そうかな……」

アネットは視線をシルヴィアの方に向ける

「何かしら?」

「え?いや、うん…」

「冷やかし?」

「違うわよ」

アネットはシルヴィアを茶化す

アネットの行動をシルヴィアは少し不機嫌な態度を取る

「あ、そう」

仲が良い事は良い事だ。

俺は少し笑みを浮かびつつ、ファムとアネット、シルヴィアの3人で食堂に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《佐渡島東欧州社会主義政府は日本政府に佐渡島復興支援金を要請し、日本国の総理大臣は出来る限りの対応はしていくとの事です》

食堂内に流れるラジオ放送

俺は佐渡島が無事なら住んでた人達が無事帰れたらそれでいいと思う

「どうしたの?早く食わないと昼食時間終わってしまうわよ」

「ん?ああ、少し考え事してただけだよ」

佐渡島本土復帰するのはそう長くはないだろう。

あそこは元々日本帝国の領土だ

香月女史を擁護した日本政府は東欧州社会主義同盟に逆鱗を触れ、佐渡島を占領されるきっかけとなったんだ

G弾を使わせたくない香月女史はG弾20発分の自爆装置を起動させ消滅させようと試みた

この時点で矛盾してる……彼女が正しい選択したかしてないのか俺には分からない

そんな事はさて置き、俺は何も考えずテーブルに乗ってる缶詰を開ける

「ッ!―――待って!それを開けるのは」

ファムは缶詰を開けるのを止めようとするが遅かった

「う!」

缶詰の中身の臭いが食堂内に充満しその場にいる衛士達は悶絶する

「うぅ!くさ!」

「ごぉええええええ!」

「な、何だこの臭いは!?」

俺とファムは思わず息を止めた

「うぅ!――――ダリル君…ごめん…」

俺は缶詰のパッケージを確認する

そこに書いてあるのは

「シュールストレミング!?(道理で臭かった訳だ…)」

ファムは限界を達し、リバースした

「ごめんなさ……ぶぅえええええええ!!」

リバースした後、そのまま気絶する

そんな事は露知らず、遅れてきたアネットとシルヴィアが食堂に入る

「ごめんごめん。着替えるのが時間かかって…う!ちょ、ちょっと何なの?この臭い」

「う!……ダリル、アンタ缶詰の中身見てなかったの?」

アネットもシュールストレミングの強烈な臭いで悶絶する

シルヴィアは自分の鼻を摘み臭いを入らないようにした

「見てなかったけど…」

「馬鹿!それ世界一臭い缶詰なのよ!!食料補給が手違いあった可能性高いわ」

痛覚に訴えてくるほどの臭い――――――これは……

一度開けた缶詰を捨てるなんて勿体無い。

息を止めて襲い掛かる臭気を耐えながらシュールストレミングを食する

「!」

口の中から臭いが襲い掛かる

「く、臭い!!」

臭いを耐えながら缶詰の中身がなくなるまで食い尽くす

「くさ!ぐ…!」

拙い…リバースしそうだ

しかし、ここで食べきれず残すなんてできない

俺はシュールストレミングを全部口の中に放り込む

「ぐざ!うぅ!」

口の中に入れる途端、強烈な臭いが……!

味わって食べてから数分後、俺は食べきった

「はぁ…はぁ…食べ切ったぞ…!」

「良かったわね…これは臭いがキツくて掃除が大変そうだわ」

BETA大戦真っただ中、物資が欠乏する中でやむを得ないところだ

でも何故シュールストレミングがあったんだ?

俺は急いで食堂から立ち去ろうとしたが、カタリーナが食堂に入ってきた。

「やほー♪腹が減っては戦が出来ぬってね~♪―――――う!この臭いは…!」

察したかカタリーナはシュールストレミングの空き缶を手にする

「シュールストレミング!?何でここにあるのよ!」

「アンタ達の手違いだったんじゃないかしら?」

シルヴィアは指摘する

カタリーナはシルヴィアに疑わしい視線を向ける

「何だって?私はそんな事しないわよ」

辺りを見渡すとシュールストレミングの臭いで気絶してる衛士達が倒れていた

「ぐぬぬ…(補給ルートに手違いがあったと言うの!?いやそんな事はない)」

焦りだしたカタリーナは食料保管庫へ向かおうとするがシルヴィアに止められる

「待ちなさい」

「何よ。こんな臭いところいられないわ」

「信用できないのよ。私も行くわ」

なんとシルヴィアはカタリーナと共に食料保管庫へ行こうとした

「確認しに行くだけだから」

とカタリーナは一言を添える

「あっそう?ダリル、アンタはファムとアネットを中隊長執務室まで連れて行きなさい」

「わ、わかった」

俺を気絶したファムを抱え込みアネットと共に中隊長執務室に連れて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠一Side

 

俺と鈴乃は恭子から呼び出しがあった為、斯衛軍本部で恭子率いる大隊の執務室にて話し合いをした

「豊臣少尉、甲21号作戦は成功を収めたもののその代償として佐渡島は東欧州社会主義同盟率いるベアトリクスに支配された。香月副司令の視点から言えば一応成功と言えるけど、貴重な戦力である機動要塞、凄乃皇・弐型が鹵獲されたから一部は失敗と捉えてるわね」

恭子の言う通りだ。

香月女史はハナッから佐渡島を無事奪還する事は毛頭なかった―――故郷を帰りたい人達に対する裏切りとなるからだ。

もし佐渡島が消滅したら、その衝撃波で新潟の一部は災害に遭い水没したのも否定できない。

そうなると佐渡島住民は絶望し怒り狂い永遠に終わらないデモ活動する事はあっただろう

「…香月副司令は『凄乃皇を鹵獲しても真面に扱える人間はいない』と公言してたからすぐ廃棄処分されるでしょうね」

00ユニット専用機だから真面に扱える人間はいない。それは確かに言える

不穏な空気が流れる中、鈴乃は目を光らせ、決死の表情を浮かべつつ言葉を放つ

「恭子様、話とは一体?」

恭子は真面目な真面目な表情でこう言った

「豊臣悠一少尉を原隊復帰する」

恭子は俺を斯衛軍に原隊復帰すると言った。

ん?原隊復帰だと!?

「え?すまんがもう一回言ってくれないか?俺、頭が混乱しててよぉ」

「…貴方は斯衛軍に原隊復帰すると言ったのよ」

恭子の目を覗くと、濁っていない

つまり本当だって言うのかよ

「あー、つまりアレか?武御雷に乗れるって訳なのか?」

「そういう事になるわね――――で、フルアーマーにしろと言いたいんでしょ?貴方の考えは私にはお見通しです」

グウウウ……流石崇宰家次期当主、全てお見通しって訳かよ

「それと同時に大倉大尉、貴女は我が斯衛軍に移籍よ」

これを聞いた鈴乃は困惑した

「え!?私が、ですか?」

「ええ、貴女には困らせてしまったのは従順承知してる。帝国軍の上層部に話はついている」

鈴乃も斯衛軍に入るって言うのか?

………帝国軍の上層部から冷遇されたのもあるが、幾ら何でも無茶苦茶過ぎる

「私は帝国軍の衛士です!勝手な真似されては」

「事が終わったら帝国軍に戻すわ。一時的な処理よ―――――何より帝国軍の上層部にいる人達は最近良識ある人間が増えて来たけど外道たる人間は少なからずいる。それを一掃しなければならない」

そうか…それで鈴乃を斯衛軍に…。

上層部の中に鈴乃や早乙女を冷遇した将校がいる。

それなら納得出来るな

「で、鈴乃を斯衛軍に移籍する理由は分かったけどよ。俺達は何すればいいんだ?」

俺がそう言うと、恭子は真顔でこう言った。

「横浜基地の警備任務よ」

「!」

「恭子様、あそこは国連軍の施設です!私達を疎遠させようとした連中ですよ。何よりも香月副司令の…」

「分かっている。でもね、これは上からの命令なの。理解して頂戴――――いいわね?」

恭子がそう言うと鈴乃は心で歯軋りするがそれを表に見せずに了承の言葉を添えた

「承服……しました(出来ませんとは言えない……これが斯衛軍…威圧が凄過ぎる)」

こうして俺と鈴乃は斯衛軍の衛士として横浜基地の警備任務を励むことになった

そして、横浜基地に不穏な空気が感じる…この胸騒ぎが現実にならなければいいが

この時の俺はそう思っていた

再び地獄を味わうまでは……。

 

 

 

 

 

 

 

The end of Part 3

 




