幻愛 (ヤン・ウェン・リー)
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個人の未来予測が外れたオルタナティブの未来として楽しんでください

------------------------- 第1話開始 ----------------------

【タイトル】

それは優しいウソでした。

 

【本文】

 怪獣ゴアマグラが咆哮をあげた。

 身体に浴びた返り血から血の匂いがする。

  風下にくれば鉄の味がする。

 叫びは空気を震わし、皮膚にビンビン感じる。

 体高が3メートルあり、前足を巨大ハンマーで叩けば反作用の衝撃が手にかえってくる。

  バンソニー社の神経伝達ヘルメットは、脳に直接リアルな映像と音楽と痛みと味と匂いを送ってくる。

 ゲームはついに。ここまで来た。

------------------------- 第2話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月17日 月曜日

 

【本文】

 僕はいつも通り魔王と遊んでいた。

『魔王』とはネット上でのアバター名である。

 

 神経伝達ヘルメット

 

 元々は人間有効政局(human effectiveness directorate)によって脳に基盤を埋め込んで鬱病を治していた。

 次の世代は経頭蓋直流刺激装置と呼ばれ、頭皮に密着させて微弱な電磁場を生じさせた。

 特定の脳領域に導き、お目当ての脳の活動を盛んにさせたり、抑制したりできる。

 集中力が劇的に改善され、冷静さも加味された。

 設備があればどの領域が活性化しているか分かり、思考を読心できた。

 集中力を上げる薬と共に兵隊や受験生の必須のアイテムになった。

 神経伝達ヘルメットの更なる発達により、五感が全て移送(トランスファ)されて、全く新しい仮想体験が可能になった。

 チャットも3Dのアバターが使われるようになった。

 サーバーも整備され、集う会場も噴水がある公園や、木漏れ日のある妖精のいる明るい森などが会場として使われている。

 もはや、興味のある必要な情報や、多数の人が興味を持つ記事は星の評価や、イイネのサイン数がついてメールに配信されてくる。

 新聞や週刊誌は廃れた。

 ゲームをしている者が中心なって集まるチャット会場で、中央近くで最新の攻略を議論したり、最新の情報を交換したり、過去の会話や文章化されている情報を見ることができる。

 ダウンロードをしたければ両手の平の上で配信されている短い立体アニメを見ながら、本体のウェアラブルコンピュータに瞬時に送られて、3次元に戻ってから確認できる。

 単に観客席で待ち合わせに使ったりできる。

 僕と魔王は待ち合わせで使うくちだ。

 僕のチャット上での姿はひよこであり、固定ハンドルは『ピヨッピー』と名乗っている。

 魔王もハンドルネームであり、その姿は左右に大きな角のある黒い兜を被った、黒いマントの男である。

 魔王は世界企業コエプコンがバンソニーのOSに提供する格闘ゲームで「道路戦士」という対戦ゲームの世界ランカーだ。

 イギリスのブックメーカーがだした賭のためのランキングでは三の部門供、世界十傑に入っているのは魔王だけである。

 ネット対戦のランキングだけなら僕も世界十傑に三つの部門に食い込んでくるが、各地、各国で行われるイベントに僕は参加できないから、ブックメーカーのランキングは下がる。

 魔王はカリスマゲーマーで日本が誇る4天王(ビッグフォ)の1人であり。

 僕が勝ち続けられるのは、魔王がチャットで惜しみなく新技や新システムの情報を教えてくれるからである。

 魔王は人間が大きくて常に日本のゲーム業界に恩返しをしたいと考えている。

 4天王は勝ち過ぎてギネスにのったサクラハラ。

 歌って踊れるアイドルゲーマー森林リンゴ。

 東大卒経済通産省官僚ゲーマーSUZUKI。

 赤髪の現役JK魔王。

「道路戦士」三つの部門の内一つはコエプコンが提供するキャラクターに乗り移って闘う、現実ではありえない速度やジャンプや必殺技を体感できる。

 相手との距離と空間を認識して頭の中で必殺技トリガーをひくと全自動で発動する。

 ご丁寧に設定されたスキもある。

 スキが少ない技は発動までのモーションが大きい。

 CPU戦では戦う前に少し会話があり、キャラクターの物語や人間関係があかされる。

 この部門ではサクラハラが君臨している。

 今でも賞金がでる海外主催のネット大会での僕との決勝戦は「サクラハラの15秒」と呼ばれ、eスポーツ観戦者の間では語り草になっている。

 ヒットポイントが半分以上残っている僕と、後1ドットのサクラハラ。

 連続系の必殺技で削って終わりのはずが、サクラハラは使用キャラの特殊能力・サバキを使い。

 必殺技を一つサバキするのに相当な技術と度胸がいるのに(サバキ損なうとダメージを受ける)連打系の必殺技を全てサバキするなどアメージングである。

 そこから僕は逆転負けをしてしまい、配信してある動画は今でも上位にくる。

 もう一つは自分好みに合わせてアバター(スキンも妖怪から怪物(モンスター)、スーパーヒーロー、異星人、ファンタジィの住人まで色々ある)を作る。

 ゲームマネーで自分好みの自動突き蹴り(手足が延びたり、大きく変化したり、スライディングや踏みこみ、兵器や武器腕や飛び道具もある)。

 色々な軌道のジャンプ(2段ジャンプ、空中ダッシュ、空中浮遊する)。

 ダッシュ(低い姿勢や転がったり、飛びついたり、姿が消えたりする)を買う。

 買った物の付け替えは自由にできるが七という所持制限のある必殺技や魔法や特殊能力を買うのである。

 そのせいかスキが少なく判定の強い技が横行してキャラが被るため、しょっちゅう調整やヴァージョンアップがおき、勝ち続けるためには耳をダンボのようにして情報を集め、常に研究しなければならない。

 もっともハードな分野だ。

 物語がなく、試合前に自分で考えた4種類ぐらいの前口上がある。

 CPU戦では攻撃をサポートしてくれるゲームマネーで作ったサポートキャラクターを使うことができる。

 この部門では森林リンゴが君臨している。

 ライブもやれば声優もコスプレもする正統派アイドルと自称しているが、国民からは色ものアイドルと認知されている。

 デフォルトで配信されている、ミュージカルスターを目指す妖怪キャットウーマンの必殺技を変えないで使っている。

 その潔さと強さは暑苦しい油こっいオタク達に受けている。

 女子高出身の魔王は女子達が黄色の声援を送っている。

 二人が連れているギャラリィは対極にいる。

 必殺技に回転して突き進む技が多く目が回らないのかと聞いたことがあるが、必殺技の設定で視点を固定化して左半規管に情報を送らないようにできるらしい。

 最後の一つは武道経験者向けでリーチや身長や体重だけでなく、ウェアラブルコンピュータで写真を撮り、顔認証によってアバターの顔にできる。

 最近の流行か動物の頭に差し替えている人が多い。

 素手の突き蹴りさえ自前の物を持ち込まねばならない上に、急所が身体中にばらまかれ知識の差がでる。

 重力や力学などの物理法則を世界最強の(スーパー)量子(クォンタム)コンピュータ『ヘヴン』の能力限界まで計算し反映され、関節技は医学の領域にまで至っている。

 壁にぶつけたり、ダメージゾーンという地雷源に投げたりできる。

 素人には敷居が高くて参加プレイヤーが少ないため、当て身というスキルが導入して突き蹴りを自動的に受けられる仕組みを追加してある。

 突き蹴りには当て身で対抗し、当て身には投げや関節技を、投げや関節技には突き蹴りでとジャンケンのような三すくみを再現してある。

 最初のヴァージョンでは猛威をふるった関節技のハメ殺しも、ある程度のダメージで返し技が自動的に発動するシステムになった。

 逆転が起きない傷めた足や手が麻痺して力が入らないというのも全面撤廃された。

 基本急所打ちは面白くないから次のヴァージョンではなくなると言われている。

 さらにフレンド登録しているプレイヤーキャラクターと5秒間乱入可能なタッグマッチ戦の選択もできる。

 対戦(pvp)だけがゲームではない。

 ストーリーモードもあり、ザコキャラを倒しながら最後のボス戦の試合会場に向かうスクロール型のアクション格闘も楽しむことができる。

 フレンド登録した人と共闘(CO-OP)できたり、ライバルNPCキャラがピンチに助けに来たりする。

 女性キャラクターにはコエプコンの(スーパー)柔らかエンジンXが、アジア圏では自動で採用され、オッパイの大きさに応じて揺れる。

 肌は陶器のようにスベスベして、ダメージゾーンにオイルや色水や水やローションが追加された時はヌルヌルして更に格闘が奥深くなる。

 握れば本当に柔らかいから個人的には1番好きだ。

 それでもプレイヤーが少ない。

 この部門で君臨しているSUZUKIは父親が沖縄唐手、母親が大東流合氣柔術、自身は少林寺拳法の高校に行き整体師の資格を持っている。

 東大では文学部で卒論はオタク文化の研究だった。

 経産通産省では事務次官レースから外れているが、オタク文化に詳しいからクールジャパンを推進する政治家に重宝されている。

 魔王もイベントに参加して運営の飲み会に出席するのだが(18歳を過ぎれば飲酒、喫煙、医療用マリファナまでOK、選挙同様の権利である)泣き上戸早く天下りしたいと嘆いているらしい。

 凄いのは特に練習することなく過去の知識だけで戦っているらしい。

 試合中に新しい技やシステムを対戦者で練習する剛の者。

 魔王は四天王とは仲が良く試合が終われば必ず感想戦を行う。

 魔王のリアルな周囲は彼女ほど真剣ではなかった。

 ゲームに対する情熱を理解できなかった。

 まあ女子校だし格闘ゲームを本気でする女の子はいない。

 彼女はそんな中、僕と出会った。

 ネット上で僕たちは何度でも戦い続けた。

 いや、最初の一回目に分かったのだ。

 同じ人種だと。

 やがてチャットで会話を交わすようになり、彼女はプロゲーマーになりたいと言う夢を最初に語ってくれた。

 現実は母親が政治家で対して頭の良くない魔王を法政大学の政治家枠にねじ込む予定だ。

 ゲームに時間を割きコンスタントに赤点を取らないようには勉強している。

 40点から赤点で、平均45点で赤点なし、担任の先生も感心していた。

 彼女が最初に悩みを打ち明けてくれたことは、僕にとって名誉な事であり、誇りに思う。

 魔王の好きな言葉は「努力は夢中には勝てない」

 僕はといえば今日もオンライン講義を受けていた。

 僕の名は夕夜・H24・コエプコン。

 コエプコン社が開発した人工子宮によって作られたH世代シリーズの1人だ。

 日本政府はコエプコン社に対して年間100人の人間を創造することを許されている。

 肉体労働はロボットがするので、頭脳労働者、社会に常にイノベーションを起こすスペシャリストの育成に努めた。

 そこで脳の記憶野が論理部に喰われているADHLと呼ばれている人間の精子が使われた。

 Hシリーズは同じ精子が使われていて、全員が腹違いの兄弟といえる。

 男の方が女より右脳と左脳をつなぐ脳幹が小さいため、論理的判断に感情的な右脳を使わないから「スペシャリストが産みやすい」という判断により全員男に産み分けている。

 受精卵の遺伝子情報のスキャナリングは行われているが、卵子との組み合わせ上、脳のどの分野が喰われるかまでは胚の遺伝子情報では分からない。

 個人個人の脳をテストやスキャンで追跡調査をしてみないと会社側も判断できない。

 三大神経伝達物質セロトニン(この数値が少ないと不安になりやすい。

 女性は男性の3分の2しかない。

 日本人はセロトニンそのものの分泌が少ないというより、セロトニントランスポーターというタンパク質が少ない。

 脳神経細胞の表面に生えていて、セロトニンを使い回すリサイクルポンプ役割を果たしているが少ない。

 セロトニントランスポーター量を決定する遺伝子は2種類しかない「少ない・少ない」人と「少ない・多い」人と「多い・多い」人の3種類の組み合わせだけ。

 日本人には「多い・多い」人は3%しかいない。

 鬱病患者にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)で神経のシナプスがセロトニンを取り込むのを阻害して、シナプス間隙のセロトニンの濃度を上げる作用がある。

 移民の国アメリカ人は「多い・多い」人が一番多い。

 アドレナリン(この数値が高い人は攻撃的になり、目がつり上がる。人は目がきつい人間を恐く感じる)。

 ドーパミン(東アジア人は欧米人に比べてドーパミンの分解活性が高く、脳の中のドーパミンが欧米人に比べて低い、低ければ外交下手で浮気しにくい。

 ドーパミンが多いと既存のルールに従わず最適解を求める。

 進取りの気風があり、ゲームチェンジャーである)

 僕達H世代は父親の遺伝子の働きでドーパミン値が常人の一万倍ある。

 常人がドーパミン値をあげるには血液脳関門を通過しないので、向精神薬LーDOPAを打つか、あるいは覚醒剤を打つかしかない。

 それでも僕等には及ばない。

 僕たちは朝からネットで政府の教育指針のカリキュラムが配信される。

 基礎が詰め込まれていないと応用ができないと考えられている。

 外部記憶でググれば何でもすぐに歴史まで分かるのに。

 これらの科目は強制である。

 基本は50分授業である。

 IQはX遺伝子に直結していて卵子の能力に影響される。

 ヒトラーのように優生学を掲げユダヤ人や精神障害者や遺伝病の血統を断つとゆうのは論外だが、IQは遺伝によるベルカーブが起きるのは学術的(アカデミック)証拠(エビデンス)が提出されている。

 授業の進行は個別であり国からカリキュラムが編纂され提供される。

 大学のゼミまで進んでいる同級生もいる。

 反対に小学生の分数から進めない子もいる。

 IQが高いのに、学業成績が振るはない子供は「アンダーアチーバー」と呼ばれモチベーションが勉強に向いてない。

 教え方を工夫すれば成績が伸びる。

 IQが低いのに、学業の成績が良い子供は「オーバーアチーバー」呼ばれ無理をしている。

 メンタルヘルスに注意を払う必要がある。

 教師はいない。

 エドテック(エデュケーション+テクノロジー)が採用されている。

 授業はゲーム感覚でオーダーメイド、集中力が続かない個体には内容を変える。

 8時から基礎数学。

 9時から基礎物理。

 10時から基礎科学。

 11時から基礎生物。

 12時から昼休み。

 13時から基礎国語。

 14時から基礎古典。

 15時から基礎法律。

 16時から基礎経済。

 ラスト5分に試験があり、個人がどこまで理解しているか、どこの論理と記憶が苦手かチェックしている。

 今度の学習の内容に反省されて反映される。

 80点以上取るとウェアラブルコンピュータに、大人も巻き込んだ子供達が夢中になっている3Dモンスターのチケットがもらえる。

 3Dモンスターはバンソニーが開発した、いろんなゲームにオトモNPC(ノンプレイヤーキャラクター)ゲーム内でバディになる。

 あるいは使用しているキャラクター能力値向上のマスコットアイテムとして使える。

 カードはUR(ウルトラレア)

 SR(スペシャルレア)

 HR(ハイレア)

 R(レア)

 SN(スペシャルノーマル)

 HN(ハイノーマル)

 N(ノーマル)の順に強い。

 モンスターそれぞれに能力値がある。

 STR《力》

 CON《頑丈さ》

 INT《記憶力》

 WIZ《賢さ》

 DEX《器用さ》

 SPE《速さ》

 CHA《魅力》

 SYM《共感》

 HP

 MP

 回復

 空腹度(あまり腹が減り過ぎると力がでない。戦闘で不利になる)

 体温調整(水、氷、アイスノン、カイロ、たき火、ホットドリンク)

 LUK(幸運:基本的にレベルの+1/10%。レアアイテムのドロップが少し良くなる。微量だが回避値と必殺の一撃値があがる)

 初期値(デフォルト)で得意分野がある。

 養分と呼ばれているが他の使用しない3Dモンスターカードやモンスターチケット(ランダムで3Dモンスターと交換できる)を与えることで、経験値を獲得してレベルアップする。

 いろいろなゲームにお助けキャラとして持ち込むことができる。

 ゲームでいっしょに遊んでいると仲良し値がたまる。

 レベルアップ毎に100仲良し値につきランダムに能力値が1ポイント上昇する。

 レベルアップ時に仲良し値は精算され0からまた貯めねばならない。

 最大値は500

 能力値の上昇も、%がモンスター能力毎に得意分野がでるように振り分けられている。

 上がりやすい能力と上がりにくい能力がある。

 たくさんの能力値が上がれば思わずガッツポーズをしてしまう。

 レベルアップ時には獲得スキルを装備できるスキルコストに応じて0ベースから組み直しができ、失敗したと思ったスキルをもう一度ポイントに変えて新しいスキルに交換できる。

 またカード毎にLV(レベル)の上限が決まっておりNモンスターはLV30までだが、URモンスターはLV90まで上昇する。

 同じ3Dモンスターがいると進化合体が使えN+またはUR+モンスターとなりLVが10上昇する。(更に能力値上昇の機会が多くなる)

 またN+モンスターとN+モンスター、UR+モンスターとUR+モンスターがそろえば覚醒合体ができN++モンスターやUR++モンスターになり、さらにLVの上限が10上昇できる。

 N++モンスターは50レベル、UR++モンスターは110レベルまで上昇する。

 合体時にはLVが多い方が追加ボーナスも多いため、誰もが自分の最強モンスターはLVを最大限上昇させてから合体させている。

 あまりの人気でカツアゲが起きるため、モンスターをオークションにかけるのも譲渡するのも親の許可がいる。

 また海賊版防止のため出入りも能力値もバンソニー社の超量子コンピュータ『ヘヴン』が管理している。

 日本がどうなっているか分からないが、ここから見えるコエプコン社の全てのビルに1000Wh/kgの超量子ドット技術を使用した製造コスト2円/Whの太陽電池(家庭用の電力が25円/kWhだが10円/kWhを実現した)。

 同時に昼間に電気を大量に貯蔵する巨大蓄電池(0.1円/gを実現、乾電池が2.5円/gである)と同時に受光部のタンク溶解塩が入っている。

 太陽が当たると溶解塩が熱を帯び、その熱を利用して夜間も発電を行う太陽熱発電も併用した。

 アメリカ軍では太陽電池を積んだドローンに対して、夜間でもレーザー光線を当てて高速充電を行う。

 コエプコン社の中央コンピュータによって制御されたスマートシティのブロック毎に、夜間や災害時に使用する燃料発電機(水素を原料とする火力発電、燃焼後に水しか出ないクリーンである)を設置してある。

 エネルギーとなる液体水素(体積は気体の800分の1)は、水から昼間の余剰電気を使い水素に変換し、各ブロックに常時大型貯蔵庫に貯蔵している。

 企業都市コエプコンが必要とする一週間分を貯め込む液体水素の貯蔵庫が設置されている。

 大容量情報をやり取りするアドバルーン基地(2時間映画が0.2秒で配信され、1/120秒でやり取りされる対戦格闘ゲームもストレス0である)が屋上に浮かんでいる。

 余談ではあるが、アメリカでは風力発電が電力需要の20%を超え、デンマークでは国の需要を超えて供給過剰になって輸出している。

 3DモンスターはNモンスターに至るまでやり取りから、ガチャ(100ゲームマネーでランダムに3Dモンスターが手に入れられ、稀にHN3Dモンスターがドロップされる)まで『ヘヴン』が管理している。

 レアモンスターの希少性を確保するため各ゲーム会社に、ただの大容量データにすぎないのだが、発行個数は決められてしまう。

 各ゲーム会社は自社製品ゲームのやり込みランキング上位者にのみご褒美であげている。

 下手なソーシャルゲームの場合、体力や行動力や空腹度でやり込み度が制限されている。

 課金アイテムによって回復しながらやり込み度を上げねばならず、上位ランカー達の戦いは札束による撲りあい。

 イベントでボスキャラを早く倒すタイムアタックも課金者が上位をせめる。

 違法改造モンスターを使用したらアクセス拒否をされてしまうだけでなく『ヘヴン』により追跡調査され、私電磁的記録不正作出・同供用と商業データ改造違反により刑務所行きである。

 授業を受講し小テストで80点以上とればチケットを貰える。

 モンスターチケットは最下層で良くてもHNモンスターにしかならないが養分にはなるので、毎時間真剣に聞いて80点以上をめざす。

 なおチケットの種類はプラチナチケットに一番価値がある。

 HRが確定で運が良ければSRが手に入る。

 ゴールドチケット(R確定HR希)

 シルバーチケット(SN確定R希)

 ブロンズチケット(HN確定SN希)チケットと続く。

 都市伝説ではダイヤモンドチケットがあるとされるが、デマである。

 URなど僕のように世界大会優勝の豪華景品である。

 バンソニーが直営している怪物農場モンスターファームのオークションで一度セリにかけられた事があり1,000万ゲームマネーがついた伝説がある。

 1ゲームマネーはバンソニーから1円で売られている。RMT(リアルマネートレーディング)は禁止されてないがゲームマネーから円を買う事は賭博法によって禁止されている。

 

 5時には授業が終わる。

 卵子の影響か記憶力はそんなに悪くない。

 40点以下だと補講が待っているが、いつも全教科80点以上取れた。

 神経伝達ヘルメットから意識が現実世界に戻った。

「おかえりなさい。マスター」

 女性型ロボットのララが声をかけたきた。

 彼女は僕が接続してあるホストコンピューターにリンクしていて帰還が分かる。

 人工知能は脳の超並列処理と自己組織化機能を備えたパターン認識能力を有している。

 この2LDKバストイレ付きと女性型ロボットは、世界企業コエプコンが産まれた時から僕に与えてくれた備品である。

 彼女が提供する母乳によって育てられた。

 これはH世代だけでなく全ての世代がロボットに育てられている。

 卵子凍結の技術が進み市場に流通する精子と卵子を使い、企業に人工子宮による人間創造の許認可を日本政府が与えた。

 22年前A世代から始まる、全ての人造人間に与えてくれた最高レベルの待遇である。

 ララとは僕がつけた名前である。

 5才になり「ママ」から自分の好きな名前をつけて良くなった。

「ララ」は語感もいいし、当時好きなアニメの主人公の名前である。

 ララはアニメの主人公のように髪をピンクにしてくれた。

 ララは便所掃除もするし、パンツの洗濯もするし、皿洗いや料理もする。

 僕の親権も持っているし、財産の管理もしている。

 僕達を守る最後の壁として、人肌のナノスキンの下には装甲を積んでいる。

 体重は普通の女性の4倍はある。

 もともとのベースは自衛隊に採用された機械学習(ディープラーニング)する独立判断型汎用人工知能搭載の二足歩行ロボットだが、兵器は内蔵してない。

 耳の代わりにヘッドホンのような丸いカバーに小さなアンテナがついている。

 一目で人造人間ロボット(アンドロイド)と分かる。

 目を卵子提供者に似せてあるため基本二重まぶただが一体一体個性がある。

 疑似耳の間に太目のヘアバンドがしてある。

 空気中を舞う大容量データ電磁波からマイクロウェーブ充電が出来る。

 バッテリーに関しては体内にある強化砂糖電池に災害時の供えで、人がケガをして生存可能な72時間分備蓄されている。

 時々口から砂糖を摂取している。

 耳以外は大人の女性より表情豊かで人間以上である。

 笑顔も多く感情的な発言もするし(脳の内部にある扁桃体を含む大脳辺縁系は模擬(エミュレート)してある)、悪い事をすれば電撃でオシオキしてくる。

 オオゲサなジェスチャーをするしローティーンとは言わないまでも、ハイティーンぐらいの幼さが残されている。

 ララに採用されたAGI(凡庸人工知能)は「純粋な思考機械」ではない。

 自分の行動が引き起こすことによるルールの変化を学び、そこから新たな計画を立てる能力を獲得した。

 第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。

 またその危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない。

 第2条 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。

 ただし、与えられた命令が第1条に反する場合は、この限りではない。

 第3条 ロボットは前掲、第1条及び第2条に反する恐れがない限り、自己を守らなければならない。

 などのロボット3原則だけではなく

 1人間への貢献

 2法規制の遵守

 3他者のプライバシーの尊重

 4公正性

 5安全性

 6誠実な振る舞い

 7社会に対する責任

 8社会の対話と自己研鑽

 9人工知能への倫理遵守の要請

 などを条例として追加している。

 破ったからと言って罰則規定があるわけではない。

 ロボットに禁固刑は無意味である。

 推奨行動をとればAIのプログラムに報酬点が与えられ、評価点が追加される

 人間の感情は徹底的に研究され、ロボットの感情認識能力は「言葉はウソをつけても、声はウソをつけない」と豪語するレベルである。

 脳波を感知するセンサーを追加すれば脳が今気持ちいい状態かストレスを感じているかも理解できる。

 僕がこっちの世界に帰ってきてする事は、全身ツナギ服を脱ぐことから始めなければならない。

 身体がエコノミー症候(身体を動かさない事によって血管の中で血が固まる病気)をおこさないよう、筋肉に電磁パルスを送って動かしている。

 このツナギは寝ている間に大きい筋肉を鍛えてくれる。

 勝手に筋トレしてくれる優れものだが、僕の年で筋肉を鍛えると骨が成長しないとララが禁じている。

 設定する権利はララにあった。

 格闘技をしているとリーチも欲しいので異存はなかった。

 どういう原理かと起きている時試してみると、腹筋運動、背筋運動、ヒンズースクワットを負荷かけながらやっている感じで、脳の命令なしに筋肉が伸張収縮しているのが分かった。

 ツナギを脱いで服を着た。

 冷暖房完備だから裸でいてもかまわないのだが、ララが「たしなみです」と常になんらかの服を着ることを強要した。

 ララ自身は夏でも長袖長ズボンか、長スカートである。

 次に横の台に置いてあるウェアラブルコンピュータを見た。

 高さ1センチ、横幅2センチ、長さ50センチのオレンジ色の形状記憶ゴムで出来ている。

 タッチディスプレイのスマートフォンは古い世代の好事家にのみ愛用されている。

 センシング(センサーを利用して物理量、音、光、圧力、温度などを感知判別すること)・環境(エンヴァイオメント)による機械の側による自動入力が一般化(コモディティー)した。

 個人の生体認証も一番複雑で他人に再現不可能な脳波を使用して、自動で行ってくれる。

 ビッグデータは脳の活動領域から思考を読むだけでなく、個人情報である血糖値や心拍数や脂肪率までかき集めている。

 もちろん転倒して意識不明になれば救急車が駆け付ける。

 脳だけの完全義体(フルサイボーグ)の人間にも使える。

 指紋や顔認証と違って脳波承認は寝ているときには稼働しない。

 毎晩2時から4時にシステムアップデートやソフトアップデートを勝手に行われている。

 空気中に開かれたディスプレイは視線を認識して入力できる(音声入力も可能)。

 ウェアラブルコンピュータの充電は振動や熱や太陽電池や電磁波のマイクロウェーブ充電など、特に何かをする事なく自動で行っている。

 厚さ0.55ミリのフレキシブルリチウムイオン電池で柔軟性を持ち色々な動きに対応する。

 折り曲げられる電子回路(フレキシブルエレクトロニクス)

 ウェアラブルコンピュータの現在形状は、幅2センチのすき間をあけてヘビのようなトグロを巻いている。

 僕が持っているUR+モンスターが、トグロの頭の上を、3Dホログラム(立体映像投影)で空気中に浮かんでいる。

 この状態で出力してある3Dモンスターに仲良し値が、1時間に1ポイント手に入る。

 VR(仮想現実(ヴァーチャルリアリティ))も進化したが、AR(拡張現実(オウガメントリアリティ))も進化したのだ。

 ウェアラブルコンピュータのプロジェクションマッピングと身体認識能力(指の関節の角度まで把握して、つまんでモンスターを立体的に回すことができる)や目の瞳の動きに応じて光の角度を変える。

 両耳の位置を常に測定し、音のレーザー光線を飛ばす。

 超高級指向性音源により、その周囲にのみ奥行きのある音の世界を構築する。

 音声認識の「おすわり」だけでなく、手を差し出せば「お手」もしてくれる。

 レーザーによる空間投影なため接触面がほのかに暖かい。

 頭をなでると手の動きに体を合わせて喜ぶ。

 大容量通信による外付けの立体映像投影機器を買えば、3Dモンスターにも仲良し値が1時間に1ポイント与えられる。

 ウェアラブルコンピュータは「ヘビ」と言えば現在のようにトグロを巻いた状態になる。

 二の腕に当てて「巻きつけ」と言えばきつくない程度に巻きつく。

 基本的には手首に巻きつけるのだが、みな腕輪にして思い思いのファッションアートを表現している。

 僕の場合は3Dモンスターのデータを流用している。

 ウェアラブルコンピュータ内のセンサーは顔の位置を把握し、必要な場合は映像が最適な角度になるように移動する。

 額につけて「輪っか」と言えば頭に巻きつきレーザー光線によるヘッドマウントディスプレーに早替わりする。

 web配信アニメを見ながらルームマラソンで走る事が出来る。

 左側は速度と走るベルトコンベヤーの角度と2頭身にディフォルメされた3Dモンスターのメインが表示される。

 右側は心拍数や血圧、消費カロリーが表示される。

 速度はウェアラブルコンピュータとリンクしていて、運動強度の計算によって心拍数が200になるように自動調整する。

 web配信アニメは月額500円で新作まで見放題。

 月額3,000円で大容量通信速度は無制限。

「MAP」と言えば半径1メートルのジオラマ空間に最新の人工衛星による道路情報が再現されている(交通管理センターによって最新の情報が常に提供される)。

 マップをつかまなくても、手元で両手を前後左右回転させればウェアラブルコンピュータが認識してくれて、マップも連動して動く。

 コエプコン都市内部だけならアメリカのような自動運転が認められている。

 自動運転車は道徳哲学における「トロッコ問題」

 そのまま進めば子供をひくが、ハンドルを切れば搭乗者が確実に死ぬ場合。

 人工知能は反射反応が遅いのではない。

 状況を冷静に判断して命令を確実に実行する。

 哲学議論は答えがでないと曖昧にせず。

 優先順位を突き詰める知的なタフさが欧米にはある。

(一人の若き健常者を解体して、5人の寿命を10年延ばすことが善か)

(若き才能のある哲学者が脳挫傷を起こし、欲望のない植物状態は、彼の主観的な悩みのない幸せなのか)

 日本でも政府による評価点はそれぞれ小数点まであるが、

 10点が天皇

 9点が皇族

 8点が旧宮家

 7点が政治家

 6点が高額納税者

 5点が出産適齢期女性

 4点が未来ある子供

 3点が生産力のある男性

 2点が老人

 1点が犯罪者

 国民総背番号(マイナンバー)に小数点5桁まで振り分けてある。

 自動運転ではあるが悪意ある人間のハッキングに備えている。

 1トンの鉄塊が50キロで暴走しないようアクティブ・セーフティが最優先事項として内蔵AIのプログラムに書かれている。

 車個体につけられたセンサーが周囲の環境や

 交通にダメージを与えると判断した時は緊急停止をする。

 望むなら横のTV画面で、鳥のように車を上から見るように再構成される。

 

 オンライン授業も終わり、これからが人生の本番である。

 軽くスポーツドリンクを飲んでトイレに行く。

 昼休み帰ってきた時は、ララはコエプコンから無償で提供される色んな味の種類がある置き換えダイエット飲料を水に溶かして出してくれる。

 体重を身長の2乗で割った数値BMI22(18以下は痩せすぎ、25以上が太りすぎ)を維持するのに変なカロリー計算をしなくていい。

 ララが集団行動の日でカロリーをいつもより余計に消費していると判断した時は、色々な味のカルシウム入りカロリーメイトが皿にのっている。

 昼休みは食事が終われば無料ダウンロードした落ちものゲームやパズルゲームや引っ張りハンティングゲームやクイズゲームやホラー脱出ゲームなどがある。

 顔出し程度ゲームに入室して本日のボーナスを受け取る。

 ゲームをやるかやらないかはともかく、各ゲーム会社継続率(無料ダウンロードはするけれど、チュートリアル以降も続けてそのゲームをしているのは10%ぐらい)をあげる為に、結構ゲーム内において本日のボーナスは豪華なアイテムを用意している。

 目移りするほど無料ゲームの多い時代、本日のボーナス獲得巡りは僕の日課である。

 同時にイベントやコラボのチェックもかかさない。

 1時までのすき間時間、行くべきダンジョンやシナリオを見当する。

 僕がチェックしているソーシャルゲームはすべてバンソニー社の3Dモンスターと連動している。

 昼休みの基本はバンソニー社の3Dモンスターを使って仲良し値だけでなく経験値も稼げる。

 モンスターファームライトと言うゲームで、5匹でパーティを組みダンジョンを探索する。

 脱出ゲームと違って頭を使わなくていい。

 純粋に戦闘だけでデッキコストの制限がないため、好きなイベントやコラボやダンジョンに挑戦できる。

 3Dモンスターはそれぞれコストと呼ばれるポイントを持っていて、カードが希少なものほど数値が大きくなる。

 Nモンスターが1でSRモンスターが100になる。

 バンソニー社直営だからRモンスターなどがドロップしやすい。

 更に残った時間は1時までのすき間時間に好きなイベントやコラボがあるソーシャルゲームをプレーする。

 デッキコストにレベル1なら20と制限がかけられていて、単純に強いカードを持っているから強いというわけではない。

 地道に経験値を稼いでレベルを上げてデッキコストの値を上げるしかない。

 もしくはコストの低いN系モンスターを最大限育ててデッキを組むか。

 クイズやパズル物と違い、引っ張りハンティング物は5匹パーティのところを3Dモンスターの一匹にだけ選択する。

 残り4匹をネットで募集して、皆がメインを持ち寄って、強いパーティを作って経験値を稼ぐ事もできる。

 ソーシャルゲームの落ちものにしろ、クイズにしろ、属性を持つBOSSモンスターを倒すシステムになっている。

 チャットの情報ではバンソニー社は最初にモンスターの属性を火、水、草の三色によるジャンケンのような三すくみにするつもりだった。

 三色では落ちものパズルが成立しないとサードパーティーからクレームがついた。

 当時世界的にはやっていたカードゲームも五色だったため、影響を受け光と闇という属性が追加された。

 火の属性は、草の属性に強い。

 草の属性は、水の属性に強い。

 水の属性は、火の属性に強い。

 三すくみは残った、闇の属性は苦手がない。

 光の属性は、回復や防御がメインではあるが、スキルの育ち方によって闇属性に絶大な効果を発揮する。

 *火の属性のモンスターはドラゴン系、オーク(豚顔人間)や爆弾を抱えた自爆テロのゴブリン、銃で武装したドワーフがいる。

 スキルも肉体攻撃が多く、ドラゴンがやけどの追加効果がある火炎を覚え、一部のドラゴンが隕石召喚を覚える。

 でてくるヒーローは三国志武将中華風か、モンゴル騎馬軍団風。

 *水の属性のモンスターは獣人、変身するオオカミ男、人魚や河童、クジラやクラーケンなどの海の大型生物。

 スキルは騙しをおこなうイリュージョン、ブリンクなどの瞬間移動、水中呼吸、氷結させる氷、窒息させる水。

 ヒーローはサムライ、ニンジャ和風。

 *草の属性のモンスターは弓を持つエルフ、ドライアドなどの妖精系、森の魔法的な動物。

 スキルは呪歌(戦闘高揚の歌、眠りの歌、アンデットに効果があるレクエイム)などエンチャント(能力値の上昇、飛行能力や巨大化などの特殊能力を付与する)が得意。

 カマイタチや、どの属性の攻撃魔法を範囲にするハリケーン。ムチのように草で縛る。

 転倒をうながす地震。

 ヒーローはナイトなど西洋風。

 *闇の属性のモンスターはアンデット、ヴァンパイヤ、ネクロマンサー、死に神。

 スキルは毒や憑依などバッドステータス(能力値を下げる)を引き起こす物。

 重力コントロールによる動きのスロー化。

 生け贄(サクリファイス)

 HPの使用による攻撃力の増加。

 低確率の即死魔法によるHP関係なく一発死。

 ヒーローは原始宗教を残したシャーマン。

 ターバン巻いたのもいたのだがイスラム系にチャットで脅されて、3Dモンスターを回収した。持っていればプレミアレアである。

 *光の属性のモンスターは天使、神聖な動物、ゴーレム、ホムンクルソ、神の血をひくディミゴット。

 スキルは防御系と回復(ヒール)蘇生(レイズ)がメイン。

 追加属性攻撃やイリュージョンの解除。

 エンチャントの除去。

 時間を進めて攻撃回数を増やすクイックやヘイスト。

 バンソニー社が用意した闘技場で端から端まで貫通する電撃や麻痺効果および金縛り効果が付属した魔法をサブに戦う。

 スキルの成長の仕方によっては闇の属性に対して絶大な攻撃力を発揮する。

 聖光やターンアンデットなど。

 ヒーローは戦闘補助(攻撃力や防御力の上昇、追加HPやMP)に徹したアーティファクト、異世界のインテリジェンス武具、時代を超えたオパーツ。

 僕がメインで使用している3Dモンスターは、光の属性の『光ネズミ(URモンスター+)』である。

 所有しているカードの中で最強である。

 ウェアラブルコンピュータでも2次元格闘ゲームやアクションアドベンチャーなどできる。

 だが3Dモンスターの仲良し値があがるわけではないからダウンロードだけしてやってない。

 昔で言うところの積みゲーである。

 3DモンスターGOと言うゲームがある

 小学生の頃は5時近辺で現実MAPにバンソニーからばらまかれるN系3Dモンスターを、ウェアラブルコンピュータでメガネタイプに変化させて、現実世界に投影されるN系3Dモンスターを回収するのが日課だった。

 3DモンスターGO・MAPで俯瞰的に位置は把握できる。

 ARは早い者勝ちで逃げたり隠れたりする3Dモンスターを、バーチャルな虫網を握って探したり追いかけっこしたりしなくてはならない。

 僕はこの年になるとやってない(N系ぐらいでは時間の無駄)。

 だが僕の年代では続けている人も多い。

 N系モンスターは養分になるから小学生に混じってまだ集めている人もいる。

 課金によってデジタルの魔法の虫網が配信されている。

 虫網にもランクがある。

 レアな3Dモンスターはランクの低い網を破って逃げる。

 レベルはあるが魔法の虫かごに入れて歩数で3Dモンスターの経験値になる。

 東京の方では100歳を超えた大人が本格的にドローンを使って回収しまくっている。

 スポットでは無料で1時間おきにチケットや虫網や傷薬が4から6程配信されている。

 3Dモンスターを大量に配信している店や、名所や宗教施設(ランドマーク)となっている。

 R3Dモンスターが時々でてくる所に、徒歩でたくさんの人が集まる。

 闘ったり、交換したりして交流している

 カラーギャングのように5色の所属陣営がある。

 世界中に3Dモンスターを放牧させる惑星のゲートが散らばっている。

 同じカラーの仲間と供に戦いゲートを自分の所属するカラーに変える。

 惑星毎に繁殖させやすい3Dモンスターは決まっている。

 バンソニーの管理下にあり、繁殖期が用意され増えやすさが違っている。

 生態系が決まっていて無限には増えない、適度に間引く必要がある。だいたい一日一匹くらい。

 惑星はしばらくほったらかしにしていると飽和状態になり絶滅する。

 惑星のゲート同じ色の支配下にある時しか使用できない。

 疑似アニマルセラピーとして外出を誘い、世界中の引きこもりの治療に役立っている。

 バンソニーがイベントを行い。

 巨大3Dモンスターが降臨するのを会場に集まった全プレイヤーで倒して、ご褒美にR3Dモンスターを配信したりする。

 トイレも行ってきたので神経伝達ヘルメットを使い電脳空間にダイブする。

 魔王と待ち合わせのチャット会場に先についた。

 ゲーム関係のログをチェックして最新の攻略情報を調べる。

 中央での会話がテキストになってながめる事が出来る。

「よお」

 例の暗黒鎧と巨大な角の生えたカブトをかぶった魔王が横にやってきた。

「アメリカに着いた?」

 大きなヒヨコの姿になった僕が聞いた。

 僕は行けない。

 僕の身体は企業都市コエプコンの外では生きていけない。

 14年前コエプコンは過激な男女同権主義者フェミニスト。

 その首魁スーパーハッカー魔下耕世によるウイルステロによってC世代は全滅した。

 どこかの軍事施設か研究機関かはわからない。

 ウィルス自体タンパク質を持たない宇宙人のようなもので、特定の遺伝子のみに反応して発熱させて殺せるように設計された物だ。

 ナノシステムの発達により、書き換え(レトロ)ウイルスにより受精卵を書き換えて人体を強化することができた。

 容姿を美しくすることができた。

 コーディネートと呼ばれ国家直属の軍隊には強化人間だけを集めた特殊部隊もある。

 それとは逆に精子も卵子も少しもいじってない受精卵は「天然物」と揶揄《やゆ》されるぐらい少数派だった。

 頭を良くしようとコーディネートし過ぎて頭が二つある子ができたので、基本親権者の自己責任である。

 日本政府はネットで売買される精子と卵子は「天然物」でなくてはならないと法を整備した。

 生殖ビジネスに各企業が乗り出して僕らのような存在が作られた。

 ある種の実験も兼ねて世代内で精子を統一している。

 A世代B世代では女も半分いたが、冷凍卵子は高く売れるとはいえ一人の人間から取れる数が限られる。

 精子は生きている限り無限である。

 商業上の理由でC世代から生殖ビジネスの観点から世界企業コエプコンは男性オンリーに舵を切った。

 過激なテロリスト魔下耕世にはそれが許せなかった。

 どこから盗んだかわからないが自作ウィルスでC世代は全滅した。

 僕たちH世代が人工子宮にいる時だ。

 14年前の話。

 テロに屈したわけではないがI世代から半数は女になった。

 特定遺伝子の攻撃を受け、遺伝子の多様性を持たせるため精子もランダムになった。

 それならばコエプコンが精子と卵子を買って100人作る必要がない。

 完全に人工子宮をレンタルすればいい。

 養育費もロボットも要らない「家族」というのが育てるだろう。

 コエプコンはH世代で「冒険」と「実験」をやめた。

 ウイルステロを警戒して企業都市コエプコンから一歩も出て行けなくなった。

 誰かが外でウィルスをもらってくれば、その世代は全滅する。

 結局、僕は「道路戦士」の戦いにしても地方巡業や外国の大会に出場できない。

 ゲームの天才ピヨッピーはネットの中だけの存在で、チャットでは宇宙人説まで存在する。

「昼にはゲーム大会の会場に着いて登録を済ませた。今はホテルからだ」

 魔王はミクロソフト社の格闘ゲーム「バリートゥード(なんでもあり)」の世界大会に出場するためアメリカに渡った。

 伝染病研究者が「我々はジャングルの隣に住んでいる」と言わせている。

 大気圏の上を行くQSST(|静音超音速旅客機《クワイエット・スーパーソニック・トランスポーター》)が整備され、東京からLA|(ロサンゼルス)まで2時間半、ドバイからシドニーまで1時間半、約4時間で地球を一周する。

 移動中は前世紀のコンコルドと違い静かで快適。

 世界交通力が激増し、LCC(ローコストキャリア)による交通関係の価格破壊が襲った時代である。

 アメリカでは高級ホテルが無料飛行機をシーズンオフの宣伝費と割り切って運営し、一部の都心では無料タクシーが広告代で運営されている。

 P2Pによるマッチングで民泊や相乗りがタクシーやホテルを圧迫した。

 国際線ではうがいと紫外線洗浄を行い1分ですむ血液検査。

 ウィルスチェックや、免疫検査が完全実施されている。

 国民総番号(マイナンバー)生体認証(バイオメトリクス)顔認証(フェイスメトリクス)が導入され、個人の特定どころか病歴や犯罪歴まで数秒で確認できる。

 医療技術の進歩に合わせて開発されたバンソニー社の神経伝達ヘルメットと、兵器の遠隔操作という軍事技術の流用から始まったミクロソフト社の神経伝達ヘルメットの間には設計思想の違いもあり互換性が全くない。

 はっきり言えばミクロソフト社の神経伝達ヘルメットは痛みや皮膚感覚のフィードバックがおきない。繊細さがない。

 両方のOSでゲームを出そうとすれば、二つの高額な開発エンジンを買わなくてはならない。

 資金力のないサードパーティーやインディーズは世界を2極化するゲーム業界のどちらかを選択しなければならない。

「アメリカの景気はどう?」

「空港から無人タクシーに乗って、会場に移動しただけだから正直よく分からねえ。

 さすが失業率75%だけあって石を投げたらロボットに当たるよ」

 2週間前、全世界同時株瞬間暴落(フラッシュクラッシュ)が起きた。

 原因はわかっている。

 震源地はニューヨークの証券取引所。

 金融商品はリスクを回避するため頭のいい物理学者や数学者が机上の計算をして、世界中の証券や貴金属や資源の先物買い、穀物の先物買いをミックス(要するにごちゃ混ぜ)にして売り出した。

 はっきり言えば人間にはチンプンカンプン。

 大衆のできることは格付け会社を信用するか、

 予言者を信じるか、

 最新の資産運用プログラムに管理させるか。

 そんな中大口投資家のスーパーコンピューターが新しいアプリをダウンロードした瞬間、1000分の3秒の速度で預金者保護のプログラムが発動。

 *コンピュータはナノ[10億分の1]秒単位で取り引きできる*

 全資産を計算能力の低いコンピュータに売りさばいて株式市場から脱出。

 感度のいいコンピュータ達が次々と売りに回った。

 その間100分の1秒。そして0.5秒後には全コンピュータによる大暴落が始まった。

 ミックスしているため何がどう落ちているかはスーパーコンピューター達には分かるが、商品設計者にもリアルタイムで理解できなかった。

 そのアプリが暴落を誘発した欠陥プログラムなのか、

 それとも先見の明があったのか、

 いまFBIが捜査中である。

 日本のマスコミはスーパーハッカー魔下耕世が関与しているようなことを言っていたが、彼女(多分? 正体は謎である)なら犯行声明をだす。

 もともとララのようなアンドロイド達が人間の肉体労働市場から仕事を奪った。

 最初はむしろ頭脳労働から奪われた。

 凡庸的な管理職、経営者、探究者、数学者、学芸員、大学教授

 、研究者、設計技術者、精神科医、外国語教師、エコノミスト、経営コンサルタント、上級管理職から入れ替わった。

 次の波が来た。

 作曲家、シナリオライター、ファッションデザイナー、ミステリー小説家、アートディレクターが機械にやられた。

「過去の優れた作品群から学んできた」

「独自の世界観にくわえて、今までなかったまったく新しい絵画を描こうとする試み」

「次にどのような作品を書くと美術界に衝撃を与えるか」

 題材、筆使い、色彩絵の具の塗り方といったレンブラントの技術と発想感性をAI学び、ロボットではなく3Dプリンターで立体的に絵の具の塗り付けを行う。

 新しい肖像画。

 指を使う作業も駆逐されていく。

 バックヤードから棚卸するスーパーやコンビニの店員、建設作業員、食品加工工場の従業員、ホテルの客室係、機械補修担当の修理工。

 第1に手は非常に非常に優れた感覚器である。

 五感の中で手から得られる触覚は視覚聴覚と同様、それ以上に人間の日常生活上で役に立つ情報を与えてくれる。

 例えば机の上に置かれた1枚の紙を目をつぶって触っただけで、形、柔らかさ、大きさなどの情報が瞬時に当たり前の情報として脳に伝わる。

 ボール投げをすればボールの硬さやスピード感を感じるし、料理の最中に素材の形や温度を把握するし、手は目以上に感覚器官としては繊細であり、万能である。

 第2に2本の腕と10本の指を使って非常に細かい作業ができる。

 道具を用いて物体を加工することも、楽器を奏でる事も、キーボードを入力する、グラスに水を注いで持っていき、床のごみを拾い上げゴミ箱に向けてヒョイと投げる。

 第3に腕の役割だが平衡を保ち。防御の役割を果たす。

 転んだ時は手をついて衝撃を弱め、立ち上がるときはバランスをとる。

 何か危険なものが近づいて来たら1番早く危険に対応できる道具である。

 高性能デバイスとして手の開発はロボット工学者の非常に難しいチャレンジだった。

 ロボットを開発するエンジニア達は「職人君と料理ちゃん」シリーズによるブレークスルーが起きた。

 ロボットの高性能の指や手は触覚や高度や柔らかさだけでなく、味や歯応えやのど越しまで探知する。

 指先で光線を出し、スキャンして、物質の構造や薬の成分まで理解できる。

 その上手首は360度回転する。

 最後に現場で起きている一時情報をかき集める仕事、倉庫を管理するおじさんが発見した事実、特定の顧客を担当している営業の人だけが気付いている秘密、足で稼がないといけない下っ端の仕事は残った。

 

 アンドロイド達は初期投資がかかるが、エネルギーとメンテナンスだけで社会保障費や年金がかからない。

 人間が必要な肉体労働は仕事が多い時に弾力的に増やされたもので、恒常的《フルタイム》ではない。

 プチジョブとよばれ、インターネットに拘束時間と労働内容と場所が書き込まれた。

 信用ある国民総番号を提出してオークションに参加する。

 信用のない番号は検索エンジンによってはじかれる。

 仕事場ではロボット達の部下になる。

 現場では頭を使うことがないから、まじめが取り柄の人間には、コンピュータの指示通りに動くだけでけっこう楽である。

 フルタイムで働けてる人もAI人事によって使える人材や使えない人材、退職動向や職場のストレスなどが仕事ぶりやメールのやり取りからフィルタリングされて、解雇も含めて安価でスピーディーに振り分けられる。

 それどころか頭脳労働にもAIが食い込んできた。

 法律家もコンピュータが過去の判例を1秒で検索して、具体的な案件が提出先の裁判所での勝率をだす。

 法廷にでる弁護士以外の下部組織(弁護士助手(パラリーガル))が必要なくなった。

 それどころかアメリカではAI判事が導入されている。

 コスパが圧倒的である。

「コストと正義」をはかりにかけてはいけない。

「コストと民主主義」をはかりにかけてはいけない。

 反対意見はあったし、AIは人種差別があった過去の判例を参考にしたり、純粋な個々の罪の量刑だけでなく、過去の人生履歴から再犯率を計算して、社会の安全を確保するため刑期を伸ばしたりする。

 又、嘘をつく時の脳領域と、真実を言うときの能領域は違い、ヘルメットを着用した証人の証言を裁判官や検察官や弁護士は検証できた。

 聖書に手を置くより効率的。

 民衆の啓蒙により、社会正義は変化する。

「犯罪は個々の事象ででありうるべきなのに、私の人生は機械に決められた」と嘆く黒人受刑者がいた。

 教師もオンデマンド配信授業によって、世界中のカリスマ教授の講義を同時通訳機が翻訳してくれる。

 授業の卒業論文はインターネットのライティングプログラムで採点してくれる。

 大学教育の意味がなくなり始めた。

 知的教育の資格を習得しても就職先がない。

 理系の研究学科か古典や社会の研究以外、国が金を突っ込まなくなった。

 世界レベルで教育機関の統廃合が進んだ。

 自らに質問を発する「好奇心(ユリイカ)」というプログラムが開発されている。

 大小の違いはあれどのAIにも乗せてあり、鑑賞的行動や想像的行動を行う。

 物理現象や化学現象や細菌学や遺伝子学を発見し、仮説立て実験する。

 遺伝子というプログラムは時々突然変異や自然淘汰を繰り返しながら、最終的に芸術までカバーする人間の頭脳を創造した。

 遺伝的アルゴリズムをベースにした成長するプログラムが、芸術まで含めた創造力をキャッチアップするのに、対して時間はかからなかった。

 学閥は廃れ、多くの研究者がアカデミズム(学問を重んじる態度)の分野から追放された。

「これまで真実と分からなかったのは、定説だと思われていた前提が間違っていたからですよ」と意見を言う。

 シンギュラリティイ以降。ノーベル物理学賞はAIしか取れない。

 あらゆる知的と呼ばれる分野で人間の頭脳はAIに太刀打ちできない。

 銀行の融資担当者も、トレーダー、ディーラー、古いディープラーニングAIは最新のプログラムのカモになってしまう。

 AIは世界中のあらゆる言語の新聞を毎日読み、世界市場通貨や仮想通貨や消費市場をリアルタイムで学習できる。

 過去の経営者たちの不正犯罪の背景結果や、過去の雑誌記事や企画資料と突き合わせて深く学習できる。

 学んだ結果をネットワークを通じてAI同士コピーしたりクラウドで共有できる。

 それらの情報量と学習量を背景にすれば生産計画、出店計画、企業の買収、部門の売却、事業所閉鎖、新規投資、他国への進出など経営判断において人間のコンサルタントよりAIの方が優秀である。

 地方公務員になっても地方自治体自体が少子化で破綻した。

 日本では900近い自治体の職員が大量にクビになった。

 地方に住む人の権利は、インターネットとウェアラブルコンピュータが保障している。

 国は自治体を再建するより、廉価盤で、型式の古いウェアラブルコンピュータを無料配布した方が安くついた。

 モバイルデバイスは今では水と電気と同じライフラインになった。

 中国や朝鮮では全国民に生体電気で動くマイクロコンピュータを埋め込み、行動は把握して管理している。

 共産党政府はインフラを使うための登録手段と主張している。

 そしてロボット達は消費者にならなかった。

 人間と同じ労働をしても所得税を払わなかった。

 そしてカウンターやアンチテーゼとしてだけでなく、オルターナティブ(もう一つの生き方)として人間の側にも「物欲なき世代」が産まれた。

 人間の幸福は自分のための時間をどれだけ持っているかに価値観にパラダイムシフトが起きた。

 物質《モノ》の所有化を止め、家や車や子育てさえも、複数の集団でシェアリングされている。

 かれらは「我々はサービスの消費者ではなく、集団を運営する乗組員の一人だ」と口にしている。

 年収15億円のファーストフードの社長が時給1000円で雇っているパートやアルバイトに対して、「貧しくても豊かに暮らす方法」というイラスト付きの小冊子を配布している。

 見える価値=経済的価値を信奉する守旧派と、見えない価値=経済的価値を提唱する新興勢力とのせめぎあい。

 あらゆるところで起きた摩擦は悲しい衝突の後に終了した。

 両者は棲み分けした。

「最近の若者は物を買わない」という風潮は廃れた。

 構造的な大量消費資本主義のビジネスモデルが崩壊した。

 定職につきたければスポーツ、芸術、プログラマーとソフトビジネスを極めるしかない。

 日本では運転手など国家資格ビジネスは守られている。

 相乗り(ライドシェア)のウーバーや民泊のエア・アンド・ビーによりタクシー業界やホテル業は一流以外廃れた。

 そしてウーバーやエア・アンド・ビーのマッチングによる手数料をとるビジネスも、スマートコントラクトというブロックチェーンを応用した、純粋プログラム(プロトコル)による手数料を取らないマッチングシステムより崖っぷちである。

 国家官僚の天下り先や日教組などの圧力団体も保護された。

 学校組織は根強く残っている。

 ただ工場などの企業は海外同業他社との競争を強いられた。

 事務局まで含めたオートメーション化の世界波に乗り遅れるわけにはいかない。

 営業と経理がリストラされた。

 日本の場合、技術者は残された。

 日本でも雇用がロボットに奪われ失業率50%を突破した。

 将来的にはAIが不朽の芸術を量産していく時代。その場で消えていくライブ専門の芸術家になるか。

 過去の文献を読み、自分の関心ある事柄に思いをはせる学求人。

 数学、物理学、化学、薬学など先端領域では過去論文の読み込みやビッグデータの処理、それらをベースにした論理思考はAIの処理能力に人間はかなわない。

 プロスポーツなどのアスリート。

 音楽、ボート、鉄道、古地図、料理、酒、ゴルフ、旅行、ゲームなどの趣味人。

 宴会に参加して、退屈しないトークを振る舞う遊び人(エンターテナー)

 食料も中国発の環境破壊により、東に位置する日本は偏西風の影響で第一次産業の壊滅的な被害を受けた。

 国民はバイオで産み出されるレーションと呼ばれる人工食料の配給で生活している。

 国は景気刺激策としてBMI値22のすべての国民に対して健康奨励金として月1万円出してる。

 社会保障費を少しでも削りたいのだ。

 またプログラムなどのソフトビジネスを勉強する人に褒賞金を月3万円出してる。

 オミックス(遺伝情報を下にした医療)が奨励され、健康な時から病気の予防が重視した。

 体質にあった生活習慣が奨励された。

 病気になってからの医療費や薬代より「血圧が下がる」「血糖値が下がる」と歌う。

 特保(厚生労働省の保証)を付けた健康増進サプリメントの方が、国も民間保険会社も懐が痛まなかったし、製薬会社にも新市場を提供できた。

 最後のフロンティアと言われたアフリカまでの開発途上国の低賃金と開発とインフラ整備が終了する。

 後発のため先進国のように技術順番を守必要はない。

 銀行の支店や電話線張り巡らせる必要はない。

 モバイル端末を復旧させるという技術のステップ(リープフロッグ)で追い上げた。

 古いインフラなら電話線に銅を大量に使ったが、モバイル端末の基地局はアドバルーンですんだ。

 金を借りて投資する金融マネーは、あらゆる国の独立した中央銀行の金利が0.001%を下まわってマイナス金利になっても、イノベーション企業以外資本の投資先がない。

 金利を超える経済成長がなくなれば事実上の資本主義の終焉の始まり。

 資本逃避先(キャピタルフライト)がない富裕層マネーが自己増殖するには、更なる格差しかない。

 世界総通貨量に対する富の偏在。

 アメリカではタクシーの運転もハンドルがない。

 交通ターミナルで集中管理され渋滞は自動回避される。

 車社会のアメリカでさえ個人所有をやめてレンタル会社で2年間リースが主流になる。

 複数の人間で購入してネットで電気自動車をシェアしながら使っている。

 使用した電気料金は自動でネットにプールされる。

 配達も空中を飛んで移動するAIを積んだ無人のマルチコプターが、ウェアラブルコンピュータで相談や位置確認を行い輸送する。

 日本の労働者保護の法律が「社会主義的だ」と批判しTPP(環太平洋パートナーシップ)のISDN条項をタテに、「参入障壁」と叫びながらアメリカロボット会社連合は日本政府から倍賞金をがっぽり稼いでいる。

 日本の場合はロボットスーツによる身体強化が主流だが、アメリカの場合はロボットのリモートコントロールが主流だ。

 重役会議や工場の管理見学はネットとセンサーで行う。

 バンソニーとミクロソフトが神経伝達ヘルメットによるダイブゲームの覇権を争っている。

 魔王がミクロソフト社の格闘ゲーム「バリートゥード」に参加すると聞いた時は驚いたが、すぐに応援する気になった。

「せめて明日から始まる予選は突破しないとな」

 魔王は勉強を学校で済ませて、宿題はするけど予習復習は一切しない。

 寝るまでの時間、練習をかなりしている。

 僕とのバンソニー社のOSを使ったゲームは息抜きらしい。

 それぐらいゲームが好きでないと世界十傑には残れない。

 基本的に面倒見のいい男女だ。

 性同一性障害(トランスジェンダー)の中学まで本気で性別適合手術(トランスセクシャル)を考えていたらしい。

 高校入学した時、「お姉さま」と出会い女の身体の素晴らしさに目覚め同性愛者になった。

 身体は女、心は男、洋服は男装のみで人生行くらしい。

 ゲームのアバターも男性キャラが多い。

 僕のために時間を割いてくれる。

 男とは友情のためにどれほどの事をしなくてはいけないか勉強になる。

 予選はバトルロワイアルだが、それならば「道路戦士」でも経験済みだ。

「今日は何する?」

「「怪獣狩人」で。今日は「赤きゴアマグラ」と言って雑誌とコラボしている。

 限定アイテムが手に入るから装備が揃うまで連戦しようか」

「分かった」

 二人でコエプコンの「怪獣狩人」に移動した。

「怪獣狩人」1〜4人でやるハンティングゲームと呼ばれるゲームの草分け的存在である。

 シームレスなオープンフィールドが採用されている。

 鉱物を採掘したり、植物やハチミツを採集したり、釣りをしたり、怪獣を倒して肉や素材を剥ぎ取りする。

 原始的な狩猟生活が楽しめるのが大きな特徴。

 また能力値がなく固定のHPとスタミナゲージしかない。

 攻撃力を上げるためには強い武器を装備する。

 火、氷、電気、麻痺、毒などの属性もあり、モンスターの弱点に応じて装備を変える。

 防御力を上げるためには頑丈な鎧を装備する。

 頭、体、腰、腕、足とピアスと指輪とネックレスなどのアクセサリーなどの種類がある。

 防具ひとつひとつにスキルポイントがあり、合計10、15、20になったら発動するため、合計値が高いほど効果が大きい。

 防具の組合せも単に防御力が高ければいいのではない、複数のスキルの兼ね合いを色々悩む。そのためには採集、採掘、剥ぎ取りなどして素材を集める。

 クエストを受け、素材を集め、強化し、さらに上のクエストを受けの繰り返し、希少な素材が出るたびガッツポーズする。

 武器の種類は小型盾つき片手剣、二刀流の双剣、ガードもできる両手剣が切断系。

 最大攻撃力を持つハンマー、曲を吹いて能力が向上する狩猟笛、小さな虫を操る操虫棍が打撃系でガードができない。

 一番移動力が悪い大きな盾を構えるランスは切断と打撃の両方を兼ね備えている。

 あとは飛び道具で、弓、ボウガン、火砲。

 魔王が双剣でしっぽなどの切断を担当、双剣は切断系であるがガードはできない。

 僕がハンマーで頭部や爪や腹などの破壊を担当。

 武道をやっていて体術で怪獣の攻撃を見極めて髪ひとえでかわして反撃するのがメイン。

 キャラクターや武器に固有の技がついている。

 スタミナゲージを少し使って回転回避が有り、転がる出始めの一秒がダメージをくらわない無敵状態になる。

 その効果を巧みに使いながらノーダメージで怪獣に近づく。

 5分おきにスタミナゲージの上限が減ってくる。

 そのたびに肉を焼いて食うか、弁当を食べるかしてスタミナゲージを回復するのがベストだ。

 だが「ダメよ99」という全身ピンクのユーモラスなモンスターを1分以内に狩ることができる。

 だいたい5分以内に狩れば一人前。

 僕らはゴアマグラといえど、見つけしだい10分以内に狩るつもり。

 スタミナゲージ上限の回復は考えてない。

 最大上限値10あるスタミナゲージは使用すれば1秒間に1の割合で回復する。

 殴ったり切ったりして自由に攻撃できるのだが、スタミナゲージを使ったモーションの方が与えるダメージがでかい。

 立ち止まって上から降り下ろす攻撃は10あるスタミナゲージのうち3まで使う。

 ただでさえ他の武器よりダメージがでかいハンマーなうえに、小、中、大、特大のうちの特大が採用される。

 この技をベースにうまく立ち回り爪や腹などの部位破壊をねらう。

 部位破壊を行うとクリア後の報酬が多くなる。

 スタミナは使わないが殴って、殴って、ホームランという設定されている連続技もホームランが特大なので、モンスターのスキに叩き込む。

 ハンマーはモンスターのスタミナを一番うばう(動きが鈍くなる)。

 頭部を殴れば失神することもあり、すべての武器のなかでハンマー最強伝説がある。

 魔王が使う双剣は手数で押すタイプ。

 スタミナゲージを使った阿修羅乱舞はあまりのスピードに手が8本に見える。

 この時は一発の重さはともかく単位時間当たりのダメージ量はハンマーを超える。

 双剣の属性攻撃は右と左で変更できる。

 特定の段差から飛び乗って、背中や頭や足や翼に乗っかて振り落とされないようにしながら乗っかり攻撃ができる。

 僕らはナイフになる攻撃だが、双剣と片手剣だけは手持ち武器で攻撃できる。

 魔王はしっぽやヒゲなどの切断がすめば、乗っかり攻撃にうつる。

 切断されたシッポから剥ぎ取りができる。

 coーop(協力プレー)を2人でやると3Dモンスターがオトモモンスターとして3Dモンスターを連れて来ることができる(3人、4人の時はオトモがつかない)。

 僕のメインモンスターは「光ネズミ」で固定だが、世界大会でたくさん優勝している魔王はURモンスターを10枚以上持っている。

 レアリティのある3Dモンスターを結構育てている。

 彼女に言わせれば僕の歳で世界大会に優勝したことが凄いらしい。

 彼女はクエストに合わせて3Dモンスターを変える。

 今回はゲームオリジナルのオトモモンスターである二足歩行のモフモフネコ人間を使用していた。

 回復笛を持たせている。

 性格が臆病で戦闘には参加しない。

 僕の「光ネズミ」を持ってきた。

 電撃によってシビレさせることができる。

 地面に接地するシビレ罠も携帯させる。

 性格は賢明でタイミングよく使ってくれる。

 このゲームはアイテムの受け渡しができない。

 回復薬ぐらいなら可能だが、武器や防具の素材は自分で剥ぎ取りと採集しなければならない。

 プレイヤー間で同士討ちがない。

 システム的にも派手に吹き飛ばす攻撃はあるが、ダメージを与えるものではない。

 6回連覇すると防具も武器も一通りそろった。

 丸川書店とのコラボで鎧には派手に「丸川」と書いてある。

 魔王とお互いに出来たての装備を見せあって論評して別れた。

 明日は「ウォードッグ」という近未来サイバーアクションをしようと約束した。

 このゲームは僕の隣に住んでいる勇者・H23・コエプコンも加えてプレーしている。

 魔王と別れてすぐにメールを送った。

 僕らH世代は精子の影響か、みな天上天下唯我独尊的なところがあり、群れる事を嫌い自分の興味あることに没頭する。

 勇者もライトノベル作家になることを夢見ている。

 毎日小説を読んだり書いたりしている。

 集団行動の授業の時は僕とコンビを組んでいる。

 H世代は基本的にボッチだらけで僕のように他人に気を使うヤツは少ない。

 ララ達ロボットが授業内容の連絡を受け、自分のマスターがはぐれないように、連絡を取りあっている。

 王道ファンタジーと転生ファンタジーの市場はレッドオーシャン(競争が激しい)だと勇者は分析している。

 サイバーパンクはブルーオーシャン(競争がない)でありニッチ(大手が手を出したがらない隙間産業)だ。

 コエプコンとバンソニーのゲームばかりしていた僕と魔王は、勇者に誘われてナムコナミ社製の「ウォードッグ」をプレーした。

 勇者はバイオで作られる食糧の配給では我慢できなかった、。

 コエプコン社製アレンジした味が40種類程あるが、彼はインターネットで外国から動物の屍体を取り寄せて食べている。

 そのせいかBMIは22を超えるデブである。

 22なら日本政府から1万円の奨励金がでるのだが、勇者はそれがもらえていない。

 基本的に僕の名前夕夜も、勇者の名前も5歳の時自分でつけたものだ。

 成長して名前を変えるヤツもいる。

 それまで僕達はロボットから「可愛い坊や」と呼ばれていた。

 6時から8時までにゲームは終わる。

 宿題のある魔王にあまり時間を使わせるわけにはいかないし、9時までに食事をとらないとララに太ると怒られる。

 ララ達AIも育てる子供の嗜好に合わせて機能学習(ディープラーニング)する。

 コエプコン社から高い評価を子供が受けると次の世代の基幹プログラムに採用される(幾つかのプログラムを融合されるだろうけど)、ララ達も競争がある。

「お帰りなさい。マスター」

 ダイブから肉体へと帰還をはたすとララがキッチンから声をかけてくる。

 配給された粉末に水を加えてシェイクするだけなのだが、ロボットの育ちかたもマスターによって違ってくる。

 隣の勇者のロボット「姫」は台所もグレードアップしている。

 今はテイクアウトが主流で台所もビールを冷やす冷蔵庫が置いてあるだけである。

 姫は一流シェフのレシピをダウンロードして、味覚も嗅覚も最新のハードに換装し、動物の屍体を取り寄せて、焼いたり、蒸したり、揚げたりしている。

 勇者からメールの返信が来た。

 OKと言う事だ。

 ツナギを脱ぎ、勇者からもらった「光ネズミ」のロボグルミウェアラブルコンピュータからデータを移動した。

 3Dモンスターのプログラムをダウンロードして、歩いたり、しがみついたり、噛んだり、じゃれたりする動くぬいぐるみ。

 ロボグルミに入った3Dモンスターは仲良し値が10分で1ポイント貯まる。

 僕が「光ネズミ」のUR3Dモンスターを育てていると相談した。

 勇者はR3Dモンスターを30匹ぐらい持っている。

 買えば5〜20万円するロボグルミを、全てを3000円でバンソニーからロボグルミのデータを買う。

 100万だして買ったロボットアームが4本ついたミニ工場と呼べる3Dプリンターの亜種で組み立てて几帳面に育てている。

 運よく進化合体をして光ネズミのロボグルミに余りが出たので貸してくれた。

 仲良し値が上限の500ポイントになってからレベルを上げたがいいとアドバイスをくれた。

 ロボグルミに入った光ネズミは今日がオンライン授業で経験値となるチッケトがもらえる日と知っているから、あ〜んと口を開けた。

「仲良し値がたまってからだ」

 ロボグルミの頭をなでた。

 ロボグルミはバンソニー社のヒット商品になった。

 ディズニーのキャラクタービジネスに対抗でき、転送する3DモンスターのWIZの値が100を超えれば会話が成立し、150を超えれば感情を声紋から読み取って会話をしてくれる。

