デジモンと命を共有する転生者 (銀の弓/星の弓)
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過去:ジール編
ジール編第1話 離別・召喚


オリジナル世界、ジール編。
本編第23話まで既読推奨。
といっても、タイムリープ後ですが、異世界編の始まりです。

中編くらいの長さにするつもりですが5話以内で終わるかなぁ。

この時系列は杏子【アルファモン】が記憶喪失なので、幼く書くようにはしていますが。

本編第23話まで多々あった伏線の回収回でもあります。




ゼロ視点

 

 

ここはジールという世界のホープ王国だ。

 

ここへはある目的でやってきたが…フン、何が【希望】だ。

ここにいる人間はゴミの集まりではないか。

 

…いや、そもそもこの世界がゴミ捨て場だったな。

 

 

「ここにいたか。ガラテア」

「!?」

 

私は諜報活動しているエルフの王女、フェーの妹、ガラテアに声をかける。

 

ガラテアは消息を絶っているはずの私に声をかけられるとは思っていなかったのか、酷く驚いている。

 

「い、生きていたのですか?ゼロ」

「あまりゆっくり話せる時間はない。お前の脳に情報を送る」

 

そう言って、困惑する彼女を無視して、私はガラテアの頭に手をかざし、必要な情報を送る。

 

こんな真似をすればほとんどの生命体は情報量の多さで発狂する。脳が破損する恐れもある。

 

が、ガラテアの特殊な脳。忘却できない体質と、莫大な情報量を処理する破格の処理能力があれば可能だ。

 

「…!!これは…!!」

「消滅している【樹】の世界を修復するためのデータと前回の歴史で何があったかを示すものだ」

「…こ、これは!!この世界が消滅する!?」

「それだけではない。今日召喚される2人の片割れ、暮海杏子の元居た世界を含むあらゆる世界の消滅だ。このまま放置すればな。それを防ぐために必要なピースが今お前の脳に刻んだ観測情報だ。虚数空間に打ち捨てられたところを私が拾ったのだ」

「虚数空間って…!生身で入ったんですか!?」

「私は【ゼロ】だぞ?それくらいできるとも。…もっとも、現在我がパートナーであるこのデジモンの協力がなければ成立しなかったことだが」

 

そう言って、私はデジヴァイスを取り出し、ガンクゥモンを出現させる。

 

「我はガンクゥモンという。…正直我もゼロを通じて未来の天使から間接的に情報を受け取った際は耳を疑ったがな」

 

最も、榊原進示達がトータスから地球へ帰還した後の情報は与えていない。

私が取捨選択を行ったからだ。

 

地球帰還後の対応を考えるのはあくまで連中の仕事。

 

「…それがデジモンですか?人間の男性に近いフォルムですね」

「形状は様々だ。それに有機生命体のような生殖機能もない」

「…どうして、オリジナルの世界が消滅すれば派生世界だって全て消えるのに」

 

ガラテアの疑問は最もだ。

どのような創作世界であれ、オリジナルが存在しなければそもそも2次創作も成り立たない。

樹が存在しなければ枝葉も成り立たない。

 

 

「オリジナル世界の消滅自体は本来計画になかったことだろう。…少なくとも神王にとってはな」

「…それは」

「情報にある通り、神王は誰も死なない、誰もが幸せになれる理想郷を目指した。その過程で目を付けたのが電脳世界だろう。デジタルワールドも電脳世界と細部は異なれど、基本同じ原理で構成されている。電脳世界ならば物質界よりも生命情報の設計、書き換えはやりやすいからな。だが、それでも電脳世界を維持するには物質界にサーバーを置く必要がある」

「…この世界で生まれた人間にデジタル理論の構造などわかるはずもないですが、貴女から情報を受け取った今なら理解できます。ですが、その理論だと物質界に人間の肉体がなければ、電脳空間でも存在を維持できないのでは?」

 

その疑問に目をつけるとはさすがに優秀だな。

 

「暮海杏子が元居た世界にジョロウグモという会社が提供しているサービスに、【パーフェクトガールプロジェクト】なるものがある。超スーパーリアルドールを利用したもの。美女、美少女の精巧な複製人形を利用し、利用者の男性に夢のような時間を過ごさせるサービスだ。利用規約の最大重要項目は、利用中は美少女が派遣された部屋から一生部屋から出ないこと。

 

…しかし、健康な人間を電脳世界に拉致するというのが実態だ。拉致された人間の肉体は臓器売買のためにバラバラに解体される」

「!…あ、該当知識がありました。インフェルモンというデジモンを利用したもののようですね。しかし、解体されて死んでしまった人間の男性は電脳空間でも存在を維持できないのでは?」

 

普通ならそう考えるだろう。

 

「被害者の男が電脳空間で相羽タクミに諭され、電脳空間からのログアウトを試みたが、既に体が解体されていたために【ログアウト先がありません】という表示がなされた。…にも拘らず、電脳空間が限定であるが自我意識をはっきり保っていた。物質界に戻れずとも、電脳空間が消えない限り存在そのものは消えないということだ。…それをヒントにしてしまったのだろうな」

「…まさか、ありえない…!」

 

 

そう、肉体は失っても電脳空間では意識を保てる。

これは電脳空間でも【魂】が存在することになる。

人格を形成し、維持するのは魂ということ。

この世界でも実例はあるが、心と体が入れ替わるような現象は、即ち魂の交換である。

サブカルチャーでもこのネタはよくあるだろう。

人格の主導権はあくまで体ではなく、【魂】が握っているからだ。

 

「魂…」

「もう一つ。本来デジモンが存在しないこの世界において、デジモンの存在が現れたのは、暮海杏子がこちらの世界に流れ着いたからだ。彼女を呼び水に、世界に微弱ながらデジタルシフトが起こるようになってしまった。前回の歴史では、転生者以外にデジモンテイマーがおらず、神王の計画を止めるために打って出たものの、返り討ちにあってしまった。電脳空間に誘い込まれ、魔法が使えない状況に陥って、トータスで偽神、エヒトを倒し、魔王呼ばわりされた南雲ハジメたちも無力化したしな」

 

いくら強くなってもその能力を無力化してしまえばいいということだ。

6体の究極体デジモンと、6柱の天使だけでは、神王の暴走を止めるにはには至らなかった。

 

「まあ、そもそも前回の歴史ではお前もミリアも死亡したために、今渡した情報を持ち帰ることも出来ずに、消えた世界の修復も出来なかった。サルベージに必要な13騎のロイヤルナイツも暮海杏子だけ。御神楽ミレイとの交信も出来ない状況では初めから【詰み】だったわけだ。仮に神王の暴走を止めても、結局生き延びる道はなかった」

「では、何故大天使様はその情報を過去に送ったのでしょうか?」

 

まあ、そのあたりも世界の仕組みを知らなければ理解できない事か。

 

「枝葉の世界どれか一つでも樹の世界の情報を修復できれば、世界の連鎖崩壊は防がれる。樹の世界が消えているにもかかわらず、この枝葉の世界を維持できているのは、地球の北欧神話の主神、オーディンの分霊が世界を維持しているからだ。機能停止したこの世界のイグドラシルの役割を代行しているのだ」

「それは…!そういうことですか。元々イグドラシルの源流は北欧神話のユグドラシル。オーディンはユグドラシルで首を吊った逸話もあり、グングニルで自らをユグドラシルに突き刺した逸話もある」

「そうだ。故にユグドラシルの派生物であるイグドラシルのシステムを掌握するなど容易いことなのだ。しかし、分け御霊しかないオーディンではイグドラシルの維持だけで精いっぱい。その場から動くことはできない。だからこそ、私が色々と【仕込み】に動く羽目になった」

「仕込み…?」

 

フン、私も世界を渡るすべを持っていると知ってるならすぐに思い至ってもいいだろうに。まだ若いな。

 

「私も未来の天使から情報受け取った年である数百年前から活動していた。ミリア同様な。そしてデジタルワールドのみならず、アースガルズ、オリュンポス、日本、ブリテン島などといった、デジモンの元ネタとなった神々の力を借りるためにな。デジモンならば本物の神の力を借りるよりは、遥かに短い時間で扱いやすくなり、電脳世界でも戦えるからな。まあ、電脳世界でも魔法使えるようになる研究はミリアが完成させるしかないだろうが。

 

 

そして、次元空間に消えたアルフォースブイドラモンをトータスに誘導し、世界消滅の際に虚数に消えた残るロイヤルナイツをサルベージした。最も、人間をサルベージすることはできなかったので、こちらでピックアップしたデジモンを、いずれ来るであろうトータスに召喚される人間とトータスの住人と出会うように仕向けるための仕込みだ。

 

…いや、サルベージせずに紛れ込んでしまった人間が何人かいたか…?

 

とにかく、エグザモンは見つからなかったが、これは思わぬ幸運により、捜索不要となった。ロードナイトモンはある人間とデジシンクロを起こし、岸部リエとしてとある人間と生活している。これに関しては自力で誰がテイマーか探すといい。ガンクゥモンは私がデジタマから育てた」

「…ゼロ。貴女、人間嫌いではありませんでした?」

 

ガラテアは人間に迫害され、人間を嫌っているはずの私が人間のために動く理由を聞きたいのだろう。

 

「勘違いはするな。あくまでミリアのためだ。…それに、榊原進示の人生には少しだけ同情する。私も弱者でありながら突然責任を負わされ、迫害されるになったのだから。最も、この世界の榊原進示はまだ【これから】だろうがな」

「…」

「前回の歴史の私は【思い出していないから】ただ憎しみだけで榊原進示に虐待まがいの修行をしていたがな。ミリアが自分の身体をデジモンに組み替えるために必要なピースはドルゴラモンだ。それだけの容量がいる。この世界の榊原進示はまだなれない」

「…暗黒進化…!?まさか、自分を悪者にするつもりですか!?」

 

ガラテアは与えられた知識から私が何をしようとしたか察したようだ。

 

 

ただ、自分を犠牲にするやり方に驚いて、何を思い出していないかを聞くことを失念してしまったようだな、ガラテア。

今の私にとっては都合がいいが。

 

 

 

私はすでに自分の責務を果たした。生き延びることにも興味はない。ただ一点を除いて。…ダメだ、情を思い出すな…!

 

私は表面上は取り繕うが…感づかれはしないだろうか。

 

「ミリアは星に根付いた特別な龍族だ。ジールが消滅すれば彼女も消えるしかない。だが、自分の身体をデジモンにして星に根付いた龍族という枷を払う。そうすればジールが消えても彼女は生き延びるだろう。…榊原進示と魂をつなげる必要はあるがな?どのみち、お前との会話はこれで最期だ。私は榊原進示に殺される。それが最適解だ」

「…あなたは!あなたはっ…!!」

 

ガラテアが我慢できなくなったのか、泣き出してしまった。

 

…彼女もなんだかんだで私を気にかけていたからな。

 

「どうして自分をないがしろにするんですか…!!」

「単純に人類の行く末に興味はない。わが弟子のためだ」

「ミリアも悲しみます…!」

「だろうな。だが、彼女も私が死ぬことは承知のはずだ。直接話してはいないが、これ以上情を持ちたくはない」

「…!!」

 

「それに忘れたか?私はこの星の住人ではない。ハイネッツで誕生した半デジタル生命体だ。この星のために戦う気はない。それに、英雄への報酬支払いを7世紀も踏み倒している世界だ。1~2世紀程度であれば借金を返すのも難しくはないがな」

「デジタル…。昔言われた時は疑問でしたが、今言われてなんとなくわかりました。貴女は高次の生命でありながら現実の生命なのですね」

 

人間からデジモンになった例は何件かあるが、私はその境界線が曖昧な生命だ。

 

理論上は生きていても問題はないが、珍しいものに食いついてしまうのは人間の性。

 

私の身体の秘密を探ろうとした欲望ある人間は枚挙に暇がない。

 

 

「ガラテア。一連の黒幕は【勧善懲悪】、平たく言えば、子供向けヒーロー物語のような展開を嫌うものだ。大切なものと死に別れてこそ人間の価値が出ると考えるタイプの者だ。実に神側の傲慢な考えだが、同時に摂理でもある。だからこそ、どのような手を使っても生き延び、この情報と、世界サルベージのためのピースを持ち帰れ。異世界にわたるアイテムはフェーが持っている。私はまだやることがあるし、お前も榊原進示と暮海杏子を観察し続けろ」

「…」

 

ガラテアはもう私の意志を変えられないと悟ったのか、涙を流したまま頷いた。

 

「もう一つ…本当に生き延びる気はないのですか?」

「くどい」

「フェー姉様は自身の身体を作り替えるほどの技能を持ちません。星に根差したエルフ故にこの世界が消えれば消滅する」

「お前と違ってフェーは生き延びられない。星に根差した存在は生まれた時から超常の力を持つ。ミリアは【死者蘇生】、フェーは異世界、異次元まで見通せる【千里眼】。超常能力を代償に星と運命を共にしなければならない」

「ええ。貴女は違うでしょう?」

 

確かに私はこの世界の人間ではないからな。…まあ、縁はあるが。

 

「貴女はミリアの研究ノートを盗み見ていたのでしょう?ならば…」

 

そう言ってガラテアは私に耳打ちをする。

 

「…確かにその方法ならばミリアと違い、生身で蘇生することは可能だろう。私が半デジタル生命だからできる裏技だ。少なくとも人間にはできまい」

「ええ。だから…」

「くどい」

「…」

 

ガラテアはなおも私に生き延びろと訴えているが…、やめろ…そんな顔をするな…!

 

もう話すことはないと言わんばかりに私はガラテアを突き放す。

 

 

「…達者でな、ガラテア」

 

その言葉を受けたガラテアは…私を信じるように背を向けた。

 

ガラテアは勇者召喚の情報を得るために城に向かった。彼女の隠密スキルなら隠れて行動は容易だろう。

 

 

「…ふぅ」

「大丈夫か?あの娘には気づかれなかったか?」

「記憶と知識と処理能力は優れていても、推理力は少々足りないか。まだ青いな」

 

とはいえ、今回に限ってはプラスに働いた。

 

いや、ガラテアは口にはしなかったが…もしかして気づかれたか?

 

 

因みにガンクゥモンは私の秘密を知っている。

 

デジモンとパートナーは互いに隠し事があっては、真の力を発揮できないからだ。

 

 

 

 

「…ガンクゥモン、現時刻を持って私とのパートナー関係を切る。…世話になったな」

「…何度も話はしていたが、その時が来ると込み上げてくるものがあるな」

「…そうだな。今から私の力でお前を電脳空間に送る。…わが弟子と………いや、進示と杏子を…ミリアを頼む。どう動くかはお前の裁量に任せる。…進示の高校のクラスメイトをどうするかもな」

「…委細承知…というか、清水幸利に何か仕込んだのゼロだよね?」

「当時は赤ん坊だから覚えていまい。それに、アレは清水幸利の才能が高かったため出来た無茶だ。【前回】と違って今回はお前がいたからどうにかなった」

 

 

「そうか。我はまたゼロのパートナーになれる日を待っているぞ」

「…!お前は…!」

「…フッ」

 

そう言ってガンクゥモンは不敵に笑った。

 

 

それに我慢できなくなった私はガンクゥモンを電脳世界に送ると、デジヴァイスを握り潰した。

 

これ以上情を持ちたくはなかった。

 

「…この失う感覚…慣れたくはないものだ」

 

しかし、この感覚こそが私がガンクゥモンといた時間が楽しかったという証だ。

 

そして、両刃の斧のような剣を取り出す。

 

「友愛神殺剣。前回の歴史では持ちえなかった神殺しの剣。これを暮海杏子の魂に仕込むこと。後は、友愛、家族愛、どのような絆であれ信頼関係と暮海杏子の記憶をトリガーに取り出せるようにしておこう。あまり早期から使えるようになってもためにならないしな。デジシンクロはトータスの魂魄魔法、昇華魔法を用いても剝がすことは出来ぬ。…はぁ、私が世界のために動いているようで癪だな…」

 

しかし、彼等をを生かすために他の手段はない。

 

 

突如、巨大な魔力反応を検知して振り向くと、城から召喚術式を感知した。

 

それを見て疑似千里眼で幼い少女に見えるデジモンを引き連れている榊原進示を視て…。

 

「…」

 

 

ガラテアの前では決して流せなかった涙を流した。

 

抜け落ちた髪の色素。白くなった髪。

 

灰色になった瞳。

 

彼らは私が何者かはまだわからないし、知る必要もない。

 

「全く…なぜこのような知識を私に与えたのだ、大天使トレード。…いや、彼女は片っ端から送信しただけで、受信者を特定していなかったのだな。切羽詰まったのはわかるが、…知らなければよかった、こんな知識。歴史を変えるべきか守るべきか…迷うじゃないか…」

 

 

彼女の静かな慟哭は誰にも聞かれなかった。

 

「さて、ここで進示に非情さとトラウマを植え付けなければ詰んでしまう。これはもう博打だな。可能性はものすごく低いが……もう、ここまで来てまだ迷うのか私は…!!」

 

 

『私…生きてていいの?』

『いいんだよ。お前がどういう人生歩むのかわかんないけど、生きてちゃいけないなんてことはない。お前はまだ生まれたばかりだろ』

 

何故…今になってこの言葉を思い出す…。

 

「生きてて…いいのか?生きてて…いいの?■■■■」

 

 

 

 

 

 

進示視点

 

現在俺達はジールという世界のホープ王国の城の客室にいる。

 

 

異世界召喚を食らったのは何とも言えない奇妙な感覚だ。

 

この感覚は転生以来か。

 

国王らしき髭のおっさんの話では、過去にも勇者召喚を試みたらしいが、そのどれもが失敗に終わっている中、ここ数百年は召喚で現れた勇者はいなかったらしい。

 

つまり俺達は数百年ぶりに召喚に応じたものになる。

 

応じたんじゃなくて拉致されたが正解だが。

 

そうして、数百年討伐されていない邪神を討伐してくれと言われているわけだが。

 

っていうか俺達中身はともかく見た目子供なんだから(11歳程度)、俺らに頼むんじゃねぇ!

 

「はあ~、気が重いなぁ」

「どうするの?やっぱり戦うの?」

 

杏子が俺の目を見ながら聞いてくる。

 

その純粋無垢な目は反則だ。可愛すぎる。

 

この可愛さだけ見たら元のアルファモンを知っている身としては記憶喪失のままでいいかとすら思えてしまう。

 

「まだこの世界の情報が足りなすぎる。戦うにしても逃げるにしても、情報収集はしなくちゃいけないが…、もうすぐに戦いに駆り出されそうだ。それに見た感じ国民もピリピリしている感じがする」

「うん、みんな元気ないね」

 

数百年も邪神が討伐されていないとなると、人類側の疲弊は酷いはずだ。

 

「ゲホッゲホッ!」

「進示!?大丈夫?」

 

咳き込む俺に杏子が慌てて俺の背中をさする。

 

「すまん」

「無理しないで…」

「くそ…、体力ねぇなぁ俺。この虚弱な体質だけは治してくれなかったものかねぇ」

「大丈夫だよ。私、何があっても進示の傍にいるからね」

「…」

 

本来はありがとうと言いたいが、本来の暮海杏子の中身を知っているため、その言葉が杏子自身の呪いになってしまう気がして、素直に言えなかった。

 

最も、謎の魂が繋がった現象によってもうお互いから逃げられないのだが。

 

「今の咳き込み、外に聞かれてないといいがな」

「んー。聞き耳立ててみたけど、誰も怪しんでないよ」

「ならいいが」

 

いずれにせよ、戦いに駆り出されるまで猶予はなさそうだ。

それに、人間の疲弊から大した装備もない。

話を聞く限り、異世界召喚に頼りすぎじゃないか?この世界。

 

「ごめんな杏子。戦いのときはお前に甘えきりになる。俺も護身術くらいは身に着けているが、援軍がない以上、戦う逃げるの判断を間違えてはいけない。勿論、本当に必要な時は戦うけど、生存優先だ。

…知らない環境にいるならなおさらな」

「うん!いのちだいじにだね!」

 

杏子も俺の方針に異論は挟まない。

 

しかし、可愛い顔をしながら、何があっても俺を守るという意志の強い瞳をしている。

 

…何故、チキンの俺にアルファモン(彼女)がパートナーになったのか。

 

その答えが出るのはまだ少し先の話。

 

 

 

 

 




ガンクゥモンが榊原進示の性格
『ロイヤルナイツ…幻にして空白の席に立つ騎士のテイマーは少々人が良すぎて貴様の指導には向かん…、いや、時間さえかければ貴様の心も溶かすだろうが今回は時間がない』※本編第4話参照
何故知ってたかというと、未来の樹から知識を受け取ったゼロから情報を不完全とはいえ共有したため。

本編第21話でガンクゥモンのセリフ。

『転生者というよりはタイムリープに近い状態の者がいるのだが、それも転生者という扱いになっているらしい。その者の名は、清水幸利』

これの答えは本文にヒントが。いや、ほぼ答えだが。


師匠ことゼロの正体の核心を早く書きたい。

ヒントはあるので気づく人は気づいてしまうかもしれませんが。

こっから下はさらにヒント。

さらにヒントが欲しい人は下にスクロール。

ヒントがいらない人はここで読了してください。



























































第23話時点でのゼロの正体

杏子。
ミリアからもたらされた情報元に推理し、ゼロの正体に辿り着いてしまった。
ミリアとは直接魂を繋いではいないが、杏子とミリアがそれぞれ進示と魂が繋がっているので、進示を中継器にして情報を引き出した。
結果、頭を抱えた。
進示に言うべきか一瞬迷ったが、もともとデジシンクロ状態かつ魂の繋がりが強くなってしまったために自分の考えを隠すのは無理なので、進示にも知られてしまった。しかし、進示は目の前のウルの対応で精いっぱいなのか、SAN値チェック失敗しながらも正常に活動しているので様子を見ることに。
進示の知る限り、記憶が戻った自分のことを推理が外したことがないという信頼が裏目に出てしまった。



進示
上記の杏子を通じて知ってしまい、SAN値チェック失敗。後悔しまくり。しかし、ゼロの考えもわかるため、自分が泣くわけにはいかないと思い、内心泣きながらも現在目の前の問題に対応中。後でミリアから話を聞く予定。



ミリア

ゼロの正体に辿り着き、実はウルに着いたときに人知れず吐いた。

ガンクゥモンのテイマーが誰かは知らない。

ゼロが夏でも左腕だけ長袖なのを不自然に思い、ゼロの腕について質問をしたことがある。
ゼロは正史では左腕を見せなかったが、タイムリープ後は見せている。


ゼロの延命法。
本文の通り、ゼロは半デジタル生命体。
人間であり、デジモンでもある。

ヒント:デジモンが死ぬとどうなる?





おまけ

第23話、仮眠でお休みのあいさつをする時



※加筆。

…。

『そう言えばお前…ミリア。お前吐いてたろ?』
『な、何のことですか!?』

動揺が激しいなコイツ。

『杏子の推理は当たってたわけだ』
『…!!ううっ!!』

そうだよな。知らず知らずのうちに本来の形ではないとはいえ、自分の夢を果たしてたもんな。

『…今はウルの問題に集中しよう。話し合いと慰め合いはそれからだ』
『…そうですね。すみません』
『謝る必要はない。私もデジモンである以上絶対に叶わないと思ってたからな』




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ジール編第2話 運命の出会いはどう見てもギャグマンガ(+セクハラ)

本編30話前のちょっとした伏線を書きます。

トータス編より前の前日譚、ジール編、ハイネッツ編ははどちらもバッドエンド確定の物語。

今回は後書きが2000文字近くあります。
ゼロってある意味主人公進示より設定を練ったキャラでもあります。


ミリア(?)視点。

 

もうこの世界の滅びは確定した。

いや、進示たちが召喚される前から確定していた滅びが進示を処刑したことで一気に加速されたというべきか。

ホープの国はもう山ほどに膨れ上がった巨大なイーターの波に飲み込まれ、今も大陸を蹂躙せしめんとどんどん膨れ上がっている。

 

もうアレはロイヤルナイツが13騎いたとしても手に負えないだろう。

さらに、人間、亜人などを含め人口も減りすぎた。

 

(でもイーターって本来精神データの捕食体で現地の記録は本体に送信される。つまり、現実世界、電脳世界に現れるイーターは【端末】に過ぎない…。本体はどこにあるんでしょうね…。もしイーターの本体がアカシックレコードと仮定したら、もう宇宙が存在する限り滅びないも同然。…いずれにせよ、もう出来ることはありませんね。こうしてる間にもどんどん質量が大きくなっています)

 

もう対抗できる力は残されていない以上、私の最期の仕事は進示と杏子を地球に送り届け、この世界の滅びを地球や他の世界に伝播させないことだ。

 

元々異邦人に頼り切りだったこの世界はしかし、結果論とは言え邪神を討伐した進示の手柄を横取りした挙句、私と杏子の居場所を吐かせるために進示を拷問、さらに体の神経から筋肉に至るまでの痛みを倍増させる神経毒を飲ませたうえで、体中には戦車で引きずり回した跡が進示の体に痛々しいほど残っている。

あの国の趣味の悪い拷問官が考えそうなことだ。

それをギャラリーに見せつけることで長年邪神を討伐できなかった民の鬱憤晴らしも兼ねていたのだろう。

さらに左腕は酸で溶かされたのか、欠損している。

首はもうくっつけたが、左腕の再生は食事をとらせてある程度栄養が戻ってからだ。

これで杏子が道連れで死ぬことはないだろう。

 

「こんなに体重が落ちて…ほとんど水しか飲めなかったんですね…そこについてはごめんなさい。この世界の野草や動物は地球人には毒になるものばかりですが、私の龍の因子が移植されてる今、食べても平気だと伝え忘れていました」

 

そんな独白をしながら意識のない進示を脇に抱え、時速50キロを超えるスピードで走る。

 

教えることが多すぎて失念していた事でもある。

 

私が食料を十分に用意していたせいもあるだろう。

 

お師匠様も進示に厳しい修行を課しながらも食事はきちんとしたもの、栄養バランスも考えられて、しかも味付けも進示好みの物を用意していただけに。

 

待機させてる杏子の元へ急ぐ。

 

私は約1年前、進示達と初めて出会った時のことを思い出す。

 

 

すると、進示の中にいる本体から抗議の声が聞こえる。

 

《ちょっと!回想するのは本体の私ですよ!分身の貴女が回想してどうするんですか!》

 

おっと、これは失礼。では、私は別れ際に盛大な死亡フラグを立てましょうか。

 

…しかし、二人を地球に送るためのポイントは、エルフの森を通過する必要がある。その先の霊山に龍脈の中心地がある。

 

自前の魔力だけでは足りないので、そこまで行く必要がある。

 

…フェーたちは無事だろうか…。

 

そしてこの後、進示と杏子のメンタルにさらに追い打ちをかける惨劇が待っていた。

 

 

 

 

 

~1年前~

 

 

 

杏子視点。

 

この世界に召喚されて10日が経過した。

 

病弱の進示の体調を…多分見張りだと思う騎士たちの目をごまかしながら、襲い来る魔物たちを剣で薙ぎ払う。

 

「ま、一先ず文句のない戦いだ。まだまだだが」

 

そんなことを言う騎士だが、はっきり言っていい印象はない。

 

この国の王様は

 

『お主たちには長年人間を苦しめている邪神、アルカディアの討伐を命じる』

『命じる…?勝手に拉致召喚しておいていう事がそれか…!』

『断れば斬り捨てるまで。そちらの小娘は…まあ、魔力もないのでは息子どもの慰み者にしかならないだろうが』

『…!』

 

既に抜刀していた騎士もいた。ついてきている騎士もその一人だ。

 

アルカディア…。アルカディモンと名前が似てるけど関係あるのかな?

 

アルファモンに進化すればいや、ドルグレモンでもオーバーキルかな?とにかく進化すればこの場は簡単に蹴散らせるけど、

 

進示は病弱なうえに、ここで暴れてしまったら、この世界で後ろ盾がない私たちが生き延びるのは至難の業だ。

 

逃亡しながら生活は精神の疲弊も半端じゃない。

 

なので、表面上は従い、隙を見て逃げるか、はぐれることを装うのがベターとなり、進示はその結論を出した。っていうか王様のアレは完全に脅しだ。

 

慰み者の意味も分かる。

 

進示は、生まれて1年くらいしかたってない私はまだ知らないと思っているけど、ネットワークに侵入した際にそういったエッチなサイトも見てるから、わかる。

 

日本は純愛からハーレム、同性愛、陵辱といった実に幅広いジャンルがある。

 

意外に思うかもしれないがアメリカはそういう規制が厳しい。特に陵辱物の作品はない。

 

それを考えると慰み者の意味もわかるが、それを聞いた進示はあからさまに怒りの顔をしていた。

 

私のために怒ってくれたのは嬉しかったなぁ。

 

そんなことを考えながら歩いていると、

 

「目の前には茶色のかなりおっきい竜がいた!」

 

そう叫んでしまうほどには大きかった。全長10メートルかな?

 

腕が長く後ろ足が短足のややアンバランスな形をしている。

 

 

「あ、アースドラゴン!?何故こんなところに!?」

 

どうやら騎士たちにとってもイレギュラーな事態だったらしく、酷くうろたえている

 

進示は私に目配せをする。

 

この近くには崖があり、その下は川になってたはずだ。

 

進示と私は騎士たちに合わせ、戦闘を開始する。

 

私たちのもってる剣もそれなりに上物ではあるが、特に魔法のような剣ではないので、アースドラゴンを傷つけるには足りない。

 

「け、剣が折れた!?予算ケチりすぎじゃねぇか!?」

 

一応フリでも戦わないと怪しまれるので、無謀でも斬りかかるしかない。しかし、アースドラゴンの体は予想以上に硬く、進示の支給された剣が折れてしまった。

 

(冗談じゃねぇぞ!…かと言って騎士達の監視の目がある以上逃げられねぇ…ここまでか…?)

 

…え?これって進示の声?

 

「ち、貴様ら!勇者である以上そいつは倒してもらうぞ!王都に近い位置にいる以上コイツを野放しにするのは危険だからな!」

 

と、騎士たちが信じられないことを言ってきた。それだけならまだしも自分たちは街の方角に向けて走り出してしまった。

 

「!?自分は逃げんのかよ!?」

 

騎士の風上にも置けないね!

でもこれで逃げるチャンスは増えた。

 

すると、

 

 

「ぐあっ!?」

「進示!?」

 

アースドラゴンが進示を殴り飛ばした。進示は咄嗟に持ってた盾で防いだが、衝撃の大部分は殺しきれなかったようで大きく吹っ飛ばされ、川に落ちてしまった。

 

「進示!」

 

私は今この世界において進示以上に大事な者はいない。

私は迷うことなく進示を追いかけ川に飛び込んだ。

 

(騎士たちの目があるから私を進化させられなかった!あれくらいならドルガモンでも十分倒せたのに!私が化け物って認識されたら魔女狩りになっちゃう!

だから進示は私を進化させなかった)

 

川に流されている進示に追いつき、進示の体を抱きかかえると流されるだけ流されることにした。

 

私たちを捜索されるとなると、出来るだけホープから離れた方がいい。

 

それに、あの国。どうも権力や武力によるゴリ押しで話を進めてくる。

 

今まで対話で話を勧めたことがないのかな?

 

「進示…」

 

どれくらい流されたのかな。

 

今私たちは下流にいるが、進示の顔色が青い事に気づいて、流されるのをやめ、川から上がった。

 

「水を飲んだの?それに、左腕の骨も折れてる…」

 

骨折はアースドラゴンだろう。あの場で全てをかなぐり捨てて逃げてもすぐに捜索隊が組まれて追いかけられることを考えると、戦う以外の選択肢はなかった。

 

私はひとまず人工呼吸のために進示を仰向けにし、気道を確保。

 

(ドキドキするけど…やらなきゃ…)

 

私は進示の唇に自分の唇を合わせた。

 

 

 

 

 

 

ゼロ視点。

 

榊原進示と暮海杏子の戦いの様子は見えていた。

 

ホープという国から離れるのであれば戦死を装うしかない。

 

そういう意味では進示…父さんの判断は正しいだろう。

 

「隊長、あんなガキがアースドラゴンを倒せるとは思えませんがねぇ?」

「所詮は異界の人間。ここ何十年も勇者召喚がなされなかったようだが、いったん召喚された以上、またいくらでも補充できるだろう」

 

…本当にこの世界は他力本願だ。

 

それに、もうこの世界は200年以上前から異世界召喚が出来ないように星が定めた。

 

それでも償還ができたのは榊原進示と暮海杏子の間に【私という接点】があったからだ。

故に、この世界は進示と杏子…つまり、父さんと母さんが最期の異世界召喚となる。

生物学上の母はもう一人いるが今は割愛。

 

あの二人の娘であるこの私。そして、この時代ではまだ誕生していないこの私。

 

私がこれから進示にする仕打ちを考えると、人のことは言えないが、私は我慢できなかった。

 

「待て」

 

私は騎士どもの前に姿をさらす。

 

いきなり色白の女(ローブは黒と白を基調としているが)が魔物の出現区域に現れたとなれば流石に警戒するだろうな。

 

「先ほどの戦い、見ていた。まだ10歳前後の子供を戦わせ、自分たちは逃げるとか、情けないと思わないか?」

 

嘲笑の意味も込め、煽る。

 

「何だ貴様…ふん!その件ならば異界の蛮族が我ら栄光あるホープのために戦えることこそが何よりの栄誉。矮小な世界と比べる方がおこがましい」

 

隊長格らしき男がそう言う。

 

「…フッ」

 

私は侮蔑の意味も込めて嗤った。

 

この世界の文明レベルはさほど高くなく、生産力も低く、その生産もこれまでは転生者に頼り切りな部分が多かった。

 

既に現役で生きている転生者はこの世界では召喚されている父さんを除いていない。

 

「何だ貴様…女でなければ即刻斬り捨てているぞ!」

「まあまあ、隊長。見てくれはかなり上玉だ。娼館にでも売り飛ばせば結構な額になりますよ」

 

…やはり随分と腐敗が進んでいるようだ。

 

人間同士による他の国とのやり取りも決して【外交】とは呼べない、力による脅しで乗り切ることも多いこの国では対話するほどおつむがないらしい。

 

まあ、そんな状態が何百年も続けば驕るようになるだろう。

 

 

 

 

 

正直まだ迷っているが私は生き延びるつもりでいる。しかし私が生きていられる保証がないため、ガンクゥモンのデジヴァイスは握りつぶしてしまったが、この先訪れる危機のために様々なデジモンを見込みある人間のパートナーに宛がうために様々な世界で準備をし続けてきた。

それに、ガンクゥモンにも色々動いてもらわなくてはいけない。

たとえ私が死んでも、世界の修復にはロイヤルナイツ13騎が必要であるために。

 

そして、私にはガンクゥモン以外に後2体(正確には3体、ジョグレス体を2とカウントするなら3体だ)、パートナーがいる。

デジヴァイスも新しいパートナー用に態々作ったものだ。

 

そのうちの1体をリアライズする。

 

「来い、マスティモン」

 

右側が白、左側が黒の翼、5組10枚の羽根を広げて現れた。

 

着用している服も翼に合わせられているが、結構体のラインが分かるほど密着している。

 

これこそがエンジェウーモンとレディーデビモンのジョグレス進化体、マスティモン。

 

「「な…なんだそれは…!?天使?…堕天使…?」」

 

騎士たちが動揺しているがどうでもいい。

 

「こいつらを適当な世界に飛ばせ、後は生きようが死のうが知ったことではない」

「全く…結局はご両親大好きなんじゃない。…だったらあのドラゴンのようなレベルの魔物がうじゃうじゃいる場所でいいかしら?」

「ああ、それでいい」

「了解。他人を頼るしかない場合もあるけど、そればっかりではダメだって事、骨身に染みさせなさい?」

 

 

そしてマスティモンは【カオスディグレイド】で次元のゲートを開き、騎士たちを異次元に放り込んだ。

 

「「う、うわあああぁぁぁぁっ!?」」

 

そして、放り込まれた騎士たちがどうなろうと私の知るところではない。

 

もし生き延びて新しいコミュニティを築くのであればそれはそれで良しだ。

 

「…さて、ホープの情報操作を行う。どれほど効果があるかは知れんが、時間稼ぎにはなる」

「…効果があればいいけど。あなたの力なら私に頼らずとも自力で世界を渡れるでしょう?なのにわざわざ私を育てて、結構あなたと能力が被ってるわよ?」

 

マスティモンのいう事は最もだ。

 

次元移動なども出来るし、軍師のような役目を持つマスティモンと同系統の指揮能力も私にはある。

 

私はそれなりに戦闘能力も高い。現状は下級の究極体とも戦える。

 

「一連の戦いは少数が優れていればいいというものではない。可能な限り超常ついてこれる人材を育てねばならん。

たとえ武力で劣っても後方からサポートできる人材も必要だ。マスティモン。努々考えることだ。【デジモンとは、何のために存在するか】を」

「随分哲学的な問いね」

「必要なことだ」

 

…空想の世界から物質界への進出。ソレを成した者が既にいる。

…それも当時はただの子供だった一人の少年だ。

 

空想とは一種の高度なデジタル世界とも考察しているが、まだ材料が足りない。

 

 

「可能な限り手を打たねばならん。進示達が【この領域】に滞在できる時間は最長200年。すでに10年経過しているから残り190年。経過したら例えどのような状態であっても進示は人間界から退去し、次の世界に旅立つ。そうなる前に進示無しでも世界を護れる地盤を作る。進示は【大樹の守護者】にして【空白の主】、【龍の器】にして【虚無の父】。失われてはいけない世界が失われた時、それを修復するためのバックアッパー。そのために派遣された転生者、それが父だ。本人はまだそれを知らないし、…知ったら憤慨するかもしれん。物ぐさで臆病な父さんはこんな大役引き受けたくあるまい…しかし」

「強くなるように経験を積ませつつ、絶対に死なせちゃいけないのね。ところで、アースドラゴンは進示の方に行ったけどいいの?」

「問題ない。流された先には【彼女】がいる」

「ふーん?大丈夫ならいいんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

進示視点

 

 

「いだだだだ!!」

「ごめん。でも我慢して、腕を固定しなきゃ」

 

杏子からまさかのマウストゥー・マウスで救われた俺はしかし、左腕が動かないことに慌てた。

 

どうやらアースドラゴンの攻撃を盾で受けたことで腕の骨が折れたようだ。

 

杏子が適当な気で添え木を作る。

 

回復魔法をまだ会得していない上に、薬草の類は殆ど流されてしまった。

 

数少ない薬草を薄く塗って包帯と木で腕を固定する。

 

「この方角が魔物や獣の気配は少ないかな?」

「…人里に行くにはなるべく戦闘を回避したほうがいいか。…薬草…、回復アイテムの類は殆ど流されたし、デジヴァイスは無事だが。

それでもまともな訓練もないまま放り出されたようなもんだな」

「木の棒とちょっとのお金で旅に放り出される勇者みたいだね」

「…あのゲーム初期装備そんなに酷かったっけ?うろ覚えだけど。ここでは一応鉄製の剣に盾だったけど。革の防具は…意外に見た目よりは頑丈だ」

「…あのゲームよりマシだと思うしかないのかなぁ?」

 

それでもまだ体が出来上がっていない見た目11歳の子供を戦いに行かせる時点でどうかと思う。

俺は動く右腕を杏子の背中に回し、杏子は俺の腰に手を回して一緒に歩く。

 

 

 

森を歩いて暫くして、湖がある開けた場所に出た。

 

「あんまり泥臭いことはしたくないけど、鍛えるにしても拠点を確保してからだ」

「その方がいいね。あ、湖がある!」

 

杏子は嬉しそうにはしゃいだ。

本来の暮海杏子はハードボイルドながら女性らしい部分もある。

アルファモンが憑依した杏子は言葉遣いがやや男性的だが、それでも暮海杏子との精神性の大きな矛盾はない。

…ちょっと悪戯好きな部分はあるが。

 

一方、記憶喪失をしたこの杏子(ついでに外見年齢も11歳)は本当に見た目相応の少女だ。…可愛い。

「?」

こっちの視線の意味が分からないのか、それとも別の意味か杏子はきょとんと首を傾げ、

「…えへへ」

と笑った。…可愛い(声を渋くして)

 

 

 

ズザザザザザザザ!!!!!!

 

 

「ん?」

 

湖にふさわしくない奇妙な光景が見える。

 

「わーーーーーっ!!!あなた達のご飯を盗んだことは謝ります!!!だからそんなに怒んないでーーーー!?」

 

そんな声が聞こえてきた。

 

その声を上げた女性らしき人物は、水しぶきを上げながら器用に水の上を走っている。アメンボか!?「龍です!!」…え?人間の女性にしか見えないが。

 

よく見ると、年齢は20前後、赤いロングヘアーに白い肌、黄金の瞳、耳が少しとがってるが長さは人間と変わらない。赤を基調としたスリットのあるローブに右手には赤黒いドラゴンのデザインの杖、

…しかし、女性がしてはいけないような顔をしている。

目がクワッ!!と見開き、鼻の穴を全開に開いて、歯茎をむき出しにし、必死の形相をしながらサメのような魔物から逃げている。…もう一度言うが水の上を走りながらだ。

黙っていれば美人だろう。美女だな。

 

走るのに必死すぎて下着が見えている。…黒か「進示?」…杏子に微妙な顔をされた。当然か。「下着くらい見てもいいですから助けてくだ…ああ!?ケガ人ですかーー!?」

「それにしてもあのサメのご飯を盗んだ?」

「…そりゃ怒られるよね。食べ物の恨みは恐ろしいし」

 

しかし、このままでは俺達もサメに襲われる。

俺はデジヴァイスとカードを取り出し、スラッシュすると杏子をとあるデジモンに進化させる。

 

戦闘は回避できないのと、あの女に貸しを作って…人里まで案内してもらおう。

 

「!?…やっとお会いできましたーーーーー!!!何年もあなた達を待ち続けましたーーーー!!!地球のお方ーーーー!!!!デジモンテイマーさーーーん!!!」

 

!?

 

俺達を召喚した連中は異世界の概念は知ってても【地球】や【デジモンテイマー】という単語すら知らないはずだ!?

それを杏子をドルガモンに進化させたことで一発でデジモンテイマーだと…!?

気になることは多いがまずはサメを撃退だ。

 

「杏子」

「パワーメタル!」

 

ドルガモンが巨大な鉄球を放ち、サメを大きく吹っ飛ばす!

 

「!ありがとうございます!!お腹が空いて十全には力を出せませんが、詠唱の時間は稼げます!」

 

女は岸に上がるとサメに向き直り、足元に魔法陣を展開させ、詠唱する。

 

ファンタジーな光景にちょっと感動してたりする。

 

「綺麗…」

 

杏子もそう思ったのか息を漏らす。

 

「あのサメ…、マンイートシャークは魔力量にもよりますが、初級魔法では倒せないので、…これくらいですか。

メガスパーク!」

 

その詠唱完了と同時にサメが起き上がってこちらに迫ってくるが、上空から緑色の雷がマンイートシャークを直撃。

 

直径100メートルに及ぶ雷の衝撃に思わず目を瞑る。

 

「…うせやん」

「…【うそやん】じゃないの?でも、成熟期デジモンならひとたまりもない威力だね」

 

杏子がそう言う。

多分女の言い方からして、全然全力でないのだろう。

 

「サメがまる焦げになりましたね。地球人がそのままあのサメを食べるには毒なので、私が下処理をしますね。まあ、毒素を抜く感じです。ああ、もう進化を解除していいですよ」

 

女がそう言いながらサメを…念力のような要領でサメを浮かせてこっちに持ってくる。

 

すると女はこちらに向き直り思わず見ほれる笑みを向けて自己紹介をする。

 

「そうそう、自己紹介がまだでしたね。私はミリアと申します。あなた達をずっとお待ちしてました。榊原進示君、暮海杏子さん。…ところで進示君は精通を済ませてますか?えっちなお姉さんは好きですか?」

「……………what?」

「お!予想通りの反応ありがとうございます!」

 

 

 

これが、人生におけるパートナーにして後に杏子と一緒に魂を共有する間柄、龍の女、ミリアとのファーストコンタクト…なんだけど。え?精通?初対面でいきなりセクハラ?そんな素敵な笑顔でいうセリフ?

 

 

 

 

 

 

 

第3視点

 

その様子を隠れて見てたガラテアは。

 

「ミリア…水質調査に来ていたのかしら…。それにしてもそんな自己紹介はないでしょう…心が酒の席で女性にセクハラをする中年男性みたいですよ」

 

と、若干呆れていた。




裏話

お師匠様=ゼロ→きちんとした食事を用意した→この後のことも考えて、進示に恨みと憎しみの心を持たせるために…暗黒進化させるために進示に鬼のように修行させてたとは言え、本心では進示を大切に思っていたという隠れメッセージ。
暗黒進化させないとミリアを生存させられない。ドルゴラモンのデータがないと、ミリアを収める器としては小さすぎるため。ドドモン、ドリモン、ドルモン、ドルガモン、ドルグレモン。そしてこの時点ではまだ会得してないラプタードラモン、グレイドモンだけではミリアを生存させるデータが足りない。
アルファモンは杏子に残さないと、杏子が消滅=魂が繋がっている進示の死である。

拷問→ジール帰還後、この記憶を見た樹が進示と杏子に対し、過保護になった。しかし、樹の献身(意味深)のおかげで逆に何とか精神を持ち直した進示が樹に格闘技(樹が修めているのはパンクラチオン)を教えてほしいとせがむ。
守護天使は契約者の意向には原則従わなければいけないので、教えることになる。進示はトータス召喚までに数百回骨を砕かれる事になる。逆に樹は夜のパンクラチオンではめいいっぱい甘やかす事に。

ゼロのパートナー3体、1番最初のパートナーはガンクゥモン。2体目はマスティモン。3体目は〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇モン。〇〇〇〇モンの亜種ともいえるデジモン。
ゼロがピックアップした自分のパートナー3体の人選(デジモン選)の基準は、単純な武力で決めてはいない。あらゆる状況に対応する配慮。
ロイヤルナイツ13騎が必要な中、ガンクゥモン以外はロイヤルナイツではないデジモンを選んだが、ある人物との密約もあって、自信で13騎揃える必要はないと判断。
マスティモンはほぼサポーター。直接戦ってもかなり強いが。自身の魔力だけでは短い時間で何度も次元移動は出来ないため、いざという時は次元移動をマスティモンに代行させるために選んだ。
父親譲りの性格もあって、自身のデジモンとした以上大切な家族として扱う(ガンクゥモンだけはジール離脱後→トータスで進示達と合流の間に生きていられる保証がなかったため、別れたのは苦渋の決断。ロイヤルナイツは生き残らせないといけないため)。
ガンクゥモンに関してはヒヌカムイを研究するため、人間がデジモンを介して到達する領域の研究のためにチョイスした。

3体目のパートナーはゼロ自身の出自とも相性が良かった。
ゼロは半人間半デジモン。さらに間接的にミリアの龍の血もある。
3体目がミリアの血、竜に縁があり、騎士という概念は母杏子、そして父親は転生者という幻想であり、3体目がデジタルワールドにおいて幻想の戦士と呼ばれる存在であるため、非常に共通点が多い。わかる人はわかってしまうかも?
このデジモンならロイヤルナイツに匹敵し、様々な局面に対応できるため、ゼロ自身の方針とも相性がいい。


ぶっちゃけトータス編ではスサノオモンとかグレ〇ス〇ヴ〇モンとか、アルファモン王竜剣とか、エグザモンとか超ド級のデジモンがたくさん欲しくなる程ヤバい状況になるが、ゼロ自身は戦う時と引く時と援護に徹する時を誤らぬため、父親の進示と、ありふれ勢で見込みのあるクラスメイト達にパートナーと巡り合うよう裏で画策。
ガラテアにもフーディエモンを与えた。フーディエモンはデジタルワールドのバックアップ的存在ではあるが、現状のメンバーではフーディエモンのパートナーにふさわしいのはガラテアしかいないため。

自信の父親を除き、現状ではありふれ勢で最強格になれるのは八重樫雫と遠藤浩介だと思っている。この2人がトップ評価で、時点では優花と永山君(ゼロが3体目を用意したのは優花が未知数すぎたため。奈落に落ちない未来も多いが、落ちる可能性もあったとフェーから聞かされた)。白崎香織は爆発力はすごいが、性質上どう転ぶかは未知数。
ハジメは意外にもそこまで評価はされてはいない…ように見えるが、テイマーとしての才能は悪くないがそれよりも、錬成師としての素質を評価してたため。
ゼロから見てハジメはデジモンだけではなく、愛するものとの絆を深めた方がよりテイマーとしての爆発力が上がると読んだため、ジョグレス前提のパートナーを差し向けた。
ガラテアの姉、フェーの未来視でありふれクラスメイトの意外過ぎる人物がパートナーデジモンを持つ可能性があると知り、目下追加メンバー(テイマー)を増やそうか悩み中。
そう言えばサルベージしたデジモンが他にもいたなと思いなおす。

八重樫雫が到達しうる日本の神の領域到達サポートのため、密約相手からマグナモンを引き抜きたいと考えている。

トータス編で傲慢くんとの戦闘中はマスティモンも3体目もわけあって別行動中。従ってホントに単騎で奮闘中。


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ジール編第3話 転生者に対して殺意の高すぎる世界

本編の前日譚ではありますが、タイムリープなどの要素も含んでいます。
また、回顧録形式を用いています。
番外編1 進示と杏子がいない地球1まで既読推奨。
とある未来の話も既読推奨。


時系列→トータス帰還から暫く。

 

第3視点

 

「とまあ、これがミリアとのファーストコンタクト」

「水の上を走ってたけど、あれは魔法かな?ミリアさん」

「え?普通に走ってただけですよ?なので、修行次第では体術だけで走れますよ!今度レクチャーしましょうか?」

「八重樫さんのところはともかく、僕は無理かなぁ…」

「ハウリアなら出来るのでないか?」

「やめてください杏子さん!これ以上バグウサギにしないでください!!」

「バグウサギ筆頭はお前だからな?」

 

榊原家にトータスに召喚された大半のメンバーが、映画館のようなスクリーンを視聴している。

そのよこで、ジール世界において当事者である、進示、杏子、ミリア、ゼロ、ガラテア、シュクリスがヘッドホンをした状態でいる。

このヘッドホンは、脳の記憶領域を読み取って、映像にできるもので、コードはパソコンと映写機に繋がれている。

多少編集はしているが、当時の状況を可能な限り忖度なく映像化している。

 

トータスであれば、現地に行って再生魔法でより臨場感あふれる映像を出せるのだが、残念ながらジールは既に消滅した世界だ。

 

残念ながら畑山愛子など、都合がつかなかったメンバーは何人かいたが、概ね当時の状況を観たいと思っているメンバーはいる。

勿論、オタクであれば興味を示すエリートオタク夫婦である南雲夫妻も含めてだ。

 

「あなたのセクハラ発言はもうこの時から既にあったのね」

 

優花が関心半分呆れ半分でミリアに言う。

「えへへ…」と、子供っぽく笑うミリアだが、残念な美女である。

 

「それにしてもゼロ…あの時から既に裏で助けてくれていたのか…」

「ええ…」

 

ゼロが少し顔を赤くして、俯いた。

ゼロとしては進示に虐待まがいの修行を課していたので少々気まずいのだろう。

 

「父さん…私を恨んでいないのはわかりますが、その精神性は常人ではありません。はっきり言って異常です。普通の人間は私がしたような仕打ちに対して恨みや憎しみを持つものです。

貴方達をドルゴラモンにするために怒りを抱かせたとは言え、一時の怒りはあれど、憎しみがない。ガラテアもそういった意味では情より責務を取ってしまう人間でしょう…エルフですが。人によっては…」

「誰か親しい人間が殺されても憎しみを持たない、情のない人間だと取られるか?んなこたぁわかってるんだよ。だが、俺はもうこの性質を変えられそうにない…変えられないほどに年を取りすぎた。だが、俺は責務で憎しみを抱かないわけじゃない」

 

進示は一度言葉を切り、

 

「恨みや憎しみは時に世界に変革をもたらし、ヒトの限界を超える人類史において歴史をも動かす力を持つ活力だ。だが、既に起きてしまったことは本来やり直してはいけないし、神側でありながら申請も許可もなく過去の世界に情報送信し(歴史改竄)、抹消された樹にだって思うところはある。だが、お前が俺にした仕打ちは後から必要な事だってわかったし、もう終わった事だ。いつまでも蒸し返して話が拗れて、またさらに災害を起こす気はない。面倒だからだ」

「…まったく、貴方は…」

「まあ、だからこそリカバリーに選んだのだが」

 

黙って会話を見守っていたシュクリスが割って入る。

 

「どういうこと?」

「優花。天之河光輝のように、積極的に物事に介入するタイプの人間では、社会のパワーバランスを必要もないのに大幅に崩したり、人間たちが依存して何もしなくなったりと弊害が多いのだ。まあ、彼のような人間それはそれで役割があるのだが、物ぐさな…しかし、重要なところは動く進示を選んだのは秩序と混沌のバランサーに相応しいからだ。中立・中庸がベストだったが、進示はまさにそれだ。…私の事も恨んでいないわけでないが、進示はそれを持ち出す気はないと言っている。前世のお前たちの命を奪った私達をだ」

「シュクリス、お前やあの女神が俺達の命を奪っていなければ、別の神に殺され、【世界を食料にするため利用されてたた】だろ?」

「そんなことまで知っているのか!?…何故?…そうか未来のトレードが送信した情報…それがあったか。お前は受け取れなかったが、ミリアが受け取っている。そしてトータスでミリアが実体化した際にデジシンクロで記録を同期したのか…未来の奴はそんな情報まで送信したのか」

 

進示の心を読んだのか、納得いったシュクリス。

トータスでエヒトに神に振り回されたミレディは、シュクリスを非難するように見ているが、俺を慮ってか、俺達の会話を見守る。「ミレディちゃんあんまそういうの好きじゃないけど、それで助かったのも事実だし…」呟いている。

あのクソヤローを一度は消してくれた相手でもあるし。

 

ゼロが呆れたように溜息を吐くと、過去の記憶の話の続きを促す。リミッター付きのシュクリスの力は単純武力ではX抗体が完全に馴染んだルーチェモンやグランドラクモン以下だ。ロイヤルナイツ5体相手に単騎で勝ったとはいえ、ロイヤルナイツ13体とそのパートナーであるチート転生者たち26名を単騎で屠っているジールの魔王アルカディアはまだ生存しているし、不気味な沈黙を守っていて、トータスの戦いには一切干渉してこなかった。ハイネッツは消滅したものの周辺惑星はまだ健在な上に、いずれ地球へ報復攻撃…というか侵略にやってくる。自分たちが地球や他の世界から人間を拉致して人体実験をしているというのに、いざ、情報を盗まれたらこっちを攻撃してくるのだ。身勝手なことこの上ない。

樹やシュクリス達8柱の守護天使は契約者に従うが、契約者がいなければ地上で活動できないし、契約者無しで地上活動が出来たとしても絶対中立である。しかも特殊な事情から清水幸利と契約しているアパルはブランクが長くて戦力にはできない。

デジタルワールドの侵略もしようとしているらしいが、盗み出した杏子の遺伝子情報から、少なくともアルファモンのデータは取られてしまっている。

 

「ガラテアもあの場所にいたけど、何で3人に会わなかったの?ゼロが言っていた以上の理由はないの?」

 

雫が疑問をガラテアに投げかける。

 

「それは…後でわかることですが、当時の二人が知るのはマズい情報があったのと、進示が転生者殺しの毒に侵されていたからです。ジールは転生者を拒絶する世界であると同時に、世界中の人が転生者にこれ以上依存しないために、惑星そのものが出していた毒なのです。デジモンである杏子には効果がありませんが、私はジールの住人でありながら、転生者殺しの毒を自力で解毒できない特異体質でもあるのです。より正確には、私はジールの空気や食物を取り込んでも問題ありませんが、転生者の中に入って変質した毒を私が吸収すると、解毒できない毒になってしまいます」

 

「「「「「「なっ!?転生者殺し!?」」」」」」

 

「私の元契約者である、神童竜兵がこの世界に一切近づかなかったのもその毒のせいだ。私であれば体内の毒を破壊出来たが、竜兵は短時間でも毒に侵されるのはマズいからな。ガラテアには…空気感染はないが、飛沫で毒が移ることがある。故に観察のみに止めたのだ。だろう?」

「はい、貴女の言う通りです」

「そして、食事や水を始め、あらゆるものが進示にとっては毒なのです。元々虚弱だった進示が、気丈に振舞っていたとは言え、かなり衰弱していたでしょう?杏子」

「ああ。人工呼吸をした時から溺れただけにしてはあり得ないほど顔が青かったしな」

「ミリアさんには本当に感謝ですね」

 

進示はジール脱出後こそ、ミリアが残した魔法論文をもとに解毒の魔法を覚えたが、今となっては体内にミリアの龍の因子があるので魔法は不要である。

いや、より正確に言うのならば()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。実際、ミリアがケアできなくなった状態で衰弱してしまった例があるのだ。

他の転生者がこの毒に侵されたら使用機会があるかもしれない。

 

「あのままミリアと出会わなかったら…あと2週間で死んでたな」

「結構ヤバい綱渡りだったんだな」

 

進示の言葉にハジメが顔を引きつらせる。

ハジメ自身も秘かに死んだ後の異世界転生には憧れていたが、転生者を殺すえげつない毒があったとは予想外だったからだ。

 

(そう言えばジール…日本語で魂って訳せるよな?確かオランダ語だっけ?)

 

進示はふっと沸いた思考に耽る。

皆が何事かと進示を見るが、デジシンクロで同期しているミリアが進示の思考を代弁する。

 

「はい、魂はオランダ語でジールですね。世界に名前を付けたのはオランダ人かどうかは知る術はありません。あるいは外国語に詳しい日本の転生者が世界に名前を付けた可能性はありますが、いくら星にアクセスしても情報が取れませんでした」

「星にアクセス…ミリアから習ってたやつだな。未来視こそできないが、リアルタイムまでなら惑星の情報を閲覧できるんだったよな?今の俺のレベルでは一度にとれる情報はそんなに多くないし、取りすぎると概念魔法得たときに気絶したハジメ達のようになりかねん」

「そう言えば進示だけは片膝ついて頭抱えただけで、気絶しなかったよな」

「あの情報量をたくさん脳に書き込まれる奴か。気絶できた方が頭痛を感じずに済んだかもな」

「デジモンの私でも少々頭痛を感じたほどだしな…もう一人の私も「あれ、情報量で殴りつけるって表現がぴったりだよ!」と言ってるな」

 

杏子がが頭を抑えながら呟く。しかし、彼女はデジモンであるため神代魔法を習得したという扱いにはなっているが、魔力がないため使えない。但し、

 

「昇華魔法を会得してからデジモンに魔法干渉できるようになったのはでかいな。デジモンの怪我も回復プログラムが不具合起こしたら魔法でどうとでも出来るし」

「ん、私も出来る」

「俺は出来ねーぞ…出来るようにして見せるが」

「私も出来ないわ。昇華魔法の明確な定義は【情報に干渉できる魔法】だけど、デジモンが情報体だからって、人間のそれとは大きく異なっているのだから、デジタルネットワークや物理学、数学の知識が必要になるわね」

 

進示の言葉に賛同するユエと、出来ないというハジメと優花。デジモンへの魔法干渉は進示の見立てでは、ハジメはあと半年もしないうちに出来るようになるとのこと。

優花の数学知識は、高校レベルなら十分な点は取れるが、根本に突っ込んだ知識はないため、まだまだ時間がかかりそうだ。

進示は進示で物理学やネットワークの深い知識はズルに近い方法で会得したが、ハイネッツの住民に紛れ込む生活を余儀なくされたため、ある男に強引に脳に刻まれたのだ。

人間の脳に直接情報を書き込めるほどに文明が発達しているのだが…健康診断で採決された血を悪用されたために悲劇が起きたのだが、それは別の機会に語ろう。

 

進示達の心を読んだシュクリスは空を見上げ、亡き息子を悼むように目を伏せた。

神童竜兵より前に契約していた男の間に出来た息子。

神の世界を離れ、自分の道を歩んだ彼はしかし、進示と杏子と出会ったことに後悔はなかったのだろうか。

進示と契約している今、天界に行く暇はなく、転生したのか天界ににとどまっているのか確かめたいが、私情で動くことは出来ない。

進示は優しいから行ってきていいよと言うだろうが、まだ、己自信に課した責務がある。

故にシュクリスは自信を厳しく律する。

後輩である樹(トレード)が心配そうに見ているが、彼女に手で「大丈夫だ」と制する。

 

「当時はゼロの正体が分からなかったし、ジールの住民は一部除いてめっちゃくちゃ民度が低いし、ミリアと出会ったこと以外はロクな思い出がない気がする」

「姉さんは?…聞くまでもありませんね」

 

進示のつぶやきにガラテアが言うが、気づいて目を伏せた。

 

「おまえ、あらかじめ未来視をしたフェーに自分はどうあがいても死ぬって聞かされてたんだろ?最初はお前にイーターに取りつかれて戻れなくなった自分を殺すように言ったが、お前は逃げた。まあ、唯一の肉親である以上殺せない、殺したくないという感情が出るのは当然だ」

「…はい。姐さんを生かした場合、…少なくとも3万通り以上の並行世界をシミュレートしたらしいのですが、全て宇宙が全滅すると言ってました。姐さんを殺すのに失敗した場合、宇宙を生き残らせられるルートは、私の知る限りはゼロです」

 

フェーはミリア同様生まれつき超常的な力を持つ代わりに、ジールの消滅の際は死んでしまう星に紐づいた存在だ。

ミリアは、自分の魂を進示に繋げ、自分の体をデジモン化することで消滅を免れているが、フェーにそんな離れ業は出来ない。

どのみち、ジールは進示と杏子が召喚される前から消滅が確定していた世界だ。

 

(あれ?じゃあアルカディアは…何故生きていられる?)

(あー…それはアルカディアが転生者を狩るための調整を受けているからですね…多分)

(あー、いるよね。味方キャラの時は弱くて敵キャラの時はチートな奴って)

(アルカディアは一度も仲間になったことはないがな。だが、恐らく…いや、推理にはまだ材料が足りないな)

 

デジシンクロで繋がっている進示、二人の杏子、ミリアが心でそんな会話をする。

 

「進示君…ガラテアさん…」

「愁さん、どうかお気になさらず。折り合いをつけるには十分な時間が経っています。エルフにとって数年は短い時間ですが、いずれ彼らがトータスに召喚されるのはわかってました。イヤリングでエルフ耳をごまかして、リリアーナ王女に拾われてメイドの仕事をしているうちに心の整理と考察をしてましたので。進示も私もこの苦悩を生涯抱え続けるのでしょうが、人生とは苦悩あってのもの。悩まないという事は思考停止でもありますので。勿論時に悩まず前に進むことも必要でしょうけど、【姉さんは何があっても大丈夫】と、思考を止めてしまった私も回りも悪いのでしょう。私達のためにゼロとミリアの母娘も奔走してくれましたが…」

「フェーと世界、両方生かす手段は結局見つからなかった」

「そういうことです」

「ガーちゃん…」

「ガラテアさん…」

 

俯くガラテアの心情を一番理解できるのは、数多くの仲間を失ったミレディだろう。

シュクリスも大切のものを失い続けているが、シュクリスは神だ。それも、トレード達と違い、人類誕生前から存在している神。精神の強度がこの世のものと違いすぎる。

そしてバグウサギと化しているシアだが、彼女の姉は自分とは比較にならないレベルの未来視を持つ人でも変えられない運命がある。自分達であればどんな困難も粉砕して進むと豪語するが、ここまで深く込み入った事情を聴くのは初めてだった。だが、ある疑問がわく。

 

「そう言えば、フェーさんは自分がイーターに取りつかれる未来は見えなかったんですかぁ?」

「当然の疑問ですが、イーターは過去・現在・未来という時間の概念にとらわれることはありません。未来視、過去視は結局のところある種の時間操作です。時間に関係ないイーターの未来を見る事は出来なかったのでしょう」

 

ゼロがシアの疑問に回答する。

 

「フェーがイーターに寄生されたのは彼らが召喚される2年ほど前。ジールに召喚される前も日本でイーター騒ぎがあったのですが、表向きはただの怪異事件として処理されています。この事件を解決したのは、父さん、関原さん、小山田さん、大和田さん、出口さん、岡本さんと、その契約している守護天使達ですが、フェーがイーターに寄生されてる状態でこの世界を観測したために、イーターが出現してしまったのです」

「そうだったのか…杏子が呼び水になったのかと思ったが、逆だったんだな。イーターが出現したからこそ対抗するためのカウンターとして俺達と杏子を巡り合わせたのか。…そうなると岸部…ロードナイトモンも滅びにあらがう側のカウンターなのか。…彼女はロイヤルナイツでも過激派だが、奴がいなければデジモンの世界の修復は出来なかった」

「そのようです」

「…全く、つくづく数奇な運命の巡り会わせに会うらしいな、私は」

 

杏子はかつての面々を思い出しながら感慨に耽る。

 

(だが…もしそうならそもそもジールに何故イーターが現れた?)

(そこだよなぁ…)

 

そう、ジールを脱出してから数年、未だに解けていない謎。

フェーが観測してしまった世界にイーターが出現したのはわかる。

しかし、その大本となった元凶、【ジールにイーターが出現した要因が不明】なのだ。

だが、今これを考察しても仕方ないし、材料が足りない。

あらゆる世界を見渡せる千里眼を持ったフェーを失ったのは家族や友人の感情抜きに痛すぎる。

 

 

「この世界の話は鬱展開が多いですが、3人の日常くらいが癒しのシーンでしょうか。召喚組はまだしも、あなた方では吐き気を催したりするかもしれません。精神保護は常に行いますが、気分が悪くなったら言ってください」

 

ゼロはそういいつつ、モニターに注目するように促した。話が脇道に入りすぎたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミリア視点 7年前ジールにて。

 

 

お魚さん(マンイートシャーク)を焼きながらケガ人の治療をします。

 

「魔王アルカディアはロイヤルナイツ13体をたった一人で圧倒し、全滅させただと!?」

「デジモンでもない存在が…魔王アルカディアってそんなに強いの?」

 

私に怪我の治療をされてる榊原進示君が驚きの表情でそう聞いてきます。

まあ、俄かには信じがたいですよね。

 

「嘘だったら私も苦労してません。働きたくないでござるって言えてましたが、「え、ソレ地球のネタ」あんな理不尽な存在何で生まれたー!!って言いたいですが、ぶっちゃけ、魔王アルカディアってある意味生まれて当然なんですよね」

「どういうことだ?」

「これは私の想像ですが、アルカディアは転生者を始末するために生まれたのかもしれません。そうであればあんな理不尽な強さも頷けます。ホラ、なろう系転生者って大体チートですから、それに対するカウンターが必要になったとか?転生者ってみんながみんな世界を平和にするわけじゃないですし」

「だから何で地球で生まれた言葉を当たり前のように話してるんだ…ゲホッ!ゲホゲホ!」

 

ふふふ、不思議ですよね?まあ、いずれ分かることですが今は閉口します。それに…

杏子さんは…記憶をなくしている情報はありましたが、…これ、記憶を無くしているというよりは別の人格が生まれてませんか?

これはアルファモンではなくむしろ…その影?新しいアバター?

 

「そうだ!進示、召喚初日からずっと咳が止まらないの!お城の人たちには隠してたけど、昨日喀血もしちゃった!」

 

杏子さんが泣きながら私に縋ってきます。

「あー…それ多分転生者殺しの毒がこの世界中に蔓延してるからでしょう。食事どころか空気を吸うこと自体が致死行為です。このままでは君は10日くらいしか生きれません」

「…!」

 

 

自分の余命があと10日しかないことに泣きそうになる二人。

進示君の中身が40代後半くらいなので、騒いだりはしないでしょうが…いや、普通の人なら発狂しかねませんね。冷静に受け止めようとしてるだけでもメンタルが強いですね。

でも、大丈夫。私がいる限り死なせませんから!

 

「私がこの場に居合わせたことは幸運でしたね。私であれば、毒を中和できます」

「本当!?」

「ええ、でも、この世界にいる間は私の傍を離れないでくださいね?定期的なケアがいりますから。それから転生者殺しの毒を中和する魔法も教えます」

 

そういう私に進示君は「ちょっと待て」といい、私に向き直る。

 

「お前当たり前のように転生者って言ってるけど、俺が転生者だってわかるのか?」

「ええ、魂を視れば一発です。私の魔法を伝授しますから、鍛えれば眼力だけで相手が人間か神か転生者かデジモンかなんてわかるようになりますよ!」

 

私の答えに「そうか…」という進示君。

 

「もう一つ。転生者殺しの毒はアルカディアが撒いたものなのか?」

「違いますね。()()()はそんな回りくどい事はしません。結論から言うと、毒を撒いているのはこの世界の意思そのものです。アルカディアもこの世界の意思が誕生させた精霊に近い存在です」

「…何だと」

 

人間が恐れる魔王アルカディアが実は世界の意思が生み出した精霊ならばこの世界の仕組みそのものが争いからは逃げられないという事です。

転生者に依存しきったこの世界では事実上の死刑宣告でしょう。

 

「…なるほど、異世界召喚は何度も行われてきたって話だから…多分この世界の人間にも戦わせようと…転生者の依存から脱却させるための魔王と毒なのか」

「お、聡明ですね」

 

やはり、()()()()どおり、オタクが嗜む情報からの考察は一級品ですね。

 

「それから、魔王を【アイツ】って言ってたけど、知り合いなのか?」

「直接会ったのはこの1000年でも数えるくらいです。何度か戦闘もしましたが…正直宇宙空間でも戦闘出来て、必殺技でも神の術でもないのに、ただの拳のぶつけ合いで周辺惑星を揺らすほどの力を持っています」

 

私の言葉に顔を青ざめる進示君。

アルファモンは勿論グランドラクモンでもそこまでの力を持っているか怪しいですからね。

 

彼のお仲間の究極体でもブルムロードモン、カオスドラモン、クーレスガルルモン、ベルゼブモン、カオスデュークモンとかなりの粒ぞろいですが、正直その程度の戦力ではまず返り討ちでしょう。

何といっても転生者殺しに特化した存在ですから、神の能力も一切効きません。

ぶっちゃけ神様が惑星を両断する神剣振り回すよりは、人間がナイフ1本で暗殺する方がまだ殺せる可能性があります。まあ、そんな容易い相手ではありませんが。

 

「他にも聞きたいことはあるが、解毒の手段があるんだろう?何とかして…いや、対価がないな」

「進示…そう言えばお金も流されちゃったね」

 

ああ、そっちの問題がありましたか。…貴方が考えてるような対価はいりません。

 

この先ずっと一緒にいてくれるだけでいいですよ。人間の恋愛的な意味で愛してくれなくても構いません。

私はまだ死ぬわけにはいかない。

私の命を…貴方と杏子さんの命と繋げます。

その代わり、貴方の望む道を切り開き、貴方の障害を排除します。

まあ、万が一の事も考えて魔法のお勉強や、体術の訓練もしましょうか。

 

 

「対価はいりませんし、中身大人でもあなたはの外見は11歳の子供。理不尽な世界の攻撃にさらされている子供を見捨てるほど鬼じゃありませんよ」

 

そもそも私からすれば人間は皆坊や、お嬢さんですし。

 

 

私は龍の杖、赤龍杖を進示君に向けます。

 

杖から出る光が、進示君を包みます。

 

「…これは…あったけぇ…体が軽くなるようだ」

「油断は禁物ですが、一先ず最悪の事態は免れました」

「進示!」

 

がばっと杏子さんが進示君に抱き着きます。

進示君も無下にはせず、杏子さんの背中に手を回して頭を撫でています。

ただ、まだ顔色が青いですね。

 

「一先ず食事にしましょうか。マンイートシャークは内臓はマズいですが、お肉の部分は美味しくて歯ごたえがありますよ!ラム肉に近い触感でしょうか?」

「ラム肉…ジンギスカン?…魚なのに!?」

 

そう言うと二人のお腹から可愛らしい音が。

 

食事はしてなかったんですか。まあ、状況から考えてそんな暇はなかったでしょう。

 

私は風の魔法で焼き魚になったマンイートシャークを切り刻み、携帯していたお皿に切り分けます。

 

「おっと、本当なら焼く前に塩をかけるべきでしたね」

「調味料の類も地球に比べて種類が少ないから不安だったが、転生者が持ち込んだ文化がある以上、期待しようか」

「期待していいですよ。なんなら醤油…一昨日使い果たしてましたね…」

「お醤油!じゃあ、お味噌も!?」

「ありますよ!」

 

よかった、味噌はまだありました!

マンイートシャークがジンギスカン感覚で食べられると言っても、味に飽きちゃいますから…そうだ!お肉だけじゃ栄養が偏りますし、保存してた野菜も焼きましょう。

 

「おい、その王の〇宝みたいな空間なんだ!?」

「金色の波紋じゃないけどね」

「ああ、コレ?特に呼び名はないのですが、【亜空間倉庫】とでもいいましょうか。〇の財宝と違って中身が勝手に増えたりはしませんが、ほぼ無尽蔵に物を収納できる便利なものですよ。勿論X線にも引っかかりませんし、試したことはないのですが、この中でイヤンウフンなモザイク代わりに…」

「股間を覆うように展開するな…。あと、何で王の財〇って言われて性能即レス出来るんだ?」

 

進示君があきれ顔をしながら肉を咀嚼しています。進示君は人参、ピーマン、玉ねぎなどバランスよく食べてますが、杏子さんはお肉が多いですね?多分生まれたばかりで味覚が幼いんでしょうか。

…あ、進示君割と甘やかしてますね?

 

「進示君、杏子さんを甘やかしてますね?さりげなく押し付けられた人参も普通に食べてますし、杏子さんにお肉取られても見逃してますし」

「ひうっ!?」

「…ああ、杏子には戦ってもらってばかりだから、あんまストレス与えるのもアレかな…って」

「ああ、そういう理由ですか…塩分が少し多くなりますが、このソースを使いましょうか」

 

私は転生者が持ち込んだ(作った)お好み焼きソースを取り出します。

 

「ソースもあんのか?」

「ええ、これで味付ければ食べられるでしょう?」

「ああ、ただ食わせるんじゃなくて、味も考えての案か。子育て経験あるのか?」

「育児と言うよりは一時期、孤児院の子供たちの面倒を見ていた時期がありますのでなんとなくは」

 

それにしても【ひうっ!?】ていう杏子さん可愛いですね。見た目11歳の女の子ですから余計に。…なんかイケナイ扉開きそうです。

 

「そう言えばお前エルフなのか?耳がとんがってるけど」

「ああ、コレ?私は龍何です」

「…ドラゴン!?」

「人の姿になれるんだ!」

 

お二人のリアクションが面白いですねぇ。

 

「はい、龍の姿はもう人間達に忘れ去られた…龍の私を覚えてる世代はもういません」

 

だからミリア何てこの世界でもありふれた偽名を使っています。

 

「そ、そうか…だが、伝説になってるんだよな?」

「まあ、一応は」

 

それでも必要な時が来れば使うのは躊躇いませんが。

 

 

 

「ああ、食った食った。」

「お腹いっぱいだね!」

「腹ごしらえも済みましたね…では」

 

私は進示君と杏子さんを抱えてジャンプします。

いきなり抱えられた二人は何事かと下を見ます。

 

「あ、アースドラゴン!?さっきは10メートルくらいなのに15メートルくらいになってないか!?」

「水質調査に来たのは正解でした。魔物を強くする魔素が湖に広がってますね!?」

 

私は難なく着地すると、進示君のほっぺを掴み、彼の唇に自らの唇を押し当てます。…ちょっと舌も入れちゃいました。

「な…何を!!?」

「あわわわわわ…/////」

 

二人の反応が面白いですが、私はアースドラゴンに氷の塊をぶつけながら

 

「今のあなた達はドルモン→ドルガモン→ドルグレモン→アルファモンという進化の流れを辿っていましたが、龍の私の因子を少しだけ入れました。本格的に移植するにはちゃんとした設備を使いたいし、今の粘膜接触だけではデジモンをアジャストすることしかできませんし、因子事態すぐ消えます。まあ、龍の血の移植は強制しませんし、想像以上の苦痛を伴いますので」

「どういうことだ?」

「つまり、今のでラプタードラモン→グレイドモン→ドルゴラモンと言う進化ルートを辿れるようになりましたし、アルファモンルートへの進化も従来通り可能です」

 

まあ、獣竜型のデジモンは私の生存のための出汁にさせて頂きますが。

 

「今の状態で可能だったとしてもドルゴラモンへの進化はやめてくださいね?出来ないとは思いますが。それからデクスドルガモンとかへのアンデッド型も論外です。貴方の精神が持ちませんから」

「お、おう…」

 

そう言うと進示君はカードをスラッシュさせます。

 

「おお!ほんとにラプタードラモンになった!」

 

成熟期ではありますがクロンデジゾイドで固められたサイボーグのような竜。

 

ラプタードラモンになった杏子さんは奴の足元目掛け、突撃します。

 

「クラッシュチャージ!」

 

足にダメージを負ったアースドラゴンは悶絶し、

 

「アイス!」

 

進示君が放った初級の氷魔法で、アースドラゴンの目を潰します。

 

「ギャアアアアアアアッ!!」

「え!?」

 

目を潰したのはいいですが、暴れてしまいましたね。アンバランスな下半身に異様に長い腕で進示君を狙いますが、私は進示君を抱えて回避します。

 

「す、すまん…」

「いいですよ。でも、後で体術も教えましょう。目を潰す発想も悪くないです。杏子さんをグレイドモンにしてください」

「あ、ああ…出来るかな?」

 

ブルーカードを取り出し、スラッシュすると、今度は青いマントを纏った竜人型の剣士になります。

 

「杏子!違和感ないか!?」

「大丈夫!いけるよ!」

 

グレイドモンになった杏子さんは、アースドラゴンの拳の振り回しで、気配を頼りに杏子さんを狙いますが、大振りなせいかちっとも当たりません。

杏子さんは余裕で避けていきます。

 

「食事をしたので私の魔力も万全ですね!」

 

杏子さんが両手の剣を構え

 

「グレイドスラッシュ!」

 

上段よりアースドラゴンをたたき切ります。

 

再生されては面倒なので私も魔法の詠唱を終え、

 

「コキュートス!」

 

バラバラになったアースドラゴンを凍らせます。

 

「杏子さん!バラバラに切り刻んで!」

「うん!」

 

杏子さんが神速の剣捌きで凍ったアースドラゴンを切り刻みます!

 

「アースドラゴンをかき氷にしたよ!」

「…マズそうだな…ファイア!」

 

進示君がアイスより強い火の魔法でかき氷を溶かします。

 

ここまでやってしまえば流石のアースドラゴンも再生できませんね。

 

「回復魔法はまだ会得してないから、怪我できねーしな」

 

そうなんですか。でも教えるので問題ありません。

 

「進示~終わったよ~」

 

無邪気に手を振りながら人間体に戻り、駆け寄ります。

 

駆け寄ってきた杏子さんを進示君は無下にせず、抱きしめて頭を撫でます。

杏子さんは尻尾があれば振ってそうですね。幻視出来ます。

 

「進示君、杏子さん、これから長い付き合いになると思いますが、よろしくお願いしますね」

「進示でいい。敬語もいらん」

「私も杏子でいいよ!」

「敬語は元からですよ。…ですが分かりました。進示!杏子!私とともに地球へ帰る術を探しましょうか!この世界にいてもいいことはないですし。…願わくは末永く一緒にいられることを願います」

「え?」

「そ、それって…」

 

進示と杏子が顔を赤くします。逆プロポーズですよねコレって・

 

「杏子、私と…それから一緒に暮らしてた女性と一緒に進示のお嫁さんになりましょう!…あ、私はペットでもいいですよ!何なら首輪付けます?」

「地球は一夫多妻はだめだし…抜け道がないとは言わんが、それから記憶或る杏子はまだしもこの杏子に変なこと吹き込むな!」

 

う、うわああああああああ!進示からのココナッツクラッシュ!私の頭を押さえつけて自分の膝におでこをぶつけられました!?

…まあ、痛くないのですが。

ですが、進示のストレス発散にはいいかもしれません!…別に下半身的な意味で襲ってくれてもいいんですよ?(チラッチラッ)

 

「何だその目は」

「な、なんか変態さんの目だよ!?」

「そうです!私が変な変態さんです!!」

 

変なドラゴンったら変なドラゴン♪

あ、出来ればピンクの服と腹巻が欲しいですね。

 

「いや、何で地球のコメディアンのネタと振り付け知ってんだよ!?」

「禁則事項です☆」

「ドラゴンて正義の神か悪役か両極端なんだけど、コイツは測れねぇ…」

「私は多分、混沌・中庸ですお!」

「語尾が【お】になる台詞まで完備かよ…無政府主義者で個人主義。むやみに人を傷つけないが、陽気で自由。…格闘漫画の主人公とかに当てはまりやすい属性だな…赤い髪に黄金の瞳。黙ってりゃ美人なのに」

「イヤン!もう、美人だなんて!」

「ミリア、それって多分残念な美人の事だと思うよ?」

「おうふ!?(セルフ吐血)」

 

 

こうして、ギャグテイストから始まった私たちの旅ですが「俺死にかけたんだけど!?」、過酷な旅と長い戦いの火蓋が切って落とされたのです。あ、でもこの表現だと華々しく聞こえますから普通に始まったでいいですね。

 

ただ、進示君が深刻な目で遠くを見ていますね。

 

「正直戦いたくはないが…こういう世界に来ちまった以上遭遇戦もあり得るだろう。…前人未到の領域に到達する必要があるかもしれない」

 

…それは人間もデジモンも超えた存在になるってことですよね?

 

この星の滅びは確定しています。それはどうあがいても覆せない…恐らくは神ですら消滅させる以外の選択肢を持ちえないほど終わった世界。

その前にこの世界を脱出し、その過程で貴方を鍛え上げ、私の生存の器になってもらう必要があります。

本音を言えば中身40台と言えど私にとっては雛鳥に過ぎない人間の貴方を戦わせたくはありません。

 

でもそうせざるを得ないのです。

 

地球からはるかに離れたこの世界で貴方の無聊を慰めるためにいくらでも道化になります。杏子がいるとは言え、彼女は記憶を無くした幼子の状態…いや、新しく生まれたというべきでしょうか。

だって、コメディアンのネタを言ったりしたら貴方の魂、喜んでいました。地球から離れてさぞ不安だったでしょう?わかります。そして死にかけましたもんね?血を吐くほど苦しかったですよね?取り繕ってはいますが、貴方の魂はまだ恐怖に震えています。

まだ日本の倫理、道徳観から離れにくいでしょうが、私の事情に貴方を巻き込む以上、いくらでも癒しになりましょう。

 

ああ…でも、永い永い道程になりそうだ。私でも心が折れそうになる。

だから、貴方を護らせて下さい。

 

 

私達の人生は、重い責務になりそうだ。

 

 

だからこそ、仲のいい人と一緒にバカをやれる時間が必要です。

 

 

 

 

 




魔王アルカディア。混沌・善
転生者殺しの達人でもある。
過去、ロイヤルナイツ13体を単騎でまとめて屠った理不尽の権化。リミッター付きのシュクリスより強い。
が、そもそも相性の問題で神、もしくは天使に連なる樹やシュクリス達では、リミッターフル解除しても一切傷つけることが出来ない(シュクリスはその気になれば宇宙をなくすことが出来る)。
ナイフ持った一般人の方が勝ち目がある。暗殺という手段で。
また、一応デジモンも人間界の力であるため、デジモンの攻撃も通用する。
仮に神がアルカディアに攻撃するとしたら、人間界の武器で神の力を乗せずに戦うしかない。
また、皮肉ではあるが、トータスのエヒトルジュエも一応アルカディアを倒せる可能性がある。
神代魔法や、概念魔法は人間界の力の域を出ないためである。

アルカディアは神属性ではないため、友愛神殺剣の特攻対象外。

そもそもチート転生者を狩るために生まれた存在なので弱いはずがない。



因みにゲーム風にしてみると、アルカディアの攻撃は転生者は被ダメージが上がるパッシブスキルがある。


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ジール編第4話 転生者とは負け犬の称号

トータス時点でゼロのまだ生存している3体目のデジモンを明かすかどうか悩むが、まだ伏せる方向で。
戦死しているデジモンは明かします。

進示君、初っ端からでかいハンデを背負うことに。

アルファモンで数秒戦闘するだけで…

オリ主の子供が真のチート主人公というのは、主人公の子供が勇者のある作品を参考にしています。


終盤のおまけはトータス帰還後の未来の話です。
進示達がハジメたちに映像付き過去を見せてるので

そして初めて2万字を越えた…。


ミリア視点。

 

私達は今、ドップラー効果を上げながら走っています。

 

 

「タイガーウェスパモンか、何か随分狂暴じゃないか!?」

「出会い頭に剣をぶんぶん振り回してるーーー!?」

「私が足止めするので、進化を!!」

 

そう言って私は彼らが進化する時間を稼ぎます!

 

「リフレクション!!」

 

ただ、このデジモンは物理攻撃なので、対物理バリアを張ります。

 

ガギンガキン!!!

 

 

蜂の戦士、タイガーウェスパモンが剣を振るうたびに私のバリアにヒビが入ります。

流石に究極体…()()()では長くは耐えられません。

 

「この世界じゃ長くは戦えない…速攻かますぞ!」

「うん!ミリアのケアがあっても進示は毒に犯されてるもんね!」

 

「「マトリックスエボリューション!」」

 

そして現れた黒い聖騎士、アルファモン。

 

それにしても、その進化方法を選んだんですか。

 

過酷な環境でも人間が適応できるようにソレをチョイスしたのでしょうか。

 

「聖剣グレイダルファー!!」

 

そうして速攻でたたき斬って敵がデータに分解されたのを見届けて分離する二人。すると

 

「ゲホッ!ゲホッ!!」

「進示!!」

 

膝をついて血を吐いて咳き込みだしました。

私はすぐに進示の毒を中和しますが、やはりこの世界を脱出しない限りずっとこの状態ですね。

 

大きな力を使えばそれだけ毒が回りやすくなるのですか。

…予想より不味いかもしれません。

それに、今の進示君の肉体年齢は11歳程度。

負担はかなり大きいはずです。

 

 

 

榊原進示くんと暮海杏子さんの二人と旅を初めて10日が経過しました。

彼等が召喚されて20日ですね。

 

その過程でこの世界特有の魔物や野生のデジモンが何体か襲ってきましたが、問題なく対応できました。

 

ただ、究極体であるタイガーヴェスパモンの時は流石に融合してアルファモンになりましたが、その時に確信しました。

 

マトリックスエボリューションだけではありえない命と魂の繋がりを。

 

その現象を伝えると、「やっぱり、なんか繋がっている感じがしたんだよね」って杏子さんが言ってました。

彼女は感覚的にわかっていたようですね。

 

そして彼はこの現象をデジモンとシンクロするという意味で【デジシンクロ】と名付けました。

 

旅をしていて不味いのは、進示が数日おきに咳き込んでいます。

私が転生者殺しの毒を中和していきますが、…症状が現れるスパンが短いですね。

そして彼が咳き込む度に泣きそうな顔になっている杏子さんは、本当に彼を失いたくないと心から思っているようです。

 

元々病弱らしいですが、世界中に蔓延している転生者殺しの毒が濃くなっています。

…これは彼から離れるわけにはいきませんね。

私がケア出来なくなった時点で、進示君は死ぬでしょう。

自力で浄化できる術を教えていますが、すぐに会得するのは難しいですね。

私の心臓を移植すれば話は別ですが、それに耐えられる程肉体強度は強くないようです。

 

この世界から脱出しない限り、この症状は治まらないでしょう。

ですが、この世界から地球に送り返そうとしても、今手持ちの魔道具と、エネルギーでは、地球の正確な座標を絞れないのと単純にエネルギー不足で宇宙空間や虚数空間、次元の狭間に放り込まれて行方不明

なんてこともあるかもしれない。

 

チャンスは1度しかないので、失敗は許されません。

 

本当は今すぐにでも元の世界に返してあげたいのですが、今言ったように世界を移動するにはそれなりの労力が必要です。

それに、この世界は滅びかけているため(表面上は滅ぶように見えないが)、出入りのセキュリティが厳しくて、私の力単体で出来ることではありません。

星のエネルギーもある程度頂くことになりますから。

 

魔力の通り道である龍脈は整備してるので、あとは機会を待つだけですね。

水質調査に来たのも、龍脈点検の意味合いもありますし。

 

ただ、念には念を入れて、二つの魔道具を返してもらいましょうか。

 

まあ、最終手段として私の空間航法と、トータスの【概念魔法】で何とかしますが、それは出来れば避けたいですね。デジモン化してしまえば魔法が使えなくなるので、私の力を進示に継がせるのは必須ですが。

この世界で出来るうちにパワーアップしておかないと、この先で詰むので。

 

そもそも、彼らは私の計画のために必要な人材であり、【デジモンと魂が繋がっている特殊な条件を満たしている】、そんな存在は恐らく現れない。

彼らのような魂があれば自分の体をデジモンに作り替えて、ジールの生命定義から逃れることも不可能ではないでしょう。

…そうなるとフェーが生き延びる事は出来ませんが、背に腹は代えられません。

 

そう言えばフェーとガラテアの母である彼女、すでに死亡報告がなされた【フーディエ】は遺体が見つかっていないんですよね。…でもこの世界のどこにもないし…

 

今は気にしても仕方ないですね。

 

計画とは【この世界が滅んでも私が生き延びる事】である。

 

私を含め、このジールという惑星には生まれつき超常的な力が使えるものはこの世界に紐づいた魂なのです。

 

私が使える力は【死者蘇生】。

それも、ただの死者蘇生ではなく、一人一度きりですが、魂が完全に消えた状態からでも蘇生を可能とする規格外の力であり、神の世界にもそう何人も使い手がいません。私が一度訪れたことがあるトータスに存在するものよりもはるかに上位互換であるものと断言できるし、()()()()だ。まあ、転生者を転生させたり、管理したりするのは創造神か維持神ですが。

 

エヒトの目を逃れることが出来ていた理由は…心当たりはありますが断定は出来ません。まあ、今の私であれば戦いになればまず負けませんが、将来戦いに身を投じる人間達のために残しておきたいですね。

私が倒せばゲームでいうところの経験値泥棒になってしまいます。

 

そして、エルフのフェーが使える力は【千里眼】。

 

これはあらゆる過去、現在、未来、宇宙の果てや観測世界すら覗き見ることが出来る規格外の眼です。

 

まあ、フェーの話はおいおい。

 

私の前を無邪気に歩く杏子と「あぶないぞー」と言いながら杏子を見守る進示を見て思います。

杏子さんの方は記憶喪失で精神年齢が幼いですが大した問題はありません。

進示も転生者であり、見た目11歳、中身40代のコ〇ン君状態ですが、40代のおっさんでも私から見ればまだまだ子供。

まあ、そんなことを言ったら人間は皆子供ですが。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()によると、目の前の二人の人柄は情報とそう大差はなし。

私の頭に流れてきたこれから起きる未来の情報がが同時に存在するせいで、情報源が未来からと勘違いしそうになりましたが、これは恐らく過去からの情報です。

 

この情報を送信してきたのは進示と契約を結んでいる守護天使、双葉樹さんこと大天使トレード様で間違いないでしょう。

 

 

 

 

この宇宙はおそらく一度消滅している。そして、造り直されている。

 

 

 

私ですらにわかに信じがたい情報ですが、現在世界を取り巻く状況と送られてきた情報を元に考察するとこれ以外の結論が出ないのです。

 

世界の状況と情報の送信元については一旦置いておき、私の目的は一つではありません。

 

【これから訪れる災害に備え、知的生命体の、肉体、頭脳を含めてあらゆる進化を促すこと】

 

それを進示君を足掛かりとして成し遂げます。

 

やり方自体は非人道的と誹られても仕方ないことです。

 

星の龍である私の心臓を進示に移植すると決めてもいます。タイミングには注意しなければいけませんが。

 

 

 

 

 

ちなみに野宿するときは大きめのタオルケットを使って3人一緒に包まって寝ています。

進示が女性陣である私達からのセクハラを訴えられたりすることを危惧して別々に寝ようといったのですが、そんな病弱な状態で離れて寝るわけにはいきませんと言ったら、降参しました。

 

実際、私のケアは必須だと分かっているのか、反論できなかったようです。

 

まあ、私は気にしないですし、ちょっとつまみ食い…ゲフンゲフン、童貞を頂きたい「直せてない、むしろ悪化してるぞ」え!?何でわかったんですか!?

「声に出してたよ」

 

杏子が何か冷めた目で私をを見ますが、その視線もいいですね…。

 

 

 

「進示、唐突ですがデジタルモンスターの看板デジモンは何故アグモンなのでしょうか」

 

私が地球に詳しい事情は進示は聞きたそうにしていますが、私は「まだ語るべき時ではありません」というと、何かを察したのか、追及してきません。

 

私個人の解釈ですが、惑星においてホモサピエンスが誕生する前に星を跋扈していたのは恐竜です。

 

デジモンが人の願いを元にして誕生した電子生命体だとしても、もっと他に種族的に選ばれてもいいものがあったはずです。

 

にもかかわらず、ヒト型でもなく、神型でもなく、恐竜に近いデザインのアグモンです。

 

これは恐らく、【シンプルに強い種族が恐竜】だからでは?と考えました。

 

子供の願いは純粋です。子どもの強くてカッコイイ存在を想像すると結構恐竜が多いのですよ。

ロボットとかでもよさそうなのに。

 

そして、恐竜型のアグモンが進化するとサイボーグ化したり、ヒト型に近くなったり、オメガモンになると、完全に人型ですよね?

 

コレって惑星において覇権を握った生物の進化に酷似してませんか?

 

ギルモンも進化すると槍と盾を持ったデュークモンになります。

 

道具を使うという事は、知的生命体はそれだけでインテリジェンス・デザイン型の進化をしますが肉体は退化しますよね?

 

乗り物や医療技術が発展すれば肉体を進化させる要因がなくなりますからね。

 

それに、植物や昆虫、水棲型デジモンもそういう環境に置かれれば自然とそうなるでしょう。

 

私が考えているプランは宇宙進出も視野に入れた肉体と知性の両方をいいとこどりする進化方法であり、生身の肉体でも宇宙線(この場合は乗り物の宇宙船ではなく、ガンマ線の方)に適応できる状態にするためです。

 

「ただ、チンパンジーの反射神経は人間の約2倍はあるそうです」

「体が優れているから人間は体力や俊敏ではチンパンジーには勝てん…いや、違うな。…人間の反射神経が鈍い理由は…脳か?」

「そう、人間は文明、心理状態、予測などといった様々な要素から脳のネットワークが複雑になってしまい、身体に伝わるまでに時間がかかるんですよ」

「ああ…そう言われれば納得だな。そうなると人間より遥かに処理能力が高いデジモンは体、頭、両方に優れた理想生命体というわけか。だが、デジモンはネットワーク文化のない社会ではリアライズ出来ない…待てよ!?デジモンがこの世界で生存できている理由って」

 

いいところに気づきましたね、進示君。

 

「ご明察の通り、この世界には機械、通信ネットワーク文明があったんですよ」

「過去形か?」

 

そう、この世界にはかつて高度な文明はあったのですが、色々あって、文明が中世まで後退してしまったのです。

 

そして、異世界召還を濫用しすぎたこの世界の末路は消滅しかありません。猶予は1年あるかないかでしょう。

 

「じゃあ、私が消えないのって」

「実はそれは別の理由で消える心配がないんですよ。…もう一度確認しますが、杏子と進示が心が繋がってる様な感覚あるといいましたね?」

 

 

私に問われて二人は「そう言えば…」と唸ります。

 

「東京にイーターが現れた事件。俺たち6人の転生者は、割と早く究極体になれたんだ。だが、俺とドルモンがマトリックスエボリューションをした時に、今までにない激痛と一体感を感じて…気が付いたらドルモンが小学生くらいの暮海杏子の姿になってたんだ…。多分サイバースルゥースの世界に何か異常が発生したか、相羽タ●ミ…グッ!?」

 

進示君が杏子の助手の名前を言おうとした途端、頭痛を感じたようですね。

 

「進示!?頭痛いの?」

「ああ、お前の記憶が戻るようにお前の経歴を覚えている限り話そうとしたんだが…」

「わたしがゲームのキャラクターなんだよね?でも、頭痛くなるなら無理して思い出さなくていいよ!」

「…進示、もしかして記憶にノイズが入ってませんか?」

 

私に言われてハタと考える進示。

 

「そう言えば…テレビのノイズみたいに何か不快な感じがする…。俺の知識に間違いがあるのか?」

「もしくは、世界そのものに異常があるかですね。…もしかしたら、貴方は思い違いをしている可能性もあります」

「…仕方ない、ゆっくり考察するしかないか」

「そうしてください。そして、杏子が消えない理由は人間のあなたと魂が繋がっているので、デジモンでありながら人間として扱われています」

「そういうことか…じゃあ、俺が生きている限りは恐竜時代のような文明でも、杏子は消えないんだな?」

「その通り」

 

進示が複雑な顔をしていますが、これ以上できる話ではないですしね。

 

「この世界は文明が退化した代わりに人間の身体能力が上がったのか?」

「そうですね。普通の人でもアスリートレベルは体力があります」

「マジか…」

 

スポーツなどはまた別の技術が必要なので、プロ選手になるのは難しいですけど。

 

 

「本筋に戻そう。なぜアグモンが看板デジモンかだな。…お前が言うように純粋に強いのだろうが、人類の歴史以前に存在した進化の原点に近いものだからじゃないか?」

「恐竜からヒト型になったり、技術の進化でメカメカしくなったりですね!まあ、この世界は歴史が後退して回帰したのですが、回帰して私のようなドラゴンが生まれたんでしょう」

「回帰…ねえ?【サイクル】ってんなら確かに【回】っているよなぁ…」

「ああ、サイクルという見方もできますね」

 

生命や星の命が連鎖していくように、デジモンが寿命を迎えてタマゴになってまた新しく生まれるように。

 

文明もサイクルしても何ら不思議ではありませんね。

 

…進示、社会で人と話すのが苦手なだけで、結構頭回りますね?

 

「本来の杏子ほどじゃあないさ。俺は探偵じゃないしな」

「うーん、進示は学者さんとか向いてそう。本来の私とは違う頭の良さだよ!」

「…だといいがな」

 

はあ、と進示君はため息をつきます。うーん、自己評価が低すぎるのも考え物ですね。

 

 

 

「ですが、本来情報体であるデジタルモンスターと融合するのって危険なんですよ。人体を情報レベルまで分解して融合し、再構築するんですから」

「…あー…人道・倫理・法の観点から言えばそれだけでギルティだな」

 

頭を抱える慎二ですが無理もありませんね。あ、すみません、進示でした。純粋に誤字ですが、慎二と聞いたら誰を思い浮かべますか?

 

それはそれとして、SF映画にあるようなテレポーションには諸説ありますが、人体を情報レベルまで分解して転送先で再構築するというものがありますが、【人体を分解する】のですからこれは倫理的に受け入れがたいですよね。

 

マトリックスエボリューションも、デジモンと融合するために人体を分解するのですから、さっきのタイガーウェスパモン戦前の進示と戦後の進示が同じである保証はないのです。

 

…そうなると半電脳体の体でコネクトジャンプを乱用したあの人も存在が消えかけていましたし、かなりまずい状態でしたよね。そのバラバラになった人体データも杏子が集めたんですよね。

 

その横で杏子が涙目になって「わたし、悪い子なの?」って進示を見ますが、進示は杏子を抱きしめて落ち着かせます。

本来の探偵、暮海杏子であればそんな涙目にはなりませんが、この杏子はまだ情緒が育ってません。

なので精神的には本当に小学生くらいですね。

 

一部の紳士や大きいお友達は「〇学生は最高だぜ!」というのでしょう。あ、そこ。反応したロリコン紳士の方、怒らないので手を挙げてください。実写は難しいですが、アニメなら幼女のイラストとかプレゼントしますから!!