今回はマブラヴSF本編シナリオと『マブラヴオルタネイティヴクロニクルズ ~継承~』を参考にして書きました。
マブラヴアニメ第二期が終わって早速情報が入りましたね
月刊MRという雑誌なんですが、創刊号はアニメオリジナルの臼杵咲良の事を特集し何やら彼女の事を解剖する内容なんですよ。
純粋な心があれば彼女…臼杵咲良の事が好きになる人はもしかすると増えるんじゃないかな?と思います。
純粋な心ですよ。
で、その表紙には臼杵咲良と02式吹雪改。
02式というなら、もうこの時点で臼杵咲良は第三期以降にも生存は確定したと同じなんです
まさか生き延びるとは全然思わなかったです。正直死ぬと思い込んでました。
佐渡島に住んでた唯一の少女が一体何をやらせるつもりなのか?
という訳でインペリアルアーミー編はこれで終了です!
1年…1年の月日が経ちやっと完結出来ました
第4部はテログループ編です
時系列は横浜基地防衛戦ですが、タケルちゃん絡みの話は申し訳ありませんが全部カットされる可能性がありますのでそこはご了承ください
臼杵、どうしようかな……多分出しません
というかマブラヴアニメ第三期あるのかな……この終わり方だと『俺達の戦いはこれからだ』エンドになりかねないし(-_-;)
裏話は活動報告で言いますね!
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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第4部 テログループ編
第32話 Waltz For Debby


悠一Side

2001年12月29日

国連軍 横浜基地

 

俺と鈴乃は恭子から指令を受け、斯衛軍の衛士として横浜基地の警備任務を担う事になった

しかし…

「何で私まで斯衛軍に…(帝国軍衛士として全うしたいのに、まさか斯衛軍にヘッドハンティングされるとは…)」

どうもこうも納得がいかない早乙女は口では言わず心の中で愚痴っていた

「早乙女、暫くの辛抱だ。この任務を達成すれば帝国軍に戻すと恭子様から約束されたからな」

気楽にいこうぜ早乙女

俺が着用してる軍服は外様家仕様(白)だ

で、鈴乃と早乙女が着用してるのは一般仕様(黒)

一つ問題なのは月詠真耶中尉だ。

昨年、帝国軍欺衛軍の合同会議の時、征夷大将軍に暴言吐いちまった以降避けるように無視されたからな

あの時は本当に申し訳ないと思ってる。今更だが

俺は斯衛軍の衛士としては最低レベル――――つまり誰にも信用されてない

だが恭子は違った。嫌われ者の俺に対し恭子はそれを理解してまで俺を叱ってくれた

もうあの時の俺とは違う。少しずつ変わったような気がする

その時、月詠中尉が白の軍服を着てる部下らしき女性3人を引き連れて俺達に近づいてきた

「ん?貴様は豊臣少尉か。久しいな」

「…お久しぶりです。月詠中尉」

俺は月詠中尉に向け敬礼する

「あの時の無礼については謝罪します。申し訳ありませんでした」

「……少尉、過ぎてしまった事は気にするな。私も誤解をしていたようだ―――心から謝罪する」

と言って、頭を下げる

「おいおい、頭下げなくていいよ!」

月詠中尉は真剣な眼差しでこう言葉を放つ

「ところで少尉、斯衛軍に戻ってきたのか?」

「ああ、原隊復帰だ」

「そうか。後ろにいるのは帝国軍の…」

鈴乃と早乙女も月詠中尉に向け敬礼する

「大倉鈴乃大尉です」

「早乙女まどか少尉です」

月詠中尉は早乙女とは初対面だったな

「早乙女少尉か――――成る程、だが貴様は単にここへ戻ってきた訳ではないな?」

チッ、バレちまったか………。

「甲21号作戦の時、貴様達は東欧州社会主義同盟と結託してハイヴの反応炉を破壊したと聞いた。香月副司令の邪魔した天羽組とやらの極道組織が介入しなかったら佐渡島はもうとっくに消滅してただろう」

………………。

「月詠中尉」

鈴乃は月詠中尉に一言を放つ

「?」

「貴女が率いる第19警備小隊は我々スパルタン中隊の指揮下に編入します」

月詠中尉はこれを聞いて戸惑う…筈だった

なんと戸惑うことなく冷静な態度を取った

「貴女は私より階級が上だ。ご命令とあらば従わせて貰います。大倉大尉―――何なりとお申し付けください」

「ここに来てまだ浅いが、感謝する」

「崇宰大尉の命令で斯衛軍に戻ってきたんだろ少尉。これだけは言っておく―――無茶はするな」

月詠中尉の言葉を聞いた俺は小さな笑みを浮かべた

「了解です。必ずこの任務を終わらせて参ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭子から指令を下された1時間後、練馬駐屯地に戻った俺と鈴乃はムーア中隊の面々を集いブリーフィングを行った

「――――総員傾注!これよりブリーフィングを開始する」

緊張感を漂う中、皆はザワザワし駒木だけは冷静な表情を浮かべる

そして鈴乃は皆に向けこう言い放つ

「今回の任務は横浜基地の警備任務だ――――恭子様から直々命令下された。この任務に参加したいものを挙手を願う」

佐竹は戸惑い鬼頭も少し困惑しつつも笑みを浮かべている

紅林は顔が強張っている。早乙女と駒木は真面目な顔だ

「誰もいないのか?」

早乙女が挙手する

「はい!」

「早乙女少尉、参加するか?」

「勿論です!」

鈴乃は他に参加した人はいるか?と問いだそうとした時、佐竹が困惑した顔で言い放つ

「大倉大尉!横浜基地ってあの香月副司令がいるところですよね?」

「そうだ」

「何考えてるんですか!あそこは一部の人しか優遇されないんですよ!」

「優遇とか冷遇とかそんな事はどうでもいい。佐竹、貴様は元々衛士だったんだろ。貴様がまだ現役の衛士だったらこの任務は参加する筈だ」

鈴乃は佐竹に向け軽蔑な目で言った。

「佐竹よ。これは大倉大尉からの志願だ――――ただ警備するだけではなさそうですね大尉」

「察したか鬼頭。そうだ、私と豊臣少尉、そして早乙女少尉は帝国斯衛軍の衛士として横浜基地を守るんだ」

それを聞いた早乙女は参加拒否しようとするが

「大倉大尉、そんなの聞いてませんよ!」

「参加拒否は不可能だ。早乙女少尉」

「グウウ…(だ、騙された……こうなったら意地でもやってやります!)」

その後ろにいた伊隅大尉、柏木少尉、そして多恵が鈴乃が言った任務内容を異変を気付く

「少しいいか?大倉大尉」

「いす…じゃない『大地』大尉、何だ?」

「横浜基地の事なら私がよく知ってます。一緒に行かせて貰えないでしょうか」

と伊隅大尉は嘆願した

しかし伊隅大尉達は世間一般的には戦死している

表に出られない。それを含めて二度と家族に会えない事からそれが余計に辛い。

当然の如く、鈴乃はそれを断固拒否した

「『大地』大尉、お気持ちは分かりますが、世間一般的に戦死した衛士は表には出られないんです」

「そうか…」

伊隅大尉は帝国軍簡易ジャケットの左ポケットから3.5インチのフロッピーディスクを取り出した

「横浜基地の内部構造です。地図として使ってください」

「え?いす、じゃなかった『大地』大尉…そのフロッピーディスクはどこで手に入れたんですか?」

と柏木少尉は問いかける

「甲21号作戦のブリーフィング前に副司令の個室から取ってきただけだ」

おいおいおい、これって窃盗にあたるんじゃないか!?

