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鬼滅の刃 難易度ルナティック(鬼側が)

確実に続かないので3次小説OKです。
短編だけだったので移しました。


 

 時は戦国の世、悪鬼たる鬼舞辻無惨を鬼を断ち切る為に鬼殺隊は活動をしていた。

 

「これで終わりか」

 

 鬼殺隊の一員である縁壱は鬼の首を狩っていた。目にも止まらぬ早さで鬼を退治し、鬼に襲われていた民に手を差し伸べる。

 怪我はないか?怖くはなかったか?自分達が、鬼殺隊が来たからもう大丈夫だ。見る人が見れば縁壱はヒーローである。

 

「……お前は強い……」

 

 そんな縁壱に嫉妬していたのは縁壱の兄である厳勝だ。

 生まれて間もない頃は縁壱は自身よりも劣っている存在だと思い込んでいたが蓋を開けてみれば縁壱はこの世の誰よりも強かった。

 ちゃんとした地位に居るのならば天下を取ることが出来る常軌を逸する才覚の持ち主であり、厳勝は嫉妬しており思わず声を零す。そしてその零した声を縁壱は聞いていた。

 

「兄上、私など大層な者ではないです。長い長い歴史のほんの一欠片に過ぎません。今こうしている内にも私をも上回る存在の産声を上げています」

 

 

 

 なに言ってるんだ、こいつ?

 

 

 

 厳勝はそう思った。戦国の世で覇道を目指すのでなく、鬼を退治していた厳勝は鬼が使う血鬼術と言う超常的な力の恐ろしさを知っている。

 家族を故郷を捨ててまで鬼殺隊に入って鬼を倒す為の剣術を、呼吸を学んだ。鬼を片手間で倒せる実力者になったのだがそれでも縁壱の足元にすら及ばない。鬼の総大将である鬼舞辻無惨を人は化け物と言うのだが鬼舞辻無惨視点では縁壱こそが化け物である。人の身でありながら人ならざる者を容易く倒す彼は神に愛された存在だった。まるで鬼を倒す為に生まれた桃太郎の様な存在であった。

 

 どうして自分ではないとどれだけ研鑽を積もうが縁壱に届かない厳勝は絶望した。

 その後になんやかんやあって鬼殺隊を裏切って厳勝は鬼になった。なんやかんやの部分を知りたければ原作をネットカフェ辺りで読んでくれ。ここは二次創作なので、こんな未来もありえる……………そう

 

「っく、1人の隊員に下弦の月が全滅だと!?貴様等、何処まで無能であれば気が済む!!」

 

 縁壱の言ってたこと…………割とマジだった。

 鬼舞辻無惨は上弦の鬼を呼び出して物凄くキレる。十二人の優れた鬼の下位の面々である下弦の月がたった1人の平隊員によって全滅した。より強くなる為に生き血を啜っているのにも関わらず一瞬の内に死んでしまったのだ。

 

 自身の血を多く分け与えた筈の鬼なのに、どうしてこうもあっさりと倒されるのか?無惨はかなり理不尽にキレていたが…………上弦の鬼達は全員思った。

 

「今や平の隊員ですら我々が人として生きていた頃に存命していた柱と同格の実力を持っている……」

 

「言い訳など聞きたくもない!!貴様等は青い彼岸花の捜索と鬼殺隊の全滅を命じた筈だ!!」

 

 今の一般兵である平隊員が鬼殺隊の中でも最弱でも原作で言うところの煉獄杏寿郎クラスの実力を持っていた。

 対する鬼は特にこれと言ってパワーアップをしていない。歳を取って世代交代をするという概念が無いので原作通りである。

 

「柱は最低でも縁壱と同じ実力を有している………………………本当だったのか、縁壱……」

 

 縁壱、言ってたことマジだったよ。




この世界線では炭治郎は日の呼吸を波紋の呼吸に進化させ、善逸は光の速さで斬ってきます。


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悪魔の妖精 1

 強くなる為にはどうしたらいいのか?それは戦うことだ。だから戦った……強くなりたかったから。弱い自分が嫌いだったから。

 戦って、戦って、戦って、戦い抜いた。あらゆる戦いに勝利した俺は血塗れになったけれど圧倒的な力を得た。特別なチームも出来た……けれども、なにかが違った。俺が求めるものはこんなものだったのだろうかと疑問を抱いた。

 

「なにがしたかったんだろうな……」

 

 ワケが分からなくなって、将軍様()から解散を命じられた。

 チームは以前からガタガタなところがあったかといえばあったのであれは良かったと思う。

 一人は会社を立ち上げた。一人は思い出を忘れられず酒に飲んだくれている。一人は新しく悪の組織に入って幹部にまで上り詰めている。他の者達もそれ相応の成功を納めていると言うのに自分と来たら、辺境の島に引きこもっている。毎日毎日同じことを考えていて何をやっているのだろうと考える自問自答の毎日……いや、自虐の日々か。こんななにもない無人島で暮らしていて俺だけはなにも出来ていない……恥ずかしい。

 

「きっかけ……いやでも、外に出るのは怖いしな……!」

 

 変わらなければならないけど、変わるのは怖い。そう思っていると島に誰かが入り込んできた事に気付く。

 俺の居る島には生きていく上で必要な飲み水に最適な水辺や果物が実っていて、本当に無人島なのかと思えるぐらいには豊かだ。だが、無人島である事実は変わりなく、過去に誰かが住んでいた痕跡はない。開拓しがいはあるが、それだけの島をわざわざ選んでいるんだ。

 

「……流れ着いたパターンもあるかもしれないな」

 

 ここは無人島で周りは海。もしかしたら誰かが流れ着いた可能性があり、それならば元いた場所に帰ってもらおう。

 目を閉じて氣を深く感じ取ってみると老練された氣を持っている事に気付く……これは老人、おじいさんの氣だ。

 

「……」

 

「……」

 

「……むぅ……」

 

「……」

 

「……なにかを言ったらどうじゃ?」

 

 氣を感じるところにやってくるとちっこい爺さんがいた。

 世捨て人かと思ったら結構な格好をしていて世捨て人じゃなさそうだ。

 

「あ〜……ここは無人島でお宝らしいものは無いぞ」

 

「知っとるわ……評議院から罰としてこの島の生態調査にやって来たんじゃ!」

 

「評議院……ああ、あれか」

 

 世間に疎い俺でもよく知っている。

 評議院は魔法使い共もとい魔導士達の統率をしている議会的なところであり、そこから罰を送られるとはこの爺さん……

 

「魔導士ギルドのマスターかなにかか?」

 

「そうじゃ……先程からワシの事ばかりじゃし少しはお主の事を教えてはくれんか?その奇妙な仮面の事も気にするなと言われても気にはなる」

 

 俺のつけている仮面を気にする爺さん。

 

「なに、別に大層な理由じゃない。真に強い戦士ならば素顔は無闇矢鱈と晒すものじゃないと教えを受けているんですよ」

 

「ほぅ、随分と変わった教えじゃのう」

 

「素顔を知りたければ自分を倒してみろ、的な感じ」

 

 とにかく弱肉強食の世界で生きてきて、勝たなければゴミとの教えを受けている。

 その教えを俺は否定はしない……世の中は勝たなければ意味はない。正しいから勝つんじゃなくて勝っているからこそ正しいんだ。教えてくれた将軍様は弟と引き分けた事を未だに根に持ってるけど。

 

「っと、この島の生態調査にやって来たのでしたね。なにか書く物はありますか?」

 

 プライベートな時間で来ているんじゃなくて、罰ゲームみたいな感じで来ているんだ。

 ここに無駄に長居されるのはそれはそれで困るしここで出会ったのもなにかの縁。この島の事ならば色々と知り尽くしているので書こう。

 

「……お主、何故この様な無人島に住んでおる?」

 

 書くものを出してくれるかと思いきや爺さんは俺がどうしてここにいるのか疑問を持つ

 

「別に、いいじゃないですか」

 

「そうはいかん……うちに居るガキ共と似たような年齢のワッパが無人島でポツリと暮らしていて、はいそうですかと見過ごせる程に人間は腐っておらんぞ」

 

 グイグイと来るな、爺さん。とはいえ言っていることにはなにも間違いはない。

 まだ酒を飲める歳(15)ですらない子供が無人島にポツリといたら誰だって疑問に思う……けど、どうしてここにいるかと聞かれれば答えづらい。具体的に言えば逃げたとしか言えないのだが……そうだな。

 

「最初は強くなりたいと思ったんだ……力こそ絶対で勝たなければ意味が無い、俺が育ったのはそんな環境下で俺は愚鈍なまでに力を求めた。探し求めて、色々な魔法を試し、見つけた……だけど、違ったんだ。俺の求めてたものと何かが違った。強くなったのに弱くなった気がした」

 

「ふむ……」

 

「戦って勝つ力を求めていた筈なのに……」

 

 その為に色々と捧げたのに、沢山の傷を背負ったのに……燃え尽き症候群みたいな事になっている。

 同じ力の奴と満足の行く熱いバトルを求めていた……いや、違う。圧倒的な力を求めていたのは確かだった。けど、最後には虚しい気持ちになった……褒め称えてくれる仲間達だっていたのに。

 

「強さとは力だけではない。他者を傷つけるぐらいならば自らが傷付く優しさと言う名の強さが世の中には存在する」

 

「優しさか……俺はそれを踏み躙って食い物にする馬鹿をよく見ていたよ」

 

「確かにそれを食い物にする愚か者は世に多い……じゃが、その逆も、誰かを思いやる者も世には大勢いる」

 

 そういうもの、なんだろうか。愛よりも剣を選んでしまっている身だからその考えはよく分からない。

 けど、爺さんの言っていることは非常に納得が行く感じ……俺よりも酸いも甘いも噛み分けているからだろうな。

 

「優しさか……そういう強さは求めたことは無かったな」

 

「力とはまた違う強さを持っておるぞ」

 

「そっか」

 

「そういえばまだ名前を聞いておらんかったの。ワシはマカロフ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターじゃ」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)……確か100年ぐらい前に起きた第二次通商戦争辺りから出来たとかいう」

 

「詳しいのぅ」

 

「まぁ、ここも大事ですから」

 

 トントンと頭を叩く。

 今の時代は脳みそ筋肉よりもある程度はインテリじゃないと……とはいえ、都合の良いことは忘れる様には出来ているけども。

 

「俺はシゲオ……7人の悪魔の元リーダーだ」

 

「7人の悪魔じゃと!?」

 

 嘘をついても適当な事を言っても仕方がない。ここまで来たのならばちゃんと話すべきだと自分の素性を語ると案の定爺さんは驚く。

 7人の悪魔、ゼレフとかいう400年前にポッと現れた魔導士によって人工的に作られた悪魔とは違う正真正銘の真正の悪魔の特別部隊と言われる存在であり、悪人相手にヤバいことをしている。なにを隠そう俺はその部隊のリーダーだ。

 

「お主、悪魔じゃったのか」

 

「悪魔だから討伐するか?」

 

 ドラゴンに次ぐ異形の存在である悪魔。

 存在だけで忌み嫌う者は多く、敵対するならば俺は躊躇いなく殺す。

 

「いや、そんな事はせんよ……お主は人の様に迷い悩んでおる」

 

「人の様にって、なんて言えばいいか……まぁ、そう言ってくれるのはありがたいですけど」

 

 俺は人か悪魔なのかイマイチ分かっていない。立ち位置が曖昧な存在だが、そう言われれば嬉しい。

 

「シゲオよ、妖精の尻尾に来んか?」

 

「俺が魔導士ギルドに?」

 

「そうじゃ……力以外の強さを知りたいのであろう?未来ある若者を見捨てるわけにはいかん」

 

 ……運命なんてものを感じるタイプじゃないが、これを運命と言わずなにを運命と言うんだろうな。

 今日までこの島で引き籠もっていたのはもしかしたら爺さんと出会うためだったのかもしれない……なんて言えば詩的な感じだろう。だが、この運命はただごとじゃない。

 

「俺みたいなのを入れて後悔するなよ」

 

「なに、ガキのケツを拭けねえ程耄碌はしとらん」

 

「んじゃ、ちょっとカバンを取ってきます」

 

 爺さんも色々と準備をすることがあると言ってちょっとだけ解散。

 自力で作ったツリーハウスへと戻ると着替えと使えそうなものを鞄に入れ、爺さんと出会った場所に戻る。

 

「島の生態調査のこと、忘れておった!」

 

「おい!……ったく、書く物を貸してください」

 

 俺のスカウト云々で本来の目的を忘れていた爺さん。しっかりしろよと思いつつも書く物を受け取ってこの島の生態系について色々と書いていく。この島は俺以外の人の手は加わっておらず、四方八方が海に囲まれ、ここに来るまでに凶暴な海の生物がいる。並大抵の人間ではこの島に来ることは出来ず、魔導士とかならば問題はない……はず。

 

「こんな感じでいいですか?」

 

「おぉ、中々に良い感じに出来ておるのぅ……ひょっとして事務仕事が得意か?」

 

「人並み程度です」

 

 変な期待はしないでくれ。

 ともあれ、俺ことシゲオは妖精の尻尾のマスターに連れられて名前の無いフィオーレ王国にある辺境の無人島から離れて、妖精の尻尾のギルドがあるマグノリアへと向かった。



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悪魔の妖精 2

 無人島を出て、フィオーレ王国の本土のマグノリアと呼ばれる街にやって来た。

 ここに爺さんがマスターをしている妖精の尻尾のギルドがあるらしい。街の有名人なのか周りから声が聞こえる

 

「念の為に言っておくがかお前さんが7人の悪魔だった事はあまり言い触らすでないぞ」

 

「そういう自慢みたいなのはもうしませんよ」

 

 昔、相当調子に乗っていた時、サタンに命を捧げていた頃とかブイブイ言わせていた時期はあった。

 その頃だったら威張ってデカい顔をで俺様は7人の悪魔とか言ってたりしたが、今は丸くなっている……あの頃は沢山……。

 

「ここが妖精の尻尾じゃ」

 

 過去を振り返っていると酒場と思わしき建物に来た。

 堂々とFAIRY TAILと看板がついている……

 

「そういえばなんで妖精の尻尾って名前なんですか?動物とかの名前を付けるのはどっかの大陸の最初の魔導士ギルドがドラゴンの名前を付けたからだって聞いたことあるけど」

 

 ふと疑問に思ったのでギルドの名前の由来を聞いてみる。

 魔導のドラゴンだかなんだか忘れたけど、世界初のギルドがそんな感じの名前だったのが起源とか習った……まさか使う時が来る羽目になるとはな。

 

「妖精には尻尾があると思うか?その答えは永遠の謎、故に永遠の冒険が待っている……そんな思いが籠められた名前じゃ」

 

「尻尾があるタイプと無いタイプがありましたよ」

 

「え?いたのぉ!?」

 

 深くいい感じの事を言っているところ申し訳ないけど、妖精なら見たことある。

 人間に蝶の羽を付けたタイプが主に主流だったけども極々稀に動物タイプの妖精もいるらしい。

 

「……ま、まぁ、とにかく冒険心を忘れない為にも名付けられたギルドじゃ」

 

 俺が余計な一言を言ってしまったせいでなんとも締まらない感じになってしまった。

 余計な言葉を言わなければ良かったと軽く反省しつつギルドの入口を開くとピタリと騒がしい筈の酒場の空気が固まった。

 

「今、帰ったぞ!」

 

 静かな空気の中で爺さんが声を上げると周りは再び騒ぎ出す。爺さんが帰ってきたことを盛大なまでに喜んでいる。

 それだけこの爺さんが周りから親しまれている事がわかる……スゴいな。

 

「じっちゃん、お帰り!」

 

「ジイさん、随分と早かったな」

 

「マスター、元気そうでなによりです」

 

 桜髪の少年、黒髪の少年、赤いロン毛の甲冑女子と俺よりも若い子がマスターに声をかける。

 ギルドのマークが入ったスタンプがあるという事は彼等も魔導士ギルドの一員……。

 

「マスター、その後ろにいる変な仮面をつけたの誰だ?」

 

「おお、そうじゃの……シゲオ」

 

「マスターが仕事中に出会ったシゲオ。よろしくお願いします」

 

 爺さんは俺に自己紹介をする様に言うので特に当たり触りのない感じの挨拶をする。ここで無理に威張ると後々めんどくさくなるから、ここは一般人的な風貌を醸し出す。子供の多い魔導士ギルドの為に俺が新入りだと分かると納得をする。

 

「シゲオ、お前なんでそんな変な仮面をつけてるんだ!」

 

 そんな中で桜色の髪の少年が俺のつけている仮面について聞いてくる。

 

「えっと……」

 

 俺だけが自己紹介をしているのでこいつの名前は知らない。

 

「オレはナツ、ナツ・ドラグニル。よろしくな!」

 

「ナツか」

 

 ドラグニル……何処かで聞いたことのある名前だけど、なんだっけか。

 なんかかなり大事な事だった気もするけど、今は思い出す場合じゃない。ナツの質問に答えないと。

 

「俺の素顔が気になるか?」

 

「おう、気になるぜ」

 

「……見たかったら俺に勝負で勝って剥ぎ取ったらいい」

 

 本当に強い戦士ならば素顔は無闇矢鱈と晒さない。俺はそう教わっている。

 俺の素顔を見たいと言うならば俺と勝負をして勝った時に仮面を剥がせばいい……勝者こそが絶対なのでその事に俺は文句はない。まぁ、子供がいきなりそんな事を言われたら戸惑う

 

「よっしゃあ!シゲオの素顔、絶対に見てやる!」

 

 かと思いきやあっさりとノリノリのナツ。

 周りもその反応に驚くかと思えばナツが新人と勝負をしやがる!と面白そうだという物見遊山な声が上がる……どうやらこのギルドではこういう感じのバトルは当たり前の様に行われている……。

 

「ナツ、勝負するなら外でせんかい!」

 

「おぅ、そうだった!外に出るぞ、シゲオ」

 

 ついてこいと勝負するべく酒場の外へと出るナツ。

 ついていくと街の真ん中に出る……え、もしかしてここでやるのか?遮蔽物とか住居が無い場所でやるのが普通だけど……ああ、でもよく見ればこの街、弄られてる跡がある。魔導士ギルドがあるからそれ対策に強化してるんだろう。

 

「そういやお前、どんな魔法を使うんだ?」

 

「ああ……へ〜んし〜ん!」

 

 戦う前に首を傾げるナツ。

 まだどんな魔法を使うのかを教えていなかったので、腰に手を添えて光を放つと……魔水晶(ラクリマ)の音楽プレーヤーに似た感じの姿へと変身をした。

 

「おぉ!変身すんのか」

 

「いや、接収(テイクオーバー)かもしれねえぞ」

 

「どっちにしろずぶの素人じゃなさそうだ」

 

 変身後の姿に驚くナツとパイプを加えたおっさんともう一人のおっさん。

 どっちに賭けるかこの姿を見てヒートアップをする……オッズは俺の方が低い。まぁ、音楽プレーヤーみたいな見た目になったら誰だって貧弱そうに見える……なんかムカつくな。

 

「俺は俺に勝つに10000(ジュエル)賭けさせてもらうぞ」

 

 今まで無人島に暮らして無職だ。今日からこのギルドで世話になるのならば金が必要だ。

 手っ取り早く依頼をこなしたいが、それよりも賭場で自分に賭けた方が儲かりそう……。

 

「新入りが10000も賭けたぞ!よっしゃ、オレは20000賭ける」

 

 典型的なパチンカスかな。ともかく俺が俺自身に賭けたことで賭場は大きく盛り上がりをみせる。

 ナツはなんか自分に全財産をぶち込んでやるぜと意気込んでる……こいつ、中々の博打打ちだ。

 

「よっしゃあ、勝負だ!」

 

「……そういやナツってどんな魔法を」

 

「火竜の咆哮!」

 

「ぬぅお!?」

 

 どんな魔法を使ってくるのかと思えば、ブレスを吐いてきたナツ。

 

「おまっ、滅竜魔導士だったのか!」

 

「ああそうだ!イグニールから教わった火の滅竜魔法だ」

 

「てことは第1世代か第3世代か」

 

「なんだそりゃ!」

 

 滅竜魔法は古代の魔法であり、ドラゴンを撃退する魔法だ。滅竜魔法を使う魔道士は滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)には世代がある。

 ドラゴンに直接魔法を授かった第1世代、滅竜魔法の魔水晶を埋め込んだ第2世代、ドラゴンに直接魔法を授かり滅竜魔法の魔水晶を埋め込んだ第3世代、滅竜魔法の魔力を用いて生まれる第4世代、ドラゴンそのものを喰らって力を得る第5世代。

 滅竜魔法の様になにかに対して特効が入っており同じ属性を喰らう力の根底を理解し開祖と同じ様に滅神や滅悪、滅獣、滅人の力を作り上げる第0世代なんてのも存在しているがまともに見たことはない。

 

「滅竜魔法は苦手なんだよ……」

 

 同じ属性なら上位に当たる滅の力以外ならばなんでも喰らえるとんでもない魔法。マナを喰らう力が云々カンヌンを教わったが俺には向いていない。

 

「どうした、避けてばっかじゃ勝負にならねえぞ!」

 

「けどあの新入りナツの攻撃を全部避けてるぞ」

 

「ったく……好き勝手言ってくれるな」

 

 拳に炎を纏いながら俺に殴りかかってくるナツ。

 パイプを咥えたおっさんは俺がナツの攻撃を全て躱している事に注目をする……おっさん、安心しろ。俺に賭けて正解だと教えてやる。

 

「見せてやる。ステカセキングのミラクルランドセルに搭載された……あ……」

 

 ステカセキングの本領を発揮してやろうと背負っているミラクルランドセルから魔導士大全集を取り出そうとするが手を止める。

 魔導士大全集を使って千の魔法を見せつけてやりたいが、この勝負は倒さなければならず殺すことはやってはいけない。今日からは魔導士ギルドの一員で敵を殺すじゃなくて倒さなければならない……ナツが滅竜魔導士で通常の人間より頑丈に出来ているのは分かるが……ダメだ。

 

「お前にこのミラクルランドセルに秘めた魔導士大全集を使うのは勿体ねえ」

 

「なにをゴチャゴチャと言ってやがる!」

 

「とぉう!」

 

 ナツの素早い滅竜魔法の攻撃を適格に避けて飛びかかる。頭に乗りかかり足で耳を挟む。

 

「おぉ!新入りが上をとったぞ」

 

「聞かせてやる……地獄のシンフォニーを!」

 

 スイッチ、オン!

 

 耳にヘッドホンを装着をし終えた俺は体の音量のレバーを切り上げる

 

『カルビ丼の【カ】の字はカッカッカッ〜、カルビ丼の【ル】の字はルンルンルーン、カルビ丼の【ビ】の字はビンビンビーン!あ〜あ〜【丼】、【丼】!』

 

「ぎゃああああ!?」

 

「どうだ!」

 

「アイツ、なに苦しんでるんだよ。音漏れする程度の音量だぞ!」

 

 カルビ丼音頭を流すと苦しむナツ。音漏れする程度の音量で普通の人なら苦しむはずがない。多少うるさいと不快に感じる程度だ。

 音漏れをする程度の音量に苦しむのはおかしいとナツぐらいの年頃の半裸の小年は驚く。

 

「滅竜魔導士ってのは通常よりも身体能力だけじゃなく身体機能も滅茶苦茶高いんだよ。音漏れする程度の音量を至近距離で聞かせりゃ常人の何倍も苦しむってわけよ」

 

「そうか。確かにナツは鼻や耳がいい。これはそれを逆手に取った攻撃というわけか」

 

「ケーケッケッケッケ、そういうことだ」

 

 甲冑を身に纏った女の子が納得をする。

 その気になれば音漏れ程度でも不快に感じる音量を出すことが出来るが、それは相手を確実にぶっ殺す為の必殺技。聴覚が無駄に優れてる滅竜魔導士になんぞ使えば確実にお陀仏ってもんよ。

 

「ぐぇえっ……気持ち悪い」

 

 カルビ音頭の前にナツは敗れ、顔を青くしてぶっ倒れる。

 まともに喋る事が出来ずに今にでも吐きそうな感じで……放置しておけば勝手に治る感じだから。よし。

 

「お、ぉおおおお!新入りがナツに勝ったぞ!」

 

「クソ、ナツの野郎、なに負けてやがるんだ!」

 

「オッズは新入りの方が高い、今夜は一杯上物が飲めるね」

 

 パイプを咥えたおっさん、何故か半裸の男の子、どう見ても15未満の少女の順番に叫ぶ。

 俺の方がオッズが高いと言うことは倍以上になっている事を期待する。この街って商業都市らしいから物価が高そうで良い感じの賃貸がないかと探さなければならない。その為には敷金礼金用意しなければ。

 

「ほぅ、ナツをこんなに容易く倒すとは……よし、次は私が相手だ」

 

 倒れているナツを片付けていると今度は甲冑を纏ったナツよりちょっと年齢が上な女の子が挑んでくる。

 全くと言って疲れてはいないけども連戦をしないといけないのは気苦労……しないな。連戦連勝は何時もの事だし

 

「お、今度はエルザとか!」

 

「よっしゃ。新入りが勝つに賭ける!」

 

「いや、流石にエルザ相手じゃ無理だろう」

 

「シゲオ、オレに勝ったんだから負けるんじゃねえぞ!」

 

「はっはっは……さっきの賭けで勝った金額全部、俺が勝つに賭ける!」

 

 やるならばとことんやってみせる……倍プッシュだ。

 さっき得た配当金を全額自分に賭けるとぶち混んでエルザと向き合う。

 

「換装!」

 

 勝負は開始した。エルザは自身を眩く光らせると着ていた鎧とはまた別の鎧に着替える。

 なるほど、別空間に閉まってある武器や鎧を瞬時に換装して戦う至近距離での戦闘を得意とする魔導士か。面白い。

 

「へ〜んし〜ん!」

 

 先程のステカセキングで戦えない事もないが、ここは他のやつを使おう。

 頭にネメスを巻いた長身の男性……ミスター・カーメンに変身した。

 

「先程とは随分毛色が違う姿だな」

 

「だが、こいつもナツをぶっ倒したステカセキングにも負けない力を有してる」

 

「そうか……だが、私はナツよりも強いぞ」

 

「俺もナツより強いんだよ!」

 

 剣を握り斬りかかるエルザ。

 俺は限界ギリギリまで待ってエルザの剣により攻撃を見極める……今だ!

 

「マーキマキマキマキ!」

 

「なに!?」

 

 エルザが俺を斬るギリギリの直前で俺は四肢と上半身と下半身をバラバラにする。

 

「見よ、これぞファラオ解骨術!」

 

 剣や槍を使う相手ならば、ミスターカーメンに限る。

 どれだけスゴい剣術を持っていたとしても四肢がバラバラになり手数が増えれば両の手で戦う二刀流の剣士だとしても手数が足りずにボコれる。

 

「成るほど、剣が効かない相手か」

 

 剣で倒せないモンスターは普通にいる。

 エルザも最初こそはビックリしたが直ぐに持っている剣を巨大な大鎚に変える。

 

「残念ながらこのミスターカーメンはそんなに便利なものじゃない。これ以上はバラバラになることはできん」

 

 これ以上にバラバラになる剣や槍による攻撃に対して無敵の強さを持っている奴は知っているが、生憎カーメンではこれ以上が限界だ。

 

「それは良いことを聞けた……一度に全部攻撃をすれば問題は」

 

「くらえ、怪光線!」

 

「なっ!?」

 

 解骨術はここで終わりっちゃ終わりだが、ここで終わりなミスターカーメンじゃない。

 頭部のコブラから怪光線を放つとこちらに向かって突撃しようとしてくるエルザの体は硬直をする。この光線をくらった者は皆、体がまともに動かなくなる。

 

「マーキマキマキマキマキマキィ!秘技、ミイラパッケージ!」

 

 バラバラにしていた体をくっつけると巨大な布を取り出し、エルザを包み込む。

 怪光線により身動きが取れなくなったエルザは為す術もなく全身を布に包まれてしまう。完全にエルザを包み込むことに成功したのを確認すると俺は巨大なストローを取り出す。

 

「ミイラパッケージ完了!仕上げはこの巨大なストローで……ストローで……」

 

 後はこのストローをエルザの体にぶっ刺して血液をはじめとする体中の水分を吸い取る。

 そうすることではじめてこの技は完遂する技だが、それをすればエルザは死んでしまう……殺してはいけない。ここの一員になる以上は人殺しはしない。

 

「ぐ……ぬぅ……」

 

 怪光線の硬直が解けたエルザは体をジタバタと動かしてミイラパッケージから脱出をする……。

 

「24秒……これがなんの秒数か分かるか?」

 

「私が固まっていた時間か?」

 

「おしい。俺がミイラパッケージをしてから抜け出すまでの時間だ……これがどういう意味か分かるか?」

 

「……っく」

 

 巨大な鋼鉄のストローをペロリと舐める。

 10秒以上のデカい隙を作り、その間なにもしなかったとなるとそれはもう屈辱的だろう。

 

「私の……負けだ」

 

「マーキマキマキ……俺の勝ちだ」

 

 ここで逆上し怒って襲いかかってくるかと心配をしていたが、そんな事はなかった。

 10秒以上の隙を作ってしまい、その間にやられていた事実をエルザは認めて敗北を認めた……よかった、敗北を認めてくれて。これでダメだったらバッファローマンとかブラックホールとか出さなきゃいけない。ミスターカーメンやステカセキングより扱いづらいからな。

 

「お、ぉおおおおおお!新入りがナツに続いてエルザにも勝ちやがったぞ!」

 

「しゃあ!この賭け、俺の勝ちだぜ」

 

「ぎゃあああ、オレのヘソクリがぁ!」

 

 俺が勝ったことで周りは騒ぐ、騒ぐ。ナツ、全財産を賭けるとか言っていてヘソクリを隠し持っていたのか。

 まぁ、賭けは俺の勝ちだからそのヘソクリはありがたく俺がいただくけども。

 

「あ〜久しぶりに動いた」

 

 戦いは終わったので元の姿に戻る。

 最近というか島にずっと居たのであんまり動く機会はなかった。本気で殺りにいってはいないけれども良い感じの汗をかくことが出来た。

 

「シゲオだったな……改めてよろしく頼む」

 

「ああ……にしても汗が……ふぅ」

 

 仮面の中に手を突っ込んで汗を拭く。

 

「その不気味な仮面を外せばいいのではないのか?」

 

「嫌だよ……素顔が見たけりゃ俺を倒してみろ」

 

 敗者はなんにも言えない。それが悪魔の流儀よ。

 エルザと握手を交わすと周りも俺を囲む……なんとも言えないむず痒い気持ちだ……。

 

「あ、俺の配当金プリーズ」

 

 貰えるものは貰っておかないと。



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悪魔の妖精 3 

「マスター、ただいま」

 

「おぉ……おお!」

 

「ちょ、泣かないでくださいよ」

 

 妖精の尻尾に正式加入をし、数週間程経過した。

 賭博によって得た金は自分の部屋を借りたので一瞬にして消え去った。マグノリア、商業都市だから魔界よりも物価が高い。なので思ったよりも金が必要だったりする。盗賊とか山賊とかを討伐する系の依頼はこなしていない。ナツ達と戦ってしみじみと分かった。俺は人を相手にする事が相変わらず苦手だ……爺さんに諭されても根本的な部分はあいも変わらず……。

 

「だって、だってお前さんなにも壊しとらんじゃろう」

 

そこ(・・)で泣きますか普通」

 

 仕事完遂の報告をすると大粒の涙を流す爺さん。俺が仕事先でなにもぶっ壊さなかった事を喜んでいる。

 入った後に調べてみたんだがこの妖精の尻尾、フィオーレ王国でもトップと言われるほどの力を持っている反面、問題行動を起こしまくるので有名である評議院に目を付けられまくってるらしい。

 ナツとかエルザとか半裸の男もといグレイとか、強い奴ほど問題行動を起こしている……近隣の村に被害を与える魔獣の討伐をしただけで大号泣は引く

 

「普通はその程度の事で浮かれるな、なのにな」

 

 前に居た環境が過酷だっただけに違和感しか感じない。なんとも言えないむず痒い気持ちになっていると顔がメシメシという。

 この程度のクエストをこなした程度では浮かれるなという通達だろう。7人の悪魔ならばもっともっと凄い依頼を受けろって事だ。

 

「マスター、ここにある依頼よりもっとエグいのはないんですか?」

 

「2階にある」

 

 2階か。

 そういえばこの酒場の一階には驚くぐらい人はいるけども、二階には全然人がいない

 

「じゃが、2階には行ってはならん……彼処にあるのはただのクエストではない。S級クエストじゃ……あれを受けていいのはS級魔導士のみ」

 

「ほぅ……S級クエストか」

 

「S級魔導士になりたければ1年に1度のS級の昇格試験を受けるしかない……ま、頑張って依頼をこなすんじゃの」

 

 やっぱり何処の世界も手柄を多く取ってこいっていう成果主義なところはあるか。

 S級クエストと言う今あるクエストよりも更に上があると知れただけでも俺はモチベーションが上がる。

 

「さて、次の依頼をこなすか」

 

「シゲオ、そんなにポンポンとやらなくてもいいぞ」

 

「借りた賃貸が13万Jで思ったよりも高かったんです……貯金作らないと」

 

 半年分の生活費を一気に貯め込んでクソみたいなニート生活を送ったりもしてみたい。世の中は金と知恵と偉い何処かの誰かが言っていた。

 13万×6で78万でそこから水道代金とか食費とかも含めると……250万Jか……家具とか揃えないといけないし、それが最低限の金といったところか。

 

「なにか良い依頼は……っち……」

 

 魔法薬に必要な薬草の採取、非常に珍しい食材の捕獲、箱を閉じている魔法の解呪、どれもこれも簡単にこなせそうな依頼だ。

 その代わり7000Jとかの格安の依頼料……これ、途中でギルド連盟とかがマージンで値段を差っ引いていて、本当はもうちょっと金があるらしいんだよな。

 

「討伐系の依頼以外はどれもこれも似たりよったりの依頼料か」

 

 珍しい食材を取ってくる系の依頼ならばいっそのこと、グルメ界に行ってこいとの依頼があれば面白いのに。

 とはいえ、アースランドはグルメ界との交流も貿易もとっていない。あちらの世界の人間は数が少ない上に舌が越えているから、わざわざこちらの世界には来ない。こちらの世界のコ・カコーラよりもメロウコーラの方が何百倍も美味いからな。

 

「人じゃない討伐系は……」

 

 千桁の依頼には興味はない。万を超えた依頼じゃなきゃ下手すりゃ移動する費用だけで赤字になることもある。

 転移系の魔法は使えるから俺にはあんまり関係はなさそうだが、複数の人と組んでやった場合だと疲れるから使わない。

 

「悪魔の討伐依頼か」

 

 人を相手にしない討伐系の依頼の中で最も良い討伐依頼。

 30万Jの報酬で村の辺境に巣食う悪魔を討伐してほしいと言うオーソドックスな依頼……悪魔の世界は完全実力主義、他の悪魔が悪魔を殺したとしても誰も文句は言わない。この世は弱肉強食の世界と教えているからな。

 

「マスター、この依頼を受注しといて」

 

 お金の為に悪魔をぶっ飛ばす……反社会的な感じ、悪でいいね。

 マスターに依頼書を渡すと、ギルドから出て依頼をしてきた村がある方向を向く。

 

「へ〜んし〜ん!」

 

 ここから交通機関を利用しても最低でも半日以上は掛かるところに依頼主がいる。

 いちいち歩いていたらキリは無いので魔法を使い変身……全身黒色で顔のど真ん中に穴が空いている悪魔、ブラックホールへと変身をする。

 

「四次元ワープ!」

 

 はい、あっと言う間に瞬間移動。四次元を制するブラックホールに掛かればワープなんてあっと言う間なもんだよ。

 っむ……周りには人がいない。どうやら若干転移先を間違えた様だ……まぁ、悪魔は些細な事は気にしないというものだ。

 

「まだか!まだ魔導士ギルドの者はこんのか!」

 

「落ち着いてください村長」

 

「そうですよ、まだ依頼を出したばかりでそんなに直ぐに」

 

「魔導士ギルド、妖精の尻尾だ!」

 

「もう来たぁ!?」

 

 悪魔の事で村がモメてるのでカッコよく登場をしてみせる。

 爺さんが今頃は受理をしているであろう依頼の為にまだ来ないと思っていた依頼主は目玉を飛び出して驚く。流石にこんな秒で来ることは予想外だろう。

 

「って、まだこんな若いじゃないか!」

 

「おいおい、人を見た目で判断するのは良くないことだぜ」

 

 それに俺は妖精の尻尾の子供組の中じゃ年長者な方だ。酒の方は飲めねえけど……飲んだらなにするか分からないからな。

 酒云々は置いておいて俺の事を見て、少しだけガッカリとする依頼主達……ったく、本当に強い奴は無駄に威張ったりしねえってのに、しゃあねえな。

 

「へ〜んし〜ん!」

 

 必要なのはイャンパクト。

 俺が舐められない様にする為の1番の魔法……それは俺がなれる姿の中でも最も強い荒れ狂う猛牛、バッファローマン。

 

「お、おぉ!」

 

 鋼の如きその肉体を見て、言葉を失う依頼主達。

 

「このバッファローマンは俺様に10000000パワー……っと、これ今は関係の無い話だな」

 

 圧倒的な力を持つこのバッファローマンを自慢してやりたいところだが、そんな場合じゃない。

 腕をバキバキと鳴らして依頼主達に今回の依頼の標的を尋ねる。

 

「さぁ、どいつを血祭りにあげればいいんだ」

 

「ず、随分と物騒だの」

 

「今からぶっ飛ばす相手に行儀良くするほど俺は育ちがいいわけじゃないんだよ」

 

 相手は人間じゃないから、ぶっ飛ばしたとしても誰も何も文句は言わない。

 まぁ、精々言うならば今回の相手がゼレフとか言う400年前から生き残っている魔法に失敗した愚かな魔道士が作り上げた人造的な悪魔である事を祈るぐらい、アレはぶっ殺しがいがある。

 

「彼処です!彼処にある家に悪魔は住み着いております」

 

「悪魔が家に住み着いている、だと?」

 

 村長に案内をしてもらうと悪魔の住み着いている家に辿り着く。

 おかしいな。悪魔ってのは基本的に暴れたりするもんだし、家に住み着くタイプはあんまり見ない。社会に溶け込むタイプの悪魔……いや、知的な悪魔ならばもう少し上手くやる。力で抑えるタイプじゃないならば尚更だ。

 

「どうやら一筋縄じゃいかなそうか」

 

 鬼が出るか蛇が出るか、こういう博打みたいなのは悪くはねえ。

 なにが出てきても問題が無いようにバッファローマンの姿のままで悪魔の巣食うと言う家に向かっていく。

 

「おう、ここに悪魔が居ると聞いたがそいつはどいつだ!」

 

「っ!」

 

 家に入るとそこは荒れていた……なんてことは無かった。

 普通に生活感溢れており住人と思わしき子供がビクッと反応しており、慌てていた。

 

「お前が悪魔……いや、氣が違うか」

 

 悪魔の気配はちゃんとするが目の前にいるちびっ子じゃねえ。

 となると知性ある悪魔が奴隷として従えている……いや、それだったらはなっから村全体を従えている。わざわざ魔導師ギルドに依頼するって事は……キナ臭いな。

 

「ミ、ミラ姉は渡さない」

 

「っむ……」

 

 バッファローマンの姿になっている俺に怯えて足を震わせても、なにかを守る様に庇う少女。

 姉……悪魔の気配はするが少女からは一切しない。

 

「姉ちゃん、逃げて!ここはオレ達が食い止める」

 

 今度は男の子が出て来て誰かを逃げるように促す。

 

「っ、止めろ……そんな事をやってもお前達が死ぬだけだ!」

 

 2人が言っていたミラ姉と言う人物と思わしき女の子が出てくる。

 何処からどう見ても普通の女の子じゃないかと思ったら右腕が異形な姿をしている……ふむ……。

 

「お前、私を殺しに来たんだろう……殺すなら殺せ……けど、リサーナとエルフマンは」

 

「ミラ姉、やめて!」

 

「そうだよ……姉ちゃんは悪魔でもなんでもない」

 

「ちょ、ちょっと待て。イマイチ事情が飲み込む事が出来ん……少し冷静にならせてくれ」

 

 必死になってミラとやらを庇おうとする2人。容姿が似ていることから弟と妹なのは分かるが、イマイチ状況が飲み込めない。

 

「冷静って、貴方さっきミラ姉を出せって」

 

「俺は悪魔を出せと言った。悪魔の力を使ってる奴とは一言も……そもそもで人殺し系の依頼はどんなギルドであろうと絶対にしてはいけないルールだ」

 

 第一、俺がこいつを殺す理由は見つからない。

 俺もそうだがこの3人もイマイチ状況を掴めていないので俺は適当に腰掛け、バッファローマンの姿から元の姿に戻る

 

「変身してたの?」

 

「まぁ、そんなものだ……っと、俺の事はどうだっていい。問題はお前達の事だ。俺は悪魔の討伐の依頼を受けてやって来たんだが……これはいったいどういうことだ……お前、悪魔じゃないだろう」

 

 今までの話を纏めて推理すれば、今回の依頼の討伐対象はこのミラと言う子だ。

 だが、この子からは人間の気配が強く微弱な悪魔の気配を感じるだけだ……。

 

「村の教会に悪魔がいて、その悪魔をミラ姉が追い払おうとしたら悪魔が取り憑いたの」

 

 俺が話の通じる相手だと分かると妹と思わしき子は事情を話してくれる。

 見たところ普通の女の子だが、それで悪魔を追い払おうとしたとは随分と度胸があるみたいじゃねえか。

 

「それから村の人達は……姉ちゃんが悪魔に取り憑かれたって騒いで、魔道士ギルドに依頼を……」

 

「……1つ聞く、この村で魔法に詳しい奴とかは居るのか?」

 

「いや……居ねえよ。そんなのが居たらわざわざ私が悪魔なんか追い払うか」

 

「はぁ……そういうことか」

 

 ミラの言葉を聞いて、点と点が繋がった。

 

「先ず、大前提としてミラ、お前は悪魔に取り憑かれたわけじゃない……無意識の内に魔法を使ったんだ」

 

「魔法……私が?」

 

「ああ。別に驚くことじゃない。こっちの住人は誰だって魔法を使える可能性を持っているんだ」

 

 このアースランドの住人は全員体内に魔力を宿している。

 最終的には才能の有無が関係してくるが魔法は覚えることができる……稀に気付かずに無意識で魔法を使っちまう子供が居たりするのは小耳に挟んだが、実際に目にするのははじめてだ。

 

「悪魔に憑依されるのが魔法だって言うのか!」

 

「逆だ、逆……お前は悪魔に体を乗っ取られたんじゃない。接収(テイクオーバー)、生き物の体を乗っ取る魔法……俺も使っている」

 

 悪魔に体を乗っ取られたんじゃない、悪魔の体を乗っ取ったんだ。

 どんな悪魔が宿っているかは知らないが若い子供に乗っ取られるとは、いったいどんな悪魔だった、いや、今は考えないでおこう。

 

「じゃ、じゃあ姉ちゃんは悪魔に取り憑かれたんじゃないんだね!」

 

「ああ……俺も同じ魔法を使っているからよく分かる。お前から悪魔の気配は感じるが悪魔じゃない……にしても、スゴいな。悪魔を接収するなんざ、中々だ」

 

 なにか特別な訓練を受けているわけでもないのに悪魔に立ち向かっただけでも立派だってのに……鍛えれば化けるな。

 姉が悪魔に乗っ取られたんじゃないと分かると嬉しそうにする妹と弟だが、ミラだけは浮かない顔をしている。

 

「……らない」

 

「ん?」

 

「こんな魔法、いらない!こんな力、私は必要は無い!家族で、エルフマンとリサーナと平和に暮らせるだけでいいんだよ」

 

 こんな力はいらないと自分の右腕を強く睨みつける。

 村の人達から悪魔と蔑まれ、元に戻らない腕とくれば誰だって嫌になるもの……

 

「お前の思いは分かった」

 

「お前、魔道士なんだろ。私の腕を元に戻す方法を教えてくれよ!」

 

「……それでいいのか?」

 

「いいに決まってるだろう。元に戻りさえすれば」

 

「現実はそんなに甘くないことぐらい、理解しろ」

 

「っ……」

 

 魔法とは無縁な村に普通に暮らしていて、悪魔がやってきた。

 その悪魔をやっつけようとして無意識の内に接収の魔法を使い、悪魔の体を乗っ取った。そして魔法に詳しくない村の人達から悪魔に取り憑かれたと激しく蔑まれる様になった。

 

「お前の平穏に暮らしたいと言う思いは否定はしないが、お前とお前の家族の平穏を乱す奴はごまんといる。この国は治安が悪いからな」

 

 闇ギルドは沢山あるわ、黒魔導士の妄信的な信仰をする組織があって禁術に手を出すわ、封建主義な貴族が残ってるわ闇が多い。

 平穏に過ごしたとは簡単に言えるが、それを実行することは難しい……その事をミラも薄々感じている。

 

「……信念はあれば越したことはない……だが、力は必要だ。力無き信念なんてもんはただのゴミだ」

 

 なにかを成し遂げる為には圧倒的な力が必要だ。そしてその力を手に入れる事が出来るのはほんの一握り。

 そしてその一握りの中にミラは入っている。無意識の内に悪魔を接収するなんぞ才能があるとしか言えない。

 

「……私は、どうすればいいんだ……」

 

「少なくともこの村に居たらダメだな」

 

 悪魔をやっつけようとして接収したミラを悪魔に取り憑かれたと蔑んでる時点でもうダメだ。

 今から接収したんだって説明を……あ〜そう言えば、今回の依頼をどういう風に後始末を付けるとか考えてなかったな。

 

「何処か新しい場所を見つけないといけない」

 

「……だったら、だったらお前の入ってる魔道士ギルドに入れてくれよ」

 

 こことは違う何処かに行かなければならない。そう教えるとミラはとんでもない事を言い出す。

 俺みたいなのが入ることが出来ギルドでナツとかグレイとかの若い奴が入れるんだからミラでも入ることは出来る。

 

「あんたも同じ魔法を使うんだろ……教えてくれよ」

 

「俺は、人になにかを教えたりすることはあんま向いてないんだけどな」

 

 手加減が本当に苦手なんだ。気を抜いてしまえば人を殺そうとしてしまう。

 同じ悪魔だったとしても俺とミラじゃ力の差がありすぎて……なんかやらかしそうで怖い……けど、まぁ……なんとかなんのだろうか。

 

「リサーナ、エルフマン……私はこの家を」

 

「私も行く!」

 

「お、俺も!」

 

「くっくっく……美しい姉弟姉妹愛だな」

 

 自分はここを出て妹と弟を安全にしようと考えてるみたいだが、2人はついてくる気満々だ。

 ミラは言う前に阻まれたので一瞬だけ驚くがすぐに嬉しそうな顔をし、涙を流す……

 

「悪魔を宿した女が涙は似合わない……笑えよ」

 

「……そういえば、お前の名前をまだ聞いてなかったな」

 

「シゲオだ」

 

「シゲオ……ありがとな」

 

「礼を言うにはまだ早いぞ……村人達にそれ相応の報復をしないと」

 

「なっ!?そんな事をやったら」

 

「まぁ、聞け……このままだと色々とまずい」

 

 折角、俺なんかを拾ってくれたマスターの顔に泥を塗るのは申し訳ない。

 ミラが村を助けたと言うのに蔑まれるのはなんだかムカつくし、それ相応の報復をしないといけない。後、こんな依頼を持ってきた魔道士ギルドの組合に文句を言っておかなければならない。

 

「あ、出てきたぞ!」

 

 ミラだけでなくリサーナとエルフマンとの話し合いを終えた。この家を出ていく準備を終えたので家を出ると依頼してきた村長の取り巻き的な人が声を出す。うんともすんとも言っていないからどうなっているのか気になんだろうな。

 

「それで悪魔は……まだいるじゃないか」

 

「ああ……今からこの子に取り憑いた悪魔だけを倒す。あんた等の依頼は悪魔を倒せ……魔道士ギルドは人殺し系の依頼は出来ないからな」

 

 ミラを蔑んだ目で見てくる村の人達。接収について説明をしようと思ったが無駄だと諦める。

 今から悪魔を倒す事を見せてやると村人達を集めると直ぐに集まる……余程、悪魔の脅威に怯えているな。

 

「お、おい、大丈夫なんだろうな」

 

 沢山の村人が集まってきて本当に大丈夫なのかと心配をするミラ

 

「ミラ、悪魔は都合のいい事しか覚えようとしないが約束は守るんだ……さぁ、今から彼女に宿る悪魔を退治してみせましょう」

 

 後はもうなるようになれとしか言えない。

 俺は自分の被っている仮面に手をつけ、思いっきり引っ張る

 

「フェイス、フラァアアアシュ!!」

 

 素顔を晒すと燦然と輝く。眩い光に村人やミラ達は目を閉じてしまう。

 この技こそ俺が巻き起こす奇跡の魔法……っく……。

 

「はぁはぁ……悪魔退治完了だ……っく……」

 

「腕が……!」

 

「お、おぉ、ミラに宿ってる悪魔が!」

 

 異形な右腕は元の綺麗な女の子の右腕に戻った。

 それを見た村長はミラから悪魔が完全に消え去った事を喜ぶ……。

 

「クエストは達成、した……約束の報酬を寄越せ……っ……」

 

「あ、ああ……大丈夫か?」

 

「あんた等から金を受け取って、家に帰る……ぐらいはな」

 

 フラフラの俺を心配する村長だが、あんたに心配されるほど弱っちゃいねえ。

 村長から報酬の30万Jを受け取ると村の外へと出ていく。

 

「悪い、待たせたな」

 

「ごめん、ちょっと荷物が重くて」

 

「さっきの光、スゴかったよ!」

 

 後で会おうと打ち合わせをした場所で落ち合うミラ、エルフマン、リサーナ。

 

「にしてもスゴいな……私の腕を少しの間だけ元に戻すなんて」

 

 ポンと右腕を悪魔の姿に変えるミラ……おいおい

 

「まだ接収した姿から元、の人間の姿に戻し方を教えてねえぞ」

 

「なんかコツを掴めた気がする」

 

「よかったねミラ姉」

 

「これでもう悪魔だって言われない」

 

 元の腕と悪魔の腕と交互に入れ替えるミラ。

 こんな事が出来るって事は……フェイスフラッシュの影響だろうな。あれってなんらかの奇跡を巻き起こす技だし。

 

「オレ達もあんな風に魔法を……シゲオ!?」

 

「ああ、んだよ……」

 

「物凄く汗をかいてる……大丈夫なの?」

 

 汗だくな俺の心配をしてくるリサーナ。

 

「問題無い……と言いたいんだがな」

 

「おぉ、おい……お前、やっぱりさっきのは」

 

「そうだよ……予想以上にパワー使うんだ」

 

 フェイスフラッシュはその気になれば腐ったドブ川を一瞬にして飲めるほどに清らかな清流へと変える事が出来る。

 俺はまだまだ未熟なフェイスフラッシュだと通常よりもパワーを使ってしまう。

 

「すまねえ……私なんかの為に……」

 

「気にするな……ほらよ、30万Jだ」

 

「なっ……こんなもんいらねえよ!」

 

 報酬の30万Jを差し出すと突き返してくるミラ。

 

「今からお前達は新天地に向かうんだから、何かと実入りが必要だ」

 

「だからって、こんなの受け取れけねえ……シゲオ、お前の気持ちは嬉しいけど……これじゃあ、これじゃあ貰ってばっかだ」

 

 さっきから俺の好意に甘えてしまっているミラ。何一つ恩を返せてないと自分自身を落胆してしまう。

 はぁ……まぁ、施しなんてあんま受けたくないな。

 

「悪魔にだって友情はあるんだよ……あんなのを見せられてなにも言えない……」

 

「けど」

 

「それならこれはどうだ?この30万Jは俺から借りた扱いで、後々纏めて返してほしい」

 

「そんなの言われなくても返すよ」

 

「……よし、じゃあこうしよう。お前達に依頼をする……俺の家で週に何回か家事をやってくれ……その上で30万を貸してやる」

 

 本当ならばこの30万Jはミラ達が使うべきものだ。

 悪魔の討伐ってのを達成したのはミラなんだ……他人の手柄を横取りするほど、俺は落ちぶれちゃいない。

 

「ミラ姉、受け取ろうよ」

 

「リサーナ」

 

「オレ、魔法の事は出来ないけど家の事だったら手伝えるよ」

 

「そうだよ。シゲオはこのお金をミラ姉に受け取って欲しいんだよ」

 

「っ……っ……本当に、なにからなにまでありがとう……」

 

「ああ……泣きたい時は思いっきり泣いて、その後に……ふぅ……」

 

「シゲオ、大丈夫なの?姉ちゃんの右腕を元に戻した時のあれで魔力が」

 

「大丈夫……とは言い難いが歩けないわけじゃない。本当ならパッとマグノリアの街に移動できるんだが久々過ぎて体力も魔力も持ってかれてる……多少の時間が掛かるが歩いてマグノリアを目指すぞ」

 

「お、おう」

 

「うん!」

 

「なんだか旅みたいだね」

 

 リサーナ、冒険が本当の意味ではじまるのは妖精の尻尾についてからだ。

 妖精の尻尾に入って早数週間、まさか自分が導く側の人間になるとは思いもしなかった。けど……なんだろうな。不思議と気持ちは悪くはない。



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悪魔の妖精 4 

「以上だ……マスター、仕事の偽装はいけないことです」

 

 ブラックホールの力を使わず、歩いて妖精の尻尾へと帰還した。

 仕事内容が悪魔退治だってのに悪魔に取り憑かれた人間を殺せと言う依頼だったので、爺さんに少しだけ愚痴る。

 

「むぅ、そうじゃったか。ギルド連盟にはワシが話を通しておく……接収(テイクオーバー)の魔法を勘違いか、お前さんも大変じゃったな」

 

「……別に……」

 

 一連の事情を知って同情をする爺さんだが、ミラはイマイチ心を開いていない。

 リサーナとエルフマンはここが魔導士ギルドなのかとワクワクをしているが……どうしたものか。時間が勝手に解決してくれるのを祈るべきか。いや、それだと万が一があるか。

 

「それでシゲオ、どうするつもりだ?」

 

「聞けば親もとっくの昔に死んじまってる……無意識に悪魔を接収したなんぞ才能の塊だし、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入れる……暫くの間は俺が面倒を見る」

 

「そうか……ミラよ、そう警戒をせんでもよい。ここにはお前を蔑む者は誰もおらん」

 

「……」

 

 爺さんの言葉を聞いても警戒心は無くならない。

 まぁ、自分が悪魔に取り憑かれたと思われて蔑まされたと思っていたら魔法を無意識に使っていたなんて事を聞かされて実は魔法だったとはいそうですかと受け入れる訳にはいかんか。悪魔と言うのは都合のいい事のみを覚えて後は忘れろと言うが酷か。

 とりあえずギルドに入ることは確定なのでギルドのマークをスタンプの魔法で体の何処かに入れなければならない。

 

「シゲオは何処にマークを入れてるんだ?」

 

 何色にするのか何処にマークを入れるか悩んでいるミラ。

 こんな事に迷う事は無いと思うが下手すりゃ一生物になるマークになるから、女なら色々と考えるだろうか。男臭いところにしか居なかったからか女心というのはよく分からんな。

 

「何処だと思う?」

 

 ここで何処にあるかを答えてもいいが、それだと面白くはない。

 何処にあるかクイズを出してみるとミラは俺の事をジッと見てくる……クククッ、普段から晒してる部分にゃギルドのマークは無い。

 

「……背中?」

 

「惜しい、上半身じゃなくて下半身にしてある」

 

「下半身、ま、まさか!?」

 

 何を想像してるんだお前は。下半身と言う言葉で顔を物凄く真っ赤にしてプシューと顔から煙を出すミラ。

 

「尻だよ、尻にギルドのマークを付けてる」

 

 このギルドの名前は妖精の尻尾(フェアリーテイル)、妖精の尻尾……ならば、尻にギルドマークを付けるのがいい。

 尻にマークを付けているのはオレだけの様だ……流石に股間のアレとかにマークをつけてるやつはいない……舌につけてる奴が居るとかは聞いたことはあるがな。

 

「見るか?」

 

「だ、誰が見るか!」

 

「クックック」

 

「なにがおかしい!」

 

「いや、おかしいんじゃねえ。さっきまでの暗い表情が嘘みたいになってるだろ?」

 

「あ……」

 

 浮かない顔で爺さんにすらマトモに心を開いていなかったミラだが、何時の間にか素の明るい顔に戻っている。

 その事を自覚していなかったのかミラは俺の一言で気付き、クスリと笑う。やっぱ暗い表情よりも笑っている方がコイツにゃ似合うな。

 最終的にミラは自分の左の腿にギルドのマークをつけた……そこだと変な奴に視線を向けられる気もするが……まぁ、いいか。

 

「さてと、一旦帰るぞ」

 

「ああ……エルフマン、リサーナ、行くぞ」

 

「うん!」

 

「行こう、ミラ姉」

 

 ここでのワイワイ騒ぎは楽しくてしょうがねえけど、忘れちゃいけない。オレは30万Jと言う大金を3人に使い身の回りの家事なんかを頼んだんだ。何をするのにも金は必要だからな……。

 

「此処が俺の借りてる家だ」

 

 ギルドを出て徒歩10分、家賃13万Jと妖精の尻尾の女子寮であるフェアリーヒルズより家賃はお高めだが、フェアリーヒルズと違い一部屋じゃなく一軒家の借家だ。2LDKの一階建ての借家で、マグノリアの中では比較的に安い……不動産は金が貯まったら4LDKの一軒家を購入しないかと提案をしてきたが、オレには広すぎる。本音を言えば1Kぐらいの家でいいんだけどな。

 

「お前……そこそこ散らかってるじゃないか」

 

「むぅ……俺からすれば普通なんだが」

 

 ミラ達を案内すると散らかっていると怒られる。貯金の為に仕事にばかり行っているから片付ける機会が中々に無かったからな。

 俺としてはこれでなにが何処にあるのかが分かっているがミラからすれば汚いようでミラは背負っている鞄から掃除道具を取り出した。

 

「エルフマン、リサーナ、掃除すんぞ」

 

「うん!」

 

「窓、開けるね」

 

 掃除用具を手にして散らかっている部屋を片付けてくれるミラ。

 何処か男よりも雄々しい感じがしているから女子力が皆無かと思えば真逆、家事は万能であっと言う間に部屋は綺麗になっていく。

 

「変わった食器ばっかだな」

 

 部屋を綺麗にしたら今度は溜まっている食器を洗う。

 

「俺はこれでも東の国の出身で主食はパンじゃなく米なんだよ」

 

 生まれは東洋で、フィオーレ王国の人間じゃない。育ちは……まぁ、色々と転々してる。グルメ界で1年以上も修行していた時期もあったから舌は肥えてる。とにかく朝はパンよりも白米、ご飯。スープはコーンスープじゃなくて豆腐とワカメの味噌汁がいい。

 

「東の国の出身……なんでフィオーレ王国に居るんだ?」

 

「……それは」

 

「シゲオ、これって何処に置けばいいの?」

 

「っ、それに触るな!」

 

 ミラの疑問に答えれずにいるとリサーナが一冊の魔導書を持ってきた。

 

「ひっ!?」

 

「おい、リサーナを脅かすなよ!!」

 

「あ……悪い……」

 

 リサーナが持ってきた魔導書は触れてはいけない物だ。厳重に保管して置かなければならないのに乱雑に置いていた俺が悪い。

 リサーナに謝ると俺はリサーナが持っていた魔導書を受け取る。

 

「それ、大事な物なの?」

 

「……俺の一族に伝わる大事な物なんだよ」

 

 ぞんざいに扱ってはいるが、この魔導書は見る人が見れば国宝だと言うほどの価値はある魔導書。

 存在自体は有名じゃないがこの魔導書にはとんでもない力を秘めている。大事な物だとリサーナから魔導書を受け取ると異空間に魔導書をしまう。コレは本当に大切にしておかないといけない物……あんまりぞんざいに扱ってはならない。

 

「そうだ。なにか食いたいものは無いか?作ってやるよ」

 

「だったらカツ丼を頼む」

 

「おし、カツ丼だな」

 

 俺の1番の好物だ。他の奴等はカルビ丼だ牛丼だなんだと言うがやっぱり男ならばカツ丼だ。

 俺の食べたい物が分かると張り切って食器洗いをする……30万Jを使って正解だったかもしれねえな。

 

「あ!」

 

「どうした?」

 

「な、なんでもねえよ」

 

 カツ丼の材料があったかと冷蔵庫を確認していると急に声を上げるミラ。

 皿でも割ったのかと思ったが、割ったら割ったガッシャーンと言った音がするはずだから音がしない。何事も無かったかの素振りをミラは見せてはいるが、明らかになにかがあった。

 

「お前、接収を発動しているじゃねえか」

 

 沢山の泡で悪魔化していた右腕を隠そうとしているが出来ていない。

 

「コツを掴んだんじゃねえのか」

 

「いや……元に戻せるけど、気付いたらこうなっちまう」

 

 ポンポンと魔法陣を出しながら腕を悪魔から人間の姿に戻したり戻ったりと交互に繰り返す。

 接収による肉体変化のコツを掴んではいるが……こいつ、腕しか変えることが出来ていない。悪魔をやっつけて取り憑かれたと言っていたから体の一部だけ接収したんじゃなく全部を接収しているはず。

 

「ミラ、表に出ろ……力の使い方を教えてやる」

 

「この力を……あの時みたいに光をぶつけたら」

 

「それじゃあその場しのぎにしかならねえ。お前が自分の魔法を意のままに操ることが出来ねえと、同じ事の繰り返しだ」

 

 それに何時も俺が側に居るわけじゃない。これから色々とギルドの依頼をこなす事も考えれば力を扱える様になっとかねえと。

 自分の魔法のコツは掴んだものの完全に使いこなしていないミラは恨めしそうに自分の右腕を見るのだが、ゴクリと息を飲み込んだ。

 

「シゲオ、力の使い方を教えてくれ!」

 

「ああ……ん、どうしたエルフマン?」

 

「その……姉ちゃんを傷つけないで」

 

「エルフマン……」

 

 力の扱い方を教えると言うことは危険な戦闘をするということ。

 エルフマンは俺がミラを傷つけるんじゃないかと心配をするので頭にポンと手を置いた。

 

「安心しろ、お前の姉ちゃんは怪我させねえよ」

 

「ホント?」

 

「ああ、ホントだ……ふっ」

 

 かつては悪名を轟かせまくっていた七人の悪魔だった俺も随分と丸くなってものだ。リサーナもミラを傷つけないのか心配をするので俺は見ての小指を出して指切りげんまんをする。嘘ついたら針千本飲まなきゃならねえから約束は守らねえと……悪魔は何がなんでも契約は守る。

 

「力の扱いを教えるって言ったけど、具体的になにするんだよ」

 

 リサーナとエルフマンに残りの家事を任せ、マグノリアの暴れてもいい街の外れにやってくる。

 右腕を悪魔の腕と人間の腕にしたりと本人なりに力の扱い方を覚えようとしているのだろうが、俺から見ればまだ甘い。

 

「お前が今やっているのはこういう事だ」

 

 ミラの様に右腕を鋼鉄のバネへと変化させる。

 今、ミラがやっているのは悪魔の肉体を一部だけ接収で出しているだけに過ぎない。

 

「お前は今から全身接収をするんだよ……こういう風にな」

 

 体を光らせ、今度は全身をバネに変化……打撃と関節技に関しては無敵と言えるスプリングマンに変身した。

 今からミラに力の扱い方を教える以上はサンドバックになるぐらいの覚悟はしている。どんな技が飛び出してくるか分からねえからこのスプリングマンほど最適なものはない。

 

「全身を、変化……」

 

 自分の右腕を見てゴクリと息を飲み込むミラ。

 

「怖いか?」

 

 俺の問い掛けにミラはコクリと頷く。接収の魔法は自らの肉体を大幅に変化をさせる魔法で、変身魔法と似ている。

 己の姿を変えるという点で似ているが、変身魔法と異なり暴走をしてしまう恐れがある。接収の魔法は危険なところがある。

 

「俺を思いっきりぶん殴ってみろ」

 

「なにを言ってるんだ」

 

「いいからその腕でやってみろ!」

 

 今の俺はスプリングマン。打撃系の攻撃や関節技は殆ど効かない。

 ミラが今の時点でどれだけ悪魔の力を使いこなせているのかは知らんが、ちょっとやそっとの事じゃこのスプリングマンは倒すことは出来ない。

 

「や、やるぞ」

 

「ああ、来やがれ」

 

「うぉおおお!」

 

 迷いを断ち切り思いっきり腕を振って俺に殴りかかるミラ。

 防御の構えを一切取らずに攻撃を受ける……全く鍛えてないのに年の割には良い感じの拳じゃねえか……けど、今の俺はスプリングマン。ただ普通にぶん殴ったとしてもバネがボヨンと弾くだけで全くと言ってダメージが無い……が、少しだけ後退る。

 

「いい拳、してんじゃねえか」

 

「だ、大丈夫か?」

 

「おいおい、他人の心配よりも自分の心配をしろよ」

 

 鋼鉄を真正面から殴ってるんだから、腕が痛むだろう。

 そう思ったがミラは全くと言って痛がる素振りを見せていない……こりゃとんでもねえ才能だな。

 

「俺は人より頑丈なんだ。もっともっと攻撃してこい」

 

「ああ!」

 

 俺を殴ってもなにも問題はない。

 そう分かるとミラは右腕で俺を思いっきりぶん殴ってくる。

 

「右腕だけじゃない、他の体も使え!お前には才能がある。自分を信じるんだ」

 

「っ、だらぁあああ!」

 

 俺の言葉に反応し段々と込める力が、魔力が高まってくるミラ。

 右腕だけじゃなく左腕、左足、右足と段々と悪魔の接収の力を発揮していき、体格が段々と変わっていく。接収の魔法で全身の姿を変えると元の生物に人格を乗っ取られたりする可能性があるがミラは完璧に使いこなしている……俺、自分の力を使いこなすのに結構時間が掛かったんだけどなぁ。これが才能の差ってやつか。

 

「もっともっと来やがれ」

 

 両腕両足を接収で変身出来ている。後は胴体だけだとミラの乱打を耐える。

 

「力が……スゲえ力が湧いてくる!もっと、もっとだ!」

 

「ああ、もっともっと出すんだ!」

 

 カモンと挑発をするとミラの体は光り輝く。

 残っているミラだった部分も段々と変身していき、全身接収に成功した。

 

「ぬぅおおおお!!」

 

「あ、ちょ、そっち系は無理ぃ!」

 

 一気にパワーアップしたミラは殴ることをやめた。

 両手に膨大な熱量を持った魔力の塊を集め、俺に向かって放つ。

 

「ぐふぁあ!」

 

 スプリングマンは打撃系や関節技に強く、投げ技なんかにもある程度は耐えうる力を持つ。

 しかしその反面で炎とか水とかのエネルギー系の攻撃には弱い……要するにこの攻撃は滅茶苦茶痛い。

 

「い、いててて……」

 

「わ、悪ぃ……怪我はないか?」

 

「今のは思ったより痛かった……どうやら全身接収に成功した様だな」

 

 俺の側に駆け寄り俺の身を心配するミラは全身を悪魔の体に変えているのに暴走の気配が見られない。

 完璧に制御している事に頷いているとミラは少しだけ落ち込んだ顔をする……いったいなにを落ち込んでるんだ。

 

「その……怖くはないのか?」

 

「怖いだと?」

 

「だって私、腕だけじゃなくて全身が悪魔になってるんだろ……怖くないのか?」

 

「怖くねえよ……元の姿に戻ってみろ」

 

 俺の言葉通りにポンッと元の姿に戻るミラ。もう一度悪魔の姿になってみろと言えば簡単になった。

 

「お前の何処に怯えろってんだよ」

 

「っ……っ……」

 

「お、おい、泣くんじゃない」

 

「あーあ」

 

「姉ちゃんを泣かすんじゃない!」

 

 リサーナにエルフマン、ついてきてたのか。

 涙を流すミラにあたふたをしているとリサーナがアドバイスを送る。

 

「こういう時は抱きしめてあげないと」

 

「いや……俺はそんな気の利いたことは」

 

 俺はどっちかと言うと気の利かないマスクマンだ。

 リサーナはやってと強く懇願してくるのでミラの肩にポンッと手を置くとミラの方から抱き着いてきた。

 

「ありが、とう……」

 

「礼なんて要らねえよ」

 

 俺は特になんもしてねえ。

 こんな風に人に感謝をされることには馴れてねえからどうしても背中がむず痒くなっちまう……今までに味わった事のない感情だ。

 

「シゲオ、俺も姉ちゃんみたいに魔法、使えるかな?」

 

「使える様になりたいって思いを忘れなきゃ、使える……けどな、大事な事は忘れるんじゃねえぞ」

 

「大事な事?」

 

「魔法の力は強大だ。強くなったと勘違いをする」

 

「魔法は強い力じゃないの?」

 

 違うな、リサーナ。

 

「魔法ってのは手段の1つで目的じゃねえんだ」

 

 魔法以外にも強い力はこの世には沢山ある。料理が出来たり面白い話を作れたりするのだって立派な力で強さの1つだ。

 

「家族を守れる力を得たとデカくなった気になる奴に威張る資格もデカくなる資格もない……」

 

 このワイワイとしたギルドに入ってそれが強くわかる。過去に自分がやったこととか得た強さがどんだけ虚しいものだったのかもだ。

 今から力を得ようとしているエルフマンやリサーナ、これから強くなっていくミラに先駆者として少しでも道を示さないとな。

 

「カッコいい……」

 

「ふっ、よせよ照れるじゃねえか」

 

「き、聞こえてたのか!?」

 

 おいおい、俺はラブコメに出てくる鈍感な主人公じゃねえっての。

 ミラは俺の言葉に聞き惚れていた様なので少しだけ恥ずかしい…………。

 

「腹減ったな」

 

 サンドバック状態だったとはいえ、いい感じの運動をしてお腹が刺激されたのか空腹を感じる。

 

「食いしん坊だな、シゲオは。待ってろ、直ぐに作ってやる」

 

「ああ、美味いカツ丼を頼むぞ」

 

 ミラが接収を完璧に使いこなせる様になったので家へと帰る。

 こんなに心地の良い空腹になったのはグルメ界に行った時以来で、ミラの作る料理は滅茶苦茶美味かったとだけ言っておこう。



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悪魔の妖精 5

 

「ふぅ……」

 

 俺の朝はコーヒーによって始まる……なんて言ったら厨二病臭いか。

 しかしコーヒーというものはいいものだ。眠気を覚ますのにも使えてこの苦味がまた中々の物、マグノリアが商業都市なだけあってか良いコーヒー豆やら何やら入荷がしやすくなっている。無人島でポツリと一人暮らしをしていたのも良かったのだが、この生活も悪くはない。

 

「シゲオ……どうやってコーヒー飲んでんの?」

 

「ふっ、この仮面の口部分を経由して飲んでいる」

 

「口ないじゃない」

 

「オーバーボディと言って本来であればこの仮面は純金で出来ている物なんだ。純金の仮面の上にこの3つの角の甲を纏っている状態だ」

 

 コーヒーを仮面を着けたまま飲んでいる俺にちゃんとコーヒーを飲むことが出来ているのか疑問を抱くカナ。

 一見、口が無いようにも見えるのだがこのマスクにはちゃんと口はありそこを経由してコーヒーを飲んでいる。

 

「カナも1杯どうだ?奢るぞ」

 

「朝っぱらから苦いのはゴメンだね。同じ苦いのなら後味スッキリなビールが」

 

「おいおい、お前まだ酒飲めない歳だろう」

 

「酒じゃない、発泡した麦の汁だ」

 

 それをビールと言うんだ馬鹿野郎。

 酒場でもある妖精の尻尾のギルドは当然の如く酒も置いてあるのだが未成年であるカナに提供していたりする。故郷である東の国は酒や煙草関連の規制が厳しい……この酒場は十中八九営業停止だろうな。

 

「……」

 

「なんだ?」

 

「いや、何時もその仮面を付けてるなって……マスターも素顔を知らないんだっけ?」

 

「俺の素顔を知りたければ俺をぶっ倒せばいい。ぶっ倒して仮面を剥ぎ取れば素顔を見ることが出来る……倒せればの話だが」

 

「あ〜……私じゃ無理か」

 

 自分の実力というのをよく理解しているカナは即座に諦める。ナツの様に勇猛果敢に挑んで来いとは言わないが……もうちょっとはな。

 張り合いというものがないのは良くない事である。強力なライバルは時として己を高める為の力になるからな……。

 

「ただいま〜……シゲオ!」

 

「おかえり、ミラ……無事に依頼をこなす事が出来たようだな」

 

「が、ガキ扱いすんじゃねえよ!」

 

 俺が連れ帰って力の使い方を教えたミラはアレからメキメキと頭角を現してきた。

 悪魔を接収(テイクオーバー)出来るというのは中々の特異体質、磨けば物凄く光るセンスを持っていたのは薄々わかっていたが同世代……特に小さな子供達、将来の妖精の尻尾を担う人物の中では特に上位に君臨している。

 

「まだまだ青二才だよ。討伐系の依頼を順調に熟しているみたいだが、この大陸にはゼレフだかゼレンスキーだか知らんが悪魔もどきを作るくだらない亡霊が存在しているからな。ひょっこり何かの拍子で出会うかもしれん」

 

「ゼレフの悪魔だろ……シゲオ、なんかあったのか?悪魔関連になると色々と厳しいよな」

 

「まぁ……悪の血筋だからな」

 

 神に選ばれた人から下等な悪魔に身を落とした人間の末裔とは早々に言うことが出来ない。

 俺が7人の悪魔のリーダーであった事を知っているのは現状マスター唯一人、別に自慢気に語る事でも無いし言えばややこしくなりそうなので言わないでおく。強い血筋は重圧になれど自慢にはならねえ。

 

「コラァ!!ミラ!!」

 

「む……」

 

「マスター、ただいま!」

 

「ただいまじゃないじゃろうが!畑を荒らす魔猪の討伐の筈が畑ごと破壊してどうする!!」

 

「っくっくっく……まだまだ青二才だな」

 

 血管を浮かび上げて評議会から怒られたんだぞと愚痴を零すマスター。

 このギルドの面々、特に若い連中は年齢に比べて同世代の中でも頭が幾つも抜けていて無茶苦茶強いのだがその反面かは知らないがやらかしが多い。仕事そのものは完遂するがその過程で色々な物をぶっ壊す。おかげさまでこの国の評議会の議員に目を付けられてしまっている。全く難儀と言うかマスターが何時か高血圧関係でポックリ逝っちまうんじゃねえか心配だ。

 

「魔猪が思ったよりも雑魚だったから手加減が全然出来なかったんだ」

 

「手加減は早い内に覚えておけよ。今は魔獣系の討伐のクエストでどうにかなってるが盗賊やら山賊やらは命を奪っちまったらいけねえ。再起不能になるまでが限度だ……自信が無いんだったら後で殴り合いに付き合ってやるよ」

 

「ホントか!?」

 

「悪魔は都合のいいことしか覚えたりしねえけども破らないと決めた約束は破らねえよ」

 

「約束だかんな!!」

 

「ああ……取り敢えず休んでおけ。仕事明けに無茶をしても体を痛めつけるだけだ……アイスコーヒー1つ」

 

 今は休息の1杯が大事だ。この何気ない1杯が人を大きく成長してくれるとスタージュンが昔言っていた。

 ミラに俺の奢りでアイスコーヒーを頼めば嬉しそうに席に座りミラは運ばれてきたアイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れる。

 

「それでマスター、なんか評議会から罰則かなにかあったか?」

 

「ん、ああ、今回は」

 

「た、大変だぁ!!」

 

 マスターから今回の一件による罰則はなにか無いのかと尋ねると慌てた様子で酒場(ギルド)に人が入ってくる。

 慌てているのでなにかあったのだろうかと考えていると警報音の様なものが鳴り響く。

 

「なんだなんだ?地震か?雷か?火事か?それとも闇ギルドでも来てやがるのか?」

 

「む、そういえばお前さん等ははじめてじゃったの」

 

 警報音の様なものがマグノリア中に鳴り響く。

 ギルド関連の出来事の筈なのにマグノリア中が騒いでいる。マスターに何事かと聞いてみれば特に慌てた素振りは見せていない。

 

「ギルダーツだ!ギルダーツが帰ってきたんだ!」

 

「ギルダーツ?誰だそいつは?」

 

 ナツが嬉しそうに笑う。

 まだこのギルドの面々の顔を全て覚えているわけではないのだが聞いたことが無い名前を出される。

 

「ウチのギルドで最強の魔導士だよ」

 

「ほっほぅ……なんで街が騒ぐんだ?」

 

 グレイから説明を受けて誰が帰ってきたのかは分かったのだが問題は何故にこんなに騒いでいるかだ。

 

「ギルダーツはクラッシュという破壊の魔法を使うんじゃが……たま〜に無意識で発動しておっての。街が粉々になるからマグノリアが街を改装してギルダーツシフトと言うギルダーツがこの酒場に帰って来れる様になっておるんじゃ」

 

「おいおい……」

 

 無意識の内に強力な魔法を発動しちまってるって大丈夫なのかそれは?

 気付けばマグノリアの外からこの酒場に通じる一本の道が出来ており1人の男が歩いてくる。

 

「よぉ、ただいま」

 

 恐らくはギルダーツという男だろう。

 ラクサスを始めとしたこのギルドの若いメンツが結構な手練に対して熟練の魔導士の風貌を醸し出している。穏やかに抑えているが内に秘めている氣が中々のものだ……だがまぁ、決して倒すことが出来ないわけじゃなさそうだな。

 

「おかえり、ギルダーツ!俺と勝負しろぉ!!」

 

「はいはいっと」

 

 ナツの勝負しろという拳を知り尽くしているかの様にギルダーツは殴りかかってくるナツを簡単にあしらう。

 一瞬の内にやられたナツを見てなにやってんだよとグレイは呆れたりしている。強い相手に挑もうとするのはいいが時と場合によっちゃあ蛮行だぜ?ナツの姿は見習うべき時もあるが時にはアホだとしか言えない時もある。

 

「よぉ、どうじゃった?」

 

「思ったよりも遠かったし手強かった……ん?新入りか?」

 

 なんの仕事をしていたのか気にはなるが、情報漏洩を防がないといけない時もあるので聞かないでおく。

 マスターと会話をするギルダーツはマスターの直ぐ近くに座っている俺やミラの存在に気付いた。

 

「シゲオだ……この仮面に関しては気にしないでくれ」

 

「大分厳つい仮面を付けてるな……ふぅん……ほぉう」

 

「なんだ?」

 

「いやなに、お前かなりやる奴だなと思ってな。こりゃあ将来が楽しみだな」

 

「言っとくがコレでも15は過ぎてるからな」

 

「そうなのか?」

 

 色々と禁術的なのに手を出していて老けにくくなっているけれどもラクサスよりも歳上だからな。

 ギルダーツは俺の年齢を知って意外そうにした後に酒を注文すると椅子に座った。

 

「見ないチビ共も増えてるけど……んっ……ふぅ!この味だけは変わらねえな!」

 

 酒をグイッと一気飲みするギルダーツ。

 このギルドの空気が大好きなのか嬉しそうにしている。妖精の尻尾(フェアリーテイル)はやらかしが色々と多いギルドだがそれ以上に実績を叩き出している優秀なギルド……果たして俺は馴染む事が出来ているのか?悪魔にだって友情や絆はあるが、その力を十二分に理解しているとは言い難いからな。

 

「それでマスター、なにかあったんですか?」

 

 ギルダーツはこのギルドの空気をツマミに酒を飲んでいる。

 仕事明けのギルドの1杯は悪くはないもの、ああだこうだ言う権利は誰にも無いのだとさっきの話の続きをする。

 

「罰として誰かに酔っ払った虎を退治する依頼がやって来ている」

 

「酔っ払った虎だと?そんなもんに魔導士ギルドを派遣しなくても猟銃で一発で仕留めりゃいいだけでしょうが」

 

 この国の猟師ならば容易い事だ。

 凶暴な魔獣ならばまだしも酔っ払った虎ならば……酔っ払った虎?

 

「まさかとは思いますがその虎って滅茶苦茶酒臭いんじゃ」

 

「おぉ、そうじゃ。酔っ払ってて温厚なんじゃが酒臭くての、酒蔵を荒らしては酒樽の酒を根刮ぎ飲んでいくんじゃ。その事にカンカンになった酒屋が倒そうとしたんじゃがベロンベロンに酔っ払った虎がこれまた強くての。一般人には手が負えんものじゃから何処かのギルドに早急に依頼しようと評議院に話が回ってきた……どうした?」

 

「なに、そのベロンベロンに酔っ払った虎の種族に心当たりがあって……まさかなにかの拍子で流れ着いたのか」

 

「おぉ、じゃあこの依頼お前さんに任せても構わんか?」

 

「構いませんよ……む……」

 

 一般人が手に負えないレベルの酔っ払った虎。その正体はなんとなく分かり、分かったのならば代わりに行ってこいと言われる。

 高額な仕事の依頼を多く1人で受けたりして最近やっと生計が落ち着いてきた。家賃だなんだと気にしなくていい。

 

「カナ、極上のブランデーは飲みたくは……カナ?」

 

 ギルドのやらかしを帳消しにする依頼、ギルドの為ならば1Jも出なくても構わない。

 俺の読みが的中していたのならば極上のブランデーが飲むことが出来るのだと酒好きのカナを誘ってみようとしているのだがカナは暗い顔をしている。

 

「え、ぁ……なんだシゲオ?」

 

「いやだから、極上のブランデーは飲みたくはないかと聞いているんだが……気分でも悪いのか?」

 

 やっぱりまだ酒飲めない年齢なのに酒を飲んでるから元気が……って、俺も言えた義理じゃないか。

 なにかあったのだろうか?ついさっきまで軽口を叩き合えるぐらいにはいい感じだったのに、もしかしてなにか余計な事でも言っちまったんだろうか?女性ってのはなにかとデリケートで男は無意識にデリカシーの無い事を言っちまうからなぁ。

 

「別に……」

 

「別にって、そんな感じの事が……あ〜……」

 

 触れる優しさもあれば触れない優しさもある。親しき仲にも礼儀ありとか言うし、カナがなんで暗いのかは深くは追求しないでおこう。

 状況からしてギルダーツ辺りが関係しているのだろうが肝心のギルダーツはグビッと酒を飲んでは肉を食らっている。

 

「美味い酒は飲みたくはないのか?」

 

「奢ってくれるの?ん……じゃあ、飲ませてよ」

 

「まぁ……当たりだったらな。マスター、その仕事の場所は?」

 

「ほれ、ここに細かな事が書かれておるぞ」

 

 マスターから依頼の場所を教えてもらう。

 馬車で数時間の距離と言ったところなのだろうが、俺にはその数時間の距離と言うものは関係が無いのである。

 

「へ〜んし〜ん!」

 

 四次元を操る事が出来るブラックホールに変身した。

 顔のど真ん中に穴が開いておりゴゴゴとギルドを軽く揺らしたらど真ん中が別次元の道に通じる様になっている。

 

「中々面白え魔法を使うじゃねえか」

 

 酒を飲んでいたギルダーツは俺のこの姿を見て笑みを浮かびあげている。

 

「移動する時はブラックホールかザ・ニンジャが1番なんでな。さぁ、飛び込んでこいカナ!」

 

「うん!」

 

 俺の顔面の穴に手を突っ込めば吸い込まれていくカナ。

 無事に転送された事が分かったので俺もカナが飛ばされた場所に向かう。

 

「ロケーションムーブ!」

 

 シュンとギルドの酒場から姿を消す。

 辿り着いたのは商業都市のマグノリアとは真逆なのどかで平穏な村だ。

 

「ホントにこんなところに美味いブランデーがあるって言うの?」

 

「無かったら無かったで奢ってやるよ。その前に村人を探さない……お、居たか」

 

 飛ばされた先が極々普通の田舎町だった事で俺を疑うカナ。

 俺の予想が的中していたのならば極上のブランデーにありつくことが出来る筈だ。村人を発見したので声を掛ければ奇異の目で見られる……ブラックホールの姿になったままだから色々と悪目立ちをしてしまうか。

 

「おぉ、魔導士ギルドが来てくれたのか」

 

 評議会から罰として派遣されたとかいう余計な事は一切言わずに酔っ払った虎を退治しに来たことを伝えれば直ぐに納得してくれる。

 ブラックホールの姿だからかこんな子供にといった視線は無い……この姿は悪目立ちをするので正直な話好まないが、まぁ、いいか。

 

「それでその酔っ払った虎は?」

 

「酒さえ飲んでいれば温厚なので酒を入れた盃を用意して……罠に仕掛けたり色々としたんですが1回暴れ出したら手が付けられなくて」

 

「だろうな……確か捕獲レベルは53辺りだったか」

 

「捕獲レベル?」

 

「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」

 

「ねぇ、まだなの?」

 

「まぁ、待てって……」

 

「っ、来ました!後はお願いしますよ!」

 

 酔っ払った虎が盃に入った酒を飲みにやって来た。

 

「琥珀色の虎なんて珍しいわね」

 

「アレはブランデータイガーと言う生き物で……アースランドには存在しない筈だが……」

 

 琥珀色の虎を珍しいと凝視するカナ。

 俺はあの虎を知っている。あの虎はブランデータイガーと言うこの世界とは違うグルメ界と呼ばれる世界に存在している虎だ。アースランドと呼ばれるこの世界には存在しない筈の虎だ……スターの奴が勝手に野に放ったわけないか。なにかの拍子でこっちの世界に紛れ込んだ……異世界に関与する何かしらの魔法がこの世界の何処かで発動したりしてるのか?

 

「なぁ、もしかして極上のブランデーってのは……」

 

「ああ、あのブランデータイガーの事さ……こういう時は、へ〜んし〜ん!」

 

 色々と気になる事はあるのだが気にしててもしょうがない事だ。

 カナはブランデータイガーを指差して青い顔をしているのでブラックホールからミスター・カーメンに変身すると巨大な布を異空間から取り出してブランデータイガー目掛けて投げる。

 

「マーキマキマキマキマキ!!ミイラパッケージの完成だぜ!!」

 

「それってエルザと戦った時の技でしょ?捕獲するだけじゃ」

 

「馬鹿を言ってるんじゃねえよ。このミイラパッケージはコレに繋げる為の布石に過ぎねえ!!カルトゥーシュ・ストロー!!」

 

 巨大な極太のストローを取り出してミイラパッケージされているブランデータイガーに突き刺し……ゴクリと血液を飲む……む……

 

「150年ものと言ったところか」

 

 ブランデータイガーの血液は極上のブランデーなのだが、極上のブランデーになる前の血液は有害な毒になっている。

 100年ぐらい熟成させておかなきゃ美味いブランデーにならない。このブランデータイガーは中々の味だ。

 

「お、おい、虎の生き血なんて啜って大丈夫なのか?」

 

「マーキマキマキ、問題無い。ミイラパッケージと言う技は元来生き血を啜る技、このミスター・カーメンは生き血を啜っても問題無い頑丈な体をしている。第一、ブランデータイガーの血液は極上のブランデーなんだ」

 

 美味いぞとカナに勧めてみればカナは恐る恐るブランデータイガーの生き血啜る。

 

「!」

 

 生き血を啜ったカナの表情は切り替わる。

 ギルドに置いてある酒は一般人でも飲める酒が多い。しかしブランデータイガーのブランデーは最高級品、グルメ界の中でも中々の極上の逸品である事には変わりは無くカナはゴクゴクとまるでジュースを飲むかの様に一気に飲んでいく。

 

「ぷはぁ!!なにこのブランデー、今まで飲んだ事無いぐらいの美味さ!」

 

「グルメ界産の酒だからな……フィオーレ王国の最高級品の酒に余裕で勝つぐらいには美味い」

 

「シゲオ、こんな美味い物を知ってたんだね!!」

 

「ああ…………元気になってなによりだ」

 

「え?」

 

「いや、ギルダーツが帰ってきたらなんか元気が無くなっただろう……ギルダーツ関係でなんかあるんだろう。深くは聞かないでおくが暗い顔のまま居られると色々と辛気臭いからな」

 

「……」

 

 むぅ、どうやらまた余計な事を言ってしまったようだ。

 ギルダーツ関連で浮かない顔をしている事を言えばカナは浮かない顔に変わる。さっきまでブランデータイガーの極上の生き血を啜っていて上機嫌に酔っ払っていたのに……俺はデリカシーが無いか。

 

「シゲオはさ……尊敬するスゴい人が居たりする?」

 

「む……人かどうかは定かではないが尊敬の念等を抱いている御方は居るぞ」

 

「その人が滅茶苦茶身近に居たりしたら……こう、プレッシャーとか自分と比較したりしない?」

 

「…………ああ、比較したりするな」

 

「!」

 

「なんだ?意外そうな顔をするなよ」

 

 俺にだって尊敬の念を抱く存在は居るし、自分と比較したりする事もする……そして卑下する事もだ。

 特に自分の血筋に関しては色々と思うところがある。偉大なる血筋で自分以外は全て死に絶えている。

 

「シゲオもそういうのを感じるんだ……」

 

「ああ。なにせ俺以外の一族は皆殺しにされちまった、この世で唯一人の存在になっちまったからな……だからだろうな。強くならなきゃならない、血に恥じない存在になろう。その為に俺は多くの命を奪った……最後に残ったのは虚しさだけだった」

 

 強くなる事は出来た筈なのに、求めていた何かとは異なっていた。

 妖精の尻尾に入ってから変わる事が出来ているかどうかは不明だが、少なくとも空虚だった頃よりは生きているんだと生を実感する事が出来ている。7人の悪魔として暴れ回った頃も悪くはなかったが今も今で心地良い……あの御方がなにを思っているのか分からねえけど。

 

「深くは聞かねえ……特に血に関する事ならば尚更だ。だが、その血の運命(さだめ)からは誰も逃げる事は出来ない……だがな、その血を邪悪なものにするか誇りにするかを選ぶぐらいの権利は俺達にはあるんだ」

 

「血を誇りに……誇りに……」

 

「お前とギルダーツの間に何があるのかは詮索はしない……だが、ギルダーツが関係しているならばむしろ誇れる様に生きるんだ……とまぁ、偉そうに言うほど俺は立派な人間じゃねえんだがな」

 

「シゲオ……ありがとな」

 

「なに、気にするな。仲間だろぅ?」

 

 例え悪魔であろうとも友情というものは存在する。

 カナは少しだけ吹っ切れた感を出しており、気持ちを少しだけ切り替えようとしている……コレが銀の言っていた道か。悪くはないな。

 

「ブランデータイガーの肉は極上の肉だからか……スタージュンにでも渡すか」

 

 生き血を全て啜り終え、ブランデーが無くなったブランデータイガーは干からびていた。

 本来ならば人に向かって使うミイラパッケージもこういう感じの使い方がある。

 

「もう一杯行こう!シゲオ!」

 

「絡み酒は勘弁してくれよ」



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摩訶不思議妖精冒険譚 1 

 オッス、オラ、コバヤシ、転生者だ。

 ある日突然アレルギーなんて甘え、頑張れば食えるとかいう親戚のおばさんに騙されてアレルギーの物を食っちまって死んじまったんだ。地獄に行った先でオレ、スゲえことが起きたんだ。なんと閻魔大王の爺さんが異世界転生する為の養成所みたいなのを作っててそこを卒業したら異世界転生出来る権利くれるってもんで、オレすげえ頑張って転生者になったんだ。亀仙流の牛乳宅配とかもやらされたな。

 転生先が決まり転生するとそこは魔法に満ち満ちた世界、FAIRY TAILと言う作品の世界だった。

 

「……龍星群」

 

 そんなわけで今日も鍛える。原作は知らねえけど魔法ファンタジーでバトル物な世界だって上が教えてくれたからとにかく鍛える。

 口に魔力を溜め込んで天高く咆哮を轟かせれば1つのエネルギーの塊が飛んでいきある一定の高さまで飛ぶとピタリと動きが止まり……弾けた。流星群の如く大量の隕石(エネルギー弾)が降り注ぎ辺りを破壊する……見事なまでの環境破壊だ。

 

「大分強くなってきた」

 

 転生してから修行ばかりの日々。

 事前に訓練していたとはいえ、ファンタジーな世界で生きていると実感出来る為にこの生活は悪くはないとは思ってる。毎日毎日一歩ずつ強くなっていく自分に愉悦感と言うべきものが感じれる。

 

「か〜め〜は〜め〜……はぁああああ!」

 

 そしてなによりもこの技を、かめはめ波を──

 

「螺旋丸!」

 

 螺旋丸を使うことが出来る。

 本来ならチャクラとか気とかを用いる技なだけど、この世界には魔力がある。

 基本的にエネルギーを収束してぶっ放すかめはめ波、竜巻の如くに乱回転する高密度なエネルギーを圧縮した塊をぶつける螺旋丸と質量を持った自由自在に扱えるエネルギーさえあれば出来る技で原理自体は至ってシンプル……螺旋丸は覚えるのスゴい時間が掛かったけど、こんな技が自由自在に使える世界なんてワクワクすっぞ。

 

「ウォロロロ……ん?」

 

 今日の修行のノルマをこなしていると変な気配を感じる。

 感じたことがある様で感じたことのない気配……もし前世ならば一切感じることが無かった。やっぱ前世は普通だったと思う。

 

「!……オッス、オラ、コバヤシ」

 

 気配が段々と近付いてくると人の姿が見える。いや、人っちゃ人だけど匂いが若干だけど違う……動物とか魚とかと違う。

 オレを強く睨んでくるので警戒心を強めながらも挨拶……よくよく考えればこの世界の住人とマトモに会ったこと無かったな。

 

「我は竜の王、アクノロギア……汝、竜の気配を感じる」

 

 強くオレを睨んでくるアクノロギア。

 竜の気配……どんな感じの気配だ?オレ、ずっと1人で過ごしてるから訳わかんねえ……けど、アクノロギアから滅茶苦茶嫌な気配を感じる。

 

「ウォロロロ……恐竜の竜と書いてドラゴンと読むなら見当違いだ」

 

 オレからどんな気配を感じているかは凄まじく気になるが、オレは竜じゃない、龍だ。

 

「竜は竜でも龍、聖なる獣だ」

 

 その辺りの事はしっかりとしておかないと。某型月の世界に置いては竜は人間でどうにかなる存在で龍は色々と超越した存在とかどうとか。

 東洋の蛇みたいなタイプの龍は龍だけど西洋のトカゲに翼が生えたタイプのドラゴンは竜でも龍でも通じるとか授業で習ったけどもその辺は世界観によって異なる。

 

「ほぅ、自分を聖獣か……」

 

 汚い笑みを浮かびあげるアクノロギア。

 なにかあると警戒心を更に強めると目にも留まらぬ早さでオレの腹をエグリに来た。

 

「あぶな!?」

 

 オレの腹を抉り出しに来たアクノロギアの攻撃をギリギリのところで止める。

 こいつ、滅茶苦茶パワーがある……普段から岩とか木を持ち上げたりして鍛えてるってのに、なんなんだこいつ。必死になって攻撃を食い止めてるってのに、押し返すことが一切出来ない。

 

「おめえ、いきなり人様を襲うなんてなんちゅーやっちゃ」

 

 辺境の島に住んでいて、修行以外は特になにもしてない。

 人に恨みを買うなんて前世ならともかく今生では一切してねえってのに……いや、ホントに心当たりがねえ。

 

「我は竜の王なり、我以外の竜は存在してはならん……滅竜魔導士であろうともな」

 

「滅竜魔導士?なんだそりゃ」

 

 聞いたことの無いワードが出てきてポカンとしている間にもアクノロギアは高速の拳を振るう。

 なんとか反応出来る速度な為にいなすことは出来ているが、こいつまだ本気を出していない。オレもまだ全力を出していないっちゃいないけど、力の底はアクノロギアの方が上なのが分かる。

 

「汝、滅竜魔導士ではないのか?」

 

「生憎、魔法は使えるけど攻撃系はほぼ皆無だ」

 

 こう炎とか氷を出したりするのは転生特典の力を使わなければ使えない。

 純粋な魔力の塊をぶつける螺旋丸とかめはめ波ぐらいしか使えない……滅竜魔法なんて全く聞いたことは無い……多分、この世界特有の魔法だろう。

 

「我と同じ……いや、どちらでもいいか」

 

「殺しに掛かってくるならオレも殺りにいってやる……螺旋丸!」

 

 地獄で必死になって修行して会得した螺旋丸。魔力で代用した技だけど本家となんら変わりない威力を秘めている。

 右腕に龍鱗で覆い螺旋丸をぶつけにいくのだがアクノロギアはニヤリと笑い螺旋丸をくった。

 

「なんだと!?」

 

 何時も通りの岩をも簡単にえぐり取る螺旋丸。チャクラの代わりに魔力で出来ている以外は本物の螺旋丸と同じ、形態変化を極めているだけのもので明らかに食うものじゃないのにアクノロギアはなんの迷いもなく食らった。

 

「我は魔の竜なり。我に魔法は効かん」

 

「はぁ!?んだ、そりゃあ」

 

 魔法は一切効かないとカミングアウトをするアクノロギア。

 魔法かどうかイマイチ分からないが質量を持った純粋な魔力の塊をぶつける螺旋丸を食らったという事はエネルギーを収束して相手にぶつけるかめはめ波も多分効果は無い。炎を出したり凍らせたりと言った魔法はまともに使えない。魔を食らうと言っているから魔法そのものを食う可能性がある……こいつぁ、話し合いの通じねえ相手。やるっきゃねえ

 

「ウォロロロロ!」

 

 ニョキニョキと頭に角を生やし口元から2本の巨大な髭を生やす。西洋の竜でなく東洋の龍を思わせる顔へと変貌し、体中が龍の鱗で覆われる。

 

「スケイルショット!」

 

 龍の鱗を銃の弾の様に飛ばす。

 アクノロギアはオレとの戦いではじめて攻撃を防ぐ構えを取り、オレが飛ばした龍の鱗を受け切る……くそ、本気で撃ったってのに耐えやがった。

 

「烈風真空斬」

 

 大量のかまいたちを発生させ、アクノロギア目掛けて飛ばす。

 ピッとアクノロギアの頬に掠り傷を与えて血を流させるが……大したダメージにはなっていない。結構どころかかなり本気でやってるってのに……こいつ、どんだけ頑丈なんだ。

 

「くっくっく……多少はやるようだが、この程度か!」

 

「舐めるな!疾風爆裂弾(バーストストリーム)!」

 

 まだだ、まだオレの力は出せるはずだ。

 空気を操り眩い光を集め、咆哮を放つとアクノロギアは避ける……アクノロギアは避けた。と言うことはこの攻撃を受けたらまずいと感じたか。避けられてしまったとはいえ、はじめてちゃんとした攻撃が通ったとオレは笑みを浮かべる。

 攻撃が完全に通じないと言ったわけじゃない。ダメージが薄いだけで、効果は無いというわけじゃない。少しずつだがダメージを与えていっている。

 

「これならば勝機があると思ったか……かぁっ!」

 

「っがぁっ!?」

 

 アクノロギアが光線を吐いてきた。突然の攻撃に避ける事が出来ずにマトモに受けてしまうが、痛い。予想の何倍も痛い。

 ただの光線的な感じだって言うのになんでこんなに痛いんだ……いや、オレを殺しに来ているから当然か。

 

「舐めるな……こんな程度で倒れたら、閻魔大王に合わせる顔がねえ」

 

 オレ達転生者は幸せを掴めって言われて鍛えられてるんだ。

 絶世の美女のボインのパフパフも出来てねえってのに、こんなところで死ねるかっての。

 

黒炎弾(ダーク・メガ・フレア)!」

 

 黒い炎の弾をアクノロギアに向かって吐く。オレのをにアクノロギアにぶつかる……疾風爆裂弾よりは威力は低いが手応えはある。

 プスプスと音を立てながら黒い煙が晴れていく。

 

「なん、だと……」

 

 黒炎弾の一撃による煙が晴れるとそこには黒い竜がいた。

 さっきまで戦っていたのは人だったのに、一瞬にして黒い竜に代わっている……いや、違う。人が代わってるんじゃなくて姿が変わっているんだ。アクノロギアは自分の事を竜の王と言っていた。つまりアクノロギアはドラゴンだった……なんもおかしくはない。

 

「キサマ……コロス……」

 

 片言となっているアクノロギア、威圧感はさっきの人の姿と比べ物にならない。

 こいつは危険だとオレも体に力を込める

 

「ウォロロロロ」

 

 体を覆っていた青い鱗はより大きくなる。

 顔だけが龍に変化していたが顔だけでなく体が段々と変化をしていき、蛇の様に長く巨大な巨体……西洋の竜ではなく東洋の龍、青龍になった。

 

「コレを使う日が来るとはな」

 

 オレが貰った転生特典はウオウオの実 モデル 幻獣種 青龍

 ONE PIECEのカイドウが食った悪魔の実で四神と呼ばれる青龍になることが出来て炎のブレスは勿論の事、雷や竜巻と言ったものを操ることが出来る。悪魔の実のみを貰ったのでカイドウ並に戦えるかはオレ次第で、オレ以外が食おうと思えば食えるけどそんな勿体ねえ事はしない。ありがたくクソまずい悪魔の実を頂いた。

 最初は力の扱いになれていなかったが、少しずつ 少しずつ力に慣れていった……が、無駄にデカいので使い時が中々に見つからず若干だが持て余している感じがあった。使うときが来るとは思わなかった。

 

「ここじゃ島を崩壊させる……空で戦うぞ」

 

「イイダロ」

 

 青龍の姿で戦えばオレが住んでいる島なんてあっと言う間に崩壊してしまう。

 アクノロギアもオレ以上の強さを持っているならば尚更でオレは焔雲を作り出して、巨大な体に包むと空を覆う雲よりも遥か上空へと飛ぶ。

 

「ウォロロロ……どうするか」

 

 青龍の姿には滅多な事じゃならない。

 気分転換で空を自由に舞ったりする時ぐらいで、この姿での特訓は殆どしていない。しなくてもこの姿と言うだけで尋常じゃない程に強いからわざわざ鍛える必要はない……今日まではだ。青龍の姿になったってのに震えが止まらない。

 ある一定の強さを越した人間になっているからアクノロギアの強さがよく分かる。この姿でも勝ち目が薄い……だからって、このままおめおめと殺されてたまるか。

 

熱息(ボロブレス)

 

 青龍の姿による純粋な炎のブレス。

 顔だけが青龍の人獣形態とは比べ物にならない威力を出しており、アクノロギアも負けじと咆哮を撃ってきてオレのブレスを相殺する。クソ、今ので小さな森ぐらいなら壊滅出来る威力だって言うのに、撃ち消しやがった。

 どんだけ強いんだこの竜は……

 

「我が何故竜の王を名乗っているか分かるか……この世のなによりも強いからだ」

 

「急に流暢に喋るんじゃねえ!」

 

 とは言うものの言っていることは本当かもしれないと思わせる強さを持っている。

 アクノロギアは手を伸ばしながらオレに突っ込んでくるのでオレは体に竜巻を纏う。

 

「ムダダァ!」

 

「ぐぅぅぅう!」

 

 ドラゴンの姿になったアクノロギアにパワーは人の姿の時と比べ物にならないパワーを発揮する。

 体の周りに竜巻を纏わせて防御をしてるってのに、竜巻の装甲を赤子の手をひねるかの様にぶち破りオレを元いた島に叩きつけて押し付ける。クソ、パワーが……こんなところで終わるのか……いや、まだだ。

 

「テメエを食ってやる……」

 

 今ここで限界を超えてやる。

 アクノロギアに抑えられている体は動かないが、オレの姿は青い龍、青龍。アクノロギアと違い胴体は比較的に短く細長いもので顔の部分は押さえつけられてない。

 

「ザケル!」

 

 雷を吐いてアクノロギアにぶつける。この姿での攻撃はアクノロギアにダメージがあり、苦しみ抑え込みを解除する。

 逃せば最後、次の機会が何時にやって来るか分からない。オレはアクノロギアに向かって噛み付いた。

 

「ぐぇっ……美味しくない」

 

 ドラゴンの肉だから美味いものと思ったがクソまずい。

 アクノロギアの腹の一部を食い千切って胃の中に叩き込む……ん……お!

 

「なんか力が湧いてくる!」

 

 よく分かんねえけど、なんか体からパワーが溢れ出る。アクノロギアの一部をくったからか?

