仮面ライダーヴァルキュア (キラトマト)
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冬の章 露天風呂

本シナリオはもしもポートラルらが渚輪区を脱さなかった場合のifの世界です。尚且つ2部からの登場人物、セイバー勢、リバイス勢、ギーツ勢らもたまに登場します。


 その日俺たちポートラルは温泉に来ていた。

 

「ったくよぉサン、たかだか温泉に行くくれぇでなんでルールなんているんだよ」

 

 姫片がぶつくさと呟いた。

 

「黙れ姫片、お前たちアマゾネスどもがバカなことしないためだ。賢人、お前もだぞ」

 

「えぇ!? 俺も!? 俺真面目だよ!?」

 

「そうですよサンさん、賢人さまは真面目で誠実なお方ですよ?」

 

 よく言ってくれるな〜綴は、最高だよホント。

 

「ほらぁ〜、綴だってそう言ってるぞ?」

 

「はぁ……甘噛も賢人もお前らなぁ……」

 

 サンは頭を押えて首を傾げる。いつも思うけどサンも苦労人だよなぁ。

 

「まぁまぁよいではないかサンくん、仲がいいことには変わりないのだからな」

 

「甘いですよ礼音さん……」

 

「ふふふ、私からしたらサンくんが固すぎると思うがな」

 

「……」

 

「なぁに鼻の下伸ばしてんのよケツパ」

 

「伸ばしてねぇよ」

 

 ったく一体サンは誰のことが好きなんだ? 

 

「ん……? ケツパってなんだよサン」

 

「俺って来栖崎に血、与えてるだろ? だから血液パックを略してケツパって来栖崎に呼ばれてんだよ」

 

「へぇ〜、来栖崎さんもそんなに洒落たこと言うんだな」

 

「なによ、私がそんな質素な女に見えるって訳?」

 

「い、いやそんなことないっすよしs……来栖崎さん……」

 

「つかよぉ、そろそろ着くぞ?」

 

「……おぉ。おぉ!! すげぇデッケェなこれ!!」

 

「だろ? 今はまだ他の生存組合には見つかってないがもし見つかったら……」

 

「その時は分けあばいいんだよ!! サンちゃん!! 温泉じゃぁぁあああ!!!」

 

 いつものアドの馬鹿げたテンションが戻ってきたようだ。

 

「よしサン! 入るぞ!!」

 

 サンの疲れも俺の疲れも両方癒すためあいつ(サン)の手を引いて走った。

 

「お、おい待て賢人……!」

 

「ちょっと賢人さま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「最っ悪だ……」

 

「だから待てって言っただろ……」

 

 まぁ、ちょっと考えて見ればわかるか……1年間くらい手入れされてない温泉がどうなるかくらい。

 

「でもよぉっ……なんで俺とアドだけで掃除なんだよ!?」

 

「あなた達が真っ先に走っていったからです。ある程度は協力しますが……アドも賢人さんも反省して下さい」

 

 百喰さん厳しいな……。

 

「は〜い……あ!!!」

 

「ど、どうしたんですか賢人さん!?」

 

「いや変身すれば早く終わるんじゃないかなって!!」

 

「はぁ……?」

 

『キリンの恩返し!』

 

「変身っ」

 

『オールドストーリーライダー!!』

 

 ページを押して出てきたキリンがでかい箱をぼとっと落として去っていく。中に入っていたのは……。

 

「高圧洗浄機!?」

 

「よし! 使うよケンティー!!」

 

「え!? うわちょアド!?」

 

 アドが高圧洗浄機で大まかな汚れを落としていく。

 

「よし」

 

 そのあと一寸武士で小さくなって隙間にある菌などを落としていく。そしてどこからともなくやってきた倫太郎が水勢剣流水の力で水を溜め、そして飛羽真の火炎剣でお湯を温めてくれた。

 

「ふぅ〜……やっぱひと仕事終えたあとの風呂は別格だな」

 

「だなぁ……」

 

 男風呂はサンと賢人のみだった。女風呂を覗こうという気すら起きないサンとは違って賢人は意気揚々と向かっていく。そして覗いた賢人がボコボコにされて、その日の温泉旅行は終わったのであった。



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第一部 渚の孤島、生まれる剣士。
設定集 其れを知り、君たちは何をする


神川賢人

元は特撮が好きなだけの普通の高校生だったが、ある日交通事故に遭い、死んでしまう。だが何故か目覚めると2118年の極東大日本の別島、渚輪区の更に小さな特区、渚輪ニュータウンへと飛ばされていた。だがその名前どころか、賢人は生前、日本に住んでいたので、ポートラルのメンバーの持つ極東大日本の認識とはかなりの齟齬がある。火炎剣烈火を使いゾンビたちを倒していくが、未だ変身することが出来ていない。来栖崎ひさぎに剣の稽古をつけてもらい、始めは振るもすら精一杯だったのだが難なく聖剣を使ってゾンビを倒すことができるようになった。あまり難しいことは考えずにそのまま進んでいくタイプだが、樽神名アドとは違う。烈火と波癒の所有者。

所属 生存組合『ポートラル』

立場 渚輪区における唯一の男子。また、来栖崎ひさぎの相棒

二つ名 来栖崎ひさぎの弟子(自称)

言語と一人称 日本語 一人称は『俺』

両親 父・神川大地 母・神川百合恵 (長男)

尊敬する人 生前 仮面ライダー 渚輪区 来栖崎ひさぎと仮面ライダー

好きな食べ物 これといってなし。だが強いて言うならば寿司

嫌いな食べ物 ナスビ。食感がいつになっても慣れない

嫌いなもの(人・こと) 尊敬する人を馬鹿にする人

苦手なこと 恋愛

天敵 親

密かな悩み 仮面ライダーが見れない

趣味 生前 仮面ライダーの視聴 渚輪区 来栖崎とのトレーニング、及び甘噛との時間

好きなタイプ(恋愛) よくわからない

恋人に求めること 自分の趣味を受け入れてくれる(否定しない)

武術 中高でサッカー部に入っていたが皆に合わせるためだったのであまり真剣にはしていなかった。剣道部に入ればよかったと後悔している。

特技 仮面ライダーやその他特撮ヒーローの変身ポーズ

 

性格 怒ることは少ないがその分、怒った時の怖さは格段に大きい。結構ノリに任せて行動することが多い。

主力戦士の素質(特訓前→後)

筋力 C→A+

技 D→B+

参謀の素質

頭脳 C+

器用 D

盟主の素質

精神力(気合いやそれを持続させる力) A++

メンタル D-

カリスマ G

 

 

 

 

 

癒封剣波癒(ゆふうけんいやし)

火炎剣烈火から誕生した新しい聖剣。それを持った賢人は謎の女性の記憶を見たが、詳細は不明のようだ。新しい聖剣ということであまり能力は明らかになっていないが、資格を持ったこの聖剣の所有者が自分の意思で自身の身体を斬ることで自らの血に治癒効果を付与することが可能。

所属 神川賢人の二本目の聖剣

立場 賢人の所有物

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーヴァルキュア

癒封剣波癒によって変身する新たな仮面ライダー。だが未だ賢人は変身することが出来ていないので詳細は不明。しかし、波癒の鍔の色が白ということでメインカラーは白ではないかと推測される。賢人の覚悟に呼応し、聖剣ソードライバーとなった癒封剣波癒を装着し変身した仮面ライダー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???ワンダーライドブック

波癒の属性を持った三冊のライドブック。神獣は完全生物、動物は治癒能力を持つが危険な超生物、物語は奇跡の水の力が内包されているようだ。

 

 

 

エナジーユニコーンワンダーライドブック

全知全能の書の一編、白い一角獣の物語を内包している。ジャンルは神獣。ソードライバーの右のスロット、ライトシェルフに装填することで、仮面ライダーヴァルキュア エナジーユニコーンへの変身を可能とし、使用者の剣技を高める。序文は、

『〜かつて全ての生物を癒した一角獣がいた〜』

そしてブックの朗読の続きは『暴走を求める生物は、奇跡の物語にて収められる』2ページ目の左端のテキストには古の文字にて『白銀の一角獣と聖剣が交わり身に宿る』と書かれている。

 

ハンターナイトリザードワンダーライドブック

全知全能の書の一編、トカゲの物語を内包している。ジャンルは動物。ソードライバーの中央のスロット、ミッドシェルフに装填することでその力を宿すことが出来、使用者の身体能力を向上させることができる。序文は、

『〜この白き襟巻が綴る、壮大なるハンティングストーリー〜』

そしてブックの朗読の続きは『かつての神獣と、癒しの力で暴走を止める』2ページ目の左端のテキストには古の文字にて、『暴走する動物は聖剣と交わり身に宿る』と書かれている。

 

 

命の聖水ワンダーライドブック

全知全能の書の一編、命の聖水の物語を内包している。ジャンルは物語。ソードライバーの左端スロット、レフトシェルフに装填することで物語の力を引き出すことが出来、特殊能力の使用に大きく影響する。序文は

『〜とある不思議な水を巡る王子の冒険譚〜』

そしてブックの朗読の続きは『そしてその水は動物を癒し、神獣に力を与えた』2ページ目の左端のテキストには古の文字にて、『奇跡の水は聖剣と交わり身に宿る』と書かれている。

 

火炎剣烈火

2118年の極東大日本で初めて発見された聖剣。かつて神山飛羽真という男が所有し世界を救ったようだ。始まりの聖剣である月闇と最光の模造品ということで謎が多い部分があり、この世界でも新しい聖剣を生み出すなど、『仮面ライダーセイバー』の作中では見られなかった能力が発揮されている。まだ賢人を認めていないので聖剣ソードライバーには収まっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダー(作品)

特撮が好きな神川賢人の中でも特に好きなシリーズ。主に主人公に憧れており毎年、(こんな人になりたいなぁ……)と思っている。だが2021年の新しい仮面ライダーを見ることは叶わなかった。

 

 

 

 

来栖崎ひさぎ

この世界にてゾンビに殺されそうになっている賢人を助けた人物。道場に通っていた時の経験を頼りに賢人に剣術を教えている。彼の好きなものを知っても否定しなかった。お化けが大の苦手で、比較的ホラーが苦手な賢人ですら困惑してしまうほど。



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第1章 目覚める、渚なき輪の島。

 人が死ぬとはどういうことだろうか。意識がなくなったら? 心臓が止まったら?

 

 ────それとも、心が何も感じなくなったらだろうか? 

 

 感染×少女 とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……俺……死んだはずじゃ……」

 

 目が覚めると、俺は廃墟にいた。さっきトラックに轢かれて死んだはずなのに。

 

「────って、なななななんだこれ!?!?」

 

 なにもただ叫んだわけじゃない。自分が服を何も来ていないというあまりにも予想だにしない出来事に対して叫んだのだ。だが俺は気づいてしまった。光景の異常さに。

 

「廃墟だとしても……おかしいぞ? 建物が崩れてんのはまだしも……なんで地面が抉れてんだ?」

 

 おい待て、あれってまさか……。

 

 周囲の景色のことなんてどうでも良くなるほどに、俺は視界に気になるものが入り込んでいた。

 

「火炎剣烈火!? いやそうだよね!? マジか?!」

 

 俺は興奮してその剣に走り寄る。そしてその剣の前で熟考しながら独り言を繰り広げる。

 

「クソッ、抜けねぇな……、なんか素質? みたいなこと言ってたし……ってことはこれ本物ってこと!?」

 

「ぅごぅ……」

 

 地面に刺さった烈火の柄を引っ張っていると全身がヌメっとして、腐敗臭を帯びた怪物が寄ってきた。

 

「うわっ! な、なんだよ!?」

 

 まさかゾンビ!? なんて考えている暇はない。

 

「なっ……」

 

 考えているうちにそいつは腕を俺の方に振り下ろしてきた。咄嗟に躱すが、さっきまで俺がいたところの地面が抉れてしまっていた。つーことは何かの撮影ってことはないよな? 

 

「って、死にたくないって!! いやだいやだ!!!」

 

 そんな事を考えている場合ではないと、頭をブンブンと振って、俺は眼前にある銀色に鈍く光る剣に神頼みならぬ剣頼みをした。だが、それでもゾンビは先程異様な力を出した腕を振るう。

 

「────よし!!」

 

 漸く引き抜けた火炎剣烈火を持って、ゾンビに切りかかる。しかし……。

 

「なんで当たんねぇんだよ!?」

 

 ゾンビの不規則な動きと、烈火の物理的な重さが合わさり、躱されてばかりだ。

 

「あっ……」

 

 手が滑り、烈火を手放してしまった。────まずい!! 

 

 ゾンビがこちらに向かってきている。俺の結末は……『死』のみ。

 

「……もう、死にたくない……」

 

「うらッ!!」

 

 ────だが、その腐った腕が当たるすんでのところで、ゾンビは上半身ごと"ズレた"。

 

「え……?」

 

 来ると思っていた衝撃が、二度目の死が来なかったため、覆っていた腕を下げ、目を開ける。

 

「おんなの……こ……?」

 

 ────それは少女だった。年端も行かぬ、生前の俺とそう大差ないであろう少女がこんな場所で戦っていた。彼女が一歩踏み出すところが見えたと思ったら、その時既に相対していたゾンビは切り伏せられていた。

 

「……な、なんだよこれ、CGじゃ……ないよな? ……いや撮影じゃないんだからそりゃそうか……」

 

 俺には、その未知の怪物に対して圧倒的とも言える力を発揮する少女がすごくかっこよく見えた。

 

「すげぇ……」

 

 呆気にとられて少し気が動転していたところにもう一人の少女が話しかけてきた。

 

「ちょっち! 大丈夫かい! あたしらが来たからには、もう自殺なんてさせねいぜぃ!」

 

「じさつ……? えっと……」

 

「だいじょぶだいじょぶ! ヒサギンが来たからには、もう死なないからね!」

 

 ヒサギンと呼ばれた刀を持った黒髪の少女は、戦い終えたのか俺とオレンジ髪の少女のところに戻ってきた。

 

「ふぅ……もう虎口は脱したようだぜお嬢ちゃん!」

 

「じ……じょうちゃん……あ、あの……お嬢ちゃんって、俺のことですか……?」

 

 徐々に男の顔が青ざめていく。なにせ衣服のひとつもまとっていないのだから、完全に露出狂である。

 

「ん? ────っててててぇ! お、男!?」

 

 黒髪の少女はあることに気づき、大声を上げてしまう。

 

「あ……」

 

 まずい! そう思い俺は咄嗟に自分の大切な部分を隠した。確かに今思い出したが俺は全裸だった。しかし、それよりも今はすべきことがあった。

 

「あの……」

 

「どしたん? まさかその手を退けるってことかにゃ?」

 

「どけるな」

 

 黒髪の少女は即答する。

 

「いや見せる気ないですよ!? って、違くて……本当にありがとうございます!」

 

 精一杯の謝意を込めて俺は頭を下げた。傍から見れば異常な光景だろう、全裸の男が少女2人に対して頭を下げているなんて。

 

「まあまあ! くるしゅうないくるしゅうない! とりあえず自己紹介するね! あたしの名前は樽神名アド。んでこのクールな娘が来栖崎ひさぎ」

 

 来栖崎と呼ばれた少女は、はぁ……と溜息をつきながら言った。

 

「なんでこんなやつに自己紹介するのよ」

 

「まぁまぁヒサギン。自己紹介はコミュニケーションの基礎でして」

 

「こいつが私の名前知ってなんの得があるの? 鬼に金棒よ」

 

「いや……それを言うなら猫に小判じゃ……」

 

 そんな俺の言葉に来栖崎は顔をかぁっと赤くして、声を細めながら言う。

 

「……。……鬼に金棒であってるし。まじコイツ意味不明……」

 

「あはは……ま、まぁ! 行く宛てがないなら着いてきな少年!」

 

 アドは手を差し出す。もちろん俺はその手を取った。死にたくないという心もあったがそれよりも俺は、この人たちの力になりたかった。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 仮面ライダーになれれば……絶対にこの子達を守ることができるはずだから────。

 

「ってぇ! 服!?」

 

「あ〜ごめんごめん〜忘れてた〜」



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第2章 鳥籠の蟲の、生き残り。

 拠点とやらに歩き出した俺たちは、アドさんからこの世界の話を聞かせてもらっていた。

 

「今から3ヶ月のこと……世界は唐突に、終わりを迎えたのさ」

 

 映画か……? 

 

「どういうことですか……?」

 

「あー……終わったってのはちょっち言い過ぎだったかもしれやむ。この渚輪区全域でウイルスによるパンデミックが起きちゃったのさ……」

 

「ウイルスですか……」

 

「そそ。ウイルス。しかもね────」

 

「感染経路は空気、飛沫、接触、経口、果てにはベクターまで、しかも、潜伏期間はほぼなしで、感染後の死亡率は100%の──超毒性ウイルス」

 

 アドさんは真剣な面持ちで言った。でも致死率が高いウイルスってすぐに絶滅するんじゃ……。

 

「あ、もしかしてもうウイルスは無くなった、とか? ほら、貴方たちや俺も生きてますし」

 

「んーや、まだまだ蔓延してるよ。でもね? なんでかはわからないんだけど、私たち若い女の子たちは感染しないの」

 

「え……それってもしかして」

 

「そ。女の子だけしか生き残ってないの」

 

 ゲームで見たことあるぞこんな設定。本当にこれって現実なのか……? 

 

「それじゃあなんで俺だけ……」

 

「まあまあ! 深いことは考えずに! ほら! 着いたよ! ようこそ、我らポートラルへ!!」

 

 デパート……。ただのデパートかぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「────んで、ここがトレーニングルーム。元々あったジムを回収したものだから、設備は整ってると思うけど、使う時は誰かと一緒に来てね!」

 

 俺は服を着替え、その後にトレーニングルームにてアドさんから説明を受けていた。そんなガキみたいに扱わなくても……。

 

「あ、ありがとうございます……。あ、その……来栖崎さんでしたっけ……その持ってる刀、ちょっと持たせてくれませんか?」

 

「は? なんであんたなんかに? ……そんな目するくらいなら初対面の私に頼まないでよ……」

 

「いや……その……すみません。じゃあやっぱ」

 

「────仕方ないわね、ちょっとだけよ。持たせるだけだからね」

 

「え、ま、まじですか!? ありがとうございま────おもっ! 」

 

 え、こんな重いの軽々と持てるって……。じゃあ……。

 

「来栖崎さん! お願いします! 俺に剣教えてください!」

 

「はぁ? あんたに? 私が?」

 

「はい……! 俺さっきこの剣落としちゃいましたし……、それに全然振れなかったんで……。だから教えて欲しいな〜なんて……あはは」

 

 目が……キツい……すげぇ怒ってるよな来栖崎さん……。

 

「し、少年くんもそう落ち込まずに! ほら! ここだよ!」

 

 少し空気が気まずくなったところで、アドさんが声を上げながら会議室のドアを開けた。

 

「やぁやぁ皆のしゅー! 注もぉーく!!」

 

 中に入るとアドは頭上で手を叩き、俺を注目の的にする。

 

「敬愛するポートラルの諸君、今日集まってもらったのは他でもない。本日は大収穫があるんですぜぃ! 聞いて驚くなかれの3、2、1──ババン!」

 

 アドはテンションハイMAXの状態のまま紹介する。

 

「男だッ!!」

 

 男だ、って、なんだよそれ。

 

「ななななななんだってッ!?!??!」

 

「ぷっ……」

 

 予想はしてたけど、すげぇなこの反応。

 

「お……男ですか……本当に……」

 

 予想外の出来事に眼鏡を掛けたいかにも生徒会長といった見た目の少女が感嘆の声を漏らした。てか……。

 

「でっけぇな……」

 

 思わずそう呟いてしまった。

 

「正真正銘の男子ですぜもぐっち。生存組合『メルター』との会談帰りにさ、日々宮通りで捨てられてたから拾ったの」

 

「捨てられてたって……」

 

 生存組合、という単語に少々の疑問を抱きつつ、俺はその場の流れに合わせる。

 

「……しゃべった……」

 

 少女たちは、久しぶりの男声に感動したのか、或いは驚いたのか、それだけで「おお」とどよめいた。俺は動物か。

 

「また樽神名の笑えねぇ冗談かこりゃ……? 男にゃ免疫がねぇはずだろ?」

 

「仮説であり定説ではなかったということですね……。これまで男性生存者を発見し得なかった結果、そう結論づけてしまっていただけで、こうして反証があった以上、男性が生き残れる可能性もゼロじゃないということでしょうね」

 

 う〜ん……よくわかんねぇな……。

 

「はぁ……男見るだけでここまで感動する日が来ようとはなぁ……」

 

「それで、少年さん」

 

「俺の……ことですよね?」

 

「ええ、申し遅れましたが私の名前は百喰恵です。初対面で失礼ですが、いくつか質問しても構いませんか?」

 

「はい。もちろんです」

 

「ではまず最初に、感染せずにいられた心当たりなどはありますか?」

 

 やっぱりそうきたか……。

 

「すみません。わからないです……」

 

「わからない? ではどこにいたのですか?」

 

「わからないです……、起きたら何故かここにいて……」

 

「ご職業は?」

 

「……一応、高校生でした……」

 

「ご趣味は?」

 

「えっと……まぁ……仮面ライダーとか……そんな感じです」

 

「出身地は?」

 

「日本……」

 

「名前は?」

 

「えっと……多分、神川、賢人だと……思います……」

 

 クソ……なんで大事なとこだけ忘れてんだよ俺は……。

 

「ではその手に持っている剣については?」

 

「あ、これですか……。目覚めたら近くにこの剣があって、取りに行こうとしたらゾンビに襲われて……って感じです」

 

「ではなぜその剣を取りに行こうとしたんですか?」

 

「それは……」

 

「もうよせ百喰くん。神川くんも流石に怒ってしまうぞ?」

 

「別に────」

 

 口を挟もうとしたところ、その人形のように精巧な顔をした女性に目配せされ、一旦口を閉じる。

 

「で、ですが正体不明の人物が入ってきたのなら調べるのは当然────」

 

「名前も、それどころか趣味まで話してくれたのだぞ? 彼にとっては全く知らない人である私たちに」

 

 蛇に睨まれた蛙のように百喰さんは押し黙ってしまった。

 

「すまない。見苦しいところをお見せしてしまったな……」

 

「い、いえ! そんなことは全く!」

 

 てかこの人……なんで上さらししか着てないんだ? 

 

「ふふ。優しいのだな。まずは私に自己紹介をさせてもらってもいいかな?」

 

「え、ええ。もちろんです」

 

 すげぇ美人だな……まるで作り物みたいだ……。

 

「ありがとう。私は三静寂礼音。『戦闘班』で狙撃手をやらせてもらっている」

 

「『戦闘班』?」

 

「ああ、この中央会議室にいるメンバーの通称だよ。まぁ、ポートラルの代表として戦える人間を集めて、デパート外活動要員として気張らせてもらっている」

 

 礼音は胸に手を当てて気を張る。その格好でその動作はその……いいのか? 

 

「へぇ……。なんか凄そうですね……」

 

「およ? 気になったかな? 3日後に外行く作戦あるから1回行ってみる?」

 

「うーん……行きます!!」

 

 特訓も大事だが、実践に勝るものはないって言うしね。

 

「よし少年! いやケンティー! よく言った!」

 

「え、け、け、けんてぃー?」

 

 よく分からないあだ名をつけられて困惑してしまったが準備は整った。よし、後は来栖崎さんに教わるだけだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら肘曲げない!」

 

「もっと早く!」

 

「もっと力入れる!」

 

「もぅ……キツい……ですって……。そろそろ……休憩……させて……」

 

 すげぇキツイなこれ……。

 

「よくそんなんで教えてとか言えたわねなんなの死ぬの?」

 

「ちょっとくらい……休憩────」

 

 でもあと3日で外行くからな……、あまり時間は残されてないし何より────。

 

「変身したい!!!」

 

 その気持ちをバネに、俺は特訓を再開した。まぁまだ素振りの段階だが。そしてそれからほぼ丸一時間ほど経ったくらいのこと……。

 

「こんな感じで……その後にこうやって弾き飛ばして……」

 

 アニメや特撮などでみられた剣裁に練習に入ったということでより一層やる気が漲ってきた。そして一段落着いた後、来栖崎さんに尋ねられた。

 

「あのさ……あんたなんでそんな強くなりたいわけ?」

 

 急にそんなこと聞かれても……とは思ったけどやっぱ……言うべきだよな手伝って貰ってんだから。

 

「恥ずかしいんですけど、あの……仮面ライダーセイバーっていう番組に出てくる、剣士に憧れてまして……。いや、番組だから架空の存在なんですけど、高校生でこんな趣味持ってるって変っすよね……」

 

 なのに来栖崎さんは「ん? 別に変じゃないわよ」なんて言って励ましてくれた。

 

「え……」

 

「言っとくけどそのかめんらいだー? ってのは知らないからそれになりたいとかは叶えられないけど」

 

「いや、ほんと……ありがとう……ございます。こんな運動神経ない僕に教えてくれて……」

 

「別に。戦える人が増えたらいいことじゃない。だからよ」

 

 口調はキツイけど、性格はいいんだよな……。ほんと、根はいい人っていうか。しかし夜になって気づいた。

 

「え、ガチ痛い……」

 

 重度の筋肉痛により寝ることはおろか、ベッドに横たわることすらままならなくなってしまったんだ。それでもなんとかベッドに横になり、ようやく寝る体勢に入ることができた。

 

 しっかし、俺にとってのヒーロー……か……。



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第3章 炎であり、癒の剣士。

 翌日、まだまだ特訓……と言いたいところだが、

 

「今日はダメ。あんたただでさえ運動してないってのに今日またあんなトレーニングしたら壊れるわよ? ほら」

 

 来栖崎は賢人に向かってなにかの液体が入った容器を手渡した。

 

「え、なにこれ?」

 

「プロテインよ。知らないの?」

 

(知ってるけどさ……突然渡されたら聞くに決まってるじゃないか!)

 

 だが賢人はそれを口には出さず、

 

「ありがとう。じゃあ飲ませてもらうよ。……。……うえっ、に、苦っ!?」

 

「それが普通なの。我慢しなさい」

 

(ほんとスパルタだよなぁ……来栖崎さん)

 

 ともあれ、今日は絶対に激しい運動はせず、ほぼ一日中自分の部屋で過ごした。そして次の日、

 

「あれあれ〜、ケンティー、昨日ずっと部屋にいたけど〜、ナニしてたのかな〜」

 

(なんか言い方がいちいちいやらしいんだよなぁ……。まぁいいでしょう。特にやましいこともないし)

 

「一昨日結構トレーニングしたからさ、来栖崎さんに言われて休んでた。いや、まぁ時々本屋に行って面白い漫画とかないかなーって探したりしてたけど」

 

「ふ〜ん。へぇ〜、そうなんだ〜」

 

(なんだそのふ〜ん、は。馬鹿にしてるのかな?)

 

「えぇ、まあそんな感じで昨日は、はい」

 

「あ、そうだ。忘れてたけど、明日は戦闘班で結構遠出するから、準備しててね!」

 

(あ、そっか……まじか……)

 

 そして少年は今日も、一人の少女に教えを乞うのだった……。

 

「お願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────だから今日は剣じゃなくて体力を鍛えたいと。それだったら別の人に頼んでもいいじゃない?」

 

「いや……、なんか知らない人……っていうか初対面の人って話しかけづらくて……」

 

「はぁ……、そんなんじゃこの先生きていけないわよ?」

 

(それ以上に、来栖崎さんは……俺の……先生……的な? 感じ? だからさ、とか言いたいなぁ……)

 

「せんせ────来栖崎さんならより効率的な方法知ってそうだしさ」

 

(あぶなっ! 先生って……何言ってんだよ俺!?)

 

「まぁいいわ。ほら、さっさと始めるわよ。あ、それと明日また動けなくなったら骨折り損のくたびれもうけだから、今日はちょっとだけね」

 

「それを言うなら本末転倒じゃ……」

 

「……ッ。私が言ったらそうなんだし……マジ意味不明……」

 

「そうですね! 来栖崎さん!」

 

「もう……調子狂うのよ……。ほら、始めるわよ」

 

 賢人がそれを肯定したものだから来栖崎は困惑。

 

「はい! 始めましょう!」

 

 そんなこんなでトレーニングも終わり、運動に慣れたためかあまり筋肉痛にはならずに済んだ賢人は、来栖崎から貰ったプロテインを飲み、明日に備えて早めに就寝する。

 

 翌日、早めに寝たおかげでみんなよりも早く起きられた賢人は、何もしないと流石に暇なので、本屋に行ってこの世界についてもっと詳しく知ろうと思った。

 

 彼はその情報誌を見ていく。

 

『神峰秀次、ノーベル物理学賞受賞。息子の神峰透露はPAL研究所に就職決定。父親の後を継ぐのか!?』

 

『人気子供番組、アンパンマン、130年の歴史に幕を閉じる』

 

(え!? 終わっちゃったん!?)

 

『新生第20世代芸人の代表、楽農園、R-1グランプリを受賞』

 

(20世代か……こんな未来になってもお笑いとかあるんだ……)

 

『騎獅道屍、三静寂和樹を破り次期GMへ』

 

(グランドマスター……あぁ、チェスのあれか……)

 

『小学生フィギュアスケーター、豹藤やちる。世界大会出場!』

 

(へぇ……)

 

「ってぇ!? ありえないだろ!? 小学生!? すげぇな……。……でもこれ、オリンピック始まる前に……」

 

 と、そろそろみんなが起きる時間になってきたので、賢人は自分の部屋に戻り、今起きた、と偽った。そしてその後、彼らポートラルは補給物資獲得のため、街へと出かけた。未だに賢人は火炎剣烈火にて変身することが出来ない。だがそれでも武器として使い、ゾンビたちを駆逐していた。

 

「はぁっ!!」

 

 炎を纏った一閃はゾンビの体を焼き尽くし、その炎は他のゾンビにまで伝播し、広範囲を一掃する。

 

 だが、その場しのぎのトレーニングだったので、あまり体力はもたない。だが目的地に到着し、そして空から巨大な箱が投下されたと思ったら先程まで一緒にいた猫のような少女が走り出した。

 

「え、まだあんな体力が……てかすげぇなあの身のこなし」

 

(まるで宙を飛んでるみたいだな……)

 

「まぁそりゃヤチルンは元フィギュアスケートの選手だからねー」

 

(ヤチルン……やちるん……やちる……)

 

「まさか豹藤やちるか!?」

 

「ん? あ、そっか。名前知らなかったね」

 

 そんな話をしているうちにやちるは賢人たちの方へ戻って来、報告した。

 

「B13、G2、です!」

 

「よし! 聞いたねヒサギン!? Gが一番近いから、G,Bの順番で!」

 

 来栖崎は聞くまでもなく、走り出した。

 

「ちょっと、アド。いいのか? あんな年端もいかない少女に任せて」

 

(来栖崎さんが強いのは重々承知だ。だが、あんな化け物が徘徊してるところを駆け回るなんて……)

 

「それはコンテナの心配? ヒサギンの心配かにゃ? でも、どっちもだいじょぶよん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、コンテナの確保が完了し、アドは賢人の肩に手を回し、

 

「ねぇねぇ、ケンティー。コソコソ話をしようず」

 

「え、あ、うん……」

 

「今日のヒサギンを見てさ、なにか感じたことはないかい?」

 

「感じたこと……ですか……確かに超人的な強さだったですけど」

 

「そうだねぇ。ヒサギンは格別に強い」

 

(知ってるよ? そんなこと)

 

「でもね、今日はコンディションが良すぎなんだよ」

 

「コンディション……」

 

「テンションが高いとも言える」

 

「へぇ……」

 

「うん。でもそりゃさ、君が生きてたからなんだよ」

 

「俺が……生きてたから……?」

 

「そうそう。実はさヒサギン、感染の日────、大切な恋人と、渚輪ニュータウンで、生き別れてるんだよね。だからその恋人と生きて再会するのが、ヒサギンの生きる目標なのよ」

 

「……俺が、聞いていいのか……。その話……」

 

「んーや、寧ろ君が聞いとかないといけない話」

 

「感染の日以来、生き残ったのは女性だけだった」

 

「……!」

 

「お、理解したようだね。女性の生き残りだけだった。君が現れるまではさヒサギンは君と出会うまでずっとさ、半ば諦めながら、でも諦めきれずに、消えた夢を抱きながら、徒に前だけ見ながら生きてきた。ほぼ100%、恋人が死んでいると理解していながらだよ?」

 

(夢は呪い……そういうことか……)

 

「けれど、君が生きていた。男性でも生き残れるという、たった一つの証明。それだけでもヒサギンにとっては涙が出るほどの、希望だよ」

 

「俺が……希望……」

 

「ああ無愛想だから察しづらいかもしんないけどさ。昨夜なんて鼻歌交じりに刀の手入れしてたんだよ?」

 

 賢人はコンテナの積み込みをしているしかめっ面の少女を見つめる。

 

(来栖崎さん……。ごめん……)

 

 無意識か、賢人の目に涙が流れる。

 

「じゃあ俺の手伝いますよ────」

 

「糞ッッッッ!!!!!」

 

 突然、賢人は押され、突き飛ばされてしまう。

 

「いっ……どうしましたか!? だい、じょ────え?」

 

 賢人は目を開ける。すると……。

 

「来栖崎……さん……?」

 

 賢人の目の前には、背中を抉られ、横たわる来栖崎ひさぎがいた。正直その後の会話は、賢人の耳には入っていなかった。

 

「ごめんね。ヒサギン……」

 

 そう言ってアドが銃の引き金を引く。その瞬間……! 

 

「待ってくれッ!!!!」

 

「ケンティー……?」

 

「来栖崎さんを、なんで殺すんですかッ!? 俺は、来栖崎さんに、トレーニングに付き合ってもらったッ!! まだ、まだ死んでないじゃないかッ!!」

 

 賢人の気持ちの昂りに反応したのか、彼の持っている火炎剣烈火が光りだし……。

 

『癒封剣波癒!』

 

「え……?」

 

 銀色の刀身、そして鍔が白色の聖剣が新たに誕生した。そしてその聖剣を手に持った瞬間、彼の脳内に謎の女性の記憶の断片が再生される。

 

『結局成功作はこの一体だけか……』

 

『だがこれで私は不老不────』

 

 ぶつん、と。映像は止まり、少年の意識は戻る。

 

「ど、どしたの? ケンティー……?」

 

「ごめんアドさん。少し退けてくれないかな?」

 

「えっ……」

 

 賢人は一瞬躊躇の素振りを見せ、癒封剣波癒で自分の腕を切る。周囲の面々が困惑している中、彼は来栖崎に血を飲ませた。勿論来栖崎は拒否していたが……。だがともあれ、彼は来栖崎を背負って拠点であるデパートへと戻って行った……。



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第4章 君を助ける、その為に。

 賢人はすぐさまデパートの医務室へと駆け込み、担当の蜂ノ巣やいとに一任する。生憎賢人は医学の知識が全くと言っていいほどなく、なにも手助けすることが出来ないのだ。

 

だが、待っていることは出来る。賢人は施術が終わるまで来栖崎の隣で付き添ってあげていた。そしてそのまま一時間たったくらいだろうか。

 

「これでもう、大丈夫なはずだわ」

 

 無事に施術は終わった。

 

「ッ……。はぁ……よかった……」

 

 来栖崎の無事を心から喜び、彼は感極まって涙すら流してしまっていた。だがまだ賢人には採血、という仕事が残っていた。だがこの神川賢人という少年、生前、なによりも注射が嫌いだったのだ。

 

「────はい。採血も終わったから数時間後にでもまたいらっしゃい」

 

「はい。また後で来ますね」

 

 賢人は医務室を後にし、来栖崎への治療も終わった頃……。

 

「来栖崎さんをポートラルに置いておくこと、私は反対です」

 

 会議の先陣を切ったのは、誰もが予想したであろう、百喰だった。

 

「百喰さん!?」

 

 賢人は困惑の表情で驚嘆の声を上げる。

 

「まずですね新入りさん。感染者は即刻排除、トラブルが起きないために作った鉄の掟なんです」

 

「ッ……。でも……俺は……今まで……って言うほど長い期間来栖崎さんと話してないけど、でも俺は……、来栖崎さんは俺のせん────」

 

 その瞬間、やちるが何かに気付いたかのように外を見てみんなに呼びかける。

 

「あ、あの! みなさん窓の外! 見てください!」

 

 賢人は慌てて窓の方を振り向く。

 

「来栖崎さん?!」

 

 デパートの入口から、一人で出ていく来栖崎の姿が見えたのだ。そして間髪入れずにやいとが会議室へと駆け込んでくる。

 

「ど、どうしたんだ蜂ノ巣くんそんなに慌てて!」

 

 礼音はやいとに問う。

 

「来栖崎さんがっ、出てっちゃってっ! ……多分、みんなに迷惑かけたくなくて……それで……」

 

(いや違う……。来栖崎さんはそんな殊勝な理由で出て行くような人じゃない……。もうみんなに二度と『裏切られたくない』からだ)

 

「追いかけなくっちゃっ!」

 

「いえ、その必要はありません。今しがた、来栖崎さんの処分が決定致しましたので」

 

 やいとの意見に、百喰は即答する。

 

「違うッ!! まだですよ……まだそうと決まったわけじゃない。来栖崎さんは……僕が連れ戻しに行きます」

 

「ちょっとケンティー! ……もう、諦めようよ……」

 

「いいじゃないですかアド、その男を行かせてあげれば。正直、協調性がないんじゃ、やっていけません。それに、自ら消えてくださるなら、葬儀屋いらずです」

 

(協調性がないのはあなたもですよね!?)

 

 なんて冗談を言っている場合で無いのはわかっているので賢人は真剣な物言いで言葉を放つ。

 

「それでも僕は、来栖崎さんを助けにいきます」

 

(この感情がなにかは、今の俺には分からない。でもマイナスな感情ではない……ってのはわかる)

 

 賢人は歩き出す。

 

「ちょっと待って」

 

「なんだよアドさん。止まる気は無いけど」

 

「そうじゃなくてさ。私もついて行くってこと!」

 

「は!? アド何を言っているのですか! リーダーであるあなたが規則を破ったら組織は崩壊すると、そう言ったのはアドじゃないですか!」

 

「規則破るわけじゃないよモグッチ。私はただ参謀の護衛をしに行くだけ」

 

「そんな屁理屈が通用するとでも!?」

 

 アドは返事をしなかった。賢人の手を引き、会議室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デパートの入口付近にて、賢人とアドは、救出の準備をしていた。そのとき……! 

 

「賢人様ぁー! 

 

「!?!?!」

 

 突然後ろから呼ばれ慣れていない様付けで呼ばれたものだから驚愕してしまう賢人。

 

「つ、ツヅリン!?」

 

 

 

「私、賢人様の勇士に心打たれてしまったのですわ!」

 

「ウェ!? 0w0」

 

 驚きのあまり賢人は思わず面白くもない使い古されたネタを使ってしまう。

 

「たとえ賢人様がほかの人を好きだとしても、かならず賢人様のハート、射止めてみせますわ!」

 

(好き……か……。人のこと好きになったことなんて一回もなかったからな……)

 

「あ〜、そかそか。ケンティーはおにゃのこに耐性ないのかにゃ?」

 

「う、うるせぇ!」

 

「あはは〜。あ、そだそだ。名前知らなかったよね。この子は甘噛綴」

 

 そして甘噛に続き、礼音もやって来る。

 

「こんなことを言う資格がないことは承知の上だ。それでも良ければ、私も同行させては貰えないだろうか?」

 

「あ……はいっ。もちろんですよ」

 

「よっし。じゃあ仲間も揃ったし! 探しに行くぞ! おーっ!」

 

「なんてアドさん入ってるけどさぁ、まずどこいったか見たやついるか?」

 

「あ、私見てましたわ! 来栖崎さんが北の方へ行くのをずっと」

 

「北……か……そっちには何があるんだ!?」

 

 賢人は自分よりずっとこの世界について知っているみんなに聞いた。

 

「えっと確か病院に……後はコスモ────あっ!!」

 

「そうだよコスモリアランドだよ!!」

 

 いつにも増してアドが真剣な表情で訴えかけてくるのでみんな信じざるを得なかった。そして彼女たちは、目的地をコスモリアランドという遊園地にし、北側へと向かった……。



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第5章 夢と呪い、その境界に。

「ねぇアドさん。どうしてその……コズミック────」

 

「コスモリアランド」

 

 アドが訂正する。

 

「そうそれ、コスモリアランド。なんでそこにいるってわかったんだ?」

 

「……。……ヒサギンにさ、生き別れた恋人がいるって話したじゃん?」

 

「……あぁ、うん」

 

「その恋人ってさ、同じ剣術道場で育った幼馴染なんだよね。かれこれ10年来の仲になるのかな」

 

(10年、か……。勝ち目ないよな……。って、今なんでこんなこと……)

 

「やっぱ剣術道場に通ってたのね……。でもさ、好きでやってたのかな?」

 

「ご明察。その道場ってヒサギンのお父さんが師範代やってたから」

 

「「やる以外に選択肢はなかった」」

 

 初めてハモった瞬間である。

 

「5歳の頃から跡継ぎ目指して稽古の日々。女の子としての全てを捨てられてさ、色々辛かったと思う」

 

(未来になっても、なんも変わらないんだな……親ってものは……)

 

「そんな来栖崎さんを側で支え続けて、そこから恋愛に発展したってことだよな……。純愛ってやつか?」

 

「あはは……。ケンティーってほんと恐ろしく察しはいいのに女心にゃ鈍いよね〜」

 

(そもそも純愛ってなんなんだろ……)

 

 それどころか恋愛というものに一切触れてこなかった賢人にはその質問は難関大学を卒業することよりも難しい質問であった。

 

「まぁ、それも半分当たってるんだけど、でもさ、女の子が10年間一人の男性を愛し続けるのって難しいと思うよ。だからさ、それはもう────」

 

「依存だったんだよ」

 

(依存……)

 

 アドは言葉を続ける。

 

「もう、この男性はヒサギンの心を支える背骨。折れたら死んじゃうナニカ」

 

「……」

 

「けどね、その依存も、紆余曲折あって実ったんだって。この前の……3月15日に」

 

「まさか……」

 

「本当に察しだけはいいなぁ。うん。大感染の日。渚輪区が、地獄に落ちた日だよ」

 

(嫌だ……。考えたくない……)

 

 賢人の脳内に、様々な妄想が駆け巡る。

 

『────あの、さ。──、話があるんだけどさ』

 

『────前から好きだったの』

 

『────え……、──!? ねぇ──!? どうして』

 

(もう、無理……)

 

 だがアドの話は続いていく。

 

「ヒサギンさ、……まえ、一度だけ語ってくれたんだ……」

 

「生まれてきて初めて……女の子として過ごせた日だって……」

 

 それを聞き、賢人は更に地面を強く踏みしめる。そしてようやく、コスモリアランドにたどり着いた賢人たち。だがそのゾンビの数に、ほんの少しだけ後ずさりしてしまう。

 

「多すぎるだろ……」

 

(どうする……? どこにいるんだよ!?)

 

 賢人は考えを張り巡らせていく。

 

(まず死体が続いてる方面に限るとして、このマップから見ればよくわからない丘と、お化け屋敷……は来栖崎さんは苦手だからないとして、それにジェットコースターetc……。選択肢が多すぎる……!)

 

「虱潰しにやっても埒が明かないな……。すみませんみなさん! 少しだけ、少しだけでいいんで時間を稼いでください!」

 

「「承知した!」」

 

 賢人の要望に皆は一切の躊躇もせず、応えてくれた

 

(そもそも来栖崎さんは何故こんなテーマパークに来たのか思い出せ。確か……恋人との記憶に浸るため……。つまり、過去の記憶に……言い方は悪いが縋り付いているということ。ということは一番幸せだった時の記憶を思い出すために……)

 

(一番幸せだった時っていつだ……!?)

 

『────女の子としての全てを捨てさせられて、辛かったと思う』

 

『────生まれて来て初めて……女の子として過ごせた日だって……』

 

(つまりは、一番女の子になった場所……俺は男だから確かかどうかは分からないが……)

 

「告白した……場所……」

 

「ケンティー!? な、なにか思いついたの!?」

 

 賢人はアドの肩を掴み、

 

「なぁアドッ、来栖崎さんが一番幸せだった……告白した場所はわかるか!?」

 

 賢人は普段の呼び方も忘れてしまうほど、焦っていた。

 

「夕陽見の丘……。そう! 夕陽見の丘だよ!」

 

「ッ……。ありがとうございますっ! ……みなさん!! 北西の夕陽見の丘に向かいます!」

 

 賢人はみんなには目もくれず、来栖崎がいるであろう夕陽見の丘へと駆け出した。

 

(こんな時に変身が出来ればなぁっ!)

 

 賢人は全速力で走る。

 

「ッ……あれは……!」

 

 少女はいた。未だ声も届かぬ遠い距離。ゾンビの死体が積み上がった山の頂上に、揺蕩うように少女は立っていた。

 

「賢人くん」

 

 礼音は男の名を呼ぶ。

 

「? なんですか?」

 

「ここから先は手助けできない。此処から先に、私たちが踏み込む権利はとうにない。私たちができるのは君を────ここまで運ぶことだけだ」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 賢人は周りの酸素を無くす勢いで大きな深呼吸をした。

 

「必ず、連れ戻してみせます」

 

 彼はそう言って、麓まで歩き出した。

 

「来栖崎さんッ!!」

 

(どうして……)

 

「なにしに……来た……」

 

(どうしてそんなに……悲しげな目を……しているんだ……)

 

「あなたと……一緒に帰るために……迎えに来ました」

 

「頼んでない」

 

「頼まれてなくても俺は、……いや、俺が来たかったから来た」

 

「どうでのいいから早く帰れ」

 

(手厳しいなぁ……。でもまあ、この塩対応にも慣れてきたし、そんなに傷つかないけど)

 

「あなたと帰るためにここに来たんだからさ、置いては行けないよ」

 

「ねぇ、聞こえなかった? ほんっとうにウザイ……から。もぅ……消えて……」

 

 来栖崎は今にも消えそうな声で叫んだ。

 

「嫌だよ」

 

「……ッ、消えて」

 

「だから、俺はあなたと一緒に────」

 

「邪魔だっつってんだよッ!」

 

「最後くらい……ここでゆっくり……一人にさせて」

 

「……いや、最後じゃないだろ。こいつの力と、俺後があれば抑えられるんだし」

 

「あんたにわかるわけないでしょぉ゙ッ!? 私がッ! 私を化け物みたいな目でッ! 見といて……気色悪い目で私を見て……!」

 

「違うッ! あなたが、どんなになっても、俺はあなたを救う! ……だって────」

 

(だって、なんだろ? この気持ちの名前は……。第一好き、という感情だったとしてそんな奪うみたいなことは、したくない……)

 

 だが、

 

「俺はッ、来栖崎さんの弟子だからっ!!」

 

 その瞬間、辺りに衝撃が走る。 そして、時が止まったかのような静寂が辺りを包み込む。

 

「は……?」

 

「もう……言わない……。でもさ! だからこそ、諦めたらダメだよッ! 生きて……生きて恋人に会うんだろ!? 俺は悲恋なんて認めない!!」

 

「なッ……、あんた何言ってんの?」

 

「自分の運命、勝手に決めつけんなってこと。そうやって悲観的にならずにさ。どっかの誰かみたいに馬鹿になれってわけじゃない。でもさ来栖崎さん────」

 

「……っさぃわゎね……。うるさいのよッ!? いちいちッ! なんなこよそんなの……もう……こんな私に真司が……振り向いてくれるわけ……ないじゃない……」

 

「……」

 

 賢人は言葉が出せない。

 

「だから……私も人として死ぬから……私を……嫌いに……ならないで……」

 

「いいのかよそれで! お前が死んだら、その真司さんのことも思い出せなくなるんだぞ!? 片方が死んで成立する恋なんか存在しない! 」

 

「……ッ。……なんか、死ぬ気も失せたわ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、賢人の顔に明かりが点る。

 

「あっ、ありがとうございますッ!!」

 

「でもこれだけは言っとくわ。あんたは私の────」

 

 そう言おうとした瞬間、来栖崎は苦しみだし……。

 

「だ、大丈夫かッ!?」

 

 賢人は来栖崎に駆け寄る。

 

「急げ賢人くん! 症状が進行しているぞッ!!」

 

 礼音の警告を聞いた賢人は急いで聖剣を取り出し、自分の体をそれで斬る。

 

(ッ……!? 慣れないな……この痛みは……)

 

 そして出てきた血を来栖崎に飲ませる賢人。すると彼女は連戦続きの騎士のように死んだかのように眠ってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、デパートへと急いで戻った賢人は、戦闘班全員に、来栖崎と24時間、365日ずっと一緒にいることを確約し、無事事態は誰一人として欠けることなく収まった。その晩……。

 

「今日はごめんな……。急に怒ったりしちゃって……」

 

「……いや、いいわよ。あんたのおかげで、今こうやって生きてられてるんだから」

 

「そっ、か……。うんっ。ありがとう」

 

 そして二人は眠りについた。



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第6章 その力、鬼神の如く。

「さっさとどっか行って」

 

「……ごめん」

 

 賢人が来栖崎の面倒を見ないのは勝手だ。だがそうなった場合、誰が来栖崎の面倒を見ることになる? 万丈だ。と、いうことで賢人は来栖崎が用を足している個室の真ん前で胡座をかいていた。

 

「昨日ずっと一緒にいるって約束したわけだしさ……。ほんとごめんなさい!」

 

「……もう……わかったわよ。じゃあ……耳、塞ぎなさいよ」

 

「う、うん……」

 

(やばいって! 後もうちょっとで理性がリミットブレイクするって! 早く終わらせて!?)

 

 扉という薄い壁を隔てたその奥で女性が用を足しているという事実に、賢人は耐えられそうにない。

 

(と、とりあえず終わったらすぐに反応できるように耳開けるか……。いや、水音を聞くためじゃないよ!?)

 

 誰に言い訳をしているのだろうか。

 

「……終わったわよ」

 

「あ、あぁ……」

 

「ッ……。やっぱり耳塞いでないじゃない!」

 

(やべ。どうしよう……。もしかして俺、殺されちゃう?)

 

「死にたくないです聞いてないです許してください神様仏様来栖崎様ぁぁぁああ!!!」

 

 考えうる限りで最低の謝罪の言葉を、土下座とともに来栖崎に披露した賢人。

 

「っさいわね……。いちいちそんなことで謝らなくていいっての。第一私たちの間にプライベートなんてないんだし」

 

「それを言うならプライバシーじゃ……、いや、なんでもないです!!」

 

 来栖崎は呆れたような声を上げ、そのまま賢人の肩に手を乗せ、

 

「次はないから、覚えときなさい」

 

 と、耳元で囁く。

 

「ヒッ……」

 

 賢人は情けない声を上げてその場に立ちつくす。そしてその様子を来栖崎は見て、満足気な表情で、

 

「ほら行くわよ。今日も特訓でしょ?」

 

「まじですか……」

 

(キツイな……。まあ、これで変身できるってなったらやるしかないけど!)

 

 と、いうことで特訓を始めたふたり。

 

「ねぇ来栖崎さん」

 

「? なに?」

 

「来栖崎さんって、学生だった頃、いや、世界が滅びる前ってどんな感じの人だったの?」

 

「え……」

 

(あ……。もしかして地雷踏んじゃった?)

 

「い、いや来栖崎さん! 別にいいですよ! 言いたくないなら! ほら、特訓、続けましょう!」

 

 賢人はそう呼び掛け、特訓を再開する。

 

 ────そしてその夜、ふたりは夢を見た。

 

 賢人は、

 

『え、高校生にもなってまだそんなパンツ履いてんの?』

 

 それは、クマフラーの絵がプリントされた、明らかに子供向けのパンツ。

 

『おかしいかな? 可愛いと思うんだけど』

 

 そしてそこから、愛しの人がいじめられるという、胸糞悪い夢が続いた。

 

 そして来栖崎は、

 

『えぇ、賢人まだ仮面ライダーなんて見てるの?』

 

『あ〜。まぁ、ね』

 

『うーわ。引くわー。気持ちわりぃー』

 

『別にええやろ! ははっ! ……』

 

 口では笑っていても、心の中では泣いている男に、来栖崎は、

 

(これってまさか……、ケツパ?)

 

 そして朝を迎えたふたりは、気まずそうに顔を見合せる。そして……。

 

「ほら、特訓行くわよ」

 

 何事も無かったかのように来栖崎が賢人に声をかける……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれから14日後、鹿を狩り終え、帰路に着いている最中。

 

「んだよ……あれ……」

 

 姫片呆気に取られる。そう、皆が見たものは、片腕が異常に肥大した異形の化物、変異種だった。皆が呆気に取られている中、

 

「っざけんなよ……」

 

 ただ一人だけ、腸が煮えくり返る思いをしている者がいた。

 

「せっかく皆で肉食べようとしてんのに、邪魔すんじゃねぇよッ!!!」

 

 そう言って変異種に向かって突っ込んでいく賢人の後を、来栖崎が一足遅れて追う。

 

「ちょっ、あのバカッ!!」

 

 だが、その鬼神のごとき強さを持つ来栖崎とそれの弟子である賢人を持ってしても互角、いや少し不利な状況。

 

「み、みんな! 私たちも援護するよ!」

 

 アドの一声によってそれぞれが戦闘に参加する。

 

「おりゃぁッ!!」

 

 賢人は烈火を変異種の右腕に振り下ろす。変異種の右腕が切り落とされ、それは陸に上げられた魚のようにビチビチと飛び跳ね、あたりに血が飛び散ってしまう。

 

(うわ、気持ち悪……。来栖崎さん大丈夫かな!?)

 

「とぉるるるるる」

 

 だが賢人の心配は杞憂に終わり、無事に変異種を倒すことに成功した来栖崎。

 

「っしゃあ!! やった! 来栖崎さん!! ────ぐふぉっ」

 

 賢人は来栖崎に駆け寄り、ルパン三世よろしく抱きしめようとしたが、寸前のところで来栖崎にみぞおちを蹴られてしまった。

 

「二度とすんなし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そんなこんなでデパートへと戻り、アドたちアマゾネスがバカ騒ぎしている傍ら、賢人と礼音は話し合っていた。

 

「ところでだが賢人くん、君は狩の途中、今後の展望について話していたが、今一度詳しく話してくれないか?」

 

「あぁ〜、あのペトラ橋ってやつについてですか」

 

「だが賢人くん。ペトラ橋は全長約800m、横幅10m、全体にゾンビ共がすし詰め状態になっているのだぞ?」

 

 そんな食欲の失せる事を言われれば食が進まないのも無理はない。

 

「ですがっ────」

 

「じゃっじゃーん!! 愛の希望の美少女戦士!! 樽神名アド、参上!!」

 

「うわっ、また来たよ……」

 

 ガチ嫌悪(のフリ)をした賢人に、少しどころか、かなりのショックを受けるアド。

 

「ふっ、賢人くんも意外と言う時は言うのだな」

 

「で、なんですかアドさん。何か用ですか?」

 

「それはね〜……。……。ヒサギンと一緒に、ペトラ橋を攻略するのぜぃ!!」

 

「え、え、え、えぇぇぇ!?!?」

 

 派手なリアクションで賢人は叫ぶ。



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第7章 この橋、渡るべからず。

「と、いうことで皆さん!! 今日は話があります!!」

 

 賢人はポートラル戦闘班を会議室に呼び、例の作戦の説明をする。

 

「まずは作戦の概要を────」

 

 と、そこで賢人の声を遮ってアドが堂々と叫ぶ。

 

「記念すべき第一回『南の海まで修学旅行大作戦──母なる海をたずねて三千里──』の始動だぜ!!」

 

(は? え、ちょっ!?)

 

「いやいや、『南の海は俺の庭────ノーコンティニューで橋を渡るぜッ!』じゃないの!?」

 

「なんかちょっと不安です……」

 

 やちるから憂う声が漏れる。

 

「────と、いうか南ってまさか……!!」

 

「そのまさかだよモグッチ。ペトラ橋を、攻略するのだ!!」

 

 その瞬間、来栖崎を除く皆が持っていた飲み物の容器を落としてしまう。

 

「あ、大丈夫ですよみなさん。この作戦、立案こそアドですが、監査から計画までほぼほぼ僕ですんで」

 

 さっきまで作戦名で言い争っていた男は何処に……。

 

「なら良かった!」

 

 鹿狩で勝ち取った信頼はかなり大きかった。

 

「で、作戦の概要についてですが、俺たち、このままじゃダメだと思うんです。いつかはこの生活も出来なくなる。だからそれまでに、脱出の一歩として、渚輪区本島に行っておきたいというのが一つ。そしてもうひとつは……、そう! 本島にいる人を救って、仲間を増やす!!」

 

(なんか仮面ライダーみたいな展開じゃん!!)

 

「はぁ……、意気込みは結構ですが、まずあのゾンビによって占拠されているペトラ橋の突破についてはどうお考えなのですか?」

 

 すると賢人は端でチビチビとジュースを飲んでいる少女の近くに寄り、

 

「突破できますよ! 俺の師匠、来栖崎さんがいるんだから!!」

 

「……。ぶふぉっ!?」

 

 来栖崎が噴き出した。

 

「んまぁ師匠とかの件が置いといてよぉ、それ、正気で言ってんのか?」

 

「はい、勿論です。それに、甘噛さんや、戦闘班のみんなもいるしな!」

 

「け、賢人様!?」

 

「頼りにしているからね。甘噛さん」

 

「は、はい賢人様!!」

 

(ちょっと怖いんだよな……、俺しか見えてないって言うか崇拝してるって言うか……。まあいいでしょう)

 

「俺は、こんなゾンビが闊歩するゴミみたいな世界じゃなくて、みんなが笑顔で暮らせる未来を創りたいんです。だからその為に、力を貸してください!」

 

 そこまで言われたら断る者は誰もいなかった。

 

「皆さん……、ありがとうございます……」

 

 賢人は深く頭を下げた。そして来栖崎が隅でマフラーを弄り、姫片は来栖崎に声をかけようとする賢人を引き留め、

 

「はいっ。てことで作戦会議とやらは終わったからよぉ、教えてくんねぇか賢人さんよ、クルクル崎を師匠なんて呼んだ理由を」

 

「ま、まだ覚えてたんですか……。……、仕方ない。俺って、男じゃないですか。なのに守られてるだけじゃダメだなって、そのためには強くならなきゃいけないなって思って」

 

「しっかし、んで来栖崎に教えを乞うたんだ? 別に他にもいるだろ?」

 

「……緊張して話しかけづらいんですよ」

 

「……っく、かはっ、やっぱおもしれぇなお前。まあ強くなる理由があるってのはいいことだ。だがこれだけは覚えとけ。女を泣かすなよ?」

 

「は、はい……」

 

(なんのことだろ……)

 

 ────ともあれ、ポートラル、いや渚輪区全土の運命を分ける一大作戦が決行されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、来栖崎は賢人に問い詰めていた。

 

「で、なんで私の事師匠なんて言ったわけ?」

 

「い、いや〜、そりゃあ、ねぇ? いつも特訓に付き合ってもらってるし、俺よりも強いしさ」

 

 賢人は目を泳がせながら答える。

 

「まぁいいわ。そんなことより、本当にペトラ橋攻略するつもりなの? そうなんだったら、明日稽古つけてあげるけど」

 

「もちろん本気だよ。────って、稽古つけてくれるの!?」

 

(いつもと言い方が違うってことは、やっぱ本格的なのかな!?)

 

「まぁ、うん。じゃあ私は寝るから、血の時間になったら起こしてね」

 

「あ、はい!」

 

「声大きいって、静かに」

 

 こうして少女たちの一日は終わった。

 

 ────そして翌日。

 

「フッ、ハッ!」

 

 賢人の予測通り、この日の来栖崎の稽古というのはいつもの特訓とは段違いに体力を使うものであった。だがいつもの体力作りの甲斐あってか最初のようにバテることはなくなっていた。

 

「お、だいぶ動きも良くなってるわね」

 

(流石だよな来栖崎さん。……でももうちょっと、女の子っぽいことしてもいいのに……)

 

「まあっ、ねっ。来栖崎さんのっ、お陰だよっ」

 

「ほらっ、口動かしてる暇があるなら手を動かしなさい!」

 

(ま、相変わらず厳しさは変わってないけど)

 

 だがその厳しさこそが、彼の支えでもあった。

 

 ────そして、数時間後。

 

「はいっ、今日はこれで終わりね。明日ペトラ橋攻略するんだから、部屋でしっかり休息すること」

 

(優しいよなぁ来栖崎さん)

 

 アメとムチの使い分けが上手いとも言う。賢人たちは自分の部屋に戻り、休眠をとった。そして起きた頃だろうか、ドアをノックする音が賢人たちの耳に入った。

 

「ケンティー! ヒサギーン! 起っきろー!!」

 

「ん? なんだ? アドさん……? って、来栖崎さん来栖崎さん! もう朝だって!」

 

「ん? ふわぁ〜、なによ────って、ちょっと! なんで起こしてくれなかったの!? 早く行くわよケツパ!」

 

「け、けつぱ? って、まあいい!」

 

(あれ? なんで来栖崎さんが先行ってんだろ? まぁいっか)

 

 賢人たちは急いで愛刀や聖剣の手入れを終え、準備を整える。

 

「じゃあポートラルー! しゅっぱーつ、しんこーう!!!」

 

 小学生のような号令とともに、渚輪区本島進行作戦は開始した。

 

「ぶーぶー、ぶーぶー」

 

 先程意気揚々と出発したはずのアドは直前で医務室担当のやいとに引き止められ、『行くなら最高でも24時間、片道12時間まで』と約束したのだ。

 

(まあ気持ちはわかるけど……)

 

 なんて賢人が思っていると、

 

「どうしたのですかこの子豚さんは? なにやら拗ねているようですが」

 

「いや、今日ばっかりは許してやってくれ甘噛さん。あんなに楽しみにしてた作戦に時間制限がかけられたんだ」

 

「あらやだわ。デパートの皆様を心配させないためなのでしょう?」

 

「まあ、そうだけど……」

 

(なんか言いづらいんだけど、いいかな?)

 

「腕にしがみつかれちゃ動きづらいんだけど……」

 

「そんな酷いこと……私ゾンビが怖いんですの」

 

(そうは言われてもな……。俺だって戦うんだし)

 

「甘噛くんに賢人くん! ゾンビが壁の影に隠れているぞ!」

 

 礼音に警告され、賢人は二振りの聖剣を構える。

 

「見ててください師匠!」

 

 賢人はまずは一体をそのまま真っ二つにして絶命させ、そして次の一体の股下をくぐり抜け背後から突き刺し倒した。他のメンバーも戦闘に参加していたのですぐに戦闘は終わった。

 

「ふぅ、ったく。あたしの血がそんなに飲みたいかねぇ。この腐れ共は」

 

 戦闘を終えた姫片は愚痴る。

 

「太ももが……重点的に疲れたです……」

 

「んだ? やちる電磁力ブーツの電源切ってやがったのか」

 

「節電、だから」

 

「え、電磁力ブーツ!? めっちゃかっこいいじゃん!」

 

「はっ、ガキかよ」

 

「でも電磁力なんてすごいな」

 

(やっぱ未来って思ってるより進歩してるものなんだな)

 

 そんな他愛のない会話をしながら、ポートラルはようやくペトラ橋まで辿り着いた……。



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第8章 旧天地、上陸す。

感染×少女ファンブック買いました!


「ははっ、こりゃまたゾンビの宝石箱ってところか」

 

 橋に辿り着き、賢人はみんなを和ませようと冗談を言ったのだろうが、洒落になっていない。

 

「冗談を言っている場合ではありません賢人さん。この量にを突破できると仰っていましたが、本当にできるんですか? 今なら自分の策が甘かった、と、引き返すことも可能ですが」

 

 百喰が不安気に問いかける。

 

「はっ、そっちの方が冗談。もちろん少ない方がいいけど、この位は予想してた」

 

(それに無双ゲーみたいにバッタバッタとなぎ倒すの楽しそうだし)

 

 それを言ったらぶちギレられるだろうから、賢人は心の中に留めておく。

 

「ですがそうだとして、この量は突破できるとお思いなのですか?」

 

「はい、もちろんです。ね、師匠!」

 

「ん? なに? てかその呼び方やめてって────」

 

「はいはい! 喧嘩はなーし! ほら、ポートラル、出撃!!」

 

 アドのその掛け声とともに、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「物語の結末は、俺が決める! ……なーんてね」

 

 戦いの中、そんな決めゼリフを発し、賢人は剣を構える。が、そんなことをしているうちにゾンビの魔の手が賢人の身体を貫く……。はずだった……! 

 

「なーにカッコつけてんのよ!」

 

 咄嗟に来栖崎が賢人を突き飛ばし、すんでのところで回避させる。

 

(二度も助けられた!?)

 

「ごめんそしてありがとう来栖崎さん!! このお礼は終わってからで!!」

 

 そう言って真剣に戦いを再開する賢人。

 

「はぁ……」

 

 やれやれ、といった風に来栖崎はため息を着く。そして、矢の補充のため少し戦いを中断している礼音は言った。

 

「しかし賢人くんは……全くというかなんというか……。面白い男だな……」

 

 だがそれを運悪く同じタイミングで休憩していたアドに聞かれてしまった。

 

「えぇ〜、アヤネル〜?」

 

「ちっ、ちがっ!」

 

 あからさまに狼狽える礼音はアドにとってはかなりの面白さを有する事態であった。そして場面は移り代わる。前線で戦っている甘噛は戦いながらブツブツとつぶやく。

 

「……この戦いが終わったら賢人様とイチャイチャ、この戦いが終わったら賢人様とイチャイチャ」

 

「な、何言ってんの甘噛さん!?」

 

 まぁ、それで安定するんならいいけど、と思う賢人であった……。

 

「ハァッ!」

 

 礼音は橋の縁から正確に矢を打ち出し、ゾンビの脳髄を撃ち抜く。

 

「背後の敵は気にするなッ! 皆の背中は、私が預からせてもらう!」

 

(カッコよすぎるでしょ。マジ惚れそう、嘘だけどね!!)

 

 賢人は心の中でそううそぶきながら、来栖崎を想う。

 

(聖剣持ってると、勇気湧いてくるんだよなぁ。これがぁっ!!)

 

 賢人はよりいっそう戦う気力を高める。

 

「はぁ……、はぁ……、やっと……」

 

 最後の1匹は、橋へと沈んだ。つまりは────!? 

 

「ペトラ橋攻略作戦、大成功だ!!」

 

 賢人はまだそんな体力が残っていたのか、子どものように大喜びする。

 

「ぃやったぁぁぁああ──!!」

 

 アドが雄叫びを上げ、今回のMVPである来栖崎に抱きつく。

 

「いやっほぉぉぉおおお────べふっ」

 

 賢人もそれに便乗して抱きつこうとしたが、寸前のところで顔面を殴られ、吹っ飛ばされてしまう。

 

(そんな〜。トホホ……)

 

 ともあれ、ポートラル御一行は無事、ペトラ橋を渡りきることに成功し、遂に渚輪区本島へと上陸する。

 

「と、いうことでようやく! 俺たちは、本島に上陸出来ました!」

 

「誰に話しかけてんのよケツパ。気持ち悪いんだけど」

 

「まぁさ、細かいことは置いといてさ! まずはここ探検しない?」

 

「おいおい、ちょっとくらい休ませろっておもらし姫さまよ」

 

「え? 私の十分の一のお仕事のあんたが? 疲れたの? 粉物なの? 死ぬの?」

 

 来栖崎が姫片をいじる。

 

「クリコじゃねぇリツコだっつってんだろうが!」

 

 言っておくが来栖崎は片栗粉など、一言も言っていない。 

 

「栗子、それ、認めたようなもの……」

 

 やちるもそれを指摘する。

 

「まぁまぁ樽神名くん、とにかく少しだけ息を整えてから街へ向かわないか」

 

 礼音のもっともな意見で、その場は一旦落ち着く。

 

「えー」

 

 アドは不満気な声を漏らし、

 

「えーじゃねぇよお漏らし姫」

 

 姫片はアドを咎める。結局、礼音の提案通り15分ほど休憩の後、本島の調査を開始した。

 

「まったく、ボロボロじゃないか……」

 

 だが、意気込んで調査を始めたのも束の間、賢人はあまりの街の荒廃ぶりに、絶望寄りの考えに浸っていた。

 

(ここがワンダーワールドなら、どれほどよかったことか……)

 

「どこかに生存者でもいるといいのだがな……」

 

 礼音はそう呟き、賢人に問いかける。

 

「なぁ賢人くん。君が来る少し前に、この渚輪区本島方面で大きな爆発があったようだ。場所は正確には分からないが、行ってみるのはどうだろうか」

 

「そんな事故があったんですか……。ですが場所がわからないのであればまずは……」

 

 賢人が言いかけたところで、アドが皆に号令を出す。

 

「うっし! そんじゃあお次は、工業地帯に行ってみよう!」

 

 遠足に来ているかのように元気ハツラツと言うものだから、自然とやる気が湧いてくる賢人たち。

 

「んーじゃ、行くとするか……」

 

 ポートラル一行は工業地帯への道のりにある広末駅を通る。だがその前にはおおよそ数十体のゾンビ、そして一体の大型変異種が待ち構えるかのように立っていた。

 

「またこのタイプかよ!?」

 

(そのうちこいつらが大量に現れるんじゃないかな……)

 

「別にどんな敵でも、────倒すだけよ」

 

 そう言って来栖崎は右足を踏み締め、神速のような速さで変異種へと斬りかかり、そして────頭部を切り落とした。そう、来栖崎は賢人の特訓に付き合ううちに自分すらも鍛えられていたのだ。

 

(うわっ、すげっ!? さすが師匠!!)