あ、死人は口なしだから何も言えないな……

「有難く受け取っておくわ」

鈴乃はフロッピーディスクを受け取る

「ムーア中隊はどうなされるのですか?」

伊隅大尉の問いを鈴乃はこう答える

「ああ、『大地』大尉に預ける」

「了解しました」

駒木が鈴乃に言葉を放つ

「大倉大尉、私は『大地』大尉と因縁があります。クーデターの時は対峙していましたから―――正直やっていけるかどうか不安です」

駒木の言葉を聞いた伊隅大尉はこう言い返した

「駒木咲代子中尉だったな――――どう言葉を言えばいいのか。まぁ高原少尉については気にするな」

「え?」

「高原はみんなと一緒に戦いたかった筈なんだ。きっと許してくれるさ」

確かに駒木はクーデターの時は伊隅大尉と対峙していたな

萌香を殺した事により…いやそれ以前にクーデター加担した時点で本来なら極刑下されて懲罰部隊入りだったんだろう。

だが恭子が崇宰家次期当主としての権力を使い、裁判なしにさせたんだ

貴重な戦力を失う訳にはいかない――――帝国軍上層部の連中は命の重さが全く理解できず自分の保身だけの事を考えていた

そういった連中は絶対に許されねぇ

「恭子様がいなかったら、私は今ここにおらず極刑下されて懲罰部隊送りにされてたでしょう――――衛士達を駒同然に切り捨てるなんて…これが世の中なんだと痛感しています」

「だが、貴様は今ここにいる。恭子様に感謝するんだな」

そして伊隅大尉は駒木に握手を求める

「一緒に戦おう。駒木咲代子中尉――――もう自分を責めるな」

伊隅大尉は和やかな笑みを浮かべた

駒木はそれを聞いて、涙を流しつつ小さな笑みを浮かべて伊隅大尉の手を掴み握手した

「はい――――命を懸けて戦います」

駒木は日本の未来の為なら本気で死んでもいいと思っいた

死ぬ覚悟は出来てる…だが恭子に救われ死んでいった衛士の為にその覚悟がある

俺はそう解釈した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、早乙女除いて鬼頭や紅林、駒木はこの任務は不参加となり俺と鈴乃、早乙女の3人になった

そして横浜基地のブリーフィングルームにて月詠少尉やその部下3人含めて約12人を集いブリーフィングを始まった

大半が黒服の衛士だ

「総員傾注!先程、高崎と秩父の観測基地でBETAの大深度地下進攻が確認された」

テロリストではなくBETAが迫って来る

これは恐らく既に殲滅した佐渡島ハイヴの地下深く…地下5階くらいで地中を潜り侵攻してきたのだろう

早乙女は強張った表情で言い放った

「確か暫定ラインに兵力を配備されてる筈では?防衛線の部隊は何をしているのですか?」

これを聞いた鈴乃はこう答える

「佐渡島占領に伴う影響で早期警戒網は緩んでいただろう。あそこは今ベアトリクスの支配下だからな―――だからと言って残存のBETA群が全て殲滅したとは必ずしも絶対に限らない」

そうか………あの作戦の影響で……?

「BETAの移動深度は浅くなっている。現段階での出現予想地点は旧町田市一帯だ。恐らく佐渡島ハイヴの地下茎構造が、既に本州内陸部まで延びていたと考えられる」

佐渡島ハイヴの中にあった反応炉を破壊されなかったら俺達はどうなってたかは知りたくない

アホ臭くて嫌になるほど考えたくないぜ

香月女史が掲げた作戦は無意味じゃなかった………が、それをよしとしない佐渡島に住んでた人達やシマの所有権を持ってる天羽組がいたから佐渡島は無傷で奪還出来た

このまま香月女史の思惑通りで佐渡島消滅したら、新潟の一部付近で津波に覆われてただろう

そうか……そういう事だったんだな。

「これに対し、帝国軍は迎撃の準備を開始している。だが、敵の最終目標地点は、ここ横浜基地だ」

スパルタン中隊の編成は…

00サブレッグ(黒):スパルタン1:大倉鈴乃

00フルアーマー(白):スパルタン2:豊臣悠一

武御雷(赤):ブラッド1:月詠真那

武御雷(白):ブラッド2:神代巽

武御雷(白):ブラッド3:巴雪乃

武御雷(白):ブラッド4:戎美凪

武御雷(黒):スパルタン3:早乙女まどか

武御雷(黒):スパルタン4:

武御雷(黒):スパルタン5:

武御雷(黒):スパルタン6:

瑞鶴(黒):スパルタン7:

瑞鶴(黒):スパルタン8:

の一個中隊で12機編成だ

何故武御雷の数が多いのかって言うとこれは恩田技研工業の能代社長による計らいだ。

恭子はコネクションを使ってまで武御雷を調達したんだな!

流石崇宰家次期当主だぜ。

「我々は侵攻中の敵を迎撃する。これより各地の配備場所を告げる――――尚、存じてると思うがA-01部隊と共闘する可能性は高いからそこは理解してくれ」

まさか、本当にこんな時が来るなんて思わなかった

BETAが、横浜基地に………!

怖気ついてどうする?ここまで来たんだ。今更退くなんて出来ねえ!

「我々は共に戦う仲間だ!どんな状況であっても見殺しにするようなことは出来ない」

そうだよな…そんなの当たり前な事じゃないか

俺だって鈴乃、アンタを見殺しにするなんて出来ない。

全力でやるまでだ

「――――最後に貴様達に伝えておくことがある」

「か…」

………。

「か、勝ちたいかーーーーー!」

突如、鈴乃は月詠中尉達の前で大声叫んだ

「は?」

俺は戸惑った

「生き延びたいかーーーーー!!」

月詠中尉除いて部下達は「おおー!」と叫んだ

おい、これって……?!

まるで、ウルトラクイズじゃねえか!!

ってそんな事はどうでもいい!とにかくだ、この任務終えたら佐渡島同胞団に戻るんだ

斯衛軍には戻りたくないと言ったら嘘になるが…その後の事はゆっくり考えるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国連軍Side

 

その頃、横浜基地の第2防衛線に配置していたヴィクター大隊の衛士達が乗る陽炎は接近してくるBETA軍が面制圧されていく光景を静観していた

「おおお……凄えよ!こんな大規模な面制圧……初めて見たぜ!」

「第1防衛線の連中……流れ弾に肝を冷やしているでしょうね」

「第1陣の突撃級と戦いながらだからな。気にしてる暇はねえだろ」

BETA群が面制圧されていく中、大地が震え動く

「しかし、この震動と地響き……たまらねえよな」

「何だお前、スウェイキャンセラーをオフってるのか?物好きな奴だな」

「ほっとけ!オレはこうやって戦場の空気を感じる事で、闘志を掻き立ててるんだよ!」

「振動センサーの波形なんかで盛り上がれるかっ――――――ん!?」

その時、ヴィクター大隊の衛士の一人が違和感を覚え悪い方向に傾いていくと確信する

「……どうした?」

「……何だこの揺れ……」

「――おかしい!?センサーが――振り切ってるよ!?」

次の瞬間

ドォォン

ドォォォン

「――――」

「――――!?」

「――ッ!!」

ヴィクター大隊の衛士達の前に現れたのは…

「―べッBETAだぁッ!!」

突撃級がヴィクター大隊に襲い掛かる

そして各隊員は迎撃態勢を取り突撃砲を構える

「――死ねぇぇぇ!」

ガガガガガガ!

「――ヴィクター1よりHQ!コード991発生ッ!!繰り返す―――コード991発生ッ!!」

「――この野郎ォォッ!!」

ガガガガガガガガ

「――奴等支援攻撃の振動に隠れて地下を来やがったッ!!町田の光線属種は囮だッ!!」

「――バカなッ!BETAが陽動を仕掛けて来たのか!?そんなバカなッ!!」

第2防衛線に配置したヴィクター大隊の衛士達は奮闘虚しく全員戦死した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴乃Side

 

私は斯衛軍の衛士としてスパルタン中隊の長として月詠中尉率いる第19警備小隊を我が中隊の指揮下に編入した

武御雷専用の強化装備…00式衛士強化装備は斯衛軍しか扱ってないそうだ。

正直、慣れないものだな―――だが武御雷の性能を発揮するには00式衛士強化装備を着用する事が必須だからやむを得ない。

00サブレッグに00フルアーマー……普通の武御雷でも充分発揮出来るのだが能代社長には頭が上がらない

ウォーミングアップでストレッチしてる時、HQから通信が入った

《HQよりスパルタン1―第2防衛線突破されました!第3防衛線、演習場にて接敵!戦車部隊も砲撃開始したようです》

もうすぐここに来る―――。

「スパルタン1了解、直ちに迎撃態勢を取り砲撃を開始する」

町田は囮だったようだ

BETAはアホな知能を持ってる訳がない。一つ覚えれば少しずつ賢くなる化け物だ。

《スパルタン1応答せよ!此方、A-01部隊の長に任された速瀬水月中尉だ》

速瀬………伊隅大尉の部下の一人だ

無視するわけにはいかない

「スパルタン中隊の大倉鈴乃大尉だ。貴様は速瀬水月中尉だな?」

《貴女は、帝国軍の―――!?》

「訳ありで斯衛軍にいる。理由はこれが終わってから全部話す」

《…分かりました。敷地内にBETAが侵入したようですので大倉大尉もお気をつけてください》

やはりそうだったか…となるとA-01は第2滑走路に行く筈だ

「総員傾注!横浜基地の敷地内にBETAが侵入してきた。それらの殲滅を行う!」

《上申し上げます!》

「どうした?」

《第1滑走路は制圧。周辺にいた戦術機部隊も全滅――――大尉、ご命令を!》

第1滑走路はダメだったか――――そうなると…

「我が中隊はA-01部隊の援護に向かう。意義のある者は?」

私がそう問いだすと、「ありません」と部下達の答えが返ってきた

「では第2滑走路に向かうぞ。我に続けぇぇぇぇッ!」

武御雷(+瑞鶴(黒)2機)を編成したスパルタン中隊は第2滑走路に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2滑走路周辺に着いた私達スパルタン中隊はA-01部隊の不知火が地下から出現した要塞級を見て驚愕していた

「フォ…要塞級……!」

《――ちくしょう!此奴等地下からッ!!》

白銀少尉の声が響き渡る

そして…御剣少尉も

《――第1滑走路はもう制圧されたぞっ!!》

《――くっ!よくも……!!》

涼宮少尉が乗る不知火が突撃砲4門一斉発射し目の前にいるBETA群を撃ち抜く

《――出て行きなさいよ!――このッ――このッ!!》

撃ち漏らしてる……?