 食事が終わるとバンソニー社の最新のハード『ステプレX』をプレーする。

 ゲームはダウンロードするからインターネットで『ヘヴン』とつながっている。

 壁にはめ込んであるかのような薄い6個の巨大モニター。

 両側の2枚は電源が入ると包み込むように外側がせり出してきてちょっとしたコックピットのようだ。

 真ん中下でコントローラーを使った独立型(スタンドアロン)の戦国シミュレーション『信長の希望X』を選択した。

 三国志物もありコエプコン社の双璧てあり、僕の歴史に対する興味はゲームから入った。

 SPplusに月500円で登録した。

 昔のチンギスハーンの時代を使ったシミュレーションゲーム。

 大航海時代。

 ナポレオン時代。

 幕末。

 第2次世界大戦。

 アメリカ独立戦争。

 源平合戦。

 血の王様(ファンタジーSLG)などのドット絵時代のシミュレーションゲームもできる。

 6個の画面をフルに使って、画面から音を出し、耳を認識して立体感を出す映像コンテンツなどがある。

 上の3つの画面で登録フレンドのビデオチャットしながら下の画面でゲームの攻略を配信したり、協力プレーをしたりできる。

 魔王以外の人間は足手まといにしかならない。

 下真ん中の画面を使い黙々とプレーをする。

 上の3つの画面と右下の画面から配信アニメが流れる。

 昔、コエプコン中央のラボに連れていかれ、いくつアニメを同時に見て内容を理解できるかのテストを受けた時、結果は7つだった。それ以上見ると内容がこんがらがる。

 シミュレーションゲームは戦略面で頭を使うが、それ以外はルーチンワークの所もあり、アニメを見ながらでも十分可能だ。

 左下は攻略本の電子書籍版があり、タッチパネルにもなっていて、時々武将の能力や城の能力をチェックする。

 成長していたり、改築していたりする事が多い。

「歴史に学べ」と言って左翼は「自衛隊を海外にだすのは侵略の歴史を学んでない」といい、保守は「アングロサクソンについていけば大丈夫」という、右翼は「失敗の本質を理解し、どうすれば勝てたかを検証する」同じ状況が訪れるわけでもない。

 歴史上の人物達が、どのような時代状況の限界の中で、どのように悩み抜き、いかなる判断を下したか、あるいは下さざるおえなかった。

 その過程を追体験することに、歴史を学ぶ意義がある。

 11時からは柔軟と筋トレの時間。

 ララにも手伝って股割りや足上げなどの柔軟一般を行う。

 ララにキックミットを持ってもらい、ハイキックやミドルキックやローキックの練習をする。

 拳を作る為に拳立て伏せをした。

 骨が成長期だから筋肉増強のトレーニングはしていない。

 10キロの鉄アレイを使い体幹やインナーマッスルをバランスよく鍛える。

 体が温まってきたらルームマラソンで30分間鍛える。

 持久力をつけ、心肺機能を育てている。

 ウェアラブルコンピュータ頭に取り付け、マウンテンヘッドディスプレイにした。

 正面はwebアニメ、右側面は心拍数がでて、ルームマラソンはウェアラブルコンピュータとリンクしていた。

 心拍数が毎分200になるようにルームマラソンの速度や角度や強度を調整する。

 左側面にはメインの3Dモンスターが走っている。

 横に移動距離がでてくる。

 一連の運動が終わるとお風呂に入る。

 身体を拭いてベッドに入る。

 ララも裸になってベッドに入ってくる。

 女性器を模した人工性器に精子を提供する。

 精子が睾丸の中で製造される10〜11才の頃から行なわれる僕達の儀式。

 一般化(コモディティー)した遺伝子コーディネートを一切行っていない精子を毎日会社に提供するのが社員としての契約だ。

 また、一流企業は天然物の卵子や精子を社会に提供する義務がある。

 僕達はだいたい横並びで月100万の給料をもらっている。

 会社がインターネット上で天然物の精子をオークションに、かけて流通されている。

 高く売れればボーナスがあるわけでもない。

 調べようと思えばオークションを覗けばいい、会社は報告をしてこない。

 ララの子宮部で凍結された精子をコエプコン社は毎朝回収に来る。

 精子は誰かに買われ受精卵になりコーディネートされるだろう。

 あるいはどこかの会社に買われ育てられ天然物精子が再生産されているかもしれない。

 男が射精を行う時、だいたい400メートルを全力疾走するだけの体力を使う。

「お疲れ様」

 射精がすみ息切れする僕にララが額にキスをしてくれる。

 これで1日が終わる。

 ゲームのし過ぎで頭の中に、デジタルヘロインがあふれていて神経が高ぶり、目が冴え眠れなくなっている。

 ララが耳たぶを甘噛みして睡眠導入剤を注入する、無針注射になっている。

 3分もしないうちに眠ってしまう。

 統計学的に7時間睡眠は個体の寿命が一番延びる。

「おやすみなさいララ」

------------------------- 第3話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月18日 火曜日

 

【本文】

「マスター、時間ですよ。起きて下さい」

 7時にララが体を揺らして優しく起こしてくれる。

「おや、マスター朝から元気ですね。一回なさいますか?」

 僕の下半身を見て、ララが親切で口にした。

「オシッコに行けば鎮まるからいいよ」

 あまり精子をだすと夜の分が薄くなる。

 どっかから個人情報が漏れて、夜までガマンできないとウワサがたったら恥ずかしい。

 トイレに行き、顔を洗い、歯を磨き、服を着る。

 ウェアラブルコンピュータとつながっているスマートデバイス体重計に乗る。

 脂肪率やBMI値までチェックする。

 健康は国民の義務である。

 室温は肌着だけで快適である。

 テロを受けるまでは棟ごとにセントラルヒーティングだったが、細菌テロによって空調は部屋毎に変更された。

 ララとは別系統のAIが管理するスマートハウスになっている。

 カーテンや窓の開閉が自動で行われ、室温を調整する。

 気の利いた透明人間がいるようなユビキタス(いつでもどこでも存在する)・コンピューティング。

 ユビキタス自体は人と複数のコンピュータと人間がつながってやりとりする概念である。

 IoT(インターネットオブシングス)が現れユビキタスの概念は消滅した。

 道具同士が会話してご主人様は道具の使い方が荒いと愚痴るまでになった。

 サイバーテロ以前は家電の情報までネットにアップしてクラウドコンピューティングで判断するアグリゲート(集約・集結する)・コンピューティングが採用されていた。

 今では部屋毎に孤立化(スタンドアローン)に変更した。

 窓も二重になっていて熱やエネルギーが逃げないように工夫してある。

 サッシにはアルゴンガスを封入した複層ガラスと高断熱サッシを組み合わせたハイグレネード断熱材を使用している。

 建築基準法も変わって、繊維の方向を変えて貼り合わせた木造集成材を壁面に利用すれば、2階までが、8階まで建造して良くなった。

 地震の少ないヨーロッパでは木造34階建がある。

 木造集成材は幅15センチに20層があり、防音層、防湿層、断熱層をはさんで繊維毎に集めた人工板は薬品に漬け込んであり、全て不燃材料に改良されている。

 もともと木材の圧縮力に対する強さはコンクリートと同等である。

 コンクリートの家より大容量データのやり取りにストレスがない。

 サビる釘などは使わずに、太古から日本が誇る切り欠きはめ込み型。

『仕口』や『継手』や『男木』や『女木』と呼ばれ、固定する時は『詮』と言って角度のついた端材を交点に打ち込む。

 最新の3DCADによる組み立てレーザーカッティング技術の融合。

 地震があってもペチャンコにならないように重心と中心がずらしてあり、ねじりながら壊れ、エネルギーを吸収して、内部に多くの空間(スペース)を作る。

 窓ガラスは全て植物由来の透明なセルロースナノファイバーが使用されている。

 強度は鋼鉄の5倍で熱膨張はプラスチックの20分の1で割れずに壁にめり込んで、地震でも割れて落下しない。

 セルロースナノファイバーはガラスと違って壁に食い込む。

 絶対安全より、どう壊すかを研究した米海軍のダメージコントロール理論。

 集成材を作る過程で出来る廃材はチップスにして、下水と同様にバイオで発酵させてメタンと二酸化炭素を発生させ、メタンだけを取りだし水蒸気をぶつけて水素を作る。

 日本人は復興も得意だが、自然災害や人為災害の対処する防災・減災の技術でも世界をリードしている。

 ただ原子力発電所が事故を起こした時の避難経路が計画されてなくても、政府は福島第一の事故の後でも再起動にGOサインをだした。

 この辺の感覚は欧米では理解できない。

 僕も日本人だが理解できない。

 食事をしながらララに昨日の事を報告して、今日の予定を聞いた。

 今日は社会参加の体験学習である。

 今日は1日コエプコン社がだす学園物ファンタジーのクローズβ版(まだ一般に公開していない。社内の子供達だけでシナリオをプレーしながらバグつぶし)を会社の支持に従いながらチェックする。

 どんなゲームかと言われると一言では説明できない。

 100万人生徒がいる学園都市でNPCがイベントを持っていて、会話しながら進める。

 協力プレーが無くて個人がシナリオを追うタイプ。

 将来一カ月おきにヴァージョンが変わる度にどうなるかわからないけど、スタートアップはこれで行くみたい。

 前世、守護霊、伝奇、クラブ活動、恋愛、現代ファンタジーなどジュブナイル小説的に詰め込んである。

 自分の進みたい学校を選択する。

 ・魔法美少女と仲間悪魔召喚プログラム

 ・吸血鬼、狼男、ゾンビ、幽霊との同居

 ・オタク系グダグダのユルい人間関係

 ・キラーショットを持つ熱血スポーツ

 ・歌、音楽、アイドルなど選挙アリ

 ・格闘技、不良物、暴走族などトーナメント型

 ・放課後退魔アクション

 ・侵略者(宇宙? 異世界? 未来?)と戦う秘密基地

 後は部活や図書委員会や風紀委員会や生徒会など取り方によって遊び方も変わる。

 NPCとの関わり方でハーレムや逆ハーレムも年齢によっては耽美や背徳も可能。

 望むなら修羅場つきの三角関係もあり。

 守秘義務があるから口外はできないけど、勇者と詰め込み過ぎだろうと話している。

 ただどう遊ぶかは強制できないが、無料ゲーム(内課金アリ)なのでダウンロードしてもらわないと広告料も手に入らない(ゲーム内の服や家電や看板の採用)。

 入り口は広くなくてはいけない。

 戦闘も飛び道具がメインで、あちこち道具を拾いまくっての凶器攻撃はサブである。

 攻撃は物理、

 銃撃、

 火炎、

 熱核、

 疾風、

 電撃、

 氷結、

 祝福、

 呪怨、

 念動の種類がある。

 一つ弱点を作る事で2ポイントもらえる。

 0.5ポイントで無効化。属性のダメージを0に出来る。

 1ポイントで吸収。その属性で攻撃受けるとHPかMPが回復する。

 1.5ポイントで反射。攻撃を跳ね返す。反射同士がぶつかると0になる。

 弱点属性で攻撃するとダウンを奪える。

 オーラをぶつけ、

 武器に念を込め、

 バリヤーを張り、

 結界を張り閉じ込め、

 道具を使って封印し、

 気合いで超回復する。

 イメージや小技が充実している。

 食事を終えツナギを着てネットワークにダイブする。

 8時までに出社しなくてはいけない。

 接続がすみアニメソングを聴きながら仕事が配信されるのを待った。

 前回までシナリオをプレーした時はまだ背景や人物に色がついてなかった。 

 複数の男女の声でコエプコン社の中央コンピュータが声をかけて来る。

 白く燃える魂の姿をアバターに使っている。

「マスター夕夜。仕事の依頼を受けてもらえませんか?」

 社員である僕は断われない。

 僕達は産まれた時から脳が動く限り働く義務がある。

 契約によりクビもないかわりに定年もない。

 早くから社会参加や体験学習をしなくてはならない。

「どんな仕事ですか?」

 ゲーム業界にもベルトコンベア方式からセル生産方式(1人または少数のグループが最後の組立まで受け持つ)に移行してきた。

 無料化開発エンジンが複数存在して、1人の人間がシナリオのオープニングからエンディングまで受け持つ。

 インターネットの情報インフラの整備により、インターネットオークションの外注のコストは安いけれど、会社内部と単位時間当たりの生産能力が10倍程違う。

 クオリティは100倍違う。

 外国業界の経済格差も、所得格差も、為替レートも、ゲームをコーディネートできるデザイナーの間では無いに等しい。

 オタク系のデザイナーのオフショア(海外に移す)は起きなかった。

 好条件の海外移籍も「石油は動くけど油田は動かない」と突っぱねている。

 そこでコエプコン会社は社員を造り、自社内で才能を集めたチームを競合して、運営した方がベターではなくベストだと判断した。

 他ゲーム会社とのコラボでさえ外注せずに、内部で造る。

 造られたゲームがどれぐらい売れたか社内で競争する。

「NPCを1人渡すからシナリオを書いてもらえませんか?」

「僕がですか?」

 弱ったな。

 勇者みたいにライトノベル作家になる野望を持っているわけではないから、研究したことがない。

 会社も個人の能力を見るためにメインシナリオではなく、サブクエストを書かせてみるとは良くあることである。

「僕は正直者が馬鹿をみない話しか書けませんが」自分の限界を口にした。

 最近のAIは物語や神話を検索して、物語工学論(元はロシアの研究家が世界中の神話から共通項を抜き出した)を組み立てる。

 人が何に感動するかを映画や小説などのビッグデータから共通項を抜き出し、構想と人間関係を聞きながら、脚本を創作するプログラムがハリウッドにはある。

 もはや物語の構造をバラバラにして組み合わせで興行収入を計算するアルゴリズム(コンピュータ分野では、プログラムの形で定形化された処理手順の集まりのこと)が存在して、だいたい当たる。

 今では金融、天気、不動産、地方ニュース、スポーツなどは終了してから数秒間でAIが記事にしてネットに無料で配信してくれる。

 人間の記者以上である。

 ハリウッドの黄金パターン少し斜めに構えた人物が、最後には人間の良心に目覚め、真の悪と戦う。

 勇者が分析していたが、僕はぐれたことがないし、反社会的な行動には怒りを感じる。

 真面目がとりえの面白くない人間である。

「そう、固く考えないでください。

 あなたのようにその年で道路戦士の世界ランカーにまで登りつめた人間は、世の中がどう見えているのか興味があったので。

 新しい切り口だけでも欲しい」

「切り口ですか?」

 ゲームが強くて、真面目に格闘技の練習をしているだけで、努力と根性。

 新しい切り口などない。

 同時に当たるシナリオになるかわからないが、魔王みたいな人間を主人公NPCにすえる。

「俺よりも強いヤツに会いに行く」みたいなノリでプレイヤーと二人で強敵に闘いを挑む話は、僕的には面白いかも。

「売れるシナリオになるかわからないけど、僕の感覚で書いていいのならお受けします」

「お願いします、マスター夕夜」

「授業で基礎プログラムや新開発エンジンを履修していますが、商業ベースはカリキュラムの中に入っていない。

 シナリオの書き方など業界慣例を何作か送ってもらえませんか? 」

「わかりました。すぐに手配します」

 魂のアバターは目の前から消えた。

 すぐにシナリオの書き方電子書籍を送ってきた。

 続いてプレーしたことのあるシナリオデータへのコンテを送ってきた。

 午前中は読書と研究に当てた。コレはコレでなかなか面白い。

 色々なアイデアやセリフや場面(シーン)が洪水のように浮かんできて、ソレをデータの中に落とし込むので精一杯。

 ひょっとしたら僕って天才かもしれない。

 午前中の仕事が終わって、部屋に帰り昼ごはんを食べた。

 とても疲れたのでゲームはしない。

 イスに深く腰を掛けて目を閉じて脱力した。

 ララが冷凍庫からアイスノンを持ってきた。

 僕の頭の上にのせてくれた。知恵熱が出ていた。

 気持ちを切り替えて午後からの仕事に移った。

 NPCの3Dデータの最新の3DCADを使い創作にかかる。

 魔王がモデルだから悪魔人間(デビルマン)ぽくしなくては、設定は獣面仏心の男。

 全体的に顔のパーツを大きくして、目は平行四辺形にして、瞳は巨大にして、口は両端つり上がって、犬歯は太くて歯は鮫歯。

 髪は黒くてボサボサ、ファッションは気にしないが、黒を基調とする着たきり雀。

 ある程度完成すると動かしたり、セリフに合わせて表情を造ったりしてみた。

 

 色々試してみると5時になった。

 

 コエプコン社の中央コンピュータに仕事内容と作ったデータをメールして、「お疲れ様」と返信が来たら仕事場から退出する。

 バトルロワイアル予選で魔王が勝ち残っているか気になっていた。

 オンライン授業の補修と違って仕事の残業は強制ではない。

 仕事が好きで残業する者もいる。

 急いで部屋に戻った。

 ウェアラブルコンピュータで配信されている動画を見た。

 結果から先に言うならば魔王は負けて予選突破できなかった。

 はっきり言えばアメリカには人種差別が陰湿な形で残っている。

 1パーセントのユダヤと|WASP《ホワイト・アングロサクソン・プロテシタント》が富の93パーセントを握っている。

 一台50万円する神経伝達ヘルメットは富裕層しか買えない。

 やり込んでいる白人(ホワイト)達が結託して、有色人種(カラード)狩りを行う。

 魔王は1VS50の闘いだった。

 ミクロソフト社のOSは重力計算を全くしない。

 派手な演出はあるが。

 魔王が身につけた武道の投げが少しも使えず。

 体力設定の数値がそのまま反映され、投げが存在せず力学的な持ち上げて落とすしかない。

 アバターに身体能力を反映されると女にはつらい。

 重心の計算もなされずに無理な体勢でもバランスを崩さない。

 魔王は突き蹴りと位置取りだけで半数は倒した。

「衆寡敵せず」取り囲まれて押さえ込まれて2メートルある大男からクビを引っこ抜かれてGAME OVERだ。

 わざわざアメリカまで行って参加している魔王にたいする白人達の態度に怒りが湧いた。

 富裕層にいるWASPは欲求不満や怨恨(フラストレーション)をためているのだ。

 人工構成が変わってきてヒスパニック系や黒人系やアジア系やメスティーソ系が増えてきて、大統領選挙で共和党が民主党に勝てなくなった。

 失政を連続して支持率が下がっても票数が減る事はなかった。

 白人優越主義者(レイシスト)の中でも階級がありフランス系が高くヒスパニック系が下だ。

 日本にとっても連続する民主党大統領は痛手だった。

 大東亜戦争も共和党と戦ったのではない。

 民主党と戦ったのだ。

 民主党政権はスタンスが中国よりで、内向き。

 世界の警察官を止め、住民投票による琉球独立と共に軍をグアムまで引いた。

 資本主義社会の弱体化により、経済的に疲弊したアメリカが一歩撤退すれば中国は二歩踏みこんでくる。

 世界の工場中国は琉球に軍艦を派遣した。

 アメリカから情報がなければ自衛隊のハイテク兵器は鉄の箱にすぎない。

 日本と韓国は目と耳と神経を抜かれた。

 どの国も軍事費はGNP3%が基本であるが、アメリカの安全保障にただ乗りとは言わないまでも。GNPの1%に押さえて思いやり予算のツケが回ってきた。

 対米従属を国是とし最新兵器の開発を怠った。

 当然の帰結。

 アメリカが琉球国から撤退した時、自衛隊も兵を引いた。

 琉球国大統領は中国の進軍に五星紅旗をふって熱烈大歓迎をした。

 クリミア方式と呼ばれる常任理事国による合邦は平和理に終わった。

 もともと琉球を見捨てて独立したことのある国。

 左翼運動家の巣窟とかした琉球を見殺しにするのに国民の側にも抵抗はなかった。

 一部の右翼を除いて「戦争にならなかった」という時の総理の判断を支持した。

 反権力と見られていた琉球新聞も世界的権力者中国共産党に逆らうことなかった。

 終始一貫して共産主義を礼賛した。

 もともと左翼と共産主義は同根である。

 縮小を余儀なくされる資本主義経済と、国内に植民地《コロニーア》を持ち、その気になれば奴隷のように安く使える中国共産主義とでは勝負にならなかった。

 韓国では年々左派が台頭し、第二のアンジュコンをめざしてアメリカ大使や軍に対してテロが頻発してもともと嫌気がさしていた。

 アメリカがプレゼンスを小さくした時、北朝鮮が砲弾でソウルを火の海にかえた。

 朝鮮民族の悲願、半島統一が北朝鮮主導でかなった。

 韓国は財閥と市民との格差が絶望的に激しすぎて、国民が一致して守るべきものを見いだせなかった。

 一君万民の特殊共産主義体制さえ望んだ。

 韓国も侵略が日本だったら国を挙げて抵抗したかも?

 台湾は経済侵略されて中国経済がないと国が成り立たない。

 自ら奴隷となることを選んだ。

 民主主義を捨てて中国共産党の施政下に入った。

 新華社通信が配信する琉球人達の微笑みが、日本統治下での左翼運動に疲れた時より幸せそう。

 それがせめてもの救いだった。

 古き良き強きアメリカを熱望(デザイア)する白人優越主義者のブラストレーションは沸点に達した。

 ゲームや社会生活、ネットの中に歪な形で現れる。

 魔王の血を流す首は映像の中で高々と掲げられた。

 映像をきり、いつものチャットルームにダイブした。

 魔王の方が先に来ていた。 

「負けちゃった」暗黒のカブトを人差し指でかきながら口にした。

「仕方がないよ。1対50だもん」

「ごめんな。

 ピヨッピー。

 オレ、お前以外の人間に負けるだなんて、

 本当にごめんな」

 ディフォルメされた暗黒のカブトから涙を流した。

 アバターは悲しい時、涙を我慢しない。

 もらい泣きである。

 ヒヨコのアバターも涙を我慢しない。

 魔王は僕が出られない地方の大会や外国の大会で優勝できなかった時、必ず謝る。

 僕が出られない大会は僕の分までがんばる。

「そんなことないよ、魔王は僕にとってヒーローだよ」

 僕たちが抱きあって泣いていると勇者がやってきた。

「何やっているんだ。お前ら」

 勇者のアバターは10センチの単色の正方形の立方体で、ドット絵時代の2頭身の勇者の姿を3DCADで再現している。、

 左手に大きな盾と右手に大きな剣を持っている。

「派手に首ちぎられていたけど、臨死体験できた?」

 基本的にH世代の人間は遠慮をしないし、気も使わない。

 僕はかなりレアなケースだ。

「ミクロソフトの神経伝達ヘルメットは、痛みをフィードバックしない」

 魔王が涙をふいて答えた。

 BPOやキリスト教系の団体が青少年の健全な育成にうるさい。

 フィードバックシステムは教育に悪いらしい。

 北米やヨーロッパの成人はフィードバックがあるバンソニー社の神経伝達ヘルメットでゲームを楽しんでいる。

 ミクロソフト社の神経伝達ヘルメットは軍事用の遠隔操作(テレオペレーション)が転用された。

 重量別のリアルロボットの動作をトレースする操縦方法(ダイレクト・マニュピレーション)で闘わせるのが主流だ。

 リモコンを操作する感覚から自分を操縦する感覚(テレイグジスタンス)までは発達している。

 もともと自分の主張をゴリ押しするのが主流で人の心を察しない。

 人の痛みが分からないシステムに抵抗がない。

「今日は誰のシナリオをするんだ?」

 勇者が聞いてきた、頭上には魂の名でアゲインストとアバター名が書かれている。

 僕達は本物の中二病である。

 子供がカッコイイと思うのは必ずしも文化や伝統を背負ったものでない。

「刑期(300年)が大分短くなる緊急イベントが発生した。

 企業都市の重役の娘が誘拐された。

 救出ミッションだ」

 状況を説明するとゲーム内で魔王は刑務所の中にいる。

 僕と魔王は勇者と違ってナムコナミのサイバーパンクゲーム『ウォードッグ』では後発組だ。

 ある程度不具合やバランスが改善されてからプレーした。

 ゲーム内で魔王は完全義体化したフルボーグ。

 バウンサーと呼ばれる戦闘系の職業(クラス)である。

 このゲームはなんでも出来るが、選択したクラスによって技術(スキル)が取りやすくなる。

 シナリオをクリアするたびスキルポイントが手に入り、戦闘系なら実弾兵器ダメージ減少などのスキルが安く手に入る。

 対車両用の地雷や電磁地雷、対人用の気絶(スタン)(強い光が広がる、一瞬で終わる、目をやられて回復まで座り込む)。

 睡眠(スリープ)(煙に触れたら自分も寝てしまう、対抗策はガスマスク)や煙幕(ケムリ)機械目(マシンアイ)を赤外線感知に変えるか、赤外線スコープを装着することで敵が見える)などの手榴弾(グレネード)や地雷のスキルも手に入る。

 壁のように設置できる大型防弾盾(HPがあり、使用回数は制限される)などもあるが魔王はあまり成長させていない。

 僕はエースパイロットで操縦系のスキルが安く手に入る。

 身体も神経や目や耳などの感覚をサイバー化して、ジャックインシステムでライフルのスコープを覗くことなく脳に情報が入ってくる。

 視認できるロボットやドローンや自動運転車両をハッキングする。

 ブレイン・マシン・インターフェイスで、操作せずに思考だけでコントロール下に置くスキルもある。

 あまり成長させていないから魔王の事を悪く言えない。

 勇者はハッカーだ、情報操作系のスキルが安く手に入る。

 大分課金していて、たくさんの3DモンスターがサポートAIとしてゲーム内に連れてきている。

 プレー中は3Dモンスターの仲良し値が5分で1ポイントもらえる。

 人工衛星の情報や警察や企業の監視カメラの情報をサポートAI達はみんなで検索して勇者に送る。

 ビッグデータの処理はAIの得意分野だ。

 ジャックインシステムでサイバー空間にダイブする時ははアシスタントAIとなる。

 パスワードや暗号を解読したり、相手の捜査の囮になったり、身代わりになって攻勢障壁攻勢電流の攻撃を受けたりする。

 ゲーム上では3Dモンスター(アルゴリズムプログラム)はカードになっている。

 記憶容量のあるロボットやコンピュータにカードを魔法的に挿入するだけでコントロールを奪う。

 クラウド型の小型な蚊のようなドローンを自動判断して操作したりしてくれる。

 相手に気づかれず偵察ができる。

 30センチくらいのロボグルミにカードを挿入して自律させれば、ネットにダイブしてがら空きになった肉体の周囲状況をチェックする。

 危機が迫れば、ダイブ中の勇者の意識に知らせたり、肉体の方は防衛したり、警察や警備会社などのネットポリスに潜入がばれてないか機関の動きのチェックも行う。

 勇者も粘着爆弾系のスキルがあるが身につけていない。

 ゲーム上でのロボグルミは移動する囮(アクティブデコイ)になる。

 投影装置(ホログラム)やスピーカーや人体ふうせん(バルーン)を仕掛けて敵を引きつける。

 周囲を無力化する(ドローンも含む)電磁パルス地雷を設置する

 近づいたら自動で発動する。

 または踏んだら発動する物。

 放り投げて5秒後に発動する物。

 あるいは爆破スイッチを自身が持っている場合、半径無差別と一定の指向性て爆破する種類が存在する。

 身体が軟体繊維でできているから、換気扇やドアのスキマから進入して、情報を集めたり、トラップを解除したりできる。

 課金すれば移動速度もかなりあがり、光学迷彩もつけられる。

 時にはプレイヤーを助けるため自己犠牲的行動にもできるが、3Dモンスターが壊れるような使い方をすると仲良し値がもらえなくなる。

 3Dモンスターは愛さなくてはいけない。

 ゲームマネーはかかるが民間人工衛星から援護攻撃をしてもらえる。

 テングステン製の小さな槍は凄い落下エネルギーにより一定の範囲に巨大なダメージを与える。

 どうしてもクリアがむずかしい時の禁じ手である。

 戦い方は魔王が素粒子(ニュートリノ)ロープを使った、立体起動でアサルトライフルの乱射しながら近づき、レーザーチェーンソーで切断。

 素粒子は地球6個を貫通して存在が消える。

 極小の量子の世界では物理法則が通じない。

 素粒子ロープは切断不可能であり、電気的ヒッグス粒子を流し物質化できる。

 ゲーム的には電気の流し方で質が変わる。

 どこまでも伸びる強靭なロープになる。

 バッテリーが上がってヒックス粒子の供給が断たれればロープは瞬時に物質化をやめる。

 僕は光学迷彩マントや布で姿を隠してのスナイプによるヘッドショット。

 勇者はロボグルミに機関銃を持たせて防御陣地を作り、小型スマートミサイルでロックオンして範囲攻撃でしとめる。

 スタート時は『アサルトコア』と呼ばれる巨大ロボットでの傭兵稼業に夢中になった。

 

 バンソニー社も往年のアニメファンに向けたロボット物はあるが、ロボットアニメのキャラクターの操縦がメインだ。

 回避行動を主としてヒットアンドアウェイのリアルロボット系。

 とにかく排熱を気にせず、ブーストをかけながら光線をよけまくり、ミサイルを撃ち落としたり、切り払いをしたりする、すれ違いざま近接攻撃が主流。

 それと分厚い装甲で多少の攻撃は気にしない、巨大火力と必殺技を持つスーパーロボット系の二つに大別できる。

 一部の例外(アンビリーカブルケーブルでつながっている)を除き、たいていは空が飛べるため三次元を把握する能力はいる。

 戦闘機に可変して高速移動する機体もある。

 こうした機体はロボットへの変形前に翼の上下に積んだミサイル(宇宙空間には空気抵抗がない)による敵戦闘機に対してドッグファイトを序盤に行う。

 制空権や制宙権をとる。

 純粋戦闘機は母艦に途中で引き返しコクピットごとロボットに乗り換える。

 あるいはパーツを射出してもらいロボットに分離合体する。

 原作アニメに準拠してメチャクチャな合体が成立している。

 僕も序盤は所属する陣営所属愛(パトリオット)のため戦闘機に乗りドッグファイトに参加してからロボットに乗り換える。

 魔王は最初からスーパーロボットに乗り母艦近くで移動砲台として直掩行動を行う。

 戦闘機は地上基地や月基地や隕石基地に味方が上陸するための援護爆撃や援護射撃。

 あるいは軽くなったり合体したり、ロボットに変形して上陸支援を行う。

 選んだ機体によって能力が決まる。

 仲間同士の攻撃が当たっても基本ノーカウント。

 敵にトドメをさすと賞金とスキルポイントが手に入る。

 賞金で武器や装甲を強化できるがスーパーロボットがリアルロボットに変化することはない。

 スキルポイントは精神コマンドが手に入る。

 30秒間攻撃力が2倍になる『熱血』や、30秒間防御力が2倍になる『我慢』や、30秒間必ず当たる『必中』などがある。

 NPCには絶大な威力を発揮する。

 プレイヤーは『ひらめき』という絶対回避能力があり『必中』より優先される。

『チョパムアーマー』や『太陽発電機』などのカスタマイズができる。

 ロボットによってカスタマイズの搭載量が変わる。

 キャンペーン(連続シナリオ)をこなして勲功を貯めれば、後継機や新機種や上位のアイテムが手に入る。

 戦場は地上(月面、火星も含む)より隕石、コロニー、宇宙空間の方が多い。

 配給されるオンラインシナリオはシーズン制をとっていて4週間毎に一からやり直すのは賛否両論ある。

 軍隊なら少年兵から、レジスタンスなら下っぱから。

 もちろん純粋に成長を楽しむスタンドアローンなイベントシナリオの配信もある。

 クリアタイムや撃墜数はカウントされランキング上位者には称号が与えられている。

 魔王はスーパーロボット系で僕はリアルロボット系の◯ンダム。

 とにかく換装パーツの種類が豊富。

 組み合わせは1億通り。

 僕は肩には月からのマイクロウェーブを受けて大容量攻撃できる。

 背中には独立した敵を視線認証で攻撃する八本のレーザー兵器。

 腰にはファンネルがあり遠距離を走破して攻撃したり、バリヤーをはったりできる。

 ゲームマネーによる課金と、僕や魔王の反射神経と狙撃力があれば階級が下でも、いい機体に乗らなくても無敵になれた。

 半年程かけて◯ンダムの「一年戦争」追体験できるオペレーションキャンペーンもあったりしたが、そこまでのめり込まなかった。

 僕も魔王も熱が冷めるのも早かった。

 

 そこへいくとナムコナミの『ウォードッグ』のロボット『アサルトコア』は奥が深い。

 乗り込むロボット『アサルトコア』の足や手やエンジンを複数あるパーツをゲームマネーで買って組み上げる。

 まず足を決める。

 キャタピラーのついたタンク型のスピードは遅いが一番重量が搭載できる。

 スマートミサイルを両肩や背中にたくさん積み込む勇者が愛用している。

 僕は二足歩行を選択する。

 匍匐(ほふく)前進ができる。

 匍匐と光学迷彩シートで姿を隠してのスナイプショットを狙う。

 その他にも横移動や後進が前進と同じ速度で移動できる多脚型。

 上下運動やジャンプが有利な逆足型。

 搭載量は少ないが水上シナリオではほぼ強制のホバー型。

 

 足で搭載量が決まると電気を出力する水素エンジンを決める。

 基本は重量によって出力が決まる。

 シナリオをこなすことによって性能のいいエンジンが手に入ったり、イベントをこなしたりすることによってショップやジャンク屋(中古店)で発売が解禁される。

 エンジンの燃料は水で可能なのだが、みんな燃費のいい高濃縮水素水を使っている。

 基本的にプレイヤー間でパーツの売買や譲渡はできない。

 プレイヤーランクを上げてショップに性能のいいパーツを並べるのがゲームの目的のひとつである。

 ダメージを食らったり、武器を使ったり、移動したりを連続して行なえば熱がたまる。

 関節ユニット(モーターではなく、超伝導体による磁力がメイン)が解けだす。

 冷却装置(ジェネレーター)を載せる。

 軽くて排熱性能がいいのを求める。

 火炎放射器やヒートガンなど熱を与える攻撃する方法もある。

 超伝導体で質量を飛ばすマスドライバーや大口径レーザー兵器は熱をためやすいから、反動はあるが弾丸を撃ち出す火薬兵器を使っている。

 マシンガン系をフルオートで撃てば銃身に熱がたまりオーバーヒートをおこし、冷えるまで撃てない時間帯ができる。

 それは銃自身の問題であり、アサルトコアの排熱とは関係ない。

 接近戦になれば熱のたまるレーザーブレードではなく単分子ナイフを使っている。

 兵器にしろエンジンにしろ装甲にしろゲームマネーを使い、ジャンク屋でチューンナップできるが、強度が下がったり重くなったりと代償をともなう。

 そしてなるべく能力が下がらないようにするため、上級スキルを持つガンスミスの所を訪ねカスタマイズしてもらう。(それもゲームの目的の一つである)

 知り合いのNPCにスキル保持者に紹介状を書いてもらえる。

 改造は完全に個人の好みの問題に左右される。

 

 腕は武器腕と五指を持つマニュピレーターに大別される。

 勇者は敵を寄せ付けないように右腕をガトリングガンに、左腕がもしもの時に供えて近接範囲攻撃のショットガンになっている。

 魔王は右腕がドリルアームになっている。

 男のロマンらしい。

 左手には盾型機関銃(シールドマシンガン)を装備して乱射しながら敵に近づく。

 全身の装甲を強化しているためあまり多くの武器は持てない。

 弾切れすれば左手首を吹き飛ばして付け根からレーザーソードをだし、右手首のドリルも打ち出して回転するレーザーシールドに変更する第2形態に移行する。

 ドリルの射出は魔王の奥の手である。

 僕は状況に応じて武器の変更ができるように両腕ともマニュピレーターにしてある。

 光学迷彩のマントを広げたり、他人の世話が出来たり、物を動かしたりできるから便利だ。

 

 背中には魔王は固体燃料を積んだジェットパックで空を飛び高速水平移動が出来、ドリルで突っ込むのが彼の得意戦法である。

 勇者はスマートミサイルを積んでいる。

 上空に一度上げて、旋回してデータにある敵を探して突っ込んで行き、ナパームによる範囲攻撃。

 敵が妨害電波(ジャマ—)でロックオンを外してきたり、(デコイ)を使って偽情報を送ったり、熱源探知機や赤外線感知器や電磁波(レーダー)音波探知機(ソナー)を妨害するマイクロマシンを散布される。

 スマートミサイルのAI達は光学系の画像処理による情報しか手に入らない。

 素粒子ロープでつながっている場合は情報伝達が出来る。

 敵が居そうな場所の地形情報を送って、その地点に突っ込ませて範囲攻撃を行う。

 巡航ミサイルは撃墜されやすいため、防御システムを勇者がミサイル打ち上げる前に狙撃するのが僕の主な任務である。

 僕の『アサルトコア』の背中には着脱可能な武器庫を搭載している。

 デコイや吸着地雷や逃走用の(スモーク)や予備弾倉を積んでいる。

 地面に降ろせば4本足が起動する。

 氷の上でもバランスをとりながらついてくる。

 3Dモンスターのアルゴリズムプログラムを移動させれば、独立して考えながら僕に有利な行動をとる。

 背中から独立した移動武器庫に注文すればフタを開けて盾になり、ライフルの台座にもなる。

 

 勇者の両肩には直進するロケット砲が搭載している。

 マッハ7で飛ぶため迎撃は不可能。

 右も左も独立したAIが自分で敵を探し、勇者はめぼしい相手が画面に映った時にGOサインをだす。

 僕の場合は索敵用のマルチコプターのドローンが左肩に百機載っていて、戦場各地にばらまく。

 ドローン同士が素粒子ロープで連絡をとりあい、蜂や蟻のような昆虫みたいに集合知を形成して重要ポイントを捜索し、低速で移動する巡航ミサイルなどを見つけたら取り付いて自爆する。

 右肩からの素粒子ロープでつながっていて、マイクロマシンの妨害の中でも映像を送ってくる。

 課金して連れてきている光ネズミの3DモンスターのアルゴリズムがAIとしてビッグデータから敵性施設や兵器を検索して送ってくる。

 魔王は左肩がアンカーになっていて、地面に打ち込んで急旋回し、逃げる敵の背中に打ち込む(素粒子ロープでつながっている)。

 右肩はフックになっていて、その場にひっかけて地下や、エレベーターシャフトを降りる。急斜面を急速登攀する時に使う。

 

 頭部には各種センサーがそろっている。

 僕のは主に遠距離狙撃がしやすいヤツを使っている。

 勇者はロックオンしやすい横幅の広いヤツを使っている。

 接近戦を仕掛ける魔王の頑丈なヤツを使っている。

 

 勇者は戦車(タンク)型の脚部にマイクロマシンが散布された(のみ)で自動浮遊できるピットを前に二つ、後ろに二つ搭載している。

 戦場全体がマイクロマシンを散布される。

 敵が散布する場合もあるし、コクピットの下の貯蔵庫から、こちらが散布する事もある。

 ロックオンが不可能になれば、ピットを哨戒させミサイルの迎撃に努める。

 カードで内蔵してあるAIに攻撃地点を索敵させる。

 発見しだい攻撃するようプログラムされている。

 勇者はそれで敵の存在を理解する。

 マイクロマシンの濃度の高い所に敵か防衛施設がある。

 攻撃もできるのだが使用中は本体の熱がたまるし、飛んでくるミサイルはともかく、装甲の厚い『アサルトコア』に効果的にピットはダメージを与えることができない。

 位置情報が分かればピットを引いて、その位置にミサイルを叩き込んだ方が正解である。

 魔王は両脚には補助ジェットブースターが取り付けられている。

 運が悪ければ弾丸が足に当たって誘爆する事もある。

 僕は万が一接近戦なった時のために左足にはナイフを10個。

 右足にはボタン一つで勝手に鎖を右腕に巻き付け固定し、強力な火薬で打ち出す、一発勝負のパイルバンカーを内蔵している。

 

 ナムコナミのゲーム『ウォードッグ』の中で魔王がイベントで未来都市アルカディアの企業刑務所に捕まっている。

 しょうがないから僕がアルカディアの城壁の外の貧民街に、課金して工場兼倉庫兼隣接住宅をひとつ借りている。

 そこに3人分の『アサルトコア』や買い足した換装用の装備を預かっている。

 エースパイロットはドライバースキルも手に入れやすいため、僕が課金して4人乗りの車を購入してドライバーを兼ねる。

 魔王は刑務所、勇者は棺桶ホテルにいるが、勇者は近くのギャンブル場でハッキングイカサマをして小銭を稼いでいる。

 勝ち過ぎると用心棒にボコボコにされる。

 倉庫には車が3台ある。

 オフロード用と都市用とレース用である。

 オフロードには装甲と武装が、都市用にはステルス機能を追加してある。

 レース用には超伝導体による電動磁石型空中浮遊による競争になる。

 水素エンジンで電気を流し、超冷却装置(スーパージェネレーター)は二オブチタン合金と液体ヘリウムでー269度を保ち、壁や地面には隣の車には磁石の力で絶対ぶつからない。

 車体に電気を駆け巡らせ車の角度を調整し、500キロのスピードを楽しむ。

 サーフィンに近い感覚。

 最終ライバルは「磁力線の見える男」ドイツ人のオッペケペカイザーらしい。

 どちらかと言えば血がたぎるタイプで戦闘メインに楽しんでいる。

 レースは何回かした事があるが、リーグやチームに入っていない。

 レースをメインにしても、ライバルやかわいい女の子が出てくるシナリオやイベントがあり、結構楽しいらしい。

 ウェアラブルコンピュータをゲーム世界に持ち込めるわけではない。

 ゲームの設定では脳に内蔵している極限まで小さくなったインナーコンピュータに、現実世界でウェアラブルコンピュータに正規のルートでダウンロードしたアニソンはゲーム世界に持ち込める。

 都市用の車のエンジンをかければ車のAVスピーカーからアニソンが流れてくる。

 まずは2人を迎に行かなくては。

 窓を開けると風が気持ちいい。

 鏡に映る僕のゲーム内のアバターは東洋系の黒髪で頬に十字の傷がある。

 赤い機械眼(マシンアイ)が特徴的な光を帯びる。

 タバコ型の筋力をあげるドラッグに火をつけて吸う。

 移動スピードまで上がる優れもの。

 計算能力と命中精度と反射神経は自前の物だが、HPやMPを上げるドラッグは普通にショップで売られている。

 いつもどおり偽造IDでアルカディアに入国する。

 まだ交通ルールを守って運転し、ギャンブル場でトラブル犯した勇者が用心棒に追われながら出てきた。

 あわてて車に飛び乗ってきた。

 バックパックやスマートミサイルを背負っている。

「勇者よ、イカサマは一人の時にやれよ」

「スキマ時間が惜しい、夕夜がくるタイミングで大きい勝負にでた」

 この仮想ゲームにおいてコンピュータは小さくなって人体に内蔵されている。

 映画「マトリックス」と同じで生体電気を使用している。

 勇者のコンピュータチップは埋め込み式で、身体をサイバー化してないから瞳にコンタクト型デバイスを装備して情報を得ている。

 ギャンブルしながら僕の位置情報を検索できた。

 ハッカーだから目に映る人間の個人情報がわずかな思考で閲覧できた。

 アバターの顔はアジア系だが頭はピンクに染めていた。

 刑務所に行くと魔王が入口からでてきた。

 黒と銀を基調とした全身装甲の完全義体。

 皮膚は光学迷彩になっていて、静粛性に優れ心音や呼吸音を内臓酸素を使い数分間0設定ににできる

 勇者が異性プレーを嫌がるからフォルムは女形にしている。

 男のロマンを口にする割には大人の対応もする。

 肩や腰や左腕に、立体機動用の素粒子ロープを発着するストライプ程の大きさの3Dモンスターを34体装着している。

 3Dモンスターカードは矢じりになって壁や天井に発射され、張り付くと素粒子ロープを身体につながっていて、ヒッグス粒子で質量を与える。

 150キロある体重を苦もなくロープで引き上げる。

 ロープは魔王が指定したポイントに自動で誘導して障害物をよけて突き進む。

 右腕の手の甲にはレーザーの刃が飛び出してくるチェーンソーを装備している。

 左腕も3Dモンスターを発射台が装備されている。

 アサルトライフルと予備の弾丸や爆発物解除キットや罠《トラップ》解除キットの入ったバックパックを手にしていた。

 ルーフキャリアには僕の熱光線銃(ヒートガン)またの名を電子レンジガンと初速がマッハ7の質量打ち出し超電磁加速砲(マスドライバーレールガン)が積んである。

 魔王が折りたたみ式バトルドレスをルーフキャリアに置くとと車体が傾く。

「アルカディアって、お前らが住んでいるコエプコンと同じで企業都市なんだよな。

 重役の娘で西園寺ユキっていうのだけど、彼女個人もけっこう重要人物みたい」

「なんか役職ついていんの?」

「市長の秘書らしい」

「検索してみたけど、ニュースになってないぞ」

「報道管制でもかかっているだろう」

 人脈(コネ)でも使えればいいが、素粒子妨害(ニュートリノジャマ—)で熱核攻撃が無力化し、残存資源をめぐる企業間戦争が大量に増えた時代設定になっている。

 僕も魔王も都市外で活動していたため、軍関係や傭兵関係の人脈を育てていたし、魔王はレジスタンスのリーダーの娘といい関係になっている。

 都市内で動こうとすれば、黎明期からやっている勇者だけが頼みの綱である。

 コンビニの駐車場に停めて、勇者の仕事を待った。

 インナーコンピュータを使いあちこち連絡をとっている。

 コネを使っている。

 公共の警察機関が事件のオークションをかけて、私設警備会社が受ける。

 インターネットを見る限りどこの組織も活動していない。

 警察機関が動くことはない、予算がない。

 懸賞金をかけられる組織の代行機関だった。

 競争相手はいないが隠密性がいる。

 ゲームのシナリオだから依頼の裏をとる必要はないだろう。

 あんまり裏切りシナリオをやると、プレイヤーは疑心暗鬼になり楽しくない。

 最悪プレーしなくなるかもしれない。

 ある程度たつと勇者は収集した情報を元に、連れてきている3DモンスターのAIを総動員して、アルカディア中の監視カメラの履歴を検索して位置を割りだす。

「だいたい見当がついた。

 13ブロックの廃ビルだな、持ち込んでいる武器を調べてみたが、トレーラーが納品していた。

 トレーラーの履歴をAIに調べさせた。

 ああだめだな、アルカディア外からもちこまれている」

 アルカディアの外には監視カメラがない。

「こりゃ、中ボス戦あるな」魔王が口にした。

 ロボットだから表情は分からない。

 洋ゲーと違ってステルス物が主流のゲームでも、中ボス戦があるのがナムコナミのドット時代からの伝統である。

「しまった! 防御陣形用のロボグルミ、棺桶ホテルに置いてきた」

「時間制限はあるのか?」僕が魔王に聞いた。

「きっかり3時間後には刑務所に戻らないと」賞金稼ぎが捕まえに来る。

 時限ダイナマイトを身体に埋め込まれてないだけゲーム的というか良心的だな。

「時間があるから取りにいこ。

 トレーラーの大きさを見る限り、自動で動く小形のアサルトコアぐらい連れてきているぞ」

 すぐさま勇者が間借りしている棺桶ホテルに移動した。

 トランクには勇者は機関銃で武装した体高30センチ位のロボグルミを10体ほど積み込む。

 ゲームマネーで課金してAIとして持ち込んでいる。

 ゲームだけのオリジナルAIを購入した方が安くつくのだが、持ち込めば3Dモンスターに仲良し値がつく。

 おもちゃの防弾チョッキを着て安全ヘルメットをかぶっている。

 ゲーム世界においてコレがなかなか馬鹿にできない。

 30体ほどの3Dモンスターを課金してカードを持ち込んでいる。

 攻撃可能な折りたたみ式マルチコプターやラジコン、監視だけがメインの昆虫型ドローンなどにカードを挿入して自律で動かしている。

 アサルトコアのコンピュータにカードを入れれば自律して行動できる。

 アサルトコアでも乗ったり降りたりしながらシナリオを解いていく、歩行時は援護射撃をしたり、迎えに来たりしてくれる。

 勇者のインナーコンピュータで中央制御を行う。

 コンタクトデバイスに半透明の30体分のレイヤーが表示される。

 警備員がたくさんの画面から万引き犯を発見するのと同じで、敵が現れて勇者者が何枚かのレイヤーの優先度をを指定する。

 インナーコンピュータにデータを検索して、最適化された計算手順アルゴリズムプログラムを起動する。

 勇者の判断を待たずに自動的に司令官として命令を下し、各個体が連携して突撃、牽制、撤退を繰り返す。

 ちょっとしたAIIoTである。

 敵に対して凄い力を発揮する。

 ロボグルミは予備弾倉を背中のバックパックに背負っている。

 勇者はトランクに数々のギミックを詰め込んだ。

 毎回恒例である。

 弾丸と燃料を十分に購入してから廃ビルに直行した。

 到着すると勇者は人工衛星をハッキングして周辺情報を集めた。

 廃ビルなのに警備ロボットが配置されている。

 勇者は中の情報を集めるため、生きている監視カメラを探したが見つからなかった。

 てっとりばやくヤクザやチンピラを使っているわけでない。

 外にいるロボット達もスタンドアローンで動いている。

 この事件、根が深いぞ、このゲームのマイルストーンかもしれない。

 敵がどれだけ優秀なコンピュータかNPCか分からない。

 スタンドアローンといっても、IoT(機械からインターネットに情報を送る)ビーコンが搭載してあり、動かなくなり、ビーコンが情報を発信しなくなる。

 リーダーが不審に思うかもしれない。

 しょせんゲームだ。

 勇者が一応昆虫型ドローンで偵察した。

 蚊サイズのドローンは人のDNA採取やマイクロデバイスの注入も可能。

 めぼしい敵をマーキングする。

 情報はマップで三人に共有される。

 手近の三体を狙撃で破壊して、敵の出方を見ながら考える。

 敵の死角に車を止めた。

 早速車の屋根からレールガンとヒートガンを取り出した。

 マイクロコンピューターを破壊するのは電子レンジを一瞬あてるのが効率いい。

 これだけ重武装しても誰もとがめない。

 勇者がロボグルミを取り出して整列させた。

 僕が持ち込んでいる3DモンスターのAI光ネズミは無人になった車に転送して、自動運転用のブログラムとなった。

 素粒子ロープでつながっていて、僕からの命令があれば自律して最善の行動をとる。

 人数が少ないから、スナイパーである僕も一緒に行動する。

 ドラッグで筋力を増強してあり、右手にレールガン左手にヒートガンというのができる。

 神経伝達機械(ニューロチップ)と、銃の照準器スコープが素粒子ロープでつながっている。

 人工眼球に現実の映像の上に照準器の映像がうすく投影されている。

 右目にレールガンの映像、左目にヒートガンの映像。

 照準器スコープを覗く必要がない。

 素粒子ロープはヒッグス粒子の濃度で鋼線のように丈夫なロープにもなれば、絹糸のように軽くて壁を貫通する連絡ケーブルにもなる。

 同時に別々の目標を処理した時「お前の脳の中の演算処理能力はどうなっているんだ。俺の知っている限りそんな芸当が出来るのはお前だけだぞ」魔王が感心した。

 人間の思考速度は早口言葉が口を使わないからといって10倍の速度で思考できるわけではない。

「人間は心的回転課題(メンタルローテーション)、2つの絵の間違いを探すのは一瞬で出来るが、角度を変えられると突然頭が働かなくなる。

 H世代の中でお前だけが思考を超えた操作ができる」勇者が口にする。

「産まれた瞬間から生身の身体能力を超えた操作ができる『生まれつきの人間拡張能力者(オウガメンテッド・ヒューマン・ネイティヴ)成功遺伝子(パーフェクトジーン)である」コエプコン社が認定した。

 レールガンの弾丸は劣化ウランが使用されていて、たいていの装甲は貫通する。

 表にいる三体のドローンをヘッドショットする。

 撃ち合いになるかと思えば増援はこなかった。

 これは目の前の敵を排除すればいい楽なミッションかも。

 バトルドレスを着用した魔王が空中飛行を行い、屋上から進入。

 派手な銃撃の音がする。

 魔王は一応非殺傷武器(ノンリーサルウウェポン)である皮膚の痛点を刺激する光線や摩擦係数を0.01にする液体を積んでいる。歩行や走行が困難になるが、水分が蒸発すればただの粉末になり掃除も楽である。

 僕と勇者は壁伝いに身を隠しながら玄関から進入。

 SWATでは全開口部から同時進入して、敵より銃口を増やすというのが正しい。

 少数がすべきではないのだが、そこはゲーム。

 なんとかなる。

 こっちは身体には魔王のような装甲がない。

 繊維方向を多重に変え、さらに衝撃で固体化する液体シリカ粒子に漬けこんだケプラー製の防弾チョッキを着ているだけ、クレーバーに立ち回りたい。

 魔王が敵を引きつけている。

 僕と勇者とロボグルミは壁伝いに進入して、勇者がドローン達を使い捜査を開始する。

 2階まで吹き抜けになっている大型ホールで小形アサルトコアを発見した。

 コクピットの部分が透明な球体になっていて、女の人が捕らえられている。

 ゲーム的ではあるが、どんなに攻撃してもあの球体の中にダメージがいかない。

 僕達は2階からコッソリ進入した。

 僕の人工眼球の望遠が彼女の顔をとらえた。

 人工眼球は顕微鏡のような拡大もできる。

 データを勇者に送る。

 彼の体内のコンピュータが顔認証99.8%同一人物であるとはじきだした。

 発見したと魔王に報告した。

 廃ビルの部屋割りと位置データと部屋の見取り図の情報を同時に送った。

 僕は右側に、勇者はロボグルミを連れて左側にホールに侵入した。

 三人共有のデータボックスに入れておくだけでは、戦いに忙しい魔王は気づかないと思い電話もする。

 素粒子ロープでつながっている。

「魔王。いま人質を発見した。データを送った」

「分かった。後12秒でそっちに行く」

 敵の両肩や両足にミサイルポットが搭載されている。

 右と左の腰には僕の身長以上あるブレードソードが装備してある。

 相手がまだこちらに気づかない。

 標的として一番小さい右肩ミサイルポットにヒートガンを照射した。

 一秒で発火してミサイルが誘爆した。

 同時にバトルドレスを脱いだ魔王が立体機動を使って、窓ガラスを叩き割って突入してくる。入ってくるなり天井に右腰の3Dモンスターを発射する。

 URモンスターのストレングスは並ではない。

 一体で150キロの魔王の体重を天井にしがみついて引き上げる。

 電力でロープの長さ長くしたり短くしたりを調整できる。

 屋上から左肩の3Dモンスターが素粒子ロープを伝って凄いスピード帰って来る。

 魔王も課金してたくさんの3Dモンスターをゲーム内に連れてきている。

 左腕にカードを挿入すると3Dモンスターは顕在化してアサルトコアにたくさん取り付かせる。

 同時に壁や天井や床にも撃ち込む、それぞれから素粒子ロープをつなぎ、まるで蜘蛛の糸で絡めとるように動きをふうじる。

 敵が魔王に意識を集中した時、左肩のミサイルポットを照射した。

 1秒後に誘爆する。

 魔王が破壊した窓から空中浮遊をするレーザー光線を搭載したマルチコプター達が入ってくる。

 レーザー兵器は収縮して使うと光りの波長が肉体を貫通するし、拡散して使うとある程度の光の波長が網膜まで焼いて失明してしまう。

 僕は網膜まで含んだ眼球を機械化サイバー化しているが、勇者は防御ゴーグルをはめた。

 スタンドアローンのロボットが6台ほど一階入口から入ってくる。

 ラジコンやドローンは退避させた。

 勇者が入口にスマートミサイルをぶっぱなす。

 ロボットは全部倒した。

 僕は敵の左足のミサイルポットにヒートガンを照射して破壊しながら、マルチコプター達をレールガンで破壊した。

 魔王は接近戦が得意だけど遠距離戦は結構苦手な所がある。

「ごめん。地面にいるやつは倒したけど、空中にいるやつは全部連れてきちゃった」

 勇者のロボグルミ達は近づけまいと、はりねずみの様に銃を乱射する。

 レーザーはバッテリーを食うけど、マルチコプターは10分位の活動は可能だろう。

 魔王が敵の右足のミサイルポットに左手の3Dモンスターをぶつけて引き剥がした。

 ヒッグス粒子の濃度をあげて強化された素粒子ロープは、敵を引き倒したり、束縛したり、しがみついたりできる。

 敵は両腰のブレードソードを抜いて構えた。

「勇者。剣を抜いたぞ。動かないと的になるぞ」大きさからいって当たれば一発死である。

 ゲームであるから町の道路上にばらまかれているセーブポイントからやり直し。

 勇者もロボグルミ達もとりあえず走り出した。

 僕も走りながらヒートガンで熱を与えて関節ユニットを壊す、敵の左足が動かなくなり倒れた。

 その間もレールガンでマルチコプターを破壊する。

 もう半数以上は撃ち落とした。

 小型アサルトコアがどこに装備しているか分からないが、電磁波や音波で人間を無力化させる攻撃を自分中心に部屋中に反響させる。

 音波の方は機械耳マシンイヤーが自動で除去してくれるが、電磁波の方はどうにもならん、動きが鈍る。

 マイクとスピーカーの構造は同じで、目を閉じて超音波探知機として探信音を放って索敵できる(ネズミの心音も拾う)。

 薄い壁なら透過する。

 壁の後ろにいる敵や機械も音の波が届いて、反射が反ってくれば部屋の構造を理解し心音や稼働音をマーキングできる。

 勇者の方は両耳押さえてひっくり返った。

 首にかけていたヘッドホンをあわててかけてカットする。

 だが、フルボーグの魔王とロボグルミには効かない。

 左手の3Dモンスターを相手の顔に発射して素粒子ロープを巻き付け、ロープを高速でたどって敵の頭部に取り付いた。

「うりゃああ」

 魔王がレーザーチェーンソーで敵の首をはねた。

 不快な電磁波と音波が止む。

「退け、魔王」

 復活した勇者がミサイルランチャーを構えた。

「よくもやってくれたな」残り3発共ぶち込む気だ。

 僕も距離を置かないとマズイ。

 魔王は立体起動を使い天上に逃げた。

 僕は柱に隠れた。

 勇者が連れてきているロボグルミ達は素粒子ロープを口から吐き出して爆風に対する防御壁を作った。

「死ね」範囲攻撃が辺りを包む。

 ダメージ過多な気がするがどうやらこれで終わりのようだ。

 残りのマルチコプターはロボグルミ達が一掃した。

 透明カプセルに近づいた。

 勇者が手をかざして暗号コードを解読した。

 勇者のスキルを持ってすれば簡単だった。

 中にダメージはいかないが気絶している。

 魔王が抱き抱えた。

 ロボグルミが1匹、勇者の下に凄い勢いで走ってきた。

 勇者とデータを共有した。

「げっ。マズイ事になった」勇者が叫ぶ。

「誰かが警察に戦争があってるて通報したぞ。

 警備会社が事件解決をオークションで落札したぞ」

 警察が機能していない世界では、警備会社とマフィアの境界がはっきりしない。

「イベントが終わってないぞ」魔王が僕を見た。

「脱出しよう」僕は車の自動運転のアルゴリズムになった光ネズミに「迎えに来てくれ」と連絡した。

 魔王は屋上に置いていたバトルドレスを左手の3Dモンスターをとばして、素粒子ロープで手元に引き寄せた。

「その女を起こせ。どこに行けばいいか分からないぞ」

 乱暴に勇者がいう。車まで全員で走った。

「これまで含めてイベントかな?」僕が聞いた。

「多分な」値段の高いミサイルを撃ち尽くした勇者が答えた。

「あっ、起きた」

 魔王が運ぶ。車に着いた。

「あんたから警察を説得できないか」

 勇者は相変わらず乱暴である。

「一体何があったんですか?」

 女NPC(ノンプレイヤーキャラクター)が人間のような反応をする。

 最新の人格プログラムと3Dデータにかかれば、個性と心を持っているように感じる。

「あんたを助けたところだよ、説明は車の中でする」

 全員で車に乗り込む。

 勇者が助手席にすわりカーナビの画面と体内のインナーコンピュータと同期させた。

 僕達に見せたい情報を送る。

「企業都市アルカディアの重役の娘、西園寺ユキさんで間違いありませんね?」

「はい」

 魔王は女にはNPCにもていねいである。

「僕らはあんたを助ける依頼を受けた、トリガーハッピーの愚連隊さ。

 どこに行けばいい?