 

「俺達も行きますよ!!」

 

 賢人は皆に声を掛け、火炎剣と癒封剣を持ち突っ込んでいった。

 

「はぁっ!!」

 

 火炎剣に纏った炎がゾンビを焼き尽くし、その炎は連鎖的に広がっていく。更にもう一振りの癒封剣が完全にゾンビ化した化け物の身体を蝕む。そして数も減っていき、賢人たちは駅内に入ることに成功する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、無事に工業地帯に辿り着いたポートラル御一行。

 

「ふっふふー、ぞんびっちの群れこえ山こえ谷こえて! たどり着きやしたぜ工場タウン・ウィズ・港ぅッ! あたし海が見たいぞ!」

 

 アドはバカみたいに走っていってしまった……。 



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第9章 重なり合う、悲鳴の音色。

 走ってどこかへ行ってしまったリーダーを、いつものことだ、と気にかけず、賢人たち残ったメンバーは工業地帯ですることを再確認する。

 

「まずは生存者の散策……ですね。……って、なんなんですかこれ……」

 

 百喰の言う通りまずはそれをしないといけないのだが……。それをするには些か、────死体が多すぎた。

 

「誰が……やったんだ……?」

 

 その死体たちはいずれも恐怖の表情を浮かべており、どんな状況の中殺されたのか、予想もつかなかった。

 

「可哀想に……」

 

 身体に無数の切ったような傷を作っている死体。そしてアドは悲鳴をあげ戻ってきた。

 

「なんだアドさん!!」

 

「みみみんなぁぁぁああ!!」

 

「だからなんなのアドさん!?」

 

「いいから早く来て!! ハリーハリー!!」

 

(で、でもまだこの死体の山が……)

 

 そう思っていると百喰は口を開く。

 

「いいからいきましょう賢人さん!!」

 

 百喰が扇動し、アドに着いていく。するとそこには……。

 

「船……?」

 

「船……ですね」

 

 皆が口々に声を上げる。だが……、その船は既に死体の舟盛りとなっており、しかも本来ならば繋がっているはずの鎖すら何者かによって千切られていた為、船に上がることは叶わなかった。

 

「はぁ……」

 

(なんでこんなに死体なんか見なきゃいけないんだよ……)

 

 賢人はため息を着きながら心の中でつぶやく。

 

「ねぇケツパ、結局死体ばっかだったけど、どうすんのさ」

 

「あー、そっか。どうしよっかな────って!」

 

 なにかに気づいたのか、賢人は途中で言葉を止める。

 

「なんで死体があるんですか!?」

 

「「!!!!」」

 

 皆がハッとする。

 

「そうだよ皆……」

 

「死んだのならよぉ……」

 

「死体が残るはず……です」

 

 順番に言葉を紡いでいく。そう、ポートラルは考えていなかったのだ。『人が人を殺した』という可能性を。

 

「でもあの死体は新しくはなかった。まだここに残っているとは考えづらいでしょう」

 

「でも────」

 

「きゃああああッ!!」

 

 話していると、この区域に、悲鳴が響き渡る。

 

「な、なんだ!?」

 

「悲鳴ッ!? 生存者ですか!」

 

 賢人たちは一旦その場から離れ、工業地帯を見渡せる場所まで移動した。

 

「賢人くんッ! 悲鳴は篭っていた、屋外じゃない、建屋内のはずだ!」

 

「そんっな……、建物なんて腐るほどあるんですよ!?」

 

 賢人が狼狽えていると、

 

「こっちです皆さんっ! あの工場、三階から聞こえました!」

 

 やちるはおご自慢の聴力を活かして、場所を特定することに成功する。

 

「なっ……、それは本当か!?」

 

 賢人は藁にも縋る思いでその真意を確かめる。

 

「ヤチルンは元フィギュアスケーターだからね!!」

 

「それは関係ない気がするけど……、まぁいい。皆さん行きましょう!!」

 

 やちるに先導され、賢人たちは三階建ての工場の扉を開け放った。

 

「チッ、ゾンビが多すぎる!」

 

 賢人はゾンビを斬り捨てながら愚痴を吐く。

 

「とにかく皆! 生存者の救出が最優先だ!」

 

 礼音が轟速の矢を放ちながら皆に呼びかける。

 

「「はい!!」」

 

 だが、事はそう上手くはいかないもので、狭い通りが大半な二階に姫片とやちるを配置してしまうという采配ミスによってゾンビの掃討に手こずっていた。

 

(しまった……!)

 

 だが、二階にアドと百喰も加勢させ、賢人たちは更に上階へと上がる。

 

(二階にもいなかった……か。つまり残るは三階……)

 

「皆さん! 三階に急ぎましょう!!」

 

 賢人たちは三階へと辿り着き、扉を開けていく。

 

(ここか!?)

 

 賢人は直感で順番ではなく、二つ飛ばした先の扉を勢いよく開け放つ。するとなんと、予想は見事当たり、悲鳴の出処と思われる二人の少女が狭い空間の中抱き合っていた。────ゾンビの群れに囲まれながら……。

 

「大丈夫……大丈夫やから……な……沙南……」

 

「ぅぅ……ホント……大丈夫……ゃの?」

 

(フィクションの世界ならお涙頂戴って展開だが、これは現実だ。命はひとつしかないんだ。……助けるしか、選択肢はねぇよなぁ!?)

 

「行くぜぇみんなぁ!!」

 

 賢人は先陣を切ってゾンビの群れを蹴散らしていく。

 

「はァァァッ!!」

 

 まず賢人は二人の少女の近くのゾンビを斬り、安全を確保する。

 

「これでッ! 終わり、だ!!」

 

 最後の一匹を倒し、賢人は部屋の隅に二人で抱き合って怯えている少女に手を差し伸べた。

 

「もう大丈夫だよ、二人とも」

 

 彼はニッコリと笑って、二人の手を引く。

 

「とりあえずここから出ませんか? 賢人さま」

 

 甘噛に言われて、ハッとした様な表情になった賢人は二人に、

 

「すぐで申し訳ないんだけど、この建物から出ようか」

 

 と優しい口調で語り掛け、下階へ降りる。下階で戦っている姫片たちに呼びかけ、建物から出たところで、

 

「ありがとうな……ほんま……ありがとぅな……」

 

 二人のうち、姉の方と思しき少女が泣き崩れるように頭を下げ始めた。

 

「え、ちょ」

 

 急に頭を下げられたものだから賢人は返答に戸惑う。

 

「食われるかと……おもて……必死に隠れて……もぅだめかて……ぁりがとぅな」

 

「えっと……」

 

 賢人が言葉に詰まっていると、

 

「こちらこそ、君たちが生きていてくれて嬉しいよ」

 

 礼音が二人を労わる様な言葉を、

 

「そうだーよ二人ともっ!!」

 

 アドが明るい調子で放つ。

 

「あ、あなたは?」

 

「あたしの名前は樽神名アド、ポートラルっちゅーチームのリーダーぜよ!」

 

「チーム……?」

 

「君たち二人の命はあたしが保証するぜぃ、ゆえに、ゆえゆえに、もう安心していいぞよ」

 

「んなことよりオメェら、本当に二人だけなのか?」

 

 姫片が二人に少し疑いの目を向ける。

 

「えっと……」

 

「幼女二人で数ヶ月生き残られるほど、この世界は甘かねぇーだろ。今日まで何してたんだ?」

 

「うちの名前は……沙織。──夢氷沙織」

 

 沙織は姫片の言葉を聞いてか、真剣な面持ちで語り始めた。

 

「んでこいつは妹の沙南。豊島街から逃げて、ここから来たんや……」

 

「いいね、喋れるじゃねぇか。つか豊島街っつーとかなりこっから離れてんじゃねぇか。それに豊島街ではどうやって暮らしてたんだ?」

 

「あのな……豊島街にはライブハウスがあってな、そこで皆で、頑張って暮らしてて。けど……ライブハウス……襲われて……沙南と逃げてきてん……」

 

(悲しいな……)

 

 そして次は、ここからデパートへと変える方法を話し合っていると、その会話を聞いていた沙織が申し訳なさそうに口を開いた。

 

「迷惑かけて……ばっかでほんまわるぃ……この恩……沙南の分まで……絶対返すからな……」

 

 破れかけた上着の裾を握りしめ、ふるふると震えた。

 

「迷惑なんて、かけて当たり前だよ、それにそうやって感謝してくれるだけでもお兄ちゃんたちは嬉しいからね」

 

「……せやかて……せやね」

 

 賢人の言葉に沙織は少しだけ少しだけ頬を赤らめ、嬉しそうに微笑んだ、その瞬間、沙織の横から何か大きな塊が迫る。

 

「ほんまに……ありがと────へぶ!?」

 

「え……?」

 

 突然の出来事に、賢人たちはただ見ているだけしかできなかった。だがそれにいち早く反応した来栖崎は、沙織を吹き飛ばしたその怪物の正体に目を向ける。来栖崎が見たのは身体が包帯のようなものに包まれた怪物────ワイヤーワークスであった。

 

「うらッ!!」

 

 その戦いは来栖崎の一方的な虐殺────などではなく、むしろ来栖崎が少し押されていた。しかも、ワイヤーワークスは周りの建物を手当り次第に壊し、そこから出現したゾンビに手間取らされてしまう。そして来栖崎がその足を地に着かせた。

 

「来栖崎さんッ!!」

 

 ワイヤーワークスは来栖崎に目もくれず、未だ気を失っている沙織と、それに付き添っている沙南の方にゆっくりとその巨大な足を進めた。だが主戦力の来栖崎は体力切れ、その他のメンバーはゾンビと戦闘中。

 

「……ゃめろ。ゃめてくれ」

 

 怪物は、意識を取り戻し沙南の前へと立った沙織の首根っこを掴んだ。

 

「やめてくれッ!!」

 

 だが虚しくも賢人の言葉は空を切り、怪物は沙織の首を掴む力を強めていく。

 

「ぉれに……力をくれ……。火炎剣烈火! 癒封剣波癒!! お願いだ!!」



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第10章 選べ、少女の運命を。

『聖剣ソードライバー!』

 

 賢人の握る聖剣が光り、鞘へと収まる形になった。そして無からワンダーライドブックが出現し、賢人の手に収まる。

 

「え……? ────いや違う」

 

(困惑してる場合じゃない!)

 

 賢人はもう片方の聖剣を怪物の方へと投擲する。すると怪物は賢人の方を向く。

 

「見てろよこの化け物! 俺の初変身をな!!」

 

 賢人は震えながらも怪物へと啖呵を切り、ソードライバーを腰にあてる。するとベルトの帯が展開し、賢人の腰を一周し、巻き付く。そして白色のライドブックを構えた賢人はページを開く。すると、序文が朗読される。

 

『エナジーユニコーン』

 

『〜かつて、全ての生物を癒した、一角獣がいた〜』

 

 本の力を解放し、賢人はソードライバーのライトシェルフにブックを挿入する。すると鞘に収まった聖剣が光り、賢人はそれを引き抜く。

 

『波癒抜刀!』

 

「変身!!」

 

 賢人は剣を顔の前に構え、憧れのセリフを口に出す。

 

『エナジーユニコーン!! 〜波癒一冊、完全生物と、癒封剣治癒が交わるとき、癒しの力が、仲間を救う!』

 

 右半身が純白の装甲に包まれ、白のローブを纏った戦士が、その場には立っていた。

 

「俺は仮面ライダー……えっと……まぁいい!! とにかくお前を倒す!!」

 

「うごぉ……」

 

 怪物は賢人を脅威と思ったのか、夢氷姉妹から目を離し賢人へと立ち向かっていく。

 

「おっしゃ来い!!」

 

 賢人は怪物を迎え撃つ。剣を振り、怪物の腕を切り落とした賢人はソードライバーベルト帯の左腰に装着された必冊ホルダーに癒封剣を納める。

 

『波癒居合!』

 

 怪物がもう片方の腕で賢人を薙ぎ払おうとした瞬間……! 

 

『読後一閃!』

 

 剣を引き抜き、居合切りの如く怪物の攻撃を避け、それと同時に首を切り落とす。

 

「これが仮面ライダーの力だッ!!」

 

 と、決めポーズをしていると、まだ怪物は完全に息を止めていなかったようで、その体全部を使って賢人を押し潰そうとしていた。

 

「あ、やば……」

 

 賢人が何も出来ないで傍観していると、

 

「チィッ!!」

 

 来栖崎の一閃が完全に怪物の息を止める。

 

「まだまだ甘ちゃんね、ケツパ」

 

 賢人はいつも通り来栖崎に血を分け与え、感染度を元に戻す。

 

 そして甘噛たちもゾンビの掃討も終わったようで辺りはワイヤーワークスによる破壊行動の結果も相まってスッキリとしていた。賢人はブックをドライバーから抜き、変身を解除する。賢人はいち早く夢氷姉妹に駆け寄り、

 

「大丈夫か沙織ちゃん沙南ちゃん!?」

 

「怪我はないか!?」

 

「あの怪物に触られたりしてないか!?」

 

 その過保護ともとれる賢人の心配に、上手く言葉が出ない姉妹。

 

「う、うん……」

 

「ならよかった!!」

 

 賢人はワイヤーワークスに投げつけた火炎剣烈火を取って、来栖崎に感謝の言葉を述べる。

 

「さっきはありがとうございます! 師匠!!」

 

「とにかく、次からは油断しないこと。いいわね?」

 

 ────ともあれ、窮地を脱した賢人たちはデパートへと帰るためにこの工業地帯の出口へと来ていた。

 

「ゲートが……崩落している……?」

 

 そう、あの怪物の攻撃によって倒壊した工場の瓦礫によって出入口のゲートが塞がれてしまっていたのだ。しかもその瓦礫の中からなにか蠢いているような音が聞こえてきた。

 

「やべぇ! 逃げるぞ!」

 

 その賢人の声に、皆が困惑を隠せない。

 

「どこに!!」

 

「……ッ、と、とにかく南側のゲートだッ! 急ぐぞッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなりの距離を歩き南ゲートへ辿り着き、新花芽地区を迂回して、今後の展望について話し合った。

 

「あのさあのさ! 一回あそこに行ってみない!?」

 

 アドがハツラツと言った。

 

「ん? どこだ? それって」

 

「海浜間横断橋だよ!!」

 

(どこだろう……そんな当然のように言われても分からないんだけど……)

 

「アドの旦那! ちょっと言い難いんやけど……」

 

(旦那!? すごい変わりようだな……)

 

「ん? なになに?」

 

「行かん方がいいと思う……」

 

「え、何か知ってるの!? サオリン!」

 

「前ライブハウスで暮らしとった時、何回も兵隊さんに襲われたねん。しかもその橋にいった友達も返ってこんかった」

 

「え……、それってまさか、極東日本軍じゃ……」

 

「私は信じたくなかったけど……、多分そうやと思う」

 

 深刻な面持ちで話す沙織。

 

「てか、もしそうだとすると政府が丸々敵ってことにならないか?」

 

 それはあまりに絶望的だ。

 

「うん……」

 

 なので海浜間横断橋を迂回し、別ルートから今日の寝床を確保することにしたポートラル一行。

 

「ま、とりあえずは……」

 

 賢人は地図を見回しながら言った、

 

「あ、こことかええんちゃう!?」

 

 沙織が指さしたのは私立朱雀小学校という名の学校。

 

(朱雀って……校長相当拗らせてるな……)

 

「お、いいねサオリン! 結構近いし!」

 

 アドが賛成したということは、それは即ち、

 

「決定!! じゃあみんな!!」

 

 誰も反対することなく、ポートラルは私立朱雀小学校へと足を箱んだ。

 

「てかさー、沙織ちゃんと沙南ちゃんのお母さんって、今どこにいるの?」

 

(こんないい子立ちを育てあげた親に会ってみたいんだよな……)

 

「えっと……」

 

「それは酷いよケンティー……。親のこと聞くなんて……」

 

(え……あ……!)

 

「ごめん二人とも! 辛いこと……聞いちゃったよね……」

 

(あぁバカだ。俺はなんてことを聞いてしまった……)

 

 ────ともあれ、朱雀小学校へと辿り着いた彼女たちはその疲れた体を癒すため、羽を休めていた。

 

「とりあえず俺、やりたいことあるし、見張りやるよ」

 

「え、いいの!?」

 

「うん。皆はゆっくり寝てていいよ!」

 

 賢人はそう言って、ドアの外に出、そして見晴らしのいい屋上へと出た。

 

「う〜ん……。名前なんにしよっかな……、セイバーの仮面ライダーって剣の名前もじった奴らしいし、でも俺そういうのあんま詳しくないんだよな……」

 

(確か全てを癒す、とか言ってたし……)

 

「キュア……ヴァルキュア……。なんか良くね!? 仮面ライダーヴァルキュア!」

 

 その名を思いつき、歓喜した瞬間! 

 

「ねぇ」

 

「キャ──!!」

 

 柄にもなく悲鳴を上げてしまった賢人。

 

「って、な、なに? 来栖崎さん」

 

「いや、ちょっと気晴らしにと思ってきただけなんだけど」

 

「あぁ〜、そうなんだねー。ははは」

 

 賢人は乾いた笑いを放ちながら言った。

 

「────ってあれ」

 

 来栖崎がなにかに気づいたような声を上げた。

 

「ん? どうしたんですか?」

 

「あれ……」

 

 賢人は来栖崎が指さした方向を見ると、学校の門をくぐる武装集団が見えた。

 

「まさかあれが例の兵隊か!?」

 

「分からないっ、でもとにかく言わなきゃ!」

 

 そんな会話をして、二人は皆が寝ている教室へと向かった。

 

「皆さん起きてください!」

 

「うにゃあ……? どしたケンティー、もう参勤交代の時間かにゃ?」

 

「敵襲です! 武器を持った人達が学校に入ってきました!」

 

 賢人の言葉に皆は水をかけられたようにパッチリと目が覚める。

 

「まさか政府軍ですか!?」

 

「分からない、けどとにかく四階にいるのは危険です! 早く下に降りましょう!」

 

 すると甘噛は先陣を切って階段へと駆けていく。

 

(俺が行った方がいいと思うんだけど……、まぁいっか)

 

『波癒抜刀!』

 

「変身!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

 賢人は変身する。そして皆と共に甘噛の後に続いた。夢氷姉妹に万一のことがあってはいけないと、彼女たちは賢人の側に付かせて。



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第11話 不可視の剣、覚悟の先。

「こっから降りたら裏口に出るはず────って!?」

 

 そう言いながら階段を降りていると、重火器を装備した女性たちに出くわした。彼女たちはその瞬間に一斉射撃をする。

 

「やばいッ!」

 

 賢人はベルトに装填されたライドブックを押し込み、本の力を解放する。

 

『エナジーユニコーン!』

 

 巨大なユニコーンが現れ、銃弾を受け止め、そしてそのまま彼女達の重火器を蹴りあげる。そして少女たちを拘束し、百喰が目的を問う。

 

「一体何が目的なんですか!?」

 

「ちがっ、離せ!」

 

「どこの所属だぁ? 言え!」

 

 姫片が凄む。

 

「ヒィッ、わ、私たちはただ連れ戻しに来ただけ……」

 

「誰をだ!?」

 

 姫片は胸ぐらを掴んで荒々しく問い詰めるが、その気迫に押されて相手は気絶してしまった。

 

「はぁ……、こりゃ政府軍じゃねぇな。尋問されて気絶するとか、なにより武器の扱いがなっちゃいねぇ」

 

「やっぱそうですよね……」

 

 それは賢人の素人目から見てもわかることであった。

 

「ふ〜ん。別にどっちでもいいけど」

 

「てかさ沙織ちゃん沙南ちゃん。さっきの奴らに、見覚えとかないかな?」

 

 急にそんなことを質問したものだから二人は黙ってしまう。

 

「いや……やっぱ……、ごめん皆……私嘘ついてたことあるねん……」

 

 あまりに急なカミングアウトに、戸惑いを隠せない一同。

 

「どこをだ?」

 

 すると沙織は真実を話し始めた。

 

「ライブハウスで暮らしとった時のこと……。ホントは襲われてなんかいーひんかった。最初はちゃんと暮らしとったねん、でも食べるもんも無くなって、それでくじで殺されて、ママが身代わりになって、それで私と沙南は逃げてきたん」

 

「そのメンバーが、今襲ってきてる奴らの可能性が高い、と」

 

 賢人は平静を装い判断する。

 

「うん……」

 

「……わかった」

 

 賢人は静かに怒りをためていた。

 

「なんでもいいけど、じゃあそいつらは敵ってことでいいのよね?」

 

「はい、来栖崎さん。死なない程度に殺してください」

 

 そう言うと来栖崎は超高速で駆け出し、殲滅しに行った。

 

「は、はや!?」

 

 賢人は再び変身し、来栖崎に着いていく。

 

「皆さんはそこで沙織ちゃんと沙南ちゃんを守っててください!」

 

 賢人は仮面ライダーの走力を活かして来栖崎の後を追う。だが、来栖崎は賢人が辿り着くよりも早く敵を殲滅してしまっていた。

 

(さすが来栖崎ってとこか……)

 

「俺が来るまでもなかったんじゃないか?」

 

「まぁね」

 

「否定してくれない!? ん? てかこの人誰?」

 

 賢人はそこに横たわる女性に気づき、声を上げる。

 

「ひ、ヒィィッ! た、助けてくださいぃぃぃ!!」

 

 そしてその女性は悲鳴を上げ、助けを乞う。

 

「だから来栖崎さんこの人誰!?」

 

「あの姉妹を殺そうとしてたっていうチームのリーダーよ」

 

(こいつが……)

 

「殺すんじゃないわよ! 皆のために死んでもらおうとしただけよ!」

 

(食料にされたって話とも辻褄が合うな……)

 

「それを殺すって言うのよ!」

 

 来栖崎は刀を振り上げる。

 

「ちょ、それは死んじゃうって!」

 

 賢人は必死に来栖崎を止める。すると二人の前で膝を着いている女性がボソッと声を上げる。

 

「……んの化け物が」

 

「……は?」

 

(あ、やばい)

 

「あんたみたいな化け物が、偉そうに人様に頭を垂れさせて!? 気持ちわりぃんだよゾンビのなり損ないが!?」

 

「……」

 

「……なによ────」

 

 来栖崎が言いかけた瞬間。

 

「……。俺の師匠を、バカにすんじゃねぇッ! 確かに無愛想だったり、人付き合いが苦手なとこもあるけど、でも来栖崎さんはバケモンなんかじゃねぇよっ!!」

 

「ケツパ……?」

 

「俺の目が白いうちにこっから出ていけこのド外道が!!」

 

 そう言って賢人は聖剣を床に突き刺す。

 

「ひ、ひっ……」

 

 するとチーム『モラトリアム』のリーダー、篠原千比呂は部下を引き連れて一目散に去っていった。

 

「てかさぁ、黒いうちに、じゃないの?」

 

「あ……」

 

 賢人と来栖崎は白目を剥きながら先程のセリフを口にしている情景を思い浮かべ、爆笑する。

 

「「ぷっ、あはははは!!」」

 

「ちょっと二人とも! なにやっているのですか!」

 

 待たせておいたメンバーがやってきた。

 

「笑い声がするから何事かと来てみれば……」

 

 礼音さんは呆れてものも言えないという様子。

 

「とりあえず寝ましょー。もうヘトヘトよー」

 

 来栖崎は疲れきった様子で言った。だが皆が疲れ切っているのは事実。彼女たちは身体を癒す為に教室で就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして日は明け、窮地を脱した賢人たちポートラルは、鳳凰軍事学校へと足取りを進めていた。そんな時。

 

「いったぁ!?」

 

 賢人は大声をあげる。

 

「どしたのケンティー?」

 

「斬られたんだよ!?」

 

 賢人の腕には大きな切り傷があった。

 

「チッ」

 

 どこかから舌打ちの声が上がり、またもや剣の軌跡が見える。賢人は変身し、防御する。だが、

 

「なんだよこの攻撃!?」

 

(時でも止められてるのか!?)

 

 その剣の持ち主はそれでも執拗に賢人たちを狙い続ける。

 

「皆さん! 相手は姿が見えません! 固まって行動してください!」

 

 賢人はそう言い、

 

(こいつが火炎剣烈火から生まれたのなら……こいつだって!!)

 

「覚悟を超えた先に、希望はある!」

 

 癒封剣波癒を地面に突き刺す! すると辺りに漂っていた殺気のようなものは消え去り、そして剣による斬撃も止む。そして見えなかったはずの剣の持ち主が姿を現した。

 

「お前だったのか……って、誰?」

 

 襲撃者は真っ白な髪に真っ白な肌、そして深紅の目をした美少女、その名は緋鍵峰しずく、例の爆破を起こしたメンバーの内の一人である。

 

「あなたのような愚者に答える義理はない」

 

だが、その少女は賢人の腰に装着されているドライバーを見ると少し興味を持ったように目を向けた。

 

「もういいわ、さっさと切りましょ」

 

 来栖崎は痺れを切らしたのか剣を振り上げる。

 

「ちょっと待ってちょっと待って!」

 

 慌てて抑える賢人。

 

「とりあえずは君の目的、教えてくれないかな?」

 

「だから嫌だと言っているの、分からないの? この能無し」

 

「いや怖」

 

(純度100%の暴言厨かよお前は!)

 

「とにかく、今後一切私の前に現れないで」

 

(そっちから現れたんだけどなぁ……)

 

 言うだけ言ってしずくは地を蹴り砂煙を上げどこかへ去っていってしまった。

 

「コホッコホッ……、チッ、逃げられた……」

 

「と、とにかくさ! 軍事学校とやらに行くんだろ!」

 

「だがその前に、少し寄りたいところがあるのだが、いいかな?」

 

「お、いいねアヤネル」

 

 謎の少女のことは置いておいて、一先ず賢人たちポートラルは礼音の提案した渚輪区随一を謳っていたショッピングモール『メグリエ』へと足を運んだ。



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第12章 装衣を整え、いざ戦闘。

「しっかし、汗臭くてそろそろもたねぇよ、身体が」

 

 道中、姫片が愚痴をこぼす。

 

「まぁゆーて一日二日ぐらい良くね?」

 

(別に臭いとか気にしてないし)

 

「はぁ……これだから童貞は」

 

「な、なななんでそんな事言うんだよ!?」

 

 姫片の発言に過剰に反応する賢人。これでははいそうです、と認めているようなものである。

 

「だってよアド、賢人のやつまだ来栖崎と〇〇〇〇(自主規制)してねーんだってよ」

 

「あああああ!! なしなし何も聞いてないよね来栖崎さん!?」

 

「はっ、こういうのに耐性なきゃ、こっから先やっていけねーぞー」

 

「粉物……あんたお好み焼きにして私たちで食べるわよ?」

 

「私"たち"?」

 

「ッ……」

 

 来栖崎が襲いかかる前にゾンビが襲ってきたことでこの喧嘩は一旦お開きとなった。賢人は変身する必要も無いと、波癒のシンガンリーダにライドブックのリード部分をかざす。

 

『ユニコーン! ふむふむ』

 

「おりゃっ!!」

 

『習得一閃!!』

 

 聖剣はブックに秘められた力を読み解き、それをゾンビにぶつける。

 

「ふぅ……」

 

 ゾンビも掃討し終え、賢人たちはまた、メグリエへの移動を再開した。

 

「ってか、甘噛さんって結構オシャレとかにうるさそうなのによく我慢してられるな」

 

「ふふっ、賢人さまのその水を割ったような性格、好きですわ」

 

「す、好きとか……そんな簡単に言ったら……」

 

(勘違いするよ!? 俺勘違いしちゃうよ!?)

 

「だって賢人さまのことが本当に好きなんですものっ」

 

「あ、ありがとうございます……って、違うか」

 

 賢人は少し考えて口を開いた。

 

「嬉しいよ、甘噛さん。でもあんまり無闇に愛を誇示すると軽く聞こえちゃうから……」

 

(って、何言ってんだ俺!? 普通に嬉しいで止めときゃよかったろ!?)

 

「まぁ! それほどまで深く考えてらっしゃったのですね!」

 

「ま、まぁな」

 

「それと、そろそろさん付けはやめてくださいまし」

 

「え?」

 

「甘噛さん、ではなく、甘噛と呼んでください」

 

「え、あ、い、いいのか?」

 

「はい! ……欲を言うと綴と呼んで欲しいのですけどね……」

 

「え?」

 

「なんでもないですわ!」

 

 そして、しばらく歩いているうちに賢人たちは巨大なショッピングモール『メグリエ』へと到着した。

 

「ねぇケンティー! ねぇねぇねぇ!!」

 

(うっるっさ!!)

 

「ちょっと静かにしてくれませんかアドさん!?」

 

(アドだけに、うっせぇわってか?)

 

「っておい!! 急ぎすぎだって!」

 

 アドはなりふり構わずにモールへと急いで行ってしまった。

 

「私が止めて来ますッ、メグリエの入口で待ってますので!」

 

 そして百喰がアドを追う中、

 

「師匠! 早く行きましょ!」

 

「ちょ、ばっ」

 

「もう体も臭ってきてるんだし! ほーら!」

 

「……」

 

 賢人がその言葉を発した瞬間、来栖崎の動きがピタッと止まる。

 

「あんだけ荒廃してるんだったらそんなに漁られてないだろうし、あんだけデカかったら品数も豊富だろうし! だからその臭い消そ!」

 

「……」

 

 無言の内に顔面目掛けて蹴りが入れられる。だが

 

「はっはっは、残念だったな師匠! あなたに鍛えられたおかげでもう見切れるように────へぶっ!?」

 

 調子に乗った賢人のみぞおちを全力で蹴る来栖崎。そして少し追撃を加えた後、スタスタとモールの方へと行ってしまった。

 

「がァ……痛てぇ……」

 

「だ、大丈夫ですの!? 賢人さま」

 

 甘噛は腹を抑えて悶絶している賢人に、心配そうに声をかける。

 

(全然大丈夫じゃないんだけどな……まぁ心配させたくないし)

 

「だ、だいじょぶだいじょぶ……これくらいなら平気だから……」

 

「もう、来栖崎さんも最低ですね……」

 

 甘噛は賢人を労わるように言った。

 

「賢人さまの気苦労も知らないであんなことを……」

 

「あ、あはは……」

 

「暴力振るう女性は最低です」

 

「最低って……まぁ、仕方ないんじゃないかな。師匠だって苦しんでるんだし……、早く人間に戻してやらないとな……」

 

「わたくし、来栖崎さんが羨ましいですわ」

 

「ん? どういうことだ?」

 

「わたくしも来栖崎さんみたいに感染したいなーって、そしたら賢人さまと四六時中一緒にいられるのに、なんて」

 

(もしかしてこれ、闇落ちフラグ?)

 

「そ、そんな縁起でもないこと言うなって! ほら、明るい話題でいこ! そうだな〜、あ! モールでなんか服とか選ぼ!」

 

 無理にテンションをあげて甘噛の手を引き、メグリエへと足を進める賢人。そして二人が辿り着き、全員が集まったところで……。

 

「おおおおおっきいいいよぉぉおお!!」

 

 アドが辺りのものが飛び散りそうになるほどの大声を上げた。

 

「まじで子供じゃねぇか!」

 

「先程から五月蝿いですふたりとも!!」

 

「「すみません……」」

 

 二人は同時に謝る。

 

「とにかくだ。女性陣は女性陣で探したい物もあるだろう。悪いが、班分けをして探さないか?」

 

 という礼音の提案に皆が賛成した。

 

「あ、いいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(で、だ、どうしてこうなったー!?)

 

 賢人から離れられない来栖崎に離れない甘噛と、何故か夢氷姉妹。

 

「いやいやいや、明らかにどう考えても人数バランスおかしいでしょ!?」

 

 その賢人の言い分はアドの、

 

「でもぉ〜サオリンとサナミンがその班に入りたいって言ってるんだから〜、優先しないとね〜」

 

 という倫理には適っているが理には適っていない意見によってかき消された。

 

「はぁ……」

 

 そして五人はすべての班の中で一番上の階、衣類用品が主に取り扱われているコーナーに来ていた。つまりは……? 

 

「衣替えだーっ!」

 

「あ、ちょっと待ってくださいまし賢人さま!」

 

 賢人は先程の少し落ち込んだ態度からは打って変わって、子供のようにはしゃぎ、服屋へと急いだ。賢人は良さげな服や衣類を一通り手に取って試着室へと駆け込んだ。

 

「師匠も甘噛も! 見ててください! 俺の変身!」

 

 そう言ってカーテンを勢いよく閉じた。

 

「これもいいしこれもいいな……」

 

 どうやら運良く虫食いには遭っていないようだ。そうやって選んでいる間、甘噛と来栖崎は行儀よく試着室の前で待っていた。

 

「じゃーん!!」

 

 第一に賢人が着て見せたのは赤のパーカーに黒のジャケットを羽織った……仮面ライダーで言うと、飛電或人のファッションであった。

 

「かっこいいですわ賢人さま! ですがその靴は……」

 

「何その靴の色、ダサいんだけど〜」

 

 甘噛が言いにくそうにしていたことを、来栖崎は平然と言ってのけた。

 

「この靴も合わせて完成されたデザインなの!」

 

 賢人はもう一度カーテンを閉じ、もう一度着替えた。

 

「よし、次はどれにしようかな……っと」

 

 沢山の服の中から仮面ライダーにでてきた服装っぽいのを選んでいく賢人。

 

(やっぱソードライバーで変身するんだし、これでしょ!)

 

 白いシャツの上に黒のベスト、サルエルパンツ、そして最後の仕上げに黒のハット帽。動きやすさを重視した茶色のスポーツシューズ。

 

(ペンケースがないのが少し悔しいが、まぁいいでしょう)

 

「どうだ!?」

 

「す、すごくかっこいいですわ!」

 

「ま、いいんじゃないのー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 などと賢人たち三人がはしゃいでいる中、一方その頃夢氷姉妹はというと……。

 

「これもええと思う……お姉ちゃんに似合ってるよ」

 

 沙南は内弁慶であった。姉にだけ見せるそのあたりの強さは、沙織にとってとても愛らしく見えた。だがそれと同時に、これを早く、姉として直してやりたいとも考えていた。

 

「あ、それとこれ……」

 

 沙南が恋愛の成就の方法の書いてあるいかにもな本を手に取る。と、そんな時、沙織はあるものを発見した。

 

「さ、沙南!!」

 

「え!?」

 

 びっくりして手に持っていた本を落としてしまう。

 

「バケモンや! バケモンが襲ってきた!」

 

 そう、入口からゾンビが入ってくるのが見えたのだ。

 

「賢人の旦那に知らせやんな!」

 

 沙織は急いで賢人たちのいる服屋へと向かった。



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第13章 荒れ狂う、殺戮の治癒剣士。

 突然、賢人たちのもとに姉妹がやってきた。

 

「賢人の旦那っ!!」

 

「え!? ど、どうした!?」

 

 それは、賢人が着替え、二人に感想を貰っている最中の出来事だった。

 

「ゾンビや! ゾンビが現れたんや! しかももう中に入って来とる!」

 

「ま、まじかよ!? ちょ、早く行こう甘噛! 師匠!」

 

 賢人は腰にベルトを巻き付ける。

 

『聖剣ソードライバー!』

 

 そしてライドブックを開き、本の力を解放する。

 

『エナジーユニコーン』

 

 スロットに挿入し、剣を引き抜く。

 

『波癒抜刀!』

 

 賢人は引き抜いた聖剣を地面に突き刺し、構える。

 

「変身!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

「ここからなら、立体駐車場が一番近いですわ! 早く急ぎましょう!」

 

 甘噛が皆に声をかける。賢人は辺りに群がるゾンビたちを排除していく。

 

「チッ……キリがないな……」

 

 階段ではあまり剣を振り回せず、賢人は四苦八苦していた。

 

(どうにかならないのかよ! てか、火炎剣ならこういうのも焼き尽くせるのになぁっ!)

 

 残念ながら賢人は火炎剣烈火の能力を最大限引き出せていないのだ。

 

「あ、甘噛!!」

 

 仕留め損なってしまったゾンビを見つけた賢人は急いで甘噛の方へと攻撃の方向を変える。だが……。

 

「甘噛ッ!」

 

 ゾンビが、甘噛の足にまとわりついていた。賢人は全てを押しのけて甘噛の元へと駆け寄った。

 

「甘噛さんッ!!」

 

「甘噛と呼んでくださいと……いえ、綴と……呼んでください……」

 

「あぁ、いくらでも呼んでやる! 綴……だから、死なないでくれ……!」

 

 足を噛まれただけだと言うのに、甘噛の身体にはウイルスがもう全身に回ってしまっていた。

 

「っざけんなよ……、なぁ癒封剣波癒! あん時の奇跡、もう一回だけでいいから、起こしてくれよ!」

 

 この世界での感染者は即刻処分の対象である。賢人の脳内に『奇跡は2度も、起こらなぁい!』という言葉が反諾する。

 

「こんなのって……ねぇよ……」

 

(もし神様ってのがこの世界にいるなら、頼む! 綴を……治してやってくれ……)

 

 その時、沙織が持っていた本が白く発光し、小さな本型のアイテムに変わる。そしてそれは賢人の元へと勝手に浮遊し、彼の手に収まった。そしてそれに呼応するかのように癒封剣波癒が光る。

 

「あ……ぁ……」

 

 甘噛の傷や、感染の痕はみるみるうちに癒えていく。そうやって甘噛を治している間にも、来栖崎は一人でゾンビたちと戦って賢人たちを守っていた。

 

「わたくし……、賢人さまに……」

 

「んな事気にしなくていいから!! なぁ甘噛!」

 

「ふふ、綴ですわよ?」

 

「つ、綴……さん」

 

(めちゃめちゃ師匠からの視線が痛てぇ……)

 

「ほら、行くわよバカども」

 

 来栖崎はスタスタと階段を下っていってしまった。

 

「ちょ待ってよ師匠! ほら、綴も行くぞ!」

 

(新しいライドブックも手に入ったしな!)

 

「あ、沙織さんや沙南さんも行きましょう」

 

「う、うん! 沙南も行くで!」

 

 賢人たち五人はそのまま一番下の階にある立体駐車場まで急いで向かった。

 

「あ、俺たちが最後ですか……」

 

「ケンティー! いやー、一番上の階にいってたからめっちゃ心配したんだよ!」

 

「……で、なんで外に出てないんだ?」

 

「……いや〜、ちょっとね……」

 

 アドは気まずそうに外を指さした。

 

「あのデカブツか……」

 

 賢人はブックを装填し変身しようとする。だが、

 

「賢人さまはそこで見ていてください!」

 

 甘噛がそう言って変異種と呼ばれる怪物へと向かっていく。

 

「ちょ、あのバカ!」

 

 来栖崎もそれに続いて甘噛を追いかけるように変異種へと突撃していく。

 

「でも俺もこのブック使いたいし、行くぜ!」

 

『ハンターナイトリザード』

 

 賢人はブックの表紙を開ける。

 

『〜この白き襟巻が綴る、壮大なるハンティングストーリー〜』

 

 そしてエナジーユニコーンと共にベルトに装填する。

 

『波癒抜刀!』

 

「変身!」

 

『闘争の、ユニコーンリザード! 〜波癒二冊、天翔ける爬虫類が今、闘いを激化する! 〜』

 

(……)

 

 賢人は意識を失ってしまう。そして、身体が勝手に新たなライドブックに操られてしまって、意識もないままに変異種へと向かっていってしまう。

 

「え……?」

 

「ちょっとケツパ?」

 

 変異種を、ちぎっては投げちぎっては投げと無残な方法で攻撃し、そして既に死んでいるソレに対して、必殺技を放つ。

 

『必殺読破! ユニコーン! ナイトリザード! 二冊撃! ヒヒヒール!』

 

 明らかに過剰とも思えるその攻撃に、周囲も段々と異変に気付き始めていた。

 

「え……?」

 

 そして、変異種を完全に跡形もなくなるまで破壊したヴァルキュアは、爆煙の中から現れる。そして、それに先程から異常を感じていた来栖崎は彼を抑える。ヴァルキュアはそのことから次なる標的(ターゲット)を来栖崎に決定する。

 

「ケンティー……?」

 

「まさか……! 来栖崎くんすぐに逃げろ!」

 

 いち早く異変に気がついた礼音は、来栖崎に退避を促す。しかし、来栖崎は逃げなかった。

 

(やってやるわよ……かかってきなさいよ……)

 

 来栖崎は覚悟を決めた。

 

 ヴァルキュアが剣を振り上げ、来栖崎へとその斬撃が直撃する。

 

「やめてください賢人さまっ!!」

 

 寸前のところで、甘噛が割って入る。彼女はソードライバーに装填されたブックを引き抜こうと、ヴァルキュアの腰部に抱きついた。そしてそれに我に返った来栖崎も加勢する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 変身を解除し、何とか意識を取り戻した賢人はすぐに今起きたことを理解する。

 

(俺……暴走して……)

 

「師匠! 綴! 大丈夫か!?」

 

 賢人は慌ててふたりの安否を確認する。

 

「は、はい……大丈夫、ですわ……」

 

「……別に」

 

 その場ではあまり気にしていない様子の賢人だったが、その夜……。

 

 夢を見た。自分が仮面ライダーの力で殺戮の限りを尽くす夢、止めてくれた甘噛や来栖崎さえも手にかけてしまう夢。そして最後には『本当の』仮面ライダーに打ち倒される夢。

 

「あああぁぁあああ!!」

 

「ど、どうしたんですの賢人さま!?」

 

「ちょっと何急に?」

 

 急に夜中、大声を上げたものだから、賢人の知らぬ間に隣で寝ていた甘噛が飛び起き、そしてそれにつられて来栖崎も起きてしまう。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

 賢人は二人の顔を見るとみるみるうちに青ざめていき、謝罪の言葉を連呼する。

 

「? 賢人さま?」

 

「師匠……綴……今日俺……お前らのこと傷つけてばっかで……あの時綴の言うことを聞いてれば……俺なんて……生きてちゃいけない────」

 

「そんなことありませんわ!」

 

「そんなことないわよ!!」

 

 甘噛も来栖崎も賢人の存在を肯定する。

 

「別にあんなこと、気にしてなんていませんわ」

 

「それに、怪我してもアンタに治してもらえばいいし」

 

「それでも……それでも俺はもう、戦いたく……ない」

 

 それだけの優しい言葉を言われても尚、賢人はいつもの笑顔になることは無かった……。



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第14章 咎を越えた、覚悟の行く末。

 賢人は二人が寝た頃を見計らい、外に出ていた。

 

「やっぱ俺……生きてちゃいけないんだ……」

 

(なんだよ……仮面ライダーなんて……俺は神山飛羽真みたいにはなれなかったな……)

 

 賢人は、せめて聖剣を汚さない為にとアドから借りていたナイフを自分の首元に突き立てる。

 

「あ、あはは……こええもんだな……死ぬのって」

 

(あいつらを傷付けておいて、今更だけど)

 

「さよなら」

 

 皆が休息を取っている小屋に手を振り、今一度手に持っているナイフに力を入れる。

 

「────なにしてますの!?」

 

 その瞬間、賢人の背後から怒声が聞こえた。

 

(え……?)

 

「なにって……俺がいると皆の事傷つけるし……綴だって嫌だろ? こんな奴と一緒にいるの。だから死んだ方がいいって────」

 

「バカを言わないでください!」

 

 賢人の頬に、綴が力強く手をぶつける。

 

「……」

 

「嫌ですわ……賢人さまが死ぬのは……いないとわたくしが、生きていけませんわ!」

 

「綴……ごめん……でも俺は……」

 

「うじうじ悩んでるなんて、賢人さまらしくないですわよ!」

 

「……え?」

 

「貴方はいつでも能天気で何も考えてないように見えていつもわたくしたちのことを一番に考えてくれている! なのに……」

 

「……そうか。そうだったよな……俺は……俺はもう……仮面ライダーになったんだよな……」

 

 賢人は思わず目から大量の雫をこぼす。それを何も言わずに甘噛は受け止め、寝付くまでずっと抱きしめていた。

 

「賢人さま……今はそうしていてください。貴方様の望むことなら、何でもしてあげますから……」

 

 そして、甘噛は完全に就寝した賢人を小屋まで運んだ。

 

 ────その日、賢人はまた、夢を見た。賢人が勇気を出せず変身を躊躇して皆が殺されていき、何もかもが手遅れになった後に、本当の仮面ライダーが現れ、己の無力感に苛まれる夢。

 

「あああ! はぁ……はぁ……なんだ……夢か……────って、えええぇぇ!?」

 

 目覚めた賢人は驚愕のあまり大声を上げてしまう。

 

「え、つ、つ、綴!? え、ちょ」

 

(俺まさか、一線越えちゃった?)

 

 甘噛の性格を鑑みればその可能性も無きにしも非ずだが、今回の場合はそうではない。

 

「ん? ふにゃぁ〜、賢人さま〜?」

 

 寝起きのせいもあり、妙にふやけた喋り方の甘噛。

 

「ったく、ほんと朝っぱらから騒がしいわね。あんたたち」

 

「あ、師匠……。き、昨日はすみませんでした! 俺のせいで命の危険にまで晒してしまって!」

 

「だーからー、謝らなくたって良いって言ったわよね?」

 

「あ……あはは……」

 

 それは昨夜、自分が死のうとしたことが心底バカバカしく思えるような、そんないつも通りの、ホッとする光景だった。賢人たちは朝支度を整え、ひとまず鳳凰軍事学校へと足を進めることになった。

 

「さぁ皆! 鳳凰軍事学校までいざゆかん!」

 

「おー!!」

 

「お、ノリがいいねケンティー!」

 

「……てかなんで綴は俺の腕に張り付いてんだ?」

 

「わたくし、ゾンビが怖いのです。なので賢人さまに守って頂きたいのです」

 

 その瞬間、賢人の歩みが止まる。

 

(俺に……守って、欲しい?)

 

「傷つけたのに……か?」

 

「しつこい男子は嫌われますわよ? わたくしはそんな賢人さまも好きですけどね♪」

 

「なっ……」

 

「なに鼻の下伸ばしてんのよ。はぁ……」

 

「相変わらずだなぁ、師匠は」

 

 そんないつも通りの談笑を繰り広げていること一時間、賢人たちは鳳凰軍事学校への最寄駅である、広末駅駅前付近まで辿り着いた。

 

「しっ、皆静かにっ」

 

 先頭を歩いていた礼音が急にあゆみを止め、ビルの影に隠れるよう促した。

 

「え? なになに?」

 

 賢人は思わずうろたえてしまう。

 

「まさか、例の軍人ですか?」

 

 百喰がその謎の人影の正体を推測する。

 

「え、もしかして沙織ちゃんの言ってたあれか?」

 

「多分そうやと……思う」

 

「ってあれは……」

 

 物陰から少し顔を出し様子を伺った賢人は、衝撃的な光景を目にする。

 

「あんときの毒舌少女じゃん」

 

 来栖崎が変なあだ名をつけていたことには今触れないでおいた賢人たち。

 

「どうするんだ賢人くん」

 

「助けるに決まってるじゃないですか」

 

(これは破壊のための力じゃない……、救うための力なんだよ)

 

「ふふ、君ならそう言うと思っていたよ」

 

「俺はもう、力の使い方を間違ったりしません。絶対に。皆さんは俺が引き付けてるうちにあの少女を救出してください」

 

 戦う覚悟を決めた賢人は、ソードライバーを腰に装着し、ブックを装填、剣を引き抜く。

 

『エナジーユニコーン!!』

 

 変身を済ませた賢人は、軍人たちの前に勢いよく飛び出しその名を名乗る。

 

「俺はヴァルキュア、全てを救う、救世主の名だ!」

 

「……!?」

 

 奥で拘束されているしずくが驚嘆の目を彼に向けた。

 

「ちっ、現地人か?」

 

「あぁそうだ」

 

 賢人は発砲を続ける軍人たちの銃弾を二振りの聖剣で受け止め、軍人たちの方へと歩みを進める。

 

「チッ、撃てぇ!」

 

 が、ユニコーンによって銃弾は全てヴァルキュアの元に届くことすらなく撃ち落とされてしまう。そして、ヴァルキュアは軍人たちの機銃を寸分の狂いもなく破壊する。そしてアドは皆に声をかけ車内に閉じ込められている一人の少女を助け出すよう呼びかけた。

 

「ケンティー! 助けたよ!」

 

 その声を聞いたヴァルキュアは召喚したユニコーンに皆を乗せ、そして飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────一方、元ソードオブロゴスの剣士である富加宮賢人は古くからの友である小説家の神山飛羽真と共に、ある遺跡へと訪れていた。戦友である倫太郎によると、どうやらこの付近でメギドとはまた違った怪物が暴れているらしい。倫太郎たちソードオブロゴスの面々はメギドの残党処理で手一杯のようだ。

 

「ここがその、銀の国か」

 

 遺跡とは言うが、そのあまりにも整った外観は、どこかの施設と勘違いしそうになるほどだった。

 

「なぁ賢人、ここ、何かおかしくないか?」

 

「ん? どうした飛羽真。そんなに憂いて」

 

「いや、なんでもない」

 

 賢人は遺跡の中に入っていく。すると道中、どこかから、物音が響く。

 

「なんだ!?」

 

 ふたりはその場所に駆けた。

 

「やっぱり……!」

 

 そこで賢人は一冊のライドブックを発見した。だが、それを手に持った瞬間、どこかへと引きずり込まれてしまう。

 

「け、賢人ッ!!」

 

 飛羽真は必死に手を伸ばすが、既に身体の半数を引かれてしまい、手遅れの状態であった。

 

「と、飛羽真! 尾上さんたちにこのことを伝えてくれっ!!」

 

 その言葉を最後に、賢人は闇の空間に引き入れられてしまった。次に賢人が目を覚ましたのは、ある個室のベッドであった。

 

「どこだ……? ここは?」

 

 賢人の懐には雷鳴剣黄雷が納刀されたソードライバーと、四冊のライドブックが入っていた。

 

「目ぇ覚ましたか若人?」

 

「えっ……と……」

 

 ベッドの前に立っている女性の格好に、賢人は目のやり場に困ってしまう。

 

(ど、どういう……状況だ)

 

 とにかく賢人はベッドから立ち上がり、目の前のドアへと歩き出す。ドアが自動的に開き、前に立っていた少女とぶつかってしまう。

 

「キャアッ、って、やっと起きたのね」

 

 賢人はそのぶつかった相手を見て、さらに言葉を失ってしまう。なにせ、ほぼ全身をさらけ出した格好でなおかつ服と呼ぶのもおこがましく、申し訳程度に布をまとった女性だったのだ。

 

(本当にどういうことなんだこれは……)

 

『これより、食料配給に時間です。直ちに行動してください』

 

 音声が部屋全体から流れ出す。

 

「あ、急がなきゃ。ほら、あなたも一緒に」

 

 賢人はその少女に手を取られ、広い間へと足を運んだ。

 

「これは……」

 

(さっきまでいたあそことそっくりだ……)

 

 そしてそこで待っていた三人の少女は彼の姿を見て驚きの表情を浮かべる。

 

「むぐ姉遅いよぉ〜って、え!?」

 

 水色の髪をした少女が一番に声を上げる。そして賢人は明らかに急増されたであろう席に座り、手を合わせる。

 

「いただきます────って、な、なんだ」

 

 それもそのはず、驚いたその少女は賢人に纏わりつくように迫り、質問を浴びせたのだ。

 

「ちょっとよすが、その人も困ってるじゃない」

 

「食事の時ぐらい静かにできない? この出来損ない」

 

「ぐぅ……」

 

「そんなことよりこんな男に渡す食料がもったいないですそのせいでほとりの量が減ってるんだそうだ間違いない食事が無くなったら餓死しちゃいますみんなほとりに死んでほしいんだ辛い辛い辛い辛いよー」

 

(俺……何かしたか……?)

 

 賢人は脳内で思い当たる節を探すが、一向に思いつかない。

 

「静かにせんか!」

 

 との女性の一喝で、辺りが静まり返る。

 

「と、とにかく皆、一旦落ち着いて。まずひとつ聞きたいんだが、ここはどこなんだ?」

 

「どこって、シェルターだよ? てかそっちこそ誰なの?」

 

 そう言って水色の髪の少女は賢人に質問を返す。

 

「あぁ……そうか。俺は富加宮賢人。ある遺跡を探索していたんだが、気づいたらここにいた」

 

「探索となぁ? まさか、外の世界から来たのか?」

 

(外の世界……? 後で聞くか)

 

「とにかく、君たちは一体何故こんなところで暮らしているんだ?」

 

「暮らしているわけじゃないの。私たちは外の世界を取り戻すために特訓しているの」

 

「取り戻す……特訓……? と、とにかく、まずは君たちのことを教えてくれないか?」

 

「私は翠吟静わだち。この子らの長女じゃ。よろしくな」

 

「私は蒼朽寂むぐら。あなたも一緒に戦ってくれるのよね?」

 

「あ……はい」

 

「ボクは白名月よすが。よろしくね」

 

「あんたに教える意味、ある?」

 

「見知らぬ不審者から名前聞かれましたきっと名前から悪口作るつもりなんだ鬱エンドレス」

 

「あぁ〜もう、こっちは緋鍵峰しずくで、こっちは黒神ほとり。どっちもボクの妹だよ」

 

「あ、ありがとう……助かる」

 

 賢人は感謝の言葉を述べ、そして皆から配給の食料を少しずつ貰った。



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第15章 姉妹の絆、銀の国。

 自己紹介を済ませた彼女たちは、次のアナウンスによって、訓練施設である『特殊修練場』に来ていた。

 

「皆は、ここで訓練してるのか?」

 

「そうだよ! まぁ、ボクはまだ開花出来てないんだけどね……」

 

「開花……?」

 

 賢人が疑問に思っていると、わだちが壇上に立つ。

 

『鬼武者 翠吟静わだちさん。DNAをactivation 血統遺伝子を発現させてください』

 

 するとわだちの周りに無数の青白い骸骨のような兵士が出現した。

 

「なんだこれは!?」

 

 賢人は思わず懐に仕舞ってあるソードライバーを手に取る。

 

『CASE-Eの修了条件は50戦連続で15分以内クリアとなっています』

 

 システム音声が訓練の開始を告げ、その兵士達は次々と現れる化け物たちを蹴散らしていった。そしてその後も姉妹たちはその訓練をしていき、残りは賢人だけというところだった。

 

「後は富加宮だけだよ! ほら、行っていって!」

 

「自分はクリア出来なかったくせに、この愚図」

 

「ハ、ハハ。酷いなぁ妹よ!」

 

 底無しの明るさでその酷い暴言を乗り越えたよすが。

 

「つ、つまりは俺も君たちみたいにやれってこと、だよな?」

 

 賢人はスタート位置に移動する。すると、

 

『深刻なエラーが発生 今すぐその場から離れてください』

 

「な、なんだ!?」

 

 なにがなんだかわからないという様子の賢人の事など知る由もなく、機械は誤作動を起こし先程まで少女が挑戦していたEランクの訓練とは比べ物にならない程の強さを誇るAランクの相手が現れてしまった。

 

「な、何だこの事態は……」

 

「父さんに知らせないといけないんじゃないの!?」

 

「……。いや、いい。こいつらは、俺が片付ける」

 

 皆が困惑する中、決意を固めた賢人はベルトを装着し、三冊のライドブックを構える。

 

『聖剣ソードライバー!』

 

『ランプドアランジーナ ニードルヘッジホッグ トライケルベロス』

 

 それらを全てベルトに装填し、賢人は剣を引き抜いた。

 

『黄雷抜刀!』

 

「変身!」

 

『ランプの魔人が真の力を発揮する! ゴールデンアランジーナ! 黄雷三冊! 稲妻の剣が光り輝き、雷鳴が轟く!』

 

 金色の装甲を纏った雷の剣士、仮面ライダーエスパーダ ゴールデンアランジーナが皆の前に立つ。

 

「絶対に倒す!」

 

 雷を雷鳴剣黄雷に纏わせ、怪物たちを切り裂いていく賢人。そして右腕に着けられたマント、カテーナクローケで怪物を捕らえ、ヘッジホッグの棘で貫く。更に空飛ぶじゅうたんの上に乗り雷で敵を薙ぎ払っていく。だが怪物たちは倒しても倒しても増え続けてしまう。

 

(確かわだちのときに出てきたのはだいたい100体……なら……!)

 

「ふっ、はぁっ!」

 

 そしてドライバーに剣を納め、トリガーを押す。

 

『必冊読破! 黄雷抜刀! ケルベロス! ヘッジホッグ! アランジーナ! 三冊斬り! サ・サ・サ・サンダー!』

 

「トルエノ・デル・ソル!!」

 

 剣を引き抜き、光の速さに勝るとも劣らない速さで、敵の前方を駆け抜け、そして背後を振り返ってトゲを飛ばした後に、必冊ホルダーに剣を収め、それを引き抜き更に追撃を浴びせる。

 

『黄雷居合! 読後一閃!』

 

「トルエノ・ラズ・ラピッド……!」

 

 賢人は敵を全て斬りそして、

 

「これで話は終わりだ……!」

 

 全ての敵を倒したのか、敵は湧いてこなくなり、賢人はライドブックを引き抜き変身を解除する。

 

「ふぅ……」

 

「……」

 

 辺りが静寂に包まれる。

 

「す……すごいよ! 富加宮!」

 

「……かっはっは! こりゃあ大層な力だ!」

 

「強い……」

 

「みなさん! 大丈夫ですか!」

 

 だが、あれだけの激戦を繰り広げていたのにも関わらず、賢人は他人を気遣えるほどの体力が残っていた。

 

「あ、あはは……ボクは大丈夫だけど……と、とりあえずさ、後のことは父さんに報告して任せようよ!」

 

「父さん……?」

 

「父さんは父さんだよ! 富加宮は知らないの?」

 

『昼食の時間です。直ちに移動してください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日の時を経て、姉妹たちはついにその真価を発揮する日まで5日を切っていた。そんなある日、よすがが急ぎながら銀の国のエントランスへと戻り、皆を集める。

 

「どうしたんだ? そんなに急いで」

 

 賢人は落ち着いた様子で問う。

 

「皆聞いて……姉さん、しずく、ほとり、富加宮……」

 

 よすがはたどたどしくも芯を持った様子で語り始めた。

 

「皆に黙ってたんだけど、実はボク……もう能力、使えるようになったんだ。……透明になれる能力」

 

(なるほど……透明化か……どうりで気づかなかったわけだ)

 

 実は賢人、度々よすがの奇妙な行動を目撃していたのだ。例えば至急を受け取る際に何故かいつの間にか居なくなっていたりなど。

 

「それでその力を使ってボク、外の世界に出たんだ……」

 

「え、外の世界って、バケモノとやらがいるんじゃなかったのか?」

 

「ダメ……ボク以外の声は聞こえちゃうから……。それで、町は廃れてなんていなかったんだ。それでその後、映画を見たんだ……。そしたら、母さんが映ってた。あの映像と全く同じ風にバケモノを倒してる母さんの映像が」

 

「……」

 

「その後、父さんもそこで見かけたんだ。それで父さんは言ってたんだ。……ボクたちは、殺されるんだよ……。だからっ────」

 

「なるほどな」

 

 よすがの声を遮り、わだちは言った。

 

「……つまり、母上は空想上の人物で、父上は私たちを殺そうとしていると」

 

「だから聞こえちゃうって……!」

 

 するとわだちはよすがに歩み寄る。

 

「……そうか」

 

「そうっ、だから、ボクたちが売られちゃう前に、売られたら、殺されちゃうかもだから! だから逃げ────」

 

 わだちは頬をぶった。よすがの頬を、悲しみに満ちた表情で。

 

「……ぇ?」

 

 よすがは何がなんだか分からないという表情で皆の方を見た。その後も、よすがは必死に訴え続けた。なのに一瞬でも信じてくれる気配すら見せず、その上よすがを哀れみの目で見る者もいた。

 

 ────その夜、よすがは自室で一人、静かな夜を過ごしていた。普段ならとっくに寝ていないといけない時間なのだが、今の精神状態では悲しくもそれは叶わなかった。そんな中、ふと扉が開かれる。

 

「起きてるか。よすが」

 

 尋ねてきたのは賢人であった。

 

「富加宮……」

 

「まぁ、今日は悪かったな。フォローしてやれずに。それでその件なんだが、もう少し、詳しく聞かせて貰えないか?」

 

「いいけど……どうせ信じてないんでしょ?」

 

 すると賢人は懐から紙を取りだし、そこに文字を綴った。

 

『俺は君たちみたいに父や母を知っているわけじゃない。だからよすが、お前の言うことを聞かずに否定するなんてしない』

 

 するとよすがはゆっくりと話し始めた。自分が処分されるということや外で出会ったカプセルに浮いてるというプカ美という男のことも含め、嘘偽りなく。

 

『そのプカ美って言うのはにわかには信じ難いんだが、その父さんの言っていたことは、俺は信じるよ。そこで提案なんだが、お前の能力、他人にも使えるんだよな? だったら俺の事を見えなくするってことも出来るのか?』

 

「うーん……」

 

 よすがは少し考えた後に自分の体液を賢人に付着させ、裸になるように強要した。

 

「ど、どうしてそんなことを!?」

 

 生来、剣士としての特訓ばかりしていて女性との絡みがほぼなかった(ルナは除く)賢人はかなりの時間渋った後、嫌々脱いだ。

 

「そうそう。それで1回姉さんの部屋に入ってみて」

 

「えっ、なんでそんなこと……って、そういうことか」

 

 賢人は納得し、部屋の外へと出て姉妹たちの部屋へと入った。

 

「やっぱり、見えてないのか……」

 

「なら、ボクの考えてたアレ、いけるね!」

 

 よすがは普段から外の世界へと出る際に利用していた手口を賢人に話し、これからの5日間にすることを端的に話した。

 

「ふっ、……わかった。なら、俺は奴らに指示されない限りわだちたちに着いていくってことでいいんだな?」

 

「うんうん。そそ」

 

「でも、それで大丈夫なのか? 1人でやれるのか?」

 

「はは、大丈夫だって。ボクを誰だと思ってるの?」

 

「……わかった。それともう1つ、頼みがあるんだがいいか?」

 

「いいよ。ボクに出来ることならなんでも」

 

「一応、俺がいなくても不自然にならないように、代わりの人形を用意しておいて欲しいんだ。それとそのプカ美とやらにこれ、渡しておいて欲しいんだ」

 

 賢人は3冊のライドブックをよすがに手渡した。遺跡で発見した新たなライドブックに、雷属性のライドブックが2冊。あまり荷物が多いと透明になれないと言っていたからだ。そして、

 

「よすがはこれを」

 

 ランプドアランジーナをよすがにもって置くように言っておいた。これで、準備は整った。後はプカ美にこの作戦の概要を説明するだけ。翌日2人は1日に4回あるゲートが開く時間を見計らい、外の世界へと訪れた。



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第16章 悲しみを、乗り越えて。

 そして、例の出荷の日当日。皆がようやく起き始めたぐらいの時間、賢人はずっと修練を重ねていた。

 

「おはよぉ〜。って、富加宮もう起きてたの?」

 

「あぁ、おはようよすが」

 

 賢人は偽装用のぬいぐるみと一本の聖剣を持って今まで開いた姿を見たことがなかったゲートの前へと足を進めた。数分程たち、姉妹たちも揃う。

 

「お、やっと来たか」

 

 賢人は朝の挨拶をした。そしてまた数分後、ホログラムにてあるひとりの男性が映し出される。

 

「地上格納庫直通超大型昇降機《エルビラン》だ。地上の格納庫と銀の国を結ぶ、直通のエレベーターだ」

 

(デカイな……)

 

「これに乗ってお前たちは地下5m地点、第5格納庫へと移動してもらう。そこで待機しているヘリに乗って、移動を開始して欲しい」

 

 皆がエレベーターに乗り込もうとした瞬間、

 

「よすがは少し待ってくれ」

 

(やっぱり、よすがの予想通りか……)

 

 よすがは施設の役員に連れられて別のエレベーターに乗り込む。その瞬間、賢人にウインクをし、彼もそれに応えた。

 

(よし、作戦決行だ)

 

 賢人は偽装用のぬいぐるみを持って直ぐに、皆が入るエレベーターに乗り込んだ。もちろん透明化が解除されないように、である。この日の為に5日前のあの日から無口キャラを貫いていた賢人は返事をしなくても不審がられることは無く、無事に目的地である政府軍本拠地へと辿り着くことに成功した。だがそこは、以前と何ら変わりない、銀色に包まれた、無機質な空間であった。

 

「ウェルカム・シスターズ!」

 

 管制室から大手を振るい彼女たちを歓迎する者がいた。彼は腰に沢山のポケットを取り付け、軍服を纏い左腕に腕章を巻き付けた銀髪の男性であった。

 

(コイツがプカ美の言っていた敵か……)

 

「私は第十五人間拠点の一切を取り仕切る人間、────赤城優斗という未熟者だ」

 

 何処となく小者臭がするその男に賢人は、少し訝しんだ。そして赤城は淡々と会話を続けていき、例の実験を始めようとしていた。

 

「それでその手術だが、順番はどうするんだ?」

 

 わだちは赤城に問う。

 

「ふふ、何事も男が率先して動くものだと、俺は考えるが」

 

(……そうか)

 

 賢人は偽装用のぬいぐるみを少しずつ手術室へと動かし、自分もそこの中に入る。

 

(……侵入成功だ)

 

「よし、今から君には、とある手術を受けてもらう。覚悟はいいかね? とは言っても、君に選択肢などないんだがねぇ」

 

「……」

 

 もちろん赤城が話しかけているそれはぬいぐるみの為、応答はおろか動きすらしない。それを移植された遺伝子による影響と全く見当違いの自己解決をした赤城は、賢人に触れようとする。その瞬間、賢人の脳内によすがの声が思い起こされる。

 

『姿を変えた物は、触られると解けちゃうから気をつけてねっ』

 

(まずいっ!)

 

 咄嗟にぬいぐるみへと視線を落とすが時すでに遅し。

 

(バレたか!?)