しかも突っ込んでいるじゃないか!

《――突っ込み過ぎよ茜ッ!!》

《――カバーします!》

珠瀬少尉のファインプレー―――――なかなか筋通ってるな。

要撃級を次々と倒していくじゃないか

私も負けず嫌いだ―――一匹も殺さずには帰れない

「戦車級が来たぞ!総員砲撃用意!!」

私が乗る00サブレッグはレールガンを構え戦車級数体に目掛ける

悠一が乗る00フルアーマーは2連装突撃砲を構える

その他諸々は各員突撃砲を構える

そして…

「砲撃開始!」

私はトリガーを引きレールガンを発射し戦車級に当てる

他の皆は突撃砲の120mm弾や36mm弾を放って戦車級に当てる

見事命中!だが…

《中隊長!戦車級が次々と増えてきます!》

早乙女が弱気な発言をした

「馬鹿者!それを最後までやり遂げるのは我々衛士の役目だ!」

私は早乙女に威圧を掛け叱咤する

《大丈夫なのかよ!これは》

「悠一!気を抜くな!全く―――ここに光線属種いなくてよかったな」

小さな笑みを浮かべるのも束の間、動きがおかしい不知火1機が戦車級に立ち向かいその場で動かず突撃砲で弾を放っていた

《不知火1機が単機で戦車級に…》

「カバーしろ!早乙女、間に合うか!」

《やってみせます!》

早乙女が乗る黒い武御雷はA-01部隊と思われる不知火1機を援護射撃した

《援護します!》

《あ、ありがとう…》

この凛とした声、確か駒木が救助した臼杵咲良か。

正直、『一人でなら大丈夫だろう』と思うところだが生憎そうはいかない

「スパルタン1よりA09b-02へ。援護する――――臼杵咲良少尉」

臼杵は少し戸惑いながらこう答える

《何故私の名前を…?》

「駒木から少し聞かせて貰った。それより今は目の前にいる敵を撃つ事を集中しろ!」

《りょ、了解!》

先頭の要塞級が此方に迫って来る

「月詠中尉はA-01の援護を!私達は他の部隊をカバーする!」

《了解!》

「行くぞ!我に続けぇえええ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国連軍の横浜基地でのBETA襲撃から約4時間を経過していた

どれくらい被害を被られたのだろうか―――それを考える暇はない。

私達の目の前にいるのは要撃級と突撃級

「突撃級は前からでは無理だ!後ろから回って刀削麺をプレゼントしろぉ!」

《了解!!》

部下達はそういうと長刀を握り構え要撃級を次々と真っ二つに切り裂いた

早乙女もよく動いてるな?

突撃級に突っ込んではいないみたいだ

やってる事は人生ゲームと変わらない――――このまま終わらせることなど出来ない

《死に晒せ!BETA共ぉ!》

早乙女は決死な覚悟で突っ込んでくる突撃級1体を長刀でバッサリと切り裂いた

BETAの血液を早乙女が乗る黒い武御雷の装甲にべったりとついた

120mm弾の流れ弾が要撃級に命中!

「月詠中尉はA-01の支援砲撃に向かった!我々だけで横浜基地にいるお客さんをぶち込め!」

《了解!!》

《A-01、反応炉に向かってる模様!》

部下の一人がこう報告した

「我々の任務はあくまでも基地の警備だ!反応炉はA-01に任せればいい」

《しかし…》

「これは命令だ!斯衛の衛士としての役目を全うすべきだ!!」

《了解…!》

横浜基地は元々BETAの巣窟―――横浜ハイヴだった場所だ

私はレールガンを捨てサブレッグの中にある突撃砲2つを構え電光石火のような速さで次々とBETAを葬っていく

「これ以上やらせはしない!」

ガガガガガガガガガ!

悠一も負けず2連装突撃砲で36mm弾を放つ

《一列に並べよ!クソBETA共ぉ!》

さらに左腕に装備してるロケットランチャーを撃ち込んだ!

この場にいる要撃級は全て殲滅

突撃級はA-01部隊のところに向かったがそこは月詠中尉達が阻止した

これで終わり……だった筈。次の瞬間

《スパルタン中隊応答せよ!当基地の制御室で涼宮中尉が反応炉を止めようとしてる最中であるが》

「何?どういう事だ!?」

反応炉を止める事を失敗したのか!?

A-01は何をやっている!?

《スパルタン中隊は早急に現場へ向かえ》

「CP!どういう事だ!?CP!」

嫌な予感がする……私は部下を率いりA-01部隊のところに向かうが、そこにいたのは白銀と速瀬中尉、臼杵が乗る不知火の3機だ

「スパルタン1よりA09b-01、聞こえるか!?」

《ッ!?》

《大倉大尉!?何故ここへ》

「手伝ってやる」

《いや、俺達だけで十分ですので大丈夫です》

と白銀は断りの言葉を放ったが、残念ながらそれは受け入れられない

「馬鹿者!ここは階級が上である私の命令に従うのが筋だ!」

指揮は恐らく香月副司令が執っているだろう―――――白銀は香月副司令と深く関わりがある

放ってはおけないな

「速瀬中尉、反応炉は誰が破壊するんだ?」

《え?はい。私が行こうと試みていますが…大尉?》

「いや、それだけ聞いたら十分だよ。香月副司令の命令だろ。ならば覚悟を決めて突っ込めよ――――裏社会は――――衛士界隈は食うか食われるかの世界だ。護衛たるものの兵士…それが衛士だ。私はそう解釈している」

私の言葉を聞いた白銀は少し戸惑ったが作り笑顔を浮かべる

速瀬中尉は誇らしげな笑みを見せた

《言われなくても分かっていますよ。白銀、行くわよ!》

《はい!》

白銀が自信がつき反応炉に向かおうとしたその時

《おい、制御室のモニターがおかしいぞ!》

白銀が狼狽の声が上がった

白銀の機体のモニター画面で映ってる制御室は画質が荒くノイズが酷い…一体何が起きているんだ?

そして香月副司令からの通信が入る。がこれもノイズが酷くて聞き取れない

《――α2……制御室が……繋が………大至…確……して……だい……》

次の刹那、モニター画面に映ってた制御室の様子の画像が突如消えデータリンクが途絶した

何だ今のは……!?

「(これは拙いな……)」

速瀬中尉は制御室に異変を感じた

《―――白銀ッ!制御室だッ!》

《――了解ッ!》

白銀機は制御室にいる涼宮中尉の様子を確認する

しかし、白銀が制御室の窓が血がべったりと付着した時点で…

《――ッ!》

《ッ!》

「……間に合わなかったか(クソ!またあの時の光景を見る事になるのか!)」

《だからと言って制御室を破壊するのは愚策だぜ?》

悠一は難しい表情でこう言った

《――す…涼宮中尉……!!》

涼宮中尉の死を悟った速瀬中尉は嘆いた

《は…る……か……ッ!!》

―――ッ!!

絶望、恐怖、狂気、喪失

白銀はそれに襲われていた

冷静を欠け制御室を破壊しようとするが、私は制止する

「やめろ!制御室は破壊出来ない」

《…止めないでください!大倉大尉、中尉が…涼宮中尉が彼奴等にやられたんですよ!》

感情を爆発し悲しみに浸ってるが、私は突撃砲2つをサブレッグに収納しマニピュレーターで白銀機を殴る

「ふざけるなぁぁぁぁぁ!」

ボガァ

《ぐ…!》

「想いを託されたなら涼宮中尉が貴様を助けて良かったと思えるように、任侠に生きるのが貴様にできる唯一の事だろうが!!」

私は白銀に喝を入れた

《…う…はい……すみませんでした…命を懸けて人類を救って見せます》

「よく言った」

そして、サブレッグに収納した突撃砲2つを握り構え直す

《―――90…格納庫に……A……侵…ッ!!α1交戦……!!》

90番格納庫………月詠中尉がいるところだ

彼女達は無事に帰って来るだろう

ここでデータリンク障害、外部からの通信は出来ない

臼杵はポツリと呟く

《BETAがここに襲撃してきた理由…分かった気がします》

今更ながら、臼杵は理解していた

《反応炉はBETAの司令塔…佐渡島ハイヴにあった頭脳級と呼ばれるBETAもそれに該当してると思います》

彼女の口からは嘘偽りはないようだ

制御室に繋げようと試みた速瀬中尉はこう言った

《大倉大尉、制御室に繋ごうと試みましたがダメでした》

まさか――司令部も棟内に侵入したBETAだって言うのか?

