ロクでなし魔術講師と人喰い妖怪 (路傍)
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原作前
始まり。あるいは人喰いの跳梁
『ロクアカ 東方project』
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なんだと!∑(゚Д゚)
宵闇の妖怪ルーミアといえば人里ではよく知られている。
「うーん」
夜に自らの闇を操る能力を用いて闇の球体となって人間を捕食する人喰い妖怪として。
「…ここはどこなのだー」
…まぁより多く知られているのは人里の寺子屋で見られる四馬鹿《バカルテット》の一員として、ではあるが。
閑話休題。ルーミアは見たこともないような街の裏路地にいたのだ。
「いや、ほんとにどこよ」
先程まで寺子屋でいつもの4人《バカルテット》でふざけた挙句にけーねに頭突きを食らって4人とも撃沈していたはず…
少なくとも絶望的にセンスの悪い紅魔館を紅く塗る代わりに貧乏にしたような西洋かぶれの街並みは幻想郷にはない。
「うーん…アタイさいきょー」
「…焼鳥はんたーい」
「私はゴキブリじゃなー…グェッ」
チルノやミスティア、リグルも無事そうではある。…チルノがリグルの頭を寝ぼけて蹴り飛ばしたがそれは置いておこう。
「…何はともあれ全員起こさないといけないわね」
〜少女起床中〜
「結局ここは幻想郷じゃなさそうですね…」
「わかんないのだー」
「まぁなんとかなるって!」
「じゃあとりあえず二手に別れて回ってみる?」
ミスティアの意見によってチルノ・リグル組とミスティア・ルーミア組に分かれて幻想郷の管理者たる八雲紫でも探すか、外の世界の博麗神社を探そうということにはなった…
しかし、四人全員がここは幻想郷どころか外の世界ですらないというのは薄々感じ取ってはいた。なにせ幻想が濃すぎるのだ。
自然の象徴、妖精であるチルノや人喰い妖怪として畏れられてきたルーミアに、古くからの畏怖の対象である蟲の妖怪たるリグル。そして、ツケ払いは容赦なく二ツ岩金融送りにして文字通り骨の髄までしゃぶりつくミスティア。神秘の薄れた外の世界へ行ったとしても存在を維持できる4人とはいえ、大幅な弱体化と生命の危機を感じとるはずなのだ。
しかし、現実は己の外に脆弱な人間ですら操れそうな神秘がある。これでは外の世界と言う方がおかしい。
幻想郷とも外の世界でもない第三の場所といった方が信憑性がある。
「ふふっ…どうなることやら」
月を眺めながら小声で呟くルーミア。
少なくともルーミアたちは当分幻想郷には帰れなさそうだ。
そして、数ヶ月後
「…おいおい。こいつも酷いな」
「また、『月夜の食人鬼』ね…」
帝国の特務分室に所属するグレンとセラは数ヶ月前から帝都を騒がせている殺人鬼『月夜の食人鬼』を追っていた。
なぜ食人鬼という物騒な名前がついたのかというと、被害者の血と臓物を用いて『ひとぐいようかいさんじょー!』とかいていく、というのもあるが
「やっぱり腹を食いちぎった跡がある」
腹や腕に食いちぎった跡があるのだ。恐らく獣を使って食わせているのだろうが…
(それにしては歯型が…なぁ)
歯型は動物よりも人間のものに近いのだ。人間にしては鋭い犬歯が多すぎるのだが…
特務分室では獣を連れた魔術師を探しているが全くと言っていいほど手がかりがない。
さらに問題なのがこの殺人鬼、
まぁこの現場を見せれば変わるのだろうが。
特務分室が封鎖した路地裏には恐怖に満ちた死に顔の、はらわたをくり抜かれた悍ましい死体が転がっているだけであった。
続けたい
でも、文章力が無いから続かない
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路地裏の少女。あるいは月夜の食人鬼
帝都を騒がせる『月夜の食人鬼』彼、あるいは彼女が何をしているのか?特務分室や外道魔術師が知りたいことの一番。とまでは行かなくともかなり気になることであろう。そんな話題の人(?)物は今、
「ちょっとルーミア!なんだってそんなに食べるのさ!」
「仕方ないのかー。よく食べて、よく遊ぶ。それが子供の仕事なのかー」
リグルからのお説教の最中であった。
「…あと言っとくけど、その口調はもういいから。」
「えっ、でも今の口調の方が良くないかしら?ほら、この口調だと襲いにくいし。」
「あのね!私含めてみすちーもチルノちゃんも封印前のルーミア見たことあるから!すっっごい違和感あるの!」
EXルーミア見てたらそりゃ言いたくなるであろう。
幻想郷最強の一角を占めていたなんかすんごい妖怪、それが元のルーミアなのだから。
それを気にせず付き合っている四馬鹿の面々は割とすごいのである。
「…でもミスティアは覚えてなさそうだったけど?」
「…そ、それはみすちーは鳥頭だから…」
「チルノは覚えてるかしら?」
「………」
…割とすごくも何ともないかもしれない。
「……とにかく!夜中に人襲うのはほどほどにして!私がやってる情報屋の方にまで依頼来てるの!『月夜の食人鬼』の本名だの身元だの聞いてくる人がただでさえ多いんだから…あ!それに『特務分室』っていう博麗の巫女みたいなやつまで来たんだよ!チルノちゃん一回ピチュッたし…」
このリグル、簡単なことのように言っているが帝国の最高戦力の一角から逃走しきったのだ。
「じゃあ、私が見つけたら喰っとくわよ。」
「ダメだからね!…ちょっと待ってよ?今思い出したんだけど、みすちーはあなたが人喰ってる時何で何も言わないの?」
「みすちーに人食べよって誘うでしょ。」
「うん」
何やら蟲を呼び始めるリグル
「それで1人だけだからって言って夜に1人で出歩いてるようなやつを喰うでしょ。」
「うんうん」
何かを伝えているようだ。
「それを繰り返すだけよ。ほら、あいつ鳥頭だから覚えてないし」
「うんうんうん…何やってんのー!」
リグルの必殺技!蹴符『リグルキック』!ルーミアの腹に決まったー!ルーミア撃沈!リグルの勝利ー!
…とそんなことはさておき。その頃のミスティアはというと…
「ふんふんふーん。焼き鳥撲滅するわよ〜。」
上機嫌に焼きヤツメウナギの下ごしらえをしているミスティア。…そして悲劇は訪れる。
ミスティアの屋台の中に突如大量の黒い悪魔が!