あ、でも進示はロリコン趣味ではありませんでしたね。一緒にいるのは10日ですが、情報がなくても性癖は大体わかりました。

進示!あなたはバブみを感じさせてくれる精神年齢の高い女性が好みなのはもうわかってますよ(エロセンサー内蔵)!

 

 

ジールでは女性の扱いは正直よくありませんが、気に入られれば、武力・経済ともに庇護下に入れますので、一長一短ですね。

 

…そしてハグをサラッとやってますけど、ハグってお互いある程度気を許してないと出来ないですよね?女性は貞操の危険、男性側は訴えられたらまず勝てないですし。

進示は「大丈夫だよ」って言って頭をポンポン撫でます。

 

ですが、デジモンと融合できないとまずい事態が秘かに進行中ですので、するなとも言えません。

 

進示には【魂】に関するありとあらゆる術を学んでいただきましょうか。

 

極めれば人間・神などといった区別がついたり、感情がわかるようになったり、非生物の魂に干渉できるようになったり、惑星の魂にすらアクセス出来るようになったり、デジヴァイスを介することなくデジモンとの融合ができるようになったり、アンデットを浄化したり、場合によっては生き返らせたり、死者の魂が成仏しても一定期間以内ならサルベージできるようになったりと、魂の強化で肉体・精神の強化ができるようになったりと、色々便利ですし、これから必須技能になります。

 

 

…そう言えば、お師匠様は何で能力上必要ないのにデジヴァイスを持ってるのでしょうか?

 

 

「そう言えば進示、今のうちにコレを渡しておきます」

「コレは…S&W・М629!?」

「コルトパイソン357のほうが良かったですか?ガンマニアの転生者が持っていたものらしいですが」

「パイソンは杏子のほうに…じゃなく!エアガンはともかく実弾撃ったことないぞ!?」

 

転生者が沢山いたのは聞いているので、銃があることに驚いてはいないようですが、万が一に備えてです。

 

「もし、魔法を封じられたり、デジモンを進化させられなかったり、貴方は使えないようですが、デジソウルを封じられたらどう戦う気ですか?それに、アルファモンで数秒戦闘しただけで喀血しましたね?」

「ぐぅ…わかったよ。杏子のほうが膂力はあるから、反動にはすぐ慣れるだろうが、俺は練習がいるな…マグナムじゃなくてハンドガンはない?」

「だったらいろいろありますよ!」

 

そうして色々見せます。

 

「PC356でいい?」

「また随分マニアックなものを…。9ミリを撃てるバレルにしています。よろしければ進示が使いやすいほうにカスタムしますか?」

「今は頼もう。銃も勉強したほうがいいな…」

 

まあ、そのほうがいいですね。ため息をついてます。幸せが逃げると言いますが、実はため息ってはくと少しストレスが減るんですよ。

 

「じゃあ、後これも、魔力が通ってないミリタリーナイフです。魔力が封じられた場合、こちらを使ったほうがいいでしょう。出会った頃に渡した武装は全部マジックアイテムですから」

「転生者の遺品ばっかだな。だが、その亜空間倉庫、便利だな」

「でしょ?でもコレ、魔力使えないと開閉できないので、カバンを持ってるのは」

「そういう事か。そんな便利な倉庫があるのならカバンは必要なさそうだが、魔力封じに備えてか」

 

本当に理解が早くて助かります。

 

この後射撃練習をしたのですが、進示、射撃の才能はピカ一でビックリしました!

 

試しに、ウェスタンなショットガンも用意しましたが、片手スピンコックもすぐにマスター…なんで?

 

ただ、進示は体術の才能は並ですが。…中国武術とか進示には無理ですね。格闘技は10年単位で努力しても1流止まりでしょう。天才、超一流には多分なれない。何をベースにしましょう?空手?ボクシング?

 

杏子は進示の逆で、体術の才能はあるんですが、射撃の才能は並でした。練習がいりますね。

…SAリボルバーで練習させましょう。

 

 

 

 

地球、日本某所

 

樹視点。

 

進示様と杏子ちゃんが行方不明になって20日が経過した。

流石にニュースになってしまい、マスコミが詰めてくることもあったが、やんわりと、しかし何とかやり過ごす。

 

「おう、双葉さーん」

「お邪魔しまーす」

「いらっしゃい、皆様」

 

入ってきたのは進示坂と同じ転生者でご学友の5人。パートナーデジモンは幼年期まで退化させてバッグに入れていますね。

あら、出口さんの守護天使、シュトースもいますね。

 

「地球全域まで今許されている天使の力で捜索しましたが…やはり地球にはいないようです」

「マジかー…」

「警察は捜索を打ち切ってもよさそうだけど、まだ少し捜索するって。努力してないと思われたくないからだろうし」

「…実のところ、ここ数年で神隠し事件が起きているようなのです。小説や漫画でいうところの異世界召喚…お二人はそれに巻き込まれた可能性が高いでしょう」

「リアルなろ〇…いや、オイラ達も転生してる時点でいまさらか」

 

ふふふ…まあ、そうですよね。しかし、召喚から通ったルートを通じて呼ばれた世界自体はもう特定はできている。

 

だが、

 

「ジールという世界のようですね。この世界、私以上の神の力で障壁が張られています。私にリミッターがなくとも破るのはまず不可能でしょう。…一応人間であれば素通り出来なくもありませんが、この世界は異世界召還を濫用しすぎたせいで、世界中に転生者を殺す毒が充満しています。杏子ちゃんはまだしも進示様であれば持って2週間の命でしょう」

「「「「「はあっ!?」」」」」

 

私の声に焦りを見せる5人…すでに20日が経過しているにも拘らず、私が人間界から退去していないということは、進示様たちは生きている。

 

 

「現地で協力者を得たのでしょうね。それも、転生者殺しの毒を浄化できるような神でも使い手が少ない能力者の」

「ど、どんな確率ですか!?」

 

シュトースも驚いている。薄氷踏むような奇跡に遭遇し、生きながらえているのは確かだ。

 

「…あなた方転生者では、向こうの世界に行けたとしても、転生者である以上、毒にさらされるリスクがあります。…進示様が現地で得た協力者は…偶然ではなく運命としか言いようがありません。あまりにもタイミングが良すぎますので」

「じゃあ、榊原は…」

「協力者がついている以上、その方も進示様を害することはないでしょう…信じましょう」

 

二人とも…どうか無事でいて。

そして、二人に協力している方、叶うのならばお礼を言わせてくださいませ。

 

《お任せください!お二人は私の命に代えてもそちらに送り届けます!…見返りとして進示君をつまみ食い…ゲフンゲフン、童貞を頂きます!!》

 

あの…私の幻聴でしょうけど、全然隠せてませんよ?言い直せていませんよ?それから進示様の女性関係には余程のことではない限り口出しはしませんが、命を懸けないで貴女も生きてくださいね?

 

赤いロングのに黄金の目をした耳の少し尖った女性がサムズアップして無駄に歯を光らせている幻が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

再びジール。1000年前。

 

ゼロ視点。

 

この世界、ジールに置いて地球より文明が進んだ都市はすでに廃墟と化していた。

 

私達と魔王アルカディアの戦いで。

 

私は2000年前にこの世界に記憶と自我を奪われた状態で召喚され、召喚者の思い通りの操り人形となって、様々な戦場で殺し合いに加担させられ、男達の慰安もさせられていた。

 

それから、年を取らない私を永遠に衰えず、生涯【使える】ものとして見られたし、子供ができない体質もあって、散々弄ばれた。

 

そんなある時、出会ったのが大空宙田という転生者だ。

 

彼は私を見るなり、「自我と記憶を封印されているのか」と呟き、私の頭に手をかざすと、失って久しい、自分の心を唐突に取り戻して泣き叫んだ。

 

彼は一人の金髪紅目の女性を連れて歩いていたが、彼も女性も私が泣き止むまで待ってくれていたようだ。

 

「シュクリス、コイツが例の?」

「ああ、時間を越えていたとはな…」

 

守護天使システム。

転生者の第2の人生をサポートする天使というのは恐らく表向きの事だろう。

 

人類と共存する神と人類を滅ぼす神の勢力争い…それも正確ではないか。

人類を滅ぼす側の神が人間界に介入したため、共存する神側が新しく設立した組織にしてシステムだろう。

神は人間からの進行を糧とするが、滅ぼす側の神は人間無しで存命する方法を確立したのだろうか?

 

シュクリスに関しては謎が多いが、私が宙田に心を開くまで時間はかからなかった。

…なんだ?この女…天使ではなく神ではないのか?

 

独占欲がないわけではなかったが、それでも、彼の幸せに必要ならハーレムだろうと構わなかった。

シュクリスも彼とともに生きる姿勢は本物だった。

 

女は特別な出来事がない限り、世間一般的ないい男に惹かれやすい。絶対ではないが。

それに、大天使シュクリスは天使にしては格が大きすぎる気もしたが、彼女は超がつくほど真面目で律儀だ。

表情は殆ど動かないが、いたずらに人を害しないし、私の悩みも真面目に聞いてくれた。

 

人間に馴染もうとしてるのかたまに妙なタイミングでボケる事もあるが。

 

あと悔しいが、私も宙田も模擬戦でシュクリスに勝てた試しは一切ない。

彼女は過剰な本気も出さず、過剰な手加減もせず、【戦う相手より少し強い力で戦う】のだ。それもほぼ徒手空拳のみで。

 

彼女ならば同じ男を夫にしてもいいと思った。

 

宙田は頭が良く先見の明がある天才だが、もし彼が劣等生でも、落ちこぼれであっても私は彼を伴侶としただろう。

 

私に心を取り戻させてくれた。

私にはその事実だけで十分特別だった。

 

守護天使とは別に、彼がパートナーとしているデジモンがいた。

 

ロイヤルナイツ空白の騎士、アルファモン。

 

そう言えば私の母の一人は…。

 

彼の仲間にも私を紹介され、冷やかされもしたが、悪い気分ではなかった。

 

そして、私のパートナーになるデジモンも彼がデジタマを渡してきたのが始まりだったっけ…。

 

 

 

だが、この幸せは半年で終わった。

 

 

私の周りには無残な姿になった12人の転生者達。

 

もう誰も生きている者はおらず、彼等のパートナーたるロイヤルナイツも私のガンクゥモンを残して跡形もなく消え去った。

 

アルファモンのテイマー、大空宇田も、この戦いの直前、結婚も約束していた男だった。

 

 

完膚なきまでに叩きのめされた。

 

 

「無様だな。しかし、転生者とは負け犬の称号。一度目の人生で自己の運命を超えられなかった時点でたかが知れている。本来、人生にやり直しなどないのだから。転生者である限り私を超える事は出来ない」

 

そう、確かに私以外の面々は転生者だ。空田も自分たちが転生者である限りこの目の前の存在を打倒できない。故に非転生者である私に全てを託したのだろう。

 

「黙れ!!彼らは確かにどのような理由であれ、一度は人生をリタイアした!だが、そこから再び立ち上がって己の人生を生きた!!星そのものに優遇され、一度も敗北など経験していない貴様に彼らをあざ笑う資格はない!アルカディア!!」

 

「そいつらが私の目の前で死体になって転がっている事実は変えられん。そして、私が貴様ら転生者を間引くため、そして神どもを間引くために生まれた存在であることも覆せない」

 

 

そう、こいつの力は神以下ではあっても、人間やデジモンを超越した存在。

そして、神の権能ではこいつを傷つける事は出来ない。

宇宙を、そして世界そのものをなくせる力であっても、こいつは一切殺せないし傷つかない。

アルカディアを傷つけられるのは人間界の力だけなのに、人間やデジモンの手におえないという出鱈目なスペックがあるのだ。

 

転生者がこいつに戦いを挑むこと自体が敗因であり、死因だ。

 

神の力を使うより、ナイフ一本で戦う方がまだ勝てる見込みがある。

こいつと戦うのなら非転生者かつ神ではないものでなくては戦えない。

しかし、現実はこのザマ。

 

「神そのものから与えられた力でイキっているだけの3流魔王が…」

「なに…?」

 

私の言葉にアルカディアは訝しむ。

宙田からは『お前の観察眼は一流だ、自信を持て』と言われているが果たして…。

 

「何を馬鹿な…私はこの世界そのものが生み出した世界のアバターの一つ。神と転生者を滅する機構」

「…ほう、気づいていないようだな、これは評価を下方修正する必要があるか?」

 

私の煽りに

 

「よかろう、そんなに死にたいのならお前の愛しい男の後を追わせてやろう」

「ガンクゥモン」

 

私はガンクゥモンに指示をし、私と融合させる。

 

私の体質はデジモンを都合のいいように進化させる特性はあるものの、使い手が未熟なら生かしきれない。

今の私では私の個体が持ちえないX抗体を付加させるのがせいぜいだろう。

 

「またその姿か。通用しないのはわかりきっているだろう」

 

アルカディアの言葉通り、ここで死ぬしかない。

 

だが、私であればとある体質により、生き残れるだろう。

ガンクゥモンもまだ死なせないために私と融合させる。

 

つまり、この融合は勝つためではなく、生存のためだ。

 

アルカディアはこちらを完全に舐めているのか、生き延びるすべがあることを考えもしていない。

 

「消えろ、目障りな転生者」

「…フ」

 

しかも、こいつは私が非転生者であることに気づいていない。

 

父さんは戦えない、勝負の土俵にすら上がれないが、私なら戦える。

 

アルカディアの放つ光球は私達を飲み込み、直径一キロは更地になるほどの大爆発を起こした。

これでも範囲を小さく絞ったほうだが、奴がその気なら地球の半分は消し飛んでいただろう。

 

 

 

 

 

 

 

10日は眠っていただろうか。

デジタマから人間体に戻った私は、モクモンとなったパートナーを見る。

「やられたね」

「ああ…奴は強敵がいなくなったこの世界を退屈と断じ、眠りにつくだろう。次に目覚めるとすれば、この星が消滅する直前だ」

 

そして、私は思い返す。

 

 

私は初恋の人を失った。

 

少しぶっきらぼうだけど、確かな優しさと温かみがあったあの人を…

 

「うわああああぁぁぁぁぁぁ…宙田…!ごめんなさい!ごめんなさい…!!」

 

生存を実感して一番最初に感じたことがそれだった。

 

遺体も塵も残さず消し飛んでいるため、確認もできないだろう。

 

シュクリスも宙田が死んだことで天界に退去してしまった。

恐らく下界に降りるため、次の雇い主を探しているだろう。

 

彼の気配がないところを見ると、宙田は転生を選ばなかったか、天界にとどまっているか。…あるいは記憶をリセットして新しい生命に生まれ変わったか。

 

 

 

 

 

 

 

皆の遺体は回収できなかったが、墓標を作った。

 

 

ジールの滅びた文明がある国に向かい、そこに残っていた文明の残骸をかき集め、複数のデジモンを管理するデジヴァイスをどうにか作り出す。

 

ガンクゥモンのデジヴァイスは別にあるが。

 

「今後のことも考えるとしばらくは潜伏して力を蓄え、父さんの誕生を待とう。私の推理が正しいのなら【前回は失敗している筈】。そして、アルカディアはデジモンを形成する機械文明を破壊したということは、デジモンを恐れているということ。」

 

アルカディアの破壊活動で、文明の殆どは死に絶え、デジモンが生存するには厳しい環境となった。

ミリアが星によって生みだされたのもこのあたりだったか。

 

新しい文明はおよそ200年ほどで作り出されたが、やはりかつての機械文明を築くのは時間がかかりそうだ。

現在の文明は中世程度。

 

元々私がこの世界に来たきっかけは、

 

 

私は強くなるためなら何でもやった。

時には戦士として戦い、時には時の権力者に情婦として取り入ったり、時には鍛冶師に弟子入りして武器の制作のノウハウを教わったり。時に、この世の学問を改めて学びなおしたり。

地球より文明が発展した世界に赴いて科学、医学、機械工学、農業など様々な技術、産業を学ぶ。

魔法に頼らない方法から魔法で省略できる方法まで技術を磨いた。

 

戦士としても拳(ジークンドーが基礎)、剣、槍、魔法、銃火器など、およそ思いつく限りの戦い方を身に着けた。

指揮官としても兵法を学んだり、実戦で生かしたり…数百年もあれば普通の人間には不可能な知識、技術量が身につく。

私が製造された過程で基礎知識はあったのだが、やはり知識と実践は違う。

 

世界を救ったこともあれば最善のつもりで動いた結果滅びに繋がってしまった事もあった。

 

そして、デジモンという戦力も集めたりした。

あまり戦力呼ばわりはしたくないのだが、今後訪れるであろう事態を想定するとそうも言ってられないのだ。

出来ればロイヤルナイツレベルのデジモンが100騎ほど欲しいのだが、…いや、足りるか?…とにかくデジモンラボラトリーのようなバックアップがない私では、究極体を10騎管理できるかどうかだろう。

御神楽ミレイと交信ができればいいのだが、無いものねだりをしても仕方ない。

今後生まれるであろう父さんや父さんの学友で見どころがありそうな者をデジモンテイマーにする他はないだろう。

 

 

そして、可能ならば世界のどこにも属さない次元の狭間にアクセスできる方法も確立しなくては。

用意できるデジモンに限りがある以上、【彼女】の力は必要になる。

【彼女】の体質は父さんならフォロー出来るようになるだろう。

 

 

私のガンクゥモン以外にも私のパートナー…家族がいる。

 

 

それは、相容れない天使と堕天使の融合、次元を超える力を持つ軍師、マスティモン。

 

それは、ネットの海ならどんな場所にも行けるアンフィモン。

 

それは、ダークエリアを監視、守護するアヌビモン。

 

それは、私の母の力を引き出す可能性、オウリュウモン。

 

それは、世界のすべてを知る知識の神と言われるラジエルモン。

 

そして、竜の力を持つ戦斧を持ち、龍の力を持つ私と相性が良く、デジタルワールドにおいてすら【幻想】と呼ばれる。転生者という幻想の娘である私と共通点が多い、〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇モン。

 

アルカディアではないが、ある戦いでアンフィモン、アヌビモン、ラジエルモンがやられ、デジタマから戻せない状態になってしまった。事実上の脱落。

…これは、父さんの力だけでは足りないな。

特にデジタルワールドの大部分の知識を補完できるラジエルモンの脱落は痛すぎる。私情を抜きにしてもだ。

 

そしてオウリュウモンは自身が助からないと悟ると、死んでもなお私の力になりたいと言い、アルファモンの娘である私なら使いこなせると言って、自信を王竜剣にして託した。

 

その件は斧剣のみならず、オウリュウモンが使う双剣にも形態変化が出来る。

 

 

 

力を磨き、技術を磨き、知恵を磨き、コネを築き…

 

 

21世紀にはいる少し前に地球にも日本人のような黒髪に染め、戸籍を偽造して日本に潜り込み、会社を興し、海原白子(うみはらしろこ)という偽名を使い、活動する。

時期が来ればいずれ宇宙からやってくる災害に備え、父さんたちをバックアップするためだ。

双葉樹もよくやっているが、彼女一人では力不足だ。

ゲーム会社という彼女にしかできない役割もあるのだからそこは任せる。

 

ちなみに偽名は父さんと杏子母さんの名前と、杏子母さんの二つ名から捩らせてもらった。

 

 

そして時間は流れ…

 

 

「半年は戻らない」

「分かりました。貴女お一人で大丈夫ですか?」

「問題ない。それより、デジモンテイマーの候補者は?人間性を重視しろといったが」

「まだ小学生ですが、素質は金城明音という人物がかなりのものです。ロイヤルナイツには及びませんが、究極体でも上位のデジモンを育てるだけの善性とコミュ力があるかと」

「分かった。公安にも1名、自衛隊にも今のところ2名、デジモンテイマーに相応しい心を持っている」

「分かりました。調整しましょう」

「頼む。育成だけではなく、発掘も怠るな」

 

私は会社の秘書に指示を出し、部下の一人に私の影武者をさせる。

 

「それから、神隠し事件はどうなっている?」

「…こちらの世界から召喚やテレポーション技術で拉致して弄ぶ…阻止しなければなりませんな…確認が取れただけでも214件…実際はもっと多いでしょうな」

「…そうか。大半は私を生み出した宇宙のクズどもだ。生かしておく道理はないが、現状の戦力では返り打ちだ」

「貴方の究極体2体、転生者達の究極体6体でもですか?」

「そうだ。あと、正確には3体、ガンクゥモンは別行動だからな。そして、戦死して私の剣になったものが一体、デジタマの姿で固定されてしまったものが3体だ」

「貴方だけで7体もいるのですか」

「ああ、それを含めてまだ足りない。全然足りない。だが、大天使トレードがいれば究極体のデジモンを100騎単位で運用できるだろう。彼女の能力は情報を扱うものだからな。デジタルモンスターが情報体だからこそできる無法だ。…しかし、それだけでも駄目だ」

「ま、まだ足りないのですか!?」

 

驚く秘書だが、私は頷く。

 

「どれほどデジモンが強くても人間の精神の強さを生かせなければならない。同時に、人間はデジモンのみならず、どんな種族とも共存できる和の心がなければ、あのクズどもには打ち勝てないだろう…和の心と言っておきながら敵を打ち倒す必要があるとは…矛盾してるが、矛盾してるからこその人生だろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球では21世紀、ジールで進示視点。

 

 

 

こうしてミリアと放浪生活を続けていた俺達は、テンプレな野盗に遭遇することになる。

 

「あ、進示!襲われているエルフは私の知り合いです!救助に行っても」

「なら急ぐぞ。この世界で俺と杏子の見方は現状お前だけだ。召喚したことを申し訳なく思ってた人も数名いたが、逆らえるだけのバックアップがなかったしな」

 

「手段は問いません!あ!もう下着を脱がされてます!?」

 

野盗は数名、ミリアは高火力の魔法だが、人質を傷つける可能性はある。

 

リーダー格以外はボンクラだが、リーダー格はミリアの魔力発動に気づいたそれにズボンに下げてるナイフに手を伸ばした。

 

俺はハンドガンを取り出し、腕を狙い撃つ。

 

「ぎ!?」

 

その発砲に驚いた部下は驚き、慌てている間に、ミリアが風の魔法で刃を放ち、首を切断した…おいおいマジか!?

 

その光景に俺は脂汗を流すと向き直った男に再度発砲するが…。

 

キン!

 

「!?その鎧」

 

みすぼらしい鎧ではあるが、リーダー格の鎧は銃弾を弾いた。

 

杏子はエルフの女性を確保した。…ならば強気で行けるな。

そう思ったが、

 

「おら!」

 

男は一瞬で俺に近づくと、銃を弾き飛ばし、俺の首を掴んだ。

 

「ぐ!」

「「進示!」」

 

…こいつ、ただのチンピラじゃないな…?

 

「舐めた真似してくれんじゃねぇか。殺すのは簡単だが、なかなか愛嬌のある顔だ。そっちの趣味がある貴族に売りつけてもいいな…」

「が…」

 

ミリアも杏子も迂闊に動けないようだ。…これは相手を侮った…そして、地球の倫理観は通用しないと思った。

「いや、やっぱ死ね、その赤髪の女からは逃げられねぇ…ならここで道連れだ」

 

……!ミリアの技量を一瞬で見抜いた!?

 

だが、俺は自分がまだまだペーペーなのは理解してる…そしてそれが隙でもある!相手は俺を舐めているのだから。そして、油断が亡くなればチャンスが無くなる。

 

 

サクッ

 

 

俺は旅装束の右腕部分に仕込んでいた暗器で、奴の頭を刺した。

 

…ははは…ついに殺っちまった…。

 

どうやら奴は子供の俺が暗器を仕込んでいるとは思わなかったようで、驚く間に即死した。

 

銃ですぐに頭を狙わなかったことも俺を甘く見た要因だが…すごく寒い…!

 

結局殺さなくてもなんとかなると思い込んでいた俺が招いた油断…自業自得と言われても仕方ない…!

 

奴の拘束を逃れ、地面に尻もちをつくが、立ち上がれない。

 

吐き気こそしなかったが、汗が止まらない、震えが止まらない…!

 

心臓を打ち抜いても10秒は動けるのに…!即死させなかったから…俺が選択を誤ったら、3人を危険にさらしたかも…でも、ころしたなまのかんしょくはとまらないさむいこわいどうすればよかったころすしかなかったのかころさなければよかったころせてよかったのかみりあはちゅうちょしなかったざいあくかんがとまらないでもきょうこはえるふはどうすればよかったきょこにかたがわりさせたのかきょうこたちがおかされたのかおかさせないころせころさない

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺は誰かに抱きしめられた

 

 

「貴方、人を殺したのは初めて?」

「…ああ」

 

それは先程助けたエルフの女性だった。

 

「人を殺す必要はあるかもしれないけど、殺したくないという感情も捨ててはいけないわ。助けてくれたお礼にしばらくこうしてあげる。だから、気持ちをゆっくりでいいから落ち着けてね?」

 

彼女の柔らかい胸の感触と鼻をくすぐる心地よいにおいに、精神が不安定だった俺は抗えなかった。

 

 

 

「それにしても、あの野盗…野盗にしては強すぎますね…どこかの国が滅んだのでしょうか」

「南西のメタル帝国が滅んだわ。あそこは最近機械文明が出来てきた国だったのだけど、それが仇になったのでしょうね」

 

…俺はこの時、この会話の意味が分からなかった。

もっと考察すればよかったと後悔する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何でこんなテンプレ展開みたいに野盗に襲われて薄い本案件になりかけてるんですか?というか国を脱走してきたんですか?フェー」

「脱走だなんて人聞き悪いわ。国だと王女として振舞わないといけなかったのに、今なんて女王よ?お母様が()()()()()()、てんわやんわしてて少しくらい息抜きしたいわ。エルフだから体は頑丈だけど、さすがに睡眠が3日で6時間しかないのは酷くないかしら?」

「事情は分からんがすごい社畜満載だな」

「でしょー?あ、貴方が噂の異世界人ね?随分可愛い男の子に女の子ね♪」

 

ミリアが言ってた通り、野盗に襲われて性的暴行をされそうになったエルフの女性を救助したが、ミリアの知り合いらしい。ちなみに服は破られているが、貞操は無事だったようだ。

 

そしてサラッと重い話が出てきたな。

母親は他界したのか。…いや、いなくなった…だな。

 

金髪碧眼、典型的なエルフだな。…失礼ながら胸も見る…多分着やせするタイプだな。

…さっきの感触でかなり落ち着いた。

 

「むー」

 

杏子が膨れっ面して俺を見る。…これって間違いなく俺に気があるよな…杏子…。

魂が繋がっているから?

俺は前世では女性にモテた試しはないので、確証は持てないが、一緒に生活している以上、そういう情が芽生えてもおかしくはないが…、俺に彼女の人生を背負えるかと言われればプレッシャーを感じてしまう。

 

その俺の心を感じ取ったのか、杏子は俺を抱きしめてきた。…励まそうとしてるのか?

僅かに膨らみ始めた第二次性徴期の柔らかさを感じながら俺は抱擁を拒めないでいた。

 

「…ふむ、やはり魂が繋がり始めていますね。そのうち何となくではなく、相手の考えていることが言語込みで分かるようになる可能性はありますね。…ふむ、デジモンと人間の魂のシンクロ、【デジシンクロ】というべきでしょうか?」

 

「あら、魂の繋がりで思いが通じ合うのね、素敵だわ…。妬ましい

「フェー?あなた悪口なんて言う性格でした…?」

「…え?ごめんなさい…最近よく意識が飛ぶのよ…」

「それは働きすぎですね!少なくとも1日7時間は寝てください!!」

「今の慌ただしさじゃ無理よ…」

 

フェーさんに一瞬不穏な空気を感じたが、彼女が悪口を言う性格じゃないのなら…。

 

そう言えばイーターに取りつかれた真田アラタやアルカディモンに心を付け狙われた御島龍司が心の闇の側面を出し始めたが…ダメだ、この女性とは出会ったばかりでまだ判断できる材料がない。

 

「進示…フェーさん、優しい人だけど…何か嫌な感じがする…まるで手遅れみたいな…」

「……杏子ちゃんって言ったかしら?どうしてそう思うの?」

「だって、笑顔だけど苦しいの我慢してるでしょ?」

「…!」

 

杏子がそう言うと、フェーさんは驚いた顔をして杏子を見る。

が、すぐに平静な顔に戻り、柔らかく微笑む。

 

「大丈夫。エルフは頑丈なの…大丈夫よ」

 

そういってフェーさんは杏子の頭を撫でる。

 

 

 

 

この時、フェーさんの様子をもっと深堀しておけばよかったと後悔する。

 

そして、この世界で彼女と育んだ交流。

 

地球に残してきた家族と友。

 

どちらか一つを選ばなければならない日が来るとは…この時は思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

ガラテア視点

 

 

トータス帰還後のとある日

 

 

「ふう…」

 

進示がおもむろに過去映像を見せるためのヘッドホンを外し、溜息を吐く。

その眼にはうっすら涙を浮かべながら嗚咽を漏らし始めた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

机に突っ伏して泣き始めた進示。その謝罪はゼロに向けてのものだろう。

そしてこれから私の姉を殺す事に係る()()()()謝罪。

 

血が繋がってないとは言え、娘がいる南雲ハジメは思うところがあるのか、拳を握り締めている。

 

 

特に、ゼロが過去へ召喚されてからの事は今初めて聞かされたのだろう。

と同時にミリアと同じ髪の毛と目の色、赤い頭髪に黄金の瞳だった毛がストレスで脱色し、白髪に銀色の瞳に代わってしまった理由も悟ったのでしょう。

記憶を奪い、召喚者の意のままに操るジール式異世界召喚。 

 

ミュウちゃんの手前、言葉をぼかしてはいたが、操られるままに殺戮、輪姦、など凄惨な人生を歩ませてしまった事に悔いているのでしょう。

 

 

異世界召喚とはその世界の人類ではどうしようもない時の最後の手段、原則、【世界の外から来た脅威】に対するカウンターとして設計されたものでしたが、世界内の出来事、利益のための使用は【濫用】に当たる行為です。

 

エヒトの場合は私利私欲のものでしたが、エヒトが地球を攻撃すると宣言してしまったことで、地球人の召喚は【エヒトに対するカウンター】として扱われたのでしょう。

これに関してはエヒトの死で負債の大部分は払い終えているでしょう。

 

…いえ、それも正確ではありませんね。本来下界に存在しないはずの存在が介入したことによって、異世界召喚の負債は少ししかなかったと言うべきでしょう。

エヒトも本来はトータスの住人ではありませんしね。あの世界を開拓したのは事実なので、どのみち英雄以上の存在として崇められたでしょう。英雄ではなく、神として崇められましたが。

 

 

 

 

 

脱線しましたね。ゼロが進示とトータスで再会した時は、余計な気を揉ませないために言わなかったのでしょう。

ゼロ、ああ見えて顔は進示に似ませんでしたが、心は進示に似てますから。

進示も大体は推理してたとは思いますが、本人の口から改めて聞かされて、やはり溜め込んだ感情を抑えきれなかったのでしょう。立場もあるでしょうが、その感情は根が普通の心根の進示が抑えてはいけないものですよ。

 

そういう意味では南雲ハジメも心配ですね。

彼の場合は生き残って地球に帰るという以外の感情をそぎ落とし、そこから今の人間関係、即ち、【大切なモノ】が増えた状態ですが、それが失われるとむしろ進示より反動が大きそうですから。

 

そこが進示とハジメの違い。

弱さを隠さなくなり、自身の弱さを認めることができる進示は万が一の事態が起きても復讐に走ることはしないでしょう。

ハジメは基本的に自分の弱さを隠す。黒歴史も含めて。トータスを旅行した時もかなり自分の過去を見せたがらなかった。結局見られたとはいえ、自身の弱さを隠すのは若さですね。

 

 

まっとうな生まれ方をしなかったとは言え、血の繋がった娘に何もしてあげられなかった、ハイネッツから脱出した直後の宇宙船の中で召喚を阻止できなかった自分を責めているのだろう。

 

そして、ゼロが危惧した通り、ああして泣き始めて周りが声をかけてもなかなか泣き止まない。

 

でも、だからこそ私達はミリアたちと同じ、この人を夫にすることに決めたのだ。

 

それに、姉はどの道助からないし、姉をヒトのまま(エルフだが)死なせることから逃げてしまった私が進示を責めるのはお門違いなのだ。

 

 

 

とは言え、一先ず休憩となり、

 

「ところで杏子。【あの子】はどうしているのですか?」

「仕事があってまだこちらに来れないそうだ。…働かざるもの食うべからずと言った事があるが、その影響を受けすぎているようだな。進示は生活に馴染むまでは無理して働く必要はないと言ったが、あの子自身が申し訳ないと思っているのだろうな」

 

私達の中では一番の一般人なので無理はしてほしくないところだが。

杏子も少し丸くなっていますね。【来るもの拒まず去る者追わず、働かざる者食うべからず】は確か本来の杏子の父の教えでしたね

 

と、

 

「遅れました、もう始まっていますね?」

「お母様…」

 

そこには私や姉さんをさらに大人の雰囲気にしたような女性…つまり、私のお母様であるフーディエが入室してきた。

 

俯いている進示を見て大体どこまで話が進んでるかを察したらしい。

 

「これから私と戦うところでしょうか?

「ああ、ミリアからも忠告されていたが、父さんが魔力に頼らない兵器、電磁レールガンを開発しようとしたきっかけでもある。トータス召喚前にリボルバーや、単発式ランチャーは間にあったそうだが、セミオートの銃は構造が複雑で壊れやすい。まだ技術的蓄積の足りなかった父さんではセミオートの脆弱さを魔力で補ってたようだしな。ガトリングもフレームとモーターを魔力で無理矢理補っていた」

 

 

「ライセン大迷宮で、回転ノコギリを粉砕したアレは」

「あの大型拳銃は魔力で補強した拳銃だ。デジタルワールドなどで使えば直ぐに破損するだろう。魔力も使わず、環境を極力破壊せず、クロンデジゾイドを打ち抜ける武器はもう出来てるが、セミオート化が難しすぎる。リボルバーなら何とかなるんだが、反動がでかいので普通の人間には使えねぇ…もうすこし時間をくれ。軽量化する。歩兵で使える強度を保つのにランチャーサイズなってるけど」

 

泣き止んだ進示がハジメの疑問に答える。

実のところ錬成師としてはハジメのほうが上なのだが、魔法を使わない科学能力は進示のほうが優れているのだ。

 

「ハジメと優花は魔物の肉を食ったから身体強化は魔力便りだ。ユエもデジタルワールドや魔力を完全に無効化される環境に放り込まれたら【自動再生】も働かねーぞ。環境の制限を受けないのはゼロと天使だけだが、ゼロ達に頼りきりでもいけない。雫はあんま心配はいらないが」

「…わかった」

 

進示の言葉に神妙にうなずいた皆さん。そう言えば私もゼロや進示に言われて銃の練習を始めたんでしたね。

精霊の力を借りられない、魔法を使えない状況になったりデジモンを進化できない状況になっても困らないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ2

第3視点

 

 

「またあなたとこうして生活することになるとは、不思議なものですね、大天使シュクリス」

「…ゼロ、宙田は残念だったな…。ただ、奴は転生せず、あの世にとどまっている」

「!?事実なのですか!?」

「『仕事はするからあの世にとどまらせてくれ』と言ってきてな?私との契約はどうするのかとも聞いたが、『契約満了でいい。おまえにも下界ですることがあるはずだ』と言ってきてな」

 

「…」

「心が強すぎると親しい関係を切る事にも躊躇がない。特に男は」

「…」

「宙田は決してお前を蔑ろにしていたわけではないが、それでも」

「分かっています。世界が滅んでは会う事すらできなくなりますから」

「そうか」

(宙田…あの世で何をするつもりですか…?神童もいるはずですが…)

「そして、あの時は言えなかったが、アルカディアの造り主が分かった」

「…!………そうですか、利敵行為も行うのですね、あの女は。ある意味エヒトの真逆でしょうか。人間を嫌っているのに一縷の希望を捨てきれない…誰も傷つかない世界を目指そうとした神らしくない理想を」

 

 

 

 




Q、ミリアがトータスの神代魔法を教えなかった理由は?
A、それは後付けでもなんとかなるので、自分の力を継がせる方が先だった。
ちなみにミリアの魔導書は、百科事典レベルの分量の論文を手書きで魔力を込めて執筆した特注のワンオフ品。
まだ6年程度の経験の浅い進示には必需品である。
デジモンとの魂の融合理論も書かれている。

Q、ミリアがエヒトにバレなかった理由は?
A、シュクリス「私は覚えがないな…」


オリジナルキャラ、魔王アルカディア
以前からちょくちょく触れていたが、神の力は一切効かないのに、人間界の力を大きく逸脱した出鱈目スペックの存在であり、神や転生者を間引く(完全に絶滅させるわけではない)反則級の存在。

ただし、ありふれのエヒトは神と崇められていても、人間の規格は出ていないのか勝率は0ではない。
逆に樹や設定上エヒトが一切叶わないシュクリスは神判定であるため、アルカディアに勝つことは100パーセント不可能。
一応人間界で得た力なら通せるという抜け道はあるが、如何せんリミッターをつけることを義務付けられる神や守護天使の手には余る存在。

しかし、ゼロはアルカディアはデジモンを恐れていると分析している。


肉体を情報レベルで分解し、再構築。
これは本来倫理的には受け入れがたいところがあるもの。
理論上は再構築しても人格が以前のままという保証はないからだ。
人格と記憶の維持、保持を担うのがデジヴァイス。



ミリアのエロセンサー
見ただけで相手の異性の経験人数や性癖とかがわかる(どんなセンサーだ)
実は娘のゼロにもあったり。


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ジール編第5話 何をしようと必ず何かは弊害が出るが、何もしなければさらに面倒が増える

まえがき

おまけの方は未来のアフターのような一幕です。見方にってはユエとシアにアンチと言われるかもしれませんが、更生はしますので。(公安が原作アフターよりもそれなりに力を持ってる事による差ですね)

あと、お気に入りが170件超えました。
登録してくださった皆様、ありがとうございます。

痔ネタに関しては作者の経験談ですが、早期発見早期治療ができれば入院しなくても済む場合が多いので放置しないようにしましょう。


進示「それじゃあ、みんな。続きを流すぞ。かなり胸糞悪い話があると思うが、既に終わったことだ。暴れないでくれよ?」
ミリア「あの国本当に酷いですからね。イシュタル・ランゴバルドより酷いです」
ハジメ「そんなにか?」
ユエ「…気になるけど、視ればわかる」
ノイント「…(思うところはある模様)」


進示視点

 

夢を…見ている。

 

高校生くらいの俺と杏子?

街が…ボロボロだ。どこの世紀末だ!

空も赤いし、人の死体が野ざらしだし!しかも日本でだぞ!?

 

空も…随分濁った青色だ…。

…関原達の死体も野ざらし…!?

まるで地球の終焉のようじゃないか!?

 

『杏子…ついに俺たち以外生き残りがいなくなったな』

『うん…、もう地球の復興は出来ないよね?』

『樹も死ぬ直前に何かメッセージを送信したらしいが』

『もう、この宇宙は制圧されちゃうね…兵力の差が大きすぎる』

『アルファモンがそれなりに強い戦士扱いにしかならない核も効かない…俺たちの遺伝子を鹵獲されちまったしな。それに、あの人工デジモン…アルファモンじゃ倒せて5~6体程度だろう。ギリシャ神話みたいな見た目してるけど、デジタルワールド・イリアスのサーバーがあるんじゃあるまいな?』

『向こうに居た時はそこまで調べる時間なかったもんね』

『くやしいが、ハジ■も他の皆も死んじまった…地球上で生きてるのはせいぜい2000人程度だが、それらが潰されるのも時間の問題だ。世界中の軍も全滅してるし、トータスや他の世界への転移も出来ないように念入りに障壁を張ってやがる。何が何でも逃がさないつもりだ』

 

これは…未来…いや、()()()()()()()なのか…。

確証はないし、直感だが…そんな気がする。

…ハジ■って誰だ!?聞き取れねぇ!?

 

そうしてる間にも夢の中の俺達は文字通り、決死の覚悟を抱いたようだ。

 

…やめてくれ…

 

『行くも死ぬ。逃げても死ぬ…なら前のめりだ』

『やるだけやろう…』

『『ソウルマトリクス!』』

 

ちょ!?ソウルマトリクスってなんだ!?

どんなデジモンに進化した!?

 

形状はぼやけていてわからねぇ…だが、白いアルファモンに見える…!?

いや…あれは〇〇〇モンの羽と腕!?

どんな状態だ!?かといって〇〇〇モンじゃない…。

 

 

『私たちは諦めない!』

 

魂は永遠に!!!(何が何でも生き残る)

 

何だ…、その詠唱、その信念…!?

…場面が飛び飛びだ。

 

 

そうして夢の中の俺たちは戦い…そして、立ったまま死んだ。

 

 

『間に合わなかったか…障壁を解除するのに手間取ってしまった。力ずくで破壊しては、地球人たちが爆発に巻き込まれるからな』

 

そこに現れるのは金髪赤目の天使。

 

翼が四枚あるということは大天使か

 

俺に死体をお姫様抱っこ、杏子の死体を背負う。

 

『お前の魂は一度天界に連れ帰り癒す。本来生きるべき人間が既に何人も死亡しているもう、この宇宙の崩壊は避けられない。また世界を138億年…更新しお前たちの誕生を待とう…いや、待て!?榊原進示の魂がない!?』

 

天使は驚いているようだが、死んだら魂は消えるんじゃないのか?

 

『…これはただの転生ではないな…。どの道、地球は放棄して身を隠すしかないだろう。天界も既に7割が機能停止。身を隠し、レジスタンスを結成するしかあるまい。…それでもダメなら138億年、再びこの時間が訪れるのを待つしかない…後者の方が可能性は高そうだが…人間も神も役所の腰が重すぎるのは変わらんのか…。おかげで初動を許し、被害が広がり切ってからの出動要請。…しかしあまりに手際が良すぎる』

 

そして、赤い目の大天使は金色の髪の毛を靡かせ、灰色となった空を見上げる。

 

『で、あれば黒幕は神の世界の身内だろう。そうでなければ私が間に合っている。それに、私に見つかる前に急いで撤収したおかげで痕跡を隠しきれてないな。このエネルギーを照合して…初代最高創造神、クラフトを暗殺した奴と同一犯か』

 

その大天使はエネルギーの痕跡とやらを回収し、空を見上げる。

 

『榊原進示、暮海杏子。この絶望的な戦力差で、土壇場で力を目覚めさせ、せいぜい5体倒せれば良い方の人工デジモンを200体狩り、連中を一時撤退に追い込んだだけでも大したものだが、命を燃やし尽くしてしまったか。…連中が戻ってくる前に天界に退避するか…、この世界はどのみちエネルギーとして世界ごと回収されるだろう。この戦争は間違いなく神が人間に入れ知恵をしているな。であれば、この我々もある程度は遠慮する必要もあるまい。…お前達が生まれ変わったら…そうだな、私がトレードとともに守護したほうがいいな。転生を担当する女神は動かせないしな』

 

そういうと天使は既に息絶えた俺の唇に自らの唇を重ねる。え、え!?

 

『榊原進示。記憶は引き継げないだろうが、私と次の因果は確かに結んだ。あるいは、この出来事を何らかの形で138億年後の未来に送信できれば対抗策はあると思うが…さて、あと何週するのやら』

 

そう言いながら俺をお姫様抱っこで抱え、杏子をおぶった大天使は地球から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!はあっ!うろろろろろろろ…」

「進示!?大丈夫!?」

 

起きて早々、四人で包まって寝ていた俺が唐突に起きだして近場の草陰で、吐瀉物を吐きまくっている。ただでさえ、苦しいのに、吐いてしまうなど栄養を無駄にするようなものだが、それでも吐かずにはいられない。

 

「ち、畜生…」

「進示、おかゆを作りますね。野菜もくたくたに煮た方がいいでしょう」

「どうしよう…私王女だし、お料理したことないわ。ガラテアなら料理できるんだけど」

「さっき人を殺したことについてなら、【手段を選ぶな】と言ったのは私です。進示が気に病まないでください」

「それもあるけど、はっきりと夢の内容は覚えてないけど…高校生くらいの俺と杏子が、人類ほとんど皆殺しにされて滅ぼされた地球で…最後の一人になるまで戦って…みんな…みんな…樹も死んじまう夢だったんだ…。多分、映像が飛び飛びで継ぎ接ぎだらけだったけど。それは分かる」

 

それを聞いてミリアとフェーは顔を見合わせた。

 

(どう思う?)

(私が受け取った情報とあなたの千里眼で視た光景と符合する部分があります…が、進示がこの精神状態では迂闊な言動は慎むべきでしょう…)

 

二人が何か小声で相談してたようだが、はっきりとは聞き取れない。

 

「俺と杏子の死体を背負ったのは金髪のストレートなロングヘアーに赤い瞳…、クールビューティーな感じの大天使だ。翼が4枚あったから間違いない」

 

俺の言葉に眼を見開いた二人。心当たりがあるのか。

 

「そうね…もしかしたら未来でその天使様とかかわりが深くなるかもしれないわ。契約外の天使様が自分から因果関係を結ぶなんて相当な事態よ?」

 

過去の記憶にそんな関わりがないと思ったら未来…。

 

 

『ようやく会えたな、だが、今はまだ』

 

…何だ?今の大天使は…俺達を背負ったあの大天使と同一人物のようだが…。

考えても仕方ないか。材料が少ない。

 

 

「ミリア…毒は抗毒剤で済みそうだ…おかゆとしじみ汁を頼む」

「はい、少しお待ちくださいね」

「シジミ汁?」

「肝臓に優しいお吸い物ですよ」

 

そう言うとミリアは手際よく料理を完成させた。

…下ネタは多いけど滅茶苦茶頼りになるな…腕っぷしもそうだが、精神的に寄り添う方法を分かっていて…安心できる。

それに、本当に嫌な一線は越えてこない。

 

それもこの女に気を許している要因だった。

 

「はい、召し上がれ。杏子とフェーもどうぞ」

「いただきます!」

「日本じゃこうして手を合わせるのよね?頂きます」

 

フェー…(呼び捨てでいいと言われた)、何でそんな作法知ってるんだ?

 

「私はほぼ何でも見通せる千里眼と言うものを生まれつき持ってるの。過去、現在、未来、異世界…そして並行世界や観測世界も見渡せるほどに」

 

フェーが俺の疑問に答える。

…と言うことは?

 

「!?そ、それって…俺の事も日本の事も知ってる?」

「妹みたいに一度に処理できる情報量こそ多くはないけど、そうね…私の知り合いやミリアのサポートがあれば、情報アドバンテージではほぼ負けないわ」

「…それでさっき野盗に襲われてるのを回避できなかったのか。君一人じゃ扱える情報量に限りがあるから」

「そうね。他に見るべき情報も沢山あったから、お母様の行方も探りたいのだけど…妙にジャミングが酷くて」

 

そう言えば母親がいなくなったと言っていたな。

 

「ジャミング?視えないの?」

「杏子ちゃんの言う通り、視えないのよ…千里眼があるからと言って情報アドで勝てるわけじゃないと痛感したわ…ほぼって言った通り、例外もあるのよ」

 

…そうか。聞いた話じゃエルフの国の王族らしいし、母がいなくなったら一大事だもんな。

 

「少なくともお母様はこの世界にはいない…思えばこの世界にも不自然な事が多いのよ…ミリアの考察が正しければ、この星は天然の惑星ではなく、人工惑星の可能性があるの」

「はあ!?」

「嘘!?」

 

この星そのものが人工物だと!?天然自然は地球の感覚と変わらないぞ!?

 

「前にも話した通り、この惑星は本来地球より文明が進んだ惑星なんです。デジモンがリアライズ出来ていたのもその証左。現在でも多少残っていますが、私の知り合いにこの世界がゴミ捨て場と表現したものがいますが、この世界に本来誕生しないはずの怪物が時々出現するんです。今ではこの世界が創りものだなんて信じる人はほぼ皆無でしょうから、怪物の出現原因を特定するのも困難です」

「この世界の今の文明は中世ヨーロッパ…大陸によっては産業革命初期だと言ってたな」

「はい」

 

「その文明レベルじゃ天体の知識は乏しいから…宇宙に文句を言う事も出来ない…ゴミ捨て場…もしかして、他の世界や惑星から怪物を不法投棄されてる?」

「恐らくは」

 

マジかよ…これはあまりにもスケールが大きい話だ。

異世界ジールの問題だけではなく、宇宙全ての問題として対応しなければならない案件になってしまう。

そして、俺達が拉致された以上、地球から他の人間が拉致される可能性があるという事。

 

まあ、天体知識はあったとしても、それを知ってる学者は…いるかなぁ。いたとしても探す時間なさそう。

 

「この世界は異世界召喚を濫用しすぎたせいで本来召喚は出来ないはずなんだけど、貴方たちは召喚されてしまった…この原因は…私にはわからないわ」

 

…なにか不自然な間があった気がするが…聞いてもはぐらかされるだろう。

物事には順序がある…。なんとなくそう感じた。

 

「…聞けば、それに答えてくれるか?」

「…ごめんなさい…確証はないの。…それに、私の気持ち的に当たってほしくない推理なの」

「…そうか」

 

当たってほしくない推理程向き合わねばならぬこともあるが、今は置いておくしかないか。

それに、俺に回る毒もミリアがケアしてくれるとは言え、完璧ではないのだ。

 

「あまり無理に頭を使わないでください。本来療養が必要なあなたに流浪の旅をさせなければならないのは気の毒ですが、地球に転移させるのも一回きりしかできないので失敗は出来ません。万全の態勢で臨みたいのです」

 

本当はすぐにでも帰りたいが、失敗できない以上、どこともわからに世界に放り出されたくはない。

 

「それと、貴方たちがホープ王国で召喚された様子もこの眼で視ていたけど、あのまま国についていても、死ぬだけだったわ…貴方は死を偽装して逃げるという選択肢を取ったけど、それで正解よ。…と、いうよりそれしか生存の道はないって言った方が正しいかしら?あの王様は進示君を爆弾として使うつもりだったみたいだし」

「!?ゲホッ!ゲホッ!」

 

驚きのあまり、喀血してしまう。十二指腸からも血が出てないかこれ!?

ケツの穴からも血が出てきてる。

ミリアはそれを魔法で除去する。

服についた血も消えたな。

 

「フェー!?」

「ご、ごめんなさい…」

 

ミリアはフェーを嗜める。

 

「気づいていなかったでしょうけど、爆弾は既にミリアが取り除いたみたいね。まあ、爆弾と言っても魂に紐づいたものだけど」

「アレか?いざと言うときは俺についた爆弾でアルカディアを倒すつもりだったのか?」

「あれ?でもアルカディアには神や転生者の攻撃は効かないっていってなかった?」

「杏子の言う通りですが、あの国の人間はそんな事情知りませんし、知ったとしても一蹴されるか発狂されて首を刎ねられるかですね」

 

まあ、王女とかは申し訳なさそうにしていたが、あの国王に異議を唱えられるだけのバックボーンなり意思があるようには見えなかったし。

 

「それに、貴方には転生者殺しの毒にこの世界にいる限り侵され続ける。ミリアと出会ってなければどの道死ぬわ。つまり」

「…どっちみち逃げるしかなかったって事か」

 

転生者殺しの毒の浄化する術法は神でも使い手が少ないと聞く。

 

…すげぇ綱渡りだな、今の状況。

 

と、そこまで話して、食事が止まってることに気づき、シジミ汁を飲む。…まだ暖かいな。

 

「あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝…シジミ汁が五臓六腑に染み渡る~」

「進示、ジジ臭いよ」

「中身おっさんですし、あながち間違いないのでは?」

「これ、飲むとちょっと体が楽になるな」

「私の術ほどではありませんが、解毒作用の薬草も入っています」

「そうか。そんなに苦くないな、ホウレン草のような感覚で食えるな」

「美味しいね」

 

フェーも日本食を食べるのは初めてなのか、時々頷いている。

如何やら美味しいらしい。

 

「そうだ、進示君。こっからエルフの国までは遠いし、暫く一緒に居てもいいかしら?」

 

彼女の申し出に答えたのはミリアだった。

 

「まあ、エルフの国までは遠いですが、道中寄るつもりだし構いませんが…そう言えば何でこんなところに?空間転移の事故に巻き込まれたんですか?」

「実はそうなの…同胞のエルフが異界から別の世界に転移される未来を視たんだけど、それも絶対ってわけじゃない。調査中に空間転移のゲートが突如発生して、この周辺に落ちて、後は野盗に襲われて…そこから先は言わなくてもわかるわね?」

 

それを聞いた俺は、こっちを殺そうとしてきたやつとは言え、殺してしまった事に罪悪感を抱き、吐きそうになるが、今度は堪える。

 

「そうだな。間に合ってよかった」

「ふふ。ちょっと重いものを背負わせてしまったけど、私だって聖女じゃないわ。私を助けてくれてありがとう、小さな王子様…中身は小さくないけど、あの瞬間はそう思えた」

「フェーさん…」

「呼び捨てで良いって言ったでしょう。でも、貴方の中にあるどれだけ悪人でも殺したくない気持ちもわかるけど、時としてそれが必要になる場合もある。でも、貴方の気持ちも大切にしてほしい。矛盾するようだけどね。迷ってもいいから自分なりに考えて自分の心を決めてね?」

「…」

 

矛盾か…あ、やべ、お腹痛い。

俺はミリアに目配せする。

 

「杏子ちゃんも。今はカルガモの雛みたいに進示君にくっついてるけど、記憶を無くしていない貴女は自分の判断で動ける。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()今は仕方ないけど、進示君と一緒に居たいなら、自分の考えを出来るだけ持つようにしてね?全部進示君に任せるのは結構負担だし、それに…」

 

そこまで言ってフェーは俺を見る。

 

胃や腸からも血が出てたので、ミリアに魔法かけてもらうついでにお腹をマッサージしてもらってる。

この世界、少なくともこの大陸には点滴無いんだよなぁ。

それも考慮したうえでおかゆなのだろうが、美味しく食べれる。

とにかく点滴がないから食べるしか栄養摂取が出来ない。

 

「彼、今あんな状態だから、今の進示君の状態、普通の人間なら死んでもおかしくないのよ」

「進示…うん!何が正しいのかよくわからないし、進示や樹と一緒ならそれでいいと思ってたけど、そればっかじゃ駄目だよね」

「…平和に暮らすんなら一緒にいるだけでもいいかもしれないが、今はこんな状況だからな…生きるか死ぬかの世界で俺達側の常識が通用せず、地球の法や条約もないし、認知もしてないこの世界で地球の道徳や倫理観も持ってこれねぇし、通用するのは少数だろう。だが…殺しに慣れてしまうとむしろ帰れた時日常に支障が出る」

「難しいね…」

 

そもそも俺を爆弾として使おうとして召喚し、杏子を王子たちの性欲処理係に利用しようとした時点であの国に未練はない。

よくよく話を聞くと長い歴史を持ち、大体力業や略奪、圧迫外交で何とかなってしまったせいで、驕るようになったとか。

さらに異世界召還を濫用したのは、異世界な拉致被害者を取り返しにこないし、抗議も飛んでこないから面倒がなくていいのだそうだ。クソが。

加えて、良心的な妃や第一王女が諫めようとも効き目は無し。

 

国王の妾にもまともなのが何人かいたが、残りは上手いこと利用できないか、目障りだの異邦の蛮族だのという輩が多く、陰口もフェーが千里眼で【視て】いたようだ。

 

因みに、俺が病弱何なのを隠して部屋やトイレで咳き込んでいたところも視ていたらしい。

あの頃から世界中に蔓延してる転生者殺しの毒に蝕まれていたんだな。

 

ミリアのケアで少し楽になったので、食事を再開する。

現状ミリアの手持ちの食材から言って節約の必要性は低い。

食べれる時に食べないとな。点滴もないし。

 

尻も今は問題ない。

脱腸しなくてよかった。

 

「とりあえず、夜が明けてきました。時間に余裕があるとは言えないですが、進示がこうまで体調を崩した以上、昼までは寝ましょう。一応万が一の手段は残していますが、出来ればこの世界で力をつけてほしいです」

「そうね。進示君、異世界召喚は今回限りではないし、貴方の想像通り、宇宙規模の戦いになるかもしれない。私の未来視で視た限りでも、これからも貴方に厄介ごとがどんどん降りかかってくるでしょう。それも、放置すれば地球が滅びかねない案件が山ほど」

「うげ…聞きたくなかった」

「ごめんなさいね?でも、言えるうちに伝えたかったから」

「…それはどういう意味だ」

 

俺がフェーを見ると、彼女は悲しそうに目を伏せる。

 

「ごめんなさいね?女の子には秘密があるのよ」

「おい、それ、命に係わる秘密だったら笑えねぇぞ」

「…そうね。でも、大丈夫。子供の貴方に命を賭けさせるほど私も鬼じゃないわ?ただ、貴方もかなり苦労するけど」

「…俺の中身は」

「そうね。でも察してなんて言わないし、本来これは私達の世界の問題。あなたたちの世界は巻き込まれただけで、貴方も杏子ちゃんも巻き込まれただけ。貴方達が優先すべきことは、可能ならこの世界で力をつけ、何よりまず地球に帰る事。この世界の人間を助けようなんて思わなくていいわ。最悪、何が何でも生き延びてこの情報を持ち帰ってほしい。この世界だけじゃなく、宇宙規模で人攫いが起きている情報を。そうすれば貴方のお仲間やデジモン、守護天使様たちも対策を立てられる」

 

…俺も子供じゃない。道徳、倫理上、困っている人たちを助けるのが日本の基礎理念だが、死んだら意味がない(守ってない人間も多いが)。そんなことは分かってる。

死んででも意味を持たせるサムライ精神など持ち合わせていない。

 

「でも、道中貴方達の心が折れるかもしれない。いや、折れないほうが異常とも言える事態が起きる。その時はミリアに当たっていいわ」

「うお!?さりげなくキラーパス!?」

 

フェー…何気にヒドイ事言うな。

 

「ミリア、貴女もそのために準備し続けてきたのでしょう?ドМでショタコンで逆光源氏計画を立ててたな星の駄龍さん?」

「おうふ!?私の性癖まで!?」

 

俺はミリアから少しずつ距離を取る。

 

「ふぇ、フェーは汚部屋でめんどくさがりで!進示の前だからいいカッコしようとしてるだけの駄エルフでしょう!?」

「まあヒドイ。東京に紛れ込んだどこかの漫画のエルフみたいに私もゲームとかしたい!プラモも組み立てたい!お菓子食べたい!この前ガラテアからも【おやつ食べ過ぎです】って注意されて、エルフだからそう滅多なことでは体重は………………増えないでしょう!?」

 

おい、何だその間は。まあ、目視では結構細いけどな。…あれ?ちょっとお目立たないけどお肉が…お腹に…。

…そしてどっかの世界にはそんな漫画あったのか?

千里眼でどんな世界視た?

後ガラテアって誰?

 

「ガラテアは私の妹ね。ちょっと真面目な委員長タイプの性格してるけど、それなりに融通は効くし、進示君好みのエルフよ。あ、むしろお母様の方が進示君好みかしら?」

「おい、何故俺の好みを決めつける」

「進示?」

 

杏子がちょっとむくれてる。

頭を撫でてやるとすぐ機嫌が直った。

フェーの言う通り…これは記憶喪失というよりは生まれ変わり…あるいは別の人格が生えてきた?

そして聞き捨てならない単語が。

 

「お母様って…夫はどうした。お前の父だろう」

「お父様は以前に人間が起こした侵略戦争で亡くなってしまったの。何とか再興しようとしたのだけど、土地に毒を撒かれて一次産業が壊滅的になって…。元の国を捨てて、今しがた言ってた王国に居を移したのだけど、前の国に比べて急造で拵えただけに、結構不便な生活だけど、作物は育つから何とかやっていけてるの」

「そ、そうか…悪いことを聞いた」

 

彼女は笑っているが、そんな悲劇が起きても笑って切り替えないとやっていけないほど過酷なようだな。

 

ん?となると今のエルフは人間不信じゃないのか?

 

「私とミリアが仲介すれば大丈夫よ。ミリアもああ見えて色んな種族にコネがあるし」

「コネは大事ですよ?そして世の中大体根回しが大事なんです。不正行為かと思うかもしれませんが、人間って生き物はどんなに理屈が正しくても、そんな理論やルールだけで動けるのはごくごく一握りです。大体の知的生命体は感情で動きます」

「神様もあんまり変わらないわね、ミリアは混沌属性だもの、法に意味は見出してないわね」

 

…社会の闇だな。

いい人ほど搾取される。

子供にルールは守れとか言っといて自分は守らない。俺もそんな大人になってしまうのか…俺は前世は独身で生涯を終えたから子育ては実感としてわかってない。

 

 

 

「ところで、俺につけられた爆弾ってどれくらいの威力だ?」

「爆弾をつけられたものの魂の強さで威力が変動しますが、貴方が戦士として完成されていれば、七大魔王デジモンを全て消し飛ばしてもおつりが来ます」

「ファッ!?」

 

ビックリしてしまうが、抗毒剤のおかげで出血はしなかった。

 

「そして、一般人に毛が生えた程度の貴方でも…まあ、完全体なら消し飛ぶでしょう。腐っても奴らが秘術にするだけはあります」

「マジか…だとすると、腐った魔法だが、勇者のような連中を呼び出してそいつに爆弾をつければ強力になるから、連中の中では筋が通っているのか。で、異世界に渡る術がない世界から拉致っても反撃が来ないから、奴らからすれば爆弾を補充し放題なのか」

「その通りね。特に王様は異世界は人間が勝手に増えるから召喚で補充すればいいって考え方なのよ。先代の王様…今の王様の父親は人道的観点からそれを禁じ手としたのに、彼が無くなってから今の王様が禁じ手を解禁したのよ」

 

そうか…先代が生きてれば少しはマシだったのか?

 

「ただ、どのみち7世紀も異世界召喚を濫用したので、この世界の召喚が出来なくなってたはずなんです…転生者殺しの毒がある時点で、私と出会わないと、転生者の進示は生存できません」

「…だな」

 

ミリアがいなければ召喚された時点でアウトだったのか。

 

「聞けば聞くほど詰んでるな、この世界」

「【死は救い】という言葉はありますが、他の世界に迷惑をかけまくって拉致元の世界に何も還元していないこの世界が滅ぶのは必定です。仮に救う方法があったとしても、何十、何百年単位で時間をかけて取り組まなければならない問題です。しかし、その前に星の寿命が来てしまいます。寿命は後1年」

「そうなると、1年以内にジールを脱出しないといけないんだね?」

「失敗できない以上パワースポットの最終整備と、エルフの力も借りたいですね。水質調査に来たのもそれが目的ですし」

 

…魔力を集めるためと、座標をずらさないための龍脈整備か…。

 

「それから、この本を見てください」

「写真集…これ、宇宙の星などを色んな位置から撮影している?」

「私の力で何百年もかけて撮影し、データを集めました」

 

この写真の宇宙は…宇宙なんだけど、地球で視れる天体情報とは違和感がある。

 

「…おい、これはまさか」

「地球に戻ったら改めて照合してみてください。…ここは【違う】宇宙なんです」

 

…当たってほしくない推理だった。

 

現行の地球の技術じゃどうやってもこの世界を探し当てて、救助に来るのは無理だ。

 

…大天使であるはずの樹がいつまでたっても来られない要因は別にありそうだが。

 

「…頭が痛い…抗毒剤をもう少しくれ」

 

ミリアから追加の抗毒剤を受け取り、飲む。

如何やら精神的ストレスでも出血するようだ。

 

「進示君。エルフの国に戻るまでは私も同行するわ。千里眼で視てはいたけど、直にお話ししてみたいの。これまであんまり国を出ることはなかったから、肌で感じたり、耳で聞くのも新鮮で!」

 

おいおい、典型的な箱入りお姫様だったのか。

 

…まて、では

 

「ごめんなさいね?お花摘みの様子も視ちゃった。進示君ってお花摘みの時『ふんっ!』ってするのね?ほかにもいろんな癖はありそうだけど、痔になっちゃうわよ?」

「余計なところは視ないでくださいますかねぇ!?それから男はキジ撃ちだ!」

「おお!?ではフェー、進示の自家発電の様子も視てましたか!?」

「ええ、それはもう。好きな女優さんもアニメのキャラも。特に、体型的にはバランスのいい体つきの娘が好みかしら?大きすぎず小さすぎず崩れず?ポニーテールも好みみたいね?好きなシチュエーションは露天混浴かしら?まあ、シチュエーションに関しては結構守備範囲は広いみたいだけど。それから女性が男性を甘やかすあまあm…」

 

王女様の口からさらなるそんな猥談が出るとは思ってなかったため、起動に時間がかかった。

 

 

「おおい!?何人の性癖曝してんだ!?」

 

「進示、自家発電って何?(無垢な好奇心)」

「お前はまだ知らなくていい!?」

「ええーなにそれー!」

 

俺がフェーのほっぺを引っ張り、しゃべるのをやめさせたり、「恥ずかしがることないのに…」とか言いながら俺にほっぺを引っ張られるフェー。…いや、普通にハズいわ!?

ミリアは「おお!?ではどこか温泉を貸し切って混浴4Pでも…」とか言ったので、ベリィ・トゥ・バックで頭を打ち付けて黙らせた。

「おい、何で頭撃ったのに幸せそうなんだ…キモイ…」

「ありがとうございます!」

 

ミリアは倒れながらサムズアップしている。

 

「何で?」

「4Pって何?(無垢な好奇心)」

 

 

 

翌日。

 

起きてエルフの里に向かう道程で何時間歩いただろうか、夕暮れに差し掛かった時、その化け物を見た。

 

「何…コレ」

 

ペストマスクをし、全身が鎖で巻かれた奇妙な化け物がいた。

 

体中から、禍々しいオーラが出ている。大きさは成人女性くらいか。

 

その化け物は、高速移動で俺に近づき、

 

「進示っ!」

 

ミリアが魔法で化け物を迎撃しようとするが。

 

「!」

 

俺はよけられないと判断し、咄嗟にクロスガードをした。

 

俺は鎖の化け物の腕の振り回しを食らい、吹き飛んでしまう。

 

「…ま、魔法が発動しない!?」

 

何だと!?

 

「…ま、まさか…」

 

フェーが何やら震えているが、何だ?

 

「だったら…」

 

ミリアからは、いずれデジヴァイスなしで進化できるように言われているが、今はデジヴァイスに頼るしかない。

 

デジヴァイスにカードを通すが…。

 

「し、進示!進化しない!」

 

これもダメか!?デジヴァイスの画面は…ノイズだと!?

 

「た、大変です!亜空間倉庫も開きません!魔力の発動もデジモンを運用するエネルギーも阻害されます!…身体強化も出来ません!」

「ダメ!メタルキャノンも撃てないよ!」

 

マジか!?能力全部封じられた!?…八方塞がりか…!あのオーラがエネルギーの発動を阻害しているのか…ということは…。

 

「がふっ!!」

 

俺は喀血した。

 

転生者殺しの毒のケアも出来ないということだ。

このメンツに使い手はいないが、恐らくデジソウルもダメだろう。

 

「!」

 

鎖の化け物が腕を下から振り上げるが、俺は後ろに転がり回避する。

 

「これならどうだ!」

 

俺はS&Wをホルスターから抜き、発砲!

 

当たったのは、右足だが、着弾地点から血が噴き出る。ん!?

 

「質量武器は効くのか!?いや、使えるのか!?」

 

「待って!もしかしたらあれは!」

 

フェーが俺達の攻撃に待ったをかけるが、

 

「か、こ、…ころして…」

 

ペストマスクの奥の唇から、殺しを嘆願される。

…何だ!?

 

「ていっ!」

 

杏子のコルトパイソンが、火を噴き、マスクの上部に当たる。

俺と違い、転がりながらの射撃ではなく、しっかり構えたからかマスクがなければヘッドショットだったろう。

 

バキィン!と、マスクがはじけ飛び、その顔を見る。

 

金髪碧眼、フェーが順調に年を取れば、そうなるだろう顔つき、いや、女子大生でも通用しそうだが顔には酷い火傷の跡がある。

 

「お、お母様…!」

「フーディエ…」

 

お母様だと!?

 

じゃあ、拉致されたエルフの中には…。

 

「こ、…ころし…て…!でき…くば…にげ…さい!」

 

そう言いながらも、今度はフェーに向かって高速で接近し、フェーを蹴り上げる。

 

「ぐあ!」

 

あ、フェーの腹部から嫌な音が…アバラが逝ったか!?

フェーが転がった先は崖だ!不味いかも。

魔法が使えない現状では治療が出来ない。

 

だが、言葉と裏腹の行動…彼女は体の制御が効かないのか!?

 

「…ファントムペイン…」

 

 

え!?ソレ、リリスモンの技!?

 

「進示!!」

 

咄嗟にミリアが俺を投げ飛ばし、フェーにぶつける。

 

ぶつけられたフェーは反応が出来ず、俺ごと崖から落ちてしまう。

 

ミリアは、彼女が吐き出した吐息を俺の代わりに受けてしまう。

ファントムペインの呪い受けると体の末端からデータが消失し、死してなお、その痛みに苦しむといわれているが、大丈夫か!?

 

 

「彼女から離れれば魔法が使えます!!体勢を立て直してください!私と杏子は自分で何とかします!!」

 

なるほど、そう言う事ね。

 

抗毒剤もいくつかあるし、暫くはしのげるな。

ただ、抗毒剤は一度にたくさん調合できないらしいので、無駄遣いは出来ない。

 

「よく落ちるな…」

 

突然、抱きしめられる感覚がして顔を向けると、アバラが折れて痛いはずのフェーが俺を抱きしめていると分かった。

 

「大丈夫、エルフは人間より頑丈よ。能力が使えなくてもね」

 

そうして俺とフェーは川に落ちた。

 

「が!?」

 

川は思ったより浅く、フェーは咄嗟に俺の下敷きになって俺が地面に激突しないようにしてくれたが、背中を打ったようだ。

 

「…フェー…無茶するなぁ…」

 

外見小学生の俺はフェーより体が小さいため、やむなく自分が先に上がり、その後で川岸からフェーを引っ張り上げる。

 

「…体の魔力が息を吹き返した…どうやらフーディエさんから離れれば力は使えるようになるようだ…ゲホッ!ゲホッ!」

 

…俺は血を吐きながら抗毒剤を飲む。

 

「…早く合流したいが…フェーをこのまま放置はできないな…それに、俺も結構きつい…」

 

俺は体を強化し、フェーをお姫様抱っこすると、手近な洞窟を探す。

 

如何やら背中を打った時に気絶したようだ。

 

「…先が思いやられる…」

 

 

 

 

 

 

 

第三視点

 

 

 

 

「ミリア!!」

「心配いりませんよ…」

 

 

暗黒の息を振り払い、出てきたのは、

 

普段の残念な美人を一切思わせない凶悪な目つきに、瞳孔が龍のごとく縦に開く。

 

腕と足を赤い龍の形に変化させ、背中から龍の翼を生やし、犬歯が長くなった凶悪なフォルム。

 

「フーディエ…()には守るものが出来た。汝を救いたいが…救えずとも恨むなよ?」

 

一人称と雰囲気が変化したミリアに戸惑う杏子。

 

「50%の姿でも力が大きく抑えられてしまうのか。不便よな、そのオーラのせいか…」

 

フーディエから溢れるオーラの分析を続ける。

 

「杏子、呆けるのは後だ。進示とフェーとの合流を優先だ」

「う、うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ1

 

 

進示視点。

 

進示の過去、ジールの戦いを映像再現で見せる前のお話

 

「…全く、俺のせいで起きた始末書ならまだ納得できるが、お前らが起こした案件の始末書をもう何百枚何千枚も書かされてると思うといい加減脳の血管がキレそうだ。一般にはまだバレてないとは言え、公安や政府の説得したり頭下げたりするこっちの身にもなってほしいな…あ!?」

 

そう、今俺はハジメやユエやシアが起こした案件の始末書を書いている。

日本語がまだ完璧ではない(もうかけるだろと言いたい)のを理由に帰還者や異世界人を監督する俺にお鉢が回ってきてハジメには自分で書かせてるがもう何度誤って頭払わせて自力修繕とかしかぞえてない

 

 

 

 

「進示、モノローグを略しすぎです。頭のおかしい文章になってます!?ほら、また胃から血が出てますよ!?頭払うってどういう意味ですか!?」

 

 

 

 

おっと、頭がおかしいことになってた。ミリアからもらった胃薬を飲みつつ続きを書く。

 

俺にトータスの魔法は効きづらいため、普段はミリアの調合する薬が手放せない。

魔法使えなくなったのに、色んな事ができるな。彼女がいてくれなかったら俺は何回死んだだろう。

 

 

始末書は流石にハジメには自分で書かせてるが。

 

表向き平和に見えても、今の俺に、いや、()()()が視えているものに休養が許される状態ではない。

ざっくり言えば「死にたくなければ働け」って奴だ。

 

俺達や公安の裏理事が観測した限りでは、ハイネッツが俺達を粛正しに地球に来るまで後3年は無い。

 

いや、俺達を始末するだけならばすぐ出来なくもないだろうに、奴ら、足場を固めてるらしい。

 

ま、それもそうか。樹についていた【アレ】を取り除いたものの、そこから情報が洩れていたようで、こちらの戦力が少なくないことを知られてしまった。

 

と、言うことはだ。裏で糸を引いているのは少なくとも樹より格上の神であるという事。

でなければ樹に気づかれることなくバックドアを仕込む事は出来ない。

 

そして、7年ほど前に見た夢の中の俺が語っていた通り、デジタルワールド・イリアスが向こうにあることが分かった。

 

 

 

引退した最高神が天使になってまで下界に降りてくるのも納得だ。

人間は勿論並大抵の神では手に負えない案件だ。

シュクリスは転生者にくっついていないと下界に居られないハンデがあるが、それを利用して様々な布石を打ち続けていたのか。

 

 

 

デジモンを護るためにも政府や公安との関係は悪化させられない。

理由はまた別の機会にするが、サブカルチャーも護らなきやいけないし。

異世界人やデジモンの区別がつかない民衆からいらん風評をつけられれば、世界規模で否定されるだろう。

そうなればデジモンを討伐しようと躍起になる。出来るかどうかは別だが。

 

そして、

 

因みに半年くらい前に新たな錬成品のテストで発電所の電気をごっそり持ってったハジメには流石に拳骨を落とした。

小さい案件なら説教だけで済ませるのだが、今回は国民の生活に支障が出てしまった。

 

あと、個人的案件だが、たまに天之河の財布で焼き肉を食ってるらしい。

昔散々迷惑をかけられた当てつけなのはわかるが、限度を考えろ。思わぬ形でしっぺ返しが来るぞ。

 

で、始末書を肩代わりさせることに慣れたこいつらは。

 

「地球の物は脆すぎですぅ!」

「ナンパしてくる方が悪い」

「地球に来る前言ったよなぁ!?警察や自衛隊の手に負えない相手はともかく民間人相手に暴力沙汰にするなと!?天之河の方がまだ面倒見やすいわ!!」

「「ゆ、勇者(笑)以下…!?」」

 

召喚前の地球やトータスでさんざん問題を起こした天之河だが、現実を受け入れてからは逆にこっちが心配になるくらい自虐的になってきているのだ。

トータスでも過労死が心配になるレベルの事をしてるらしい。

俺も帰還前は内心で勇者(笑)と思ってしまった事はあるが、現在は叱るのと心配する奴が入れ替わってるような…気のせいか?

 

そして、魔王ハジメに拳骨付きで説教できる数少ない存在の俺に他の生徒から尊敬されたり、公安の服部さんからも半ば「君だけが頼りだ!」と泣きつかれている。

 

あと、今は警察庁に居ないが、ユエとの口喧嘩で「ブンカイッ!」してしまった時に始末書の書き方を教えた時には頭を痛めたし、悪ガキ軍団もまだ手がかかる。

 

因みに進示は帰還者の生徒のカウンセリングなどのケアもほぼ無償で受け持っているため(女生徒は杏子やゼロが対応してくれている)とにかく休む時間が取れない。

 

ここでクラスメイトのケアを怠れば、ストレスをためた連中がどんな問題を起こすかわからないからだ。

 

因みにユエとシアは地球に来てからはすっかり立場が逆転。ユエはニート姫になり、シアも問題を起こさないわけではないが、ご近所のあいさつ回りなどはしっかりしてるため、シアのほうがマシなのだ。

それでもシュタイフで公道を爆走しないでほしい。

 

因みに、ミレディもミレディで、問題は起こしてるのだが、あってもお金絡みで、暴力沙汰の問題は一切起こしてない。

 

 

 

「発言の撤回を要求しますぅ!!」

「…いくら進示でも言ってはいけない事である」

 

そういってシアはさらにバージョンアップしたドリュッケンを構え(ヴィレドリュッケンとか言ったか?)、ユエは5色の龍を召喚した。

とは言え、こんな問題児でもこれから迫ってるハイネッツどもの相手の戦力なので切る事は出来ない。

こいつらの怒りが収まるまでいなすしかない。

 

「あ!バカ!?」

 

ユエの魔法、五天龍が警察庁やその周辺を蹂躙しかけたため、俺が全力で被害が出ないように、警察庁とその周辺を防御魔法で固める。

壊しても元に戻せばいいという発想はやめてほしい。

 

因みにハジメの電力かっぱらいはまだマシな方である。いや、いけないのだが。

 

何とか防ぎ切ったものの、侮辱された発言の怒りが収まらないのか、シアはさらにハンマーを振りかざし、ユエはさらに魔法の龍を出現させる。

 

 

 

 

 

ぶちっ!

 

 

 

ここからさきは、記憶がない。

 

起きた後にミリアと共有した記録を見る限りでは、俺が立ったまま気絶した直後にシアのハンマーが俺の頭を直撃するところに、瞬時にグレイドモンになったミリアがハンマーを受け止める。

 

ユエもシアも何故片手で止められるはずの俺の代わりにミリアが止めたのかわからなかったが、俺と魂を共有している彼女は俺の状態を正確に知り尽くしていた。

 

同期が途切れる直前で俺がどこの神経をやってしまったかが分かったミリアは、慌てて警察病院に搬送するための救急車を呼ぶ。

 

「く、くも膜下出血ーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺こと、榊原進示、くも膜下出血で入院。

一命は取り留めたし、大慌てで飛んできたゼロのおかげで翌日退院したが、これには全員肝を冷やしたらしく、問題児軍団はしばらく大人しくなったそうな。

なお、問題を起こした連中は漏れなくゼロに【お仕置き】されてしまった。

さらにシュクリスの地獄の修行コースが追加されてしまったのである。

 

そして、ゼロのおかげで一応完治はしてるが、流石にこの件で俺は2ヶ月仕事禁止を言い渡された。

更に緊急時以外、1年はストレスフルの仕事も禁じられた。

 

 

関原達が差し入れてくれた見舞いの品が豪華で泣きそうになった。

 

とは言え、これ以降は流石に反省したのか、問題児軍団が問題を起こす回数は激減した。

 

…のだが、地球では流石に自重するようになったが、トータス含めた異世界ではっちゃけるようになったのだ。

 

ハジメは迷宮のトラップの魔改造だとかでまだ大人しい方。

 

ユエは異世界で股間スマッシュが更に酷くなってしまったので、スマッシュゴッデスの名は安泰だろう。だが、ストレスを別の趣味とかで自分で消化するにはまだ時間がかかりそうだ。

 

シアは…すっかり丸くなってしまった。戦うときは戦えるのだが、一番最初に出会った謙虚さが戻ってきたのである。これが日常でプラスに働くか、いざ戦いでマイナスになってしまうかはわからない。

 

シュクリスは「進示が死んでまた138億年再走は流石に嫌だな」と意味深なことを言ってたが…え?再走ってそういう事?

 

 

 

 

 

 

二ヶ月後。自宅の自室のベッドの上。

 

くも膜下出血で倒れて二ケ月。

仕事はまだフルで出来ないが、そこそこ再開、戦闘訓練もリハビリ用のメニューを開始し始めている。

トータスの再生魔法や精神面は魂魄魔法で治せば?と何人かから聞かれたが、仮に俺にトータスの魔法が効きやすかったとしても、それは最後の手段。

再生魔法で物質的なものが治せても時間のズレはまた別だ。

 

人体も惑星も再生魔法で時間をずらしたら、惑星の魂もメンテナンスも必要になる。

 

トータスのライセン大迷宮でミレディが仲間になってすぐ、俺はミレディの体を治す段階で肉体と魂にズレがあると、寿命が縮まり、人体であれば細胞破壊のリスクがあると踏んでいた。

 

ミレディがゴーレムに魂を移して何千年も生きながらえていたのは奇跡に等しい。

魂魄魔法でゴーレムに移植してたとしても、1000以上ノーメンテだったという事だ。

俺がミレディにやってたことはいわゆる大掛かりなメンテナンスだ。

 

その再生魔法も魂魄魔法も魔法が使えない状況に陥ったら解除されてその瞬間、肉体と魂のズレで肉体が自己崩壊を起こさない保証はないのだ。

 

タイムトラベラーのゼロも定期的に診断している。

 

 

もっとも、俺が地球のメンテをしているせいか、地球の意思そのものが話しかけてきた事があった。

 

『いや~、あんさんに面倒ごと背負わせてすまへんなぁ。メンテの例にあんさん好みの美女と運命で巡り合うようにしたろか?』

『結構だ………お前の本音は?』

『あんさん200年もこっちの世界におられへんのやろ!?この前死にかけたし!?だったらせめてもっと種ばらまいてほしいねん!!ワイのメンテのために!!』

『整備士がいなくなると困るのは分かった。だが、子供が増えすぎても育児キャパシティは有限だし、お前が考えるほど単純じゃない。それに、才能ある子供が優秀に育つとは限らないのは歴史が証明してるだろう』

『そこを何とか…』

『地球の意思よ、無理強いするな』

『あ、破壊神様…』

『大雑把すぎる貴様が運命介入したら、どんな第三次…もとい、大惨事が起きるかわからん』

『(コマン〇ーを見たのか…)』

『成り行きに任せろ。そも、惑星とて死んでも転生する。私人としてはともかく、公人として言っておく。…あまり受け入れられないかもしれないが一つの魂が一つの世界に永く留まるのは本来あまりよろしいことではないのだ』

『…わかりやした。破壊神様。あんたさんは繰り返される世界を止めるために来たんやったな』

『…そうだ』

『シュクリス。理由はどうあれお前が前世の俺の命を奪ったのは間違いない…だからこそ、俺は恨むのではなく、責任を取ってもらう。お前が嫌だと言っても次の転生、そのまた次の転生も付き合ってもらうぞ。子の魂が擦り切れて完全消滅するその時まで』

『無論だ。それがお前の求める償いなら謹んで受けよう』

『俺に殺されてもいいと思ったらしいが、そんな罰は与えない。安易な死は逃げだ。安易に殺す事も逃げだ。俺達が言っても説得力はないが、それでもギリギリまで考え、殺っちまったら、その後悔を抱える』

『なるほど、仕方なかったとはいえ、トータスでした殺人もその罪悪感を抱えるというのか』

『コラテラルダメージ。口にするのは便利だが、その考えに染まりすぎると感覚がマヒする。俺は戦いより日常が好きなんだから、かといって躊躇すればこっちが殺される』

『ゲームだったり、動画やアニメを漁ったりか…もし辛ければ汚れ役は私が負ってやる』

『…何か世界の仕組み的にそれは出来なさそうな気がする』

『お前の負担を軽くするために、私やトレードがいる。こっちの都合でそうそう手は貸せなかったが、これからは違う。お前の女たちや仲間のデジモンにも頼るがいい…まあ、今回のくも膜下騒ぎは公安の無茶ぶりや、マスコミやソウルシスターズ(過激派)の対応、問題児軍団の感覚をなかなか地球に戻せなかったり、馴染めなかったり、PTSDが発症した生徒のケアで夜中に呼び出されたり…私は新参ということもあって、顔通しから始めないといけなかったしな。だが、断る勇気も必要だぞ?』

『それはそうだが、地球が戦場になった場合、精神不安定の生徒が爆弾になる可能性があるし、親族も心労から何をするかわかんないし』

『進示が幼児退行してる間にあった公安から言伝だ。節度は守ってほしいが、今後は多少手荒な対応も多めに見るとのことだ。あと、スケジュールがキツイ場合は怪異退治断ってもいいそうだ。『流石に甘えすぎた』とさ』

『ほう?異能力者の育成も目途が立ったか?』

『いや、パワードスーツだ。関原のような高性能といかないが、量産型を造れる目途が立ったらしい。デジモンテイマーに関しては、人間は大人になると心が複雑になって、パートナーの全面信頼が難しくなる故、数はそういないが、自衛隊の方で公安の裏理事以外で究極体の育成に初めて成功したようだ。ガンドラモンらしい』

『それはまたロマンがあるデジモンだ。ハジメ好みじゃないか?』

『…あの、ワイ、もうお役御免?無視?』

 

「父さん。暇さえあれば思考するのは療養が必要な今は悪癖です」

「そうだな。スマン」

 

「ああ…こんな問題児軍団を許してしまう俺も甘いのだろうか」

 

純粋な地球組では悪ガキどもがまだ少し手がかかるが、概ねいい方向に行ってる。

 

「甘いですよ、父さん…とはいえ、今回は流石に堪えたようですね…しかし、あの問題児達くらい振り切れてないとこれから先の災害を乗り越える事が出来ないのもまた事実。ユエ達に抜けられた場合、地球人類の全滅する確率がおよそ40%以上アップする計算です」

 

とは言え、私も人の事は言えませんと言って、ゼロは過去の俺に対する仕打ちを謝罪する。

ハジメたちが始末書と罰金で許されてるのは、反社会勢力が問題起こした時の制圧と、人間達の手に負えない怪異退治の功績があるからだ。それがなければ討伐対象になってしまってもおかしくはない。

 

だが、今回俺が倒れたことで、流石に思うところがあったのか、すっかり問題が無くなったのである。

…ていうか俺にトータスの魔法が効きにくい以上、ゼロがいなかったら死んでなかったか!?

 

「いえ、その心臓の力なら、血管さえ塞がれば後は自力で回復できたかと」

 

ユエの再生能力には劣るが、なかなか便利である。とはいえ、ミリアの心臓に頼りすぎるのもいつか何かの弊害が来そうで怖い。

だが、ミリアの心臓がなく、トータスの魔法が効きづらい俺が普通の人間のままだったら再起不能もありえたという。

 

樹は今回の俺を回復できるかは5分5分だったし、シュクリスは破壊神なので、くも膜下出血は対応できない。ウイルスならウイルスだけ破壊する事も出来るのだが。

 

 

 

「すみません、万が一を考え、裏理事に根回ししてたことが裏目に出ました。フェーが観測した本来の歴史の公安にそこまで力はなかったので。別格なのは裏理事だけとはいえ、問題を無かったことにするのは難しいです」

「ああ…そうなると、そっちの歴史では何かあっても隠蔽は容易なのか」

 

とは言え、それは悪いことではない。

何故なら、俺達が地球を開ければ、地球は無防備になるからだ。

裏理事はゼロの個人的な知り合いらしいが、デジモンテイマーとして超究極体まで育てられたのは、転生者、異世界関係者を除けば、現状彼だけだろう。

文字通り【別格】だ。

しかし、それが原因で俺があちこち飛び回って関係各所に頭を下げる事が多くなってしまった。

 

だが、裏理事を診察した限り、かなり体を酷使しているようだ。

後何年も現役ではいられないだろう。

代わりを探そうにも練兵難しく、自衛隊もあまり成果はよろしくないらしい。

完全体までなら何とかなるが、究極体までは難しいようだ。

 

「反省出来るだけまだマシだ。元から人類とはそういうものだ」

「父さん…もう諦めているのですね」

「少し違う。折り合いをつけ続けるだ」

 

大なり小なり全人類、神ですら問題児軍団と言ってもいい。

問題を起こさなければ平和かもしれないが、それは思考停止もしてしまうということだ。

 

人間とはつまり忘れる生き物だ。

 

何故忘れるか?

 

決まっている。生きるため、そして新しい事に適応するためだ。

メモを始めとする記録は覚えるために記すのではない。忘れるために記すのだ。

 

 

何故か?決まっている。人間の記憶(キャパシティ)には限界があるからだ。

 

戦争が長らく起きていない日本では戦争の仕方を忘れ、風化し、侵略を受けても対応しきれない脆弱な状態になってしまう。

異世界召喚は流石に俺達以外誰も対応できない案件なので仕方ないが、それにしても危機意識を持ってるのは政府や警察、自衛隊でもごく一握りである。

 

服部さんの苦労がわかる。

服部さんもプロではあるが、流石に積もり積もったストレスでつい本音が出たらしい。責めはしない。

 

自分と世の中、秩序と混沌。

 

永遠に続く戦争もないが永遠に続く平和もない。

 

人類とは戦争の歴史だし、そもそも争いのない世界を作るには、人類は飲まず食わずで生存出来る時間が短すぎるのだ。

 

それに、気分の問題で殺し殺されも知的生命体の特権だ。

狩猟動物は気分で殺さない。

 

「今回の件でハジメ達の牙は少し丸くなった。地球で過ごすにはプラスだが…」

「もう数年以内に地球に来るクズども相手に仕置きの件も含めて、叩き込んだことがマイナスに作用してしまわないかですね。まあ甘さは通用しないでしょうが」

「何をやっても何かは弊害出るのかよ…」

 

何しろ地球含めてよその星の人間を拉致するのに一切躊躇しない、こっちが宇宙航行技術がないので文句を言う事も出来ないのをいいことに、人を攫い続けている。

 

しかし、それが無ければ我が愛娘が誕生しなかった。

皮肉が効きすぎて笑えねぇ…。

 

「こうなっては仕方ありません。父さんは大雑把な方針だけ考えて提示してください。細かい部分は全て我々で詰めます」

「だが…」

「トータス召喚前から過労死同然のレベルの仕事をしていて、帰還後さらに異世界組や問題児軍団の面倒に、帰還者や親族のメンタルケアやマスコミの対応など正気ですか?これを機に人に任せることも覚えてください。訓練は私や大天使シュクリスが考えたメニュー以外は禁止です。日々の積み重ねを重視したメニューです。歯がゆいでしょうが、病み上がりなのでこれで我慢して下さい」

 

帰還した生徒の何名かは未だにPТSDが完治せず、夜中に飛び起きたり、その反動で親族にケガをさせてしまったり(進示やゼロ、ハジメ、香織、愛子達が対応。ユエも少なからず手を貸している)奇声を上げたりすすり泣いたり、異世界に行ったことがない人達では対応が難しい問題ということもあり、大部分は複数回異世界召喚を食らった進示や杏子が生徒たちのケアをすることになった。

帰還者で定期的に集いパーティーをしてるのはPТSD患者の生徒のケアも兼ねている。

 

なお、クラスメイトではない他の転生者達では接点があまりないため、進示がやる仕事を変わったりしている。

 

「…わかった。暫く雑務からは離脱する…やることがないな。この際時間が取れなくてキャンセルしたみんなとデートするか…積みゲーでも消化するか?…いや、俺の記憶から過去の映像を編集するか?」

「父さん…それは…」

 

ゼロは心配そうな目で俺を見る。

 

「大丈夫。また泣いちゃうかもしれないけど、泣くことで感情を吐き出せるからさ。それに、教訓も兼ねてる。それに俺の過去はいつか話すつもりだったしいい機会だ」

「…そうですか。ならば止めません。異常が起きた場合はすぐ止めますが」

「わかったよ」

 

こうして俺達の過去語りが始まったのである。

 

 

 

 

おまけ2

 

トータス召喚組やトータス組、一部のクラスメイトの親族に過去映像を見せて小休止している間、俺はとある患者のレポートを見ている。

 

人間と同じ療法が通じるとは限らないので、生体データをチェックしながらである。

 

 

「進示、それ、何のレポート?」

 

優花がながら読みしてた俺の持ってる書類に目を向けた。

 

「人のケツの穴に起きうる症状…つまり、痔だ」

「痔!?」

 

トータスの医学では痔に関してはあまり進んでいないが、症状緩和の軟膏はあるようだ。

それと、飲み薬か。

 

最悪魔法で直してしまう場合もあるようだが。

 

「そう言えば父さんは前世は痔に苦しめられたとか」

「何で知ってるんだ…」

 

魂が繋がってないはずなのに、ゼロは何で俺の個人情報を知ってるんだ。

 

「何故でしょうね?それはともかく、私も様々な世界を見てきましたが、私が知る限りトイレ事情が最も清潔なのはこの世界、この時代の日本でしょう」

「ハイネッツも昔は温水を使ったウォシュレットがあったらしいが廃止されてて、あの星に居た時は専用の薬液を使ってお尻を拭いていたな。まあ、もう木っ端みじんになった星だが」

「進示君、それはどうしてだい?」

 

ハジメの父である愁さんが質問をしてくる。

 

ハイネッツのトイレ用薬液にはお尻を洗っても爛れないための成分があるのだ。多分地球ではまだ確立してないもの。

 

ウォシュレットの要因を含めても清潔な要因になってる日本では当たり前だが、既に古き時代の遺物になってたとしたら驚くよな。

そして、外国人が日本に着てウォシュレットにハマる人がいてもなかなか普及しない理由がある。

 

俺が口を開くより先にゼロが答えた。

 

「人の肛門周りには多少汚れてても、バイ菌などに強い、まあ、どうとでもなる仕組みがあるんですよ。ですが、水、特に温水で過剰に洗ってしまうと、その仕組みが崩れて爛れてしまうことがあるんです…赤く腫れたり。ぶっちゃけデジモンも似たようなことが起こりうるんです」

 

それは言外に自分もそうなった事があるような言い方だった。

 

若い女性であれば気恥ずかしくてできない話ではあるのだが、ゼロは…何というか若いというには常軌を逸した年月生きてて達観しすぎているようだ。

 

「…年寄りと思わなかっただけ良しとしましょう。ともかく、痔は自然治癒はしませんし、発覚が遅れると、10日は入院しないといけないような事案になりえますので、早めの受診を推奨します。早期発見が出来れば手術になっても日帰りできるケースも多いですし」

 

そういうと、ゼロが薬液が入った瓶を取り出した。

 

「今、国と医学会の審査を受けていますが、通れば我が社、海原の正式な商品になります。これは試験用のものですね。痔を治す薬ではありませんのであしからず。日頃のケア用と思ってください。トイレットペーパーに浸して拭くだけですし、水に流しても害はありません。審査が通るまで渡せませんが、まあ、まず通るでしょう」

 

まあ、ぶっちゃけ事情を知らなければよその惑星の技術鹵獲とは思うまい。

 

 

「で、何故そんなレポートを纏めてるの?」

「ユエ、仲間のお前と言えど…患者の個人情報もあるから黙秘する(魂が繋がってる杏子とミリア、俺の行動を逐一把握してるゼロ、心を読めるシュクリスには隠しようがないが…ティオがウォシュレットに感銘を受けて…調子に乗って洗いすぎたんだよな…)」

 

 

 

 

 

おまけ3

 

「おいおいマジか、魔法も使えないデジモンの進化も出来ない」

「ああ、お前のドンナーを始めとした武器も使えないだろうな…ユエも恐らく【自動再生】も無力化させられる」

 

過去映像を視ていたハジメの感想である。

 

「神力も大幅にパワーダウンするのが厄介なのさ」

 

 

シュクリスも話に乗る。

…え、神の力も封じるの?

 

「完璧ではないがな。何故進示が魔法を使わない純粋な科学にも力を入れているか理解したか?」

「ああ…数字を見る限りじゃ、ライセン大渓谷以上だ」

「あそこ以上か~」

 

「それに加えて、私を改造した時に使ったデジモンはリリスモンなの」

 

過去映像鑑賞会、途中参加のフーディエが補足する。

「だからファントムペインが出来たんだな」

 

それにしても

 

「おい!なんだミリアのあの姿!?ただのエロドラゴンじゃなかったのか!?トータスじゃあの姿一回も見せてないよな!?」

「自分の体をデジモンに改造してあの姿にはなれないんですよ、ハジメ君。いつかはなれるようにしますが」

 

「それにしても…進示につけられた爆弾がえげつないわね」

「ミリアがいなかったらもうあの時点で進示は…」

 

ぶつぶつと過去映像に対して思ったことを口にする優花と雫。

 

 

 

それと過去の猥談は上手くカットしたが、ゼロが自分のスマホの映像を俺に見せつけてくる。

 

「ゼロ…これは温泉?」

「ええ、私の会社の息がかかった温泉です。貸切って療養(意味深)しましょう?父さん」

 

…何で俺の性癖知ってるんだ…いや、フェーから聞いたか?