これは流石に幾ら何でも早過ぎる―――モニターを見る限り横浜基地のメインシャフト上層の中継器がやられている

ここから第五隔壁までは未だに交信有効圏…それ以外はアウトか。

では有線なら繋げられるのか?と言えば…

白銀と速瀬中尉の会話を盗聴した私達だが、やってみる価値がありそうだ

速瀬中尉は早速有線で情報端末塔を接続した

すると…通信が回復し、香月副司令から回線を繋いだ

《――あんた達何やってたのよ!?遅いじゃない!》

《――すみません!どうやら中継器が破壊されたようです――現在有線で繋いでいます!》

《――先生ッ!α1はッ!?》

《――格納庫は無線も有線もそっち以上のダメージよ。通信からネットワークまで全てダウンしているの》

90番格納庫はやられたのか!?

しかし、月詠中尉の事だ。そう易々とやられる訳がない

《――ッ!?》

《―――ッ!じゃあ、今どんな状態か全く分からないって事ですか!?》

どんな状態になってるか何も分からないという事か

………。

《ええ、B29フロア以下のネットワークは死んでいるのよ。辛うじてモニター出来ているのは、メインシャフト坑内だけ》

香月副司令は冷静な判断で表情を失う事なくこう言った

ここまで侵入されるとはな………。

《では、90番格納庫は―――》

《――ムアコック・レヒテ機関におびき寄せられて敵がどんどん流入している筈だから、とんでもない事になっているのは確かね》

白銀は悔やんでいた

止めようにも遠隔操作は出来ない。と

香月副司令は語り続ける

《このままでは全てを失ってしまう――どんな手を使っても良いから、とにかく反応炉を止めるのよ!》

《――制御室は敵に制圧されています。制御系を戦術機に直結する事は出来ませんか!?》

《設計上無理ね。―――手っ取り早く反応炉の一部を破壊しなさい》

《――!》

《――ッ!》

《今から反応炉の構造データを転送するから、最小限の破壊で――》

香月副司令が次に語ろうとした途端、突如有線が切れた

《――HQッ!?応答せよHQッ!?―――くッ!!棟内の配線までやられたのかッ!》

これで完全に通信もデータリンクは途絶した

――――BETA共が!

そして速瀬中尉はとんでもない事を言い放った

《―――こうなればS-11使うしかありません。大倉大尉》

彼女の問いを聞いた私はこう答える

「反応炉破壊を名目として戦術核に匹敵する破壊力を持つ高性能爆弾か……窮地に陥っている状況だ。やむを得ないな」

《構造データが手元にない以上、ダメージを最小限まで食い止めるなんてやってられません》

それはいいとして、下手に反応炉を止めたら90番格納庫に全てのBETAが殺到してしまう

「そんな事したら貴様は――」

《分かっています。今から手順を説明します》

速瀬中尉はS-11に反応炉を突っ込む手順を丁寧に教えた

《まずS-11を反応炉にセット―――メインシャフトの隔壁を直接制御で開放して、BETAを反応炉に誘導します。たんまり入った頃合いに隔壁を閉鎖して、S-11を爆破。奴等が餓死するまでの時間を稼ぐ―――これが反応炉を破壊する方法の一つです》

成る程、要するに自己犠牲してまで反応炉を……

いや、S-11は元から反応炉を破壊するために作られた高性能爆弾だ。

これに賭けるしかないか

しかし白銀はこれを聞いて反論する

《――ちょっと待ってください!反応炉ブロックの隔壁破られているじゃないですか?!》

《最終リフトの第1、4隔壁が、トラブルのおかげで無傷なのよ。それを手動で閉鎖するのよ》

《なるほど――じゃあ90番格納庫は…ムアコック・レヒテ機関の停止はどうするんですか!?通信が使えないのに――》

すると速瀬中尉は真剣な表情でこう言った

《―――白銀、あんたが格納庫に戻るのよ》

《―――えッ!?》

「速瀬中尉…貴様…(自らの命を投げ出してまでA-01の衛士達を――横浜基地にいる人間を守ろうとしてるんだな)」

《ムアコック・レヒテ機関の停止は、あんたが直接α1に伝令するのよ》

速瀬中尉がたった一人でBETAを―――――!

都も自分の命を捨てる覚悟でたった一人でBETAに立ち向かった。

彼女は―――速瀬水月という国連軍の衛士は坂崎都という名の英雄を尊敬し始めていた

《大倉大尉、聞いての通りです―――爆破作業は私一人で行きます!白銀、あんたはムアコック・レヒテ機関を止めさせたら、そのまま格納庫で凄乃皇に守りなさい》

凄乃皇・弐型の予備機があったんだな――――当然だが

そして速瀬中尉はにやけた笑みで白銀にこう言い放った

《ああそうそう、あんたのS-11は置いていくのよ?》

妙な胸騒ぎがする―――気のせいか

《爆弾を下ろした分機体が軽くなれば、お得意の変則機動も更に冴えるでしょ!?》

《まさか……中尉……》

白銀の変則機動とやらの戦術は見たことはない

速瀬中尉が評価してるという事はそれなりの戦闘力があるという訳か。

成る程、これは使える………と思う。

あの時の……伊隅大尉のように世間一般的に死んだら帰る場所はない

《―――?》

《いや、何でもありません》

《……白銀》

《はい》

《考え過ぎよ……。私がそんな事する訳ない》

《えっ……?》

《あんたはすぐ顔に出るから、分かりやすいのよ》

《す、すみません》

どうやら白銀は速瀬中尉がこの後どうなるか考え過ぎていた

《私は大尉にヴァルキリーズを任されたのよ?》

《はい………》

そう、速瀬中尉は実質上、伊隅大尉の後任となった女性だ

伊隅大尉の意思を引き継いで……本人は実は生きてると知らないまま――――。

だが、彼女は最後まで戦おうと決意した

止める術は―――――ない。

「速瀬中尉、反応炉の爆破作業は貴様に一任する。それ以上でもそれ以下でもない」

《ふっ、話を理解して助かるわ…白銀、さっさとS-11に下ろしに行く。いいわね?》

《了解》

反応炉は速瀬中尉に任せて、私達と白銀は90番格納庫に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

90番格納庫に到着した我々、スパルタン中隊はその光景を見たとき、とんでもない事になっていた

「BETAの数が多過ぎる…(武御雷の性能を活かしていくには近接戦しかないか)」

00サブレッグのサブレッグを取り外し、短刀を取り出そうとするが部下の一人が長刀を私に渡した

《大尉、お受け取りを!》

「感謝する(難のある機体だ―――それを扱えるか正直不安と言いたいが、慣れるまでやるしかないな)」

そう思いつつ受け取り長刀を握り構える

サブレッグを取り外したらただの武御雷だ。

機体は軽くなった。速く動ける

「月詠中尉達がここにいるんだ。全機援護射撃に入れぇぇぇッ!!」

次の瞬間、この場にいるA-01部隊の不知火を遮り月詠中尉が乗ってる武御雷に近づき援護する形で目の前にいる戦車級を切り裂いた

「邪魔だ」

もう一体

ザンッ

「日本の土地を荒らすな。馬鹿者」

要撃級が此方に近づいてくるが私の部下達や月詠中尉の働きにより次々と殲滅していく

白銀機がA-01部隊に援護

撃ちまくる

更に撃ちまくる!

躱す

躱す

躱す

更に躱す

白銀機の動きはまさに曲芸師

常軌を逸脱した動きと言っても過言ではない

突撃級、要撃級も撃破

白銀武………やはりただの訓練兵。いや普通の衛士ではない。

「白銀に負けるな!我々も行くぞ!」

《中隊長!補給と弾薬が…》

「馬鹿!補給は後で済むことだ!」

私は部下の言葉を遮り、突撃級に突っ込みつつ長刀で袈裟斬りした

「溝の臭いがするのよ―――――この外道が!」

ザンッ!

要撃級を一体切り捨てた次の瞬間

機動要塞の一つが戦車級に取り付かれた!