 

 だが彼が触ろうとしたのは肩部のため、小さなぬいぐるみに触られることはなく、むしろ手がすり抜けたことを発現された能力だと判断した。

 

(ふぅ……)

 

 ほっと胸を撫で下ろした賢人。

 

(確か、よすがが来るまでの時間稼ぎだよな……)

 

 よすがが来るまでの約5分間、たった5分だったが、賢人には永遠とも感じられるほどの長時間に感じられた。

 

「ではさっさと、手術に取り掛かろうか!」

 

 赤城は意気揚々にいつの間にか手術台に乗せられていた賢人の身体にメスを入れていった(よすがによってその幻覚を見せられていた)。その隙に本物の賢人は別室の兵隊たちを切り倒して行った。もちろん峰打ちである。

そして手術も終わったのか、偽物の賢人を連れて、手術室の外に出て姉妹たちの前に現れた。その賢人は全身至る所が改造されており、中には身体の内部が露出している部位もあり、お世辞にも成功とは言いがたかった。

 

そしてその精巧な顔も改造の結果、跡形もなく崩れ去っており、以前の賢人は遥か彼方に行ったような錯覚を姉妹たちに覚えさせた。

 

(よすがの奴……悪趣味すぎるだろ……)

 

「え……?」

 

「どういう……こと……?」

 

(やっぱ予想通り……か)

 

 だが、賢人とよすがは、姿を現さなかった。それは、

 

『まずボクが用意した偽の富加宮を囮にする。で、それでその富加宮を見て姉さんや妹たちは多分、怒ると思う』

 

『思うってなんだよ、思うって。もしかしてあれか? 俺がみんなからよく思われてないってことか?』

 

『で、それで多分父さんたちに売られたってことを知らされると思うんだ。ボクたちが出るのはそこからでいいと思うんだ』

 

 という思惑あっての事である。すると赤城はなんとも律儀に長々と父さん改め神峰透露のことを姉妹たちに話し、彼女たちはそれを信じずとも目の前にいる男が敵なのだということを認識し、彼を攻撃しようとする。だが……。

 

「あぐぇ!? がはっ!?」

 

 突然目の前にいる姉妹たちが頭を抱えて悶えだした。

 

「愚かだなぁあっ! 結局貴様らは、ただの商品に過ぎなかったのだよ!」

 

 それを見ていても経ってもいられなくなった賢人は透明化を自分から解くような行動をし、姿を現した。

 

「ダメ富加宮! 今解いたらあなただって……!」

 

「安心しろよすが。俺には効かない」

 

 賢人は聖剣を構え、赤城に向ける。

 

「みんなに、手出しはさせない! はぁあああ!」

 

 走りながら向かい、その手に持っている起動スイッチを叩き切った。

 

「ちっ、始末書ものだぞこれはぁあ!!」

 

 狼狽える赤城をよそに、賢人はよすがに託していたライドブックを受け取り、ベルトを腰に装着する。

 

『聖剣ソードライバー』

 

『ランプドアランジーナ!』

 

 賢人はそのままドライバーのレフトシェルフに装填し、剣を引き抜く。

 

『黄雷抜刀!』

 

「変身!」

 

『ランプドアランジーナ! 黄雷一冊! ランプの精と、雷鳴剣黄雷が交わるとき、稲妻の剣が光り輝く!』

 

 賢人はライドブックを押し込み、魔法のじゅうたんを出現させる。

 

「みんなこれに乗れ!」

 

 そう言って賢人はそれに乗り、続いて姉妹たちも乗っていく。賢人はドライバーに剣を納刀し、トリガーを引きもう一度引き抜く。

 

『アランジーナ一冊斬り! サンダー!』

 

「トルエノ・デストローダ……!」

 

 扉を破壊し、いつの間にかよすがからの呼び名が深見に変わっていた元プカ美と合流する。

 

「全ての爆弾は、設置し終えた……。後は任せたぞ……よすが……」

 

 息絶え絶えの深見は、よすがに起爆スイッチを渡し、息を引き取った。……だが、その死体がみるみる内に変異していき、そして気付くと深見の面影が全くない怪物へと変貌していた。

 

「プカ美……さん?」

 

 深見の死に加えて、更に異形の怪物に変異してしまったショックから、よすがは放心状態となっていた。そして彼女に、怪物の魔の手が襲い掛かる。

 

「やらせるか……!」

 

 賢人はよすがを庇ってダメージを負ってしまう。

 

「富加宮!!」

 

 よすがは賢人に駆けよる。

 

「俺は大丈夫だ。とにかく、アイツを止めてやってくれ……、たのむ」

 

「……。……わかった」

 

 その瞬間、しずくの攻撃が化け物と化した深見を襲う。

 

「賢人は傷つけさせない」

 

 しずくの十四番目の秩序による一方的な殺戮によって怪物はその体を沈める。だが安心したのも束の間、今度は大量にある大型のビーカーから深見と同型の生命体が飛び出し、化け物へと変異した。その深見の死、ましてや存在そのものを冒涜するような行為をするこの機関に怒りを隠せない姉妹、並びに賢人。

 

「俺は、知らなかったわけじゃない。お前たちの、非道な行為を」

 

 軍人たちは聞いていないであろうが、それでも賢人は言葉を紡ぐ。

 

「だが、家族や、友の友情を引き裂くどころか、それを否定するような行いを俺は、絶対に許さない……!」

 

 賢人はドライバーに納刀し、トリガーを二回押した。

 

『アランジーナ一冊撃! サンダー!』

 

「アランジーナ・ディアブロー……! はぁあああっ!」

 

 全ての変異体を撃破し、外へと繋がる大きな扉を開け、そしてよすがは起爆スイッチを押した。

 

「ふぁ〜、ここが外か〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぃっ……始末書ものじゃ済まないぞこれはぁっ!」

 

 赤城は大勢の部下と、自律型兵器を引き連れ、姉妹たちを処分するために機関の外へと出ていた……。



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第17章 深まる謎、解ける難題。

「ここが外の世界ってわけか……」

 

(変わらないんだな……)

 

 賢人はそう思いながら、束の間の休息に飛羽真への思いを馳せていた。

 

(確か、サウザンベースで保管されていた火炎剣の行方がわからなくなったらしいが……)

 

「ようやく見つけたぞ化け物共がァっ! これで自由の身になったなどと思いあがるなよっ!!」

 

 大勢の兵士と兵器を引き連れ、またもや賢人たちの前へと姿を現した赤城。

 

「これを見ろぉっ! お前たちに埋め込まれた発進装置で居場所なんて、すぐにわかるんだよぉぉおお!!」

 

 そしてどこかから取り出したスイッチを押す。

 

「ぐ、がァァ!!」

 

 よすがを除く姉妹たちは頭に埋め込まれた装置によって頭部に激痛が走りもがき苦しむ。だがよすがは認識阻害の能力によって、賢人にはそもそもその装置が埋め込まれていなかったため、なんの問題もなかった。

 

「無駄だっ!」

 

 賢人はソードライバーを取りだし、変身しようとする。

 

「チッ、やはりお前には効かないか……。しかしまぁいい。策は打ってある!」

 

 赤城は満を辞したかのように現させた人物を見た賢人は目を見開いたまま固まってしまう。

 

「なんで……」

 

「お前の記憶を少し、拝見させてもらった」

 

(どうしてだ……なんでここに……!)

 

「飛羽真……!」

 

「そうか、飛羽真というのか。この男の名前は」

 

「富加宮……?」

 

 よすがが心配そうに賢人を見つめるが、

 

「ドライバーと剣をその場に置け。そうすれば、あいつらの命だけでも助けてやる」

 

「ッ……」

 

(あれは飛羽真じゃない……。姿が同じってだけの……偽物だ)

 

 少しの沈黙の後、賢人は決断を下す。

 

「俺はもう、迷わない!」

 

『黄雷抜刀! ランプドアランジーナ!』

 

 雷のような直線を描きながら、賢人は飛羽真(のようなもの)を斬り、そのまま赤城の持っているスイッチを弾き落とした。

 

「ちっ、だが無駄だァ! 例え逃げたとしても、発進装置が付いてるんだからなぁ!」

 

 赤城がそう言ったのも束の間、

 

「もう限界……!」

 

「なに!? 地上から衛星を撃ち落とすなどとぉ!」

 

 弓を持ったむぐらは限界まで弦を引き、発進装置の居場所を逐一報告する衛星へと狙いを定めた。

 

「ちっ、さっさと攻撃するんだ! ────へ?」

 

 なんと、赤城は気づくと自分の引連れていた兵器や兵士たちが全て地に伏していたのだ。

 

「な、なんだとぉ!?」

 

 赤城が気を取られいる最中にわだちが一掃した。

 

「富加宮これ! 忘れてた!」

 

 賢人はよすがに預けておいた新たなライドブックを起動する。

 

『命の聖水 〜とある奇跡の水を巡る、王子の冒険譚〜』

 

 賢人はブックを装填し引き抜き、ページを押し込む。

 

『命の聖水!』

 

 現れたポッドから流れる水が、傷ついた仲間の身体を癒す。

 

「当たれぇぇぇええ!!」

 

 矢は衛星へと真っ直ぐに飛んでいき、そして……、大きな爆音を上げて空に大きな花火を作った。

 

「ふっ、綺麗だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 そして、無事に拠点であるデパートへとたどり着いたヴァルキュアの変身者である神川賢人は一先ずしずくを医務室へと運んだ。

 

「失礼します! 帰るの遅れてすみませんやいと先生! この人診てもらえませんか! 軍人さんたちに捕まってたので!」

 

 矢継ぎ早に言葉を紡ぐものだから、やいとは困惑せざるを得ない。

 

「ちょ、もうちょっとゆっくり言って貰えないかしら。まずはこのこを診察すればいいのね……?」

 

「はいお願いします!」

 

 賢人はそう言って慌てて会議室へと急いだ。

 

「はぁっ、はぁっ、あの子はやいと先生のとこに送っていきました。で、それで、まずはなんですか?」

 

「そうですね……まずはあの謎の少女についてといいたいところですが……」

 

 百喰は少し迷いながら本題と思われる話題に入った。

 

「政府軍のことについてです。奴ら、本気で私たちを殺すつもりのようです」

 

「えぇ、そうですわね。ですがそれがなんなのです? 全てうち倒せばいいだけの話ですわ」

 

「……いや、事はそうも簡単に進まないようだ」

 

 礼音は入口の方を見て言った。

 

「そのベルト……なんでお前が持っている!」

 

「え……?」

 

 突然会議室に飛び込んできたしずくは賢人を見るやいなや、胸ぐらを掴み、問い詰めた。

 

「え、ちょ、なんのことですか────ぐふっ」

 

 賢人が殴られた瞬間、二人の少女が割り込もうとするが、アドと姫片によって止められた。

 

「答えろ……、お前は何故、"富加宮賢人"のベルトを持っている!」

 

「富加宮……賢人? エスパーダ!? あの雷の剣士の事か!?」

 

「そう……。あなたも知ってるのね。なら話は早い。彼をどこへやったの?」

 

 全く要領を得ない会話にとうとう痺れを切らした礼音が割り込んだ。

 

「まずは順序だてて話せ。賢人くんも、君も」

 

 その気迫に押されたのだろうか。しずくはゆっくりと話し始めた。

 

「え……? ってことは、エスパーダがいるってこと!?」

 

「ええ、最初からそう言っているわ」

 

「だったら、誤解だよ! 賢人さんが使ってる剣雷鳴剣黄雷ってやつで……、なんか、この部分が黄色の剣だよ! 俺が使ってるのは……ほら、白だし!」

 

 必死に弁明のようなものをする賢人。

 

「っていうか! 君の名前知らないんだけど! 教えてくれない!? 俺は神川賢人っていうんだけど! その賢人さんと字も一緒なんだよ。すごくない!?」

 

 今までずっと仮想の存在だった仮面ライダーが実際にいるとわかったのだ。こうなってしまうのも無理はない。

 

「緋鍵峰しずく」

 

「え、それだけ!? っていうか、しずくさんってなんであんな奴らに捕まってたんだ? しかもひとりで」

 

「それはいいから。まずは姉さんたちの元に帰して」

 

「姉さん……?」

 

 賢人がそれを詳しく聞くと、どうやら富加宮賢人はシルヴァニアという姉妹と共に行動しているようだ。

 

「……。どうしますか? 皆さん。俺としちゃ、シルヴァニアに戻してあげたいんですが」

 

「あたしはケンティーの意見に賛成だよ!」

 

「わたくしも賢人さまのご意見とあらば。……賢人さまに手を上げたそこの小娘は許せませんが」

 

 甘噛はボソッとつぶやき、すぐさま笑顔に戻った。

 

「ん? どうした?」

 

「なんでもありませんわ!」

 

「てか、そのシルヴァニアとやらはどこにいるんだ?」

 

「わからない……。けど」

 

「けど?」

 

「私の剣なら、出来るかもしれない」

 

 自分の固有能力である半径10km以内の物体を寸分違わず切り避けるという能力を応用し、半径10km内を索敵すると言い出したしずく。

 

「そうか……、だからあの時、見えなかったんだな」

 

 妙に納得した礼音。

 

「とりあえず、賢人さんが見つかるまで探してみてよ! しずくさん!」

 

「言われなくても、してるから」

 

 味方になったとしても辛辣な口調は一切変わらないようだ。そして少し経ち、

 

「いた……!」

 

 そう言ってしずくは駆けて行った。

 

「ま、待て!」

 

 賢人は急いで変身し、ユニコーンを呼び出した。

 

『エナジーユニコーン!』

 

「皆さんも乗ってください!」

 

 賢人はそのまま上空からしずくを追っていった。

 

「あそこか! って、ホントに賢人さんいるし!」

 

 賢人はみんなが乗っているため飛び降りるわけにもいかず、逸る気持ちを抑えながらゆっくりと着地していく。

 

「しずく!! もう! やっと帰ってきた! お姉ちゃん心配したんだぞ!」

 

 よすががしずくを抱きしめながらそう言った。いつものテンションで誤魔化されているような気もするが、よすがは一番彼女のことを心配していたのだ。

 

「相変わらずだな。よすが」

 

「あと、連れてきた」

 

 姉妹の会話もそこそこに、しずくは上空から降りてきたユニコーンを見ながら言った。

 

「なんだあれは……? って、あのドライバー……!」



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第18章 再会、雷の剣士。

「まさか本物の賢人さんに出会えるなんて思ってませんでした! あのっ! 握手お願いできますか!?」

 

 地上に降りた賢人はテレビで見ていた憧れの人を見つけた驚きと嬉しさを抑えきれずに周りのことなどお構いなくという風に走って彼に握手を求めてしまう。

 

(てかこれって富加宮賢人"役"のあの人とかじゃなくてあの賢人さんだよね!?)

 

「ちょちょちょ、落ち着いてケンティー!? どしたのいきなり!?」

 

「だって! だって仮面ライダーエスパーダの賢人さんなんだよ!? 俺まじで好きで!」

 

「なんで俺のことを知っている……? そもそもこの世界であっても俺のいた世界であっても一部の人たちしか知らないはずだが」

 

「あー……それはまたおいおい話すとしてー、てか、この人たちがその……シルバニアファミリーの皆さん?」

 

「シルヴァニアだよ! 名前間違えないの!」

 

 そこにアドのツッコミが入る。

 

「私は翠吟静わだち。長女やらせてもらっておる」

 

「私は蒼朽寂むぐら、よろしくね」

 

「ボクは白名月よすが、実はねー、ポートラルのこと姉さんたちに教えたのボクなんだよー! で、多分言わないから言っておくけど、こっちの捕らわれてた方が緋鍵峰しずくで、こっちが黒神ほとり!」

 

 5人姉妹なのに全員苗字が違うということにはあまり触れずにおいた賢人。そして、続いてシルヴァニアに対してポートラル組も挨拶を続ける。

 

「というか、その聖剣はどこで手に入れたんだ? そんな聖剣、組織の情報にも一切なかったが……」

 

「火炎剣烈火から生まれて、それで何故か俺が選ばれたんですよ賢人さん」

 

「火炎剣だって!? 君が持っていたのか?」

 

「持っていたって言うかその……、まぁ、はい。そうです」

 

 経緯を話すとかなり長くなってしまうためそのまま肯定する賢人。

 

「あ、とりあえず返しましょうか? てか返さないとですね! はいどうぞ!」

 

 火炎剣を富加宮に差し出す賢人。

 

「あ、じゃあ君にはこれを」

 

 そう言って富加宮は白いワンダーライドブックを手渡した。

 

「え、これって……、もしかして俺のワンダーコンボブック!? まじでありがとうございます賢人さん!」

 

「喜んでくれたようで嬉しいよ。あ、それとひとつだけ言っておくが、ブックゲートは今、生憎持ち合わせていない。だから今俺は帰ることが出来ない」

 

「あー、やっぱそう都合よくは行きませんよね〜」

 

 賢人はがくりと肩を落とす。

 

「……さっきから言ってることが全然わからないわ。まったく」

 

 来栖崎は愚痴っぽく呟いた。

 

「あはは、同感。てか来栖崎はなんか、自己紹介のとき神川に師匠とか言われてたけど、どゆこと?」

 

 よすがは来栖崎にその時のことを聞いた。

 

『俺の師匠です! まじで強くて!』

 

「ぶふっ」

 

 来栖崎はその時のことを思い出して思わず咳き込んでしまう。

 

「しかも甘噛なんて神川の嫁だーとか言ってたもんね〜」

 

 よすがが皆と交流を深める中、建物の陰から謎の影が飛び出してきた。

 

「な、なんだ!?」

 

「よぉくも俺の計画を無下にしてくれたなぁこのモルモット共がァ!」

 

 赤城は大量の四足歩行型戦闘メカ、ならびに新型の人型兵器を引き連れてやって来た。

 

「お、お前は赤城優斗……!」

 

 富加宮は知る素振りを見せて戦闘態勢に入る。

 

「おっとぉ、そいつは使わせないからな!!」

 

 富加宮の手にあるソードライバーとブックが赤城によって奪われてしまう。

 

「な、なんだかわからないけどお前が敵ってのはわかった! 変身!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

 賢人は変身し、

 

「皆は逃げてください!」

 

 ポートラルとシルヴァニアに退却を促す。だが赤城はそれを許さずに兵器たちを先回りさせて逃げ道を塞いでいた。

 

「っとぉ、これを見たからには、逃がす訳には行かねぇなぁ?」

 

「あぁもうなんでだよ!」

 

 賢人は半ばやけくそ気味に必殺技を放った。

 

『必冊読破! ユニコーン1冊撃! キュア!』

 

「なっ……通じない……のか?」

 

 賢人が呟く。

 

「当たり前だぁ! 散々そいつに煮え湯を飲まされたのだからなぁ!」

 

「あぁもうじれったいのよ!」

 

 痺れを切らした来栖崎が戦闘に参加する。

 

「はぁっ!」

 

 だが来栖崎の超人的な腕力や来栖崎流の技術を持ってしても奴等には敵わなかった。

 

「なら……!」

 

 来栖崎は赤城へと狙いを定めるが、それすらも兵器たちによって塞がれてしまう。

 

「よし、皆は逃げたわね。私が突破口を開く、アンタがあのいけ好かない男をやって」

 

「それじゃあ師匠の身が持たないんじゃ……」

 

「心配しないで。誰の師匠だと思ってるの? ……真司、もうすぐ会えるからね」

 

 来栖崎は普段では絶対に見せないようなニヤリとした笑みを浮かべて言った。

 

「っ……、わかった。頼みます」

 

「うらぁぁあああ!!」

 

 来栖崎は鬼神も恐れおののくような気迫で突撃し、兵器たちを食い止める。

 

「今よ!!!」

 

「はい!! 絶対に決める! ここでぇえ!!」

 

 賢人はドライバーに納刀し、再度引き抜く。

 

『必冊読破! ユニコーン1冊斬り! キュア!』

 

「神川一刀流、秘伝の奥義! 波癒竜巻旋風斬ッ!」

 

 賢人はその勢いのままに赤城を斬る。そして赤城が倒れたことを確認した賢人は急いで来栖崎の元へと参戦し、そして倒れそうになった来栖崎の元へと駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか!? 安心してくださいもうすぐ治せますから!」

 

 賢人は今にも息絶えそうな来栖崎に向かって言った。

 

「…………」

 

「え……?」

 

 だが来栖崎は何も答えない。

 

「何してるんですか。こんなとこで寝ちゃうなんて。ねぇほら、起きてくださいよ! ねぇ!」

 

「……」

 

 それでもなお、来栖崎は目を覚まさない。そして来栖崎の目が赤く光り、そして光の粒子となって消滅した。

 

「最後の言葉も、交わせないってのかよ……。………………っざけんなよ。ふざけんなよッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆の避難を完了させ、賢人たちの元へと戻ってきた富加宮が見たのは……地獄であった。大量の機械の残骸、そして泣き疲れてしまったのか寝てしまっている一人の少年。

 

「お、おい、賢人……? おーい」

 

 富加宮は少し揺らしてみるが起きる気配がない。

 

「ったく、しょうがないなぁ」

 

 富加宮は賢人を背負ってポートラルの拠点であるデパートへとライドガトライカーで急行した。そして富加宮は医務室へと行き、そこにあるベッドへと賢人を寝かせた。



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第19章 闇夜を照らす、一筋の光。

 翌日、賢人は医務室のベッドにて目を覚ました。

 

「賢人さま。おはようございます」

 

「う、おはよう……。綴……」

 

 昨日のことを思い出してしまい、少し気分が優れない様子の賢人。賢人が後から聞いた話では、どうやら結局、来栖崎は見つからなかったようだ。だが唯一、愛刀は見つかっていたようで、それは賢人が預かることとなった。

 

「やはり、辛いです、よね……」

 

「あ、あぁ……」

 

「あの賢人さま……?」

 

 どこか遠い目をしていた賢人。

 

「いや、大丈夫だ……。少し気分が悪いから、外の空気でも吸ってくる」

 

 そう言ってベルトと聖剣を持って医務室を出ようとした賢人だったが、

 

「っ……。なんだよ綴……。ッ……!????」

 

 手を掴まれ、振り返った賢人。その瞬間、賢人と綴の顔がゼロ距離まで近づき……。

 

「んっ……」

 

「っはぁ、な、なんだよいきなり!?」

 

「……。いえ、ただ、賢人さまの気持ちを少しでも癒そうと……」

 

「……んで……なんで俺なんかにそんなに構うんだよっ!! 俺は師匠も守れなかった……。そんな男に……、……んっ!?」

 

「賢人さまがそんなことを言う限り……んっ……やめませんわっ」

 

 甘噛は賢人の口を塞いだまま言った。

 

「はぁっ……はぁっ……綴……? なんで……」

 

「わたくしは賢人さまが曇っているところを見たくないだけですの……」

 

 甘噛はそう言いながら落ち込んだような様子を見せる。

 

「そう、か……。わかった。とりあえず俺、ちょっと気分悪いからトイレ行ってくる」

 

 だが、そんな言葉も賢人の心には全く響かず、そのまま何も言わずに出ていってしまった。

 

「あっ賢人さま……」

 

 そして賢人はそのままデパートの外へと行ってしまい甘噛も呆気に取られたまま動けずにいた。だが、突然飛び出した賢人に気づいたアドたちが医務室へとやって来た。そして目に涙を流したまま何も言わない甘噛だったが、それを察したアドはこの中で唯一戦える富加宮に助けを乞う。

 

「あぁ、もちろんだ」

 

「……変身」

 

 賢人はユニコーンリザードに変身し、辺りのゾンビたちを一掃する。そんな賢人の元に、富加宮の変身するエスパーダがやって来る。

 

『三又ランプドケルベロス!』

 

「賢人落ち着け!」

 

 富加宮は右腕のマントに装着された鎖で賢人を縛り説得する。

 

「俺はっ! こうでもしないと落ち着かないんですよ! 離してください!」

 

「ダメだ! お前を放っておく訳にはいかない!」

 

「それでも! ────」

 

「いい加減にしろ! 君のために、涙を流している人がいるんだ! それを、放っておくつもりかっ!」

 

 その瞬間、賢人の脳内を駆け巡る甘噛との記憶。

 

『わたくし、賢人さまがいないと……』

 

『だって賢人さまのことが……』

 

「あ……」

 

(俺、何やってんだろ……)

 

 賢人は急いで変身を解除し、甘噛の元へと急ぐ。だが……。

 

「どうなっているんだ……!?」

 

 2人が帰ってきた頃には、デパートは防衛が手薄になったためか政府軍に攻め入られ、もぬけの殻になってしまっていた。

 

「な、なんで……だよ……?」

 

「チッ……やられたか……」

 

「賢人さん……場所、わかりますか? 敵の本拠地」

 

「わかるわけが……ないだろ」

 

「それでも! 早く行かないと! どうなるかわからないですよ!?」

 

「あぁ、わかっているさっ! でも、それで行ってお前まで捕まったらどうするんだ!」

 

「でも俺は仮面ライダーなんですよ!? 負けるわけが無い!」

 

「自惚れるなッ!」

 

「で、でも……!」

 

「まずは敵の居場所を突き止めることが先決だ。それにその方法は既に思いついてある。これに乗っていくのさ」

 

『ライドガトライカー!』

 

 富加宮がそう言ってスマホのような機器を取り出した直後、デパートの下の階から、壁の壊されるような音が聞こえてきた。

 

「さっそく来たか……」

 

「え……? どういうことですか賢人さん?」

 

「あの子らがさらわれたってことはこの場所ももう既に政府軍にバレてるってことだ。だから、こうやってもう一度攻めてくることも予想はしていたんだ。っと、説明はもう終わりだ。急ぐぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……酷い有様ですね……、って、またあの機械の犬いるじゃないですか!」

 

「そろそろ相手も本腰入れてきたってところか」

 

「まぁ、負ける訳にはいかないんですけどね!」

 

「あぁ……!」

 

『ランプドアランジーナ』

 

『エナジーユニコーン』

 

『黄雷抜刀!』

 

『波癒抜刀!』

 

「「変身!」」

 

 変身したふたりの賢人は、軍人たちへと向かっていく。

 

「ふっ、はぁっ!」

 

 富加宮は直線的な剣裁きで一掃していく。

 

「うらぁっ、こいつ硬ぇ……」

 

 しかし、賢人は敵に全然刃が通らず、苦戦していた。

 

「賢人! これを使え!」

 

 それを見かねた富加宮はライドブックを投げ渡す。

 

「あっこれ……。ありがとうございます!」

 

『ニードルヘッジホッグ』

 

 賢人はそれを中央のスロットに装填し、剣を引き抜く。

 

『波癒抜刀! 二冊の本を重ねし時、聖なる剣に、力が宿る! ワンダーライダー! ユニコーン! ヘッジホッグ!』

 

「すげぇ、なんか力湧いてきたぜ!」

 

 賢人は足から針を発射し、敵の内側からボロボロにする。

 

(いつ見てもこの能力、味方側じゃないよなぁ……)

 

 と思いつつも、敵を薙ぎ倒していく賢人。

 

『『必冊読破! 黄雷・波癒抜刀! アランジーナ! ユニコーン! 一冊斬り! キュア! サンダー!』』

 

「トルエノ・デストローダ……!」

 

「えっと……波癒一角斬!」

 

 全てを切り伏せた賢人たち。そして変身を解除し、富加宮は倒した敵に残された痕跡を調べる。

 

「……やはりか」

 

「え、なんですか急に意味深なこと言い出して」

 

「いや、ちょっと……な」

 

「え、なんですかなんですか。気になります!」

 

 そう言って賢人は富加宮のように調査する。

 

「え……? これって……、マスターロゴス!? あ! もしかしてソロモンの洗脳の……ってことはもしかしてこの人たち……」

 

「あぁ、多分、な」

 

「そ、そんな……じゃあ俺たち何の罪もない人たちをこんな目に……」

 

「いや、こいつらは元から政府軍だ。だがそれを、マスターロゴス……いや、全知全能の書を悪用した誰かがが洗脳……いや、操っていたんだろうな」

 

(あー……確かにそんな描写あったな……)

 

「だがこれでハッキリした。この世界にも全知全能の書、もしくはそれに準ずる物があるということが」

 

「え!? 嘘でしょ!? どうするんですかあんなものあったら……いや、まだ分かりませんけど世界終わっちゃうんじゃないですか!?」

 

「何故その事を知っているのかはあえて聞かないが、その心配はないだろう。今のところこの世界にメギドはいない」

 

「つまり?」

 

「今優先すべきことはみんなの救出ってことだ」

 

「そうですよね! よかったぁ……」

 

 富加宮は端末を折り畳む。するとみるみるうちに巨大化し、人が乗れるほどのサイズへと変化した。

 

『ライドガトライカー♪!』

 

「うわぁすげー。てかこれで探すとしても燃料は大丈夫なんですか!?」

 

「フッ、安心しろ。燃料切れの心配はない」

 

(まじか……すげぇなソードオブロゴスの技術力)

 

「じゃあいきますか!」

 

「あぁ……!」



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第20章 不安、胸に秘めて。

ここからは基本的に一人称視点です。たまに三人称になりますが。あとこの回からあとがきにまとめみたいなのを書きます。


「何処だ……?」

 

 探しても一向に見つからず、すでに陽は落ちて景色は夕焼け色を描いていた。

 

「もうこんな時間か……。よし、一旦中断だ」

 

「なんでですか! まだ見つかっていないんですよ!?」

 

「暗くなったら怪物たちの姿も見えにくなってしまう。それぐらいは理解してくれ……」

 

「でもっ……、はい……、わかりました」

 

 ──翌日、探索を再開したふたりはようやく辿り着いた政府軍の本拠地を突き止め、突入していた。

 

『黄雷・波癒抜刀!』

 

「「変身!!」」

 

「絶対に、助けるッ!」

 

 激しい戦いを繰り広げながらも、賢人は囚われているはずの部屋を散策する。

 

「ちっ、どこだ……」

 

 暗いため、足元が不安なまま探索を進めていく。

 

「なんかここだけ厳重なんだよな……。よし」

 

『必冊読破! ユニコーン一冊撃!!』

 

 右腕に纏ったエネルギーを扉に叩きつける。

 

「賢人さま!」

 

 真っ先に声を上げたのは甘噛であった。

 

「綴!?」

 

「いた……!」

 

 だが他の仲間たちが見当たらない。

 

「誰かな……と、偏見でものを言おうか……」

 

 突然部屋にやってきたのは長身の紳士であった。

 

「え!? だ、誰!?」

 

「質問に質問で返すのか……」

 

「だから誰なんですか!? ……まさか、こいつらの仲間か……?」

 

「怖い怖い……と、偏見でものを言おうか……」

 

「敵なら……倒す」

 

「賢人さまそいつは……!」

 

 甘噛の言葉で何かを察したのか、賢人は臨戦態勢に入る。

 

「気をつけろ賢人! そいつは敵だ!」

 

 そんな時に富加宮がやって来た。

 

「賢人さん!?」

 

「そうか……生きていたのか君は……。だがこれは倒せないだろう……?」

 

 そう言って紳士風の男はシルヴァニアの姉妹たちを模したnクローンを連れてくる。

 

「まさか……!」

 

 何かを察した富加宮は走り出すが、一歩間に合わずに薬品を注入されてしまう。

 

「あっ……」

 

「チィッ! 賢人ここから出るぞ!」

 

 賢人は綴を連れて富加宮とともにアジトの外へと急いで脱出した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「まさか、こんな結末になるとはな……」

 

「そう、ですわね……賢人さま」

 

「……ところで綴……他のみんなはどうした?」

 

「わたくしたちは別々の場所に閉じ込められましたわ。なんかそのとき異世界が何とか……」

 

「そうか……。よし。なら見つけるしか、ないよな」

 

「ま、まじですか!?」

 

「当たり前だろ? 仲間なんだからさ」

 

「ふふっ、流石は賢人さまですわ♪」

 

「そ、そうか……ありがと……」

 

「ところで賢人さま。これ拾ったのですが、もしかしてこれ……」

 

 そう言って甘噛は一冊の本型のアイテムを取り出した。

 

「え、これ! 賢人さん!?」

 

「あぁ……」

 

『A NEW LEGEND KUUGA!』

 

「「「あっ……」」」

 

 綴が思わずページを開いてしまったのだった……。

 

来栖崎ひさぎ 行方不明

富加宮賢人 神川賢人 甘噛綴 生存

姫片栗子 豹藤やちる 百喰恵 樽神名アド 三静寂礼音 シルヴァニア 夢氷沙織 夢氷沙南 生死不明

 

 

 

「へぇ……平行世界かぁ……ってあれ、賢人さんは!?」

 

 ブックゲートによってサウザンベースにたどり着いたと思っていたが、

 

「つかなんかここらへん古くね? 景色」

 

「け、賢人さまこれ!」

 

 綴は風で吹き飛ばされていた新聞を拾って俺に日付を見せた。

 

「平成12年 3月19日……平成18年って何年だっけかなぁ……」

 

 と俺はガトライクフォンで検索する。

 

「2000年かぁ……って、ちょ綴それもうちょっと詳しく!」

 

 賢人は食いつくように新聞に目を通す。

 

「4号、21号と交戦……か。って、ちょちょちょい!」

 

 新聞にも写真付きで載っていたその4号と呼称されている生命体は、銀色の甲冑を身にまとった戦士であった。

 

「え、え、ええぇぇぇええ!?」

 

 ────まぁ、端的に言うと俺たちはどうやら仮面ライダークウガの世界に来たらしい。やったね俺、五代雄介に会えるよ! じゃねぇよ!? いや、テレビで見てたから良かったのであって実際にその世界に行くのは勘弁なんですけど!? まじで。しかも俺全然クウガの設定とか知らないんだけど!? そんな中であいつら探さないといけないの!? てか新聞に写ってたグロンギってメの奴らだよな。ヤバいよね。いや、強さはともかく、犠牲者がもろに出るのがやばい。俺はいいが、綴が耐えられるかどうか……。

 

「ということは、仮面ライダークウガっていう世界に来たってことなの?」

 

「……多分そういうことなんだよな……」

 

(どうしたものか……。ここに飛ばされたってことはここにアイツらの内誰かいるってことなんだろうけど……)

 

「どうしたのですか? そんな顔して」

 

「いや……少しな。とにかく綴、これからは一人で行動するなよ」

 

 綴にクウガの世界のことを話そうとした賢人だったが、いたずらに不安にさせるだけだと感じ、はぐらかすだけに留めた。

 

「まぁ! 嬉しいです賢人さまがそんなことを言ってくださって」

 

(でもクウガ一回負けてたよね、確か。ってことはまだアイツ倒されてないんじゃ……)

 

「キャーッ!」

 

 嫌な予感ってすぐに当たるんだな。近くから悲鳴と、爆発音が聞こえてきた。

 

「綴っ、急ぐぞ! 変身!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

「わかったわ!」

 

 ……てか、この世界でこの服装ってやばいよね。時間とお金がある時に買ってあげるか。

 

「いた……! って、うわっ……」

 

 最悪だ。もう死んでるし、しかも血に濡れた帽子が落ちてるし、なんか肉あるし。まじで吐きそう。って、そんなこと思ってる場合じゃないな。俺は頭をぶんぶんと振り、目の前のイカの怪人へと意識を集中させた。

 

「綴は隠れてて! あのバケモン爆発する奴口から出すから!」

 

「な、なんなんですかそれ!?」

 

「いいから!」

 

 そんな応答をしていると、メ・ギイガ・ギっていう怪物……グロンギは、口から液体……というより黒い墨のようなものを吐き出してきた。

 

「これに当たるとヤバいから!」

 

 俺は咄嗟に綴を避けさせる。だがそのせいで自分の回避が間に合わなかった。

 

「ッた!」

 

「ゴラゲパ、クウガゼパバギボバ」

 

「……なんて?」

 

 生憎俺は、グロンギ語なんて学んでないし、必修科目でもないし、そもそも架空の言語として存在する世界で生きてきた。

 

「どうせ俺の事煽ってんだろ!? グロンギってそういう奴だからなぁ!」

 

 俺はベルトに聖剣を納刀し、必殺待機状態にする。そして発動しようとすると……。五代雄介が現れた。

 

「五代雄介!?」

 

「クウガグ、ビダボバ」

 

 よく分からないが、多分クウガか、殺す。みたいな感じだろう。多分原作通り一条さんと特訓して強くなってるはずだし、後は五代さんに任せていいかな。ギイガもなんかクウガにタゲ移したみたいだし。

 

「変身っ!」

 

 五代さんは紫のクウガに変身して、ギイガの元へと悠々と歩いていく。そんなクウガに対して、効いていないのにも関わらず、墨を吐き続けるギイガにはすこし哀愁のようなものを感じてしまった。そして至近距離まで近づかれてしまったギイガは、タイタンソードだっけ? クウガの持ってる剣から封印エネルギーを注入され、爆死した。ところで五代さん、一条さんたちはどこなの? 俺は変身を解いて、五代さんに自分が敵ではないことを示した。まぁ、五代さんって底抜けの善人だし、襲ったりしない限り疑われないと思うんだけど、一応ね。

 

「えっと……君は?」

 

「まずはあなたの方から名乗るべきだと思うのですが」

 

 隠れていたところから出てきた綴が五代さんに言った。おい綴、下手なこと言うな。五代さんだぞ!? 記念すべき平成ライダー一号なんだぞ!?

 

「あー、ごめんね。俺は五代雄介、クウガ……まぁ、世間では4号って呼ばれてるけどね」

 

 そう言って俺たちに懐から取り出した名刺を渡してくれた。

 

「おぉ……! 本物……! ありがとうございます!! 」

 

「というか、俺まだ仕事あるんで、じゃっ!」

 

 彼はトライチェイサー2000に乗って、恐らくだがポレポレに戻っていった。

 

「なんかほんと……すごい人だったな……」

 

「本当ですね……」

 

 まぁ、長く話せなかったのはかなり残念だったが、この世界でも五代雄介がクウガだということを確認できただけでもよしとしよう。

 

「てか……金なくね?」

 

 と思っていたが、ガトライクフォンにそういう機能があるということを思い出し、そこからなけなしの残金を取り出した。

 

「きっかり1万円ねぇ……」

 

 この頃って、まだ物価はそんな高くなってないだろうし、多分一日くらいは泊まれるだろう。

 

「どうしました?」

 

「いや……今日はホテルに泊まろうかなって」

 

「ほほほほホテル!? そ、そんなのまだ早いんじゃ……」

 

「何か勘違いをしてそうだから言っとくけど、そういう目的じゃないからね!?」

 

「そうですか……」

 

 綴は安心したのか落胆したのかよく分からないため息を出した。

 

「んじゃ、行くか……」

 

 と思ったけどこの時代ってトライク走らせれんのかなぁ……。てか次のゲゲルっていつなんだろ。グロンギは確かサイの奴だった気が……ってことは今警察がグロンギのとこに行ってるってことか……。ま、後はホテルに着いてから考えるか……。

 

『ライドガトライカー♪』

 

 電話を畳むとでっかくなってトライクに変形した。正直バイクよりも安定性がありそうで好きなんだよなぁ、トライク。

 

「超変身! 仮面ライダークウガ〜」

 

 なんて歌いながら飛ばしていると、途中のコンビニに新聞が置いてあったので立ち読みしてみた。これを見るに、クウガに対する世間の反応は賛否両論といった様子だ。

 

「なんであんなにデザイン違うのに同じ扱いなんだろうね。綴」

 

「あら、というか名前はクウガではないのですか?」

 

「まぁ、詳しく話すと長くなるから簡潔に言うと、警察から未確認生命体4号って呼ばれてるけど、グロンギ……あの気持ち悪いやつからはクウガっていう正式名称で呼ばれてる。だからそれを知らない民間人からは4号って呼ばれてるんだ」

 

「本当の名前はクウガという訳ですね?」

 

「ま、そゆこと。よし、一応情報も得られたし、ホテルに行くか」

 

 ────

 

 話は飛んで5日後の3月25日、いやぁ〜。まじで何も起こらなかったよ。まぁ、ポレポレに行っておやっさんからクウガのスクラップ見せてもらったりはしたんだけどね。写真も撮らせてもらったし。でもそれだけ、ほんとそれだけだったからまじで戦わなかったし、グロンギの人間態にも遭遇しなかった。正直ガリマとかジャーザとかの女性系には会いたいんだよなぁ……。

 

「賢人さま? なにかよからぬ事を考えてませんか?」

 

「い、いや? 別に? 考えてないけど?」

 

 浮気じゃないよねこれ!? 結局殺すんだし! しかもグロンギだよ!? しかも漫画版じゃないからねこれ。

 

「本当ですか〜?」

 

「あ、当たり前だろ! 」

 

「てか多分こんだけ期間空いたらそろそろ動き出すだろ。あの……確かザインだっけか。あいつまだズ階級だから弱いし、綴の練習相手になりそうだから一緒に戦う?」

 

「はい! 当然です!」

 

 あいつ力だけで人殺してたし、多分綴だけでも倒せそう。まぁ万が一ってこともあるし俺も一緒に戦うけどね。

 

「あ、いた」

 

 そんな素っ頓狂な声とともに、俺はザインを発見した。丁度トラックドライバーが殺され、その死体を放り投げているところであった。

 

(確かもうゲゲルの参加券は剥奪されてるんだよな)

 

 しっかし、ズの奴らは日本語話せないのがまじで腹立つんだよな。

 

「んじゃ、サクッと倒すか。あ、それと綴、絶対にあいつの攻撃には当たらないようにしろよ。まじで危険だから」

 

「もちろんです!」

 

「変身!」

 

 俺は変身し、一旦綴の様子を見ていた。

 

「シンドグババグドゴロデデギスボバ」

 

 相変わらず俺に意味は理解できない。

 

「てかそもそも、この世界に誰かいんのか?」

 

 俺は疑問に思いながらも、戦いの行く末を見守っていた。流石のグロンギと言えど、恐らく頭部を失ってしまえば再生は出来ないだろうということで、綴は戦棍をザインの頭目掛けて振りかぶった。するとザインの首が横に吹っ飛ぶ。グロンギをグロンギの姿たらしめる魔石ゲブロンからのエネルギー供給が絶たれたその首は、時間が経つにつれ、人間のものへと変化していく。俺は思わず目を逸らしてしまった。

 

「うげぇ……吐く……」

 

 ともかくだ。無事にグロンギを倒せた綴に駆け寄る。そして次に地面に落ちていた二冊のライドブックを手に取る。

 

『ア ニューレジェンドクウガ!』

 

 するとブックゲートのような扉が現れる。

 

「えっ……?」

 

 だが、まだ誰一人として見つけていない賢人はそれを拒む。だが容赦なく扉は2人を吸い込んだ。




幼気な女の子をホテルに連れ込むマン
仕方ないんや……。てかこいつなんでこんなにも綴のこと気になってるのに言ってる事のおかしさに気づかんのやろね。しかもお前五代雄介に押し付けてたよね。ほんとひどい。

うっすい戦闘描写のせいで出番が減らされ、五代雄介の自己紹介のためにちょっと嫌な奴になってしまったメインヒロインちゃん
ちょっと可哀想ですね……(他人事)
Q.てかグロンギ側からしたらクウガのようなものが一人追加されて一条さん的なリントが一人追加されたってのはちょっとクソゲーすぎませんか?
A.ゲゲルは元々クソゲー


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幕間 SAO編 仮面ライダーとして、ヒーローとして。
第21章 死の遊戯、開幕。


おまたせしました!


「え、どこ……?」

 

 トンネルでザインとの戦闘を終えたと思ったら、何故か次は現実感のないファンタジーのような、いわばゲームのような世界に来てしまっていた。というか、綴がいない。クウガの時は一緒にいたのに。どゆこと? 

 

「おーい綴ー!!」

 

 とりあえず大声で名前を呼んでみるが返事がない。マジでどこなんだよ。しかも周りの人達めっちゃ奇抜な格好してるし。てか髪の色おかしいだろ。まじでなんの世界だよここ。クウガの次はアギトだろ普通。俺は辺りをうろついてみる。

 

「なんか全然現実感ないんだよな……」

 

 しかもさぁ、掲示板みたいなのが外に置いてあるってどういう状況だよ。とりあえずまずは綴を見つけるのが先決だ。

 

「綴ー!」

 

 呼び続けていると、どこからか俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「賢人さまー!」

 

 俺はとにかくその声のする方向へ急いだ。しかし、その場所にいたのは綴とは似ても似つかない女性であった。確かに声は全く一緒だが。

 

「つづ、り……? じゃない……?」

 

「賢人さま……じゃ、ない……?」

 

 いや、もしかしたら俺の目がおかしくなったのかもしれない。とりあえず彼女の名前を呼んでみることにした。

 

「甘噛綴……?」

 

 相手の女性が驚いたように目を見開かせた。嘘だろ? もしそうだったら意味がわからないぞ!? 

 

「神川……賢人……?」

 

 え? 彼女も何故か、俺の名前を呼んできた。これはほぼ確定といってもいいだろう。

 

「もしかして貴方、賢人さまなんですか?」

 

「そうだが? え、もしかして君こそ、綴なのか?」

 

「そうですよ? もしかして私も、見た目が変わっているのですか?」

 

「私も? って、もしかして俺も綴みたいなことになってるのか!?」

 

 つまりだ。この世界では俺たちの見た目が変わっていているということだ。まるでゲームのアバターのように。

 

「まぁ、それはそれとして、だ。まずこの世界がどんな世界なのかを確かめなくっちゃいけない」

 

 俺は何の気なしにこの、なんと言っていいのか分からないが石でできたモニュメントに触れた。すると目の前になんかよく分からない『転移しますか? YES NO』という文字が表示された。

 

「え、ど、どどどどういうこと!?」

 

 突然起きた非現実的な出来事に、俺は思わず大声を上げてしまった。

 

「押してみましょうよっ」

 

「え、つ、綴!?」

 

 綴は割とお茶目な感じでイエスのボタンを押した。すると俺たちの体が光って、目の前が真っ白になる。

 

「うわ、こうなるといよいよゲームだな……」

 

 次に景色が見えるようになって初めて見た景色は、広い草原だった。至ってシンプルな。だがそれを普通と思わせない、ノイズのような物体があった。青いイノシシや、巨大な蜂など、空想上の生き物。

 

「なんだよこいつら……」

 

 俺は懐からソードライバーを取り出そうとするが。

 

「ない、ない、なんで!?」

 

「ど、どうしましたの賢人さま!?」

 

「やべぇ、戦えねぇかも……」

 

 気がつくと青いイノシシが目の前まで迫ってきていた。そして攻撃の体勢に入る。俺は咄嗟に腕で頭をガードし、目を閉じる。

 

「……あれ?」

 

 体に痛みがないことを確認した俺は、目を開く。すると上空に謎のフードを被った人物が上半身だけ大きく見えるのが見えた。

 

「なぁ綴……あれ、なんだ?」

 

 とてもシュールな光景に少し笑いそうになりながら綴に聞く。

 

「え、あれ……ですか。なんでしょう」

 

 そいつが何を話すのかワクワクしていると、やつは話し始めた。

 

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。この世界をコントロール出来る唯一の人間だ」

 

 おっと、なにかのイベントかな? 彼は厨二病のようなことを笑いながら言った。

 

「プレイヤー諸君は、すでにログアウトボタンがメインメニューから消えている事に気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合では無い」

 

 てかプレイヤーの諸君、とかログアウト、とかメインメニュー、とか本当にゲームだったのかよ。

 

「なぁ綴、ゲームだって。面白そうじゃん。でもさぁ、こんなとこにみんないるのかな?」

 

「分かりません……ですが、これはただのゲームでは無いようですよ……」

 

「繰り返す。これは不具合ではなく、ソードアートオンライン本来の仕様。だ諸君は自発的にログアウトする事は出来ない。また、外部によるナーヴギアの停止、解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」

 

「え、死ぬの? マジでどういう意味かわかんないんだけど!? どういう仕組み!?」

 

「……賢人さま。少し黙っていてください」

 

「あ、ごめん」

 

 綴に怒られてしまった……。仕方ないこれからは心の声に留めておこう。

 

「残念ながら、現時点でプレイヤーの家族、友人などが警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようとした試みが例が、少なからずある。その結果、213名のプレイヤーがアインクラッド、及び現実世界からも永久退場している」

 

 え、ちょ、死んでるの?! ゲームで殺すとかマジでコイツ頭おかしいんじゃないの!? 

 

「多数の死者が出たことを含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。よって、既にナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言ってよかろう。諸君らは安心してゲーム攻略に励んで欲しい。しかし、留意してもらいたい。今後ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」

 

 は? 脳が破壊って、物理的に? クソゲーじゃん。てかゲームですらねぇじゃん。ただのクソじゃん。

 

「諸君らが解放される条件はただ一つ、このゲームをクリアすれば良い。現在君達が居るのはアインクラッドの最下層。第一層であり、各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば上の階に進める。そして第100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ。君たちが解放される条件はそれしか無い」

 

「は? ベータ版でも10層すら到達できなかったんだぞ!?」

 

「ここから出せよ!?」

 

「なんかのイベントだろ?」

 

「1回死んでみようぜ? ログアウトできっかもしんねぇし」

 

「終わりだぁ……」

 

 怒る者、楽観的な者悲観的な者、様々なプレイヤーで溢れていた。まるで地獄絵図だ。

 

「それでは最後に、諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ」

 

 えっと……アイテムストレージ? 

 

「綴知ってる?」

 

「知りません……」

 

 だが、しばらく経つとお互いの身体が青白く光り……。

 

「「変わった!!」」

 

 本当の姿に変わった。いや、戻ったという方が表現は正しいだろうか。

 

「やった!!!」

 

 そして、謎の男は最後に言った。

 

「これをもって、ソードアート・オンラインのチュートリアルを、終了する」

 

 ────そして俺たちは、過酷なデスゲームへと足を踏み入れたのだった。



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第22章 絆、崩れても。

 ……さて、デスゲームが始まった訳だが、どうすべきか。まだ喧騒も収まってないし。

 

「変身できないんじゃ、無双もできないしなぁ……」

 

 本当に最悪の気分だ。なんであいつら探すのにデスゲームに参加しなくちゃならないんだよ。

 

「落ち込むところそこですのね……」

 

「ってかさぁ、ゲームっていっても俺操作方法とか全然知らないんだけど。コントローラーもないし」

 

「そうですよね……普通なら画面を見てプレイするものですからね……」

 

 どうにかしてわからないものか……。

 

「つかさぁ、チュートリアルもないしクソゲーだよな。このゲーム」

 

 俺は辺りを見渡して、メニュー画面を開こうとしている人達を見る。

 

「へぇ……こういう感じかぁ……」

 

 右手の人差し指と中指を合わせて縦に振る。まぁ、分からない人は仮面ライダーマッハの『いい絵だったでしょ』のポーズを思い浮かべるとわかりやすいと思う。

 

「お、これがメインメニューね。TIPSっと……」

 

 そして操作方法や世界観設定を確認する。まずこの俺たちがいる場所が転位門といって色んな場所にファストトラベルできるらしい。ブックゲートみたいな感じだろうか。

 

「ふむふむ、それで、武器種は……」

 

 片手剣 両手剣 両手斧 片手棍 刀 曲刀 細剣 短剣 槍の10種類か……。

 

「後は私達がいる世界についてですね……っと」

 

 まずアインクラッドっていう空中に浮いてる建物に100階建てのダンジョンがあって、それを順番にクリアすることでこのゲームを終わらせられると。後はMAPか。

 

「武具屋がここで、雑貨屋がここね。賢人さま。なんの武器を使いますか?」

 

「あー、俺は片手剣にしよっかなって思ってるとこ」

 

「じゃあ私は、片手棍にしようと思いますわ」

 

 俺たちは武具屋に行って基本的な武器を揃えた。

 

「よしっ、じゃあエリア端まで行ってみようぜ!」

 

「はぁ!? な、なにをいっているんですかいきなり!」

 

「そりゃあゲームなんだからさ、普通は限界ってもんを知りたいだろ?」

 

「そ、そんなものなんですか……」

 

「うん、そんなものだよ!」

 

 ということでやって来ました。エリア端。うん、なんもない。敵もいないし、下に見えるのはだだっ広い空だけ。どんだけ高所にあんだよ、アインクラッドって。

 

「はぁ……ほんっとに時間の無駄でしたね」

 

「いや? そんなことないようだぞ?」

 

 俺はそう言いながらある方向に指をさす。それを見た綴はそこへかけて行く。良かった、まだ心は残っているようだ。よかった良かった。

 

「何をしてますの!?」

 

「よし、じゃあ俺も行くか……」

 

 ということで俺もエリア端から飛び降りそうになっていた、というかほぼ落ちていた人の手を掴んだ。

 

「離すなよ……!」

 

 全身全霊を込めて、彼女の手を引っ張る。

 

「はぁ……はぁ……ったく。なんで死のうとしてんだよ……って、あ、あ、礼音さん!?」

 

 人形と見間違えるほどの端正な顔立ちに混じりっけのないブロンド色の頭髪、間違いない。

 

「か、神川くんに甘噛くんまで!?」

 

 ……確定だ。

 

「で、なんで礼音さんは死のうとしてたんですか?」

 

 俺は冷静に質問する。

 

「……いや、違うんだ神川くん……」

 

「え? どういうことですか?」

 

「実は君たちが来る前に、ここから落ちようとしてる人が……いたんだ。それで止めたんだが、落ちてしまって……私まで落ちてしまったんだ……、迷惑をかけてすまない」

 

「……そう、なんですね」

 

 俺はまず、とりあえずこっから離れることにした。流石にたくさん人が死んでいくのは見てられないしな。

 

「あの賢人さま? 助けないのですか?」

 

「え……? だってこんないっぱいいるのに無理じゃん」

 

「神川くん……どこか変わったのか……?」

 

「私の知っている賢人さまはどこへ行ったのですか?」

 

「ん? どゆこと?」

 

「もういいです!」

 

「あ……」

 

 綴はエリア端から飛び降りようとしている人の元に走っていってしまった。

 

「何が原因か分からないのなら、甘噛くんとはもう、二度と会えないだろうな」

 

「……」

 

 ────あれから1週間が経った。未だに綴も、礼音さんも戻ってこない。ずっと、一人で狩りをしてたら、気づくとレベルは15まで上がっていた。でもそんなことはどうでもいいんだ。レベルが上がったところで、心は救われないのだ。

 

「……」

 

 それでも俺は無心で狩りを続けていた。どこか心の底で願っていたんだろう。強くなれば綴や礼音さんは帰ってくると。でも、それでも来ない。もうどうにでもなれって感じだ。

 

「……もういい」

 

 俺は1人で迷宮区の第1層へと赴いた。

 

「待て!」

 

 声をかけられたので振り向いてみると、黒髪の少年が立っていた。背中に片手剣を背負っていた。

 

「なんだ?」

 

「何故一人で迷宮区に入ろうとしているんだ?」

 

「ん? あぁ、なんとなく、かな」

 

「危険なんだぞ……? ゲーム内で死んだら……」

 

「だってもう、仲間もいなくなったんだぞ!? 命なんてどうだっていいっ!」

 

「死んだのか……? その仲間は……」

 

「わからない……でももう、会えねぇよ」

 

「それならっ、黒鉄宮を見れば……」

 

「……なんだよ、それ」

 

「は……? 知らないのか?」

 

「え……まぁ、うん」

 

「だったら俺が案内しようか?」

 

「あ、それじゃあお願いします」

 

「あ、じゃあ着いてきて。って、その前に……ケントか? その名前は」

 

「あー、はい、そうです。キリトさん、ありがとうございます」

 

 着いた。

 

「綴と礼音さんは……っと。あったぜ。生きてるみたいだ」

 

「あぁ……よかった……」

 

 俺はほっと胸をなでおろしたが、まだ事態は解決していない。

 

「なぁキリト、場所がわかる方法ってないのか?」

 

「あるにはある……でもケントはそのツヅリとアヤネとはフレンドになってるのか?」

 

「フレンド……?」

 

 俺は一応メインメニューを開いてみた。だがフレンド欄には誰もいなかった。ボッチだな。

 

「うーん。ってかケントはそのふたりとは喧嘩別れしたんだよな?」

 

「まぁ、そうだけど……でも場所は分かりませんよ?」

 

「もしかしたらフィールドにいるかもしれない。1回探してみるが、手分けして探した方がいいと思う。だからちょっと2人の特徴を教えて貰えないか?」

 

「えっと……多分2人で行動してると思うんだけど、綴はピンク色の髪のツインテールで、礼音さんはブロンド色の長髪の人」

 

「よし、わかった。あのさ、見つけたら連絡したいから、フレンドにならないか?」

 

「え、いいんですか?」

 

「当たり前だぜ。じゃ、俺はフィールドを探すから、ケントは始まりの街を探してくれないか? 初心者の君を戦闘に巻き込ませるのははばかれるからな」

 

「あ、そんな気遣いまで……」

 

「まぁ、な」

 

 と、いうことで俺はこの街を探索することになった。




キリトは女性だけに優しいわけじゃないっていう話。


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第23章 再臨、波癒の剣。

「……さてと。いるとしたら……宿かな」

 

 早速マップを開いてNPCの宿に行く。プレイヤーが運営することも出来るらしいんだが、まだ始まって1週間だしな。

 

「ゲームなら泊まってる人も表示されるはずだけど……っと、はぁ……いないか……」

 

 まぁいい。まだキリトさんが探してくれてるしな。俺はとりあえずほかのとこ当たってみるか……。そして俺は定期的に黒鉄宮を確認しながら、街を探索した。

 

「……よし、生きてるな。……あ、キリトさんからだ」

 

『2人が見つかった! フレンド欄の追跡から俺のとこまで来てくれ!』

 

 ……まじか。

 

「急がなきゃな!!」

 

 俺はステータス欄から獲得したSPを利用してスキルを習得する。スピードフォーム1。移動速度が上がるスキルのようだ。俺はスキル欄からそれを発動する。

 

「……そんなに変わらなくね?」

 

 まぁ、ないよりはマシということか。そんなことを思いながら森の中を進んでいく。

 

「……GPSが正確ならこの辺だけど……、うわきも」

 

 辺りには口のある植物、パックンみたいなモンスターがいた。ただまぁ、俺を見ても襲ってこないあたり、攻撃するまでは中立なんだろうな。ピッグマンみたいに。俺はそーっとパックン(仮称)を避けながら、キリトさんがいるであろう小さな村にやってきた。とりあえずメッセージを送る。『来ましたよ〜。キリトさん』と。そして明らかに目立っている家があったので入ってみる。多分イベントかなにか起きるんだろう。

 

「おじゃましま〜す……」

 

 あれ、返事がない。いないのかな? と、ふと机に目をやると手紙が置いてあった。他人の家にあるものを盗み見るのもどうかと思いながら、手紙を読む。

 

「2人の居場所がわかった。君を待っていては間に合わないから先に行っておく……正確な場所は地図に示しておく……。やべぇ、急がねぇと!」

 

 俺は来た道を辿って目的地まで急いだ。

 

「ちょ、嘘だろ!?」

 

 あのキモイ植物がキリトさんたち……いやあれ綴と礼音さんか? 3人が植物に囲まれている。キリトさんは2人を守るのに気を取られて抜け出せないようだ。俺の手には小さな盾と片手剣。俺はあの集団に向かって盾を投げた。

 

「あ、」

 

 他とはちょっと見た目が違う、亜種のような植物にあてたら他の植物のモンスターもこっちにヘイトを向けてきた。

 

「でも……!」

 

 俺は逃げ出しそうな足を堪えながら鉄の剣を構える。こんなとき仮面ライダーなら……いや、師匠なら、あの世界で生きてきた皆なら絶対に……! 

 

「逃げない!」

 

 その時、天から一本の剣が植物のモンスター、リトルペネントに突き刺さる。俺は迷わずその剣を手に取る。

 

『癒封剣波癒!』

 

「はぁッ!!」

 

 リトルペネントを一掃し、俺は綴に手を差し伸べる。

 

「大丈夫か!? って、あれ?」

 

 さっきまで手に持っていたはずの聖剣がない。装備欄を見ても鉄の剣のみだ。ま、まぁ、今はそんなことどうでもいい。

 

「綴……ごめん……」

 

 まずは誠心誠意謝らなくっちゃいけないんだ。そう、これは確定事項だ。

 

「べ、別に気にしてませんよ?」

 

「いや、これは俺が謝りたいから謝ったんだ。あ、礼音さんもすみませんでした」

 

「私がついでのように聞こえるのだが……」

 

「気のせいですよ! それで話は変わるんですけどキリトさん! さっきまで俺使ってた剣あるじゃないですか! それが気づいたら装備欄から消えてたんですけどどういうことかわかりますか?」

 

「え? あー……アイテム欄は見たのか?」

 

「あ、そっか」

 

 俺はキリトさんの言う通りアイテム欄を見た。持ってる武器は……っと、あった。癒封剣波癒。よし、装備するか。

 

「ってあれ? 装備できないんだけど……。要求ステータス? え、嘘もしかしてこの値まであげないといけないってわけ?」

 

 俺の今の筋力が25に対して要求筋力が150。6倍もの差がある。

 

「……というかさ、だったらなんでさっきケントは装備できてたんだ?」

 

「ほんとだ……。あ、もしかしてなんか特別なスキルかなにかか?」

 

 またもやメニュー画面を開いてスキル欄を確認した。現在ロックされているがそれっぽいスキルは見つけることが出来た。

 

「剣士の覚悟……60秒間筋力を10倍する……。1回ログインする毎に1回使用することが出来る……」

 

「それって……ケント……どんまい」

 

「最悪だああああ!」

 

 わからない人のために説明すると、このゲームは現在ログアウト不可=ログインは1回のみ、つまりスキルを使えるのは1回こっきり。そしてその貴重な1回をさっき使ってしまったということ。

 

「最っ悪だ」

 

「まぁそんなに落ち込むなよケント。ほら、目標ができたって考えることもできるだろう?」

 

「そ、そうですよね! 落ち込んでててもダメですよね! じゃあさ綴! 礼音さん! とりあえず疲れを治すために今日のところは圏内に帰ろうか!」

 

「テンションの変わりようがすごいな……神川くんはまったく……」

 

「ところでキリトさん。100階層にまで行ったら抜けられるらしいですけど、まだ1層も攻略できてないんですよね? まだなんすか?」

 

「あぁ、戦力的にも厳しいところはあるが、1番の問題は……」

 

「ゲームオーバーになると死ぬってこと……ですよね」

 

「そう。1度きりのゲーム。このデスゲームにおいて、コンティニューは存在しない。だからこそ、みんなも慎重になっているんだろう」

 

「んじゃあ俺もレベル上げしますね。なにかあったら連絡してください、キリトさん」

 

「あはは、それ俺の台詞なんだけどなぁ……」

 

「ですよね〜。じゃ、さよならー!」

 

 俺はキリトさんに手を振りながら、綴たちと一緒に街まで帰った。

 

 

 

 

あのー……綴?」

 

 なんで綴と風呂に入ってんだ俺。いくら混浴だとしても、だ。いやまじで。しかも倫理コードなんてもんも目の前に出てきたしさ。

 

「はい、なんですか?♪」

 

「なんで一緒に風呂入ってるの……? いやまじで」

 

 タオル一枚羽織ってるとはいえ、その下は……、いや、なんでもない。

 

「あー……そろそろ上がるわ」

 

「あら。まだですよ? 賢人さまっ」

 

「!?」

 

 ????? わからない。今何が起こっているんだろうか? いやわかるよ? 綴が俺の手に組み付いてきてるって。それはわかるんだよ。でもさ、あるじゃん。何が起こってるのか分からないってこと、たまに。

 

「あ……」

 

 俺の頭の中の闇黒剣月闇と光剛剣最光が言い争っている。片方は場に流されてしまった場合の未来、もう片方は「最高だな!」という肯定的な意見。……いやいやいや、そんなのないし。

 

「なにやってんの!? 綴!?」

 

「なにしてるって、当たり前のことですよ?」

 

「いや違うよ!? いやまぁね!? 仲直りの記念とかお祝いとかはしようと思ってたよ!? でもさぁ、こういうのはまだ早すぎるんじゃないかな!?」

 

 そうやって押し問答をしていると突然風呂の扉が開かれた。……そうだ。普通にここ公共施設じゃん。

 

「あっ……」

 

 キリトさんなら良かったんだけど……。うわ誰この人。

 

「す、すみません!」

 

 そう言って彼はそそくさとその場から立ち去っていった。

 

「最っ悪だ……」

 

「賢人さま?」

 

 なに上目遣いになってんだよ!? 好きになるだろうが!? いやもう好きだけども! って、んな事どうでもいんだよ! 

 

「なぁ綴! さっさと出るぞ!」

 

 俺は装備欄から素早く服を着替える。……身体濡れたままなんだけど……。めっちゃ気持ち悪い……。あ〜あの茅場晶彦とか言ったっけ!? あの開発者絶対ぶちのめす! 俺がそんなこと思ってる間に綴は素早く身体を拭いて寝巻きに着替えていた。だが、そんなことをしていると突然目の前が真っ白になり、あたりの景色がガラッと変わる。

 

「まさか、また転移……」

 

 俺は一応人差し指と中指を立てて振ってみる。しかしメニュー画面は出てこない。

 

「おっけおっけー。そゆことね」

 

 またどこか別の世界に来たわけ────

 



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前日譚 ハルノート -地獄の14日間- 開幕編
1話 開幕I:地獄の始まり


「異世界ゲーム、だと?」

 

 デザグラの最中、突然別の世界に飛ばされたかと思ったら、英寿たちはツムリからそんなことを言われた。

 

「異世界って、なんか本で見たことあるよ!」

 

 祢音のお気楽そうな発言とは真逆に、道長が言う。

 

「こっからの生活はどうすんだ」

 

「そうだよ、家にも帰れないし、姉ちゃんに怪しまれるって」

 

「その点は気になさらず、彼らの世界の時間は止まっていますので」

 

「止まってる……?」

 

「まぁいい。とにかく人を探すぞ、ゲームのクリア条件が分からない以上、まず誰かに会わないことには進まないからな」

 

「そうだね、じゃあ俺はこっち探すから!」

 

「ふんっ、ギーツの提案なんて聞くか」

 

 そう言って道長はどこかへと行ってしまう。

 

「ちょっと道長! 独断行動は!」

 

 祢音の引き止めにも応じず、ズンズンと彼は進んでいく。

 

「バッファ避けろ!」

 

「なんだと……? ……。!?」

 

 突然現れた、体が腐った化け物。寸前のところで道長がゾンビの攻撃を避ける。

 

「クソッ……変身!!」

 

 彼は咄嗟に落ちていたミッションボックスに入っていたバックルを使い変身する。

 

『Set. ZOMBIE!』

 

「あれは……ゾンビ?」

 

「ジャマトじゃないみたいだけど……」

 

「見ればわかる。さっさと変身するぞ……と言いたいところだがバックルは……」

 

「あ、あった……!」

 

『Set. NINJA!』

 

「おあつらえかのように置いてある……ってことはやっぱりデザグラか……。変身!」

 

『Set. MONSTER!』

 

「私の私の……あった! 変〜身!」

 

『Set. MAGNUM!』

 

『『『『READY FIGHT!』』』』

 

 開幕したデザイアグランプリ、異世界ゲーム。未だクリア条件はわからないのだが、まずは目の前の脅威を排除するために戦った。

 

「ふっ、ハァッ!!」

 

 チェンソー型の武器、ゾンビブレイカーで群がるゾンビ達を薙ぎ倒していく吾妻道長、仮面ライダーバッファ。

 

「ハッ! とぅらッ! ゾンビは、頭が弱点だって、昔から相場は決まってる」

 

 両手に携えられたグローブ状の装着型武器、モンスターグローブでゾンビの頭を潰していく浮世英寿、仮面ライダーギーツ。

 

「とりゃ! うにゃー!!」

 

 射撃が得意でないもののマグナムシューター40Xで何とか当てやすいゾンビの胴体や足を狙い足止めをする鞍馬祢音、仮面ライダーナーゴ。

 

「はぁ! とらっ!!」

 

 ニンジャデュアラーの二刀流の斬撃と、忍者ならではの分身の術でゾンビを一番多く狩っているのは桜井景和、仮面ライダータイクーン。

 

「これじゃあキリがない! 英寿! 何か策はないの!?」

 

「あの建物にゾンビが集まっていってるよ!」

 

「人が集まっている可能性がある……行くぞ!」

 

 ギーツ達が向かった、ゾンビたちが群がっている建物は未来科学館、ある学生達が修学旅行に来ている場所であった。



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2話 開幕II:最悪の修学旅行

「え……ここどこ……?」

 

 未来科学館で目を覚ましたのは私荷前(しのざき)組組長の一人娘、不絵。今日、2118年3月15日は彼女の通う高校の修学旅行の日であった。

 

「ッ! 目、覚ましたわ!」

 

 彼女が目を開けると、女性の顔があった。心配で目をひそめる、憂い気な表情をしていた。

 

「ッ……!」

 

 彼女に手を引かれ、上体を起こすと頭に鋭い痛みが走る。

 

「ここは……未来科学館……?」

 

(確か、最初の自由行動の場所だったはず……)

 

 意識が朦朧として聞こえていなかったが、徐々に周囲の音が鮮明になっていく。

 

(……何、この音)

 

 最初に聞こえてきたのは唸り声、次に聞こえてきたのは誰かの掛け声であった。

 

「ォォォォオオオ"」

 

「アァアアアァアァ、アアァ"」

 

「ハァッ! 」

 

「フッ、ハァッ!」

 

 掛け声は外から聞こえるけど、唸り声は外中問わず空間一体からスピーカーのように聞こえてきた。

 

(飛行機の……屋根の上……?)

 

 ────展示物『宇宙旅客機』の船体の上で彼女たち数人の女性は座り込んでいた。

 

(なんで……展示物の上に乗っているの……?)

 

 平常時なら非常識な行為だが、この場にはそれを問いただすものなんて居ない。彼女が下を覗き込むと、そこには地獄が広がっていた。全身が腐ったゾンビのような怪物が、自分たちの来ているものと同じ制服を着ているのだ。その上、教職員までそんな格好をしている。

 

(なに……あれ……? そんな……いや、もしかしてドッキリ……? でもじゃあなんで同級生や先生までそんな格好を……?)

 

 ウジャウジャと湧いてくるゾンビたち。既に3、40人は超えてしまっている。瞳孔ガン開きの奇怪な目に、青白い肌、とてもじゃないがコスプレや特殊メイクを施した人間には思えなかった。そんなことを不絵が考えていると、唐突にタックルをかまされる。

 

「不絵ッ!!」

 

「良かったぁ……まじよかったよぅぅ」

 

「ど、どうしたのさ」

 

「目ぇ覚まさなかったらどうしようかって心配だったよぅ!」

 

 こんな状況においても不絵の友人、及川ミカの爛漫さは健在であった。しかし表情の隙間に衰弱が伺える。

 

「うううううう良かったよぉぉぅ。私ひとりで寂しかったんだから!!」

 

(一人……?)