 

「あの猥談を直接聞いてました。過去の映像ではまだミリア母さんが持ってますが私の黒龍杖と貴方の赤龍杖は対になっています。…赤龍杖を通じて直接様子を探っていました」

「やっぱりぃ!!?」

 

父より年上の娘は強し。

 

 

 

 

 

 




あとがき


Q、おまけのユエとシア、よく殺されなかったね?
A、それまで積み上げた信頼と実績、この先の戦力と異世界カルチャーに馴染む為に長い目で見ていましたが、この時期はまだ地球に馴染んでいないこともあり、更生しようとしている人物が複数いるのにこいつらが更生できない道理はないという進示の方針もあり、首の皮1枚繋がった。
但し、公安の裏理事には今回の件はバレてしまったため、暫く監視がつくことになった。
事件からひと月、信頼回復は順調である(但し、ユエとシアの体感時間はお仕置きにより1年だが、この件で二人は原作より1年分余計に年を取った)。

但し、ハジメは自主的に始末書を書いていたことと、事件を起こした後のフォローは普段からそれなりにしていたため、比較的軽い罰で済んだ。

進示はトータスに居た時は勇者に「もうヤダコイツ」思っていたが、その対象がユエとシアになるとは思ってなかった。
と、言うのも、他の異世界出身組が地球の常識にすんなり馴染んでいたため(問題があるとすれば金銭を使いすぎるのと、他人をおちょくる癖があるミレディだが、お金の件は数回の注意で治ったため、比較的手がかからなかった)、異世界と地球の感覚のカルチャーショック問題に直面することになった。

原作ではトータスの件が初めての異世界召喚だったが、このSSでは異世界召喚は多く前例があったため、一部の人間には隠蔽できなかった。

加えて、進示が異世界組と帰還者の監督責任者(公安の裏理事は愛子では力不足と見抜いていた)にされてしまったため、問題を起こすたびに胃から血が出ていた。

しかし、ユエとシアを光輝より面倒見づらいと発言したため、ユエとシアが激怒。
日々のストレスがあったとは言え、回復した後は発言が迂闊だったかと、反省した進示。「そういうところが甘いんですよ!父さん!」

なお、くも膜下出血自体はゼロのおかげですぐに回復したが、精神面まではそうはいかず、数日間は一人でトイレに行けないほど幼児退行してしまったと聞いて死にたくなった進示である。この年でお締めをするとは思わなかった。死にたい。




Q、公安はよく監視だけで済ますね?
A、ジール帰還直後の進示と杏子に対しやらかしたことに眼を瞑ってもらっていることと、地球の防衛力を考慮し、妥協点を見出す。ゼロの根回しもあったが。
公安相手にゼロが説得とは皮肉が効き過ぎている。
とは言え、このまま改善しない場合は物騒な手段も考えていた。
現在信頼回復は上手くいっている。

大人しい部類と思われた雫や優花も一度だけやらかしている。
詳しくは割愛するが、ソウルシスターズ(過激派)の対応や、しつこいマスコミの無神経な質問を浴びせられ続けた結果である。
進示はこの時別件でやらかした香織と一緒にこの二人にも始末書の書き方を教える。





公安の裏理事。

公安のボスの事。
この世界のオリキャラでいかついが厳しさと優しさを併せ持つ愛国者(それはそれとして締める時は締める)。ゼロが打った布石の一つ。
神童竜兵も一枚嚙んでる。
他の世界の価値観にも寛容。
生身の戦闘能力は60近い年齢もあってか普通の警官に毛が生えた程度。
ハジメたちのトータス帰還直後、デジモンテイマーとしてルールありの勝負をしてハジメとユエをノックアウトした。
対戦直前に進示から「せいぜい揉まれて来い、大人を甘く見ない方がいいぞ?特に本物の傑物は」と言われたことが耳から離れないハジメとユエ。
何でもありなら自分たちが勝つとは言え、この敗北はハジメ組に大きな影響を与える。

とは言え、流石に2回目以降はハジメ達が勝ち越しているが、一度きりとは言え、負けたのはかなり悔しかったらしい。

宇宙からの侵略情報に精通している数少ない人物。
苦労性の進示の事を心配しているが、立場上全面的な味方になれないことも若干歯がゆく感じているが、進示を支える人が増えたことでその心配は減ったかと思いきやぶっ倒れたのでまた心配。

デジモンはゼロからもらったもので、進示と杏子とミリアとゼロが特殊な親子であることを知っている。
その最終進化は日本という国を愛する彼らしい進化を辿った。

いざ、決戦の時は自分達が最終防衛ラインになる覚悟をしている。

ハジメからの評価はメルド団長レベルで敬意を払われている。

対戦自体はハジメ達の増長を危惧した進示からの提案である。
この事もあり、トータス帰還組は原作より慢心が減ってる。
多忙な立場ではあるが、いざと言うときのために、定期的にテイマーとして模擬戦をしている。
修業の時間がなかなか取れないため、伸び悩んでるのが悩み。

体を酷使しているため、決戦が終わったら引退しようかと思ってる。

他の公安や自衛隊のデジモンテイマーの練兵の難しさにどうにかならないものかと感じてるが、デジモンも感情を持つ以上、地道な信頼関係構築とと修練以外ないかと思っている。楽してもしっぺ返しが来そうだと勘づいている。




ユエ達へのお仕置き。

今回の件は進示の嫁たちも怒ったが、戦闘訓練の地獄だけでは大した罰にならないと思ってどうしたものかと思案したが、こめかみを引くつかせた樹が、ユエには最も苦手な分野である花嫁修業を徹底的に叩き込んだ。シアにも世の中の繊細さに対応できるメニューを叩き込む。
シアには例のコーヒーを流し込んだ。

樹はお仕置きだけでなく、ハジメの嫁に対する気遣いや異世界組の社会への適応などいろいろ先を見据えた上での飴と鞭を与えた。ハジメにも気を使ったのである。樹は影の功労者。

これにより、ユエは原作よりそれなりに花嫁スキルが上がっている。
ハジメは樹に感謝し、礼品を送った。

戦闘訓練に関しては、途中から話を聞きつけたハジメや鈴谷ら龍太郎やら転生者達やら、戦う気のあるメンバーの殆どが参加し、かなり腕を上げる…え、遠藤?
忘れてませんとも!

なお、進示は彼らの特訓を見ながらリハビリ用のトレーニングメニューをこなすが、かえってパワーアップしてしまった。
これに戦慄するハジメ達だが、ゼロやシュクリスは休養不足がパワーアップを阻害していたと分析。休むことも大切だった。


悪ガキって誰?
クラスメイトの問題児達。誰かは…今は語らずにおこう。

Q、何で進示を魔法ですぐに治さず警察病院に搬送したの?

A、魔法で治しても魂魄魔法の精神治療もその場しのぎにしかならないため、無理矢理でも休みを取らせるため。

Q地球の意思
A本作オリジナル。形はない概念的なもの。自分の寿命を回復できないまでもメンテ出来る進示に目をつけた模様。神には逆らえないが、神側も地球の意思に原則不干渉である。基本成り行き任せ。


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本編:トータス編
第1話 記憶を無くした探偵騎士


入りきらないタグは気づき次第、あらすじの方に追加します。
また、主人公のパートナーデジモンには複雑な設定を仕込んでいます。

転生者のテンパっているセリフを今後の伏線のために修正します。


前世からの腐れである友人たちと一緒に神様転生なんて創作小説の中でしか無いような事態をいざ、自分で味わうと分かった時は、ワクワクするかと思えば案外そうでもなかった。

自分に何が起きるのか分からない不安、俺たちが元居た世界すら創作物でしかないのか、様々な疑念が思考を支配した。

 

そしてテンプレな女神からの説明を聞いているうちに俺たちをサポートする天使を1人1柱つけるという予想外の申し出があった。

拒否権はないらしい。

 

他の連中を見ていると、大体それぞれの性癖を考慮したんじゃないかと思われる天使がパートナーになっている。

 

俺と向き合っている天使は、緑色の癖のある髪の毛をストレートに流した清楚な大人の女性といった雰囲気だった。

 

「よろしくお願い致しますね」

 

恐らく営業スマイルかと思ったが、返事に困った俺は

 

「名前はあるのか」

 

と聞いた。

 

「天使としての固有名詞はあってないようなもの、地球に存在する多種多様な神や天使の分霊が別人格を持ったようなもの…と言えばご理解いただけますか?」

 

「ああ…分け御霊が独立して、固有の自我を持ったのか」

 

「はい、貴方様は聡明でいらっしゃるのですね」

 

「…人間社会じゃ、むしろ劣等者だぞ」

 

「貴方様の性質がたまたま社会に嚙み合わなかっただけでしょう。」

 

受け取り方によっては、彼女の台詞は神経を逆なでするようなセリフだが、彼女は恐らく本心で言っている。

そも、人間と超越者の基準を同じに当てはめる方が間違っている。

 

「お前に名前を付けよう。呼び名がないのは不便だからな」

 

「…まあ!私に名前を頂けるのですか?」

 

彼女は俺の発言に虚を突かれたようだが、頬を染めて嬉しそうにほほ笑んだ。

 

 

 

 

「お前の名はトレード。人間社会に紛れ込むときは双葉樹(ふたばいつき)と名乗れ。どちらも【樹】を意味する名前。俺を支える樹になるんだ。サポートをするならちょうどいいと思うんだが」

 

彼女は俺の発言を噛みしめるように目を伏せた後、俺に向き直るように顔を上げ。

 

「拝命致しました。神々の不甲斐なさゆえに、あなた方に大変な艱難辛苦を背負わせる事をお許しください。故に、この身は貴方様の仰る、貴方様を支える樹となりましょう。」

 

 

 

 

この時、彼女…トレードの言っていた【神々の不甲斐なさ】というワードが引っ掛かったが、コレがマジでそのままの意味だったことを知るのは大分先の話である。

 

 

 

 

 

転生先の世界で、俺は榊原進示と名乗ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは俺と俺パートナーに起きた現象…あんなことになるなんて思わなかった。その経緯を掻い摘んで語ろう。

…天使たちの力で世間には隠れてトレーニングも出来ていた。

 

 

俺の肉体は小学生。

俺以外の転生者もそれぞれ契約した天使が書類上の保護者である。

 

 

「これ、デジタマだよな?」

 

「デジタルモンスターという作品の電子生命体ですよね?」

 

「おお!?生まれる!?」

 

「わたし、ドドモン。きみはだれ?」

 

 

ドドモン系列ってなんとなく男の子っぽいイメージがしたのでこの【わたし】という一人称が引っ掛かったのだ。

 

 

 

 

「ドルモン、おかし食べるか?」

「食べる!コーヒーも飲みたいな!マヨネーズとわさびも入れてね!」

「…なんで!?」

 

 

…そう、この時点で気づくべきだった

 

 

 

 

「な!?イーターだと!?」

「うっそやろ!?」

「ここはサイスルの世界!?」

 

「スピ■ッφでエボリューションするからテイマーズの世界かと思ったけど、この世界に関連する人とか組織とかないのに!?」

 

「…いや、だったらあの企業があるはずだ!!この世界にはカミシロとかないぞ!?」

「考察は後だ!!今の俺たちなら究極体で秒殺だ」

 

 

他のメンバーがデジモンと一つになった究極体融合進化を見届けた後、俺たちもドルモンと融合進化をしてアルファモンになろうとしたが…ここで予想外の事態が発生した。

 

 

「ぐ!?ああああああああああああああああああああ!!!???」

 

 

なんだ!?心臓が鷲掴みにされる感触!?

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

『イーターは倒したはず…、いや、負債がどこかの世界に流れている!!?』

 

 

『考える時間はないか、イグドラシルの反応消失…私の体が分解される感覚…やむを得ない。私の記憶、経験がほぼ全てロストするだろうが…記憶【データ】は生きてさえいればいつかは取り戻せる……それに残るデータもあるだろう。我が助手に一目だけでも会いたかったが…奇跡にかけよう』

 

 

 

『私の体をデジタマに…ロイヤルナイツの抑止力という役目も思い出せなくなるかもしれないが…完全消滅だけは避けなくては!』

 

 

 

 

 

 

 

トータス召喚前日

 

 

 

「俺が見れた記憶データはこれだけだな」

「【我が助手】…、あの世界の暮海杏子に憑依したアルファモンですね」

 

 

あの後分離した時はドルモンではなく、当時の肉体年齢小学生の俺と同じ外見年齢の金髪の少女が全裸で倒れていたが、生体反応がドルモンと同じだったため、彼女がドルモンと判断。

 

まあ、騒ぎになったが、樹に隠蔽工作を頼んだので騒ぎは最小限で済んだ。

 

 

今彼女と同じ名前を付けた杏子は入浴中であるため、俺と樹だけの会話である。

 

「当時は大天使である私ですらあなたとドルモンに起きた現象が分かりませんでした。ですが…」

 

「複数の異世界召喚の旅…ファンタジーな世界、ジールで魂に関する事柄を学んだ。SFな世界…ハイネッツで地球より高度な科学とネットワーク技術を学んだ。結論として」

 

「誰かの体に長年憑依したデジモンが別の人間と融合進化を起こしたことで起きたエラー、そのエラーによって魂と命を一つに繋いでしまった事象…これを【デジシンクロ】と名付けましたね」

 

「関原たちも融合進化をしたにも関わらず、デジシンクロが起きなかったのは、奴らのパートナーが別の人間に憑依した経験がないからだな?」

 

「はい…」

 

樹…トレードは日本人の黒髪の女性の姿で、複数のパソコンを操作しながら俺と杏子の生体データを見ている。

 

 

「彼女の構成している体…見た目は人間ですが本質はデジモンですね」

 

「サイスルの場合は精神が死んだ暮海杏子の肉体にアルファモンが精神活動を代行する形で、見た目は人間、中身はアルファモンを実現したから他のロイヤルナイツの目も誤魔化せた」

 

「今の彼女は記憶を失っているうえに、人間の体は見せかけだけのデジタルデータ…検査されると私の力無しでは人間と誤魔化せません」

 

樹は息を吐いて、俺を見つめる。

 

「貴方と杏子ちゃん…どちらか片方が死ねばもう片方も死んでしまう…あなた方はそういう状態です」

「…まさかこんなことになるなんてな…マジで托生じゃねぇか」

 

俺は重い溜息を吐く。

 

 

「だが、そうなるとアルファモンと同じ経歴をたどったデジモンがいるな」

 

「…岸部リエの体に憑依していたロードナイトモンですね?」

 

「ヤツがこの世界にいるかは知らないが、イーターも現れた以上、考慮した方がいいな…」

 

 

 

 

「ねえ、なんの話してるの?」

 

そこにはすっぽんぽんで歩いている風呂上がりの杏子がいた。

 

「おいィ!?服着ろ!?せめて下着を…!?」

「え?輝明(てるあき)達が風呂上りに裸でいたら進示が喜ぶって…」

 

「何の入れ知恵してんだあああああっ!?」

 

 

そんなやり取りを横から見ていた樹は苦笑いしつつ、

 

「そう言えば関原輝明さんたちが、杏子ちゃんを食べちゃう(意味深)に66兆2000億円賭けてましたね?」

 

「なにぃぃぃ!?」

 

「金額は流石に冗談のようでしたが、賭けの対象になっているのは本当です」

 

「よし!撤退を許可させないように追い詰めてやる!!!」

 

 

 

 

 

 

杏子が出てきてこの騒ぎになったため、イーターの話は出来ずじまいだったが、イーターの話をしておけばよかったと若干後悔することになる。

 

 

 

杏子は見た目こそ高校生だが、精神年齢は本来の彼女よりどころか高校生としても低く(記憶をロストしている以上当たり前だが)、眠くなったら切羽詰まった状況以外はすぐ寝てしまうので、すぐに寝かしつけて…変なことをする気には【まだ】

なれない。俺もまだ心が整い切れていないし、そもそも杏子はデジモンだ。

 

 

(…なにナチュラルに【まだ】なんて思ってるんだ!?いや、魂が繋がってる以上は、気持ちが…シンクロしてる!?いや、最近アピールが露骨になってるし!?関原たちが変な入れ知恵したせいで…!!??)

 

そうやって脳内で10分くらい格闘してから気持ちを落ち着け、樹のいるリビングに戻る。

 

「樹、万が一また異世界召喚に巻き込まれた場合、諸々の根回しとバックアップを頼む」

 

「心得ています。もともとわれら守護天使はそういったバックアップのためにいます。通信端末を無くさないでくださいね?それがあれば見知らぬ世界でも波長が合えば通信は可能でしょう。そして、貴方様と杏子ちゃん…ドルモンとしての同調進化も問題ありません。ラプタードラモン、グレイドモン、アルファモン、ドルガモン、ドルグレモン、ドルゴラモンへの進化も問題なく可能です。究極体はどちらも融合進化ですが、アンデッド種への進化はしないでくださいね?」

 

「なまじ魂が繋がってるから、アンデット種に同調してしまうと、俺の魂も汚染されるからな。それで一回死にかけたし」

 

自分の体を調べる段階で、デクスドルガモンにさせたら、吐き気を催すような感覚に襲われて、脳が破裂するほどの悪性情報…イーターに酷似した情報の嵐に見舞われた。無理矢理進化を解除して事なきを得たが、アレは流石に迂闊だった。

さらに大天使である樹がいなければ、後遺症が残っていた。

 

「これまで異世界召喚されて惚れられた女の子はいたけど、死んじまったしなぁ…杏子を守るので手一杯で。…そういえば天使って公には出来ない(意味深)なサービスもしてるし、俺も…その恩恵を受けてるけど…」

 

デリケートな話題ではあるが、樹は気にすることなく

 

「そうですね。21世紀では忌避される価値観ですが、神の世界自体、婚姻に制限はありません。ただ…終末戦争…ラグナロクとはまた違いますが、世界の外からやってくる災害との戦い続きで男性の神や天使が減っており、出生率も下がっています。」

 

「ああ…。例え天界が21世紀と同じ倫理観だとしても、そういったことを解禁せざるを得ない状況なのか」

 

「はい、21世紀の規律、道徳心は立派ですが、それも状況によりけりです。…先代の神王様がサボ…敗れた影響で、世界を覆う混沌の割合が増えています」

 

 

 

…今何言いかけた!?サボり!?

 

「それに、杏子ちゃんが死んでしまうと貴方様も死ぬのですから、その女性たちを守れなかったとしても貴方様を責めるいわれはありません、進示様」

 

樹が言外に【ご自身を大切にしてください】という目で俺を見る。

 

「悪意ある欲望で女性を傷つけるならば罪ですが、そもそも私は貴方様に頼っていただける方が嬉しいのです。貴方方が転生してそれぞれのパートナーに寄り添ってきましたが、方向性は異なれど、我々守護天使はそれぞれのパートナーの幸せを第1に考えています…少なくとも私たちはそうです」

 

「転生者の幸せを考えない天使もいる?」

 

「元から人間に仕えることを屈辱と感じる天使や、転生先で仲がこじれてしまった天使などがそうです」

 

「…関原の天使はちょっと病んでたけど、よくハーレム容認に持ち込めたよな…」

 

「…それに関しては不幸な行き違いでしょう。あの子は天使としても厳しく育てられていたようですが、あの子が師匠の本心を悟れなかったのもありますし、師匠もロクにヒントを与えなかったせいでもあります。精神が孤立していたところに輝明さんに優しくされてしまったのですから依存してしまったのでしょう」

 

「…俺もお前たちに依存しているとは思うが」

 

「ご自身で気づけるなら十分すぎます。貴方様の前世の経歴も踏まえると、貴方様は孤高の精神では強くなれません。孤高の騎士であるアルファモンのテイマーというのは皮肉が効いていますが、そのアルファモンもヒトの可能性を信じた。そも人間とは助け合う種族。例え目に見えない形であっても、助け合っているのです。…それを忘れないでください」

 

 

その言葉一つ一つに俺のためを想う願いが込められている。俺は神妙にうなずくと

 

 

 

ピコピコ

 

「ん?通話アプリ?ハジメから?…白崎さんが呼んでもいないのにウチの玄関の前でニコニコしながら佇んでいる…?前日の夜からハジメと学校行くつもりで全裸待機…全裸は流石に冗談として、ウチと南雲家は近所だからな。摘まみだしてくる」

 

そういうと、樹は苦笑しながら

 

「あらあら、お母上譲りでしょうか」

 

「…冗談だよな?」

 

白崎香織と南雲ハジメ…クラスメイトだが、そこそこ付き合いのある間柄だ。流石に白崎が不審人物として扱われると、約1名の胃が死ぬので、丁重におかえり願うとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

 

 

 

「おはよう~進示♪」

 

 

裸ワイシャツで俺のベッドにいつの間にか潜り込んでいた杏子がいた。

これも俺の悪友たちの入れ知恵らしい。

 

 

 




人物紹介

榊原進示。
本作の主人公。
転生者であり、デジモンテイマーでもあり、魔法使いでもあり、発明家でもあるが、これは全部転生先の出来事の影響。

何故該どのデジモン世界でもないのにデジモンがいる?と思ったけど、旅を続けるうちに、魂とネットワークがキーを握っている世界では?と考察する。
複数の異世界に繋がっている魔境地球で他の転生者達と一緒に戦ううちに、これ、宇宙崩壊案件じゃね?となんとなく危機を抱く。他の転生者達も概ね同じ結論に至っている。
お互いを助け合いながらもアホやる間柄の悪友たちに囲まれ、また異世界召喚に巻き込まれたら、助けてもらう気でいるし、他のメンバーが拉致されたら助ける気でいる程度には信頼しあっている。

本文の事情から、パートナーデジモンであるドルモン≒暮海杏子と命が繋がってしまった。片方が死ねばもう片方も死ぬ関係。

記憶がほぼ全て無くなってしまったドルモンだっただけに、デジシンクロが起きるまで、探偵アルファモンとは気づかなかった。
が、気づくチャンスはあったのでうっかりしてる部分もある。


個人の戦闘スタイルはかなりのパワーファイターだが、転生者中フィジカルは最弱。

筋力は魔力による肉体強化で誤魔化してるので、武器は割と力任せに振るう。魔法火力が最強なので、本来は固定砲台。

また、スナイパーライフルによる狙撃の腕は一流という、結構ピーキー。より正確に体術最弱か。

八重樫雫と同じ条件で刀を振るった場合、100%負ける。テクニックセンスが不足しているため。


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第2話 トータス召喚

杏子(新)の設定はかなり迷いましたし、杏子にせず、普通にドルモンにしようかとも思いました。しかし、デジシンクロの設定を作るために、テイマーズ式進化にし、あえてサイスル本編後のアルファモンをチョイスしました。
だからこそ暮海杏子のタグをつけるかも迷いました。
そして察した方もいるでしょうが、ロードナイトモンも登場確定です。

※1話である単語を文字化けさせた台詞にしましたが、こちらは修正していません。勿論意味はあります。(ヒント、人間と天使の違い)


樹視点

 

 

夜中遅くまでパソコンをいじっていたが、自身が仕えてる主の通う高校から揺らぎ反応が出た。

 

「…まさか…」

 

表向きの仕事と、本来の仕事を同時にこなしながら、パソコンから出た結果に驚く。

何度か見直したが結果は同じ。

 

「…」

 

我が主は既に就寝中なので起こしに行くわけにはいかない。

先ほど杏子ちゃんが裸ワイシャツで進示様の部屋に行った気がするが、特に止める理由もないため、杏子ちゃんには何もせず、非常食や進示様の武装の準備やメンテナンスを行う。

武器のメンテは進示様本人でもできるが、そこまで時間はない。

 

スマホの通信アプリを起動し、メッセージも送る。同僚の天使や転生者の皆様にも…早ければ明日にも動き出す。

 

「…あら、ガトリングガンも造っていたのですか…実弾をそのまま使うのではなく、魔力を実弾にするシステム…他にもギミックがいくつも…オーバーテクノロジーにも程がありますね」

 

でも止めない私。

これまでの経験上必要になると感が告げている。

 

ファンタジー世界で手に入れた赤黒い龍の形をしたデザインの杖、SF世界で作り上げた…正確には改造したメカメカしい片刃の大剣。

大剣にはモードチェンジもあり、スナイパーライフルとレールキャノンを足して割らない巨大なライフルにも変形する。

カラーリングはドルゴラモンをイメージさせるがちょっと凶悪なフォルムだ。

 

 

でも止めない私。

 

 

 

 

…この世界そのものが宇宙にとってのジャンクデータある可能性がある以上この世界はイーターに限らず、データを捕食する存在にとっては【毒】だ。

 

「二次創作とはよく言ったもの。そもそもヒトの空想が全て現実になる可能性がある以上、破棄されたデータも破壊されたデータも宇宙に溜まる。進示様達はこの世界の元ネタをご存じないですし、そもそも私が知ってたとしてもルール上開示できません。…いえ、私もデータにブロックがかかっていて、閲覧できないのですが…パソコンをチェックしていなければ明日が召喚日と気づくことさえできなかったでしょう。

 

…いえ、そもそもブロックなの…?…データが喰われている…?

 

…意図的に情報に規制がかかているのか、データが喰われて情報が抹消されているか…もし後者だとしたら、私のような大天使を派遣する理由も納得です」

 

 

私は深い溜息を吐くと

 

 

「我々が戦う相手はイーターより悪質なもの…デジタルモンスターという媒体をカウンターに選んだのも納得がいきます。転生者にとっては、全く未知の力より、ある程度既存の元ネタがある力の方が使いやすいし、デジモンはネットワークの力。高次元の世界に進出するにはうってつけですもの」

 

まもなく夜が明ける

 

『「スピリットでエボリューションするからテイマーズの世界かと思ったけど、この世界に関連する人とか組織とかないのに!?」』

 

 

「大和田さんがテンパっていたとはいえ、デジモンという媒体を知っている彼らがシリーズを間違える…?…駄目ね、考察するにしても情報が足りない」

 

私は進示様から預かった亜空間倉庫の点検を終え、武装と非常食、それから性に関する薬と道具も入れる。非常食は3か月分を想定。

杏子ちゃんは時間の問題の気もするが、他の女性とも関係を持つ可能性は高いだろう。

神側の思惑としては、高い資質を持つヒトの子…とくに強い精神力を持つ子が減っているので、たくさん生まれてほしいという狙いもあってハーレムを禁じていない。…ディストピア的な思想で一般人からは忌避される価値観だが、そこまでは進示様に言う必要はない。…お気づきかもしれないが。

…私も実のところ妾の子ですし。冷遇はされていなかった。まあ、修行時代は厳しかったですが。

 

「考えられるとすれば、デジモンは人間の精神に大きく影響される種族…、ロードナイトモンも岸部リエの精神に大きく浸食されていた…だとすると、人によってはデジヴァイスという媒体すら必要なく進化できる可能性もある…まさに精神【スピリット】ね」

 

デジモンフロンティアに登場する【スピリット】とはまた違う意味になるが、精神ならスピリットと呼ぶにふさわしい。

 

 

「…通信アプリ?金城明音さんね?出口さんとは上手くいっているのかしら?」

 

金城明音(きんじょうあかね)さんは進示様ではなく、彼のご友人の転生者の恋人だ。

この世界の出身…かつ、一般の女学生でありながら、聡明で、ハーレム容認派という珍しい女性だ。複数の女性と交際すると大体トラブルになるのだが、彼女はこちら側に踏み込む前からこういう寛大な方だ。

しかし、重度のミリタリーマニアで、ハワイでもマシンガンを撃っていたんだとか。

しかも、実在架空問わず、あらゆる重火器を愛しているのだとか。

…進示様にガトリングのヒントをくれたのもこの方ですし。

 

アウトドア全般は行けるらしいが、やはりサバゲーが好きらしい。

そして、転生者を除いてこの世界初のデジモンテイマー。ウイルス種のアグモンをパートナーにしている。

出口さんの究極体はクーレスガルルモンなので…アレが出来ますね?まだ先の話でしょうが。

 

内容は

 

『偶然ですが、以前お話し頂いた露出の高いスーツを着た女性を見つけました。

…深追いは出来ませんでした』

 

 

…送られた情報に目を見開く。

 

『分かりました、よく引き返してくれました。暫くは動きはないはずです。出口さんと、シュトース…守里さんから離れないでくださいね?』

 

と返しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

進示様が家を得る直前に呼び止め、彼を抱きしめて唇を奪う。舌も入れようかと思ったがそうすると止まらなくなる気がするので止めておく。

 

「…ん?どうした?」

 

いきなり抱擁され、キスまでされた進示様は不思議そうに問いかける。

この感が正しければ暫く…もしかしたら年単位で触れられないかもしれない。

通信は出来ても、直接は合えないからだ。

そして、事態の発生阻止も非推奨。

…正直転生者と私たち天使だけ強くてもこの先の災害を越えられない。

「亜空間倉庫をお返しします。…武装、デジヴァイス…Dアーク…呼び方はどちらでもいい気がしますが、それと、3か月分の非常食を入れておきました」

 

「!?」

 

進示様はその意味を察したのか目を見開く。

杏子ちゃんが不思議そうに…、しかし、一瞬だが寂しそうで羨ましそうな顔をしていた。

 

「いつ動く?」

 

「早ければ今日にでも…正直未知数ですが、今回は一般人が確実に巻き込まれるでしょう。高校…というよりある生徒に地球ならざる反応があります」

 

「分かった…そもそもその監視のための入学だしな…アレから1年…動き出すか?」

 

「…ご武運を」

 

 

 

 

杏子ちゃんも私の雰囲気からただ事ではないと察したのか、2人とも神妙にうなずいた。

 

 

そう言えば杏子ちゃん、ミステリー小説とかオカルト雑誌とか読み始めているけど…あの様子ではまだ記憶は戻ってないようね。

本能…かしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???視点

 

 

 

 

「へぇ~追っては来なかったんだ…冷静じゃない♪」

 

謎の露出の高いスーツを着た女性は猫なで声で感想を口にする。

 

「それにしてもぉ、記憶を無くしたアルファモンとそのテイマーがターゲットと、私のテイマーの近くにいるなんてぇ、ラッキーかも♥そう思うわよねぇ?7人目の転生者さん?」

「…恐らくその世界は【ハズレ】だ。経験は詰めるだろうが、災害に立ち向かうには到底足りん。それこそ、演算処理能力で言えば、この世界とデジタルワールドの救済だけでも、イグドラシル100基分必要だ。宇宙全ての救済であれば、億あっても足りん」

 

そこにいた女に話しかけられた男は答える。

すると女はいきなり真剣な顔になり、

 

「…貴様とはそこそこ長い付き合いだが、貴様が虚言を吐くとも思えぬ。忌々しく醜い人間だが、貴様のその慧眼さは一目置く美しさだ」

 

「褒めているのか?」

 

「業腹だがな。貴様は仮にもエグザモンのテイマーになった。…こちらには協力するのだろうな」

 

「契約は守るさ。そこから先は知ったことではないが。

この世界に出現したデジモンはテイマーがいなければ満足な活動が出来ない」

 

「それこそが忌々しい…。我がテイマーとなった娘と命を共有したことも忌々しい。…が、奴の母親の醜さはなんだ?」

 

女は人間の業を憎悪するような顔になる。

 

「…人間誰しも強い心を持てるわけではない。千差万別の成長をするからこそ、多様性が生まれ、強いものも弱い者も、善も悪も現れる…デジモンもさまざまな種族と個体差があるだろう?それを知りえず、一側面しか人間を見れなかったが故に、貴様は以前の世界で負けた」

「…!!」

 

女は怒りで身を震わせたが、事実なので言い返せない。

 

「ヤツの母は精神が弱く、死んだ夫に依存していた。逆に夫の方が精神が強く、女を守れるほどだった…子供を庇うほどににも強かった」

 

「…」

 

「夫の方が死んだのは運が悪かったに過ぎない。誰のせい…厳密にはタイミングのせいだが、母は誰かのせいにせずにはいれなかった」

「…」

 

女は俯いている。

男は黙々と口を開く。

 

「納得がいかないか?」

「当然だ」

「ならば今回の異変時の戦い…ハズレである以上契約外だが、貴様と貴様のテイマーに助力してやろう…確かめたいこともあるしな」

「ほう…?」

 

女は値踏みするように男を見る。

 

「デジモン界ではイグドラシルとオリンポス。人間の神話ではユグドラシルとオリュンポス…災害はデジモンやイーター、人間とは限らないぞ?」

 

「…なに?」

 

すると男は初めて口元を吊り上げ

 

「高度な情報処理能力を持つものなら、デジモンにこだわる必要はないということだ…イグドラシルは俯瞰的すぎる視点から極論に走るが…それは【向こうも】同じだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八重樫雫視点

 

昨日はクラスメイトである榊原君から電話があった時何事かと思ったが、香織が南雲君の家で夜から出待ちしていたという。

 

流石にそのままでは香織が不審者に思われので、一番引きずりやすい私に香織を引き取ってくれると頼まれたのだ。

そのせいか、香織が恨めしげな視線で榊原君を見る。

榊原くんといつも一緒にいる杏子はその愛らしさから香織と並んで学園の女神扱いされている。…私は違うと思いたかったが、私も女神扱いされてると知った時は頭を抱えた。

 

 

光輝は授業態度はあまりいいとは言えない南雲君と榊原君にいちゃもんをつけているが、見る人が見れば香織と杏子を引き離そうとしてるようにしか見えない。

 

榊原君も寝ている時と寝てないときがあるが。

 

二人ともそれぞれ違うベクトルで光輝をあしらっている。

 

「天之河、俺らに苦言する理由は大体想像できるが、せめて杏子と白崎の態度がどこを向いてるか考えような?…最も、お前にはこれから非常識な艱難辛苦が待ち構えているだろうがな」

 

突然榊原君がいつもはしない言動を始めた。

 

「な、なに?」

「…自分以外の価値観と自分自身の価値観を見つめ直せ。お前がどのような願望を持とうと構わないが…お前はある意味特別だ。頂上の存在から気に入られている…という点は」

 

私には榊原君が何を言っているのか、その真意を測りかねている。光輝が特別?頂上の存在に気に入られている?

 

「俺も出来るだけ…手助けはしてやるが、絶対守れる保証はない。それに、何人死ぬことになってもまだ俺は死ぬわけにはいかない。俺は自分と杏子の身が最優先だからな…例え地球が壊れても杏子と俺はお互いを守りあう」

「うん!私も進示を守るよ!」

 

その時、男子たちからは嫉妬と殺意、女子からは黄色い悲鳴が上がった。

 

…これ、なんかすごくとんでもないこと言い合ってないかしら!?

しかし、実はお姫様願望がある私にとっては凄く言ってもらいたいセリフでもあった。…恥ずかしくて口にはしないけど…。

 

榊原君君の信念が実は非常識な意味でそのままの意味でもあることを知るのは少し先の話。

 

榊原君とは学校以外であまり接点はないけど、私が生徒会の仕事で忙しくしていた時にも何度か手伝ってもらったし(やけに手際がいいし)

他にも…光輝がトラブルを起こした際は私がフォローしていたけど、何回か愚痴に付き合ってくれた。

 

…そう言えば二人揃って優花の洋食店にも顔出してるわよね?

 

その時優花は

『うん、榊原はまだいい。杏子ってスゴイ味覚音痴?…コーヒーに合わない調味料とか入れるし…』

とか言ってた。

 

いったい何があったのか気になるわね。

 

それに、光輝や龍太郎は気づいていないけど、彼、重心がブレないし、帰宅部で何か部活や格闘技をやってる話は聞かないけど、それにしたって、体はよく引き締まっている。

 

「…いかん、少し気が立ってた。そろそろ授業だ。準備の邪魔は謝罪しよう」

 

榊原君はそう言って軽く頭を下げる…妙なところで律儀ね。

 

光輝はその迫力にただ圧倒されたいた。

 

香織はさっきの告白を羨ましそうに目を輝かせ、南雲君は榊原君の言葉に圧倒されたようにただ彼を見ていた…その顔は少し羨ましそうだった。

 

 

…ふと、榊原君がスマホを見る。

 

「…今日異世界に召喚される方に66兆2000億?実際は飯代だろ…っていうか誰も心配してねぇ…いや、信頼か?」

 

というつぶやきが聞こえた。

それを聞いた南雲君は「それ、何で〇京さんなの?え?異世界召喚?」と言っていた。

…確か霊能力を持った探偵が戦う話よね?

 

って異世界召喚て何?創作よね?っていうか誰も心配してないって何!?しかも賭けの対象なの!?

 

 

 

 

 

 

そして昼休み、香織が南雲君のお弁当?が携帯食であることを知り、それを知った香織が一緒に食べようとするが

光輝がいつも通り南雲君を香織から引き離して香織のお弁当を食べようとしてたけど、「寝ぼけたまま香織の弁当を食べるなんて俺が許さないよ?」と言ったら

「え?なんで光輝くんの許しがいるの?」

と言って、何人かが噴出した。

 

榊原君がいつもと違って落ち着かない…何かを警戒しているような…。

 

その時…

 

床が…床全体が光だし、魔法陣が出現した。

光輝の足元を中心に。

 

「みんな!教室から出て!」

 

愛ちゃん先生(社会担当)が叫ぶが、教室の扉は開かない。

 

ふと視線をずらした。

 

そこには、自分のカバンを手にした杏子と榊原君、

しかし、榊原君はどこに隠し持っていたのか、赤黒い龍の形をした…それこそファンタジーの世界にしかないような杖を床にたたきつけている。

その光景は南雲君や優花も見ていたようで、目を見開いている。

 

「クソッ!!術式を破壊できねぇ!!解読も時間が足りねぇ!!」

 

 

…まさか!今朝の言動はこれが原因なの!?

 

杏子は榊原君の腕をつかみ目を閉じる。

 

「頼むぞ…樹」

 

彼のそんな声が聞こえた後周りが真っ白になった。

 

 

 

 

 

樹視点

 

 

 

「よっしゃー!!66兆2000億!!」

「いや、飯代だから」

 

「オイラと関原の勝ちだな!」

「くそー…今回は驕りか…」

「どこ行く?焼肉?」

 

「…誰も心配してないんですね」

明音が冷や汗をかきながら呟く

「全員異世界召喚に慣れ過ぎましたからね…関原さん?」

 

「ああ、反応はもう追ってる。けど今回はちと遠いし、また見たことない術式ですねぇ?」

「ああ、うん、こっちと向こうで術式解読して波長合わせないと通信すら出来ないかな。いつものことだけど」

 

 

賭け事はしていても、しっかり仕事をする彼等には頼もしさを覚える。

 

「さあ、現場検証と、工作、公安や政府へのアレコレ、被召喚者たちの保護者をまとめましょう」

 

私はすぐに行動に移ろうとするが。

 

「なあ、榊原がハーレム人つくるか賭ける?」

「3人に66兆…」

「それはもういいから」

「普通にカラオケ代でいいんじゃない?」

 

「よし、焼肉行くぞー」

「アルラウモン達用にテイクアウトもしようぜー」

「ガブモンよく肉食うしなー」

「インプモンもなー」

「アルマジモン何喰う?」

「ゴマモンは?」

 

 

…うん、頼もしいですよ(汗)

 

 

 

 




人物紹介2
トレード=双葉樹。

トレードは大天使としての名前、双葉樹は人間社会に紛れ込むための仮の姿で、進示と杏子の建前上の保護者。転生者をサポートする今作の天使たちのまとめ役。

非常に高い能力を持ち、器量良し、容姿、スタイルもよし、性格もほぼ完璧な大和撫子型。
思考回路が優れすぎてほぼ全ての人に物腰柔らかく接するが、天才的・完璧すぎるが故に天使たちの間で孤立し、やっかみを受けることも少なくない。
また、転生者たちの間ですら誰もその頭脳に追いつけないため、度々疑われることも。

主な役割は情報処理や裏工作などのバックアップ、転生者の肉体・精神の慰撫、激励。必要に応じて戦闘など役目は多岐にわたる。
というか、宇宙崩壊案件が迫ってるのに、転生者だけだったら確実に詰んでる。



実は進示にも伝えていないが、デジモンも含むの彼女より魂が弱い人や神の心を読むことも可能であるため、それが知られたらと思うとちょっと心配でもある。

最も、読心能力が無くても大体目や仕草などで大体読めるのだが、そのせいで彼女に対し、隠し事はほぼ不可能。政治家や公安の天敵である。が、彼女にはそれらを潰す意図は進示の指示以外ではしないし、進示も彼らを潰す理由はない。


多夫多妻が当たり前の天界で育ったため、恋愛・婚姻感覚は人間とはかけ離れている。人間の価値観は理解しているが、感性は別。

初対面でいきなり進示に依存宣言をされたが、心を読める彼女は彼の潜在意識を鑑みた上で彼の言うことを即答で受け入れた。

なんだかんだ言いつつも、やるときはやる進示達を見守り続けてきているので、彼らは膝をついても諦めないことは知っている。

トレードの上司である女神から進示の性癖その他も考慮されて選ばれているのは推測されてはいたが、マジでその通りである。

…実をいうと天界も切羽詰まっているので、見込みのある転生者の待遇を上げざるを得ないという厄介な事態になっているが、良すぎるサービスをしてでも転生者を育成・勧誘しなくてはいけなくなったのは、先代の神の王のサボタージュも原因の一つである(天界の戦士の育成をサボった)。


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第3話 もう事情に巻き込むしかない(但し、人選に注意)

原作と同じ部分は端折るか、前回みたいに誰かの視点で書いてみたいと思います。
あと、銀の弓/星の弓ワールドの転生者を管理する神様世界も少し明かします。


異世界トータス。

 

そこに召喚された俺たち生徒(+畑山先生…社会科担当で担任というわけではない。近くにいたため巻き添えになった)はイシュタルとかいう教皇のじいさんに数で圧倒していた人間が魔人族が魔物を使役するようになったため、人間のアドバンテージが崩れた、それを人間の危機と悟ったエヒト様とやらが異世界から勇者を召喚したと言っていた。

ちなみに、龍の杖で召喚術式を破壊しようとしたところは、何人かに見られてしまったため(召喚後にすぐ亜空間倉庫にしまったため他の人間には気づかれていない)、今、その生徒たちと一年弱学校の生徒を観察していた中で信用できそうな生徒と畑山先生を俺にあてがわれた自室に呼び出し、先に呼び出した杏子と一緒に待っている。

 

ちなみに待っている間、メイドに飲み物を頼み、持ち込めたパソコンのキーボードを叩いている。

 

「地球に帰れた時に公安警察に提出する書類を書いている。あと、ウチの組織のメンバーに救難信号を送り続けている。…電力も供給手段があるので、書けなくなる心配はない。紙媒体にも書いておくがな。キーボードを叩いている理由はそれだ、遠藤」

「うわっ!?気づいてるのか!?」

「うん、さっきから臭いでわかってたよ」

 

遠藤浩介。影が薄いことで有名で、それは自動ドアすら反応しないほどである。3回に2回は反応しないのか?

 

「お前や暮海さんは俺に気付いてくれる…!!一生ついていく!!!」

「…今だから言うが、お前の影の薄さは世界とお前の周波数…チャンネルが合ってないからだ。…というか一生ってなんだ」

「だって!出席日数足りてるのに認識されてなくて留年しそうになったし!家族旅行だって俺だけハブられたり!!」

「……すまん、俺が悪かった」

「…大変なんだね」

 

遠藤の苦労話を聞いて流石に罪悪感が沸いてきた。

…しかし、これはある意味優秀な人材なのでは?と、思考を張り巡らせていると、ノックの音が聞こえた。

 

「榊原様、お飲み物をお持ちしました。…使途様が数名扉の前にいらっしゃいますが」

「構いません、通してください」

 

すると扉から入ってきたのは飲み物を持ってきたメイド、ハジメ、白崎、八重樫、園部、永山、畑山先生が入室した。

 

因みに白崎は呼んだ覚えはないが、ハジメに憑いて来たのだろう(樹から白崎母娘について聞いてみたが、聞けば聞くほど【憑いて】来るが誤字と言えなさそうなのが怖い)。八重樫にストッパーになってもらうか。胃のケアをしないといけないな。

 

「『酒はダメなんで、オレンジジュースください』と渋い声で仰られていましたが、この果実水でよかったのでしょうか」

「この世界にオレンジあるのか…うん、それでいい」

 

前世でも殆ど酒は飲まなかったしな。

ハジメがメイドの台詞を聞いて「え?戸〇呂?」と言っていた。

 

世代はそこそこ古いが知ってたのか。

 

園部、八重樫、先生、永山は俺が冗談飛ばすとは思ってなかったのか、意外そうな目で見る。

まあ、必要以外のコミュはあまりしてなかった。

そもそも高校には空間の揺らぎ現象監視のために入学したんだし。

 

…しかし、この金髪ロングヘアーのメイドはガラテアと名乗ったが、コイツはかなりできる。

直接戦闘という意味では俺の足元にも及ばないが、諜報スキルはかなり高いだろう。スカートや脇にナイフを隠している。

 

 

しかし、悪意…というよりは俺の中の何かを見定めようとしている。

 

「やはり…貴方が裏切者とは思えない」

「…なに?」

「いえ、何かございましたらお呼びください」

 

そういってガラテアは退出した。

 

…初対面だよな?

……いや、候補は今までの俺の旅路にあるが、ジールでもハイネッツでも面識はない。

裏切者…のワードから連想して…冤罪で指名手配を食らったのはジールだけだ。

 

ジールで縁が深い女性は、俺と杏子を助けた龍族の女にして俺に龍の杖と亜空間倉庫をくれたミリア、エルフの王女であるフェーか。

 

どちらも…いや、大陸ごと【捕食】されてしまったため、もう会うことは叶わないし、樹の胸でミリアの喪失感でさんざん泣いてしまった後だ…割り切っているつもり…だったが。

 

(フェーには影武者の妹がいるって話だったが…耳はとがっていない…耳以外は姉の面影がある…残念ながらミリアはまだしもフェーとの接点は少なかったな。…もっと話しておくべきだったか…)

 

 

しかし、当時の肉体年齢が幼いスケコマシと思われるのも微妙だったし、再学習途中の杏子から目を離せなかった。

 

それに…

 

(ジールでの旅がなければ俺が杏子と命を共有していることには気づけなかった。知らなければ迂闊な行動して共倒れしていた可能性は高い。…理屈を知ったのはハイネッツに行ってからだが)

 

いずれにせよ、大陸を捕食したイーターとも違う怪物は、ドルゴラモンでも吹き飛ばせず、再生されてしまった。アレを吹き飛ばすなら、究極対レベルがドルゴラモン含めて4体必要だ。

 

いつまでも考えても仕方ない。

呼び出したのは俺なので、話をしょう。

…一瞬鼻・塩・しおうとか思ってしまったのは内緒だ。

 

 

「夜遅く呼び出してすまなかったな、天之河が即答で戦争参加を表明してしまったが、この世界の宗教を考えると拒否すれば背信者と見做され、魔女狩りが起きる可能性も否定できなかったため、俺は敢えて何も言わなかった。自活の手段を見つけるまでは従いつつ、庇護をうけるべきだと思った…ハジメも同じ結論だな?」

「うん、この世界の情報が少ないから、うかつな手段にはでれないよね」

 

先生や八重樫は理解したのか沈痛な表情だ。

園部と永山、白崎、遠藤も一瞬遅れて理解したようだ。

杏子はここ何年も俺と旅をして俺の考えが分かるのか、特に口を挟まない。

精神年齢はまだ低いままだが、知識はかなり豊富で、ネットワーク技術も、思い出してるように再学習が進んでいる。

しかし、元の杏子(アルファモン)と比べて少し無口になってしまったか。

 

「それで、榊原君は何故パソコンを」

「遠藤にはすでに言ったが、地球に帰れた場合、公安警察に提出する報告書を書いている」

「…いたの!?遠藤!!?」

「ちょ!?いたよ!!」

 

 

…やはり気づいてもらえなかった。

 

「っていうか公安!?」

「そうだ。八重樫の祖父とは警察庁で時々顔を合わせている」

「おじいちゃんと!?」

 

俺の爆弾発言に驚く八重樫。無理もないな。

 

「そして唐突だが、6年前に人間を捕食していた怪物と戦ったモンスターは知っているか?」

 

俺の急な話題転換に驚きつつも、園部が真っ先に反応を示す。

 

「え、ええ…その時化け物と戦ったモンスターと子供たちがいるって…それ以上の報道はなかったけど…」

「…やはり隠蔽は完璧には出来ないか。仕方ないと言えば仕方ない」

 

俺はぼやきつつ、杏子に目配せをする。

 

杏子は俺の意図を察したのか頷いた。

 

その瞬間、杏子の体…デジタルデータで構成していた見せかけの人間の体を分解し、再構築…ドルモンの姿になった。

 

そしてこの後起きる悲鳴を予想し、防音結界を張る。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「ええええええええええええええ!?!?!?」」」」」」」

 

 

その反応に思わずニヤリとしてしまう。いかんいかん。

 

 

 

 

 

 

「デジタルモンスター…略してデジモン。俺と杏子の保護者、双葉樹は表向き、ハジメの父のゲーム会社に就職し、ここ2,3年で流行りだしたゲーム…デジモンの製作者として名を連ねている。勿論これも意図してネットワークを構築するためのもの」

 

 

まあ、元居た世界でこれをやれば盗作になってしまうが、この世界では樹が1次創作者…ということになっている。

 

これももちろん、これからやってくるであろう宇宙崩壊案件の災害に立ち向かうための下準備の一つに過ぎない。

高度なネットワークを武器にするとしても、人間の脳では負荷が大きいため、リアル、そしてデジタル世界両方対応できる媒体としてデジモンを選んだのだ。

 

超高負荷の情報処理を大部分をデジモンに代行させれば、テイマーの才能があっても、処理能力が低い人間も戦えるようになる。

 

 

「まず、結論から言おう。この宇宙に崩壊の危機が迫っている。

トータスという世界に関してはほぼ知らん。…が、高校入学前から複数の高校から次元の揺らぎ反応を観測したため俺の仲間たちは反応があった高校に別々の学校に入学した。この理由、ハジメなら大体わかるな?」

 

「…す、スケールが大きすぎるし情報がいっぱいありすぎる…けど、監視と有事の際の対応のためだよね?」

 

…やはりオタクはこういう時真価を発揮する。

ハジメレベルになれば俺の言うことも瞬時に理解するか。

…やはり稀有な才能だ。特にこの事態に対しては。

 

俺を超えるかもしれんな。

いや、是非超えてほしい…が無理強いも出来ないか。

 

 

「そうだ。タイミングも分からなかったし、日常生活と並行して、警察や自衛隊でも手に負えない案件の処理をしていた。…だから部活に入らなかったし、授業中もたまに寝ていた」

 

俺の言葉を聞いて目を見開く先生。まさかそんな裏事情があるとは思わなかったのだろう。

 

「で、でもこういうのって一般人には言っちゃいけないんじゃ…」

「そ、そうだ…んなこと混乱するよな!?」

 

園部と永山がいい突っ込みをしてくる。

 

「ごもっともだが、異世界召喚はもう隠蔽できないし、地球に帰還したら公安の保護を受けざるを得ない。信じるかは別だが、マスコミや関係各所からの攻撃がやっかいだ」

 

その言葉で、大体理解したのか、全員が渋い顔になる。

 

「お前たちと先生に話したのは、俺がこの1年、皆を観察し、この異常事態を冷静に受け止められると判断したからだ。…他の人間にはもう少し時間が必要だと思った。脳の処理は個人差もあるが限界があるし、召喚初日に地球の方がヤバいってなったら、どう受け止めていいかわからないだろうからな。人材に関しては独断と偏見が混ざってるし、…ギリギリ清水にも話そうかと思ったが、恐らくご家庭の事情とイジメ…確かめる術は本人に聞くしかないが、デリケートな話題だし、不穏なデジタルデータを清水から観測したので、有事に対応できるアンチプログラムの製作途中にトータス召喚を食らった。…データはあるがまだ完成してないし、ワクチン作成の大部分は樹が持っている」

 

クラスメートの一人がそんなことになってることに沈痛な表情を浮かべる先生。

まあ、この人の理念からすると、見過ごせないよな。

それに、いじめというのは、前世の俺のカンだ。

俺もいじめられていた経験がある故の偏見に過ぎないが。

 

 

しかし、大半のメンバーが事態を冷静に受け止められると聞いてそんな評価をされていたことに嬉しいやら接点がなかった相手からの評価故か微妙やら…複雑な気分のようだ。

 

 

白崎は本来呼んでなかったが…しっかり理解し、神妙な顔をしているところから大丈夫そうだ。…昨日の夜とはまるで別人だが。

 

 

「そう言えば…樹さんは榊原君の保護者なんですよね…?どうして呼び捨てなんですか」

 

そう言えば面談の時に面識があったか先生。

 

「プライベートでは呼び捨てですよ。流石に外ではそれなりに丁寧に話していますが」

 

社会人としては複雑な先生だが、表情を見るに、TPOをわきまえている以上は余人が口を挟むことではないと思ったのか「そうですか」とだけ頷く

 

…樹とは【深い】関係であることは黙っててもいいだろう。

 

…まあ、初めてしたのはジールから帰ってきた直後だったな。

 

恩人であるミリアを見殺しにしてジールを脱出しなくてはならなかった当時の無力さを嘆いていたところにこれ以上俺を見ていられなくなった樹がトレードの姿になってそのままなんとなく…だ。

 

中身の年齢はセーフでも肉体年齢、戸籍上の年齢的に完全にアウトだったが、

俺の心が壊れないことを優先したらしい。

 

…男の方が泣きながら女の胸や腕や股の中で慰められながら初体験というのも中々ないかもしれない。

官能小説でも普通は男の方が慰める側だ。

 

 

 

そう言えばジールってどっかの外国語で【魂】という意味があったような…?

 

 

っていうかデジモンの究極体4体必要なレベルの災害がヤバいのだが。

 

と、いつの間にかドルモンを抱っこしてた八重樫が質問をしてくる。

 

…なんかすごくうっとりした顔をしてないか?

 

ハジメや遠藤、永山もモフモフしたそうにしていたが、杏子の姿を知っているだけにセクハラで訴えられることを危惧したのか…デジモンに性別の概念はないが、今のドルモンは感性は女の子寄りである。

 

「ねえ、そう言えばデジモンってみんな人間の姿になれるの?」

「…いや、俺のドルモン…杏子が特別だ。

事情があってパラレルワールドの人間、暮海杏子の肉体に長年憑依していたらしく、その履歴があるデジモンが別の人間と融合進化したために起きたエラーで憑依した人間のデータが実体化した状態だ」

 

「…え?」

 

「夜も遅いし、詳しい説明はまた後日行うが、その時の副作用で俺とドルモンは命が繋がってしまった」

 

「それって…」

 

ハジメがのどを鳴らす。

 

「俺とドルモン…杏子は本当の意味での托生関係、片方が死ねばもう片方が死ぬ状態になってしまった」

 

その言葉に目を見開く一同。

 

と、八重樫が得心がいったという顔をした。

 

「だから守りあう…なのね」

「そうだ」

 

今朝言ってたことを覚えていたようだ。

 

そして俺は大きく深呼吸をする。

 

「改めて頼みがある。返事は今すぐじゃなくていいし、強制もしない。

だが、願わくは、この宇宙を崩壊の危機から救うための協力者になって欲しい」

 

 

そう、俺は頭を下げた。

…ある意味イシュタルより質が悪い願いだ。

だが、俺たちだけでは手が足りないし、下手したら破壊神が動くかもしれない。

転生者のサポートをする神・天使の系列は概ね創造神・維持神・破壊神の系列があり、転生者のサポートをするのが殆どが維持神系列の天使。【樹たちも維持神系列】

 

生産系、技術チートのサポートはケースによっては創造神系列の天使…18歳未満禁止のひたすらイチャイチャハーレムするような転生者につくのも創造神系列の天使だ。

 

 

 

…だが

 

 

 

どうあがいても【滅ぶしかない世界】は

 

 

 

破壊の転生者と破壊神系列の天使が現れる。

 

 

 

 

もしそれが現れれば。

 

 

 

それは99.5%以上の確率で【詰み】だ。

 

 

転生者の気質にもよるが、どこかの世界の守護者以上に容赦がない。

 

 

 

まだ短い時間しかこの世界で生きてないが。

 

 

 

…まだみんなと一緒にバカやりたい。

 

くだらないことで笑い合いたい。

 

そんな動機で動いている俺は責められるべきか。

 

ドルモンが俺の感情と同調したのか、首を横に振ったのが見えた。

 

 

…ありがとうドルモン【杏子】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本某所。

 

 

 

「リアル天使来たーーーーーーー!?翼が4枚!?」

「樹さんが天使!!??か、カメラはどこだ!!?いや、スマホがある!!?」

「被召喚者たちの説明をしますし、私の天使としての姿を撮るのは…止められないでしょう。ネットに流したら…いろいろな機関に狙われますので…流さないでくださいね?南雲社長方?」

 

南雲夫妻はあまりのインパクトに息子が行方不明である事実も忘れて騒いでいた。

予想はしていたが。

 

因みに娘を【マイエンジェル】と呼ぶ白崎智一は

 

「ま、まさか本物の天使がいるなんて…いや、やっぱりマイエンジェルが一番だ…ブツブツ…」

 

と、自分の世界に入っていた。決して妻が怖いから…ではないはずだ。

 

 

出口のガブモンが

「なあ、この阿鼻叫喚止められるの?」

と聞いて来たので、テイマーである転生者、出口は

「無理じゃない?」

と答えた。

 

樹の横では、関原とそのパートナーの天使がコンソールをひたすら叩いている。

行方不明になった彼らを探すために。




人物紹介3
ドルモン=暮海杏子=アルファモン(サイバースルゥース)

サイバースルゥース本編後のアルファモン。
イグドラシル反応消失の原因を探るためにデジタルワールドの調査をしていたが、世界をデリートするような情報抹消の嵐に飲まれ、完全消滅を避けるために自らをデジタマ化。どこかの世界の地球に流れ着き、記憶をほぼロストした状態で榊原進示に拾われる。

暮海杏子に憑依していたデータが残っていたため、進示と融合進化を起こしたときにエラーが起き、杏子の体が実体化、さらに進示と命を共にする関係になる。
【探偵】や【助手】などのワードに懐かしさを感じるも、まだ思い出せず。
因みに味覚のデータも残っている。

進示はサイスルの主人公に合わせるべく並行世界に行く装置を開発中。
彼女の名前を付けたのも記憶を回復させる助長になればと願っての事。


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第4話 おちゃめな頑固おやじと消えた黒幕

お気に入り評価や感想などありがとうございます。
短期間で予想よりお気に入りや評価が高いことにびっくりです。
見る人を選ぶ作品ですが、それでも気に入っていただける人がいて嬉しいです。

誰にどのパートナーをつけるかは、ほぼ固まっていますが、雫、遠藤、シアはちょっと迷っています。
あるデジモンを進化させるために、コロナモンを出そうかと思いましたが、2次創作で気にする必要…あるかはわかりませんが、別のデジモンに差し替えました。
アニメの録画データは喪失してるので、結構ガバいかもしれません。

あと、この投稿の使い方をまだ完全に把握してないので、アンケートやってほしい方は、すみません。

※1話の台詞と2話の前書きを少し修正しました。


清水幸利にとっては、毎日が憂鬱だった。

 

そしてオタクだった。

部屋にあふれるオタクグッズで精神の無聊を慰めずにはいられなかった。

そうなった原因はイジメや家族との不仲がである。

他にも要因はあるが、概ねそんな感じ。

 

トータスに召喚される少し前から夢を見るようになった。

 

 

『なんだなんだ!人間がそのような腑抜けた顔をするな!!』

 

幸利はわけがわからなかった。

 

突然目の前に暑苦しいオッサン(?)がいたからだ。

 

『ふぅむ。…ただ活を入れるだけでは事態は好転せぬか』

 

オッサンはしばし、思案顔になる。

やがて考えは纏まったのか。

 

『人間の小僧、貴様ならば知ってるであろう。デジタルモンスター、通称デジモンを』

『!?』

 

オタクな幸利は知っている。

ここ2,3年で流行りだしたゲームだ。

シンプルながらよくできたゲームシステムで、オンライン対戦モードもある。

引きこもりな彼はよくプレイをしていた。

 

『よいか!貴様は【特別】になりたがっているのだろうが、貴様は一人で強くなれる人間ではない!!』

『!?』

 

特別になりたかった自分にとってそれは何よりも侮辱の言葉だ。

怒りと悔しさに震える。

 

『貴様に必要なのは貴様を理解し、また貴様も相方を想いやる心、双方の助け合いという【ヒト】の本質そのもの』

 

『…』

 

そうはいっても、自分に彼女も相方や友達なんていない。

 

『我は普段ならいきなり答えを教えることはしない…が、事態は切迫している。

今は電脳空間限定だが、時が来れば現実世界でも動けるようになろう…おい、』

『し、師匠…この人間と一緒に…?』

『!?』

 

現れたのは白い小型の竜のようなデジモンだった。

 

『デジモン…だよな?知らないデジモンだ…』

『ハックモンという。ハックモン!これからこの人間の事で様々な心を学べ。

この小僧を取り巻く環境はいいとは言えないが、だからこそ見えるものもある』

『…本当に?』

『ロイヤルナイツ…幻にして空白の席に立つ騎士のテイマーは少々人が良すぎて貴様の指導には向かん…、いや、時間さえかければ貴様の心も溶かすだろうが今回は時間がない』

『…な、なにを』

 

『従って荒療治といく!そうだな貴様の好きなサブカルチャーの台詞を引用してやろう』

 

そう言ってオッサンは背中を幸利に向け

 

 

『……ついて来れるか?』

 

 

と、異様に頼もしすぎる背中を見せつけた。

 

『ついて来れるか…じゃねぇ…』

 

幸利は立ち上がり。

 

 

『てめぇのほうこそ、ついて来やがれっ!!!!!』

 

 

オッサン…ガンクゥモンは我が意を得たりと笑った。

 

 

 

 

 

実はガンクゥモンは幸利がこのネタに反応しなかったらどうしようかとちょっぴり不安だったりしたのは内緒。

 

 

 

 

 

 

そして幸利とハックモンの地獄の特訓が始まる。

 

 

 

『別世界の我って、最後の試験にバンチョーレオモンの討伐やらせたよね?

…この小僧は体内によくないデータがある…それを取り除くには』

 

 

考えつつも他の世界よりちょっぴりおちゃめな頑固おやじである。

 

 

 

 

そして舞台はトータスへ

 

 

『この短期間で完全体に進化できるようになったのは褒めておこう。だが、小僧にはまだ足りないものがある。時が来るまではそのトータスとやらの力を磨いておくがいい。屈辱的な目に合わされようと決してあきらめるな。まだ専用端末無しでのリアライズは難しいからな』

「Dアークだよな?」

『そうだ。貴様の通信端末に声を届けられるのもこれが限界だ。我も別件があるしな』

「…今までありがとよ、クソ親父」

『フ…その気概、せいぜい失わぬことだ』

 

 

 

それきり、彼のスマホからはもうクソ親父の声は聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸利様…誰にお礼を申し上げていたのですか…?」

「…世話焼きの頑固おやじのクソ親父だよ…実の父親より父親らしい。…アパルにはいないのか?そういうおせっかいな世話焼きが…」

 

アパルと呼ばれた青上でセミロングの幸利と同い年くらいのメイドは少し考えるそぶりをし、

 

 

「もう死んでしまいましたが…血のつながらない…父がいました。最後まで私を守ってくれた父です。特別ではありませんでしたが。私にとっては【特別】な父でした」

「そっか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ハックモンもハックモンで、修行の合間にこれまでの幸利の人生を垣間見ていたが、理解者のいない人生に何とも言えない顔をしていたが…少しだけ幸利の心がいい方向に向かっているのを感じた。

 

 

 

 

 

進示視点

 

 

 

召喚から数日経った。

 

毎日の夜、あの日と同じメンバーを集めつつ、少しづつ俺達の旅路の話をしていく。

転生者であることは伏せているが、ハジメの感ではもう気づかれているかもしれない。

 

…これは気を使われてしまっているかな?

 

この前の俺の頼みに関しては殆どが『考えさせてほしい』だった。

まあ、無理もないか。俺も急かさないし、何か月でも考えてもいいと言った。

先生は私にできることがあったら言ってくださいと言ってたが、スケールの大きい話で、ある上に公安や政府とも関わらないといけない点から、緊張を隠せないようだった。

 

因みにドルモンはもちろん杏子の姿でいる。

密会の度にドルモンに変身(元に戻るが正しいか?)させてモフモフしてくるメンバーが数名。

 

因みに男性陣だが、頭を撫でたり、握手くらいは許した。

流石に前進を撫で廻させたりすると…杏子の姿で想像した時がヤバ過ぎたからだ。

 

因みに異世界召喚されたことに関してカウンセリングを生徒全員にしようかと思った。

 

しかし、檜山達子悪党どもは『ああ?ナメてんのか榊原!?』とか言われて取り付く島もない。

天之河に至っては

 

『そんなことをしてるくらいなら剣を振ったらどうだ?君のステータスは分からなかったけど、訓練をサボっている以上弱いんだから』

 

とか言われた。

 

因みにステータスプレートというアーティファクトがあり、それで血を垂らした人物の能力値が分かるらしいが、俺と杏子は文字化けだらけで不明だった。

…杏子も俺と訓練量は同じだが、周りのレベルを見るために力を抑えているとはいえ、少しイラっときた。

因みに訓練はサボっているわけではなく、政治、文化、宗教、経済、歴史、市場の確認、いざという時の逃走経路の確認などに奔走しているからだ。

 

 

ただ、清水からは

 

『いや、思うところはあるけどいい。こんなとこで凹んだら頑固おやじに顔向けできねぇ』

 

と言ってきた

 

…頑固おやじ?

 

そして中村からは

 

『別にいいよ』

 

と断られた。

 

…中村からは警戒されてる?

 

まあ、紆余曲折はあったが、何名かはカウンセリングを受けるとのこと。

 

 

ただ、畑山先生が教師としての熱意か、カウンセリングは自分もやるとのこと。

 

 

 

「あら、今日も精が出ますね」

 

そう言って俺に話しかけてきたのはハイリヒ王国の王女。リリアーナS・B・ハイリヒだったか。

 

「王女ですか」

「リリィで構いませんよ。敬語もいりません」

「…少なくとも今は仕事中。プライベートではありません」

「…正論ですね」

「リリィ!どうしたの?」

「こんにちは、杏子。たまたま通りがかって」

 

…現在の杏子の精神年齢上プライベートと外用の態度を使い分けることは…ある程度はできるが、やはりずっとは気を張れないのだろう。

…ただ、ここ最近は杏子の視線が俺を見透かすような…見定めるような視線が増えてきた。

まさかね。

 

 

「聞きたいことがあります。ガラテアというメイドの経歴はご存じですか?個人情報を聞くようで心苦しいが、気になるのです」

 

すると王女は驚きに目を見開いだが

 

「彼女は…へリーナが拾ったのです。自分の生まれや故郷が分からないと言っていましたが…」

「記憶喪失?」

「…恐らくは。これぐらいしか話せませんが」

「…そうですか」

「お力になれず申し訳ありません」

 

 

へリーナというのは王女専属のメイド長だったか。

 

…気になるが今は踏み込む時間はないな。

 

「貴女はエ■ト神をどう思っていますか?」

「■ヒト様ですか…。ご立派な神だと思います…ですが、平和な世界に生きてきたあなた方を召喚したことには疑問を感じています」

「!?」

 

 

…なんだ?エヒ■の名前、聞き取れない上に発音も出来ない!?

召喚初日ははっきり聞き取れたはずだ…

 

 

『スピ■ッφでエボリューションするからテイマーズの世界かと思ったけど、この世界に関連する人とか組織とかないのに!?』

 

 

…大和田の発言…なぜ今思い出す…!?

 

…頭痛が…!?

 

「進示!?」

「大丈夫ですか!?」

 

二人が心配そうに膝をつく俺を支えようとする。

 

何とか立ち直った俺は大丈夫と告げ、杏子を伴って歩き出す。

 

王女には「無理ははなさらないでください!」と言われたが、今はこの場を離れたかった。

 

 

 

 

 

八重樫の武器も今はサーベルを使ってるが、刀じゃないと真価を発揮できないだろう。

 

読書に錬成の知識獲得その他に様々な知識獲得に精を出すハジメに刀を鍛えるノウハウを会得させる。

 

因みに亜空間倉庫に入れてあったリボルバー型の拳銃も一丁渡してあるし、密会の時には、ハイネッツで手に入れたライフルキャノンやガトリングも見せた。

先生は泡吹いて倒れたが、ハジメは興味津々で構造まで何時間も見せることになった。

 

…このガトリングとライフルが後にあんな大蹂躙のきっかけになるとは…魔物さんごめんなさい

 

 

 

 

??視点

 

…とある隔離空間

 

『な…何が起きている!?我の名を忘却するだと!?』

「滑稽だな、エヒトルジュエ」

「!?何者だ!!?」

 

 

トータスの神、エヒトルジュエの前に現れた日本人の男。

 

「今貴様を蝕んでいるの捕食体の1部は、かつて貴様とともにこの世界を開拓し、ドロップアウトした【到達者】のなれの果ての生体データが含まれている」

 

『………!!?なんだと!?』

 

 

自分とともに世界を開拓したというワードに数舜遅れて理解したエヒトは驚愕した。

 

 

「貴様があの特殊な地球から召喚魔法を使って人間を拉致した時点で、貴様の敗北は決定した。

本来の歴史はともかく、この世界の歴史でソレをやってしまうとは運がない」

 

『何を…何を言っている!!?』

 

「俺はこの世界の歴史に興味がなかったので、発覚が遅れてしまったがな。あの転生者どもはこの世界の歴史を知りもしないから、対策は立てられないだろう。運が悪かったな、エヒトルジュエ。

貴様はもう助からない」

 

『…馬鹿な!?馬鹿なあああああああ!!?』

 

「暫くは俺がエヒトの代行をするしかない。ジールが滅んだ時点で榊原進示がジールに関する記憶が消えていなければ本来は辻褄が合わん。だが、」

 

「私が、【ファング】を破壊したからな」

 

 

男性のそばに降り立つは金髪の…切れ目だが美女ともいえる天使が降り立つ。

 

 

「流石は破壊の天使。デジモンの究極体が4体必要なレベルを指先一つで消し飛ばすか」

「まだ危険度が99.5%どころか70%も行ってないから、力は制限されているが」

 

 

「このままエヒトを放置すれば、浸食され、星をも食うファングになってしまう…破壊しろ」

「…面倒なままごとをお前が代行すると?」

「仕方あるまい。この世界でデジモンがどれだけ力を上げられるかも確認せねばならん。よく確かめなかった俺の落ち度でもある」

「律儀だな」

 

 

そう言って天使はエヒトに指を向ける。

 

 

『い、嫌だ…止めろ!?しにたくないいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?!?』

「消えろ」

 

 

 

 

 

 

 

エヒトルジュエ…僅かな運命のすれ違いによって何もできずに姿を消してしまった。

 

 

 

 

「代わりにエヒトの昔の仲間の残骸が表に出てしまったな。帳尻合わせか?」

「こちらの処理はこの世界の人間に任せればよい」

「俺がエヒトのふりをする。この映像も録画したな?」

「勿論」

「結構。神の使途やエヒトの眷属に気取られないように俺の姿を処理してくれ」

「いいだろう」

 

 

金髪の美女は男に指を向け、あらゆる情報を偽装する。

 

 

「暫く相手をしてくれくなるな…?色男」

「…色男は昔の話だ。…神どもめ、我々転生者をストレージとして使うためにこのような転生システムを作ったのか」

「…それに関しては私も疑問がある。神王は本当に…?」

 

 

天使は鋭い目を男に向ける。

 

 

「ほぼ間違いない。神様転生システム…観測者どもが【2次創作】と呼ぶ世界。

それを作り出しているのは世界のシステムのサンプルを欲している。そして…」

 

「…転生者を育てているのは【バックアップ】のためか。…エヒトルジュエも規模は小さいが似たようなことをしていた…まさに奇遇だな?」

 

「さらに…世界そのものが消えない限り、魂や電脳体でも生存できる。【パーフェクトガールプロジェクト】からヒントも得てしまった」

 

「臓器売買を目的とした人形のハーレムの罠…か。あの被害者はログアウトできなかったが、既に体を解体されていたせいだな?」

 

「ログアウトするにも【受け入れ先のアカウント】が必要だからな。そのアカウントである体がない以上帰れないのは当然だ」

 

「ああ…だからあのアルファモンに目を付けたのか」

 

天使は得心がいったとばかりに笑う。

 

 

「デジシンクロを起こしたあの転生者なら超高次元世界に肉薄出来るかもしれん。

失敗してもサンプルが取れれば十分だ。…このデジタマを龍の姫の元に転がせ」

 

「あのクラスの人間でなくていいのか?」

 

「人間の記憶容量と処理能力では限界がある。転生者以外で唯一見込みがある南雲ハジメは違う役割がある。

…その点、龍の姫なら申し分はない」

 

「了解した。異存はない。これはこれで歴史が変わるな?」

 

こうして男から卵を受け取った天使は【神域】を飛び去った。

 

 

 

「…さて、面倒だ。アドベンチャーやテイマーズといった、オリジナルのデジモン世界の記録も消えかけている。データをもとの世界に返さないと全世界が連鎖崩壊してしまう。…問題はサルベージが出来るかどうかだな。歴史の修正…みたいなものか。天使の増援がないのを踏まえると、成功率はほぼ100%か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜人族の里

 

 

 

「…これは…卵…かの?妾も見たことがない」

 

 

 

そうして運命は狂いだす。いや、初めから狂っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 




エヒトが好きな方、申し訳ありませんがここで退場です。
代わりに、存在が示唆されていても、ほとんど何も出番がなかった到達者が出てきます。半オリキャラになってしまってますが。

因みにありふれ原作知識は無しとタグがありましたが主人公たちはありふれ知識はありません。

7人目の転生者はよく知っていますが、本文にもある通り彼は彼で世界を守るために動いています。やり方の是非はどうあれ。
しかし、7人目の転生者にとってもエヒトが喰われているのは予想外でした。


人物紹介4

7人目の転生者。

進示達6人の転生者と違い、ありふれ原作知識がある(何度も言うが、進示達は知らない)。
神の世界の思惑も既に大体の予想がついているが、これは樹たち天使ですら辿り着いていない真相である。

また、消えかけた世界の情報を修正するため、暗躍している。
修正しないと、当然ながらアルファモン(サイスル)の元居た世界も消滅する。それによって進示達の転生した世界も消滅する。

昔はもっと人間味があったようだが、彼のパートナーの天使曰く『味気なくなった』とのこと。

しかし、彼女は公私にわたって彼を支えている。






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第5話 オルクス大迷宮と地球への通信(その1)

せっかく通信が出来るという作中の設定があるのでそれを利用した説明会をします。

少し話が飛びますが、捻りを入れた方法も欲しかったので、オルクスの隠れ家から出来事を報告する形で大迷宮の描写をしたいと思います。

オリキャラのガラテアの回想も入れます。






園部優花視点

 

…ホント、地球にいたときはこんなことになるなんて微塵も思ってなかった。

 

今、オルクス大迷宮最下層にあるオスカー・オルクスの隠れ家で私と進示と、杏子の寝室で、進示を中心に川の字になって寝ている…全裸で。

 

「…ついにやっちゃったなぁ…それも3Pだなんて…」

 

二人はまだすやすやと寝息を立てている。

 

この二人の話は杏子がドルモンに変身したのを目の当たりにして信じざるを得なかった。…流石に目の前で変身されちゃね。

それに、こんな情報、異世界召喚初日に全部信じられるとは思えない。

進示の懸念は正解だろう。

 

 

奈落に落下してから、しゃべり方が大人になった(記憶喪失って話だし、こっちが本来の杏子かしら?でも、まだ殆ど過去は思い出せないらしい)杏子も今まででは考えられないほど妖艶な雰囲気が出ている。

 

すっかり色が変わった自身の髪の毛を見る。

 

魔物肉を食べて、体が成長したり、髪の色素が抜けたり、…私は胸も少し大きくなったし。

 

身体が引き締まったのは魔物肉を食べた南雲も同じか。

 

…進示と杏子は召喚前から持っていた非常食でここまで乗り切った。

 

この隠れ家なら菜園も出来るし、食料が尽きることはないし、携帯食も新しく作れる。

 

「それにしても…」

 

 

隠れ家についてから彼が創作でよく出てくる転生者と聞いた時も驚いたわね。(南雲が死んだ時の感想とか聞きたがってたけど)

 

樹さんとも関係を持ってることもヤる前に聞いた。

 

…デジモンだけどあれだけの仲の良さならてっきり杏子とも関係を持ってる。そう思ったけど、精神年齢がもっと上がるまで関係は持たないと彼なりではあるが気遣っていたらしい。

 

…まあ、その気遣いが原因で女の方から(デジモンに本来性別の概念はないらしい)告白させる見方によっては情けない格好になったけども、話を聞いてベッドも上も共にして分かったのは、決して完全無欠のヒーローではないこと。

 

本人も才能だけなら南雲の方が上、自身は経験で勝ってるに過ぎないので、いつかは追い越されるかもしれないとも言ってたっけ。

 

 

 

戦闘とかでは頼もしいのに、ベッドの上では案外甘えんぼでそのギャップもまたいい。

 

杏子曰く、『進示は決して孤高では強くなれない人間だ。彼の心許せる人たちと守り合う事にこそ真価を発揮する人間だ。…私はデジモン故、今まで実感はなかったが、今は共にいて…出会ってよかったとさえ思える。…思い出すことはできないが、彼はかつて私が導いたと言う少年と再会させようとすらしてくれている。…過去の蓄積無くして今の私無し…とさえ言ってくれた。私の『絆』を否定せず受け入れてくれた。…面と向かっては流石に恥ずかしいが…進示には心から感謝を』

 

 

と、言っていた。

 

『絆』ね…。

 

複数の女と関係を持った進示を否定する人間は多いだろう。

でも、悩み、迷いながらも私たちを受け入れてくれた彼を否定させはしない。

 

…南雲もユエと関係を持ったけど…私の目から見ても南雲がハーレム築くのも時間の問題な気がする。

 

 

「うにゅう…俺が杏子を抱いたから66兆2000億円は誰の手に…」

 

…そんな寝言…ちょっと待って!?仲間内で賭けの対象にされてるの!!?

 

 

ピピピピピピ

 

 

 

何の音!?

 

 

そんな電子音に寝ぼけている間もぬくもりが欲しかったのか、私たちの肩を抱きながら眠っていた進示も急に覚醒した。

 

 

「…地球にいる連中が俺の信号をキャッチしたか!生身の世界移動は無理だが…通信は何とかなる!!!」

 

 

すると進示は亜空間倉庫から大きなテレビ…を出しかけて、自分たちが裸であることをに気付いて着替えを出す。

…私も裸だった!

 

私たちは急いで服を着て、南雲とユエ、ギルモン、ガジモン、ルナモンを起こす。

 

 

「テレビとパソコンを接続し、電波をやりとりする一体型モデム…」

「ホントに繋がるのか?」

 

南雲が期待半分、不安半分に疑問を投げる。当然か。

 

「少し待て…。よし!映像でるぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本某所

 

樹視点

 

 

 

「…来た!!着信だ!!…間違いない!榊原のアドレスだ!!!」

 

関原さんの声に、会議室にいる保護者一同が一斉にどよめく。

 

「小山田!?」

「…もうやってる。エイリアンの世界にいたときと似た要領で出来るっしょ」

「繋がりました!」

「映像、来ます!!」

 

 

「ま、マイエンジェル…!」と祈りを捧ぐ智一さんが見えた。

普通は過保護に見えるが、普通の人でも今回ばかりは責められないでしょうね。

 

 

『聞こえるか?腐ってるか!?66兆2000億は誰の手だ!!?』

『何、その挨拶の仕方?』

 

66兆2000億は恐らく、異世界召喚の関原さんたちの賭けの事だろう。

…金額は流石に冗談ですけど。実際はご飯代や、カラオケ代等だ。

 

…そして、隣にいる白髪赤目の女性…声は聞き覚えある…まさか!?

 

「園部優花さん!?」

『あ…樹さん…お久しぶりです…』

 

優花さん本人だ。何故髪と目の色が?それにスタイルも良くなっている。

 

「「優花!?」」

『あ…パパ…ママ…』

 

映像の向こう側の優花さんが泣き出す。

 

…無理もないわ。

 

だが、その事に保護者達が一斉にうちの子は!?と騒ぎ出す。

 

『ハジメ、いつまで後ろ向いてんだ?』

「「ハジメ!?」」

 

ハジメさん…なのか。彼も優花さん同様、何かあったのか。

 

『と、父さん…母さん…』

ハジメさんが躊躇いがちにこちらを向く。

 

「は、ハジメ!?腕はどうしたんだ!?」

「それに右目も!?」

 

今のハジメさんは左腕と右目がない。

 

『それも含めてこれまでの事、現状、これからの方針を報告します。

…現在、この隠れ家にいるのは、映像に移るメンバーとパートナーデジモンだけです。』

「「「「「「デジモン!?」」」」」」

「あ、マジだ」

「ギルモン、ルナモン、ガジモンじゃね?」

 

『俺はガジモン、ハジメのパートナーだ!』

『私はルナモン!ユエのパートナーだよ!』

『僕ギルモン!優花のパートナーだよ!』

 

 

その自己紹介に我々は驚く。

事情を知らない方々は、ゲームの存在のはずのデジモンが現実に存在…してたことには驚いていたけど(関原さんたちのパートナーも見てるし)

自分の子息にデジモンのパートナーが出来たことに驚く南雲夫妻と園部夫妻。

 

南雲夫妻は特に興奮している。息子が隻腕隻眼であることも忘れて…違う意味で。

…脳って幾つものタスクは処理しきれないのね。

 

 

…ん?ユエ?

 

『あの人達がハジメのご両親?』

『そ、そうだ…』

 

ハジメさんが所在なさげにうなずく。

…っていうかユエさん?が着ている服、サイズが合いませんね?

 

『ああ、トータスにはテレビもクソもないから、不思議そうに見ていただけか』

『うん、遠くの人とこうやって話せるのって不思議』

 

…ああ、大体わかりました。

 

現地で何らかの事情があって協力を仰いだ方かしら?

 

『初めまして、ハジメの義お父様、義お母様。私はユエ…ハジメの嫁です』

 

 

 

 

…数舜の沈黙。

この後起きる展開を予想し、画面の向こう側の人たちと、こちらでは私、転生者とパートナーのデジモンと天使が耳を塞ぐ。

 

 

「「よ、嫁えええええぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」」

 

 

 

ふと、私は気になる点があった。

 

「杏子ちゃん!?その喋り方…記憶が戻ったの!?」

 

 

 

そう言えば杏子ちゃんの話し方もだけど、雰囲気が一気に大人っぽくなっている。

…え?とうとう抱いたの?

 

すると杏子ちゃんは私の意味ありげな視線に応えるように一瞬だけ優花さんに視線を移した。

 

…その意味を察した私は、一気に二人も関係を持った進示さんの大胆さに軽く驚く。

 

『…私の記憶はまだ大部分が欠損したままだ。しかし、事態はロイヤルナイツの抑止力どころではない…宇宙崩壊の危機であることは間違いないと伝えよう、樹』

 

 

杏子ちゃんが先ほどは敬語だったのは、保護者たちに話しかける意味もあったのか。私にはタメ口だ。

 

 

宇宙崩壊の危機と聞いて、保護者達は騒ぎ出す。

 

進示さんが口を開く。

 

『しかし、今はこちらの対応が先だ。異世界トータス、そこに召喚されてから現在に至るまでの要点、一応、この通信も録画しているので、どうするかは自由にしてくれ、それから、公安に提出予定の報告書を送信する。…電力は魔法でクリアできるが、文明レベルが中世欧州程度しかないので、大っぴらにパソコンやテレビを使用することはできないから、通信はいつでもいつまでもは出来ない』

 

 

いつでも通信できるわけじゃないとの報告に保護者達は落ち着かないようだ。

 

『残りのクラスメイト達はメルド団長や騎士団がいる以上そうそう死にはしない…が、檜山大介の…恐らく嫉妬が理由で放った南雲ハジメへのフレンドリーファイヤに見せかけた攻撃…いや、どさくさ紛れか?恐らく後者…が原因でハジメと俺と優花、杏子だけは自分から奈落に飛び込んだが、俺たちだけはぐれることになってしまった。…動機は…白崎香織だろう』

 

「「「「!?」」」」

 

「…他の人がいないのはそのためですか…デジモンは?」

『奈落の底にいたが…召喚初日から順序だてて話そうか。召喚の様子…は』

「たまたま移ったカメラの映像を公安が押収したので、我々の伝手で見させていただきました」

 

『そうか…なら、召喚直前の様子はいらないな』

 

…そうして進示様達は、は異世界トータスの召喚直後の様子から語りだす。

 

天之河さんたち数名が戦争参加の意思表示をしてしまったことに、該当する生徒の保護者達は卒倒しそうになったが、それ以外手立てはなかったでしょう。

…魔女狩りなんて起きたら他の皆さんは対応できない。

 

…そして先生と何人かの生徒には自身の素性と我々の協力者になって欲しいと要請したこと。

これは少し荒れたが、選択は任せること、断っても構わないこと、返事は何年も待つという話をして少し落ち着いたようだ。

 

 

 

…そして、話はオルクス大迷宮という場面に移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラテア視点

 

 

 

王国に勇者たちが帰還したが、何人かの生徒の訃報があった。

 

その中に、私が取り入るべき人間だった。榊原進示の名があった。

 

檜山という人間がトラップに引っ掛かり、ベヒモスと戦闘になった経緯、勇者なる人間が檜山の過失を許し、さらには進示と南雲ハジメを死んだことにし、女性である杏子と園部優花は自分の助けを待っているから必ず救い出すと息巻いていたが…。正直あの勇者は私の眼中にない。

…忘却の出来ない体質の私は忘れることさえできないが。

 

「進示と杏子があれで死ぬと思えませんね…5年前の戦いを隠れて見続けてきた私の目から言えば」

 

 

私は自分がエルフであることを隠し、流れついたこの世界で人間のメイドとして活動してきた。

 

「フェー姉さま…」

 

 

 

 

 

『いいですか、貴女は生き続けなさい。本当は私が進示様に嫁ぎたかったのですが、私が…いえ、ジール助かる【ルート】は【現状では】存在しません』

 

『…っ!?それも【未来視】ですか!?』

『ええ、あの方の伴侶たる天使様と別の…破壊の天使様もこの世界は【滅ぶしかない】という結論を出しました』

 

『そ…そんな…!?』

 

『彼がイーターもどきと呼ぶあの捕食の化け物は人間の【原罪】が具現化したもの。

杏子が元居た世界の彼女の同胞…ロイヤルナイツもそう呼称していますし、私も目の当たりにしましたが間違いないでしょう』

 

『姉さまの千里眼は他の世界すら見通すとは聞いていましたが…では、人間のせいで世界が滅ぶと!?』

『いえ、【原罪】はどのような種族にもあるのです。神ですらその例に漏れません…神の世界も一枚岩ではありません。人間という【肥やし】を使って世界を更新しようとしています』

 

『な、なにを言っているのです!?神が原因なのですか!?』

『人間を【資源】としてしか見ていない神…とも少し違いますが、犠牲のない世界を作るための必要な犠牲…彼の世界の言い方で【コラテラル・ダメージ】でしょうか』

『世界のための犠牲…』

 

『既得権益のために進示様と杏子から邪神討伐の功績を簒奪し、濡れ衣を着せて彼らを追い詰めた人間の国…アレも拡大解釈をすれば【自分たちの生活のために他人を犠牲にする】に他なりません。』

 

 

『…』

 

フェー姉さまから聞かされた話に私は唇が震えるのを実感する。

 

『ミリアにも同じものを渡しましたが、このイヤリングを貴女にも渡しておきます。姿の隠蔽もある程度できるでしょう。

魔法において天才たるミリア。異世界にも行ったことがあるというミリア。異世界すらわたる魔法を編み出してしまった天才…しかし、その魔法は天才であるミリアが扱うことを前提としたもの。

 

 

…魔法の適性が低い貴女が使えばどのような世界に飛ばされるかはわかりません。

…貴女は私やミリアに比べて魔法の才能はそこまでない』

『な、なら!姉さまやミリアが生き残るべきです!!』

 

 

そういうと姉さまはふわりとほほ笑んで

 

 

『…いえ、貴女の方が適任よ。進示様と杏子が元居た世界は魔法文化は社会に秘匿されているもの。

魔法に頼らない生き方が出来る貴女の方がずっと彼の支えになれる』

 

『わ、私が進示に嫁ぐ前提なのですか!?』

 

『あら、【未来視】では、貴女と進示様の赤ちゃんまで視えましたよ?他にも何人もの女性の間にも子供がいますけど…貴女も含めてみんな幸せそうよ。杏子だけは体質上子どもは出来ないけど』

 

『…!?』

 

 

多すぎる情報量に頭がパンクしそうにると言いたいが、あいにくと、私はその情報量を瞬時に処理してしまった。

 

『そう、それよ。莫大な情報量を処理しきる脳を持つ貴女は、彼の行う戦いにおいて支えになるもの。

彼のたくさんの女性…のみならず、様々な種族、人種、デジモンという高次元の種族さえと繋がりを持てる可能性を秘めた…神にすら立ち向かえる【愛】…愛の本来の意味は【受け入れる心】ね。まあ、殆どの人は【愛】という言葉を聞くと【恋愛】を真っ先にイメージするのだけど』

 

『…愛ですか』

 

『そう、ハーレムを兵器として使おうとしている天使様も大概ですけど、決して悪いようにしないはずですわ』

 

…なんかとんでもないこと言ってませんか!?

 

ハーレムを兵器にする!?そんな発想出てきませんよ!?

 

 

『まあ、他の次元…の平行世界の転生者とまで友情を持ってしまうくらい器が大きい方ですから、貴女も受け入れてくれますよ。【許可】も頂いているみたいですし。あくまで可能性で、実現するとは限りませんが』

 

『どんな世界を視てるんですか!?許可って何ですか許可って!?観測世界も視れるのですか!?』

 

 

 

『…さて、話が脱線しました。今夜中にもエルフの国を出なさい、ガラテア。

…貴女は生きて…再起の時を待つのです…。彼の世界の言い方で【チート】過ぎる千里眼を持つ私では、生きていれば必ず抹消されます。…私が何かの間違いで蘇る未来も視えていましたが、天文学的確率です。私は【概ね】死ぬしかない』

 

『…』

 

『世界は神の空想。彼らの世界に【シャッガイ】という単語がある時点で予想できる人は出来てしまうでしょうが、そこまで踏み込む必要はありません。

…大切なのはヒトの空想も具現化できるという点です。

…とある世界では【松田啓人】という人間の少年が成した事、アレが最大のヒントです』

 

『松田■人…とは…あれ?』

 

『認識できずとも構いません。重要な情報は【空想を具現化する】こと、この1点のみです』

 

『…』

 

『進示様をお独りにしてはいけませんよ?彼の器は大きいですが、それ故の脆さもあります。

人間達は英雄をあらゆる規範の手本として英雄を英雄視しますが、進示様は【英雄】ではなく、【迷子】です』

 

『…迷子』

 

『…だからこそ私も寄り添いたかった…ごめんなさいね?貴女を私の代わりみたいな言い方して』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さん?ガラテアさん?」

「あ、…雫様」

 

いけないいけない、思考に没頭し過ぎた。

 

「…その…」

 

「進示は心配いりません…杏子も南雲様も園部様も生きています」

 

「…え!?今呼び方…それに生きてるって…」

 

雫様は進示と杏子の呼び捨てにも疑問を持ったようだが、今は誤魔化す。

 

「私…のもう死んだ姉の勘です」




人物紹介5
フェー

進示と杏子がジールという世界に迷い込んだ時のエルフの王女。

進示はエルフの国を元の世界に帰るためのついでで救ったに過ぎないが、それ故に進示に惚れた。

戦闘能力は皆無。実はあらゆる世界、未来、平行世界、そして我々観測者いる世界すらメタ的にも見通せる超が付くほどのチート千里眼を持つ。
しかも捕食された世界のデリートすら通用せず見通せる。

しかし、自身がいることで神に目を付けられることを悟ったフェーは自身の使命をガラテアに託す。

実際千里眼頼りであるため、能力を失ったら、誰かの庇護無しで生きていくのはほぼ無理。よって、特殊能力や魔法に頼らず生きていけるガラテアの方がいいと判断した。

自身の生存を絶望視しているが、ファングに喰われることも想定していたが、実はまだ一縷の望みを信じている。


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第6話 オルクス大迷宮と地球への通信(その2)

結構難産でした。

転生者たちのサポートをする天使は天使と大天使という呼称が用いられていますが、しっかり違いがあります。

大天使【現在判明している大天使は樹=トレードのみ】はある種の抑止力でもあります。


追記

現在執筆中の【あっち】の方でネタを挟んだため、本文を微妙に修正しました。
本編に支障はありません。


進示視点

 

 

「そう言えば、杏子は迷宮に入る直前、何か言おうとしてたな」

『うん、前日の夜、香織がハジメの部屋に行ったときに、よくない視線を感じたの。ハジメに嫌悪の視線を向けていたのは檜山だけど…もう1つ視線があったの』

 

確かにそう言っていた。

 

「ああ、覚えているとも。…本来あり得ない視線…少なくとも人間のようで人間ではない」

 

「…なんだって?」

 

檜山は大体予想できる。

 

事あるごとにハジメに突っかかっていた。

 

『な、なんだって!?夜這いか!?』

『うおおお!?ハジメ!?やるじゃないか!?』

『お赤飯炊かなくちゃ!!』

『黙れゴミム…クソや…ゴホン、親としてもっと言うことがあるでしょう!?』

 

向こうでは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

特に白崎智一さん。

 

「カオリというのは聞いていたけど、ハジメの様子を見る限りナニもなかったと見える。ハジメの童貞は私が頂いた」

「ちょ!?ユエ!!?」

 

 

…うわー…このタイミングでソレ言っちゃう?…まあ、俺も…優花から迫られたとはいえ、本物の女子高生である優花を傷物にしてしまった。

しかも杏子との3Pで。

 

 

『『えええええええええっ!?!?』』

 

『き、貴様!?マイエンジェルというものがありながら!?』

「いや、白崎の方も俺の方をストーカー…されていて迷惑を」

『なんだと!?マイエンジェルがストーカ…する…わけ…』

 

やっぱり騒ぎになったか。

 

…ん?急におとなしくなったな、智一さん。

 

『お、思い出した…あれは学生時代…薫子と出会った時だ…』

『いやだもう…急に惚気ないでよ…、智一さんてモテるし、優しさと甘さの区別もつかないし智一さんに言い寄るゴキブ…女性をどうやって』

 

ゴキブ!?最後の一文字は飲みこんだけどもしかして台所に出没するアレ!?

女性をそれに例えたの!?

 

「そう言えば、召喚前日も白崎がハジメの家に夜から出待ちしてたんだ。八重樫に頼んで摘まみだしてもらったから、彼女が証人です」

 

『ま、マイエンジェル!?』

 

すると優花が

 

「南雲をフォローしておくと、ユエの方から南雲に迫ったみたいね。

まあ、左腕右目を失って、精神の正常を保つ方が難しいし、ユエの方も300年迷宮に拘束封印されてたみたいだから、慰め合ってれば抱き合うのは自然な流れね」

 

「ん、自然の摂理」

 

ユエが当たり前のように言う。

 

…と、俺も優花のご両親に言わなくてはいけないことがあるな。

すると、俺の意味ありげな態度に優花が俺の言おうとしている事を察したのか、

 

「ちょ!?進示…!?…わ、私の方から迫ったんだし…」

「いや、自分で言う」

 

優花のご両親も俺たちのやり取りから察したようだ。

 

「…正直に言います。私が関係を持ったのは優花で【3人目】です。いや、神と杏子の種族の数え方から言って…正しい単位か?ここにいる杏子とご息女はトータスに召喚されてから関係を持ちました…ですが」

 

『一人目…いえ、一柱目は私です』

 

モニターの向こうの樹が俺の言葉を引き継いだ…ん!?

 

「お前!?自分が大天使であることを!?」

『説明に手っ取り早かったので、明かしました…主であるあなたの許可を得ず、独断で明かしました…この咎は受けましょう』

「いや、お前がそう判断したのなら…ほぼ間違いないだろう…正直、お前の先読みは未来予知レベルで俺達でもお前の頭脳にはついていけない」

 

 

…ちなみに、今【一人】と【一柱】という言い方と、単位の話をしたのは…うん、トレードが最近分身能力を身に着けたからだ。

とはいえ、まだ、仕事を代行できるほど精度は高くないため、現在分身は出していない。

 

『いえ、少なくともあなたならば並みの英雄よりは頭が回るでしょう…流石に本職のスパイが務まるレベルではありませんが、貴方の方針を確認せずに明かしたのは確かです』

「樹に対する罰はいい。それより…」

 

俺は園部夫妻の言葉を待つ。

 

『まあ、若いわね~優花♪』

「ま、ママっ!?」

 

優花も俺もお母上の反応が予想外で驚いた。

杏子だけは面白そうに事の成り行きを見守っている。

 

『進示君と言ったね。…父親としては複雑ではあるんだけど…優花がそう決めたのなら見守るしかない…君に言うことは一つだけだ』

 

「…それは?」

 

俺は神妙に御父上の園部博之さんの言葉を待つ。

 

 

 

 

 

 

『優花を無事に連れて帰って…私たちに会わせて欲しい』 

 

 

正直モニター越しでなければ殴られる覚悟もしていた。

 

 

そんな俺に娘を連れて帰ってきて欲しいと頭を下げられたのだ。

 

…正直こんな…自分でも情けないと思える…独りで強くなれない俺に…。

 

「…必ず」

「おや、初めてじゃないか?100%の保証がないのに【必ず】なんて言うのは」

 

 

杏子からそう言われ自分でも驚く。

 

「そうだな…人生で初めてかもしれん。だが、こんな事情に巻き込まれ、愛し合った女の親御さんに頭下げられたんだ。なら、答えるのが筋だ。

それに…事情があって生物学上人間じゃなくなった優花だが、人間の女を抱いたのは優花が初めてだ。これまでの戦いは自分達で何とかしてきたけど、精神的には杏子と樹に依存していた…。これからは俺が…」

 

『ストップです。進示様。』

 

突然樹から待ったが入る。

 

『貴方様が何もかもを背負う必要はありません。その様子では、そちらの方々全員が戦う覚悟を決めたようですね。…気を張りすぎると潰れるのは分かっているはずです。導くことも必要ですが、気負い過ぎないでください…貴女の本質は八重樫雫さんと似たようなもの…本当は戦いたくないのに戦う道しか選ぶことを許されなかった進示様は英雄ではなく、【迷子】が進示様の本質です』

 

「…わかってる」

 

『…やはりそうだったか』

 

八重樫雫の祖父、鷲三さんが得心が言ったように呟いた。

 

…天之河の妹らしき子が意外そうに眼を見開いている。

 

『迷子って聞くけど、彼はそんなに子供なのかい?話を聞いて頼もしそうに感じたんだが』

 

白崎智一さんがそう聞いてくる。

 

『いえ、一般的なイメージでは智一さんの認識でしょう。ですが…』

 

 

「迷い苦しみ、道を敷いてあちこち生きながら(行きながら)様々な人の心に触れ【子】から【人】へと至るための人生の解析。様々な価値観を受け入れる心…【愛】を学び、時に相いれない相手との衝突という【争い】と【助け合い】を学ぶ矛盾…成長と衰退、清と濁、…時にギャグとシリアス。生きる上で常に相反し続けるヒトの心を学び続けるための巡礼……それが樹の言う俺の【迷子】の本質」

 

 

『…よくできました。以前の貴方であれば辿り着けなかったでしょう。…だからこそ、時に見返り無しでも助け、時に誰かに甘えることも忌避してはいけません。…ヒーローだから完璧であれなどとは幻想です。英雄も苦しみを持つのですから、時に過ちを犯します。そこから再起できるかが重要なのです』

 

 

俺の答えに裏の世界の住人を除く保護者の面々は半数くらい困惑し、残りの半数は理解の色を示す表情を見せた。

 

…この若造…いや、前世も含めて齢50を超えているからだが…若造に見える俺がそんな言葉を吐いているのだから無理もないか。

 

杏子は感心したように、優花とハジメとユエと俺の言葉に何か感じ入ったのか…無言だ。

 

「そうなると天之河が一番危ないわね。アイツ、自分の価値観以外見向きもしないんだから」

 

優花がそう言った。

 

いきなり自分の息子(兄)の名が出て驚く天之河一家

 

 

『そ、そう言えば真っ先に戦争参加を表明したのは光輝って話だったけど…、』

「話が大分脱線したし、戻しましょう…万が一を考えて俺の制服に小型カメラも仕掛けていた…その映像を」

 

 

俺はカメラのデータから当時の映像を映し出す。

 

≪うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!≫

 

 

握りこぶしまで作ってそういう天之河。

全部映しても時間が足りないので、要点だけピックアップする。

 

さらに坂上が追従、八重樫が渋々ながら参加表明、白崎が八重樫に追従した。

他の殆どの生徒もさまざまな違いはあるが参加を表明。

 

俺やハジメは無言。

畑山先生が抗議したが、結局丸め込まれた。

 

『光輝…』

『ま、マイエンジェルが…』

 

「考えすらせず即決したのは問題ですが、神権政治であることを考えるとコレがベターでしょう。

参加を拒否すれば背信者として追放されればまだいい方、最悪魔女狩りみたいな公開処刑があった可能性はありますし、女性陣は…性的に尊厳を失っていたかもしれません。

ならば表面上は従いつつ、自活の手段…生活基盤が身につくまでは国の支援を受けた方がいい…そういう意味でベターですね。

…いずれにせよ、日本の価値観で言う最適解は存在しません…生きるためそのものにリスクを冒す必要がありましたし、…私もこの人数を守り養うのは極めて難しいし、過労死の危険もありました」

「ま、間違いねぇな」

 

俺の言葉にハジメが肯定する。

 

 

「そこからは訓練課程で檜山達のハジメへのリンチがありました。力を得たことで増長したのもあるでしょうが、理由はどうあれ、ハジメを【キモオタ】と見下してる彼らにとって、ハジメは絶好のサンドバックだったのでしょう。実際、カウンセリングをクラス全員に素養としましたが、檜山たちは『ああ!?舐めてんのか榊原!?』とか言って取り付く島もありませんでしたし」

 

ハジメをリンチしていた映像も途中からだが映った。

 

王女から借りた政治学書を読み、訓練の時間になって、訓練所に一定股が、ほぼ同時に駆け付けた八重樫、白崎、天之河などがリンチを止めたものの、

 

『…だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?』

 

「…これはヒドイ」

 

ユエの口から呟かれた辛辣な天之河への評価。

 

すると杏子が

 

「人間とは千差万別…知識もまた力になる…。天之河光輝は学校の成績はいいのだから、それが分からないはずはないのだが…恐らく、本人も自覚していない嫉妬があるだろう。」

 

『と、いうと?』

 

天之河の父が…天之河聖治さんといったか。

彼が聞き返してくる。

 

それに杏子は返す。

 

「白崎香織や八重樫雫とは幼馴染の関係にあると聞きました。…恐らく彼女たちはずっと自分のそばにいると思っていたのでしょうが、白崎香織が南雲ハジメに理由は分かりませんが、好意を向けていたことに対する嫉妬と思われます。…だからこそ自覚のないまま南雲ハジメを冷遇したのではないのでしょうか」

 

杏子の言葉に優花が「ああ、あり得るわね」と呟いた。

 

モニターの向こうの人たちが微妙な表情をしているが、天之河の妹さんだけなんかソワソワしてるな。

 

するとハジメが気まずそうな顔で

 

「ああ、理由なら迷宮に入る前日の夜に聞いた。…なんでも、たまたま居合わせたカツアゲの現場で俺がおばあさんを助けるために土下座で丸め込めようとした現場を白崎に見られてたらしくてな…それが白崎に『ハジメ君は強い人だ』って思うようになったらしくて…中学の頃だったな」

 

『だからアンタあの時ボロボロだったのね』

 

南雲菫さんが納得したように言った。

 

白崎智一さんも意外そうな目でハジメを見る。

 

「この辺はもう特筆すべき話題はほぼないし、良くない視線で檜山がハジメを見ていたのはさっき杏子が言ってた…余談ですが、ランデル王子も白崎香織に気があるみたいです」

 

『まあ、香織、モテモテね!』

『ぐぬぬ…やはり害虫はどこにでも沸くのか…!』

 

「…まあ、ハジメと俺で造った刀の試作品を八重樫雫に渡したくらいですか」

 

「それでいよいよ迷宮に入ったんだよな」

 

いよいよ話題は確信に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹視点。

 

 

 

『いよいよ迷宮に潜ったんだな』

 

『ああ、女性陣にル〇ンダイブのように飛び込んでいったモンスターに天之河がキレてオーバーキル攻撃した時もあったし、ハジメが錬成で上手くモンスターを倒したり、…俺は目立ち過ぎない程度に立ち回っていたが、もしかしたらメルド団長は俺や杏子の実力に気付いていたかもしれんな』

 

そう言う進示様。

 

「本気を出さない理由は…雫たちにもある程度自営出る経験を積ませるためかな?」

 

『はい、鷲三さん。本当に危なくなれば助けるつもりでいましたが、私も杏子も体は一つしかありません。様々な状況を想定すると、守りすぎるのも良くないと思いました』

 

それは当然だろう。

私も【妨害】によってトータスに行けない以上、進示様と杏子ちゃんだけでは限界がある。

 

…そういう意味とこれから先に訪れる未来も想定したうえで協力者の要請をしたんでしょうけど。

 

『そうしてグランツ鉱石という美しい鉱石…装飾品の原料としても価値の高い鉱石を安全確認も済んでいない段階で鉱石を採ろうとした檜山がトラップを発動させてしまいました。それで転移トラップが発動し、65階層…当時確認されていた最大の下層に飛ばされ、前方にベヒモス、後方にトラウムソルジャーの大群に挟み撃ちにあってしまう事になりました…』

 

そう、映像まで見せられて、檜山さんのご両親は他のご家族から厳しい目を向けられてしまう。

 

『その程度の過失自体は気にしてません。が、挟み撃ちに合った以上、退路の確保が先にもかかわらず、天之河がベヒモスを足止めしようとするメルド団長たちの指示を無視し、ベヒモスに立ち向かおうとしました。坂上は追従、八重樫が天之河のストッパーをしようとしましたが…聞く耳持たずです。

……世話になった恩人を見捨てたくないというのも分かるのですが…ね』

 

進示様が突然憂いを帯びた顔になる。

 

…ミリアさんの事だろう。ハイネッツにもお世話になった人がいると聞いていますし。

 

『私は杏子に逃げられるギリギリの位置で状況によってどちらにも入れる中間の位置にいてもらい、先にトラウムソルジャーを倒して退路の確保をしようとしました…戦場の経験がない人間がいきなりピンチになればパニくるのは当然だが』

 

『私は転倒して、トラウムソルジャーに殺されそうになったんだけど、ギリギリで進示が助けてくれたの』

 

優花さんが進示様を見つめてそういう。

 

…ああ、それは…十分切っ掛けになりますね。

 

≪無事か!?園部!≫

≪あ、うん…≫

≪…橋の崩落の危険がある以上、退避完了までベヒモスとやらを倒せる火力は出せない。お前たちは騎士団が援護するから、お前たちは前だけ見てろ≫

≪あ、あんた達は!?≫

≪あの前に出てる連中…ハジメ!?≫

 

すると、ベヒモスの側の天之河さんの説得をしているハジメさんが映った。

 

≪アレが見えないの!?ほぼみんなパニックになってる!?リーダーがいないからだ!前ばかりじゃなくて後ろも見て!≫

≪あ、ああ…わかった…メルドさん、スミマ≫

≪!!?≫

 

 

と、ベヒモスの口から何やら触手のようなものが伸びた。

 

…あの触手の形状は!?