あれは凄乃皇……いや形は少し違うが、その隣は弐型か。

やはり予備機があったんだな……。

だが鑑賞してる暇はない

一刻も早く全部倒さないと――――私は単機で凄乃皇に取り付いてる戦車級を払いのけようと試みる……筈だった

「くっ!推進剤が切れた!」

推進剤の燃料がなくなってしまった。

クソ!ここでやられるのか……!?

次の瞬間、私の部下達が乗る黒い武御雷が守りを固め援護射撃

そして悠一が乗る00フルアーマーはロケットランチャーを目の前にいる戦車級数体に向け射出した

白銀少尉達の活躍で横浜基地に侵入したBETAを全て殲滅した後、私達スパルタン中隊は戦線離脱していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に分かった事だが、反応炉を破壊した速瀬中尉は戦死、風間少尉、宗像中尉、涼宮少尉は重傷を負い戦線離脱

恭子様から与えた任務を全うし私と悠一、早乙女少尉は帝国軍に復帰

それと同時にスパルタン中隊は月詠中尉が後を引き継ぐ形で存続

私は練馬駐屯地に待機してる伊隅大尉に速瀬中尉の死を伝えた

「そうか……速瀬も逝ったんだな」

「……」

かける言葉がなかった

大事な戦友を喪ったんだ―――――無理もない。

このBETA大戦…世界各国に蔓延るBETAがこの世から全て殲滅するまで終わらない

それと同時にテログループ討伐を目的とした作戦『サンダーボルト作戦』は始まったばかりであり、序章と過ぎなかった

そして、オリジナルハイヴ攻略作戦である桜花作戦が始まろうとしていた




いつも作品見て頂きありがとうございます
そして本編の執筆を疎かにして申し訳ありません。
今回は第4部テログループ編の序章として横浜基地防衛戦です。
当然ながらマブラヴSFのシナリオの一部を参考にして書きました。
7ヶ月半…本編より外伝の方を専念し過ぎて書いたからすっかり忘れてました(-_-;)
マブラヴ:ディメンションズプレイして熱中してたらベアトリクスを完凸!
リリースから1ヶ月迎える前に達成しました(笑)
次回は桜花作戦開始前の話になります。
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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第33話 Cherry Blossom Operation before start

今回は大倉中隊長視点です。


 

 

2001年12月30日

日本帝国軍 練馬駐屯地

 

デスクワークでの作業を一段落した私は今後行われる作戦の計画書を纏め上げる為に中隊長執務室に向かっていた矢先、廊下で訓練兵達が話し合う姿を見かけ盗み聞きした

「近いうちに桜花作戦っていう、人類の一大反攻作戦が実施されるらしいぞ」

「俺達も駆り出されるのかなあ…何人が生きて帰って来られるんだろ」

「何よりもこれを提案したのは国連軍のお偉いさんらしいぜ」

「うあ…俺達はそのお偉いさんに扱き使われるのか」

恐らく香月副司令の事を指してるだろう。

誰にだって死にたくない。みんな同じだ。

仮に私達が桜花作戦に参加したらどこに配置されるだろうか?

攻めか?守りか?

攻めは白銀達と遭遇する可能性が高い

守りは……。

……やめよう。こんな事考えても答えが出ない

何処の戦線に赴かれるのか分からないのだから。

それよりテログループ率いるテオドール・エーベルバッハをどうやって倒すのか?だ。

恭子様は守りに入るのだろう。篁中尉も含めて

考えてる最中、駐屯地に潜り込んだ情報屋の伍代と遭遇する

「伍代、何か掴んだか?」

「ああ、横浜基地に潜入するのは容易ではなかったから情報入手するの大変だったよ」

伍代は笑みを浮かびながら私に封筒を渡した

「桜花作戦の作戦計画書だ。君らも参加するのだろ?帝国軍は守りに入るそうだ。白銀武やその他の衛士を守る役割だ」

「私達が白銀達を守る役割をさせると?」

「御名答だ」

やはり守りに入るのか――――白銀達のバックアップだという事か。

「それとこれは匿名の情報だけどユウヤ・ブリッジスは知ってるかい?」

「ユーコン基地で不知火弐型のテストパイロットしてた男だ。彼がどうかしたのか?」

と私は問いかけると、伍代は当然と振る舞う態度でこう言った。

「大倉の姐さんや豊臣少尉がユーコン基地から去った後、色々あって基地内は大騒ぎだ。紅の姉妹…いや三姉妹かな。その3人の中で2人死亡1人だけ生き残ったそうだ」

紅の姉妹―――クリスカ・ビャーチェノワ少尉とイーニァ・シェスチナ少尉の事を指してるな

ん?三姉妹と聞こえたが……。

「紅の三姉妹……2人だけじゃないのか?」

「…おっと、話が逸れてしまったようだ。ユウヤの消息についてだがジャール大隊のラトロワ中佐の上官の計らいで匿ってるそうだ。不知火弐型Phese3はボーニング社のとある技術者の陰謀で開発され、彼もその機体のテストパイロットになったのだが触れてはいけない機密情報を知ってしまい機体ごと強奪。その後はお察しの通りだ」

成る程、ブリッジス少尉はともかくビャーチェノワ少尉とシェスチナ少尉がお気の毒だ。

3人の内2人が死んだとなれば、彼女――――クリスカ・ビャーチェノワは既にこの世にはいない。

触れてはいけない機密情報が気になるが詮索しない方がいいだろう。

「ユウヤ・ブリッジスはラトロワ中佐の保護下にある。と……ではあのクーデターはアメリカの陰謀だとでも言うのか」

伍代はサラリとこう答えた

「半分正解で半分外れだ」

「どういう事だ?」

「アメリカ政府の陰謀論もそうだけど、この帝都クーデターは国連軍の副司令、香月夕呼女史が絡んでいるそうだ」

!!?

「過ぎてしまった事を考えても仕方ない。これは最初から彼女が仕組んでいた陰謀だ。確証はないけど僕はそう思ってるつもりだ」

そう言うと煙草に火を点け吸い始めた

「………驚愕過ぎて何も言えないな」

言葉が出てこない……あのクーデターは駒木も参加していた。懲罰部隊送りになってもおかしくなかった。

恭子様や恩田技研工業の能代社長の計らいで懲罰部隊送りは免れたが、恭子様がいなかったら駒木は今頃塀の中で戦地を赴くまで待機し悲惨な戦いに参加させられ死ぬまで扱き使われただろう。

恭子様はテログループを壊滅させる為に模索している。まずは彼が潜伏している拠点は東ドイツ首都ベルリンだと判明したが具体的な場所がまだ分かっていない。

その時だった。伍代が意外な事を言い出した

「テオドール・エーベルバッハ率いるテログループだけど、横浜基地を襲撃する計画があったらしい。BETAでの横浜基地襲撃は彼にとっては予想外だったが…次のターゲットを考えてるそうだよ」

テオドール率いるテログループは横浜基地襲撃計画を実行しようと模索していた

「あの下衆が……やってる事がグレゴリーと同じだ」

「グレゴリーもシュミットの名を語って東ドイツを生贄に捧げようとしたのもあるけど、テオドールは”世界全体を一つにさせる”のが最終目的だ。簡単に言えば人類滅亡を望んでいる」

テロリストに成り下がった時点でテオドール・エーベルバッハという男は既に腐っていった

干からびた自分の体を水を飲むように

「――――唯一の救いはアイリスディーナ・ベルンハルトが生き延びた事だ。彼を止めるのは彼女しかいないよ」

「そう考えてもおかしくはないな。彼女は彼の事を同志として慕い愛していたからな」

先に桜花作戦を終わらせないとな……その後の事はゆっくりと考えればいい

「カシュガルに赴くのだろ?気を付けた方がいい。あそこは君らが見たことがない代物が大勢いるからね」

「忠告感謝する」

そして情報提供料を伍代に渡し「毎度あり」と一言を添えられ、伍代は立ち去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急遽、第三会議室にムーア中隊の衛士含め伊隅大尉達を集いブリーフィングを始めた

「桜花作戦の内容だが、我々の役目は守りに入り後方支援に携わる事だ」

悠一は困惑していたが察したが、佐竹は納得いかない態度をとっている

「あの…守りに入るって白銀達を…」

「そうだ。何か不服でもあるのか?」

「ないと言いたいところですが、”大地”大尉達も参加するのですか?そんな事したら白銀少尉達がびっくりしますよ!」

此奴、何か勘違いしているようだから修正しておくか

「何を言ってるんだ貴様は…”大地”大尉達はテログループの情報収集という名目で佐渡島に行って貰う。死人が参加出来る訳ないだろう」

「す、すみません……」

「では、本題に入るぞ」

私は早速、今の現状を皆に報告する

「横浜基地もとい横浜ハイヴ跡地で反応路の停止に伴って、撤退を開始したBETA群は北西に向かって移動―――――これを帝都へ向かっていた増援部隊と仮説防衛ライン守備隊が追撃し、約8割を撃破。その後、BETA群は日本海に脱出。舞鶴基地所属の第8艦隊と同胞団艦隊が、照射危険地帯ギリギリまで追撃するも、1933にロスト。逃げた目標は甲20号目標に向かっていると思われる」

結局、逃げられたがこれは想定内だ。

「情報屋伍代が入手した資料によると、撃破にカウントされてるBETAの中には、移動中に活動停止した個体も多く含まれている」

それでも数万のBETAを撃破したんだ。光線級がいなかったとはいえ我々にとっては記録的な勝利だ

人類の滅亡を回避したんだ。それにしてもとんでもない事だな。

命懸けで情報を手に入れた伍代には感謝しないといけないな。

「今回の戦いで、三個連隊分の戦術機を喪失した」

この場にいる皆は何も言葉が出なかった。

佐渡島奪還作戦で大半が消耗したんだ。さらに防衛線を張ってまで死守するのはいいが、大丈夫なのだろうか?