 理由は分かんねえけど、これならばいける気がする。

 

「旋風のヘルダイブ・クラッシャー!」

 

 体をグルグルと回転させながら空を飛び、竜巻を回転とは真逆の向きで回しながら身に纏いアクノロギア目掛けて突撃をし、遥か上空へと飛ばす。アクノロギアは結構ぶっ飛ばされるが地に落ちることは無い。だが、今までと違って手応ありだ。

 

「もう一発、ザケル!」

 

 雷をぶっ放すと先程より威力が出ている。この一瞬の合間にパワーアップするなんて、さっきアクノロギアの一部を食ったからかもしれねえ。

 このパワーアップしている間にアクノロギアを倒すしかねえけど、果たして倒せるのか?アクノロギアの一部を食ってパワーアップしたって事はアクノロギアの力の一部……ああ、くそ、嫌な思いをさせやがる。

 

「こうなったら……全部喰らってやる!」

 

 アクノロギアの一部を食って劇的にパワーアップしたってならもっともっと食えば強くなる筈だ。

 オレはもう一度回転しながらアクノロギア目掛けて突撃するとアクノロギアもそれに迎え撃つ様に身構える。

 

「ムダダァ!」

 

「ぐ……止められたなら、そこを食うだけだ!」

 

 オレの一撃を止めるとんでもない馬鹿力を発揮するアクノロギア。

 攻撃は止められたが身動きは取れると喉元目掛けて噛みつきに行こうとすると、頭突きをくらった。

 

「がぁ!?」

 

 ダメだ……一撃一撃がアクノロギアとオレとじゃ差がありすぎる。確かなダメージを与えることは出来ても致命傷にすることは出来ない。

 毎日毎日強くなろうと必死になってたってのに、いざ蓋を開けてみればこのザマ……転生者の中でも、オレが弱い方なのは分かっている……けど、けど……。

 

「折角掴んだ未来をミスミスと手放してたまるか!」

 

 幸せになれって言われたんだ。幸せにならないでどうする。

 残りの力を振り絞り咆哮を吐こうとするアクノロギアに対抗して俺も口にエネルギーを溜めていく。

 

「青龍の咆哮!」

 

 技名が浮かばなかったのでシンプルにいく。

 オレの咆哮とアクノロギアの咆哮は空中でぶつかり合うと巨大な爆発を巻き起こし、オレはその衝撃に耐えきれず遥か彼方へと飛ばされる。

 

「畜生……」

 

 アクノロギアと咆哮をぶつけ合った末にオレは破れた。アクノロギアは少しだけ反動で動いたがオレは物凄く吹き飛ばされて、身動き1つ取れない。

 青龍の姿を維持している事すら限界なのかシュルシュルと細長い青龍の姿から元のコバヤシの姿に戻り、空を掴むことが維持出来ずにゆっくりと落ちていく。

 ウオウオの実 モデル 幻獣種 青龍のお陰で身体能力なんかは半端なく上がってるから遥か上空から落ちても怪我はそんなにしないだろう……だが、海に落ちたら別だ。悪魔の実の能力をちゃんと引き継いでいて、オレはカナヅチになっている。湖や海に落ちればなんにも出来なくなる。

 元の姿に完全に戻ると自分が血だるまなのに気付き、地面に向かって落下をし、なにかとぶつかり貫く。

 

「空から人が振ってきた!?」

 

「お、おい、こいつ血まみれだぞ!?」

 

 酒の匂いがする。どうやらオレは酒場に落ちたみたいだが……力が全く出ない。

 周りがオレを囲んでいるのは分かっているが顔はハッキリと見えず、意識が薄れていきオレは気を失った。



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摩訶不思議妖精冒険譚 2 

「う、う〜ん……っは!」

 

 目覚めると知らない天井だった……エヴァかよ。何処かの一室っぽいところで、ゆっくりと上半身のみを起こして周りと自分を確認する。

 包帯が体の至るところに巻かれておりオレが落ちてきたのを誰かが拾って手当てをしてくれた……そんなとこだろうか。

 

「あ、目が覚めたんだね!」

 

 水がはった桶を手にしている小さな少女が入ってきた。

 オレが目を覚ましたのを見て我が事の様に喜ぶと急いで外に出てオレが目覚めた事を報告する。

 

「ウォロロロ、なんだか大事になっちまったな」

 

 外から酒の匂いと人の気配が沢山する。

 どうやらオレは酒場に落ちたみたいだ……クソ……。

 

「情けねえな」

 

 転生者になるべく鍛えた際に戦闘の才能はそんなに無いってハッキリと言われていた。

 けど、バトル物の世界に転生したいって願望はあるし自分が強くなるのが凄く楽しかった……現実はこんなもんだ……ああ、情けねえ。

 

「どうやら目覚めた様じゃの……なにを泣いておるんじゃ?」

 

「オレ、負けちまったんだ……毎日必死になって努力してきたってのに」

 

 さっきの女の子並に小さなジイさんがやってきた。

 悔し泣きをしているオレを見て、一瞬だけ驚くがオレが泣いている理由を察したのか直ぐに真面目な顔をする。

 

「なにに負けたかは知らんが、その敗北を糧に努力する事を怠らなければさらなる高みに行くことは出来る」

 

「オレ、あのドラゴンみたいに強くなれっかな」

 

 同じ龍だから彼処まで強くなれないことも無いかもしれないけど、自信がない。

 

「ドラゴンじゃと!?」

 

 ドラゴンの事を口にするとジイさんは驚く。

 

「そんな珍しいものなのか、あのアクノロギアって奴は」

 

「アクノロギア……お主、とんでもない奴と遭遇した……よく、生きているな」

 

「?」

 

 色々と意味が分からない。そう思っているとジイさんは語ってくれる。

 ドラゴンは絶滅したと言われている種族でこの世に存在しない。アクノロギアは大昔に一人で国を滅ぼしたと記録が残っているとんでもねえドラゴン。居るかどうかも定かではない出逢えば災害に遭ったと思うしかないとんでもないドラゴンだと言われている。

 

「あいつ、そんなに強かったのか」

 

 自分の事が1番強いとか威張ってたけど、マジだった。

 この世界で最強の存在に挑んでボコボコにされた。そう考えると少しだけ気持ちがスッキリしたけど、やっぱり悔しさが勝っちまう。世界最強の存在を圧倒してこその転生者だってのに……畜生。

 

「オレも修行してアクノロギアぐらいに強くならねえと」

 

「その意気込みはいいが相手はドラゴン、ちっとは現実を見んとまた大怪我をあうぞ」

 

「でぇじょうぶだ。オレもドラゴンになれるから」

 

「なにぃ!?」

 

 ドラゴンはこの世界では絶滅してっかもしれねえけど、オレも一応はドラゴン……いや、龍だ。

 顔だけを青龍に変化させるとジイさんは物凄く驚いた顔をする……ドラゴンな人間なんてやっぱ見たことはねえよな。流石にこれは気持ちが悪いので顔を元に戻す。

 

「今、ドラゴンっつったか!」

 

「ナツ、勝手に入ったらダメだよ!」

 

 ドラゴンの話をしていると桜色の髪の少年が大声を出し、叫びながら入ってきた。さっきの女の子は大慌てをしてる。

 ドラゴンの話にかなり食いついてきている。

 

「なぁ、今ドラゴンつっただろ!」

 

「これ、ナツ、やめんか」

 

「そうだよ。その人、怪我してるんだよ!」

 

 グラングランとオレを揺らしてドラゴンについて聞いてくる桜色の髪の少年もといナツ。

 ジイさんと女の子はオレの傷に障るから止めるように言うのだが聞く耳を持たない。

 

「黒いドラゴンに、アクノロギアと名乗っている奴なら出会った」

 

「アクノロギア……イグニールじゃねえのか。そいつは何処にいたんだ!」

 

「悪いけど、そいつは分かんねえ……オレはこの国の人間じゃねえから土地勘も分かんねえしなにより空を飛んでた」

 

 アクノロギアとどの辺りで戦ったか分からないし、オレがどの辺りの島で修行してたのも分からねえ。

 唯一分かることといえばあのアクノロギアは人間を敵視しているところがあって凶暴な化物だって事だ。

 

「クソッ……」

 

「お前、ドラゴンを探してるのか?」

 

「ああ、そうだよ……赤い竜を、イグニールを探してるんだ。何処に居るかしらねえか?」

 

「悪い……黒いドラゴン以外でドラゴンを見た覚えは無いんだ」

 

 赤い竜なんて転生してこの方、1度も見た覚えはねえ。

 ナツにその事を教えるとクソっと物に当たる……余程、そのイグニールに会いたいんだな。

 

「ウォロロロ、済まないな。いい情報を持っていなくて」

 

「いや、いい……」

 

 イグニールに関する情報を持っていないと分かれば去っていくナツ。

 情報を持っていないのは仕方ないが、なんか申し訳無い気持ちになっちまう。

 

「ジイさん、悪いんだけどオレ、治療費なんて持ってねえ」

 

「いきなり金の話か……ドラゴンと戦ったってことは何処かのギルドの所属じゃないのか?」

 

「いや、何処にも所属してねえよ」

 

 てか、ギルドあるんだな。この世界がどういう感じの世界観なのかは知ってるけど、細かな事は知らなかったから今知った。

 

「そういや、ここってどの辺りになんだ?」

 

 遥か上空に飛んでた事もあって自分が今どの辺りにいるのか分からない。

 

「マグノリアじゃよ」

 

「マグノリア……」

 

「そしてここは魔導士ギルド、妖精の尻尾のギルドじゃよ」

 

「そうだったのか」

 

 魔導士ギルドって事は他にも商業とか色々とあるんだな。

 ともかく、ここが何処かと分かっただけで充分だ……また修行の日々を送らないと。次はアクノロギアに負けないぐらいにしておかないと、アイツはマジでオレを殺しに来てっからな。

 

「どうやったら強くなれっかな」

 

 かめはめ波を会得し、螺旋丸も覚えた。

 相手にエネルギーをぶつける系の技は出来て、炎を吐いたり雷を落としたりはウオウオの実のお陰で出来る。こうなると後は螺旋丸の性質変化でも覚えるぐらいしかやることはない……なにをすればいいのか分からないのって意外とキチィな。

 

「お前さん、アクノロギアにリベンジするつもりか?」

 

「ああ。あの野郎、オレを殺す気満々だからな……殺されないように鍛えねえと」

 

「ふむ……」

 

 ウオウオの実で青龍になれる様になってもオレはまだまだ未熟だ。

 螺旋丸で大穴を開けたりすることが出来たとしても世界にはあんな強い奴が居るんだから……逆に考えればオレもあんだけ強くなれるって事だ。

 

「ガキに道を示していくのもジジイの務め。コバヤシ、もしお前が力を今以上に求めると言うのならば、それは1人で得ることは出来ん力の道を示してやる」

 

「……誰かを守るとか思いやる力とか、そういうのだったらいいぞ。オレが欲しいのはアクノロギアをぶっ倒せるぐらいの圧倒的なパワーが欲しいんだ」

 

 なんだったらムキムキのマッチョでもいいぐらいだ。

 誰かを守りたいと思う力とかそういう感じの力は生憎な事、今のオレはそういう感じの力は求めていない。そういう感じの力が、思いが普段の何倍も力を出すことが出来るのは知っている。

 

「まぁ、聞け。コバヤシ、お前さんは今まで1人で強くなろうとしている……だが、1人では駄目だ。仲間の力が紡ぐ力という者がある……」

 

 オレの求めてる力はそういう感じじゃないんだけど、ジイさんは話を進める。

 部屋を出てついてこいと言うので後をついていくと酒場に出て、ジイさんが出てきたとギルドの面々は驚く。

 

「皆、聞けい!今日からこのコバヤシは妖精の尻尾の一員となる!」

 

「はぁ!?」

 

 いきなりの宣言に周りは声を上げる。周りだけじゃない、オレ自身も声を上げる。

 ニヤリと笑うジイさん……この野郎、狙って言いやがってるな。この状態で入らないなんて言うに言えない。

 

「はぁ……オッス、オラ、コバヤシ、よろしく頼むな」

 

 孫悟空みたいなプー太郎な生活を送るつもりは早々にない。

 これ以上1人で修行をしていても成果が出なさそうだし、魔導士ギルドってだけでロマンが溢れている。それに妖精の尻尾(フェアリーテイル)と言っていたからここが原作ことFAIRY TAILと深く関わっている、主人公のギルドかなんかだろう

 

「コバヤシ、オレと勝負しろ!お前、アクノロギアとか言うドラゴンと戦ったんだろ!」

 

「アイツ、滅茶苦茶強かったぞ」

 

「これ、やめんかナツ。コバヤシは怪我をしておるんじゃから無茶は」

 

「多少の無茶をしないとアクノロギアを倒すなんて事は出来ない……ナツ、勝負だ」

 

 ジイさんは怪我をしているからと止めに入るけど、ここでの治療で怪我は殆ど治っている。

 今は自分と同じぐらいの年頃の人間相手にどれぐらいやれるかを知りたい。勝負を引き受けると喜々とした表情で外に出ていく。

 

「ナツと新入りが勝負か、どっちが勝つと思う?」

 

 何故か半裸なナツぐらいの男は鎧を身に纏ったナツよりちょっと歳上の女に勝負について尋ねる。

 

「ナツはああ見えても既にギルド内で有数の実力を持つコバヤシとやらが何処までやれるかが見物だ」

 

「見物ね……おい、新入り!エルザの期待を裏切るぐらいの圧勝をしやがれよ!」

 

 鎧を身に纏った女の子と同い年ぐらいのちょっとパンク系なファッションの女の子はオレに勝てという。

 なんかいきなりハードルが上がってるけど……期待に答えれるぐらいの成果は見せてやんねえとな。

 

「それでは歓迎会もといナツvsコバヤシの試合をはじめる。気絶するかまいったと降参をしたら負けの1本勝負……開始じゃ!」

 

「火竜の鉄拳!」

 

 ジイさんが開始の合図をあげると火を拳に纏い殴りかかってくるナツ。

 どんな魔法を使ってくるかと思えば炎の魔法か……こいつ、主人公かなにかじゃ……いや、今はそんな事はどうだっていいか。

 

「っ……ウォロロ、その程度か?」

 

「おい、嘘だろ!?」

 

「ナツの滅竜魔法を真っ向から受けきっただと!」

 

 ナツの拳を真正面から受けた。

 地味に痛かったものの、痛みがするだけで特にこれといったダメージらしいダメージは受けない。その事に半裸の男と甲冑の女子は驚きを見せる……滅竜魔法、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)だから受けきれる攻撃なのに痛みを感じたってわけだ。

 

「火竜の煌炎!」

 

 両手を合わせて殴りにかかるナツ。これもまた痛みを感じるが大きく血を流すといった事は一切ない。

 これはあれか。竜特攻属性が付与されている炎の魔法的なのか……ふむ。

 

「まだまだぁ!火竜の炎肘!」

 

「……」

 

 肘から炎をジェット噴射し、殴りかかるナツ。

 オレはと言うとあいも変わらずナツの攻撃を受ける。

 

「なるほどな」

 

 ナツの滅竜魔法とやらがどんなのか分かった。

 ドラゴンに対して特攻が入っている魔法で、青龍であるオレにとっては弱点かもしれない。現に大した威力は無いってのに、ナツの炎が若干の痛みを感じる……だが、その程度だ。

 

「火竜の」

 

「もういい」

 

 怒涛の攻めでオレに攻撃をしてくるナツだが、特段早いわけではない。

 オレは右手に魔力を掻き集めて乱回転させ球体状に留めるとナツに向けて魔力の塊をぶつける。

 

「がぁっ!?」

 

「まったく、威勢はいいがそれに実力がついてってねえぞ」

 

 ナツのオレに勝ちたいという気持ちは文字通り痛いほど伝わってきた。だがしかし、まるでオレを倒すには届いていない。

 ウオウオの実の力である程度は身体能力や機能が上がっているのは分かっていたがここまでパワーアップしてたとは……オレって案外強いんだな。

 

「そこまで!勝者、コバヤシ!」

 

 ナツが白目を向いてぶっ倒れたので手を上げるジイさん。

 ギルド内でもそれなりの実力を持っているのかナツを倒した事を驚いて誰もなにも言ってこない。

 

「む……やりすぎたか」

 

 ナツの攻撃からして、これぐらいの攻撃は耐えるものだと思ってたがダメだったか。

 倒れているナツの元に向かいお姫様抱っこで抱き抱える。

 

「す、スゲえ!ナツを一撃で倒しやがったぞ!」

 

「おし、次はあたしと勝負だ!」

 

「いや、私と勝負をしてくれ!」

 

「おい、真似するんじゃねえぞ!」

 

「お前が真似をするな!」

 

 啀み合う甲冑女子とパンク系の女子……ふむ……。

 

「お前等2人、纏めて掛かってきな」

 

「「あぁ!」」

 

 クイクイと挑発をするとキレる2人。

 さっきまで啀み合い喧嘩をしようとする感じだったがオレの挑発が聞いたのかボキボキと腕を鳴らして睨んでくる……ああ、怖い怖い。

 

「ミラ、やるぞ」

 

「エルザ、足引っ張るんじゃねえぞ」

 

 喧嘩をするほど仲がいいとはよく言ったものだ。甲冑女子は魔法で別の鎧に換装し、パンク系な女子は悪魔っぽい姿に変貌をする。

 

「螺旋連丸!」

 

 右手と左手で螺旋丸を作り出し、右の螺旋丸で甲冑女子を左手の螺旋丸で悪魔っぽい女子を吹き飛ばす。

 我ながら決まったな……そう思ったがナツと同じく2人も白目を向いて気絶をしていた。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

「コバヤシ、お前さんは少し手加減を覚えんといかんぞ」

 

 ジイさんはぶっ倒れている3人を見て少しだけ呆れる。

 全力を出して戦ったわけじゃないのにこの言われ方には納得は出来ないが、あのドラゴンが異常なまでに強いだけでオレが決して弱いわけじゃないのが分かった。



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POWER RENGER TAIL 1

続かなそうなので


 ここは何処かと聞かれれば魔法の世界のフィオーレ王国、人口1700万の永世中立国

 魔法は売り買いされており、魔法を生業とする魔導士がいる……それがアニメの冒頭部分でナレーションが言っていた気もする。

 

 この世界はFAIRY TAILと呼ばれる真島ヒロ先生が描いている漫画の世界に限りなく近い平行世界……オレはそんな世界に転生した。ある日突然死んだとかじゃなく神様の暇潰しによりFateにみたいにオレの本体からコピーを作られた。

 

 お詫びというか報酬というか本体のオレはクソニートをやっても問題が無い程の大金とどストライクなドスケベボディの持ち主とラブラブ結婚が出来る様にしてあると教えられた。どうせならばそのままにしておいてくれとオレは思う。とにかく前世の事で後悔しない様にアフターケアをバッチリした上で転生した……転生なのかこれは。ともかく続編の100年クエスト編の知識まで入れられた上で転生させられた。

 

 無論、異世界転生の定番である転生特典的なのは貰っている……貰っているには貰っているのだが、神の野郎が色々と細工を施している。

 なんでこっちが暇潰しに付き合わなきゃいけねえんだという思いは多々あり、転生した当初は色々と悲しく虚しく泣いていたのはいい思い出だ。

 

「とう!」

 

 FAIRY TAILの世界に転生した俺はと言うと修行の旅をしている……なんでんな事をしてるかって?逆に聞こう。転生特典があったとしてそれをいきなり使いこなすことが出来るか……無理である。そもそもでなんの訓練もしていない一般人を魔法とバトルのファンタジーな異世界に飛ばすんじゃねえよと思うのだがそこはそれ異世界転生をする上では言ってはいけないお約束だというもの。

 

「っぐぅ、人間の癖に」

 

「人間を舐めるなぁ!」

 

 修行の旅をしていると襲ってくるFAIRY TAILの中では比較的にメジャーなモンスター、バルカン。

 森に生息しているという事は山でなく森バルカンと呼ばれる種族だと思う。俺は三叉の槍もといゴーカイスピアで森バルカンを貫く。

 

「ふぅ……ったく、男だと分かると本当に容赦はないな」

 

 スケベなモンスターとして有名なバルカン。森に生息しているので森バルカンと言うやつだろう。

 山とか森とか色々と居るらしいが、スケベである事には変わりはなくオレを見た途端に男はいらないと言い、襲ってきたのでやり返す。ファンタジーな魔法の世界だけど命のやり取りをこんなところでもやっている……修行ってマジで大事である。

 

「こんなのが近くに住んでたらゆっくりと睡眠も出来ない……いや、知能のある生き物だから人の縄張りに入ってこないか」

 

 バルカンについて色々と考えらされる。原作では明らかな雑魚敵扱いだが、意外としっかりと生息している。

 女好きで接収の魔法を使うから危険な存在だと殲滅されてるんじゃないかと思ったが意外と生きている……う〜ん、謎だ。バルカンって危険な存在だと思うんだけどな。

 

「おいおい、こりゃどういうことだ?」

 

 バルカンの山を築いているとちょっと年がいっているおっさんの声が響く。

 声がする方向を振り向いてみるとそこには主人公達がいる魔導士ギルドこと妖精の尻尾で最強と謳われる魔導士、ギルダーツが立っていた。

 

「おじさん、なんか用事ですか?」

 

「用事かっつーか、依頼を受けてやって来たんだが……もしかして群れのボスも倒したのか?」

 

「ああ、群れのボスね」

 

 ゴーカイスピアを使いバルカンの山の中から1番デカいバルカンを出す。

 一番最初にぶっ倒したやつで、一番手応えがあった……多分群れのボスかなんかだと思っていたけど、その通りだったか。

 

「この数を1人でやり切るとは……若いのにやるじゃねえか」

 

「これぐらいなら何百体相手にしても問題ないよ」

 

「そうか……まいったな」

 

 ポリポリと頭を掻いて困った素振りを見せるギルダーツ。

 こんななにもないところにやって来たって事はなんとなく予想は出来る。というかさっき答えを言ってたし。

 

「オレはギルダーツ。森バルカンの群れを討伐してくれって依頼を受けたんだが、お前が先に倒しちまったか……これじゃあ依頼(クエスト)は失敗だな」

 

「……なんか、すんません」

 

「いや、いい。こいつ等を野放しにしてたら若い女を襲いかねないからな」

 

 ギルダーツがこなそうとしていた依頼を奪ってしまった。申し訳ない事をしてしまった。

 

「お前、近くの村の人間じゃないな……何者だ?」

 

「オレは……銀杏鎧《いちょうがい》、鎧って呼んでください」

 

「鎧……名前からして東洋の出身だな」

 

 ファンタジーな世界において東洋の出身ってすごく便利だよな。

 本当は天涯孤独的な身なのだがギルダーツは勝手に勘違いをしてくれるのでそれ以上はなにも言わない。

 

「お前、見たところうちのギルドのガキ共と大して変わらないのに……なんでこんな事をしてるんだ?」

 

「自分の力を使いこなせる様になる為です」

 

「自分の力?」

 

「豪快チェンジ!」

 

『ゴーカイジャー!』

 

 決まった……。ギルダーツの前で思いっきりカッコをつけて豪快チェンジを行う。

 

「お前……魔導士だったのか」

 

「まぁ、そんなとこで……おじさんもそうでしょう」

 

 オレの貰った転生特典、それはスーパー戦隊の力で主に海賊戦隊ゴーカイジャーのゴーカイシルバーの力だ。

 主に追加戦士のレンジャーキーを異空間に閉まっていてそれを取り出して豪快チェンジしており、今はギルダーツの前でゴーカイシルバーに豪快チェンジした。多分だけど、これ魔法の一種かなんかに変換されてる。

 

「この力を使いこなしたりする為に修行をしてるんです」

 

「ん?……変身してる時と体格が違くないか?」

 

 ギルダーツはツッコミを入れてはいけないところにツッコミを入れるが、そこは本当に気にしていけない。

 変身を解除して元の姿に戻るとギルダーツはまた困った顔をする。

 

「オレが依頼をこなしてないってのに、報酬を貰うわけにはいかないよな……」

 

 今回この森バルカンを討伐する依頼を受けていたがオレが倒してしまった。

 流石に依頼をちゃんとこなしていないのに報酬を貰うわけにはいかない。それだとイカサマとなんら変わりはない。

 

「オレ、金は要らないから貴方がもらっても別にいいですよ」

 

「そうはいかねえ。依頼をこなしてないのにやってって嘘をつくのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだ」

 

 ポンと貰ってくれればそれでいいのだが、それは無理だと断るギルダーツ。

 メンツみたいなものがあるので下手にやってもいいと勧めてもダメだったら……。

 

「じゃあ、オレと戦ってくれないですか?」

 

「お前と?」

 

「あんた、魔道士ギルドかなにかの1人だろう。オレ、モンスターばっか相手していて人間を相手にしたこと無いんだよ」

 

 山賊とか闇ギルドとか運がいいのか悪いのか、まともに遭遇していない。

 目の前にいるのはこの作品でもトップレベルに強い魔導士、今の自分がどれだけやれるのかを試すのに丁度いい。

 

「なるほど、腕試しか……いいだろう」

 

「よし」

 

「但し条件がある」

 

「条件?」

 

 ここに来ての条件の提示。なにか不備でもあるか?

 

「オレが勝ったらお前、うちのギルドに……妖精の尻尾に入れ!そんでもって今回の報酬はお前がもらえ」

 

「いや、オレはギルドの一員でもなんでもないから」

 

「今からなるんだよ……修行に明け暮れるのはいいが、1人でやったってあんま強くならない。仲間や守るべき家族が居るからこそ強くなれるっもんだ」

 

「……」

 

 オレの求めている強さって、そういう感じの強さじゃないんだよな。

 とはいえ、守るべきものがあるとか仲間の為とかの強さをオレは持っていない……何時かは魔導士ギルドとかに入ってみたいとは思ってみたけど、まさか向こうからの誘いがやってくるとは思いもしなかった。

 

「お前だけオレがどんな魔法を使うか知らないのは不公平だから、教えておいてやる」

 

 適当な石を拾い粉々にするギルダーツ。

 ギルダーツの魔法はクラッシュ、ありとあらゆる物を破壊する最上級魔法であり、無意識の内に使って周りを破壊するせいで街一つが破壊されないように改造をされるほどの恐ろしい魔法である。しかしなにが恐ろしいかって、そんなギルダーツをボコボコにする存在がいてギルダーツでも倒せないとか苦戦する存在がいる。インフレって本当に怖い

 

「何処からでもかかってきな」

 

「じゃ、遠慮なく……豪快チェンジ!」

 

『アーバレンジャー!』

 

「ときめきの白眉……アバレキラー!」

 

 相手はこの上のない強者だ、使える手は使いまくらなきゃならない。

 歴代の戦隊の追加戦士でもトップレベルに強いと言われるアバレンジャーのアバレキラーに豪快チェンジをした。さっきとは違う姿で面白いと笑みを浮かべるギルダーツ……やべえな。今まで相手にしていた奴が雑魚に思えるぐらいの覇気を感じる。

 

「ウィングペンタクト、ペンモード」

 

 アバレキラーの専用装備であるウィングペンタクトを取り出し、ペンモードにし大量の矢を描く。

 描いた矢は動き出してギルダーツに向かって飛んでいくのだがギルダーツは手をかざし、クラッシュの魔法で粉々に粉砕をする。

 

「どうしたこんなものか?」

 

「ウィングペンタクト、ブレードモード」

 

 ジャキンとウィングペンタクトの刃を剥き出しにし、ギルダーツに向かって突撃する。

 

「ぬぅお!?」

 

 アバレキラーの超速での移動による攻撃。

 流石のギルダーツも完全に反応はしきれないようで攻撃をくらうのだが、若干動きについてくること出来ている。アバレンジャーですらまともに反応する事が出来なかった攻撃でオレも自信がある攻撃だってのにくらいついてくる。

 

「素早いな……ふぅ……」

 

「!」

 

 呼吸を整えるギルダーツ。攻めに転じる隙を狙ってくるならば、そんな隙を与えないぐらいの攻めをすればいい。

 さっきの素早い動きでギリギリ対応が出来るんだったら緩急をつけた動きならば捉えきれないと速度に強弱をつけてみるがギルダーツはビクとしない。

 

「まだまだだな!」

 

「っぎぃ!?」

 

 動きに緩急をつけて攻撃をしてみたがギルダーツはオレの動きを見切った。

 気持ちのいい右拳をオレに叩き込むと逃さないと連打を叩き込み最後に手を翳す。

 

「まずっ!」

 

「安心しろ、未来ある奴は殺さねえ」

 

 ギルダーツが差し出した手から魔法が発動する。

 オレの体に亀裂が走ると賽の目にバラされてしまい、最終的には小柄なオレが15人ができる。原作でもナツがくらっていた人を破壊じゃなく分解をする魔法だ……くっそ、どうする……いや、待てよ。

 

「どうだ?少しは堪えただろう」

 

「まさか、わざわざ頭数を増やしてくれた……これを生かさない手はな……」

 

 オレは、オレ達はレンジャーキーを取り出してゴーカイセルラーに入れる。

 

「「「「「『豪快チェンジ』」」」」」

 

『ジュウーレンジャー!』

 

 恐竜戦隊ジュウレンジャーのドラゴンレンジャー

 

『ダーイレンジャー!』

 

 五星戦隊ダイレンジャーのキバレンジャー

 

『オーレンジャー!』

 

 超力戦隊オーレンジャーのキングレンジャー

 

『メーガレンジャー』

 

 電磁戦隊メガレンジャーのメガシルバー

 

『ターイムレンジャー!』

 

 未来戦隊タイムレンジャーのタイムファイヤー

 

『ガーオレンジャー!』

 

 百獣戦隊ガオレンジャーのガオシルバー

 

『シューリケンジャー!』

 

 忍風戦隊ハリケンジャーの天空忍者シュリケンジャー

 

『アーバレンジャー』

 

 爆竜戦隊アバレンジャーのアバレキラー

 

『デーカレンジャー』

 

 特捜戦隊デカレンジャーのデカブレイク

 

『マージレンジャー』

 

 魔法戦隊マジレンジャーのマジシャイン

 

『ボーウケンジャー』

 

 轟轟戦隊ボウケンジャーのボウケンシルバー

 

『ゴーオンウィングス』

 

 炎神戦隊ゴーオンジャーのゴーオンウィングスのゴーオンゴールド

 

『ゴーオンウィングス』

 

 炎神戦隊ゴーオンジャーのゴーオンウィングスのゴーオンシルバー

 

『シーンケンジャー』

 

 侍戦隊シンケンジャーのシンケンゴールド

 

『ゴーセイナイト』

 

 天装戦隊ゴセイジャーのゴセイナイト

 

「「「「『我等、スーパー戦隊の追加戦士』」」」」」

 

「おーお、ここまで揃うと圧巻だな」

 

「滅多な事じゃ全員を使わないからな」

 

 基本的にはゴーカイシルバーだけでどうにかなるから他のスーパー戦隊の追加戦士になることは中々に無くて、連続の豪快チェンジは無い。

 ギルダーツは15戦士の姿を見て圧巻される。まさかオレもこんなところで15戦士に豪快チェンジするとは思いもしなかった。

 

「エンシェントプレイ!」

 

 獣奏剣を吹いた後に光線を放つドラゴンレンジャー

 

「哮新星・乱れ山彦!」

 

 白虎真剣から超音波攻撃を放つキバレンジャー

 

「キングビクトリーフラッシュ!」

 

 キングステッキを開いて眩い光る弾を放つキングレンジャー

 

「ブレイザーインパクト!」

 

 シルバーブレイザーのガンモードを連射しながら突進していき、最後にソードモードで袈裟懸け斬りを放つメガシルバー

 

「DVリフレイザー!」

 

 DVディフェンダーをブレードモードに変化させて刀身を輝かせて斬りかかるタイムファイヤー

 

「銀狼満月切り!」

 

 ガオハスラーロッドのサーベルモードで敵を袈裟斬りにするガオシルバー

 

「シュリケンソニック!」

 

 ニンジャミセンを奏で、緑色の衝撃波を飛ばすシュリケンジャー

 

「ファイナルレター!」

 

 Z字にウィングペンタクトで切り裂くアバレキラー

 

「光速拳ライトニングフィスト!」

 

 ブレスロットルを回し超光速の拳で連打するデカブレイク

 

「ゴー・ゴル・ゴジカ!」

 

 マジチケットとグリップフォンで、光の攻撃魔法を呪文放つマジシャイン

 

「サガスラッシュ!」

 

 サガスナイパーのスピアモードで半月状の斬撃を飛ばすボウケンシルバー

 

「「ダブルブースター!」」

 

 ロケットダガーをウイングトリガーにセットし、光線をぶっ放すゴーオンウィングス

 

「百枚おろし!」

 

 サカナマルを逆手で持ち大量の斬撃を飛ばすシンケンゴールド

 

「ナイトダイナミック!」

 

 レオンセルラーとそこから召喚されるバルカンヘッダーをヘッダージョイントと合体させて、紋章カードをセットしてバルカンヘッダーを撃つゴセイナイト

 

「ぐぅおおおお!!」

 

「はぁはあ……すっ飛ばしてやったぞ……」

 

 追加戦士の15連撃は流石のギルダーツも受け切ることは出来なかった。

 後退りどころかかなりの距離を飛ばされたギルダーツはイテテと痛みを感じながらも立ち上がる。

 

「おーイテテ……お前の一撃、中々に効いたぞ」

 

「普通は今のでぶっ倒れるでしょうが」

 

「これをくらったのがオレだったからな、他の奴だったらそのままぶっ倒れてた……うちのギルドにはお前と同い年がそれより若い奴等が結構居るが、お前はそいつ等よりも遥かに強い……が、まだだ」

 

「っ!」

 

 これでもかと魔力を溢れさせてオレを威圧してくるギルダーツ。

 手を振ると15人に分裂をしていたオレは元の1人の人間に戻ると強制的に変身は解除された……ああ……ダメだこりゃ。

 

「参りました……」

 

「ふっ……挑んでくる勇気だけじゃなく己の抜いた刃を納める事も出来たか」

 

「今はです」

 

 今のオレじゃギルダーツには絶対に勝てない。

 15戦士による連撃で倒すことが出来ないのなら後はもうアレしかないけど、残念な事にまだすることが出来ない。見た目の何倍も魔力使うみたいで今のオレには使いこなせない。ギルダーツに他の戦隊の力を使っても倒すことは出来ない。

 

「大人になるまでにはあんたを倒せる様になってやる」

 

「言うな……だったらお前が大人になるのを楽しみに待ってる……精進しろよ」

 

 ポンとオレの頭に手を置いたギルダーツ。

 

「ギルドでな」

 

 オレはこの日、ギルダーツに負けた。

 負けたので約束通り森バルカンの討伐分の報酬を受け取り、ギルダーツに連れられて妖精の尻尾の酒場があるマグノリアへと向かった。



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POWER RENGER TAIL 2

「いや〜久々に人が多く居るところに来た気がする」

 

「お前、今までどんな生活を送ってたんだ?」

 

 ギルダーツに連れられてやって来たのはマグノリア。フィオーレ王国随一の商業都市と知られる街であり、活気が溢れ出ている。

 転生してから修行の日々に明け暮れていたので街とか村に立ち寄らずに山とか人があんまり住んでいない土地に足を運んでいたから、こういう感じの街に来るのはなんだかんだで初である。マグノリアって意外と敷居が高い。因みにだがギルダーツから敬語はやめろと言われてるのでやめるように心掛けている。

 

「ギ、ギルダーツだ!」

 

「ギルダーツがやってきたぞ!」

 

「ヤベえ、急いでギルダーツシフトに変えろ!」

 

 街を歩いているとギルダーツに反応するマグノリアの人々。

 そういえばギルダーツって悪い意味でも有名人だったなと思い出しながらギルダーツをチラッと見ると不貞腐れた顔をしていた。

 

「ったく、毎回毎回オレが街を壊すわけないだろう」

 

 クラッシュの魔法を無意識の内に使ってしまうギルダーツ。

 その為にマグノリアがそれ専用に改造されている……よくよく考えたらヤバい。たった1人の為に街を大掛かりに改造するとかヤバい。ギルダーツは愚痴るがマジで無意識でクラッシュを発動されると困るので若干距離を保ちながら歩いている。

 オレが居るせいで意識しているのかクラッシュの魔法は使ってこないが、本当に油断はならない。

 

「おーぅ、今帰ったぞ」

 

 少しの緊張感を保ちつつ妖精の尻尾の酒場に足を踏み入れる。

 ギルダーツが帰ってくるのがギルダーツシフトにより分かっていたので、周りは大きな声で「ギルダーツ!」と歓迎の声をあげる。オレは物凄く部外者な感じがあるな。

 

「ギルダーツ、おかえり。勝負しろ!」

 

「おいおい、帰ってきたばっかだし文脈もおかしいだろう」

 

 おぉ、あれは主人公ことナツ・ドラグニルだ。

 右手に炎を纏った拳でギルダーツに襲いかかるが、簡単にナツをあしらう……ギルダーツ、半端じゃないな。

 

「今回は随分と早かったのぅ」

 

 バーのカウンターに座る小さな老人、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターであるマカロフ・ドレアー。

 ギルダーツが今回思ったよりも早く帰ってきた事を気にしているとチラリとギルダーツのすぐ近くにいるオレを見る。

 

「それが依頼を先にこなされちまってよ」

 

「そいつが関係しておるのか?」

 

「ああ。こいつは鎧……面白そうだが拾った」

 

「ギルダーツ、その言い方はちょっと」

 

 そんな犬や猫を取り扱うみたいに言うのは困る。

 マカロフに見られるのでビクリと萎縮してしまうが優しい慈愛に満ちた目で見守られたので少しだけ緊張が解れていく。

 

「銀杏鎧です……東の方の国の出身です」

 

「鎧か……ワシはマカロフ・ドレアー、よろしく頼むぞ」

 

「は、はい」

 

 ギルドのマーク、何処に入れようか……。

 

「ギルダーツ、そいつ強いのか!」

 

 オレが入ることが分かると嬉しそうな顔で聞いてくるナツ。ギルダーツはニヤリと笑みを浮かべて包帯を巻いた肩を見せる。

 

「コイツは強いぞ。このオレに手傷を負わせたぐらいだからな」

 

「嘘だろ!」

 

「ギルダーツにダメージを与えたのか!?」

 

 やっぱりと言うかギルダーツにダメージを与えた事は物凄い事の様でギルドの中年連中はざわめく。

 強くはなりたいし力を使いこなせる様になりたいとは思っているが強いことを自慢したいわけじゃない。自分が守りたいと思った守れる程度の力さえあればそれでいい……しかし、それを世間や周りは許してはくれない。

 ナツが目をキラキラと輝かせて俺を見ており、ギルドのまだ子供な面々からもあのギルダーツをと言った視線を向けてくる……ああ、なんか胃が痛くなってきた。

 

「お前、鎧だったな。オレ、ナツ・ドラグニル……オレと勝負しろぉ!」

 

「ふん!」

 

「ぐふぉ!?」

 

「瞬殺!?」

 

 ナツが右手に炎を纏って殴りかかってきたので、ゴーカイスピアを取り出して反対の石突の方でお腹を叩いて飛ばす。勝負をしろって言ってきたのにいきなり殴りかかるだなんて勝負もクソもあったもんじゃないが挑んでくるならばやるしかない。ナツを瞬殺したことを恐らくは裸の氷の魔道士ことグレイは驚く。

 

「早速やるじゃねえか」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるギルダーツ。

 ギルドの連中と打ち解けてると思っているから別にそんなんじゃない。ナツが挑んできたから対処しただけだ。

 

「む、私と同じ魔法を使うのか?」

 

 ゴーカイスピアを異空間から取り出した事で首を傾げるは未来の妖精女王(ティターニア)ことエルザ。

 オレの使っているのは一応はこの世界仕様に合わせて魔法に変化してるらしいけどエルザと……被っているか……。

 

「面白え、エルザと同じ魔法を使うってなら私が相手をしてやるよ!」

 

 ボキボキと腕を鳴らしながら出てきた可愛らしい女の子……多分、ミラジェーンだと思う。

 弟のエルフマンと妹のリサーナが若干あたふたとしているところからなんか大変そうだが、多分オレの方が大変な状態だ。

 ミラジェーンから物凄くメンチを切られていて、その形相から思わず目を背けそうにする。

 

「へ、平和的な解決は」

 

「んなの、あると思ってるのか?」

 

 ですよねぇ。

 周りもなんだかミラと戦うのかとか言う感じの視線を向けており、今更降参ですとは言えない。

 

「とりあえずここで戦うと周りに迷惑になるから」

 

「おう、表に出な」

 

 やだ、ワイル道。ナツの時とは多少話が通じるのかいきなり襲ってくることはしなかった。

 出来れば戦いたくはないのだが、やらなければならない空気である。

 

「お前、あんまり乗り気じゃないな」

 

「そりゃまぁ」

 

「オレとやった時はノリノリだったじゃねえか」

 

「オレは戦闘狂じゃない」

 

 ギルダーツとやった時は今の自分がどれぐらい出来るか試してみたいと思ってやったが、オレは基本的に平和主義なんだ。

 自分から勝負を挑んだりすることなんて早々にない……ギルダーツと戦って今の自分がどれだけやれるか分かった以上は無理に戦う必要なんてない……なんて言ったら怒るんだろうな。

 

「おい、さっさと出てきやがれ!」

 

「はいはーい」

 

 先に出ていたミラはオレを外に呼び出す。

 オレが出ていくと酒場にいた面々も物見遊山でゾロゾロと出ていく……なんかこう、緊張をするな。

 吉良吉影とは言わないけども転生するまではヒッソリと暮らしていて、転生してからも人目につかずに生きていたから、周りからの視線は気になる。

 

「先に言っておく、ナツ程度をボコボコにしても自慢にはならねえぞ」

 

「ナツ程度って……」

 

「あたしはナツより強いんだよ」

 

 ギヒヒと見るものが見れば怖い笑みを浮かびあげているミラジェーン。

 

「ちゃんとした自己紹介がまだだったな……銀杏鎧、鎧って呼んでくれよ」

 

「鎧か……あたしはミラジェーン、ミラでいい……今からお前をぶっ倒す女の名前だ!覚えておきな!」

 

「勝つのはオレだ!豪快チェンジ!」

 

『ゴーカイジャー!』

 

「真っ赤な太陽背に受け」

 

「おらぁ!」

 

「うお!?」

 

 ゴーカイシルバーに豪快チェンジしたので、例のあの口上を言おうとすると悪魔の身体を奪う接収(テイクオーバー)ことサタンソウルを使い体を悪魔の姿に変えて襲いかかってくる。

 

「おおい!人が折角カッコつけようとしたってのに攻撃するか普通!」

 

「んなもん喋ってる暇があるならかかってこいや!」

 

 っく、ぐうの音も出ない正論だ。

 殴りかかってくるのでゴーカイスピアを盾代わりにして攻撃を防ぐが、一撃が重い……けど、ギルダーツの時とは違いなんだかいける気がする。

 

「ゴーカイスピア・ガンモード!」

 

 悪魔の肉体にやっている奴と真正面からまともにやり合っても不利だ。

 少しミラから距離を取るとゴーカイスピアを短くしてスピアモードからガンモードに変形し、ミラに向けて弾を撃つ。

 

「はっはっは、中距離以上の攻撃には弱いと見える」

 

 ゴーカイスピアの弾を受け、耐えているミラ。

 なにか攻めてくるかと思ったが、一向に攻めてこない……悪魔の肉体での肉弾戦は得意に見えるが、中距離以上の攻撃は出来なさそうだ。

 

「ナメんじゃねえ!」

 

 両手に魔力をかめはめ波の様に集めていくミラ。

 これはぶっ放してくると直ぐに攻撃の手をやめてゴーカイセルラーを取り出す。

 

「くたばりやがれぇ!」

 

 今から仲間になろうとしている奴等に言う台詞じゃねえ。

 ミラは魔力の塊をオレにぶっ放してきた

 

『ジューウレンジャー!』

 

 ので、素早く豪快チェンジをする。

 恐竜戦隊ジュウレンジャーに登場するドラゴンレンジャー。ドラゴンアーマーを装備しており、無敵の防御力と攻撃力の2つを誇る。現にミラの魔力による攻撃をまともに受けてもダメージが皆無だ。

 

「姿が変わった!?」

 

「オレはスーパー戦隊の、いや、パワーレンジャー達の力を使えるんだ」

 

 この力はオレ一人のものだから戦隊と呼ぶことは出来ない。だったら戦隊の海外名称を、パワーレンジャーを名乗るのがいい。

 オレの使っている魔法の名称は今日から戦隊(パワーレンジャー)、我ながらいい案が出た。

 

「ドラゴンレンジャー、ブライ!」

 

 よし、今度はちゃんと例の口上を言うことが出来た。

 ゴーカイシルバーからのドラゴンレンジャーへのカッコいい豪快チェンジにミラだけでなく、周りも驚いている。

 

「獣奏剣!」

 

 ドラゴンレンジャーの専用装備である獣奏剣を取り出し、ミラへと向かって突撃をする。

 

「そっちが姿を変えたならこっちも姿を変えてやる!」

 

 魔法陣を出現させて姿を変えるミラ。

 先程までとは異なる悪魔の姿をしているがそんなのを気にするほどドラゴンレンジャーは弱くはない……と言うか大体の追加戦士はぶっ壊れて強いのが定石だ。

 

「どうらああああ!」

 

 先程よりもパワーがある拳を振るうミラ。さっきよりもスピードがあるか……見切った!

 

「ふん!」

 

 ミラの拳を完全に見切り、掴み取った。

 渾身の一撃だったのかミラは驚いた顔をするがオレは掴む手を緩めはしない。

 

「う、動かねえ」

 

「腕のパワーには自信があるんだよ」

 

 距離を取ろうとするミラだがオレが手を掴んでいるので距離を取ることは出来ない。

 必死に手を動かそうとするがそれ以上の力で身動きを取れなくするとミラは諦めたのか、攻めに転じてくる。

 

「これでも」

 

「くらわん!」

 

 くらいやがれと空いている足で蹴りを入れようとするミラだが、その蹴りをもう片方の手で受け止める。

 するとそれを待っていたんだと言わばかりに笑みを浮かびあげる。

 

「これで両手は封じた、おしまいだ!」

 

「エンシェントブレス!」

 

「なぁ!?」

 

 両手を封じて身動きが取れない様に見えるが、まだ動ける部分が残っている。

 完全に無防備なのはミラも変わらずブレスを吐いてぶつけるとオレが掴んでいた手や足の力は弱まった。

 

「く、そ……」

 

 ボロボロになったミラは元の姿に戻る。

 獣奏剣を吹かずのブレスだったから、威力は多少軽減したがそれでもダメージは受けており元の姿に戻っても若干だが怪我をしている。

 

「まだやるか?」

 

 獣奏剣をミラに構える。

 地面に膝をつけたミラは今にでも泣き出しそうなくらいに悔しい顔をして声を出す。

 

「私の、負けだ……」

 

「そうか」

 

 勝負をしていたけど勝利条件は決めていなかった。ミラの口から降参が出たので一安心する。

 これで負けてないって負けを認めてくれなかったら上手い具合に気絶させないといけない。上手く出来るかどうか不安なのでよかった

 

「新入りがミラに勝ったぞ!」

 

「しゃあ!大穴を当てたぜ!」

 

 戦いが終わるとオレ達で賭けていたギルドの面々は騒ぐ。

 オッズはミラの方が遥かに有利だと出ていたのでミラに賭けた奴は破産。オレに賭けた奴は大穴を当てて配当金を受け取ってゲヘヘと汚い笑みを浮かべる。どうせならばオレもオレに勝つとギルダーツから貰った報酬を使って賭けとけばよかった。これから何かと実入りでお金が出ていくんだから。

 

「負けた……負けちゃった……」

 

「おいおい、泣くな……じゃないな」

 

 オレと本気の勝負をして、その上でミラは負けたんだ。悔しい気持ちを軽々しく扱ったらいけない。

 ここで頭を撫でるなんてイケメソなテンプレ主人公みたいな真似をオレはすることは出来ない……ので、手を差し伸べる。

 

「お前の拳、結構痛かったぜ」

 

 ドラゴンレンジャーに豪快チェンジしていても尚結構痺れる強さだった。

 最初は嫌々で勝負を受けたけども、誰かにバトルで勝利するってのも案外悪くはないもんだ。

 

「んだよ……同情なんていらない」

 

「同情じゃねえよ」

 

 安くてぬるい友情ごっこを見せるほど、オレは演技は上手くは無い。膝をついているミラの手を掴んで立ち上がらせる。

 

「私、負けちまった……この力をやっと制御できる様になったってのに」

 

 ミラの魔法は悪魔の体を乗っ取り使う接収の魔法、サタンソウルだ。

 ある日突然教会にいた悪魔をやっつけた表紙で無意識に魔法を発動して接収をしてしまった様で悪魔に取り憑かれたと勘違いをした。その後は妖精の尻尾に入って自分は悪魔に取り憑かれていない事を知ったり、弟のエルフマンと妹のリサーナに励まされて前向きになったりと色々とあった。

 

「これじゃあエルフマンもリサーナも守れない」

 

「守るか……その2人は守られたいのか?」

 

 2人を守れない事を悔やんでいるミラだが、本当にそれでいいのか聞く。

 どういうことだと言いたげなミラにリサーナとエルフマンがさっきからずっとこっちを見てきている事を伝える。

 

「姉ちゃん、大丈夫!」

 

「エルフマン」

 

「怪我してるじゃん。早く治療しないと」

 

「リサーナ……」

 

 負けてしまった姉の身を何よりも心配するエルフマンとリサーナ。

 まだまだ小さい彼等だが、胸に抱いているミラに対する思いやりは誰よりも大きい。守るべき存在だと見ていた分な。

 

「悪いな、情けない姿を見しちまって」

 

「ううん、そんな事はないよ」

 

「ミラ姉は何時だってカッコいいよ……負けちゃったけど、ミラ姉は私の中じゃ一番なんだよ」

 

「お前等……」

 

 負けた事に落胆するんじゃないかと何処か恐怖を抱いていたがそんなことは無かった。

 ミラは頑張った凄かったとエルフマンとリサーナから言われて嬉しそうにする……

 

「俺、何時か姉ちゃんみたいに全身を接収出来るようになった姉ちゃんの敵を討つ」

 

 何時の間にやらオレが物凄い悪役(ヒール)になっている。いや、3人の美しい姉弟姉妹愛が見られただけでも充分なのか。

 

「そこまでやられるほど私は弱くわねえよ……(がい)……ありがとう」

 

 2人は守るべき存在だけど、2人からもまた自分は守られるべき存在だと再認識をするミラ。

 さっきまで流していた涙は完全に消え去っていて何処か嬉しそうな表情を作る……可愛い女の子の笑みは心が癒されるな。

 

「礼なんていいんだ、それよりも笑え……可愛い顔が台無しだぞ」

 

「か、可愛い!?私が可愛いっていいのか!?」

 

 おいおい、なんかテンパっておかしなことを言っているよ。

 可愛いと言われて顔を真っ赤にするミラはもう少し見ていたい気もするが、あんまり余計な事をすると拳が飛んでくる恐れがあるのでこれ以上はなにも言わずに振り向いてギルドの面々に挨拶をする。

 

「オレは鎧、銀杏鎧……今日からよろしく頼むな!」

 

 ギルドの面々はオレを手厚く歓迎してくれた。

 因みにだがギルドのマークは銀色にして胸の真ん中に押してもらった



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POWER RENGER TAIL 3

「さて、クエストを受けるか」

 

 妖精の尻尾の一員となった。それだけでもこの上なく嬉しいが何時までも依頼を受けずにグダグダと過ごしていたらいけない。

 住むところをさっさと決めなければならないがその為には先ず金である。ギルダーツからお金を貰ったりはしたものの、それだけだと心許ないので稼がないといけない。そう考えるとこの世界の人達の平均月収とか年収とかめっさ気になるな。

 

「薬草探し、魔法薬のモニター、呪われた指輪の魔法解除(ディスペル)……色々とあるな」

 

 依頼板(クエストボード)に貼られている依頼にざっと目を通す。

 モンスターの討伐とかが主な依頼かと思ったが、それ以外の依頼が沢山来ている。フィオーレ王国随一の魔導士ギルドと言われることはある。

 因みにだが、フィオーレ王国で使われている文字は日本語じゃない。当然と言えば当然の事だがこれが割と重要であり、神様が転生する際になにを書いているのか読める様にしてくれた。神様のチート、万々歳だ。

 

「鎧、なんの仕事にするのか決めたか!」

 

 なにをするか悩んでいるとミラが声をかけてきた。

 

「いや、なににしようか悩んでるところ」

 

「なんだよそんな事か」

 

「そんな事って……オレにとってははじめての依頼になるんだから慎重に選ばないと」

 

 今回の依頼はオレにとってははじめての依頼だ。

 今まで何度も依頼をこなしているミラにとってはそんな事なのかもしれないけれど、オレにとっては割と重大な依頼だ。

 

「だったらあたしが選んでやるよ」

 

 依頼板(クエストボード)からビッと依頼が書かれた紙を取るミラ。

 なになに……村近くの山に住み着いている山賊退治。報酬は35万J……中々にいい感じの依頼だな。オレ、今のところは豪快チェンジしか使えないから解呪系の仕事は出来ず、採集系の仕事もなにがどれか分からないので出来ない。討伐系の依頼がなんだかんだ言って一番性に合うかもしれない。

 

「マスター、コレの受注を頼む」

 

「って、ミラ、まだそれが良いって決めたわけじゃ」

 

「ケチ臭い事を言ってるんじゃないよ」

 

 そうは言うけども、モンスターならともかく対人戦なんてしたこともない。

 モンスターの討伐依頼ならば簡単に首を縦に降ることは出来たが、これはちょっとと困っているとミラはガシッとオレの首に腕をかける。

 

「男ならグチグチ言わずにシャキッとしろ!」

 

「えー」

 

 こういう感じのノリってオレは少しだけ苦手だ。

 グイグイと来るミラの押しに負けてしまったオレは村の麓に巣食う山賊退治の依頼を引き受けるのだが、何故かミラまでついてくる。

 

「ついてくるつもりなのか?」

 

「な、なんだよ……私が居ちゃ悪いのか」

 

「悪いな」

 

 さも当たり前の如くついてこようとするミラだが、ついてこられるのは困る。

 その事をハッキリと言えばガーンとあからさまに落ち込む。

 

「報酬が半分になるのはごめんだ」

 

 35万の半分、つまりは17万5000円もといJになってしまう。

 これから何かと支出が多くなる。そもそもで住むところすら決まっていない……妖精の尻尾って、女子寮はある癖に男子寮は存在しないんだよな。妖精の尻尾の男達って色々とキャラが濃くて重要な時しか協調性が無かったりするから一つ屋根の下で暮らしてなんかみれば1日で家が崩壊するだろうな。

 

「……別に、報酬は全部お前の物でいいよ」

 

 報酬が少なくなるから邪魔者扱いされているのが分かると直ぐに顔を明るくするミラ。

 え、もしかして……これはアレか。何時の間にやらフラグ的なのが建っちゃった……いやまだ、なんにも大きなイベントをこなしてないだろう。まだ一回戦っただけでフラグが建つとか……無いだろう。あんな事で好かれたのならばそれはもうチョロインとしか言いようがない。

 

「まぁ、それだったらいいけど」

 

 報酬を全部くれてやると言っているので、ありがたく頂く。

 ミラが報酬無しで良いといったので断る理由はこれ以上は無いと承諾をすると嬉しそうな顔で依頼書をジイさんもといマスターの元に届けてこの仕事をするという。

 

「ミラ姉、仕事に行くの?」

 

「ああ、(がい)と一緒に行ってくる……一緒に行ってくるから、家の留守を頼んだぞ」

 

「姉ちゃん、怪我しないでね」

 

「誰に言ってるんだよ……心配するんだったその、鎧の心配をしやがれ」

 

 リサーナとエルフマンに行くことを伝えるミラ。

 2人は大丈夫かと心配するがミラにはヘッチャラで、むしろオレの身を案じる。だからなんでそこでモジモジするんだよ、おかしいだろう。

 

「鎧、これはお前さんの初仕事じゃ。ミラが居るから失敗は無いとは思うがケチがつかんようにせいよ」

 

「分かってまーす」

 

 なにはともあれ初仕事の初依頼だ。ワクワクとドキドキの両方が止まらない。

 

「アキメネスって小さな村まで行かないといけねえから列車のターミナルに向かうぞ」

 

「列車か……いや、いい」

 

「いいって、歩いていける距離じゃねえだろう」

 

「豪快チェンジ!」

 

『マージレンジャー!』

 

「輝く、太陽のエレメント!天空勇者マジシャイン!」

 

「お、ぉお」

 

 若干引くのをやめてくれ。

 列車を使えばなにかとお金を出費するのでお金を消費しない姿に、マジシャインに豪快チェンジした。

 

「そんな姿もあるんだな……で、どうするんだ?」

 

「こうするんだ。スカーペット!」

 

 マジレンジャーは魔法バイクみたいな乗り物を乗っていて、追加戦士のマジシャインはスカーペットと言う魔法の絨毯を乗っている。

 マジシャインに変身する事が出来るオレは当然の様にスカーペットを使うことが出来てミラの目の前に出現をさせる。

 

「さぁ、いくぞ」

 

 スカーペットの上に乗るとミラに手を差し伸のべる。

 

「お前の魔法、なんだか御伽噺に出てくる魔法みたいだな」

 

「……まぁ、ある意味そうかもしれないな」

 

 オレの使っている魔法はスーパー戦隊の力で、御伽噺みたいな力だ。

 ミラがスカーペットに乗ったのを確認するとスカーペットと上昇させて依頼主のいるアキメネスの村を目指す。

 

「スゲえ、列車と並走してる!」

 

 変な道を通って迷子になるたくはないので列車と並走する。

 スカーペットは最高時速はあの新幹線を超える400kmで、最初は列車と並走していったが段々と列車を追い抜いていき、さながら孫悟空の筋斗雲の様に空を自由に舞う。普通ならば風圧とか気圧とか色々な圧力にやられて立つことすらままならないのだが、そこはほれスーパー戦隊の大いなる力が働いて程よい風が靡く程度で済んでいる。

 

「よっと」

 

「まだギルドを出て30分も経ってないのにアキメネスに辿り着いた!って、大丈夫なのか?」

 

「なにがだ?」

 

「あんなに飛ばして、その魔力が」

 

「いや、全然疲れてない」

 

 あくまで今行ったのは移動だけだ。最高時速400kmでぶっ通しでとんだわけでもない。

 スーパー戦隊にとって長距離の移動なんて体力を消費するもんじゃない。専用の乗り物に乗って行ったのならば尚更だ。

 

「それよりこんなに早くに行ってクエストがちゃんと受注されてるかどうかが心配だよ」

 

 ギルドを出てからまだ30分も経過していない。もしかするとクエスト受注の報告が届いてないかもしれない。

 

「それなら問題は無いと思う。たまーにマグノリアでの依頼が来てたりしてて直ぐに受理されたりするから」

 

「そっか。それならいいんだけど」

 

 もし依頼が受理された事が届いていなかったら、なんか色々とややこしくなってた。

 心配事が1つ減ったのでホッとするがまだまだ不安要素は多く変身を解いて元の姿に戻るけれども安心は出来ない。

 

「なにそんなにブルってんだよ」

 

「オレ、バルカンとかのモンスターならいっぱい相手にしたことがあるけど人を相手にしたことが数えるぐらいにしかないんだよ」

 

 今からするのは村の麓に住処を作った山賊退治。モンスターではなく人であるから絶対に殺してはいけない。

 対人戦がミラとギルダーツぐらいしかしてなくギルダーツには敗北し、ミラには勝てたのでミラよりは強いことは分かるのだが実際のところどれぐらいの強さなのかが分かっていない。

 

「んだよ、そんな事か。鎧、お前は私に勝つぐらい強いんだからそこらの山賊程度の雑魚になんか負けねえよ……もっと自信を持ちな!」

 

 バシンと背中を叩いてくるミラ。地味に痛い。

 あのギルダーツに手傷を負わせた事を誇ってはいいんだ……そう思うと少しだけで気が楽になるけど、やっぱり心配だ。グイグイと押してくれるミラが物凄く頼もしくみえる。

 

「すみません、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者ですけど依頼を受けてここに来ました」

 

「お、おお!もう来たのか!?」

 

 アキメネスの村に辿り着くと第一村人に依頼でやってきた事を伝えると驚かれる。

 ついさっきに依頼を受理したばかりだからやっぱり早かったか……まぁ、なにをするにしても早いに越したことはない。オレ達がやってきたので村は軽くざわめき出す。

 

「それで、妖精の尻尾の魔導士は何処に」

 

「なに言ってるんだよ、おっさん。ここに2人が居るだろう」

 

 ニヤリと笑うミラ。

 子供の魔導士が来るとは思いもしなかったのかおっさんは嘘だろうと言った顔をする。

 

「こんな子供を寄越してくるってどうなってやがるんだ!」

 

「おい、誰がガキだ!言っておくがな、あたしも鎧もそこらの魔導士なんかと比べ物にならねえぐらいには強えんだぞ!」

 

 困ってるのに依頼をしたらやってきたのが子供だとなれば誰だってショックを受ける。

 とはいえナメられているのでミラはカンカンにキレる。自分達をナメんじゃねえと今はまだ小さな胸を張って威張るが、これだと威勢を張っている奴となんら変わりない。

 

「ミラ、山賊を退治しよう……そうしたらおっさん達も認める」

 

「おっさん、国に連絡しとけ!今から大量の山賊をぶっ飛ばしてくるからな!」

 

「あ、ああ……」

 

 まだおっさんはオレ達の事で疑心暗鬼の様だが、ナメられた以上は仕事をこなしてオレ達はちゃんとしているのを証明する。

 山賊が住処にしている村の麓の拠点まで案内をしてもらう。

 

「俺はここまでしか案内は出来ない。後は頼んだぞ」

 

「任せろ」

 

「ギッタンギタンにしてやるよ」

 

 バキバキと腕を鳴らすミラを見て血の気が引くおっさん。

 いい報告を待っているとおっさんはスタコラサッサと逃げていった。

 

「で、どうする?」

 

 ミラなら一気に突撃するかと思ったが、突撃する前の作戦タイムに入る。

 

「このまま乗り込んで普通にボコボコにする、じゃダメなのか?」

 

「バッカ、それじゃわざわざこんなところでコソコソする必要はねえだろう」

 

 意外と脳筋じゃないことにオレは驚く。

 現時点ではワイルドなところがあるからもっとガンガン行くかと思ったが……伊達に後のS級魔導士じゃないわけだ。作戦の指揮権はオレにくれるっぽいので、なにか良い作戦はないかと考えた結果

 

「豪快チェンジ!」

 

『ゴーカイジャー』

 

「なんだ、結局殴り込むのか」

 

「いや、違う」

 

 ここは豪快に行くつもりだ。

 オレはレンジャーキーが出てくるバックルことゴーカイバックルに触れると巨大な船の形をした銃……ゴーカイガレオンバスターが出てきた。

 

「あそこに山賊が住み着いてるなら、一気にぶっ放す」

 

「お前……意外と豪快なんだな」

 

「今のオレはゴーカイジャーだからな」

 

「寒いぞ」

 

 うん、自分で言ってて恥ずかしい。ともかく山賊がそこにいるのならば一気にぶっ倒すのが得策だ。

 ゴーカイガレオンバスターを使うためにレンジャーキーを複数取り出す。

 

「メガシルバー、ガオシルバー、ボウケンシルバー、ゴーオンシルバー、ゴーカイシルバー、レンジャーキーセット!」

 

『シールバーチャージ』

 

 お、本来ならスペシャルチャージと音声が鳴るのだが使っているレンジャーキーが銀一色なのか別の音声が鳴ってる。

 見た目に対して結構な重さがするゴーカイガレオンバスターのスライドを引いて、山賊が住んでいる屋敷に向かって放つ。

 

『ラーイジングストラーイク!』

 

 螺旋構図場に動く銀色の弾がゴーカイガレオンバスターから放たれると屋敷に向かって一直線上に飛んでいく。

 弾を阻むものは無いので屋敷に向かって命中をすると建物は崩壊していく。

 

「ミラ、何時でも戦える準備はしておけ」

 

「もうしてるよ!」

 

 流石はミラ、仕事が早い。ミラの方を振り向くとサタンソウルを既に発動しており悪魔の姿に変身をしていた。

 

「じゃあオレも、豪快チェンジ!」

 

『シューリケンジャー』

 

「緑の光弾!天空忍者シュリケンジャー参上!」

 

「お前、それやらないといけないのか?」

 

「コレはお約束だからやっておかないと……調子が出ない」

 

 ヒーローの変身ポーズと変身後の口上はこの力を使う以上は絶対に外すことは出来ない事だ。

 ゴーカイジャーなんだから変身口上無しでもいいんじゃないかとは思わない。この口上は言わないとなんか力が出ない。

 

「お、おい、大丈夫か!?」

 

「奇襲だ!村の連中が襲ってきやがったんだ!」

 

 瓦礫の中から出てきた山賊と思わしき人物達。ゴーカイガレオンバスターは効いたのか白目でぶっ倒れたりしている。

 そのまま突撃しなくて正解だったとプロテクターのお腹部分に触れて外すと顔に触れる。

 

「大逆転・フェイスチェンジ!緑の光弾!天空忍者シュリケンジャー・ファイヤモードでい!」

 

「お前等をぶっ飛ばしに来た!」

 

 オレが挨拶をしないので代わりにするミラ。

 魔導士ギルドが襲ってきたので山賊達は顔色を変える。

 

「魔導士ギルドだと、クソっ!」

 

「いや、よく見てみろ!たった2人だぞ!」

 

「2人……たった2人なら倒しちまえ!」

 

 魔導士ギルドに依頼をしてきた事を焦る山賊達だが、オレとミラしかいないのでやっちまえと好戦的になる。

 

「ノンノン、ミーを侮っちゃ困るぜい!超忍法・分身魔球!」

 

 大きく振りかぶり野球ボールを投げる。

 野球ボールは1個から2個、2個から4個へと倍々ゲームかの様に増えていき、山賊に命中して吹き飛ばす。

 

「ストライ〜ク!!」

 

「おいおい……全部ぶっ倒しちまったじゃねえか」

 

 ミラが出る前に倒してしまった。自分の出番が全く無かったことに少しだけで不満を言う。

 けどまぁ、無傷で依頼を達成したのでそれ以上はなにも言ってこずにオレの背中にポンと触れる。

 

「お前は強いんだから、もっと自信を持てよ」

 

「……自信と慢心は紙一重だから無理だ」

 

 山賊をコテンパンに倒すのは並大抵の魔導士じゃすることは出来ないかもしれないが、ここで調子に乗っちゃいけない。

 全ての力を使いこなせていないのでそれらを使いこなせる様になってからはじめて胸を張ってスゴイんだと威張れる……まだ完全に力を使いこなしていないんだよな。

 

「て、テメエ等、一体何者なんだ」

 

 分身魔球にやられて立つことが出来ない山賊のリーダー格は怯えながらもオレ達が何者なのかを聞いてくる。

 オレとミラは1度だけ顔を合わせるとコクリと頷く。

 

「「魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ」」

 

 答えるのならばこの答えしかない。

 妖精の尻尾の名前は結構有名なので山賊達はこんな若いガキが妖精の尻尾の一員だとと驚いて意識を失った。

 

「ま、こんなもんか」

 

 若干約数名程は意識を失わずにいるが身動きの取れない山賊がいるが、相手にしなくてもいいぐらいにはボロボロだ。

 何処かにロープはないか探すとあっさりと見つかったので山賊達をロープでグルグル巻きに締め上げる。

 

「ま、まさかたった十数分で全ての盗賊達を片付けるなんて」

 

 依頼をこなした事に驚くおっさん。

 さっきこんな子供がやってきたのかと軽く落胆をしていたのでどんなもんだとミラはドヤ顔になる。敵をぶっ倒したのオレだからドヤるのは違うんじゃないかと思ったがミラが満足そうな顔でドヤっているのでそれでいいかとなにも言わない。

 村人のおっさんは山賊達を引き渡す国の軍隊的なのが来るのにはもう少し時間が掛かるからそれまで見張っててくれと言われる。

 

「なぁ、鎧……私のこの姿、どう思う?」

 

「……?ワイルドじゃないのか」

 

 待つだけで割と暇だなと思っていると悪魔の姿に変身するミラ。どう思うって言われても、ワイルドな見た目としか言いようがない。

 

「いや、だから、その……怖くないのか?」

 

 完全に人じゃない右腕を見せてくるミラ……怖いか

 

「人は見た目で判断したら駄目……って言うけどな」

 

 そういう風に思われる見た目をしているのが悪いという考えもある。

 人間、バカなことはせずにコツコツと頑張ればなんて言うけども報われないのをオレは知っている。っと、話がズレてしまったな。

 

「お前、自分が悪魔の力を使ってる事に対して色々と思ってるのは分かった。だが、オレはその程度の事を気にするほどの男じゃない。ミラジェーンは何処まで行ってもミラジェーンで悪魔でもなんでもない……オレが言えることはそれぐらいだ」

 

「!……ありがとう……」

 

「なに礼を言ってるんだ。仲間だろう」

 

「仲間、か……」

 

 オレとミラは妖精の尻尾の一員で仲間なんだ。オレは思ったことをちゃんと言ったし……大丈夫だよな。

 ミラは一向に顔を上げてこないのが怖いけれどなにも言ってこないということは怒っているわけではなさそうだ。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「き、聞いてたのか!?」

 

 生憎、オレは鈍感系の主人公じゃないから耳はちゃんといいんだ。ミラは顔を真っ赤にさせるとオレをポカポカと殴ってくるが痛くも痒くもない。傍から見ればイチャイチャしている様に見えるが仕事には至って真面目で国の人がやってくると山賊達を引き渡した。

 スゴく今更な事だけど、山賊が村の麓に住み着いているとかってこの国は治安が悪すぎるよな。永世中立国謳ってる癖に内部スゲえガタガタだ。特に疲れてもいないので帰りもマジシャインとなりスカーペットに乗ってマグノリアへと帰ると早速家探しをはじめた。



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POWER RENGER TAIL 4

「ヒュッヒュッヒュヒュ〜」

 

「鎧、オレと勝負をしろぉ!」

 

 妖精の尻尾に入って少しだけ時間が経過した。

 初依頼をこなしたオレはその後は1人でバンバンとこなしていき、家賃9万Jの部屋を借りれる様になった……頭金に結構な額が必要だったので報酬の殆どが吹っ飛んだのはよくも悪くもいい思い出だ。

 

「とぅ!」

 

「ぐはぁ!?」

 

 ギルドの酒場に居るとナツが挑んでくる。

 最早恒例行事となってる。ナツは飽きもせずによくオレに挑んでくるなと思いつつもライダーキックをくらわせる……スーパー戦隊の力を使っている奴が仮面ライダーのライダーキックを使うってどうなのだろうか。

 

「全く、おちおちレンジャーキーを磨けないな」

 

 オレの力の源とも言うべきレンジャーキー。

 殆どが追加戦士のレンジャーキーであり、金色とか銀色とかで青色とかは無い。青色の追加戦士ってありだと思う。コグマスカイブルーは別枠です。

 

「ったく、お前も懲りねえな」

 

 ぶっ飛ばされたナツを見て呆れるグレイ。こんな事が日常になってるのはオレも大分妖精の尻尾に毒されて来たと言うわけだろう。

 ナツをぶっ飛ばしたのでとりあえずレンジャーキーを磨く。ゴーカイシルバーのレンジャーキーは頻繁に使うので念入りに磨かなければならない。頻繁に使う戦隊とそうでない戦隊が無意識の内に別れてしまっているので全部の戦隊の力を使いこなせていない。

 

「まだまだぁ!エルザ、オレと勝負をしろぉ!」

 

「ふぅ……仕方がない」

 

「俺もだ!」

 

 ナツはグレイと共にエルザに勝負を挑もうとする。

 エルザはあまり乗り気じゃないものの、酒場の外に出ていく……多分、瞬殺だろうな。そういえばさっきグレイとナツがいちごのショートケーキ食ってたけど、あれエルザのおやつなんだろうな……ボコボコにされるな。

 

「……ぅお!?」

 

 テレッテレレレン、テレッテレレレンと鳴り響くゴーカイセルラー。

 この世界には通信魔法とか通信魔水晶(ラクリマ)とかはあるけれど携帯電話は存在しない。それっぽいのが原作の終盤に出てくるけども今は全くと言って存在しない。

 今の今までゴーカイセルラーに着信なんて無かったのでもしかしたらモバイレーツ的なのを持っている奴から電話が掛かってきたのかと電話に出る。

 

「も、もしもし……」

 

『「酒場から出ろ」』

 

 電話に出ると指示らしきものが送られた。

 誰からの電話だ……いや、それよりも何処かで聞いたことのある声だ。何処で聞いたんだろ

 

「もしもし……もしもーし」

 

『「いいから酒場から出ろ。1人でだ」』

 

 何処で聞いた声か分からず戸惑っているが、それでも指示が出ている。

 ミラ達と協力すんなと言うこと……罠かなにかかもしれないが、指示通りに動かないとなにか大変な事になるのかもしれない。ゴーカイセルラーを首を傾げた状態で耳に翳しながら酒場の外に出る。

 

「おい、言われた通りに出たぞ。次はどうすれば……っ、切れたか」

 

 次の指示的な物を仰ごうとしたがゴーカイセルラーが通話が切られた。

 酒場の外に出たのを確認したからゴーカイセルラーの通話が切られたんだと考えていい……何処でオレを見ているんだ?

 

「っ!?」

 

 辺りを探そうとすると光線が飛んでくる。

 ギリギリのところで反応をすることが出来たけども、この光線は放っからオレに当てるために撃ったわけじゃない

 

「……!……嘘、だろう」

 

 弾が撃たれた方向を見るとそこに立っていたのはタイムファイヤーだった。

 大きな建物の非常階段にいるタイムファイヤーはコツンコツンとDVディフェンダーを鳴らしておりオレを見ている。

 

「バカな、タイムファイヤーのレンジャーキーはオレが持ってるはずだ!」

 

 オレを転生させた神様は他には転生者は居ないとハッキリと言い切った。そしてタイムファイヤーのレンジャーキーはオレが持っている。

 神様が言うにはオレ以外がタイムファイヤーや他の戦隊に変身するにはゴーカイセルラーを使うんじゃなく、本家と同じやり方で変身をしないといけないが……どうなんだ?

 

「お前、何者……いや、待てよ」

 

 ゴーカイセルラーが鳴ったと言うことはゴーカイセルラーの番号を知っている奴だいうこと。

 ゴーカイセルラーが通信道具なんて妖精の尻尾の面々どころかマスターすら知らないことで……つまり

 

「オレってわけか」

 

 オレしか知らないこと……つまりあれは何処かの時間軸のオレになるわけだ。

 正解なのかDVディフェンダーを鳴らすのをやめてこちらを見てくる……。

 

「豪快チェンジ!」

 

『ターイムレンジャー!』

 

「タイム・ファイヤー!」

 

 なにも言ってこないのでタイムファイヤーに豪快チェンジ。

 オレもまたコツンコツンとDVディフェンダーを鳴らす。

 

「鎧、急に居なくなってなにをしてるのって鎧が2人!?」

 

 なにを言えばいいのかわからない空気が生まれていると金髪巨乳のバニーガールが……ルーシィ・ハートフィリアだった。

 なんでこんなところに、いやそれよりもまだ原作が開始していないのにボインな姿になっている……あ、思い出した。

 

「1人はこの時代のオレだ」

 

「ぜ、全然変わってないけど」

 

戦隊(パワーレンジャー)に変身した時に体格は変わる……今も昔もな」

 

 これ、OVAの話だ。

 ナツの首元にある謎の傷についての説明回でもあるOVAで、ナツ達が、ハッピーが生まれる前……ちょうど今頃の時代にタイムスリップする話だ。

 

「未来から過去に、か」

 

 やっと全てとは言わないが大体を思い出した。

 未来と呟くとルーシィは大慌てをする。

 

「えっと、鎧、私はルーシィ。妖精の尻尾の一員でって、この時代じゃまだお嬢様だったけど、とにかく私達は」

 

「事情は大体分かった」

 

「流石はオレ……って、過去のオレも同じ事をしていたか」

 

 未来の説明をしようとするが上手く説明が出来ていないルーシィ。

 大体の事情は分かったと言えば驚かれる……原作知識って本当にこういう時は便利だよな。

 ルーシィは自分達が未来から来たことについて理解をしてくれた事にホッとするが直ぐにハッとする。

 

「まだ私、妖精の尻尾に行ったことすら無いのにここで出会ったのなら未来が変わっちゃう!」

 

「ルーシィ、落ち着け……誰かが大怪我をしたとか悪い奴が襲ってきたとかじゃない。変えようが変えまいがどうだっていい未来の1つや2つある……と前向きに思いたい」

 

「思うだけかい!」

 

「でも、過去のオレが言っている事には一理あるぞ……別にここでルーシィと会ってもルーシィ、この時代には居ないんだから顔を合わせても誰だってなるだけだ」

 

「言ってることは事実だけど、なんだか釈然としないわ」

 

 ちょっと皮肉めいた形で未来のオレは言っているからしゃあない。

 実際のところここでルーシィと出会ったとしてなにか未来が変わるというのか。

 

「タイムスリップって4つぐらいパターンがあるでしょう!過去を変えても未来が変わらなかったりするパターンとかだったらどうするつもり?」

 

 タイムスリップ物には幾つかパターンがある。

 1つ目は過去の時代に介入することで未来が変わるパターン。

 2つ目は過去を変えても変わった未来が生まれるだけで元いた未来に影響を及ばさないパターン。

 3つ目は既に過去の時代に未来の自分がなんらかの関与をしていた時間軸の住人で答え合わせをするパターン。

 4つ目はどれだけ過去を干渉してもなんだかんだでその未来に辿り着くことが決まっている。

 メタい話をすればFAIRY TAILは1つ目に部類される世界で……ここでルーシィと深く関与してしまえば未来に何かしらの影響を及ぼす。

 ただ妖精の尻尾の一員でもなく特になにか大きな事件に巻き込まれたわけじゃないからルーシィとここで深く関わっても黙っておけば問題はない。

 

「そうだな。お前とこうして出会う事が未来に大きな影響を及ぼすんだったらオレはさっさと去る」

 

 ルーシィの言っている事に一理ある。OVAの話が今巻き起こっているのが分かっただけでも充分な情報で、ここでルーシィと深く関わってもロクな事にならない。ルーシィ達に背を向けて変身を解除して酒場に戻ろうとするがタイムファイヤーになっている未来のオレに肩を掴まれる。

 

「折角過去の時代にやって来てるんだ……ルーシィに妖精の尻尾を案内するぞ」

 

「なに言ってんの!?」

 

「なんだ過去の時代の妖精の尻尾の皆をみたくないのか?皆、色々と若いぞ」

 

「え、ど、どうしようかな」

 

 未来のオレの提案に悩むルーシィ。

 自分で過去の人間が関わったらだなんだ言ってた癖にやっぱり過去の妖精の尻尾のメンバーが気になるんだな……ああ、そういうことか。

 

「オレは出ていってくれか」

 

 未来のオレは最初から過去のオレをギルドである酒場から追い出そうとしていた。

 ゴーカイセルラーを掛けてきた時からこの事を狙っていたとか流石はオレだと感銘を受けつつ二人に背中を向ける。

 

「ついさっきまでギルドでレンジャーキーを磨いてたから上手くバレない様にしとけよ」

 

 2人もといルーシィは行く気満々なのが伝わってくる。

 ついさっきまでやっていた事を伝えるとオレは去っていく……向かう先は決まっている。川だ。

 

「うぉらあ!」

 

「なんのお!」

 

 河原に向かうと殴り合う男が2人。その近くで殴り合う小さな男の子達2人

 片方は未来のグレイとナツでもう片方もこの時代のナツとグレイ……どれだけ時間が進もうとも2人は喧嘩をする運命なんだと思わず笑みを浮かべる。

 

「2人とも昔からやること変わってないよ」

 

「大人になっても成長をしないんだな」

 

「少しは成長しなよ……って、鎧!?」

 

「はじめまして、小さな猫。お前も未来から来たでいいのか?」

 

 戦っている2人に呆れている小さな青い猫、ハッピー。

 この時代ではまだ生まれていないのではじめて会うので挨拶をする。

 

「あい……って、どうしてそれを知ってるの!?」

 

「さっき未来のオレとルーシィって子と鉢合わせして大体の事情は察した……ヅラを被ってて服装も変えてるけど、アレはグレイとナツだろ」

 

「あい……あの二人、オイラが生まれる前からあんな感じだったんだね」

 

「ナツが誰かと喧嘩と称して戦ってるのは最早恒例行事でオレもレンジャーキーを磨いてると挑まれた……秒でぶっ倒したけど」

 

「流石、鎧。過去でも滅茶苦茶強いんだね」

 

 未来でもオレは上手くやっているようだ……。

 

「因みに未来のオレはどんな感じで?」

 

「未来の鎧なら一緒に来ているよ?」

 

「いや、ほら……他人から見てどういう感じに成長しているか」

 

「そういう未来の知識は教えちゃ駄目だってルーシィが言ってたから教えないよ」

 

「んだよ、ケチくせえな」

 

 自分達は過去の時代を堪能していってるってのに、オレは未来に関与することは出来ない。

 オレはS級魔導士になれてるのか、全ての戦隊の力を使いこなせているのか、童貞のままなのか知りたいことがとにかく多い。それ等は聞くんじゃなく待てと言われる……畜生。

 

「それよりさ、ナツとグレイを止めてよ」

 

「あの二人なら放置しても問題無いんじゃないのか?」

 

 顔を合わす度に喧嘩をしているナツとグレイだが本気で殺し合う事はしていない。

 ああ見えてもナツとグレイは味方を殺すなんて事は絶対にしない。放っておいても勝手に解決をするもんだろう。

 

「オイラ達、エルザ達と勝手に分かれて此処に来ちゃったから……早いところ合流しておかないとエルザ、カンカンに怒るよ」

 

 その考えだとエルザは既にカンカンに怒ってると思う。

 今も未来もエルザにボコボコにされる未来は変わりはないので下手な事は言わないようにする。しかしこのままなにもしないってのもアレなので一応は止めに入る。

 

「2人ともこんなところで喧嘩してないでさっさと」

 

「「うるせえ!!黙ってろ!」」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

「「あ!」」

 

 2人の喧嘩を止めようとするとオレを殴ってきた。

 容赦無くぶん殴ってきた2人は殴ってしまったのはオレだと分かるとやらかしてしまったと冷や汗をかきはじめる。

 

「2人とも纏めて掛かってこい、ぶっ倒してやるよ」

 

「や、ややや、やべえ。鎧の奴を怒らせちまった」

 

「面白え!この時代の鎧になら勝てるぜ!」

 

 怯えるグレイと燃え上がるナツ。片方は白旗を上げそうになるが、ナツの言葉を聞いてグレイはやる気を出す。

 

「豪快チェンジ!」

 

『メーガレンジャー』

 

「メガ、シルバー!」

 

 そっちがやる気なのでこっちもやる気を出して豪快チェンジ。

 メガシルバーに変身をすると空中を飛ぶ板ことオートスライダーを出現させてナツに向かって突撃をする。

 

「ハッハッハ、ナツ!お前の弱点は知っているぞ!」

 

「オレに弱点なんて……うぷ……気持ち悪ぃ……」

 

 オートスライダーにナツを乗せると乗り物酔いになって顔を青くする。

 ナツの弱点、それは乗り物に弱いこと。乗り物にさえ乗せてしまえば本来の力を出すことは出来ない。

 

「シルバスライド!」

 

「ぬぅあ!?」

 

 オートスライダーでグレイに突撃し、ぶっ飛ばす。ナツは乗り物に酔っていてバタンキューでグレイはオートスライダーに跳ねられた。

 

「鎧……ちゃんと戦いやがれよ……うっ……」

 

「そうしたいのは山々だけど、お前達に時間はそんなに残されていないだろ」

 

 他の姿で真正面から戦いたい気持ちはないことはないけども、今はナツ達の時間を優先しなければならない。

 

「決着を着けたいならこの時代のオレに言うんじゃなくて、お前が今いる時代のオレに頼みな」

 

 変身を解いて背を向け、オレはギルドへと戻っていく。

 道中エルザと思わしき女性が急いでナツ達の元へと走っていく姿を見た。

 

「未来は過去に、か……」

 

 いい未来を送れるように頑張らないとな。



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POWER RANGER TAIL 5 

人気が一気に出たぜ!と思ったけど、バクマン目当てなんだよな……中々に続きが浮かばない。


 あの後、ナツ達は無事に本来の時間軸に戻ることは出来た。

 オレが余計な介入をしてナツの首筋の怪我が出来ないか心配していたが、ボコったナツは乗り物酔いでぶっ倒れてたのでオートスライダーから降りたナツは復活。逆にこの時代のグレイに負けてしまったこの時代のナツに叱咤激励を入れて例の傷がつけられた。未来に何かしらの影響があるとかそんなんじゃない割とどうでもいいことだけど、一応は気にはなってしまう。原作通りになってよかった……と思えばいいんだろうか。

 とりあえずは原作通りに行ってくれていてオレも貯金を増やしていって気付けば預金が150万Jを超えた……討伐系の依頼は報酬が良く、無趣味の男の一人暮らしなんて大して金が掛からないもの。一番掛かっている金が食費よりも家賃なのはなんとも皮肉なもんだ。

 

「諸君、今年もこの季節がやってきたぞ!」

 

 原作と言えばハッピーが生まれた。

 ナツがエルザやオレを倒す為の修行だと特訓をしていると空から卵が降ってきたらしく、マスターに頼み込んで孵化させてくれと頼み込み怒られていた。命あるものは思いの通りならないにが常であると普通にいいことを言っていたのはいい思い出だ。

 

「妖精の尻尾のS級昇格試験……近年は腕の立つ魔導士が揃わず候補者すら出なかったが、今年はちゃんとあるぞう!」

 

 それはさておき、ギルドに緊張感が走る。S級に昇格する試験がある……原作で知ってたけども、今がその時期……時期は普通に知らんかった。

 まだ将来的にギルドの看板を背負うナツ達が若すぎるからか、S級試験を受けるための資格を取るぞと物凄く依頼を受けに行ったりしていない。

 

「じっちゃん、今年はオレだよな!」

 

 S級試験の受験資格を持った受験者の発表をワクワクしているナツはテーブルに足を置く。

 

「今年のS級試験に出られるのは……ラクサス!」

 

「おおっ、やっぱりか!」

 

「最近、メキメキと腕を上げたからな」

 

 S級昇格試験の受験者を発表をするとワカバとマカオがざわめくとラクサスに視線が向く。

 ラクサスはやっと自分がS級の昇格試験の受験資格を手に入れたかと立ち上がり大きく笑う。

 

「やっと俺の時代がやってきたな」

 

 笑いながら電撃をバチバチさせるラクサス。原作知識的なメタい話をすればラクサスはこの年のS級に合格をする。

 アイツの時代が来るかどうかは別としておいて今年ラクサスは試験に合格するので頑張れとだけ応援をする。

 

「そして鎧!」

 

「ふぁっ!?」

 

 応援をしようと思っていたら、まさか呼ばれてしまった。

 S級クエストがどんなものなのか気にはなるが、そこまで行きたいものだとは思っていない。突然名前を呼ばれたので思わず変な声が出てしまった。

 

「以上の2名じゃ」

 

「ええ、おいおいおいおい」

 

 ミラとかエルザとか他にも強くて若い魔導士達は居る。それなのに選ばれたのはオレとラクサスだけってどうなってるんだ。

 突然の出来事の為にオレは変な風にテンパってしまう……本当にどうしてこうなったんだろう。

 

「鎧、お前とか……そういや、お前とまともに戦ったことはなかったな」

 

「まともに戦う理由が無かったからな」

 

 オレはナツと違って好戦的な性格じゃない。ラクサスみたいに強い奴とわざわざ戦う理由は無い。

 今回のS級試験はタイマンなのかもしれないと考えるとなんだか胃がキリキリとしてきた。

 

「やったな、鎧!S級試験、頑張って合格しろよ!」

 

 我が事の様に喜んでくれるミラ。

 最近おっぱいが大きくなってきて目に毒だったりするがそれを言えば普通にセクハラなので言わずにいる。眼福ですありがとうございます。

 そして相変わらず痛い。バシバシと背中を叩いてこないでほしい……ミラなりのコミュニケーションなんだろうが、一回ビシッと何処かで言ってやった方がいい……いや、なんか揉める未来が見えるな。

 

「S級試験の日程は追って伝える。それまで精進せい!」

 

 マスターはカッコよく決めると何処かに行った。S級試験か……受けるからには出来れば受かりたい。

 S級と言う1つの括りに纏められれば自分が成長しているのを実感出来るし……いけるか

 

「おい、鎧」

 

「ラクサス、なんだ?」

 

 S級についてあれこれ考えているとラクサスが声を掛けてきた。

 今まで特に絡みらしい絡みがなかったので思わず身構えてしまう。

 

「そう警戒するんじゃねえよ……ただ宣戦布告に来ただけだ」

 

「宣戦布告って、確かに試験を受ける間柄だけど」

 

「ミラ程度に勝ってイキってる奴には負けねえ……テメエをぶっ飛ばしてオレはS級に上がって、ギルダーツの野郎も超えてやる」

 

「それ結構難しいぞ……けどまぁ、頑張れよ」

 

 最強の称号に憧れるのは分からないわけでもない。この頃は仲間云々がなんなのかまだ分からずにラクサスは粋がってる。

 本当は仲間思いの良い奴なんだけども、マスターの孫で色眼鏡を掛けられているのがコンプレックスになっている。ベジータ的なツンデレだ。第2世代とは言え滅竜魔導士なので地獄耳なのは知っている。ツンデレめと言いたいが言ったら確実にぶっ飛ばされる。

 

「聞き捨てならねえな……あたし程度ってどういうことだ!」

 

「ミラ、落ち着け」

 

 自分を引き合いに出されたことで怒る。

 

「ミラは程度なんて言われるほどじゃない充分にスゴいんだ……ホントにスゴい奴がこの程度で動じてどうする?」

 

「お、おぅ……そうだよな。ラクサスの奴、ワザとあんな事を……私がこんな安い挑発に乗って喧嘩なんて買うかよ」

 

 喧嘩を買おうとしたじゃないかもといチョロい。

 頭に血が上っていたミラはオレの言葉で冷静になる……心做しか何処か上機嫌の様に見える。……やっぱりアレだろうか。

ミラとフラグ的なの建ってる……いやでも、仮に建ってたとしてそれは吊橋効果的な感じで立っているからダラしないオレを見て恋の熱が冷める的なのありえそうだから怖い……聞かないでおこう。鈍感系の主人公のフリでも……なんかやだな。

 

「……ん?どうした、カナ」

 

 ミラとの関係性についてあれこれ考えているとオレに凄く羨ましいとの視線を浴びせている少女ことカナ。

 妖精の尻尾の子供組の中でも最も古参のメンツであり、とある事情を抱えているのだがそれは今とは……関係あるかもしれないが、オレにその辺の事情に首を突っ込む権利は無い。

 

「鎧、スゴイね……ギルドに入ったばかりなのにもうS級試験を受けれるなんて」

 

 オレの事を言うカナだが何処か自虐的な雰囲気を見せる。

 

「オレなんてまだまだ……多分まだギルダーツに勝てないんだ」

 

 強くなるために依頼をこなしたりしているけど未だにアレが使えない。

 必死になっているけれどスーパー戦隊の力を全て使いこなせるわけじゃない……まだまだ未熟者なんだ。そう考えるとオレがS級の資格を取ろうなんてなんか烏滸がましいな……マスターに今からでも自分は未熟者だからS級になれませんって断ってこようかな。

 

「ギルダーツか……今頃なにをしてるんだろうね」

 

「あ、悪い」

 

「なんで謝るんだよ」

 

「余計な心配をかけてしまったなって……」

 

 本当はカナにギルダーツの事を考えさせてしまった事について謝る。

 

「なに言ってるんだ、やるからには頑張りなよ!」

 

 カナはカナなりの空元気を見せる。本当にどうしてうちのギルドの女子は美人なのに豪快なところがあるんだ。

 バシンとカナにも背中を叩かれた以上はやるしかないなとレンジャーキーを取り出して見つめる……。

 

「S級の試験って具体的にはなにをやるんだ?」

 

「さぁ?毎年やることは違うって聞いてるけど……ラクサスとぶつかる事は想定しておかないと」

 

「ラクサスとのバトルか」

 

 ナツは毎回挑んでくる。ミラとはギルドに入った頃にやって、エルザとも手合わせをしたことがある。ギルダーツとはギルドに入る前に一回やった。けど、ラクサスとはやったことがない。オレがギルドに入った日はたまたまラクサスが仕事に行っていて鉢合わせしてないし、勝負をする理由が無いのでしていない。

 ラクサスと言えば現時点でもギルダーツを除けば最強と言うに相応しい実力を兼ねていて様々な雷の魔法を使う……雷を扱うだけで強キャラ感を醸し出すってなんだろうな。

 

「強くなるつってもこれ以上なにをすればいいのかイマイチなんだよな」

 

 ゴーカイセルラーとレンジャーキーがあればスーパー戦隊への変身が可能だ。

 持っているレンジャーキーの戦士は仕事とかで使って戦ってる……今より強くなるにはアレになったりするぐらいだろうけども、今以上にどうやって強くなるのかが分からない。

 某メロンの兄貴の仮面ライダーみたいにライダーとしてのスペックより変身する中の人が強いから強いみたいに生身の状態でもバルカンを撃退出来るぐらいには鍛え上げている。

 

「だったら私と一緒に特訓しない?」

 

「カナと一緒に?」

 

「1人でやってても停滞してるんだったら、誰かとやればなにか変わるかもしれないだろう」

 

「1人じゃなくて2人でか」

 

 思えばずっと1人で戦っていた気がする。

 誰かと組むのがめんどくさいのもあるし、守らなきゃいけないとか色々と考えたりすることもあったせいで誰かと一緒になんてのはほぼ無い。

 

「じゃあ、一緒に特訓してみるか」

 

「え、ああ……」

 

「どうしたんだ?」

 

「いや……乗ってこないと思ってたから」

 

「オレをなんだと思ってるだ」

 

 基本的には1人で居ることが多いせいか冷たい人間に思われてたようだ。

 オレが乗ってきた事を意外そうにしているカナ。

 

「なんだなんだ、面白そうな事をしてるじゃねえか。あたしも混ぜろよ」

 

「ミラ……カナと一緒にやるから大丈夫だ」

 

 話を聞きつけて来たミラ。

 今回はカナと一緒にやるから今回は大丈夫だと言えばミラは固まる。

 

「……カナよりあたしの方がお前の力になれる!」 

 

「いや、先に誘ってくれたのはカナだからそれを無碍に断ってお前に乗り換えるわけにはいかない」

 

 効率だけの話をすればミラの方がいいのかもしれないが、先に誘ってくれたのはカナだ。

 ミラの方がいいと先に誘ってくれたカナを見捨てて乗り換えるわけにはいかない……あ、そうだ。

 

「ミラも手伝ってくれないか?」

 

 ここまで来たらなんかもうS級を目指してみようと思う。

 協力をしてくれるならそれに越した事はないとミラを誘うのだがプルプルと震えている。

 

「鎧の、バカヤロー!」

 

「ぐふぉう!?」

 

 ご丁寧に殴ってきた右手を悪魔の姿に摂取をしてきたミラ……やっちゃいけない事をしてしまった。

 

「いてててて……」

 

「あのさ、私が言うのもなんだけど今のはないんじゃないの」

 

「それだと誘ってくれたお前の方を断らないといけないんだけど……」

 

「……もうちょっといい感じの断り方を考えなよ」

 

 結構な理不尽。

 カナの機嫌もミラの期限も取らないといけない……丁寧な断り方ってなんだろう。オレ、口は上手い方じゃないから浮かばないな。

 

「豪快チェンジ!」

 

『ニーンニンジャー!』

 

 場所は移り変わり、町外れの森にやって来た。

 ゴーカイセルラーを取り出し何時もの様にスターニンジャーへとゴーカイチェンジをした。

 

「彩りの星、スター」

 

「甘いよ!」

 

「ちょ、待てよ!」

 

 変身後の口上を言う前に攻撃をしてきやがった。

 

「あんた何時もそれやってるでしょう!隙だらけだよ!」

 

「お約束ってものがあるんだよ!」

 

 ゴーカイジャーだから言わなくてもいいかもしれないけど言っておかないと調子が出ない。

 カードから炎だ氷だ飛ばしてくるカナ。こっちもやってやると手裏剣をスターソードガンにセットする。

 

『風マジック』

 

「手裏剣忍法・風の術!」

 

『ハリケーンジャー!』

 

「さぁ、パーリータイムだ!」

 

 風の術を使い竜巻を巻き起こし、カナに向かって突撃をする。

 竜巻の中にカナを閉じ込めると風に乗りながらスターソードガンのソードモードで斬る……と怪我をするので程よい威力で叩く。

 

「っ、あんた……」

 

「ほらほら、掛かってこいよ」

 

「……やめた」

 

「……え!?」

 

 やっと体が温まってきたってのに不貞腐れた顔をするカナ。

 カードをそそくさとしまおうとしている。

 

「なんだどうしたってんだ」

 

「……私とじゃ修行になんないでしょ。さっきの攻撃で私を倒すことが出来たでしょ!」

 

「そりゃ……倒せてたけど」

 

「だったら、これ以上はやれないよ……アレが私の限界なんだ」

 

 どうやらオレが思っていた以上にカナとの実力差があった。さっきの一撃で倒されたことを認めるカナは何処か悲しそうな顔をしている。

 オレが手を抜いたと思ったからじゃなく、オレとの間にある実力差に悲しんでいる。

 

「エルザとはまともにやってないけど、あのミラに圧勝したんだ。あたしなんかが修行の相手になる筈なんかないよね」

 

「何時になく自虐的だな……なにか悩みがあるなら相談に乗るぞ」

 

「別に……」

 

 不貞腐れてオレにそっぽを向くカナ。

 自虐的になってる理由は自分が弱いからと落ち込んでて……ギルダーツの事を考えてしまってるのか?オレはギルダーツにギルドに連れて来られて入った。そしてその年のS級試験を受ける。いい感じの出世街道を歩んでいる。

 対するカナはギルドの少年少女組の中でも最古参と言っていいぐらいに幼い頃からギルドにいて……ギルダーツが連れて来たポッと出てきた奴がS級試験を受けるとなれば……嫉妬するだろうな。

 

「ああもう、やめだやめだ……カナの言うとおりカナと戦っても相手はあのラクサスだ。大した修行にならない」

 

「!……そうだね」

 

「だから逆にするぞ。カナ、かかってこい」

 

「はぁ!?」

 

 オレは口下手だから、こういったことしか出来ない。

 ゴーオンゴールドとゴーオンシルバーのレンジャーキーを取り出してギュッと両手で握る。

 

「カナもその内S級試験を受けるんだろ。だったら、オレが鍛えてやるよ!」

 

「なにを言い出すかと思えば、私は今年資格を貰ってないんだよ」

 

「今年は無理でも来年から行けるようになるかもしれないだろう……とっておきを見せてやる」

 

 なんだか今ならばいける気がする。

 必要なのはイマジネーションとゴーオンゴールドとゴーオンシルバーをイメージするとレンジャーキーが変わっていくのを感じる。

 

「豪快チェンジ!」

 

『ゴーオンウィングス!』

 

「メット、オン」

 

「金と銀!?」

 

 豪快チェンジをしたオレにカナは驚く。それもそうだ。

 

「ブレイク限界超えていき、キラキラ金銀輝くゴーオンウィングス!」

 

 右がゴーオンゴールド、左がゴーオンシルバーの仮面ライダーWを彷彿とさせる見た目に豪快チェンジした。

 今までレンジャーキーを1つにすることが出来なかったが今ならいけると思い強くイメージした結果出来た。

 

「やるぞ、カナ!」

 

「……ああ、もう分かったわよ!こうなったらあんたを倒せるぐらいに強くなってやるよ!」

 

「その勢いだ!」

 

「だから、手加減なんてするんじゃないよ!」

 

「ああ……ロケットタガー二刀流!」

 

 今度は手加減をしない。ロケットタガーを取り出してジェット噴射で一気にカナとの間合いを詰める。

 

「カードマジック・激流(スプラッシュ)!」

 

 カードから水を出して巨大な津波へと変えるカナ。

 

「ロケットダガー、ミッション2、フリージングダガー!」

 

 オレは襲ってくる激流を冷気を纏わせた右手のロケットダガーを振って凍らせる。

 

「ミッション5、シューティングダガー!」

 

 もう片方のロケットダガーを操作し、真空の刃を放ち凍らせた激流を破壊してその後ろにいるカナを吹き飛ばす。

 

「豪快チェンジ!」

 

『ダーイレンジャー!』

 

「キバレンジャー、吼新星、コウからの乱れやまびこ!」

 

 追撃の手は緩めない。白虎真剣を引きずりその音を何倍にも増幅させて響かせると体制を立て直そうとしたカナは苦しむ。

 乱れやまびこを止めることなくカナとの間合いを一気に詰めていき白虎真剣をカナの首元に置いた。

 

「オレの勝ちだ」

 

「っ……また負け、か」

 

 完全に敗北を認めたカナはストンと腰を落とす。

 カード魔法を使っていて中距離での戦闘を得意としているカナは基本的に近距離での肉弾戦を主とするオレとの相性は最悪だ。ちょっとでも自分のリズムややり方を崩されただけでこれだ。

 

「本当に、鎧は強いね……さっさとS級になりなよ!」

 

「ここまで来たんだからなってやる……けど、カナも頑張ってS級の試験を受けれる様になるぐらいに強くなれよ」

 

「ああ、直ぐにあんたを追い抜いてやるよ」

 

 一応はカナに発破をかけておいた。

 これでカナのS級を目指そうとする思いはより一層に強くなる……けど、カナの実力が段違いにパワーアップしたわけじゃない……あれ、これダメじゃね?……なんとかなるか。



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POWER RENGER TAIL 6 

「さて諸君、と言っても今回は二人だけじゃがS級試験の内容を説明する!」

 

 カナとの特訓から数日後、定例会が行われる場所ことクローバーの街にやって来た。

 オレとラクサスは定例会が行われる会場を前にオレはラクサスと並びゴクリと息を飲み込む。S級試験……クローバーの街でなにをする……なんだか人の気配は多々ある……なんだろう

 

「知っての通りS級クエストを受けるにはS級の魔導士にならなければならん。S級の他にもSS級や10年、100年クエストを受ける資格もだ」

 

「ジジイ、前説はいい……そんな説明、耳にタコが出来る程聞かされてんだよ」

 

「ラクサス、こういうのはお約束なんだから言ってもらわないと」

 

 前説を鬱陶しく感じるラクサス。

 こういうのを聞くのを今回はじめてなので最後まで聞きたい……仮に何度聞いたとしても大事な説明なので言ってもらわないと困る。

 

「お前達……まぁ、よいか。それではS級の試験をはじめる。複数名以上での試験ならば幾つかは試験を用意しているが今回は1つだけ……合格者は1人のみ!」

 

 マスターが今回の合格者の数を発表するとラクサスはチラリと見る。

 

「鎧、お前には悪いが先にS級に上がらせてもらうぜ」

 

「まだオレが負けたって決まったわけじゃない」

 

 バチバチとラクサスとの間に火花を散らす。

 やるからには全力でやらないといけない。最初は記念受験みたいなノリだったが今はもうS級になりたいと思っている。

 

「2人とも燃えておるの……では、最初で最後の試験……街外れの山で山菜をありったけ取ってこい!」

 

「「……は?」」

 

 マスターが出した試験内容に思わず固まる。このジジイ、今なんつった……山菜を取ってこいだと

 

「ジジイ、ふざけんな。S級が掛かってる試験で山菜を取ってこいってどういうことだ」

 

「どういうこともなにも、今回参加しているお前と鎧は既にS級に相応しい強さを持っている」

 

「だったらこんな感じのじゃなくてもっとこう、バトル的な感じのを」

 

「既に一定以上の実力を持っている奴には必要は無い!それにだ……お前さんら普段から討伐系の依頼ばかりをこなしていてこういった採取系の依頼を全くと言ってやっとらんだろう!」

 

 文句を言うオレ達に一喝するマスター。確かに報酬が安いから危険があんまり伴わない採取系の依頼はこなしていない。

 あんまりピンと来ないのもあるし討伐系の依頼が報酬が高いので受ける気がしない。

 

「S級クエストは凶悪なモンスターを倒す依頼だけでなく難解な依頼も多々ある。この程度の仕事もこなせぬ様ではS級なんぞ夢のまた夢じゃ」

 

「ふぅ〜……分かったけど、どうやって採点するんだ」

 

 もっとこう他にも引き際とかの大事なところを見ておかないといけない気もするがオレ達はその辺りが分かってると判断している。

 ちゃんといい感じに評価をしてくれているのでこれ以上は文句の言いようが無いので真面目に試験を受ける。山菜を取ってこいって言われても、オレとラクサスでどうやって競うんだ。山菜鍋でも作れと言うんか。

 

「山菜自体に得点を与える。どれがなんポイントかは秘密じゃが1番ポイントがあるのはこの椎茸じゃ!」

 

 普通、そこは松茸じゃないのか。椎茸を高々と見せるマスターは何処か興奮をしている。

 美味そうだなと見ている……この後、これ食べるんだろうな。

 

「日没までに山菜を多く集めて来るんじゃ!ほれ、山菜を入れる籠じゃ!」

 

 竹で出来た昔話でよくある背負うタイプの籠を渡すマスター。

 ラクサスは不満そうな顔をしているがS級に上がる為には通らなければならない道で、わざと負けるなんてことは出来ないと籠を背負ってさっさと町外れの山に向かっていった。

 

「ほれ、鎧、お前も早く行かんか……山菜を多く取らんと今日の夕飯はなしじゃぞ」

 

 夕飯とまで言い出したぞ。山菜が食いたいから今回こんな感じの試験にしたのか?

 いや、ラクサスとオレが討伐系の依頼ばかりをこなしていてこういった採取系の依頼をあんまりやっていないから……だよな?

 人間向き不向きがあるので依頼を全てこなせる系の魔導士なんて早々に居ないんだがなと思いながらもゴーカイセルラーを取り出す。

 

「マスター、オレが討伐系の依頼しか出来ないと思ってるだろうが大間違いだ。豪快チェンジ」

 

『ボーウケンジャー』

 

「眩き冒険者!ボウケンシルバー!」

 

「サガスナイパー、探すモード」

 

『サーチスタート』

 

 椎茸にサガスナイパーを翳し、椎茸を解析。解析が完了すると籠を背負って街外れの山に向かっていく。

 街外れの山に到着すると早速サガスナイパーの力を使い椎茸を発見する。椎茸が1番のポイントならなるだけ多く採取しておかないと。と言うかこの試験地味に難しいぞ。山菜と言われればキノコが浮かぶが、キノコにも沢山種類があって間違えて毒キノコを持って帰って殺してしまった死んでしまったじゃ笑い話にもならない。

 ちゃんと食べれる山菜かどうかの知識も必要で……残念ながらその手の知識は皆無で、サガスナイパーで見つけるか目に入ったキノコを採取しなければならない。

 

「よぉ、どうやら順調そうじゃねえか」

 

 キノコをポイポイと籠に入れているとラクサスが現れた。

 日没にまでまだまだ時間があるのにキノコを探さずになにやってんだと思ったが、背中の籠には沢山のキノコが入っていた。

 

「お前、どうやってそんなに」

 

「こんなもん匂いを嗅げばどうにでもなる。お前の方こそ大層な道具を使ってやっとってところじゃねえか」

 

「まだまだキノコはあるんだからここから挽回していく」

 

「そんなんじゃつまらねえだろう」

 

 まだまだはじまったばかりなので逆転のチャンスは幾らでもある。

 サガスナイパーで探すのもいいがラクサスの方が多く山菜を取っているので本腰を入れて探す。

 

「豪快チェンジ!」

 

『キョーウリュウジャー』

 

「雷鳴の勇者、キョウリュウゴールド……で、なにが言いたいんだ?」

 

「ジジイはあんな事を言って今回こんな形になっているがオレは納得はしてねえ……どっちが強えか決めようじゃねえか」

 

「う〜ん……嫌だね」

 

「なに?」

 

 オレならば確実に乗ってくると思っていたのか驚くラクサス。

 手っ取り早く殴り合って決めたいようだがオレは普通に嫌である。

 

「戦う強さはもう充分だってマスターは認めてくれてる。それ以外を今回は見ているんだ……強いってのは色々とある力だけじゃないんだ」

 

 オレが1度は求めていた力はそういう感じの力だけどギルドに入ってからは少しだけ変わった。

 力だけなのも悪くは無いけれど、それだけ……もっとこう絆とか友情パワー的なのがあってマスターはそういう感じの強さを試している、多分。

 

「優しさや思いやり、自分だけじゃない誰かの為に戦ったりすることが出来たりする心の力……想いの力ってのも大事だ」

 

 そしてそれを多く持っているのはナツだろう。

 自分の為じゃない、なにかの為に誰かの為に戦おうとしているナツは通常よりも遥かに強い……友情パワー的なのが発揮されている。

 

「絆だ友情だ、くだらねえ……そんなもんがあったら変な色眼鏡掛けられるだろう」

 

「正当に評価出来る人間はこの世には誰もいない」

 

「ふざけんな!だったらオレは一生ジジイの孫だからとなにをやっても言われ続けるのか!」

 

 マスターの孫だからとなにかとコンプレックスを抱いているラクサスにとって正当な評価は喉から手が出るほどに欲しい。

 そんなもんは無いとマスターも似たような事を言ったりしていたけどもラクサスは納得は行かない。

 

「だったらお前はなにが欲しいんだ?金か?地位か?名誉か?」

 

 S級の仕事だから貰える高額な報酬か、大陸の中でも十本の指に入る魔導士の証である聖十魔導士か、それとも国からの褒章か?

 マスターの孫であることにコンプレックスを抱いているラクサスが本当に求めているものはなんなのかを問いかける。

 

「最強の称号だ……オレはジジイよりもあのオヤジよりも、鎧、お前よりも強いと証明してみせる」

 

「最強の称号を手に入れた後はどうする?」

 

「そうだな、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を最強の魔導士ギルドにしてやる」

 

「今の時点で充分最強だろう」

 

「いいや、全然だ……オレの妖精の尻尾(フェアリーテイル)はもっともっと強えんだ」

 

 オレの妖精の尻尾か……ギルドの事を本当に大好きだと思っているからバカにされるのが嫌なんだろう。

 マスターの孫からくるコンプレックスとか重圧とか色々な感情に押し潰されて本来の自分が見えていない……バトル・オブ・フェアリーテイルみたいな馬鹿騒ぎを一回起こして自分の気持ちと向き合わないといけないんだろうな……ああ、クソ、こういうのを考えるタイプじゃないんだけどな……やるしかないか。

 

「ラクサス、勝負だ……オレが負けたら今回のS級は諦める」

 

「そうこなくっちゃ……が、その前にその姿からさっさと違う姿に変わりな。雷はオレには効かねえ」

 

「そりゃやってみなくちゃ分からない……雷電砲!」

 

 ガブリチェンジャーから雷撃を放つ。

 ラクサスはというと攻撃を避ける素振りすら見せずに雷を受け止める……雷って物質的な感じのエネルギーじゃないのに、なんつーチート。

 

「どうした、こんなもんか?」

 

「ザンダーサンダー!」

 

 雷は効かねえぞと言わんばかりに余裕を見せるラクサス。

 ならばとザンダーサンダーを出現させて6番と16番と17番の獣電池を装填する。

 

「お前は雷に対してはそれなりの耐性があるようだが、それは雷だけ!雷炎獣電臭撃!」

 

 雷を纏った橙色の炎をザンダーサンダーから飛ばす。

 

「雷を纏った炎だ、っが!?」

 

 雷は対処することは出来ても炎は対処することは出来ない。

 ラクサスは避けようとするがその前に橙色の炎からする凶悪な悪臭に反応をして顔を顰めて避ける事が出来なくなった。

 

「キノコが何処にあるか分かるぐらいの嗅覚がいいお前にはオビラップのオナラの臭いはキツかったようだ」

 

「コスい手を使いやがって……いや、お前を相手に欲張ったのが悪かったか」

 

 ニョキッと歯が八重歯に切り替わるラクサス。

 これはマジでマズイと背中の翼を羽ばたかせる。

 

「雷竜の咆哮!」

 

 雷を思わせるかの様な強烈な雷のブレスを放つラクサス

 雷を扱う事が出来るキョウリュウゴールドでもあんなのをマトモに受けたのなら一溜りもない。

 

「っち、避けやがったか。流石のお前も滅竜魔法には弱いか」

 

「オレの竜は竜でもドラゴンじゃない、恐竜(ダイナソー)でドラゴンよりも古い古代種だ」

 

 この世界にまだドラゴンが存在している事をオレはちゃんと知っている。

 しかし恐竜は既に絶滅をしている……一説じゃ鳥は恐竜が進化したものとか言われたりしているが、ともかくドラゴンよりも古い種族の筈だ。

 

「恐竜ね……っておい、お前のそれプテラだろ。恐竜じゃねえだろ」

 

「そこはツッコミを入れちゃいけない事、ブレイブイン!」

 

『ガブリンチョ!フタバイン!』

 

「てやっ!」

 

 ガブリチェンジャーにフタバインの獣電池をセットし、ラクサスに向けて放つ。

 ラクサスは攻撃かと思い避けようとするがこれは攻撃でなく雷の弾は5つに分裂をして5人のキョウリュウゴールドが出現する。

 

「史上最強のブレイブ!」

 

「獣電戦隊キョウリュウジャー!」

 

「荒れるぜ〜止めてみな!」

 

「……1人でなにやってんだ、お前?」

 

「一回やってみたかったんだよ」

 

 なにせこっちは追加戦士で戦隊と呼べるもんじゃない。名乗りとかゴレンジャーハリケーン的な技は使えない。

 

「キョウリュウジャーは全部で10人……11人、どっちか分からないけどいるんだよ」

 

「赤とか黄色とかいるのか」

 

「残念だがイエローはいない」

 

 グレーとかイマイチ分かりにくい色とかはある。

 因みにだが一番最初にイエローが無い戦隊がキョウリュウジャーで次がパトレンジャー、その次がリュウソウジャーだったりする……ルパパトはノーカンか。

 

「6対1か」

 

「勘違いをするなよ、1つの力を6分割してるんだ」

 

「弱体化してるじゃねえか」

 

「お前を倒す準備は既に整っている!」

 

『ガブリンチョ!オビラップ!』

 

「くらえ!」

 

 強烈な雷撃……ではなく黄土色の煙が見える程に強烈な悪臭を飛ばす。

 こんなスーツを着ているから臭いを感じないけどもアレってどれぐらいの臭さなのか……犬並みに嗅覚に優れている滅竜魔導士には地獄だろう。

 

「雷竜の(アギト)!」

 

「なに!?」

 

 臭い匂いが充満している中でダブルスレッジハンマーをするラクサス。

 分身のオレはあっさりと撃退をされる……嘘だろ、ここには激臭が充満してるのに、なんでだ。我慢してるのか?