 

 

≪メタルキャノン!!!≫

 

と、杏子ちゃんが手のひらから鉄球を射出し、触手を払いのけた。

 

その杏子ちゃん本人は頭痛を起こしているのか左手で頭を押さえている。

 

「きょ…杏子ちゃん…」

 

誰ともなくつぶやいた。

 

≪…止むを得ん!!おめーらは天之河を連れて下がれ!!説明の時間はないが【捕食】されたらアウトだ!!ハジメ!数秒でいい!!【錬成で】奴を足止めしてくれ!!≫

≪うん!わかったよ!!!≫

 

そう言ってハジメさんは橋を錬成してベヒモスを足止めする拘束具を作る

 

…橋を材料にする以上足場は脆くなるが、他に手はない。

 

上手くベヒモスを鎖のようなもので動きを封じたが、数秒で抜け出されるだろう。

 

さらに触手も出されないように口も拘束する。

 

すると進示様はブルーカードとDアークを取り出し、スラッシュする。

 

…触手の正体にはなんとなく察しはついた以上、人間の進示様が迂闊に近づくのはよくないと思ったのだろう。

 

 

≪――MATRIX EVOLUTION――≫

 

 

進示様のパートナー、杏子ちゃんには複数の進化ルートがあるが、今回はグレイドモンを選択したようだ。

 

二刀を持った竜人騎士、完全体のグレイドモンだ。

 

事情を知っている面々以外は、杏子ちゃんの進化した姿に開いた口が塞がらないようだ。

 

≪く、暮見さん…!?≫

 

 

もう頭痛は収まっているのか、杏子ちゃん…グレイドモンは二刀…双剣グレイダルファーをしっかり構え、

≪グレイドスラッシュ!≫

 

上段に構えた二刀を振り下ろし、ハジメさんが作り出した拘束具ごとベヒモスを両断した。

 

後から聞いた話では、ベヒモスを地面に埋めるようにしたかったらしいが、それだと口を塞げない可能性があるので、鎖にしたとのことだ。

 

と、両断したはずのベヒモスが再生した。

≪な!?≫

 

≪グレイドモン!!≫

 

進示様が杏子ちゃんを見る…が、杏子ちゃんは頭を抑え出し進化が解除されてしまった。

 

≪な…!?大丈夫か!!?≫

≪…わ、ぐ…記憶が…≫

 

蹲りながらそうつぶやく杏子ちゃん。

 

…まさか頭痛は記憶回復の前兆なの…?

 

でも、喋り方が大人っぽくなっただけで、記憶の大部分はまだ思い出せないみたいだけど。

 

 

≪ぐ、しょうがねぇ!≫

 

そういった進示様は右手で拳を握り

 

≪タイラントバスター!!!≫

 

振りぬいた拳の先から砲撃のような熱戦がベヒモスを包んだ

 

ベヒモスは黒焦げになり、動かなくなった。

 

…皆進示様の攻撃に唖然としているが、タイラントバスターを放ったのはいいことではない。

 

しかし、杏子ちゃんが蹲ってしまったことから、橋の崩落リスク覚悟で使ったのだろう。

 

 

 

 

≪杏子!!!≫

 

 

 

優花さんとどこからか飛んできた火球がと一緒に走ってきた。優花さんが杏子ちゃんと自分の位置を入れ替えるように杏子ちゃんを押しのけ、

 

火球は崩落しかかった端に直撃。

 

次から次へと変わる展開に反応が遅れた生徒たちを置いていきながら事態は進む…。

 

 

≪いやああああ!ハジメ君!ハジメ君!!!≫

≪優花!!!?≫

 

 

 

進示様、優花さん、ハジメさんが奈落の底に落下してしまった。

 

 

映像越しでこうやって生存報告がされている以上、結果は知っているとはいえ、

 

正直生きた心地がしなかったのはこれで何度目か。

 

 

 

 

 

 

 

≪…私はキミとともにいる…!!!例え命がつなっがっていなくても!!君の命運、最後まで共に在ろう!!!≫

 

 

 

 

そんな声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんの少し前

 

 

 

檜山大介は白崎香織に好意を寄せられる南雲ハジメが気に入らなかった。

 

だから【俺の】香織…どうやって気を引こうか、どうやって南雲を亡き者にしようか、そんな薄らぐらい事を考えていた。

 

…自分がトラップを発動させてからも俺は悪くないという考えが頭をめぐっていたが、次々に起こる予想外の展開にみんなの目が自分に向けられていないことを悟った。

 

 

 

さらに

 

 

 

 

『すこーしだけ後押しをしてあげましょう♥

…今なら、魔法を撃っても気づかれませんよぉ?』

 

 

 

そんな声が聞こえた。

 

 

その檜山のそぶりを見逃さなかった園部優花は、進示やハジメ、杏子の元へ全力で駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜人族の里。

 

 

 

「また姿が変わったのお…。その姿にも名前はあるのか?」

「【進化】したのだ。今の私はリュウダモンという」

 

 

 

 

 

 




人物紹介6

ガラテア

ジールの世界のエルフ属で前回紹介したフェーの妹。

トータスに流れ着いてエルフであることを隠してメイドになり、進示を見たときから専属になって様子を見ようと画策もした。

ジール時代は接点がほぼなかったが、隠密スキルを利用し、彼らの戦いを見守り続けていた。




~追記~

ベヒモスの口から触手?

進示と樹たちは察しましたが、

この個体は【捕食】されました。

見た目はベヒモスですが、中身は既に別物です。


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第7話 オルクス大迷宮と地球への通信(その3)

思ったより進まない。

この話でとある人物が生存確定です。

扱いをどうしようか迷っていましたが、神代魔法の知識ならこの人がいないとね!

デジモンにも神話などで元ネタがあるデジモンもいますがこの作品全体でそれにメスを入れます。

神霊とかの単語を使いますが、ファンタジー系の作品では比較的よく使われます。


そして1発退場してしまったエヒトですが、本当に運が悪かったんです。
ですが、原作以上の大激戦になるので、地球を戦場にしないという意味では、最大のファインプレーをかましたのです。
トータス人にとっては迷惑だけどね!!!


杏子視点

 

そう、彼らが大迷宮に落下した時点で私は一部とはいえ、記憶を取り戻した。

…同時に、何年も前に自らをデジタマまで退化させたのは我ながら英断だった。

 

もしあのまま無理矢理デジモンの姿を取っていたら…私のいた世界ごと消滅していただろう。

 

…まだ思い出せない私のいた世界の修復も行わないと、こちらの地球も連鎖崩壊してしまうな。

こちらは【枝葉】の世界に過ぎないのだから。

 

それは進示も樹も、進示の悪友たちも分かっている。

 

 

 

ともかく、メルド団長や他のみんなの一瞬のスキをついて私は自ら奈落に飛び込んだ。

 

「ただ、優花は進示が咄嗟に抱えたからいいものの、より下の高度で落下中のハジメ君は掴み損ねてしまった。…飛び込んだ私も進示の救助が優先だったからな」

『進示様と杏子ちゃんは托生の身、片方が死ねばもう片方が死ぬ関係である以上、離れて行動するのもよくありませんからね』

 

「加えて、私は魔力がないうえに、進示がいなければ成長期程度の力しか出せない。…デジタルワールドやネットワークで出来た電脳世界ならまだしも、現実世界では満足に力を振るえない」

 

『やっぱり、杏子ちゃん…デジモンだったのね』

 

 

 

南雲菫がそう言う。

先ほど見せた映像も加味すればその結論には簡単に至れるか。

 

「元々はアルファモンという聖騎士デジモンでした。ある事件を経て、私は自らの消滅を避けるために、記憶喪失覚悟で自らをデジモンのタマゴ…デジタマに退化させたようです。記憶がまだ曖昧ですが、…そこから先はタマゴの私を進示が拾ったのです」

 

『そして、人間とデジモンが心と体を一つにした融合進化をしたとき、他の5人は大丈夫でしたが、進示様だけはある理由で、魂が繋がってしまい、アルファモンも別の世界で人間に憑依していた履歴から、デジモンであるにも関わらず、人間の姿で実体化した。…命の共有が起きたこの現象を我々は【デジシンクロ】と呼称しています』

 

 

その話にモニターの向こう側がざわつく。

 

「念のため言っておきますが、この現象が起きたのは、私が長い間進示とは違う人間に憑依していたからであって、他のデジモンは命を繋ぐ現象など起きません。…ですが、確認されている限りでは私以外にあと1体だけ、長年人間に憑依したデジモンがいます」

 

「ロードナイトモン…憑依していた人間は岸部リエ」

 

私の説明にそう付け足す進示。

 

すると八重樫鷲三さんが

 

『岸部…どこかで…』

 

と、考えるそぶりを見せていた。

 

「ご存じですか!?」

 

進示は驚きで食いついた。

 

…私も妙に気になる。記憶があいまいだからか…ロイヤルナイツの名を聞いてもいまいち実感がわかない。

しかし、放置も出来ない。

 

『…努めている場所までは分からぬし、そもそも多少世間話をした程度。私もそこまで踏み込む必要はないと思った…が、ただ、ある時を境に事件に巻き込まれた中村恵理という少女の身元引受人となった女がいた…。私はたまたま居合わせたが、それが岸部リエという名前だったはず』

 

 

『「!?!?」』

 

…進示とモニターの向こうの樹が驚いている。

 

と、大和田君が口を開いた。

 

『あ、それって俺が扱った事件だから、榊原はいなかったはず』

「大和田!?ホントか!?」

『間違いないよ。ほら、資料を送信したから後で見といて』

「…わかった…っていうか仕事はえーな…プライベートじゃもたつく方なのに。…いや、だからかな?」

 

大和田君の性質に関しては、恐らくオンオフの差が激しいという事だろう。

 

 

 

「で、落下してからなんだけど、南雲だけ離れた場所に着水したみたいで、私は進示と杏子に助けてもらって、」

≪無事か?二人とも≫

 

落下した時の映像を見せながら優花が語る。

 

「ホント、杏子はいきなりしゃべり方が変わっちゃうし、驚いたわ」

「…まあ、戦闘シーンは語るのは長すぎるから、要点だけピックアップしよう」

「私も、デジモンでもないのに空間跳躍しながら回し蹴りをしてくる兎とかいたのは驚いたな。

あれ、拳銃の発砲に反応できる動体視力と反射神経がないと、生き残れないんじゃないか?」

 

私の語った感想と蹴り兎の映像に一般人の方たちが『で、でたらめ過ぎる!』と騒いでいた。

 

「…ホント、進示がいなかったら私、死んでたわね。この後分かるけど、魔物の肉を食べるまで、進示と杏子に頼るしかなかったもの」

 

『優花…』

 

「だが、魔物に襲われているギルモンを助けたのは、間違いなくお前の意思だ」

 

「そうだよ、僕を殺そうとした魔物を倒したのは二人だけど、真っ先に駆け出したのは優花じゃないか」

 

「私も魔物が助けを求めるはずがない…魔物はそもそも喋れないからな。

だが、声が聞こえた」

 

見たのは魔物の群れに囲まれ、今にも追い詰められているギルモンだった。

何故デジモンが?と考える前に優花が飛び出してしまったのだ。

 

 

≪助けないと!!≫

≪…あ!?しょうがないなぁ!!≫

 

進示が構えた龍の杖で、ジールで身に着けた魔法で半数の魔物を切り刻み、もう半数をラプタードラモン(私)が凄まじい瞬発力で魔物に接近。突進と必殺技【アンブッシュクランチ】で嚙み千切った。

 

 

 

「でも実際に『助けて』って聞こえた…助けなきやいけない…そう思った。何故そんな気持ちになったのか分からない」

 

疑問に浸る優花に私は憶測を話す。

 

「恐らくだが、デジモンはパートナーと運命的に、時に奇跡と言える出会いを果たす。

陳腐な言葉ではあるが、出会う前から『絆』のようなものが出来ることもあるという。

あるいは前世か何かで縁でもあったのかな?」

 

私も進示と出会ったのは奇跡のような偶然だと思っているが…もしかしたらまだ思い出せない【助手】との出会いも運命だったのかな?なんとなくそう思える。

 

 

「…暫く迷宮をさまよっていたが、魔物自体は成熟期でも十分だし、ラプタードラモンで十分だった。

…ドルガモンは体の大きさ的に問題がある…いや、サイズ変更はできるが、非常食にも限りがあったし、体力の消耗は抑えたかった。…食料も現地調達は望めないし、…だが」

 

「進示が、南雲ハジメの魂を補足した」

 

私がそう言うと、モニターの向こうの南雲夫妻が騒ぎ出す。

 

「しかも、血痕があった。まだ比較的新しい…な」

 

その言葉に南雲夫妻の顔が青くなる。

 

「どうやら錬成能力を利用して穴を掘って逃げていたらしいが、偶然出会ったガジモンにけん制で助けられつつも…左腕を食いちぎられていたらしい。そして」

「…いや、アレは見せたくない!!」

 

ハジメ君が突然抗議をしだした。

 

「南雲…のたうち回るアンタの姿を見せたくない気持ちは分かるけど…見せるべきよ」

 

「いや…」

 

躊躇するハジメ君だったが

 

『ハジメ』

 

南雲愁さんは、その時していた顔は【親の顔】だっただろう。

 

『俺はお前がどんな経験をしても受け入れる。だって俺たちはお前が無事でいてくれるのがこんなにも嬉しいなんて…モニター越しとは言え、お前の姿をもう一度見れた時どんなに安心したか』

『…進示君、見せていただける?』

 

ハジメ君は何も言わなくなってしまったな。

 

それを了承と受け取ったのか、進示が映像を流す。

 

駆けつける直前に錬成師としての技能を生かし、魔物を仕留めていたらしいが、地下水から発見された、どんなケガも直す【神水】と、魔物肉を同時に食べてしまったせいで、全身から血を吹き出しながら体を再構成させているハジメ君の姿が映った。

 

 

それを見て泣いてしまっている菫さんが見える。

 

そしてそれを見つめるガジモンの姿が。

 

「ハジメ…覚悟決めたお前を止めなかった俺もだが、お前も相当だな」

 

「後から気づいた」

 

 

≪ハジメ!!気をしっかり持て!!!≫

 

 

 

 

 

ハジメ君から吹き出す血が自分にかかるのにも構わず後ろからハジメ君を抱きしめる進示だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神域には二人の男女の姿がある。

女性の方は羽が4枚ある天使だ。

 

 

 

「…なるほど、エヒトごときではこの神性情報に耐えられなかったと見える。奴は神の力の一端は使えど、人間の域は出ない。本物の神であり、本物の魔王であるあの神霊には食い潰されるが道理か」

 

「当然だな。だが、トータスの開拓者には善良な人間もいたようだ。奴らが善性、エヒトが悪性か」

 

「…問題は何故そのような神性が出てくるかだが、様々な創作において、英雄や神の名は使われる。…その方が分かりやすいからな」

 

「人間の創作活動の副作用というわけか」

 

「…地球に残されている転生者にベルゼブモンのテイマーがいたな」

 

「ああ、この世界の性質とベルゼブモンに引っ張られて顕現しかかっているのか。

…エヒトを消すのがもう少し遅ければファングとの相乗効果も相まって、詰んでいたな?

…なるほど、破壊神大天使たる私が派遣されるわけだ」

 

 

天使は納得がいったように笑う。

 

 

「イーターが進化して【ファング】が出現してしまったのも、ただの副産物とはな…あの世界で倒したイーターがこちらに流れてきたのかと思ったが、」

「それもあるだろうが、ここで倒してもまたどこかの世界へ流れるだろう。行先で変化して巡り巡ってまた戻る…」

「…まるで食物連鎖…いや、循環…輪廻?…とにかく、ロクでもないな」

 

 

男はため息をつく。

 

「デジモンにも神話をモチーフにしたものが数多く存在する。

デジモンという媒体を使うはいいが、こんな形で裏目に出たか。

…海人属の幼子にもある程度期待するしかあるまい。

…幼子を戦わせるのは気が進まないが。

 

…日本からは武御雷、オリュンポスからはアポロンとアルテミスが自身の情報をデジモンという形にしてトータスに派遣したか。

…アースガルズからは…これは驚いた。自ら首を吊ったユグドラシルの派生物であるイグドラシルを自らが守るなどと皮肉が効きすぎている…まあ、分霊であって消えても本体には支障が出る痛みにはならないか」

 

「…だからイグドラシルが消えてもロイヤルナイツやデジタルワールドがまだかろうじて形を保っているわけか」

「この世界も【創作】である以上、本体の助力は期待できまい…。デジモン究極体が数多く戦うだけで、トータスの命運も終わる…が、地球が戦場にならないところを見れば、エヒトはある意味ファインプレーをしただろう。…シュクリス、破壊神大天使ならば…」

 

「無理だ。この世界の危険度はまだ70%も行っていない」

 

「…そうか。引き続き監視をしろ。ノイントにも【指示なしで動くな】と伝える。幸い神話の勉強はそこまで必要ないし、踏み込む必要もない。それほど大ごとであれば、この世界はとうの昔に終わっている」

 

「…了解した。必要なのは【空想の具現化】のみである。名状しがたき領域にまでは首を突っ込む必要はなさそうだ」

 

そう言って天使は飛び立とうとしたが、唐突に待ったが入った。

 

「なんだ?」

 

金髪の大天使…シュクリスは怪訝な顔をして、契約主を見る。

 

「…解放者の最後の生き残り、ミレディ・ライセンを受肉させろ。…私のもう一人の大天使も動かして構わん。榊原進示に【魂】の力を学ばせる。ジールで学んだ魂の力とハイネッツとデジモンで得たネットワークの力だけでは不足だ。適任はミレディ・ライセンしかいない。…あの二人ならば必ず【概念魔法】 を生み出す」

 

 

男の言葉にシュクリスは疑問を挟む。

 

「南雲ハジメはまだしも、榊原進示に【極限の意思】があるとは思えない。奴は迷いながら成長する人間性だ」

「不要だ。【極限の意思】はこの世界で解明されていない物理学の曖昧さを補強するための単一性精神エネルギーだ。逆説的に言えば、物理学、高次元空間論理などを理解できていれば不要の長物だ」

 

するとシュクリスは目を見開いた。

 

「…ああ、だからあの探偵騎士か。高度なデジタル論理を持つパートナーがいれば…そして、ミレディ・ライセンの肉体の復元の理由も察した…そして、七つの神代魔法の力で【空想の具現化】のパーツになるな。

他の解放者は肉体を復元できるほどの魂が残っていない。

吸血姫の叔父も同様だろう」

 

シュクリスはクツクツと笑い、

 

「…了解だ。奴らの地球帰還後の事を考えれば、ミレディ・ライセンは必要だな」

 

「それと、維持神代天使どもの肉体をこちらに来れないように引き続きファイヤーウォールを張り続けろ。…通信させるのは構わん。現在もオスカー・オルクスの隠れ家で通信中のようだが。

ベルゼブモンのテイマーだけはここに来れるようにしろ。その他の調整は任せる」

 

シュクリスは頷くと今度こそ神域から飛び去った。

 

 

 

 

 

「さて、【空想の具現化】だけでは足りない。精神の補強にはヒトの関係を結ぶ【絆】がいる。

孤高では奴に太刀打ちできない…だからか。世界が俺ではなく、榊原進示を選んだのは。

奴ならば、心許した女…に限らないが、南雲ハジメ同様、情をかわした人間とともにいる方が強くなれる。…切り捨てた俺と違って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、主の銘を受けたシュクリスは空を飛ぶ。

しかし、その顔色は真っ青だ。

 

 

 

「あーあ…あのだいてんしにかりをつくりたくないなー。こんどはどんなダークマターりょうりをたべさせられるかわかんないもんなー。くれみきょうこのなぞのあんこくぶっしつこーひーのほうがましかなー。ひどいかなー。あばばばばばばばば」

 

 

 

普段のクールビューティーな威厳はどこへやら。

 

 

「…すまん、俺も【また】死にたくなはい」

 

 

【まだ】ではなく、【また】と言っていることから、彼も被害者なのだろう。

 




人物紹介
シュクリス。

7人目の転生者に仕える破壊神大天使。
大天使は翼が4枚ある。

金髪赤目の切れ目のクールビューティー。

破壊神大天使であっても、転生者を支えるために様々な技能を習得。
勿論情事の方も。

その世界の危険度が99.5%を超えると、世界を破壊する権能の行使が許される。
が、世界の崩壊を他の世界に伝播させないための処置でしかない。

現在は力を制限しながら活動しているが、それでも究極体デジモン4体分以上の戦闘能力を持つ。


また、同僚の天使に苦手意識を持っているが、その理由は劇物料理の試食に付き合わされるからである。


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第8話 オルクス大迷宮と地球への通信(その4)

昔から簡単な本でも何回も読み返さないと覚えられないタチでした。

…まだ完全体が3体しかいなかったことも懐かしい。
初代はグレイモンやヌメモンによく進化させてた気が…


進示視点。

 

「血だらけで肉体を再構築されていくハジメ…俺にできることと言えば、ヤツが正気を失わないようにすることだけだったが、極限状況化に追い詰められたハジメは、既に邪魔する奴は殺す覚悟を決めちまった」

「まあ、実際出来なきゃ、死んでたし、魔物の肉も食ってねぇ」

 

魔物の肉を食べたら死ぬことは教えていたが、あらゆる怪我も治療する神水と同時に飲んでいたので、このような現象が起きた。

 

南雲夫妻は沈痛な表情を浮かべる。

 

「そのおかげで俺のステータスが上がってたし、進示にあらかじめもらってた拳銃もあったから、自作の銃【ドンナー】も完成間近だった」

 

ところが

 

「ステータスが上がったのを見て、優花が『自分も魔物の肉を食べる!』って言いだしてね」

『優花!?』

 

園部夫妻は驚いたように優花を問い詰める。

無理もないか。

 

「パパ…ママ…あたしも躊躇はしたんだけど…このまま進示達の負担になり続けるのは嫌だったし、…私が何もできないのが嫌だったの…」

 

一見ギャルっぽく見えるが、優花はとても責任感の強い子だ。

 

…俺がマジの高校生だったころはてんで大したことなかったが…本物の女子高生がここまでの覚悟を持てる事に嬉しさと悲しさが混じった複雑な感情を覚えた。

 

 

『そう言えば、そっちの彼らのデジモンは進化出来ないのか?』

 

成り行きを見守っていた関原の疑問だ。

 

「いや、Dアークはこれから造る。デジヴァイスという呼び方でもいいが、どっちみち、ハジメの錬成能力でも再現できない技術で造られているからな。部品が足りなくて途中までしか作れてないが、オスカー・オルクスの隠れ家に錬成して材料にできそうなモノがあったからな」

 

「いつかぜってー造ってやる」

 

そう息巻くハジメ、正直Dアークには未知の部分も多いが何故自分でも作れるのか疑問の部分もある。

…ひょっとしたら【あちら】側からバックアップしてくれている可能性もあるが。

 

「…ただ、一回だけ彼らのデジモンが完全体になったことがある。…正直得体のしれない所から支援を受けている可能性もあるが、デジヴァイス無しでの進化はやはり安定しない。さっきの杏子は記憶回復の頭痛で退化したからな。いずれにせよ、デジヴァイスの作成は急務だ」

 

「正直不覚だった。もしかしたらアレがなければ落下せずに済んだかもしれないが…その場合、ユエ君の救助がなかったことになる」

「ん」

 

 

杏子が補足すると、ユエが頷いた。

やっぱり300年も独りぼっちは寂しいもんな。

 

『その【ユエ】さんのパートナーにルナモン?』

『【ユエ】という名前に【ルナ】モンか…どちらも【月】の名前だ』

「…ああ、偶然…ということもあるかもしれないが…、ハジメの方の完全体に進化したデジモンを見て思った…アレはまるでオリュンポスの…おっと、デジモン界ではオリンポスだったな」

 

モニターの向こうの俺の悪友たちがユエとハジメのパートナーとの関係性に気付き始めた模様。

 

「さて、また話が脱線したが…優花はアレをみせたくないよな?」

「うん…」

「…まあ、女の子が見せたいシーンでもないしな。どうしてもなら、帰ってからご両親にだけみせようか」

 

優花は自分が魔物肉を食べて変質した自身の姿を見せたくはないようだ。

 

「あの時は本当に死ぬかと思った…私の心が折れないように…抱きしめてくれてありがとね」

「おっと、私も支えていたんだけどね」

「あ゛っ!?も、もちろん忘れてないわよ!?杏子!!」

「ならいいが、恋する乙女とはこういうものか…いや、私も人間社会に紛れ込んで生活していたが、恋愛感情というものはどうにも実感が薄い。

…いまは進示と魂が繋がっていることで私の感性は大分進示寄りになっている。…私の本来の使命より思わず進示を優先してしまうくらいには」

 

杏子がまだ完全に思い出せない記憶を想いながらそういう。

 

「そう言えば、デジモンは人間の精神に影響されやすいんだったな」

「ああ、その上、キミと出会ったのは記憶をほぼロストした状態でのデジタマから生まれた状態からだったしね」

「コーヒーの味覚は?」

「…なら、帰ってから試したいブレンドがあるのだが」

「「結構です!!」」

「…残念」

 

 

杏子の【ブレンド】を知っている俺たちははそろって拒否。

 

 

 

 

 

 

 

…また話が脱線した。

 

「とにかく、出会ったギルモンとガジモンを連れて、ハジメが自分の腕を食った魔物にリベンジを果たした。ハジメと優花は魔物の肉を食い続けて、ステータスが上がるほか、食った魔物の技能までも吸収するに至った…魔人〇ウみたいだな」

『むしろカー〇ィじゃね?』

「…進示、お前のダチもすぐこういうネタに反応するが」

「ま、俺たちの同類だよ」

「そうか…」

 

そう言うとハジメは微妙な顔をした。

同類がいて嬉しいような悲しいようなという顔だろう。

 

「おっと、ここから先は映像は見せないでおくよ。ユエとの出会いのシーンなんだが…」

「ああ!ぜってー見せるな!!」

「…ハジメ君、既にユエ君えへの感情移入が深すぎないかい?」

『ん?何故だい?ハジメの嫁との出会いのシーンは父さんも見たいぞ!!』

「ダメだ父さん!!!」

 

事情を知らない面々のために説明しようとしたが、優花が口を開いた。

 

「…あの、このシーンのユエ…素っ裸なんです」

 

真実を口にする。

 

『『え!?』』

「ん…私の裸を見ていいのはハジメだけ」

「俺もなるべく見ないようにしてるしな。救助するときだけは状況的に仕方なかったし、300年もたってりゃ服着てたってボロボロに風化してても…」

 

そう言えば裸で閉じ込められたんだろうか?

 

「まあ、ハジメは最初は罠の可能性も考慮して助けることを躊躇してたんだ。…状況的にも心理的にも余裕がなかったっとも言えるがな」

「まあ、ユエ君の【裏切られた】といった言葉でハジメ君の心が動いた。我々も封印されていた理由を質問したが」

 

《私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる…ケホッ……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……コホッ…でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……コホッ》

 

 

これは音声だけ流す。

永いこと喋ってなかったのか、咳き込んではいるが。

 

何人かが『吸血鬼!?』と聞いておろおろしていたが。

 

「しかも、その再生能力は首は寝られてもすぐ治るらしい」

『戸〇呂兄じゃん』

「いや、思ってても今言うか?」

「…戸愚〇兄?」

「…地球に帰って漫画に興味があったら見せてやる」

 

ユエは地球の文化…というよりはハジメの好きなものを知りたいゆえかどんどん聞いてくる。

ハジメが話せない状態の時は俺達にも聞いてくる。

…ユエは地頭はいいので、詳しく説明すればすぐに理解するのだが。

 

「で、ユエ…本来の名はまた別にあるらしいが、もう本名を名乗りたくないから、俺に名前を付けてほしいって…まあ、髪の色と目の色が月みたいな感じだったから【ユエ】って名付けたんだが…」

『おお!中国語だな。流石我が息子、ネーミングセンスもいいじゃないか!』

「茶化さないでくれ、父さん」

『ユエちゃん、その名前好き?』

「はい、お義母様」

 

ユエよ、ハジメのご両親に対してはもう義親呼び安定か。

 

「だが、その時に蠍のような化け物が現れてな、ここまでくるとデジモンももう成熟期じゃキツイレベルだから、杏子をグレイドモンにして、ユエもハジメの血を吸って魔力を回復させて、総攻撃で仕留めた」

「魔物肉食べたから、私の攻撃も通じるようになったしね」

「「俺【僕】達は進化出来ないから、何もできなかったけど」」

「…Ⅾアークが完成したら、お前らも活躍できるからもう少し待ってくれ」

「「うん」」

 

ガジモン、ギルモンが悔しそうに言うが、死んでは元も子もないし、今は焦りは禁物なのだ。

 

「で、なんでか蠍の化け物に捕まって、転がり落ちたのがルナモンだったわけだ」

「わたしも気づいたらあの蠍に引っかかってて、どうやってこの世界に来たか覚えてないの」

 

ルナモンがコメントする。

 

…恐らくは。

 

 

 

あ、このシーンは…キーをうっかり押してしまった。

何の映像化察したハジメが「オィイッ!?」と叫んだがもう手遅れ

 

植物のような魔物にとらわれたユエに対し、映画のワンシーンのような《ハジメ…私はいいから撃って…!!》と叫ぶシーンだ。

 

因みにこの戦闘の俺は優花と杏子を庇って花(?)に寄生されてしまったので、役立たずになり下がった。

 

 

普通は人質を取られたら発砲を躊躇するところだが、

 

《え?いいのか?助かるわ》

 

と、躊躇せず撃ってしまった。

 

「…ハジメの馬鹿」

「ああああ!?ホント悪かった!!?機嫌直してユエさん!?後進示何映してやがる!?」

『ハジメ!?あんた何やってんの!?』

 

当然ながらクレームが来るわけだ。

 

他の皆さんも殆どがドン引きか非難の眼差しをハジメに向ける。

 

「いやぁ、その躊躇のなさはいっそ長所ではないか?ハジメ君」

 

杏子が状況を楽しむように…お前ホントに記憶が完全に戻ってないのか?

 

「女心にちょっとは気を使いなさいよ…」

 

優花があきれるように

 

モニターの向こうの樹は、ハジメの余裕のなさとユエの心情を両方気遣ってか何てコメントすべきか迷っているようで、困り顔だ。

 

『そう言えば気になってることがあるんですが』

 

そういうのは関原。…コイツ時々敬語になるんだよな。気分らしいが。

 

『何で下を目指してるんですかねぇ?上に上がって脱出するという手も』

 

「残念ながらそれは無理だ。この迷宮、101層目あたりから下へ続く階段しかない。

…上への階段は消えるか出てこないという鬼畜仕様だ」

 

『厳しすぎませんかねぇ!?』

『…非常食を持たせて正解でしたね』

 

樹が冷汗を流しながらいう。

ホント樹には感謝しかない。

 

…世界を隔てている以上、抱き合うことも出来ないが、モニター越しでも俺の表情から俺の言いたいことを察したのか

『帰ったらめいいっぱい甘やかします』

というウィンクをした。

 

それを察した優花が「話には聞いてたけどやっぱりそうなんだ…ううん、気にしなくていいよ」と小声で言ってた。

う…正直軽率だったか?

すると。

『もう進示様と杏子ちゃんと優花さんの意思確認は済んでいるのでしょう?…なら、帰ったら任せてください』

と、言ってきて、優花が俺の手を握り、杏子が俺の肩に手を置いた。

 

…ホントいい女(1名デジモンかつ本来性別不明)に恵まれたなぁ…。

樹は俺にハーレム作らせようと画策しているようだが…裏があるのはなんとなくわかっている。

が、俺や周りを傷つけない配慮もしている。

…帰ったら教えてくれよ。

 

 

 

それはともかく、迷宮の攻略だけで何日もかけている以上、非常食がなければ、俺も魔物肉を食べていた可能性が高い。

 

 

そこに

 

「おっと、200層目に現れたまるでヒュドラみたいな化け物だ…まあ、名称も同じだったけど」

『ギリシャ神話に出てくる怪物に似通った魔物ですか…これはハジメさんとユエさんのパートナーデジモンがその子達なのも…なんとなくわかります』

 

「やっぱり何かが起きてるようだな」

 

と、ハジメも異常事態をなんとなく感じたようだ。

 

「首を全部潰しても新しい首が生えてきてどこの英雄だと思ったよ。首ごとに能力違うし

再生したヒュドラの反撃にあって、ハジメはユエを庇って右目が潰れた。俺は優花を庇って致命傷は免れたが、左腕を負傷。まあ、こちらは治ったが」

「うう…私、足手纏いかなぁ」

「大丈夫。ユウカもヒュドラの首一本潰した。ユウカは強い」

「あ、ありがとう…」

 

《杏子!出し惜しみはなしだ!》

《了解だ!私も本来の姿に戻るとしよう!!》

 

戦闘が始まってからグレイドモンの姿でいた杏子は一旦退化して杏子に戻る。

 

俺はⅮアークを自分の左胸に押し付ける

 

 

MATRIX EVOLUTION

 

 

 

そうして俺と杏子は融合し、黒い聖騎士、アルファモンになる。

 

因みに杏子はアルファモンになるためには、現実世界では俺と融合しなければならないが、デジタルワールドや電脳世界では自由自在になれる。

 

 

『これが…話には聞いていたが』

 

「これが本来の私の姿です。世代を上げるとエネルギー消費が激しいので、状況に応じて形態を使い分けているのです。…ともかく、私の必殺技【聖剣グレイダルファー】の一斬で仕留めた…かに見えました」

 

まだ終わらない。言外にそう込められた杏子の言葉に全員が息をのむ。

 

すると、ヒュドラの色が変わった。

 

白を基調とした理解しがたいおぞましいものに浸食され始めたのだ。

 

『イーターか!?』

 

ヒトもデジモンも捕食するまだ謎多き捕食生命体。

 

人が触れればほぼ一発アウト。デジモンなら生命力が尽きない限りはある程度耐えられる。

 

俺と杏子はそう判断し、みんなを庇うように前に出る。

 

≪『ぐあっ!?』≫

 

イーターに攻撃された瞬間、俺と杏子は分離し、気絶はしなかったものの、戦闘不能になってしまう。

 

身体がバラバラになりそうだったが、何とか意識を保つ。

 

≪逃げろ!説明の時間はない!人が触れれば一発で【捕食】される!!!デジモンならあるいは…≫

 

 

俺はここまでほぼ戦力外だった、ギルモン、ガジモン、ルナモンを見る。

 

《…嫌よ!!!》

 

しかし、逃げることを拒否する声を張り上げるのは優花だ。

 

 

《ここまで一緒に戦って!ここまで一緒に来て!!今更私たちにだけ逃げろって言うの!?

…私たちはもう托生よ!!みんなで生きる!死ぬときはあなたと一緒に死ぬわ!!!》

 

すると横で優花が顔を真っ赤にして蹲る。

 

「…まだこの時点では告白もしてないってのに我ながら大胆だったわ…」

 

…ああ、今思えばとんでもないセリフだ。

 

 

《…当然だ。園部の言うとおりだ。ここまで来て諦めるか!!》

《ん…!!最後まであがく!!》

 

ハジメとユエも立ち上がる。

 

イーター化したヒュドラに立ち向かうにはデジモンしかない。

 

《フフフ…決意は固いようだな?》

 

杏子は倒れたまま笑う。

 

《お前ら…まだ正式なパートナーではないが、ガジモン、ルナモン、ギルモンに心を送れ…!!これまでの探索でそれぞれがコミュニケーションをとってたことは知っている…!!!1回だけなら何とかなる!》

 

《…え?》

 

 

《完全体以上に進化させるとデジモンが受けたダメージはテイマーにもフィードバックがある…ジールで学んだ魂の秘術…ハイネッツで学んだデジタル理論…あとは、お前たちがどれほどデジモンを信じられるかだ!!》

 

一応攻撃を受けるときに同時に一斬しておいたので、まだ再生にもたついているが…時間はない。

ぶっつけ本番だ。

 

《俺達も戦うぞ!!》

《何か手があるんでしょ!?》

《僕たちも見ている毛なんて嫌だよ!!》

 

ガジモン、ルナモン、ギルモンが叫ぶ。

 

《…あなた達…私たちと戦ってくれる!?》

()()()()()()

 

 

…これで俺の決意は固まった。

 

《…では任せるぞ…ソウルマトリックス!!!》

 

 

 

俺のエネルギーを基盤に優花にギルモン、ハジメにガジモン、ユエにルナモン、

 

それぞれの心が重なり合う。

 

 

ギルモンはメガログラウモン、ガジモンはフレアモン、ルナモンはクレシェモンに進化した。

 

《成熟期を通り越して完全体に…》

《…一撃で決めてくれ!!!もう進化はさせられない…》

 

 

そう言って、俺の意識は途絶えた。

 

まあ、今見ているのは記録映像だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ほう、不安定だが魂の力のみでデジモンを進化させたか…これは期待できるかな?」

 

 

金髪の4枚の翼をもつ大天使がその様子を隠れて見ていた。

 

 

 

 

 

 

 




トレードの進示ハーレム化計画。

自身を含めた女性たちによる榊原進示にハーレムを持たせる計画。
しかし、ハーレムメンバー全員が【心を通わせる】状態でなくてはならない。
金や権力や洗脳で作るようなハーレムはトレードの計画が破綻するため、ハーレム化は難航していた。
最も、これまでの異世界でも進示に惚れた女性はいたが、ガラテア以外は死亡した。
フェーも死亡しているはずだが、【蘇る未来】を視ているが、天文学的な確率らしい。


追加

リリアーナヒロインアンケートは大迷宮が終わるころ締めきります。


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第9話 オルクス大迷宮と地球への通信(その5)

メトロイドドレッド…今までのシリーズ以上に初見殺しが多いですね。
今話でリリアーナヒロインアンケートを締め切ります。
というかオリ主が多いですね。
あと、微妙に迷っていますが、ミュウのパパはどちらか、こちらもアンケートを取りましょうか。

それと、思ったよりお気に入りとかも登録されていますね。
登録してくださった方、ありがとうございます。


樹視点

 

 

 

現在見せられている映像はオルクス大迷宮200層目に現れた魔物の戦い。

首がいくつもある魔物はヒュドラを思わせる。

但し、戦闘開始時と違い、イーターのような色に変化してしまったが。

 

前代未聞の方法でデジモン…しかも正式なパートナーではないデジモンをそれぞれ進化させた。…魂の力?デジタル理論…まさか。

 

進示様は慣れない力を使った反動か気絶してしまった。

 

杏子ちゃんもこの進化には驚きを隠せないのか、目を見開いている。

 

 

記録映像の進示様が気を失った後、まだ正式ではないが、ハジメさんのフレアモン、ユエさんのクレシェモン、優花さんのメガログラウモンがヒュドラに向き直る。

 

《ちょっと信じられない方法だけど進化できたみたいね!》

 

クレシェモンは自分の手を握って確かめるように言う。

 

《けど、必殺技一発分しかないぜ》

《十分だ、ぶちかませ!》

 

フレアモンの言葉にハジメさんは【行け】という。

 

 

 

《紅蓮獣王波!!!》

 

 

フレアモンが獅子を形どったエネルギー波を

 

 

《アトミックブラスター!!!》

 

 

メガログラウモンが両腕の砲門から原子レベルまで分解できる光線を放つ。

 

 

《蒼天!!!》

 

ユエさんが蒼い炎の魔法でイーター化したと思われるヒュドラを包む。

 

フレアモンと、メガログラウモンは今の攻撃でエネルギーを使い果たしたのか、成長期に退化、ユエさんも連戦の疲労から膝をつく。

 

3重攻撃に包まれたヒュドラは黒焦げになるが、すぐに再生の兆しを見せる。

 

 

《ルナティックダンス!!》

 

するとクレシェモンが再生させまいと、瞬時に切り刻む。

 

クレシェモンも必殺技1回分のエネルギーしかなかったようで、すぐに退化してしまう。

 

すると、体の最奥に光るものが見える。

 

《まさか、あの光はコアか!?優花!ハジメ君!》

 

倒れたままでも気絶していない杏子ちゃんが叫ぶ。

 

杏子ちゃんの台詞の意味を察したのか、ハジメさんは拳銃を(ドンナーというらしい)、優花さんは投げナイフを構え、それぞれコアと思われる場所に攻撃を放つ。

 

 

 

 

 

パリンッ!!!!!!

 

 

 

コアが砕ける音がして、それからヒュドラは動かなくなったようだ。

 

 

あのコアが再生能力の源か。

 

それにしても…

 

「なあ、あのコアから何か神性情報…いや、半神半人に近い反応が検出されたんだが」

「!?!?」

 

大和田さんの報告に私は驚く。

 

「…見せてください…この神性情報は…3次元より高次の神性反応…私たちの神の世界側…」

 

 

私は観測データをもとに推理する。

 

転生者をサポートする守護天使は創造神天使、維持神天使、破壊神天使がおり、

殆どは翼が2枚の維持神天使がパートナー契約を結ぶ。

 

ケースによっては…生産チートのような世界だったり、甘いハーレム生活のような世界観だと創造神天使が、壊すしかない世界線だと、破壊神天使がパートナーになる。

 

 

しかし、通常の天使より階級が高い翼が4枚ある【大天使】…この場の大天使は私だが、これが転生者と契約を結ぶのはよほどのケースが予測される場合…それから、

 

(…大天使は神の暴走を諫めたりする権利を持つ。…まさか、私が派遣された理由は…)

 

この宇宙に危機が訪れている原因は彼らを転生させた女神様の…ご子息様の暴走…!

 

女神様の夫は…もう亡くなられてはいるが人間だったはず。

 

複数の異世界に干渉されやすいこの世界なら、サンプル育成にはうってつけの環境だろう。

 

…私は自身の推理にほぼ確信を持ちながらも、今すぐには出せない結論から、話しを進示様の視点に戻す。

 

 

 

 

「それで…あなた方はそれから…」

《さっきの神性情報の件はいずれ聞かせてもらうぞ。

…気絶した俺は杏子が背負って、この世界の神に反逆した表向きは【反逆者】と言われる【解放者】、オスカー・オルクスの隠れ家に到着した》

 

 

漸く安全地帯についたことで、この場にいる南雲夫妻と園部夫妻の安堵の域が出た。

状況が状況なので、他の生徒の様子が見れないのは仕方ないにしても、他の生徒のご家族は気が気でないはずだ。

 

そこで、トータスの世界では神代の時代の魔法【神代魔法】なるものを迷宮攻略の証として攻略者に使えるよう付与するのだとか。

 

聞いた話では、到着した者全員の記憶を見て、不正がなかったかチェックされるらしいので、ゲームにたまに現れる寄生プレイヤーのようなやり方では攻略したと認められないという仮説を立てたようだ。…後にこれが正しいと知ることになるが。

 

そして、解放者のオスカー・オルクスが残した立体映像のような記録を聞かされて一般の方々は戦慄した。

 

要点を纏めると、

 

この世界の神、エヒトは世界中の全てを自分の遊技場としている。

 

そのことに気付いたオスカー・オルクスを含むごく少数の【解放者】が、世界を裏から操る神と戦おうとした。

 

しかし、解放者たちの計画は戦う前から破綻した。

 

エヒトが世界中の人々を【神託】によって操り、解放者たちを【反逆者】に仕立て上げ、その人々に解放者達と戦わせた。

 

操られているとはいえ、無辜の人々に手をかけるわけにもいかない。

 

この時点で解放者の敗北は決まった。

 

「…それで解放者は後世の人々に自身の力である神代魔法と、神の真実の記録を残し、エヒト神を討伐する者が現れるのを待ち続けていたのですね。…迷宮は神に立ち向かうための力があるかを図るモノ」

 

『ああ…ハジメはエヒトはどうでもいいと思ってたようだが、異世界召喚の時点で地球の座標は割れてしまった。…これがどういうことかわかるな?』

 

 

進示様の言葉に私は頷く。

 

「エヒト神が洗脳能力を持っている可能性も高く、トータスに飽いたら今度は地球をターゲットにする…地球の方々の精神力では抗えませんね」

 

私の言葉にざわざわと周囲がわめき立つ。

 

この話によれば何百万単位の人間を操れるのだから。

 

最も

 

『はぐれたことによって監視が外れた俺たちが元の世界に帰るための神代魔法を集めることにした』

 

「…現状はそれしかありませんね」

 

『お前がこちらに来ることは出来ないんだよな?』

 

「ええ、世界と世界を繋ぐ次元の壁に天使が通れないファイヤーウォールがあるのです。…このプログラムは見覚えはありますが、ファイヤーウォールを張っているのが私の予想する人物だとしたら、私では破れません。【彼女】は私よりも格上の大天使です」

 

『やはりな…いままで異世界転移してるにもかかわらず、お前が俺達を助けに来れなかったのはその大天使が妨害をしていたからか』

 

 

天使が天使を妨害するという言葉に疑問を感じたのはやはり南雲夫妻だ。

 

『一応念のため言っとくが、ここにいるハジメ達は俺が転生者ということは知ってるし、お前が自分から天使だと明かした以上…』

 

「はい、この先を考えると明かさずに話を進めるのは無理がありますから…独断で決めてしまい申し訳ありません」

 

『いい、【やむを得ない場合を除き】という条件だったから、規約違反にはならないはずだ』

 

『そう言えば天使には一定のルールがあるって話だったが』

 

 

そう、天使には転生者のサポートにつく際にいくらかの制限を負う。

 

その中には【契約主の意に反する行動、言動が世界に危機を及ぼすものでない限りは出来ない】

 

というもの。さらに【契約者の質問に対し、一切の虚偽の回答が出来ない】

 

というのもある。

 

契約者以外の方が相手なら、普通に嘘もつけるが、契約者相手には出来ないのだ。

 

一応、真実のみを限定的に話してミスリードをさせるという抜け穴はあるが、私と進示様の間柄では無意味に等しい。

 

『【アレ】もまだ建造途中だから、生身の人間がこっちに来ることは無理だ…それこそ、究極体デジモンと融合進化し、空間の情報を処理できるようにならないと、生身での次元空間移動は出来ないだろう。

…いずれは出来るようにしたいが正直難しいと言わざるを得ない。それに、方法は複数確立した方がいいと思ってな』

 

進示様の言葉にハジメさんが続く

 

『ああ、そっちの技術を頼りきりにして、いざ不具合が起きて移動できませんでした、じゃ、話にならないからな。トータスの神代魔法もついでに頂いて、次元空間移動の方法をこっちでも作ることにした。…それにどうせエヒトを放置したら地球に襲い掛かってくるし、進示の仲間が進示の言うとおりの強さだとしても、万が一を想定しないのもアホらしいからな』

 

『だから、我々はしばらくこの隠れ家に籠って、武器や食料、移動の際の車など、考えられる様々なケースを想定し、可能な限り準備をしてから出発するつもりだ。…思ったより困難な旅になりそうなのでな』

 

杏子ちゃんがこれからの方針を大雑把にまとめた。今車って言ったけど

 

『ああ、こっちの世界じゃ正直目立つが、ファンタジーな世界で乗り物がないと、移動だけで何日も使うからな、それに、手に入れた魔法も色々検証する必要がある。魔法のスペシャリストもいるしな』

 

『ん、私に任せて』

 

ハジメさんの言葉にユエさんが親指を立てる。

 

今、ユエさんの目が光ったように見えたのは幻視かしら?

 

 

『それに、イーターもどきの映像もそっちに送るから、解析しておいてくれ。…さっき究極体デジモンなら次元空間を通れることを言ったが、地球の守備もおろそかにはするなよ?こっちに来る場合はメンバーはよく考えるんだ』

 

「わかりました。通信はどれほどできそうですか?」

 

『ここを出発したら、しばらくできなくなる。この辺りは魔力が使いづらくなる地域があるそうだから、魔力を電池代わりにしてやっている通信がやりづらくなるのは道理だ』

 

「そうですか…あ、忘れる前に、Ⅾアークのアップデートデータを送ります。進示様と杏子ちゃんのドルゴラモンルートはあなたの【龍の因子】で可能にしている事ですが、このデータがあれば、他の方でも、複数の進化ルートを記録、保存し、パートナーデジモンをなったことがある形態に自由に進化できるようになります」

 

『いつの間に…この迷宮にいる間は何回か通信するから…もう昼大分過ぎてる!!?』

『あ、ご飯食べてなかったわね』

 

こうして、進示様がトータス召喚後初の報告会が終わり、あとは、ユエさんと、南雲家、園部家と、思い思いの会話をさせ、通信終了となった。

 

…忙しくなりそうですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子視点。

 

 

時間を通信する前日に遡る。

 

 

『俺は…転生者だ』

『何の脈絡もなく言ったな』

『は!?』

 

それに一番驚いたのは、その手の知識が豊富な南雲ハジメだろう。

 

『最初は…転生させたのはテンプレートな理由かと思ったけど…今思えば俺たちを転生させた女神は、俺達にこの世界で何かをさせるつもりだと思う。

…でなければ、複数の転生者を同じ世界に送り込み、尚且つ大天使までサポートにつけるとは思えないからな』

 

 

まあ、その過程でハジメ君が進示に死んだときはどんな感じだったか聞きたがっていたが。

 

 

『実を言うとな…俺はただテキトーに働いて、テキトーに趣味やって、テキトーにくだらないことで笑い合えばそれでいいと思ってた。それは今も変わっていない。

…でも、宇宙が崩壊の危機にあるいま、戦わないという選択肢は無くなった。普通の人間では絶対に認められないものが相手だからな』

 

『…それは?』

 

ユエ君が聞いてくる。

 

 

『ヒトの【原罪】…ベヒモスやヒュドラに喰らいついていた捕食生命体【イーター】は人類の悪性情報があのような形で出てきたヒトより生まれた捕食生物。宇宙の摂理として何らかの形で出てくる…人類の悪性そのもの。故に、人類がある限り絶対に滅びないし、人類を滅ぼしても滅びる保証はない』

 

『『!?』』

 

優花君も驚いているな。

 

…それもそうか。

 

人類が進在する限り必ず発生するシステムなのだから、普通の人間ならば認められないだろう。

 

人間とはその多くが責任を他者に押し付けたがるのだから。

 

…だが、一方でその業に正面から立ち向かえる人間もまた存在する。

 

 

一先ず就寝時間となったが、…進示の魂がおかしい…!?

 

「ねえ、杏子…話があるんだけど」

「優花…済まないが、後にしてもらえるか?進示の様子がおかしい」

「え?」

「…恐らく、この世界の切り捨てられ、志半ばで散った人間たちの魂の縋り付く声、…想像するだけでおぞましい怨嗟の声を聴いてしまっているはずだ。進示が魂に関する能力を持っているが故の弊害だ」

「!?」

「…さらに、この世界で守らなければならないはずの君たちを危険にさらし、失いかけた…。今までの度でも死なせてしまった人間は多いが、その罪悪感からくる震えが原因で、その怨嗟の声に耐えられないでいる」

 

「!!?…進示はどこ!!?」

 

 

…いつの間にか名前呼びになっているな。

 

…これはいい機会かもしれない。

 

「…優花これだけは聞いておく…キミは…進示を愛せるか?」

「…え!?こんな時に何を!?」

 

 

優花が顔を真っ赤にして聞き返す。

 

「こんな時だからこそだ。…進示の弱さも受け入れられる人間が必要だ。…だからこそ私にそれを話そうとしたのだろう?…俗な言い方をすれば、進示のためのハーレムだ」

「…え!?」

「彼は樹とはすでに何度も褥を共にしている。このような過酷な状況の連続だ。もうまともな倫理観では進示は勿論、君の心も守れないだろう。…それでも彼はまだ記憶が戻ってなかった私や本物の女子高生である君に気を使っていたが…それも時期に限界だ」

 

そこまで言うと、優花は俯く。

 

「それに、ヒュドラ戦の時、『死ぬときはあなたと一緒に死ぬわ!!』と言っただろう?もうすっかり進示に気があるじゃないか」

 

「~っ!?!?」

 

優花は顔を真っ赤にする。…まるで茹蛸だな。

 

 

「だから…進示を慰めるぞ。私とキミの二人でな」

「!」

 

そこまで言うと優花は神妙にうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

「…うううっ!!」

 

 

進示の部屋にたどり着くと、予想通り、まがまがしい邪気を纏って蹲っている進示の姿があった。

 

それを私と優花が抱きしめて鎮める。

 

「進示!」

 

「…!?」

 

 

抱きしめられた温もりで気が付いたのか、進示が私と優花を交互に見つめている。

 

 

「…進示、単刀直入に言うわ。…私はあなたを愛したい!!」

「!?」

 

 

突然の告白に進示が目を白黒させている。

そして、【好き】ではなく、【愛したい】と言ったことから、自分の弱さを受け入れるという意味を悟ったようだ。

 

 

「進示…記憶が戻っていない私にに気を使ってたつもりだろうが、私も君を愛したいと思っていた。それこそ、記憶が戻る前からな」

「…杏子まで…でも日本じゃ」

 

「そんなことどうでもいいわ。こっちじゃ一夫多妻は当たり前だし、杏子から聞いた限りじゃ樹さんも私たちを受け入れてくれるんでしょ?」

「!」

「進示…今は倫理観やその他は置いておこう。キミの本心を聞かせてくれ、どんなキミでも…人から見たら情けないような姿だと思われるキミでも…」

「ええ、私たちは受け入れるわ」

 

 

その私たちの言葉に進示は涙を流し始めた。

 

 

 

「…そうだよ!!ホントは愛されたい!!!受け入れてほしい!!戦いたくなんてない!!でも戦うしかない!!生きることを放棄できない!!転生した時も不安で不安で仕方なかった!!!だから樹を俺に縛り付けた!!何があってもすがれる相手が欲しかった!!!でも周りは情けない戦士を許さない!!冤罪押し付けられて!ジールの民たちから剣で刺された時も!!【助けて】なんて言えなかった!!」

 

 

彼が被っていた見せかけのプライドもかなぐり捨てて叫ぶ姿はまるで迷子のようで…

 

「もういいわ…つらかったのね…」

「すまないな…ジールの時点では記憶が戻ってなかったとはいえ、随分無理をさせた」

 

 

私と優花で彼の唇を交互に塞ぐ。

 

「…!!いいのか…?特に園部」

 

「…優花って呼んで」

 

「…優花」

 

進示と優花は正面から抱き合い、彼の背中から私が覆いかぶさる。

 

 

 

 

 

…この日、私は人間のとしての男女の営みをデジモンでありながら経験をすることになった。

 

 

何故人間が抱き合うことに夢中になるか少しわかった気がする。

 

快楽もそうだが、肌と肌で感じる温もりは、親が子を抱きしめるような抱擁でも、途方もない安心感をもたらすのだと。

 

 

 

 

 

???視点

 

 

 

天界ではそのような睦み合いを見ている一柱の美しい女神がいた。

 

蒼い髪と金色の瞳だ。

 

外見年齢は20代後半くらいだろうか。

 

彼女こそ進示達を転生させた女神だ。

 

 

「榊原進示さん、あなたはそれでいいのです。…私の息子と孫のように自分を止めてくれる人達を振り切って一人で強くなる必要はないのです」

 

女神はコンソールを叩きながら世界を観察する。

 

 

「世界を救えとは言いません。ご自身の身近な人たちを大切にするだけでいいのです。

…それが世界を救うことに勝手に繋がるのですから。…そして、トレードも信じてあげてくださいね」

 

女神は立ち上がるとコーヒーを取り寄せ、一息入れる。

 

「…あなたが生きていれば、息子の暴走を止めてくれたのでしょうか」

 

 

女神は今は亡き人間の夫に向かってそう零した。

 

 

 

 




愛ちゃん先生はオリ主ヒロインにはしません。
するルートもありましたが、ハジメのストッパーがいなくなってしまうのと、地球帰還後に常識人レベルが上がるシアの負担が大きくなるからです(やらかすときはやらかしますが、バイクで爆走してますし)。

ミュウ関しては原作でもヤバい神様とかかわりがあるので、神の事情に詳しい進示がパパになるか、原作通りハジメがパパになるか…迷うのでアンケートです。

ミュウアンケートはシアが正式に仲間になるころ締めきります。


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第10話 準備とその他の動き

オリジナルシーンの方が筆が進みます。
毛がモフモフしたデジモンをモフりたい。

FGOプレイヤーではありますが、蘆屋道満が人気過ぎるでしょww
オベロンは出てきたばかりもあってまだわかるけど。

香織や深淵卿の活躍のさせ方に悩みます。
あと、勇者をどうするかですね…。


進示視点。

 

今、俺達は色々な道具を造っている間にも戦闘訓練もする。

 

「あがっ!?」

 

いかん、優花を相手にしていたが、少し強く殴りすぎたか!?

 

 

「問題ないわ、続けましょう!」

「ダメ、休憩」

 

待ったをかけたのはユエだ。

まあ、無理も禁物か。

 

「優花、休憩したら、次はデジモンのバトルだ」

「…わかったわ。やっぱりまだ勝てないわね」

「俺と杏子の体術は我流だが、樹がパンクラチオンの使い手でな」

「樹さんが!?」

 

驚く優花。

 

やや離れたところで車を造っているハジメも「マジかよ…」と呟いている。

 

ハジメも樹と南雲愁さんのゲーム会社で何度か面識あるからな。

 

まあ、物腰柔らかそうな樹が格闘技が出来るなんて想像しづらいだろう。

 

「言っとくが、樹は俺より強いぞ。俺も何度もボコボコにされた。…まあ、罪悪感マシマシで心配されるんだけど、優しすぎて師匠に向いてないかなぁ」

「そうなんだ…」

 

…樹は東京ドームなら数分で更地にできる腕力がある。

 

おまけに神術も樹の世代の天使の中ではトップランクで多芸だ。

 

創造神、維持神、破壊神で習得する神術は違うので、一概の比較はできないが。

 

因みに杏子は今俺に変わって報告書を書いている。

 

記憶が戻ってそっちの能力が上がった今、俺の負担を減らそうとしてくれているようだ。

 

…サイスルで暮海杏子に憑依していた頃と違って、Sっ気は大分鳴りを潜めているが、デジタマから世話をしていた影響だろうか。

 

 

(…アレ?リリアーナと会話していた頃はエヒトを認識できなかったはずなのに、なんで今は認識も発音も出来るんだ?)

 

…この理由を知るのは大分先の話だが。

 

 

「よし、次はギルモン達ね」

「よし!」

「やるなら結界張ってくれ」

「はいよ」

 

ついこの前完成した優花たちの(ついでにあと10台くらい作ったか?)デジヴァイスを取り出し、異常がないことを確認して渡す。

 

杏子もデジヴァイスの作成こそできないが、修理やメンテナンスは可能だ。

ハジメは今デジヴァイスの勉強に割く時間がない。

 

…因みに迷宮に行く前の密会でガトリング砲も見せたのだが(先生は泡吹いて倒れたが)、アレをもう一度見せてくれとねだられたので、預けている。

 

「行くわよ!」

「ハジメ、俺達も」

「後でな、ガジモンは今日は暮海とだ」

 

デジモン達もこうやって毎日組み合わせを変えてスパーリングだ。

もう少しなれたら1対2や2対などのチーム戦も視野に入れる。

 

 

 

 

 

 

 

ガラテア視点。

 

 

 

王宮で人間のメイドのふりをして、情報収集をしている。

一部生徒たちの訃報が届けられてからというもの、天之河光輝という勇者は、白崎香織に

 

『南雲と榊原はもう死んだ。だからクラスメイトの死にとらわれていてはダメだ。

暮海さんと園部さんは必ず助け出す!…それに、榊原は暮海さんをあんな化け物にして、あんな力を持っていながら隠していたなんて…なんて最低なんだ!あんなに頭を抱えて苦しんでいたのだって、榊原に何かをされていたに違いない!』

 

などと言っているが、男性陣二人は死んだとして、女性陣二人はきっと自分の助けを待っているはずだと言って憚らない。

 

ジール時代から進示と杏子の戦いを気配を消しながら見ていて、事情を知っている身としては、何とも言えない心境になった。

 

進示と杏子はどちらかが死ねば自動的にもう片方も死ぬ間柄だ。

 

杏子を【化け物】と言っていたが、デジモンというあちらの方が本来の姿だ。

 

勇者は事情を知らないようだが、説明したところで、果たして受け入れられるかどうか。

 

私が観察する限り、あの勇者は自己中心的で、世界は自分の思い通りになると思っている…だけであればまだよかったが

 

(…厳密には自己分析も放棄してますね。だから他人の心情も自分自身の心情も視えていない)

 

一番の問題はそれだ。

 

恐らく、挫折すらなく、人間関係においてもトラブルの類とは無縁。八重樫雫の言動を見る限り、彼の不始末は彼女がフォローしていたようだ。

 

(…女を侍らせたい欲求もまあ、人間の男性の性欲の範疇でしょうが…それすらも自覚できないうえに、【自分は特別だ】ということで済ませようとしてますね。…せめて自己分析くらいはしてほしいものです…それが出来れば化ける可能性も大ですが…白崎香織や八重樫雫の言葉も届いていない以上、望みは薄いですね。メルド団長ならあるいはとも思いましたが…、こちらも難しいですか)

 

私が彼らを見ながら思案していると。

 

「なあ、光輝…。こいつらだって気持ちの整理は必要だろうしよ、いったん戻ろうぜ」

 

と、アレは坂上龍太郎だったか。

 

「龍太郎?」

「上手く言えねぇけど、南雲と榊原を悪く言うのは違う気がすんだよ…それに、ベヒモスが変化したっつうあの白と黒の気持ちわりぃ感じの奴だって何か知ってそうな感じがしてたしよ」

 

その言葉を聞いた私は表情を取り繕えただろうか。

 

「…アレがこの世界にも…!?」

 

ジール全域を飲み込むほど肥大化したモノ。

 

彼はアレを【イーターもどき】と呼んでいたか。

 

進示は冤罪で傷つけられた体に鞭を打って戦おうとしたが、ミリアに気絶させられ、それがジールで見た彼らの最後の姿だった。

まさかトータスで再会するとは思ってなかったが。

 

…再会というのは語弊があるか。向こうはこちらを知らないのだし。

 

 

 

 

 

…彼らがあの程度で死ぬとは思えない。が、アレが出てきた以上分からない。

 

 

 

 

 

 

 

…事の真相を確かめようにもあのシスターがいる以上迂闊な動きは出来ない。

 

それに、私はあまり戦闘向きのエルフではないし、ナイフ、弓、投擲術もある程度収めているが、本職に適うわけではない。

 

 

 

 

「ちょ~っとお話いいですか?ガラテアちゃん」

「!?」

 

突然、メイド服にしては露出が高い緑色の髪の毛の女性が…人間なのか!?

いや、そもそもこんなメイドいたか!?

 

「私、岸部リエっていうの~♪…さっきの【アレがこの世界にも】って言葉の意味~、お・し・え・て?」

 

 

…既に退路はなし。

岸部リエという女についていくしかなさそうだ。

 

…勇者たちや八重樫雫達の動向は気になるが、他に選択肢はない。

 

 

 

 

 

「…ふーん。お話を聞く限りぃ、ちょっと変質はしているけど【イーター】でしょうねぇ」

「…あなたはアレが何なのか知っているのですか」

「ちょっと色々とねぇ?」

「…あなたは、デジモンですか?」

「…へぇ?」

 

彼女の種族を聞いた瞬間、一気に威圧感が上がった。

 

…なんだこの重苦しい空気は!?

 

「…なるほど、アルファモンを知っている以上、ヒントはあったわけか。

…あの時はまさか神話のロイヤルナイツがいるとは思ってなかった。

…貴様の度胸に免じて改めて自己紹介をしようか」

 

 

すると、人間の姿がブレ、人型のフォルムをした桃色の何かが現れた。

 

「私はロードナイトモン。ロイヤルナイツの一角にして、最も美しいもの、現在はある人間と行動を共にしている」

「…ある人間?」

「そこまで教えてやる義理はない」

 

そういうと、ロードナイトモンと名乗ったデジモンは再び人間の姿に戻る。

 

「まあ、今日明日で片付く問題じゃないしぃ?暇を見て話し合いましょう♥

…私のテイマーもあまり待たせられないしぃ」

 

「…テイマーという事は主という意味ですか」

 

「人間をパートナーにするデジモン…に特別な呼称はないけどぉ、デジモンをパートナーにする人間はデジモンテイマーと呼ばれるのよぉ。…最初は不本意だったけどぉ、あの子を独りにしとくのはちょっとまずいのよねぇ」

 

「…そうですか。最後に一つ、どうやってこの世界に来たのですか?」

「…」

 

岸部リエはしばらく沈黙したのち、

 

「まあ、これくらいならいいか。協力関係にある人達の能力でこっちに来ただけで、自力で来たわけじゃないの」

「…」

 

つまり、協力者がいるという事か

 

「十分です。貴方は私に何をさせたいのですか?」

「やること自体は今までと同じでいいわぁ。…あのシスターの目があるうちは迂闊な動きは出来ないしぃ、今は睡眠中だけど、人間より睡眠時間短いからぁ油断できないのよねぇ」

「…あのシスターはやはり人間ではないのですね」

「そうよぅ?そういうアナタも人間じゃないでしょう?」

 

今の彼女の声に戦慄した。

 

イヤリングをつけてるはずなのに、偽装が通用していない。

 

 

「フフフ…いい表情♥岸部リエの精神データに人の恐怖を見て楽しむ性癖もあったけどぉ、癖になりそうね。まあ、今は情報収集してもらいつつ、アルファモンとそのテイマーを待ちましょうか。…こっちに不利益にならない範囲では手を貸してあげる。アナタにはまだ死なれたら困るものぉ」

 

そう言って彼女は戻る。

 

そうそう味あわない重圧から解放されたことで、しばらく放心してしまった。

 

 

 

 

 

「遅かったですね、ガラテア」

「あ、ガラテアさん」

「リリアーナ様…」

 

大分遅刻をしてしまったようだ。

 

リリアーナ王女と、その専属メイドをはじめとするメイドが数名、召喚された女性陣が集まっている。

女子会というものだろうか。

 

「ガラテアさんの分ですよ」

「あ…わざわざありがとう、ニア」

 

メイドの同僚であるニアから紅茶とお菓子を受け取る。

 

メイドの自分が参加していいのだろうかと一瞬思ったが(私は血縁上一応エルフの王族だが)、クラスの人たちの計らいでメイドも参加しているので、今更かと思い、着席する。

 

宮崎奈々と菅原妙子が、園部優花の友人だから彼女がいなくなって気落ちしているが、お茶会に出席できる程度には回復したのだろう。

 

「ガラテア。遅刻を見逃す代わりと言っては何ですが、榊原進示さんの事を教えてほしいのです」

 

突然王女からそんな話題が切り出された。

 

「…何故でしょう」

「あなたは皆さんが召喚された時にどなたの専属メイドを決めるときに貴女は進示さんの専属にしてくださいと言いましたね?」

「…確かに」

「え!?そうなの!?」

 

驚いたのは誰だったか。

 

「…あなたは色恋沙汰の話題には消極的だったはずです。にもかかわらず、男性である進示さんの専属にしてくださいと言いました。貴女の態度を見る限り一目惚れでもなさそうです。…貴女は進示さんを昔から知っていたのでは?…彼らはこの世界出身ではないというのに」

 

 

…これは少し迂闊だったか。

 

 

「…ええ、惚れていたのは姉さまの方ですが、私も昔から進示様と杏子様を知っています。

…これから話すことは他言無用に願います」

 

…恐らくこの中にロードナイトモンのテイマーがいる。

 

その者の耳にこの話を入れるのは正直不安だったが、逆にどう反応するかを見る機会でもある。

 

そう思い、亜人属に偏見がない彼女たちの前でならと思い、私は左耳につけているイヤリングを外した。

 

 

すると、人間の耳に見えていたモノが尖り、エルフの耳が見えるようになったはずだ。

 

王女も含め、その光景に全員が目を見開く。

 

 

「改めて自己紹介を。私はガラテア。ジールという世界の出身であり、エルフの国の第2王女。しかし、姉の影武者となるため、表向きは存在を抹消された間諜です。既に我が国は亡国ですのでお気遣いなく」

 

 

その自己紹介に驚くのは地球組の面々か。

 

地球に行ったことはないけど。

 

「…そう言えば、そのイヤリングを外すのを頑なに固辞していた理由は」

「エルフであることを隠すためです。…この世界では私の外見は森人族に見えるでしょう。

私の肌は白いですが、肌が褐色であれば魔人族に見えてしまいますから、この世界でそのレッテルを張られれば即粛清でしょう」

 

へリーナの疑問に答える。

対外的には様付けはしているが。

 

「…では、進示さんと杏子を昔から知っていた理由は」

「ご明察の通り、5年前に進示と杏子がジールに来たことがあるからです」

 

その言葉にざわつく面々。

 

「念のため言っておきますが、進示と杏子は異世界間を自由に移動できるわけではないようです。

状況から推測するしかありませんが、二人をジールから地球に戻したのはミリアという女性でしょう…彼と密会していたメンバーはご存じと思いますが、彼の持つ龍の杖と亜空間倉庫も元はミリアの持ち物だったはず。彼らがミリアから奪うとは思えませんので、必要があって託したのでしょう」

 

 

それに驚く密会組である、畑山愛子、白崎香織、八重樫雫。

 

 

「密会って、じゃあ、密会の時の会話も」

「失礼ながら聴かせていただきました。遠藤様の気配遮断はまだコントロールが不十分で彼や杏子でも気づけるでしょうが、私を見つけるには至らないようですね」

 

 

因みに遠藤浩介に私も彼を見つけることが出来ると言ったら…彼の様子からして泣いて喜ばれそうだ。

 

 

「私も彼らの全て知っているわけではありません。…私の知る範囲の事をお話しします」

 

 

 

 

 

 

 

シュクリス視点

 

私は現在、契約している主の指示で、主の契約するもう一人の大天使、創造神代天使の力を借りるため、天界に戻ってきているが

 

「んー、主ちゃんの指示ならまあやるけど、歴史の改編も特に禁じられてはいないし。その代わり、シュクリスちゃん、コレ?食べて?」

「なんだ?このダークマターは」

「?シチューだよ?」

 

 

そこには何とも暗黒物質としか言えない何かがあった。

 

コレを食えと?

 

「貴様…仮にも創造神系列ではなかったのか?」

「人間の味覚って定型化されててつまんないのよねぇ」

「おい、仮にも人間の守護者」

「破壊神系列がそれを言う?」

 

…何だ!?私がおかしいのか!?

 

「…うわっ!!くさ!!!魚介類を生で入れたのか!?」

「お刺身だってあるんだし、生でも食べれるでしょ?」

「せめて内臓を取れ!!?」

 

もう嫌だ、この味音痴。

 

しかし、私は天使だから排泄はしないが、人間である主にこれを食べさせるわけにはいかない。

 

盲腸では済まなくなる。

 

「…………いただきます」

「召し上がれ~」

 

こうして私の舌とストレスによる犠牲と引き換えに、ミレディ・ライセンの肉体復元のための術式を手に入れることとなった。

 

…主には3日ほど休むと念話で伝えたら、彼本人と彼のパートナーデジモンから手を合わせられた。

 

おい!?私は死んでないぞ!!?

 

…羽が抜けていくんだが気のせいか?

 

 

 

 

 

 

 

永山視点

 

浩介と健太郎はまだ落ち込んでいるようだが、トレーニングが再開できるほどには回復したらしい。

 

…正直あの密会の時から信じられないような事態の連続だったが、暮海さんのあの変身を見せられたし、他にも証拠になりそうなものを次々と取り出す榊原の持ち物を視たら信じざるを得ない。

 

榊原が持っているもの自体は王国にどこから入手したという尋問を避けるためもらえなかったものの、南雲と協力して強力な武装を作るからそれまでは我慢してくれと言われた。

妥協案まで考えてくれてた以上文句も言えないし、その案を飲むことにした。

 

「あの、榊原のメイドは榊原と暮海さんは生きてるって確信しているみたいだが。

…白崎さんも南雲は生きてるって思ってる。死体を見てない以上、死んだとは断言できねぇ…」

 

 

アレコレと考えてるうちに俺の自室についたようだ。

 

部屋の中には何故か朝にはなかった人形がある。

 

全体的にフォルムは人型、白い鎧に赤と白のマント、右腕に狼のような銃口、左腕には竜のような剣がある。…手のひらサイズだ。

 

「こんな人形あったか」

『私は人形ではない』

「うお!?喋った!?」

『君はどうやら日本人のようだな。

…私は人間に危害は加えない。私を匿ってくれないか?…その代わり時が来たら君の力になろう』

 

 

これが、俺のパートナーとの奇妙な出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介
岸部リエ=ロードナイトモン

デジモンストーリー、サイバースルゥース、ハッカーズメモリーに登場した中身はロードナイトモン。
以前少し触れたが、この世界では本編後の消滅したはずの個体であり、とある人物の身元引受人となった。

ナルシストで悪役として登場することが多いが、サイスル、ハカメモは一方的な悪役とも言えない(デジタルワールド自体がイーターの被害を受けたため)。立場に違いによる衝突が正しいが、弱者から搾取するやり方は褒められない。

なお、岸部リエに憑依していた影響か、勝負下着(女性用)にこだわりを持つようになった。


プレイアブルとしても使用可能だが、進化条件がやや厳しく、高いステータスと才能と友情に一定数値が求められる。

悪役として登場することが多いロードナイトモンを味方につけるには友情を築けという事か。

敵として登場するときは美しい汗をかきたがる。


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第11話 遭遇したのはダブルウサギ!?(に見えなくもない)

ハジメのガジモン、以前も触れたけど一応解説します。

本当はコロナモンにするつもりでしたが、大人の事情によって差し替えました。
二次創作で気にする必要あるのかと思いましたが念のため。
あと、ハジメの豹変後の顔と、ガジモンがフンイキニテルトカオモッテナイヨ?


ハジメ「いい度胸だ」カチャッ
作者「\(^o^)/オワタ」

因みに進化ルートはデジモンチャンピオンシップから…ガクリ


進示視点

 

 

「フフフ…、色は違うけどお揃いね、このジャケット」

「私の服も拘りがあって仕立てたのだと分かるぞ」

 

現在俺は俺自身で仕立てた旅装束に着替えている。

 

杏子と優花の装束も俺が仕立てた。

 

なお、ハジメとユエの分も仕立てようかと思ったが断わられた。

 

流石にそれは自分でやりたいらしい。

 

俺はジャケットからチノパンのような生地のズボン、ブーツに至るまで真っ黒だが、ジャケットとブーツだけはアルファモンをイメージするカラーリング(金と赤)のアクセントを入れてある。

あと、指ぬきのグローブもある。

 

それを見た杏子がその意味に気付いて笑ってくれたのは嬉しかった。

 

優花の旅装束も基本俺と同じフォルムだが、基本の色は白、そして、まだ到達してないし、違うデジモンになるかもしれないが、彼女のパートナー…の究極体(恐らくはデュークモン)のカラーリングアクセントを入れてある。

 

優花には新しい武器として白兵戦にも投擲用の武器としても使える白銀の槍、グングニルと名付けた槍がある。

 

そもそもデュークモンの槍の名前が【グラム】だ。

 

グラムは北欧神話の武器なので、それにふさわしい北欧関連の槍と言えばグングニルやミストルティンくらいしか思いつかない上に、ミストルティンの方はそもそも武器ですらない。

 

そして優花の投擲技術を考慮すると、投げる槍として適性の名前はオーディンの槍、グングニルしかない。

オーディン繋がりでスレイプモンの元ネタである、オーディンの狩る馬、スレイプニルがいたな。

 

ある程度槍術も教えたが、俺は基礎以上の事は教えられないし、優花も投擲と体術を主にして戦うことにしたようで、槍術は基礎以上のトレーニングはしていない。

 

まだ戦歴が浅い中で無理にアレコレ教えても身につかないし、武器を紛失するリスクを想定した上で無手の体術を学ばせたのだ。

 

 

 

杏子の服は、ワイシャツよりやや厚めの白い上着(胸元は閉めてある)、足とお尻のラインが分かるややぴっちりめの黒い長ズボン、ハイヒールは流石に危ないのでブーツにしてあるが、あとは黒い手袋にジャケットにも変化する黒と金のストール、「コレ、どういう構造してるの?」頭には複数のギミックを仕込んだ多機能ゴーグルだ。

露出とブーツ以外は完全にサイスルの杏子の私服である。

 

勿論全員の服には物理、魔力、状態異常に対する防御を思いつく限り仕込んだ。

 

ハジメにも魔法防御などのギミックを服に仕込む際はハジメにも多少アドバイスした。

 

「胸元もご要望とあらば開けるが?」

「それは…俺が杏子の胸でくつろぐ時にしてくれ」

「フフフ…了解だ」

「私もいつでもいいからね」

 

 

 

二人から迫られた形と俺が弱音を吐いたのがきっかけで関係を持つに至ったが、もうスキンシップには遠慮しないことにしたし、二人もそれを受け入れた。

 

地球では後ろ指刺される関係だが、俺達はもう止まる気はない。

 

優花もこんな非常識な経験をして忘れろという方が難しい。

 

ハジメには白崎とユエを引き合わせてしまったら修羅場になると予想したが、これも成り行きに任せるしかない。

 

ちなみにストーカーまがいの事はしているのに、告白してない白崎…まあ、学校での自分の言動が周りにどう影響を与えるかも考慮してなかった。白崎がハジメに話しかけることで天之河のやっかみや檜山達のいじめの原因になる事に気付いていなかった辺り恋は盲目と言ったところか。

 

…俺も気を付けないとな。

 

だが、正直俺も他に心当たりがある。

 

「進示も結構タラシなのね…あなたたちの関係に割って入った私が言える事じゃないけど」

「…一番可能性が濃厚なのはガラテアか」

「進示のメイドさん…」

「ああ、まるで昔から面識があるかのような感じだった。本人は隠してるつもりだったようだが、フェーに顔が似てるんだよなぁ」

「あのエルフの王女様か…表向きは姉妹はいない感じだったが」

「…表舞台から消さざるを得なかったか」

 

アレコレ可能性を考えるが情報が少ないので本人に確かめるしかない。

 

「八重樫も微妙…」

「うそっ!?いつの間に」

「まだ確信は持てないぞ?カウンセリングをしてみたが、少なくとも天之河の前で吐かない弱音を吐かれた」

「ああ、クラス全員にやろうとしてた奴か。…彼女は確かに人前で弱音を吐かないし、【ソウルシスターズ】なるものが結成されるほどナイトのような振る舞いをしていたが…彼女は進示と似たようなタイプだ」

「…弱音を吐きたいのに吐けない…ところとか?」

「まあ、近いな」

「…そっか」

 

優花はなんとなくではあるが察したらしい。

 

 

すると杏子が、

 

「しかし、キミは責任感が強い女性を惹き付けてしまうのか?」

「え?」

 

などと言ってきた。

 

「樹も責任感の強い者だ。神の都合に付き合わせている君に負い目を感じてもいるだろうが。まあ、責任感の弱い天使に大天使は務まらないな」

 

神のシステムは分かっている半で優花やハジメ達にも説明してある。

 

 

「男をダメにするタイプの女性もいるが…キミはそういう女性を作ってしまったり惹いてしまうのかな?」

「…そう言うと俺が悪魔の男に聞こえるぞ」

「…冗談だ。まあ、キミがあまり完璧超人過ぎても、私や女性の存在意義がなくなってしまうからな。互いの欠点を補い合える関係がベストバランスだろう」

「その理屈で言うならリリアーナ王女も危なくない?」

 

 

「…………………ないとは思いたいが、彼女からよく政治や経済の学術書を借りていたし、王女はこの世界の神に対して少なからず疑問を持ってたから、やり方次第でこちら側に引き込めると思って、探りは入れていた」

 

まあ、出来ればラッキー程度だったので、メルド団長もこっち側に引き込めないか探りを入れてみたのだ。

 

「ほら、こっちでは神の使途という名目で国から後ろ盾は得ていたが、本当のところどこまで通用するかは怪しい」

「確かにな。後ろ盾があるとないとでは、行動にも大きく差が出るかもしれん…このような宗教国家ではなおさらな」

「王女は魂の色で邪念がないことは確認済み。絶対ではないが洗脳の類も受けにくいだろう」

「魂ってそんなことまでわかるの?」

 

優花の疑問は最もだ。

 

「元々ジールで学んだ技術だったが、杏子とデジシンクロを起こしていなかったら気づかなかった可能性も高い…それに」

「それに?」

 

「…お前たちを抱いてから精度が上がった。より遠くの魂の位置を捕捉出来たり、コンディションが細かくわかるようになった」

「…そう言えば私も抱かれてから、体のコントロールがスムーズなのよね」

「私も技のバリエーションが増えたな。人間体のままでも使える技がいくつかある」

「…なんてエロゲ?」

「いや、日本にも古来より房中術があるだろう。案外否定できないかもしれない」

 

俺と杏子は問題なくそういうトークが出来るようになった。

 

優花もまだ少し恥ずかしさはあるものの、もうついて来れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それとギルモン、杏子やハジメやユエのガジモン、ルナモンがはぐれてもそれぞれのデジヴァイスで居場所を把握できるし、デジモンを隠して移動するときは、デジヴァイスに格納する機能もつけた。これで状況を顧慮しながら行動できる。ずっとデジヴァイスに閉じ込めるのもストレスが溜まるから、出来るだけ表に出すようにはするが」

「私は見た目は人間だが、他のデジモンはそうはいかないからな」

「うん!これなら隠れながら移動出来るようになるね。僕たち見た目は魔物だし」

 

 

 

「おーい、もう出発するぞ」

 

ハジメからの呼び声だ。

 

乗り物の最終チェックは終わったらしい。

 

ハジメから預けていた銃やガトリングを返してもらう。

 

「色々参考になったぜ」

「そうか」

「ん」

 

 

因みにユエからは、性病予防薬や避妊薬の件で感謝された。

遠慮なくハジメを食える(意味深)からだろう。

 

…ハジメからは微妙な顔をされたが。

 

 

因みに俺と杏子と優花、ハジメとユエがそれぞれのカップルごとに同じデザインの指輪をしている。

 

勿論指輪にも多数のギミックを仕込んでいる。

 

『…杏子、優花…いつまでも俺と一緒にいてくれ』

『も、勿論よ…!嬉しいわ』

『おや、樹を差し置いて貰えるとは…私は勿論記憶が戻った今も君と一緒にいる意思は変わらない。帰ったら樹にも指輪をやるといい』

『…【彼】は?』

『気にならないといえば嘘になるが…、キミは【彼】と再会させようとしてくれているのだろう?それに真田アラタや白峰ノキア、神代悠子達もあれからどうなったのか気になるしな』

『…ああ、何故その世界を今認識できるのかは気になるが、あの世界の東京・中野にもう一度…行けるのは改変後の世界だろうがね』

『私が憑依していない本来の暮海杏子がいる世界か。…岸部リエも気になるな』

 

そんなやり取りを思い出す。

 

 

ユエはややアンバランスな服装に頭に黒いリボン。

 

ハジメは眼帯に黒いコート、メタルな義手と、厨二全開な服装だが俺も人の事は言えない。

 

 

「俺たちの装備やデジモンはこの世界では異端だ」

「ああ、場合によっちゃ、略奪、異端審問、その他諸々の問題が起きる」

「まさに、世界中を敵に回すかもしれない旅だな。教会や各国を敵に回す可能性は高い」

「でも、今更そんなんで止まらないわ」

「ん、私たちが揃えば最強」

「私たちも強くなったし」

「俺達は強い!」

「僕たちは強い!」

 

上からハジメ、俺、杏子、優花、ユエ、ルナモン、ガジモン、ギルモンだ。

 

俺達は背中を組んで円陣を組む。

 

某青春バスケットボール漫画みたいなネタになったが、やってみたかったネタだし、ハジメも反対はしなかった。っていうか知ってたのなスラ〇ダ〇ク。

 

「「「「「「「「俺【僕】【私】達は強い!!!」」」」」」」」

 

因みにギルモン達は高さ的に円陣を組めないので、それぞれのパートナーの背中に乗って叫ぶ。

 

優花は若干恥ずかしそうだったが、杏子は意外とノリノリだった。

 

ユエもノリノリだが、ハジメの趣味に合わせるためだろうか。

 

 

オルクスの隠れ家にはやはり地上にワープする仕掛けがあり、オルクスの指輪を使って、地上に脱出する。

 

隠し通路のようになっていたので地上に直通ではなかったが。

 

 

 

資料を見たこともあったが、ライセン大峡谷は処刑場だ。

 

断崖の下はほとんど魔法が使えず、多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。

 

因みに試してみたが、魔力を持たない杏子やデジモン組は一切弱体化しない。

 

まあ、魔力が使えないことを弱体化というべきかは微妙だが。

 

深さの平均は1.2km、幅は900mから最大8km、西の【グリューエン大砂漠】ら東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡(のように見える)。

 

それが【ライセン大峡谷】。

 

「…魔力が外に出すのが効率悪いだけで、身体能力の強化なら影響はないな」

「って言ってる間に魔物のお出ましか」

 

いつの間に魔物が出てきたか。

 

「魔力は分解されるけど力づくでいく…10倍くらい効率悪いけど」

「なら、ユエは今回見物してなさい。魔力はいざという時のために温存するの」

 

 

そういうとユエは渋々引き下がる。

 

「そら!」

 

ハジメがドンナーを発砲。

 

「シッ!」

 

優花がナイフを

 

「ヴォルケナパーム!」

 

杏子が新しく会得した技の中で人間体でも使える【ヴォルケナパームⅠ】を放つ。

 

ヴォルケナパームは魔法ではないのでこの環境でも分解はされない。

 

「弱っ!?」

 

魔物はあっさり爆散した。

 

奈落の底にいた魔物の方が強すぎるだけでコレがスタンダートなんだろうか。

 

「手ごたえねぇな」

 

ハジメがやや物足りなそうに言う。

 

「タイラントバスター撃ちたいなぁ」

 

「お前の場合は魔力が分解されなかったら間違いなくこの程度の魔物じゃオーバーキルすぎる」

 

「キミもデジモンなしでも完全体と戦える事を自覚すべきではないか?…いや、体への負担を度外視すれば究極体ともそれなりの戦いは出来るぞ」

 

ハジメと杏子に突っ込まれた。

 

「今はお前たちがいるからそうそう限界超える必要もない…限界を超える事態が来ないことを祈りたい。忘れてるかもしれないが本来俺はそんな面倒ごとは嫌いなんだ」

 

俺はそう言うが

 

「フフフ…今は私たちがいるからこそ、だろう?私たちを守るために限界を超えてしまう事もあり得る」

「そんな事態に私たちがさせないわ」

 

…これは喜んでいいのか。

 

限界超えることを無くして成長もしなくなる恐れもあるが…ままならないな。

 

 

「…一先ずどっちのルートを取るかだが、樹海側に向かおう」

「ハルツィナ樹海?」

「ああ、いきなり砂漠横断はキツイし、樹海側の方角には町もある」

「そこを一先ずの拠点にするのか」

「そう言うことだ」

 

 

ハジメの言葉には誰も反対しない。

 

町で物資の補給が出来るようになれば、旅の途中での食料なども計算しやすくなる。

 

隠れ家では自家菜園もやってたし、携帯食も作ったが、やはりそれでは味気ないというのが本音だ。

 

 

「決まりだな」

 

そう言うとハジメは宝物庫の指輪から魔力駆動四輪を出す。

 

俺も車やバイクは作っているが、今は分乗する必要はないし、ハジメが運転したそうにしていたので、今回は任せることにする。

 

 

車に乗って周りへの注意はしているが、思い思いに談笑していると、

 

ピピピ…

 

「デジヴァイスに反応?デジモンの気配がある」

「何!?」

 

頭が二つあるティラノサウルスのような魔物に追いかけられてるのは兎人族の少女と、その頭に乗っているのは

 

「パタモンだな」

 

「あの女の子の頭に乗ってるってことはパートナーなのかしら?」

 

「…これはいよいよ異常事態だな。本来この世界に存在しないはずのデジモンが複数いる時点で嫌な予感はしてたが」

「仕方ねぇ、助けて恩売って、色々吐かせるか」

 

 

ハジメが凶悪な顔をして『恩を売る』とか言っちゃってるけど、性格変わったなぁ。

 

まあ、元々事なかれ主義なので見捨ててた可能性もあるだろうが。

 

「とは言え、今俺は運転中だ。ユエ、園部」

「あのティラノサウルスのような魔物、成熟期でも十分だろう」

 

ハジメと杏子の言葉に優花とユエはデジヴァイスにカードをスラッシュする。

 

テイマーズ式の進化ではあるが、大迷宮で俺がやったように、魂だけで進化させる方法もいずれ確立しておく必要がある。高次元世界に進出するためにはカードに頼った進化では恐らくダメだ。

 

しかし、まだカード無しで進化は出来ないしな。

…カード持ってきててよかったぁ。

 

 

「ルナモン進化…レキスモン!」

 

「ギルモン進化…グラウモン」

 

それぞれのパートナーが成熟期に進化し、兎人族の少女とパタモンを助けに向かった。

 

魔法が分解されるこの環境でもデジモンに一切影響はないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある大迷宮

 

「んもう、キミが来てからトラップの増築は楽になったけど、その歌唱力はお世辞にも高いとは言えないよ」

「んま!失礼ね!アチキの歌は渋谷じゃ(それなりに)評判良かったのよ!!んまあ、【あの】渋谷も玲子ちゃんも歴史が改変された以上もういないんだけどぉ…アチキと出会ったこともなかったことになっちゃってるし」

 

「イロイロ複雑な事情があるんだね…っていうかキミの歌が評判いいってそのチキュウって世界の文化はどんだけなんだい!?」

 

そこの最深部の部屋には魂をゴーレムに移していた頃とは違う【本来の肉体】の金髪ポニーテールの少女と猿のような外見にサングラスと、腰にクマのようなぬいぐるみを付けたオネェ言葉で喋る謎の物体Xがいた。

 

「さて、外の様子を見ますかっと…」

 

ミレディが洞窟に仕掛けてある遠見の応用でライセン大峡谷周辺の様子を見る。

 

すると、一人の兎人族の少女を助ける集団がいた。

 

「うわ、アレ乗り物なのかな?…随分高度な技術だね。それにあんな変身する魔物みたいなやつ、言葉は喋るし、彼らに従ってるみたいだし」

「あら、車じゃない。トータスにはあんな技術はないし、それにアンタの言う変身する魔物はアチキと同じデジモンよ」

「…なんだって?」

 

 

少女が驚いたようにサル…エテモンを見る。

 

「…ミレディちゃん。いよいよこの世界の歴史が動くわよ。…いい結果か悪い結果かは分からないけど」

「…そっか、いよいよか…長かったなぁ」

 

少女は感慨深げに呟く。

 

と、エテモンが車から降りたゴーグルをかけた金髪の少女に気付く

 

 

 

 

 

「…あらぁ?暮海探偵事務所にいた女所長じゃない?ちょっと若返ってるけど」

 

 

 

 

 

歴史は…すでに狂っているが、彼女の認識では今、大きく動き出した。

 

 

 

 




以前言った通り、オルクス大迷宮が終わったので、リリアーナ王女ヒロインアンケートは締め切らせていただきます。
進示君が約70%だったので、進示君に決まりました。


ミュウに関しては今のところハジメパパが多数ですね。

超子煩悩のハジメパパはドラマCDでも割ととんでもないもの作っちゃってますしねw


追記

エテモンが登場しました。サイバースルゥースのサブイベントに登場した個体です。
迷宮で登場させた方がインパクトは強いのですが、私の脳ミソの都合もあってフライング登場です。

迷宮本番はどうなるか…フフフ、お楽しみを


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第12話 神殺しの友愛神殺剣

他のキャラにもパートナーデジモンが集まりつつありますが、本格的な活躍は進示君合流までお預けかな?設定的に。




杏子視点

 

 

兎人族の少女とパタモンの救助をグラウモンとレキスモンに任せ、私たちはいつでもグラウモン達の補助が出来るように付かず離れずの位置で待機。

 

南雲ハジメも、ガジモンを車を止めた後でファイラモンに進化させ待機。ただし、2丁拳銃を油断なく構えたままで。

車の運転中にカードスラッシュなんて出来ないしな。

 

もし、イーターもどきが現れても、この前のヒュドラ・イーターの攻撃を1撃受けただけで分離や退化してしまう事がないように対策用のプログラムも用意されている。

これは通信中に樹から送られてきたデータが無ければできなかっただろうが。

 

 

そして、自身の【魂】に宿った新たな剣をいつでも出せるようにしておく。

 

それは、オスカー・オルクスの隠れ家で進示と何度か身体を重ねた後に進示が気づいたことだった。

 

『杏子、気づいてるか?王竜剣に酷似した武器の気配がある』

『…何?』

 

『友愛か、家族愛か、性愛か、何がトリガーになったかは特定できないが、記憶回復が必須の条件かつ、それでも人間と共にあることを決める事が覚醒のきっかけのようだ』

『…驚いたな。そこまでわかるのか?』

『少し前の俺なら分からなかった…お前たちに愛されてから分かるようになった。最も、初めてイーターが現れたときと、ジールやハイネッツ時代は記憶喪失だったから目覚めることはなかっただろうが』

 

 

私の助手がいた世界にいた時ですらこんなことはなかったというのに。

 

『何度も言うが【彼】の事は忘れなくていいし、むしろ覚えていろ。過去の積み重ね無くして今のお前はいない。正直デジシンクロ状態じゃなかったらお前の人生…いや、デジ生か?ともかくお前自身の意思で決めさせていた』

『…そうか。だが、キミは割と状況に流される質だな?』

 

その時の私は彼が子供のように拗ねる顔が見たくなって少しからかってしまう。

中身はいい年の大人のはずだが、そのギャップも…白峰ノキアは【ギャップ萌え】と言っていたか。

 

自分で言うのもなんだが、記憶喪失の時にはやらなかった意地悪な発言も増えてきた。

 

『…意地悪。否定しないが俺は友達とアホやりながら生きていける生活を守るだけだ。時にのんびり、時にド〇フみたいなコントをしながらな…それに、力あるものが必要もないのに俗世に超常的な干渉をし続けるのは世界にとって良くはない』

 

『世にそぐわない故の不自由か』

 

力あるものが支配すると考える人間やデジモンにはまず出てこない概念だろう。

 

『それに、優花はもう手放さない。彼女を愛しているがそもそもの問題、彼女は生物学上人間ではなくなった。医者に見せるわけにはいかないし、地球で子供産むならウチらの伝手の警察病院しかない…。優花の生物学データが世に漏れれば』

『間違いなく戦争か、類似する大惨事になる』

『そういう事。そういう情報戦の立ち回りに一定の場数を踏んでる俺やお前や樹で優花を護らなくてはいけない』

 

…進示、途中から優花君が聞き耳立てていることに気付いていないのは結構うっかりしているな。…身内相手だからか、敵には結構敏感なのに。

優花君なら聞かれても問題ないが、現実問題の事を口にしたとき、罪悪感ですごく気まずそうにしていたぞ。

…【愛してる】とか、【手放さない】と言ったときは凄く嬉しそうにしていたが。

南雲ハジメはオタク故にそう言った知識もあるが、優花は良くも悪くも一般人。

 

…この会話を機に優花君はそちら方向の勉強しだした。勉強自体はいいが熱を出すほど無理をしないようにしないとな。

…魔物って熱とか出るのだろうか。

 

 

『…とにかく、その剣は一先ず【友愛神殺剣】と呼ぶ。…性能は神、天使、転生者やその血や情報を持つもの相手へのキラーウエポン。デジモンにはただの鋭く、重い刃でしかない。例えば、素戔嗚には特攻が入るが、スサノオモンには入らない…みたいな』

『…なるほど。文字通り【神殺し】の剣か。転生者も神様転生である以上、【神】に関わるものだしな』

『…但し、今の例えでも例外があるとすれば、スサノオモンに素戔嗚の分霊でも取り付いていれば特攻対象だ。それから、その剣は暮海杏子の状態か、俺と融合しているときしか使えない。

…俺の力を借りずにアルファモン…デジモンに戻ってるときは使えないという事だ』

 

大まかな性能と使用条件を聞かされ、私は頷く。

 

『了解した。…しかしそれではあのイーターもどきはどうだ?大和田君たちが記録映像を見て、半神半人のような反応があると言っただろう?』

『…恐らく、特攻対象だ。…マジで嫌な予感するぞ、あのイーターもどき。…まるで人体実験のような残骸のような…うっ!』

 

そこまで言って最悪の予想をした進示は、あのヒュドラ・イーターから何かを垣間見ていたのか、気持ち悪そうに胸を抑えた。

…魂を見ただけで、能力まで見抜いてしまう力の代償か、こういう弊害があるとは。

 

『進示!』

 

優花君がいてもたってもいられず駆け寄って、進示の背中をさすり始めた。

 

 

 

 

「ひ、ひえぇ!?なんですかぁ!?」

「で、デジモン!?」

 

レキスモンに抱えられた兎人族の少女とその頭に乗ったパタモンが驚きの声をあげるが、レキスモンは構わず抱えて跳躍し、私達の前に着地する。

 

「グラウモン!やって!」

「エキゾーストフレイム!」

 

グラウモンが強力な火炎放射を放つ。

 

ティラノサウルスのような外見をした魔物といえど耐えられない。

 

と、思ったが、突然進示が優花君を抱きしめた。

 

「む、胸糞悪い実験しやがって…!」

「…!?」

 

抱きしめられた優花君は進示の零した言葉を意味を一瞬遅れて理解する。

 

私は直ぐに【友愛神殺剣】を取り出した。

 

ティラノサウルスもどきからイーターもどきが出現したのだ。

 

南雲ハジメとユエ達も、進示の突然の行動の意味を理解し、私がしくじった場合に備え、南雲ハジメは拳銃を構え、ユエはこの魔法が使いにくい環境でも無理矢理魔法を使おうとする。

 

…本当は吐きたいだろうに優花君に気を使って吐くのを堪えている。

 

実際進示と【共有】している私ですら感覚を疑う。

 

私が人間なら正気を保っていられたか。

 

…ある意味自分がデジモンでよかったと思える。

 

今の進示は…目の前の魔物の情報を得ようとして魂の解析を試みたが、実験の被験者の拷問ともいえる肉体・精神の苦痛を【共感】してしまった。

 

優花を抱きしめたのは、その苦痛を和らげるためと、私に一刻も早く被験者を【斬らせる】ためだろう。

 

…イーターもどきが半神半人のような反応をしていたのは…恐らく転生者の残骸だ。

 

そして転生者は【まだ苦痛を味わいながら生きている】。

 

あのベヒモス・イーターもヒュドラ・イーターも恐らくは…。

 

そしてジールを襲ったあの巨大なイーターもどきも恐らくは無数の転生者の残骸のキメラだ。

 

…進示がジールにいた当時に魂を読み取る能力が低くてよかったと思う。

 

大陸を覆う程のイーターもどきの魂を読み取ったら、発狂してあの巨大イーターに吸収されていた可能性すらあった。

 

何せ大きさを考えれば何百万人分の苦痛を一度に受けていたからだ。

 

 

「はぁっ!!!」

 

進示がこれ以上苦しまないように目の前の魔物を上段から振り下ろした友愛神殺剣で両断する。

 

グラウモンに焼かれて動きが鈍っていたので、あっさりコアごと両断できた。

 

あの魔物の構成要素に転生者がいるので神殺しの特攻対象だろう。

 

「…フム、人間体の私ではこの剣があっても神以外には精々成熟期レベルか」

 

自身のスペックを確認し、剣をデジタルデータに戻す。

 

 

「あ…あ変な色の化け物に変身するのも何回か見ましたが…」

「あれ、人もデジモンも魔物も関係なく食べるよね」

 

 

兎人族の少女とパタモンがそうコメントした。

 

「大丈夫?」

「…ありがとう、優花。おかげで少しだが分かったことがある」

 

進示は優花から離れ、得られた情報を口にする。

 

「実験にされた奴は全員【天使がいない転生者】だ」

「…!」

 

天使とは転生の際に転生者と契約を結ぶ守護天使。

転生先で転生者をサポートする契約だ。

 

…実験材料にされた転生者は守護天使がいない転生者…。

 

まさか【守護】天使の本当の意味は…。

 

今度樹に問いたださないとな。

 

天使は契約者の質問に虚偽の回答が出来ないが、進示と命と魂が繋がっている私にも虚偽の回答が出来ない。

 

進示であれば遠慮する質問もあるしな。

 

 

 

「助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの長の娘、シア・ハウリアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

「シア…いくら何でも図々しくない?」

 

兎人族の少女の言葉にパタモンがもっともなコメントをする。

…しかし、私が以前いた世界の事務所であれば依頼書を予め出してもらうのだが、この世界では冒険者ギルドのクエスト管理者に依頼の話をするのが普通だったな。

だが、街がないこの状況でそんな話は出来ないか。

 

そんな私の心情をある程度察したのか

 

「恩を売って後で協力してもらう手もある」

 

と、進示が言ってきた。

 

まあ、それも一つの手か。

 

 

いや、南雲ハジメが既に高圧的に話しているな。

 

シアと呼ばれた兎人族の少女が亜人にあるまじき魔力持ちかつ、限定的ではあるが未来視持ち。

 

 

そして、後述のシアの特性がバレる前にパタモンが現れ、シアに懐いたが、人がいいハウリア族はパタモンもハウリアの一因として受け入れる。

 

シア・ハウリアがフルネームらしいが、ハウリア族は地あの存在を隠し続けていたがバレてしまう。

 

シアの処刑が亜人族の間で決定されてしまい、ハウリア族は逃走。

 

しかし、運悪く帝国兵にに見つかり、南へと逃亡。

 

しかし、しつこく帝国兵が追いかけてきたうえに、魔物とも遭遇。

 

追い立てられるように峡谷を逃げ惑い、峡谷に逃げ込んだ約60人のハウリア族は、既に40人ほどまで減ってしまったという。

 

そしてシアとパタモンが部の悪い賭けだが助けを求めて逃げまどっている間に私たちが現れた。

 

シアの未来視で主に南雲ハジメがこの峡谷に現れる未来が見えてたらしい。自然発生はともかく自分で未来視を使った場合はしばらく発動できないらしく、最後に自分で使った未来視は、他人の恋愛のデバガメだったらしい。…春が青いな。

 

その際には南雲ハジメから「馬鹿だろ」と突っ込まれた。

 

済まないなシア君。擁護できない。

 

進示があのティラノ・イーターから読み取った情報は落ち着いたら聞かせてもらおう。

 

一応、会話に参加できる程度には回復したらしいが、現状進示の代わりはいない以上、無理はさせられない。

 

実験の内容は進示と魂が繋がっていてもわずかに垣間見た程度だが、神の世界の薬物投与さえあったらしい。

 

その苦痛の感覚を進示はほぼダイレクトに受けてしまったようだ。

 

マトリックスエボリューションシステムを採用したのは、その神の世界の超高次元空間に突入するためだが…これは難航しそうだ。

 

現在は南雲ハジメの運転する車で移動中だが、私たちの事情もある程度シアに説明したが、魔力操作や固有魔法を使えることで同族意識を待たれた。

泣いていたが、シアにはそれだけ重い事情があるという事か。

 

進示は話の途中でここまで自分は役立たずなのでハウリアを襲っている魔物を遠距離から仕留めると言って車の上に上がった。

 

…アレから情報得ている時点で役立たずではないのだが。

 

しかし、何か役に立たないと落ち着かないらしいので、万が一を考え優花をそばに控えさせる。

 

進示は亜空間倉庫からライフルキャノンを取り出した。

 

何気にトータスで使うのは初めてだな。

 

「こいつを…砲撃モードじゃ周りのハウリア族まで吹っ飛ばしちゃうから、貫通特化モードにして…」

 

どうやら今まさにハウリア族を襲う魔物がいるらしい。

 

ライフルキャノンのスコープなら数キロ先までは見えるはずだ。

 

「発射!」

 

連射も効くライフルキャノンは貫通モードで10発発射された。(砲撃モードでは連射はきかないが)

 

魔物は10匹いたようだ。

 

まあ、救助された側からすればいきなり魔物が血しぶきをあげているので、驚かれるだろうが、何とか割り切って欲しいところだ。

 

進示は体術のテクニックは対人戦は苦手、そもそも対魔物を想定した格闘術だ。

 

しかし、スナイパーライフルの精密射撃の制度は高い。

 

彼の顔はゴ〇ゴのようになっていたらそれはそれで見てみたいが、あいにく車内からでは見えない。

 

「ボルトアクションライフルも作ろうかな」

 

…本気でゴル〇になるつもりかい?

