ウマ娘短編集 (固床式)
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1話:今日も君と

現代、ウマ娘たちは全世界共通のインフルエンサーになりつつあった。

たとえば、その先頭を引っ張っているゴールドシチー。モデルなどでも活躍している彼女を見て、感化されたウマ娘がここに1人。

 

「おい」

 

「んぇ?」

 

彼女の背中に問いかける。彼女は肩越しに振り返る。その横顔は整っており、美しい。某ウマ娘オタクが見たらおそらく血を出して倒れるだろう。しかし、この声をかけた人物はそうはいかない。なぜなら、彼女が今していることに意識の大部分が集中しているからだ。

 

「What are you doing now?」

 

「そんなの決まってんだろ」

 

あまりに奇想天外、普通ならば思いつきもしないことをしているのを目撃したトレーナーは英語で問いかけてしまう。長年の海外留学の弊害か。しかし、問いかけられた彼女はそれに淡々と答える。

 

「見てわかんねーのかー?シチー作ってんだよ。」

 

「」

 

トレーナーは察した。『何故か』『トレーナーの家』で彼女がしていることを察してしまった。トレーナーが帰ってきて目にした光景。机の端にあるシチーが載っている雑誌。そして机の大部分を占めている何かわからない物体。肝心の彼女の目の前で完成間近に迫っている本物そっくりの1/16スケールのシチー人形。そう。彼女はシチーの輝きを目の当たりにし、何を思ったか『シチーになる』のでは無く、『シチーを作った』のだ。

 

「·····取り敢えず、飯にするぞ。」

 

「おーう♪」

 

彼女は作業をとめ、手を洗いに行った。奇想天外な彼女だが、こういう所をしっかりしているからこそ、みんなに愛されているのだろう。まあ、俺もその中の1人になってしまっているのだが·····。

 

「さて、と。」

 

今日の夕飯は日本食。米に味噌汁、秋刀魚に肉じゃが。予め作ってあるので温めるだけだ。味噌汁に細工がされてないかの確認も済ませた。肉じゃがも、冷やして味を染み込ませる作業もした。彼女を満足させる準備は万端だ。

彼女が戻ってくる足音がする。大きな声で歌いながら戻ってくる。もう、出会ってどのくらいだろうか。彼女のトレーナーになって以来、振り回されっぱなしで、苦労も多いが楽しい毎日を過ごしている。もはや、彼女のいない生活は考えられない。きっと、彼女が走るのを辞めても、ここで一緒に騒がしい日々を送っていくのだろう。

以心伝心、それをも超える存在になっている彼女の喧しい声を聞きながら、トレーナーは盛り付けながら言った。

 

「ゴルシ、飯だぞ。」




自分がいるdiscord鯖で思いついたものをここに残そうと思います。

ほぼ確実に投稿頻度が低いので続きは期待しないでください。

ゴルシは優しい子。


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2話:タガタメ

彼の寝顔を見るのが好きだった。

安心して寝ているその姿に、可愛さや庇護欲を感じてしまう。彼の寝息をBGMに、ゲームに興じることも少なくない。

 

 

彼の働いている姿が好きだった。

真剣な表情で卓上の書類を見つめる彼は、かっこよかった。それを見つめすぎて、何度彼に心配されただろう。

 

 

彼の仕草が好きだった。

時折、右の前髪を弄る姿がとてつもなく可愛かった。それを見たいがために何度彼と無駄話をしただろう。

 

 

彼との食事が好きだった。

口いっぱいにカレーを頬張り、ほんのり微笑む彼の顔を見ながら食べるご飯は、これまでのご馳走が霞んでしまう程美味しかった。最近は彼が忙しくて食べれてない。また食べたいなぁ。

 

 

彼の作る食事が好きだった。

彼の部屋に上がり込み、レースに負けた悔しさを彼にぶつけてしまった時、静かに出してくれた温かいお味噌汁。食べた時に泣いてしまって、酷い顔を見せてしまった。今思い出しても恥ずかしい。

 

 

彼の横を歩く時が好きだった。

彼の方が身長が高いから歩幅も違うはずなのに、歩幅を合わせてくれたのが嬉しくて、いつもわざとゆっくり歩いていた。見上げると彼の顔が見える彼の横は、嬉しさと恥ずかしさでどうにも緊張してしまう。

 

 

彼の背中を見るのが好きだった。

普段あまり見ないそれは、不思議な高揚感が湧き上がるものだった。きっと、まだまだこれには慣れることがないと思った。

 

 

彼の声が好きだった。

彼の声を聞きながら走るのはとても楽しい。安心するし、不思議と視界が広くなる。彼からのエール以上に走っている時に聞けて嬉しいものは無い。

 

彼の瞳が好きだった。

純新無垢という言葉がピッタリ当てはまるくらいのキラキラしたあの目がとてつもなく可愛かった。その瞳の真ん中に映っている姿を見つけたその時、嬉しさに心から震えたのを未だに覚えている。彼が「風邪か?!」と心配してくれたのが嬉しくて、顔を赤くしながら否定するとますます心配して保健室までお姫様抱っこで運ばれた時は顔から火が出そうだった。

