この物語の主人公さ (myo-n)
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No1

原作アンチではないです。


「お前進路どうする?」

「決まってんだろ、というか皆そうじゃね」

「そうだな~」

 

休み時間に騒ぎ始める奴らを尻目に俺は手元の進路希望調査の紙を見つめる。

まだ期限は先だが、書いておくに越したことはない。

第一志望から第三志望までの欄にある高校の名前だけ書いてファイルにしまう。

 

「今朝のシンリンカムイかっこよかったなぁ。しかも彼の個性は戦闘だけでなく救助や捕縛もできるから行動の幅が広い。けど見た目が少し地味なのがネックになってるかな……。そういえばマウントレディも恰好良かったけど彼女の個性は閉所や狭い空間では使えないし、大きくなった分戦闘時の二次被害の危険性が否めない。インパクトは強いけどデメリットをどうやって克服していくかが今後の期待すべき────」

 

 

……唐突だが、俺には物心ついた時から記憶があった。

 

今とさほど変わらない世界、仕事に通う日々、ゲームしかやることがない休日。

そんな無の循環を今まで繰り返してきた、そんな男の記憶。

そしてどういうわけか自分の意識まである。

 

俺は数日かけて、これが輪廻転生というものだと認識した。

正直いつ死んだか覚えてないのが気がかりだが、気にしても仕方ない。

むしろ石器時代とか戦国時代とかに転生しなかった事を喜ぼうじゃないか。

 

前世と何一つ変わらない現代社会。

ただ一つ、前世と違う点があるとするなら……全人類の八割が〈個性〉と呼ばれる超能力じみた力を持っているという事だろう。

そしてそこではヒーローという物が実際の職業として認知されている。

 

ちなみに俺はこの世界を知っている。

前世で見ていたアニメと寸分違わないから間違いない。

 

ここは……【僕のヒーローアカデミア】の中だ。

そして隣で一人ぶつぶつと呟いている緑のもじゃもじゃ頭の少年こそ、主人公の緑谷出久なのだ。

 

物語としては、無個性の彼がナンバー1ヒーローから力を授かってヒーローを目指すという物だが……実物を見ていて非常に不安になる。

 

オタクっぷりが凄くて、呟いている最中は物凄く近寄りがたいし幼馴染の爆豪はエグイレベルで彼をいじめているから不安要素しかない。

 

「おいクソデク!さっきからぶつぶつうるせぇんだよ!!」

 

「ご、ごめん!かっちゃん……」

 

爆豪が彼の机を叩いて小さな爆発を起こす。

その影響か火の粉が飛んできて地味に熱い。

 

「おい爆豪」

 

「なんだァモブが!」

 

「個性を無暗に使うな。熱いだろ」

 

若干服が焦げたところを見せる。

ちなみにこれで今学期に入って5回目だ。

 

「……チッ、分かったわクソが!」

 

一応彼にも緑谷以外には善悪の区別(?)があるのか、大人しく引いていく。

 

「全く……お前も何か言い返さないのか?」

 

彼の机は俺の服の焦げより悲惨なことになっている。

 

「ありがとう。でも、今のは僕が悪かったから……」

 

「……そうか、まぁ好きにするといいさ」

 

ここはフィクションであり現実でもある。

原作と同じ流れに沿うかもしれないし、沿わないかもしれない。

しかしそもそもの話だが、この世界は危険度が高い。

個性なんて裏返せば凶器になるし人は簡単に死ぬ。

 

勿論、俺はヒーローを目指すし狙うならトップを狙う。

だが正直、物語がどうなろうと知ったことではない。

俺の行動は原作にも少なからず影響を与えるだろうがその時はその時だ。

 

BOOOM!!!!

 

隣で大きな爆発音が鳴る。

 

「こらデクゥ……没個性所か無個性のてめぇが!何で俺と同じ土俵に立てるんだァ?」

 

……どうやらHRが始まっていたらしい。

クラス全体が緑谷を嘲笑しているのが側から見てもひしひしと伝わってくる。

 

この世界では個性がない無個性の人間は無条件に見下される。

緑谷も例にも漏れず俺を除くクラス全員から見下されている。

 

「やってみないと分かんないし……」

 

「なぁにがやってみないとだァ……!記念受験かァ!!?てめぇが何をやれるんだァ?無個性のくせによォ!!」

 

「これでヒーロー志望とは聞いて呆れるな」

 

ため息混じりに聞こえやすく喋る。

クラスの目と一瞬遅れて爆豪が振り向く。

 

「今何つったァ!クソモブがァ!」

 

分かりやすくブチ切れてくるな。

これどっちかって言うと悪側の人間じゃないか……?