…その日、世界的に見ても珍しいヤツメウナギの屋台が人知れず休業したという…
そして、その日の新月の夜。
「うーん。やっぱりリグルは『(ある意味)幻想郷で一番敵に回してはいけない』と言われるほどの実力はあるわね…まだお腹痛いわよ。」
ルーミアはミスティアからの話を聞き久々に身震いする思いをしていた。
そんな時であった。
「…逃げろ!『特務分室』だ!……」
「……おい待てテメェら!…」
「あら?リグルが言ってた奴らかしら?」
ーーーーー月夜の食人鬼は動き始めた。
「逃げろ!特務分室だ!ひとまずここは引くぞ!」
「おい待てテメェら!外道魔術師どもめ!」
グレンは殺人鬼の調査中に路地裏で外道魔術師の集団に遭遇。そのまま追いかけっこにもつれこんでいた。
…ちなみに外道魔術師たちも『月夜の食人鬼』を追っていたりする。
「こちら《愚者》、カニバリストを追っている最中に外道魔術師の集団に遭遇。現在そちらに追い込んでいる!」
「こちら《女帝》、了解!」
「おら待てぇ!」
路地裏の角を曲がろう。そうしようと思った瞬間だった。
(ッ!
曲がる前に一瞬立ち止まり、その後、角の向こうを見ると
「…嘘だろ。」
外道魔術師たちは
そして、
「…あなたは食べてもいい人類?」
(後ろかよ!)
「いや、食える人類なんかいないさ」
冷静を装いながら咄嗟に振り向き、殺人鬼の姿を確認する。
「…あら、そういえば新月だから丸見えね。」
そこにいたのは獣を連れた外道魔術師などではなく、両手を広げた金髪紅眼の少女であった。
「まぁ、そんなことより。あなたが特務分室であってたかしら?」
「あぁ、そうだ。」
「よかったわ。首を刈ってなくて。…こんなにいい夜だし、一緒に
ただし、少女と言っても不吉な紅い色をした十字架のような大剣を担いで、ではあったが。
…グレンの夜はまだまだ長そうだ。
続いた…だと!
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闇の降臨。あるいは愚者への蹂躙
「…こんなにいい夜なのだし、一緒に
「…嬢ちゃんには踊りは早くないかな?」
(これは…チャンスか?)
目の前にいるのは小さな少女1人だけ。『月夜の食人鬼』と関わりがあるのは確実だが、これまでの目撃情報からいって戦闘スタイルは奇襲。
正面から闘うのであればほぼ確実に勝てる。…だから特務分室は《愚者》と《女帝》に捕縛の指令を出していたのだが。
「拒否権はなしよ。大人は子供のわがままに付き合うものよ。」
(あの大剣、あれが外道魔術師を殺したなら…)
紅い十字架状の大剣。少女の身長よりも大きく、グレンの身長にも迫るほどの大きさのその剣は、彼女が大して重くもなさそうに右手に持っている。
「いんや、大人は子供のわがままを止める側だよ。」
(確実にアイツの主武装はアレで決まりじゃねぇか!)
相手の得意な戦法が奇襲ではなく近接戦闘だということに気づいたのだ。そして、ついさっきの虐殺を見る限り手加減するとは考えにくい。
「ふふっ。とりあえず、あなたが先攻で始めましょう?」
時間稼ぎはもう無理か。
戦力不足を痛感しながらグレンはあの大剣を振り回していたのが魔術であることを祈りながら『愚者の世界』を展開した。
(ふーん。人間の中ではそれなりにできるわね。)
紅い大剣によって自らが引き起こした惨状と、それに巻き込まれなかった1人の男を見ながらそんなことを考えるルーミア。
(たしかにあの巫女、とまでは行かなくともなかなか鋭い勘を持ってるじゃない。)
全く殺意なしで放った攻撃にも関わらずギリギリで踏みとどまった男に心の中で賛辞を送る。
「その強さに敬意を表して、それなりに戦ってあげるわ!」
そして闇を展開しようとするが、
(闇が…出せない?)
「可愛い殺人鬼さんよ、ちょっと舐めすぎじゃ、ないかなっと!」
殴りかかってきたグレンをいなしながら考える。
「…何をしたのか、教えてくれないかしら?」
(コイツ、面白いじゃない。)
「そんな簡単に手の内明かす訳ない、だろうが!」
…しかし、グレンは徐々に劣勢に追い込まれていた。
そもそもルーミアの闇は恐ろしいものだが、ルーミア単体でも人間1人程度なら特に問題はない。
それに食らい付いているだけでなかなかのものだと言えるだろう。
「ちょっと疲れてきたんじゃない?どうかしら?今なら一撃で眠らしてあげるわよ?」
「はっ!あいにくだが今夜はちょっといい夜すぎて眠れなさそうだよ!」
(こいつの体どうなってやがる!自分よりもでかい大剣振り回すとかおかしいだろ!)
グレン自身も軽口を叩いているが、限界が近づいていることに気がついていた。
(一瞬、一瞬でいい。隙ができたら応援を呼べるってのに!)