 

「鼻で呼吸をするから臭いんだ、だったら口で呼吸をすればいい」

 

「おいおい……」

 

 確かにその理論ならオビラップの激臭に耐えられるけど、口での呼吸をずっとし続けないといけないのは辛い

 呼吸なんてもんは意識してするものじゃないのにそれを意識しながら分身とはいえオレをぶっ倒すとかどれだけ規格外……いや、これがラクサスの本当の実力か。

 

「とっとと他の姿になれよ。まだギルドの連中にも見せたことのねえのがあるだろう」

 

 クイクイと指を動かして挑発をするラクサス。

 リュウコマンダーとかのキュウレンジャー系のレンジャーキーとかギルダーツにも使っていないレンジャーキーはあるにはあるがこれで勝てると思ってるから豪快チェンジをしないんだ。

 

「ブレイブイン!」

 

『ガブリンチョ!グルモナイト!』

 

「ファイヤ!」

 

「そう何度も同じ手はくらうか!」

 

 螺旋状に回転をする雷の弾を喰らおうとするラクサス。

 雷って食えるものなのかはさておき雷の弾を口に入れて飲み込んだ途端に口を抑える。

 

「滅竜魔道士は優れた視力と普通の三半規管を持っていて、それがズレを起こして乗り物に弱い」

 

「雷は、乗り物じゃ、ねえだろ……」

 

「グルモナイトは相手の平衡感覚をズラす獣電池、更に言えば、アンモナイトの魂が宿っている」

 

「通りで貝の味がする……うっ……」

 

「悪いなラクサス」

 

 本当はもっとカッコいい勝ち方をしたいが今のオレにはこれが限界だ。

 ザンダーサンダーにプテラゴードンの獣電池を3つ装填して更にはゴールドザンダーサンダーを取り出して二刀流になる。

 

「雷電双竜斬!」

 

 電撃を纏ったザンダーサンダーとゴールドザンダーサンダーによる一閃。ラクサスは真正面からマトモにくらいぶっ倒れる。

 

「お前がこの程度で倒れる奴じゃないだろ……」

 

 まだ意識があるが立ち上がる事が出来ないラクサス。

 変身を解除するとオビラップの激臭とグルモナイトの渦巻きが消えて顔色の悪かったラクサスの容態が徐々に良くなっていく。

 

「……っち……」

 

「ったく、全然堪えてねえじゃねえか」

 

 顔色がよくなるとひょっこりと上半身を起こすラクサスは舌打ちをする。

 割と本気で二刀流の雷電斬光で斬ったってのにダメージはあれどもまだ立ち上がるとか滅竜魔導士ってなんてタフ……いや、今のがナツだったら確実に倒れているから流石のラクサスと言うべきか。

 

「どうする、まだやるか?」

 

 オビラップとグルモナイトはもう使ってしまったのでラクサスは警戒して攻撃を避けようとする。

 タネが割れている以上は他の追加戦士に豪快チェンジするしかない……その場合はリュウソウゴールド、いや、大して変わらないか。

 

「……オレの負けだ」

 

 俯いた顔でラクサスは負けを認めた。

 

「オレの取った分の山菜も持っていけ……それだけあれば飯には困らねえだろ」

 

「……ラクサス、弱いことはそんなに嫌か?」

 

 ゆっくりと立ち去っていこうとするラクサスを止める。

 

「オレ達は基本的には一人かもしれない。けど、誰かの手を握ることは出来るんだ。そこに必要なのは圧倒的な力と言う強さじゃない」

 

 オレはラクサスに手を差し伸べる。

 握手だ……よくよく考えれば倒れた誰かに手を差し伸べるなんてミラにしかやったことがない……オレも偉そうに言うほどの人間じゃないか。

 

「……それでもオレは強さが欲しいんだよ」

 

 ラクサスはオレの握手を拒んだ。

 申し訳無さそうな顔をしていてオレの手と自分の手をジッと見ている……いきなりこんな事を言っても気持ちの整理が追い付かないか。けど、今までよりラクサスとの心の距離が近付いた気がする。

 

「S級クエストは通常のクエストより遥かに難易度を凌駕してる……しくじって死ぬんじゃねえぞ」

 

 このツンデレめ。

 ラクサスは負けたからにはここにいるわけにはいかないとクローバーを去っていく……多分、来年のS級試験でラクサス、合格するだろうな。今回はラクサスが実は滅竜魔導士だった事を逆手に取った戦いをして勝ったけども、次は普通に勝てるようにならないと。

 

「って、ラクサス勝手に帰っちゃったけどいいのか」

 

 日没までに山菜をありったけ取ってこいとの事でラクサスは負けを認めて勝手に去っていった。

 マスターには事情を話せば理解してくれるだろうが、オレはラクサスが集めておいた山菜も持って帰らないといけない……この籠、地味に大きいんだよな。



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黒崎夫妻ドラフト会議

世界観的にはやってることは間違いじゃないけども倫理観的には間違っているという話。


 

 尸魂界の護廷十三隊。1番隊の総隊長である京楽春水は13人の隊長を呼び出し緊急集会が開かれた。

 

「やぁ、皆、いきなりでごめんね」

 

 京楽春水は集まった隊長12名に先ずは軽く頭を下げる。色々と忙しい中で時間を作ってもらい、一同が緊急で集会を開いたのだ。

 割と忙しい時だったのだが総隊長が緊急集会を開いたので何事かと思い緊迫した空気が流れる。

 

「今日は君達と重大な話があって呼び出したんだ……入ってきて」

 

「うっす…………」

 

「お久しぶりです!」

 

 護廷十三隊の前に現れたのは主人公こと黒崎一護と井上織姫の夫妻だった。

 この2人が出てきたという事はまたなにか大きな出来事でもあったのかと緊張感が走るのだがここで十三番隊隊長であり護廷十三隊で最も一護達と関わり合いが深かった朽木ルキアは違和感を感じて直ぐにそれがなんなのか分かった。

 

「お前達……若くなっていないか?アンチエイジングとやらにでも手を出したのか?」

 

 自分の記憶に間違いがなければ、黒崎夫妻は50を過ぎている。

 といっても年相応な見た目じゃない、二十歳でも通じる見た目をしていたのだが黒崎一護は朽木ルキアと出会った頃の見た目をしていた。若くなっているのでアンチエイジングに手を出したのかどうかをルキアは聞くのだが、一護と井上はどう言えばいいのかと困った顔をしていた。

 

「ルキア、今現世がどうなってるか知ってるか?」

 

「いや…………今は隊長の身、昔の様に最前線の現場で働いているわけではないが…………なにかあったのか?」

 

「朽木さん、今現世では新型のウイルスが流行ってるの……海外発症で日本に持ち込ませない様にしてたんだけど、日本に来ちゃって……その、私と黒崎くん感染しちゃって…………死んじゃったの」

 

「……は?」

 

「未知のウイルスでワクチンとか特効薬がまだ出来てなくてな、感染してぽっくり逝っちまったんだよ」

 

 忘れがちかもしれないがBLEACHの世界は死後の世界である。

 黒崎夫妻は新型のウイルスに感染してぽっくり逝っちまった。そして死後の世界である尸魂界にやってきたのだ。一護が気まずそうに自分達がぽっくり死んでしまった事を言えば十一番隊の隊長である更木剣八は笑みを浮かべる。

 

「つまりはアレか……家族だなんだしがらみはもうねえ、思う存分に殺し合いをすることが出来るって事かよぉ!!」

 

 面白い相手と戦えると剣八は霊圧を上げる。

 黒崎一護との戦いは殺し合いは実に楽しいものだと知っているので今すぐにでも切り合いたいと言うが周りが止めに入り話は続く。

 

「馬鹿者!医者の子供が病気で死んでしまってどうするのだ!」

 

「そうは言うけどよ、病気ってのは常に進化するもんだ。薬を作ってもその薬が効かない病気が生まれるんだぞ?」

 

 医者の息子である一護が病気で死んだことをキレるルキア。

 病気というのは常に進化し続ける物でありどれだけ薬を作っても鼬ごっこである。十二番隊隊長である涅マユリはその事を知っているので一護が死んだことを大して気にする事はしない。

 

「2人の遺体はどうなったのだね?是非とも研究の道具に」

 

「あ、今葬式中だから……京楽さん」

 

「はいはい」

 

 京楽がテレビのリモコンを取り出したと思えば部屋の明かりが消えて白いスクリーンが出てくる。

 京楽がリモコンを操作すれば葬式会場が映し出されており、一護と井上の遺体の前でお経を唱えているお坊さんが居た。

 

「浦原さんが義骸を用意するから生き返らないかって言ってきたけど、死んだって事実は受け入れなきゃならねえと俺は思うんだ……俺達の遺体は浦原さんが悪用されない様に封印するって言ってた」

 

「私達も満足の行く人生を送れたから悔いはありません……息子や孫も霊感高いので霊になった私達を見ることが出来ますし」

 

「…………っち」

 

 黒崎一護と井上織姫の遺体と言えば、宝の山も同然である。

 研究の道具に使おうと考えていた涅マユリだが先に浦原が手を回して遺体を封印した。息子達は霊感が強いので霊になっている自分達に何時でも会うことが出来るので特に後悔らしい後悔も無いのである。

 

「今回呼び出したのは……2人の処遇についてだよ。死んでしまった以上は普通に生き返るのはご法度、古の時代からの禁忌……何処が彼等を、今後の事を考えれば他の人達を引き取る?」

 

「なんや霊術院通わんのか?」

 

 2人は護廷十三隊就職希望なのであった。

 尸魂界の英雄とも言える彼等2人を何処の誰が引き取るか、そして何れはやってくるであろう茶渡泰虎等を何処が引き取るかを話し合う。

 死神の養成学校である霊術院に通わせないのか?と五番隊の平子は気にする。

 

「一護、流石に無いと思うが死神の力は」

 

「ちゃんと持ってるし卍解も出来るよ」

 

「私も生前と全く変わりありません」

 

「…………君達に聞くけど、この二人今更霊術院に通った方がいいかな?」

 

「「「『……………』」」」

 

 京楽の言葉に一同はどう返せばいいのかがわからない。

 黒崎一護は総隊長である京楽春水よりも遥かに強い存在で死神の武器である斬魄刀の始解と卍解も出来る。しかしそれ以外はお粗末である。

 鬼道という霊術関係は全くと言って出来ない。だがそれが無くても数々の強敵を倒した確かな実力はある。

 

 井上織姫もそうだ。戦うことは不得手でも現実を否定する事で傷を治療するという回復能力や防御能力を所有している。具体的に言えば無くなった腕を再生させるぐらいのとんでもねえ治癒能力を持っており、彼女だけしか使えない能力である。

 

 そんな2人が1から死神を目指して霊術院に通う?

 

 確かに一般的な死神に必要なスキルを持っていないが、それを補うどころのレベルじゃない能力を2人は持っている。

 果たして2人は今から霊術院に通って1人の死神になる為に勉強して大丈夫なのだろうか?もう普通にいきなり現場に出てもいいんじゃね?という考えもある。

 

「全く、親父より先に死ぬバカ息子め!」

 

「いや、親父死なねえだろうが!」

 

 静まり返ってどうするべきかな空気が流れていると一護の父である黒崎一心が現れた。

 自分よりも先に死んだことに対して怒っているのだが、BLEACHの世界観的に死ぬと言う概念は謎なのである。

 一護も死んでからも親父にツッコミを入れる羽目になるとは思いもしなかった。

 

「つーことでうちの息子と織姫ちゃん欲しい人」

 

 一心の問いかけに全員が挙手をした……黒崎一護と井上織姫のドラフト会議が始まった。2人セットで引き取るのを条件にだ。

 その裏で黒崎夫妻死亡記念尸魂界歓迎会の準備をされていることを黒崎夫妻は知らなかった。倫理観的には罰当たりだけども世界観的には間違いじゃない事をしていた。



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漫画家にすゝめ 1

 ある日、僕は殺された。

 いや、殺されたと扱われていない殺人をされた。偶然の事故とか業務上過失致死罪的な感じで、もっと具体的に言えば部活動中に古臭い水を飲むな休むなの考えを強要された結果、死んでしまった……。

 人が死んだらあの世に行く。あの世は国や宗教によって異なる様で日本には日本の地獄があるらしく僕はあの世で生前の行いを見て、天国か地獄に行くのか決める裁判を執り行ったのだがチャンスが訪れた。

 

 二次元もとい異世界に転生をするチャンス

 

 遊戯王とかポケモンみたいな玩具販売促進アニメみたいな世界、ラブライブやアイドルマスターみたいなアイドル系のアニメ、ブラッククローバーやFAIRY TAILの様な魔法バトル様なものの世界と転生先は色々とある。

 

 どんな世界に転生しても問題が無い様に転生者になりたいと言った子供は鍛えられる……

 

「……はぁ」

 

 転生者になるべく鍛え上げるのだが、これが本当にキツイ。

 どんな世界に転生しても生き抜ける様に訓練をしているのだけれど、転生者同士の訓練だからって真剣での切り合いをやらされたのは今でもトラウマだが、そのお陰でバトルものの世界に転生しても問題の無い度胸がついた……んだけどな

 

「今日もジャンプは面白いけど……バクマンか」

 

 僕の転生先はバクマン。

 ジャンプで連載されていたアニメ化も実写化も果たした大人気大ヒット漫画であり、全20巻の程よく終わっている漫画だ。

 その内容は2人の主人公が原作と漫画の担当に分かれてジャンプで漫画家を目指すと言う内容であり……基本的な世界構造は元いた世界と変わらない。普通にジャンプあるし、とってもラッキーマン以外のジャンプの漫画は揃っている。

 ガールズ&パンツァーやラブライブみたいにある部分以外は元いた世界と同じよりも元いた世界と同じというなんで転生したのか分からない……まぁ確かに強くてニューゲームの第二の人生だから前よりは楽だからまだいいけども。

 どうせジャンプで漫画を描く話だったら早乙女姉妹は漫画のためならの世界に転生したかった……エッチなお姉ちゃん達の誘惑には負けそうだけど。

 

「お、今週のジャンプじゃん。後で貸してくれよ」

 

「ん、今読み終わったよ」

 

 バクマンの世界に転生したことにジャンプを片手に不満を抱きつつも、兄であり主人公である真城最高に今週号のジャンプを渡す。

 バクマンの世界で良かったことは僕が読んでいた漫画とは違う漫画がジャンプにあること……面白いやつと面白くないやつの差は激しいけども。

 僕がジャンプを読んでいると物欲しげな顔をしているので兄に渡す……既に一回読み終えたからね。

 

「先週号のジャンプ、何処置いた?」

 

「俺の部屋の机の上……今日もやるのか?」

 

「絵が上手いってそれだけで武器になるからね」

 

 部活動中に殺された僕は体育会系のノリはあまり好きじゃない。部活動には入らずに家で引きこもってるもとい毎日絵を描いている。

 ただの絵じゃない。ジャンプに掲載されている漫画の1ページと思いついた描いたら面白そうなpixivとかにありそうな1ページだけの漫画を描いている。叔父が漫画家で過労死みたいな死に方をしているので母さんは嫌そうな目で見てきているが、これを欠かさずにやっている。

 絵が上手いと言うのはとにかく武器だ。イラストレーターや画家の様に絵を描く仕事もあるし、建築関係の仕事についても絵が上手かったりすれば少しは有利……のはず。就職とか進学を考える前に殺されたからその辺りはよくは知らない。

 

「おじさんの超ヒーロー伝説、やっぱスゴイな」

 

 とってもラッキーマンの代わりに存在する超ヒーロー伝説。単純に面白いし、ただの勢いに任せた感じの漫画じゃない作り込まれている漫画だ。

 おじさんが漫画家としてどれだけ凄かったのかがよくわかる……でもそのおじさんも井の中の蛙的な感じなんだよな。前世でも見た漫画の方が全体的に絵の質が高い。おじさんGペン使ってなかったっぽいし。

 

「今日はリボーン……」

 

 この世界に転生した僕は3つの転生特典を貰っている。

 1つは原作主人公こと真城最高の弟として生まれることだが別に弟に生まれようが原作に深く介入できるわけでもないそういう感じの世界観でもないんだが、まぁ、それはよしとしておく。

 2つ目は絵の才能。絵は練習あるのみかもしれないが、なんだかんだで絵が上手いのは一種の才能である。絵画教室とか通わなくても漫画や上手い絵が描けるのは才能……アメトークの絵心ない芸人が絵がヘタクソなのはなんとなくで気持ちがわかる。

 3つ目は黄金律B、Fateに出てくるあのスキルなのだがもし仮に俺が漫画の連載に成功したりした場合はこのスキルは関与しない。純粋な実力で漫画の連載を掴み取れと言う運営側からの意思だろう。この事に関しては文句はない。

 

「……う〜ん」

 

 リボーンの好きなシーンのページを描き終えると思いついたネタの1ページ漫画を描いていく。色々と文句を言ったり不満を抱いたりしているけども、僕はこの世界で頑張ろうと思っている。具体的に言えば、漫画家を目指している。

 おじさんこと川口たろうが過労死みたいな死に方をしているので親にはその事は言うに言えない……言うときが来るとすれば、それは原作が開始された時、兄こと真城最高がおじさんの仕事場を貰った時だ。

 

「普通のペンでこの速度か……」

 

 文字通りネタも1から自作でコミカルな二頭身等にせずに1ページの漫画を描き終える。

 モブキャラも背景も描き終えたがスクリーントーンとか使っていなくて約3時間ちょっと……これが早い方なのか遅い方なのか分からないがもっともっと描き込める部分がある。

 

最良(もりよし)最高(もりたか)、ご飯よ」

 

「はいはい」

 

「今いくよ」

 

 バクマンの原作開始は兄である真城最高が中学3年になって間もない頃だ。それまでに僕は色々と準備をしなければならない……1つは言うまでもなく金である。原作では主人公二人はおじさんこと川口たろうの仕事場を使わせてもらっていて川口たろうが実際に使っていた原稿用紙だコピー機だなんだと使っていたが僕にはそんな物は無い。仲の良い兄の結婚計画を邪魔するわけにはいかないのでお年玉や小遣いを用いて漫画に必要な物を揃えている。

 スケッチブックと鉛筆1つがあれば漫画なんて描けると言われればそうかもしれないけど、スクリーントーンとかあるかないかで漫画の迫力は変わる。手描きでスクリーントーンとか描けないこともないけども地獄でしかない。

 

「最良、もうすぐ誕生日だけれど何が欲しい?」

 

「ん〜……パソコンがほしい」

 

 なので欲しいものはちゃんと手に入れておく。誕生日プレゼントをハッピーバースデーと勝手に決めてプレゼントしてくれる家ではなく堂々と聞いてくるので欲しい物はちゃんと言う。

 今の僕が欲しい物はパソコン……この世界って普通の地球でコナンみたいに変な感じで時空がネジ曲がっていないからスマートフォンが存在しない……ガラケーだよ、ガラケー。ソシャゲが非常に懐かしい。てか、やりたい。

 

「パソコンね……」

 

「あ、部屋に据え置きのデスクトップタイプのパソコンでペンタブも欲しい」

 

「ペンタブ?」

 

「ほら、アレだよ。パソコンで絵を描くときに使ってる板のことと」

 

「ああ、あれね……って、パソコンでも絵を描こうとしている。この子ったら」

 

「まぁ、血が騒ぐから仕方ない」

 

 僕が絵を描く為にパソコンを買ってもらうのをあんまり良い顔をしない。おじさんの一件は重い。けれどもお祖父ちゃんは買うのは反対じゃないから買ってくれると思う。パソコン……欲しかったんだ。

 実際のところはどうかはしらないけれどもパソコンを用いたデジタル原稿なるものが未来では多々ある。手間の掛かるベタなんかを一瞬でやってくれる優れ物で合成画像もあっと言う間に作れる……この時代の技術で出来るかどうかは知らないけど。

 ともあれ一度間違えた部分をホワイト修正液を用いて描き直す手間も省けたりするから欲しい物は欲しい。どういう感じのが欲しいのかカタログを用意しつつパソコンに関してちょっと勉強しておこう。絵ばっかり描いてたら母さんも大丈夫かしらと心配をするし。

 

「最良、アレ見せてよ」

 

「ええ、またぁ?」

 

「たまに読みたくなるんだよ」

 

「仕方ないなぁ」

 

 背景を描く練習をしていると兄こと最高が部屋にやって来た。

 何事かと思えばアレを……おじさんが生きている頃になにか残してみせると描いた超ヒーロー伝説の公式(原作者御本人認可済み)同人誌を読みたいと言い出す。

 

「……っぷ……やっぱこれ、面白いな……最良、漫画家の才能あるよ」

 

「なに言ってんの高兄、高兄だって才能はあるよ……おじさんは勧めなかったけど絵に関する才能は絶対にあるんだから」

 

「絵が上手くたって話を作れなきゃ意味はない……それに漫画は博打打ちで成功しない確率の方が高いし」

 

「そう考えると一発でも成功したおじさんって凄いよね」

 

「ああ、そうだな」

 

 兄は僕が漫画家を目指していることに薄々と気付いている。ハッキリと頑張れとかのエールは送っては来ないけど。

 漫画家がどれだけ苦労を強いられる職業なのか知っているから言わない。試しに逆に勧めてみても否定的だったりする……こればっかりは未来の相棒に出会って変わるしかないんだろう。その辺りは原作よ、頑張れ。

 

「でも、これだけ描いてるのにまともなの一本も作ってないよな」

 

「今のところはちゃんとした物を描くよりも一発のネタを描いてるんだよ……」

 

「ちゃんとしたの描くの難しいんだったら手伝うぞ」

 

「いや、いいよ……これは僕の作品だから絵の上手い高兄が手伝って質が上がった悲しくなるから」

 

 後、将来的に漫画家になる人に手伝ってもらうのは色々と困ると思う。

 

「そっか……母さんがなんて言おうがお前の道だからな」

 

 そこは頑張れと言ってほしいな。

 こんな感じの若干だが微妙な空気を流したりすることが多々ある兄弟関係、より良くなるのは原作開始……ああでもライバルにはなるんだよな。

 

「ちゃんとした話か」

 

 兄が満足して部屋を出たので、さっき言われたことを振り返る。

 兄の言う通り読切的な一本すら僕はまともに描いていない。1ページだけのネタになるけど話にはならない感じの漫画とは呼びにくい何時かの為に取っておいてお蔵入りするパターンなんだと思うけど。

 

「ジャンプでもいいけど……規制が厳しいんだよな」

 

 これから先、大人達から色々とクレームがやってきてさるかに合戦がさるかにばなしになる。

 子供の教育上に悪いからっておとぎ話のタイトルまでも変わるのか大丈夫なのかと思うが、世の中はそんなもんとしておいてジャンプに連載を持つとしてもその辺りを気にしなければいけない。なにせ大当たりした鬼滅の刃ですら遊郭なんて子供のアニメや漫画で出すななんて謎のクレームがあるぐらいだ。

 

「好き勝手に描いて向こうからのスカウトを待つ」

 

 漫画家になる方法は原作通り、出版社に漫画を投稿して商業誌に掲載されると言う一連の流れをすること。

 だけど僕は知っている。そう遠くない未来で絵とか漫画とかをネット上で上げていたら出版社から話がやって来るという事を。そういう感じでミリオンいった漫画とか普通にある……思えば前世は大漫画時代で規制が厳しいけども好き勝手に描いて漫画家になったが当たり前の時代なんだよな……

 

「……なろうが流行りまくる中での王道のジャンプ掲載、しかも本名……いや、浮かれちゃ駄目だ」

 

 原作で兄が言っていた様に0,001%しか成功はしない。成功する前提で夢を見るのはよくないことだ。

 まだまともな漫画を1つも描いていない……ネタばかり貯めている毎日で、これだと本当にpixivに上げている絵師さんと同じ風になってしまう。流石にそれはまずい……一本、描いてみるか

 

「今まで貯めたネタになにか使えそうなのあるかな……」

 

 一発のギャグ的なネタならば幾らでも描けていたが、連載を目指さない一発ネタは描いた覚えは無い。

 兄の様に原作と漫画を分けるつもりは無いので今まで貯めたネタから読み切りに使えそうなものはないと探す……使えそうなのはあるが……どうしよう。絵の方にはまだ自身が無い……そもそもで漫画での絵が上手いと言うのはなんなのだろう?その話と合っているかどうかも大事だ。ギャグでリボーンの終盤の絵のタッチだったら合わない。

 

「……思い出せ」

 

 なにか使えそうな原作知識はないのかとバクマン。の原作を思い出す。

 漫画は料理と同じでこれでいいは無い……なろうみたいな話を描いてみるか……マッシュルとかDr.STONEが受けていたから一概に無しとは言えない……けど、それが受ける様になるのは少し未来の話だからな。

 

「……そもそもで僕、どんなのが向いてるんだろう」

 

 原作担当こと高木秋人は王道的な漫画が向いていない、邪道な漫画が向いている。

 兄のライバルになる新妻エイジは王道的なバトル漫画は得意だが恋愛モノとか考えて作られた漫画が苦手だ。じゃあ、僕はなにが苦手で得意なのだろうか……どういう感じの漫画を描きたいのか定まっていないな。でも、描きたくないのはわかる。部活動系のスポーツものだ。死因であるスポーツの漫画を描くなんてごめんだよ。

 

「好きな漫画、好きな小説」

 

 ToLOVEるみたいなエッチな展開に走る漫画も嫌だな。あれ、内容よりも絵で勝負している感じがある。後、シンプルになんか嫌だ。

 自分の好きだった漫画(前世と今生)は……なろう系が多くて二次小説を結構な頻度で見ていた……あ、そうか。

 

「アンチ系の作品、好きだったな」

 

 ハイスクールDxDとかなのはとアンチ要素の多目の話は大好きだった……うん、そうだ。

 マッシュルとか成功しているんだし、アンチ物の漫画……王道的な展開を逆にぶち壊したりする展開………思い切って地獄での出来事を描いてみよう。

 

「ええっと死因は……アレルギーなんて甘えとか言う老害に騙された……いやこれ描いていいのかな」

 

 話の内容的には面白いとは思うけども……パクってる感じが否めない。

 オリジナルで勝負したいのならばアンチ要素多めな……プリキュア的な世界観に巻き込まれた一般人が第3勢力として戦いに介入するとか、一般人を巻き込まないスタイルのおっさん達の物語……。

 

「もう全部描いちゃおう」

 

 原作開始までまだ時間があるし、原作が始まった瞬間に劇的に世界が変わる世界じゃない。

 どれもこれも面白そうな話ならば描いておいて纏めて投稿する。そうしよう。新妻エイジもそんな感じでネタを貯めてたっぽいし。

 

「……そうか。話の時点で面白い物を書けばいいのか」

 

 新妻エイジで思い出した。

 兄である最高は新妻エイジに勝つ為に途中から秋人にネームを漫画じゃなくて文章にしてくれって言っていた。それはつまり内容の時点で面白い漫画を描けばいい……ああ、でもそれだと小説っぽくなる……。

 

「パソコン、欲しいな……」

 

 色々とネタが浮かんできた、ビビッと来た。

 このネタを忘れない内に留めたい……きっと文章にしても面白い……ああ、書き留めておかないと……後、一人言は少なくしないと。



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漫画家にすゝめ 2

 誕生日プレゼントとしてパソコンを購入してもらった。

 普通のパソコンじゃなくてクリエイターが使っているパソコンで思ったよりも値段が高くて母さんが「小学校卒業祝いも兼ねてるから」と言ってきたのは色々な意味で思い出だ。現代を知っている身としては古くさいが最新式のパソコンで、漫画を描くことが出来る。

 パソコンなので原稿用紙の代金とかインクの代金とか余計な事は考えなくてもいいって素晴らしい……地味に掛かるお金が減ったのはとても喜ばしいことだ。

 

「ええっと……【時には心の栄養を取る為に思いのままありのままに過ごすことが大事だ】……うん、いい台詞だ」

 

 パソコンを購入して貰った僕はとりあえず紙の原稿をデジタル化する事にした。

 紙の原稿と言っても既に漫画として完成しているやつは手を付けない。流石に二度手間だから。ネタを纏めたノートを一気に圧縮している、そんな感じ。文字を書くのと比べてパソコンでの入力は一瞬だからホントに今までの苦労は何だったんだろうとなる。

 特に背景と人物の絵を合成出来るの超便利。人物を描いて周りに背景を描いてモブを描いてってやったけども、先に背景を描けるのホントにスゴい。

 

「あ、くそ、ミスった」

 

 とはいえこれもこれで大変だ。

 おじさんが川口たろうで漫画家だった為にアナログな漫画の描き方は教わることが出来た。漫画の描き方(アナログ)は割と有名だし、覚えるのは苦じゃなかったけどこのデジタルな描き方は1から覚えないといけない。機械音痴じゃないけども、これはこれで一苦労。世の同人作家達や絵師さん達はポンポンと使っていると考えると本当に尊敬する。

 

「あ〜……心がピョンピョンするんじゃ」

 

 僕の進行状況はともかく、原作が始まると思う。兄が中学3年生、僕は中学1年生になった。中学3年生の一学期で今日は午前だけの授業と来たもんだ。それはもう原作がはじまるというもの……けどまぁ、深く原作に関わるぞ!的な感じの作品じゃない……今更ながらなんで弟なんだろう……まぁ、漫画の知識を深めれてるからいいけど。

 

「ん……電話だ」

 

 漫画のネタを纏めていると兄から電話が掛かってきた。

 多分、今日原作開始なんだろうが僕に電話をかけるのはなんの用事なんだろうかと携帯電話(ガラケー)を手に取る。

 

「もしもし」

 

『最良……お前、漫画家を目指してるよな?』

 

「……いきなりどうしたの?」

 

 電話に出ると唐突に聞いてくる。今まで漫画家になる云々について全く触れてこなかったのに今日に限って触れてきた。

 本当にいきなりどうしたんだろう。

 

『原作家になりたいって奴が居るんだよ』

 

 ああ、やっぱり今日が原作開始日だったみたい。

 相棒である秋人に漫画家になろうと誘われた感じで、漫画家を目指すんだったら僕が居るって紹介をしようとしているんだな。

 

「高兄、僕は自分で全部やるタイプだよ」

 

 僕を紹介してくれる事は非常にありがたいけど、原作が始まらないと兄の結婚云々が無くなる。

 秋人の原作は非常に魅力的だけど僕的には原作も自分で作りたい……まぁ、読み切りとかならばコラボしてみたいと思っているけど。

 

「漫画家になりたいならその人は高兄が組んだ方がいいよ」

 

『お前、なに言ってるんだ!』

 

 弟とか原作とか云々にして兄は普通に絵が上手い。が、話の作りは微妙なところがある。

 漫画担当で秋人と組んでいくのがなんだかんだで一番しっくりくる……原作云々を置いておいてもだ。

 

『ちょっと変われよ』

 

『あ、おい』

 

 僕の勧めに驚いている兄とは別の声が聞こえる。

 若干のノイズが走ったかと思えば聞こえた別の声が電話越しに聞こえる。

 

『もしもし、真城の弟……で、いいのか?』

 

「ええっと……原作家になりたい人ですか?」

 

『原作家じゃない、オレは漫画家になりたいんだ』

 

 おっと、失礼な事を言ってしまった。

 

「すみません、間違ってしまって」

 

『構わない……それよりお前も漫画家を目指してるんだろ』

 

「僕は原作と漫画、両方をやります……誘うなら兄の方が良いと思いますよ。暇ですし」

 

『お前の弟、変なところでドライだな』

 

「それに賢いですよ」

 

 聞こえてますよー。原作が一切開始しないのは本当に洒落にならないので兄は勧める。兄は勝手な事を言うんじゃないと電話越しで言ってはいるが、原作家が必要かなんて急に言い出す兄の方が勝手なところはある。僕は原作も漫画も自分でやると言うのをハッキリと伝えることは出来たので秋人(シュージン)は僕を必要以上に誘おうとしない。

 

「最良、お前なんて事を言い出すんだ!」

 

 原作よ、上手い具合に開始しやがれ。そうやって祈っていると兄は学校から帰ってきて僕の部屋にやってきて詰め寄ってきた。

 

「なにって言われても、原作者になりたい人が漫画家を探してるんだよ。高兄が素質あるのは確かなんだよ」

 

「俺は漫画家になるつもりなんてない」

 

「じゃあ、なんになるつもりなの?」

 

 質問を質問で返すことはあまり良くはない事だけど、あえて聞いてみる。

 兄はとても絵が上手い……しかし、それ以外は何処にでもいる極々普通の男子であり、ルックスに優れてるわけでも歌唱力が優れてるわけでもなんでもない普通の人だ。

 

「それは……」

 

 僕の質問に返す言葉を持っていない高兄。

 生き方に関して悩んでいる青春ど真ん中な状態でその質問の答えを返すのは酷な事だ。

 

「やる事が無いなら、とりあえず手を貸してみたら?」

 

「そんな事が出来るわけないだろう。漫画家は博打打ち、生半可な気持ちで力を貸すことは出来ない」

 

「高兄……原作家になりたい人が真剣な気持ちなんだって分かるんだね」

 

「っな!?」

 

 秋人がマジでやろうとしているから簡単なノリで受けてはいけない。なんだかんだ言って優しいところはある。

 顔を真っ赤にして僕になにを言ってるんだと叫ぶ。全く、変なところで素直じゃないんだから……だからこそ背中を押したい。

 

「逆に聞くけどなんで漫画を描きたくないの?」

 

「……」

 

 また黙りの兄、さっきとは違って表情が微妙に変わっている。きっとおじさんの事を考えている……おじさんが死んだことってやっぱり重い。

 けど兄はおじさんが死んだから漫画家になりたくないとは言わない。逆に漫画家になりたいと言い出したいのに言うに言えない、そんな感じ……要するにきっかけが必要だ。

 

「僕はおじさんに憧れてたよ」

 

 漫画家ってだけで充分にスゴい。それで食ってたって事実も本当に半端じゃない。

 

「今はまだ落書きだけど、何れはちゃんとした漫画を集英社に投稿する」

 

 まだ中学1年……いや、もう中学1年と言った方がいいか。

 目の前にいる兄は赤マルだけどジャンプに15で掲載されたとんでもない鬼才の持ち主……そんな兄より上の新妻エイジってなんだろうな。

 

「高兄はおじさんの仕事をどう思ってた?」

 

「……おじさんは……カッコよかった」

 

「でしょう……だったらさ、その原作家目指してる人にとりあえず力を貸してみたら?俺はこれぐらい出来るけどお前はどうだって……おじさんがギャグ漫画家やってたからジャンプでやってくのどれだけ厳しいのか僕達は他の人達より知ってるんだ」

 

 それだけでも充分な武器になる。兄は僕の言葉を聞いておじさんの事を思い出し、おじさんに憧れていた事も思い出す。

 おじさんみたいに何時か漫画家になりたい。小学生の頃に自由帳に自作の漫画を描いていた事もある……自分の気持ちに嘘をついちゃいけない。

 

「……最良、俺はジャンプでやってけると思うか?」

 

「んなこと僕が知るわけないし、僕が聞きたいぐらいだよ」

 

 毎日描いて描いて、描きまくってる。それでもゴールが見えない。

 これでジャンプの掲載が出来るぞなんて合格基準みたいなものがないからある意味、毎日が地獄だよ……まぁ、楽しいからいいけども。とはいえ絵を描くことと漫画を描くことを一緒にしちゃいけない。

 

「漫画に限界は無いんだから、やりたいようにやってみなよ」

 

「……」

 

 僕の言葉を聞いて、じゃあ漫画家を目指してみるとはいかない。

 けど、何時もと違う感じの眼をしている。今まで特に目標もなにもなくなんとなく生きていた感じじゃなく、やる気に満ちた眼をしている。ぶっちゃけこの後に告白のイベントがあるから僕の存在は必要じゃない気もするが後押しをすることが出来たのでそれでいいか。漫画家になりたいと言う気持ちが出てきた兄だが、最後の踏ん切りがつかないまま兄は自分の部屋に戻っていき、少し後に家から出た。

 

「最良、相談がある」

 

 その後、僕の部屋に兄はやって来た。

 

「漫画家になりたいかどうかの話だったら、そんなの勝手だよ」

 

「違う……漫画家になろうと思うんだ」

 

「……え、じゃあなんで相談に来たの?」

 

 漫画家になろうという1つの目標が出来た。それならばその夢に向かってひた走ればいい。

 僕に相談しに来ることなんてなにもないんじゃないだろうか?

 

「家のルール、忘れたわけじゃないだろう」

 

 我が家のルールは相談事とか基本的には母に相談する。そして母から父へと話が通るシステムとなっている。

 

「母さんが漫画家になりたいって言ってもはいそうですかと話が通らないだろ」

 

 原作ではとりあえずは父さんに話を通してくれと言っている。冷静に考えれば強引過ぎるところもある。

 僕というイレギュラーな存在がいるから母さんを通す前に僕に話が来た。子供が漫画家になるなんて言い出したら、誰だって困惑するし反対もする。叔父が死んでいるならば尚更だ。

 

「う〜ん……とりあえず条件かなにかを出してみたらどうかな」

 

 そのまま行けば問題は無いのだけど、相談に乗ってきてくれるなら真面目に答えないといけない。なにかをしたいと言うならば条件かなにかを提示する。交渉をする上ではよくある事だけど、これほど効果的なものはない。

 

「漫画家は物凄く過酷な仕事だし定期的に健康診断を受けるとか大学卒業までに商業誌に掲載されなきゃ普通に就職とか使えそうなカードを探してみよう」

 

 健康診断に関しては僕も何時かは出来る立場になりたい。大学卒業まで爪跡を残せる様にしておかなければ漫画家としては大成する事は出来ない。僕自身が勝手に決めている誓約を教えるとそういう手もあるのかと納得をする。

 

「とにかくさ、一旦気持ちを整理してみようよ……ついさっきまで悩んでたけど高兄は漫画家になりたいって決めたんでしょう?大事なのは気持ちだと思うし……最悪、母さんを無視して父さんと話し合った方がいい」

 

 原作通りに事が進んでいるから、多分普通に漫画家になることの許しは貰えると思う。

 

「そうだよな……お前はどうするんだ?」

 

「……え?」

 

「え?じゃない。お前、漫画家になりたいんだろ……お前も母さんから許可を貰わないと」

 

 あくまでも趣味の範囲内で描いている感じで、母さんにハッキリと言っていない。

 漫画家になりたいと言う気持ちこそあれども最後の一歩を踏み出す事が出来ていないところがある。

 

「お前も一緒に言わないか?漫画家になりたいって」

 

「……僕、高兄に便乗する形で言うんだけどそれでいいの?」

 

 さっきまで自分が漫画家になりたいのをどうすべきかとの相談だった。何時の間にか僕も一緒に言う感じの流れになっている。

 まさかとは思うけども僕も一緒に漫画家になりたいと言ってほしいなんて言わないだろうか……いやまぁ、別にいいんだけども。僕も何時かは面と向かい合って漫画家になりたいと言わなきゃいけないけど……

 

「お前も漫画家になりたいんだろ……俺もなりたい」

 

「意見は一緒だね……」

 

「手、組むか」

 

「それが1番だね」

 

 僕の夢の後押しもとい自分の夢の後押しをする兄。一緒の目標を持ってるからとガッチリと握手を交わす……2歳違いの兄弟がなにをやってるんだろうね。とはいえ、1つの目標が定まった。やるならば早いことに越したことはないんだと一階に降りて母さんに声をかける。

 

「母さん、話があるんだ」

 

「なに、2人で急にどうしたのよ」

 

「僕と最良のこと……ちゃんと聞いてほしいんだ」

 

 何時になく真剣な顔の高兄。母さんは真面目な話なんだと椅子に座ると僕達も椅子に座ってと言うので座る

 

「……僕と最良、漫画家を目指そうと思ってるんだ」

 

「はぁ……2人して改まってなにかと思えば、駄目よ」

 

 兄が言えば案の定、却下されてしまう。

 やっぱりと兄は一瞬だけやっぱりと言った顔をするが直ぐに気を持ち直す。

 

「僕も最良も高校と大学にちゃんと行く」

 

「それって適当な学校に行って漫画を描くって事でしょ。駄目よ」

 

「おじさんみたいな事にならない様に定期的に健康診断も受けるよ」

 

「そのおじさんは大学在学中に漫画家になったのよ。これで認めたらおじさんと同じよ」

 

「だったら、大学卒業するまでに商業誌に掲載されるかどうか賭けない?」

 

「賭けっ……自分の人生をなんだと思ってるの!?」

 

 あ、やべ、間違えた。母さんは僕の発言に対して物凄く怒り、高兄はなにやってんだよと僕を強く睨む。

 交渉するのにカード云々を言っていたのに博打だなんだと言ってしまったのはまずい。

 

「漫画家になるなんて言う暇があるならちょっとは勉強しなさい。特に最良、貴方は中学に入ったばかりで勉強に追い付けなくなるなんて事になったら大変よ!今までは漫画を描いている事はなにも言わなかったけどそれが原因で成績を落としたなんて絶対に許さないわ」

 

 最もらしい事を言ってくる母さん。僕は転生者になる為に訓練をしていて一般高校卒業できるぐらいの学力は持っている。成績を落とす事は基本的には無いとは思うけれども、そんな事を言えない。絶対の保証は無いし。

 

「この話はこれで終わり」

 

「父さんに話を通してみてよ!」

 

 話はここで終わりだが、兄は食い下がらない。何時もならここで終わるとこだが、食い下がらない兄を見て話を通す事だけは承諾をしてくれる。これでいい……これで父さんからの許可は貰える筈……。

 父さんからの許可が降りないかもしれないと万が一に怯えていたが、割とあっさりと許可が降りた。

 

「最良、昔お前が描いたおじさんの漫画を見せてくれ」

 

 お祖父ちゃんに兄が漫画家になると言っている頃、父さんは僕の部屋にやって来た。

 昔描いた超ヒーロー伝説の同人誌を読みたいと言うので僕は原稿が入っている袋を取り出し、見せる。過去に1度父さんも見て面白いなと言ってくれたキリだったけど。

 

「信弘の漫画……確か、同人だったな」

 

「うん……」

 

「お前も漫画家を目指すんだったな……信弘と同じギャグ漫画を目指すのか?」

 

「まだ決まってないよ」

 

 自分がいったいどういう漫画を描くのかまだ見定まってない。ギャグを描いたり王道を描いたり色々とやっている。

 日常系のギャグ漫画は一応は描いている。一発ネタみたいなところがあるから長期に渡っての連載が出来るかどうか……最初の投稿、これにしてやろうかな。

 

「そうか……お前達の漫画がジャンプに載るの、楽しみにしてる……息子の漫画だって自慢できるからな」

 

 意外とお茶目なところがあるな、父さんは。ともあれ両親からの許可は降りたので、本格的に漫画家を目指せる……とはいえ、僕は既にデジタルに移行しているの兄の様に漫画を描く為に今から準備をしよう的な感じじゃない。

 

「最良、お祖父ちゃんからおじさんの部屋を貰った!」

 

 父さんが出ていくと今度は兄が部屋にやって来る。

 超ヒーロー伝説の主人公が変身した姿のキーホルダーが付いた鍵をこれみよがしに見せてくる。

 

「良かったじゃん。おじさんの部屋って事は漫画に必要な物、全部揃ってるよ」

 

「今から行こう!」

 

「時間を見て……もう直ぐ7時だよ」

 

 僕も兄もまだ高校生で外に出るのには遅い時間帯だ。

 今から夕飯が待っているんだから、わざわざ食べずに仕事場に行かなくてもいい。

 

「ところで高兄……原作を作りたいって言ってた人とはどうなの?」

 

「あ……」

 

 忘れてたんだね……いや、違うか。

 仕事場を貰うのは本来ならば漫画家を目指すと決めた翌日で、僕がそれを進めてしまった。だから、翌日の昼頃にあるコンビ結成的な話を省いてしまってる。

 

「そうだった……」

 

「先ずはその人と漫画家が出来るかどうかを相談したらいい……今の時代、原作と漫画を分けてるなんて珍しくもないし」

 

 そもそもでバクマン。自体が漫画と原作をべっこにしてるし。僕の言葉が通じたのか秋人と組むべきなのかと真剣に考えつつ、鍵とにらめっこをしている。早くおじさんの仕事場に行きたいけども、時間帯的に行くに行けない……いやでも、原作だと10時ぐらいだけど飛び出してたな。

 もしかすると僕と一緒に行きたいのかな。それだと申し訳ない事をしちゃった……けどまぁ、1日だけ漫画家になる許可が早まったんだからこれぐらいは仕方がない。

 

 とにかくバクマン。の原作ははじまったわけで兄よ、頑張ってリア充を目指すんだ。

 

 ……最終的にバクマン。って主人公sが結婚してるからリア充なんだよね。



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漫画家にすゝめ 3 

「おはよう……なんか目の下に隈があるよ」

 

「昨日、徹夜したんだよ」

 

 おじさんの仕事場を貰った翌日のこと、何時も通り学校に行く着替えを済ませて部屋を出ると目に隈が出来た兄がいた。

 徹夜って明日からテストがあるから勉強でもしていたのかと思ったが、違う。そういうキャラじゃない。

 

「キャラの絵を描いてた……授業以外でちゃんとしたの久し振りに描いたけど、俺の漫画の絵じゃなくてデッサン画になってたよ」

 

「そりゃ長い間、漫画向けな絵を描いてこなかかったんだから仕方ないよ」

 

 兄の当面の目標もとい悩みは漫画の絵だろう。

 鬼滅とかマッシュルみたいに絵がそこまで上手じゃなくても面白い漫画は存在するには存在するが、あくまでも先の話なので言わないでおく。絵だけで人気を取っている漫画だって逆に存在するからね。

 

「最高、高木くんって子が迎えに来てるわよ」

 

「はぁ!?」

 

 朝食のパンを一口噛じっていると母さんからの知らせが届き、兄は驚く。相棒になろうと言ってきた翌日に家に迎えに来るとなれば誰だって誰だって驚く。急いで自分の部屋に戻った兄は自分の部屋の窓越しで秋人(シュージン)が来ているのを見に行っている。

 

「最良、お前も漫画家を目指すらしいな」

 

 そんな兄は放っておいても問題はなさそうなので朝食をいただく。

 朝は米ではなくパン派の僕はパクリと食パンを齧るとお祖父ちゃんが漫画家になることについて聞かれる。

 

「うん……」

 

「信弘の部屋は一個しかない、喧嘩をするんじゃないぞ」

 

「僕はパソコンを使って漫画を描くから仕事場はそんなに困らないよ……けど、漫画家として必要な物が彼処には詰まってるから頻繁に出入りはすると思うけど」

 

 とはいえ何時かは自分の仕事場を持ってみたいとは思っている。

 

「なら、最高とライバルになるな……友と書いてライバルだな……頑張れよ」

 

 お茶目なお祖父ちゃん。応援をしてくれるのはとても嬉しいことだ。

 

「最良、いくぞ!」

 

「え、ちょ」

 

 朝食を食べ終えた頃に慌てて学校に向かう為に腕を引っ張る兄。急に何事だと思いつつ、家を急いで出てみると兄の相棒になる高木秋人(シュージン)がスタンバっていた。

 

「サイコー、待ってたぜ……って、そいつは?」

 

「弟の最良、昨日電話で話しただろう」

 

「ああ、お前がか!」

 

「どうも、真城最良です……貴方が兄の相棒になる人ですか?」

 

「相棒ってそんな、照れるな」

 

 相棒と言う言葉に露骨に反応を秋人(シュージン)。お前はなにを言っているんだと兄は強く睨んでくる。

 

「お前、なに言ってるんだよ。まだ高木と組むとは決めてない」

 

「ええっ!?一緒に漫画家を目指すんだろう!」

 

 まだ若干ツンケンしている兄。秋人(シュージン)を強く突き放すとそんなとかなりのショックを受ける。

 

「そうは言うけど、高兄は物語を書くことが出来るの?」

 

「そ、それは……」

 

 兄の絵は上手いけれども話作りはそこまでじゃない。今、漫画にしたら面白いネタが浮かんでいるから組むことは出来ないとバッサリと断れない。

 

「今の時代、原作と漫画を分けている漫画家なんて珍しくもなんともないし高木さんにネームを描いてもらってからでもいいんじゃない」

 

「……ま、そうだな。漫画家なんて博打打ちになりたいなんて言い出すんだ。高木、これこそ俺の作品だってあたためたネタってあるだろう」

 

「いや……無いけど」

 

「はぁ!?」

 

 あ、ヤバい、間違えたかもしれない。

 自分と組みたいと思っているならば面白いネタがあると思うのは当然の事だけど、残念な事にそんな物は無い。

 

「お前、あんだけ言っておいて無いのかよ」

 

「いや、待て、待ってくれ……少し時間をくれよ。直ぐに面白いネタを考えるから……ところでネームってなんだ?」

 

「最良……高木と組んで大丈夫だと思うか?」

 

 ネームの存在すら知らない、漫画家を目指そうと思っているならばネームぐらいは知っておいた方がいい。

 その存在すら知らないとなると心配をするのは当然の事だ……けどまぁ、この人は本当に面白い漫画を描くことが出来る。

 

「とりあえず漫画家になる為に必要な物はおじさんの部屋に揃ってるし、連れてって描いてみろって出したら?」

 

「そうだな……高木、放課後、暇か」

 

「暇って、今お前が漫画のネタを考えてこいって言っただろう」

 

「だったらおじさんの仕事場に連れてってやるよ。あそこだったら漫画に必要な物が全部揃ってるし、ネーム置いてる筈だし」

 

 兄はとりあえず原作を用意してみてくれと言ってくるので秋人(シュージン)は物凄く悩んで物語を必死になって考えている。

 一瞬だけ原作と異なる事になってしまうのかと焦ったがなんだかんだで元に戻ろうとしている。現に名字じゃなくて秋人(シュージン)呼びになっていっている。

 

「なぁ、サイコーってどんな感じの話が好きなんだ?」

 

 原作通りに話は進んでいっていると心の中で微笑んでいると、秋人(シュージン)が僕にコッソリと聞いてきた。

 原作と違い兄はとりあえず面白い物語を作ってこい、そうじゃないと組まないとか言っている。

 

「うちの兄はあれでも目が肥えてますからね……ちょっとやそっとの話では面白くないってボツにされます」

 

「そうだよな〜川口たろうの甥っ子だからギャグ漫画が好きなんて都合の良いことはないよな」

 

 はぁ、と大きなため息を吐いて露骨に落ち込む秋人(シュージン)……あ〜……

 

「高木さん、兄が好んでる漫画を描いてどうするんですか。面白い漫画を描いてくださいよ」

 

 兄が好んでる話を描いて兄の心をハートキャッチしようとしている。この人なら簡単に出来そうだけど、それじゃあ意味はない。描かないといけないのは面白い漫画なんだ。

 兄には最高に面白い漫画を描こうとしている事に気付いた秋人(シュージン)はなにやってるんだと落ち込むが、直ぐに兄を納得させる面白い話を描いてみせると燃え上がる。アオハルだなぁ……って、僕も頑張らないといけない。

 学校に登校すると学年が違うので自分の教室に向かい、使えそうなネタを考える……僕の苦手なジャンルはスポーツもの。描くことが出来ないわけじゃないけど、どうしても王道的なものは描くことは出来ない……でも、邪道なスポーツ漫画もありかもしれない。

 色々と考えてみてみるけど、スポーツ物の漫画のネタは浮かばない。代わりに浮かんできたのはスケットダンスみたいな日常系の純情やギャグの漫画のネタ。近年若者がテレビ離れをしているので色々な人達に受けるテレビ番組を作る為にスペシャルチームが生まれてそこで様々な番組が繰り広げられたりする日常やギャグ、シリアス等、色々と描ける……けど、日常系って直ぐにネタが尽きそうだから、これは一発のネタにする。

 

「うおっ!ヒーローのフィギィアがいっぱい!」

 

 授業が終わり、放課後。家に帰ることはせず、そのままおじさんの職場へと足を運んだ。

 超ヒーロー伝説をはじめとする様々なヒーロー漫画を描いていたおじさんはヒーローのフィギュアを沢山買っている。(経費で)古いヒーローのフィギィアで保存状態もいいのでマニアに売ればかなりの値段がある。

 

「おじさんがヒーローの漫画を描いてたからね、経費で落ちたみたい」

 

「川口たろうの職場でこれだから……鳥山先生とか岸本先生とか空知先生とかの職場ってどうなってんだろう」

 

 鳴かず飛ばずの一発屋だったおじさんでスゴいと思う仕事場。

 レジェンドと呼ぶに相応しい漫画家達ってどういう感じの環境で漫画を描いてるんだろう……真島先生は化け物じみた早さで描いてるらしいけど。

 

秋人(シュージン)はおじさんの生原稿よりこっち、ネームを描いてくれよ」

 

「これがネーム……」

 

「漫画の下書きの下書きみたいなもので、打ち合わせをする時はこれを使うんだ……おじさんはギャグ漫画家だったからこれで許されてるけど、普通の漫画を描くんだったら最低でもこれ以上の物を描かないと」

 

 ドッサリとおじさんの超ヒーロー伝説のネームを机の上に置いた。

 秋人(シュージン)はこれがネームなのかとゴクリと息を飲み込み、おじさんの超ヒーロー伝説のネームを読み始める。

 

「……秋人(シュージン)は多分、面白い原作を作ってくる。だったら、その間に絵を磨かないと」

 

「あれ、ネームを描いてきたらコンビを組むんじゃなかったの?」

 

「あれは秋人(シュージン)のやる気を出させる為の方便だよ……アイツのやる気は知っているから」

 

 まぁ、自分の漫画がアニメ化されたら声優をやってくださいとか言ってくる時点で覚悟は半端じゃない。その一方でアニメ化したら結婚をしてくださいってとんでもない事を言うのがこの兄で無駄なところがロマンチストだったりする。

 

「それよりも問題は絵だ……キャラを描くだけじゃなく風景や効果線を描いたり、何処になんのスクリーントーンを貼るか見極めないと」

 

 絵に関しては何処までも上達することが出来る。綺麗な絵じゃなくても作品に合う絵が描ける様になれば尚の事。

 兄はペンを手にする……僕は過去に何度も握っているけど何気にはじめてのペンであり、適当な画用紙を手に取りペンにインクを浸けて線を描いてみる。カブラペンは線の強弱は出ない一定の線が描けるけどもGペンは違う。一直線を描いてみせるのだが途中でゴリッと言う嫌な音を立て、線が歪な形にズレてしまう。

 

「最良……パソコンで描いた方がいいのかな?」

 

「いや、そこは人次第だよ」

 

 パソコンで描けばインクの問題をあっと言う間に片付ける事が出来る。

 けど、パソコンが絶対というわけではない。生の原稿だから描ける世界ってのもあり、キャラクターを生原稿で背景なんかをデジタルで描いたりする人もいるらしいから……ケースバイケース。僕の場合は完全にデジタルだけど。

 

「高兄はとりあえず絵の練習あるのみだよ。ほら、ここに背景の資料とかあるし」

 

 今はまだ絵の上達あるのみなので絵の資料を渡す。

 高兄は漫画の描き方を既に知っているので、今から新しい漫画の描き方を覚えるのは難しい……デジタルって意外と難しいんだよ。デジタルは何時か暇な時に覚えればいいことで、今は生での漫画の描き方を覚える。自分がなにをすべきか兄は理解をしているので原稿用紙を取り出して適当に選んだ背景を描き始める。

 

「っと、僕もネームを描かないと」

 

 やる気を出している2人に見惚れている場合じゃない。

 空いている仕事机に腰を掛け、自由帳を取り出して学校で書いていたネタを確認する……ツバサ・クロニクルみたいな漫画を描いてみたいな。

 色々な世界に巡って戦う漫画……でも戦う理由が必要で、色々なところに行く……イナイレのクロノ・ストーンみたいな時空最強のメンツを探すみたいな物語を合わせる感じで……ああでも、パクリみたいなのなんか嫌だな……でもまぁ、描いてみるのが1番だ。

 

「最良、どのジャンルで行った方がいいと思う?」

 

 僕がスラスラとネタが浮かんでいる横でネタが浮かんでいない秋人(シュージン)、僕なんかにアドバイスが欲しいと言ってくる……言ってみた方がいいよな。兄の結婚、早まるのいいと思うし。

 

「先ずは自分の得意なジャンルを探してみたらどうですか」

 

「自分の得意なジャンル?」

 

「一口に漫画と言っても色々とあるじゃないですか。推理物、恋愛物、ファンタジー物、異世界物、スポーツ物って……無理に新しいネタを作るよりも先ずは1つの型組に嵌め込むのもいい手……因みにですが僕はスポーツ漫画が苦手です」

 

 死んだ原因が部活動がブラック過ぎたせいだからスポーツ系の漫画のネタを考えてしまえば、過去を思い出してしまい強い憎しみの感情を出してしまう。そのせいか王道的な主人公を描くことが出来ず、鉄鍋のジャンみたいな主人公がクソ野郎なものしか描けない

 1度だけ真面目に描いたことがあるが酷かった。どんなスポーツでも出来る天賦の才能を持った主人公が様々なスポーツの選手兼監督になって様々な部活に挑戦するんだが、主人公が【努力はして当たり前】とか【勝ったから正しくなる】とかあんまり王道的な物じゃないし、何よりも描いていて楽しくない。まだプロじゃないんだから無理に楽しいものを描こうとするなんてしなくていい。

 

「苦手なジャンルか……よし、オレも一回一通りのジャンルを描いてみるよ」

 

「自分の得意と苦手を見つけてみてください……ああ、後、漫画じゃなくてもいいと思うんです」

 

「……え、それはどういう意味だ?」

 

「ほら、最近月刊誌とかでラノベを漫画家にしたり色々とやってたりするじゃないですか。だったら若干ラノベとか小説っぽくてもいいと思うんです。ジャンプ作品だって時折小説化したりすることもありますし」

 

「成るほど。小説にしても面白い話か」

 

「でも、小説寄りにしまくってもダメですよ。それをやったらアニメ化じゃなくて実写化のオファーが来そうですし」

 

 僕は漫画の実写化はあんまり好かない。

 将太の寿司みたいなリアリティに溢れる感じの世界観だったら文句はない。デスノートやカイジも成功しているからいい……ただドラゴンボールとかジョジョの奇妙な冒険みたいな王道的なバトル漫画を実写化をしてコケまくるのは許せない。

 一時期の安易な実写化ブームは本当にウンザリする。少女漫画みたいなある程度はリアリティに溢れるタイプの漫画ならいいけども……。

 

「最良って意外とこだわりがあるんだな」

 

「まぁ、漫画で育っているみたいなところがあるからな……にしても実写化か、その線もあるな」

 

「やめとけって、コケたら一大事だぞ」

 

 兄達がなにかヒソヒソと話しているがなんかロクでもなさそうな気がする。

 実写化に関してはオファーが来ない事を祈る……原作をヘタに弄ってくる監督は物書きをしているので嫌だ。

 

「とにかく漫画家になる以上はアニメ化は夢だけど実写化は地獄みたいなものです……あ、いいネタ浮かんだ」

 

 メモ帳を取り出し、思い浮かんだネタをメモする。やっぱりこういう時に思いついたネタは後々見返しても面白いのが大体だ。

 二郎系のラーメンを通称、豚の餌とか地味に笑える。



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漫画家にすゝめ 4 

「最良、どうだ」

 

「ええ、僕を通すんですか……」

 

 間もなく夏休みに突入するかしないかの頃、新妻エイジの出現で燃える兄と、兄と組む為に必死になる秋人(シュージン)

 兄が絵を上達させる一方でおじさんの仕事場にある漫画を読みながら思いついた面白いアイデアを纏めていた。

 

「いやほら……最良で面白いなら最高(サイコー)も面白いと思うだろう」

 

 そんな纏めたネタを見せてくる。

 兄は既に秋人(シュージン)と組む算段でいるからやる気を起こす口実で、僕に見せたとしてもなんの意味も無い。僕が面白かったら兄が面白いというわけじゃない……いや、違う。この人、面白い作品を作ったから見てほしいって感じなんだろう。

 兄と組む以上は僕は読者として作品を見てほしい……う〜ん……。

 

「高木さん、文字だけで読ませようとしないでくださいよ……」

 

 漫画なんだから絵が必要だ、描いたと言ってもネームでもなんでもない文章だけの漫画。

 小説家になろうと思えばなれるぐらいに賢い作品を描ける人だから文章の時点で引き込まれる作品を描いたんだろうが、僕達が目指しているのは漫画だ。

 

「なんの為に兄がいるんですか」

 

「そ……そうだよな……」

 

「……プレッシャー、感じてるんですか?」

 

「まあな」

 

 面白いものを書かなければならないと圧迫感に圧されてるのかもしくは自分が描いている作品は本当に面白い作品なのかと心配をしている。

 その心配を解消するには第三者の目で見て面白いか面白くないかのどっちかの言葉を欲しているんだろうけど、僕はその言葉を持ち合わせていない。なにせ僕も漫画を作る側の人間で、漫画を見る側の住人じゃない。

 

「だったら何処かに持ち込みに行ってきたらどうです?」

 

「何処かって集英社にか」

 

「もしくはネットに上げてみるとか……やり方は色々とあります」

 

 自分の漫画の評価が欲しいならば第三者の意見しかない。

 不特定多数の人間から意見を貰いたいのならばネットに上げればいい……ただ問題はネットに上げたなら、そのネタは使えなくなる可能性がある。ネットになにがいるか分からないからパクられる可能性だってある。けど、雑誌編集者じゃなくて読者の本当の意見が聞ける。

 

「高兄、漫画、描くことが出来る?」

 

 頭を悩ませている秋人は置いておき、兄に漫画を描く準備が出来ているかどうかの確認をする。デッサンによる絵の上手さじゃなく漫画としての絵の上手さに日を追うごとに変わっていく。背景とか効果線とか擬音の練習とかもしていて、今の調子なら描けるかどうかの確認をする。

 

「多分……何処かで練習の成果を発揮してみたい」

 

「だったら一本描くしかないね」

 

 今の自分が何処まで出来るのか試してみたいなら、描くしかない。

 チラリと秋人に目を向けると、兄は椅子から立ち上がって秋人に近付く。

 

秋人(シュージン)、原作なにかないか?」

 

「おぉ……今、出来てるのはこんな感じ」

 

 使えそうなネタを纏めたノートを兄に渡す。兄はパラリとノートを開き、面白い話はないかと探す。

 パラリパラリと無言でノートのページを捲っている……特になにも言わないでいるので秋人は冷や汗をかいている。

 

「面白いよ、これ」

 

 パラリと捲ったページの話を指差す。面白い、その一言だけで秋人は救われたようで大きくホッと一息つく。

 何処のなんの話が面白かったのか目を向ける……いったいなんの話って、これって……。

 

「2つの地球、こんな話は見たことない……どっかからパクったのか?」

 

「いや、パッとコピーとかクローンとか面白そうだなって考えてたら浮かんだ内容」

 

 兄の目に止まったのは2つの地球(仮題)と、原作で2人が一番最初に描いた漫画だった。

 僕が色々とあれこれしてるけどこういうところは原作通り、バタフライエフェクト的な事を期待しない方がいいの……いや、どっちでもいいか。そんな誰かが死ぬとか悲劇の過去とか漫画でよくある中二的な展開や設定はなんも無いんだから。

 

「これ、描いてみたい。ネームにしてみてくれよ」

 

「あ……ああ!じゃあ、頼んだぞ最高(サイコー)

 

 ちゃんとしたコンビになった、認めてくれたと分かると喜んだ秋人(シュージン)

 早速ネームを描いてやるとネーム用の原稿用紙を取り出して、早速2つの地球(仮題)を取り掛かる。

 

「……」

 

 頭の中にノートに纏めたものが入っているので秋人はノートを見ない。

 なので僕がコッソリとノートを見る。2つの地球以外にどんな話が気になるけど、それは見ないでおく。1番気になる2つの地球の内容。

 アニメでも少し掘り下げられていたが1から10まで、最後の内容しか描かれていない。最終的にはどっちが正義とか正しいとかなんとも言えない感じのオチだった……

 

「高兄、これでいいの?」

 

「なにが?」

 

「これ……漫画じゃないよね」

 

 改めて2つの地球の大まかな内容を見て、わかる。この2つの地球(仮題)は漫画向けの内容じゃない。設定が凝ってはいるが明らかに漫画向きじゃない。小説にしたら面白い内容だけど。原作でも兄は小説っぽいとか思ってたりした。

 

秋人(シュージン)は原作を作る側だし、俺がああだこうだ言うよりも一回好きなだけやらせてみる」

 

「そっか……次からはなんか言ったほうがいいよ」

 

「そうするつもりだよ」

 

 今回はあくまでも試し、本気で漫画を描くつもりはない。絵は真面目に描いたりするとしてその辺りの線引はしている。

 しかしこれ、仮に兄が口を出す場合何処を出せばいいんだろう。普通に面白いから何処を直した方がいいかの指摘は僕は出来ない……漫画家を目指す者としてまだまだ未熟者だな。

 

「てか、俺の事よりも自分の事を心配しろよ」

 

「僕はまだまだ力を溜める期間があるから」

 

 既に原作ははじまっているみたいだけれど、僕はまだ中学1年生でまだまだ余裕がある。

 無理に焦る必要は無い……けれども、努力を怠る必要は何処にもない……ここらで新しい新作を描いたほうがいいか……てか、僕も挑戦してみよう。

 

「面白いネタ、面白いネタ……」

 

 おじさんの仕事場で描いた漫画のネタを見てみるがあまりパッとしたものはない。

 なにか面白そうなネタ……こういう時にパッと浮かんだりしない……家に帰って使えそうなネームを探すってのは……ダメだよな。新しい漫画……刀が出る漫画は人気があるって言うけど、カッコいいモンスターが出てきたりする漫画も面白い。

 

「遊戯王……」

 

 転生してみたかった世界、遊戯王。

 バクマンの世界にあるけども元いた世界となんも変わらない……時代が時代だけにペンデュラムやリンク召喚が存在せず、ラッシュデュエルなんて生まれていない……よくよく考えたら遊戯王ってすごいよな。漫画としてじゃなくカードゲームとして完成されている……ペンデュラム召喚がリンクマーカー先にしか召喚できないルールはちょっと嫌だけど。

 

「遊戯王……カッコいいモンスターが登場して暴れる話がいいな」

 

 一人一体の固有のモンスターを持っていて、それ以外に人工的に作られたり古代のモンスターを操る戦い。伝説の5体のモンスターがいて、その内の1体がドラゴンで、自分のモンスターを上手く出すことが出来ない主人公がそのドラゴンを手に入れて、様々なバトルを繰り広げる。アニメのポケモンみたいな戦い方をするんじゃなくて魔法で色々とサポートしたり、主人公と融合して新しいモンスターになったりモンスターを特殊能力を持った武器に変えたり……なんか、面白そうだな。

 

「タイトルは……マジカルサーヴァンツ」

 

 パッとネタは浮かんだので、ネタ帳に纏めてみる。普通に面白そうな話……でもなんだか、打ち切りをされそうな感じの話でもある。

 連載を目指しての漫画じゃないし、一先ずは自分がどれぐらいの腕があるか試すのに……サンデーもとい週刊スリーに投稿……いや、駄目だよね。僕も折角の才能を持っているんだし、男だったら1番に……ジャンプに載るぐらいじゃないと。おじさんだってジャンプの漫画家……やっぱジャンプに載ってたのスゴいな……っと、真面目に描こう。

 

「高兄、ペン入れとかベタとかスクリーントーンとか手伝える事があったら言ってね」

 

「ん、もう出るのか?」

 

 椅子から立ち上がると反応する高兄。

 

「うん……まだまだ充電する期間だと思うけど、今どれぐらい自分がやれるか試してみたいんだ」

 

 今の自分がどれぐらいの実力を持っているか分からない。兄や秋人(シュージン)に何回か漫画のネタを見せたりしたことはあるけども、ハッキリとした漫画は見せた覚えはない。だからこそ自分が何処までやれるか試してみたい。

 

「僕はまだゆっくりでいいけど、高兄……中学卒業するまでに結果を残しておかないと……必要になったら呼んでね」

 

「ああ……お前も頑張れよ」

 

「じゃあ、高木さん、頑張ってくださいね」

 

「ああ……一緒にジャンプ漫画家目指そうぜ」

 

 絶対にジャンプの漫画家になってやる。

 

 

────────────────────────────

 

 

「お前の弟、滅茶苦茶良いやつだよな」

 

 最良が去っていき、漫画制作に勤しむ最高と秋人。

 一段落したのでボスのブラックコーヒーで一息つくと秋人は最良の事を話題に出す。

 

「そうか?」

 

「オレ達の漫画作り変なアドバイス入れてこずに頑張れって言ってくるし、漫画の絵の方も手伝ってくる」

 

「そりゃあ彼奴自身も漫画家を目指してるから少しでも経験値が欲しいからやってるんだよ」

 

「滅茶苦茶雰囲気柔らかいし」

 

「秋人が他人だからだよ……俺の相手をしてる時はもっと砕けた喋りをしてる」

 

「……お前、弟に厳しいな」

 

 男の兄弟ってそんなもんである。

 とはいえ次男である秋人から見ればあんな弟が欲しかったと思うのも仕方がないってものだ。

 

「アイツもジャンプで漫画家目指してるんだろ?どんな漫画を描いてるんだ?」

 

「色んな漫画描いてるよ……一通りのジャンルは描いてみたいって、ああ、でもスポーツ物の漫画は描きたくないって言ってた」

 

「え、なんで?スポーツ物なんてバリバリの王道なジャンプ漫画じゃん」

 

「体育会系のノリが大嫌いなんだよ……体育の授業でワン・オン・ワンやって負けた方が腕立て伏せとか腹筋10回やるとか言うだけでも嫌なんだとさ」

 

「うわぁ、筋金入りだな……でも、分かるかも」

 

 最良が苦手なジャンルはスポーツ漫画なのは一応の原因はあるが、それはそれ、これはこれである。

 それはともかくとしてどんな漫画を描いているのかは気になる……親しくしているが何れはライバルになる存在。どんな面白い漫画を描くのか、もしかしたら自分に描けないものを描けるかもと秋人はチラリと見る。

 

「恋愛漫画も描いててタイムスリップ恋愛コメディを描いてた」

 

「タイムスリップ恋愛コメディ……それだけで充分に面白そうだな」

 

「結婚式の夢を見た中高一貫校に通う女子学生が結婚相手とキスをする瞬間で目を覚まして、今までの学生生活は夢だったのかって思ったらそれが正夢で結婚相手になる男が転校生としてやって来て、その子と恋愛をするんだけどギャルゲーみたいに他の人と付き合ってる世界線もあって最終的に5人くらい夢を見たヒロインがいて、壮絶な恋愛バトルを繰り広げるんだ」

 

「なんだそれ、滅茶苦茶面白い設定じゃん!なんでそれ描かないんだ!?」

 

「恋愛漫画は性癖がバレるとか、自分の推しのヒロインじゃなくてサブヒロインが人気が出てくっつかないと炎上するのが怖くてあんま描きたくないんだよ」

 

 ぼくたちは勉強ができないみたいに全てのルートをやればいいじゃないかとは言ってはいけない。あれはあれでありだったかもしれないがちょっと昔のジャンプ編集部が許してくれるかどうかは分からない。

 ともあれ最良がどんな漫画を描いているのか知った秋人。ちょこっと聞いただけでも充分な魅力を持つ面白さがあるのは原作者を目指そうとしている身としてはちょっと羨ましい。

 

「最高が見た中で1番、面白かったのってなんだ?」

 

「タイトルが決まってなかったけど、色々な異世界を巡って技術とか人材とかスカウトして自分達の世界を発展させたりする話かな。本人はCLAMPのツバサ・クロニクルに設定が若干似てるからちょっと浮かない顔してた」

 

「あ〜色々な世界を回るってのは確かにな……あ、最高、こんな話を描いてみたいとかあるか」

 

「そんなのあれば秋人はいらないだろう」

 

「違うって、ジャンルを聞いてるんだよ」

 

 パッと思いついたネタは幾つもあれども、漫画担当からの要望はまだ聞いていない。なにかジャンル的な要望があったらそれに集中して描くことが出来る。今まで好きな漫画を聞いたことはあるけど描きたい漫画を聞いたことはなかったのでこれを気に聞いてみた。

 

「そうだな……スポーツ漫画はちょっと考えるな」

 

「最高も最良みたいに体育会系のノリが嫌いなのか?」

 

「そうじゃない……スポーツ漫画ってもうやり尽くされてる気がするんだ」

 

 スポーツ漫画がちょっと考える理由を最高は語る。

 スポーツ漫画と言えば弱小部活が努力して強豪校に勝ったり、天才的な主人公が入ってきたり、才能があるけど素人が入部して段々と強くなると言うのが定番であり、スポーツのジャンルもサッカー、バスケ、野球と比較的メジャーなスポーツを題材としている。そうなるとどうしても過去に出たキャプテン翼やSLAM DUNKといった名作と比較される。

 

「確かに言われてみればジャンプのスポーツ物って王道っちゃ王道だけど連載されては打ち切りが多い……他誌だと1個はあるけど設定とかはもう出し尽くした感が強いよな」

 

 尚、この時代はまだギリギリ、黒子のバスケはない。ハイキューも火ノ丸相撲もまだ先の話。

 そして火ノ丸相撲もハイキューも黒子のバスケも他には無い設定とか織り込まれており、過去の同じジャンルのスポーツ漫画と比較しても面白い……腐女子人気とか言っちゃいけない。一部は腐女子に人気がある絵だけども。

 

「日本に漫画雑誌は沢山あって小説家になろうなんてサイトもあるぐらいなんだから今更新規の設定を考えるのは難しいから2つの地球はそう考えたら斬新だよな……けど……」

 

「けど?」

 

「いや、なんでもない……」

 

 2つの地球(仮題)は面白いには面白いが、漫画っぽくない。最後にどっちが勝ったのか分からないオチが待ち受けている。

 少年漫画なら勧善懲悪物の方が良かったりするし、もうちょっと設定とかオチとか変えた方がいいとは思うが今回は秋人が実際のところどれだけやれる等の腕試しも兼ねているので口出しはしない。

 

「そういや、前に最良がキン肉マンが滅茶苦茶好きだって言ってたな」

 

「キン肉マンか……確かにあれ色々と滅茶苦茶だけど面白いよな」

 

「それもあるけど、世界観が好きって言ってた」

 

「世界観?」

 

「ほら、キン肉マンって超人とか宇宙人が認知されてるけど昭和の地球が物語の舞台じゃん。真島先生のRAVEとか尾田先生のONE PIECEみたいに独自の世界観じゃなくて現代の地球が舞台で超人的な存在が認知されてたりするって時点でスゴイってなってる……シャーマンキングとか日朝の特撮みたいに地球が舞台のファンタジーって大体秘密の組織とか世間に公表されてるとか少ないじゃん」

 

「キン肉マンをそんな風に捉えるなんてお前の弟、やっぱすげえな」

 

 普通はキン肉マンをギャグかプロレス(笑)かバトル漫画として見るぐらい。

 改めてキン肉マンの世界観を考えると確かにと頷く秋人。最良がかなり身近に思えるライバル……まぁ、実際のところは未来知識的なのがあるからだけども。

 そんな事は人には言えないので最良スゲエとなるが、褒める暇があるなら自分の腕を磨けと最高に言われると直ぐにネームの続きを描き始め、最良の手伝いもあり8月の中頃には2つの地球が完成した。



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漫画家にすゝめ 5 

「どうだった?」

 

 8月某日、兄と秋人はジャンプを作っている会社こと集英社に持ち込みに行った。

 僕はと言うとおじさんが使っていた部屋で一本漫画を描いている。まぁ、ネームだけど

 

「どうだったって言われても……なぁ」

 

「ああ……あ、名刺は貰えてメールアドレスまでは貰ったぞ」

 

 僕が色々と介入した事で原作通り2人の漫画である2つの地球を読んだ担当が服部さんじゃ無くなる可能性があるんじゃないかと思ってた。

 しかしそれは杞憂に終わり、秋人から編集者の名刺は貰えたと服部哲の名刺を自慢気に見せてくる。

 

「人によっては無言で突き返される時もあるのに、やったね」

 

「だ、だよな」

 

「……どうしたの?」

 

 原作云々は置いておいて、編集者からメールアドレスを貰えたのは大進歩だ。

 それなのに何故か浮かない顔をしている秋人……なにかショックでもあったのだろうか?

 

「いや、その人にコレじゃあ漫画じゃなくて小説っぽいって言われてさ……アレって今思い返しても漫画っぽくないなって」

 

「ああ……まぁ、そうだよね」

 

「そうだよねって、最良も気付いてたのか!?」

 

「あれ、勧善懲悪でもスポーツ物でもなんでもないジャンルがイマイチ分からないヒューマンドラマみたいな内容じゃないですか」

 

 どっちが正しいのか、どっちが正義なのかイマイチ分からない終わり方をしている2つの地球。

 悪役をぶっ倒すとか誰かに勝利するとかの王道的な展開が見当たらない、少年漫画っぽくない感じ。その事に関しては気付いてた事を言えば秋人は僕を強く睨んでくる。

 

「最高といい最良といい、気付いてたのなら言ってくれればいいのに」

 

「まぁまぁ……兄が組んでも大丈夫な相手かどうかの確認の為なんで意見出来なかったんですよ」

 

「そうだよ……次からは俺も色々と意見をするから、頑張ろうぜ」

 

「はぁ……そうだな……最高、改めてよろしく頼むよ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 改めて握手を交わす兄と秋人。

 名コンビ誕生の瞬間を見られて感激だと思いつつもふと疑問に思った事を聞いてみる。

 

「次、考えてるんだね」

 

 今回の持ち込みはあくまでも試しの様な感覚なのは知っているけど、万が一があるかもしれない。

 もしかしたら月例賞に受賞する可能性だってあるかもしれない。その可能性を考慮せずに次を見ている。

 

「あの作品じゃ掠っても変な賞だ……俺達が欲しいのはちゃんとした賞や入選だ。だろ?」

 

「ま、そうだよな。変な賞に受賞してジャンプにちょこっとだけ名前が載るのってなんか恥ずかしいし男ならカッコよく受賞だ」

 

「じゃあ、今から次のネタを考えておかないと……漫画家は年を食うと相手にしてもらえないからね」

 

 あの作品で駄目だと分かっているなら、さっさと諦めをつけるべし。

 2つの地球が編集の人から色々と言われているのならば、それを直した物を出すよりも新しい物をさっさと出していた方がいい。

 

「新しいネタか……やっぱ2つの地球と違うジャンルがいいのかな?」

 

「ジャンルって高木さん、苦手と得意なジャンルを見つけたんですか?」

 

 新しい漫画ならネタは被らないほうがいい。前の漫画とどうしても比べようとしてしまうのは当然の事で、比べられない様に別のジャンルを描くのがベターだけど、今の段階では高木秋人はどんな漫画が面白いとかどうとか言う評価は一切受けていない。

 

「いや……全然だ」

 

 まだ自分が得意なジャンルが分かっていない。

 それを僕が教えてもいいけど、具体的にハッキリと言えない、そこまで僕には力が無いから……でも、言うことは言っておかないと。

 

「高木さんはこう、人間のドロッとしたところとか人間ドラマとか上手くて、カッコいいと言うよりも考えて作られてる感じですね」

 

「え、漫画って考えてつくるものだろ?」

 

 なにを言ってるんだコイツは?と首を傾げる秋人。僕からすればなにを言っているんだというものだ。

 

「漫画は確かに考えて作る物ですけど……閃きですよ」

 

「いやいや、確かに閃きも大事だけど何処をどうすれば面白くなるって考えるのが普通だろう」

 

「いや……キャラって割と勝手に動きますよ」

 

「秋人、やめとけ……最良は天才と努力の両方のタイプで噛み合いにくい」

 

 最初に設定とか色々と考えて決定さえしておけばある程度は勝手に動く、いや、勝手に動かせてしまう。

 王道的な展開を否定する邪道的な展開をやってみたいと思えば、それをやってくれる……普通な筈なのに兄から遠回しの否定が入る。

 

「僕が天才とか冗談でも言わないでよ……未だに原稿に苦戦中だ」

 

「手伝おうか?2つの地球、予定よりも何日か早く仕上がったのお前のお陰だし」

 

「いいよ。読み切りとか持ち込みに使うタイプの漫画はアシスタントとか無しで自分で作りたい」

 

「最良、その気持ち分かるぞ……自分の作品なんだから1から10、全部やりたいんだよな。自分の作品って足跡を残してえよな」

 

「そりゃあね……僕は絶対にペンネームは使わない」

 

 漫画家として歴史に名を刻みたい。男に生まれた以上は、転生者として二度目の人生を送る以上は出来るだけスゴイことをしたい

 故に僕はペンネームを使わない。漫画家として悪目立ちする可能性はあったとしても、それはいい意味で有名になったと捉えるつもりだ。

 

「で、どんなの描いてるんだよ!見せてくれよ」

 

「いや、そんな高木さんに見せる程のもんじゃ」

 

「いいから、見せろって!」

 

 あ、取られた!僕は何個か秋人のネームを見たことあるし、これを見せないのは不公平っちゃ不公平かもしれないので奪い返そうとはしない。

 僕が描いているのはこの前浮かんだ主人公がカーディアンと呼ばれるモンスターを使役してバトルをする漫画で主人公は自分自身のカーディアンを出すことが出来ないけど伝説の5大カーディアンの1体である龍神王ジグルムを手に入れて様々なライバルと戦ったりする漫画。

 

「……面白いな……」

 

「あ、ありがとう」

 

「俺にも見せて!」

 

 出来たネタを人に見せて面白いと言ってくれるのは正直な話、嬉しい。

 兄も見たいと言っているので見せるとマジマジと見てくれる

 

「……なぁ、これって遊戯王っぽくないか?」

 

「あ……確かに言われてみれば、遊戯王の記憶の世界編で出てきたディアディアンクと魔物とかそっくりだ」

 

「あ〜……真似したって言われたら否定は出来ない」

 

 流石は高兄、僅かな隙も見逃さない。

 この漫画の世界観では人の魂にはそれぞれモンスターが宿っていて、それを具現化して使役するとか遊戯王の記憶の世界編で出てきたディアディアンクの設定とそっくりだ。

 

「モンスターと融合したり、モンスターを魔法でパワーアップさせたり、モンスターを武器に変化させて装備したり……やれそうな事は色々とやってるんだけどね」

 

「……まぁ、遊戯王は遊戯王の方が有名過ぎて他のところは知名度が低いしいいんじゃないか?……遊戯王が頭にチラつくってところ以外は全体的に面白いよ」

 

「……ありがとう」

 

 やっぱりチラつくのは遊戯王か。世界一のカードゲームなんだから当然といえば当然……そう考えると高橋先生は恐ろしいな。

 いや、高橋先生だけじゃない。カイジの福本先生もすごい。ギャンブル系の漫画を描いている先生達は色々とオリジナルのゲームを作ってきて、その裏技や必勝法なんかを作ってきているんだから。

 

「遊戯王っぽくなくするかぁ……」

 

「やっぱ主人公がドラゴンはまずい……青眼(ブルーアイズ)白龍(ホワイトドラゴン)をイメージしてしまう」

 

「それ言ったら大体の〇〇アイズ系のドラゴンはアウトだろ。最良のは遊戯王がチラつくけど、原作の方でカードゲームは一切チラつかない」

 

「そりゃ遊戯王ばっかやってる奴の意見……ああ、そっか。最良、遊戯王が好きだからこうなるのか」

 

 何処か遊戯王っぽさがある僕のマジカルサーヴァンツ。

 遊戯王っぽさを消すにはどうすればいいのか聞いてみるけど秋人的にはこれでも充分に面白い。兄からしても遊戯王みたいな斬新な漫画は今ジャンプに載っていないから載せても問題は無さそうという。僕的にもこれをお蔵入りにするのは心が痛い。将来的に超人気漫画家になる亜城木夢叶から面白いと言ってくれるならばある程度は安心できるけど……まだ2人は漫画家として完成されていない。漫画家の卵にすらなっていない漫画家志望だ。完全に信頼してはいけない。

 

「やっぱり僕も持ち込みした方がいいかな?」

 

 1番ハッキリとした評価を得る方法は持ち込みだ。

 兄達が今日やった様に集英社のジャンプ編集部に持ち込んで編集者達からの評価をしてもらうことだが、僕は若干というかかなり怖い。漫画家になれば日本中の人達が作品を読むことになるんだからたった1人の人の評価に怯えてしまってどうするんだってなるんだけど、編集者と赤の他人だと編集者の声の方が遥かに重い。

 

「お前はまだ俺と違って時間があるんだから、そんなに気にするなよ」

 

「充電期間があるって言うけど、高兄と2年違うだけで2年なんてあっという間だよ」

 

 むしろ今だから焦らないといけない。

 

「俺との2年の間は絶対に埋まらないだろう」

 

「埋まらないって、忘れたの母さんとの約束……大学に行っている間に成果出さないと漫画家やめて普通に就職しろっての」

 

「……そういえばそんな約束したっけな」

 

 素で忘れてた兄。結構大事なことなのになんで忘れてるんだろうとチラッと秋人の事を見ると何故かニヤニヤしていた。

 

「最高、亜豆との結婚18にしたいもんな」

 

「ばっ、最良に言うんじゃない」

 

 ニヤニヤとしている理由はヒロインこと亜豆の結婚を望んでるのを知っているからだった。

 原作上では知っているが現実的な意味では知らないので素知らぬフリで聞いてみるとペラペラと語ってくれる秋人。流石に実の弟に結婚云々を聞かれるのは恥ずかしいのか兄は顔を真っ赤にする。公開プロポーズを相棒の横でやって退けた癖に今更なにを恥ずかしがってるんだか。

 

「……18じゃキツくない」

 

「バカ。だから今こうして必死になってるんだろう」

 

 今年15でアニメ化目指しての持ち込みからのスタートで3年ってどう考えても無謀である。

 3年以内に連載とか読み切りをやったってよくよく考えるととんでもないよな亜城木夢叶は……でもやっぱ20歳とかの方が良いんじゃないかと思う。互いに酒を飲める年齢になってるし、多少の酸いも甘いも噛み分けれる様になってるし。

 

「ヒロインの声優をその亜豆さんにするなら主人公の声優は阿部さんにしてもらったらいいよ」

 

「阿部?」

 

「高兄と声がそっくりな人……男の声優も目を向けたほうがいいよ」

 

 てか、メタい話をすればアニメ版のバクマン。のあんたの声優だよ。

 ヒロインを気にするのならば主人公の方にも……いや、声優全体に目を向けたほうがいい。鬼滅の刃って言うアニメでバカみたいに大ヒットして社会現象を巻き起こす一例があるんだから、適当な声優とアニメ会社を選んじゃだめだ。

 

「アニメ化アニメ化って言うけど、適当な会社を選んだら駄目だからね。京都アニメーションと他のアニメ会社だったら作画が圧倒的に違うとかもあるし……」

 

「あるし?」

 

「制作会社によっては放送話数の都合上、原作を弄って来るパターンとかアニオリとかやろうとする」

 

「た、確かに言われてみればNARUTOもONE PIECEもドラゴンボールも全部アニメオリジナルとかやってる……最高、アニメ化はいいけど複数から指名を受けたら制作会社は見て決めようぜ」

 

 火ノ丸相撲という題材はそこまで悪くないのに尺とか登場人物の都合上で一気に設定を変えまくる一例はある。

 FAIRY TAILだって無限時計編とかいう完全にアニメオリジナルあるし、一話完結だけどアニメオリジナル回とかもある……一話完結で一話だけのアニメオリジナルだったら許されるけど、長編をやると原作との帳尻が合わせれなくなって困る。

 

「アニメ化もいいけど、その前に先ずは連載だろう……多分、2つの地球じゃなんの賞にも掠らない。仮になにか賞を貰っても審査員特別賞とかの賞で価値は無い……新しい話を服部さんにぶつけるぞ」

 

「おう!今度は最高の意見も取り入れて作ってみるぜ」

 

 アオハルだなぁ。燃え上がる2人を見ているとこっちも頑張らないといけないと使命感を抱く。

 兄の様に将来の結婚を約束している誰かはいないし、後の秋人みたいに彼女が出来るわけでもない……まだ中学1年生だからいいけども彼女は欲しいな。前世では童貞で彼女のかの字も無かったし……漫画家は出会いってあるのかな。

 

「っと、僕も頑張らないと」

 

 30ページ以上ある原稿を1人で作り上げないといけない。

 ネームとかプロット以外は完全にデジタルでやっているので兄にペン入れを手伝ってもらうこととか出来ない。まぁ、自分の作品だって証明したいからあんまり手伝ってほしくないんだけど。

 それはそうとして新しい話を描くと決めた兄達に負けずにマジカルサーヴァンツを描く、描く、描く。ネームが描き終えるとおじさんの職場には行かず、家に引きこもって漫画を描く。

 兄達はあいも変わらずおじさんの職場に向かって、新しく1億分のと言う原作にも出てきた漫画のネタが浮かんだのか、前回の小説っぽいところを訂正していき、面白い漫画を作り上げる。

 

「最良、やっぱ2つの地球はダメだった」

 

「やっぱりか」

 

 引きこもってマジカルサーヴァンツを仕上げる日々を送っていると兄から報告を受ける。

 原作通り、予想通り2つの地球が月例賞でなんの賞も掠ることは無かった。あの内容じゃ無理なのは元々分かっていた僕は驚かず、兄もそんなに落ち込んではいない。

 

「悪いな。モブとかスクリーントーンとかベタとか色々と手伝ってもらったのに」

 

「僕が手伝ってなんかの賞を入賞したらそれはもう2人の作品じゃないっぽいし、そっちの方がいいと思う……今作っている作品、面白そうじゃん」

 

 僕からの評価も欲しいのかチラリとは設定文だけ見せてくれた1億分の

 原作じゃどんな内容か細かに語られていなかったけど、いざ読んでみると実に引き込まれる世界観だった。やっぱあの人、天才かなにかだと思う。もしかすると原作より早く作っているから本来よりも面白くなるんじゃないかと少しだけ可能性に賭けつつも僕もペンを走らせる。

 目指すは月例賞、でなく手塚賞……僕はギャグはどちらかと言うと苦手だから、赤塚賞は目指せない。新妻エイジを意識してる兄達も月例賞でなく手塚賞を目指して1億分のを描きあげて、互いにこれ以上が無いぐらいに完成した。

 

「せめて掠ってくれ」

 

 集英社に持ち込むの怖い。いざと言う時になんで勇気を出すことが出来ないんだと思いながらも封筒に入った原稿をポストに投函する。

 持ち込むのが怖いので集英社に向けて投稿する……大丈夫、新妻エイジも同じことをしていたから……。もう既にポストにぶち込んだので後戻りは出来ない。当たって砕けろと祈るばかりで、兄達は9月30日に集英社に足を運んで1億分のを投稿した。

 

「……誰だろう」

 

 中間テストで秋人が3位になった事以外は特に変わったことは無かった。

 やっぱりあの出来じゃなにも掠らないだろうと思っている10月21日、見知らぬ番号が携帯に掛かってくる。

 

「はい、もしもし」

 

『もしもし……私、集英社のジャンプ編集部の内田太樹と申します。こちら真城最良くんのお電話で間違いないでしょうか』

 

 !

 

「はっ、はははは、はひ!わたくしが真城最良その人でごごご、ごぜえます」

 

『そんなに緊張しなくていいですよ』

 

 僕は意外とあがり症だ。こういうのがあるから人前に出られないし、集英社に行けない。

 兄と同じく服部さんを一瞬だけ期待したけども流石にそれは無理だったかと身体中をブルブルと震わせながら電話に耳を傾ける。

 

「あの……ダメ、だったんですか?」

 

 あの遊戯王もどき、面白くなかったのかな

 

『逆です、現時点で最終候補まで行ったのでその連絡をしました……13歳て書いてあるけど本当なんだね』

 

「は、はい!しょうがきせいの頃から漫画を描き続けてましたぁ!」

 

『落ち着いてください……とにかく、最終候補以上には決まったことだから本誌に名前が載ることは決まってるんですけど………大丈夫ですか?』

 

「は、はひぃ……大丈夫とはどういうことですか?」

 

『まだ中学生みたいだし名前が載ると大変じゃないかなって』

 

「いえ、是非とも載せてください……真城最良ここにありって証明したいですから」

 

 漫画家なんて大丈夫なのかと心配をする母を納得させるにはとにかく成果が必要だ。

 まだ本誌掲載を夢見るには早いけども、少しでも本誌に名前を残せるのならば残しておきたい。そうすれば母さんも漫画家を頑張れって言ってくれる。まだ手塚賞の最終候補までだから正式な決定は決まっていないけど、名前自体は載るから誇った方がいいと内田さんは言ってくれる。

 

「っと、自惚れたらダメだ」

 

 亜城木夢叶はここでコケてしまったから、僕も自慢げになってはいけない。手塚賞の最終候補の8本に入ったことを兄や母さんに自慢したくなったけども、こういうのは正式に決まってから。あの作品は手塚賞向けに作っている作品だから新しい作品を作る。

 僕の記憶が正しければ今回も新妻エイジが投稿してきて入選は無理なんかじゃないかと思って少しだけ項垂れる。

 

「え……すみません、もう一度お願いします」

 

『おめでとう、手塚賞準入選です』

 

 11月10日、僕は新妻エイジの作品を1つ抑えて準入選を果たした。



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漫画家にすゝめ 6 

「え、え……本当ですか?」

 

 手塚賞の最終候補に入っただけでも充分にスゴい。それなのにまさかまさかの手塚賞に準入選にした。

 あまりの事にもう一回僕は内田さんに聞き直す。

 

『はい、本当です……手塚賞に入賞した最年少の記録を更新して、編集部も大盛り上がりで』

 

「あの……遊戯王っぽかったとかそういう感じの批評な意見とか無かったんですか?」

 

 盛り上がってくれているところありがたいけど、遊戯王っぽい漫画を描きたかったりしたからマジカルサーヴァンツが出来た。

 カードゲームによるバトルはしていないけどモンスターを使ってのカッコいいバトルをしているのには変わりはない。

 

『そうですね。モンスターを使役してバトルする系はカードゲーム系のアニメとかがよくやっていて、漫画でやっているところは少ないんです。巨大なモンスターを使役して攻撃するとかは幾つかあるんですけど、遊戯王はカードゲーム漫画な部分があるので少しだけチラつくぐらいで編集部や手塚プロダクションの人達はあんまり気にしていませんでした』

 

「そ、そーですか」

 

 遊戯王は色々なゲーム物で、途中からデュエルモンスターズによるバトル主体になった。

 カードゲームを漫画家にしたものを成功していてKONAMIがカードゲームとしてちゃんと成立をさせた。遊戯王と言えばあのカードゲームだと世界中に浸透させていている。その辺りを気にしてみるとあんまりその辺りは上の人達は気にはしていない。

 

『それでですね、手塚賞に準入選しましたので受賞式に参加の方を……住所からして集英社に1度足を運ぶ事は可能ですか?』

 

「は、はい……明日にでも集英社に行けます」

 

『じゃあ、明日の17時にお待ちしております』

 

「……ふぅ、胃の痛みから開放された」

 

 携帯の電源を切ってホッと一息をつく。自分の漫画がどうなるのかで心臓がバクバクと鳴っていた。

 キリキリとしていた胃が今日やっと開放された。手塚賞の最終候補に入っただけでも立派なのに、手塚賞に準入選……つまりNo.2に入ったという事……半端じゃないな。

 

「あ……他に誰が入ったのかを聞くのを忘れてた」

 

 僕の上に誰が行ったのか聞くのを忘れていた。佳作と入選が誰で最終候補に残った人達が誰かも聞き忘れた。

 兄の1億分のはネームだけ見たが非常に面白い漫画に仕上がっていた……けど、今回はなんの手も貸していない。

 モブや効果線、背景なんかをやっていないので原作よりもパワーアップしているなんて事は一切無い。あの時点で面白いってのにそれがちゃんとした絵になるなんてもうワクワクが止まらない……それでも手塚賞に掠る事はしなかった。新妻エイジが入選と準入選に入っていて本来ならば手塚賞に入っているぐらいらしい。

 

「はぁ〜……僕が手塚賞に準入選か……」

 

 兄の事も気になるけど、気持ちが少しだけ落ち着いたのでベットに寝転ぶ。

 前世じゃ田舎暮らしで東京に足を運ぶことすら一生無さそうな人生を送っていたのに今あの手塚賞に準入選する程まで成長している……地獄でバトル物の世界に転生しても問題が無いように鍛えていたの圧倒的に無駄になったけども。

 

「っと、高兄に報告を……した方がいいのかな?」

 

 今頃兄も手塚賞に入ったか落ちたのかの報告を受けているはず。

 原作以上の事はしていないので多分、最終候補に止まっただけで佳作や準入選はしていない。最終候補止まりのところで今ここで兄達に手塚賞に準入選した事を報告していいものだろうか。どちらにせよ本誌に名前を載ってしまうのは決定事項でジャンプ好きのあの二人には隠し通すことは出来ない。

 

「どちらにせよ母さんには報告しておかないといけないし……」

 

 ちゃんとしたハッキリと目に見える成果を上げることができた。

 漫画家になるんなら大学までに成果を上げてみろという母さんに報告したら喜ぶ……何時言う?……今すぐに報告してもいいけども、どうせならば兄を驚かせたい。今頃仕事場で項垂れている二人に電話をしようと悩みに悩んでいると母さんが夕飯が出来たと言う。

 

「母さん」

 

「なに?」

 

「その……集英社に漫画を送ってみたんだけどさ……」

 

「どうだったの?」

 

「それが……手塚賞に」

 

「ただいまー」

 

 準入選をした。

 そう言おうとした途端に高兄が帰ってきた。

 

「最高、貴方おじさんの職場で根を詰め過ぎてないかしら……この前の中間で成績は良かったからいいけど無理は禁物よ」

 

 夜遅くまでおじさんの職場に入り浸っている事に対して母さんはあまりいい顔をしない。

 前のテストで秋人がテスト対策をしてくれたからそれなりに成績は良かったようだから色々と言いづらいんだろうな。

 

「ごめん」

 

「ごめんじゃないわよ、漫画を作るのもいいけど程々にしておかないと本当に体を崩すわよ」

 

 母さんの言葉を言い返すことは出来ない兄。

 漫画を描き始める前には無かった目の隈が兄の不健康さを物語っているのだから僕からはなにも言えない。1度マジでぶっ倒れるから……う〜ん、本当にどうしようか。漫画家になったら定期的に健康診断を受ける約束してるけど、この兄が守るだろうか……まぁ、今はいいか。

 

「最良、手塚賞に応募した漫画のデータ残ってるか?」

 

「残ってるけど、見たいの?」

 

「ああ……俺との違いを確かめたい」

 

「貴方達、こんな時も漫画だなんて……はぁ。夕飯が冷めちゃうから先に食べなさい」

 

 漫画熱が冷めない僕達二人に諦めたのか母さんは大きなため息を吐いた……。

 

「高兄、知ってるの?」

 

「なにがだ?」

 

 夕飯を頂くけど、なにも言ってこない兄。

 僕の漫画をもう一度読みたいと言ってきたので、担当編集こと服部さんに色々と伝えて貰っているかと思ったそうじゃないみたいだ。兄は持ち込みで僕は投稿だから接点が無いと思ってしまった……なんで編集部に兄弟だと気付いてほしいと思ってるんだろう。兄弟で漫画家とか珍しいとか思われるのなんか嫌だな。

 

「僕が投稿したやつ、手塚賞に準入選した」

 

「んぐぅ!?」

 

「ちょ、喉に詰まらせないでよ」

 

 やっぱり僕が手塚賞に準入選していた事を知らなかったのか驚く兄は白米を喉に詰まらせる。

 ドンドンと胸を叩いて米を胃の中に入れようとするので僕はお茶が入ったコップを兄に渡すと兄はグイッと一杯飲み干す。

 

「手塚賞ってアレでしょう。漫画のコンテストかなにかのやつよね……貴方が準入選したって本当なの?」

 

「ホントだよ……母さん、ちゃんとした成果を作ったよ」

 

「……」

 

 まだ本当の意味で成功は納めていないけど、漫画家として一発当ててやった。

 手塚賞を貰うことはとても難しい事で母さんは一瞬だけ疑いの眼差しを向けてくる。ここでジャンプを出して準入選の項目を見せれればカッコいいんだけど、正式な発表はまだ先だから見せることは出来ない。

 

「最良が準入選……」

 

「準入選したら100万円入るらしいから銀行口座を作りたいんだけど」

 

「え、ええ……」

 

 いきなりの準入選に母はイマイチ、ピンと来ていない。

 兄はと言えば固まっている……きっと僕が手塚賞に準入選した事について驚いていて受け入れる事が出来ないんだろう。

 

「それと受賞式が平日だったら学校を休ませてね」

 

「まぁ、貴方なら1日休んだ程度なら問題は無いと思うけれど……最高?」

 

「……クソっ!」

 

 母さんからの許可を頂くと兄はやっと現実を受け入れたのか本気で悔しがる。

 1億分のは本当に出来の良い作品でこれなら手塚賞に入ると思っていただけになにも掠る事なく終わったのは、はいそうですかと受け入れる事が出来るほど兄はまだ大人じゃない。

 

「こら、最高!最良だけが賞に入ったからって悔しがらない」

 

「母さん、いいんだよ……高兄は本気でやって本気で悔しがってるんだ。それを否定したら駄目だよ」

 

 兄の態度を叱る母だが、兄がやっていることは当然のことだ。

 兄は結婚云々を置いても本気で漫画家を目指していて、自分の漫画が入選しなければ悔しがるのは……実の弟に先を越されて悔しがるのは普通だ。

 

「最良、マジカルサーヴァンツを見せてくれ!」

 

「いいけど、1億分のコピーがあるんだったら見せてよ」

 

「おじさんの仕事場に置いてあるから後で取ってくる」

 

「コラ!家に帰ってきたんだから、もう一回おじさんの仕事場に行こうとしない」

 

「いいんじゃないか……」

 

 おじさんの仕事場に戻ろうとする兄にやめろという母さん。

 しかしずっと黙っていたお祖父ちゃんが口を開いていってもいいんじゃないかという。

 

「今、最良と最高は一番燃えてる。それをわざわざ水を差す様な真似は出来んよ」

 

「お祖父ちゃん……」

 

「じゃが、夕飯はしっかり食べろ……飯をちゃんと食っておかないと力が出ん」

 

「そうだね……高兄、最近はおじさんの仕事場に籠もりっぱなしだしちゃんと栄養を取らないと」

 

 兄は料理は出来ないし、ちゃんとした物を食べれる時に食べておかないと栄養失調かなにかで何時かマジでぶっ倒れる。

 お祖父ちゃんに飯はしっかりと食えと言われたのでガッツいて素早く食べようとはせずにモグモグと夕飯を頂く兄と僕。ご飯を食べ終わると兄は1億分ののコピーを持ってきたので僕は自分の部屋に兄を招き入れて手塚賞に準入選した作品であるマジカルサーヴァンツを見せる。

 

「……面白いな……遊戯王がチラつくって思ったけど、改めて見ると全然遊戯王がチラつかない」

 

「多分だけど遊戯王はカードゲームの側面で強いからマジカルサーヴァンツと内容が被ってない様に見えるんだよ」

 

 僕のマジカルサーヴァンツを改めて読み返す兄は漫画を面白いと評価してくれる。

 普通に嬉しいことだが、兄は自分の漫画と比べたりするのだが比べたって意味は無い。兄の漫画と僕の漫画では圧倒的に内容が違う。秋人の漫画は色々と設定に凝っていて少年向けの漫画じゃない。

 

「俺の作品と比べてどう違う?お前の作品と違ってなにが悪いと思う!」

 

「ちょ、ちょっと待って……まだペン入れした高兄の作品見てないんだから分かんないよ」

 

 落ちたことが堪えているのか自分の作品と比べ出す兄。持ってきた1億分のをまだ見ていないのでなんとも言えないと一旦落ち着かせて、コピーしてきた1億分のを見る。人間がランク付けされる世界でそれを止めさせようとする主人公達が実は裏で世界を扱っていたコンピューターとの戦いに発展していく話で、話は実に作り込まれていて面白い……面白いには面白いけど

 

「……絵じゃないな」

 

「っ、やっぱり俺の絵が漫画の絵じゃなくてデッサンなのが」

 

「そうじゃない。作品と絵は合ってる……問題は作品の方だよ」

 

「どういう意味だ!?秋人の話、滅茶苦茶面白いじゃないか!」

 

「設定が色々と凝っていて全体的に暗い作品で子供向けじゃないよ」

 

 1億分のは確かに面白い。けど、いざこれがジャンプに載ってるとなると違和感をおぼえる。

 

「例えばこれがジャンプじゃなくてヤングマガジンとかヤングジャンプとかの青年誌に載ってるって言われたら、違和感を感じる?」

 

「違和感……確かに言われてみれば、載っててもおかしくはない」

 

「高木さんの話は面白いんだけど全体的に見て大人っぽくて青年誌に載ってるちょっと考えさせられる漫画なんだと思うんだよ」

 

「子供向けじゃないって言うのか?」

 

「多分、それに近い……けど、面白い事には変わりないんだよな」

 

 この作品が手塚賞に後一歩のところまでなのは新妻エイジが原因なのあるけど、単純に難しすぎる。

 勧善懲悪物のバトルにしては色々と設定とかキャラの描写に凝ってて、面白いけど少年漫画では中々に見ないジャンル…邪道と言われているだけの事はある。

 兄と1億分のとマジカルサーヴァンツの違いを比較したり、何処をどうすれば良かったのだろうかという漫画談義が熱くなり気付けば夜中の2時を過ぎており、珍しく僕は夜更しをした。

 

「すみません、17時でジャンプ編集部の内田さんでアポを取ってるんですけど」

 

「ジャンプ編集部ですね。こちらにご記入の方をお願いします」

 

「あ、学生なんですけど」

 

「でしたら職業の欄に学校名をお書きください」

 

 学校が終わり、家で制服から私服へと着替えてやって来たのは天下の集英社。

 昨日にアポは取っているので受付で軽く手続きを済ませると受付嬢の人が内線でジャンプ編集部に繋いでくれた。

 編集部に上がることは出来るかなと少しだけ期待はしてみたが、そんな事は無く待合室っぽいところの4番で待っていてくださいと言われた。

 

「すみません、おまたせしました。ジャンプ編集部の内田太樹です」

 

「は、はは、はじめまして真城最良です」

 

「はは、そんなに緊張しなくていいです」

 

 出てきたのは確かにKOGYだかなんだか忘れたけどもアーティストから漫画家になると発表した馬鹿野郎の担当さん。イマイチパッとしていないけども序盤から終盤まで一応は出ていた人だ。例えパッとしていない人でもジャンプで編集をしている人でどうしてもあがってしまう。

 

「これ、僕の名刺です」

 

「ありがとうございます」

 

 緊張が中々に解れないけど話は進む。内田さんは電話番号とメールアドレスが手書きされている名刺を渡される。

 兄達はメールアドレス止まりだったけど僕は携帯電話の番号もくれる……よっしゃ。一歩前進したぞ。

 

「なにか飲む?」

 

「じゃ、じゃあアイスコーヒーを……」

 

「アイスコーヒーですね。すみませーん」

 

 茶が出た……ヤバい、興奮が納まらない。

 

「マジカルサーヴァンツ、読ませていただきました」

 

「は、はい」

 

「昨日の電話でも言っていた様に若干遊戯王っぽいところはある。設定のところで遊戯王と被ってるっと言う人と全然被ってないと言う人の2つに分かれたんだ……あ、僕は遊戯王に被っていないと思います。あれは最初はホビー漫画だったけど最終的にカードゲーム物になりましたから、どうしてもそう見えないんです」

 

「そ、そうですか……」

 

「マジカルサーヴァンツは遊戯王が被ってるのを除けば編集部からも大好評で、それが無かったらもしかしたら入選に入ってたかも」

 

「あの……入選ってどんな人の作品か分かりますか?」

 

 僕のマジカルサーヴァンツを褒めに褒めてくれる内田さん。だけど、僕のマジカルサーヴァンツは準入選でNo.1じゃなくNo.2だ。

 原作知識があるとはいえもしかしたら万が一があるかもしれないので聞いてみた。

 

「入選した子は君の3つ上の新妻エイジって子で、入選だけじゃなく佳作も入っていて……この前の手塚も彼が入っています」

 

「新妻エイジ……僕の作品と何処が違いがありましたか!」

 

 ここまで来たのならば知りたい。兄には申し訳ないけど、準入選でなく入選を取りたかった。

 

「絵構成は負けてません。けど、モンスターを使役して戦うが遊戯王と被っていて、主人公の相棒がドラゴンなので他のカードゲームのアニメと被っていたりするんで。今回審査をしてくれたのは稲垣先生、尾田先生、鳥山先生、岸本先生、SQの編集長とうちの編集長で、編集長達が遊戯王と被っている意見でした」

 

「オリジナリティが無さすぎる、ですか?」

 

「いえ、これでも充分にオリジナリティ溢れてます……真城くん、君には才能があります」

 

「……ありがとうこざいます」

 

「手塚賞に準入選したけれど、これからはどうするつもりで?」

 

「週刊少年ジャンプでの連載を目指します……高校に行きながらでも、絶対に」

 

 僕には充電期間が兄よりも2年長い。けど、そんな事は大したことじゃない。ここまで来たのならばやれるところまでやってやる。

 幸いにもアナログじゃなくてデジタル原稿な僕は1人で描けば17〜19日ぐらいで読み切りや短編の原稿が仕上がるからアシスタントをつければもっと短く出来る。

 

「高校行きながらの連載ですか……なにも良いことはありませんけど」

 

「それが親が漫画家を目指すことをあんまいい顔をしなくて……短期でもなんでもいいですから成果を上げておかないとやめろって言われてるんです」

 

 既に手塚賞に準入選した事を伝えているので母の顔色を伺う必要は無くなっているけど、一応は使える嘘なのでついておく。

 編集にとって僕は金の卵なのでその事を伝えると内田さんはギョッとした顔をする。

 

「分かりました……じゃあ、次は本誌に読み切りか赤マルを目指して頑張りましょう。今度からはネームでいいです」

 

「は、はい!よろしくおねがいします」

 

「それで手塚賞に関して話しますね」

 

 一先ずの方向性は決まったので手塚賞の受賞式に関しての説明を受ける……よく考えれば手塚賞の受賞式で新妻エイジとか福田真太に会ったりするんだ……ああ、なんか胃がキリキリとする。多分だけどこの胃がキリキリとするのは漫画家になる上では一生の付き合いになるんだよな……でも、嬉しい悲鳴な気もする。



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漫画家にすゝめ 7

主人公が描く漫画を考えないといけないのが意外とキツい


 3年の秀才こと高木秋人が同学年の生徒を殴ってしまい停学になった。この辺りは原作通り……原作通りになって良かったのだろうかと思うが、別にそこまで気にする所じゃないからいいや。

 

「なぁ、どれが面白い?」

 

 手塚賞に準入選して受賞式が迫っている。本気で漫画家を目指している僕には遊んでいる暇は何処にもない。

 おじさんの仕事場で新しい話でも作ろうかとなったが中々にアイディアが浮かばないでいると秋人がネームを僕に見せてきた。

 

「なんで僕に聞いてくるんですか?」

 

「それは……」

 

 秋人の相棒は兄であり僕じゃない。それなのに僕にネームを見せてきている。

 時期的に服部さんからネームで持ってこいとか言われたりしているのになにを焦って……いや、焦るか。最終候補止まりで目の前に居るのが準入選だから。

 

「最高の絵は問題は無いんだ……今回手塚賞を逃したのはオレの話に問題がある」

 

「問題があるって充分に面白くて最終候補まで行ったのにですか?」

 

「最終候補に行ったんじゃない。最終候補止まりだ……最高の絵は練習すれば上達していけるけど、オレの話はそうはいかない。丸々一個新しいのを作ってそこを風船みたいに膨らませないといけない。今回の手塚賞を審査してくれた先生達は面白いって評価してくれたけど編集長はハッキリと面白くないって言ってきた。どうしたら話が面白くなるか上手くなるか分からない。だからお前の意見を聞きたいんだ!」

 

「そうですね……マジで言っていいんですか?」

 

「ああ、マジで言ってくれ!」

 

「ならハッキリいいます。これより面白い漫画があるよって言われるレベルです」

 

 ネームや設定だけを見ても面白いか面白くないかと言われれば面白い。けど、これより面白い漫画があるかどうかと聞かれればあると言えるレベルだ。

 

「そ、そんなにか」

 