 

「要するにだ。お前はまだ(・・)ヒーローの器じゃないんだよ。弱い者いじめしている暇があるならヒーローとは何かを調べてこい」

 

「知ってるわッ!!てめぇよりも何千倍なァ!!」

 

少々挑発が過ぎたのか、爆豪がこちらに襲いかかってくる。

確か爆豪の個性は手から汗を出して爆破する物だったはず。

 

「やれやれ……面倒だな!」

 

「モブはモブらしく黙ってろやァッ!!」

 

「ストップ」

 

その一言と共に、爆豪の両腕が止まる。

まるで空中に縫い付けられたように。

 

「なっ!?てめぇ何しやがった!!」

 

「お前に教える義理はないな」

 

「クソがァ!」

 

腕以外をジタバタさせる爆豪。

腕が動かないんじゃこいつも無個性と変わらないな。

 

「取り敢えず頭が冷えるまでそのままでいとけ。それと、こう言うのは性分じゃないが……」

 

教師含め、クラス全員を睨みつける。

全く……本当に碌でもない奴らだ。

 

「お前らもヒーロー目指すなら道徳を学び直してこい」

 

静まり返る教室の中、俺は教師に進路希望調査票を叩きつける。

調査票には、第一志望の欄に雄英高校ヒーロー科以外何も書いていない。

教師はそれを見て愕然とする。

 

「じゃあな、お互い頑張ろうぜ。緑谷、爆豪」

 

一人には皮肉を、もう一人には激励を込めて、俺は早退した。

 




主人公:名前(次話公開)
性別:男
個性:FF 個性の影響で言動がバルフレアに近くなるぞ!
血液型:AB型
好きな物:自由


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No2

大体1000〜2000ぐらいで出します。
気分で文字数は変わります。


「……そろそろ打ち止めか」

 

近くに捨てられているソファに座る。

 

学校を早退した後、俺は近くの海浜公園で個性トレーニングをしていた。

ここは不法投棄されたゴミが多く、人目につきにくい。

個性がおおっびらに使えない世の中でこういう場所はありがたい。

最も、この公園は来年にはゴミ一つ無くなるのだが。

 

「っと……もう日が暮れてやがる」

 

夕焼けに染まった空を見上げる。

空は綺麗なのに地面はゴミだらけなんて馬鹿な話だ。

 

そろそろ帰ろうと立ち上がり出口に向かっていると、粗大ゴミの陰から人が出てきてぶつかってしまった。

 

「おい……大丈夫か?」

 

尻餅を付いた男性に手を差し伸べる。

男性は弱々しくその手を握った。

 

「あぁ……すまないね少年」

 

立ち上がった男性は砂を軽く払う。

その姿は見ていて気の毒になる程ひどく痩せ細っている。

 

そう……目の前の男性こそ、この世界のNO1ヒーロー【オールマイト】だ。

 

恐らく、緑谷の修行場所でも探しに来たのだろう。

今日が緑谷との初コンタクトの日だというのに行動が早い。

 

「気にするな。ここは視界が悪い」

 

「それもそうだが私も気が散っていて君に気づかなかった」

 

「それならお互い様だ」

 

個性トレーニングの後はどうも気が散りがちになる。

まぁ個性の原理状、仕方のない事だが。

 

「そうか……。お詫びと言えば何だがこれを受け取ってくれ」

 

そう言って渡してきたのはスポーツドリンクだった。

 

「トレーニングしていたんだろう?」

 

何の、とまでは言わなかったが彼は恐らく分かっているだろう。

そう顔が物語っている。

 

「まぁな。あんたは逆にトレーニング場所を探している様だな」

 

オールマイトが驚愕の表情を浮かべる。

おいおい、いくらなんでも顔に出過ぎじゃないか?

 

「あ、あぁ……よく分かったね」

 

「多少頭が回るからな。その程度は楽勝さ」

 

そんな嘘を吐きつつ歩き、すれ違いざまにオールマイトの肩に手を置く。

 

「俺は貸し借りが嫌いなんでな。近い内に返させてもらう」

 

「ははは、私には何のことだかさっぱりだね」

 

「それじゃあまた、雄英で会おう……No1ヒーロー」

 

「なっ!?何故それを!」

 

驚愕を通り越して警戒される。

ただ、マッスルフォームにならないのを見ると活動限界のようだ。

 

「言っただろ、多少頭が回ると」

 

「君は一体……何者なんだ」

 

「この物語の主人公さ」

 

振り返らずに手を振って立ち去る。

 

ちなみにスポーツドリンクは死ぬほどまずかった。

緑谷……強く生きろよ。

 

---

 

流れるように時は経ち、気づけば入試当日になっていた。

 

この日まで勉強して、たまに緑谷とオールマイトの特訓を覗きに行って、トレーニングしての日々を繰り返していた。

特に海浜公園がゴミ一つ無くなった景色は綺麗だった。

原作見てても絶対無理だろうと思っていたのに数ヶ月で海岸線取り戻しちゃったよ。

こいつは賞賛物だな。

 

なんて考えてる内に受付にたどり着く。

 

「受験表の提示を」

 

「ほらよ」

 

「……確認しました。貴方の受験会場はD-1です。頑張ってください、空果(くが) 由自(ゆうじ)さん」

 

「まぁやるだけやってみるさ」

 

受付を後にして、渡された地図を頼りに会場へ向かう。

道中、文字通りガチガチに固まっている男がいた。

 

「おい、そんな速度じゃ遅刻するぞ」

 

「オウ、スマネェナ」

 

「お前は機械か。緊張しすぎだ」

 

「ソウハイッテモヨ……」

 

「ったく……少しだけ手伝ってやる」

 

このまま放っておいても問題ないと思うが念の為肩の力をほぐしといておくか。

一応こいつも重要キャラだし。

 

「目を瞑って3秒数えろ」

 

「オ、オウ……1、2、3。あっ、力が抜けた!?」

 

瞬く間に男の硬直が解かれる。

体の硬直と同時に緊張もほぐれたようで、口調が元に戻った。

 

「なぁあんた!今のどうやったんだ!?」

 

「ただの(まじな)いさ」

 

実際は個性を使ったんだがこの言い方の方が格好いいだろう?