 

 

彼のことが好きだった。

自分を見てくれた。信じてくれた。託してくれた。語ってくれた。支えてくれた。怒ってくれた。悲しんでくれた。喜んでくれた。そばにいてくれた。遊んでくれた。夢見てくれた。そして何よりも。

 

 

 

 

 

好きでいさせてくれた。

 

 

 

 

 

周りは無理だと言った。諦めなかった。諦めたくなかった。見返したかった。「どうだ!」と言ってやりたかった。認めさせたかった。認めて欲しかった。

 

 

 

 

 

こんな私を、受け入れて欲しかった。

 

 

 

 

 

彼は、全て受け止めてくれた。

 

そんな彼のために走った。

 

周りを置き去りにして走った。

 

直線で、彼が見えた。

 

私を、信じていてくれた。

 

有馬の舞台を、私のレースを、見ていてくれた。

 

思いが溢れる。

 

その全てを、目の前の彼に伝えたい。

 

私を優しく見つめる、彼に伝えたい。

 

でも、全部伝えるなんて無理だ。

 

恥ずかしくて、言えない。

 

だから、届け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、トレーナー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、タイシン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




終盤に行くにつれて早くなる不思議

※追記 誤字報告ありがとうございます!


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3話:夢の話

今回、アニメ版に基づいてます。


夢を見た。

 

叶わない夢だ。

 

 

でも、悲しくない。

 

“みんな”がいるから。

 

 

今いるこの場所に、みんながいるこの場所に、私は。

 

 

どこかで、見てくれていますか?

 

お母ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『——さあ、最終コーナーを回る!最初に出てきたのはセイウンスカイだ!』

 

12月の曇天。冷たい空気を目いっぱい吸う。

 

『——外からエルコンドルパサーが来ている!外からエルコンドルパサーだ!グラスワンダーが後ろに着けている!最後の直線に入る!スペシャルウィークまだ出てこない!』

 

前を走るみんなを見る。

1番前で逃げていくスカイちゃん。やっぱり、レースの時の真剣な顔、かっこいいよ。

エルちゃん。やっぱり強いね。なかなか背中が大きくならないや。

グラスちゃん。いつもの努力、怖いくらいにレースで出てるね。前に出させてくれないや。

キングちゃん。いい位置をキープされちゃって苦しいや。レース運びじゃ勝てないなぁ···

 

 

やっぱり、みんな強いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、勝つよ。絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『——おおっと!ここでスペシャルウィーク上がってきた!スペシャルウィーク上がってきました!最後の直線!ラストスパートです!伸びる!伸びる!加速していく!残り200を通過!まだ伸びる!エルコンドルパサーとグラスワンダー追いすがる!スペシャルウィークまだ伸びる!』

 

 

お母ちゃん、見てますか。

 

日本一のウマ娘に、なるよ。

 

 

『スペシャルウィーク!スペシャルウィーク!1着はスペシャルウィーク!2着にエルコンドルパサー、3着グラスワンダー!スペシャルウィーク、最後の直線で驚異的な伸びを見せました!未だに観客席からの歓声止みません!いやぁ——』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——今、走ってる時、最後に何か背中を押されたような——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よく、頑張ったね。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声のするほうを向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しっかり、見てたよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、2人のお母ちゃんがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おめでとう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人分の“おめでとう”を貰う。涙が溢れる。

まわりにみんなが来てくれる。スズカさんも、スピカのみんなも、一緒に走ったみんなも、トレーナーさんも。

 

 

『お母ちゃん、ありがとう。私、勝ったよ!』

 

 

2人のお母ちゃんに、笑顔のピースを送る。私は、頑張れる。これからもずっと。

 

だから、お母ちゃん。一緒に歩けなくても大丈夫だよ。一緒にご飯を食べたり、喧嘩したり出来なくても大丈夫。スピカのみんなやトレセン学園のみんな、トレーナーさんもいるから、大丈夫だよ。

これからも、お母ちゃん“達”に勝った姿、見せるからね!

 

 

 

 

 

だから、トレーナーさん。

 

これからも、私をよろしくね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日常感が急になくなって申し訳ない····

水着スペが当たったので勢いで····

運営さん、3000ジュエルありがとう!