 

「イーターもどきの反応は無し。どうやら普通の魔物だな」

 

それならば魂の共感で苦しむこともないか。

 

 

「ちっとは残しといてくれないか」

「そうは言っても、救助対象は結構危なかったし、人間を殺すことに抵抗がないか確かめたいっつったろ?帝国兵が現れたら譲るからな」

「…ああ。トータスじゃ僅かな躊躇が命取りだからな」

 

 

進示とて人を殺すのは抵抗があるが、殺してないわけじゃない。

無論、ジールでもハイネッツでも一人も殺害してないなどという事はないが、流石に一般市民には手をかけてない。

 

…いや、便宜上ゾンビ化と呼ぶが、ゾンビ化した一般市民は一般市民と呼ぶのだろうか。

 

…私の生体デジタルデータが盗まれ、未知の領域に進出することも視野に入れた生体強化を人間に施そうとしたが失敗。

ハイネッツの人間のデジタルゾンビが誕生してしまったのである。

 

バイオハザードならぬデジタルハザードだ。

 

私が元居た世界でも東京がデジタルシフトしてしまったのだが。

 

まあ、ジールから地球に帰還できたのはミリアの次元空間転移だが、ハイネッツから地球への期間は宇宙船を使ってだったりする。

 

今宇宙船は地球の我々の隠し空間に格納している。

 

ハジメ君が地球に帰ったら見せてほしいと言われている。

流石オタク。解析して造るつもりかな?

 

『一応宇宙船の中にいたデジタルゾンビは全部片づけたし、感染の危険も排除したが、何か化けて出そうだな』

 

という、言葉通り、何も起きなければいいが。

私個人としては面白い出来事なら起きてほしいが、流石に人様に迷惑をかけるわけにはいかないか。

 

「と~さま~!!強力な助っ人を呼んできました~!!」

 

車から身を乗り出して父親らしき兎人族の男性に手を振るシア君。

 

しかし、私たちがずっと守っていられないのは分かっているのだろうか?

 

進示も優花君もユエ君もそのことを危惧していたが、まさかハジメ君がハウリア族にあんなことをするなど、当時の私たちは想像してなかったのである。

 

いや、面白いけどね?

 

 

 

 

 

 

 

八重樫雫視点。

 

 

 

 

ホント色んな事があったけど…召喚されてから色んなことがありすぎて、パンクしちゃいそうよ。

 

初対面で帝国の皇帝に側室にならないかと言われた時は流石にどうかと思ったし、光輝は皇帝にいいようにやられてかなり辛辣な評価を頂いたし。

…正直光輝にはこれを機に一皮むけてほしいけど。

 

ガラテアさんが語った榊原君と杏子の事は驚きだった。

 

ある程度本人から聞いていたとはいえ、世界丸ごと消滅するような大惨事になっていたなんて。

 

『私も思うところがなかったわけではありませんが、進示と杏子を責めるのはお門違いですし、異邦人、それも子供……に頼り切りにしといて、いざとなったら手柄を奪い、責任を押し付けたジールの人間たちが間違っていたのです。姉さまが言うには、私たちの世界の大陸を飲み込んだ化け物は人間…いや、あらゆる生命の【原罪】の情報に触れたために捕食するような存在になったと。物質世界、物理法則というモノが存在する時点で、カタチはどうあれ出現は避けられないとも言っていたのです。

…進示が死に体に鞭を打って戦おうとしたのは、ジールの住人を守るためではなく、あの化け物を地球に進出させないためだったのでしょう…そう考えれば進示の性格上説明はつきます』

 

 

子ども…の部分でかなり間があったけどなんだったのかしら?

 

~♪

 

…私のスマホ?とっくに電池切れなのに?

 

「…あ、八重樫」

「永山君?」

『なるほど、私が重吾の端末に入っているから共鳴したのかそれとも別の要因か』

 

え?ええ!?

 

永山君のスマホの映像に移ってるのってデジモン!?

 

『私はオメガモン。…この状態ではオメガモンNXだな。八重樫と呼ばれた少女よ、自分の端末を見るといい』

 

そう言われて私は自分のスマホを見る。

 

『通信アプリは使えないが、そのデジモンを格納する機能は使えるはずだ。デジヴァイスがないから進化は難しいだろうし、私も今の状態では精々成熟期レベルの力しか使えない』

 

私のスマホに移っているのは雷のようなイメージをさせる可愛らしいデジモンだった。

 

『僕はパルスモン!お姉さんが僕のテイマーかな?』

 

 

私はその可愛らしさにちょっと見惚れてしまった。

 

 

「あ、雫ちゃんも!?」

 

席を外していた香織もいつの間にか戻ってきていて、自分のスマホを見せる。

 

『私はプロットモン!』

 

香織のは子犬にもウサギにも見える可愛らしいデジモンだった。

 

一瞬清水君が見えたけど…気のせいかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あいつらもか」

『幸利、それだけの戦力が揃ってもなお厳しい戦いになるってお師匠様が言ってたよ』

「…マジかよ。この世界持つのか?崩壊しないか?」

 

 

 

 

 

「…チクショウ、分かってたよ。俺、さっきから傍にいるのに気づかれないって」

「ご、ゴメンなさい遠藤君!?」

「すまん浩介!」

『…うわぁ、話には聞いてたけどマジで影が薄いのか、浩介』

「うん、これがデフォルトだからな、スティングモン」

 

遠藤君のパートナーはどうやらどこかの特撮ヒーローを思わせるデジモンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

???視点

 

「これは面倒なことになりそうかな」

『恵理ちゃん?まだあの勇者君を想い続けるのかしらぁ?』

 

中村恵理は手にした【デジヴァイス】に格納している一人の女性と会話している。

 

恵理は仲の女性の質問を無視するように話す。

 

「見た目人間なのにデジヴァイスに格納出来るって便利だねその体」

『でしょ?私の協力者…エグザモンのテイマーからもらったデジヴァイスなんだから♪それに、私はデジモンだしぃ?』

 

女性もそれは予想してたようで話題転換についていく。

 

心の整理がまだできていないか。

 

『まあ、好きなようにやってみなさいな。けど、貴女が死んだら私も死んじゃう事だけは気を付けてね?アルファモンとそのテイマー曰く【デジシンクロ状態】らしいから』

「…うん」

『檜山ってお坊ちゃんはアレでいいの?』

「白崎香織欲しさにあんな凶行に及んだし、弱みは握ってるからあのままでいいよ」

『あらぁ、なかなかの悪女ね。嫌いじゃないわ』

 

 

愉快そうに笑う女性…岸部リエはからからと面白そうに話す。

 

『ステルスハイドって便利よね。もともとハッカー用透明目人間になるためのスキルなんだけど、デジモン用にアレンジして使えるなんて。世界がデジタルシフトを起こしているわけじゃないから人間には使えないけど』

「それで大迷宮にもついてきてたんだね」

『おっと、そろそろ表向きのメイドのお仕事の時間ね』

「迷宮から帰ってきてから潜入のために入ったけど、すんなり上手く言ったね」

『恵理ちゃんが王女様に口添えしてくれたこともあってね?』

 

 

そして、恵理はデジヴァイスからリエを出し、リエはメイド服に着替える。

 

密談の時間はおしまいだ。

 

 

 

 

 

 




友愛神殺剣

本作暮海杏子(アルファモン)専用技。記憶が回復した上で、人間(進示)と共に歩む選択をした杏子(アルファンモン)に芽生えた専用必殺技。

見た目は王竜剣だが、サイズは杏子の状態によって変動し、金色の装飾が赤く輝いてる変化がある。

神、天使、転生者やその血を引くものや、神性情報を持つものに莫大な特攻が入る。

但し、神が元ネタになった場合でも、デジモンには特攻が【原則】入らない。

友愛閃剣神殺し能力が付与されるのは、暮海杏子の状態か、人間と融合状態である必要がある。

デジタルワールドや電脳空間で進示と融合せずアルファモンになっているときは使用不能。

文字通り【友愛】状態である必要がある。

融合さえしていればアルファモン王竜剣の必殺技にも上乗せされる。

神殺しに特化した人と共に歩む剣である。


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第13話 ハウリアが暗黒進化!? 杏子「精神面の暗黒進化だな」

皆さんはゲームをするとき、サブシナリオもこなすタイプですか?

ミュウアンケートは次回投稿時に締め切ります。

交渉シーンは駆け足です。

…ハー〇マン軍曹のところは…正直変更点がありません。


進示視点

 

 

 

シアにシアの家族と兎人族ご一行を紹介された。

 

シアのパタモンの存在もあってか、俺達側のデジモンの存在も受け入れられた。

 

ただ、兎人族以外はデジモンを知らないため、後でデジヴァイスに格納した方がよさそうだ。

 

 

シアの家族でもあるハウリア族の護衛を条件に樹海の案内をしてもらうという事で森の中を進んでいると、野盗に見えなくもない武装したゴロツキ…恐らく帝国兵だろうが、そんな集団に遭遇した。

 

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

 

「それに、兎人族じゃないが人間族か?…何で一緒にいるかわか習いが上玉揃いじゃねぇか!」

 

役得…とは女を犯すことか。

優花とユエは嫌悪感と殺気を醸し出す。

杏子は表情一つ変えない。このあたりの感性はデジモンならではか。

 

 

「フム…まるで創作に出てくるテンプレートな野盗みたいだな。こんなのに遭遇するとはまた貴重な経験だ」

 

…おい、俺ら全員この程度の帝国兵に遅れをとらないとはいえ、感心してる場合か?いや、一応これも映像記録には残るから、ある意味テンプレ大好きマニアは大歓迎か?

 

…この前俺が完璧超人過ぎると【私】と【女性】の存在意義がなくなるって言ってたが、…明らかに自分を女性扱いしていない。

外見は女性でも感性はデジモンなのか。

 

いや、そんな杏子(アルファモン)でも受け入れると決めた以上、そこんとこに突っ込むのは野暮だ。

 

だが、野盗に襲われたらアバラをへし折るぐらいはしないとな。

 

どこかの汗っかきのアバラを喧嘩好きの探偵が砕いたみたいに。

 

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

 

 

 

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

「それと少し待て、人間がいるってことは奴隷商かもしれん。おい、この兎人族は国で引き取るから置いてけ」

 

「断る」

「…聞こえなかったのか?」

 

 

おっと、ハジメが即答したか。

 

そうこうしている間にまたテンプレートな問答が始まった。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らずなクソガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんたちはえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

こいつらはそうやって力ないものを食い物にしてきたようだが、今回ばかりはケンカを売る相手を間違えたな。

 

…奴隷は地球では忌避される価値観だが、表社会が知らない所でもカタチはどうあれ人身売買は行われているし、この世界の国ごとの条約や法律周りを変えるにも権力も後ろ盾もクソもない状況ではしようがないし、この世界の面倒を見るつもりはよほど状況がそうせざるを得ない場合を除いてな無い。

 

こっちはこっちで高次元の存在相手の対策があるのだ。

その途中でトータス召喚を食らってしまった。

 

俺達にこの世界の面倒を見るメリットはない。

 

義憤で面倒を見ても地球に帰れるわけじゃなし。

 

…天之河がこの世界の人たちを救うと言ってたが、トータスに移住する気なのだろうか?

 

「…つまり【敵】ってことでいいんだな?」

 

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ!?」

 

帝国兵の隊長らしき男がハジメに眉間を撃ち抜かれ絶命。

 

おっと、兵士の一人がこっちに来たか。

 

「フンッ!!」

 

メキョッ!!!

 

明らかに人体からなってはいけない音がする。

 

「あ、アバラが!アバラがいかれちまったーーっ!?」

 

脇腹に拳を抉りこんだ。

 

それを見た杏子が「ほう、ここでも幽〇白書か」と呟いた。

 

因みにハジメもちょっと引きつった顔で「ある意味殺すよりエグイな」と呟いた。

 

死は一瞬だが、生きている限り苦痛はあるしな。

 

俺があばらを折った兵士から話を聞くと他の兎人族は人数を絞った上で、移送済みと聞いた。

 

つまり、【絞られた】側の生存は絶望的だ。

 

さっきの様子から言って、兵士は誰一人兎人族を売ったり杏子たちを犯すことに反対してなかったため、俺はその兵士の頭を掴み、首を捻った。

 

ネックツイストってやつだ。

 

他の帝国兵はハジメが全員射殺したようだ。

 

「…ハジメ、初めて人を殺した感想は?」

「…意外と動揺しないな。吐き気もしない。魔物の肉を食った影響か?」

「…強がりではないようだな。魂の揺らぎは見られない」

 

…こんな覚悟を転生者でもない高校生に背負わせなければならない事には申し訳ないと思うが、ここは地球ではない以上、いずれは避けて通れない事態に直面する。

 

他人を慮るのは自分の安全が確保された後だ。

赤の他人はまだしも、直接自分たちを害する相手なら慮る優先度はさらに下がる。

 

情があるほど交友もないし。

 

とは言え、人を殺すのは気分はよくない。気を紛らわせるためにネタを出す。

 

「コマ〇ドーのネタやりたいな」

「機会があればやってみたいな」

 

と。俺とハジメが呟いたが、この場には俺たちの発言に呆れる地球組はいなかった。

杏子はネタには理解ある方だし、優花は俺の趣味を知りたいのか俺の挙動を観察している。

と、ハジメは知ってたようだが、優花は世代じゃないな。

前世の俺も生まれてない。

 

それはハジメに対するユエも同じなようで「コマン〇ー?」と疑問符を浮かべてたが、それを察知した杏子が「地球に帰ったらハジメ君に見せてもらいたまえ」と言ってた。

止めないのか。

 

 

おっと、ここから先は恐らく他の亜人族の領域だろう。

人間に見えないデジモンをデジヴァイスに格納しないとな。

俺はみんなにそう促した。

 

 

「と、シア、ニュートラルなデジヴァイスだ」

「へっ?」

「そいつでパタモンを格納しろ。幸い、お前とパタモンの関係は悪くないし、パートナーの資格は充分だ。デジモンは目立つから、そいつに入れろってことだ」

「でも…」

 

シアはデジモンを端末に閉じ込めることに抵抗を感じているが。

 

「シア、僕は大丈夫だよ。デジモンにとって電子端末の中にいるのは本来生活の一部でもあるんだ」

 

パタモンがそういう。

 

トータスではデジタル・アナログの説明をしても理解しにくいのでとりあえずそう言っとく。

 

「なに、人が見てないところで表に出してやればいい」

 

シアには杏子がデジモンであることはまだ言ってないが、デジモン代表としての言葉だろう。

 

ハウリアの樹海に入った俺達だったが、他の亜人に見つかった。索敵は最低限しかしてなかったし、ずっと神経張り続けてたらガス欠になるし。しかし、問題なく制圧したが、長老の1人であるアルフレリックという森人族のが言うには、大迷宮の入り口かもしれない大樹には今は近付けず、次に行けるのは10日後ぐらいになるらしい。

 

その事を忘れていたカム達「私も忘れてましたぁ」にハジメが制裁を加えた後、俺達はフェアベルゲンに招かれることになった。

 

 

フェアベルゲンに招待された俺達は、オルクス大迷宮や解放者の事を場に集った者たちに話した。

因みに交渉は俺と杏子でやろうとしたが、ハジメが「やらせて欲しい」と言ってきたため、一任した。

ハジメは事なかれ主義のはずだが、今後もこう言った交渉事があるかもしれないので経験を積んでおきたいとのこと。

 

 

アルフレリックは比較的話が分かる方だったが、熊人属の亜人が俺に殴り掛かって来たり(足払いして、関節技で抑え込んだが)

他の亜人がハウリア族を処刑にするとか言い出したが、俺達は樹海の案内をハウリア族に頼んでいるから、それを最後まで履行させる事とか、まあ、ほぼハジメの威圧交渉で纏めたとはいえ、かなりこちら側に有利な条件で纏まった。

 

亜人族の末端まで考えると全員にハウリア族を襲うなというのは無理があるので、対外的にハジメの奴隷という事で落ち着き、ハウリア族は処刑を免れた。

 

シアはそのことを理解してからハジメを見る目が…これは「春が青いな」…そういう事か。

…これでハジメがハーレム男入りするのは時間の問題になったか。

 

「少なくともシアは他の亜人族に危害は加えていないし、復讐も考えていない以上、忌み子だからって、排斥するのはお門違いよ」

「ん、あなた達はハジメに救われた、素直に喜べばいい」

 

優花たちの言葉にハウリア族が涙した…はいいのだが。

 

 

少なくとも10日は迷宮に入れないし、俺達もハウリア族をずっとは守れないので、自衛のためのトレーニングを始めたのだが、虫すら殺せないお人よしぶりを発揮したのだ。

 

どうしたものかと思案していたが、ここでハジメがとんでもないことをやらかし始めた。

 

「貴様らは薄汚い〝ピッー〟共だ。この先、〝ピッー〟されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ! 今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみろ! 貴様ら全員〝ピッー〟してやる! わかったら、さっさと魔物を狩りに行け! この〝ピッー〟共が!」

 

 

 

「これは…ハー〇マン軍曹か」

いやいや、呑気なコメントだな杏子!?

 

躊躇う者には容赦なく発砲し、放送禁止用語を連呼する。

 

 

そして訓練開始から8日目で雰囲気が豹変し始めた。

 

訓練の一環で魔物を狩るように言っただけなのだが、明らかに乱獲と言っていいほど狩ってきた。

 

そして、豹変したカム(シアの父親)たちが熊人属と戦うと言い出したので、

 

 

「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な戦士諸君! 今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する! お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる! 最高の戦士だ! 私怨に駆られ状況判断も出来ない〝ピッー〟な熊共にそれを教えてやれ! 奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん! 唯の〝ピッー〟野郎どもだ! 奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ! 生誕の証だ! ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」

 

 

 

お決まりの文句を言い放った。

 

 

 

「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」

 

 

 

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「お前達の特技は何だ!」

 

 

 

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「敵はどうする!」

 

 

 

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

 

 

 

「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」

 

 

 

「いい気迫だ! ハウリア族諸君! 俺からの命令は唯一つ! サーチ&デストロイ! 行け!!」

 

 

 

「「「「「「「「「「YA―――――――――HA――――――――――――!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

…ハジメ。魔物肉を食った影響なのか?

優花は若干ドン引いてはいるが、止める気はない模様。

 

デジヴァイスに格納しているデジモン達も若干引いている。

 

 

 

…そんなハウリア族の豹変を見て俺はあることを思い返していた。

 

 

…まだジールにいた頃か…。

 

 

自分の世界でもない異世界の救世主何てやってられない、やりたくもない修行をやらされていた頃か。

 

魔物との連戦続きで披露していて、魔物にやられそうになったミリアをたまたま通りがかった俺達が助けて、謝礼代わりに元の世界に帰る手がかりを聞かせてもらう事にしたのだが、『私もあなたと同じ世界かは分からないけど異世界に行ったことがあるの。でも、私の師匠からも聞いてみましょう』

 

ということで、連れてきてもらったのだが、彼女は俺を見るなり、いきなり攻撃を仕掛けてきて『その軟弱な精神、無責任な根性叩き直してやる』

とか言われて拉致された。

 

 

 

 

 

まだ地球での戸籍上は11歳だった頃

 

ミリアと名前も知らないミリアの師匠だった女を思い出す。

 

ミリアは赤い髪のロングヘアーに金色の瞳が特徴の長身の女だ。胸も…少なく見積もってもGくらいか。

 

ミリアの師匠は一度も名乗らなかったが、病的なまでに白い肌と髪の毛が特徴的な女だった。

 

もう半年は叩きのめされている。

 

『俺は…戦いたくなんてない…』

『ならば死ね』

 

 

『お師匠様!』

『ミリアか』

『拳でシンジの腹に穴をあけるなんてやり過ぎです!!私の龍族の因子を埋め込んだから助かったものの、下手をすれば即死ですよ!』

 

『ふん、この世界が邪神の危機に見舞われているらしいが、進示とやらはその討伐ために遣わされた救世主だろう?このくらい出来てもらわないと困る』

『彼は異邦人な上に子供ですよ!』

『異邦人は事実だろうが、子供ではないことはお前も分かっているだろう』

『昔と違って今は何でもかんでも武力では解決できないんです!お師匠様は世俗から永く離れすぎです!』

 

『私を排斥した人間どもに何故優しくしてやらねばならん。何故人間のルールにのっとる必要がある。今すぐにでも殺したいぐらいだ』

『だからって…!』

 

『フン、そもそも地球とやらに【七大魔王】とやらが出現したのを放置した結果だろう。

この世界の邪神もそれで連鎖顕現したのだから地球の人間に責任を取ってもらわないとな』

 

『どういう意味ですか…』

 

『フン…相羽タクミとやらがその神霊を簡略化した七大魔王デジモンとやらを放置したままマザーイーターとやらに戦いを挑んだ結果だ。…放置せず倒した世界線もあるようだが、そこにいる杏子は【放置した側の世界線】から来たモノ』

『…世界の分岐!?』

 

『いずれ現れるのはデジモンとやらではなく、本物の神霊だ。デジモンとは格が違いすぎる…理解したか?この世界の問題だけにとどまらんのだ』

 

 

俺は朦朧とした意識で話を聞きながら心が乱れるのを感じる。

 

何故、俺がやらなくてはいけないんだ。

地球のためならまだわかる。

 

だが、無関係なこの世界で戦えなんて…。

 

何故…何故…

 

俺は…オレは…ナゼ…こんな理不尽な…

 

 

 

 

コロシテヤル。

 

 

 

 

 

それは思ってはいけない事だったのかは分からない。

 

 

それが一番最初に杏子を巻き込んだ暗黒進化、ドルゴラモン。

 

僅かに覚えている記憶が激しい戦いだったことは分かる。

 

ミリアの師匠も究極体の相手には分が悪かったのか、ドルゴラモンになってからはこちらのワンサイドゲームだったらしい。

意識は曖昧だったが、後でミリアから聞かされた。

 

 

ドルゴラモンとなった右腕でミリアの師匠を掴む。

 

ミリアの師匠はドルゴラモン(オレ)に掴まれながらなんとか喋る。

 

『そうだ…やれば出来るではないか…愚かな人間を憎め、自らを傷つける人間を恨め、理不尽な仕打ちをする人間に怒れ、力にものを言わせて女を犯せ。弱者を食い物にすることを忌避するな。英雄に戦わせ、自ら戦わず、責任を英雄に押し付ける愚かな人間どもは結局力で捻じ伏せるしかないのだ…そうしなければ平和など来るものか!!!』

 

 

 

『ダ マ レ』

 

 

俺はミリアの師匠を握りつぶした。

 

その身体はもはや原形をとどめていない。

 

 

それが…初めて殺した記憶。

 

 

『お師匠様…そんな教え…間違っています…』

 

ミリアが膝をついて泣き崩れていた。

 

師を失った慟哭か…、昔の彼女は知らないが変わり果てた…マイナスの感情を軸にした教えをしたことについてか、俺と杏子に過酷な環境に追い込んだことの謝罪か、今となっては分からない。

 

それを見て、俺は人を殺したことを悟り、分離退化して気を失った。

 

 

「…」

 

 

豹変したハウリアも見て思う。

 

俺もあれぐらい割り切れれば苦しまずに済んだのだろうか。

 

「だが、キミは結局非情にならなかった。ヒトを殺すのだって…少なくとも何の罪もない人は殺めていない」

 

杏子は俺の肩に手を置きアルファモンのような不敵な笑みではなく、どこか女性らしい笑みで俺を見る。

 

俺と魂が繋がってる上に最近は共感力が強くなっているせいか、何を思い出したのかお見通しなのだろう。

 

「気にするなとは言えないが、あのまま暴走し続けていたら、私の自我も完全に失われていただろう。

…キミは憎しみに捕らわれながら思い留まってくれた。私にはそれで十分さ」

 

「杏子…アイツの憎めとか犯せとか言ってたこと…どう思う?」

 

「恐らく半分以上は本心だろう。彼女自身も人間に迫害され、有事の際には責任を被せられたように思える。…そして、七大魔王デジモンを倒した世界線はキチンと生き延びただろうが、放置した歴史のあの世界線は…恐らくあの時消滅した。私が【彼】の名前を発音できないのはそのせいだろう。…今後はサブイベントもきっちりこなさないとな?」

「…お前にとっても重い話題のはずなのにゲームに例えるか」

 

結構割り切るタイプなのな。

 

「キミの趣味に合わせたまでだ。…平行世界に行けたとしても私と同じ座標の世界はサルベージできるか怪しいし、行けたとしても【倒した】側の世界にしか行けない…そうなると、杏子アルファモンが2人になるわけだが」

「…にしても、疑問があるが、なぜあの女は地球の事情や平行世界についてああも詳しい?」

 

そう、それがミリアから聞かされた話の中で最も解せぬこと。

 

「…そこが最大の疑問だ。フェーが何でも見通す眼を持っているという話だったが、…ミリアの師匠もフェーと交流があったとは聞いていたが、…まさかな」

 

杏子が何かを思い至ったようだが…情報が足りないので憶測だろう。

 

「憶測の域は出ないな…。この話は寝物語で優花にも聞かせてあげたまえ。彼女なら受け入れてくれる」

「ああ…、おおっと、ハー〇マン軍曹で豹変したハウリアを止めないとな!?」

「これも暗黒進化だな」

 

ハウリアが【殺しを楽しもうとして】いたので、止めに入ることにした。

 

ハジメが気まずそうな顔をしていたが、今回はちょっとやり過ぎだ。

 

まあ、時間がなかったのは分かるが。

 

 

 

 




ミリアの師匠。

種族は龍族。

名前を一度も名乗らなかったが、彼女の死亡後、ミリアから後で聞かされている。

本文の通り、力あるものが全てを仕切るという考え方を持っている。

【人間】という一括りで見てしまっている節があり、個人の人格はあまり見ていない。

進示を修行と称して人間に排斥された鬱憤晴らしも兼ねた修行をしていた。

同時に進示に覚悟と憎しみを持たせ、弱者を蹂躙しろという方針を持たせるために苛烈な修行を課していた。

どれが建前でどれが本当かという話はなく、全部本心である。

人間に排斥される前は穏やかで責任感の強いでも人物であった。

最後はドルゴラモンにマトリックスエボリューションをした進示に握りつぶされて絶命したが、悔いはないどころか進示が憎しみの感情を持った事を喜んだ。


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第14話 再会のフライング・ニー・ドロップ

今回でミュウアンケートを締め切ります。
僅差でハジメパパになりました。

まあ、両方のルートを考えて迷った末のアンケートでしたが。

そしてポケモンも買いました。
まださわりしかやってませんが、楽しいですね。


ハジメ視点

 

正直ハウリアを魔改造し過ぎて人殺しを楽しむ領域にまでなってしまったのはやり過ぎたと思ってる。

進示から軽いお叱りを受けたし、…まあ、注意で済まされた辺りは信用されてるか…進示本人の優しさか。

暮海からは「たった10日でこうも変わるのか…興味深い」とか言われた。

 

そしてハウリア族を鍛えるのと並行でシアが故に一〇日以内に傷一つつけられたらシアが俺達についていく約束と取り付けてたらしい。

 

おいおいいつの間に…。

 

ユエは顔に傷ついたことを誤魔化そうとしていたが、審判をしていた園部からは誤魔化すなと言われてシアの勝ちが決まった。

 

そしてそれと並行してたのが…。

 

「ウッドモン!」

「おう!」

 

シアがいつの間にかパタモンを進化できるようになってたのか、暮海と戦っていた。

今の暮海は人間体でも成熟期レベルの戦いは出来るらしい。

 

「ぬっ!?」

 

ウッドモンのフェイントをかけたワン・ツーパンチに手に持ってた友愛神殺剣を落としてしまった。

 

「ふう…油断してたとは言え、10日でここまでできるようになれば大したものだ。合格だよ。その調子なら完全体、究極体への進化も出来るようになるだろう。あとはシア君とパタモンがどれだけ心を通わせられるかだ」

 

そしてこっちも合格判定をもらったようだ。

 

まあ、それはいいとしよう。

 

霧が晴れたので樹海の迷宮に向かったのだが、恐らく再生魔法と、他の4つの迷宮の攻略の証、亜人族との絆がいるらしい。

 

絆はいいとして、前者2つは条件を満たしてない。

 

これでは後回しにするしかない。

 

で、俺の自業自得でもあるが、どこかの暗殺集団みたいになってしまったハウリア族が旅に同行すると言い出したが、大勢の移動は面倒なので、適当に理由をつけて断った。

 

カムたちハウリア族は食い下がるが、次合う時までに腕をあげておけば考えなくもないという事にしておく。

 

そして、シアから衝撃の言葉を告げられた。

 

「は、ハジメさんの事がしゅきなのでぇ~!!」

 

あ、噛んだな。

 

てか、俺にはユエがいるのに何で告白されてんだ!?

 

既にトータスにいない樹さんも含めて3重ハーレム築いている進示はこの様子を見てため息をつきながら「なるようにしかならん」とか言ってるし!?

 

「自分で言うのもなんだが、俺はお前に相当雑な扱いしてるぞ?」

「自覚あるんならもう少し優しくしてくださいよ~!?」

「それに、優しさって言うんなら進示の方が優しいだろ?」

 

俺は無意識にシアを進示に押し付けようとするが、

 

「だって、私やハウリアを直接助けてくれたのってハジメさんだからです」

 

「ま、お前の思惑はどうあれ、アルフレリック達と交渉したのはハジメだしな」

 

 

そう言われてしまった。

 

「人間も亜人も関係ないさ。一番苦しい時に助けてくれた奴にこそ惚れる。吊り橋効果も否定できないが、ハウリアを救ったのはお前だ」

 

 

ぐ…確かに交渉を(半分以上威圧交渉だったが)やったのは俺だ。

 

「…ハジメ、シアを連れて行こう」

「え?」

 

ユエから話を聞くと特訓の市中に何か約束事を取り付けていたらしく、ユエが負けてシアの味方をすることになったらしい。

 

この世界が一夫多妻ありとは言え、地球の価値観に馴染んでる俺にとっては何というか…うーんと唸る事である。

 

「そう言えば関原たち、俺が何人女を落とすか賭けでもしてないだろうな?」

「してると思うぞ?」

 

そんな進示と暮海の会話が聞こえる。

園部も「え!?」みたいな感じで驚いている。

 

「そう言えばトータス召喚前…記憶回復前の無垢な杏子に裸ワイシャツで俺のベッドに潜り込むことを教えたのもアイツらだったな」

「フフフ…私なりにアピールしたつもりだったが」

「精神年齢の低かったお前の教育に悪いと思って気を使って手を出さなかったんだが」

 

そんなことがあったのかよ…

 

おい、ユエ!目を光らせるな!!明らかに俺のベッドに裸ワイシャツで潜り込む気…いや、もう喰われたんだが。

 

 

 

「……ったく、危険だらけの旅だぞ?」

 

 

 

「化物でよかったです。御蔭で貴方について行けます」

 

 

 

「もう家族とも会えないかもしれない」

 

 

「父様たちとも話し合って決めました」

 

 

 

「付いて来たって応えてはやれないぞ?」

 

「未来は絶対じゃあありません。二人目でもいいですよ?…それに、本来【視た】のはハジメさんとユエさんだけだったんですし」

「…!」

 

シアの言葉を聞いて進示が何か反応したようだ。

 

今の俺はそれどころではないが。

 

「そうか、なら好きにしろ、物好き」

「はい!!」

 

 

こうして俺たちの旅にシアが加わった。

 

 

と、進示が暇さえあればいじくっていた端末を操作している。

 

「良し、上手くいってくれよ…送信!」

「召喚前に樹から渡されていた通信端末か」

 

聞くと、通話は難しいが、ダメ元で、今までの記録を地球に送信したらしい。

 

 

 

 

 

 

日本某所

 

樹視点

 

 

「あ、来ました」

 

現在は南雲家で私と関原さん、小山田さんとそのパートナー天使がパソコンを広げてキーボードを叩いている。

 

他のメンバーは現在公安からの依頼で、化け物退治に向かっている。

 

召喚前に進示様に渡していた通信端末から記録映像が送信された。

 

大規模な画面を使った通信は流石に目立つが、こういった形の映像なら目立たないだろう。

 

何故か戦闘中に優花さんを抱きしめた進示様だが、顔色が青い。

 

 

《実験にされた奴は全員【天使がいない転生者】だ》

 

 

記録映像の化け物…イーターもどきが寄生した魔物の正体に驚く。

 

元々イーターは情報を食う存在ではあったが、あらゆるものを捕食するようになったのはまさかこれが原因?

 

「…そう、私たち天使を転生者とパートナーの契約を結ぶ理由は、転生者を拉致させない護衛も兼ねていたのですね。…薄々気づいてはいましたが」

「おい、それより見たか!ウサミミだぞ!」

「ホントファンタジーよね!シアちゃん可愛いわ!」

「…またデジモンか。これはデジタルワールドか電脳空間に何か起こってるのか?」

 

通常運転の南雲夫妻の言葉に苦笑いしつつ、流れてくる映像を見る。

 

《…ハジメ、初めて人を殺した感想は?》

 

《…意外と動揺しないな。吐き気もしない。魔物の肉を食った影響か?》

 

《…強がりではないようだな。魂の揺らぎは見られない》

 

「…ハジメ…」

 

心配そうにつぶやく南雲夫妻。

…進示様も本来争うことは好きじゃないし、殺しは架空のゲームの中で十分と言っているので、心配になる。

 

そして衝撃の映像が流れてきた。

 

 

《貴様らは薄汚い〝ピッー〟共だ。この先、〝ピッー〟されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ! 今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみろ! 貴様ら全員〝ピッー〟してやる! わかったら、さっさと魔物を狩りに行け! この〝ピッー〟共が!》

 

 

「うわ、マジでウケる!」

「ハー〇マン軍曹じゃん」

 

 

…放送禁止用語は編集しましょうか。

 

私は平気ですが、他の方もそうだとは限りませんし。

 

…ハジメさんがここまでやるとは思ってなかったのか南雲夫妻は…

 

「やるじゃないかハジメ!!」

「現在ではあり得ない表現…これをセルフピー音でモノマネとか」

 

 

…何かバラエティー番組でそういうのがありましたね。

 

「そしてシアちゃんに告白された!?」

「リアルチーレムよ!?」

 

…本当にブレませんね。

 

「あ、そう言えば榊原ってもう樹と杏子を除いて1人落としたよな?」

「ああ、あと何人落とすか賭けようか」

「男も対象になる?」

「ホ〇ォ…」

 

私の計画に進示様…いえ、進示様に限らずハーレム計画を企てている私だけど、それは絆を否定した【あの方】へのカウンターであるので、【愛のあるハーレム関係】を築けるなら進示様である必要はないのだが、独りが怖くて心の寒さに震えてなお必死で立ち上がる進示様を支える人が増えてほしい。

 

愛する殿方に甘えるのはいいけど、それだけではなく、殿方を支える精神力がないと愛人として迎えるわけにはいかないのだ。

 

「…ここで途切れていますね。次の記録映像か通信を待ちましょう。あの様子では暇さえあれば端末のアップデートをしているようですし」

 

一先ず夜も遅いので、この場は解散となった。

 

 

 

 

 

トータス

 

 

優花視点

 

ブルックの町についた私たちはステータスプレートを偽装し、町に入る。

ギルモン達には申し訳ないけど、デジヴァイスに格納にしている。

 

シアにも申し訳ないけど、対面上は奴隷にしないと社会的に面倒ごとを呼び寄せてしまう。

 

なので、南雲が首輪をつけている。

 

進示と杏子のステータスプレートは文字化けばっかりで読めなかったのだが、天職が見えた。

 

っていうか、杏子の性別が【不明】って書いてあるけど、デジモンだから仕方ないのかな?

 

進示は【歯車の生贄】とあった。

進示は複雑そうにしながらも「世界のバランスを維持する【歯車】だろうな…確信は持てないが…その状況を回避してくれたのは樹だと思う」と言ってた。

 

どういうことか知りたかったが、今の話は憶測でしかないという。

 

…杏子は【空白の騎士】と出てた。

 

杏子は「ほう…これも宿命か?」と呟いていた。

 

何でもデジモンの世界では杏子…アルファモンはロイヤルナイツでありながらロイヤルナイツが暴走した時に諫める抑止力で、表舞台には極力出ないからその席は空白になっているという。

 

なるほどね。

 

やけに観察眼…洞察力かしら?…の鋭い恰幅のいい中年女性が受付をしているギルドで、樹海で得た魔物の部位の買取りをしてもらい、大金を得た。

 

だが、イーターがくっついてる魔物は流石に世に出すわけにはいかないのでこちらで売らず、管理、研究をするために残してある。

 

…進示と同じ転生者の遺体でもあるので余計に売るわけにはいかない。

 

イーター封じのプログラムもトータス召喚前から研究していたそうだけど、当時は杏子の記憶が無くなっていたので、難航していた。

しかし、奈落に落ちてから杏子の記憶が回復したため、研究が進みだしたのだとか。よその世界から現れるイーターの出現は防ぎようがないが、少なくともこれが完成すれば再起動は無くなるとのこと。

 

…元々イーターはただそこにあるだけの情報体だったが、人間の情報に触れて、捕食と進化を繰り返す存在になったのだそうだ。

 

この世界の現実世界とデジタル領域が曖昧なのはイーターがいるせいでは?と考察もしている。

 

…私にはまだ難しいけど頑張って覚えなきゃ!

 

 

そして、宿屋では部屋割りでひと悶着あった。

シアがハブられて一人部屋になりそうだったのである。

 

まあ、結局【3部屋】になったけど。

 

 

 

 

 

 

…正直トータス召喚前からは考えられないハーレム関係になっちゃったけど、この世界では地球のようにはいかないし(命がけの戦闘を回避できないという意味で)、ぶっちゃけ現状で頼れる男は私個人の主観では進示と次点で南雲くらいしかいない。

後は…メルド団長かしら?

 

天之河は…接点はそこまで多くないけど、なんとなく耳障りのいい言葉を言ってるだけで中身がないような気がする。

 

進示曰く、「普通の高校生ならまあ、そんなものだ。地球ではもっと時間をかけて中身を磨くのが普通だし、社会人になったからって即戦力になれる人は少ない。…だが、こんな異常事態を目の当たりにしてまともな判断が出来るかと言われれば、間違いなくノーだし、先生だって戦争とは無縁の一般人だ。

ニュースやドキュメンタリーで戦争の悲劇を見たってそれを【実感】では覚えられない。

…だからこそマスコミが先生を攻撃するのは目に見えてる。(表向きは)唯一の社会人だしな。

大体の人は誰かのせいにしないと心が安定しないし、根本の原因はエヒトだが、大半の人間は異世界なんて信じないだろうしな。…帰ってからの方が大変だぞ…おっと、話が脱線した。

まあ、先生なら最悪教職を追われたら実家の農家か…最悪ウチの事務員として雇ってもいいし…。

 

天之河は…せめて八重樫の言葉が届けば成長の機会はあるんだろうが…大丈夫かなぁ」

 

とか言ってたっけ。

愛ちゃんが心配ね(既に天之河に不信が芽生えたせいか気づけば忘れていた。愛ちゃんの方が心配だから)。

 

っていうか、建前上進示のチームは樹さんがリーダーみたいだけど、実権は実質進示が握っているらしい。

事務処理や裏工作は転生者たちの天使(全員人間の姿で活動している)が担当してるのだとか。

 

杏子も

「天之河光輝に関しては一先ず様子見だ。次に会ったらどれだけ成長しているか見せてもらおう。

…なにも成長していなければアテには出来ないが」

 

と言っていた。

 

あ、因みに今のこの会話はベッドの上でしている。

 

進示と二人きりで。

 

杏子には悪いと感じたが「シア君を独りにするのも少々申し訳ないからな。デジモンをここでは出せないし…それに、報告書も書かないといけないし、私の記憶回復前はその辺進示に任せきりだったからな」

 

って言った。

 

杏子って記憶回復後は私にも進示にもちょっと意地悪な発言が増えたけど、根は善人(善デジモン?)だし、今後もいい関係は築けそうかな。

…後は一人の女として私を愛してくれるかの不安は…あるけど、この程度は乗り越えないとね。

 

情事の最中に覗きをしようとした宿屋の娘が気配で分かったけど、南雲が突き落としたらしい。

一般人相手に大丈夫かしら?

 

 

服屋に行った際は驚いたわね。

 

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

 

身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。

 

そして、それ以外にも店員なのかチャラそうなイケメンの男がいた。

 

私たちを口説きにかかるかもしれないと一瞬身構えたが

 

「ははは、それはないよ。だって俺、男にしか興味ないからな」

 

というセリフを聞いて進示と南雲がヒエッって震えていたの。

 

ユエは「む…ライバル?」って言ってたけど多分違うわよ。

 

私たちは予備の着替え、シアには新しい服を購入したあと、店を去る際のイケメンの台詞は聞こえなかった。

 

 

 

「東京に帰りたい気もあるけど正直今の生活も悪くないんだよな」

 

 

 

進示は「まさかな…」と呟いていたけど、なんなのかしら?

 

 

これからは私とシアが料理担当になる。

食材も買えたし、存分に料理が食べられると聞いたみんなは嬉しそうにしていた。

 

今までの食事が食事だったしね。

 

味覚音痴の杏子が料理できるかは心配だし…正直杏子には自分でコーヒー創るのはいいけど、人に供用したらダメって言ったらあからさまにガッカリされた。

 

…進示が「時々でいいなら飲むから落ち込むな!」と言って地雷を踏みに行ったが、パッと顔をあげて嬉しそうにしていた。…愛なのかしら?

 

進示は「自分でアレンジするとかは苦手だけど、料理本に書かれてるレシピ通りでいいなら作れるぞ。樹が不在の際は俺が料理してるし」って言ってたのは意外だった。

 

とはいえ、進示や南雲は車などの整備や道具の開発も担当してるから、無理はさせられないかな。

 

ユエは王族なので料理はしたことがないから一から教えることになる。作りたそうにしてたので。

 

 

 

 

 

 

 

そしてライセン大峡谷に戻ってきた私たちは、迷宮を探していた。

 

ここではデジモンを出しても問題ないので、食事の時はデジモン達も一緒に食事を楽しんでいる。

 

なかなか見つからず、一先ず休息をとることにしたのだが、シアがお花摘みに席を外す。

 

すると進示が自分のデジヴァイスを見つめて「こっちの方からデジモン反応?」

 

と言って、立ち上がった瞬間…

 

 

 

「サルも…崖から…」

「!?」

 

 

 

「フライング・ニー・ドロップッ!!!!」

 

「ごばぁっ!!?」

 

突然飛んできた謎の物体に進示が吹っ飛ばされた!?

 

「進示!?」

「どこかで聞いたような声!?」

 

杏子が一瞬何かを言っていたが…え?心当たりあるの!?

 

「あらぁ、やっぱり暮海杏子じゃないのぉ?アチキのCD買ってくれたでしょう?」

「…やはり!」

 

杏子が確信を持った声で呟く。え?CD?

 

CDの概念が分かる南雲もポカンとしているが、南雲はその物体の正体を見ると「あ、ある意味最強のデジモン…!」と唇を震わせていた。

 

進示がいた世界でも架空のコンテンツであったデジモン。

 

そしてこの世界でもある準備のために樹さんがゲームとして送り出したコンテンツ。

 

ゲームで既に実装されてるデジモンかしら?

 

 

「CDを買ったのは同族のよしみとしてだ。…まあ、中々個性的ではあるがね」

「アンタってばアチキのファンだったのね!?」

「いや、ファンではないが…やはり渋谷のタワレコ事件の時のエテモンか」

 

 

そう、その猿の着ぐるみのような姿をしてサングラスをかけたデジモン…エテモンが姿を現した。

 

あ、進示が気絶したままだ!?

 

 

 

 

 

 

 




男にしか興味がないイケメン。


サイバースルゥースのサブイベント、【花の趣味はないけれど…】の依頼人であるイケメンな人。

彼の形態にいたずらをしてたのはとあるデジモンだった。

新宿は色んな人がいるなぁ(錯乱)

なお、名前は不明。


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第15話 凶悪コンビ!ライセン大迷宮

お気に入りが90件を超えました。

ありがとうございます。

少しミリアのエピソードを入れます。
龍の杖と亜空間倉庫を譲る理由も。

そしてとんでもないことをしでかすようです。

そして杏子の心がかなり人間に近づいていますが、これもこの作品を書く上でテーマにしたかったことです。
…進示はまだミリアの計画を知らないんですけどね!


杏子視点

 

懐かしいデジモンとの対面に感慨深くなるが、エテモンを油断なく見る。

 

進示が死ねば私も死ぬので、とりあえず生きているようだ。

 

というか、進示なら今の攻撃は避けられたのではないか?

 

「いや、避けようとしたよ?どっかから聞こえた声が『笑いのために喰らっとけ』みたいな声が聞こえて硬直したんだよ!?」

 

と、割とすぐ起き上がった進示が何かを悟ったようでしかし、言い訳じみたことを叫ぶ。

 

…普通なら一笑に付す言い訳だが、今の私であればなんとなく言わんとすることが分かる。

 

「ギャグ補正か」

「エテモンも今のフライング・ニー・ドロップで殺す気はなかったようだしな…どちらかというと嫌がらせか」

 

…嫌がらせ、進示達と一緒に暮らすようになってからよく聞く、【精神攻撃は基本】という概念はあるが…なるほど効果的なようだ。

 

魂が繋がってるので、進示の動揺も手に取るようにわかる。

 

…まあ、繋がってなくても分かるのだが。

 

…因みに後で聞いた話だが、本来の元ネタは【猿も木からフライング・ニー・ドロップ】だが、ここは木が無いため、崖になったのだそうな。

 

「まあ、今のドロップ喰らってすぐ起き上がるなんてなかなかやるじゃな~い」

 

あの時と一切変わらない口調で喋りだすエテモン。

 

あの時の事件をすべてモニタリングしてたわけではないが、会話の一部は拾えていたので、分かっていた口調だ。

 

オネェ言葉というのだったか。

 

「フン…流石に【3度】も死ぬのはゴメンだからな」

 

進示がそう吐き捨てる。…前世で命を落としたのと、冤罪で処刑された時か。

 

 

 

 

ジールで邪神討伐後、その功績を横取りされた…だけであればまだしも、戦争を起こした責任を被せられた。

ちなみに私たちは邪神を討伐する気などなく、地球に帰るための手がかり探しのついで、さらに言うなら、邪神に襲われたから返り討ちにしたに過ぎない。

 

長い年月、邪神を倒せなかったために、国民の不満を鎮める手段として進示が生贄に選ばれたのだ。

私は見た目が人間の少女であった(当時の見せかけの肉体年齢は11歳)私は捕まり、奴隷承認に売り飛ばされてしまった。

 

…最も、こちらの事情を知らないとはいえ、進示が死ねば私も死ぬのだから、無駄に金を使うだけだが。

私は落札され、どこぞの人間に買われてしまったのだが、私を落札したのは変装したミリアだった。

おかげで薄い本のように貞操を失わずに済んだが。

 

 

『いいですか?進示が処刑されれば杏子、貴女も死にます。魂が繋がっている以上それは避けようがありません。ですが、魂は個人差はあれど成仏するまでに若干の時間はあります。私が進示を蘇生するのと、その間貴女の魂を現世に繋ぎ止める魔法をかけておきます。…そして、私の能力では1人1度きりしか蘇生は叶いませんし、実質二人分の命を掛け持ちするようなものです。…それに、あなた達を元の世界に送り返す事もしなくてはなりません』

 

『でも、そんなことをしたらミリアはどうなるの?』

 

『…まあ、ロクな休息もなしでそんな大規模魔法を連続行使すれば間違いなく死ぬでしょうね。捕食されるのが先か、寿命を使い果たすのが先か』

 

『…捕食ってなに?』

 

『すぐにわかります。…進示を処刑させずに済ますことはもう無理でしょう。警備も厳重ですし、進示達は相手を殺害してでも脱出するという意思がありません。…お師匠様が危惧してたのはコレでしょうね。

【必要があれば相手を殺してでも生き延びる】。その意思を持てないせいで彼は死に…世界が終わる。そもそもそれ以前に状況的に仕方なかったとはいえ、補給無しで戦い続けた無理がたたって抵抗する力がありません』

 

『世界が…終わる?』

 

当時の私の顔が暗くなる。

 

『この世界の滅びは確定しました。進示が死ねばそれがトリガーとなり、あなた達がイーターと呼ぶ捕食生物が出現します。もともと精神だけを捕食するだけの存在が何をどうしたら肉体まで捕食するようになるんだか』

『イーター…』

『それに…御神楽ミレイと言いましたか?貴女が記憶を取り戻すまでは彼女も【貴女の居場所】を観測できません。現実世界に容易く干渉できないとはいえ、ちょっとおかしい味覚を持つ友人であるあなたの危機には手助けしそうなものですが、それがない時点で貴女を見つけていない』

『…思い出せないけど結構きつい言い方だね』

『…これが最後の軽口かもしれません。…はぁ、まさか本当にフェーの未来視通りの展開になるとは…未来は無限大ですが、未来を絞れている時点で滅びを疑うべきでしたね』

『?』

 

『未来は絶対ではないからこそ寿命に限りがない。…ですが未来が分かっている…複数の未来ではなく、1つの未来しか分からない時点で、先がないのです。貴女の世界の創作物でも割とよくある展開ですよね?』

 

『…うん』

 

『…ですが、私もそう簡単に死ぬつもりはありません。杏子と進示をずっと間近で見ていて思いついたことがあるんです。それに、お師匠様に腹に穴を開けられたときに私の龍の因子を治療に使いましたが、それを利用します』

『それは?』

 

昔の私がミリアに問うとミリアはいたずらっ子のような笑みを浮かべ

 

『私自身が…デジモンになる事です!!』

『?』

 

恐らく、仮に私の記憶がこの時点で戻っていても私の目が点になっていただろう。

 

『ドルガモン、ドルグレモン、ドルゴラモンと言いましたか?その情報とリソースをください。暫くは進示の体の中で眠ることになりますし、杏子の記憶が戻るまで目が覚めません。私の体もデジタルデータになりますので、魔法も使えなくなるでしょう。それに、デジシンクロとは違いますが、私の命は進示のものになるでしょう。なんで、私の分身を作って地球に帰す魔法行使は分身にやらせましょう』

『そんなことできるの?それに…ドルゴラモンは…』

 

ドルゴラモンはミリアの師匠を殺した姿だ。いい印象はないだろう。

 

『前代未聞の試みですが成功させます。…私は天才ですから!

お師匠様に関してはお師匠様にも落ち度があります。あんな極端なやり方を選ぶのも、世俗を永く離れすぎたからです。…思うところはありますが、もう割り切っています。

…そうなると、龍の杖は進示にあげましょうか。彼なら使いこなせるでしょう。…それと、途中で物資が尽きないように、亜空間倉庫も進示に譲りましょう。倉庫の中のものは全部あげます。どう使うかもお任せします』

『どうしてそこまでするの…?』

 

 

『…好きだから…ですよ。

…さて、間もなく進示はギロチンにかけられます。首が切断されるので、その痛みが杏子にもフィードバックされます。苦しいでしょうが耐えてくださいね、杏子。

進示は本来守られる側の人間ですが、不可抗力の環境で戦う側に無理矢理立たされた存在。

戦わせないといけない上に死なせてもいけないという立ち回りを要求されます。本人の意思とは関係なく戦わされる進示の心は私たちで守るんです。…私が目覚めるまでは杏子とさんざん話で聞いたトレード様にお任せしましょう』

 

 

 

その後も何度か戦闘はあったが、今回は割愛する。

私や進示、ミリア(分身)の奮戦が無ければ、オーストラリア大陸をも上回る大きさと質量を持ったイーターもどきがいきなり日本に出現していただろうことは言っておく。

状況から推測するしかないが…私たちが戦っていなければ一瞬だけ見えた大天使の到着も間に合わなかっただろう。

…金髪の羽が4枚ある大天使。

 

この思考はわずか数秒だが、過去に浸り過ぎた。

今はエテモンだ。

 

 

 

 

「キミは…やはりタワレコにいたエテモンか」

「あらぁ、やっぱりアンタアチキのファンなんじゃない!!」

「キミの音楽思考は独特なのはいいが、なぜこの世界にいる?」

「それはアチキも知りたいのよねぇ。でもミレディちゃんの指示でアンタ体を迷宮に案内するように言われてるのよねぇ?」

「なに!?」

 

反応を示したのはハジメ君だ。

 

ハジメ君にとっても地球への期間は望むもの。

 

現在の私達の技術ではデジモンがいないと次元の壁を越えられない。

 

進示の友人が異世界で現地妻を作っているのにも関わらず、地球に連れて帰れないのはそういうことだ。

 

まあ、天使くらい超常の存在ならば話は別だが。

 

「それと、あっちでちょっと恥ずかしい状態になってるウサギちゃんはアンタたちの仲間かしら?」

「ん?」

 

恥ずかしい状態?シア君の事か?

 

「ひゃあああああっ!?見ないでくださいいい!?」

 

どういうことかと、視界に入ったシアを見ると、股の間を濡らしていた。

 

ああ、そう言えば花を摘みに行ってたな。

 

そして、足元にはバナナの皮がある。

 

恐らく、状況的にはうまい具合にバナナトラップが仕掛けられていて、トイレに行く途中で滑って転んでしまい、その衝撃で…か。

 

「ついて来なさーーい!大迷宮の試練の攻略者はまだ誰もいないのよぉ!!」

 

そう言ってエテモンはこちらに背を向けて走り出した。

 

人間でも追いつけるペースだが、迷宮に案内というのは本当だろう。

 

「…あれがミレディ・ライセンの指示なら間違いなく迷宮にはいやらしいトラップが仕掛けられてるな。ぶっ飛ばしてやるか」

「準備は万端」

 

ハジメ君とユエ君が闘志を滾らせる。

 

「シア、キミがハジメに惚れてるのは分かってるが、その…その下半身の乾かしと消毒と防臭を数秒で終わらせられるのは現状俺しかいない」

「ううう…」

 

シアは恥ずかしいのか俯いているが、進示の言う通りそれが出来るのは彼しかいない。

 

龍の杖をシアに向けて、シアの状態を整える。

 

「は、恥ずかしいですけど便利ですぅ…。でもこの環境で魔力消費は大丈夫なんですか?」

「これくらいは問題ない。ユエが言ったように10倍効率は悪いが」

 

ライセン大峡谷の魔力が分解される環境での魔法行使は燃費が悪すぎるが、一定レベル以上の達人なら話は…別でもないか。

 

「だが、疑問もある。ミレディ・ライセンは大分昔の人間だ。オスカーの手記にもあったしな。

あのエテモンは『ミレディちゃんの指示』って言ってたが、ミレディが人間である以上この時代まで生きてるはずがない」

「ん、嘘をついているか、何らかの方法で延命したか」

 

それには同意だ。

どちらにしろ、行って確かめるしかない。

 

「杏子…大丈夫か?心が乱れていたが」

「…問題ない…はずだ」

「昔のお前は体は人間心はデジモンだったが、今のお前は体はデジモン、心は人間にかなり近づいている」

「…大丈夫だ。私はそこまで軟じゃない。それに万が一の時は慰めてくれるだろう?」

「そりゃそうだが」

「ならそれでいい。迷宮に行こう」

 

進示は純粋に私の心配をしてくれている。

…自分が死にたくないのもあるが、進示はあれで情が深く、情に脆い。

…最近の私もか。

記憶が戻れば昔の自分と同じになるかと思ったが、案外そうでもないらしい。

 

【我が助手】の名前を発音できない悲しさが込み上げてくる。

 

これが人間の情なのか…。

 

「やっぱり割り切れてないじゃないか」

「そのようだ」

 

 

 

 

進示視点

 

エテモンを追いかけてライセン大迷宮に入る。

 

隠し扉があったり、アクション映画みたいなトラップのオンパレードだったり、

 

『ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ』

 

 

 

『こんな簡単なトラップに引っかかっちゃった奴は相当マヌケだね! ぶふっ』

 

何てこっちを煽る文章が浮き上がって来たりで、シア、ユエ、ハジメがそれぞれ種類は違うが怒り狂っている。

 

優花も若干いら立ちを隠せないようだ。

 

デジモンは万が一の事も考え、極力温存する。

 

あのエテモンが究極体に進化できるかもしれないからだ。

 

現状三人は完全体、シアは成熟期までの進かしか出来ないので、究極体の相手が出来るのは現状俺と杏子の組み合わせしかいない。

 

床トラップを踏んだと思ったら、回転のこぎりがきて、危うく切り刻まれそうになった。

 

デジモンを抱えてトラップをよけようとしたら、いきなり現れたバナナの皮に足を取られて転んでしまった。

 

「ハジメ!?」

「バナナの皮…エテモンの仕業か!」

 

俺は咄嗟に亜空間倉庫から自動大型拳銃を取り出し(何気に使うのは初めてか)、連射する。

マグナム弾を使う銃だが、独自のカスタマイズをしたものだ。

 

ドキュン!ガキン!!

 

そんな擬音が数回。

 

のこぎりを粉砕し、ハジメがどうにか回避できる隙間が出来た。

 

「た、助かった…」

「いいってことよ」

 

洞窟の中はさらに強力な魔力分解が働いており、魔法を外に出せないことはないが、大幅なランクダウンは免れないだろう。

 

「という事でシア、身体強化が出来るお前にかかってる」

「はい!!」

 

 

しかし、

 

「このドジウサギ! 言った傍からへましやがって!!」

 

 

 

「すみません~~~~!」

 

 

 

滑り落ちながらハジメが怒鳴る。

 

階段を降りていた時、シアが何かトラップを踏んだようで、階段の段差が無くなり、急なスロープとなった事で全員猛烈な勢いで階下に向かって猛スピードで滑り落ちているのだ。

 

パタモンは空を飛べても飛行速度がいまいちだし。

 

その時、

 

床下に鋭利な突起!?

 

「来翔!」

 

ユエが風の魔法を利用してハジメがシアとユエを抱えて…ルナモンはユエの頭に乗ったままだが、ハジメとユエは咄嗟にパートナーをデジヴァイスに格納してワイヤーで危機を脱した。

 

優花も咄嗟の判断でギルモンを格納。

俺は杏子と優花を抱え、フックショットで天井にぶら下がり、危機を脱する。

 

『焦ってやんの~~~~ダッサ~~~~イ!』

 

 

 

『この位で疲れるようじゃ先が思いやられるねー、ププッ』

 

「潰していいか?」

 

ハジメが苛立つ。

 

「ん、人類の敵」

 

「流石に怒りがこみ上げてきますぅ」

 

 

そしてスタート地点に戻されたり、ゴーレムの群れが襲い掛かってきたりと、散々なトラップ部屋を突破して、かなり広い場所に出た。

 

足場が無数に空中に浮いており、その部屋の中央には20メートルサイズのゴーレムとエテモンがいた。

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンちゃんだよぉ~」

 

 

 

そんな空気をぶち壊すお気楽な挨拶がその巨大ゴーレムから聞こえた。

 

 

 

「「「「「…はい?」」」」」

 

 

 

俺達は思わず固まる。

 

 

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

 

 

その言葉が終わると同時に天井から何か降ってきた。

 

今までのトラップと比較して殺意が低かったため、それがお笑い番組で使われるようなクリームが乗った大皿だと気づくのに数秒。

 

 

ベチャ!!!

 

 

「「「「「…」」」」」

 

「…フム、これがド〇フで使われてるあの小道具か」

 

杏子もクリームを被っているはずなのに、冷静に分析してるし。

 

「…潰す!!!」

 

ハジメが怒りのあまりドンナーとシュラークをミレディに向けて発砲するが、エテモンに叩き落とされてしまう。

 

「…ちっ!腐っても完全体デジモンか!」

「腐ってるなんてヒドイわ!!」

 

俺はそんなコントをよそにクリームをできるだけ吹きとると、ミレディに質問をする。

 

「オスカーの手記にキミの事が書いてあった。人間の女性としてね」

 

「オスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」

 

「そうだ。それにそのゴーレムも遠隔操作だな?…本体は…見つけた!あの方角だ!」

 

「ちょっ!?なんでわかるのさ!!?」

 

俺がゴーレムの本体の位置を捕捉すると流石に焦ったようだ。

 

「魂に関してはちょい詳しくてね。それにキミ、生身の肉体を持ってるね?状態から言ってつい最近肉体が復元されているようだ。それに、僅かながら天使の残滓を感じる」

「!?」

 

俺の言葉にミレディは絶句したようだ。

 

「魂だけの状態のモノに生身の肉体を与える権能を持つのは創造神かその天使のみ。…だが、キミからっ感じる天使の残滓の名残は破壊神の天使の力も僅かながらに感じる。キミの肉体を与えた天使は翼が何枚あった?それと、天使の顔の特徴も知りたい」

「…4枚だよ…顔はクールで金髪赤目だったね」

 

「!?」

 

…マジか。ミレディの情報が本当ならアイツは恐らく破壊神天使のはず…。創造の権能は持たないはずだ。

 

「すると、大天使が動いているということ。大天使は神が…エヒトじゃねーぞ?暴走した際の抑止力の役目も果たすが…」

 

「あ、そうそう、エヒト…あのクソヤローで思い出した。こっちの質問にも答えてもらおうかな。

君達の目的は何? 何のために神代魔法を求める?」

 

 

先ほどのおちゃらけた態度は一転、こちらを威圧するような雰囲気になる。

 

ソレに答えるのはハジメだ。

 

「…………俺達はお前等のいう狂った神とやらに無理やりこの世界に連れてこられた。お前等の代わりに神の討伐を目的としているわけじゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない。…が、俺達の世界の座標はもう割れているし、俺らの家族も狙われる可能性が出来た以上、脳天に風穴開けてやる。邪魔する奴は誰であろうと殺す!」

 

 

 

「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」

 

 

 

「脈絡なさすぎて意味不明なんだが……何が『ならば』なんだよ。っていうか話し聞いてたか? お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだけど? それとも転移系なのか?」

 

 

 

「んふふ………それはね……………教えてあ~げない!」

 

「死ね」

 

 

 

勿体ぶって最後には秘密にしたミレディにハジメは遂に我慢できなくなった。

 

まあ、さっきも変なクリームぶっかけられたし。

 

いきなりミレディゴーレムに向けてドンナーをぶっ放す。

 

ミレディゴーレムは後ろに仰け反るが、あまりダメージを受けていない仕草で体勢を立て直すと、

 

「この程度じゃ私は倒せないよ!」

「はん!そっちもエテモンがいるならこっちも進化させるぜ」

 

ハジメがそう言うとブルーカードを取り出し、いつの間にかデジヴァイスに格納していたデジモンを外に出していた。

と、

 

「ラブ・セレナーデ!!」

 

突如、エテモンが五臓六腑を吐き出したくなるような歌声で部屋を響かせた。

 

「「「「「「ぎゃあああああっ!?」」」」」」

 

「ちょ!?まだ耳塞いでないんだけど!?」

 

ミレディにまで聞いていたようだ。

 

っていうか耳あるの?そのゴーレム。

 

ああ、よく視たら本体もダメージを負っている。

 

「あっちのデジモン達に進化されると厄介だから、妨害したわ!それよりほら!ゴーレム軍団を!」

「分かってるよ!」

 

いつの間にか現れたゴーレム軍団に俺達は舌打ちをする。

 

ぶっつけ本番になるが仕方ない。

 

「杏子!」

「ああ!」

 

 

杏子も俺の意図を察したようで、俺の隣に並ぶ。

 

デジヴァイスとカードスラッシュを介さない魂のみの融合進化。

 

これならカードと違ってタイムラグはない。

 

現状デジシンクロ状態の俺達のみが可能な技。

 

「ソウルマトリクス!」

 

俺と杏子は一瞬で融合し、黒い聖騎士が姿を現す。

 

「アルファモン!!」

 

究極体の聖騎士、降臨。

 

「「さあ、勝負はここからだ」」

 

「…へえ、それが話に聞いていた進化か。

じゃあ、こっちも。その変な機械はないけど、一回きりなら自力で進化できるんだよね?」

「そうよ!そっちに究極体がいるならこっちも究極体じゃないと試練にならないわね!」

「「試練か…」」

 

そう言えば各大迷宮は攻略者の実力を何らかの形で試すようなものなのか。

 

じゃなきゃ【試練】なんて言わないだろうし。

 

「「いいだろう、試練を突破しなきゃ神代魔法を手に入れられないならそっちもなるといい」

「リクエストにお応えして、アチキのライブを始めるわよーーーーー!!!」

 

 

そう言ってエテモンは自力で進化した。

おいおい、マジでできるのかよ!?

 

「メタルエテモン!!!」

 

 

クロンデジゾイドに身を包んだ猿のデジモン、メタルエテモンが出現した。

 

「「お前たちはミレディ・ゴーレムを頼む…ん?」」

 

 

俺達はハジメに指示を出そうとするが、ハジメ達の前にはナイトモンが3体いた。

 

 

「こっちのデジモンが一体とは言ってないよ。まあ、借り物だけど」

「「…これは少々手古摺りそうだ」」

 

優花たちもそれぞれのパートナーを完全体、シアは成熟期のウッドモンに進化させる。

 

「これで条件は対等かな?さあ、第二ラウンドだよ!」

 

 

戦いはまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タワレコ事件
サイバースルゥースにおいて、赤色(重要)のクエスト。
タワレコとのコラボでもある。

CDショップにエテモンのCDを並べるというビミョーないたずらを解決するために田和玲子から依頼される。
犯人はエテモン。
CDを聞くと分かる人は分かってしまう往年のファン歓喜のクエスト。

サイスルもハカメモも、物語が一定のポイントをクリアしてから渋谷のCDショップに行くと、ちゃんとエテモンのCDコーナーが作られている。

※誠に勝手ながらアンケートの内容を変更させていただきます。寝ぼけて書いてしまったので、申し訳ありません(変更前のアンケートはミュウとリリアーナにパートナーデジモンをつけるか)。
前2つのアンケートは以前の決定通りです。
1つ目はリリアーナはどちらのヒロインかは大差で進示、
2つ目のミュウはどちらがパパかは僅差でハジメです。


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第16話 葛藤はトイレに流せ

とあるデジモンを登場させようとしてるのですが、扱いに悩みます。
しかし、サイスルのアルファモンとロードナイトモンの設定を思い返して閃きました。


杏子視点。

 

現在は融合進化してアルファモンになった私達だが、メタルエテモンとの戦いで精一杯で、優花たちの救援は難しい。

それに、ただでさえ足場が不安定な上に、アルファモン()は飛行能力はないに等しい。

とべないこともないが【飛ぶ】ではなく【跳ぶ】が正しいか。

 

メタルエテモンの方が足が速いので、離れても追いつかれるし、メタルエテモンがこちらに構ってくれるなら好都合でもある。

 

体の主導権を進示に預け、私は観察に徹する。

進示は暇を見ては樹と殴り合い…トレーニングをしていたので、カンは衰えていない。

 

メタルエテモンの必殺技を警戒しながら彼の攻撃を防御、または回避でいなし、スキを見てカウンターを叩きこむ。メタルエテモンが離れればデジタライズ・オブ・ソウルで攻撃したり、自分から突っ込んだり。メタルエテモンが再び接近戦を仕掛ければカウンター戦法に切り替える。

 

押せば引く、引けば押す。

 

ミレディ・ゴーレムや、ナイトモンがこちらに向かってこない所を見ると、優花たちが上手く抑えてくれている。

 

と、

「このタイミングでか!?」

 

メタルエテモンの必殺技、バナナスリップか!

 

私たちは転び、チャンスとばかりに

 

「フライング・ニ・-ドロップ!!」

 

メタルエテモンが空中からニードロップを仕掛けてくる。

 

仰向けで倒れていた私達だが、進示が下半身だけをあげ両足でメタルエテモンの膝を掴む。

 

「なんですって!?」

 

随分器用な事をする。

 

そのまま足でバックドロップ(むしろフランケンシュタイナーか?)という背中を痛めそうな技を決めると、メタルエテモンは頭から地面に激突する。

 

すかさず私たちは起き上がり、頭を打って悶絶しているメタルエテモンにすかさず聖剣グレイダルファーで追撃する。

 

「いいいいいやややややややややばばばばば!?」

 

悶絶して痙攣を繰り返したメタルエテモンは気絶して、エテモンに退化した。

 

ミレディとは協力関係にあるようだが、正規のパートナーではない以上、進化のエネルギーを維持するのは困難らしい。

 

「優花たちは?」

 

私達も分離して、苦戦しているようだ。

 

ミレディの戦術が巧みなせいもあるだろうが。

 

進示は亜空間倉庫からガトリングガンを取り出し、発砲しようとするが

 

「手は出さないで!!」

 

優花に止められてしまった。

 

 

「うそ!?やられちゃったの?エッちゃん!?」

 

単純なスペックでは自分より上のメタルエテモンがやられたことに驚きを隠せないミレディ。

 

「進示、暮海。テメェらに手を出されたらヌルゲーになっちまう」

「ん、私達だってやる」

「ミレディには一発かましてやらないと気が済まないですぅ!」

 

「…言ってくれるね。とは言え、そっちの二人がエッちゃんを倒した以上は、ホラでもないかな。

でも助けを拒んだことを後悔しても知らないよ~?」

 

 

ミレディが煽るような言い方で優花たちを刺激する。

 

 

すると空中に正方形のブロックが大量に出現した。

 

ナイトモンたちの相手はデジモン達に任せていたようだが、パートナーたちはミレディの相手で手いっぱいで、精神的な距離感がかみ合わないのか、思ったより苦戦を強いられている。

 

シアはハジメ君製作のギミックハンマー、ドリュッケンで量産型のゴーレムをさばいていたが、ウッドモンが倒れていたのを見つけウッドモンをブロックの雪崩から守るためにウッドモンの元へ駆け寄った。

 

「よそ見していいのかな?」

「させない!」

 

ミレディ・ゴーレムが巨大なモーニングスターをシアに仕掛けるが、メガログラウモンが体を張って阻止する。

 

「ぐあ!?」

「メガログラウモン!?」

 

メガログラウモンがシアを庇うが、ナイトモン戦のダメージもあってか、ギルモンに退化してしまう。

 

フレアモンとクレシェモンはまだ粘ってはいるが、時間の問題か。

 

「オラアッ!!!」

 

ハジメ君がミレディ・ゴーレムの体にパイルバンカーを仕掛けるが、

 

ギギギギギッ!!とした金属音が響くだけで、傷一つついていない。

 

「なんだと!?」

 

「ざーんねん!このゴーレムの体はアザンチウム鉱石で出来ていたけど、エっちゃんが来てからその【クロンデジゾイド】だっけ?それを参考にして改良したボディなのさ!…まあ本物には及ばないけど」

「マジかよ!?」

 

不完全とは言え、クロンデジゾイドを再現するとは…!

 

「まあ、攻略者のレベルに応じて難易度は調整するつもりでいたけど、エっちゃんの同胞がいるのと、キミたちがオーちゃんの迷宮の攻略者だってい聞いて本気を出すことにしたんだ」

 

…そうなのか。

 

「何度も言うが手を出すなよ!?」

 

ハジメからそう言われて進示の心が揺れるのを感じた。

 

助けに行きたいけど彼ら尊重すべきという葛藤か。

 

退化したギルモンを優花君が、そしてこれもいつの間にか退化したパタモンをシア君がそれぞれ抱きしめる。

ここまで観察と戦況把握とクレシェモンへの指示しかできていないユエ君。

…いや、何か仕掛けようとはしているが、魔力分解の環境にいる以上、1回切りが限界か?

 

「じゃ、これを防げるかな?」

 

ミレディがブロックの雪崩を仕掛ける。

 

それは彼らを飲み込む勢いで、降ってくる。

 

魔法が使えない環境で彼らの武装では捌ききれない。

 

それに彼らの消耗も激しい。

 

すると、パタモンとギルモンが光りだした。

 

 

 

 

 

 

優花視点。

 

息も絶え絶えなギルモンを抱きしめ、ゴーレムから庇うように槍をゴーレムに向ける。

 

「優花…逃げて」

「馬鹿言わないで!」

 

ギルモンの言葉を即座に切って捨てる。

 

「奈落の底で慌ただしい出会いと生活だったけど、もうアンタも立派な家族よ!」

「家族…?」

「そう、デジモンの寿命は分からないけど、人間だって寿命がある以上、いつか別れる時が来るかもしれない。でも、だからこそ失いたくないとお互いを助け、守り合う。

ただそこにいるだけで安心できるような関係を家族って言うの!」

「…」

「だから置いていくなんてしないわ!一緒に乗り越えるの!!」

 

私がトータスに召喚される前は、進示と杏子はただのクラスメートかつ、時々ウチに来てご飯を食べるときに接客する程度の間柄でしかなかった。

杏子も記憶喪失の事はトータスに来てから知ったことだが、樹さんや進示との仲睦まじい様子は傍から見てわかっていた。(樹さんは、表向きは進示を様ではなく、君付で呼んでいたが)

 

見た目の割に精神年齢が低かったのは、生まれてまだ10年もたっていなかったせいでもあったとか。

 

杏子は進示と違って(見た目は)女子であるため、学校でも接する機会は多かったが、進示と樹さんの話をするときは目が輝いていた。

 

でも、どこか一線を引いているような話し方でもあった。

 

それはトータス召喚前からの戦いを隠すためでもあったのだろう。

 

奈々や妙子は聞きたそうにしていたが、私は二人をなだめて無理に聞いちゃダメと言った。

 

 

 

そして、トータスのオルクス大迷宮で奈落に落ちてからギルモンと出会った。

 

魔物の群れに襲われているところに出くわし、【助けて】と聞こえた。

 

その心は…上手く理屈では説明できないけれど、とにかくギルモンを助けないといけないと思った。

 

進示や杏子曰く、『出会う前から人とデジモンは絆のようなもので繋がっているケースもある。勿論全員ではないが、優花とギルモンの場合、その結びつきが強かった』

 

そう言われて…何かがすとんと落ちるような感覚になった。

 

デジャヴとか、運命とか色々あるけど、進示とはまた違った【特別】な感情がある。

 

奈落の底で進示も杏子も南雲もユエも。そして私たちのパートナーも全員で地球に帰ると決めた!

 

勿論ここにいない妙子や奈々、愛ちゃんたちも含めて!

 

迷宮を進んでる間にも様々な話をした。

 

デジタルワールドや好きな食べ物とか。

 

話をしてみてわかったのは、デジモンにも心があって、好きな話は楽しそうに語るし、嫌な話題には顔を暗くしたり、人間の文化にも興味津々で聞いてくる。

 

…檜山はあの事件の張本人だけど、進示や南雲たちに復讐の気がない以上私も邪魔しない限りはどうでもいい。地球に帰るなら檜山の力を封じないと面倒なことになりそうだけどそれはおいおい考える。

 

他にも考えること多すぎるし。

 

でも目下最大の大切な伴侶と仲間たち、最近仲間になったシアとパタモン。そして

 

「私の相棒!いつか地球の地を踏んで!映像越しでしか会ってない私の両親にもギルモンを会わせるんだから!!」

 

「…!!!」

 

そう言うとギルモンは光り輝き始めた。

 

パタモンも光りだしている。

 

後から聞いた話だとシアも、樹海での出会いや、今までの暮らしや一緒に特訓したした苦労話も思い出したうえで、シアがパタモンを励ましていたようだ。

 

パタモンは進化して大きな木のお化け?みたいな立派な大木みたいなデジモンになった。

 

「アレはジュレイモンか。シアの手にはいつのまにかブルーカードがあるし、無意識でスラッシュしていたか」

 

そして今の私とギルモンなら

 

私のデジヴァイスが光り輝き、それを胸に押し当てる。

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

 

そうして私とギルモンが融合する感覚が。

 

初めて味わうけど不思議と嫌な感じはしない。

 

 

そして右腕には巨大な槍、左手には巨大な盾がある聖騎士のようなデジモンに進化した。

 

「やはりデュークモン」

 

…もしかして、私の旅装束(進示製作)のジャケットやブーツのカラーリングって、このデュークモンをイメージしたのかしら?だとしたら2倍嬉しい気遣いね。

 

「うえ!?」

 

驚くミレディをよそに、ジュレイモンはその大きな体でミレディが降らせたブロックを防ぎきり、私は右手の槍を一薙ぎして、ナイトモンたちを屠った。

 

ナイトモンたちはデータになり、実態を維持できなくなったようだ。

 

クレシェモンとフレアモンがダメージを与えていたようなので、この一撃で十分だった。

 

「…それがデジモンとヒトの絆なんだね。エっちゃんから聞いてはいたけど、すごいね。でもまだ勝負はついてないよ?」

「…行くわよ?」

 

私はそう言うとミレディに肉薄し、右手の槍をミレディゴーレムのボディに突き付ける。

 

「ロイヤルセーバー!」

 

聖槍グラムから放つ強烈な一撃はミレディゴーレムを貫く。

 

「ぐぐ…。でもゴーレムだから素材がある限り再生は出来る…」

「させない」

 

ユエが凍柩でミレディの再生を阻害する。

 

凍らせて再生を阻んだわけね。

 

「うそ!?ここって魔法使えないはずなんだけど!?」

 

ユエは効率こそ悪くなるが、こんな環境でも無理矢理魔法を使える技量と魔力量がある。

 

そうしてる間に南雲とシアがパイルバンカーとドリュッケンを構えて飛び掛かる。

 

「これで終わりだ!!」

「ですぅ!!」

 

 

二人の攻撃が致命的な傷となり、ついにゴーレムは倒れた。

 

「ふう…」

 

見ている進示の方が冷や冷やしたのか、肩を落としている。

 

杏子もそんな進示を支えながら私たちに「よく頑張った」と言ってくれた。

 

 

私はパートナーと分離し、残るデジモン達も成長期に戻る。

 

 

「気絶したエテモンは俺が担ぐ。ミレディの本体のところに行くぞ」

 

そう言ってエテモンは進示が担ぎ、私たちの案内をするように床が動き出した。

 

『はあ、試練は文句なしでキミ達全員クリアだ。その動く床に乗りなよ。

ホントはサプライズしたかったんだけど、そこの黒髪君が私の本体の位置や状態まで言い当てちゃったからね』

 

そして、私たちは動く床に乗る。

 

「ナイトモンは消えちまったが、まあ、どこかの世界に流れ着いてデジタマになってるだろう」

「やりすぎたかなぁ」

「デジモンも弱肉強食の世界。そこまで気にしなくても新しいデジ生があるさ」

「デジ生ね」

「不思議」

 

動く床の行く先はミレディの部屋だろう。

 

 

「ミニミレディ・アタック!!」

 

と、ちっちゃいニコちゃんマークの顔をしたゴーレムが進示の頭に降ってきた。

 

「うごば!?」

 

どうやらゴーレムが進示に頭突きをしたようだ。

 

ついでに担いでいたエテモンを落としてしまい、エテモンも「ぷぎゃ!?」と言いながら再度気絶した。

 

「あ…まさか当たるなんて…」

「………知ってるか?俺らが元居た世界に様々なお笑い芸人がいる。殺気のない攻撃は【ギャグ】としてあえて受けると…」

 

すぐに立ち上がった進示が頭をさすりながら言う。

 

「ミレディ・ライセン。お前が俺達の世界にいたらお笑い芸人でも飯食っていけるかもな」

「そんな生計の立て方があるなんて、キミ達の世界は平和なんだね。ちょっと興味が出てきたよ」

 

南雲は思わず「マジかコイツ…」と言いながらドン引きしていた。

 

 

そこにいたのは中学生くらいに見える金髪ポニテの少女だった。

 

「私がミレディ・ライセンさ。話をする前に攻略の証を渡して、キミ達にこの迷宮のクリアの証、【重力魔法】を授けよう」

 

ミレディが私たちに魔法を付与する。

 

「金髪ちゃんと黒髪君は適正ばっちりだね。中途半端な髪の子はそこそこ高い。ウサギちゃんは出来て体重を変えることくらい…白髪の男の子は…適正ないね?」

 

進示は生成魔法も適正高かったっけ。

 

「そっちの背の高い方の金髪ちゃんはエっちゃんの同胞だよね?」

「ああ、デジモンである私には例え会得できても魔力がないから使えないさ」

「そっか。さっきのキミ達の戦い方を見てると、黒い騎士になった二人はかなり戦いなれてるけど、それ以外の子達は最近戦い始めたばっかりかな?」

 

…やっぱりそれは気づかれるか。

 

「それで、キミの肉体を復元した奴と、エテモン、ナイトモンについて知りたい」

「…まあ、聞かれるよね」

 

ミレディは迷宮攻略時の悪ふざけが嘘のように素直に話し出した。

 

 

 

進示視点

 

ミレディが語った内容を要約すると。

 

千年以上もの間魂をゴーレムに移して延命していたミレディの肉体を突然、金髪赤目、4枚の翼が生えた天使のような存在が現れてミレディの肉体を復元し、さらにナイトモン3体を置いていったらしい。

 

デジモンを連れた攻略者が現れたらけしかけろという言葉と共に。

 

 

ミレディの肉体を復元した天使は、「まだ貴様にはやってもらうことがある、榊原進示という男に助力しろ。貴様が憎く思っているエヒトルジュエはそいつらがいた世界からエヒトなんぞよりよほど強力な神霊を一緒に召喚してしまったのだ。それも7柱」

 

それを聞いた俺達は驚く。

 

「うち5柱が君たちのいる世界に引き返したみたいだけど、トータスにはまだ2柱残っているって。

召喚されたらしい7柱は…ベルゼブブ、ベルフェゴール、ルシファー、リヴァイアサン、リリス、サタン、マモンだって」

「…おいおい、7つの大罪じゃねぇか…だが、不自然な点がある」

「そうだね、ハジメの言う通り、分かりやすいのは色欲の部分と、分かりにくいけど強欲の部分とか不自然だ…これは恐らく」

「デジモンに合わせたのだろうな…あるいは、デジモンが合わせたのか…。いずれにせよ、エヒトがどういう生まれの神か分からないが、人間から神になった存在だとしたら、エヒト神はもう生きているかどうか怪しいな」

「!?」

 

杏子の言葉に目を見開くミレディ。

 

「最初から神として生まれた存在はまだしも人は本来神の高次元情報に耐えられない。エヒトが何の目的で俺達を呼び出したか、いくつか考えはあるけど、神であるなら【依り代】を探している可能性は十分に考えられる。しかしだ」

 

「依り代を探す一環で召喚を試みたつもりが、逆に喰われた可能性がある。トータスの人間の人口はどの程度かは不明だが、地球の現在の人口はおよそ70億人程だ」

 

「「「70億人!?」」」

 

杏子の言葉にトータス組は驚きで叫んでしまう。

 

「な、なにそれ!?多すぎないかい!?…でもそれと神の力に何の…信仰だね」

「その通り。神の生態系は信仰がいらないタイプの神以外は、人々の祈りや想念によって変わる。

当然質も量も良い方と多い方が神の力は強くなる」

 

「…質はともかく量はクソヤローと比べ物にならないのか…」

「地球には国の違いはどうあれ信仰の自由があるし、信仰しないのも自由だ。神は特殊な事情を除いて基本的に人間界には不干渉だが、人間側に無理矢理呼び起こされた以上、どういう行動を取るかは未知数だ。たたき起こしたのがエヒトという確証もない」

「…そういえばキミは進示って呼ばれてたね。じゃあ、キミが」

「俺が榊原進示だ」

 

ミレディの思い出したような言葉に応える俺。

 

「…元々私たちは狂った神を除いて人々の自由な意思を持つことを世界に広げたかった」

「しかし、その戦いは破綻した。お前たちは自分たちでは神を討てないと悟り、迷宮を作って後世に託した。オスカーの手記通りだな」

「…」

 

ミレディは俯いている。当時の事を思い返しているのだろう。

 

「お前はそれでいいのか?」

「え?」

 

俺の言葉にミレディが顔をあげる。

 

「元々お前が立てた計画だろ?後世に託すのが悪いとは言わないが、お前自身はエヒトの喉笛にかみついてやろうと思わないのか?…運命のいたずらかは知らないが、お前は再び肉体を得た」

 

「…で、でも…」

 

…随分としおらしいな。やはり前戦の敗北が結構堪えているのだろうか。

 

「エヒトがまだ生きていたと仮定して、近いうちにオスカーの記録の通りの行動をしてくる可能性はある。お前は前回は戦いの土俵にすら上がれなかったが、今回は違うかもしれない。ハジメは不本意だろうが、戦闘は避けられないし、俺達の利害は一致している。神代魔法の使い手であり、地頭もいいお前が戦うなら戦力も大分上がる」

「…」

 

ミレディがは依然俯いたままだ。

 

「まあ、本来は俺も戦いはというより、面倒ごとを避けたい性格だ。今回の事だって放置した方がメンドクサイことになりそうだから行動しているというのは否定しない。だが、本来お前は相当アクティブな人間のはずだ。…オスカーもキミに散々振り回されたらしいし」

「…オーちゃん何書いてるのさ…」

 

「あああああもうじれったいわね!!!?」

 

 

と、唐突に気絶していたエテモンが起き上がった。

 

ハジメは「うお!?」とか驚いているし。

 

「そんなにうじうじするくらいなら動けばいいじゃない!!後悔は動かないでするより動いてした方がいいでしょ!?」

「え、エっちゃん?」

 

エテモンのテンションにミレディは困惑している。

 

「アチキもついさっき、幻聴かもしれないけど玲子ちゃんの声が聴こえた気がするのよ!!」

 

 

『行ってらっしゃい、エテモンさん。もし再会したのなら、お土産話いっぱい聞かせてくださいね?』

 

「玲子ちゃん…田和玲子か」

 

エテモンの言葉に得心がいった顔をする杏子。

 

 

「ミレディちゃんのうじうじするそのお顔はトイレに流しちゃいましょ!」

「トイレ…?あ!その紐は!?」

 

エテモンは天井からぶら下がっていた紐を引くと、あら不思議。

 

俺達のいた部屋は水洗トイレに早変わり!!

 

「エっちゃーーーん!?」

「な、なんだこれは!?」

 

こうして俺達は【ミレディも一緒に】トイレに流された。

 

エテモンも自ら水に飛び込んだところを見るにミレディについていくつもりのようだ。

 

小さいミレディゴーレムは巻き込まれなかったが、まるで【行ってらっしゃい】というように手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 




エテモンがミレディを叱咤するとは正直私自身も予想してなかった(おい作者)そしてサブタイトル通り、ミレディの葛藤はトイレに流した(笑)

そしてニュートラルな状態のデジヴァイスをミレディに渡すので、ここから先は正式にエテモンがミレディのパートナーです。

進示達はエヒトがとっくに消えてることにはまだ知りませんが、ミレディからの情報により8割がたそうではないと踏んでいます。

まあ、推理を間違えても戦うだけですが。



※前話後書きにも書きましたが、誠に勝手ながら3つ目のアンケートの内容を変更させていただきます。寝ぼけて書いてしまったので、申し訳ありません(変更前のアンケートはミュウとリリアーナにパートナーデジモンをつけるか)。
前2つのアンケートは以前の決定通りです。
1つ目はリリアーナはどちらのヒロインかは大差で進示、
2つ目のミュウはどちらがパパかは僅差でハジメです。


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第17話 1000年ぶりのご飯

思ったより難産でした。
前回のクソみたいなサブタイトルでデュークモンを出したため、私の脳ミソの優花に怒られてしまいました。

いや、言葉通りになってしまったんですけどね?



ミレディ視点

 

 

 

『な!?お前は神の使途!?』

『エヒトと言ったか?あのような低俗な神と一緒にするな。そも、奴は物質界の理には至っているだろうがそこ止まりだ』

『…』

 

 

一ヶ月以上前に【ソイツ】は突然現れた。

この世ではエヒトこそが絶対の神とする人間や神の使途ではまずありえない発言と共に。

…正直、前に戦った神の使途とは比べ物にならない威圧感だ。

 

『我が名は大天使シュクリス。系列は破壊神。管轄は戦神。神童竜兵(しんどうりゅうへい)と契約している天使也』

『…聞いたこともないね』

『この世界の理とは異なる神の世界の使者であると同時に、神の暴走を諫める権利を持つ大天使だ。我が役割はは世界の危険度が99.5%を超えたときに破壊神とその系列の大天使の一存で世界を破壊し、滅びを他の世界へ伝播することを防ぐことにある』

『…!!』

『しかし、危険度が90%を超えた時点で【人類はどうあがいても復帰できない】世界の判定を受けるが、99・5%まで破壊を待つのは、貴様のような【足掻く人間】の出現を期待するからでもある。…最も、この世界には終ぞ貴様の宿願を果たす人間はいつまで待っても現れないことが確定した。貴様の願いを果たすのは異邦人だ』

『…なんだって?』

 

それはつまり、トータスにはもうこの世界に【自由な意思】をその概念を主張できる人間がいなくなるという事である。

…コイツの言葉をうのみにするのならであるけど。

 

『…』

『つい先日、エヒトルジュエが異世界…地球という惑星から若い人間を30人近く召喚した。エヒトの狙いは自身の依り代の勇者1人だけで、後は全員召喚の時に近くにいたから巻き込まれただけだ』

『…それがキミの言う宿願を果たす勇者かい?』

『否、奴自身がイレギュラーと称する錬成師、そしてさらに外の世界から派遣されたイレギュラーだ』

『錬成師…!』

 

 

錬成師という言葉に私は様々な感情が交差するのを感じる。

 

『私が何故この世界について詳しいのかは単純だ天使である以上自らの管轄する世界の知識は当然の教養。最も、全知全能とまではいかないが。他の世界から滅びの要因を持ち込まれない限り、【神としては】トータスに干渉する気もなかった』

 

妙に気になる言い回しだ。

 

『現在の私は先ほども言った通り、人間と契約している大天使。神としての力を制限する代わりに契約者の手足となる。加えて、エヒトの仕業とは言え、他の世界から厄災が持ち込まれた以上、抗うつもりがあるのなら干渉が許される範囲で助力しよう。…優先順位は我が契約者だが、投資は可能な限りするつもりだ』

 

コイツの言葉がどこまで本当かは分からないが、他の世界から持ち込まれた厄介ごとがあるのなら、正直戦力は欲しいくらいだ。

 

『貴様の宿願を果たすなら、榊原進示・南雲ハジメ両名に手を貸すがいい。南雲ハジメは境遇と若さと精神的余裕の無さから聞く耳を持たないかもしれんが、榊原進示なら話は通じるだろう。…最も、榊原進示はメンタルの脆さはあるが、常識の埒外の争いの経験は豊富だ』

 

『おや、平和な世界らしいけど、戦いの経験あるんだ?』

 

『奴は既に複数回異世界召喚に巻き込まれており、これで3度目となる。表向きにはされていないが。

…最も、本来この世界の勇者になるべきはシア・ハウリアという兎人族の女だが、彼女の成長が間に合わなかったのか、この星(トータス)はあらかじめ保険をかけておいた天之河光輝に狙いを絞ることにしたようだ。…最も、エヒトも依り代に狙うことを見越してもいるが、トータスは一つだけ計算違いをしている』

『計算違い?』

『…奴の精神的幼さ、トータスが与えた【大体の事は何をしても天之河光輝に味方をする概念】、その相乗効果によって、天之河光輝は自身の価値観が絶対だと思うようになったこと。大体の人間は現実の摩擦に合うにつれ成長するものだが、奴の才能と周りの人間がイエスマンしかないことも相まって挫折らしい挫折を知らない』

『…それ、絶対に歪むよね?』

 

そう、挫折を知らない人間は大体どこかで息詰まる。挫折も知らないまま成長できる人間なんて奇跡でもない限りは現れない。

 

『フォローできる人間が情を持ちすぎて非情になれなかったことも要因の一つか。あるいは子供じみた我儘が【空想を具現化】するかもしれない。…現実離れした妄想、それを無理矢理物質界に持ち込む精神。【極限の意思】に通づるものがあるだろう?』

『…!』

 

それは、【概念魔法】を生み出すために必要なピースだ。

 

私達では3つしか生みだせなかったけど。

 

『榊原進示であれば違うアプローチで【概念魔法】を会得するだろう。

それこそ、トータスの技術だけではできない方法でな。トータスの技術のみで概念魔法を会得する可能性があるのは現状南雲ハジメだけだ。その彼らが近いうちにこの迷宮へ訪れる。そうだな…』

 

彼女はそう言うと、指パッチンで、騎士のようなものを3人召喚した。…え、人間じゃないよね?