 

「すげぇな!!俺は切島鋭児郎ってんだ!あんたは?」

 

「空果由自だ。よろしくな」

 

「おう、よろしく!お互い試験頑張ろうな!!」

 

「そうだな」

 

そして切島と握手を交わし、受験会場へと向かった。

 




空果の個性は次回明らかになります。
ちなみに彼の名前の由来は[空の果ての自由]です。


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No3

色々差異はありますが気にしないでください。


筆記試験が終わり昼休憩になった。

指定の場所で一人昼飯を食べていると隣に誰か座ってくる。

 

「隣、いい?」

 

「あぁ、別に構わないぞ」

 

「よかったぁ……中々弁当広げられる場所がなくて困ってたんだよ〜!私は拳藤一佳。よろしくね!」

 

原作通り、コミュニケーション能力が凄まじい事で。

隣に座ってきたのはB組の要となる拳藤一佳。

個性は確か手を巨大化させる能力だったか。

 

「空果だ。よろしくな」

 

朝といい今といい、原作キャラとの遭遇が多すぎやしないか?

ざっと見てこの会場だけで500人はいるっていうのに。

 

「試験どうだった?」

 

「ん……?まぁ可もなく不可もない所だな」

 

確かに、偏差値70オーバーなだけあって問題が非常に難しかった。

だが個性を使って解いたから9割方正解だろう。

我ながら俺の個性は万能だと思う。

 

「そうなんだ。まぁ実技試験で取り返せば良いだけだよ!」

 

トントンと背中を叩かれる。

 

明るい、この子超明るい。

それでいて姉御感が強い。

某大家族とかにいそうなタイプの姉御だ。

 

「そりゃどうも。随分と面倒見がいいんだな」

 

「こういう性格だからね〜」

 

「そうか。なら、お互い頑張ろうぜ」

 

昼飯も丁度食べ終わったので弁当を片付けて立ち上がる。

 

「もう行くの?まだ時間あるけど」

 

「個性の都合上、準備に時間がかかるもんでな。悪いが席を外させてもらうぜ」

 

「そっか、頑張ってね!!」

 

満面の笑みが眩しい。

ヒーローよりもアイドルとかの方がむいてるんじゃ無いか?

 

「おう、お前も頑張れよ」

 

そして、更衣室へと向かう。

 

---

 

「案の定誰もいないな」

 

実技試験が始まるまで30分以上もあるから更衣室は無人状態だ。

今のうちに作戦を立てておくか。

そう思い置いてあるベンチに腰をかける。

 

「まずは個性の確認からだな」

 

右手をスライドさせてウィンドウを開く。

 

俺の個性【FF】はファイナルファンタジーのシステムが使える。

ちなみに前世でやり込んでいたFF12のシステムに近い物になっていて、今は【魔法】【ステータス】【アイテム】の3種類しか使えない。

 

【魔法】は文字通り魔法が使える。ただ、FF12の魔法限定という点と緑魔法、裏魔法、時空魔法の一部しか使えないという制約がありこれは変えられない。

 

そして魔法の使用にはMP(別名:気力ポイント)を使う事になる。

自分だけでなく他人にもかけられるが、消費量は対象のサイズによって比例していき今は人一人のサイズ程しか強化はかけられない。

しかしデバフに関しては一定のMPしか消費しない。

 

数ヶ月前、爆豪の腕にかけたストップと今日切島にかけたリバースがデバフで、試験の時に頭にかけたのがフェイスと色々とできる。

 

効果時間は自分だと部分強化で1時間、全身強化で20分で他人になると効果時間は半減する。

 

ここまで伸ばせたのもトレーニングの賜物である。

 

ちなみにMPが0になると3日程昏睡状態になる。

一回やってみて両親に物凄い心配されたからそれ以降、残りMPには常に気を使っている。

 

次に、【ステータス】は自分の状態が確認できる。

未だにレベル1なのだが、多分敵を倒すしか上げる方法は無い。

現状特に利用価値があるというわけでは無いので、死にスキルになっている。

 

最後の【アイテム】は身に纏っている物のリスト化とそれらを瞬時に取り出せる能力だ。

しかしインベントリやアイテムボックスなどではないため、物がいっぱい持てるというわけでは無い。

 

微妙に使い勝手が悪いのでこれもまた死にスキルになっている。

閃光手榴弾とか催涙弾とかの武器や弾薬を持てたら強いんだろうけど無い物ねだりしても仕方ない。

 

「さて……どう作戦を立てたものか」

 

実技試験は仮想ヴィランを倒して得るヴィランPと他の生徒の手助けや救助を行う事で得られる隠し要素のレスキューPがある。

 

救助をメインとするか討伐をメインとするか……

 

「…………討伐メインにするか」

 

討伐7、救助3の割合でいこう。

レスキューPは把握がしづらいし仕方がない。

よし、そうと決まればあとは行動あるのみだな。

 