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4話:君のために

「······はぁ」

 

モルモット君がため息をついている。日頃、私の実験に文句のひとつも言わず付き合ってくれている彼が、だ。

 

「···どうしたんだい?モルモット君。ため息なんて君らしくないじゃないか。」

 

一抹の不安を覚えながら彼に尋ねる。万が一、私がしたことだったのならば····

最悪の展開が頭によぎる。契約解消だけは避けたい。彼は大事なモルモットであり、トレーナーだ。

 

「いや、気にしなくてもいいよ。大丈夫だから。」

 

やはり。彼はそう言うと思っていた。モルモット君はあまり自分のことを語らない。と言うよりも語ろうとしない。お陰で以前過労から来る貧血で倒れられたことがあった。

 

「····それは本当かい?トレーナー君。」

 

「····大丈夫だよ。ほら、実験に戻らないと。」

 

確認を取るもやはり『大丈夫』だと言う。トレーナー君の顔を改めて見ると、少し赤くなっている。恐らく、今日は早朝からの実験ではなかったため、夜遅くまで練習プランを練っていたのだろう。私のためにやってくれるのは嬉しいが、もう少し自分の体を労わってほしい。

 

「····やめよう。」

 

気付いたら声に出していた。トレーナー君はこちらを見ている。まるで、こう、うん。

 

 

 

 

 

····なんだろうか、この胸の高鳴りは。トレーナー君の、赤く紅潮した顔を見ていると、こう、何故か護りたい。いや、世話したくなってしまった。これが庇護欲というものだろうか?

 

「トレーナー君、君は今日は休みなさい。」

 

「え·····」

 

「ほら、特別にこの私が君の看病をしてあげよう!」

 

「····え?!」

 

トレーナー君が驚いて少し大きな声を出す。こちらを見ているトレーナー君に向けて高らかに宣言する。

 

「喜びたまえよ?私が直接君をお世話してあげるのだから。」

 

私はトレーナー君を促し、トレーナー寮へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮の部屋に着くとトレーナー君は立つ気力も危うかったのか、すぐに倒れ込んでしまう。体からは熱が出ている。やはり風邪か。仕方ないので、靴をぬがせ、スーツから部屋着に着替えさせて布団まで運んだ。

日頃から整理してあるトレーナー君の部屋。そんな綺麗な部屋の一角には積み重なったトレーナーノートが見える。彼がいつも書いているものだ。ほんとに、彼は優秀なトレーナーだとつくづく思う。

 

「····まあ、働きすぎでこうなるのも君らしいか。」

 

既に眠りに落ちている彼の体に布団をかけ、濡れタオルを額に乗せて様子を見よう。彼の横でノートPCを起動する。実験データの打ち込みを済ませよう。でも、その前に。

 

 

パシャッ

 

 

寝顔を撮る。スヤスヤと眠っている彼はとても可愛く見える。スマホの待ち受けにしておこう。恐らく、トレーナー君も見ないだろう。

 

おやすみ、トレーナー君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最推しタキオンSSやっと書けた·····!

ちなみにですが、写真を撮った時にはまだトレーナー君の意識はありました。寝てません。ベタですが。


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5話:煮込まれた気持ち

今日も、また、消えていく。

 

 

 

 

 

以前まではまだ、良かった。十分に蓄えもあったため、余裕を持てていた。しかし、トレーナーの給料でもまかないきれないほどの出費が出た。その元凶が、目の前にいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·····なぁ」

 

「どうした?トレーナー」

 

目の前で考えられないような量を食べ続ける、俺の財布を空にした元凶。その名も“オグリキャップ”という大食らい。

 

「まだ、食べるか?」

 

「いいのか?!」

 

キラキラとした瞳で見つめ返してくるオグリ。そんな顔で見られたら断れる訳が無い。ゆっくり、下手なマリオネットのようにぎこちなく頷く。するとオグリはさらに明るい顔をしてどんどんと目の前に運ばれてくる食べ物を消していく。同時に、俺の財布の中身も消えていく。

 

「···なぁ、オグリ。」

 

「どうした?トレーナー」

 

丁度、財布の中身ぴったりに食べ切ったところで話しかける。大きく膨れたお腹で、満足そうな顔を向けてくる。とても、人の財布を空にした顔とは思えない。かわいいから許すが。

 

「···もう、財布の中身がないんだ。」

 

「···足してくれ。」

 

「無茶言うな。」

 

まさかそんな無茶を言われるとは思ってなかった。確かに、オグリのご飯は全て俺が持つと決めた。しかし、さすがに出費が痛すぎる。なので、提案する。

 

「なぁ、今後のご飯なんだが···」

 

「っまさか、もう食べれないのか?!」

 

とても悲しそうな、絶望の目を向けられる。頼む、違うからそんな目で見るな。罪悪感で死ぬ。

 

「違う、違うから!」

 

「そ、そうか···?」

 

ほっとした顔でこちらを見つめるオグリ。お前は拾われた仔犬か。すげー可愛いぞコノヤロー。

 

「あのな、今後のお前の飯は俺が作ろうと思う。」

 

「いいのか?!」

 

え?そんなに嬉しいこと?オグリはすごいワクワクした顔で俺を見ている。しっぽもブンブンと振り、心無しか何故かオグリのミニキャラがオグリの肩でぴょんぴょん跳ねている気がする。

 

「ああ、今晩から作ろうと思ってな。」

 

そう、今は昼。ついさっき金は消し飛んだ。夕飯の材料は家に揃えてある。彼女を満足させる料理を作らねば。

 

「じゃあ、今日はトレーナーの家にお泊まりだな!」

 

············え?