しかし、現実は非情である。そんな都合の良い事は…
「あ〜!この惨状絶対アイツのせいじゃない!あいつが自重しなきゃまた私休業よ!」
…救世主は路地裏の角を曲がったすぐそこにいたようだ。
「…何でいんのよ!」
頭を抱えそうになるルーミア。そして、一瞬の隙が生まれる。
「こちら《愚者》!殺人鬼と交戦中!劣勢のため応援を要請する!」
今自分が呼べる仲間が《女帝》1人だけと悟られないように状況を手短に伝える。
「…チッ、今夜は退いてあげるわよ。」
しかし、ルーミア側もミスティアが仲間とバレると拠点となっている屋台がなくなってしまう。
いかに頑丈な妖怪といえど、連日連夜追い続けられてはさすがに疲れる。
故にここは戦犯をやらかしたミスティアに鬱憤を晴らそう。そう心に決めたルーミアは路地裏から去っていった。
…楽しみを邪魔したミスティアへの報復を考えながら。
「大丈夫?殺人鬼は?」
少ししてからすれ違いで到着したセラ。
しかし、殺人鬼には逃げられたが十分な収穫はあった。
「大丈夫だ。…『月夜の食人鬼』の実物を見た。あとで全員に報告する。」
ここから多分更新速度落ちます。
すいません
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蟲の王の陰謀。あるいは帝都脱出作戦
特務分室との戦闘から一夜明け…
「特務分室に顔がバレた!って言うけど、どうしてそんなことになったの?」
「ご、ごめんってリグル…」
昨日に自重しろといったその日の夜に特務分室と激戦を繰り広げ、挙げ句の果てには顔まで見られたというルーミア。
そしてその話を聞いて暗黒微笑を浮かべるリグル(半ギレ)。
ルーミアはリグルに処されてしまった。
〜少女復活中〜
「で、どうすんの?帝都にいたらバレるでしょ?」
「まぁミスティアの屋台の中で昼間は過ごしなさい。そうじゃないとこっちも帝都から怪しまれずに逃げ出せるよう対処できないから。…一応当てはあるけど文句言わないでね。自業自得だから」
「…ということで、今説明したコイツが『月夜の食人鬼』で間違い無いと思います。」
「ほう。…その少女が本物という根拠は、と問うまでもなさそうじゃな。」
「…そのようね。本物にせよ偽物にせよ、どうにかしないといけない対象には違いないわ。」
『月夜の食人鬼』はおそらく金髪紅眼の少女であり、その体力は自分の身長を超えるほどの大剣を振り回しても息切れ一つしないほどで、目撃者の情報から魔法の使用もできると考えられる極めて危険な人物である。
特務分室にて、バーナードとセリカにそう報告すしたグレンはここで自らの推察を述べる。
「おそらく、一般市民を襲っていないのは単純に真夜中に路地裏を歩くような人物しか襲っていないからだと思います。」
「ふむ…なるほど。たしかに目立ちたがりであれば広場に吊るすとかしそうじゃし…」
「幼い少女なら昼間は動きづらいし、大剣を持ってるならなおさら大通りを出歩けないしね。」
…少し事情は違うのだが結論としてはあっていた。なぜ昼間に襲わないかは単純にルーミアの生活リズムの関係だし、路地裏なのはリグルやミスティアの説得の結果である。大剣はルーミアの闇を実体化したもので、幼い少女の姿をしているが凄まじい年齢をしているため理由は違うのだが…
「それと、コイツを捕まえるにはせめて2人でかからないとキツイ。欲を言えば3人だ。1人だとこっちが殺されかねない。」
ルーミアは封印されているとはいえ大妖怪。そんなモノを相手するにはせめて2人は欲しいというのは妥当な判断であろう。
「それともう一つ。アイツとの戦闘の間に聞こえた声なんだが、反応からしてアイツの仲間だと思う。小さな子供の声だったからバックになんかいる可能性は高い。」
戦犯ミスティアの声はグレンにも聞こえていたようだ。
「…例えば『天の智慧研究会』とかな。」
まぁここの勘違いからリィエルが発見されて同じように大剣振り回すから勘違いが恐ろしいほど加速するのだが。
閑話休題。何はともあれ天の智慧研究会にヘイトが溜まっていく未来は置いておいて、そんな勘違いをされたルーミア一行はというと
「…ありがとうございました〜」
「いやぁ、ここの屋台の焼…何だこれ?うまいな!また来るよ!」
焼きヤツメウナギの屋台。
夜遅くまで空いているが真夜中となると流石に閉店する。なにせここ最近帝都では、外道魔術師だけでなく殺人鬼まで出るのだ。
「…よし!施錠完了!」
「やっとよ!もう出るわよ。こんな箱の中まっぴらごめんだわ!」
その殺人鬼は屋台に積まれている箱にいたわけだが。
「みすちー。リグルのとこまで行くわよ」
「屋台の中でずっと爆睡してたじゃない!」
ちなみに言うと、ルーミアは顔が割れているのでミスティアが引く屋台の中でくつろぎながらリグルのところまで向かっている。
「もうちょっと振動減らしてくれない?」
「喋ってたら舌噛むわよ。」
〜少女移動中〜
「じゃあ4人揃ったことだし帝都から出れて、なおかつ身分もお金も得られる方法を説明するから。…ルーミア。拒否権はないからね?」
「おー!」
「あれ?屋台ちゃんと鍵閉めてたっけ?」
「閉めてたわよ…。って言うかなんか嫌な予感がするんだけどその喋り方」
…ルーミアはその説明を聞いた後、こう呟いた。
「確かにいい方法よ。でも、私に負担多すぎじゃない?」と。
ちなみにチルノとミスティアは爆笑しすぎでピチュりかけた。
やっと、やっと勘違いフラグが出せた!(歓喜)
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妖魔の口車。あるいは没落貴族の相続問題
ルーミアは目的地への中継地点であるフェジテへ向かう馬車の中、リグルの出した血も涙もない提案を思い返していた。
リグルによって発案された案。それはヨクシャー地方にある断絶寸前のナイトバード男爵家が『男爵位売買の競売をしたい』という情報を利用する案なのだが…
「まさか一銭も払わずに男爵家を買い取ろうとしてるとは思わないでしょうね…」
「でも相手にも利益のある話だと思うけど」
ナイトバード男爵家はそんなに名門というわけでもなく、領土もあるわけではない。そして先の戦争で領内が立ち行かなくなり爵位売買という手段を取らざるを得ない状況になりつつあるのだ。
幸運なことに後継ぎがいないため現在の男爵が競り落とした相手の血縁者を養子に取り、男爵位を譲れば何も問題はなく相続できる。
といっても領内の収入がトントンぐらいなため圧政を敷くわけにもいかないことから儲からず、というか下手をすれば赤字になるような爵位に魅力はない。しかも近くにはマフィアの親玉みたいなルチアーノ家の縄張りがあることもあって、そもそも爵位売買は犯罪であるとの観点から裏競売を開催しても参加者が少なくてできないという状況になっているのだ。
「だとしても私が何で男爵をやらされるのよ!別にリグルがやればいいじゃない!何でわざわざ
「ルーミア。拒否権はないからね、って言ったでしょ?大丈夫、あのかりちゅまみたいにうー☆って言ってるだけでいいからさ。」
レミリアの名誉のために言っておくが紅魔館の住人のうち統制できていないのは従者と妹と門番と同居人と同居人の使い魔と妖精メイド達だけである。
…まぁ全員と言ったらそれまでではあるが。
リグルがローブのフードを目深にかぶるのを横目に見ながらルーミアは今日何回目になるのかわからないため息をついた。
「はあ、どうにかして金を工面しなければならないな…」
ナイトバード男爵家現当主にして、正史ではその男爵家の長くもないが短くもない歴史に幕を閉じたであろう男、シリウス・ナイトバードはため息をついた。金もなく嫁もなく、従って世継ぎすらいない。誰か爵位を買ってくれと言いたくなるのも道理であろう。
(誰でもいい。我が男爵家の爵位を買ってくれないだろうか。一応名誉といえば名誉なのだから買手は…いる。きっといるさ!)