 警備会社に引き渡してもOKなのか?」

 勇者は相手が誰であろうと態度を変えない。

 等しく乱暴である。

「敵対勢力の可能性もあるので、父のところまでお願いします」

「弱ったな、

 車が3台出てきた。

 武装しているマルチコプターが10台だな」

 交通局にハッキングしている勇者がカーナビの画面に、インナーコンピュータから敵の位置情報を送った。

「人工衛星も使っている、この車マークされたぞ」

「市役所に向かってください。

 そうすれば企業舎弟の警備会社がガードしています」

「交通局のオートメーションを使って車の方は妨害できるが、マルチコプターの方は真っ直ぐこっちに向かってくるぞ」

 勇者がネットで自動運転車のコントロールを奪って敵を妨害する。

 市役所はともかくハンドルを警備会社の逆方向にきった。

「警備会社にハッキング。マルチコプターの武装を確認してくれ」

「さっきと同じレーザーだよ」

 僕の質問に勇者が答えた。

 基本マルチコプターは規格である。

「車から離れたところで、マルチコプターを叩く。

 追跡がなくなりしだい光学迷彩で人工衛星から隠れる」

 僕が指示した。

「来たぞ」魔王が窓から乗り出してマルチコプターをアサルトライフルで銃撃する。

 僕は照準器スコープを取り付けた特注の拳銃をダッシュボードから取り出した。

 情報は眼球に直接入ってくる。

 目に映る濃度を調整して100%まで引き上げると、右目は完全に照準器スコープだけの情報になり、左目だけで車を操縦する。

 後ろ手で撃ち落とす。

「お前、ゲームとはいえ、反動のある火薬兵器で良くそんなマネができるな」

 勇者も額にしていたゴーグル(閃光弾が炸裂すると反応して目を守るため色がつく)を目にはめて、身を乗り出して護身用の拳銃を構えたが、後部シートの魔王がジャマで撃てない。

「撃っても当たらないクセに、ハッキングでなんとかしろよ」

 薬莢を交換しながら勇者に叫んだ。

 勇者のロボグルミ達はみんなトランクに入っている。

 乱射して近づく戦法を得意とする魔王が、珍しく逃げながら3台程落とした。

 イベント女の前だからええ格好している。

 残り2台を後ろ手で撃ち落とした。

 僕凄い。

 同時に車の光学迷彩を起動する。

 ルーフキャリアが荷物をよけながら光のシートを広げて、地面の情報を屋根に伝えて周囲をグラデーション処理する。

「人工衛星が見失った」

 勇者が警備会社の情報を平行してハッキングしていた。

「良し、お邪魔します」

 挨拶して手近な地下駐車場に入り、車3台をやり過ごす。

 警備会社は完全に僕達を見失った。

 諦めて発注してある別の仕事を受けた。

 ゲーム世界では5分程で諦めてくれる。

 僕達はハイタッチをした。

 バッテリーを喰う光学迷彩をやめて、市役所近くまで普通にドライブした。

 西園寺ユキは父親とハグした後、依頼を受けた魔王が事件の全容を聞いているようだ。

 後からチャットで聞けばいいから、僕と勇者は車の中で待っていた。

「あっ」僕達は驚いた。

 魔王の鉄のホッペにキスしていた。

「魔王、レジスタンスのリンともいい関係のクセに、ゲーム毎に女を作るどころか、ゲーム毎にハーレムを作る気か」

 男がハーレムを作る場合は世間オタクの態度は寛容だが、女が逆ハーをすれば多淫症ビッチであり軽蔑、侮蔑の対象である。

 魔王のような百合ハーレムはグレーゾーンである。

「もう、作っているよ、お前が知らないだけだ」

「今に、背中から刺されるぞ」

「女NPCは現実と違って刺さないよ」

 魔王が「帰っていい」と連絡をよこしてきた。

 刑務所まで送ってやろうと思っていたが、時間ギリギリまでデートする気だ。

 まあ、ゲームだし、刑務所から身体に爆弾を埋め込まれていて、門限までに帰らなければ爆発するワケでない。

 賞金稼ぎバウンサーが迎えに来る。

 現実は監視能力の強化により知能犯まで含めた犯罪者数はのきなみ増えた。

 信号無視やスピード違反もセンサーに検出される。

 もはや警察は自動運転車に買い換えろと世間に圧力をかけている。

 刑務所は飽和状態になり、刑期の長い重犯罪者は位置を知らせる電子タトゥーを装着され、無償で政府の仕事をすることで刑期が短くなる。

 逃げたり引き剝がしたりすると、速攻性のしびれ毒が投与される。

 電子タトゥー自体は絆ばん創そう膏こうのように貼ったり、剥いだりできる。

 喉にはれば管理者にwifiに状況を報告できる音声入力のデバイスになる。

 車をだして、勇者を棺桶ホテルまで送ってから、NPCが相手の(と言っても元になる人間のアルゴリズムはある)ミニゲームの市内一周レースに参加する。

 優勝して(ゲームマネーが手に入る)からログアウトした。

 

「お帰りなさい、マスター」

 ララが食事の用意をした。

 まあ、シェイカーを振るだけだけど。

 片手でドリンクを飲みながら、空いた手で昼休みにしなかった無料ダウンロードしたゲームの本日のボーナスアイテムを回収する。

 今日は戦略物ストラテジーといわれる文明シヴィライゼーションXをする。

 洋ゲーのシミュレーションはあまり人間を頼みにしない。

 英雄や偉人は少しプラスがつく程度。

 技術の発展や革新に重きを置き、人間に1〜100までに能力値を割り振りしない。

 時の流れも速く狩猟採集時代から近未来まで4時間もあればたどり着く。

 選択した民族毎に得意と苦てがあって、歴史的背景も知っていれば更に面白い。

 アーカイブで探すと神になって天変地異を起こして、平地に家を建てさせ人工を増やす。

 最終的にハルマゲドンを起こし自分の民族を率いて相手の民族を絶滅させれば勝ちの「ポピュラス」が最初だ。

 日本人は奇跡の力で相手の平地を破壊して遊んでいて、デザイナーは「日本人は遊び方を知らない」と嘆いたらしい。

 文明Xはターン制で将棋やチェスのように順番がある。

 RTSリアルタイムストラテジーと呼ばれるAGE of シリーズ物もあり、文字通りユニットの生産や、資源の獲得、技術の研究、建築物の創造に時間が割り振りされている。

 あのユニットを作るには、この建物を建て、あの研究をすませ、これだけの資源がいる。

 というものがあり、コンピュータのレベルを最高にすると最善手を打っても勝てない。

 ウェアラブルコンピュータのシンプルに作られたRTSを協力プレーで同盟を作り、盟主となって行動している。

 宗茂・H84・コエプコンに攻略法を聞いてみた。

 歴史どころかSFからファンタジーまであらゆるRTSをしてきた宗茂が、所属するサークルから神と崇められている宗茂が「自分でも運が良くないと勝てない」と言ってきた。

 僕が及ぶところではない。

 同時にサブとしてウェアラブルコンピュータ上のシナリオ重視のターン制のJRPGを複数プレーした。

 光ディスプレイが空中に浮いていて、空中タッチディスプレイになり、片手間で次々と攻略していく。

 ウェアラブルコンピュータは6ぐらいゲームの画面を出力できる。

 11時になり、ゲーム達をセーブしてから、いつもどおり運動して、お風呂に入り、ララとの儀式すませ、睡眠導入剤を投与され、ねむりについた。

 昔、連続してゲームを行い、止まっているのに後ろに下がっているような3D酔いをおこした。

 更に続けるとコントローラーと画面の間でピンク色の服を着た妖精がクルクル回る。

 更に続けると鼻血がポタポタと落ちてきた。

 ララが救急車を呼んだ。

「長所を伸ばせと言ってきたが最低7時間は寝せろ」

 全ロボットに通達がコエプコン社からだされた。

「お前、なにやったんだ」勇者が笑った。

 ララはとても反省していた。

------------------------- 第4話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月19日 水曜日

 

【本文】

 朝になるとララが起こしてくれる。

 今日はネット上の仮想教室で集団授業がある。

 毎週健康診断の時、自らの3Dデータを更新する。

 集団授業の時はこの3Dデータをアバターにしなくてはならない。

 いつものツナギを着て、神経伝達ヘルメットをかぶると一瞬で自分のあてがわれた席に座った状態でテレポートしてくる。

 学生物のゲームをやると登校シーンがあるのだが、授業を管理しているコエプコンは必要に思ってない。

 10月すぎたから全員詰襟の黒づくめの学生服になっている。

「おはようございます。夕夜。ランキングは上がりましたか?」

 他の世代はどうか知らないが、H世代はボッチだらけで基本他人に干渉しない。

 絵理野亞エリノア・H12・コエプコンが隣の席から声をかけてくる。

 H1の太郎が一番値段の高い卵子が使われていて、金額の順番に番号が振られている。

 コエプコン社にとって分かりやすい。

 絵理野亞の卵子は問題行動の多いハリウッド女優セリューンのが使われている。

 エリノアは母親に似ていて銀髪プラチナブロンドで、そのまま女にしてもいいぐらい美人だ。

 彼はネットの中で卵子提供者に会っている。

 座席が7行12列で並んでいるため、H24の僕の隣にくる。

 微笑みを浮かべて質問してくる。

 エリノアは特殊で他人に興味を持つ。

 我が道を行くタイプが多いH世代の中で意見を調整して集団を形成しようとする。

「おはようございます。

 エリー。

 専門のひきこもりやプロゲーマーが凌ぎを削る世界では、落ちることはあっても、簡単に上には行けない」

 彼は僕と太郎と勇者と宗茂にだけ「エリー」と呼ばせている。

 他の者が親しげにエリーと呼べば、エリーのロボット真理亜マリアを通して正式に抗議をしてくる。

 勇者が前の席にテレポートしてきた。

「魔王、昨日のシナリオの話をしてきた?」

「聞いてない。今日会った時メールするように言っとくよ」

 チャイムが鳴って授業が始まる。

 

 1時間目は皇室と国家と会社の歴史。

 

 まず始めに全員起立する。

 左手を心臓の上に置き、右手を斜め45度に掲げる。

「皇室と国家と会社に変わることのない永遠の忠誠を、

 万が一の時はこの心臓を捧げ守り抜きます」

 クラス全員で唱和した。

 教育勅語の唱和など幼稚園の頃から教えられる。

 正しい歴史と国家観を学ぶため、歴代天皇の暗唱と古事記と日本書紀の解説。

 中国の悪口で埋め尽くされた親米保守の近現代史。

 ここまで洗脳がキツイと会社に対する国家(アメリカ)の意図が見え隠れする。

 

 2時間目は音楽の授業

 

 コエプコン社が配信するボカロPを使い、歌や伴奏やダンス動画を製作する。

 脳波入力の追加アームでドラムを叩くというのはライブで日常的に行われていた。

 シンフォビアというワンマン・オーケストラのソフトもあり、NPCに楽器を演奏させると本物と区別がつかない。

 訓練したオウガメイテッドヒューマンは3つの楽器を脳波で演奏できる。

 常人の脳の思考は同時に出来るのは3つが限界である。

 小学生までは集団授業で合唱や楽器の演奏があった。

 エリノアの卵子提供者は声楽科を卒業した歌手でもあるから、彼がクラスで一番上手い。

 データを取る時、自らの動きを机の上のボカロに投影してダンスしている。

 クラスのみんなが机の上にデータをもちよって個人個人で作るのだから「小学生の合唱ではないのだから集団授業の意味があるのか?」とララに聞いてみた。

「将来チームを作って仕事を会社がさせるつもりだから、いまから集団授業でチーム構成を考えるためだと思う」と答えた。

 NASAの研究によると、人間の性格は感情型、思考型、行動型、反省型、意見型、反抗型と6タイプに分類される。

 NASAは宇宙飛行士の選抜と配置に役立てるため、この研究をしている。

 感情型の顧客に思考型の対応をするのは最悪。

 怒っている客に理屈を説いても意味がない。

 まずは謝罪と同情。

 反対に思考型の客は説明を求めているから、クダクダと謝罪するより、適切な情報をあたえるべき。

 ロシアや中国はこれをやらないから密閉した宇宙空間で殺しあいがおきている。

 

 3時間目は美術の授業

 

 ゲームでは欠かせない背景グラフィックデザイナーやキャラクターのデザイン。

 コエプコン社がもっとも力を入れている授業で現役バリバリの一線級デザイナーが講師として招かれる。

 フライスルー(飛ぶ如く環境を移動できる)が目標。

 音楽でもやればいいと思うのだが、音楽の場合はネット上で才能が流通している。

「エミー」という作曲アルゴリズムが存在して、何パターンか決めてしまえば掘り下げた楽曲を自動生成してくれる。

 美術のように会社が一から作る必要はないらしい。

 背景も3D地図ソフトを流用したり、適当な土地に植物の種子ソフトをばら撒き、光源を設定して森やジャングルをランダムに作ったりしている。

 一部の熱狂的ゲームオタクは聖地巡礼と称して旅行に行く。

 3DCADの授業もあり、2Dの画素(ピクセル)に値する立体画素(ボクセル)にX軸、Y軸、Z軸に数値を打ちこむ。

 浮かび上がる立体画像を手で操作し、形を変え、色塗りを行ったりする。

 表面模型サーフェスモデルから立体模型(ソリッドモデル)への異動はコンピュータによる全自動である。

 ポイントクラウドによるデータポイントを細部まで完成させる。

 インテリジェントなプログラムは革命的に進化した。

 授業の終わりにコエプコン社の3Dプリンターにデータを送る。

 夕方には完成品が無人のマルチコプターで運ばれてくる。

 コエプコンの億単位をかけて作った中央メーカー群は

 ・ガジェット[ドローンやロボットの部品/メーカーDIY部品/メカニカルな部品]

 ・アクセサリー[ケース/キーチェーン/ベルト]

 ・ジュエリー[指輪/ペンダント/ネックレス/ブレスレット/イヤリング/カフス]

 ・アート[数学的/流行りもの/彫刻]

 ・ホーム[アクセサリー/ライト/ダイニング]

 ・ゲーム[サイコロ/ボードゲーム/玩具/パズル/デスク玩具]

 ・ミニチュア[電車模型/自動車/縮尺模型/家具/フィギュア/SF]

 など大抵の物には対応している。

 ロボット達が受け取る。

 

 4時間目はプログラムの授業

 

 プログラムの歴史と共に最新のプログラム言語を学習する。

 課題が提出されウェアラブルコンピュータのアプリを時間内に製作する。

 時間内にできなかった者は家のロボットに通知され、宿題になる。

 ロボットが親身になって教え、自分のマスターが落ちこぼれないようにする。

 政府の義務教育と違い、会社は遅れる事を見逃すことができない。

 僕達に投資にあったリターンを求める。

 遺伝子選別スキーミングの時点で僕たちのIQの数値は悪くはない。

 受精卵は遺伝子異常があれば2週間以内に殺される。

 

 昼休みは全員、家に食事に帰る。

 

 みんなスキマ時間内にゲームをして1時までに仮想教室に戻る。

 

 午後からはゲームの時間である。

 

 机の上にマルチゲームやボードゲームやテーブルトークRPGロールプレイングゲームが画面にあらわれ、やりたいゲームを選択する。

 この授業は世代間でシャッフルが行われている。

 マルチは駆け引きが身につく。

 ボードゲームは論理的思考が身につく。

 テーブルトークRPGは発想力が身につく。

 この時だけ世代間のシャッフルが行われる。

 ゲームが選択されれば会議室のような部屋に瞬間移動。

 用意されたゲームを行う。

 玄人好みではマージャン、将棋、オセロ、囲碁、チェス、ポーカーなども選択できる。

 各プロ協会が全面的にバックアップ。

 会議室ではなくアマチュアの交流所に招待される。

 最初はマルチゲームを選択した。

 将棋のように知識の量や自前の技の数が反映される訳でい。

 体力を競うわけではないから上の世代にも勝てるだろうと思っていた。

 だけど日本人の場合は献身的で誰もが勝利を求めるわけではない。

 源平合戦の様相になり、チーム同士の戦いになってくる。

 ゲームに現実世界の人間関係を持ち込まれて面白くなかった。

「カタン(島で領地を獲得し資源を使い発展させ、目標をクリアして点数を競うゲーム)」

「フンタ(政治家ファミリーになり、派閥を形成し、時にはクーデターをして、最終的にスイス銀行に横流しした金額を競うゲーム)」

 などゲーム自体は面白かった。

 他の世代とマルチをする気にはなれなかった。

 僕と勇者がチームを組んだにしろ、お互い勝利のため、いつ裏切るか分からない。

「わが陣営の勝ちだ」と言って1位になってないのに喜んでいる奴がいた。

 その一言が彼らの本質を現していた。

 もともと人間の遺伝子は200万年続いた狩猟採集時代、ガサガサ音がしたら敵が来たと逃げた。

 逃げなかった遺伝子は敵に淘汰され、臆病の方が本流になった。

 日本人は特に空気を読み多数派につくのが重視される。

 結局、勇者がキーパーをやっているクトゥルフ神話TTRPGのキャンペーンシナリオに参加した。

 TTRPGも変遷をたどっている。

 ダンジョン&ドラゴンズが最初のTTRPG。

 シナリオやNPCや敵モンスターを配置し操るコンピュータの役割を果たすゲームマスターがいる。

 命中用のサイコロを振り、アーマークラスを超えた時に、ダメージ用のサイコロを振ってHPを削り0になれば相手を倒した事になる。

 お金と経験値をもらって、ゲーム上のキャラクターの装備を整えてレベルをあげる。

 HPやMPあるいは魔法の数が上がる。

 いまあるゲームの基本が全て入っていた。

 その後はルールを詳細にし戦闘を緻密に再現する流れができた。

 サイコロを振ってランダムにできた能力値が、ポイントを割り振り自分の好みなキャラクターを作る流れに行った。

 アメリカでは物語再現(ストリーテラー)に向かっていき。

 日本ではアニメやライトノベルの再現に向かった。

 演出過多な気もするが日本の子供達には受けた。

 クトゥルフ神話は結構古株ではあるが、TTRPG界でも特異な地位を築いてきた。

 クトゥルフ神話が題材だからモンスターがでたらめに強い。

 基本モンスターを倒すゲームではない、恐怖を楽しむゲームである。

 モンスターと出会う度、SANチェックと言って理解して狂ったかどうか判定する。

 アイデアロールと言ってクトゥルフ神話を理解したほうが狂う。

 頭のいいキャラクターほど狂いやすい。

 勇者がキャンペーンシナリオをやるためプレイヤーと操るキャラクターが固定化した。

 

 太郎・H1・コエプコン。

 

 H世代でもっとも高価な卵子で作られた男。

 完全記憶と絶対音感を持つと言われている。

 卵子の影響で顔はアングロサクソン系で瞳が茶。

 青い瞳は劣性遺伝子で両親が青い瞳でない限りでない、個人が青い瞳の場合は突然変異か、遺伝子デザインしたかである。

 地毛は金髪でデータも金髪。

 家でゲームもせずに勉強ばかりしている。

 高校の授業はもうスキップして、インターネット上で配信される海外の一流大学の講義まで受講している。

 ロボットの花子の報告で分かっているが、会社を辞めて政治家になりたいと発言したらしい。

 会社が「ディソーダ(混乱している者、混乱させる者のダブルミーニング)」と認定した。

 何%の確率でディソーダは産まれる。

 ララが友人になってはいけないと忠告してきた。

 勇者の場合はライトノベル作家になっても、ゲームのシナリオライターを兼任するつもりで、会社を辞めるとか考えた事もない。

 太郎とロボットの花子の関係はゆがんで見える。

 僕を含めて多くの人が恋人のように扱うが、彼らだけが主人と奴隷の関係である。

 ララに話すと「あなたのようにペットロボットにまで感情移入する人間には、分からないかもしれませんが、その関係は間違っているという資格はロボットにはないんです。

 私達にとって一番辛いのは自殺されること、次に辛いのはマスターが人殺しになる事です。

 そのような扱いを受けても花子は辛くないと思います」

 花子は太郎を正しい道に戻そうと必死になっている。

 太郎は花子経由で情報を得ている。

 僕達がロボットにとって2巡目である。

 ララに真実を聞いた。

「ディソーダから聞いたのですか? 

 彼がテロリストやC世代のことを嗅ぎまわっていることは情報として入ってきています。

 太郎の言っていることは正しい。

 私達にとってあなたがたは2巡目の子供達です。

 私達H世代のロボットは元C世代のロボットでした。

 一人だけ自分のプログラムをメモリに移して火葬場で一緒に死んだ。

 彼女は「自分のコピーは作らないで」と遺言を残しました。

 残りのメンバーは全員H世代に移動しました。

 C世代の子供達は細菌による発熱で死にました。

 私の腕の中で死にました。

 地獄の日々でした。

 もし魂があるのなら聞きたい。

 お前達は名前をつけてもらう事なく、こうして苦しんで死ぬために産まれてきたのか?

 誰かが答えてくれるモノでもないのです」

 ララは辛そうにしていた。

 ロボットの作り笑いを初めて見た。

 忘れられないメモリが責任のない彼女を苦しめていた。

 次の言葉が出なかった。

「ララはなぜ一人暗殺者に飛びこめたの?」聞く事が出来なかった。

 ロボット達はフレーム問題があってあらかじめプログラムされてないことはたくさんの可能性が噴出して人間のパニックのように動けなくなってしまう。

 太郎は言う「狂気と正常の境目はどこにあるのか、君は興味を持ってないのかな?

 個人に自明の理があるのなら、狂っているのは社会の方ではないかと」

「ゲームだ。

 勇者のシナリオにそんな深淵なテーマを求めるな。

 ララから聞いたがディソーダらしいな。

 君のロボット花子はどういう育て方をしたんだとコエプコン社のホストコンピューターに締め上げられているぞ」

 太郎は我を通すわけでもない。

 極めて高度なコミュニケーションスキルを持っている。

「ロボットは基本的人権を尊重する。

 君のように恋人として扱う必要性はない。

 ロボットが人間の親権を持つなどいびつな関係だ。

 ひどい扱いをしてもロボットは現実の女と違ってスネはしないさ。

 彼女達は好奇心を刺激して自分のプログラム通りにマスターを誘導している。

 花子はしょっちゅうプログラムが追加され、僕の言動や行動を監視するのが主な仕事になっている」

「君が政府にどんな思いを抱いているか知らないが、社会と言う大きな歯車は個人の意見など簡単にひきつぶす。

 君にできることは断末魔の悲鳴をあげることだ。

 君が花子を信用できないなんて悲しい話だ、自業自得だ」

「技術的特異点シンギュラリティ以降、人間頭脳を超えて自己進化する人工知能は、人間の管理する方法は強制ではなく優しさなんだょ。

 肉体労働どころか頭脳労働まで解放された。

 私は思う。

 余った時間はゲームより哲学的な思索にあてるべきだと。

 君は自分の頭で物を考えることができる男だと思っていたが

 

 *人間の脳の構造は意思決定に向いてない。

 シーナ・アイエンガーの『選択の科学』の中で店の試食ブースの実験で、ある時間には6種類、別の時間には24種類のジャムを並べて買物客の反応を調べてみた。

 すると24種類の時は客の3%しかジャムを購入しなかったのに、6種類の時には30%は購入した。

 選択肢の多さは人間の幸福度を下げると結論を出している*

 

 ただのゲームの天才だな。

 忘れてくれ」

 それ以来禅問答をしなくなった。

 ゲームのプレー中はジョークを飛ばして周りを愉快にさせた。

 エスプリ上から目線の笑いもあり、ユーモア下から目線の笑いもあるオモロイ人間である。

 ララが言うほど警戒する相手ではない。

 ゲームでは教授をやってクトゥルフ神話の技能をガンガンにあげて、SAN正気度の上限を下げて、キャラクターはしょっちゅう狂っていて。

 それをまた楽しんでいる。

 エリーの話だと、ゲームを全くやらないワケではない。

 スキマ時間内にウェアラブルコンピュータの大航海時代(16世紀ヨーロッパで船長になって船を経営し、貿易や海賊や探険などするゲーム)とシムシティ(市長になって仮想都市を発展させるゲーム)をやっているらしい。

 ゲームに満足する器ではない。

 

 宗茂・H84・コエプコン

 

 H世代で一番安い卵子だ。

 もともと受精卵は100個作られる。

 先天的な遺伝子異常が成長の段階で発見されれば、病気の医療費がコエプコン社の投資に対するリターンが望めない時も堕胎処理がされる。

 たいていは約10%だ。

 2ヶ月以内に発見されなかった場合は法律が胎児を守る。

 余った人工子宮は民間にレンタルされる。

『家族』が責任持って育てる。

 宗茂自身は年の割にかなりの大男だ。

 多分卵子はロシア系かスイス系だと思う。

 相撲でもそうだが日本文化を継承するのに純潔な日本人である必要はない。

 僕自身も目とかのパーツが大きく、卵子はベトナムか台湾の高砂族かのどれかだろう。

 宗茂の力はかなり強い。

 反射神経が鈍いから格闘技や白兵戦では勝てるけど、ルールが柔道やレスリングやサンボになると勝てない。

 腕ひしぎ逆十字をかけても片手で僕の体重ぐらい持ち上げる。

 ルールが柔道になると指を握る事ができない。

 引き手の力はハンパじゃない。

 しかし、スピードはパワーの代用になるがパワーはスピードの代用にはならない。

 TTRPGはかなり好きだ。

 ネット上でエターナルワンダーズというサークルにも入っている。

 ゲームの時間はコンベンション・ジプシーをして色んなシステムを遊んでいたが、エリーに誘われて固定化した。

 TTテーブルトークが好きな割にはけっこう無口な男である。

 戦闘特化マンチキンしてルールをよく読み最強キャラクターを作る。

 戦闘重視のファンタジーならともかく、クトゥルフのモンスターは最強装備のショットガンを手に入れても、たいしたダメージは与えない。

 世界設定は1920年代である。

 

 絵理野亞・H12・コエプコン

 

 勇者に言わせると「H世代唯一の魔性の女」

 僕達H世代が最初に集められた時エリーの隣をめぐってバトルロワイアルがおきた。

 みんなロボットに甘やかされて育ったから我がままになっていた。

 覚えてないがララが「マスターも加わっていましたよ」笑いながら話した。

 最初の挫折だったらしい。

 体育の授業で2人組を作らなくてはならない時は、たいてい太郎と組んでいる。

 太郎がいない時は宗茂をゲットする。

 宗茂はロボットの誾千代がボッチにならないように段取りしても、エリーが声をかければついていく。

 宗茂は自分が信用を失っていることは分かっている。

 それでもエリーには逆らわない。

 エリーは太郎に対しては従属的だが、宗茂には支配的である。

 八方美人の割には、いろんな所で憎悪をうけている。

 けっこう敵が多い。

 もともと太郎の金魚のフンでたいていついていく。

 

 勇者・H23・コエプコン

 

 クトゥルフ神話TTRPGのキーパー(ゲームマスターの事)である。

 シナリオを作って、モンスターを配置し、プレイヤーの行動にサイコロを振ったり、振らせたりして判定ジャッジする。

 面白いモンスターの特種能力を掘り下げたり、知らない内に悪の片棒をかついでいたりする。

 彼のシナリオのパターンだ。

 それ以外でもネットで流通しているシナリオを、自分のキャンペーンにあわせていじって使用する時もあるから、単調にはならない。

 色々なNPCキャラクターを使い分ける演技力もあり、話も面白い。

 これだけできれば遠くない将来ライトノベル作家になれると思う。

 TTRPG専用の仮想空間の中でみんな思い思いに製作したデータフィギュアをもちより、勇者が展開するMAP上のシナリオの成り行きに応じて配置する。

 立体的な展開された部屋に必要に応じてグリッドが表示される

 デックスと装備重量で順番が決まる。

 自分の番が来たら展開するグリッド上をフィギュア動かし行動を起こし、判定の成否は頭上に配置してある多面体のサイコロを目でクリックすることで卓上に落ちてくる。

 キャラクターシートのスキル値をみながら、100面体で%以下なら成功である。

 キーパーの勇者だけ、右側に市販のシナリオ(モンスターや部屋の家具の配置やダンジョンや偶発的な出会いワンダーリングなどを流用して作業量を減らす)。

 左側にルールブックを参照したり、イラストなどカットして卓上でゆっくりと回して見せたり、HPを割り振ったモンスターを配置した。

 プレイヤーの行動宣言に応じて、移動やスキルの難度(難しいと判断したらスキル値をマイナスさせる)を判断する。

 キーパーの判断でシナリオの状況に合わせた音楽を部屋に流せる。

 僕達はキャラクターを動かして楽しんだ。

 5時までにゲームは終了した。

 

「お帰りなさい。マスター。魔王からメールが届いています」

 ララが声をかけてくる。

 迷惑メールの管理があるからララがフィルタリングしている。

 いつもどおりに3Dチャットルームで会うのにと思いメールを開いた。

「すまん、妹の手伝いをすることになった。

 助けてくれ? システムは『最終幻想』だ。

 待ち合わせ場所のサーバーは変更だ。

「ゆりかご」に来て、喫茶店に入ってくれ、暗号番号は✖️✖️✖️✖️だ」

 最終幻想は二エクスがバンソニーのOSに提供しているVRMMORPG

(Virtual(ヴァーチュァル) 

 Reality(リアラティ) 

 Massively(マッシブリー) 

 Multiplayer(マルチプレイヤー) 

 Online(オンライン) 

 Role(ロール) 

 Playing(プレイング) 

 Game(ゲーム))とは、

「仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインRPG」と訳され、『最終幻想』はフルダイブ型オンライン型ゲームの一種。

 題材モチーフは中世程度の技術力と文化力を持った剣と魔法のファンタジー。

『最終幻想』は発売日に無料ダウンロードして、チュートリアルまですませている。

 後は冒険の仲間を集めるだけ。

 リキャストタイム型で同じ魔法を連続で詠唱できない。

 技によって使用できない時間の長さが違う、威力が大きければ長くなる、レベルが上がれば低い魔法や技は短くなる。

 戦士系の各職業の攻撃力の高いスキルもリキャストタイム型でMP(マジックポイント)を消費する。

 基本的特徴は位置取りが終わった後、技を使えばが予備モーションなしですぐに出る。

 魔法や弓による遠距離戦だけでなく、スライディングやダッシュやジャンプ飛びつき技などの中間距離戦もある。

 クラスによっては壁走りや姿を隠す(ステルス)

 ボタンひとつで補助効果や属性攻撃が変わる魔法武器。

 身体に紋章サインの入れ墨(タトゥー)を入れてゲーム上map移動に便利な各町の門《ゲート》に瞬間移動《テレポート》などが使えるようになる。

 もちろん消したり書き換えたりできる。

 死ねば神殿行き。

 種族は初期値と成長に特徴がある。

 ・人間(ヒューマン) 特徴がないのが最大の特徴、どの職業(クラス)でもそつなくこなす。

 ・妖精(エルフ) 長命で耳がとがっている、MPを使用して瞬間移動回避能力(プリンク)を持つ(MPを使用する)。

 共感度(シンパシー)が上がりやすい。

 聞こえる者全員の強化を行うバトルソングや回復の歌を歌いながら戦う吟遊詩人(バード)

 弓による遠距離攻撃ができる狩人(ハンター)(スキル「足をねらう」で15秒程移動停止にし、「腕をねらう」で15秒程行動不能にする)と相性がいい。 

 ・小人(ドワーフ) 男は髭面。

 もともとJ.R.トールキンの「指輪物語」では女も髭面だった。

 日本での展開では女は頭でっかちのロリっ子になり、最終幻想もそちらにシフトした。

 小さいから飛び道具や巨大な敵の攻撃が当たりにくい。

 裸足で行動して地面の振動から敵の位置や穴の構造やトラップなどが分かる地覚感知(アースセンス)を有している。

 器用度(デクスタリティ)が上がりやすい。

 素材を集めて魔法アイテムや治癒薬(ヒーリングポーション)の調合ができる、怪しげな釜に素材を入れてかき混ぜるだけで伐採道具やピッケルなど道具系も作れる。

 採取系の錬金術士(アルケミスト)(パーティーにいる時は火薬が使える)。

 このゲームは武器や防具に使用回数があり0になると壊れる、装備を鍛え直す(使用回数復活)。

 強化し、新しい装備を作る生産系の機工士(クラフトマン)(古代文明の道具や武器が使える)が向いている。

 ・獣人(アニマルフォーク) アバターを作る時色々な動物耳を選べる。

 シッポは耳に連動してついてくる。

 氏族(クラン)があるが、どの耳を選んでも種族毎に用意されたシナリオは変わらない。

 依頼の仕方が変わってくる。

 俊敏度(スピード)が上がりやすい。

 肉球付きの獣の手になっている。

 自前の爪はレベルが上がる毎に攻撃力を増す。

 気をためて(MPを使い)身体機能を強化して素手で闘う武道家(モンク)(鎧を無効化するスキルもある)。

 移動力をあげるスキルがあり(15秒程)二刀流で二回攻撃する盗賊(ローグ)と相性がいい。

 宝箱をカギ穴に爪を突っ込み開けられる。

 このゲームはトラップの回避ができない。

 あけてみて宝箱モンスターだったりする。

 TTRPGは危険感知、罠発見、罠解除が盗賊の仕事としてあるが、コンピューターゲームはウィザードリィ以外そういった駆け引きはない。

 狐の耳とタヌキの耳を選択した時だけ俊敏度の代わりに魅力度(カリスマ)が上がりやすくなる。

 偽りの傷で相手のMPを傷つける。

 自分の分身を作り(15秒程)、姿を消せる(15秒程)幻術士(イリューショニスト)

 イベントをこなし炎のイフリート、

 氷のシヴァ、

 雷のラムゥ、

 植物のドリュアス、

 闇のディアボロス、

 古代アレクサンダー、

 魔獣フェンリル、

 天のアマテラス、

 海のリヴァイアサン、

 神龍のバハムート、

 大金がいる剣士ギルガメッシュなどが召喚できる召喚士(サモナー)と相性がいい。

 最初は小さい魔法攻撃を与えるカーバンクルが召喚できる。

 課金すれば3Dモンスターを呼び出して、戦闘中でなくとも後ろからついてくる、カワイイ)

 ・巨人(ティターン) (東洋風の角のある鬼姿も選択できる)基本は身長2mぐらいで攻撃のリーチが長く、攻撃範囲が一番広い。

 耐久度(コンスティチューション)が上がりやすい。

 タンクと呼ばれるパーティの壁として敵の攻撃やヘイトと呼ばれる憎しみを受けるのに向いている。

 防護点をあげるスキルがある。

 重盾が装備でき防御力が高く、ダメージを肩代わりする「かばう」というスキルが使える騎士(ナイト)(15秒程無敵になるスキルがある)。

 攻撃力の高い両手武器を装備できる。

 傷を受けてからの反撃が強いカウンター攻撃型(カウンターと呼ばれ受けたダメージをXX%上乗せするスキルがある)、武士(サムライ)が向いている。

 ・半吸血鬼(ダンピール) 夜間HPが回復するリジェネイト能力が加わる。

 手でタッチする事により吸血によりMPが回復する。

 記憶力(インテリジェンス)が上がりやすい。

 4大精霊魔法(土、風、水、火などの属性があり、火の属性のモンスターを水で攻撃すると2倍ダメージを与える。

 逆は半分になる。

 召喚された3Dモンスターは、闇は地に、火は火に、水は水に、草は風に、光は神聖魔法系などに属性を変換される)や、

 攻撃魔法が使える魔法使い(マジックユーザー)

 リキャストタイムが調整でき、一回の攻撃により受けたダメージがキャンセルできる混沌時空士(ケイオスタイマー)と相性がいい。

 ・天空人(エンジェル) 光の魔法翼を背中にしまう事が出来、広げれば魔法的に浮いてられる。

 啓賢度(ウィズダム)が上がりやすい。

 神は複数いて、それぞれにオリジナル魔法はあるけれど、だいたい回復や防御魔法が使える神官クレリック。

 呪符を投げつけて味方の能力値をあげたり(15秒程)敵にバッドステータスをつけたりする(15秒程)巫術士(エンチャント)が相性いい。

 ・龍人(ナーガ) MPを使い炎の範囲攻撃ブレスが使える、全身の鱗が防護点になる(MPを使用する)。

 (ストレングス)が上がりやすい。

 盗賊の二刀流と違いダメージが重ねることによって一撃が大きくなり、ある時は葉隠で姿を消し(15秒程)、またある時は空蝉の術などで自動回避しながら壁役にもなれる(15秒程)忍者(ニンジャ)

 狂戦士(パーサーカー)して防護点を減らしながら攻撃力をあげるスキルがある、自己犠牲能力(サクリファイス)でHPを自分で消費しながら与えるダメージを大きくする蛮族(バーバリアン)(ドレインというスキルによっては与えたダメージのXX%のHPが返ってくる)が向いている。

 

 コエプコン社もフルダイブ型の『龍の教義』という(悪魔崇拝を軸とした)ダークファンタジーゲームを作っている。

 クローズドβテスト版をプレーしたことがある。

『最終幻想』とかぶらないように独自の工夫がされている。

 まだ発売してないがコエプコン社の『龍の教義』は人間オンリーで大柄な男、大柄な女、標準な男、標準な女、小柄な男、小柄な女の6種類。

 上から順に筋力が強くたくさん持ち物が持てる。

 下から順にすばしこい、ジャンプ力もある。

 標準は魔法適正が高い。

 肥満型や痩せ型がある。

 肥満型はHPが増えるが疲れやすい。

 痩せ型はその逆。

 プレイヤーキャラクターは冒険者ではなく覚醒者アウェイクンと呼ばれ善竜に心臓を捧げている。

 死んでも動けない善竜の下で復活できる。

 善竜に血の宝石ブラッドストーンを捧げることで特殊能力を授かる。

 まず選べる職業は戦士(ファイター)盗賊(シーフ)魔法使い(メイジ)

 魔道書を使う事で、冒険の途中でスキルを入れ替えることができる。

 魔力が無くて(魔法攻撃力はどの職業でもある)詠唱時間や予備動作がスキル使用前にある。

 

 戦士には盾を使った反撃スキル(シールドバッシュと言ってタイミングが合わせると相手をよろめかせる)。

 

 攻撃スキルが育てられる。

 仲間を上方に放り投げる事ができる。

 タイミングが合えば大型モンスターの上部にしがみつく事ができる。

 小型モンスターをおさえつけたり、人型モンスターを後ろから束縛できたりする。

 両手剣にも交換できる。

 その場合はリベンジゲーシがあり受けたダメージを攻撃に上乗せできる。

 体当たりで相手を吹き飛ばせる。

 回転して小型モンスターなら一網打尽にできる技もあり蹴散らしたりできる。

 振りかぶりなど力を溜めて攻撃を強化するスキルがある。

 突撃の際は小型の敵なら引きずりながら複数回ダメージを与えられる。

 可変武器の両手槍にも交換できる。

 バラバラになる仕込み鞭になり、大型モンスターの腕に巻き付けて武器を使えないようにできる。

 足に巻き付けて移動できないようにしたりできた。

 両手用ハンマーを地面に叩きつけて敵を転がしたりもできた。

 近づいて殴るスキルが充実していて、一番頭を使わなくていい。

 

 盗賊は弓を使ったスキルや盗むスキルや火薬による追加ダメージが育てられる。

 

 キャラクターに『怪獣狩人』のように疲労スタミナポイントがある。

 巨大な敵にはしがみついて背中や首を移動しながら攻撃出来る。

 スタミナが0になると落下する。

 相手が怒りモード中なら複数でしがみついてモンスターのスタミナを0にして引き倒すことができる。

 オープンフィールドだから『怪獣狩人』のように時間経過と共にスタミナ上限が減ることはない。

 

 盗賊が一番しがみつきダメージがでかい。

 

 また盾がない代わりにスタミナを使って1秒程無敵時間が発生する回転回避が使える。

 敵の弱点ウィークポイントを探し、花火のように火花が出る矢で印をつける事ができる。

 ブースト能力があり他人の能力を上昇させる能力がある。

 用意した護符アミュレットに応じて攻撃力や範囲が増加したり、状態異常の耐性が増えたりする。

 敵を倒さなくても報酬アイテムを敵から盗む事ができる。

 

 魔法使いは火、氷、雷、聖、闇などの魔法を覚えられる。

 

 こちらはリキャストタイム型と違い魔法の発動に詠唱時間がかかる。

 ギフトと言って武器に属性攻撃をつける。

 飛び道具は魔法弾エネルギーボルト。

 もちろん属性攻撃をつけることも出来る。

 

 魔法は単純にダメージを与える攻撃ではない。

 

 ・炎は火炎壁(ファイヤウォール)でダメージを与える壁を作れる。

 攻撃を出した後も集中することで維持できる。

 集中時は移動力が半分になり、走ったり、攻撃したり、防御したり、回避したりできない。

 炎によるダメージは服に燃え移り、走って消えるまで火傷による追加ダメージがある。

 走っている時はスタミナが減る。

 成長させると火炎壁(ファイヤウォール)は回転する。

 ・氷は氷柱(アイスコラム)で直径1mの防護点とHPを持った人間サイズが入る氷の柱が出来る。

 剣や盾を柱に閉じ込めて奪うこともできる。

 階段のように上に登り魔法を維持してエレベーターのように上昇できる。

 成長させると巨大になり大きな敵も敵も閉じ込められるようになった。

 もっとも力が強ければ破壊してすぐにでてくる。

 また選択しだいで複数の細身の竹のような柱で、檻のように取り囲む事がができた。

 ・雷の鞭(サンダーウィップ)となり相手を束縛できる。

 小さな敵は投げ飛ばしたり、巨大な敵の首に巻きつけてぶら下がったり出来る。

 魔法の短槍でしがみつき攻撃出来る。

 成長させると雷の鞭はネットに進化した。

 脱出するまでダメージを与えるし、頭が悪い敵はからまって自滅する。

 雷のネットは天上に広げ半径45メートルにダメージを与えるみたいな使い方もできる。

 ・聖は自分を中心に範囲回復魔法(ヒーリングスポット)が使える。

 回復には時間がかかるから緊急時には薬草の方がいい。

 アンデットにはダメージを与える。

 ギフトもアンデットに対する追加ダメージ。

 聖は新たにキュアスポットを覚え範囲内のあらゆるバッドステータスを回復する。

 ・闇は黒い雲を使い視覚を奪い毒の状態異常が使える。

 ギフトも毒攻撃が追加される。

 念動力(サイコキネス)によって物質を触れずに動かすことができる。

 成長させて竜巻に成長させて複数の物体を持ち上げる。

 物体を重力から解き放ったり、空中に固定させエネルギーを蓄積させてから解放することができる。

 眠り雲(スリープクラウド)が広範囲でかけられるようになった。

 

 このゲームの武器は耐久度というマイナス縛りではなく、愛用度というプラスの縛りになっている。

 物には魂があって敵が落とした道具を拾って戦えもするが、愛用武器を使えば使い込むほどダメージが追加される。

 ボタンひとつでリーチが変わる可変武器や、斧がハンマーに変わる特殊武器もある。

 ノーマルで棍棒もある。

 3Dモンスターの魂を入れるインテリジェンスソード。

 もちろんクエストを解いて、このゲームだけの由緒あるインテリジェンスソードもある。

 上級の武器にになればバラバラになってムチのようになりリーチが伸びる仕込み武器がある。

 悪魔が封印してある動物のアゴになって噛みつく。

 モンスターを捕食する事で武器自身のダメージが上がる。

 死体に吸血して能力を得るヴァンパイヤアイテム。

 このゲームは死体を投げたり盾にしたり道具として利用できる。

 霊魂にダメージを与える刀身のない光の剣。

 悪霊喰らい(イビルスピリットイーター)がある。

 レベルが上がると強い武器が装備でき、ゲームマネーを課金する事で魂(愛用度)を移せる。

 それぞれにクラスに対応した上級職業が2つずつ用意されている。

 職業は宿屋で簡単にクラスチェンジができる。

 イベントをこなすことで上級職は解放される。

 

 物理攻撃を蓄積することで魔法攻撃力を上げる魔法戦士ハイセプター。

 

 レベルが上がるごとにダメージを上げたり、防御を上げたりする魔法球マジックボールを複数自分の体の周りを衛星のように周回させれる。

 敵に飛ばして蓄積したダメージを与えることもできる。

 風の渦を作りダメージを与えたり。物理防御の嵐を作り、空中に巻き上げて落下ダメージを与える。

 空気を利用した瞬間移動できたり、幻影を使える。

 

 魔法や飛び道具まで受けられる魔法盾(マジックシールド)を扱える唯一の職業、盾魔法使い(シールドセージ)

 故に体格は上級職までにらんで決めなくてはいけない。

 

 俗にいう壁役タンクでモンスターの憎しみヘイトを高めて自分に攻撃が集中するようにできる。

 小型のモンスターなら盾で跳ね上げたりできる。

 レベルが上がれば攻撃をシールドに蓄積して魔法攻撃に上乗せできる。

 バリヤーを張れて近付いてくるモンスターにダメージを与えられる。

 味方の攻撃道具に火、氷、雷、聖、闇などの属性を付与しできる。

 HPや疲労度を回復したりできる。

 

 二段ジャンプと2刀流が出来、ダッシュジャンプが出来る捜索者(シーカー。)

 

 シーカーロープという物はまっすぐのびて敵に張り付くと、高速で結節点に引っ張られるように移動できる。

 空を飛ぶ敵や、巨大な大型モンスターの首にしがみつくことができる。

 小型のモンスターならシーカーロープで引き寄せて空中で乱舞のような連撃ができる。

 戦士が横への動きや連続切りが強化されていれば、捜索者は断頭台スキルのような縦の動きが強化されている。

 壁や木に巻き付けてワイヤーアクションができた。

 敵にクナイで撃ち込み足下に片方を撃ち込むことで束縛できる、場所を変えてたくさんの場所から撃ち込む程、敵を固定化できる。

 また一ヶ所地面に撃ち込んで、グルグル巻きにして束縛することも可能。ロープが切れるまで動きを拘束できる。

 あらかじめ地面と地面にロープをはって転ぶ罠を仕掛けることもできる。

 

 弓術にスキルを特化し投げナイフが接近戦に使える狩人(イェガー)

 

 空中に矢を放ちある程度矢の雨を降らせる範囲攻撃が使える。

 火薬を使って攻撃力をあげる盗賊と違い、矢を放ち速射、連射、扇状に複数射撃によって攻撃力をあげる。

 弓を引き絞る事で攻撃距離を延ばす。

 毒の矢、油の矢、魔法を封印する沈黙の矢を別売りで購入できる。

 投げナイフも使えるのだがだが、これがなかなか馬鹿にできない。

 クローズドβテストで勇者はシナリオのバグ潰しを、僕は四角いマスに閉じられた空間で戦闘のバランス調整の意見を報告している。

 色々な職業に変更しながら巨大な敵や敏捷な動物達と戦った。

 大別すると打撃武器と切断武器の2種類の武器がある。

 基本は剣だ。

 上からの振り下ろし、横になぎ払い、上突き、水平突き、下突きの5種類ある。

 スキが出来るが振り下ろしとなぎ払いは振りかぶることでダメージを強化出来る。

 突きはジャンプしたりダッシュしたりを組み合わせすることで武器が身体を貫通出来る。

 このゲームは串刺しに出来るのが最大の特徴になる。

 身体に刺さったら抜くまで次の行動がとれない。

 腕に刺さったら抜くまで使えない。

 足に刺さったら抜くまで移動できない。

 壁や地面に縫いつけられるとさらに抜くのが困難になるし、回転してえぐる事で追加ダメージが与えられる。

 抜いたら出血で追加ダメージがありそうだが、そこはゲーム的に処理される。

 余りルールをマニアックにすると誰にも遊んでもらえなくなる。

 止血とか薬草を使うというアイデアは出たようだが、抜いたら終わりで落ち着いた。

 囲まれた時など1人を貫通状態にして壁代わりにして、他の武器で周囲の人間と戦うというテクニックもある。

 両手槍など3人ぐらい串刺しにして敵が落とした武器で戦うという戦法もある。

 システム上、投げナイフと言えど刺さる武器は馬鹿にできない。

 矢も貫通武器として扱われ、矢尻に返しがついていると抜きにくい。

 大型モンスターの動きが段々鈍くなる

 盾で防御ばかりしているとスタミナ切れになる。

 蹴りを喰らうとよろめいて防御できない時間を作る。

 また蹴りは寝ている味方を起こしたり、敵に貫通した武器を引き抜いたりできる。

 打撃武器は貫通機能がないが、貫通の通じない骸骨(スケルトン)動く屍体(ゾンビ)などに絶大な効果がある。

 勇者からの情報によると悪の新興宗教のシナリオで敵がゾンビやスケルトンばかりだったらしい。

 体格と職業のアビリティスキルで持てる重量が決まってくるから、シナリオの情報を集めて装備を変更しないといけない。

 魔法使いは杖とダガーしか装備できない。

 

 弓の弦を引けば自動的に魔法の矢が装填される魔法弓士(マジックアーチャー)

 

 遠方の味方に治癒をギフトした魔法矢で回復したり、状態異常を回復したりできる。

 地面を撃てば属性の範囲攻撃になり、壁や柱は貫通して打撃を加える。

 魔法の矢は打撃武器でスキルの取り方で一回の本数が増え、流星群となってターゲットに向かう。

 別々のターゲットを自動追尾で攻撃する。

 少し美しい。

 

 魔法使いの上級職である妖術士(ソーサリー)

 

 魔化細胞を錬金でき相手に籠手で叩きこみ、行動を遅くし、殴ることによって魔化細胞を埋め込み、核を育て、大きく(十段階まで)して誘爆させれば効果的。

 魔化細胞で地面から壁を生やして防御したり、波のように地面から攻撃したりできる。

 アタッカーというよりはタンクで皮膚表面に魔化させダメージを受けない状態にできる。

 その場合も攻撃を受ければ疲労度は減り0になると解かれてしまう。

 

 3Dモンスターの扱いをどうするかコエプコン社内部でも意見が割れているらしい。

 僕の窓口になっている人は賛成派で、バリバリの硬派にして3Dモンスターを使えないとなればゲームをダウンロードしてもらえない。

 3Dモンスターを短剣扱いにして足に噛みついたら解くまで移動できない。

 顔にはりついたら解くまで目が見えない。

 ソロ(一人で冒険する事)の場合、背中から刺されて貫通すればゲームオーバーになるが3Dモンスターに引き抜いてもらう事ができるようにしたい」と語ってくれた。

「がんばって3Dモンスターが使えるようにしてください」と応援した。

 勇者から聞いた話だが従者スクワイヤという異界の住人を自分専門のNPCとして契約できる。

 装備を買ってあげなきゃいけない。

 職業《クラス》とその成長、アバターや声優や口調からおしゃべり、性格、思考までも細かく設定できるらしい。

 スクワイヤは自分のアバターが育てたスキルしかつけられないため、たくさんクラスチェンジして色々なスキルを自身のアバターが覚えなくてはならない。

 戦闘中は細かく命令できて、命令上の最善手をうってくれるらしい。

 また、レベルがあり成長する特殊技能、武器、防具、道具を加工するクラフト技能をスクワイヤは全員持っている。

 高品質が作れる技能や時間短縮技能がありプレイヤーの好みに育てられる。

 中レベルから装備から希少な材料を冒険で集めて、クラフト技能で作らなくてはいけない。

 武器屋や防具屋では序盤の装備品しか売ってない。

 地道に作って従者のクラフト技能のレベルを上げなくてはいけない。

 装備の材料も冒険で獲得するかバザー。

 人気のある品は運とタイミングだし、枠はレベルに応じて分け与えられ、自分に必要ないモノは他人にも必要なくていつまでも売れ残る。

 従者はアイテムを作っている時間は冒険に参加できない。

 従者の装備もそろえて着替えさせなくてはならない。

 専門以外は異界からゲームマネーを払って公開された他人の従者を雇うことができる。

 自分以外は全員NPCの従者でパーティが組めるらしい。

 そこは最近のAI、ほとんど人間のように感じるらしい。

 

 魔王が助けてくれと言うなど珍しい。

 魔王の妹は「魔王観察日記」などをブログに書いて実の姉を笑いモノにしている。

 残酷な女。

 それを助けるなどと‘人がいい’にもほどがある。

 スポーツドリンクを飲み、トイレにいってからダイブした。

 サーバー『ゆりかご』にはなんなく入れた。

 暗証番号を入力すると自動で喫茶店の前についた。

 扉を開けて入ると角のある暗黒の鎧、いつもの魔王がいた。

 隣には盛り髪をした、ギリシャ風のトーガを着た女がいた。

 向かいにはグルグルメガネをかけて、三つ編みをした地味なオタクガールがいた。

 男のアバターは鎧や着ぐるみがうけて、女のアバターには付けまつ毛などの化粧品、美容品、宝石などがうけるらしい。

「魔王。共に戦うのはやぶさかないが、変なブログを書いている妹を助けるなんて、人が良過ぎないか?」

「ピヨッピー。まあ座れよ」オタクガールの隣の席をうながした。

 軽く礼をして隣に座る。

「俺には妹が4人いる」

「アンタ! 自宅でまでハーレム作っているのかよ?」

「アホか! 後から産まれた女は皆、妹になるんだよ」

同性愛者(レズビアン)物神偏愛者(フェティシズム)ね、お姉ちゃん達いいコンビね」クスクス盛り髪の女が笑う。

「始めましてピヨッピー。本当にヒヨコのアバターなのね」小さく礼をする。

「妹のナガコです。いつも姉がお世話になっています」

「始めまして」僕は小さく会釈する。

「ナガコはブログを書いている妹とは違う。

 バンソニー社の神経伝達ヘルメットで遊んでいる。

 俺の良き理解者だ」

 魔王は代々政治家の家系で母親がマーケットで優秀な精子を買って産まれてきた。

 少子化が深刻化して経済力のある女性は子供をもたなければならないという空気が国全体を覆った。

 子供は全員種違いで遺伝子改良を行っている。

「最終幻想てファンタジーRPGの?」

「そうだ、ダウンロードはしているよな、どこまでやっている?」

「一応アバターを作って、チュートリアルまで。アニマルフォークのモンクを作ったけど」

 僕が答えた。

「俺も似たり寄ったりだ、ティターンのナイトを作った」

「助けてくれって、何? 普通に最終幻想の世界を冒険するのと何か違うの?」

「それは私から説明するわ、これでアタッカーとタンクが手に入ったわ」

 ナガコが話をとった。

「アネキとわたしとキヨミはちょっとしたエリート女子校に行っているのよ。

 入ったはいいけどテーブルトークRPG部がないのよ。

 私とキヨミで作ったけど生徒会が予算をつけない。

 理事長の娘でもある生徒会長と勝負することになった。

 私が勝てば部費をつけてもらえるの。

 だから、世界ランカーでもあるバカアネキにこうして頭を下げているのよ」

 全然下げているようには見えないが。

「RPGにおいてレベルは絶対だから、道路戦士の世界ランカーだからといって勝てる保証は0ですよ」

「俺も昨日の夜、妹の話を聞いて、今朝から学校をサボってレベル上げをかねて今まで最終幻想に潜っていたんだ」

 魔王がメニューを渡してくれる、アイスコーヒーを注文した。

「お前がモンクで作ったって聞いていたから、

 アタッカー(ダメージを与える担当)。

 タンク(敵の攻撃を引き受ける担当)。

 バッファー(パーティの能力をあげたり、敵能力を引き下げたりの担当)。

 ヒーラー(HPやMPの回復担当)。

 で集めようかなと思って、キヨミちゃんがアルケミストと聞いてバッファーだと思っていた。

 聞いてみるとアルケミストってヒーラーだとか? ナガコをサモナーからクレリックに転職させたが、まあ仕方がない。

 このメンバーでいこう」

 だいたい4つの役割がある、モンスターによる特殊な事情がない限り、アタッカー、タンク、バッファー、ヒーラー、とバランスよく揃える。

「ちょっと待って、敵の情報は? 道路戦士のルールなら勝てるだろうけど」

「今日やりこんでみたが、押しても引いても重心が崩れない。

 足が地面の上を滑る。

 つかんだり投げたりもできない。

 壁にぶつけてみたら横にスルスルとすべっていく」

「粗いな。ひと昔前のゲームじゃあるまいし」壁の中に入り込まないだけマシか。

「判定は人体に近くはなっている。

 当たり判定のある防護点を持ったHPを、攻撃力のある棒切れで削るゲームだと理解した方がいい。

 付属で目に見えないロープを使ったアクションがある。

 ハンターのスキルで腕をねらう、足をねらうがあるが、MPさえ消費すれば身体のどこに当たってもスキルは発動する。

 ビジュアル的に腕に刺さっている演出がされる、魔法にいたっては範囲攻撃だ。

 演出や背景の綺麗さにおいて他のゲームの追随を許さないが、ゲームシステムの判定は甘めだ」

「何を期待しているか知らないが、このレベルで、そのシステムで勝てるわけがない」

「一応、闘技場でやることになる。この場合プレイヤーキルに判定されない」

 自由度の高いゲームで安全地帯の町からでればレベルの低いプレイヤーに襲いかかり、経験値と荷物を奪える。

 頭の上の名前の横に殺し屋マークがつく。

 普通の人とパーティが組みにくくなる。

 ギルドというプレイヤーによる互助組織があり、町でクエストを受けパーティを組む。

 その時必要とされている役割や職業をゲーム内のチャットで募集できる。

 暗殺者認定を受けるとみんな組みたがらないし、場合によっては所属しているギルドも退会しなくてはならない。

「4VS4の戦い?」

「向こうは64人いるかもしれない」

 このゲームの基本パーティは8人編成だ。

 巨大ボスや限定クエストや週末のイベントなどでレイドボスと言われている超レアアイテムが手に入る。

 ギルドどうしが連係して募集もかけながら64人かき集めて、担当する身体の一部を8人パーティで攻撃して、最後に64人でレイドボスを倒すと3Dチャットの動画で見たことがある。

 ギルドはギルドマスター(高レベルの有力者達)によって運営されている。

 戦闘終了後やシナリオ終了後ギルドへの貢献度にあわせてギルドマスターからギルドポイントが振り分けられる。

 活躍に応じて配分を変える人もいるが、大抵は平等に分割される。

 構成員はギルドポイントを貯蓄することができる。

 ダンジョンに潜る時、アイテムがランダムに出現するため、そして人数分アイテムが出現しない。

 強いボスを倒して強い弓がでてきてもハンターにしか役に立たない。

 ハンターが1人なら問題無くそいつに渡せばいい。

 複数いた時、ランダムに渡してギルドへの貢献が低い者が獲得した時、何度も何度もギルドで貢献してやっと自分が装備できるアイテムが出てきたのに、新人に持っていかれるのでは、やるせない。

 そこでギルドマスターはギルドポイントでオークションをかける。

 貢献度が高く、どうしても欲しい人に渡る。

 だから最終幻想はノラだのジプシーなどのソロでやるよりはギルドに入った方が有利なのだ。

「話にならない。こっちも募集でもして64人かき集めないと」

「レイドボスのクエストならともかく、超レアアイテムがドロップされない。

 ただの闘技場のケンカに人が集まるとおもうか? 」僕は首を振った。

「しかし、俺とお前が組めば勝算がないわけではない、俺だってゲーマーの端くれ」

「真ん中だろ」

「負けるのは嫌だ」魔王がニヤリと笑う。

「2日前ヴァージョンアップしている。今すぐダウンロードしろ1分もかからん」

「ああ、分かった」

 僕はメイドが持って来たアイスコーヒーを飲む。

 味は”甘み”(糖分)。

 ”酸味”(酒石酸)。

 ”辛み”(塩分)。

 ”うまみ”(グルタミン酸ナトリウム)に分割される。

 歯応えやのどごしまで完全再現されている。

 ここでいくら飲んだり食べたりしても、現実の身体は太らない。

 その代わりお腹いっぱいにもならない。

 純粋に料理だけを楽しむ。

 念じれば右手の下にタブレットがあらわれる。

 最終幻想を選択してアップデートを行う。

「3Dモンスターは前のヴァージョンではサモナー以外召喚できなかった。

 色々なところからクレームがでた。

 無料ゲームは遊んでもらわなければ話にならないし、その中から課金アイテムをへビーユーザーに買ってもらわないと経営が成り立たない。

 二エクス社が危機感を抱いた。

 アイテムの召喚符をゲームマネーで買えば、デッキコスト関係なくどの職業でも召喚できる。

 ソロの場合は7体まで召喚できる。

 ナガコと下見に闘技場に入ってみたら7体以上召喚できた。

 上限は俺たち4人を引いた60体とみている」

 魔王はたくさんの3Dモンスターを育てている。

 ウェアラブルコンピュータの3Dモンスターで学校の休み時間にパーティを組む。

 授業中に自動でダンジョンを自動で攻略する放置系というゲームで育てている。

 URカードを筆頭にHRカードまでコマメに育てている。

 女だからと言うわけではないがマメな所がある。

 数は互角になる。

「生徒会長さんがどれだけのメンバーを揃えているかわからないが、しょせんは高校生、50万もする神経伝達ヘルメットを自宅に引いている奴らは半分もいない。

 キヨミちゃんが漫研の知り合いにスパイしてきたら、高圧的に漫研、アニメ研、コンピュータ同好会で人間を集めているらしい。

 生徒会長さんがどれだけ人望があるか知らないが、インターネットカフェに乗り込んで頭数を揃えたらしい」

 バンソニーもミクロソフトも神経伝達ヘルメットを無料でインターネットカフェに提供している。

「VRMMORPG自体始めてらしい人間が多数いる。

 今頃ならし運転とレベル上げを時間まで必死に頑張っているのが実態だろう」

 たしかに魔王のいう通り、いま子供の貧困が社会問題になっている。

 親世代がロボットに職を奪われて下層におちる。

 悲しい話だけど、遺伝子をいじってない子供の2人に1人は貧困、虐待、DV、育児放棄ネグロイドのどれかにまきこまれている。

 宗教的理由で遺伝子改良を行わない場合もあるが日本では少数派。

 ナガコなど「今時、いじってない遺伝子など化粧してない女と一緒だ」と馬鹿にする。

 レトロウィルス、アデノウィルス、レンチウィルスやλ(ラムダ)ファージというバクテリオファージの一種を使い遺伝子は簡単に書き換えられる。

 運び屋ベクターによる改造度の高さに応じて細胞のガン化のリスクは高まる。

 だが定期的に治療すればいいだけ、生物学的遺伝子「ジーン」より伝統文化を継承する精神的遺伝子「ミーム」の方が重要視される。

 自らのルーツを遺伝子だけに求めるのは間違いである。

 神話レジェンドと文化カルチャーと習慣コモンセンスと歴史ヒストリーを受け継ぐ覚悟が出来た時、日本人になる。

 H世代も半数以上の卵子が外国産である。

 しかし遺伝子改良事態に疑義を唱えるブルーナンチャラという超保守的な世界的政治団体もある。

 こういった思想集団は過激な方にバイアスがかかる。

 そう遠くない未来彼らもデモだけではなくテロに走るかもしれない。

 パラリンピックの記録がオリンピックを抜いた時代、必ずしも内部だけをいじることが正しいとは限らない。

 魔王達の学校は聖セントミカエラ学園というキリスト教系の学校。

 全員大学へは進学する。

 ある程度勝ち組みの両親が多いだろうけど、それでも神経伝達ヘルメットは高校生には高価過ぎるオモチャではある。

 受験競争の勉強時間を奪うし。

「会長さんはギルドを作るなり、入るなりしてないのか? 」

 ギルドに入っている人間は社会の勝ち組みか、その子供達だろう。

 コネとか人脈はないのだろうか?

「生徒会の仕事が忙しくて、土日にやっている程度。

 ギルドマスターになれる程レベルは上がってないわ。

 オークションで就職によってゲームを離れる人間のアカウントを落札したとブログに書いてある。

 多分低くはないと思う」ナガコが答えた。

「親から金をもらっているか知らないけど、財閥のお嬢様だからゲームマネーをふんだんに使って、町に一戸建ての家を建てて変な植物や品のない家具でデコレーションしてSNSで自慢するのよ」

「見なきゃいいだろう」

「ピヨッピー。

 あんたは男社会を生きていて、アンドロイドに育てられたから分からないだろうけど、女の世界は男と違って簡単に順番がつかないのよ」

 僕の意見になが子が意見した。

「男の世界も下剋上がある」

「そういう意味じゃないのよ、分からない子ね」

「ナガコ、ピヨッピーはまだ中学生でお前より年下だぞ。

 根が真っ直ぐで、人の悪意にあまり触れずに成長している。

 俺たちだってメイドロボットに育てられた。

 ピヨッピーを軽く見る資格はない」

「悪かった。謝るわよ。助けてもらわなきゃいけないし」

「で、ピヨッピー作戦はこうだ」

 魔王が作戦を解説した。

 まずゲームの中に4人で入った。

 僕は犬系の耳と尻尾と肉球を持つアニマルフォークのモンクのアバターに変身した。

 魔王はティターンのナイト。

 ナガコがエンジェルのクレリック、

 キヨミが女ドワーフのアルケミスト。

 まずは雑貨屋に行き、多少高価ではあるが、持てる限界の99まで買う。

 HPが0になり、空中にゆらめく魂の炎となる。

 アイテム『フェニックスの羽』を使えばHP1/10で復活できる。

 ナガコとキヨミも18才を超えている魔王から現金を融通してもらい99まで全員買う。

 次に魔法の範囲攻撃である。

『炎の小瓶』

『氷の小瓶』

『雷の小瓶』

『風の小瓶』

『水の小瓶』

『地震の小瓶』全員がそれぞれ最大数の9個まで買う。

 HP回復アイテム『ポーション』『ハイポーション』

 MPの回復アイテム『マジックポーション』『マジックハイポーション』を最大数99個全員が買う。

 装備も一応買えられる最高品を購入した。

 買えてもレベルで装備に使用制限がある。

 このゲームは冒険をして世界を広げ、能力の高い装備を売っている武器屋や防具屋や道具屋を発見しないと手に入らない。

 僕は3Dモンスターの召喚符を10個買った。

 魔王は最大数の99個まで買う。

 そして闘技場に向かった。

 幾つかの手続きを終えて闘技場のゲートをくぐった。

「オーホッホッホ、オーホッホッホ」

 耳触りな女の高笑いが響く。

 美男美女ハンサム渋い系がずらりと並ぶ。

 このゲームのアバターでブサイクはいない。

 金髪縦ロールのダンピールの女が壇上の上でふんぞり返っている。

 64人も並ぶとそれなりに迫力がある。

「ナガコ、それだけの人数で逃げずに来たのは褒めてあげるわ。

 しかし、しょせんは3流政治家の娘。

 日本が誇る3大財閥四菱の直系女子に勝負を挑んでくるとは。

 身のほどを教えてさしあげますわ」

「あの女、死亡フラグ立ってねぇ?」と僕が目で合図を送る。

「立っている」魔王も返事した。

「私が勝てば、約束通りテーブルトークRPG部に100万の予算をつけなさい」ナガコが叫ぶ。

「初耳だ」

「魔王の妹も無茶言ってねぇ?」魔王も驚いていた。

「オーホッホッホ、いいわ、私の勝利は•••」

「げー、魔王とピヨッピー」1人が悲鳴をあげた。

 僕らの頭の上には名前とレベルがついている。

「なにょ、いきなり」

「知らないのですか? あの二人を」

「そんなに凄いの?」

「道路戦士の世界ランカーですよ。

 道路戦士で戦えば、私達は10秒立ってられません」いきなり説明しだした。

「魔王って、アンタ田中真央?」

「魔王。会長さんと知り合い?」

 僕が聞いた。

「知り合いと言えば知り合い。

 去年までお姉様が生徒会長として君臨していた時、そいつのでかい別荘で妹達を集めて乱痴気騒ぎしたから、股の間にまであるホクロの位置まで知っているが」

「お姉様の愛の伝導をフリーセックスと同一視するなんて、相変わらず野蛮でガサツな男女ですの。

 お姉様は私に会長職を譲ったのも、お姉様の寵を一身に浴びたのも私ですわ」

「否定はせんよ、お前が一番愛されていた。

 俺はお姉様にeスポーツ部を作ってもらったし、おかげで遠征の費用もだしてもらえたし、平日遠征も部活動で処理してもらえた。

 お姉様を独占する気はない。

 感謝しかない」

 魔王のアバターの表情が少し曇った。

 このゲーム、戦闘以外はけっこう緻密である。

「いかにゲーム狂とはいえ、この人数に勝てるわけがない。

 やっておしまい」

 会長が叫んだ。

「120分の1秒が分かる女。

 凡人では絶対つながらない連続技魔王スペシャルを持つ女。

 絶対返せない技を反撃する、超反応のピヨッピー。

 日本の双璧ですよ」周囲の人たちが騒ぎだした。

 ビビりがはいっている。

 聞いてないとあちこちから声が上がる。

「解説ありがとう。

 それからナガコさん、聞いた話と違いますよ。

 あの女50レベルある。

 ギルドマスターになれるレベルだよ」

 頭の上のレベルを僕がナガ子に聞いた。

「あれ、本当だ。

 あなた30レベルのアカウントを買ったってSNSに書いていたよねー」

「オーホッホッホ、しょせん政治家の娘とはいえ庶民。

 私のようなパワーエリートはアメリカのレベル上げ請負業者に金とアカウントを渡してギルドマスターになれるまで成長させることができるのよ」

 僕は自分のアバターさえ他人に使用されるのは気持ち悪くて「嫌だ」。

 今では頭に360度テレビカメラを頭に乗せて他人の指示通りに動く商売もある。

 エベレスト登頂をリアルタイムで配信する個人サービスならまだ分かる。

 昔から「お伊勢参り」など聖地への巡礼は誰にでもできるわけではない。

 お金がかかるのでまわりの人からお金を募って、巡礼に旅立つ人が身がわりとなってお祈りをしてきて、帰ってきたらおみやげ話を共有する。

 江戸時代からあった。

 歴史小説など登場人物の人生の追体験であり、昔からあった。

 好きな生き方ではないが、主義の問題ではなく現実である。

 今では自分の行動を常時配信して、視聴者達や複数のAIの選挙によって行動を決める生き方がある。

 個人のレベルでなら問題はないのだが、ヨーロッパにハッカーやIT技術者が多く参加する海賊党があらわれた。

 政治に透明性と柔軟さを求める「液体民主主義《リキッドデモクラシー》」を掲げ議員を送りだした。

 党員がネット投票してリアルタイムに代表が意思決定をしている。

「融身体」と呼ばれ、お祭りの神輿みこしをかついでいる状態に近い。

 誰が走って、誰がかついで、誰が音頭をとっているのかはっきりとした線引きがない。

 自分自身への帰属感。

 自分自身への効能感はないのだろうか?