 

『デジタルモンスター、略してデジモン。これはナイトモンという種族だ。

彼等では、この迷宮のトラップや貴様の直接対決では難易度が低い。こいつをけしかければちょうどいい塩梅になるだろう。…ん?』

 

『ラヴ・セレナーデ♪!』

 

彼女は何かに気付いたのか上を見上げようとして、落下してきた猿のような物体Xの頭突きを食らってしまった。

 

『!?!?~!?』

 

頭を抑えて涙目で叫びを堪えている姿はあの人形のような神の使途には見えない。

 

物体X…後から聞いた話ではエテモンという種族で私がエっちゃんと名付けたパートナーとの奇妙な出会いだった。

 

『…ぐう…これは想定外だった…だが、ちょうどいいかもしれん。

正式なパートナーではない以上、進化を維持できるエネルギーに限りはあるが(あるいは他のデジモンからデータを奪うか)、1度切り究極体になれるエネルギーをくれてやろう』

 

 

そうしてシュクリスは役目を終えたとばかりに去っていった。

 

暫くエっちゃんとコミュニケーションを取ったり、エっちゃんの意見を参考にトラップの増築をしたりとしてそれなりに仲良くなったと思う。

…正直あの歌唱力は嫌いじゃないけど、バリエーションが少ないのがネックかな?

 

そうしてしばらく後にシンちゃん達が迷宮にやってきたのだ。

 

 

 

 

進示視点

 

 

水洗トイレのように迷宮からはじき出され、ブルックの街の近くにはじき出された。

 

〇ーマンのような魚がいた気がするが気のせいか?

 

シアが人工呼吸の件でハジメに何やら言い寄っていたが、一緒にはじき出されたミレディがかなり苦しそうだった。

 

俺は今まで出番がなかった俺の車両を取り出し、ミレディを車両の医務室に運んだ。

 

 

「1000年も延命してきただけあって、随分無理したな」

「あはは…あのクソヤローが死ぬまで死にきれなかったし」

 

現在俺達は南雲の魔力四輪駆動ではなく、俺が造った救急兼戦闘車両にいる。

この車両なら簡易医療設備がある。ベッドも何台かある。

まあ、ハジメの駆動に比べれば積んである武器は少ない。

精々ロケット砲と固定機銃と12.7mm対物ライフルぐらいだ。

プラズマ砲とか搭載したかったが、医療関係や生活関係に比重を割いた。

 

現在医務室でミレディを診ている。

 

ミレディにデジヴァイスを渡すか迷っているが、これは仲間にするにしても当分お預けだ。

 

「魂が弱々しい。エテモンと正規のパートナー関係ではないとは言え、すぐ進化が解除されるのはいささか不自然だったが、試練の時も相当無理してたな?」

「あ、あはは…」

 

苦笑いを漏らすミレディ。

 

あのまま迷宮に引きこもってたら魂の消滅もあり得た。

 

それを言ったらミレディは俯いた。

 

「車の運転は杏子に任せる。ミレディの処置をしないとかなりマズい」

「分かった…しかし、ミレディ・ライセンは本来この時代まで生きてはいない人物だ。それを生かすのかい?」

「5年前にジールに現れた天使と恐らく同一人物だと思うがミレディの肉体を戻した以上、何かあるはずだ。

それに、奴の系列はおそらく破壊神。にも拘らず肉体の蘇生が出来たのが不自然だ。ミレディはこれからしばらく魔法を使うな。エテモンとの進化も無し…。エテモンもミレディが回復するまで暴れるなよ」

「うう…」

「もう、アチキもそれくらいわきまえてるわよ」

「ミレディ、頑張ったけど無理し過ぎ」

 

最後のはユエのセリフだ。

 

悔しそうなミレディと、良識ある返事をするエテモン。

 

「ちきしょう、樹がいればもう少しいい処置が出来るんだが、魂に関することはまだしも、通常の医学は最低限しか収めてない。データを送信してみるか。この前の記録映像届いているかな?」

「通信機は改良してるんだろ?」

 

ハジメの質問だ。

 

「ああ、流石に世界間を超える通信となるといつでもいくらでもとはいかなくてな」

「消費魔力も馬鹿にならないか」

 

俺はミレディのカルテを樹のアドレスに送信する。

 

届いてくれるといいが。

 

「優花、悪いけどキッチンでメシ作ってくれるか?ミレディは魂は弱ってるが、消化器官は異常ない。

普通の食事で大丈夫だ」

「分かったわ」

 

俺の頼みを聞いて優花はキッチンに向かう。

洋食屋の娘だけあってこっちの対応は早い。

 

「さて、治療ついでにお前が遭遇した天使の話は聞かせてもらったが、エテモンはお前にも天使にも予想外だったか…いい加減シュクリスと呼ぶか。わざわざお前に名乗ったのも意味がありそうだし」

「そうだね…嘘は言ってないと思う。隠し事はある気がするけど」

「嘘をつかないで、事実のみを限定的に話すタイプか。天使は契約者には嘘をつけないが、事実のみを話してミスリードする抜け穴もある。契約者以外の相手なら普通に嘘もつけるが」

 

そういえばミレディは試練の時のウザさが信じられないくらいしおらしい。

 

「ああ…あのクソヤローと戦う時のために慣れておいてほしくてさ。まあ、ミレディちゃんがこうなったのは昔の侍女…家族が原因なんだけど」

「家族?」

「これは心の整理がついてから話すよ」

「そうか…魂が弱ってるのもあるが、今はちっともウザさを発揮しないな?」

「流石に治療してくれる人にそんなことしないよ…今はそんな元気もないし…シンちゃん」

「…なに?」

 

突然あだ名呼びされたんだが。

 

「エテモンはエっちゃん、キミはシンちゃん、白髪眼帯君はハジメだからハーくん。ユエちゃんはユーちゃん。優花ちゃんはユッカちゃん。杏子ちゃんはキョウちゃん。ウサギちゃんはシーちゃん。ギルモンはギルくん。ルナモンはルッちゃん。ガジモンはガッちゃん。パタモンはパタちゃん」

「全員あだ名呼びかよ」

「ハー君なんて父さんと母さんの会社の人とアシスタントの人にしか呼ばれないぞ…」

「キョウちゃんか…懐かしい呼び名だ」

 

杏子が懐かしそうに顔を上げる。

又吉刑事だったよな?

 

ハジメの方は、言葉の通り、両親の仕事仲間の人にそう呼ばれることがある。

実際ハジメは即戦力レベルで仕事できるしな。

 

「できたわよ~。食材や調味料が少ないから、あまり凝ったものは作れなかったけど、進示が召喚前から持ってきてた残り少しの食材からベーコンと野菜のスープにスクランブルエッグが」

「…うわぁ、久しぶりにこんな匂い嗅ぐなぁ…。もう永いこと人間らしい食事なんてしてないし、あの天使からもらったのって携帯食ばかりだったしなぁ」

 

『…というか、この迷宮キッチンがないだろう。ゴーレムの姿で過ごすなら不要かもしれんが、私もキッチンを作るほど暇じゃない。作ってやりたいが。携帯食ばかりになるが我慢しろ』

 

 

「ゴーレムの姿って味覚も嗅覚の無いのか」

「うん。でもいいのかい?貴重な食材なんでしょ?」

「気にすんな。どの道…こっからだとブルックが一番近いか。そこで食材買い足す予定だったし」

「…」

 

ミレディはスープを一口口に入れる。

 

「…!!」

 

ミレディは何を思ったのか泣き出してしまった。

 

「ちょ!?マズかった!?そんなはずは」

「…違うよ…ユッカちゃん。こんな暖かいごはん…1000年?2000年?いつぶりかわかんなくて…」

 

「…」

 

その様子にミレディにウザさを感じていたハジメも沈黙してしまった。

 

2週間という短い時間とは言え、奈落の底にたった一人、魔物の肉しか食べるものがない(食べる決意を固めるまで水だけで過ごしていた)、左腕まで無くして…そして俺達が合流してから持ってきてた食材を俺達が沸けたときは涙を流していたからだ。

 

孤独な戦いを1000年も続けていたミレディの心情を完全ではないにしろ、共感できる部分はあったからだ。

 

そんなミレディを見て俺達も食べることにする。

 

コンソメ持ってきといて良かったなぁ。

 

 

シアが積極的に優花に料理の質問をしている。

 

トータスにはないレシピを覚えたいのだろう。

 

ユエは出会った当初は料理の腕が壊滅的で、優花の指導が入った。

 

今ではそこそこマシになってるが、元は王女だったから自分で作る必要はなかったんだな。

 

杏子は…論外。

 

「では、蹴り兎肉をブレンドした特性コーヒーを」

「やめなさい」

「…何故だ」

 

優花に注意された。

 

いや、何故だじゃない。

 

海ぶどう粒あんコーヒーはまだいいが、魔物肉は下手したら死ぬ。

 

人体に有害だ。

 

というか、優花と一緒に生活するようになってから、胃袋関連で頭が上がらなくなっているな、杏子。

 

俺も胃袋掴まれたが。

 

料理は俺も出来るが、レシピ通りしかできないし、優花みたいに凝ったものは作れない。

 

「そうだな…流石に魔物肉はないな。すまなかった」

「食べ物の趣味は否定しないけど、人体に有害なものはやめなさい」

 

「あ、ああ…」

 

食に関しては厳しさを見せる(これでも大分甘い方だが)優花の謎の迫力に顔を引きつらせる杏子。

これをかつての杏子の仲間が見たら何て言うだろうか。

『せめてわさびは抜いて~!!!』

 

そんな幻聴が聴こえそうだ。

 

 

「…ぷっ」

 

そこでミレディが俺達のやり取りに噴出したようだ。

 

目元の涙をぬぐい、

 

「ちょっと堅苦しい場所かと思ったけど、全然心配なさそうだね」

久しぶりに心の底から笑ったというように。

 

1000年もの孤独の戦いをしてきた戦士ではない本心からの笑顔。

俺にはそう見えた。

やっぱり【日常】は大切だと思った。

 

「あらぁ、いい顔するじゃなーい」

「…エっちゃんにも今までが作り笑顔に見えたの?」

「そおねえ、笑っているけど笑っていない。そんな感じだったわ」

「…そっか」

「ミレディ、エテモン」

 

俺はミレディとエテモンに声をかける。

 

「俺はこの世界の事はこの世界の住人がケリをつけなきゃいけない問題だと思ってるけど、エヒトが地球を狙うなら俺達の敵だ。そして、地球の側から持ち込まれた問題もあるから、それが解決するまでは手を貸す。だが、俺達の本命はこのトータスにはないし、トータスの問題にもいつまでもかかずらってはいられない。事は宇宙存亡の問題だ。トータスだけの面倒は見れない」

「…」

 

「世界の仕組み、その根本の問題と向き合わなきやいけない戦いだし、神の世界も一枚岩じゃない。

エヒトは話を聞く限りでは自分こそが唯一無二の神だと思ってるようだが、俺から言わせれば井の中の蛙だ。俺も全ての神の世界を網羅しているわけじゃないから所感に過ぎないが」

 

「あはは、あのクソヤローをディスれるんだから相当濃い世界なんだね」

 

「なんでディスるって言い回し知ってんだよ」

「そう言えばユエも【だが断わる】とか言ってたしな」

 

ハジメが過去のユエの台詞に言及する。

 

「ミレディ、どんな世界も窮屈な面はあるけど、世界はもっと面白いモノで満ち溢れている。

生きること自体が面倒だと思ってる俺ですら面白いと思えるものが。まあ、俺の場合は娯楽方面だがな。

そんな面白いものが造られない世界は生きづらいだろう?

そんな面白いモノ知らないうちに死に切れるか?」

「ノー!!!」

 

即答だなコイツ。だが、これなら。

 

「なら俺達に力を貸せ。迷宮の管理はあのゴーレムでも出来るだろう?

望むなら地球の娯楽も見せてやる。争うのも平和に暮らすのも、神を信じるも信じないも、全て自分で決められるわけじゃないが、自由意思の尊重が認められる未来を一目見たいならこの手を取れ」

 

俺は握手の意を込め、ミレディに手を差し出す。

 

ミレディは

 

その手を取った。

 

「うん!よろしくね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒトが消えたはずの神域。

 

エヒトの代行をしているはずの神童竜兵も現在は所用で留守をしている。

 

そこに、竜兵の留守を狙って入ってきたのは。

 

全裸に蛇を巻き付けているだけの際どい茶髪のロングストレートの女性だった。

 

 

「ふうん…完全に消したつもりでいても力の残滓は残ってるのね」

 

女性は【力】を手のひらの上でくるくると弄ぶ。

 

「今の私じゃ神の力はほとんど使えないし、私のエネルギーのために騒ぎを大きくしてマイナスの感情を溢れさせたいけど…いっそこの力を誰かに使わせようかしら」

 

女性はいいことを思いついたといわんばかりに、トータス中の人間を見渡す。

 

「そうね、このエヒトってやつが依り代にしようとしてた候補の人間の中に思い込みの激しい人間がいたわね。ソイツにこの力を吸収させてみようかしら?」

 

そうしてとんでもないことを言い出す女性。

 

 

「ベルゼブブもまだ出てこれないみたいだし、このまま静観するよりは仕込みに動いた方がよさそうね。…デジモンと言ったかしら?私たちに対するカウンターもいるみたいだけど、まあ、勝つことが目的でもないし、せいぜい楽しみましょう」

 

そうして女性は神域を去っていった。

 

 

 

 

おまけ

 

「…」

エテモンがガジモンをじっと見つめている。

 

「な、なんだ?」

「あなた、会ったことないはずなのにどこか親近感が湧くのよねぇ」

「き、気のせいじゃないか?」

 

ガジモンは知らないはずの感情を掘り起こしそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




判明したトータスにいる魔王

???、ベルゼブブ。
ベルゼブブはベルゼブモンに引っ張られて顕現した形でもある。

神話であらゆるカルチャーのモデルになった神や魔王や英雄。

物語に使われるという事はそれだけサブカルを作る側にも視聴する側にもわかりやすいという事。

分け御霊なので本体ほどの強さはないものの、それでもエヒトより全然格上。




シュクリスの契約者。

7人目の転生者、ようやく名前が判明。




シュクリス自身は、進示やミレディに協力的。

天使らしくなく敬語も使わないが気遣い上手。

現在は契約者の竜兵の指示で動いているが、竜兵に無理をさせまいともしている。

最近は竜兵と夜の生活がないことを密かに寂しく思っているが、忙しいのと竜兵の体が良くない事も相まって仕方ないと割り切ってる。



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第18話 恋愛だけが男女の関係じゃない。

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ありがとうございます。

…人は孤独の時、人が恋しくなる。


清水視点

 

 

『お前は敵か?』

『俺…どうかしてたんだ…助けてくれるなら何でもする』

『…』

 

胡散臭いものを見るような目でこちらを見る厨二野郎。

 

『アンタに忠誠を誓う…女も洗脳してやるよ…だから…助けてくれ…』

 

息も絶え絶えな俺が厨二野郎に命乞いをする。

 

 

『…』

 

奴は俺に銃口を向けた。

 

『ダメェッ!!!!』

 

畑山先生が止めようとしてたみたいだが、…ここから先の記憶はない。

 

 

 

 

 

俺達は【愛ちゃん護衛隊】と名付けられたメンバーと共にウルの街に来ていた。

 

畑作業をして生活夜は割と早めに寝て次の日の朝。

 

「…はあ、あ…」

 

ぐっしょり汗をかいて目が覚める。

 

…今俺は自分が殺される夢を見ていたようだ。

 

「…なんで…俺、【覚えていない】?」

 

…後から振り返ってみるとこれを【知らない】じゃなくて【覚えていない】というあたり俺は薄々自分がそうじゃないかって思うようになった。

 

何がって?それは…

 

 

「…!?」

 

そこには俺の専属のメイドであり、王宮にいるはずのメイド…アパルだった。

 

魔人族がアパルを人質に取る形で俺の部屋に侵入したのだ。

 

「…清水幸利、この女を殺されたくなければ、言う事を聞いてもらおう」

 

 

なんとなくデジャヴを感じて、致命的に違うこの展開。

 

アパルはこの世界に召喚されて自分に親身に接してくれたメイドだ。

 

何でこのメイドが陰険な俺に親しくしてくれるのか。専属とは言え、疑問には思ってた。

 

しかし、今はこのメイドといる時間を悪くないと思えるようになってたところだった。

 

ウルの街に行く際に離れることになったが、また戻ってくるし会えないわけじゃない。

 

「…アパル…!」

「選択の余地はないはずだぞ?」

 

確かに、選択の余地はない。アパルを無視するなら他の考えもあるが…。

 

『…』

 

何故かいまだに携帯の電池が生きてる状態で形態の中にいるハックモンも迂闊に声を出すことはできないようだ。

 

「…」

 

今は従うしかないようだ。

 

 

 

 

 

メルド視点。

 

65階層の復活したベヒモスを倒し、迷宮の転移陣を利用してホルアドと迷宮を往復しながら、光輝たちと一緒に現在はホルアドの宿で休息を取っている。

 

「メルド団長」

「雫か」

 

現在のメンバーで一番冷静かつ実力もある雫が俺に話しかけてきた。

…少々無理をしている感じもあるが、指摘してもいいかは悩んでいる。

 

「…復活したベヒモスからは妙な触手はありませんでしたね」

「ああ。あんな触手を持つ魔物何て聞いたこともない」

「榊原君は何か知ってそうな感じがしましたけど」

 

その可能性が高かっただけに彼らが奈落に落ちてしまったのが悔やまれる。

そんな事情など無しに、一人の人間として彼らを助けたやりたかった。

 

「ああ、『説明の時間はないが【捕食】されたらアウトだ!!』何て言ってたな。それに、杏子のあの姿、アレは進示達にとっても隠しておきたかったに違いない」

「…分かるんですか?」

「これでも騎士団長だぞ?人を見る目は自身がある。…でもみんなを守るためにあんな切り札を躊躇なく切った。それに、杏子が変身した時、雫や他何人かは動揺してなかった。…彼らから事情を聴いてたんじゃないか?」

「う…鋭いですね」

 

意外と顔に出やすいな。

 

「それに、ベヒモスを一撃で倒した進示のあの魔法。アレは多分魔力操作じゃないか?」

「…その事なんですけど、メルド団長。彼らが異端認定されることは」

「可能性は高いな。…最も、教会は死亡判定を出したから、これ以上の議論はされないはずだ」

「…そうですか」

 

魔力操作は本来魔物が持つ技能で人間がこの技能を得れば異端認定は避けられない。

 

…杏子のあの姿を見られれば間違いなく魔人族だと思われてしまう。

 

「メルド団長」

 

と、そこに長身の長く蒼い髪に赤い瞳の女性騎士が話しかけてきた。

 

「今回増援で派遣された騎士、アルフォースです」

「ああ、お前さんが」

 

あの4人が奈落に落ちる前は生徒たちの訓練と、心が折れて城に籠った生徒たちの護衛をしていた騎士だ。

 

愛子たちがウルの街で活動を始めてからこっちに来るようになった。

 

ここからいよいよ迷宮の探索にも加わる。

 

「しかし、お前さん、魔物に襲われて倒れたと聞いていたが、大丈夫なのか?」

「団長、もう2年も前の話ですよ。それに、魔法は使えなくなりましたが、剣の腕は上がってますよ」

「頼もしいな」

 

アルフォースが苦笑いしながら俺の言葉に応える。

それに、剣の腕は間違いなく上がっている。

 

「そうだったな。お前さんは浩介たちのパーティーに良くついているな?」

「…そう言えばそうですね」

 

雫も疑問に感じてはいたのだろう。

 

「…彼らから懐かしい気配があるので親近感が湧いたんですよ」

「「?」」

 

アルフォースが何か含みを持った表情でそう答える。

 

アルフォースは一礼してこの場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり…間違いないか…今の私は表向きは宿で勇者たちの世話役のメイド。迷宮にはついていけない…」

「どうするんだい?」

「お前は迷宮に行かなければならないが、万が一の場合は直ぐに呼び出せ」

「…わかったよ。生存優先だね」

 

 

 

そんな会話があったようだが、聞こえなかったのだ。

 

 

 

 

進示視点

 

宿屋の若い娘に俺達の関係を勘繰られたり、ブルックのギルドのおばちゃん(キャサリンと言ったか?)からギルドで揉め事にあったら、渡せと言って手紙を預かったり、フューレンへ行く道中のついでとばかりに商人の護衛依頼を受けてそこで襲い掛かってきた魔物の群れをユエが一掃したりと、したが特別語ることはないだろう。

 

因みに、ミレディにもデジヴァイスを渡し、エテモンを含む、杏子以外のデジモンは全員格納している。

ミレディは魂がボロボロで、慎重な処置が必要だ。

 

日常生活であれば支障はないが、戦闘はしばらく無理だ。

 

ミレディの魂を回復させる方法…他にないこともないが、俺の口からミレディに語る気はない。

 

ミレディの貞操観念がどうなってるかは知らないが、セクハラなどと言われたくはない。

 

ミリアが生きていれば性行為などという安易な方法を選ぶ必要もないのだが、性行為以外の方法で処置をするとなれば、針の穴に糸を通すような慎重な処置がいる。

 

それを杏子と優花に話したら、優花からは微妙な顔をされたが、杏子は何かを考えこむようなしぐさになった。

 

優花は女としては、他の女(杏子とトータス召喚前から既に関係を持ってて、生涯を共にすると宣言している樹は既に納得済み)を抱くのは気分が良くない。当然か。

 

『でも…最近のミレディを見てると、随分進示にお熱よ?迷宮でアンタに助けられた私とベクトルは違うけど似ている。昔の仲間もみんな死んじゃって、独り孤独になって…エテモンがいるとは言え、やっぱり人恋しいのよ』

『そういう…もんか。もんだよな』

『そう、そういうもん。それに、南雲と違って、進示はウザい自覚があるミレディにも最初からウザい女じゃなくて、独りの人間として対等に見ていた。ミレディが苦しんだ時も、真っ先に医療車両だして、処置をした。で、今もなおミレディを診ている。

…日本の価値観じゃ、困っている人を助けましょうって風潮があるけど、実際にそれをできるヒトって、やっぱり限られてる』

 

…優花の言う通り、何を置いて助けるか、どこまで助けるかで基準が変わるが、生活の面倒まで見るとなると、やっぱりそれをできる人間はなかなかいないのだ。

 

その場その場の困りごとを助けることは程度にもよるが出来るだろうが。

 

生活の面倒までとなると、金も労力もかかる。

 

『一応ミレディは戦力として引き込んだつもりだったが、彼女の背景を甘く見てたか』

『私も甘く見てたわ。今の自分を』

『ん?どういうことだ?』

『杏子と進示の話を聞いてたんだけど、今の私…南雲もだけど魔物の肉を食べちゃって、体の構造がまともな人間じゃないでしょ?私の体を医者に見せるわけにはいかないし、』

 

そこまで聞いて優花の言いたいことを理解した。

 

『ああ、確かに。魔物の肉を食べただけで強くなるなんて情報が洩れたら、リスクを無視して群がってくるし、体が人間じゃないなんて知られたら迫害や…その他諸々ロクな目に合わない』

『うん。私も出来るだけ自立した人間になろうとしてたけど、やっぱり進示や樹さんに杏子に頼るしかなくなっちゃったのよ…当時の自分を殴りたいくらいには』

『…止めなかった俺も俺だが、あの場を生き延びるにはアレがベターだったと思うぞ』

『魔物肉を食べなかったらそれはそれで進示達の負担が大きくなるでしょ?…ままならないわね』

『…』

 

優花が溜息を吐いて…何かを決めたように俺を見る。

 

『…何故地球でも一夫多妻の歴史が永く続いたのか、身を以って理解したわ。

根本は生きるためなのよね。勿論進示の事は女として好きになった。…でも、あの時進示は言ったわよね?《…そうだよ!!ホントは愛されたい!!!受け入れてほしい!!戦いたくなんてない!!でも戦うしかない!!生きることを放棄できない!!転生した時も不安で不安で仕方なかった!!!だから樹を俺に縛り付けた!!何があってもすがれる相手が欲しかった!!!でも周りは情けない戦士を許さない!!冤罪押し付けられて!ジールの民たちから剣で刺された時も!!【助けて】なんて言えなかった!!》って』

 

『一字一句違いなく覚えてるのかよ…!』

 

優花の復唱に俺は顔を真っ赤にして俯いた。

…くそう、自分のメンタルの弱さが憎い。

 

『自己嫌悪しないで。むしろ貴方にもそういう弱さがあるってわかったからこそ…』

 

優花は俺の手を取り、

 

『好きになった…好きって【女、子】って書くけど、まさにその通りね。子どものような我儘な感情でそれでいて無限の可能性を持つ感情』

『…俺は愛されたいって言ったけど、愛は【受、心】って書くぞ』

『完璧超人な人間なら【子ども】じゃないんだから受け入れる必要ないでしょ?でも、子供のような弱い感情があるからこそ【受け入れよう】って思えるの。…だから』

 

優花は後ろを見る。

 

医療ベッドで寝ているはずのミレディだった。

 

『…!!?』

『あ…あはは…』

 

き、聞かれてた…!?う、迂闊…!!

 

『どこから聞いてた!?』

『魔物の肉を食べたって件のあたりかな?』

『…!!』

 

く、という事は優花の復唱も聞かれてた!

 

『…ホラ、ミレディが聞き耳立てている事にも気づかないほど疲れてる。めんどくさいといいながらも世間との軋轢を気にして働いてしまう。この場合は生きて地球に帰るための協力者を逃せば余計苦労するからでしょうけど』

『…』

 

優花の正論に俺はぐうの音も出ない。

 

『まあ、何が言いたいのかというと、進示が決めたことなら受け入れるわ』

『…!!』

『勿論、私達や進示をないがしろにするような女はお断りよ。…でもミレディなら心配ないかな?』

『おやや~ユッカちゃんは随分ミレディちゃんを高く買ってるんだね?』

『だって、他の仲間も全滅して死にたくなるような境遇にも拘らず、1000年も歴史を変える人間を待ち続けたんでしょ?以前杏子が『進示は責任感のある女を引き付けてしまうのか?』って言ってたけど、…あながち間違いじゃないのかもね』

 

優花が自信をもって言う。

 

『…昔のミレディちゃんなら、そんなチョロインじゃないって言ってたかもだけど…』

『何故チョロイン何て単語しってる』

『…やっぱり経った時間が永過ぎたね。もう強烈に人恋しいよ』

 

俺の突っ込みは無視されたが、人恋しいのは分かった。

 

 

『予期せず肉体も得ちゃったからなおさらだね。ゴーレムのままだったらこんな感情持たなかったかもしれない』

『…そうか…。でもそれを踏まえて言うが、魂の回復に性行為は絶対有効とは限らないし、あくまでちまちました作業よりは楽だって話だ。…それにこれは俺だからできる話であって、トータスにはない技術だ。ミリアが生きてれば安直なエロゲみたいな方法…待て、杏子がさっきから喋らないな?』

 

そう言えばここまで会話に参加してない杏子を見る。

 

杏子は割と話し好きだから、不自然に思った。

 

すると、杏子は気まずそうに目を逸らす。

 

『…おい、何故目を逸らす。魂も明らかに動揺してるぞ』

『……彼女の死からそれなりの年月が経ってるから、進示も私の動揺に気付く余裕が出来たのだな』

『…』

『が、これについては黙っていてくれと言われている。…済まないが私の口からは言えない』

『…まさか、生きているのか?』

『…少なくとも私にもなかった発想で、しかも天使である樹の眼すら欺いていたからな』

 

 

 

そう、ミリアが生きてるとの情報を得たのだが、その方法も間もなく明らかになる。

 

…大天使の眼すら欺いていたあたりやっぱアイツ天才だわ。

 

…まあ、俺が不甲斐ないせいで彼女に命を捨てさせたようなものだから、それも考慮して杏子は話さなかったのかもしれない。

 

 

 

今回はうやむやになったが、俺もミレディも心の整理がつくまでは少し時間が必要とのことで、今回はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

商人のモットー・ユンケル(某アスリートが愛飲してるアレか?)が兎人族のシアを売る気はないか?と言われた時にハジメが

『どこぞの神が欲しがっても渡す気はない』

 

と言ってたっけ。

ちなみにソレ、スゴイ殺し文句って気づいてるか?ハジメ。

 

ちなみに杏子がこのフレーズを気に入ったのか、

 

『どこぞの神が欲しがっても渡す気はない、どこぞの神が欲しがっても渡す気はない』

 

と復唱してたので、ハジメから銃口を向けられてしまったが、杏子は涼しい顔で受け流してる。

アレはハジメをいじるネタにする気か?

 

因みに車や宝物庫も要求されたが、拒否した。

 

色々な問題を無視しても、車だって整備は必要だし、この世界に車両をメンテできる人間はいない。

 

宝物庫は確かに欲しくなる理由は分かるが、ユンケルが宝物庫を手に入れても、それを狙って襲ってくる輩に対応できないだろう。

 

 

 

そうして大陸一の商業都市、フューレンにたどり着いた俺達は、さっそくトラブルに巻き込まれる。

 

名前を覚える気はないが、俺達が連れている女性メンバーを自分の妾にするとか言ってた腹の出た貴族。初対面で女を差し出せとか言う輩の名前は覚える気はないが、その貴族の護衛として雇われていたレガニドとか言うそこそこ腕の立つ奴がいた。

 

金で雇われてるだけなので、貴族ほど口汚くは罵れない。

 

 

シアがレガニドをあしらっていると、ギルドの関係者から待ったが入り、ギルドで双方の言い分を聞くとか言われて連行された。

 

その時にキャサリンの手紙を出したら、突然VIP待遇になった。

 

…あのおばちゃん何者だ?

 

そのままギルドに連れて来られて支部長室に通されると、向かい合ったソファーで支部長と対面する。

 

 

 

「冒険者ギルドフューレン支部へようこそ。支部長のイルワ・チャングだ」

 

 

イルワと名乗った男性がそう挨拶をする。

 

 

「手紙は読ませてもらったよ。有望だけどトラブル体質………出来れば目をかけて欲しいとあった…………あの人らしいな」

 

ギルド支部長の知り合いか。

 

イルワがキャサリン先生と呼ぶ女性の若いころの写真(写真技術があるようだが、全国にはまだ流通しきってない、庶民には手が出ないようだ)を見せてもらったが、詐欺にしか見えないほどに若くきれいな女性だった。

 

その時ハジメが「時間の流れは残酷だな」と言ってたが、何があったのだろうか。

 

イルワから今回の騒ぎを不問にする代わりに、一つの依頼を俺達に寄こしてきた。

 

ハジメはめんどくさそうにしていたが、後々の面倒ごとを考えるとここで恩を売った方がいいとハジメにアドバイス。

 

探偵業をやってた頃の記憶も思い出した杏子も、ハジメに依頼を受けた方がいいとアドバイス。その際に「この感覚も久しぶりだな」

と、懐かしい気持ちに浸っているようだった。

 

 

それに、教会から指名手配されることがほぼ確定している以上、恩を売って後ろ盾になってもらった方がいいと、俺が言うまでもなく悟ったハジメによって契約周りは案外スムーズに話が進んだ。

 

 

グリューエン大火山に向かう前の捜索依頼。

 

本来の目的から遠ざかってしまうようにも見えるが、後ろ盾を得ておけば万が一の保険になる。

 

それに、信頼できる部類にいるメルド団長やリリアーナ王女も一応教会の信者なので、表立って反抗するわけにもいかないだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の車両で移動しているが、運転は杏子に任せ、ウルの街に向かっている。

車の中なので、デジモン達もデジヴァイスから出している。

 

シアは寝ているが好きにさせる。

 

ハジメは造るものがあるようで、別室に籠っている。

 

医務室にいるのは俺とミレディ、優花とユエ。

 

ユエは意外だったが、地球にもトータスにもない魔法に興味があるらしく、見物に来たのだとか。

 

俺は医務室でミレディに上半身を脱いでもらい、背中に手を当てて、ミレディのボロボロの魂を慎重に補強している。

 

ちなみに、本来は明るいムードメーカーのミレディがブルックやフューレンでおとなしかったのは、神の使途とやらにも既に顔が割れているので、下手に動いて騒がれたらアウトだからだろう。

まあ、まだ魔法行使も禁じてるし、デジモンテイマーとしても戦うことは禁じている。

 

表では俺が造った目深のハットを被っている(気に入ったようだ)。極力声も出さないようにしていた。

 

「はぁ~何か永年の肩の凝りが取れるようだね~」

「マッサージ屋か俺は」

 

俺はおっさんくさい発言をするミレディにツッコミを入れつつ、治療行為をする。

 

これをネタに「ミレディたんの体ペタペタ触ったよね~?」何ていじられる未来が見える気がするが、医療行為とは言え、やってること自体否定できない。

 

いつの世も女性に触れた男はこき下ろされるが、平成~令和は特に著者だ。

 

「…ふう、今回はこれでいいだろう」

「すごい発汗」

 

俺は大量に汗をかいているが、これもピンセットで小さいサイコロを積み上げるような作業だ。

 

少し魂が壊れればミレディの命そのものが危うい。

 

ミレディもそれを理解しているので、処置中はおとなしくしている。

 

優花も汗を拭いてくれたり、飲み物を飲ませてくれるが、手術する人レベルで大変だ。

 

「そう言えばウルの街って稲作が盛んだって情報があったよな?」

「稲作…まさか!!」

 

優花が俺の言葉に反応する。

 

「米だな!俺達の世界、俺達の国日本の主食!!」

「うお!?いついたハジメ!」

 

ハジメがかなりのハイテンションで医務室に入ってきた。

 

「もうすぐウルにつくから呼びに来いと言われてな」

「ハジメの国の主食。ハジメの好きなものなら食べたい」

「暮海も『白峰ノキアが連呼してたTKGも食べてみた』とか言ってたけど、TKG…?」

「多分タマゴかけご飯かと」

「おおそうか!!ともかく、この世界に来てからまだ一度も食ってないしな!!」

「俺の非常食も米料理はなかったしな。米をスグに炊ける炊飯器も作ってみるかなぁ。米って結構時間と手間がかかるし、そう言えばもち米もあるのかなぁ?」

 

炊飯器云々については地球の技術では普通のコメを3分で炊くなんて無理な話だが、あいにくこっちは異世界の技術がある。

 

手が空いたら作ってみるか。

 

「もち米ってなんだい?」

 

いつの間にか衣服を整えたミレディ。

 

…こっちも手が空いたらミレディの服を仕立ててみるか。

 

今ミレディの着ている服は防御力に乏しい。

 

 

「もち米ってのは糯性をもつコメの品種群」

「餅は白くて弾力があって、めちゃくちゃ伸びるめでたい食べ物だ!!」

「南雲…間違ってないけどざっくりし過ぎ」

 

優花がハジメの説明に苦笑いしながらツッコミを入れる。

 

「よし!こうなったら杵と臼も作るか!!何!錬成に3分もいらないさ!!」

 

ミレディや運転中の杏子まで若干引くほどのテンションで錬成していた部屋まで戻るハジメ。

 

「ハーくんって、あんな一面あったんだ」

 

ミレディさんが意外そうにつぶやくが、引っ込んだ部屋から「醤油?きな粉?いや、七味とか、いや、意外にはちみつもいけるか!?」なんて呟きが聞こえてくる。

 

「ははは、まあ、俺達の国の主食が長い間食べられないことにも結構ストレスを感じていたみたいだなぁ」

「私も洋食店の娘だけど、米が食べられないとやっぱり寂しいわね」

 

寝ているシアをハジメが起こし…おい、一瞬バズーカを取り出しかけただろ!?

 

杏子が「面白そうだがやめたまえ」って言わないと早〇バズ〇カぶっぱなす気だったな!?

後何故杏子も若干ノリかけた!?

 

 

 

…やっかいなのはミレディよりもテンションが上がったハジメかもしれない。

 

 

そうこうしているうちにウルの街についたので、少し離れた場所で車を引っ込めて依頼に備えることにする。

今から捜索しても恐らく夜中になるので、明日朝一で捜索対象を探すことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介

アルフォース

ハイリヒ王国の騎士団に所属。性別は女性。
ケガによる離脱から復帰し、勇者たちのパーティーの補佐に加わる。
クゼリーの同期。
負傷ブランクがあるためか、クゼリーに先に出世された。

この世界では永山君たちとよく交流を持っているが果たして…




餅ネタ。

アンソロジーネタです。
せっかくなので餅つき大会もやりたいですが、書こうかな…。
シーズン的にもタイムリーだし…。
書くにしても独特のネタを入れたい。…モチモン…いや、何でもありません。


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第19話 再会と新しい家族

初めて1万文字を越えた…。

そして、サイバースルゥースの裏側の物語、ハッカーズメモリーのネタバレも含みます。

ミレディが少しチョロいかもしれませんが、1000年も孤独に耐えて人恋しさを突然知ったらと思うと考えました。

ゴーレムの体なら感覚がないので堕ちなかったかもしれませんが、この世界のミレディは生身の体を取り戻してしまいましたから。


杏子視点

 

ウルの街についた私たちはレストランに向かう。

私以外のデジモンは格納している。

申し訳ないが、騒ぎを起こされるわけにはいかないからだ。

ミレディは帽子を被ってもらう。

因みにミレディは戦闘はまだ無理だが、日常生活であれば問題ないため連れてきた。

独り留守番も申し訳ないしな。

 

 

優花君がレストランのレシピを覚えて、デジモン達のために作るそうなので、それで納得してもらうか。

覚えのある気配を感じたが、ハジメ君はスルーして、席に座る。

 

「いやー米料理楽しみだな」

「【ハジメ】さん!女心を理解してくださいよ!いい加減ユエさんもハジメさんの隣譲ってください」

「ハー君も罪作りだねぇ。ユーちゃんとシーちゃんに迫られ…あ、地球ってとこにも言い寄られてる女の子がいるって?」

「白崎香織の事か。トータス召喚前日も夜中からハジメの家の前で出待ちしてたから、八重樫雫に摘まみだしてもらったっけ」

「そんなことがあったのかよ…」

 

香織君と雫君の…特に香織君の行動に戦慄しているハジメ君。

 

と、

 

「な、南雲君!?榊原君!?暮海さん!?園部さん!?」

「……先生?」

 

畑山先生と菅原妙子、宮崎奈々、相川昇、仁村明人、玉井敦史がいた。

 

「…やっぱり南雲君…生きてた」

「いや、人違いです」

 

何故か他人のふりをするハジメ君。

 

…まあ、先生たちの席をスルーした時点で予想はしていたが。

 

 

「ちょっと待って下さい! 南雲君ですよね? 先生のこと先生と呼びましたよね? なぜ、人違いだなんて」

 

 

先生が南雲の腕を掴んで引き留める。

 

 

「いや、聞き間違いだ。あれは……そう、方言で【チッコイ】て意味だ。うん」

 

 

「それはそれで、物凄く失礼ですよ! ていうかそんな方言あるわけないでしょう。どうして誤魔化すんですか? それにその格好……何があったんですか? こんなところで何をしているんですか? 何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 南雲君! 答えなさい! 先生は誤魔化されませんよ!」

 

「ハジメ、髪の毛と目の色が変わってない俺と杏子がいる時点で誤魔化せねーぞ。…それと、先生。日頃から威厳のある教師を目指していると仰ってるそうですが、威厳のある先生になるためにはもう少し余裕のある態度でいてください。…ま、年取っても威厳のある教師なんて俺が知る限りほんの一握りですが」

 

 

今更だが、先生は25歳と社会人としても人間としてもまだまだ若い故に空回りするのは仕方ない部分もあるが。

 

「これはこれは、お久しぶりです畑山先生。それに菅原妙子、宮崎奈々、相川昇、仁村明人、玉井敦史も壮健そうで何よりだ」

「「「「「!?」」」」」

 

生徒たちが驚いて私を見る。

 

…ああ、私の記憶が戻ったのは奈落に落ちて(私は自ら飛び込んだが)からだったな。

 

「改めて自己紹介をしよう。私は暮海杏子。現在は榊原進示のパートナーだ。今まで記憶を失っていたが取り戻した。こちらが本来の話し方だ」

 

そう、記憶がない私は年頃の無垢な少女のような話し方だった。

 

外見に引っ張られたこともある。進示と融合して現れた人間体の私は当時の進示の肉体年齢と同じ10歳程度だったからな。

 

皆驚いていたが、宮崎奈々と菅原妙子が優花君を見つけ、再会を喜んでいた。

 

「優花ッち~!!よかったあぁ…」

「奈々…妙子…」

 

優花も友達の心情を察したのか抱擁を受け入れる。

 

「ところで…、そちらの女性たちは誰ですか?」

 

畑山先生がそんなことを言ってきた。

 

「ユエ、ハジメの女その1」

「シアで数ですぅ!!ハジメさんの女その2ですぅ!!」

「おい!上はともかくシアは違うだろ!!」

 

あ、これは一波乱あるな。

「そんなっ! 酷いですよハジメさん。私のファーストキスを奪っておいて!」

 

「いや、何時までそのこと引っ張るんだよ? あれは…………」

 

 

その話を聞いていたクラスメイトの男子陣が、

 

 

「おい聞いたか? 南雲の女って言ったぞあの子達」

 

 

「くっ………何故だ!? 俺達には出会いがないのに何故南雲があんな美人の金髪の女の子とウサ耳美少女に…………!」

 

 

男性陣が何やら悔しがっている。

 

…女性がどのような男性を好むか個人差はあるが、ここにいるメンバーは全員特殊過ぎる経歴を持っている。…一般のナンパ術はあまり参考にならないかもしれない。

時間があれば助言くらいはするか。

 

「南雲君…………?」

 

 

「な、何だ先生………?」

 

「女の子のファーストキスを奪った挙句、ふ、二股だなんて!? 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか!?」

 

冷静さを無くした先生がハジメ君に掴みよる。

 

「榊原君も何か言っておやりなさい!!複数の女性と付き合うなど不純だと!!」

 

水を向けられた進示。

 

「残念ながらトータス召喚前から倒錯的な関係を持っていた人物が一柱いる。…そして」

 

進示に目を向けられた私たちはその意図を察した。

…確かに樹であれば【一人】ではなく、【一柱】が正しい。

天使とは言え神の世界の住人故に。

 

私と優花が進示の肩にしなだれかかる。

 

玉井君達がギョッと目を見開いたが、ミレディも進示に寄り添った。

 

「進示の女の一匹その2、暮海杏子だ」

「進示の女の一人その3、園部優花よ」

「シンちゃんの女の一人その4、ミレディたんだよ☆」

「ミレディまで乗ってくるか…」

「…もう何があってもついていくからね」

 

ミレディはそう言う。

孤独の時間が永過ぎたためか、進示にべったりだな。私と優花君に気を使ってはいるが。

 

あ、先生が爆発しそうだ。

 

「お、お説教ですーーーー!!!許しませんよ!!!」

 

因みに生徒の恋愛事情は先生が査定する義務はないはずだが、地球の常識に染まり切っているため、認識のすり合わせが大変そうだ。

 

そして、先生もこの後倒錯的な人生を歩むことになるとは本人も想像してないだろう。

 

 

 

 

…私が進示を愛しているかははっきりと断言できる。

 

魂が進示と繋がっているせいか、心は大分人間に寄ってきたしイグドラシルとのつながりは完全に途絶えている。

 

…私は本来イグドラシルの命令を受けるプログラムに過ぎないが、今では進示が最優先になっている。

 

…ただ、名前も発音できない■■ ■■■の事は気がかりだった。

 

…一目だけでも会いたい。

 

すると進示はこちらに目を合わせ

 

(会わせてやる)

 

そう言ってくれた気がした。

 

…ありがとう。

 

「そう言えば、暮海さん、自分の事を【一匹】って言ってなかったか?」

「そうだよ!榊原の女【その1】は誰なんだ!!?」

「【三大女神】の一人が…」

 

 

…優花君を除いて進示の女が全員最低数世紀以上は生きていると知ったら驚くかな?

このメンツで私がデジモンであることを知っているのは先生のみだ。

 

…む?女神とは私の事か?

 

 

 

進示視点

 

 

その後、VIPルームに通され、

質問攻めを受けることになった。

腹が減ったので、カレー(ニルシッシルというらしい)を食いながらだが。

 

先生たちのそばにいる騎士は、先生の開拓作業の時の護衛として宛がわれた教会騎士と言ったところか。

 

「南雲君と園部さんの神が白くなっているのは何でですか?それから、南雲君の左腕の鎧と右目のアイパッチは一体…?」

 

ハジメは答える気はないので代理で俺が返答する。

 

「ハジメの腕は魔物に喰い千切られて捕食された。元の腕は還ってこない。したがってソレはハジメ自作の義手」

「…!!?」

 

先生絶句。当然か。

 

「右目も魔物との戦いで失ったからソレは義眼」

「…そうですか」

先生は俯いた。

 

彼女の性格からして、苦しい時に傍に入れなかったことに責任を感じているのだろうが、ハッキリ言ってソレは教師の領分を越えている。

 

だが、世間はそんな事情を理解できずに唯一の社会人である先生をバッシングするのだろう。

 

…公安と政府の方針で地球にヤバい案件が迫っているのは秘匿しているが、…現実だと認識した場合、世間の大パニックは避けられない。

 

発狂して核ミサイルをぶっぱする狂人が現れる可能性もゼロではない。

 

俺達の力を狙う奴も当然出てくる。

 

トータスの存在を知ったら資源をアレコレ理由をつけて略奪しに来る可能性もある。

 

交易による取引であればまだマシだが、武力制圧をしようとするならこちらも武力で叩き潰す事も考慮しなくてはならない。武力解決は出来れば最終手段にしたいし、戦争はない方がいい。

 

基本的には地球側の味方ではあるが、それも程度による。

 

こちらはトータスに無理矢理拉致された存在ではあるが、ぶちのめしたい存在は基本実行犯のエヒトだけだ。

 

この世界全員に連帯責任だとか言っても仕方ない。

 

地球側の人間が拉致を理由にあの手この手を使ってトータスの資源を奪いに来る可能性は大だ。

 

それに憲法その他はトータスには存在しない以上、地球の法を持ち出しても効果がない。

 

情に訴えても聞き入れる人間は少ないだろう。例外は何人かいそうだが。

 

武力に訴えないことを至上にしている国であれば間接的なちょっかいであっても流血沙汰は少ないだろう。

 

それに、情報戦に強い記憶が戻った杏子、大天使であり、天界の情報管理警備担当の樹もいる。

 

二人とも人間ではないが故に扱える情報量、推理力、洞察力、その他諸々シャーロック・ホームズレベルでないと対抗出来ないだろう。

 

あるいは歴史に名を遺す頭脳の天才でもない限りは。

 

俺もそれなりの経験はあるが、造る(創る)方が得意であって、情報戦はそこまで得意ではない。

 

樹や生前(生きてるとは聞いたがまだこの目で確認してない)のミリアのサポートがあってこそだ。

杏子の記憶が戻っている以上、彼女のサポートも受けることになる。今まではほぼ戦闘でしか出番がなかったので。

 

 

 

問題は武力に訴える国であれば間違いなく大惨事になる。地球、トータスどちらもだ。

 

最も、トータス同士の問題であれば巻き添えにならない限り極力介入は避ける。

 

…まあ、この世界にいる間も衣食住云々のために、金になる事はしなければならないが。

 

俺は身近な人間以外はどうでもいいタイプだ。

 

しかし、地球とトータスなら地球、日本と海外なら日本などと言ったように、括りごとにある程度線は引いている。

 

【全てを救う】等と言うのは神でも難しいのに、人間がそんな考えを持つなんざ、俺から言わせてもらえば井の中の蛙だ。

 

しかし、こちらでも殺人は極力最低限で済ましたい。

 

帝国兵に関しては、護衛対象のハウリア族を売り払い(絞ったという言葉から何人も殺されている)、杏子たちを問答無用で性処理の対象としてみたからだ。

しかも俺達を殺したうえで頂くつもりだったようだ。

 

…まあ、色々御託を並べていたが、要は先生の責任ではない。

 

が、ソレを言ったところで、先生は聞きいれないだろう。真面目過ぎるし。

 

「俺達を救えなかったことに関しては先生の責任ではありません。この世界の社会構造と世界情勢を鑑みれば遅かれ早かれ起きていた問題です。避ける手段はないに等しいでしょう」

「…で、ですが!」

「愛ちゃん、愛ちゃんは一般の教師でしかないんだから、戦争経験もない愛ちゃんが説いたところで実感として分かる人は極僅かよ」

「ええ、それにここは神を絶対とする宗教国家。そこの騎士は先生のために教会の信仰を捨てると言ってたようですが、シア君の耳を見て殺気が抑えきれないようですね」

「デビットさん!?」

 

優花と杏子が先生は悪くないと言ってるが、話の矛先を護衛騎士に向けた。

 

どうやらイケメンハニトラ要因のようだが、逆に先生に魅了されたか。

 

因みに俺は少々童顔のフツメンだ。身長は178cmで、かなりの瘦せ型。…体重60キロ無いのよ僕ちゃん。

 

…それで昔はよく拳で腹に穴が開いただけで済んだな。両断されてもおかしくなかった。

 

 

「薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるとはな。しかもなんだそのふしだらな格好は、汚らわしい!!」

 

どうやらシアがお気に召さないようだ。…露出に関しては同意見だったが、本人がその服装でいいなら止めはしない。

 

「デビットさん!なんてこと言うんですか!」

「魔法は神より授かり力、それを使えない亜人は神に見放された存在だ」

「…私達とそこまで変わらないじゃないですか!」

「ならば耳を切り落とせば人間らしく…ぶげ!?」

 

そこまで行って騎士が突然すっ飛んだ。

 

剣を抜刀しかけたところで、ハジメがスプーンを飛ばしたからだ。

 

みればシアを侮辱されたことで、ユエ、ミレディの機嫌がかなり悪い。

 

…ミレディも亜人の仲間がいたな。

 

「話はこれで終わりか?」

「待ってください!」

 

愛子先生が待ったをかける。

 

「足りない情報をいうと、ハジメと優花の髪の変化は魔物の肉を食ったことによる、変質。死なないように処置を施しながらだ。リターンもあるが、それでも死ぬリスクの方が高いので、お勧めはしない」

「私と進示は魔物の肉を食べていない。召喚前から持っていた非常食で乗り切った」

「ひ、非常食ってそんな都合よく…」

 

玉井が疑問を投げるが、

 

「あいにく、トータスという世界は今回が初めてだが、俺と杏子は異世界召喚は今回が初めてではないのでね」

 

 

「「「なっ!?」」」

 

事情を知らない3人が驚く。

 

密会のメンバーにはいなかったが、密会のメンバーは冷静な判断が出来そうな人間を選んだので…ん?

 

「宮崎、菅原、キミ達は驚いていないな…?」

「…そう言えば…まさか!!」

 

杏子は何かに思い至ったようだ。

 

「進示…キミについていたメイドは…ガラテアはあの王女の妹の可能性が高い…いや、もう確定だ」

「まさか、直接面識はなかったが…生きていたのか!…だが、耳は人間…」

 

いや、偽装であれば…耳を隠す手段はあるか!可能性は…左耳のイヤリング!

 

そして、シール脱出の直前、ミリアを見殺しにしたとき

 

『フェーの妹はもうこの世界を脱出したそうです。どんな世界に流れ着いているかまではわかりませんが、再会する可能性は高いでしょう。さあ、進示と杏子も早くジールから脱出を。貴方たちがイーターと呼ぶ化け物は何とかしましょう。他の世界に伝播させないだけなら何とか。…というか、アレ、あなた達の言う北海道より大きくなってません?まだまだ大きくなってますし』

その時の彼女はちらりと上を見て上から天使の羽が舞ったのが見えて上を見た。

 

上空に背中の羽が4枚の大天使。

 

当時は考察には情報が足りないが、直感で脱出を選んだ。

 

まさか、トータスに…。

 

 

「そのことを知ってるのは?」

「クラスの女子生徒と、私、リリアーナ王女とへリーナさんたち数名のメイドさんです。…リリアーナ王女が彼女の言動に不自然な点があったことを指摘していましたので」

「それ以外の人間はしらない?」

「うん…」

 

宮崎が答える。

 

「他に変わったことは?」

「ないかなぁ。…あ、最近新しいメイドさんが入ったみたい。ベリキシエさんていうメイドさん。猫なで声で話す男子受けするあのキャラづくりしている人」

「うん、あの【きゅん☆きゅんケーキ】って言ったっけ?名前はあれだけど美味しいのよね」

「…ブッ!?!?ゴホッ!?ゴホッ!?」

 

 

突然杏子が紅茶を噴出した。俺ですら見るのは初めてだ。

ハジメ達他のメンバーも驚いている。

杏子が飲み物を吹き出すシーンなど見ないからな。

 

俺は杏子の背中をさすりつつ、考察する。

 

「…なるほど、岸部リエのアナグラムか!」

「おい、それって確か!」

 

ハジメが通信の事を思い出したのか、俺に聞く。

 

「ああ、現在の中村の保護者だったはずだ」

「…あ!?」

 

先生は何故知って…あ、3者面談か!

 

「先生、3者面談で岸部リエにあってますね?」

「は、はい…私は担任ではありませんが、その時の担任の先生が体調を崩されて、私が代理で面談を…その…その独特な方でしたが、中村さんを大事にされてるみたいで」

「そういう事か…」

 

杏子は頭を抱えたが、岸部の性格ならやりそうだと考えたのか、すぐに襟元を正す。

…俺もゲームで彼女は知ってるが、直接会ったことはないんだよな。

 

…っていうか、学校でもそのキャラで通してたのか!?

大丈夫か!?男性教師にRー18なことしてないよな!?

 

そしてその一連の事をロードナイトモンがやってると思うと…シュールだ。

 

「因みに岸部は何の仕事は分かりますか?」

「最近大きくなった○○の秘書をしているらしくて…」

「…なるほど、適当な人間を盾代わりの社長にして、隠れ蓑にしていたのか。社長は優秀でも無能でも岸部ほどの手腕なら上手く立ち回れる」

 

杏子がうんうんと唸っている。

「あの、暮海さん?岸部さんをご存じで?」

「…私の同胞で何かと因縁のある相手です」

「それはどういう…」

 

先生が疑問に思って杏子に聞くが、騎士どもが見ている前で喋り過ぎた。地球の事業方式は理解できないだろうが。

 

「さっきから何の話を…」

 

「お喋りはここまでだ。本来ここへは仕事で立ち寄った。仕事の準備があるから行かせてもらう」

 

ハジメが席を立った。もうカレーは食ったらしい「ニルシッシルだ」あ、ハイ。

 

先生がハジメを止めようとするが、

 

俺は先生に近づいて耳打ち。

 

「どうしても俺達から話を聞きたいなら教会騎士のいないところで」

 

とだけ言った。

 

先生は意図を察したのか頷いた。

 

「じゃあね。奈々、妙子」

「ゆ、優花っち…!私達と一緒に…」

「悪いけどそれは出来ない。それに、進示についていくって決めたのよ」

 

そうすると優花は俺と同じように宮崎たちに耳打ちした。

 

話だけでも聞かせるつもりだろう。

 

こちらの邪魔をしない分には構わない。

 

…そう言えば彼らの保護者の心労も考えるとどこかで通信した方がいいな。

 

そんな俺の悩み顔を優花が見ていたのか、優花が俺を見る。

 

「…分かった、明日の朝までには何とか整えよう…。と言っても俺は医務室でミレディの処置もあるから杏子にも手伝ってもらう」

「任せたまえ」

 

杏子が頼もしい返事をしてくれる。

 

杏子は医療方面は知識はあっても専門じゃないし、地球にはないオカルト分野の治療もある。

 

通信設備の整備は頼んでもよさそうだ。

 

「悪いな」

「適材適所だ。キミ達はキミ達にしか出来ない事をするんだ。…いや、今は私の立場の方が下だったな」

「杏子。俺とお前は上下関係にした覚えはない。樹は彼女自身の出自もあって例外だが」

「…そうだな。私たちはパートナーで…家族だ。少々変則的すぎるがね…」

 

そうして俺と杏子は微笑み合った。

そこに優花がやってきて、「そこに私も入るでしょ?」と言ってきた。

 

さらにミレディが俺の服の裾をちょいちょいと引っ張る。

 

…まさか、ミレディ!本気か!?

 

それに対し、女子生徒がキャーキャーと黄色い悲鳴をあげている。

 

そう言えば玉井たちの様子が見えないな?

 

 

 

 

「おのれ…異世界の美少女をどうやって口説いたんだ!?」

「南雲のプレッシャーにビビったが、今はあの二人に殺意しか沸かない!」

「どうやって口説いたかテクを教えてもらうか!!ウサミミ…モフモフ…」

 

…何やら殺意の〇動が沸いてきている玉井たち。

 

「命がけで魔物がうごめく迷宮から助けたり、一族全体の全滅の危機を救ったりすれば惚れられるかもな」

 

俺は玉井たちにすれ違ってわざと聞こえるように呟いた。

 

それを聞いた3人は何やら落ち込んだようだ。

そこまでのリスクは犯せないか。

 

まあ、無理強いはしないし、命あっての物種だ。

仮に何かしようとしても今は力を蓄える時だぞ?

 

「春が青いな…いや、今の私もか」

 

杏子が遠くを見るような目で俺に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

ハジメ達のグループは宿を取ったが、医務室は車両にしかないので、町から少し離れた場所に車両を出している。

 

杏子は通信設備の整備、優花は食事の片づけを終え、俺の処置のサポート。

 

車両ならギルモンとエテモンを出せるので、デジヴァイスから出しているが、2匹は寝ている。

 

「…ミレディ、本当についてくるのか?」

 

俺は昼間のミレディの言葉を確かめるように尋ねる。

 

「うん…それに言ったよね?望むなら地球の娯楽も見せてやるって」

「…言ったな」

 

俺は頷く。

 

「正直ミレディちゃんは、あのまま力尽きるか、クソヤローを倒すまで…でも倒してから消滅するかと、思ってた。それに他の仲間に…オーちゃん達に悪いと思ってたんだ。私だけ生き残っちゃって」

「…そうか」

 

仲間が倒れそれでも1000年頑張った彼女の精神力は計り知れない。

 

「でも、エっちゃんやシンちゃん出会って孤独を忘れたら一気に死ぬのが惜しくなっちゃった。

…それに、オーちゃん達とは…どうせ死ぬならお土産話増やしてからの方がいいって思ったんだ」

「…」

 

ぽつりぽつりと話すミレディ。

 

「それに勧誘される側になって、昔のオーくんもこんな気持ちだったのかなって…まあ、ウザそうにはされたけどね?」

 

ウザい自覚はあったのね。

君だったりちゃんだったり安定しないな。

 

「立場上は迷宮攻略には付き合えないけど、シンちゃんやキョウちゃん、ユッカちゃん、ハー君、ユーちゃん、シーちゃんならやり遂げるって思ってる。デジモン達もね!」

「杏子もデジモンだけど」

 

そう言うと「そう言えばそうだった」と舌を出す。

 

「その…キョウちゃんやユッカちゃん…イツキって人とも仲良くするから…ミレディちゃんも…キミの家族になれないかな?」

 

おずおずと手を差し出すミレディ。

 

俺は優花を見る。

 

いつの間にか休憩してたらしい杏子もいる。

 

俺達は目を合わせ、頷き合い、俺がミレディの手を取り、杏子と優花がその上に手を重ねる。

 

 

それにミレディが満面の笑みを浮かべた。

 

「皆…そっちに行くのは当分先になりそうだけど、お土産話、いっぱい増やすからね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、抱くのは魂を治してからな」

「えーいけず!!」

「こればかりは仕方ないだろ!お前最近まで死ぬ寸前だったろうが!」

 

 

 

 

 

 

「ところで、シンちゃんはミレディたんのどこが好きなのかな?」

 

ミレディが医療ベッドで寝そべりながら聞いてくる。

 

寝るまでは付き添って欲しいとのことで今は二人きりだ。

 

「…俺は…敢えて失礼な事を言うけど体は理想よりかなり小さい」

「ホントに失礼だな!」

「だが、体は細かいこと。俺はお前の精神性が好きになったんだ」

「…私、ウザいよ?」

 

一人称が【私】になったな。これマジの時か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうお前は本来とっくに人生を終えてもいい存在だ。にも拘らずたった一人で孤独な戦いを生き抜いた。仲間は死ぬまで…いや、死んでも見捨てなかった。体は仕方ないにしても心は一度も見捨てなかっただろう?」

 

 

 

 

 

 

 

「それは…私にも戦いを始めた責任はあるし」

「それだよ、お前は最期まで絆と責任を捨てないだろう?からかって遊ぶことはあっても、その精神性は本物だ。…それに」

「それに?」

「本来俺はクソ雑魚メンタルだ。コミュ障のくせに、一人が好きなのに孤独に弱い。周りや環境に流されて戦ってきたけど、俺は一人じゃ戦えない。

【絆】で強くなる精神性だって樹にも杏子にも言われたんだ」

「【絆】か。クソ雑魚メンタルって今のシンちゃんからは想像もできないな。オーくんもコミュ障の毛はあったけど」

「今もだよ。それに、お前の一人称、普段はミレディちゃんとかミレディたんだけど、マジの時は【私】になるよな」

「!…意外とよく見てるなぁ?」

 

ミレディが目を見開く。

今の俺の指摘は自分を見てくれていると思ったのか、完全に顔が赤い。

 

「樹にも杏子にも優花にもみっともない泣き顔を見せちまったけど、もし俺が泣いたら慰めてくれるだろう?」

「…フフフ!泣き虫さんなんだね。…うん、その時は私にも頼ってね?」

「俺は不安定な人間だ。でも、お前たちがいてくれるなら戦える。一度は生きることをあきらめてしまったが、また諦めそうになったらお前たちが引き戻してくれ。そして、俺は俺の力の限りお前たちを大切にする」

「私も正直生きることを諦めそうになったことは何度もある。…でも、私が諦めそうになったらシンちゃんが引き戻して?」

「ああ!勿論だ!…今更だが、今の俺はハーレム状態だがいいのか?」

「今更だね…。あんな仲睦まじい様子を見せられて離れろなんて言えないよ」

「ハハハ…。まあ、色々あったし。全員一般人とは言えないし。優花だけは一般人だったけど、もう手放せなくなったし、手放す気はない」

「…私が生きることを諦めそうになって泣いたら慰めてね…」

「ああ…!」

 

そうしてミレディはすやすやと寝息を立て始めた。

 

暫くミレディの手を握っていたが、通信設備の準備もある。

 

ミレディの掛け布団を治し、医務室を後にした。

 

 

 

 

 

おまけ

 

「杏子…ゲームでも岸部の性格は知ってたけど…」

「何だ?」

「【リエちゃん☆モエモエ】とか、【リエのきゅんきゅん日記】とか…あと、未成年には言いづらいパスワードとか…あれ、ロードナイトモンがやってるんだよな?」

「…そう考えるとなかなかシュールだな」

「…アレ、神代悠子が摘出したパスワードだよな?」

「…悠子君には赤面ものだったな…いや、平静を装ってはいたが」

「そしてあの時彼らが事務所に帰還してからの下着ネタには突っ込みなしだったが」

「?」

「下着ダンスの中に電脳犯罪捜査課のファイルがあったのさ」

「…!惜しいことをした…!!いや、年頃の彼らに女性の下着ダンスを調べさせるのは酷か…」

「まあ、それは天沢ケイスケと御島エリカが見つけたんだけどね。ホラ、臨時の助手くん」

「そうか…彼が。クレニアムモンの件と言い、中々優秀なようだ。コーヒーをご馳走してあげられないのが残念だ。海ぶどう粒あんコーヒーの材料も彼がミレイを通じて調達してくれたそうだしな」

「まあ、御島エリカに軽蔑されるという尊い犠牲を払って又吉刑事を素早く動かしたんだけどな」

「…あの世界でもセクハラ問題は厳しいからな」

「まったくだ」

「…ん?通信が繋がりそうだ!」

「やったな杏子!今の魔力量だと…、出来て5時間…」

「神結晶や魔力回復薬の類は…もったいないな」

「龍の因子をもう少し力を引き出せれば、魔力の自己生産も可能なんだが」

「ないものねだりをしても仕方ないさ。さあ、もう寝ないと睡眠時間が足りなくなるぞ?」

「ああ、杏子、久しぶりに抱き枕になってくれ」

「おや、しないのかい?…いや、寝不足になるな…デジモンの私が性愛を知ったが…なるほど、癖になるのも分かる気がする。そしてスキンシップが恋人や夫婦にとってなぜ必要かも…理屈ではなく感覚で分かったよ。この世はやはり理屈では片づけられないことが溢れかえっているな」

 

 

 

 

 




杏子、紅茶を吹く。

杏子にとっても岸部の存在と行動は予想外過ぎたようです。


相川、玉井、仁村、異世界ナンパ術を知りたい。

命がけでピンチを助ければ惚れられるかも?(確約は出来ない)

ハジメがデビットを吹っ飛ばしたスプーン。

これはコミック版を採用しています。

ハジメが先生の部屋で真実を告げるシーンは原作と変わらないためカットです。

アンケートを4つ目取ります。
投稿直後に新しいアンケートを設置します。


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第20話 子供が笑えない世界に何の価値がある?

サイバースルゥース

始動。


ハジメ視点

 

「で、これはどういうことだ?」

「行方不明者の捜索ですよね?人数は多い方がいいと思いますが」

 

朝起きて町のはずれに止めてある進示の車両に向かおうとしたら先生と玉井たちがいた。

 

「ハジメ…連れて行くの?」

「…ここで放置したら追いかけてきそうだ。生徒の事になると妥協しないし、協会の力で指名手配される方が面倒だ」

「生徒さん思いなんですねえ」

 

シアが感心したように呟く。

 

「ただし、馬は返してこい!進示の車で行く!」

「く、車…!?」

「俺もバイクや車は造ってるが、医務室は進示の車にしかない。ミレディを覚えているか?アイツの処置もあそこでやってる」

「…ミレディさん、どこか悪いんですか?」

 

先生が疑問に思っている。昨日見た感じではそこまで具合悪そうには見えなかったしな。

 

「…それも道すがら説明する」

 

俺達は進示の車にたどり着くと、そこには何やらコンソールを操作している暮海と発汗が酷く、顔色が青く震えている進示と、進示を落ち着かせるように抱きしめている園部とミレディがいた。

 

「よ、よう…来たか」

「例の発作か?」

「まあな。もう少しで落ち着く」

 

発作、という事は、死人の声を聴いたか。

 

魂を見る力、魂と共感する力、魂の性質を見抜く力が強すぎる代償だ。

 

進示の精神は強い方だが24時間365日気を張り続けられるほどじゃない。

 

このように体調を崩しているという事は、気を抜いているときに発作が起きたか。

 

それに、感受性も高い故か死人の気持ちとか、怨嗟とかダイレクトに聴いてしまうんだろう。

 

「だ、大丈夫なんですか!?」

「暮海が進示そっちのけで何やら作業しているから、大丈夫だろ。暮海は何してるんだ?」

「ああ、地球への通信が出来るように調整している。いつでもいくらでもとはいかないが、とりあえずキミ達の親御さんへ声を聞かせることは可能だろう」

「「「「「「!?」」」」」」

 

それに驚き、希望を持つ皆。

 

まあ、当然か。

 

「先ほど樹にメールを送って、あと20分で招集が終わるので、その時に通信を始める」

「お、おい、マジかよ!?」

「この状況でくだらない嘘はつかないさ。それと進示。ミレディのカルテを送ったそうだが、それに関する資料が届いた。ミレディの治療が捗るだろう」

「そ、そうか…」

「嬉しいけど無理しないでね、シンちゃん」

「今ご飯作るからね…杏子はおとなしくしててね?」

「…私もスキンシップくらいいつでもするさ」

 

園部が暮海に若干【威圧】をかけながら忠告する。

 

油断すると【創作料理】を作ってしまうからだろう。

 

アイツの創る【コーヒー】は俺も地球にいた頃飲んだことがある。

 

味音痴はむしろ記憶回復後の方が酷い。

 

…進示には正直無理をしてほしくないが、現状は頼らざるを得ない部分が多すぎる。

 

飛空艇の建造だって手伝ってもらってるし。フェルニルって名前にしようか。

 

 

「ん?メールが来た。…キミ達の親御さんが集まったそうだ。回線を開くぞ」

 

 

 

 

 

進示視点。

 

 

夢を見た。

 

いや、これは夢ではない。

 

魂を見る力ががある俺に強制的に見せられる光景。

 

ジールにいた頃は殆どぼやけていたが、大人になるにつれてだんだんはっきり見えるようになってきた。

 

 

 

そこは…処刑場だった。

 

 

オスカーの隠れ家にいたときも何回か見た光景だった。

 

これは…トータスという星に刻まれた怨嗟の声。

 

次々と処刑される人間。

 

『私は彼らに傷薬を与えただけだ!!魔人族のものにだって争いを好まない者はいる!!!』

 

そう言って処刑された…内容は全て見えないから理不尽かどうかは分からない。

 

だが、

 

その男を重力魔法で処刑しているのは

 

「ミレディ…そうか、彼女が」

 

『ライセンの法は絶対…どうせ無意味なんだ…無意味だから…何も感じない方がいい…』

 

…戦力勧誘で引き込んだつもりだったが、こんな光景を見せられては引き込んでよかったとさえ思えてしまう。

 

これはマジの子供の頃だから、俺達と出会うのはここから1000年以上も先だ。

 

次の死刑囚は異端扱いされた男だ。

 

『どうして神官様に暴力を?こうなると分かっていたはずです』

『…大変だな…嬢ちゃん』

『?大変なことをされましたね。分かっているなら何故』

『…そうじゃない。嬢ちゃんがそんな顔をしてるからさ』

 

『?』

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

『子どもが笑えねぇ世界に何の価値がある?』

 

 

 

 

 

 

 

ミレディの目が見開いた。

 

…あ、心が動いたのか。

 

…つまり、これがミレディの原初の原動力という事になる。

 

この死刑囚の男がミレディの心に楔を打ち込んだのだ。

 

そして、ミレディが無意識に望んていたモノ。

 

そして次の一言がその原動力を核心に導く言葉。

 

 

 

『いつか人は…自由な意思の元に生きられるってよ』

 

『自由な……意思…?』

 

『アンタだって…笑って生きていたいだろ?』

 

 

 

こうしてこの男もミレディに執行された。

 

 

この時、ミレディの心に波紋が生まれた。

 

 

 

 

『お風呂にする?ご飯にする?それともベルたんにする?ちっこいのに毎日お疲れ様~』

 

次の瞬間ずっこけた。

 

シリアスぶち壊し。

 

…このメイドはミレディの…?

 

まさか…

 

こうして映ったのはミレディとメイドが大の字に寝ている光景。

 

 

 

 

 

『愛したことが罪か!?』

 

 

…ミレディがかなり動揺している。

 

もう彼女は死刑執行の装置だけではなくなっている。

 

 

『ベル!!私が何とかする!!だからすべて話して!!』

 

 

ベルというメイドが牢屋に捕まって…酷いけがをしている。

場面が飛び飛びだから子細は分かりにくいが…この後の展開が読めてしまった。

 

 

 

『私の名はベルタ・リエーブル。元は聖光教会総本山大司教に名を連ねる信託を受ける巫女よ』

 

 

 

 

…俺は無意識に自分の胸を抱くように蹲る。

 

 

手袋が外された手で俺の手を握る暖かい感触。

 

デジタルデータなのに確かな温もりがある。

 

「杏子…」

「…フ」

 

彼女は微笑み、俺に寄り添う。

 

ここは俺の夢であり、星の記録であるはずなのに、杏子がここにいられる理由。

 

優花や他のメンバーがいない理由は…1つしかない。

 

「そうか…デジシンクロ状態だからか」

「そうだ。私とキミは魂が繋がっている。私も記憶回復前はなんとなくしか分からなかったが、記憶回復後も何回か意識を共有してこうして来られるようになった。…優花やミレディが羨ましがるかな」

「…もう何回も見ているはずなのにまだ慣れないなんて…情けないか?」

 

震える俺の手を杏子が握りしめる。

 

「…おや、キミはこの発作を予想して私と一緒に寝たのではないのかい?」

「…いや、発作は不定期だ。樹でも完全には干渉出来ない…が、杏子という前例が現れたのなら、共有できるかもしれない」

「そうか…いや、ヒトであれば当然の感情だ。恐れすぎるのもいけないが、慣れ過ぎるのもまた良くないことだ。…デジモンの私に言われても実感はわかないかもしれないが」

「デジモンこそヒトの精神に影響されるだろう。ロードナイトモンやアルカディモンが著者だしな…お前と暮海杏子は精神性がほぼ同じだからいい塩梅になってるが」

「そうだったな。…それにしてもこれが…」

 

 

杏子がベルが無残な姿でいるところを見る。

 

ミレディが駆け寄ってベルを回復させるが…回復が追い付かない。

 

魔力が霧散される環境もそれに拍車をかけている。

 

『手を取り合う事は…罪かしら?情をかわすことを…好きな事を好きというのは…罪…ですか…?』

 

『罪…なんかじゃない!!』

 

『妹みたいに…』

『姉みたいに…』

 

『『思ってた…』』

 

 

願わくば…人が…自由な意思の下に生きられる世界になりますように…

 

 

 

 

『進示様。…いえ、■様。何度でもいいます。本来神も天使も必要以上に人の世に干渉しません。

どうしても関わる必要があるときは力を制限し、一定の条件のもとに転生者と契約します。

 

転生者を守護し、その手足となるのは人類の手に負えないものから人々を守るため。そして天使にも情はあります。共に暮らし、ともに戦えば絆されることも決別することもあります。

 

…私は進示様の幸せを願っています。そのためにこの私を如何様にもお使いください。

進示様ならば私の力を悪用しないでしょう。

 

…実のところ、貴方様は面倒くさがりで、支配することも『管理が面倒だから』という、人が聞けばしょうもない理由でしないでしょう。善行も目に見える範囲でしかしない。悪行もむやみに犯さず、しかし、本意ではないのに必要悪で泥を被る。善意と義務と罪悪感の間で揺れながら。…ですが、だからこそあの方と私は貴方様を選んだのです。打算がないとは言いませんが、だからこそです…フフフ、矛盾した感情で動くなんて…私も人間臭いですね』

 

 

そんな声を思い出した。

 

…ああ、もう。こんな時に思い出すなんて…抱きしめてあやしてほしくなるじゃないか。

 

 

 

 

 

「…」

「予想より30分ほど早い目覚めだ」

 

添い寝をしている杏子に声を掛けられる。

アレはしてないので服を着たままだが。

…こういう時こそこの温もりがあってよかったと思う。

 

 

「…視てただろう…?」

「ああ。話には聞いていたが、今回初めてはっきり実感した。これからは悪夢にも寄り添おう」

「ありがとな。…通信設備の整備を頼む」

「大丈夫か?」

「樹もお前も優花も知ってるが…ミレディにも話そう…隠す意味はないからな」

「…そうか。時間はそれなりにある」

 

そう言って、杏子は優花とミレディに『進示を慰めてほしい。例の発作が起きた』と説明し、自分は通信設備の整備に向かった。

 

夢の事をミレディに話したら、最初は驚かれたが、徐々に俺の能力と視た記憶が符合することを悟り、すぐに俺を抱きしめるようにしてくれた。

優花もミレディのあまりの境遇に絶句してたが、優花は俺だけじゃなく、ミレディも抱きしめるようにした。

 

これがハジメの見た朝の抱擁の正体である。

 

…そう言えばデジモンがゲーム以外で実在することは何人かは知らないぞ。

 

あ、俺も人の事言えない。

 

別室からエテモンとギルモンが出てきたときは叫び声があったが気のせいやろ。

 

 

 

 

 

日本某所

樹視点

 

「来ました。杏子ちゃんが回線を開きます」

 

私の言葉に気を揉む生徒の保護者達。

 

新しく連絡を取れるのは菅原さん、宮崎さん、相川さん、仁村さん、玉井さん、そして畑山先生だ。

 

記録映像を見る限り、最大の成果は、解放者のリーダーにして最後の生き残りであるミレディ・ライセンさんの加入だろう。

しかも癖はあるものの、エテモンという強力なデジモンの加入もある。

 

あまり生徒さんを戦力呼びしたくはないが、優花さんの短時間での大幅な成長、デュークモンへの進化。

 

そして、まだ粗削りではあるものの、将来有望なシア・ハウリアさん。そのパートナーデジモンのパタモン。

 

そして杏子ちゃんの新しい武器…世界の意思が働いてるようにも感じるが、進示様が【友愛神殺剣】と名付けた神殺しの武器。

 

…天使としてどうかとは思うが、実は個神的に一番の成果はこの神殺しの剣だ。

 

私たちがトータス召喚前から戦おうとしてたものの敵の規模と性質を考えると、これは欲しかった剣だ。

 

イレギュラーなトータス召喚であり、かかずらってはいられない…はずだったが。

 

「やはりシュクリスが動いていましたか」

『ああ、ミレディの証言と、特徴が一致する。そのシュクリスはお前より格上だったな?』

「ええ。ですが気になる点…頭の痛すぎる案件がありますね」

『地球の神霊が7柱も召喚されている。これ本来究極体デジモンが何体いても我々の手に負えない案件だ』

 

進示様の言葉にざわつく周り。

通信していられる時間は限りがあるので話を強引に進める。

 

「そう悲観することもないかもしれません」

『分霊だからだな。本体と違って、【人類が知恵と技術と力を振り絞ればなんとかなる】範囲の強さに収まっている』

「その通り。神を形成すものは信仰。その信仰はヒトの祈りである以上、人類がどうにもできない規模以上の力にはなれない」

 

つまり人類の敗北は100%になる事はない。

 

7柱の神霊は転生者と天使の討伐対象ではないが、無視して通れる問題ではなくなった。

 

ただ、この問題を呼び込んだのは

 

「エヒトでまず間違いないでしょう。それと…イーターが召喚された形跡もあります」

『…やはりか!』

 

どういう理由で召喚したかはまだ不明だが、推測は可能だ。

 

ユエさんが叔父上からされた仕打ちと封印。

 

ユエさんの再生能力は魔力が尽きるまでだ。

 

不死身に近い肉体だが、叔父上がユエさんの魔力が尽きるまで攻撃せず、封印にとどめた理由。

 

杏子ちゃんが察した。

 

『そういうことか。…依り代を地球から調達しようとしたのか』

『…そういうことか!!』

 

進示様がやや遅れて察したようだ。

他の面々は「?」顔だが、簡潔に噛み砕いて説明するには…。

 

『すぐ気づくべきだったなぁ』

「進示様は探偵ではありません。…我々がサポートしますから、万能である必要はありません」

 

進示様をフォローしつつ、話を進める。

 

進示様が持つ知恵も力も既に凡人のものではないのだが、正直それでも厳しい戦いになると言わざるを得ない。

だが、進示様の精神性は意外と凡人の域を出ないし、どれだけ鍛えても出られないだろう。

 

少なくとも、【一人で勝手に成長できる】ことを天才とするならば。

 

だが、孤高の天才ではダメなのだ。

 

繋がりを持つ凡人でなくてはならない。

 

だが、それでも常識の埒外を持つ力でないと太刀打ちすら出来ずに蹂躙されるしかない災害。

 

一般人の中にそれが出来る人材はなかなかいないのだ。

 

力があってもそれをむやみにひけらかさず、かつ、面倒ごとを避けたがり、それなりの俗物的欲求があり、しかし、必要な時は戦える人材。

 

コミュ障の進示様を選んだのはそう言う理由もある。

 

…この世界で一番の適性者はハジメさんかしら?

 

「エヒトは存在するだけで世界を物理的に揺るがすエネルギーを持つわけではないようです。

となれば、人間が信仰で神に昇華したタイプ。ならば神気を観測しながら神として格が低い理由も頷けます」

『うわぁ、あのクソヤローを【格が低い】で済ませるなんて…それが本当ならクソヤローもミレディちゃんも井の中の蛙だっけ?そんな感じなんだなぁ』

「貴女がミレディさんですね?私が双葉樹であり…」

 

そう言って、私は神気を解放し、4枚の翼を持つ大天使になる。

 

映像越しで私を見たミレディさんは圧倒されているようだ。

 

映像の向こう側の畑山先生と生徒の人達も本能で跪きそうになっている。

 

他の保護者方はもう見慣れた光景ではあるが。

 

いけない、神気を強くし過ぎた。少し抑えて…

 

「膝まづく必要はありません。楽にしてください。敬語も不要です。そして、大天使トレードとも呼ばれる存在」

『因みに階級は大天使、系列は維持神、管轄は情報管理警備だ』

「ミレディさん。記録映像を拝見しました。進示様が貴女を迎え入れるなら私も歓迎します。貴女の戸籍も用意しておきますね…戸籍というのはステータスプレートのような身分証という認識で構いません。私達は世界の外側からくる災害と戦わねばならないので、安息ばかりの暮らしではありませんが、貴女の好奇心を満たせるものも溢れています。勿論一定のルールはありますが、貴女であれば適応は難しくないでしょう。

…失礼を承知で言わせていただきますが、進示様の見た夢の記録、不完全ですが、見させていただきました。齢二桁に満たない年齢で処刑人を務めて、紆余曲折あって神の世界を卒業し、ヒトの自由意思を示そうとし、戦いぬいた貴女の功績に敬意を。」

『…!!』

 

私の言葉にミレディさんが感極まる。

 

「仲間が全滅しても1000年以上もの間たった一人でよく頑張りました。そして、進示様や杏子ちゃんと出会ってくれたこと、ありがとうございます」

 

『は、はい!!』

 

「それから、進示様はお気づきですか?」

 

『ああ、ミレディの周りをモヤモヤしていたが、樹の言葉で確信を持った。オスカー・オルクス。ナイズ・グリューエン。メイル・メルジーネ。ラウス・バーン。リューティリス・ハルツィナ。ヴァンドゥル・シュネーだな?』

 

 

『え!?みんないるの!?』

 

進示様の言葉にミレディさんも…杏子ちゃんも驚いている。

 

『どうやら6人とも1000年以上もの間魂が霧散せず意思だけ留まり続けたようだな。普通はあり得ないぞ…ただ、会話も出来ないし、』

「シュクリスがミレディさんの肉体しか復元できなかった理由は、復元出来るほどの魂が残っていないからですね。ミレディさんが特殊なケースでしょう」 

『ニコちゃんマークのゴーレムに自分の魂を定着させて生きながらえていた。…迷宮で何があったかは、時間があれば記録映像を見せよう。…肉体の復元については気になるところがあるが、今は関係ない。…シュクリスの術式ではなさそうだしな。話をユエに戻す』

「エヒト神は完璧な神ではないが故に長生きし過ぎて自らの肉体を持ちません。現在は魂だけの状態で生きているのでしょう。…それにしては反応が弱すぎますが」

 

そう、魂だけの状態で生きてるのなら反応はあるはず。

 

…感知できるそれらしい霊体反応はオスカーさんたちより弱々しい。

 

『?』

「…いえ、続けましょう。エヒトが自由に動けるようになるには、誰かを依り代にする必要があった。…それがユエさんです」

『!』

 

モニターの向こうのユエさんは目を見開くと、次第に震え始める。

 

『叔父様は…私を守ろうとしていた?』

『十中八九な』

 

ユエさんの推測にほぼ間違いないと告げる杏子ちゃん。

 

『だが、ユエくんが見つからなかったのだろうな。他の世界からそれなりに依り代に適した人物を調達しようとした。…それが天之河光輝だ』

「光輝が!?」

 

天之河さんのご家族が叫ぶ。

『あの時魔法陣が天之河の足元に出てたからな。俺達は単純に【近くにいたから巻き添えになった】だけ。…だが、それで天之河を責めるのはお門違いだ。立案・実行犯はあくまでエヒト』

 

そう、それは進示様の言う通り。

 

『だな。少々思い込みは激しいが、召喚に関しては天之河光輝は完全に被害者だ。勿論我々もな』

『さて、エヒトがどうなったかを知りたいところだが、現在俺達は仕事で行方不明者の捜索をしなくてはならない。考察は時間がかかりすぎるから、こっちを先に片付けよう。今の話は思いのほか時間を取った』

『ハジメ君、申し訳ないが運転を任せていいかな?』

『あいよ、暮海。進示はこの合間の時間で少し寝ろ。ミレディの処置で疲れてるだろ』

『助かる』

『さあ、先生。それから皆。この合間時間でそれぞれの親御さんと好きなように話すと言い。…先生たちの別の目的も恐らくは』

 

そこまで言って杏子ちゃんは先生を見る。

 

先生はまだ何も話していないのに、なんでわかったのかと聞くと。

 

『初歩的な事です。昨日レストランで再開するときに、清水幸利の名前が出てて、『どこに行ったのか』と話されているのが聞こえましたから』

 

杏子ちゃんがエア眼鏡をくいっとしながら答える。

 

…眼鏡杏子ちゃんも可愛いかもしれないわね。今度買ってみようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

「どうした?」

「もしかしてコレって、どんな夢も共有するってことは」

「ああ、性的な夢も共有してしまうだろうな」

「プライバシーもクソもない!?!?」

「ははは、私とて守秘義務は心得ている。大丈夫。キミと私はどこまでも運命共同体だ」

「…樹も知ってて言わないんだな」

「私もキミに不利になる事は吹聴しないさ」

「『不利にならなければ話す』って事でもあるだろう。赤裸々な事を…!!」

「彼女たちはどんなキミも受け入れると言った。大丈夫さ…しかし、これは考えようによっては便利かもだぞ?」

「なんだよ」

「これからは夢の中でも情事が出来るな。しかも夢だから誰にもバレない!夢の中だから法にも問われない!これから先転生して肉体年齢が幼くなっても夢の中だから遠慮なく出来る!」

「お前デジモンなのにとんでもない発想するな!?」

「ミレイも想像してなかったかもしれない!」

「しねーよ!?」

 

 

 

 

「ミレディ」

「?」

「他の解放者の言葉は聞こえないほど魂が弱っているが、言わんとしている事は…感情はなんとなくわかる」

「…な、なんて言ってるのかな?」

「『ミレディのやりたいことをやっていい』ってさ。みんなお前の自由意思を尊重している」

「…!こんな短い期間で何回泣かせるのさ…。ありがとう…みんな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子の記憶が回復したので観測できるようになった御神楽ミレイはというと…。

 

「杏子、貴女がそういう関係でいいなら私は特に口出しはしないけど、そんな発想をあなたの口から言うこと自体予想g…いえ、ある意味好奇心旺盛なアルファモン(貴女)らしいけど」

 

 

何やら悟った口調で薄ら笑いを浮かべていた。

 

そしてミレイは手元のノートパソコンを叩く。

 

「七大魔王を倒そうが倒さまいが、どっちにしろ別の形で別の世界に面倒ごとが流れるのね。

…ええ。ちょうどいいわ。こういった経緯で彼女は今も戦っているのよ。不可抗力で杏子がパートナーにならざるを得なかった彼もあなたを助けようとしてくれてるし、貴方に会わせようともしてくれている。…彼等に力を貸す気…ある?」

 

ミレイは目の前の赤毛の少年に問いかけると少年は迷いなく頷いた。

 

「人がいいわね貴方。じゃあ、そのままじゃ戦えないから、すぐにはトータスに行けない。行っても殺されるだけよ。戦力を整えることからね。貴方が育てたデジモンは向こうに連れていけないけど、暮海探偵事務所…依頼で縁があったデジモンなら連れていける。

…杏子がピートと名付けたワニャモンもそうだし、軍の兵器にされてしまったタンクモンも同様ね」

 

ミレイがそう伝えると、少年は直ぐに心当たりを探し始める。

 

「一先ずは今あなたが思いついたデジモン達を連れてくるところからね。全員は連れていけないでしょうから人選は任せるわ」

 

少年はは不敵に笑った。

 

「頼もしいでしょ?彼は」

「ええ…私も半電脳体というモノになってしまったときは困惑したけど…あの彼の頼もしさはあのデジモンが私だった時の影響なのね?」

「ええ、暮海杏子さん」

「世界が消えてしまった時もどうなるかと思ったけど…何とかなるのかしら?」

 

【本来の】暮海杏子がミレイに問いかける。

 

「なんだかんだで何とかするわよ。波乱万丈な展開はあるでしょうけど」

 

 

「そうですよ、杏子さん。それに子供が笑える世界がいいことだって言うのは共感出来ますから」

 

少年は力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それから、海ぶどう粒あんコーヒーはいかがかしら?」

「元々趣味じゃなかったけど…そうね、飲まず嫌い話良くないわ!」

「うん!美味しいですよ!」

 

 

 

この場面に又吉刑事や真田アラタ、神代悠子、白峰ノキアがいれば全力で止めに入っただろう。

 

ストッパー、不在。

 

 

 

 

 




進示。完全にプライバシーを失う(ついでに樹には気を使われてただけと知り、さらに凹む)。
デジシンクロで杏子が夢にも介入できるようになったため、無意識領域の趣味嗜好も完全に駄々洩れ。これはキツイ。
それに優花やミレディに羨ましがれる。

???「あ、進示のプライバシーは私も完全に握っていますから!でも、ヒトってプライバシー握られることに耐えられないから、どこかでお詫びをしないといけないですねぇ。でも私の下着で【ピーッ!】はしなかったんですね?ちょっと意外でした。してもよかったんですよ?」


サイバースルゥース、始動。

しかし、世界が失われたため、現在サイスル主人公と本来の暮海杏子は半電脳体の状態になった。主人公は2回目の経験である。

この二人は七大魔王を放置したままエンディングを迎え、歴史改変が行われてしまった世界線である。


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年の瀬特別編…でもあり本編でもある。年越しは想い出に

今回は特別編です。が、本編に絡む要素も…

それと、本編を少し前倒しする情報があります。




進示視点。(肉体年齢11歳時)

 

 

 

「おせち料理ですか?」

「ああ、お正月はそう言った料理やお雑煮を食べたりするのさ。地球とジールの時間が同じ流れなら、もう今年はこっちで年を越すことになる」

「うん!おせち料理もお雑煮も美味しいよ!」

 

杏子顔面の笑みで言う。

 

ミリアは少し思案顔になり

 

「こっちではおせちもお雑煮も【本来は】ない文化ですから、こっちの習慣のお料理でよければ出しましょう。ですが進示の前世は北海道で過ごしたんですよね?ですよね?北海道ではおせちは12月31日に食べるんじゃないですか?」

「…毎度疑問なんだがお前、地球には行ったことないはずだよな?あと、何故2回【ですよね】言った?」

「…いい機会ですから教えておきましょう。まずはこれを見てください」

 

そう言ってミリアは亜空間倉庫から4つの携帯端末を取り出す。

 

…おい!これはまさか!!!

 

 

「…初代から4代目のポケベルサイズのデジモン!?ボタン電池で動く!?」

「これ、対戦型たまごっちって言われてたあの?」

「そうですよ。それにはボタン電池は入っていませんが、新品がいくつかありますから、出しますね」

 

そう言ってミリアはボタン電池も出す。

 

俺は興奮してミリアからゲームを取り上げ、起動させる。

 

杏子も興奮した様子で、端末をいじっている。

 

「…!!」

「進示達が過ごした時代のゲームに比べればレトロですが、息抜きも必要でしょう。

…厳しい授業をしているのは申し訳なく思っていますが、今後を考えれば必要ですから」

「…つっても今日も野営だよな。ん?【本来は】おせちはない?」

「…耳ざといですねぇ。…よし!少し回り道になりますが、西の都市に行きましょうか。

異世界から流れてきた異文化大都市があるんですよ」

「異文化大都市ってのは仕入れた知識たが…異世界だと?」

「はい、異世界から召喚されたり、進示みたいな転生者が築いた文化の街です!」

「は!?」

「え!?」

 

 

ミリアの言葉に驚く俺達。転生者が何人もいるのか!?

 

「と言っても、現役世代的な転生者はもういません。

…以前も言いましたが、ここは異邦人や転生者に頼り過ぎた世界。

報酬を払っていればまだマシでしたが…いや、最初の300年はお金だったりハーレムだったり、のんびりする時間だったり、様々ですが、活躍した人が納得する報酬が払われていたんです。

…ですが、お師匠さまも含めて活躍した人を迫害したり、功労者なのに罪を被せたりした状態がもう7世紀も続いているんです」

「7世紀!?…いや、待て!その言い方だと師匠もジールの住人じゃない!?」

「…そうなんです。力で捻じ伏せるは極端ですが、この世界はもう英雄への感謝を忘れて久しいのです。だからお師匠様の言葉も一側面では正しいのです…転生者がいなくなったり召喚されなくなったのは星からの警告かもしれないですね」

 

星からの警告…。

 

「どんな世界にも拘らず星は自分たちで頑張る人間に絶対ではないですが、支援する傾向があるんです。勿論、異世界人に頼るのは時として必要だったり、何もできない人がいたりするだけで目くじらは立てません。物理法則が存在する時点で誰もが幸せになれる世界等ありませんし、宇宙も神様も多様性を認めている以上、才能あふれる人と何もできない人が出てくるのはある意味しょうがない。何もできない人、悪人にも支援したりするのは、成長のために必要な起爆剤なのです」

「成長…」

 

俺としては迷惑極まりない仕組みだが、世界のバランス上仕方ないことなのだろう。人間が定めた法ではなく、物理法則的な意味で。

 

「ハーレムは?地球じゃ風営法とかこっちより結構厳しいぞ?」

「ヒトの定めた法律と星が裁定する基準は違います。同じ括りで量ってはいけません。

ヒトが定めた法が素晴らしくても、星にとって害悪であればその世界は処断されます」

 

うあぁ…これ、殆どの人間が信じたくないことだぞ…。

 

「誰かがいじめられる。誰かが犯される。誰かが殺される。誰かに責任を被せたがる。サルがヒトに進化したのは知恵を持ち、道具を使い、文明を築き、外的、災害に対抗出来るうようにするため。しかし、知恵持つものほど如何に巧妙に搔い潜り、欲求を満たすかを考えるようになる」

 

「…」

 

「記憶が戻ってない杏子にはまだ呑み込めませんね」

「…俺達がデジモンを使うことは悪か?」

「私見ではありますが悪でしょう」

 

…もし俺がマジの11歳だったらもう少し優しい言葉をかけたかもしれないが、ミリアははっきり言い切った。

 

「人間はデジモンより弱いです。力もそうですが知恵もです。学習速度も人間の方が遅すぎますし、自分たちより強力な兵器を使って我が物顔で自分の力としてますから」

 

グサグサ刺さる痛い言葉。

 

「…そうか。もう少し利用される側の事を考えるべきか」

「…進示。ですが、杏子もあなたお友達のデジモンも、貴方達と一緒にいることを不幸だと思っていますか?」

「ううん。思ってないよ!」

 

杏子がきっぱりと言い切った。…ありがとう。

 

「世の中はロジックで片付けられないことがたくさん溢れています。正義感も正しいことも行き過ぎると毒です。【薬も過ぎれば毒になる】でしょう?法もガッチガチに固めちゃうとヒトは反発します」

「…」

「進示。あなたは【迷子】なんですから、必ず正解にたどり着かなきゃ…最適解を選び続けなきゃいけない事なんてないんです。そんなこと神様だって出来ません。天使様だって多分あなたの事を模範的人間でいろなんて思ってないはずですよ」

「…」

 

まあ、俺は私生活の様子はお世辞にもよくないが、殆ど怒られたことはない。

 

ジール召喚前は樹の教えでパソコンを自作できるようになった。

 

 

前世の俺はこんなに物覚え良くないんだが。

 

 

「まあ、この後天使様はあなたが地球に帰った後に進示の戸籍上の年齢上児童猥褻と分かっていながら【ピーッ】して【ピーッ】して泣きじゃくる進示を赤ちゃんみたいにあやして…」

 

「何の話だゴラアアアァァァァァァァァッ!!???!?」

 

何だこの未来が分かってるような物言いは!?

ていうか俺泣きじゃくりながら食われる!?

 

「大丈夫ですよ!女子高生にも慰められますが、その人もちゃんと進示を受け入れてくれますよ!3Pで!大丈夫、私は不順異性交遊何て言いませんし、ロリコンになっても軽蔑しませんよ!」

 

3P!?3Pって言ったかコイツ!?ってか女子高生!?

ロリコンってなんだ!?俺はお姉さんがいいんじゃあ!!

 

あ、因みにミリアは172のGカップだ(目測)。

 

…まあ、人間性を好きになったら体型何てどうでもよくなるかもだが。

 

今は杏子を護らなくてはならないが、戦闘だと杏子に甘えてる部分も大きいし、記憶戻ったら頭上がらなくなるかも…なんか手に職つけるかなぁ…。

 

「よし!こうなったら今この場で3Pしましょう!私も赤ちゃん産めないまま死にたくないですし!!」

「おい!生まれ直して2年経ってない杏子をまきこむな!」

「大丈夫大丈夫!中身の年齢は3人ともセーフでしょ!私も杏子も数世紀は生きてるんですし、おばあty「メタルキャノン」うげっ!?」

 

調子に乗った発言をしたミリアが杏子の鉄球に吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

『赤ちゃん産めないまま死にたくないですし!!』…か。

 

すまないな…。俺の不甲斐なさに付き合わせて。

 

 

 

翌日の夜。

 

「はい!年越しそばです!」

「あんの!?」

「美味しー!!《ズルズル》」

 

杏子がもう蕎麦をすすってる!?