「高木さん、描く方向が定まってない感じがします。前に言いましたよね、一通りのジャンルを描いてみたらどうかって」

 

 スポーツ漫画とバトル物の漫画の割合が多い。

 流石におっさんの趣味を美少女にさせる系の漫画とかは無いけども……

 

「あれから色々とやってみたんだけど、やっぱジャンプで描くなら王道なバトルものだって」

 

「でも、ハッキリ言って今の連載陣と渡り合えるぐらいの面白さは無いです」

 

「ぐっ……じゃあ、どうすればいいんだ?」

 

「今までにない新しいジャンルでも開拓すればいいんじゃないでしょうか?ジャンプっぽくないとか受けないとか思える漫画が今のジャンプに必要だったりすると思います……あ、完全なギャグと困ったらエロに走るタイプの漫画はやめてくださいね。ギャグは高木さんがエロは兄が描けなくて死にます」

 

 高木秋人は残念な事に王道的な漫画は向いていない。ジャンプらしくない邪道的で考えさせられる漫画が向いている。

 故にいま教えれる事はそれぐらい……。

 

「新しいジャンルか……いきなり言われてもな」

 

「今までの王道的な展開をぶち壊しつつ王道的な展開を守るってのも意外といいかもしれないですよ」

 

「王道をぶち壊す王道ってなんだよ」

 

「例えば、悪と戦う定番なバトル物ですが戦う正義側が2つの陣営がいて一つは世界を支配しようとするのを阻止する為の典型的な正義でもう1つはその悪が持っている技術とかを奪う為に戦ってる。明確に見える悪なので完全な敵と見なして殲滅しようとする正義の味方と、奴等の持っている技術や道具を奪って不治の病を治す願いを叶えようとするっていう感じの展開なんてどうです?」

 

 完全にスーパー戦隊の怪盗戦隊ルパンレンジャーvs警察戦隊パトレンジャーのパクリだが、ネタとしては悪くはない。

 ジャンプ以外にもこの世には無数の漫画が存在しているんだ……あ、なんか閃きそう。

 

「なるほど、W主人公か」

 

「後は……全てが出来る系の漫画ですね」

 

「全てができる系?全てってラブコメとかバトルとか全部か」

 

「銀魂とかSKET DANCEとかある意味そうじゃないですか……えと……あった。これもそうです!」

 

 銀魂はなに漫画かと言われれば答えづらい漫画だ。

 ギャグもシリアスも人情も全てをこなしていて万事屋の設定でスポーツの助っ人の話を描いたりも出来る。SKET DANCEも学校限定だが色々なネタが出来る……ギャグを考えるのは難しいけど、全てをこなせる。

 前に一発ネタとして描いた若者達がテレビ離れをしていくので面白いテレビ番組を作ろうとするスペシャルチームが作られて色々な特番を作ったりする日常系(ドタバタコメディ)の漫画がある。あれならばどうにかなる。

 

「なるほど、ドタバタコメディか……けど、こういうのって最初は上手くやれてるけど最終的にバトル物になっちまうんじゃないのか」

 

「なに言ってるんです……空知先生は何事も無かったかのようにギャグ回をやりますよ」

 

 僕は好きな漫画はなにかと聞かれれば色々とある。設定や世界観ならキン肉マンが大好きだ。超人という種族が社会に根付いているからだ。

 けど、本当に1番に尊敬出来る漫画がなにかと言われれば銀魂だ。ギャグがヤバいとかそういうのもあるけどもなによりも恐ろしいのが銀魂は両立している。

 

「紅桜篇をやった後の後日談的な話で山崎が銀さん調べる話があるじゃないですか。完全にギャグ回ですよ。ちょっとシリアスとか人情物じゃなくてギャグです……普通出来ますか?」

 

 本誌での最後にテニプリっていいなを載せたり、GIGA移って早々にDRAGON BALLやったりとにかくギャグの次元が違う。

 シリアスな展開をぶち壊すギャグをやってるのに人気を取れる。シリアスなバトル回とか事件解決編とかやった後にギャグの長編をやれる。

 テニスの王子様みたいに普段は真面目にやってるけども稀にギャグ回を挟んだりするとかそういうレベルじゃない、本当に恐ろしいぐらいに完成されてる。

 

「た、確かにそう言われてみれば……鳥山先生と岸本先生とか目立つけど空知先生滅茶苦茶スゴイな。あの人もジャンプの人気漫画家なんだよな」

 

「僕も空知先生の様な漫画家になりたいですよ」

 

 カニを食うだけでラピュタにまで話を持っていける才能が欲しい。

 

「空知先生か……そうだ!」

 

「どうしたんですか?」

 

「どの漫画のなにがいいのか分析してみよう。今週号のジャンプに載ってて一年以上の連載陣の漫画をっと」

 

 ジャンプを開いてラストページの目次を見る秋人。一応は力になることが出来て良かったと思いつつも今度は自分の真っ白なノートを見る。

 今回準入選したマジカルサーヴァンツは我ながら良い出来だと思う。遊戯王と被る点は幾つかはあったけども面白い作品で……それ以外の作品を仕立て上げないといけない……難問だけど、焦るな僕。

 幸いにも手塚賞に準入選したと本誌に名前が掲載されたので母さんは僕が漫画家になることを反対したりしない。手塚賞と言う1つの賞に準入選したんだ、そこは誇っていい……誇っていいけどここで終わったらいけない。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「あ〜緊張する」

 

 場所は打って変わり東京都内某所。手塚賞に準入選した僕はと言うと胃をキリキリと痛めながら手塚賞の授賞式へと足を運んだ。

 スーツは持っていないので制服で行ってやろうかと思ったが、これから漫画家を目指すんだから無理に背伸びした服装よりも私服の方がいい。そう思った僕は私服でやって来た。

 

「こういう時に内田さん居てくれたらいいのに」

 

 1人ぼっちで会場内を歩く。心細くなんだか涙が出そうになるが必死に堪えて会場内を歩く。

 目的は唯一つ、この会場には手塚賞だけでなく赤塚賞に佳作以上に入った作品も載せられていてその作品を読みに行く。

 

「新妻エイジ、パない」

 

 一番の目当て、今回手塚賞に入選をした新妻エイジの漫画に心を奪われる。

 作画の時点でもう既に面白いと思えてきて一気に世界観に引き込まれる。仮にこれがこの漫画の第1話だったら僕は投票をしているだろう。

 これからジャンプで連載を目指すからには最低でもこれ以上に面白い漫画を描かなければならない……僕に出来るだろうか。

 

「……クソ、面白え」

 

 新妻エイジの作品に感銘を受けていると隣で苛立った諏訪部ボイスが聞こえる。

 まさかと思い振り向くとそこには帽子を被った18ぐらいの男性……今回の手塚賞に佳作に入った福田真太こと福田さんがいた。僕と同じく新妻エイジの作品を見て面白いと評価しているが悔しがっている。

 

「福田くん、探したよ!」

 

 モジャっとした髪型が特徴的な編集、服部雄二郎がやって来た。福田さんを探しに来たようだ。

 

「もう直ぐ式があるから準備をしないと」

 

「雄二郎さん、今回の2人もちゃんと来てるんすよね」

 

「ああ。新妻くんも真城くんも来ている。後で嫌でも顔を合わせるから、ほら早く」

 

 雄二郎さんに連れられて会場のメインステージに連れられる福田さん。

 これは僕も内田さん辺りが呼び出しに来るんじゃないかと思い、最後だからと自分の作品を見に行く。

 

「……ちゃんと漫画になってる」

 

 今回の準入選として原稿の1枚1枚が貼られている。

 さっきの新妻エイジの作品を読んだ後だからか少しだけインパクトが薄い。

 

「う〜ん……」

 

「!」

 

 そりゃ新妻エイジに負けるなと感じていると新妻エイジが僕の作品とにらめっこをしていた。

 

「謎ですね」

 

「……僕の作品の何処が謎なんですか」

 

 なにかに悩んでいる新妻エイジ。

 僕の作品の何処かに疑問を感じているので思い切って声を掛けてみた。

 

「おおっ、真城先生ですか!」

 

「はい……もしかして新妻エイジさんですか?」

 

「はい!新妻エイジです」

 

「僕の作品を見て何処か首を傾げていて、面白くなかったり遊戯王っぽかったりしたんですか?」

 

 僕の作品は今のところは準入選まで行ってるいい感じの作品だ。

 マジカルサーヴァンツの続きを描けと言われれば出来る作品で……やっぱり遊戯王と被ってるのが気になるか

 

「真城先生、これ貴方1人で描いたんですか?」

 

「描きましたよ……あ、でもパソコンとか使って描いたんで迫力とかは」

 

「いえ、充分にあります……ただこれ13歳の人が描いた風に見えないんですよ」

 

「!」

 

「二十歳過ぎた大人が描いた漫画みたいな感じで、僕より若くて僕より大人な作品を描くってなにか秘訣でもあるんですか!」

 

 漫画を見ただけで、僕がただの13歳の漫画家じゃないと見抜くとか新妻エイジはスゴい。

 グイグイと聞きに来る新妻エイジ。正直に転生者なんですよなんて言えないのでどう誤魔化すか……いや、僕の漫画理論でも教えればいいのか……。

 

「新妻さん、漫画好きですか?」

 

「もちろんでーす」

 

「じゃあ、漫画の好き嫌いはありますか?連載を長引かせてグダグダとやってるとかじゃなくて話が苦手とかそういうの」

 

「あ〜そういうのは考えたこと無いです。どれもこれも面白い漫画ですから」

 

「多分、その辺りで差が出たんだと思います」

 

 好きな漫画とそうじゃない漫画と僕はどっちかと言えばハッキリとしている。

 ライトノベル系の作品はあんまり好きじゃない……ハイスクールD✕Dとかこれゾンとかデート・ア・ライブとかとあるシリーズとか普通に好きじゃない。地球とかが舞台で秘密の組織とか主人公の周りだけキャッキャしてるのはあんまり好きじゃない。特に主人公が綺麗事ばかり言うタイプの作品は割とマジで苦手で…ある日突然なにも知らない系の主人公、好きじゃないんだよな。

 

「僕は漫画の話とか設定に好き嫌いが結構あります……そこがハッキリとしてるから大人っぽく見えたんじゃないでしょうか」

 

「なるほど、漫画の好き嫌いですか……真城先生、好き嫌いはよくありませんよ」

 

「なに言ってるんですか、この世でなにもかもが好きな人が居るわけないでしょう。新妻先生も無意識の内に描いてなかったり苦手だったりするジャンルの漫画があったりするんじゃないですか」

 

「う〜ん、少なくともマジカルサーヴァンツは描くことは出来ないですね」

 

「そういうとこです……因みに僕は熱血のスポ根とか普通に大嫌いですよ」

 

 この辺に関してはハッキリとしておく。

 けど勘違いしちゃいけないスポーツ物の漫画が嫌いなわけじゃない。テニヌとかプレイボールとか黒子のバスケとか普通に好きだ。描けないだけだ。

 

「真城くん、もうすぐ受賞式がはじまるから」

 

「新妻くん君もだよ」

 

 そうこうしていると自分の出番がやってきた。

 内田さんと同時に雄二郎さんも新妻さんを迎えに来ており、一緒にメインステージに連れられる。そこには嘗ておじさんこと川口たろうの編集をしていた現編集長がいた。

 

「!……そうか」

 

 ここに来て、はじめて編集長と顔を合わせる。

 編集長は僕の顔を見て直ぐにハッとなる……兄の事を気付いているなら知ってると思ったんだけど……まぁ、いいか。

 

「手塚賞準入選、おめでとう……先ずは最初の登竜門を開く事が出来てなによりだ」

 

「あ、あああ、ありがとうございます」

 

「そう緊張しなくていい」

 

「す、すみましぇん。どうしても緊張感が……」

 

 編集長から準入選の賞状を貰うけど、その手は震えている。

 やっと世間に認められるぐらいの作品を描けたのが今頃になって緊張感が増してきた……本当に情けない。人前に立つの向いてないんだよな。

 

「こんなところで緊張していたのなら漫画賞を受賞した時が大変だぞ」

 

「ま、まだそこまでのレベルの漫画家じゃないです」

 

「まだ、か……これからの君を期待している。是非ともジャンプの看板になる漫画家を目指してくれ。兄弟共々期待している」

 

「はい!」

 

 編集長から頑張れとの後押しを頂いた……これはもう頑張らないといけない。

 表彰状を受け取ったので長居するわけにはいかないとそそくさと賞金と賞状と共に壇上から降りていく。

 

「はい、笑ってください」

 

 一通りの授賞式を終えると今度は記念撮影に入った。

 僕は賞状を両手で持ってニコリと微笑みながら写真を1枚撮ってもらう……ふぅ、なんとかボロを出さずに済んだ。

 

「本当にスゴイよ。はじめての投稿で手塚賞に準入選だなんて」

 

「はい……って、喜びたいんですけど漫画家への登竜門が開いただけなんですよね」

 

 内田さんは褒めまくってくるが僕が目指しているのは漫画家だ。

 おじさんが出来なかった漫画家として一生食っていくのと1位を取るのを先ずは目標としている……今は登竜門が開いた事を喜ぶべきだろうが、今から僕は門の向こう側の世界の住人になっていくんだ。

 

「内田さん、出来る限り早く本誌に載りたいんで次を目指しましょう次を」

 

「ええっ、もう次を……いや、そうですね」

 

 手塚賞に準入選して喜ぶのはここまでだ。

 次は本誌掲載……は難しそうだから赤マルジャンプの掲載を目指して新しい読み切りを書き上げる。マジカルサーヴァンツは……これは連載向きだから連載とか目指す様になったら描こう。

 

「手塚賞に準入選したから次のステージ、赤マルジャンプで……なにか新しい読み切りのネタは浮かんでる?」

 

「いえ、全然です!」

 

「ぜ、全然なんだ」

 

 気持ちを切り替えたのはついさっきだ。

 新しい漫画のネタは浮かびそうで浮かばない……これはまたおじさんの部屋に入り浸って漫画でも読んでみるのもいいのかもしれない。

 スポーツ物は無理で完全なギャグ漫画も無理、銀魂みたいにギャグも日常もシリアスも全てこなす感じなら描ける、いや、描きたい……あ〜でも、それでも普通の王道的なバトル物を描きたい。カッコいいモンスターもいいけどカッコ良くて面白い能力を持った道具……海賊戦隊ゴーカイジャーのレンジャーキー……宇宙人が地球に眠ってるお宝を探す、なんか浮かびそうだ。



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漫画家にすゝめ 8 

息抜き息抜き


 

「う〜ん」

 

 手塚賞に準入選した僕は新しい漫画に悩んでいた。

 マジカルサーヴァンツと同等かそれを越える漫画を作らないといけない。赤マルでも普通のジャンプでもいいから読切的なのを載せないと家族の目が怖い。

 

「コレ、面白いんだけどな……出すつもりは無いのか?」

 

「ちょっと面白いけども出せる作品じゃなくてさ」

 

 手塚賞に準入選した際に閃いた新しいネタ。

 宇宙人が宇宙で最も価値のあるお宝を探しに地球にやってきて地球の文化や歴史を知り古代に眠っているお宝を集めるという話。宇宙で最も価値のあるお宝はアカシックレコードを書き換える力とか色々と描いてみたけど何処となくゴーカイジャー感が溢れている。

 コレを少しだけを手直ししてみたら現代の技術では再現不可能な神秘的な力の宿った古代のお宝を集めたり使用して戦ったりする話は……書いていて面白かった。高兄にネームの段階で読んでもらうとかなりどころか結構面白いとの評価をくれた。

 

「それさ……こう、轟轟戦隊ボウケンジャーと似てるんだよ」

 

 神秘的な古代のお宝を集める話、スーパー戦隊30作目の轟轟戦隊ボウケンジャーはそんな感じのお話だ。

 元々ゴーカイジャーに似ている話を弄ってボウケンジャーに似た感じの話になってしまっている。丸パクリにはなっていないけども似ている感じの話になっている……一応は物書きやってるんだから似ている話は描きたくない。

 

「俺、特撮とかあんま見ないからピンと来ないんだけど……古代のお宝を集める組織とそれを利用して世界征服を企む悪の組織、それを利用してのバトルとかめっちゃ熱くて燃える王道的なバトル漫画。しかも扱う古代のお宝の種類によってはコミカルなギャグ回も出来る」

 

「高兄、いっそのこと描いてみる?いい練習になるよ」

 

 僕の漫画を高兄は褒めてくれる。けど、コレは描くつもりは無いからいっそのこと高兄の練習の道具に利用する。使えるものはなんでも使わないと。まぁ、この世界は放置しておいても勝手にハッピーエンドを迎える感じの世界観だから別に僕がフォローしなくてもいいけど。

 

「いや、いいよ……そろそろ秋人(シュージン)がネームを作ってくれるから」

 

 僕が手塚賞に準入選した為に兄達は色々と焦っている。

 色々な漫画を描いてみればいいとアドバイスを送ってはみたが逆にそれが枷になっている。高木さんは色々なジャンルに手を出してみようとするのだけど、その為にいいネームが浮かんでいない。担当の人こと服部さんに邪道なネームを描いてきてくれとも言われているらしく、一度に色々と言われた為にどんなネームを描けばいいのか悩んでいる。

 そろそろ面白いのが出来てもいい感じ、赤マルジャンプの掲載を狙っているのだからなるべく良いのを作らないといけない。ノートを片手に色々と浮かんでくるネタを纏めていく。

 

「最高、面白いのが出来たぞ!」

 

 黙々とネタを描き纏めているとおじさんの仕事場に高木さんが乗り込んでくる。面白い作品が出来たと自慢気にノートを見せに来た。

 

「コレは……面白いな」

 

「……うわぁ……」

 

 高兄にネタが書かれたノートを見せる。高兄はその内容に魅せられる。

 どんな内容なのかと僕も見てみると……面白かった。文句無しに、こういう感じの漫画もあるんだと見せつけられる。この世は金と知恵……面白い。王道的な漫画とは程遠い、それが高木さんの持ち味だ。

 

「よし、コレを俺がネームにするよ」

 

 高木さんはネームを書いてくるけど、絵は描いてきていない。文字だけで面白い物は面白い物だと気付いたのと絵がそこまで上手じゃないから文章だけで、文章から高兄は絵を想像する。PCP描き始めた頃と同じ感じの描き方になってる。

 文章だけでも面白いのが伝わってきた高兄はやる気を出し、ネーム用の容姿に早速描き始める。

 漫画家の道を1歩リードしているとかそういうのは関係無い。面白い漫画を描かないといけないけど……ネタが浮かばない。本棚にある漫画は大体読んだことがある……この中には無い新しい作品を作り上げないといけない。

 

「ちょっとコンビニに行ってくる」

 

 おじさんの仕事場に居てもこのままでは進展が無い。

 気持ちを切り替える為におじさんの仕事場から出て、最寄りのコンビニに行ってアイスコーヒーを購入する。缶コーヒーでなくアイスコーヒー……その内、コーヒーメーカーを購入してみたいな。

 

「……」

 

 コーヒーを飲みながら考える。お宝を探す漫画はボツにした以上はそれよりも面白い漫画を描かないといけない……意外とプレッシャーになる。

 それはさておきどうするか。赤マルとかで恋愛物を描いても上を狙うのは難しい。今パッと浮かんだ恋愛物の漫画はタイムスリップ恋愛物の漫画が浮かんでる。ラブコメってどのキャラが人気になるのか分からないし、自分の推し面を並べたら性癖がバレてしまう。アイマスに転生した人がスカウトしたアイドルで性癖がバレるって昔聞いた話。

 

「あ、内田さんからだ……も、もしもし」

 

『もしもし、最良くん?赤マルに向けての漫画は順調ですか?』

 

「それがお恥ずかしい……1つ出来てるんですけど、似た内容のお話があったのでボツにして1から作り直しで」

 

『そうですか……一応どんな作品なのか気になるので、良かったらその漫画のネームを送ってください』

 

「はい、分かりました」

 

 ああホントに悔しいな。アイスコーヒーを飲み干すとコンビニを後にしておじさんの仕事場に戻る。

 おじさんの仕事場のFAXを使ってコピーしたネームを送ってみると直ぐに内田さんから連絡が来た

 

『充分に面白いです。今までに見ない感じの作品で、これなら赤マルで上位を取ることが出来ますよ』

 

「上位ですか……」

 

 1位を取ることが出来ると言ってもらえない……いや、今の自分の漫画家としての実力じゃコレが限界か。

 古代のお宝を集める漫画で赤マルを狙わないかと言われるけども僕はコレを描く気にはなれない。仮に描いたとしてもpixivに上げたりするタイプの話……だったら、それよりも面白い話を描ければいいんだけど……

 

「僕の漫画の面白さってなにか分かりますか?こう、此処が僕らしい漫画っていうのがあるか」

 

『そうですね……少し捻くれた王道を行く様に見えて王道の道から逸れていく感じが最良くんらしいです』

 

「王道から逸れた作品ですか……ありがとうございます。なんだか面白い作品が出来そうな気がします」

 

 内田さんにとっては些細なアドバイスだけど僕にとっては重要なアドバイスだ。

 王道から逸れた王道……仮に考えてみよう。プリキュア的な話を僕は……描くのは難しい。負けないとか絆とか諦めないとかの王道的な主人公は無理だけど…………ルパパト……あぁ、なんか浮かんでくる。

 

「プリキュアみたいな異世界から侵略者的な存在がやって来た設定で、主人公はそれに巻き込まれた一般人を主人公にして……ヒロインは1000年前の戦士にしよう」

 

 ニチアサ的な世界観でそれに巻き込まれた一般人が正義の味方的な奴等と協力はせずに戦う。

 第三の勢力的な立ち位置に立つ感じのポジションで……主人公は悲しい過去は背負っていないけども一般人だったが故に巻き込まれて酷い目に遭ったとかそういう感じの設定……ヤバい、ペンが一気に進んできた。新しいネタが浮かんできた僕はペンを片手にスラスラとネームを描いていく。

 

 タイトルは浮かばないけども内容は決まった。

 プリキュア的な事が起こっており、それに主人公である一般人が巻き込まれた。巻き込まれた主人公はニチアサでよくある敵を倒したらなんだかんだで街も元に戻って戦うプリキュア的なのの記憶が無くなるよくある展開が巻き起こるけども、主人公には精神操作的なのが効かない体質で主人公は全てを覚えていた。非日常が割と直ぐ側で巻き起こっているので怯えていると1000年前の戦士的な闇に堕ちていたヒロインと遭遇し、そのヒロインを撃退して元の姿に戻してそのヒロインから色々と聞いたりする……イケる!

 思ったよりもネームが早く描くことが出来たので早速内田さんに出来たネームを持って集英社で打ち合わせをする

 

「う〜ん……」

 

「ど、何処かダメな点がありましたか?」

 

 内田さんと面と向かい合ってるので緊張してしまう。

 新しく書いた新作の漫画のネームを内田さんは見てくれるけど頭を悩ませていた。僕らしさが出ていない漫画とか似たような話を見た事があるとかそれとも少年誌らしさが無いとか言われるかな……他の雑誌にも載っていると言われればその通りかもしれない

 

「これ、読み切りで納まりますか?」

 

「……あ……」

 

 赤マルジャンプに載るのは読み切りで連載漫画じゃない。

 僕が新しく描いてきた漫画は数話かけて面白くなってくる作品で1話から面白い作品じゃなく、読み切り向けの作品とは言い難い。

 

「何話もかけて徐々に徐々に面白くなってくる感じの漫画ですけど、赤マルは読み切りの一発勝負です。だったら先に送ってきた古代のお宝を集める作品の方が……1話完結で読み切り向けです」

 

「そうですか……う〜ん……」

 

 内田さんは先に送った方を指示してくれる。

 

「轟轟戦隊ボウケンジャーに設定とか似てたりしてるんですけど、その辺りはどう思いますか?」

 

「今、世界中に娯楽メディアはありふれています。多少被っていてもそれを上回るオリジナル要素を持っていればいいです」

 

「そう、ですか…………」

 

 オリジナル要素か……う〜ん……主人公は国宝の草薙の剣持ってたりするとかかな。内田さんは先に送った作品の方を推してくれるのでここは最後まで描ききってみようと思う。後に送ったプリキュア的なのは連載会議に何れは出したりする用にしよう。

 

「世界観は地球が舞台にしようと思ってます。政府の1つの部署がお宝を集めたり管理してるで、主人公は……」

 

「いいですね」

 

 内田さんとの打ち合わせは盛り上がる。

 描きたくない作品だけど面白くなる可能性を秘めている作品でもあり、設定とか世界観を纏める。内田さんは特にそれはダメあれはダメと言ってくる事は無い。僕の漫画を信頼してくれるから言ってくれてるんだと思うけど……出来ればアドバイスとか欲しかったかな。内田さんハズレではないけども当たりでもない……これは頑張らないといけないな。

 内田さんと漫画の大まかな設定を纏めていき、その日は終わった。後は僕の腕の見せ所、おじさんの仕事場でなく家に帰って文字に纏めたネタをパソコンを使ってネームにする。

 

『赤マルに掲載が決まりました』

 

 そのネームは割とあっさりと通った。落ちるかどうか心配だったけども、割とあっさりと通った。

 

『真城くん、よく聞いて……この赤マルには新妻エイジの作品も掲載されます……頑張ってください』

 

「……ええ、やるからには1番になりたいです」

 

 原作とかそう言うのは関係無しに1番になりたい。

 掲載が決まった漫画家は担当編集が自腹を切って奢る事になっており、僕は焼肉を奢ってもらった。食べ放題じゃない注文する形式の焼肉屋に来たのって何時ぶりだろう……注文形式の焼肉屋に通えるぐらいの漫画家に大成したいな。

 焼肉を頂いたら軽く打ち合わせをする……原作だと兄と高木さんは服部さんと1コマずつ打ち合わせしたけども内田さんは打ち合わせしてこなかった。新妻エイジよりも劣っていると思われてるのか、それとも……いや、漫画は結果が全てだ。面白い漫画を描けば読者は振り向いてくれる

 

「さて、問題は……タイトルですね」

 

 色々と話し合い、ここで1つの問題が浮上する。この漫画にタイトルが決まっていない……実は僕、名前を考えるセンスが無い。

 面白い話を考える事は出来るし台詞もいいけども、タイトルとかが中々に浮かばない。ある意味僕の弱点と言ってもいい。マジカルサーヴァンツがいい一例だ。もっと他にもいい感じのタイトルがある筈なのにそれが浮かばない。

 

「ゴールデン・ジパングじゃダメですよね」

 

 一応のタイトルはあるにはあるのだけど、この作品と微妙にマッチしていない。

 主人公の名前は平凡ではないけどタイトルにするものじゃない。こち亀みたいに場所を名前にするわけにはいかないし……う〜ん……轟轟戦隊ボウケンジャーに似ている感じの話だから……

 

「プレシャス……は、流石にまずいから……エルドリッチでどうでしょうか?」

 

「エルドリッチ?」

 

「黄金郷のエルドラドと裕福で贅沢を意味するリッチを合わせてみました……ダメでしょうか?」

 

「エルドリッチ……うん、いい名前です。この漫画のタイトルはエルドリッチに決まりだ!」

 

 こうして僕の読み切りのタイトルが決まった。

 微妙に作品とマッチしていないタイトルがなんとも言えないけども、その分内容で勝負すればいい。今回載せるのは赤マルジャンプ、競争相手はベテラン勢の漫画家達じゃなくて全員が新人だ。

 内田さんにもう原稿に入っていいと言われたので早速、家に帰り部屋に引き籠り漫画を描く。高兄達もおじさんの仕事場に泊まったりしてこの世は金と知恵を完成させた。気付けば1年ぐらい経過している。ホントにあっという間だ

 

「真城くん、速報3位だ」

 

「っ……3位ですか」

 

 高兄と高木さんが裏で色々とやっているけどもそれは2人の、亜城木夢叶の問題なので関わらない。

 1位を取れると思ってて、1位を取れたら連載を目指してもらおうとこの世は金と知恵の連載版を作っている。僕はそんな事はしない。自分の作品に自信はあるけど今回のライバルは全ての漫画、1位を取れても即座に連載に持っていく事は出来ない。僕が次に狙うのは本誌掲載だ。

 新しい漫画を考えないといけないけど、赤マルジャンプの順位が気になってしまっていて新しい作品に手が付かない。

 

「1位はこの世は金と知恵、2位はCROW、この2つの順位は数票だけ差があるから何時逆転してもおかしくはない」

 

「僕のエルドリッチは3位との間はどうなっているんですか!?」

 

「残念だけど20票以上の差がついている」

 

「っ……」

 

 分かっていた、分かっていた事だ。

 亜城木夢叶と新妻エイジは毛色は違えども天才と呼ぶに相応しい漫画家だ……凡人に分類される僕が横に並び立つには早々に出来ない。流石は原作キャラと言うべきか……20票以上の差が付いている。これが今の僕と原作キャラとの実力差……悔しいな。

 

「そう落ち込む事はないです、新人が速報で3位なんてとても良い事なんですから」

 

「そう、なんですかね……これから本気でジャンプの連載を目指すなら2人、いや、3人を追い越すぐらいの気持ちじゃないと……」

 

 特に亜城木夢叶、兄だからといって負けていい理由にはならない。

 この二人に勝てる漫画……邪道であり王道でもあるそんな感じの漫画を描かないといけない。2人に勝つ為に、今までに誰も見たことが無くて尚且王道的な漫画……あるのかわからないけど考えないと。おじさんに1位を取ったことを伝えないと。

 

「え?2位ですか」

 

 速報を聞いてやる気を出してから少し時間が経過し本ちゃんが伝えられる。

 順位が下がる事を覚悟していたけどまさかの逆、順位が上がっている……漫画は水物、蓋を開けるまで結果は分からない。

 3位は兄達のこの世は金と知恵で亜城木夢叶の上を行くことが結果的には出来たけど……微妙に納得はいかない。まだ亜城木夢叶の本領は発揮されていない。亜城木夢叶らしい作品とバチバチとやりあいたい。



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漫画家にすゝめ 9 

 

「2位ってマジなんですか?」

 

『はい……上に行くことが出来るとは思っていましたけど、2位は快挙だよ』

 

 少しだけ砕けた口調で喋る事が出来るようになったのは良いことだと思う。

 内田さんにもう一度尋ねてしまう。僕の読み切りが2位にランクインした事を確認すると2位は良いことだと褒めてくれる……マジかぁ

 

「轟轟戦隊ボウケンジャーに似てる感じの話だったのに、2位か……1位と3位は?」

 

『1位は新妻エイジのCROW、3位は亜城木夢叶のこの世は金と知恵……この世と金と知恵との間は15票ぐらいですね。1位との間は5票差で……充分な功績だよ』

 

「ありがとうございます……天下のジャンプで2位を取ったなんて夢を見ている気分です」

 

『……なにを言ってるんだ、君はコレから有名な漫画家になるんだろう。だったら此処で喜んでちゃダメだよ』

 

「!……そうですね、そうでしたね。今度は赤マルじゃなくて本誌に読み切りを掲載して高順位を取ってみせます」

 

 内田さんに言われて意識を現実に戻す。僕は人気漫画家になる為に金持ちになる為に頑張っているんだ……こんなところで喜んでいたらダメだ。

 意識を現実に戻した僕は内田さんに次の作品は本誌に載せるぐらいの気持ちで描いてくれと頼まれる。

 

「ふぅ……2位、2位かぁ」

 

 主人公である兄達を超える事は出来たが天才と呼ばれる新妻エイジを抜くのには至らなかった。

 エルドリッチは中々に自信作だったのだがそれでも1位には行かなかった……エルドリッチじゃ新妻エイジを抜くことは出来ない……エルドリッチの設定を生かしてもっと面白い話を描ける筈だ。喜ぶところで喜びつつ、超えることが出来なかった事を悔やむ。

 

「あ……」

 

 喜びを噛み締める時間は終わったと気持ちを引き締める。

 喉が乾いたので冷蔵庫があるキッチンに向かうと高兄と遭遇する。兄は3位を取って僕は2位を取ってしまった……気まずい空気が流れる

 

「その……おめでとう」

 

「ありがとう……って言えばいいのかな?」

 

 高兄は僕が2位を取った事に対して色々と思うところがある様で言葉が出てこない。

 祝福をしてくれるけれどもその顔は浮かない。絶対に1位を取ることが出来る自信があっただけに3位という現実をまだ受け止める事が出来ていない。

 

「この世は金と知恵、面白かったよ」

 

 アレは自分には描くことが出来ない作品だ。

 高木さんらしさが出ている……けど、アレで1位は少しだけ難しいと思うよ。

 

「お前のエルドリッチも面白かったぞ」

 

「ありがとう……次は読み切りを本誌掲載狙うよ」

 

「もう次が決まってるのか!?」

 

「ううん。でも、次からは本誌掲載の読み切りでって話になってる……読み切りで高評価を得て連載に持ち込みたい」

 

 僕はまだ中学2年生、充電する時間がたっぷりと残されている……けど、それを理由に胡座をかいてはいけない。読み切りを本誌掲載でそこから人気を得て連載に持ち込む。高校に行きながらは多分難しい……けどまぁ、兄に出来るのならば僕にも出来る筈だと思う。

 

「……もうそこまで行ってるのか……」

 

 高兄は心底悔しそうな顔をする。

 口では祝福してくれているものの3位と2位と言う目に見える結果を見せつけられたとなれば素直に喜ぶ事は出来ない。此処で無理に喜べなんて空気が読めない事は言わない。

 

「高兄も次を目指すんでしょ?」

 

「……ああ」

 

 でも一応は焚き付ける言葉を送る。次を既に目指していると目に闘志の様な物が宿っている。

 僕のこんな姿を見せられたらやるしかないと携帯を取り出して何処かに向かった……高木さんに電話をしているんだろう。とりあえず僕は水をグイッと飲んで喉を潤す

 

「おじさんの職場に向かおうっと」

 

 高兄達と目指すところは一緒だが、高兄達にはついていかない。

 おじさんの職場に辿り着くとそこには高木さんが既におり、おじさんの部屋に置かれている漫画を読み漁っていた。

 

「!、よ、よぅ」

 

「どうも」

 

 僕が部屋にやってきた事に気付くと気まずそうな顔をする。2位と3位というのがやっぱりネックなところだ……けども、コレが現実なんだ。

 兄が普段から使用している机に座らずアシスタントの人が主に使っていた机の上に座り自由帳を広げる……

 

「なぁ、最良。オレの話の何処が悪かったんだと思う?」

 

「唐突ですね……ジャンプらしく無いところとかですね」

 

「っ、やっぱり……王道を書くしかないのかな」

 

「いやぁ、高木さんの売りは王道じゃないところだと思いますよ……普通に王道を描いてもダメだって編集の人にも言われなかったですか?」

 

「言われたけど……その結果が新妻エイジにもお前にも勝てなかったんだ」

 

「だったらより面白い邪道を考えればいいじゃないですか。兄は絵の訓練を積むつもりですし……今まで描いたことのないジャンルに手を出すのもありかもしれません。一通り描いてみたんですか?」

 

 一通り描いてみて自分に合うタイプの漫画を見つけるのが先ずは大事だと思う。

 少なくとも王道的な普通の少年漫画は亜城木夢叶には似合わない。もっと捻っている感じのが似合っている。

 

「まだ描いてないものと言えば恋愛漫画ぐらいかな」

 

「困ったらエロやラッキースケベに走る恋愛漫画は僕は嫌いですよ。兄にも向いていないと思いますし……推理物とかどうでしょう?殴り合いの王道とは行かないですが定番と言えば定番ですよ」

 

「探偵物……トリックが思いつくかな?」

 

「トリックなんて似せても問題無いですよ、金田一少年の事件簿も堂々とパクった事を認めてるんですし……なんでしたら今までに無い探偵物のネタとかありますよ」

 

「それってどんな話なんだ!?」

 

「大富豪の一人娘に殺害予告が届いて名探偵が遺産相続が終わるまでの間、専属のボディガードを頼まれる。名探偵は僅かなトリックの種を見つけて大富豪の一人娘を殺そうとする前に犯人を捕らえるっていう殺害をさせない推理物です」

 

 前になんかで見たことがある感じの話だけど、漫画にしたら普通に面白そうだ。

 

「成る程、事件が起きる前に事件を解決する探偵……今までに無いタイプ、最良、お前それ描けばいいんじゃないのか?」

 

「推理物はトリックを考えるのが大変なので僕には向いていないタイプの漫画なので読み切りならまだしも連載は無理です……ネタを使いたいのならばどうぞご自由に。高木さんは推理物と相性が良いと思いますよ」

 

 考えて作るタイプの漫画は僕にはどちらかと言えば向いていない。

 推理ギャグならまだしも本格的な推理物は普通に無理、トリックを思い浮かべるのが面倒で出来ない。高木さんに僕のネタを使っても良いと言えばとりあえずはとノートに【推理物】と書いた。

 推理物は有りだと認識してくれて良かったと思う。王道的な漫画は亜城木夢叶には似合わないからな。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

最高(サイコー)、新しいの出来たから清書してくれ」

 

 時は少しだけ進み赤マルジャンプの本ちゃんから1週間経過した。

 川口たろうの職場にやってきた秋人は絵の訓練としてバトル物の漫画の模写をしている最高に文字だけのネームを見せる

 

「探偵物?」

 

「そう!オレ達の作風に似合うんじゃないかって」

 

「……」

 

「だ、ダメだったか?」

 

「いや、有りか無しかで言えば有りだ」

 

 マガジンには金田一が、サンデーにはコナンがある。

 しかし、ジャンプには時代を駆け抜ける事が出来るレベルの漫画が存在しない……が、推理物が無いわけじゃない。

 

「けど魔人探偵脳噛ネウロを越える事が出来る普通じゃない推理物になる。推理物だから受けるって言うのは難しい……1個ぐらい捻りを入れないと」

 

「捻り……例えば事件が起きる前にトリックに気付いて犯人を捕まえるとか?」

 

「それ、面白そうだな」

 

 事件を未然に防ぐタイプの探偵なんて見たことは無いと言いたげな最高。しかし秋人の顔は優れない

 

「どうしたんだ?」

 

「……お前の弟が(ネタ)を出してきたんだ。トリックに気付いて事件を未然に防ぐ推理物って今までに無いジャンルを……クソっ」

 

 自分が浮かべたネタじゃないのを秋人は悔しがる。ネタ出しの時点で既に最良に負けてしまっている。自分のネタじゃない、面白そうなネタだ。

 コレを膨らませていけば面白い漫画を描くことが出来るだろうが、果たしてそれは自分が考えた本当に面白い漫画なのだろうかという葛藤がある。

 

「とりあえずネタだけじゃなくてネームに出来るまで描いてくれよ。それ清書してみるから……推理物か」

 

「どうした最高?」

 

「昔、漫画家に憧れた時に自分で描いた漫画みたいなのが有ったなって」

 

「え、なにそれ?見てみたい」

 

「いや、アレは漫画みたいなので漫画じゃないからさ」

 

 原作家を目指している秋人に見せるにはお粗末な物だ。

 あの頃は叔父の様に漫画家を目指したい、漫画を描くのが一番楽しかった思い出す。その中には推理物があったっけと最高は微笑む。

 

「魔人探偵脳噛ネウロを越えるレベルの推理物……バトル物が向いてないからネウロみたいにバトルは出来ないし1つ捻りを」

 

「…………探偵が探偵じゃないってのはどうだ?」

 

「探偵じゃない?一般人に推理させるのか?」

 

「……ちょっと待ってろ」

 

 秋人の言葉に感化されて昔を思い出していく。

 あの頃は純粋に漫画を描くのが楽しかったと家に向かって走っていく。

 

「おかえりなさい、最高。今日は早いわね」

 

「ちょっと探しものだよ!!」

 

 自分の部屋に向かう最高。

 押入れを開け、小学校の頃のノートを保管しているダンボールを開封していき、子供の頃に描いた漫画もどきを開く

 

「あった!!」

 

 子供の頃に夢中で描き続けていた漫画の中に推理物があった。

 推理物と呼ぶにはお粗末なものだがあの頃を思い出す代物でコレは秋人に合う可能性があると急いでノートを片手に叔父の仕事場に向かって走っていった

 

「……どうやら上手い具合に時計の針を進める事が出来たみたいだ」

 

 兄が急いで部屋から出て家から出ていく姿を見て最良は呟く。

 原作ならば此処で1度王道的な漫画に挑戦してみて色々なところからボロクソに叩かれてしまうのだが、それが無くなった。原作の時計の針が少しだけ早く進み亜城木夢叶は王道的な推理漫画に向かっていく。

 

「コレだよ、コレ!」

 

 仕事場に戻ると早速秋人にノートを見せる。

 あの頃に描いた物で画力は今の方が上だがネタとしては十二分に面白い。相手を詐欺で引っ掛けると言う今までに無い感じのトリックでコレは面白いぞと秋人は燃える

 

「コレ、主人公が変装していたとかありじゃないか?」

 

「詐欺師だし、漫画だしそれくらいはありじゃないか」

 

 コレは1つ捻りが入っているぞと秋人はネタを出す。

 そこからは段々と盛り上がっていく。ここをこうしたら面白くなると討論し、ネタをとにかく出しまくる

 

「うん。イケる、コレだったらイケるかも!」

 

「……」

 

 ネタを書いたノートを見てうんうんと頷いている秋人。

 最高もコレならば面白い漫画を描くことが出来るぞと思っているが直ぐに笑みが消える

 

「……最良の奴、全部分かってるんだな」

 

 秋人がどんなタイプの漫画が向いているのか弟である最良は分かっていた。

 推理物を勧めたのはその為だろうと1人で納得して悔しがる。相棒の腕の正しい使い道を知っていると答えを教えてきた。最高は自分よりも最良の方が良いコンビを組む事が出来るんじゃないかと自分を疑ってしまう。

 

「最高、とりあえず出来たからネームにしてくれ」

 

 自分を疑いつつも自分を信頼してくれる相棒から文字のみのネームを受け取る。

 文字だけでも充分に面白いと分かるもので早速どんなコマ割りにしていくのか頭の中で構想を練る。担当編集である服部にネームの段階で見せれば良いと言われているので2日掛けてネームを完成させる。

 

「コレは……なるほど、そう来たか」

 

 ネームが完成したので早速担当編集である服部哲にネームを見せる。

 今までの亜城木夢叶が描いてきた漫画とは1つ違うと言うべき内容だったが亜城木夢叶らしさが出て実に面白いと読み込みもう一度ネームを最初から読み直そうとする。

 

「魔人探偵脳噛ネウロは王道的な推理漫画だけじゃなくバトルのシーンもあってアニメ化やゲーム化に成功しています。邪道な漫画で3位だったので今回は王道的な推理漫画にしてきました……どうですか?」

 

「高木くんらしさが実に出ている漫画だ。今までに無い感じだが……なにかきっかけでもあったのかい?」

 

「……それは……」

 

 高評価を得ている事に喜びたい秋人だがきっかけはライバルの1人である相棒の弟からだ。言い出しにくい

 

「弟がヒントを与えてくれました」

 

 だが、言い出さなければならない。

 少しだけ悔しそうな顔をして最高は最良からヒントを与えてもらった事を教える

 

「真城くんの弟と言うと……」

 

「はい。この前の赤マルで2位を取った最良です」

 

「彼か……彼は高木くんの向かうべき方向性を見ているんだね」

 

「悔しいですけど、そうです……」

 

「た、確かに最良からヒントは貰いましたがそれはあくまできっかけで詐欺師の探偵は最高が考えた物なんですよ」

 

「そうか……最良くんは探偵物は描かないのか?」

 

「トリックを考えるのが難しいから描けないそうです」

 

 あくまでも亜城木夢叶の作品ですと一線を敷く。

 面白い作品だと三度読み返し、コレならばイケるんじゃないかと思っていると編集部がざわめく。

 

「えっ!?新妻エイジの原稿が間に合わない!?どういう事だ!」

 

「!」

 

 瓶子副編集長が大声を上げると秋人と最高は振り向く。

 一方的にライバル視している新妻エイジの原稿が間に合わないとなれば驚くしかない。

 

「どういうことだ!カラーの1話目は既に仕上がってるんじゃなかったのか!!」

 

「新妻エイジ、連載をするんですか!?」

 

「ああ、もう連載は決まっている……教えた方がよかったか?」

 

「はい。ライバルですので」

 

「ライバル、か……」

 

 年頃も近い若手の新人と色々と重なる部分もある。

 ライバル視するのも無理は無い。いや、ライバル視してくれていた方がやる気になるなと思っているともう1人の服部が新妻エイジを連れてやってきた。

 

「新妻くんを連れて来ました……すみません、自分の監督不行き届きです」

 

「雄二郎、その原稿は何処だ?」

 

「は?」

 

「新妻くんが描いたCROWは何処だ?見せてみろ」

 

 編集長に新妻エイジが描いたCROWを見せる。

 パラパラと流し読みをして編集長は口元に手を置いた。

 

「面白いな」

 

「え……」

 

「続きが気になる。瓶子、コレを何枚かコピーしてきて編集達に見せろ」

 

「見せろって、ボツじゃないんですか!?」

 

 怒られる覚悟を決めていた雄二郎だが、展開は意外な方向に進む。

 続きが見たいと編集長は言うので新妻エイジに続きは無いのかと聞こうとすると後ろに新妻エイジは居なかった

 

「やっぱり亜城木夢叶は2人でやってたんですね」

 

「っ……」

 

「あの作り込んだ世界、僕には真似できません。これから一緒に仲良くしましょう。僕、青森から出てきて友達が1人も居ないんですよ」

 

「新妻くん、なにをしてるんだ!!」

 

「あ、雄二郎さん。亜城木夢叶に挨拶してるんですよ。この世は金と知恵を見て僕、亜城木先生のファンになったんですよ」

 

 カッコいい漫画でしたよねとマイペースな新妻エイジ。

 本気で言っているのかと亜城木夢叶の2人は疑いの視線を向けている。

 

「編集長が続きを見たいって言っているんだ。続きはあるか?」

 

「ありますよ」

 

「だったら直ぐに」

 

「頭の中に」

 

「頭の中ァ!?……どうしよう」

 

「今から描けば大丈夫です」

 

「今からって2話目26ページと3話目21ページだぞ」

 

「ネームだけでしたら1時間半有れば描くことが出来ますよ」

 

「!じゃあ、早速描いてくれ」

 

「あのっ……此処で描いてもいいですよ」

 

 この場を後にしようとしていた新妻エイジを最高は止める。

 新妻エイジの頭の中には既にネームがあるのならばそれを見せてほしい。ライバル視している漫画家がどれだけのものなのか知る機会だ。新妻エイジは分かりましたと言えばスケッチブックを取り出す

 

「ギュワーン、ジョキジョキジッキーン!カラースコロース!」

 

 おかしな擬音を言いながらも目にも止まらぬ速さで新妻エイジは描いていく。

 何処をどうすればいいのか簡単に分かっているかの様に描いていき亜城木夢叶の2人は圧倒されている。2人で色々と苦労し、ライバルの1人である弟にアドバイスを貰ってやっとの思いで完成させたネームを上回る漫画を描いている。

 

「出来ました!」

 

「雄二郎、コピーしてこい」

 

「は、はい!」

 

 あっという間に完成した2話目、3話目のネーム。

 スケッチブックだけだと見にくいので早速コピーを取らせる

 

「スゴいですね。頭の中で出来ていたとは言え、あんな速度でネームを描くなんて」

 

 自分達が何日も掛けてネタを出しているのに対してあっという間にネームを仕上げた新妻エイジに最高は称賛する。

 

「いえいえ……ネームが頭の中にあるのは嘘です」

 

「え!?でも、さっき頭の中にあるって」

 

「そう言わないとCROWを連載に持ってく事が出来ないと思ってたんです」

 

「じゃ、じゃあ即興で話を作ったって事ですか!?」

 

「即興じゃありません。キャラが勝手に動いてくれてなにを描けば良いのか教えてくれます」

 

「っ……」

 

 天才肌の新妻エイジだが此処まで天才肌とは思いもしなかった最高は言葉を失う。

 色々と考えて漫画を描いている亜城木夢叶にとってキャラが勝手に動くというのは理解し難い事だった。

 

「すみません、そのネーム僕達も見ていいですか?」

 

「どうぞどうぞ……」

 

 2話目3話目、そして1話目のCROWを見る。

 王道的なバトル漫画で自分達で描くことが出来ないと圧倒される。

 

「……ありがとうございました。とても参考になりました」

 

「それは何よりです。僕、亜城木先生の新作楽しみに待ってますよ。あ、雄二郎さん。僕、帰りはタクシーがいいです。お金持ってないので経費で落としてください」

 

 新妻エイジは嵐の様にやって来ては嵐の様に去っていった。

 

「アレが新妻エイジだ……君達とはタイプが違うが、天才である事には変わりはない。ジャンプで成功するタイプの漫画家だ。だが、君達が劣っているとは言わない。……新妻エイジをライバル視してるんだろ。勝つぞ」

 

「「はい!」」

 

 亜城木夢叶の時計の針は少しだけ早く進む。



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漫画家にすゝめ 10 

 

 転生者こと最良のおかげか本来よりも早く時計の針が進んだ。

 

「金未来杯ってあるだろう」

 

「はい。べるぜバブとかぬらりひょんの孫とかが読み切りで掲載されていたやつですよね」

 

 王道的なバトルものに路線を変更してアイデアを詰まらせる事はなく王道的な推理物を書くことになった。本格的なネームが出来たので服部に見せに来た。

 擬探偵TRAPを見てコレは面白いと判断した服部は次の読み切りについて話題を出す。次の読み切りは未来の漫画家達を本誌掲載で発掘する金未来杯、本来の原作ならば王道的な漫画を描いてきて色々な批評を受けるが最良のお陰でそれが無くなった。

 

「ああ、そうだ。この作品ならば掲載は間違いなく通ると思うよ」

 

「……もしそれで1位を取ることが出来れば連載に持っていく事は出来ますか?」

 

 連載を夢見ている最高は1位を取ることが出来ればの話をする。

 

「連載……もしかして新妻くんに感化されたのかい?高校に行きながら連載なんて無茶だと僕は思う」

 

「でも、新妻さんは連載決定してるじゃないですか。僕達は作画と原作に分かれています、高校に行きながらでも連載は出来ます!!」

 

「…………分かった」

 

 最高の熱量に服部は折れる。しかし簡単には折れない

 

「先ずはこの擬探偵TRAPの読み切りを描くのと同時進行で2週間に1話を作ってもらう」

 

「2週間に1話ですか!?」

 

「そうだ。本格的なペン入れはいいがちゃんとしたネームを1つ完成させる。本来ならばアシスタントが必要だけど、そこは今回は見逃す……そして読み切りで1番を取れば連載会議に話を回そう」

 

「そ、そこまでしないと連載会議に回してくれないんですか!」

 

 まだ連載すら、それこそ読み切りの掲載すら決まっていない。亜城木夢叶はプロの予行演習をしなければならない。

 難題を突きつけられて秋人は思わず声を荒げるのだがそうだと服部は重く頷く

 

「何度も言うように高校に行きながら連載なんて無茶だ。推理物は特に頭を使う、無理に連載を勝ち取らずに定期的な読み切り掲載というのも1つの手だ。それこそじっくり2年間ネタを暖め続けた方が良いと僕は思っている……王道的な推理物の漫画を目指しているならばそれぐらいしておかないと」

 

「……分かりました」

 

「最高、大丈夫なのか!?今でも結構いっぱいいっぱいなんだぞ」

 

 高木は物語を考えればいいが、最高は物語を描かなければならない。

 アシスタントと提携しての漫画作成はおろかまだちゃんとした漫画家になっていないのに連載している漫画家と同等の働きを、それこそ高校に行きながらと割と無茶な行為だと高木は心配する。

 

「多少の無理や無茶をしないと高校に行きながら連載なんて出来ない。服部さん、金未来杯で1位を取って2週間に1話原稿を作成すれば連載に持っていってくれるんですよね」

 

「ああ、ただし一度でも〆切を守れなかったらその時は高校に行きながらじゃなくじっくりと2年間力を蓄えての連載を目指してくれ」

 

「……秋人、行こう」

 

「あ、ああ」

 

 話はなんとか付ける事が出来た。後は頑張って面白い漫画を作るだけでいい。

 そう決まったのならば此処でああだこうだ話をしても仕方がない事だと最高は判断し、席を立った。

 

「必ず連載に漕ぎ着けます!その時はよろしくお願いします」

 

「……ああ、期待しているよ!」

 

 最高のやる気に服部は感化される。

 彼等ならばもしかしてと言う淡い期待を寄せて亜城木夢叶の2人を見送った。

 

「連載か……」

 

 もう一度疑探偵TRAPのネームを見てみる。

 何処に出してもおかしくない推理物……しかし推理物はトリックを考えるのが難しかったりする。秋人の話作りの上手さを知っている服部は探偵物に必要な基礎的な部分、推理のトリックについて考えて早速自分のデスクに向き合う。推理物のドラマや漫画、アニメ、映画等を大量に購入して高木の家に送りつける。服部なりの力添え、応援である。彼等ならば出来るかもしれないと信じている。

 

「あれ、真城くんじゃん」

 

 編集部に通じる階から1階に降りると福田がいた。

 奇遇だなと最高に挨拶をするのだが最高は頭に?を浮かびあげる

 

「すみません、どちら様ですか?」

 

「おいおい、もう忘れたのかよ?福田真太だよ!」

 

「……最高、知り合いか?」

 

「いや……あの、もしかして最良と勘違いしていませんか?」

 

「最良?真城くんじゃないのか?」

 

「はい。亜城木夢叶の真城最高、最良の兄です」

 

「あ、亜城木夢叶の原作を担当している高木秋人です!」

 

「嘘だろ、兄弟で漫画家を目指してるのか!?」

 

 改めてはじめましてと頭を下げる亜城木夢叶の2人。

 福田は直ぐに自分が最良と最高が別人だとわかったので勘違いしていた事を謝るのだが過去に何度か最高と最良を見間違う事があったので最高は特に気にしない。

 

「亜城木夢叶っつーと、この前の赤マルでこの世は金と知恵を描いた作者か。ありゃ面白かったぜ」

 

「ありがとうございます」

 

「でもアレはジャンプ向けじゃない青年誌向けの漫画だ。1位を取るのは難しい……確か本ちゃん3位だったな」

 

「はい……1位が新妻エイジのCROW、2位が最良のエルドリッチで悔しいです」

 

「悔しいですって嫌味か?オレなんて5位だぞ、5位……集英社(ここ)に足を運んでるって事は打ち合わせか?」

 

「ええ、そういう福田さんもじゃないんですか」

 

「ああ。読み切りのネームを持ってきたんだ」

 

 お互いに頑張ろうぜと背中を向け合う亜城木夢叶と福田。

 ライバルは新妻エイジや弟の最良だけじゃないと改めて思い知らされる。

 

「ジャンプで1番になるのって難しいな……でも、ワクワクしてこないか?」

 

「ああ……先ずは読み切りを目指すぞ」

 

 帰りの電車で話し合う最高と秋人。コレから段々と上に登っていくのが楽しみである。

 

 

────────────────────────────────────────

 

「おめでとう、高兄」

 

 高木さんに推理物を勧めてみれば面白いぐらいに話は進んでいった。

 欺探偵TRAPが通常よりも半年以上早くに生まれ……金未来杯に先程エントリーが決まった。

 

「やった、やった。やったぁ!」

 

 金未来杯に掲載される事を兄は喜ぶ。まだ漫画家として登竜門を通っただけだが今は喜ばせておく。

 チラリとネームの段階で読ませてもらったが実に面白い漫画だった……高木さんと上手く噛み合っている作品を見つけ出せてよかったと思う

 

「高兄、喜ぶのはいいけどそこまでにしておいた方がいいよ」

 

「あ……ああ、そうだな」

 

 やったやったと喜ぶ兄の意識を現実に戻す。

 亜城木夢叶は高校に行きながらの連載を目指す為の条件として2週間に1話、原稿を用意しておかなければならない。上手く時計の針を進める事は出来ているけどもこういうところは原作と変わりない。

 

「最良は……残念だったな」

 

「それは言わないでくれ」

 

 一方の僕はと言えば読み切りを作ってみたのは良かったんだが、金未来杯にエントリーどころか赤マルも掠らなかった。

 こういう時もあるものだと現実を受け入れてみるのだがやっぱり辛いものがある。兄はフォローをしてくれるけども触れてはいけない部分だ……けど、いい挫折だと僕は思っている。面白い漫画を描くには多少の挫折も必要だ。

 

「アレでダメだったら次のネタを浮かべないとな」

 

 昔描いたツバサ・クロニクルとイナズマイレブンGO2からインスピレーションを受けた漫画を次は出してみるかな。

 新しい読み切りのネタを浮かべてはメモ帳にネタを書いていく。何時何処でネタが必要になるか分からないからネタはあって困らない。兄達の連載をもぎ取るという覚悟を見習って僕も連載を掴み取る前提でネームを描いていく。

 

「時空最強の戦士を集める……ただ戦闘力が強い人じゃなく、色々な能力を持った人達を……」

 

 ノートパソコンにネタを打ち込む。敗戦間近の国が一発逆転を狙って異世界の技術や人材を取り組む、時空最強の国家を作る為に異世界に行く。

 異世界は様々な世界、時代でその時その時に応じて必要な人が変わったりする……う〜ん、銀魂みたい色々と出来る漫画で尚且つ王道的なバトル漫画みたいなのが出来るな。

 

「ん……電話だ」

 

 ネタを纏めていると内田さんから電話が掛かってくる。金未来も赤マルも落ちてしまった事をフォローしてくれる……じゃないよな。そういう感じの性格じゃないし。

 

「はい、もしもし」

 

『あ、最良くんお疲れ様です』

 

「お疲れ様です……どうしました?今、新しい漫画のネタを纏めているんですけど……」

 

 割と大事な仕事なので邪魔は困る。なんだろうと首を傾げる

 

『実は新妻エイジのアシスタントを探していて、彼は若いから年上のアシスタントが着けづらいんだ。最良くんなら年齢が下だし、行けるかなって……読み切りのネームが忙しそうみたいだからこの話は』

 

「あ、いいですよ」

 

『えっ!?いいのかい?』

 

「ネタ作りに息詰まってるところもありますし、新妻エイジの漫画を見て色々と学ぶところもあると思います……ただ、自分はまだ中学生なので夏休みだけになりますが」

 

『ああ。新妻くんに合うアシスタントが見つかるまでの間だけでいいんだ』

 

「分かりました」

 

 初アシスタント……僕の作画が新妻エイジの作品に合うのだろうか。

 とりあえず明日からアシスタントに行ってくれと住所が記載されたメールが送られた。新妻さんは吉祥寺に住んでいる。

 

「最良、なんの電話だったんだ?」

 

「新妻さんのアシスタントをやってくれないかって電話だよ」

 

「新妻って、新妻エイジ!?」

 

「そう。アシスタントが見つかる夏休みの間だけね……これもまた良い社会勉強になると思うから行ってくるよ」

 

「そう、か……新妻エイジから良いものを奪ってこいよ」

 

「奪ってこいって物騒だなぁ」

 

 新妻エイジのアシスタントになる事に兄は軽くショックを受ける。

 僕はまだまだ漫画家の卵なのでこんな事もある……新妻エイジから技術を得る事は……多分出来ないだろうな。

 

「高兄、もし連載を取る事が出来たらその時は高兄のアシスタントをするよ」

 

「最良……その時は頼んだぞ」

 

「まぁでも、それよりも先に連載をもぎ取って逆になってるかもしれないけどね」

 

「言ったな、お前よりも先に連載をもぎ取ってみせるよ」

 

「10週打ち切りにならない様にしてね」

 

 軽口を叩きあえるのは兄弟の特権だ。

 新妻エイジのところでアシスタントをしないといけないので必要な物を用意しておく。新妻さんは手書きの漫画家、僕みたいにパソコンを用いて作画を描いているわけじゃない。とはいえ、パソコン無しの手描きで漫画を描くことが出来ないわけじゃない

 

「え〜っと、ここか」

 

 兄は兄で連載を目指して描いているので邪魔をする訳にはいかない。

 メールで記載された住所に向かうとマンションだった。ガンガンとなんか五月蝿いなと思っているとそこが新妻さんが仕事場にしている部屋だと判明、ここが仕事場かとインターホンを鳴らす。

 

「君が真城くんかい?」

 

 インターホンを鳴らすと中年のおじさん……中井さんが出てくる。

 

「は、はい。真城最良です」

 

「話は聞いているよ。短い間だけどよろしくね。僕は中井、君と同じ新妻くんのアシスタントを務めてる」

 

 緊張しながらも新妻さんの仕事場に入る。

 おじさんの仕事場以外の仕事場ははじめてだが緊張すると思っていたが……あ

 

「福田さん、どうも」

 

「よぉ、真城くん。手塚賞ぶりだな」

 

 福田さんが居たのでペコリと頭を下げる。

 知っている人の顔があって良かったと少しだけホッとする。福田さんはジッと僕のことを見つめている

 

「似てるな」

 

「はい?」

 

「いや、亜城木夢叶に会ったんだけどよ……兄弟で漫画家目指してるって中々にレアだな。遠目で見れば瓜二つだ」

 

「たまに間違われたりするんですよ……よっこいしょっと」

 

 見知った顔が居てくれて緊張が解れた。此処は漫画家の神聖な職場であるが僕もその漫画家の一員になっていると気持ちを切り替える。

 

「ジュワーンジャッキーン!クロスクリス、カラスキリース!」

 

「この番号に振られているのがスクリーントーンでこの☓印はベタ入れで、このマークが格子線だよ」

 

 新妻さんに一応の挨拶はしてみるものの反応がない。漫画を描くのに忙しくて自分の世界に入り込んでいる。

 代わりに中井さんが何処をどうすればいいのかを教えてくれる。新妻さんは背景の下書きもしているのでぶっちゃけた話、アシスタントが3人も必要なのだろうか?と思うがお金になって漫画を描く練習にもなるので文句は言わない。

 

「そういえば君の兄貴、金未来杯にエントリー出来たんだってな」

 

「ええ、兄達は自分の漫画のスタイルを無事に見つけることが出来たようで」

 

「亜城木夢叶の漫画ね。この世は金と知恵みたいなジャンプらしくない漫画だったら1番を取るのは難しくねえか?」

 

「そこは見てのお楽しみですよ……」

 

 王道的なバトル漫画は亜城木夢叶には無理だがそれでも何とかなる。何故ならば彼等は主人公の目をしているからだ。

 福田さんと軽く談笑を済ませると早速ペンを手にする。ここ最近はデジタル原画だったのでペンを持つのは久しぶりだと思いつつサラリサラリと背景を描いていく。

 

「あれ、真城先生なんで居るんですか?」

 

 一通りの下書きを終えたのか新妻さんは僕の存在に気付く。

 アシスタントとして仕事場に来てから30分ぐらい経過している。やっとかと思いつつも新妻さんに口を開く

 

「担当の人に頼まれたんですよ。新妻さんのアシスタントを探している夏休みの間だけアシスタントをしてくれないかって」

 

「え〜あんなに面白い漫画を描くことが出来るのにこんなところでアシスタントしてるなんて勿体無いですよ」

 

「いや、コレも人生経験の1つだと思えばいいですし何よりも漫画を描くことが出来て楽しいですよ」

 

 仕事が楽しいとかフィクションかなにかだと思っていたけどもこういう世界もあるんだと教えられた。

 前世じゃキツい事だらけだけど今生は楽しいことだからかな……とりあえずはペン入れをし、背景にペンを入れたりやスクリーントーンを貼っていく。

 

「真城くん、早いな」

 

「スタンドの事を知ってテンション爆上げの岸辺露伴並みに早いと自負しております」

 

 伊達に転生者はやっていない。子供の頃から将来漫画家になるのを目指して漫画を描いているので背景等は簡単に描いていく。

 

「そういえば新妻さん、1話目何位だったんですか?」

 

「1話目は1位でした。2話目も1位を取れるかと思ったんですけども4位でショックです」

 

「4位でショックって、1話目からコケてしまう漫画も存在しているから充分過ぎる順位……じゃないですよね。漫画家を目指す以上はやっぱり人気投票で1位を取りたいですよね」

 

「はい。やっぱりやるからには1番にならないと……なにがいけなかったんですかね?」

 

 真剣な顔で聞いてくる新妻さん……本来ならばここに居るのは高兄だが……言った方がいいよな。

 

「新妻さんの漫画は迫力とスピード感があって面白いです。ですけど、それだけです。絵は上手いですけど話が自己満足の話になっています」

 

「自己満足ですか?」

 

「読者にこう、訴えかけるみたいなものが無いです。兄の、亜城木夢叶のこの世は金と知恵みたいにもしかしたらと思える様な内容じゃないんです」

 

「む〜難しいですね」

 

「ネームを見せてください」

 

「あ、ネームは書いていないです」

 

「はぁ!?ネームを描いてないってマジか!!」

 

「はい。だってめんどくさいじゃないですか、同じ絵を2回も描かないといけないのは」

 

 めんどくさいって……漫画の大元であるネームを描かずにいきなり生原稿、新妻エイジはマジの天才なんだと思い知らされる。

 

「雄二郎の奴はなにやってんだ。打ち合わせしてんのか」

 

「してるって事にしておいてくださいと言われています」

 

「はぁ!?アイツ、それでも編集者かよ!」

 

 担当の雄二郎さんにキレる福田さん。

 打ち合わせ無しでコレだけ面白いものが描けている……仮に打ち合わせをしたらどうなるんだろうか。

 

「新妻さん、このままだったら順位が下がっていくかもしれないですよ……もっと真剣にやらないと」

 

「僕は何時だって真面目ですよ……でも描き直した方がいいみたいですね。何処を書き直せばいいと思いますか?」

 

「そうですね」

 

「って、おいおい。敵に塩を送るのか?」

 

「敵じゃありません、同じ雑誌で漫画を描いているライバルです……どういう感じに漫画を描いていくのか談義してみたいですし、福田さんもどうですか?」

 

「……ったく、仕方ねえな。この話だけだぞ」

 

 なんだかんだと言いながら面倒を見てくれる福田さんはお節介焼きないい人だ。

 CROWについて熱く語り合う僕達を見て中井さんは言葉が出ない。コレが若さと言うものである。やっぱり絵が上手いならば漫画家の1つでも目指すものだろう

 

「……あ、いいネタが浮かんだ」

 

 新妻さんのアシスタントに来て良かったと思う。



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バレると多分、両方から舌打ちされる感じの話(かぐや様は告らせたい) 

これは続かない(多分)


 私立秀知院学園

 

 貴族や士族といった高貴な家の子らを教育する機関として創立された、由緒正しい名門校である。

 貴族制が廃止された現代でも尚、富豪名家に生まれた将来の日本を背負うであろう人材が多く就学している。例えば経団連理事の孫、自衛隊幕僚長の息子、広域暴力団組長の娘、警視総監の息子。他にもまぁ色々ととんでもない生徒がいてそんな一癖も二癖もある生徒達を率い纏め上げる者が、凡人ではない……

 

「皆さん、ご覧になって!」

 

「あれは、生徒会のお2人!!」

 

 黄色い声を上げる生徒たちの前を歩く、金髪の男子と黒髪の女子の2人……いや、3人だろうが。

 

「ちょっとちょっと、俺も居るでしょうが」

 

「あ、始はどうでもいいから」

 

 美男美女の後ろを歩くは堂本剛、亀梨和也、松本潤、山田涼介を合わせた様な顔立ちをしたイケメン

 前二人黄色い歓声を浴びせる生徒達はお前はどうだっていいと言った顔をしている。俺も一応は生徒会の一員……一員だよな?

 

「この程度の事で動じていてどうするのですか?」

 

「四宮の言うとおりだ。生徒が浴びせている歓声に応えられる生徒でなければ生徒会役員など務まらん」

 

 生徒会室に入ると呆れる二人。

 生徒会長の白銀御行と副会長の四宮かぐや……どっちも豪胆なところがあったりなかったりする。

 

「あ、じゃあ俺は無理っぽいので辞めさせていただきます」

 

 俺はやる気が無いなら帰れと言われれば本気で帰るタイプの人間だ。

 あれに耐えることが出来ない人間は不要と切り捨てるのならばそれは致し方無い社会の縮図であり、世の中には理不尽がありふれているもんだ

 

「待て待て待て、今のは言葉の彩だ」

 

「ええ〜ホントでござるかぁ〜」

 

「いや、すまん……勢いとノリに任せて言ったところがある」

 

「白銀、生徒会長だからってこうであれってのにならなくていいんだよ」

 

「あら、会長の言っている事も一理あるわ……始くん、貴方は生徒会長補佐なのだから会長を困らせないで」

 

「俺が居なくなれば万事解決な気もするんだけどな」

 

 さてさて、俺の自己紹介等をしよう。オレの名前は始……堂本剛と亀梨和也と松本潤と山田涼介を合わせた感じの奇跡の顔立ちを持つ転生者だ。色々とあって死んでしまったのだが運がいいのか悪いのか異世界転生をする権利を手に入れる為の権利を手に入れた。

 ややこしい話をすればそのままの状態で異世界転生させても色々とイカれている異世界は生きてはいけないだろうとの判断だったりするもので、ともかく転生者になる為に必死になった結果、なんとか転生者養成所を卒業することが出来たんだが……うん。

 

 FAIRY TAILとかポケットモンスターとかの非日常を期待していたんだけど、俺の転生先はかぐや様は告らせたいだ。

 どういう漫画かと言えば金持ちエリート校の生徒会長と副会長が告白をさせようとしたりする青春ラブコメだったりするわけで……財閥とか会社とか元いた世界とは若干違うものの元居た世界と大して変わらない世界だった。かめはめ波とか螺旋丸とか憧れてたんだけどな、コンチクショウ。

 

「そんな事はないぞ、お前が居るおかげでオレも安心して生徒会長としての業務を真っ当できる」

 

 そんな俺はと言うと生徒会に所属しており、生徒会長補佐と言うイマイチ分からない役職についている。

 生徒会長が所謂勉強は出来る男なので補佐が必要なのか謎で、副会長の四宮さんも普通に優秀だ……やっぱ俺、いらなくねえか?

 転生者になるべく鍛えていた頃に特に特出した才能があるわけでもなく平均的な人間ですねと言われており、秀知院学園に入っても成績は中の上ぐらい。転生特典の黄金律Aのお陰で宝くじを当てまくってるが事業をしているわけでもないのでただの成金野郎だ。

 

「そういう世辞はいいんだよ……はぁ……」

 

 学歴社会なところが残っているこのご時世、いい学校に入っていい会社に入るのが普通の世界に転生した以上はすることだ。

 しかし俺はクソニートライフを送りたい。税金云々を取り除いても一生遊んで暮らせる金があるんだから働きたくない……クソ野郎の考えだが、親の目とか中卒は流石にどうかと思っているのでエリート学校に入ったが後悔の日々だらけだ。

 

「始くん、貴方はどうしてそう自分に自信が無いの。貴方は立派にやっているわよ」

 

「四宮さん、下から見上げる景色と上から見上げる景色じゃ大分違うんだよ」

 

 自称じゃなくモノホンのエリートに囲まれる日々は割と辛いが、まぁ、なんだかんだ上手くやっているとは思う。

 白銀はエリート目指そうとしてるけど自分を追い込みすぎている一面があるから俺みたいな凡人的なのが居てくれるだけでもありがたいんだと思う。この学校、親が色々と凄かったりするから一般人的なの数少ないし。

 

「まぁ、とにかくお前が必要な事には変わりはないんだ」

 

「そういうのは、異性に言ってやった方がいいぞ」

 

「な、なにを言い出すんだ!?」

 

 いや、本当にね……顔は悪くないし向上心がある人間なんだ。

 変な女にしかモテなかったりする童貞だが俺は原作知識と言う名のアドバンテージがあるから知っている。白銀御行は四宮かぐやの事が好きである。もっと言えば四宮かぐやも白銀御行の事が好きである。相思相愛の関係と言うやつである。

 

「俺より四宮さんの方が優秀なんだから言ってみろよ。オレには四宮が必要なんだと」

 

「は、始くん、なにを言い出すの……いえ、これは……」

 

 急な事で慌て蓋めく四宮さんだが逆転の発想に至る。

 そう、四宮かぐやは白銀御行に好意を抱いているのだがその事を伝えられない……恋愛は告白した方が負け的な感じのルールが謎にある。

 

「会長、始くんの事ばかりで私の事はどう思っているのですか?」

 

 故に白銀に好意がある事を伝えない様にする。否、好意があると思わせずに告白をせず告白されるのを待っている身である。

 そして今回チャンスが回ってきた。そう、白銀御行が四宮かぐやに必要な人材だとハッキリと言わせるチャンスがある。ここで白銀に四宮の事が必要なんだと言わせる。

 

「なにを言い出すと思えば」

 

 ふぅーやれやれと呆れる素振りを見せる白銀だが、冷や汗をかいている事を俺は見逃さない。

 白銀御行は四宮の事が好きだが告白はしようとしない。告白されろと思っている側の住人。普通に四宮が生徒会に大事な存在だと言えば終わるのだが、ここで少しでもボロを出してはいけない。異性として四宮かぐやを見ずに生徒会の一員として大事だと言わなければならない。

 

──オレにはし、四宮が

 

 と、ちょっとでも言い淀んでしまったら終わりだ。

 

──あら、会長……愛の告白かなにかと勘違いをしていませんか?……お可愛いこと

 

 的な感じの返しを四宮さんはしてしまうわけであり、四宮さんに好意を持っていると言うのがバレる。告白したも同然だ。

 そうなってはいけない……四宮さんは真正面に居るからどうするつもりなんだろうか。目線を逸らして逃げるなんて出来ないぞ。

 

「オレの生徒会には始も四宮も、それにここにはいない石上も必要な存在なんだ」

 

 あ、コイツ汚え。目の前にいる四宮さん1人だけをターゲットにすればボロを出す。

 なので俺も混ぜることで白銀御行は白銀会長として皆が大事なんだと上手い具合に纏めやがった。

 

「ふふっ、そう言ってくれてなによりです」

 

 とかなんとか言っている四宮さんだが内心舌打ちかなにかしているだろう。

 上手い具合に好意があるんじゃねえかと匂わせるのにはちょうどいい感じの餌だから……撒いたの俺だけど。

 

「そういう四宮こそオレに不満は無いのか?」

 

 恋の言葉の刃を上手く反らした白銀は逆に攻め込む。

 言っている事が既にバカップルな気がするがそれはそれとし置いておいて突如としてくらうカウンターに四宮さんはビビる。

 

「会長に不満ですか」

 

 不満なんて何処にも無いので不満は無いですと言えばいいのだが、先程と逆転をしている。

 白銀御行は目の前にいるので会長に不満は無いですと言いづらい……何時もの調子の四宮かぐやならば言えるだろうが、つい先程まで白銀御行を意識しており気持ちを一瞬にして切り替えることは出来ない。そしてなによりも白銀だけを指定しているところがミソであり、先程オレを出したので使うことが出来ない。

 

「不満なんてありません。それがあるなら貴方の下になんてつきませんよ」

 

 と思えば割とあっさりと返した……そう、四宮かぐやとは本物のお嬢様である。

 社交辞令を巧みに扱う事ぐらいは可能だ……いや、よく見てみれば、先程白銀がやったふぅ〜やれやれをやっている最中に目を閉じていた。白銀を真正面から見て失敗するならば目を閉じればいいというシンプルだが効果的な作戦……恐ろしい……だが、いらんことをしたい。

 

「でもさ、不満が無いからやるんじゃなくて何処かに惹かれるところがあったからやってるんだよな」

 

「「!」」

 

 ここに来ての爆弾を投入する。

 白銀に不満が無いで終わらせようとする四宮さんだが、不満が無いだけだと終わらせるほど俺は善人じゃない。白銀に不満が無いならば良いところがあってそれに魅了されている……さぁ、言え、言うんだ

 

「か、会長のいいところですか」

 

 プラスかマイナスかの話でなくプラスの話となると流石に四宮さんも戸惑う。

 白銀もちょっとあたふたしている四宮さんを見て、これはイケるんじゃないかという期待を寄せる……いや、見ていて本当に面白い。

 

「あの〜かぐやさん、会長、始くん……私は?」

 

 白銀のいいところを褒めようとするその時だった。ピンク色の悪魔こと藤原書記だった……。

 

「石上くんもそうだけど私も生徒会の立派な仲間なんだけどな〜」

 

「あら、ごめんなさい。ウッカリ忘れてたわ」

 

「すまん、藤原……言うのを忘れてた」

 

 ごめん、俺もお前の存在を完全に除去していた。

 巻き込むと確実にロクな事にはならないと3人に認識されている藤原は目元に涙を浮かべる。

 

「会長達なんてタンスの角に足の小指をぶつけれはいいのにぃいいいい!」

 

「あ、おい」

 

「やめとこうぜ……多分、なに言っても無駄だから」

 

 忘れていた俺達が悪いが今更謝ったりしても、もう遅い。

 適当にジャンボサイズのプッチンプリンかなにか用意しておけば機嫌が直る単純回路なので、放っておくのが吉だ。

 

「そろそろ授業があるし解散ってことで」

 

 会長のいいところを言わせてやりたかったが、休み時間は間もなく終わる。

 高度な心理戦を繰り広げる様を横でニヤついて見ていたいが授業に遅れるのは学生の本分ではない。その辺りの事はちゃんとしている二人なのでそうだなと話を早々に切り上げて生徒会室から出る。

 

「あ、お疲れさまです」

 

 俺も生徒会室から出ると金髪サイドテールの美女、早坂愛がいた。

 居たってかさっき四宮さんと白銀の歓声の中に紛れ込んでおり、こちらの事を監視するかの様に見ていた。

 

「え〜お疲れって、アタシなんもしてないし〜」

 

「四宮さん、白銀の何処が良いかを褒めさせようとしたけど藤原のせいで失敗した」

 

「……ふ〜ん、そうなんだ」

 

 最初はギャルっぽいフリをして惚けるので、中でなにがあったかの報告をすると真面目な顔をする。

 生徒会室に生徒会役員以外は下手に立ち寄れない。それは四宮かぐやの従者である彼女もそれは例外ではない。

 

「あのさ……かぐや様であんまり遊ばないで。社交辞令は出来るけど、ホントの意味で人付き合いは苦手なところがあるから」

 

「高貴な身分だから頭を垂れる事が苦手の間違いだろう」

 

 四宮さんで遊んでる事を注意してくる早坂だが、あの程度では遊びには入らない。

 目に見えない色々なものが混ざり合ったプライドがあるからあんな感じ……成金の俺には理解が出来ない。

 

「大体、白銀も白銀で悪いんだぞ……見栄っ張りなところがある。俺なんて出来る事より出来ない事の方が多いのに……」

 

「始はちょっとは向上心を持った方が良いと思うよ。好きな女の子の前ではカッコつけないと」

 

「成功しても大した利益も無くて失敗すれば赤っ恥をかく事ならば最初から挑戦しない……俺ってダメなやつだから」

 

 世の中には出来ない人間だって存在する。

 諦めなければ頑張ればって言うけど無理なもんは無理で、俺もその内の1人だ。そう考えるとあの二人や目の前にいるその気になればエリート街道を歩める早坂が羨ましく思える。

 

「はぁ……なんでこんなダメなの好きになったんだろう」

 

「知らねえよ……俺に惚れる要素なんてあったか?顔も家柄も人間性もいいの他にいるだろう」

 

「う〜ん……こうして話せるところじゃないの?会長だって貴方を気に入ってるのは話相手になってくれるところがあるから」

 

「俺じゃなくても石上がいるだろう」

 

「彼は後輩。妹がいる兄なところが出て同年代じゃないとダメじゃない」

 

 そういうものなんだろうか。まぁ、心に抱えている闇が少しでも晴れるというのならばそれに越したことはない。

 

「それより放課後、暇?」

 

「生徒会長が優秀すぎるもんで年中暇みたいなもんだよ」

 

「だったら映画を観に行こうよ」

 

「また随分と唐突だな……なんか気になるのがあったのか?」

 

「恋愛映画。一緒に男女が見に行ったら結ばれる感じの空気を漂わせてるんだけど、かぐや様がそれを利用しようと考えてるっぽくてその映画が大丈夫かどうか確認しとかないと……こういうところって五月蝿いから」

 

 四宮財閥の令嬢である四宮かぐや。

 ToLOVEるとかの困ったらHに走ったりR指定は教育に悪いから見せられない……藤原の家もそんな感じだったな。

 

「上映前の映画を入手してるのか?」

 

「四宮財閥の子会社がスポンサーをしているから簡単に手に入るの」

 

「あ〜いいのか?その、四宮さんは男女の恋愛成就的なのをその映画で狙ってて、そういうジンクス的なのあるんだろう」

 

「……ふ〜ん、私と行きたくないんだ」

 

「そりゃお前みたいな美人と一緒に行けるとなると疑うよ、俺ってダメな奴だからな」

 

 最初に告白された時は割とマジでドッキリかなにかかと疑った。

 凡人に近い存在である俺に惚れるとか四宮さんが白銀の情報を引き出すなにかかと思うしかなかった。

 

「バカ……私から言わせないでよ」

 

「俺はダメな奴って、今日何回言うんだ……まぁ、楽しみにしてる」

 

「うん……じゃ、行こっか」

 

 因みにだが、俺と早坂は同じクラスである。

 本音を言えば堂々と手を繋いで歩きたいのだが、学校では猫を被っている早坂と手を繋ぐことは出来ない。

 隠れてイチャイチャしないといけないのは少しだけ窮屈だけど、彼女は仕事だからではなく四宮かぐやの事が大好きだからやっているところがある。なら俺が出来る事は……四宮かぐやと白銀御行の場をしっちゃめっちゃか描き回すだけだ。




登場人物

金田一始

堂本剛、亀梨和也、松本潤、山田涼介を合わせた感じの奇跡の顔立ちを持つ転生者。
転生者としては割と平凡な方でポケットモンスターやFAIRY TAILの非日常的なのを望んでいたが、かぐや様は告らせたいの世界に転生
黄金律Aを転生特典として貰っており遊び人ニートライフを送ろうとしているが世間や親の目があったりし、一応は勉強が出来るので秀知院学園に入った。高校からの外部入学者と言うことと基本的にダメ人間なところもあり、そういうところがあるから逆に本音で話せると白銀御行に生徒会長補佐の役職を与えられてる。黄金律Aが原因で金持ちになったのはいいけどそれが原因で一家離散みたいな感じになっている。

早坂愛

メインヒロインよりも人気があったりなかったりするメイドさん。
白銀御行が会長になる為に裏工作しているかぐやの更に裏で工作しているところで始が「あ、お疲れ様でーす」と言ったのがきっかけで猫被ってるのがバレており要注意人物だと危険視をしていたが始は割とダメ人間なところがあるので徐々に徐々に警戒を解いていく。
最終的には四宮かぐやに対するちょっとした不満や愚痴を言ったりする感じの関係になっており、根は良い人な始に引かれて今の様な関係になる。告白していないので向こうから愛の言葉が欲しかったりする。何回か始におっぱいを揉まれており藤原並に成長してたりしてなかったりする。


四宮かぐやと白銀御行が恋愛頭脳戦やらなんやら色々と繰り広げてる中で早坂愛とバレない様にイチャイチャする話である。
バレると四宮も白銀も誰がしたのかハッキリと分かるレベルの音量で舌打ちをする


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お兄ちゃんは辛いよ 1

 自殺をしたらなんか訓練すれば異世界転生が出来ると地獄で言われて耐え抜いた結果、転生者となった。

 なんで自殺をしたかと言えば長くなる。男なのに一人称が私と固定になってしまうぐらいめんどくさい親が居たとだけ言っておく。幼稚園受験させるレベルのめんどくさい親だ。そしてその期待に答えられる事が出来なかったのが私だ。過去の事を振り返っていても仕方が無いので今は未来を見よう。 

 

「おはようございます。米屋くん、この前の防衛任務で休んだ分のノートを取っておいたので写しておいてください」

 

 私はワールドトリガーと言うジャンプからジャンプスクエアに移籍した物凄く面白い漫画の世界に転生した。

 この世界は異世界からの侵略者、近界民(ネイバー)から侵略を受けており、界境防衛機関ボーダーが侵略の魔の手から守っている、大雑把に説明をするとそんな感じの漫画であり、私は主人公がまだ通っていない三門第一高校の2年B組に所属している。

 

「おぉ、サンキュー。しっかしお前のノート、綺麗だよな」

 

 カチューシャが特徴的な男子、ボーダーの中でも選りすぐりな精鋭部隊であるA級隊員である米屋陽介にノートを渡す。

 近界民達と主に戦うのは若い子供達だ。これには色々と諸事情があり、年柄年中休まずに襲ってくるので学校を休まないといけなかったりする時もある。

 

「綺麗なだけでホントに頭の良い人のノートみたいになってないですよ」

 

 そんな彼等に私はノートを貸している。ボーダーには所属したりしないのかって?いやいや、無理です。

 この世界はワールドトリガーの世界だけでなく賢い犬リリエンタールの世界とコラボってるところがあり、私は賢い犬リリエンタールの時に本物の拳銃で撃たれた事がある。私と言う人間は優秀じゃない部類に入る……自分の子供は優秀な子供であるはずだと色々と強迫概念に近いものが押し付けられて、その通りに生きられなかったからよく分かる。転生者になるべく訓練していた時にもハッキリと言われてますし。

 

「ホントに頭の良いやつのノートって言うけど、オレからしたらお前滅茶苦茶賢いだろう」

 

「中学以降の勉強なんて基本的には専門職以外では糞の役にも立たないものです。勉強が出来る=賢いと言うのは少しだけ間違いです」

 

「じゃあ、どういうのが賢いって言うんだ?」

 

「それは業界によって異なりますが、そうですね……頭の回転力や無理難題を応える豊富な知識と経験が賢いというもの。米屋くんの知り合いにそんな感じの人は居ませんか?」

 

「ボーダーの先輩の東さんって人がそうかもしんねえ。でも、東さんも普通に頭良いぞ」

 

「机上だけの勉強をしてきていない証拠です……それに比べれば私なんて」

 

 転生者になる為には一般的な普通校の学校を卒業できるぐらいの学力は鍛えられている。

 それなりに努力はしているつもりだが高校に上がってから100点を一度も取っていない。本当に頭の良い転生者ならば全教科満点、いや、飛び級制度がある国に留学したりする。神堂さんも日野のおにいさんもそんな感じだったし。

 

「テストで良い点数を取れるのと賢いは違うんですよ。現に米屋くんも去年はただ覚えておけばいいところを一夜漬けで覚えてはところてん形式で忘れてはを繰り返してなんだかんだ上手くやったじゃありませんか」

 

「去年はマジで助かった」

 

「いえいえ、最後は貴方の頑張りがあったからですよ……ただまぁ、勉強を教える感じのキャラが定着したのは困りますけど」

 

 たまたまクラスが一緒であいうえお順も近い方だったので班が一緒になったりしてバカで勉強を教えたりしたら今の関係になった。

 社交辞令みたいなのが出来ても本当の意味での人付き合いというのが苦手な私にとっては米屋くんは眩しい感じの存在だったりする……ある程度は気楽に生きられたら、どれだけ楽だったのだろう。追い込まれ続けるのは……いや、こんな考えをするのはやめよう。

 

「おーす、今日も早いな」

 

「出水くん、おはようございます」

 

 余計な事を考えるのをやめると今度は部隊でA級1位を取っているボーダーが誇る弾バカの出水くんが来た。

 出水くんはバカとは言われているが本物のバカじゃないので問題はない……成績、中の上ぐらいだけど。

 

「三雲、悪いんだけど午後の分の授業のノートを取っててくんねえか?今日、急に防衛任務入ってよ」

 

「また随分と急ですね」

 

「アレだよ、ボーダーと学生の両立が上手く行かなかったりする感じの奴が出たりするやつ」

 

「米屋くん、言われてますよ」

 

「オレには先生が居るから問題無いぜ」

 

「テストで赤点を取らない必要最低限の勉強ぐらいは自主的にしましょう」

 

「悪いな、何処を勉強すればいいのか全く分からねえんだ……ランク戦とかだったら何処をどうすればいいのか分かんのになんでだ」

 

 まぁ、それは向き不向きだろう。

 完璧に右脳型の人間である米屋に向いている……バカだけど強い、そういう隊員が無駄に多かったりする。ボーダーがあるから学業がそこまでかそれとも元からバカなのか、その辺りは人によって違うだろう。

 

「まぁ、いいじゃありませんか。米屋くんはA級隊員という1つの成果を上げているのですから」

 

「成果ね……お前、そういうのを気にし過ぎなところあるぞ。もうちょっと気楽にいけよ」

 

「そんな事を言ったら、写せるノートを貸しませんよ」

 

「悪い悪い、お前にはそれが合ってる」

 

 まぁ、今回はそれで流されるとしましょうか。

 ぞろぞろと生徒が集まってきているので米屋も世間話をしている場合じゃないと急いでノートを写しはじめる。

 進学校じゃない普通校でちょっとだけ頭の良い善人、それが今の私……昔の私が見たらどう思うのだろうか。こんな事が出来たとしても無意味、一番でなければならないとかこれは出来て当然とか思っていそうだ。

 

「サンキュ……何時もなんか悪いし、GWにどっか遊びに行こうぜ。奢ってやるよ」

 

「申し訳ありません。アルバイトがありますのでいけません」

 

 日頃のお礼をしてくれるつもりなのだが、生憎な事にアルバイトを入れているので行くことが出来ない。

 スケジュール帳を取り出しても暇な時は割と多々あるが、こういう感じの祝日はなにかと忙しい。

 

「アルバイトか〜京介の奴もGWは完全にバイト漬けって言ってたな」

 

「米屋くんはアルバイトをしないんですか?勉強関係以外のアルバイトでしたら、米屋くんみたいに明るくコミュニケーション能力の高い子は採用されそうですよ」

 

「オレはボーダー一筋だし、お金に困ってるわけじゃないからな」

 

「ハッハッハ……そんな台詞を1度は言ってみたい」

 

 世の中、資本主義経済なんだから。とはいえ金にも困ってないし人生経験もボーダーで積めるし米屋くんのアルバイトは無駄に終わりそうだ。

 人には人のペースというものがあるので無理にアルバイトしようぜなんて勧めれない。というかそもそもそういう感じの職場じゃない。

 

「てか、お前何処でバイトしてんだ?」

 

「蓮乃辺市で……まぁ、色々と。守秘義務的なのはあるから深くは教えれません」

 

「そこはボーダーもバイトも変わりないか」

 

「そんなものですよ」

 

 そもそもボーダーって幾らぐらい貰えるのかが謎である。

 A級隊員をやっているから固定給を貰えるとのことらしいが固定給が幾らぐらいか気になる。学生の隊員が多いからって最低賃金とか足元を見てたりしないよな、ボーダーは。まぁ、ボーダーには入るつもりは無い……少しだけカッコいいと思っているけども私は責任のある立場とか色々と苦手だからね。米屋くんがノートを写し終えたので返してもらい、その後は普通に授業を送る。

 ボーダーと提携している学校なのだが普通科の普通の高校で雄英高校みたいな特に変わった授業はしないし難しい授業はしない。転生者として高卒レベルにまで鍛えられている私には余裕……じゃないです。真面目に授業を受けておかないとなにを言われるかどうか分からないし提出物が悪ければ普通に成績が悪くなる。向上心が薄い方だが適当にやってるのがバレるとホントに五月蝿い。

 

「じゃ、また明日……あ、明日はオレの方が防衛任務あると思うからノートを頼むわ」

 

「ええ、分かりました」

 

 防衛任務で学校を休んだりするので、代わりにノートを取ってくれたり勉強の相談に乗ってくれる人……それが私の立ち位置。

 このなんとも絶妙な一般人ポジを1年間やり通していてなんだか達成感の様なものがある……普通の人って意外と大変なもんだよ、てつこさん。

 雑談をしながらクラスメート達は教室を後にしているので自分も下駄箱へと向かい、さっさと家へと帰る……部活動とかはやっていない。本気出したら転生する世界を間違えてるんじゃないかと思うから。手か波ぁ!的な事が出来るのは強い。

 

「ただいま」

 

「あ、兄さんお帰り」

 

 家に帰ると出迎えるのは我が弟こと三雲修……このワールドトリガーという漫画の主人公である。

 そう、なにを隠そう私は転生特典で【主人公の兄になる】と言うのを引き当てている……果たしてこの世界でそれは転生特典として役立つものだろうかと思っているが普通の家に生まれることが出来るのと原作主人公が頑張ってるのを間近で見られたりする……いやでも、やっぱな。

 

「今日はバイトが無いんだね」

 

「ああ、今日は休みだ」

 

「あら、おかえりなさい。ちょうどよかったわ。お使いに行ってきてくれないかしら?」

 

 今日が休みな事を伝えると台所から母さんが出てくる。

 私が帰ってきた事がナイスなタイミングだったようですエコバックを私に渡してきた。

 

「メモに書いてある物、買ってきて」

 

「分かったけど、ちょっと待って」

 

 流石に学生服のままスーパーには行きたくはない。

 自分の部屋に戻り学ランを脱いで私服へと着替えて玄関前でスタンバっている母さんからエコバックを受け取り買い物に出かける。

 

「3つぐらいスーパー指定してきてるな」

 

 メモにはスーパーが3つぐらい書かれてて、そこの特価商品を買ってきてとご丁寧に書かれている。

 自転車を出して行った方がいいかと一瞬家に帰る事も考えたが、これも筋トレの一種だと思えばいい……体を鍛える為に重りをつけているのだから。一番遠いスーパーに行けばボーダー屈指のイケメンである烏丸京介がオバちゃん達の列を作っていたが然程気にする事じゃない。

 

「昴さん」

 

「やぁ、千佳ちゃん」

 

 最後のスーパーに立ち寄るとワールドトリガーのヒロインでキーパーソンとも言うべき雨取千佳がいた。

 私を見たことでアホ毛がひょっこりとしておりトコトコと近付いて来る様はなんとも言えない可愛さがある。

 

「おつかいかい?偉いね」

 

「偉いだなんて、そんな……昴さんもおつかいですか」

 

「まぁね……と言ってもここで終わりだよ」

 

 このスーパーでマヨネーズを購入すれば今日のおつかいは終わる。

 千佳ちゃんも私と同じくメモを片手に買い物をしている。

 

「昴さん、次にアルバイトが無い日は何時ですか?」

 

「もしかして勉強で分からない事があるのかい?だったら私じゃなくてお兄さんの麟児さんに聞いた方が」

 

 私よりも現役バリバリの大学生に聞いた方が何倍も効率がいいよ。

 

「違います、その兄さんが昴さんと話がしたいって……でも、昴さんアルバイトで忙しいから何時が空いてるかなって」

 

「なんだそんな事か。私は基本的に日曜日が暇だよ……それにしても大事な話か」

 

「修くんの成績の事ですかね」

 

「修の成績は基本的な五教科は問題は無いよ……まぁ、体力の無さは相変わらずだからジョギングの1つでも一緒にどうだい?修一人ならやろうって気が起きないだろうし、誰かとやれば何時も通りの事になるだろうし」

 

「昴さんは誘わないんですか?」

 

「私はワイヤレスイヤホンで音楽聞きながらマイペースに行きたいんだ」

 

 人から心配されるのも、人から早く則されるのも、もう懲り懲りだ。

 他人との協調性は欠けている事は何処となく理解しており、千佳ちゃんも分かってくれたのかそれ以上はなにも言ってこない。とりあえずはマヨネーズを買ったので一緒に帰路につく。

 

「麟児さんからの大事な話か……」

 

 カレンダーに目を通し、呟く。

 まだ4月半ばで本当の意味で原作を開始しておらず、原作開始までにあれやこれやある感じのところまで来ている。麟児さんが私に大事な話があるとこの時期に言うのならば理由はなんとなく思い浮かぶ。

 

「誘ってくるかそれとも千佳と修の事を頼むと言ってくるのか……」

 

 私と言う人間はあまり才能は無い方だ。

 幸いにも某史上最強の弟子の様に環境面には恵まれていたお陰でその気になれば手から波ぁ!的なのが出来るくらいには成長した。

 一時期てつこにあんた何処まで成長するつもりよと聞かれたので特撮に出てくるヒーローみたいになりたいとだけは言っておく。特撮は良い文明だ。仮面ライダー、スーパー戦隊、最高。

 

「はぁ……胃がキリキリしてきた」

 

 明日の授業の予習とかやらないといけない事があるのに、麟児さんの事が邪魔になって胃が痛む。

 私、苦労人の立場だっただろうか……いや、ただの主人公のお兄ちゃんである……主人公のお兄ちゃんだからこんなに疲れるのか。転生者を転生させる運営側はそれが分かっていたから【主人公の兄】なんてものが存在しているのだろう。

 

「あ〜胃が痛む」

 

「兄さん、ちょっといい」

 

 家に正露丸的なのがあったかどうかを考えていると修が部屋に入ってきた。

 秀才で絵に描いた様な善人な弟なのでダメな部分を兄として見せるわけにはいかない。キリキリと痛む胃に耐えつつ修の話に耳を向ける。と言っても学校の問題で少しだけ分からないところがあったので聞いてくる感じだ。

 中学の問題なのでこの程度は楽勝だと修に答えでなくヒントを教えるとありがとうとお礼を言ってくる……やだ、この子素直。

 

「修を守る、か」

 

 私は三雲修のお兄ちゃんである。出来る限りは三雲修の味方になってあげたいが、力を貸し過ぎるのも修が本当の意味での成長が出来なくなる。

 ブラコンもいいけども程良く距離感は保っておかないとボーダーの顔みたいな感じにウザがられる……それは本当に嫌だ。修にとっては頼りになるお兄ちゃんでいたい……でも、痛いの嫌なんだよな。実弾入りの拳銃で撃たれた時、ホントに痛かった。

 人より才能がそんなに無くても環境にさえ恵まれていればある程度はどうにでもなる……光彦さんと音羽さんには感謝してもしきれない。カナリーナはどっちでもいいや。

 因みにだが、母も魔法が使える。彼女いない歴=年齢の魔女に女子力というものを教える代価に魔法の力を授かっている。滅多な事ではその力は振るわないがボーダーがヤバそうだったり防衛ラインを超えてきた時はなんの躊躇いもなく使うと宣言している。修は普通のメガネなので出来ない。

 

「今日の課題は終了っと」

 

 学校から出された課題を終わらせる。

 一応の為に米屋に分かりやすく説明を出来るようにはしておかなければ……なんで自主的に勉強しようとしていない奴の分まで頑張ってるんだろうな、私。

 

「……むぅ……謎だ」

 

 転生者というのはその魂によって容姿が決まるもので、極々稀に魂が不安定で転生する度に容姿が変わる転生者が存在している。確か宮野真守キャラと諏訪部順一キャラと中村悠一キャラと杉田智和キャラと男で多い。私の容姿は修達と同じく綺麗な黒髪の沖矢昴……そして私の名前は三雲昴、米屋はどうやって読むのかを一度躊躇った事がある。

 何故私の容姿が沖矢昴なのか……そして何処からどう見ても高校生に見えない。さっき千佳ちゃんと買い物をしていたら親子と見間違われたり警察に職務質問されたりと大変だった。因みに声は置鮎が素で頑張れば池田の声が出すことが出来る。



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お兄ちゃんは辛いよ 2

ネタが浮かぶから早いところ処理しておく


「入るぞ」

 

「いらっしゃい……麟児さん」

 

 時間は少しだけ流れて日曜日の週末。

 日曜日は休む為にあるものでアルバイトは入れない様にしている私の元に麟児さんがやって来た。

 

「私に話があるなんて珍しいですね。修には言えないこと……修の成績ですか?」

 

 テーブルを出し、座布団の上に座ると向かい合う形で麟児さんが座ってくる。

 なんの話なのかはなんとなくで分かるが当てるとややこしくなるので素知らぬ顔……これぞ転生者名物と言うかお家芸で有る原作知識でどういう感じの事を言ってくるかわかってるけども全く知りまんだ。

 

「修の成績は良好だ。彼奴自身が根が真面目だから平均点以上は取れる……まぁ、運動神経はそこまでだが」

 

「体は弱くても心は物凄く強い弟です……修の成績関係でないならなんでしょうか?」

 

「コレがなにかわかるか?」

 

 コトっと置いたのは21グラムぐらいの重さのある片手に持てる装置……トリガーと呼ばれる道具だ。

 

「トリガーですね……ボーダーに入隊したんですか。おめでとうございます」

 

「いや、違う。これは横流し品だ」

 

「!」

 

 あくまでも素知らぬ顔でならなければならないけど、麟児さんは包み隠さずに言う。

 トリガーは電気による科学とは根底から異なるトリオンというものを動力にしている近界民の技術。取り扱っているのはボーダー……ただボーダー以外でトリガーを作れそうな人に心当たりはある。横流し品とハッキリと言ったのでボーダーからパクったものだ。

 

「色々とあって協力者を得た。俺はそいつ等と一緒に近界民の世界に行こうと思っている」

 

「また随分と話が飛躍的な……」

 

「その割には驚かないんだな」

 

「ボーダーは近界民と交流があってトリガーという技術を手に入れた。近界民を研究したのでなく近界民の方から何らかのアクションがあったと考えているんです……少しだけ肩の力を抜いて考えていればボーダーは矛盾しているところがあったりしますからね」

 

 普段襲ってきているのがトリオンというエネルギーで出来たロボットとか公表はしていないが、冷静に考えればその答えには辿り着く。

 こちらの世界に意図的に襲撃を掛けているのならばなんらかの理由があると考えるのが妥当である……ホームズじゃないが初歩的な事だ。

 

「……お前は何処まで分かっている?」

 

 思ったよりも理解している事に麟児さんは驚いたものの直ぐに探りを入れる。

 何処まで喋っていいのか……いや、どうせなら喋れるところまで喋ってみるか。

 

「ボーダーは近界民の世界に行ったことがある、普段襲ってくるのがロボット、ボーダーは何度か近界民の世界に遠征している、近界民の世界は私達の世界とは異なりトリガー文明が根付いている、近界民もこっちの世界みたいに色々な国があるぐらいですかね」

 

「それは修に言ったのか?」

 

「言ってませんよ。確証もなにも無く批判をしたりする姿なんて見せられません」

 

 ボーダーと言う組織は世間的には悪から市民を守る防衛機関でいい。

 批判したり思うところがないわけじゃないが文句を言う暇があるならば自分で動き出せばいい。そしてそれをすれば文字通り痛い目に遭う……痛い目に遭うのはごめんなので余計な事はしない。

 

「それで船もなにも無いのにどうやって行く、いえ、そもそもでどうして私にそんな事を話そうとしたのです」

 

 私の周りには話し合いが通じそうなボーダー隊員がいる。通報をして現行犯で取り抑えればそこまでだ。

 それなのにわざわざ言いに来るなんて……物凄く嫌な予感がする。

 

「お前も一緒に近界民の世界に行かないか?」

 

 ほらね。

 麟児さんはコレはお前の分だと目の前にトリガーを置いてくれる……って、ちょっと待て。

 

「こういうのって発信器かなにかついているんじゃないんですか」

 

 トリガーには発信機的なのがついているのが公式設定集かなんかで書かれていた。

 私の分をわざわざ用意してくれたのはいいけれど逆探知的なのをされれば最後、あっという間にバレて拘束される。流石にボーダー相手に喧嘩を売るのは得策じゃない。

 

「安心しろ、俺達のは起動しなければバレない仕様にしている。なにも当てのない旅をしに行くんじゃないんだ……協力者の中に家族が拐われた奴がいる。そいつの弟を探すついでに、千佳の事をどうにかする」

 

「どうにかって、また随分と曖昧ですね」

 

 千佳ちゃんはトリガーの動力源で生体エネルギー的なのであるトリオンを尋常ではないほど持っている。

 トリオンはトリガー文明には絶対に必要不可欠なものであり、近界民がこちらの世界を襲撃する主な理由として優秀なトリオン能力を持っている人間を拉致する為である。

 そんな千佳ちゃんは過去に何度も何度も近界民もといトリオン兵に狙われている。

 今のところは上手い具合に乗り切っているのだが、それでも周りを危険な目に遭わせるぐらいならば自分一人でと思っている。過去に自分の事を信じてくれた友人が逆に拐われるなんて事があったぐらいだ。

 

「麟児さんがボーダーに入って千佳ちゃんを助けるって言う選択肢は無いんですか?」

 

「確かにその選択肢もある……だが、現状はどうだ?ボーダーは千佳の存在に全くと言って気付いていない。千佳が狙われる原因があるとして、それをどうにかするのがこの街を戦場に変えてる組織の筋じゃないか」

 

 麟児さんの言っている事には間違いはない。

 この三門市はある意味米花町よりも危険な街で、自覚や認識がされていないだけで戦争が勃発している。優秀なトリオン能力を持っている人間が拉致される云々をボーダーでは熟知していて、それに対してのなんらかの対応を取らないのはいけない事だ。

 そんな漫画みたいな冗談抜きで頭おかしいトリオン量を持った人間は存在しないなんて言い訳は通用しない。千佳ちゃんは黒トリガーと呼ばれるトリガー並にトリオンを持っている。保護の一つでもしておかないといけない。

 

「外部スカウトなんてしている暇があれば、ですよね」

 

 ボーダーの構成員は主に三門市の住人だが、ボーダーは県外、北は北海道、南は沖縄からスカウトをやっている。

 優れたトリオン能力を持った人間をスカウトしており、優れたトリオン能力を持っているかどうかを調べる装置は持ち運びが可能、と言うよりはトリオン測定する装置、ゲームボーイみたいな見た目だった気がする。

 

「でも、そんな文句を言うぐらいなら麟児さんが千佳ちゃんの事をそれとなく報告すればいいじゃないですか。トリガーを横領したってことはボーダー関係者は最低でも1人は居ますよね」

 

 しかし、文句を言うならば自分でやればいいだけだ。

 麟児さんが原作でも勝手に向こうの世界に行ってしまったのは色々とおかしい。そこから上手く出来るんじゃないか。

 

「それだと千佳は救われない」

 

「?、ボーダーじゃ守れないって言うんですか?」

 

 まぁ、確かに修の犠牲(生きている)があったから原作は上手く乗り切ってるところがあるけども。

 

「そうじゃない……自分の事を唯一信頼してくれた友達が拐われた事を千佳の心の中に罪悪感の様な物がある。それを取り除くには、その友達を探し出さないといけない。千佳が前に進む為にはその子を連れて帰るぐらいの事をしないと、そうすれば千佳自身も変わることが出来るかもしれない」

 

 確かに友達を助ける事が出来れば千佳ちゃんは大きく変わることが出来る……と言うかもっと早くに変わろうと思えば変われる。

 変身する事が出来ないのはきっかけの様な物が無いからで……そのきっかけを与えるのは後、半年後になるだろう。こればっかりは物語が始まらないとどうにもならない。私がどうこう出来ない……ホント、駄目な奴だよ私は。

 

「行くのは止めないんですね」

 

「このままなにもせずに居るのもボーダーに頼るのも出来ない」

 

「千佳ちゃん、泣きますよ」

 

「それぐらいの事は覚悟の上だ……昴、お前も一緒に来ないか?」

 

「!」

 

 これは意外な提案だ。

 麟児さんの事だから千佳云々を託すのかと思ったが、まさか誘ってくるとは思ってもみなかった。

 

「私を誘うなんて、どうかしてますよ」

 

「お前は自己評価は低いが相当優秀な方だ……なによりもホントの意味で実戦を経験していて知識も豊富だ」

 

「それはお世辞でもありがたい」

 

「お世辞じゃない、事実だ……お前が来てくれれば心強い」

 

「買い被り過ぎですよ」

 

「そんな事はない……実際には見たことは無いが百歩神拳とか言う技を使えるのもだ……実際に見せてくれないか?」

 

「普通に家の壁に穴が開いて母さんに夕飯抜きにされそうなんで嫌です」

 

 後、あれシンプルに疲れる。

 人様に見せるために色々と技を覚えたりしたわけじゃない。家族や自衛の為に身に着けたものだ。

 

「そうか……向こうの世界に行くまでにまだ時間がある」

 

「すみませんが行く事は出来ません」

 

 考える時間はあるかもしれないが答えはもう決まっている。

 過去に一度調子に乗って痛い目に遭っているので下手な冒険はしない……特になんの宛もない冒険は危険だ。

 

「千佳ちゃんの友達を見つけたら、帰ってきてくれますか?」

 

「……どうだろうな、そもそもでこっちの世界の人間を拐う国から助け出さないといけないから片道切符の可能性が大きい」

 

「だったらやめましょう。多少の無理や無茶は大事ですけどしないに越したことは無いです」

 

「それは出来ない……俺はもう後戻りが出来ないところまで来ている」

 

 今更ボーダーにトリガーを返してごめんなさいで終わらないし、複数名での犯行だから引くに引けない。

 

「千佳の事を頼む」

 

「頭を上げてください、麟児さん……止められない私が悪いんです」

 

 麟児さんを説得出来る言葉を私は持ち合わせてはいない。

 今から通報すると言う手段を用いればすべて解決するかもしれないけれど、上手く逃げるかもしれない。

 

「それに私は千佳ちゃんよりも修の心配をした方がいいんで、その頼みは無理です……修はああ見えて大胆なところがあるから、麟児さんが急に居なくなったらなにをしでかすか分かりません。麟児さん達を探す為にボーダーに入るとか言い出しそうです」

 

「……そうか。その可能性もあるか……万が一千佳が追いかけようとして来たら止めることは」

 

「出来ません、千佳ちゃんなりの前進や変身に止まったままの私は文句を言えません」

 

 私がああだこうだする権利は何処にも無い……そんなに止めたいのならば、自分で止めればいいだけだ。

 それが出来ないから私にこうして頼みに来ている。しかし私にも無理なものは無理……出来る事よりも出来ない事の方が多いんだ。

 

「でも、ホントに危ない時が来たら手を貸します……そんなの無いことを願うのが1番ですけど」

 

「そうか……すまないな、こんな話をして」

 

「修にも一言ぐらい声を掛けてくださいね」

 

「ああ……そうだ、コレを渡し忘れていた」

 

 そう言うと麟児さんはメモ用紙を渡してきた。

 なんなのだろうとメモ用紙を見るとそこにはボーダーのトリガーの名前が書かれていた。

 

「ボーダーのトリガーはメインに4つ、サブに4つトリガー枠があって俺が勝手にお前に合うと思う物をセットしておいた」

 

「え、持って帰らないんですか?」

 

「それはお前の物だ……使えばボーダーにバレる。たった一回しか使えない、本当に危ない時にそれを使って千佳と修を守ってくれ」

 

 麟児さんはそれを言い残し、この場を去っていく。

 部屋には麟児さんが横流しして貰ったトリガーが置かれており、恐る恐る手に取ると予想以上に軽かった。

 

「……これを使うのは当分先になるか」

 

 使えばボーダーにトリオン反応なりなんなり出てきて捕まってしまう。

 練習も無しでトリガーを使えなんてそんなまるで漫画に出てくる様な主人公じゃないか。ある日突然出会う系の主人公は修だよ。持ってないけど持っているメガネなんだよ、弟は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

「修くん、昴さん、兄さんが……兄さんがぁあああああ!!」

 

 そんなこんなでGW。麟児さんは近界民に拐われた……と言うことになっている。

 実際のところは近界民の世界に乗り込みに行ったのだがトリガーが横領されたとバレると組織として問題なので上手く揉み消している。いや、今はそんな事はどうだっていい。ちっちゃくて可愛い千佳ちゃんが洒落にならないぐらいに本気で泣いている。兄までも去ってしまったと言葉を出すことが出来ずに泣いている。

 

「……兄さん」

 

「……今は千佳ちゃんを泣かせるだけ泣かせよう」

 

 兄が居なくなってしまった事に泣き叫ぶ千佳ちゃん。真実を大体知っている身としてどう接すればいいのか修は悩んでいる。

 どうすればいいかと言われてもそんなに人生経験は豊富ではない私がなにかを言うことが出来ない……悲しいな。転生する前も転生した後も鍛えたってのになんの力も発揮出来ていない。人には人のペースや才能があるから気にしなくていいなんて言ってくれるけど、本当に必要な時に必要な力が無い……完璧じゃないからか……私じゃ完璧になれないか。

 

「リリエンタールの力があれば麟児さんに会うことが出来るかな?」

 

 ボソリと耳に語りかける修。

 お世話になっている日野家にいる賢い犬ことリリエンタールの力を用いて麟児さんとの再会を考える。

 

「あの時はリリエンタールは家に帰りたいと思いと日野のお兄さん達がリリエンタールに会いたいと言う思いがあったから出来た。けど、今回は違う。麟児さんはこうなる事を覚悟の上で向こうの世界に行った……千佳ちゃんは麟児さんに会いたいって気持ちはあるけど、麟児さんは千佳ちゃんに会うつもりは無いみたいだ」

 

 自力で帰ってくるとあの人は言っていた。

 なんの成果も上げる事なく帰ってくることは絶対に無い……ボーダーと交渉する為にもそれ相応の成果は必要だ。

 

「麟児さん……兄さんは麟児さんの事を何処まで知ってるの?」

 

「向こうの世界に行かないかって誘われた」

 

「なっ!?」

 

 そこまで驚くと言うことは原作通りの感じだろう。

 

「協力者が居るとまで聞いていたが、そこまでだ。ボーダーに頼る手はあると言っていたが止めることは出来なかった」

 

 雨取麟児が鳩原未来以外の誰を協力者としているかは知らない。

 

「兄さんは行こうとは思わなかったの?」

 

「面白そうな旅にはなりそうだけど、あまりにも当てが無い危険な旅だ……リスクが多すぎる」

 

「だったら止めない……いや、僕も麟児さんを止めることが出来なかったから同じか」

 

 ボーダーに通報をすればいい、それだけで解決をする。

 修も私もその一手をしなかった。修なんて自分も行くと言い出している……本当に罪深い事をしている……ああ、くそ、胃がキリキリとする。

 

「昴さん、修くん……ごめんね」

 

「いいんだ千佳」

 

「そうだよ……辛い時に辛いと言って泣けれる事は良い事なんだ。限界ギリギリにまで追い込まれる前に思いっきり泣くんだ」

 

「もう、大丈夫です」

 

 泣いた痕が残っている千佳ちゃんはまだ震えている。

 本当は麟児さんが向こうの世界に行こうとしていることを知っていたなんて口が裂けても言うことが出来ない。

 

「メールか……」

 

 修にはとっくに送られたであろうメールが私にもやって来た。

 

【千佳と修を頼む】

 

 謝罪の一言も無いのだろうかあの人は……いや、逆か。

 私が此処に残ってくれるから安心して近界(ネイバーフッド)に行くことが出来た……残された者として私が頑張らなければならない。

 あ〜辛い。修はなんか真剣な顔で麟児さんを止められなかったことを悔やんでいる。千佳ちゃんのマジ泣きの顔を見たから仕方無いと言えば仕方がない……私はなにを頑張ればいいのだろうか。ボーダーに入るのはなんか違う気がする。



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お兄ちゃんは辛いよ 3 

「母さん、大事な話があるんだ」

 

 GWもあっという間に終わり本日はアルバイトは無い日なので夕飯を食べ終えて食器を片付けていると修がとある書類を片手にやってくる。

 

「改まってなんなの……もしかして貴方もアルバイトをはじめるとか言い出すんじゃないでしょうね」

 

 食器を一纏めにしながら流し目で私を見てくる母さん。

 中学生の頃からとあるところでアルバイトをしていた私にはあんまりいい顔をしていない。一応は一部上場の良いところに勤めてるんだけど、子供なんだからもっと青春を謳歌しなさいと言っている。高校生になってからはそんな事はなくなった。

 

「違う……ボーダーに入りたいんだ」

 

 机の上に置かれたのはボーダーの入隊試験を受ける為に必要な書類だった。

 流石は真面目な修、既に自分が書かなければならない欄には記入済みだった。

 

「いきなりなにを言い出すのかと思えば……ちょっと見せてみなさい」

 

 いきなり却下をしないのは意外だった。

 母さん、あんまりボーダーをよく思っていない節があったりするけども……これはイケるだろうか。

 

「ダメよ、こんな危ないところに行ったら」

 

 無理だったか。まぁ、当然と言えば当然だろう。

 ボーダーの隊員になると言うことは三門市の戦場に出ると言うこと。可愛い我が子を戦場に出すなんて旧日本軍の様な考えをうちの母はしない。

 

「大体、貴方はこういう事が向いてない。いいえ、仮に向いていたとしても私は勧めないわ」

 

「……それでも、僕は入りたい」

 

「それはボーダーじゃないと出来ない事なのかしら?」

 

 母さんはハッキリとダメだと言ってくるが引くつもりはない。そんな姿勢の修を見るのははじめてなので母さんはしっかりと耳を傾けている。

 

「日野さんの所や神堂くんのところじゃダメなの?」

 

「ボーダーじゃないとダメなんだ……危険なのは承知してる。けど、ボーダーになら手掛かりがあるかもしれない」

 

「手掛かり……麟児くんの事ね」

 

 ご近所付き合いなりなんなり色々とある故に雨取家の事もそこそこ把握している母さん。

 麟児さんが居なくなってしまった事はちゃんと熟知している。

 

「確かに近界民関係だとボーダーに入る事が1番かもしれない……けれど、ボーダーが正しいとは限らないわ。今回みたいな事が起きた以上、信頼が出来る組織とは言い難いし」

 

「それでも可能性があるなら……」

 

 修、受かる前提で言っているな……まぁ、なんだかんだで受かるんだろうが。

 それはさておき、母さん相手に一歩も引かないのは流石だぞ修。

 

「昴、貴方はどう思っているの?」

 

「ボーダーに麟児さんの手掛かりがあるかどうかは不明だけど、このままなにもしないという選択肢が修の中に無いのなら、やらせるべきだとは思う……ただ修は戦うって事には向いてないし才能があるわけでもないから苦労するのが目に見える」

 

「そう……貴方は入りたいなんて思っていないの?」

 

「アルバイトをしながらの両立はちょっと……それにボーダーが完全に信頼出来る組織って言えない以上は孤軍奮闘の身でいい……多分、その内何回かボカをやらかすし、いざと言う時に絶対の味方になれる立ち位置の方がいい」

 

 ボーダーに憧れを抱いているかと言われればあるが、権力争いだ内部抗争なんてのはごめんだ。

 私は基本的には平和を愛する人間であり、隠れブラコンでもある……弟の為に戦う事が出来るお兄ちゃんなんだ。

 

「貴方らしいわね……ついてきなさい」

 

 折れることのない修とそれに賛同をする私を見て母は若干だけど折れた。

 何時もならば直ぐに食器を洗うのだが今日は水に付けるだけに留めており、2階にある私の部屋の丸いタイプのドアノブを右に2回、左に3回回して開いた。

 

「おばさん?」

 

 部屋のドアを開くと何時もの私の部屋……ではなく、ちょっと何処かの家のリビングを思わせる部屋だった。

 そこの部屋の主こと幽霊のマリーがフワフワと浮きながら急にやって来た。マリーちゃん、相変わらず元気そうにしていてなによりだ。

 

「ごめんなさいねマリーちゃん……ちょっと思いっきり体を動かせる部屋ってあるかしら?」

 

「母さん、いったいなにをするつもりなの?」

 

「ボーダーに入りたければ私の屍を越えていきなさい」

 

「母さん!?」

 

 とんでもない事を言い出したよ、この母は。

 結構、いや、かなり急な事なのでマリーは首を傾げるのだが、一応は思う存分に暴れられる部屋はあるのでそこに案内する。

 

「修、掛かってきなさい」

 

 クイクイっと挑発をしてくる母さん。修はマジなのかと若干テンパっており冷や汗をかいている。

 

「安心しなさい魔法は使わないわ」

 

「実の息子を相手にそこまでやるか」

 

 と言うか使っちゃ駄目だろう魔法は。母さんも平穏に三門市で暮らせるとは思っていない節がある……なんだろうな。

 こう、転生者のお陰で原作キャラが通常より強化されると言う話は割と耳にする。テイルズオブゼスティリアに転生した先輩とかアリーシャを強化して病ませたりしてるのを地獄の養成所で見た……だが、なんで母なのだろうか。

 まぁ、持たざるメガネである修は強かったりすると色々とややこしかったりする。15年一緒に生きてはいるが修は体育会系の人間じゃないのは分かっている。私は賢い犬リリエンタールの時に痛い目に遭ったから自ら進んで死地に行くのはちょっと嫌なのだ。

 

「いくよ、母さん」

 

「来なさい」

 

「おばさんと修くん、喧嘩してるの?」

 

 親子がリアルファイトをしようとしている様を見守るだけの私だったがマリーが心配をしてくれる。

 

「あれは二人なりのコミュニケーションなんだよ」

 

 どうして原作主人公が強くならなくて、母が強くなるのだろうか。

 いや、確かに母さんならばと何処か許される風潮があるが断じてそんな物は無いのである。母は2歳年上の私が居ることにより原作よりも2歳歳を重ねている39、つまりは四十手前のおばんである。そして私は容姿が黒髪の沖矢昴だけどまだ17歳にすらなっていない高校生だ。

 

「せやっ!」

 

 やるからには真剣にやる修は母さんに向けて拳を振るうのだが遅い。

 元から遅いというのもあるのだろうが、母さんを殴らなければならないという罪悪感に否まれており、通常よりも遅い。

 

「なにをしているの!」

 

 バシッと修の拳を掴むと直ぐに関節を決めに行く母さん。

 動きに迷いがあることを直ぐに見抜くのは息子の事が分かっている。流石の母と見守りながらも取り敢えず手を上げる。

 

「一本!」

 

「ボーダーの訓練は普段から襲ってきてるロボットじゃなくて対人戦なのよ。例え身内でも躊躇ったらダメよ」

 

「そうは言われても……」

 

「四十手前の私でこんなんだったら、体育会系の若い子には負けるわ」

 

 言っている事には間違いはない……ただ言っている人が間違いな気がする。

 それはそうとしてこんなにドタバタして大丈夫なのかと心配をする……部屋がぶっ壊れる事はないのだが、騒いでいると下の階にまで響く。

 

「ちょ、ちょっとこれどう言うことよ!?」

 

 私達が今居る部屋の下の階の住人、それはつまり賢い犬リリエンタールの主要人物こと日野兄妹が騒ぎを聞きつけてやってくる。

 ツインテールが似合う意外と女子力が高かったりするカンフー少女こと日野てつこは部屋に入ってきた途端に母さんに攻撃をしている修を見て叫ぶ。修達もてつこがやって来た事を驚いて戦いを一旦やめる。

 

「てつこさん、お騒がせして申し訳ありません。少々込み入った事情がありまして母さんと修は戦っているんですよ」

 

「いや、どういうわけよ!」

 

「分かりやすく言えば母さんを倒さないとボーダーの試験を受けられないとの事です」

 

「はぁ!?あんたじゃなくて修がボーダーに!?」

 

 あまりにもいきなりの事に困惑しまくるてつこ。

 ゆっくりと落ち着いた声で事情を説明しているのだがなんでそうなったんだと呆れている。

 

「修、ボーダーに入るなんて止めなさいよ!あんた弱っちいんだから」

 

「てつこ……確かに僕は弱いよ。でも、それを理由になにもやらないのは違うんだ」

 

 こんな事は無意味だと主張をしに行くてつこだが、修は諦めない。

 野上良太郎の如く弱かろうが絶対に折れない芯を見せつけてくる……メンタルお化けだから諦めさせることはほぼ不可能だ。

 

「僕がすべき事だと思っているから僕はやっている……母さん、もう一回」

 

「修……」

 

「修を止める事を諦めなさい……引きこもってた時も裏切る事をせずにいた。その事を忘れたわけじゃないでしょう」

 

 弱っちいのにそれでも立ち上がる修、そんな修を見守るてつこ……全く、受験の年だって言うのに青春をしている。

 嘗て引きこもりだった自分の事を何度も心配して家まで訪れていたクラスメートでもなんでもない少年は弱いけど強いんだよ。

 

「なにやってるのよ、修!真正面からやったって運動音痴のあんたが勝てるわけないでしょう!」

 

 そして見事なまでのツンデレを発揮するてつこ。修に真正面から戦うなと遠回しにアドバイスをしている。

 

「修、真正面から挑んでも無駄なのは最初から分かりきっている事だ……コレは勝負であって品行方正を求める試合じゃない」

 

 ツンデレは近年では悪い文明扱いをされているので私も微力ながらサポートを入れる。

 多少の汚い手は使ってもいいと教えておく……修には真正面から以外の戦闘が向いている……王道的じゃないメガネだが、それが修のいいところ。

 

「真正面から挑んでも駄目……」

 

「ちょっ、なんで私ので分かんないのよ」

 

「てつこさん、もう少しオブラートに行きましょうよ……さて、どうするか」

 

 このままじゃダメなのは分かったので、考える修。

 これが本当の実戦だったら今頃は母さんにボコボコにされているのだろうが、考えている姿を見て満足気な表情を取っている。ただ満足はしているけれどそれだけじゃダメだとキッとなる。

 

「そっちから来ないなら行かせてもらうわ」

 

 修が攻めて来ないので逆に攻めに来る母さん。

 修に向かって発勁をくらわせに行こうとすると修は両腕を動かす。

 

「あれは……ねこだまし!」

 

 パシンと音を鳴らして手を叩く相撲でもある必殺技、ねこだまし。

 その動作と音に反応をしてしまった母さんは思わず目を瞑ってしまい大きな隙を作り修はその隙を逃さずに突き押しを決めた。

 

「……ふぅ、負けたわ」

 

 あっさりと負けを認めた母さん。

 結構ギリギリな勝負だったのでやっと勝てたことに修はホッと胸を撫で下ろす。

 

「ヒヤヒヤさせるんじゃないわよ!」

 

「てつこ……ごめん」

 

「な、なんで謝るのよ」

 

「僕が弱いから変に醜態を晒したみたいだし……兄さんや母さんみたいに色々と出来たらいいんだけど」

 

 友達に情けない姿を見せてしまったことを落ち込む修だが、てつこからすればカッコいい姿である。

 ツンデレというものを理解していない修は申し訳無さそうな顔をしている。そんな私達みたいに色々と出来たらって

 

「百歩神拳なんて覚えても人を殺しかねない技なんだから使い所が無いぞ」

 

「あんたは加減が出来てないだけで常にフルパワーで撃ってるからでしょう。死なない程度に撃てるでしょ普通は」

 

「てつこさん、貴女は普通じゃなくて天才に部類されてる事を忘れないでください」

 

 そもそもでリリエンタールの力を使ってるからって百歩神拳がポンポンと使えるわけがない。

 外気功も数ヶ月で習得するてつこは普通じゃなくて天才に部類される……私はギリギリ秀才、いや、光彦さんに梁山泊よろしく扱いて貰ったから凡才なんだろう。

 

「さて、第2ラウンドと行きましょう」

 

 え?