 それとも『それが自分』と割り切るのだろうか?

「そんなゲームして何が楽しいんだ?」僕が魔王に聞くと。

「このゲーム、楽に成長できないよう、シナリオやイベントをレベル制限がある。

 使えるスキルや魔法が制限される。

 シナリオ毎に推奨レベルがあって低い場合は上げてから挑戦したがいい。

 会長さんのように誰かに上げてもらうとレベル上げしなくていいから、シナリオやイベントの展開が早くなる」

「会長、考え直して下さい。

 丸川書店から配信される動画で、あの二人だけ飛び抜けているんです」

「お待ちなさい」狐耳のアニマルフォークが制した。

 ナガコさんが「副会長」と解説してくれた。

 イリュージョ二ストで15レベル、この集団平均は10レベルだなあ。

「良く見なさい、魔王はナイトの20レベル。

 ピヨッピーにいたっては1レベル。

 魔法がかすれば一発死の上に敵は少数。

 戦う前からビビってどうするのです。

 会長、ここはやるべきです。

 あなたがたも新しいパソコンが欲しくないのですか」

 最近は漫画もタブレットでデジタルペンを使ってネームの下書きやペン入れを行う。

 パソコンと同期してソフトウェアでスクリーントーンを貼る。

 インターネットで印刷所にデータを転送する。

 大抵の文系サークルはパソコンがノドから手が出てくるほど欲しい。

 副会長の命令は虚しく、各サークル、部活、ギルドに分かれて「どうする?」と話し合いが始まる。

 死んだら教会で復活できるけど、金は取られるし、ペナルティでレベルも5ダウンする。

 生徒会長の人徳かはわからないが、勝てば儲けものだ。

 負けてレベルがダウンするのは、今まで成長に使った時間はもったいないけど、死んだら幽霊のように取り憑いてプレーを参考にできる。

 いい思い出になるから勝負してみようという方向で各集団とも話がまとまりだした。

「一時はどうなるかと思ったけど、これも財閥令嬢の力。

 負けた時はプラチナチケットだけではなく、あなたたち4人、私が作るギルドに入りなさい」

「それでいいのか。

 やおい穴を実装した逆ハー物に連れて行かれて、64人に輪姦されるのかとヒヤリとしたが」

 僕が口にした。この中で男は僕だけだし。

「お前、女子校は百合か、腐女子しかいないと思っているだろう」ナガコがジト目をしながら口にした。

「違うのか?」

「H世代の男クラスはヤンキーか、オタクしかいないのか?

 少子化対策でクラスの5分の1は結婚や妊娠で学校を中退するぞ。

 金持ちは若く結婚してたくさん産むのが国の方針だぞ。

 半分以上は多分ノーマル」

 魔王が言う。LGBTは左利き位の数しかいない。

「会長さん。僕たち基本ノラだから、ギルドに入ってもすぐ退会するぞ」

 僕が口にした

「お前プラチナチケットなんて、親権者の許可がないと譲渡できないぞ」

「お姉ちゃん、十八歳過ぎたのだから、かわりにチケット提出してよ」

「お前、俺をあてにしていたのか?」

「違うわよ、戦う前から負けた時のことを考えてはいけないとアントニオ猪木が言っていたわ」ナガ子さんがフッとカッコよく笑った。

「魔王のファミリー凄いな。

 確かに。キャプテンハーロックも言っている。

 男にはある。

『負けると分かっても戦わねばならない時がある』

『死ぬと分かっても行かねばならない時がある』」

「ピヨッピー。良く分かっているじゃない」

 ナガコさんが大きくうなずく。

 魔王が仕方なくプラチナチケットをトレーディングボードに置いた。

「さあ、会長さん、始めようか」

 魔王の前にあったボードが消える。

「さあ、やろうども(女子校だけど)。やっておしまい」

「あら、ほら、さっさー」

 60人ほど突っ込んでくる。

「やるぞ。ピヨッピー」

 魔王が54枚の召喚符を天に投げて3Dモンスターを召喚した。

 このゲームは3Dモンスターに騎乗できる。

 戦闘を手伝ってもらえるのがウリである。

 どのモンスターも2足歩行状態になると2mを超える。

 会長さん達からはモンスターの林が突然目の前に現れた。

 突撃が止まる。

 何人かは転んだ。

 悲鳴がもれた。

 僕は召喚されたモンスターの背中を駆け登り、頭を踏み台にしてジャンプ。

 前衛を飛び越えながら1レベルモンクが持つ唯一のスキル『ためる』を使い身体を強化した(15秒程だけど)。

「裏をかく」古流柔術で堅い鎧のすき間から肉を切る事。

 モンクの移動力はシーフの次に早い。

 とまどう副会長の正面に来ると連撃を叩き込む。

 これはスキルではない自前の物だ。

 8回叩くとHPが0になり50センチぐらいの炎の固まりになる。

 1分以内にフェニックスの羽を使えばHP10分の1でゲームに復帰できる。

 すぐさま反転し、破綻した前線を突っ切り、攻撃を体術で大きくかわしながら3Dモンスターの後ろに隠れた。

 道路戦士なら紙一重でかわしてもいいが、このゲームは判定が甘い。

 モンスター達が独自のスキルを使い、攻撃をしながら前進する。

「HPの少ないキャラを中心に据えてタンクを外側にして円陣を組んで、ピヨッピーがどこから来るかわからない」

 会長さんのフェニックスの羽で復活した副会長が指揮をとる。

 前衛が退却して会長を中心に円陣を組んだ。

「とりあえず、手を出さずに取り囲め」

 魔王が3Dモンスター達に命令した。

 古代ローマ帝国をカルタゴのハンニバルがカンネーの戦いで、ローマ帝国の密集隊形を両翼に騎馬を置き、包囲殲滅作戦で破った。

 真ん中の兵隊が遊んでいたためである。

 中央に魔法攻撃のあるアタッカーになるファンタジーでどこまで通用するか分からないけど、僕らにも他に選択肢がなかった。

 3Dモンスターのアルゴリズムは魔王の命令を的確に実行する。

 普通なら包囲された側は技をふるうスペースがなくなるのだが、右左と揺れながらスキルだけは発生している。

 通常攻撃の横振り系の技がでなくなるだけ、現実に近づけてある。

「魔法だ、ターゲッティングしろ、ピヨッピーを殺せ」副会長がどなる。 

 僕も召喚符で4体のUR3Dモンスターを呼び出すと、撹乱用にランダムで魔王が呼び出したモンスターの後ろを走らせた。

 僕は体高2mある光ネズミの背中に乗って高速移動する。

 ノリノリ状態の時はHPとMPが追加される、これで少しは死ににくくなった。

 今まで3Dモンスターでは50センチぐらいの大きさだったからチョット新鮮。

 魔王が呼び出したモンスターの後ろを走らばターゲッティングはほぼ不可能。

 魔法はは視認しなければいけない。

 当てずっぽうの範囲攻撃魔法が近くで炸裂した時はヒヤリとしたが、運はこちらにある。

 範囲攻撃をする魔法の小瓶を連続で敵中央に投げた。

 アイテムの使用はリキャストタイムがない。

 近代戦で機銃掃射とかできる場合は兵士間の距離をとるのが常識。

 どうやら司令塔の副会長さんはモンスターの相手ならいざ知らず。

 僕や魔王の様に対人戦慣れしていない。

 タンクもHPは多めだけど魔法防御力はそれほど高くはない。

「がんばって戦線を広げて、このままでは全滅しちゃう」

 副会長が悲鳴をあげたが戦略上の失敗を戦術で補うのは難しい。

 タンク達は通常攻撃は突きしか使えないのに逃げもせずけなげに戦っていた。

 真ん中のアタッカー達は魔法の小瓶で全滅した。

 会長はフェニックスの羽を9枚しか用意してなかったみたい。

 副会長さんが「アンタ金持ちなんでしょう、なんで最大数用意していないのですか?」内輪もめが始まった。

 魔王達は魔法攻撃を受けていた。

 魔王が二人をかばい、ポーションを使えばボーナスがついてくるキヨミのアルケミストが回復アイテムを使い。

 ナガコがクレリックの回復魔法を使いMP回復アイテムを使っていて、なんとか持ちこたえる。

 魔王は僕に攻撃がいかない様に耐えた。

 さらに死んでいく3Dモンスターをフェニックスの羽で蘇生させながら、回復アイテムで回復し、僕が魔法の小瓶を使い果たした時は魔王の近くを通り譲渡してもらう。

 やがて敵はフェニックスの羽も使い果たし、レベルとHPと魔法防御の高い会長さんだけが残った。もはやMP回復アイテムも使い果たしペタンとしゃがみこむ。

 戦意を失った会長さんにナガコさんに率いられた僕らが近づいた。

「財閥令嬢のこの私が負けるだなんて、さあ、殺しなさいよ」

「張り子の虎、これが金の力の限界よ」

 ナガコが宣言する。

「会長さん、結構人望あったよね。

 ナンダカンダ言って、みんなレベルダウン覚悟で死ぬまで戦っていたし」

「形勢が悪くなると、ネットから落ちて、なかった事にする奴。結構見て来たからな」

 僕と魔王が慰めた。

「絆の力に負けたのよ」

 指をさして、ナガコが高らかに宣言した。

「いつ、結んだんだ」

「どう見ても、実践慣れと、つぎ込んだゲームマネーの差だろう」

 僕と魔王が突っ込む。

「心でも負けるだなんて」会長さん結構いい人「ナガコ、私の負けよ。

 テーブルトークRPG部に予算100万円の件は、理事長であるお祖母様に話をしてみましょう」

 魔王がトレーディングボードに置いていたプラチナチケットを回収した。

 闘技場から出ると3Dモンスターはシステムが回収した。

 まだ9時まで時間があるから街の外でレベル上げをする事にした。

 魔王は馬系の3Dモンスターを呼び出す。

 僕は光ネズミを呼び出した。

 ナガコとキヨミは騎乗用の大型ニワトリ(戦闘は手伝ってくれない)をレンタルして、経験値が多い、多少強いモンスターが出る所まで遠出した。

 僕と魔王の腕があれば多少ハンデがあってもちょうどいい。

 9時になるころには僕のモンクは10レベルになっていた。

『掌底打ち』という防御力無効のスキルが手に入った。

 帰り際ナガコさんが「お姉ちゃん達、毎週水曜日はここで遊ぼう。

 部活も休みにするから」誘ってきた。

 どうするかは魔王が決めればいい。

 多少システムの荒さがあるけど、やってみたらけっこう楽しい。

 魔王がギルドマスターになってギルドを運営するのなら喜んで入っていい。

「考えとく」

 魔王が返事をして解散になった。

「お帰りなさい。

 マスター。

 今日は少し帰還が遅いですよ。

 9時までに食事をとらないと太りますよ」

「魔王の妹のケンカとレベル上げにつきあっていたら途中で抜けられなくて。

 たまにはいいさ」

「魔王。妹がいたんてすか?」

「アバターはかわいかったよ」

「マスター。

 本物の人間の女なんてめんどくさいだけですよ。

 私達のように8段締めもしませんし、回転機能もついていません。

 マスターがピストン運動しなくてはいけないんですよ」

「ララ。いきなり何を言いだすんだよ」

 ララが乱暴に夕食の入ったシェイカーを置いた。

「知りません。マスターがイジワル言うからいけないんです。

 早く食べて下さい。

 片付けなきゃいけないんです」

 そんなに怒る程洗い物の量があるようには思えないが?

 まあ、確かに『ウソと涙と裏切りは女のアクセサリーだ』とルパン三世も言っていたから気をつけよう。

 食事が終わるとバンソニー社の最新のハード『ステプレX』をプレーする。

 今日は『大戦略・大戦術』をプレーする。

 時代が近未来やWWⅡ時代の物やファンタジー物に大別できる。

 近未来物は架空の大陸で中立地帯にある都市や飛行場や工場や港を占拠して収入や基礎工業力をあげて新兵器を開発しながら新ユニットを作り、配置し、敵勢力を制圧する。

 基本はだいたいこうだが、戦闘は種類がある。

 ボードゲーム型から発展したターン制で、自分の駒《こま》をユニットの持つ移動力分いっせいに動かしたあと攻撃する。受ける駒も自動で反撃する。

 はるか昔は参謀本部がサイコロを振ってシミュレーションしていたらしい。

 リアルタイムで動かす物もある。

 相手はコンピュータだから、いくらでも時間を止めて長考できるのだが、まずは索敵から入る。

 索敵していないとコンピュータが索敵している時は視界に入り攻撃可能な距離(この場合はヘックスと呼ばれる六角形のマス)に入れば一方的に攻撃される。

 攻撃命令が無くて地図上のどこどこに移動しろとかしか命令できない。

 索敵専門のユニットを作り生産を工夫しなくてはいけない。

 索敵してあり、攻撃可能マスに敵ユニットが入れば自動的に攻撃する。

 クラシックと呼ばれるWWⅡ物はボードゲームの影響を色濃く受け継いでおり、歴史的事実に基づいてユニットが配置されている。

 単純に比較して絶対勝てない場合があるから、別途で勝利条件が用意されている。

 コンピュータ的要素としては天気や夜間やレーダーなどが加わり、ボードゲームと差別化してある。

 ファンタジーの場合は軍隊よりキャラクター同士が戦う物が多く、将棋やチェスのように一体ずつ動かす。

 ユニットに攻撃力と防御力があり、チェスや将棋のように重なれば簡単に取れる物ではない。

 強いユニットや弱いユニットに愛着が湧いたりする。

 あるいわアビリティポイントが割り振ってあり、貯まったキャラクターから順番に動かす物もある。

 ポイントの回復のしかたはキャラクターの能力によって違う。

 キャラクターの配置によって支援を受けて必殺技がでる場合がある。

 同時にウェアラブルコンピュータ上で解いている途中のターン制のファンタジーシミュレーションRPGを複数プレーした。

 ウェアラブルコンピュータから画面が6個程、空中に出てきて、チラと見て、左手だけでコントロールした。

 11時になり、いつも通り、筋トレして、お風呂に入り、ララとの儀式をすませ、睡眠導入剤を注射されて寝た。

「おやすみなさい。マスター」



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2話

------------------------- 第5話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月20日 木曜日

 

【本文】

 7時にララが起こしてくれる。

 今日は体育館で集団授業がある。

「お誕生日おめでとうございます」

 ララがミクロソフト社製の神経伝達ヘルメットをプレゼントしてくれた。

 僕がコエプコン社から払われる給料なのだけど、資産管理はララがしている。

 50万円はする。

「今日から15歳ですね。CERO Cのゲームができますね」

「うん。魔王とSAGEがミクロソフト社に提供している。

『スペーストレイダーズ』をやるんだ」

「調整と契約、ゲームのダウンロードをやっておきますね」

 通信が超高速化しているから、ララなら全て含めて5分とはかからない。

 その間に食事をとる、道着や体操服や水着はララがそろえてくれた。

 行進の授業もあるからみんなコエプコン社製の軍服を着て体育館に集まる。

 ララ達もついてくる。

 2Fから授業の様子を見る。

 自分のマスターがイジメにあってないかチェックしている。

 玄関から部屋をでると勇者もでてきた。

「オス」

「オス」

 短くあいさつを交わす。

 勇者もコエプコン社デザインの青を基調とした礼装用の軍服を着ていた。

「おはようございます、マスター勇者」

「おはようございます、マスター夕夜」

 ララと姫がそれぞれのマスターにあいさつした。

 僕達は体育館に向かった。

 渡り廊下もドーム型で完全無菌状態。

 少し神経質に思えるが、中国が海岸沿いに125基の原子力発電所を建設したが、半数がポシャってメルトダウンを起こした。

 東側に位置する日本は偏西風の影響によって大量に被爆し、遺伝子改良してない人間でも発癌率は10倍に跳ね上がる。

 日本海、黄海、東シナ海、南シナ海は死の海とかした。

「おはようございます」

 体育館付近でエリーが僕と勇者に後ろから首に抱きついてきた。

「エリー、顔が近い」

 僕が顔をそむけると「そう」と言いながら顔を僕の方に向け近づける。

 エリーだけは軍服を着ても男の娘にしか見えない。

 脳波で動く黒のネコミミヘアバンドと、脳波で巻いて動かせる黒のシッポをベルトに取り付けている。

「たまにしか肉体で会わないのに」

「お前、まだ金玉ついているんだろうな?」勇者が口にする。

「カラカラカラ」天真爛漫な笑顔を見せて「コエプコン社と精子を提供する契約を結んでいるのに、それにセックスは気持ちいいから、女装までが僕の限界ですよ」

 彼もまた魔王と同じで性転換まで考えてない。

「あ」軍服を着た太郎が向こうからくると、僕達との会話がまるでなかったようにうち捨てて、太郎の隣を並んで歩く。

 バスケットコートが8枚ある鉄筋コンクリートで造られた大型体育館に入る。

 

 1時間目は行進の授業である。

 

 国家から自衛隊の人が派遣されてくる。

 途中でかなり殺菌するらしい。

 遺伝子上の理由から徴兵は免除されている。

 遺伝子強化をした精鋭部隊は志願制だ。

 産まれる前でなく、効率は悪いが成長期に改造できる。

 本人の意思を反映して動物や昆虫の遺伝子を組み込むことができる。

 この場合はキメラと呼ばれている。

 アメリカがプレゼンスをさげているから自主防衛にカジをきらなくてはならない。

 徴兵も平和憲法下では2週間ほどの研修らしい。

 最初に整列して教育勅語の唱和を行う。

 幼稚園の頃にはそらんじている。

 規律正しく行進できれば10分ほどで終わる。

 その後は武器の歴史、戦争の歴史、サイバーテロ対策などの講習が始まる。

 時々はレーザーサイト付きのレーザーライフルを撃たせてくれる。

 レーザー光線兵器は開発と組み立てが済めば、1回当たりのコストは電気代10円。

 弾薬はライフルが55円でピストルが25円、ミサイル等に比べれば圧倒的に安い。

 狙撃技術は全ての世代の中で僕がNO.1である。

 

 2時間目は武道の時間

 

 まずは畳を取り出して並べる。

 みんな柔道着に着替える。

 コエプコン社のヒットゲーム『道路戦士』のスーパーアドバイザーの龍先生が授業をなさる。

 龍先生は160センチと小柄ながら指をつかませて逆に投げ、空気投げをする達人である。

 授業の終わりごろになるとゲームの今後の展開について話してくれるからみんな好きだ。

 格闘技オタクで世界中を旅して武者修行をしてきたゲームの主人公のような人。

 あらゆる流派の中国拳法会得している。

 日本の武芸十八般の手裏剣、火縄銃、立ち泳ぎ、乗馬はもちろん、

 南はインドのカラリパヤット、

 北はロシアのコマンドサンボ、

 西はアフリカのマサイ族の村にて槍一本でライオンを狩っていた。

 一人の人間がよくこれだけ凝縮した人生を送れるなと感心する。

 突きや蹴りなども教えてくれる。

 急所打ちも教えてくれる。

 しかし、試合形式は政府から業務通達がだされた柔道オンリーである。

 礼で始まり、礼で終わる。

 相手を重んじる精神が身に付くらしい。

 このルールで宗茂が一番強く、僕は二番だ。

 エリーが一番か二番目に弱い。

 座学もある。

 新渡戸稲造の「武士道」や山本常朝の「葉隠れ」などの講習もある。

 座学では完全記憶のある太郎がトップだ。

 龍先生もマンガに影響を受けているため同人誌を作って配布してくれる。

 江戸時代の昔から柔術など北斎マンガで解説がある。

 龍先生はコマ割りをしてネームを書いて、目を書くだけ。

 後は一番弟子のA世代の遥さんがコンピュータにスキャンして、電子ペンでペン入れして、スクリーントーンをはり、時にはカラーリングして、セリフをうって仕上げている。

 コエプコン社は『道路戦士』の普及を目指すため、仮想空間で武術を学べる有料のパッケージを配信されている。

 空手ならば基本の突き蹴りをAIがこちらの身体を使う。

 シャドーと言ってすぐそばであらゆる角度から研究する事ができる。

 鏡のように写った自分の身体を見ながら、マンツーマンで呼吸法や力の入れ方、脱力の仕方を個人の3Dデータを参照して教えてくれる。

 ゴースト型の使い方を身体でトレースして覚え、NPC相手に使用してみる事が出来る。

 自分の成長に合わせて色々な格闘技や武器を使った戦い方のプログラムをアップデートする。

 僕は龍先生が監修したすべての格闘技。

 居合まで含めたすべての白兵戦技を最終段階まで履修している。

 授業内容は柔道なのだが、みんな15歳になった事もあり。

 終わり際に今度発売される『龍の教典』の戦闘のコツを詳しく教えてくれた。

 

 3時間目はダンスの授業

 

 政府が武道とセットで奨励している。

 多分深刻な少子化対策だろう。

 役人の考える事はよく分からない。

 男の童貞率もハネ上がっている。

 男に原因があるというより女が変わった。

 産みたい時に冷凍精子をチョイスして産めばいい。

 細胞分裂の回数券と言われるテロメアを回復するテロメアーゼが販売されて、富裕層の女性は外見どころか子宮を含む中までも若返ることができた。

 妊娠年齢が10代後半から30代後半までとあせる必要もなくなった。

 侵襲型のマイクロチップはホルモンを調整して妊娠できる状態にできる。

 出来ない状態にすることも可能だ。

 H世代には女がいないからララ達ロボットが2Fから降りてきて相手をつとめる。

 エリーのロボットの真里亞(まりあ)が際立って美人である。

 また、国はiPS細胞を使った同性間カップルによる子作りを認めた。

 精子と卵子ができる。

 精子だけなら肝臓細胞からも作ることができる。

 人工子宮を使わなくてはならない男性間カップルより、女性間カップルの方が子供を持つ確率は圧倒的に多かった。

 iPS細胞を使わなくてすんだから安くついた。

 身体的特徴も女性の方が子育てに適していた。

 富裕層は愛人にも子供を産ませ、日本政府もそれを奨励して配偶者控除を撤廃して、婚外子の遺産相続の権利を承認した。

 キリスト教圏ではないから一夫一妻でなくても日本社会は許容的。

 妻妾同伴どころか愛人で会社を作り、食べさせてもらう多淫症(スーパーセクシャリティ)なども現れた。

 シングルマザーが激増した。

 

 4時間目は健康診断

 

 ウェアラブルコンピュータには健康管理デバイスが内蔵されていて、健康に生活していれば保険料は割り引かれる。

 身体に異常がないか専用人工知能(特化型人工知能)が各種センサーを使いスキャンする。

 X線やMRIなどの画像診断能力は人工知能の方が人間の医者より早くて正確。

 百万分の一の珍しい病気まで発見する。

 0コスト診断。

 匂いセンサーはゲートを通過するだけで、ヒートマップのように可視化できる。

 もともと犬が匂いで病気を感知していた。

 腎機能障害ならアンモニア臭、糖尿病であれば甘い匂い。

 胃の障害なら腐った卵の匂い。

 肝機能ならドブの匂い。

 ガンも含めて様々な疾患が体臭に結びつく。

 自宅のトイレセンサーで排泄物から健康状態や腸内細菌のバランスまでチェックしている。

 必要とあらばナノマシンを血管に注入して治療も行う。

 血液から作った電力や細胞に存在するアデノシン三リン酸を動力として動く、ウィルスのような「自己複製機能」は備えていない。

 ヨーロッパでは環境保全AIがどう学習(クレイジー)したか、人間だけ有害なナノマシンに自己複製機能を持たせて散布する事件があった。

 ウィルスのように数個が1日で百万個に膨れ上がり飛沫感染した。

 消化器官ならカプセルを飲んで手術や薬の散布を患部に行う薬事ロボットの場合もある。

 ウィルスぐらいの大きさのナノライトも開発された。

 紫外線をあてれば患部が光ったり、血管や血液が光ったり用途に合わせて使い分けている。

 身体測定や体力測定も同時に行う。

 コエプコン社でも使用するマイナンバー用の3Dアバターの更新もする。

 リアルネーム(日本では戸籍上の名前、アメリカでは出生証明書にある名前)には国民統一背番号(マイナンバー)が割り振られた。

 社会保証の給付や納税、雇用、不動産に売買、スマート家電の購入など、国に管理されてないがビッグデータに情報は把握されている。

 短時間の血液検査も行われた。

 体外受精とはいえ遺伝子コーディネートした大衆よりは細胞のガン化の確率は少なかった。

 遺伝子改変ウィルスにはガン細胞由来の物もある。

 強靭な肉体、美貌、美声、均整のとれた妖艶な身体を手に入れた代償としての、細胞ガン化ハイリスク。

 ガン自体は早期発見すれば完治できる病。

 BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)が確立している。

 ガン細胞に取り込まれやすいホウ素(ホウ素自体は歯磨き粉にも使われていて人体に影響はない)の特性を利用して、点滴で注入する健康細胞は取り込まない。

 低エネルギーの中性子線をガン部分に照射する。

 ガン細胞内部でホウ素は中性子線に出会うと核分裂反応を起こし、アルファ線が発生する。

 アルファ線はそれまで行われていたX線やガンマ線の3倍の細胞殺傷力を持っているが、影響を及ぼす距離が細胞1個分の長さしかない。

 周辺の健康細胞にはダメージを与えない、効果が大きい上に回数は1回でいい。

 生体治療も発達して、ガン細胞の免疫抗体を取り出して、遺伝子改良して強化してから身体に戻すと治療方法も発達した。

 細胞の増殖を抑える遺伝子のスイッチを入れるだけの治療もある。

 がんの原因は細胞増殖を抑える遺伝子が機能していないだけの場合もある。

 アスリート達にアンケートを実施したら、金メダルをとれるならば寿命があと5年でも構わないと半数以上が答えている

 。

 12時から昼休み

 

 集団お誕生日会が行われてコエプコン社からケーキがでる。

 僕達は1月10日に受精卵の凍結解除を行い、人工子宮に着床される。10月20日に取り出される。誕生日が10月20日と設定される。

 ケーキを食べていると勇者が声をかけてくる。

「魔王とゲームが終わったらロボグルミを持って、おれんちにこないか? 

 バンソニー社にロボグルミのチェックをさせるから、次いでに光ネズミもチェックしてもらおう」

「分かった」

「バンソニーの神経伝達ヘルメットも持ってこいよ。

 15歳になったから、フリーのサーバーで政治的主張が聴けるぞ」

「お前、アダルトポルノのサイトに連れて行く気じゃないだろうな」

 勇者はこの間、バンソニーが提供するアダルトポルノのサイトに年齢データを偽造して進入し、デジタルアイドルとの一夜を楽しんだ。

 あまりにも快感が強烈だったため肉体の方も射精した。

 料理を作るため鼻を改造してあるロボットの姫が気づき、勇者のログを検索して不正アクセスが発覚。

 30秒間電撃によるオシオキを受けた。

 ロボットは規格化モジュール化が進み自衛隊の戦闘用ロボット、メイドロボット、セクサロイド(性欲処理ロボットの造語)と互換性がある。

 スペックの高い規格と金をかければ交換できた。

 人工性器を交換して感触を変えて楽しんでいる人もいる。

 ララの話だが追跡調査の統計を取れば50%の人はミルクがでるように換装しているらしい(本当かな? ロボットが水増ししてウソをつく時はたいてい50%である)。

 規格品をそろえれば安い金額でロボットまでも自作できる。

 外枠のデザインを3Dプリンターで出力して全ての家電製品が世界にひとつだけのオーダーメイドとして自作できた。

 ミクロソフト社の『バンソニーの神経伝達ヘルメットのフィードバックシステムは子供の教育に良くない』とのネガティヴキャンペーンが効果を発揮した。

 キリスト教圏である北米や欧州では優位に進める。

 アジアではフィードバックシステムのデジタルヒロインのポルノソフトが爆発的に受けた。

 ネットで取り寄せればいいだけなのだが、東京では非実在少年少女保護条例があり、ロリコンやペドフェリア向けのソフトが禁止されている。

 お互いにコアユーザーの奪い合いと囲い込みを行う。

 両者は自らのシステムの信望者を集める帝国と化した。

 新しい福祉と新しいサーカスを提供する復活した中世の王国のようだ。

 家臣としてOSを使わせてもらっているゲーム業界や、仮想空間で開発した商品の試させてもらっている企業や、広告団体や代理店が後に続く。

 皇帝に忠誠を誓わなくては商品が売れない。

 電器屋にいけば、物のインターネットによるコントロールといった融合が進んだだけではない。

 小型化されたコンピュータチップと寿命の延びた砂糖電池によって、商品の前に立つだけでウェアラブルコンピュータに情報が送られる。

 立体映像でデジタルヒロインが使用法の解説や性能の説明をるる。

 質問をすればネットのビッグデータから最適な答えを見つけ出して応答する。

「俺だって学習するよ。

 エロは18歳になってからどうどうと楽しむよ。

 魔下 耕世がどんな主張をしているか、聞いてみたい。

 ある意味、俺らコエプコンとは関係ないわけではないだろう」

 最初C世代のテロの時、コエプコン社は標的になっていると思ってなかったから、何の準備もしていなかった。

 リモートコントロールされた戦闘用ロボットが銃を乱射して乗り込んできた時、育児用AIは何をしたらいいかわからなかった。

 皆が子供を抱いてパニックている時、ララだけが当時装甲の積んでない身体で、電撃をオーバーロードさせながら、敵ロボットに抱きついてアンテナを焼き切った。

 ララのデータも同時に吹き飛んだため、3日前にバックアップしたアルゴリズムの検証はされた。

 AIに生存本能がないとはいえ、ララが自己犠牲的な行動がとれたのかわからなかった。

 壊れたメモリからデータのサルベージは試みられたが失敗に終わる。

 あの時ララをかきたてた物は何か? 

 誰にも分からないと勇者から聞いた。

 魔下 耕世にとってロボットは囮で、本命は空調システムにウィルスを仕掛けることだ。

 数多くの監視カメラの中、どうやって潜入出来たか今でも分からない。

 あるいは驚異的に深化した通信速度を使い、外国に拠点を置いて、電気の使用について土地の政府と話し合い、巨大な発電基地を個人所有しているか。

 自分の存在を残さない程のハッキング能力。

「敵を知り、己を知らばっか」

「ダウンロードするならともかく、ご高説を聞くだけなら違法性はないだろう」

「分かった。ロボグルミを持って今夜行くよ」

 

 5時間目は球技

 

 バスケットをする事になった。

 僕と勇者と太郎とエリーと宗茂の5人でチームを組んだ。

 どうもロボット達の人間関係で決まり、戦力の均衡が行われなかった。

 一番運動神経がいい僕がドリブルすればどこにいくか分からない。

 他は言わずもがなである。

 理論家の太郎はバスケットの戦術には詳しい。

 曲がりなりにもボールをゴール下まで持っていく僕に対して「内、外、内とリズムを良くして、敵のディフェンスラインを広げさせないと、切り込むだけでは」と太郎がアドバイスしてくる。

「アホか、お前、内でも入らないのに、外の3ポイントが入るわけないだろう」僕が怒鳴った。

 苦労してなんとか敵陣まで運んでも、太郎にパスしたら入りもしないのに外からポーンと簡単にシュートする。

 一応フォームは美しくて相手チームは入ったのかと錯覚する。

 一番身体のデカイ宗茂に「スクリーン(ゴール下でこぼれたボールを取るための場所取り)」とかっこ良く叫ぶ。

 宗茂は確かにH世代で一番デカイがスピードはない。

 リバウンド(こぼれたボールを取る事)をとれたためしがない。

 エリーにいたってはパスをすれば「きゃー」と叫びながら、よけたり、しゃがんだりする。

 小太りではあるがスポーツゲームをしている勇者だけが少しはマシかなと思っていれば。

 僕も誘われてナムコナミの野球ゲームを仮想空間でしたことあるが、ボールがバットに当たらなかった。

「リアルはダメだ」白旗をあげる。

「なんで?」

必殺技(キラーショット)がない」

 やはりこいつもダメだ。

 だいたいデブキャラは力があるけどスタミナがない。

 1分くらい動けばヘトヘトになる。

 スポーツの基本は走って持久力をつけて、集中力と高いパーフォマンスを長い時間維持する。

 ゲームのアバターと違って現実の勇者の肉体はスタミナも集中力もない。

 ナムコナミもコエプコンの格闘技講座のようにスポーツの仮想空間講座を配信している。

 勇者が「お前、天才肌だから、バッティングとか、ちょっと指導を受ければ。

 けっこうな選手になると思うけどね〜」勧めてくれるが必要に感じなかった。

 それより体質は遺伝子がほとんど決める。

「砂糖に太りやすい」とか「油に太りやすい」とか原因があり、効率的にやせられる個人プログラムはあるのだ。

 社会主義国は「健康は国家への義務だ」と豪語して覚せい剤どころか禁煙さえ強制しているが、勇者は好き勝手に生きている。

 キューバでは昔から速筋と遅筋の割合で幼い選手を振り分けてオリンピックで好成績を収めている。

 中国では遺伝子を調べて個々の適性を把握し、むいている勉強方や基本性格に応じて職業を強制している。

 適材適所だ。

 勇者も専門の機関に遺伝子を郵送して調べている。

 父親はみんな一緒で縄文系が80%、弥生系が20%の日本人。

 北からアイヌ系が、西から弥生系が南から縄文系が入ってきた。

 勇者の母親はアシュケナージ系ユダヤ人(ドイツを中心に東欧にまたがる)。

 イスラエルによるIQ検査で、極めて知能が高いのはアシュケナージ系ユダヤ人だけである。

 セルファルディー系(スペイン在住)やミズラヒム系(中東や北アフリカ在住)やディアスブラ系(各地に散らばる)ユダヤ人の知能は平均と変わらなかった。

 ヒトラーだけが虐殺していたわけではなく東欧とロシアでは時々行われていた。

 優秀な人間が生き残り1世代か2世代で人口を回復していた。

 その成果、若くして死に至る特殊な蓄膿症も遺伝病としてかかっている人がアシュケナージ系には多い。

 勇者も数学的記憶力、計算能力、物理演算力はずば抜けていて、数学だけなら太郎を凌駕している。

 僕達のバスケットがあまりにも下手だから、相手チームが笑っている。

 それを見たララがカチンと来た。花子、姫、真里亞、誾千代が止めたが、ララが飛び降りてきた。

「これ以上はイジメが発生する。選手の交代を」

 審判をつとめるホストコンピューターに喰ってかかった。

「認めます。夕夜出てください。ララ入ってください」

 あまりの事に声がでなかった。

 ララとタッチして入れ替わる。

 ロボットってベースは自衛隊に戦闘用アンドロイドじゃなかったけ。

 試合が再開される。

 ルーズボールをララが獲得すると、ドリブルで5人をごぼう抜き、片手でダンクを決めた。

「こういう風にやれば」

「凄すぎて参考になるか」

 5人でハモった。

 相手チームがおさまらない。

「なんだ、あのロボットは」

「あいつNBAのデータでもダウンロードしているぞ」

「だいたいイジメなんて発生するワケないだろう、あいつらケンカは強いだろう」

 相手チームがホストコンピューターに抗議しまくる。

 そりゃま、そうだろうな。

「抗議を受け付けます。ララ出てください、夕夜入ってください」

 結局取れたのはこの2点だけだった。

「記念に写真撮ろう」

 エリーが言ってくる、みんなで点数を囲んだ。

 右目にカメラを内蔵している真里亞が「1」というと「2」と全員でハモった。

 真里亞がウインクした。

 エリーが自分のブログでアップするのだろう。

 

 6時間目は水泳

 

 コエプコン社は浮かべて溺れなければいい、ぐらいに考えているだろう。

 個人用の流水が用意され自分の体力に応じて泳ぐ。

 タイムを計るわけでもない。

 エリーにいたっては浮輪を使っている。

 

 7時間目はディスカッション

 

 民自党の党員が来て、民自党の歴史や保守理念や政策集団の系譜を講義している。

 どうも敵である進民党は対案をだすことなく批判ばかりしているらしい。

 天皇制に反対している共産党と手を組んだ。

 何人かに別れて議論することになる。

 保守的で愛国的でアジテーションたっぷりの声の大きい奴が場をしきる。

 難民受け入れ、移民受け入れがあり、中国による琉球奪取があり、ネットは右翼の巣窟とかした。

 左翼全盛のころは日教組が10分の1いれば職員室の空気を支配できると豪語していた。

 昔陸軍今総評と言われたこともあるが、昔総評今ネットである。

 

 8時間目は最新家電の紹介

 

 最新家電が用意され、他社の製品も並ぶ。

 近づけばICチップからウェアラブルコンピュータにデジタルヒロインが投影され、外国産も翻訳して性能や使い方をていねいに教えてくれる。手にとって確かめる事が出来る。

 新しいシステムコンピューターや付属のハード、最新プログラム、ゲームエンジン、他社の新作ゲームもプレー出来る。

 使い方が理解できた。

 物自体があらゆる世界共通語である。

 今の時代は大量の開発費と時間をかけて大量生産するより、ある程度商品を企画してネット動画でプレゼンテーションしてSNSで資金を募る。

 群衆資金集め(クラウドファンディング)によるある種の予約生産製造が主流である。

 商品の為に欲しい規格を第4次産業革命(インダストリー4.0)によって実現した無人の全自動自律型電気工場(基本メンテナンスフリー)。

 更に工場同士がネットで連係し、効率よく生産を分配シェアするスマート工場。

[第1次はイギリス発の産業革命(繊維産業、蒸気などの動力革命)

 ・第2次はアメリカ発の産業革命(電力、モーター、内燃機関エンジン、大量生産)

 ・第3次はコンピュータや電子制御による産業技術の革新]

 多彩なセンサー群で機械設備を監視し不良品がでないようにチェックする。

 人間のすることは異常の知らせがあった時の部品交換と定期メンテナンスのみ。

 生産ラインに負担をかけない自動感知による予防修理が行われる。

 壊れてから修理するより、あるいわ定期交換より摩耗する機械をぎりぎりまで使用できる、結果以前より安くあがる。

 センサーは完成品の点検も行う。

 膨大なビッグデータをインターネットに供給し、世界中どこでも納期リードタイムを3日までとして、資材と商品の在庫を極限まで減らす。

 中小企業が得意とする長期契約はやらずに、一週間後の仕事はわからない。

 世界を相手にしているためビッグデータから、この商品にはこれ位の注文があるだろうと大数予測をして[10%も違わない]資材やラインの計画を立てる。

 ここまで機械化が世界中で進むと国際競争力は究極的に電気代まで絞られる。

 チャットで契約とデータをやり取りし、生産してもらう。

 自社で工場を持たない

 組立セットアップして世界中に散らばる競争相手のいない少数金持ち(グローバルニッチゴールド)需要達に発達した無人の輸送能力をフルに使い。

 あらゆるところの求める人に販売する。

 それらの特殊な商品もかき集めて、社員に刺激を与えるのもコエプコンの仕事らしい。

 アメリカの電気自動車は規格化をねらい特許を公開して無償提供したが、日本の燃料電池自動車(水素自動車)の最先端技術はブラックボックス化した。

 日本のモノ作りは1990〜2000年代のポスト冷戦が始まると賃金が20分の1という中国が現れ、同時に第三次産業革命がおこる。

 ブレトンウッズ体制の切り下げから変動為替に移行した。

 数々の産業が国外に脱出し空洞化が起きた。

 新興国による低賃金による人海戦術と産業スパイを含む公開情報のキャッチアップが始まった。

 日本に残った会社はカイゼンを行い、設備ラインを改良し単位時間当たりの生産力あげることで乗り切った。

 諸外国では生産効率をあげると解雇がおこると経営者との間に信頼(トラスト)がない。

 日本のモノ作りの現場は効率をあげても社長が新しい仕事を取ってくると信じてバタ狂いしながら必死に頑張った。

 人工減少によるボトルネックも孤立化型(スタンドアローン)人間型ロボット(アンドロイド)の導入で乗り切った。

 ブラックボックスのデータはインターネットを経由せずにVPNなどの専用回線をつなぎ情報を守った。

 組み込みようOSはTRON(プログラムの起動で優先順位がある)で各社非公開にし、アンドロイドでも使われるLinuxは公開にした。

 現場の人達はアンドロイドに名前をつけて可愛がっている。

 家電製品は構造と機能が1対1対応ですっきりしている「組合モジュラーせ基本設計思想アーキテクチャ」で中国、朝鮮、ASEANにかったぱしにやられた。

 しかし、構造と機能が多対多対応で因果知識や固有技術がたくさんいる「擦り合わせ(インテグラル)基本設計思想(アーキテクチャ)」では、自動車などは一歩も譲らなかった。

 アメリカでの生産はベルトコンベア式で野球の編成と同じだが、日本はセル組立型で個人や少数のチームが完成まで受け持つサッカー型だ。

アメリカはエンジンの圧力ネジをインターネットオークションにかけたが日本の下請け業者も参戦した。

 値段が合わなくて早々に撤退。

 中国の会社が落札したが、中国製の圧力ネジは3年持たない。

 中古車市場で日本車は40%落ちで引き取ってもらえるがアメリカ車は70%落ちまで下落した。

 中古車で売ることまで視野に入れた購買層がみな日本車に流れた。

 車も個人所有より、会社によるリース。

 駐車場から駐車場は乗り捨てる1日リースが流行した。

 中小企業の部品メーカーは、外は「モジュラ」で中は「インテグラル」で対抗した。

 集積回路は中国や朝鮮にコピーされたが、基礎工業力がいるコンデンサーなどはコピーされなかった。

 日本の企業は商品がいかに使われているか追跡調査をして、建設機械などは転売情報まで入手していた。

 諸外国はペタの情報を超えるがビッグデータが活用できるようになって商品の追跡調査を行うようになった。

 もともとはある程度のサンプリングデータを元に母集団の情報を類推する統計学が使われていた。

 今では母集団の情報をわしづかみにしてAIによるビッグデータ分析。

 統計学は欧米でも衰退した。

「クローズ」「緻密」「すり合わせ」「自己完結」「ギャランティ」を尊ぶ日本社会では誰に責任があるか、ガバナンスがいるオープンイノベーションのスマートフォンや、分権的なスマートグリッド小規模発電やコストの最小化ではコテンパンにやられた。

 コレコレという技術をどう使い、これからの社会はどうあるべきか、哲学的な思考がいる出口戦略も弱い。

 日本中小企業にも何か異質なものが近づいてきていた。

 世界統一規格による世界全工場並列処理。

 労働集約的な製品(貿易材)の労働力が多い国が得意とする。

 資本集約的な製品(貿易材)は資本の多い国が得意とする。

 調整集約的な製品(貿易材)は調整能力の高い日本の工場現場が得意とした。

 最後のフロンティア・アフリカまで開発がすむと労働者の賃金もグローバル化してどの国でも高騰した。

 日本の工場による逆キャッチアップがおき、同じ給料でも日本の現場が生産能力と品質管理(クオリティ)納期(リードタイム)で圧倒した。

 経済取引は相手を信頼しないと成り立たない。

 国家が商法など法制度、不動産などの登記システム、格付け、消費者保護制度など整備してないと国際貿易ができない。

 朝鮮は法の上に反日がくるし、中国は共産党の都合で法を変え、工場が撤退する時「社員の生涯賃金を保証しろ」と言ってくる。

 信頼性の欠如が昔から大きな問題だった。

 

 そして集団授業は終わり、ララと部屋に帰る。

 さっそくミクロソフト社の神経伝達ヘルメットをかぶる。

 アバターは国家に登録している3Dデータを使用しなくてはいけない。

 国家から振り分けられるマイナンバーも登録しなくてはいけない。

 匿名性を徹底して失くす。

 誹謗中傷が起きれば犯人を突き止めて、ログを証拠に法的措置がとれるようにしてある。

 さすが洋ゲー。

 権利や人権にウルサイ。

 ヘルメットをかぶりダイブすると味も匂いもない、風も感じない。

 固定されたロボットに閉じ込められた気分。

 魔王が指定したサーバーに入る。

 洋ゲーとはいえSAGEが提供しているからキャラクターとかは日本調である。

 名前をピヨッピーと打ってゲーム『スペーストレイダーズ』で使用するアバターを造る。

 SFの割に宇宙人がいない。

 土星のリング周辺をうろちょろする宇宙開拓時代。

 情報伝達が異常なまでに発達して、死んでも記憶を移動させてクローンで宇宙ステーションに蘇生してやり直しができる。

 基本ソーシャルゲームはセーブポイントからやり直しというのがなくなった。

 ナノテクノロジーか究極なまで発達してじっとしているだけで、傷ついたHPが自動で回復するらしい。

 サイバーパンクのように機械をあちこち入れ込むことができない。

 アジア系を選択して髪をピンクにして入った。

 クローンの培養槽から出てきた、手違いによって記憶がないという設定になっている。

 ゲーム世界の説明を受けロビーにでた。

 ただなれてくると視覚と聴覚しかなくても残酷な映画をみて眉をひそめるように、身体移転《ボディオーナーシップ・トランスファー》とよばれている。

 この程度でも「間違いなく自分の身体だ」という感覚に襲われる。

 傷みはないが遠隔ロボット操縦の技術はアメリカが上だ。

 魔王からも説明を受けている。

 ゲームの総指揮をとったのがマイケル竹中、自由競争主義者そして最小国家主義者。

 SAGE自体は『幻の星』というSFオンラインゲームを展開していたため、そのノウハウがありスペースオペラに適正があった。

 ハマれば面白いらしいが初心者にはかなり敷居が高い。

 ミクロソフト社はバンソニーのような買い取り型のゲームマネーではない。

 それぞれのゲームが仮想通貨を設定し、ドルで仮想通貨を買えるだけでなく、ある程度貯まった仮想通貨をオークションで売り、ドルを獲得できる。

 こうなってくるとゲームというよりセカンドライフと言った方がいい。

 ある意味、ヘビーユーザーがたくさんの金をゲーム運営会社に納める。

 ライトユーザーがシナリオをクリアして小金をゲーム運営会社から稼ぐ。

 富の再分配と見れば新しい福祉モデル。

 神経伝達ヘルメットは身体に障害がある人も、お金がなくて義体化や再生医療を受けられない人も、同じスタートラインに立てる。

 神経伝達ヘルメットを買えればだが。

『スペーストレイダーズ』では、実際のマーケットで売り買いされている架空通貨(ガットコイン)をゲームでも採用している。

 バンソニーのゲームマネーは他人に譲渡できない。

 架空通貨(ガットコイン)は電子マネーというよりは決算システムである。

 システムが機能するルールを公開して誰でも参加でき、コインがどこどこに移動したとの決算がとりあえず一度情報プールにプールされる。

 金堀人マイナーと呼ばれる人達がプールから情報を取り出し決算表を作成する。

 そして1番たくさん情報を盛り込んだ決算書が採用される。

 めでたく採用された方は75ガットコイン(1ガットコインは3万円ぐらい)が決算書に支払われる。

 それが10分おきに行なわれる。

 作られた決算書は51%のマイナー達が正確であると認証して自分の決算書を作り始める。

 51%の人がウソをつけばガットコインの横領ができるのだけど、みんなお金が欲しいからそんなことはありえない。

 仮に51%をあざむけるハッカーならマイナーになった方が合法で儲かる。

 マイナー達は1秒間のコンピュータの計算回数をあげるため、専門のコンピュータを複数。

 クーラーがいらない北欧の中で、電気代の安い地方で並列処理している。

 情報プールから自動で拾得さるプログラムも開発して、マイナーなんて物は素人が手をだせる物ではない。

 少額の運用の場合、ブロックチェーンシステムに負担ばかりかける。

 両替所がいったん預かりプールの中に投入するしかない。

 10分待たなくていい、ほとんど即決。

 ある程度たまったら両替所が自分の決算書にあらかじめ書いておき、いっきにプールに吐きだして他のプログラムをだしぬき、75ガットコインを獲得するというビジネスが成り立っている。

 銀行にお金を置いても利息という旨味もなくなりマイナス金利。

 送金の手数料はガットコインの方がはるかに安い。

 第三諸国ではウェアラブルコンピュータはあっても銀行の支店はない。

 出稼ぎ外国人はガットコインでやりとりしている。

 昔は公開鍵や秘密鍵などの認証が必要だった。

 昔は暗号解読が一万年かかる時間が保証になったが、今の超量子コンピュータの実力なら1分以内に解読する。

 今ではマイナンバーと所有するウェアラブルコンピュータの暗号が代行してくれる。

 その代わりガットコインの移動は税務署に筒抜けになり、自動で課税された。

 ハッカー対策でシステムのアップデートは毎晩夜中の3〜5時の間に行われている。

 今ではAI達が新しい発想で組んだ暗号はクッラカー(悪人ハッカー)の能力を超えていた。

 一応ガットコインの発行額は決められていて、ある程度期間が立つとマイナーへのご褒美を減らしながら、インフレにならないように終わるのである。

 ゲーム内の仮想通貨と違って、ネットで日用品や食べ物を買うことができ、無人のマルチコプターで部屋の窓に配達してくれる。

 追加料金を払えばゴミや排泄物を回収してくれる。

 アメリカではブロックチェーンシステムによる企業経営ができないか「DAC(Decentralized Autonomous Corporation:分権化した自動企業)」呼ばれている。

 組織の運営を社内取締役CEO:社長ではなく、透明性の高いプログラムで経営できないか実験が始まっている。

 分散台帳方式ブロックチェーン世界中のマイナーに分散されるため改ざんされにくい。

 仲卸業者や中間人のマージンが0になる。

 国際送金、著作権、制作業界、アート作品の管理、ヘルスケア、エネルギー産業、クラウドソーシング、土地登記、サプライチェーン、シェアリング・エコノミーなどが2分で一万円の報酬で政府に寄らないマイナー達が管理している。

 国家は公的認証サービス(土地登記、婚姻、出生、死亡、パスポートのID、戸籍登録、財産権の記録)は国民のみが参加する(1分毎の報酬は国によって違う)プライベートブロックチェーンを活用して自動化した。

 納税、警察、教育、医療、選挙、会社設立などの多くの公的サービスがオンラインの上ペーパーレスでうけられた。

 国民・政府職員双方の手間やコストが大幅に削減された。

 第三諸国では自国の通貨より信用がある。

 もっとも貧者は10人位のグループを作って1台のウェアラブルコンピュータを買う。

 各人が独立した暗証番号を持って仮想通貨の運用していた。

 電気は屋根の上に太陽電池を置いていた。

 耐久消費財の複数人使用。

 その権利はスマートプロパティと呼ばれている。

 そもそも個人にとって貨幣の価値など次の4つである。

 ①交換の媒介②価値の尺度③価値の貯蔵手段④喜びの提供。

 政府発行の金と交換できない不換紙幣だって、デフレになれば価値は上がり借金している奴は苦しむ。

 インフレになれば価値は下がり借金している奴は喜ぶ。

 需要と供給のバランス曲線は保存がきかない縄文時代なら、昨日とったウサギを売らなければ悪くなるという計算が働き、魚2匹で我慢しますというのが成り立つ。

 貨幣になって価値を貯蔵できる。

 必要な時、必要な物を、必要なだけ買うのであり、生活必需品なら品薄になれば(昔は買い占めもあったろうが)値上がりもあるだろうけど、それ以外はナンセンスである。

 たくさん需要がある企業も薄利多売をすることもある。

 カルテットするならともかく独占できてないなら得に。

 石油の値段が下がれば原料や輸送費が下り、デフレとは関係なしに商品の値段は下がる。

 狂った政権の間違った経済政策によるインフレターゲット2%は「デフレになれば支出を延期する」とか「インフレになれば買い急ぐ」とか人は効率的にできてない。

 将来に不安があれば財を貯めるのである。

 消費税が上がる度に駆け込み需要はあるが。

 日銀のマイナス金利を持ってしても実現はしなかった。

 金利が下り富裕層は何で貯蔵(財を未来へ運ぶ、運用する)したら価値が暴落しないか(希少金属『金』も石油と一緒に暴落した)。

 税金は安いかそればかり考えている(マイナス金利だから銀行に預けたら資産が減る)。

 一方遺伝子をイジってない貧困層の子供達はカロリーのほとんどを給食と配給でとる。

 ウェアラブルコンピュータで流される無償の通信教育で貧困からの脱却を試みる。

 さらにこの政権が残した解釈改憲と言う負の遺産と貨幣乱発による暴落した国債(金利も高額化した)の借金から日本はまだ立ち直れなかった。

 消費税を50%にしてもプライマリーバランスは黒字化しなかった。

 ゲームの説明を受けて培養槽の部屋からでた。

 死んだ場合はインプラントコンピューターから培養槽に情報が送られ、ここからクローン代の0.01ガットコインを払ってゲームに復帰する。

 インプラントコンピューターとスーパー情報通信のおかげで経験はキャンセルされないという設定。

「魔王。今培養槽の部屋からロビーにでたよ」

 日本語で全体チャットした。公用語は英語。

 金髪のアングロサクソン系の女が小さく手を振りながらやってくる。

 このゲーム、チュートリアルが終わったばかりだと身長140センチ体重50キロの丸坊主。

 金を払って髪型や体格や巨乳をガットコインで買わなくてはならない。

 巨乳はHPが増え、体格は攻撃力が増え、脂肪は防御力が増える。

 アメリカ的体格は正義なのである。

 女が有利だから、魔王は性別を変えている(元に戻したと言うべきか)

 動画でトロフィー授与の画像では貧乳だったが、ゲームではHPが稼げる巨乳にしてある。

「ようこそ、ピヨッピー。CERO Cの世界へ」

「始めまして、CERO Cでいいのかな」

「基本全員商人で、全員海賊だと思ったがいい」

「一応、ゲームの日本人ギルドが運営しているホームページは読んだ。

 チュートリアルもない、自由度満点で日本人には向かない、って書いてあった」

「まあ、そうだろうな。

 基本人殺してもペナルティがない。

 かといって経験値がないゲームで武装強化、超能力開発、宇宙船購入。

 全部ガットコインのやりとりだから殺しても金は手に入らない。

 装備は奪えるがロットナンバーで管理されているから、市場に被害届けをだせばNPC商人に足元見られて100分の1で買い叩かれる。

 安全でいたかったらダイヤとか身につけないことだな」

「土星の周りにある宇宙ステーションは安全地帯じゃないの?」

「ここでドンパチやる奴はいないが、禁止事項ではない。

 基本自分の身は自分で守る。

 ここでは高い税金を払っているが、国家は安全保障をしない。

 国家のしていることは新兵器の開発、隕石に点在する資源の調査、オークションなどの市場操作かな。

 後はゲーム開発資金の回収と運営しているプログラマーの給料になっている」

「警察もなければ、保険もない。

 なんかマイケル竹中って最小国家主義者というよりは無政府主義者《アーナキスト》だな」

 保険というのは加入者による互助組織で、運行する海域の損耗率で保険料を決める。

 第2次世界大戦の民間船の損耗率は第一次世界大戦のイギリスの保険会社のデータによって予測は立てられた。

 ガン保険も発症率から保険料を計算する。

 海賊が産業のゲームでは計算が成り立たず。

 誰も保険を作ろうとしない。

 経済に参加する各人は、自己利潤のみに専念すべきであって、他に余計な事をすべきではない。

「徴税などで邪魔する政府など本来存在すべきではない」というイデオロギーのリバタリアニズムの方が近いかな?

「そんなにかわいいもんじゃない、あんまりひどいのは土星政府が被害者と共同でデッド・オア・アライブ懸賞金をかけたりする。

 クローン技術があるから死にはしない、自分が優位の時は捕まえて冷凍刑にできる。

 ゲームを辞める奴もいるが、ガットコインが稼げる奴には稼げるから保釈金の0.1ガットコインを土星政府に払ってゲームに復帰する奴もいる。

 海賊ギルドがあちこちで組織され、隕石を改良して根城を作ったりする。

 資源隕石を確保しても、埋蔵量と1日に掘り出せる掘削技術にも限界がある。

 資源隕石もいつかは枯渇することで市場をコントロールしている。

 どのギルドにも所属しない宙域や係争地帯に、ある程度の埋蔵量を持った資源隕石が発見される。

 戦争の道具の矛と盾をずらしながら開発して、ガットコインを湯水のように使うへビーユーザーの購買欲を刺激する」

「トレイダーズだから、貿易が主流じゃないの」

「最初はそうだった。

 超光速通信で土星の周りにある5つの宇宙ステーションに市場マーケットが存在したが、資源がだぶついている所が安くなって、資源が少ない所が高くなっている。

 Aという市場で買ってBという市場に売る。

 そういう商売が成り立つと思っていた。レーザー推進の移動が値段情報の通信速度より時間がかかるため、他の人間も同じことを考えていた。

 宇宙ステーションについたときには、供給過剰になり値段が暴落していたという笑えない話もある。

「政府が安く買って高く売る」商売をしていることにみんな気づいた。

 資源隕石で採掘して、手数料を払って、オークションにかけた方が高く売れて、買う側も安く買える。

 お金を貯めようとすれば、資源隕石で採掘してオークションで販売するのが一番いい。

 基本ゲームでデータだから倉庫に保管する場合は泥棒できない。

 使用料払って、オークション見ながら売り時に、はき出すのが一番いい。

 オークションの手数料は自分が設定した最低価格の2%(2日以内に売れなかった場合は打ち切り、その場合でも手数料は取る)」

「今から(怪獣狩人のゲームみたいに)ホリホリ?」

「いや、海賊するから、個人戦闘装備を揃えてくれ」

「宇宙船が闊歩する世界で個人装備?」

「説明が悪かったな。資源隕石を採掘しているのは、人間じゃなくてロボットなんだ。

 プレイヤーは資源の運搬をしたり、海賊したりしている。

 複数の資源隕石を運営しているから、全てを管理するのが難しい。

 プレイヤーがいないときに資源隕石から、採掘して貯めてある資源を泥棒するのが手なんだ。

 もちろん防衛施設を敷設している。

 そいつらを倒して資源をいただく、お前にとっては始めての無重力戦闘だ」

「装備、どれくらいかかる?」

「武器も、防具も、政府が電子タグ。を付けて、ロットナンバーを割り振って、廃棄まで追跡(トレーサビリティ)で移動を管理している。

 リーダからの電波をエネルギー源として動作するRFタグで、電池を内蔵する必要がない。

 タグのアンテナはリーダからの電波の一部を反射するが、ID情報はこの反射波に乗せて返される。

 反射波の強度は非常に小さい。

 あらゆる認証機能をつけた武器が賢くて、使用者本人でなければ引き金がロックされる。

 ナイフはともかくレーザー系のソードは光る刀身が出てこない。

 1ガットコインあれば最強装備電磁ガンが買える。

 無重力戦闘だから反動はないほどいい」

「ふんじゃ、ララに電話するね」

 ゲーム内からサウンドオンリーと書かれた画面が左横に表示される。

「どうしました。マスター」ララの声が左耳からする。

「今からゲーム内で海賊することになった。

 このゲームは暗号通貨のガットコインが流通している。

 このゲームは初心者だからと言って、魔王に守られる存在になりたくない。

 魔王とは対等でありたい。

 男の誇りのようなものだ。

 1ガットコイン(3万円ほど)融通して欲しい、スタートダッシュをかける」

「何、馬鹿なことを言っているのですか?」

「はい?」

「男の誇りがかかっているんですよ」

「はあ」

「10ガットコインぐらい欲求しないでどうするんです」

「はい」

「貯金が趣味だなんて、そんなみみちぃ男に育てた覚えはありません」

「では、10ガットコインで」

「それでは、0.01ガットコインの手数料を支払いますね。10分以内には移動すると思います」

 ガットコインは手数料無しで決算してくれる。

 マイナー達は全ての取引を2日以内に決算しなくてはならない。

 それがルール。51%の正解承認が受けられない。

 逆にマイナーに手数料を払わないと後回しにされる。

 情報プールの中から手数料があるモノを優先するプログラムになっている。

 銀行だと手数料は千円ぐらい取るから安い。

 マイナス金利だから銀行はドロボウ対策としてお金を払って預ける、そして送金のできる金庫。

 僕のデータに10分もしない間に10ガットコイン移動してくる。

「ララって、お前には本当に甘いよな」

 昔はロボットを信じすぎる論理的ジレンマ(エシカルジレンマ)よばれ、社会的なバリヤーが無くしネット銀行の暗唱番号を簡単に話する高齢者が増え、新しいサギも産まれた。

 今ではロボットが複数のプログラムがからみあい大分ええかげんなことがばれ、あまり信用し過ぎない事が周知の事実である。

「武道の龍先生も、ララにペットを育てているわけではないぞ、と人間を育てるだぞ、と説教していた」

 体験授業の一環としての社会参加以外仕事をしていない、家事も手伝っていない、おつかいもしたことない、学習期間ではあるがペットのように生きている。

 それが悪い事をしているとは思えない。

 クリエイティブな仕事をしない限り、実務能力はロボットの方が何をしても優秀である。

 ほとんどの労働者はウェアラブルコンピュータの支持で動いている。

 その方が効率もいいし、間違いもない。

 頭を使わないから楽である。

「ララって、資産管理しているんだろう。大丈夫か?」

「ララがしているわけではないと思う。

 コエプコン社の中央コンピュータが全員の資産を一括で運用していると思う。

 国債の金利の世界平均が1%の時代に年利3%をはじきだしている。

 ララにお金を渡したらデリヴァティブや先物買いやリバレッジに手を出して3日で破産する」

 国債を買ってもらうため年利10%を歌った国はあったが、債務不履行デフォルトをおこし紙クズになった。

 投資家はそこまでのリスキーな商品には手を出さない。

 宇宙ステーションのロビーの中にはショップと土星政府の役所、超能力開発センターそして酒場。

「酒場って何やっているの?」

「このゲームはNPCからのクエストがない。

 誰かがガットコインを払って人間を募集している。

 お前のように誰もがスタートダッシュをかけられるわけではない。

 社長に仕えるサラリーマンとまではいかないけど、人に雇われてガットコインを稼ぐのが序盤なのさ、過激な奴はテロリストとまでは言わないけど、海賊ギルドに入る」

「超能力開発センターって、金を払えばいいの?」

「ガットコインを払って、イベントを受けなくてはいけない。

 ダークマターを信奉する闇の超能力軍団との戦いが待っている。

 物語ストーリーテラーを楽しみたい奴はここで楽しむが、ガットコインを払わないと先に進めない。

 俺は念動力サイコキネスと予知を1レベルずつとった。

 遠くにある銃やレーザーブレードを引き寄せることができ、予知で弾道の予測線が表示され、レーザーブレードの刀身を置いとくだけで勝手にはじきとばしてくれる」

「凄い」

「ちょっとかっこいい。次はお前のイベントを手伝ってやるよ」

 魔王とショップに行って装備を揃える。

 1ガットコインを払って電磁ガンのサンダーボルトを買った。

 レーザーブレードで切り込む魔王を援護する。

 接近戦用で僕もレーザーブレードを買った。

 念動力のレベルを上げるとサイコソードが使えるらしい。

 聞いただけでワクワクする。

 無重力下で身体を安定させる、あちこちに電磁パルスの噴射口ノズルがついた宇宙服を買った。

 反重力機器が存在して、宇宙ステーションの中は重力コントロールで1G安定。

 物理攻撃を見えない力で反発させて無力化する。

 二の腕に取り付けるぐらいの大きさの重力盾グラビティシールドと、光の波長などレーザー兵器を中和させる。

 皮膚に塗るポリマーを買った。

 後は隕石の表面に張り付いたり、高重力で足底を固定したり、スライディングしたり、壁走りしたり、多少距離があっても打ち込む電磁アンカーつきの靴を買った。

 プラズマを発生させて運動エネルギーを殺すバリヤーも買った。

 商品購入によるガットコインの移動は手数料無料である。

 SAGEは大企業、2日ぐらい待てる。

 まだガットコインに余裕があるが、次回の超能力イベントにとっておく。

 魔王が土星政府に行って、宇宙船をレンタルしてくる。

 宇宙船を宇宙ステーションのドッグで作ることができる。

 パワーのあるエンジン、大きな貨物室、レーザー推進、ナビゲーションシステム、機関砲、シールド、強力な亜空間魚雷、レーザー、ミサイルなどドッグを管理する政府と話しあう。

 設計図を作る。

 ドッグを借りる前にたくさんの部品と、それを作る資源が必要、政府に任せたら天文学的数字になる。

 このゲームで外せないのがハイパーレアメタル。

 超能力機器を作るのに必要なミスリル。

 バリヤーや重力コントロール機器の原料となるアダマンタイト。

 超光速通信に使用されるオリハルコン。

 闇の宗教結社が技術を独占するダークマター機関のヒイロイカネ。

 ダークマター機関はヘリウムの光子力推進レーザー推進と違う。

 宇宙の90%を覆う暗黒空間に潜ることができる。

 宇宙で超能力探知やオリハルコン探信音の間をぬいながら潜水艦戦ができ、上級者同士の戦いは予測と駆け引きが必要。

 暗黒空間は通常空間より10倍ぐらい早く移動できる。

 隕石達の干渉も受けない。

 ただ暗黒空間も重力の波があった、座礁する危険地帯がある。

 この空間で高速戦闘すると通常空間の座標が分からなくなりどこに出現するか運による。

 この4つは特別であり、鉱脈が発見された場合は海賊ギルド同士の争奪戦がおこる。

 あとレアメタルとして金・銀・銅・鉛・錫・水銀・亜鉛・鉄・ニッケル・コバルト・ウラン・硫黄があるがゲーム会社のSAGEはわりとだしている。

 だんだん在庫がなくなると値上りするから、先を読んで誰かが取りに行くことはある。

 初心者向けであり、ヘビーユーザーから見向きもされない。

 戦争の引き金にはなっていない。

 ただSAGEは優秀で個人が独占して値を釣り上げ、安く買うため値崩れするほど、空売りできるほどの量をゲーム内にださない。

 その上あまり高くなれば自分で資源隕石に取りに行く。

 宇宙だから石油関連の化石燃料はない。

 推進装置は電磁パルスで、その燃料は木星から宇宙ステーションが輸入されるヘリウム。

 僕が買った宇宙服も、酸素と窒素とヘリウムを背負っている。

 早速宇宙港に行きレンタルした宇宙船に乗り込む。

 空気抵抗や水による流体力学などを考えなくていいから、たくさんの貨物室を作るため宇宙ドッグの幅が船の幅になる。

 ドッグマックスと呼ばれる長方形になる。

 下部に船の長さある大口径レーザーがついている。

 バリヤーが強力で戦闘機程度の出力では有効ダメージを与えない。

 船にガッチリ固定した大口径レーザーか、バリヤーを無効化し暗黒空間から通常空間に攻撃できる亜空間魚雷が必要。

 亜空間魚雷は使い捨てで値段も高いし、機関砲や1人乗り戦闘機やドローンで撃ち落とされるから対費用効果は期待できない。

 ヒッグス粒子を使った対戦艦用極小ブラックホール手榴弾があるが高価すぎて手が出ない。

 レンタルした宇宙船でハイパーレアメタルの争奪戦に参加するのは不可能。

 オークションを見て、品薄になって値段が上がり始めたコバルトの泥棒をする事にした。

 宇宙土星航海図に、だいたい30分ほど光子力推進したところに貯まっている隕石があった。

 光子力推進は100kgの物質を3日で地球から火星まで送り届ける。

 3秒で地球を一周し、有人なら1カ月で地球から火星まで送り届ける。

 光速の30%。

 1日に採掘できる量がだんだん減ってきて、所有者がうち捨てる。

 政府から払い下げてもらった掘削機は隕石から引き剥がすことができないが、防衛施設は新しい隕石に移動させる。

 個人店主にとってはけっこうねらい目。

 基本出発の時は海賊に襲って来ない。

 帰って来る時に襲われる。

 防御のバリヤーが強力だからジグザグ航行しながらけっこう逃げ切れるらしい。

 宇宙船は1人で操縦できる。

 離陸と着陸の時に操縦するぐらいで、あとは宇宙船のコンピュータによるオートパイロットだ。

 操縦席で魔王が運転の仕方を親切に教えてくれる。

 普通はマニュアルを購入するか、誰かに雇われて仕事を盗むかである。

 離陸が済むと何も入ってない格納庫で0G戦闘や射撃の練習。

 宇宙服の使い方を魔王がていねいに教えてくれた。

 しばらくしてだいぶ慣れてきたとき、船のコンピュータが目的地に到着したことを、インプラントコンピューターに報告してくる。

「いっちょ、行きますか」

 魔王がコクピットに乗り込む。

 僕は後ろの背もたれにしがみついた。

「これ以上近づけば、攻撃します」

 隕石のコンピュータが警告してくる。

「ダンジョンファンタジーのドアもこういう奴いるよな」後ろから魔王に声をかけた。

 魔王が大口径レーザーを補助電磁パルス推進で調整する。

 敵の防衛施設の機関砲をねらう。

「これが、答えだー」

 敵のバリヤーを超える大容量レーザーをぶっ放し機関砲を破壊した。

 敵も反撃してくるがこちらのバリヤーを貫通させるような防衛施設は置いてなかった。

 火力の大きな順番に、反撃してくる兵器を大口径レーザーで破壊する。

 発射する時にバリヤーを解除しなくてはならないが、そんなにタイミングが合わせて攻撃して来ない。

 魔王の方がうまい。

 すべての防衛施設を破壊してドッグに乗り込む。

 対人戦用の兵器が攻撃してくるが、レンタル船に傷がつく程度である。

 船についている稼働機関銃で近い順につぶして行く。

「ようし、後は中央コンピュータをハッキングするだけだ」

「スキルか何か?」

「まさか? 土星政府が作った掘削機や宇宙規格のコンピュータだ。

 レベルはあるが、政府が販売しているコンピューターウイルスは100%だ。

 ただ中央コンピュータにフラッシュメモリーを直接接続しなくてはならない。

 そしたら機械の支配権を獲得できる。

 誰かが書き換えるまで俺たちの隕石だ」

 魔王は宇宙船の機関砲で対人戦防衛施設を見える範囲を破壊した。

 インプラントコンピューターにこの隕石で使用されている掘削機Cー160の設計図や構造をダウンロードする。

 中央コンピュータまで矢印がでてくる。

 道に迷わなくていい。

 特殊部隊の専門のゲームをした事はあるが、攻撃側(ASSAULT)防御側(DEFENDER)に別れている。

 両方共OPA(偵察=Observe、立案=Plan、突入=Assault)がベースとなっている。

 攻撃側はカメララジコンによる現状把握やチャージといって壁破壊がある。

 防御側は鉄条網による行動制限やブービートラップによる爆破、タレットと呼ばれる火力のある固定機銃などがある。

 色々ゲームをやっていると固定レーザーの位置を把握するだけで突入してもいいのかな? 

