十刃廻戦 (鳴宮ウタ)
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1話

 続く(続けたい)


 「……なんだか下がうるせえなぁ」

 

 ベットに横たわってた体を起こしカーテンを開ける。日は既に登ってしまっていた。重い瞼を開きながらドアを回し廊下に出た後、あくびをしながら階段の手すりへと手を伸ばす。

 

 「おリリネット、何騒いでんだ……」

 

 一階に降りた彼の目に入ったのはビール缶片手に机へ突っ伏している男と、それに向かって話しかける小柄で金髪の少女だった。

 

 「あ〜‼︎スタークやっと起きた。甚爾が来てるよ‼︎」

 

 先程まで机に体を投げ出していた男が、握っていた缶から手を離し欠伸をしながらスタークと呼ばれた男に声をかけた。

 

 「よう、邪魔してるぜ」

 

 なんら悪びれる様子のない彼にやっぱりかという感じでため息をつく。

 

 「……来るんなら前もって言ってくれ。急に来られてもツマミがねぇだろ」

 

 「別にそんなもんいらねぇよ。酒の肴になる話なんていくらでもあるじゃねぇか」

 

 そんなのは些細なもんだと言いながら、彼は二人分の酒をグラスに注いでいく。

 

 「やっぱりお前には敵わねぇな」

 

 「何言ってんだ。12年前の大一番はお前の勝ちだったじゃねぇか」

 

 口下手なお前じゃ無理だろうよと笑う彼にうるせぇよと返すスターク。その目は何処か遠くを映しているようだった。

 

 「アレから12年か……あそこかもしれねぇな。歯車が変わっちまったのは」

 

 「おい、なんか言ったか?」

 

 聞こえなかったからなのか不思議そうな顔をした彼に対し、スタークは頭を振った。

 

 「なんでもねぇよ……甚爾」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あぁ?護衛任務だ?」

 

 電話の主はその内容が意外だったのか気怠げにレスポンスを送る。

 

 『お願いするよスターク、彼は私の目標には必要な人材なんだよ』

 

 「……はぁ、わかったよ。で、誰を守ればいいんだ?」

 

 その答えを待ってましたという様子で彼女は顔を綻ばせた。

 

 『護衛対象は禪院……いや、今は伏黒だったね。君も噂は聞いたことがあるんじゃないかな?呪術師殺しのこと』

 

 それを聞いた彼は横たわっていたソファからズリ落ちそうになり端を掴んだが……その努力も無駄に終わる。

 

 「何言ってんだ……とうとう頭がイカれたか?」

 

 『イカれたとは失礼だね……前に言ったじゃないか、私の目標のことを』

 

 側から見るとイカれているように見えるのは彼だと思うが、その体勢を気にしない様子で会話を続ける。

 

 「どんくらいの期間、そいつを守ればいいんだ?」

 

 『天元様の件は知っているだろう?それに対して甚爾君が動いてるみたいでね……少なくともそれが終わるまでかな』

 

 予想よりめんどくさそうな依頼だと思ったのか、彼は片手を上げ頭を振った。

 

 「了解した、終わったら伝えるよ」

 

 『報酬は君の通帳に入れておくよ、10億位でいいかな?』

 

 その答えに納得がいかないような表情で彼はため息を吐いた。

 

 「それだけじゃ足りねぇな……この前良い店があったんだ、そこ奢ってくれ」

 

 『フフ、やっぱり君には敵わないな。いいよ、友達なんだからね』

 

 「……だな、詳細は後で送ってくれ。今から向かう」

 

 そう言う彼の声はいつもより少し明るい感じがした。

 

 「おいスターク、何にやけてんだ?」

 

 「うるせぇよリリネット、それより今から向かうとこが出来た」

 

 バチコーンっと彼女の頭から鈍い音が響いた。

 

 「何するんだよ⁉︎痛いだろーー」

 

 憐れリリネット、これも彼にとっては照れ隠しの一種なのかもしれない。

 

 「騒いでんじゃねぇよ、今から出発するって言ったろ?行き先はお前が前から行きたいって言ってたところ……沖縄だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 また懲りずに別作品を投稿……これは最後まで行きたい


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会敵

 時間が欲しい。


 「とりあえず沖縄に来てみたが、必要なかったかもな」

 

 「なに言ってんだスターク。水族館や首里城だってあるだろ?」

 

 横でぴょんぴょん跳ねてる彼女を傍目に、スタークはため息をこぼした。

 

 「観光に来たんじゃねぇんだよ。つっても、まだやることはねぇだろうがな」

 