 

「ルナは……? 灯里は……?」

 

 ルナというのは芸名『園咲ルナ』のことであり、本名を園崎瑠奈という。そして灯里というのは明星灯里という。2人ともミカと不絵の大切な親友である。

 

「……分からない」

 

 2人の名前を出した途端、ミカは萎らしい態度になってしまった。不絵は一旦質問を止める。

 

(何が一体……)

 

 船体には彼女ら2人を含め、5人が座っていた。彼女らと同じ星霜高校生徒は4人、同じクラスの廻栖乃(めぐすの)まにか

 

 壊死街(えしがい)ほたる、そして前述の不絵、ミカである。ほたるはあまり目立たない生徒であった。

 

「────良かったわね、ミカちゃん」

 

 先程不絵に寄り添っていた女性がミカの方に手を置く。

 

「はいっ! ありがとうございます!! クシュナさんっ!」

 

 ウェーブがかったブロンド髪の整った顔立ちと、150cm弱の身長のギャップに目を惹かれる。

 

(さん……? もしかして年上なのかしら?)

 

「あ、えっとね不絵! この人はクシュナさん」

 

「初めまして、私は柊・クシュナ・トルリーン」

 

「柊さん、ご丁寧にどうも、私荷前不絵です」

 

 彼女の好意的な握手に、不絵は気持ちよく応じる。

 

「クシュナでいいわ、でもトルリーンだけは間抜けっぽいから勘弁してね」

 

「────クシュナさんはね!」

 

 と、ミカが食い気味に声を上げる。

 

「不絵を助けてね、ここまで運んできてくれたんだよ!」

 

 そう言われて、不絵の頭に記憶が蘇る。友人4人と宇宙コーナーを見て回ってる最中に、他の客が一斉に化け物に変異、4人が散り散りになってしまったということ。

 

「不絵、頭、まだ痛む?」

 

 ミカの言う通り、不絵の頭にはまだ微かに痛みが残っていた。後頭部を触ってみると、折り目正しく包帯が巻かれているようだった。

 

「手持ちの応急処置セットしかなくて、消毒してガーゼ当てて包帯巻いただけなのだけれど」

 

「これ……貴方が」

 

「そ。今はこれで我慢しててね」

 

「とても綺麗に……巻けてますね」

 

「きれい……あなた……わかるの?」

 

(どういう意味……? 知識もないのにってこと?)

 

「実は私の家、ちょっと特殊で……。流血が絶えなくて、包帯は日常茶飯事。家にいる男連中の包帯、よく巻いてあげたんですよ。けど、こんな綺麗に巻けませんでしたよ」

 

「そう。緊急事態に医者がいると便利でしょ」

 

(お医者様……。一体年齢はいくつなのかしら。大学を卒業してるのだとしたら……26歳以上? そうは見えないけど。ともかく)

 

「ありがとうございます」

 

「お礼ならまだいらないわ、無事救助されてから────いくらでもしてね」

 

(救助……か。そうよね……)

 

「運が……良かったよね私たち」

 

「ミカ」

 

「ここはさっ、安全だからさっ」

 

 元気に振る舞う親友の瞳は、よく見れば乾いていた。諦めきった親友にかける言葉など、不絵には見つからなかった。恋人もまだ見つからない上、自分たちがいるこの場所も、まだ絶対的な安全地帯とはいえないのだ。

 

「安全……?」

 

「そぅっ……安全だよ! だって、化け物のやつら、の、登れないんだぜー? 船に。だからだからっ! 船の上にいたら安心〜……」

 

 不絵を励ましているように見えて、実際に鼓舞しているのは自分の心だった。

 

「あは、ははー、運の良さは日頃の行いの賜物だねー、あとはゆっくり救助を待ってれば、……助かるんだから」

 

「────命日だろ、今日が」

 

 その言葉は禁句だ、誰が言い出した? そんなことはどうでもいい、しかしその言葉をきっかけに、ミカの心は徐々に崩れ出す。

 

「退路もない、救助の予定もない、水もない、食料もない、横になって寝れるスペースもなければ、落下防止の柵も、足を滑らせない保証も、全部ない」

 

 まにかは現実主義、所謂リアリストなどではなく、ただ単にそれを言った際の、周りの人の反応を楽しみたいだけだった。

 

「……めろ」

 

「現実みろよ、お嬢ちゃん。私たちの未来は2つさ。化け物に食われて死ぬか、耐えられずに自分で死ぬか、人間同士で殺し合って死ぬか」

 

「やめろ言うな!!」

 

「えー、3つ言ってるじゃんとか言って欲しかったなー」

 

「……は?」

 

「私の見立てではお嬢ちゃんは────化け物に食われて、死ぬタイプだね」

 

「ああああああ"やめろッ!!」

 

 くしゃりと笑みをこぼすまにか、笑顔の器が決壊し髪をぐしゃぐしゃにしながら俯くミカ、2人の様子は対極的であった。

 

「大丈夫よミカ……私が貴方を守るわ」

 

「不絵ぇ……?」

 

「大切な親友を……傷つけさせやしない」

 

 そんな気休めにもならない言葉でもミカには傷薬程度の効力はあったようで、彼女は不絵の名を連呼しながら彼女の胸に顔を埋めた。

 

「────えー、最初に死にそうだけどなぁ」

 

「ッ……」

 

「おおうっと、怖い顔だぞ!」

 

 不絵の父親譲りの気迫にも全く動じないまにか

 

「……」

 

「怖い怖い、本当にちびるくらい怖いや」

 

「……ねぇあなた、廻栖乃さんよね」

 

「え! 私を知ってるの!」

 

 気さくに、可愛らしい笑顔で手を叩いた。

 

「私みたいな底辺オブザイヤーを記録してくれてるだなんて、感激の極みだなぁ、嬉しいなぁ。今日はさぁ、すごくいいことばかりなんだ、日頃の行いの賜物かなぁ。……。不絵ちゃんも、そう思うよね」

 

「……」

 

(────覚えてないはずがないでしょう)

 

 星霜高校2年C組、出席番号29番。不絵のクラスメイトである。しかしクラスメイトというだけでそんな覚えているという自信を持っているはずがない。現にクラスメイトの壊死街ほたるを覚えていなかったのだから。それだけ言い切る理由には訳がある。『廻栖乃まにか』という名を聞いただけで悪寒が走る者もいるだろう。幼い頃より繰り返される悪行の数々である。

 

「……悪いけど廻栖乃さん。これ以上不安を煽るようなことを言うのはやめてもらえるかしら?」

 

「不安を? 煽る?」

 

 まにかは飄々とした調子で言い放った。

 

(なんで……この人の態度はこんなにも癪に障るの……?)

 

「ごめんね不絵ちゃん。以後気をつけるよ。けど、期待で煽る卑怯さが許せなくて」

 

「期待で煽る……?」

 

「いゃああああああああ"!!!」

 

 突然の悲鳴、全員、それがした方向を見る。人工衛星を模した展示物の上に1人、少女がいたのだった。展示物は比較的高いところにあったのだが、ゾンビがゾンビを踏み台にして着々と上に登っていっている。ゾンビには大きな音、もしくは多数の人間に群がるという習性がある。今回は前者の習性が発揮されたということだろう。だからだろう、50、いや60程に増えたゾンビが一点に集まればどうなる? 知能がないが故、なんでもするのだ。

 

「あー、これはもう手遅れだねー」

 

 相手の立場になって考えることのできないまにかが気楽そうに言った。もう登りきるまで半分もない。

 

「こぉ"ないでぇぇよぉぉぉおおおお!!!」

 

「だすげでよぉぉおおおおおぉおおぉお、だすげでぇぇええええ!!!」

 

「お"ねがいだからぁぁあぁあああああ!!!」

 

 

 

 

 

 ###

 

 少女は私たちの方を見ていた。あまりにも見ていられなくて、旅客機から飛び降りようとする私の肩を、クシュナさんは力強く握りしめた。

 

「ちょっと待って! 本気!? 何考えてるの!?」

 

「何って……」

 

(クシュナさんこそ……なんの質問ですか……?)

 

「助けるに決まってるでしょう!?」

 

「ぁ……あなたが、死ぬでしょ!?」

 

「助けないんですか?!」

 

「助けたいのはッ! わかるけど!」

 

「けどあの子が死んじゃいます!」

 

「わかっ、分かるけど、分かるわよッ! けどもう……どうにもならない……。自殺は許さないわッ!」

 

「自殺じゃありませんッ! ゾンビが群がっていない太陽光パネルの方から登って、そこから担いで降ります!」

 

「あの量じゃ助ける前に死んで終わりよ」

 

「そ、そうだよ不絵っ……」

 

「ミカまで……」

 

「もう無理だって認めようよー、見捨てるって、なんで皆言わないの?」

 

 廻栖乃さん……。貴方のそれは……何なの? 

 

「……」

 

 皆が黙りこくった。

 

『Bullet charge』

 

「……何?」

 

 突然、機械音声のような声が聞こえたと同時に、光の弾がゾンビに当たる。

 

「え……? 何……今の……」

 

さぁ、ここからが、ハイライトだ




クシュナ 公式身長 145cm


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3話 開幕III:生きてるのは女だけ!?

「大丈夫!?」

 

(なによ……あれ……もしかしてやっぱりテレビ番組ってこと……?)

 

 緑色の装甲を纏った戦士が、怯える彼女らを抱え、外に飛び出る。そして煙が発生したかと思うと彼女らは建物の屋上へと移動していた。

 

「ここで待ってて、すぐに片付けるから!」

 

『SECRET MISSION CLEAR』

 

 そんなシステム音声とともに、タイクーンの頭上からミッションボックスが落ちてくる。

 

「痛ぁ!?」

 

 彼はボックスを開き、中に入っているバックルを取り出した。

 

「ブーストバックル!?」

 

「英寿! マグナムバックル貸してあげたんだから上手く使ってよね!」

 

「猫……?」

 

「あぁ、わかっているさ」

 

『MAGNUM』

 

 マグナムバックルを武器に装填、バックルを操作した後にトリガーを引く。

 

『MAGNUM TACTICAL BLAST』

 

 ギーツは直線上にいるゾンビを一掃した。

 

「チッ、ギーツなんかに負けてたまるか」

 

『POISON CHARGE』

 

 ゾンビブレイカーのスターターを引き、チェンソーのは刃に毒を貯める。

 

『TACTICAL BREAK』

 

 一体のゾンビを媒介に毒は広まっていき、ゾンビは次々と消滅する。

 

「ほぅ、ゾンビバックル使いこなせるようになったのか。前に教えた甲斐があったな」

 

「ギーツ、お前の教えなんてなくてもなぁっ!」

 

「そうカッカしないの道長! とう! うにゃ!」

 

 英寿と交換したモンスターバックルを使用し、ナーゴはゾンビを屠っていく。

 

「銃よりはっ! 使いやすいけどっ! やっぱりビートがいいかなっ!」

 

「はぁっ! たぁっ! 誰か! 取り残された人はいませんか!」

 

「相変わらずっ、お人好しだなタイクーン!」

 

「当たり前でしょ英寿、って後ろ!」

 

「知ってるさ」

 

 まるで予想していたかのようにギーツは首を傾け、ゾンビの手を避け、マグナムシューターで狙い撃つ。

 

「おぉ〜」

 

「お前ら! 喋ってる暇があるなら戦え!」

 

「まったく、闘牛は気性が荒いな」

 

「喧嘩はこいつら倒してからにしてよね!」

 

「あれを見てみろ」

 

 ギーツが指差したのは1階ラウンジ。

 

「人が……戦ってるだと?」

 

 急いで仮面ライダーたちは向かい、救助した。

 

「助けて貰ったことは感謝する。だが不絵は……」

 

「不絵?」

 

「わかんないけど……さっき景和が助けた人たちの中にいたかも! 行ってみよう?」

 

「あぁ、賛成だナーゴ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「ゲーム……?」

 

「あぁ、そうだゲームだ。まぁ、俺たちやあんたらにとっちゃ現実だがな」

 

(なにそれ……デザイアグランプリだとか、仮面ライダーだとかよくわからないんだけど……)

 

「今回はクリア条件が分からないからな、まずは人を探していた」

 

「そうなんですね……」

 

 とは言っても正直まだ話は半分も呑み込めていない生存者7名。

 

「こんな状況になった経緯を教えてもらえるかな?」

 

 と、同年代ゆえに話しやすいであろう祢音が話しかけた。

 

「えっと……」

 

「私が話すわ。不絵ちゃんはあの子のケアを」

 

 クシュナが顔を向けたのは先程食べられそうになっていた少女に顔を向ける。

 

「はい、わかりましたクシュナさん」

 

「それで……経緯……だったわよね?」

 

「うん、そうだよ、偉いねクシュナちゃん」

 

「あの……一応私23なんだけど」

 

「え、そうなの!? ごめんクシュナさん!」

 

「わかってくれればいいわ。それで……私は、いや私たちはこの未来科学館ってとこに来てたの。そしたら突然周りの人達がゾンビになって行ってって感じなの」

 

「やっぱりアレは元人間だったんだ……」

 

「考えていても仕方ないぞタイクーン。躊躇っていたら人が死ぬからな」

 

「そう……だよね英寿」

 

「しかし、これだけではクリア条件は微塵もわからないな」

 

「というかさっき不絵? って子を探してた子は……」

 

 不絵の恋人、梔子毛糸は既に不絵を見つけ、彼女に抱きついていた。

 

「不絵! 生きていてくれて嬉しいよ!」

 

「ちょ、ケイちゃん近すぎ! ……てかなんでここにいるの?」

 

「そりゃあ私は不絵の彼女だし? 公認ストーカーですから」

 

「もう……ケイちゃん……」

 

(こんな時、異常に頼もしいのよね……)

 

「……ふふっ」

 

 そんな2人のやり取りで先程まで憔悴しきっていた食われそうになっていた少女、嵐山静香は笑みを零した。

 

「よかったわ、あなたが元気になって。私は私荷前不絵、よろしくね」

 

「よし、生存者も見つけられたことだ。まずは全員で移動できる乗り物を探すぞ」

 

「え? これでブーストライカー呼び出すとかは?」

 

「バイクだぞ、乗れても精々3人までだ」

 

「そうか……」

 

「じゃあ君達! 私たちに着いてきて!」

 

「え、あ! はい!」

 

 ミカを皮切りに、続々と祢音たちに着いていき、大型駐車場にたどり着いた。




原作ではここでミカが死にます。皆に見捨てられて


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4話 開幕IV:食料を手に入れろ!

「……ねぇ不絵ぇ……私たちこれから……どうなるのかな……」

 

「大丈夫だから……大丈夫、私が守るからね」

 

(なら私も……)

 

「ねぇ不絵、私も怖いんだ。守ってくれないか?」

 

「ケイちゃんも守るからね」

 

「えへへ〜」

 

「……緊張感のない奴らだな」

 

 バスの運転をしながら、道長は呟いた。

 

「タイクーン、ナーゴ、あいつらの世話は任せた。俺はこっからの道順を決める」

 

「うん、わかった英寿」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「アンタら、あんまわからないんだが、ゾンビが発生してからどれくらい経った?」

 

「……4時間くらいかしら」

 

「ならまだ取られていないはず……よし、まずは食料を調達するぞ」

 

「ちっ、ギーツのやつ……何を考えてやがる……」

 

「お前らに作戦を説明する。調達するのはこの先にあるコンビニ、俺たちが外のゾンビを食い止める。お前らは店内にある食料を取ってきてくれ」

 

「わかったわ。こっちは私たちに任せて」

 

「え? ちょ、ちょちょちょな、ななななかにいるゾンビはどうすんのさ!? ま、まさか僕たちで倒せとかい、い、いわないよねぇ!?」

 

 そうほたるが狼狽える。

 

「は? 働きもしないで食料手に入れようって訳? あの時だって泣き叫んでゾンビを寄せてたくせにさぁ!」

 

「ちょっと落ち着いてミカちゃん。ほたるちゃんの気持ちもわかるからさ」

 

「祢音さん……」

 

「不絵、もしゾンビがいたら私がぶっ殺すからね」

 

「ありがとケイちゃん……」

 

(なんでみんな争うの……ミカも……)

 

「バッファ、まだつかないのか」

 

「急かすなギーツ! ……もうすぐ着く」

 

「そうか、よかったよ」

 

 数分走らせ、コンビニ周辺まで近づいてからバスを止めた。

 

「ゾンビが邪魔でこれ以上進めねぇ……」

 

「道は俺たちが開ける。お前らはコンビニに入れ」

 

「わ、わかりました!」

 

「「「「変身!」」」」

 

『READY FIGHT!』

 

「俺が先陣を切る」

 

 そう言ってバッファはチェンソーでゾンビを斬り殺していく。

 

「こいつらをぶっ殺す……!」

 

『TACTICAL SHOOT!』

 

 ギーツは照射型のビームを発射し、周囲のゾンビを一掃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「(OK)」

 

 コンビニの中から、指で丸を作る毛糸。カバン係の不絵とまにかが店内に入る。

 

「食料……あった……」

 

 不絵は小声でそう呟く。ほぼ手付かずの食料の山。

 

(当然と言えば当然……誰がこんな地獄のようなコンビニまで……)

 

「不絵! カバンをこっちにっ」

 

「わかってるっ」

 

 彼女らは小声で指示を出し合いながら、荷詰めを開始する。不絵とまにかが背負ったカバンに、毛糸と嵐山が食料を手当り次第詰め込んでいく。

 

「よし」

 

 ぽんぽん、と不絵のカバンを叩く。

 

(いっぱいになった合図……!)

 

 彼女は散乱した物資を飛び退きながら、急ぎバスに空のバッグに取り替える。

 

「す、水分は必須だからっいっぱい」

 

「わかってます嵐山さんっ」

 

 日持ちのしない弁当系やおにぎり系を避けながら、手早く詰めていく。そしてリュックを替えてまた店内に戻る。そんな往復を数回繰り返していった。ほたるの持っている大量のブザーを仮面ライダーの方に投げるという仕事。安全なバス内での役割とはいえ、充分重要な役割であった。しかし今────切れた。

 

(ゾンビに押し寄せられて壊されたって訳……? でもこんな事態は想定済みっ。もう一度ほたるさんが投げてくれれば……!)

 

「え、えいっ!」

 

 投げられたブザーは放物線を描き目の前の看板に当たり、バスの前に────落ちた。それはコンビニから10mほど離れてはいるが、どちらにも近い……そして仮面ライダーたちは遠い……。

 

(まずい……!)

 

 咄嗟にドライバーを操作するギーツ。

 

『リボルブオン』

 

 体が180度回転し、足が腕に腕が足になった。そして足に備え付けられた小型の銃でコンビニに集まったゾンビたちを狙いうつ。

 

「ちっ……へましやがって……!」

 

『ZOMBIE STRIKE!』

 

 バスに近寄るゾンビの周りに墓石が出現し、それに走りよるバッファ。

 

「あ、あぁ、あああ道長さんっ!!」

 

「感謝はいい! とっととブザーを拾い直せ!」

 

「は、ははっはい!!」

 

 ほたるは急いでバスを降りてブザーを拾い直し、仮面ライダーの方へと投げた。

 

「なんだバッファ、珍しいな人助けなんて」

 

「黙れギーツ」

 

 不絵たちはゾンビがいなくなったのを機に、

 

「ありったけ持ってきました! 英寿さん!」

 

「よし、撤退だ。タイクーン!」

 

「わかったよ英寿!」

 

 タイクーンは再度生存者7名を抱え、煙に巻いてバスへと避難した。

 

「よし、助かった。食料は俺たちにとっても生命線だからな」

 

「どういうこと?」

 

「俺達もデザグラ控え室に戻れない、ここで現地調達するしかないからな」

 

「はぁ? そんなこと聞いてないぞギーツ」

 

「聞いていなかったのか? バッファ」

 

「チッ……」

 

「ねぇ、取り込み中のところ悪いのだけれど……私の家なら……多分ゾンビ湧いてないと思うから……」

 

「そうか……それはこっからどれくらいの距離にある?」

 

「車で1時間くらいかしら……」

 

「よし、次はクシュナの別邸に避難する。バッファ、行けるか?」

 

「言われなくても行ってやる」



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5話 開幕V:襲撃から逃げろ!!

「クソッたれ! 」

 

 バスを走らせていると、道長が急に叫んだ。

 

「どうしたの道長!」

 

「武装した人間だ! 既に弾打ち込まれてる!」

 

 祢音の問いに、道長は怒りと焦り混じりに答える。

 

「人間!?」

 

「あの小銃……まさか」

 

 そう呟いたのは不絵。

 

「ど、どうしたの不絵!? 何か知ってるの!?」

 

「いやそれがミカ……いや、なんでもない、多分、気のせいだと思うから……」

 

(もしかしたら家の組の人らかもしれないだなんて……言えるわけないじゃない)

 

「気のせいでもいい、言ってみろ」

 

 そんな英寿の言葉に不絵はおずおずと話し始めた。

 

「もしかしたら……あの人達が持ってる銃……私の実家の組の……人達かもしれないです……」

 

「ほぅ……そうか確か私荷前組の一人娘とか言ったな。その組の人間には何か特徴でもあるのか?」

 

「背中に……薔薇の刺青が彫ってあります」

 

「そうか」

 

「きゃぁぁあああ!! ま、まにかちゃんが!! まにかちゃんが!?」

 

 突然、誰かの叫び声が響く。

 

(な、何!?)

 

 不絵と英寿は慌てて振り返る。するとバスの中まで銃弾が入ってきたのか、まにかは腹部から血を流していた。

 

「チィッ! タイクーン、ニンジャバックルを貸せ」

 

「う、うん! わかったよ」

 

「あぁ、変身」

 

『NINJA! READY FIGHT!』

 

 ギーツはバックルのレバーを引く。

 

『NINJA STRIKE!』

 

 すると周りにいた武装少女は煙に巻かれ姿を消してしまう。

 

「進め! バッファ!」

 

「ちっ、言われなくとも!」

 

(あいつらの刺青は……鳥だったか……まさか)

 

「ニンジャバックル……すご」

 

 そんな祢音の呟きは、バスのエンジン音にかき消された。

 

「ふぅ……よし、あぁ、ありがとなタイクーン」

 

 バスの中にニンジャバックルの能力で瞬間移動してきたギーツは変身を解除し、不絵のところに行った。

 

「なん……ですか?」

 

「相手には申し訳ないが、衣服を剥いで拝見させてもらった」

 

「衣服!? 英寿何やってんの!?」

 

「仕方ないってやつだタイクーン」

 

「そ、それで……どう、でした?」

 

「安心しろ、薔薇の刺青は入っていなかった。しかし全員……鳥の刺青が入っていた。心当たりはあるか?」

 

「鳥……? いや……知りませんけど……私、娘ってだけで関わり無かったですから」

 

「そうか……しかしあの銃、俺にはあまり分からないが、組によって違うようなのか?」

 

「それも分かりません……父と叔父が持っていたものと同じだったってだけなので……」

 

「……そうか」

 

「おい! また人がいんぞ!」

 

「ま、ままままた銃撃ち込まれるのぉ!? い、いやぁぁああだよぉぉ!!」



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6話 開幕VI:2度目の襲撃

「銃を撃ってくる様子は無い……」

 

「よく見てみろ、何か喋ってるぞ」

 

「もしかしたら交渉の余地があるかもしれません! 私が!」

 

 大手を振って不絵がバスから出ようとするのを引き止める英寿。

 

「非戦闘員はバスの中で待ってろ、タイクーン、頼めるか?」

 

「もちろん!」

 

 景和はドライバーを外し、戦闘意思がないということを示しながらバス前方のドアに近づく。

 

「ッ、避けろ景和ッ!!」

 

 すると運転席にいた道長が怒声を上げる。

 

「え!?」

 

 道長はハンドルを限界まで切り、アクセルを全開にする。kUターンしたバスは車道を外れる。

 

「嘘だろ……」

 

「すまないタイクーン、失念だった」

 

「え?」

 

 会話をしている間にも撃ち込まれていく銃弾。

 

「クソッ、タイヤを撃たれた!」

 

「それでも走れバッファ! 出来るだけ遠くに!!」

 

「いつも無茶ばかり……クソギーツがぁっ!!」

 

 英寿の指示通りバスは遠くまで走るが、とうとうバランスを失って転けてしまう。しかしそれも想定内とばかりに変身していた仮面ライダーたちは不絵たちを連れて間一髪で外に出る。

 

「ナーゴ!」

 

「うん! わかってる!」

 

『MONSTER STRIKE!』

 

「はー、おりゃぁ!!」

 

 グローブが肥大化し、それでバスを殴り飛ばす。

 

「これで奴らが追ってくることも当分はないだろう」

 

「でも……私たちの移動手段、なくなっちゃったね……」

 

「あぁ……誰か、この辺りに土地勘があるやつは」

 

「……」

 

 英寿の問いかけに、帰ってくるのは沈黙のみ。

 

「あ……!」

 

 何かを発見したのか、ミカが歩き出す。その方向にあるのは小さなリュック。

 

「あの中になにか入っているのか……?」

 

「あった……!」

 

 中にあるものが入っているのを見つけたミカはそれを持って皆の元へと戻る。

 

「これは……ガイドブックか?」

 

「はい……! 観光地なのであるかと……、それにあのリュック、子供用のっぽかったですから……」

 

「……そうか。助かった、ミカ。よし、ここの近くにデカい宿泊施設……アイランドマークってのがあるようだな。そこまでお前ら、歩けるか?」

 

「い、いやむむむむりですぅぅうう!!」

 

「あぁ?」

 

 ほたるの狼狽える声に、毛糸が呆れた声を漏らす。

 

「また喧嘩か? まずは理由を聞くところからだろ?」

 

「ちっ……」

 

「み、みみみ道の途中に襲撃を受けない保証なんてないじゃないかぁ!」

 

「あぁ、そうだな。だが俺たちが着いてる。戦えるやつが4人もいるんだ」

 

「ちょっと待てギーツ、俺もか?」

 

「違うのかバッファ、お前はこんなにいたいけな少女を見捨てるって言うのか?」

 

「……そんなことは言ってない」

 

「ならよかったよ。それでほたる、他に理由は?」

 

「し、しししかも怪我人だっているんだよぉ!?」

 

「あぁ、まにか、だっけか。そいつは俺たちが背負う。安心しろ」

 

「で、ででででもぉ!!」

 

「────お前、何かと理由をつけて行きたくねぇだけだろうが。ここにいてもいずれ食料が尽きるかゾンビに食われて死ぬだけだろうが」

 

「ケイちゃんっ」

 

「毛糸の言うことも的を得ている。だが誰だって勇敢なわけじゃない、勇気と無謀をはき違えるよりかは、臆病すぎるくらいが丁度いい」

 

「え……? じゃあこのまま────」

 

「────アイランドマークに向かう、それでいいな?」

 

 その声に、ほたる以外の全員が承諾の意を示す。

 

「えっ……」

 

「行きたくないやつは残って、行きたいやつだけで行く」

 

「そんなぁ……な、なら行くよ僕もぉ!!」

 

「……ふっ、よく言った」

 

 英寿は笑みを零し、振り返る。

 

「さぁ、ハイライトだ」

 

『READY FIGHT!』



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7話 開幕VII:新たな生存者

「武装を解除し、両手を上げろ! さもなくば────撃つ」

 

 半日程度かけてようやく英寿たちはホテルに辿り着いたのだが、入口にいた銃を持った女たちに止められる。

 

「はぁ? どういう両分だそりゃあ」

 

「……タイクーン、ナーゴ、バッファ念の為────」

 

 英寿は変身を解除し、景和たちに念の為ドライバーは隠しておけという指示を出した。

 

「……何コソコソ話してんのよ! いいか!? これから10秒猶予を与える! それまでに────」

 

「私たちに戦闘の意思はありません! 私たちは逃げてきただけなんです!」

 

 不絵が先陣を切って皆の前に立つ。

 

「はぁ? 闇討ちしておいて良くもぬけぬけとそんなこと……」

 

「闇討ちだと?」

 

(勘違いをしているのか……?)

 

「俺たちは逃げてきただけだ、疑う必要は無いだろ? 武装も解除したんだからな」

 

「男っ……!? まぁいいわ、だったらあなた達全員の持っている武器や物資を全て寄こしなさい!」

 

「坂島さんいいんすか!? ぶっ殺さなくて! こいつらもヤクザの仲間かもしんないんすよ!?」

 

「……安心して、物資を奪ったらすぐに殺すから」

 

「……」

 

「どうするんですか英寿さぁん」

 

 考え込む英寿の顔をミカが覗き込む。

 

「埒があかねぇ、こうなったら相打ち覚悟でやるしか……」

 

「ケイちゃん、馬鹿なことはやめて」

 

「あなた達! 私に内密で何をやっているの!」

 

 と、ビルの中から1人の女が出てくる。

 

「し、泗水さん……」

 

「ごめんね私の仲間が余計なことして」

 

「じゃあ────」

 

 ここに避難させてくれるんですか? と景和が言いかけたところを泗水けふこは遮る。

 

「でもごめん、あなたたちを無償で引き受けることは出来ないの」

 

「無償? どういうことだ」

 

「1番前に立ってるそこのあなた」

 

「私……ですか?」

 

「えぇ、貴方、私荷前組の一人娘、私荷前不絵さんよね?」

 

(まずいな……)

 

「え、はい……」

 

「あいつがあのヤクザの!?」

 

「だったら殺しちまいましょうよ泗水さん!」

 

「いいえ、"まだ"です」

 

「は? あぁ、そういうことっすね」

 

「ということであなた達は持っている武装、物資を全てこちらに明け渡しなさい。そうしたらここに避難させてあげる」

 

「……。わかった、そっちの要求通りにしよう」

 

「ちっ、こいつらの指示に従うのは癪だが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「こちらにはけ、怪我人が、います……だからもう少しゆっくり」

 

「あぁ? ヤクザが口出しすんじゃねぇよ」

 

「……」

 

(想像以上に風当たりは悪そうだな……)

 

「い、いいじゃないですか、ようやく避難場所が見つかったんだからさぁ」

 

「そうは言ってられないんだよほたるちゃん、いつこの人たちが俺たちに牙を向けてくるかわかんないから」

 

「えぇ!? そ、そそそそんな……」

 

「そこ!! うるさいぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 ホテルの中に入った英寿たちを待っていたのは、多数の人間による罵詈雑言だった。ヤクザの娘と一緒にいるんだからお前らもヤクザだろ、やヤクザは出ていけ、など。これまでそういう奴らの集まり『アドモス』にやられたことをやり返すかのようにやりたい放題やっていた。

 

「怪我人がいるんです! だからまずは廻栖乃さんを……安全なところに」

 

「怪我ぁ? ……おいおいおい感染してんじゃねぇのかそいつ」

 

「もう迷惑なんだよテメェらは! 出ていけ!」

 

「……耐えろバッファ」

 

 遂には石を投げられるに至った彼ら、道長は思わず動き出すが、それを英寿が止める。

 

「やめなさいと言っているでしょう! あなた達!」

 

「ふっ、リーダー様のお出ましだ」

 

 なんて、英寿が呟いた。

 

「泗水さん!」

 

「ごめんなさいね、こちらもやらなければいけないことが沢山あって……」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「そう、ならよかったわ、まずは着いてきてちょうだい」

 

「……あぁ、わかった」

 

 着いたのはふたつの部屋。

 

「こっちが男子用で、こっちが女子用、わかった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「俺たち、本当にここに来てよかったのかな……」

 

「心配いらないさタイクーン、もし本当に危なくなったらこいつを使えばいい」

 

「それって……」



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8話 開幕VIII:口減らし

 数日後、怪我人と救護班を除く彼らはエントランスに呼び出された。

 

「これよりあなた達には投下されるコンテナの回収に行ってきてもらいます」

 

「……」

 

「それって……確かコンテナはアドモスとやらが守ってるんでしたよね?」

 

「えぇ、だからよ。あなた達には私たちを闇討ちした疑いと、ヤクザであるという疑いが掛かっている。これでコンテナを持って帰ってきたらあなた達の疑いも晴れるわ」

 

「ちっ……体のいい口減らしじゃねぇか」

 

「道長くん……。だ、だったらそのバックルを返してくれませんか?」

 

 そう言って景和は泗水の持っているレイズバックルを指差す。

 

「ごめん、それは出来ないわ。これは物資補給の意味もあるけど、あなた達の疑いを晴らす意味の方が大きいから」

 

「そうか、なら仕方ないな」

 

 英寿は呆れたような声を出し、皆を連れて外に出る。

 

「英寿さんっ、どうするんですか! あの強いやつになれなかったら私たち絶対殺されちゃいますよ!」

 

 外に出ていきなり、ミカは英寿に泣きついた。

 

「あぁ、エントリーは防御力も攻撃力もロクにないからな」

 

「何も考え無しに来たわけじゃないよね? 英寿」

 

「あぁ、秘策がある。なぁタイクーン?」

 

「うん……!」

 

「秘策……?」

 

「まだお前らには明かせないがな」

 

「でも、歩いていけってのも酷いよね……私たちあの数日間、ろくに食べ物も食べてないんだからさ」

 

 そう呟くミカも含め、全員かなり腹が減っていた。

 

「だから行かせたんだろうよ。口減らしと、ついでにヤクザとやらを1人でも多く殺すために」

 

「酷いよね……なんでそんなこと……」

 

「人間、極限状態に陥れば誰だってそうさ、タイクーン、世界平和を願ってるお前だってな」

 

「俺も……」

 

「もう皆! 辛気臭いよ! もっと明るい話しようよ!」

 

 そんな祢音をきっかけに、彼らの会話は明るい話題に変わっていった。好きなタイプは? とか付き合った数は? などの所謂女子トーク、学校は楽しかった? や趣味は? などの他愛もない世間話など。

 

「ちっ、こんな会話して何になるって言うんだよ」

 

「そうスカしてないで道長も参加しようよ! 暇でしょ?」

 

 道長が口を開く瞬間、英寿が何かを発見したようなことを言った。

 

「おっと、着いたみたいだぞ。とは言ってもゾンビじゃなくて人が、群がってるみたいだけどな」

 

「……やっぱり」

 

「ゾンビは噛まれたらマズイが、対人ならエントリーでも……」

 

『デザイアドライバー』

 

「変身」

 

『ENTRY』

 

 4人は全身が真っ黒の仮面ライダーに変身し、人間たちを全員無力化する。しかし……。

 

「ゾンビ……にしては大きすぎんぞ」

 

 それは変異種、身体のDNAが異常に増殖し、一部が異様なほど肥大化したゾンビ。

 

「クソッ……!」

 

「なら今こそ、あいつを使う時だな」

 

「何だと?」




これの原作の続きはかれこれ2,3年は更新されてません。どうしましょうか。とりあえずハルノート編は一旦ここで更新停止です。ギーツ最終話とハルノート更新、どっちが先でしょうか。ギーツ最終話でしょうね。


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9話 開幕IX:お願い、カミサマ

 窮地に陥った仮面ライダー達。そしてミカ達に怪物の魔の手が迫るとき、英寿の体が変化する。

 

「助けて……!」

 

「叶えてやるよ、その願い」

 

『BOOST Mk-II READY FIGHT!』

 

 そう、彼女たちの生きたいと渇望する願いの力が英寿に創世の力を取り戻させたのだ。

 

「さぁ、ここからがハイライトだ」

 

 真紅の狐が誕生、超高速移動で変異種を圧倒する。がしかし、決定打がないため、死ぬ前に再生されてしまう。打つ手はない……。

 

「と、言うとでも思ったか?」

 

『REVOLVE ON!』

 

 ギーツはベルトを回転、すると体の上下が反転し、四足歩行の狐になった。彼は変異種の周囲を何度も何度も周回し、次第に炎の渦が出来上がっていく。ギーツはもう一度ベルトを回転させ、人型に戻る。

 

「派手に打ち上げといくかぁ!」

 

『BOOST STRIKE!』

 

 レイズバックルのハンドルを回転、手足のエンジン部から噴射された炎が空に彩りを与える。天高く飛び上がったギーツは変異種に猛スピードで落ちていき蹴りを食らわせる。

 

「はぁああああああ!!!!」

 

 変異種を倒した彼らだったが、奪われたバックルを取り戻さなければならない。その為にも……。

 

「な、なんだよギーツ。俺の顔見て」

 

「お前の分のバックルくらいは創れる。俺がアイツらの拠点行く間、お前がコイツらの面倒見てやってくれ。子供の相手すんの得意だろ? お前」

 

「ちっ……命令すんな。言われなくても」

 

 そう言うと道長は乱暴げにゾンビバックルを英寿の手から受け取る、ベルトに装着し変身する。

 

「変身!」

 

『ZOMBIE!』

 

「お前ら、勝手に動くんじゃねぇぞ!」

 

 そして、ギーツはバイクの『ブーストライカー』を呼び出し泗水達のホテルへと向かった。その間にバッファは近寄ってくるゾンビをチェンソーで切り裂いていく。更にゾンビブレイカーの取っ手をスライドさせ毒を貯める。

 

『POISON CHARGE!』

 

「オラァッ!!」

 

『TACTICAL BREAKE!』

 

「ねぇバッファローさん!!」

 

「あぁ!? なんだよ!!」

 

 集中していた時に話しかけられたのもあり、彼は怒鳴りながら答える。

 

「バッファローさんのベルト、ゾンビって鳴ってましたけどなんで意識あるんですか〜?」

 

「ちがっ、俺のはそういうバックルってだけだ。関係ねぇよ」

 

「あぁ〜よかったぁ〜。見た目も怖いし、もしかしたら襲ってくるかもーとか話し合ってたんですよ」

 

「ずっと!? 俺が戦ってる間もか!?」

 

 一方その頃、ギーツこと英寿はレイズバックルを華麗に盗み取ったのであった。



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第二部 そして時は、繰り返す。
第24話 絶望の世界、再び。


 ────繰り返した先にあるのは、希望か絶望か

 

 第二部 そして時は、繰り返す

 

 

 

 

 

「うううぅぅぅ……」

 

 どこか見覚えのある化け物が数体、俺の声に反応したのか、唸り声を上げながら近づいてきた。

 

「嘘だろおい……」

 

 こりゃまるで俺が初めて転移した世界にそっくりじゃねぇか……。

 

「どんだけファンタジーなんだよ!!」

 

 しかも遠くを見渡しても聖剣は見当たらない。

 

「つまり俺一人で頑張れってことね……」

 

 俺は剣の腕は磨いていたが、ステゴロは得意じゃない。だがここで突っ立っていたら死ぬだけだ。

 

「俺は絶対に、死なない……! はぁぁああああ!!」

 

 俺はまず一番近くに寄ってきていたゾンビの頭を蹴り飛ばす。だが吹っ飛ばされた直後にすぐ起き上がった。

 

「チッ……」

 

 無理だと悟った俺は逃走の体勢に入る。その瞬間、俺の頬を弾丸が掠めた。

 

「ヒッ……」

 

「ちょっち! 大丈夫かいお嬢ちゃん! あたしらが来たからには、もう自殺なんてさせねいぜぃ!」

 

 は? 

 

「アドさん……?」

 

 一体何が起こってるんだ……? 目の前の女性……いやアドは何言ってるんだ? そしてこの状況……。"あの時"は師匠が助けてくれたはず……。意味がわからない……。

 

「……!?」

 

 目の前のアド? は驚いたような顔をした。まずい、バレた場合にどうなるかを考えていなかった。迂闊だった。

 

「あ、どうも〜」

 

「まぁいいや! 早く立って! 逃げるよ!」

 

 アドに連れられて恐らくポートラルの拠点であるデパートに向かっていた、その最中。

 

「あっ……」

 

 あった。聖剣が。

 

「ちょっとまっててください!」

 

 そう言って俺は聖剣を手に取った。間違いない。癒封剣波癒だ。

 

「ん? なにそれ?」

 

「あぁ、昔ちょっとな」

 

 そんな感じで話しているといつの間にか目的地であるデパートに辿り着いていた。アドは会議室へと俺を案内する。

 

「やぁやぁ、敬愛するポートラルの諸君、今日集まってもらったのは他でもない。本日も大収穫があるんですぜぃ! 聞いて驚くなかれの3、2、1──ババン!!!!」

 

「男だッ!!!」

 

 一緒か……。

 

「なっ……ななななななんだってッ!?!??!」

 

「ほ、本物の……男かよ……」

 

 俺の身体をまじまじと見てくる栗子。

 

「正真正銘の男子ですぜリッちゃん。日々宮通りで捨てられてたから拾ったの」

 

「捨てられてないだろ! てか戦ってただろ!」

 

 ……てか、ここにも来栖崎いないのか……。

 

「……しゃべった」

 

 しゃべったじゃないよ? 俺は天然記念物じゃないんだよ? 

 

「また樽神名の笑えねぇ冗談かこりゃ……? 男にゃ免疫がねぇはずだろ?」

 

 そういえばその謎まだ解けてないよな……。まさかあれか? 1周目は絶対バッドエンドでそっからやり直すネクロネシアみたいな感じ? 

 

「仮説であり定説ではなかったということですね……」

 

「はぁ……男見るだけでここまで感動する日が来ようとはなぁ……」

 

「それで、少年さん」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「申し遅れましたが私の名前は百喰恵です。初対面で失礼ですが、いくつか質問しても構いませんか?」

 

「あぁ、いいですよ」

 

「ではまず最初に、感染せずにいられた心当たりなどはありますか?」

 

 あ、やべ。それ知らないじゃんまだ。

 

「すみません……知らないです……」

 

「わからない? ではどこにいたのですか?」

 

「起きたらあの場所にいて、そこからはゾンビと戦ってました」

 

「ご職業は?」

 

「高校生でした!」

 

「ご趣味は?」

 

「えっと……まぁ一応、運動です」

 

 特撮が趣味なんだから一応嘘は言ってない……よな? 

 

「出身地は?」

 

「日本です!」

 

「名前は?」

 

「神川賢人です!」

 

「とても快活ですね……」

 

「あはは、よく言われます!」

 

「しかし、初対面である私たちにそれほどまで話してくれるとは、うれしいものだね」

 

 あれ、もしかして礼音さんに疑われてる……? 

 

「っとすまない。自己紹介を忘れてしまった。私の名前は三静寂礼音。『戦闘班』で狙撃手をやらせてもらっている」

 

 あ、出た戦闘班。

 

「戦闘班?」

 

「この中央会議室にいるメンバーの通称だよ。まぁ、ポートラルの代表として戦える人間を集めて、デパート外活動要員として気張らせてもらっている」

 

 こうすることで戦闘班に関する情報を得ることが出来、そして加入フラグを立てることができます。なので態々聞く必要があったんですね。なんてRTAは置いといて。

 

「じゃあ入らせてもらっていいですか!」

 

「およ? 入りたいのかな?」

 

 そう言ってるんだけど……。

 

「よし少年! いやケンティー! よく言った!」

 

「ありがとうございます!」

 

 ────と、いうことで無事にポートラルに加入することが出来た賢人だった。そしてその夜、彼の部屋を人知れず訪れた黒髪の長髪少女……。

 

「真司……」

 

 



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第25章 そしてページは、開かれる。

「おはようつづ……あぁ、いないんだったな」

 

 さてと、今日が始まってしまったな。んで? 今日はなんの日だっけ。

 

「んじゃ、とりあえずだ。聖剣を振りに行こう」

 

 俺は誰にも見つからないようにこっそり外に出た。

 

『聖剣ソードライバー』

 

 よし、ベルトにはなるな。あとはライドブックなんだけど……。って。

 

「嘘だろ!?」

 

 目の前にとてもグロテスクな見た目をした怪物が現れた。……多分メギドだよなあれ……。

 

「ちっ、こうなったらやるしかねぇ! 変身!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

 賢人は白い装甲を纏った白銀の剣士、ヴァルキュアにその姿を変え、目の前に迫ってきていたピラニアメギドへと戦闘を仕掛けた。

 

(ちっ、こんなこと前にはなかったよな……? てかなんでこの世界にメギドがいるんだよ!)

 

「はぁッ!!」

 

 だがその剣戟はメギドの驚異的な跳躍によって躱されてしまう。

 

「だが、そんなこと百も承知なんだよっ!!」

 

 空から奇襲を仕掛けるメギド、その斬撃がヴァルキュアの装甲に当たるその直前。

 

『エナジーユニコーン』

 

 ベルトに装填されたライドブックのページをタップし、神獣エナジーユニコーンが出現する。それはヴァルキュアを瞬時に背中に乗せ、飛び立った。

 

「これで終わりだっ!!」

 

『必冊読破! ユニコーン一冊撃! キュア!』

 

 ヴァルキュアは天から蹴りを繰り出した。

 

「一角蹴烈破! はぁあああ!」

 

 それがメギドに当たった瞬間、爆発四散した。

 

「……でもさぁこれ、アルターブック壊してないからまだ復活するんだよな……」

 

 俺はメギドの体内にあったライドブック……これはジャッ君か……。それを拾い、変身を解除する。流石にあれほどの爆発の音がしたんだ、みんな慌てて出てきてしまった。

 

「ケンティー!?」

 

「神川くん!?」

 

 まずいなぁ……。俺は慌ててベルトとブックを懐に隠し、平然を装う。

 

「ん? なんですか?」

 

「いや、先程大きな音が聞こえたものだから……。まさか君がいるとは思わなかったよ。それで君は一体こんな朝早くに外に出て何をしていたんだ?」

 

 流石にあんなメギドとか仮面ライダーとかの荒唐無稽な話、信じてもらえるわけないし、とりあえず特訓してた、とでも言っておこう。あながち間違ってないしな。

 

「ちょっと特訓というか…。この剣でゾンビを倒してました」

 

「そうか……。だが、外は危険だ。これからは一人での外出は控えるように」

 

「あ、はい!」

 

 礼音に叱られてしまったのは悲しいが、まぁいいでしょう。

 

「あ、それとケンティー! 今日は生存組合『メルター』との会合があるんだよ! 今回はヒサギンと行こうと思ってるんだけどさ! ケンティーも行く?」

 

「んー……どうしよっかな……」

 

 流石に面識ないしやめとくか。

 

「すみません。今回はやめておきます」

 

「ん、そっか。じゃあケンティーは自室謹慎だ! なんつって」

 

「謹慎って」

 

 俺は笑いながらそう返事し、ひとまずデパートへと戻った。

 

「つかよぉ賢人」

 

「え? なんですか姫片さん」

 

「んな改まった呼び方じゃなくていいんだけどよぉ、って、んなこたァいいんだ。てめぇ昨日の夜、部屋に誰か入ってきた記憶はねぇか?」

 

「え? 部屋って、もしかして寝てるとこ……ですか?」

 

「あぁそうだ。って、その様子だと知らなさそうだな。じゃあなんでもない。じゃあな」

 

 ……? なんだったんだろう。てか栗子さんと話すのほぼ初めてな気がする……。そんなことを思いながら2人が帰ってくるのを待っている最中……。

 

『アリかキリギリス!』

 

 どこか遠くから、そんな声がした気がした。

 

「気のせい、か……?」

 

「ん? どしたんだ神川くん」

 

「あ、いえなんでも」

 

 気の所為だといいんだけど……。そう思いふと窓の外に目をやると、巨大なアリの軍団が、見えた。

 

「気のせいじゃない!」

 

 もう一度目をこすって見てみるが、目に映る景色に変わりはない。いやむしろアリが増えている気がする……。

 

「こうしちゃあいられない!」

 

 会議室のドアを開けて外に飛び出そうとするが、誰かに方を掴まれた。

 

「誰だ!?」

 

「いけませんねぇ。そう急いでは転んでしまいますよぉ?」

 

「ストリウスか!?」

 

 いや違う! 俺の知ってるストリウスは飛羽真さんに浄化された! 

 

「誰ですか? ストリウスとは。私の名前はストボロスですよ」

 

「申し訳ないが今はお前に構ってる暇はない! そのアルターブックを置いてさっさと出ていけ!」

 

「出ていけとは随分と横暴ですねぇ。せっかく二人で話しあえると思って他の者を眠らせたのに」

 

 そう言えばさっきから静かだったことに気づいた俺は急いで当たりを見渡した。……よし、まだ息はある、多分。

 

「だったら後にするんだな! 今はアイツを倒すのが最優先だ!」

 

「おやぁ? こちらには人質がいることをお忘れですか? 先程言ったばかりなのに」

 

「ッ……。わかった」

 

「ではまずおひとつお聞かせ願えないでしょうか? これに答えて下さり、私の納得する答えが出ればこのブックを渡しますので」

 

「……なんだ。早く言え」

 

「言葉遣いが荒いですねぇ……。何故あなたは出会って一日程度の彼女たちにそこまで入れ込むのですか? 聖剣、そして仮面ライダーという強大な力があればそのまま逃げても良かったはずなのに」

 

「……そんなの、言うまでもない。俺が剣士だからだ。……救ってもらえばその恩には必ず酬いる。そして最後にひとつ、訂正をさせてくれ。出会って一日程度なんて短いもんじゃ、決してないぜ!」

 

「ほぅ……流石私の最高傑作……」

 

「ん? 今なんて……」

 

「では約束通りこれを」

 

 そう言ってストボロス? はアリかキリギリスアルターブックを差し出した。

 

「本当、だったのか……?」

 

「当たり前ですよ。私は私の"意思"を、貫くだけですから。では私はこれで」

 

 そう言って奴は煙となって消えた。……意思。富加宮賢人みたいだなこいつ。

 

「とりあえずこいつは壊して、っと」

 

 癒封剣でアルターブックを貫くが、アリの大軍の勢いは止まることを知らない様子。

 

「やっぱそう都合よくはいかないよな……!!」

 

 丁度いい。彼女らも眠ってるし、あれを倒すのが先決だ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

「どういうことだストボロス! なぜヴァルキュアにブックを渡した! 俺たちの"使命"を忘れたのか!」

 

 彼は動物のメギド、ズモン。

 

「はっ、いいじゃないかズモン。あいつの好きにやらせておけば。それが俺たち三人の、"約束"だろ?」

 

 そして彼は幻獣のメギド、レジビル。彼らは共謀し、この世界とワンダーワールドを、繋げようとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

「はぁ、はぁ、はぁ、あやっと着いた……」

 

 遠い。遠すぎる。

 

「だがアリメギド。お前はもう復活できないからな! 変身!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

「よし、さっき手に入れたブック、早速使ってみるか!」

 

『ジャッ君と土豆の木』

 

『〜とある少年がふと手に入れたお豆が巨大な木となる不思議な話〜』

 

 ブックの表紙を開き、本の力を解放し、ソードライバーの物語のスロットに填める。

 

『波癒抜刀! 二冊の本を重ねし時、聖なる剣に力が宿る ワンダーライダー! ユニコーン! ジャックと豆の木! 二つの属性を備えし刃が、研ぎ澄まされる!』

 

 俺はページをプッシュし、豆の種をアリたちに当てる。

 

「へっ、効いてねぇよ!」

 

 なんてメギドがほざいてるけど、ジャッ君の本領はここからだ。バリィ、バリバリバリィ! とアリの体内を突き破って生えてくる巨大な豆の木。

 

「ば、バカな! だがなぁ、こっちにはまだ────」

 

 メギドがそんなことを言っているうちに俺は素早く近寄る。

 

「もう遅せぇよ。バーカ」

 

『二冊斬り! キュア!』

 

 そして、予め奴の足元に発射しておいた豆が巨大な木となり、アリは宙へ投げ出される。すかさず俺は飛び上がり、木ごとやつの体を真っ二つに切り裂いた。

 

「たぁぁあああ!」

 

 ……っと、よし。

 

「……たまにはカッコつけんのも、悪くないよね。って、やばいやばい! 早く帰らないとみんな起きちゃうって!」




一応言っておくと、ストーリー+ディアボロス(悪魔)でストボロス
ズー(動物)+デモン(悪魔)でズモン
レジェンド+デビル(悪魔)でレジビルです!!


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第26章 深まる謎、迫る暗雲。

「起きてください! 栗子さん! やちるちゃん! 礼音さん! 百喰さん!」

 

 デパートへと戻った俺はひとまず散らかってしまった部屋を片付けてからみんなを起こした。

 

「んっ……な、んだ? なんで寝てんだ?」

 

「よかった……」

 

「なぜ私たちは寝ていたんだ?」

 

「ん? いやちょっと……別に大したことはありませんけど……」

 

「……お前、なんか嘘ついてんだろ」

 

「え!? な、なななに!? 嘘なんてついてないよ!?」

 

 正直、話したくてたまらない。でもさぁ、一応初対面だし……。

 

「……あの二人が帰ってきてから話します」

 

 まぁ結構重要な事だしね。……とりあえず待ってる間にまとめておかないといけないことあるんだ。まず仮面ライダーセイバーの世界とここじゃない、俺が初めて師匠や綴と会った世界の繋がりについて。あの時俺は、確か変身することで頭いっぱいだったんだよな……。

 

『ほら肘曲げない!』

 

『力入れて!』

 

 なんて、師匠に怒られてたっけな……。って、違う違う。で、それでみんなが別の世界に飛ばされたってなった時に俺はクウガの世界、SAOの世界って行ったんだ。

 

……確かにどっちも創作の世界だな……じゃあその理屈で言うとこの世界の内容もどっか別の世界ではゲームや、アニメで大衆に知られてたりするのかな? そして次に疑問なのが何故、この世界ではメギドが出現するのか。あの時はメギドどころか富加宮賢人だって元の世界から来ていたのに。何故今回は見たことの無いメギドがいるのか。そんなことを考えていると快活なアドの声が聞こえてきた。

 

「たっだいまー! みんなー? ちゅうーもーく! 帰ってきて早々、大ニュースでーす!! みんな聞いて驚くなかれの3 2 1ババン!!」

 

 えっ……? 

 

「男だッ!!」

 

「な、なななななんだって!」

 

 え、ちょ待て。落ち着け。どういうこと? 前は男俺だけだったよね。てかめっっっっちゃイケメンじゃね? は? もう俺の立場ないんだが。

 

「二人目……ですか。では少年さん。申し遅れましたが私の名前は百喰恵。いくつか質問よろしいでしょうか」

 

 え、なんか適当じゃない? 

 

「え、は、はい」

 

「ではまず最初に、感染せずにいられた心当たりなどはありますか?」

 

 俺と一緒の質問か? 

 

「あぁ……。すみません。わからないです……」

 

「わからない? ではどこにいたのですか?」

 

「わからないです……、気がついたら……」

 

「ご職業は?」

 

「すみません、忘れました……」

 

「ご趣味は?」

 

「……わからないです」

 

「出身地は?」

 

「忘れました……」

 

「名前は?」

 

「えっと……」

 

 バキッ、と。百喰さんが持っていたボールペンをへし折った。

 

「ヒッ……」

 

 思わず声にならない悲鳴を上げてしまった。

 

「も、百喰さん落ち着いて……」

 

「ッ……まぁいいでしょう。では次に神川さん。あなたが隠していた"秘密"とやらを教えて貰えますか?」

 

「……あ、そっか」

 

「およ? あたしたちが行ってる間に何かあったのかにゃ?」

 

「ええ、彼が急に立ち上がって外を見たかと思ったら次には私たちは彼に起こされていたんです」

 

 ……説明が下手じゃないか? 

 

「……まぁ、百喰さんの説明が下手なんで。俺から説明させてもらいます。まずは前提条件から」

 

 俺はソードライバーとライドブックを取り出して、みんなに見せる。

 

「俺はこのベルトと本で、仮面ライダーっていうのに姿を変えられるんです」

 

『エナジーユニコーン!』

 

「それで、この本を悪用してこの世界と、ワンダーワールドっていう異世界を繋げようとしているのがメギドっていう悪者なんです。では次にアドさんたちが帰るまでの間何があったか話しますね」

 

「……す、少し待ってくれないか? 一応整理して纏めておきたい」

 

 新入り君(名前不詳)がそう言ってきたので1回話を止め、変身を解除する。

 

「……よし、大体わかった。つまり簡単に言うとその……君が」

 

「神川賢人です!」

 

「賢人があの装甲を身に纏って、メギドっていう化け物と戦ってるってことでいいんだよな?」

 

「はい。そうです」

 

 てか初っ端から呼び捨てかよ! って、そんなことはどうでもいいな。

 

「それで、その怪物が現れた気がしたんで窓を見たんです。そしたら結構遠くにアリの大軍のメギドがいて、慌てて外に出ようとしたら、人間に化けたメギドに足止めされてたんです。皆はその人間に化けたメギドに眠らされてたって訳です」

 

「……ふむ。それで、そのアリの怪物は倒せたのか?」

 

「えぇ、はい。もちろん。それでこの本、ワンダーライドブックって言うんですけど、それもゲットしました」

 

「……ほう。では寝ている私たちを置いて、その怪物を倒しに行ったと」

 

「……はは、なんかトゲのある言い方だな。……まぁ、そういったふうに捉えられても仕方の無いことはしましたけど」

 

「実際そうしたということで、よろしいですか?」

 

「いや、俺としてはあなたたちなら大丈夫かなと思ったんです。入口にもバリケードはありますし、寝ていたのは4階でしたし、まだ戦える人がいるのは知ってましたから」

 

 っていうのは嘘で普通にメギド倒さなきゃやばいから後先考えずに外出たんだけどな。

 

「……まぁ、いいでしょう」

 

「ねーモグッチー。ケンティーに突っかかるのやめようよー」

 

 いやぁ、前はこんなこと無かったんだけどね。ともあれ、以前とは全く異なった男の登場により予想外の展開が起きそうな予感。でもまぁ、この人悪い人じゃなさそうだし、何とかいきそうな感じするよ! ……って俺、誰に話しかけてんだ? まいっか。



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第27章 秘密の血、発現す。

「はぁっ、はぁっ」

 

 今日も今日とてひとりぼっちで特訓ですよ。はい。

 

「それにしても一寸武士ねぇ……。確かアヴァロンに行く時にちょろっと出てたっけか。でも能力が分からないしな……。まぁいいか」

 

『一寸武士』

 

 ソードライバーにセットし、ページをタップする。すると腕から光が発せられて、それに当たった物体は小さくなってしまった。元ネタの曲解にも程があるだろこの能力。でもまぁ、結構汎用性高そうだし、やっぱ本って面白いな。そんなことを考えていると、

 

「ケンティー! 集まってー!!」

 

 上階の窓からアドさんが声をかけてきたので変身を解除する。すると小さくなった物体が元に戻った。

 

「はーい! わかりましたー!」

 

 早々に特訓を切り上げ、俺は会議室へと足を運んだ。

 

「さぁさぁさぁみなのしゅー集まったね! 今日は記念すべき第57回 珍味を探して東奔西走! 作戦の日だよ!」

 

「……?」

 

 隣で首を傾げている新入り君に耳打ちをする。

 

「アドさんのは適当だから。普通に食料を集めに行くだけだよ」

 

「……そうか。ありがとう」

 

「詳しい事は順を追って話します。というかそこの男二人! 話は聞いているのですか?」

 

「「え、あ、はい! もちろんです」」

 

 ……怖いなぁ相変わらず百喰さんは。

 

「……なんか音楽教師みたいだな」

 

「あ、あはは……」

 

 俺は笑いながら新入り君にコソコソ話をする。

 

「な、なんですって!」

 

「なんでもないですって! まぁでも、そうやって反応してくれるのは嬉しいですけどね」

 

「……ッ。まぁいいです」

 

 そこから礼音さんとアドさんと百喰さんによる結構長い作戦概要が伝えられたのだがこれは割愛する。

 

「……鍛えてきたかいがあったな!」

 

 だが新入り君は既に限界といった様子。まぁまだ走るんだけどね。そこで俺はアドさんに新入り君をコンテナの見張り係にして貰えないか確認することにした。

 

「いいっすか? それで」

 

「全然いいよ! じゃあアタシとヒサギンと新入り君とアヤネルでこのコンテナを見張ってるから後のメンバーはBのコンテナを確保しに行って!」

 

「はい!」

 

 俺は栗子さんとやちるちゃんと百喰さんの4人でBのコンテナの確保に向かった。

 

「てかさぁ栗子さん! 前から気になってたんだけど! やちるちゃんのその靴って中どんな構造になってるんですか!」

 

「へっ、それは企業秘密ってやつだ! ばらす訳には行かねぇな!」

 

「だったら勝手に分解しちゃいますよ!」

 

「……お前、それする覚悟、出来てんのか?」

 

 急にトーン低めにしないでくれないか栗子さん!? 

 

「じょ、冗談ですよ……栗子さん……ハハハ」

 

「だったらいいがな」

 

「勝手に私で争わないで欲しいのです」

 

「あなたたち! 喋ってないで! こっちに向かってくる個体がいます!」

 

「うおっ、まじかよ!」

 

 突然の事だったので反応しきれなかったが、それをカバーするように百喰さんが両手に携えた銃をゾンビに向けて撃つ。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「感謝してる暇があるならさっさと倒して────って後ろ!」

 

「あ、わかってますよ」

 

 俺は波癒を後ろにいたゾンビに突き刺す。

 

「えっ……」

 

「さっきは油断してたんですよ。すみません!」

 

「ちっ、あたしらの出番はなしかよ」

 

 そんなことを話しているとようやくBのコンテナを発見した。

 

「よし。ちょっと皆さん待ってて下さいね」

 

『一寸武士!』

 

『~とあるお椀に乗って候、川を下っていざさすらう〜』

 

 俺はユニコーンブックを抜き、一寸武士を差す。

 

『波癒抜刀! オールドストーリーライダー! 昔一冊! 昔話はさらなる力を剣に宿す!』

 

 そしてユニコーンブックを入れ直し、ページをプッシュする。

 

『一寸武士!』

 

 コンテナを小さくし、片手で持てる程度のサイズに調節する。

 

「よし、これで大丈夫」

 

「嘘だろおい……」

 

「質量保存の法則を無視している、です……」

 

「わけが分かりません……」

 

 まぁ仮面ライダーにそういう説明求めても意味無いしね。

 

「んじゃ、アドさんのとこに戻るろう!」

 

 別に急いでも仕方ないし、ゆっくり行くかぁー。

 

「────それでね、めっちゃ面白いことあって」

 

「あ、あああぁぁああ!!!」

 

「な、なんだ一体! っち、急ぐぞ!」

 

 俺は3人を小さくして手に載せる。とにかく早く駆けつけなければ! しかもあれ、新入り君の声だよな!? 色々な考えが頭をよぎる。

 

「新入り君!!! どうしたんだ!!! って、あ……」

 

 忘れていた。

 

「……。ごめんね。ヒサギン────」

 

「あっ、ちょ」

 

「待ってくれッ!!!」

 

 嘘だろ……? 新入り君は自分の指を師匠の刀で切り、その血を師匠に飲ませたのだ。

 

「え、まじで……?」

 

 なんども目をこすって再確認するが目に写っている光景に何ら変わりはない。いや、大胆だな。新入り君って。

 

「って、おいおいおい、嘘だろ……」

 

「感染痕が……消えて……いくです」

 

「有り得ません……」

 

「新入りくん……君は一体」

 

「思い出したんです」

 

 礼音さんの問いに新入り君は語り始めた。

 

「どうやら僕の血、いや、体液は感染に有効らしい」

 

 え、てことはいくら噛まれても新入り君がいれば大丈夫ってこと? まぁ俺の聖剣も似たような能力持ってるんだけどね。

 

 とまぁ、状況整理は後回しにして、俺たちは補給物資を持ってデパートへ帰っていった。

 

 ……あのさ、新入り君がこんなにヒーラーだったなんて知らなかったんだけど。なんで手際よく背中を切り裂かれた師匠を治せるんだよ。そして少し時間が経ち、前も経験したことのある師匠をここに置いておくか否かの会議が始まってしまった……。

 

「俺からも頼みます。しsy……来栖崎さんは新入り君の血を飲めば……だから頼みます」

 

「賢人……?」

 

 だから呼び捨てをやめろ新入り君。

 

「ですが────」

 

「大変です!」

 

 あーはいはい。師匠が脱走したんでしょ。知ってる知ってる。

 

「ど、どうしたのやちるん!?」

 

「バリケードが破られて、ゾンビが侵入してきました!」

 

「……は?」

 

 おいおいおい、聞いてないぞこんなこと。俺たちは急いでデパートの入口へと急いだ。

 

「まじかよ……」

 

 大量のゾンビが入り口に空いた大きな穴から侵入してくるのが見えた。

 

「バリケードに費用ケチるから……」

 

 やちるちゃんの言葉に俺は思わずアドさんに疑いの目を向ける。

 

「ふ、ひゅーひゅー」

 

 アドさんは顔を逸らして口笛を吹いて誤魔化すが、全く誤魔化しが効いてない。

 

「二人とも、今はふざけている場合ではありません」

 

「更なる侵入を防ぐ、ゾンビの殲滅、バリケードの修復……やることが多いな……」

 

 礼音さんの冷静な分析。

 

「うーん、こりゃ上から指示する人が必要そうだね……」

 

「……あの、僕に任せてくれないか?」

 

「うん、任せたよ!」

 

 新入り君の言葉にアドさんは迷いなく快活な笑顔で任せた。

 

「ありがとうございますっ! みなさん聞いてください! バリケードを直したいのは山々ですがとりあえず内部のゾンビを減らさないと話になりません! 礼音さんは階段付近の警護!」

 

「心得たッ!」

 

 礼音さんは持ち前の弓の腕で正確にゾンビを撃ち抜いていく。

 

「他のみんなは殲滅を開始してください!」

 

「「OK!」」

 

『エナジーユニコーン!』

 

「変身!」

 

 閉所のため、周りに被害を出さないように最小限の動きで俺はゾンビを切り伏せていく。

 

「内部のゾンビの掃討は十分です! あとは百喰さんに任せて、アドはバリケードの修復を! 豹藤と姫片さん、そして賢人は外に出てゾンビの新たな侵入を食い止めてください!」

 

 ……若干私怨入ってね? 百喰さんにちょっと恨み入ってね? 絶対そうだよね。一人にさせるって。まぁ百喰さんなら何とかなりそうだからいいけど。俺たち3人は外に出てゾンビの大群を相手取る。

 

『ジャッ君と土豆の木』

 

『波癒抜刀! ワンダーライダー!』

 

 俺は豆を地面に打ち、ゾンビを通さない為の擬似的な壁を作り出す。

 

「……ッ、これじゃあ限界です! 姫片さんとやちるちゃん、俺が食い止めてる間にこの中のゾンビを片付けてください!」

 

「了解、です」

 

「わーったよ!」

 

 栗子は得物である大鎌を巧みに扱い、その鎌が重いものであると思わせない程の身軽な身のこなしで風さえも切り裂く斬撃でゾンビたちを掻っ切っていく。

 

 

そしてやちるは足に装着した反重力シューズ、そして生まれつき備えていた類まれなるスケートの才能が組み合わさり、駆けているのがアスファルトとは思わせないくらい滑らかな動きで地面を駆けていく。

 

「終わったぞ賢人!」

 

 ようやく終わったか……。こんなに疲れるんだな、ライドブックの力を使いこなすのって。俺がジャッ君のブックを抜くと、周りに生えていた巨木が消える。

 

「こっちも修復済んだよケンティー!」

 

「わかった!」

 

『一寸武士』

 

「ウォッッテオマエ、マタヤルノカヨ!」

 

「フフク、デス」

 

 2人を小さくして手の平に乗せ、2階の窓からデパート内に侵入する。

 

「……ふぅ、ごめんごめん。2人とも。とりあえず下に行くぞ」

 

「待ってたよケンティー! ね、サンちゃん!」

 

「ん? なんだそのサンちゃんって」

 

「あぁ、僕のこと、らしい」

 

「そ! 参謀職だからサンちゃん!」

 

 参謀? なにそれ。

 

「参謀がなにかという顔をしているな、神川くん。では私から説明しよう。参謀というのは人を支えてあれこれ策略を立てる人という意味だ。わかったかい?」

 

「あ、はい」

 

「じゃあサンくん! これからよろしく!」

 

 俺はサンくんに手を差し出し、握手を求める。

 

「……ありがとう」

 

 サンくんは少し自分に自信が無いかのように控えめに手を差し出す。

 

「ありがとうじゃなくて、これからよろしく、だぞ!」

 

「う、うん。これからよろしく────」

 

「きゃあああああ!」

 

 え? 突然、上の階から悲鳴が響き渡る。

 

「今の聞いた!?」

 

「ああ、女性の悲鳴、しかも上階からだ!!」

 

「と、とにかく急ごう!!」



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第28章 失われた仲間、記憶の中に。

「来栖崎さん! え、来栖崎さん!?」

 

 急いで悲鳴のした医務室へと行くと、今までほぼ絡みの無かった医務担当の蜂ノ巣やいとさんが、今まさに来栖崎さんに首を絞められていた。

 

「やめ────サンくん?」

 

 サンくんが俺の、ライドブックとベルトを構えかけようとする腕を抑えた。

 

「まだなんです! まだ完全にはなっていない! 僕の血を飲ませれば抑えられるッ! 殺さないでくださいッ!」

 

「当たり前だろ! 俺たちの仲間なんだから!」

 

「ど、どういうこと……」

 

『エナジーユニコーン ジャッ君と土豆の木』

 

「変身!」

 

『ワンダーライダー!』

 

 俺はジャッ君の力で蔦を出現させ、来栖崎さんの身体を抑える。

 

「君の血で回復できるんだろ! サンくん! だったら早く!」

 

「あ、ありがとう! わかった!」

 

 俺がそう言うとサンくんは急いで来栖崎の刀を使って自分自身の指を切り、その血を飲ませた。そして来栖崎さんは静かに口を開き、サンくんの腕から離した。

 

「来栖崎、僕たちがわかるか?」

 

「……わたし……いま、人間じゃ……なかった」

 

「……そうか」

 

 しかし、このまま終わるはずもなく、来栖崎さんの処遇を決める会議が行われてしまった。

 

「……俺は外に出とく」

 

 こういったギスギスした雰囲気は好きじゃないので、とりあえずデパートの外の見張りをしておくことにした。

 

『ピラニアのランチ』

 

 どこかからアルターブックを開く音がした。

 

「嘘だろおい……」

 

 仕方がない……。

 

「変身」

 

 俺はヴァルキュアに変身し、ピラニアメギドが現れるのを待つ。確かこの前は破壊出来なかったからな……今回こそ壊さないとな。

 

「ようやく会えたな白の剣士!!」

 

「えっ……うわ……」

 

 こいつも現れんのかよ……。ズオス……、だよな? 