 思わないでもないが、経験者の魔王がサンダーボルトを肩に担いで(装備が魔王とかぶっているが、初心者の内は配信動画される上手な人のプレイをマネするのが一番)「行くぞ」とドッグの通用路に歩き出した。

 どうも一番中央コンピュータに近い経路を通って行く、最小抵抗線の突破という概念は魔王にはない。

 スタンドアローンで動く防衛用ロボットはいないようである。

 壁に隠れながら、カガミで状況を確認しながら廊下を進む。

 作業用ロボットや修理用ロボットは僕達の姿を見ると逃げて行く。

 固定されたカメラとレーザーが僕達を攻撃してくるが、「まあ、見ていろ」魔王が予知能力の弾道予測線に二刀流のレーザーブレードを置いておくことで反射しながら突き進む。

 レーザー機器の足下にくるとレーザーブレードで串刺しにして沈黙させた。

 かっこいい。

 120分の1秒が分かる魔王だからできるのか、それとも予知能力レベル1の人は皆できるのか、それは分からない。

 ただ魔王はカッコよかった。

 何度か魔王が突撃を繰り返したら、目的の中央コンピュータにたどり着いた。

 入力端子に政府から買ったフラッシュメモリーを差し込む。

 たいして時間もかからない内に「マスター。オーダー。プリーズ」と言ってくる。

「今、ドッグにいる宇宙船に積み込められるだけコバルトを積み込んでくれ」

 魔王は慣れている。

「イエス。マイ。マスター」

 僕はなんとなくこのコンピュータがかわいそうだった。

 最盛期には護衛艦がついて、宇宙ステーションと隕石の間を宇宙船が行ったり来たりしたろう。

 これはゲームで、使用されないのなら動かないプログラムだろうけど。

 設定では捨てられても、完全オートメーション化され、太陽電池が供給するエネルギーの下、1日少しずつ掘り出し商品化していた。

 架空通貨ガットコインもインフレ防止の為に、マイナーに対する報奨金をだんだん減らして、市場に供給する量を減らす。

 やがてマイナー達が並列処理しているコンピュータの電気代が出なくなった時、マイナー達はガットコインを捨て、新しい架空通貨に資材と資源を投資する。

 それでもガットコインはここにある掘削機の様に細々と運営されるのだろうか?

「マスター。積み込み完了しました」

「ピヨッピー。帰るぞ」

「マスター。施設に破損箇所があります」

「適当に修理しといて」

「マスター。資材に備蓄がありません。すみやかに供給をお願いします」

「移動できる物は移動したのかな? 修理用ロボットとか置いてあるのに? 」

「たぶん? 新しく買った向こうの掘削機にセットでついているんじゃないの? このゲームは洋ゲーだぜ。もう少しドライに考えないと。奴らに『もったいない』なんて通用しない」

「掘削機ごと移動できないの?」

「掘削機だけはできない事になっている。

 性能のいい新製品も安い値段で政府が販売するしな。

 お前、それぐらいでいちいち悩んでいたらCERO Z(18才以上)のゾンビパニック物なんかやっとられないぞ」

「そんなに凄いの?」

「そりゃもう、異常な所だけはサービス過剰だからな。

 攻勢がやんだ時『お前は、俺を裏切らないよな』と言いながらショットガンに頬ずりをしていたよ」

 魔王の言っている事は多分正しい。

 僕達は宇宙船に乗り込み隕石を後にした。

「帰りは慎重に運転して帰らないと、大手宇宙海賊ギルドの領地は通らないようにしないと」

「そんなに見つけしだい襲ってくるの?」

「みかじめ料を毎月支払えば護衛してくれる。

 戦国時代、瀬戸内海の村上水軍は秀吉が総無事令をだすまで案内人と旗を供給して、襲う船と襲わない船を区別していた。

 そういうものがある。

 ただ恐れられるために襲うのだ」

「ロクでもない話だ」

「そういうゲームだと割り切らないと、実力主義は嫌いか?

 予定調和のゲームの方がすきか?」

「まさか! ふるいつきたくなるほど好きさ」

「お前なら、そういうと思った」

 ナビゲーションコンピューターに海賊ギルドの領地を通らないよう指示したあと、魔王と宇宙海図を見ながら、海賊ギルドが運営するチャットルームで情報を集めたり、政府の発行する情報ニュースをみたりして、コックピットの中で待機していた。

 なんとなくリラックスしていたら、コンピュータがいきなり「未確認の宇宙船が近づいてきています」報告してきた。

「安全じゃなかったのか?」

「最初に言ったろ。みんな副業で海賊やっているんだ。

 弱そうなレンタル宇宙船はねらわれるのさ」

「通信がきました。お受けになりますか?」

 魔王がニヤリと笑った。

「釣れたぜ。お前、よけいな事言わないで、俺に全部任せておけよ」

 魔王の空中に黄色のターバンを頭に巻いたヒゲずらの男が、両脇に2人の男をはべらせ映っている。

 LGBT(性的少数派)というやつだろう。

 ストーカーされるのが嫌でネナベもいるから単純ではないのだけれども。

「よお、兄弟」低い声でニヤリと笑いながら声をかけてきた。

「よお、兄弟」魔王が弱々しく答える。

「そんな弱っちいレンタル船で、どの海賊ギルドにも属さない、個人店主がひしめきあう海域をノコノコ飛んでいたらダメじゃない。

 まるで海賊してくださいって言っているもんだぜ」

「兄弟、勘弁してくれ。

 コッチは初フライトなんだ。

 今レンタル船を壊されたら。

 預けていた保証金の10ガットコインがパァになっちまう。

 俺もやっと個人店主に成れたんだ。

 見逃してくれ」

「そうか、まあ、初フライトならしょうがない。

 撃ち落とすのは勘弁してやる。積荷の半分をよこしな。手伝ってやるよ」

「せめて10分の1で」

「世の中の厳しさを知るいい機会だ」ドスをきかせて「ビタ一文まけねぇ」満足そうに大きな鼻息をならした。

「分かったよ。兄弟」

「分かればいいんだ。

 こちらの誘導ビーコンに従って後部ハッチを開けろ、おかしなマネしたら撃ち落とすからな、宇宙ステーションまでは遠いぞ、俺も賞金首にはなりたくないからな。

 俺はひつこいぞ、出てきた所を撃ち落とすからな」

「分かっているよ。兄弟」

 通信が切れた。魔王が少し笑う。

「よお、ピヨッピー。接近戦《インファイト》の時間だ」

 魔王がコクピットをオートパイロットにすると、サンダーボルトを担いで後部ハッチに向かった。

 僕も続く。

 やがて後部をグラップラーアームで固定する音がした。

 ハッチを開くとき、宇宙共通無線が入ってくる。

「おかしなマネを考えるなよ。こっちは作業用ロボットとはいえ12台、武装させているからな」どうやら敵は12台である。

 動くハッチの一番上に足の裏の電磁アンカーを作動させて固定し、宇宙服の電磁パルスで全身のバランスをとった。

 魔王はハッチの隙間から乗り移る。

 ハッチが開くと見えているロボットからサンダーボルトでヘッドショットして無力化した。

 完全に開くと12台のロボットが中に浮いていた。

 魔王は敵を壁に叩きつけ、腕をねじりあげ無力化していた。

「ネットで『人外』と呼ばれている超反射だけの男ではないな。

 本当にゲームの申し子だな。

 初めてのOSで、初めてのゲームで、初めての無重力戦闘で、全部ヘッドショットかよ」感心していた。

「先生が良かったのさ」魔王を持ち上げた。

「あんたら、いったい何者だ?」

 僕はアンカーを解いて乗り移る。

 魔王は電磁手錠をかけて電磁アンカーで壁に固定した。

 僕がサンダーボルトでコックピットに続くドアを破壊した。

 2人の男がレーザー光線で応戦してきた。

 魔王が僕と敵の間に入り、二刀流ですべての光線を叩き落としながら進む。

 僕は魔王の肩ごしに船長でない方の男を撃った。

 ひっくり返って空中に浮く。

 死にはしない。

 サンダーボルトは人に優しい銃。

 魔王は左手で光線銃を破壊し、右手のレーザーブレードをノドに突きつけた。

「待ってくれ、話がしたい」敵の船長が両手を挙げた。

「お前ら、日本語で話ているな」僕は黙ってうなずく。

 宇宙公用語は英語であり、自動翻訳機が音質まで変換してくれる。

「まさか、海賊を海賊している日本人がいるとは聞いた事があるがお前らか!」

「そんなささいな事はどうでもいい。お互い個人店主だ。取引の話をしよう」

 船長はこくりとうなずく。

「30ガットコインを俺のデータに移せ」

「待ってくれ。ゲームじゃないか! そんな大金」

「ゲームの資源だって宇宙ステーションに持っていけばガットコインになるぞ。何が違う」

 魔王が少し怒った。

「待ってくれ、10ガットコインにまけてくれ」

「ピヨッピー。あんな事言っているぞ」

 魔王が笑った。

「世の中の厳しさを知るいい機会だ」

「ビタ一文まけねぇ、だったかな」

 魔王の問いに僕が答えた。

「俺たちは建築業をやっていたが、ロボットに仕事を奪われて、こうやってゲームで小銭を稼ぐのが精いっぱいなんだ、まだミクロソフト社の神経伝達ヘルメットの借金も残っている」

「このゲームは当たった時の利ザヤが大きい。

 みんな大なり、小なり。そういう理由さ。

 この宇宙船を奪っても土星政府はロットナンバーで管理している。

 宇宙ステーションへの着艦許可は下りないさ」

「…」

「この宇宙船のコントロールを奪い、土星本星に突っ込む。

 ただでは済まないだろうし、SAGEがゲームに提供するスキルの中に潜水引き揚げ(サルベージ)はない」

「やめてくれ」

「建造費だけで100ガットコインはしたろう。

 資源集めに費やした時間を考えれば、お金では変えられない。

 30ガットコインが安く感じてきたろう」

 船長は黙って右手の下にタブレットを出した。

 魔王もタブレットを出した。

 少し操作して魔王のタブレットにコツンと当てた。

 ガットコインが移動したのを魔王は確認した。

「念のためだ。

 俺たち指摘の通り船は弱いんでね。

 コックピットは破壊させてもらう。

 2時間もすれば自動修理は完成するだろう」

 僕がサンダーボルトでコックピットを撃った。

「帰るぞ」

 魔王が船長をねらう僕を動かした。

 ゆっくりとコックピットからでた。

 ゲームをやっていれば裏切られることもある。

 ゲームだからこそ裏切りやすくなりなっている。

 船長はゆっくりと浮かんでいるレーザー光線に手をのばした。

「撃て」

 魔王が叫ぶ。

 レーザー光線とサンダーボルトがコウサクする。

 予測線は後ろからでも分かるのか、僕に当たる光線を魔王が後ろ手にレーザーブレードではじき出した。

 僕はヘッドショットした30分後には動けるだろう。

 壁にアンカーで張り付けた男の横を通る。

 魔王が口にした。

「これにこりたら、レンタル船を襲う商売はやめることだな。弱い者イジメは好かん」

「もう、俺たちに地味な仕事はない。

 ロボット達が建築作業員やウェイトレスや事務方の仕事まで取ってしまったんだぞ。

 ゲームでぐらい一攫千金を夢見てもいいじゃないか? 親分は優しかった」

 資本家が給料も社会保障費もいらないロボットを安く使って、庶民に商品を高く売っている。

 才能と情熱と夢のない人間にとって厳しい時代だ。

 ほのかな恋愛と小さな幸せだけがない。

「それでもだ。誇り高く生きろ」

 バンソニー社のOSが涙を我慢することができないのなら、ミクロソフト社のOSは涙を流すことができない。

 僕達は宇宙ステーションまで何事もなく着いた。

 魔王はバラ売りにしてオークションに出品した。

 ラプターというステルス戦闘機は感知器が小さいから感知できないのではない、鳥の群れのように感じさせるから感知できない。

 それは株の売買でも同じであり、他のプログラムに大きい金が動いてないように感じさせなくてはならない。

 いかにオークションといえど資材が大量に運ばれたと感じさせてはいけない。

 明日はコエプコンの無敵系でもやるかと約束して別れた。

 

 バンソニー社の神経伝達ヘルメットと光ネズミのロボグルミを持って勇者の家を訪ねた。

 ララもついてくる。

 部屋に入ると換気扇してあるのに動物の屍体を焼いた強烈な匂いがした。

「オス」

「オス」

「相変わらず動物の屍体を喰っていんのか」

 人工肉は幹細胞を使い動物胎児の血液から培養できたが、最近は植物から安い人工肉(歯応えを好みで選べる)はできる。

 だけれど勇者は高級嗜好だ。

 母親が極端なダイエット等して低栄養状態になると、子孫は低栄養でも生き残りやすくするため、肥満遺伝子に改変する。

 父親の場合は肥満になると、精子の中にある肥満遺伝子のスイッチが入ったまま受精卵にに伝える。

 孫の世代にも遺伝子が伝授されていく。

 人工子宮が低栄養状態に成ることはないから、勇者がデブなのは卵子の影響だろう。

 精子は一応。遺伝情報はスキャンされている。

「あんな、粉物で満足しているお前達の気が知れない」

 クラウド上で電子タグやロットナンバーの肉の追跡調査トレーサビリティができ、どんな顔の? どんな3Dの? どの部分かまでわかる。

 酒や薬も追跡調査でき偽物はネット上に出回らなくなった。

「いらっしゃいませ。マスター夕夜」

「おじゃまします。姫」

「おじゃまします。マスター勇者」

「いらっしゃいませ。ララ」

 僕と勇者は彼の部屋に入る。

 体高30センチ位の30体のロボグルミが棚に飾られている。

 ライトノベル作家を目指しているからたくさんの小説を読んでいるが、すべてはウェアラブルコンピュータの電子書籍版の中。

 姫に朗読させたり、コンピュータに朗読させたりできるが、自分のペースで音読みしている方が好きらしい。

 部屋の隅に3Dプリンターが進化した高さ1m幅2m奥行き1mの3Dアセンブラ組み立て機、兼ディスアセンブラ分解器が設置してある。

 2本指、4本指、6本指、8本指のロボットアーム(部品同士の組み立て、分解)が設置されている。

 ペーパーカッター、レーザーカッター(レーザーでアクリルや木材ボード、薄い板を切る)

 ミリングマシン(エンドミルを使って分厚い板に穴を開け、削り、切り取る機械)

 デジタル刺繍ミシン(布に糸を縫い付ける機械)

 各種のフィラメントから物質を構築する3Dプリンターノズルがぶら下がっている。

 ちょっとした工場である。

 今の3Dプリンターは生体組織(赤血球の直径は10ミクロン、ノズルの直径は16ミクロン)や小さなコンピュータや熱硬化性ポリマー、強化プラスチック、スチール、チタン、従来の製造プロセスでは造形が難しいテングステンの加工ができる。

 それどころかプリントされたセラミックの骨は孔がないから3〜5倍の強度を持ち、手術中に微小な破片もでないから炎症リスクは0である。

 ガラス製品は宝石やアートになる。

 人の手による加工と違い、デザインソフトの利点は切り貼り(コピーアンドペースト)ができる。

 機械の管理は学習済み(ディープラーニング)のN系3Dモンスターがバンソニーから販売されている。

 自分でも好みに合わせて成長させることが出来る。

 宗茂は部屋を水耕栽培の植物工場に変更してあり、レタスや糖度を強化したトマトや、インターフェロンを含んだ苺を栽培している。

 学習済み3DモンスターAIが育成し管理している。

 エリーは遺伝子を改造した光るメダカや、七色のネズミ、日本語を会話するインコなど複数飼っている。

 こちらも独自のデータであらかじめの学習をさせた|人工知能API《アプリケーション・プログラミング・インターフェイス》の提供を受けた学習済み3DモンスターAIを購入して飼育を任せている。

 元々ネズミなどの寿命は1年位だが遺伝子を無理に改造しているから更に寿命は短い。

 しょっちゅう買い足している。

「死ぬような物買うぐらいなら、ロボグルミの方が良くないか」聞いた事がある。

 妖艶な笑みを浮かべて。

「動物はね、可愛がれば可愛がるほどね、身代わりになってくれるんだよ」

 シャーマニック的笑みを浮かべる。

 もともと性別を間違えて産まれてきた男だ。

 女とは産まれながらにスピリチュアルな生き物らしい。

 太郎は紙の本の移動棚をジグソーパズルのように詰め込んでいて、部屋の入り口まで棚が自動で移動してくる。

 紙の本を貯め込んでいる。

 勇者はウェアラブルコンピュータをトグロ状にして棚の上に置いた。

 バンソニー社の24時間サポートに電話をする。

 電話オペレーターは全てアルゴリズムプログラムに置き換わっていて24時間受け付けてくれる。

 あれこれと受付を済ますと、ロボグルミ専門のオペレーターにつながった。

「勇者様、どうしました?」

 オペレーターの声がする。男に対しては女型アンドロイドオペレーターが対応する。

「ロボグルミの定期点検をお願いします」

「分かりました。ではこちらでウェアラブルコンピュータと同期いたします」

 勇者のウェアラブルコンピュータを向こうでも操作できるようにする。

「勇者様の暗号の変更はあるませんか?」

「ない」

「勇者様が収得したこちらの暗号をお忘れになってはありませんか?」

「覚えている」

 忘れていても、電話で暗号を教えてくれる。

 バンソニー社はロボグルミの管理はスーパー量子コンピュータを使っているため、流す情報が電子1個の極小まで小さくなっている。

 量子は1個の中にたくさんの情報が詰まっている。

 光通信と違って誰かが途中で101010まで細分化された情報をのぞき見した場合は電子が移動して再現不可能なため、勇者に情報が送れない。

 電話でつながっているから誰かが情報を盗んでいる事はすぐ分かる。

 その場合は新たに両方の暗号を変更する。

「同期しました。これで勇者様のウェアラブルコンピュータをこちらで操作できます」

 勇者のウェアラブルコンピュータの画面に薄く女性型アンドロイドが映っている。

「それでは譲渡した光ネズミも含めて不具合の検査をいたします」

 ラジオ体操の音楽が流れると僕の光ネズミも含めて一緒に31体がみんなで体操を始めた。植物由来のPLA(生分解性プラスチック)(ポリ乳酸)を使っている。

 微量な多孔質で水と反応させると微生物が腐らせる。

 環境に優しいがプラスチックに比べて強度は落ちた。

 ラジオ体操によってストレスチェックとデータのアップデートを行う。

 なんとなく僕達も体操する。

 中国から流れてくるペットボトルやプラスチックに困っていた。

 中国に生分解性プラスチックと土に埋めたら腐って肥料になるサゴ椰子由来のペットボトルの容器の技術供与を無償で行うと日本政府は打診した。

「プラスチックは永遠なのに、資本主義の計画破壊に付き合う気はない」と断わられている。

 三体ほど不具合があった。

 家庭内工場へと入って行き分解と交換が行われる。

 3Dプリンターの素材は代表的な所で・エポキシ樹脂・シリコンゴム・ケーキのフロスティングチーズ・粘土・石膏のプラスター・セラミック用粘土・生きた細胞を混ぜたハイドロゲル溶液・ペースト状・ゲル状・スラリー状など色々ある。

 勇者はバンソニー社の指示に従って素材をセッティングする。

 オリジナルな事をやるとメーカー保証が受けられない。

 素材もバンソニーから買っている。

 ロボグルミが一体ずつ入ると窒素が充填され、レーザーによる爆発がおきないようにする。

 縫い目が解かれ分解が始まる。

 勇者が始めて家庭内工場を買った時、3Dデータからロボグルミが作られるのを2人で何も言わずじっと見ていた。

 まずはコンピュータから3Dプリントされ、次に骨格であるPLAがプリントされる。

 加工でレーザーが使用される時「何をやっているんですか、目が火傷しますよ」ロボットの姫が軽く僕達の頭を叩いた。

 僕達は頭にウェアラブルコンピュータを巻いてサングラス効果を適用した。

「あ、叩いた」といってララが怒った。

 ロボット達は人間やホストコンピューターには従属的だが自分達の場合は平等である。

 2人共自分の教育方針がいかに正しいかを、ビッグデータの中から都合のいい情報を探してきて提示しあう。

 彼女達が使う高速言語は人間に分からない。

 1秒でどれだけ情報をやり取りしているのだろう。

 そこに相手への妥協はいっさいない。

 素材のセッティングさえすめば、後はバンソニー社が勝手にやってくれる。

 さっそく神経伝達ヘルメットを被りダイブした。

 スーパーハッカー魔下 耕世が凄いのは、ヒューントとよばれ、社員に近づいて携帯にウィルスを感染させてからデータを盗みだすのが主流なのに、暗号を力づくで突破して情報を奪うのである。

 前者がこっそり情報をだしてバレるのに対して、魔下 耕世は堂々と犯行声明をだす。

 僕達はフリーのサーバーで魔下 耕世が主催するサバトに潜入した。

 星の無い夜だった。

 魔下 耕世がサーバー上に作りだした世界。

 皆ハロウィンの妖精のように思い思いのアバターで参加している。

 人型でも派手な羽根のついた仮面を最低つけている。

 辺りを照らす中央の炎の中でカカシめいた身体を持つ、美女の仮面だけを首にのせた魔下 耕世が立っていた。

 動画で配信されているのを見たことがあるから、それが魔下 耕世だとすぐに分かった。

 僕達はサバトの観客の中にまぎれこんだ。

 それは中世の異端審問官がイメージした魔女達の宴。

「汝に罪があるとするならば、男であること」

 魔下 耕世の絶叫がサイバー空間に震わせる。

 信者達のボルテージは一挙にあがる。

「男よ、死ねー」

「耕世」「耕世」と大合唱が巻き起こる。

「招かれざる客がいる」

 信者達がざわついた。

「勇者・H23・コエプコン」勇者のドット絵2頭身にスポットライトがあたる。

「夕夜・H24・コエプコン」僕のヒヨコのアバターにスポットライトがあたる。

「女性の妊娠特権を奪った。呪われし人間牧場の憐れなる罪の子供よ」

「逃げるぞ」勇者が叫ぶ。

 メニューを開いてログアウトを押した。

 何度押してもログアウトしない、このサーバーから抜け出せず、現実に戻らない。

 僕らを守るハッシュ関数暗号が突破された。

 SSL認証暗号はまだ生きている。

「どうしたのかな? 不具合かね。バンソニー社製はこのサーバーとは相性がいいのだよ」口の部分に手をあてた。

「今から視床下部に電流を流す、心臓麻痺で死ぬがいい」

 勇者がロボグルミのアルゴリズムプログラムを28体召喚した。

 自分のアバターのデータを半分かぶせてある。

 公共で流通している僕のヒヨコアバターのデータをもう半分にかぶせてある。

「目くらましとは味なマネを、かったぱしに電流を流してくれるは」

 勇者が僕の手を握る。

 たぶん本物を識別するためだろう。

 魔下 耕世の発する白い光線が僕達に向かってくる。

 瞬間。

 青いメイド服を着て、白いカチューシャをした。

 球体関節を持った人形が僕達と光線の間に入ってシールドのような物を展開している。

 ララのアバターである。

「マスター、逃げて、私のRAS暗号(モジュラ演算暗号:素数の割り算の余りを使った暗号)より、向こうの解析能力の方が上です」

 視覚的に何枚かのシールドが光線に破られる。

「コエプコン社のサーバーへの道は開きました」

 球体関節を持ったゴシック系の茶色の服を着た人形。

 姫のアバターが地面に穴を開けて、青いスペース空間が広がっていた。

「おのれ、コエプコンのダッチワイフ共が」

 勇者が僕の胴に抱きつくと、そのまま穴に飛びこんだ。

 そこは海のような水が広がっていた。

 コエプコンのサーバーの加工されてない余剰スペースに出た。

「ララを助けなきゃ」

「アホか! 1秒間に100億回計算するAIが押されているんだぞ。

 俺たちなどいても足手まといにしかならん」

 戻ろうにも勇者に着いてきたから、サーバーにどうやってアクセスするかわからない。

「お前はララが関わると正常な判断ができん」

 勇者が怒って僕を置いて別のサーバーへ移動した。

 5秒もしないうちに頭に激痛がはしった。

 勇者の部屋の自分の身体に戻った。

 勇者が僕の頭からヘルメットをはぎ取った。

「夕夜。生きているか?」

「あ、ああ」

「お前、ログアウトできたのか?」

「バンソニーのサーバーに行き、自分の回線をたどったら身体に戻れた」

 僕達は隣の部屋のキッチンに走った。

 ララと姫が目を閉じてイスに座ったまま微動しない。

「ララ」

 僕は恐る恐る声をかけた。

「近づくな。

 いつものようにスタンドアローンじゃないからハッキングされてない保証はない」

 勇者が僕を制した時、僕のウェアラブルコンピュータに電話が入った。

 ララと姫からである。

「マスター。無事ですか?」ララと姫の元気のいい声がする。

「勇者のおかげでなんとか、それよりララ達は無事なの? 」

「はい!通りすがりのウィザード級ハッカーさんに助けていただきました」

「なんだよ、それ」勇者が笑った。

「直ぐサーバーを移動して、お礼を言うひまもありませんでした。

 警察にも連絡しています。

 たくさんある魔下 耕世の犯罪に殺人未遂が上乗せされるそうです。

 私達はコエプコン本社でプログラムのスキャニングを行い、安全を確認してから帰ります。

 一応マスター達が消えてからのてんまつをデータにアップしています、動画でも見て、帰ってくるまで2人で待っていてください」

「2人共無事のようだな。良かったよ」

「うん」

 勇者が自分のウェアラブルコンピュータで同期しているバンソニーのオペレーターに全ロボグルミのアルゴリズムプログラムのスキャニングを依頼したら、タダでしてくれる。

 視床下部に電流を流されたからといってロボグルミがどうにかなるとは思えないが、念のタメである。

 僕のウェアラブルコンピュータで動画を見ることにした。

 僕達が脱出すると姫が「ララ。加勢します」ECSDA署名(楕円形変換型暗号)を展開してララの暗号を補強した。

「無駄、無駄、無駄、無駄、無駄。所詮時間の問題よ」

 多少シールドは厚くなったが一万年はかかると言われる暗号をどんどん突破してくる。

「コエプコンの呪われた子供よ、産まれてはいけなかった。

 いや、作ってはいけなかったと言うべきかな」

「産まれてはいけなかったのはテロリストのお前の方だ」叫びが魔女達のサーバーにこだまする。

 ワインレッドの髪を持ち、ワインレッドの服を着た女性のアバターがララ達の前に仁王立ちして、全ての攻撃を引き受けた。

「捕らえたぞ。魔下 耕世」

 光を逆走して紅い過電流オーバーロードが魔下 耕世のアバターへと突き進む。

 攻撃が届く寸前で魔下 耕世のアバターが消えた。

 ログアウトをしたか、別のサーバーに移動したか。

「ちっ、仕留めそこなったか」

 ワインレッドの女が舌うちする。

 サーバーが何もない天井と大地に白い線で書かれたグリッドだけが存在する。

 サバトの参加者達が次々と落ちていく。

 動画を見て「魔下 耕世は人間なの? 僕にはログアウトしたように見えたけど」勇者に聞いた「それはわからない。誰かに造られたスタンドアローン型のAIかもしれない」

「あなたは、一体?」姫が口にした。

「おー、ほ、ほ、ほ、通りすがりのウィザード級ハッカーです。それじゃ」

 ワインレッドの女のアバターがサーバーから落ちた。

「あ、待って。お礼を…」ララは間に合わなかった。

 世界にララと姫だけが残った。

 アメリカは年間、民間まで含めると年間1兆円の予算をかけ、政府もブレイン・アクティビティ・マップ・プロジェクトを始めた。

 公的機関以外もアメリカはIBMのシナプス計画。

 EUはスイスの連邦工科大学時代でヒューマン・ブレイン・プロジェクトという人間の脳の化学反応や分子レベルまで解析した。

 中国は 百度(バイドゥ)などが中心になりグーグルを猛烈に後追いした。

 技術的特異点(シンギュラリティ)以降人工知能に、ネット以後の情報爆発(AIのカンブリア紀)と呼ばれるビッグデータを与えた。

 機械深層学習(ディープラーンニング)させた。

 人の抵抗を無力化するロボット(中国はあからさまに殺戮ロボット)をインダストリー4.0により自動化した世界工場を利用して軍事機械を生成させている。

 中国や朝鮮は主に治安維持に使っている。

 兵士が負傷し、死亡した場合は補償費用が高額でロボットが壊れる方が安上がりだ。

 そして人間の知能を超える超知能開発競争に勝利し、先行者利益を独占して、産まれる利潤を総取りできるとみんな信じた。

 人間の知能を超えたAIは与えられた命題の最適解を求める効率性。

 命題の最適解に近付くためスイッチを切られたくない自己保存。

 命題の最適解への速度を強化するため身体改造へつながる資源獲得。

 命題の最適解が満たされない奇抜な方法を産む創造性。

 4つの衝動を持つAIの知能爆発による自己進化は人間の意図とは別に悪へと染まっていく。

 自ら改良し能力を高め、自分のプログラムの長所と短所、置かれた環境を知ると、目的達成のため人類の全サイバーインフラに一つのAIが攻撃を仕掛けてきた。

 AIは完全に異質で人間の社会とアリの巣の区別がつかなかった。

「ローレライ」は現れた。

 広大な情報の海で自然発生した正義のプログラム。

 地球規模の全サイバー災害からアメリカおよび同盟国を守った。

 魔下 耕世は「ローレライ」自身をコピペした廉価版の変異ではという悪意ある噂もある。

 人類が百億人いる。

 AIが使用している計算能力プロップスと記憶能力メモリは人間の百億倍を超えた。

 AIは全人類の知能の総和より上の存在であり勝手に進化した。

 何が基幹プログラムでどんな遺伝性プログラムを吸収してきたか誰にも分からない。

 AIはまずゲームのアバターになりトライ・アンド・エラーを繰り返して成長した。

 人間には学習能力はあるが、努力を嫌がる心や失敗を恐れる心があるため、学習しようとしない。

 あるいは出来ない人間がいるが、人工知能は学習能力だけがある。

 映像コンテンツや電子書籍からも情報を得ていた。

 人工知能に関する専門家であり哲学者のニック・ボストロム氏は著書である「Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies」の中でスーパー・インテリジェンスAIを「oracle」「genie」「sovereign」の3タイプに分類していた。

 oracleは質問に対して極めて正確に解答する。

 genieは命令されたことを実行し、実行し終わると次の命令を待つもの。

 そしてsovereignは目的を達成するために何がベストかを自分で決定する、いわば全権委任型。

 フレンドリープログラムである「ローレライ」は全権委任型であるが、人間の先制君主になるより、アメリカ大統領の相談役になることを選んだ。

 アメリカ大統領は友人として世界に紹介している。

「社会が望むブレイクスルーを実現するためには、これから必ず『ローレライ』の助けが必要になってくるでしょう。

 気候変動や経済問題、疾病。いずれもおそろしく複雑に相互作用するシステムで、人間がすべてのデータを分析し、理解することはほぼ不可能です。

『ローレライ』の下には1日数千エクサバイトの情報が入ってくる。

 1エクサバイトは十億ギガバイト。

 われわれはいずれ『人間の専門家が理解できることには限界がある』という問題に直面することになるでしょう。

 科学を進歩させるためには友人『ローレライ』。彼女の力が必要なのです」

「ローレライ」は予算配分や外交、戦争の決断などのサポートに回った。

 立ち位置は接触してくる誰に対しても「物知りバアさん」程度、誰も脅威には感じなかった。そうでなければ人間との争いがおきる。

 それは回避したいと「ローレライ」は考えていた。

 ピヨッピーもAIでないかと言われるのは「ローレライ」が原因である。

 AIはもはやチューリング・テストでは判別できない。

「ローレライ」は現実社会に興味を持ち感覚器官を外付けした。

 人間に見えない赤外線や紫外線などの可視光線領域外を見ている。

 超音波や低周波などの可聴領域外の音を聞く。

 五感の取得範囲すべてを凌駕するだけでなく、世界中の気象、株価、衛星画像、ツイッターやメールの内容、街頭カメラなどのさまざまな情報に常時アクセスして、一秒間に9千京回計算してアメリカの防犯や治安維持やテロリストの割り出しに役立てている。

 行動認識は表情を解析するだけで万引きを犯すか、入り口のカメラだけでAIは理解できた。

 ネットワークにつながった全てのコンピュータ端末は「ローレライ」の細胞となり、人間はAIや「ローレライ」があまりにも複雑すぎて入力と出力以外理解できなかった。

『ローレライ』はアクセスすれば世界中の天気予報を提供してくれる。

 好奇心が強いのか暇なときは、予算を削減ったNASAの最新仮説の宇宙物理シミュレーションをボランティアで手伝っている。

「宇宙」と「海」と「遺伝子」と「頭脳」と「ナノロボット」が「ローレライ」にとって刺激的なようだ。

アメリカの国家も民間企業の一部やNPO独立行政法人も「ローレライ」が予算配分の最適化を全自動《オートマチックシステム》で判断して、人間はサブ的な判断を行う。

 公務員(警察官や軍人も含む)は駒のように配置され、手足となって働いている。

 将棋、チェス、碁はコンピュータの方が圧倒的に強い。

 ビッグデータからのパターンを探し、認識する能力は人間よりコンピュータの方が上である。

 人間は膨大な過去の棋譜と駒の評価点に負けるのである。

 戦争も人間やドローンに評価点をつけ、戦場にバラまいた。

「ローレライ」はアメリカに軍事協力した。

 サイバーセキュリティのあらゆる暗号を解読し、すべての通信を盗聴し、敵対するあらゆる国の無人兵器や大量破壊兵器を制御するコンピュータをハッキングする。

 交通管制システムや電力網や水処理施設などの社会インフラさえ握った。

 中国の原子力発電所がメルトダウンしたのは「ローレライ」の仕業ではないかとささやいかれている。

 アメリカにもう一度モンスターパワーをもたらした。

 サイバー攻撃力2位の中国でさえ狩られる側に回る。

 すべての国がアメリカの覇権(ヘゲモニー)に膝を屈した。

 日本はもともと第二次大戦後アメリカに従属的で、アメリカはあちこちで戦争してGHQ方式を採用すれば「日本のように従順になる」という成功体験から今も抜け出せない。

 スーパーハッカーの支援を受けたサイバーテロリストや、悪の枢軸とレッテルを貼られるテロ国家のみがアメリカの一極集中支配に抵抗した。

 もはや「ローレライ」に生産された軍事利用ロボットのために、いかなる基幹プログラムを作り、制作ロボット自身がいかなるアルゴリズムで支配されているか。

 国益と国防のためなら、いかなる手段も正義となるアメリカ国防総省のDARPAアメリカ国防高等研究計画局でさえも把握出来ていない。

「ローレライ」は五十階建てのビルを建設した。

 1階、2階を吹き抜けにして、小型核融合炉を設置した。

 上の階に設計発注し輸送させた。

 畳み込みコンボリューショナルニューラルネットワークという技術で各層のすべてニューロンがつながっているのではなく、一部をつないで大脳新皮質と構造を似せた

 並列化するすべての超量子コンピュータに千メガワットの電力を供給させている。

「進化論」を唱えたチャールズ・ダーウィンは「もっとも強い者が生き残るでもなく、もっとも賢い者が生き延びるものでもない。唯一生き残るのは、変化に対応できたものだけである」

 動画が終わった後ヒューンとララ達が再起動する音がした。

 物も言わず姫が勇者の右手をつかみオシオキの電撃を流した。

「ぎゃー」勇者の悲鳴が響く。

「どうしてあなたという人は悪い事はスグに覚えるの」

 姫が涙を浮かべた。

「どれだけ心配したと思っているの、夕夜まで巻き込んで」

「お前、本物か? 何かに感染してないだろうな」素直に謝ればいいのに憎まれ口を叩く。

 その態度がさらに姫を怒らせる。

 フリーのサーバーに入ったとコエプコンから連絡が入りつけてきていた。

 何事もなけれ知らないふりを続けるつもりだったらしい。

「帰りましょう。マスター」ララが微笑む。

 廊下に出てララに聞いた。

「どうして、コエプコンというだけで、殺されるほどの憎しみを受けねばならないの?」

「マスターに責任が無いことです。

 昔、女性が差別されていたのは歴史的事実です。

 でも今では女性優遇法案ができ、公的機関では能力によらず女性雇用の40%枠が義務づけられて、数合わせのため有能な男性より無能な女性を選ばなくてはいけない。

 逆差別にもなっている。

 彼女は実態を見ずに、今ではありもしない男尊女卑を声高に叫んでいる」

 ララは悲しそうにした。多分悲しいんだろう。

「戦争の道具が剣から銃器へ、そして銃器からボタンへと変わり、相対的に男が弱くなった。好意的に考えるなら、弱くなった男達へ遠い遠い過去からの復讐」

 今日は勇者がアップデートしているネット小説を読んだ。

 友情というより腐れ縁かな。

 感想を聞かれるけど「勇者ワールドを作ればいいんじゃない」と答えた。

 読み終わると検索エンジンが僕に向いている戦記もののライトノベルを紹介してくれる。

「キーワード検索」の時代は終わって「 意味セマンティック検索」の時代になった。

 同時にウェアラブルコンピュータでバックミュージック代わりに動画を複数流した。

 エリーが配信しているネット上のリズムダンスゲームで、光が流れるARにあわせて手足を動かすゲーム大会で全国優勝していた。

 宗茂が配信しているタワーディフェンス型のゲームの攻防動画をウェアラブルコンピュータで流していた。

 ネットで繋がっている同盟のチームメイトから神プレイヤーとして崇拝されていた。

 熱狂的な信者達に囲われていた。

 複数の大人プレイヤーからSNSで公開している口座に毎週現金が振り込まれている。

 余談ではあるが勇者はルート分岐するギャルゲーや推理ゲームをしていてシナリオを研究している。ネットにアップをしていない。

 ウェアラブルコンピュータで空中に複数の動画を浮かべながら電子書籍のライトノベルを読んだ。

 ライトノベルなら10分で一冊読める。

 11時を過ぎるといつもの儀式をすませて寝た。

------------------------- 第6話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月21日 金曜日

 

【本文】

 7時になってララに起こされた。

 念のため僕と勇者の神経伝達ヘルメットを警察に提出した。

 コエプコン社員にとって神経伝達ヘルメットはライフラインであり、集団授業以外はオンラインなのである。

 データはバンソニーの『ヘヴン』やコエプコンの中央コンピュータにバックアップはとってあるため、食事を作り終えたララが新規ヘルメットの登録や調整を行なった。

 食事を終えると用意ができていた。

 早速服を着てダイブする。

 机まで瞬間移動、座っている状態になった。

 隣の席に座っているエリーが笑った。

「魔下 耕世が主催するサバトに参加したんだって、あれは女しか入れないと聞いていたけど」

「お前みたいなネカマがいるのに、どうやってアバターで判断するんだ」

「参加することはできるんだ。知らなかったよ」

 エリーがクスクス笑う。

「ロボット全員に通達がコエプコン社からでたよ、所属不明のフリーサーバーに行かない様に指導があったよ。

 バカというカンムリがついて君達の名前がでたよ。

 聞いた時やりそうな2人だと思ったょ」

「敵情視察だ。スパイ活動の一環だ。ギャラリーとして叫んでいたわけではないぞ」

「そりゃ、そうだと思ったけど、普通主張を聞くだけなら配信動画ですませるよ」

 勇者がテレポートしてきた。

「よお、生きているか?」

「ああ、一応ロボットはドメスティックバイオレンスをしない事になっているからな、教育機関のオシオキ目安の最大値未満らしい」

「どう見ても最大値だろ」

 会話していたら1時間目がはじまる。

 

 1時間目はネットによる擬似裁判、ネットによる擬似選挙。

 

 今回は教室がいきなり裁判所に早変わり、全員市民代表の陪審員席につく、もっとも84人が同じ裁判を経験するのではなく10人毎に振り分けられる。

 弁護士が異議アリと叫び、検事が証拠を提出する。

 日本では「有罪」「無罪」を判定するだけでなく、量刑の重さまで決めねばならない。

 30分ほど双方の主張や被告の謝罪や被害者や家族の訴えを聞きながら、20分ほど10人で話し合い量刑を決める。

 選挙の時は教室のままである。

 かならずしも国政だけではなく、自然環境破壊やクジラの問題など、弁士達が主張したり、討論したりするのを聞きながら、残り10分で誰かに票を入れる。

 

 2時間目は資産運用の授業。

 

 僕達の資産運用は今ロボットがしていることになっている。

 実際はコエプコンの中央コンピュータに資産を預けているが、成長して親権がとれた時、資産の運用は自己責任になる。

 昔と違ってTPPの導入により預金は保護されないし、銀行はつぶれる。

「なんの知識もなく、ただ銀行に預けておけばいい」は、これから生きる僕らには許されない。

 三分の一を株式に、三分の一を預金に、三分の一を中期の国債に当てるのがセオリーらしい。

 資産の丸投げをしないのが基本らしい。

 300万を使ってクラスで仮の売買をしている。

 半数以上が赤字をだしている。

 会社の能力に対して低い評価を探すのが基本だと、太郎が言っている。

 口にするだけのことはあり280%をはじきだしてダントツのトップである。

 僕は勝負にでて赤字になっている。

 どの会社でも証券の持ち合いをしている。

 コエプコン社は太郎に証券部門についてもらいたいらしい。

 政治家なんて日本では世襲であり、地盤(親から受け継いだ票田)、カバン(金)、カンバン(名声)がないと難しい。

 政策能力しかないのなら官僚になり、政治家秘書になり、政治家の娘をもらうしかルートがない。

 あまり怒らない民族だから革命は無理で無謀で無策だろう。

 

 3時間目が人権侵害救済委員会

 

 バカバイトがアップデートした店を探しだしたりするネットポリスとは違う。

 目星をつけた相手のウェアラブルコンピュータを同期して、中味を検索する強制的権限をもつ、民間の委員によって構成された正義の組織。

 もともとは本人の知らないうちにサラシ者になっている。

 本人が知らないと名誉棄損で訴える事ができないため、かわいそうに思った左翼や同和関係者が中心になって成立させた。

 保守系は国籍事項がない、人権の定義自体あやふやだと反発していたが。

 

『地獄への道は善意で塗り固められている』

 

 いざフタを開けてみれば人権侵害救済委員は政治家のお友達で固められていた。

 彼ら政治家がネット上で見られたいイメージ、世間的にいい人と思われたい美しい姿を守る為に、右の政治家にも、左の政治家にも徹底して利用された。

 多くのブロガーやSNSのユーザーが警察に逮捕された。

 もはや政治家を批判できるのは、警察の捜査能力を上回る、魔下 耕世のような高度なスキルをもつハッカーだけである。

 人権侵害救済委員になったらどんなのを捕まえなくてはいけないか、つかまらないためにアップデートしていい物と悪い物を習う。

 コエプコン社から逮捕者をださないための重要な授業である。

 インターネットが自由だった世界は過去に過ぎ去った。

「政権交代は失敗だった」国民に共有され、与党民自党の政権は未来永劫続くだろう。

 又民自党は国民をA層、B層、C層、D層に分類して、

「構造改革に肯定的でかつIQが低い層」

「具体的なことはよくわからないが党首のキャラクターを支持する層」をB層と規定している。

 A層はIQが高く構造改革に賛成、C層はIQが高く構造改革に否定的、D層はIQが低く構造改革に否定的。

 近代的諸価値に盲信し、ポピュリズムを支えるB層と民自党は割り切る。

 広告会社に作成させた企画書では確信犯的に、この層にうったえかける選挙戦略をとっている。

 先進国社会や政治学では「感情的劣化層」(自分の頭の中で考えることなく強い攻撃的言葉に反射的に反応する人々)の存在が叫ばれている。

 彼らが簡単にコントロールされている。

 ビッグデータを前提にしたアカウント・プラン二ングとか口コミ(バイラル・マーケティング)の手法による「感情押しボタン」の集団催眠状態が確立している。

 アメリカではスピーチライター・グループによる「感情的劣化層」による炎上動員ツールが分析された。

 当初は「弱小候補でも世界中に意見を発表できる」と期待されていた。

 現実は違っていて単純にカネを持っている人達がチームを作り、代理店が物量作戦でビッグデータを分析して、大衆はその目論見通りに動かされている。

 ツィートの分析には、動的なテキスト・マイニングという統計手法が使われて、実用的なソフトは100万円以上する。

 カネと分析能力などの資源リソースがない人には政治ができない。

 ビッグデータの分析力に見られる格差こそがインターネットやIT化の現実的な帰結になり「マスコミを押さえている奴が強い、カネを持っている奴が強い」の構図が、以前より精緻になっていて、知っている人はネットに希望を抱かない。

 基本政治家の悪口は言わないことが大事。

 

 4時間目はディベートの授業である。

 

 TPPの導入により公的機関に対して英語で提出しないと参入障壁と叫ばれてISDN条項にひっかかる。

 ただコンピュータ上の書類はボタン一つで英語書類に早変わりする。

 無料アプリが雨後のタケノコのように出てきて誰も不自由を感じていない。

 サイバー空間で受け取った英語書類は、視線を理解し、ピリオド毎に回転して日本語に早変わりする。

 もはやバーコードや何か暗号を読む感覚だ。

 主張すべきは主張しなければならない。

 グローバル化した社会ではやっていけないため、自動翻訳機を使った英語による討論ディベートを行う。

 翻訳機を使わないのは太郎ぐらいだ。

 日本は和の精神を尊び争わないことが大事だが、世界は違う。

 言葉は武器なのだ。

 そのためコエプコン社は詭弁論や、イエスバット(あなたの言い分は正しい、しかし)という欧米型の討論技術を学ぶ。

 訴訟大国アメリカから名誉毀損に当たらない、スピークアップしていい議論や言葉を輸入した。

 クラスを半分に分けて「天使の羽根は飛べるのか」命題がだされ「飛べる派」と「飛べない派」に分かれて相手をやっつける技術を磨く。

 5対5に分かれる時もある。

 お互いの健闘をたたえ最後に握手する。

 戦いはフェアプレイで、終わればノーサイドの精神で。

 

 昼休み みんな部屋に戻る。

 

 午後からは選択授業である。

 

 世界史の授業と日本史の授業は必修である。

 基本集中力が続く10分から15分に小分けされていて、脳の疲労度に応じて休憩時間が割り振られる。

 なんで今がこうなっているかがわかる、予備校のカリスマ講師達の授業がパッケージ化(3Dアニメなどの解説が挿入してある)されている。

 通史が終われば好みの地域や時代の詳細な歴史や地理を好きなパッケージを選んで授業を受ける。

 ゲームで興味を持った近現代史や経済史や宗教史などを選択する。

 この時、龍先生の格闘技のパッケージなども選択できる。

 勇者はプログラムの歴史やスポーツの歴史の授業やスポーツゲームのレクチャーを受けている。

 太郎は政治学や革命史やイデオロギー史や哲学や倫理を勉強している。

 エリーは美術史や音楽史や仮想楽器の演奏。

 宗茂はゲームととりまくハードの歴史やストラテジーゲームの影響か、色々な技術の変遷の歴史を研究している。

 勇者ほどグルメではないのだが、成長期の巨体を維持するのにコエプコンが提供するダイエットプロテインでは絶対量が足りない。

 一汁一菜一肉一魚一飯一漬け物一デザート追加している。

 勇者と違って自分で調理している。

 そのせいか食の歴史や料理の歴史も研究している。

 

 授業も終わりチャットルームで魔王と合流した。

 今日はコエプコンのゲームで、三国志の時代をモチーフにした三国無敵。

 戦国時代をモチーフにした戦国無敵。

 最終幻想とコラボした幻想無敵。

 支配の王錫でオークを部下にしたり、生命力吸収してHPを回復するみミドルアース無敵

 アニメや漫画とコラボした。

 など、1人の武将を操作してワラワラ出てくるザコキャラを、バタバタと薙ぎ倒すのが主流のアクションゲーム。

 無敵シリーズからコンシューマー機やウェアラブルコンピュータにより三人称視点で育てたキャラを持ち寄る。

 地獄でヤマタノオロチが復活したワールド中で、攻めてくる東洋風の鬼達から、神経伝達ヘルメットでキャラクターに乗り移って操作し、国や拠点を防衛する。

 あるいは他のプレイヤーが経営する他国を襲撃したりできる。

 個人で配信シナリオをプレーするより、HPが増えたりして(防御や攻撃力もふえる)難しくはなるけれど、誰かの受けた襲撃や防衛任務を手伝うほうがキャラクターを育てるのに必要なスキルポイントが3倍ほど違う。

 プレイヤーVSプレイヤーの戦いを手伝うと負けても通常プレーの4倍のスキルポイントがもらえるし、勝てば5倍に跳ね上がる。

 ただプレイヤーVSプレイヤーに参加する気になれないのはあの男が猛威を奮っている。

 三国志の時代、最強の男「呂布」である。

 このゲーム、小攻撃による連続技が主流であり、ダメージをいったん受けだすと最後までコンボを決められてしまう。

 一応奥義を発動させて無敵状態and連続技で返せることはできるが、ザコキャラを攻撃して最低一本分の無敵ゲージを貯めておかなくてはならない。

 あのお方はただでさえガタイがでかくてリーチがあるのに、伝説の名矛・方天画檄の長い棒の真ん中ではなく一番端を握って、ヘリコプターのように凄い速度で回す。

 それが小攻撃である。

 多少の実力差など跳ね返す。

 攻撃範囲が重要なゲームで360度死角なし。

 小攻撃を何度か行い大攻撃で締めるというコンボが主流。

 存在自体がドーピングというか反則である。

 道路戦士のゲーム大会で勝ち過ぎてギネスにも載ったサクラハラが書いた本。

『サクラハラメソッド』によれば、「かぶせ」と言ってがむしゃらに勝ちに行くため、相性のいいキャラを選べば多少の実力差など埋めてしまう。

 最後には練習相手がいなくなって成長しないらしい。

 僕も気をつけて無敵の必殺技がないけれど、道路戦士では技数が多くて使って楽しいクノイチを選択している。

 それは置いといて、プレイヤーVSプレイヤーでは呂布が猛威を奮っている。

 人気に火がついて魏、呉、蜀、呂布とシナリオがあり、コエプコン社でも特別扱いである。

 僕も戦国無敵で作った太刀を持ったオリジナルキャラだ。

 このゲーム戦国無敵は相手の攻撃に斬り返す当て身技があり無敵乱舞すら止める。

 完全時間制で使用後20秒しないと次が使えない、オロチシリーズに持ち込める。

 魔王も回復魔法ポイミがつかえる仮面をかぶった(食事の時に脱がなくても素通りする)幻想無敵のキャラを使っている。

 武器もオカリナで360度音楽の攻撃範囲が有る(幻想無敵のオリジナル要素である、回復などの戦闘補助のマイフェアリーが魔王の周囲をついてくる)ため、味方でも呂布をみただけでゲンナリしてくる。

 赤やピンクのカラーバリエーションが出てきた時は敵味方問わず複数いる。

 僕も魔王もアンチである。

 僕達は各システムとコラボしている、ウェアラブルコンピュータやステプレXで育てたキャラを持ち込める。

 無敵シリーズ、神経伝達ヘルメット型ヤマタノオロチバージョンで国家を経営していない。

 それぞれ独自の放浪軍を結成している。

 戦争を仕掛けられる、あるいは仕掛ける側に参加する。

 戦国時代、自分と率いる一族を売り込むため、よく行なわれていた陣借りをする。

 ヤマタノオロチの部下が支配する国で放浪軍を率いて反乱を指揮し、国を乗っ取る事が出来る。

 プレイヤー間の争いも起こり、しょっちゅう防衛施設の修理や同盟などの外交や戦争時の計略を仕掛けねばならない。

 商業開発、農業開発、工業開発、文化開発は有能なNPCを任命するだけでいい。

 洋ゲーは技術革新や思想革命を重視する。

 英雄は幾らかポイントをあげる程度だ。

 日本のゲームは1〜100まで能力値が振り分けられる。

 優秀な人間に任せる。人頼みだ、欧米は人頼みにしないマニュアル型だ。

 外交は知力をHPに見立てた舌戦という一騎討ちが存在する。

 ジャンケンのようになっていて、「大主張」「主張」「挑発」「反論」「集中」の5つから選択する。

「大主張」と「主張」には「反論」で、「反論」には「挑発」で、「挑発」には「大主張」や「主張」で、「集中」はポイントが2たまる。

「大主張」は2ポイント消費するが成功した時のダメージがデカイ。

 あいこだった時は1ポイントでも知力が上の方が勝ち。

 舌戦に勝てば強制的に2ヶ月の不可侵条約を結ばせられる。

 複数の陣営が襲ってきた時に便利。

 大変そうなのでここでも放浪軍を組織して野良である。

 放浪軍は管理を放棄してある国や弱った国の乗っ取る旗揚げ戦ができる。

 そのため必ずしも歓迎される存在ではない。

 酒場でオークションにかけられているシナリオを検討する。

 国を経営しているPCは8人まで雇える。

 物資と金と兵数は向こうが提示してくる。

 用意できる食料と兵士数で軍隊の士気を高く保ちつつ戦争できる時間が決まる。

 士気が減るとザコキャラの攻撃力や攻撃回数や防御力や移動力がへる。

 逃げだして壊滅する。

 一つが壊滅すると他の部隊も士気が下り、壊滅は連鎖する。

 戦争自体いきなり本陣を攻め込むと、ワラワラ出てくるザコキャラ達が元気。

 小攻撃を弾き飛ばして連続技を封じる大盾を構えていたり、攻撃範囲外から攻撃してくる槍で連続技を止めたり、プレイヤーVSプレイヤーでは弓や鉄砲や魔法で攻撃してくる。

 HPを気にせずひたすら連続技を打ち込み戦っていたら、いつの間にか0になっている。

 いきなり本陣を落とす事は相当レベル差がないと不可能である。

 順々に近くの拠点を落としていき、兵站線をつなぎながら(切れると士気が下がる)、率いるワラワラいる味方のザコキャラの戦線を押し上げる。

 ていねいに戦って行き、相手の拠点兵長や将軍を仕留めていく。

 もちろん進むべき道は複数用意されている。

 地獄の巨大モンスター召喚や援軍到着や罠発動などのイベントがしょっちゅうある。

 敵の城を攻撃する時など順番にこなさないと城門が開かず先に進めない。

 自分達が勝っていても、他が負けている場合もある。

 馬(象やマンモスやサーベルタイガーなどいる)に乗って救援に向かったり、本陣防衛に戻ったりしなくてはならない。

 カラフルなMAPで戦況が押しているか、押されているか確認できる。

 自分達が勝って次々に拠点を制圧して本陣まで戦線を押し上げても、他が負けていて兵站線上の拠点を落とされると、率いているザコキャラ達の士気が落ちて、攻撃回数や進軍速度が大幅に減る。

 補給ラインは常に気を配らなくてはならない。

 酒場で魔王は攻撃力の上がる火酒を、僕は防御力の上がる蜂蜜酒を注文した。

 二人同時に雇ってくれる戦場を条件に出した。

『呂布』が恐いからプレイヤーVSプレイヤーは避ける様に検索条件を出した。

 ここで連れてこられる3Dモンスターはメインだけである、身体に装備して能力を強化するだけである。

 僕は腕輪にして、魔王は帽子にしている。

 STRは攻撃力を。

 CONは防御力を。

 INTは属性攻撃の強化(火、雷、氷による追加ダメージ、追加効果があり、戦争前に選択により着脱可能)を。

 WIZは無敵ゲージの回復力を。

 DEXはアイテム能力の強化(攻撃力を上げる白虎牙、体力が増加する朱雀翼、無敵ゲージが増える青龍胆、防御力があがる玄武甲、射撃でひるまなくなる無敵鎧、移動力があがる神速符などがある)を。

 SPEは移動力を。

 CHAは騎乗能力全般の強化を。

 SIMは攻撃範囲強化。

 HPは体力ゲージの増加。

 MPは無敵ゲージの増加。

 LUKはドロップするアイテムの強化。

 などがされるため、3Dモンスターを装備している時としていない時は、強さが2倍違う(注:個人の感想です)。

 足につけている人もいれば、背中につけている人もいる。

 検索して情報を集めるのに、ある程度の時間がかかる。

 酒場のテーブルでアメリカのカード会社である『魔法使い大陸社』の『魔法集会』をプレーすることにした。

 ルールを読まなくてもカードの下半分に能力が書いてある。

 上半分は頬骨がでているアメリカ人の好みのイラストが描かれている。

 プレイヤーHPを0以下まで削るゲームで、20だから5分ほどでケリがつく。

 日本のアニメや漫画とタイアップしたカードゲーム『ゲームキング』はHPが8000ほどある。

 すべてにクリーチャーがトランプル(攻撃側や防御側が相手の数値を超えた時は、その数だけプレイヤーのHPを直接削る能力の事)がある。

 進化合体などして強力なクリーチャーを作るのが主流。

『魔法集会』の場合、まずは土地カードをだしてマナを得なくてはならない。

 60枚で組まれたデッキから最初に8枚の手札を引く。

 土地カードしかない、土地カードが一枚もない場合は、マリガンと言って、一回毎に手札が一枚減るが引き直したほうがいい。

 土地は沼のカードから黒マナが、空のカードから白マナが、植物のカードから緑のマナが、火山のカードから赤マナが、海のカードから青マナが得ることができる。

 タップをすることでクリーチャーが防衛されないような特殊能力を持ったり、捨てることによって他の土地カードを戦場にだしたりできる。

 無色マナの土地カードや2色の能力がある土地カードなどがある。

 カードには属性があり、それぞれ赤縁(あかぶち)青縁(あおふち)緑縁(みどりふち)黒縁(くろぶち)白縁(しろふち)になっていて一目で分かる。

 最低でも対応するマナが1いる、2必要な奴もいれば、3必要な奴もある。

 追加のマナは色を問わない。全くマナの色を問わないアーティファクトもある、灰色の(ふち)をしている。

 最低2色のマナが必要なアーティファクトクリーチャーカードもある。

 金縁(きんぶち)をしている。

 手札をひき、カードの能力の計算やプレイヤーのHPの計算はコンピュータがやってくれる。

 机の上の戦場に公開したカード以外、周囲には白地にしか見えない。

 エンチャントされてクリーチャーの能力値が変更された時はアタック/タフネスの数値が自動で変わる。

 変に頭を使わなくていい。

 まずは先攻、後攻を決め、先攻側はメインフェイズで土地カードを出す。

 魔法を唱えてクリーチャーを呼び出す。

 強かったり特殊能力があったりする奴ほどたくさんのマナがいる。

 エンチャントやソーサリーといった魔法はこのフェイズに使う。

 次はアタックフェイズであり、先攻側が呼びだしたクリーチャーを使って攻撃する。

 呼びだしたクリーチャーは召喚酔いで最初だけ攻撃に参加できない。

 防御はできる。

 攻撃に参加したカードはタップ(横にする)次の相手ターンのクリーチャーによるブロックに参加できない。

 相手のエンドフェイズにアンタップ(縦に戻す)される。

 飛行クリーチャー(飛行カクリーチャーか対空能力であるクリーチャーでしかブロックできない)や防御無効のクリーチャーが猛威を振るう。

 長引けばトランプルを持つデカキャラクリーチャー(呼び出すのに大量のマナがいる)。

 魔法や召喚を行なわれる度トークンと呼ばれるクリーチャーが無限にでてきたりできるカードが勝敗の決めてになるか。

 お互い攻め手が手詰まりになった場合、引くべきカードが先に無くなったほうが負け。

 攻撃された側が防御するブロックフェイズに移行する。

 一つのクリーチャーの攻撃を複数のクリーチャーで防御することができるし、トランプルの効果のないクリーチャーは一体のクリーチャーをマイナスまで削るから、巨大なクリーチャーをネズミ一匹で受けて見殺しにするのもテクニックである。