 

 

 

 

 

今、なんて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夜。トレーナー宅。

 

食卓前では待ちきれないかのようにオグリがソワソワしている。涎を垂らしながら、こちらを見つめるオグリ。彼女のために今日作る料理は、鍋。その中でも俺が1番好きな寄せ鍋を作ることにした。自分の分は少なくても済む。だが、オグリには目いっぱい食べて欲しい。だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「できたぞ。オグリ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




昨日投稿できず申し訳ない····っ


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6話:素直の条件

ウマ娘でも、風邪は引く。

そこは、人間と同じだ。ウマ娘も人間であると実感出来る、とトレーナーは思った。まあ、人間よりもかかる頻度は圧倒的に少ないが。

 

ここは、トレーナーの自宅。トレセン学園近くの住宅地に建つ一軒家。1人で住むには広いが、トレーナー職に就いているため、空き部屋のほとんどは本棚とそれに納まったトレーニング関連の本で埋まっていた。相手の研究資料に、担当のウマ娘のトレーニングメニュー。トレーニング教本もずらりと並べられている。たまに、ここで複数人のトレーナーが集まり研究会が開かれたりもするらしい。

 

話題を戻そう。

そう、ウマ娘でも風邪は引く。が、本日。

 

「····うぅ····」

 

そう。トレーナーの担当している子が体調を崩した。医者の診断によると、風邪ではなくてインフルエンザらしい。

そして、インフルエンザでは寮のみんなへ感染してしまう可能性もある。そこで、トレーナーの家で療養することになった。理事長の許可は取り、更にはトレーナー自身も1週間の休暇を取った。

 

「うぅ、すみません···トレーナー·····」

 

トレーナーが氷枕を交換するために部屋に入ると、高熱で苦しく、赤い顔をした彼女に開口一番謝罪される。それに対してトレーナーは明るい顔で「大丈夫だよ。」と答える。

 

「何か食べたいものはある?」

 

いくら高熱で食欲が低下していたとしても何か口に入れなければ、ウイルスには勝てない。今は昼前。少し近くのスーパーまで買い物に行くので、ついでに彼女に聞いてみるトレーナー。

 

「でしたら、桃缶を···」

 

普段とは全く違う雰囲気を纏っている彼女。いつもの活発さはなりを潜めていて、髪型も変わっているのでまるで別人のようになってしまっている。

そんな彼女のためにも、と立ち上がろうとしたトレーナーの手を彼女が掴む。彼女は少し朦朧としているような目でトレーナーを見つめている。その目を見たトレーナーは彼女の頭を優しく撫でる。

 

「えへへ····」

 

撫でられている彼女は気持ちよさそうに目を細める。それを見ながらトレーナーは少し額に手を当て熱を確認し、濡れタオルをその額に乗せた。そのひんやり感が気持ちよかったのか、彼女は嬉しそうにトレーナーを見た。そして。

 

「ありがとうございます···好きですよ、トレー···ナー···」

 

そう言い、眠りについてしまった。言われた側のトレーナーは、片手は彼女の頭を撫で、もう片方は彼女と手を握った状態でフリーズしていた。ある意味衝撃的な告白にトレーナーは脳の処理が追いつく訳もなく思考停止してしまった。数秒かけて言葉を脳に刷り込んだトレーナーはと言うと、彼女を起こさないようにと両手を動かさないまま顔を真っ赤にして照れていた。その状態で数分間脳内でワタワタしていたが、トレーナーは彼女の顔を覗きこみながら。

 

「おやすみ、バクシンオー。」

 

そう言い、布団をかけ直して静かに部屋を脱出した。

 

 

 

 

 

バクシンオーが回復したのち、そのことを覚えているか尋ねたところ全く覚えていなかったのはまた別のお話。




尚、トレーナーは部屋を出たあとに躓いて顔面ダイブを敢行し、二重の意味で赤い顔のままスーパーに行きました。


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7話:一緒に居たいのは。 ☆

「トレーナーさんはさ、好きな人とかいるの?」

 

「ん?どうした急に」

 

今日の練習も終わり、菊花賞に向けた最終調整メニューを見直していたトレーナーのもとに、汗を流してきたネイチャが訪れたのが5分ほど前。

ここは、トレーナー室である。俺が担当しているウマ娘はネイチャしかいないので、出入りは自由にさせてるしなんなら私物も置いていいと言ってある。ネイチャはとあるチームの一員でもあるが、そのチームの練習ではなく、俺の練習メニューでやらせている。理由としては、チーム担当のトレーナーの負担削減と、ネイチャの希望だ。

 

「あー、いや。気になったと言いますか。」

 

「はは、ネイチャらしいな。」

 

ネイチャは頬を人差し指でポリポリとかきながら『たはは···』と笑うネイチャ。

 

「好きなのかはわからんが気になっている娘ならいるぞ」

 

「!!」

 

そんなネイチャに、正直に答えてみる。まあ、正直に言えば恋愛には疎いので、本当に好きかどうか分からないのだが。

 