そろそろ人が集まり出してきたので、ジャージに着替えて会場へ向かう。

バフをかけるのは5分前程で良いだろう。

 

会場には既に人が集まり始めているようで、切島や拳藤などの見知った奴らもいた。

 

じゃあ俺も準備しますかね……

 

「…………フェイス…………ヘイスト……ブレイブ……プロテス……」

 

気力がごっそり持っていかれる。

重ねがけはやっぱり消費量が多いな。

だが、備えあれば憂いなしの精神でいこう。

 

「雄英の校訓はどんな困難をも乗り越えるプルスウルトラ!さぁ、目の前の壁を登っていきなさい!スタート!」

 

やたらと露出度が高そうなミッドナイトの掛け声と共に受験生が一斉に走り始める。

全く…重ねがけは時間を食って仕方ない。

 

「ほら、残りは貴方だけよ。早く行きなさい!」

 

「生憎と人混みはあまり好きじゃないんだ。それじゃあな」

 

猛スピードでその場から駆ける。

既に戦闘があちこちで始まっているがまぁ巻き返せるさ。

 

そして俺は試験会場を駆け回る事になるのだった。

 




簡易説明

魔法…緑、裏、時空魔法が使える。消費MPはバフの場合サイズ依存、デバフの場合固定になります。また、重ねがけもでき掛け算式で相互反応します。

ステータス…レベル、HP、MP、状態異常が見れます

アイテム…身に付けてる物を手元に取り出せます。

ちなみにフェイスは魔法効果2倍、ブレイブは身体能力2倍、ヘイストは素早さ1.5倍、プロテスは頑丈さ1.5倍です。

そして重なったバフは掛け算で相互反応するので現在の空果君は、身体能力4倍、素早さ3倍、頑丈さ3倍です。
単純な移動速度だけになると常時の12倍はあります。

仮に彼の50メートル走の記録が7秒だったら0.5秒で走れるようになります。




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No4

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お気に入り登録もじわじわ増えてるので嬉しいです。


「ヒーローブッコロ」

 

「コロコロうるせぇんだよ」

 

仮想ヴィランを殴り飛ばして破壊する。

やっぱり重ねがけの効果は凄まじいな。

もうこれで何体目だったか忘れてしまうほど破壊して回った。

 

もうそろそろ狩るのを辞めないとこの会場に混じってるであろう原作キャラが全員不合格なんて事も起こりうる。

 

ヴィランPは十分に稼いだから次はレスキューPだ。

苦戦している奴らと適度に共闘……は難しいな。俺が横取りするようか展開しか見えない。

じゃあ動けない奴らを適度に救出する方向で動こうか。

こんな状況じゃ怪我人の一人や二人いるだろうし。

 

「さっさとやるか」

 

その場から駆け出す。

探索系の魔法は無い。

よって地道に足で稼ぐという事になる。

 

「誰か……」

 

おっと。

半分瓦礫に埋まってる奴がいるな。

 

「待ってろ、今助ける」

 

周りの瓦礫を取り除いて引っ張り出す。

あぁ……足が折れてるな。ひどく腫れてる。

 

「酷い怪我だな……」

 

「仮想ヴィランが衝撃で爆発したんだ……くそ」

 

「それはついてないな」

 

流石に骨折している人間がいるとは思わなかったから応急処置に使えそうな物を持っていない。

 

「怪我してるのは足だけか?」

 

「あぁ……そうだ。ぐっ……」

 

取り敢えず足にストップをかけて運ぶか。

時間が止まってるから痛みは感じないはずだ。

 

「これから個性で応急処置をする。だから少し待て」

 

「分かった……」

 

「……………よし、これで暫くは痛くないはずだ」

 

「本当だ!ありがとう!」

 

彼から苦悶の表情が消える。

効果時間が切れる前に入り口まで運ばないと…-

 

「気にするな。さ、担ぐぞ」

 

受験生を抱える。

バフがかかっているため大して重くない。

だけど不幸な事にここは入り口から最も遠いのが問題だと。

多少手荒になるが、最短距離を全速力で行くしかないな。

 

「口を閉じてろ。舌を噛むぞ」

 

「分かった」

 

彼が口を閉じたのを確認して走り始める。

流石にいきなりフルスピードで走るのは彼が驚いてしまうため、徐々にスピードを上げていく。

 

道中、複数の仮想ヴィランと遭遇したが頭を踏み台にして奴らの頭上を跳んでスルーしていく。

 

更に道中で腕を怪我している学生がいたため、そいつを背負ってまた走り出す。

 

「ふぅ……着いたか」

 

入り口には試験官としてミッドナイトが立っている。

ミッドナイトもこちらに気づいたようで驚きながらもこっちに来て1人受け取って仮設テントまで運ぶ。

 

「貴方、人2人抱えて入り口まで戻って来たの!?」

 

「あぁ、そうだ。早くこいつらを医務室へ連れて行け」

 

「既に連絡済みよ。搬送ロボットが来るまで私の個性で眠らせるからその子をベッドに置いて離れてちょうだい」

 

「分かった」

 

数歩離れるとミッドナイトはコスチュームの袖を僅かに千切り、露出した肌から催眠ガスを放って運んできた2人を眠らせる。

 