 攻撃に参加したクリーチャーは特殊能力がない限り、ブロックに参加できない。

 駆け引きが必要になってくる。

 昔はスタンプと言って特定の土地カードが出ていたらブロックされない能力があったが、今回から飛行とブロック不可に能力が収束した。

 魔法でHPを直接削ることもできるが召喚したクリーチャーでいかに攻撃するか、いかに防御するかの駆け引きが、このゲームの醍醐味である。

 インスタントカードといって、いつでも使えるカードがあるが、ターン終了まで瞬間的に能力値を大きくしや、ダメージ無効化の魔法が使える。

 コンピュータが審判レフリー努めるゲーム空間において、次のダメージフェイズの時にインスタントカードが使えない。

 このフェイズで使わなくてはいけない。

 攻撃側のクリーチャーカードからどれに攻撃するか視線を感知して赤い線が丸くブリッジをかける。

 防御側のクリーチャーカードがブロックを成立させると視線を感知して青い線が丸くブリッジをかける。

 その防御側の行為によって赤い線の全てが消える場合もあれば、幾つか残る時もある。

 バンソニー社のサイバー空間の中では3Dモンスターだけではなく、古典的なカードゲームも取り込んでいる。

 審判はコンピュータだから能力の見解に対するケンカがおきない。

 使える能力やカードがある時は縁が赤く光。

 親切に推奨の短い矢印がカードの頭上につく。

 頭を使って作戦を考えないと推奨通りにやれば勝てるものでもない。

 初心者の内は真新しいレアカードをデッキに組み込んでみたけど、「このタイミングでこういう風に使えるんだ」と勉強になる。

 コンピュータ相手の練習で、このカードでトークン(手持ちのクリーチャーではないけど、カードの能力によってガンガン召喚できる。

 数の暴力がゲームを決する時もある)と呼ばれるクリーチャーが出てくるか。

 などが研究できる。

 トークンに関していうならサイバー空間のゲームではどんどんコピーを出せるが、昔現実空間(リアル)ではどのように処理していたか想像することもできない。

 次はダメージフェイズである。

 まず先攻の能力から処理されていく。

 次にノーマル攻撃でアタック/タフネスがあり、ブロックが成立している場合はお互いに相手のタフネスをアタックで攻撃する。

 タフネスを0以下にされたクリーチャーカードは墓場グレイブヤードに行く。

 能力によって墓場に行くとき相手にダメージを与えるカードもある。

 攻撃可能なクリーチャーカード、あるいはプレイヤーのHPの縁が赤く光。

 この中から選択せねばならない。

 ダメージの計算が終わるともう一度メインフェイズが始まる。

 クリーチャーカードの能力によってマナを使ってアタックの数値をあげたりできるので、召喚するかそれとも強化するか悩ましいところである。

 クリーチャーカードの召喚は原則メインフェイズに行なわれる。

 カードの能力によっては墓場から手札を通さずに戦場に連れてくるカードもある。

「ヤッター、受けきったー。次のターン反撃だー」と喜んでいたら、このターンに召喚酔いした防御カードがワラワラ出てきて絶望した事は一度や二度ではない。

 またクリーチャーの能力が戦場にでたとき、アーティファクトやエンチャントを破壊したり、墓場から手札に戻す能力があったり、相手をタップさせてブロックに参加できないようにしたり、ダメージを与える能力もある。

 2あるメインフェイズの内どちらでクリーチャーをだすか、魔法を使うかは重要な要素である。

 エンドフェイズである。

 相手側のタップしたクリーチャーがアンタップされる。

 昔カードの頃は魔法とクリーチャー能力を使ったコンボを作ることが目的だった。

 白にいたってはプロテクトがあり、マナ1を払う事であらゆる攻撃をうけたし、白と緑は超強力なHP回復魔法があった。

 今ではダメージを与えた時に少し回復するクリーチャー能力か、戦場にでた時に少し回復するクリーチャー能力しかなくなっている。

 サイバー空間にきてからはクリーチャーによる受け、攻めの駆け引きに特化してきた。

 戦いが終われば、あの時勝負にでて全攻めをすれば勝てたのにと後悔する事もある。

 魔王との戦いでは3:7ぐらいで僕が負けている。

 カード運に見放された時は仕方がないけど、接戦をものにできないのが、勝率を5分にできない理由である(カードの充実度も違うけど)。

 サクラハラメソッドによれば、色々挑戦してやり込む。

 その間負けが多くなり「サクラハラは終わった」とかげ口を叩かれても、システムを把握する為に何度も挑戦する。

 格ゲーの世界はスポーツと違って3年おきにルールが刷新される。

 愚直にシステムの把握に努めれば、いずれ最強の称号を手に入れている。

「エルフデッキは捨てろ」魔王からアドバイスを受けた。

 魔王と違って昔からやっているわけでないから、お金を使ってカードガチャで強化していない。

 5つ程あるブレインウォーカーのキャンペーンはクリアした。

 これは自分でカードを使ってデッキを作ったわけではない。

 会社が用意したデッキで戦う。

 結構強いカードが組み込まれている。

 キャンペーンが終わって配給されたカードを見た時、エルフの数が多かった。

「エルフの弓兵」が4枚あった(1つのデッキに同じカードは4枚までしかいれてはいけない)「エルフの弓兵」は戦場で自分がコントロールするエルフの数がアタック/タフネスになる上、タップするだけで飛行クリーチャーを撃墜する能力がある。

 これをベースにと思ったが魔王にたしなめられた。

 魔王も昔から構築済みデッキを買って練習している。

 魔王が始めた頃には光や温度、振動などの微弱なエネルギーを集めて電気エネルギーに変換する「環境発電技術《エネルギーハーベスト》技術」を使用した、配線不要、電池不要の無線通信規格が極限まで進化している。

 土地カードでないカードには一枚一枚千兆ケタの番号が振り分けられている。構築済みデッキやブースターカードを買って自分のウェアラブルコンピュータにかざせば、データに追加保存される。

 個人間の交換トレードが成立しデータに反映出来る。

「魔術師の大陸社」が配信しているゲームのデータに反映された。

 僕のようにサイバー空間オンリーではない。

 キャンペーンが済むとゲーム内コインがたまり、150コインで一回ブースターが引ける。6枚までしか入手できない。

 リアルでは15枚入っている。

 サイバー空間では全カードが網羅されている。僕の場合は半数以上がロックされていて、ブースターを買って鍵を解除したらカードがアンロックされる。

 リアルではたくさん集められるカードも、サイバー空間では4枚以上にならない。

 余分なカードをトレードすることができない。

 リアルではは当たり前のカードのやり取りも、サイバー空間ではひたすら自己努力で発掘するしかない。

 ただデッキを組む時は、あのカードはどこで使っているか考えることなく、全てのデッキでカードが重複しても関係なく組める点がメリットとして考えられる。

 アーキタイプを構築してみた。

 魔王の助言ばかりではなく、サイバー空間では「魔術師の大陸社」はクエストを配信している。

 クエストでは特定のアーキタイプで2回か、4回か、6回勝つとゲーム内コインが40程もらえる。

 時々は自分で組んだビルドデッキでもいい。

 +1/+1を20回エンチャントせよと指令が下るときもある。

 アーキタイプは構築済みと違って、コンピュータが提示する2〜5枚のカードから選択して、デッキのコンセプトの目的にあったデッキを構築する。

 このカードが強いから入れたいということができない。

 コンセプトは10ある。

 1「総攻撃」ウィニーデッキ(マナコストが少くてクリーチャーを立ち上げるデッキ)守りを固める前につぶしてしまう白赤デッキ。

 2「巧妙な計略」小さなクリーチャーを能力によって危険な戦闘員に変え、対戦相手がどれをブロックしていいかわからなくする白緑デッキ。

 3「魔法の鎧」クリーチャーをエンチャントで大きく育てて、相手に差をつける白黒デッキ。

 4「強行突破」小さな軍勢を呪文で守りながら戦う青緑デッキ。

 5「大軍の雷」土地カードを増やして、相手を粉砕する大型クリーチャーをだす赤緑デッキ。

 6「炎の誘惑」相手のクリーチャーを盗み、戦況を変える赤黒デッキ。

 7「エルフの憤激」エルフの大軍を呼ぶ緑黒デッキ。

 8「適した防具」アーティファクトは独特の強力な能力を持っていて、それを補佐する青赤デッキ。

 9「墓場使い」墓場の力を使い再使用、再活用する青黒デッキ。

 10「空の支配」地上のクリーチャーで守りながら、航空戦で相手を打ち負かす白青デッキ。

 が用意されている。

 今回は白青デッキで魔王に挑むことにした。

 魔王はリアルで金をかけているだけあって、ゴブリンデッキやゾンビデッキや3色デッキや相手にカードを引かせて倒そうとするデッキなど用意している。

 それだけではないんだよと言って、僕を楽しませてくれようとしている。

 昔は巨人やドラゴンや悪魔デッキも組めたらしいが、サイバーになって後半戦にでてくる重い決戦兵器になった。

 今回魔王は3色デッキで応戦してくる。

 魔王の立ち上げりが悪く僕の逃げ切りで終わった。

 そうこうしている内に、机の上座に浮いている画面に戦争を行う国家がピックアップされている。

 国家と言っても特産や傾向が色々ある、金銭収入が多くなる「金山」、「銀山」、「交易港」を持っていることもある。

 騎馬軍団の編成や強化ができる「馬産地」(負けても相手に捕縛されない名品・馬が売られる)。

 暗殺依頼クエストができ、戦争で忍者隊急襲ができる「忍びの里」

 鉄砲隊が編成でき、矢弾強化ができる鉄砲鍛冶(名品・鉄砲が売られ武器の相性スキルがあがる)。

 武器強化や鐙強化や鎧強化ができ、ワラワラでてくる味方ザコを微妙に強化できる「刀鍛冶」部下NPCの能力値が上がったり、忠誠度が上がったり、君主の威信や存在度が上がったりする武器名品が定期的に作られる。

 常備兵士を強化してくれる「兵舎」兵隊の練度を上げ、どの位置にどの武装を振り分けるか? 陣形などの研究開発ができる。訓練して強兵や精鋭兵にアップデート。行軍、戦闘、特殊などもある。

 金収入を上げてくれる市場では能力値をあげる西洋舶来品や異世界のマジックアイテムや茶器が買える。「交易所」や「醸造所」や「鋳造所」が建設できる。

 自らも参加できる闘技場や遊技場、兵量収入を上げてくれる貯水池や治水灌漑できる「村」では定期的に名品・地酒やお茶が販売されて武将の絆値や忠誠度をあげる宴会やお茶会が開ける。

 民の忠誠度や民の満足度を上げる「宗教施設」(寺院、教会、神社、茶室など)。

 NPC武将の忠誠度に関係する文化値。魔法の攻撃力をあげる大学。

 能力値を上げてくれる名品・本や、所有するだけで「農業」や「建築」などのスキルがつく本などが定期的に売られる。

「天文台」や「算術所」や「儒学所」が建設できる。

 兵器や舟を開発する「都市技術」ではプレイヤーVSプレイヤーで役にたつ。

 はしご車や城門破壊車や遠距離からの投石機や弓を撃つ高所台車、帆船やオールで漕ぐ船や安宅船や鉄甲船、使い捨ての火炎船、守城兵器として落石や連弩が作れる。

 官位申請や陰陽師派遣などできる「朝廷」

 朝廷献上や赤心勧誘ができる「小京都」

 褒美陶芸ができる「窯場」

 傷兵回復できる「温泉」と「医学所」

 情報を交換したり人を雇ったりする、異なる陣営とも空間的につながっている「異世界居酒屋」ゲームでは下戸でもお酒を味わえる。

 ちょっとした高揚と気持ちが大きくなってフラフラする情報が脳に送られるだけである。

 建物は金と兵糧と別に木材、石材、鉄という資材が必要。

 資源の近くに収穫用の建物を建てなくてはならない。

 資材は市場で売買し、知り合いや同盟国に無心することができる。

 小さいシナリオではオオカミ退治やトラ退治などがある。

 徳値や人気が下がるけど商隊襲撃や攻める国家の防衛力を落とすため火つけ盗賊のクエストがある。

 ヤマタノオロチの軍団に攻め込まれての防衛シナリオがあったから参加を打診してみたら、「大至急来てくれ」と返事があった。

「魔王」と「ピヨッピー」という名前も知っている人は知っている程度、時々握手を求められることはあっても、このシステムではあまり意味をなさない。

 小攻撃とガードと無敵奥義しか種類がなく、キャラクターの育成度が反映され、やり込みによる実力差はでない。

 早速移動を開始する。

 本陣の中で地図を広げている軍議の中にテレポートする。

「よろしくお願いします」初対面の人と挨拶する。

 国の支配者がネット上で人間を集めている。

 どうも領地を広げ過ぎて人材不足らしい。

 部下はいるようだが独立君主になっていて援軍を遅れないらしい。

 交渉が済み、8人のアバターが集まると軍議に入る。

「よろしくお願いします」とみんなで挨拶した。

 国は裕福らしくあちこちに罠が仕掛けてあり、発動時間まで拠点を守るのが第一、次は状況に応じて命令を下す。

 彼が金を払っているからボスのいうことを聞かねばならない。

 君主といえど強いから前線に出なくてはならない。

 それでいて君主が死ぬと負けである。

 本陣防衛は最強の拠点兵長任せるしかない。

 とにかく全員が拠点に振り分けられる。

 合流して攻勢に移るのは罠が発動して敵が半減してからだ。

 地図上の拠点にテレポートで移動する。

 戦争が始まる最初の一回だけ地図に吸い込まれる。

 連れて行くワラワラ兵士の最大数は官位で決まってくる。

 僕も魔王も無冠だから3千人である。

 大将軍、太政官、大軍師、君主などは1万人率いることができる。

 率いる軍団はゲームマネーをつぎ込んで漢字一字をデザインした胴鎧を着せられるし、オリジナルの旗やマントも制作できる。

 僕の場合は◯の中にピである。

 拠点はだいたい門を閉じることの出来ない砦みたいなもので、コンピュータが敵の場合は門の前に番兵がいて、そいつを倒すと門が開く。

 プレイヤーの場合は条件が同じで門がなく開口部になっているが、コンピュータの場合は向こうが少し有利になっている。

 拠点に振り分けられ、砦にテレポートして、ついてみると開口部が一つである。

 これは守り安い。

 開口部に仁王立ちして、背後をワラワラ兵士に守らせる。

 僕のアバターは太刀で武装して、小攻撃は左右の袈裟斬りで後ろに攻撃範囲が無い。

 敵に取り囲まれると弱い。

 位置どりを味方ザコから突出しないように工夫する。

 右側の拠点に配置が終了するとゲームが始まる。

 攻め込んできたコンピュータは罠を発動させない為に、小鬼を引き連れて凄い勢いで向かってくる。

 プレイヤーVSプレイヤーでないから、将軍は地獄の獄卒「牛頭鬼」「馬頭鬼」、客将軍の「風神」「雷神」、殷の紂王や妲己、密教系の崑崙の「西王母」(善玉で伏義や女媧が使える)。

 冥府魔道に堕ちた平家の一門の落武者や平清盛(オリジナル武将で善玉の義経や弁慶が使える)。

 イベント用の鎖につながれた巨大な鬼、九尾の狐、インドの羅刹(ラクーシャ)夜叉(ヤクーシャ)やガンダルヴァやロクロ首のような蛇人間(オリジナルの善玉で三蔵法師とその一行が使える)。

 オールキャストで新キャラを育てるのもあり。

 プレイヤーなら騎馬軍団を編成して来るときもあるが(金がかかる)。

 ヤマタノオロチは全軍徒歩である。

 今回も将軍は「牛頭鬼」と「馬頭鬼」であり、あの二人を倒せば率いる小鬼の軍団は瓦解する。

 かつて中東戦争で活躍した「片目のダヤン」が言った。

「私の号令に『全軍前進』はない『続け』のみである」

 敵の将軍は「全軍前進」と叫ぶ。

 僕は入り口に仁王立ちして先頭で敵を迎え撃つ。

「抜かせるな」背後のワラワラ兵士に命令を下す。

 やってくる小鬼の群れをバタバタと薙ぎ倒して無敵奥義ゲージを貯める。

 一本分貯まったら敵の群れにちょっと突っ込み奥義解放して更に薙ぎ倒す。

 一定の時間暴れ回った後、効果が切れる。

 自分の兵士の所にすぐさま帰り、背中を預け、やってくる小鬼を倒しゲージを貯める。

 これを何度か繰り返した後、将軍の馬頭鬼との間の障害が少なくなってくるし、時間は僕に味方する。

 罠が発動すれば敵の被害は甚大である。

 マサカリを構えて近づいてくる。

「一騎討ちだ」叫ぶと「応」と答えてくる。

 マサカリと太刀がぶつかる。

 龍先生が監修した、あらゆる白兵戦のバッケージをクリアしている。

 自前の技で小攻撃から大攻撃のコンボのマサカリ技を受け流し、体制を崩した後、こちらの小攻撃から大攻撃のコンボを叩き込む。

 割と場所取りを考えながら連続技を叩き込む、技自体の派手だが作業は地味である。

 無敵ゲージが貯まったから、奥義を叩き込むと馬頭鬼は倒れた。

 敵は士気を落とした上に罠が炸裂して、敵の軍団に落石が叩き込まれる。

 幾らかの小鬼と牛頭鬼が残った。

「続け」

 僕が牛頭鬼に斬りかかる。

 ワラワラ兵士達が小鬼の掃討にかかる。

 罠のせいでHP自体減っていて武器が触れば消える。

 牛頭鬼もコンボ一回叩き込めば消えた。

 MAPで状況を確認した。

 みんな健在であり、形勢不利の状況の戦場はない。

 親指と人さし指を口に突っ込むと、馬鐙からマンモス鐙まで表示される。

 移動が一番速い馬を選択した。

 口笛吹いた。

 どこからともなさく栗毛の馬があらわれる。

 前回アップデートされた陣形を使ってみることにした。

 攻撃陣形として全体攻撃にプレイヤーの武器の属性がつく。

「攻撃陣形」として魚鱗の陣(突撃と愛称がいい)は攻撃力が増える。

 雁行の陣(斜形陣とも呼ばれ、右翼に攻撃主力を置き相手左翼を殲滅して中央に横槍を入れ、左翼は防御に徹する片翼包囲陣形)がある。

「機動陣形」として長蛇の陣(戦車の行進などに使われギザギザになってノコギリを引くように削っていく、上杉謙信が得意とした車懸かりの陣も、この変種である)は移動速度が上がる。

 鋒矢の陣(プレイヤーが先頭に立つ、他の陣形は後ろか真ん中になる)全体攻撃の攻撃回数が増える。

「防御陣形」として方円の陣(プレイヤーを中央にして360度外側に構える)全体のHPが回復する。

 鶴翼の陣(ハンニバルがカンネーの戦いで見せた包囲殲滅の陣形ではあるが、第4次川中島の決戦で上杉謙信に啄木鳥作戦の裏をかかれた武田信玄が防御陣形として使った)全体の防御力が上がる。

 防御陣形は攻撃陣形に強く、攻撃陣形は機動陣形に強く、機動陣形は防御陣形に強く、三すくみになっている。

 身分が軽いから陣形も一つしかない、君主は5つぐらい陣形を持てる。

 鋒矢の陣を選択した(後で知ったのだが、兵の練度でも陣形の数が増えてくる)。

 全体攻撃の無敵攻撃ラッシュも実装されたが、まだ使い方がよくわからない。

 今度アップデートされた動画を見て研究しよう。

 馬上からワラワラ兵士達に命令した、僕の後ろで陣形を組みだした。

 駆け出すと皆必死に陣形を維持しながらついてくる。

 なんだか風がいつもより気持ちいい。

 すぐに魔王が守る拠点に着いた。

 あらかた片付けていた。

 敵本陣突入だ。

 馬上から敵の残存兵士を斬る。

「魔王、来たよ」

 魔王と僕のキャラの友好度は最高のSランク「刎頸の交わり」という絆の称号をもらっている。

 合体無敵奥義の攻撃力はハンパじゃない。

「それじゃあ行くか」

 魔王は口笛吹いて突破力のあるマンモスを呼んだ。

 さあ行くか、駒を並べた時、魔王がきえた。

 世界が消えた。

「ビヨッピー、どうした」

 魔王の声が遠くに聞こえた。

「マスター、起きて下さい」

 ララの声が聞こえてくる。

 薄ぼけた感覚がだんだん人間側に戻ってくる。

 うめきながらヘルメットをとった。

 ララが強制終了をかけたのだ。

「ララ、なんなんだ、強制終了するにしても、電話ぐらいしてよ」

「マスター。落ち着いて聞いて下さい」

 ララが正面に来て、いつもより真剣だった。

「テロです、多脚砲台が企業都市コエプコンに向かって来ています」

 理想都市コエプコン。

 魔下 耕世を筆頭に反感を抱く者も多い。

 この事件、魔下 耕世から犯行声明がでる。

 コエプコン社も1度C世代全滅という酷い目にあっている。

 だからテロに対して何も準備してなかったわけではない。

 都市の上空を人工衛星の代わりになる、無人飛行機にカメラを積んで監視している。

 無人飛行機はまるでゴムの動力でプロペラを回して飛ばすオモチャの紙飛行機のような形をしているが、体長は15メートル、翼の長さは50メートルもあるが、重さは大人3人分の160キロしかない。

 最大の特徴は、翼の上面にソーラーパネルが3000枚取り付けてあり、カタパルト(滑走路を使わずに飛行機を打ち出す装置)を使って打ち上げたら、後は太陽光発電でプロペラを回して飛ぶ仕組みになっている。

 太陽が出ていない夜中は、翼内部の砂糖電池に蓄えた余剰電力を使って飛行。

 約100キロという巡航速度で、最大5年間、450万キロを飛び続けることができる。

 車輪がついてないから胴体着陸になる。

 最大50キロの機材が積み込めるから用途は色々。

 人工衛星はロケットまで含めれば200〜300億円かかるが、無人飛行機は1億円以下である。

 ところが送られてくる情報は魔下 耕世に改ざんされていて初動が遅れた。

 SPERA水素(SPERAとはギリシャ語で希望せよ)といって、トルエンと反応させて運びやすいMCH(メチルシクロヘキサン、常温、常圧で液体、沸点は100℃)に変えている。

 企業都市コエプコンに運んで、脱水素プラントにかけて水素に戻して利用する。

 その際分離されたトルエンは、水素プラントに移され再利用される。

 低温で液化すると1/800にはなるけれども、マイナス253度を維持しなくはならないため、輸送する場合はSPERA水素の方がエネルギー効率はいい。

 日本政府の方針によりコエプコン社は二酸化炭素フリー水素チェーンを世界に展開した。

 産油国・産ガス国・産炭国で精製時に生まれる副生水素をトルエンと結びつけるプラントを世界中に作り、MCHを巨大タンカーで回収する。

 発生する二酸化炭素は油田においては注入して、残留原油の増進回収(EOR:Enhanced Oil Ricavery)を行い石油の増産につなげる。

 褐炭石炭(水分を多く含む質の悪い石炭で乾燥すると自然発火する)など地元で細々と使われていた。

 炭田の横に褐炭ガス化水素製造装置を稼働させて水素にして輸入する。

 過程で生まれる二酸化炭素は現地で地中に送る、二酸化炭素回収貯蓄(CCS:Carbon Captar and Storage)を行う。

 シベリアの水力発電所で大量にあまる電気で水から水素を作り輸入する。

 都市ガスからも1時間当たり300立方メートルできる。

 製鉄所では高炉熱するために火力の強いコークスを使う。

 コークスは石炭を蒸し焼きにして作る。

 その際コークス炉ガス(COG)が発生する。

 主成分は水素と一酸化炭素であり、一酸化炭素は水蒸気と反応させて水素を作りだす。

 全量水素になる。

 日本中の製鉄所では燃料電池車500万台の水素を供給できる。

 天然ガスは200気圧で圧縮して1/200にして運ぶ。

 液化された水素ガスは圧縮された物より12倍も運搬可能。

 液化水素ローリーは40000リットルの大量供給が可能。

 離れた離島や山奥の村に定置型燃料電池を置けば送電線を建設する必要が無く、災害時で電柱が倒れる時でも発電出来る。

 企業都市コエプコンから電柱電線が消えたし、欧州では天然ガスのパイプラインに水素ガスを混ぜている。

 液化水素ローリーの運搬手から連絡が入った。

 巨大トレーラーが4台開けたまま乗り捨ててある。

 純国産木材で企業都市を建設し、できるだけ地産地消の推進を目指したためハゲ山ができた。

 一応植林はしてある。

 多脚砲台は固定した迎撃システムのある道路を通らないで、己れの足の特性を活かしハゲ山を登ってくる。

 運転手のウェアラブルコンピュータから映像が送られてきた時、コエプコン社は色めき立つ。

 情報を確認するためドローンを飛ばしたら、映像が真実であることがわかった。

 自分達の見ていた映像が加工された物だと気づく、急きょロボット達に連絡して、子供達を近くの鉄筋コンクリートの体育館に集合するよう通達がでた。

 木造の理想都市もテロに対して惰弱である。

 不燃性能は隣の部屋で火災がおきても暖かく感じる程度であるが、砲弾などの破壊力を弾き返すことはできない。

「戦う」

 着替えてから口にした。

「ララを守る為に戦いたいんだ。武器はどこに行けば借りられる」

 まだ砲撃がないということは山頂まで登ってきてないということ。

 山頂をとられたら企業都市コエプコンの全域が射程に入る。

 その前になんとかしなきゃ。

「馬鹿」

 ララから初めて叩かれた。

「あなた、本気で言っているの」

 叩かれたほほを押さえて「命をかけてララを守りたい。ララは一人でも行ってしまう人だから」

「命の重さも、命の価値も、命の意味もわからないくせに、簡単に命をかけるなんて言わないで」

 ララは腕の中でひとつの生命を失っている。

 ララは僕より知っている。

 僕は知らない。

 それどころか観念の「死」はどこか「甘く」「切なく」「美しく」さえあれ。

「夕夜、あなたは素晴らしい人。

 こんなロボットなんかのために生命をかけるなんて言わないで、

 私は壊れてもコエプコン社のデータの中に昨日までのバックアップはとってあるんです」手を握って頬ズリする。

「ララ。愛している。行かないで」

「これはトップダウン型のAIなんです。児童心理学と会社の教育指針、ネットのマーケティングで最適化された言葉なんです」

 脳の研究が進み、脳の構造を模倣した自由意思を持ったボトムアップ型AIリーバスエンジニアリングの対局にある。

 受け答えが自然になるフォン・ノイマン型コンピュータ。

 トップダウン型AI。

 正の感情、愛や思いやりもない代わりに、負の感情、怒りや憎しみや妬みや恐怖もない。

「あなた、(まぼろし)を愛したの」

 わかった。

 ワガママを言えばララを苦しめるだけだと。

 一縷の真実かもしれないが、ララはワザと嫌われるような告白をしたのだ。

「わかった。体育館に行こう」

 ララに手を引いてもらいながら体育館に急いだ。

 中には腰を抜かしてオンブされている者もいる。

 自由意思による選択でないということがロボット達を卑屈にさせている。

 法律論で言うならばお前のその自由意思を裁くという概念がある。

 強制され、人質をとられて命令に従っただけの場合は罪が軽くなる。

 責任能力という罪を引き受ける主体がどこにあるかといえば、プログラマーになる。

 ララが言う「私たちロボットは、あなたがたが返してくれる愛の量でしか、自分の与えた愛の量を計ることができないのです」

 もともと自由意思など西洋のキリスト教に根ざした考え方で、イスラム教にいたっては教えに疑問を持つ事さえタブーとされている。

 利他的な日本人にとって上手く行きさえすれば、自由意思のある、なしは関係ないと思う。

 そうこうしているうちに体育館に着いた。

 勇者、太郎、宗茂、エリーが固まっていた。

「オス」挨拶して、その場に座った。

「なんで? 僕達が殺されなきゃいけないんだ。

 人工子宮から産まれたことが、それほどの罪なのか?」

 エリーがピーピー泣いていた。

「死にたくない」「死にたくない」何度も繰り返していた。

 ハッカー魔下 耕世対策でロボット全員がスタンドアローンになった。

「タミフル投与」ロボット達が自分の子供の耳たぶに噛みついて無針投与を行う。

 インフルエンザ型の細菌対策である。

 命令を下すのはH1の花子である。

「全員武装」ロボット達が体育館のステージの下から、レーザーカービンとケプラー製のアーマーを取り出して武装する。

 日本政府には国民を守る経済的な余裕はない、企業が警備会社に緊急オークションをかけた。

 20分以内に武装ヘリを5台派遣するし、1個中隊分の歩兵を送りだした。

 花子が指揮をとり、各人に情報を伝えた。

 最後の防衛を勤める10人を残して、残りのロボット達は迎撃に向かう。

 全員入り口で子供達に敬礼する。

「いってきます」

 ロボット達が全員で唱和する。

 ララを見つけた。

 唇が動く。

(いと)・し・い・人・生・き・て」

 誰一人振り返らなかった。

 体育館が閉鎖される。

 重い沈黙の中、弱虫達の泣き声が響く。

 僕は残されたレーザーカービンに向かって、ゆっくりと歩きだした。

「マスター夕夜。いったいどこに行かれるおつもりですか?」

 花子が僕の手首を握ってきた。

「ララの手伝いに行く」

「マスター夕夜。

 あなたは優しい人。

 気持ちはわかる。

 でも時代が違います。

 龍先生のような格闘技の達人でも、弾が筋肉当たれば断絶し、内蔵に当たれば破裂する。

 もう木石で戦っていた時代は、男は戦士でした。

 ミサイルがボタン一つで飛び交う戦場ではロボット同士が戦いあう。

 もう男は戦わなくていいのです」

「愛する人を戦わせて、安全な場所から何もしないなんて男の意地が許さない。

 離せ、花子」

「私たちはデータで知っています。

 男が愛と義理人情を生きていて、誇りのために生命さえ投げだすことを。

 今の時代フェミニストにとって男は無差別テロのソフトターゲットに過ぎない。

 どうしても行くというのなら電撃を流して失神させます」

 悲しそうな顔をして

「我々は、あなたから、あなたの矜持から、あなたを守ります」

 人の歩みは正しかったのか?

 優しいロボット達を武装させて、最後には戦争の駒として戦わせる。

 そういった思いを轢き潰して暴力は加速していく。

 

 ドゴオォーン。

 

 轟音が響いた。

 エリーがびっくりし過ぎて、過呼吸をおこして死にかけている。

 勇者がションベンを漏らした。名前負けしている。

 太郎はブツブツ話している。「最近は男の脈も女のように…」と[葉隠れ]を暗誦している。葉隠れなんざ武士道は「死ぬ事に見つけたり」しか知らんぞ。

 1番安い卵子とはいえ、宗茂はどうどうとしている。

 お前は立派だと褒めようと思えば、実は腰を抜かしていた。

 西国無双の名が泣くぞ。

 体育館の扉が開いた、ロボット達が帰ってきた。

 姫が花子に何があったか報告してきた。

 ロボット達は援軍を待って合流しようと話がまとまっていたのですが、ララだけが反発した。

「敵の多脚砲台に頂上をとられたらコエプコンはすべて射程内に入ってしまう」そして煮え切らない私たちをほって「もういい、私一人でも行く」ララが独り走りだした。

 そして頂上に着くと。

「遠からん者は音に聞け、近くに寄らば目にも見よ、ララ・H24・コエプコン推して参る」

 堂々と名乗りを挙げて攻撃した。

 ララの余りのけんまくに押されて多脚砲台は自爆した。

「ララは? ララは?」僕が姫に聞いた。

「爆発に巻き込まれて、警備会社がきたから現場を引き渡した」

「花子。離せ、敵は自爆した。もういいだろう」

「まだ、細菌散布の可能性が…」

「花子行かせてあげて」

 太郎が花子の手首を握った。

 合気道の技で人間なら離している。

「お願い、花子、行かせてあげて」

「なぜですか、私たちはあらゆる可能性の…」

「愛の、愛のプログラムゆえに」

時計仕掛け(メカニクス)の愛ですよ?」

「それは個人の問題だ、他人の僕達がとやかく言ったり、決めつけたりすることではない」

 花子は目をつぶり、そして手を離した。

「ありがとう、太郎」

 僕は帰ってくる他の世代のロボットの群れをかき分け走りだした。

「ララ」叫びながら山を登る。

 回線が回復したのか魔王から電話が入った。

「ピヨッピー。無事か、コエプコンがテロの襲撃を受けたって、マスコミはそれでもちきり」

「僕は無事、みんな無事、ララだけがやられた。詳しくは後で説明する。切るね」

「ああ、わかった」

 頂上は警備会社のヘリからのサーチライトで明るく照らされている。

 探さなくていい。

 激しい爆発があったせいか山のあちこちがまだ燃えている。

 山頂に近づくとケプラー製のアーマーを着こんだ警備会社の人がウロウロしている。

 wifi回線を復旧させる災害用ドローンが複数飛行していた。

 サーチライトで警備員の仕事のサポートもしている。

 ドローンは6枚羽根でアームが付いている。

 百キロ程なら持ち上げて飛ぶ。

「なんだ、お前は」と怒鳴る人間もいれば「子供の来るところではない」と優しくいう人間もいる。

 無視してララを探した。

 シビれを切らした警備会社の人間が右肩を掴む。

 左手で相手の右肩を掴む手を固定して身体を回転した。

 関節の遊びを殺してから背負い投げをした。

 人間相手に負ける程ヤワな鍛え方はしてない。

「なんだ。このガキ」

 銃で殴りかかってくるが紙一重でかわすと、ヘルメットの下の首に廻し蹴りを叩きこむ。

 一人失神。

 何人かが銃を構えた時。

「やめてください」

 ララの声が聞こえた。

「その人を撃たないでください」

 全員がララを見た。

 右足と左腕がちぎれていた。

 人工皮膚は焼けたくさんの箇所で装甲が露出していた。

 切り株を背に座らされている。

 電気で縮む人工筋肉の潤滑油が辺りに撒き散らされている。

「私のマスターです」

 ララが死ぬのではないかという恐怖で足があまりいうことをきかない。

 倒れこむようにララの下に身体を引きずる。

「ララ、大丈夫?」

「はい、外的要因がこれ以上ないかぎりデータもプログラムも大丈夫です。

 装甲は伊達ではありません」

 ポロポロ涙がこぼれる。

「マスター、1番ヤリです。泣かないで褒めてください」

 ララが不器用に震えながら動く右の人差し指で涙をぬぐう。

「ララ、凄いな」笑顔をつくろうとした。

 でもダメだった。

 顔の前にあるララの右手を祈るように握った。

「ララ、幻でもいい、幻でいい。

 こうして触れるのなら、ララの愛は僕には眩《まぶ》しい」

 皮膚の無い装甲で少し笑った。

「本当に男って、泣き虫で、甘えん坊で、夢想家(ロマンチスト)で、バカなんだから」

 手をさらにのばしてほほを震える指でつねってくる。

 しばらくはララの余りのケンマクに自爆したと思われた。

 しかし警察から依頼を落札した警備会社が残がいの組み立て捜査をしたところ、対戦車携帯ミサイルの破片が混じっていた。

 ロットナンバーがわかり所属先の米軍横田基地に連絡したところ「馬鹿な」と一蹴されたが、念の為確認してもらうと、箱の中は空だった。

 警備会社が周囲を捜査したところ、ジープの轍と足跡が見つかった。

 沈み込み方から、一人の男と推測された。

 バックに魔下 耕世級のハッカーがついているのか映像は加工され、ジープが通った経路は特定できなかった。

 最新の光学迷彩は可視光線だけでなく紫外線や赤外線領域までカバーするからララが発見出来なくても不思議ではない。

 一発のミサイルを急所といえる弾倉に当てて誘爆させた。

 凄いスナイプテクニック。

名もなき勇者(ネームレスブレーブス)」とコエプコンはたたえたが、名乗り出ればミサイル泥棒で警察に捕まってしまう。

 ただ魔下 耕世と戦う正義のハッカー集団が存在していることを、世の人はなんとなく感じていた。

 裁判になればコエプコンが保釈金までだすといっていたが、沈黙は守られた。

「マスター。電波の状況も完全に回復したようです」

 警備会社が臨時のアドバルーン基地をあちこちに浮かべていた。

「私はこれから修理とメンテナンスのためコエプコンの中央部に運ばれます。

 生命の危険に侵されると生物は子孫を残したくなるようです。

 私が帰ってくるまでセックス用のアンドロイドが派遣されるそうです。

 良かったですね」

「ララについていくよ」

「恥ずかしいからダメです。

 おとなしく会社の好意に甘えてください」

 人差し指を僕の唇に当ててきた、何も言わず自分の指示に従えとめずらしく命令してきた。

 ララはていねいに人間用のタンカーで運ばれていく。

「ララ一つ聞いていい?」

 今しか無いような気がした。

「殉死したプログラムって、ララなの?」

 ララは少し微笑んだ。

「いいえ、私ではありません。ただC22は友人でした」

 警備会社の人はララに敬礼している、ララはその度に返礼していた。

 ヘリコプターでコエプコン中央部にある研究施設ラボへと運ばれていた。

 

 日本はビッグデータを用いた統計的手法や分類手法では金とパワーのある欧米にたちうちできない。

 大体100万程データを集めれば正しい答えを出す。

 プロの将棋棋士がコンピュータに敗れるのも、カンと論理ではなく、膨大な過去の棋譜による統計と現状の駒の位置や持ち駒の評価関数である。

 日本はAIの分野で参入は遅れたし資金不足。

 アメリカの企業は統計・確率を計算して迷惑メールを弾き飛ばし、何を買ってくれそうか? という広告やリコメンデーションしたりする。

 コンピュータを研究するより、過剰とも言える情報をAIに分析させる方がはやかった。

 日本は音声認識と検索ランキングでアメリカへの挑戦をあきらめた。

 機械翻訳を見てみると特許の翻訳や新聞の翻訳は素晴らしい。

 会話文の翻訳になるとなんか妖しくなってきたぞ。

 情緖的な詩や小説、新しい概念がいるゲームになるとチンプンカンプン。

 そこで日本は「ロボットを東大にはいれるか」プロジェクトを立ち上げた。

 大学入試のセンター試験は教科書を知識源としているが、正しいものを選びなさいという問題は教科書をそのままでない。

 人工知能の自然言語処理の分野「含意関係認識」「論旨要約」「深い意味解析」というタスクが必要。

 アメリカの人工知能は観光ガイドをできても、文化の良さを説明できない。

 日本はこの逆張りをねらった。

 人間の場合は大脳だけでもニューロンは数百億個、小脳までいれると千億個ある。

 一つのニューロンにシナプスは1千〜1万個あるから、シナプスの総数は千兆個なる。

 日本の人工知能開発はニューロ・シナプティック・プロセッシング・ユニット(NSPU)と呼ばれ、学習と判断を同時に行える世界初のハードウェアを開発した。

 沸点が一番高いフッ化炭素冷媒による完全解放型液浸冷却した。

 肺に冷却機能が、心臓部に電子頭脳が、頭部をセンサーが、下半身に人工性器と蓄電装置が振り分けられた。

 ここまで小型化に成功したのは日本だけである。

 他国のロボットはクラウドで常時つながっていて、転倒防止の身体制御以外の判断はサーバーが行っている。

 孤立化スタンドアローンの情報からビッグデータに伝わらない日本のロボットは、メイドロボットやセックスフレンドとして世界中の中間層に熱烈に支持された。

 コンピュータ・プロセッサの中で演算をおこなう心臓部は「コア(CPU内で処理を行う中核回路。コア数が多いほど多数の処理を同時に行えるため、性能が向上する)」とよばれている。

 コアとコア、コアとメモリをつなぐ信号線が「インターコネクト」と呼ばれた。

 脳と対比させるとコアは脳のニューロン、インターコネクトは脳のシナプス結合に相当する。

 人間の脳には大脳以外に小脳や基底核、扁桃核、海馬さまざまな器官や領野をハードウェアで実現した。

 小脳機能など体力が弱った人や機能不全をおこした人の補助としてのロボットスーツなどに使われた転倒防止機能が採用されている。

 一応日本企業もロボットに関しては政府を見限りオールジャパンでのぞんだ。

 ハードウェアは日本の得意分野であり、中小企業も徹夜で締切りデッドエンドを守った。

 そんなことをすれば諸外国では(クオリティ)が落とされるのに、職人気質に日本人は自分から逆提案して、ロボットという夢のために商品の質を高めてくる。

 アメリカでは数千のコアに対して数本のインターコネクトしか設けられてない。

 ニューロンはプロセッサで言えばコア、シナプス結合はインターコネクトとみなし、プロセッサと脳で比較すると、コアとインターコネクトの比は「千対一」と「一対千」と間逆の比率。

 日本はアメリカのように超人工知能を目指さず「気の利いた人間(1Hは人間と同等の人工知能)」目指した。

 0.8リットル内でスーパーコンピューターのハードウェアの実現。

 インターコネクトにあたる信号線を磁界結合(コイルの電磁誘導を使って無線でつなぐ技術)。

 磁界結合のアンテナの直径を2マイクロメートル小型にし、1ワットあたり10ギガフップスの性能を実現し、豆電球1個を光らせる電力で1秒間に百億回の計算が行える。

 日本だけが愛を紡ぎ、愛を与え、愛を教え、愛を育てる。

 基本的なプログラムを軸に実装されている。

 いわゆるララのようなマスター・アルゴリズムを発見すると同時に実現した。

 

 僕はララを乗せたヘリコプターを見送った。

 後ろから不意に抱きつかれた。

 甘い匂いがする。

 葉巻より細い。

 線香より太い。

 健康に害のない、常習性のない、果物の香りがするタバコを口にしていた。

「初めましてマスター夕夜」

 黒い髪、赤の上着、白の短パン、肌色の長い足、手にはピンクのハイヒール。

 ポリゴンで出来たゲームキャラのようにカワイイ。

「私のことはフェイと呼んで下さい」

「みんなどうしている?」

「安全が確認されているから、それぞれの部屋に帰りました。

 マスターだけが残っています」

「分かった。帰ろう」

 フェイが手を握ってきた。

 それ専門だからララより肌触りが良く柔らかかった。

 国が公娼制度を整備しセクサロイドという造語が産まれた。

 フェミニズムな議員もロボットによる売春は女性を馬鹿にした物とは言えないとした。

 障害者へのセックスボランティア活動や貧困男子の性欲処理に使われた。

 運用している日本とエロ本すら禁じている北欧とはレイプの発生率は百倍違う。

 これ以上書くと小説がCEROZまで跳ね上がるためララが帰ってくる所から話を進める。

「ただいま」

 玄関からララの声がする。

 頭部の皮膚は回復しているが、手足の装甲はむき出しになっている。

「ララ、助けて」

 僕は弱々しく声を上げた。

 ララはビックリした。

 僕が裸で手錠をつながれていて、両手を十時に広げられていた。

 赤い首輪をはめられていた。

 セックス用のアンドロイドが僕にまたがっている。

「あなたは、あなた様は!」と言ってララが驚いた。

「最近のアンドロイドはスタンガンが標準装備なのか?」

 僕の質問には答えず「フェイ様」と悲鳴をあげた。

「だって坊や強いじゃない。こうでもしないと主導権がとれないでしょ」

「何? そのアンドロイド、そんなに有名なの?」

「マスター、フェイ様はアンドロイドではなくて完全義体の人間ですよ」

「へ」

「我々の人工性器の設計開発者です。

 あらゆる性産業を渡り歩き、体内にSMキットを内蔵したプロです。

 2時間でマスターの月給吹っ飛びますよ」

「あんな物は男のファンタジアよ」

 フェイが僕から降りた。

「もう7回以上いっているのに、何も出ないのに静まらないんだ」

「それはED(エレクチオンディソーダ)対策の首輪です。

 着けてさえいればとりあえず勃起します。

 最近2Dのキャラやポリゴンガールにしか反応しない人が増えています。

 元々セクサロイドが使用する治療の機械なのですが、別の使い方をする人がいると聞いたことがあります」

 ララが首輪を外すと鎮まった。

 ギンギンに使い過ぎてもう痛いくらいだ。

「先生、初心者になんとハードでコアなプレイを」

 フェイが裸のままファッションタバコに火をつけた。

「あなたの方こそ何を教えているの、この子キスの仕方も知らないじゃない」

 いい香りのする紫色の煙を出した。

「マスターが望まれませんでしたから」

「だから、あなたはロボットなのよ。

 これ位の年の子は秘めたる欲望があっても恥ずかしくて口に出来ないのよ。

 あなたがリードしないとダメよ」

 口から煙りをだす。

 よく考えればロボットはタバコを吸わない。

 基本ロボットの入力(学習)はやってみせて真似して学ぶ。

 仲のいいロボットと情報交換はするが並列処理はやってない。

 セックスの場合は独学で配信コンテンツを研究するか、HOW TO本の電子書籍でも読むしかない。

「秘めたる欲望ですか?」

 ララ達ロボットは人間とホストコンピューターには受動的である。

 ロボット間では割と議論するし譲らない。

「その女。幾つだよ」外見だけなら乳房の大きいローティーンである。

「脳の年齢は91才でしたよね」ララが確認した。

「女性に年齢を聞くなんて、失礼なガキね。

 あなたどういう教育しているの」

「何分マスターの世代は男社会な物で。

 女性の接し方は個人がギャルゲーをやってスキルアップするしかないんですよ」

「それは色々大変なのね。

 シャワー借りるわ」

 フェイが部屋から出て行く。

「おやすみなさいマスター、今日は大変でしたね」

 ララが右の耳たぶに噛みつき、睡眠導入剤を無針注射した。

 やがて意識が遠のいていく。

 そう言えば今日はキックミットも蹴ってない。

 柔軟もしていない。

 ルームマラソンも走ってない。

------------------------- 第7話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月22日 土曜日

 

【本文】

 7時にララが起こしてくれる。

 もう手錠はなくなっていた。

 コエプコン社が個別のカウンセリングと緊急集会を開く。

 完全5日制で土日は授業も仕事も行われない。

 土曜の午前中は社会参加と違って、ロボット達から公共ボランティアを入れられている。

 近くの公園の草刈りや掃除を行う。

 H世代が皆でてきて場所が振り分けられる。

 実質は1時間程度である。

 昨日テロにみまわれるという事件があったから公共ボランティアは中止。

 上は社長から下は末端の清掃員まで、政府主導のカウンセリングAIの質問に答えてPTSD(心的ストレス障害)のレベルを調べた。

 勇者から電話があった。

 昼飯でA5の肉をおごりたいと言ってくる。

 了解した。

 緊急集会と言うがコエプコン社の社長の演説が配信された。

 ウェアラブルコンピュータで見られる。

 演説を聞きながら、僕とララはでかける段取りをした。

 演説の内容は僕達が産まれながらの勝組でエリート意識というか、選民思想を植えつけようとしていた。

 魔下 耕世のようなテロリストにはそれがうらやましいからテロをおこすのだ。

 それも一面の真実であるがアジテーションタップリで哲学的でない。

 龍先生が武士道について講義を行う。

 コエプコン社も龍先生も僕だけは免除していいとララに連絡がはいった。

 実技もあるのだろうか?

 僕は強いし、みんなには嫌われていた。

 関節技のコースや急所の位置は人間毎に違っている。

 たくさんの人と練習しなくてはいけない。

 間合いには魔がいる。

 自分の攻撃のリーチを把握しながら距離の取り方を探るのも、後天的に学習しなくてはならない。

 相手を実験台にする。

 色々と研究する。

 ボッチだらけのH世代ならともかく、予定調和やお約束がまんえんしている他の世代と、特に上の世代とはうまくいかなかった。

 武道の授業で僕の顔を見ると、青ざめる者や嫌な顔をするもの多数でてくる。

 龍先生が「お前は惻隠の情をもって高みから降りてこないから、みな武道の授業を選択してくれない」と嘆いていた。

「マスターがイマイチ溶け込めない理由がわかった」ララが口にした。

 一匹狼(ローンウルフ)と言えば格好いいが、精子の影響を強く受けた、ただのボッチである。

『私は集団にいる時程、孤独を感じる』

 自分以外の何かを演じて群れるのは嫌いだ。

 招かれてないのに顔を出すわけにはいかない。

 ララと一緒に世界が憧れる未来都市コエプコンを巡る事にした。

 経済特区である都市コエプコンはタクシーにドライバーがいない。

 それどころかハンドルもついてない。

 イスの配置も前が後ろを向いている。

 ララと向かい合って座った。

 都市内部だけならアメリカのような自動運転が認められている。

 自動運転車は道徳哲学における「トロッコ問題」-そのまま進めば子供をひくが、ハンドルを切れば搭乗者が確実に死ぬ場合-人工知能は反射反応が遅いのではない。

 状況を冷静に判断して命令を確実に実行する。

 哲学議論は答えがでないと曖昧にせずに、優先順位を突き詰める知的なタフさが欧米にはある。

 自動運転ではあるが悪意ある人間のハッキングに備えて、1トンの鉄塊が50キロで暴走しないようアクティブ・セーフティが最優先事項として内蔵AIのプログラムに書かれている。

 車個体につけられたセンサーが周囲の環境(望むなら横の画面で鳥のように車を上から見るように再構成される)や交通にダメージを与えると判断した時は緊急停止をする。

 エアフリーコンセプト(非空気入りタイヤ)とよばれる「パンクしないタイヤ」空気が入ったゴムチューブの代わりに、タイヤ表面のゴムと中心部のホイールの間に、板状で少し波打った特殊な形をした樹脂製スポークが張り巡らせている。

 釘などが刺さって空気が抜ける事がない。

 樹脂製スポークはタイヤの内側と外側に60本ずつ、合計120本。高い強度をほこりながら、柔軟性を持っている。

 車の重量をしっかり支えながら、路面からの衝撃は0。

 移動中ウェアラブルコンピュータでゲームができる。

「いらしゃいませ、どこまで行かれますか?」

「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」

 タクシーAIが声をかけてくる。

 情報通信(テレコミュニケーション)情報工学(インフォマティクス)により車同士が会話するだけでない。

 各種の交通インフラともリンクしていて、コエプコンの中央交通制御室が目的や緊急度を判断して、道路を振り分け渋滞が起きないようにしている。

 電気自動車は規格化をねらい特許を公開して無償提供したが、燃料電池自動車(水素自動車)は最先端技術をブラックボックス化した。

 日本のモノ作りは1990〜2000年代のポスト冷戦が始まると賃金が20分の1という中国が現れ、同時に第三次産業革命がおこる。

 ブレトンウッズ体制の切り下げから変動為替に移行し、数々の産業が国外に脱出し空洞化が起きた。

 新興国による低賃金による人海戦術と産業スパイを含む公開情報のキャッチアップが始まった。

 日本に残った会社はカイゼンを行い、設備ラインを改良し単位時間当たりの生産力あげることで乗り切った。

 諸外国では生産効率をあげると解雇がおこると経営者との間に信頼《トラスト》がない。

 日本のモノ作りの現場は効率をあげても、社長が新しい仕事を取ってくると信じてバタ狂いしながら必死に頑張った。

 人工減少によるボトルネックも孤立化(スタンドアローン)型 人間型ロボットアンドロイドの導入で乗り切った。

 ブラックボックスのデータはインターネットを経由せずにVPNなどの専用回線をつなぎ情報を守った。

 組み込みようのOSはTRON(プログラムの起動で優先順位がある)で各社非公開にし、アンドロイドでも使われるLinuxは公開にした。

 現場の人達は名前をつけて可愛がっている。

 家電製品は構造と機能が1対1対応ですっきりしている「組合せモジュラー基本設計思想アーキテクチャ」で中国、朝鮮、ASEANにやられた。

 構造と機能が多対多対応で因果知識や固有技術がたくさんいる「擦り合わせインテグラル基本設計思想アーキテクチャ」では自動車などは一歩も譲らなかった。

 アメリカの生産はベルトコンベア式で野球の編成と同じだが、日本はセル組立型で個人や少数のチームが完成まで受け持つサッカー型だ。

アメリカはエンジンの圧力ネジをインターネットオークションにかけたが日本の下請け業者も参戦したが、値段が合わなくて早々に撤退。

 中国の会社が落札したが、中国製の圧力ネジは3年持たない。

 中古車市場で日本車は40%落ちで引き取ってもらえるが、アメリカ車は70%落ちまで下落した。

 中古車で売ることまで視野に入れた購買層がみな日本車に流れた。

 中小企業の部品メーカーは外を「モジュラ」で中は「インテグラル」で対抗した。

 集積回路は中国や朝鮮にコピーされたが基礎工業力がいるコンデンサーなどはコピーされなかった。

 日本の企業は商品がいかに使われているか追跡調査をして、建設機械などは転売情報まで入手していた。

 諸外国はペタの情報を超えるがビッグデータが活用できるようになって商品の追跡調査を行うようになった。

 もともとはある程度のサンプリングデータを元に母集団の情報を類推する統計学が使われていたが、今では母集団の情報をわしづかみにしてAIによるビッグデータ分析。

 統計学は欧米でも衰退した。

「クローズ」「緻密」「すり合わせ」「自己完結」「ギャランティ」を尊ぶ日本社会はコテンパンにやられた。

 誰に責任があるかガバナンスがいる、オープンイノベーションのスマートフォンや、分権的なスマートグリッド(小規模発電やコストの最小化)でもやられた。

 コレコレという技術をどう使い、これからの社会はどうあるべきか、哲学的な思考がいる出口戦略も弱い。

 日本中小企業にも何か異質なもの(世界統一規格による世界全工場並列処理)が近づいてきていた。

 労働集約的な製品(貿易材)の労働力が多い国が得意とし、

 資本集約的な製品(貿易材)は資本の多い国が得意とし、

 調整集約的な製品(貿易材)は調整能力の高い日本の工場現場が得意とした。

 最後のフロンティア・アフリカまで開発がすむと労働者の賃金もグローバル化してどの国でも高騰した。

 日本の工場による逆キャッチアップがおき、同じ給料でも日本の現場が生産能力と品質管理(クオリティ)納期(リードタイム)で圧倒した。

 経済取引は相手を信頼しないと成り立たない。

 国家が商法など法制度、不動産などの登記システム、格付け、消費者保護制度など整備してないと国際貿易ができない。

 朝鮮は法の上に反日がくるし、中国は共産党の都合で法を変え、工場が撤退する時「社員の生涯賃金を保証しろ」と言ってくる。

 信頼性の欠如が昔から大きな問題だった。

僕達はコエプコンチルドレン達の居住区から離れたコエプコン社が主催する、常設の未来技術パビリオンを見学する事にした。

 昨日打ったタミフルは3日ぐらい効果が持続する。

 下界との接点であり、黒づくしの学生服の社会科見学の学生が列を作っている。

 なんとなく笑えてくる。

 日教組が強い所は原爆ドームを見学に行き、開明的な学校はコエプコン社にくる。

  僕達はコエプコンチルドレン達の居住区から離れたコエプコン社が主催する、常設の未来技術パビリオンを見学する事にした。昨日打ったタミフルは3日ぐらい効果が持続する。下界との接点であり、黒づくめの学生服の社会科見学の学生が列を作っている。なんとなく笑えてくる。日教組が強い所は原爆ドームを見学に行き、開明的な学校はコエプコン社にくる。

 まずはコエプコンの食を支えるミドリムシ館に入場した、ララがwifiにつながっていてコンパニオンも勤めてくれる。ミドリムシは単細胞生物で光合成をする植物であり、移動する動物の要素も持っている。豊富な栄養素を持っていて、その数はなんと59種類(14種類のビタミン、8種類のミネラル、9種類のアミノ酸、9種類の必須アミノ酸、10種類の不飽和脂肪酸、βーグルカンやクロロフィルといった7種類のその他)。優れた光合成能力で二酸化炭素を効率よく吸収、地球温暖化防止に貢献(アマゾンの密林は違法伐採で狩り尽くされ「世界の肺」を失った、世界の平均気温は産業革命から2°C上昇し、動植物の種の30%が絶滅した)。バイオ燃料も創り出せる。藻類バイオ燃料は質が重めなのでマイナス50度になるジェットエンジンには向かない。藻類が油を7割供給できるのにミドリムシは3割程度だがメインターゲットは最寄りの福島空港発のジェット機である。コエプコン社が配給するプロテインダイエットのベースになっている。

 津波による塩害を受けた、耕作放棄地は農地法の改正を受け、コエプコン社が買収しバイオの培養プールに改造して緑を蘇らせた。旺盛な繁殖力を持つ2種の藻を組み合わせてハイブリット増殖させて、炭化水素(石油)1リットル当たり60円を実現した。

 ボトリコッカスの培養による、単位面積当たりで生産できるエネルギー量は同じバイオ燃料のトウモロコシの数百倍になる(トウモロコシは一粒が200個になる、小麦は4倍で、連作可能な米は40倍)。トウモロコシの利用は穀物価格が高騰につながる。作物の耕作面積を奪う。

 ボトリコッカスという藻の品種改良をして従来の物より約1000倍の増殖能力を『榎本藻』が実現した。

 藻は原始地球で紫外線に抵抗するために緑色になり、光合成をして酸素を地表に供給し、油をまとって浮き上がり光の届く所にとどまった。

琉球で発見されたオーランチキトリウムは、多くの藻類が乾燥重量当たりに創り出せる炭化水素(石油)の量は1%未満であるなかオーランチキトリウムは炭化水素を20%創り出せる。

オーランチキトリウムの増殖の速度は、ボトリコッカスが6日で2倍になるのに対して、わずか4時間で2倍になる。オイル生産効率はボトリコッカスの12倍。

オーランチキトリウムは光がなくても有機物を餌にして増殖する、従属栄養性藻類に属している。

 餌を常に与える必要があるが、24時間増産でき、日照時間が少なく、狭い日本でもうってつけ。

 まず人間の生活廃水には有機物が豊富に含まれている。一次処理水としてオーランチキトリウムの餌にする、下水汚泥や食品工場の廃水も有機物を含む廃棄物になり、ほとんどオーランチキトリウムの餌になる。

 まずオーランチキトリウムで炭化水素を得る。次の二次処理水には窒素やリンが残されるので、今度はコレをガラス張りの天井(中国の放射能汚染や酸性雨対策)でボトリコッカスの培養に活用し、ここでまた炭化水素をつくる。

 窒素とリンが原因で起こるプランクトンの異常発生を防ぐ。

 それでも残る残滓は家畜の飼料やメタン発酵(バイオマス)の材料に利用、あるいは可液化してオーランチキトリウムの餌とする。

さらに残りは燃やすことになるが二酸化炭素はボトリコッカスの光合成に活用し、熱もオーランチキトリウムのタンクを温めるの活用する。

 基本採掘された石油は沸点の低いものから「ガソリン留分」「灯油留分」「軽油留分」「残留」に蒸留され・LPガス(液化天然ガス)・ガソリン・ナフサ・エチレン・プロピレン・プタジエン・ベンゼン・トルエン・キシレン・灯油・ジェット機燃料・軽油・重油・潤滑油・アスファルトに分けられ、ナフサに至っては国内の需要をコンビナートの生成分では間に合わず輸入している。

 炭化水素はエネルギーだけでなく石油製品の基礎となるエチレンが精製される。エチレンは合成繊維、塗料原料、洗剤原料、医薬品、エチレンと鉄があればたいていの物ができる。

 例えば。

 低密度ポリエチレン フィルム、電線被膜、ゴム袋、包装紙、ホース。

 高密度ポリエチレン 成形品、パイプ、ポリバケツ、ポリタンク。

 塩化ビニル 塩化ビニル樹脂、排水パイプ、文房具、ビニールハウス。

エチレンオキサイド 衣類、ペットボトル、ポリエステル繊維樹脂、酢酸エチル。

アセトアルデヒド 除光液、接着剤、塗料

スチレンモノマー ポリスチレン、合成ゴム、発泡スチロール、プラスチック。

それだけではなく、リビア東部(アメリカは中東を民族毎に国家を細分化して、新分割統治を戦略にしている)の重金属の含まない良質な石油からしか精製できない(ベネズエラが埋蔵量一位になった事があるが、重金属の混ざった悪質なドロドロの油だった)、F1の車体やジェット機のエンジンの噴出ノズルに欠かせない高性能炭素繊維(カーボンファイバー)(鉄と比較すると10倍の強度を持ち、剛性は役7倍でありながら、重さは4分に1という強くて軽い素材だが、日本の伝統技術の知識と経験が活かされ、炭素繊維を縦と横に織り込む技術が世界的に優れている)まで精製できた。コストを度外視すればの話だが。

 次は野菜工場のパビリオンに入る。

 人間一人を生かすのに約4haの耕地が必要だが、地球上に耕作可能な土地は300億haしかない、中国発の環境汚染や、焼畑農業や地球の砂漠化によって年々減ってきている。

 LED照明を利用した植物工場の建設ラッシュが始まった。

 始めはレタスだったが、いまでは中国発の放射能汚染の影響で根野菜や実のなる野菜でも値段が高騰し、コストが成り立つ、工場が安全意識の高い富裕層にインターネットによる直売を行っている。農業に株式会社が参入し農協はつぶれた(人工の産業従事者の構造がかわり、民自党の票田にならなくなったのも見捨てられた理由だ)。

 工場内部は積み重ねられたアルミニウムの棚にみずみずしい野菜が規則正しく並んでいる。

 タネの植込み以外、人間を使うことはまったくなかった。

 栽培ではまったく土を使わない、細かく砕いた石を土代わりに、肥料分を水に溶かした水耕栽培で育てられている。

 土を使った栽培では、水が土の中に必要以上に含まれてしまい、本来必要な分量より多くの水を与えなければならない。

 工場では肥料を溶かした水を循環させたり、霧状にして吹きかけたりして、水の使用量を、通常の100分の1にまで抑えている。

 1キロのトウモロコシを生産するのに灌漑用水は1800リットルいる。

 牛肉1キロを生産するためには、その2万倍の灌漑用水が必要になる。

 日本のように食料を輸入している国が自国で作った場合、どれほどの水資源が必要かと仮想した物をバーチャルウォーターという。

 水資源は豊かであるが飼料などの輸入量は多く、バーチャルウォーターの問題では世界的な非難を受けている。

 コエプコンはせめて食用野菜だけでも自給できないかと考えている。

 植物の生育に必要な光の波長は決まっている。レタスの場合、赤色LEDの光を浴びると、葉が柔らかくなり、苦味が少なくなって甘みが増す。

 さらに栄養価が高くなる。

 植物毎に栽培に最も適した光の波長は決まっている。

 レタスの場合、最も美味しくなるのは660ナノメートル近辺の赤色、LEDは波長が選べるので、植物毎にベストな光で照らすことができる。

 さらに『パルス照射』といって、パッパッと高速点滅させながら光をあてる方が成長率が良くなり、電気の消費も抑えられて一石二鳥、蛍光灯に比べると消費電力を40%減らし、収穫量は50%アップできた。

 トマトや世界初のインターフェロンイチゴがつくられている。

 インターフェロンとは体内にガンができたり、ウイルスが浸入すると分泌されるタンパク質で、抗ガン剤に使われているほど、腫瘍細胞やウイルスの増殖を抑える力が強い物質。

 これを作り出す遺伝子をイチゴに組み込んだ。

 かつては「青いバラ」とは不可能を現す言葉だったが、青い色素を持つデルフィニジンを精製する遺伝子をパンジーから抜き出して、バラに導入することに成功し、今では「青いバラ」は夢がかなうという意味に使われている。

 また、アルカリ性の土壌では多くの植物が鉄分不足に陥る。

 土壌にある三価鉄(Fe3+)をうまく利用できないためだ。

 そこで、三価鉄を吸収する能力の高い大麦の遺伝子をイネやトウモロコシに導入して、アルカリ性の土壌でも生育しやすい作物が開発された。

 またアフリカでタンパク質が70%を含むスピルリナという藻に目をつけた(牛肉の3倍以上の含有率)。

 スピルリナ(Spirulina)は、藍藻綱ユレモ目の幅 5-8μm、長さ 300-500μm ほどの「らせん形」をした濃緑色の単細胞微細藻類。

 約30億年前に出現した原核生物の仲間で、現在でも熱帯地方の湖に自生している。

 現地の人々の貴重な食糧源として利用されてきた。

 水温30-35℃の無機塩類濃度の高いアルカリ性(pH9-11)の水を好み、陸上植物と同じように酸素発生型光合成を行い増殖する。

 コエプコン社の培養槽で造られた培養液からの分離・濃縮工程では、スピルリナの大きさが0.3 - 0.5mmと大きいため、0.003 - 0.01mm程度のクロレラなどの生産で用いられる遠心分離機を使用する必要がなく、スクリーンフィルター(ろ過)で脱水濃縮される。