 

「俺はズモン、てめぇらの世界とワンダーワールドを繋げるために、まずはてめぇをぶっ殺しに来た!」

 

「ふふふ、私もいますよぉ?」

 

「ちっ」

 

 ストボロスもいるじゃん……。

 

「なら……使うしか……」

 

 正直このライドブックには嫌な思い出しかないが、幹部が二体に普通のメギドが一体、手は抜いてられない。だが3冊のワンダーコンボ、使いこなせるのだろうか? いや、考えている暇はない! 

 

『ハンターナイトリザード!』

 

『命の聖水』

 

『〜とある不思議な水を巡る、王子の冒険譚〜』

 

「はぁぁあああああ!!」

 

 俺は思い切り力を込めて聖剣を引き抜く。

 

『波癒抜刀!』

 

「はぁああ、はぁッ!」

 

『戦火を巡る白き一角獣を、誰が呼ぶ スピニングユニコーン!! 波癒三冊! 白銀の剣が悪を浄化し、全てを癒す!』

 

「お前たちは、俺が倒すッ!」

 

「おもしれぇ、やってみろッ!」

 

 そう言って真っ先に飛び込んできたのはズモンと名乗った幹部メギド。しかし両手に携えた2本の蛮刀『グウヌ』『ジドラ』はヴァルキュアに届くことはなく、どちらも受け止められる。そしてその隙にと攻撃を仕掛けたピラニアメギドだったが、

 

『ハンターナイトリザード』

 

 ページをプッシュしたことによって現れたトカゲの神獣がそれを退け、更に追撃を加えてメギドを瀕死に追い込む。

 

『必殺読破! 波癒抜刀! ユニコーン リザード 命の水 3冊斬り!!』

 

「たぁぁああ!!」

 

 だがズモンたち幹部はピラニアメギドを盾にし、直撃を免れてしまった。

 

「ふふ、そろそろ引き際ですかねぇ」

 

「ちっ、2回戦はお預けだ、白の剣士!」

 

 そして彼らが退散した後、賢人は膝をつき、変身を解除してしまった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 まずい。ワンダーコンボは駄目だ。そう思い、疲れを癒すために地面で寝転んでいるとデパートの入口からサンくんと、その他に二人が出てきた。

 

「あれ……?」

 

 ここで来栖崎さんを助けに行ったのは記憶している。でもなんだ、この違和感は。

 

「……あ」

 

 綴だ。あの時は綴が着いてきてくれたんだ! 

 

「ありゃ? ケンティーはこんなとこで何を?」

 

「ん、いや。ちょっとな。それよりも綴は? いないのか?」

 

「何故その名を……」

 

 綴の名を出した瞬間、アドさんの朗らかな空気と、礼音さんの心配げな視線が一気に冷ややかなものへと変わっていった。

 

「おい、どういうことだ。なぜ君はその名を知っているんだ?」

 

「え、いや知っているも何も、ポートラルの仲間でしょ?」

 

「仲間……か。仲間"だった"の方が正しいかな」

 

「え、どういうこと、ですか?」

 

 恐る恐る聞いてみる。

 

「まぁ、歩きながら話そうよ……」

 

 いつもの快活さが、アドさんから消えている。

 

「あれは確か、10日前の出来事……」

 

 そうして、礼音さんによる過去の追憶が始まった。

 

「あの日は確か、例のコンテナの投下日だった。その日は彼女が、昨日の豹藤くんのような役割を果たしていたんだ。それで偵察しに行ったっきり、帰ってこなかったんだ……」

 

「え、それもしかして……」

 

「私達も最初は、帰らぬ人となったと思っていたよ。でもね、それから1日経った、今日から9日前、ある情報が届いたんだ。コンテナを1個しか手に入れられなかった大所帯の生存組合が追加で2つ、拠点の前に置いてあったと。それだけならまだしも、甘噛くんの行った方面のコンテナが置いてあったようでな……我々としては疑いたくはなかった。だがも」

 

「俺が来る前にそんなことが……」

 

「それで、なぜ君は知っていたんだ。甘噛くんのことを」

 

「いえ、こんなことを言って信じてもらえるかわかりませんが、違う世界であったことがあったんですよ。そのときに綴と……その……」

 

「恋仲、かな?」

 

「ぶふっ、そ、そうですけど……」

 

「しかし、そんな荒唐無稽な話、私か、来栖崎くんぐらいしか信じないぞ?」

 

「え、アドさんは?」

 

「ふっ、ああ見えて樽神名くんはこういった話は信用しない。というか、表面上は信じるが、実際は……という奴だな」

 

「そ、そうなんですね……」

 

 意外だわ。

 

「だが、私は信じるぞ。その話」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「樽神名くんには私から話をしておくから安心してくれ。それよりも……」

 

 アドさんはサンくんと来栖崎さんについて話をしていた。そして、更に足を早め、目的地であるコスモリアランドへと辿り着いた俺たち。

 

「ちっ、やはり数が多いな……!」

 

「俺が道を切り開きます! サンくんは心当たりのある場所を探しててください!」

 

「わかった!!」

 

「変身!」

 

『ワンダーライダー! ユニコーン ジャックと豆の木!』

 

 ヴァルキュアは種をマシンガンのように発射し、ゾンビたちに植え付ける。

 

『ジャッ君と土豆の木!』

 

 ページを押した途端に、ゾンビの身体を突き破って巨大な木が出現する。本当なら来栖崎さんの場所は知っているんだが、サンくんが現れた以上、何が変わっていても不思議じゃないし、なによりサンくんの成長に繋がらないからな。って、なにエボルトみたいなこと言ってんだ俺。

 

「……! わかりました!!」

 

 おっと、そんなこと考えてたら早速発見したようだ。

 

「それはどこだサンくんっ!」

 

「夕陽見の丘です! みなさん! 着いてきてください!」

 

「承知した!」

 

「わかった!」

 

「了解!!」



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第29章 顕現せし、異形の怪物。

「サンくん、行ってこい!」

 

 俺はゾンビの山に立っている来栖崎の前で立ちすくんでいるサンくんに発破をかける。

 

「……わかりました」

 

 サンくんが行ったことを確認した俺は、周りに群がるゾンビの掃討に勤しんだ。

 

「サンくんには指一本、触れさせない!」

 

『必殺読破!』

 

 ヴァルキュアは上空に飛び上がり、ドライバーに聖剣を納め、トリガーを押す。

 

『ユニコーン ジャックと豆の木 2冊撃!』

 

「一角蹴撃破!」

 

 するとヴァルキュアの右足に白と緑のエネルギーが纏わり、そのままそれをゾンビの大群に向けて放つ。

 

「ふぅ……」

 

 辺りのゾンビは倒したし、サンくんの方はどうかな……って、結構修羅場っぽいな……手、貸すか。そう思い、動こうとすると礼音さんが俺の肩を掴んだ。

 

「やめておけ神川くん。あれはサンくんと来栖崎くんの問題だ」

 

「そ、そうですか……」

 

「私たち外野は大人しく見ているしかないだろう」

 

「そうっすよね……。はい、わかりました」

 

 しょうがない。黙って見ておくとするか。

 

「これは、僕自身の意思だ」

 

 おっと、早々にヤバそうな雰囲気。

 

「頼んでないから早く帰れ」 

 

「いやだ。僕は帰らない 君を連れ戻すまで」

 

 わお、かっこい。俺もそういうこと言いたかったなぁ……。あの時。

 

「ねぇ、聞こえないの? ほんっとうにウザイから。私の視界から消えて」

 

「嫌だ」

 

「消えて」

 

「ダメだ。僕は消えたりなんか──」

 

「邪魔だっつってんだよッ!!」

 

「────最後くらい……ここでゆっくり……一人にさせて」

 

「最後じゃない。お前はまだ、生きていていいんだ。自暴自棄になって勝手に決めつけるな! 諦めるにはまだ──」

 

「アンタに分かるわけないでしょぉ゙ッ!? ッ! 私を化け物みたいな目でッ! 見といて……気色悪い目で私を見て……!」

 

「ッ……」

 

 サンくんが押し黙ってしまった。

 

「……ほら、あんただって怖がってるんじゃない」

 

「……そんな、こと……。いいから落ち着け来栖崎ッ!」

 

「私だって落ち着きたいわよッ! でも、中にナニカ……いるの……」

 

 ……おい。どういうことだ。

 

「……いるの……」

 

「私の……ナカニ……」

 

「心がおかしくて……殺したくて……頭がおかしくなりそうで。──したい……」

 

「殺したい殺したい殺したい殺したい殺したいッ!」

 

「もう私は普通の人間じゃないのぉ゙! こんなんで……真司にあって……ぁ゙ぁ゙……会いたくないもんッ!」

 

「大丈夫だッ、僕の血を飲んだら、いつか治療する機会はやってくる! いや、僕がその薬をつくる。作ってみせるッ! だから!」

 

「アンタなんかの血に縋ってッ!?」

 

「私を軽蔑する誰かの血を啜ってまでッ!? 生きたくなんてないわよぉ!」

 

「僕は軽蔑なんてしていない。だから!」

 

「ダメなのよっ! だから、もう私は……」

 

「あぁ……真司……幸せだったよぉ……」

 

「ぁぁ……私も人として死ぬから……」

 

「逝くから……」

 

「私を嫌ぃに……ならなぃで」

 

「……そうか。わかった」

 

 サンくんはこの状況にはそぐわない、やけに明るい声で言った。

 

「────なら、僕も死ぬことにするよ」

 

「……え?」

 

 俺や礼音さん、更にはアドさんもよく分からないといった声をあげた。

 

「……なに、言ってんのよあんた」

 

「だってさ、来栖崎は僕を守るためにあんなことになった。なのに庇われた側がこれからものうのうと生きていくなんておかしいだろ?」

 

「だったら……だったら勝手に死んどけばいいでしょ!?」

 

「だからさ、来栖崎が死ぬから僕も死ぬんじゃない。お前が少しでも生きようと思えるから、僕も生きられるんだ」

 

「ッ……。なんで……なんでよぉ……もう、勝手にすればいいじゃないッ……」

 

「……よかった」

 

「まずいぞサンくんっ! 来栖崎くんの病状はかなり進行している!」

 

 一安心、と思ったところに礼音さんが来栖崎さんの状態を鑑みて指示を出した。

 

「は、はいっ!」

 

「……フフ、ヴァルキュアは面白いですねぇ……」

 

 そして、どことも知らない施設の一室にてストボロスは新たなアルターブックを開いた。

 

『わらしべ貧者』

 

 ……? 気のせいか? 今なにか気配を感じた気が……。まぁいいか。今は来栖崎さんのことが先決だ。

 

 ────そして、デパートへと帰還した俺たち来栖崎救出班一行は疲れからか自室へと戻ると同時に死んだかのように眠ってしまった。

 

「……賢人さな、私を探して」

 

「はッ!?」

 

 綴のそんな声で、俺は起きた。

 

「なんだ、夢か……」

 

 ……でも今綴、探してとか言ってたよな……。そんなことを考えていると、食料貯蔵室から大きな音が響いてきた。

 

「な、なんだ!?」

 

『エナジーユニコーン!』

 

 俺はすかさず変身し、食料貯蔵室まで足を早めた。

 

「大丈夫か! ……って、あー……あ!?」

 

 アドがやちるちゃんを人質のように構えていた。何をやってるんだ? 

 

 ────やってしまった。しくじった。完全に。

 

「よし、カカシも3つできたわね」

 

「……」

 

 最っ悪だ、なんで俺、アドさんの方に協力したんだろう……。

 

 ────そんな例の地獄のような体験(遊び)から14日後、サンくんが提案してくれた鹿狩にて。

 

「ん……? アレはなんだ?」

 

 片方の腕がすごくでかくなった……所謂異形の化け物、突然変異って感じのゾンビが帰路の途中に現れた。

 

「変異種……か」

 

 サンくんがゾンビの名前と思しき名前を呟いた。

 

「変異……種とは……?」

 

「貴方……『アレ』がなんだか……分かるのですか?」

 

「ああ……分かる。変異種は体のDNAを壊し、肉体が形を保てなくなった存在。設計図を失った体は際限ない構築を始めてしまっている」

 

 へぇ……。なんかよくわからないけど、こいつ前の世界でもいたよな……。てことは、これを知ってるサンくんは少なくともセイバーとは一切関係はないってことか。

 

「変身」

 

『ワンダーライダー! ユニコーン 一寸武士!』

 

 流石に橋を壊されたらたまったもんじゃないからな。小さくさせてもらう! 

 

『一寸武士!』

 

 ヴァルキュアの左腕から出た光が変異種の体を包む。するとみるみるうちに小さくなっていき……。

 

「普通のゾンビの大きさになりました……!」

 

 説明ありがと百喰さん。

 

「はぁ……はぁ……後は疲れたんでみなさんにおまかせします」

 

 流石にライドブックの能力使うのは結構体力いるな……。

 

「おっけー! じゃあヒサギンも、行っくよー!」

 

「ちっ」

 

 舌打ちをしながらも来栖崎さんは変異種へと突撃していく。

 

「こ、いつッ」

 

 しかし小さくなった分小回りが効くようになってしまった変異種、来栖崎さんの攻撃は避けられてばかりだ。

 

 だが、

 

「豹藤ッ! 来栖崎の援護、できるか!?」

 

「は、はい! できます! です」

 

「礼音さんは弓でわざと変異種を外して射ってください!」

 

 サンくんの指示に、みんなが従う。

 

「承知した!」

 

「はぁっ!」

 

 ……よし、なんとか倒せたみたいだな……。

 

「みんなありがとうございます!」

 

 俺は休養しながら皆に頭を下げる。

 

「……別に、肉の為だし」

 

「もー! ヒサギンは素直じゃないな〜!」

 

「神川くん、君の力のおかげで、何とか倒すことが出来たよ」

 

「俺じゃなくって、サンくんに言ってください。彼の指示のおかげで勝てたようなものですから」

 

「……あ、それとこれ」

 

 来栖崎さんが何かを俺に手渡してきた。え? これキリンの恩返し!? ライドブックじゃん。

 

「振り返りは帰ってからでもいいでしょう」

 

 あ、百喰さん。

 

「あ、そうっすね。じゃあ────」

 

「僕たちだけ、遅れて行ってもいいか? さっきの移動で足くじいちまったみたいでさ」

 

「およ? サンちゃんで大丈夫かにゃ?」

 

「来栖崎がいるから大丈夫だって。逆にアドたちの方が……って、賢人がいたか」

 

 ともあれ、俺たちはサンくんと来栖崎さんより先立ってデパートへと帰ることになった。その道中、

 

「そこの貴様、この爆弾はいらんか? いるよな? いらないとは言わせないぞ?」

 

「は!? ちょ、え!?」

 

 こいつどっから現れた!? いきなり目の前に現れて爆弾と思しき物体を渡してきたメギド。突然のことすぎて全く反応出来なかった……! 

 

「受け取ったな? なら貴様の大切なものを頂く!」

 

 すると周りにいたはずのアドさん達がメギドの持っている小包に吸い込まれてしまった。

 

「ちっ、返せっ!」

 

「返して欲しければそれ相応のものを払ってもらわないとなぁ」

 

「くそっ……」

 

 ふと思い出した。確か、来栖崎さんが持ってきてくれたよな。

 

「これだ!」




仮面ライダー特有のその場だけの設定。
わらしべメギド 相手の大切なものを無理やり奪い取って相手にとって不利益を被るものを無理やり渡す。


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第30章 太陽の知略、メギドを討つ。

『キリンの恩返し!』

 

『とあるキリンが気持ちを込めて作り出した感謝の贈り物……』

 

「変身」

 

『ワンダーライダー! ユニコーン! 恩返し!』

 

『キリンの恩返し!』

 

 ヴァルキュアはページを押し、キリンが現れる。すると大きなキリンの神獣が現れ、大きなプレゼントボックスを取り出した。

 

「な、なに!?」

 

 そのキリンは無理やりその箱をわらしべメギドへと渡し、その恩返しにと、メギドの手中にあった小包が賢

 

 ヴァルキュアの方に転送される。

 

「確かに、返してもらったぜ!」

 

 ヴァルキュアはその小包を開け、仲間を解放……だが、いくら待っても皆は現れない。そして、用事が終わったであろうサンと来栖崎が戻ってきた。

 

「そのワンダーライドブックの能力にはその小包程度の価値しか無かったということなんだよ!!」

 

「さ、サンくん危ないから下がって!」

 

「いいや、ちょっと待ってくれ。僕にもサポートを、させてくれないか?」

 

「えっ……?」

 

「少し見ていたんだけど、あの怪物の攻略法、わかった気がするんだ」

 

「つまりは、あいつって自分に何かを渡されたら、何かを返さないといけない。そんな能力だと思うんだ。だからさ、何かを強制的に取り込ませたら……」

 

 いい策があれば即行動するのが神川賢人、またの名を仮面ライダーヴァルキュア。

 

「お前にこれを渡したら!」

 

 ヴァルキュアはキリンの恩返しブックをメギドへと投げつけ、吸収させる。

 

「俺の仲間は、返してもらう!」

 

 小包から仲間を解放したヴァルキュアは、一転攻勢、反撃に出る。

 

「お前は生かせといちゃマズイからな。ここで終わらせる!」

 

『必殺読破!』

 

「一角魔獣斬!」

 

『波癒抜刀! ユニコーン 一冊斬り! キュア!』

 

 しかしその斬撃は目の前のメギドではなく、その後ろへと放たれた。

 

「ふふっ、これはこれは、流石ですねぇ……」

 

 そう、背後にいたストボロス、の持っていたアルターブックに放ったのだ。

 

「なっ……」

 

「お前の物語は、俺が書き換える!」

 

『必殺読破! ユニコーン 一冊撃! キュア!』

 

「一角魔獣蹴烈破!」

 

 上空に飛び上がったヴァルキュアは納刀した聖剣のトリガーを2回押し、蹴りを放った。

 

 ヴァルキュアは変身を解き、完全に爆発四散したメギドの跡に、ライドブックが落ちる。

 

「な、なんだったんだ……?」

 

「なにが……起こって」

 

「皆さん! おかえりなさい!」

 

「神川くん……? まさかあのメギドという怪物が私たちを……」

 

「はい、そうです」

 

 ────ともあれだ。メギドの襲撃をなんとか凌いだ賢人たちは、デパートに戻って鹿肉パーティーを開いた。

 

「いぇーい! 焼肉、だぁッ!!」

 

 と言い、俺ははしゃごうと思ったが、アドさん、いやアドや栗子さんが半裸で騒いでいるのを見て、流石に俺は尻込みしてしまう。

 

「あ、百喰さんもこっち側なんすね」

 

「? 賢人さんはアドたちと騒ぐと思っていましたが、意外です」

 

「俺をなんだと思ってるんですか……」

 

「ただの馬鹿だと思っていますが」

 

「いや酷くね!?」

 

「えぇ、当たり前です」

 

「うっわー……百喰さん酷いなぁ……」

 

 でもよく、こんな性格で今までやってこれたよな。

 

「やっぱみんなすげぇよな……」

 

「? 何か言いましたか?」

 

「いや、なんかさ、こんな状況でもあんなにバカやって過ごせるのってすごいなーって。皮肉とかそういうのじゃなく、本心で」

 

「そうですか……そうですね。ですが私はアドたちのようにはいられません」

 

「ま、そういう人も必要だしね」

 

 仮面ライダー……というかフィクションの世界だってずっとギャグやってたら飽きちゃうし。

 

「一応、感謝は言っておきます」

 

 それでもその態度は変わらないんですね。

 

 ────そして翌日、アドの号令により会議室に呼び出された賢人たち戦闘班。

 

「今日集まってもらったのはぁ他でもない。くっくっくー、おめぇら、金玉と覚悟ぉ、引っさげて集まったんだろうな」

 

「なんだこのテンション」

 

「昨日書店で極道漫画読んでたぞ」

 

「なるほどなるほど……って、小学生か。感化されすぎでしょ」

 

「くっくっくー! 邪推はぁよくない、あぁよくないぜぇ、ってなわけで!」

 

「記念すべき第一回『南の海まで修学旅行大作戦──母なる海をたずねて三千里──』の始動だぜ!」

 

 あー……橋渡るやつね。

 

「第一回……ですか」

 

「不穏です……」 

 

 やちるちゃんも百喰さんも不安みたいだ。いやまぁ、そりゃそうだよなー。

 

「せいせいせい! てめぇらちょいとお黙りなさいだぜぃ! あたし立案の作戦にケチつけようなんざ、片腹痛いぜぇ!」

 

 お前立案だからこそだろ、アドさん。 

 

「アドさん立案。不穏です……」

 

 ほらやちるちゃんも言ってる。

 

「はいはい、皆こっちに注目」

 

 あ、サンくんだ。

 

「今回の作戦、立案こそアドですが、監査から計画まで僕がやらせてもらってるんで、安心してください」

 

「「「ならよかった」」」

 

 すると、皆から安堵の声が出る。酷すぎるねコレ。

 

「なので、一応ですが僕から説明させていただきますね」

 

「お、鈍器配布はねぇんだな」

 

「ホントだ」

 

 鹿狩のときすごいごっついガイドブック渡されたからな……。

 

「二度と鹿肉解体してやらんぞ」

 

「おいおい寂しいこと言わないでくれよサン、あたしとオメェの仲だろ?」

 

 そう言ってサンくんと肩を組む栗子さん。

 

「……ったく……。とまぁ、まず作戦概要についてですが、アド語を翻訳すれば作戦名は、『南方調査遠征作戦』となります」

 

「南方……遠征調査とは、まさか」

 

「はい、お察しの通り、ペトラ橋を超えた先──」

 

 一呼吸おいてサンくんは言葉を放った。

 

「渚輪区本島への上陸を決行します」

 

「……本島上陸とは、具体的には本島のどこまで調査する予定なのですか?」

 

「ふっふふー、何処までとはモグッチ、知ってて質問してるぞね?」

 

「いえ……答えは?」 

 

「南の海岸線」

 

 がしゃん、とみな手に持っているものを落とし、サンくんの方向に、驚愕の視線を送る。

 

「南海岸線って……ここニュータウンは本島の北の海岸線にあるんですよ?」

 

「それに、ペトラ橋は今ゾンビによって封鎖されてるんですよ?」

 

「そうだね。こわーいゾンビが沢山邪魔してる。けどぉー……じゃじゃん!」

 

「スーパーサイキン人、ヒサギン、そしてスーパーヒーロー賢人がいるから実行にうつせるではないか!」

 

「ぶふぉっ」

 

 来栖崎さんは口に含んでいた水を吹き出してしまった。

 

「サイキン人?! どこ由来だよ!?」

 

 次いで、サンくんがその呼び名に対してツッコミを入れる。

 

「ふっふふー、穏やかな心を持ちながら激しい怒りで目覚めた戦士のことだよ」

 

 それどこのドラゴンの玉だよ。

 

「あ、ちょっといいですか?」

 

「どうしたんだ賢人?」

 

「もしかしたらメギド……あの怪物が現れるかもしれないから、もしも現れた気配がしたら自由行動にさせてもらっていいですか?」

 

「もちろん。そこら辺の考慮はしてあるよ。ただ、橋での戦い方は僕に指示させてくれないか?」

 

「もちろん、いいよ!」

 

 みんなが連れ去られた時もサンくんのおかげで助けられたしね。

 

 ─ともあれ、意見は一決した──

 

 かつてない大規模作戦。南方調査遠征作戦の幕は上がる。




物語の根幹にあるのは、最初は綴を取り戻すこと、次に世界を救うことなので、それを忘れないようにします
スカイハイモンスターズ
『この大空を支配する、翼を持った動物がいる』


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第31章 混沌の世界、ダークワールド。

 ようやくやって来た、ペトラ橋攻略作戦。その道中、

 

「ようやく見つけたぞ白の剣士ぃぃいいい!!」

 

 まさか……。

 

『ピラニアのランチ……』

 

 目の前に現れたズモンという恐らく動物のメギドがアルターブックを開いた。

 

「やっぱりお前が持ってたのか! ズモン!!」

 

 するとズモンは飛び上がって逃げようとする。

 

「逃がすわけ……ないでしょ!!」

 

 来栖崎さんもそれを追って飛び上がり、刀を振るう。

 

「チッ……!」

 

 惜しくもズモンは逃がしてしまうが、アルターブックを奪うことは出来た。

 

「よし! ナイス来栖崎さん!」

 

 だったら後は……! 

 

「これはどうかな……?」

 

 3回目の登場、ピラニアメギドが白い本を開くと、周囲の景色が一変し、ねじれた巨木や、巨大な空飛ぶクジラ、果てには空想上の生物であるドラゴンまでもが存在している世界に塗り変わってしまった。

 

「ここは……ワンダーワールドか?」

 

「いいや違う、冥土の土産に教えてやろう。ここはダークワールドだ」

 

「ダークワールドだと……?」

 

「そうだ。全てが混沌に包まれた世界。我が主、タッセル様のご命令により、この世界はダークワールドの一部となってもらう」

 

「なんだって……?」

 

 ダークワールド? 一体なんなんだそれは? というか、タッセルだと? 

 

「だったら尚更、お前の好きにさせる訳にはいかないな!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

 俺はライドブックを取り出し、ページを開く。

 

『〜かつて、全ての生物を癒した一角獣がいた〜』

 

 俺はそれをソードライバーの右のスロットに入れる。

 

『波癒抜刀!』

 

「変身!」

 

 そして剣を引き抜き、お約束である口上を口にする。

 

『エナジーユニコーン!』

 

 相手はピラニアの集団を発生させ、こっちに差し向けてきた。だが……! 

 

「こいつらは私たちに任せてくれ!」

 

 礼音さんがピラニアを射抜きながら言った。

 

「みんなも加勢を頼む!」

 

 礼音さんは唖然としていたメンバーに向かってそう言った。

 

「あっ、モチのロンだよ!」

 

 そう言ってアドさんたちも戦闘に加わっていった。

 

「よし……!」

 

 だったらこっちのもんだ。俺はピラニアメギドの頭上を飛び、背後に立つ。

 

『波癒居合!』

 

「これでトドメだ!」

 

『読後一閃!』

 

 居合切りの体勢で相手の攻撃と同時に剣鞘から引き抜き、メギドを切り刻む。そして現実世界と繋がっている要因である白いブランクブックをキャッチし、聖剣で叩き切る。すると封をされていた紙がばら撒かれるかのようなエフェクトが生じ、元の世界に戻ってこれた。

 

「ふぅー、これでめでたしめでたし……とはいかないよなぁ……」

 

 無事に現実世界に戻ってこれたのは良かったものの、まだやらなければいかない、というか今回遠出した最大の理由があったことを思い出した。

 

「ペトラ橋……さっきはメギドのせいで見えなかったけど、やばいなこれ……」

 

 しかし弱音を吐いてもいられない。

 

「みなさん! 特にサンくん。今回は君の指令にかかってる! よろしく頼むよ!」

 

「え、いやそんなに期待かけられても……」

 

「だいじょぶだいじょぶー、サンちゃんならいけるって!」

 

「……しっかしよぉ、なんなんだあのバケモンは……急に世界変わっちまうしよぉ」

 

「あれがメギドたちの侵略方法です。みなさんもなにかヒーロー番組とか見たことありますよね? それと同じです」

 

「とにかくみなさん話すのは後にして作戦を開始しますよ!」

 

 百喰さんの言葉でみんな作戦を思い出しペトラ橋攻略作戦を開始した。

 

「了解!」

 

「やちるちゃんはとにかく動き回ってゾンビからの注目を集めて!」

 

「わかりました! です!」

 

「てめぇやちるになんかあったら承知しねぇぞ!」

 

 と怒る栗子さん。

 

「姫片はそのまま待機! 近寄ってくるゾンビだけを倒してください!」

 

「ちっ、無視かよ……。りょーかいっ」

 

「来栖崎! お前はとにかく前へ出てゾンビを切り刻め! その方がいい!」

 

「ちっ、命令すんなっての!」

 

「これは命令じゃない! 指示だ」

 

「ちっ」

 

 来栖崎は舌打ちをしながらも敵陣の真ん中に突っ込んでいった。

 

「百喰は礼音さんの矢の補充と礼音さんの周囲を警戒してください!」

 

「アドは戦況を頼む!」

 

「礼音さんは誰かに近づいてくるゾンビを優先して撃ち抜いてください!」

 

「最後に賢人! あのでかい木は出せますか!?」

 

「もちろん!」

 

 ヴァルキュアはジャッ君のブックを取り出す。

 

『ワンダーライダー! ユニコーン ジャックと豆の木!』

 

 そして左腕に携えた土豆の発射機構『インタングルガント』から豆を弾丸のように発射し、ページを押し込む。

 

『ジャックと豆の木!』

 

 すると瞬く間に土豆は大樹へと成長を遂げる。

 

「やちるちゃんはそれに登ってゾンビを連れてってください!」

 

「そして次はあの小さくなる本、お願いできますか!?」

 

「了解!」

 

 ジャッ君のブックを抜き、一寸武士のブックを代わりに差し込み、抜刀する。

 

『ワンダーライダー! ユニコーン! 一寸武師!』

 

「ゾンビたちが十分に登ったら、その木を小さくしてください!」

 

(え、それ豹藤さん落ちちゃわない? 大丈夫?)

 

 しかしその考えは杞憂だった。

 

「賢人はあの空飛ぶ馬に乗って豹藤をキャッチしてください!」

 

(そういうことね。まじでサンくん参謀に向いてるじゃん)

 

 そんなことを考えながらヴァルキュアはページを押す。

 

『一寸武士!』

 

 左腕から発生した光を大樹へと向けると、一瞬にして小さくなってしまう。そして小さくならなかったゾンビたちとやちるは重力に引かれて落下していく。

 

「今です賢人!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

 ページをプッシュし、ユニコーンを呼び出す。すると当然かのように姫片もそれに乗って飛行を開始した。

 

「え!? まぁいいや! 酔わないでくださいよ!」

 

「どこだ……?」

 

「いたぞあそこだ!」

 

 姫片が指さした方向へ全速で向かうヴァルキュア。彼は手を伸ばしてやちるの手を取ろうとするが、ギリギリのところで届かない。

 

「ちっ……!」

 

 痺れを切らしたのか、姫片は身を乗り出してやちるを抱きかかえた。

 

「栗子さん!? あぁもう!」

 

 ヴァルキュアはユニコーンは小回りが利かないと判断したのか、降りて二人を抱える。

 

「あーーーーーっ!!」

 

 急降下の勢いに耐えられず悲鳴出てしまったヴァルキュアこと賢人。

 

 ドガーン、と轟音を響かせて墜落してきたのはヴァルキュアと姫片・やちるペア。彼女らは一番下にヴァルキュアがいたのでなんとか命に別状はなかった。そしてヴァルキュアは剣士たち共通の装甲であるページアーマーのおかげで何とか変身を解除せずに済んでいた。

 

「はぁ……はぁ……かなりきつかったな……」

 

「ちっ、サンの野郎、あんな無茶な作戦、バカすぎんだろ……」

 

「同感、です……」

 

「は、はは、でもこれでペトラ橋……攻略、完了、だ……」

 

 複数のライドブックを使い、大きく身体に負担をかけてしまったものだから死んだように眠ってしまった賢人。

 

「はぁ……これじゃケンティーが起きるまでは本島に上陸できないね」

 

「まぁ、いいじゃないか。今日のMVPは、彼なんだからな。私達も一旦休憩するとしようか」

 

 礼音は皆を労り、休憩を促した。

 

「それもそうですね。姫片さんや豹藤さんも神川さんの助けがあったとはいえ、多少はダメージはあるようですし」

 

「あぁ、そうだな。……って、来栖崎、なんだ? そんなに落ち込んで」

 

「まさかヒサギン、MVPって言われなかったこと、怒ってるの〜?」

 

「……うっさい! ……私の方が斬ってるはずなのに……」

 

「案外来栖崎にも可愛いとこあるんだな」

 

「だからうっさいって! ブチカカスわよ!?」

 

 そんなサンの言葉のせいで頭に血が上ってしまった来栖崎。

 

「あーごめんごめん。まぁとりあえずさ、休息はとらないと」

 

 それもそうだ。ということでサンたちはとりあえず休息を摂ることにした。

 

「……ふっふっふ。また彼らが勝ちましたか……ですが、次はどうでしょう……ふふ」




ブチカカス:第32章にて賢人、姫片、アドが喰らった仕打ち。人間カカシにされることを指す。


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第32章 物語を綴る、白馬の王子。

「……賢人さま。……賢人さま」

 

「その声は……綴か……?」

 

「賢人さま」

 

 俺は、その声とともに光の中から現れた謎のライドブックを手に取る。

 

「これは……?」

 

「あなた様の助けになることを、願っています」

 

 その瞬間、目が覚めた。目が覚めても、そのブックは持ったままだ。

 

「これは……」

 

 ドラゴニックナイト……? 形はまさに、ドラゴニックナイトや、スーパーヒーロー戦記と同じ形状だ。でも、色が全然違う……。

 

「黒……?」

 

 なぜ、こんなものが俺に……というかなんで夢で得たもんが現実でもあるんだよ。

 

「いや違う……。逆なんじゃないか? これを手にしたからあの夢を見た……そう考える方が自然なんじゃないか? って、なんでみんな寝てるんだ?」

 

 なぜ眠っているのかは分からないが、とにかく俺はみんなを起こしていった。

 

「んあ? って神川くん……もう起きていたんだな」

 

「はい。俺のせいで少し時間に遅れが出てしまいましたね」

 

「何も気にしていないよ。神川くん」

 

「と、いうことで皆さん。早速再出発しましょうか!」

 

「なんで1番起きるの遅かったサンが言うんだよ……」

 

「はっはっは。まぁいいじゃないか。しかしまぁ、神川くんのその力にも、やはり反動はあるものなのだな」

 

「えぇ、まぁ多少は。今日は流石に使いすぎたのと、俺自身の修練不足もありますが。もっと強い剣士の方々なら、もっと反動は軽減されるんですが」

 

「君以外にも剣士と呼ばれる者は存在するんだな」

 

「えぇ、……まぁ、この世界にいるかはわからないですけど」

 

「まぁとにかく! こんなとこで突っ立ってても危ないし、早く行こ!」

 

「私も賛成です」

 

「よーし! しゅっぱーつ? しんこー! れっつー? ごー! ひーうぃー? ごー!」

 

「長ぇよ」

 

 ともあれ、西の工業地帯に進路を決定した俺たちはゾンビが蔓延る新花芽地区、高須駅周辺を乗り越え、何故かゾンビたちが立ち寄らない線路内を歩いていった。

 

「なぁ来栖崎さん。突然だけどさ、ヒーローって存在すると思うか? 世界を救って、犠牲になった人たちも救う、そんな物語の主人公みたいなヒーロー」

 

「なに急に……いや、まぁ……うん。いるんじゃない? でもこの世界にはいない。それだけは言えるわ」

 

「なんで、そう言い切れるんだ?」

 

「……だって、そんなのがいるなら、とっくに私たちを助けてくれてるはずだもの」

 

 ……そうか。だよな……。

 

「……でも、だったら……」

 

 俺がヒーローになる、とは言い切れなかった。

 

「だったら?」

 

「いや、なんでもない。ただまぁ、そんな絵空事を可能にするヒーローがいるってこと、忘れないで欲しい」

 

「うん……まぁ、心にはとどめておくわ」

 

「あーあとサンくん、ちょっとこっち来て」

 

 俺はサンくんの耳元でこしょこしょばなしをした。

 

「……お前が来栖崎さんのヒーローになってやれよ」

 

「えっ……」

 

 返答の余地など与えず、俺はサンくんを来栖崎のところに背中を押してあげた。

 

「頑張れよサンくん!」

 

「え、うわちょ……!」

 

 バタン! とサンくんが来栖崎さんを押し倒すかたちになってしまった。

 

「あっ……」

 

 やっちまった……。

 

「ふっふふー、ぞんびっちの群れこえ山こえ谷こえて!」

 

「たどり着きやしたぜ工場タウン・ウィズ・港ぅッ! あたし海が見たいぞ!」

 

 そんなこんなで辿り着いた工業地帯。

 

「あのバカ……」

 

 アドが走っていったのを見てサンくんは言った。

 

「まぁまぁ、今まで行けてなかったんですから、それくらいは許してあげましょうよサンくん」

 

「あの……賢人も許してませんからね?」

 

「あー……。ごめんごめんご」

 

 そんなふうに談笑していると突然どこからか悲鳴が聞こえる。

 

「なんだ!?」

 

 アドではない……。だったらまさか! 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 俺は息も絶え絶えな女性に駆け寄る。

 

「ふふっ、……ダメじゃないですかぁ……そんな簡単に食いついては、毒があるかもしれませんよぉ……?」

 

 こいつ……! 顔をよく見るとストボロス出会った。

 

「ちっ!!」

 

 来栖崎さんが俺とストボロスを引き剥がす。

 

「またやられに来たのかメギド!」

 

「ふふっ……今回はどうでしょうか……」

 

 俺の言葉に不気味な笑みを浮かべて答えたストボロス。

 

「なんだと……?」

 

 ストボロスはズモンとレジビル、更に多数のアルターブックを自らの身体に取り込んだ。

 

「うっ……ガァァアア!」

 

『合併出版……!』

 

 ストボロスの体にはズモン、レジビルの特徴が歪に現れ、色も銀河のような模様を映し出していた。

 

「……仲間になると思っていたのに、どうして……」

 

 俺は聖剣を抜刀し、変身を完了する。

 

『エナジーユニコーン!』

 

「はぁっ!」

 

 剣を振り下ろすが、全く効いていない様子のストボロス。

 

「なら……!」

 

 と、ジャッ君のブックを取り出そうとするヴァルキュア。しかし、ブックが開かない。

 

「ふふふ……あなたの力は封印させて頂きました……」

 

 他の一寸武士やキリンの恩返しのブックも開く気配を見せない。

 

「なんで……! だったら……」

 

『ハンターナイトリザード! 命の聖水!』

 

『波癒抜刀! スピニングユニコーン!』

 

「お前の物語は、俺が書換える!」

 

『三冊斬り!!』

 

「はぁぁああああ!!」

 

 ストボロスも剣に力を込め、迎え撃つ。

 

「俺はお前が仲間になるって信じてた! でも、それなのに……だから俺は、容赦はしない……!」

 

『ユニコーン! リザード! 命の水! なるほどなるほど〜』

 

 ヴァルキュアは

 

『習得三閃!』

 

「白炎慈愛斬!!」

 

 大きな爆発とともに、ストボロスは爆発四散した。

 

「やはり倒しましたか神川賢人」

 

「だ、誰だッ!」

 

「グッドエンディング、僕はタッセル」

 

「タッセルだと!?」

 

「僕はダークワールドの管理者タッセル。この世界を取り込んで……」

 

「そんなことさせない!」

 

 だが、見た目が生身の人間なため、斬るに斬れないヴァルキュア。そして無防備な体を無銘剣で斬られる。

 

「がァっ!」

 

 そうやって無防備なまま攻撃を受け続けるヴァルキュアは変身を解除させられ、賢人の姿に戻ってしまう。そしてタッセルは覇剣ブレードライバーを腰に装着し、タッセルダークワンダーライドブックを装填する。

 

『KAMEN RIDER THASEL!!!』

 

「うぐっ……がぁっ!」

 

『賢人さま!』

 

 どこかから甘噛の声が賢人の耳に入る。

 

「綴……!?」

 

 賢人は懐から夢の中で出会ったライドブックを取り出す。

 

『スペリオルユニコーン! 』

 

 表紙を開き、ブックの力を解放する。

 

『封じられた力を秘めし、強き一角獣を乗りこなす、白馬の王子!!』

 

 ライドブックを装填し、聖剣を引き抜く。

 

『波癒抜刀!!』

 

「はぁぁあああ、はぁっ! 変身!!」

 

『Please call me スペリオルユニコーン!! つまり、最強!!』

 

 漆黒の鎧を纏い、白いユニコーンに跨る白銀の剣士、もとい漆黒の剣士ヴァルキュアは、爆煙の中から現れた。

 

「お前は、俺が止める……!」

 

 ヴァルキュアは飛び蹴りを食らわせ、世界の境界にタッセルダークを追い出す。

 

『スペリオル必殺撃!!』

 

「はぁぁあああああ!! この世界から、でていけぇぇえぇええ!!」

 

「くっ、がぁぁあああああ!!! タッセルダークは、大きな爆発とともに、世界の境界に押し出されてしまった。

 

闇のタッセルを、この世界から追い出した俺たちは、記憶を頼りに壊れた船のところに行く。

 

「あった……!」

 

「船だよ船!!」

 

アドが凄いはしゃいでいるが気にしないでおこう……。……やっぱり船は壊れてるか……。でも……。

 

「変身」

 

『Please call me スペリオルユニコーン!』

 

そしてページを3回タップし、白銀のユニコーンを出現させる。

 

『スペリオルブースター!』

 

左腕に装着されたユニコーンを模した手甲に、ライドブックをリードさせる。

 

「一寸武士! 1リーディング!」

 

そしてユニコーンの口をもした噴射口からエネルギーが発射され、ポートラルのメンバーがみるみるうちに小さくなっていく。みんなを鎧の中に入れて、ユニコーンで飛び去っていく。そんな中、神山飛羽真がいる世界では……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────世界と世界の狭間に漂ってしまったタッセルダークは、ある世界に狙いを定める。

 

「あの世界ですか……全知全能の書を書き換えた"人"がいる世界は……」



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第33章 剣士たちよ、ここに集え。

「……新たな光、新たなワンダーワールドが生まれる。だが、強い光の裏には、強い闇も生まれる。闇はやがて、光を呑み込み、全てを無に帰す」

 

 どこかも分からない闇の空間、ダークワールド。その管理者であるタッセルは、神川賢人、もとい白銀の剣士仮面ライダーヴァルキュアに世界を追い出され、次の狙いをワンダーワールドに定めていた。

 

「我が闇で、ワンダーワールドを覆い尽くせ……!」

 

「承知しました……!」

 

 その世界から、現実世界へと出現したアスモデウス。そこに時の剣士、デュランダル、煙の剣士、サーベラが現れ、アスモデウスを迎撃する。

 

「お兄様……! あれは……」

 

「アスモデウス……蘇ったのか!」

 

「はぁっ!」

 

 アスモデウスは手からエネルギー弾を発射し、神代兄妹を追いやる。

 

「……さぁ、全知全能の書を黒く染め上げるのだ」

 

 ────時を同じくして、神山飛羽真たち4人は普段通りの日常を楽しんでいた。

 

「いや〜、こうやって4人でここに来るのも、これで最後かもねっ」

 

「そうだな〜」

 

 飛羽真の幼なじみである富加宮賢人は感慨深そうに同意する。

 

「飛羽真から新作の原稿も頂きました〜。読むの楽しみ〜」

 

 と、飛羽真の担当編集者、須藤芽依は原稿の入った封筒を持ってスキップをする。

 

「伝説のドラゴン、バハムートが世界を救うんだ! 傑作になってると思うよ! なぁ賢人!」

 

「そうだな。すごい面白かったぞ」

 

 賢人の肩をポンと叩き、顔を見合せ笑い合う飛羽真と賢人。

 

「あのぉっ芽依さんっ」

 

 そう言って芽依に近づいていく倫太郎の後ろでそれを楽しむように見ている2人。

 

「なに? 倫太郎」

 

「これっていうのは、普通のホモ・サピエンス的に言うと、デートのようなものなのでしょうか?」

 

「は?」

 

 そして倫太郎の背後に賢人は近づき、耳打ちをする。

 

「りーんたろうっ、思い切って申し込んじゃえよ、デートしましょうって」

 

「デート……」

 

 そう呟きながら覚悟を決める倫太郎に勇気を送るかのように2人でハートマークを形作り、そのエネルギーを送る飛羽真と賢人。

 

「「……せ〜の、は〜っ」」

 

「よしっ! 芽依さんっ、僕と────」

 

 そう言いかけた瞬間、付近で小さな爆発が起こる。

 

「お前はっ、アスモデウス!」

 

「久しぶりだな、神山飛羽真。そして剣士たちよ。私は深い闇より甦った」

 

 そう言ってアルターブックを開き、カリュブディスを出現させる。

 

「ッ……!? カリュブディス……!」

 

「ご命令を、アスモデウス様」

 

「さぁ、その女を捕まえろ」

 

「承知しました……」

 

「うっ、うちの事……?」

 

 と、四人に危機が迫った時……。

 

「お、尾上さん! 蓮! 大秦寺さん!」

 

 土の剣士、尾上亮、風の剣士、緋道蓮、音の剣士、大秦寺哲雄が救援にやってきた。

 

「凌牙と玲花がやられたようだ!」

 

「光と闇が擦れ合い、武と混沌が訪れようとしている!」

 

「これで最後だ。気合い入れてけ!」

 

 と大秦寺は火炎剣烈火を納刀した聖剣ソードライバーを飛羽真に手渡す。

 

「わかりました!」

 

「芽依さん! 芽依さんは逃げてください!」

 

 と倫太郎は芽依を戦闘から引き離す。

 

「みんな!! いくぞッ!!」

 

『ブレイブドラゴン! ライオン戦記! ランプドアランジーナ! 玄武神話! 猿飛忍者伝! ヘンゼルナッツとグレーテル!』

 

「「変身!」」

 

 各々が各々のライドブックを起動し、変身、六剣士はその身を変える。

 

『銃剣激弾! 双刀分断! 一刀両断! 黄雷・流水・烈火抜刀!!』

 

 アスモデウスとカリュブディスを倒すため、戦闘は始まった。

 

「たぁっ!!」

 

『ドラゴンイーグル! 増冊! アーサー王!』

 

 キングエクスカリバーと火炎剣烈火の二刀流になったセイバーは、手数でアスモデウスを圧倒していく。だが……。

 

「カリュブディスよ! 奴らに相応しい敵を用意してやれ」

 

「承知しました」

 

 カリュブディスは身体にある大きな口から4体のメギドを生み出した。

 

「レジエルたちが復活した!?」

 

「デザスト……」

 

『キングライオン大戦記!!』

 

 ブレイズは両肩に装備されたキングライオンカノンで敵を一気に攻撃する。だが、彼らは元の姿よりも強くなっており、全く効いていないようだ。しかも戦闘中もその4体は呻き声を上げるだけで、自我は全くないように見える。

 

「デザスト!? 俺が分からないのか!?」

 

 そんな蓮の声も、器だけを再生されたデザストには届かない。

 

『最光発光! エックスソードマン!』

 

 とそこに、光の剣士、最光もやって来る。

 

「ユーリ!!」

 

「あいつらは力だけが具現化した存在だ」

 

「カリュブディスはストリウスたちだけじゃない。タッセルさんやマスターロゴスの力も取り込んだ。……てことは」

 

「そうさ、だからこんなことも出来る」

 

 アスモデウスはカリュブディス口に手を突っ込み、全知全能の書を取り出す。

 

「バカな……あれは全知全能の書」

 

 バスターは宙に浮かんだ本を見て驚愕する。

 

「この全知全能の書が黒く染る時、ワンダーワールドはダークワールドの深い闇に飲み込まれ、光は失われる……」

 

「ダークワールド……?」

 

 とセイバーは問う。

 

「貴様らにも、その手伝いをしてもらおう。さぁ、物語の一部となるのだ!!」

 

「な、なに!?」

 

「うあああぁぁぁあああ!」

 

 全知全能の書が開かれ、本の中に取り込まれてしまう7人の剣士たち。そして、先に囚われていた神代兄妹。

 

「お兄様、ここは一体……?」

 

「分からない、どうやらアスモデウスによってどこかに送り込まれたようだ」

 

 そして、暗闇が明け、お互いの姿があらわになる。

 

「お兄様!?」

 

「玲花!? ……なんだその格好は……」

 

 玲花は何故かドレスを、凌牙は赤の頭巾をかぶり 、小さな籠を持っていた。

 

「なんだかわからないけど……ガラスの靴! ガラスの靴を探さなくちゃ! ガラスの靴を履いて、お兄様に選ばれるのはこの私!」

 

【ツンデレラ】

 

「何をやっている……?」

 

「お兄様! 私の事好きになっても、いいんだからねっ」

 

 そう言って肩に寄り添う玲花。

 

「あっ……俺もお婆さんの家に行かなくては!」

 

 なにかに気づいたかのように凌牙は階段を下る。

 

【赤っぽいずきん】

 

「ただいま! あっ、お婆さんの耳はそうしてそんなに長いの〜? お婆さんの口はそうしてそんなに大きいの?」

 

 普段のクールな神代凌牙とは別人のようになってしまった。だが……! 

 

「うごぉっぉおお」

 

「ズオスだと!?」

 

 時を同じくして飛羽真、倫太郎、賢人の3人は……。

 

「「「1人はみんなのために! みんなは1人のために!」」」

 

「な、なんですかこれは!? しかも……ジュース……」

 

 3人は同じ帽子をかぶり、その手にはジュースを持っていた。

 

「物語の一部になる……みたいなこと言ってたな」

 

「……あ! わかったっ、これ三銃士だ!」

 

「「三銃士?」」

 

 飛羽真の言葉に2人は疑問の声を上げる。

 

【三ジュース】

 

「フランスの騎士の物語なんだ。アトス、ポルトス、アラミスの三人が、騎士見習いのダルタニャンと一緒に、フランスの陰謀に立ち向かうって話しなんだ」

 

「「なるほど」」

 

 飛羽真の説明に納得した様子の2人。そして3人で乾杯するかのようにコップを合わせる。その裏では尾上と大秦寺が……。

 

「なんなんだその格好?」

 

「尾上……お前もおかしいぞ!」

 

 何故か動物の真似をしている大秦寺に、何故か正装をしている尾上。

 

【美少年と猛獣】

 

「なんだ? 妙なタイトルつけやがって」

 

 そしてその横では……? 

 

「ん……? ペロっ、はちみつ最高だな!」

 

 ユーリがクマの着ぐるみを着てはちみつを舐めていた。

 

【黄色い熊】

 

「ユーリ、めちゃくちゃ似合ってるよ!」

 

 とバカにしたように言ったのは蓮。だがそんな蓮も幼稚園児みたいな服を着ていた。

 

「うわっ何この鼻……すっっっごい邪魔なんだけど!」

 

 と、何故か木でできた鼻が生えてきた。

 

【木ノピオ】

 

 そうやって楽しんでいた最中……。

 

「ははははは」

 

「ふへへはは」

 

「?! どういうことだ!?」

 

 ストリウスたちがやって来て、急に攻撃を仕掛けてきた。

 

「ふっ、はぁっ!」

 

 だがその迎撃も虚しく、膝を着いてしまう剣士たち。

 

「ふっふっふ、剣士たちよ。苦しむがいい、そして、悪しき物語を生み出すのだ!」

 

「悪しき物語だと……?」

 

「そうだ、悪しき物語の力で、ふたつの鍵が合わさった時、この全知全能の書が黒く染まり、書き換えられる!」

 

「その全知全能の書は昔の力……新しく生まれたワンダーワールドとは、関係ないはずだ!」

 

 だがなおも攻撃をやめないメギドたち。

 

「果たしてそうかな……? カリュブディスよ、聖剣を奪い取れ!」

 

「おまかせあれ! うあああ!!」

 

 すると剣士たちの手から聖剣が吸い取られ、カリュブディスによって取り込まれてしまう。

 

「そんな……! 音銃剣錫音がァっ!!」

 

「ふはははは、はぁっ!!!」

 

 聖剣を失い、打つ手をなくしてしまった剣士たち。

 

「ストリウスよ、セイバーを追いつめ、鍵を手に入れろ!」

 

「"う"お"ぉ"ぉ"お"ぉ"お"お"!! "」

 

 逃げる三剣士を追いかけるストリウス。彼らの運命は如何に……!




神山飛羽真 仮面ライダーセイバー
新堂倫太郎 仮面ライダーブレイズ
富加宮賢人 仮面ライダーエスパーダ
尾上亮 仮面ライダーバスター
緋道蓮 仮面ライダー剣斬
大秦寺哲雄 仮面ライダースラッシュ
神代凌牙 仮面ライダーデュランダル
神代玲花 仮面ライダーサーベラ
ソフィア 仮面ライダーカリバー
ユーリ 仮面ライダー最光


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第34章 究極の黒竜、誕生の時。

「カリュブディスよ、悪しき物語を飲み込むのだ」

 

「お任せを」

 

 そう言ってカリュブディスは宙に浮かんだ全知全能の書の一部を呑み込んだ。

 

「上手くいっているようだな」

 

 そのタッセルの声が聞こえると、カリュブディスはすぐさま頭を下げたまま微動だにしなくなった。

 

「はい……、全て順調に行っております。黒き全知全能の書が完成するまで、しばしお待ちください」

 

 そんな場所に、須藤芽依は一人で乗り込んでいた……。

 

「黒き全知全能の書……? なんかぁ、ヤバい感じがする……」

 

「匂います……これは一つ目の鍵!」

 

「鍵って、ウチの事!? 失礼しま〜す。はにゃ〜」

 

 そう言ってその場からそそくさと退散する芽依。

 

「奴を逃がすな……」

 

 そのタッセルの言葉通り、カリュブディスもその後を追った。

 

「これで残る鍵はあとひとつ……っふっふっふ、ハッハッハ!」

 

 闇の中、タッセルは一人、怪しい笑い声をあげる。そして飛羽真たちは、ストリウスに追われながらも、必死に逃げていた。

 

「はぁっ! ……今のワンダーワールドはみんなの思いで出来たんだ! だから、お前たちの好きにはさせない! みんなの物語は、俺が守るっ!」

 

 飛羽真が覚悟を決めると、聖剣がそれに呼応するかのように現れた。

 

「……来てくれたんだね、十聖刃、行くぞ!」

 

『聖刃抜刀! クロスセイバー クロスセイバー クロスセイバー!! 交わる十本の剣!!!』

 

 クロスセイバーへと変身した飛羽真は、ストリウスとの戦いを再開する。

 

「ふっ!」

 

 ストリウスの剣を刀身で受け止め、その隙にエンブレムをスライドさせ、聖剣の力を読み込む。

 

『既読三聖剣!』

 

 烈火・流水・黄雷の三本の聖剣を召喚し、それらをストリウス目掛けて放つ。そしてその攻撃で怯んだ隙に聖剣を納刀し、

 

「刃王火炎十字斬!」

 

 その攻撃によって弱ったストリウスはどこかへと逃げてしまう。

 

「逃がしたか……」

 

 そんなところに倫太郎たちが戻ってくる。

 

「やりましたね! 飛羽真!」

 

「刃王剣のおかげだ」

 

「それにしても、アスモデウスが言っていたダークワールドって一体なんなんだ?」

 

 そんな賢人の疑問に答えるように、ソフィアがやってくる。

 

「ソフィア様……」

 

「セイバーは、人々の思いをひとつの物語にまとめあげ、新たなワンダーワールドを作り出しました。ですが、人間の思いは良い側面ばかりではありません。人々の心に宿る悪意は同時に、ダークワールドも生み出してしまったです」

 

「でもどうして彼らが全知全能の書を持っていたのでしょう」

 

「奴らが召喚したレジエルたちと同じだ。カリュブディスがかつて呑み込んだ、本の力で作られた偽物だ」

 

「残るはふたつの鍵……」

 

「アスモデウスは俺を追い詰めて、鍵を手に入れろって言ってた」

 

「そうだな、そして奴らは芽依を狙っていた」

 

「……つまり、鍵のひとつは芽依さん……なんてことだ! 早く助けに行かないと!」

 

 すると、どこかから声が聞こえてくる。

 

「もう手遅れだ! 鍵は全て揃った」

 

 そして、カリュブディスが芽依を捕まえていた……。

 

「芽依さん……!!」

 

「ごめんみんな……捕まっちゃった……」

 

「こいつの編集能力は一つ目の鍵……さぁ! そいつを取り込め!」

 

「うっぁあぁああああ!!!」

 

 カリュブディスは大口を開け、芽依を呑み込む。

 

「やめろぉぉおぉおおお!!!!!」

 

「そんな……」

 

「さぁ! 我が主よ! 復活の時です!!」

 

『THASEL DARK!!』

 

『邪悪に染まる本が開く時、悪の化身が解き放たれる……』

 

「変身……」

 

『OPEN THE WONDER FORCE OF THE DARK! KAMEN RIDER THASEL!!!』

 

「グッドエンディング、諸君」

 

「ま、まさか、タッセルさん!? ……そんなわけない! あいつも偽物だ!」

 

「偽物とは……心外ですね。我が名は、仮面ライダータッセル。ダークワールドの守り人、そしてまもなく、この世界の支配者となるのです」

 

 そう言って、タッセルは三人に斬りかかっていく。剣を持っていない倫太郎と賢人、そしてソフィアは直ぐに変身を解除させられてしまう。

 

「なら……!」

 

 とクロスセイバーも果敢に挑むが一蹴されてしまい、刃王剣十聖刃も奪い取られてしまう。

 

「最後の鍵も、頂きました」

 

「まさか……! 刃王剣がもうひとつの鍵……」

 

「そうです。ワンダーワールドにある以上、手が出せなかったのですが、貴方にピンチによって、必ず現れると思っていましたよ」

 

「全て罠だったのか……!」

 

「全知全能の書と、創造を司る刃王剣、このふたつの力が合わさる時、この全知全能の書は真の力を持ち、完全に黒く染まる」

 

 タッセルは刃王剣を天に掲げ、全知全能の書へと差し向ける。

 

「黒き全知全能の書よ、ワンダーワールドを、黒く染めあげよ」

 

「そうはさせない!」

 

 そう言って果敢に立ち向かおうとするクロスセイバー。

 

「カリュブディス! セイバーを飲みこんでしまえ!」

 

 するとカリュブディスは主であるアスモデウスの指示通り、クロスセイバーを飲み込み、体の中に取り込んだ。

 

「貴方さえ居なければ……! ストリウス様は負けることは無かった……!」

 

「これで、希望の光は完全に消えた。世界は、私のものになるのだ……。

 

 

 

「ここは……?」

 

 カリュブディスに取り込まれてしまったセイバーこと、飛羽真。

 

「飛羽真! 大丈夫?」

 

「芽依ちゃん!? ってことは……ここはカリュブディスの中ってこと!?」

 

「……多分、黒い全知全能の書が完成して、ワンダーワールドが……」

 

 一方その頃……、残された剣士たちは……。

 

「うっ……、僕は諦めません! 飛羽真も、芽依さんも!」

 

 倫太郎が、

 

「そして……世界も救う!」

 

 賢人が

 

「運動会で……そらと親子リレーに出るんだよ!」

 

 尾上が、

 

「人も、剣も、まだまだ進化していける!」

 

 大秦寺が、それぞれの思いを吐露していく。

 

「────まだだ! 俺たちは絶対に諦めないッ!」

 

 そしてカリュブディスに取り込まれた飛羽真も、覚悟を決める。

 

「っふっふっふ、諦めないだと……?」

 

 とそこに、アスモデウスが現れる。

 

「芽依ちゃん離れて!」

 

「ふっふっふ、もう全て終わったのだ!」

 

 アスモデウスに切られそうになるが、間一髪で避ける飛羽真。

 

「物語は、絶対に終わらせないッ! そして、新しい物語を紡ぐんだ!」

 

「物語……そうだ! この原稿……、これにみんなの思いを集めれば……!」

 

 芽依は原稿に皆の思いを集めることを思いつく。

 

「私たちが、ここで倒れるわけにはいきません!」

 

「デザスト……今度は俺が、アイツを解き放ってやる!」

 

「世界を正し!」

 

「最後まで戦い抜きます!」

 

「ふんっ、無駄なことを……」

 

「うっ、うああぁぁあっ!」

 

「飛羽真!」

 

 生身の体で攻撃を浴びてしまう飛羽真。

 

「忌々しい……! 消え去れ! 」

 

 と、またもや飛羽真に攻撃が当たる寸前……! 

 

「烈火……! ありがとう……来てくれたんだね」

 

 火炎剣烈火が飛羽真を守るかのように駆け付けてきた。

 

『アルティメットバハムート!』

 

 そして、新たなワンダーライドブックが誕生する。

 

『〜かつて、漆黒に染まった究極の神獣がいた〜』

 

「みんなの想いが、物語に力を与えてくれた。そして、新しい物語が生まれた。烈火……、そしてみんな! ありがとう……」

 

 飛羽真は烈火を納刀、ブックをソードライバーに装填し、引き抜く。

 

『烈火抜刀!』

 

「変身……!」

 

『ワンダーライダー! かつての神獣! かつての神獣の力が剣に宿る!』

 

「ん……? なんだと? こんなことが……!」

 

「ここを抜け出して、お前らの野望を必ず止める……! はぁぁあああ!」

 

 セイバーはアスモデウスに向かって走り出す。すれ違いざまに斬撃を喰らわせ、更にアスモデウスの剣戟を見事な太刀筋で防ぐ。そしてソードライバーに納刀、もう一度抜刀する。

 

「黒竜蒼炎斬!!」

 

 その攻撃を受けアスモデウスは大爆発とともに、倒れる。

 

「芽依ちゃん!」

 

 芽依の手を引き、アスモデウスの中から脱出する飛羽真と芽依。



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第35章 選ぶ未来、世界の運命。

 倫太郎たち残された剣士たちの戦況は変わらず不利であった。

 

「遂にこの世界は私のものになった」

 

 だが突然、横にいたカリュブディスが苦しみだし、その中からセイバーと芽依、そして重傷を負ったアスモデウスが飛び出してくる。

 

「なに……?」

 

「お? やったー! 脱出成功ー!」

 

「芽依ちゃん! 下がってて」

 

「頑張って」

 

 芽依の言葉に静かに頷くセイバー。

 

「物語は完成した。今更何が出来るというのだ!」

 

「物語は終わってない!」

 

 遂に、反撃の狼煙は上がった。セイバーはタッセルの手から刃王剣を取り返し、二刀流になる。

 

「刃王剣は返してもらった!」

 

「ッ……。だからなんだと言うのだ! それはもう、不要だ! 黒き全知全能の書は完成したのだから! 物語は、私のものだ!」

 

「物語はお前のものじゃない! みんなの物だ!」

 

 そう言ってセイバーは刃王剣をリードし、十聖剣を召喚する。

 

『十聖剣!!!』

 

 そして剣士たちは自分の得物を取る。

 

「聖剣が戻りました!」

 

「やっぱり飛羽真は最高だな!」

 

「みんなの力で、黒く染まった全知全能の書を書き換えるんだ!」

 

「「物語の結末は、俺たち「私たち」が決める!」」

 

「闇を払い!」

 

「世界を守る!」

 

「笑顔を繋ぎ!」

 

「未来を作る!」

 

「苦しくとも」

 

「力強く前へ!」

 

「進み続ける!」

 

「我ら共に!」

 

「物語を紡ぐ」

 

「新しい物語を!」

 

「「俺たちの力で作りだす!」」

 

 すると全知全能の書は元の姿を取り戻し、黒く染まったページは塗り替えられる。

 

「まさか……そんなことが!」

 

「僕たちにも、沢山の物語があります!」

 

「絶望する時だってある!」

 

「でも、俺たちは必ず乗り越える!」

 

「乗り越えて、夢と希望を掴んでみせる!」

 

「覚悟を超えた先に、希望はあります!」

 

「これが、俺たちが物語を信じる力だ!」

 

「黙れ! お前らの取るに足らない物語など、蹴散らしてくれるわ! 行けお前らァッ!」

 

 そうメギド四人に命令するが……。

 

「うらァっ!」

 

 デザスト、ストリウス、レジエル、ズオスは元の人格を取り戻し、反旗を翻す。

 

「なんだと……!」

 

「皆さん……感謝しますよ? 黒い全知全能の書を書き換えて頂いたおかげで、我々は自由になりました!」

 

「ストリウス!」

 

「そういうことだ! 久しぶりに血が騒ぐぜぇっ!」

 

「ズオス……!」

 

「我々の崇高な行いに、感謝するがいい……」

 

「レジエル……」

 

「えぇい忌々しい! ならばこいつらを使うまで!」

 

 すると、過去に倒された筈の四賢神が現れる。だが、今の剣士たちにとってそんなものは敵ではない! 

 

「みんな! 行くぞ!」

 

「「あぁ!」」

 

 大鎌を持った賢神、ハイランダーはバスターとスラッシュが相手だ! バスターは堅牢な装甲を活かし、相手の攻撃を受け止める。そしてスラッシュは相手の出方を伺い、適切な一手をお見舞する! そして隙を見せてしまったバスターを庇うようにスラッシュは攻撃を受け止め、錫音を銃奏に切り替え連続発射をする。

 

「代々受け継がれてきた聖剣は……剣士達の思いを乗せ、研ぎ澄まされていく。例え偉大なる賢神の力を模倣したとて、最新の剣技に敵いはしない!」

 

『錫音音読撃!』

 

 剣盤に切り替え、ブックをリードし、技を発動! 

 

「スナック・音・ザ・チョッパー……!」

 

「俺は、子供たちの未来のために戦う! それだけじゃねぇ、俺自身、まだまだやりてぇ事が山のようにある。だから、若い奴らには負けてらんねぇんだよ!」

 

『激土乱読撃!』

 

「大断断!!」

 

 そしてすかさずバスターもブックをリード、土豪剣の大きなエネルギー体で賢神を粉砕する! 

 

『タテガミ展開! 全てを率いし、タテガミ! 氷獣戦記!!!』

 

 ブレイズとデュランダル、そしてブレイズと過去に因縁のあったズオスは協力し、蛮刀と戦斧を得物としている賢神、スパルタンと激戦を繰り広げていた。

 

「ふっ、はぁっ!」

 

 水の流れるような動き、槍による長いリーチでスパルタンを圧倒! そしてズオスもそれに追従するように迎撃をする。

 

「水の剣士、今度は一緒にやろうぜ」

 

「望むところです……!」

 

 ズオスとブレイズは息のあった連携攻撃でスパルタンを拘束し、その隙にデュランダルが攻撃! 

 

「魂を冒涜することは……神代家の名にかけて許さん! これ以上、俺を怒らせるなァッ!」

 

『オーシャン三刻突き!』

 

 カイジスピアに海のエネルギーを集中させ、三本の斬撃エネルギーを形成、それをスパルタンに繰り出す。

 

「僕はこれからも……! 僕の大切な人たちを守り続けます! それが、世界を守ることなんだ!」

 

『タテガミ大氷獣撃!』

 

 ブレイズは相手を氷漬けにし、その氷ごと飛び蹴りで粉砕する! 

 

「レオ・ブリザード・カスケード!」

 

『狼煙霧虫!』

 

 そして、2本のレイピアを持った賢神、ディアゴと戦っているのはサーベラとカリバー。

 

「負ける訳には行かない!」

 

「サーベラ、参りましょう!」

 

「えぇ、ソフィア様!」

 

「俺様が、エスコートしてやろう」

 

 とそこにレジエルも登場! カリバーとサーベラが受け止めている間に連撃を叩き込むレジエル。

 

「全てはお兄様のために! そして、私もお兄様とともに前へ進むッ!」

 

『狼煙霧虫!!』

 

「世界の均衡は、私たち自らの手で選びとってみせます! 決して悪には屈しません!」

 

『月闇居合!』

 

『煙幕幻想撃!』

 

『読後一閃!』

 

 三人の技が、ディアゴに炸裂、爆発四散! 