 

「昴、今度は貴方の番よ」

 

「待って、そんなの聞いていない」

 

「今思いついたのだもの」

 

 なにそれ、ありなの。

 しれっとした顔で言っているけれど心の準備もなにも出来ていない。出来ていたのならば、もうちょっとスムーズに行けている。

 まぁ、とはいえ相手は母さんだ。ライトニング光彦に鍛え上げられた私ならば余裕で勝つことが出来る。

 

「てつこちゃん、後は任せたわよ」

 

「え……分かりました」

 

 冗談抜きでアドリブにも程がある。

 突然指名されたてつこは一瞬だけ固まるが直ぐに受け入れて腕をバキバキと鳴らす。怖い。

 

「待ってください、てつこさん。これは不毛な争いです」

 

「そうは言うけどおばさんに頼まれたのだもの。きっちりこなさないと」

 

「もしかしてさっき私が修にサポートをしたの根に持っていますか?」

 

「……別に、そんなんじゃないわ」

 

 絶対に嘘だ。

 ちょこっとだけ不貞腐れた可愛らしい仕草を見せつけるてつこだが、何時でも戦闘が可能な準備に入っている。

 小学生にして素手で薪割りが出来るとんでも少女で中学に上がってからもさらなる高みを目指して天下一武道会でも目指しているんじゃないかの勢いだ……マジで総合格闘技団体にスカウトされないのが謎である。

 

「はっ!」

 

 私の意思は完全に無視される前提で話は進んでおり、てつこは拳を叩き込んでくる。

 その気になれば鉄筋コンクリートすら破壊出来る拳を真正面から受けては一溜まりもないので上手い具合に逸らす。しかしそれでも腕がジンジンとする。最近忙しくてマリーとか会いに行くことが出来なかったけれど相変わらずてつこ強え。

 

「こうなっては致し方ありません。錬成化氣」

 

 まともにやり合っても勝てそうに無いのは直ぐにわかった。

 一旦距離を置いて両手を合わせて詠唱をするのだが、てつこが縮地で一瞬にして距離を縮めてきて掌底をくらわせにくる。

 

「あんたにそれ使わせるとなにしてくるか分からないから使わせないわよ!」

 

「いや、てつこさんも使えるでしょう……」

 

「詠唱なんてしてたら狙ってくださいって言ってるものでしょう。もっと早く出来るようになりなさいよ」

 

 トリガーという未知の道具を使ってのバトル物の世界の筈なのに何処で道を間違えたのかリアルファイトをしなければならない。確かに生身ならばどの原作キャラと戦っても勝てる時点で充分な気がする……いや、ここで満足していたらダメなのかもしれない。

 修がピンチな時に何処ぞの実力派エリートを名乗るセクハラ魔の如く颯爽と駆け付ける基本的には見守っている一般人的な立場が良いんだ……痛い目に遭いたくないけど修が頑張ってる横で頑張ってるのになにもしないのは兄としての威厳というものがある。

 

「錬成化氣、散華天対」

 

 こうなれば動きながら力を溜めるしかない。両手を合わせて詠唱をするとポワァっと光を纏う。

 最近これをやってなかったから光を纏うまでに時間がかかっていて、光が前よりも弱い。

 

「あんた昔より確実に弱くなってるわね2年前の方がもっと強かったわ」

 

「私は貴女と違ってカンフーしてる暇は無いんです。アルバイトしたり特撮見たりするのに忙しかったりするんです」

 

 中学時代の方がもっとやれたと言ってくるが、この時点で岩を二重の極みの如く粉々にする戦闘力はある。

 

「特撮見る暇があるならあんたが特撮の俳優並みのアクションをしてみなさいよ」

 

 時間を掛けてポッと拳に光を纏った私と違い一瞬で纏ったてつこ。

 これが才能というものの差なのか……っく、食後の運動にしてはハード、あまりにもハードだ。女性に手を上げる事に関しては別に致し方無い事なのは理解している。

 

「ふっ!」

 

「八卦掌!」

 

 掌底を当てに来るてつこに合わせるかの様に掌底を入れる。

 てつこの方がパワーは上かもしれないが私の身長は188cmと日本人にしては高身長だ。パワーの押合いにおいて大きいと言うのは正義であり

 

「っちぃ!」

 

 力の押し合いでは私の方が勝つ。

 体格というものでは勝てないことが分かっていたのに勝負してしまったことにてつこは舌打ちをする。

 

「そこまでよ」

 

「ふぅ……よかった」

 

 てつこと一旦距離を取ると母さんが間に割って入ってきた。

 

「おばさん、今いいところなんだから邪魔しないで!」

 

「目的を間違えてるわよ……それにこれ以上やったら本当に流血沙汰になりかねないわ」

 

「それぐらい……っ……分かり、ました」

 

 母の眼力は本当に恐ろしい。ギャーギャー騒いでいたてつこもビビってしまう……なんなのうちの母親は。

 ともかくこのままいけば打透頸とか使わなきゃ勝てない……てつこは本当に強いんだよ。日野博士夫妻を狙う魔の手から自分を守る為に鍛え上げてレンガを指で穴を開けたりするのが出来るんだ。

 

「終わったの?」

 

「ええ、なんとか終わりました。騒がせてすみません、マリーちゃん」

 

 可愛く首を傾げるマリーちゃん。

 もう戦わないことをアピールすると何処かホッとしている……事情が事情故に致し方無いとはいえ知り合いが本気で殴り合ってるのを見るのは嫌なんだろう。

 

「ううん、怪我がなくてよかったよ……」

 

「にしてもボーダーね……そこに行くって決めてるなら止めるつもりは無いけれど、先に言っておくわ。あの組織、一枚岩じゃないわよ」

 

「おや、随分と詳しいですね」

 

「兄貴達が技術提供してるのよ……どうせなら私も入ってやろうかしら」

 

「やめておいた方がいいですよ……貴女の場合はどうしても日野がついてきてしまいます」

 

 修のことが心配なのは分かるが、あまり手を貸しすぎてしまうとそれは修の成長の妨げになってしまう。

 私も色々と言ってあげたいがそれを言えば修は本当の意味での成長が出来なくなる……本当はマンツーマンでコーチとかやってたいんだがな。

 

「ボーダーは組織です。組織に入ると色々とややこしい……組織とは関係に無い立場に居る人間は必要になります」

 

「それはあんたの仕事じゃない」

 

「私の仕事は他にある……修の友達であるてつこさんだから出来る事もある。人には人の役割や立ち位置の様なものがある……貴女が力を発揮するのも私が力を発揮するのもその時が来るまで隠しておかなければなりません」

 

 そしてその時は確実にやって来る。

 ボーダーが近界民の脅威から人々を守る為に刃を磨いているのならば、私も家族を守る為に刃を磨いている……ただ、その刃はあんまり見せない。過去に一度酷い目に遭っているのだから。かくして修のボーダーの試験を受ける事は許可が降りて今回の騒動に幕を引いた。



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ワートリクロスウォーズ 序章 

 諸君、俺こと木ノ本桃矢は転生者である。具体的にどんな転生者かと言われれば、皆さんご存知転生者養成所で鍛えられた転生者である。詳しい事は作者の他の小説を見れば分かる。

「はい、もしもし」

 

 俺がなんで転生者になったかに関しては割とどうでもいい事なので割愛をしておく。

 俺の転生した世界が何処なのかと聞かれればあのジャンプの大人気漫画ことワールドトリガーの世界に転生した。

 

『もしもし桃矢くん』

 

「あ、おばさんどうも。どうしたんですか急に」

 

『実は修がボーダーに入隊をしたいって言い出して』

 

 転生した俺は主人公こと三雲修の母型の従兄弟にあたる存在だ。

 年齢は少しだけ離れているので距離感をイマイチ掴みづらい時もあるが仲は良好だと思う。

 

「修がですか……また随分と急ですね」

 

『ええ……正直なところ、入隊試験を受けさせるのも嫌なんだけれど修がどうしてもって言うから、取り敢えずダメ元で受けるのは納得したのだけれど、やっぱり心配でね』

 

「ボーダーって上手く正義のヒーロー感を出してますけど、やってる事は異世界との戦争ですからね」

 

『だから、桃矢くんも一緒に試験を受けてくれないかしら?手続きとかの費用はこっちが持つし、入隊が決まっても断ってもいいから』

 

「俺がですか。まぁ、いいですけど修が受かったらどうするつもりなんですか?」

 

『本当は嫌だけど、入隊は認めるわ……ただボーダーという組織が信用出来ないと思ったら問答無用で辞めさせるけど』

 

 言っている事は中々にバイオレンスだけど、全ては親として修を心配しているからのこと。

 母は強いと言うがこの人は本当に次元が違う。前世、親戚づきあい最悪だったのを思い出す……酒を誰も飲まないのに毎年お中元でビールを送ってくるのはやめてほしい。素麺も処理し切れないし、送るならば油が1番だ。

 

「分かりました、そういう話でしたら……何時ぐらいに試験があるんですか?」

 

『明日よ』

 

「め、滅茶苦茶急ですね」

 

『あの子がとことん粘るに粘ってね……』

 

 修くん、頑張ったんだな。限界ギリギリまで粘るに粘って許可を貰えたんだな……入隊試験、落ちてしまうけど。

 従兄弟になっておけば原作に深く関わる事が出来るらしいが……。

 

「まぁ、俺も記念受験みたいなノリで受けてみますよ。修くんにはそのこと伝えてあるんですか?」

 

『大丈夫よ、今目の前にいるわ』

 

 おぅ、目の前にいるんかい。

 と言うことはついさっきまでの会話を聞かれていたか……いや、そこはどうだっていいことか。

 

『ちょっと変わるわね』

 

『桃矢兄、ごめん。急にこんな事になっちゃって』

 

「お前が気にすることじゃない……お前がそうしたいと思ってるなら、止める権利はおばさんかおじさんしか持ってない」

 

 修くんがやりたいと思ってボーダーの入隊試験を受ける。それを邪魔する理由は何処にもない。むしろ頑張れと応援をする。

 今まで流れに身を任せて生きていた感じの男が一瞬にしてこうなるのはそれはもう語るだけの事はあるのだろう。

 

「一応聞いておくけど、試験に落ちたらどうするつもりだ?俺の記憶が正しければボーダーの入隊条件はトリガーを扱う特殊な才能が重視されまくりの筈だ。その才能が無ければバッサリと切り捨てられるぞ」

 

『その時は……キッパリと諦めるよ』

 

「そうか……ん、諦めるのか?」

 

『母さんに試験を受けて無理ならこの話は最初から無かった事にするって言われてるんだ』

 

 出された条件が意外と厳し目だったようで、1回だけの後腐れを無くすための試験となっている。

 

「そうか……出来るだけ有能なところを見せつけろよ」

 

『うん。こんな事を言うのもなんだけど桃矢兄も頑張って』

 

「ばっか、俺は記念受験だよ」

 

 俺はボーダーに入るつもりはサラサラ無い。こう見えて理系な俺はトリガー工学に関しては興味を持っている。

 ただボーダーは言い方は悪いかもしれないけれど軍事施設みたいなところがある。故に主に兵器関連を作る。車とかの便利な物は既に此方の世界の技術で出来ているので作らない……作らないのである。

 

 理系な俺は地獄での猛特訓の際に地獄の指導教官からこう言われた。

 

「君には発明や技術チート等を生み出す才能がある」と。

 

 転生者にも色々といる。

 基本的になんでもそつなくこなせるがなにかに突出していない凡庸型、前世で色々とあったせいで人格がぶっ壊れて価値観がおかしくなったりする達見型、地獄の訓練と本人の才能がこれほどまでにベストマッチして才能が開花しまくりな天才型と、規格外のぶっ壊れ型と色々といる。

 更に細かく言えば天才型の中には戦闘型とか技術チートとかあって、俺はどうも技術チート関係に才能を持っている様だ。

 

 ならば、この才能を惜しげもなく使いたいと俺は思う。人の役に立ちそうな物を作ろうと思った。

 貰った転生特典から色々と考えに考えた結果、俺はVRMMOみたいな物を作ろうと思う……ただまぁ、なんだ。世の中には上には上が居るとの事で、どんな世界観でも確実に問題無く作動するVRMMOと言うか電脳世界に意識をダイブさせる技術を作れる転生者がいるんだよな。その人達は当然、天才の一個上である規格外のぶっ壊れ型に分類される転生者だ。

 

「うし、そうと決まれば今から勉強……したところで意味はねえか」

 

 ボーダーはバカでもトリガーを使う才能もといトリオン能力が優れていたら誰でも入隊出来る。

 出来るけれど、そこから先開花をするかは本人次第である……根本的な事を言わせてもらえばトリガーを支給して、動きの訓練を一切教えずに独学でやれって言うのは中々にハードだ。マニュアルの1つでも用意しておけと思う。

 

「……落ちるんだよな、修」

 

 原作的な話をすれば、修はこの入隊試験落ちてしまう。

 その後にボーダーの上層部に直談判しようと警戒区域に乗り込んでくるのだが、今の感じだとキッパリと諦めそうだ。

 俺は……どうすればいいんだろうな。VRMMO的なのを作りたいと既に電子工学系の大学生以上の、それこそ石神千空程に知識は蓄えてる。この思いは正真正銘、本物だ。だから原作に積極的に関わりを持とうとはしていない。

 原作では死人が出たりするだろうが、そんな事は知ったことじゃない。救える命を救わないクソ野郎、それが転生者だったりする……まぁ、そもそもで転生者はこの世の理の外にいるみたいな存在だから仕方がない。

 

「あ〜どうしよう……」

 

 俺という存在が既に居る為にイレギュラーが起きてしまっている。

 なんとかして軌道修正しないといけないけど、俺に出来る事って言ったらモノ作りぐらいで修をボーダーに裏口入隊させる事は出来ない。

 どうしたものかと頭を悩ませているのだが、こんな事をしたって何一つ問題の解決策にはならない。

 

「シャトルラン、はじめ!」

 

 そんなこんなでやってきてしまったボーダーの入隊試験。

 なにか特別な試験をやるのかと思っていたのだが割と何処にでもある普通の体力テストだった。

 太らない程度にある程度運動をしている俺にとってこれぐらいは余裕なんだが、修の方は全然大丈夫じゃない。

 

「お前、大丈夫なのか。こういうところで点を稼いでおかないと、入隊が決まったら決まったで体を動かしまくるんだぞ」

 

「が、学力の方でカバーしてみせる」

 

「頭良くてもな……」

 

 今修が目指しているのはエンジニアやオペレーター等の裏方業務でなく表立って戦うC級隊員だ。

 基本的にはバカでも能力が高ければボーダーはなんとでもなる……修は考えて行動するタイプだから知恵は必要だが、それはある程度で充分だ。ボーダーに入隊したら訪れる第一の試練が如何にして動くことが出来るかだ。

 

「まっ、こんなもんか」

 

 学力試験は小学生でも出来る簡単な問題が多かった。基本的に中高生が試験を受けに来るのだから難しめの専門的な知識だと良い点数がとれないだろう。元々頭が良い俺にとってはこれぐらい余裕で全問正解だ。伊達に知識特化の転生者じゃない。

 地頭が決して悪くない修にとってこれぐらいならばケアレスミスとかあったとしても高得点を取ることが出来る……には出来るのだが、それでも修は落とされてしまう。

 

「全てはトリオン能力か……」

 

 この世界にはトリオンと呼ばれる生体エネルギーを生み出すトリオン器官というものを人間は持っている。

 ボーダーはこのトリオン器官が優れた者、つまりトリオン能力に優れた者のみを合格としている。ボーダーがどれぐらいのトリオン能力で合格基準を出すのかは知らないが、修のトリオン能力は1から10段階の評価で2である。

 

「……無い……」

 

 要するに修は切り捨てられる側の住人、所謂持っていない側の住人だったりする。

 ボーダーの入隊試験に修は見事に落とされてしまう。

 

「桃矢兄はどうだったの?」

 

「俺か?……合格してる」

 

 隣で試験に落ちてしまって気落ちしている修に申し訳ないけど、俺は合格してしまっている。

 とはいえ、俺はボーダーに入隊するつもりはない。正隊員として戦ってみたい憧れはあるにはあるけども、それよりも俺はVRMMOを作りたい。トリガー工学を学びたいけど、トリガー工学学んでもボーダーで兵器を作るだけになってしまうのは嫌だ。

 文明の機器は大体は戦争の為に作られた物とは言われるけど、そんな物を作るならば蝶ネクタイ型の変声機とかスケボーとか作りたい。

 

「なんで落ちたんだろう……ちょっと、聞いてくるよ」

 

「おう、外で待っている」

 

 本人なりに試験の結果は良かったと思っている。体力テストはともかく学力の方は上手くやれているはずだ。

 落とされてしまった理由をボーダーの審査官に修くんは聞きに行く。

 修くんはこれから試験に落ちた理由を担任のお父さんから聞かされている。俺が思うにトリオン能力だけを基準に試験の合否を決めるのは良くない事だ。ボーダー、上になる程残念な人が多い。

 

「どうだった?」

 

「トリガーを使う才能が僕には無いってハッキリと言われて、エンジニアかオペレーターを勧められたよ」

 

「それで、なるのか?」

 

「ならないよ……正隊員じゃないと、ダメなんだ」

 

 どうしても譲れないといった顔をする修くん。

 修くんの性格的にオペレーターとかエンジニアが向いているとは思うんだがな…………

 

「修くん、戦う力が欲しいか?」

 

 このまま放置したとしても勝手に原作通り進むだろうが、それだと面白味に欠ける。

 

「欲しいよ。でも、僕は試験に落ちたんだ。変わらないといけないのに、このままじゃなにも変わる事が出来ない」

 

 試験に落ちた事を本気で悔しがる。

 ボーダーに入って麟児さんの足取りを追おうと思っていたみたいだが、それすら出来ない……持っていないから。

 

「修くん君はどっちかと言えば持っていない側の住人だ。君には戦う事の才能が無い」

 

「分かってるよ、それぐらい」

 

「けど、それでもどうにかしたいなら俺は君に力を与える事が出来る」

 

「どういうこと?」

 

「ちょっと家に来い」

 

 詳しい説明をするのは後だ。

 俺は自分の受験番号が書かれた紙をビリビリと破り捨てて、修くんと一緒に試験会場である市役所を後にする。

 

「桃矢兄、力っていったいなんの事なの?」

 

「そのままの意味だ……俺はお前をボーダーに入隊させる事は出来ない。ボーダー側もお前にはトリガーを使う才能が無いと判断した。それでもお前は変わりたいと思ってるなら、力が欲しいのならば俺はお前に力を与えることが出来る」

 

「まさか桃矢兄、自力でトリガーを作ったの!?」

 

「……どうだろうな」

 

 俺は電子工学とかに関する知識は豊富だが、電子工学に関する知識は皆無だ。

 ただコレは俺が転生特典を独自の方向で研究に研究を重ねた結果なんとか作ることが出来た代物である。運営の事だからトリガーの一種とかにしているんだろうな。

 

「コレをお前に託す」

 

 コンデンサーマイクに似た形状の白色の機械を修くんに渡す。

 

「修くん、君に似合う色は……紺色だな」

 

 本来ならば赤色と言ってやりたいが、残念な事に修には赤色が似合わない。

 紺色が似合うとはなんともなところだが、それが持たざるメガネである修くんらしいと言えば、らしい。修の手に握られていた機械は白色から紺色へと変わっていく。

 

「トリガー、オン……あれ?」

 

「それはお前を換装させる機能はついていない」

 

「じゃあ、どうやって戦うの?」

 

「誰が何時、お前が戦うって言った」

 

 修が今から特訓したところで、今まで特訓していた奴に簡単に追い付くはずがない。

 2年以上は掛かるのだ。特A級の達人の元で教われば数ヶ月で戦える様になるが生憎な事に俺は戦闘特化の転生者じゃない。知識特化の転生者だ。生身の修を鍛え上げる事は出来ない。

 

「でも、力をくれるって」

 

「力って言っても色々とある。権力、財力、知力と。俺がお前に与える力は直接的に戦う事が出来る様になる力じゃない……けど、お前なら必ず使いこなす事が出来る代物だ」

 

 話が違うと言いたげな修くんだが最初から戦える力を貸すと断言はしていない。

 修は自分の手に握られた道具をジッと見つめる。コレはいったいなんなのだろうと、まだ具体的にどう使うのかを聞いていない。

 

「その道具の名前はデジヴァイス、デジタルモンスター、通称デジモンを出し入れする事が可能な道具だ」

 

「デジモン?」

 

「そうだな。口にするよりも実際に見せた方がいいな……リロード、ブイモン」

 

 ここから転生特典の話をしようか。

 俺は転生特典としてデジヴァイスを貰っている。どの世代のデジヴァイスかと聞かれれば、デジモンクロスウォーズのデジヴァイス、クロスローダーなのだが、恐らくはクロスローダーに備わっていない機能も備わっている高性能クロスローダーだ。

 

「っよ、お前がオサムか。オレはブイモン、よろしくな!」

 

「しゃ、喋った!?」

 

 突如として現れたブイモンに驚く修。

 ブイモンは修の側に駆け寄ると握手をする。礼儀正しくてなによりだ。

 

「こいつはいったい……」

 

「コイツって酷いな。オレはブイモンって名前があるんだよ」

 

「ブイモン……いったい何者なんだ?」

 

「オレはデジモンだよ。オサム、携帯を持ってる?」

 

「持ってるけど……」

 

「ちょっと貸して」

 

 修の携帯(ガラケー)を借りるブイモン。

 パカッと液晶画面を開くとブイモンは携帯に手を翳すとブイモンは光の粒子となって携帯の中に入り込んだ。

 

【オレたちがデジタルなモンスター、デジモンだっての分かってくれたか?】

 

「これって……」

 

「現実からインターネットの世界に移動をしている……俺が作ろうとしているVRMMOの最終形態をいってるんだ」

 

 俺がVRMMOを作ろうと考えた1番の理由は転生特典がデジヴァイスだったからだ。

 デジモンストーリーサイバースルゥースと言うゲームを知っているだろうか。あれはデジモン云々抜きで電脳世界に意識をアクセスする技術を、VRMMO的なのを作っていた。デジモンは電脳世界と現実世界の両方を行き来する事が出来る存在なので、デジモンについて研究をすればVRMMOを作れる。因みに意識を電脳世界にダイブさせるまでは技術が出来上がっている。

 最終的には流星のロックマン3みたいに電波変換して生身の肉体で電脳世界へと意識をダイブさせるレベルに……なったら犯罪に使われそうなのでやめておく。技術を進歩させすぎるのも世の中の為にならないし、やり過ぎると生命の論理に触れてしまう。

 

「これからお前はジェネラルになるんだ」

 

「ジェネ、ラル?」

 

「デジモンを指揮して戦わせる指揮官だ。もっと極端に言えばポケモントレーナーだ」

 

 多分、俺は絶対に言ってはならない事を言ったと思う。ポケモンとデジモンが被ってるとか分かってても言っちゃいけない事だ。

 しかし1番ザックリと来るのはこの例えである。修を鍛えたところで直ぐに限界を迎えるのは目に見えているのだから、こうなればもう他の誰かに戦ってもらうしかない。そう、デジモンならそれを補う事が出来る。

 

近界民(ネイバー)がなんなのかとかの相談を乗ることは俺には出来ないが、襲い掛かってくる近界民(ネイバー)を撃退する力は託す事が出来る」

 

 俺は原作に介入するつもりはあんまり無い。しかし、万が一とかがあるのが怖い。

 どうにかする方法は1つ……主人公である修くんに全部押し付けちゃえという結構他人任せないきあたりばったりにも程がある作戦だ。

 

「ブイモンが戦ってくれる」

 

「ブイモンは俺の軍、ブレイジングブルーフレアの傘下にあたるデジモンだ。お前はお前で自力でデジモンを増やして軍を作れ」

 

「増やすって、どうやって増やすんだ?」

 

「凄く簡単なやり方だ」

 

 特別難しい事をするわけじゃない。

 修の携帯の液晶画面に目を向けるとドット絵のブイモンは【準備OK】と出していた。修の手にある紺色のデジヴァイスを携帯に近付けると携帯からメロディが流れる。するとデジヴァイスの液晶画面がピカァと光を放つ。

 

「デジモンはデジヴァイスにメロディを聞かせる事で生まれる。確実とは言えないが、大体の確率で生まれる……この感じだと成功だ」

 

 デジヴァイスの液晶画面の光が収束していき色や形を作り出す。

 修の最初のパートナーとなるデジモン、ロクでもないデジモンが出てこない事を祈ろう。

 

『お前がオレのジェネラルか?』

 

「うわっ」

 

 真っ赤な体が特徴的なデジモン。デジモンクロスウォーズから出てくるデジモン、シャウトモンだった。

 立体映像で出てきたシャウトモンに思わず驚く修くん。シャウトモンはゲンナリとしてしまう。

 

『おいおい、こんなんがオレのジェネラルって言うのか?』

 

「こんなんじゃない。修くんはこう見えてしっかり者なんだぞ」

 

 自分を見ただけで声を出してしまっている修くんを心配するが、心配は無用だろう。

 デジモンクロスウォーズに出てくる工藤タイキよりもほっとけない体質な修を直ぐに気に入るだろう。

 

『オレはシャウトモン。詳しいことはデジヴァイスに書いてるから読んでおいてくれよ』

 

「ああ、僕は三雲修……その、よろしく頼む」

 

「ブイモン、もう戻っていいぞ」

 

 どう付き合っていけばいいのかイマイチ分からない修くんは戸惑っている。

 こればっかりは馴れてもらって時間で解決しなければならない。

 

「デジモンは基本的にはデジヴァイスの中かパソコンの中で活動させて、戦闘時になったら出てきて欲しいデジモンの名前を呼んでリロードと言えばいい」

 

「僕、パソコンは持っていないけど」

 

「じゃあ、俺のお下がりを貸してやる」

 

 最新型のパソコンに切り替えてちょっと前のパソコンが余っている。

 デジモンを入れるアプリとか色々と入れているから1から立ち上げなくても済む。

 

「なにからなにまで頼りっぱなしで……」

 

「そう思うんだったら、そうだな……その内、実験に付き合ってくれ」

 

「実験?」

 

「世紀の大発明の為に色々とデータが必要なんだよ」

 

 俺、友達付き合いとかしないし通信制の高校に通ってるから友人皆無なんだよ。

 元々引きこもりみたいなもんで太らない為に体を動かすしかしてないし……なんでそんな奴の容姿が木之本桃矢なんだろうな。

 

「とにかく頑張れよ。その内ボーダーでも対抗しきれない近界民(ネイバー)が襲来してきそうだから備えておけ」

 

 こうして修くんの軍ことブレイブクロスハートがはじまった……そして修はボーダーに入隊しなかった。

 とんでもない原作ブレイクをしてしまった気もするが後悔はしていない。修くんを必要無いと先に切り捨てたのはボーダーなのだから、俺は知らん。きっと修くんならどうにかする。頑張れ、主人公。



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メガネ魔改造計画 序章

ボツネタです。連載してほしいなら感想プリーズ


 オレの名前は青峰大樹、皆さんご存知転生者養成所で鍛えられた転生者である。詳しい事は作者の他の小説を見れば分かる。オレがなんで転生者になったかに関しては割とどうでもいい事なので割愛をしておく。テイルズオブゼスティリアとかいうクソみたいな世界と魔法科高校の劣等生とかいう人間のクズか選民意識の高いバカしか出てこない世界に転生して色々とやって無事に無限に転生する権利を得た。

 

「修、来たか」

 

「うん。待たせてごめん」

 

「気にすんじゃねえよ」

 

 無限に転生する権利を得たオレは遂に待望とも言えるワールドトリガーの世界に転生した。

 主人公である三雲修の母型の従兄弟として転生し、19年……黒子のバスケの青峰大輝になっているのでバスケで全国制覇とか色々とやってたりする。

 

「ボーダーの入隊試験会場はこちらです!」

 

 NBAで活躍する事が出来るプロのバスケットボール選手になる道はあったがオレはならなかった。

 別にバスケが嫌いとかそんなんじゃない……この世界、いや、この世界線はオレを含めて10名の転生者がいる。1つの世界にそんなに多く転生者がいるとか中々に厄介な事になっており、なにが厄介かと言えば転生者が徒党を組んでいる。一人居るだけでもチートな転生者が10人も居てその上で手を取り合っている。戦闘能力には自信があるオレだが流石に複数の転生者を敵に回す真似はしたくはない。いや、別に倒せなくもないけど、暴力で解決出来ない案件とか持ってこられると流石のオレもどうしようもないんだ。

 

「受かるといいな」

 

「うん」

 

 転生者だから原作では悲劇な目に遭う人を助けよう!とはならない。基本的にそんな事をするのはただの自己満足、エゴである。

 エゴでも救える命があるんだったら救うべき、やらない善よりやる偽善で結構という考えを持っている奴ほど転生者になる事は出来なかったりするのだが……まぁ、その辺については人それぞれ、少なくとも自分が生き残る為に生きている人だっている。強い力を持っているからと言って誰かを救わなければならない義務は無い。それこそめんどくさいで片付けれる……世の中、そのめんどうくさいをちゃんと真面目にやるかやらないかのどちらかが重要である。

 

「しかしまぁ、よくおばさんを納得させる事が出来たな」

 

 エゴ云々は置いておいて、オレの現在について語ろう。

 既に原作のターニングポイントとも言うべき第一次侵攻が起きて物語の舞台となるボーダーの基地が設立されてる。オレはといえばボーダーに入隊はしていねえ。徒党を組んでいる10人の転生者を敵に回すなんてめんどうな真似はしたくはねえ。

 普通に大学に通っている今まで送れなかった普通の人間としての生活を送っている……送っているんだろうか?いやまぁ、色々と裏でヒャッハーしてたりはするけども……う〜ん。まぁ、いいか。

 

「ダメ元で1回だけなら良いって許可してくれたんだ」

 

 普通の人間ライフを送っているオレに今度主人公で従兄弟である修がボーダーの入隊試験を受けるから一緒に受験してほしいと頼まれた。

 何故にオレに白羽の矢が立ったのかは分からないけれども、オレだけが合格しても別にボーダー隊員にならなくてもいい。基本的に暇人であるオレは修の母で叔母である香澄おばさんの頼みを引き受けた。

 

「まぁ、言い方はアレかもしれないがやってる事は戦争屋と一緒だからな」

 

 ボーダーの存在を危険視しているおばさん。

 実の息子が戦争の最前線に立っているとか正気の沙汰じゃない。きっと何度も何度もダメだと言ったのだろうが修の方が中々に折れなくて必死になって交渉した結果、ボーダーの入隊試験を受ける許可を得たんだろう。

 

「修、今からお前が目指すのは戦闘員だ……正直お前には向いてないと思うが頑張れよとしか言えない」

 

「うん……青兄さんは受かったらどうするつもり?」

 

「オレはパスだパス。あくまでもお前一人だけで心配だから付き添いで試験を受けるだけでボーダーには興味は無い」

 

 と言うよりはボーダーに入って他の転生者を敵に回すのがシンプルにめんどくせえ。本音は言うには言えないので興味ない素振りを見せておく……興味は無い。ランク戦を面白そうだとか思わないわけじゃないけどもアレは一応は軍事演習の一環でゲーム感覚で楽しんだらいけないとオレは思う……戦闘能力に999能力値を割り切っているオレだが戦いを楽しいとは思っていない。そこは履き違えられたら困る。

 

「学科試験はマークシート式です。記入漏れが無いようにお願いします」

 

 そんなこんなでボーダーの入隊試験がはじまる。

 学力試験だとテストを受けさせられるのだがオレは知っている。この学力テストはフェイクだと。ボーダーはトリオンと言うHP兼TP的な生体エネルギーを生み出す器官、トリオン器官の能力を測定している。一応は学科試験とかで優秀な成績を叩き出したりすれば入隊時に貰えるポイントが高かったりするとの噂だが……そうだな。

 

「ここは敢えてアホを演じるか」

 

 授業さえ聞いとけば赤点はない(英語以外)ぐらいには地頭は賢いと思っている。

 石神千空並の知識を与えられた事がある影響かは知らないのだが頭はいい方、大学には通ってないフリーター……いや、一応は働いているからフリーターじゃないか。たまにはアホキャラを演じようとテストの問題を全て外す。綺麗に0点を取るのは中々に難しいもの。

 

「次は体力試験になります。最初は20mのシャトルラン」

 

 生体エネルギーであるトリオンで出来たトリオン体を使って戦うのにスタミナを測るシャトルランに意味はあるのか?

 体を動かす系は超得意なので脳筋のバカを演じようとシャトルランは本気を出す。

 

「そこまで!」

 

「おい……まだ、走れるぞ」

 

「いや、247回を越せば満点以上だ。これ以上はCDに音源が無いんだ」

 

「ったく、長友が300超えしてるんだから用意しとけや!」

 

 割と全力で行ったっていうのに使用しているCDの音源が無いとかふざけんじゃねえよ。

 長座体前屈とか跳躍力、握力測定など全ての体力テストで満点以上の成績を叩き出した。握力97kg……平穏で腕が劣ったものだ。

 

「え〜…っと0034……あった」

 

 そんなこんなでスタミナを枯らしつつも全てのテストを終えて結果発表。

 ボーダーの入隊試験には見事合格した……

 

「修、どうだった?」

 

 オレのトリオン能力は1から10段階で言えば13だ。

 ボーダーの入隊試験に落ちるって言うならば人間性の面で問題があったりするのだろう。色々と人間性の面で問題があることを過去にしでかしているのでそっちの方面で落ちる可能性があったのかもしれないのだが、落とされる事は無かった。

 

「……無かったよ」

 

 オレは落とされる事は無かったのだが、修は見事に落とされてしまった。

 トリオン能力が2の修は落とされて当然……トリオンは水みたいに貯蓄する事が出来る。事前にトリオン能力10のトリオン体を用意しておけばトリオン能力に恵まれないが戦闘力が高い戦闘員を採用する事が出来るんだけどな……今のボーダーの技術じゃ無理があるか。

 

「なんで落ちたか聞いてくるよ」

 

「おぅ。此処で待っとくから思う存分聞いてこい」

 

 修はテストに自信があったのだが落ちてしまった。その事に対して不服なので試験官にどうして落とされてしまったのか聞きに行った。

 

「青峰さん」

 

「……有里彩か」

 

 修が試験官の元に向かい合格発表の場から消えると1人の女性が……転生する度に坂本真綾キャラになる女、有里彩(アリサ)が急に姿を現した。ここに居るという事は修の事をずっと監視し続けていたということか。

 

「今のところなにも異常は起きてねえ。適当にブラブラして時間潰してろよ」

 

「私達が居る時点で本筋から道筋は外れています……この後、どうするつもりなんですか?」

 

「叔母さんに修がボーダーの入隊試験に落ちたって報告するだけだ」

 

 オレがやることは大してない。今回は付き添いで試験を受けにきただけでボーダーには入隊しない。

 修がボーダーの試験官に聞きに行っている間におばさんにボーダーの入隊試験に落ちたことを伝えておこうとスマホを取り出す。

 

「お前は早いところ消えとけ……カメラがあるとこだとお前は色々と厄介だからな」

 

「分かりました……いっそのことスカウトするのはどうでしょう?面白い事になりますよ」

 

「はいはい……ま、それもありだな」

 

 上の指示通りに動き続けるのは窮屈だ。有里彩はオレの目の前から急に居なくなった。

 急に姿を消す事には慣れているので驚くことはせず、スマホを取り出して叔母さんに連絡を取った。

 

「もしもし」

 

『大樹くん……どうだった?』

 

「落ちましたよ。修なりに頑張ってましたけど、ボーダーが求めているモノを持っていなかったみたいで……今、不服申立てに行ってますけど、不合格なのは変わりはないです」

 

『そう……大樹くんはどうなの?』

 

「受かりましたけど、オレはボーダーに興味無いっすよ……修の事だから更に偉い人に抗議に行くかも」

 

『あの子ならホントにやりそうだからなんとかして止めないとね……今日はありがとう』

 

「いえいえ、基本的に暇人なんでコレぐらいは問題ないです」

 

『なにかお礼をさせて……夕飯、好きな物を作るわ』

 

「じゃあ、ビフカツでお願いします」

 

『牛カツね、わかったわ』

 

 夕飯のリクエストをすると通話が切れる。

 修が帰ってくるまで時間があるが……さて……あ、帰ってきた。

 

「……」

 

「なんて言われたんだ?」

 

「ボーダーが計測しているのはトリガーを使う才能みたいなもので、僕にはトリガーを使う才能が無いって言われたよ」

 

「……まぁ、トリオン能力が低かったら意味は無いな」

 

「とりおん?……青兄さんなにか知ってるの?」

 

「まぁ……知っているか知っていないかで言えば色々と知っているぞ」

 

 人には言えない事だから言わないようにしているがボーダーの弱味とか色々と知っている。

 戸籍偽造の証拠を掴んでいるのでそれをネタに修の入隊を揺する事は出来なくもないのだが戸籍偽造の証拠で脅すのは最終手段……いや、待てよ。いっそのことボーダーが修をスカウトしに来る展開……割と面白い展開だな。

 

「教えてくれないかな。どうして僕が落とされたのか!」

 

「いいぞ」

 

 面白い事を浮かべたのでとりあえずそれを決行しようと思う。

 修を引き連れて一人暮らししているマンションに向かって帰り、何処に置いてあったかとトリオン能力を測る装置を探し、見つけ出す。

 

「修、ボーダーがトリガーを使う才能を測っているって言ってたが使う才能ってのは何だと思う?」

 

「えっと……なんだろう。運動神経抜群だったら落とされた人達の中で運動神経が悪い人もいたし……」

 

「答えはトリオンだ」

 

「トリオン……さっきも言っていたけど、そのトリオンっていったいなんなの?」

 

「一言で言えば電気並に便利な生体エネルギーの事だ……心臓の直ぐ近くにトリオン器官と呼ばれる見えない臓器が存在している。そこから生体エネルギーであるトリオンを生み出す。ボーダーは生体エネルギーであるトリオンを動力として動くトリガーを使っている。だからトリオン能力が低い奴は弾かれる……この管を握れ」

 

「う、うん……」

 

「あ〜……1から10段階で言えば2だな。コレは酷え」

 

 コレで戦場に立てとか技術(テクニック)を極めないとどうする事も出来ないな。メンタルは化け物なのにトリオン能力は低い……ピーキーな性能をしているな……今からトリオン器官を鍛える……いや、それなら上にトリオン能力10のトリオン体を作ってもらった方がいいな。

 

「そんなに酷いの?」

 

「まぁな……トリオン器官を鍛える事が出来れば今度はボーダーに入隊する事が出来るかもな」

 

「あるの!?トリオン器官を鍛える方法が!」

 

「なに、難しい事じゃねえよ。筋肉と同じで使い続ければいい」

 

「使うって、ボーダーしかトリガーは持っていないんだよ」

 

「それはお前の先入観だ……ボーダー以外にも紅き界賊団っていう団体がトリガーを使っている」

 

「紅き界賊団?……青兄さんはなにを知ってるの?」

 

「一度に全部話しても理解する事は出来ねえだろうから、その内話してやる……今は、そうだな。お前にトリガーを託そう」

 

 後で色々と怒られる可能性は高いだろうが、こうなったら修を魔改造しよう。

 1度要らないと修を見捨てたのはボーダーなんだ。後で必要な人材だったと言われても知ったことじゃねえよ。

 

「トリガー……」

 

「ああ、そうだ。と言ってもボーダーのトリガーとは勝手が異なるから嵐山隊みたいな活躍が出来るかどうかは別だ……なに、オレが使いこなせるように訓練はしてやるよ。ただし誰にも言うんじゃねえぞ。叔母さんにも内緒だ」

 

「…………分かったよ」

 

 色々と言うべきかと悩んでいる修だが今はなんとしてでも戦う力が欲しいので承諾してくれる。

 ならばとオレはとあるトリガーを修に渡す。

 

「銃?……ボーダーのトリガーとは大分違うみたいだけど」

 

「その銃の名前はギアトリンガー、使うには戦隊ギアと呼ばれる歯車を回すことで様々な力を発揮するトリガー……お前は今日からゼンカイガオーンなるんだ」



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HIRETU クローバー 1 

ちょくちょく書こうかなと悩んでたけど、書くに至らなかったのを遂に書き上げた。


 異世界転生をした。

 異世界と言ってもただの異世界ではない、現実世界で創作物として作られた世界に転生した。

 この場合は異世界転生したといえばいいのか二次元の世界に行ったと言えばいいのか……実際のところは上位世界だ下位世界だ細かな違いがあるらしいが、まぁ、いいことだ。

 閻魔大王が現代の幼児遺棄や虐待問題等を見て慈悲深い心でやり直しの機会を与えた。創作物の世界に転生させた。

 ラブライブだFateだ色々と有名な世界に転生させたが、心身共に未熟な子供を転生させた為に色々と厄介な事が起きた。結果、転生者になるには一度、心身共に鍛え上げられる。転生者養成所である一定のラインまで鍛え上げると異世界転生が出来る。かくいう俺もそのラインに達して異世界転生を果たした口だ。

 

「……分身の術!……上手くいかんか」

 

 転生したからと言って浮かれてはいけない。

 絶望だらけの世界に転生させられることもあれば平穏しかない世界に転生させられることもある。

 俺の転生した世界はバトル物の世界だ。魔法が当たり前の世界、ファンタジー要素満載の世界である。転生特典と呼ぶに相応しい力を有してはいるものの、バトル物の世界のインフレは舐めてはいけない。1年あれば地球が滅びるというのも大いに有り得るのだから。

 故に俺は気を抜かない。転生特典で色々と貰っている、事前に訓練をしているが、それでも新たな肉体を鍛え上げておかねばならない。

 

「……分身の術……っち」

 

 手で印を結び、身体から魔力を放出する。

 すると自分に見た目がそっくりだが何処か色が薄くプシューと煙を上げているなにかか出現する。

 分身の術、それは残像の分身を生み出す術なのだがこれが上手く成功しない。魔力を練り上げているのだが、残像を生み出すのに必要な量の魔力以上の魔力を使ってしまっている。

 

「影分身の術!!」

 

 別の印を結び、今度は残像でなく実体を作り出す影分身の術を使う。

 ボンッと白い煙を上げるとそこには複数の自分が立っており、術は成功する……しかし素直に喜ぶことは出来ない。

 この影分身の術は有名漫画であるNARUTOの影分身の術と大体同じ原理で出来ており、チャクラの代わりに魔力を分散して分身を作り出す。

 転生特典等で魔力量が多く増えている俺にはそこまでの負荷が掛からないものの、いざ実戦を想定して考えれば意のままに動く残像を作り出す分身の術を覚えておかなければならない。

 

「变化の術……ふむ……」

 

 今度は変化の術で变化をする。

 と言っても幼い姿から大人の姿に変わるだけで、特にこれといった違和感の様なものはない。

 变化が出来るが分身は出来ない……魔力が多すぎるのが原因だが上手くコントロールさえすれば分身の術は可能といったところか。

 

「俺はこのまま分身の術の訓練をする。他は別々の術を」

 

「「「「了解」」」」

 

 俺の出した影分身の術は魔法ではあるがNARUTOの影分身と同様に経験値が本体に入る仕組みになっている。

 引き続き本体の俺は分身の術を会得する為の修行をし、残った分身達は水風船を右手と左手、両方の手で1つ持つ。

 

「「「「はぁああああ」」」」

 

 ジャブジャブと水風船の水が動く。なにをやっているかと聞かれれば螺旋丸の修行である。

 螺旋丸は形態変化を極めた技であり、HUNTER×HUNTERの念能力やFateの魔力等をチャクラの代用品として扱っても覚える事の出来る技だ。必殺技と呼ぶに相応しい力を秘めており、戦闘タイプの転生者は基本的には覚えていたりする。

 

「「「「っく……」」」」

 

 4人の分身の俺は螺旋丸の第1段階である回転に苦戦している。

 水風船を破裂させなければならないこの段階だが、水を乱回転させるのが思ったよりも難しい。

 原作でも主人公であるうずまきナルトは片手だけでは水を回転させられないと分かったのかもう片方のを用いて水を乱回転させていた。

 恐らくだがうずまきナルトがやっていたやり方で第1段階をクリアをしようと思えば出来る。しかし、それでは意味がない。影分身で放出と形態変化係を分けての螺旋丸や両手での螺旋丸は螺旋丸の発動までの溜めのタイミングや隙が大きすぎる。

 片手で螺旋丸を撃てる様にならなければならない。それも自分の利き手ではない手での螺旋丸を会得する……しかし、コレがかなり難しいのだ。

 絶対に無理だとは言わないがかなりの時間を有する。

 

「影分身の術」

 

 故に影分身の術を頼る。オリジナルである俺に経験値が還元されるので、買ってきた水風船の数だけ分身をする。

 そして螺旋丸の第1段階である修行をする……今のところは1つの箇所に右回りに強く回す事が出来ているだけだ。コツの様な物を何処かで掴まなければならないが如何せんなにもきっかけが無い。

 最終的にどんな技が完成するのか、そこに至るまでどのような修行をすればいいのかが分かっているだけまだマシ……そう捉えていた方がいいのかもしれん。

 

「ふぅ……■■■■」

 

 前世の記憶がある等の事は誰にも話せない。そもそもで地獄の仏が言えないように施している。

 時折自分の本名を呟いてみることもあるが、転生者になるには自分の名前を売らなければならず呟いた自分の名は音として響かない。なにを言っているか分かるのに、なにを言っているか聞こえない。

 転生者になった事について色々と思うことはあれども後悔は無い。停滞している世界で弱者として、搾取されるものとして生きて死ぬだけ。下手をすればそれすらままならない人生などゴメンだ。

 

「コレが孤独で充実している、というものだろうか」

 

 影分身の術で数を増やしているが事実上、1人だ。

 誰かの手を借りずに1人で修行をしている。バカが見ればボッチだなんだと言うが、1人というのは案外気が楽だ。どちらかといえば頭が固いであろう俺も修行に集中することが出来て余計な事を考えずにすむ

 

『おい、なに一人言をぶつぶつ呟いてんだよ』

 

「自問自答だ、気にするな」

 

 目の前には分身しかいないが、頭の中で自分以外の声が響く。

 声の主が誰なのか知っているので俺は一人言だと適当に流しながら胡座をかく。心に波紋を一滴も出さない。意識をトランス状態にさせる。

 余計な物は全て削ぎ落とす……集中とはまた違うかけ離れた違う領域に意識を持っていき、魔力を研ぎ澄ませる。

 

『毎日毎日、修行で飽きてこねえか?』

 

「なにを言っておる。世には危険が蔓延る……コレだけやっても油断は出来ん」

 

『あれか、冥府とかいうところにいる悪魔に対抗する為か……言っとくがオレの力を使えばその辺の悪魔なんぞぶっ飛ばせるからな』

 

「その辺りの雑魚ならばお前の力を借りなくてもどうにかなる…………」

 

 トランス状態の意識を保ちつつ、頭の中で語りかけてくる声に返事をする。

 気分は悪くはない……今ならば色々と感知することが出来る。この世界には魔力探知以外にも人間が発する呼吸や視線、筋肉の微弱な動き等から生み出す氣を探知することが出来る。

 

『そのまま自然のエネルギーを吸収してみな。魔法が仙法に切り替わるぜ』

 

「その修行はまだ早い……外気功等はゆっくりと時間をかけて会得せねば」

 

 トランス状態をオフにして今度は神経を研ぎ澄ませる。

 ゾーンと呼ばれる領域の手前にまで意識を落とす。黒子のバスケ等でゾーンの演出があったが、アレは本当にいい例だ。ゾーンに入る為の扉は深く固く閉ざされている。俺が自力で開けようとするが中々に開かない。

 転生者の中ではまだ見たことはないらしいが、世の中には自分の意志で自在にゾーンに入ることが出来る天才が居るらしく一部の歴史上の人物がそれだったりすると習った。

 

「……ふっ!!」

 

 現段階での極限の意識の状態で魔力を開放する。

 目に見えるレベルの青色のオーラを身に纏い、足元に亀裂が入る……文字通りの全力でやれば足元が完全消滅していた可能性があるな。

 

「そろそろ仕事の時間だ、消えろ」

 

 パッと指を鳴らすと影分身体は消える。

 それと同時に疲労感に襲われるがもう一度指を鳴らすとそれが少しだけ軽減される。

 こことは違う、自宅に置いてある睡眠用の影分身体を消して披露を軽減させておいた。

 

「……せやっ!」

 

 影分身の術での経験を一纏めにしたので水風船を割るのに挑戦する。

 やはり1つの方向に右回りでグルグルと周りはするが別の方向に右回りで回すとなると回転がどうしても弱まってしまう。だが、それが出来ないというわけではない。特訓をすれば更に素早く回転させることが出来ると確信がある。

 両手を使えば簡単に破裂させることが出来るがそれでは意味がないと割れなかった水風船を袋の中に入れて仕事に向かう。

 

「第1隠密部隊、辿り着きました」

 

「賊の逃亡者を見つけ次第、仕留めろ」

 

「了解」

 

 今更だが俺は忍者だ、日ノ国の隠密御庭番衆の第一部隊の部隊長を務めている。

 今日は大名に仕えている武士達と共に村々を荒らし回っている山賊の退治に出掛けている。刀を持った武士達が主に賊の退治をする。

 俺達忍者は賊の住処から逃げた逃亡者を殺す、もしくは逃げた先にいる別の盗賊のアジトを見つける等が仕事だ……NARUTOの世界は忍者が主流だが、この世界は武士が主流だ。

 

「事前の情報では狢山賊団は大きな組織ではない。生かしたところで何処か別の組織と鉢合わせする事は無い……だが、念には念を入れておけ。逃亡者の内の何名か捕縛で、ある程度の数が取れたのなら始末しておけ」

 

 部下達にどう動くかの指示をする。

 日ノ国の大名お抱えの武士達は非常に訓練されていて、心身共に強い。

 正直なところこの程度の賊ならば俺達忍者が居なくても問題無い……取りこぼしがあってはいけないから、忍者を呼んだのだろう。

 

「ゆけぇ!!狢山賊団を退治しにいけ!」

 

「未開拓の地の労役の刑で終わるのに降伏しなかった奴等に目に物見せてくれるわ!」

 

「日ノ国の武士を舐めるなぁ!!」

 

「襲撃作戦だというのに堂々と声を上げて……阿呆が」

 

 突入する武士達は刀を持って大声を上げる。

 襲撃するならばもう少し静かにしろと思うが、そんな事をするのは忍者ぐらいだろう。いや、そんな事が出来るから忍者なのだろう。

 

「全員、準備はいいか……そろそろ抜け人が出てくる」

 

 山賊のアジトはてんやわんや。

 しかし氣を感知してみるとその中でもヒッソリと抜け出そうとしている者が何名かいる。

 

「右から2人、左からも来る……土遁が得意な物を、山土で囲う」

 

「はっ!直ちに準備をします」

 

 部下に指示を出すと巻物を取り出した。

 手に魔力を纏わせ印を結んでいると如何にもガラの悪そうな見た目の男達が出てきた

 

「土遁・山土の術」

 

 部下が印を結んだ後に地面に両手をつくと土が迫り上がり山賊達を挟む。

 ボキリと音が聞こえたが、殺しはしていない……まぁ、どちらにせよ死刑である事には変わりはないが

 

「さて、俺は比較的に穏便な人間だ。故に問おう、貴様等のアジトは他に何処かあるか?それとも助けを求めて助けてくれる当てでもあったか?」

 

「っ、お、御庭番衆……ま、まさかお前は──せん」

 

「俺の事などどうだっていい。それよりも答えろ……でなければ、力づくでも吐かせるだけだ」

 

「ひぃっ!?命だけは」

 

「残念だが交渉の段階は既に終わっておる」

 

 俺の事を見て怯える山賊達。

 命乞いをしてきてもその段階は既に終わっており、俺は命乞いをした奴の首をクナイで貫いた。山賊の男はあっさりと死んだ。

 転生先の多くはバトル物の世界であり、他者を傷つける、場合によっては人を殺さなければならない。転生者になるための訓練として色々とやらされているので今更眉一つ動かさない。

 

「た、助け……」

 

「安心しろ、痛みは一瞬だ」

 

 最初の男から充分にDNAを採取する事が出来た。

 何処かに助けを求める山賊の額を鷲掴みし、片手で寅→巳→戌→辰と印を結ぶと地面に術式の様な物が構築される。

 

「穢土転生の術」

 

 山賊の男を中心にパラリパラリと塵がくっつく。

 男は苦しみ藻掻くが、どうすることも出来ずあっという間にさっき俺が殺した男の姿へとなった。

 

「お、俺は……さっき殺されたんじゃ」

 

「ああ、殺した……情報を吐いてもらおうか。他のアジトは、この山賊を操っているお上のバカは何処のどいつだ」

 

「こしまえ……」

 

 NARUTOに出てきた穢土転生の術は本来、敵から情報を聞き出す為にある。

 確かに不死身のゾンビとして戦わせるのはいいが、穢土転生の精度を上げすぎると自我を持ち場合によっては契約を解除されたり、制御が出来ない……この術は卑劣なのかもしれぬが、コレこそが正しい使い方だ。

 

「こしまえ……やれやれ闇が根深いの」

 

 山賊等の賊の中には幕府と繋がっている可能性もある。

 あまり良くない噂がある上官のコシマエが出てくるとは……悪事の証拠を突き付けねばならんし、それでも足掻いて逃げようものならば密かに暗殺しなければならない。世の中、上に行けば行くほど綺麗事では済まん……コレが現実か。

 

「越前と密接に繋がっておるのは何処だ」

 

「──」

 

「はぁ……デモクラシーの制度を上に提案してみるか」

 

 幕府の司法の大御所が裏で山賊達と繋がっている。

 日ノ国も汚点と呼ぶべきところの多い国なのが嫌でも分かってしまい、大きなため息をつく。

 

「扉間様、他の連中はどういたしますか?」

 

「穢土転生の一体がいれば他は問題無い。解体(バラ)しておけ……馴れてない医者の卵か忍に回してもいいぞ」

 

「はっ!!」

 

 残っている捕縛した山賊達の処罰を伝える。

 既に死刑が確定している身なので容赦はしない……念の為にこいつ等の過去を調べてみたが普通に悪人だった。

 俺はよく知っている。悪い人間が少しでも良いことをしたからって今までの行いが清算されるわけではない。むしろより罪深くなったことを。俺はよく知っている。悪い事をやっている奴等の本当に悪い事はそれを悪い事と自覚していない、罪の重さを一切感じていないカスだということを。

 世の中が腐っていてグレてしまった等の過去が一切無いゴミ屑に慈悲なんてものは無い。

 

「火遁・業火滅失の術」

 

 穢土転生した山賊を解除して昇天させた後、山賊達は武士を前に全滅した。

 流石はと言えるが忍者の仕事はここからであり火遁の術を用いて遺体を灰燼となるまで燃やしつくす。普通の火を使えと言いたくなるが数十人の人間を灰になるまで燃やすのはかなりの火力がいる。火遁の術が使える忍一人で一気に燃やし尽くす事が出来るのを考えればコスパ的にコチラの方がいいのかもしれない。表立って堂々と戦うのが武士で裏で後始末をするのが忍……現実と対して変わらないか。

 

「では、コチラが報酬となっております」

 

「ああ……」

 

 国抱えの忍だが、任務を熟したので報酬はいただく。

 昔ながらの日本みたいな世界観の癖に硬貨でなく紙幣が存在しているのがなんともファンタジー

 

「扉間様、この後拉麺でもどうですか?」

 

「いや、いい。俺が来るとお前達も息抜きが出来んだろう……これで美味いチャーシューでもトッピングしとけ」

 

 まだ未成年なので酒は飲めないが俺より年上の部下達は飯に誘ってくれる。

 しかし歳下上司なんて厄介な爆弾を抱えては美味い飯も美味くは無いと任務報酬の内の少しを託す。

 

「扉間様、付き合い悪いっすよ」

 

「人とコミュニケーションを取るのはあまり好まん……それより羽目を外しすぎるな、明日も仕事がある」

 

「はい!!」

 

 部下達は嬉々とした声で返事をする。

 武士と違ってあまりパッとしない花形でもなんでもないむしろ裏方である忍を進んでするとは……バトル物の世界はどうしてもイカれてる者が多いな。俺も何れはそんな人間になるのか……それは少し嫌だな。

 

「さてと……夕飯は秋刀魚の塩焼きでもするか」

 

 体について土を振り払い、目指すは市場…………

 

「ブラッククローバー、か……」

 

 俺が……千樹扉間として生まれ変わり転生した世界はブラッククローバーの世界。

 だが、ダイヤモンドでもスペードでもハートでも魔女の国でもクローバー王国でもない……日ノ国に転生した。

 俺達転生者を転生させている運営サイドは原作に関わらせる事が出来るようにはするらしいが……今更、原作と関わってもな……まぁ、こればかりは時に身を委ねるしかあるまい。




作者の作品でちょくちょく出てくるHIRETU様です。


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HIRETU クローバー 2 

 巻物を見ながら頭を悩ませる。

 日ノ国にいる山賊達は独自の徒党を組んでいると思えば、日ノ国の司法の中でもそれなりに力を持つ越前(こしまえ)と裏で繋がっていた。

 司法の目があまり届かない裕福ではないが食うに困らない平凡な村に襲撃を仕掛けられたのは裏で日ノ国の事情に詳しい者が居たからだった。

 

「全く、上が腐っていては話にならん」

 

 越前が裏で山賊や国に対して反抗心を抱くものに政治資金や魔道具を裏流ししていた証拠は掴んだ。

 しかし越前が国の中枢にいる人間、権力を持った人間だ。そういう奴はあの手この手を行使して罪から逃れようとする。

 そんな阿呆はどうすればいいのか……それは1つ、殺して闇に葬り去る事だ。表立って裁く事が出来るのならそれに越した事はないのだが、それをしても権力を使って逃れられる。

 

「なんのゲームだったか……権力は何時だって強い者の味方だったか」

 

 地獄の転生者養成所で遊んだゲーム、テイルズオブとか言うシリーズのゲームでそんな台詞はあった。

 これは個人的な経験の話だが、悪い事をしている人間は悪い事をしているという自覚は一切無いものだ……いったい何処でなにを間違えれば私腹を肥やす馬鹿者になるのか。美味い飯が食えて、馬鹿騒ぎが出来る友がいて、温かい家があればそれで充分に人は幸せだ。

 

「さて、任務の内容は簡単だ。越前の肥やしている私腹の回収及び下手人である越前の暗殺……越前には有能な武士達がついている、そいつ等も始末の対象になっている。越前の庭園には幾つか隠し穴がある。そこに埋蔵金がある……お前達は埋蔵金を探せ」

 

 戦闘能力的に越前の武士達を部下にぶつけてもいいが、時間が掛かってしまえば逃げられてしまう。

 確実性を考慮すれば今回俺1人でどうにかした方がいい。なにより手を汚すのは少ない方がいい。

 越前の屋敷の図面を広げてどの辺りに埋蔵金が眠っているのか、逃げるのならばどの様なルートを歩むのかを話し合う。結果、メインで襲撃するのは俺で逃亡先に部下が待ち受けている二段構えの体制でいく。

 

「では、ゆくぞ」

 

 感情は高ぶってはいけない、今は大事な仕事を成し遂げなければならない。

 心を鎮め、屋敷に貼られている探知系の結界に引っかからない様に工夫しながら結界を通る。

 流石は私腹を肥やしている阿呆、持っている魔道具も一級品で並大抵の人間ならば気付かない高度な結界が貼られている。

 

「全員通過したな……各々、現場に迎え」

 

 部下達も無事に通過することが出来た。

 ヘマの様な事は一度もおかしていないのでそれぞれを持ち場につかせる。問題はここからである。

 屋敷の内部に足を踏み込ませると屋敷内にいる人間の数を把握する……護衛を含めて十数名、内に似たような強さなのが8名、恐らくだがそいつらが護衛の立場の人間……後は小間使いと裏で繋がっている蛮族といったところか。

 

「ここか」

 

 誰もいない部屋に辿り着くと天井を調べる。

 天井には隠し通路が存在しており、あっさりと入り込む事が出来た。ここからは天井を経由して諸悪の根源である越前の元まで向かう。

 しかしここで隠れる事が出来たと油断はしてはいけない。ある程度戦闘能力に優れた者達ならば氣を感じ取る事が出来る。透遁の術を欠かしてはいけない。

 

「越後屋、首尾はどうなっておる」

 

「ええ、中々に順調になっております」

 

「お主も悪よのう……ところでなにか退屈を凌ぐ面白い物はないだろうか。見せ物小屋の芸などは飽きてきての」

 

「それでしたら、遥か遠い異国に行くことが出来るらしい道具がございます」

 

「ほぅ、異国との」

 

「ええ。日ノ国と貿易を行っていない国で、恐らくは刀などの武具はないと思われます……我々で独自に貿易を行うのはどうです」

 

 会話の内容を盗み聞きする。

 異国、こことは異なる国との貿易を提案している……コレだけを見ればただの商人だが元手となる資金を無垢な民から奪い去っている。

 俺が越後のちりめん問屋ならば颯爽と印籠を片手に成敗してやりたい。貧乏旗本の長男ならば堂々と先陣を切って出れるが……残念な事に俺は忍者である。

 

「越前様!!」

 

 どうやってどのタイミングで暗殺しようかと考えていると慌てふためいた声で1人の武士が入ってくる。

 越前の耳元でなにやらぶつぶつと呟いており、それを聞いた越前は先程まで浮かれていた姿から顔を一変する。

 

「曲者だ!!であえであえ!!」

 

 薙刀を持ち、大きく叫ぶ越前。

 結界を完璧にすり抜ける事が出来たようだが、武士達の氣の探知からは掻い潜る事を失敗したようだ。

 これは完全に俺のミスだ。

 

「そこかぁ!!」

 

 僅かなミスで感情が少しだけ揺らいだ為に隠していた気配を探知された。

 武士は天井を綺麗に切り裂くので俺は刀が自分に当たらないようにクナイで上手く流しながら天井から抜け出る。

 

「越前、代官の身でありながらも山賊を操り、罪無き村を襲撃させた……貴様の行いは身に余る行為だ」

 

 暴れん坊将軍ならばここで腹を切れと言うが俺は忍者である。

 抹殺命令が出ている以上は殺すしかなく命乞いの余裕すらも与えない。

 

「き、貴様、千樹扉間!?」

 

「ほぅ、俺も大分有名になったものだな」

 

 俺の顔を見て越前は顔を青ざめる。

 御庭番衆の忍頭に最も近い存在である俺の名は有名になった……忍者は忍んで隠れる存在、NARUTOの世界ならばいざ知らず、ブラッククローバーの世界で有名になっても仕方のない事だ。

 

「俺の事を知っているのであれば、この術の事も当然知っているであろうな」

 

 両手を合わせてから少しだけスペースを開けると、光る真っ白な立方体が出現する。

 それを見た越前は顔を青ざめ逃げ出そうとするのだが、既に俺の射程範囲内に入っており逃げ出す事は出来ない。

 

「塵遁 原界剥離の術」

 

 真っ白な立方体が巨大化し、越後屋や越前達を包み込む。

 すると包み込まれた面々は分子レベルにまで分解をされる……これこそ血継淘汰である塵遁の術、今の自分が出来る最高質の術だ。

 この術を打ち破るには反魔法の剣でも持って来るか、同じく原界剥離の術をぶつけるかのどちらかをしなければならない。

 

「さて……こうなっては致し方あるまい。爆破するか」

 

 忍とは忍ばなければならない存在で武士よりは目立ってはいけない。

 しかしそんな悠長な事は言ってはいられない。越前を殺し、原界剥離の術で屋敷の一部を分子レベルにまで分解をしてしまった。

 忍が悪行を重ねている越前を殺したと知られる事は別に構わないが、出来れば足跡を残したくはない……忍とは本来は影の様な存在である。偶然の事故を装うのが1番だと起爆札を取り出して家の柱へと貼り付ける。

 

「貴様、そこでなにをしている!!」

 

 家の中を堂々と歩くと流石に他の警備達も気付く。

 俺に向かって刀を向けてくるので手裏剣を投げると綺麗に弾くのだが、それは悪手である。

 右手と左手、別々の方向から手裏剣を投げる

 

「バカか、こんな狭いところで手裏剣を投げても壁にぶつかる、なに!?」

 

「悪いが一手目でお前に磁力をくっつかせた……今のお前は強力な磁石となっている」

 

 磁遁の術を用いて武士に強力な磁力を纏わせ、その磁力を経由して手裏剣を当てる。

 1番の要人である越前は既にこの世から去っており、後は作業だけだが気を抜くことはしない。仕事が完遂するまで油断は許されない。

 殺した武士から刀を奪い、残りの武士達も始末していく。

 

『顔色一つ変えずにそこまで殺るか』

 

「俺とて好き好んでこの様な仕事をしているわけではない」

 

 全員を抹殺し終えると頭の中から声が響く。

 俺もこんな仕事、うんざりと思っている……だが、世の中には殺さなければどうしようもないクズがごまんといる。誰かがそんなクズを殺さなければ負の連鎖は止まらない。でなければ、俺みたいなのが……いや、この事を考えるのはよそう。

 

「世の中にはぶん殴っても改心する事が出来ないカスは存在している。そしてそういうカスほど偉そうにしていてロクなものではない」

 

『そりゃ同意だ。バカは死んでも治らねえっていうしな』

 

「死んでも治らなければ、いったいなにをすれば治るというのか……爆!」

 

 屋敷中に起爆札を設置しおえた。

 俺の計算が正しければ屋敷の破片は残っても屋敷の原型は留めていない様に爆破解体することが出来たはずだ。

 爆風の煙が晴れるとそこには屋敷はなく瓦礫の山だけが残っていた。

 

「扉間様、埋蔵金を見つけました」

 

「そうか。こちらも完了した」

 

「また随分と派手にやりましたね……」

 

「屋敷ごとやられたとすれば、悪の抑制にもなる……それよりも埋蔵金はどうだった?」

 

「千両箱がかなり必要です。それと幾つか見たことのない道具が多数ありまして……」

 

「金と分けておけ……道具に関しては俺達の方で調査をする」

 

「はっ!!」

 

 部下を巧みに扱い、越前が肥やしていた私腹を割く。

 どうやら思っていた以上に埋蔵金が眠っていたようで持ち運ぶのに時間が掛かる模様だ。

 越前の屋敷はぶっ壊す事が出来たが朝になれば嫌でも目立ってしまう。運び出すのは俺の飛雷神の術が必要になる……一箇所に集めるのは部下にやらせるか。

 

「集め終わりました!!」

 

「これはまた随分とあるな」

 

 ピラミッド状に積み上がった千両箱を見て、思わず呆れる。

 小さな村を襲撃し金品を巻き上げていてそれなりに私腹を肥やしていたことは知っていたが、ここまで溜め込んでいたとは思いもしなかった。

 これは大仕事になるなと飛雷神の術を用いて大名の蔵へと転送していき、最後には部下を引き連れて集落へと転移する。

 

「報告は俺がしておく。お前達は今日はもう休め」

 

 間もなく夜が明ける。

 朝一で大名に報告するべく、今から報告書を作成するので部下に休むことを指示する。休むこともまた大事な仕事の1つだ。

 部下達は分かりましたと頭を下げると各々の家へを帰還していくので俺は早速報告書を作成する。パソコンも無ければタイプライターも無いこんな世界、手書きの報告書を書き上げなければならず、いちいちガラス細工のボールペンに墨を吸わせるのは面倒なことだ。

 

「以上が事の顛末です……越前は街の金貸しとも裏で手を組んでいた模様で、裏金はタンマリとありました」

 

「そうか、そうであったか……残念な事だ。して、その肥やしていた私腹はどうすればいい?」

 

「越前が裏で手を組んでいた面々が襲撃した村に支援と復興の資金と致します。既に倒壊してしまった村もあるらしいので新しい村を発足させるのにも使わせていただく次第で」

 

「そうかそうか、扉間がそういうのならばそれが一番であるな」

 

 大名に今回の一件を報告し、今後の事についても伝える。

 どうも俺は大名に気に入られているのか、時折政治に関して意見を求められる。正直なところ、俺は政は向いていないと思っている。

 今だってそうだ。倒壊した村や貧乏な村に支援をするといった事は誰でも考えれることだ。

 

「のぉ、扉間よ……ワシはお主を隠密御庭番衆の頭領に任命をしたい」

 

「我が身には勿体のない称号、現場で動いていた方が身に合います」

 

 忍頭になることを大名から勧められるが丁寧に断る。

 現場で動けなくなり書類仕事に追われる身になれば現場の声が届かなくなってしまう。それだけはあってはならないことだ。

 

「勿体ないのぅ」

 

「忍は忍ぶ者達です。下手に表立てば武士達がなにを言い出すか分かりません……それに現忍者の頭領にはなんの問題もありませぬ。貴方様が個人的に私を気に入ってくれている事は誠に嬉しい事ではありますが贔屓はいけません」

 

「そうか……ならば次の報告、楽しみにしておるぞ」

 

「ははっ!!では、これにて失礼いたします」

 

 大名の誘いをのらりくらりと交わすとやっと休みに入る。

 とりあえずは休むことを優先とし、飛雷神の術で家へと帰宅して直ぐに睡眠を取る。無理に限界は超えなくていい。何処かの偉い人が言っていた様に小さなことからコツコツとが大事だ。

 

「さて、調べるぞ」

 

 睡眠を取って充分に休むと仕事の続きに取り掛かる。

 越前から巻き上げた大金は大名の政務活動費に当てられたのだが、越前の隠し持っていた道具を調べておかなければならない。

 時と場合によっては危険な道具を破壊しなければならない……なにやら異大陸から流れ着いた物を手に入れていたそうだが、さて……

 

「ほぅ、通信道具にタイプライターもどき……中々にいい道具を隠し持っていたな」

 

 テレビ電話の様に通信が可能な通信道具、音声に反応をして文字入力をしてくれるタイプライターもどき。

 越前の隠し持っていた道具は中々に有用な物ばかりで、それ故にコレだけの物を持ってなにをしようと企んでいたのかを考えてしまう。越前の警護をしていた武士達は俺からすればそこまでの強さの連中であり、叛逆を狙うにしても些か、いや、かなり無茶だ。

 

「むっ……なんだこの巻物は」

 

 色々と道具を掘り当てていってると見たことのない字が書かれている巻物を見つけた。

 日ノ国の文字でも日本語でもない、見たことのない文字

 

『おい、魔力を流してみろ。なんかの魔言の術式だぞ、そいつは』

 

 どう処理をすべきかと悩んでいると頭から声が流れてくる。

 魔力を流せと来たか……面倒なことにならなければいいが……仕方ない

 

「むっ!?」

 

「扉間様!?」

 

 巻物に魔力を流すと発光する。

 これは厄介な物だと察したので巻物を手放すのだが、時すでに遅し。

 どうやら時空間系の術式だった様で瞬く間に俺の体はこの場から消え去ってしまい、気付けば海の上に立っていた。

 

「ふむ……これは……迷子か……」

 

 魔力を用いてチャクラの如く水の上に立つのは容易い事だ。

 いきなりドボンと溺れるような醜態は晒さず冷静になって今の状況を確かめてみる。海の上にいるが、直ぐ近くに飛雷神のマーキングは無い。

 氣や魔力の探知の範囲をかなり広げてみるものの、反応はない……飛雷神の術があれば、一瞬で国に帰る事が出来るがマーキングした位置すら辿れないとなるとそれは出来ない。俺を飛ばした巻物は手元には無い。今の状況からして絶賛迷子状態。

 

『空気が完全に日ノ国とは違う、こりゃあ日ノ国と貿易もなにもしてねえ国だぞ』

 

「その様だな……ふむ……」

 

 てくてくと海の上を歩いていき、陸地へと辿り着いた。

 空気から氣、雰囲気まで完全に日ノ国とは異なる国……

 

「変化の術!!」

 

 ここは完全な異国、それが分かれば次の行動は容易い。

 千樹扉間の戦闘装束はやや目立つので、変化の術を用いて何処にでもいる一般人を装い、陸路に向かって歩いていく。

 

『随分と慎重じゃねえか』

 

「今の俺達は下手をすると密入国者だ。無駄に騒ぎを大きくすれば日ノ国に多大な迷惑がかかる……」

 

『つっても、ここが何処だか分かんねえと話が進まねえだろ。人を見つけたらここが何処だか訪ねねえと』

 

 それは確かに一理ある。

 ここが何処なのか大凡の見当がついてはいるが、万が一という事もありえる。

 魔力と氣の探知を最大まで広げると人気のあるところを発見したのでそこに向かうと海の家の様なものがあった。あったのだが

 

『……完全に外国だな、こりゃあ』

 

 なにを言っているのか、使っている文字でさえ異なっていた。

 俺の中にいる牛鬼は額に汗を流しており、ここが日ノ国とは文明もなにもかも異なる国に来てしまった事に困り果てていた



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HIRETU クローバー 3

「どうしたものか」

 

 ここはブラッククローバーの物語の舞台であるクローバー王国だろう。

 地獄の転生者運営サイドが原作と上手く関われるようにするだしないだ、調整をしているらしい。恐らくだがあの巻物はクローバー王国から色々とあって流れ着いた空間魔法の一種……巻物があれば瞬時に解析して日ノ国へと帰還できるが……ミスをしてしまったか。

 

『まずいな、完全に言葉が通じねえ……ジェスチャーでここがどんな国なのか調べても言葉が通じねえんじゃ話にならねえ』

 

 飛雷神の術でマーキングしているところに飛ぼうにも上手く飛べない。

 恐らく日ノ国とクローバー王国の距離が途方もないのと途中でなにかが邪魔をしていて上手く飛べない。強魔地帯と呼ばれるところが邪魔をしていて上手く飛雷神の術が使えない……そんなところが原因だろう。

 

「ならば、拠点を作るぞ」

 

『お前、未開の地に辿り着いたってのに全然動じてねえな』

 

「なにを言っている、これでもかなり焦っている方だ」

 

 何時かはブラッククローバーの原作に関わる事は分かっていた事だが、それが今だとは思ってもみなかった。

 もっとこう、予兆の様なものがあれば色々と準備をする事が出来たのに……今の俺は戦闘装束に飛雷神の術の術式のクナイが複数で金は無い。頼れる人も一切いない、更に言えば言葉も筆談も出来ない異国の地……詰んでいるとしか言いようがない。

 

『オレが泳いで日ノ国に返すってのはどうだ?』

 

「肝心の日ノ国が何処にあるのかが分からん以上それは出来ん」

 

 日ノ国が何処にあるのかさえ分かればぶっ通しで走るか飛ぶか、泳ぐかやって帰る。しかしそれが出来ない現状だ。

 拠点を作るのを優先して……その後はどうする?同じく日ノ国出身のヤミ・スケヒロを探し出して救援を求めるか……義理と人情はあるであろう。話が通じない相手ではない。

 

「先ずはこの国の言語を覚えなければならないが……この歳で新しく言語を覚えなければならないか」

 

 学校の勉強の様に教科書の様な物が一切存在しない。

 過去の偉人達はそんなものを気にせずに外国語を会得したある種の天才だ。ある程度成熟した人間が新しい1からものを覚えるというのは非常に難しい。ただでさえ日ノ国の文字や暗号等を覚えるのに頭を使うというのに……仕方ない

 

「牛鬼、魔力を俺に回せ……別天神を自分に掛ける」

 

『なにするつもりだ?』

 

「自分自身の学習能力を上げる……すぅ〜」

 

 息を大きく吸いながら目を閉じる。

 呼吸を整え、目に力を込めると目の模様が変わる。具体的に言えばうちはシスイとうちはオビトの万華鏡写輪眼が合わさった万華鏡写輪眼に変わる。俺は近くの澄んだ海に写る自分に幻術を掛ける

 

別天神(ことあまつかみ)

 

 別天神、それは幻術の一種だ。

 どんな幻術かといえば幻術に仕掛けられる事すら気付かない高度な幻術であり、NARUTOでは尋常でない程にチャクラを使うので十数年に1回ぐらいしか使えない。かくいう俺も年に1回ぐらいしか使えない。それも他から力を借りてやっとだ。

 

「これで問題はないはず」

 

 自分自身に幻術を掛け、強化をするなんて事は今までやったことはない。

 自分が今仕掛けた幻術に掛かっているかどうかすらも怪しい……明らかに別天神の間違った使い方だろう。しかし、これしか道はない。並大抵の事では新しい言語や文化を受け入れれない。別天神を掛け終えた筈なので俺は海岸から離れていく。

 

「木遁の術があれば」

 

『そう無い物強請りするなよ』

 

 俺はNARUTOに出てくる忍術を魔法として扱うことが出来る。

 火、風、雷、土、水の5つの性質変化に爆遁や沸遁等の血継限界、塵遁の血継淘汰に更には永遠の万華鏡写輪眼に尾獣まで持っているのだが唯一1つだけ使えない属性がある。俺が千手扉間なせいか木遁だけがどうしても使うことが出来ない。

 木遁の術があれば適当な地に住居を建てる事が出来る……しかしそれが出来ない。

 

『にしてもハッキリとした国だな。力を持った奴が上に住んでいて、そうでない人間が下に住んでいる……日ノ国とは大違いだ』

 

「……そうだな」

 

 市街を詮索していると俺の中に居る牛鬼がこの国について感じたことを言ってくる。

 クローバー王国はナーロッパに出てくるような世界観であり、上層部というか国の上役達が平民を見下している。平民より更に下、恵外界と呼ばれるエリアに住んでいる下民達は何故生きている等とんでもない思考をしている。

 国王は魔力絶対主義みたいなところがあり、自分は偉いだなんだと思っている典型的なカスでハッキリと言って関わり合いを持ちたくない。まだ日ノ国の大名の方が話し合いが通じる。

 

「大分、出てきたな」

 

 歩くこと数時間、恐らくは恵外界と呼ばれるところにやってきたと思う。

 村々も少なく持っている魔力の量も圧倒的に低い者が多い……

 

「近くの村は……ふむ……」

 

 拠点を作るのは簡単だ、忍術を使えばあっという間に出来上がる。

 だが、場所を選ばなければならない。人目のつかないところだが小さな村の近くにあった方がいい。魔力探知の範囲を広げて、人が住んでいる集落を探していき、丁度いい場所を見つける。

 

「土遁・四柱家の術」

 

 印を結び、地面に両手をつける。

 すると地面からニョキニョキと西洋風の岩の民家が一件建った……木遁・四柱家の術ならば耐風性の家を作り上げる事が出来るが、これが限界か。

 

「寝床としては充分……休む前に腹ごしらえでもするか」

 

 近くに魚が泳いでいる川がある。

 家を建て終えたので次は食事を取ろうと今度は川に移動し、水の上に立って印を結ぶ。すると川の水が動き出して、直ぐそこの川岸に向かって飛んでいき、その中に居た魚がピチピチと跳ねる。

 

「……見たことのない魚だが……食える筈だ」

 

 未知の国だけあって、魚も見たことのない物だった。

 とりあえず腹は空いているので、クナイを用いて腹を開いて腸などを取り除き川の水で綺麗に洗った木の枝を突き刺して火遁の術で火を付けて炙る。魚は好物だが、塩を振ってないとなると些か物足りない気もするが贅沢は言ってられない。

 

「……香辛料が無くても、ある程度は食えるな」

 

 魚を齧り付く。

 味は塩を振っていないので満足出来る物ではないが、決して悪い味ではない。普通に食える味だ。

 毒の様な物は今の所なく、泥臭さの様な物も殆どない……しかし物足りない。よくよく考えれば起きてから最初の食事なので塩的な物を身体が欲している。今まで色々とあったが、ここまで味気のない食事をしたのははじめてである……早いところ、塩や胡椒などの香辛料を買わなければ身が持たない。なにかの本で読んだが現代人は舌が肥えすぎていて飢餓に耐えられないだどうとか。

 

「……どうすべきか」

 

 大理石の床に寝転びながら今後について考える。

 隠密御庭番衆として圧倒的な力を持っていながらも自分の家に帰ることすら出来ない自分に少しだけ情けなさを感じる。部下達は非常に優秀なので俺が居なくなっても問題無く忍としての業務を遂行することが出来る。後腐れなく後を任せる事が出来るので今後について悩む。

 ここがブラッククローバーの世界でここがクローバー王国ならばそれでいい。原作に関してだがあまり介入するのも良くないことだ。

 原作に介入していい原作とそうでない主人公を成長させておかなければ後々痛い目に遭うタイプの世界が存在しており、ブラッククローバーの世界は後者、転生者が主人公の成長を妨げさせてはならない世界だ。妨げさせては物語の終盤で酷い目に遭う。

 そもそもで俺は日ノ国の忍で……日ノ国に帰りたいのだろうか?ブラッククローバーの原作に関わりたいのだろうか?それすら曖昧、何年も日ノ国で忍をして感情を殺し続けてきた結果、自分の思いがよくわからなくなっていた。

 

『なに色々と悩んでんだよ?』

 

「今まで忍として日々鍛錬を積んでいて、いざ解放されればなにをすればいいのかが分からん」

 

『お前らしくもねえ……いや、お前は働き過ぎなんだよ。仕事中毒(ワーカーホリック)とか言う病気だよ』

 

「そうか、仕事中毒か」

 

 別に彼女もおらず、責任のある立場で趣味らしい趣味も作っていない。

 休む時は休むようにしているが、それも仕事の一種だと捉えていた俺は牛鬼から見れば仕事中毒の人間……ならば仕事が無くなった今は……生きるのに時間を有する。

 

『こう言っちゃなんだが、こいつぁ良い薬になった。日ノ国に帰る前にゆっくりと休んでおけよ』

 

「休む前に生活基盤をしっかりしておかなければ、家は有れどもそれしかない。忍具を調理器具の代わりに使い続けるわけにもいかん」

 

 今日はまだいいが、明日からは生活基盤をしっかりと作り上げなければならない。

 その為にはどうするかが当面の問題だろう。

 

『何処の国にも侍みたいな存在はいるはずだ。扉間、お前の腕なら簡単に採用してくれる筈だ』

 

「それは最終手段だ」

 

『最初の手段じゃねえのか?』

 

 この国には武士に成り代わる存在が、魔法騎士団が存在している。

 それに入団すれば金や生活などの問題は全て解決するのだがあまりそれは乗り気ではない。下手に原作に介入すれば主人公であるアスタが成長しなくなるとかそうではなく、こんなナーロッパの様な国に仕える価値は無いと思っているからだ。

 

「国の内情もよく分からないのに仕えて此方側が悪政をしていたら笑い話にもならん」

 

 原作知識を置いておいても、クローバー王国の内情はあまり良くない。

 魔法帝であるユリウスが意識改革に必死になっているが……正直な話、大して意味はない。下民出の優秀な魔法騎士は実は悪魔の力を使っていたのと、他国の王子だったというオチが待ち構えている。

 意識を改革するならば1人で全てを背負おうとしている時点でもう既にダメであろう。西川きよしも言っていたが、小さいことからコツコツとやっていかなければならない。

 

『まぁ、お前がそうするって言うのなら文句は言わねえよ』

 

「なによりお前の事を知られれば鬱陶しい連中が出てくる。また1からやり直すのはめんどうだ」

 

『っへ、悪かったな』

 

「別にお前の事を責めてはおらん」

 

 牛鬼とは転生した頃の仲であり、邪魔者だとは一度も思っていない。

 むしろこうして俺の中に封印されていたお陰で話し相手にも困る事は無い。時には相棒として戦う至れり尽くせりな仲間だ。

 

「それに何時かは日ノ国に戻らなければならない。国の要の様な存在になってしまっては、仕事をやめるにやめられない」

 

『お前……自分だったら成り上がれるって自身があるんだな』

 

「逆に聞くが、お前の相棒は平凡な人間か?」

 

『おっと、そうだったな』

 

 俺が魔法騎士団に入団すれば確実に上の地位へと上り詰める事が出来る。俺にはその絶対の自信がある。

 牛鬼もなんだかんだ言って俺の強さに関しては疑いを持っておらず、俺の考えを慢心とは受け取らなかった。

 

『つってもお前、ずっと忍者やってたのに急に別の職種に切り替わる事なんて出来るのかよ』

 

「人間という生き物は良くも悪くも変わることは出来る……やってみせる」

 

 その為にはまず、生活基盤を作り上げなければならない。

 土遁の術で家を作ったので雨風を凌ぐことはこれでどうにかなる。食料も近くにいる川から魚を捕まえればどうにかなる。

 問題は金だ……どうやって金を集めるか、魔法が当たり前の国で曲芸を見せたところで金にはならない……ふむ……

 

「少し、見聞を広めるか」

 

 クローバー王国の内情はナーロッパに近いものだが全てが全て、そうではない。

 国の細かな事情等は一切知らないし、どういった仕組みの税等も知らない。クローバー王国の歪な社会構造をこの目で見ておかなければならない。飛雷神の術の術式が刻まれたクナイを家の前に刺して、家を後にする。

 

「銭湯はないのだろうか」

 

 飯も食って家も作ったとなれば残すところは風呂だ。

 土遁の術と火遁の術と水遁の術を応用すれば即席の風呂は作れる。

 しかし、それは即席のなんちゃっての風呂であり風呂とは呼びづらいものだ。市街地に出れば銭湯の1つでもないものかとついつい探してしまうが……どうやら公衆浴場は無さそうだ。となれば、原作に出てきた火山から湧き出る温泉に入るしかない。そこが何処にあるのか探し出すところからスタートになるから、暫くは即席風呂での生活か。

 

「……読め……なくはない……」

 

 市街地に足を運ぶと様々な店が立ち並んでいた。

 コレが日ノ国での出来事ならば銭湯にでも向かっているのだが、生憎とここはクローバー王国。勝手が違う。

 置いている商品にチラリと目を向けてから、どんな店なのか看板を見る。普通は逆じゃないかと思うがこの国の文字を詳しく知らないのでコレが正しい。書店の様で看板に書かれている文字が少し崩した筆記体でBOOKと書かれている。どうやらクローバー王国で使われている文字はアルファベットの筆記体の様な文字……俺は英語の成績は中の上程度で、転生してから英語なんぞまともに喋っていない……筆談での会話は難しいか。いや、ローマ字読みの店もチラホラとある。

 

「金が無いのが厳しいな……」

 

 なにか商売を起こそうにも一文無しの状態ではなにも出来ない。

 面白そうな物やこの国で出版されている本等には色々と興味が引かれるが残念な事に買う金が一文も無い……日ノ国で貯金している金はかなりあるというのに。

 

「今の俺が出来ることと言えば……狩猟ぐらいか」

 

 文字も書けない、言葉も通じない。

 圧倒的な戦闘力はあるが仕えるべき価値があるかどうかも分からない国に仕える気はない。となれば残すところは狩り、狩猟だ。

 食肉の文化はあり、更には食用に家畜を飼っている国で猟師の価値は低いだろうがそれでもここで生きていくには狩猟で生計を立てるしかない。流石に山賊達から金品を巻き上げるといった真似はしたくはない。当面の目標は生活基盤の立ち上げ及び安定だ。

 そして出来れば魔法騎士団に入団しないでおきたい。別に魔法騎士団が嫌いというわけではないが、ここは日ノ国と勝手が違う。穢土転生の術や俺の中に宿る牛鬼を知られれば危険だ異端だなんだとくだらない因縁をつけられる。

 

「全く、仏というものも意地悪な存在だな」

 

 今日こうしてクローバー王国に居るのも全ては仏の導きであろう。

 こんな手の混んだ事をするぐらいならば最初からクローバー王国の住人として転生させてほしかった。そうすれば色々と楽だったものだ。こうして言葉や文字、文化の違いに頭を悩ませる必要は一切無かった。まぁ、その場合だとなにをしているのか俺自身もよく分からないが、その時はその時で俺はなにか別のことをしているだろう。

 

『他所の国ってもっとぶっ飛んだ感じの国かと思ったが、普通なところは普通なんだな』

 

「異国に対してどんなイメージを持っておる……まぁ、いい。市民情勢についてはなんとなく知れた」

 

 クローバー王国は異国だから何処かぶっ飛んだところがあると想像していた牛鬼だが、そんなものである。

 平民が暮らす街がどの様な感じなのかは大体分かったのでとりあえずは良しとする。一先ずはクローバー王国の海を目指す。海の水を蒸発させてあれこれすれば塩が取れる。これから生きていく上で塩分は大事な物だ。土鍋は土遁や溶遁の術で作り上げればどうにでもなる。

 こうしてみると歴史上の人物達はこんな事を1から自力でやっていたのだと素直に尊敬する。言葉や文字が通じない場所でもなんとか通じねえ様にした努力は俺の想像がつかない程の努力があったのだろう。



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HIRETU クローバー 4 

 住居の確保は出来た。飯もなんとかなるだろう。しかしそれだけで問題はまだまだ山積みだ。

 当面の目標として……風呂がどうにかしたい。川で水浴びをするという手もなくはないのだが、日本人としてはちゃんとした風呂に入りたい。

 ならば探すしかあるまい……温泉を。土地勘も分からぬ場所で火山地帯を見つけて数日かけて渡り歩いている。

 

『公衆浴場がありゃ手っ取り早いんだがな』

 

「異国では風呂の文化1つ取っても違うという事だ」

 

 銭湯があればそれに越したことはないのだが、何処にも無い。

 ブラッククローバーの世界もといクローバー王国は魔法ありきだが、それなりに発展している筈だが……無いのである。

 仮にあったとしても今の文無しの俺には風呂に入ることは出来ないだろう。それよりも今は温泉を探さなければならない。

 

「ふぅ……暑いな」

 

『コレで暑いだけで済ませるか』

 

「大声を出して叫んでも仕方がない。暑いものは暑い。一度だけ口にしてストレスを発散させて溜めないようにしなければ」

 

『お前、時折カラクリかなんかに見える』

 

 恐らくは強魔地帯と呼ばれる火山地帯を渡り歩く。火山地帯故に暑さを感じるが、そこは魔力を身に纏って回避する。

 足に魔力を纏って木の上を歩いたり水面歩行をしたりする事が出来る俺にとってマナスキンと呼ばれる技術は呼吸をするのと同じくらいに意識をせずに容易に出来る。牛鬼は表情1つ変えることなく淡々としている俺に引いているが無理に興奮すればそれこそ暑さのループが続くというもの。

 

「ふぅ……どうやら当たりを引いたようだな」

 

 火山地帯を歩き、時折モンスターの様な生物が襲いかかってきたが俺にとっては雑魚でしかない。

 何処かに温泉は無いかと探していると気付けば日は沈み、活発的だった火山はふと急に活動を停止した。コレは原作知識で知っている。俺がやってきたここは原作に出てきたユルティム火山地帯なのだろう。

 (マナ)による探知でなく氣による探知をしてみると火山の活動が段々と停止していっている事を感じる。最後の灯火は消えないが、火力が弱まっている感じか

 

「おぉ、丁度いい頃合いか」

 

 探知方法を氣に変えればあっという間に温泉を見つけた。

 ボコボコと地面から湧き出る温泉に手を入れると程良い温度で、必死になって探し出した甲斐がある。

 身につけている衣服を脱ぎ捨てて早速、温泉につかった。

 

「はぁ……疲れが取れる」

 

 クローバー王国に流れ着いて、早数日。

 睡眠は取っているが岩の上で寝ていて、食事は焼いた川魚や砕いた木の実といった原始的な物ばかり。

 米が食いたい、この国には米がある筈だ。なんだったら醤油的な物もあるはずだ。なんとしても金を得なければならない。その為には狩猟生活を送らなければならない。数日前までなんでも食えていたのにこの生活……日ノ国に帰るべきか。

 

「……むっ」

 

 数日分の汚れを落とす様に肩までじっくりと温泉に浸かっていると人の気配を探知する。

 かなりのレベルの実力者が直ぐ近くに居る……が、悪意を持ってこちらに向かってきてはいない。敵意もなにもない。一瞬だけ身構えるが、その必要性は無いと警戒心を緩める。

 

「ほぅ、先客か。珍しい」

 

「……」

 

 野性味溢れる女性、確か名前はメレオレオナ・ヴァーミリオンだったか。

 ブラッククローバーの主要キャラでかなりの実力者で、野生の肉を食いたいが為に危険地帯で生活をする野生児。とにかく強い。

 感知に力を入れていないが、それでもかなりの実力者だと風格と力強さを感じる……だがまぁ、今は敵でもなんでもない。

 俺はゆったりと温泉に浸かりたい。故にあまり原作キャラと深く関わりを持ちたくない

 

 土遁 土流壁の術

 

 湯の中で印を結んで温泉の真ん中に土で出来た壁を作り上げる。

 

「土魔法の使い手か……見たことのない奴だな」

 

 口を動かして俺に興味を抱いているがなにを言っているのかサッパリと分からない。

 とりあえず温泉は俺の方が先に入っていたのであっちに入れと指差す。声は出していないが言いたいことは伝わったのかメレオレオナは壁の向こう側へと向かうと思ったのだが俺をジッと見つめている。

 ここで後々揉めると厄介なので喉をトントンと叩いてから手で×印を作り上げる。

 

「貴様、喋れないのか」

 

 なにを言っているのかわからないが、ここで見せる反応として喋れない事に気付くのが正しい。

 コクリと頷いてみるとジッと凝視をされる……魔力がどの程度か探知をしようとしているのか……ならば、偽装しておこう。牛鬼の存在が知られたりすれば厄介だ。

 とりあえずは向こうの壁に向かってくれたので一先ずはホッとするのだが、油断は出来ない……数日ぶりの風呂だと言うのにどうしてこうも他人に気をつかわなければならないのだろうか。

 

「ふぅ、今晩は満月か。どうだ、お前も一杯やらんか!」

 

 落ち着いて風呂に入りたいがどうもそれが許されない。

 メレオレオナが向こう側からなにか言ってくるのでトントンと壁を叩くと酒が入ったコップが飛んできた。

 酒か……別に飲めないわけではないし、酒乱なわけでもない。しかし味を知りすぎてしまうのも如何なものか……別に明日、仕事があるわけでもないのだ。多少の贅沢はしても問題はないか

 

「………」

 

 メレオレオナから渡された酒は中々に美味かった。

 仕事があるから酒は控えたりしているので付き合い程度で飲んでたが、美味い酒を飲むのは久し振りだ。だが、声は一切出してはいけない。あくまでも俺は喋れないという設定でここにいるのだから。

 

「それはリュウゼンカグラという名酒でな、滅多な事ではお目にかかれない極上品だ」

 

 またなにか言っている、味の感想かなにかだろう。

 壁越しだから読唇術の様なものも使えない……ある意味、土流壁の術は失敗だっただろうか。いや、混浴よりはましか。流石にカップルでもなんでもない人間同士の混浴はまずい。

 

「ところで貴様は何処かの魔法騎士団の人間か?」

 

 会話を普通にしてくる……いっそのこと無視してやろうか。

 原作キャラに好意的に思ってほしいわけでもない。しかし塩対応をし続けて嫌われるのもあまり良くない事だ。

 

「違うか……この火山地帯に足を運ぶ猛者となれば魔法騎士団の誰かだと思ったが……ふ、クローバー王国にはまだまだ猛者が居るようだな」

 

 血が滾ると言った気配を感じる。

 やはり下手に塩対応をしてしまうと変に勘違いをされてしまう……早いところどうにかしてクローバー王国の言語を覚えなければならない。

 風呂はゆったりと浸かっているのだが今は早く時間が過ぎろと強く願う。メレオレオナは酒を飲みながら温泉に入っているという事はかなりの長風呂になるだろう……長期戦は不利だが、久しぶりの風呂でゆったりしたい。温泉がある場所が分かった以上は飛雷神の術でマーキングしておけばいい……ここで逃げても明日、普通に遭遇しそうで恐ろしい。とりあえず身体を擦って数日分の汚れを落とす。シャンプーや石鹸を買わなければな。

 

「魔法騎士団に入団するつもりは無いのか?」

 

 当たり前の如く会話をしてきているが気にしない。喋れないという設定を作った以上は喋らない。下手に声を出さない。

 メレオレオナは俺に興味を抱いている……怒ってはいない。面白そうな奴が居るなと見ているだけだ。

 

「無い、か……ここに来れるという事は上級魔法騎士レベル」

 

 あまり無視をしすぎるとなにをしてくるか分からない。

 時折コンコンと岩の壁を叩いて返事をしておく……こうやっていると先人達の知恵は恐ろしい。こんな状況の中から自分の国とは異なる言葉を覚えていったのだから。

 

「……」

 

 そろそろ出るか。

 数日分の汚れを落とし体の芯まで温まったので温泉から出て着てきた服に着替える……汗臭いな。

 数日分の汚れを落とせたのは俺だけで着てきた服は洗えていない。とりあえず明日にでも着替えを購入しなければならない。

 

「なんだ、もう出るというのか」

 

「!」

 

 温泉から出て着替えを終えた頃にメレオレオナが出てきた。素っ裸でだ。

 

「女の裸程度で慌てるな」

 

 慌てる俺を見てメレオレオナは少しだけ呆れていた。女の裸を見た程度でと言ったところだろうが、勇ましすぎるぞアネゴレオン。しかしわざわざなんで温泉から出て来たのだろうか。

 

「私は強い奴が好きだ……かかってこい」

 

 クイクイっと指を動かすメレオレオナ。その真正面には魔導書が浮いている。

 こんな時にバトルとは……風呂上がりの後はゆったりとストレッチをしてから寝たいのに……現在、火山は止んでいて飛雷神の術で家へと帰る事が出来る。逃げるのは容易い事だが、逃げれば後が怖い。仕方ないか。

 戦わなくても戦ってもややこしくなるならば戦うしかないと巻物を取り出して別空間に収納してある刀を口寄せする。

 

「それは……刀か?ヤミと同じところで作ったのか」

 

 刀を見て少しだけ珍しそうにし、ハッキリとヤミと言った。

 大方刀が珍しい、ヤミ・スケヒロしか持っていない武器だから気がついた……刀を出したのは失敗だ……だが、気にしている場合ではない。

 戦うとなった以上はやるしかないと煙玉を投げて当たりを煙幕で包み込む

 

「なにをするかと思えば、くだらんな!」

 

 この国の住人は(マナ)を感知することが出来る。王族ともなればかなりの感知能力で、煙幕程度では意味はないだろう。

 だが、そんな事は俺も百も承知。メレオレオナが俺に向かってハッキリと攻撃心を剥き出しにしているのが分かる……だが、ここからだ。俺はクナイを取り出し投げる。

 

「この程度のなまくらで私に傷をつけられると思うな!!」

 

 煙で前が見えない中でのクナイをメレオレオナは物ともしない。

 それどころか炎を纏った拳でクナイを殴って叩き落とす。それも1つ残らず……やれやれ、本当に恐ろしい女だ。氣を上手く感知する事が出来ない者ならばクナイに当たり、感知できるものでもクナイを防ぐのに集中するものを、全て叩き落とすとは……だがしかし、甘いわ!!