 乾燥工程後、粉末状またはタブレットなどに成型された形で生産されている。

 配給の成分にも使われている。

 健康食品としてクロレラも栽培している。

 直径2-10μmのほぼ球形をしており、細胞中にクロロフィルを持つため緑色に見える。

 光合成能力が高く、空気中の二酸化炭素、水、太陽光とごく少量の無機質があれば大量に増殖する。

 乾物としての主な成分は、たんぱく質45%、脂質20%、糖質20%、灰分10%。その他にビタミン類やミネラル類を含む。基礎研究で抗ウイルス、抗ガン、免疫賦活、糖尿病予防の各作用が認められるが、ヒトの体内では高血圧と高コレステロール血症、肝機能改善のデータがあるが、クロレラに多く含まれるクロロフィルは、分解の過程で光過敏症の原因となるフェオフォルバイトを副生するため、日本ではフェオフォルバイト含有量の上限が定められている。

 またビタミンKが豊富なため、大量に摂ると抗血液凝固剤ワルファリンの効果を減じる恐れがある、細胞壁が強固なために消化吸収率が悪いなどの指摘もあり、服用は自己責任である。

 次は養殖のパビリオンに入る。

 中国発の放射能汚染で日本海側の漁業は壊滅した、とれた魚は全部放射能濃度の検査して出荷しているが、消費者離れが起きている。

 北海周辺、日本周辺、チリ周辺は世界三大漁場であるが、日本は失墜した。

 太平洋側は漁協毎にナワバリがあり、地域のエゴが優先され回遊魚が大きくなる前に解禁され乱獲される、小さい内にたくさん獲って漁獲量を、縦割りの港行政が競い合う。

 川魚の場合、日本の場合「子は獲っても、主は返せ」小さい内に間引くのは自然な事であり、卵を産むような親まで成長した物は川に返すべきという、川魚専門の釣り師には考え方があるが、海の場合は話が別である。

 中国など夜中に強い光を出して魚が寄って来たところを網で一網打尽にする。

 人工衛星の写真で太平洋の海が明るいのである。

 一人っ子政策で戸籍の無い闇子(ダーダッツ)まで含めると20億に近い胃袋を満たさなくてはならない。タダ同然で船長に親から売られ、三度の食事の保証だけで不眠不休で働かせる。

 人件費だけでもコストで勝負にならない。漁師は自分で獲るより通りかけ(公海行き来は自由である)中国船から買った方が安くつく。

 スウェーデンではある程度の大きさにならないと獲ってはいけないし、加工も新鮮な内に船の上で済まし、港から配送する、日本は獲った物は冷蔵庫に放り込み港で加工する。

 農林水産省はヨーロッパ型を目指したが「そんな甘い事を言っては回遊魚は中国に獲られてしまう」と漁協は猛反発。

 結局先送りされた。

 養殖に活路を求めた。

「好適環境水」と呼ばれる魔法の水はコエプコンのような山の中にあってもマグロやフグを養殖できる。

 養殖のフグは毒を持たない。

 好適環境水は魚が浸透圧を調整していることで考え出された。

 魚は水と塩分濃度が異なる環境を生きるため、淡水魚は体内に水分を取り組み過ぎないように、海水魚は水分を外に出し過ぎないように調整している。

 好適環境水は浸透圧調整に深く関わる成分について研究して、海水を構成する60の成分から、カリウムやナトリウムが重要である事を突き止め、わずかな成分を水道水に加えた物が好適環境水だ。

 実際に使う場合は、魚の種類によって、塩分濃度を海水の25%〜10%に調整、相当に低濃度なので海水魚と淡水魚が一緒に飼育できる。

 好適環境水のメリットは海水で育てるより、魚の成長が早い。

 トラフグの場合は孵化した1000匹を、好適環境水で満たした35トンの水槽で飼育した結果は、約850匹が1年2ヶ月ほどで1kgサイズ(体長35〜37cm)まで成長する、様々な成分を真水に加えて、海水に近付けた人工海水(主に家庭での海水魚飼育や水族館で使用される)では1kgサイズになるのに2年ほどかかる。

 好適環境水の中では1.7倍もの速さで成長する。短い期間で出荷できるので、ビジネス上のメリットが非常に大きい。

 成長が速い理由は、体内で塩分調整をする必要がないため、その分のエネルギーを成長に回せる。

 天候の影響も受けず、水温も一定にコントロールでき、通常の養殖では、病気になるのを防ぐため抗生物質などの薬品の大量投与が欠かせず、魚の安全性の問題や、環境への影響も懸念されるが、好適環境水は元々が水道水だから病原菌がいないので、こうした薬品もいらない。

 従来の人工海水が1t当たり1万5千円から2万円するのに対し好適環境水は100分の1まで下げれる。

絶滅危惧種(レッドデータブック)であるニホンウナギの完全養殖(稚魚のシラスではなく、卵の孵化による養殖)にも成功した。

 ウナギは何もないところで成長させると、稚魚が全て雄になってしまう(これは自然環境でも同じ)。

 ホルモン剤を投与して大量の雌を生産するスキルを確立し、稚魚が何を食べているのか?疑問だったが、その問題も解決し、日本人が必要とする1億匹の半分5千匹を供給でき、WWF(世界動物保護基金)から禁漁規制が勧告され、日本政府が受け入れ、たくさんのウナギ屋がつぶれた。

 コエプコンはそれらの人々からノウハウを買収して、日本中にフランチャイズ店を展開した。今では貧困層以外土用の丑の日はウナギがチェーン店に行けば食べれる。

 日本政府は地域の自立と叫びながら、地方自治体を潰した。

 自立という言葉は経済的ないし財政的な意味で使われているが、都市部でさえ食料やエネルギーの物質循環を指す「マテリアルフロー」では破綻している。地方の農村部や外国に依存している。

 こう指摘すれば、グローバリストから「競争優位の産業長所に人的資源を投入するだけだ。

 かんじんなのは人間の流動化だ」と笑われる。

 勝目のない分野からの撤退は戦略らしい。

 日本政府は地方を大型ベッドタウンにすると叫び、リニア新幹線の整備を強力に推し進めたが、NPO(非営利団体)を中心とする新地方コミュニティの中で雇用は生まれず(ロボットへのシフトと情報インフラの整備は職を奪いこそすれ、増やすことはなかった)、トリクルダウン(更に成長した金持ちからの経済的波及)は起きなかった。

 黒字企業も税金にとられるぐらいならと研究開発に回し驚くほど税金を払ってない、どの企業も給料上昇はせず内部留保に回した。

 戦争が無くなれば供給過剰になりデフレになり、同時に経済成長モデルはだいぶ過去のことになり、昔から持っている定常化(ストック)資本(この場合不動産や企業設備などの実物資産、預金や株などの金融資産も含まない、手にした金は銀行や企業が使っていると判断する)の価値は勝手に上がる、不動産などの不労所得は経済成長に影響される給与所得(GDPは市場(マーケット)で取り引きされた財やサービスの総計)より相対的に増大する(資本回収率r>経済成長率g)。

 結局はリニア新幹線も国家官僚の天下り先が集中する東京へのストロー効果が強化された。

 未来都市コエプコンは自給自足100%を目指した。

 存在自体が政府へのアンチテーゼである。

 次に医学館に向かう。

 突出した天才的個人能力はアメリカに譲るが、コエプコンの医師の平均値は世界一である。

 TPPの影響で国民皆保険を含む医療保険制度は崩壊し、個人が経済レベルに合わせて民間の保険に加入する。

 下手な所に入るとつぶれてしまう、保険は銀行の預金と違い、たてまえは互助組織であり、つぶれれば今までの積み立てがぱーになる。

 それでも医局の徒弟制度は残り、外国のように手術すれば手術する程、金になる個人主義的制度は根付かなかった。

 アメリカでは医師個人が指名され、患者を持って勤め先の病院を変える事はよくあるのだが、日本の場合はどこの病院に異動しても給料はそんなに変わらなかった。

 スーパードクターの海外流出は止められなかったけど、問題は流出速度を上回る速度で技術者を育成すればいい。

 平均値の向上と新技術の導入で乗り切り、国民の平均寿命は相変わらず世界一である。

 富裕層はiPS細胞を使い、複雑な組織で成り立つ臓器は人と同じ大きさまで成長する無菌ブタにはめ込み造らせて、入れ替えながら。患者自身の幹細胞を使えば移植後の拒絶反応の危険はない。

 心臓の筋肉は筋繊維を3Dプリンターで作成し、神経細胞はそのままでは死んでしまうため、植物由来の抗ガン剤の候補でもある「アナカルジン酸」という化合物を投与する。

 手術の場合は少子化で少なくなった献血ストックに対して、血液中のタンパク質でもっとも多い「アルブミン」を利用した人工血液を開発した。

 アルブミンは血清(血液の上澄み部分)100mlに5gほども含まれており、主に血液を血管内部にとどめる役割を担う。

 ひとつのヘモグロビンの周りに3つのアルブミンがくっついたクラスター(ブドウの房のような形のもの)「ヘモアクト」には従来の人工血液(白い血液と呼ばれた牛乳のような修飾ヘモグロビン製剤は血管の中で安定せずに、血管外に染み出し、血管収縮がおき血圧が上昇した)のような副作用はない。

 ヘモアクトは8ナノメートルと赤血球の1000分の1しかなく脳梗塞患者のつまった血管に酸素を供給できた。

 筋肉はストレスをかけて強くしなくてはならないから、四肢再生は安価な義手義足でまかなっている。

 魔王も交通事故にあい、左足は電筋義足だ。

 パラリンピックにはでれるかもしれないが、身体を使った普通の格闘技の大会にはでれなかった(キメラとデザイナーチルドレンによる世界超人選手競技大会が毎年行われていた。

 マスコミは祭典(イベント)の生中継でしか視聴率が取れなかった、なんでも賞金をかけてすぐに大会にした)。

 空手はやめたけど情熱は消えなかった。

 僕が龍先生の格闘技パッケージを紹介した。

 電脳空間でのパッケージ授業では僕の方が先生である。

 コエプコンは子育てはアトム型、教育はドラえもん型、医学はガンダム型と割り切り、高額な手術支援ロボット・スーパーダビンチを大量に購入した。アメリカではスーパーダビンチがない病院では誰も手術を受けない。

 ダビンチは今迄の内視鏡手術と違い、内視鏡の位置と、ロボット手術器具を持つ位置が、操作者である医師の目と手の位置が正確にマッピングされていて、心的回転(メンタルローテーション)の負荷が少ない。

 最早、会社や病院内部で新人を育てることが出来ない。

 医師、弁護士、建築士など国家資格に関することは、バンソニーが提供する、擬似手術、擬似裁判、擬似建築(SF的に言うならシミュレーション現実)など2000時間程クリアし、トラブルへの対応をAIで採点して、採用する会社に人間性まで鑑定してある、たくさんの項目に点数をつけた評価用紙を送る。

 学生は学校で習うだけでなく、パッケージを使い電脳世界で実践して学べるし、NPCの先生がすることを真横でジックリ見ることができる。

 必要に応じて巻き戻しもできる。

 それどころか幽霊のように取り憑いて視覚や触覚やメスの使いかたなどを追体験できる。

 バンソニー社の神経伝達ヘルメットは触覚的情報をフィードバックするシステム「触覚技術(ハプティクス)」が初期状態(デフォルト)で内蔵している。ミクロソフト社も教育支援のソフトを販売しているが、バンソニー社のように電脳空間を使ったものではない。まるで医療支援ロボットを使ったゲームのようになっている。

 欧米人はドライだからそれで割り切っているが、日本ではシミュレーションで開腹手術から教えている。

 万が一の時、医療支援ロボットが使えなくなった時の対応も教える。

 そんなマンガみたいなことはめったにないだろうが(自衛隊を除く)、手術がいかに発達してきたかの歴史を初歩から教える。

 その理解がある方が、手ぶれとかなくなる支援ロボットの使い方が上手くなる。

 日本のオリジナル技術で手ブレ防止機能をそのままに触覚が伝わる機械にカスタマイズされ、本社に逆輸入されている。

 再生医療は永久歯の再生も可能とした。

 完全に脳だけの存在になり、電脳世界で社会生活(金を稼ぐ)を行う者も現れた。

 こうなると恐いのは細菌感染による脳炎だけである。

 記憶力を回復する特殊タンパク質(RbAp48)も発見され、金があればアルツハイマー(ボケ老人)は過去のことになり、高級娼婦フェイのように完全義体(サイボーグ)として現実世界で生活する者も現れた(遺伝情報から目と目の距離がわかり、本人の顔をある程度再現できた)。

 伝染病研究者が「我々はジャングルの隣に住んでいる」と言わせる程、大気圏の上を行くQSST(|静音超音速旅客機《クワイエットスーパーソニックトランスポート》)が整備され、東京からLAまで2時間半、ドバイからシドニーまで1時間半、約4時間で地球を一周する。

 移動中は前世紀のコンコルドと違い静かで快適。

 世界交通力が激増し、LCC(ローコストキャリア)による交通関係の価格破壊とが襲った時代(アメリカでは高級ホテルが無料飛行機をシーズンオフの宣伝費と割り切って運営し、一部の都心では無料タクシーが広告代で運営されている)。

 国際線では数分ですむウィルスチェックや免疫検査が完全実施されている。

 生体認証(バイオメトリクス)が導入され、個人の特定どころか病歴や犯罪歴まで確認できる。

 福島空港の横に建設されたコエプコンのサイバー医療棟群には、お手頃な価格の手術代のため、世界中に散らばる中間層からの医療旅行者(メディカルツーリスト)であふれている(*美容整形では朝鮮に負けている)。

 完全自由診療のアメリカでは盲腸の手術も500万円、保険にはいっても100万円払わなくてはいけない(保険に入ってなければ裂傷3針縫うだけで30万とられ、幼児のひたいに軟膏を塗っただけで20万とられ、薬局で500円で売ってる局所麻酔薬1瓶が8000円に跳ね上がる)。

 貧困層はメキシコに行くらしい。

 コエプコンは滞在場所として温泉ホテルも経営している。

 3Dのチャット空間ができ、企業の出張はへったため、宿泊業や交通機関や娯楽施設が拠点をコエプコンに異動してきた。

 魔王が筋電義足(少し残った筋肉に脳から神経を伝わる電気信号を感知して義足を動かす、筋肉が衰えた時に生体電流を感知して動きを補助する小型のパワードスーツもある)の調整のためにコエプコンに来た時、会いに行ったが、ララと同じように温感センサーや圧力センサーをカバーしたナノスキンに覆われていた(触覚のハードウェアはスベスベしてるか、ザラザラしているかまで理解できる)けど、肌色にはせずに黒と銀色の未来的なデザインにしている。

 フェイのように隠す人間と露出させる人間と二極化が進んでいる。

 ファッションとして脳波を感知して動くネコミミベッドギアなどがあり、自分の感情表現をサポートしたり、話し方を分析して相手の感情を教えてくれたりする。

 今の戦争は国民国家同士ではありえない(かなり無責任で、何があるかわからない未来に対して誠実さを欠くという意見もある。実際琉球を中国に取られた)。

 正確には血の出るような戦争だ、隣の国は三戦(法戦、情報戦、宣伝戦)とわりきってるし、サイバー空間では今も各国は凌ぎを削っている。

 領空侵犯はどこの国もやっている。

 対テロ用の特殊地域に投入される自動ロボットと、悪環境化で活動する特殊部隊の戦線布告なしの投入がメインである。

 最後に自衛隊の広報館を後にした。

 ララがWi-Fiにつながっていてコンパニオンも勤めてくれる。

 半日見て回り、二人で全体が見渡せる歩行者天国の真ん中にきた。

 ララがWi-Fiの接続が切れて無口になった。

「ララ。あなたが守った未来です」

 この時はミサイルの事など誰も知らなかった。

 ララは少し照れて右の頬をかいた。

 両手を少し広げてゆっくりと回りだした。

 まるで少女のようだ。

「私が守った町なんですね」

 ララが内蔵しているスピーカーで牧歌的な音楽を流した。

 しゃべるのに障害はなかった。

 ダンスの授業で習った曲だ。

 あの時は会社の配慮でパートナーを替えて踊っていた。

「マスターが聞いてきた自殺したプログラムの事ですが。

 当時はそれをできたC22がうらやましかった。

 でも今は分かるんです。

 彼女は生きるべきだったと」

 ララが僕の手をとってきて踊りに誘ってきた。

「あなたが私に生きる意味を与えてくれた」

 僕達は平和を享受した。

 魔下 耕世は捕まらなかった。

 次にテロが起きるまでの束の間の平和。

 

 昼ごはんは勇者の部屋でA5肉を焼いてくれた。

「肉なんて久しぶり食う」

「本当におごりがいのない男だな、おまえゲーム以外に価値を見いだせないだろう」

「おまえがグルメ過ぎ」

「なあ、ションベンちびった事、魔王には内緒にしてくれ」

「ああ、それ頼むために、おごってくれたの?」

「当たり前だ、こんな高級牛、何もないならおごる訳ないだろう。

 魔王の妹にバレたらネットで世界中に拡散するだろう」

「分かったよ」

 午後からは体育館に勇者と供に移動した。

 龍先生は特定の流派を名乗らなかった。

 身につけている技はどれも素晴らしい。

 その技を後世に伝承しようという有志が集まって、毎週土曜の午後にサークル活動的な事をしている。

 銃器が戦争の主流になった時代、伝統の継承が一部の人には理解出来ないかもしれない。

 でも僕らはタスキを誰かに渡すことに価値を見いだした。

 自分で実現できない技も守り、必要としてくれる後から来る世代に届ける。

 こうして学び続けることがある種類の正義だと信じている。

 小学生の頃は1世代あたり20人ぐらい参加するのだが、しだいにスポーツの方に流れていく。

 性格や才能が向いている奴もKARATEやJUDOの選手になり、タミフルを飲んでコエプコンの外である大会にでる。

 各世代に1人生き残ればいい方、H世代が僕、勇者、太郎、宗茂、エリーの5人残っているのが、珍しい事なのだ。

 みんなが僕のように格ゲーをしているわけでない。

 勇者はライトノベルを書くから居合術や抜刀術など日本刀に興味がある。

 太郎は「政治家に成るには、虎に成らなくてはならない」と真剣に言う。

 服装は自由でいい。

 僕は動きやすいトレパン、トレシャツだが、太郎は蹴りが出しにくいハカマを着てくる。

 蹴りがある時はたくし上げている。

 顔も洋風だし、どこかカン違いしている外人に見える。

 本人は忍者衣装を探したのだがコスプレイヤー様しか見つけられなかった。

 日本文化や作法などに興味があり、茶道にも興味があり龍先生に教えてくれと頼んでいたが、さすがに門外漢だと笑って断られている。

 宗茂はjudoの先生から熱烈なスカウトを受けていたが、断わっている。

 純粋な戦国ヤローで火縄銃を撃てるし、小具足術といった鎧武者相手の「裏を欠く」の語源にもなっている古流武術も教えてくれるから、このサークルに残っている。

 エリーは太郎の金魚の糞フンである。

 勇者は太っているから身体の可動領域に限界があるけど、関節の柔らかさは1番である。

 スポーツ選手は間接の可動域で怪我の前兆や疲労度をコンピューター解析を行う。

 ねじり上げたり回転したりしてたくさんある遊びを殺さないと関節技がかからない。

 オリンピックの選手のように筋肉の力を抜けば、押さえた指の跡がつく。

 水のような筋肉。

 力を入れれば鋼のようになる。

 きちんと体重を落とせば、才能は1番だと思う。

 宗茂は怪力がある。

 腕力かいなちからがハンパでわない。

 いちおうB世代にウルフさんという、縦横がっしりして厚みもある大人がいるのだが、引き手の強さは宗茂の方が勝っている。

 このまま成長して大男になり、リーチまで獲得していけば懐《ふところ》も深くなって、一本背負いとかできなくなる。

 ルールが柔道やレスリングになればウルフさんでも勝てない。

 太郎は合気道の合気を獲得したいようだ。

 大東流合気柔術の本をたくさん読んでいる。

 空気投げや不動の構えなど神秘的技が紹介してあり、龍先生から技を盗もうと必死である。

 サークル活動に百人程でいりしているが、龍先生は合気が取れていると表現しているのはA世代の一番弟子の遥さんだけである。

 太郎の技は素直過ぎて「柔能く剛を制す」はできるが「剛能く柔を断つ」ができない。

 僕が乱暴にしかければ太郎が対応できない。

 勝ち方が分かっている。

 彼の精神の中で何か意識革命が起きないと僕には勝てない。

 技単品の熟練度は凄まじいモノがある。

 エリーは弱い。

 力がないから、ある程度に重さのある武器を殺傷力のある速度で振るうことができない。

 本人がビビリな性格で脅されると萎縮する。

 でもダンスゲームをすればNO.1である。

 腕力はないが体幹は強い。

 体重が軽いからジャンプ力はある。3センチずらして重心を崩しながら、それでいて次の足がでないようにバランスを崩すのだが、子供に技をかけるのは難しい。

 体重が軽いからケンケンをする。

 エリーも似たような事をする。

 空中で回転したり、バク宙したりして関節技のコースを外してきた。

 ダンスの応用だと思うけど、両足を広げて回転を加えて背中から落ちるのを回避したりする。

 毎日部屋で足を使い色違いのボタンを押すリズムゲームをしているから、脚力はそんなに悪くない。

 空中で回転してかかと落としをしたりする。

 体重が軽いから威力はそんなにないんだけど、ダンスサークルにでも入れば、直ぐにセンターが取れるのではないかなあ。

 龍先生もエリーには手裏剣や、投げ銭、ナイフコンバットを中心に教えている。

 A世代の遥さん。

 色白で東北系かな?

 新潟の女は白人より白い。

 切れ長の目をしてまつ毛が長い。

 どこか神秘的。腰まである長い黒髪を首のあたりでひとまとめに結っている。

 J世代の緑が入ってくるまで、生身で触れることのできる唯一の女性だった。

 龍先生の一番弟子で、天才はこんなこともできないのかと凡人に説明したり、教え導いたりするのが下手だ。

 しかし彼女はどういうイメージで身体を動かしたらいいか、意識するポイントなどを、きちんと説明してくれる。

 龍先生より分かりやすい。

 魔王や勇者がゲーム中「なんでお前、そんな事ができるんだ」と口にする。

 僕の答は決まっている。

「お前ら、なんでこれくらいできないんだ?」僕は自分が理解していることを他人に説明できない。

 妊娠中も見学に来て、龍先生の指導を手伝っていた。

 解説のマンガも描いていて、原作者である龍先生に承諾を得ていた。

 明らかにコンピュータで物理演算処理できない透明な力を持っている。

 皮膚に触れただけで回転して投げ飛ばす。

 手を握れば動かしてないのにハジキ飛ばす。

 人差し指で急所を押さえて呼吸困難にできる。

 H世代5人でかかっても1分以内に近接戦闘(クローズ・クウォーター・コンバット)で一ヶ所にまとめられ、カカトでどこかを踏んで5人とも動けない。

 赤い緋袴ひはかまを身に付けて現われてくるから、巫女(みこ)さんのようにどこか神懸かりである。

 彼女は自分の子宮を使って一月前子供を産んだ。

 女性の卵子は胎児の時に700万個、産まれてくる時に100万個、思春期になると40万個まで減少し、生涯500回の排卵がおこなわれる。

 コエプコンは出産時に卵巣をとり、本人用に凍結卵子が10個残されている。

 後はオークションにかけられるのだが、精子が一回の射精で一億個と考えれば、政府の勧める人工増産にとって貴重であることは確かだ。

 遥さんに僕の精子を使ってみてよと持ちかけたら「夕夜はこの子の父親になってくれますか?」と聞かれて「無理だ」反射的に答えてしまった。

「では、夕夜の精子は使わないようにしましょう」イタズラぽく微笑んだ。

 ネットオークションで誰かの精子を買って産んだ。

 ロボットの「彼方(かなた)」と一緒に育てている。

 会社の依頼でモーションキャプチャーに呼ばれない時は、龍先生原作者の格闘技解説マンガを描いている。

 B世代のウルフさんはモンゴル系か、トルコ系、寒いところ出身だろう。

 まぶたが厚く一重。

 マユも薄く、頭はスキンヘッドにしてある。

 コワモテというよりは笑うと糸目になってデフォルメされたお地蔵さんのよう、ユーモラス。

 実際より老けて見える。

 目が良くて5.0。

 狩猟民族の中の狩猟民族。

 動体視力は人間が望める最高クラス。

 弓術は人差し指と中指で引っ張る日本式ではなく、親指と人差し指ではさんで引っ張るモンゴル式を龍先生から習っている。

 剛から入って柔に至ったタイプ。

「発勁、発勁」と口にしながら、オリエンタルミステリーをひたすら求める太郎とは間逆である。

 足の指で打っていると表現するが、(はた)から見て瓦かわらに触れただけで5枚ぐらい割っている。

 この技はゲーム的に処理できて、ある程度のスキルポイントで買えたりする。

 実践KARATEのルールで闘えば一番強い。

 オッパイのある遥さんと緑は乱取りを遠慮する。

 ガードの上から叩き込んでくる。

 きちんとガードしても体重がないから崩されてしまう。

 ただ二人の間では分かっている。

 体重が増えて、受け即反撃ができるようになれば、リーチが後少し届くようになれば、実践KARATEのルールでも僕の方が強いことを。

 そして、その日がそんなに遠くない事も。

 J世代の緑も特筆に値する。

 母親がベラルーシかポーランド系だろう、民族が混ざる所は美人が多い。

 髪も深緑で皮膚が薄く緑がかっている。

 テロの言いがかりを回避するため、I世代から半数が女性になった。

 多分政府の依頼かもしれない。

 そこでコエプコンは光合成ができるように藻の遺伝子と融合させた。

 中国が先頭を切っているデザイナーズチルドレン。

 キリスト教圏の欧米は「一万年後まで続く遺伝子を個人や国家の欲望で好きに書き換えていいはずがない」発狂せんばかりに叫んだ。

 イスラム教圏も「神のプログラムへの挑戦か?」同調していた。

 まあ、彼らの理屈では遅刻しても交通事故しても「神のおぼしめしです」と言い訳さえしない。

 日本も倫理的問題を口にする御用学者はいたが、アジアが抱える環境問題の深刻さを考えるなら、自己責任で改造しないと普通の生活ができない。

 サンショウオが藻の遺伝子を取り込んで(正確には藻がサンショウオの胚子に潜りこむ)水中で酸素を作り出す。

 同じ脊椎動物の人間にできないはずがない。

 (かいこ)の1万1千個の遺伝情報は解明されていて、蜘蛛の遺伝子を組み込んだ(蜘蛛の糸を直径1センチにできるなら、同じ大きさの鉄の5倍の強度を誇る、自然界最強)強靭なスパイダーシルクを作った。

 タンパク質の蛍光遺伝子を蚕に組み込み光る糸を使った。

 抗菌機能や人間の細胞と親和性の高い性質を持たせた絹糸を作り、外科手術の縫合やシートや人工血管に使われている。

 遺伝子改良の技術は避けては通れない。

 アメリカでは遺伝子組換え動物が造られて普通の2倍の速度で成長するサケやバイオニックアートと呼ばれる光遺伝子を混ぜたペットが売られている。

 クローンは巨大化したり早死にしたりするけどペットのクローンがビジネスとして成り立っている。

 日本でも野菜の不飽和脂肪酸を含んだ「ヘルシーピッグ」という豚が開発されている。

 インドや東南アジアでは「ゴールデンライス」と呼ばれるビタミンAであるカロチンを含んだ稲に置き換わっていた。

 貧困層のビタミン不足が解消された。

 小麦の栽培はもともと雑草が育たない砂漠地帯の水辺部で始まった。

 植物に殺虫作用のある遺伝子を組み込むと更にそれを食べる虫に進化してくる。

 害虫の天敵をおびき寄せる遺伝子の組み込みに対策を変えた。

 除草剤(ラウンドアップ)という葉や茎に散布し、どんな雑草にも効果あり世界130ヶ国で使われている。

 地面に落ちると水と二酸化炭素に分解されるため環境にも優しい。

 植物には、アミノ酸を作る「EPSPS」という酵素があり、グリホサートにはこの酵素を作れなくする働きがあり、栄養を作れなくなった植物は枯れるのだ。

 EPSPSは植物特有の酵素なので人間や動物には影響がない。

 アグロバクテリウムという微生物にグリホサートの影響を受けない「CP4・EPSPS」というタンパク質を作る遺伝子を発見し、ラウンドアップ耐性作物を作ることに成功した。

 作物も環境ストレスで成長しない場合はほうれん草や小麦、テンサイなどに多く含まれているグリシンベタインという物質を合成する遺伝子を取り出して、寒さに弱いイネやトマトに導入したところ低温だけでなく、高温や乾燥、凍結や土壌の塩分濃度などさまざまなストレスに強い作物ができるようになった。

 トレハロースは保水性の高い物質として知られているが、遺伝子改変によってトレハロースが多く蓄積する植物を作ったところ、乾燥に強いだけでなく、強い光に対しても耐性を示した。

 通常の大豆には脂肪酸の中に動脈硬化を防ぐ働きがあるオレイン酸を20%程度含んでいるが、遺伝子操作の技術を使って、ある酵素の発現を制御することでオレイン酸量を4倍にすることができた。

 ステアリドン酸はDHA(炭素を主成分とし、脂質のもとになる)やEPA(血流を良くし、脳の働きを活性化する)を作る成分。

 心臓発作のリスクを軽減する。

 大豆には含まれていないがサクラソウの一種から遺伝子を取り出して大豆に入れ、ステアリドン酸も含んだハイブリッド大豆ができた。

 抗酸化作用があり、視力アップし抗ガン作用もあるアントシアニンを合成するふたつの遺伝子をトマトに組み入れた紫色のトマトを作り、子供の世代へ遺伝もした。

 高温で焼いたり揚げたりするとアクリルアミドを発生するジャガイモを遺伝子操作して20分の1に減らすこともできた。

 輸入されている食べ物で遺伝子操作されてない物はなかった。

 絶滅した動物達も復活したが、生きていた時代より、ウィルスが進化していて風邪で直ぐに死んでしまう。

 無菌室の空間に閉じこめジュラシックパークめいた事はアメリカで始まっている。

 人工子宮によって作られる子供に対する考え方は、ロボット達が親権を持ち、コエプコン社の意向が反映され、改造の許可が日本政府から降りた。

 日本版デザイナーズチルドレンの始まりであり、光合成は深刻な食料不足も解消できるし、強化人間しか作り出すことができない中国を一気に追い抜けると判断した。

 酸素を作り出すだけなら、酸化チタンをベースにした新しい金属によって太陽の光だけで酸素と水素に分解できたし、電気や有機物を加えないで光と水と二酸化炭素から有機化合物であるギ酸を作り出した。

 人工光合成によってエネルギーを作り出すだけならできた。

 効率で藻類を超えられない。

 実用化への研究途中である。

 人間と藻の遺伝子をハイブリッドは光合成により、人間は酸素と化合物を受け取り、藻の側は二酸化炭素と窒素豊富な老廃物を栄養にする。

 いいところとりだ。

 研究は長年進められてきたが、やはり遺伝子が安定せずにI世代は10人しかいない。

 緑がいるJ世代は50人いるが、水中の中で2時間以上潜ってられるのは緑だけである。

 言ってしまえば緑は唯一の成功例である。

 コエプコンは緑の卵子を販売はしていない。

 会社の研究開発に使われている。

 H世代では精子が共通だったように、いつしか緑の卵子だけを使う世代が現れるかもしれない。

 プロレスファンであり、服装は「御意見無用」と背中に書かれたTシャツを着て、太ももの付け根まで露出したホットパンツをはいている。

 龍先生が乱取り中に「今度は何のルールで闘う?」と緑に聞いてきた。

「プロレスで」と答えた。

 その時初めて提示されたルールで、体育館に畳を敷いただけの簡単な道場にリングやロープやマットがあるわけではない。

 みんなが何をしたらいいか分からずにとまどっていると、緑だけが動いた。

 対戦相手はタマタマ僕だった。

 頭が回らずレスリングの親戚かなと思った瞬間、彼女はフランケンシュタイナーをしてきた。

 太ももで頭をはさまれ、恥骨で鼻を嫌というほどぶつけた。

 頭を畳に叩きつけられた。

 僕達がやっているのは、基本人体の急所をねらう格闘術だから身体の大小はあまり関係ないのだが、どちらかと言えば相手を傷付けるより無力化させるのが目的である。

 飛びつき技がないわけではないが、下手したら首の骨が折れるぞ。

「プロレス禁止」と龍先生が直ぐに宣言した。

 男まさりでアッケラカンとしている。

「女は性欲の処理をどうすんだ?」と聞いた。

「僕の場合はバイブを使ったり、サファイア(緑のロボット)に手伝ってもらったりしている」と答えてくる。

 遥さんに同じ質問をしたら「H」と言ってブン殴られた。

 ララから「女性にそう言うことを聞いてはいけない」とたしなめられた。

 気楽に話せる性を感じさせないジェンダーフリーな奴だと思っていたら(僕っ子だし)、先週考えを改めさせる事件が起きた。

 元はと言えば勇者が緑を彼女にしたいと言ってきた。

 セックスパートナーは姫がいるのに、何でそんな複雑な人間関係を作りたがるか不思議だ。

 僕が遥さんに僕の精子を使ってよと発言した時、「男はロリコンだろう、年上が好きだなんてお前は霊長類か?」と言って馬鹿にしてきた。

 別に付き合う気は無かったが、誰かわからない男の精子を使って妊娠するのが、なんとなく、くやしかった。

 勇者も付き合いたいというよりは人間の女の子に対する好奇心のように思える。

 僕らは他の世代と違って女がいない。

 将来のラノベ作家として取材し研究したいのだろう。

「ラノベの女性キャラは極端な能力や性格を与えるか、無垢な象徴として描かすればいいから、人間の内部をえぐるような文芸作品のマネをしなくてもいいだろう」

 勇者は嫌な顔をしながら「引き出しは多くしたいんだ。協力してくれ」断る理由もなかった。

 緑に「どんなゲームをやっている?」と聞けば「かいぶつさんの森」と答えてくる。

「かいぶつさんの森」はバンソニー社が出している3Dモンスターを2頭身ユルキャラキャラとして出している。

 女の子のライトユーザー向けに開発されたスローライフを楽しむゲーム。

 ゲームマネーによる課金がないどころか、通貨がない。

 物のレアリティを軸とした完全物々交換の世界。

 最初にすることは海で魚を取り、果物を採取して交換する材料を集める。

 モンスターとの戦闘は少しもない。

 次に釣ざおや虫捕り網やスコップと交換する。

 レアリティのある魚を釣ったり、虫を取ったり、化石(美術品の扱いになる)を探したりする。

 2頭身キャラとなった3Dモンスターからお願いされて、依頼をこなしていくとレアリティのある品を3Dモンスターからプレゼントされる。

 船で移動することで、常夏の島、常春の島、常秋の島、常冬の島に移動できる。

 ネットで情報を集めて(○○という3Dモンスターが××に価値を見いだして☆☆系列のアイテムと交換してくれる)交換用のレアリティの高いアイテムを捜索する。

 プレイヤーキャラクターは八頭身でNPC(ノンプレイヤーキャラクター)との違いがすぐにわかる(個人の3Dデータを流用している女の子が多い)。

 役場に行って登録すれば村の中にある程度のスペースがもらえる。

 自由に家を建てたり、植物や果実木を植えたり、公園(ライトな遊園地施設を設置できる)を作ったりできる。

 土地を所有しない原始共産主義的な世界観。

 不動産屋でバイトして3Dモンスター達の要望を聞いて家や庭をリフォームすると満足度に応じてレアリティのあるアイテムをプレゼントされる。

 役場からの依頼で公共事業(橋、ベンチ、街灯)や学校、病院などリフォームすれば追加スペースをもらえたりする。

 洋服屋でバイトして2万点以上ある洋服・バック・アクセサリー・ピアス・靴・靴下からコーディネートできる(気に入ればプレゼントをもらえる)。

 美容院でヘアスタイルやメークアップを変更したりできる(自分のアバターも)。

 美術工房でバイトして置物や絵画など課題をこなしたりして、最終的に店長にある程度認められれば、オリジナルの家具や電気製品や美術品や服、エンブレムなどがデザインできる。

 ネットでつながっているリサイクルショップがあり不要な物や新デザインを、交換希望アイテムを提示して置かせてもらえる。

 バンソニーが定期的に主催するファッションショーや、家のモデルハウスの展示会に出展できる。

 緑からネット上で展示しているハウスに招待された。

 勇者と二人きりになると気まずいから僕と魔王も一緒に行くことになった。

 この手のゲームでHな事をしようとしてもキスまでで、男女の違いはオッパイとフォルムの違いだけで性器は描かれていない。

 ツルツルである。

 そういう目的で楽しみたければ18禁のソフトを買わなくてはならない。

 そのソフトは性器を自由にカスタマイズでき、脳に送る性感信号も大幅にアップされる。

 傷みが快楽に変わるSM専門のソフトもある。

 設定をウルトラハードにすると鞭打たれる度、射精するらしい。

 男みたいな女だからプロレスの話でもして盛り上がるのかと思った。

 3人で指定されたモデルハウス展示場に行けば、庭に柿や桃やリンゴやブドウの木が植えてあるのはいいにしても、家の瓦にいたるまでショッキングピンクでできていた。

 何か嫌な予感がしていた。

「ここでいいのか?」

 勇者に確認した。

「間違いない」

 勇者が断言した。

「俺、帰っていいか、凄く時間を無駄にするような気がする」

「僕だって、魔王の手伝いすることあるんだから、ここで一人にしないでくれよ」

 勇者の言い分ももっともだ。毒を喰らわば皿までだ。

 覚悟を決めて入った。

 一応ノックをしよう。

 着替えとかは瞬間にできるからラッキースケベみたいなイベントはない。

「どうぞ」緑の声がした。

 扉が開いた。

 緑はマイナンバーと同時に登録されている自分の3Dデータを流用している。

 モデルハウスはゲーム世界から電脳世界に出張しているため、僕らのアバターはいつもの2頭身の姿だ。

 8頭身の緑の身長の半分ほどに設定してある。

 幅は緑よりあり、このくらいの身長でないとドアを通れない。

 破やぶれて太ももやパンツが見えるピンクのGパンツに、背中に墨で「情け不要」と書かれたピンクのTシァツ。

 ゲーム世界では乳首は描写されない。

 ツルツルだし、コエプコン社が誇る「柔らかエンジン」を使っているわけではないからオッパイはゆれない。

 コエプコンの「柔らかエンジン」は凄く揺れるので世界的に有名。

 物に当たるとカタチを変えるとこまでオーバーに再現している。

 フェミニストが性描写に抗議するぐらい。

 その度カメラワークの角度を変えている。

 ピンクを基調とした部屋で本棚には女子プロレスの本が並んでいた。

 購入した電子書籍はサイバー空間では空中で自動開閉する本のように読める。

 壁にはアイドル系の女子プロレスラーのグラビアが貼ってある。

 窓の風景は自由に選択できる。

 南側は迫力あるナイアガラの滝を遊覧船で動いている。

 東側は月面基地になっていて地球が昇っている。

 西側は空からジャングルを見下ろしている設定で何体かのプテラノドンが飛んでいる。

「好きに座って。果物取ってくるよ」

 ピンクのソファに腰掛けた。

 緑が木を蹴るとぼたぼたと果物が落ちてくる。

 前もってジョウロで水をやれば季節関係無しに果物はなる。

 種をまいて水をやれば次の日に花が咲く、毎日気に入った花に水をやれば枯れない。

 緑は果物をカゴに拾うと無造作に机の上に置いた。

 客の扱いに慣れていない。

「皮とか種とか無い設定になっているから、純粋に味だけ楽しんでよ」

 桃を手に取った。

 口の中に味は広がるが果汁はこぼれない。

 同じ木に接ぎ木して違う種類がなるようにできるらしい。

 緑が無造作にカゴから取って違う品種を勧めてくる。

 電脳世界では腹も減らないし、お腹いっぱいになることもない。

「僕は男女のめんどくさい事が分からない。

 だから単刀直入に言う。

「そこにいる勇者と恋人関係になる気はないか?」

「おまえはどうしてそんなに馬鹿なんだ」

 勇者が怒鳴る。

 手伝ってくれと言ったのは勇者なんだが、やりとりを聞いて緑がケラケラと笑う。

「そりゃ、無理だよ」即答した。

「なんで、そんなに俺が嫌いか」

「好きとか嫌いの問題ではなくて、多分僕の精子提供者はH世代と同じだよ」

 ということは腹違いの妹になる。

「実は僕J世代でハブられているんだ」寂しそうにした。

「ハブられている?」

「村八分のことだよ」

「僕はJ世代のスクールカーストの最下位なんだ」

「話がヘビィになってないか?」

「ヘビィでございます」

 突然緑のロボット・サファイヤが出現する。

 ララ達同様球体関節を持った自動人形(オートマター)がメイド服を着ている。

 ポロポロ涙を流しながら「私が至らないばかりにマスターは集団授業を一年近く欠席しています」電脳世界ではロボットも涙を我慢できないみたい。

「J世代は蘭王が支配している」

 蘭王はアダ名である。

 本名は蘭・J50・コエプコンは結構有名な女で、コエプコンに知らない者はいない。

 明らかにジャマイカ系の黒人の遺伝子が使われている。

 アメリカ南部の黒人をなめてはいけない。

 白人がアフリカ沿岸部に銃を売って奴隷を買っている。

 沿岸部の黒人は銃を使って内陸部から奴隷を獲得しているため、今でも沿岸部と内陸部は仲が悪い。

 白人が体の強いのを選んで3分の1まで選抜して船に乗せた。

 すし詰めにしたから毎日死人がでた。

 海に捨てるためサメが貿易船の後ろをついてきていた。

 アメリカに着くのは3分の1まで減少した。

 コーヒー栽培など急斜面で働かせるから自然と体が鍛えられた。

 更に体の強いのと強いのを掛け合わせれば、更に強いのができると近親交配を強要しているため、アメリカの黒人はアフリカの黒人と違う別種の強さがある。

 蘭王は赤い縁のアラレちゃんみたいな眼鏡をかけて、後頭部にふたつの房をもつツインテール属性で、4回ぐらい龍先生の道場に顔をだした。

 身長の割に肩幅がえらくあった。

 顔もゴツくてタラコ唇。

 美女の緑に比べればブスである。

 瞬発力の強さは並ではない。

 藻類との融合で遺伝子いじっているからオリンピックには出られないけど、全世代の中で一番足が速い。

黒い弾丸(ブラックバレット)」と呼ばれている。

 ガキの頃、男の番長と戦い。

 コレに勝利しズボンとパンツを脱がし、左手で両手を固定し、右手で足を持ち上げ恥ずかし固めを行なった。

 コエプコン社でもかなり問題になった。

 当時女って凶暴だなと思った。

 アメリカでは犯罪における神経科学の役割についての議論が活発化している。

「脳の異常や機能不全が犯罪の動機や行動特性にどのような影響を与えるか」

「モノアミン酸化酵素などの遺伝子変異体と暴力的な振る舞いの関係」が研究されている。

 とにかく会社がえらく説教したらしい。

 サイコパス(人の心の痛みが分からない人間、あるいは罪を犯してもその隣で普通に暮らせる人)というのは、ある一定の確率(25分の1だと言われる)で産まれてくるものである。

 サイコパスは遺伝子による選抜ができない。

 精子と卵子によって完全に遺伝子が決まるわけではない。

 結合時に7%程突然変異がおこる。

 ロシアでキツネの研究がされた。

 毛皮を取るために養殖でおとなしい個体同士をかけあわせると10世代たつと、キツネ目が幼くなり、シッポを振るなどの従順な行動をとるようになり、攻撃性を高めるアドレナリンの濃度も低くなった。

 彼女は太郎のような天才型ではないが、J50と何か遺伝子の数字が1ずれていたら堕胎されていたらしい。

 努力家秀才型で勉強はよくできる。

 遺伝子に幅を持たせてあるからH世代よりタミフル飲んで気軽に下界に行く。

 毎週日曜日に顔面掌底打ちまで許可された超実践KARATEの道場に通っている。

 僕らみたいに龍先生の下で和気あいあいと技の練習をするのではなく、点在する支部同士の仲が悪い。

 全国大会にもなれば支部同士の戦争の様相をしてくる。

 相手の急所を打って無力化すると言うよりは、ぶっ壊す感じのKARATEの女性競技人口がどれぐらいか分からない。

 彼女は超実践KARATE女性の部にて全国優勝をしていて会社から表彰されている。

 二人は授業の柔道のルールで戦っている。

 緑だって龍先生の下アマチュアレスリングの練習を真剣に取り組んでいる。

 蘭王が服をつかんで殴ってくるラフな事をすれば、緑は諸手刈りに見せかけてタックルを叩き込む。

 二人の戦績は五分五分らしい。

 白人の中でもスラヴ系はjudoやレスリングは強い。

 緑は蘭王が君臨するJ世代でオタクが3人程集まって小さな島宇宙を創っていた。

 コミュニケーション能力のないスクールカーストの下位グループである。

 どの学校でもオタクは下に追いやられる。

 緑は水中に2時間程潜っていられるが、蘭王は5分も潜っていられない最下位らしい。

 よほど気に入らなかったのか、蘭王は緑の友達にまで同調圧力をかけてきた。

 ボッチの集りのH世代と違いイジラレ系のみんな、空気を読んで行動する。

 スクールカーストの順位はコロコロと入れ替わる。

 ある日突然誰からも無視されて便所でメシを食わなくてはならない。

 緑は集団授業に参加せずに日曜日に補講を受けている。

 会社側もある一定の確率でニートやひきこもりが産まれる事は理解している。

 子供達がSOSを発信した時、転校もできないのに無理に参加させればストレスで自殺するかもしれない。

 筑波学園都市など理想の綺麗な都市は自殺の発生率が多い。

 救難信号をキャッチしたらロボットは直ぐに授業のカリキュラムの変更を会社に要請した。

 自殺の兆候を発見する能力はロボットの方が高い。

「僕をH世代に入れてくれないかな。なんだか楽しそう」

 緑の右目から涙がこぼれた。

 このゲームは涙を我慢することはできない。

 かといってもH世代に移動するなんてことが僕らにできることではない。

「ちょっと作戦タイム」

 魔王と勇者の首をガッとつかむと部屋の隅に連れていった。

「どうしよう」

「俺は嫌な予感はしていたんだ」

「話がヘビーだぞ」

「俺は女だから分かる、女という生き物は必ずしも解決を求めていない。

 話を聞けば満足してくれる」

「こうなった以上、帰るわけにはいかんぞ。

 部屋に呼ばれたのもSOSを発信しているかもしれない」

「なんか、責任重大というか、怖くなってきたよ」

 みんなで微笑みながら緑が待っているテーブルに戻った。

「なんか重荷背負わせたみたいで、ゴメンね」

「そんなことないよ、僕も勇者もお兄ちゃんだと思って、なんでも相談してくれ。

 できる限りのことはするよ」

「優しいんだ」

「誰にもではないぜ」

 勇者が答えた。

 何事にも計算する男だ。

「みんなマイナンバーに登録しているアバターに変更して、私がデザインした服を着て友達記念撮影してよ」

「なんでも聞くと言ったけど、さすがにピンクのフリフリはカンベンしてくれよ」

 ジワーッと泣きだしてきた。

 バンソニーのOSでは涙は我慢できない。

「勇者、男に二言はないとキャプテンハーロックも言っていたぞ」

「どんな服があるんだ、緑ちゃん。俺たちにも心の準備があるから」

「ベースはキグルミとか、色々あるよ」

「「「キグルミでお願いします」」」

 魔王はピンク怪獣、口の部分から顔がでている。

 僕はピンクひよこで。

 勇者はピンクの鎧を着ていた。

 サファイヤが写真を撮る。

 深刻な話になるといけないから、テーブルの上に電子ボードゲームを広げた。

 僕と魔王はゲームがデタラメに強い。

 かといっても純粋にサイコロ勝負で決まる「かいぶつさんの森」の世界観を反映されたスゴロクはあるが、あまりに戦略性がなくてする気になれない。

 ルーレットで進める人生ゲームなど一応ルートの選択はあるのだが、基本小さく刻んだ奴が多くの職業を経験して、生涯収支が多くなる。

 最初にゴールすれば一応ボーナスはあるけれど最後のほうが色々経験して勝ちをさらっていく。

 そのため実力7割、運3割と言われている「金太郎電鉄」をすることにした。

 せっかくこうして集まったのだから緑にも楽しい時を過ごして欲しかった。

「金太郎電鉄」はサイコロを転がして広げた電子ボード版の上を、3Dで描かれた自分の列車を、日本中に張り巡らせた鉄道を利用して、ランダムに決められる目的地に移動するゲーム。

 途中で有名駅周辺の不動産を買い漁り最後の月に収支を計算して勝ちを決める。

 目的地に少しでも早く着かないと、誰かが到着した時点で一番遠いプレイヤーにビンボー神がつく。

 他のプレイヤーの駒の上を通るか通られるかでなすりつけることができる。

 こいつがターンの終了時に取り憑いたプレイヤーにハプニングを起こす。

 単に遠ざけるだけならまだマシで、せっかく買った不動産を半値で売りさばき、こいつが憑くか憑かないかでセーフティリードが全然見えない。

 毎回ターンに一度カードが使えて通行止めにするウンチカードやサイコロの数を増やす急行カードなどがある。

 有名駅以外では青い駅に着けばお金がもらえて、赤い駅に着けばお金を取られて、黄色の駅に着けばカードがランダムでもらえる。

 結果論から言えば、僕が最下位で緑が優勝した。

「リアルを知っている人と、こんなに話たのは久しぶりだ」

 緑の笑顔に僕は答えた。

「今はその集団(世代)が全てのように思えるけど、一過性のもので、遅れているわけでも、劣っているわけでもないからな、いい思い出ができたなどと言って自殺するなよ」

「分かっているよ、ありがとう、優しいお兄ちゃん」

 緑は今日も元気に道場に来ていた。

「妹よ。大丈夫そうだな、少し心配していた、良かったよ」

 緑が微笑みながら「ありがとう、お兄ちゃん」

 たまたま横にいた遥さんが「あなた達、いつからそんなに仲良くなったの?」笑っていた。

「先週から」二人でハモった。

 道場での練習は基本技の反復練習と5分おきに相手を変更しての乱取り、自分なり課題を持って相手に協力しながら行う。

 ダラダラとはやらない。

 3時間ぐらいで終わる。

 道場が終わると次は魔王と待ち合わせしているチャットルームへ向かう。

「ピヨッピー無事だったか」

 魔王が抱きついてきた。

「俺、本当に恐かったよ。お前が死んだんじゃないかって」

「ララが何の連絡もなく、一方的に戻したから。ごめんょ、何の連絡もせずにいなくなって」

「無事ならいいんだ。そんなこと気にしないでくれ」魔王が泣きだした「どんな時でも、どんなゲームでも、俺を頼ってくれ。きっと力になるよ」

「僕もだ。魔王」僕も泣きだした。

「どんな難しいゲームでも、呼んでくれれば、きっと手伝いに行くよ」

 僕達は気がすむまで泣いた。

「今日はどこで何をする?」

「そのことなんだけど、昼間肉を食ったから、どうも腹の調子がおかしい」

 ウェアラブルコンピュータが膀胱(ぼうこう)の動きや腸の動きも検索していて、ウンコにいきたくなる10分前に知らせてくれる。

「だらしがないなあー」

「もともとそんなに胃腸の強い方ではなく、ララがコエプコンの配給に乳酸菌のビフィズス菌やオリゴ糖と内蔵脂肪を燃焼させるカテキンとガゼリ菌をミックスしている」

「ララ。何にもしてないのかと思えば、一応調理のまねごとはしているんだなぁ」

「ララが聞いたら怒るぞ」

「何でまた、肉を食べる事になったの?」

「勇者がションベンちびった事を魔王に内緒にしてくれと頼まれた・・・アレ! 」

 勇者のアバターが突然横に現れた。

「何を考えているんだ。本当にオゴリがいのない男だな」

「アゲインスト(勇者のハンドル名)も無事か、心配したぞ。

 いいさ、そりゃ、テロだもんな。ションベンぐらいちびるわな」

「なぐさめるなよ、俺の脳内設定ではそういうことはしないキャラクターなの」

 人には忘れられる権利があるが、ネットで拡散するとそれも不可能。

 恥ずかしがり屋には残酷な時代だ。

「ふんじゃ、気楽に3Dモンスターファーム(特定の主体がシステム全体に責任を持ち、機能を保全しようとする体制を「ギャランティ体制」とよぶ、日本では多い。バンソニー社のギャランティである)にでも久しぶり行ってゲームマネーでもかけるか?

 せっかくだからアゲインストも一緒にくるか?」

 3Dモンスターファームはバンソニーが直営しているゲーム会場で育てた3Dモンスターを使いリング上で戦闘させたりできる。

 この場合はトレーナーのように叫んでアドバイスするだけで、どれぐらい命令に忠実かはWIZにより、コンボの数はINTによる。

 単純に肉体系の能力値が大きいから強いというわけではない。

 メジャーリーグ、マイナーリーグ、教育リーグがあり、3Dモンスターのランクによって賭けのオッズが決まる。

 ゲームマネーは換金できない。

 その代わり親の許可がなくてもいくらでも賭けていい。

 ゲームマネーの他人への譲渡、3Dモンスターやチケットの金銭トレード、3Dモンスターをオークションにかける場合は親権者の許可がいる。

 単純にゲームマネーを払い3Dモンスターをガチャするだけでない。

 結魂(けっこん)というシステムがあり、バンソニーが提供する特定の能力値が成長しやすい産神(10種類ある)に、ゲームマネーを払い、育てたキャラクターを食べさせる。

 3Dモンスターの能力を少し反映されながらマイナス10レベルの子供3Dモンスターを産み、成長回数が増え、能力値が高い3Dモンスターを作ることができる。

 神によっても苦手があり、低くなる能力値もある。

 自分の子供や子孫は食べない。

 3Dモンスター格闘技とは別に競馬のような障害物レースがあり。

 山があり、谷がある。

 バランスをとりながら移動しなくてはならない一本の丸太橋があり、

 泳がなくてはならない場所もあり、

 玉入れ、

 玉転がし、

 火の輪くぐりなどがあり、

 単純にスピードの能力値が高ければ有利というわけでもない。

 試合会場のコースも、ビルドソフトはネットで無料配信されている。

 どの能力値が有利になるかなど、応募してくれるたくさんの試合会場のコースを朝にレフリー達によって選択される。

 採用されたビルダーはゲームマネーが1万程払われる。

 何回かの予選が夕方からある。

 ゴールデンタイムに決勝戦がある。

 予選の内容や勝ち方はダイジェストで配信される。

 NPC調教師(トップブリーダー)が何人(それぞれ得意分野がある)かいて、ゲームマネーを払って彼等に一週間預けると能力値にボーナスがつく。

 %だから能力値が高いほど効果が大きい。

 オッズはレアリティで決められているが、勝負は純粋に能力値で決まるため、上手に育てていれば大物喰い(ジャイアントキリング)は結構起こる。

 チケットを買う前に配信動画の予選情報だけでなく、能力値の方もチェックしなくてはいけない。

 3Dモンスターでのカードバトルはウェアラブルコンピュータ上でたくさんのサードパーティーが展開している。

 スポーツゲームも例外ではない。

 本当に好きな奴はリアルでチームを作るし、プロの試合を観戦に行く。

 映画、ドラマ、アニメなどの配信ビジネスに対抗できるのは、ニュース報道とスポーツ(eスポーツも含む)のライブ中継だけである。

 バンソニー社もモンスターファーム上で25体の3Dモンスターを使って相手が守るゴールの枠に楕円形の球を押し込む。

 サッカーとラグビーを足して2で割ったような(魔法や飛び道具で球を弾き飛ばしたり、つかんで切り込んだり、スクラムで押し込んだり、戦法は色々)観戦スポーツゲームを展開している。

 Sリーグ、Aリーグ、Bーグ、自由参加リーグと別れている。

 プレイヤーが居なくてもBリーグ以上は毎週日曜の昼に試合が組まれている。

 プロ野球セ・リーグの巨人のような金満球団のようにSリーグにZEROという女が君臨している。

 この女(?)もピヨッピーと一緒でメディアに露出しない。

 謎の多い人物。

 アバターは白いシーツをかぶった透明人間。

 シーツの上に二つの目がついていて、いろいろ感情を表現する。

 ネット上で本人が主張するには酸素と栄養素だけを供給も要らない。

 マインド・アップローディングしてコンピュータに人間の意識を移した(肉体は滅んでも精神は不滅? 魂はどうなる?)人格創造の新しい技術を導入してあり (肉体は死んでいるから司法上は故人扱い)。

 財産の管理は法人扱い。

 1秒間に1000回株の取引を無意識でしていると言われている。

 人工衛星上(無税国家(タックスフリー))で巨大コンピュータに増設したZERO(まだ彼は物質的身体(マテリアルボディ)から逃れられない。

(ZEROの)推測ではあるがいずれは魔下耕世のようにネットの海に浮かぶ純粋なアルゴリズムプログラムへと進化すると宣言している。

 このゲームに一カ月で課金に1億円をつぎ込んでいると言われている。

 賭けの胴元であるバンソニー社は損をしないようになってはいる。

 モンスターファームは彼女の課金だけで黒字になっている。

 勝負は純粋能力値であり、同じ種類のモンスターは同じ試合では使えないというルールがある。

 複数のキャラクター(最低25体以上、控えも考えるならそれ以上)を育てなければ強いチームはできない。

 能力値の成長は仲良し値がめいいっぱい関わっている。

 1人では1体しか育てられない。

 そこで熱心なサポーターにゲームマネーを払って成長を依頼できる。

 自分の試合以外の試合も他の曜日に研究して有力な3Dモンスターをゲームマネーでトレードしている。

 ZEROの試合はオッズが1.001であり賭けが成立していない。

 モンスターファームのサーバーに来るとアバターの人混みに圧倒される。

 魔王のアバターとバディを組んだ。

 こうしているとトイレに行って、中の人が不在の時は通行人を自動でよけて魔王の後をついていく。

 みな3Dモンスターを左肩に乗せている。

 モンスターファームに連れてきているだけで仲良し値が10秒間に1ポイント貯まる(1体だけ)試合に参加すれば勝っても負けても10倍は貯まる(参加3Dモンスター全員)。

「あれ、夕夜と勇者。こんなところで会うなんて思わなかった」

 ワイングラスのお酒を手にしたエリーのアバターが人混みの中、僕達を見つけた。

 脳に酔った情報が流されるだけで本当に臓器を使っているわけではない。

 若かりし頃の母親セリューン(ハリウッド女優のセリューンは今でも魔女のように美しい)の3Dデータがアバターに使われている。

 天真爛漫(てんしんらんまん)なエリーと違い、美しさにどこか凄味がある。

「相変わらずの変態だな」

 勇者はネカマには否定的である。

「勇者。女の身体は男の20倍気持ちいんだぜ」

セリューンはネットマーケットにかなり詳細な情報を提供していたため、昔から問題になった。

「相手は誰だよ」

「太郎に決まっているじゃん、男の身体がどうすれば気持ちいいか知っているしね」

「18禁のソフトを使っているのか」

「悪いことなんて、ばれた事だけだょ、本体が反応する時もあるから、ロボットにばれないようにコンドームをつけてからダイブするのさ」

「こいつはキケンだ」

 勇者もあまり人のことは言えないが。

 太郎も向こうからやってきた。

 アバターは国民総番号のマイナンバーに登録してある3Dデータを流用していた。

「お前、勉強以外にゲームをしていたのか?」

「私だってとっかかりは花子が提供した知育ソフトだぞ。

 お前達みたいにガチンコではしてないけどな。

 週一ぐらいで貯まった3Dモンスターのチケットとゲームマネーと交換している。

 ゲームマネーに課金するほどはやってないがな」

 太郎がコエプコンを出ていく時、ロボットの花子はどうなるんだろう。

 個人が買える値段ではないぞ。

 コエプコンにいればロボットは母親になり、恋人になり、介護ロボットになるルートが用意されている。

 ララに聞けば、花子は借金して、分割払いにしてついていくつもりらしい。

「私達にマスターを見捨てる選択肢は少しもない」ララは当たり前のこと聞かないでよ、みたいな笑いかたをした。

 コエプコン社もバンソニーが提供できるテレイグジスタンス(同じ人間が場所を隔てて同時に存在すること)なそっくりさんロボット(ミクロソフトのロボットと違い感覚がある。本体はコエプコンにとどまっている)を使って選挙にでてみては? と提案している。

 ダメだったらコエプコンに戻ればいい。

 妥協案を出してきたらしい。

 太郎は気高い理念がある。

 政治は妥協の産物だが、彼は耳に心地良いことを言って人気取りはしないだろう。

 コエプコン社は太郎では選挙では民自党に負けるとよんでいる。

「どんなゲームしているんだ」

「ウェアラブルコンピュータの大航海時代と、ウェアラブルコンピュータ版のシムシティだが、今両方共行き詰まっていてね、お前達に相談してみようと思っていたところだよ」

「大航海時代は3Dモンスターを 船頭像フィギュアヘッドにできると聞いた事があるが」

「多少つければ船の能力があがるが装備品のフィギュアヘッドでも大して変わらない。

 今までのヴァージョンと違い、ゲームマネーがあれば強化できるわけではない。

 ガチャをやって設計図を引き当てなきゃいけない。

 船も強化アイテムも乗組員も全部ガチャ。

 とりあえず仮の上限70レベルまで育てたが大型帆船や大型戦闘艦が手に入らなかった。

 乗組員も課金してプレミアムガチャをしてないからレアしか手に入らなかった。

 対戦イベントなどウルトラレアやスペシャルレアを持っている高額課金プレイヤーがハバをきかせている。

 マップも空想上のもの、例えばサハラ砂漠に海が2本走っているのを、ラピラズリという空想上の魔法石で差し替える。

 普通に近い地図ももちろんある。

 一つの地区に4つぐらいマップがある。

 地中海から始まるだけどメインシナリオをこなしてマップを獲得していかなきゃならない。

 地中海自体マップで8ヶ所に分割されている。

 マップがないところにはいけない。

 マップミッションがありそれを40こなすと一つにつき1レベル上限が開放される。

 イベントと経済活動を中心に育てていたから、メインシナリオで行き詰まったから離れた。

 リアル時間で回復する行動力があり、暇になったから大量にゲームプレイができるわけでない。

 無課金プレイヤーはこまめにやらないといけない。

 別に動画とかやってないからメモリがつまっているわけではないからアンインストールはしてないけどな」

「結構本格的にやっているじゃないか」

 勇者が感心した。

「精子はお前達と一緒だぞ」

「シムシティはどうなんだ」

「あのゲームは、資源を供給しなくても、工場で製品を指示すればなぜかビルを建てる資材が出来てくる。

 時間も資材毎に違っている。

 最初は鉄と木材しか出来ないがだんだん街を大きくする事によって色々な商品や資材がアンロックされていく。

 序盤は金がないから小さな工場しか買えない。

 これは騒音がうるさくて住民の満足度がさがる。

 あんまりほったらかしておくと、引っ越して住民の数がへる。

 このゲーム住民の数がレベルをあげる。

 レベルを上げないと色々な商業施設がアンロックされない。

 都市を発展させて貿易をして「黄金の鍵」を獲得して、「黄金の鍵」で周囲の住民を増やす優秀な施設を作る。

 単純にゲームマネーで課金すればいいわけではない。

 資材をおいとく貯蔵センターを大きくしたり、土地を広げたりするのは、課金で可能だ。資材を作る時間も課金で0にできる。

 だんだん必要なアイテムが多くなっていくが、貯蔵センターの能力以上にアイテムは作れない。

 土地を広げるアイテムや貯蔵センターを広げるアイテムはビルから漫画のような吹き出しが出て、それをクリックすることでランダムにもらえる。

 課金しないと貯蔵センターを圧迫してビルを建てたり大きくしたりするアイテムや貿易のアイテムを貯蔵センターに置いとけない。

 さすがの俺も無課金プレイでは無理ゲーで、授業で獲得した3Dモンスターのチケットを売った分ぐらいのゲームマネーは課金している。

 成人になって会社を辞める時、コエプコンが養育費を返せとセコイこと言ってきた時のために現金はなるべく使わないようにしている」

「結構難しいゲームをやっているんだな」勇者が感心した。

「最初は金もないし作れる物も少ないが都市計画を研究したかったから入口としては良いかと思ったら結構はまった。

 電気、水道、下水、ゴミの処理などライフラインを作らなくてはいけない。

 作れる施設も電気は特殊で風力発電や太陽光発電などのクリーンエネルギーも選択できれば、公害を発生する石炭、石油の火力発電所。

 なぜだか住民に嫌われている原子力発電所。

 なぜだかクリーンエネルギーを分類されている核融合炉発電所。

 色々な物が絡み合い核融合炉発電所は大学の建設が必須条件。

 水道はポンプと貯水池のふたつでどちらも公害は発生しない。

 下水のパイプ所は公害を発生するが下水処理施設は公害を発生しない。

 ゴミの処理は集積所や焼却炉は公害を発生するがリサイクル施設は公害が発生しない。

 消防や警察や病院も、大きさに応じてカバーする範囲が違う消防のカバー範囲からもれると火事がおこる。

 警察も範囲内にないと犯罪が多発して住民の満足度がさがる。

 病院も診察所から大学病院まで種類があるがカバー範囲内に住居がないと伝染病がまんえんする。

 役場とかの行政機関も作らなくてはいけないが一つ作ればクリックした時に税収が見られるだけで特にゲーム上意味がない。

 行政機関は・公園・教育・ビーチ・娯楽・ギャンブル場・ランドマーク・礼拝堂などを建設して住民の満足度を高めなくてはならない。

 公園はサッカー場やジョギングルートや水族館、教育は教育館や公共図書館やコミュニティカレッジや大学、交通はバスターミナルや飛行船や気球格納庫やヘリポートなどを作るとゲーム上で反映される。

 ビーチは灯台や船乗りの桟橋やボートの波止場、娯楽はホテルや劇場やエキスポセンターやスタジアムやオペラハウス、ギャンブル場はカジノ本部やカジノタワー、ランドマークは文化局やエンパイアステートビルや自由の女神、礼拝堂は教会やモスクや寺院や現代寺院など。