「シリウス様。お客人です。」
「…また利息の時期が来たか。今行く」
最近のシリウスは金融業者が来るたびに利息を支払うのが日課なのであった。
「どちらの方で?」
「帝都から『買い物』に来たナイトバグとお伝えください。」
『お買い物』をしにきたと告げたルーミア一行は貧相な応接室に通された。
「…ナイトバグ殿ですか!お待たせしてすいませんな!」
「いえいえ。待っていませんとも」
社交辞令を交わした両者は本題に入る。
「彼女が『買手』ですか…」
「えぇ。正確にいうと違いますが。」
どう見ても幼い少女であるルーミアをシリウスは値踏みするような目付きで見定めようとする。
「先方は『借金を帳消しにする代わりにその子を養子としてくれ』とおっしゃっています。」
無論口から出まかせ。借金を帳消しにするのは事実だが、するのはリグルの情報屋としての人脈を使ってであり無論『先方』などは存在しない。
「ほう…」
「彼女の身元については詮索をひかえてくださいね」
どこかの貴族の隠し子、それも上級貴族の。そういった勘違いをし始めたシリウスにさらに追い討ちで『身元を詮索するな』である。シリウスはルーミアのことを完全に貴族の隠し子だと思いつつあった。…リグルの思惑通りである。
「す、少し考えさせてくれませんか!」
「先方も急いでいますのでお早めに回答をくださると嬉しいですね」
ダメ押しに回答の催促。シリウスは思ったよりも話が大きいことに興奮していた。
(上級貴族の隠し子!さらにあの知性溢れる態度!これならナイトバード家の後ろ盾になってくれるやも…あぁ!しかし、お家争いには関わりたくないしなぁ)
シリウスが悩んでいる中、渦中のルーミアは、というと
(はぁ。黙って座っとけって言われたからなんもできないじゃない!…暇だわ)
これから貴族になるかもしれない知性溢れる隠し子とは思えない思考をしていた。シリウスがそれを知れば確実に拒否していたであろうから、静かにしとけというリグルの指示は正しいものであろう。
そして、
「わかりました。彼女が成人するまで後見人を務めさせていただき、その後私は隠居する。ということで…」
「…そうですか。ありがとうございます。」
妖魔と貴族の化かし合いは終始妖魔が優勢であったようだ。
「…えぇ、本当にありがとうございました」
オリキャラ出したのでタグつけときました
追記:会話忘れたまま出してました。すいません
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予期せぬ計画の狂い。あるいは暴かれなかった暗幕
「さて、と。これでルーミアは男爵家の養子になれそうね。多分これから手続き?とかやってくれると思うから」
シリウス・ナイトバードとの会談の後ミスティアとチルノの2人にそう報告するリグル。
…対する反応はというと、
「あははは!ルーミアが!ルーミアがかりちゅま!あははッ」
「ププッー!ルーミアがかりちゅま!かりちゅまだって!」
「…何が、そんなに面白いのかしら?私に
〜少女絶叫中〜
「これぐらいで許してあげるわ。」
…ミスティアもチルノも大変ルーミアを歓迎してくれているようだ。
が、本題はそこではない。
「で、この後どうするの?あのシリウスってやつ。喰うだけじゃ能がないでしょ?」
「もちろん!後始末まで考えてあるよ。」
…妖怪は人間を畏れさせるもの。それが生存意義であり、生きる糧となるのだ。
だから、リグルは案を出す。自分たちを畏れさせつつ、自分たちには繋がらないように周到に練られた案を。
ルヴァフォース聖暦1849年、フェジテ。
その年にフェジテにて行われたことが知られるテロ事件。そのテロが行われたとされる数十分前、シリウス・ナイトバードは行政庁にて養子手続きを行い、次の爵位継承者としてルーミアを指名。その手続きを終え、中央地区から南地区に入ったところだった。
「ふぅ手続きはこれで終わりか、ん?ちょっと馬車を止めてくれないか?」
御者の証言では彼は通りを歩くローブ姿の人物を見て馬車を突然降り、繁華街へ徒歩で向かっていったという。
また、同時刻の南地区の繁華街の店の従業員の証言によると、小柄なローブを着た人物が目撃されているが関連は明らかになっていない。
そして、何はともあれ数十分後にシリウス氏は繁華街へ到着。
その後に
そう『天の智慧研究会によって』
「シリウスの乗った馬車が来たら合図。そうじゃなかった!?」
突然目の前の店で発生した爆発をリグルは理解出来なかった。
リグルはシリウスの馬車を合図にルーミアが闇を出して、最近欲求不満に陥っていたミスティアとチルノ、そしてリグル自身もひと暴れすることで畏れを得つつ、全てを『月夜の食人鬼』のせいにしようとしていたのだ。
「これって作戦失敗…じゃない?」
リグルは頭を抱えるしかない。しかし、そんな時には暴走する者が場を掻き乱して流れを変えるものだ。
「やめろー!はーなーせー!」
「おら!大人しくしろこのガキ!」
そして場を掻き乱す暴走係といえばこの⑨である。
「あたいは!『さいきょー』!なんだぞ!」
「はっ!どの口が最強だって?…へ?」
天の智慧研究会に所属していた某ロリコンテロリストはのちにこう語った。
「オレはアレのことを知らなかったんですよ…はい、凍るのだけはもう勘弁してほしいです。はい」
…フェジテで起こった大規模テロはまず、繁華街の店が丸ごと3軒凍りついたことから始まりを告げた。
「あぁ〜!私の屋台凍らせないでー!歌うわよ?歌っていいのね?」
「何でそんなもん持ってきてんの?!あと、なんでそこで歌いだす?!」
…そして次に事態の収拾を図ろうとした警備兵の視界を奪ったテロリストたちの中には。
「って。私までバレたじゃない!」
帝都にて活動の確認されていた情報屋『ナイトバグ』が確認され、天の智慧研究会との関係が示唆される。
なお、この事件による死傷者は数十人に及びその中にはシリウス・ナイトバード男爵も含まれていたという、
「…と、そういうふうに聞いたんだが?そこら辺の天の智慧研究会との繋がり、教えてくれないかね。『ナイトバグ』くん。」
いつも通り派手な服装をしたエイブラム=ルチアーノに呼び出されたリグルは用心棒にチルノを連れて会合に臨んでいた。
「はぁっーーー。関係ないですよ!あの時はちょっと予定がたまたま被ってたんですよ!」
「ほんとかぁ〜?」
「いや後ろ怖いんですけど」
いくらふざけた口調でも後ろの黒服が殺気だつのは怖い。しかも言ってる当人からして目がわらっていない。
「ちょっとフード外してくれんかね〜」
「いやですよ。だって本当にその『天の智慧研究会』との協力関係なんてないですもん。」
ここぞとばかりに素顔を見ようとするエイブラムを断固として拒否しながらリグルは狂いに狂った挙句、さらに迷走を始めたこの後始末をどうしようか。痛い頭でそれを考えていた。チルノの『戦利品』の処理も考えながら。
ロリコンテロリスト?