 

『ゴールデンアランジーナ!!!』

 

 そして次は双剣を手にした賢神、クオンを相手にしたエスパーダと剣斬。彼らは息のあったコンビネーション技でクオンを圧倒していた。

 

「嬉しいよ。また蓮と肩を並べて戦えるなんて」

 

「賢人くん。俺はもう、昔の俺とは違うよ!」

 

 エスパーダの攻撃の隙に剣斬が受け止める。

 

「おい! 楽しそうな匂いだな……! 蓮! 俺も混ぜてくれよ……」

 

 デザストはより息のあった攻撃を剣斬と披露する。デザストの背中を飛び越え、剣斬はクオンに斬撃を加える。

 

「……はっ、強さの果てを見せてやるよ!!」

 

「はは、バカ言うなッ! 俺の方が強え!!」

 

『翠風速読撃!!』

 

「「カラミティストライク!」」

 

 左右から同時に斬撃! クオンはひとたまりもないだろう! そしさらに、エスパーダも技を繰り出す! 

 

『三冊斬り!』

 

「トルエノ・デル・ソル!!!!」

 

 大きな爆発とともに、クオンは倒された! 

 

 そして、詩人、小説家という共通点があるストリウスとセイバーはアスモデウスと戦っていた。

 

「貴方と肩を並べて戦える日が来るとは思いませんでしたよ、私の英雄……」

 

「昨日の敵は今日の友! 最高の物語だ!」

 

 世界が終わる日、剣を交えた二人が今は共闘している。

 

「私がこの物語の、主役となるのだぁ!!」

 

 そんなアスモデウスの戯言にストリウスは反論する。

 

「分かっていませんねぇ、主役はなろうとしても無駄なのです。本物はなる以前に選ばれてるのですよ!」

 

「物語に主役なんていない! 全員が一生懸命に生きてる。俺たちが自分だけ主役になろうとしてる奴に、負けるわけが無い!」

 

「「物語の結末は」」

 

「私が」

 

「俺が」

 

「「決める!」」

 

 セイバーはソードライバーに納刀、ストリウスはベルト天面のボタンを押す。

 

『かつての神獣 一冊斬り!』

 

『The・story・of・despair!!』

 

「「はぁぁあああ!!」」

 

 青い炎と、巨大な剣を召喚し、それをアスモデウスへと向かわせる! 

 

「うっ、そんなぁぁあああー!! 」

 

 今度こそセイバーは、完全にアスモデウスを倒しきった。

 

 そして最光はカリュブディスと一体一の戦闘を繰り広げていた。

 

「お前がいる限り、災いは起こり続ける! 今、ここでお前を消し去る!」

 

「私は主人の命令に従うだけです!」

 

 大剣を振り回しすカリュブディス。だが……。

 

「させません!」

 

 その攻撃をストリウスが受け止める! そして現れたメギド四人。

 

「ここは私たちにも手伝わせていただきます!」

 

「分かってるのか? カリュブディスを倒したら、お前たちは────」

 

「ふんっ、承知の上だ!」

 

「自分に始末は、自分で付けてやるよ」

 

 最初にカリュブディスを生み出したズオスは言った。

 

「こいつには借りがある、そいつを返すだけだッ!」

 

 デザストもカリュブディスに斬りかかっていく! 5人に圧倒されていくカリュブディス。

 

「今です!」

 

「光あれ!」

 

『フィニッシュリーディング! 最光カラフル!』

 

「ううっ、うああああぁぁ!!」

 

 カリュブディスを倒すと同時に、彼らも消えていってしまった……。

 

「感謝するぞ。安らかに眠ってくれ……」

 

 そして、元凶であるタッセルと、セイバーの一騎打ち! 

 

「光があれば闇もある! それは決して変えられない!」

 

「悲しい物語だけじゃない! 苦しい物語だけじゃない! 物語はみんなを幸せにする! 俺は物語の力を信じるッ!」

 

 セイバーは刃王剣を天に掲げ、十本の聖剣の力を束ねる。

 

『月闇! 最光! 界時! 狼煙! 錫音! 翠風! 激土! 黄雷! 流水! 烈火!』

 

「これで終わりだ……! ダークワールドごと、消え去れ!!」

 

 十聖剣の力を込めた最強の剣が、タッセルを貫く! 

 

「うっ、うああああぁぁ!! ば、馬鹿な……、この私が、剣士ごときに……だ、だが……!」

 

 大爆発とともに、ようやく、ワンダーワールドと飛羽真の世界、そして神川賢人の世界、三つの世界を危機に晒したダークワールドと、その管理者タッセルは完全に葬られた……! だが彼が去り際に残した黒の本が、剣士たち、そして芽依を別の世界へと飛ばしてしまった!! 

 

「な、なんだ一体? う、うわあああ!!」




闇を払い! のところ誰が言ってるのかは本編を見てください。(布教)
次回から新章突入です。


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第36章 取り戻せ、命を賭けてでも。

「神峰透露……返してもらおうか」

 

「そうか、君は覚えているのだな」

 

「……何を、言っている?」

 

「いいや、君に言っても無駄か……と、偏見でものを言おうか」

 

 燃え盛る炎の中、2人の男は言葉を交わす。その5時間前から、話は始まる。

 

「なぁつづ……そうか、いないんだったな……」

 

 俺たちは本州へと帰還したあと、1度渚輪区へと戻ってきていた。それはもちろん、綴を取り戻すため。

 

「神川くん……?」

 

「あ、いえ、なんでもないです礼音さん」

 

「ところで賢人。その甘噛綴って子は、一体どこにいるんだ?」

 

 俺はサンに全て伝えておいた。綴と俺との関係とか色々。

 

「それがだな……まだわからないんだ……。ただ一応、心当たりがないわけじゃない」

 

「どこだ?」

 

「PAL研究所……だっけ。そこになにか手がかりがあるんじゃないかって踏んでる」

 

「へ〜、PAL研究所……か……。PAL研究所……?」

 

「え、なん、ですかサン?」

 

「……いや、少し聞き覚えがあったから……気にしないでくれ。思い違いだと……思うから」

 

「そう……? ならいいけど」

 

「ともかく、そのPAL研究所に行きたいから……誰か地図持ってる?」

 

「あ! あたし知ってるよPAL研究所!」

 

 そう言って手を挙げたのはアド。

 

「え!? 知ってるのかアド!?」

 

「うん! モチのロンだよ!」

 

「PAL研究所……PAL研究所……?」

 

 サンが何度もその言葉の中で繰り返していた。そして急に頭を抱えて苦しみだす。

 

「サン!? 大丈夫か!」

 

 俺が慌てて駆け寄ろうとした瞬間、サンはおもむろに立ち上がる。

 

「全部……思い出した」

 

「おっと……勝手に思い出して貰っては困るな……と、偏見でものを言おうか」

 

 どこからともなく現れた、その男の名は、神峰透露。その手には、聖剣 無銘剣虚無と、見たことの無いワンダーライドブックが握られていた。

 

「なんでお前がそれを……!」

 

「その質問に答える義理はない……」

 

 そう言って懐から取り出した拳銃を俺達に向かって撃った神峰。俺は慌てて振り返る。

 

「アド!!」

 

 先程の流れからして、アドが撃たれたものかと思ったが……。

 

「いいや違うさ……」

 

「がァっ……」

 

「サン!!」

 

 明らかに、脳天を撃ち抜かれていたサン。だが何故か、まだ息はある。

 

「サン!? ど、どうなってんだよ一体!」

 

「すまない……皆。……思い出したんだ」

 

「何をだよッ!!」

 

「そんな茶番はいらない……。確かそこの剣に選ばれた少年は、ある少女を探しているんだろう?」

 

「何故それを……!」

 

「名前は……甘噛綴だったか……。あの小柄な紫髪の」

 

「まさか綴を連れ去ったのは……」

 

「そのまさかさ」

 

 神峰はライドブックを開く。

 

『ポセイドンサーガ』

 

『かつてから伝わる神々の宴が今、開かれる〜』

 

「なんだと……!?」

 

 神峰は無銘剣を引き抜く。

 

『エターナルワンダー!』

 

「だったら……! 変身!」

 

『エナジーユニコーン!!』

 

「まぁ待て。君と争うつもりは今のところない……だが……君以外は……ふんっ」

 

 巨大な波を発生させ、来栖崎さんたちに向けて放つ。

 

「やらせません!!」

 

『タテガミ氷牙斬り!!』

 

 その波が、いきなり凍りつき、来栖崎さんたちに届く寸前で勢いが止まる。

 

「ふぅ……大丈夫ですか!?」

 

「え、あの……」

 

『クロス星烈斬!』

 

 そして、その氷塊が跡形もなく消え去る。

 

「安心して。もう大丈夫だから」

 

「えっその……」

 

 まさか……! 

 

「ちっ……ここは分が悪いか……」

 

 そう言って神峰が変身した剣士は液状化してどこかへと消えてしまった。

 

「神山飛羽真さん!? 新堂倫太郎さんも!? どうしてここに!?」

 

「なんで名前を知ってるんだ? いや、今は関係ないかそんなこと、それよりも俺たちこの世界にいきなり飛ばされちゃってさ、君たちがこの世界に住んでる人?」

 

「あ、はい……俺以外は」

 

「俺以外? じゃあ貴方は一体……というかなんですかその聖剣!」

 

「え、あ……倫太郎さん……。実は俺……」

 

 俺はこの世界に来た経緯と、この聖剣について話した。

 

「そう、なんですね……聖剣から聖剣が生まれる……そんな事例初めて聞きました」

 

「とにかく俺たちは剣士で、人を守っているんだ」

 

「あ、俺は知ってますよ。それよりも皆さん。怪我は無いですか!?」

 

 やっぱりポートラルみんなで戻ってきたのは悪手だったか……。

 

「えぇ、私は大丈夫よ」

 

「僕もまぁ、頭以外は」

 

 皆も言ってくれたので、本題に入ることにする。

 

「ところでほかの剣士の皆さんは一体どこに?」

 

「あぁ、二人一組で辺りを探索してる」

 

「あ、そうなんですね……あ、じゃあ皆さんに伝えてくれないですか? PAL研究所っていうところがあったら連絡してくれって」

 

「え、えぇ……いいですけど……」

 

『ガットリングガットリング』

 

 ガトライクフォンで剣士のみんなに連絡を取る倫太郎さん。

 

「ところで……あの剣士……無銘剣を持っていましたよね」

 

「あぁ、そうだな……しかも、なんなんだあの人……」

 

「あぁ、あの人は神峰透露。この世界に元々いた人だと思います。まぁなんでそんな人が聖剣に選ばれたのかは分かりませんけど」

 

「そうか……なら尚更放っておく訳にはいかないな。それで言ってたPAL研究所に、その男がいるのか?」

 

「えぇ恐らく……それに綴も」

 

「綴? 誰ですかそれ」

 

「あ……」

 

「神川くんの恋人だよ」

 

「あ、礼音さんっ」

 

「そ、そうなんですね。恋人……」

 

「倫太郎? なにボーッとしてるんだ?」

 

「い、いえ! 恋人ですか……」

 

 あそっか。倫太郎さんには芽依さんがいるんだったな。

 

「ともかくだ。PAL研究所を見つけないことには始まらないだろ」

 

「あ、そうでしたね飛羽真さん!」

 

 ということで倫太郎さんのライオンセンキに乗せてもらい、移動を始めた俺たちはいつの間にか暇を潰すための他愛のない会話をしていた。

 

「ところで賢人……神川くんはもうワンダーコンボにはなれるんですか?」

 

「え、できますけど……」

 

「凄いですね! 剣士になってまだ、一年ですよね! あの頃の飛羽真みたいです!」

 

「あはは、そんなに褒めないでください倫太郎さん。貴方だって凄いですよ」

 

「仲がいいようで俺も嬉しいよ倫太郎! あ、そうだサン! 君、ひさぎさんのことが好きなんだって? だったらさ、迷ってないで早く言えばいいじゃないか!」

 

「ちょ、神山さん声大きいですって……」

 

「えちょ、嘘でしょあのケツパが?」

 

「丁度いいじゃないかサン! 思い切って言ってみたら!」

 

「えっと……来栖崎……僕はお前が好きだ……」

 

「え……」

 

 サンの言葉に、来栖崎さんは戸惑いを隠せない様子。

 

「……いややっぱ……」

 

「サン! 自分の思いを否定したらダメだ!」

 

「はい! ……?」

 

 あぁもうじれったいな……。

 

「来栖崎さん! サンはこう言ってますが、貴方はどうなんですか

 

 、来栖崎さん」

 

「私は……いえ、少し考えさせて……」

 

 そんな会話をしながら探索している最中、倫太郎さんのガトライクフォンから着信音が鳴る。

 

「もしもし、賢人。見つかったんですか? えぇ、はい、わかりました!」

 

「倫太郎、見つかったのか?」

 

「はい、ですが……」

 

「なんだ倫太郎?」

 

「それが、その研究所自体が水の檻に閉ざされていてとても入れる状況じゃないみたいなんです」

 

「そういうことね。これは俺たち以外にも伝えてあるのか?」

 

「はい、賢人が言ってくれたそうです」

 

「じゃあ、とりあえず行ってみる敷かなさそうですね」

 

「そうですね……じゃあ、飛ばしますよ! 捕まってください!!」

 

 そう言って倫太郎さんはライオンのスピードを上げ、目的地まで急行した。



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第37章 綴られた思い、果たす時。

「ここか……」

 

「すごい……ですね」

 

「ライドブック1冊でこれほどの影響を与えられるなんて……」

 

 そして続々と集結する剣士たち。

 

「神山さんって炎の剣士? なんですよね。じゃあ炎であの水を蒸発させるって言うのはどうでしょう」

 

 とサンが提案する。

 

「うーん……流石に俺でもあの量は……」

 

 なんか炎を放つ武器があったような……、あ! 

 

「あ!! 飛羽真さん! ドラゴニックナイトはどうでしょうか! あの手に着けてる武器なら、なんか行ける気がします!」

 

「そうか! ありがとう賢人! って、これじゃあ賢人と被っちゃうな……神川! ありがとう!」

 

 そういうと飛羽真さんはソードライバーと、ワンダーライドブックを取りだし、変身する。

 

「変身ッ!」

 

『Don’t miss it ドラゴニックナイト!!』

 

 セイバーに変身した飛羽真はブックのページを3回タップし、神獣ブレイブドラゴンを呼び出す。

 

『The knight appears. When you side,you have no grief and the flame is bright ride on the dragon,fight. Dragonic knight!』

 

 そして彼はそれに搭乗し、左腕に装着された手甲ドラゴニックブースターの口を開き、ライドブックを読み込ませる。

 

『ブレイブドラゴン! ワンリーディング! ストームイーグル! ツーリーディング! 西遊ジャーニー! スリーリーディング!』

 

 そして装備のスタータースイッチであるブーステッドトリガーを火炎剣の柄の先で押す。

 

『ドラゴニックスパイシー!!』

 

 そのシステム音とともに、獄炎を放射し、ブレイブドラゴンも火球を発射する。

 

「はぁっ!!」

 

 だが、その炎は完全に水を消し去ることは出来ず、またみるみるうちに元の状態に戻ろうとする。

 

「なら……!」

 

『ドラゴニック必殺読破!! ドラゴニック必殺斬り!!』

 

「神火獄炎撃! はぁぁああああ、ハァッ!!」

 

 そしてセイバーは己の剣に炎を纏わせ、それを研究所に向けて放つ。

 

「まだまだ……!」

 

 セイバーは己の限界を引き出し、遂に纏っていた水を払うことに成功する。

 

「皆! 今のうちに行くんだッ!」

 

「わかりましたっ!!」

 

 セイバーは非戦闘員以外の全員が中に入ったのを確認すると、息絶え絶えの状態で地面に落ちた。

 

「わーちょちょちょ、大丈夫飛羽真!?」

 

「あ、あぁ、大丈夫大丈夫芽依ちゃん。でもちょっと……休ませて……」

 

 現状、一番の戦力である飛羽真が離脱してしまった……。

 

「薄暗いですね……」

 

 と俺が言うと百喰さんが当然かのように言い放った。

 

「まぁ、外が水に囲まれていますからね。妥当でしょう」

 

「でも……何故水の力なんでしょう。水の剣士は僕なのに」

 

「それは分かりませんが、あのワンダーライドブックに関しては私も知りませんでした」

 

「ソフィア様も知らないんですか……」

 

「というか、無銘剣は闇のタッセルを倒した時に一緒に壊れたんじゃないのか?」

 

 と賢人さんは言った。ん? ってことはあの俺が追い出したタッセルは結局倒されたのか、よかったよかった。

 

「……やはりあの聖剣には謎が多い。私も一度、じっくりと観察してみたいものだ」

 

「はっはっは、刀鍛冶の血が騒ぐってか?」

 

「シッ、静かに。なにか音が聞こえます」

 

「足音が二つ、歩幅は狭い……子供か?」

 

 流石大秦寺さん、耳がいいって本当だったんだな。すると先の見えない道の先から、赤と青の髪をした子供が俺たちに殺意を向けて走ってきているのが見えた。俺が注意を促し、皆が退避するとさっきまで玲花さんがいた場所に赤の子供が爪立てているのが見えた。

 

「奇襲失敗……」

 

「ここは私たちに任せてもらいましょう」

 

 そう言って神代兄妹が前に出た。

 

「玲花を傷つけようとした罪は消えんぞ……!」

 

『昆虫大百科』

 

『オーシャンヒストリー』

 

『狼煙開戦!』

 

『界時逆回!』

 

「「変身!」」

 

 二人はサーベラ、デュランダルに変身する。

 

「あなた達は先を急いでください。ここは私たちが片付けるので」

 

「え、あ、はい!」

 

 ◇◇◇

 

 双子の戦闘兵器、赤髪の吽前と青髪の阿繭との戦闘を開始した神代兄妹。しかし、二人は息のあったプレイに少し翻弄されてしまう。

 

「ちっ、玲花!」

 

「? ……! わかりましたお兄様!」

 

 だが長年一緒に生きてきた兄妹は、何も言わずに察知してそれぞれの聖剣の特殊能力を発動させる。

 

『界時抹消!』

 

 時を削り、止まった時の中を動き阿繭の背後に立つデュランダル。

 

『再界時!』

 

「フンッ!!」

 

 リーチの長いヤリカイジモードで阿繭を貫き、そしてそのまま撃破するデュランダル。

 

『狼煙夢虫!!』

 

 そしてサーベラは自らの体を煙化させる。当然吽前の攻撃は通らない。エネルギーが切れたのか、少し止まった隙にサーベラは狼煙のデフュージョンプッシュを押し、技を発動させる。

 

『インセクトショット!!』

 

「ふぅ……終わりましたねお兄様」

 

「あぁ、玲花。しかし倫太郎たちは上手く行けてるのだろうか……」

 

 ◇◇◇

 

「シミー? しかもメギドもいやがる! 」

 

 研究室への道中、大量のメギドやシミーがいるのが見えた。

 

「まさかあのメギド……!」

 

 その中には人を媒介として生まれる新型メギドもいた。

 

「ここは俺に任せてもらおうか」

 

「なら僕も……!」

 

「あぁ!」

 

『最光発光! エックスソードマン!』

 

『流水抜刀! ライオン戦記!!』

 

「光あれ!!」

 

 最光はそう言って光剛剣最光を天に掲げる。すると剣が光り、シミー達は一掃される。

 

「ナイスですユーリ!」

 

 そしてブレイズは聖剣にブックを読み込ませ、その力をメギドにぶつける。

 

『ライオン! 習得一閃!』

 

 水のエネルギーがメギドを包み、破裂する。

 

『流水抜刀! キングライオン大戦記!!!』

 

「犠牲にはさせません!!」

 

 ブレイズの聖剣、水勢剣流水は青く光り、それに斬られた新型のメギドたちは次々と人間に戻っていく。

 

「だ、大丈夫ですか皆さん!」

 

 そして最光に斬られたメギドたちも人間に戻っていく。

 

「最高だな!」

 

 ◇◇◇

 

「ちっ、漸くたどり着いたのはいいが……なんだよこのデカブツは!」

 

 顔にうっすらと人の意匠が残った巨大なゾンビ? が俺たちを待ち受けていた。

 

「ここは私たちに任せてヴァルキュアは先に行ってください!」

 

「あぁ、ソフィアさん、俺も一緒に戦います」

 

『ジャアクドラゴン!!』

 

『ランプドアランジーナ!!』

 

 二人は剣士にその身を変え、兵器アタナトイとの戦闘を開始する。

 

「はぁあああ!」

 

「ふっ!」

 

 だが生半可な攻撃では傷つかない様子のアタナトイ。

 

「なら!」

 

『アランジーナ一冊撃! サンダー!』

 

「必殺リード ジャアクドラゴン! 習得一閃!」

 

「アランジーナ・ディアブロー……!!」

 

「はぁっ!!」

 

 雷の蹴り、そして闇の斬撃を喰らったアタナトイはその巨躯を血に沈める。

 

「やりましたね、ソフィアさん」

 

 ◇◇◇

 

「まだ辿りつかねぇのかよ」

 

 と尾上さんが愚痴をこぼす。

 

「そうカリカリするな尾上」

 

「なぁ賢人、お前、恋人を探してるんだろ?」

 

「え、あ、蓮さん。そ、そうですけど」

 

「じゃあお前はなんで戦ってるんだ?」

 

「え……っと」

 

 そういえば考えたことなかったな……。確かに、綴がいないのなら……。

 

「いや、俺は綴のために戦ってる。いつ綴が戻ってきてもいいように、だから俺は、この世界を元に戻したいんだ」

 

「覚悟は決まってるんだね」

 

「うん」

 

 だが、一向に辿り着かない。とそこに正体不明の黒い人影が迫ってくるのが見えた。

 

「……やはり、気付かれましたか。まぁいいでしょう」

 

「あんたは……マスターロゴス!」

 

 またの名を仮面ライダーソロモンが、現れた。

 

 

 

「なんでもいい! 賢人! お前は先にいけ! こいつは俺たちに任せとけ!」

 

 と尾上さんが自信満々に言った。

 

「あぁ、あんたは恋人を救い出すんだろ!」

 

「早く行ってこい!」

 

「あ、ありがとうございますッ!!」

 

『土豪剣激土!』

 

『風双剣翠風!』

 

『音銃剣錫音!』

 

 3人は聖剣にブックを装填、変身する。

 

「俺の剣は、響きが違うぜぇぇぇえええッ!」

 

 3人はシンガンリーダにブックを読み込ませ、技を発動させる。

 

『激土乱読撃……!』

 

『翠風速読撃!!』

 

『錫音音読撃!』

 

「大断断!」

 

「疾風剣舞・回転!」

 

「スナック・音・ザ・チョッパー……!!」

 

 土 風 音 のエネルギーを一身に喰らったソロモンは爆発四散、オムニフォースブックは跡形も残らなかった。

 

 ◇◇◇

 

「……神峰透露、お前は俺が倒す……」

 

「漸く辿り着いたのか……待ちくたびれた。と、偏見でものを言おうか」

 

 俺はブックを装填、剣を引き抜く。

 

『エナジーユニコーン!』

 

「変身」

 

 神峰も同じようにブックを装填、剣をバックルから引き抜く。

 

『エターナルワンダー!』

 

 癒しの力と水の力、綴を取り戻すための戦いが今、始まった。

 

「はぁぁああっ!!」

 

 ヴァルキュアはブックをリード、その力を聖剣に宿す。

 

『ユニコーン! 習得一閃!!』

 

 だがヴァルキュアの動きを見て理解したのか、ファルシオンも同じようにブックをリードする。

 

『永遠の神獣 無限一突……!』

 

 だが、ファルシオンの方が有利か、少し押されてしまっている。間一髪で直撃を免れたヴァルキュアだったが、それでも爆風は浴びてしまった。

 

「なら……!」

 

『スペリオルユニコーン!!!』

 

 漆黒の鎧をその身にまとったヴァルキュア。

 

「神峰透露! 綴をどこへやった!」

 

「さて? 君たちが倒してきた怪物の中に、いるんじゃないか?」

 

「……は?」

 

『必殺黙読……永遠の神獣 一冊斬り……!』

 

「それじゃあ、君には興味は無いのでね。剣を残して、死んでもらおうか」

 

 ヴァルキュアに斬撃が放たれる瞬間……! 

 

「賢人ッ!!!」

 

「サン!?!?」

 

 飛び込んできたのはサンだった。

 

「……なんで!」

 

「僕は不死身だからさ! こんなことでしか役に立てなくて……! また会えるから!」

 

 サンはそう言って、無銘剣の直撃を受け、爆発四散。

 

「……神峰、返してもらおうか」

 

「何をだ?」

 

「仲間の……いいや友達の命をッ!!」

 

 ヴァルキュアはページを3回タップ、納刀、抜刀を繰り返し、そして最後にスペリオルブースターの持ち手の裏にあるリード部分に読み込ませる。

 

『スペシャル! ふむふむふ〜む 完全読破一閃!』

 

「……神峰、お前をこr……いいやお前を倒す!!」

 

 それでも賢人はあと1歩のところで踏みとどまり、ブックだけを正確に破壊する。そして変わり果てた姿となったサンは、少し時間が経つと破片が元に戻ろうと動き出した。

 

「……やっぱり、不死身ってのは本当だったんだな」

 

「神川くん!! 大丈夫か!?」

 

 ブックが壊れた影響か、水が消え研究所内に来てくれたポートラルのみんな。

 

「……皆さん」

 

「神川! 大丈夫か!」

 

「え、えぇ……大丈夫です。それよりもソードオブロゴスの皆さんっ、メギドとか倒した後に、誰か現れませんでしたか!?」

 

「あ! それに関してはユーリと一緒に戦ったときに本を埋め込まれた人が沢山いましたが……」

 

「!! その中に紫色の髪をした女の子はいませんでしたか!?」

 

「うわちょ、落ち着いてください! 確か……えっと……」

 

「あー、確かいたぞ。このくらい身長で、髪にリボンを着けた」

 

 ユーリさんがいった特徴は、綴にピッタリ当てはまっていた。

 

「その人達は……メギドにされた人は今どこに!?」

 

「それならもうすぐ来るんじゃないでしょうか。芽依さんが連れてきてくれているところです」

 

「本当ですか!? だったら早く行かなきゃ────ッた」

 

 やっぱり、身体が痛い。

 

「やっぱり、戦ったあとは動くのきついですね……」

 

「だったら俺が特訓つけてやるよ」

 

「ふっ、蓮ももう教える立場になったのか……なんだか寂しいな」

 

「もう前の俺とは違うからね、賢人」

 

「はっはっは、頼もしいな! と、いうかサンは一体どこだ?」

 

「……あ、それは」

 

「呼びました?」

 

 え……もう復活したの? 

 

「おーよかったよかった。急に走っていったからどこにいるかわからなかったんだよ」

 

「あはは……」

 

「あ! それと無銘剣虚無は……」

 

「そういえば!」

 

 周囲を見渡しても見当たらない……。

 

「ない……」

 

「まさかまた消えたのか? ……やはり無銘剣虚無は謎が多い」

 

「そうみたいですね……」

 

「まぁ、これにて一件落着ってことだな!」

 

 だが、いつまで経っても飛羽真さんたちは元の世界に戻らない。

 

「……何が目的なんだ?」

 

 でもまぁ、綴も取り戻せたし……ってことは次は本州ってことか……? 

 

 すると急に俺たちの耳にある声が響き渡った。

 

『……日本をゾンビから取り戻せ……』

 

 それを聞いた飛羽真さんたちは納得したような声を上げる。まぁ……今後の目標は出来たからよしとしよう。

 

 



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外伝 集う、英雄たち。
外伝 Chapter.0 悪魔の契約、膨らむ悪意


リバイスの最終回でフェニックスが復活した世界線のお話です。一輝の記憶も戻って変身しても記憶は失わなくなったと仮定します。


 ────これは、神川賢人が渚輪区に現れる少し前に起こった、パンデミックの日の話。どこか遠い国に、レオナという少女がいた。彼女にはゲイルという幼なじみの少年がいた。2人は慎ましながらも幸せな生活を送っていた。感染爆発が起きるあの日までは。

 

「ねぇゲイル! 見てみてこれ!」

 

「ん? はは、可愛いな」

 

 3月15日、この世界の人間にとって忘れることはない日。よりにもよってその日が、レオナの誕生日であった。ちょうど2人がお祝いのためのケーキを買いに来ている中、悲劇は起こった。ゲイルが突然苦しみだし、異形の怪物と化してしまったのだ。

 

「なにが起こってるの……?」

 

 周りの人達もゲイルと同じような反応を見せ、たちまち化け物になる。

 

「嘘……でしょ……」

 

「死にたく……ないよ……」

 

『ホーリーウイング!!』

 

「はぁあああ!!」

 

『ホーリーライブ!!』

 

 ゾンビがレオナに触れる瞬間、白い羽根が彼女を守る。

 

「大丈夫ですか!? フェニックスです! もう安心して下さい! ……って、デッドマンじゃない……のか?」

 

(とにかく襲われそうになってるんだ! 早く助けないと!)

 

『必殺承認! ホーリージャスティスフィニッシュ!!』

 

『俺に変われ大二!』

 

 仮面ライダーホーリーライブ、五十嵐大二はカゲロウに身体を明け渡す。

 

「あぁ……!」

 

『バット!』

 

 バットバイスタンプを地面に押印、コウモリの羽が二人を包み、その場を離脱する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、感染爆発の日、本州ではある一人の女性がとある高層ビルの屋上の縁に立っていた。

 

「何やってるんですか! もう外は化け物でいっぱいなんだ! 早く逃げてください!」

 

「そうは言ってもよぉ一輝、こいつ死のうとしてるっぽいぜ?」

 

「だったら尚更だろバイス! 変身!」

 

『上昇気流! 一流! 翼竜! プテラ! 』

 

 五十嵐家の長男の一輝は悪魔バイスをホバーバイクの姿に変え、飛び降りた女性を救出する。

 

「そういえばこんなこと、前にもあったよな!」

 

「あぁ……って、そんなことよりも! なんで死のうとなんかしてたんですか貴方は!」

 

「あんな化け物がいるからに決まってるじゃない! あんな奴と同じのになるくらいなら、死んだ方がマシよ!」

 

「何言ってんだよ! そんなことくらいで死のうとしてたら、命がいくつあっても足りないぞ!」

 

「って、それよりもここ、俺が元いた世界とは……かなり違うような……まさか誰かに送り込まれたのか?」

 

「なんの……話?」

 

「あぁ、こっちの事情だ。気にしないで。それよりもさ、俺、どこに行けばいいんだろう……」

 

「えぇぇぇええええ!? そんなことも決めずに私を助けたわけ!?」

 

「おい一輝ぃ! どこに行くんだよぉ」

 

「えっと……まぁとりあえず海に囲まれてるところ……沖縄に行こう!」



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外伝 Chapter.1 Bの始まり/渚輪の『・・・・・』

 ────ある日、俺の仕事場『鳴海探偵事務所』に一つの依頼が舞い込んできた。それは『真綾博士を探して欲しい』という依頼だった。差出人は不明。場所は本州とは離れた離島、渚輪ニュータウンと記してあった。俺はフィリップに検索を頼んだ末、渚輪島という離島があることがわかった。

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくっか」

 

「ちょっと! 風都の安全はどうすんのよ!」

 

「所長、左がいない間は俺がこの街を守るさ」

 

「しかし、また離島に行くのかい翔太郎? これで二度目だよ?」

 

「あぁ……そっか……でも依頼を放っておくわけにはいかねぇ」

 

「そうか。なら僕も行くよ」

 

「んじゃ、風都は任せたぜ照井」

 

「あぁ、無事に帰ってこいよ」

 

「ったりめぇだ」

 

 俺はフィリップを愛車『ハードボイルダー』の後ろに乗せ渚輪島へと続く港まで駆る。

 

「……まさか、別世界に迷い込んでしまうとはね。想定外だよ」

 

「お、おいフィリップ。どうしてそう言い切れるんだ?」

 

「状況を見てだよ。まず地図上であんな小さな島だったのにこれほど発展しているはずがないというのが一つ。次にこの島の構造。周りが断崖絶壁に囲まれているという特異な地形、まさに別世界。……いや、もしかしたら、僕達は本当に異世界に迷い込んでしまったのかもしれないね」

 

「おいおいそりゃねぇぜフィリップ。そしたらどうやって帰るんだよ」

 

「まずはここがどこかを調べよう」

 

「んー……まぁそうだな。そんじゃあ……。キーワードは渚輪ニュータウン。そして真綾博士」

 

「あった……! ここは渚輪ニュータウン。日本とは隔絶された孤島のようだね。しかも、ここに載っている日本は日本の首都が東に響くと書いて東響となっている。やはりここは、僕たちがいた世界とは別の世界のようだね」

 

「おいおいまじかよ……」

 

「帰る方法が分からない以上、しばらくはこの世界に留まることになりそうだけど……」

 

 フィリップが考え込んでいると、ふと周りから人がいなくなっていることに気づく。

 

「おいフィリップ、考えてる暇は無さそうだぜ」

 

「あれはガイアメモリ……? 僕たちの世界のものが何故……」

 

「とにかく倒すことが先決だ。行くぜ相棒」

 

『サイクロン!』

 

 フィリップはクリアグリーンのメモリ、風の記憶を宿したサイクロン、

 

『ジョーカー!』

 

 そして俺はクリアブラックの切り札の記憶を宿したジョーカーのメモリのスターティングスイッチを押す。

 

 ソウルサイドに差し込まれたサイクロンメモリが俺のベルトに転送されフィリップは俺の体に意識が転送される。そして俺の体が変質し、仮面ライダーWへと姿を変える。

 

『サイクロンジョーカー!』

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ!」」

 

「相手のメモリはコックローチ……」

 

「あのメモリは使用者によって実力の上下が激しい。ここは一旦サイクロンメタルで様子を見よう」

 

「了解だぜ相棒」

 

 俺はボディサイドのジョーカーメモリを鋼鉄の記憶が宿ったメタルメモリに差し替える。

 

『サイクロンメタル!』

 

「はぁっ!」

 

 メタルシャフトを使い、ドーパントを攻撃するが、素早い動きに翻弄されてしまう。

 

「くっ、ルナトリガーを使うよ」

 

『ルナトリガー!』

 

 トリガーマグナムから発射された追尾弾で素早く動く敵を的確に狙い撃つ。

 

「フィリップ! メモリブレイクだ!」

 

『トリガーマキシマムドライブ!』

 

「「トリガーフルバースト!」」

 

 俺たちは技名を同時に叫ぶことで息をピッタリ合わせ、相手のメモリを破壊する。

 

「おいおいなんだよこいつは……」

 

 だがそこに居たのは既に体が腐敗している……所謂ゾンビと言われているモノだった。俺は一度変身を解き遺体の状態を確認する。

 

「コックローチメモリにそんな副作用はなかったはずだ。なぁフィリップ、ここで目を覚ましてから人、見たか?」

 

「……。……! そうだよ翔太郎! 僕達は元々人がいて、ドーパントが現れたからいなくなったのだと勘違いしていた。元々僕たちを狙ってここに置いておいたんじゃ……」

 

「だとしたらかなりまずい状況だな……ひとまずこっから離れるぞ」

 

「あぁ!」

 

 俺たちは走ってその場から撤退する。

 

「厄介だな……あのふたり……」

 

 それを影から見つめている人がいることに、その時の俺たちは気づくことが出来なかった……。

 

 ────逃げた先にいたのは軍だった。

 

「俺たちを捕まえに来たのか?」

 

「まっさか。その逆だよ。君たちを助けに来たんだ」

 

 軍のリーダーと思われる、大量の試験管を服にぶら下げた銀髪の男が返答してきた。

 

「あの怪物を作り出したのは君たちかい?」

 

「いいや、そんなわけあるはずがないだろう? 私たちを信じてくれ」

 

 俺はドライバーを腰に装着する。

 

「わかった。俺たちはあんたらの側に乗る」

 

「それがいい返答だ。それじゃあひとまず君たちを保護するため、私たちについて来てくれないか?」

 

「あぁ、了解だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……これは人工生命体……」

 

 隠れて研究所内を散策していると、とても大きなフラスコが何十個もある部屋にたどり着いた。

 

「ドーパントじゃない……のか?」

 

「おいフィリップ! こんなところに地下に続く階段があるぞ!」

 

 地下にあった部屋には毒々しい色をした液体が大量に入った浴槽があった。

 

「まさかこれはウイルス……」

 

「」



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外伝 chapter.2 Bの始まり/真感染

「人工生命体か……まさに人間の業とでも言うべき存在だが……どうする翔太郎」

 

「どうするったってお前……ってかこの変な液体の対処の方が先だろ」

 

「まさか、人の見た目をしているから、という理由かい?」

 

「ち、違ぇよ……」

 

「まぁ、君の気持ちも分からなくは無い。だが、もうすぐ奴らもここを嗅ぎつけてくるだろう。もしあれらが一斉に僕たちに襲いかかってきたらどうする? だから僕はそうなる前に倒しておかないと……」

 

「しっ、誰か来たようだぜ……」

 

 咄嗟に俺たちは物陰に隠れ、入ってきた人物の様子を探る。

 

「本当にここであってるのよすが」

 

 そこに入ってきたのは5人の男女だった。それらの中から真っ先に注意を引いたのはときめの比じゃないくらい全身ほぼ布を纏っていない褐色肌の少女だった。

 

「うん! プカ美の言ってた通りならね!」

 

「ったく、俺を疑ってるのか?」

 

「……おいフィリップ、ありゃなんだ」

 

「……わからない。だが少なくともあの軍人の仲間ではないだろうね」

 

「どういうことだ?」

 

「あの時にいた軍人の中には一人も女性はいなかった。つまり男所帯ということだ。ということは、彼女らは軍に捕まり、ここから脱出しようとしている、と考えられる」

 

 よく見てんなぁフィリップの奴。

 

「しっ、誰かいる……!」

 

 白髪の少女がなにかに気づいたように臨戦態勢をとった。まずい……気づかれちまったか……? いや、ここは素直に出た方がよさそうだな。

 

「よ、よぉ嬢ちゃんたち、こんなところに遠足か? って、うわちょ、違う違う! 俺達は敵じゃねぇって!」

 

「あなた達、何?」

 

「ちょっと訳あって軍の野郎にとっ捕まっちまってよぉ、今追いかけられてるとこなんだが……」

 

「そ、あなた達も誰かの細胞を移植された人型兵器ってわけね」

 

「それ……どういうことだ?」

 

「見つけたぞ! ガイアメモリの超人にアタナトイ!」

 

「翔太郎、話している暇はなさそうだよ。もう奴らが来た」

 

「そういうことだ嬢ちゃんたち! 下がってな」

 

「勘違いしてるようだけど、私たちが戦えないとでも思ってる?」

 

「は? どういうことだ……って、おいおいおい、まじかよ……」

 

 白髪の少女は自身の体と同じくらいの剣を虚空から出現させる。

 

「わけわかんねぇが、俺達もいくぜフィリップ」

 

「あぁ、翔太郎」

 

「「変身!」」

 

『サイクロンジョーカー!』

 

「っとぉ、ちょちょちょ、誰かこのフィリップを守ってやってくんねぇか? 戦闘中は俺の中に意識が移るんだ」

 

「え? ちょ、わかったわ……」

 

 彼らの中でいちばん露出度の高い褐色肌の少女が倒れたフィリップを抱き抱えてくれた。

 

「ちょっと翔太郎……誰に頼んでるんだい?」

 

「いいだろ別に……選り好みするな」

 

「そういう訳じゃない!」

 

 俺たちが言い争っているうちに奴らは全て倒されていた……が、残った一人がドーパントメモリを取り出し、自分の体に挿した。

 

『Book!』

 

「やっぱり超人になれるんだ! これがあれば赤城様のために……」

 

「おいちょっと待て!」

 

 ドーパントにも臆することなく斬りかかっていく少女を無理やり引き止める。

 

「君たちの攻撃ではメモリブレイクできずに変身者を死なせてしまう可能性が高い! ここは僕たちに任せてくれ」

 

「ちっ」

 

 白髪の少女は仕方がなさそうに退いていった。

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ」」

 

『ルナジョーカー!』

 

「おらぁっ!」

 

 ルナの力で体を伸縮させ、相手の行動を封じ込める。だが奴は体を器用に動かしそこからスルリと抜け出してしまう。

 

「なら……!」

 

『ルナトリガー!』

 

 ルナの自動追尾弾を発射するが、全く追尾しねぇ……一体なんなんだあの能力……。

 

「ちっ、あいつはどういう能力なんだ一体?」

 

「ガイアウィスパーはブックと言っていた……」

 

「ってことは本……だよな」

 

「そうだが……わかった翔太郎! 奴は僕の星の本棚のような能力を持っている! つまりエクストリームのように戦闘中に相手の能力をみることができるということかもしれない!」

 

「なら……物理で行くしかないってことか!」

 

「あぁ……そういうことだね!」

 

『ヒートジョーカー!』

 

「本は火に……弱ぇだろ!!」

 

『ジョーカーマキシマムドライブ!』

 

「「ジョーカーグレネイド!」」

 

 左右に別れた体が敵を火だるまにする。そして排出されたメモリは……なんでだ? メモリブレイクが出来ねぇ! 

 

「一体どうなってんだ?」

 

「まずい翔太郎! 彼から離れるんだ!」

 

 変身がとかれたその男からメモリは排出されず、その溜まったエネルギーが余波としてその男諸共爆発した。

 

「まずい……! アイツらが危ねぇ!!」

 

『ルナメタル!』

 

 メタルシャフトをムチのように扱い彼女らを絡め取り、そのまま窓を割って外に出る……が、

 

「まずい翔太郎! その先は!!」

 

「これ飛行船かよぉぉぉぉおおおお!!!」

 

 俺たちは空から落ち、死を覚悟した。だが……

 

「リボルギャリー! お前も来てたのか!」

 

「まさに奇跡というほかないねこれは……」

 

 リボルギャリーから射出されたハードタービュラーが俺たちを受け止めてくれていた。そのおかげで俺たちは安全に着陸することが出来た。

 

「ふぅ……ったくひやひやさせやがって」

 

「ダメだ翔太郎、今変身解除したら……」

 

「? 何言ってんだフィリップ別にいいだろ」

 

 俺は構わずにメモリを引き抜く。

 

「あ……」

 

 ほぼほぼ全裸の少女の懐に眠っていたフィリップは意識を取り戻した。

 

「なんつーか……すまねぇ、どっちとも。……つか、見事に爆破してやがんなぁあの軍の飛行船」

 

「……。……! 翔太郎、あの中にはウイルスが入ってたんじゃ……」

 

「いや……あのウイルスは適切な手段で放たれていたらこの島はおろか、本州全域まで拡がっていた。ここで始末をつけてくれて感謝する」

 

 なんつーか……女に抱きつかれながら言われても……。

 

「プカ美〜、どうして君はプカ美なんだ〜い」

 

 水色の髪をした少女がプカ美と呼ばれた男に抱きつきながら甘えている。

 

「しかし、一先ずここは離れよう。一度リボルギャリーに乗ってから話さないか?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は私立探偵の左翔太郎。んでこっちが相棒のフィリップだ。俺たちは二人で一人の仮面ライダーWってのになって風都って街を守ってたんだが……」

 

「ボクは白名月よすが! で、こっちが私の家族!」

 

「しろなっ……それ苗字か? また変わった苗字してんなぁ……」

 

「こっちが翠吟静わだち姉で、そっちが蒼朽寂……」

 

「あーっ、もういい、とりあえず名前だけ教えてくれ。苗字はいい」

 

「……しずく」

 

「ほとり」

 

「ところで何故この辺りはこんなにも崩壊しているんだい?」

 

「えーっと……その私たちあの中から1歩も出たことなくってさ……」

 

「俺もだ」

 

「……しゃあねぇ」

 

 俺たちが飛ばされた世界という大きな謎はひとまず置いておいて、まずは依頼された八月朔日真綾という人物を探すこととなった。



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外伝 chapter.3 愛の出会い、悪魔も憎まず友達!!

 五十嵐三兄妹がこの世界に来た後、彼らの元いた世界からもうひとりの男がやって来た。オルテカを崇拝する男、竜瀧友輔だった。彼はこの世界へと転生したのだ。転生特典としてギフスタンプディアブロスタンプに連なるアタナトイスタンプ、そして崇拝するオルテカと同じダイオウイカプロトスタンプを受け取った彼は横暴を繰り返していた。そんな中、五十嵐家の長男一輝と次男大二は話し合っていた。

 

「おい大二、本当か!? オルテカの信者がこの世界に現れたってのは」

 

「ちょっと落ち着いて兄ちゃん! まだ信者って決まったわけじゃないから! でも、そいつがギフスタンプに似たスタンプを持ってたっていう目撃情報は出てる……。しかもイカに似た怪物に変身したって……」

 

「なんでスタンプを持ってんだよ!」

 

「わからないよ! でも、ひとつ言えるのはギフスタンプに似たスタンプを人に押してたってことだけ」

 

「おい! それってまさか……!」

 

「うん、ギフテリアン……もしくはそれににた怪物に変化させられた可能性が高い」

 

「おい一輝! ギフテリアンって確か人間を喰っちまうんだよな!」

 

 一輝の悪魔、バイスが出てきて言った。

 

「あぁ……玉置の友達や千草さん……大勢の人が犠牲になったんだ……放っておけるわけが無い!」

 

「兄ちゃん! まだ居場所どころか顔も割れてないんだよ!」

 

「だったらどうすんだよ! このまま黙って見てる訳にはいかないだろ!」

 

「ひとつだけ……手掛かりがあったんだ。そいつが今この世界の大半を支配しているグラナトファっていう奴らと組んでるって」

 

「グラナトファ? なんなんだよそれ」

 

「人間を超えた新しい種……らしいよ」

 

「人間を超えた種……。悪魔じゃないのか?」

 

「いや……違うみたい……。とにかく、今の日本はそいつらに占拠されてるみたいなんだ」

 

「日本が!? ……大二、日本に行くぞ」

 

「……ふっ、兄ちゃんとそう言うと思ったよ」

 

「私も行くからね!」と、末っ子のさくらがひょいと顔を出す。

 

「は〜い! 俺っちも〜!」

 

「よぉ〜しみんな! 一気に行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイスが変身したプテラゲノムで日本にひとっ飛びした五十嵐三兄妹、そして一方、左翔太郎たちとシルヴァニアは……。

 

「てめぇが組織の……PALのリーダーだな」

 

 なんとかPAL研究所へと逃げおうせた赤城。

 

「お、おおお俺はリーダーなんかじゃない! なにかの間違いだ!」

 

「シラを切っても無駄だよ、彼女たちは生きてる」

 

「ふっふっふ、私たち姉妹は不死身なのだ!」

 

 とよすがは言った。

 

「……クソがァ!」

 

『バイラス!』

 

「あのメモリ……おいわだち! リボルギャリーに妹たち避難させろ! このメモリは危険だ!!」

 

「あぁ、あの時は使用者が意識不明だったおかげで倒せたようなものだったが……万全な状態なら……あの男の命よりまずは自分たちの命を心配した方が良さそうだね」

 

 事実、バイラスのメモリには都市一帯をパンデミック陥らせる程の力を有していた。

 

「あぁ」

 

「「変身!」」

 

『サイクロンメタル!』

 

 リボルギャリーに避難する彼女たちを巻き込まないためのメモリを選択する。

 

「はぁっ!!」

 

 攻守に優れたメモリの組み合わせ。だが、決定打に欠けるため中々攻撃してもダメージを与えられない。

 

「翔太郎! 彼女たちの避難は完了したみたいだ!」

 

「あぁ、わかったぜ!」

 

『ヒートトリガー!!』

 

 ウイルスは高熱に弱いという特性を活かし、火の玉を次々と放っていくダブル。

 

「弱点も克服してやがるってのか?」

 

「過剰適合者、もしくはハイドープだろうね……しかし、彼にはもう自我は無い。恐らく既にウイルスに侵され死んでしまっているんだろう」

 

「ちっ、なんて厄介なメモリなんだよバイラスってのは……」

 

「まずい翔太郎! はウイルスを辺りに撒き散らす気だ!」

 

「クソっ! 仕方ないフィリップ! ツインマキシマムだ!」

 

「大丈夫なのかい!? 翔太郎!」

 

「今の俺たちなら! きっといける!」

 

 過去、ウェザードーパント戦にて使用した際は体に深いダメージを負ったが、今の俺たちならと、ヒートメモリをベルト右横にあるマキシマムスロットに、トリガーメモリをトリガーマグナムのマキシマムスロットに装填する。

 

『ヒートマキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブ』

 

 壊れたようにガイアウィスパーがマキシマムドライブ音を鳴らす。

 

「「トリガーエクスプロージョン!」」

 

 トリガーマグナムから爆炎が発射されるが、ドーパントもそれに対抗しウイルスを放つ。両者の力が拮抗するが、ダブルの、いや翔太郎の身体への負担が限界を迎えようとしていた。その瞬間……! 

 

『イーグル! スタンピングストライク!!』

 

 二色のエネルギー弾がダブルの攻撃に加わる。

 

「君は一体……」

 

「今はいいです! とにかくあの怪物を倒せばいいんですよね!?」

 

 ダブルの前に、腰にマントを携えた、自らの姿に似た仮面ライダーが現れた。

 

「はぁぁあああ!!!」

 

 なんとかバイラスドーパントを倒すことが出来た3人。

 

「ふむ……つまり君たちは1人で2人の仮面ライダーということだね?」

 

「はい! あなたたちは……竜さんが言ってた2人で1人の仮面ライダーWですよね!」

 

「あぁ〜、照井が前言ってた仮面ライダーってのはお前らか〜」

 

「悪魔と共に変身か……興味深いねぇ……。ねぇ! 君のそのバイスタンプ、少し見させてくれないかな?」

 

「あちゃ〜……」

 

「ん? ってあ!! 俺っちに何する気だ!!!」

 

「え、フィリップさん!?」

 

 フィリップは一輝の持っていたレックスバイスタンプをひょいと取り、バイスを出現させ体のあちこちを隅々まで探る。

 

「あぁなったフィリップは止めらんねぇんだ、すまねぇ一輝」

 

「え、まぁ危害が加えられないならいいですけど……」

 

「ねぇ一輝くん! 悪魔っていうのはやっぱり死なないものなのかい?! それにこのバイスタンプっていう代物、明らかに人工物だけど誰が作ったんだい?」

 

「え、えっと……」

 

「おいフィリップ! そこらへんにしとけ! 一輝が困ってるだろ!」

 

 ────なんて、彼らは談笑していたが、PAL研究所は渚輪区本島にあるため、五十嵐三兄妹は行くところを間違えてしまっていたのだ。彼らはシルヴァニア姉妹を連れてようやく日本列島にたどり着くことに成功した。



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第三部 世界を救う、治癒の姫。
第38章 三つ首の白狼、白銀の剣士。


 人の定義とは何だろうか。もしも記憶も、心も、姿かたちも、何もかも同じ"モノ"が死んだオリジナルと入れ替わったとして、それはその人そのものと言えるのだろうか? 

 

 果たして沼男は、人と言えるのだろうか? 

 

 第三部 世界を救う、治癒の姫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「矢迷坂は白のグラナトファを! 久邇境はゾンビと戦っている真狩の援護を!! 甘噛! あのデカブツ、頼めるか……?」

 

「もちろんですわ……!」

 

 本州に辿り着き、生存者を指揮している太陽機関という組織に勧誘された俺たちポートラルとソードオブロゴスの剣士の皆さん。俺と綴とサンは『治癒姫(ヴァルキュア)』といわれる少女を迎えて、生存部隊『ポートラル』剣士の皆さんは『ソードオブロゴス』として、他の生存部隊とともに日本、いや世界を救うために日々、戦いを繰り広げていた。

 

「矢迷坂さん! 今向かう! 変身!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

 矢迷坂は専用のシリンジでグラナトファを一刀両断。だがコアから外れたため、絶命には至らない。しかし、その隙を狙い、むき出しになったコアを聖剣で貫く。

 

「よっしゃ!!」

 

 ゾンビ生成機さえ倒してしまえば後はゾンビだけ。油断さえしなければ敵ではない。

 

「はぁッ!!」

 

 久邇境は拳に装着された専用のシリンジでゾンビを蹴散らしていく。だが、中には生前の姿を少し残した者もいて、躊躇してしまう。

 

「危ないッ!」

 

 とそこに真狩が飛び込み、間一髪で避ける。

 

「奴らに情を抱くなと言っているだろう真咲!!」

 

「ッ……わかっています!」

 

 そう言って真狩は群がるゾンビをレイピア型のシリンジで一掃した。

 

「ふぅ……これで今日の仕事は終わりっと……」

 

 そして俺は綴、サンと一緒に行きつけのBARに寄った。

 

「最近来栖崎さんとはどう? 上手くいってる?」

 

「それがちょっと喧嘩しちゃって……話さなくなって2日ですよ? 2日」

 

「はぁ……お前らなぁ……イチャつくのはいいけど仕事に影響で無い程度にな」

 

「そういう賢人こそ。部隊のメンバーから賢人の惚気話ウザイって評判だぞ?」

 

「げっ、まじかよ……アイツらそんなことを。綴も知ってるか?」

 

「はい賢人様。私のことについて話すのもいいですけど、それで部隊内の仲が瓦解したら貴方のせいですからね?」

 

「綴まで……」

 

「あ、僕そろそろ帰るね。来栖崎もそろそろ許してくれるだろうし」

 

「お、頑張れよ〜……。あ、狗界くん。おひさ〜」

 

 サンが帰った後に、生存部隊『ダイナモ』の参謀、狗界セカイくんも1人(強調)でやってきた。

 

「あ、お久しぶりです。えっと……神川賢人さんでしたっけ?」

 

「うん、そ。それで、最近婚約者とはどうなの?」

 

「えぇ、まぁ順調です。仕事が忙しくって、なかなか会えてないですけどもね」

 

「あ、そうなんだ。ところでだ、いつからかだったかは忘れたけど今日までずっと外にいたんだろ? おつかれさん」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「てか狗界くん。なにか悩んでるのか?」

 

「あぁ……少し……」

 

「どした? 作戦明けに」

 

「いえ、ちょっと曲者のメンバーが入ってきて……」

 

「いや既に曲者揃いじゃないか?」

 

「いや、ちょっと……なんか輪を乱しそうなっていうか」

 

「あぁ〜、そういうことね」

 

 つまりサークルクラッシャーってことか。

 

「そっか〜、それじゃぁ1回、歓迎会とか開いてみたらどうだ?」

 

「あ〜、それいいですね!」

 

 狗界くんはそう言って納得したように誰かにメッセージを送る。

 

「よし、それじゃあ俺たちはそろそろ帰るから、狗界くんもダイナモの子達と婚約者、大事にしろよ〜」

 

「わ、わかってますって」

 

 そう言ってBARを出た俺たちは、太陽機関の本部の中の、俺たちポートラルの部隊室へと帰ってきた。

 

「ただいま〜」

 

「あ、賢人、帰ってきたのか」

 

「おかえり〜」

 

「おかえり賢人さん」

 

 と口々に言っていく。

 

「真狩さん、今日はありがとな。もうちょっとで久邇境さんが危ないとこだった」

 

「あぁ、礼を言われるほどでもない。しかし真咲、君のその優しさを否定する訳では無いか、君はその……ゾンビに恨みなどはないのか?」

 

「ないことはないんですが、やはり元々人間だったという事実が脳裏をチラつくんです」

 

「そうか……しかし真咲、それで実戦に出られると困るんだ。なんとか治すことは出来ないだろうか……」

 

「うーん……」

 

 俺が解決法を考えている中、サンが提案する。

 

「それじゃあさ、ゾンビになった人達は全員元々悪人だったって思ってみたらどうだ?」

 

「あぁ〜、なるほど」

 

「そうか。それなら私、なんとかやってみれそうです!」

 

 なんとも簡単に解決したこの問題。

 

「んじゃ、そろそろ寝るとするか……」

 

「参謀さん、おやすみなさい!」

 

 え、俺は? 

 

「あとついでに賢人さんも」

 

「ふざけんなよ!?」

 

 なんて、馬鹿みたいにふざけあっていると、部屋の中に警報が鳴り響く。

 

『ポートラルスクランブル ポートラルスクランブル! 大分県日田湧泉地区郊外にてグラナトファ発生!!』

 

「なんだって!?」

 

「そこって、内地じゃなかったか……?」

 

「じゃあなんで入ってこれてるんだよ!?」

 

「考えるのはあとだ! さっさと出動準備だッ!」

 

 サンがそれを纏め、早速大型の輸送船に乗り込むための準備を開始する。

 

「水無月さん! 皆のシリンジは今出せますか!?」

 

 俺はポートラルの技術士、水無月波月に尋ねた。

 

「そんな! 無茶言わないでよ!?」

 

「……ッ! 無茶でもいいです! 今この瞬間も、人が死んでるんですッ! だから早く!」

 

「ど、どうなっても知らないわよッ!」

 

 シリンジを受け取った俺は輸送船に乗り込み、現地に向かう。

 

「最大戦力で行く。皆、着いてこい!」

 

『スペリオルユニコーン!』

 

 そう言って勢いよく飛び降り、俺はグラナトファに飛び蹴りを喰らわす。奴の近くには大量の死体と、人だった何かが転がっていた。そして俺に見向きもしないグラナトファは逃げようと地を這いつくばっている女性をいとも容易く、豆腐のように踏み潰し、息の根を止める。そして遅れて登場してきた狗界くんが参謀をしている生存部隊ダイナモも戦闘に加わる。だがグラナトファは全身に纏った翼を広げ、大きな爆発が起きる。

 

「な、なんだと!?」

 

 俺は慌てて仲間の手を掴み、吹き飛ばされないようにする。だが、逆にそれ仇になった。奴の余りにも強大な力の衝撃は、装甲を持たない少女たちにとっては致命的だった。

 

「矢迷坂さんッ!!!!」

 

「邦芽さんッ!!!」

 

 冷静な判断が出来なくなっている俺に、真狩さんは言った。

 

「賢人! まずはこいつをぶっ倒してからだッ!」

 

「ッ! わかってるッ!」

 

 俺はブックを押し込み剣を抜刀する。

 

「はぁぁあああっ!!」

 

 だがその攻撃が奴に届く瞬間、白い流星が俺とグラナトファの間に落ちる。

 

「な、なんだ!?」

 

「ガルルルルルルッ」

 

 新たに現れた三つ首のグラナトファ……。噂にしか聞いたことはなかったが、あれはまさか……! 

 

「まさかあれが、特記個体『肉吐く白狼(オウトロック)』

 

 か……?」

 

「奴が現れたのは確か……岡山が地図から消滅したあの日以来……」

 

「なんでそんな奴が安全地帯のここにいるんだよっ」

 

「ガルルルルルル……!」

 

 獣のように唸ることしかできないように見えたが、奴らは顔を見合せ、意思疎通をしているかのような素振りを見せる。

 

「なんだ一体……」

 

 サンは戸惑っているが、俺には関係ない。やられる前にやるだけだッ。

 

『必殺読破! スペリオル必殺斬り!』

 

 だが、三つ首の白狼は剣を振り下ろす寸前に耳をつんざくほどの雄叫びを上げ俺はその衝撃で吹き飛ばされ、変身を解除してしまう。

 

「がぁッ!」

 

 まずい、アバラ何本か折ったかも……。

 

「ま、待て……!」

 

 痛みを堪え、そんな言葉を奴らに向かって叫んでみるが、奴らはこちらを歯牙にもかけず、白羽根を咥え夜の森へと去っていった。

 

「こんな結果……許せるかよッッッッッ!!!」

 

 民間人の生存者:0名

 

 民間人の死者:5名

 

 身元不明の遺体:10体

 

 その数字でしか、今となっては惨状を理解することは出来ない。だが俺は、昨日のことを忘れることは無いだろう。だから俺は、そんな人を1人でも減らすために、戦う。昨日死んでしまった人達の墓に向けて俺は誓った。




久邇境真咲くにざかいまさき
真狩叶女まかりかなめ
矢迷坂邦芽やまいざかくにめ


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第39章 追憶、繋がる記憶。

もしかしたら不快になられる方もいるかもしれないので、あとがきに内容要約して書いときます。嫌やって方はスクロールしてあとがきだけを読んでください。


 翌日の晩。

 

「……なぁ賢人。あの名前って……」

 

「あぁ、確か狗界くんの……」

 

 俺はニュースを見て言った。

 

「だよな……」

 

 まさか、あの時に殺された人って……。でも俺は、助けることが出来なかった。

 

「謝ったって取り返しがつかないことはわかってる。だからこそサン」

 

「なんだ?」

 

「……。いや、なんでもない。それよりも矢迷坂さんの容態はどうなんだ?」

 

「あぁ、もうほぼ完治したみたいだぞ」

 

「……それはよかった。でも腕は大丈夫なのか?」

 

「あぁそれももちろん。お前がちぎれた手をちゃんと持ってたからだそうだ。いくら治癒姫だって言っても身体欠損までは完治できないからな」

 

まさか俺、ファインプレー?

 

「でも他の子達も大なり小なり傷は負っている。明日の出撃は無理だろうな」

 

 とサンは続けて言った。

 

「やっぱそうだよな……」

 

 俺もこの聖剣がなかったら今頃ベッドの上……というより棺の中だしな……。ちなみに俺とサン以外は入念に検査を受けているので少し寂しい気がする。

 

「ん……」

 

 夜中、俺は目を覚ましてしまった。

 

「最悪だ……」

 

 この太陽機関では治癒姫、参謀個人個人に部屋が割り当てられているのだが俺の部屋はポートラルのフロアの中でも一番端、つまり角部屋だ。

 

「やっぱ怖いな……夜中のここは」

 

 ひとまず俺はベランダへと出た。外の解放感は恐怖心を和らげてくれる。

 

「飛羽真さんたちも頑張ってるんだろうなぁ……」

 

 すると、背中に声をかけられた。

 

「よっ、賢人。飲むか?」

 

「うわっちょ……。あっつ!?」

 

 急に矢迷坂さんがコーヒーを投げてきたので慌ててそれを掴むと、矢迷坂さんは笑いながら言った。

 

「必死すぎ。てかこんな時間になにしてんの? 賢人」

 

「あぁ〜、矢迷坂さん、なんか目覚めちゃって、てか腕大丈夫なの?」

 

「大丈夫、治癒姫の回復力舐めちゃ困るよ? てかそのさん付けやめなよ気持ち悪い」

 

「はぁ? 気持ち悪い?」

 

「ほら、その口調でさん付けとかやばいって。他のみんなもそう思ってるみたいよ? それに同じチームなんだしさ」

 

「じゃあもう矢迷坂でいい?」

 

「いいっていいって。つかさぁ賢人。お前なんか抱えてんだろ」

 

「全く、部下に相談乗ってもらうなんて俺バカだなぁ……」

 

「ま、いいんじゃない? それもアンタらしいし」

 

「いやバカにしてる?」

 

「ははは、してないって。まぁとにかくさ、気張らずにいこうよ」

 

「つか賢人って綴とどういう関係なわけ?」

 

「うーん……なんて言ったらいいかな……まぁ広義で言えば、恋人って感じかな」

 

「恋人……ふふっ、なーんか面白いね」

 

「邪魔はすんなよ」

 

「てかさぁ賢人。アンタとの出会いってほんと、奇跡だったよね……」

 

「え……あぁ、うん……」

 

 正直、思い出したくもない出来事なんだけど……。

 

「あれは確か……半月ぐらい前だったよね……」

 

 え、思い出したくないんだけど……。

 

 ────これは神川賢人たちが本州へ上陸、太陽機関に所属して約1年がたったある日、神川賢人、甘噛綴、サン、来栖崎ひさぎの4人はあるショッピングモールに立ち寄っていた。

 

「ダブルデートねぇ……ったく、この忙しい中で……」

 

 と来栖崎は不満げな声を漏らす。

 

「ま、休暇とったしね。折角ならってことで、それよりも綴、今んとこお前しか治癒姫いないけど、大丈夫か?」

 

「ふふ、私を見くびっていますの?」

 

「そんなことはないけど、つかそれよりも来栖崎と綴はこれ、持っててくれ」

 

 そう言って賢人がふたりに手渡したのは小型の連絡装置。それに取り付けられているボタンを押すと即座にそれがサンと賢人に伝わり、有事の際にはとても役立つようになっている。そんな説明をふたりにすると、

 

「え、何それ束縛? まじキモイんだけど」

 

「いや違うって! なんかあったら大変だからさ、もしかしたらはぐれるかもしれないし!」

 

「おいサン、なんかガチで気持ち悪くなってるぞ」

 

「いいではないですか来栖崎さん、それほど私たちのことを大事に思っているということですし」

 

「あぁそうだよ綴」

 

「相変わらずのバカップルぶりねあのふたり」

 

「そういう来栖崎さんだって毎晩私に相談してきてるじゃないですか」

 

「あんちょそれは言わないでって────」

 

「え? そんなこと相談してんのか?」

 

「うっさい!」

 

 とサンはみぞおちに足蹴を食らわされる。

 

「いった!!!!」

 

「……どんまいサン」

 

 そんな他愛ない会話をしながら、交流を深める4人。

 

「ちょっとトイレ行ってくるわね」

 

 そう言って綴と来栖崎は1階のトイレへと向かっていった。

 

「……よしサン、後を追うぞ」

 

「あぁ……」

 

 そう言って残された男性陣も2人の後を追って行く。完全に不審者である。そしてトイレへと向かったふたりはその中で異変を感じる。

 

「ん……? なにか……嫌な予感が」

 

「来栖崎さん、この中から出ていてください」

 

 そう言うと綴は個室を1個ずつ開けていく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 一番奥の個室のトイレ、その中に一組の男女が入っていた。女性は刃物を突きつけられ、男性は既に正気を失った様子で少女に馬乗りになっていた。

 

「……!」

 

 綴はその光景に唖然とし、状況が呑み込めずにいた。

 

「おい……お前、何見ている……」

 

 よく見るとその少女の膝や下腹部、胸部には既に刺傷や〇的暴行の跡がある。

 

「……!」

 

 綴はそれを見ると今まで味わったことの無いような嫌悪感、そして殺意に心が蝕まれる。

 

「殺す……!」

 

 そして中々帰ってこないことを疑問に思った来栖崎は連絡装置のボタンを押しサンと賢人を呼ぶ。幸いふたりは尾行していたのですぐに駆けつけた。

 

「どうした! 大丈夫か!」

 

「……いや、綴が帰ってこないの。トイレに入ったら、なんか出てって言われて……待ってても中々出てこないから────」

 

 そう言っている最中にも関わらず賢人は女子トイレへと入った。

 

「……賢人さま」

 

 そこにいたのは全身に返り血を浴びた綴だった。

 

「え……?」

 

「……綴……?」

 

「どう……なってるんだ……?」

 

 恐る恐る綴に近寄り、様子を確認する賢人。

 

「おい……」

 

 綴の近くにあったのは、丁度人ひとりくらいの肉片と、綴と同じく血まみれの少女であった。

 

(どういうことだ……?)