「その娘のこと···どう、思ってるんです?」

 

少し顔を赤くしたネイチャが近づきながら聞いてくる。

 

「うーん···まあ、これからも見ていたい。って思うかな。」

 

正直な気持ちだ。今までも彼女のことは見てきた。話す機会も多くあり、他のウマ娘よりも仲がいい自信はある。

 

「そ、その娘と休みの日に遊ぶなら、どこがいいですか?」

 

ふむ、休みの日か。遊ぶと言っても、外出すれば本屋か神社にしか行かない俺が女の子と出かけるイメージが浮かばない。なので。

 

「うーん、一緒にどこかへ出掛けると言っても俺が本屋か神社しか行かないから·····家で一緒に本を読んだり喋っていたりしたいな。」

 

ほんとに、分からない。と言うよりも誰かと出かけること自体いつからかずっと機会がない。次の休みにでも誘って行くか。

 

「えーと···じゃあ、その娘と私ならどっちの方がそばにいて欲しいですか····?」

 

「え?」

 

何か、すごいことを聞かれた気がする。

 

「え、あ、やっぱなし!今のなしで!」

 

ネイチャは顔を真っ赤にしながら慌てて否定する。まあ、はっきりと聞き取ってしまったので答える。

 

「その娘も何も、気になってる娘はネイチャだよ?」

 

その一言を聞いたネイチャは動きを止める。机を間に挟んで向かい合っている状況で相手が動きを止めてしまった時、こちらも動きを止めてしまうのが俺の癖。そのためお互いに時が止まるというなんとも言えない微妙な時間を作ってしまった。

 

「ま、またまた〜、嘘でしょ?」

 

「ほんとだよ?」

 

この言葉がネイチャにトドメを刺したようで、ネイチャは顔を真っ赤にした状態でうずくまってしまった。

これが、寮から俺の家にネイチャが引っ越してくる前の出来事である。

 

 

 

 




この短編集ですが、いくつかの短編を繋げてみようと思い立ちました。
なので、このネイチャの話は続きを書くかもしれません。
続きを書いたらその話に何か印を置いておきます。お楽しみに。


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8話:光

その日、トレセン学園にはとある人物が来ていた。

トレセン学園の元副会長で、レディースクラシック三冠、春シニア三冠ウマ娘のエアグルーヴだ。

現在の彼女は現役を退き、URAの委員会に勤めている。なお、現URA会長はシンボリルドルフだったりする。

 

「変わらないな····」

 

とある部屋の前でグルーヴは呟く。今日はトレセン学園所属のウマ娘の現状調査という名目で来校しているグルーヴ。元学生であるため、たづなさんの案内を断り1人で校内を見て回っていた。

 

「ふふ、中も変わってないな。」

 

ここは、グルーヴを担当していたトレーナーのトレーナー室。彼は今、新しいウマ娘のトレーナーとして働いていて、今はその娘のトレーニングを見に行っているのだろう。さすがに邪魔をする訳にも行かないので、彼の元へ行く気はない彼女だが、『会いたい』という気持ちはあるようで。

 

「ここで待っていれば···会えるのだろうか。」

 

と、小さな声で呟いたりしている。

そんな彼女だが、今日1日学校を見て回っていたため学生時代のことを思い出し、学生気分に浸っている。そのため、担当トレーナーの部屋という親しみのある場所に入った時から学生気分にやっていたことをやりたくてしょうがなくなっている。それは·····

 

「···よし。」

 

掃除。彼女は学生時代に副会長という役職で、あの時代の破天荒なウマ娘達をまとめ、シンボリルドルフという大きな存在を支え続けていた。そのためにかかるストレスは並ではなく、トレーニング以外に発散する方法を考えたのだ。そこで出た案が『トレーナー室を磨きあげよう』というもの。ストレスからくるイライラを全て布巾に込めて、ウマ娘の力で磨きあげる。するとみるみるうちにピカピカになり、一時期は部屋が光っていたほど。それを見たルドルフが『部屋をヘヤートリートメントしたようだな。』と言い、部屋の明るさが3段階上がったのは今ではいい思い出になっている。

そして、数十分後。

 

「こんなものだろうか。」

 

やはり、光った。全盛期の光を取り戻したトレーナー室。窓の外では突然光り始めた一室に騒然となり、人だかりができつつあった。それを見た彼女は「しまった···」と言い、会うのを諦めて帰ろうとした。その時。

 

「はは、やっぱりグルーヴか。」

 

部屋の外から彼の声が聞こえてきた。相変わらず、甘えたくなってしまう優しい声音。

 

「ほら、やっぱり。」

 

ドアを開けながら現れた彼に。エアグルーヴは。

 

「びっくりさせるな、たわけ。」

 

と言いつつ、彼の胸に飛び込んだ。

 

 

 

 

そんな彼と彼女の指には、光る輪が嵌められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2000UA行くとは····!
ありがとうございます!