「佐渡島は東欧州社会主義同盟の占領下だ。返還されるのは長くても22年。早ければ5年かかるだろう」

「……マジかよ。おい」

「22年、佐渡島はベアトリクスの手中にあるんですか。それはヤバ過ぎるでしょ…」

「紅林、BETAはいつ何処で現れるか分からん生き物だ。完全にいなくなるまでの期間と言っても過言ではない!」

「鬼頭さん……」

鬼頭は理解している。佐竹とは大違いだ。

「横浜基地襲撃の件もそうだが、知らないのも当然だ。私と豊臣少尉、早乙女少尉以外誰も知らないからな―――私達が地下で戦っている間、多摩川沿いに展開していた我が軍がBETAの後続を攻撃してくれたんだ」

「帝国軍が……ですか。大倉大尉」

駒木はポツリと呟く。

余程気にしていたのか……。

「そうだ。余談だが国防省から通達があって、支援砲撃の砲弾が底をついた直後、戦術機甲部隊が一気に突撃したんだ」

最後の方でBETAの流出量で尻窄みになっていたのは、死に物狂いで戦った者が町田からの後続を減らしてくれたんだ。

そうでなければ今頃、帝都は陥落しているだろう。

それだけの損害を負ってまで戦い続けた。――――恭子様がいなかったら…駒木が懲罰部隊入りになっていたら…ここにいる皆と出会う事はなかった。

「大倉大尉は横浜基地に行かれたんですよね。一応お聞きしたいことがあって…」

「何だ?」

「現状はどうなっているんですか?横浜基地の」

駒木は横浜基地の現状を聞き出した。

臼杵の事もあるが、まあ彼女を心配するのも当然だ。

「これも伍代から聞いた情報だが、横浜基地の襲撃での死者、行方不明合わせて約4700人。負傷者約2600人―――これはあくまでの現時点での数字――この横浜基地にいた人間の半分以上だ」

国連軍も必死だ。今頃藻掻き足掻いてまで戦い続けている。大騒ぎになってる筈だ。

「横浜基地で真面に動く戦術機は0に等しい。修理や補給は数ヶ月かかるだろう―――――つまり壊滅だ」

斯衛軍は健在だ。あれだけの戦闘で傷一つもないとは……。

だが、帝国軍も負けてはいない。悪足掻きしてまで戦うんだ。

無論、佐渡島同胞団の衛士達も。

「香月副司令は横浜基地の復旧を仕切ってる。物凄い勢いでな」

私がそう言うと皆は口籠り黙った。

「桜花作戦に参加する者いたら挙手してくれ。参加するしないかは個人の自由だ―――貴様達の判断に任せる」

参加するのは個人の自由だ。

国連軍が……香月副司令が絡んでる作戦だ。不参加の人間はいると思っていた。

しかし、私の予想が外れる展開になった。

悠一、早乙女、駒木、紅林、鬼頭――――"豊洲"も参加するんだな。

6人か……同胞団の衛士を補充しても一個中隊。カシュガルハイヴの内部に入れるか。

……無理だ。あの時は他の部隊や東欧州の衛士達、北朝鮮の戦術機部隊がいたから私達はハイヴを攻略出来た。

今回は佐渡島の時とは違う。一個中隊のみの出撃だ。

他国の戦術機部隊と遭遇して共闘出来ればいいのだが、そう簡単にはいかない。

「同胞団上層部の指示を待つまで待機ですか?」

早乙女は真剣な表情で言った。

「国連絡みの作戦だ。上層部も慎重に判断すると思う」

「そうですか……」

本来なら甲20号目標―――鉄原ハイヴを攻略する予定だったが急遽、甲1号目標であるカシュガル―――即ちオリジナルハイヴの攻略だ。

東欧州社会主義同盟は桜花作戦には参加せず欧州大陸奪還に専念。

我々に任された形となった。

私が深く悩み頭を抱えたその時だった。一人の兵士が慌てて第三会議室に入り報告した

「同胞団上層部からの通達です!」

「何だいきなり…」

「す、すみません!上層部からの通達で、ムーア中隊に属する衛士はタシュクルガン・タジク自治県の戦域に配置するとのことです」

タシュクルガン・タジク自治県……カシュガルハイヴの目と鼻の先にあるところだ。

「何やらカシュガルに派遣している第九九九懲罰大隊がテログループの拠点と思える施設が発見したようです」

第九九九懲罰大隊って駒木が配属される予定だった戦術機大隊だ。

佐渡島での戦闘で全滅した筈………。

私は理解が追い付かず問い詰めようとしたが、恭子様と如月中尉が第三会議室に入った途端、一同揃って敬礼する

「敬礼!」と一言を添え恭子様の顔色を伺い、「直れ!」ともう一言を添える

その後「総員着席!」とさらに一言を添え、作戦会議が始まった。

側近らしき警護官がホワイトボードに作戦図を貼り、その場から立ち去る

恭子様は私達の前で高らかにこう言った。

その内容は常識を逸脱し理解できなかった。

「テログループのタシュクルガン基地。此処が我々の攻略地点の一つ…チボラシュカツヴァイ製造工場を隠し持つ敵の秘密基地です。ムーア中隊は修理と物資補給が完了したら直ちに出撃。高高度からBETAの支配地域不覚に侵攻して上空から空襲の後、戦術機部隊や戦車部隊で一気に制圧する作戦―――とどのつまりBETAを狩りながらテロリストの連中を葬る事よ」

チボラシュカツヴァイ……ウルスラ革命で活躍したかつてテオドール・エーベルバッハが乗っていた戦地改修型の機体だ。

奴等はテオドールのクローンを作るつもりか!?

その時だ。鬼頭が挙手し恭子様に問いかける

「発言の許可を」

「許可します。質問どうぞ」

「お言葉ですが、もし作戦行動中に国連軍の戦術機部隊と遭遇したらどうするんですか?」

鬼頭が言ってる事は御尤もだ。

それに対し恭子様はこう答えた

「作戦が長引かないように協力しながら最短で連中を葬る必要があるわ。これは戦術機部隊の奮闘次第よ」

「まあ、そうでしょうね」

………もし白銀達と遭遇したら、他の戦術機部隊と遭遇したら。

考えても答えは出ない。運次第という事か。

だが何か引っ掛かるな。カシュガルはBETAの支配区域だ。どうやって……?

気になるな。恭子様に問いかけるか

「恭子様、少し気になる点があります」

「?」

「タシュクルガン基地はテログループの拠点の一つ。元凶であるテオドールは東ドイツに潜伏している筈では。それに我々は桜花作戦に参加した同時にチボラシュカツヴァイ製造工場を制圧するんですか?衛士達の精神が保てないと思います」

私の言葉を聞いた恭子様は眉を顰める

「地下鉄サリン事件の元凶である宗教団体あったでしょ?その基地に残党が屯っているのよ」

宗教団体?!地下鉄サリン事件を起こした連中の名は言うまでもない。

「雄武同盟という組織で、4年前に一部の信仰者がテログループと合流しBETA支配区域であるカシュガルに赴いたのよ。テログループの支援によって残党は武装化。京都陥落前に基地を建設――――独自の生活圏を築き一個軍団並みの宗教テロ組織に変貌したのよ。無論、真面な信仰者はサリン撒き散らした教祖を擁護する連中のところについて行く訳がなく考えが剃り合わない人間はそれぞれの道へと歩き出し分裂して今に至る」

雄武……久々に聞いた名前だ。都曰く『二度と関わりたくない』と言った程のレベルだ――――名前聞いただけでヤバいと思われる。

「雄武は名前を変えて密かに活動している筈です。何故カシュガルに?」

「その人達は反教祖側の人間よ。私が言ってるのは教祖側の人間が築き上げた宗教テロ組織――――テロリストに成り下がった連中は未だに教祖である彼を崇拝してるでしょうね」

真面な人間ならテロ行為を加担してまで信仰してない。

大半の人が『見限って正解だった』と思っただろう。

「その組織を指導してるのは教祖側の人間だけど、彼はテオドールの傀儡に過ぎないわ。雄武同盟の目的は教祖が築き上げようとした理想の国「シャンバラ」を実現させる――――馬鹿げた話だけど彼等は国家転覆を目論んだ事は事実よ」

その雄武同盟の全貌を聞いた私は呆れて言葉が出なかった

………連中もBETAと同じ。外道極まりない!