「聞くまでもないと思うけど、怪我はない?」

 

「怪我はないさ」

 

「やっぱりそうよね。運んできてくれてありがとう」

 

ミッドナイトが頭を下げる。

試験官に感謝されるのは変な気分だ。

 

「頭を上げてくれ。そもそも人助けはヒーローの本懐だろ?」

 

「えぇ……そうね。それがヒーローとしてあるべき姿よ。……ところで貴方、時間は大丈夫なの?」

 

白々しい問いかけに時計を見る。

 

「もう時間がないな」

 

試験時間は20分程度で残りはあと2分弱。

頑張ればあと5体は狩れそうだが探すのも手間だ。

そもそも基準は超えてるはずだし無理する必要はない。

それにレスキューポイントもあるし。

落ちる事はないだろう。

 

「悪いけど時間を伸ばす事はできないわよ」

 

「そうか……ならここで一休みさせてもらう」

 

「分かったわ。そこのクーラーボックスに飲み物が入ってるから好きに飲んでいいわよ」

 

「そりゃどうも」

 

クーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し置いてある椅子に腰掛ける。

そして制限時間を迎えたバフが解除された。

 

「ふぅ……」

 

「貴方、随分と余裕ね」

 

ミッドナイトが隣の椅子に腰掛ける。

 

「やれる事はやったからな」

 

「その自信はどこから湧いてくるのかしら?」

 

「さぁな」

 

「まぁ何にせよ貴方にはヒーローの素質があるわ。私が認めます」

 

「そいつはどうも」

 

フラグが建ったな。

これで余程のことがない限りは落ちたりしないだろう。

 

「貴方、名前は?」

 

「空果由自」

 

「そう……ありがとう。さて、そろそろ試験を終了させないといけないわね!」

 

そう言ってミッドナイトは立ち上がる。

そこから程なくして試験終了の放送が流れた。

 

他の奴らにサボっていると騒がれるのも面倒なので、足早に試験会場から移動して帰路に着いた。

 

 

 

---

 

 

 

 

数日が経った。

俺の元には一通の封筒が雄英から送られて来ている。

中を開くと円盤が入っており机に置くとホログラムが表示された。

 

「空果君元気してる〜?会場で話したわよね?私はミッドナイト、貴方の試験結果を今から伝えるわ!」

 

意外にも表示された人物はミッドナイトだった。

やっぱりあの時の縁だろうな。

 

「筆記試験はぶっちぎりの一位!そして実技試験の成績はヴィランP58点よ!」

 

爆豪が確かヴィランP70点台だったから……上の中辺りか?

まぁこんなもんだろう。

ミッドナイトの話は続く。

 

「これだけでも合格ラインなんだけど。実はもう一つの採点基準があるわ。貴方は多分気づいてると思うけどその名はレスキューP!ヒーローとして人を助けるという事は何より大事な事!救助活動や支援活動の内容によってレスキューPは変動するわ」

 

気づかれてたか。

まぁ別に大した問題はない。

 

「カメラを通じて貴方の救助活動を採点した所、なんと歴代最高の130点!!つまり……主席合格おめでとう!学校で貴方と会えるのを楽しみにしてるわ。それじゃあね〜」

 

最後に投げキッスの動作をしてホログラムは消える。

それにしてもまさか2位とダブルスコア以上だとは思っていなかった。

ポイントのインフレ感が凄い。

 

「まぁ……気にするだけ無駄か」

 

ちなみに書類関連は翌日に届いた。

 




ちなみに助けた学生2人は単なるモブです。


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No5

お久しぶりです。
遅れて申し訳ございません。
仕事に忙殺されてました。
ではどうぞ


入学式前日の夜更け。

珍しく寝付けないので、海浜公園をぶらぶら歩いて時間を潰している。

 

夜の海岸線は非常に静かでいい。

雑音が無い分考え事に集中できる。

しかも今日は月明かりが反射していて幻想的だ。

 

「……いよいよ明日か」

 

明日から雄英での学校生活が始まる。

それは、物語の本格的な始まりを指している。

 

俺は本来物語にはいないイレギュラーな存在だ。

だから他の奴らと違い、俺には死ぬ可能性がゼロじゃない。

バフをかけてなければ一般人も同然なんだ、MP管理はこれまで以上に注意を払う必要がある。

 

「これまで以上に鍛えないとな」

 

目標は範囲魔法を使えるようになる事。

最低でもUSJ襲撃時間までには覚えておきたい。

それと他の系統の魔法を使える必要もある……この辺りは未知数だがやれるだけやろう。

あとは……ミストナック技の習得か。

 

やる事はまだまだある。

 

「……っと、あいつは」

 

しばらく歩いていると、月を眺めて突っ立っている緑谷が見えた。

恐らく俺と同じであいつも眠れないんだろう。

 

「よう、こんな所で考え事か?」

 

「えっ!?君は確か……空果君!」

 

「正解だ」

 

「どうしてこんな夜中に……?」

 

「少し、眠れなくてな」

 

「そうなんだ……」

 

「大方、お前も同じ理由だろ」

 

「うん……そうなんだ。明日から雄英生なんて……実感が湧かなくて」

 