 

 それでも賢人は、この少女の傷は綴によるものではないと確信が持てた。

 

「ごめん……なさい……」

 

 謝り続ける綴に、何も言えない賢人たち。だがそれでも綴は徐々に正気を取り戻していき、ゆっくり、ゆっくりと言葉を発し始めた。

 

「……そうか」

 

「信じて……くれますか……?」

 

 恐る恐る、賢人の目を伺いながら綴は言った。

 

「大事なのはそこじゃない……。俺はお前と、そこの女の子が心配なんだ」

 

「……私のことはどうでもいいんです……でも私は人を……」

 

「俺は別に綴を責めたりはしない。……女の子を助けようとしたことは立派な事だと思う。別にその男が死んで当然とか思っているわけじゃないんだろ? だったら別にいい。今日の分を償う為に、これから数え切れない程の人達を助ければいいんだ」

 

「え……?」

 

「それよりもまずは、この子の治療……いや、もし治療が無理なら……」

 

「それは最終手段だ。早まるな賢人」

 

 治癒姫になるには過酷な手術、そしてリハビリ並びに訓練を積む必要がある。そしてそれらに耐え、はれて治癒姫になったとしても死と隣り合わせの仕事が待っている。なりたいと思って志願する少女は極小数で、その大半が復讐目的だ。そんな仕事を志願する者はほぼ、身寄りがなく自分の生活すらままならない少女である。だからこそサンや賢人は本当に本当の最終手段であると考えている。

 

「でもこの傷に……いや、心身ともに深い傷を……」

 

「あぁ……」

 

 そして賢人たちは少女を大病院へと運ぶが、助かる見込みはないと言われ、太陽機関へと治癒姫への手術を頼んだ。

 

 ────そして今に至る。

 

「いや〜、まさかゾンビに襲われそうになったところを綴に助けられるとはね〜」

 

 ……今でも心苦しい。矢迷坂に嘘をつき続けているということ。

 

「……ごめん矢迷坂」

 

「ん? なんだよ急に謝って」

 

「……あ、あぁ。いや、昨日の作戦の時怪我させちまったからさ」

 

 ……また嘘を。

 

「まぁこんな時間にふたりで外にいるってバレたら怒られるし、さっさと戻ろうぜ」

 

「あ、あぁ、うん……」

 

 そう言って俺たちは自分たちの部屋戻って、寝ることになった。




治癒姫(ヴァルキュア)と読んでください。
矢迷坂 襲われていたところを綴に助けられて仲間になった。


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第40章 救えぬ命、変えれぬ運命。

「賢人さん……」

 

「ん? なんだ久邇境」

 

「あのさ……あの時のこと、覚えてる……?」

 

「え、あぁ……うん」

 

 ……あの時のことか……。

 

 ────あれは新たに矢迷坂邦芽をポートラルに迎えてから約半月が経ってからのこと。賢人たちは不慣れながらも各都市を着実に攻略、浄化していた。そんなある日のこと、通報を受けやって来た警官5名が射殺されるという事件が起こった。

 

「私たちの仕事はゾンビを殺すだけじゃなかったの?」

 

「……まぁ、俺たちのチームが特別ってことだ」

 

 半月前のあの事件の後、賢人は浄化作戦の合間、沢山の人を人から救ってきた。だからこそ、自惚れに似たような感情を持っていたのかもしれない。

 

「はぁ……、ったく賢人、お前はなんでそんなに人を救いたいんだ?」

 

(……俺のためだ)

 

 などと言えるわけはなく、賢人は誤魔化した。

 

「理由はない……」

 

「ふぅん」

 

「とにかく早く行くぞ、賢人、矢迷坂、久邇境」

 

 甘噛が心の治療の為に太陽機関の専用ルームに行っているため、この作戦は初出撃の久邇境、矢迷坂も加えているが、賢人はともかくサンは不安で仕方がなかった。

 

「……あれが例の発砲犯か」

 

 賢人たちはビルの屋上から双眼鏡を覗き込み、交差点で暴れている少年を目視する。見ると1人の女性を人質にとっているようだ。

 

「……それじゃあ僕は民間人の避難と情報規制を行います。くれぐれも変身及びシリンジの使用はなしでお願いします!」

 

 一応組織に認められた活動とはいえ、これは私情であり仕事ではない。だからいくら技術局長であるサンが所属している生存部隊とはいえ、そんな勝手は許されないのだ。

 

「「了解!!」」

 

「そこの少年!!」

 

「なんだよお前は!!!」

 

「俺は太陽機関の神川賢人!! 君を止めるために来た!」

 

「太陽機関……だったら、お前には分からないはずだ!」

 

(え……?)

 

「お前のような上澄みには僕達下級階層の気持ちなんて分からないはずだ!」

 

「……は?」

 

「お前らは充足な衣食住を与えられ、更に十分な健康状態を維持できる、更にゾンビを倒したら報酬も貰える……そんな奴らに僕の気持ちはわからないはずだ!」

 

「君は……」

 

「……何故知っているんだ?」

 

 突然、少年の背後に男が現れ禍々しい形状をしたスタンプのようなものを人質の女性も含めた2人に押印する。

 

「なんだあれ」

 

「え……?」

 

 すると2人の体は石のように固まり、それを内側から食い破るように2体の怪物が現れた。

 

「ニンゲン……オイシカッタ……」

 

「どうなってんだ……?」

 

「っておいどこに行く!」

 

 スタンプを押した張本人である男は、その陰に隠れてどこかへと雲隠れ。

 

「おいサンッ! どうすんだよこのバケモンは!!!」

 

「……! 賢人! ソードライバーは持ってるか!?」

 

「持ってる! けどだとしても変身しちゃダメなんだろ!?」

 

「特例だ! 後で大秦寺さんに謝っとく!」

 

「その言葉を待ってたぜサン!! 矢迷坂さん! 久邇境さん! 下がってて!」

 

 賢人はソードライバーを腰にあてベルトを装着する。

 

『聖剣ソードライバー!』

 

「出し惜しみはなしだ!」

 

 懐から取り出したワンダーライドブックのページを開く。

 

『エナジーユニコーン!』

 

「変身!」

 

『スピニングユニコーン!』

 

 3冊セットし、変身する賢人。そして悪魔ギフテリアンとの戦闘を開始する。

 

(こいつ……人に戻せないのか……? てかなんだこいつ……メギドじゃなさそうだし……しかもスタンプ……?)

 

 そんなことを考えているとまた先程スタンプを持っていた男がヴァルキュアの背後を取り、耳元で囁く。

 

「悪魔に食われた人間はもう、死にましたよ」

 

「お前……!」

 

 ヴァルキュアは慌てて振り返るが、そこに男はいない。

 

(でもだったら……)

 

 ヴァルキュアは思考の続きを口にし、覚悟を決めた。

 

「気兼ねなく倒せる……!」

 

『必殺読破! 3冊斬り!』

 

「はぁッ!」

 

 ヴァルキュアは悪魔を蹴り上げ、隙だらけにさせる。

 

「お前の魂は、俺が救う!!」

 

 ヴァルキュアは更に足先にエネルギーを纏わせ飛び上がり、蹴りを食らわせた。すると、直撃した悪魔は勢いよく地面に突き落とされ地面にめり込む。そして間髪入れず大きな爆発が発生した。ヴァルキュアはそれを背にし、剣を納め、変身を解除する。

 

「……やっぱり、あの人たちは戻ってこないか」

 

 だがその爆破跡にもスタンプを押された人間の痕跡は一切残っていなかった。

 

「クソっ……一体なんだったんだあの男……」

 

「そ、それよりも賢人さん……あの怪物ってまさか……」

 

 治癒姫になって数日の2人にそんな重荷を背負わせる訳には行かないと考えた賢人は、はぐらかすように答えた。

 

「あぁ〜いや違うぞ? あれは元からあの怪物だったんだ」

 

「……おい賢人、お前それで本当のこと知った時どうすんだ」

 

「……そんなことは絶対にさせない」

 

「……どうなっても知らないぞ」

 

「? 参謀さんと賢人さんは何を話しているんですか?」

 

「いや、なんでもない。気にするな」

 

 ────事件が終わり、何事も無かったかのように民間人は日常に戻るが、それは何も知らない、あの場にいなかった人達だけだ。

 

「まさか、昨日の事件自体が、なかったことになってるのか?」

 

「あぁ、妃崎さんが尻拭いをしてくれたらしい。でも……」

 

「でもなんだ?」

 

「これからは今までみたいに民間人を人から守るのは禁止だとさ」

 

「そっか……そうだよな……」

 

 賢人は少し悩むが、すぐに納得する。

 

「それと、あのスタンプを持った男についても調べてみたんだけど、なんの情報も得られなかった。理由は分からないが、そもそもあぁやって突然消したりできる以上、人間じゃないのは明らかだ」

 

「……そうか。やっぱり」

 

(でもあのスタンプにあの怪人……なんか仮面ライダーっぽいんだよな……ってことは俺の知らない仮面ライダー……セイバーの次のライダーか!)

 

「分かった!」

 

「な、なんだ!? あの男について知っていたのか?」

 

「いや、そういう訳じゃない。あのスタンプと、怪人のことについてだよ! 俺の元いた世界では、飛羽真さんたちの活躍がフィクションとしてテレビで放送されてたって前言ったよね!」

 

「あぁ、言ってたな……」

 

「それでその飛羽真さんたちの物語の次の作品に、あのスタンプみたいなやつが出てくるんだよ! で、それの敵が悪魔って言うんだよ!」

 

「悪魔……? やけにファンタジーだな」

 

「……だからさ、あの怪物も悪魔ってことじゃないのかなって」

 

「でもその悪魔とやら、出てきたの昨日が初めてだったよな?」

 

「あぁ、情報が隠匿されてない限りそうだ」

 

「じゃあやっぱり、昨日まで潜伏していたのか、昨日この世界に来たのか……」

 

「賢人が別世界から来た以上、その可能性も薄くはないだろうな」

 

 賢人とサンは会話を交わしながら、先日起きた事件について纏めていた。すると突然ドアが開き、綴が入ってくる。

 

「賢人さま!」

 

「綴!! 治療は終わったのか!」

 

「はい!」

 

「久しぶりだな 無理はしてないか? 」

 

「大丈夫、サンさんも心配して下さりありがとうございます」

 

(なんか態度違うなぁ)

 

 ────そして、舞台は現代へと移行する。

 

「賢人、妃崎さんから連絡。2週間後に広島攻略作戦が始まるそうだ」

 

「広島!? あんな広い地域を!?」

 

「もちろん、他の生存部隊も一緒だけど」

 

「そっか!」

 

「えっとたしか狗界くんのダイナモと……名前は忘れたけどトルペードとか言ったっけな……」

 

 トルペード……ま、普通の人だといいけど、多分めっちゃ癖あるんだろうな……。

 

「ま、とにかく甘噛、それに皆も二週間後の広島攻略作戦に向けて、鍛錬は怠らないようにね」

 

 サンはそう言って局長室へと戻っていった。



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第41章 治癒姫の休息、剣士の修練。

『ブックゲート! Open the gate』

 

 俺はブックゲートを開き、剣士たちの仮拠点であるサウザンベース(仮)へと空間転移をした。

 

「……おっと、賢人。癒封剣の修理なら終わったぞ」

 

「あ、ありがとうございます大秦寺さん」

 

「それにしても随分と悩んでいるようだな」

 

「えぇ……いや、最近なにか自分に限界があるような気がして……」

 

「限界……少し私が特訓をつけてやろうか?」

 

「え、まじですか? ありがとうございます!」

 

 リベラシオンさえあれば、もっと強くなれるんだけどなぁ……。

 

「そういうことであれば、私が結界を貼ります。その中であればゾンビは湧きません」

 

「ソフィアさん、いつの間に……」

 

 俺と大秦寺さんは荒廃した街に出る。

 

「全力でかかってこい……!」

 

「わかりました!」

 

『エナジーユニコーン!』

 

『ヘンゼルナッツとグレーテル!』

 

『波癒抜刀!』

 

『銃剣撃弾!』

 

「「変身!」」

 

『スピニングユニコーン!』

 

『音銃剣錫音!』

 

 ────賢人はソードライバーのライトシェルフに、大秦寺はスズネシェルフにセットし、ブックが開く。すると2人が振るった剣の軌跡が顔に付き、全身に剣士の甲冑ソードローブが展開され、その身を変える。

 

「いきます!」

 

 2人は剣を交え、その思いをぶつける。

 

「お前は何のために戦っている!」

 

「俺はこの世界を元に戻したい……! だから戦っているんです……!」

 

「そうか……! だがその思いに、剣の腕が追いついていない……! はぁっ!」

 

 スラッシュはわざと腕の力を抜き、意表を突かれたかたちとなったヴァルキュアは体勢を崩してしまう。

 

「だからこのような事態にも対応できない……!」

 

「がぁっ!」

 

「それを果たしたいのなら、もっと強くなれ……!」

 

「まだまだ……!」

 

『スペリオルユニコーン!』

 

『スペシャル! ふむふむふ〜む 完全読破一閃!』

 

「それじゃあ能力に頼っているだけだ……! そんな技……!」

 

 そう言うとスラッシュは剣を巧みに扱い、ヴァルキュアの技を完全に見切る。

 

「無垢のソンビたちはそれで今まで倒せてきたのかもしれないが、グラナトファには知性がある。だから今のままでは駄目だと言っているんだ!」

 

「ッ……!」

 

 スラッシュの剣の腕は見事で、受け止めることが精一杯なヴァルキュア。

 

「だからこそ俺は……! 強くなりたいんです!」

 

『錫音音読撃!』

 

 ブックをリードした技がヴァルキュアに直撃する。

 

「うああああっ!!」

 

 変身が解除し、首に錫音を突きつけられる賢人。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「今のお前はソードローブ、そして能力に頼りすぎだ」

 

 一方その頃、ポートラル所属治癒姫、真狩叶女と、幼馴染である久邇境真咲は束の間の休息を嗜んでいた。

 

「真咲はどこに行きたい?」

 

「うーん……、あ! ショッピングモールに行きたいです!」

 

「いいねショッピングモール! さぁ行こう!」

 

「ふんふふ〜ん」

 

 鼻歌をしながら叶女は買い物を楽しむ。

 

「あ、そうだ真咲! 服買わない? 服!」

 

「いいですね! じゃあまずは────」

 

 突然、彼女達の後ろで爆発が起こった。その余波で2人は吹き飛ばされてしまう。

 

「キャアアアアッ!」

 

「ふふふ、さぁ、あなたたちも柩様の生贄となるのです!」

 

「な、なんなんですかあの輩は!?」

 

「シッ……」

 

 叶女は真咲の口を塞いで死んだふりをする。

 

「まだ生き残りがいましたか、では大人しく、生贄になってください」

 

 イカのような怪物となった青年は、手当たり次第にスタンプを押していく。

 

「ひ、ヒィィ! た、助けてくだ────」

 

 彼らはみな一様に命乞いをし、それらは聞き入れられず残酷な死を遂げた。

 

「……一体なにが起こっているんだ……」

 

 とそこにソードオブロゴスの剣士富加宮賢人と緋道蓮がやって来た。

 

「とにかく危なそうなやつだ。まずはあの人たちを助けよう賢人」

 

「あぁ、そのつもりだ」

 

『ランプドアランジーナ!』

 

『風双剣翠風!』

 

 多くのギフテリアンを率い、ダイオウイカデッドマンは進軍した。

 

「まずはお前らからだ……!」

 

『雷鳴剣黄雷!』

 

 エスパーダの剣が光り、雷が奴らを襲う。

 

「お前らに聞きたいことがある。お前は一体なにm……」

 

 賢人が尋問しようとすると、ギフテリアンは泡になって消えた。

 

「嘘だろ……?」

 

「何か一つ忘れていないかな?」

 

「賢人!! だったら……!」

 

『こぶた三兄弟! 双刀分断!』

 

 剣斬は3人に分身し、一人は民間人の救助、一人はエスパーダの救援、そしてもう一人でギフテリアンの討伐にあたった。

 

『翠風速読撃!』

 

「疾風剣舞3豚!」

 

 剣斬はギフテリアンを倒し、意表を突かれたエスパーダの救助に成功する。

 

「今日のところはこれくらいにしておきましょうか……」

 

 そう言って青年は墨になって消えた。

 

「なんとかやり過ごせたみたいですね……」

 

「あ、大丈夫ですか?」

 

 2人を見つけた賢人は手を差し伸べて起き上がらせる。

 

「起きれるか?」

 

「えぇ、うん。大丈夫、です……」

 

「よかった。生きている人がいて」

 

 ────そして彼女たちは一旦ソードオブロゴスの拠点に連れられた。

 

「お〜帰ってくるの早かったな〜蓮、賢人〜ってちょちょちょ、その女の子誰!?」

 

 

 

「あ〜ちょっと色々あってな。てか来てたのか賢人〜」

 

 賢人さんは俺に向かって手を振ってくれる。

 

「あ! 賢人さん!」

 

 どっちの!? って思ったけどまぁ久邇境が言ってるし俺にだろ、多分。

 

「よ〜久邇境、ショッピングはどうだった?」

 

「実はその時のことで……」

 

 久邇境は俺たちに、ことの経緯を話してくれた。

 

「またあいつが……」

 

「うん……しかもなんか自分に変なスタンプ押して怪物に……」

 

「あいつも怪人になれるのかよ……」

 

「スタンプだと……? 真咲ちゃん! そのスタンプ、こういう形じゃなかったか?」

 

 飛羽真はメモ帳に書いた物を久邇境に見せた。

 

「は、はいそうです! そんな感じでした! でも他の人に押してたのはもっと違う形でしたけど……」

 

「ってことはバイスタンプ……一輝たちが持ってるのと同じ……ってことはまさか……」

 

 盲点だった。飛羽真さんたちに話すのを忘れていた……。

 

「デッドマンズ、ですよね飛羽真!」

 

 倫太郎さんが思い出したかのように口を開いた。……ってことは飛羽真さんたち、次のライダーとの交流あるんだな。

 

「あぁ、その線が高い。だがスタンプを持った別人ということもあるが……」

 

「と、とにかくそのスタンプが危険ってことですよね」

 

「あぁ、俺たちが戦った相手は歴史上の偉人の力を使っていた」

 

 俺が質問すると、飛羽真さんも少し思い出すかのように答えてくれた。

 

「ま、とりあえずそろそろ戻らないといけないだろ。特に賢人は大秦寺さんに稽古つけてもらっててかなり時間たってるんだから」

 

 賢人さんが俺に忠告してくれた。

 

「そ、そうでしたね。いくら休暇と言えど節度は守らないと」

 

「まぁ、こっちもなにか分かったら連絡する。ほらこれ。調整は完了したぞ」

 

 そう言って大秦寺さんがなにか俺に手渡してくれた。

 

「これは……」

 

『ガトライクフォン!』

 

 スマホ状態からトライクに変形するソードオブロゴスの移動手段じゃないか! 

 

「ありがとうございます! じゃ、久邇境、真狩、帰ろうか」

 

「あぁ、賢人は帰って甘噛さんとイチャイチャしなきゃだもんな」

 

「ふふふ、私達も似たようなものじゃないですか叶女と私も」

 

「う、うるさいぞ真咲! は、早く帰るぞ賢人!」

 

 ナイス久邇境。……てかこの子ら幼馴染らしいけど幼馴染ってこんなんなのか……? 

 

「んじゃ、また会いましょう!」

 

「あぁ、賢人、次会う時はもっと強くなっていることを期待しているぞ」

 

「はい! 期待しててください!」

 

『ブックゲート! Open the gate』




実は最初はダイオウイカデッドマンのところでThe first版のショッカー出す予定だったんですけど、話が纏まらなくなるのでやめました


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第42章 決戦、痛みの鎮魂歌。

 決戦前夜、生存部隊ジムペインの部隊長夏色ゆっこ。

 

「……ふぅ」

 

「あとは寝るだけ……やな」

 

 訓練を終え、最終ブリーフィングも終え、部隊長としての激励も終え、風呂に入り寝巻きに着替え、次に目を覚ます時は人類の存亡をかけた一大作戦当日。彼女はできればその日が来なければいいとも思っていた。

 

「……なに弱気になっとんねん」

 

 ベッドに横たわると丁度デスクに立てかけた写真立てがよく見える。8人の幼子が写った家族写真。他ならぬ彼女の家族である。天井に指を掲げながら、指折り数える。指が1本足りない。

 

「……もう、11年前やもんな」

 

 過去を振り返り感慨に浸っていると、腕に着けた携帯端末が光り、バイブの音が静かな部屋に少し響く。着信相手は牌門水守(はいかど みもり)、彼女の幼なじみであり、ジムペインのメンバーである。

 

「水守か……」

 

 応答のボタンを押し、通話を始める。

 

「なんや、パイモン」

 

「まぁっ、やにわにパイモンっ、そんなこと言う悪い子さんなら通話切ってしまいますよ」

 

「アホか、そっちからかけてきたんやろ」

 

「かけられるの嫌なんですか〜? だとしたら少しだけ傷心です」

 

「アホ、嫌なんて一言も言うてないやろ、ジョークやジョーク。察せよ」

 

 感慨に浸り少し憂いげになっていた表情が次第に明るくなっていく。

 

「せぇでなんや? うちの声でも聞きたくなってきたんか?」

 

「いーえー? そんな些事で通話なんてしません」

 

「そらそうやな、じゃあなんや?」

 

「ゆっこさんが私の声を聞きたいのかなーって」

 

「そら……一大事やな」

 

「ゆっこさん。最後のあの激励はなにかしら」

 

「アホ。よかったやろ、みんな燃えてたやん」

 

「いーえー、私から言わせれば100点満点中30点の激励です」

 

「30点? て厳しすぎやないか?」

 

「39点ですよ。私がゆっこさんの点数を間違えるはずがありません」

 

「なんの自信やねん。そりゃあトルペのやつは爆笑し腐ってたけど、60点はあるやろ」

 

「私は、0点のゆっこさんが見たかった」

 

「……」

 

 ゆっこは楽な体勢が見つからず、もう一度寝返りを打つ。

 

「『生まれは違えどうちらは姉妹。うちは誰も見捨てへん。全員で必ずなんとかかんとか』」

 

「暗唱すな。それに本心やで」

 

 ◇◇◇

 

「とうとう、この日がやってきたか……」

 

 日々、剣士の皆さんに特訓をつけてもらったが、俺以外がどんな風に訓練していたか俺は知らない。だが信じるしかないだろう、当日になった以上。

 

「準備はいいかサン」

 

「あ、あぁ……」

 

「どうしたんだサン、体調でも悪いのか?」

 

「い、いや……ちょっと、な……」

 

「ん? なんかあったのか?」

 

「それがさっき狗界参謀に合ってな……少し喧嘩をしてしまった」

 

 少しっていうには落ち込みすぎな気もするけど、まぁサンなら仕方ないか。

 

「なぁ賢人、ちょっと来て」

 

 手招きしながら矢迷坂が俺を呼んだ。

 

「さっきさ、見たんだよね。カフェで参謀と狗界が言い争ってるのが聞こえてさ」

 

「へぇ〜」

 

「それでサンさんは特別だからとか、サンさんはまだ守りたい人が生きてるからとか……」

 

「そっか……狗界くん確か……」

 

 婚約者の水汲さん、あの事件の時に……。そっか。

 

「指示に影響ないといいけど……」

 

「……だな」

 

「てか、そろそろ集まらないといけないんじゃないか賢人」

 

「そうだな……。俺はサンと局長室に行ってくるから、矢迷坂は久邇境と真狩と一緒に屋上に行っててくれ」

 

 局長室に行くと、謎の

 

 赤い髪のヤバそうな人がいた。……あれがダイナモの新しく入ったっていう治癒姫かな? それかトルネードみたいな名前の人か。

 

「は、初めまして」

 

「……カハ、クヒヒ……また見たことねぇ面が……1、2、3、4、5人……」

 

 え……犯罪者臭すごいんだけどなにこれ。え……こんなんも雇わないとやっていけないほどこの世界キツいの? いやキツかったわ。

 

「なんなんだあの怖い人は」

 

 サンに耳打ちする。

 

「……あまり仲良くはしない方がいい。元々は死刑囚だったんだ」

 

 ……まじで? 裏切られたりしない? 大丈夫だよね? 流石にそんな不安を表情に出すことは出来ず、妃崎さんの話を黙って聞いた。

 

「改めて作戦の内容を説明する。この作戦にはポートラル、ダイナモ、ジムペインの合同で行う。当然だが大都市であるため、ゾンビの数もグラナトファの数もこれまでとは桁違いだ。だからこそ各自が全力を尽くして作戦に取り組まなければいけない。わかっている者もいると思うが、この三部隊にはそれぞれ神川賢人、キルレート・アー、トルペード、計3人のS級治癒姫が所属している。だからこの三部隊を選んだわけだが、前回も言った通り、全滅もやむなしと考えている。だがそんな最悪の事態を防いでくれると、私は信じている」

 

 ……思ったより優しい人だった。俺たちは各部隊のヘリに乗り込み、広島に向かった。

 

「……矢迷坂、久邇境、真狩、お前たちは治癒姫になってまだ日が浅い。だからグラナトファたちとの直接戦闘は控え、他生存部隊の援護や連携を基本に立ち回ってくれ。綴はグラナトファの足止めを優先に行動、その隙に俺が奴らを片付ける」

 

「了解!」

 

 全員の返事とともにヘリのハッチが開く。

 

『エナジーユニコーン!』

 

 俺は変身、地上のグラナトファを討伐し、戦いの幕が上がる。

 

「ハァッ!!」

 

 次々と倒していると、どこかから甲高い明らかに人間とは思えない鳴き声が聞こえてきた。

 

「まずい、あれは羽付きだ!」

 

 サンからの無線が聞こえる。

 

「羽付き……狗界くんの婚約者の……」

 

「今ジムペインとダイナモのS級治癒姫トルペードとキルレート、それとジムペインの部隊長が掃討に当たっているが、恐らくもうもたない! 賢人! 行ってくれないか?」

 

「もちろんだサン……狗界くんの心も晴らさないといけないしな」

 

「人命が最優先だぞ、賢人」

 

「わかってるよ、サン」

 

『スペリオルユニコーン!』

 

 ◇◇◇

 

「くっ、まずないかこれ……」

 

 既に2人のS級治癒姫がダウンし、そして無線から響いてきた声は司令部からの羽付きを撃破もしくは討伐の命令。

 

(でもやるしか……)

 

 ゆっこは怪我をした水守を庇いながら、羽付きに攻撃を与える。だが、全く効き目がない。そしてゆっこが疲弊した隙に羽付きはキルレートとトルペードを屠ったなぎ払いの体勢に入った。

 

「ゆっこさん!!」

 

「えっ……」

 

 水守に突き飛ばされ、ゆっこの目には……。

 

 ◇◇◇

 

「まずい……!」

 

 なんであの2人がダウンしてんだよ……! S級じゃなかったのか!?

 

「クソっ……!」

 

 このままじゃ、間に合わない……!! いやこのブックなら! 

 

『爆走うさぎとかめ! ワンダーライダー! ユニコーン! うさぎとかめ!』

 

 そしてライドブックをプッシュし能力を解放、高速の力を得る。そのまま青髪の少女をジムペインの部隊長に預け、俺は羽付きの相手をする。

 

「羽付き、今日で最後だ」

 

「ジォオオオオオl!!!」

 

 けたたましい唸り声を上げ、攻撃の体勢に入る羽付き。そんなとき……。

 

「けっ……かひ……くひひひっ」

 

 瓦礫の下から笑い声がした。一体誰だ……? 気を取られている隙に羽付きの攻撃が直撃してしまった。

 

「ペッ、……ったぁくよぉ。おいしいとこ奪って何が楽しいんだぁい一体」

 

 その特徴的な喋り方……。

 

「死刑囚!」

 

「かひっ、かははは!!」

 

 大鎌を持った彼女は羽付きに向かってそれを振り下ろし、あっという間に右腕を切り落とす。

 

「気持ちわりぃなァッ!」

 

 切り落とされても尚ビチビチと跳ねる腕を乱暴に掴み、それを羽付きに投付ける。

 

「えっぐ……」

 

 その異様な戦闘風景に俺は圧倒されただ立って見ていることしかできない。

 

「ほらぁ、もっと悲鳴あげてみろよぉ、そしたらほかの奴らも寄ってくんだろ? あぁ?」

 

 いくら相手が病原体だからって……。しかし、ほんの一瞬トルペードが別のものに気を取られたのだろうか、その隙に大きな翼を広げて逃走の体勢に入る羽付き。

 

「なぁに逃げてんっだぁよっ!」

 

 大鎌を投げ、もう片方の腕も切り落とすが、それでも飛行の勢いを緩めることはなく羽付きはどこかへと飛び去っていってしまった。

 

「クソっ……俺にサンみたいな感染耐性があれば……」

 

 だが、まだ地上のグラナトファたちは大勢……いいや数え切れないほど生き残っている。

 

「こいつら倒さないことには始まらねぇしな……」

 

「おい死刑囚! まだグラナトファは残ってる! さっさと倒すぞ!」

 

「私を忘れてないかしら?」

 

 もう1人、目に蕾を生やした異様な少女が姿を表した。初見だ、彼女が例の狗界くんとこに最近入ったっていうS級治癒姫か……? 

 

「君がキルレートか?」

 

「えぇ、そうよ。それよりも早く倒したくてうずうずしているのだけれど」

 

 うわ戦闘狂か? こいつ。……まぁこいつらに連携の二文字なんて一切無さそうだし、綴たちのとこに戻るか。

 

「おい綴! 無事かー……って、え……」

 

 綴たちポートラルが担当していた地域一帯が例の悪魔で埋め尽くされていた。

 

「まさか……」

 

「そのまさかですよ……!」

 

 この前現れた謎のスタンプを持った青年がその悪魔を引き連れていた。

 

「またお前か! なんのつもりだ!」

 

「それよりもあなたの仲間のことはいいんですか? ギフテリアンはあの屍人や感染源より遥かに上の知能を持っています。油断すると彼女たちでも死ぬかもしれませんよ?」

 

「チッ! お前の相手はまた今度だ!」

 

 俺は群がる悪魔を一掃、奴らに囲まれ四面楚歌状態の綴たちを助け出した。

 

「クソっ……どうすりゃいいんだよこの量……」

 

 駆けつけたのはいいものの、更にさらに湧いてくる悪魔たちにまた囲まれてしまい、綴たちは俺も含めてまた四面楚歌状態となってしまった。

 

「ここはギフ様の生贄が沢山で最高ですね……特にこの屍人」

 

「そういう仕組みかよ……クソったれ……こんなとこで死ぬ訳にはいかないのに……」

 

そしてその上、羽付きまで現れてしまう……。




さめはもまがみ


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第43章 足りない一秒、その代償。

 こっちの戦況は絶望的だった。斬っても斬っても湧いてくるゾンビ、そして悪魔。そしてライドブックの過剰利用のため次第に疲弊していく身体。

 

「クソっ……いくら剣士だからってこんな量……」

 

 しかも、数体のグラナトファまで近づいてきた。

 

「なんでこっちにばっかくんだよ……! あぁクソっ!」

 

『ユニコーン リザード 命の水 習得三閃!』『三冊斬り!』『三冊撃!』『完全読破一閃!』

 

 だが倒しても倒しても湧いてくるためジリ貧になってしまい、しまいにはブックの力を使い過ぎたためか変身が解けてしまった。

 

「賢人っ!! なら私が前に……!」

 

「ちょ真狩ッ!」

 

 考え無しにも程がある。でも力が出ない……! 他の奴らに頼もうにもあいつらも自分の身を守るので手一杯のようだし……クソっ……。いくら他の治癒姫より血液残量が多いとは言っても真狩だって人間だ。これだけ使い続ければ尽きるのは明白、とうとう血液量が限界を迎えゼンマイの切れた人形の様にその場に立ち尽くす真狩。

 

「おい……真狩ッ!」

 

 そしてそれからほんの数秒で羽付きの大きな腕に掴まれた真狩。

 

「……やめろ……やめてくれ」

 

 真狩は恐怖を押し殺したような笑顔で俺の方を向いて、あとは任せたよ、と。言ったような気がした。

 

「真狩……叶女……」

 

 ……あれは、真狩が俺たちの部隊に入隊した日。彼女は快活な笑顔で俺たちに挨拶をした。「これからポートラルでお世話になります真狩叶女です! これからよろしくお願いします!」って。

彼女は久邇境を除く俺たちと初めて会うのにも関わらずすぐに打ち解けた。彼女は仕切りたがりだった。例えばちょっと……いやかなり散らかっていた隊室を片付けようとか、散財し放題だったアイツらの金銭感覚を戻したのだって真狩だった。でもちょっと抜けてるところもあった。歓迎会だって自分から開こうと言い出した程だ。でもそういう一面だけじゃなかった。最初はなんの苦労もなく何故治癒姫に? って思ってたけど、本当は辛い過去があった……らしい。自分でそう言ってた。……あぁ、アイツが来てから本当、ポートラル全体でなにか遊んだりしたりするようになったよな……。でも、ちゃんと厳しいとこもあったし、部隊長の俺にだって普通にダメなところがあれば指摘してくれたりもした。そういう意味で言えば結構物怖じしない性格だったのかもな……。でも本心では……なのになんで俺を守ったんだよ……いや、恐怖を押し殺して俺を……?

 

『レイジングユニコーン』

 

 気がつけば俺の手に、見たことの無いライドブックがあった。……確か再変身は負担が? いいやそんなことどうでもいい。

 

「……今なら狗界くんの気持ちがわかるよ」

 

『レイジングユニコーン 波癒抜刀!』

 

「……変身」

 

 ブックはヴァルキュアの顔を模した意匠を覆い隠すように展開する。そして現れたユニコーンは賢人の身体を貫き、賢人を剣士に変える。

 

『レイジング……ユニコーン!』

 

「賢人さま! こちらももう限界で……」

 

 綴が見たのはいつもの純白の装甲をその身に纏った剣士でもなく、純白の一角獣に乗った黒騎士でもない。体の各部がゆがんだ、まるで剣士とは言えない……むしろグラナトファたちの姿に近づいた賢人の新たな姿であった。

 

「ア"ァァアアア!!」

 

 獣のような雄叫びを上げ、綴に近づくゾンビをちぎっては投げる。それは他の部隊メンバーに近づくゾンビも例外ではなく、それらは全て倒されるが、またすぐに湧いてくる。だが何も考えていない訳では無い。ヴァルキュアは数体のグラナトファに狙いを定め、一気に全員の四肢を切り落とし移動手段を封じる。

 

「賢人さま……?」

 

 核を探し出すのも面倒だったのだろうか。ヴァルキュアはグラナトファたちの体を粉微塵にし、核諸共破壊、殲滅する。

 

「おい……これは一体……、ってあれはまさか白銀の剣士……飛羽真あれって!」

 

 広島各地の生存部隊の援護を独断で行っていたソードオブロゴスの剣士たち。飛羽真、倫太郎のふたりは遅れて賢人たちのところにやって来る。

 

「あぁ、恐らくライドブックの力に取り込まれている……プリミティブドラゴンの時と同じように……」

 

「と、とにかく止めましょう!」

 

『氷獣戦記!』

 

『エレメンタルドラゴン!』

 

「変身!」

 

「レオ・カスケード・ブリザード!」

 

『タテガミ氷牙斬り!』

 

「森羅万象斬!」

 

『エレメンタル合冊斬り!』

 

 ヴァルキュアを凍らせ動きを封じるブレイズ、そしてエレメンタルドラゴンのエレメント攻撃でなんとか変身を解除させる。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 ────なにが、起こった?

 

「俺……一体何を……」

 

「神川! 大丈夫か!」

 

 え……飛羽真さん……? 

 

「これは一体……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛羽真さんは言った。そのライドブックは危険だと。憎しみに囚われてはいけないと。彼女は大切な仲間だった。ムードメーカーだった。彼女が来てからポートラルの雰囲気が変わった。なのに呆気なく、彼女は死んでしまった。

 

「俺は……羽付きを殺す。これ以上人が殺される前に」

 

 飛羽真さんは同情できる点はあるがグラナトファを倒すことは仕方ないと言った。

 

「神川……」

 

「矢迷坂か……ちょっと1人にしてくれないか……」

 

「嫌、私は神川に助けて貰ったから。あの時、男の人に乱暴されていた私を……。だから神川が悩んでる時は……私が助けてあげたい」

 

「え……なんでそれを」

 

 記憶、無くしてるんじゃ……。

 

「実はさ……覚えてるんだよね……あの日からずっと。何でかわかんないけどさ……」

 

「じゃ、じゃあなんで俺とか……サンと普通に接せれたんだよ……男にあんなことされて……」

 

「……怖かったよ。でもさ、それ以上に憧憬の念があったんだよ。私を助けてくれたって言うさ」

 

「でも……うん。ありがとう……」

 

「じゃあ、ちょっとあいつの……真狩の残った物を整理してくるから……」

 

 そう言って俺は覚悟を決め真狩の部屋に入った。予想通り彼女の部屋はきっちりと整えられていた。ほのかに香る香水の匂いが俺の鼻をつき、涙が溢れてくるのを堪えながら一歩、また一歩歩みを進める。そして俺は机の引き出しに入っていた一冊のノートを手に取り開く。

 

『7/10 今日はバルキュア? として初めて生存部隊ってとこに入った。なんかダラーっとしてるんだけど大丈夫かな? てか久邇境ひさしにに会った! やっぱ知り合いがいると気が楽でいいね!』

 

『7/11 歓迎会って自分から開くとかおかしいのかな? (笑) でもまぁみんなも歓迎ムードだし、なんとかやっていけそう! 追記.なんか部隊長? の神川賢人って人めっちゃイケメンなんですけど!!』

 

『7/12 やっべ。嘘ついちゃった(笑) 本当は辛い過去とかないのにあるとか言っちゃった。いつか本当のこと言わないとね〜。追記.神川は綴ちゃんと付き合ってるらしい。悔しい〜』

 

『8/21 真咲に怒っちゃった。後で謝っとかないと』

 

『8/23 2週間後広島を取り戻す戦いが始まるらしい。みんな死なないといいけど……』

 

『8/24 買い物してたら怪物に会っちゃった。でもなんか雷と風の剣士さんが助けてくれたからなんとかなった。てか神川はなんかすごい特訓してたんだよ。すごくない!?』

 

『9/1 遂に明日だ。今日は早く寝よう』

 

 昨日以降の日記は書かれていなかった。

 

「……ッ……クソっ……なんで……」

 

 ……何も言えねぇよ。もう。俺はもう心を無にして遺品を整理していった。ただひたすら怪物への憎悪を募らせながら。

 

「おい賢人待て」

 

「なんだよサン……」

 

「その手に持ってるもの、僕に渡してくれ」

 

「……なんでだよ」

 

「治癒姫たちの遺品は原則として親族が引き取るか、親族がいない場合は処分しないといけない。その規則は知っているな?」

 

「……知ってるよでも」

 

「だから僕に預けてくれないか?」

 

「嫌だって言ったら?」

 

「……然るべき処分を受けなければならなくなる。だから今は僕の指示に従ってくれないか?」

 

「……わかったよ。どうせ処分されるのならお前に渡った方がマシだ」

 

「……ありがとう賢人」

 

 ◇◇◇◇

 

 サンは、機関の規則を破り真狩の遺品である日記を自室に保管した。親族もいなく、死体や遺骨すら残らなかった彼女の遺品すら処分してしまっては彼女がこの世界にいた証拠すらなくなってしまうから……いや、それ以上に彼の良心がそうさせたのかもしれない……。



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第44章 会合、太陽機関。

今回は短め。原作のストックが会議の部分しかないんでね


「お集まりいただき感謝する。太陽機関局長の諸君」

 

 太陽機関日本支部のトップである赤石英雄が画面に映った太陽機関の各局長に挨拶をし、今回の広島奪還作戦についてを話した。

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、という言葉があるように今回の作戦はグラナトファたちの住処に入った訳だが、単刀直入に聞く、サン君。君はどう思った?」

 

「どう……ですか。やはり現時点で挑むには些か戦力不足であったと感じます。いくらS級治癒姫が3人いるとはいえ流石にあの量は」

 

「そうか。では次に広島作戦の少し前に起きた街中に現れたグラナトファについて、なにかわかったことは」

 

「はい、では私から」

 

 生態調査局局長、八咫坂迷路が手を挙げた。

 

「では八咫坂君」

 

「あのグラナトファの正体の少女の戸籍上の名前は沙飾芽舞。彼女はあの日、トラックに吹き飛ばされ正体を表す3時間前まで、通っている塾にて模擬試験を受けていたことが発覚しました」

 

「塾!?」

 

「はい、彼女の点数は89点。そこそこ頭のいい学生といった感じです」

 

「点数云々は関係ないが、グラナトファが模試を受けていた……」

 

「知性があったということか……実際問題、そこまで人間社会に溶け込んでいるということは、もしかすると既に入れ替わっている人物がこの中にもいるかもしれんな」

 

「ちょ、長官冗談はやめてく……」

 

 その瞬間、口を開いた開発局局長の首が切り落とされる。その首は沙飾芽舞がトラックに吹き飛ばされた映像のようにその場でくるくると回りやがて、狐のような姿をしたグラナトファへと姿を変える。

 

「まさか……!」

 

「総員退避!! 技術局局は担当治癒姫を連れて迎撃に、その他は即刻マスクを装着、外へと出るんだ!」

 

 妃崎局長は即座にそこにいた各局局長全員に退避を促す。

 

「りょ、了解ッ!」

 

 普段聞かない妃崎局長の昂った声に少し圧倒されるがサンはすぐにブリーフィングルームを抜け、すぐさまポートラルの部隊室へと急ぐ。

 

 ◇◇◇

 

「大変だ賢人!」

 

「なんだサン、そんな慌てて」

 

「この太陽機関内にグラナトファが現れた! このままじゃ被害が収まらない!」

 

「は? どうして!」

 

「話はあとだ! まずは討伐が先だ!」

 

 まじかよ。は? じゃあ太陽機関にグラナトファ側のスパイがいたってことか? 冗談じゃない。

 

「早く向かうぞ! 変身!」

 

「みんなは早くマスクを付けろ!」

 

「は、はい!」

 

 俺たちはすぐにグラナトファがあらわれたというブリーフィングルームへ急いで向かった。

 

「まさかあれ……」

 

 室内にはマスク越しでもわかるほどの血なまぐさい臭いが充満していた。

 

「おいサン、あのでけぇ狐がグラナトファなんだよな?」

 

「あぁ」

 

「ならまずは……」

 

『スペリオルユニコーン!』

 

 巨大な白馬を呼び、グラナトファを連れて上空へと飛び立つ。

 

「賢人! 絶対に人がいるとこで倒すんじゃないぞ!」

 

「わかってる! そのために……こうしたんだよ!」

 

 でもこのあたり全部居住区だし……こうなったら! 

 

「はぁっ!!」

 

 白馬がグラナトファを蹴り、更に上空に上げる。

 

『スペリオル必殺撃!』

 

「たぁぁああああ!!」

 

 上空に向けて蹴りを放ち、空で奴は爆発四。

 

「まだ油断はいけませんよ神川くん!!」

 

『タテガミ氷牙斬り!!』

 

 ブレイズが現れ、散った肉片を全て凍らせた。

 

「あれは水の剣士!!」



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第45章 水着に重なる、二枚の白羽根。

 翌日、俺宛にメールが届いた。

 

『幼なじみにバカンス誘われたんだが、ポートラルも来ないか?』

 

「なぁサン、今度の休暇って空いてたりする?」

 

「え、あぁ……空いてるけど……」

 

「じゃあ、ポートラル全員で海行かないか? 狗界から誘われてさ、なんか楽しそうじゃん!」

 

「えっ、まぁ、いいけど……」

 

「じゃあ決定! 狗界に送っとく!」

 

 後日送られてきた日程で、俺たちポートラルは街の外れにある海岸へと行くこととなった。

 

「おーい起きろお前らー」

 

 治癒姫の部屋に行き、久邇境と矢迷坂、そして綴を叩き起す。

 

「チッ、相変わらず寝相悪ぃなぁ……。……よし。つーづり!!!!!」

 

 俺は寝ている綴に飛びつく。年相応の柔らかな肌を抱き締める。

 

「わ、わわ!? け、賢人さま!?」

 

「綴! 起きて! んで今日はバカンスだから!!」

 

「ちょ、は、えぇ!?」

 

 先程の大きな音で起きたのか、矢迷坂と久邇境の二人が暖かい目でこちらを見ているのに気がついた。

 

「「あっ……」」

 

「ッッッッッ/////! もう賢人さま!!」

 

「朝っぱらから何やってんだお前らァァァああああああああ!!!」

 

 ポートラル参謀の怒声で俺たちの騒動はピタリと収まる。

 

「「「「すんませんした!!!!」」」」

 

「はぁ……まったく、わかったら早く支度してくれ」

 

 サンもツッコミ役に回ってしまったということで……。

 

「ほぎゃああああああ!!」

 

 そう叫んだのは狗界セカイ率いる生存部隊ダイナモのタンク『茶娘城寧々音(ちゃこじょうねねね)』。決して誤字では無い。ねねねである。最初見た時は名付け親の正気を疑ったが、この世界の奴らは大体そういう名前だった。

 

「にゃ、にゃにゃ!?」

 

「なんですか!?」

 

「いきなりびっくりするんだけど」

 

「ふむ、これは初めて海に来た感動からIMEが壊れたみたいだね」

 

 恋葉奈つわり(こいばなつわり)、宙戮とぴか(ちゅうりくとぴか)、木守陽戦香(こもれびせんか)、雛神門玉響(ひなみかどたまゆら)と、個性的なメンバーが揃っているところを見るに、狗界はさぞ苦労していることだろう。

 

「ザコ城さんはパソコンでしたの!?」

 

「だったらアタシが修理してあげるっスよ」

 

 そう言ったのはダイナモ専属の技術士パルフェ・オブリガード、うちの水無月波月みたいなやつだ。てかあいつ最近見てないな……。連れてこればよかった。

 

「やっほ、賢人くん」

 

「って、うあああああ!?」

 

「着いてきちゃいましたー。あはは……」

 

 急に話しかけられたもんだからびっくりしたけど……って。

 

「水無月さん!? え、どうやって着いて来たんすか!?」

 

「そりゃあ私たち技術士は治癒姫ちゃんたちと違って普通に外でれるしね〜」

 

「あ、来ましたか波月さん」

 

「いやサンも知ってたら教えろよお前!?」

 

「いやいや……サプライズの方が面白いだろ?」

 

「ま、賢人くんもパーッと遊びましょうやパーッと」

 

 ったく、まったく人騒がせな奴らだ。ま、たまにはこういうのも悪くないよな……真狩……見てるか、お前の守ったアイツらは今も元気でやってるぞ……。

 

「賢人?」

 

「……よし! お前らこんな機会滅多にないからな! 存分に遊び尽くすぞ!! 金は全部経費で落とすからな!!!」

 

「サンさんのとこ、もっと上品な感じかと思ってたけど……結構はしゃいでんだな……」

 

「ねぇセカにゃん〜、私達もあれみたいにもっとイチャイチャしようよ〜」

 

(ったく……。相変わらずだなつわりは……)

 

「離れろ、お前はアイツらと遊んでろ」

 

「も〜、冷たいよ?」

 

「俺とお前らはそういう関係じゃないだろ」

 

「あ! セカイいた!! もぉ〜、探したんだよ!!」

 

 そう言いながらセカイに走り寄ってきた中性的な顔をした男。

 

「!?」

 

 俺は思わず目を疑った。おいおいおい……あんなのが存在していいのか? リアルオトコの娘だぞ? 

 

「お、お〜い狗界くん〜」

 

 俺も折角だから会話に混ぜてもらうことにした。

 

「あ、賢人さん、こいつはアマネ、俺の幼馴染だ」

 

 幼馴染ッ!? おいおいおいこのオトコの娘といい部隊員といい、こいつはギャルゲの主人公かなんかか?

 

「へ、へぇ〜そう、なんだ……」

 

「あ、この人がセカイが言ってた同僚?」

 

「あ、紹介してくれてたんですね、じゃあ改めて、俺は太陽機……」

 

「……賢人さんっ、そういうのは口外しちゃいけないんですよ!」

 

 俺が太陽機関と発言しかけたところで狗界くんが耳打ちして止めてきた。

 

「……え、そうなの? え〜っと、改めまして俺は太陽製薬で働いている神川賢人です」

 

「賢人さんか〜、なんか珍しい名前だね!」

 

 いや君はともかくこの世界の奴らの方がよっぽど珍しい名前してるよね!? という言葉を心の内に留めておいたところで……。

 

「あ、そちらの名前も伺えますか?」

 

「あ、僕ですか? 僕はみs……小鳥遊天音って言います」

 

「たかなし……あ、もしかしてことりあそびって書くやつ!? あれ昔読めなかったんだよね〜!」

 

「あ、そうだよね! 僕も自分の苗字がわかんないときあってさ!」

 

「そんなことあるの!?」

 

(こいつら……俺抜きで喋ってやがる……)などとセカイが考えていると……。

 

「戦端を仕掛けてきたのは貴様だ、被食者を気取るには卑劣がすぎるんではないか?」

 

 なんて言いながらナンパをしたであろう男の頭を足で踏みつけてる白髪の女性がいた。うん、見なかったことにしよう。

 

「おい天音、もしかしてもう1人の連れって……」

 

 どうやら天音さんには2人の連れがいるらしい……はて、もうひとりはどこだ?

 

「!?」

 

 っていた!? 天音さんのそばにいたのに気づかなかった……。

 

「うん、そうだよ……ってユゥリザ何してんのさ!」

 

 ユゥリザさん? を見た天音さんはユゥリザさんを抑える。あ、見なかったことには出来なさそうだな……。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

 少しの隙に、踏みつけられていた男性は逃げ出した。変な性癖でも目覚めなきゃいいけど……。

 

「おい天音、どうしてくれるんだ昼飯代がパァだぞ」

 

「いやいや昼飯代じゃないから! って追いかけないで!」

 

「……なら、取り逃させた獲物分、お前が私に捧げるのか?」

 

「捧げるさ! わりとまるっといつも通り全部!」

 

 おっと、もう既に変な性癖目覚めた人いたね。手遅れだこりゃ。

 

「殊勝な心がけだ」

 

「あ、紹介するね2人とも、同居人のユゥリザとさぁこちゃん」

 

 同居人? おいおいおい、まじかよ……。

 

「狗界セカイだ、今日はよろしく」

 

「あ、俺も、神川賢人ですっ! よろしくお願いします!」

 

「おい天音、何故この人間たちはマスかいた手をこちらに差し出す。切り落として欲しいのか?」

 

 マスをかく? どゆこと? 数学かなんかか?

 

「天音さん! 着替えてきたっんだよ!!」

 

 そうこうしていると、湯布院さんが着替えが終わったのか戻ってきた。アレこいつら仲良くなるの早くねぇか? 

 

「わぁ〜、すっごい可愛いね〜」

 

 なんて女子力たっぷりに褒める天音さん。

 

「────ん? こいつは確か……」

 

「ちょ、ユゥリザ?」

 

 ユゥリザさんの言葉を遮るように割って入る天音さん、そして何も知らないダイナモの治癒姫達がやってくる。

 

「待ってくださいましぃぃぃ!! ツボンヌ様ぁぁぁああ!」

 

「────みゅ、ドッグランに来たブルドッグみたいですね」

 

「ブルドッグか……可愛いだろ、犬では一二を争うくらい好きだぞ?」

 

 バカみたいに人混みを掻き分けダッシュしてきたのは茶娘城寧々音、そしてそれを見て呆れているのが宙戮とぴか、木守陽戦香。

 

「木守陽ちゃんの趣味……少し見たりっす」

 

 パルフェさんは……特に言うことは無いかな……つってもうちの水無月さんよりかは結構特徴ある方だと思うんだけどな……見た目も含めて。ま、ダイナモはキャラが濃いってことか。

 

「戦香先輩の趣味……」

 

 そう言いながら戦香という治癒姫を凝視しているのは玉響さん、少し怖い。

 

「よ、よーしみんな着替え終わったことだし、早く海に入ろうか!」

 

「まぁ待て、一つ、ハッキリさせておかないといけないことがある、そうだろう?」

 

 なんか修羅場っぽい雰囲気だけど……、天音さんも黙りこくったままだし……。

 

「なぁ天音、私はそこのデブ狸に見覚えがあるのだが」

 

「え、そ、そうかな〜? 見覚え? あるのか?」

 

 目が泳いでいる、何かやらかしたのかこいつ。

 

「私とのデート中に────キスしていた女だろ」

 

 !?!?



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第46章 異国の治癒姫、その名は狩人。

 夜中、急に目が覚めた。

 

「……あれ? 俺、何してたんだっけ」

 

 確か……。

 

「そうだ」

 

 あの後修羅場……それで俺たちポートラルとダイナモ、それとあのハーレムの男の娘たちとで別れて宿に泊まったんだった。

 

「ん? 賢人さま? どうしたんですか?」

 

 え? は? え? 声のした方向を見ると、横で綴が寝ていた。それを見た瞬間、頭の中が真っ白になった。

 

「えっと……綴? なんでこんなとこで寝てるんだ?」

 

「酷いですよ賢人さま……乙女の純情を────」

 

「よしてやれ甘噛。私たちの、だろ?」

 

 え、いつからいたんだこいつは? てかさっきの言葉の意味……。

 

「お、おい矢迷坂……不法侵入か? よしてくれよ……ははは」

 

「よく言うよ、君が連れ込んだくせに……」

 

 何頬赤らめてんだよ。

 

「私というものがありながら賢人さまは……」

 

「その辺にしておけ」

 

「サン……?」

 

「賢人はまだ〇〇なんだからな、その手の冗談が冗談じゃなくなる」

 

「あ? サンだってそうじゃねぇか!」

 

「黙れ、僕にはひさぎがいる。……まだだけど」

 

「ほらサンだってやってねぇじゃねぇか! だったら俺も綴がいるんだからな!」

 

「どうどうふたりとも、喧嘩なんてやってないで落ち着くんだ」

 

「いや元はと言えば矢迷坂が発端だろ!?」

 

「お前らさっさと寝ろ! 俺たちの部屋にもうるさい声が響いてんだよ!」

 

「「「あ……」」」

 

 ダイナモのセカイくんがやってきてしまった……。

 

「すみません……」

 

 なんて、そんな風にワイワイできて、俺はとても満足だった。だが……。

 

 

 

 

 

 ###

 

 翌日、俺は治癒姫達戦闘員を束ねる赤石長官に呼び出されていた。

 

「え!? ドイツにも治癒姫がいるんですか!?」

 

 今日、サンは局長の仕事があるので代わりに俺が来ていたのだ。

 

「ほぅ、意外か?」

 

「え、えぇ……確かサンにしか作れないと聞いたものですから……」

 

「その通り。だからサン君たち技術局と、世界三大感染対策機関の一つ、ドイツの『ジーク』が協力して作ったというわけだ」

 

「へぇ……」

 

 サンのやついつの間に……。

 

「肉体強化は我ら太陽期間が誇る『大動脈の牙(アオルタファング)』とは別基軸らしいのだが、核技術のEsシステムは共通だ」

 

 まぁ俺はヴァルキュアっていう名前だけ一緒なだけなんだけど……。

 

「そして、彼女ら『ジーク』の治癒姫が岡山の浄化作戦、OPERATION-PPより参加することになる」

 

 岡山……確かセカイくんの故郷だったか……。

 

「ドイツ産治癒姫、その名を『JAEGER(狩人)』」

 

「イェーガーですか……かっこいいですね」

 

 治癒姫に対して、狩人。……てかイェーガーって、どこかで聞いたことある気がするんだよな……。

 

「君にはその、ドイツ組『JAEGER』の管理を任せたい。丁度一人枠が空いたところだろうしな」

 

「……ッ!」

 

 なんてことを考えるんだこの人は……。枠が空いた? 人が死んだんだぞ? しかもそんな中で人が増えるなんて、不和が産まれる可能性がある。岡山浄化作戦だってあと三日だし。

 

「急な話ですまないが、引き受けてくれ」

 

「……わかりました」

 

 でもそれのせいでうちの隊員を失う羽目になったらどうするんですか、と聞く勇気は、俺にはなかった……。

 

「はろろん、男の治癒姫君。うちらの面倒、よろしくねん」

 

「ッ!?」

 

 引き受けた直後だった。肩に手を回され、耳元に囁かれたのだ。

 

「僕も、よろしくね」

 

 と、もう一人も現れた。銀髪で襟が高く、まぁこの世界の常識なのか胸をはだけ出している。そして俺の耳元で囁いた女性は目が多少キツく、髪を後ろで束ねていた。

 

「君達が……ドイツの治癒姫?」

 

「治癒姫なんて古臭い名前じゃないよ、私たちは『イェーガー』狩人さ」

 

「相当な自信があるみたいだね……ははは」

 

 でも、ふと彼女らの身体をじっくりと見ると、四肢が全て機械になっていた。義手と義足だろうか。でもそれを直接聞くのもはばかられたので、聞かないでおいたがこれってまさか……。

 

 ロボットアニメで見た気がする……四肢を直接コクピットに繋げるなんて言う非人道的な行い。まさか……な。

 

「それとこれは、彼女達の基本スペックだ。後で目を通しておいてくれ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 辞典くらい分厚い書類を両手で持ち、俺は水無月さんのところへ向かった。

 

「俺はあんまそういうのわかんねぇからな……」

 

「隊長〜。うちらはどうすればいいんで〜すか〜」

 

「えっと……と、とりあえずトレーニングルームまで着いてきてくれ。そこで自主訓練でもしてくれると助かる」

 

「りょうかいで〜す」

 

 なんとも軽いノリの奴だ。あと三日で死地に赴くというのに。

 

「まぁ仕方ないか……」

 

 海外は飛羽真さんたちが守ってるらしいし、グラナトファとかの驚異も知らないんだろう。

 

「ところでふたりの名前はなんて言うんだ?」

 

「え〜? 口説いてるんすか隊長?」

 

「そろそろ加減してあげて、男の治癒姫なんてどうせハーレム満喫してるんだから」

 

「いやしてねぇよ!? つか名前聞いてんのこっちは!」

 

「んじゃ、うちからするっすね〜。うちはミリィ・タイバー」

 

「僕はリーネ。よろしくね」

 

 さっき俺をハーレム満喫してるとか言ったやつ! 

 

 トレーニングルームまで彼女らを送った俺は、一人で技術室まで向かった。

 

「水無月さん、ちょっとこの資料、新しく入る子のスペックとか書いてあるんで、ちょっと俺に説明頼みます」

 

「えっと……急に何?」

 

「いや、俺あんまそういう機械には疎くて……すみません頼みます」

 

「あ〜……はいはい。まずはミリィ────」

 

「なるほどなるほど……」

 

 正直さっぱりわからん。

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 とまぁ、俺はチームポートラルで岡山浄化作戦についての概要と、新しく入る子達について説明していた。

 

「よ、よろしくお願いしますです!」

 

 え? もしかしてダイナモの子らに影響されてキャラ付けしたのか久邇境は。

 

「よろしくっす〜! うちがミリィ・タイバーで、こっちがリーネ!」

 

「よろしくですわ」

 

 綴は……、まぁ初対面のやつにはあんな感じだ。だが……。

 

「よ、よろしく、お願いっ、しましゅ!」

 

 おいおい矢迷坂、なんだその噛み方は。昨日あんだけ俺の〇〇いじっておいて……。

 

「えっと……最初に挨拶したのが久邇境真咲で、こいつが甘噛綴。んでこっちのテンパってるのが矢迷坂邦芽」

 

 あとは……これも言っておいた方がいいだろうか……。

 

「あとは君たちが来る前に……真狩叶女ってやつもいたんだが……この間の広島浄化作戦で死んだ」

 

「賢人っ……! 何故それを!」

 

「言っておかなければならないからだ。二人ともいいか? わかっているかもしれないが、治癒姫の仕事ってのはそんな簡単なものじゃない。命の危険だってあるし、実際に死んだ奴もいる。だからこそ、お前たち新入りは三日後の岡山浄化作戦……通称OPERATION-PP、生きて帰ることだけを考えろ。もちろんゾンビはなるだけ倒して欲しいが……」

 

「はい! わかりましたっす!」

 

 本当にわかっているのかこいつは……でもまぁ、見てて気は悪くならない。

 

「……わかった。いのちだいじに、だね」

 

 僕っ子はちょっと……まぁ不思議ちゃんっぽいかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 その日の夜、サンと水無月は話し込んでいた。

 

「そうか……C級か……」

 

「……もしかしたら戦闘面以外でものすごい能力があるのかもしれないけど……多分」

 

「実験体……か」

 

 あの時サンは扉から盗み見ていた。彼らがはしゃいでいるのを。金髪の少女は何も知らないような目で心からみんなと仲良くなりたいような、銀髪の少女は仲良くなりたいが少し引っ込み思案であろうことが伺えた。

 

「あの子らは知らないんでしょうけど……それで足引っ張られて誰か死んだってなったら目も当てられないですよ」

 

「あぁ……そうだな。でも……賢人はそうならないように彼女らに忠告したみたいですよ。生きて帰ることが任務だって」

 

「へぇ……私の話、わかってなさそうだったのに」

 

「いや、多分あいつには性能なんてどうだって良かったんじゃないですか。そんなことより生きてくれていることが嬉しいって思ってるようなやつです。それにあいつ馬鹿ですから多分、実際にわかってなかったんでしょうね」

 

「ふ〜ん……そういうものなのでしょうかね〜。ま、いくらC級と言えど、ゾンビくらいはちょちょいのちょいですから、なるべく面制圧の治癒射機(シリンジ)、用意しとくわ」

 

「あぁ、助かる」

 

「とりあえず、もうちょっとばかし見ておくわね、彼女達のデータ」

 

 と、そんな会話で、その一日は終わった。岡山浄化作戦まであと、二日。




リーネのモデルは進撃のゾフィアです。


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第47章 邂逅、五十嵐三兄妹。

 先日、ドイツの治癒姫を迎え入れたポートラルは2日後に迫った岡山浄化作戦に向けて調整していた。そんな中、都市部にて例のスタンプを持った者が現れたとの情報が入った。

 

「なんだって!? あの悪魔……クソっ……今迎えるのは俺たちだけですよね!?」

 

「あぁ……他の生存組合は生憎出払っていてな」

 

「だったら……いや、丁度いい。ミリィ、リーネ。実践だ! 準備は出来てるか?」

 

「もちろんっすよ。さっきまで訓練もしてましたからね〜」

 

「いつでもいいよ」

 

「よし、なら行くぞ!」

 

 少数での任務の為、俺は自前の呼び出したユニコーンに乗せて現場に向かった。

 

「クソっ……悪魔……ギフテリアンだらけじゃないか……」

 

 あれも全部人だということを考えると身の毛がよだつ。

 

「ミリィ、リーネ。これが戦場だ。口頭だけじゃ分からなかったかもしれないが、2日後の岡山はもっと凄惨な現場になるかもしれない。だから……」

 

「大丈夫だって言ってるじゃないですか〜。こんなの慣れてますって〜」

 

 ギフテリアンに殺された人が大勢転がっているのを見ても、ミリィはそう快活に言ってのけた。サイコパスなのか、もしくはそういうのを経験しすぎて心が壊れてしまっているのか……。

 

「うっ……」

 

 それに比べてリーネはえずいていた。まぁ、これが一般的な感性だろうと、そう思っていた矢先────。

 

「っ……!」

 

「お、おい待て!」

 

 リーネが一体の悪魔に向かって飛びかかって行った。

 

「クソっ……パニックになったのか?」

 

『エナジーユニコーン!』

 

 慌てて変身し、リーネは悪魔の攻撃が当たるギリギリのところで止められる。

 

「何無茶してんだ! お前らは今回、生きて帰ることだけに専念しろ! こいつら悪魔は自我があるからゾンビよりも厄介なんだよ!」

 

「……わかってるけど。でも許せなかった……」

 

 ただの不思議ちゃんだと思ってたけど……違うんだな。

 

「その気持ちは痛いほどわかる。でも今回は自分の命を優先してくれ。ミリィも、わかったか?」

 

「了解っす〜」

 

 と、相変わらずの口調でミリィは言った。普段ならそれで空気も和むと思うんだが、戦場でこの口調だと不気味さが勝ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「はぁっ!」

 

 だが、多勢に無勢。数の暴力で圧倒されていく俺たち3人。

 

 このままじゃ守りきれないぞアイツらを……! 

 

「まずいしまった……!」

 

 俺の死角から迫っていたギフテリアン……いや、透明化していたカメレオンのような悪魔の魔の手がリーネに迫っていた。その直後、カメレオンの悪魔はどこからか飛んできた光弾によって撃破された。

 

「大秦寺さんか?!」

 

 ロゴスの中で銃を使えるのはあの人だけのはず……。だが、そこに居たのは白と緑の……仮面ライダー? だった。

 

「あれは一体……」

 

 それは羽とマントを生やしていた。ビルから飛び降り、こちらに向かってくる。

 

「大丈夫ですか!? 俺は五十嵐大二、仮面ライダーとして世界を守ってます!」

 

「仮面、ライダー?」

 

 俺の頭の中にはこんなライダーは存在しない。いや違う。彼のベルトに嵌められているスタンプ、それは悪魔の持っていたものと酷似していた。まさかセイバーの次のライダーか……? 

 

「はい! とにかくここは危険です! 撤退しましょう!」

 

「いや、まずはここの悪魔を殲滅させなければいけないんです! ……それとあわよくば、あの変なスタンプも回収しなければならないんです!」

 

「変なスタンプ……わかった協力します! デッドマンの殲滅は任せてください!」

 

「大二さん! この子達は頼みました! 俺はスタンプの持ち主を探してきます!」

 

 ミリィとリーネを一旦大二さんに任せ、俺は新たなブックを使ってあのスタンプを持った青年を追っていく。

 

「いた……!」

 

「思ったよりも早かったですね……しかし私はまだ捕まるわけにはいかないんですよ……!」

 

『ギフジュニア!』

 

 そう呼ばれたスタンプを地面に押印すると、そこを起点としておびただしい数の骨のような怪物が現れる。

 

「こいつが戦闘員って訳かよ……」

 

 俺は青年を追うために邪魔になるギフジュニアを倒していくが、彼は姿を消してしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「悪魔は全滅出来ました! ところで貴方は一体……?」

 

「俺は神川賢人、あなたと同じく仮面ライダーです」

 

「貴方も!? って、そのベルトとブック……剣士の人達も持っていたような……」

 

 やはり知っているらしい。……映画で共演したのか?

 

 大二さんは携帯で連絡をとっている様子。

 

「ミリィ、リーネ、怪我はないか?」

 

「大丈夫っすよ。あの人が助けてくれたんで」

 

「普通です」

 

「賢人さん! 俺の兄妹も呼んでいいですか?」

 

「え、あ、はい。いいですけど……もしかして兄妹も仮面ライダーだったりします?」

 

「はい! そうです」

 

 三兄妹で仮面ライダーか……すげぇな。てかなんでそんな人たちがこんな世界に来てるんだ? 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「大ちゃんおまたせ!」

 

「待たせたな大二! っと、この人たちは?」

 

「兄ちゃん! この人たちは太陽機関の治癒姫って言って、ゾンビやグラナトファから世界を救う仕事をしてるんだって」

 

 待っている間に自己紹介を済ませておいたお陰で話がスムーズに進む。

 

「本当に信用できるのか? その話」

 

 本人の前で言うかそれ? 

 

「できるよ! この人も仮面ライダーだって!」

 

「仮面ライダー!? この人が!?」

 

 一番末っ子であろう女の子からの言葉が俺の胸に刺さる。だが、それはともかく俺たちは五十嵐三兄妹を連れて太陽機関に帰還することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 俺たちは帰還した後、局長である妃崎さんのところに、新入隊員の許可を貰いに行っていた。

 

「すみません局長」

 

「なんだ、入れ」

 

「彼らを俺の班に入れて貰えないでしょうか」

 

「彼ら……そこの子供のことか?」

 

「はい! 彼らは俺と同じで治癒姫になることなく戦闘力を大幅に獲得することが出来ます!」

 

「……そうか。丁度先日新しい治癒姫が入り、彼女達の援護も必要だと思っていた頃合いだからな。許可する」

 

 と、すんなりと局長は快諾してくれた。もっと断られたりするものだと思っていたから拍子抜けだった。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「と、いうことでポートラルにまた、新しい3人のメンバーが入ることとなりました!」

 

 事の経緯と3人についてを説明した。

 

「また僕に知らせずそんなことを……」

 

「局長にはちゃんと許可を貰ったから!」

 

「はぁ……」

 

「は〜い! 俺っちがバイスでぇ〜す! 一輝ちゃんの悪魔なんで、そこんとこよろしこ〜!」

 

 と、軽いノリで現れたのは、一輝さんと契約している悪魔バイス。

 

「おいバイス! 勝手に出てくんな!」

 

「いいじゃぁーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 ともかく、最大の戦力になった俺たちポートラルは、明日に迫った岡山浄化作戦、通称OPERATION-PPに向けて十分な休息をとることにした。



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第48章 戦場の現実、崩壊する精神。

 今日が例の作戦の決行日、沢山の生存部隊を投入し行われる岡山奪還作戦、通称『OPERATION-PP』。

 

「……よし、作戦、開始だ!!」

 

 賢人の合図で飛行艇から飛び降りるポートラルのメンバーたち。

 

『エナジーユニコーン!!』

 

「……人類の反撃は、こっからだよなぁ!!」

 

 飛び降りた途端、近くの物陰からグラナトファが姿を現す。

 

「Gyaaaaaaaaa!!!」

 

「は、羽付きか!?」

 

「その通り、私もいますよ? そして彼らも……」

 

「っと、飛羽真さん!? そ、それに……」

 

 ロゴスの剣士たちが操られ、生存部隊一同に襲いかかる。1人で抑えるのなんて不可能だ、彼がそう思っていたところに大二が光弾を放つ。

 

「賢人さんっ! ここは俺たちに任せて! あなたは例の羽付きを!!」

 

「っ……わかった……!」

 

『ホーリーウイング!!』

 

『バット!!』

 

 大二は自分の中に潜む悪魔カゲロウと分離し、2人となる。

 

『『Confirmed!!』』

 

 変身ツール、ツーサイドライバーにスタンプを押印すると周りに大量のコウモリが出現し、それのお陰でゾンビの進行が食い止められる。

 

「「変身!!」」

 

『Wing to fly!! Wing to fly!!』

 

『Eeny meeny miny moe』

 

 大二、カゲロウのドライバーからはそれぞれ別の待機音が流れ始める。

 

『ウイングアップ!!』

 

 ホーリーウイングバイスタンプの撃鉄倒し羽根が倒れる。そして2人はドライバーからライブガン、エビルブレードを引き抜きトリガーを引く。

 

『ホーリーアップ!  バーサスアップ!!』

 

『Wind! Wing!! Winning!!! Holy Holy Holy Holy!! ホーリーライブ!!』

 

『Madness! Hopeless! Darkness! バット!! 仮面ライダーエビル!!』

 

 2人はそれぞれ水色、黒緑の戦士となり謎の男が生み出したギフテリアンの群れと剣士たちに向かっていく。

 

「……湧いてきたぜ」

 

『バリッドレックス!! ボルケーノ!! 

