化物たちの饗宴 (疾風怒号)
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プロローグ:選択
速さこそ至上とされるレースの世界で、真に『速さにしか興味が無い』人物は如何なる存在だろうか。
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『ウマ娘』。彼女たちは走るために産まれてきた。
時に数奇で、時に輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に産まれ、その魂を受け継いで走る。
それが、彼女たちの運命。
例えば『
燦然と輝く戦績、ファンの心に刻まれた名勝負。そしてその影に埋もれた、余りにも多くの敗者たち。
ここに語られる『これ』も、そういった類の物語である。
敗者を歴史の影に追いやり、怨嗟の声を鼻で笑い、自らの栄光の為に踏み潰し、その上に立って勝負に酔う。そんな物語。
これは、『勝者』の物語だ。
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だが彼女は速すぎた。他愛もない駆けっこから運動会の徒競走まで、常に先頭に立ち決して誰も寄せ付けないその走りを、いつしか人は恐れた。
その恐れを背に今日も彼女は走る。いつか自らよりも速いウマ娘が現れると信じて。
ごく普通の家庭に産まれた黒毛のウマ娘、その名を
順位などどうでもいい、ただ、最後方から先行者を追い抜かし、風を切って加速するその瞬間だけが欲しい。競走バとして余りに歪んだその望みを持って、彼女はトレセン学園の門を叩いた。故に彼女は『魔王』、レースではなく、その中の僅かな瞬間に快楽を見出す破綻者となる。
地方の希望、二つ星の片割れ。それはシラカバハドウというウマ娘が背負った異名であり十字架。恵まれた体格を武器に躍動する彼女は、かつて無二の友人を失った。
走ることで傷を負った彼女には、もはや期待は重圧、応援は呪いでしかない。それでも、だからこそ、彼女には走ることしか残らなかった。そのために中央に来た、そのために唯一の友人の心を折った。「ここで私が止まったら、あの子が浮かばれないのだから」と。
『永遠の二番手』と呼ばれたウマ娘、その娘は「一番であること」の重要性を説かれ続けて育った。彼女の名はマイティロード、快活さの裏に只ならぬ執着を背負って立つ狂戦士。
人気は要らない、歓声も、声援も、友も何もかも。一着しか要らない、レースの最後、その瞬間先頭に立つことしか求めない。『永遠の二番手』の代理逆襲、それこそが自らの使命と妄信して走る。それがマイティロードというウマ娘の生き方である。
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ここは日本ウマ娘トレーニングセンター学園、化物たちが笑う場所。多くの挫折と絶望を薪として、輝く炎を産み出す場所。
この学園で笑うのは、一握りの煌めく星のみ。
不定期更新の予定ですが、状況によっては更新頻度を早めるかもしれません。
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