 

「飛雷神峰打ち!」

 

「!!」

 

 このクナイも煙玉も全ては飛雷神斬りをする為にある。

 どれだけ感知能力に優れていてもクナイに飛雷神の術のマーキングがされた事には気付きはしない。

 

「おい……」

 

 ここに来ての流血沙汰は流石にまずい。峰打ちの部分でメレオレオナを攻撃したら不機嫌になる。俺が喋れた事に関しては一切気にしていない。

 思わず声を出してしまったが……頭に血が上っていてそんな事を気にしていないな。

 

「貴様、刃が無い部分で攻撃したな!私を相手に手加減とはナメるのも大概にしろ!!」

 

「……はぁ」

 

 なにやら文句を言っているメレオレオナ。手加減した事について怒っているのだろう。

 今にでも殴り掛かりそうな雰囲気を醸し出しており、これ以上はやっていれば本当に死闘を繰り広げなければならない。体の疲れを取るために温泉に来たのに余計に疲れてしまっては元も子もない。俺は大きくため息を吐いて飛雷神の術で家へと帰還した。

 

『あの様子だと明日も確実に居るぜ。ああいう輩は逃げたりするよりも1回どっかちゃんと戦ってスッキリさせた方がいいぞ』

 

「あんなのをいちいち相手にしていたら身が持たん。逃げるのもまた1つの手だ」

 

 別にメレオレオナを倒せないわけではないが、それなりに時間を食う。

 さっきのような飛雷神斬りの奇襲はもう通用はしないだろうし、牛鬼の力を使うのは厄介だ。

 

『折角見つけた天然の温泉もコレでパァになったな……外国での生活ってのは難しいもんだな』

 

「仕方あるまい……最悪土遁で枠組を作って水遁で水を入れて火遁で湯にした簡易的な風呂に頼るしかない」

 

 不衛生に見えるので出来ればやりたくないのだがな。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

「邪魔をするぞ」

 

 扉間がメレオレオナと出会った翌々日のこと。

 もう一回、温泉にやってくると思っていたメレオレオナだったが、扉間は警戒していたので温泉には来なかった。

 自分に手加減をしてきた男になんとしてでも一発お見舞いしてやりたい気持ちのメレオレオナは黒の暴牛のアジトに足を運んだ。

 

「え、ウチになにしに来たの?」

 

 トイレとの格闘を終えてスッキリしていた黒の暴牛の団長のヤミは意外そうな声を出す。

 年中野性的な生活をしているメレオレオナがアポもなにも無しにいきなりやってきたのだから驚くしかない。

 

「ヤミ、貴様の使っている剣は何処で買った物だ?」

 

「マジ、いきなりなんなんだよ。俺の刀は特注品の一品物でローンを組んで購入したんだけど」

 

「ならばその業者を教えろ」

 

「え、なに?アネゴレオン、ステゴロから魔法剣士にジョブチェンジをするの?俺とキャラ被るじゃん」

 

 炎の剣士とかマジでヤバいわーと呑気に言っているヤミ。

 するとメレオレオナは扉間の残していったクナイを見せると呑気にしていたヤミの表情が変わった。

 

「お前、これ何処で手に入れた?」

 

「やはりコレがなにか知っているのだな」

 

「コイツはクナイつって手裏剣って武器の一種だ……久々に見たわ」

 

 懐かしいなとクナイを手に取るヤミ。

 日ノ国で割と見掛けていた物を久しぶりに手に取り若干だが童心に帰るが直ぐにメレオレオナを見つめる

 

「何処でコイツを拾った……いや、誰がコイツを使った?」

 

 スペード王国でもダイヤモンド王国でもハート王国でもない異邦人であるヤミ。

 故郷である日ノ国との文化の違いを彼はよく知っており、手裏剣がここにある事はおかしいと認識をしている。故に何処で拾ったのでなく使った誰かを問う。メレオレオナと対峙した誰かがコレを使った。それが誰かヤミは興味津々だった。

 

「それが分からぬからお前に尋ねている。刀を作った業者から何処の誰かを割り出す」

 

「そいつぁ無理だぜ。だって、刀を作ってる業者は俺にしか刀を作ってねえ……なんだったら業者に手裏剣なんてもん作ったかどうかも聞いてやろうか?」

 

 ヤミの知る限り魔法剣士はそれなりに居るが、刀を使った魔法剣士は自分しかいない。

 メレオレオナがやろうとしている方法では見つからない事を教えた。

 

「っち、お前も知らないか」

 

「なに、もしかして負けたか〜」

 

「おい、先に言っておくが私はアレを負けたとは思っていない!一撃はくらいはしたものの、あの一撃ならば私はまだまだ存分に動ける!!」

 

「お、おぅ……」

 

 軽くおちょくった結果、殺してやろうかというぐらいにメレオレオナにヤミは強く睨まれた。

 このバイオレンスメスライオンに不意打ちとはいえ手加減をした何処の誰かは知らないがご愁傷様と心の中で祈る。

 

「用件はそれだけだ……ああ、そうだ。通信魔道具で何時でも出れる様にしておけ。奴はなにを言っているのかわからないが、お前なら言葉が通じるだろう」

 

「そいつが日ノ国の人間かどうかは分からねえんだから無茶言うな……って、帰りやがったよ。相変わらず滅茶苦茶だな、あのアネゴレオン」

 

 他の団員達が珍しく居なくて良かったとホッとしつつ、タバコに火を付ける。

 

「ふぅ……刀に手裏剣ね」

 

 俺の事を真似して作ったのかと考えるが、業者は自分にしか作っていない。

 ならばメレオレオナが戦ったであろう刀と手裏剣は何処から出てきたのか……考えられる事は1つである。

 

「忍者でも紛れ込んだのか……」

 

 忍者がクローバー王国へとやってきた。

 ヤミの予想通りそれは正解であるのだが、彼が扉間に出会うまではそれなりに時間がかかる。



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HIRETU クローバー 5

 クローバー王国に辿り着きメレオレオナと一戦やってから2週間が経過した。

 果たして今がブラッククローバーの原作開始から何年前かは不明であるが、少なくともまだ原作は始まっていないだろう。

 

「一度影分身の術を解除する」

 

 影分身の術を用いてクローバー王国の文字について学んだ。

 影分身の術は本体に経験値に蓄積されるシステムで、色々な分野を学んでいる。とにもかくにも言語を学ばなければならない。影分身の術を解除してオリジナルである俺に還元すると一瞬だが激しい頭痛に襲われた。

 

 経験値を一瞬にして蓄積された結果、頭が痛くなる。少しだけ痛くなるが直ぐに学んだ事が頭に入ってくる。

 今のレベルはクローバー王国基準でどれくらいの文字レベルなのか?気になると言えば嘘になるだろうが、今はそれはどうだっていいことだ。

 

『上下関係が力によってハッキリしまくってる……』

 

「優れた能力が優れた環境に居ることは当然の事……だが、歪だな」

 

 王族が住んでいるところから下民と呼ばれる者が住んでいるところまで歩き回った。

 その結果だが俺の中にいる牛鬼は少しだけ嫌な声を出していた。優れた能力を持った人間が優れた環境に居ることは極々普通の事だ。だがしかし、クローバー王国は歪だ…………曲がりなりにも為政者だ、優れた血や能力を優先している事は良いことだが新鋭を育成する事が大事だ。

 

『お前ならどうする?』

 

「そもそもで制度が間違っている、力のみを重視し本を渡す時期を成長しきっている段階で渡している……愚かとかしか言えん」

 

 クローバー王国は魔導書を15歳になる子供に渡しているが、その制度自体間違いである。

 子供の頃に大きく鍛え上げる。子供というのは柔軟な発想力と物事をあっさりと受け入れる事が出来る……15歳の人間と言えば物事の善悪がしっかりと分かりそれぞれがそれぞれの価値観を持っている。いや、持ってしまっている。

 

 血筋を頼らない人材を育成したいのならば教育方面においてはしっかりとしなければならない。

 15歳になってから鍛えるのは難しい。特に物事をどういう風に捉えるか、価値観や倫理観はその頃には色々と出来上がっているだろう。

 

「上を目指すことや前を向くことは構わない、むしろ良いことだが下と後ろの存在を忘れてはならん……それすらまともに理解していない無能な世界……」

 

『ならお前が為政者になりゃいいじゃねえか』

 

「俺が為政者になってみろ、全を選ぶために個を躊躇いなく犠牲にする……俺は確実に反感をくらう政をする」

 

 クソみたいな国に対して文句を言っていると牛鬼はお前が改革をすればいいじゃないかと言うが、俺ではダメだ。

 俺は俺の容姿が千手扉間なのは納得がいっている。合理的な事を選び感情で動かない様にするタイプの人間であり、俺が為政者になれば反感をくらう。馬鹿みたいな夢を抱いている男の補佐がなんだかんだで1番似合う……だから、将軍には仕えていない。一兵士として戦っていた方が効率がいい。

 

『しかし……このままでいいのか?国の偉い人間に日ノ国に帰る方法はないのか相談したら』

 

「それが出来ているのならばこのクローバー王国は日ノ国との間に貿易をしている……詳しい内情が分からん他国に対して宣戦布告をし続けている国に軍人として仕えるべきか?少なくともこの様な歪な形をしている国に対して俺はなにも思わん」

 

『お前、マジでその辺ドライだな』

 

 感情的になって動かない様に生きていると言ってもらいたい。とりあえずはと下民の住んでいる恵外界を当てもなく歩く。

 メレオレオナに見つかれば厄介だが、流石にあの女もこの様な場所には来ない。今日の飯でも収穫するかと気を頼りに猪や熊などが何処に居るのかを見つけ出す。

 

「丸焼き豚?」

 

『いや、アレは丸焼きの猪だな』

 

 炎を纏った猪を数匹発見する。コンガリと香ばしいが独特な獣の匂いがする。

 トリコの世界で丸焼き豚と呼ばれる豚が居たがコレはその豚の亜種か、ブラッククローバー独特の生物なのかと気にしつつの写輪眼を開く。マナを宿した猪、ジャンルで言えば精霊に近しい存在だなと俺は印を結んだ。

 

「水遁 水断刃」

 

 口から水を出して猪を切断する。ウォーターカッターと同じことをやっているだけであり、特に難しくもなんともない術だ。

 水遁の術で真っ二つにして猪を全滅させる……ふむ……

 

「多すぎるな」

 

 今日喰う分には困らないが、明日喰う分としては不必要な量の猪だ。

 塩漬けやポークジャーキーなど色々な手があるだろうが、生憎な事に道具を持っていない。さてどうしたものかと思っていると人の気配を多く感じる。

 

「猪が倒された!?」

 

「やった!やったぁあああ!!」

 

 持っている力が低いおそらくは下民と呼ばれる連中が恐る恐ると俺の前に姿を現す。

 倒された猪を見てとても喜んでいる……ふむ……この猪は害獣で近隣の村の作物を食い荒らしている、そんな感じか?まぁ、食うために殺したのだから感謝される筋合いは無いのだと気にする事なく刀を取り出して猪を解体していく。

 

「あ、あの、何処の魔法騎士団なんですか?お礼を」

 

 なにを言っているかは不明だが俺は手でXを作る。お礼を言われるような事はしていない、ただ単に俺が食うために殺しただけに過ぎない。

 猪を解体していき血抜きも終えたので猪の肉を魔導書を持った人達に渡せば困惑をしていた。

 

「に、肉なんて貰えませんよ!お金が」

 

「……変化の術」

 

 お金を持ってないと言いたげな素振りを見せるので肉を変化の術でレタスやキュウリに変化させた。

 猪の肉を指差し、レタスやキュウリ、トマトと交換をしてくれとジェスチャーをすれば伝わったのか1人の青年が箒に乗って何処かに飛んでいった。猪の肉を見た魔導書を持った一団は嬉しそうに猪の肉を貰ってくれる。食うのに困らないのであれば、コレがいいんだ。

 

「こ、コレでいいですか!?」

 

 籠に詰め込んだレタスやキュウリ、芋などを持ってきた。

 それを見たので猪の肉とぶつぶつ交換をしたので俺は印を結んで土遁で器を作り水遁で水を出して氷遁で氷水にして漬ける。

 

「氷?氷の魔法を使えるのか、あんた!?」

 

 氷水に野菜を浸していれば1人の男性が驚く。

 なにを言っているのか分からないので氷を指をさせばコクリと頷いてくる。氷が欲しいのならばと水遁の術で水を出して大きな氷塊を作り出す。

 氷程度ならば幾らでも作ることが出来るとみせれば箒を出してくるので箒は持っていないと重力をコントロールする術を使って体を浮かせば男は箒に乗って案内をしてくれる。

 

「コレは……」

 

「あの猪のせいで作物を食い荒らされてて……何人か倒そうとしたんだけど倒せなくて、魔法騎士団に依頼してもそんなくだらない事は引き受けないって」

 

「はぁ……」

 

 なにを言っているのかサッパリだが、なにが言いたいのかは分かる。猪に村が荒らされている。何名かは火傷をしている若い人達がいる。

 あの程度の猪をまともに倒すことが出来ない下民には呆れない。本当に呆れるのは作物を食い荒らす猪を倒す為に兵士の1人でも派遣しなければならないのに、それすらしていないこの国のやり方に呆れる。とりあえずはと氷遁で氷塊を作り出せば氷塊を砕いて怪我をしている面々の怪我をしている部位を冷やす。

 

「ああ、傷が」

 

「回復魔法も出来るのか!?」

 

 ただ冷やして時間経過で治りそうな傷は放置、時間経過で治らなさそうな怪我を医療忍術で治す。

 回復系も出来ることを村の人たちは驚くが、俺は特に気にする事はせずに時間経過で治らなさそうな怪我をしている人、重症患者を治す。軽傷の連中には氷を渡す。それで傷口を冷やせ。燃えている猪との間に生まれた怪我は火傷、冷やすのが1番だ。

 

「あんた、何者なんだ?何処かの魔法騎士団の」

 

 俺がなんなのかを気にしてくる村の人達だが俺は無視する。

 別にお礼を言われるような事をしていない……が、無償の正義と言うのは時として悪である。タダで物事を動かせるように世の中にだけはあってはならん。面倒だが仕方がないことだと耳が聞こえないとジェスチャーでアピールをすれば耳が聞こえないと分かってくれたみたいだ。

 

「寝る場所を貸してほしい」

 

 これだけの事をやれば無償の正義とはいかない。

 寝る場所を提供してくれないかとジェスチャーをすれば腕を引っ張られて連れて行かれたのは机と椅子とベッドがあるだけのシンプルな部屋だ。

 

「ここなら誰も使ってないから泊まってってくれよ!」

 

 この部屋を使えと言ってる……筈だろう。

 ならばとありがたくこの部屋を使わせてもらいつつも影分身の術を生み出し、村の調査をする。極々平凡な村でなにか珍しい特産物の1つがあるかと思ったが特に無いらしく平穏な村……隣接してる村は無くて別の村に行くのに歩きならば最低でも1日は掛かる。箒を使って移動するのが前提、車で移動するのが前提な片田舎と同じ感じか。

 

『寝床は確保する事が出来たが、どうするんだ?』

 

「流石にタダ飯を喰らうわけにはいかんからの……万事屋でも営むつもりだ」

 

『次期将軍どころか将軍になれと言われて現場仕事の方が性に合うと言い続けていたお前が何でも屋だと……似合わねえな』

 

「くだらんと思うか?少なくとも俺は合理的だと思う……偉くなって上に行くことはいいことだが、そうすれば下が見えなくなる。高いところから見下ろす景色は絶景だが、下は小さく見える……その粒こそが最も大事な物だが上に行けばそれに簡単に手を伸ばす事が出来ない。だったらこうして誰かが泥に塗れる方が俺は立派で美しいと思っている」

 

『自己犠牲の精神か?』

 

「自己犠牲の精神ではない、己の意思だ」

 

 別に他人にそれをやれと意思を信念を押し付けるなんて事はしない。少なくとも自分がそうするべきだと思ったことをしているだけだ。

 牛鬼はそれを自己犠牲の精神だと言うのだが俺は生憎な事に高尚な人間じゃない。己の意思でやっており、それを誰かに受け継いでほしいとは思っていない。俺の意思は卑の意志だ。

 

 狩った猪で料理を作ってくれる。

 豪快な猪のステーキとサラダでここ最近はただ単に魚や肉を焼いているだけの食事だったのでちゃんとした食事だと満足がいった。

 久しぶりのちゃんとした食事にちゃんとした寝床で風呂にも入ることが出来た。着替えも用意してくれた、異国の服というか洋服だがこれはこれで悪くない。

 

「さて……あまりやりたくないがするしかないか」

 

 俺は写輪眼に瞳を切り替えて、俺のことを手厚く歓迎してくれた男に幻術をかける。

 幻術と言っても精神的に苦痛を与える幻術ではない。ただ単に俺が万事(よろず)屋を、なんでも屋をすると村の人達に伝えるだけだ。

 格安で村の人達になんでもすると言えば本当になんでもするのか?と疑っている。もそっとした芋の芋掘りをしてくれと言っているのでとりあえずはと影分身の術で分身を使って人海戦術で芋掘りを手伝った。

 

「ノモイモをあっという間に……ホントになんてお礼を言っていいのか」

 

「……」

 

 幻術を使ってお金よりもこの芋と鍋なんかの調理器具がほしいとすり込む。

 芋とほんの少しのお金とボロボロだが普通に使うことが出来る鍋やフライパンを頂く。確か蒲焼きが存在している、醤油が存在しているという事は確かなのだろう。俺は米を食いたいから、どうにかして米と味噌を手に入れなければならない。

 

「ヘッヘッヘ、この村がちょうどい」

 

「水遁 天泣」

 

 数日過ごせば村の情勢も見えてくる。恵外界でも端っこの方にある村で他国がコッソリと侵略行為をしてくる。

 国境付近ならば普通は最も防衛力を高めるのが定石、俺ならば重役ならともかく国境付近の防衛力を高めているだろう。何処の国の使者かそれともただの賊なのかはわからないが悪意を持って接してきているのは確かであるので躊躇いなく肩を水遁の術で撃ち抜いた。

 

「ここに害意を持って来たのならば今すぐに自害しろ」

 

 写輪眼で催眠術をかける。何処の者かは不明だが、私利私欲の為に私腹を肥やす為にこの村にやってきたので自害した。

 とりあえずはこれでいい、この村はとにかく狙われやすくて見捨てられやすい。国境付近の警備はどうなっている……いや、違うか。国境付近はとりあえずは警備していてこいつらはそれを越えてきた連中、もしくは内側に居る賊か。

 

「次に手があれば大掛かりな組織、次が無ければ小規模な賊……出来れば次が無いことを祈りたいが、ここは国境付近……」

 

 十中八九、今自害した者達と同列の人間がやってくる。

 敵の国かはたまた内側の賊かは分からないがもう少し国境付近の村や街は力を強化しておかなければならん……自白剤の類は生憎な事に手元に無い。今の俺は国の重役でもなんでもない……国に進言したところでこの国のトップはクソである。別天神(ことあまつかみ)は今年はもう使えない、クソみたいな国王に対して使いたくもない。こんなのに頼らなければならない情勢は潰れてしまえばいい。

 

 とりあえずはと皆殺しにしたので首だけを残して火遁の術で燃やした。

 持っている物が気にならないと言えば嘘になるが金目になりそうなものは無かった……とりあえずは国の上層部に伝えておいてほしいと言うのだがあまりいい顔をしない。俺が躊躇いなく殺したから、ではない。曲がりなりにも剣と魔法のファンタジーな世界で賊を殺した殺してないで責め立てはしない。この国の上層部に伝えたところでこの国の上層部はなにもしてくれない…………コレが現場の声か。

 

「あ、あのっ!」

 

 賊を殺してから数日が経過した。

 近隣の村に連れて行ってくれては子守や草抜き等の依頼をこなす。時には川魚を釣るだけの簡単な仕事もする。

 西川きよしも言っていたが小さな事からコツコツとだ、大きな依頼をそれこそ用心護衛も大事だがこういう細かな依頼をこなすことが大事だ。雑用程度の仕事をして借りている部屋に向かい、今日起きた出来事を纏めていると部屋がノックされた。誰かと思えば村の青年であった。

 

「……」

 

 なにをしに来たのだろうか?

 俺を不法入国者としてクローバー王国に通報した?俺が何者なのかを気にしてきた?犯罪履歴は何処かにないか調べたりしていた?厄介者として村を追い出されたなら厄介だな、この近隣の村には素顔が既に知られている。ここではない遠くの何処かに逃げるしかない。ダイヤモンド王国等ではなくクローバー王国の方がいいのだが。

 

「炎の魔法を使うって聞いたんですけど本当なんですか!?」

 

 手からボォっと炎を出した村の青年。

 なんだと思ったのだが炎が出せるかどうかを聞いてきているみたいで火遁の術を見せる。火球でなく火を軽く吐くだけの攻撃性は皆無に等しい。それを見た青年は目を輝かせると土下座をした。

 

『どうやらお前に弟子入りをしてえみたいだな……どうすんだ?お前の術は色々と特殊だぞ?』

 

 俺の中にいる牛鬼は何をしているのかを教えてくれる。

 この世界は、ブラッククローバーは魔法が当たり前の世界であり1人1人、固有の属性を持っている。炎魔法の使い手、水魔法の使い手と色々とあり……俺は魔法の属性を持っていない。無属性である……が、無属性であるが故に色々と出来る。

 

 この世界には魔力を流すことで火をつける、水を出すといった魔道具がある。

 俺の術はそれの応用で純粋な魔力で印を結んで即興でプログラミングして魔力を別の属性に性質変化をして放っているだけに過ぎない。そして俺が千手扉間なせいか木遁の術だけは使えない。

 

「牛鬼、少しだけ力を貸せ……威嚇する」

 

『おいおい、ガキにそりゃマズいんじゃねえの?』

 

「子供だからだ……上を知ってもそれでも尚、前に進む人間しか興味は無い」

 

 大人げないと言われようが別に構わない……強くなりたいと言うのならば、上を知っておくのは極々当然の事だ。

 ほんの少しだけ牛鬼に力を貸してもらい、青年を威圧した。

 

「っ……」

 

「少しだけ真面目にやっても問題無いか……俺はこの手の事は向いとらんな」

 

 威圧した結果、青年は怯えたが……逃げることはしなかった。

 全力でやっていないとはいえ常人ならば逃げても恥とは言わないレベルの威圧をした。俺はサムズ・アップして合格だとジェスチャーをし、青年を弟子にする事に決めた。



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HIRETU クローバー 6 ★

 

「炎は当てなくてもいい、雷と同じで触れるだけでアウトなものだ。炎系の攻撃は熱を、炎をぶつけるのが大前提だ」

 

 1人の少年を弟子にしたので、炎系の魔法についてレクチャーする。

 炎系の術は基本的には相手を焼く、それしか使い道が無い……というわけではない。

 

「こういう炎の使い方もある」

 

 火を出現させ、ドーム状に包む。火は徐々に徐々に弱まっていき最終的には消えてなくなる。

 普通は火がもっと燃えるものではないのかと疑問を抱くだろう。だから、次は空気に色を与える。無色透明の空気を見えるようにして火を灯す。空気は火を燃やす上で必要不可欠な物、その空気を奪う。ドーム状に火を包むことで中にある空気を全て無くす。

 熱い拳で殴る、熱い炎をぶつける、それ以外にも使い道はある。この技は別に難しい技ではない。者は試しにと置いてある石を燃やすのでなく炎で包む。試しにやってみせろと写輪眼で言えば男は試しにとやってみせる。

 火を起こす程度ならば微弱な魔素(マナ)があるだけで充分、一気に最高火力で燃やす戦いは魔力が豊富な人間ならば可能だがそれが出来ない。だが、火を起こし続けるだけならば微弱な魔力を持つ人間でも可能な事だ。

 

「っ……」

 

 とはいえ、普段からずっと少量の魔力を出し続けるという行いをしておらんせいか苦戦しておる。

 今は先ずは集中の段階、本音を言えば集中をしない集中、無想の段階でやらなければならない。集中は体力の消耗も激しければ、長くは保たない。集中しない集中を会得しなければならないな。

 

「先ずは指から火を起こせ……それを1時間やれ」

 

 ポォッと微弱だが人差し指に火を起こす。

 それを見た男は真似をして人差し指に火を起こすのだが今度は火を起こす事に対して意識を集中させていない。純粋に火を起こすのならばコレぐらいは余裕どころか息を吐いて吸うのと同じなのだろう。ならば今日はそれに訓練を移すかと印を結んで砂が全て落ちきるまで2時間かかる砂時計を土遁の術と晶遁の術で作り上げる。1時間やれと言っているが、その実態は2時間だ。砂が落ちれば終了な事に関して伝えれば男は集中して火を灯し続ける。1時間という嘘をついたのも意味はあるが、まぁ、2時間チョロ火を灯さなければ話にならないな。

 

「手本として俺もやっておく」

 

 ポワァと俺も火を出す。

 向こうの心を折らない為に火力は同じにする……と言っても向こうは俺の方が何段階も格上なのは自覚している。考え方によってはバカにしている様にも見えなくはない。しかしこういう基礎の積み重ねはバカには出来ない。基礎を行い続ける能力は凄まじい。

 2時間に設定してあるが30分のところで火が消える。魔力感知すれば魔力は残っている……が、精神力が限界を迎えたのだろう。足を動かすかの様に強い意志でなく当たり前の動作として動く、それが出来るか出来ないかの問題だ。

 

「影分身の術」

 

 30分を良いのか悪いのか、それは俺には分からない。

 周りにいる面々は世に言うエリートと呼ばれる者達、鍛錬を積むのは当たり前でそこから才能や血筋が物を言う。クローバー王国の下民はどれぐらいか?……魔力による身分差、全くと言って情けない。下を見ている奴はまだしも天狗になっている連中は呆れるしかない。

 

「かかってこい」

 

 影分身の術で分身を作り上げ、男に組手を申し込む。

 男は先程まで火を灯し続けていて精神的にも魔力的にも疲れている。だから休ませてくれと言いたげなので写輪眼を使い、疲れているからこそ意味があるのだと脳に直接訴えかける。

 下民は魔力によるゴリ押しの火力勝負が出来ない、心技体の内の体は大きく劣る。それ故に技を磨く。魔導書を使わなくても火や水は操れる。それと同時に自分自身の魔力が低くても爆弾の様な物を使えば戦える。故に体術を、体を鍛える事は重点的にしておかなければならない。

 無論、戦い方は人それぞれだ。詰将棋の様に闘うのもよし、なにをしてくるのか分からない不気味さを出すのもよし、兎にも角にも手数が多い、器用貧乏とも思える程の技で攻めるのもいいことだ。

 

『ぐるぐるパンチって今どきあるのか?』

 

『言うな……そもそもで筋トレしていないのが分かるな……己を磨ける時間があったにも関わらず』

 

『……お前ほど合理的に動ける人間はいねえよ……つーか、俺と会話しつつ写輪眼無しで攻撃を全回避って』

 

『この程度、他愛もない』

 

 ぐるぐるパンチで攻撃してきた事に俺の中の牛鬼が呆れている。

 戦闘らしい戦闘をしていない証拠、正拳突きの1つでも覚えていると思ったがここまで酷いとはな。

 コレはいかんなと足払いをしてこかすと影分身の俺は印を結び、人間の頭と同じぐらいのサイズの壺を4つ作り上げる。

 

「基礎からやらなければならんが……逆にそちらの方がいいのかもしれんな」

 

 壺を2つ渡して手を横に水平に伸ばす様に暗示を入れる。

 なにをすればいいのか分かったのか直ぐに両手を水平に伸ばして壺の先端部分を握る。俺は残っている壺に水を入れて力士がよくやるヤンキー座りに近いあの構えの状態で水が入った瓶を手に取り、更には分身している俺が頭の上に石を乗せてきた。

 ここからなにか特別な事をするのかと疑問を抱いているようだがここからなにもしない、この状態を常に維持する、ただそれだけだ。しかしコレが意外に肉体に響く。

 

「っ……っ……」

 

「どうした?まだ10分も経過しておらんぞ?」

 

 水が入っていない壺を握り続けて水平に立っているだけなのに震えが止まらない。

 ただ腕を水平に伸ばしている……それだけでも相当な負荷がかかるがそこに加えて壺を握らなければならないという厄介なのが待ち構えている。壺の重さも加わっている。

 

「──!──!」

 

「まぁ、そうなるな……仕方があるまい」

 

 12分で男は限界を迎えた。さっきからやっている事に意味があるのか等の抗議を言っているのだろう。

 派手な技のパフォーマンスは薬にもなれば毒にもなる。使い方を誤ってしまえば毒になってしまうからしたくはないが使うしかあるまい。

 俺は太ももほどの大きさの石を用意する。俺の土遁の術で作ったものでなく自然界に存在している極々普通の石で特別な鉱石ではない極々普通の岩だ。

 

「ふっ!」

 

「……!!」

 

 石に向かって掌底を入れる。すると岩は真っ二つに割れた。それを見て嘘だろうと驚き岩を見るのだが石は綺麗に割れている。

 原理を説明したとしても意味は無い、お前もやってみせろと石を差し出せば魔力を流し込んで身体能力を上げようとするので待ったをかける。

 コレは魔力による身体能力底上げの技ではない、純粋な体術の一種。力を一点にぶつける特別な能力でなく技術の技に過ぎず、魔力で身体能力を底上げしても意味は無い。

 

『どうせなら二重の極みでも教えてみるか?』

 

『二重の極みは早々に教えられんし会得出来ん。俺でさえ2週間は掛かったのだぞ』

 

『お前基準で2週間がスゲえのかそうじゃねえのか……謎だな』

 

 牛鬼が二重の極みを教えることを提案する。

 しかし、あの技は早々に覚える事は出来ん……氣による点穴を見抜く爆砕点穴の方がまだいい。とは言っても爆砕点穴は土木工事用の技で人には使えん技だがな。

 

「もうそろそろ日が暮れてきた……そろそろ家に帰っておけ」

 

 ありがとうございますと頭を下げ、男は箒に乗って飛んでいった。

 世界観的に箒に乗るのは極々普通な事だが、いざこういう風に見せられればなんとも言えんな。

 

『お前も箒に乗ってみるか?』

 

「自分で空を飛べるのに、補助道具に頼ってどうする?」

 

『ま、それもそうか…………しかしよ、どうすんだ?このまま惰性に過ごすつもりか?』

 

「ふむ…………」

 

 牛鬼に今後の事について聞かれる。

 ただ惰性に生きても意味は無い、しかしコレから起きうる事を考慮すれば余計な事はしてはいけないだろう。転生先によっては主人公を成長させておかなければ何処かの段階で詰んでしまう世界もあるブラッククローバーの世界はその世界、アスタの反魔法の力を使いこなせる云々は実戦経験で会得させなければならない……悩みどころだがなにもしないよりはマシか。

 色々と考えた翌日、俺は行動に出る

 

「牛鬼、力を少し貸してくれ……探知に使う」

 

『日ノ国は無理だぞ?』

 

「そこまでは無理なのは理解している……ふむ……」

 

『デケえのがあるな』

 

 牛鬼に力を借りて探知能力を最大限に広める。デカい魔力が1つだけある。その魔力の周りに微弱な魔力が多数ある。

 コレが目当ての物の1つだなと空を飛べば村が見える。アレが主人公の居るハージ村……のどかなところで悪くはないな。

 

『あいつだけ異様に強い力を感じるが……豪族の末裔かなにかか?』

 

『だろうな……なにかの拍子で先祖返りかもしくは血を絶やす事なく受け継いでいる事を自覚していないかのどちらかだろうが……』

 

『どうした?』

 

 アスタとユノを発見した。原作よりも幼い見た目であることからまだ原作が開始していないのが分かる。

 よく回想で出てくる幼少期の頃よりも大きな見た目ということは後2,3年ぐらいで原作が開始される……別にそれ自体はなにも問題は無いのだが……

 

「蓋を開ければ、そのザマか」

 

 下民の期待の星とされているユノとアスタ。

 ユノの正体はスペード王国の王子、アスタは反魔法という誰にも真似をする事が出来ない能力で悪魔の力を用いている。

 下民に見えた人間は特異な存在だった……文字通り下民で成り上がる事が出来た、そんな者が居るのかと思えば見当たらない。才能以前に環境が荒れ果てているな。

 

「うぉおおおお!!」

 

「む…………」

 

 アスタが山に向かって全力ダッシュをしている。

 魔力が無いから筋肉を鍛え上げる、実にいい考えだ。無いものを強請り続けるよりも、あるものを駆使する……その姿に呆れている者達が多いが、ああいうバカは物事を変えるキッカケに必要なものだ。

 

「99,100…………そこに隠れてるのは誰だ!!」

 

「ふむ、気付くまでに時間がかかり過ぎだな」

 

 片手腕立て伏せをしているアスタは俺の気配に気付く。

 もっとも俺自身が気配を出している。意図的に出しているもので、気付くのは何時ぐらいかと思ったが思った以上に遅かった。

 まだ完全になるまでは時間がかかる、氣を読み取るのが難しい……まぁ、問題は無い。

 

「……誰だ?」

 

「む……」

 

 誰かが隠れているのは分かっていたが、誰が隠れているのは分かっていなかった。

 俺が姿を現せばキョトンとするので土遁の術で軽く岩を作り……二重の極みで粉砕した。

 

「おぉ!スゲえ!!」

 

 二重の極みで粉砕すれば目を輝かせるアスタ。

 もう一度土遁の術で岩を作りだしてアスタの前に差し出せばアスタはゴクリと息を飲み込む。

 

「オレにやれって言うのか……うぉりゃああ!!……いってえ!?」

 

「……ふん!」

 

「うぉ!?真っ二つになった!?」

 

「撫子」

 

「ナデシコ?……」

 

 岩を真っ二つにする技の名前を教えれば首を傾げる。もう一度やってみるかとアスタは挑戦しようとするので待ったをかける。

 ただ力任せに岩を真っ二つにするのはそれこそ怪力と呼ばれる者や術による力の増加だろうが、それではアスタに教えることが出来ない。

 岩を真っ二つにするのは掌底、拳では無いことをジェスチャーで教えて先ずはとクナイで岩に傷をつける。石ならばともかく岩ならば先ずはと切れ目から割るところで行う。狙うべきところはここだと教える。

 

「……ふん!……おぉ!やった!やったぞ!岩を真っ二つにする事が出来た!!」

 

 コツとキッカケを教えればアスタは岩を割った。

 掌底を叩き込むことで岩を割ることに成功したのだが、及第点を与えるわけにはいかないのだと俺は☓印を腕で作ればアスタは「え?」となる。

 確かにアスタは岩を割ることに成功した事は喜ばしい事だが、岩を割ることに成功しただけであって岩を真っ二つに割ることに成功していない。アスタが割った岩は真っ二つでなく複数に分かれている。

 俺はアスタの割った岩を横に置いて隣で岩を真っ二つにする。それを見てアスタは割った岩を比較する。真っ二つにするのであって割ることが目当てではない。

 

「も、も゙う1回いいですか?」

 

 人差し指を立てるアスタ、おそらくだがもう一度を要求している。

 岩を作ればアスタにクナイを渡すべきかと思ったが、アスタはクナイを渡してくれとは言ってこない。どうやってこの岩を考えるのか、岩に対してどういう力を加えればいいのかを考える。そう、考えるんだ。考えることだけは平等に与えられた権利、考えて想定して実戦する事が出来るのが持っていない奴の戦いだ。

 

「明鏡止水」

 

「めーきょう?なんだそれ?」

 

「コォオオオ……ホォオオオ……」

 

 どうすれば良いのか考えていて頭を悩ませている。答えは出かけているので心を落ち着かせる事を言う。

 意味が分かっていなさそうなので呼吸をする。アスタも真似をして呼吸をして目を閉じて意識を一点に集中させ……岩に掌底を叩き込んで岩を真っ二つにした。

 

「やった!今度はちゃんと真っ二つになった!」

 

「む……」

 

 流石は主人公と言ったところか、キッカケを与えれば一発で化ける。魔力が無いというだけで戦うことに関しては才能があるのだろう。

 一先ずは撫子の会得を拍手をして称える。

 

『撫子を一発で成功するとは、コイツ、才能あるな……力を一切感じねえが……』

 

『生まれつきの突然変異種だろう……しかし、力を用いなくても戦う術は幾らでもある。どうもこの国の人間はそれを学ぶ意欲が薄いようだ』

 

『無いからこそってやつか』

 

『そんなところだろう』

 

「影分身の術」

 

「うぉ!?3人に化けた!?」

 

 撫子の会得が出来たのならば、防御系の技術の会得もしておかなければならない。

 影分身の術で3人に分身し1人は撫子で割った岩を砕きもう1人は直径1mの円を描く。俺は直径1mの円の内側に入り、分身している俺に石を投げさせるので俺はそれを回避したりクナイで弾いたりする。

 

「オレも……」

 

 アスタにも石を渡す。

 自分にも投げろと言っているのだろうと理解してくれたのかアスタは石を投げてくるので軽々と回避する。

 

「スゲえ……全部は回避出来ねえから危ないやつをあのナイフみたいなので弾いてる……魔法は使ってない。コレならオレにも…………」

 

 氣を読み流れを読み取る、そしてその流れにそって呼吸をする。

 ジョジョの奇妙な冒険の序盤に出てくる波紋の呼吸と同じ原理でエネルギーを生み出す。魔力とはまた違う、氣を生み出す。

 肉体を鍛え上げているアスタに呼吸法はまだ教えなくてもいい、今は先ずは氣を読みとるところから教えればいいのだと今度は目を閉じて石を軽々と回避する。

 

「オレにもお願いしまぁあああす!!」

 

「元気があってなによりだ……ふ!」

 

「あ、いた!?」

 

「いきなり目を閉じるか……馬鹿者が」

 

 俺のやっていることを真似てみようとアスタは目を閉じようとした。

 目を閉じている状態で石の回避はまだ早すぎる、今は石を回避して呼吸を読み取りそこから氣を読み取らなければならない。

 目を閉じることを禁止だといい、クナイを貸せばクナイで全てを捌こうとする……回避できる物は回避し、回避不可能だと判断した物はクナイで弾く、それがこの防御系の技術の初歩だ。



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冷静に考えればクソみたいな話

 

「ふぁ〜……」

 

「カケイ、おはよう」

 

「おはようございます、シスター・リリー」

 

 俺の名前はカケイ、転生者だ。

 なんで転生者をやってるとかどうして転生者になったかと聞かれれば長いし別に読者の視線を集める悲しい中二病的な過去は持っていない。

 1つ言えることは……ダルい…………転生者をやってる事に関しては後悔はあるかないかで言えば無い、息詰まった現代社会に未来は無いと俺は思っている。高度に文明や経済を発展させまくって◯◯出来てスゴい!なんかが◯◯出来て当たり前の世の中に変えまくった、その結果が今の日本なので後悔は無いが……不満はある。

 

「アスタとユノは……まだ寝てるのか」

 

「全く、今日はカケイの大事な日だと言うのになにをやっとるんじゃ!」

 

 転生先はランダムであり、一応はチートを貰える……俺の転生先はブラッククローバーだ。

 ジャンプで大人気でゲームに実写にアニメと色々とやっているファンタジー物の漫画で俺も好きな漫画だった。だが、あくまでも読者視点で好きなのであり、いざその世界で生きたいのかと言えば話は別だ。

 

 バトル物の世界に憧れが無いと言えば嘘になる。ワールドトリガーとかが良かったんだがこればっかりは決められないランダムである。

 そんなこんなで転生したんだが、まぁなんだ…………クローバー王国ってロクでもねえってか、いざ現場に立たされれば見えてくるものがある。

 

「アスタ、ユノ、起きろ」

 

「がー……」

 

「ん………ッハ!!」

 

「ユノは直ぐに起きたか、顔洗って歯を磨いてこい……アスタ、起きろ」

 

「ぎゃあああ!眩しぃイイイ!!」

 

 アスタとユノと同郷……要するに孤児である。

 別に悲しむ事じゃない、親が居なくても問題無いぐらいの年齢になっているからああだこうだ言わない……普通ならばだ。

 

「カケイ、もうちょっと段階踏んでから目覚まししてくれよ!もっとこう、布団を剥ぎ取るとか水をぶっかけるとか」

 

「時間通りに起きれないお前が悪い……疲れてるのは分かるけど、ユノは直ぐに目を覚まして意識を叩き起こしたぞ」

 

「ぐぬぬ」

 

 魔力を用いてアスタを叩き起こす。こういう事が出来ると異世界転生して正解だったとは思う。

 ただし思うぐらいのレベルで終わっている。それ以上でもそれ以下でもない……別にそれぐらい構わねえんだけどな。

 アスタも起こす事が出来たので教会の皆と一緒に朝食をいただく……この数年まともに肉を食ってねえな……まぁ、いいんだけどよ。

 

「え〜では、本年度の魔導書(グリモワール)授与をする!」

 

 朝食を頂けば魔法使いの塔に向かう。

 そこにはブラッククローバーに必須品な魔導書が万を超える単位で置かれている……が、この時点で割と不快を感じる

 

「あんな孤児にまで魔導書を与えなくても」

 

「恥を晒しに来たのかな?」

 

 そう、この世界は下民を理由に上流階級の人間が見下してくる。

 爵位の概念があるので当然の如く孤児で下民である俺達を平然と見下してくる。この環境は好きじゃねえ……いや、違うか。全部好きじゃねえか。ブラッククローバーはアスタが活躍するまではこんな感じだったが、一言だけ言うのならば蓋を開けてみれば冷静になって考えてみればクソみたいな話だ。

 

 下民である希望の星と思っていたアスタは悪魔の力を使役していた。

 下民である希望の星と思っていたユノは実はクローバー王国でなくスペード王国の王子だった。

 

 努力、友情、勝利じゃなくて結局のところは才能、環境、血筋、主人公補正だな。

 けどまぁ、永遠と動かない事よりは幾ばくかはマシ……永遠と変わろうとしない老害が蔓延る社会よりはまだいいと受け入れる。

 

「おぉ、カケイにも魔導書が来たな!」

 

「神父、流石にそれは無いでしょう」

 

 魔導書を貰えた事を喜ぶ神父。

 アスタという一例は存在しているが、一応は魔導書はこの国の人間じゃなくても貰える。授与式に来てればスペード王国の王子だろうと日ノ国の鬼神一族だろうがな。

 

「かなり分厚い魔導書ですね」

 

 授与式の見物に来ていたユノは俺の魔導書に目を向ける。

 見た感じハリーポッターの本に近い感じで、なにか無いのかと思っていればクローバー王国の魔導書の証である魔導書の表紙の部分に12個の紋章が円形に囲まれていた。この紋章は何処かで見たことがあるなと思いつつも魔導書を開けば少しだけページが埋まっていた。

 

「あ〜……はいはい、そういうことね……」

 

「カケイの魔法の属性って結局、光属性なのか?」

 

「いや、違う」

 

 同じく一緒に来ていたアスタは疑問を俺に投げかける。

 俺の魔法の属性が何属性なのか?アスタもユノは勿論の事、俺も詳しくは知らなかったが魔導書に載っている魔法を見て納得した。中々にチートな魔法をくれたなと思う。

 

「細やかな事だ、気にするな……」

 

 まぁ、なにはともあれ貰った物は受け入れないといけねえ。

 魔導書を無事に貰えた記念なので今日は俺はノモイモを3つ食べて良いと言うので里芋の煮っころがしにして食った。和食バンザイだ。

 

「それでどうするんじゃ?」

 

「……まぁ、そうですね……」

 

 夕飯を食べ終えて各々が風呂に入り終えると神父とシスター・リリーに呼び出される。

 魔導書を貰うことが出来たのでこれからどうするか?少なくとも、タダメシ喰らいのニートにだけはなりたくねえ。

 神父やシスター・リリーに就職先を斡旋してもらうなんて事は出来ない。かと言って魔法騎士になりたいとも思わねえな……あんなダルい環境には居たくねえ。

 

「世界は広いって言いますし、平民や貴族が住んでる上流階級に行きたくないけど、恵外界を見て回っていいですか?」

 

「恵外界を?」

 

「別に立ち入るのが禁止なダンジョンには行きませんよ……ただまぁ、俺の魔法って割と便利なので何でも屋でもしてみようかなって」

 

 色々と考えてみた結果だが、銀魂の万事屋みたいな事をしようかなと考えている。

 クローバー王国の魔法騎士団達は基本的にはダンジョン探索や要人護衛、街の防衛なんかをしているが何事にも例外が存在している。

 この恵外界はダンジョンが出現しない限りは守る価値は無いのだとハッキリと断言されており、些細な事、例えば害獣が出たから駆除してくれと言われても全くと言って上は動かない……ダルいわ。

 

「何でも屋か……それはいいことじゃの……開業資金を出すことは出来んが、何でも屋を始めたという事を色々な村に伝える事は出来る」

 

「別に開業資金なんて要らないですよ……ただまぁ、色々な村に伝えてくれる事はありがたいです」

 

 だからまぁ、万事屋をやることに関して異議を唱えてくれなかった。

 魔法騎士団を目指す!とか言い出せばやめておいた方がいいの一言でも言ってくるだろうが、何でも屋を目指してる事を言えばいいことだと頷く。シスター・リリーも頑張ってねと声援を送ってくれる。

 

「つーわけで、俺は何でも屋をやるからな」

 

「そっか……カケイは器用だからな!きっと上手く出来る筈だ!」

 

「だといいんだがな……2年後にはお前達も魔導書を貰うけどどうするんだ?」

 

「「勿論、魔法帝を目指す」」

 

 2人ピッタシに言うアスタとユノ。相変わらず凄まじい信念の持ち主である。

 俺にゃ真似出来ないし真似したいとも思わねえ……まぁ、精々頑張れよとだけしか言うことが出来ねえ。

 アスタもユノも何時かは俺みたいに魔導書を貰って魔法騎士団に入団してやると意気込んでいるが……その結果がアレなんだよな……ロクでもねえ。

 

「カケイ、早速依頼が来たぞ……その……」

 

「なんですか?非合法で怒られる闇が深い仕事はしませんよ」

 

 そんなこんなで魔導書を貰って数日が経過した。

 神父のおっちゃんが依頼が来たことを報告してくれるのだがなんだか言いにくそうな顔をしている。所謂闇バイト的なのは普通にお断りだ。

 神父のおっちゃんは言うべきかと悩んでいる。正直に話してくれないと依頼を引き受けるかそうでないかを決めかねない。

 

「ノモイモ掘りを手伝ってほしいそうなんじゃよ……」

 

「まさかと思いますがタダとかお金の代わりにノモイモを渡すとかじゃないですよね?」

 

「いや、ちゃんと依頼料は用意してくれとるんじゃが……魔法要素0じゃろ?」

 

「別に構わない……むしろこういう依頼の方がなにかと気楽だ」

 

 魔法使えないアスタでもこなせそうな依頼を言ってくる。

 ノモイモ掘りの依頼を受けると言えば箒で40分ぐらい飛んだところにあるノートの村という平凡な村に向かった。

 

「万事屋です……神父からノモイモ掘りを依頼されたんですが」

 

「ああ、来てくれたんだね……今年も結構な数のノモイモが実ってね、1人じゃ限界があったんだよ。1人でも多くって思ってね」

 

「じゃあ、頭数を増やすのでその分の賃金の口上をお願いします」

 

「え?」

 

 ノモイモ掘りをしなければならないが魔法を用いてノモイモ掘りをするわけじゃないと農夫のおじさんは思っている。

 それはそれで別に構わないがとにかく人手が居ると言うのならばと魔導書を取り出して魔法を用いる。

 

「星座魔法 双子座のジェミニ」

 

「おお、二人になった……幻影?」

 

「「いえ、どちらも実体がありますよ……星座魔法 双子座のジェミニ」」

 

 俺は魔法を用いて2人に分身したと思えば更に4人に増えて倍々ゲームで増えて64人で終えた。

 これ以上数を増やし続ければ俺の魔力がもたない。そもそもで二人に分身する時点で限界がある。64人も分身したけどもこの64人は魔法を使う事が出来ない……まぁ、雑用とか小間使いの真似をする事は出来るからこの仕事にはちょうどいい。

 幸いにも農具は沢山あったのでそれぞれの俺が芋掘りをはじめる。人海戦術で事を終わらせているからな、色々と楽でいい。

 

「ありがとう……まさか1日でノモイモ掘りが終わるとは思いもしなかったよ」

 

「それが俺の仕事なんで……それよりも市場に出すことが出来ないノモイモを貰っていいですか?」

 

「ああ、いいよ。どうせ誰も食べない物で売ることも出来ないし火を通さなければ家畜の肥料にすらならないから……それとその、依頼料の事なんだけど一応は色を付けておいたけども64人分の代金は」

 

「流石にそこまで強請る程に強欲じゃないですよ、1人分の依頼料に+した感じでいいです……それでもなにかあるかって言うんだったら、恵外界の人達に万事屋が出来ているから困った事があるならばそこに依頼してくれってPRしてください」

 

「それぐらいの事ならお安い事だよ……はい、これ売り物にならないノモイモね。規格の外の大きさで売れないけども皮は剥きやすいし味も同じだから……上の人達は、なんでコレを拒むんだろう」

 

 規格外のサイズのノモイモが入った箱を貰った。

 依頼も無事に終えて依頼料も無事に貰えた。ケチられるどころか依頼料を上乗せしてくれた。上乗せしてくれた部分は教会に振り込む。

 少しだけでいいから教会に鐘を入れておかねえとニート扱いされる……何時かは自立して、自分の家を持ちたいもんだ。



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グレイトシゲルの奮闘記 1 

「あ〜憧れの〜」

 

 前略おふくろ様、アニメのポケットモンスターと思わしき異世界に転生を果たしました。

 なんか神様の暇潰し感覚で転生させられた……ここにいる俺は本物の僕じゃなく分霊みたいなコピー的な存在で元の俺はちゃんと生きている、なんだったら黄金律Bのスキルを持たせてこれから幸福に暮らせるようにしたとかで、元の世界に居た自分の事は心配しなくてもいい至れり尽くせりな事だ。

 

「グッモーニン、お祖父ちゃん」

 

「おぉ、おはようシゲル!」

 

「今日も手伝うよ」

 

 さて、過去の俺はもう過去に置いておこう。ラノベとかでよくある痛い中2的な過去があるわけでもない、前世の自分は幸せに暮らしているらしいので今生をどうやって謳歌するかどうかが重要だ。

 俺ことオーキド・シゲルはポケットモンスターでなにかと有名なオーキド博士の孫である。幼い現在もお祖父ちゃんと呼び研究所に遊びにやってきてはポケモン達のご飯等を手伝っている。

 

「いやぁ、シゲルが手伝ってくれる様になってから大分楽になったわ」

 

「お祖父ちゃん1人の時点で無理があるよ……」

 

「ナナミが手伝ってくれるからなんとかイケるんじゃがの」

 

 オーキド博士の研究所なのだが職員がオーキド博士しかいない。

 ブラック企業も真っ青な体制であり姉であるナナミ姉さんが時折色々と手伝ってくれるおかげでなんとか運営できている。けれども、その姉さんが町内会の旅行に行ってしまってるからお祖父ちゃん一人でてんてこ舞い。流石にアレなので俺も手伝っている。

 

「ほぉら、お前等ご飯だぞ〜」

 

『ダネ』『カゲ』『ゼニ』

 

 俺の主な仕事はポケモン達の餌やり、モンスターボールに戻す、モンスターボールから出す、乱れている毛並みを整えるといった研究とはあまり関係の無い仕事だ。ポケモンに関するあれやこれやゲーム的な知識は持っているけども、研究者並みに知識があるわけじゃない。ポケモン研究の第一人者であるお祖父ちゃんと比べるのはアレかもしれないけれど月とスッポンだ。

 

「お前等、良いトレーナーに巡り会えよな」

 

 目の前で3体のカントーの初心者向けのポケモン、『くさ』タイプのフシギダネ、『ほのお』タイプのヒトカゲ、『みず』タイプのゼニガメの幸運を祈る。この3体、来月にはマサラタウンを旅立つ新人トレーナーに貰われる。3体とも珍しい生息地不明のポケモンなのだが、実はポケモンリーグ協会が卵を養殖していて一定の実力になるまで育て上げる育て屋的な存在が育てている。

 うちのお祖父ちゃんやナナカマド博士、ウツギ博士はその育て屋から新人トレーナーになる10歳のトレーナーに渡す御三家を用意している。オダマキ博士は卵を貰っては自力で新米向けのレベルにまで高めているらしい。

 

「シゲルも後数年もすればポケモントレーナーになる。シゲルはポケモン研究家を目指すのか?」

 

「ポケモンバトルに関する研究をするのは面白そうだとは思うけど」

 

 原作でシゲルはポケモン研究者の道を進んだけども俺は……どうなるんだろう。

 オーキド博士の研究所でポケモンと触れ合い、毛並みの整え方等を覚えている。ゲームと違ってこっちはポケモンのコンディションを自力で整えないといけないから意外と四苦八苦、でも辛いとは思わない。俺はホントにポケモンの世界に転生しているんだなと生を実感する事が出来るんだから。

 

「サトシの奴はポケモンマスターになるって言ってる……俺はまだ決まってない。けど、ポケモンに関して色々と知りたいとは思ってるよ」

 

「そうか。何をするにしてもポケモンの事に詳しくならなければなにも始まらんからの、1人前のポケモントレーナーになるんじゃぞ」

 

 因みに原作主人公ことサートシくんが言っているポケモンマスターには興味はない、というかポケモンマスターって結局のところはなんだよ。

 ポケモンチャンピオンとかトップコーディネーターともまた違うポケモンを極めた人種……リアルポケモンマスターと言われる某韓国人を思い出す、あの人は本物のリアルポケモンマスターである。

 

「ところでシゲル、今度ワシが主催でポケモンサマーキャンプを開催するが参加はせんのか?」

 

「お祖父ちゃんが居ない間に研究所のポケモン達のめんどうは見ておかないと……俺はこっちの方がポケモンと多く触れ合えて手入れの仕方を覚えれるからね」

 

 そしてそのサマーキャンプはサトシが参加してXYのフラグを建てるか、もしくは遅刻して新無印のゴウくんと出会うのか……まぁ、どっちでもいいんだけどね。ポケモンの手入れの仕方を覚えるのもポケモントレーナーにとって大事な仕事の1つ、業者に任せるって手もあるけど自分のポケモンは自分で理解しておかないといけない。自分のポケモンのコンディションを他人に任せるのは、それこそお祖父ちゃんやジョーイさんレベルまでポケモンに関して博識な人ならいいけど、変な業者に捕まる可能性もある。こういう世界ってそういう業者が多いらしい。

 カントーの御三家にご飯をあげて軽く健康をチェックした後にモンスターボールに戻してお祖父ちゃんに託す。

 

「じゃ、ちょっと走ってくるね」

 

「転ばない様に気をつけるんじゃよ」

 

 俺が出来そうな仕事は大体出来たのでここからは俺のポケモントレーナーとしての特訓が始まる。

 なんと言っても俺ことオーキド・シゲルは人間である。ポケモントレーナーとしての特訓をしなければならない。ポケモントレーナーとしての特訓ってなんだよと思っているであろうが割と簡単である

 

「ギャロップ、勝負だ!」

 

『ギャロゥ!』

 

 ポケモンとかけっこをする。この世界のポケモンはアルセウスに近い感じなので面倒な事にフィジカルを鍛えておかなければならない。

 時速200kmを超える速度で走る事が出来るギャロップとのおいかけっこは常にデットヒート、油断をすれば『かえんぐるま』で焼き尽くされるかもしれない。ギャロップの体の炎はギャロップが心を許せば熱くないとの事だが生憎な事にこのギャロップはお祖父ちゃんが過去に送り出したトレーナーのポケモンなので俺のポケモンじゃないので心を許してもらっていない……デッド・オア・アライブとはまさにこの事だ。

 しかしこの世界ではイシツブテを投げ合うイシツブテ合戦なんてものが存在しているんだからホントに油断ならない。生身の人間も特にお祖父ちゃんは不死身に近い。テレビでオーキド博士のポケモン講座を何度も見ているけれど、よく死なないよな、アレは。いや、ヨノワールで死んでた気もするけども。

 

「熱い、熱い、熱い!!」

 

 まぁ、俺も人の事を言ってられねえんだけどな!

 高速で移動するギャロップにあっという間に追いつかれては角でケツを突かれて耐ポケモンの攻撃に優れた服に引火することは無いけどもシンプルに熱く火事場の馬鹿力が発揮され通常の何倍もの速度で走ることを可能とし、研究所の庭園内にある水辺に飛び込む……いや、冗談抜きで熱い。

 

「火事場の馬鹿力を何時でも使えたらいいんだけどな」

 

 火事場の馬鹿力を発揮すれば一瞬の間だけだがギャロップをも上回る速度で走り抜ける事が出来る。

 これを常時する事が出来ればそれこそ徘徊系の伝説である三犬をゲットする事が出来るかもしれないな。まぁ、この世界ではやたらと準伝説の価値が強くて異常に強かったりするからそう安々とゲットする事は出来ないだろうけど。

 

『ニョロ』

 

「ああ、ごめんごめん。直ぐに出てくよ」

 

 ここは自分の縄張りだとニョロボンが言ってくるので池を後にする。

 オーキド博士の庭園のポケモン達は独自の生態系を持っているので下手に壊す事は出来ない……将来的にはサートシくんのフシギダネが上手い具合に生態系の頂点に立ってくれているだろう。頼んだぞ、サートシくんのフシギダネ。

 

「ふぅ……掛かってこい」

 

 木の棒がくっついたロープが複数ある場所に目隠しをして立つ。

 なんの訓練をしてるかって?波動だよ、波動の探知の訓練をしてるんだよ。この世界って超能力者とか波動使いとか普通に居る。超能力は先天的な物が多いらしいけども、波動は後天的で、特訓する事で会得する事が出来る技術だ

 

「っ……!……痛い」

 

 その筈なんだ。この特訓を開始して1か月が経過しているが未だにいい感じの成果が出ていない。

 何処になにがあるのかの認識すらまともに出来ない……サートシくんは波導の勇者アーロンと同じ波動を持っているらしいけども……俺って才能無いのかな。この特訓になんの意味があるのか俺には分からないが姉さんがこの特訓をしていて損は無いって推してくるんだよな。

 

『スピ!』

 

「やべぇ、野生のスピアーだ!」

 

 多分、こんな事が起きる旅をするから姉さんは推してくるんだと思う。

 気性の荒い野生のスピアーが俺目掛けて突撃してくるので俺は目隠しを外して全速力でオーキド博士の研究所に向かう、室内とかオーキド庭園の中心部に入れば野生のポケモンじゃなく誰かにゲットされたポケモンしかいないのでスピアーも好き勝手に暴れる事はしない、というよりは出来ないな。

 

「早くポケモン欲しいな〜」

 

 コレが俺ことオーキド・シゲルの日常である。



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グレイトシゲルの奮闘記 2 

 

「151の喜び、151の……ぉ、そろそろか」

 

 もう少しでポケモントレーナーになる年頃な俺ことオーキド・シゲルは今日はオフだと釣り竿を片手にマサラタウンの川辺を歩く。

 もうすぐ良い感じの釣りスポットに辿り着くと思っていると何処かで見たことがある人影がサートシくんがいたじゃありませんか。

 

「おい、なにやってんだよ!」

 

「見てわからないのか?釣りだよ、釣り」

 

「そんなの見りゃ分かるよ!」

 

「じゃあなんだい?もっとフィオロジカルな答えを求めているのかい?」

 

「フィロ……なにそれ?ポケモン?」

 

「やれやれ、ちょっとは勉強をした方がいいよサートシくん」

 

 君は努力だ根性だなんだの精神論が得意かもしれないけど、それだけだとこのグレイトシゲルには勝てないよ。

 

「オレが言いたいのは此処はオレの見つけたスポットなんだから何処か他所でやれよ!」

 

「断る。俺もここが釣るのに最適な場所だって知っているんだ」

 

 姉さんがポケモンの釣りをするならばここがオススメだと勧められている。

 俺の見解が間違っていなければここが釣りをするのにベストな場所なのは本当だろう。いやぁ、中々にいい場所だ。

 

「そうなんだよ。ここは釣りをするのにベストな場所でな」

 

「嬉しそうに語っているのは良いけど、竿引いてるぞ?」

 

「って、ああ!!」

 

 やれやれ釣りは時として自分との勝負だと言うのに、そんなんじゃお目当てのポケモンを釣れないよ。

 サトシは慌てて釣り竿を引くとコイキングが釣れたのだけど俺もサトシもポケモン取り扱い免許を持っていないのでゲットする事が出来ない。コイキングはサトシの腕の中でピチピチと跳ねて暴れると満足をしたのか川に再び飛び込んだ。

 

「やれやれコイキングに弄ばれるとは、実に愉快な姿じゃないか」

 

「なにぃ!」

 

「ポケモンの中でも最弱と呼ぶに相応しい弱さを持っているコイキング、君はどんなポケモンか知ってるかい?」

 

「知ってるよ……えっと……川を泳いでるポケモンだろ!」

 

「そこで水系のポケモンと出てこないかな、普通……まぁ、いいや。君は何処ぞの配管工の様に永遠の2番手を目指してくれたまえ」

 

「2番手だって?」

 

「1番は当然この俺さ」

 

「そんなのやってみなくちゃ分からないだろう!」

 

 出たな、やってみなくちゃ分からないだろう。

 サートシくん、君は毎回そうは言っているけれども今までで一度でも俺に勝つことは出来たのか?いや、無いね。調子に乗っている事を自覚している今でさえサートシくんに圧勝している。その気になればチャンピオンと互角に渡り合う強さを手に入れる事が出来るんだろうが……俺もその頃にはチャンピオンクラスのポケモントレーナーになっている筈だ。

 

「ふっ、まぁお前とは何れポケモンリーグで実力の差という物を教えてあげる……っむ!」

 

「あ!」

 

 釣り竿が引いている。サートシくんも俺も両方釣り竿が引いている。

 コレは同時にポケモンが引っかかったんだと釣り竿をお互い引っ張ると小さな錆びているモンスターボールが出てきた

 

「なんだモンスターボールか」

 

 何処の誰かは知らないけれどゴミを捨てる事は良くない事だ。

 とりあえずこのボールを回収しようとするけれどもサトシが思いっきり引っ張ってくる。

 

「おい、なに引っ張ってるんだよ。コレはただのゴミだぜ?」

 

「ゴミじゃない、オレのモンスターボールだ!」

 

「いや、ただの捨てられた廃モンスターボールだ。仮に普通のモンスターボールだったとしても俺達はまだポケモン取り扱い免許を持ってないから持てないだろう」

 

「中にポケモンが入ってるかもしれないだろう!」

 

「それこそポケモン虐待だよ!!」

 

 モンスターボールにヒットした釣り竿を互いに引っ張り合う。

 こんなゴミは置いておいて未来の俺のポケモン達を釣り上げたいんだよ。キープしておきたいんだ。互いにモンスターボールを譲らないここで譲ったら負けな気がしてしまうと釣り竿を引っ張り合うと……モンスターボールが半分に砕け散った

 

「あぁ、オレのモンスターボールが」

 

「なにを言ってるんだ……はぁ、変な風に糸が絡み合ってるな」

 

 モンスターボールをゲットする事が出来ずに落ち込むサトシ。

 そんな事よりもモンスターボールに絡んだ釣り糸を元に戻さないといけないと釣り糸を元に戻しているとサトシは半分になったモンスターボールの下の部分、白い方を手に取り見つめている。

 

「なぁ、コレって引き分けだよな?」

 

「引き分け?なにを言ってるんだ。勝負は勝つか負けるかのどっちかで引き分けなんてこの世に存在しないんだよ」

 

 第一今回は勝負をしていないんだ、負けも勝ちも引き分けもあるかってもんだ。

 モンスターボールに絡みついている糸を解いているとサトシが半分に割れたモンスターボールの赤色の部分を俺に渡してきた。

 

「引き分けの証のモンスターボールだ。将来ポケモンリーグで対戦するんだ、その時勝った方がこの壊れたモンスターボールを完成させようぜ!」

 

「なんの願掛けだ……でも、いいよ。俺がサートシくんに勝った勲章としてありがたく頂戴するよ」

 

 空の錆びついた赤色の部分のモンスターボールを貰う。

 サトシくんは俺と引き分けをした事でぬか喜びする……ポケモンバトルでもなんでもないバトルに引き分けたところで悔しくなんてないさ……でも、ポケモンバトルで負ければ本気で悔しい……うん……

 

「こんなところで呑気に釣りなんかしてる場合じゃないな」

 

 こんな物を貰ったって言うのに呑気に釣りなんかしていられないな。

 未来のポケモンキープをしておきたいけれども、マサラタウン付近じゃコイキングぐらいしか釣れない。川辺に珍しい水系のポケモンは居ないんだから仕方無いことだ。

 

「ただいま〜」

 

「あら、おかえりなさい。釣りに行ったんじゃなかったの?」

 

「サトシに宣戦布告されたから呑気に釣りなんかしていられないよ」

 

「あらあら、じゃあ何時も通り訓練をするのね」

 

 家に帰ればナナミ姉さんが不思議そうにしている。

 微笑ましい光景だって暖かく見守ってくれているけれど俺にとっては割と死活問題なんだよ。

 姉さんは俺が本気で1人前のポケモントレーナーになるという意志を理解してくれたのか家の庭先にストラックアウトの的を用意してくれる。

 

「なんと言ってもポケモンをゲットするにはモンスターボールを当てないといけないわ」

 

「よし……6番狙います」

 

 番号を宣言して空のモンスターボールを投げる。

 空のモンスターボールは6番めがけて飛んでいった……と思ったけれども6番の上の3番に当たってしまう。

 

「シゲル、ノーコン」

 

 うぐっ……真の1人前のポケモントレーナーならば狙ったところにモンスターボールを当てる事が出来る。

 姉さんはもちろんお祖父ちゃんでさえ色々とモンスターボールを当てる事が出来ている。口ではなんだかんだと偉そうに言っているけれども俺もまだまだ未熟なトレーナーなんだとこの訓練で思い知らされる。

 

「ええい、こうなったら1から順番に当ててやる!」

 

「ふふっ、頑張りなさいよ」

 

 まだまだ未熟の青二才なのは分かりきっている事だけども俺は転生者、なんだかんだで強いものである。

 空のモンスターボールを構えては振りかぶり思いっきりストラックアウトの的目掛けてぶん投げる……よぉし!1番にヒットしたぞ

 

「シゲル、ちょうどいいから5番と9番を撃ち抜いて斜めのビンゴを作りなさい」

 

「ええっ、そんなまた無茶な!」

 

「無茶でもなんでもない!真の1人前のポケモントレーナーになるんでしょ」

 

「うっ……こうなったらやってやる!いけ、モンスターボール!!」

 

 豪速球を投げているのだけどコントロールが上手く行かない。

 幸いにも5番は真ん中に投げるだけでいいので上手く命中させる事が出来たけれども、問題は9番、右利きの俺には右下は狙いにくいぜ。

 しかしこんな特訓をしないといけないとはポケモントレーナーは1日にならずだな……いや、ホントにポケモントレーナーになるのは難しいもんだぜ。サトシはこんな特訓をして……居ないな。アイツは天性にマサラ人だからな。なんだかんだでモンスターボールを投げるの上手いんだろう……だがしかぁし!俺もこの特訓でどんなポケモンにもモンスターボールを当てれる様に成長してみせる!

 

「次、3番行きます!」

 

「その調子よ、シゲル!」

 

 右斜めにビンゴをする事が出来たので今度は左斜めのビンゴを目指してモンスターボールを振りかぶる。

 この訓練のおかげか俺はモンスターボールでフォークボールやカーブを投げることが出来ている……カーブボールをポケモンに向かって投げるのは若干だけど抵抗があるけど、それがこの世界では普通の事なのだ。



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グレイトシゲルの奮闘記 3 

 

 10歳になった。待ちに待ったポケモントレーナーになる日が遂にやって来た。

 長かった……ドードリオとかけっこをしたりポケモンの手入れの方法を学んだり、旅先で作れる簡単な料理の調理法を覚えたり寝袋で睡眠したり、ポケモントレーナーになる為に色々と努力してきた

 

「シゲル、遂にこの日が来たわね」

 

「うん、遂に来たよ」

 

 今生の別れでは無いけれどもしんみりとした空気が実家内で流れる。

 10年、長いようで短い時間でありあっという間に過ぎていってしまっている。

 

「姉さん、今までありがとう。俺の無茶な特訓に付き合ってくれて」

 

「無茶なんてものじゃないわ。ポケモンをゲットするために色々と鍛えた、今ではイワークに引けを取らない素早さを得て……ホントに立派になったわね」

 

「いいや、まだまだだよ。今日から俺はスタートラインに立つんだ」

 

 まだスタートしていない、今日から1歩踏み出すんだ。

 姉さんは俺が立派に成長したと軽く涙を流してハンカチで涙を拭うのだが、まだまだだ……そう、今日から俺はポケモントレーナー、夢にまで見たポケモントレーナーになるんだ。本音を言えばワールドトリガーの世界が良かったけどもそこはそれである。

 

「姉さん、俺は立派なポケモントレーナーになってマサラタウンにシゲルありと思わせるよ」

 

「その頃にはピジョットを追いかける事が出来る様に鍛えてあげるわ!」

 

「いや、そこまで人外にはなりたくないから」

 

 マサラ人なのは自覚しているけれどマッハで走るポケモンと並走出来る脚力は不要、殺せんせー並の素早さは不要である。

 ともあれ今日からポケモンマスターは目指さないけれどもポケモントレーナーは目指しているので急いでオーキド博士の研究所に向かう

 

「あれ、俺1人?」

 

 ビリリダマ型の目覚まし時計をモンスターボールと勘違いし寝ぼけてぶん投げてボールを破壊したサートシくんはともかく他にも2名名もなきモブが居た筈なのにそこにはいなかった。コレはアレかな?俺が早くにオーキド博士の研究所に来てしまった感じだろうか?過去に送り出したトレーナーの中にはもっと早くにオーキド博士の研究所に来ているのに。

 

「おぉ、1番はシゲルか」

 

「そうだよ。マサラタウンの一番星ことシゲルさんだよ……どうやら俺が一番最初みたいだね、お祖父ちゃん」

 

 お祖父ちゃんことオーキド博士が姿を現すと感心した姿を見せる。孫が1番なのは祖父的には嬉しい事なんだろう。

 色々と言いたいことはあるけれども俺はそれよりも早くと言わんばかりに期待の眼差しを送るとお祖父ちゃんはこっちに来なさいと初心者向けのポケモンが入っているモンスターボールを見せる

 

「さて、シゲル。お前さんだから既に熟知はしていると思うがワシは初心者向けのポケモンを3体用意しておる」

 

「うん、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメでしょ」

 

「うむ……まぁ、今回はそれ以外にも居るんじゃが……」

 

 人に心を開いていないピカチュウだろう。冷静に考えればよくそんなポケモンをずぶの素人のサートシくんに渡すとかオーキド博士鬼かなにかじゃないだろうか。

 まぁ、御三家は基本的には早いもの勝ちのところがあるからコレばかりはああだこうだと言ってはいられない。通勤電車も1分の遅れで乗り過ごす事になる……いやはや、最初のポケモンを選ぶのはなにかと大変である。

 

「さて、先ずはフシギダネ」

 

『ダネ』

 

「次にヒトカゲ」

 

『カゲ』

 

「最後にゼニガメ」

 

『ゼニガァ』

 

「3体のポケモンの内1体を授けよう。さて、どうする?」

 

「それなんだけど先にポケモン図鑑をくれない?最初の3匹って珍しいポケモンだから図鑑に登録しておきたいんだ」

 

 フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメの3体をボールから出す。

 初心者向けのポケモンなので人に馴れており選ばれるのを待っている。とりあえずはポケモン図鑑を、原作の初期型のポケモン図鑑を頂いてポケモン達を図鑑に登録していく

 

 フシギダネ ♂ タネポケモン 生まれたときから背中に植物のタネがあって少しずつ大きく育つ。

 

 性格『まじめ』とくせい『しんりょく』

 

 覚えている技 『たいあたり』『なきごえ』『つるのむち』『せいちょう』

 

 ヒトカゲ ♂ とかげポケモン 静かなところに連れていくとシッポが燃えてる小さな音が聞こえてくる。

 

 性格『おっとり』とくせい『もうか』

 

 覚えている技 『ひっかく』『にらみつける』『ひのこ』

 

 ゼニガメ ♂ 水面から水を噴射してエサを取る。危なくなると甲羅に手足をひっこめて身を守る

 

 性格『のんき』とくせい『げきりゅう』

 

 覚えている技 『たいあたり』『しっぽをふる』『みずてっぽう』『はどうだん』

 

「おいおい」

 

 ゼニガメだけが段違い、というかタマゴ技を覚えている。

 フシギダネとヒトカゲは親から遺伝したっぽい技を覚えていたがゼニガメだけ明らかに特別な技を覚えている。コレはアレか?俺にゼニガメをゲットしてくれと言っているのか?

 

「性格は……どうなんだろうな」

 

 とくせいだけでなく性格もポケモン図鑑に映し出されている。

 大まかなポケモンの性格だがゲームではこの性格が実に大事だ。フシギダネの『まじめ』な性格は性格補正が入らない、どの能力が上がりやすくどの能力が上がりにくいと言った事は一切無い。性格が『まじめ』なら付き合いやすいポケモンだ。

 ヒトカゲの『おっとり』の性格は『とくこう』が上がりやすく『ぼうぎょ』が上がりにくい性格、ゼニガメの『のんき』な性格は『ぼうぎょ』が上がりやすく『すばやさ』が上がりにくい。しかしゲームと現実は違う、性格補正が入らないかもしれない。

 そうなると『まじめ』な性格のフシギダネが1番付き合いやすいかもしれないが……性格補正が一切入らない。ここは原作通りゼニガメを選ぶべきかと思うがゼニガメを考えるが……うし

 

「最初のポケモンはお前だ」

 

 色々とウジウジ考えたって仕方がない。

 俺は最初のポケモンを選ぶとお祖父ちゃんは頷く

 

「シゲルならば上手く育て上げる事が出来るじゃろう。ほれ、モンスターボールじゃ」

 

 空のモンスターボール5つ貰う。

 ここからなにをゲットするか……最初のポケモンを何にするのか全然決めていなかったので最終的なパーティ構成を構築しないといけない。多くのポケモンをゲットする事をオーキド博士は期待してくれているだろうが多分そんなにゲットしないだろうな。

 

「サトシの奴、遅いな」

 

 どうせだからサートシくんに顔を合わせておきたいのだが案の定寝坊してくるサートシくん。

 今日から新人トレーナーになる残り2名の名もなきモブ達がポケモンを貰っていくが中々にサートシくんは来ない。

 

「はぁ、初っ端からコケってるなぁ」

 

 大きな溜息を吐いてオーキド博士の研究所の階段を降りていく。

 サトシが来ないんじゃ意味は無いなと思っていると慌てたパジャマ姿のサートシくんがやってきたじゃありませんか

 

「やぁやぁ、サートシくん!そんなパジャマ姿で慌てて何をしているんだ?」

 

「シゲル!」

 

「そうだよ。オーキド博士の孫であり一流のトレーナーであるシゲルさんだよ。今日はポケモンを貰う大事な日なのに初日からコケってるなんて情けないな」

 

「もうポケモンを貰ったのか!?」

 

「当たり前じゃないか。一番最初にやってきて一番最初にポケモンを貰ったよ……そういう君はパジャマで旅をするのかい?」

 

「そんなわけあるか!ところでなんのポケモンを貰ったんだ?」

 

「オーキド博士から貰ったポケモンだ。それは優秀なポケモンだよ……ま、君に見せびらかすつもりはないよ」

 

 モンスターボールを片手にサトシを煽る。ポケモンは見せびらかす為にあるんじゃない。

 オーキド博士から貰ったポケモンはトレーナーとしてバトルをさせてなんぼなところがあるんだ。お見送りに来てくれたマサラタウンの住人に大きく手を振るう。

 

「マサラタウンのシゲルはコレよりポケモンリーグを目指してポケモンジムを巡る修行の旅に行ってまいります!マサラタウンにオーキド・シゲル有りとマサラタウンの名前を世に知らしめてみせましょう!!」

 

 では、サヨナラだと手を大きく振るって見送りに来てくれたマサラタウンの住人達に別れを告げる。

 次に帰ってくる頃にはバッジを8個以上集めて1人前のポケモントレーナーになって居るだろう……。

 

「さて、ポケモンを捕まえに行くとするか」

 

 最初の1歩を俺は踏みしめた。



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グレイトシゲルの奮闘記 4 

 

「さてと……トキワシティに辿り着いたな」

 

 サートシくんを後にして向かったのはトキワシティ。トキワシティと言えばトキワジムがあるのだが挑むつもりは無い。ミュウツーが出てくるのはシンプルに恐ろしい。この世界はゲームと違ってアニメオリジナルのジムが幾つも存在している。出来ればゲーム通りにバッジを集めておきたいのだが……

 

「最初のポケモン、お前だからな」

 

『カゲ?』

 

 呼んだ?と首を傾げるはとかげポケモン、ヒトカゲ。色々と悩んだ末にヒトカゲを選んだ。

 ゼニガメがいい感じだったけどもやっぱり何かと優遇されているリザードンが欲しいとオレの心の導くままに選んだ。リザードンは男のロマンだ。

 

「この辺に水系のポケモン生息してたっけな」

 

 リザードンは男のロマンだが、前途多難な道である事に変わりはない。

 最初のジムはニビジムだがヒトカゲだと攻略が難しい……と言うよりはジム戦を受けてすら貰えない。この世界のジム戦はゲームと違って指定された数のポケモンを用意しておかないといけない。ニビジムならば使用ポケモン2体、現在俺の手持ちはお祖父ちゃんから貰ったヒトカゲ1体だけでジム戦をする権利すら無い。

 

「そこの少年、待ちなさい!!」

 

 とりあえず街を詮索しようかな思っているとジュンサーさんに呼び止められる。

 

「なんですか?」

 

「そのポケモン、貴方のポケモンかしら?」

 

「ええ、マサラタウンで今日貰ったばかりの俺の最初のポケモンですよ……な、ヒトカゲ」

 

『カゲ』

 

 その通りですと頷くヒトカゲ。

 ジュンサーさんは疑いの目を俺に向けてくるので俺はポケモン図鑑を取り出す

 

「コレはポケモン図鑑!」

 

『このポケモン図鑑をシゲルくんに送る。目指せポケモントレーナー。尚、ポケモン図鑑盗難紛失の際に再発行は出来ないので注意。マサラタウン、オーキド博士』

 

 身分証明書代わりにもなるポケモン図鑑を提示する。

 ゲームじゃ希少な道具だったりするけどもこの世界じゃ大量生産に成功する事が出来ている代物で、一般的なトレーナーなら誰しもが持っている物だ

 

「ごめんなさい、マサラタウンから来たトレーナーだったのね……そういえばもうそんな時期だったかしら」

 

「俺以外にも2人のトレーナーが通りませんでしたか?」

 

「通ったわ。皆、イキイキとしていてやっぱりポケモントレーナーになった最初の日は舞い上がる……君がポケモンをモンスターボールから出してるのもそうだからでしょ」

 

「えぇ、まぁ……」

 

 最初のポケモンを貰ってフィーバーしている。

 頑張って大人ぶろうとしても心はまだ少年であった……前世と今生を含めれば二十歳越えているけども、俺はどちらかと言えば子供部屋おじさんなところがあったからな……大人になってもゲームとかアニメとか普通にやってる。ある意味問題を抱えている子供である。

 

「ポケモンはモンスターボールに入れておかないと、ポケモン強盗と間違われる事があるわよ」

 

「そうですね……戻れ、ヒトカゲ」

 

 ヒトカゲが入っていたモンスターボールを取り出し、赤外線の様な物を飛ばすとヒトカゲはボールに戻る。

 この赤外線はなんなのか気になるけどもとりあえずはボールに戻り、ボールを縮小させて腰にしまう。

 

「ポケモンセンターってどっちにありますか?」

 

「あっちよ」

 

 とりあえずジュンサーさんにポケモンセンターの居場所を聞いておく。

 ポケモンが一切傷ついていないのでポケモンセンターに寄る必要性は無い。お腹も空いていないし、ジム戦に挑む事は出来ない……俺が真っ先にやらないといけない事はポケモンをゲットして手持ちを増やすこと。

 

「なにを捕まえようかな」

 

 ポケモン図鑑を片手にポケモンをググる。カントー地方のポケモンしか載っていない……カントー地方のポケモンに対応しているだけ充分か。

 最初に挑むのはニビジム、使ってくるポケモンは『いわ』タイプのポケモンだが『じめん』タイプも複合している。イシツブテとイワークを攻略しないといけない。『メタルクロー』をヒトカゲは覚えたが……このポケモン図鑑、『はがね』と『あく』と『フェアリー』対応していないんだよな。

 

「いっそのことゴリ押しでリザードンにまで進化させる……いや、それだと時間がかかるな」

 

 ブツブツと呟きながらトキワシティを歩く。

 フシギダネかゼニガメを選んでさえいればこんな事にはならなかったが後悔はしていない。こんな風に悩んだりするのもポケモントレーナーの醍醐味だ。思い出せ、思い出せよ俺。ポケモントレーナーになる為に色々な知識を蓄えてきた。ポケモンの知識は豊富と言ってもいいぐらいに蓄えているんだ。ゲーム知識は本物の筈だ。

 

「……ニドランかマンキーか」

 

 とりあえずトキワの森は目指さずに22番道路を目指した。

 トキワシティはあっさりと出ることが出来た。街らしい街から離れて野生のポケモン達が居るであろう場所に足を運び入れる。狙いはニドランかマンキーのどちらか、ニビジムを制覇する為には『かくとう』タイプの技を覚えるポケモンが必要だ。

 ゲーム的な話をすればピカチュウ版でニドラン達は直ぐに『にどげり』を会得する様になった……マンキーは、まぁ、ピカチュウだからの救済措置の様なものだろう。

 

「さてと、何処にポケモンが居るのやら」

 

 草むらを歩きながらポケモン図鑑を開く。

 何処に目当てのポケモンがいるのか分からない、ポケモン図鑑をセンサー代わりにする。

 

『オニスズメ、ことりポケモン。高く飛ぶのは苦手。縄張りを守るために猛スピードで飛びまわっている』

 

「オニスズメ……はいいか」

 

 とぼとぼと歩いているとオニスズメに遭遇する。

 オニスズメは特段珍しいポケモンでもないし、最終的にリザードンに進化するので空を飛ぶ事が出来るタイプのポケモンにそこまで需要は無い筈だ。鳥系のポケモンは今のところは必要無いので気配を消して無視し、何処にポケモンがいるのか波動で探知をしてみる……コレまだ完璧に使いこなせていないから何処に誰が居るのかハッキリと分からないんだよな。ぼんやりとしか分かんねえ。波動使いの才能が根本的に欠けてるかもしんない。

 

『ニド!』『ニドォ!』

 

「お、居たぞ」

 

『ニドラン♀、優しい性格で戦いは好まないが小さなツノからは毒がでるので要注意。ニドラン♂、何時も大きな耳を立ててまわりの気配を探る。危険を感じたときはどくバリを使う』

 

 ポケモン図鑑を片手に居ると目当てのポケモンを見つける事が出来た。

 ウサギに近い見た目のニドラン♂とニドラン♀の両方がおり早速モンスターボールを取り出す

 

「いけっ、モンスターボール!」

 

『ニドォ!?』『ニド!?』

 

 ニドラン♂に、ニドラン♀にモンスターボールを投げる。

 突如として現れた人間にモンスターボールが投げられて咄嗟の事だったのでニドラン達は対処する事が出来ず……あっさりとゲットする事が出来た。

 

「よっしゃあ!!マサラタウンのシゲルくん、ポケモン初ゲット!!」

 

 バトルを一切せずにゲットする事に成功したぜ。

 地面に落ちているニドラン達のモンスターボールを拾って舞い踊る……が、直ぐに踊るのを止める。最初の1歩だと興奮しているけども肝心のポケモンが使い物にならないのならば話にならない。ポケモン図鑑を取り出す

 

 ニドラン♂ 性格『いじっぱり』特性『どくのトゲ』 覚えている技 『つつく』『にらみつける』『どくばり』『きあいだめ』

 

 ニドラン♀ 性格『ひかえめ』特性『どくのトゲ』 覚えている技 『ひっかく』『なきごえ』『どくばり』『にどげり』

 

「……さらば、ニドラン♂」

 

 ポケモンの具合をチェックした。

 ニドラン♀が既に『にどげり』を覚えているのは儲けものだ。そうなるとニドラン♂の需要が無くなる。性格的にもニドラン♀の方がいい感じの筈だとニドラン♂をボールから出して逃がす。まだ出会って間もなく友情もなにも無いのでニドラン♂はそそくさと去っていく。

 

「出てこい、ニドラン♀!」

 

 そそくさと逃げていったニドラン♂を追いかけずにニドラン♀をモンスターボールから出す。

 俺にゲットされた事を自覚しているのか俺の側に寄ってくるので俺はついでだとヒトカゲをモンスターボールから出す

 

『カゲ?』

 

 なにか?と首を傾げるヒトカゲ。

 俺は地面に座ってポケモン図鑑を見せる。ニドクインとリザードンの部分を見せる。

 

「俺は本気でセキエイ大会優勝を目指しているんだ。だから進化はしないって言うのは困る……ニドラン、お前は今日から俺のポケモンでニドリーナに進化してニドクインになってくれるか?」

 

『ニド?』

 

『カゲ、カゲカゲカァ』

 

『ニド!』

 

 進化をするつもりが無いポケモンはこの世界にはそれなりにいる。

 進化する進化しないはポケモンの勝手だが、俺の最強(サイツヨ)トレーナーの道では障害でしかない。進化をするポケモンが必要だ、進化をするしないで種族値や覚える技が大きく変わっていく。特にニドクインとニドラン♀では覚える技の数が段違いだ。

 ポケモン図鑑を取り出してやる気はあるのか確認する。ヒトカゲが進化をするつもりがあるかどうか聞いてくれて頷いてくれたのでホッとする……進化しない個体ならば逃していたぞ。

 

「さぁ、ヒトカゲ。お前を鍛えるぞ」

 

 ポケモンが2体になったのでポケモンバトルでの育成が可能になった。

 ゲームと違って野生のポケモン狩れないのがこのアニポケの世界、ポケモンバトルと言えば対人戦しかない……まぁ、ピカブイでもトレーナーとのバトルしかやってなかったから仕方ないと言えば仕方ないことか。

 

「ニドラン『どくばり』以外の技を使ってくれ。一応は『ラムのみ』とか『なんでもなおし』を持っているけどここでは使いたくないんだ」

 

『ニド』

 

 分かったと頷いてくれるニドラン♀。

『にどげり』を覚えているという事はこのニドラン♀はそこそこレベルが高い個体、ヒトカゲも新米のポケモントレーナー用に鍛えられているが……何処まで行けるか

 

『ニド!』

 

『どくばり』は使うなと言っているのでニドラン♀に残された攻撃の選択肢は『ひっかく』か『にどげり』しかない。

 攻撃するには間合いを詰めて接触しなければならず、俺はヒトカゲに間合いを開くように指示をし『ひのこ』を撃ってもらう……相手がなにを使ってくるか分かっている。特性も『どくのトゲ』だと分かっているので下手に接触系の技である『ひっかく』を使わず間合いを開く……逃げながら攻撃のヒット&アウェイの戦闘方法だ……

 

『ニドォ!』

 

「あ、コラ!それはダメだぞ!」

 

 攻撃を当ててはそそくさと逃げて間合いを開くヒトカゲに我慢の限界が来たのかニドラン♀は『どくばり』を吐いた。

 

『カ、カゲェ……』

 

「あ〜もう、台無しじゃないか」

 

 突如として放たれた『どくばり』をヒトカゲは避ける事が出来ずに命中するとヒトカゲの顔色が悪くなる。

『どくばり』の追加効果である『どく』状態になってしまったので鞄から『なんでもなおし』を取り出しヒトカゲに吹きかけるとあっという間にヒトカゲの『どく』が吹き飛んだ

 

「ダメだろう『どくばり』を使ったらヒトカゲが……ああ、でも今のは有りっちゃ有りなんだよな」

 

 ニドラン♀に注意するが決してルール違反を犯していない。

 俺が『どくばり』を撃つなと言っているだけで『どくばり』で間合いを開こうとしているポケモンに攻撃する事が出来ている……う〜ん、ポケモンバトルの可能性はホントに無限大だな。



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グレイトシゲルの奮闘記 5 

 

「さて、儲けたな」

 

 ニドラン♀か♂もしくはマンキーをゲットする事が出来ればよかったがまさか『にどげり』を覚えている個体をゲットする事が出来るとは思いもしなかった。コレでタケシとのジム戦はバッチリである……とまぁ、慢心していると痛い目に遭う。原作のシゲルくんはこの頃には調子に乗っていたのだがこの俺、グレイトシゲルは手痛い目に遭うのは普通に嫌なのである。

 

「もう1体ぐらい捕まえておかないと」

 

 ポケモンはある程度はゲットしておいて損は無いのである。

 同種のポケモンは試合では登録する事は出来ないものの、まだまだポケモンは沢山いる。ポケモン図鑑を片手になにかいいポケモンは居ないのかと探す。

 

「ポッポ……ポッポ……ピジョン……はいいか」

 

 トキワの森に来た筈なのに見つかるのはポッポ、ポッポ、ピジョン。

 ヒトカゲが最終的にはリザードンになるので空を飛ぶことが出来るタイプのポケモンは今のところは欲しくはない……いや、冷静になって考えればリザードンだけが空で戦えるポケモンなのは不利なのでもう1体か2体ぐらいは空を飛ぶことが出来るポケモンが欲しい……けど、ポッポは無いな。

 

「ヘラクロスとかが居てくれたらな……」

 

 何かと便利なタイプであるヘラクロスはこの場にはいない。そもそもでジョウトのポケモンはこの初代ポケモン図鑑に対応していないのである。

『ずつき』的なので木を揺らすという手もあるがここはトキワの森、下手したらスピアーの巣を揺らす事になる……マサラ人になるために色々と鍛えてはいるもののリアルファイトはそこまでしたくはないのである。

 

『ピィイイ』

 

『キャタピー、いもむしポケモン。頭の先にある触角に触れると強烈な匂いを出して身を守ろうとする』

 

「キャタピーか……キャタピーかぁ……」

 

 キャタピーと言えば最終進化系にならないと使い物にならない事に定評がある虫ポケモンの代表格。

 メガシンカは無いけれどもキョダイマックスは頂いており、サトシくんが最初にゲットしたポケモンでもある……サトシくんと被るのはなんか嫌だな。でも、キャタピーを除けばビードルぐらいでメガスピアーにするぐらいしか使い道は無さそうなんだよな。

 

「仕方がない。ヒトカゲ、出てこい!」

 

『カゲ!』

 

「ヒトカゲ『ひっかく』攻撃だ!」

 

『カァゲエ!!』

 

『ビィイ!?』

 

 突如として攻撃された事に驚くキャタピー。

 しかし悲しいかな、コレはポケモンバトルでもありゲットするバトルでもある。先制攻撃奇襲は当たり前である。

 

『ビィイイイ!』

 

「ヒトカゲ『ひのこ』で焼き払え」

 

 向こうが戦うのならばこっちもやってやるぜとキャタピーは『いとをはく』で攻撃してくる。

 ゲームでは『いとをはく』はすばやさを一段階下げる技だったがアニメの『いとをはく』は中々にチート技であり、引っ掛かる訳にはいかない。

 ヒトカゲに『ひのこ』を吐いてもらい粘着性のある糸を焼き払って貰うと腰に添えてある縮小されたモンスターボールを大きくする。

 

「ゆけっ、モンスターボール!」

 

『ビィ!?』

 

 モンスターボールを投げてキャタピーに命中させるとモンスターボールが開いてキャタピーはモンスターボールに入る。

 モンスターボールが地面にコンコンとついたかと思えば右に揺れ左に揺れて最終的にはモンスターボールはカチリと音が鳴った。

 

「よし、キャタピーをゲットしたぞ」

 

 キャタピーが入ったモンスターボールを拾う。

 初心者でもゲットしやすいポケモンだからか、割とあっさりとゲットする事が出来た。

 

「っと、出て来いキャタピー!」

 

『ビィ!』

 

 ポケモン初ゲットの喜びは既に噛み締めている。1回やればそれで満足なので踊りとかそういう事はしないでおく。

 さっきまで戦っていたのが嘘の様にキャタピーは大人しい……モンスターボールにポケモンを入れれば洗脳されたりしてるのかと思わず疑うが、ゲットしておいて言うことを全然聞いてくれないのはそれはそれで困るので細かな事は気にしないでおく。

 

「『キズぐすり』をかけるぞ」

 

『ビィッ……』

 

 一応はヒトカゲとの戦いのダメージがあるので『キズぐすり』をかける。

 突然の『キズぐすり』にキャタピーは驚くのだが、直ぐに害意のあるものじゃないと分かったので受け入れる。

 

「えっと……」

 

 キャタピー 性格『うっかりや』覚えている技 『たいあたり』『いとをはく』

 

 流石に『むしくい』を覚えているとかいう都合のいい展開にはならないか。

 キャタピーのレベルが分からないのが少しだけ困った……この世界はレベルの概念はあれども数値が存在しておらず、具体的に何レベで進化するというのが無い……子供向けのポケモンのゲームだとあるんだけどな。

 

「キャタピー、ヒトカゲと特訓するぞ」

 

『ビィイ!』

 

『カゲ』

 

 バトルの特訓をするといえばキャタピーはやる気を出す。

 よかった、進化をする事を拒まない個体で。流石にキャタピーのままじゃクソ雑魚である……取り敢えずニドラン♀の一件もあるし、ニドラン♀のとくせいは『どくのトゲ』なので接触系の技はNG『たいあたり』しか攻撃技を覚えていないキャタピーを『どく』状態にするわけにはいかないのでヒトカゲでバトルの練習をする。と言ってもヒトカゲの方がレベルが上で相性が良いので『ひのこ』を禁止にしてもらう。

 

「ヒトカゲは『ひっかく』をキャタピーは『たいあたり』主体で戦うんだ」

 

 ヒトカゲとキャタピーはバトルをする。

 先ずは先制だとキャタピーはヒトカゲに向かって『たいあたり』で突き飛ばす。しかしヒトカゲはこんなところでは倒されまいと直ぐに立ち上がり体制を立て直すと『ひっかく』攻撃でキャタピーを攻撃する。キャタピーは『ひっかく』攻撃に苦しむのだが負けじと『いとをはく』を放つ。糸でヒトカゲをグルグル巻きにして腕を使えない様にする。『ひのこ』を使えば糸を焼き払う事が出来るのだが、今回は『ひのこ』の使用は禁止なのでヒトカゲは力づくで糸を断ち切ろうと頑張るのだけれど、キャタピーの糸は意外と馬鹿には出来ない。

 

「ヒトカゲ、尻尾の炎を使うんだ」

 

『ビィイイイ!!』

 

 ヒトカゲにアドバイスを送るのだがそれよりも先にキャタピーがヒトカゲに向かって『たいあたり』で突撃してきてヒトカゲを突き飛ばす。

 タイプの相性の上ではヒトカゲが有利なのにキャタピー、滅茶苦茶善戦している……が、そろそろ限界というものが来るだろうな。ヒトカゲに『ひのこ』の使用は禁止だが尻尾の炎は使っていいと言えばヒトカゲは尻尾を動かして自分を縛るキャタピーの糸を燃やす。

 キャタピーの『いとをはく』はヒトカゲの身動きを封じる為にあるものであり……それを燃やされるのは痛い。さっきやられたお返しだと言わんばかりにヒトカゲは『ひっかく』攻撃でキャタピーを攻撃しようとするのだがヒトカゲの爪が銀色に輝く。

 

「『メタルクロー』か?」

 

 最新作ではタマゴ技になったけれどもヒトカゲは『メタルクロー』を覚えるポケモンだ。

 オーキド博士の研究所に居るヒトカゲはある程度は育てられている。新しい技を覚える前兆かとポケモン図鑑を取り出すのだが、このポンコツもといポケモン図鑑は初代ポケモン図鑑であり『はがね』タイプの技とかには対応していない……既にエアームドとか発見されてるんだけども、何処の地方のポケモンなのか図鑑Noを何処にするのとかで学会で揉めているとか揉めていないとかでポケモン図鑑に載せられないとか。

 ジョウト地方の図鑑だったらこんな事にはならなかったのだろうが……まぁ、無い物ねだりはしても意味は無いのである。

 

『カァゲ!』

 

『ビィイイ!……ビィ』

 

「ま……こんなものか」

 

 既にある程度は鍛えられているヒトカゲに対して本当についさっきゲットしたばかりのキャタピーじゃ力の差がある。

 仮に『ひのこ』を使っていたのならばもっと簡単に勝負がついていたのである。キャタピーはかなり善戦してくれたのでよし……『いとをはく』があんなにも強い技とは思いもしなかった。普通はすばやさを一段階下げる技だってのに、アニポケ世界はホントに謎である。

 

「さぁ、キャタピー。ボールに戻るんだ」

 

『ビィ!ビィビィイ!』

 

 キャタピーを鍛えるのはいいが休ませるのも大事だとモンスターボールを取り出すのだがキャタピーは拒む。

 まだまだ戦えると言いたげなキャタピー……そうか。原作ではサートシくんのエイパムがポケモンバトルよりもコンテストパフォーマンスが好きでブイゼルと交換した回があったが、どうやら俺は運に恵まれているらしい。バトルをする事に関して文句を言わないキャタピー、むしろバトルをさせろと言ってくる。

 

「仕方がない……ヒトカゲ、今度は『ひのこ』の使用を許可する。指示はしないが本気のバトルをしてくれ」

 

『カゲ』

 

 分かったと頷くヒトカゲ。

 再びヒトカゲとキャタピーはバトルを行うのだがキャタピーは『いとをはく』を撃つ。真正面から『たいあたり』をしても倒すことが出来ないのだとさっきのバトルで学習してくれたのだろう。しかし残念かな、今度はヒトカゲは『ひのこ』を使うことが出来る。飛んでくる糸に向かって『ひのこ』を吐くと糸は引火してあっという間に燃え尽きる。

 

『ビィ!』

 

 ならばとキャタピーは今度は『たいあたり』で突撃してくる。

『たいあたり』ならばと思ったのだがそれこそ狙いの的である。キャタピーの『たいあたり』はそこまでの速度はないのでヒトカゲば『ひのこ』を放ち突撃してくるキャタピーに当てるとキャタピーは黒焦げになり倒れた。

 

「コレが公式戦ならば今ので戦闘不能だ……ヒトカゲが『ひのこ』を使用したら今のお前じゃこんなもんだ」

 

『ビィ……』

 

「悔しいか?だったら早くトランセルに進化しそしてバタフリーに進化するんだ。お前はバタフリーにならなければ使い物にならないポケモンなんだ」

 

 この世界じゃ割と外道な事を言っておく。

 某ガチ勢ことシンジ程じゃないがこのグレイトシゲルはそんなに甘くはない。思いやり、優しさ、愛情、信じる心の友情パワーも悪くはないが何事も適度にストレスを与えておかなければ意味は無いのである。温い馴れ合いだけが絆じゃない、真・友情パワーも時には大事なのである。

 

『ビィ……ビィイイイイイ!』

 

「ぬぅお!?」

 

 キャタピーに対して少々厳し目な言葉を送った結果、キャタピーは眩い光に身を包んだ。

 虫ポケモンの進化の速度は早いとお祖父ちゃんもといオーキド博士やウツギ博士、ナナカマド博士は言っていたのだがまさかいきなりとは思いもしなかった。キャタピーは眩い光に身を包んだと思えば姿が変わり……トランセルに進化した。

 

「っと、ポケモン図鑑」

 

『「トランセル、さなぎポケモン。身を守るためひたすら殻を硬くしても強い衝撃を受けると中身が出てしまう」』

 

 トランセルの中身って一体なんだよ……成長途中の蛹の中にいる虫とか見たくない。シンプルに気色悪い。

 ともあれキャタピーはトランセルに進化をした。進化した事により『かたくなる』も覚えた……うんうん、出だしは好調だ。

 

「っと、もう夕暮れか……トランセル、今日はもうここでおしまいだ」

 

 気付けば日が沈もうとしている。

 サートシくんは今頃はトキワシティに居るのだろうが、そんな事は知ったことじゃない。サートシくんを叩きのめして最強のポケモントレーナーに俺はなる。

 

「ヒトカゲ『ひのこ』だ……焚火はいいもんだ」

 

 こうしてグレイトシゲルの1日目は終わりを告げる。出だしは好調である。



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グレイトシゲルの奮闘記 6 

 トキワの森で野宿をした。

 はじめての野宿はドキドキだったがその反面、ワクワクでもいっぱいだった。

 俺、ポケットモンスターの世界に転生したんだと生を実感する事が出来る。ヒトカゲに火を起こしてもらい朝食であるおむすびを頂く。塩加減が程良く我ながら中々の出来だと思う。

 

「やっぱおむすびは美味え……」

 

 日本人ならばおむすびが1番である。旅をした際に色々と料理が出来るようにと学んだが、なんだかんだでおむすびが1番である。

 おかかと塩むすびだけなのが少々残念ではあるが、それでも美味い事には変わりはない。

 

「さて……どうするか」

 

 おむすびを食べ終えて飯盒を洗い終えると今後の予定をどうするのか考える。

 ニビシティへ続く道はちゃんと分かっている。ニビシティに向かえばニビジム戦なのだが、生憎な事にこっちにはニドラン♀しか頼りになる戦力が居ない。タケシを相手にニドラン♀だけでは心許ない。かと言ってヒトカゲでニビジムに挑むわけにはいかない。昨日『メタルクロー』を覚えかけたが未完成な技をぶっつけ本番でやるほど俺はギャンブラーじゃないんだ。

 

「新しくポケモンを捕まえる……は無いな」

 

 トキワの森にいるポケモンは大体見ることが出来た。

 ポッポ、キャタピー、ピジョン、ビードルとカントーじゃ割と見かけるポケモン達だ。ピカチュウはまだ見ていないがピカチュウは別にゲットしたいとは思わない。なにせピカチュウよりも強いポケモンはかなり居るのだから。

 

「よしっ、ポケモントレーナーを探すか」

 

 ポケモンのレベルを上げるのはポケモンバトルが1番なのだが、野生のポケモンとバトルが出来ないのでポケモントレーナーを探す事にする。

 

「領域展開……なんつって」

 

 この日の為にグレイトシゲルは色々と鍛えているのである。

 波動を探知するという中々に厄介な特訓を積んだ……辛かった。何処に何があるのかを探知しないといけないので気的なのを探らないといけない。波動を認識するのに半年も掛かったのだがこの技能は割とバカには出来ない。近くに危険なポケモンの巣があるとかそういうのもある。流石に藪蛇をわざと突くほど俺はバカじゃない。

 

「むっ!発見!」

 

 俺の波動に探知範囲内にポケモントレーナーかどうかは分からないがポケモンを持った奴が居ると引っかかった。

 トキワの森は無駄に広いからもしかしたら会う事が出来ないと思っていたのだがコレは好都合である。早速最初のポケモントレーナーに会いに行ってみるとそこには鎧を着た短パン小僧がいた。

 

「トランセル『かたくなる』でござる!」

 

『……ラン!』

 

 鎧を着ている短パン小僧はポケモンもといトランセルを鍛えていた……鍛えていたよな?

 トランセルに『かたくなる』を指示して硬質化させているけれども、それだと経験値にもならないぞ

 

「……っ、何奴!!」

 

「っふ、気付かれてしまった様だな。水を差さない為に見守っていたが仕方がない」

 

 トランセルに対して色々と思うところはあれども、取り敢えずは見守っておこうとすると鎧武者は俺の存在に気付く。

 気配を消したりしていないけれども視界に入らない様にしていたのだがまさか存在を気付かれるとは思いもしなかったが、見つかった以上は仕方がないのである。

 

「俺はポケモントレーナーのシゲル……見たところ君もポケモントレーナー。ならばやる事は決まっているだろ?」

 

「お主、もしやマサラタウンのトレーナーでござるか!!」

 

「ん?ああ、そうだけど?」

 

「昨日、マサラタウンのトレーナーに破れた恨みここで晴らさせてもらうでござる!」

 

 おいおいおい、俺関係ねえだろう。てか、マサラタウンのトレーナーって事はサトシ……は、今からトキワの森に入ってくる。

 フシギダネとゼニガメを持っていった奴等とこの鎧武者とポケモンバトルをした。俺は寄り道していたとはいえ、残り二人早すぎないか?大丈夫か?ポケモン、ゲットしたり育成出来てたりするか?