一体どこの何=ガニスなんだ!?
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氷精の戦利品。あるいは男の敗北
ナイトバード男爵家。
その地下室に手足を縄で縛られた『チルノの戦利品』がいた。
「なんでオレがこんな目に…」
ジン=ガニスである。
彼はフェジテで『天の智慧研究会』が起こしたテロ事件で、水色の髪をした小さい少女を襲った結果拘束されて、牢の中に放置されていたのだ。しかも、その少女たちのごっこ遊びに付き合わされながら。
「よし、次は囚われのお姫様ごっこやろ!」
「じゃあ、私は悪の帝王をやるのだー」
「待て!オレに何をやらせるつもりだ!黙って近づいてくんじゃねぇ!手に持ってる猿轡はどういう意味だ〜!」
〜少女着せ替え中〜
「ふふっ、よくぞ来たな。か弱き氷精よ」
「ふんっ!あたいはさいきょーだからな!」
「んむー!んむー!」(外せー!外せー!)
悪の帝王ルーミア(演じてるだけです)と、姫を救い出しに来た勇者役のチルノ。そして攫われた姫役のジン=ガニス。
ジンにはこれほどまでにない屈辱であった。
…おそらくこれ以上の屈辱を受けることはこれから一生ないであろうほどの。
絶妙に合っていない金髪のカツラに、顔に描かれた子供の落書き…もとい化粧。そして気持ち悪さを醸し出す明らかにサイズの合っていない女児用のドレス。すね毛はもちろん処理されず、ヒゲすら生えたままの姿は誰が見ようと気持ち悪い、そう判断するであろう醜態であった。
「あくのていおうっ!姫を返せっ!」
「下郎、この私に命令するか…まぁそれも一興だな。力づくで姫を取り返してみせよ!」
その状態で姫はない。絶対にない。
この状態を人に見られたらジン=ガニスは割と本気で死にたくなるような格好だ。もうジンは抵抗する気力すら失いつつあった。
「では、行こうか『夜符 ナイトバード』」
「じゃあ、あたいは自機だ!」
(何だ?あんな魔術初めて見たぞ?)
そんな状態のジンですらスペルカードには興味を示した。
(どういう術式だ?全く分からん。しかし無駄が多いな…観賞用みたいな魔術だ)
あながち間違いではない推測を行うジン。
この後リグルが帰って来てからの第一声で気持ち悪いと言われて心を抉られることになるが、今はただ批評こそすれその弾幕ごっこの美しさに感銘を受けていた。
「ふんっ!これで終わりだ。『闇符 ディマーケーション』」
「あっ!一回休m」ピチューン
被弾して弾け飛んだチルノ。肉片などが飛び散るようなものではないが、弾け飛んだ。そう表現するほかない状況であった。
(おいおい!仲間殺しかよ!しかも何でもないような顔してやがる…イカれてるぜ)
ジンは戦慄した。自分を凍らせて捕まえた仲間をなんでもないように殺して平然としている幼い少女のような外見をした化け物に。
(だが、所詮は子供だ。魔法を出す口を封じればどうとでも…)
そんな考えをしていたジンだったが
「あぁ、そうそう。」
いつのまにか
「あなたが逃げようとしたら」
目の前にいた少女の
「遠慮なく足の先から頭のてっぺんまで」
紅い瞳と目が合った。そして、
「骨の一片も残さずに喰ってあげるから、よろしく」
…背筋も凍るような声がその背中を貫いた。
「で、あなた『天の智慧研究会』の魔術師であってるんでしょ?」
ルチアーノ家との会談の後、情報を蟲達の話から入手していたリグルはジン=ガニスを使って蟲の情報だけでは不十分だった『天の智慧研究会』の情報を入手しようと思っていた。しかし、
「オレだって!オレだってなぁ!好きでこんな格好してんじゃねぇんだよぉ!」
「その話はもう終わりだって!さっさと話して!!」
屋敷に戻ってきたリグルの心無い一言「えっ、気持ち悪っ。誰それ」がジンの心をえぐったことで話がもつれていた…
「落ち着いた?」
「…あぁ。着替えさせてくれてありがとよ。が、残念だったな!天の智慧研究会についてしゃべるわけねぇだろこのガキ!」
「別にいいけど。」
「…は?いいのか?」
天の智慧研究会について尋問されると思っていたジンだったがリグルはジンの縄をほどいて解放しようとしていた。
「ちょ、ちょっと待て。いいのか?お前らの上司とかに怒られんだろ?」
「ん?もしかして
「こいつはあんまり美味しそうじゃないけど頑張って食べるのかー」
すでに包丁の準備を始めたミスティアと嬉しそうにしているルーミア。
それをみたジンは
「お、おいまて!オレにゃまだ利用価値とかあるだろ!そ、そうだ!
(こんなところで死んでいられるかっての!)
「ふーん。じゃあそれ結ぼっか」(ほんとは蟲の巣を体に埋め込もうと思ってたんだけど…)
(ミスった!こいつらに乗せられて言っちまった!)
しかし、実際命は助かったのだから儲けものだろう。
…蟲の巣を埋め込まれて余命数週間になって体を蟲達に喰い破られるよりかは。
「それじゃあ
「嘘だろ…」
兎にも角にもジンの命は少しは伸びたようだった。
常識は持っていても良識を持たないリグル。
妖怪だから仕方ないね!