 

因みにミリアは赤い髪の上に冗談のようなデカイたんこぶの上に冗談のような絆創膏を張ってる。

 

昨日のメタルキャノンのか。

 

ミリアも蕎麦をすすりながら答える。

 

「これも昔転生者が持ち込んだ文化です。おせち料理は残念ながらありませんでしたが、馬肉鍋を食べましょうか!精力付きますよ。特にさn「もういいから。後ここは飲食店」…さいですか」

 

コイツ師匠がいなくなってからエロネタが増えたな?

 

「日本では日没が1日の始まりと唱える説があるのさ。【年取り善】だったかな?旧暦ではまさにそれさ。北海道ではこの風習が残ったから、大晦日におせちを食うのさ。…杏子の記憶がありゃ、さぞ、雑学知識披露してくれただろうが」

「聞きたかったですね、インテリ杏子」

「えっへん!」

 

今は記憶もなく精神年齢も肉体年齢も低いので、何をやっても可愛く見える。

……………ロリコン説否定しづらくなった。

 

「この馬肉鍋は味噌ベースのスープか?結構美味いな」

「そう言っていただけて良かったです!ホントは料理したかったのですが、家庭では手に入りづらい食材もあったので…」

「気にすんな。それくらいでピーチク言わねぇよ。杏子のかつての助手なら食レポやっただろうが」

「へえ、どんなレポートでしょうか」

「…まあ、色々マニアックなレポートだ」

「それもゲームの知識ですか?」

「…お前、本当にどこまで知ってる?」

 

それを問うが、これを知ってるのは本当に限られた人間だけだ。

 

杏子にも説明はしてあるが、否定はしていない。

 

自分を拒絶もしていない。

 

そして未来視持ちのフェーと交流が深いというが、それだけでは説明がつかない知識量だ。

 

「…1つは【魂の共感】。今進示が私から習ってる術ですね。ヒトの性質のみならず、星の記録すら読み取れるもの。まあ、使いこなせればですが」

 

星の記録だと!?まるで観測者のような能力じゃないか!

 

「まあ、科学的な立証とヒトの心がどれだけ真実を直視できるかという問題がありますが、捏造なしの記録すら閲覧可能になるものです。…もう一つは…」

 

もう一つは?

 

 

 

 

 

 

「私はどうあってもこの世界で命を落とす。

…ですから、どうやって生き延びようか、その反則的な方法を模索しています。進示【様】」

 

 

 

 

 

 

その顔が…俺の知る女性と被って見えた。

 

 

「おっと、私、何か言いましたか?」

「…お前…」

「ではもう一つヒントを。とある偉大なお方の【知識】何ですよ。…進示も良く知ってる」

 

「…偉大なお方?」

 

 

進示は考える

 

(まあ、少なくともアレではあるまい。俺が知ってるなら他のメンバーの世界の者じゃないな)

 

 

 

 

 

ジールに進示がいた頃、平行世界の地球より。

 

「関原、これいつまでかかるの?オイラ流石に飽きてきた」

「小山田。宇宙人が戦艦で地球を責めてくる光景はどっかのゲームであった気がするけど、全滅させるまで元の世界に帰れない?」

 

ムゲンドラモンになってる小山田とブルムロードモンになっている関原。

 

《撤退は許可できない!戦闘を継続せよ!》

 

宇宙戦艦を撃ち落としながら無線を傍受する二人。

 

軍に入ってるわけじゃないので、盗聴した。

 

デジモンと同化している今そんな芸当は簡単だ。

 

「またGか!?」

「せめて戦艦は回収したいな。一機でいいから」

「一発でジャンボジェット機粉砕できるようなスナイパーも欲しいな」

 

「今年はこっちで年越しかぁ」

 

 

 

 

 

シュクリス視点。(時系列は秘密だ)

 

 

今、エヒトルジュエが消えた神域においてシュールな光景が映っている。

 

私が作った年越しそばをすすっている、竜兵とドラコモン、そしてスレイプモンとマグナモン、ドゥフトモン、クレニアムモン、デュナスモンだ。

 

…年越し蕎麦とは言ったが、地球の元旦はまだ先だ。

 

…にも拘らず妄年末料理を食べている。

 

 

 

蕎麦?勿論10割だ。しっかり麵は繋がっている。

 

「暖かい蕎麦だというのにしっかり繋がっている」

「何故我々が人間の食事に付き合わんといかんのだ」

 

そう言って文句を垂れるドゥフトモン。こいつは人間破滅派だったな。

 

「フム。2:8蕎麦も捨てがたいが、やはり蕎麦は10割が至高(嗜好)

 

そう言ってかなり真剣な感想を返すのはスレイプモン。

 

前の世界ですっかり人間の食文化に目覚めたか。

 

「そうは言ってもロイヤルナイツ5人がかりでこの女一人にやられたではないか」

「貴様らが10体以上であれば流石に危なかったが、今使える力なら5体は余裕だ」

「ロイヤルナイツも半数以上行方不明ですからね」

 

そう言って落ち着いて蕎麦をすするのはマグナモン。

コイツは相羽タクミと白峰ノキアの活躍で人間の側についていたはずだが…争いばかりのこの世界で再び迷いが生じたか。

 

「貴様らが【ファング】と名付けたイーター…。イーターは精神データのみを喰らう存在だったが、ヒトの肉も食うようになって名称を変えたそうだな」

「まあ、区別のためにな。誰も争わない、誰も犠牲にならない世界は物質界のどこにも存在しない。

余計な被害を他の世界に伝播させず、世界を丸ごと破壊させないための破壊神だ」

 

 

まあ、私の息子は一般人として生きるために私と縁を切ったが、ある所業に手を出してしまい、デジタルハザードを発生させ、ファングの進化をさらに加速させてしまった。

 

…故に、これは私が払うツケである。

 

榊原進示と、強引に口づけを交わした私は榊原進示と仮契約の状態にある。

 

…本契約は性交渉の必要はないが、儀式は裸で行う必要がある。

 

私たちの羽のように生体組織上のもの以外はアクセサリーも外す必要がある。

 

仮契約だけなら口づけでも可能だ。

 

転生者が複数の天使と契約を交わすことは禁じられていないが、天使が複数の転生者と契約を交わすこともまた禁じられていない。

 

後者は滅多にないケースだが。

 

「…お前の指示で榊原進示と仮契約を行ったが、これでよかったのか?」

「ああ。これが最期の年越し蕎麦になるかもしれないな…」

 

…【最後】ではなく【最期】と来たか。

 

もう竜兵は生き延びるつもりはないのだろう。

 

「お前の息子が榊原進示と暮海杏子の生体データを盗み出したツケもあるだろう。ゴホッ!」

 

竜兵が喀血する。

 

その様子にデジモン達もさすがに困惑する。

 

「無理をするな…」

 

 

 

私は応急処置をしながら言う。

これは病であると同時に寿命が近いこともある。

 

ただの人間の体で無理をし過ぎだ。

 

…本当の元旦を迎えるころにはもう食事もままならないかもしれないからだ。

 

 

「…俺に最期まで…病になってもついてきた女はお前だけだな」

「…」

 

竜兵もいわゆるハーレム主と言ってもいい経歴はあるが今はもう私以外は誰もいない。

 

…私のさらに前の契約者であり、私に種を植えた男もいない。

 

私の息子もハイネッツとともに消えた。

 

「…まて、創造神の方の大天使がいるだろう」

「…アレは信用するな」

 

初めてこいつのもう一人の契約している大天使を【信用するな】と言った。…何故だ?

 

「…病で弱気になって口を滑らせた」

「…話すつもりはないと?」

 

 

口を閉ざしてしまう竜兵。

 

…ダメだ。読心も出来ない。

 

私は今までも、これからもどれだけの男を見送るのだろうか。

 

人類誕生前からいる私だが、この離別は何度経験しても、考えさせられる。

 

天使である以上は契約者の選択を尊重しなければならない。

 

それがルールだ。

 

転生してさらに私を連れまわすか、私との契約を切るか。

 

竜兵は後者を選択した。

 

 

…榊原進示は?

 

私を連れまわすだろうか。それともさらに次の契約者に私を委ねるだろうか。

 

 

 

「今一度問う。神童竜兵。お前は次の世界へも私を連れまわす権利がある。

 

私を戦力として使うも、誰かの世話係として使うも、私を愛でるのもお前の自由だ。

それを放棄すると?」

「何度も言わせるな。…もう決めたことだし…もう転生は疲れた」

「500年余りの人生に幕を閉じるか。そうか…。私とお前の契約は30年に満たなかったな。ドラコモンはどうする?」

「好きにしろ。出会いがあれば別れも必定」

「竜兵」

 

喀血した時に駆け寄った時に年越しそばをこぼしたのだろう。

 

食器も割れている。

 

「岸部リエとの契約も守る…ロードナイトモンとの契約を。【イグドラシル】の復活…。まあ、そこから先は白紙だが」

 

ロードナイトモンと聞いてロイヤルナイツたちがピクリと反応する。

 

「一応書面にもしたが、イグドラシルの復活までだ。そこから先は知らん。貴様らがイグドラシルとのつながりを求めるか、人間をパートナーに選ぶかは好きにしろ。貴様らは私情も多いが自分自身で考えることは大切だ」

 

「馬鹿な…イグドラシルこそ絶対。崇高なるイグドラシルこそ唯一無二…」

 

ドゥフトモンが言う。

 

「…その割には機能不全に陥ったり、極端な判断をしたりと、まともな働きをした例の方が少ないな」

「…貴様!」

 

私は竜兵を守るように立ちはだかる。

 

ドゥフトモンは私に完膚なきまでにやられているからか、おとなしく引いた。

 

「あまり挑発するな」

「…」

 

私が注意すると黙る竜兵。

 

「おい」

 

そうすると私に声をかけてきたのはスレイプモンだ。

 

「そばのお代わり。それと、お雑煮なるものを寄越せ」

「地球の元旦はまだ数時間先だがよかろう、作ってやれ」

 

契約者の指示なので、作りに行かなくてはならないか。

 

「それにしても、イギリスに行ってきて何を持ってきた?」

「なに、それなりに神様に対抗できるものだ…」

 

そう言って、竜兵はドラコモンを見る。

 

 

()()()()()()()だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時系列はまだナイショ

 

 

現在尋問をさせられている進示。

 

言うまでもなく、シュクリスに口づけされた件だ。

 

「本当に心当たりはない。推理は可能だが」

「推理?」

 

うら若き乙女としてのモヤモヤ感はあるが、進示の決めたことなら受け入れると言った。

しかし、それはそれとして話だけでも聞きたい。

 

「…アイツの契約者は死ぬつもりかもしれない」

「…なんですって?」

 

それは流石に穏やかじゃない話題なので、全員に緊張が走る。

 

「なるほど…死んでも魂が成仏するまでこの世にはとどまれるとは言え、天使は契約者が死ねば人間界にはいられなくなる」

「その保険として仮契約…筋は通るわね」

 

杏子が進示の推理を肯定した。

優花も天使のシステムは聞いているので、一応納得した。

 

『私の息子がハイネッツで非礼を働いた。その贖罪はいずれしに来る。本契約はその時に。しかし、今は神童竜兵の守護天使。本契約中の神童竜兵を優先するが、奴の意思とと心を損なわない範囲で手助けをしよう』

 

「非礼と贖罪…ね。俺やミレディに協力的だったのはこれが理由か?」

 

ハイネッツという単語が出た以上、心当たりは一つしかないと思った進示。

 

これも説明するとなると骨が折れる。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、お蕎麦と馬肉鍋ができましたよ~、私の故郷は今日が年越しです!地球の元旦はまだ先ですけど!

進示の尋問はそれくらいにしましょう!どうせみんなやっちy「黙れ!」はぐっ!?」

 

進示がヤクザキックをかまして蹴られた女性は転がっていったが、懐かしいやり取りが返ってきたと思う杏子だった。

 

新しい顔と懐かしい顔に迎えられ、杏子は微笑んだ。

 

「ミリア先生!?」

「くはぁ~!杏子のメタルキャノンに負けてませんね!地球ではこんな暴力制裁出来ませんからね!今のうちにストレス発散しないと!良し!ティオ!せっかくなので私と一緒にお尻の穴に杭を打たれなさい!」

「まだその下ネタ癖治ってないんですか!?…気のせいじゃろうか…お尻の穴に杭…うっ!頭が…!!?一歩間違えば妾が…!!」

「…なんか気のせいだろうか?鬼畜野郎の称号を回避したような…」

「ハジメ、大丈夫?」

 

思わぬところで不名誉な称号を回避した南雲ハジメだった。

 

 

 

 

 

「…進示の記憶は見ましたが、…八重樫雫さんでしたっけ?なんか不穏ですね…。

彼女が敵に回るとかじゃなくて…死相が見えますね…デジモンになって魔法が使えなくなっても分かってしまうほどの強い死相が…。やっぱアレ、進示に完成してもらうしかないですね。彼女は誰の恋人になろうが死ぬべき存在じゃないので…それと、檜山って人の裏にいるのって誰でしょう?私でも見通せない人物ですね…わかりません」

 

 

 

 

 

 

くしゅん!

「雫、風邪かい?」

「雫ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫よ、光輝、香織」

 

八重樫雫は「大丈夫」と口にする。

 

「そう言えばおじいちゃんが榊原君から馬肉鍋をもらったことがあるって言ってたわ。

私が風邪を引いたタイミングで」

 

雫はそう口にする。

 

「そういや俺も自分でも気づかない疲れに榊原が気づいてくれたな。『永山、お前このままだとオーバートレーニング症候群になるぞ』って」

 

永山がそう口にする。

 

「そう言えば影が薄いオレに気付いてくれるもんなぁ、気づいてくれるのは暮海もだけど」

 

浩介も口にする。

 

「…俺はあいつに首根っこ掴まれたぞ」

「光輝、あの時はアンタが大した証拠もないのにあの先輩に殴り掛かったからでしょ。

榊原君が撮った映像で証拠になったけど」

 

それぞれが進示の事を思い出す。

 

「私の時はハジメ君のハンカチを拾ったときに首根っこ掴まれ…」

「あの時の香織は一歩間違えば変態よ。…彼も彼で『せめて人目がないところでやれ』って言ってた当たり全否定はしなかったけど」

「え?普通じゃない?」

「……そう言えばクリスマスパーティーのプレゼントは割と適当だったわよね?」

 

もう手遅れと悟った雫は強引に話題転換をする。

 

「ハジメ君が言ってたけど、榊原君ってやる気があるときとない時の差があるんだって」

「へぇ」

 

実を言うと光輝や香織たちを交えたクリスマスパーティーの時は公安から依頼された仕事で選ぶ時間がなかっただけである。

光輝や雫たちと交流を始めたのは高校からだが、パーティーの誘いも突然だったので、尚更。

 

「プレゼント貰った時のキョウキョウの反応が可愛かったなぁ」

 

そう言う鈴だが、現在杏子は記憶が戻っているため、もう可愛らしい反応は見られないかもしれない。

 

…この杏子の豹変(?)で天之河光輝とこの後若干の悶着が待ち構えている。

 

しかし、クラスの女子からは「クールビューティー…ハードボイルドな杏子もイイ…!」と言われ、雫ほどではないが【ある集団】が出来てしまう。

 

「お正月の話を聞いたら、『以前は大晦日におせち食ってたけど、今は大晦日に馬肉鍋食って正月におせち食ってる』って言ってたわね」

「確か、大晦日におせちって北海道の習慣だよな?」

「それが何である年を境に馬肉鍋?」

「まあ、食事の好みは人それぞれね」

 

談笑で盛り上がる。

 

鈴はクリスマスパーティーの時の疑問を投げる。

 

「そう言えばエリリン。あの時榊原君とキョウキョウを睨んでたのは何で?」

「気のせいじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「香織は何で南雲何かに…香織は俺のものだ」

「おうおう、愛しい愛しい香織ちゃんを自分のものにしたいかぁ~?

そうだよなぁ…あんなオタクに学園の女神が靡くのはおかしいもんなぁ?…死んだはずなのにまぁだ引きずってるもんなぁ?」

「!?」

 

檜山大介が見たものは…

吸血鬼のような…舞踏衣装を着用したヒトに似てヒトではない何かがいた。

 

「な、なんだお前は…!!」

「警戒するなって~。お前さんのパートナーになりに来たデジモンさぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぐもぐ…うん、この煮物も出汁の香りが効いている…根昆布出汁か!

…うん!この黒豆も甘さが控えめ…もぐもぐ」

 

「スレイプモン、楽しんでいますね」

「ふん!人間の文化など低俗よ!」

「等と言いながら既に蕎麦も3杯目ではないか!」

 

デュナスモンに突っ込まれる。

 

「ふん、あの人間とブイブイと言われてたアルフォースブイドラモンに毒されたな…私も」

「ほう、別の世界のアルフォースブイドラモンには人間のパートナーがいるのですか…ん?平行世界が複雑に絡んでややこしいですが、あのアルフォースブイドラモンがブイブイでしたか!?…では我々と同じ次元のアルフォースブイドラモンはどこに…」

「オメガモンもガンクゥモンもジエスモンも我々の知る個体ではないな…」

「あの人間がバルバモンを笑顔で蹴っ飛ばしたと小耳にはさんだぞ…」

「…何者ですか?その人間」

 




デジモンになった龍の女性。
進示達が地球帰還後に大晦日に馬肉鍋を食べてると知り、大歓喜。
自分との思い出を大事にしてくれて嬉しかった。
そういうとこだぞ!進示君!



変態化回避の竜人族。

…素質はもとからあった模様。一歩間違えば危険。この世界では龍の女性のせい。


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第21話 暴走!復活!そして友情!

身内から代替機が借りられたので。
パソコンの退院はよ


杏子視点。

 

榊原進示について語るとするならば…

まず一言で言うと前世の進示は、優秀どころか何もできない無力な人間だった。

 

ん?何故私が進示の前世を知っているかだって?

 

【デジシンクロ】で、進示と魂がつながっているからな。

 

ミレディの過去を見たときについでに読み取らせてもらった。

 

最も、進示の前世を知れたのは記憶が戻ってからだったが。

 

無力というのは【社会的】にはという但し書きがつく。だが、日常生活においての気遣いができないわけでもなかった。

 

私も…まあ、多少サボる事もあるとはいえ、勤労意欲は高く、自分でなすべきことを見つけられるデジモン(人間)だったので、自ら動く意欲の薄い進示とはある意味真逆の人間性といえる。

 

進示の前世はサブカル好きが重度だったが、酒を飲まない、暴力は振るわないのは救いだった。しかし幼少からイジメ、抑圧を受けていてそれが日常化し、自分の意見を言わなくなった。

何か言われても本音を抑える、口論になったら勝てない、暴力が飛んでくるというのは珍しくなかった。

 

子供の頃はよく泣いていたが、年を取るにつれ次第に感情を消してしまうようになった。

 

勿論笑いが全くないわけではない。

 

お笑い番組や日常のコマなどで笑ったりはする。

 

…彼は表面上人付き合いはできても孤独だった。

 

誰かと話す度にすくみ上ってしまうのも(魂で繋がっているのでわかるが、私や優花、ミレディ…そして転生して17年一緒に住んでいる樹、彼の前世の友人にさえも、怯えが僅かに見え隠れしている。)、そうした幼少からの蓄積があるからだろう。

 

…一つ二つならそれなりに時間をかけて向き合えば解消されるだろうが、蓄積がなかなかに多く、これが厄介だ。

 

それに、無意識に【ミスをしてはいけない】、【何かあれば責められる】…など、そういう時には心の底から寒気を感じ、無意識に自分を抱きしめてしまう。

 

【本音を言ってはいけない】

【でも、自分の意見を言え】

 

など、複雑な社会構造と風潮が枷となり、感情と理性が板挟みとなって震えている。

 

それに、前世の彼はだいぶ虚弱で、年頃になると体調を崩すことが多くなった。

 

社会人になれば通用しない場合も多く、現実と向き合おうともがいても、結局うまくいかなかった。

 

…正直に言って一人にしておくと野垂れ死ぬ可能性は非常に高いと言わざるを得ない。

 

現在デジシンクロで彼と命が繋がっている私にとっては頭の痛い問題である。

 

…おっと、私がこんなことを考えていたら進示から罪悪感の想いが響いた。

 

転生してもしばらくは虚弱な状態が続いていた。

 

樹はもし進示が無力なままでも神の都合につき合わせた慰謝料として、養うつもりでいたらしい。

 

しかし、進示は本当にゆっくりではあるが、若返った体を利用し、樹からパソコンを自作できるように教わったり、世の中の知識を集めたり、…本当に一歩ずつではあるが、学んでいた。それでも知識には偏りがあるが。

 

…デジタマになった私を拾ったことで、彼の運命は転換期を迎える。

 

そしてジールへの異世界召喚。

 

進示が龍の因子を体に入れた経緯は以前に語ったので今回は割愛するが、あのあたりから体が頑丈になり、頭の冴えも良くなっているように見えた。

 

…これは憶測だが、龍は力強く聡明であり、その因子を受け継いだことで彼の能力が劇的に向上したのではないか?

 

…コミュニケーション能力と度胸は相変わらず低いままだったが。

 

…それと、生きる意志も薄かった。

 

ジールの人々から指名手配を受け、味方がほとんどいない(私や進示の味方だったエルフの国や他の種族の国も大体焼き討ちにされた)状況で逃亡生活。

 

結局捕まってギロチンで首を刎ねられ、ミリアが機転を利かせた進示の救出がなければ、彼と私はあそこで終わっていただろう。

 

実を言うと、デジシンクロとはいっても、相手が死んでも魂が下界から消えるまでは生きていられるのだ。

 

転生者と天使の契約も同様で、転生者が死んでも、魂が消えるまで天使は下界にとどまれる。

 

故に進示が死んでも契約が切れなかったのは、そして私が死ななかったのは、魂が消える前に蘇生がかなったからだ。

 

記憶喪失で精神年齢の低かった私は進示と再会した後彼の胸で泣きじゃくった。

 

『バカバカバカバカ~!!!!うぇ~…!!』

『…すまなかった』

 

…途中で体力と気力が尽きるまでは生きようとしてたようだ。

 

ただ、その理由は自分が生きるためではなく、

 

「私を守るため…か」

 

生きる理由を他人に預ける精神性はどこか危険だと思っている。

 

それはこれまでの私の人生経験からもほぼ間違いない。

 

…だが、

 

 

「だからこそ全力以上を出すことができる…か」

 

…何事も自らの足で立つ、それが世界の常識だし、世の理である。

 

しかし、社会常識ではそうであってもそれができる人間は意外と少ない。

 

進示も【相対的には】できない方だろう。

 

自立できる暮海杏子(アルファモン)とは正反対の人間性。

 

デジモンにもそういう個体はいる。

 

…人間は時に愚かな選択をし、怠け、臆病になり、怒り、他者を虐げることもある。

 

それはあくまで一側面でしかない。

 

「樹は縋る相手、私のことは守るべき対象としていたようだが、私の記憶が戻ったら頭が上がらなくなる…か」

 

社会性で言えば確かにそうだろう。

 

…だが、

 

「理由はどうあれ、キミは私を守ろうとしてくれた。…本来キミの嫌いな厄介ごとであるはずの私を…樹の手を借りながらとはいえ、守ってくれた。育ててくれた。時に力及ばず叶わなかったこともあるが」

 

どうあれ進示は龍の因子がなければ無力なままだっただろう。

 

それでもここまで私の面倒を見て、無力でも、運に助けられた部分は大きくとも、デジモンテイマーとしては上位に入るほど成長した。『マサルダイモン?アレレベルはさすがになれない』…あれは比較対象が悪すぎる。

 

…絆された、というのだろうか…。

 

…進示。私と君はどうあっても逃げられない関係になってしまった。

 

龍の因子がなければ、かつての助手と比べても大きく見劣りするだろう。

 

だが、

 

 

 

「私は、キミと運命を共にしよう。キミの可能性、どんな素晴らしい人生でも、どれほど地獄の人生でも可能性はきっとある。キミのような弱い人間でも…一側面だけで計るのはあまりにも早計だ…だから能力が上がったとはいえ、今までの無力感と罪悪感を拭い去るように過剰な仕事をするのはやめてくれ。メンタルが変わっていない…いや、どれほど鍛えても英雄の精神性になれないキミは、必ずどこかで破綻する」

 

 

 

私は進示の腹部に友愛神殺剣を突き刺して運命を共にする誓いを改めて告げた。

 

進示も転生者である以上、【神】のカテゴリなので、特攻対象になってしまう。

 

アポロモンとなったハジメ君がその様子に引き攣っている。「殺し愛かよ…」と呟いているがたぶん気のせいだ。

 

いや、先ほどまで暴れていた竜人族の女性もそのパートナーらしきデジモンも、そして姿は見えないがミリアも引き攣っている。

 

そして、優花に神水を飲まされて復活した進示は。

 

「ああ、暴走を止めてくれてありがとう。世話をかけた、皆。…そしてミリア」

『…あーそれなんですが、今回は私のせいなので。

急激な覚醒で進示の心と体が追い付いていなかったので、あんな暴走になったんだと思います。この5年間の記憶を見ましたので、状況の説明は不要です。そりゃあ、進示がトイレの時にする癖も完全に把握して』

「プライバシーってなんだっけ?」

 

…そこについては完全に済まない。なるべくいじらないように気を付けよう。

 

『【なるべく】ってなんだ!?』

 

…おっと私の心も読まれるようになってしまったか。

 

私のプライバシーもないのかい?

 

…とにかく、私とて情がないわけではない。

 

波乱万丈の人生を歩んできたが、人間の繋がりという可能性を見せてくれた我が助手、絆されるという感覚を教えてくれたキミ。

 

…一人で何でもかんでもやろうとすることは【自立】とは言わない。それは【孤独】だ。

キミが最も恐れるものだ。

 

社会的に自立とは一人で生計を立てられる意味合いで使われるものだが(これもかなり大雑把な解釈だが)、本当の意味で一人で生きられる人間はいない。

 

…今まで記憶を失っていて、キミと暮らした時間は記憶喪失の時間の方が長かったとはいえ、私はそんなに頼りないかい?

 

 

『…違う。杏子はむしろ頼りになりすぎる。だから依存してしまいそうだ』

 

…そういう事か。

 

ならば、私たち全員で舵取りをしようじゃないか。

 

『そうですよ!進示が無力であったとしても、私は貴方に付き合いました!それに、私だって進示や杏子に出会う前は介護される側になってしまったこともありますので、当時の無力感はわかります!…まあ、すぐに介護期間は脱出してしまったのですが』

 

…ほう?それは初耳だな。

 

『詳しいことはかつての生徒でもあったティオも交えて話します。…それより、ちょっと予想外の事が起きまして』

 

ん?

 

『…以前、杏子にはドルガモン、ドルグレモン、ドルゴラモンのデータをくださいとは言いましたが…ぶっちゃけアルファモン以外の全データを取ってしまいました!』

 

…まあ、それに関しては私の本来の姿を失わなかっただけ良しとしよう。

 

『それと、私の計算ミスで進示とデジシンクロを起こしてしまいました!これで実質私と進示と杏子は三心一体の関係ですね!今の私は進示のパートナーデジモンでもあります!』

 

………………。

 

『…おい、その可能性あるんなら事前に言っとけや』

 

それに関しては全く同意だ。『進示のものになる』としか言ってないな。

 

『……進示、杏子、判定は?』

 

『『ギルティ!』』

『ですよねーーー!?』

 

実体化早々進示に逆エビ固めを喰らうミリアだったが、その顔はどこか恍惚としていた。

 

それを見ている竜人族の女性は戦慄しながらもどこか…心なしか震えているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹視点

 

杏子ちゃんの回想(メタい)から少し時間を戻しましょう。

 

現在仮眠をとっている進示様以外は全員行方不明者のウィル・クデタさんの捜索で車移動している間に召喚依頼初めて親御さんたちと会話をする生徒さんと畑山先生の様子があった。

 

緊急事態が起こるか、捜査に進展がある以外は自由に会話をさせている。

 

「それじゃあ、【豊穣の女神】なんて呼ばれてるのね、愛子」

『は、恥ずかしいから言わないでーー!?』

 

とか、

 

「なるほど、その依頼を成功させれば、ギルドからバックアップが得られるようになって、社会的にも有利に立ち回れると」

『はい、いざという時のために保険はかけておきたいですから』

 

とか、

 

「知らない世界にいるってだけでもストレス半端ないのに、ちゃんと農業してんだね。立派じゃない?」

 

全く面識がない生徒さんや関原さんたちからも褒められ涙ぐむ生徒さんたち。

 

『おっと!』

 

突然車を止めたハジメさん。

 

『こっから先は車じゃ無理だ。進示を起こせ。俺はちょっと偵察機を飛ばす』

 

そういって、ドローンのようなものを飛ばすハジメさん。

 

『ふぁああ…。でも、通信用の魔力はいつまでも持たないしなぁ。こうやって樹たちがナビできる状況ならこっちも大助かりなんだが』

 

…進示様が、あくびをしながらそんなことを言う。

それに関しては進示様を含め、今までの彼らはできなかったこと。

 

故に自力での帰還を余儀なくされていた。

 

「シュトース、アレは出来ているかしら?」

「はい。といっても完成したのは三日前ですが」

『あん?』

 

出口光代さんの守護天使、シュトースが持ってきた電気ストーブくらいありそうな大きさの装置を現在通信している装置に繋げる。

 

「【エネルギン1号】で、エネルギー問題はある程度ですが解消されますよ。まあ、風力水力火力電力…それから魔力のマルチ型なので、完成に結構時間かかりましたが。それに、異世界間の通信でかなり魔力を消費するので、もしかしたら無いよりマシ程度かもしれませんが」

『おい、もう少しマシなネーミングはなかったのか、シュトース』

 

進示様がネーミングに突っ込む。

ちょっと安直すぎるけど私は特に反対はしなかった。

 

「名前に関してはもう適当でいいかなと、契約者達は遊〇王からなんとか名前を捻りだそうとしてましたが」

『うーん、怒られそうな気がする』

「ファンはむしろネタができて喜びそうな気もしますけどね」

 

 

そんなやり取りをしながら、ハジメさんがまだ新しい鞄や装備を見つけたので、向かうことにする。

 

 

畑山先生たちは少し疲れているようだが、手掛かりを見つけた以上休むわけにはいかないと思ったのか、必死についていく。

 

『車は亜空間倉庫に収容する。ここから先は召喚前に樹から預かった端末で映像を映しながらだ』

 

滝の奥に洞窟があり、そこで気を失っている要救助者、ウィル・クデタさんがいた。

 

ハジメさんがデコピンでウィルさんを起こし、自分だけ生き残って自責に駆られるウィルさんに対し、生き続けろと檄を飛ばす。

 

『そうだよ、生きていれば素敵な出会いだってあるかもだよ』

 

そういってハジメさんに賛同したのはミレディさんだ。

 

ミレディさんは1000年以上生き続けた結果、進示様達と出会っただけに発言の重みがある。

 

すると、

 

「おい、これ、とんでもない魔力反応!?」

「それだけじゃない!これは…マトリックスエボリューションの…それにしては反応がぐちゃぐちゃだ!」

『なに!?』

 

マトリックスエボリューション。

 

それは人間とデジモンが絆を結び進化する一つの進化形態。

 

解析する関原さんたちは

 

「反応はオウリュウモン…っぽいけど、変な形で融合している!」

 

変な形…、

 

直接見ないとらちが明かないと判断した一行は洞窟から出る。

 

戦えないメンバーはユエさんと、すぐに進化させたクレシェモンやまだ戦えるほど回復していないミレディさんも守る側に回るようだ。

 

 

そこには

 

 

 

黄金、しかし漆黒。

 

全身に鋭い刃を生やしたとてもオウリュウモンとは呼べない形で融合した何かがいた。

 

デュークモンに融合進化した優花さんが竜から放たれた無数の空気の刃を盾で防ぐ。

 

玉井さんたちも一般人よりはだいぶ逸脱した力を持つものの、それでも喰らってしまえば一瞬で切り刻まれてしまう。

 

『ゆ、優花っち…!』

 

『…くそ、デジモンなしで立ち向かえそうにはないな…進示、暮海!』

 

ハジメさんが進示様に視線を向けるが進示様の様子がおかしい。

 

この状況ならすぐにでもアルファモンになりそうものだが…、地面に手をついて、かなり苦しそうにしている。

 

『はあ、はあ、…なんだこれは…!!』

 

『進示!?ぐあっ!?』

 

心配して駆け寄った杏子ちゃんも吹き飛ばす。

 

『ぐ、ぐあああああああああああああ!?!?』

 

『進示!?』

『シンちゃん!?』

 

竜が暴れ、刃を防ぐデュークモン。

 

刃を殴ったり、武器ではじき返すエテモンやシアさん、クレシェモン、魔法で対応するユエさん、

 

ミレディさんはまだ戦闘できるほど回復しておらず、援護すらできないことに歯噛みしている。

 

そして、原因不明の進示様の異変。

 

いや、進示様の次の叫びで異変の正体がわかった。

 

 

『ミリアインストーーーーーーールッ!!!!』

『!?』

 

その叫びに驚いたのは杏子ちゃんだ。

 

そして、全身が超高密度の赤い魔力光に包まれ、立ち上がった進示様は目が赤く、瞳が黄金になっていた。

日本人の黒髪黒目ではない。

 

『…そうか!!師匠に大怪我をさせられて、その治療のために使ったミリアの龍の因子か!!』

 

すぐに思い至った杏子ちゃんが叫ぶ。

 

その話は私も聞いていた。

 

定期的に進示様の体はチェックしていたはずなのに、こんなことが!?

 

すると変身した進示様に向けて、竜が超高密度のエネルギーを口に集めて放射しようとしている。

 

…推定温度…約1万8千度!?

 

「進示様!!」

 

避ければ他の生徒さんが巻き添え、進示様でも掠らなくても蒸発してしまう。

 

竜の口から超高密度の熱戦が発射され、

 

進示様は正面から突っ込んだ。

 

「…!!」

 

しかし、蒸発してしまうと思った私の予想に反し、進示様はエネルギーを搔き消しながら竜に突っ込み、

 

 

殴り飛ばした。

 

その攻撃だけで、周辺の大地が震える。

 

『ずあああああっ!!』

 

殴り飛ばした竜に追い打ちをかけるように進示様は竜の腹を踏みつける。

 

『GAAAAAAAAAA!?!?』

『おらぁっ!!!』

 

 

悶える竜を意に介さず、進示様は竜の頭に頭突きをする。

 

『オオオオオオオオオッ!!』

 

しかし、竜の方もただではやられまいと、その太い腕で(前足でもいいが)進示様を殴り飛ばす。

 

『!?』

 

殴られた進示様は数百メートル吹っ飛び、岩盤にたたきつけられるが、猛スピードで戻ってきて、再び竜を殴り始める。

 

『ど、どうしたんだよ進示!?』

 

動揺するハジメさんだが、それはこの場にいるもの全員の相違だろう。

 

『エッちゃん!?』

『駄目ね~さっきからラヴ・セレナーデしてるけど、全然進示の力が落ちないわ!!』

 

エテモンでもダメですか…。

 

すると、

 

 

 

 

 

『聞こえますか!!杏子!トレード様!!これはデジタルネットワーク理論の通信です!!その端末とデジモンと融合進化している優花さん!!そしてデジモン全員は私の声が聞こえているはずです!!』

 

 

その声に真っ先に反応したのは。

 

『…ミリア!?』

『はい!5年ぶりですね!!進示が見聞きした事は全部知ってるので、状況の説明は不要です!!(情事の事も全部筒抜けだけど)

…ティオがいたのでつい私が反応してしまって…、私の龍の因子が覚醒してしまいました!もっと段階を踏むはずだったのですが、急激な覚醒で進示の心と体が追い付いていません!!』

『どうすればいい!?』

『杏子の友愛神殺剣ならば、一撃で沈められるはずです!転生者である進示には特攻対象です!』

『…それは当たれば、だろう?今の私と進示のスペックが違いすぎて近寄ることさえできない!!』

 

通信の理論は後回し、そして、杏子ちゃんの言うことは最もだ。

 

「ミリアさん、ミレディさんはまだ戦えない、ユエさんとシアさんは【きっかけ】がない、優花さんは皆さんを攻撃の余波から守るので精一杯、今の進示様は究極体レベルで無ければ足止めさえできない!」

『はい!なのでここはハジメさんが適任です!!』

『なっ!?俺か!!?』

『南雲が!?』

 

突然名指しされたハジメさん。

 

杏子ちゃんの端末からミリアさんの声がするので、融合してないハジメさんにも声は聞こえている。

 

『ハジメさん!貴方が究極体になる力はもうついています!あとはきっかけ一つです!!』

『きっかけ…!?』

 

『そう、きっかけというのは案外馬鹿にできません!!トータス召喚前から進示たちと交流があったことや、あなたの趣味や生活を理解してくれていた進示に思うところはあったはずです!奇しくもトレード様が、南雲のゲーム会社に入り、それがきっかけで交流するようになって、進示や杏子とも関わるようになったはずです!』

 

ミリアさんの言うことにハジメさんはハッとなる。

 

その趣味や生活態度が原因でクラスメイトの約半数以上から白い目で見られていたハジメさん。

 

ハジメさんは気にしていなかったが、絡んだり、嫌がらせを受けたりは日常茶飯事だった(原因は白崎香織さんにもあるのだが、ここでは割愛する。香織さんの心が整うまで様子を見ていようとしたがそれが裏目にも出てしまっていた。指摘すべきだったか)

 

『…ハジメさん!!貴方は進示をどう思っていますか!?別にウホッ♂とかそんな変な想像はしなくていいです!』

『おい、今なんつった!?』

『…こんな時までネタに走るのか。変わっていないなミリア』

『【本来の私】はもう少しおとなしいのですが、トレード様から受け取った知識や負けた歴史で進示に合わせているんです!!まあ、本来の私も下ネタに理解はありますけどね?』

 

…私から受け取った?

 

…少なくともミリアさんにそんな情報を渡してもいないし、直接話すのはこれが初めてだ。

 

それに【負けた歴史】とは?

 

『その説明は後で!なので、ハジメさん!!進示を友達と思ってるか否か!それだけです聞きたいのは!!』

 

通信で叫ぶ…今までの話のニュアンスから言って、進示様の体の中から通信をしているミリアさんの問いにハジメさんは…

 

 

『ああ、ダチに決まってんだろ!!…それに、究極体進化に関しては園部に先を越されて悔しかったしな!!』

 

そういうとハジメさんのデジヴァイスが輝き始めた。

 

『あ、気にしてたのね』

優花さんは苦笑い。

 

『俺ももっともっと強くなってハジメに付き合うぜ!それにゲームや漫画も作ってみたいしな!』

 

ガジモンもやる気十分というように吠える。

 

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

オリンポス十二神族の1体で、太陽級の火炎エネルギーを秘めた神人型デジモン。

 

アポロモンに進化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、この周辺一帯に天使の反応があるのはどういうことですかね?」

「天使ってことは転生者がいるんでしょ?大天使じゃなくて普通の天使だけど」

 

『ああ、そのことなんだが少し時間をもらってもよいかな?我はガンクゥモンというのだが』

「「「!?!?」」」

 

突然通信に割り込んできたのはロイヤルナイツの一席

 

『転生者というよりはタイムリープに近い状態の者がいるのだが、それも転生者という扱いになっているらしい。その者の名は、清水幸利』

 

 

 

 




オリキャラ・ミリア

作中のジールという世界の出身の龍の女性。

このSSでは様々な世界を旅しているが、ティオとも交流があった模様。

進示の体の中で眠っていたが、進示がティオと再会して思わず飛び出ようとしたため、進示の龍の因子が暴走。
デジタルネットワークの仕組みすら把握しているいるが、聡明な彼女でも数分で理解できるはずはない。

本編中に語ったことにヒントがありそうだが?

あと、さりげなくティオからドМ変態ポジションを奪った。

しかし、ティオにも素質はあるので、一歩間違えばありふれ原作のような変態化もありえた。


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第22話 未来の記憶、歴史の違い

パソコンが治って再登場


杏子視点。

 

アポロモンに進化したハジメ君は、進示のもとに飛んでいく。ユエ君が「きっかけ…私には何が足りなの?」と言っていたが、これは後で話を聞く必要があるか。

 

そして、いつの間にか進示によってノックアウトされた竜が分離し、竜人族の女性とリュウダモンになって倒れている。

 

アポロモンへの進化がもう少し遅ければ、そのまま暴走した進示が殺してしまったかもしれない。

 

ともかく、ハジメ君が進示に近づき、殴る。

 

殴られた進示は一瞬怯むも、すぐにアポロモンのみぞおちにあたる部分に拳を放つ。

 

「がっ!?」

 

その拳はアポロモンにとって少なくないダメージだったらしく、ハジメ君はたたらを踏んでしまう。

 

「ぐが…あああああ」

 

進示がハジメ君に追撃をかけようとするが、一瞬動きが止まる。

 

「ああああ、オ レ を と  メ」

 

苦しみ悶えながら再びアポロモンを殴ろうとするが、その隙だけでアポロモンには十分だったらしく、

 

「フォイボス・ブロウ!!」

 

腕に力を込めて進示を殴った。

 

が、進示はこれをクロスガード。

 

地面にクレーターを作りつつも、究極隊の必殺技を堪えてしまう。

 

「キョウちゃん!!」

 

と、唐突にミレディが両腕を進示に向ける。

 

それだけで何をしようとしたか察した私は、友愛神殺剣を王竜剣の形状ではなく、細身の直剣にして、進示のもとに走り出す。

 

「後で医務室だぞ」

 

私はミレディにそう言い残し、成熟期レベルの身体能力しか出せない私は駆ける。

 

現実世界では進示の力を借りないと、マトリックスエボリューションやソウルマトリクスも出来ない。

 

「やっ!!!」

 

ミレディが放った魔法は重力魔法。

 

それを最大限発揮し、進示に重力負荷をかける。

 

「ぐ、あああああ…」

 

まだ魂が治りきってないミレディはそれだけで凄まじい苦痛らしく、声を漏らす。

 

それでも進示を止めるために重力で拘束し続ける。

 

「ぐぐ…」

「はあっ!!」

 

生徒たちを攻撃の余波から守っている優花君達が見守る中、私は剣を進示の腹に突き刺す。

 

「…はっ!」

 

突き刺された進示はミリアと同じ目と髪の色赤髪金眼ではなく、元の黒髪黒目に戻る。

 

そして仰向けに倒れた。

 

…デジシンクロ状態で進示と会話していたが(21話参照)、そこに突然ミリアが割り込んできて、何と、進示と私とミリアは事実上の3身一体の関係になってしまった。

 

つまり、3人の誰かが死ねば、残り二人も共倒れとなってしまう。

 

その可能性を考慮してなかったのかそれとも…。

 

ともかくその真実を知らされた進示は暴走が落ち着いたのを見計らってデジモンとしてかつてのミリアの姿のままで実体化したミリアは早速進示から逆エビ固めを受けてしまうのであった。

 

「…お帰り」

 

進示にプロレス技をかけられながら、どこか恍惚の表情を浮かべるミリアに懐かしい気持ちになった。

 

おっと、竜人族の女性とリュウダモンを起こさねばな。

 

 

 

 

 

 

進示視点

 

 

実体化したミリアから話を聞く。

 

詳細は今は依頼の最中なので聞く暇がない。今は要点だけ聞く。

 

「では何か?お前は未来の樹から情報…。つまり、俺達が地球に帰還した後の戦いで負けた歴史の樹が送信した情報をキャッチした存在であり、俺達と会う何百年も前から準備を進めていたと?」

「はい、地球の知識にに詳しい理由もこれでわかりましたね?」

「…そうだな。そう考えれば辻褄会う」

 

通信先の樹ですら開いた口が塞がらないようだ。

 

あの後、ハジメがアポロモンに進化した際俺と殴り合い、(アポロモンの必殺技でも止められる公算は低かったらしい)まだ戦えないはずのミレディが無理をして重力魔法でハジメをサポート、俺の拘束に一役買い、杏子の友愛神殺剣で、俺に刃を突き立て、

 

『私は、キミと運命を共にしよう。キミの可能性、どんな素晴らしい人生でも、どれほど地獄の人生でも可能性はきっとある。キミのような弱い人間でも…一側面だけで計るのはあまりにも早計だ…だから能力が上がったとはいえ、今までの無力感と罪悪感を拭い去るように過剰な仕事をするのはやめてくれ。メンタルが変わっていない…いや、どれほど鍛えても英雄の精神性になれないキミは、必ずどこかで破綻する』

 

 

という言葉とともに、運命を共にする告白を改めて受けた。

 

王竜剣の見た目では俺を両断してしまうが、グレイダルファーのような細身の直剣サイズになってる。いつの間に形状変化できるようになった?

 

俺の暴走が止まり、俺の目と髪は元の色に戻った。

 

そして、いつの間にか、ダウンしていたティオとかいう竜人族の女性とパートナーのリュウダモンがこっちを見ていた。

 

…ふう。殺してしまっては寝覚めが悪い。よかったよかった。

 

「すまない進示。この剣をキミに向けて使うことになるとは」

「それしか方法ないだろ…こっちこそ世話をかけてしまった」

 

 

そして、さらにミリアから話を聞くと、京子からアルファモンを除く全データを杏子から貰い、実体化。その際に俺とデジシンクロを起こしてしまって、俺は杏子だけではなく、ミリアとも托生の関係になってしまった。

 

知らされてなかったことに対する怒りで、ミリアが実体化した際、つい彼女に逆エビ固めをしてしまった。

 

それを見た愛子先生がプロレス技を止めようとしたが、杏子がそれを阻止。

 

「大丈夫。彼女もやられるとわかってやってますから。その証拠に、ミリアの顔嬉しそうでしょう?」

「…変態なのか?」

「…だとしても、今は再会を喜んでいます」

 

ジールを脱出する際に俺達を地球に送り返したミリアは分身であり、本体はすでに俺の体の中でデジモンとして生まれ変わるために俺の体の中で眠りについたという。

 

「だが、どうしてわざわざそんな方法をとった?」

「進示、私は星に根付いた特別な龍族です。よその世界にも旅行に行けますが、ジールが滅んだ際はジールと運命を共にしなくてはなりません。…そこで自分を龍ではなく、デジモンに作り替えることで延命することにしたのです」

「そうなれば龍族ではなくなるからジールが消えても存命できると…。じゃあガラテアは?」

「彼女は星に根差したエルフではありません。消滅の心配はないでしょう」

 

それを聞いてひとまず安心する。

 

「しかし、樹様からいただいた知識との相違点も結構あります。まずは園部優花さんと、ミレディ・ライセンさんですね」

「「え!?」」

 

突然名前を呼ばれた二人はミリアに注目する。

 

「まずお二人はこの時点で進示とハジメ君グループにはいませんでした。

優花さんは愛ちゃん護衛隊のリーダーで、ミレディさんは肉体を復元していませんでした」

 

…つまり、歴史は変わっているのか。

 

「…それと、清水幸利君ですね。彼はこの後愛子さんを殺すために魔物をウルにけしかけ、みんなに返り討ちにあって、ハジメ君に射殺されます」

「そんな!?」

 

それを聞いて悲鳴を上げる先生。

 

「彼は家庭にも学校にも居場所がなく、いじめを受けていたせいもあって、特別な自分になりたかったようなんです。いじめうんぬんに関しては前の歴史の進示たちの考察にすぎませんが。ですが、天之河光輝くんやその他のみんなもチート持ちで、自分が特別じゃないと知って絶望。…おそらく、そこを魔人族に付け込まれて引き抜かれたのだと思います」

『幸利が…』

 

通信の向こうの清水の家族が沈痛な面持ちだ。

 

「前の歴史では清水君は完全に堕ちてしまった。先生に毒針も刺し、命乞いのために女も洗脳するなどと言って…、それでハジメ君から更生の余地はないと思われて終わらされた。…ですが、この歴史では変わった部分があります。ガンクゥモン」

『うむ。トータス召喚前から我がわが弟子、ハックモンと一緒に彼を少年漫画みたいな地獄の特訓を施したな。短い時間で完全体になるまで腕を上げたガッツは見事だったな』

「ガンクゥモン。それに関してはファインプレーをしてくれた」

 

杏子がガンクゥモンを称賛する。

 

このガンクゥモンは杏子の知っている個体ではないが、それでもロイヤルナイツ同士感じ入るところはあるのだろう。

 

「そう言えば、さっき言ってた天使の反応って見つかったのか?」

『…いえ、この近辺にいることは確かなのですが。清水さんとの関連性も不明です…まさか』

「トレード様?」

『まだ確証が持てません。…次はティオさんについてですね』

 

そう言って、次は竜人族の女性の話に移る。

 

「そう言えばティオが一番驚きました!前回の歴史ではハジメさんにお尻の穴にパイルバンカーを受けて私みたいな性癖ドM変態になってしまうんですが、この世界では進示にボコボコにされて変態になりませんでしたね!」

『ハジメェェェ!?何やってるんだ!?』

「ちげぇよ!!!別世界の俺だろう!?」

 

生徒たちのハジメを見る目が様々な感情が入り混じってる。

女子からは若干の侮蔑だが。

…それにしても【私みたいな性癖ドM変態】?

 

「『ケツから死ね、駄竜』って言いながら、鱗に覆われてないお尻の穴にケツパイルしてダメージを与えたんですよ!」

「ふん!!」

 

あまりの黒歴史(別人なのに)を暴露するミリアにゴム弾を発砲するハジメ。

 

ミリアは「あふんっ!!」って言いながら倒れた。

 

「ミリア先生…そのからかい癖はまだ治ってないんですね」

「え、コイツ昔からそうだったの?」

 

ティオの言葉に俺は思わず確認してしまう。

 

「妾も幼少のころ、家庭教師として先生から色々と学んだのじゃが…」

「まあ、ハルガとオルナからも色々ティオの話を聞いていたのです…その…ハルガとオルナを守れなかったのは…本当にごめんなさい」

 

それまでのギャグから一転、急にしおらしくなるミリア。

 

「…あの時は父上と母上も死なねば争いは終わらなかった。ミリア先生も元は違う世界の住人。…この世界の竜人族に付き合う義理はなかったのです」

「…そうですね。あの時は私もまだ死ぬわけにはいかなかったので、見捨てる形になってしまいました」

「…こうして再会できた。それで充分です。…そして、」

 

ティオはウィルに目を向ける。

 

「件の…おそらく清水という男に操られていたとは言え、冒険者たちを手にかけてしまったのは事実。…まさかリュウダモンと強制融合され、わずか数秒で意識を乗っ取られるとは」

 

「!?」

 

ミリアはティオの言葉に戦慄している。何があったんだ?

 

するとウィルが、仲間の冒険者をティオに殺害されたことについて言ってきた。

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりですか!」

「…」

 

根本の原因は別にあるが、ウィルの気持ちはそれで収まらないだろう。

 

ティオはまっすぐにウィルを見る。

 

 

「……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

「…俺たちの世界じゃ『この戦いが終わったら結婚する』って結構縁起悪い言葉だが…ウィルさん。これは結構根が深い問題になりそうです。ミリアの言う通りなら、この後ウルに大量の魔物が押し寄せるはずです」

 

「ああ、俺もオルニスで確認したが…魔物の数は万を超えるレベルだ…清水らしき人間は見当たらないな」

「「「万!?」」」

 

 

マジか…デジモンなら簡単に制圧できるが…山の地形が変わるな。

 

「操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか…ただ」

 

「ただ…なんですか?」

「先生…あの男、妾を洗脳するとき…目や心の濁りを感じなかった。『悪い…こっちにも事情がある』と言ってたのです。…裏で糸を引いているものが別にいると思うのです」

「…フム。ガンクゥモン、清水君にはトータス召喚前から干渉していたのですよね?」

 

『ああ、前回の歴史と同じ部分もあった。それはイジメや家庭での居場所のなさといった部分は同じだったな。我が幸利に接触し、デジモンテイマーとして心身を鍛えることにしたのだ。…前回の歴史では改心できずに命を落としてしまったが、あの資質を鍛えたほうがいいと思ってな』

「ガンクゥモン。その様子では未来の樹が送信した情報をキミも受け取っているのか?」

『アルファモンよ。全てではない。君たちがトータスから地球に帰還した後の出来事に関しては情報ゼロだ…ただ』

「?」

『このまま放置してはまずい問題がある。アルファモンがかつての助手の名前を発音できない理由と同じで、デジモンに関わる地球、いくつかの平行世界のデータが消去されたのだ。それを修復しないまま放置すれば、こちら側の地球やトータスが消滅することになる』

「「「「「!?!?」」」」」

 

ガンクゥモンからもたらされた衝撃の言葉。

 

「それは本当なのか!?」

『うむ。だが、修復に必要なかけらは全てとあるエルフの娘が持っているはずだ…。持っているというよりは脳に刻まれているというべきか。確か…ガラテアといったか』

「「「なっ!?」」」

 

驚く俺と杏子とミリア…え!?なんでミリアが驚く!?

 

「わ、私もその情報は初耳です!…だから世界が消滅したんですね…」

 

なんだと!?

 

「こりゃ、一旦ハイリヒに戻ってガラテアの身柄を確保するか?元を考えれば俺専属のメイドでもあるし、交渉は難しくないか…?でもそれはいささか強引なやり口…穏便に済ます方法は…ブツブツ」

 

俺がガラテアの身柄確保の手段・条件を色々考える。

 

しかし、

 

「…今はウルや清水の問題が先だな」

 

 

すると杏子が口を開いた。

 

「逃げるにしても戦うにしても、一旦ウルまで戻ったほうがいい。街の人の避難誘導も必要だろう」

「そうだね!…ぐぅ。」

「ミレディ、まだリハビリ中なのに無理やり魔法を使ったからね…医務室入りよ」

「ミリア、ウィルも俺の車両に乗れ!元気な奴はハジメのブリーゼだ!!医務室は俺の車にしかない」

 

因みに俺の怪我と体力は神水で回復してるが、ミレディの魂は俺が地道に治療するしかない。

 

俺達は車2台に分乗し、ウルまで戻ることにする。

 

因みに車には通信機能も付けてるので、分譲しても会話は可能だ。

 

「ハジメ。正直俺も面倒なことは嫌いだ。さっさとウィルを送り届けて街を放棄したいが…ここは徹底的に恩を売ってやろう」

『ああん?』

 

…予想通り、ハジメは面倒だったようだ。

 

「『情けは人の為ならず』…まあ、解釈が分かれる言葉だが、売った恩は巡り巡って自分に返ってくる…ということさ」

『暮海、それは実体験からか?』

「フフフ、まあな」

「それに、ウルの街は稲作があるだろ?米だ米!米のために敵をぶっぱだ!!」

 

俺のセリフに、大半のクラスメイトはずっこける。守る理由があんまりな内容だからか。

 

『そうだな。コメは大事だな…!!それに、先生にはトコトン協力してもらうか!』

『ハジメ、何をするつもり?』

『ハジメさん神輿でもするんですか?』

『そのまさかだ』

 

ユエとシアの疑問に肯定するハジメ。

 

そのことに先生があたふたし始めた。

 

「…宗教国家ならエヒトと別の宗教を興してもいいかもしれないな」

「大丈夫なの?」

 

ミレディがジト目で見てくる。

…コイツこそ、神に反抗した奴だもんな。

 

「大丈夫ですよ、愛子さんなら悪用しませんよ。それに、あんな感じですから神として支配するなんて愛子さんにはプレッシャーがガチすぎて空回りするだけです!」

「俺も支配には興味ない。…ぶっちゃけ管理がめんどいし」

 

ミリアの言葉に俺も本音を被せる。

 

「…はあ、わかったよ。そこまで言うなら信じてみるよ。人の自由が尊重されることを願って」

 

ミレディは何とか納得したか。

 

『進示様、通信の魔力を補充するため、一旦通信を切ります』

「ああ、24時間後に通信を再開する」

『どうかご無事で…』

 

そういって、地球との通信が途切れた。

 

向こうからも魔力供給ができるようになったのはいいことだ。

 

 

 

 

車でウルに移動途中、先生たちを探しに来た騎士たちがいたが、素通りする。

 

車と馬じゃ速度が違うからな。

 

説明が面倒だし、2度手間にしている時間はない。

 

ティオも現在俺の車両に乗っているが、おいて行かれる馬を見て「まあ、確かに今は時間がないのぉ…」と呟いている。

 

「余裕の速度だ!馬力が違いますよ!」

 

と、ミリアがコマ〇ドーネタを入れてきた。

 

…まあ、今となってはコイツの知識の出所が分かった以上、理解できる。

 

って言うか、未来の樹よ、ネタまで全部送信したんかい!!

 

すると、分乗している通信先のハジメが。

 

『一番気に入っているのは…スルー力だ』

 

と、乗ってきたのである。

 

「ウィル、お前は今回俺たちの指示に従え。まあお前は戦えない以上、町の人の避難誘導とかそれぐらいしか仕事がないぞ」

「そんな!…はい」

 

一応、ウルは助けるといってるので(米のために)、現時点で万を超える数の魔物の撃退と、今後の布石のために先生の神輿もやる。

 

「けどハジメ、今回の戦いの下準備はお前に任せていいか?俺はミレディの魂の補修と、怪我人の治療、デジモンの体調を整えることと、その他メンテナンスがしたい」

『…そうだな。そのほうがよさそうだ。ガジモン達も診てやってくれ。デジヴァイスもな』

「あいよ」

 

それぞれで役割を決めて、ウルの人たちに事情を説明、準備に取り掛かることにした。

 

 

 

…デジモンに関わる消えた世界…おそらくアドベンチャーやテイマーズとかだと思うが、それをサルベージするとなれば、ガラテアと、ロイヤルナイツ13騎、そして御神楽ミレイ。…これらの要素が1つでも欠ければ、その時点でデジモンに関わる世界とこの世界は消滅となる。

つまり、直接確かめたわけではないが、岸部…ロードナイトモンとデジシンクロを起こしている可能性がある中村も死なせてはならないということ。

 

アルファモンは杏子、デュークモンは優花だ。そして、ガンクゥモンもこちらに協力する意思はある。ロードナイトモンは中村と岸部の二人と交渉してみる必要がある。

 

「杏子、御神楽ミレイと交信はできるか?」

「…すまない。現状では不可能だ」

「…では、一先ずトータスや地球でロイヤルナイツの捜索とこちら側に引き入れること、そしてガラテアの身柄確保だ」

「…そうだな」

 

 

 

おまけも本編

 

 

「進示、ティオや玉井たちのケアをしてるんだって?」

「ああ、宮崎や菅原、先生は優花が完璧に守ったから、外傷もないし、軽いカウンセリングでいいだろう。それは優花がやってくれたしな。玉井たちも軽症だから、消毒して傷口を塞いでおいた」

「さすがに旅慣れてるだけあって早いわね」

 

優花は進示の手際の良さに感心する。

 

「ミレディは…少してこずりそうだが、樹から送られた資料にいい情報があったから、どうにか治りそうだ」

「そう」

「優花…」

「何?」

「歴史が変わって、お前は自ら迷宮であんな行動した…そして俺達と一緒に奈落の底に落ちて…」

「…あの時は進示に助けられて、やばいと思ったときにとっさに体が動いて…長い時間一緒に迷宮を彷徨って…絆されたっていうか…状況に流されたってことも否定はしないけど…」

「けど?」

「きっかけって案外そんなもんじゃないかしら?それに、世の中一目惚れだってあるし、自分にとって大したことじゃない事でも他の人には大事って事もよくあるじゃない?」

「…そうだな。俺はお前を巻き込んだ事に罪悪感はあるし、日本の価値観じゃ、複数の女に情を通じているは最悪の野郎だろう…けど」

「けど?」

「…俺はお前にも傍にいて欲しいって思ってる」

 

進示は自分の倫理観に罪悪感を覚えながらも本心を口にする。腹芸はもともと得意ではない進示はごまかさないことにした。

 

「確かに最悪ね…でも、もう決めたことよ。それに、ここまで濃い経験しておいて、今更忘れるなんてできないし、南雲だってもう大事な戦友よ」

「…そっか」

「…だから、もう成り行きに任せましょ?ミリアさんとだってもっと話してみたいし」

「…アイツ、地球のことにやたらと詳しいっと思ったらまさかの理由だもんな。大晦日に馬肉鍋食べる風習も奴から取り入れたものだし、飲食店の娘で料理好きのお前ならレシピだって聞けるだろ」

「変わった風習ね。でもいいわね、異文化交流」

 

 

そんなやり取りを赤い髪の龍の女は聴いていた。

 

 

「…では、進示のためにこの力と頭脳を使いますか!優花さんにも様々な世界をめぐって知った食文化も教えましょう」

 

 

 

 

 

 

 




ミリア オリキャラだが、この世界のキーウーマンになった。
未来の消滅した歴史の樹が送信したあらゆるデータを受信。
世界崩壊の運命を変えるため、奔走し続けた。

本来はジール消滅の時点で消える運命だったが、それ以降も生き延びるために数百年間考案し続けた延命方法は、私自身がデジモンになることだ!!
デジモンになったことで、魔法が一切使えなくなった。亜空間倉庫に残した自身が記した魔法のノートはこの数年進示に様々に知識と技術を与えた。
実は進示のアホやりながら日常を過ごすというコンセプトに一番寄り添えている。

亜空間倉庫に残した自分の下着で【ピーッ】しなかった事は意外だと思った。
後日、聞いてみたところ「無断でンなことするか!」といった進示の発言を聞き逃さず「【無断で】?つまり許可があればするんですね?」と言い返し、進示は顔を真っ赤にして俯いた。


杏子 ミリアにアルファモン以外の進化形態を譲った。進化できるのはアルファモンのみとなったが、むしろ本来の形に戻ったと言える。

優花 負けた歴史では進示の女ではなかった。ミリアは優花がジョーカーになると考えている。また、現状ではトータス召喚前は一般人だったこともあり、進示は自分に付き合わせたことに罪悪感を覚えているが、同時に癒しにもなっている。進示も本来は感性が一般人に近いため、優花の存在は進示の精神が英雄に傾きすぎない防波堤になっている。

ミレディ 負けた歴史では進示に惚れておらず、原作通りトータスで人生を終える。ミリアはミレディの生存は妙手では?と思っている。


未来の樹 世界消滅が確定した世界で、最後の悪あがきと過去の人物に自らの持つ情報全てを送信した。進示の心情を考慮してか、ネタも送った。知識を受け取ったガンクゥモンが清水に対してネタに走ったのはこのせい。ーーついてこれるか?(第4話参照)





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第23話 考察、竜人

アンケートを設置する前からテイマー化が決まっていたキャラに関してはそのままテイマー化するつもりです。現在迷宮に潜ってるクラスメイトに一人…


樹視点

 

私は関原さんたち、そして、召喚された生徒のご家族に指示を出しながら、問題が一気に増えたことに対して頭を悩ませる。

 

一旦帰らせて、また24時間後に来ていただくためだ。

 

因みに現在は南雲さんの会社の会議室にいる。

 

会議室に結解をを張ってるので、関係者以外には侵入できない。

 

そもそも神様転生システムというのはただ娯楽のためだけのものではない。

あらゆる世界、様々な人間の考え方、【発想】を記録するために生み出した情報記録のためのシステムだ。

 

そのため、前世がどれほど立派な人間でも、醜悪な極悪人にも転生の機会を与えることはある。

 

しかし、それはあくまで【オリジナル】ありきの話だ。

 

ガンクゥモンからもたらされた情報では、失敗した未来では、他のデジモンの世界が消去された情報を知らなかったため何の対応も出来ず、【枝葉の世界】であるこの世界も消滅してしまったのだろう。

 

そうなると、杏子ちゃんの元居た世界も消滅しているということである。

 

…ん?そうなるとどうして消えた世界を完璧ではないとはいえ認識できるのかしら?

 

杏子ちゃんの記録データを見ると、世界消滅直前に、デジタマサイズの容量なら通れる隙間が偶然開いた。

 

そのことに気づいた彼女は記憶喪失覚悟で、自分をデジタマにし、次元の隙間を通り抜けることで消滅を免れたのだ。

 

…まさに杏子ちゃん(アルファモン)この判断は英断だった。

 

そうしてくれなければまさにこちらは何もできずに…それこそこちらの世界のイーター出現時や、ジールの時点で進示様が死んでいた可能性は高く(実際死んだが)、トータス召喚にも何一つ対応できなかったかもしれない。

 

そして進示様に拾われた。

 

 

進示様は転生した時点では、前世と同じ虚弱体質で、私やあの女神さまは、進示様に転生得点と呼ばれるものは私との契約以外は何一つ与えていない。

 

守護天使をつけることは少し前から考案されていたことだから不自然には思われない。

しかし、普通の天使ではなく、大天使の私が進示様につくことは少々不安だった。

 

位の高い天使が動けば何かあると勘繰られることもある。

 

加えて、転生得点を与えなかったのは警戒させないためでもある。

 

…転生得点を与えなかったのは本当に申し訳なかったのだが。

 

力については、得るとしても全て現地調達でなくてはならなかった。

 

 

 

進示様の推測通り、サルベージには13騎分のロイヤルナイツ、そして理由は定かではないが、サルベージすべきデジモン世界の情報を持っているガラテアさんが必要となる。

 

…それから、進示様はまだ思い至ってないようだが、この世界か…あるいはトータスの住人…出来れば高次元の情報帯が見える巫女体質の人間が必要になる。

 

 

 

進示様や杏子ちゃんは知らない情報だが、この世界の地球もトータスも実はとある世界では創作物として記録されたものだ。

 

話を聞く限り、ミリアさんが知っているのは【私たちがいる世界】のみだ。

 

 

一先ずまだ調査は必要だが、進示様と杏子ちゃんが至ってない情報をレポートに纏めて送信する必要がある。

 

「しかし、とんでもないことになってしまったなぁ」

「そうですね。未来の私がもたらした情報もそうですが、様々な状況で少しでも歯車が狂えばどこで詰んでしまうかわかりません」

 

南雲愁さんの言葉に応える。

 

状況は割と綱渡りだ。もしかしたら、暴走したミリアインストールも使いこなさないといけないかもしれない。

 

「なあ、トレードさんよ。榊原達をこの世界に戻すことはできないんだよね?」

「そうですね。次元空間を渡るのも簡単ではありません」

「デジモンの究極体と融合して次元の海を通る方法は?コネクトジャンプの応用で」

「天使も次元空間を通れるよな、生身で」

「可能だとしても他の生徒さんが置き去りですね」

「だよなぁ」

 

ああでもないこうでもないと言いながら対策を練る。

 

「…最悪こちらから増援を送ることになるでしょうが、地球の守備も疎かにできません。

…なので準備ができ次第、一組を送ることになりますがよろしいですか…?」

 

「まあ、それしかないかな」

 

現在増援で送る可能性があるのは、ベルゼブモンのテイマーである大和田さんか。

 

他の転生者の皆さんは地球の守備、金城明音さんはまだ発展途上。今回の件の増援としては力不足。

 

で、あればベルゼブモンの元ネタであり、ベルゼブブの痕跡を辿りやすい彼らが一番だろう。

 

究極体と融合進化すれば、次元空間を通れるはずだ。

 

「神話って様々なカルチャーに使われるけど、もしかしてこの【元の】世界にも独自のベルゼブブが顕現していたりする…わね」

 

 

 

進示視点

 

 

ミレディの治療をしていたが、これ以上休み無しでは明日に響くとのことで一旦切り上げる。

 

彼女にはまだ安静にしてもらわねばならない。

 

「頭の痛い情報が多いなぁ」

 

これからしなければならないこと、地球に帰ったらしなければいけないこと、変わった歴史の検証と、次々に問題が沸いてくる。

 

デジシンクロを利用してミリアの記憶、情報を覗き見たが、一連の事件の黒幕は転生者を管理する神、神王でほぼ間違いなさそうだが、どこか腑に落ちない点もある。

【誰も傷つかず、誰も死なない世界を目指す】

という、物質界では実現不可能なことをしようとしている。

いや、仮に可能だったとしても、それは【運営】がいなければ成り立たない不完全な理想郷にしかならない。

 

「…運営側がいなくなれば、世界を維持できない。世界だって動かすのにはエネルギーがいるし、星を維持するとなればそのエネルギー量は莫大だ。で、あればシュクリスとその契約者が犯人の線はかなり低くなった。ジールをサンプルとして回収するのではなく、破壊を選んだのは…いや、断定は早計か?」

 

神様転生システムのことは樹から聞いている。その情報と、様々なカルチャー知識、物理学の知識、魔法の知識を総合し、考察する。

 

 

「神の世界も一枚岩じゃないのは当たり前だが…、現在の神王は神と人間のハーフ…それも、俺を転生させた女神の息子…となれば経験は浅い…誰かが裏で糸を引いている?」

 

そもそも多数の世界をバランスよく管理するのは並大抵の経験や力でできることではない。

 

人間の世界の政治だって、ホンの僅かなバランスの崩壊で国ごと崩壊する。

 

「くっそ!なんでこんな難しいこと考えなきやいけないんだ…なんでそんな大役が俺に回ってくるんだ…だが、生身の肉体を維持は困難…どうやって世界を維持…」

 

その時、不意に俺の脳内のある知識が呼び起こされた。

 

 

 

 

 

 

『ログアウト先がありません』

 

 

 

 

 

「!?」

 

これは確か、サイバースルゥースの…

 

 

『随分動揺しているな、進示』

『杏子…!?』

 

あ、俺の考えが駄々洩れだった。まあ、漏らさないようにする手段もないのだが。

魔力がなくてもデジシンクロ状態同士のものなら思念通話の真似事も可能だ。

 

現在杏子は報告書を書いているはずだが、

 

『今の知識はパーフェクトガールプロジェクト事件のものだな』

『ああ、何で今こんな知識が』

『…!!』

 

杏子が息を飲む音が聞こえる。

 

『まさか…物質界から電脳世界への進出…!?』

 

杏子が元居た世界では電脳世界へのダイブは常識だったし、現に杏子の理解者でもある御神楽ミレイも電脳世界にいる。デジラボとか。

 

『確かに、電脳世界は物質界よりはずっと【クリーン】な世界だ。神王の考えが実現すれば少なくとも食糧問題はもう考慮する必要がなくなる。それによる戦争も起きないだろう。…だが』

『また新しい問題が起こる』

『加えて、物質界は絶対的な支配者がいなくても案外何とかなる世界だが、電脳空間ともなればそれを維持、管理する存在がいなくては成り立たない。…私も本来はイグドラシルの支配下にあったデジモンにすぎない』

 

今は、進示のデジモンだがな。と、付け加える杏子。

 

ロイヤルナイツであり、デジタルワールドのホストコンピューターの手駒でしかなかったアルファモンだが、人間界で活動するようになってからは、徐々に人間の心に触れ、不確実な不確かさを信じるようになったとはいえ、相羽タクミとは正規の人間とデジモンのパートナーではなかった。

 

あくまで人間社会的な雇用関係だ。私情はそれなりに育み、アルファモン自ら【トモダチ】と言った彼。

 

だが、偶然か必然か、俺たちの関係はそんな彼と杏子の関係を通り越して運命共同体となってしまい、さらに杏子も一度は記憶を失い、魂がつながった影響か、イグドラシルとの繋がりは完全に切れてしまった。

 

『そこだ。私はデジモンでありながら【魂】という21グラムの不確かなモノを持った。人間界で暮海杏子として活動した影響か、それとも別の要因か。おそらく両方だと思うが、今はイグドラシルのデジモンではなく、君の騎士だとはっきり言えるよ。…人間の心を持った影響かな?』

『魂…トータスにも魂に関係する神代魔法があったよな?』

『ジールも主に魂に重きを置く世界であったな…。ロジックと非ロジックの融合…電脳世界における魂の具現化…』

『杏子?』

 

突然黙った杏子に俺が訪ねる…まさか!

 

『今君が考えた通り、私はダシにされた可能性があるな。電脳世界の生物にオカルト的で曖昧な概念である魂を持たせ、人間と魂をつなげる…イーターと化した転生者は人間と電脳世界、あるいは高次の次元の生命体と融合し、電脳界や神の世界に3次元の生物が進出するための実験、その【失敗作】だろう。まあ、技術革新しようとする熱意は買うが、このようなやり方は褒められないがね』

『暮海杏子の身体を躊躇なく使っていたお前がそれを言うとはね』

『当時の私はまだイグドラシルのデジモンだからね。だが、暮海杏子の精神性と私の精神性、細部は異なれど使命感にそう大きな違いはなかったから、大きな人格の変化はなかったし、デジタルワールドも人間界も最悪の事態は避けられた』

『…リエちゃん☆モエモエみたいな変化があったデジモンもいたな』

『ハハハ、デジモンは人間の精神に影響されやすいからな』

 

杏子は思念通話なのに一旦オホン、と咳払いをする。

 

『だが、現在の私は君と魂がつながっているし、趣味嗜好も大分キミに寄ってきている。中野にいた頃には見向きもしなかったサブカルチャーにも手を出し始めたしな、私は』

『…それは謝ったほうがいいのか?』

『そんな必要はないさ。役に立つ知識も多いし面白い。それに、本来の暮海杏子も私直伝のコーヒーを助手から学んで趣味を変えたろう?』

『その辺は明確な描写はなかったけど、コーヒーにマヨネーズ入れてた描写から言って…ありえそうだ』

 

 

俺は味覚の問題に頭を抱えた。

コーヒーに劇物入れるのは完全にアルファモンの趣味だからな。

 

『又吉刑事がいつ、杏ちゃんのコーヒーを鑑識に回すか気が気でないみたいなこと言ってたような…』

『…序盤のシーンだな?少し心外だぞ、おじさん。また会うことがあればあのコーヒーの魅力を今一度教えないとな!』

『変なとこに力入れるな』

 

コーヒーの話題は地雷になるので、強引に話を変えようか。

 

『杏子は…恨んでないか?あっちの人間関係だって一度はリセットされたようなもんだろ』

『…そうだな…。むしろその質問はこちらがすることだ』

 

…杏子。気を使っているわけじゃないようだな。

 

『君をこちら側の都合に付き合わせ、あまつさえいいように利用する形になってしまうだろう。むろん記憶をなくしてた頃はそのようなことを微塵も思ってなかったが…私は絶対に恨みはしないよ。それに、そういう気づかいは騎士である私がすることだ、マイロード?』

 

騎士(ナイト)だから俺のことを君主(ロード)と呼ぶのか…。

 

『それに、君の助力がなければ私の世界も消滅確定だ。それどころか生きることすら危うかった。だから、私は君への協力は惜しまない。それに、もう7年も一緒にいるだろう?家族じゃないか』

『…ありがとう』

『…さて、これ以上の長話は体に障る…と、言いたいが、ティオ・クラルスが進示と話をしたいそうだ。私は一先ず失礼する』

『ん?』

 

そこには、先ほど体のケアをした竜人族の女性、ティオがいた。

リュウダモンも足元にいる。

 

「話があるのじゃが…よいかのう?」

「…」

 

俺はその辺にあった椅子を取り出し、「座んな」と指示する。

 

「この椅子、座り心地はそこそこいい。まあ、リーズナブルな値段ではあるが」

「これが普通なのか?この世界じゃ値が張るだろうに」

 

そういって、木製の椅子に座る。

クッションは敷いているのでお尻も痛くならない。

 

「で、話は?」

「実はのう…お主等、この戦いが終わればウィル坊を送り届けてまた旅を続けるのじゃろう?」

「そうだな」

「妾も連れて行ってほしいのじゃが…」

 

フム…。

 

「もともと何か任務があるんじゃなかったか?」

「それはお主等について言ったほうが効率が良いのじゃ。それに、ミリア先生にも会えたし、先生と交流があるお主等にも興味がある。…妾を打倒したその腕っぷしも」

「…それは、復讐のためか?」

「!?」

 

俺の質問にティオは動揺する。

 

「な、何故…」

「ミリアが見聞きしたことは大体把握している。幼年期のお前の顔も、お前の両親の顔も知っている。…俺と杏子とミリアはとある事情で魂が繋がっている。そのため、お互いプライバシーがないレベルでお互いのことを把握している」

 

そう、ミリアの記憶から、ティオの幼少の姿を見たのだ(というか、ミリアのほうから情報を送信してきた)。

 

「リュウダモンがいなければ、復讐を悪いとは言わなかった。この世界の人間たちの事情に必要以上に介入したくはなかったのでな。まあ、俺にも私情がないとは言わないし、気に入った人間なら肩入れしたくもなる。だが、お前がリュウダモンを大切に思うのなら、復讐を肯定するわけにはいかない」

「…」

 

そう、デジモンは人間の精神に大きく左右されるのだ。

 

もし、ティオが復讐心に囚われれば暗黒進化をし、手が付けられなくなる可能性もあるからだ。

 

だが…。

 

「ハジメ殿は?彼は生きるために他者に容赦はしない。復讐心があるわけではなさそうじゃが…キレた刃物のようじゃ」

「…彼は本来平和に暮らすはずだった。それが突然こんな世界に呼ばれて、戦わざるを得なくなった。それに、強制はしてないが、こちら側の仕事に勧誘している。返事はまだもらってないが、その途中にとある事件が起きて過酷なサバイバル生活だ。俺は本来面倒ごとは嫌いだが…勧誘した以上、心身の成長を見守る責務がある。まあ、先の事件は逆に世話になっちまった。俺もまだ未熟だ」

「そうか…」

 

ティオは何かを考えこんでいる。

 

「リュウダモン。お主、妾についてはどう思っている?」

「私が生まれた時から一緒にいたティオは家族同然だ。短い時間であっても。

それに、ほかの竜人族が私を疑いの目で見たり【弱そうなくせに】と罵声を浴びせてくるものもいた。私はこの世界の生物ではないから当然だが」

 

そう、リュウダモンの言う通り、この世界に本来デジモンはいない。

 

「だが、ティオは私に向き合ってくれた。私を知ろうとしてくれた。私を理解しようとしてくれた。私がティオと共にある理由など、それで十分だ」

「…お主」

「デジモンは言葉以上に、ヒトの精神に影響されやすい。絆を深めたデジモンは一種の共鳴じみた現象を度々起こす」

 

俺はティオにデジモンの精神について補足を入れる。

 

「…我ら竜人族は、いかなる時も理性で心の獣性を抑える誇り高き強者にして知性種族。理性の件をふるう限り我らは竜人である」

「…」

 

ティオは過去を思い返しているのか、自身の誇りを確かめているのか…多分両方だろう。

 

「お主、改めて名を聞かせてもらえぬか?」

「榊原進示。進示が名前だ」

「…そうか。ではご主人様と」

「…は?」

 

そうして、ティオは椅子から降りて片膝をつくように跪いた。

 

「貴方様からは我々竜人族の常識にはない強大な【龍】の力を感じます」

「…それはミリアの龍の因子だ。それに使いこなせず暴走したぞ?」

「手に入れた経緯も妾にとっては些事です。暴走もいずれ克服するでしょう。あの時貴方様は確かに理性が残っていた…それに、里には妾より強い男がいなかったのです。妾は自分を打倒した者に嫁ぐと決めておりましたので」

「…」

 

そんなポリシーあったのか。

 

「お恥ずかしながら、貴方様を【使える】と思っていた妾がいます。…貴方様が言う【復讐】のために…」

「…思っていたということは今は違うと?」

「神は悪辣だと思っていましたが、貴方様の世界には人を害する神もいれば人を守護する神もいるということ、聞きました…そのことを聞き、今一度妾の感情が正しいか見極めたいのです」

「樹とは助け合う関係だ。…そうありたいと思っている。俺の力不足でまだ助けられることのほうが多いが…それにしても、見極めるか…」

 

俺自身の信条としては迷い悩みながら進むことを良しとしている。

 

悩まないということは裏を返せば思考停止だ。

 

それを踏まえると、彼女はきちんと考えて答えを出そうとしている。

 

悩みすぎるのもマイナスだが、考えることは大事だ。

 

俺はニュートラルの状態のデジヴァイスをティオに渡す。

 

「ティオ、デジヴァイスを渡す。これでお前とリュウダモンは正式なパートナー関係だ」

「…!!」

 

ティオはデジヴァイスを受け取りながら顔を上げる。

 

「ご主人様と敬語はよせ。特に拘りがないのなら、対等な関係が望ましい」

「…わかったのじゃ」

『別世界のティオはハジメ君に危ない意味で【ご主人様】と呼んでいました!あ、もちろん教育に悪い意味で!』

「うるせぇミリア!しょーもない話題で突然会話に割り込むな!!」

「なんじゃ!?」

 

どうやらティオは突然の俺の反応の意味が分からなかったようなので、デジシンクロによる状態と疑似思念通話を説明する。

 

「はあ、まだ治っていなかったのじゃな…、そのネタに走る癖は」

「…変な意味でお互い苦労しそうだな」

「でも、退屈はしないと思うぞ?」

「…そうだな」

 

実のところ、一番精神的に俺を守ってくれているのはミリアだ。

 

前世の俺の趣味嗜好やその他諸々を把握したうえで、俺にガス抜きをさせている。

 

デジシンクロで繋がっている今ならわかる。

 

「…ところで、本当に俺に嫁ごうとしてるのか?」

「…実をいうとこの年まで妾の打倒する男が現れなかったので、…若干…婚期がじゃな…」

「…見ての通り俺はハーレム野郎だぞ?」

「特に気にすることもないのじゃ。お主の世界では一夫多妻はダメらしいが、抜け穴はいくらでもあると聞いたし、優れた男に女が集まるのは世の摂理じゃ」

「…はあ、俺が優れた男ねぇ…お前の勘違いを正しておくが、俺の本質は赤子と変わらない。一人では戦えない、俺を包んでくれる温もりがなければ、この大役だってとっくに投げ出しているチキン野郎だ」

 

そう、俺はティオが期待するような男じゃない。

 

腕っぷしでは上回ったが、それも…いや、ティオがあんな変則融合状態ではない、通常の状態でもミリアインストール無しでも勝てそうではあるが…いずれにしろ腕っぷしだけだ。

 

「それの何が問題かの?」

「何?」

「先生から聞いたが、お主は確かに人間族の基準では前世の年齢も含めて壮年と言える年齢だが…それでも妾の10分の1も生きていない若輩と言ってよい存在。それに生き物である以上精神が弱る事態はいくらでもあろう。妾の暴走を止め、前に進むきっかけを与えてくれたお主の力になりたいと思うのは…いけないことか?」

 

…そう言われてしまっては反論できないではないか。

 

「…はあ、嫁ぐに関しては今すぐ答えはだせねぇ。まだ出会ったばっかりだし、ミリアの記憶を見たとはいってもそれは幼年期のお前だ。ほかのみんなとも相談する案件だ。

だが、ついてくると願った以上一先ず戦力として期待する」

 

「フフフ…今はそれでよい」

「俺がお前を好きになるかどうかは、これからのお前の人間性を見せてもらう。…俺はもともとハーレムを作るつもりはなかった。縋れる相手を欲したのは樹だけだ…他の皆はもう成り行きに近いし、ミレディも戦力として引き抜いたつもりが結局あまりの過酷な経歴に結局感情移入しちまった。そんな優柔不断な男でもか?」

「では、妾にも付け入るスキはありそうじゃの?」

「…」

 

俺は頭を抱えた。

 

だが、

 

ミリアが疑似思念通話で話しかけてきた。

 

『進示、少しくらい我が儘になってもいいですよ?私ももう進示から逃げられないんですし、逃げるつもりもありません。進示がティオを欲するなら止めません。というか、私はティオがいたほうが嬉しいです。優花さんには複雑でしょうが、貴方の決断なら止めないでしょう。世界崩壊を防ぐ大任を負うなら、っていうか、進示が放棄したらもう全部おしまいなのですが。なら、進示を支える人は多いほうがいいです。あ、進示がウホッ♂な趣味があって、ホ〇枠が必要ならそれでも受け入れ…』

「ミリアお前、後で便所に来い。便器に頭突っ込んでやる」

『やらないか!あ、青いツナギ着てベンチで待ち構えていた方がいいですか?』

「…」

『まあ、冗談はさておき、清水君を殺さずに済む可能性がガンクゥモンのおかげでできましたし、もしかしたら、清水君がジエスモンのテイマーになれるかもしれません!セイバーハックモンまでは問題なくなれますから!』

「そうか…」

『それと、ユエさんにも後でアドバイスしてくださいね?ハジメ君と同じタイミングで究極体になれなかったの気にしてますので』

「…そうなのか?それはハジメがやるべきじゃないのか?」

 

ユエの恋人はハジメだが。

 

『ハジメ君はユエさんを全肯定しますから、多分きっかけを与えるのは難しいかと』

 

…なるほどな。

 

『では進示は仮眠をとってください。後の処理はこっちでやりますから、治療にメンテに忙しかったでしょ?敵襲があったら起こしますから』

「…そうだな、少し寝るか」

 

「寝るのか?妾も一緒に」

「今日はっていうかまだ答えだしてねぇし」

「それもそうじゃな」

 

はあ、一先ず3時間寝るか…。ミレディの魂の治療は思った以上に魔力も食うし、まだ俺の龍の因子は魔力の自己生産ができない。

 

食事と睡眠で回復するしかない。

 

 

…万を超える魔物とはいえ、俺達やデジモンの力なら問題なく撃破できる。

 

ライセン大迷宮で結局使わなかったガトリングガンも使おうか。

 

ハジメのメツェライと合わせればターミ〇ーター二人分だ。

 

『戦争でも始める気か!』

 

…もう何も言うまい。ミリアよ。

 

『あ、それとも大惨事大戦でしょうか!』

 

…リアルタイムで思考を把握されるって結構キツイな…。

 

『進示も私たちの記憶見てるでしょう?まあ、見られるの防ぐ手段ないんですけど!』

 

もういい加減寝よう。

 

『おやすみなさい』

『ああ、休めるときに休め。報告書は書いておくし、通信端末のメンテもやっておこう』

 

…サンキュー。

 

…ミリアも無理しやがって。

 




格闘技と元ネタ

進示・全体的に我流でセンスが不足している。龍の因子によるパワーアップのため、二次元のマンガや格闘ゲームのキャラから選んだモデルはギルティギアシリーズのソル=バッドガイ。それをさらに自己流にアレンジしたもの。ソル本人と違い、魔法による遠距離攻撃や搦め手も多用する。また、ソルほど再生能力は高くないため、攻撃か回避か迷うような場面では回避を選択する。自分が死ねば杏子とミリア、実質的に樹も道連れになるため。樹との修行でパンクラチオンの技術も多少取り入れた。龍の杖も普通に鈍器として使うことも。銃火器全般の腕前も高い。
ミリアインストールの元ネタはもちろんドラゴンインストールである。



樹 
パンクラチオンの使い手で、徒手空拳のみならず武器全般使える。性格故か、急所攻撃をすることは稀。銃の扱いはそれほど得意ではない。神術で魔法使いのようなこともするなど割と万能。
リミッター付きで東京ドームを片手で更地にできる腕力がある。
進示と比較し、ミリアインストール無しならまだ樹のほうが上。


杏子
元がアルファモンなので完全に自己流。人間の姿で対応するために、警察がやるような逮捕術なども身に着けている。

優花
武器を失ったことも想定し、実践的な殴り合いで、進示が攻撃と防御と回避の判断を養わせた。グングニルを作ったことにより、槍術も検討に入れているが、樹から贈られたマニュアルで、基礎以外の動きはやっていない。天職上の理由から本来は投擲目的で作ったため。
余談だが、進示はこの後進化するであろうデュークモンクリムゾンモード以外に、メギドラモンの制御するための精神コントロール術を学ばせようか考え中。多くのデジモンシリーズにあるような暗黒進化のジンクスと、ミリアの師匠を殺害した自分の二の舞にさせたくないため。


ハジメ、軍隊式格闘術に近いが自己流。ハー〇マン先生方式かもしれない。

ユエ、隠れ家で殴り合いをしてたが自己流。しかし、そのせいで原作より股間スマッシュの手段が過激になった。

シア。経験が浅いためパワーに偏りがち。ハー〇マン方式も若干入っている。「優しい父様達は死にましたぁ!!(泣)」

ミレディ 自己流。自由力(重力魔法だが、ミレディの性格的に誤字でもなさそうなのが怖い)魔法の応用で筋力を調節できる。


ミリア 我流だが無駄のない動きが出来る。
体がデジモンになっているため、修正が必要。

余談だが、重要キャラにも関わらず、ミリアという名前は割と適当に決めた。




ミリアの世界知識

本当の意味での【ありふれ】原作知識は持っていない。
彼女がいたのは進示と杏子がいた世界線のみである。


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第24話 大戦前夜、衝撃の親子関係と暗躍する陰

オリジナルの設定集とか用語集とかいずれ作ろうと思ってますが、少し時間かかりそうですね。
清水君が4話の時点でハックモンをパートナーにしていましたが、まだ現実世界には出てこれない模様。

過去編に関して別途執筆してますが、本編を優先して更新するかもしれません。
気長にお待ちいただければ。

※作中何度か触れていますが、デジシンクロしている関係の人たちは、片方が死ねばもう片方も死ぬ設定ですが、死んでも直ぐパートナーが死ぬわけではなく、魂が消滅するまでは猶予があります。


杏子視点

 

「南雲君達がどういう思いをしてきたか…君たちが一番苦しい時に力になれなかった私が言うことは軽いかもしれません。でも、大切な人以外一切を切り捨てるような寂しい生き方はし欲しくないのです」

「…先生、言いたいことはわかるが、理想と現実は違う。進示は現実の厳しさを知ったうえでなお、最善の道を探そうとするが、…俺にそんな余裕はない」

「…南雲君」

 

それぞれが戦いの準備に動いたり休息をとったりするものがいる中、ハジメ君と先生の問答が聞こえてきた。

 

会話の内容から言って、先生は我々の人間関係…社会生活を営む上での対人関係を心配して言っているのだろう。

 

ちなみにデジモンたちは街の人間には見えないようにデジヴァイスに格納したが、エテモンが既にやらかしてしまっているので、彼だけは【着ぐるみの旦那】として外に出している。

おかげで神殿騎士からの目は白いが、彼がついた餅のおかげで街の住人には人気だったりする。

まあ、彼らしい歌声と共に餅をついていたが。

 

「先生」

「暮海さん…そう言えばその雰囲気が本来の暮海さんだと聞いていましたが」

「今ままでの私は記憶を失っていて、本来の私はデジモンでありながら人間社会に紛れて、探偵業を営んでいました…それは進示と出会う前の話ですが」

 

そう、私は進示と出会う前も複雑な経歴を持っている。

 

「私は目的のために社会のルールと折り合いをつけながら…しかし、時として人間を利用する行動をとっていました。…人によっては非常、非人道的と言われることもしていました」

 

その最たるものが、暮海杏子の体を利用したこと、半電脳体になった助手を利用し、命を削らせながらコネクトジャンプを使わせ…今思えば物凄く罪悪感が沸いてくる。

…やはり進示と魂が繋がっているから、私の心は大分人間に拠っている。寄っているではなく、拠っている。

イグドラシルやデジタルワールドではなく、進示の傍が今の私の帰る場所になってしまった。

…私はそれを恨んでいないが…助手は…進示から私の世界が架空の物語の一つであると知り、助手は恨んでいないと言っていたが…それでも不安になる。

 

 

ハジメ君は私のことを聞いていたが驚きはなかったが、先生は息を飲んだ。

 

「人の心は良くも悪くも移ろうものです。今のハジメ君が自分の大切や仲間、家族以外の人に関心がなくても、人間関係次第では興味を持つこともありますし、興味を失うこともあります」

「…」

「ですが、進示はハジメ君を見守るつもりでいます。デジシンクロで魂が繋がっている以上進示の考えは手に取るようにわかります。…まあ、進示も私の考えが分かるのですが。ともかく、密会の時に声をかけたもの全員、もう進示がいなくてもやっていけると、本人たちが言うまで、助力をしていくつもりのようです。進示がそう考えるならば、私も私の力が及ぶ範囲で力を貸します」

「暮海さん…!」

「~っ!!」

 

先生が感極まったように、ハジメ君が照れ臭いのか頬をかいている。

 

 

「そう言えば榊原君は?」

「進示なら怪我人のケアやこれからの戦いに必要なもののメンテナンスで疲れて仮眠をとっています。進示もこの戦いに参加する以上、休憩なしとはいきませんので。ハジメ君は準備ができたのかな?」

「ああ、俺もこれから仮眠をとる」

「では、ミリアが起きているつもりのようなので、襲撃警戒の見張りは彼女にやらせる」

 

私はそう言って、少し休憩するために車両に戻ろうとする。

 

「…なあ、暮海。あのミリアって女。二人の昔からの仲間って言ってたよな?」

「ああ、かなり複雑な事情があるのは大まかではあるが説明したとおりだ」

「死んだと思ってたやつと再会するってどんな気分だ?」

「何故そんな質問を?」

 

ハジメ君はまだ誰も失ったことがないゆえの質問だろう。

 

「…私も気になる」

「ミレディたんも気になるかな」

「いつの間に」

「俺はさっきから気づいてたけどな…ユエだけは」

「もう、ハジメさんのセンサーは私にも発揮してほしいです!」

「シア、落ち着いて」

 

愚痴を垂れるシア君をパタモンが落ち着かせる。…ドンマイ。強く生きてくれ。

 

「…色々騒がしいし、下ネタも多いが…やはり生きていてくれて嬉しかったよ。彼女なりに私たちのために残してくれたものも多いしな」

 

そう、私はある程度事情を知らされていたが、ミリアが生きてて嬉しかったのは私の…そして進示の本音でもある。

 

…ただ、師匠は…。

 

「そして、ミリアはある意味進示の精神に一番より添えている人物だ」

「進示のやつハーレム構築してってるが…暮海や園部よりもか?」

「…」

 

ハーレムという単語に先生が複雑そうな顔をするが、とりあえず理由を聞くつもりで黙っている。

 

「進示はハジメ君と同じで趣味を人生の生きがいにしているタイプの人種だ。私がその手のカルチャーに手を出し始めたのも進示と出会ってからだったし、優花も全く違う趣味嗜好をしていたからな。優花も進示の趣味に合わせようとしているが、好きになった人を理解したいが故だろう。ミリアは人に対しての距離感のはかり方が上手い。しかもそれを悪用しようとは一切考えていない」

 

ミリアに下心がないのはデジシンクロでわかる。

 

私とミリアが直接魂を繋いではいないが、そこは進示を中継器にしてミリアの心を読めばいい。彼女も同じ考えで私の心を読むはずだ。

 

「しかも、進示へのからかいもワザとだろう。蹴られるとわかってやっている。…そうやって一人で背負いがちな進示の心をガス抜きさせるために」

「…あの女、ただの変態じゃないんだな」

「ハハハ、まあ、ミリアは仲間には優しいから、ハジメ君の行動に対してもハジメ君が故郷を思い出せるようにコマン〇ーのネタをやっていたのだろう」

「ああ、あのきっしょい騎士を置き去りにしたときか」

「な、南雲君…きっしょいって…」

「いや、実際『愛子~!!俺だ~!!』みたいな感じであの気色悪い顔で『さあ、俺の胸に飛びこんでおいで!』みたいに手を広げてどう思った?」

 

ハジメ君の質問に先生は顔をそらした。

 

…うん、あまりいい気分はしてなかったようだ。

 

今更ながら進示が転生者だと知っているのクラスメイトは進示と一緒に地球と通信をした者たちのみ。

 

進示が転生者といったタイミングは、オルクスの隠れ家にいた時だつまり、転生者を知らないのは、迷宮に潜っているグループだけだろう。城に居残っている生徒もいるかもしれないが。

 

玉井君達がリアル転生者の出現に色々言っていたものの、『転生者になることはあまり勧めない』とも言っていた。

 

ジャンルにもよるが、この世界もどこかの観測世界では物語になっていると仮定すると、物語を盛り上げるための困難は付き物であるからだ。

 

…そして、この世界における転生者の基本的な使い道はその世界に本来存在しないはずのイレギュラーを排除すること。サブカルチャーではよく使われる設定、タイムパトロールや抑止力などが転生者の位置づけに最も近いものだ。その過程で人間関係が変化した場合は、世界にとって誤差範囲であれば咎められることは少ないが、その裁定は転生させた神の裁量にも左右される。

 

そして、進示たちが…いや、【進示】が選ばれた理由は、未来の樹から送信された情報とそれを受け取ったミリアからもたらされた情報(デジシンクロで盗み見たが)、そして、前回の歴史ではいなかった神童竜兵とその男と契約している大天使、破壊神大天使シュクリス。…まだ確証は持てないな。

…恐らく、神童竜兵に関しては6人の転生者達とこの世界でハジメ君達を始めとする人間たちだけでは対処不可能の事態になったため、急遽派遣された転生者という可能性が浮上した。

 

…ん?そもそもそれ以前にオリジナルの世界が消滅すれば…転生者が活動するこの世界も消滅するはず。…どうやってこの世界を維持しているのだ?

 

「…暮海さん?」

 

先生が私の顔を覗き込む。…いかん、考えに没頭しすぎた。

 

「いえ、大丈夫です」

 

世界の仕組みについての考察は後にするしかない。

一応報告書に書いて待機している地球組に送るつもりだが。

 

記憶が戻ってから、通信設備の整備や報告書の作成などは完全に私の役目になったが、私は記憶が戻る前は報告書なども全て進示に任せきりだったからだ。

そう考えると進示の今までの負担が大きすぎたのだ。

そもそも、医療設備付きの車や医務室の医療器具や薬、人間だけでなくデジモン用の医療設備に通信設備を造ったのも進示だし(ハジメ君のブリーゼはいささかロマンと武器に傾倒しているので、生活面の整備を進示の車に搭載した)、ついさっきもミリアに彼女からまだ教わってない魔法の足りない知識を口頭で聞いていたりしていた。

彼女が残したノートだけでは賄いきれない部分を聞くためだろう。

 

「私は…進示と魂が繋がる前は同胞のロイヤルナイツが行方不明になった時もそれに対する一時の危機感はあっても、後悔と実感したことはそこまでありませんでした。

私の探偵事務所でかつての助手と別れることになったとしても、【寂しい】とは思っても、顔に出すことは一切なかったと思います」

「どうしてですか?」

「先生…私の助手とはそれなりに親しくはありましたが、デジモンテイマー的な正規のパートナー関係でもありませんでした。彼とはトモダチ…と言ったこともありますが、その時私は本当の意味で人間の心を実感してなかった。まあ、探偵業を営む以上、ポーカーフェイスは必須ですが」

 

…私の心に明確な変化があったのは…進示と魂が繋がってから。いや、進示に【暮海杏子】という名前を付けられたときか。

 

『暮海…杏子?』

『そうだ。今日からお前は暮海杏子だ。人間の姿で目撃されたから、デジモンのままじゃ過ごしにくいからな』

『戸籍は私が何とかします』

『お前の記憶が戻るかどうかはわからないが、その名前なら可能性はあるだろ』

『…わたしは今まで二人と一緒に過ごしたの楽しかったよ?これからも一緒にいるから』

『…そうか』

 

「私は、進示がいた世界ではとあるコンテンツの架空の登場人物でした」

「「はっ!?」」

 

私の言葉に反応したのはハジメ君と優花君だ。この部分はまだ話していなかったな。

 

「く、暮海…それっていや、予想はしていたが」

「先に断っておくが、私が架空の人物と知ったのは進示と出会った後だが、それ以前に私は私が元居た世界は作り物ではないか?と仮説を立てたことがある。…進示と出会ってそれは立証されたが」

「ま、マジかよ…」

「と、いうことはだ。白痴の魔王も実在してるかもしれないぞ?」

「うああああ!?聞きたくねぇ!?」

「ハジメ!?」

「ハジメさん!?」

 

おっと、ハジメ君の余計なアイデアロールが成功してしまったか。

 

「そして、進示を絶対に失いたくないと思ったのは…彼が処刑された時でしょう」

「「「えっ!?」」」

 

進示の処刑についてはオルクスの隠れ家にいたメンバーはすでに知っているが、先生たちは初めてだな。あ、シア君やミレディ君も初耳だったか。

 

「進示は日本人だから、日本で培った価値観や倫理観を捨てきれずに、自分に襲い掛かってくる人間を攻撃できなかった。…それが仇になって捕まったの」

 

「シンちゃん…」

 

優花の言葉に反応したのはミレディだ。俯いている。

思い当たることがあるのだろうか。…いや、あったな。

 

「まあ、ジールでどうなったかは時間がに余裕のある時に話すが、優花、起きてたのか」

「目が冴えちゃって…確かあの世界は転生者を召喚しすぎて、滅亡が確定した世界なんでしょ?」

「正確には、転生者にばかり働かせて自分たちで何もしなかった世界だからな。…私と進示が召喚されるまで、世界の意志そのものが転生者の召喚をブロックしていたが…私たちは召喚された」

 

するとハジメ君は「なんでだ?触媒でもあったのか?」と聞いてくる。

…フフフ、すぐにその発想に至るあたり、さすがはエリートオタク南雲家の子息だ。

召喚に触媒というのは、サブカルチャーで割とポピュラーではある。

 

 

 

 

 

 

「その通り。ミリアの記憶を見て推理し、確信した。あの世界には私と進示、そして間接的にはミリアを親とするまだ生まれていない娘があの世界にいたのだ。それが接点になり、私と進示は召喚された」

 

 

 

 

 

 

ええええええええええええええ!?