つい最近まで無個性だったのにNo1ヒーローから力を渡されて目標だった高校に入れたんだ。

実感が湧かないのは当たり前だろう。

 

「まぁ深く考える必要はない。明日から生活が変わる、それだけの事だ」

 

「考えても仕方ない……か」

 

少し冷えて来たな……そろそろ帰るか。

 

「それじゃあ、またな」

 

「う、うん。またね」

 

来た道を引き返す。

さて……寝るか。

 

---

 

特に寝坊する事もなく学校に着いた。

校門前には多くの雄英生が浮かれた様子で登校している。

 

「……まさかもう一度学生をやるなんてな」

 

満開の桜が花びらをちらほらとこぼして地面に落ちる。

社会人になってからは、学生の頃に戻りたいと思っていたが本当に実現するとは思わなかった。

 

前の学生生活よりもハードだとは思うが、本気で頑張ってみよう。

 

「おぉっ!空果じゃねぇか!」

 

後ろから馬鹿でかい声が突き刺さった。

振り向くと髪が真っ赤に染まった切島がこちらに向かってくる。

 

「久しぶりだな。そっちは随分と変わったようだが」

 

試験日に出会った時の切島は黒髪だった。

確か昔の自分と決別したかったから……だと思う。

 

そこまでアニメを見ていた訳じゃないから細かい所は若干分からない。

 

「ま、まぁな!色々とあるんだよ」

 

痛い所を突かれた顔になる切島。

この件には触れないでおくか。

 

「そうか。まぁ、野暮な事は聞かないさ。よろしくな」

 

「おう!」

 

手を出して握手を強く交わす。

結構力が強く、地味に痛い。

例えるならギリギリという効果音が入るぐらいだ。

つまり、痛い。

 

「馬鹿、強く握りすぎだ」

 

「あっ、すまねぇ!つい力んじまってさ」

 

「ったく……気をつけろよ」

 

「あぁ!」

 

「ほら、行くぞ」

 

痛かった手を振りながら、教室へ向かう。

 

ちなみに切島が自信満々に案内すると言うから着いていったら2回ほど迷った。

方向音痴だったのかこいつ……

 

---

 

「おぉ〜でかいな!すげーバリアフリー!」

 

確かに大きい。

俺と切島の身長を足しても余裕で入るくらいには大きい。

 

「馬鹿みたいな感想言ってんな」

 

「馬鹿じゃねぇし」

 

「分かった分かった。ほら、入るぞ」

 

扉を開けると同時に騒がしい声が聞こえてくる。

 

「だから、机に足をかけるのはやめたまえ!」

 

「うるせぇっクソ坊ちゃんが!!てめーには関係ねぇだろうが!」

 

「ふ、ふたりとも……おちつい「テメェは黙ってろ!クソデク!」ひぃっ」

 

どうやら爆豪と飯田が喧嘩の中心の様だ。

緑谷の横に麗日がいる所を見るに、最初の喧嘩が長引いている感じだろう。

原作ではすぐに担任の相澤先生が教室に入って来るはずなんだが……

とにかく今はあの場を収めないと。

 

「切島、少し持っててくれ」

 

「おう分かった」

 

「2人とも、そこまでだ。騒がしいぞ」

 

2人の間に強引に割って入る。

別に放っておいてもいいが、騒がしいのは好きじゃない。

 

「君は……」

 

「テメェは……!!?」

 

「俺は空果由自。お前らと同じクラスのメンバーだ」

 

「……僕とした事が随分騒がしくしてしまったようだ。僕は聡明中の飯田天哉、これから一緒に頑張ろう」

 

「分かってくれたようでなによりだ」

 

割って入った事で、飯田は落ち着いたようだ。

ただ爆豪はまだ興奮している。

 

「何でテメェみたいなモブがここにいんだよ!!」

 

爆豪が机から足を下ろしてこっちに突っかかって来る。

眼力が凄まじい。

 

「俺がここにいたら悪いか?」

 

「テメェも無個性の筈だろうが!!どうやって試験を突破した!?」

 

どうやら無個性だと勘違いしているようだ。

 

確かに今まで個性を見せびらかした事が無かった。

そういえば、一時期無個性だと囃されていたな。

全て無視していたら何も言われなくなったけど……。

それを信じていたのか。

 

「今までは人前で見せる必要が無かったから使わなかっただけだ」

 

「はぁ!?」

 

「まぁ嘘かどうかは追々分かる」

 

「ちぃっっっ!!!」

 

だから、眼力が怖いんだよ。

 

「……そう喧嘩腰になるな。とやかく言うつもりはないが、せめてマナーくらい守れ」

 

「うるせぇ!守れるわ!!」

 

流石に周りの注意を引きすぎたからか、不機嫌そうに足を組んで座る爆豪。

全く……原作以上に凶暴じゃないか?

 

「く、空果君……!」

 

「お前もさっさと座れ」

 

「イケメンや……」

 

麗日があっけにとられている。

まぁ関係を知らない奴から見たら颯爽と現れて一瞬で喧嘩を収めたと見られてもおかしくない。

 

目立つと面倒なんだが……仕方ない。

 

切島からバッグを受け取り、席に座る。

 

「お前あいつと知り合いなのか?」

 

「まぁな」

 

「すげぇな……」

 

切島と談笑しながら少し待っていると、相澤先生が入ってきた。

寝袋姿で。

 

「はじめまして、君たちの担任の相澤消太だ。よろしく」

 

((((((((寝袋!!?担任!??)))))))))