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9話:気持ち

 

····僕と担当ウマ娘は、奇怪なトレーニングをすることで有名だ。例えば、トレーニング前の読書。お互いが読書好きなのもあるが、トレーニング前に読書で心を落ち着かせるのである。それによって、冷静に走る訓練にさせている。

 

「このトレーニングも、効果があるから不思議だよな。」

 

ボソッ、とひとこと呟く。今は、週に2度二人でやるメンタルトレーニングの途中。このトレーニングも恐らく、ウマ娘界広しと言えど僕たちだけだろう。

 

「どうしました〜?」

 

シャカシャカシャカ、と。手際よく作業をしている彼女が手元から目を離さずに聞いてくる。先程の小さな呟きが聞こえていたのだろう。

 

「···ん、いや別に。」

 

ここは、トレセン学園のとある場所に建てられている茶室。そこで僕と彼女の2人はお茶を嗜んでいた。元々、2人ともお茶が好きではあったのだがそれをトレーニングに生かすのを考えたのは彼女だ。静かな茶室でお茶を嗜み、心を安らげる。リラックス効果を目的としたトレーニングだ。

 

「そうですか〜♪」

 

僕がこのトレーニングの打診を受けた時、もちろん最初は反対していた。理由はやはり前例にないトレーニングだからだ。しかし、1度試しでやって見たところ実際心は落ち着くし、それ以上に茶をたてている彼女がとても楽しそうだったからだ。やはり、トレーナーという生き物は担当ウマ娘に弱い。

 

「·····なあ」

 

不意に、話したくなった。

 

「どうしました〜?」

 

やはり、ご機嫌で茶をたてている。

 

「いや、やっぱご機嫌で茶をたてるなぁって思ってさ」

 

「楽しいですから〜♪」

 

ごもっともな返答に言葉が詰まる。話したい内容にはまだ程遠い。僕が話したいのは·····

 

「もしもさ、お前とずっとこういう時間を過ごしたいって言ったら、どうする?」

 

言っていて、恥ずかしくなった。恐らく今の僕の顔は真っ赤だろう。耳まで、リンゴのように赤く染まっていると思う。

 

「·····ほぇ?」

 

彼女も、赤かった。いつものきめ細かで、シルクのような白い肌をさくらんぼのように赤く染めている。とてもかわいい。

 

「かわい····あ。」

 

つい、声に出してしまった。すると、自分の顔も彼女の顔もとても熱を帯びていくのがわかる。狭い茶室に2人でいることを意識してしまう。抑えきれない。

 

「な···なあ」

 

「な、なんですか···?」

 

鼓動がどんどん大きくなる。顔に熱が帯びる。それでも、彼女の顔を見て。言う。

 

「正直に言う。俺は、お前と過ごす時間が好きだ。お前が好きだ。1人の生徒としても、女性としても、ウマ娘としても。だから····」

 

最後の一言を。

 

「次の3年間最後の有馬。絶対に勝たせる。だから、グラス、これからもお前と一緒に居させてくれ。」

 

 

 

 

 

これが、僕が言える精一杯の愛だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

 

 





投稿できず申し訳ないです···


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10話:一緒に居たいのは2 ☆

 

トレセン学園───

それは、トゥインクルシリーズなどを走るウマ娘達の育成の場。生徒のウマ娘とトレーナーとの色恋沙汰は、日本の一大スポーツになっているウマ娘たちの言わば“オフショット”として話題に上がる。例えば、“不屈の天才 トウカイテイオー”や“最強ステイヤー メジロマックイーン”の2人。天皇賞・春での戦いの時の注目度は異常な高さだった。

 

「ね、今日はどうするの?」

 

先の2人もウマ娘専門雑誌の取材で、それぞれのトレーナーを熱く語り、インタビュアーの質問に頬を赤らめたりとアグネスデジタルを中心としたウマ娘ファンをキャーキャー言わせてきた。

 

「んー、まだ少し前のレースの疲れが脚にあるみたいだから軽めの調整かな。無理は怪我に繋がるからね。」

 

そして、ここにもまた人気ウマ娘とトレーナーのカップリングとして有名な2人がいた。

 

「じゃあ、やりますか。」

 

人気ウマ娘の名は、ナイスネイチャ。先のメジロマックイーンやトウカイテイオーと競ったウマ娘であり、その末脚は一流のものである。ファンには『お馴染み3着』で親しまれており、また家庭的な1面も見せていて女性ファンも多い。

 

「しっかり地球を蹴るんだぞー」

 

トレーナーの名は山形。出身は東京。指導力が突出している訳では無いが、しっかりとウマ娘の管理をすることでこれまでのトレーナー歴12年で未だにウマ娘に怪我を負わせたことは無い。なお、G1レースはダート以外は制覇しており、『三冠ウマ娘よりも永く走れるウマ娘を』が心情である。

このふたりはレース前の関係者インタビューの際、仲睦まじくいることで有名で、噂では既に同棲していると言われている。事実ではない。

 

「おーい、今日はここまでだぞー!」

 

「はーい」

 