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情報屋の活動記録。あるいはジン=ガニスの最高で最悪の日
「本当なんだろうな…」
「うん、本当だよ。私を誰だと思ってるんだい?」
リグルは情報屋『ナイトバグ』としての仕事を朝早くから行っている。
無論情報屋としての信頼を第一に決して嘘はつかない良心的な情報屋である
…不埒者たちは騙されたと言いながら特務分室に特攻したようだが。
リグルのような弱小妖怪(自称)は長いものに巻かれるものである。
「これが代金だ。」
「はいはい毎度あり〜…っと。ふむ、『天の智慧研究会』の連中がどこで活動してるのかそろそろ聞いとこっかな。」
リグルは朝起きた時に聞いておいた蟲たちに情報を聞きに行ったようだ。
ちなみに四人?の中でこういう陰謀に頭を使うのはリグルの役回りとなっている。
ルーミアは力押しで、チルノは自爆特攻を、ミスティアは相手の撹乱に回る。そういう役を決めているのだが、最近リグルは『自分以外戦闘しかしてないような…?』とまずいことに気づきつつある。
「だいたいだけどフェジテの拠点はわかったかな…」
…なお、今回の偵察に使った蟲は黒光りする例のアレなので先遣隊には3匹の尊い犠牲が出たことをここに明記しておく。
彼らの勇気によって酸と毒を操る猟奇殺人者には消えないトラウマが植え付けられたのである。
「はあぁ…とりあえずさ、あんたフェジテの拠点に帰らしてあげるから
「
「あ、ごめん忘れてた!」
リグルは結構チルノの相手などで疲れが溜まっているのだ。
話をしているジン=ガニスも濃い三日間を過ごして頬がこけていて、だいぶ疲れているようだ。
「ま、オレは帰らせてもらうわ。あと、わかってるだろうがあのチルノとやらだけは連絡によこすんじゃねぇぞ!絶対だからな!」
「あはは…ルーミアか私しか行かないと思うよ。っていうか三日も留守にしてて大丈夫なの?」
チルノとミスティアを連絡に送った場合を考え、即座に伝言ゲームになるという結論に至ったリグルはそう答える。
実際はルーミアも緊急の時以外は特務分室の目を鑑みて外に出さないだろうが。
そもそもジンの
「あのな、俺も含めて協調性があるとでも?」
「確かにね。じゃ、バイバーイ!定期連絡忘れないでね〜!」
ジンは地獄から解放された喜びを噛み締めながらフェジテの街へと消えていった。
そして、リグルも店仕舞いの時間とばかりにさっさと荷物をまとめて男爵邸への帰宅準備を始めた。
ただでさえテロが起きたばかりなのだ、こんなところで手持ち無沙汰にしていたら特務分室が飛んできてしまう。
「…しっかし蟲のかわいさを何で人間はわかんないのかな〜?」
その日の夜。猟奇殺人者でなくロリコンテロリストやフェジテ警邏庁の若きエリートまでもが大の虫嫌いになったというが、目が覚めたら顔に蛾だの何だのが張り付いていたことが原因だったのかは定かではない。
アンケートでルーミアに次いで多かったリグル中心です。
次は…第⑨話…だと?!
予想以上に続いて喜ばしいです。
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さいきょーの冒険。あるいはブラックリストの更新
9話だからか!⑨話だからなのか!
フェジテ近くが拠点でも『ナイトバグ』の主な活動場所は帝都である。
「あっ、じゃあチルノちゃん見張りよろしくね~。」
リグルはいつものごとく、帝都で情報屋として脛に傷のある輩との商売にいそしんでいた。
ちなみに帝都で『ナイトバグ』というと幼女を護衛に連れまわすロリコンという認識であるが、本人は幸運にもそれを知らない。
「ふぁ~い!」
まぁ氷精はアイスでご機嫌なので一人で見張りに使っても不審に思われないのが救いではある。
…ただし集団だと犯罪臭がすごいのはご愛敬だ。
「…ふむん?特務分室関連の情報は高いよ~?」
そして、氷精の冒険が幕を開ける!
…始まりは唐突に訪れた。
「あっ!もうアイスない!」
…アイスは食べればなくなる。自然の摂理である。
「むぅ…。待てよ?また買えばいいじゃない!」
…交渉中のリグルをおいて、チルノ(無一文)はアイスを無事、買うことはできるのか?
「あたいったらさいきょー!」
「なんで買えないのよっ!」
まぁ結果としては買えないのはわかりきっているのだが…
金がないチルノに応対してあげているアイスクリーム屋はとてもやさしいいい人である。
「ごめんよ、嬢ちゃん。そんなにここが気に入ったならまた買いに来てくれや!」
「むぅ…」
すごすごとその背中に哀愁漂わせながらアイス屋の前を立ち去るチルノ。
そして…
「ふむ。そこの嬢ちゃん。アイス、食うかい?」
アイスを手に持ち声をかける好々爺に対し
「たべかけなんていらないもんっ!」
チルノは無慈悲に拒否を告げた…
「おいし~!」
「はははっ!それはよかった!」
隣に座る水色の髪の少女。
(で、この後を考えておらんかったな…)
特務分室No.9≪隠者≫バーナード=ジェスターは彼女にアイスをおごっていた。
「はむっ」
もともと今日は休日なので帝都の見回りもかねてゆっくり過ごすつもりだったのだが、途中で入ったアイスクリーム屋にブラックリスト入りしている少女がいたのだ。
(蘇生能力…にわかには信じがたいのぉ)
バーナードは天の智慧研究会を代表とする外道魔術師を何人も見てきた。
だからこそ、『Project: Revive Life』を見てしまったからこそ、不死を目指す者達の狂気を知っているのだ。
(しかし、この少女は…)
不死に関する狂気は周りの者も侵すのだ。検体となったものは尚更、狂わなくともどこかが壊れる。
しかし少女はあまりにも普通。
だからだろうか、少女の奥底深くに底知れぬ狂気が眠っているかもしれない。そう思うのは。
そんなことを思われているチルノは…
(アイスおいし~)
のうてんきなまま、アイスを堪能しているのだが。
しかし、バーナードの考えも当たらずとも遠からず。
チルノはどれほど普通の人間に見えようとも、その背中に折りたたまれた氷の翼が人外であることを指し示している。
人間ですら妖怪のえさとなる現状を許容し、それを維持しようとする者がいる幻想郷の出身となれば精神性は人間と著しく乖離しているのだ。