 

教室内が一瞬ざわめく。

側から見たら怪しさの塊だから仕方ない。

 

「はい、君達が静かになるまで14秒かかりました。合理性に欠けるね」

 

寝袋のジッパーを開けて出てくる相澤先生。

寝袋状態でどうやって移動していたんだろう。

というか寝転がってたあの状態で立てるのか?

 

「それじゃあ全員これに着替えてグラウンド集合ね」

 

体操着を片手に持って気怠そうに言ってくる。

 

確かこの後は……個性把握テストか。

絶対爆豪絡んでくるよなぁ……一応主席だし。

面倒な事この上ない。

 

「何やってんだ?行こうぜ」

 

切島に肩を叩かれる。

気づくと、クラスメイトの大半は教室を出ていた。

 

「……あぁ、今行く」

 

「おう」

 

切島に連れられて教室を出る。

そして一度迷いかけたから切島には二度と案内は頼まない。

 




ちなみにキャラ設定は独自解釈なので原作とは違う事もあります。
そんなに変わってはないとは思います。


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No6

明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。
ではどうぞ。


「「「「「「「「「個性把握テスト!!?」」」」」」」

 

「そう、君達の能力を手っ取り早く数値化する方法だ。中学では個性禁止の体力テストが主だが、あれは合理性に欠ける。文部省の怠慢だね」

 

「先生!!入学式とかガイダンスは無いんですか!!?」

 

飯田がビシッと手を挙げる。

何か動きがカクカクしてるがツッコむのはやめよう。

 

「ない」

 

「「「「「無いの!?」」」」

 

「時間は有限、そんな物をやっている暇なんてないんだよ」

 

ギラリ、とこちらを睨みつけてくる。

爆豪とはまた違った意味で眼力が凄い。

ただ敵意は無く、値踏みというか懐疑的な視線なのは何故だろうか。

 

「主席は……空果だな。お前、中学の時のハンドボール投げの記録は?」

 

「58メートルだ」

 

「よろしい、なら個性を使ってボールを投げてみろ。円の中から出なければ何しても構わん」

 

「了解」

 

爆豪が後ろで何か言いかけそうだったので素早く円の中に入る。

原作だと爆豪が700メートルぐらい投げてたと気がする。

あいつの記録を超えたら面倒だが……加減が微妙に難しい。

取り敢えずフェイスとブレイブを二つとも倍掛けでいいか。

 

その場で軽く跳んでかかり具合を確かめる。

 

「そらっ」

 

力を込めてボールを投げる。

ボールはあっという間に見えなくなり相澤先生の持つ機械に距離が反映される。

 

「928メートル。とまぁこの様に今日は個性有りで体力テストをしてもらう」

 

微妙に調整が効かなかった……

うん、200メートルぐらいは誤差だな。

そう思おう。

 

「何それ凄い!!」

 

「個性を自由に使っていいなんて聞いたことない!!」

 

「凄い面白そう!!」

 

クラスの一部が目を輝かせて楽しそうに騒ぐ。

それと反対に、相澤先生の顔は険しくなる。

 

「面白そう……ね。君達はそんな腹積りで3年間過ごそうとしているのか?」

 

相澤先生の圧により、周りが沈黙する。

 

「よし、8種目トータル成績最下位の者は見込みなしとして……除籍処分とする」

 

「「「「「!!?」」」」」」」

 

周りは驚き半分、嘘だと思っている奴が3割、残りは挑戦的に笑っている。

 

「これから3年間、雄英は君達に苦難を与え続ける。さらに向こうへ、プラスウルトラの精神さ。さぁ……全力で乗り越えてみせろ」

 

こうして、除籍をかけた運命の体力テストが始まる。

 

--

 

「次、ハンドボール投げ。青山から名簿順に並べ」

 

1時間かけて、体力テストが折り返しの地点に差し掛かろうとしている。

これまでトップにならない様に絶妙に加減してきた。

本気でバフをかけたら機械を破壊しかねないからである。

 

「空果は……やるか?」

 

「いいや、十分だ」

 

「そうか」

 

そして順番が進んでいき、緑谷の番が回ってきた。

緑谷の顔は真っ青で目には焦りの2文字が見える。

原作だと何とかなるんだが……雲行きが怪しい。

 

1回目、相澤先生に個性を消されて普通の記録が出る。

そして、玉砕覚悟でやろうとしていた事を咎められ冷たく言い放たれた。

 

「緑谷、お前の力じゃヒーローにはなれないよ」

 

「……」

 

緑谷の目が暗くなっていく。

おいおい……大丈夫なのか?