まあ、これからそれが実現するのだが。

今日のトレーニングは軽く体をほぐし、地面を蹴るイメージを再確認させるもの。ネイチャは刺しウマ娘なので、最終コーナー後の加速が大事になると山形は考えている。

 

「いつもより走ってないのに疲れた···」

 

「まあ、あれだけ脚を意識させたからな。身体的よりも精神的に疲れたと思うぞ。」

 

トレーニング場からの帰り道、夕焼けで赤く染った空を眺めながら帰る2人。

 

「ネイチャの髪ってさ、夕焼けみたいで綺麗だよな」

 

「とっ···唐突に何を?!」

 

夕焼けを見て思い出したかのように言った山形に対して、顔をやはり夕焼けのように染めながら聞き返すネイチャ。もふもふなサイドテールを揺らしながらトレーナーを見上げ、顔を赤く染めて横を歩くネイチャを山形は、その歓喜と抗議の混ざった瞳をかわいいと感じつつ歩いていった。

 

 

 

 

 

近くの茂みでは、尊みが溢れたウマ娘オタクが倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





なんか、説明回みたいになってごめんなさい。
でも、これだけ言わせてください。

デジタルかわいくない?


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11話:勝ちたい気持ちの果てに

私は、走ることに明確な目標を持っていたはず。でも、今はその影もない。

 

メイクデビューは、周りを圧倒して勝った。その後は悔しいレースも多くあったけど、自分らしく精一杯走ることが出来ていた。でも、私が一勝するのにかける努力をしている間に同期のみんなはどんどん勝ち星を伸ばして行った。

 

「また、負けるのかしら」

 

そう呟いた声は、明確にトレーナーへと届いてしまっていた。彼は、トレーニングメニューを全て再編しなおして持ってきた。

 

「次こそは勝とう!」

 

そんな言葉と共に。

それからのトレーニングは脚の疲れを見つつ、これまでよりも更に数倍の負荷をかけていた。 夏合宿でも、同期のみんなとは違う場所で、1人黙々と血の滲む様な努力を重ねてきた。

 

でも。それでも。

 

その年の天皇賞・秋。これまでのトレーニングが実を結ぶことは無かった。ファンは、励ましてくれる。幸いにも、ヤジは来なかった。でも、勝った同期を見ていると。

 

悔しい。

 

ただただ悔しい。また負けた。まだ足りない。これじゃまだ足りない。彼女に、彼女達に届かない。

 

 

 

努力する、というのは普通のことだ。勝ちたい、ならば努力する。何かを欲する時も、それを得るために努力する。だからこそ。人の何倍も努力して、努力して。

 

レースで、勝ちたい。

 

そして、迎えた高野宮記念。出走前、トレーナーにはもう伝えたこと。このレースに負けたら、今年限りで走るのを辞める。もう、みんなには負けていられない。

ゲートインの時、隣の彼女が何か言っていた。でも、聞こえなかった。いや、聞こえてはいたのだろう。体が反応しなかった。

 

 

 

 

 

ゲートが開く。みんな一斉に走り出す。高野宮記念は有馬やダービー程の人気はないもののG1レースのためレベルは高い。G2、G3のトロフィーは、もう、要らない。G1で、彼女達に勝ちたい。負けられない。

やはり、最初に出たのは逃げが得意なスカイさん。彼女の逃げは脅威だが、今日の私には何か遅く感じた。そして、私の後ろには日本一のウマ娘、スペシャルウィークさん。その後ろには世界で戦ってきたエルコンドルパサーさんがいる。

スカイさんの後ろについて、最終コーナーに入る。

 

「負けたくない。」

 

その気持ちだけだった。

最終直線に入る。スパートをかける。これまで、ずっと鍛えてきた末脚で、勝つ!

 

後ろから、あの2人が追ってくるのがわかる。最後の上りに入る。残り200の坂。

ゴールが遠く感じる。限界まで脚を速く動かす。もう、みんなに、負けない!

 

 

 

先頭でゴールすることの嬉しさを、久々に噛み締めることが出来た日だった。

 

 

 

これが、キングヘイローの思い出だ。

 

 

 

 

 

 

 




誤字報告本当にありがとうございます!


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12話:やりがい

今日は、俺が担当しているウマ娘とデートに行く。

前走のレースで1着を取ったご褒美に『何が欲しい?』と聞いたところ『デート!』と答えられたので、休みの日に駅前で待ち合わせしている。

約束の時間は10時。昨日のトレーナー会議で同僚にどこに行けばいいだろうかと聞いた時、場所と一緒に『30分前に行って本読んで待ってろ』と言われたので実践している。今は9時15分。早め早めの行動はゆとりがもてて楽でいい。

 

「うーん、ココ最近はG1で勝てているからこのまま行けば有馬も有り得るな···。菊花も取らせてやりたいし···」

 

待ち時間には出走レースのことを練っておくことにした。今のうちにやっておけばデート中に気にならなくなるから、一石二鳥なのだ。

 

「まあ、でも実際頑張ってくれてるからなぁ···もっと俺が力になってあげないと。」

 