 「え⁉︎じゃあ行ってもいいんだな」

 

 そう言って喜びをあらわにするリリネット。

 

 「……はぁ、俺の目が届く範囲でな」

 

 スタークは沖縄に来てから何回目かわからないため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「傑、多分だけど誰かから見られてる」

 

 「本当かい悟、場所はわかるかな?」

 

 「すまねぇ、場所まではわからない。もしかしたら俺の勘違いかもしらねぇしな」

 

 彼らもスターク達と同じように護衛任務をしており、その一環として沖縄に来ていた。

 

 「どうしたのじゃ?ふたりして神妙な顔しおって」

 

 ジトっとした目で彼らのことをうかがうのは天内理子。

 

 「なんでもねぇよ天内。それよりさっさと海行くぞ」

 

 「そうじゃな、では行くぞーー‼︎」

 

 そう言って彼女は砂浜へとスキップするように駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「沖縄楽しかったねスターク。もう出発するんでしょ?」

 

 「あぁ、原作と同じように2日間滞在してな……お前は満喫しすぎなんだよ」

 

 そんな彼の注意に、リリネットは少し呆れたような表情を見せる。

 

 「そう言うスタークも楽しんでたように見えたけどな」

 

 「……気のせいだろ、それよりはやく飛行機に乗るぞ」

 

 ぶっきらぼうに言い放ち、トランクケースを引きながらロビーへと彼は消えていった。

 

 「待ってくれよーー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これが最強ねぇ」

 

 「どうだスターク、やっぱり強いか?」

 

 沖縄から帰ってきた彼らは、五条と夏油が呪詛師達と戦っているのを遠くのビルから眺めていた。

 

 「相手が弱かったからよくわかんねぇが……アレを使う必要はないだろうな」

 

 「そっかーーアレは使わないのか」

 

 そう言って少ししょぼくれるリリネット。

 

 「なんでお前はそんなに使いたがるんだ?俺はめんどくせぇことは嫌いなんだよ」

 

 「使えるもんは使いたいだろ、カッコいいしさ」

 

 彼女が口を尖らせて文句を言うのを待たずに、彼らはその場を去ろうとしていた。

 

 「不貞腐れてんじゃねぇよリリネット、さっさと移動すんぞ」

 

 屋根の上をアクロバティックな動きで進んでいくスターク。

 

 「だから置いてくんじゃねぇよーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アイツが今回守る対象かぁ」  

 

 「どんなやつかは知ってただろ?今更やめるは無しだ。ダチの頼みだしな」

 

 気落ちするリリネットへ九十九をダシに宥めようとするスターク。

 

 「将来的に最強つってもまだガキか……注意不足だ」

 

 そう語る彼の視線の先には地面へと倒れ伏す五条悟の姿。

 

 「スタークほんとにこれでよかったのか?」

 

 「あぁ、これじゃないと最強が生まれないかもしれねぇからな」

 

 血溜まりの前に歩み寄る2人。その表情はあまりいいものではないように見えた。

 

 「……リリネット、応急処置してやれ。俺は先に行く」

 

 「わかったよスターク‼︎すぐに追うね」

 

 彼女は血塗れの服をはずし、彼は暗闇へと歩きはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すまねぇな。止めることができなくて」

 

 暗がりの中で倒れていたのは黒井。天内理子の世話係であり、親代わりでもあった。

 

 「回道はかけた。あとはリリネットがなんとかする……あの子は絶対に助けるよ」

 

 そう語って彼女の傷口に彼が触れると、淡い緑の光が溢れる。それを見届けた彼はまた歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私達は最強なんだ。君がどんな選択をしようと、君の未来は私達が保証する」

 

 幼児を諭すように語る夏油。

 

 「私は……もっと皆と一緒にいたい。いろんな所に行って、いろんな物を見て……もっと‼︎」

 

 そんな吐き出した言葉を聞き、彼はゆっくりと右手を差し出した。

 

 「帰ろう、理子ちゃん」

 

 「……うん‼︎」

 

 

 

 

 

 本来ならばここで乾いた音がするはずだった。だが、今はこの男がいる。

 

 「おいおい、そんなもんを女の子に向けるんじゃねぇよ」

 

 「アンタどっかで会ったか?男の名前を覚えんのは苦手でな」

 

 拳銃を降ろさせた彼は、そのまま右手につけてた手袋を外し答えた。

 

 「心配ねぇ、初めましてだよ。第一刃コヨーテ・スタークだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 プリメーラエスパーダと読みます。


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