あれはショックが大きすぎて考えられていない顔だぞ。

 

そして緑谷は力なく円の中に入り、2回目のボール投げを行おうとする。

 

このままだと確実に緑谷は除籍になる。

全く、仕方ないな……

 

「緑谷!」

 

緑谷は動きを止めてこっちに視線を向ける。

その顔は何処か助けを求めている。

だが、これは自分で乗り越えるべき壁だ。

いちいち頼られるのも面倒だからな。

 

だから俺が贈るのはシンプルな言葉だけ。

 

「考えろ」

 

「……っ、うん!」

 

緑谷から目の輝きが戻る。

これで、思考停止したヤケクソ状態でやらなくて済みそうだ。

 

「(そうだ、考えろ考えろっ。一か八かなんて方法は駄目だ。現状、ワンフォーオールは0か100かしか出せない。相澤先生の言った通り、腕を犠牲にするのは駄目だ。なら……出力じゃなくて、使う場所を変えれば……!!)」

 

「SMAAASH!!」

 

ボールは天高く舞い上がり、705メートルという大記録を打ち立てた。

緑谷は一本の指を負傷したが、痛みを堪えて気合いを入れる。

 

「(痛い……けど!)先生……まだ、まだやれます!!」

 

「こいつ……!!」

 

相澤先生の顔が期待と称賛からか、にやけている。

どうやらお眼鏡に適ったらしい。

良かった、これで除籍される事はなさそうだ。

 

「空果く「何でてめぇが個性使えてんだクソデク!!」」

 

こっちに駆け寄ってきた緑谷を突然爆豪が掴みかかる。

爆豪の性格上、今まで下に見ていた緑谷が自分と同等の記録を出した事に納得がいかないのだろう。

 

「やめろ、爆豪」

 

「っっっ!!?」

 

緑谷を締め上げていた爆豪が相澤先生の捕縛布に絡め取られ拘束される。

便利だな……

 

「はぁ……各自一旦休憩だ。俺はこいつの頭を冷やしてくる」

 

そして相澤先生は爆豪を連れて行った。

まぁそれが普通だよな。

 

「あの、空果君!」

 

緑谷がこっちに寄ってきて頭を下げる。

 

「ありがとう!」

 

「……俺は何もしてねぇよ。あれはお前が出した結果だ」

 

「でも、空果君のおかげで気づけたんだよ!」

 

指を怪我しているのを忘れてグッと拳を握りしめる緑谷。

直後電気が走った様な顔をする。

 

「……!いっててて……」

 

「はぁ……嬉しいのは分かるが、怪我の事忘れんなよ」

 

「ははは……その通りだね」

 

改めて緑谷の指を見ると、赤黒く変色していて見るに耐えない酷さだった。

骨折どころか壊死してるんじゃないか……?

 

「……ったく、指見せてみろ」

 

「?う、うん」

 

これだけでも相当痛いだろうに。

原作だとこの後のテストは痛みが邪魔して結果が出せなかったはずだ。

仕方ない、少しだけ助けてやるか。

 

緑谷の指にストップを重ねがけして時間を止める。

 

「え?痛くなくなった……!?」

 

「応急処置だ。治した訳じゃないから後でばーさんの所行っとけ」

 

一応2時間くらいは持つ様にかけた。

途中で解ける様ならまたかけ直すしかないな。

 

「ありがとう……!」

 

「礼はいい。俺が勝手にした事だ」

 

「イケメンや……」

 

麗日が後ろでほわほわしてるけど、ノーコメントで行こう。

その後、相澤先生が来るまで他の奴らと簡単に自己紹介をしていた。

 

そして、相澤先生が爆豪を連れて戻ってくる。

 

「さて……休憩は終わりだ。さぁ、続けるぞ」

 

---

 

そのまま特に問題もなくテストは続き、緑谷は最下位になった。

 

「さっ……最下位……空果君、ごめん」

 

「何しょぼくれてるんだ緑谷、除籍?あぁ……それは君達のパフォーマンスを上げる為の合理的虚偽」

 

相澤先生はサラッと言う。

その言葉に驚愕する緑谷と他クラスメイト。

 

「「「「合理的虚偽!!?」」」」

 

「そういう事、じゃあ今日はこれだけだからもう帰って良いぞ」

 

緑谷は驚きの余り崩れ落ちてしまった。

それを捕縛布でぐるぐる巻きにして相澤先生は医務室へと向かう。

 

ちらほらとクラスメイトが更衣室へ向かう中、ある声が聞こえた。

 

「あんなの、少し考えれば嘘だと分かりますわ」

 

呆れた表情で八百万が呟く。

普通に考えて教師が生徒を簡単に除籍なんてできないだろう、と。

 

「それはどうだろうな」

 

「……?どういう事ですか?」

 

「嘘かどうかはこれを見れば分かる」

 

八百万にある記録を見せる。

それは、今年の入学パンフレット。

 

「これは……!」

 

顔を青ざめる八百万。

なぜならパンフレットには小さく、ヒーロー科2年A組の在校生の数が0と書かれていたからだ。

 

「もし見込みがなければ……あの人は問答無用でクビを切るだろうな」

 

「……だからあの時、貴方は緑谷さんに声を掛けたんですか?」

 

「さぁな」

 

「あっ、お待ちください!」

 

「断る」

 

更衣室へ戻り、着替える。

そして赤い空を見上げながら学校を出ようとした。

 

「空果君、ちょっといいかな」

 

「何か用か……?オールマイト」

 

やれやれ……厄介なのに捕まってしまったな。

 




じわじわ伸びてきていて非常に嬉しいです。
これからも応援よろしくお願いします


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