 

 2つのスタンプを合体させ、リバイスドライバーに押印、装填する。

 

「変身!!」

 

『パネーい! ツヨイ!! リバイ! WE ARE!! リバイス!!』

 

 リバイはマグマの力を、バイスは氷の力を手にし、剣士たちへと向かっていく。

 

「私も……負けてられない!! 変身!!」

 

『コブラ!!  タートル!!』

 

『仮面ライダージャジャジャジャーンヌ!!  リスタイル! リバディアップ!! タートル!』

 

 さくらは仮面ライダージャンヌへと変身、自らの悪魔であるラブコフをタートルスタンプによって大砲に変形させる。

 

「一輝兄! 大ちゃん! 道は開くよ!!」

 

「さっすが兄弟!! 息ぴったりっ、だなぁ!! よぉ羽付き、この前は随分と暴れてくれたよなぁ!!」

 

「Gyaaaaaaa!!!」

 

「鳴いてばっかじゃ、わかんねぇんだよ!!」

 

 波癒の治癒能力が逆にダメージとなっていく羽付き。その時、賢人の脳裏に浮かんだものがあった。

 

「アイツらまさか……!!」

 

 今周辺にいるのはギフテリアンと白羽のみ。新入りは一体どこに? と思っていた矢先に悲鳴が聞こえた。

 

「まずい……!」

 

 波癒を白羽の喉元に突き刺し、賢人は奔走する。

 

(ゾンビたちはもうほぼ居ない……とすればアイツらの身の危険が……失念していた……)

 

「おいリーネ! ミリィ! 大丈夫か!!」

 

「一応……ね……それよりもミリィが……」

 

「ミリィが!? 一体どうしたって言うんだ!?」

 

 リーネが指さした方向にいたのは完全に壊れてしまい、虚空を見つめるミリィの姿だった。

 

「おい! 何があってこうなったんだ!」

 

「分からない……突然……治癒射器(シリンジ)を外そうとして……それはさすがに止めたんだけど……そしたらああなって……」

 

「ミリィ! おいミリィしっかりしろ!」

 

「あれぇ? 隊長さんじゃないっすか〜。ね〜ここから出してくださいよ〜治癒射器(シリンジ)で息苦しんですよ〜」

 

「おいおい嘘だろ……? これが……戦場……?」



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第49章 五十嵐三兄妹、対決十剣士。

味方多すぎて敵増えないとリバイスになっちゃうよ〜


「至急応援を要請します!!」

 

「はぁ!? 今それどころじゃねぇって!!」

 

 操られている剣士たちを食い止めていた賢人(ヴァルキュア)に通信が入る。

 

「南方に巨大なグラナトファ、青狸が現れました!! S級以上の治癒姫は直ちに向かってください!!」

 

「クソったれ!!」

 

 賢人は噂には聞いていたのだ。3年前に一度だけ姿を現し、人だけでなく建物にも甚大な被害を及ぼしたというグラナトファのことを。

 

「この人を取り押さえられるのは俺しかいない……でも!!」

 

 本人の持つ聖剣、それが変化していることに気づいた賢人は、波癒の力で聖剣に付けられた洗脳効果を一時的に解く。

 

「五十嵐さん達! 剣士の相手は頼みます!!」

 

「わ、わかった!!」

 

「青狸はどこだ!!」

 

 五十嵐三兄妹に任せ、賢人は青狸へと向かった。

 

「もう少し東です!! 賢人さま!」

 

「了解!! 綴! 奴の元まで着いたらお前はミリィとリーネの元に戻っていてくれ! 俺は青狸の相手をする!」

 

「でもっ……分かりましたわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうなったら最大戦力で一気に行くぞ大二! さくら!!」

 

『『ギファードレックス!!』』

 

『パーフェクトウイング!!』

 

『キングコブラ!!』

 

 スタンプを装填、姿を変える三兄妹。

 

『仮面ラ・イ・ダー! (仮面ライダー!) リバイ! バイス! Let's go! Come on! ギファー! (ギファー!) ギファードレーックス!!』

 

『仮面ライダー!!! エビリティ・ライブ!!!』

 

『仮面ライダー!! インビンシブル!! ジャ・ジャ・ジャ・ジャ・ジャ・ジャ・ジャーンヌ〜!!』

 

 幸い、敵の洗脳の為の機械が治るまでは剣士たちへのバフ効果は薄くなっている。その間に聖剣へ攻撃を集中させ、変身を解除させようという魂胆である。

 

「飛羽真さん!! 少し痛いけど……我慢してください!!」

 

『リバイ! バイス! ギファードフィニッシュ!!』

 

「ギフっちの遺伝子で、元に戻りやがれ!!」

 

「大ちゃん!!」

 

「あぁ!!」

 

『エビリティパーフェクトフィニッシュ!!』

 

『キングコブラ! スタンピングシマッシュ!!』

 

 周囲のゾンビを一掃した後、その力をオルテカの崇拝者『竜瀧』へと向ける。

 

「手加減は、なしだからね!!」

 

「あのスタンプさえ壊せば……!!」

 

 しかし彼には洗脳用とは別に、デッドマンへと変身するためのスタンプも持ち合わせていた。

 

『ダイオウイカ!!』

 

 変身すると同時に墨に撒かれて消えてしまう竜瀧。

 

「変身は解除させたけど……あ!! 大丈夫ですか?! 飛羽真さん! 剣士の皆さんも!!」

 

「あ、あぁありがとう一輝……洗脳から救ってくれて」

 

「礼には及びません! でも、聖剣が……」

 

 洗脳を解くためとはいえ、全員の聖剣が破損してしまったのだ。

 

「……私に任せてくれ……この程度……うっ」

 

 満身創痍で起き上がり、彼は息絶え絶えのまま聖剣の方に向かい始めた。

 

「大秦寺さん無茶しないでください!!」

 

 そんな彼を一輝は支える。

 

「だが……全員の……10本の聖剣が使えないのでは……」

 

「まだあれが……賢人君の波癒があります……僕たちは一旦怪我を十全に治さないと……」

 

「それに、俺たち五十嵐三兄妹もいますから!! 大丈夫です!! 飛羽真さん達は怪我を治すことに専念してください!!」

 

「相変わらずだね……お節介なところ。うん、ありがとう」

 

「じゃあ俺が安全なところに運びます!!」

 

『プテラ!』

 

 スタンプをバイスに押印し、ホバーバイクの形状に変形する。それに乗った剣士たちはロゴスの北極にあるノーザンベースへと運ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、グラナトファというにはあまりにも大きすぎた。大きく、丸く、重く、そして大雑把すぎた。賢人と別方向から、情報収集の達人であるチーニャ三姉妹『フラぺ、ペペロン、ソープラッティ』。A級治癒姫ながらも、3人がかりで挑めば勝てると思ったのだろう。彼女たちもその姿を見て絶望していた。

 

「こいつ……嘘だろ……? スーパーロボットの相手とかじゃねぇのかこいつ……本当に……」

 

「ほぅ、あれが今回の奴らの作戦のラスボスってところか」

 

 そしてビルの上から青狸を見つめる、橙の瞳。彼と、そしてその仲間も戦場に降り、戦っていたのだった。

 

「でもこんなデカかったら……野放しには出来ねぇよなぁ!!」

 

 ワンダーコンボになり、賢人は斬り掛かる。しかし……。

 

「おい……おいおいおいおい!!!」

 

 "それ"は回転し始め……。

 

「まずいぞまずいぞ……」

 

 車の車輪の様に早すぎて止まって見える。そして回転したまま賢人の方に向かっていく。

 

「やばいやばいやばいあんなのに当たったらいくら仮面ライダーでも!!!!!」

 

 逃げ惑う賢人、嗜虐的に付かず離れずの距離を維持する青狸。

 

「やばいって!!」



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第50章 欲望の遊戯、参戦。

「死ぬ!! 死ぬって!!!!」

 

「回転の中心が安全って、昔から相場は決まってる」

 

「え?」

 

 突然、高所から飛び降りてきた参戦者がいた。それはベルトにバックルを装填し、それに着いたレバーを倒す。

 

『Take off!!!!! Complete!! JET and CANON!!』

 

「そこで見ておけ、狐の凱旋って奴をな」

 

 そう、ギーツ、浮世英寿である。

 

「あれは……なんだ?」

 

 青狸もこの展開はさすがに予測していなかったのだろう、移動をやめ、回転を上方向に集中させ飛び回る。

 

『リボルブオン!』

 

 ベルトを回転させ、キャノン部分を上半身に移動させる。

 

「まずはその活きのいい回転、止めさせてもらうぞ」

 

『LOCK・ON!』

 

 キャノンの照準を青狸の中心に合わせ、レバーを倒す。

 

『Command twin victory!!』

 

「はぁああああああ!!!」

 

 キャノンの超火力が直撃した青狸は回転を停止する。

 

(もしかしてあの人……グラナトファの倒し方を知らない……?)

 

「何やってんだギーツ。ゾンビなんだから頭潰せばいいだろって……頭どこだ……?」

 

(また新しいの……牛……?)

 

 賢人が彼らを見てボーッとしていると上空から一人の少女が降りてきた。

 

「あれは狗界くんとこのS級……キルレート?」

 

「奇妙な参戦者さんねぇ、まぁいいわ。セカイ、どっちをやればいい?」

 

 通信で問いかけたキルレートは返事を聞き、飛びかかる。会話をしている間にも青狸はどんどんと再生していっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 精神に異常をきたしたミリィはリーネに連れられ、安全と思われる地下に来ていた。

 

「ねね!! リーネ!! どうしてこんなとこに来たの〜?」

 

「えっと……それは……」

 

 死地だというのにこの言いように上手く対応できないリーネ。

 

「どうして……」

 

「どうして〜? えーリーネもわかってないの〜? じゃあ出ようよ〜」

 

 彼女は自身の治癒射器を使い、最大速度で動きだした。

 

「ちょっ……っと!!!」

 

 ミリィが向かったのはゾンビとグラナトファが大勢いる死地。

 

「マズイって! 私達の実力じゃあんなの!!」

 

 リーネの忠告など知ったことかと照射型のレーザー銃で一体のグラナトファを跡形もなく消滅させるミリィ。その余波でその周囲にいたゾンビも巻き添えを喰らい数が激減した。

 

「え……」

 

 驚嘆の後、ミリィは急速に勢いを失い……落下した。

 

「ま、まずい!!」

 

 そんなリーネより先に動き出した者がいた。

 

「避けて!!」

 

 その声にリーネは無意識に反応し、屈む。次いで飛んできたのは一対の戦棍。

 

「もう大丈夫ですわ。リーネさん、ミリィさん」

 

「綴……さん……?」



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第51章 離別Ⅰ:怪奇! 蜘蛛女

 折角ギーツの開けた穴も修復されてしまった。青狸は再度回転を開始する。

 

「チッ……二度も同じ作戦は通用しないか」

 

 横方向に回転するだけでなく、奴は縦横無尽に回転した。街を破壊しながら奴は見境なく治癒姫たちを踏み潰していく。

 

「見てられない……」

 

 そう思い飛び出そうとするタイクーンをナーゴが止める。

 

「待ってっ、きっと……きっと英寿がなんとかしてくれる……私たちが出たところで何も変わんないよ……」

 

「でもっ……」

 

(俺に……力があれば……クソッ)

 

「おいサン!! あいつを倒すにはどうすればいい!!」

 

「……逃げるしか」

 

「はぁ!? 今!! 目の前にいんだぞ!? あのバケモンが!! みすみす逃げろって言うのか!?」

 

「生存者を優先しないと……もう立ち上がることすら出来なくなる」

 

「未来って言っても変わんねぇんだな、人ってのは。自分の命を惜しんで決断がにぶる」

 

「アンタ……誰だ?」

 

 紫の、頭にねじれた角を備えた戦士、バッファが話しかけてきたのに対し、サンがその素性を問いかけた。

 

「答える義理はねぇ、とにかくそこの白いのは来い」

 

「え? ちょ────」

 

 そう言ってバッファは賢人の腕を持ち、駆けた。

 

「ちょ、なんなんですか貴方は!! ここは戦場ですよ!?」

 

「知るか、お前らは知らないといけねぇことがあるってことを教えてやる」

 

「ちょ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 一方、青狸と相対したギーツとキルレート。

 

「こいつらがこの時代の戦士って事か。アンタ!」

 

「何?」

 

「アンタもこの怪物も倒しに来たんだろ? 目的は一緒だ、一時共闘と行こうか」

 

「共闘なんてそんなぬるいこと……やるわけない────!!」

 

 そう言ってギーツを無視し攻撃を開始するキルレート。流石は新兵器といったところか、青狸の表皮はみるみるうちに削れていく。しかし……。

 

『Energy Empty!! Danger!』

 

 突然キルレートの治癒射器がエネルギー切れを起こす。

 

「ちょっ……チッ」

 

「キルレート!! おいどうしたんだキルレート!!」

 

 遠くから狗界の叫びが響く。そして地上に落ちるキルレートを……。

 

「大丈夫!?」

 

「タイクーン……! ……タイクーンはそいつを安全な場所まで避難させておけ!! 奴は俺が対処する」

 

 倒すとまで言えなかったのは、いつもの化かしかそれとも……。

 

「装甲が厚いんなら……」

 

『set』

 

 2つのレイズバックルを装填し、起動させる。

 

『DUAL! ON!! ZOMBIE and BOOST! READY? FIGHT!!』

 

「内側から侵食すればいい話だろ?」

 

 ゾンビブレイカーの刃を回転させ、ギリギリと青狸へと押し込んでいく。

 

『POISON CHARGE』

 

 ゾンビブレイカーのカバーを上部にスライドさせ、トリガーを引く。

 

「まずは一段」

 

『タクティカルブレイク!!』

 

 削られた表皮に麻痺毒が浸透していく。間髪入れずにギーツはブーストバックルのハンドルを2回回す。

 

『BOOST TIME!!』

 

 するとゾンビバックルの左手に装備された『ポイズンチェンバーアーム』が巨大化、爪に激毒がしたたる。

 

『ZOMBIE! BOOST! GRAND VICTORY!!』

 

「はぁあああああ!!!」

 

 左手を突き出し、青狸へと特攻する。麻痺毒により動きを鈍らせた青狸はみるみるうちに内部へと侵入されていく。5m程もある巨大な(コア)を壊すため、ギーツはバックルを交換する。

 

「タイクーン、使わせてもらうぞ」

 

 ブーストタイムを使った為、ブーストバックルはとこかへと飛び去ってしまう。その為タイクーンの入手した新たなブーストに交換、更にフィーバーバックルを装填した。

 

『set. FEVER!!』

 

 ギーツはフィーバーのスロットのレバーを倒す。

 

『ゴールデンフィーバー!! JACKPOT! HIT! GOLDEN FEVER!!』

 

「さぁ、盛大に打ち上げだ!!」

 

 再度ブーストタイムを発動、更にフィーバーバックルのレバーを倒す。

 

『GOLDEN FEVER HYPER BOOST GRAND VICTORY!!』

 

 手足のバーニアの推力を(コア)一点に集中させ、蹴りを放つ。

 

「はぁああああああ!!」

 

「Gyaaaaaaaaa!!!!!」

 

 (コア)を完全に破壊したギーツ。再度ブーストバックルは飛び去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「青狸が……死にました」

 

「何!? キルレートは故障したんじゃなかったのか!? まさかトルペードがやったのか!?」

 

「いえ……それが……やったのは……狐です」

 

 司令部が困惑している中、部屋のドアが勢いよく開かれる。

 

「大変です!! 白羽根と蜘蛛女……それに7体の擬態型が襲来しました!!」

 

「何だと!? し、至急トルペードとヴァルキュアを向かわせろ!! 他のものは近づけるな!! 犠牲を増やさせるな!!」

 

 キルレートが故障してしまっているため、それしか手がないのだ。しかし……。

 

「それが……ヴァルキュアも……消息不明で!!」

 

「トルペードだけというのか!? あれだけで7体の……ちっ、撤退だ!!」

 

 それが上層部の、いや妃崎の下した決断であった。しかし……。

 

「いいや、まだだ、背水の陣という言葉があるだろう? やってくれるはずさ、彼女らなら、ね」

 

 赤石長官のその命令で撤退は非許可となった。

 

「特記個体が一同に揃った千載一遇の好機なのだ。逃す訳にはいかん」

 

「しかしトルペードだけではまた犠牲を増やすだけです!」

 

「ならまた……新たな治癒姫を投入すればいい話だろう?」

 

「長官……」

 

 そう言い争をしている間にも、犠牲者は増えていっていた。特に蜘蛛女、さぁこ、沙飾芽舞による犠牲者が……。



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第52章 離別Ⅱ:穿て! 糸の壁

 現れた白羽根に激昂し、特攻する少女がいた。

 

「しろはねぇぇええええええええ!!!!」

 

「こよりはん!! そいつはトルペにまか────」

 

 部隊長であるゆっこの忠告を聞かずして、恋人『三静寂天芽』の仇である白羽根へと突撃するこより。

 

「絶対ころすぅぅううううう!!!」

 

 しかし執念虚しく白羽根にはついでとばかりに振り払われてしまう。

 

「グァアアアアア!!!」

 

 衝撃の余波で右腕を失うこより。

 

「クソガァアアアアアア!!!!」

 

「水守!! こよりはんの手当!! トルペ!!」

 

 水守は腕を失った水守と共に離脱し、参謀である曲南の元へと急いだ。

 

「言われなくてもやってる!! クヒヒ……折角の擬態型なんだからよ……楽しませてくれよぉぉおおおおおおゥ!?!?」

 

 狂喜乱舞のトルペードは蜘蛛女の多脚を次々と切り落としていく。即座に回復するも、その度に何度も何度も切り落とされていく。

 

「キャハハハハハ!!!」

 

 しかし特記個体は伊達ではない。自らの背後に蜘蛛巣状に展開した糸を自分に引き寄せ、自らに被せる。そしてトルペードもそれに囚われてしまう。

 

「あぁ? せんめぇなぁっ!!」

 

 もちろん彼女はその糸で出来たフィールドを壊そうとする。

 

「かてぇんだよ!!!」

 

 しかし全く壊れる様子がなく、それどころか徐々にその糸の壁は厚くなっていきく。

 

「死ねぇぇえええ!!!!」

 

 大鎌で多脚を一括で切り落とし、再生する0.1秒の間に人型の部位に切りかかる。

 

「心臓に位置にコアがあんだろ!? ならいつもみてぇにいたぶってる余裕はねぇなぁ!?」

 

「Gyeeeeeee!!!」

 

 女部の上半身を切り落とすトルペード。しかしそこにコアはなく……。

 

「てっめぇぇええええええ!!!!」

 

 再生した脚で振り払われ、吹き飛ばされたトルペードは糸をつきぬけ、ビルに激突する。激突したビルは倒壊し、その破片がトルペードへと降り注ぐ。

 

「トルペ!!!」

 

『TACTICAL THUNDER!』

 

 突如、雷が降り注ぐ。破片はそれに当たり粉々になる。後に降り注ぐのは砕け散った粉塵だけ。

 

「あの蜘蛛は私が食い止めるからあなた達は早く逃げて!!」

 

「猫!?」

 

「いいから!!」

 

「う、うん!」

 

 ゆっこはトルペを抱え、戦線を離脱した。

 

 ビートバックルを使い、様々な属性を扱うナーゴ。

 

「虫なら、炎だよね!」

 

『ROCK FIRE』

 

 ギター型の斧、ビートアックスの先端から火炎を放射し、糸を燃やし尽くす。

 

「勝利のメロディ、行っくよ〜!!」

 

『BEAT STRIKE!』

 

 バックルを操作し、すると蜘蛛女の周りに楽譜状の拘束エフェクトが出現する。

 

「これで殺人衝動が収まるといいけどっ!!」

 

 拘束された蜘蛛女を放って、ナーゴは去ったのだった。



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第53章 離別Ⅲ:紛い物の英雄

 賢人の訃報を真っ先に聞いたのは綴であった。苦虫を噛み潰したような顔でそう告げた妃崎に、綴は涙を流す。その直後、部屋中どころか太陽機関の施設を包み込むほどの悲鳴が響き渡った。

 

「何よー、うるさいわね」その日偶然太陽機関に来ていたひさぎが部屋に尋ねてくる。彼女も彼の訃報を知った。

 

「嘘……アイツが……私を……師匠って……」

 

 膝から崩れ落ち、顔を抑えるひさぎ。彼の訃報はすぐに機関内に広まった。もちろん、彼が所属していたポートラルにも。

 

「私が……あんな状態になっていなければ……」

 

 正常な意識を取り戻したミリィは、医務室のベッドの上で呟く。彼女らより前からポートラルに所属していた真咲と邦芽の悲しみなど、言うまでもないだろう。

 

「へぇ……あの初代ヴァルキュア様がねぇ……へへ、面白いことになりそう、だな」

 

 ただし唯一バッファに連れていかれる一部始終を見ていたトルペードだけは違った。彼がまだ生きているということを知っていたのだ。

 

「トルペ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「おいなんだよこれは!! おい外せよ!」

 

 目が覚めると彼は廃墟にいた。椅子に縛られた彼は何とか外そうと身動ぎしていると、一人の青年、浮世英寿がやってきた。

 

「誰……ですか? ってそのベルト……あの紫の奴と一緒……仲間ですか?」

 

「ようやく目を覚ましたな。ヴァルキュア……だっけか?」

 

「は……?」

 

「驚くのも無理は無い。この世界には元々、俺たちはいなかったんだからな」

 

「えっと……」

 

「お前も仮面ライダーなんだろ? だったら知らないといけないことがある」

 

「なんだよ……それ」

 

「まずはこの映像を見てくれ」

 

 そう言って英寿は空中に映像を映した。太陽機関長官の赤石の悪行、竜瀧が生み出したデッドマンによる被害の隠蔽、そして彼の活動幇助(ほうじょ)、そして最後にグラナトファの秘密である。

 

「太陽機関は、人を守るための組織じゃない。グラナトファにとっても、人類にとっても敵だ。今のままじゃな」

 

「トップが腐ってるからってこと……ですか?」

 

「あぁ、察しが良くて助かるよ」

 

「じゃあ、なんで俺だけ連れ出したんですか! 綴たちも、いやポートラルの皆も連れてこれば……!」

 

「いいや、お前がこの世界の人間じゃないからこそだったんだ。この世界の人間はほぼ全員、太陽機関を信用しきっている。あの情報を見せても、どうせ信じないからな」

 

「でも……でも綴は……」

 

「そもそも赤石は、この時代の人間じゃない。2000年前の、母さんといた頃の俺にもあいつを見た事がある。俺*1と違って姿も一緒でな」

 

「ってことは……赤石は不老不死ってことですか?」

 

「あぁ、おそらくな。この世界じゃ、アタナトイって奴と契約したんだろうな」

 

「それじゃあ倒せないじゃないですか……」

 

「だから今方法を考えているんだ」

 

「てか……あなた達はグラナトファの味方なんですか? さっきそんなことを言ってましたけど」

 

「いいや、人類に害を成すあのでかいヤツらみたいなのだ別だ。……だが、人類とグラナトファは共存できるって……そう思っているのは事実だ」

 

「そう……ですか。じゃあ、まず当面の目標は赤石と竜瀧の暴虐を止めることと、ですね」

 

「あぁ、それと……言いにくいんだが赤石はお前の命を狙ってる。無闇に綴? とか言ったか? そいつらに会いに行くんじゃないぞ。生きてるってことが知られたら面倒なことになる」

 

「わ、わかりました……。後、多分あいつらなら信じてくれると思うんで、連れてきていいですか?」

 

「俺の話聞いてたか? この世界の人間は太陽機関を信用しきってるって言ったろ」

 

「別にそんなことはないけど……貴方がそう聞いたのは、誰なんですか?」

 

「一般人だ」

 

「あぁ〜、そっか〜。それじゃダメですよ。太陽機関に勤めてる治癒姫達は仕事として、もしくは復讐としてゾンビ達と戦う力を与えてくれた太陽機関に対して感謝はすれど、別に崇拝なんかしちゃいない。だから、アイツらなら信じてくれるはずですよ」

 

「……なら試してみようか」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「そう言えば名前聞いてなかったな、俺は浮世英寿、仮面ライダーギーツだ。お前は?」

 

「俺は神川賢人、仮面ライダーヴァルキュアです」

 

「よろしくな、ヴァルキュア」

 

「よろしくお願いします。英寿さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「どういうことなのかしら。手塩にかけた新兵器って言ってたけど、故障したのだけれど」

 

 一方、狗界の部隊ダイナモの技術者パルフェはキルレートに問い詰められていた。

 

「そんなことは……ありえないっす……エネルギー供給の為のケーブルはよりいっそう剛性を増したはず……」

 

「でも断線したっていうのは事実なんだけれど?」

 

 よく見るとそのコードには、ある一定の出力を超えると、断線するよう、人為的な傷が付けられていたのだ。

 

「へぇ〜人為的〜」

 

「でっでも、最終調整を終えてあなたに渡すまで十数分しかなかったっす」

 

「監視カメラはないのか?」

 

 狗界も彼女に問う。

 

「機密漏洩防止のために付けられてないっす……でももし侵入者がいたのなら、入室者名簿でわかるはずですし……そんな裏切り行為をする奴が太陽機関にいるなんて……信じたくないっすよ」

 

「まぁ、もしそんなことをした裏切り者がいたのなら、殺さないとね」

 

 そう言ってキルレートは去っていった。後に残ったのは狗界とパルフェだけ。

 

「……まぁ、この作戦が終わったら酒奢ってやるから、存分に飲めよ。この前のお返しだ」

 

「いいんすか? そんなこと言って。荒れるっすよ?」

 

「知ってるさ。だからだよ」

 

「先輩、やめといた方がいいっすよそれ」

 

「あ?」

 

「それ、普通の女の子にやると勘違いしちゃうっす」

 

「はは、調子が戻ってきたようで何よりだ。じゃあな」

 

「約束、ッスよ」

 

「あぁ、守るさ。約束はな」

 

(それにしても……裏切り者か……何でそんなことしたんだ……? いや、理由なんてどうだっていいか、どうせ殺すんだしな、もし裏切り者がいたんなら)

*1
浮世英寿は転生を何度も繰り返している。その記憶も全て引き継いでいるため、実質的には2000歳である。




あーあ道長女の子泣かしちゃった


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第54章 離別IV:再会の灯火

「変装〜?」

 

「あぁ、言っただろ? お前が生きてるってことが知られたらまずいって」

 

「あ〜そうでしたね」

 

「ってことでこれを用意した」

 

 英寿が懐から取りだしたのは上部にHAPPY BIRTHDAYの文字が造形されたメガネ。

 

「は?」

 

 これには思わず、普段は敬語の賢人も驚きを隠せない様子。

 

「これは俺が用意した浮かれならぬ浮世メガネだ。どうだ? いいだろ?」

 

「いいも何も……まぁ英寿さんが言うのならそうなんでしょうけど……」

 

 だとしても、こんなメガネをつけることに抵抗はあった賢人。

 

「嫌なら付けなくてもいいんだぞ。何もギーツの言うことが絶対なんてわけじゃないからな」

 

「そう……ですよね。でもやります。だって会いたいですもん。綴に」

 

「大切な人がいるっていうのは良い事だよ賢人、絶対に守ってみせるんだ」

 

「えっと……誰?」

 

「あぁ、俺は桜井景和。こっちの祢音ちゃもみんなと同じ仮面ライダーだよ。よろしくね賢人」

 

「よろしくお願いします」

 

 差し出された手を握り返す賢人。

 

「私もよろしくね賢人!」

 

 と、祢音も手を差し出してくる。

 

(こんな一般人みたいなのが仮面ライダーか……リバイスの次? でしょ? これ誰が主役なんだろ)

 

 とにかく、と、気持ちを切り替え賢人はメガネを付けて外に出た。

 

「痛ったぁ……。いやそういうんじゃなくて周りの視線が痛ったぁ……」

 

 ジロジロと見てくる市民たちの視線をかいくぐり、彼は太陽機関に辿り着いた。

 

(……てかアポ取ってなかったんだけどどうしよう!?)賢人がすることもなく出入口の前でたじろいでいると誰かが出てくる。

 

「!?」

 

「えっ……? 賢人……さま……?」

 

 メガネの効果は綴程の親密度になると無意味だったようだ。

 

「や、やぁ……綴、久しぶり、だな」

 

「賢人さ────んむ!?」

 

 彼は慌てて綴の口を手で塞いだ。

 

(まっず! 俺が生きてるってバレたらヤバいって言ってたじゃん!)

 

 彼は自分の口の前に人差し指を上げる。そして一寸武士のライドブックを使って綴を小さくする。

 

「ケントサマ-!! シンダノデハナカッタノデスカ!!」

 

「ごめんその話はまた後で!」

 

 既に先程の綴の言葉を聞いたのか、デッドマンの最上位モデル『ヘルギフテリアン』が彼らを追いかけてきていた。

 

「まずいけど……こいつらだけならまだあの赤石には知られてねぇよな!!」

 

(ならここで全員ぶっ潰せば……!)

 

 英寿達の秘密部屋の入口が近くまで迫っていた。扉を開けて待っていたのはギーツ。レイズバックルを装填したマグナムシューターを構えて待っていた。

 

「伏せろ!!」

 

「え!? あ! はい!」

 

 彼らを追ってきている悪魔は直線上に並んでいた。賢人は綴を庇いながら地面に伏せる。

 

『MAGNUM TACTICAL BLAST!!』

 

 瞬間、マグナムシューターから6発の光弾が発射、軌道を描きながら悪魔に向かい、直撃する。

 

「英寿さん……ありがとうございます」

 

「礼は後でいい。早く入れ。場所を知られるわけにはいかない」




話の進みがゾウより遅い


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第55章 離別F:追憶の世界

 生存部隊『ダイナモ』の参謀狗界セカイの人生はありふれたものであった。幼い頃にグラナトファによって母を亡くし、感染源付近であった岡山に住んでいたというだけで半隔離扱い。

 

「セカイ、休んでもいいんだぞ?」

 

「ありがとうパパ。でも、やっぱり楽にさせてやりたいしさ」

 

「子供は外で元気に遊ぶのが一番! ……なんて押し付ける訳じゃないがな……」

 

「それに、天国のママにも見てもらいたいしさ、頑張ってる姿」

 

 そのため、男手一つで育ててくれた父を九州に移住させるため、楽にさせるため、そして父の応援に報いる為に軍に入隊。

 

 しかし、入隊試験の為九州本土に渡航している最中、『岡山の惨劇*1』が起きたのだ。一度ならず二度までも家族を奪われたセカイ。だがそんな境遇、この世界においては普通の事だ。

 

 しかし幸か不幸か、彼には適合者の資格があった。そんな彼はダイナモの参謀として治癒姫を率い、浄化作戦に当たっていた。だが、悲劇は続く。あの白羽根に、婚約者までもが殺されてしまったのだ。

 

「家族も……弓歌も……神川先輩も……全部グラナトファに奪われたんだ……だから……」

 

 彼に、奴達を許すことは出来なかった。

 

「セカイ、最近張りつめているが、少しはリラックスしたらどうだ?」

 

 部隊長の戦香の言葉も彼に届きはしない。セカイは赤石長官の元に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「もう3日ですよサンさん、綴さんが出てったっきり帰ってこないの」

 

 矢迷坂がサンに問いかける。

 

「監視カメラに映っていない以上探しようがないからな……」

 

「仕方ないですよ……賢人さんが……その……」

 

「しかしだな……職務には忠実でないと困る」

 

「大変ですよサン!!」

 

 水無月が血相を変えた表情で部屋に飛び入った。

 

「まさか……!!」

 

「ハンコの化け物が出現したんですよ!! あの不審な男が手当たり次第にスタンプを押して!!」

 

「クソっ!! ポートラル出動だ!」

 

 心的外傷を負ったミリィを置いて、全員が出動となった。

 

「各員、死なないように悪魔共を倒せ!」

 

「「了解!」」

 

 そこには夏色ゆっこ率いるジムペインも来ており、二部隊による合同作戦となっていた。

 

 リーネは観察眼を活かし、人間に戻せる悪魔とギフテリアンを選別した。

 

「皆さん! 色に塗れた悪魔はなるべく拘束しておいて下さい!」

 

「ちっ、殺し放題って訳には行かねぇのかァ?」

 

「トルペ! 余計なことは言わんの!!」

 

「そうですよ? ここは淑女らしくおしとやかに彼らを……救済してあげましょう」

 

 水守の的確にギフテリアンを狙った攻撃が頭部を貫く。

 

「水守あんた……すごいな!! ってそんな言うてる場合ちゃう! おらっ!!」

 

 メイスで大質量のまま悪魔に叩きつけるゆっこ。しかし何度も何度も倒しても湧いて出てくる。

 

「クソが!!」

 

 二部隊とも四方八方を囲まれてしまった。そしてそれを遠くから見物している赤石長官。

 

「ふふふ……あーっはっはっはっは!!!」

 

 人類、グラナトファ双方を絶滅させ、悪魔だけの世界を作るという自分の理想に邪魔な部隊を潰せて満足なのか、高笑いをしていた赤石だったが、直後に表情をゆがませる。

 

「なに……?」

 

「マズイ……!!」

 

 サンは目を開くが、誰ひとりとして欠けてはいなかった。

 

NINJA! READY FIGHT!

 

「間に合ったようですわね」

 

「その声は……綴さん……?」

 

「今度は……誰も死ななかった……よかった……」

 

 一方、ジムペインに駆けつけた白騎士はほっと安堵し、胸を撫で下ろす。

 

「へっ、ようやく来やがったか、初代ヴァルキュアさんよ……」

 

「うへぇ……死刑囚いるのかよぉ……って、この悪魔たちは罠だ!! お前たちを消すためのな!! 早く逃げるぞ!!」

 

「逃げるったって……それにここには守るべき人もおるんやで!?」

 

「安心しろ関西弁、全員避難させてある」

 

 ヴァルキュアはスペリオルユニコーンの手首に装着した武装『ユニコーンブースター』にジャッ君のブックをリードさせ、悪魔たちの四方に種をばら撒く。瞬く間に巨木へと成長し、悪魔たちを取り囲んだのだった。

 

 そして残った治癒姫たちはといえば……。

 

「フィリップさん! 頼みます!!」

 

 そう呼びかけるとすぐに巨大車両『リボルギャリー』が登場、全員を積み込み、秘密の地下アジトに向かうのであった。

*1
三つ首の狼型のグラナトファ『肉吐く白狼(オウトロック)』及び『絢爛(けんらん)たる瘴気』によって引き起こされた惨事。この事により岡山県は地図から消えた



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SP キャラクター紹介

書くことがない時にキャラ紹介は書きます。


 Side人類

 

 

 

 神川賢人

 

 所属 生存部隊『ポートラル』

 

 立場 ポートラルの切り込み隊長

 

 一度綴を失ったため、大事なものを守る人に対しては人一倍畏敬の念を抱いている。また、浮世英寿や五十嵐一輝達は見たことの無い仮面ライダーであるが、仮面ライダーであるという一点だけで全幅の信頼を寄せている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面ライダーヴァルキュア

 

 神川賢人がライドブックの力を使い変身した姿。癒しの力を用い味方のサポートをしながら戦うことが出来るが、変身者である賢人の気質的にそういった戦法は苦手なためもっぱら敵陣を切り崩す切込隊長をしている。

 

 攻守共に安定したエナジーユニコーン、凶暴性が増すが戦闘力が格段に上昇するハンターナイトリザード、仲間どころか自身にまで回復効果を与える命の聖水、3種ブックを使ったワンダーコンボや、白馬を呼び出すスペリオルユニコーン、数多のライドブックを使用し人類を救うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 真狩叶女

 

 故人。享年19歳。

 

 姉御肌を気取ってはいるが、内心はお調子者であり、遺品の日誌からもそれが伺える。ヴァルキュアになった理由は幼なじみである久邇境真咲が入ったという情報を風の噂で聞いたため。太陽機関太陽器官は秘密組織のはずなのだが……。賢人に一目惚れ仕掛けるも綴がいると知るとすぐに切り替えられる心の強さも持ち合わせている。

 

 羽付きの攻撃から仲間を庇い死亡した。姉御肌の一面も作ったものではなく、素だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久邇境真咲

 

 19歳。

 

 特筆すべきことは無い普通の少女である。しかし人一倍優しく一度はゾンビにすら情をかけかけた程だったが、親友である叶女を羽付きに殺された事で一変、グラナトファを憎むようになってしまった。

 

 

 

 

 

 矢迷坂邦芽

 

 24歳。

 

 賢人、綴、サン、ひさぎの4人でダブルデートをしていた最中、襲われていた所を綴に救われた。その一部始終に関しては記憶処理が施されたはずだったが何故か不完全であった。賢人、サンに対しては心を開いているが基本的に男に対しては警戒心をMAXにせざるを得ないようだ。

 

 

 

 

 

 狗界セカイ

 

 生存部隊ダイナモの参謀。両親と婚約者である弓歌をグラナトファに殺されている。その為誰よりもグラナトファを憎んでおり、羽付き(彼は白羽根と呼んでいる)には婚約者を殺されており、キルレートを利用し奴を真っ先に殺そうとしているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮世英寿

 

 全ての戦いが終わり、DGP(デザイアグランプリ)の創始者スエルを倒した英寿達。しかし英寿は自らのDGPを作り、別世界を救うことに。希望のないこの世界に、オーディエンスはいるのか? また彼らは"ハッピーエンド"を臨んでいるのか?! 彼らの行く末に、乞うご期待! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Sideグラナトファ

 

 三静寂天芽

 

 三静寂家の隠し子、"生存組合"ポートラルの三静寂礼音とは異母姉弟にあたるが、礼音はその事を認知していない。実は羽付き(白羽根)であり、セカイの婚約者である弓歌、ポートラルの叶女を直接殺害している。しかし本人としては自営のつもりであり、心の底からグラナトファと人間が共存できると思っている性善説主義者である。



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第56章 決戦Ⅰ:セカイの世界

「ポートラルとジムペインが……機関を裏切った……?」

 

 それは、セカイにとっては寝耳に水であった。長官室でうなだれる彼の耳元で、赤石が囁く。

 

「どうだ? 君たちダイナモで、彼らにケジメをつけさせるというのは」

 

「え?」

 

「組織を離反した罪は重いからねぇ……死あるのみだよ」

 

 セカイは少し考えるがやはり結論は変わらず、

 

「……はい。俺が……奴らを……」

 

 ポートラルたちと敵対する意志を強く固めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 一方その頃、英寿にこれまでの事情を説明されたポートラルとジムペインの面々はといえば……。

 

「グラナトファと協力するなんて、私は反対ですっ!」

 

 最初に口を開いたのは真咲であった。

 

「叶女を殺したあんな奴らと……仲間になれるわけがありません!」

 

「もう過ぎたことだろ」

 

 そう道長が口を挟むと間髪入れずに真咲が殴り掛かる。

 

「叶女は私の……大切な幼馴染だったのっ!! それを……過ぎたことだなんて!!!」

 

 一度も反撃せず、道長は殴られ続ける。

 

「やめろ真咲!!」

 

 高ぶる彼女を、邦芽が抑える。

 

「全員落ち着け!! 英寿さんの話の通りなら、これはグラナトファだけじゃなく、人類にとっても大ピンチなんだぞ!」

 

「そんな理屈じゃ……納得できないよ……」

 

 話は平行線の一途を辿る。しかし……。

 

「誰も奴らと仲良しこよしになれって言ってるんじゃない。ただ今だけ、今だけは自分たちの命のために戦えって言ってるんだ」

 

「でも……英寿さんはグラナトファと人間の共存を望んでるんですよね……?」

 

「あぁ、でもな、人間同士でも価値観が合わなくて喧嘩するだろ? それと一緒だよ、グラナトファだって色々いるし、それにな、強要する気はないさ」

 

「そう……ですか……だったら……今回だけ、今回だけは奴らと協力して悪魔を退治しますよ」

 

「あぁ、それでいい。悪魔に自我は無いからな、何も気にせず戦え」

 

「それと……英寿さん、赤石長官はどうやって倒すんですか? 2000年以上も生きていたってことは不死身なんですよね?」

 

「あぁ、だが今の奴なら悪魔と契約して力の代償にそれを失っている」

 

「なら!」

 

「そう、倒せるってことだな」

 

 簡単な作戦説明の後、彼らは太陽機関本部に赴いた。そこには赤石の尖兵である竜瀧が大量の悪魔を率いて構えていた。

 

「お前の素性は知ってる! 竜瀧友輔だろ? お前はまだ人間だ、今ならまだ引き返せる、こっちに来ないか!!」

 

 英寿の呼びかけを鼻で笑い、竜瀧は儚げな顔で言った。

 

「俺……もう人間じゃねぇんだよ……なぁ!!!!」

 

 自らにギフスタンプ及びディアブロスタンプを押印した竜瀧は愉悦の表情を浮かべる。彼の身体はみるみるうちに肥大化し破裂、その血肉から2体の悪魔が出現する。

 

「人類は……私が無に帰す」

 

 金色の死装束を纏い、72本の触腕を携えた悪魔ギフ。そう、これこそがギフの真の姿なのである。

 

「……」

 

 そして2本のねじれた角を持った、正に悪魔といった様相のディアブロ。奴が左手を掲げると4体の悪魔が出現する。

 

「ただの人……? いや違う! 避けろ!」

 

 黒髪長髪で血みどろの女悪魔、そう、伽椰子である。

 

「なんでフィクションの存在がいんだよ!!」

 

 そんな賢人に、英寿が答える。

 

「古くから恐れられてきた怪異は時に現実になる、聞いたことないか?」

 

「ないですよそんな話!!」

 

 次に現れたのも一見すると何の変哲もない男であった。変わったところと言えば身体中に数珠をジャラジャラと巻き付けていることくらいか。しかし持っていた錫杖を一振すると周囲にどんどんと化け物が出現していく。

 

「また増えた!?」

 

「あれは妖怪の王、山本五郎左衛門か」

 

「妖怪の王!? 悪魔なんじゃないの!?」

 

 相も変わらず景和は大きなリアクションだ。

 

「悪魔の定義なんて時代と共に移り変わるもんだ」

 

 そして次に現れたのは戦の神、オーディンである。彼は軍馬スレイプニルに跨り、戦場をかける。

 

「オーディン!?」

 

「サン知ってるのか!?」

 

「あぁ、もし逸話が本当ならあの槍は相当厄介だ! 必中だから!」

 

「チートだろうがそんなの!」

 

「まずい! ナーゴ!」

 

 聖槍グングニルが祢音へと迫るその瞬間……。

 

「言っただろう? 時空が違っても、君がどこにいようと俺は君の味方だって」

 

 何者も貫くことは叶わないシールドが祢音を囲う。

 

「キューン……?」

 

 レーザーレイズライザーの効果で何とか直撃は免れたナーゴ。

 

「さぁ行こう祢音、あんな化け物、俺たちの敵じゃない」

 

 そして、最後に現れたのは巨大な鬼の風貌をした酒呑童子。

 

「妖怪の相手は俺に任せろ。さぁ、お前らは九尾の狐に勝てるか?」



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第57章 決戦II:九尾の白狐VS(あやかし)の王 山本五郎左衛門

「さぁ、お前らは九尾の狐に勝てるか?」

 

『Mark.IX』

 

 バックルを分離、ベルトの両側にセットする。

 

『Set.IGNITION!』

 

「変身!」

 

 英寿はベルトを回転、グリップを押し込む。

 

『REVOLVE ON』

 

『DYNAMITE BOOST! GEATS Ⅸ!! READY────』

 

『FIGHT!!』

 

「さぁ、ここからがハイライトだ!」

 

 地面を突き破って出現する専用武器『ギーツバスターQB9(九尾ナイン)

 

 手始めに寄ってきた有象無象の妖怪達をブレードモードで薙ぎ払う。

 

「牛鬼か、相変わらずデカイな。だけど────」

 

 ギーツIXは牛鬼をビルに叩きつける。そしてそれによって砕けたビルを創世の力で復元する。

 

「散々人を食ってきたんだ、お前はここで終わらせる」

 

 ギーツバスターの撃鉄を引き、巨大な光弾が銃口から放たれる。

 

『BOOST TACTICAL VICTORY!』

 

 ビルごと爆散した牛鬼、奴が完全に霧散した後にビルが元通りになっていく。

 

 牛鬼を退治したギーツの目には空を飛ぶ天狗の姿が写った。

 

「アイツみたいに自由には飛べないが、なら撃ち落とせばいい話だ」

 

 レールガンモードにしたギーツバスターから放たれた超電磁弾は天狗の羽を掠める。それだけで天狗は落下していく。

 

「まずい……!」

 

 ギーツは創世の力で天狗が落ちないように操作する。彼は天狗を抱え、安全な場所まで移動させる。

 

「王の方は悪魔の模倣品だが、それに引き寄せられたお前らは本物、だろ? なら殺すわけにはいかないからな」

 

 ギーツIXは五郎左衛門に歩みを進めていく。

 

「悪魔のお前に、手加減は無しだ」

 

 右側のスロットルを回すとマント状になっている九尾が五郎左衛門に向かって音速で動く。

 

「ぎぃ……はな……せ……」

 

「お前悪魔なんだろ? お前に殺られた人間の真似のつもりか?」

 

「ぎぎ……やめろ……お前らァ!! 助けろぉ!! 俺は王だぞ!!」

 

「申し訳ないがもうお前に従う妖怪はいない。残念だったな」

 

 ベルトからバックルを取り外し、ギーツバスターに装填する。

 

『DYNAMITE BOOSTER Mark.Ⅸ』

 

「はぁぁあああああ!!!」

 

 九尾で五郎左衛門を引き寄せ、すれ違いざまにブレードを一振り。

 

『BOOST TACTICAL IMPACT!』

 

 そんなシステム音声が鳴ると同時に奴は爆発四散、霊魂は天へと昇っていった。

 

『伽椰子の相手は俺がしますよ。俺、得意ですから説得』

 

「なんて言ったのはいいものの……怖すぎでしょ見た目……」

 

 幸い伽椰子の移動は鈍足で、それだけでは攻撃を食らう心配はなかった。

 

「でも、綴にいいとこ見せたいし、それに皆に啖呵切っちゃったんだから、やり遂げないとな!」

 

「あら、私も変身、できますのよ?」

 

「え?」

 

『DESIRE DRIVER.』



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第58章 決戦III:白騎士VS史上最恐の怨霊 伽椰子

「DESIRE DRIVER」

 

 綴はベルトを腰に装着し、そして懐から手裏剣型のオブジェクトが付いたレイズバックルを取り出す。

 

『Set』

 

「綴いつの間に……」

 

「変身!」

 

『NINJA. READY FIGHT!!』

 

 仮面ライダーグロディス、チンパンジーを頭部に意匠として携えた戦士が誕生した。

 

「さぁ、行きますわよ賢人さま!!」

 

「あっ、へんしん────」

 

 賢人が変身するのを待つことなく、綴のグロディスは敵の方へと向かっていった。

 

「普通変身するまで待つでしょ!?」

 

『スペリオルユニコーン!』

 

 後からそれを追いかけるヴァルキュア。

 

「あの伽椰子って奴……やっぱり映画の……だよな?」

 

 グロディスは双剣ニンジャデュアラーを得意のトンファーのように扱い、伽椰子から幾度と伸びる髪を迎撃していく。

 

 武器に着いたディスク状の操作盤、シュリケンラウンダーを回転させる。

 

『ROUND 2』

 

「賢人さまの道は、私が開く!!」

 

『TACTICAL SLASH!!』

 

 複数の斬撃型のエフェクトが現れ、一直線に伽椰子の髪に向かっていく。一瞬、彼女の攻撃が止んだ。その一瞬の隙にヴァルキュアはブックをスペリオルブースターにブックを読み込ませる。

 

『キングオブアーサー! 1 READING!』

 

 天からキングエクスカリバーが降り、伽椰子の頭頂高を貫く。

 

 ヴァルキュアは素早くそれに走り寄り、引き抜き更に袈裟斬り。悪魔は難なく死んだ。しかし……。

 

「まずっ……賢人さま退いてください!!」

 

「一体何が……」

 

 突然、謎の髪が一点に集まる。

 

「まさか……」

 

 更にそこに核となる青白い肌をした少年、俊雄が現れた。

 

「子供!? ど、どういうことですの!?」

 

「俊雄!? 奴はあの女の息子だ! まさかとは思うが、ホンモノ、来ちまったのかよっ!」

 

「ホンモノ!? もしかしてその映画に出てくる伽椰子とやらの────」

 

「あぁそうだ!! 奴はとてつもなく厄介だ!」

 

 賢人は思案を張り巡らせていた。彼の言う通り、本当の伽椰子は自分を知った人間を確実に死に至らしめる挙句、その関係者までもを幾度となく呪い殺しているのだ。

 

「なっ……なんであんなでかく……」

 

 俊雄と伽椰子を中心として髪を纏っていき、巨大な伽椰子となったのだ。

 

「……ぷっ」

 

「?」

 

「ははははは!! 巨大化っつーのはな、圧倒的な負けフラグなんだよ!! いつもみてぇにビビらせねぇでよぉ!! 来い! アーサー王!」

 

『巨大な剣士が目を覚ます、キングオブアーサー!!』

 

 剣自体が同じく巨大化、変形し人型になる。そして……? 

 

「俺が剣になる!!」

 

「賢人さまぁぁあああああ!?!?」

 

 ヴァルキュアの纏うローブが剣状になり硬質化、頭頂部に装備され、腰部をアーサーが握る。

 

 伽椰子は髪を剣にした『伽椰子ソード』でアーサー王と鍔迫り合いになる。

 

「やばっ、これめっちゃ酔うぅぅぅうううう!!!!」

 

(てか俺、今伽椰子の髪に直接触れてんの!? これ倒しても呪われたりしないよね!? 全部アーサー王に行くよね呪いは!!)

 

 しかし、勝敗はあっけなく喫した。アーサー王、いやヴァルキュアの勝ちであった。

 

「まっ、こんなもんだよな〜」

 

 と、何の気なしに変身を解除したヴァルキュア。

 

「うっ……」

 

「ど、どうしたんですの賢人さま!?」

 

「おろろろろろろ〜」

 

 胃の内容物を全て吐き出してしまった賢人。そして若干、本当の微量だが愛が下がってしまった綴であった……。



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第59章 決戦IV: 幻女神(ファルキュア)ナーゴ&幻獅子キューン VS 戦神オーディン&軍馬スレイプニル

「さぁ行こう祢音、あんな化け物、俺たちの敵じゃない」

 

「……うん!!」

 

 キューンは一度変身を解除し、もう一度変身銃レーザーレイズライザーを装備、引き金を引く。

 

『KYUUN SET』

 

『SET』

 

 そして祢音も魔法陣のオブジェクトが備えられたレイズバックルをデザイアドライバーにセットし、変身の為のレバー『トゥインクルケイン』を引っ張る。

 

『『変身!!』』

 

FANTASY!! 

 

LASER ON KYUUN LOADING

 

READYFIGHT!! 

 

「祢音、奴の名前はオーディン。確か……神話の神だ。その時代にもデザイアグランプリはあったから、俺も実物は見たことがある」

 

「ちょっ、キューン!!! 説明はいいから戦ってよ!!」

 

 絶対に直撃すると言われるグングニルもファンタジーバックルとナーゴの透過効果によりなんともないのだ。

 

「? って祢音! なんだそのバックルは!!」

 

「え!? 言ってなかったっけ! キューン達が未来に帰ってた時に手に入れたの! その時また誘拐とかされて大変だったんだよ?!」

 

「誘拐!? ……すまない、助けてあげられなくて」

 

「いいから! 目の前の敵に集中して!!」

 

 祢音に塩対応されたという切なさで仮面ライダーキューンは加速する……! オーディンと分離したスレイプニルを速さで圧倒し、駆ける先に待ち構え銃を乱射、レバーを四足歩行ながらも器用に2回操作、ナーゴに力を与える。

 

『SUPPORT MODE LASER CHARGE』

 

 巨大化した光の壁が彼女の足元に滑り込み空中を駆け回る。

 

「なんか魔法使いみたい!!」

 

 ナーゴは光のつららを発生させ射出する。更に投げ飛ばされたグングニルが体をすり抜ける寸前で実体化、逆にナーゴはオーディンに対して槍を投擲、それは全てを貫く槍、オーディンは地面に打ち付けられ、行動が制限される。

 

『FANTASY STRIKE!!』

 

「はぁあああああ!!!」

 

『FINISH MODE LASER VICTORY』

 

 2人の高火力がオーディンに炸裂、奴は爆発四散、爆発の余波に巻き込まれたスレイプニルも息絶える。しかし……。

 

「え!? 何あれ幽霊!?」

 

 突然、半透明になったオーディン並びにスレイプニルが2人の前に現れたのである。

 

「祢音さん下がって!!」

 

「え!?」

 

 突然、2人と2体の間に髪束が落ちたのである。

 

「賢人?! え!? もしかしてこの髪の毛君!?」

 

「幽霊なら伽椰子の髪も効果あるかなって思って、ていうかあの敵、神様でしょ!? すごいですよ!」

 

 無事、神とその従者を打ち倒したナーゴ&キューンペアであった……。



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第60章 決戦V:武神ノ狸将軍 対 酒呑童子 ノ巻

「酒呑童子……って、何?」

 

「酒豪の鬼だ。史実では源頼光に退治されている。俺も見た事はあるが、あれは本当はジャマトだ。そしてデザグラにエントリーした頼光に倒されたっていうのが本当の歴史だ」

 

「えぇぇえええ!? 頼光って仮面ライダーだったの!?」

 

「知らなかったのか? 歴史上の偉人なんてのは、大体がデザグラにエントリーしている。特にあんな戦乱の時代なんてのは特にな」

 

 そんな英寿と景和のやり取りを律儀に待っている酒呑童子だったが、ついに痺れを切らしたのか斬撃のエネルギーを飛ばす。

 

「俺は妖怪の王の相手をする。こいつの相手は任せたぞタイクーン!」

 

「うん!」

 

『Set AVENGE』

 

「変身!!」

 

『BLACK GENERAL! BUJIN SWORD! READY FIGHT!!』

 

 漆黒の甲冑を纏いしタイクーン ブジンソードが参上、酒呑童子の刀を専用装備『武刃』で受け止める。

 

「賢人の邪魔はさせないぞ……ハァっ!!」

 

 相手の刀を跳ね飛ばし、連撃を浴びせていく。続けてバックルの刀部分を引き抜く。

 

『BUJIN SWORD STRIKE』

 

 武刃を円月殺法が如く一回転させ、そのまま高速で酒呑童子と切り結ぶ。だが奴は当然そのまましてやられる訳もない、酒を飲んだ酔拳のようなのらりくらりとした動きでタイクーンの技の威力を殺していく酒呑童子。

 

「このまま死ぬわけが無いだろうがァ!!」

 

 脇差と二刀流になった酒呑童子はその動きのままタイクーンを追い詰めていく。形勢逆転、そう思われたその時……! 

 

『DUAL ON! NINJA!』

 

 片方のバックルをニンジャバックルに換装させたのだ。

 

『GREAT NINJA STRIKE』

 

 忍法霧隠れにより姿を消し、そして次に現れたタイクーンを貫いた酒呑童子の刀。だがそれは空を切った。蜃気楼を応用し、幻影を作り出したのだ。更にそれを複数作りだし、全てが斬撃を繰り出す。

 

「はぁ!!!」

 

「な、なんだと!?」

 

 もちろん実態を持った攻撃は一体のみだ。しかしそれを見抜く眼など持ち合わせているわけがない。次に放った忍法は火遁の術。火に囲まれた酒呑童子は動けない。

 

『BUJIN SWORD!』

 

 再びバックルをブジンソードに切り替えた彼はバックル刀を二度引き抜く。

 

『BUJIN SWORD VICTORY!!!』

 

 分身は無くなり、1人の将軍が跳ぶ。蹴りを放ち、奴は爆散する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 変身を解除したタイクーン、とそこに賢人と綴がやって来る。

 

「大丈夫でしたか! 景和さん!」

 

「あ! 賢人! もちろ────ってえぇぇえええ!?!? 何その気持ち悪い髪の毛!?」

 

「伽椰子倒したらゲトれたんですよ! 祢音さんが戦ってた奴、倒しても幽霊になったんですけど、これ叩きつけたら消えたんで、景和さんとこの奴もそうなったら大変だなって思って!」

 

「えぇ……でも気持ち悪いよ……」

 

「って言ってもちゃんと袋に入れてますし、呪われたりはしないはずですよ!」

 

「ビニール袋じゃないですか!」

 

 とはいえ、残された相手はギフとディアブロ、バッファはそれらを相手に生き残ることが出来るか……?



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第61章 決戦VI: 魔神バッファ VS 魔王ギフ&ディアブロ

「チッ、ギーツの野郎……俺にばかり主に背負わせやがって……何が『お前土方なんだから背負うのは慣れてんだろ?』だ」

 

 と英寿の口ぶりを真似た道長は嫌々ながらもギフとディアブロと対峙する。

 

「手加減はしない。今回は最初から全力だ」

 

『SET FEVER』

 

 ゾンビバックルとフィーバーバックルを装填した道長はバックルを操作、変身する。

 

『ZOMBIE. ZOMBIE HIT! FEVER ZOMBIE!!!』

 

 全身が紫の装甲に包まれ、金色の角を頭に携えたバッファローの戦士が登場した。ギフの72本の触腕が襲いかかる……! 

 

『ZOMBIE BREAKER!』

 

 チェンソーの武器を両手に持ち、それらを叩き切ろうとするバッファ。しかし奴の触手は固い。ディアブロは4体の悪魔を召喚し力を使い果たしたのか早々にギフに吸収される。そして彼は自ら名乗りを上げる。

 

「私はあの五十嵐一家から学んだ。仮面ライダーこそ、最強の存在だと。今より私は仮面ライダーギフだ」

 

 それを聞いた道長は仮面の下でニヤリと笑う。

 

「一体の方が都合がいい、テメェをぶっ潰すのは俺だ!」

 

『POISON CHARGE!』

 

『TACTICAL BREAKE!!』

 

 2本のゾンビブレイカーに毒を同時にチャージ、ギフの触手に毒が侵食していく。それを防ぐ為自分からそれを切り離したギフ。

 

「ギフだか悪魔の王だか知らねぇが、俺は仮面ライダーには負けねぇぞ!!」

 

『GOLDEN FEVER VICTORY!!』

 

 ギフより降り注ぐ光弾の中、悠々と歩み寄るバッファ。そして左腕の爪型装備、バーサークローに劇毒が滴る。

 

「何故私の攻撃が効かない……!」

 

 剛爪がギフの体を貫く。

 

「そんな木っ端の攻撃など……私には……うっ」

 

 毒が体を侵食する。普段なら効かないハズの攻撃が何故……。

 

「何を……した……貴様ァ!!」

 

「俺は何もしていない。テメェが招いた惨事だ」

 

「何……だと?」

 

『HYPER ZOMBIE VICTORY!!』

 

 飛び上がり、蹴りを食らわせるバッファ。ギフは易易と貫かれ、爆発四散する。

 

「私が負けたのは……仮面ライダーだった……からか……?」

 

 更に残った肉片も一つ残らず毒液によって消滅する。

 

アイツ(ギーツ)が作り直した世界でも、まだこの力が残ってるとはな」

 

「感謝するのはまだ早いぞ。次は親玉だ」

 

「ギーツ!? か、勘違いするな、感謝なんてしてない!」

 

「まぁまぁ、道長も素直になって、ね!」

 

「道長さんってツンデレなんですね!!」

 

「お前ぇ!」

 

 初対面の賢人にはあまり強く出れない道長。そして全員が揃い、遂に赤石の待つ太陽機関の本部へと辿り着いた一行。最終決戦の幕が今上がるのだ。



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第62章 決戦F: 絶滅の序曲or幸福のTrailer

「協力するにしても、どうやって奴らと接触するんだよギーツ。あの赤石って野郎、待つ気はないみたいだぞ」

 

「アポはもうとってある。ここで落ち合おうってな」

 

 道長の問いに、英寿が地図を指し示した。

 

「ここって……」

 

 九州に姿を現したグラナトファ、白狼である。

 

「ま、交渉は俺に任せろ、他の奴らとは違って今から会いに行くやつは"マシ"だからな」

 

「任せました英寿さん!! ……なら俺は、セカイくんのところに」

 

 先程の戦闘の際、彼に言っておいたのだが、果たしてくるのかどうか……。

 

「なら俺たちは……」

 

「休んどけ、戦士に休息は最重要項目だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「よぉ、肉吐く白狼(オウトロック)……いや、その呼び方は嫌なんだっけか、ユゥリザ・ガルメシア」

 

「人間が……その名を……!!」

 

 英寿が口を開いた瞬間に、ユゥリザと呼ばれた女性、グラナトファは腕を変化させ彼に降りかかる。

 

「っと、危ない」

 

 しかし英寿は避けることすらせず、自分の周囲に防御膜を出現させた。彼に備わった創世の力である。

 

「なっ……!?」

 

「どうだ? 驚いたか? 人間を甘くみていたんだろ」

 

「ちっ……何故こんなところに呼んだ……!」

 

「決まってんだろ。協力して欲しいからだ。赤石英雄を倒す為に」

 

「……誰だ?」

 

「そっかぁ、お前、一匹狼なんだってなぁ、そりゃあ知らなくても仕方ないか」

 

「……ふざけているのか……!?」

 

 性懲りも無くもう一度攻撃を繰り出すユゥリザだったが、難なくいなされてしまう。

 

「くっ……教えろ、誰だ。いいやそもそも何故私らが協力しなければならない! 人間なんぞに!」

 

「そりゃあ、赤石を野放しにしていれば人類だけじゃなく、お前らグラナトファにとってもあまり芳しくない事態になるからな」

 

「……言ってみろ」

 

「双方の絶滅だ。人間もグラナトファも、すべからくな」

 

「……それで何故、私に協力を依頼した」

 

「知ってたからな。なぁユゥリザ、お前の夢は人類絶滅なんかじゃないんだろ? あの過激派『コールサイレン』とは違って」

 

「奴らと一緒にされたくないだけだ……それに────」

 

「俺は、誰もが幸せになれる世界を望んでる。それにはグラナトファ、お前たちも入ってる」

 

「……さっき1匹狼とか言っただろ、だからか? そういう奴は簡単に落ちるとか思っているんだろ?」

 

「いいや。それにあの蜘蛛女も白羽根にも協力を要請するつもりだ」

 

「奴らは……コールサイレンの奴らは……いや騎死道柩はどうなんだ!!」

 

「残念ながら門前払いだった、危うく殺されるところだったと言ったら、信じるか?」

 

「……ふふ、フハハハハ!! なら、癪だがお前らに協力してやろう!! 私は、私はアイツらが、特に騎死道柩が嫌いなんだ! 丁度いい!」

 

「安心したよ。ならもう時間は無い、早速急ぐぞ、俺の拠点に」

 

「は……?」

 

『GEATS IX!』

 

 超高速で例の拠点に戻ったギーツ。そしてセカイと賢人はといえば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「アンタは、まだ甘噛さんが生きてるでしょ!? そんな人に、俺の気持ちをわかった気になって欲しくない!!」

 

「じゃあなんでここに来た? 来なきゃ、そのまま憎いグラナトファを殺し続けられたのに……」

 

「黙れ!! お前は失ったことも無いくせにッ!」

 

「あるよ!! 死んだのかも、生きてるのかも分からなかった時がッ!」

 

「でも、結局は再会できたんでしょう!? 俺と弓歌の再会は……腕だけでした。……損傷が酷いから見ない方がいいって……あんただってちょっとはあるでしょう……? グラナトファなんてこの世界にはいらないって……だったら!! 俺と一緒に……来ましょうよ……今なら長官だって!!」

 

「あいつは、人間も絶滅させようとしているッ!!」

 

「え……?」

 

「グラナトファを使って人類を絶滅させる計画だったが、それが狂って逆になった。でも後は同じだ。残った方を悪魔で滅ぼす。そうしたらどうなる!! お前と同じ境遇を、増やし続ける気か!?」

 

「ッ……!」

 

「俺は! お前と一緒に戦いたい! ダイナモの皆もそっちにいるんだろ?」

 

「でも……俺は……」

 

(っと、そろそろ戻ってくる時間だが……)

 

「え!?」

 

 セカイが昔のような素っ頓狂な声をあげる。

 

「囚われた治癒姫、全員連れ出してきましたわ」

 

「ふん、勘違いするな、俺はただ作戦に従ったままだ」

 

『これは仮面ライダーに対し絶対防御を有するバッファ、お前とまだ仮面ライダーに変身できるとは知られていないグロディス、君にしか頼めない』

 

 そんな作戦の元2人は機関に潜入、無事囚われていた治癒姫達を救出したのだ。

 

「ってことで、セカイ、よろしく頼むぞ」

 

「……あぁ、ありがとう……こんな俺だけど、よろしく!!」

 

そしてギーツと同時刻、彼らは拠点へと帰還したのだった。



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第63章 罪の精算

「結局、裏切り者は赤石長官だってことでいいんだな?」

 

「あぁ、それとやはり……あのコールサイレンとは完全に敵対関係にありそうだ」

 

「え……それってどういう……」

 

「まぁ、あの白狼と白羽根と蜘蛛女の協力は仰げたがな……」

 

「ちょっと英寿待っ」

 

「白羽根……? ってあの白羽根……?」

 

 ようやく仲間になったセカイの表情が曇る。

 

「力を得てからの期間が短い蜘蛛女はともかく、残りの2体の被害は大きいと聞いている。セカイ、お前のそうなのか?」

 

 連れられた人間態の3体の内、1人を見てセカイは顔をゆがませた。

 

「……アマネ? 英寿さん……なんでこいつがいるんだよ……」

 

「彼は三静寂天芽。白羽根の正体だ」

 

「え……別……人?」

 

「ごめんねセカイ、ずっと嘘、付いてた」

 

「なんで……騙してたの────え、白羽根……?」

 

 セカイの脳裏の幼馴染の記憶が消えていく。そして代わりに思い起こされる婚約者の最期のメッセージ。

 

 助けてというメッセージに気づかずに放っておいた携帯はもう捨てた。思い返されるのは変わり果てた弓歌の腕だけだ。

 

「僕は……グラナトファと人間の共存を望んでいるんだ」

 

「その共存ってのは弓歌を……俺の婚約者を殺したら訪れるのか……? なァ! 教えてくれよアマネ!! なんで弓歌は死なないといけなかったんだ!?」

 

「……うるせぇな」

 

「ちょっと────なんで止めるんだよ英寿」

 

 割って入ろうとした賢人と芽舞(蜘蛛女)を英寿が止める。

 

「ぶへぇ!?」

 

 セカイに勢いよく殴られる天芽、吹っ飛ばされ壁に激突した彼に近づくセカイ。

 

「君たち……だって……僕たちグラナトファを殺していってるじゃないか……!」

 

「んなことどうでもいいんだよ……俺はお前が弓歌を殺したことを言っているんだよォ!!」

 

「うん……人を殺したことを正当化するつもりはないよ。だからセカイも許さなくていい。でも……ごめんなさい」

 

 天芽は膝をついて謝るのだった。

 

 しかしその謝罪だけで死を許せるはずもなかった。

 

「あぁ、許さねェよ。でも、協力はする。もうこれ以上、誰も死なせねェ」

 

「あぁ、それでいいよ」

 

「言っただろ? 止めるのはやめとけって。モヤモヤした気持ちのまま戦っても不利なだけだ。こうやって殴りあってでも気持ちを共有すればと思っただけだ」

 

「そういう経験、あるんですか? 英寿」

 

「2000年も生きていれば、な」

 

「ユゥリザもこれでいい?」

 

 立ち上がった天芽はユゥリザに問いかける。

 

「あぁ、私はあの柩に一泡吹かせてやれればそれでいい」




天芽=アマネ=天音 第45章を参照
さあこ=沙飾芽舞


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