「……作戦開始はいつですか?」

「桜花作戦発動と同時に作戦開始よ」

同時進行か。これなら納得できる。

サンダーボルト作戦目標

①タシュクルガン基地内にあるチボラシュカツヴァイ製造工場の破壊

②雄武同盟の壊滅

③テログループリーダー、テオドール・エーベルバッハの殺害

④テログループの壊滅

の4つだ。

テオドールがタシュクルガンに潜伏してる可能性は低い。彼は用心深い。

事前に準備する必要がある。逃げられるリスクは極めて高いが、優先すべきなのは雄武の連中を一人残らず葬る事だ。

……このサンダーボルト作戦は桜花作戦と同時進行で任務遂行する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2001年12月31日

 

昨日のブリーフィングに恭子様はテログループの拠点の一つであるタシュクルガン基地を制圧する任務を私達に下した。

桜花作戦と同時進行か……もしテログループの連中が他の部隊の邪魔をするとならば放っておけないな

朝4時に練馬駐屯地を出発したムーア中隊は移動用車に乗車、舞鶴港へ到着。

そこで戦術機の点検を再度行い、万全なものとする。

 

(テログループのタシュクルガン基地。此処が我々の攻略地点の一つ…チボラシュカツヴァイ製造工場を隠し持つ敵の秘密基地です。ムーア中隊は修理と物資補給が完了したら直ちに出撃。高高度からBETAの支配地域不覚に侵攻して上空から空襲の後、戦術機部隊や戦車部隊で一気に制圧する作戦―――とどのつまりBETAを狩りながらテロリストの連中を葬る事よ)

 

(作戦が長引かないように協力しながら最短で連中を葬る必要があるわ。これは戦術機部隊の奮闘次第よ)

 

(地下鉄サリン事件の元凶である宗教団体あったでしょ?その基地に残党が屯っているのよ)

 

(雄武同盟という組織で、4年前に一部の信仰者がテログループと合流しBETA支配区域であるカシュガルに赴いたのよ。テログループの支援によって残党は武装化。京都陥落前に基地を建設――――独自の生活圏を築き一個軍団並みの宗教テロ組織に変貌したのよ。無論、真面な信仰者はサリン撒き散らした教祖を擁護する連中のところについて行く訳がなく考えが剃り合わない人間はそれぞれの道へと歩き出し分裂して今に至る)

 

戦術機空母『司馬』へ乗り込み、中国大陸へ向かう中で恭子様の説明を思い出し、海を眺めながら作戦の成功を祈る。

佐渡島奪還作戦での出来事――――今思い出すだけでもゾクッとしてしまう。凄乃皇…なんて凄い機体だ。ラザフォードフィールドなんてものを開発してしまう。

アメリカの科学力は伊達じゃないな。

空母内では私含めて悠一、早乙女、駒木、紅林、鬼頭、佐竹、”豊洲”が集って結束している。

 

 

 

横を見ると、早乙女まどか――彼女が何やら考え事をしているのか、水平線の彼方を見つめていた。

その顔は、かつて鉄火場で共に戦った武闘派極道達や都、草野、村田を想う人が見せるであろう表情をしていた―――。

私は早乙女の隣へ歩み寄る。

暫く海を眺めていたが、先に口を開いたのは、早乙女だった。

「どうしたのですか?大倉大尉」

「ん?最近、貴様と話す機会が少なくて話しかけただけだ」

「……それで話って何でしょうか?」

「早乙女、この際だからハッキリ言うぞ。家族の事だけじゃなく小峠達が心配か?」

私は彼女が今想っている存在について訊ねる。

「大尉こそ小峠さんの事心配しているんですよね?」

「彼奴なら大丈夫だろう。私が心配する必要性は全くない」

彼とは佐渡島防衛戦直前に衛士辞めてしまったからな…都の葬式に参列した以降、音沙汰なかった。

私は話を変えて表情を柔らかくし、香月副司令が試験運用した凄乃皇への期待を示す。

「佐渡島で確認した凄乃皇が通常兵器として運用されたら…私達の負担は軽くなると思う」

「それは何故です?」

「誰だって家族には戦ってほしくない。……お前が戦う理由は本土に残ってる家族や友人、小峠達の為だろ?」

「そう言われるとそうですね……少し矛盾してますよね」

眉を八の字にし、考えるように上を向く。

暫く待って、答えが出なかったことを見兼ねたのか私が口を開く。

「早乙女、ひとつだけ言わせて貰うが、”戦う理由”が必ずしもある訳じゃない。それでも、何か理由が無ければ戦うこと自体に疑問を持ってしまうんだ」

早乙女が私の方を向き、話を真剣に聞いている。

これはアドバイスではなく、自論なのかもしれない。

それでも、言いたかった。”誰でも持てる戦う理由”を―――――。

「だから生き残る為に戦うしかない。テログループの連中を全員屠るまでは」

「勿論です大尉。テオドール・エーベルバッハを地獄の果てまで送りましょう!」

「ああ、奴等を葬る事が我々佐渡島同胞団の目標の一つだ」

二人は拳を合わせる。悠一達もその頃、生き残ることを約束していた。

それぞれの覚悟が決まる中、空母は中国大陸へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2002年1月1日―――遂に桜花作戦が発動した。

中国大陸から少し離れた沖では、佐渡島同胞団の戦術機母艦と戦術機揚陸艦。帝国本土防衛軍の戦車揚陸艦、帝国海軍の戦術機搭載可能潜水艦『資朝』が作戦決行までの時間の準備を進めていた。

少数だが、戦術機母艦『司馬』でも先行部隊であるムーア中隊が戦術機を起動し、準備は万全を期している。

《大倉大尉、機体点検は終わったか?》

「既に終えています。クローディア艦長」

クローディア艦長に私の機体―――94サブレッグの点検を終えた事を知らせる。

94サブレッグに乗り込みながら、私は悠一達の安否と、”指導者”と語るテオドール・エーベルバッハについて考えていた。

「(テオドールがタシュクルガンにいる可能性は低い。悠一や早乙女、駒木…他の衛士達の事も気掛かりだが、感情を流したら早死になる)」

そう思いを巡らせていると、強化装備の無線へ現状報告としてオペレーターの音声が流れる。

《第671降下部隊がタシュクルガンに上陸開始!!戦術機部隊は直ちに出撃せよ!繰り返す、戦術機部隊は直ちに出撃せよ!》

先に出撃した降下部隊はタシュクルガンに到着

大型輸送機ムリーヤ4機が低空飛行している。光線級にやられたくないからな……。

再編されたリーア中隊の戦術機も『資朝』艦内に待機してる。

《重金属雲濃度良好!資朝、浮上開始。リーア中隊出撃準備!》

私は操縦桿に力を込め、深く息を吸い込み緊張を解す。佐渡島で散っていった戦友を思い出す。

「――…聞いたな!ムーア中隊……全機、出撃ィィィッッ!!!」

戦術機母艦『司馬』からスラスターの炎を青白く燃やし勢いよく出撃した機体は、かつては青く美しいはずだった海上を滑るように促進していく

タシュクルガン基地に向かって、飛行していった。




どうもお久しぶりです。
5ヶ月待たせてしまい申し訳ありません
今回の話は時系列的に言うと桜花作戦開始前ですね。
時間掛かった……時間掛かり過ぎです
マブラヴ:ディメンションズ、ハーフアニバーサリー迎えましたね。楽しいイベントが満載でいっぱいです(笑)
次回はタシュクルガン基地襲撃する話です。桜花作戦と同時進行ですよ!
勿論、BETAも出ます!
この作品を…トータルイクリプスサンダーボルトや他の作品、Pixivで投稿した作品を読んで頂けた全ての方々に感謝しつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます
ではまた


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