1人で勝手に気合いを入れていた時、ポケットに入っているスマホが震えた。恐らく、彼女からのメッセージだろう。

 

「ん···?あぁ、了解。」

 

内容は、『もうすぐ着く』だった。時間を見れば集合10分前。レースプランもいい所で切り上げることが出来たし、同僚には今度コーヒーでも奢ってあげないと。

 

「お、きたきた。」

 

白を基調としたワンピースに身を包んだ彼女が走ってくる。それだけならいいだろう。しかし、彼女はウマ娘だ。そして、手を振りながら俺に、突っ込んだ。

 

「トレーナーちゃー『ヘブシッ!!』ん?」

 

恐らく、周囲の注目を一身に集めているだろうがそれどころではない。ウマ娘の身体能力は我々普通の人間の比ではない。その膂力をもって俺の腹にダイブしてきたのだ。これを普通に耐えるのはゴルシのトレーナー、彼ただ1人である。というかなぜ耐えれるのか不思議だよ。

 

「あれ?トレーナーちゃん大丈夫?」

 

俺の腹の上で俺を心配してくれる女神、またの名をマヤノトップガンと言うが、彼女にひとつ言う。

 

「ワンピース、似合ってるな。」

 

「えっへへ、でしょー?」

 

純新無垢という言葉が似合う彼女に、こういう白などの服はとても似合う。なんというか、結婚したい。

 

「可愛いでしょ〜♪」

 

「めっちゃくちゃ可愛いからまず立たせて?」

 

一応ここは公共の場なのを忘れちゃいけない。至近距離で女神を見て忘れてたとかそういうのはない。断じて。

 

「トレーナーちゃん、マヤにむちゅーになっちゃった?」

 

取り敢えず身なりを整えたところでマヤノが聞いてくる。答えはもちろん、決まっている。

 

「ああ、もちろん。もうギュッてされてるよ。」

 

 

 

 

 

これが、俺のやりがいだ。

 

 

 

 

 

 




誰を書くか、悩むところで1時間使う


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13話:やがて事実になる

 

家に帰ると、誰かが出迎えてくれる。

それは、とても幸せな事だ。一人暮らしが長くなり、そんなことも忘れていた。

 

「ただいまー」

 

「おかえり」

 

このやり取りだけで幸せになれる。仕事が終わり、家に帰ってきた実感が湧く。この瞬間を楽しみに、仕事を頑張れるってものだ。

 

 

 

 

「───っていうことを思ったんだよ」

 

「なるほど、だから惚けていたのか」

 

と、俺が生徒会室前でボケっとしていた理由を会長、もといシンボリルドルフに掻い摘んで説明した。何故か扉を開けようとした時にそんなことを思ってしまったのだ。

 

「ところでトレーナー君」

 

「どうした?」

 

生徒会室に入ったところでルドルフが振り返りながら聞いてきた。

 

「何をしに来たんだい?」

 

その一言で思い出す。ルドルフに1つ伝言を頼まれていたことを。

 

「あ、そうだそうだ。伝言を頼まれててね」

 

「おや、誰からだい?」

 

俺はルドルフのトレーナーなので、三冠ウマ娘のトレーナーとして世間からも知られている。そのため、ルドルフが参加する行事やインタビューのことは大抵俺が管理している。ただでさえトレセン学園会長という職務についているため、スケジュールくらいはこちらで負担してあげなきゃな、という決まりである。

 

「理事長からだよ」

 

今回の伝言を頼んできたのは理事長である。自由な人ではあるが、俺たちトレーナーから見てあの人は尊敬できる。トレーナーとして大事な『ウマ娘第一主義』を貫いているからだ。

細かい中身は長くなるので省くが、ウマ娘のことを第一に優先しているその体制を、トレーナーとして働く者が蔑むわけがないのだ。

 

「内容は、『そろそろ決まったかい?』だってさ。俺は何が何だかサッパリだが」

 

そう言って肩を竦めてみせる。実際、知らない間に会議をセッティングしていたりするので、事後報告には慣れている。まあ、エアグルーヴの苦労は計り知れないが。

 

「あー····」

 

「お、やっぱ知ってたか」

 

少し考える素振りをするルドルフ。長い付き合いなので素振りを見れば何を考えているのか大体わかるようになっている。やはり、経験というのは大事だ。

 

「うん、知ってた」

 

「急にルナモード入ったな」

 

口調が変わるのは2人きりの時だけ。これも一緒にいる時間が長くなるにつれて慣れてきたが、急に変わるのはホントにびっくりする。

 

「え、えーとね、とれーなー···」

 

少しモジモジしながらこちらを見るルナ。ギャップがかわいい。

 

「あの、ね?ルナと····一緒に暮らして欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、トレーナーの生徒会室前の瞑想は、事実となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





名トレーナーへの道完走して引いたらルドルフ出たので、記念に頭に浮かんだまま描いてます。
ハロウィンイベントも称号は取りきったのであとは完走目指して頑張るだけ!


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