精神性は平穏より危機の時にこそその真価を発揮する。だから、チルノの異常性が発覚するのは今ではない…
「じゃ!お代は受け取ったしチルノちゃん!帰ろ…っか?」
その日チルノは数回ピチュり、リグルはマスケット銃と鋼線で熱い歓迎を受けた。
そして、バーナードの手によってブラックリストの『ナイトバグ』の備考欄にロリコンが追加され、チルノはご飯を抜かれた。
「…最悪の気分。」
「リグル、⑨の世話は頼んだわよ。」
ついでにルーミアはボロボロになった。
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封印への対処。あるいは特に湧かない郷愁
ルヴァフォース聖暦1851年、フェジテ近郊。
ナイトバード男爵邸では四人の少女が談笑していた。
『月夜の食人鬼』ルーミア=ナイトバード
…数年前に帝都で連続殺人事件を起こし、今もなお帝国中に被害者を出している連続殺人鬼にして今代のナイトバード男爵である。
『情報屋ナイトバグ』リグル=ナイトバグ
…帝国中で暗躍し、特務分室や天の智慧研究会の追手から逃げること数百回。その情報網の一端すらつかめない謎の情報屋である。
『不死の氷銀』チルノ
…ナイトバグの護衛を行っており、少々頭は回らないようだが何度倒しても姿が確認されることや、ナイトバグの『この⑨め!』という発言から量産された人造人間ではないかと疑われナイトバグの推定危険度を上げることとなった少女である。
『ヤツメウナギ屋』ミスティア=ローレライ
…夜中に営業していることから特務分室御用達になりつつあるフェジテの屋台の女将だ。ヤツメウナギの入手ルートは専らルーミア頼みなので、帝国中にルーミアの活動が広がっているのはひとえにこいつのせいである。
…帝国の特務分室が見れば(一人除いて)全員確保してしまいたいような連中。
普段はミスティアしか寄り付かないナイトバード邸に彼女らが集ったのには理由がある。
「私の髪に結んである封印。解いたほうがいいかしら?」
ルーミアの枷であり、現状唯一の幻想郷との繋がりになっている封印の扱いである。
「私は解くべきじゃないと思う。それを解いたら帰れなくなりかねない。」
「別に好きにしたら?ってかルーミアおっきくなったわねぇ」
「なんで焼き鳥がフェジテから消えないのよぉーー!」
リグルしか話を聞いていない。
ちなみにルーミアはリグルしか呼んでいないが、チルノは護衛できただけでミスティアはヤツメウナギを受け取りに来ただけだ。
「まぁあの隙間の妖力と博麗の巫女の霊力、どっちも練りこまれてるから『道標』としては最適…というかこれしかないからねぇ。」
しかし、ルーミアはこうも思っている。
「…でも、帰る必要ってなくない?」
そう。幻想が濃く、畏怖する人間は幻想郷とは比べ物にならず餌としても美味。隙間妖怪や博麗の巫女風情に管理された幻想郷よりずっと住みやすい。すでにルーミアやリグルは畏れを得て少し成長しており、少し大人びた感じになっている。
「それはそう…ねぇ」
「向こうには煮ても焼いても蘇る焼き鳥屋がいるから撲滅できないしねぇ」
リグルもミスティアもその意見には納得する。そして、こちらに永住するならルーミアの封印はルーミアを縛る枷でしかない。
「…でも、向こうには大ちゃんがいるぞ?」
しかしここで素朴なチルノの言葉は3人の幻想郷への郷愁と大切な知己たちを思い返させる。
(薄ら笑い浮かべて扇子振ってる怪しいヤツにお祓い棒振り回してる
(花を踏んだら『滅っ』してくるアルティメットサディスティッククリーチャ…)
(胃の中にブラックホール抱え込んでる亡霊姫にレーザーぶっ放してくる白黒の泥棒…)
(((懐かしいなぁ…でもあんまり会いたくないなぁ…)))
「…ひとまず封印は保留で行くわ。」
「それがいいと思う…」
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第一部
原作の開始。あるいは変わらない日常
ルヴァフォース聖暦1853年 フェジテ
「はい、今日の授業は自習にします。」
「…眠いから。」
新しくやってきた講師の授業はその一言で始まったらしい。
しかもその授業は日に日に悪化しているだの、女子更衣室に侵入しただの…
「くだらないわね。」
その講師の名前は『グレン・レーダス』というらしい。
…ルーミア・ナイトバードにとっては関係のないはなs「えぇ!あなたは授業にほとんど出てませんからねぇ!」
目の前で怒りを顕にしている銀髪の美少女をルーミアは、
「…図書室では静かにするものよ?」
冷静にたしなめると、いつものように読書に戻った。
___
ルーミア・ナイトバードがこのアルザーノ帝国魔術学院に通うようになったのにはいくつか理由があるが、第一の理由として幻想郷に戻るための何らかの手段を手に入れておく、ということがある。
…もしもだが、スキマだの巫女だのに先手を取られてしまうと、万が一にもないが、もしかすると後れを取ってまた封印されてしまう恐れもある。万が一にもないが!
まぁ実のところは、
「ルーミア…結構、怪しまれてるわよ?ナイトバードのご令嬢は引きこもりだ、って。」
…引きこもりなどという不名誉な称号をあまり持ちたくないという理由も存在している。
そういう背景から入学しただけであってルーミアは授業を受けに来たわけではないから、最低限落第しないだけの授業だけを受けるだけで基本的に授業には出席していない。
ダメ講師といわれる男の授業ならなおさらだ。
「…ごめんね?ナイトバードさん。システィがそのグレンさんって人に『真面目に授業をしろ~』って言って決闘を吹っ掛けちゃって…」
「…あぁ、そう決闘ね。あの娘ならしそうなことよね…え?」
ダメ講師という評判があるにせよ、曲がりなりにもこの学園の講師である者に?
ルーミア自身も授業にほとんど来ないからか、いつも説教をしてくるシスティーナらしいといえばらしいが…
(その講師に負けて私に対する説教も減ってくれれば嬉しいのだけれど…)
「…勝ったんだけど…」
「ふーん。勝ったの?だからいつもより説教に張りがない…うん?」
そのグレン何某とかいうやつは本当に講師なの?