 

「さぁ、尋常に勝負するでござる!」

 

「使用ポケモンは何体の何バトルで交代は?」

 

「交代ありの使用ポケモン2体のシングルバトルでござる!ゆけ、カイロス!!」

 

『カィカィ!』

 

 おぉ……トキワの森で見かけることは無い虫ポケモンが出て来た。

 カイロス……メガシンカを持っているポケモンでなにかと優遇されたりしているポケモンだ。

 

「ならばお前の出番だ!ゆけ、トランセル!」

 

『……イヤン』

 

 初のポケモンバトル戦にテンションを上げつつもトランセルを出すのだがトランセルのテンションは低い。

 怒ってるのか?いや、怒っている素振りは見せていない。進化して性格が変わったのだろうか……う〜ん、謎である。取り敢えずはこのポケモンバトルに集中しよう。

 

「トランセル『いとをはく』カイロスの腕をグルグル巻きにしてやれ!」

 

『セルゥ!』

 

 テンションが低いトランセルだが言うことはちゃんと聞いてくれる。

 白い粘着性の強い糸を先端部分からトランセルは放出してカイロスの腕をグルグル巻きにする。

 

「カイロス!!」

 

 ぐるぐる巻きにされたカイロスは力技で糸を引き千切ろうとする。

 しかし俺のトランセルの『いとをはく』はそんなもんじゃないとカイロスは糸を引き千切る事が出来ずに転倒する。

 

「今だトランセル『たいあたり』だ!」

 

 狙うならば今しかないのだとトランセルに『たいあたり』を指示して突撃してもらう。

 倒れているカイロスは起き上がるのに必死な為に避けることは出来ずにトランセルは激突してカイロスを突き飛ばした。

 

「カイロス!」

 

『カィカィ』

 

「連続で『たいあたり』だ!」

 

 身動きが取れない今が絶好のチャンスだ。

 カイロスに向かって連続で『たいあたり』を指示してカイロスを突き飛ばすのだがこれがいけなかったのだろう。徐々に徐々にカイロスを縛る糸がプチプチと切れていき、最終的にはカイロスは自力で、力技で糸を引き千切った。

 

「よくやったでござる!流石は拙者のカイロス!今までやられた分のお返しだ『はさむ』攻撃!」

 

『ロス!』

 

「トランセル『かたくなる』連続で使用しろ!!」

 

 今までの分をやり返すかの様にカイロスは突撃してくる。

 素早さがそんなに無いトランセルでは回避する事は不可能だと判断して『かたくなる』の連発を指示し、トランセルはその身を硬くするがその頃にはカイロスはハサミでトランセルを掴む事に成功し持ち上げていた……が、カイロスの表情は乏しい。

 さっきトランセルが散々『たいあたり』でダメージを与えたというのもあるだろうが『かたくなる』で硬くなっている為にトランセルに対してそんなにダメージを与える事が出来ない。

 

『カカッ……』

 

「そこだ!トランセル脱出しろ!」

 

『イヤン!!』

 

 挟む力を強めてみるものの大したダメージになっておらず、カイロスは挟む力を緩めた。

 狙うならば今しか無いのだとトランセルはカイロスのハサミから脱出した。

 

「今度はカイロスのハサミに向かって『いとをはく』だ!」

 

『セルゥ!』

 

 真っ白な糸をカイロスに向けて発射する。さっきは胴体を狙っていたが今度は違う。

 カイロスの武器であるハサミを封じるんだとカイロスのハサミをグルグル巻きにする。

 

「トドメだ!トランセル『たいあたり』」

 

 グルグル巻きにしたハサミを動かそうとするカイロス。

 大きな隙が生まれたのでここで終わりだとトランセルに『たいあたり』で突撃していってもらうとカイロスは突き飛ばされて……戦闘不能になった。

 

「カイロス!……っく、まさかカイロスがやられるとは。ならばお主の出番でござる、ゆけぃトランセル!」

 

『セルゥ』

 

「戻れ、トランセル」

 

「っむ、逃げるのでござるか!」

 

「確実に勝つ為の布石を打っていると言ってくれ……ゆけぇ、ヒトカゲ!」

 

『カゲェ!』

 

 トランセルをボールに戻し、次に出したのは我が最初のポケモンことヒトカゲだ。

 ヒトカゲを見ればサムライは表情を変える。

 

「相手が『ほのお』タイプのポケモンだからといって臆する拙者達ではござらん!」

 

「ヒトカゲ『ひっかく』攻撃だ!」

 

「なんの『かたくなる』でござる!」

 

『カゲ!』

 

 爪を光らせてトランセルを引っ掻くヒトカゲだが、トランセルには大してダメージは入っていない。

 予想通りと言うべきか『かたくなる』しか使って来ない。ヒトカゲが至近距離で『ひっかく』を連発している。攻めるチャンスは幾らでもあるのにトランセルは攻めてこない……ということは『かたくなる』しか覚えていないクソ雑魚個体か?

 

「ヒトカゲ、一旦距離を取れ」

 

「今でござる!トランセル『いとをはく』」

 

 連続での『ひっかく』が大してダメージになっていないのでヒトカゲに一旦距離を開くように言う。

 するとそれを待っていたと言わんばかりに短パン小僧はトランセルに『いとをはく』で糸を吐いてきた……成る程な。

 

「それはもう学習済みだ。ヒトカゲ、尻尾の炎を向けろ」

 

 昨日の自主トレでやった様にヒトカゲの腕をグルグル巻きにするのが目的なのだろう。

 そうすればヒトカゲは身動きを取ることが出来ない……だが、その手はどうすればいいのかもう知っている。ヒトカゲは尻尾の炎を飛んでくる糸に向かって向けると糸は引火してヒトカゲに巻き付くことはなかった。

 

「ヒトカゲ『ひのこ』だ」

 

「っ!」

 

 トランセルは『かたくなる』の連発で防御は上がっているが特防は一切上がっていない。

『たいあたり』の1つでも使って来るかと思ったが、使って来る素振りは特に無いのでこのまま終わらせるとヒトカゲに【ひのこ】を吐いてもらう。トランセルは避ける事も出来ずにヒトカゲの『ひのこ』が命中し……倒れた。

 

「トランセル!!」

 

『ヤキ、ヤキンセル……』

 

「トランセルは戦闘不能になった。カイロス、トランセル2体やられた。この勝負は俺の勝ちだ」

 

「っ……見事!拙者の完敗でござる……いやはや、マサラタウンのトレーナーには次こそは負けないと思ったが完敗でござるよ」

 

「ふっ、当たり前じゃないか。君が戦ったのはマサラタウンで1番強いと言われているシゲルだぜ」

 

 伊達にアニポケの世界に転生してないんだぜ。

 このシゲル、いや、グレイトシゲルをナメてもらっては困る。ポケモンマスターがなんなのかは分からないから、最強のポケモンチャンピオンを目指している俺はそんじょそこらのトレーナーとは違うんだ。

 

「なんと、そうでござったのか!」

 

「ああ、そうとも……後1人マサラタウンから来たトレーナーが居るけれども、そいつはまぁ……トレーナーとしては未熟だけど面白い奴だ」

 

 俺がマサラタウンで1番のトレーナーである事を信じてくれる鎧武者の短パン小僧。

 ついでだからとサトシの事も言っておく。サートシくんはポケモンに対する知識が不足しているという致命的な弱点を抱えてはいるが土壇場での火事場の馬鹿力や機転、発想の転換はトレーナーとしてはトップクラスの実力を持っている。まぁ、知識が無いという致命的な弱点を抱えている限りはこのグレイトシゲル様には勝てないんだけど。

 

「中々に刺激的なポケモンバトルだった。機会があればまたバトルをしようじゃないか」

 

「その時は拙者が勝つでござる!!」

 

「その頃には俺のポケモン達はさらなるパワーアップをしているだろう」

 

 またケチョンケチョンにぶっ倒してやるぜ。

 初のポケモンバトルは中々に良い結果で終わった。ニビシティまでまだまだ遠く、ポケモン達もまだまだレベルが低いのだが旅は順調に進んでいく。



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SINOBIでござーる 1 

 NARUTO

 

 それはゴット岸本により描かれるNINJAの物語。

 72巻ぐらいある超大作でアニメやゲームは勿論の事、歌舞伎にまでなった皆が知っている超名作。

 何処かの国は知っている日本人の名前で総理大臣が1位で、3位が主人公NARUTOの主人公のうずまきナルトだった。海外じゃワンピースよりもNARUTOの方が人気だったりする。要するになにが言いたいかって言えば

 

「はぁ……」

 

 ある日突然、うずまきナルトになっていた。いや、ホントに謎である。

 この場合はどう言えばいいのだろうか?NARUTOと言う作品が存在している世界線の人間の記憶等を引き継いでしまったナルトなのか、ナルトに憑依してしまったオタクなのかどっちなのだろうか。ご丁寧にうずまきナルトの記憶全てが引き継がれている。

 

「なんで俺がこんな事に……面倒だってばよ」

 

 確かに前世はゲームとかアニメとか大好きなオタクだった。

 二次小説とか同人とかも読むレベルで好きで、ある日突然マサラタウンのサトシくんになっていたとかの話も読み漁った事もある。

 二次元に憧れを抱いていて、転生してみたいってボヤいていたこともある。だがしかし、それは冗談で言っていることで本気で言っていない。俺ってば二次元と三次元の区別がつくぐらいはまともな人間だ。そんな人間がこんな目に合うとは神様的な存在が気まぐれか遊びかなにかで転生させたとかいうオチだろう。

 

「3分たった……いただきます」

 

 とりあえずは腹が減ったので常備しているカップラーメン(醤油味)をいただく。

 すごくアレな話だけどNARUTOの世界と言うのは非常に謎な世界観である。忍者とか居る癖にカップラーメンとかアイスキャンディーとか電球とかテレビとか普通に出てくる。1番分かりやすい例えで言えば昭和中頃辺りの文明じゃないかと思えば車や拳銃の様な物は存在しない。モーターボードとかあるのに、カップラーメンとか作ることが出来ているのに、電気ガス水道の概念が完備されているのに、今から20年以上経過しないと電車は出来ない。テレビゲームもできない……でもカメラはある。ただのカメラじゃない。映像を残す事が出来るデジカメだ。

 それだけじゃない。パソコンみたいな機械もある……木の葉隠れの里が一気に近代化したのは六代目火影のカカシ先生のおかげらしいが、たった二十年でテレビゲームは出るのは本当に凄まじい技術の進歩である。

 

「……普通のカップラーメンだな」

 

 ナルト御用達のカップラーメンは普通のカップラーメンだった。

 文明が中途半端にしか発展していない世界のカップラーメンなので味が少々気になったが、元いた世界と大して変わらない味だ。世界は変わってもカップラーメンの味は変わることは無い……なんとも言えないな。

 

「ごちそうさま……」

 

 うずまきナルトと言うのは酷い幼少期を過ごしている。

 シンプルに家族が居なかったりして孤独な人生を歩んでおり、食生活はカップラーメン生活と色々と荒れている。

 その上で一人暮らしとか曲がりなりにも四代目火影の息子で九尾の人柱力に対する扱いの酷さよ……孤児院みたいなの存在する筈なのに、新手のイジメと思う。でもまぁ、他人と共同生活するよりも一人暮らしをしていた方が気が楽だ。

 

「さてと……ゴミ掃除と部屋の片付けをするってばよ」

 

 口調はナルトになったりするが、人格はナルトじゃない。

 カップラーメンを食べ終えたのでとりあえずは部屋の掃除に取り掛かる。なんだかんだ言っても子供で男の子であるナルトの部屋は地味に汚いものだ。主夫ではないが流石に掃除しておかないといけない部分は掃除をする……の前に

 

「影分身の術!!」

 

 NARUTOの世界と言えばコレである。

 まだナルトは下忍にすらなっていないアカデミーの生徒なので記憶に無いが、どんな術なのかは知っている。

 それっぽい印を結んでみるが分身は出てこない……印を間違えていたのだろうか?

 

「分身の術」

 

 今度は実態の無い分身の術をする。ご丁寧にナルトの記憶は引き継いでいるので、印の結び方を知っている。

 ボフンと真っ白な煙を出すとそこには真っ白なうずまきナルトがいた……ああ、見事に失敗したってばよ……まぁ、いいんだけど。

 残像を生み出すだけの分身の術に価値は無いと思っている。アカデミーで習う初歩的な術で後々インフレしまくるのだから覚えるだけ損だ。そんな事よりも影分身の術を覚えないといけない。アレは卑劣様が生み出した術の中でも最もチートな忍術だってばよ。

 

「ま、こんな感じか」

 

 2時間ぐらいかけて掃除を終えた。

 一息つけようと思わずスマホを探してしまうのだが、そんな物はこの世界には存在していない

 

「どうせならワートリ……やべ」

 

 途中で言葉を飲み込む……何故かって?そんなの決まってるってばよ。俺の中に居る九尾だ。

 こいつとは一心同体の存在で不用意な発言を聞かれる可能性も高い。なんだったら俺がうずまきナルトじゃない事に気付いている可能性もある。愚痴の1つもまともに零す事が出来ない。ただ心の声ならば聞かれない筈だ。

 どうせならばワールドトリガーの世界とかがよかった。三雲修達にはなりたくないけども、ボーダーでそこそこの人間になってワールドトリガーを楽しんでみたかった。遊戯王の世界とかもいいし、FAIRY TAILとかも、なんだったらポケットモンスターとか。あ、でもFateだけは絶対に嫌だ。あの世界は色々と厳しい。そしてGOD EATERみたいに世界が荒廃しているのも嫌だ。NARUTOって何気に厳しすぎる世界だ。続編のボルトでナルト死んでるっぽいし。ヤバい、死にたくない。

 

「あ~どうしよう、やる事が多すぎるってばよ」

 

 観葉植物に水をやりながら気を紛らわせる。いきなりうずまきナルトになってしまった事に対してまだ受け止めきれていない。

 なんでうずまきナルトになったかなんてどうだっていい。なってしまった以上は仕方がない事で問題はこれからどうするかだけど……ホントにどうしよう。火影になるとかあんま興味ねえんだよな……ぶっちゃけボルトで火影になったのはいいけど、父親としては危うく失格になりかけた。

 なんだろうな。有名漫画の二世ものの漫画の前作の主人公、ロクでもない親父になってたりする。戦闘員としては非常に優秀だけども父親として失格なキャラ、二世云々を除いても漫画の界隈でアホほどいる。

 

「落ち着け俺。こういう時には冷静さを欠いてはミスを犯す」

 

 父親として失格なキャラにはなりたくないがどうしたものかと一先ずは座禅を組む。

 ホントに何故にこんな一般人に未来を託したのだろうかと目を閉じていると気付けば知らない場所に……いや、知らないと言えば嘘だな。うずまきナルトの精神世界的なところにやってくる。

 

「……」

 

 此処はうずまきナルトの精神世界、固有結界的なのの筈だ。

 また厄介なところに来てしまったなと思いつつ、精神世界を歩いていると巨大な牢屋を見つける。巨大な牢屋には化け狐もとい九尾がいた。

 

「貴様、何者だ?」

 

 テクテクと牢屋の前まで歩いていくと牢屋の向こう側にいる九尾に話し掛けられる。

 やっぱりというか九尾は俺がうずまきナルトじゃないことに気付いている。

 

「そう抽象的な質問をされても困るってばよ」

 

「貴様はこの小僧ではない、見たところなにか特別な術を使ったわけでもない、ワシの力が目当てか?」

 

「んなの知るかってばよ。俺だってなんでこんな目にあってるのか割とマジで聞きたい……なんか前兆みたいなのあったか?」

 

 九尾は俺を強く睨んでくるのだが、俺が封印を解除しない限りは表に出てこれない。

 一心同体に近いのだからいちいち怯えていたらキリが無いと恐怖心等が一周回って振り切れており、よっこいしょと九尾の前で座る。

 

「ふん、そんなものは何処にも無かった。貴様は何処からともなく現れおった」

 

「あ〜そうか〜……X的なのか」

 

 ナルトが適当に術を発動して俺が偶然に憑依したもしくは記憶と人格を手に入れてしまった的なのを想像していたけど違っていた。

 本当に突拍子も無く急に何処からともなく現れた……要するに神様仏様的なのが俺をうずまきナルトのにした可能性が大きい。

 

「なんだXとは」

 

「俺にもイマイチ分からない事が多いってばよ……はぁ」

 

 どうせ主人公になるんだったらサトシくんの方が良かった。

 衛宮士郎や藤丸立香はNG、コミュニケーション能力が高いのが大前提のソシャゲの主人公なんてやってられない……こんな俺に世界の命運を任せてもいいわけ?いや、普通に言わせてもらうけれども死にたくないよ。腹上死ならいいけども、それ以外ではな……

 

「なぁ、九尾。コレから忍としてやってけるか不安なんだけど、アドバイスかなんかないか?」

 

「ふん、誰が貴様なんぞにアドバイスを送るか!」

 

「だよな〜……お前の力を貸してくれない?」

 

「誰が貸すか、お前みたいなクソガキに」

 

「そんなクソガキとしか対話が出来ねえん状況だろうが」

 

 人間なんて大嫌いだと反発する九尾。

 両親がいない現状話相手になってくれるだけでも心強いので臆する事なくガンガンと話しかける。

 

「そういや、お前名前とかあるのか?九つの尾を持つから九尾なのは分かるけども、それ以外でちゃんとした名前あるのか?」

 

「お前さんには関係無い事だ」

 

「いや、お前だけ九尾扱いは良くないだろう。犬を犬と読んでるのと同じじゃん……で、名前あるんだろ?」

 

「誰がお前になんか名乗るものか」

 

「そう言うな。こっちも本名を教えてやるからよ」

 

 ホントは九喇嘛って名前があるの知ってるけどもあまり知り過ぎていると疑われてしまう。

 なんかめんどくさいなと思いつつも話は進めていく。九尾しか話相手がいないのは少々寂しいけど話相手が居るだけまだマシだと前向きになっておく……いや、ホントにね、友達とか両親とかと今生の別れをするのはまだまだ先だと思ってたのに、予想外にも程がある。

 

「貴様の名前なんぞに興味は無い!分かったらとっとと出てけ!」

 

「その言い方は無いだろう。一応は此処は俺の腹の中なんだからよ……ったく、強情な狐だなぁ」

 

「んだとクソガキが!食ってやろうか!!」

 

「そこから出られない以上は無理だってばよ」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 ハッハッハ……いや、笑っている場合じゃないな。

 とりあえず腹の中に九喇嘛がいて俺の思考が一部筒抜けなのが分かった……めんどうだな。

 

「お前、俺がなに考えてるのか分かるのか?」

 

「心の声の事か?聞こうと思えば聞くことは可能だが……貴様の声なぞ興味はない」

 

「じゃあ、極力聞かない方向で頼むってばよ。俺もお前も互いに知らない事を無理に知って手痛い目に遭うのは嫌だろ?」

 

「……ふん!さっさと意識を現実に戻せ、小僧が!」

 

「分かったってば」

 

 ずっと閉じている筈の目を開く。

 腹の中もとい精神世界から意識は現実に舞い戻る。九尾と結構話してたが思ったよりも時間が経過していない……。

 

「え〜っと、幾らだっけ」

 

 家の掃除は終わったんだ。カップラーメンとか食パンぐらいしか家には無い。

 ガマの見た目をしているパンパンに腹が膨らんだ財布を取り出す。この世界のお金の単位は両で、1両=10円だった筈だ。ナルトの奴は意外と貯金しているなと感心しつつもとりあえずは家を出る。昭和っぽい独特の雰囲気を醸し出す街、木の葉の隠れ里、何処が隠れ里なのか疑問があるがそれでも立派な街並みだ。

 

「……うわ、きっつ」

 

 うずまきナルトは基本的に嫌われている。体内に九尾を宿しているからだ。

 ロクな生活が送れていないのはコレも1つの原因で、うずまきナルトが買い物に来たとなれば売る側も疎外する可能性が大いにあり得る。現に街を歩いているだけなのに嫌な視線を浴びせられる……そんなに憎いか、この九尾が。悪いのはうちはマダラだってのに、人柱力のシステム考えた奴は人柱力の迫害に遭った奴にシバカれればいいと思う。

 

「おっちゃん、これくれってばよ」

 

「八十両だ」

 

「古本だからもうちょいまけろや!」

 

「っち……六十五両だ」

 

「もう一声」

 

「五十両だ。それ以上はビタ一文まけねえ」

 

「っち、ケチんぼ」

 

 古本屋に立ち寄り料理に関する本を購入する。

 俺がうずまきナルトだからか冷たい視線を向けてくる……ああ、嫌だ嫌だ。二度と来るんじゃねえと言った顔と声を出している……料理の古本が約500円、足元を見られたのかそれともコレが適正価格なのか……。

 

「変化の術!」

 

 路地裏に向かい誰も居ない事を確認すると変化の術を使う。

 うずまきナルトだと色々とめんどくさいからなうずまきナル子に変化する。チラリと鏡に顔を向けると女の子になっている。うむ、何気に初の忍術だがなんとか上手く使うことが出来ている。女の子に変化して町通りを歩けば向けられていた不快な視線は無くなっていく。俺がうずまきナルトだと気付いていないからだろう。俺は肉屋と八百屋に立ち寄り、肉と野菜、更には米屋に立ち寄り米と味噌を購入する。

 

「ただいま〜……って、誰も居ないか」

 

 必要な食料品の購入が終えたので家に帰る。

 誰も居ないので寂しいけどもコレからこんな日々が続いていく……やだなぁ、ホントにマジで。とりあえず夕飯の支度に取り掛かる……炊飯器とか普通にあるんだよなこの世界……電気文明の浸透具合がホントに謎だ。

 

「はぁ……憂鬱だってばよ」

 

 コレからの将来がホントに心配になってきた。



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宿命の対決 天帝vs童子切 1 

 

「っつぅ……ホンマこれなんべんしてもキツイわ」

 

 突如として激しい頭痛に襲われた。それと同時に脳裏に様々な光景が過る。

 そう、俺は転生者……二次元の世界に転生している転生者である事を思い出した。

 某有名な大手の牛丼チェーン店で牛丼が食えなくなった辺りの時代から異世界ならぬ二次元の世界に転生する権利を与えてて……あ〜説明してもしゃあないな。コレ見てるって事は皆、大体知っとるやろうし。

 

「え〜っと……あった!」

 

 前の世界で満足の行く人生を送り終えて次の人生を歩む。

 出会いがあれば別れもあるものだと割り切ることが出来ている。新しい人生をどうやって謳歌しようかと考える前に先ずはとベッドの裏を探す。

 なにをしてるかって聞かれれば至極単純なこと、この世界がどんな世界なのかを知ることや。大抵はベッドの上で意識を取り戻すパターンやからベッドの裏か枕の下に自分が何処の世界に転生したのか教えてくれるパターンや。

 

「【キングダムハーツもどきの世界、お疲れ様でした。貴方は光を持った闇で凄まじいですね……次の世界はアニメのポケットモンスターの世界でサトシくんと同じ日にポケモンを貰う子になっています。何時も通りお楽しみください。PS貴方のライバルがこの世界に居ます】……ほっほー、流石は仏さんや。分かっとるやないか」

 

 どうやら俺が次に転生した世界はアニメのポケットモンスターの世界みたいや。

 俺はそこまでやけどもアニメのポケットモンスターの世界はかなり人気の高い作品、玩具販売促進アニメの中でも段違い……対抗する事が出来るのは遊戯王、いや、遊戯王も遊戯王で売れまくっとるな……ディズニーは次元が違うしな。

 

 取り敢えずは自分が何処の世界に転生したのか書かれた紙をビリビリと破り今度は枕の下を探る。

 枕の下には預金通帳が入っていた、この預金通帳は俺が今まで築き上げてきた財産であり数十億は稼いどる……一時期100億を目指してた頃があったんやけど食費やキャバクラで消えるんよな。

 

「っと…………おぉ、マジのポッポやないか」

 

 部屋にある窓の外を眺めるとポッポが空を飛んでいた。

 マジでポケモンの世界に転生した……地球が舞台の世界ならばともかくマジの別世界に来たってのは幾つになってもワクワクが止まらんわ。

 

「リンドウ、ごはんよ」

 

「オカン、まだ着替えとらんからちょい待ってな」

 

「早く着替えなさいよ」

 

 ポッポに夢中になっとったらオカンが部屋に入ってくる。俺はまだパジャマのままやから早く着替えろと言い部屋を出ていった。

 あかんあかん、アニメのポケットモンスターの世界に転生したから少しだけ浮かれた気分になっとったわ……てか、俺が関西弁で喋ってもなんの違和感も無かったな。転生先が東京とか千葉とか神奈川のパターンとかが多いから関西弁で喋られるのは怪しいって地獄で口調の矯正されたけども、喋るんやったらやっぱ普通に喋るんが1番やな。

 

「…………」

 

「どうしたの?食欲が出ないの?」

 

「いや、ちょっと疑問を持って」

 

 二階建ての住居の俺の部屋から1階に降りるとオカンが朝ごはんを用意していた。

 ご飯を入れてくれて味噌汁と鮭、ベーコンエッグとまぁ朝食としてはド定番な物が並ぶけれども……なんの肉なん?なんの卵なん?

 

 ポケモン世界で稀に肉とか魚とかが出てくるけれどもマジでなんの肉なん?謎肉みたいなグルテンミートか?

 いや、確かにグルテンミートは健康的でええよ。アキの奴が太るのが難しい頃に色々と試行錯誤している時に作ったの食ったけどもカップ麺の謎肉そのものやった……けど、謎肉のベーコンとか聞いたことないわ。

 

 もしかしたらポケモンの肉なのかも。

 食うことに関して少しだけ躊躇いを持ったけども口に含めば……極々普通の塩気の効いたベーコンエッグや鮭だった。いや、ホンマ、スーパーで売られとるレベルの味で美味しいんやけども…………なんか納得出来ひんな。

 

「なぁ、オカン…………ポケモンマスターってなんやと思う?」

 

「ポケモンマスターはポケモンマスターでしょ?」

 

 この世界がアニメのポケットモンスターの世界なので思い切って聞いてみる。

 ポケモンマスター、主人公のサトシやサトシの一部のライバルが口にしている称号やけどもイマイチなんなんか分かっとらん称号、俺もぶっちゃけた話、よぉ分からん。オカンやったら知っとるかと思ったけれどもジャスタウェイがジャスタウェイでそれ以上でもそれ以下でもない存在と同じ扱いみたいやった。

 

「リンドウもやっぱり男の子ね……ポケモンマスターを気にするなんて」

 

「疑問に思っただけやから……なりたいかどうかはまた別の話」

 

「じゃあ、なにになりたいの?」

 

「せやな……」

 

 こう見えても俺は色々な世界に転生してて……現代の日本が舞台の世界やったら相撲取りをやっとるパターンが多い。

 ワールドトリガーの世界に転生した時はヒデナカタと蛭魔妖一と桃井さつきとかと一緒に1度も陥落したことが無い絶対無敵のA級1位やっとった。折角、ワールドトリガーの世界に来たんやしボーダーライフを楽しまなアカン……対毒のサイドエフェクトの発展系であるサイドエフェクトを無効化するサイドエフェクトはイマイチ強いんかよく分からんかったけど。

 

 アニメのポケットモンスターの世界に転生した以上はアニメのポケットモンスターの世界を謳歌せんと転生者を作っとる地獄の運営サイドに閻魔大王に顔向け出来ひん。第一この世界に大相撲の概念があるかどうかすら怪しいんや。となるとポケモントレーナーになるのが1番やろうが、この世界はポケモントレーナー以外にもやりこみ要素の1つであるポケモンコンテストの頂点を目指すコーディネーターとかがある。戦いをするんやのうて魅せるってのも魅力的や。

 

「ポケモントレーナーになってから考える……いや、ポケモントレーナーになるって事は既にリーグ目指しとるんか?」

 

「色々と迷走しているわね……けど、リンドウならなにやらせても1流になってそう」

 

「いやいや、俺かて苦手分野はあるって。多分やけどもポケモン研究者とかは向いとらん」

 

 努力値個体値種族値の3値を知っとるけどポケモン研究者の知識は無い。

 ポケモン図鑑に載っとる細かな事まで覚えとるポケモン好きは早々におらん。そもそもあの手の図鑑設定をちゃんと覚えとる奴等はおるんか?インドぞうという黒歴史を作ってるぐらいしか認識しとらんで俺は。

 

 俺はポケモン研究者の道は向いとらん。

 進学校じゃない普通の高校のテストで80点以上を1度も取ったことがあらへん、IQは常人より上やけども……仏さんが言うには俺は典型的な興味のある事にしか頭を使えへんタイプの人間らしいわ。

 

「フラフラするのもアカンし、道は1本に絞らなな」

 

 ホウエンチャンピオンのミクリみたいにトップコーディネーターとチャンピオンの両立は……まぁ、出来んくもないわ。

 ただ……今回はあのアホがおる。あのアホはなにを選ぶのか、そこが重要や。コーディネーターになると言うんやったら俺の方が上やとコーディネーターになる。ポケモントレーナーになるんやったら俺の方が最強やと証明する。

 

「取り敢えずはポケモンに触れてみないとなんも分からんわ」

 

「だったらコレに参加しない?」

 

 オカンはそう言うとチラシを取り出した。

 なんやと思いチラシを見れば【オーキド博士のサマーキャンプ】と書かれた10歳以下の子供達に向けて行われている冒険の心得を教える1泊2日のキャンプが行われるとのこと。

 

「私はポケモンを持ってないからリンドウにポケモンとの接し方について教えてあげられない、旅のやり方も知らないけどオーキド博士ならポケモンに関するあれこれを知ってるわ……10歳になって旅立つ為に役立つんじゃないかしら?」

 

「…………おもろそうやし、行ってみるわ」

 

「ええ、きっとなにか学べる筈よ」

 

 オカンがオーキド博士のサマーキャンプを勧めてくれたので参加する事を決意する。

 その後はゆっくりと朝ごはんを食べてテレビを見る……アニポケの世界ってこんなんが流行っとるんやなとか情勢とかが色々と分かる。けどまぁ、俺はリーダーは出来ても王様や政治家は無理や。政治家なるには金がアホほど居るし、そもそもで政治にそこまで興味が無い現代っ子や。選挙の日も選挙の投票が義務化されて行かなければ罰金みたいな海外の法律にならん限りは行かない、1回だけ義務化されてやり方を知らないって恥をかかん為に投票のやり方を覚えるって意味合いで白紙の投票したぐらいや。

 

「…………ちゃうな…………」

 

 玩具販売促進アニメの世界は現実世界と色々と異なる。

 遊戯王が良い一例で、現実じゃ10000ちょっとのカードに対して遊戯王世界じゃ10000以上のカードが存在しとる。それに加えて遊戯王の代名詞である青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)が4枚しか刷られてなくて内3枚が社長が独占しておりそれを公式が容認しとる。ゲームバランスを度外視した絶対にOCG化出来ひん、仮にOCG化しても弱体化するのは確実なカードが多く存在しとる。なんやったらカード作っとる会社が知らんカードも存在しとるからな。

 

 俺はポケモンバトルの番組があったのでそれを見てこの世界はアニメのポケモンであってゲームのポケモンやないことを実感する。

 技を選択すれば特定の技を出すことが出来る世界やない、使用してええ技の上限数も存在しとらん何でもあり……ゲームの知識が役立たないって事は無いけれども、機械仕掛けの判定だけやない。色々と考えなアカン。ええで、こういうの大好きや。

 

「……あれ……オカン、なんやヤドキング出とるけど……ヤドキング知られとるん?」

 

「なに言ってるの?オーキド博士が居ると言った151匹のポケモン以外にもポケモンが存在してて図鑑ナンバーをどうするかポケモン研究会で揉めてるじゃない」

 

 この頃はカントー地方のポケモンしかおらんというイメージあったんやけど、極々普通にヤドキングがテレビに出とる。

 オカンになんで出とるんか聞いてみればなんや、ややこしい答えが帰ってくる。図鑑ナンバーって……まぁ、大事な事やけども。しかしアレやな、ミュウはまだしも人工的に作り上げられたポリゴンとミュウツーが図鑑に載っとるのってどうなってんやろ?何処かの誰かがミュウツーゲットしたんかな……いや、それ言うたら伝説のポケモンの生写真があるのも謎やな、特にアルセウスとか……世界って相変わらずええ加減に出来とるなぁ……。

 

「っと、アカンアカン…………学ばんとな」

 

 色々と意識が上の空になってたけど、意識を現実に戻す。

 ゲームと違ってこの世界は物凄く広い世界でポケモンを持って旅するんやったら色々な知識を備えないとアカン。キングダムハーツもどきの世界の時はなんやかんやで上手くやれとったけども、この世界は色々と違う。

 

 料理とか掃除とかは出来る方や。伊達に相撲取りをしとらんから、栄養学もある程度は問題無いわ。

 ただ旅をする上ではきのみを調合して薬の作り方を学ばなあかんし、地図を見て山々を歩かなあかん。キングダムハーツもどきの世界をはじめとする様々な世界での経験を活かすことは出来るやろうがこの世界独自の技術を学ばんと。

 

「は〜楽しみやな」



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宿命の対決 天帝vs童子切 2

 

「良い子のみんな、はじめまして。ワシはオーキド博士じゃ!」

 

 サマーキャンプの日がやって来た。

 キャンプ場に石塚ボイスのオーキド博士が現れて自己紹介をしてくれる……ほぉ、流石はポケモン界の権威、何処となく風格が漂っとるわ。

 

「今日はポケモンサマーキャンプに参加してくれてありがとう……さて、皆はポケモンが大好きかの?」

 

「「「『大好きでーす!』」」」

 

 オーキド博士の言葉に相槌を打つ子供達。若いってええな。

 

「ワシもポケモンは大好きなんじゃ……しかし、ポケモンというのはカッコいいかわいい美しいたくましく賢い存在であると同時に危険な存在でもある!今日はワシと一緒に様々なポケモンを見て学ぼう!」

 

「「「『はーい!』」」」

 

「…………そういえば誰がおるんや?」

 

 オーキド博士が先導して歩いてポケモン達は何処に()るんかを探しに行くんやけど、アニポケのオーキド博士の研究所はオーキド博士1人なブラック企業も真っ青な体制やった筈でケンジが来るまでは1人で研究所を運営しとる……せやけどもオーキド博士はポケモン講座とか川柳とかの番組を持ってて稀に生放送とかをしとる……その間、研究所は誰が運営しとるんや?オーキド博士アローラのすがたことナリヤ・オーキド?でも、あの人ってアニポケやとポケモンスクールの校長やった筈や……。

 

「オーキド博士、アレは?」

 

「アレはポッポ、カントー地方の多くで見る鳥ポケモンじゃ」

 

 色々と考えつつも俺もオーキド博士のポケモンウォッチングに付き合う。

 ポッポとかは割とマサラタウンでも見るポケモンやから新鮮味が感じひん……けども、他の地方からもこのサマーキャンプに参加しに来た子たちもおるから、ポッポは新鮮味があるんや。

 

「オーキド博士、ホウエン地方ではあまり見られないポケモンは居ませんか?」

 

「ホウエン地方で?うぅむ、そうじゃの…………おぉ、あそこにおるニドラン♂はホウエン地方ではあまり見ないぞ!」

 

「なるほど…………触れてもいいですか?」

 

「ニドランは♂♀(オスメス)どっちも毒を持っておるから慎重にの」

 

 赤い髪の子供がオーキド博士にホウエンで見ないポケモンが居ないのかを聞いた。

 この世界ではゲームみたいにここに行けば確実にこのポケモンに会えると言う事は無い、何処になんの群れが存在しとるか分からん世界でゲームやとホウエンで生息地不明なニドラン♂でも頑張って探せば見つけることも出来る。

 

 赤い髪の子供はニドラン♂に近付く。

 ニドラン♂はビクリと反応をするのだが赤い髪の子供にジッと見つめられると少しずつ冷や汗をかく。

 

「安心してくれ、僕は君に危害を加えない」

 

「はー……相変わらず圧が強いな。フレンドリーに接する事が出来ひんのか?」

 

 ゆっくりとニドラン♂に触れる赤い髪の子供。ニドラン♂は怯えているんやのうて萎縮しとる。

 赤い髪の子供はニドラン♂に触れることが出来て割と満足気であり何処にどくのトゲがあるのか分かっとるから触れとらん部分がある。ある程度は触れて満足をしたのかニドラン♂から離れていく。

 

「もういいよ……満足した」

 

 赤い髪の子供がそういえばニドラン♂はそそくさと去っていった。

 オーキド博士や子供達はポケモンと触れ合っているとほのぼのな雰囲気を醸し出しとるが……アイツから放たれる圧を感じ取っとらん。

 

「相変わらずやな……アカシ」

 

「ふっ、そういう君も相変わらずの様だね……テンノウジ」

 

「今はリンドウや」

 

 赤い髪の子供は……俺の永遠のライバルとも言うべき存在である天帝の異名を持つ赤司征十朗や。

 俺が転生してから数日間、俺の永遠のライバルがこの世界に居るって事を頭に入れとる。コイツだけは油断ならへん存在や。

 

「お前は何処におるんや?」

 

 アカシの奴はマサラタウンにおらんかった。

 俺と同じでサトシが旅立つ日にポケモントレーナーになる子供に転生するかと思っとったが、どうもちゃうっぽい。

 

「ミシロタウンに居るよ……ここに来ればポケモンと触れ合う事が出来る……ついでにお前に会うことが出来るとね」

 

「男からラブコール受けてもなんもおもろないわ。ボン・キュッ・ボンな元気な女の子やないと」

 

「お前みたいなのはキャバクラに課金して真実の愛なんて物を忘れろ」

 

「はっ、最初の世界以外は独身貴族を貫いとる奴がほざくな」

 

 知らんと思ったら大間違いやぞ。

 お前は最初に転生した世界でしか結婚をしたことがない、後は遊びまくっとる奴やって。

 

「基本的には相撲しかしないお前には言われたくない」

 

「相撲の何処が悪いんや?成功すれば社会的地位や収入は保証される最高の世界やで」

 

「井の中の蛙、大海を知らず。今の時代は世界に目を向けるのが定石…………外国人は1人しかダメで外国人を受け入れないだろう」

 

「アホか、相撲はスポーツでもあり神聖な儀式でもあるんや……っと、180cm超えたことがないお前にゃ関係無い話やな」

 

「バスケのゴールにダンクをする事が出来ない跳躍力がなにを言っている?」

 

「そのバスケで天下取った事があるんか?俺は相撲で1番になったぞ」

 

「ふ、近い将来キセキの世代を率いて日本をバスケ最強国家にする予定だ」

 

「青と黄色と緑と紫がお前の言うこと聞くんか?てか、桃しか見たことあらへんぞ」

 

「青については心当たりがある。奴ならば青になれる筈だ」

 

「あいつ、お前の言うこと聞くんか?」

 

「奴は精神面に問題はあるが僕の言うことは忠実に従う……賢いが故に物事をめんどくさいで片付ける男だ」

 

「お前の事を永遠に恨んどったで……ホンマに余計な事を言うなや、ナナシノ・ゴンベエでええやろ」

 

「僕は事実を述べたまでだ」

 

 アカシと出会えば何時ものやり取りを交わす。

 相変わらずこの野郎はと思いながらもこの野郎が居てくれた事を心の何処かでホッとする。アカシの奴も似たような事を思っとる。

 

「前の世界は実に退屈だったよ」

 

「何処おったん?」

 

「バトスピの烈火魂の世界だよ……カードバトラー達は熾烈を競い合っていたが玩具販売促進アニメで転生者1人だと言うのは実に退屈だった。遊戯王ほどではないがカードの価値や効果を理解していない者が多くてね……転生特典として無限にカードを貰えたからカードショップの店員をしていたんだが、ここは群青早雲の青組が占領したとか島になったとか言い出して……群青早雲を2ターンで倒してアルバイトにしてやったよ」

 

「なんや天下を目指さんへんのか」

 

「群青早雲を倒して直ぐに分かったんだ。この世界のトップクラスの実力者の腕はこんなものかと……この程度の実力だったら仲間内で回して純粋にカードゲームとして楽しんだ方が楽しいと感じて店にやってくる子供達に色々と教えて鍛え上げた。真面目に授業を受けてくれた子達は最低でもA級バトラークラスでS級になった子が大六天魔王を普通に倒してくれたよ」

 

 サラリととんでもない事を語るアカシだが何処か退屈そうにしている。

 玩具販売促進アニメの世界はインフレ・デフレがある。カードゲーム系の世界やったら基本的には原作と深く関わるタイプのカード以外を転生特典として無限にくれる。インフレ・デフレを無くしたカードゲームは面白いけれども、そうなることで生まれるものもあるっちゅうわけやな。

 

「そういうお前は前は何処に居たんだ?」

 

「キングダムハーツもどきの世界や」

 

「もどき?」

 

「なんや知らんけどもワンピースの世界とか名探偵コナンの世界とかドラゴンクエストの世界とか存在しとってな」

 

「ディズニーの敵であるUSJの世界に行っていたのか」

 

「敵言うな……名探偵コナンの世界の筈なのに金田一やら冴羽獠やらおってな……ルパン三世とお宝探しは楽しかったけど、ルパンがキーブレードは興味深い宝やけどなんでも開けれる万能な鍵は泥棒としては面白くない宝や言うとった」

 

「キーブレードマスターにはならなかったのか?」

 

「俺は純粋な光になれへんからキーブレードマスターになるつもりはない……俺以外に諏訪部の奴がおったけど……諏訪部も俺も光でもあり闇でもある事を好んどる。特定の誰かからキーブレードの使い方を教わっとらんし継承もしとらん、自力でキーブレード発現した……ただなぁ……」

 

「どうした?」

 

「いや、俺はええねん。俺は満足行く人生を送れたんやけど、なんや諏訪部は呪われとるんか?……修行やと闇の世界をぶらついてたらアクアと遭遇したらしいんやけども、キーブレードぶっ壊れて絶望に落ちてて闇堕ちしとるアクアを抱き締めてな【怖かったな。一緒に帰るか】って言うて闇堕ち状態のまま光の世界に帰ってきて……最終的にアクアは諏訪部が()らんかったら闇に堕ちる不安定な人間になった」

 

「要するにヤンデレになったんだね……やはり奴は女難の相を持っているな」

 

 いや、ホンマにな。なんであんなに女難の相を持っとるんか分からんわ。

 アイツの事を異性として好きになるってまではまだ分かるんやけどもなんであんな事になるんやろな?ゼスティリアの時もアリーシャとベルベットを……謎やなぁ。

 

「それで……お前はこの世界でどうするつもりなんだ?」

 

「折角ポケモンの世界やねんからポケモンライフを謳歌しようかと思っとる……ただつまらんのだけは嫌やわ。お前は1つ前でそれを味わったんやろ?」

 

「まぁね……お前が居てくれた事には感謝するよ。僕の人生にメリハリというものが生まれる…………僕はポケモントレーナーになる。コンテストに興味が無いと言えば嘘になるが二足の草鞋を履いてお前に勝てると自惚れる事はしない……故にお前を徹底的に潰す」

 

「ハッハッハ……その言葉を聞くことが出来てよかったわ!」

 

 アカシのアホはポケモントレーナーの道を選んだ。

 コーディネーターも悪くはないけれども、ポケモントレーナーの道を選んでくれて俺に対して宣戦布告をしてきてくれた。お前だけや、俺と真正面からバチバチにやりあってくれるのわ!

 

「恐らくはお前と僕は同じ時期にポケモンを貰うだろう」

 

「やろうな……運営サイドも俺達がバチバチにやりあっとる姿が見たいって言うとるみたいやし」

 

「ああ……だからチャンピオンリーグでお前を倒す……オレの方が上だと教えてあげるよ」

 

「地方リーグちゃうんか?」

 

「お前ならばどうとでもなるだろう……無理とは言わせないぞ」

 

「お前、そういうこと言ってると後で痛い目に遭うぞ」

 

「天罰ならばとっくの昔に降っている……オレという存在を消滅させるのならば消滅させればいい」

 

 オレの方になっとる……興奮しとるか。

 アカシが自分の事をオレでなく僕というのはややこしい家庭環境で育ったからで、グレてから自分という物を手に入れる事が出来た奴、赤司征十郎と違って二重人格やないけど、興奮したり自分が自分である事を主張する際にアカシは自分の事をオレと言う。

 

「宣戦布告をする事が出来て気分がスッキリとしたよ…………それで、どうするつもりだい?」

 

「…………なにがや?」

 

「はぁ……相変わらず気付いていないのか」

 

 アカシがポケモントレーナーになると言うのならば俺もポケモントレーナーになる。

 アカシは俺に対して宣戦布告をしてくれば充分に満足をしたみたいやけどもアカシの奴はなにかを気にしとる。因みにやけどもこのやり取りはオーキド博士達の静かに後ろでやっとる。

 

「サトシが居る」

 

「…………お、ぉぉ…………ホンマや」

 

 サトシが居ることをアカシが教えてくれる。

 なんやおったんか……オーキド博士の孫ことシゲルの奴は居らんな……けど

 

「それがなにを意味しとるんや?」

 

「セレナをNTRするならば今しかない!」

 

「お前、平気でそういうことを言うか……」

 

「なにを言い出すかと思えばオリ主とは主人公達からヒロインをNTRする存在だ……今ここでセレナと深く関わる事が出来ればNTRする事が出来るよ」

 

「言うとる事は間違いやないけどもなんや色々と間違っとる……」

 

 アカシはどうすると聞いてくる。

 NTRには興味無いけれどもヒロインと関わること=NTRであるのは確かな事…………ヒロインとお近付きになりたいんか?……。

 

「僕はね……サト◯◯の中でサトセレが最も至高だと思うんだよ」

 

「むしろヒロインらしいヒロインおったか?ポケモンそういう感じの作品ちゃうやろうが」

 

「玩具販売促進アニメだからね……NTRをしないと言うのならば後方彼氏面をしておこう」

 

「お前、それ意味分かって言うとるんか?」

 

「……見守りつつあいつも大きくなったものだなと思うことだろ?」

 

 間違いじゃない、間違いじゃないけれどもなんか間違ってる気がする。

 アカシの奴は気配を遮断、それこそ波動を用いなければ見つけることが出来ないぐらいに器用に気配を消す。俺も面白そうだから気配を完全に消しておく。

 

「腕は鈍ってないようだな」

 

「アホ言うな……………………エモいな」

 

「ああ、尊いな」

 

 気配を消してサトシを追跡すればセレナと遭遇してイベントが起こる。

 俺とアカシという異物が()るから原作と若干異なるけど足を挫いたセレナをおんぶしている。セレナは頼りになる人だと思っている……。

 

「吊り橋効果って結局のところどうなん?」

 

「……僕にもよく分からない事だ……危機的な状況で救いの手が伸びて建つフラグは果たして正義なのか悪なのか。幼馴染みは負けヒロインと言うが主人公の事をすべて知り尽くしているのは幼馴染みのみだ……」

 

 サトシがイケメソなのは分かるけれどもこの感じは吊り橋効果によるフラグ建築や。

 吊り橋効果によるフラグ建築、それはラノベでは極々当たり前の如く存在しているフラグ建築法でありテンプレでありシンプルであるものや。危機的状況を救ってくれた救いのヒーローと見えるのは錯覚なんかそれとも現実なんか。

 

「吊り橋効果によるフラグはきっとこう思う人はいる。あの人は普段はあんなのだけどいざという時は頼りになるという人だと」

 

「お前それDV受けてても通報しいひん夫の事を信じとる洗脳されとる嫁の心理やないか……やっぱ吊り橋効果ってアカンのかな?諏訪部の奴は【オレが危機的状況を助けただけだから勘違いはするな】ってアクアに言うててな」

 

「どうして僕はその場に居なかったんだ……深雪や僕は愉悦に浸れる筈だ」

 

 誰や、深雪って。相変わらずクソみたいな性格しとるなこいつは。

 アカシと俺は後方彼氏面をしてサトシがオーキド博士の元にセレナを連れて行くのだが勝手に居なくなった事をオーキド博士は怒る。やっぱアレやな、10歳以下の子供をサマーキャンプに連れてくるんやったら普通はもうちょい大人が必要やで。オーキド博士1人やったら無理やって。

 

 班が別々なセレナとサトシは別れる。

 セレナはなにかを言いたげだったが足を挫いて動くことが出来ない…………サトセレはXYまでお預けやな。

 

 その後は普通にキャンプをした。

 オーキド博士がポケモンを貰って旅立った際に役立つ知識を教えてくれる。キャンプの知識とはまた異なる知識やからありがたいわ。アカシのアホも学ぶべきことはあるなと感心している。流石はポケモン界の権威やな、オーキド博士は。



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宿命の対決 天帝vs童子切 3 

 

 アカシとの再会、それに宣戦布告を交わして結構な時間が経過した。

 その間、俺はと言えばポケモントレーナーになる為に特訓をしてる……けどなぁ……

 

「この手の事はもう手に取る様に分かるんやけども……」

 

 目隠しをしてマサラタウンを一周した。なんでこんな事をやってるかと聞かれればそれは勿論、波動を会得する為や。

 アニメというかポケットモンスターの世界には極々普通に超能力者とかが存在している。先天的な超能力なのか後天的な超能力なのか、どちらかは不明やけども少なくともこの世界には波動という概念がある。それを会得しようとしとる……いや、ちゃうな。もう既に会得してしまったんが正しい事やな。

 

 俺はコレでもバトル物の世界やったら天下を取ることが出来る言われるほどの天賦の才能を持っとる。

 前の世界のキングダムハーツもどきの世界ですらキーブレードは勿論の事で世界を移動する魔法なんかも数日で会得した……諏訪部の奴が居らんかったら前の世界はホンマに退屈やったな。

 

「足柄どすこい!……う〜ん…………」

 

 目隠しして気配を消したり逆に威圧したり色々とやってみるけどもコレは大して意味が無い事に気付く。

 俺がいるのはアニメのポケットモンスターの世界でリアルファイトはそこまで必要やない。一応は張り手で木を薙ぎ倒す事が出来たり水の上を走ったりする事が出来るけれども、こんなんはおまけに過ぎひん。

 

「早いところポケモン貰いたいわ……」

 

 10歳になったらポケモン取り扱い免許を貰える。

 それまで子供はポケモンをゲットしたらアカン法律になっとる……BWで幼稚園児とポケモンバトル出来たけどもアレはどういう原理やっちゅう話やけどもそれはさておいてポケモンが欲しい。ポケモンがおらんとなんも出来ひん……アカシの奴も同じことを……いや、待てや

 

「確かキープとかが出来た筈や」

 

 XYのユリーカはポケモンをゲットする事が出来へん年齢やった。

 せやけどもデデンネが欲しいとデデンネをキープしてた。デデンネもデデンネでユリーカのポケモンである事を望んどった。要するにポケモンと仲良くして事前にゲットする事は不可能やない。

 

「オカン、釣り竿何処や?」

 

 そうと決まれば釣りをするしかないわ。

 急いで家に帰れば釣り竿は何処にあるのかオカンに聞けばオカンは釣り竿を出してくれる。俺の買った釣り竿、道具で妥協したら後で痛い目に遭うからすごいつりざおにしとる。この釣り竿は多分ホンマものや…………釣り道具そない詳しくないからな……。

 

 オカンから釣り竿を受け取れば波動を探知する。

 ポケモンが1匹もおらんところで釣りなんてしても意味あらへん。何処にポケモンが居るのか分からんから波動の探知を用いてポケモンが居そうなところを探して…………手頃な川辺を見つけた。

 

「流れといい大きさといいベストな川や……」

 

「あ、リンドウ!」

 

「おぉ、サトシやないか……お前も釣りか?」

 

「ああ。お前もって事はお前もここで釣りしに来たのか?」

 

「まぁな」

 

 釣り竿を垂らしているとサトシがやって来た。

 サトシも釣り道具を持っており、俺の隣で釣りをはじめる。

 

「ここってすっごく良いポイントなんだ!水ポケモン達が沢山見れるんだ!」

 

「やっぱええ場所やねんな……どんな水ポケモンが釣れるんや?」

 

「それはだな……えっと…………なんだっけ?」

 

「おいおい、大丈夫かいな?」

 

 ここが釣りをするのに最適な場所なことをサトシは教えてくれる。けど、どんなポケモンが釣れるかのを聞けばどんなポケモンが釣れるのかを教えてくれない。つーかサトシ自身が分かっとらん…………アニポケ世界で皆が言うサトシのハッキリとした明確な弱点、いざ目の当たりにすればなんとも言えへん気持ちになるわ。

 

「ここはコイキング、シェルダーが主に釣れるよ」

 

「あ、シゲル……おい、なにしてんだ!」

 

「なにって釣りだよ」

 

「見りゃ分かるよ!俺が聞いてるのはそういうことじゃないんだよ!」

 

「じゃあなんだい?フィオロジカルな答えを知りたいのかい?」

 

「シゲル、知識のマウント取るなや」

 

 ほのぼのな釣りをしようと思っているとシゲルが現れてサトシに呆れながら俺に対してここになんのポケモンがおるのかを教えてくれる。

 シゲルはサトシと同様に釣り竿を垂らしており、それを見たサトシはなにやってるんだと怒る。

 

「ここは俺が見つけた場所なんだ!だから他に行けよ!」

 

「断る、僕もここがマサラタウンで1番釣りをするのに最適な場所なのを知っているんだ」

 

「え、分かるのか!?ここって最高の場所なんだよ」

 

「この辺りでみずポケモンを釣るにはここが1番だ……お祖父様であるオーキド博士ならば直ぐに見つけるけれどもサートシくん、君の事だから虱潰しで見つけたんじゃないの?」

 

「別にいいじゃん!見つけることが出来たんだから!」

 

「お前等、喧嘩するなや。釣りが楽しめへんやろ」

 

 挑発するシゲルに乗ってくるサトシ。

 互いに互いを意識してライバル視してるのはええことやけども、釣りを楽しむことが出来ひん。お前等が騒ぐからポケモンの気配が少しずつ減っていっとるやないの。

 

「「ふん!」」

 

 少しだけ威圧感を放てば口喧嘩をする事をやめるサトシとシゲル。互いに互いの顔を見た後に別の方向に顔をそらしつつも釣りを再開する。

 ただ……サトシとシゲルの口喧嘩のせいで水中のポケモンが結構逃げてった……アカシとの事があるから俺も偉そうな事は言えへんけど、もうちょい大人になろうや。ポケモン釣れなくなるで

 

「そういえばお前等、最初に貰うポケモンは決めとるんか?」

 

 ギスギスした空気になるのもアカンし盛り上がる話題を出す。

 俺等は同じ日にポケモンを貰う予定でオーキド博士は最初の3匹であるヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメを用意しとる。所謂御三家や。基本的には早い者勝ちなルールや……最初のポケモンが早い者が勝つってどないなルールやねん。

 

「ふっ、僕は既に決めているよ」

 

「俺はまだ決めてない……リンドウは?」

 

「俺ももう決めとるわ……ただちょっとな……」

 

「なにか問題でもあるのか?」

 

「いや、大した事やないわ……多分」

 

「おいおい、そんなんで大丈夫なのかい?」

 

「まぁ、なんとかなるやろう」

 

 最初のポケモンは決めとるけれども、万が一がある。

 幸いにも誰とは言わんけどもカントー地方の御三家は他の地方と違ってめっちゃ優秀、キョダイマックスとメガシンカの2つを持っとる。ただ1つの問題点をクリアすれば問題無く俺はポケモントレーナーとして旅立つ事が出来る。

 

「お、竿が引いた……って、なんや空のモンスターボールやないか」

 

 とある問題点を考えて時間を過ごしていると竿が引いた。

 水系のポケモンが来たかと釣り竿を思いっきり引っ張れば空のモンスターボールが出てきた。誰や、モンスターボールを不法投棄した奴は。

 

「あー!モンスターボール、いいなぁ!」

 

「何処がやねん。中身が入っとらんねんぞ……まぁ、入っとったら入っとったで大問題やけど…………俺、要らんから欲しいならやるで?」

 

「待ってくれ、リンドウ!そのモンスターボールを僕に譲ってくれないか?」

 

「俺が先に欲しいって言ったんだ!横取りするな!」

 

「正確に欲しいとは言ってないじゃないか。このモンスターボールも4番手のサートシくんよりの1番星の僕に持たれる事で素晴らしい事になる」

 

「誰が4番手だ!」

 

「おいおい、何時も僕にボロ負けなのは何処の誰だい?」

 

「シゲル、煽るなや……毎回ボロ負けなんはお前もやろ」

 

 自分の事を1番星だなんだ言うとるシゲルやけども、俺に対してまともにというか1回も勝てとらん。

 その事について指摘すればシゲルは苦い顔をするけれども直ぐに開きなおる。

 

「勝負はポケモンを貰ってからが本番なのさ!」

 

「さっきまでの負け記録は無しかいな……ま、0からのスタートがええやろうな…………ふん!」

 

 モンスターボールを真っ二つに割る。

 赤い部分をシゲルに、白い部分をサトシに渡す。

 

「それを1個のモンスターボールにしたらどっちが強いんか分かる……ポケモンリーグっちゅう晴れ舞台で戦って勝った方にモンスターボールを託す……0からのスタートやったらそれが一番ええやろ?」

 

「ふっ、いいとも。ポケモンリーグの舞台でサトシを倒してマサラタウンの1番星である事を証明してみせようじゃないか」

 

「1番は俺だ!俺がシゲルに勝って1番だって証明してみせる!」

 

「なに言うとんねん!1番は俺や!お前等はNo.2争いしとれ!」

 

「「なんだと!!」」

 

 ハッハッハッハ、この程度の挑発に乗るとはまだまだ青二才やな!

 サトシとシゲルは半分に割った空のモンスターボールを握り締めればこの場を去っていく……おいおい、釣りはどうしたんや……

 

「お、竿が引いた…………マスターボールやと!?」

 

 またまた釣り竿が引いたと竿を引けばマスターボールが釣れた。

 マスターボールといえばどんなポケモンでも問答無用にゲットする事が出来る禁断のアイテム……ゲーム的な都合を言えば1個しか無いけれどもアニポケの世界やと最高級品のモンスターボール、シルフカンパニーが作ったボールで普通に諭吉が越える値段をしてて、更には製造数を制限する事によりレアリティを上げるというエグい商法をしとる。

 

「は〜…………あ、大きくなった」

 

 本物のマスターボールかどうかを確認していると開閉スイッチを押せばモンスターボールが大きくなった。

 これってどういう原理で伸縮しとるんやろ?なんやオコリザルに間違って投薬してもうたらオコリザルが小さくなったからその原理を利用してポケモンを入れとるっていう隠し設定があるらしいけど、このボールが伸縮する原理は不明やで。

 

「ポケモンは……流石に入っとらんか…………本物のマスターボールやけど故障してるってとこやな…………オーキド博士に頼んで修理業者に出してもらうか」

 

 まさかマスターボールをゲットする事が出来るとは思わんかったわ。

 肝心のポケモンは全然釣れへんけれども根気良くチャレンジしとるとエエことがある…………地獄の転生者運営サイドがマスターボールを寄越したんか?……いや、流石にそこまで地獄も気前は良くないやろう、偶然やな。

 

 善は急げ、悪はゆっくり……俺はどっちかといえば善やから急がなアカン。

 釣り道具を片手にオーキド博士の研究所まで走っていき、オーキド博士にマスターボールを渡せばやっぱりマスターボールは故障しとった。けど、修理すれば直る部分が故障しとったみたいで修理してくれる……ただしポケモンを貰う日までこのマスターボールは預かると言うた。一応は9歳以下はモンスターボールを持ったらアカン法律やからポケモンを貰う日にマスターボールを返してくれる言うた。

 

「はぁ〜……やっぱそう上手くいかへんのが世の中やなぁ」

 

 オーキド博士にボールを渡せば釣りを再開する。そして釣り竿を垂らしボソリと呟く。

 ポケモンは全くと言って反応してくれへん。俺の波動探知が間違いやなければコイキングをはじめとする様々なポケモンが住んどる言うのに反応してくれへん……本物の魚がどうかは知らへんけれどもポケモンも人間みたいに心を持っとるから罠やと気付いて引っかからんのか……いや、それやったらこの世界で釣りでポケモンをゲットな手段は流行らんわ。

 

「気配を遮断させるんやなくて心を鎮める……明鏡止水の境地…………無想モード、オン」

 

 やり方を変えてみようとギラギラ滾る闘争心を消した。

 心の中を空っぽにする無の境地に頭を切り替えつつ波動の探知をする。どうやら俺の闘争心が原因でポケモンがあんまり近寄って来なかったみたいやな…………俺の気配が消えたのかポケモンは反応する。竿が引いたので一気に釣り竿を引いた。

 

「っしゃあ!ポケモンや!」

 

 ゴミばっか釣れとったけども遂にポケモンを釣る事が出来たで!

 釣る事が出来たポケモンを見て満面の笑みを浮かべつつも釣り竿からポケモンを引き剥がす。

 

『コココココ!!』

 

「コイキング……なんや結構デカいな」

 

 コイキング、確か90cmぐらいの筈やけども俺と同じぐらいの大きさや。

 今の俺の身長は150cm台、今の年齢基準やったら大きな方やけどもその俺と同じって……は!

 

「さてはお前、群れのリーダーやな!」

 

 ポケモンは群れで生息するパターンが多い。

 アルセウスとかで親分な個体が存在しとるという描写があった。こいつはきっと群れのリーダー的な存在や……試しに波動で水中を探知してみるけれどもこのコイキングよりも大きなコイキングはおらん。群れのリーダー的なコイキングや。

 

『コココココ』

 

「逃さへんで!!お前は俺のポケモンになるんや!」

 

 俺の腕の中で激しく暴れようとするコイキング。

 ポケモンと殴り合いをした事が無いけれども最弱のコイキングでコレぐらいの強さやとすれば恐らくは伝説のポケモンでもシバき倒すことが出来る……まぁ、暴力を用いての指導はせえへん。殴って指導するのは三流の行いや、暴力を用いての指導は歪む可能性が大きく高い。相手を納得と理解させる指導をせんと…………やる気が無いなら帰れと言われて本気で帰るタイプの人間やったからそれがよく分かるわ。

 

『コッ!コッ!コッ……』

 

 暴れようとするコイキングをなんとか逃す事をしなかった。

 流石のコイキングも色々と悟ってくれたやろうと思ったので地面に降ろせばコイキングは俺と向かい合う。コイキングはジッと俺の事を見つめる。俺もコイキングを見つめて……少しだけ闘争心を出すと水の中に居るポケモン達は気配を察して逃げるけれどもコイキングは怯えない。それどころか俺に向かって水を吐いてきたって

 

「【ハイドロポンプ】覚えとるんか!?」

 

 コイキングといえば【はねる】【たいあたり】【じたばた】の3つしか会得せえへん。

 けども、第8世代やったら【ハイドロポンプ】を覚える……確か覚えようと思ったら【とびはねる】も覚えられるんやなかったか?

 

「ええな、ええなぁ!こら優秀なコイキングや…………けどまぁ、ギャラドスなったら物理個体にするけども」

 

 アカシとマジでやる以上はこっちもマジでやらなアカン。

【ハイドロポンプ】をお腹で受け止めて1歩ずつコイキングの元に近付けばコイキングは冷や汗を流す。

 

「俺は何れは童子切の二つ名を手に入れる最強の天王寺麟童……今はリンドウやけどもお前の事を気に入った……と、先ずは俺がスゴい男やと証明しいひんとアカンな…………かかってこいや!」

 

『コォ!!』

 

「ふん!」

 

 コイキングに宣戦布告をすればコイキングは【たいあたり】で攻撃してくる。

 遅い、遅いで。俺の最初の転生先を何処やと思ってんねん。史上最強の弟子ケンイチの世界で俺は相撲という武術で超人の領域に至り15年も横綱をやった男や!コイキングをつっぱりで弾き飛ばす。

 

『コォ……』

 

「ハッハッハッハ!どうや、俺はその辺の奴等とちゃうやろ?…………コイキング、俺と一緒に最強を目指さんか?最強と言える男が同じく最強クラスの実力を持った男とバチバチにやり合うんやぞ!」

 

 コイキングは素直に負けを認める。

 負けを引きずるかと思ったけれども割とあっさりと負けを認めた……負けを認めて受け入れるのは容易な事やない。それが出来る奴は成長出来る奴や。コイキングに手を差し伸べればコイキングは頭のヒレを俺に当ててくる……決まりみたいやな。

 

「俺はモンスターボール持っとらんからその日まで待ってろやコイキング!」

 

『コォ!』



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宿命の対決 天帝vs童子切 4

 

──ヴィィイイン

 

「ホントにいいのね、リンドウ」

 

「ああ、ずっと前から決めとった事やからな。思いっきりやってや!」

 

【ハイドロポンプ】を覚えたコイキングと遭遇して少しの時間が経過して、いよいよ明日がポケモンを貰える日になった。

 ワクワクが止まらんけれども俺にゃやらなあかんことがある。それは……

 

「俺が成長した証やと刻み込む為に大事な事、遠慮なく丸坊主にしてな」

 

 髪の毛を切ること。

 今の俺は天王寺獅童と同じ髪型をしとる。この髪型も割と気に入っとるけれどもこれからポケモントレーナーになるという意味合いを込めて丸坊主にする……色々な世界で力士をやる際にも丸坊主にしとるパターンが多い。学生横綱の称号から1人の力士になる意味合いを込めて丸坊主にし、そして髷を結う前に十両に昇進してスゴい相撲取りだと世間に思わせる……相撲はデブが抱き合ってると認識されがち、昔の俺もそう思っとった時期もあったけれどもやってみれば半端ない競技や。

 

「イケメンなのに勿体無いわね」

 

「新米トレーナーにゃ坊主頭が充分や……けど、丁髷を結える様になる頃には一人前のトレーナーになっとる。そして何らかの異名が付けば丁髷を大銀杏にする」

 

 オカンが俺が丸坊主になるのが勿体無いと言う。

 けど、コレは俺にとっては大事な儀式や。丸坊主から丁髷を結える間になるまでに一人前のトレーナーになる。なることが出来ひんかったらまた丸坊主になる。一人前でもなんでもないのに髷を結うなんて事は出来ひんわ。

 

「せやから俺は丸坊主やないとアカンねん……さぁ、頼むわ!」

 

「えい!」

 

 オカンはバリカンを手にして一気に髪を切ってくれる。

 床屋で丸坊主にするという手もあったけれども、やっぱりオカンに頼んで丸坊主にしてもらった方が意味がある。自分の髪が切り落とされているなと感じていると白髪が何本か混じってる事に少しだけショックを受ける。この歳で白髪って勘弁してくれや。

 

 アカシの奴は……どうしとるんやろ?

 アカシが丸坊主とか絶対にない。あいつは自分は自分であると主張するタイプで髪型を変えるという事を生まれてからまともにやったことが無い。赤司征十郎の容姿が気に入っとるところもあるから基本的には赤司征十郎の容姿のまんまや……そう考えれば転生する度に容姿が変わる諏訪部も羨ましいもんやな。

 

「ふぅ……スッキリしたわ」

 

 オカンがガッとバリカンで丸坊主にしてくれた。

 やっぱり丸坊主になると気持ちがスッキリとする……力士やっとる時が多いから髪の毛を洗うって事があんまり出来ひんからな、この髪の毛の感覚は悪くはない…………けどまぁ、やっぱり髷の方がええな。

 

 髪の毛を切り終えればオカンは箒で髪の毛を集める。俺に風呂に入って来いと言うので風呂に入れば短い毛が散乱する。

 髪の毛を短くしたことでシャンプーが物凄く楽になった。泡立ちはイマイチやけども、直ぐに髪の毛を洗う事が出来る……オシャレにあんまり気を使わなくてもいいなら丸坊主とかスポーツ狩りがええわ。

 

「ふぁあ……しょうもない所でミスだけはしたらアカンからな」

 

 夕飯を頂き、荷物確認をした。

 スキットルタイプの水筒、簡易的な調理器具、寝袋、ポケモンフーズにポケモンフーズを入れる容器などなどを1つのショルダーバッグに入れた。普通に物理法則とか質量保存の法則を無視しとる、肩にかけるタイプのショルダーバッグの中に全部入るとか……まぁ、そういうところがリアルやったら荷物の量が洒落にならへんからコレでええんや。

 

 目覚まし時計がジリリと鳴り響く。

 今日はポケモンを貰う日で寝坊だけは絶対にしたらアカン。ポケモンを貰うのは早い者勝ち、本音を言えばオーキド博士の研究所で寝袋を構えてスタンバイしたかったけどオーキド博士はそれはズルだからアカンらしい。人に心を開いていない初心者向けやないピカチュウを新米トレーナーに渡すクソジジイがなに言うとるねんと言いたかったけども強制的にピカチュウになる事だけはあってはならん事や。

 

「おはよう、リンドウ……今日は何時もより早いわね」

 

「そら今日がなんの日かぐらいは分かっとるやん」

 

 何時もならば8時に目覚めるところを7時に目覚める。

 オカンは早く目を覚ました事を感心するけれども俺は滅茶苦茶ワクワクする。

 

「リンドウ、先ずは気持ちを落ち着ける為に…………朝ごはんの用意をしなさい」

 

「オカンが楽したいだけやろ……まぁ、ええけども」

 

 オカンが朝ごはんを作れと言ってくる。

 伊達に関取を、力士をやっとらんから料理の腕前はそこそこや…………真面目に料理を覚えとるんやけども、アキの奴が料理が物凄く上手い。アキの作る揚げ物が絶品過ぎて何度か真似たけども料理の腕では勝つことが出来ひんかったわ……けど、あいつは何時までNo.2に満足しとるんやろ?俺やアカシとバチバチにやりあえる筈で俺がおらん世界で横綱やっとるって聞いたこともあるのに…………大包平の異名はマジやってのにな。誰かが殻を破る様に言ってくれへんかな……。

 

「ふぅ……美味しいわね」

 

「メシマズはアカンからな…………寂しなるな…………」

 

「なに言ってるのよ、ポケモン達が居るじゃない」

 

 コーヒーを啜り、卵焼きなタマゴサンドを口にするオカン。転生して数年、俺を暖かく見守ってくれてるオカンと離れて旅立たんとあかん。

 妹が生まれるとか一時期期待しとった時もあったけども今生では妹は生まれへん。オカンと親父だけの寂しい家になると言えばポケモン達が居るという。

 

「確かにリンドウが居なくなれば寂しくなるわ……けど、これからはリンドウが育てたポケモンと触れ合える。貴方が頑張ってるってのを間近で見ることが出来るわ」

 

「……そっか……」

 

 頑張らんとあかん理由が増えた……重さが増えるけれども、この重圧に耐えられないなんて事はないわ。

 朝ごはんを食べ終えれば食器洗いはオカンがするからオーキド博士の研究所に行ってポケモンを貰ってこいと言われた。

 

「オーキド博士、ポケモンを貰いに来たで」

 

「リンドウ?また随分と派手なイメチェンをしたの」

 

 ショルダーバッグを背にしてオーキド博士の研究所にやって来た。

 昨日までは極々普通の髪型だったけれども丸坊主になった俺を見て少しだけオーキド博士は困惑している。

 

「いやいや、俺の覚悟と決意ですよ……髪の毛で髷が結える様になる頃には一人前のトレーナーになっとるという俺の決意、それが無理やったらまた丸坊主にするという覚悟」

 

「ふむ、中々に出来ないことじゃの……お前さんホントにサトシやシゲルと同じ10歳か?それぐらいの年頃ならばもっと夢を見たり天狗になったりするもんじゃ。自分自身を追い込むのは早々に出来ぬぞ」

 

「慢心と言われても構わない、それぐらいの自信を得るためには死ぬ気で頑張るしかない……1の才能は100の努力に負けるかもしれへんけども1000の努力ならば勝る。しかし1000の努力をするのは並大抵の事やないとダメ……てっぺん目指したりてっぺんに近いところに至った人は皆、スゴいんやからコレぐらいの覚悟を決めないとダメですわ」

 

 夢や覚悟と現実を照らし合わせた結果、こうなっとる。その事に関して俺は微塵も後悔はしとらん。

 丸坊主も全ては1番になる為の行いで苦しかったり辛かったりするけれども嫌とは思わへん。楽しく成長出来るのが1番、好きでもない楽しくもない事で1番になることは難しいわ。

 

「さて、リンドウ……知っての通りワシは10歳になった子供に初心者向けのポケモンを渡して旅立たせておる」

 

 俺の覚悟と決意を知ったオーキド博士は本題に入りながら移動する。

 三角形になるように並んでいるモンスターボール、モンスターボールには【フシギダネ】【ヒトカゲ】【ゼニガメ】と刻まれとる。オーキド博士は3つのモンスターボールを手に取りポケモンを出した。

 

『ダネ!』

 

「【くさ】タイプのフシギダネ」

 

『カゲ!』

 

「【ほのお】タイプのヒトカゲ」

 

『ゼニ!』

 

「【みず】タイプのゼニガメ」

 

「ほぉ〜……生で見るのははじめて……」

 

 御三家は生息地が不明なポケモンで珍しいポケモンで生で見るのははじめて。

 初心者向けのポケモンは初心者向けに育てる業者が存在しとって、ある程度は育てたらポケモンを渡すポケモン研究者とかに渡しとる。ホウエン地方のオダマキ博士はタマゴから入手して自力で育て上げとるらしいけど、オーキド博士は業者から受け取って最後の調整をしとるみたいや。

 

「さて、どのポケモンにする?」

 

「オーキド博士、その前にポケモン図鑑を貰えますか?初心者向けの最初の3匹は珍しいポケモンなんで図鑑登録をしておきたいんですよ」

 

「なるほど……ほれ、ポケモン図鑑じゃ」

 

 オーキド博士から初代のポケモン図鑑を貰う。

 最新機種であるスマホロトムは大分先の話や……コレがポケモン図鑑、なんや最初の一歩を踏み出した感じがして嬉しいわ。

 

『フシギダネ、たねポケモン。生まれた時から背中に植物のタネがあって少しずつ大きく育つ』

 

 先ずはフシギダネ、次にヒトカゲ、最後にゼニガメを図鑑登録する。

 

 フシギダネ ♂

 

 とくせい【しんりょく】

 

【たいあたり】【なきごえ】【つるのむち】

 

 ヒトカゲ ♂

 

 とくせい【もうか】

 

【ひっかく】【にらみつける】【ひのこ】

 

 ゼニガメ ♂

 

 とくせい【げきりゅう】

 

【たいあたり】【しっぽをふる】【あわ】

 

「……オーキド博士、ポケモン図鑑ってポケモンの性格とか表示されへんのですね」

 

「なにを言っておる。ポケモン1体1体に個性が存在しておる。いじっぱりな性格でも甘いものが好きだ苦手だと異なるんじゃから、この性格だと判断する事は出来んじゃろ?」

 

「まぁ……そうですね」

 

 オーキド博士の言っている事は間違いやない。

 人間かて個性が色々とあって1つの枠に入れるのは難しいというもんや…………ということはアレか、性格補正的なのは無いか。まぁ、現実と違って性格補正的なのが無いんやったらそれはそれで好都合や。

 

「さて……俺は最強のポケモントレーナーを目指しとるんやけども、その為には絶対的な敵を倒さんとアカン……生半可な覚悟では倒す事が出来ひん相手や。やるからにはとことんやらなアカン……せやから確認しとく事がある。お前はポケモンバトルをしてくれるのか、そして進化をしてくれるのか」

 

 ポケモンにも個性がある。

 ポケモンバトルを好む個体も居ればポケモンコンテストを好む個体もおる。進化を望む個体もおれば進化を拒む個体もおる。

 仮にこの世界にアカシが居らんかったら遊んでたけども、この世界にはアカシはおる。アカシとはバチバチにやりあう関係性で進化を拒む個体とはポケモンバトルを本気でやろうとせえへん個体にゃ興味は無い。

 

「だから聞くわ、俺のポケモンとして一緒に戦ってくれるか…………ヒトカゲ」

 

 俺が欲しいポケモンはヒトカゲや。

 俺がサトシとシゲルの同期でフシギダネかヒトカゲのどっちかを選んだ子供やからヒトカゲが欲しいんやなくて純粋にリザードンが好きやからや。カントー地方の御三家の中で最も優秀なのはフシギバナかリザードンか……少なくともカメックスは無いわ。

 ゲームやったらメガシンカが無くなっとるけれども、この世界やとメガシンカもダイマックスもZワザもテラスタルも出来る。だったら第8世代で失ったリザードンのメガシンカが出来る筈や。

 

『…………カゲ!』

 

 少しだけヒトカゲに威圧感を放つ。

 ヒトカゲは一瞬だけたじろぐけど、直ぐに首を振って覚悟を決めたのだと差し伸べた手に触れる。

 

「よろしく頼むわ、ヒトカゲ。オーキド博士、俺はヒトカゲをもらいます」

 

「うむ!お前ならばきっと上手く育てる事ができる……ちょっと待っておれ」

 

 オーキド博士はモンスターボールを取り出してヒトカゲが入ったモンスターボールを置いてなにか機械を操作する。

 なにをしとるんやろ?

 

「モンスターボールの移し替えが終わったぞ」

 

「モンスターボールの移し替え?」

 

「ヒトカゲが入っておったモンスターボールはヒトカゲの名前が刻まれておる、じゃから名前が刻まれていないモンスターボールに移し替えたんじゃよ……この名前が刻まれているモンスターボール、使いまわししておるんじゃ」

 

「ほ〜そうなんすね……」

 

 まぁ、このヒトカゲがの名前が刻まれているボールを貰うのもなんかアカン気がするしそれでええか。

 オーキド博士はヒトカゲのモンスターボールを移し替えたので俺は移し替えたモンスターボールを手にする。本物のモンスターボール、夢にまで見たモンスターボール、そして最初のポケモンはヒトカゲ……か〜男のロマンやな。

 

「戻れ、ヒトカゲ…………おぉ〜……おぉ〜……」

 

 モンスターボールから光線が出ればヒトカゲがボールに戻った。

 ヒトカゲをボールに戻すことが出来たのでポケモンの世界に来た感じがしまくると高揚感が出てくる……ええな、ええな、この感じは。

 

「では、餞別のモンスターボール5個…………っと、お前さんにはコレを渡さなければならんかったの」

 

「誤作動とか起こらへんやんな?」

 

「大丈夫じゃ、ちゃんとシルフカンパニーが修理をしてくれた」

 

 オーキド博士は修理されたマスターボールを渡してくれる。

 誤作動とか起きたら割と大変なボール、メイドインシルフカンパニーやから一応の信頼は出来る。7個目のボールであるマスターボールを貰いコレでポケモントレーナーに必要不可欠な物は揃った。

 

「リンドウ」

 

「オカン…………」

 

 オーキド博士の研究所を出ればマサラタウンの人達とオカンが待ち構えていた。

 8名ぐらいであんまり親しくない人達やけれど俺がポケモントレーナーになってくれる事を喜んでくれとる。

 

「頑張って世界最強を目指しなさい!」

 

「……おう!」

 

「皆はシゲルくんを期待してるけども一泡吹かせるのよ!」

 

「あ〜やっぱそういうことか」

 

 マサラタウンは田舎やけどもクソ田舎やない。

 それなりには人がおるんやけども、俺の出発を見送ってくれる人は10人にも満たない。やっぱりオーキド博士の孫というネームバリューが強いんやろう。思い返してもシゲルの奴がマサラタウンの住民にアホほど囲まれて出発を見送られとったわ。

 

「……俺を応援してくれる皆、ちゃんと俺の事を見といてや!俺があっと驚かせたるわ!!」

 

 ほんの僅かな人達やけども俺の事を期待しとる……これでええ、これでええんや。

 大相撲を始めた頃の感覚を思い出す。学生横綱やけどもそもそもで相撲自体が人気が無くなっとる、やから俺を期待してくれる人はほんの僅かやけども、それでええ。期待されるのも悪くないけども、皆は最初からそないに期待してへん…………金星を手に入れる奴はスターの価値があるんや。

 

 だからこの少ない応援は呆れへん。

 むしろここから一気に応援してくれるファンを多く作る、先ずは俺の事を期待してくれとる人の期待に答える。そうして徐々に徐々にファンを作り上げる…………大相撲の横綱をやっとったから分かる、この最初の1歩は頂点へ近付く為の最初の1歩である事を。西川清史の言う通り、小さな事からコツコツとや。

 

「お〜い、コイキング出て来いや」

 

『コココココ!!』

 

 オーキド博士の研究所を後にすればマサラタウンの川に向かう。

 俺の声にコイキングは反応して川から顔を出すので俺はモンスターボールを投げるとコイキングは大きく【とびはねる】で跳び跳ねてモンスターボールに触れた……モンスターボールは反応してコイキングをボールに入れた。

 

「先ずは1体目のポケモンゲットや…………っと、一応は確認しとかなアカンな」

 

 遂にポケモンをゲットする事が出来たことを喜ぶけども、まだ自惚れるには早い。

 オーキド博士から貰ったばかりのポケモン図鑑を取り出す。アニメのポケモン図鑑はポケモンのデータを見ることが出来る便利な道具や。

 

 コイキング ♀

 

 とくせい【すいすい】

 

【はねる】【とびはねる】【たいあたり】【ハイドロポンプ】

 

「♀やったんか!?……………さてと……………早速、マスターボールには活躍して貰わなアカンな」

 

 マジで勝ちに行く。

 その為には色々とやらなあかんねんけども…………この機会を逃したら、マスターボールの使い所に困るわ。



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宿命の対決 天帝vs童子切 5

 

 マサラタウンを飛び出して、トキワシティ……付近にまでやって来た。

 原作知識が確かやったらトキワジムにはミュウツーが存在しとる。なんやこの世界は伝説のポケモンというだけで格が違う扱い、確かに伝説のポケモンは種族値が600越えは当たり前やけどもなんか扱いがな……。

 

「あ〜くそ……このチャンスを逃したらアウトなんは分かるけどこら厳しいわ」

 

 通り雨の豪雨に身を晒されつつ、俺は呟く。

 トキワジムは危険で原作通りゲーム通りニビジムに向かうつもりやけども、その前にやっときたい事がある。原作知識をとことん悪用した事や……サトシには悪いと思うけれどもアカシの奴を相手にバチバチとやり合うにはこれしか道があらへん。仮にアカシが俺と同じ立ち位置やったら同じ事をしとったやろう。

 

「……サトシは近くにおるな」

 

 波動の探知を行う。直ぐ近くにポケモンの群れがおる。それだけやのうてサトシが近くにおる。

 アニメの記念すべき第1話、そこでピカチュウを貰ったサトシがオニスズメに石を投げつけて怒らせる……そこからピカチュウとの友情が育まれる。ええ青春をしとるけれども問題はそこやない。

 

「っち、流石に伝説相手やと無理か」

 

 すぐ近くで雷が落ちる。サトシのピカチュウがサトシを守るために雨雲から【かみなり】を落としてオニスズメを追っ払ってるんやろう。

 この展開を待ち望んでたと波動の探知をしてるんやけども波動の探知が上手く出来ひんところが上空にある……それこそが俺の待ち望んでた展開や。雷が落ちたと思えば徐々に徐々に雨雲が去っていく。空には綺麗な虹がかかるので俺は地面を強く蹴った。

 

空中歩行(スカイウォーク)

 

 地面だけやあらへん、空中も蹴った。

 伊達にマサラタウンの人間やない、ポケモンと殴り合う事が出来る運動神経をしとる。様々なトレーニングの過程で色々な技を会得した、水の上を走る技術なんかがその一例や。まだ転生した事は無いけどもONE PIECEで出てきた空中歩行を真似した技を使って空を跳んだ。

 

 空を跳びつつもマスターボールを手にする。

 色々と考えた……マスターボールをどう扱うのかを。あらゆるポケモンをゲットする事が出来るっちゅうエリクサー並の代物でゲームやと基本的には1個しか手に入らへん。ゲームバランスを崩壊させる可能性を秘めとるから仕方ないと言えば仕方ない事や。

 

 このマスターボールを使わないでおこうかと一時期悩んだ。

 1個しかない物で稀少性も高い物やからとラストエリクサー症候群になりかけてた……仮に俺以外に転生者がおらんかったら使わんかったやろう。けど、今回はちゃう。アカシの奴がおる、地獄の転生者運営サイドは俺とアカシのバチバチにやりあう光景を見たいと希望しとる。俺もポケモンバトルと言う1つの戦いでアカシとバチバチに戦いたいという思いがある。

 

 だから使う、全力でアカシを叩きのめす為に。

 周りから卑怯者とかズルいとか言われる可能性は高いやろうが、それでも構わへん…………汚名を被る事を覚悟して俺は虹に向かう。目標を定める。

 

「いけ、マスターボール!」

 

 俺はマスターボールを虹に向かって……いや、ホウオウに向かって投げた。

 ホウオウに触れたマスターボールは光線を放ってホウオウをボールの中に入れると重力に従ってボールが落ちていく。ボールが落ちていくので空中を蹴ってボールよりも早くに地面に降りてマスターボールを掴んだ。

 

「ホウオウ、ゲットやで…………なんや……背徳感と罪悪感が出てくるな……」

 

 例えるならばそう、遊戯王の世界で世界に1枚しか存在しないカードで無双してる自分に果たしてそれは自分が強いのか?それとも自分が使ってる武器が強いのか?という疑問と同じ感じや……いや、皆、なにかしらのハンデを背負っとる、得意な武器を持っとる筈や。

 俺がマスターボールを手に入れたのも、俺がホウオウにマスターボールをぶつける事が出来たのも、俺がホウオウをゲットする事が出来たのも全ては己の実力、もし罪悪感や背徳感があるんやったらそれは俺の心が弱いという証拠や。

 

 前の世界がキングダムハーツもどき、更には今まで色々な世界に転生して心を鍛え上げたけどまだ未熟者やったか。

 開き直ることはあっても悟りを開くつもりは一切無いからこの辺の部分は永遠と未熟……アカシの奴はその辺りを気にすることはせえへんやろうな。アカシは自分に相応しいとか思ってそうや。

 

『データ無し。このポケモン図鑑には該当しないポケモン、ポケモン研究家に見せることをオススメする』

 

「かぁ〜っ、第1世代のポケモン図鑑やとアウトなんか!」

 

 取り敢えずはゲットしたホウオウを確認しようとポケモン図鑑を開く。

 なにはともあれホウオウである事には変わりはないからステータスを確認しようと思ったけども、このポンコツ図鑑が第1世代のポケモンにしか対応しとらん!第2世代のポケモンであるホウオウのステータスが全く分からへん……まぁ、言うても個体値とかは分からへんし性格とかも出てけえへんから覚えてる技の確認をする程度やけども、このポンコツめ…………

 

「ま、お前は暫くは使わへんけどな」

 

 マスターボールを見て呟く。

 ホウオウは恐らく、いや、絶対に強い。ホウオウが居ればポケモンバトルで無双をする事が出来るやろうが、流石にそれはアカン。ホウオウ無双やったら他の手持ちが育たへん。こればかりはしゃあないことやとマスターボールを小さくして腰に装着する。

 

「トキワシティ……は、アカンねんな」

 

 トキワシティに向かおうかと考えとるけども、今日だけは絶対にトキワシティに行ったらアカン。

 理由はシンプルにトキワシティにムサシ、コジロウ、ニャースのロケット団トリオがポケモンセンターに襲撃してくるからや。そこでサトシのピカチュウがロケット団を撃退するけども、それが原因でサトシのピカチュウが狙われる。

 

 アニメのポケットモンスターのファンとしては憧れなくもないけど、その現場におったらなにかの手違いで狙われる様になる可能性が高い。

 流石にそれはアカン……ロケット団が、悪の組織がしょっちゅう襲撃と拉致をしてくるって冷静になって考えたら洒落にならんぐらい危ない事やで。子供向けのアニメやから許される行いや。

 

「さて……ゲーム知識が正しければここの筈やけども……」

 

 トキワシティには向かわずに22番道路に向かった。

 今の俺の手持ちはヒトカゲとコイキングの2体だけ……アニメのポケットモンスターのジム戦は同じ数のポケモンを用いてのバトルをせなアカン。最初に挑戦すると決めていたニビジムは使用ポケモンが2体あればええけども今後の事を考えたらここで出てくるとあるポケモンを絶対にゲットしとかなアカン。

 

『キキッ!』

 

「お〜……良かったわ」

 

 ゲームの知識は役立つわ。23番道路に来た目的であるマンキーの群れに遭遇をする。

 俺が23番道路に来た1番の目的はマンキーをゲットする事…………この世界は何処にどんなポケモンがおるのかがイマイチ分かっとらん。そら水辺に水ポケモンとかは分かっとるけどもここに行けば確実に現れると言う保証は何処にも存在せえへん。見つかった事に少しだけ安堵しつつもヒトカゲをモンスターボールから出した。

 

「マンキーの群れか、ちょうどいい。ナエトル、バトルスタンバイ!」

 

『ナォウ!』

 

「お」

 

 他にもお客がおった。

 目つきの悪い男がマンキーの群れを見てちょうどええからとナエトルをモンスターボールから出した……あいつは確か……いや、今は関係あらへん。俺もマンキーが欲しいんや

 

「ヒトカゲ【ひのこ】や、当てるんやない威嚇するのに使うんや」

 

 先ずは俺に意識を向くように仕掛ける。

 ヒトカゲは当てるつもりがない【ひのこ】を放てばマンキーが俺達に意識が向くが男が俺に向かって睨んでくる。

 

「俺のゲットの邪魔をするな」

 

「俺かてここにマンキーおるって聞いてきたんや……悪いけども早い者勝ちや」

 

 マンキーはなにがなんでもゲットする。

 ヒトカゲはマンキーを威嚇すれば殆どのマンキーがヒトカゲに襲いかかるのでヒトカゲには引いてもらいクイックボールを取り出す。

 クイックボール、ゲームやったら直ぐに投げればゲット出来る仕様やけどもこの世界やったらボールを投げる速度が早ければ早いほどにゲットする確率を上げることが出来る……最後にフィジカルが物を言うのがアニポケの世界って、ええんかそれで。

 

「いってこい、クイックボール!」

 

 クイックボールを4個投げて4個とも命中させる。

 ボールの中に入ったマンキーは見事にゲットする事が出来たのでよっしゃとガッツポーズを取った。

 

「ヒトカゲ、サンキュー……え〜っと……」

 

 マンキー ♂

 

 とくせい【まけんき】

 

【ひっかく】【にらみつける】【みだれひっかき】

 

 マンキー ♀

 

 とくせい【せいしんりょく】

 

【からてチョップ】【にらみつける】【けたぐり】【ビルドアップ】

 

 マンキー ♂

 

 とくせい【やるき】

 

【ひっかく】【にらみつける】【からてチョップ】【けたぐり】

 

 マンキー ♂

 

 とくせい【やるき】

 

【からてチョップ】【にらみつける】【みだれひっかき】【ビルドアップ】

 

「最後の奴やな」

 

「…………お前も厳選をしているのか?」

 

 ポケモン図鑑を片手にマンキー達の能力を確認する。

 旧式のポケモン図鑑の癖に【ビルドアップ】を覚えてることが分かるとか言う謎な仕様にツッコミを入れたいけども、無かったらそれはそれで困るものやからそれでええと受け入れて3体のマンキーを逃がせば意外そうな顔をしている。

 

「そら、真剣でやるからにはちゃんとしたポケモンを揃えないとアカンやろ?」

 

「……考えは一緒だがぬるいな」

 

「なんやと?」

 

「俺の狙いはこのマンキーの群れのリーダーだ!お前がゲットしなかった個体の中にいる!ナエトル、【はっぱカッター】だ!」

 

 ナエトルは無数の回転する葉っぱをマンキーに向かって撃った。

 当然の如くマンキーは怒るけれどもその中でも1番怒っている個体がおって男はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「1番前に出ているマンキーに向かって【たいあたり】だ!」

 

 奴こそが群れのリーダーやと確信したのかそいつだけを狙う。

 他のマンキー達は手出しをせえへん。群れで生きとるんやったら数の利は明らかにマンキーの方が上やけども他のマンキーは手を出さへん。群れは縦社会、ボスの邪魔立てはしたアカンっちゅう話や。

 

「モンスターボール、アタック!」

 

 ナエトルである程度のダメージを与えることが出来たので男はモンスターボールを投げる。

 マンキーにモンスターボールが当たればマンキーはボールの中に入り……ゲットされるとマンキーの群れが一目散に逃げていった。

 

「……進化する事が出来るポケモンの進化前の群れのリーダー、少しはマシなレベルか」

 

「え、どんな感じなん?」

 

「お前がゲットしたマンキーとは段違いだ」

 

 男はそう言うと黒色のポケモン図鑑を見せてくれた。

 

 マンキー ♂

 

 とくせい【せいしんりょく】

 

【からてチョップ】【ビルドアップ】【にらみつける】【ちょうはつ】

 

「自身のステータスを上げる【ビルドアップ】相手のステータスを下げる【にらみつける】そして変化技をさせない【ちょうはつ】を会得している……優秀な個体だ」

 

「いや……このマンキーはアカンな」

 

「なに?」

 

「このマンキー、とくせいが【せいしんりょく】や。マンキーのとくせいは3つ【ねむり】状態にならへん【やるき】と相手がとくせいや技で自分のステータスを下げた際に物理攻撃力を2段階上昇させる【まけんき】そして怯まない【せいしんりょく】の3つや……マンキーの理想のとくせいは【やるき】やと俺は思う。ステータスを下げてきた時に2段階物理攻撃を上昇させる【まけんき】も悪くはない。マンキーの最終進化系のコノヨザルは物理アタッカーで物理攻撃が2段階上昇はデカい。【いかく】のとくせい持ちのポケモン、例えばギャラドス辺りが出てきて出すことが出来れば【まけんき】で物理攻撃が2段階上昇して【かみなりパンチ】で高確率で倒す事が出来る……せやけども、この【まけんき】は相手に依存しとるタイプのとくせいや。ステータス上昇、減少系の技を始めとする様々な変化技を皆、使わへん……せやったら【やるき】のマンキーの方がお得やで」

 

「……【せいしんりょく】のなにがダメなんだ?怯まないんだぞ?」

 

「お前、コノヨザルってを知っとるか?」

 

 男にコノヨザルというポケモンを知っているかどうか聞けば首を横に振った……流石に第9世代は知らんか。

 

「オコリザルが【ふんどのこぶし】っちゅう技を使い続けてたらコノヨザルっちゅうポケモンに進化するんやけども問題はこの【コノヨザル】ちゅうポケモンのタイプが……【ゴースト】【かくとう】タイプのポケモンになるねん」

 

「【ゴースト】タイプが加わるのか……」

 

「せや。【ゴースト】タイプが加わったら相手を確実に怯ませる事が出来る【ノーマル】タイプの【ねこだまし】が通じひん。そらガルーラみたいな【きもったま】やったら通じるけども基本的には通じへん……そんでもって怯みの代名詞であるまひるみキッスとコノヨザルは根本的に相性が悪い」

 

「まひるみキッス?」

 

「【てんのめぐみ】っちゅうとくせいを持ったトゲキッスに【でんじは】と【エアスラッシュ】を覚えさせた害悪コンボや。【てんのめぐみ】は技の追加効果を発揮する確率が2倍になって【エアスラッシュ】は凡そ3割の可能性で相手を怯ませる事が出来る。【てんのめぐみ】が加われば約6割、最低でも2回に1回の割合で相手を怯ませる事が出来るんやけどもトゲキッスは【でんじは】も覚える事が出来るポケモンや。【でんじは】で相手を【まひ】状態にさせて動きを鈍くして【エアスラッシュ】を連発して相手を怯ませ続ける害悪コンボがある……お前は【ゴースト】【かくとう】物理アタッカーのポケモンを【フェアリー】【ひこう】タイプの前に出すか?」

 

「……いや、出さないな…………………ならトゲキッスはなにで戦えばいい?」

 

「理想を言えば【でんき】タイプやな。【でんき】タイプは素早いポケモンも多いし【でんじは】が通用せえへん……ただ【でんき】タイプ単体の【でんき】タイプを俺はオススメする。トゲキッス【はどうだん】に【だいもんじ】に【くさむすび】とサブウェポンも充実しとるから【いわ】タイプはオススメできへん……トゲキッスとの相性が悪いポケモン言うたらカプ・コケコとかやな」

 

「カプ・コケコ?」

 

「アローラ地方の守り神様や……アローラ地方のカプは絶対にゲットしたらアカンで。村八分どころやない事になるから」

 

 この世界、伝説準伝説言うだけで神様的な扱いされる。

 それをゲットするなんて罰当たりな奴やと認定されるから伝説とは全く関係あらへん個体をゲットしとかなアカンねんな。

 

「…………」

 

 モンスターボールを見つめて色々と考えたのかモンスターボールから赤い光線やなくて青い光線が出てくる。

 赤い光線はポケモンを戻したりする時の光線やけども青色の光線はポケモンを逃がす時の光線や。

 

「なんや群れのリーダーやのに逃がすんか?」

 

「お前の話が確かならば【せいしんりょく】のマンキーは使えない個体だ、群れのリーダーとしての強さは認めるが【せいしんりょく】で使えないのならば逃がす…………お前の言う通り【やるき】のとくせいを持ったマンキーを探す」

 

「そうか……マンキーは物理アタッカーやから意外性を狙って【10まんボルト】を覚えさせるぐらいやったら【かみなりパンチ】覚えさせたらええで。技の威力的には【10まんボルト】の方が上やけども【かみなりパンチ】は物理技やから威力はそっちの方が上や」

 

「……………お前、名前は?」

 

「人に名前を尋ねる時、先ずは自分から名乗るんが礼儀やと思うんやが」

 

「…………俺はシンジ、シンオウ地方のトバリシティのシンジだ」

 

「俺はマサラタウンのリンドウ、近い内に童子切の異名を手に入れる予定のトレーナーや」

 

「童子切?」

 

「最強の刀の名前や………………カントーのポケモンリーグに出る予定や。お前もポケモンを厳選しとるって事はやっぱりカントーのポケモンリーグに出るんか?」

 

「…………ホウエン地方のポケモンリーグに出るつもりだが気が変わった。俺もカントーのポケモンリーグに出る…………」

 

「そうか……っと、もう暗くなってきたし一緒に野宿せんか?バトルに関する知識やったらいっぱい持っとるからええこと教えたるわ」

 

「……ニドクインとニドキングのどっちがいい?どちらも出来ることは大して変わらないポケモンだ」

 

「か〜中々に難しい質問飛ばしてくるな、自分、攻撃と防御のどっちがタイプや?それによって選ぶのが変わるで。ただ【だいちのちから】【れいとうビーム】【ヘドロウェーブ】【かえんほうしゃ】は絶対に覚えさせんとアカン技やな」

 

「ニドキングとニドクインは【どくのトゲ】があるポケモンだ【どくのトゲ】に触れさせる為に近距離戦主体に育て上げれば」

 

「いや【はりきり】のとくせいを持っとるニドランにせんとアカン。そうせえへんかったら【ちからずく】のニドキングやニドクインにならへん……ニドキングとニドクインはパワーこそ劣るけども技のデパートや言うてもええぐらいに色々と技を覚える。追加効果を失う代わりにパワーを増す【ちからずく】との相性が結構ベストマッチでな、ニドキングもニドクインも簡単に【どくどく】を覚えるんやからそこまで【どくのトゲ】に頼らんでもええ筈やろ?」

 

「……なるほど……」

 

 シンジと一緒にポケモンバトルに関する談義をしながら野宿の準備をする。

 なんやシンジの奴はこの辺にニドラン♂とニドラン♀の群れがいると話を聞いてきたらしいけどもニドキングもニドクインもどっちも似てるポケモンで、似てるポケモンを2体も育てるつもりは無いとどっちかにしようか悩んどったみたいやわ。



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宿命の対決 天帝vs童子切 6

 

「キキッ!」

 

「おお、飲み込み早いな」

 

 シンジとポケモンバトルの議論を交わした翌日、シンジはニドラン♂をゲットする言うて22番道路に残った。

 カントーのポケモンリーグに挑戦する言うてたから期待出来る相手やけども先ずは自分がジムバッジを8個集めなアカンのを忘れたらアカン。早速ニビジムがあるニビシティを目指してトキワの森に向かった。

 

「やっぱ三色パンチは便利やな」

 

 ただトキワの森を突っ切るんは簡単な事やけども俺の目的はニビシティのニビジム戦や。

 今の俺の手持ちはヒトカゲ、コイキング、マンキーでニビジム戦で出す予定なのはマンキーとコイキングでメインで活躍するのはコイキングやのうてマンキーやからマンキーを重点的に鍛えようと思った。

 

 冷静に考えればせやねんけど、野生のポケモンを退治したらあかん。

 この世界では基本的には対人戦のみのポケモンバトルしかしたらあかん世界で、ポケモンを鍛えるのは実戦以外には地道な基礎練や。俺のゲットしたマンキーは【ビルドアップ】を覚えとる優秀な個体やからと取り敢えずはマンキーと軽く殴り合いをするけれども、これやったら格闘技術が増すだけやと技を会得する方向に【ほのおのパンチ】【かみなりパンチ】【れいとうパンチ】の3色パンチを会得する方向性にシフトチェンジした。

 

「手持ちにヒトカゲおるんはデカいな」

 

「カゲ」

 

 ヒトカゲはあっさりと【ほのおのパンチ】を会得した。

 炎を拳に纏うだけやから簡単な技やけども、マンキーには炎を出すのは一苦労なのか苦戦してたけども炎っぽいのを出せてるから出来てへんっちゅうわけやない。

 

「この辺には目ぼしいのおらんなぁ……」

 

 波動の気配探知をするがこの辺にはキャタピー、ポッポ、ピジョン、トランセル、ビードル、コクーンと序盤のポケモンがおる。

 欲しいって思えるようなポケモンは1体もおらへん。バタフリーはキョダイマックス、スピアーはメガシンカを貰っとるけどもなんやキョダイマックス枠とメガシンカ枠を無駄に消費するわけにもいかへんわ。

 

「お主、見たところポケモントレーナーでござるな!」

 

「そういうお前は……どっからツッコミを入れればええんや?」

 

 技の特訓をしていれば日本の兜に鎧を着た短パン小僧が現れる。

 ポケモントレーナーかどうかを聞いてきたけれど、どっからツッコミを入れればええんかは分からへん。

 

「拙者の名はサムライ……お主、何処出身でござる?」

 

「母方も父方も実家はコガネシティやけど家はマサラタウン……何れは童子切の名を持つリンドウや」

 

「マサラタウンのトレーナーであったか!ならば話は早い!他の2人は負けはしたがお主には勝ってみせる!」

 

 まだ旅立ってから1日しか経過しとらんけどシゲルと名もなきモブ、どんだけ早いんや。

 サムライはポケモンバトルをしろと言ってくる。トレーナーならば目と目が合えばポケモンバトル開始の合図やと言うので俺もモンスターボールを取り出す。

 

「使用ポケモンは2体のシングルバトル、交代はありや」

 

「その勝負、異論は無いでござる!ゆくがいい、カイロス!」

 

「カィカィ」

 

「見た目通りやな……ほな、初陣や!ヒトカゲ」

 

「むむ……やはりヒトカゲを持っていたでござるか」

 

 既にシゲルと名もなきモブに倒されていたサムライ。

 俺がヒトカゲを出したとしても大した驚きは見せない、焦りもしない。カイロス相手にヒトカゲは圧倒的なまでに不利……

 

「先手必勝!【ハサミギロチン】でござる!!」

 

「おまっ、容赦無いな!ヒトカゲ、カイロスの足元に【ひのこ】や」

 

 初っ端から一撃必殺を狙ってきたカイロス。

 頭のハサミで【ハサミギロチン】を使ってくるのならば突撃することだけは分かるとカイロスの足目掛けて【ひのこ】を放てばカイロスは突撃することをやめる。

 

「流石はマサラタウンのトレーナーのヒトカゲ、一筋縄ではいかないでござるな」

 

「開幕【ハサミギロチン】で倒されるわけにはいかんやろうが…………」

 

【ひのこ】が命中して苦しむカイロス。ゲームやったら確実に仕留めることが出来たけれども、流石はアニポケの世界なのか割と平然と耐えとる。

 カイロスとヒトカゲのレベルは同等と言ったところやろう……【ハサミギロチン】はもとよりあのハサミは普通に危険や。オーキド博士から貰ったヒトカゲはキョダイマックス個体かどうか分からへん。せやからメガシンカ型に、強い筈やのになにかと不遇な扱いを受け取る特殊型のメガリザードンY軸に育成するつもりや。

 

「……ヒトカゲ【ひのこ】乱れ打ちや」

 

【かえんほうしゃ】の1つでも覚えてくれとるならば、それで焼き払うのが1番の手やけどもそれが出来へん。

 今あるカードをどう上手く使うかが重要やからと先ずはと【ひのこ】を乱れ打ちし突撃することが出来ない事を悟らせる。【ひのこ】が邪魔してるから地上からの突撃は出来へん。メガシンカすればカイロスは飛べるようにはなるけど、流石にメガストーンは持っとらん。

 

「グヌヌ……一気に駆け抜けろカイロス!」

 

「一直線のストレートは嫌いやないけど、愚直すぎるのもどうかと思うで……けど、それを待っとった。ヒトカゲ【りゅうのいかり】」

 

 この手のタイプは精神論で行くところが多い。

 精神論で行くんやったらば真っ直ぐに進んで最短で倒す道を歩んでくるのが可能性としては最も大きいと突撃してくるカイロス向かって隠し玉として取っといた【りゅうのいかり】をカイロスに真正面で叩き込んで煙を上げた。

 

「カィ……」

 

「カイロスの負けや」

 

「っく……ならば拙者の奥の手!いけ、トランセル!」

 

「はぁ?舐めとんのか」

 

「フッフッフ、果たしてトランセルを舐めているのはどちらでござるかな?」

 

 カイロスに続いて出てきたのはトランセルや。

 虫ポケモンは進化してなんぼなポケモン、最終進化系のトランセルなんて恐れる理由は何処にもあらへん。

 

「トランセル【かたくなる】でござる……フッフッフ、さしもの貴様の硬くなって防御力を高めたトランセルは傷つけられない」

 

「ヒトカゲ【ひのこ】や。動かん的やから一点集中で徹底的にシバいたれ」

 

「な、なにぃ!?」

 

「いや、なにぃやないやろう。【ひのこ】は物理やのうて特殊攻撃、トランセルがどれだけ【かたくなる】を使っても意味無いやろ」

 

「そ、そうでござったのか!?」

 

 ポケモンバトルの基礎の基礎な部分を全くと言って知らなかったと言いたげなサムライ。

 こんなんポケモントレーナーやったら誰でも知ってること……やないやろうな。なんかポケモントレーナー志望の子ってなんかアホ多いイメージ、猪突猛進は嫌いやないんやけどそれだけで勝てるんやったらポケモンバトルはただの力比べや。

 

「耐えろ!耐えるでござる!」

 

「トランセルは蛹、蛹は成虫になってからが本番や……まだ未熟者が挑んでくる度胸は認めるが考えようによってはただの無謀で無能なトレーナーや」

 

「拙者は……拙者は無能ではない!今度こそマサラタウンのトレーナーに勝つと誓ったであろう!」

 

 サムライはトランセルに言葉をかける。

 トランセルは焼かれている中でもサムライの言葉を耳にしており、なにがなんでも勝利しなければならない……そんな思いがトランセルに伝わった。

 

「フリー!フリー!」

 

「やった!やったでござる!トランセルがバタフリーになったでござる!バタフリー【ねむりごな】」

 

「それぐらいは想定内……その未来は読めていた」

 

 トランセルは進化することが出来るポケモンや。進化の1つや2つで驚いてたらキリがあらへん。

 万が一、億が一トランセルがバタフリーに進化をするという線は決して消えへんのならば対策しいひんとアカン。バタフリーになってサムライは大喜びをしてヒトカゲに【ねむりごな】を浴びせにくるけど

 

「【ひのこ】で爆発させたれ」

 

【ねむりごな】を【ひのこ】で炙り粉塵爆発を起こす。

 爆発言うてもダメージを受けるレベルの爆発やない。軽く炎が点火するレベルの爆発やけども粉を出しているバタフリーの羽根に一瞬だけ炎が灯る。本人も驚いて粉を出すのを止める。

 

「【りゅうのいかり】や」

 

 その一瞬こそが狙い目や。分かりやすい隙を作ってくれてありがたいこっちゃ。

 大きな目に見える隙を作ったバタフリーに【りゅうのいかり】をぶつければバタフリーは落ちた。

 

「技の選択を間違えたな。【かぜおこし】はまだ対処出来るけども【ねんりき】やったらどないしょうもなかった……トランセルからバタフリーに進化したら覚えれる技が十倍以上の数に増える。進化して喜ぶ気持ちは分からんでもないけど、バタフリーになってからがホンマのスタートや」

 

「くっ……浮かれていた、バタフリーさえ居れば絶対に勝てると慢心してたでござる!」

 

「100年、いや、10回の人生分ぐらい甘いわ!コレさえあれば絶対に勝つことが出来るっちゅう仕組みはこの世には殆ど存在せえへん。ポケモンバトルでコレさえやっとけば確実に勝つことが出来る法則があるんやったら皆それやっとる筈や」

 

 コレさえやっとけば確実に勝つことが出来るなんてものは無いんや。

 それが無いんやったら皆試行錯誤を繰り返す。グーこそが最強、チョキこそが最強、パーこそが最強なんて考えもあるけれども、最も強い優れているだけであって絶対やない。無敵でも無敗でもないんや。

 

「バタフリーになってから本番でござるか…………一人前のポケモントレーナーの道は険しいな」

 

「なにを持ってして一人前かどうか分からへんけどな……ところで何処かにお前以外にポケモントレーナーおらんのか?実戦経験を積み上げたいんやけども」

 

「トキワの森は広大でござるからな……ニビシティかトキワシティに行ってポケモンセンターにいるトレーナーを相手にしてた方がなにかと効率がいいでござるよ」

 

「そうか……」

 

 トキワの森には基本的には【むし】タイプのポケモンの生息地や。

 そこにいるトレーナーの多くは虫取り少年の場合が多い。ジムチャレンジの都合上でヒトカゲがジム戦で活躍する事が出来るのはジム巡り後半から、それまでは他のポケモンが活躍する形になるからどうしてもヒトカゲの経験値が浅くなる。ジムリーダーと言う強者を喰らわないと、金星を勝ち取らないと出来ひん成長も存在しとる……

 

「お前には苦労かけるな……」

 

「カゲ?」

 

 ゲームに出てこないアニメオリジナルのジムも存在しとる。

 それにも出来たら挑みたいけどカントーをグルリと一周するにはニビからトキワジムをグルリと一周しとかなアカン……カントー全部やないけれどもカントー一周はな。ヒトカゲには申し訳ないと頭を撫でる。ヒトカゲはなんのことかよく分かっとらん……まぁ、近い内に意味を理解してくれるやろう。

 

「この道を真っ直ぐに行けばニビシティに着くでござるよ」

 

「おー、あんがとうな……お前はどうするん?」

 

「この森で修業を続けるでござる。お主の言うとおり、バタフリーになってからが本番でござった。ここでバタフリーを完璧に使いこなせるように鍛え上げるでござるよ」

 

「ポケモンリーグには?」

 

「勿論、出場するでござるよ……お主の健闘を祈ってるでござる!」

 

「ハッハッハッハ……ま、期待しといてくれや……」

 

 サムライにニビシティに続く道を教えてもらう。真っ直ぐに行けばニビシティに辿り着くらしいからそれを信じて突き進むしかない。

 やっぱアレやな、野生のポケモンを狩ることが出来へんのはキツいな。野生のポケモンを倒せば確実な経験値になる筈やけどもそれやったら虐待に等しい行為やからな。

 

「流石にスピアーの巣を突くのはな…………」

 

 技の特訓をしつつニビシティを目指した。



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宿命の対決 天帝vs童子切 7

 

「スピアー【ミサイルばり】だ!」

 

「ヒトカゲ、尻を注意せい!上から振ってくるからバックステップで回避や」

 

 トキワの森を抜けるのに3日掛かるとは思いもせんかったけど、なんとかニビシティに辿り着いた。

 ニビジムがあるので挑戦したいけども、なんの作戦も無ければ自慢出来る武器らしい武器を今の俺には無い。ニビジムは【いわ】タイプのジムで使用してええポケモンは2体のシングルバトルでヒトカゲの出番は暫く無いからヒトカゲにはトレーナー戦を頑張ってもらう。

 

 現在、ニビシティのポケモンセンターに隣接してるバトルフィールドでポケモンバトルをしている。

 トキワの森に虫ポケモン目当てでやって来てゲットする事に成功したんやと自慢気にスピアーを出してくる。虫ポケモンは直ぐに進化してくれるけども総合的な種族値は低くて倒しやすいポケモン、更に言えば倒すことで得られる経験値が物凄く大きい。

 

「ヒトカゲ、距離を常に開いとけや。無理に攻めんなよ」

 

 俺はメガリザードンYを目指してヒトカゲを鍛えとる。

 ヒトカゲには距離を開いて攻撃を放つ中距離以上の戦闘をしてもらっており、ヒトカゲは従順に言うことを聞いてくれる。ここで自分は前線に出てバリッバリに戦いたいと言ってきたらアカンからな……

 

「くそ、チマチマしやがって。男ならもっと真正面からぶつかって来いよ!」

 

「アホ、存在している手札で色々なコンボを作ってぶつけるのが戦術や。ただ真正面からぶつかるだけがポケモンバトルちゃう」

 

 相手のトレーナーは俺がヒトカゲに攻撃を回避させては【ひのこ】を当てるだけの戦法に苛立っている。

 攻撃の回避がなにが悪い、確かに一撃くらってもそれでもぶっ倒すって言うやり方もこの世には存在しとるが俺の目指しとるリザードンは近距離アタッカーやなくて特殊アタッカー、メガリザードンYや。

 

 チマチマとしたやり方に怒りを覚えるかもしれんが、それやったら自分の手を変えればええだけや。

 相手が猫騙しやら八艘飛びやら使って来ようが問題無い、自分の絶対的な勝利を齎す王道の型に持っていくポケモンバトルが出来とらん二流の証や。

 

「ヒトカゲ【えんまく】や。煙の中には入るなや」

 

 まだまだ撹乱は続ける。

【えんまく】を吐いてもらって煙がスピアーを包むのでヒトカゲは煙の外に居る。フィールド内は風が吹いておらんから煙は空気の流れに従う筈やけども僅かにおかしな動きをしており徐々に徐々におかしな動きをしている煙は増えていった。

 

「おかしな動きをしとるとこに【ひのこ】や」

 

 スピアーは翼で飛んで動くポケモン。

 前進しようが後退しようが羽根を動かさなあかんから煙が不自然に大きく動く。周りはどうしてスピアーが出る位置が分かったのかと驚いとるみたいやけども、この程度の技術やったら学べば会得する事が出来るわ。

 

『スピ……』

 

「スピアー!?」

 

「終わりやな……ほら、負けたんやからとっととジョーイさんにポケモン預けて来いや!まだまだ後がつかえてるんやからな!」

 

 煙から出たところを【ひのこ】をぶつけスピアーは地に落ちた。

 もう立つことが出来ひんもんやと判断したのでバトルフィールドから出て行かせて、次の挑戦者を待つ。勝った奴が次のトレーナーとバトルをする事が出来る申し合い稽古でバトルすることが出来る

 

『カゲ……』

 

「お〜……安心せえ、10連勝したからこれ以上は負荷はかけへんで」

 

 10連勝して次に誰が掛かってくるのかと待ち構えればヒトカゲが疲れたとアピールをする。

 10戦10勝とちゃんとした成果と数字を叩き出してくれた。ヒトカゲを重点的に鍛えなあかんのは分かるけれども、あんまり無茶させすぎたらあかん。ここぞと言う時は負荷を掛けまくるけれども何事も程良くが大事でヒトカゲは怒涛の10連戦に疲れたと俺の元にまで近寄ってくる。

 

「ヒトカゲ、ちゃんと見ておくんやぞ」

 

 これ以上はヒトカゲはバトルはさせない……させないけれども見物はしてもらう。

 休む事が出来るだけでヒトカゲはそれで良いのだと俺の足元に座るので俺はモンスターボールを取り出す

 

「いけ、コイキング!」

 

『ココココ!』

 

「さぁ、11人目は何処のどいつや!」

 

「コイキング?」

 

「なんだコイキングか」

 

「どんなスゴいポケモン出してくるかって思ったけども、コイキングなら」

 

 俺のヒトカゲが物凄く強いと萎縮してた連中は2番手に出したコイキングを見て花で笑う。

 コイキングといえばポケモンの世界で最弱なポケモンやと言われとる。実際問題俺でもワンパンチで倒せるぐらいには弱いけれども、周りは物凄くナメとる。

 

「俺が相手だ!ゆけ、イシツブテ!」

 

『ラッシャイ』

 

「ほぉ、おつきみやま方面から来たんやな」

 

「そうだ!」

 

 コイキングならば俺に勝つことが出来ると思ったのか萎縮してた連中は挑んでくる。

 イシツブテを出してきたのでおつきみやま方面から来たのだと思っていると相手のトレーナーは笑みを浮かび上げる。

 

「お前の事だ【たいあたり】を覚えさせてるんだろ!だったらイシツブテ【まるくなる】だ!」

 

「コイキング【たいあたり】や」

 

 意外に知識を持ってたみたいでコイキングが【たいあたり】を覚えることを知っていた。

 それを対策してか【まるくなる】を使って物理防御力をイシツブテは高めるけど俺は気にせずに【たいあたり】を使って攻撃するがイシツブテは全くと言ってダメージを受けていない。

 

「さっきのヒトカゲならまだ勝機があったが、コイキングなんかに負けない!イシツブテ【たいあたり】だ」

 

「俺がなんも考えてへんと思ったら大間違いや、コイキング【ハイドロポンプ】」

 

「なに!?」

 

 コイキングは【ハイドロポンプ】を撃った。

 イシツブテは真正面から激流を浴びてフィールドの端に吹き飛ばされ、コイキングはイシツブテを倒した。

 

「俺がコイキングに【たいあたり】を使わせたんはイシツブテのとくせいを潰す為や」

 

「っ、【がんじょう】……」

 

 流石にイシツブテのトレーナーやからイシツブテのとくせいを理解しとるみたいやな。

 イシツブテの主なとくせいはどんな攻撃でも絶対に一回は耐えるから先ずはと【たいあたり】でほんの少しだけダメージを与えた。そうすることで【ハイドロポンプ】で確実に倒すことが出来るようにする……第5世代以降の【がんじょう】は物凄い強いとくせい、複数回行う攻撃以外ならば1回は絶対に耐える事が出来るから、BWでは少しだけ苦戦した記憶があるわ。

 

「ただのコイキングやと思ったら大間違いや……」

 

 その後もコイキングに10回戦わせて10連勝させる。

 コイキングはまだまだ戦えると言いたげだったが、他のポケモンにも実戦経験を積ませなアカンからなコイキングはボールに戻してマンキーで挑み、マンキーも10戦して10連勝する。全戦全勝と実に快勝ないい感じに波に乗ることが出来とる。

 

「そろそろいくか」

 

 この勝ち癖をキープし続けていい感じにポケモン達も鍛えられとる。

 ポケモン達はまだ進化しとらんけども順調に色々な技を覚えとるから成長はしとる……この世界、レベルの上限の概念が存在せえへんから鍛えれるならばとことん鍛え上げる事が出来る世界やから努力値と個体値はあんまり気にせんくてええ……種族値ととくせいは気にするけども。

 

「すんませーん!ジムに挑みに来ましたぁ!」

 

 なにはともあれ絶好調なのは事実やからそろそろ行くかとニビジムに向かった。

 ニビジムのドアを開ければ辺りは暗くてホンマにニビジムに来たんかと思ったけどもスポットライトが光ってタケシが姿を現す。

 

「ほぅ、挑戦者か」

 

「マサラタウンのリンドウや……ニビジムのジムリーダーのタケシに公式戦のジムバトルを申し込む!」

 

「使用ポケモンは2体のシングルバトル、交代はチャレンジャーであるお前のみ。それがニビジムのルールだ」

 

「ちゃんとポケモン用意してきますわ……金星貰うで」

 

「ふっ、威勢だけでないのならば」

 

 タケシはそう言えば指パッチンをしたら両サイドから岩が多く存在しているバトルフィールドが出てきた。

 こういうのって普通はせり上がってくるシステムちゃうんか?と疑問に思ったけどもまぁ、そこはジム次第やからしゃあない。

 バトルフィールドが展開されてトレーナーが立つ場所に立ったのでタケシはモンスターボールを取り出す。

 

「ジムリーダーと一般トレーナーの違いを思い知るがいい!ゆけ、イシツブテ!」

 

『ラッシャイ!』

 

「情報通り【いわ】タイプのエキスパートか……ほんなら先ずはセオリー通りにいかせてもらいますわ。いけ、コイキング!」

 

「なに!?」

 

「ハッハッハ…………」

 

「岩のフィールドでコイキング……イシツブテ【まるくなる】だ!」

 

「コイキング【たいあたり】」

 

 情報だけ見ればコイキングが有利に見えるけど、コイキングとはどういう事だと言いたげな雰囲気を身に纏うタケシ。

 

「コイキングはポケモンの中で最弱と言われるポケモンで、水の無いところでは全くの役立たず……馬鹿にしているのか?」

 

「なら聞きますけど今現在コイキングの進化系であるギャラドスを用いて戦っとるトレーナーはギャラドスをゲットしたか?それともコイキングをゲットしたんか?どっちなんや?」

 

「……これは失礼した」

 

 コイキングだからと見下していた事を詫びるタケシ。

 分かってくれればそれでええと思っていると審判を務めてくれる機械が出現する。

 

「ニビジムは審判を機械に任せている」

 

「そっちの方がありがたい……」

 

 審判がバトルスタートの合図を告げた。

 

「コイキング【たいあたり】」

 

「流石に攻撃する事が出来る技は覚えているか、イシツブテ【まるくなる】」

 

 コイキングは【たいあたり】で攻撃するけれどもイシツブテが【まるくなる】で攻撃を完璧に受け切る。

 公式戦中はポケモン図鑑を開くのが禁止なルールやし、昨日と同じ戦術……はアカンな。

 

「戻れ、コイキング」

 

 とりあえずのミッションは果たせた。たった1でもダメージを与えることさえ出来れば【がんじょう】のイシツブテは確実に潰せる。

 コイキングをボールに戻した後にマンキーを出した。

 

「どうやらニビジムの対策はして来ているみたいだな」

 

「なんの考えもなしに挑むほどにアホや無いですって……勝つ算段あっての勝負、と言ってもジムリーダーが格上なのも事実。マンキー【ビルドアップ】や!」

 

 タケシはマンキーを見てニビジムの対策はちゃんとしてきている事を感心する。

 ここで普通のトレーナーやったら攻撃しにいくやろうけども俺はちゃんと覚えとる。タケシはコイキングの【たいあたり】を耐える為に【まるくなる】を使った。物理防御を1段階上昇させている。

 

「イシツブテ【すてみタックル】だ!」

 

「そっちかいな。マンキー、避けろ!」

 

 どうやら読みがハズレとったみたいや。

 タケシのイシツブテは【がんじょう】やなくて【いしあたま】の個体やったか……普通は【がんじょう】の個体やけども、そこを気にしてへん。思えばガチ勢のシンジですらとくせいをそんなに気にしとらんかったな。

 

「マンキー、後5回【ビルドアップ】や」

 

「そう来るならば【まるくなる】だ!」

 

「……やっぱ一筋縄じゃいかんか」

 

 マンキーが攻撃をする事をせずにとにかく積ませる。

 後の事を考えれば【ビルドアップ】はめちゃくちゃ大事な選択や……コレが仮に普通のトレーナーやったら殴りに行くけども対抗して【まるくなる】を使ってくるとは伊達にジムリーダーをやっとらんな。マンキーは【ビルドアップ】で攻撃力と防御力を、イシツブテは【まるくなる】で防御力を最大限にまで高める。

 

「6回使ったからそろそろいくか」

 

「そうはさせん!【すてみタックル】」

 

「迎え撃て!【からてチョップ】や!」

 

 互いに攻撃を指示する。

 イシツブテは一直線にマンキーに向かって突撃してくるのでマンキーは【からてチョップ】を叩き込んだ、がマンキーはフィールドの端に吹き飛ばされた。技の威力ではイシツブテの方が上やけどもタケシの奴は重要な事に気付いとらん

 

『キキ!』

 

「全く効いてないのか!?」

 

「【ビルドアップ】は攻撃力だけやのうて防御力も上げる技や!対する【まるくなる】は防御力しか上げへん!今のマンキーは攻撃力と防御力は最大限にまで高められとって素の素早さもイシツブテの方が上、イシツブテも最大限にまで防御力が高められとるけどもマンキーも攻撃力は最大限にまで高められとってチャラや!更にマンキーはイシツブテの【すてみタックル】を耐えきる防御力も持っとる!【からてチョップ】や」

 

「っく、イシツブテ【すてみタックル】だ!」

 

 マンキーに対する有効打を持っていないイシツブテ。

【すてみタックル】で突撃してくるのでタイミングを合わせてマンキーは【からてチョップ】を叩き込んで突き飛ばされるがマンキーはケロッとした顔で起き上がり直ぐにイシツブテに【からてチョップ】を叩き込んだ。

 

「イシツブテ、戦闘不能」

 

「戻れ、イシツブテ…………この時期からして新米トレーナーだろうが、中々にやるな」

 

「対策の1つや2つしてきた……って言うけどもまだまだや」

 

【いわ】タイプのポケモンは高確率で物理防御の種族値が高くて、物理防御が高い。

 ちゃんと戦うんやったら物理アタッカーやのうて特殊アタッカーで攻めるのが1番ええ……ただ今の俺はコレが限界や。【がんじょう】じゃないイシツブテを一撃で倒せる方法は知っとるけどもそれが実行出来なかった。マンキーは何回か【からてチョップ】を叩き込まなイシツブテを倒すことが出来なかった……まだ満足したらアカンな。

 

「コイツはイシツブテよりも頑丈だ!いけ、イワーク!」

 

『イワァアア』

 

「さて……」

 

 極限まで【ビルドアップ】使い続けた以上はマンキーを戻すのは愚策や。

 タケシはマンキーさえ倒すことが出来れば勝つことが出来るとイメージしている。イワークは特殊技を覚えるけども、そこまでや。進化方法はメタルコートを持たせての通信進化やから突如としたパワーアップな展開も無い。

 

「イワーク【あなをほる】」

 

「…………マンキー、穴に飛び込むんや!」

 

「なに!?」

 

「走り続けろ!イワークの尻尾を捕まえるんや!」

 

【あなをほる】で地面に潜ったイワーク。

 マンキーは右見て左見て俺の指示を待ってるから俺はここは大胆に行こうとマンキーに穴に飛び込ませて地中に向かったイワークを追いかける。

 

「マンキーは覚えようと思えば【あなをほる】を覚える事が出来るポケモンや……どないしますか?」

 

「穴を追い掛けるとは前代未聞な手を使って」

 

「そうやろか?【あなをほる】の穴に向かって【かえんほうしゃ】や【ハイドロポンプ】なんて普通は考えますよ」

 

 ゲームと違って【あなをほる】中は色々と出来る。

【あなをほる】で地面に潜っとるんやったら、追いかけることも出来るんやとマンキーはとにかく追いかけてくれて……イワークが地面から飛び出た。尻尾の部分にはマンキーがおった。

 

「よおやった、マンキー!」

 

「近接攻撃を想定していないと思ったら大間違いだ!!イワーク【しめつける】攻撃!」

 

 マンキーは尻尾を掴んでいたけども、それを逆に利用してくるイワーク。

 イワークはマンキーを【しめつける】

 

「【からてチョップ】は動かなければ使えない技だ、コレで身動きも取れないだろう!」

 

「それを想定してへんと思ったら大間違いや!!マンキー、その状態で【れいとうパンチ】出来れば殴ってほしいけども冷気を纏った拳を当てるだけでええ!」

 

「まだ手があるのか!?」

 

 完全に動きを封じる事に成功したと確信したタケシやけどもお前の【しめつける】はゲームではそこそこ苦しめられたわ!