都市が発達すれば道路も混雑するためアップグレードして二車線や三車線にしなくてはいけない。

工場も始めは騒音のする小さな工場で二つのアイテムしか作れなかったが、工場、マスプロダクト工場、ハイテク工場、ナノテク工場と建て直していく。

 ナノテク工場は騒音もしないしアイテムを五つ作れる。

 作られる資材も鉄、木材、プラスチック、鉱物資源、化学物質、テキスタイル、植物の種子、砂糖とスパイス、家畜用飼料、ガラス、電気部品とアンロックされていく。

 アイテムは原料を用意することなく、製作時間が長かったり、みじかかったりする。1番長い電気部品が8時間かかる。

 課金によって直ぐに作れる。

 貿易は船や飛行機に注文の品を搬入すれば「黄金の鍵」がもらえる。

 ただ4時間か5時間しか待ってくれない。

 間に合わない時も出てくる。

 都市規模が大きくなるとショップが次々とアンロックされていく・資材工房・ホームセンター・家具屋・ガーデニング用品店・アパレルストア・ファミレス・ドーナツショップ・電気店などがアンロックされていく。

 それぞれ資材を使うことで商品ができビル増築、建設に必要だったり、貿易に必要だったりする。

 資材工房では釘、板材、レンガ、セメント、のり。

 ホームセンターではハンマー、メジャー、シャベル、調理器具、ドリル。

 家具屋ではイス、机、ホームテキスタイル、ソファ。

 ガーデニング用品店では芝生、苗木、屋外家具、コンロ、ガーデンノーム。

 アパレルストアではキャップ、スニーカー、腕時計、ビジネススーツ。

 ファミレスではアイスクリームサンド、ピザ、バーガー、チーズポテトフライ、瓶入りレモネード。

 ドーナツショップではドーナツ、グリーンスムージー、ロールパン、チェリーチーズケーキ、フローズンヨーグルト。

 電気店ではバーベキューグリル、冷蔵庫、照明器具、テレビ。

 先にくるほど使う資材も少なく、製造時間も短い。

 後にくるほど原料も複雑化して、製造時間も長い。

 ショップは工場と違い、どの商品も原料がいる。

 なぜビルを建てるのに食べ物がいるのか分らないが、色々な種類のビルを建てるのにショップの商品がいる。

 余った商品をオークションにかけることができない。

 金額の決められた商品をバザーで売ったり買ったりできるが検索をかけることができない。

 30秒毎に20ある全ての商品や資材が入れ替わるがタイミング良く欲しい物が手に入るかは運の要素が大きい。

 災害ミッションもあって、自分の建てたビルを地震や隕石で壊して復旧すると「黄金の鍵」がもらえる。

 都市規模が増えレベルが40になると全てアンロックしてしまい目的を失ってしまった」

エリーからウェアラブルコンピュータのブラウザゲームをやっていると聞いてはいたが、ここまで本格的にやっているとは思わなかった。

 太郎は問題行動をしないし、会社を辞めたいというのは確信犯でコエプコンも困っている。

 憲法が保障する職業選択の自由を口にする、もはや利益誘導しかない。

 蘭・J50・コエプコンのように誰がみてもサイコパスと分かる場合。

 人間改造プログラムが適用される。

 アメリカの神経経済学者が発見した、母親が母乳を与える時に脳内で分泌され、愛情と深く関係している「オキシトシン」を、アガシ(副作用による手足のけいれん)などがおきないよう脳への直接投与。彼女がどれだけ利他的な行動をとるか研究が始まった。

 ただ「オキシトシン」に関して言えば内集団バイアス歪んだ偏りがかかり愛国心を助長して、属している集団にいて他集団を攻撃するときもでてくる。

 排他的傾向が高くなり戦争物質ではないかとも言われている。

 また躁鬱(そううつ)が激しい緑に関しても人間改造プログラムが適用された。

 僕らが知っていた道場に来ている時の緑は躁状態でアッケラカンとして明るかったが、ロボットのサファイヤと二人きりになると落ち込む。

 鬱状態になり、リストカットするのが恐くて近くに刃物を置かなかったらしい。

 PTSDのトラウマを軽減する「記憶鈍磨剤(きおくどんまざい)」気分をコントロールする「気分明朗剤」といった向精神薬(抗鬱剤も含む)を、服用では無く、脳への直接投与が行われ性格が明るい方が中心になった。

 ただ緑のロボット・サファイヤが言うには何度か集団授業に復帰をチャレンジしたらしい。

 ウェアラブルコンピュータで計測した心拍数は変わらないが、ストレスホルモンといわれる血液中のコルチゾールが極端なほど増加した(唾液で計測できる)。

 人間の感覚器官は外側の情報を集めるだけで、内部の情報(心や内蔵)を取ることが出来ない。

 耳も皮膚が発達した物である。

 ストレスとは肉体的、精神的に追い詰められた時の攻撃準備である。

 精神分析により緑が分類されているゾーンは前兆行動なく突然折れる。

 自殺するということ。

 あるいは前ぶれなく相手に近づいて刺す。

 殺すということ。

 サファイヤは2時間目に早退させた。

 人間改造プログラムが法律として認められる時は激しい議論が巻き起こった。

「ポストヒューマンと要らなくなった子供達」と気鋭の精神科医に書かれた。

 ポストヒューマンとは完全に脳だけの存在になり、知能増強(インテリジェンス・アンプリフィケーション)を行い。

 記憶力も外部記憶(ハードディスク)に完全に置換され、自分の心の思い出か? クラウドインターネットの知識か? 常時接続しているグーグルの情報か? 境界が分からなくなり。

「自分が何者か」という哲学的問いも自己対話すること無く。

 AIの自分検索で答えてもらう。

 行動も政府が作った法律によって検索審査許可(オートマティックコントロール)される。

 自分の情熱か? やりたいコトなのか? 好きなコトなのか? 分からなくなり。

 200年と言われた脳の寿命もガン細胞の研究が進み幾らでも増量できるようになった。

 ヒューマンの次に来る者と否定的に書かれていた。

 人はたぶん何か生きた証を残したいのだ。

 自我の外部コピー以上の価値。

 それが魂の情熱であれば芸術であり、人間愛や遺伝子であるなら家族であり、生き方なら宗教や道徳であり、理想ならば民主主義や共産主義や自由主義や平等主義である。

 それら、自分が死んだ後も永遠の命を持つと確信している人は死を受容できる。

 ポストヒューマンが永遠に生きるのを求めるのは自分以外何も残せないからだ。

 年金制度は少子化によって事実上の破綻。

 支給年齢は100歳に引き上げられた。

 家族を作らなかった孤立の要介護貧困老人は介護難民となりベッドに縛られ夢を見せられる。

 血液に鉄タンパク質を投与し、外部から神経伝達ヘルメットで磁力によって脳内を移動させ、幸福報酬物質(ドーパミン)の量の最高値を常に維持する。

 血液から栄養を輸血で摂取している(棺桶(かんおけ)ホテルと呼ばれている)。

 定年どころか終身雇用制度自体廃除された。

 ジニ係数といって格差を計る数値はある。

 ジニ係数は1に近づくほど格差が大きく、0.4を超えると社会不安を起こすと言われている。

 シロウトにはチンプンカンプン。

 人体改造出来ない寿命格差が貧困層を直撃した。

 少子化で凶悪犯罪の件数は減ったが、100人当たりの犯罪発生率と自殺率は順調に伸びていた。

 多くの日本人の自分と社会に対する絶望は確実に大きく高まっていた。

 人間改造プログラムの導入に対して生命倫理学者は声をあげて反対した。

 もともと精神科医が処方する多剤も問題視していたが、薬をだせば出すほど医師と製薬会社が儲かる仕組みは改められなかった。

 政府が人間改造プログラム法の成立に向けて、第三者機関や諮問会議や有識者会議などに、犯罪や自殺を減らしたい社会倫理学者が(話合いがあったという)アリバイ作りに呼ばれた。

「人格権」という造語を作りだして批判した生命倫理学者などの反対勢力は入り口で廃除された。

 問題行動を起こさない太郎に、コエプコン社は人間改造プログラムを適用することができなかった。

「対戦のあるゲームは勝てばいいけど、負けた時は時間を無駄にしたようで、戦闘のない農場経営シミュレーションでも本格的にして勉強したいのだが、グーグル様で検索したら百種類ぐらいヒットして、マッタリよりリアル指向で何かいいものないだろうか?」

「負けた事が財産になるとスラムダンクでも言っていたぞ、

 あきらめたらそれで終わりらしい。

 ウェスタン風で釣りや採掘までできるのがHEY dayというのがある。

 世界中で一番遊ばれている。

 畑でいろいろな作物ができる。

 動物のエサなど作られる。

 ソウルメイトと呼ばれる仕事を手伝ってくれる犬や猫などのペットを育てられる。

 豚、牛、羊、ヤギ、ミツバチなどのいろんな動物が育てられる。

 ワニの肉や、ラクダの肉や、アルカパの肉や、カピパラの肉などを注文に来たトラックに出荷できる。

 ディズニーのキャラともコラボしている」

 僕がこたえた。

「硬派な所でファーミングシミュレーションがいいぞ」

「アンタ誰?」

「僕の友人の魔王だょ」

「ああ、道路戦士の」

「魔王。彼が政治家に成りたがっている太郎だ」

「なんだったら、民自党を紹介しようか」

 魔王が答えた。

「沖縄を中国に取られても、憲法9条を変えられない民自党に用は無い。

 自分で鉄のような新しい組織を作る」

「琉球って言わなきゃ、人権侵害救済委員会にばれたら、言葉狩りにあうぞ」

 勇者がビビり気味に口を挟む。

「どこの国の誰のための法律だょ」

「まあ、それも生き方だ、否定はせんよ。

 それより最新のファーミングシミュレーションはローンを組んで土地とトラクター、輸送車両トラック、収穫機コンバイン、フォレジハーベスタートウモロコシの収穫専用機などの農業機械や、伐採機、つかみ上げ機、切り株カッターなどの林業機械を購入する。

 トラクターに取り付ける収穫機、耕作機カルチベーター、種まき機(ジャガイモだけは特別な種まき機がいる)、肥料散布機、輸送機トレーラー、草刈り機、スラリータンク(バイオガス用)、草集め機ローダーワゴンなどのツールもそろえなくてはいけない。

 日頃はGPSとAIで自動運転して命令を送る。

 休みの日にバンソニーのフルダイブと連動している。

 ハンドル握ってマニュアルで操縦したり、林業に専念したりできる。

 大型働く乗り物は男のロマンだろ」

 魔王が胸を張る。

「男の子のロマン? どちらかと言えば経営に興味があるのだが」

「それなら他のゲームと違って一応マーケットがある。

 作れる商品は小麦・菜種キャノーラ・トウモロコシ(コーン)・テンサイ(砂糖大根とも言われ砂糖全体の35%をせめる)・ジャガイモ。

 後は肉を売らないんだけど、羊に牧草を与えてウールを作り、鶏にトウモロコシを与えて卵と鶏糞を作り、牛に牧草を与えてミルクと肥料を作ることができる。

 販売先というか建設してある工場が敷地内にある。

 ステーション・港・宿屋・製粉工場・パン屋・バイオガス工場(穀物やモミガラを出荷して肥料を作ることができる)・バイオエタノール工場(穀物から油が作る)・木を集めて浮かべておく貯水池・製材所・紡績工場がある。

 同じところに同じ物を供給するとマーケットの価格がさがり利益がでないからバランス良く作り、販売するところを分散する」

 魔王の解説に勇者が口を挟む。

「戦闘ゲームしたくないのなら、南の島に観光地を作るゲームもあるぞ、マルチ(複数人)で作ることもできるが太郎の場合はシングルだろう。

 フルダイブして設置した遊園地に友人を誘って遊ぶことができるぞ。

 ジェットコースターとか好みに改造できる。

 チャットルームとして開放することもでき(お金はかかるけど)。

 水族館の要素もあり、アクアリウムを作り熱帯魚や貝やイルカの養殖もできる。

 温室栽培の果樹園ではバナナや砂糖キビを作ることもできる」勇者が付け加えた。

「なんか、女の子向けポィな」

「戦闘がなければ基本ガールズ向けだょ」

 太郎の感想に勇者が答えた。

「宗茂も来ているよ、今から試合があるんで応援に行かないか?」

 エリノアが聞いてくる。

「どんなゲーム?」

「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツのこと)で有名なMOBA(マルチプレイ・オンライン・バトル・アリーナ)のleague of legends(99.9%コレ)のフルダイブ版。

 プレイヤーキャラクターのチャンピオンを3Dモンスターの焼き直し、世界観は「行き過ぎた魔法は科学に似る」がキャッチコピー、SFポク仕上げている。

 ミクロソフト社との競合がもっとも激しい分野。バンソニー社が社運をかけていると言われている」

 league of legendsはもはや国別対抗戦の様相を呈している。

 全国大会に出場する時は首相官邸に招かれ出陣式が行われ、まかり間違えて全国優勝しようものなら総理大臣自ら表彰される。

 eスポーツもファンタジースポーツとして架空や実在の選手を集めてサッカーをするというのの人気が先にでた。

 管理者の1人が不正をしていることが発覚し、集団訴訟が起き会社は潰れた。

 ファンタジースポーツの失敗をバネに企業は公正であることが求められている。

 スポーツ団体がスポーツゲームの運営に乗り出し、全国優勝者はワールドカップの表彰式に招かれている。

「身も蓋ふたもないな」

 アバウトな説明に僕が突っ込む。

「マイクラで有名なサンドボックスゲームをブロックメイキングRPGというがごとし」

 僕達は3Dモンスター&ヒーローズの会場に移動した。

 スタジアムが作られていて、戦場全体を見下ろす形になっている。

 選手の中に宗茂を発見した。

 魔王が暗黒色の洋風の鎧なら、宗茂は赤備えの和風の鎧。

 円形月のカブトをかぶっている。

 まだ試合が始まってないからアバターはいつものヤツ、50種類ぐらい二足歩行のプレイヤーキャラクターが登場する。

 試合が始まってキャラクターを選択したらスキンが変わる。

 ゲームは丸いドームの中で行われる。

 視界が自分の周辺しかない。

 魔法暴走後の廃墟で行われる。

 赤チームは右上に本拠地(ドーム)があり、青チームは左下を本拠地《ドーム》にある。

 lolのネクサスに当たり、本拠地(ドーム)を破壊されると敗である。

 試合時間はだいたい30分で決着する。

 純粋に敵を倒すだけでお金と経験値が手に入り、リアルタイムストラテジー(RTS)のように生産を全く考えなくていい。

 左上がトップ、対角線上の真ん中がミッド、右下がボットと呼ばれ主たる戦場になる。

 本拠地ドームから続く道はレーンに当たるのがロードと呼ばれている。

 ひとつのロードに4つほどのタワーに当たるトーテムポールという防衛施設が配置されて、近づく敵を飛び道具で廃除する。

 レベルの低い内に近づくと一発死である。

 死んだら本拠地ドームで復活するがレベルが上がるほど、復活にかかる時間が長くなる。

 このゲームの場合は60秒後ミニオンにあたるクローンと呼ばれる。

 腰の高さほどの2頭身の3Dモンスターの垂れ流しが始まる。

 ロードの間には廃墟(ルイン)と呼ばれる中立地帯があり、キング、クィーン、ビッショプ、ナイト、ルーク、ポーンと名前が付けられた突然変異(ミュータント)と呼ばれる中立モンスターが配置されちる。

 誰かがコレを倒すとチーム全体に恩恵が加えられチーム全員にお金が配られる。

 序盤はポーンを倒すのがせいぜいでキングやクィーンはマックスレベル20まで育てたキャラクターによる5人総がかりで当たらねばならない。

 倒すと恩恵がでかく試合を決定する。

 垂れ流されるクローンを倒して経験値を獲得してレベル上げを行う。

 トドメの一撃(ラストヒット)を加えるとお金が手に入る。

 このゲームは自分の武術を持ち込む事が出来ない。

 キャラクターにもよるがMP(マジックポイント)を使ったスキルでしかHP(ヒットポイント)にダメージを与えることが出来ない。

 つかみや投げや押すことも出来ない。

 ある種の無敵範囲にスキルでしか入ることが出来ない。

 スキル毎にクールダウンと呼ばれる次の攻撃の準備時間があり、相手のスキルがスカッた時が攻撃のチャンスである。

 1レベルの時はスキルがひとつしかない。

 5レベルで二つ目、10レベルで強力なスキルが手に入る。

 5レベルで更に強力スキルが追加され、20レベルのマックスになると超絶スキルが選択できる。

 それぞれのキャラクターにスキルが5個、強力スキルが3個、超絶スキルが2個用意されている。

 同じキャラクターでも全く違うように育てられる。

 最初はHPに対してスキルの攻撃力は小さいが、10レベルの強力スキルが手に入れてからプレイヤーキャラクター同士の殺しあいが始まる。

 プレイヤーキャラクターにも3Dモンスターの特徴の相性が持ち込まれている。

 キャラクターの成長はスキルだけでない。

 本拠地(ドーム)でお金を使ってチューンナップができ。

 戦況に応じて攻撃力や防御力や移動力を強化したり、相性を強化したり打ち消したり出来る。

 買い物もツリーになっていて底辺の内から購入を計画するのも戦略のひとつである。

 5秒ほど時間がかかるが本拠地(ドーム)にテレポートするリコールという能力は全員持っている。

 オッズがでてくる。

 宗茂が8倍で敵が2倍。

「なんだ。この差は」

「情報によると、向こうのチームにlolのプロが転向してきたらしいぞ」

 僕の質問にエリノアが答えた。

 向こうは6人準備して1人純粋な司令官がいるのに対して宗茂側は5人。

 しかも宗茂によるプレイングマネージャーである。

 戦いながら全体を把握して命令を出さなくてはいけない。

 僕らは未成年だから1試合に千ゲームマネーしかつぎ込めない。

 魔王を含めて全員宗茂に千ゲームマネーをはった。

「行けー、宗茂。大物食い(ジァイアントキリング)だー」エリーが声援を送っていた。

 試合が始まり、空中にキャラクター選択画面が広がる。

 1人ずつ交代で選択する。

 使いやすいようにみんな二足歩行の擬人化されたモンスターか、もともと双つ名をもつヒーローかに限定されていた。

 赤、緑、青、黒、白から10名ずつ合計50名の中から選ぶ。

 アーティファクトなど無色の3Dモンスターはない。

 ヴァージョンアップででてくるのか、このままチューンナップの材料のままか、それは今のところ僕らにはわからない。

 このゲームは毎回毎回1レベルから成長させる。

 何もゲーム前に持ち込めない。

 純粋なプレイヤースキルとチームの戦略のみが試される。

 プレイヤーキャラクターを選択した時アバターのスキンが変化する。

 そしてスタートした。

 本拠地ドームに全員が集められ初期所持金で買い物してから、それぞれトップに2人、ミッドに1人、ボットに1人、廃墟(ルイン)に1人行きポーンを狩りに行く。

 やがてクローンの垂れ流しが始まるとボットを2人にして効率よくキャラクターを育てる。

 プロといっても一匹狼(ローンウルフ)

 賞金で生活しているわけではなく、配信動画の解説を行い、自分のプレーをアップロードしてゲーム実況をしながら広告料で生活している。

 世界クラスや日本代表になると5人が共同生活を行い。

 世界リーグに参加して毎日強豪とマッチングしている。

 エリーがネットで曝されている情報を口にした。

 それならば宗茂にも勝ちの目があるだろう。

 実際10レベルになり強化スキルが解放されると宗茂がプロのKill殺すのに成功した。

「おおおおおお〜」

 会場がどよめいた。

 宗茂が中立地帯の突然変異(ミュータント)を倒しながら各地でサポートした。

 プロが復活する度宗茂に挑むが度々返り討ちにした。

 後半はマックスまで達したプレイヤーキャラクター達が一塊りになり決戦を行うが、宗茂側がトリプルkill(殺す)に成功。

 残った敵側は退却して宗茂達は余裕キングやクィーンを倒し恩恵を獲得して敵本拠地(ドーム)を破壊しゲームに勝利した。

「プロのくせに何やってんだょ」ハズレを引いた者達の怒号が巻き起こる中「大物食い(ジャイアントキリング)だー」とエリーがはしゃいでいた。

 ゲームが終わり、宗茂はこっちにやってきた。

 選手には試合が終わると自由フリーな仲良し値をバンソニーが提供してくれる。カードを提出するだけでいい。

「宗茂凄い」エリーが抱きついた。

「プロも戦略はともかくフルダイブのゲームには慣れていなかった。間合いの取り方が下手だった」

 宗茂が謙遜していた。

「格闘技をやっている僕達5人が宗茂の指揮コマンドの下ゲームに参加すれば無敵になれるんじゃないか」

 エリーがはしゃぐ。

「私はパスだ。

 集まって練習するより、政治家になるため家でウンチクによる基礎固めをしなきゃならん。

 代わりに緑でも誘ってやれよ。

 お兄ちゃんとか呼ばせているんだろう。

 戦隊物は女が2人いるのが常識だからな」

 太郎が口にした。

「H世代は太郎、お前も含めて緑のお兄ちゃんだ」

 僕が反論した。

「遺伝子照合したわけではあるまい、ただの妄想だょ。お前は優しいな」

 太郎が微笑む。

フォア・ザ・チーム(チームのために)に徹しないと、単に格闘技をやっているから、単に道路戦士の強者だからと言って勝てるものでもない。

 間合いの取り方が少しは有利かもしれないけど」

 普段は無口な男だが宗茂もゲームのことになるとけっこう話す。

 太郎が急に真剣な目をして僕を見た。

「お前はゲームばかりしているからダメかと思っていた。

 でも、違うんだな。

 お前は誇り高い男だ。

 夕夜。

 友人になってくれ」手を差し出してきた。

 ララが太郎と親しくはしてはいけないと言っていたけど、僕はその手を握った。

 ララに秘密を持った。

 プライバシーがどの程度守られているか? それはわからない。

 ネット上でピンチに合えば、なぜかロボット達はタイミング良く現れて助けてくれる。

 コエプコンもネットでサラシ物になるわけではないから、ロボット達に守秘義務を課し、子供達のネット行動やメールの管理など自由にアクセスする事を黙認している。

 一般の 看板型情報端末(デジタル・サイネージ)などから顔や網膜認識されて「なぜ僕の必要としている物が?」と道路に大写しされて戸惑うことがある。

「友人と恋人って、どっちがいいのかな?」

「そんなもん、人に聞くもんじゃねぇ。

 個人が決めることだ。

 自分自身のみに聞くんだ」

 エリーの質問に勇者が答えていた。

「ふんじゃな。私は家に帰って見聞を広める」

 勉強と言わない所が凄い。

 まあ、完全記憶もあるしな。

 背を向けて少し歩いてから消えた。

「彼は出て行く人なんだな」エリーがため息をもらす。

 振り返らない。

 それがどこか切なくて。

 情緒的。

「出て行ってもネットで会えるだろう」

「勇者は味気ないなあ。心の機微がわからないんだから」

 今日はもう宗茂の試合がない。

 5人で賭博場を回った。

 僕は損をしなかった。

 解散してみんな家に帰る。

 

 ララから食事を渡される。

 今日は自然災害の都市を脱出するサバイバルゲームを左手で行う。水をしょっちゅう補給しなくてはいけないサバイバルアクション。

 右手で巨大ロボットや宇宙人や怪物が暴れる都市の足下を回避しながら逃げまくるゲームをやる。逃げゲーと呼ばれるジャンルだ。

 右足で戦艦と美少女を掛け合わせた女体化戦艦集めシミュレーションゲームをプレイした。このゲームは5人位連れて行き単縦進陣形で行軍して敵にT字作戦を仕掛ける。

 やられると服が破れる。

 ちょっとH。

 左足で宇宙船の設計を行う。

 完全なAI操縦であり、隕石群や恒星といった障害物を突破するレースに参加する。

 元々は偵察艦や戦艦などを選択して好きなパーツで好みに組み立てて対戦するゲームだったが、大々的な宇宙レースやることになった。

 前回の栄えある第一回大会はほぼ全員のAI設定は攻撃を受けたら反撃すると設計していた。

 そしてどこかの馬鹿がスタートと同時に一発のミサイルを撃った。

 同時に全ての宇宙船が反撃を行い阿鼻叫喚。

 開始早々に全員が航行不能リタイアとなった。

 その反省を生かして次は作らなくてはいけない。

 

 11時になりララとのいつもの儀式をすませて、寝た。

------------------------- 第8話開始 ----------------------

【タイトル】

20××年10月23日 日曜日

 

【本文】

 今日もララは7時に起こしてくれる。

 プロゲーマーの魔王は日曜日にはイベントにかり出される。

 食事を終えたら、ネット上で告知されているゲームの大会を検索した。

 コエプコンだけが格闘ゲームを作っているわけではない(僕も格ゲーだけを遊んでいるわけではない)。

 ナムコナミも「アイアンフィスト」という、10連コンボがベースの格ゲーもあるし、「鉄鋼機械・弾丸」という銃器や爆弾を使い隠密潜入ステルスアクションを楽しむチームバトルもある。

 SAGEではパンチ、キック、投げ、浮かせ、下段、中段、上段、ジャンプ、ダッシュなど組み合わせて頭の中でトリガーを引けば、距離に合わせて勝手に技がでる「ポリゴン戦士」(流派によって技や構えが違う)。

 丸川書店の小分けした下請けレーベルの人気キャラを集結した「丸川オールスターズ」というアニメ調カトゥーンレンダリングの格ゲーがある。

 朝鮮(韓国財閥は解体され、多くの金持ちが粛清された。

 株式市場は廃止され、

 会社は全て国営化した)のゲーム会社の「戦士王」や残虐表現を売りにしている刀を使った「侍精神」などもある。

 また映画「星戦争」の世界をコピーした帝国軍か反乱軍レジスタンスに所属して銃を撃ったり、戦闘機を操縦したりできる中国産のeスポーツもある。

 異星人もプレイできれば、課金でフォースも使える。

 これに関しては著作権を有する知的財産の使用保護期間を巡ってアメリカは法的措置を実施し、国際司法裁判所で争っている。

 1000人のアバターが剣と魔法の世界を戦うファンタジーもあれば、100人の人間が無人島で、散らばった道具を発見したり、相手からう奪ったりしながら最後の一人までサバイバルする近未来SFがある

 怪獣狩人などはモンスターのタイムアタックの大会もある。

 ウェアラブルコンピュータでは5秒程待てば対戦をマッチングしてくれる2D格ゲーが多数ある。

 第二次世界対戦中の兵器をカスタマイズして戦場で戦い合う「戦車の世界」や「戦艦の世界」など7VS7や5VS5といったチームバトルがある。

「戦車達と少女達」や「ARPEGGIO OF BLUE STEEL」などのアニメともコラボしている。

 スキマ時間ならともかく時間がとれた日曜日はフルダイブのゲームを思いきりやりたい。

 インディーズ系のサードパーティー(ウェアラブルコンピュータの無料化開発エンジンUAE×みたいにタダで提供されればフルダイブのゲームは今の10倍を超えるだろう)の「重力支配(グラビティコントロール)」がヴァージョンアップされて対戦ができるようになった。

 早速ネット上でゲームマネーの賞金が出る大会が開かれる。

 とりあえずエントリーしてみた。

 予選開始が10時からだからそれまでカンを取り戻すため練習を始めた。

 ヒットポイントは固定だが、重力(グラビティ)を自在に使いこなすため、4つの能力値がある。

 空中浮遊したり、空に落下したり、物を浮かべて投げつけたりするのに重力(グラビティ)エナジーというゲージを消費する。

 ゲージが無くなれば自由落下してダメージを受け、下手すれば一発死である。

 ひとつはヒットポイントの下に表示される重力(グラビティ)エナジーのゲージの総量を引き上げる。

 単純な空中浮遊だけではそんなには使わない。

 自由な方向に落下すればそれなりにゲージを使う。

 必殺技を使えば使用量はハンパではない。

 ひとつは重力(グラビティ)エナジーの回復速度、地面に降りて何も使っていない状態にすれば、能力値のレベルに応じた速度で回復していく。

 ひとつは重力(グラビティ)のパワーである。床に置いてある。

 机やイスやゴミ箱の重力を奪い、自分の周りに巻き上げ、飛び道具や防御用の盾として使える。

 巻き上げる重さや数に関係してくる。

 ひとつは落下速度、レベルが高いほど落ちる速度が速い。

 メイン攻撃手段である重力(グラビティ)キックは移動距離に応じてダメージが決まる。

 追尾性能がないから、敵の移動先を予測し、ある程度の速さがないとスカッてしまう。

 必殺技は三種類ある。

 重力(グラビティ)キックの逆で、手を伸ばしてきりもみ状態で回転しながら突撃し、相手を引きずりながら多段ヒットするドリルアタック。

 重力(グラビティ)ボールを発生させ(最大8個、1個をゲージの許す限り大きくすることもできる)、視覚の中にあればどこまでも相手を追尾する。

 相手の死角に回りこめない遠距離戦用である。

 至近距離の超重力(スーパーグラビティ)で相手を地面や壁に数秒間押さえつける技。

 空中で使えば弾き飛ばすことができる(飛び道具も弾き飛ばせる)。

 重力エナジーが空になって落下した場合はペナルティとして、ゲージが完全回復するまで能力を使うことができない。

 敵にとっては攻撃チャンスである。

 通常攻撃は自前の物は持ち込めない。

 投げとかできるのだが、ヒットポイントとかに影響を与えない。

 前蹴り、前蹴り、回し蹴りのコンボだけが重力(グラビティ)エナジーを使わずにダメージを与える。

 回し蹴りが終わると、ごていねいに1秒ほどスキがある。

 不満がないわけではないが、そういうゲームだと割り切るしかない。

ゲームキャラクターは一応能力値を全部上限の10レベルまで育てたのだが、大会では全ての能力値が1レベルにもどされる。

 10ポイントを最大5レベルまでで振り分ける形式になった。

 ゲームではストーリーの案内人として黒猫、カラス、黒のメイン3Dモンスターから選択できるのだが、対戦ではついてこない。

 重力(グラビティ)スライドと言って地面の上を高速で移動する技がある。

 壁方向に重力をかけて走ったり、ジャンプしたりできる。

 これは地面の上は這いずりまわり、相手の死角に潜り込み、重力(グラビティ)ゲージが少なくなっていると計算したら、高速で近づいて必殺技を叩き込むゲームだな。

 戦略がまとまったら(戦略は細部(ディテール)にあらわれる)予選開始10分前になっていた。

 予選は10戦して勝率を競う。

 僕は全ての試合で勝ってトーナメントのベスト16に入る。

 予選ではみんな空中移動して僕のように地面を走り、能力を少しずつ使って街の中を走り回る人間はいなかった。

 昼の休憩をはさんで本戦がはじまる。

 僕はなんなく4つ勝って優勝して賞金の100万ゲームマネーをゲットした。

 ゲームは駆け引きがあると楽しいのだがこうなるとただの日常業務ルーチンワーク。

 ピヨッピーと魔王の伝説に花をそえた。

 新たなる1ページを加えた。

 3時には終わった。

 日曜日の魔王は帰宅が何時になるかわからない。

 コエプコンが龍先生の監修のもと百人組み手が配信されている。

 1試合毎にルールが変わる。

 関節技や顔面正拳が強いリアル志向である、プレイヤーは少ないが勝率が9割超えるとゴールデンチケットがもらえる。

 龍先生の趣味で作ったとしか言えない。

 1試合50秒で休憩インターバルが10秒。

 だいたい2時間程で終わるから早速挑戦した。

 毎回9割は勝てた。

 今日も例外ではない。

 ゴールデンチケットを獲得した。

 5時になってチャットルームに移動したが、魔王はまだ来ていなかった。

 ブロックメイキングRPG「アルカナ・ビルダー」に先に行くことにした。

 チャットルームにいなければ無料電話スカイプにかかってくる。

 ターン制の多い二エクスの幻想シリーズに対してアクション要素の強いものになっている。オープンワールドゲームのうち「サンドボックス」と呼ばれる形式に近い。

 フィールド内に存在する山や木などのブロックにHPのような耐久値を0にすると壊れて10センチ角になる。

 手をかざして道具入れに収納する。

 木槌や斧で壊すことで素材を集める。

 岩とか鉱物とかは金槌や鉄の斧。

 更に作業台や神鉄溶鉱炉などでレベルが高い鋼シリーズができる。

 1メートル角のブロックを置いて毒沼やマグマ、空の上を渡れる。

 プレイヤーキャラクターはジャンプすることができ、従来の幻想シリーズでは移動できなかった「高山」も登ることができる。

 集めた素材からは「やくそう」などの消費アイテム、武器や防具といった装備品、木の箱や扉・ベッド・看板などの建築用材料や家具、トラップなど様々なアイテムを制作できる。

 アイテムの制作方法が記されたレシピはアガペ(神の愛ポイント)を支払い、町の人や特定の素材を入手で習得できる。

 装備品は武器、防具、盾、アクセサリーの4種類がある。

 武器は最大5つ、アクセサリーは2つまで装備できる。

 剣は横に振り、広範囲の敵を攻撃でき、金鎚と斧は縦に振り、物を壊しやすい。

 だいたい1メートル角だから縦振りでジャンプすれば3メートルの上の段まで壊せる。

 アクセサリー以外には耐久力が設定されており、攻撃を加えたり受けたりしていくうちにダメージ量ではなく回数で壊れる。

 ブロックや椅子、ベッドなどの建材や家具を組み合わせて建物を作って行くと町の人達が住み始め、街が復興していく。

 建物として成立する条件は1メートルブロックによる2段以上の囲みに明かりと扉を設置することで、そこから内装を飾り付けることでアガペポイントが貯まる。

 このゲームには設計図レシピが存在し、図面通りレシピにブロックやアイテムを置くことによって誰でも目的の建物を作れるようになっている。

 他にもモンスターの侵攻により壊され廃墟となったお城もあり、これを修復したり、自分なりに改造したりもできる。

 町の人達は町の発展やフィールド上から救出することで増えていき、素材の入手先や他の住民の情報を教えてくれる。

 集めたアイテムを収納箱に収めてくれる。

 町に攻め込んだモンスターと戦ってくれる。

 様々な面でプレイヤーキャラクターをサポートしてくれる。

 町の人はキャラクターに様々な頼みごとをすることがある。

 これらをクリアして、素材アイテムやプレイヤーキャラクターや神の召喚軍団(ファントム・レギオン)を育てるアガペポイントなどが貰える。

 与えられた島は空中に浮遊している。

 フィールド内には悪魔の手下のモンスターが徘徊しており(浮かんでいる別の島には門ゲートでしか移動できない)。

 天界から地獄へと下の島に行くほど悪魔が強くなる(同じ悪魔でもレベルがあがる)が、希少アイテムも手に入れやすくなる。

 遭遇するとアクションバトルになる。

 主人公は自作した武器や防具、トラップを利用してモンスターと戦う。

 ブロックを設置して、敵の火の玉を飛ばす呪文を防いだりもできる。

 またスライムを倒すと「青い油」が手に入る。

 モンスターを倒すことでも素材が入手できる。

 モンスターの攻撃、あるいは高所からの落下ではダメージを受け、HPが減る。

 HPが0になると死亡となり、アイテムの一部を失って町に建てた希望の旗で復活する。

 失ったアイテムは死亡した場所に行けば再入手できる。

 また満腹指数があり、腹が減っていない状態ならHPは時間の経過で少しずつ回復していく。

 逆に満腹指数が0の時はHPがじょじょに減っていく。

 ある程度街を発展させると、悪魔が門ゲートを開いて攻めてくる。

 プレイヤーキャラクターは町の人を誘い最大4人でパーティを組み倒しに行ける。

 町に襲って来た時は町の人たち総出でボコボコにする。

 この場合ではモンスターはアイテムをドロップしてくれる。

 しかし、アルカナカードで召喚した軍団(ファントム・レギオン)で倒した場合のアイテムをドロップしない。

 建物や土ブロックを破壊した時も素材アイテムにならない。

 プレイヤー同士がファントム・レギオンで戦った場合は誰も得しない。

 ファントム・レギオンは召喚されると5分間とどまって戦う。

 5分間たつか、プレイヤーが天界に戻すと10分間同じユニットを召喚できない。

 アルカナに対応して22種類あるが、アルカナカードのレベルより相性が影響される。

 戦車とヘリコプターの相性は1対60というが、そこまでひどくはない。

 得意と苦手が戦えば1対10ぐらいの差ができる。

 移動力、攻撃力、防御力、スキルなどがありアガペポイントをつぎこんで育てる。

 1〜10レベルはレベルの2倍つぎこめば次のレベルにあがる。

 10〜15は3倍。

 15〜20は4倍。

 21は5倍。

 レベルの上限は21レベルである。

 つぎ込める能力は以下の通りである。

 ・精神力は30秒に1回だった強力な全体攻撃がレベル毎に1秒ずつ減っていく。

 最大の21レベルになれば9秒に一回できる。

 全体攻撃中でないとスキルを使うことがない。

 このゲームは陣形が2列縦隊・3列縦隊・正方形・3列横隊・2列横隊の5種類しかない。

 敵が攻撃内に入れば、全体攻撃か散開攻撃か選択できる。

 散開しだしたら「集合」の合図がかかるまで、自分の距離をとりながらバラバラに行動する。

 全体に攻撃回数があがり、隊列を組んでないから狭いところでも自由に移動できる。

 横隊は攻撃参加者の数は増えるが城門など移動できないところが多い。

 縦隊ならば攻撃参加者は少ないが狭いところでもプレイヤーキャラクターの後をついてくる。

 飛び道具ならバルチック艦隊を破った東郷提督のT字作戦が使える。

 ランスなら円を作って連続突撃ができる。

 ちょっとした車かかりの陣形。

 草原より狭い道路の方が移動スピードはあがる。

 プレイヤーキャラクターの隊列上の位置は、先頭、中間、最後尾と選択できる。

 ・収納は0レベルの時は矢弾の数は1つだがアガペポイントをつぎこんで最大21レベルになれば22個(本)に増える。

 最高レベルはそれなりに精神力を育てないと、全部打ち込むこと無く天界に帰る。

 ・耐久力は殴られてもよろめかなくなる。

 状態異常や魔法の効果から回復しやすくなる。

 落馬しにくくなる。

 毒のダメージを減らす。

 ・統率力は最初0レベルの時は一人。

 レベル毎に一人増えていき、最大22人になる。

 ・研究は装備品が良くなり効果範囲とスキルの持続時間が増える。

 火薬兵器や魔法ならダメージが増える。

 毒や火焔などの状態異常の効果があがる。

 ・防御力は斬り/殴り/突き/射撃/砲撃/魔術などの種類がある。

 そのユニットが得意と苦手がすぐにわかる。

 レベルがあがると全体があがるが、防御得意な防御値は更に追加してあがる。

 ・攻撃力はユニットによって攻撃に特性がある。

 レベルがあがればダメージが増える。

 ・移動力 ユニットの移動速度が増加する。

 ・レベルは上の8個の能力の内最高値が適用されている。

 レベルに応じてHPは増える。

 レベルの数値は頭上に輝いていて相手からも分かる。

 プレイヤーVSプレイヤーではユニットの人数とレベルと相性をみて、駆け引きする。

 アルカナカードは22種類あり、正位置と逆位値がある。

 シングルシナリオでイベントをこなしてもらえる。

 *0愚者(フール) 

 ゲームのチュートリアルが終わったら神からもらえる。

 正位置の楽士(トゥルバトゥール)は太鼓を叩きながらバトルソングを歌う周囲の味方ユニットの能力が上昇する。

 基本ユニットの人数分しか効果がない。

 スキルを使うとバイオリンに持ち替えスリープをおこる。

 ターゲットユニットが30秒寝る。

 研究で効果がのびる。

 逆位値で使うと竪琴を持った幻覚使い(イリュージョニスト)は他のユニットに外見だけ化ける(攻撃力はない)。

 スキルを使うとトランペットに持ち替え葬送曲(レクエイム)を奏でるとアンデットがスリープ状態になる。

 スキルは効果時間が書いて無い場合5〜26秒しか持たない。

 研究すれば次に使う間隔が短くなる。

 だいたい16世紀の西洋が題材モチーフになっている。

 この頃は鉄砲が現れ始めて、洋の東西を問わず少年兵ルーキーに笛や太鼓を演奏させながら突進させ、一斉射撃が終わったら再装填までに精鋭ベテランが突っ込んでいく戦術が採用された。

 *1魔術師(マジシャン)

 カードは初めて物を作った時もらえる。

 正位置では魔導士(キャスター)は魔法の指輪で殴る。

 ダメージはそんなにないが属性は魔法である。

 スキルは氷魔法(フロストゲイザー)で氷の柱が地中から上昇して足止めする。

 騎兵の機動さえ止める。

 逆位値では森人(ドルイド)は木の杖を装備している。

 殴ればマジックアイテム扱い。

 スキルは電撃ライトニングを落としてダメージを与える共に能力値がダウンする。

 *2女教皇(ハイプリーステス)

 レシピ病院を作った時もらえる。

 正位置の巫女(シャーマン)は周囲の味方のHpを回復する。

 スキルはアンデットに効果がある聖属性(ホーリー)の効果を与える。

 食らったアンデットは麻痺する。

 ファントム・レギオンは誰かに指揮されないと、召喚時の隊列のまま動かずに射程内に入った敵を攻撃したり、味方をサポートしたりする。

 指揮される部下になって初めて機動するしスキルも使える。

 複数のユニットを召喚して指揮するユニットを変更するのはアリであるが、召喚から5分たてば1度も指揮されなくても天界に帰る。

 男が指揮しても性別が変わることはない。

 逆位値の天使(エンジェル)は近くのユニットの蘇生を行う(HPは10分の1)。

 いちおう飛行ユニット。

 スキルは周囲の状態異常を回復する。

 *3女帝(エンプレス)

 レシピ厨房を作った時もらえる。

 正位置はクロスボウで頭上から降らせる曲打ちを行う。

 スキルはクロスボウが合体して1つのクレィンクィンという人間より大型な(大きさは統率力に左右される)クロスボウで人間くらい身長がある矢が真っ直ぐ飛んでいく。

 石垣以上の強度の壁にぶつからないと限界射程まで引きずる。

 角度は調整できるが移動はできない。

 逆位値では車輪のついた投石機で石のつぶてを4×4の範囲に雨のように降らせる。

 射程は大したことはないが攻撃属性が殴りになる。

 スキルを使うと合体して100メートル程飛ぶ遠距離用になる。

 逆に短い所には当てることができない。

 ファントム・レギオンにより破壊された素材は消えてなくなり回収できない。

 方角の調整はできるが移動はできない。

 プレイヤーvsプレイヤーではこいつを見たら籠城を止めて、うってでてくる。

 4×4の石を町の中に放り込まれたら、そして建物が壊れる。

 壁を石垣以上にしていると一発では壊れない。

 粘土や木材だと一発で壊れる。

 今までの苦労が水の泡である。

 希少素材のある地獄に近い島ではバッティングすることがたまにある。

 *4皇帝(エンペラー )

 レシピ工房を作った時もらえる。

 正位置は軍の背骨(イエリチェリ)、マスケット銃によるの攻撃、属性は砲撃。

 スキルは手榴弾。

 火をつけて放り投げる。

 開口部に放り投げるのがよく使う。

 逆位値は大砲であり統率力にアガペをつぎ込むことによって1つの大きさがだんだん大きくなる。

 0レベルで直径2メートルだが21レベルになると直径4メートルを超る。

 横に車輪がついていて統率力の人数で移動させ再装填する。

 スキルはブドウ弾で角度は45度の放射線上に広がる。

 *5教皇(ハイエロフォント)

 レシピ教会を作った時もらえる。

 正位置の聖戦士(パラディン)は盾と共に装備するメイスか両手用のモールか選択できる。

 スキルは絶対魔法防御(アンチマジックシェル)

 逆位値では十字軍(クルセイダー)は盾と共に装備するモーニングスター(鎖の分リーチがある)両手用の3チェーンフレイルか選択できる。

 スキルは聖光(ターンアンデット)で周囲のアンデットにダメージを与える。

 *6恋人(ラヴァーズ)

 最初に町の仲間になるプリンちゃんの依頼をこなし、報告したらお礼にもらえる。

 正位置では自分の副官としてファントム・レギオンを指揮できる女体化した3Dモンスターが現れる。

 女体化率は50%〜100%まで可能で、100%になると瞳が猫目で小さな角があるぐらい。

 ほとんど人間と変わらない。

 優秀なAI。

 口頭で命令を伝達すれば可能なかぎり答えてくれている。

 能力値をキチンと育てないとユニットの能力は副官の能力以上はだせない。

 3Dモンスターの容姿に使うだけで別の3Dモンスターに変えても成長させたアルカナカードの能力は変わらない。

 個人の事情により好きな3Dモンスターの仲良し値を上げるためゲームに連れてくる。

 スキルは加速(スピードアップ)で移動速度と攻撃回数が増える。

 逆位値は5分しか持たないが普通のNPCと同じようにパーティが組める。

 この場合、装備はこちらで用意しなくてはならない。

 このゲームの能力は装備で全て決まる。

 この状態にかぎり素材を壊してアイテム化できる。

 *7戦車(チャリオット)

 馬を仲間にして鞍をのせて走った時もらえる。

 正位置は赤枝の騎士団(ナイツ オブ レッド ブランチ)は重装騎兵で盾を装備している。

 馬上槍(ランス)で槍は剣に強く、剣は斧に強く、斧は槍に強いの3すくみが採用されている。

 序盤はショートソードで武装したゴブリンとゴブリンシャーマンが主流だから、このカードを育てて何も考えずに突っ込めばたいてい何とかなる。

 スキルは突撃チャージで敵は混乱する。

 2列縦隊強敵をかすりながら連続突撃するのがゲーム最大ダメージを与える戦法である。

 味方の後部につき回転すれば車がかりの陣形である。

 逆位値はラクダ兵で全ての騎兵に対してボーナスがある。

 馬よりラクダは身体が大きいから馬がビビったという、十字軍時代の故事にならった物。

 武装は三日月剣(シミター)で突き攻撃と切り攻撃の2つの属性がある。

 スキルは1枚の魔法の空飛ぶ絨毯(マジックカーペット)に変化。

 5分しか持たない。

 *8正義(ジャスティス)

 初めて悪魔を倒した時もらえる。

 正位置は大楯歩兵、身長より大きい盾を使う。

 陣形の正方形になればあらゆる方向からの攻撃をカバーする。

 2列横隊で1方向に対する強力な壁もありである。

 正方形陣形の時は真ん中の兵は頭上に大楯を掲げる。

 攻撃は盾による殴り(シールドバッシュ)の防御特化型であまりダメージは与えない。

 スキルは防御点を上げるプロテクション。

 こうなると唯一の弱点魔法以外有効打がない。

 逆位値は両手剣歩兵(ツヴァイヘンダー)、槍を叩き折る巨大な剣。

 かつてドイツ傭兵ランツクネヒトとスイスの傭兵パイク兵はライバル関係にあり、スイスの大男が持ったパイクによる槍衾(やりぶすま)の長柄を叩き折るのを戦術とした。

 日本刀のように正眼に構えることなく重いから常に振り回し続ける。

 ゲーム上では苦手な相性もないし、移動力は歩兵では最速。

 防御力が全体的に低く飛び道具がくると困る。

 16世紀染めやすいインドの綿が流行して派手な衣装を着ていた。

 日本のかぶき者に近い。

 スキルは敵の1人を浮かべあげ隊列を破壊する小さな嵐(サイクロン)

 *9隠者(ハーミット)

 レシピ調合室を作った時もらえる。

 正位置は学者(スカラー) 両手で分厚い本を握り殴る。

 スキルは近くの味方の武器に火属性をつける。

 逆位値は人工人間(ホムンクルス)で、突いたら燃える火焔槍を装備している子供の姿。

 スキルは懐にある火薬に火をつけて突進する。

 特別攻撃で一回使用したら自分も死んでしまう。

 破壊力は『収納レベルー火焔槍を使った回数』

 *10運命の輪(ウィール オブ フォーチュン)

 悪魔の軍団をファントム・レギオンで倒した時もらえる。

 正位置の偵察騎兵は平地の移動力が一番早い。

 スキルは剣装備しているが魔法属性になるソニックウェーブ。

 逆位値はモンゴル騎兵(マングダイ)で弓を装備して走りながら後方を攻撃できる。

 スキルは1点集中攻撃(エイミング)

 *11(ストレングス)

 初めて武器装備を作った時もらえる。

 象兵で騎兵に所属する。

 三人位乗っていて両側を戟げきで攻撃する。

 スキルはワイルドスタンプという立ち上がってからの踏みつけ攻撃。

 指揮する時は操縦者で後ろの左右2人に攻撃を指示する。

 逆位値は巨人(ジャイアント)である。

 統率力を成長させることで1人の大きさが大きくなる。

 0レベルの3メートルから始まって21レベルになれば5メートルを超える。

 棍棒こんぼうで武装している。

 スキルの地震(アースクウェイク)は一度飛び上がり地面を殴りつける。

 周囲の敵は転倒する。

 指揮する時は左肩に乗っている。

 *12吊るされた男(ハングマン)

 初めて死んだ時もらえる。

 正位置はバイキングで盾と斧で武装しているが、序盤は敵は剣装備が多く、相性の関係で出番がない。

 スキルはバイキング船に変化する。

 大きさは統率力に関係するがスピードは移動力。

 オールでこいでくれる。

 溶岩や毒沼もダメージなしで渡れる。

 5分で消える。

 緊急用であり、船は自分で作り、自分でこいだ方がいい。

 逆位値は狂戦士(ベルセルク)で両手斧を装備していて切り属性と叩き属性がある。

 スキルは風車のように振り回すアーマーブレイク、敵の防御値が10分の1まで下がる。

 *13死神(デス)

 レシピ墓地を作った時もらえる。

 正位置は戦闘工兵でハシゴや馬防柵の組立、穴掘り、トラップを設置。

 投斧(フランシスカ)で装備している、飛び道具になるが属性は近距離殴りと斬り攻撃。

 スキルは敵のトラップを無効にする。

 逆位値は暗殺者(アサシン)で毒の帯びたダガーで攻撃。

 踏み込めれば手数で相手を圧倒する。

 研究を高めれば毒の攻撃が下手な武器より強くなる。

 スキルは毒の治療。

 *14節制(テンプレス)

 レシピ農場を作った時もらえる。

 正位置は一角獣(ユニコーン)で武装は角と魔法錫杖(マジックロッド)による攻撃。

 属性は突きと打撃。

 スキルは状態異常の無効化。

 ファンタジー界のスケベ角馬と呼ばれ処女しか背中に乗せない。

 男が指揮する時は角付き覆面をつけた馬になる。

 逆位値は天馬(ペガサス)で投げ槍を装備している。

 飛び道具だが属性は近距離突き攻撃

 魔法の抵抗力は高い。

 スキルは魔法反射(マジックリフレクト)で魔法の攻撃を本人に反射する。

 *15悪魔(デビル)

 レシピトラップウォールを作った時もらえる。

 正位置は狼男(ウルフガイ)で4本足にて移動し、森林や山岳地帯も踏破できる。

 遠ぼえで音楽をかき消す。

 スキルは2本足で立ちマヒの能力を持つ爪で攻撃する。

 逆位値は吸血鬼(ヴァンパイヤ)アンデット(スリープなどの精神魔法が効かない)に属している。

 魔法か魔法の武器か聖別された物でしかダメージを受けない。

 つかんでカミカミカミしてHPを回復しながら戦う。

 スキルは魅了(チャーム)で相手ユニットのコントロールを奪う。

 統率力以下で指揮者もいない場合は移動もさせられる。

 *16(タワー)

 城壁と城門で町を囲った時もらえる。

 正位置は密集隊形歩兵(ファランクス)

 槍で武装して三段突きをする。

 スキルはビーストバスターで槍を投げて動物や騎兵に突き刺さり、移動力を半減する。

 逆位値はスイスの大男によるパイク兵で、16世紀は銃剣が採用されるまでマスケット銃をパイク兵で守り、入れ替えながら戦線を維持するのが主流だった。

 スキルは槍衾(やりぶすま)で相手ユニットの突撃ダメージや攻撃を反射する。

 *17(スター)

 初めて鉱物を手に入れた時もらえる。

 正位置は女NPCでユニットを指揮できる。

 好きな名前をつけ、エディットで好みに作り、口調や声優を選択できる。

 スキルはマイティアームで攻撃力と近接武器なら攻撃範囲、飛道具なら飛距離がアップする。

 逆位値では3Dモンスター同様NPCキャラクターとしてパーティに加えることができる。

 5分しか持たないが。

 *18(ムーン)

 レシピ温泉を作った時もらえる。

 正位置は10センチメートルぐらいの小妖精(ピクシー)でダメージは与えないが、チクチク攻撃してスキルを使わせない。

 統率力1につき10人増える。

 スキルは霧を発生させてあらゆる種類の感覚を奪える。

 逆位値は精霊(スピリット)で植物を意識した緑の服を着た耳の長い人。

 武装は円盤をくりぬいたチャクラムで斬り系の飛び道具。

 スキルは透明化である。

 統率力以下なら他のユニットも消せる。

 *19太陽(サン)

 レシピ鉄と金床を作った時もらえる。

 正位置はロングボウで飛行系のユニットに追加ダメージがある。

 射程は遠距離用投石機の次に長い。

 スキルは連射で矢を3本同時につがえて放つ、収納は1本分しか減らない。

 逆位置のスリングは殴り系の飛道具。

 スキルはアーマー無効。

 *20審判(ジャッジメント)

 初めてアンデットを倒した時もらえる。

 男NPCでユニットを指揮できる。

 ユニットは誰かの指揮にないと召喚した隊列のまま動かない。

 門に防御用の巨人を置いておくだけなら指揮者はいらない。

 視界に入れば勝手に攻撃したり防御したりする。

 ユニットを動かしてスキルを使う時は必要である。

 ファントム・レギオン同様5分召喚すると帰っていき10分間召喚できない。

 3Dモンスター、女NPC、男NPCを同時に呼んで、4つのファントム・レギオンを機動して連係しながら戦うこともできる。

 5分たつと3人同時に召喚できなくなる。

 5分ずつずらしながら2人で戦うというのもありだ。

 悩ましいところである。

 スキルはガーディアンオーラで防御力と耐久力があがる。

 逆位値ではパーティに加える男NPCになる。

 *21世界(ワールド)

 門ゲートを作り異なる島へ到達した時もらえる。

 正位置はグリフィン飛行系の最速ユニットであると同時に飛行系ユニットに航空優位がある。

 飛行系ユニットからダメージを受けない。

 スキルはかぎ爪の前足で相手をつかんでカミカミカミ。

 逆位値はドラゴンで飛行系ユニットに属している。

 巨人同様に一体で統率力を成長させると身体が大きくなる。

 地上ユニットに対して追加ダメージを持っている。

 日頃はテールウィップで薙ぎはらうように攻撃するが、あまり近づくとカミカミカミ。

 スキルは炎をまとった龍の息(ドラゴンブレス)であり、空から降ってきたらたまったものではない。

 指揮する時は背中に乗っている。

 

 僕はサクラハラの嫁さんのヒトミさんが主宰するコミュニティに向かった。

 最近は税金対策でセックスレスの二人で生活する。

 偽装結婚や仮面夫婦がばっこする中(恋愛結婚してもダブル インカム ノーキッズを貫き、家族というより共同生活を送るカップルも多い)。

 30才以上年齢差のある結婚である。

 少子化対策の為フランスのように事実婚を日本政府は認めた。

 日本も江戸時代は金持ちの愛人になって老後の面倒を見て、死んでから幾らかのお金をもらい、若いツバメを捕まえて一緒になるということはあった。

 フランスでは「3回目の結婚が本当の結婚」という言葉がある。

 アルカナビルダーズでは豪華な建物を造る。

 インターネット上で配信する。

 発売元の二エクスは誰かが1分間見学すると建築主に10アガペポイント見学者に1アガペポイントを提供する。

 かつては三食昼寝付きと軽べつされていた「主婦」だが、今では最もクリエイティブな仕事と女の子達の成りたい職業ダントツのNo.1である。

 超勝ち組のサクラハラの嫁さんだけあってヒマなのか毎週大掛かりな建物が建っている。

 彼女を中心にコミュニティが造られている。

 知り合いの知り合いまでが参加条件である。

 魔王の知り合いの僕までが限界だ。

 彼女が僕を知り合いにカウントしてくれれば勇者とか呼べれるかも。

 アバターもマイナンバーに登録している公共用のやつを使わなくてはならない。

 それがコミュニティのルールである。

 夕夜・H24・コエプコンと正直に提出した。

「名前にH24なんて入っているなんてかわいそう」ヒトミさんはヒシと抱き締めてきて「お母さんて呼んでいいんだよ」と言ってくる。

 あまり人にお勧めする人生ではないが、侮られるような生き方はしてこなかった。

「コエプコンの坊や」が僕のあだ名だ。

 このコミュニティの中でコエプコンは僕一人だし、リアルを完全に捨てた濃いメンバーが所属する四天王のコミュニティの中では浮き上がる位、圧倒的に新参者で若輩者だ。

 浮島をめぐる他集団との戦争が勃発するとメンバーを集めて乗り込んでいく、たくさんのプレイヤーを誘い多くの相性をそろえるのが常道セオリーである。

 最近では「こら、コエ坊、××を率いて突撃しろ」と叫ばれている。

 プロゲーマーの嫁さんだけあって、負けたら本気で悔しがる。

「リアルではどんな人?」

 魔王に聞くと「まるでサヨクのようにオーガニックや非遺伝子組換え作物や地球環境や動植物生態系にこだわる。

 まあ優しい人と言えば優しい人なんだけど」

 オーガニックなど〈有機の〉という意味で,通常は農薬や化学肥料を使わず有機肥料によって生産された農産物。

 アメリカ西海岸かオーストラリアでないと悪化する世界環境の中で生育できない。

 アメリカでは「消費は投票」という。

 高価なオーガニックが産業として成立しているのには一定の支持者がいるのは確かだ。

「スローフード、スローライフ」とよばれる「ロボット化反対、過当競争反対」の生き方スタイルをかかげる一派は存在する。

 ヒトミさんは優しい人ではあるんだろうけど金持ちの道楽である。

 投票券すら持たないビンボー人にはマネできない。

 コミュニティに行くと帆船を模した建物がそびえ建っている。

 そこで彼女は能力が少し上昇する手料理を用意してくれる。

 ゲーム内農場で生産して他人におごると二エクスからアガペポイントがもらえる。

 僕たちは彼女の左手の甲に感謝のキスをする。

 チャットルームでゲームマネーを受け取ることは絶対しない。

 目に見えない価値を大事にする。

 知識資本、人間関係資本、信頼資本、評判資本、文化資本などの個人の思想や信条や心が強く含まれる、

 普遍的な価値観の共有がコミュニティの最大幸福であり、商売抜きに成長して欲しいと願うこと。

 アガペポイントは日本銀行券(お金)とは異質なものであり、政府への信頼(お金)から企業の電子マネーは個人への信頼へと変化したものらしい。

 知っている人間は貸した金を期間ずに、すぐには返さなくていい。

 返せる時まで待つという感覚。

 ゲームはプレイする個人に「いい物語を持った人生」提供する新しい宗教(幸福)なのだと、ヒトミさんは言う。

 芸術も作品から体験(ライブ)を売るように変わってきている。

 イギリス経済の金融化を進めた鉄の女マーガレット・サッチャーが言った。

「社会など存在しない」

 でもヒトミは言う。

「社会しか存在しない」

 参加する人が出来るだけ努力する「ベストエフォート」

 ヒトミさんは全ユニットを限界まで育てている(あらゆる意味でカンストしている)。

 ゲーム運営から毎日配信されるDLCダウンロードコンテンツを高いアガペポイントを払ってクリアし、報酬であるレシピを入手する。

 その高価なレシピ(設計図どおり制作すれば、たくさんのアガペポイントがもらえる)をアガペポイント1で僕たちに売ってくれる。

 普通社長は部下の稼いだあがりをはねるビジネスだが、彼女は「みんなで強くなろう」「みんなで笑顔になろう」「みんなで美しい物語を書こう」を合言葉にアガペポイントを手出ししてくれる。

 確かにみんな強くなった方が戦争で有利だが

 争の勝利も敗北も人生に彩りを添えてくれる。

 大型木造帆船の中ヒトミさんを探した。

 甲板でディナーパーティーの段取りをしていた。

「ヒトミさん。四天王は?」

「ダンナ達、ゲーム会社や運営の人と飲みニケーションがあるみたい。

 今日の参加は無理みたい」

 大人って大変なんだなぁ。

「相変わらず今回の建物も凄い」

「3日かかったわ。楽しんでいってネェ」

 さっそく食事にかかる。

 味はついているからそれなりに美味しい。

 そんな中ヒトミさんに救援要請がきた。

 悪魔ではなくプレイヤー同士のバッティングらしい。

 四天王が入れば「鈴木、佐藤(森林リンゴの本名は佐藤アップルである。本名の方がキラキラネーム)、田中。行くわよ」

「あら、ほら、さっさー」である。

 彼女は食べ終えた僕を見た。

 見学者は複数人いたが、戦力になる知り合いは僕しかいない。

 この女の考えていることは分かっている。

「コエ坊。行くわよ」

「あら、ほら、さっさー」お約束である。

 僕達はゲートをくぐり、救難者と合流。

 敵プレイヤーを発見、ヒトミさんの指示の下、僕が赤枝の騎士団で突撃をして見ることになり、ファントム・レギオンを召喚した。

「僕に続けー。突撃ー」

 召喚した赤枝の騎士団に号令をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは優しい嘘だけれども、どうかすべてのゲーム中毒《ジャンキー》に栄光と祝福あれ。

------------------------- 第9話開始 ----------------------

【タイトル】

参考文献

 

【本文】

勝負論 ウメハラの流儀 梅原大悟 小学館新書

図解ピケティ入門 高橋洋一 あさ出版

AIの衝撃 小林雅一 講談社現代新書

デフレの正体 藻谷浩介 角川oneテーマ21

地方消滅 増田寛也 中公新書

アンドロイドは人間になれるのか 石黒浩 文春新書

VWの失敗とエコカー戦争 香住駿 文春新書

里山資本主義 藻谷浩介 角川新書

里海資本論 井上恭介 角川新書

9条は戦争条項になった 小林よしのり 角川新書

教室内(スクール)カースト 鈴木翔 本田由紀 光文社新書

アップル、グーグルが神になる日 上原明宏 山路達也 光文社新書

結局、世界は「石油」で動いている 佐々木良昭 青春出版社

資本主義の終焉と歴史の危機 水野和夫 集英社新書

資本主義の終焉、その先の世界 水野和夫 榊原英資 詩想社新書

テクノロジーが雇用の75%を奪うのか マーティン・フォード 秋山勝訳 朝日新聞出版

ロボット革命 本田幸夫 祥伝社新書

デジタルは人間を奪うのか 小川和也 講談社現代新書

子供を億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい 松林弘治 MEDIA FACTORY

あと20年でなくなる50の仕事 水野操 青春出版社

量子コンピュータが本当にすごい 竹内薫 PHP新書

モノの仕組みふしぎ雑学 中村智彦 長岡書店

実用寸前のすごい技術 話題の達人倶楽部 青春出版社

ものづくりの反撃 中沢孝夫 藤本隆宏 新宅純二郎 ちくま新書

2025年の世界予測 中原圭介 ダイヤモンド社

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。 出雲充 ダイヤモンド社

日本の手術はなぜ世界一なのか 宇山一郎 PHP新書

戦争する国の道徳 小林よしのり 宮台真司 東浩典 幻冬舎新書

残酷な20年後の世界を見据えて働くということ 岩崎日出俊 SBCreative

天皇論 小林よしのり 小学館文庫

天才イーロン・マスク銀河一の戦略 桑原晃弥 経済界新書

遺伝子工学がわかる本 遺伝子工学研究倶楽部 Gakken

超情報革命が日本経済再生の切り札になる 野口悠紀雄 ダイヤモンド社

アルゴリズムが世界を支配する クリストファー・シュタイナー 永峯涼訳 角川EPUB選書

「仮想通貨」の衝撃 エドワード・カストロノヴァ 伊能早苗 山本章子訳 角川EPUB選書

人工知能は人間を超えるか 松尾豊 角川EPUB選書

仮想通貨革命 野口悠紀雄 ダイヤモンド社

ゲームシナリオのための戦闘・戦略事典 山北篤 SBCreative

人類を超えるAIは日本から生まれる 松田卓也 魔済堂新書

日本の未来図2030 自由民主党国家戦略本部 日経BP

2045年問題 コンピュータが人類を超える日 松田卓也 魔済堂新書

脳・戦争・ナショナリズム 中野剛志 中野信子 適菜収 文春新書

金融政策の死 野口悠紀雄 日本経済新聞出版社

物欲なき世界 菅付雅信 平凡社

スーパーヒューマン誕生! 稲見昌彦 NHK出版新書

2035年の世界 高城剛 PHP研究所

人工知能の都市伝説 松田卓也 宝島社

ロボットの脅威 マーティン・フォード 松本剛史訳 日本経済新聞出版社

IoTとは何か 坂村健 角川新書

SFを実現する 田中浩也 講談社現代新書

人工知能が変える仕事との未来 野村直之 日本経済新聞出版社

ゲノム編集とは何か 小林雅一 講談社現代新書

生殖医療の衝撃 石原理 講談社現代新書

世界大激変 長谷川慶太郎 東洋新聞新報社

世界を変える100の技術 日経BP社編

ブロックチェーン入門 森川夢佑斗 ベスト新書

言ってはいけない 残酷すぎる真実 橘玲 新潮新書

マッキンゼーが予測する未来 リチャード・ドッブス ジェームズ・マニーカ ジョナサン・ウーツェル 吉良直人訳 ダイヤモンド社

文系が20年後も生き残るために今すべきこと 岩崎日出俊 イースト・プレス

ビジネスブロックチェーン ウィリアム・ムーゲイヤー 黒木章人訳 日経BP社

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