そういわんばかりに驚愕する。生徒に負けるレベルの魔術を教える講師などお笑い種ではないか。
(いや。その講師があの娘の実力を舐めてかかっていただけかも)
「…3本勝負だ!っていって負けても負けを認めずに突っ込んできて、またシスティに負けて…」
「そうよね。その男もシスティのことを舐めてたから本気を出し…はぁ?!」
そいつ、決闘で負けを認めなかったどころか本気を出して生徒に負けたの?
幻想郷基準でいうなら慧音がチルノとの弾幕ごっこに負けて、チルノ相手に本気のスペルカードを撃ってさらに負けるようなものだ。
そもそも慧音ならばチルノとの弾幕ごっこに負けないし、負けた後で抵抗するような見苦しい真似はしないだろうが。
「…最後には、そんな決闘なんか知らない、って言いだして…」
「その恥知らずな男はまじめに授業をしていない…と。」
そういう話ならば、おそらくシスティーナはその男に失望したのだろう。
ルーミアとしても、その男に思うところはあるがあの娘は魔術を神聖不可侵なものとしてみている節がある。
なおさら、その講師が決闘の約束を反故にしたのが許せないのだろう。
「…ま、それなら事情は分かったわ。システィーナがその講師をクビにさせたいっていうなら私も…」
「いや、違うの!グレンさんはどうもこの学園の非常勤講師を辞めたいらしくて…」
それならなんでこの学校に赴任してきたのだ。
ルーミアは理解できずに頭を抱えざるを得なかった。
___
グレンを引きこもりから脱却させたのはいいが、まじめに授業をしない、という苦情に加えて生徒との決闘に負けたという醜聞まで。
(もう、戻れないのか…昔のお前には…)
「あ、どうも。アルフォネア教授。」
「あぁ、さようなら。ルーミア君。あまり遅くまで根を詰めるものでもないぞ。」
そういえば。とセリカ=アルフォネアは思い起こす。
(昔いた『月夜の食人鬼』。グレンの言っていた金髪紅眼の少女…)
最近は話を聞かないが、もしもまっとうに生きていたとするなら…
(あぁいう風に育っていたりするのかもな…)
少しばかり感傷に浸りながら、ルーミアの後ろ姿を見送るのだった。
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ダメ講師の復活、あるいは妖魔とのニアミス
諸般の事情()で遅れました。
一つだけ言わせてもらうことは、ネット小説には名作が多いということです。
面白くてついつい沢山読んでしまいますね...
「で?聞かせてもらおうじゃないか。こんな人気のない場所へか弱い俺を連れ込んだ理由を。」
「だから!授業に出てこないルーミアを図書室から引っ張り出してって言ってるの!いかがわしい言い方をしないで!」
グレン=レーダスの授業はある日を境に素晴らしいものへと様変わりした。
生徒からの評価もうなぎ上りで、セリカの弟子自慢も終わることはない。
そして、グレンへの評価を改めたのはシスティーナもだった。
「今のあなたの授業なら、あの引きこもりを図書室から引っ張り出す価値があるわ。」
「まるで前の俺の授業にはその価値がなかったみたいじゃないか」
「何回もルーミアさんを図書室から引っ張り出そうとしてるんですけど言葉巧みにかわされるんです...」
「そう!だから毒を以て毒を制す!あなたの口車でルーミアをその気にさせて頂戴!」
「無視かよ...」
システィーナにとって、グレンというダメ講師が覚醒したのならばルーミアという図書室の引きこもりも覚醒させられるはず、という計算があった。しかもグレンと違いルーミアは図書室で魔術を学んではいる。授業に来ないだけでそれなりの素養はあるのだ。
「でも授業に出なけりゃ出席日数が足りないんじゃないか?」
「...ルーミアさんはナイトバード男爵なんです。」
「それを笠にして、領地経営に忙しいとか言って授業の出席は任意ってことにさせてるの。その分テストとかじゃ損するから別にいいって教授陣は言うんだけど...」
ルーミア=ナイトバードは図書室で魔術の勉強をしたらそのまま帰る生活を
「領地経営が忙しいっていうのは嘘だったのよ!確かめてみたらほとんど代官に任せっきりだったし!」
「だからシスティは休み時間に説得しに行くんですけど...」
「のらりくらりと交わされる...か。」
グレンは思った。
そんな生活は許せない、と。
グレンだってセリカに養ってもらいたかったのに、自堕落な生活を送りたかったのに、と。
悠々自適に学院生活を送るなんて到底許されざる行為なのだ。
「行くぞ!システィ!ルミア!性根を叩き直してやる!」
「ちょっ、さっきまでめんどくさそうにしてたのにいきなり?」
「ま、まぁやる気になる分にはいい...のかな?」
義憤(?)に駆られたグレンはそのまま図書室に乗り込んだ。
だが。
「...おい。居ないんだが。」
「...いない、ですね。」
「...そういえば毎日来てるのはあいつの趣味だったわね。」
この後、ナイトバード男爵邸に乗り込もうとしたグレンをシスティーナとルミアの二人が必死に止めることになるのはまた別の話である。
_____
その頃ルーミアが何をしていたかというと。
「へぇ...フェジテ学院を襲撃、ねぇ。」
「当日は講師全員学会に出張、ただし私のクラスだけ居残り学習...か。」
「そうさ。ちゃんと情報源として話してるんだからあの氷野郎は二度と連れてこないでくれよ!絶対だからな!」
機密情報をぺらぺらと話すジン=ガニスの前にいた。
チルノは館の外でカエル相手に遊んでおり、ミスティアはヤツメウナギの仕入れ中。
なのでリグルとルーミアの2人で話を聞いている。
「私は当日休むわ。勝手にしといて?」
「ま、ルーミアはこの館の代わりに図書室で引きこもってるから登校してもしなくても関係ないもんね。」
「...本当にいいのか?お前のクラスメートだろ?」
別にいいんじゃない?
そう答えたルーミアにジン=ガニスは戦慄した。
だが、それと同時に。
「ありがとよ!あんたらがいなけりゃ何も問題はない!」
ジン=ガニスは襲撃の成功を確信した。
舌なめずりをして標的とその友人の写真を確認する。
「もう何も怖くねぇ!」
そう言って館を飛び出していったジンだったが...
「あ、行っちゃった...チルノとでくわしたりしなかったらいいけど...」
「そういえばダメ講師の授業が良くなったとかシスティが言ってたけど...ま、いっか。」
ジン=ガニスの明日はどっちだ。
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