【しめつける】は文字通り長い胴体で締め付けてくる接触系の技でマンキーの手を封じるのに成功しとると思ったら大間違いや!

 マンキーは両手の拳に冷気を纏わせたのかイワークは苦しそうな表情を浮かびあげて苦しんで【しめつける】を緩めたのでマンキーは脱出した。

 

「【からてチョップ】や!」

 

 頭に登って【からてチョップ】を叩き込む。

 一応はビルドアップで最大限にまで物理攻撃力が高められとる。イワークは物理攻撃の種族値はゴミやけども物理防御の種族値はトップレベル……伊達にジムリーダーのポケモンはやっとらんが、もうすぐやな。

 

「戻れ、マンキー。いけ、コイキング!」

 

「なに?」

 

「もうすぐぶっ倒せる範囲内やからな、コイキングにも経験値を蓄えさせんとアカンわ」

 

「…………」

 

「言うとくけども、コイキングでもイワークに勝つことが出来る自信はある。なんやったらコイキング負けたら負けでもええで」

 

「ジムリーダーは妥協しない!イワーク【しめつける】だ!」

 

「それを待っとったんや!コイキング【ハイドロポンプ】」

 

 俺の軽い挑発に乗ってくれて【しめつける】で攻撃してくる。

【あなをほる】とかでも良かったけども向こう側から攻撃してくれるのは、近付いてくれるのはありがたいこと。イワークはコイキングを【しめつける】けどもコイキングとイワークは密接に繋がったので【ハイドロポンプ】をぶつけるとイワークは倒れた。

 

「イワーク、戦闘不能!コイキングの勝ち、よって勝者チャレンジャー!」

 

「ふぅ……最初から最後までやられたよ、完敗だ!」

 

「なんとか最後までいけてよかっ、お!」

 

「コレは、進化の光!」

 

 色々と技を覚えていて群れのリーダーな俺のコイキング。

 連戦連勝でジムリーダーのポケモンを倒すことに成功したからか眩い光に身を包んでコイキングはギャラドスに進化した

 

『ゴォオオオオオオ!!』

 

「ギャラドスになった……はっ!」

 

「ギャラドス…………分かっとると思うが……暴れるなや?

 

『ゴッ……ゴォォォ……』

 

 遂に進化をする事が出来たのだとギャラドスは吠える。

 ポケモンは進化をすれば180度ガラッと性格が変わるパターンが多い。コイキングはギャラドスに進化を果たした事で気が大きくなっとるみたいで暴れまくる可能性も大きく、トレーナーに歯向かう可能性もあるから念には念をとほんのちょっとだけ威圧すればギャラドスは頭を垂れる。

 

「暴れる場所はちゃんと与えるけどもそれ以外は理知的にはなれ……ただ単に暴れるだけのライオンになるな……」

 

『ゴォ……』

 

「ぎゃ、ギャラドスの逆鱗を撫でている…………凄まじい才気だな」

 

「……こんなもんで自惚れてたらアカンわ……」

 

「コレがニビジムを制した証、グレーバッジだ……次は何処のジムを目指すんだ?」

 

「おつきみやまを越えてハナダジムを目指す……けどまぁ、今の段階でハナダジムに挑んでもロクな未来が待ち構えてないから戦力強化の為に無人発電所ってところですね」

 

「……最初は豪快な体育会系の新米トレーナーかと思ったが、基礎がしっかりとしているな。ポケモンリーグを期待してるよ」

 

 グレーバッジを頂いてコイキングはギャラドスに進化した。

 圧倒的なまでに儲けた……自分が殴り合わない玩具販売促進アニメの世界やけども、めちゃくちゃ楽しい世界やと実感する……コレで赤司と言うライバルがおるんやから最高やわ。



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黄色のアメフト 1

 

「優勝は逢魔中学!!」

 

「…………」

 

 俺の名前は黄瀬諒太、転生者ッス。

 ただの転生者じゃないっスよ、地獄で転生者になる為に修行をした実力派エリートを名乗るに相応しい転生者ッス。

 

「勝った勝ったぞ!3年連続でうちが優勝した!!」

 

「いや〜どうもどうも……」

 

 見た目は黒子のバスケの黄瀬、中身もそれっぽい、出来ることもそれ。

 実は転生は1度目じゃない、2度目の転生で1つ前にラブライブの世界に転生してたんスけどね……まさか地獄の転生者運営サイドがキセキの世代になる転生者を揃えてるとは思いもしなかった。先輩転生者である赤司っち、青峰っち、1個上の先輩である虹村さん、大先輩である黛さん、そして新米の俺、紫原っち、緑間っちの7人が居て原作そっちのけ、皆が皆、ラブライブよりもアイマス派だからって原作ガン無視で日本をバスケ王国化計画を企てて、日本をバスケ王国に、世界一を決めるワールドカップやオリンピックで金メダルを、特に東京オリンピックで金メダルを取った時は世間からヒーローの扱いをされて楽しかったッス。

 

「3年間無敗を貫き最初から最後までスタメンのキャプテンの黄瀬選手!今のお気持ちを」

 

「あ〜……ハッキリと言っていいスか?」

 

「はい、是非とも」

 

「もう、飽きた」

 

「……え!?」

 

 記念撮影を行えばバスケ雑誌の記者が俺を取材してくれる。

 今の気持ちを現して欲しいと言うのならば、飽きたとしか言いようがない。だって、そうだよ。

 

「3年連続でトリプルスコアは無いっすわ」

 

 全国大会の決勝戦、今年も去年も一昨年もトリプルスコアで終わった。

 対戦相手の中学は世代交代が起きてもバスケが強い中学校として有名な学校だった。だけど、俺には敵わなかった。俺を5ファールで退場を狙ってたけども逆に相手の技を真似て相手のプライドとか努力してきた時間を全て無駄にしてやった。

 

 前の世界では赤司っち達が居てくれた。赤司っちがラブライブなんて物凄くどうでもいい、日本をバスケ王国に変えるのだと高校バスケの世界を地獄に変えた。高校バスケの世界で天下を取った。全国大会の決勝戦でバスケの強豪校にキセキの世代の面々が全力を出して150点以上を取っただけでなく0点で終わらせると言う地獄を作り上げた。それだけじゃない天皇杯で優勝を果たした。

 

「こう、張り合いってものがないんすよ……俺をファールで退場させて勝とうって魂胆、悪いとは言わないけども純粋な実力で勝つことが出来ないのかって…………3年間地道にコツコツとやってきて頂きに登ったけど、つまんなかった。高校に上がっても1年生の頃に倒した経験がある奴と戦うだけで物凄くつまんない。俺を高めてくれる仲間は居ないし、俺は全力を出すことが出来なかった」

 

「それは、つまり手加減をしていたと?」

 

「本気でやってたッスよ……ただ、コイツには負けたくない。絶対に勝ちたいって思えるような相手が何処にも居なかった……チームの皆には悪いッスけど、俺は2年の全中から、キャプテンを指名されてからずっと退屈だった。新星が来るのか、それとも意地を見せてくれるのか……そう期待を寄せていた俺が馬鹿みたいだって言えるぐらいには退屈で退屈で仕方がなかった」

 

 スポーツをする上で大事なのは勝つことと楽しむこと。真剣勝負の上で楽しむことが出来る奴ほどスポーツに向いている人は居ない。

 俺は真剣勝負をした上で勝利を求めているけれども、右を見ても左を見ても退屈で退屈で仕方がなかった。念には念を入れてと必死になって積み上げて努力してこの世界でも使うことが出来るようになった最強の奥義を結局1回も使わずじまいだった。

 

「俺はもうバスケはやめます……次に部長にする子も決めてるし、スター選手が居なくてもちゃんとやれば勝つことが出来るのだと証明する事が出来たんで俺は今日限りで本気の全力のバスケは辞めるっす」

 

「え、っちょ」

 

「スポーツは真剣勝負を楽しんでナンボ、バチバチやり合ってなんぼ、こんなに張り合いのない退屈は存在してない……これ、ちゃんと記事にしてくださいね。明日からバスケの強豪校がスカウトに来る可能性高いんですから、全国誌でビシッと断っておきたいッス」

 

 圧倒的なまでの天才と言われている俺を失うのはバスケ界の痛手かもしれないけど、ここまで退屈だとは思いもしなかった。

 嘘にならない練習をコツコツと積み上げたし、情報収集して相手の対策とか技とかを真似たりした。けど、張り合いのなかった。俺だけ特別メニューで特訓すれば生意気な奴とか思われるしマジでつまらなかった。

 

 バスケの取材記者はなにを言っているのか分かってない顔をしていた。

 けど、これはずっと前から決めていた事。日本人は中学生から体格がハッキリとしてくる。そんな中で1年生の頃から俺は試合に出場していて体格が出来上がっている3年生をコテンパンにしてやった。そこから死ぬ気の研鑽を積んだりして基礎能力を上げてるみたいだけど、底が知れてる。

 

 3年連続でMVPとベスト5に入った。

 けど、退屈だった…………赤司っちが日本をバスケ王国に変える計画を企てて高校バスケの世界を地獄に切り替えてた頃がホントに懐かしい。

 あの頃は蹂躙する、無双するだけだったけど楽しかった。奇跡の世代と呼ばれる面々と死ぬ気になって切磋琢磨と鍛え上げていた。天才を鍛え上げるには天才しか存在してないって言うのが嫌になるぐらい分かったッス。

 

 雑誌記者にはハッキリともうバスケは遊びでしかしないと言った。言った以上は遊びでしかしない。

 閉会式を終えてメダルとMVPの表彰状を受ける。学校に帰れば次のキャプテンを選出して直ぐに退部届を出した。

 当然と言うべきか、この事はバスケ界隈で話題になった。中学バスケの至宝がバスケが退屈だから辞めると言い出したのだから、誰だって驚く。

 1人のバスケ好きとしてバスケを愛する者としてバスケを続けてほしいという意見は出た。高校の部活じゃない、プロ傘下のユースチームがやってきて学校は適当でいいからウチのチームに参加してくれないか?そう言ってきたからものは試しにとそのチームのスター選手と勝負をしたけど結果は圧勝…………再現をする事は出来ても模倣する事は出来ない本物の天才達とバチバチにやりあったせいもあってか燃え尽き症候群に近い感じになってる。けど、後悔はしない。これ以上バスケを続けていれば作業ゲーになってしまってなにも思わなくなってしまうから。

 

 バスケはもう飽きたとも言えるぐらいにはなっていた。

 勝ったり負けたりを繰り返すプロの世界でバチバチにやりあうのがホントに楽しいのに、つまらない。

 けど、後悔はしてない。自分が好きなものが嫌いなものに変わるのだけはあってはならない事だから……好きなものを趣味にしても仕事にするなって言葉が身に沁みる。

 

「いや〜…………どうしようか」

 

 見事に引退して、バスケの世界から足を洗った。けど、スポーツをしたり体を動かしたりする事が嫌いってわけじゃない。

 だからまぁ、今後の事を考える……野球は無いっすね。坊主頭にしなくちゃいけない規則ありとか普通に嫌だし、基本的にはピッチャーしか活躍しないし周りを頼れない。俺だったら全打席ホームランの選手も出来るけど、それだけやっても勝つことが出来ないスポーツに今のところ興味は抱かない。サッカー、バレー、テニス…………いや、違うな。

 

「アイシールド21、か……」

 

 俺がラブライブの次に転生した世界はアイシールド21の世界だ。

 世代が1つだけ違うッスけど原作はちゃんと知ってるッス。けど、アメフトに対して興味を抱いてるのかと聞かれれば答えづらい。スポーツである以上は熱いものがある世界であることには変わりはなさそうなんですけどね。

 行きたい学校も無い。今すぐに熱中することが出来るスポーツも無い。だったらと主人公が所属している泥門高校に通う……幸いにも大して勉強しなくても入学することが出来る高校というか某Hさんが全員合格する事が出来る様になってるッス。

 

「俺、黄瀬諒太よろしくっす!」

 

 そんなこんなで泥門高校に入学したっす。

 主人公である小早川瀬那くんとは違うクラスになったけども、そんなのは気にしないでおく。後ろの席の生徒に軽く挨拶をする

 

フゴッ(俺は小結大吉、よろしくな)!」

 

「よろしくっす…………小結くんは部活動とかするんすか?それとも部活動に集中しちゃう系?」

 

悩む(親父譲りの力を使える部活に憧れるが悩む)なにかしたい(男ならばなにかを成し遂げたい)

 

 やっぱそうっすよね、この青春時代を一気に謳歌したい。同じクラスで後ろの席になった小結くんと楽しくしたいと軽く挨拶を交わす。

 バスケはもうやらない。遊び程度でならするけども、本格的にはもうやらないと決意をしてる。

 

「黄瀬諒太ッス!中学ではバスケをやってたけど、高校では他の部活動をやろうかなって考えてます」

 

 そんなこんなで自己紹介がはじまる。と言っても軽い自己紹介だけなので深くは言及しない。

 小結くんも普通に挨拶をするけれどもパワフル語なので一部の生徒には通じないと思ってたら担任が体育教師だったので、なにを言っているのか理解してくれた。

 

「さて、部活巡りでもいきますか」

 

 泥門はなにかスゴい部活がある学校じゃないけども、もしかしたら俺が知らないだけでスゴい部活動があるかもしれない。

 野球部、サッカー部、バレー部、水泳部と色々と見て回るけれどもイマイチピンと来ない。体験入部が出来るとか言っているとこもある。

 

「ちょっと借りるッスよ」

 

 一応は野球部にも行ってみる。

 硬式の野球ボールを握る。野球の花形であるピッチャーを体験させ、それを二年生が打つという至ってシンプルなルール。

 周りはイケメンがやってきたとワーキャー言うけどもそんなのは関係無い、俺の記憶と体が覚えている投球フォームでボールを投げた。

 

「ぬぅおぁ!?」

 

「ちょっとちょっと、こんな素人の投球ぐらいキャッチしてくださいよ」

 

「い、いや、今のって」

 

 う〜ん、ダメっすね。

 本格的に野球をやってないからフォームを模倣する事は出来ても自分の中で効率の良い形に変える事が出来てない。

 時速的に140km以上は出てるっぽいけど、肝心のキャッチャーがキャッチする事が出来ていない……普通の楽しむ硬式の野球部なんだから無茶を言ったらダメか。野球部に入部してくれって言う部員が居たけども、俺の興味は野球部に向いてない。普通に練習も何もせずにストレートを投げて時速140kmぐらいを叩き出す事が出来てるんだから、興味が沸かないッスよ。

 

「え〜っと、この辺…………アレか?」

 

「ああん、うちになんか用か?」

 

 色々と見て回り、最後に辿り着いたのは学校の端っこにある物置小屋とも言える様な場所。

 なんか極々当たり前の様に銃を持った人が出てきてるけども、ツッコミ待ち……いや、外国でアイシールド21が放送出来ない1番の理由が目の前にあるっすよね。

 

「この学校、アメフト部があるって聞いたんすよ。アメフトってどんなものなのか見て面白そうだったらやってみようかなって」

 

「ほぉ~……テメエ、タッパはあるな」

 

「189cmで四捨五入したら身長190cmッス!」

 

 日本人の平均身長よりも遥かに高い背丈。この体格もあってか一部の試合ではCをやらされていた事もあったっす。

 サムズアップで俺の身長を答えればケケケと笑う悪魔な男、アメフトのボールを取り出したと思えば投げてきたのでキャッチする。

 

「いきなりッスね……もしかして、入部テストかなにかすか?」

 

「テメエ、なんて名だ?」

 

「黄瀬諒太ッス…………ヒル魔妖一さんっスね!」

 

「ケケケケケ………………面白えのが来たじゃねえか」

 

「…………ヒル魔さん」

 

「なんだ糞イエロー?」

 

「アメフトは面白いッスか?…………俺、退屈なスポーツはやりたくないんスよ。自分が負けたのは自分が弱かったから、そう思えるような負け方ならばまだ大丈夫ッスけど、周りが酷くて負けるとかしょうもない理由で負けるのだけは嫌なんす」

 

 やると決めたからには真剣にやる。

 ただ問題は面白いか面白くないのか、面白い楽しい自分が気持ちいいと思えないのにスポーツをやるなんて出来ないッス。ヒル魔さんにその辺の事を聞いてみれば笑みを浮かびあげる。

 

「アメフトは面白えぜ……1%でも勝ち目があれば勝つことが出来るスポーツだからな!」

 

 1%でも可能性があるのならば潰す。

 

 嘗て俺達を率いたリーダーである赤司っちはそう言って可能性と呼べるものは残さず摘み取ると言っていた。

 1%でも負けるのならばそれはありえる事だと考えを持っており、時には未来を想像すらもする。まぁ、想像力は天王寺の旦那の方がスゴいんすけども。ヒル魔さんはアメフトは面白いと主張するので俺はその言葉を信じる。

 

「ルールは詳しく知らないッスけども基本的にはなんでも出来るんでよろしくお願いします!」

 

「おう……じゃあ、早速道具一式買ってこい」

 

「了解ッス!」

 

 ヒル魔さんは俺の入部を認めてくれる。

 俺の体格だと道具一式は中々に揃わないとか個別で発注しておかなきゃならないとかで、指定された店に行ってこいとヒル魔さんからメモを受け取り、道具一式を買いに行った。アメフトのスパイクとグローブは個人持ち、自分にピッタリのいい感じのシューズはないのかとその日は終わりを告げた。



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黄色のアメフト 2

 

「お疲れ様でーすっと」

 

「ムー!ムー!」

 

「あ〜……大丈夫じゃなさそうッスね……」

 

 アメフトのシューズとグローブを購入した翌日、アメフト部に向かった。

 朝練が何時とか具体的なのを聞き忘れてたけども、まぁ、それよりもと思いつつアメフト部の部室のドアを開くと口を縛られている男の子が……主人公である小早川瀬那くんがいた。

 

「とりあえず、口だけは開くッスね」

 

「た、助けてぇえええ!!」

 

「どうしたんスか?ここに来たって事はアメフト部に入部希望って事っすよね?」

 

「そうだけど、違うぅうううう!!」

 

 なにがそうだけど違うんだろう。

 とりあえずアメフトの用具は揃っているので着替えてみる。俺の身長190cmもあるのにピッタリ合うサイズに仕上がってる。

 ご丁寧に背番号は4番、バスケをやってた頃にずっと背負ってた数字ッスね。

 

「よ〜糞イエロー、ちゃんと来たか」

 

「ほ、ホントに入部希望者!?」

 

「うぉ、縦にも横にもデカい…………はじめまして、黄瀬諒太ッス!」

 

 着替えを終えるとヒル魔さんと栗みたいな頭の人がやってきた。

 栗みたいな頭の人は縦にも横にも大きな体格をしておりとりあえずは握手を求めると両手で握手をしてくれるけどもこの人の怪力凄まじいッスね。

 

「わーい!部員が4人になったって、セナくん!?」

 

「く、栗田さぁああん!!」

 

「ケケケ、高速のランニングバック見つけてきたぜ!さぁ、セナくん入部届にサインをしようか!」

 

「ぼ、僕は選手じゃなくて主務希望なんですよ!!」

 

「だったら選手と主務の両方をやりやがれ!」

 

 なんかかなりのめちゃくちゃを言ってるッスね。

 とりあえずはとセナくんが縛られているロープから開放してみればヒル魔さんはセナくんにアメフトのユニフォーム一式を渡す。

 着替えろという意味でセナくんも嫌だと言うに言えない、ていうかなんで当たり前の様に銃を持ってるんスかね。アメリカの軍からパチって来たのは知ってるけど、ここ日本の敷地内ッスよね。

 

「小早川瀬那です……えっと」

 

「黄瀬諒太、1年生で気軽に黄瀬って呼んでくれっす」

 

「あ、じゃあ……黄瀬くんもヒル魔さんに拉致されて?」

 

「いやいや、俺は面白そうだから入部したんスよ……中学でも部活やってたんだけど、飽きちゃったから今度はアメフトにって」

 

「そ、そうなんだ」

 

「オラ、糞イエロー、糞チビ、呑気に駄弁ってねえでさっさと来いや!!」

 

 っと、いけないいけない。

 セナくんと俺はヒル魔さんに急かされればアメフトのフィールドに出る……この学校、マンモス校ってわけじゃないけども、何故にアメフトの設備が充実か……確実に目の前に居る人が原因ッスよね。

 

「ヒル魔、ダメだよ。助っ人としてならともかくセナくんを無理に選手にするだなんて」

 

「バカか、糞デブ。この糞チビを選手じゃなくて主務に納める方が何百倍もアウトだ…………」

 

「あ、あの僕はなにをすれば、ていうかなにをさせるつもりなんですか?」

 

「安心しろ、テメエはボールを持ってただ走ればいいだけだ……つーわけで、40ヤード測定をやる!!」

 

 栗田さんがセナくんに無理をさせるわけにはいかないと言うけど、無視するのが余計にダメだと言い切る。

 セナくんはまだ完全にアメフトのルールとかが分かってなくてヒル魔さんに逆らうに逆らえないので流れに身を任せるみたいで、ヒル魔さんは40ヤード測定を行うことを言う

 

「40ヤード?」

 

「ヤードってのはアメリカで使われてる長さの単位で1ヤード0,9144mッス……40ヤードだから大体36mッスね」

 

「へぇ、そうなんだ……ッハ!?」

 

「そういや、新学年になってからまだ1回もまともに計測してねえな……先ずは糞デブからだ!」

 

「うん!」

 

 何時の間にか練習に組み込まれているとショックを受けるセナくん。

 栗田さんが走る準備を行うんだけども……ヒル魔さん、なんでバズーカ持ってるんすか?空砲のアレは?

 

「YA−HA!!」

 

 ヒル魔さんはバズーカを放った。

 栗田さんは当然の如くというか馴れてるみたいで何事もなく走るけど……足、遅いッスね。

 

「ふぅ〜何秒?」

 

「こんの糞デブ……6秒5って去年よりもタイム伸びてんじゃねえか!!」

 

「ご、ごめんよ!」

 

「っちぃ…………まぁ、いい。テメエにスピードは求めてねえ。次はオレの番だ、糞イエロー、タイムを測れ」

 

「了解ッス」

 

「え、じゃあ僕は」

 

「コレを撃つ役だよ」

 

 栗田さんは厳ついバズーカをセナくんに渡す。

 いや、絵面がスゴイことになってるっすね。海坊主さんとか次元さんとかじゃないと似合わなさそうなバカデカいバズーカ……う〜ん、酷いッス。セナくんが重そうにバズーカを背負った。重心が色々と不安定だから上空に向けて撃てば言いと言えば上空に向けてバズーカを打ち上げてヒル魔さんは走り出す。

 

「5秒1ッス……」

 

「YA−HA!自己ベスト更新だぜ!」

 

「栗田さん、コレって速いんですか?それとも遅いんですか?」

 

「う〜ん、平均より上ぐらいかな」

 

 自己ベスト更新と喜ぶヒル魔さん。セナくんは早いのか遅いのかがよく分かってないので聞いてみれば平均と返ってきた。

 アレで平均より上ならばと思っていると悪魔のような笑みを浮かび上げているヒル魔さんが近付いてきた……いやぁ、普通に怖いっスわ。転生者に昼間妖一って人も居るけどこんな感じなんすかね。

 

「さて、糞チビ、テメエの番だ……安心しろ、今回はただ単に真っ直ぐに走っとけばいいだけだ」

 

 今回は、か……まぁ、それもそうッスね。

 とりあえずセナくんに立ってもらってヒル魔さんがバズーカを撃てばセナくんは走ってくる。

 

「5秒ジャストッス」

 

「ああ!スゴい、スゴいよセナくん!!」

 

「僕が1番?」

 

「いや、違えな……テメエ、途中で素早さ落としてんだろ!最初のダッシュの速度を維持しやがれ!」

 

「そうッスね。セナくん、真剣に走ってない感じがしたっス……セナくん、全力で後先考えずに走ってほしいッスね」

 

「ほ、本気で走ったんだけど」

 

「本気じゃねえ死ぬ気でやれ!な〜に、人間恐怖を感じれば死ぬ気になるってもんだ」

 

 ヒル魔さんはそう言えば犬用のクッキーをセナくんの首元に置いた。

 セナくんは首元に置かれたクッキーの意味が理解する事が出来ないみたいッスけど、直ぐにその意味が分かる。

 

「ケルベロォオオオス!!」

 

「GAOOOOOOOO!!」

 

「っひ、ひぃいいいいいい!!」

 

 無駄に厳つい雑種犬がセナくんの尻を追いかける。

 さっきまでの走りが嘘なのかと思えるぐらいの素早さ……やっぱりスポーツって時にはメンタルの世界ッスね。

 

「4秒2!NFL(プロ)でもトップクラスのスピードだぜ!!」

 

「アレでもまだトップじゃなくてトップクラスっすか……」

 

 …………充分にすごい足を持ってるけど、ヒル魔さんはトップクラスと言い切った。

 トップじゃなくてトップクラス……

 

「す、スゴいや。関東最強のラインバッカーでも4秒4なのに」

 

「だからこんなのを腐らせるわけにゃいかねえだろ…………さ〜て、次はテメエの出番だ。黄瀬クンよ〜」

 

「ありゃ、糞イエローじゃないんですか?」

 

 セナくんがなんだかんだでケルベロスに追い付かれて噛みつかれてる。

 セナくんよりも素早いケルベロスっていったいなんなんすかね。けどまぁ、セナくんの全力が見れたんでそれで問題無し。

 今度は自分の番だと振り向くヒル魔さん。パソコンを取り出したと思えばデータを漁ってる。

 

「黄瀬諒太、中学最強のバスケ選手。日本人離れした身長190cmだが注目すべきは体格じゃなくて能力にある。相手が出した技を相手の目の前で即座に模倣する驚異的な能力にある。PG,SG,SF,PF,C,ほぼ全てのポジションをこなせるオールラウンダー、体力測定は常に学年1位……バスケを辞めた理由はバスケに飽きたから」

 

「黄瀬くん、そんなにスゴい選手だったの!?」

 

「もうバスケをやめたから関係無い話ッスよ……っと、重りは外しておいてっと」

 

 何処から集めたかは知らないけど、ヒル魔さんは俺のデータを確認する。

 セナくんが驚異的な走りを見せちゃったし、無駄にハードルが上がる……けど、それぐらいは成し遂げないと黄瀬涼太を名乗れない。

 結局のところ1度もあの技を使うことなくバスケを引退したけども、もしかしたら何時かは使う日がやってくるかもしれない。何時もつけているパワーアンクルを外す……やっぱ付けてないだけで凄く身軽になるッスね。

 

「フー……OKッス」

 

「さぁ、いくぜ!YA−HA!!」

 

 ヒル魔さんはバズーカを撃った。

 コレで本日4度目のバズーカだけども周りの殆どが気にしない。ヒル魔さんがどんだけ泥門を支配下に置いているのかよくわかるッスね。

 今やることは単純明快、0,1秒でもいい。とにもかくにも早く走ること。それしか道は存在していないのだとただただ真っ直ぐに走った。

 

「ケケケケケ!!」

 

 タイムを見たヒル魔さんはご満悦なのか笑みが止まらない。

 

「…………ダメっすね…………」

 

 一方の俺はこれじゃあダメだと思った。

 

「ああん?なにがダメなんだ?4秒38,高校アメフト界最強と言われる進よりも足が速えんだ」

 

「いや……コレじゃあダメっす……100m9秒切れないッス」

 

「上見るのは構わねえが、意味分かってて言ってやがんのか?陸上の100mだけに特化した連中ですら10秒台が限界なんだよ」

 

 そう、この頃にはまだ100mを10秒で走るのが日本人の陸上競技の世界。

 でも俺は知ってる。ハーフでもなんでもない純粋な日本人なのに9秒台の世界に足を踏み入れた本物の天才を……赤司っちが無闇矢鱈に真正面から戦うことはせず、バスケという競技で勝たなきゃいけない本当にヤバい青峰大樹という化け物の存在を。きっとあの人ならば音速の世界に足を踏み入れる……あの人だけは異質だ。個として最強で……俺の憧れだった。

 

「黄瀬くん、スゴい」

 

「セナくん、4秒2って数字を叩き出してるのに嫌味っすか?」

 

「ち、違うよ!ホントにスゴいって思ったんだ…………僕のはほら、無理矢理出された感じだから」

 

「無理矢理でもアナボリックステロイド的なのを使ってるわけじゃないのに最高速度を叩き出したんすよ?足が速いってのは殆どのスポーツで最強の武器っす」

 

「そうかな……僕、10年もパシリをしてて気付けばこんな感じだからさ……」

 

 結構どころかかなり情けない理由っすね。

 ともあれ、俺の足はセナくんの足には届かなかった……アメフトをやるんじゃなくてバスケをやる為に鍛えてたから30m以上のダッシュは厳しい。体をアメフト向けの体格に作り変えないといけない。

 

「んじゃ、次行くか」

 

 黄金の脚を見ることが出来たのでヒル魔さんはご満悦だ。

 他にも練習はあるんだとハシゴの間をジグザグするだけの特訓とかもあって、セナくんはなんだかんだで練習に付き添ってくれるッスけども、セナくんの脚力だけは本物ッスね。足を使って体を動かす系に関しては超高校級の数値を叩き出してる。

 

「お、重いぃいいいい」

 

「セナくん……そりゃ無いっスよ……」

 

 ベンチプレスを出来る部屋に移動したけれども、セナくんがバーベルだけでアウトになってた。

 重りも乗せてないバーベルは10kg、10kgって言ったらデブな犬ぐらいの重さだけどもセナくんはそれを持ち上げる事が出来なかった。

 足だけは凄まじいのは分かったけど、ここまで能力値に偏ってる人は見たことが無い。黛さんですら最低基準の能力を持ってた……まぁ、あの人は色々と例外だけども。

 

「フン!!これ以上は無理っぽいッス!何キロッスカ!?」

 

「130kgだ」

 

「あちゃ〜……ダメっすね」

 

「そ、そんな事は無いよ。ベンチプレスで100kg越えてる時点で」

 

「栗田さん、とある馬鹿は言ってました。スポーツをやる上で大事なのは筋肉だから筋肉をつけた。筋肉で負けたのならば技術で返すのは日本人の悪い癖だって……俺には恵まれた体格があるんです。だったらもうちょっと筋肉があってもいいっす」

 

「まぁ、高校最強の進は150kg持ち上げられるって噂だからな………」

 

「え、そんなにだっげぇ!?」

 

 150kgだと言い切ったヒル魔さんは栗田さんの尻を蹴る。

 多分盛ってるけども栗田さんは160kgを持ち上げることが出来る。奇跡の世代の紫原っちは高校一年生で余裕で170kgを持ち上げてた。

 単純な総合的な運動能力だけ言えば紫原っちが断然に上……そう考えれば、アメフトで紫原っちがライバルだったら面白そう……いやでも?紫原っち無意識に力を制御してるんスよね。

 

「で、ヒル魔さん。俺はなんのポジションをすればいいですかね?」

 

「全部だ」

 

「え?」

 

「アメフトってのは馬鹿みてえに戦術が存在している、テメエみたいな万能な人間よりも一芸特化な人間の方が有利だ……だが、テメエはどのポジションにも求められる能力を全て高水準で持っている。ベンチプレス130kg、40ヤード4秒3、日本にこんな記録を持ってる奴は早々にいねえよ」

 

「でも、俺はアメフトのテクニックとか無いっスよ?」

 

「テメエなら見ただけで完コピする事が出来んだろう」

 

「いやいや、最後に物を言う基礎の部分だけは再現出来ないッス……強奪は出来るんですけどね」

 

「強奪?まだなんか必殺技でも隠し持ってるのか?」

 

「いや、別に必殺技ってものじゃないッスよ。単純に相手の技に自分のリズムを加えて模倣したかのように見せつけて相手のリズムを崩すだけの技術ッス……バスケ雑誌の人達は模倣と強奪の違いを一切理解してなかったッスけど」

 

 見ただけで完コピ出来るには出来るけども、強奪もやろうと思えば出来る。

 ただし超高校級とかプロのスター選手とか体格が違いすぎるとかは無理、一応はそれっぽい再現は出来るんすけどね。強奪を使って相手のプライドを粉々にしすぎるのは色々と失礼だから滅多な事じゃやらないし、極端な話オンリーワンな武器を持ってる人達にはこの模倣は通じないんすよね。

 

「ほぉ……じゃあ、テメエよりスペック下な連中のテクなら一瞬で盗めるってわけか」

 

「模倣出来ない技も中にはあるし、心理戦とかも難しいッスね。作戦や暗号を覚えてその通りに実行するのは出来るんスけど、土壇場の切り替えとか判断能力は低いッス」

 

 困ったらコレを使うという定石を持ってしまってる。

 力技で通るパターンがあるけど、本物の天才には中々に及ばない。オンリーワンな武器を持ってる人達はヤバいっす。

 

「安心しろ、テメエには小難しい理屈や腹の探り合いよりも手数で挑んだ方が何百倍もいける。相手にこのカードを握っているかもしれねえ、そう思わせるだけで1%の可能性を作り上げる事が出来る。1%の可能性が存在してるなら勝てるって事だ」

 

「1%…………1%あれば勝てるんスよね?」

 

「勝てるんじゃない、勝つんだよ」

 

「っと、すみませんでした…………んじゃ、基礎練を」

 

「ケケケケケ、テメエには特別メニューだ!コイツを全部体に叩き込め!」

 

 ヒル魔さんはそう言えばパソコンを渡してくる。

 なんだろうと見てみれば3時間ぐらいの動画だけども、全てがアメフトのプレイ……ただのプレイじゃなくてトリックプレーやスーパープレーも普通に存在している。

 

「む、無茶だよヒル魔。黄瀬くんはアメフト初心者なんだから先ずは基礎をじっくりとして」

 

「この糞イエローなら出来る……いや、出来ねえとは言わせねえ。今の段階で全国大会決勝(クリスマスボウル)に行くには糞チビの足と糞イエローの手数に頼るしかねえんだよ」

 

「……ん〜行ける気がするッスね。俺よりも運動能力高くないなら大体は大丈夫ッス」

 

 NFLじゃなくて大学や社会人のアメフトを見せてくれる。

 中々にトリッキーなプレーが多いけども、模倣出来るか出来ないかで言えば出来るッス。模倣じゃなくて再現になりそうな技は今のところは無いっスね。

 

「でも、俺だけじゃなくてセナくんも使ってくださいよ」

 

「いや、だから僕は主務に」

 

「安心しろ、先ずはアイシールド21でどデカいインパクトを引き付けてやる……2枚看板だ!」

 

「ということでセナくん、いや、アイシールド21、勝負ッス!」

 

 色々と面白そうな技があるからそれを会得した。多分だけども簡単に模倣することが出来る。

 セナくんは主務だと主張してくるけど、こんなスゴい足があるのに使わないのは勿体無いッスよ。

 

「ところで公式戦って何時ぐらいなんすか?」

 

「3日後だ」

 

「「ええっ!?」」

 

 基礎練云々の話じゃ無いっスね……



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グルメんぼ

思いついただけのネタである


 

「プレーンオムレツ、1つ」

 

「分かりました」

 

 プレーンオムレツ、それは具材の入っていないオムレツの事だ。

 卵を焼いただけの至ってシンプルな卵が食べることが宗教上出来ない以外ならば大抵の国で作ることが出来る料理だ。

 洋食の基礎であり全てが詰まっている料理、日本では卵焼き用のフライパンがあるようにオムレツ用のフライパンがあると言われている。

 

「お、十黄卵か……山食いペリカンでもいいんだぞ?」

 

「貴方が居れば山食いペリカンのスクランブルエッグを余裕で平らげる事が出来るでしょうが、山食いペリカンのスクランブルエッグでは味がブレる」

 

 十黄卵を割って、ボウルに入れてかき混ぜる。

 我が師、高遠聖矢は山食いペリカンのスクランブルエッグじゃないのを少しだけ残念そうにするのだが、今回は俺の腕を見せるところだ。

 シンプルなプレーンオムレツ、十黄卵以外にミルクジラのミルク、おしりしお、スパイスを出す狐、スポックスの胡椒、狐胡椒を入れて切るようにかき混ぜる。パターのバター、パターバターを掬い、オムレツ用のフライパンに入れてフライパンを熱してバターを染み込ませる。

 

「……今か!」

 

 オムレツは玉子焼きとは似て異なる料理だ。

 フワフワしたしっとりプレーンオムレツ、それこそがオムレツ、真髄、基礎を極限まで極めたオムレツを焼く。

 液状の卵が徐々に徐々に固まる前に卵を掻き交ぜる、オムレツの作り方も色々とあるが俺はこのやり方が好みだ。ふんわり液状化していた卵が固まるギリギリの瞬間で手を止める。1秒、2秒、3秒……今だな。

 

「1秒、2秒、3秒……十黄卵のプレーンオムレツ、先ずは1つめ!」

 

「純然たる黄色、漂う温かさ……バターの匂いはしないけども風味は漂う、如何にも教科書に載っているお手本のオムレツ……ではでは、実食!」

 

 我が師がフォークとナイフを取り出し、オムレツを食べる。

 満面の笑みを浮かびあげて光悦だと手に取るように分かれば直ぐに2つ目のオムレツを焼く。十黄卵は卵一個で十個分のオムレツが出来る。卵2個のプレーンオムレツ5人前を作ることが出来る。

 

「美味い、美味いよ!サブちゃん!王道を行くオムレツ……オムライスの専門店が多々ある時代であえてオムレツを作るとかどう!」

 

「この世で最も美味いと思える料理は人それぞれで俺は寿司、貴方はおにぎり……専門店に憧れがあるかと言われればその通りだが、色々な美味い物を食べてもらいたい」

 

「ハッハッハ!やっぱり僕も君も根は純然たる日本人!米の存在だけは無視出来ないか……うん、次はネオトマトで作ったトマトソースのオムレツ……いや〜ソース1つ付けるだけで旨みが変わる!美味し!美味し!」

 

 子供の様に喜ぶ師匠。オムレツをバクバクと食べていき、あっという間に5人前のプレーンオムレツを食べた。

 プレーンオムレツを食べ終えたので静か茶を差し出して飲むと目を細める。

 

「う〜ん、美味い後には一息ならぬ食息が大事だよね……素朴だけどいい味だ……腕上げたね、サブちゃん」

 

「コレも貴方の指導のおかげです……それで合格点は貰えるかどうか」

 

「ん〜、いいよいいよ。食材はこっちがするけども、それでいいんだったらボロ雑巾みたいな店の支店出しちゃっていいよ。でもまぁ、中途半端な腕を見せたらキツいお仕置きをするからね。グルメ素材に任せた料理をするとか、料理人として失格だから」

 

 師匠からお墨付きをもらった。

 自身が経営している店をボロ雑巾と堂々と言いながらも今度は自分の番だと十黄卵のプレーンオムレツを同じ材料で作り一緒に食べる。

 分かっていた、分かっていた事だが美味さのレベルが違う……何時かはこの旨味に追い付いて追い越さなければならない。

 

「んじゃ、最初に店を出す場所は決まっているから……是非とも腕を磨いてくれ!」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言われて一週間が経過した。

 俺の店が、屋台が与えられる。店構えで色々と変わるというのならば、その常識を打ち崩す。今ある常識を打ち崩すことが出来る者こそ新しい世界を作れる。

 

「……新聞社か」

 

 我が師である高遠聖矢からここで店を出せと言われている。東西新聞と呼ばれる新聞社のビルの近くに屋台を出している。

 俺は……正直な話、マスコミというのが苦手だ。口コミというのが苦手だ。イギリスで1番美味いと言われている料理店は実在していなかった、裏金等を利用して店を過剰に持ち上げる奴等も存在している。更に言えば大手のチェーン店が年々増えていき個人経営の飲食店が減っている。

 大手が故に1度に多くの食材を仕入れる事が出来る、対して個人経営では限界があり嫌でも値段が高くなる。それをカバーするには色々とあるがなんと言っても味だろう。

 

「まぁ、いいか。美味い料理は何処でも美味い……」

 

 料理人はお客に美味しい食事を食べてもらう、ただそれだけだ。

 既に自宅で料理の仕込み一部調理は終えている、後はお客が来るのを待つだけ……だが、まずは味を認めてもらわなければならない。

 ホネナシサンマを開いて七輪で焼く。七輪での炭火焼きの焼き魚、日本人ならば誰もが食いつく最高の一品だろう。

 

「本日限定!骨を取り除いた秋刀魚、ガブリと豪快に!」

 

「ん?なんだ?」

 

「屋台?」

 

「本日限定!骨を取り除いた秋刀魚!ガブリと豪快に!一口如何だろうか!」

 

「お、じゃあ一口……っ!?」

 

「本日はホネナシサンマ定食!この秋刀魚をガブリと豪快に噛みついて食べる!秋刀魚をきれいに食べるのでなく豪快に齧り付く、如何だろうか!」

 

「あ、ああ……秋刀魚定食!」

 

 ホネナシサンマを食べた人は目を見開く。

 骨が無いゆえに豪快にガブリつける。一口分を食べるのでなく、口いっぱいに秋刀魚の旨味と脂が広がる。男ならば憧れるマンガ肉ならぬ魚のガブリ付き、試食してくれた人達はもっと食べたいと言う顔になっており注文をするので直ぐに調理に取り掛かる。

 ホネナシサンマの炭火焼き、夢見米、マカロニひじきの煮物、大王豆で出来た味噌と豆腐の味噌汁、+100円で白毛シンデレラ牛のしぐれ煮を頼める。コレで800円、ご飯は1度だけおかわり出来る。

 

「おぉ、ここだここだ!営業許可を申請した屋台がここに来てるんだよ」

 

「まぁ、炭火焼きのいい匂いね」

 

「コレは秋刀魚の匂いだな」

 

「いらっしゃいませ……高遠食堂にようこそ、と言っても秋刀魚定食しか出せないですが」

 

 坊主頭の厳つい男がスーツ姿の男性と若い女性を連れてやってきた。

 この店を事前に告知しているわけではない、もし知っている人達が居るのならば屋台の営業許可を取る際に色々と警察だなんだ申請した……と思っていると僅かばかり頭痛が走り、頭の中に漫画の物語が流れてくる。この世界、美味しんぼの内容だ。

 

「秋刀魚の開きの定食とは随分と珍しいな」

 

「骨無しにしてる……+100円で牛のしぐれ煮もついてきますが」

 

「おぉ、牛のしぐれ煮とは渋いな!」

 

「よし、じゃあそれも頼む」

 

「ホネナシサンマ3人前……先に注文してくれた骨無し秋刀魚定食、お待ちどおさま」

 

 先に注文してくれたお客の分のホネナシサンマが焼けた。秋刀魚というものは美味い物、目黒のサンマというものがあるほどに秋の味覚だ。

 

「うんめえ!!ご飯も味噌汁も秋刀魚も最高!この秋刀魚、骨が一切入ってねえ!!こう、子供が憧れる漫画に出てくる肉をガブリと豪快に行くように秋刀魚をガブリといける!」

 

「お客の人達が凄く美味しそうに食べてる……コレは期待出来るわね!」

 

 先に完成したホネナシサンマ定食を食べて満足げな最初のお客達。

 3名のお客のうちの女性が秋刀魚定食に期待を寄せている。ホネナシサンマを七輪の上に置けばお冷を出す。

 

「申し訳ない、当店は俺1人の為にお冷はセルフサービス」

 

「いやいや、構わねえよ……ん、どうした?」

 

「いや、貰えるなら水道水じゃなくてお茶を貰えない?」

 

「ちょ、ちょっと山岡さん!」

 

「ふっ、日本の水道水は世界一……だが、日本人の舌は宇宙一、先ずは騙されたと思って飲んでみてくれ」

 

 お冷を水道水だと思ってお茶を求めるスーツ姿の男。俺が水道水に頼るという妥協は早々にしない、先ずはと坊主頭の厳つい男がお冷を飲んだ。

 

「お、ぉおおお、おおお!」

 

「美味なる水だろう?」

 

「……美味しい!美味しいお水だわ!!」

 

 厳つい男がお冷を飲んで凄い反応をしたので女性も飲む。

 コレは美味ナルウォーター、グルメ界な食材だが簡単に手に入る食材、いや、飲料水だ。しかしその名の通り絶品な美味なる水である。

 2人が言うので恐る恐る水を飲んでみるスーツ姿の男、目がくわっと開いた。

 

「美味い……なんて美味い水だ……」

 

「まるでアルプス山でハープを弾いているお姫様が飲んでいる気品に溢れた水だぜ!米にこだわりを持つ店は多々あるがお冷にこだわりを持つ店ははじめてだ!」

 

「お冷は食を営む時に使う精神安定剤……と、他のお客達の分が焼けるので失礼。後、3分32秒で焼ける。4分19秒待ってくれ」

 

 美味なるウォーターに満足している3名様のお客達。

 その前に来たお客が注文してくれたホネナシサンマが焼ける。ホネナシサンマ定食を出せばお会計を求める……まだこの時代は現金払いが主流だからな、なにを出されても即座に演算処理する事が出来るように鍛えている。

 

「ホネナシサンマ定食+牛のしぐれ煮……ご飯のおかわりは1回のみいける」

 

「おぉ、待ってたぜ!いや〜見るだけで美味いってのがよく分かるぜ!」

 

「先ずはお味噌汁で口を、豆腐だけのシンプルな味噌汁だけど……っ!?…………美味しい!美味しいわ!!」

 

「それはよかった」

 

 女性が一番最初に味噌汁に口をつける。豆腐だけのシンプルな味噌汁、出汁等はちゃんとしっかりと取っている。妥協していない味だ。

 味噌汁でこの味なのだから秋刀魚はもっと極上品なのだろうと秋刀魚に箸を向けて身をほじるのだが女性が違和感に気付く。

 

「骨が……無いわ!?」

 

「骨無し秋刀魚と言った……少し下品かもしれないが豪快にかぶりついてみてくれ」

 

 秋刀魚に一切の骨が無い。

 ホネナシサンマは骨が一切存在していない秋刀魚、下品かもしれないが豪快にガブリといける。しかし、何処かに骨があるだろうと恐る恐る、身を分けて食べる……が、秋刀魚の旨味は本物である。女性は黙々と無言で秋刀魚、夢見米、味噌汁の△ループ、時折ひじきの煮物を頂く。

 

「おぉ、ホントに骨がねえ秋刀魚だ!秋刀魚ってのは骨が多くて食いにくくて目黒のサンマとか言う落語じゃ解して冷えた秋刀魚を出されたって話だがコレなら解す必要がねえな!山岡、お前も……山岡?」

 

「……店長、コレはなんだ?」

 

「なにがだ?」

 

「この秋刀魚はなんだと聞いてるんだ!こんな秋刀魚、見たこと無いぞ!!」

 

「絶品であったのならばそれで問題は無いだろう……麻薬や髪の毛の1つでも入っているのだとケチをつけるつもりなら相手になるぞ?」

 

 山岡という男が秋刀魚の正体に気付きかけているが、俺は動じない。

 秋刀魚の正体はホネナシサンマ、普通の地球には存在しないグルメ界の秋刀魚だ。

 

「見たことが無いって、確かにここまで綺麗に骨抜きされた秋刀魚は見たことが無くて味もこの上なく絶品だけど……」

 

「ならばなにに戸惑う?時そばの応用、美味いもの程恐ろしいとでも言うか?それならば警察に相談するか?」

 

「お前が店で料理をああだこうだ言うのは今に始まった事じゃねえけどよ、今回は無いんじゃねえのか?米も美味い!秋刀魚も美味い!味噌汁も美味い!ひじきの煮物も美味い!追加で頼んだ牛のしぐれ煮も美味え!文句のつけようがねえ美味さだ!」

 

「そうよ山岡さん!何時もみたいに美味しくないとか出来損ないとかじゃないんでしょ!」

 

「確かにそうだけど…………この秋刀魚が……水もそうだけどいったい何処で」

 

「料理人にとって素材のルート、仕込み、調理に関しては宝も同然……秋刀魚を食べて美味いと感じ心が満たされるのならばそれ以上はなにを求める?」

 

 坊主頭の厳つい男と女性が美味い秋刀魚定食だと認めている。

 美味いのだと認めてくれているのならば料理人にとってこの上ない至福の時、自分が作った物を美味いのだと認識してくれている。しかしそれが故に何処の秋刀魚なのかと山岡は気にする。気にするが人間の三大欲求の1つ、食欲に勝つことは出来ない。楽しく食事をするのでなく黙々と満足げに食べる。ホントに美味しい物を食べている時は無言になり時間を忘れて幸福になる、孤独のグルメでそんな事を言っていたか。

 

「っはぁ!!……………美味かった!美味かったぞ!!」

 

「秋刀魚定食一本だけで勝負しているけど、コレならば誰だって秋刀魚定食一本だけで勝負出来て当然よね!」

 

 米一粒残すことなく全てを喰らい美味ナルウォーターを一気飲みする。

 全てが最上級の一品だと満足げな坊主頭の厳つい男と若い女性

 

「秋刀魚定食が食いたくなったら、ここに来りゃいいか」

 

「申し訳ないが、それは出来ない事だ」

 

「え!?」

 

「どういうこった?」

 

「人生のフルコースは完成しているが、こう見えてもまだまだ修行中の身で作る料理や食材選びを妥協したくない。今回は師がいい秋刀魚を用意してくれた。刺身や寿司など色々とあったが、この秋刀魚ならば豪快にガブリといけるシンプルな炭火焼きを選んだ……次回は全く異なるメニュー、唐揚げかもしれない、麻婆豆腐かもしれない、コロッケかもしれない、炊き込みご飯かもしれない」

 

「修行中って、こんなに美味しい料理を出せるのにまだまだなんですか?」

 

「……言っておくが俺は老け顔だが25歳だぞ」

 

「嘘だろ!?40歳の貫禄は出てるぞ!」

 

 おい、それはお前もだろう。厳つい男に対して言いたかったが、お客なので一線を敷いておく。

 まだまだ修行中の身……次はあえてのマグロづくしを狙ってみるか。生以外の鮪を食う機会が日本人は少ないから衝撃を与えるだろう。

 

「話はズレたがまだまだ料理はある。次は鮪、寿司や刺身としての鮪ではない鮪の追求をしてみようかと検討中だが……どうなるか」

 

「それは面白そう!鮪って言えばお刺身とか寿司とか生魚のイメージがあるけど、それ以外で食べる機会って中々に無いのよね……あ、私東西新聞社の」

 

「断る」

 

「え!?」

 

「俺はマスコミの類は好まん、自分の足で自分の舌で食べた物こそ真実と思っている。取材等は受け付けない」

 

 女性が、栗田が名刺を差し出してくるので断る。

 取材をしたいのか新聞に載せたいのかなにをしたいのか分からないが俺は自分の舌で食べてこそ料理だ。自分の足で自分の欲望に身を任せてこそ意味がある。なにをしたいのか分からないが、取材を受け付けないし勝手に載せてもらっては困る。

 

「コレだけの美味い飯を伝えないのは実に残念だな」

 

「素材の仕込みの都合上、仕方がない。納得がいかない料理を出せと言われて出すほどに俺は性根が腐った料理人ではない……それに」

 

「それに?」

 

「俺はこういう感じの空気が好きだ。最高の料理を立ち位置に関係無く食べる、会社の社長だろうがコンビニのアルバイトだろうが総理大臣だろうが皆平等に同じテーブルに付いてもらう。敷居の高すぎる料亭は俺は好まん」

 

 皆が平等に美味い飯を食う、閻魔の三弟子である一劉も同じ思想を持っている。

 例え誰であろうとも平等な食卓についてもらう。

 

「…………そうか。こんな美味い料理を、最高の時間をありがとう。今度は寿司や刺身じゃない鮪料理、楽しみにしてるよ」

 

「残念だが、次はここではない別の場所に屋台を出すつもりだ」

 

「えぇ!?ここに出ないの!?」

 

「大体週1で日本の何処かに出没する。新聞社だと言うのならば、その権力を思う存分に行使してみればいい」

 

 山岡は高遠食堂がここじゃない事を知ってショックを受ける。

 最初に店を出せと言われたのはこの地だが次は何処にするか、少なくとも辺鄙過ぎるところではなく町に馴染む場所で店を出したいものだ。




サブちゃん

容姿が大年寺三郎太の転生者、ご存知地獄産の転生者であり閻魔の三弟子で料理人として1番働いていない高遠聖矢の弟子。
トリコ世界の食材を美味しんぼ世界で作った。最初のメニューはホネナシサンマ定食。ランチ限定であり、ディナー限定の時はお冷はエアアクアになる予定。次は寿司や刺身以外の鮪系の料理を出すつもり。

因みに人生のフルコースは

オードブル ニワトラの卵のプレーンオムレツ

スープ ジューシイタケとスマッシュルームのミルクジラポタージュスープ

魚料理 フグ鯨の竜田揚げ

肉料理 白毛シンデレラ牛のしぐれ煮

メイン 牛豚鳥、ジュエルクラブ、ウィンナースの炙り寿司

サラダ もち肌もやしの鳳凰水晶

デザート 首領ドングリの甘露煮

ドリンク 虹の実のエアアクア割り

高遠聖矢

最初の転生者とも言える閻魔の三弟子の1人、マスター次狼の相棒。
転生者ハンターや閻魔の三弟子の様に別世界に渡ることが許されている転生者であり、月1ぐらいで高遠食堂と言う食堂を経営しているがライトノベルや漫画の原作が本業、テイルズオブゼ……でエレノアが語っていた人はこの人。気圧を操り、ゴンベエと同じぐらいに強い。愛包丁は滝唾であり、味沢、秋山、高遠の3シェフの中で1番の料理上手で気に入った原作キャラに料理を振る舞っている。秋山がスマイルプリキュアの世界で千樹扉間と結託して依存性の麻薬食材を用いて敵を麻薬依存症にして破滅させると言うことをしでかしたので料理で笑顔を奪ったとして秋山と仲が悪い。
容姿は喰いタンの高野聖也


山岡士郎

美味しんぼの主人公、中松警部が偶然にも東西新聞社の近くで屋台を出すのだと聞いて誘われた。
ホネナシサンマが骨を取り除いた秋刀魚でなくホントに最初から骨が無いという事に気付きかけているが、料理の美味さでなにも言えない。
東西新聞社の力をフルに使ってサブちゃんが何処に店を出したのかを割り当てようとするが残念な事にこの時代にはまだSNSとか無い、1日の間の数時間しか店が開かないので店に辿り着かない。

栗田ゆう子

美味しんぼのヒロイン、中松警部が偶然にも東西新聞社の近くで屋台を出すのだと聞いて誘われた。
究極のメニュー作りの為にとサブちゃんを取材等をしようとしたが、マスコミ嫌いなサブちゃんにすぐに断られた。仮に究極のメニュー作り云々の話になった場合「究極のメニューなどというがその様なものは人それぞれ、その人の価値観で決まる。特に人生のフルコースは人の思いが詰まっている、優劣はつけられない」と言われて普通に断られる。

中松警部

蕎麦屋の店主が小さいけども店を持てるようになったのだと報告に来た際に偶然にも屋台を申請していて東西新聞社の近くで出すことを聞いた。
話の種になるだろうぐらいの感覚で行ってみたら物凄い美味さで、常連になりたいのだが予約できないし予告しないし日本のそこかしこに出てくると言われたので1つの思い出だと諦めている。

海原雄山

出すとややこしいのでボツにした。確実に海原雄山の権力を用いてあの手この手で探し出すと言うオチはある。


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曇れ!戦慄の帝国華撃団 1

出来る限りのクズキャラを書きたいと思ったんじゃ……いいじゃん、クズ野郎でも!皆はなんだかんだで大好きでしょう?


 人が死んだら、何処に行くか?

 国や宗教によって大きく異なるが、大抵の場合は天国と地獄と言う概念があり、生前の行いによって、どっちかに向かう。

 日本の場合、天国と地獄のどちらかに行くか裁判を起こして決めるのだが、親より先に死んだ子供はちょっと特殊な所に向かう。

 賽の河原と呼ばれる所に向かい、石を積んでは破壊されるループを繰り返している。

 繰り返しているのだが、近年大きく方針が変わった。いや、変わったと言うか方向性がおかしくなった。

 ここで真面目にコツコツとやっていると、新しい命に生まれ変わるのだが、何故か異世界転生をする事になっていた。

 無論、前と同じで異世界に転生しない事も出来るのだが、記憶を保持したまま転生しオレTueeeeeすることが出来るので、大半が選ぶがいきなりの転生は不可能である。転生者養成所で色々と学ばなければならない。

 

 かくいう僕も学んだ口である。

 オレTueeeeeeに憧れていたが現実は恐ろしい程に厳しかった。バトル物の世界で相手を倒すのでなく相手を殺す事を学ばなければならない。どれだけ綺麗な言葉で取り見繕っても人殺しなんかをさせているのだから当然と言えば当然である。

 

「神山さん」

 

「舞依さん、今日から貴方も神山なんですよ」

 

「あ、ごめんなさい。そうでしたね……あ・な・た♪キャッ」

 

 僕は転生する権利を手にして転生し二度目の転生の権利を手にし、無限に転生することが出来る転生者になったのさ!

 いやぁ、実に大変でごぜえましたよ。ホントさぁ、バトル物の世界って日常を味わうのが難しいんだよ。非日常と隣り合わせか非日常が日常に成り果てている、疫病神なんて誰かが言った気もするよ!まぁでも、基本的には原作通りにやっておけば大体はOK!悲劇のヒロイン救おうぜ!はエゴらしい。まぁぶっちゃけね…………ぶっちゃけね、そもそもで視聴者に感情移入させやすい様に色々とキャラ付けしてるから僕は別に救おうぜ!ってはならないよ!物語は悲劇があるから喜劇もあるからね!

 

「ふ〜……いやぁ……働きたくないなぁ」

 

「ダメよ、働かないと……貴方は帝国華撃団の花組の隊長なんだから」

 

 そんな拙僧ですが、新サクラ大戦の世界に転生したのでごぜえます。

 ただ転生したのではありません、主人公である神山誠十郎に転生したのですたい!いや〜……サクラ大戦の知識は一応あったけども、結構大変だったんだよ!帝国華撃団の存在認知されてるし帝国華撃団人気低迷で大赤字だし、もうとにかく大変なんだ!

 帝国華撃団の予算が無くなり帝国歌撃団として金を稼がなければならない状況に序盤の方に陥った。汚い金だけど世の中はお金、資本主義。金は天下の回りものであるけども帝国歌撃団としてはゴミである。だから余は張り切った!いっそのこと振り切ってやろうぜと吉本新喜劇や勇者ヨシヒコの様なコメディ作品を書いた結果、成功した!綺麗な美しい物語よりも面白い喜劇やシリアスでダーク方が楽しいのが物語なんだ!

 

 そんなこんなでワシはゲームとアニメの原作を無事に終わらせた!

 その結果が欧州に渡米して色々と学んで来いの海外研修なんだってばよ!いやさぁ、新サクラ大戦ってさぁ、ロボ技術とかがスゴいけどもそれ以外は大体は大正をモチーフにしててさぁ……海外で水道水を飲んだら死にかけて大変だったでい!下痢気味で死にかけた!この国は、日本は水の国なんぜよ!そんなこんなでアニメ原作も無事に終えて、1週間前に日本に帰国して貯まってた貯金とか使って社員寮でなく新居を購入したりした、そう、嫁である舞依さんと!え?舞依さんって誰だって?ああ、由比ヶ浜ママに瓜二つな絶世の美女でミーが口説き落としたんだぜ!料理上手でおっぱいデカくてバブミがあるいい女でもう最高!

 

 5人のメインヒロイン?……いやいやいやいや、あのさ……転生者だからってヒロインを口説かなきゃいけない義務は存在してないんだ。

 童子切の異名を持つ天王寺が良い一例だ、奴はアニポケの世界に転生した際に原作キャラとなにも関係無い女性をヨッメにしてたらしいよ!容姿が水無月かれん似らしいよ!ヒル魔から聞いた話だけどね!

 

 二次元の世界に転生しても原作キャラを絶対に異性として見ないようにしている転生者も普通にいる。原作キャラこそ地雷だと断る転生者は居る。原作キャラだから付き合わなきゃいけない道理は無い。もし仮にこの世界が二次創作でゴリラな作者に作られている物だとしても作者は満足している。読者の反応は置いてけぼり、でも読者なんて関係無い、ここは同人誌ウス=イホンな世界。そして僕達はあくまでもキャラ……まぁ、そんなの関係無いと思うように生きるのが僕の流儀だけど。原作キャラと付き合わないでなにが悪いんだ。

 話はズレたから戻すけども原作キャラと付き合わない、それは何故か?原作キャラが色々な意味で個性的で、彼氏彼女夫婦の関係になるのはキツいからなんだ!近年暴力系ヒロインが減っていったのも皆がなんだかんだで心の何処かで無理だって思ってるからだよ!!え、近年は諸星あたるみたいな主人公減ってきたって?でも、皆が望んでるのはエロいのでしょうが。後輩の蛇喰深雪はそれこそが狙い目!って言ってるけど、イマイチ理解できないね。とにかく、原作も無事に終わらせた原作が終わった後の世界に居るのでござるよ!

 

「ふぅ……緊張するな」

 

 約1年以上、帝国華撃団の花組の隊長じゃなかった。

 花組の隊長として1人前になる為にと欧州に海外研修に行かされた、いい経験になったけども色々とストレスが溜まったりした、が、が、全てはこの日、この時の為にある!神山誠十郎の何時もの服に着替えて玄関に向かえば舞依さんが鞄を渡してくる。

 

「はい、お弁当……頑張ってね、ん」

 

「ん」

 

 いってらっしゃいのキスをして鞄を手にして帝国華撃団に向かっていくぜぃ!

 帝国華撃団……いやぁ、ホントに辛かったよ。僕自身が活躍する場って基本的には戦闘だけなんだ、帝国華撃団のもう一つの側面、演劇をして清めて邪気を祓う的なのに参加しない感じなんだよ。まぁ、こんな野郎よりも絶世の美女の方が良いっていう意見があるのは納得するよ。だからまぁ、ね……オーナーもとい神崎すみれに台本を書いて提出した時はドキドキしたよ。帝国歌撃団を立て直す事が出来るキッカケが必要だったからさ……ホントに明確に見える悪を倒すんじゃなくて人気者になるってのは方向性が違うから大変だよ。

 

 でもまぁ、割と受けが良かったんだよ。

 勇者ヨシヒコや吉本新喜劇をパクったからそりゃ受けはいいだろうが、それ以外にも色々と真似たよ。リーガル・ハイとか凄く楽しかった、演じてる皆も面白いって言ってくれたよ。1番皆が輝いていたのはアイドルマスターズシンデレラガール的なのをやった時だね!皆、アイドル級の絶世の美女だから最高だぜ!

 

「って、あれ?……誰も居ないのか?」

 

 そんなこんなで職場に復帰するんだけども誰かが出迎えてくれるかと思ったけども誰も居ない。

 どうなってるんだろうと思ったけども、それはそれで別に構わないと婚約指輪が入っている定番の青いケースを自身の事務処理をする部屋に置いておく。久しぶりの隊長なのに喜んでくれないのかとションボリしつつも部屋を出れば神崎すみれ様がおるではございませぬか。

 

「オーナー……」

 

「……ついてきなさい」

 

 神崎すみれについて来いと言われればついていく。

 帝国歌撃団の劇場の観客席、なにかが行われるのかと思えばブザーが鳴り響き幕が開いた。

 

「さくら、クラリス、初穂、あざみ、アナスタシア……?」

 

「おかえりなさい、誠兄さん……」

 

「えっとその……色々と考えたんです。どうやっておかえりなさいって言おうか、一時的じゃないホントの意味で花組の隊長として帝国華撃団に帰ってくると」

 

「あたし達がなにかしてやれるかってさ……帝国歌撃団が今こうしてるのもお前のおかげ……」

 

「でも、居ない時に寂しい思いでした。少しずつ忍びとしても成長していると思いましたがまだまだで」

 

「カミヤマが居なくても成長したと言う証を見せようとな」

 

 さくら、クラリス、初穂、あざみ、アナスタシアの順に喋る。

 なにをするのか、もう分かる。1度だけ書いてみたのは良いけども当時の初期の頃のさくら達の演劇力では不可能で中止にしたのがある。そう……ハレ晴レユカイだ。涼宮ハルヒの憂鬱でお馴染みのハレ晴レユカイだ。この時代にはアイドルの概念あるかないのかよく分からないから最終的にアイドルマスターの曲を書いた。僕はどっちかと言えばラブライブ派なんだけども転生特典で楽曲とか台本とか作れる才能と知識を貰っているんだ。

 

ナゾナゾみたいに地球儀を解き明かしたら

みんなでどこまでも行けるね

 

ワクワクしたいと願いながら過ごしてたよ

かなえてくれたのは誰なの?

 

時間の果てまでBoooon!!

 

ワープでループなこの思いは

何もかも巻き込んだ想像で遊ぼう

 

アル晴レタ日ノ事

魔法以上のユカイが

限りなく降り注ぐ 不可能じゃないわ

明日また会う時 笑いながらハミング

うれしさを集めよう

カンタンなんだよこ・ん・な・の

追いかけてね(追いかけてね) 捕まえてみて

おおきな夢&夢スキでしょう?

 

イロイロ予想が出来そうで出来ないミライ

それでもひとつだけわかるよ

 

キラキラ光って 厚い雲上を飾る

星たちが希望をくれると

 

時間に乗ろうよByuuuun!!

 

チープでクールな年頃だもん

さみしがっちゃ恥ずかしいよなんてね 言わせて

 

手と手をつないだら

向かうトコ無敵でしょ

輝いた瞳には 不可能がないの

上だけ見ていると 涙もかわいちゃう

「変わりたい!」

ココロから強く思うほどつ・た・わ・る

走り出すよ(走り出すよ) 後ろの人もおいでよ

ドキドキッするでしょう?

 

Boooon!!

 

ワープでループなこの思いは

何もかもを巻き込んだ想像まで遊ぼう

 

アル晴レタ日ノ事

魔法以上のユカイが

限りなく降り注ぐ 不可能じゃないわ

明日また会う時 笑いながらハミング

うれしさを集めよう

カンタンなんだよこ・ん・な・の

追いかけてね(追いかけてね) 捕まえてみて

おおきな夢&夢スキでしょう?

 

 いや〜いいねぇ、いいねぇ。実に良いよ。

 さくらがハルヒ、クラリスが長門、初穂がくるみでアナスタシアがキョン、あざみが古泉ポジでやってくれた。実に良いものが見れた。

 

「あの頃はホントに酷かったよね……僕も色々と書いたけど、大体は出来なくてさ」

 

「それも今は昔の話です!帝国華撃団は嘗ての輝きを、いえ、それ以上に輝いています!」

 

「そうか……皆が成長してくれているのは嬉しいけど、ますます僕が不必要になるのは残念だけど」

 

「そ、そんな事はありません!神山さんが居てくれないと……」

 

「そうだぜ!花組の隊長としてもお前は必要なんだ!」

 

 さくらがクラリスが初穂が嬉しい事を言ってくれる。

 いやいや、ホントに……修羅場を乗り越えて原作とかも無事に終わらせる事が出来たから巨大な敵は出てこないだろう。だから、僕の出番は殆ど無し。帝国歌撃団としての能力も皆上がっている。アナスタシアは元から高いけども他の4人、いや、この帝国華撃団にいる人達の能力がとにかく高くなっている……俳優が人気が出すぎて逆に売れない頃に出てたヨゴレな番組に呼べなくなった感じがするよ。

 

「皆、ありがとう……花組の隊長として帝国華撃団を盛り上げるよ」

 

「カミヤマが書いたお話はとても面白い、若干だがダークな要素が含まれるがだからこそ意味があるのだと教えてくれる……物語は皆の心の毛布になる」

 

「アナスタシア……ああ、そう言えばどうだったの?僕が最後に書いたお話の受け具合は」

 

 アナスタシアも嬉しい事を言ってくれる。そして気になっていた事を聞いてみる。

 僕が欧州に渡航する前に最後に書いた台本、帰ったら結婚しようと約束したが不治の病に犯されてしまった主人公が彼女の幸せの為に会わない道を選ぼうとしたが、刹那の時を過ごすのが長い時間を生きるより良いのだと言い奇跡的に回復するという……僕から見ればゴミみたいな話だ。

 僕は美しい物語は好きか嫌いかで言えば好きだ……だが、人間好きな味を毎日食べれば何時かは飽きてくるものだ。

 主人公には悪役にはヒロインには悲しい過去がある!とか皆の思いを背負って感情が奇跡を起こしてパワーアップ!とかさ……昔は大好きだったけども今じゃもうウザいと思えるぐらいには飽きたよ。悲しい過去とかがあって読者に感情移入させようって魂胆が丸見えでさ、ホントにウザい。

 

「……」

 

「あの後にアンケートを取って面白かったかどうか聞いたはずだよね?」

 

 僕が最後に書いたお話の受け具合を皆が黙っている。どうして答えてくれないのかな〜どうして答えてくれないのかな〜。

 皆が気まずい空気が流れていると神崎すみれオーナーがコホンと咳込めばアンケート結果の用紙を渡してくれる。

 

「皆がショックを受けていたわ」

 

「ショック、ですか?あの物語が最悪だと?」

 

「いいえ、違うわ。貴方が書いた物語が見れないと…………貴方は素人が殴り書きした物で話題性を集める為だと言っていたけれども、皆の心に影響を及ぼす物語が多かったわ。そう、お伽噺の住人が不平不満を持ったお話はな特に素晴らしかったわ。お伽噺、いえ、お話には喜劇だけでなく悲劇も存在している。その悲劇は作者の思いが込められている、ハッピーエンド、綺麗な終わりだけが正しい答えじゃない……」

 

 ザッと見た感じだけども、書いた内容的には合格点は貰えた。ウケは良かったみたいだ。

 基本的には喜劇、ハッピーエンド終わりばかりの物語しかやろうとしないけども僕から言わせてもらえばハッピーエンドだけが全てじゃない、バッドエンドにも意味がある。物語は非日常だから刺激的なんだよ。

 

「誠兄さん……どうしてあの物語を描いたんですか?」

 

「もし、もし別れの時が来たらあの物語を書こうと思っていてね……一時的だが、花組の皆とお別れになる。だから僕の胸の内を……いや、違うか」

 

「違う?違うとはどういうことでありますか?」

 

「秘密だよ」

 

 あざみがどういう意味で僕があの物語を描いたのかを気にする。

 僕があの物語を書いたのは花組の皆と一時的だがお別れになる。欧州に渡航して海外研修に行っていたからあの物語を書いた……コレは僕の純粋な思い、皆と一時的だが別れるのはかなり心が苦しかったんだよ。

 

「帝国華撃団花組、完全復活ですね…………新しく本は書いていないのですか?」

 

「ああ、色々と書いててもしやってみたいって言うのならば是非ともコレをやってくれと言う一押しの作品があるんだよ!」

 

 クラリスが面白い話はないのか聞いてくるので、持ってきていた台本を取り出す。

 それを見ると嬉しそうに手に取るクラリス、さくら達の分も用意しているのだと渡せば5人は熱心に台本を読み……無言になった。無言になって台本を見つめている。いや〜ハハハハハハ!ハハハハハハ!!この時が最高なんだぜ!!

 

「今度はどんな台本を?」

 

「……もし仮に自分が地獄に落ちることが決まる代わりに特定の人間を1人地獄に落とす事が出来る、と言えばどうしますか?」

 

「それは……」

 

「愛は美しいと同時に醜いものでもある、美しい側面と同時に醜い側面を書いた話……自分の命を犠牲にして相手を地獄に突き落とす憎悪、世間では裁けない悪を私欲で裁く、そこに至るまでの復讐譚……的な感じですね」

 

 今回書いたのは地獄少女っぽいお話だ。

 男を巡り壮大なまでの恋愛闘争の末に敗れた1人の女、幸福を勝ち取った女を私欲で憎んで地獄少女的なのにアクセスし地獄に突き落とす。

 邪魔な女は消えた、コレでもう自分には障害は無い。コレで新たに男と結ばれると思っていたが、男の心の中には彼女との幸せの時が残っており、彼女を裏切れないと1人の身になり孤独を選ぶ。人を呪わば穴二つなんて言うけどもそんな感じの作品だね!

 神崎すみれオーナーに暗い話だと言うのを伝えればあまりいい顔をしない。帝国華撃団が演劇をやっているのは邪気を祓う為……でも、こういうのが面白い、皆が望んでるんだ!地獄少女が売れた理由がそんなのですからね!

 

「僕は台本だけを渡す……誰がどの役かは皆で決めてくれ……皆が成長した姿、期待してるよ!」

 

 僕はそう言い自分の執務室に向かっていく……それと同時に皆の表情の変化に気付く。

 いいよ、いいよ、実にいい感じに熟成されているよ……サクラ大戦と言うゲームの内容をザックリと説明すれば、ロボットで妖怪的なのを倒す劇団が舞台のギャルゲーである。ゲームの原作を無事に終わらせれば5人のヒロインの誰かとイチャイチャする事が出来るようになる。カードゲームも出来るギャルゲーもあったけども、こっちはロボゲーが出来るゲームなんすよ!

 でもね、僕は特定の誰かが、推しメンが居るんじゃないんだよ!だからね……皆との好感度を上げて特定の誰かと一緒になるのだけは避けていた。そして昨夜、コッソリと籍を入れたんだ。

 

 僕には分かる。

 皆が僕のことを異性として意識しているのを……だから返事に悩んでいた。僕が欧州に渡航前に書いた最後の演劇の台本の結果を言うのを。

 僕は物語を書くのはなにかしらの意味がある、かの有名なアンデルセンなんかは母親が死んだことを神に感謝した。もう苦しまなくて済むんだと、だからマッチ売りの少女を書いたと言う話をしたことがあるんだ。だから僕が最後の分かれを言う前に帰ったら結婚しようと約束した話を書いたのは誰かに告白をしようと計画している事だと予測させる。無論、予測させるだけでなにかをするわけじゃない!

 

 そして、今回の地獄少女の台本でごぜえます!

 花組の皆と僕がとても仲が良いのは公認の事実、皆知っている。嘗ての神崎すみれオーナーも大神朴念仁と仲が良かった、周知の事実だった。

 そしてまぁ、そう……………きっと皆は自分が選ばれるけども、他の皆と親密度が高いから諦めてくれと諦めさせる為にこの台本を書いたのだと思っている…………別に僕は彼女達を異性として一切の意識はしていない!職場の同僚部下ぐらいの感覚だ!無論、部下孝行はするよ!飯を奢るとか相談とかは受け付ける!でも性愛の対象にはしないぜ!!

 

 ああ……楽しみだよ。この演劇に成功すれば、僕はまた美味い飯を食うことが出来るようになる。

 コッソリと婚約指輪が入っていると思わせる様な指輪ケースは自分の部屋に置いてある、仕事の事とかで色々と言いに来たさくら達にどういう風に言って誤魔化すか、そこが難点だけどもそこを上手く誤魔化して暫くして素知らぬ顔で指輪を左手の薬指に付けて出勤してくる。

 その瞬間、5人の乙女達の笑顔がどうなるか…………考えただけでも最高でっせ!




推しでもなんでもないキャラをその気にさせて盛大なまでに振る死亡フラグと隣り合わせなお話です。
色々とご都合主義あるかもだけんども見逃しちくれ


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まゆゆんの貧乏くじ 遊戯王

 

 問1

 青眼の白龍の属性、種族、レベル、攻撃力、守備力を答えろ

 

 A 光属性 ドラゴン族 レベル8 攻撃力3000 守備力2500

 

 問2

 特定のモンスターが居る時にのみ使える魔法カードを答えよ(例、黒炎弾と真紅眼の黒竜)

 

 A 青眼の白龍 滅びの疾風爆裂弾

 

 問3

 

 3体以上のモンスターを指定して融合する融合モンスターを答えよ

 

 A 青眼の究極竜(青眼の白龍×3)

 

 問4

 

 融合モンスターを融合素材に指定する融合モンスターを答えよ

 

 A 究極竜騎士

 

 問5

 

 スペルスピード1から3まで使ってチェーンを作れ

 

 A 光の護封剣→サイクロン→魔宮の賄賂

 

 問6

 

 現存する属性全てを答えよ

 

 A 火属性、水属性、風属性、地属性、光属性、闇属性、神属性

 

 問7

 

 カードの種類を全て答えよ

 

 A

 通常モンスター、効果モンスター、融合モンスター、儀式モンスター。

 通常魔法、速攻魔法、儀式魔法、装備魔法、永続魔法、フィールド魔法。

 通常罠、永続罠、カウンター罠。

 

 問8

 

 通常召喚出来ないカードを3つあげろ

 

 A レアメタル・ドラゴン ダーク・アームド・ドラゴン レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン

 

 問9

 

 ダメージを回復または0にするカードをあげろ

 

 A クリボー

 

 問10

 

 貫通効果を持ったモンスター及び効果を与えるカードをあげろ

 

 古代の機械巨人 メテオレイン

 

 問11

 

 攻撃力0のモンスターを攻撃表示で召喚した際にオシリスの天空竜の効果が発動した場合どうなる?

 

 A オシリスの天空竜の召雷弾は攻撃力を2000下げる効果でその効果で0になった場合、そのモンスターを破壊する効果なので元から0なモンスターは効果では0になったのではないので破壊されない。

 

 問12

 

 特殊召喚が出来ないモンスターをあげろ

 

 A E・HERO フレイムウィングマン

 

 問13

 

 禁止カードを3つあげろ

 

 A 悪夢の蜃気楼 ハーピィの羽根帚 サンダーボルト

 

 問14

 

 無限ループのコンボのカードを書け(禁止カードは除く)

 

 鉄の騎士ギアフリード+暗黒魔族ギルファーデーモン

 

「……初期だな……」

 

 Fate/Grand Orderというハズレな世界での活劇があまりにもアレだったので地獄の転生者運営が俺にもう1度転生する権利をくれた。

 前回が人間ドラマが繰り広げられる歴史バトル物だったが、今度は俺に無双出来る様にと遊戯王GXの世界に転生させてくれた。遊戯王は紙媒体じゃ色々と大変だから一時期離れてMDで復帰エンジョイ勢だが俺はどちらかと言えばバトスピの方が好きなんだ。

 まぁ、それはさておいて遊戯王GXだ。初期のDMの世界の方が好きなんだが、贅沢は言ってられない。サーヴァントの性奴隷をやり婚約首輪を付けていた頃と比べれば何京倍もいいことだ。いや、ホントにサーヴァント達が「誰のお陰で人類史が救えてるのかな?」と脅してきたりして大変だったんだ。

 

 問15 

 

 攻撃力及び守備力0のモンスターをあげろ。ただし?は除く

 

 A カオス・ネクロマンサー

 

「……」

 

 そんなこんなで遊戯王GXの世界に転生した。

 遊戯王GXの物語の舞台であるデュエルアカデミア本校の入試を受けている。デュエルディスクにカード効果を自動処理してくれるという夢のような機能があるのにそんなの必要なのか?と思うところもなくもないのだが、デュエルアカデミアは超難関校と言われている。

 デュエルアカデミアはエリート校……完全実力主義なところがある、オーナーである海馬瀬人は人柄云々でなく実力で推し量る人、城之内克也を凡骨と見下しつつも心の何処かでは認めているから人情はあるがある程度は強いのが前提だが。弟にしか優しさを向けないなんとも言えない男だ。

 色々と思うところはあるが人生の勝ち組になる為にも楽しく過ごす為にもデュエルアカデミア高等部に入学したいんだが、今の時点でかなり落胆している。遊戯王をやってれば嫌でも身に付くタイプの知識ばかりを求めている。今の段階で遊戯王をちゃんとやってなきゃ知らないのはオシリスの天空竜の召雷弾の裁定のところぐらいだ。

 

「……」

 

 通常モンスターのテキストが出てきた。

 なんのモンスターなのか答えろ系は難しい……コレはあくまでも俺の予測だが、この筆記試験は内申点を上げるための筆記試験だろう。

 なにせこの世界はデュエルモンスターズを作ったペガサス達が認知していないカード、カードを創造するということをやったりするわけで1から10まで公式全てが認知しておらず、オーナーである海馬瀬人も1から10までカードを全て知っているわけではなくオカルト嫌いだったがアテムの記憶やドーマ関係でオカルトの存在をちゃんと認知した。この世界線ではないダークサイドディメンションでは非科学的な要素を科学的に解析して科学技術でアテムにデュエルするためだけに冥界にカチコミに行くからな。

 完全記憶能力の1つでも持ってなきゃ覚えてない細かなテキストなんかも問題に出てくる。そもそもで入手どころか画像すら見れないカードも存在しており更にはデュエルアカデミア、学校だ。デュエルに関するアレコレを教える学校だ……この時点で満点取れるならプロに行けよ案件だろう。

 

 問100

 

 青眼の白龍を使ったデッキレシピを書け

 

 A 青眼の白龍×3 

   青眼の亜白龍×3 

   ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン 

   ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン

   ロードオブドラゴン ドラゴンの裁定者×3

   青眼の光龍

   青き眼の乙女

   青き眼の賢士

   青き眼の祭司

   青き眼の巫女

   青き眼の護人

   伝説の白石×2

   竜の霊廟×3

   トレード・イン×3

   ドラゴン目覚めの旋律×3

   融合強兵

   融合解除

   融合

   究極融合×3

   青き眼の激臨

   光の導き

   カオス・フォーム

   高等技術式

   高尚技術式

   強靭!無敵!最強!

   スキルドレイン

 

   青眼の究極竜×2

   真青眼の究極竜×2

   青眼の双爆裂龍×3

   究極竜魔道士×3

   青眼の究極亜龍×2

   ブルーアイズ・タイラント・ドラゴン×3

 

 1問1点の問題でマークシート形式でなく記述形式のテストだ。

 最後の問題はなにを基準にして◯かXかは分からない……海馬瀬人なりの優しさ、皆が考えた最強の青眼の像をみたいとかか?

 書き終えたので時間を確認すればまだまだ時間がある。解答用紙と問題用紙は別々のテストだから、問題用紙の方に解答用紙の答えと同じ答えを書いていく。ついでに名前間違いが無いのか等の確認もやっておく。特に間違いらしい間違いはないが逆を言えば、コレで無理ならば無理だろう。

 筆記試験はあんまり気にしない。遊城十代の110番よりも上だったらそれでいい。110番よりも上でデュエルに勝利すれば学校側も入学を認めなければならない。

 

「筆記試験が通って受験番号が来たわよ」

 

 家に帰り数日後、筆記試験の結果が帰ってきた。母さんがデュエルアカデミアからの通知を送ってくる。

 デュエルアカデミアの実技試験の受験番号が貰った。この受験番号が1に近ければ近いほどに数字がいいもので、俺の受験番号は6……うっかりミス云々があったしバニラのテキストを覚えてないところもある。だからまぁ、問題は無い。

 

「やりましたね!6番ですよ、6番」

 

「全問正解者が居るのか分からないが、まぁ、悪くないどころが良い結果……だが知識だけじゃ意味がない。実技試験が本番だ」

 

 自分の部屋に戻り、筆記試験の結果と後日行われる実技試験の日程等を確認する。

 海馬コーポレーションの海馬ランドでデュエルを行う。1番から同時進行で行われる日程で、具体的な細かな時間などが書かれている。ここまではいい、ここまでは大丈夫だが問題はここからだ。

 

「なんのデッキを使うか……」

 

 このデュエルに勝利さえすればデュエルアカデミアに入学する事が出来る。

 滑り止めでデュエル科じゃない普通科の学校は受けていない。因みにだが工業科の高校は割と倍率が高い、海馬瀬人のデュエルディスク関係のせいで……この世界、将来的に永久機関生まれるからな……。

 

「じゃじゃーん!私を主役にしたデッキを用意しました!」

 

「いや、お前を使えるわけないだろ」

 

 とにもかくにも、デュエルに勝利しなければならない。

 ここで幾つかの問題点がある……カードゲームの玩具販売促進アニメの転生者は無限にカードを貰える。俺もその一例に漏れずにカードを貰っている。しかしまぁ、持ってるとややこしい感じのカードもあるわけで使えるカードは慎重に餞別しなきゃいけない。

 まず、リンク召喚とペンデュラム召喚は出来ない。そもそもで初期のルールでマスタールールじゃない、リンク召喚ありのルールじゃないとエクストラデッキゾーンが無ければリンクモンスター出せない。ペンデュラムモンスターも一応は魔法罠ゾーンにセットできるが……な。

 シンクロとエクシーズは普通に使える……が、歴史改変云々の未来人がかなりややこしいので使いたくない。

 融合、儀式、効果モンスターで上手い具合に誤魔化さなきゃいけないんだが……割とこの世界は困ったことと言うか悩んでいる事がある。それはカードについてだ。二次小説とかでもカードは貰えたり実際に持っていたカードを使えるパターンが多い……俺はバトスピ派だが、遊戯王が決して嫌いなわけじゃない。ただカードのインフレ・デフレについて些か疑問を抱いている。

 海馬瀬人は世界に4枚しかない青眼の白龍を入手しようとした。独占している……カードゲームで自分にしか使うことが出来ない専用カードを使って無双する……確かに心地良いかもしれないが、ゲームとしてはフェアじゃない。無論、完璧なフェアは求めない。でも、ある程度はフェアじゃないとカードゲームは意味が無い。

 Fate/Apocryphaという作品がある。あの世界では聖杯戦争のシステムが世界中に暴露されて世界中で亜種の聖杯戦争が行われている。

 そんな中でヘラクレスの触媒について話題に出たが、ギリシャでヘラクレスを召喚したらその時点で勝ちは確定みたいなものだ。だからヘラクレスを召喚して様々な作戦を考えたりフォローしたりして戦うんじゃなくてヘラクレスの触媒の奪い合いと言う聖杯戦争を行う前の過程でのバトルになる。アキレウスにも同じことを言える。まぁ、あの世界は根源目指すためならばなんでもやるぜな世界だからそれで構わないかもしれない。ゲームとしてみないならば世界で自分しか使えない系の武器とかはまぁ、いいと思う。

 だが、カードゲームでコレさえ持っていれば絶対に勝つことが出来るぜ!系のカードを自分一人だけ独占して作ったデッキで無双して楽しいデュエルは出来るのか?無論、カードゲームは最終的には課金ゲームなことぐらいは理解している。だが、カードゲームの玩具販売促進アニメの世界はカードのインフレ・デフレ具合と課金の度合いと熱量が段違いだ。

 地獄の転生者養成所曰く玩具販売促進アニメの世界は複数の転生者が居てはじめて楽しむ事が出来る世界、インフレ・デフレを極力無くした世界の住人がインフレ・デフレが激しいカードの意味を理解してない系の世界の住人相手に無双するのは極々普通のことだ。遊戯王世界じゃ1枚しかないカードも現実じゃ沢山刷られていて皆がそれを持っていて様々な戦術に組み込む……少なくともモンスターを使う系のカードゲームと言うものはそういうもんだと認識している。

 俺達転生者の認識が正しいのか?それとも玩具販売促進アニメの世界の認識が正しいのか?それは永遠の謎だろう。だが、強さを極めると言う意味合いと純粋にカードゲームとして楽しむという意味合いでは転生者の認識が正しい筈だと俺は思う。

 

「え〜」

 

「え〜じゃねえ、え〜じゃ……お前主役のデッキよりもお前達主役のデッキの方が回る」

 

「お師匠様無しの方向性でお願いします!!」

 

「そもそもでお前は使わない、他のカテゴリーで戦う」

 

「そんな……」

 

 まぁ、遊戯王世界だし遊戯王はし放題だから楽しむことは考えておく。

 カードゲームなんだから勝ったり負けたりの関係性が生まれる……のが現実で無敗のやつはマジで無敗なのがこの世界だ。つまらないな。

 

「使ってください、ここ1番の時を思って1枚1枚一生懸命考えて組み込んだんですよ!」

 

「……魔法使い族統一だが…………」

 

「マジシャンズ・ヴァルキリアで切り込み隊長と同じロックも出来る!魔法族の里で魔法も封じれる!王宮のお触れで罠も使えない!完璧ですよ!」

 

「ラヴァゴ出たら終わりだろう」

 

「うっ……」

 

 まぁ、それはさておいてデッキを……ブラック・マジシャン・ガールと相談している。

 転生特典についてきたとかでなく何時の間にやら勝手に取り憑いた系のブラック・マジシャン・ガールである……俺自身には精霊を見るほどの魔力的なのは無い。武藤遊戯もといアテムが冥界に行くことに成功して魔術師師弟達はデュエルモンスターズの精霊になってて自分自身のカードの持ち主に取り憑いたり取り憑かなかったりしてる。実際にデュエルで使用する事が出来るブラック・マジシャン・ガールのカードは激レアで、まぁ、エグいぐらいの値段であり実物を持っているが使用してないパターンがあったりで実際に使用してるの武藤遊戯ぐらいなんじゃないか説があるぐらいには稀少で……なんかこの人に取り憑こう的な感じで普通に俺の持ってるブラック・マジシャン・ガールのカードの精霊としている。

 ハッキリと言えば武藤遊戯のところにいろよとは思う。だがまぁ、アテムの方は既に冥界に行ってて自分達は精霊になったので冥界に行くことが出来ないみたいで後はもうデュエルモンスターズの精霊として生きるだけの人生らしい。それを覚悟の上で精霊になったから忠義心は熱いだろう。

 

「このデッキ、マジシャンガールデッキでもブラマジデッキでもないただの魔法使い族統一デッキだから……」

 

 ブラック・マジシャン・ガールが出してきたデッキの内容を確認する。

 魔法使い族統一デッキと呼ぶのが1番なところと言える感じのデッキだ。今から融合がメインの時代になる頃の遊戯王だ、強い弱いの話で言えばこの世界基準だと普通に強いだろうが、絶妙なまでに微妙なところだ。

 

「エクストラ制限かかってるなら…………………」

 

 確実に勝つデッキで尚且つ割と普通なデッキじゃないといけない。

 ブラック・マジシャン・ガールに渡されたデッキは魔法使い族統一系のデッキだ……ブラック・マジシャン・ガールが入ってる事を無視すれば普通に使えるんじゃないかと思えるデッキなんだがな。

 

「AtoZ……磁石の戦士……スキドレバルバ、墓守…………トリックスター」

 

 確実性を出すならば色々とある。今回は絶対に勝てるデッキじゃなきゃいけないわけで……トリックスターもありっちゃありだな。

 天よりの宝札(アニメ版)と命削りの宝札(アニメ版)は基本的にはどのデッキにも入るありがたいカードで悪用しか使い道がないんだよな。

 

「試験番号6番です、よろしくお願いします」

 

「そう固くならなくて構わない……普段の君の力を見せてくれればそれでいい。先攻は君からだ」

 

「はい」

 

 そんなこんなでデュエルアカデミア実技試験の日がやって来た。

 デッキをデュエルディスクに装填し、カードを5枚引いて手札の確認を行う。悪くないどころか1発で勝負つきそうな手札だな。

 

「俺のターン、ドロー。俺はトリックスター・キャンディナを攻撃表示で召喚」

 

「トリックスター?……聞いたことがないモンスターだな」

 

「トリックスター・キャンディナの効果を発動。デッキからトリックスターカードを1枚手札に加える。俺はトリックスター・マンジュシュカを手札に加えるがその前に手札にあったトリックスター・マンジュシュカの効果を発動」

 

「む……既に手札にあるのに同名カードのサーチだと?」

 

 なにをやっているのかよく分かっていない試験官。

 コレは頭でっかちなデュエリストだと呆れているのだが俺は気にすることはせずにデュエルを続ける。

 

「手札のこのカードを見せることでトリックスター・マンジュシュカ以外のトリックスターモンスターを手札に戻して特殊召喚する…………」

 

 説明コレであってるよな?カードゲームでカード効果の説明云々やるの中々に無いんだよ。

 

「更にこの効果にチェーンして速攻魔法サモンチェーンを発動。この効果でこのターン通常召喚を3回まで行うことが出来る」

 

「ほぉ……連続召喚で上級モンスターを狙いに来たか」

 

「トリックスター・キャンディナを再び召喚して効果で3枚目のトリックスター・マンジュシュカをサーチしつつさっき手札に加えた2枚目のトリックスター・マンジュシュカの効果を発動してトリックスター・キャンディナを手札に戻して2枚目のトリックスター・マンジュシュカを特殊召喚、3回目、トリックスター・キャンディナを通常召喚し効果を発動。フィールド魔法、トリックスター・ライトステージを手札に加えて3枚目のマンジュシュカの効果でキャンディナを手札に戻して特殊召喚。更にフィールド魔法、トリックスター・ライトステージを発動し、カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 トリックスター・マンジュシュカ×3

 

 レベル3 光属性 魔法使い族 攻撃表示 ATK 1600

 

「む……一度に3体のモンスターを並べた事は見事だ。だがしかし上級モンスターを1枚も召喚しない、モンスター効果で手札に加えることが出来たのにも関わらずだ。言っておくがデュエルアカデミアはそんなに甘くはない!見せてやろう、現実を!私のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、トリックスター・マンジュシュカの効果を発動。相手がカードを手札に加える度に加えたカードの数×200のダメージを与える」

 

「なに!?」

 

「トリックスター・マンジュシュカの枚数は3枚で600ポイントのダメージだが、トリックスター・ライトステージはトリックスターモンスターが戦闘か効果でダメージを与えた際に200ポイントのダメージを与える」

 

「っく……」

 

 試験官

 

 LP 4000→3200

 

「まさか効果ダメージを持っていたのか」

 

「罠カード発動、トリックスター・リンカネーション。相手の手札を全て除外し、除外した枚数分だけ相手はドローする」

 

「……ま、待て!?まさか」

 

「6枚除外して6枚ドロー、1枚ドローする度に800ポイントのダメージで×6,4800ポイントのダメージだ」

 

 さぁ、後は手札を除外してドローするだけだ。

 この時点でダメージ回避系のカードは1枚も持っていないようで無言になる試験官、数十秒ほどの無言が続いたのでなんか言おうかと思っていると潔く負けを認めたのか手札を除外してカードをドローし、ライフを0にした。

 

「…………」

 

「じゃ、失礼します」

 

 無言になってこっちを見てくる試験官。

 俺になにを求めている?少なくとも俺はデュエルをやったんだ。このデュエルからその人の人間性を試すのでなく純粋にデュエルの腕を見たいと言う、そういうところがあるのになんだその顔は?OCG次元じゃよくあることなんだから、素直に受け入れる事すら出来ないのか。

 現段階では高火力で殴るデュエルが普通なんだろう。バーン系やデッキ破壊、特殊勝利は邪道……ましては後攻で何もさせない系は認められない、榊遊矢の言葉を借りるならばこんなのデュエルじゃないだろう。だが、デュエルは真剣勝負、真剣なのでどっちが切られてもおかしくはないことだ。勝ち方に文句があるならば、ペガサスにでも言ってそっち系のカードの製造禁止を言えよ。

 

「あれ、おかしいですよね?」

 

「誰もツッコミを入れなかったな」

 

 万が一の可能性でコナミくんが居るかもしれない等を考えながらも他の実技試験を見る。

 転生者は自分だけなのが嬉しいのか悲しいのかよく分からないが原作通りに遊城十代が遅刻してきた。遅延は証明されたからデュエル出来たんだが、原作通りなんだがここで気になることがあるのだと家に帰ってから盤面を再現してブラック・マジシャン・ガールと共に確認する。

 

「ハネクリボーはフィールドから墓地に送られた際にこのターンに受けるダメージを0にする効果を持ってて……貫通効果、墓地行く前の処理なんだがな……」

 

「デュエルディスクが誤作動したんですかね?」

 

 遊戯王のルールが色々とあやふやだった頃なのと構成作家がコンマイ語を理解してないからだろうが、普通に十代が負けていた。誰一人としてツッコミを入れないことからして……デュエリストのレベルの低さが嫌でも分かるな。



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