 

私は爆弾を投下してしまったようだ。

 

私たちに娘がいることは私と進示とミリアの3人だけ。樹すらまだ知らないのだ。

 

「どどどどどどどどどどどういうことですかぁ!!?」

 

そんなまくし立ては先生だ。

 

他のメンバー、優花たちも驚いている。そしてどういうことかと目で訴える。

 

「先生、もし貴女が貴女のご両親がまだ結婚していない時代にタイムスリップしたとします。

…そうなった場合、貴女はご両親にご自身が娘と名乗れますか?」

「………名乗れませんね。だってお父さんとお母さんの関係が気まずくなったら…私が生まれなくなります」

「…そういうこと。ジールでは最後まで名乗らなかった女がいたって聞いたけど…その師匠が」

「…彼女が私たちの娘。それも、ハイネッツでとある男が私たちの血液を盗み、それを使った生命操作技術で生まれた半デジタル生命。進示はジール時代に師匠に大けがをさせられて、その治療にミリアの龍の因子を使ったので、遺伝子学上は彼女も母親です」

「ま、まるでSFみたいな話ですが…」

「…するとアレか、娘の方はタイムスリップしたのか…でもどうやって娘だってわかった?」

 

もっともな疑問を投げてくるハジメ君。

 

「我々3人は実質魂が繋がっているから、お互いの記憶を視れる。師匠はいつも左腕だけ長袖だったが、ミリアの記憶に師匠の腕に製造コードのような焼印があった」

「…」

「そして、ハイネッツで培養カプセルから出てきた女性の左腕の製造コードとミリアの記憶の製造コードの番号が同じだったのだ」

 

因みに娘は生まれた時は赤い髪に私と同じ目の形、進示にはあまりになかったが、おそらく似たのは精神性だろう。

それが、娘の主観では何千年も生きたのか、すっかり髪の毛の色素は抜け落ちて、肌も病的に白くなったので、一瞬推理が外れたのかと思った。

 

「それでか…」

「無論ハイネッツで初めて会った時も直ぐに遺伝子データを見たが、間違いなく我々が親だったのだ。まあ、その割とすぐあと、娘は別世界に召喚されてすぐに離れ離れになるのだが…そうして娘は気の遠くなる時間を過ごし、まだ何も知らない我々と再会する。そうだな?ガンクゥモン」

 

今更だが、ガンクゥモンは表には実体化せず、私や進示のスマホを介して移動している。電波が届くのならば、比較的自由に移動できるらしい。

この世界もデジタルウェイブが発生しているのだろうか。

…本格的に調べる時間はなかったが、できれば調べたい。…が、それは進示にさらなる負担を強いることになる。

先ほどミリアから聞いていたのは死者蘇生の秘法である。

進示が処刑された時にミリアのコレで事なきを得たのだ。

まあ、首をはねられた後に、ミリアが覆面を被っていたとはいえ、怪盗のショーじみたことをして、進示の死体を回収したのだから、目立った目立った。

まあ、あまり首と胴体が離れている時間が長すぎると組成が出来なくなるので、あんな大胆な方法をとらざるを得なかったのだが、それは過去編で語るとしよう。ん?メタい?気のせいだ。

死者蘇生を早く完成させて有事に備えるのも正しいだろう。

まあ、その能力に群がる輩も出てくるだろうが。

 

ハジメ君はハジメ君でアーティファクトの制作にかかりきりであるため、頼みづらい。睡眠時間を削らせるほどの依頼は出来ない。

 

『いやいや、さすがの推理力。ゼロのことだから今もどこかで暗躍していると思うぞ?…そしてしれっと我がゼロのパートナーであると見抜いたか』

 

ガンクゥモンの持っている情報量が不自然だったので、カマかけの意味もあったが、どうやら間違ってはいなかったようだ。ガラテアを知っている時点で8割そうだと思っていた。しかし、暗躍だと!?

 

「…!だが、あの時師匠…ゼロは暴走した私と進示が殺してしまったはずだ。どうやって生き延びた?」

『なぁに、ある意味彼女にしかできない芸当よ…ゼロは人間ではあるがデジモンでもあるが故にな』

「…?」

『ほう、アルファモンでもわからないか?まあ、ヒントはもう十分出てるから、分からなければ本人に聞くがいい』

 

ガンクゥモンめ…だが、探偵である以上はぜひとも自分で推理したいが…。

 

脇では本日何度目かもわからない驚きの声が上がっているが、一度に情報を与えすぎたか。

…思えば、ハイネッツのことをあまり思い出さなかったのは…娘と離れ離れになったことと、そうとは知らずに殺してしまったことから無意識に逃げていたのかもしれない。

 

…もういい加減に向き合うか。進示が起きたら記憶は自動共有されるだろうが…、直接口に出して話せば進示は絶対に泣いてしまうだろう。だから自動共有の手段をとったのだ。

彼の泣き顔を見て彼の弱さを隠す鎧は私たちで十分だ。

…私は彼の弱さを隠す黒き鎧となろう。

 

 

「まあ、色々言いましたが、記憶喪失の間の時間が長く、記憶喪失の間に過ごした時間が私に改めて【人間の心を育む】時間となったのでしょう。…記憶喪失になっていなければ、ここまで人間らしい心に近づけなかったかもしれません」

 

…私の心がデジモンのままでは辿り着けなかった、【後悔】、【恐れ】、【悲しみ】。これがなければソウルマトリクスも出来なかったかもしれない。

デジヴァイスを介さずカードも使わない。魂のみで融合進化をするソウルマトリクスの使用は私が【人間の心を持つ】ということが必須だったのだろう。

 

と、

 

「あれ、ミリアさん?」

 

ミリアが見張りの高台からやってきた。

 

 

 

 

「…まったく、その話を進示が寝てるときにするなんて…。進示に心理的な負担を与えたくないのはわかりますが…、いや、話したら話したでますます進示が気負ってしまいますね…おっと、魔物の群れが…あと2時間もしないうちに来てしまいますね。戦闘準備をしなければ!…多分清水君は進示たちに任せて大丈夫でしょう…優花さんに動いてもらいますか」

 

もう来るのか。進示を起こさなければ。

 

「!そうか。先生、段取り通りに頼むぜ」

「あわわわ…神輿なんて本当にやるんですか!?」

「俺達に戦えっつう以上それぐらいはやってくれよ」

「ミリアさん、私に動いて欲しいって?」

「多分清水君には人質がいます。人質の奪還さえなれば清水君は攻撃しなくなるはずです…まあ、裏で動いている人物まではわからないので、警戒は必要ですが」

「人質…そういう事ね」

 

ミリアの言葉に優花君は得心が言ったように行動を開始した。

 

「さあ、せっかくなのでやりたいネタがあります!ハジメ君はメツェライでしたよね?進示にもガトリングを使わせます!私、メガホン持ってますので。出来ればヘリコプターも用意したかったんですが、さすがに無理ですよね」

「…ああ、そういう事か…しまった、サングラスも用意すべきだったか…!」

「グレネードはシアさんたちに持たせるミサイルランチャー…オルカンで代用しましょうか!」

 

 

 

 

 

 

???視点。

 

そこには、1体のデジモンがいた。

清水幸利を引き込んだ魔人族の男はそのデジモンに対し、告げる。

 

「できれば全員を始末すべきだが…まあそれは理想だろう。人間の戦力は大きすぎる。

最悪、畑山愛子を殺せば最低限の仕事は果たせるだろう」

 

戦争において重要なのは食糧だ。補給がなくては生き物である限り戦えない。

 

「その死神のような容姿、魔人族にふさわしいな。この仕事が成功したらこちらに来ないか?」

「…考えておこう」

 

デジモンは返事を保留にして、これから戦場になるであろうウルとその近辺を見渡す。

 

「…このデジモンとやらの器では俺のスペックを十全には発揮できない。しかし…俺の別側面の派生物もあるとはな。オリエントでもないのに」

 

そのデジモンは左腕に赤い本を携え、一見すると包帯にも見える白いマントに青いターバンを巻いている。そして僅かに除く青い肌。

 

「この世界の神も人間も魔人も興味はない。せいぜい俺を楽しませてくれよ?」

 

彼はそう呟くと空高く飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュクリス視点

 

「がふっ!!」

 

喀血し、苦しそうに胸を押さえている我が契約者に応急処置を施しながら、私は考える。

…私は破壊神の系列故に、治癒に使える神術は少ないし、権限もあまりない。

戦闘管轄である破壊神。転生者に様々なサービスと補助をしながら人間の世界を見守る守護天使になったことは後悔していない。

いや、人間の空想の世界を見たいから天使の力に制限をつけてまで現場で働く守護天使になったのだ。

他の天使からはそろそろ引退して後進に任せては?と言われるが、私はまだ現役でいる。

 

「竜兵。いくら転生者であるお前であっても、これ以上命を削ってこの世界を維持するのは難しいのではないか?」

 

しかも現在は思わぬイレギュラーをエヒトごと消去せねばならず、竜兵はエヒトが使っていた【神域】の維持にも力を割いている。

 

「そのくせ、イギリスに行ってまで持ち帰ってきたこの竜の鱗、何をやろうとしているかは大体想像がつくが」

「これを彼らに見せれば、これをサンプルとし、榊原進示がこの先の領域を完成させるだろう。後必要なピースは概念魔法だ…いや、概念魔法は必ずしも必要ではないが、あったほうが有利という程度か。いずれにせよ、■■■を誰かが見せれば、ほかのデジモンテイマーたちも続くだろう」

「…榊原進示は極限の意志を持てないのではなかったか?」

「持てないとも。【独り】ではな」

「…そういうことか。ゼロを生かすように呼び掛けたのもそのためか。榊原進示は面倒くさがりのくせにお人よし、護るものが出来れば本来の実力以上の力を発揮する……!?」

 

 

そう言いながら私は神域の異変に気付く。

 

 

 

「…おい、我々の留守中に何者かが神域に入り込んだな。…エヒトの概念の残骸が一部盗まれている?」

「なんだと!?…しまった…俺も焼きが回ったか…!」

「…私も油断した。残骸も消去すべきだった…!!」

「…エヒトの力を誰かに使わせる気か…!候補は…搾れるが思い込みの激しい人間の誰かだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

戦の準備中

 

 

「アチキはもち~つき~でもナンバ~ワ~ン!」

「何をやってるんだね?エテモン」

「んもう、ミレディちゃんが今医務室付きの車で治療中でしょう?だからせっかくここにあったもち米を使ってお餅をついてるのよ!栄養付けないとね!」

 

杏子が歌いながら餅をつくエテモンに話しかける。

エテモンは外見だけなら着ぐるみ来た人間に見えなくもないので、そのままで通してる。

以外にも子供たちに人気だったりする。

しかし、餅つきの返し手は…先生だ。

 

「え、エテモンさん!早すぎます~!!」

「先生の手を潰す気か…」

「今度は私につかせてくださいよー!」

「シアくん、ドリュッケンは使わないようにな?」

 

エテモンの姿を見たシアは、自分もつきに参加しようと、ドリュッケンを持ち出す。

ユエは餅つきの様子を興味深そうに見ている。

 

見かねた杏子が、普通の杵を用意しようとしたが、ハジメは今戦いの準備中なので、

 

 

「もち米を作った先生のおかげで、日本の味を思い出せるのは日本人メンタル的にいい傾向ね。エテモン、今南雲に頼んだら片手間で杵と臼錬成してくれたから、アンタはこっち」

 

優花が別の杵と臼を持ってきたので、先生の方はシア君に任せる。

 

…進示はミレディや怪我人の治療で動かせないから私が監督した方がいいな、と杏子は思った。

 

この様子を見ていた神殿騎士は

「獣風情がついた食べ物など汚らわしくて…」

 

 

ドゴン!!!

 

神殿騎士の足元に大きな穴が開いた。

 

「何か言いましたか?」

 

シアがいい笑顔で言う。

 

「いや、何も…」

 

獣風情などと言わない方がいいぞ?と思った杏子だった。

 

 

「なあ、餅の味何にする?」

「醤油」

「きな粉がいいよ!」

「…マヨネーズ」

「ええ!?餅に合うの?」

 

玉井君達が味について議論している。私もワサビマヨネーズを試してみるか…と、【珈琲】を創るノリで考えている杏子。

 

 

すると下級(?)の神殿騎士が

 

「自分ははちみつとバターです!!」

 

などという。うむ…餅に合うのか…、いや、食わず嫌いはよくないなと考える杏子。

 

と、作業しながら聞いていたハジメは

 

「それ、全部採用!!」

 

意外とノリノリなハジメだった。

 

 

 

そして暫くして

 

 

 

 

たくさんある餅の中から進示も試食したのだが

「ぶっ!?」

 

進示が噴出した。

 

「あら、それアチキが作った餅ね」

「…何を入れた…?バナナっぽいのはわかるが」

「あらごめんなさいね~?それ、バナナスリップに使用済みの皮だったわ」

「地面に落としたやつだよな!?きたねぇ!?」

 

せめてきれいな奴にしろよ!エテモンの頭に拳骨を落としたが、エテモンに大したダメージはなさそうだった。

 

「まあまあ、進示、私とティオで作った抹茶餅はいかがですか?」

「この世界抹茶あるのかよ!?」

 

と突っ込んだ進示。ミリアとティオで作ったお餅を食べてみる。

 

進示はティオは知らないが、ミリアの料理はジール時代に何度も世話になったので何の疑いもせずに食べる。

 

「…アリだな」

「でしょう?」

「ああ、ティオと合作らしいが、美味いぞ…相変わらずな」

「!」

 

ミリアが嬉しそうな顔をする。

ミリアの乙女のような顔を見たティオは驚きに目を見開く。

 

「先生もこのような顔をするのじゃな…」

「いつか、馬肉鍋も食わせてくれ…」

「…はい!はい!もちろんです!!」

「今度は綺麗なバナナのすり身よ~」

 

しかし、空気を読まないエテモンがもう一度バナナ餅を勧めてくる。

進示は不安になりながらも口にする。

 

「…砂糖醤油餅だってあるぐらいだし…人を選ぶ組み合わせだが…アリかもしれん。後は加工の仕方次第だな」

「んもう!これでも完璧じゃないなんて…」

「まあまあ、エッちゃん。見込みはあるって評価だから改良しよ?」

 

ミレディのフォローでやる気が出たエテモンはさらに改良に闘志を燃やすのだった。

 

 

 

 

「私も優花さんやトレード様の料理食べてみたですね。進示の作る料理も。…杏子は…アレですが」

「ハッハッハ、ではミリアに八丁味噌クリームチーズわさびブレンドをご馳走してやろう」

「うえっ!?杏子いつの間に!?」

 

 

 

 

 




次回タイトル予告(変更になる場合があります)


誕生!テイマー清水幸利&剣のロイヤルナイツ

暗躍するデジモンは…わかる人はわかってしまいますか?


何度か言っていますが、本来デジモンであるはずの杏子が人の心を理解…実感の方が正確ですが、そういう思いもテーマの一つです。


師匠ことゼロの秘密が明らかになりましたが、どうやって生き延びているかはまだ謎です。ガンクゥモンとガラテアはタネを知っています。


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第25話 爆誕!ジエスモン&ピノッキモンハウリア!

お気に入りも120件を超えました。ありがとうございます。

そしてオリジナル形態が登場します。


進示視点

 

 

「「聞け! ウルの町の勇敢なる者達よ! 私達の勝利は既に確定している!」」

 

現在ウルの街に魔物の群れが押し寄せる直前である。その数6万越え。

 

「「なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ!」」

 

メガホンを使って大声で演説をしているのはハジメと…何故かミリアである。

 

まあ、ミリアの性格上こういうノリだってやるだろう。

 

俺が寝ている間にどんな打ち合わせしたんだ?

 

いや、デジシンクロで段取りはわかっているが。

…畜生、アイツに合わせる顔がないじゃないか。

 

まあ、俺達にターミネー〇ーごっこをさせようとしている時点でお察しだが。

 

俺はガトリングを出せるようにしておく。

…もう前回の通信から24時間経過してるはずだが、一向に通信端末から声が出ない。

日本で何かトラブルが起きたか?

今更だが、俺や関原も大和田も小山田も出口も岡本も、日常の裏で政府や公安から、彼等や自衛隊でも手に負えないオカルトや超常事件の処理を依頼されることが度々ある。

俺もその報酬で不定期だが収入があるので、学生とは思えない貯蓄はある。

まあ、現在は樹の方が収入はある(樹は表向きは社会人だし俺や杏子、関原達は高校生)。

ただ、俺が抜けた穴はアイツらなら簡単に埋められそうなものだが…。

 

「ティオ、お前は今回は魔法で固定砲台。エテモンはもう手遅れだが、この世界じゃデジモンは魔物に見えてしまうから、デジモンを外に出すのは最終手段だ。よほどのことがない限り俺の指示なしでリュウダモンを外に出すなよ?」

「わかったのじゃ…少々窮屈な思いをさせるのぉ」

 

まあ、人に見られない場所なら外に出しても問題ないが。

 

「それと、これを」

 

俺は魔力タンク用の指輪をティオに渡す。

 

「これは…フフフ…もう答えが出たのか?」

「そいつは魔力タンク用の指輪。俺たちの世界じゃ、戦いの前のプロポーズは死亡フラグのジンクスがある」

「嫌なジンクスじゃのう…」

「まあ、今回は力勝負じゃ負けはしないだろう。問題は…」

「搦め手じゃな?」

「ああ、ミリアの予想では清水は人質を取られているそうだ。前回の歴史では勇者になりたいコンプレックス拗らせて自分から魔人族に着いたが、今回の歴史は違うらしい。

ミリアは、この5年間俺が見聞きしたことは全て把握している」

 

ミリアは、この世界の清水は前回の歴史よりも【覇気がある】そうだ。

カウンセリングを断られた時も。

 

『いや、思うところはあるけどいい。こんなとこで凹んだら頑固おやじに顔向けできねぇ』

 

と言っていたが…これはガンクゥモンだろう。

 

 

「ほ、豊穣の女神!畑山愛子です!!皆さん!安心してください!私がいる限りこの戦いに敗北はあり得ません!!」

「その通り、私達は豊穣の女神、愛子様の剣にして盾!これが!私たちが愛子様に教え導かれた女神の騎士たちの力である!!」

 

ハジメがそう言うと、俺に目配せしてきたので、俺はその合図を受け砦の高台に跳躍。

 

このウルをめがけて6万の魔物が押し寄せてくるが、俺は右腕に力を籠める。

せっかくなので、セリフも拝借するか。

 

「御託は…」

 

俺の右腕に炎が宿る。

 

そう言えばこの技を使うのはベヒモス・イーター戦以来か。

 

「要らねぇっ!!!」

 

右腕を魔物の群れに向かってストレートで拳を突き出し、拳から熱戦が発せられる。

 

射線上の魔物は全て蒸発したが、これでも1万も削れてないだろう。

 

俺のタイラントバスターを見たティオや先生達は目を見開いている。

あ、シアもミレディも何気にユエも驚いている。

 

そう言えば、暴走状態じゃない通常状態で、この力を見せたのは初めてか。

 

すると、ミリアがメガホンで

 

「無駄な抵抗はやめて降参しろ!!もう逃げ場はないぞ!!」

 

そう叫びだした。

 

このセリフを合図に俺とハジメはそれぞれガトリングを取り出す(ハジメの方のガトリングはメツェライと名付けたようだが)。

 

俺たちのガトリングは強烈なマズルフラッシュと共に轟音を響かせる。

 

 

ガルルルルルルルルッ!!!

 

 

「戦争でも始める気か!!?」

 

ミリア。ネタなのはわかってるがそれは俺達が言っていいセリフじゃないぞ。

 

「地球に存在するガトリングよりも破壊力抜群だもんな。俺たちの腕力じゃなきゃ腕が逝ってるぞ」

「壊劫」

 

ユエの重力魔法の援護も入る。

というか、黒い球体が正方形のような形になって、敵の大軍を押しつぶしたな。重力魔法は俺も使えるし、今のユエの術式も完コピした。俺はどうやって使うかな。

 

優花もこれほど範囲は広くなくても練習すれば使えるようになるだろう。

 

「上からくるぞ。ティオ」

「任せるのじゃ!…吹き荒べ頂きの風 燃え盛れ紅蓮の奔流 嵐焔風塵!」

 

今更だが杏子は観察に徹している。司令塔の役をさせるために。

 

ティオは魔力消費を抑えるためにあえて詠唱をしているようだ。

 

シアもハジメから借りたロケット&ミサイルランチャー、【オルカン】でガトリングでは処理しきれない魔物を攻撃する。

 

と、ハジメがメツェライの連射をやめてしまった。

 

ハジメの顔には凶悪な顔…いや、イタズラを思いついたガキの目だ!?

 

「諸君!!愛子様のお力はこれだけに留まらない!!大陸をも破壊する白き破壊龍も愛子様の手足となり、正義の死者となる!!!」

 

 

は…!?この野郎!!アドリブだな!?

 

 

「はああああああああああっ!!」

 

するとミリアが咆哮をあげ、ハジメの言う白き破壊龍となった。

 

ドルゴラモンじゃないか!!?

一応ミリアにとっても因縁の姿だぞ!?

 

(心配してくれるの嬉しいですけど大丈夫です、進示。それに、進示が寝てる間にハジメ君に私のスペックを聞かれたので、答えたんですよ)

(そう言えばマトリックスエボリューションもソウルマトリクスもしてないぞ)

(これくらいは自力でなれます。しかるべき時はソウルマトリクスをお願いします。…デジモンの領域を超える進化のために)

(…ま、いいか。それに、ドルゴラモンも先生の使役力って事にしとけば、街の連中の信仰も集められる)

(そういうことです)

 

ミリアは魔物の群れに向き直り、

 

 

GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!

 

 

破壊の衝撃波【ドルディーン】を放つ。

 

まあ、手加減はされてるだろう。

 

(むう…これじゃ、全力を出したとしても本来の私の50分の1にも及びませんね。かなり弱体化してます)

(…ドルゴラモンで50分の1って、普通は信じられないけど、一回だけお前の本気見たことがある俺や杏子からすると、笑えねぇ…あ、ティオが口をあんぐりさせてる)

(同感だ。しかし、今ので魔物は殆ど消し飛んだ)

 

魔物はもう3000もいないだろう。

 

「後は消化試合だな。優花が戻るまで適当に暴れるぞ」

「了解ですぅ!」

「サクッと終わらせるか」

 

殴り込みは俺とハジメ、シアだ。

 

他のメンバーは万が一のため、待機させる。抜かれるとは思わないが念のためだ。

ミレディはまだ戦闘できるほど回復してないし、ティオも本調子ではない。

 

3人で魔物の群れに突っ込み、シアはドリュッケンを振り回し、ハジメはドンナー&シュラークでバカスカ撃ちまくり、俺は龍の杖の殴打に拳、蹴り、時に魔法で薙ぎ払う。

以前使ったライフルには体験に変化する形態もあるが…今回は必要ないかな。

果たしてトータスで使う日が来るかは疑問だが。

…それとも俺の戦闘スタイルのモデルになったキャラの武器をネタで作ってみるか…?

資材に余裕があれば試してみたいが後回しだな。

 

「…いつの間にかだが、俺が勝手に指揮を執っちまってるけど。いいのかハジメ?」

「あん?いいんじゃねぇか?お前の方が経験豊富だし。シアたちの時は俺も経験積んどくべきだと思って交渉とかやったけど…この際進示に投げちまうか」

「投げっぱなしはよしてくれ」

「でも、今のメンバーでハジメさんやシンジさんの指示に疑問を挟む人はいませんよ?」

「強いて言うなら杏子だが…、指揮官の立場じゃ見落としやすいところを視てもらうかな」

 

そんな軽口をたたきながら魔物を処理していく…と、

 

「っ!」

「よお、清水」

「さ、榊原…!?」

 

オオカミのような魔物の背に乗った清水を発見した。

 

「さて、どんな事情があったにせよ、これで戦ったという建前はなるはずだ。来てもらおうか?」

「…」

 

いずれにせよ、もう清水に勝ち目はない。

 

俺は清水に一応の拘束をかけ、こっちに近づいてくる気配を察知する。

優花がお姫様抱っこをしているのは、清水の専属メイドの女性だ。意識はないようだ。気絶してるだけか。

…いつの間にそんなに人質とられるほどの関係があったんだ?

 

「優花」

「あ、アパル…!?」

「やっぱり、アンタのメイドだったのね?…この通り奪還したけど…やけにあっけなかったのよね」

「…」

 

常識外れの強い力を得ているとはいえ、優花が【あっけない】と言うほどか…。

 

「魔物の大軍は陽動の可能性あり…本命はやっぱり先生の殺害?」

「ああそうだよ」

 

やはりか。

 

戦争において食糧事情というのは重要な要素だ。

 

一部例外を除いて、生物は食事をしないと生きていけない。

 

ユエみたいな例外もいるが、原則メシは必要だ。

 

そんな兵站をたった一人で万人単位を賄える存在…味方なら頼もしすぎるが、敵にとっては厄介すぎる。

 

食糧事情を解決できる先生はあらゆる意味で重要だ。

 

「清水。一先ず事情聴取に付き合ってもらう。人質取られ手の犯行ならまだ酌量の余地はあるだろう。先生もお前を見捨てることはしないはずだ…それに」

『諦めるのはまだ早いと思うぞ?』

「なっ!?頑固親父!?」

 

やはりガンクゥモンと接触してたか。

 

俺のスマホ(特別性)からの声で驚愕する清水。

…清水からは色々聞きたいこともあるしな。

 

それに、まだ地球からの通信は来ない。

嫌な予感がする。

それと同時に希望も感じる。

 

「進示…」

「優花…お前は杏子やミリアと違って、俺の心を直接は感じ取れないが、それが普通だ。俺は嫌な予感と希望を両方感じている」

「なら、進示の不安は私が叩き潰すわ」

「…サンキュー。お前もなんか嫌な予感あったら言えよ?」

 

ハジメとシアがさっきから無言だが、俺達に任せるつもりのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

清水を連れて、ウルの街から少し離れたところに集まった。

神殿騎士も一緒だ。

 

「優花、アパルさんを捕まえてたやつはお前が倒したんだよな?」

「ええ。でも清水から人質とって言うこと聞かせる奴がいるってことは…」

「…まあ、普通に考えればハイリヒにスパイか内通者がいるという事になるな…魔人族に通じている…な」

 

杏子の発言に神殿騎士は騒めき立つ。

 

「そうでなければこうもスムーズに清水君を捕まえて利用することは出来ないはずだ」

 

ま、これは杏子の言う通りだな。

 

ミリアの記憶と情報から前回の歴史の清水はガンクゥモンにも会ってないし、コンプレックス拗らせて自分から魔人族についたようだが、この歴史の清水は前提から覆ってる。

(それに…アパルから感じるこの気配…)

 

「色々思い出したことがあるんだよ…それに変な夢を見たんだ」

「変な夢?」

「俺が生まれたばかりのころの夢だとは思うけど、俺が生まれた病院で生まれたばかりの俺に何かしてた女がいるんだ…白すぎる肌に白い髪に灰色の瞳…目元は暮海に似てたんだ…髪型はポニーテールだが、下ろしたらそっちの女に似てると思う」

「「「ッ!?」」」

 

清水の言葉に俺と杏子とミリアが戦慄した。

因みに清水の言う【そっちの女】はミリアのことだ。

 

それはつまり

 

「ゼロが清水に接触してたのか…!?いや、なんとなく予想はしてたが」

『その時の様子は我も見ていた』

「だからガンクゥモンが清水君に干渉したのか」

 

ゼロについて考えたいことはあるが、一先ず話を聞く。

 

「清水君…君がそうしてしまったのはやむを得ない事情があってのことです。確かに街を襲ったのは客観的に見れば許せない事ですが、そうまでして清水君に守りたいものが出来たという事でもあります」

「…でもよ、そこの竜人族を操って、間接的にとはいえ、人を殺しちまったんだぞ?」

 

清水のその発言に応えたのは意外にもウィルだった。

 

「私はは今回の一連の事件において仲間を失いました。何もできなかった自分自身と、清水殿や、彼女にも憤りをぶつけてしまうほどには悔しかったですし、その原因を作った要因はあなたにもあります…。しかし、そもそもの要因は魔人族…。正直まだ気持ちの整理はついてませんが、罪の意識を感じるなら生きるべきだと思うんです…。彼女は…最初は殺すべきだとも思ってましたが、今回戦ったのを見て責任を感じているのは十分伝わりました」

「ウィル坊…」

 

ウィルは今回の戦いで逃げずに戦ったティオを見て何か感じるものがあったのか。

 

「ですから、あなたもやり直せるはずです、清水殿」

 

犯した罪や程度にもよるが、殺さずに済ませられるならその方がいい。

心に余裕がないハジメなら躊躇なく引き金を引いてしまうかもしれないが、それでも敵認定してないやつを殺しはしまい。

 

「…」

 

しばらく沈黙が続くが、先生が清水にさらに言葉をかけようと近づいたその時。

 

「ダメです!!!離れて!!!」

 

シアが先生を突き飛ばし、突如発生した謎の空間に清水とシアが吸い込まれてしまった。

 

「「シア!!!」」

 

ハジメとユエが叫ぶ。

 

突き飛ばされた先生は、空間に吸い込まれることなく、ハジメが上手く抱き留める。

 

…先生?若干顔赤いぞ?

 

 

「二人はどこに…」

 

優花の疑問に俺はパソコンとモニターを取り出す。

 

突如亜空間から機械が出てきたことに驚く神殿騎士だが、気にせずキーボードを叩く。

 

「…今の空間の場所を割り出してみる!!…ただ、これを発生させたのはデジモンの可能性がある…魔人族に力を貸してるデジモンがいるのか?」

「!?」

「中は電脳空間の可能性がある。その空間では魔法が使えない…!」

「何だと!?どういうことだ!?」

 

デビットが聞いてくるがトータスの住人に電脳空間の説明をしてもわからないと思うので、現象のみを伝える。

 

「シアは未来視で、先生が今の空間に吸い込まれるのを見たのかもしれない!」

「それでか…あんな行動に出たのは」

「魔人族の目的は愛ちゃんの殺害、もしくは無力化だから今の空間に閉じ込めるのは敵にとっては良判断ね。でも、そうなると…」

 

パタモンはシアのデジヴァイスに格納されているので、電脳空間でもパタモンの力を借りられるだろう。

だが、清水は…。

 

「魔法を使えない清水は無力だ。そうなると頼りになるのはデジモンだが…」

『榊原進示よ、我であればその空間に入ることができる』

 

ガンクゥモンがそう言ってきた。

空間を割り出したとしても侵入できるかどうか怪しいのに!?

 

「おいおい、見つけたとしても、幾つものセキュリティを解除しなきゃいけないんだぞ!?杏子でも容易に突破は出来ない!」

『普通ならばな。我だけは無視できる』

「…根拠があるんだな?」

『まあ、他のガンクゥモンは出来ないとは思うが…【我】のみができる』

 

ゼロのパートナーであるガンクゥモンだけが?

 

「…説明の時間はないか。どうすればいい?」

『ニュートラルのデジヴァイスを一つくれ。今の幸利ならば完全体までハックモンを進化させられるし、世界消滅を防ぐにはロイヤルナイツが必要であろう?』

「…今ここで清水のパートナーをジエスモンにする気か?」

『前回は君や南雲ハジメ達の説得にも応じなかったが、今回は前提から違う。守るものを持った漢の目を持った』

「おとこのニュアンスが渋いほうに聞こえるが…わかった。こっちも引き続き二人を現実空間に戻せないかやってみよう」

 

俺はガンクゥモンに新しいデジヴァイスを転送し、清水の元に行ってもらう。

 

「二人は助けられそうですか?」

 

先生が心配そうにしているが…

ハジメも普段は邪険にしているシアが心配なのか、無言で訴えてくる。

 

俺は俺自身の知識と経験、デジシンクロで繋がっている杏子とミリアの知識から計算し、答えを出す。

 

 

「…残念だが、二人が内側から出てくる方が確実です…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

清水視点

 

 

「何なんだよお前は」

 

俺は目の前の大量の護符で作られた白いマントや青いターバン、拘束具で隠された右腕など、突っ込みどころありすぎな奴に言いかける。

後ろの兎人族の女は、手元のハンマーに何かしようとしているのが、すぐに使えないとわかると、デジヴァイスと思われる端末を出す。

 

「パタモン!進化させます!」

「任せて、今見た感じだと、ここじゃ魔法は使えないみたいだから、無理しないで!」

 

すると、青いカードを、デジヴァイスにスラッシュさせると、パタモンはジュレイモンになった。

 

…ゲームでは(※この世界では樹がデジモンコンテンツをゲームなどで世に拡散させた。清水もプレイヤーである)散々進化シーンを見てきたけど、自分以外のテイマーがこうやって進化させてるところを視るのは初めてだな。

 

「俺はバアルモン。そこのウサギによって邪魔されたが、元は畑山愛子を殺すことが目的だった。まあ、そんなことはどうでもよかった」

「どうでもいいって…」

 

バアルモンの打神鞭による攻撃をジュレイモンが受けたり、受け流しながらカウンターを試みているが、バアルモンのマントが衝撃を吸収してしまうのか、決定打にはならない。

 

「幸利!!」

「は、ハックモン…!?」

 

俺の携帯端末から出てきたハックモンに驚いてしまう。

 

「デジヴァイス無しで現実世界に出るのは難しいけど、ここはデジタルワールドに近い世界…電脳空間だ!ここなら戦える!」

「そ、そうか…もう数ヶ月経つから忘れかけてた…」

 

トータスに電子機器なんてないので、つい忘れていたが、ハックモンとはあの頑固親父との特訓で電脳空間で修行していたことがあった。

 

「ふん!!」

 

そして、電脳空間であれば俺のハックモンは完全体になれる。

 

「うそ!?デジヴァイス無しでですか!?」

「…」

 

バアルモンは俺達の進化を見ても無言。

 

「前世から特別な存在になりたかった貴様が、ただ()()を守るために奮い立つのか」

 

バアルモンの何もかもを見透かしたような目は癪だが、俺の本質を言い当てていた。

 

「前世では勇者とやらに嫉妬し、魔人族の誘いに乗り、力も女も思い通りにしようとしたお前が」

 

「ふん!!」

 

セイバーハックモンが3つの赤い刃で切りかかるが、バアルモンにマントでいなされてしまう。

 

「チェリーボム!!」

 

ジュレイモンが赤い木の実を投げつけるが、これはバアルモンが右手に持っていた銃で撃ち落とされる。

 

「なっ!?反応早すぎですぅ!?」

「同じ完全体なのにスペックが違いすぎる」

 

2体がかりの攻撃にバアルモンは鬱陶しいと言わんばかりに

「カミウチ」

 

打神鞭から強力な雷撃を放つ。

 

「ぐぬぅぅ!!」

「うわあああっ!!」

 

ジュレイモンとセイバーハックモンが雷撃に飲み込まれ、悲鳴を上げる。

 

「ジュレイモン!」

「セイバーハックモン!!」

 

2体ははまだ戦えそうだが、受けたダメージが大きすぎる。

 

「そこのウサギも連れの者たちに依存しているな…いや、自分で戦う意志はわずかにあるものの、まだ仲間たちと比べての自分のふがいなさを完全に払拭しきれていない」

「そ…それは…」

 

ウサギ女が…シアと呼ばれてたか、彼女もバアルモンの指摘に思うところがあったのか、俯いている。

 

「レベル差が大きいとはいえ、こうも脆いか。まあ、我が【本来の状態】だったら、お前たちは今の俺の一撃で終わっていたがな」

 

 

バアルモンが俺達のデジモンにとどめを刺そうとする。

…やらせるか!!

 

「ギルティッシュ」

 

バアルモンの護符が様々な形状に変化して襲い掛かってくる。

 

「ちょっ!?魔法も能力も使えないのに!?庇うんですか!?」

「そういうお前だって体が動いてるぞ!!」

 

兎人族の女が何か言ってくるが、無意識に互いのパートナーデジモンを庇おうとしてるのは同じらしい。

 

互いのパートナーを庇いながら襲い掛かってくる衝撃に目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…あれ?」」

 

 

「随分無茶をするようになったな」

「が、頑固親父…」

「ガンクゥモン!?」

「…なに!?なぜ外部のデジモンがこの空間に来れる!?」

 

どうやらバアルモンの攻撃は頑固親父が打ち落としたらしい。

 

「お前にはこの空間を手に入れた経緯を聞きたいところだが」

「…手に入れたというのは語弊があるな」

「ほう?では【創り出した】ものだと?」

「まだ試作段階ではあるがな。そのために、アパルという女の力を利用した」

「…ふむ?」

 

…え?

アパルというのはトータスに召喚されてから俺の専属になったメイドだ。

 

そして、理由はわからないが、俺に親身になってくれた人だ。

 

彼女に特別な力がある?

 

そして困惑する俺をよそにガンクゥモンはデジヴァイスを俺に投げ渡す。

 

「お前もシアもすでに答えは出ているだろう?彼女はまだ目を覚まさないが、お前を案じていたぞ」

「…」

 

俺は思い出す。

 

『幸利様は思慮深い方でいらっしゃるのですね』

『…会ってまだ数日しか経っていないのに何でそんなことがわかるんだよ?』

『貴方様に何があったかを知る術は貴方様の御言葉から聞くしかないので、分かりかねます。…その何と言うか、あの勇者様と違い、あなたはこの世界に来たことに絶望していらっしゃるようでしたから』

『…』

 

確かに前世と違い、今この世界に召喚されたという事は、前回のように死ぬ確率が高いという事。

 

召喚されてから思い出したのだが、前世の俺は浮かれていたのだ。

 

『…貴方様はご自身に居場所がないと思っていらっしゃるのではないでしょうか?そうでなければわざわざ孤立するような行動をとったりはしないでしょう』

『あんたに何がわかるんだよ!』

 

俺は動きこそしなかったが、つい声を荒げてしまった。

 

『ええ、分かりません。差し出がましいとは思いますがご相談をくださらないと、事情を知りようが御座いません。ですが、お悩みを聞いたり、適任者を紹介したりと、私にもできることは御座います。ですので…誰かと交流を持つことを恐れないでください。どなたもいないのであれば、私が貴方とご交流を持ちましょう』

 

 

それから世間話をしたり、お互いのことを話し合ったりもした。

 

そのことに…体感時間で何年ぶりだろうか。

 

人と話し合うことがこんなにもいいものだったなんて…。

 

 

 

「ハジメさんに頼ってばっかりだったけど、私だってやるときはやるウサギなんです!!…父様達のアレはアレですけど…」

「シアまでハー〇マンになっちゃだめだよ?」

 

ハー〇マンって…アイツの家族に何があった?(後から聞いた話では南雲のせいで兎人族が魔改造されたのだとか…劇〇ビフォー〇フターかよ!)

 

「どうやら、既に腹は決まっているようだな」

 

俺とシアって娘のデジヴァイスが輝き始める。

 

「世界を守れとは言わん!大事なものを守れる漢になれ!幸利、ハックモン!」

 

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

「やってやるさ!俺の家族はまだわかんないけど、こっちでできた大事なものは守る!」

 

 

そうして俺達の進化は始まる。

 

「邪魔をしないのか?バアルモン」

「…人間の精神性に少し興味がわいた」

「そうか」

 

 

俺はハックモンと融合し、他者を信頼し自身への過信を行わない…人をとの絆を作り始め、前世の自分のような思い上がりを起こさないために、聖騎士型デジモン、最後にして最新のロイヤルナイツ、ジエスモンになった。

 

 

「あちらも究極体、ピノッキモンになったが…何だ!?あのハンマーは!?」

 

ガンクゥモンがピノッキモンを見て驚いているが、ハンマーの形が俺の知ってるピノッキモンのハンマーじゃない!?

 

『名付けて、ピノッキモン・ハウリアですぅ!!』

 

頭の防止が青になり、ドクロマークがウサギの模様になっている!?

 

《…うそ、シアに先を越された…!?》

 

どこかからそんな声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

???視点

 

 

「はあ…、あのアパルちゃんを使って色々実験しようとしてたんだけど…あの清水君が転生者という扱いになってるだなんて…タイムリープって転生に入るのかしら?」

 

神の空間にいた4枚の翼を持ち、紫の長い髪と金色の瞳を持つ女がアレコレと考えている。

天使というのは転生者と契約しないと原則下界に降りられない。

しかし、力を一般人にまで落としてしまえば神の監視を潜り抜けられる。

 

神も一定のルールを敷いているものの、すべてを厳格に監視できるわけではない。

 

それに、アパルに力を使わせるために清水と契約するのもありだろう。

 

多少歪んでいたとはいえ清水は弱者の部類だ。但し、才能のある弱者という方が正確か。

弱者を慈しみ、救済することにやりがいを感じている彼女を言いくるめるのは難しくなかった。

 

「やっぱりデジモン単体じゃ、神の器としては不十分でしょうか。まあ、神の器になる御業の目途は立ちましたし、今回はこれで良しとしましょう。それに」

 

女はクツクツと笑う。

 

「アパルちゃんなら私の【眼】になってくれるし、清水君と契約してくれれば下界の事情を知ることができるわね~。竜兵きゅんが死んだとしても♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

オルクス(表の迷宮)攻略中の一行

 

???視点

 

「はい、これで治療が終わったよ」

「あ、ありがとう、辻さん」

 

 

そう言って治療の礼をするのは野村健太郎。

白崎香織ほどではないが治癒師としての腕前は高い。

 

「フフフ…健太郎様、彼女に気がおありで?」

 

そう言って話しかけてきたのは青い髪に赤い目のクールビューティーな女性騎士、アルフォースだ。

 

「ふひゃい!?いいいいいきなりそんにゃなやにをいうぶふぉでしゅか!?」

「そ、そこまで動揺するほどですか?」

 

健太郎が驚きのあまり噛みまくってる。

アルフォースは若干引きながらも微笑ましいものを見る目で野村を見る。

 

「貴方に相談があるのです、健太郎様」

「な、なんですか?アルフォースさん?」

 

健太郎が緊張しながらも相談の内容を聞く。

 

 

 

 

 

 

「このアルフォースを…いざという時は貴方が私のパートナーになってくれますか?」

 

衝撃の爆弾発言である。

 

女性から男性にこんなことを言われれば告白と捉えられてもおかしくはない。

 

辻綾子は野村から気を寄せられてることには気づいていないものの、気になる女性がいるのに別の女性に告白されたのだ。

 

健太郎は暫くの間悶々としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル形態、ピノッキモン・ハウリア

シアとピノッキモンの融合オリジナル形態。ハンマーはピノッキモン本来のものとドリュッケンの複合型である。

また、本来のピノッキモンはウイルスだが、ピノッキモン・ハウリアはワクチンになった。

帽子は青くなり、ドクロマークはウサギになっている。

必殺技は、ブリッツガトリング、グラビティハンマー。

従来のピノッキモンへの進化、使い分けも可能。

ピノッキモン・ハウリアはシア限定の形態である。


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第26話 決着つけたかったけど逃げられるってよくあるよな

シア「このピノッキモン・ハウリアは変身をする旅にパワーが遥かに増します!…その変身を私たちは後2回残しています…この意味が分かりますね?」
ミリア「おお!宇宙の帝王、ハウリーザ様ですね!」
ハジメ「アホなこと言ってねぇで行くぞ!」
ユエ「シア、調子に乗らない」
シア「ユエさん。究極体先を越されたからって拗ねてますね?」
ユエ「蒼龍」
シア「ひにゃあああああ!?」

進示「…ハジメ、ホントは自分もやってみたいとか思ってるだろ?フリー〇の件」
ハジメ「ギクッ!?」
進示「図星かよ。まあ、ハジメはホントにあと2回…2つ残してる」
ハジメ「何だと!?」
進示「一つはジョグレス体だな…。もう一つは…お楽しみだ」


進示視点

 

「よし、何とか映像は拾えそうだ!」

 

俺は杏子のアドバイスを得ながらパソコンのキーボードを叩き、シアと清水が吸い込まれた空間の割り出しを行っている。

 

同時にパソコンに繋げているモニターの映像が映る。

 

「2人とも究極体に進化している!?」

 

杏子の言う通り、そこにはピノッキモンとジエスモンがいた。

 

「嘘…シアに先を越された…」

 

ユエが悔しがっている。

 

テイマーとしてはユエの方が先輩のはずなのにシアに先を越されて悔しいのだろう。

 

…今のユエはハジメに依存している。

俺はそれを悪いと言える資格を持たないが、それでもユエはもう一度自分自身と向き合う必要がある。

幸い、ルナモンとの交友はいい関係だしな。

ミリアの言う通り、きっかけは大事だろう。

 

「中にいるデジモンはバアルモンか!?」

 

バアルモン…すなわちカナンの主神バアルの派生物であり、それがデジモンとなったのだろうか。

 

バアルの別側面はベルゼブブだ。

 

「…ん!?アレはピノッキモン…!?でも」

「ああ、我々が知るピノッキモンとは違う」

 

清水のジエスモンは想定内。

シアも、ジュレイモンからの進化ルート上、ピノッキモンは予想の範疇。

が、頭の防止が青になり、ドクロマークがウサギの模様になっている。それに、ピノッキモン本来のハンマーとドリュッケンを足したようなフォルムになっている。

 

「どうやら、独自の進化を遂げたようだ。これは私も想定外だ」

 

杏子が何やら思案顔でそう言う。

 

「凄いな…オメガモンとまではいかないけど、ロイヤルナイツに迫る勢いだ…杏子の記憶から見た白峰ノキアのオメガモンやロードナイトモン達と比較しても…うん。充分匹敵する」

 

俺がピノッキモンハウリア(シアが脱出した後聞いた)と、ジエスモンの2体がかりでバアルモンを追い詰めている。

 

ガンクゥモンは戦闘に参加していないが、二人に経験を積ませるのと、万が一やられそうになった場合のバックアップだろう。

 

「バアルモン、あのピノッキモンのガトリングのような攻撃とジエスモンのシュベルトガイストの攻撃を全て捌いているぞ。無傷とはいかないようだが、対応している」

 

ジエスモンもピノッキモンも究極体だ。

 

それ故か、バアルモンは反撃に移れない。

 

このまま手数で押せば行けるか?

 

「あの二人、即興にしてはいいコンビネーションだ」

「うん。シミズが接近戦、シアが遠距離からのガトリング。簡単は役割分担だけど、効率のいい攻撃」

 

ハジメとユエもそんな感想を抱いているようだ

 

『…ちっ。この身体ではこれが限界か』

 

バアルモンが舌打ちをしながら後ろに飛ぶ。

 

『逃げる気ですか!?』

『こちらの想定が甘かったようだ。ジエスモンは予想通りだが、ピノッキモンの方は俺の知識にもない進化を遂げた。…これは計画を繰り上げる必要があるな。まあ、別の世界の神のやることに興味はない。オリエントどころか地球ですらないこの環境で【バアル】の名を冠するものに慣れただけで良しとしよう』

 

オリエントだと!?

 

「デジタルワールドではなくオリエント…か。あのバアルモンの中身は…」

 

杏子が何かに気づく。

…やはり俺と同じ結論か。

 

『この会話を聞いているだろう。暮海杏子。貴様と岸部リエは消滅していなければおかしい存在だ。何故なら、7大魔王デジモン放置した貴様たちのいる地球もデジタルワールドも消滅している上に、イグドラシルとの繋がりは断たれている。にも拘らず、貴様が存在していられる理由…それは榊原進示との…貴様らがデジシンクロと呼ぶ現象によって、貴様の魂が【榊原進示】と再定義されたからだ。そこの異界の龍と同じくな』

「「「!?」」」

 

バアルモンの言う通り、俺は消えたデジモンの世界を復元するために戦っているが、バアルモンの言う理屈の通りだとしたら…

7大魔王デジモンはサイバースルゥースのミレイからのミッションである7大魔王ともんざえモン討伐のミッションだよな?アレを放置したまま最後の戦いに挑んだ?

 

「という事は、岸部も誰かと…誰かはほぼ確信しているがデジシンクロによって生き延びている…!」

 

『ロードナイトモンの事か。その通りだ』

「ハジメ達のパートナーは…」

『連中は【この世界】出身だ。この場合のこの世界とは地球、トータスなどと言った【世界樹】、もしくは【世界樹の枝葉によって繋がっている世界+α】を一括りにしている』

 

世界樹の枝葉…これはこの世界では初めて聞いたが、北欧神話ではユグドラシルは宇宙樹とも呼ばれるはずだ。

 

『双葉樹…言いえて妙な名前をあの天使につけたな?仮初の名前とはいえ』

「な…!?」

 

バアルモンの言葉に驚く俺。

「妙にこっちの事情に詳しいな?」

『俺は神だぞ?平行世界だろうと全てお見通しだ。エヒトなんぞと違ってな?』

「何だと貴様!?異教の神のようだがエヒト様を愚弄するか!」

 

バアルモンの言葉に反応する神殿騎士。

おいおい、アンタの信仰先生に捧げんたんじゃないのか?

 

「デビットさん、私も聞きたいことがたくさんありますが、とりあえず黙ってください」

「う、うむ…」

 

先生に黙らされた。

 

しかし、デジモンではなく、【神】と名乗ったか…!

 

体はデジモンで中身はベルゼブブか!

 

「畑山先生、これ貸しますから、七大魔王についてはこれ読んでください。前提知識として」

 

先生に貸すのは神話の神について書かれた書籍だ。万人向けに分かりやすく嚙み砕いて書かれた(もちろん日本語で)書籍だが、マニアックなとこまで書かれた書籍はまだ早いだろう。

 

社会科の先生といえど、世界の神話まではノータッチだろう。日本の神話は詳しそうだが。

 

『嘘だろ…エヒトは知らないけど本物の神が召喚されてるのか?…ということは神話にちなんだデジモンも出てくるのか!?』

『貴様は理解が早いな、清水幸利。もっとも、デジモンだけではなく、本物の神霊が召喚されたのだが』

『…ってことは本体が出てきてるわけじゃないんだな』

『…現在の地球では一般社会において必要のない知識だが、この状況において、榊原進示たちのチームを除けば貴様が一番理解が早い』

 

バアルモンは清水を称賛するように言葉を紡ぐ。

 

『…長居しすぎたな。トータスにとどまっている7柱の神霊は俺が知る限りはあと一柱』

『逃がさないですぅ!』

 

ピノッキモン?がハンマーをバアルモンに振り下ろすが…。

 

『なっ!?空間転移!?』

「いや、今のは…どちらかというとコネクトジャンプに近い…?」

 

コネクトジャンプとは、肉体と精神が乖離した半電脳隊のサイスルの主人公の能力で、早い話が、ネットワークを自在に移動できる能力だ。

この能力なら、ネットワークのある場所なら移動、侵入し放題だ。

杏子も違法スレスレ能力っていうぐらいだし。

 

シアの攻撃が空振りに終わった。

 

『バアルモンは今は放置だ。奴には利用価値があるからな』

「どういう事だ?ガンクゥモン?」

 

手を出さなかった理由についても聞きたいところだ。

 

『いずれ来る戦いにおいても、デジモンの究極体だけでは、太刀打ちできない。…デジモンと人間の身体を融合させた上で君たちが会得すべき技…【神降ろし】。奴はそのヒントを見せてくれるだろうよ』

「なっ!?神降ろしだと!?」

 

神降ろしとは噛み砕いて言うと、神様の力、神霊を人間の体に憑依させて、その神様の力を使ったりm信託を受けたりする事だ。

 

そう言えばハジメのアポロモンはアポロン…ユエはまだ究極体ではないが、恐らくディアナ…アルテミスだ。

 

そして、優花のデュークモンは北欧神話に所縁が多い。クリムゾンモードの武器を含め、グラム、グングニルなどだ。

 

…そして、トータスには来てないが、大和田のベルゼブモン(さっきまでここにいたバアルモンとは当然別の個体だが)もベルゼブブ。

 

…そして、

 

「進示…」

 

ミリアが複雑そうな表情で俺を見る。

 

デジシンクロによって魂が繋がり、記憶も共有した今となってはミリアの正体を知った。

 

ジールで見たあの姿を鑑みれば、納得する。過去についてはまた別の機会に語る。

 

「心配すんなって。ミリアは偽名なのもちゃんと理由があるのも納得してる。杏子だって素性を隠すのは趣味だし」

「ハハハ、否定はできないな」

 

「ミリアの正体がアレとすると…計算ともし神降ろししたときの精神と肉体の負荷がどの程度かの計算も必要だし…ああ…やること多い!」

 

俺はあまりのやることの多さに頭をガシガシ搔きむしる。

 

「進示、二人を脱出させるゲートの開錠は私がやる。少し休むといい」

「そうだな」

 

俺はノートパソコンを杏子に貸して、優花が持ってきた水を飲む。

 

「いつもありがとな。…どっかで一度デートでもするか…いや、その場合買い出しとか」

「それはウィルさんを送り届けてから考えてもいいでしょう。それに、今回ハジメ君のアドリブとはいえ、デジモンを活躍させられたのだし、場所にもよりますがデジモンを外に出して連れて歩けるかもしれません」

「…ハジメ、そこまで考えてくれたのか…」

 

俺は、(俺のデジモンは2人とも人間に見えるので必要ないが)ハジメに感謝して俺を言おうとしたが。

 

「お、おう。そこまで考えてたさ!」

 

…ん?一瞬どもった?

 

「…多分その場のノリ」

「ですね!目が泳いでましたし!」

 

ユエとミリアの突っ込みに倒れ伏すハジメ。…おいおい。

 

「あ、そうだ」

 

俺はオルクスで作っておいたガラケーのような端末を取り出し、地球人召喚組の人数分渡す。

 

「トータスから地球への通信干渉はハッキングなので、ウチの組織以外の端末でハッキングをかけると問題になる。その端末で送れるメールは全部一旦樹達が使ってるシステムに転送されることになってる。これを使えば間接的ではあるが、親御さんたちとメールでやり取りできるようになる」

「ほ、ホント!?」

「製作者は俺だ。文字の打ち方は携帯電話と同じ。充電はソーラー方式。異世界間の通話は無理だが、同じ世界にいる同士の通話は可能だ。番号は登録してあるが、いつでも通信に出れるとは限らないから、その場合はメールでも送れ」

「ま、マジか…」

「ありがとう…榊原君」

「でも、こんなものがあるならもっと早くくれなかったの?」

 

宮崎が質問してくる。

 

「これを完成させたのは、落下してオスカーの隠れ家についてからだ」

「あ、そういう…」

 

納得したように頷く宮崎。

 

『進示様、聞こえますか?』

「…ん?遅かったな。もう状況は終わっちまったぞ」

『そのようですね』

 

ようやく樹から通信が来たか。

お、取り込まれた二人も出てきたな。

ガンクゥモンは…俺のスマホに居やがる。

 

 

 

 

 

清水の処遇については意外なほどすんなり纏まった。

 

魔物をけしかけてきたのは事実だが、人質を取られていたことで酌量の余地はあるが、納得していないものも少なからずいるため、先生が監督する保護観察を建前とする。

 

ただ、近年発生している道の化け物が現れた際は、その化け物の退治を清水に依頼するということになった。これは贖罪の口実になるだろう。

 

先生達や清水にイーターのことも説明し、イーターはデジモン無しでの戦闘は危険と伝え、世界の修復に清水のロイヤルナイツ、ジエスモンも必要になるから絶対に死ぬなと念を押す。

 

ただ、清水のメイドで天使の可能性…いや、ほぼ確定だが、アパルの意識が戻らない。

一応生きてはいるが、力はほぼ一般人レベルで、よく調べなければ天使とわからないほどだ。

 

目が覚めたら、こっちに連絡を入れて欲しいと頼み、清水はこれを承諾。

 

『…うむ。漢の顔になったな、幸利』

「…色々世話になったな。ガンクゥモン」

『…本当にウチの息子がお世話になりました』

「ハッハッハ。見た目に似合わず気骨のあるお子さんでしたぞ」

 

清水家の家族はお兄さん以外はガンクゥモンに感謝しているようだ。

お兄さんだけは複雑そうな表情だが、清水曰、お兄さんは学歴マウントをとるような人物らしい。

オタク趣味の清水ともそれでソリが合わないらしい。

 

あとで、シアのピノッキモンについても解析しないとな。データ取り。

 

「究極体に融合進化できるメンバーなら、次元の壁を乗り越えて地球に帰ることは理論上は可能だが、そうなるとデジモンがいないメンバーは置き去りになってしまうし、異世界召喚した時点でエヒトは地球の座標を知ったはずだ。人間の精神にも鑑賞できるエヒトなら物理的にも精神的にも地球を蹂躙できるし、そうなった場合、解決できたとしても多大な犠牲を払うことになる。

クラスメイト全員が地球に帰るための神代魔法会得は俺達で進めておくし、会得出来たら連絡は入れる…だが、ベヒモスクラスの敵で心折れるようならついてこないで大人しく待っているんだ」

 

「貴様…まだエヒト様を愚弄するか!」

 

デビットだっけ?畑山先生に信仰を捧げたといってるが、まだエヒトへの信仰は捨てきれてないか。

 

「そもそも無断で召喚で拉致った時点で信用ないし、先生に信仰を捧げたんじゃないのか?」

「…!」

 

ま、生まれて長年エヒトを仰いできた彼ら騎士からすればそう簡単にエヒト教を脱却できるとは思えない。

もしこの短い時間で脱却できたとしたら絶対先生に特殊スキルがある。いや、俺達が気づいていないだけで、もう片鱗は出てるんだろうか?

 

「うん。私の立場上あまり多くは語れないけど、迷宮の試練は直接戦闘だけじゃなくて、精神的な試練もあるから。召喚されるまで平和に暮らしてたキミ達が迷宮の試練に挑むのはちょっと無謀だね」

 

俺の言葉にミレディが補足する。

 

ミレディが何者かは神殿騎士の手前もあるので語っていないが。

 

「じゃ、何かあれば端末に連絡を寄こせ」

「優花っち、絶対死んじゃだめだよ」

「大丈夫よ。進示もいるし、心強い味方もいるしね」

「ティオもついてくる気か?」

「まあ、妾の目的上、お主たちについて行った方が都合がいいからの?」

「進示、私からもお願いしますティオも連れてってくれませんか?」

 

ミリアの嘆願に俺はハジメ達に目配せする。

 

特に反対者はいないようだ。

 

「わかった。連れていく。どの道リュウダモンもいるからな。デジヴァイスやデジモン用の医者の真似事ができるのは現状俺しかいないしな。その都合で清水にデジモン用の回復薬を多めに持たせたし」

「私も頑張って覚えます!元々地球の医学は知識だけはありますが素晴らしいと思ってましたし、デジモン医者もやってみるのもいいでしょう」

 

ミリアがデジモンの医療スキルを身に着ける気でいる。

まあ、俺の知識から知ってはいるだろうが、技術的に身に着くのは別問題だ。

 

以外にも杏子もデジモン医学は苦戦している。

覚えるのはいいが無理はするなよ?

 

「近年の進示も無理をしがちだ。進示の気持ちはうれしいが、君が倒れられる方が心苦しい」

「…俺に出会う前の杏子なら俺が倒れようが俺の行いを止めはしないだろうに」

「…何度でも言うが私の心が人間に近くなっているのだろうな」

 

…それがお前の重荷にならなければいいが。

 

「では出発だ。ウィルは俺の車に乗れ。ハジメのブリーゼは軍用車をモデルにしてるから、具合が悪くなっても寝れるスペースがない」

 

ハジメのブリーゼはミサイルやビーム砲などと言った武器を搭載してるが、逆に俺の車は武器は最低限しかない。生活面に重きを置いたからだ。

 

俺の車には小さいが医務室、旅行列車の客室のような部屋がいくつもあり、ベッドやキッチン、風呂やトイレもある。

 

ミレディ曰く、神代魔法には空間魔法とやらもあるので、それを会得したらもっとスペースを大きく出来るかもしれない。

 

「す、凄いですね…」

「キッチンは優花の要望だしな」

「フフ…ありがとう、進示」

「皆さんの世界にはこんな物が世界中にあると」

「ここまで複雑な構造の車は庶民には手が出ないし、武器は基本特殊な職業の人以外は持てないし。

4~5人乗せて走る車なら経済事情にもよるが、勤労者は比較的誰でも買える」

 

俺の言葉に驚くトータス人たち。

ミリアは地球で生活出来る知識は一通りあるので、特に驚きはなし。

 

因みにではあるが、樹から避妊に関する薬や道具の資料を送ってもらって作ってたりする。

 

まだ本物の高校生のハジメにはややきついので、俺が担当することに。

 

ユエからもそろそろ切らすとか言われて次の道具や薬をせっつかれ…え?もうなくなる?

 

「…頑張りたまえ、進示」

「…進示の記憶からハジメ君はいろんな異種族に興味がありますから、シアさんもチャンスはありますよ!でも、あまりグイグイ行き過ぎてもハジメ君はドン引きして気疲れしますので、控えめなアピールしつつ、こういうカジノに居そうな女性の服装をですね…ぎゃふんっ!?」

 

あ、ミリアがハジメにゴム弾を撃たれた。

 

「何吹き込んでやがる!?」

「ハジメ、ゴム弾くらいはいいし、余計な下ネタかましたら突込みくらいはしていいが…」

「…なんだよ?」

 

正直これを言おうか悩んだが、ミリアを失って、プライドと倫理観を捨てる原因になったのはミリアを失ってからだ(実際は生きてたが)。

だから…言ってしまおう。

俺の心を読んだ杏子とミリアが驚きに目を見開いたが構わず口にする。

どうせデジシンクロで魂が繋がっている今、もう死んでも逃げられない関係だし、3人で旅したあの日々も忘れられない。

 

 

「ミリアは俺の女だ。やりすぎたらいくらお前でも許さないからな?」

 

ハジメはまさか俺がそんなにはっきり言うとは思わなかったのか、驚いて「お、おう…」としか言ってない。

 

言われたミリアはというと…顔を真っ赤にしている。

…あれ?意外と初心?

 

「だ、大胆な…!羨ましいですぅ…」

「ん…男を見せた」

 

上からシア、ユエである。

 

しかし、

 

「ミリアは俺の女だ。やりすぎたらいくらお前でも許さないからな?ミリアは俺の女だ。やりすぎたらいくらお前でも許さないからな?」

「杏子ォッ!?復唱しなくてもいいだろ!!?」

 

そう言えばサイスルでも恋愛ネタ…特に告白セリフを復唱するような奴だった!この杏子(アルファモン)は!?

 

 

「ハハハ、いいではないか。私達にも後で言ってほしいものだ」

「…お願いね?」

「いやはや、少々童顔ではあるが、普通の顔という見た目には寄らぬなぁ」

 

周りのクラスメイトやもそれぞれ反応は違うが騒ぎ立てている。

 

先生も「ふ、ふしだらです!お説教ですよ!」というが、ミリアが「畑山先生も前回の歴史では誰のとは言いませんがハーレム入りしてたんですよ!」と、爆弾発言をかまし、さらに阿鼻叫喚となった。

この阿鼻叫喚だけでドラマCD作れそうなボリュームだ。

 

…少々迂闊だったか?

 

「シンちゃん…」

 

ミレディは…一番からかってきそうな奴筆頭だが…申し訳なさそうな顔…そういう事か。

 

「気持ちの整理がついてからでいい」

「…!ありがとう!」

 

俺の言葉の意味を察したミレディが破顔し、お礼を言ってくる。

 

「で、通信が遅れた理由は?」

『申し訳ありません。日本にイーターが出現したので、関原さんたちに対応を願ったのです』

「「!?」」

 

ここ数年は鳴りを潜めていたが…。

 

デジモンテイマーズのデ・リーパーはざっくり言うと、触れたデータを消去する存在ではあるが(加藤樹莉という例外はあったが)イーターはその真逆。触れたデータを捕食して進化してしまう。

誕生の経緯や性質は異なれど、どちらも並のテイマーやデジモンでは対処不可能だ。

 

俺でもデジモン無しでイーター相手に接近戦は出来ず、ベヒモスイーターに対しても、タイラントバスターを撃つという選択肢しかなかった。触れただけで捕食されるし。

 

映像を見せてもらうが、確かに東京にイーターがいる。

 

関原のブルムロードモンと、小山田のカオスドラモンが撃破している映像が映ってる。

 

どうやら人的被害はなかったようだ。

 

因みにデジモン無しで接近戦は出来ないイーターだが、デジモンと分離した状態でも関原はメトロ〇ドみたいなパワードスーツでひたすら砲撃し、小山田はよくわかないトラの着ぐるみ『鎧です』あ、はい…鎧を着ながら薙刀を振り回したり、デカい縦でシールドバッシュしている…ん?

 

「マジかよ…日本にこんな奴が…」

 

映像を見ている地球組も驚き、恐怖がある。

トータス組も地球の映像、街並みを見ることで、トータスよりはるかに進んだ文明に驚いているようだ。

 

 

「小山田の着ぐるみ『鎧です』…鎧、アレ着てれば接近戦大丈夫なのか?」

『はい、パワードスーツや鎧は進示さんとは違う世界で手に入れたものですが、着ぐるみ『鎧だって言ってるでしょ』…鎧にはデジモンに近い性質があるので、、一撃で破壊されたりはしないはずです』

 

小山田の守護天使・ミクが答える。

人間社会に紛れるときは大人だが、天使の姿はロリッ娘だ。

 

…それならば対抗手段も増えるか?

 

「もう一つ。ヒュドラ・イーター戦で俺と杏子がアルファモンになった時、一撃で分離させられたが…」

『それに関しては、進示様と杏子ちゃんの魂の繋がりが強く、デジモンというよりは人間に性質が近くなったせいでしょう。…これに対抗するアップデートを考えなければなりませんね』

「頼む」

『はい。お任せを』

「出来ればそのデータ俺にくださいよ樹さん!!」

『ハジメさん…少し心配ですが、コピーでよければ』

「ありがてぇ!!」

 

小山田の着ぐるみ『鎧!』…鎧もだが関原のパワードスーツの方に興味が行ったなコイツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

色々あったが、ウルを出発。

フューレンに向かう。

 

車で移動しながら情報を交換したり、ウル戦の映像を見た南雲夫妻が、ミリアの悪ふざけの元ネタの映画を訪ねてシュ〇ちゃん談議になったり、せっかくなので、映画を何本かこっちに送ってもらって、トータス組に映画を見せたり。

 

 

 

 

 

…ミリアは俺の女って言っちまった…が、言った以上、向き合うか。

 

この日の夜、俺は車の自室にミリアを呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?視点

 

 

ママ…どこにいるの?

 

おりにとじこめられて、てつごーしのなかからこわいおじさんたちのはなしごえがきこえるの。

 

このガキはいくらするとかげいをしこむとかわからないおはなしばっかり。

 

いっしょにいたおとこのこたちもどこにいったかわからないの。

 

いまはおそとはまっくら。

 

おじさんたちはじぶんをおりのなかにいれたままどこかにいっちゃった。

 

…おなかすいたの。

 

 

 

 

「いやはや、こんな子供が人身売買されてるなんて…さすがのオイラも胸糞悪いぜ」

 

そこにいたのはくろいトカゲ?のようないきものだった。

 

まものじゃないの?

 

「オイラはアグモンさ。まあ、ウイルス種だけどな!」

 

みぎのおめめのしたにきずがあるけどだいじょうぶなの?

 

「コイツはちょっとした古傷さ気にすんなって。それよりお前、こっから出たくねぇか?」

 

これがアグちゃんとのであいだったの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




間が空いてしまいました。
活動報告でも何回か言ってる勇者の扱いに関してはどうしようか悩んでいます。
このSSでは天之河が死んだ場合、天之河がアフターで召喚される分が進示に回ってきてしまいます。つまり、過労死待ったなし(鼻ほじ)

このSSのデジシンクロの設定上、進示が死んだら杏子とミリアが道連れ、転生者と天使の契約の関係上樹も進示が死んだらこの世界から退去。

つまり、この3人は進示が死んで次の世界に転生する時は自動的について行くことになります(樹に限っては進示が契約を破棄すれば別ですが、その場合人間界では活動できなくなります)。因みにデジシンクロは魂魄魔法や再生魔法でも剥がすことができません。無理に引きはがせば死にます。

このSSではティオが進示のヒロインであるので、あの世界の同行者はハジメではなく、進示になりそうですね。


追伸

あっちのほうがUAの伸び率がいい…だと!?やはり3大欲求は偉大なのか…!?


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第27話 パパ友結成!?

だいぶ間が空きました。


進示視点

 

「俺に相談?」

『ん、シンジに相談』

「ハジメじゃダメなのか?」

『客観的意見が欲しい』

 

ん~究極体への進化はシアに先を越されたことと言い、何か色々抱えてそうだな。

 

『ハジメの性癖も教えて欲しい』

『ぶっ!?』

 

あ、通信の向こうでハジメが噴出した。

 

現在俺達は車2台に分乗し、フューレンに向かっている。

車間のやり取りは通信だ。

 

ウィルをイルワの元に送り届けて以来達成だ。

そうなればステータスプレートがない連中にもプレートを作ってもらえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル君!無事だったか!?怪我は無いかい…!?」

 

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……それと、心配をかけました」

 

 

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

 

 

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

 

ウィルがマザコンかどうかはどうでもいいことだが、これを機に親孝行の一つでもしてみたらどうだろうか?

 

 

 

ステータスプレートに関してはデジモン組は全員ほぼすべての数値が測定不能だったが、俺に関しては今まで測定できなかったのに、こんな結果になった。

 

榊原進示、性別:男 年齢:不明

天職:歯車の生贄 大樹の守護者

 

 

 

筋力:46000(最大時:測定不能)

 

 

 

体力:42000(最大時:測定不能)

 

 

 

耐性:47000(最大時:測定不能)

 

 

 

敏捷:42000(最大時:測定不能)

 

 

 

魔力:48000(最大時:測定不能)

 

 

 

魔耐:43000(最大時:測定不能)

 

 

 

そして、技能も数えきれないほどあったが、トータス以外の世界で身に着けた技能に関してはステータスプレートに反映されていないようだ。

 

 

「うーん、それはたぶん、私が進示の体内にいた時は測定できなかったんじゃないですか?デジモン組は全部エラーなんですし」

「…そう考えれば辻褄は合うのか?だが、このステータスの高さは…ミリアインストールのせいか」

「恐らくそうだろう。まだ進示が完全に使いこなせていないとはいえ、覚醒した状態だ。…まだ無理はするなよ?」

「まあ、このステでも究極体とはまだ単騎では戦えないし、それに、覚えなきゃいけないものも沢山あるし…ノートだけでは会得出来なかったモノも教えてもらうぞ」

「それはモチロン。…ハジメ君達が進示をチートを見る目で見てますね」

 

まあ、理不尽なステータスをしてるのは自覚ある。

 

「言っとくが、体を作り替えたせいでミリアは大幅に弱体化しているが、それでも最盛期のミリアはドルゴラモンの…単純計算で50倍以上はあるからな」

「…それはなんとまあ…妾も先生の本気を見たことはないのじゃが…」

 

かつて一時的に家庭教師をしていた教え子のティオはそんな感想らしい。

 

「あの時は私も迂闊でした。本気を出したせいで、私達3人揃って指名手配ですからねぇ。杏子も奴隷商に捕まって私が救助していなければ貞操が危うかったですよ」

「ジール世界に恐れられた龍の末裔…、生まれながらにして惑星崩壊レベルの力を持つお前はそりゃ恐れられるだろうよ。実情がどうあれ、強大すぎる力は利用するか排除するかのどちらかしかないからな。普通は」

 

俺は人間社会の弱さを鑑みたうえでコメントする。

 

「でも、そんな恐れられた龍の末裔と人間的に接してくれる貴方たちのおかげで、私はこうしていられます。だから、私は何があっても進示と杏子とティオの力になりますよ。勿論、ハジメ君や優花さんたちも私にできることがあったら言ってくださいね?」

 

するとミリアはジールでもなかなか見せなかったギャグ的な笑顔ではなく、こちらが思わずどきりとしてしまう素敵な笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君達、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

 

「ま、生き残っていたのはウィルの運が良かったからでしょうよ」

 

「ふふ、そうかな? 確かにそれもあるだろうが……何万もの魔物の群れからウィルやウルを守りきってくれたのは事実だろう? 女神の騎士様?」

「随分情報が早いな」

「それに、魔物を駆逐した白い龍も君たちかな?話の流れから言って」

 

白い龍はドルゴラモンだな。

 

「君たちのステータスの高さも…キャサリン先生が目をかけるのも納得だ」

 

それから、俺たちを危険分子としては見做さず、冒険者ランクを【金】にしてもらったうえで、可能な限り俺たちの後ろ盾になるということを取り付けてもらった。

 

 

 

 

 

「妾まで金ランクにしてもらってよかったのか?」

「ま、どうせお前のステに敵うやつもそうはいまい」

 

ティオは自分のために作ってもらったステータスプレートを見ながら質問をする。

 

「ティオ、進示は今のところティオに悪感情は抱いていません。もう1ステップですよ!ベッドインまで!」

「下ネタ色ボケっていうのは本当だったのね」

 

ミリアの発言を聞いて優花が頭を抱えている。

とは言え、自分も自分から迫ったので、特にそれ以上の突っ込みはしない。

 

「ハジメとシアは二人きりで観光区に行くとして、ユエが俺に話…大体想像はできるが、シアに究極体の先を越された件か?それだけじゃなさそうだが」

「うん…私はハジメが好き…ハジメが好きな気持ちはだれにも負けない…けど、ハジメの【大切】は増えてほしいと思うけどハジメの【特別】は渡さない…」

 

フム…

 

 

「進示。買い出しは私たちでやっておく。ユエ君の相談に乗りたまえ」

「ルナモンもユエについたほうがいいわね。ドルゴラモンをウルで活躍させたから、デジモンを表に出しやすくなったでしょうし」

「ん…」

 

そう考えるとハジメの機転も吉と出るか。

 

それに、テイマーとパートナーは一心同体。

相談の内容も共有したほうがいいだろう。

 

俺と杏子とミリアに限っては離れていても状況や言葉は共有できてしまうが。

 

 

「あとハジメの性癖~以下略」

「言うなよ!?言うなよ!!?」

 

うーん、ユエは300年も幽閉されてたから愛が重そう。

 

 

 

 

 

 

その夜

 

「は、ハジメさんとユエさんも激しいですけどシンジさんは3Pですよ!?」

「うむ、先生は意外と感じにくいタイプかの?しかし、進示と杏子の二人がかりで先生の…」

「へー、シンちゃんって甘えんぼさんって聞いてたけどホント何だね~」

「…ちょっとあなたたち?気になるのはわかるけど許可なく覗きはマナー違反じゃないかしら?」

「ユユユユッカちゃん!?」

「ユ、ユウカさん!?」

「お、落ち着くのじゃユウカ!?」

 

優花から聞いた話ではシア、ティオ、ミレディは情事を覗いた件で優花に説教されたらしい。

…これは情事をするときは結界を強化したほうがいいか。

 

 

 

 

翌日。街の人からはデジモンに対しては奇異の目で見られているが、ルナモンに関しては見た目が愛らしい故か、女性はすぐ慣れたようだ

 

エテモンはストリートライブを開いている!?ミレディがちゃっかりおひねりを回収してるし(変装で顔は隠してるけど)!?

 

…このストリートライブが後にあんなことになるとは…この時は想像もしていなかったのである。

 

 

 

俺はユエとルナモンと手近な喫茶店に入り、紅茶やケーキをルナモンの分まで注文し、俺はゲン〇ウスタイルで話を聞く。

 

「お前はハジメの特別になりたいとか言ってたが、ハジメの大切にシアが加わるのはいいのか?」

「むしろ1番の強敵はシンジ」

「俺にそういう趣味はない」

 

…まさかホモだと思われてる?…いや、この場合はバイか。

…オイコラ!笑うなミリア!

くそ、こういうことまでリアルタイムで伝わるのかよ!

杏子も「むしろ1番の強敵はシンジ」って復唱すな!

ま、買い物はちゃんとやってるようだな。

 

「…それより、もしかすると今頃色々進展しているかもしれんぞ? ユエが思う以上に」

「シアのこと?それなら嬉しい」

 

「嬉しい? 惚れた男が他の女と親密になるというのに?…俺が言っていいセリフじゃないが」

 

「……他の女じゃない。シアだから。むしろハジメはシンジを見習うべき」

「…というと?」

「シアは初めはウザかったし、下心もあったけど、あの子はなんにでも一生懸命。それに、シアは私のことも好き」

「…だから絆された?」

「…ハジメの特別は渡さないけど大切は増やしてほしいと思う。【大切】以外を切り捨てるのはアイコのいう通り【寂しい】生き方」

「…へえ」

 

 

ここで先生のセリフが出てくるとは。ウルで先生と何を話したかは杏子を通じて知っているし、杏子も興味深そうにしている。

 

「もし、奈落の底で生き残ってたった一人になったとしたら、ハジメは目につくもの全て()にしていた可能性すらある」

「…否定できんな」

 

態度や言葉遣いまで変わり、豹変したアイツを見れば想像しうることではある。

 

「話を聞く限り、ハジメは殆ど友人がいない。シンジは元の世界の友人やこれまで旅をしてきた縁がある」

「…守れなかったもの、死なせちまったやつも多いがな」

「…ごめんなさい」

「謝らなくていい。ガラテアは会ったことはないけど、ミリアだけでも生きててくれて俺は心の底からよかったと思っている」

 

これは本当だ。…だから俺のために今晩のおかず(食材だけではなく【意味深】も含む)は増やさなくてもいいからな。嬉しそうにしちゃってまあ。

 

 

「…だから俺みたいにハジメには【縁】を増やせと?」

「そう。人間関係が途切れたら…それがハジメの最期になると思う」

「…そこまでわかっているなら、いう必要はないかもしれないが、縁を増やすのはユエもだ」

 

俺はルナモンを見ながらいう。

 

「ルナモン、ユエと出会えてどうだ?」

「私はよかったと思ってる。まだ付き合いは浅いけど、生きるために一生懸命で、種族の違いも関係なく共存して協力して信頼しあえている」

 

確かに俺たちは生まれた世界も種族もバラバラだ。しかし、デジモンや、人間の垣根を越えて信頼関係を築くのは俺たちなら難しくはないだろう。

 

この世界の大半の人間は種族の違いでいさかいを起こしているし、ハルツィナ樹海でそれはさんざん見てきた。

 

あとはウルにいた騎士か。

 

 

 

「まあ、お前が懸念してたことはそう過剰な心配をする必要もないんじゃないか?

究極体の進化に関してはきっかけ一つだ。

…人の縁に関しては…長いこと世界から隔離されてたお前には実感は薄いかもしれないが、少なくともハジメしか見えてないってわけじゃない。俺に相談を持ち掛ける時点で視野は狭くない。だからそこまで心配しなくてもいい」

「…そういうもの?」

「そういうもんだ。俺たちは生まれた種族も世界もバラバラだし、ミリアや優花みたいに自分の体を作り替えちまった奴もいる…体が変わったのは俺もだが。でも、俺たちと一緒にいて嫌だと思ったか?」

 

そういうとユエは首を横に振る。

 

「だったら大丈夫だ」

「そう……あとはハジメのせいh」

 

まだそれ引きずってるのかと思ったら、俺たちの目の前(正確に少し横)が爆発した。

 

「あ!まだ半分しか食べてないケーキが!?」

「そいつは悪かった。あとで埋め合わせしてやるよ、ルナモン」

 

そういうと、ハジメとシアがいた。ハジメが引きずってるのは、ボロボロのガラの悪そうな男だ。

 

「…トラブルか?」

「まあな」

「あはは、私もこんなデートは想定していなかったんですが……成り行きで……ちょっと人身売買している組織の関連施設を潰し回っていまして……」

 

「……成り行きで裏の組織と喧嘩?」

 

「コ〇ン君もビックリのスピード展開だな」

 

 

 

ハジメの話を要約すると、シアとのデート中、ハジメの気配感知が下水に子供らしき反応を捉え、シアと2人で向かった所、海人族の少女を保護した。(デジモンらしき反応もあったらしいが、すぐに消えたとのこと)

 

その海人族の子供――ミュウ――を一通り介抱した後、意外と懐かれてしまったが、一緒に連れて行くわけにもいかず、保安署へ半ば強引に預けることにしたのだが、その後、その保安署が襲撃を受けてミュウが攫われた。

 

海人族の子供を返してほしければシアもつれて指定の場所に来いとかなんとか。

 

で、ぶちのめした構成員を尋問しながらミュウという少女を探しながら今回かかわった組織を潰すのだとか。見せしめもかねて。

 

そして杏子たちも狙われているとなれば座して待つわけにもいかないか。

 

「聞こえたな?」

『はい!お買い物も終わってますし、その人身売買組織にはお仕置きタイムですね!どうせなら「お前は最後に殺すと約束したな?」っていうくだりをやりたかったですが…、状況的に無理ですよね』

 

まあ、ネタを考える余裕があるなら顎で動かしてもいいだろう。

「どうせならミサイルに括り付けるか?」

『あ、いいですねソレ!…と、思いましたけど、そのネタやって大丈夫ですか?』

「…メタい話になるが今回はやめとこうか?」

 

なんていう会話から数名ドン引きした。

ハジメはすぐにネタを察したのか、宝物庫からミサイルをチラつかせる。

 

俺は初めに「今回はミサイルはやめとけ」というと、ハジメは若干不本意そうだったが、大人しく引っ込めてくれた。

 

ミサイルの使用は他に手がないやむを得ない状況にとどめようか。

 

ユエも最近消化不良が多いからミサイルの代わりにユエに暴れさせると言ったら、ハジメはノータイムで了承。

 

そうすると、デジシンクロで会話ができないミレディが通信端末から声を出す。

 

『ミレディちゃんは街の外に逃げそうなやつを止めておくよ。子どもの人生食い物にする奴はお仕置きがいるけど、今は顔バレできないしね?』

「好きにしろ」

 

特に反対意見はないので、ミレディは本人が申告した通りにさせる。

 

「んじゃあ、今日中に終わらせようか」

 

ハジメの号令とともに俺たちは動き出した。

 

 

とある場所では銃声が。

 

とある場所では爆炎が。

 

とある場所ではウサギの叫び声が。

 

とある場所では人を惑わす霧が。

 

とある場所では鉄球が。

 

とある場所では美女に踏まれて「ありがとうございます!」と叫ぶ男が

「おい杏子、趣旨間違えてないか?」

「フム…こういう躾をすれば男は喋るのではないか?ネットでは有名だったが…確かドМとか…。

マゾヒズムだったな。発音は英語とドイツが合わさったものだとか。肉体の痛みを性的快楽に変換するとはまた変わった趣向だ」

「やるなよ!?俺で試すなよ!?」

「…ハハハ。興味はあるがやめておこう。君の場合は性的快楽ではなく、本当に虐待された子供のように泣き叫んでしまいそうだ。魂が繋がっている今、君の心身の健康状態は私の死活問題だからな」

 

…つまり、デジシンクロ状態でなければ試したかったと!?

 

「おっと。本来の暮海杏子はサディストではない…はずだ」

「言い切れよ!?サディストはアルファモンの部分だろ!?」

「まあ、君が気遣いの塊で昔から私に気を使いすぎてるところはあるがな。むしろ堂々とやる下ネタを諫めるためとはいえ、ミリアを容赦なく蹴飛ばしたりする彼女の精神的距離感の絶妙さを見習いたいがな」

「…俺が杏子よりミリアに甘えていると?」

「下手すれば樹よりもだ。優花君は本物の女子高生だから気を使っているだろう?」

「まあ、そうだな」

「…私にも少しくらい甘えてくれていいぞ」

 

などといった会話を裏組織の構成員をボコりながらやっている。

つまり、戦闘中に雑談できるほど手ごたえがないのだ。

 

「まあ、これくらいは楽勝ですね」

「進示から殺害は最小限にとどめろって言われてるけど、余地があるも更生の余地がない人間が結構多いわね」

「まあ、更生の余地があるものは拘束だけでよかろう。次じゃ」

 

 

そうしていつの間にかミュウという少女を救助したハジメの合図でユエの雷龍が暴れるのであった。

 

「たーまやー!」

「フム。花火が上がるときにたまやとかぎやという叫びがあるが…江戸の花火屋さんの名前が元だそうだな」

「おお、また雑学王インテリ杏子ですね!杏子の記憶が戻ってるから存分に聞けるでしょう!」

「ああ、期待してくれたまえ」

 

ミリアが杏子の雑学をたたえると、杏子は笑みを浮かべて答える。

 

「まあ、記憶喪失の時の杏子も可愛かったですけど!」

「えっへん!何て言ってたしな」

「…むう、少し恥ずかしいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員九十八名、再起不能四十四名、重傷二十八名、行方不明者百十九名……で? 何か言い訳はあるかい?」

 

 

「カッとなったので計画的にやった。反省も後悔もない」

 

「はぁ~~~~~~~~~」

 

「おっと、ハジメはそこまで気が回らなかったようだが、コレ使ってください」

 

俺はイルワにフリートホーフにあった売買リストを渡す。

 

「半分くらいハジメが燃やしちまったから全部はないけど、それだけあれば逃した奴の検挙に使えるはずです。俺も目を通しましたが、無駄にはなりません」

 

「おっと、君は冷静だったね。…フム。おかげで捜査が進展しそうだ」

 

イルワはハジメのほうを見ながら言葉を重ねる。

 

「まさかと思うけど……メアシュタットの水槽やら壁やらを破壊してリーマンが空を飛んで逃げたという話……関係ないよね?」

 

 

「……ミュウ、これも美味いぞ? 食ってみろ」

 

「あ~ん」

 

リーマン?以前見た〇ーマンみたいなやつか?

 

「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね…。今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね。はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった。…ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね……はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」

 

「まぁ、元々、其の辺はフューレンの行政が何とかするところだろ。今回は、たまたま身内にまで手を出されそうだったから、反撃したまでだしな」

 

「唯の反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で殲滅かい? ホント、洒落にならないね」

 

まあ、裏社会での人身売買とかは地球でもある話だ。表沙汰にはならないが。

 

それから話を纏めると、今回の活躍(?)で、俺たちの力を知らしめると同時に、イルワ(ギルド)達お抱えの金ランク冒険者という事にすれば、犯罪組織に対して相当な抑止力になるのと、ミュウの正式なエリセン送還依頼が俺達が引き受けることになった。

 

ただ、俺たちは人数が多いのでいい加減グループ名を決めようかという話になった。

 

…俺は杏子をとっさに見た。

 

杏子も俺の考えがわかったのか、口を開く。

 

「【彼】がいないのは残念だが、【彼】であれば、むしろ使ってほしい名前なのではないか?自分が活躍した証にもなるしな」

「…だな。俺たちのグループ名は…【サイバースゥルース】だ」

 

単語の意味に反して大っぴらな活動をしてしまったが、杏子が持ってきた縁であるため、使いたくなってしまった。

 

他の皆も杏子がきっかけのグループ名になったときいて特に反対意見は出なかった。

 

 

 

 

ハジメ視点

 

ミュウが俺を【お兄ちゃんと】呼ぶので、それをやめさせようとしたら何故か【パパ】になってしまった。

俺がパパ呼ばわりされた時の進示と暮海とミリア(呼び捨てでいいと言われてる)の哀愁の籠った表情は忘れられそうにない。

 

「ま、実父がおらず、誘拐された時の状況やこれまで受けた仕打ちを考えるとパパ呼びを変えさせるのは難しいな」

「それはわかるが…!」

 

進示がド正論を言うが、納得できるかは話が別だ。

 

「俺のことは何て呼ぶ気だ?ミュウ」

「おじちゃん!!」

 

ぶっ!?

 

おじちゃん呼びに思わず噴き出したが、進示は少し目を見開いただけで、俺の予想外の反応だった。

 

「…ハジメのことは最初にはお兄ちゃんと呼んでたが…なぜ俺はおじちゃんかな?」

「…え?おじちゃんはおじちゃんだよ?お姉ちゃんみたいな感じもするけどよくわからないの」

 

そう言うと、進示は何かを考えこんでる。

 

「…まさか、魂の経年が視える?それに、デジシンクロの状態も何となく…?」

「?」

 

そうか、進示は転生者だったがミュウが人の魂が見えるだって?

 

「…ハジメ、この娘、保護して正解だったかもしれん。…巫女体質の可能性がある」

「…巫女体質…巫女って日本でいう神に仕える女性だったよな?」

「ああ、この世界の神がどういうタイプかわからないけど、俺達の推理通りならば、ユエ同様依り代にされる可能性がある」

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

進示の推理に俺たちは息を飲む。

 

「…母親のもとに送り届けるまでが依頼だが…この娘も母親も目の届く距離に置いたほうがいいかもしれない」

「…ッ!」

 

それは、つまり俺たちの帰還を妨害する可能性の高い神に人質に使われないためにミュウと母親を連れ出すという事か。

 

「それに、最初に動いたのがシアとは言え、お前も割と懐に入れたやつには甘いし、連れて歩けば情が沸くだろう。それにお前が一番懐かれている。俺たちもサポートするから、連れて行こう。…迷宮攻略は立場上挑戦者を手助けできないミレディとエテモンに護衛させればいい」

「…それがいいかもね。あのクソ神にこの子を好きにさせる…想像しただけで反吐が出る」

 

ミレディが進示の意見に賛同する。

 

それからミュウから話を聞くと、下水道で俺たちに拾われる前は、デジモンらしき生物がミュウを逃がしたんだとか。

 

「アグちゃん…どこにいるのかなぁ」

「アグちゃん…アグモンかな?ワクチン?ウイルス?ユキ?」

「…あっ!ういるすっていってたの!!」

「ウイルス種かい?ちょっと待ってな」

 

進示が亜空間倉庫からパソコンを取り出し、テイマーのいないデジモンを探す。

 

「一先ず半径20キロ以内の反応は…あ!割と近くだぞ?街の外れだ」

 

そして、反応のある場所に向かう。

 

デジモンなら魔物と思われるから、人目を避けたんだろう。

 

「よお、どうやらお前を助けるお人よしがいたようだな。オイラはすぐにそんな奴が現れるとは思ってなかったけどな」

「あ、アグちゃん!!」

 

嬉しそうに駆け寄って抱きしめあう。一人と一匹。

 

「まあ、これは連れていく流れになりそうだな。進示。デジヴァイスを頼むぜ」

「まさか…戦わせたりは」

「ぜってぇしねぇ!!怪我したらどうすんだこんないたいけな子!!」

「お、おう…ハジメ、早くも親バカ発揮か!?」

 

進示に親バカ呼ばわりされるが、ぶっちゃけ内心では否定できなかった。

 

「ギルドの頼まれでホルアドに行くことになったが、ホルアド到着予定は…地球時間だと土曜日になるかな。通信は可能だし、親御さんとの通信もできるが…今の俺たちは教会の監視を搔い潜りたい立場だし…神殿騎士に生存を知られた時点で今更な気もするし…ま、ホルアドの様子を見て決めてもいいだろう。情報収集もしつつな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3視点。

 

 

「いよいよ90層の大台だな」

「あと10層クリアすれば、この訓練も終わりだな」

「そうなったらいよいよ戦争に備えることになるわね」

「…雫ちゃん…ハジメ君…生きてるかなぁ…勿論杏子ちゃんや優花ちゃんや榊原君も忘れてないけど」

「光輝は…南雲君と榊原君が死んで優花と杏子を助けるの一点張りだものね」

 

もう彼等が奈落に落下してから数か月。

最初のベヒモス戦の件で心にトラウマを抱えたドロップアウト組を除いて、迷宮を進んでる前線組は順調だったが…彼らにとっての大きな試練はここからである。

 

「…この気配は…デジモンか?」

 

光輝たちについてきていた凛々しい騎士の女性、アルフォースは警戒を強めた。

 

その呟きは誰にも聞かれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ

「あ、そういえば」
「なんだよ?」
「師匠…ゼロの生存はまだ直接は確認してないが、俺達、パパ友になるのか!?」
「ぶっ!?」

「ユエお姉ちゃん!シアお姉ちゃん!ユウカお姉ちゃん!キョウちゃん!ミレディお姉ちゃん!ティオお姉ちゃん!ミリアお姉ちゃん!!」

「誰がママ呼びされるかで揉めてたが、…まあ、実母は存命だしな」
「…おいおいまさか」
「…子持ちの人妻も…果てさてどうなるか」
「ちょっと待てぇ!?お前別の世界とは言え、未来を知ってるんだよなぁ!?」
「ミリアを通じてな。だが、シアのいう通り未来は絶対じゃないし、ミュウの母親がハーレム入りする保証もない」
「だ、だよな?」
「だが、あんなミュウの様子を見て母親と引き離すなんてできると思うか?」
「…」

ハジメは項垂れた。

これは覚悟を決めなければならないか。





「それにしても、私は【キョウちゃん】か…。これも宿命かな?」


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第28話 二つの不穏

カトレアと遭遇し、一回目の戦闘は大幅カットします。
原作とそう変わらないので


雫視点。

 

迷宮の探索を続けて早4ケ月。

もうそれだけの時間がたってしまったのかと、4人が行方不明になった時間、地球から離れてしまった時間…その他様々なストレスから私たちの中から顔色の悪いものが出始めている。

しかし、これからのことを考えると泣き言を言ってられないのもまた事実。

 

私、香織、遠藤君、永山君のスマートフォンにいるデジモンたちの話を聞くと、専用の端末なしで現実世界に出てくることはできず、(永山君のちっちゃいオメガモンは例外だが、今デジモンを表に出して騒ぎを起こすわけにもいかないのでスマホにいる)何故スマホの電池が切れないのかしら?

 

それはそれとして、迷宮の90階層に辿り着いた私達は、異常事態に頭を悩ませていた。

 

異常事態と言っても、魔物が大量発生しているとか、トラップが大量に仕掛けられてるとかじゃない。

 

その逆で魔物が一切見当たらない。…魔物が出てきてくれるほうが精神的に楽だったかもしれない。

 

その事実に、私は嫌な予感が拭えなかった。

 

トータスにあるサーベルでは使いにくいだろうと私に配慮された、南雲君と榊原君が作った試作型の刀は思ったより手に馴染む。

 

『本格的なやつを作るにはしばらく時間がいる。しかも八重樫陽に合わせるとなればハジメの技量向上も必要だ。時間をくれ』

 

と、榊原君に言われていたが、刀の完成前に彼らが奈落に落ちてしまった。

 

彼らが奈落に落ちた後も、榊原君が倒したベヒモスは光輝が倒したことになっており、檜山君のトラップ発動と、彼らが奈落に落ちるきっかけになった檜山君のそったいは彼自身の土下座した謝罪を光輝が受け入れたことによって、お咎めなしとなってしまった。

 

まあ、色々とあったものの、私たちは90層に来ていたが、ここには魔物の気配がない。

 

不気味に思いながら探索を続けていると、夥しい、しかしまだ新しい血が大量にあった。

 

「光輝…一度戻らない?メルド団長なら何か知っているかもしれないし、ここは未知のそうだから慎重になってなりすぎるという事はないわ」

 

 

私はそう提案するが光輝は迷うそぶりを見せる。恐らく、光輝にとって撤退以外の選択肢は罠だろうと進むという事だろう。即決しないだけありがたいが。

 

 

 

 

 

 

「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

 

「……何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」

 

 

 

 あとを継いだ私の言葉に永山君が頷く。光輝もその言葉にハッとした表情になると、永山君と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

 

 

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

 

「ここが終着点という事さ」

 

突如、第3者の声が響いた。

 

コツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

 

座学で学んだ特徴と一致する。

 

「魔人族…」

「その通りさ」

 

そして、魔人族の女がこちらを勧誘する。

 

狙いは勇者が魔人族に付いたとなれば人間族側の士気が絶望的になるからでもあるのだろう。

 

私は会話を少し引き延ばして情報を得ようと思ったが、光輝が即決で断ってしまった。

 

光輝の性格から魔人族に付くとは疑っていなかったが、会話を引き伸ばそう伸ばそうと思ったのは密会の時に榊原君から

 

『図書館の歴史書は明らかに情報操作されてるな。魔人族の生態や文化が書かれていない。恐らく教会にとって魔人族は人扱いされてないんだろうな。これは先行き不安だぞ』

 

という話を思い出していたからだ。

 

結局魔人族と戦闘になったが、光輝の限界突破は通じず、クラスメイトの何人かも魔人族が引き連れていた魔物によって石にされてしまった。その中には鈴も含まれている。

 

私は撤退を進言するが、光輝は仲間をやられて引き下がれないと言った。

 

だが、石になってしまった皆を放置すれば戻れなくなる可能性もあるので、ここは引くしかない。

 

…こんな状況でも忘れそうになるが遠藤君は無事にこの情報を持ち帰れるかしら。ホントごめんなさい遠藤君…。

 

 

 

 

 

 

第3視点。

 

 

「ち、逃げられたね」

「まあ、君ならすぐ追える(終える)んじゃない?見込みがあるのが半数に満たないし、足を引っ張ってる者もそれなりにいるから、君の敵ではないかな」

 

カトレアに声をかけるのはフードを被った、背丈はカトレアの腰元ぐらいしかない少年の声だった。

 

フードのせいで顔は見えないが。

 

「アンタは戦うのかい?」

「まあ、君が負けそうなら手を貸してもいいかな。一応君の力を見るのも目的なんだし、ここで手を貸したらそれはできないだろう?」

「そうだけどさあ、いまいちアンタが強そうには見えないんだよ」

「やだなぁ。見た目で判断しないほうがいいよ?」

 

少年はフードの中で笑っているようだが、カトレアはその笑いが一瞬恐ろしい【何か】に見えた。

幻覚だろうか?

 

「まあ、ともかく、サタンモードは無理だけど、フォールダウンモードならなれるかな。もし本格的にあちらの戦力が拡充したら使わざるを得ないけどね?」

 

 

 

 

 

 

ミリア視点。

 

現在特にデジヴァイスのメンテやミレディさんの治療など必要ないのですることがない進示…のはずでしたが、この空き時間を使って私から魔法に関する授業を受けています。

 

現在はホルアドに向けて車を走らせている我々。

 

車の運転はハジメ君や杏子が交代で行っていますが、シアさんだけは

 

私の授業はおよそ5年ぶりの進示。ティオは500年ぶり、それ以外にも優花さんやユエさん、車の運転をしていないときのハジメさん、それに異界の魔法に興味があるミレディさんも。

 

…え?シアさんは授業を受けてないのかって?

 

現在車のすぐそばでハジメ君制作のバイク、【シュタイフ】で自転車の立ち漕ぎみたいになったりそれでお尻を振ったり、バイクの上でガイナ立ちをしたりかなり危ないことをしてますね。

 

「進示は私の記憶から知識を引っ張れるはずですよね?」

「そうだが、知識と実践はまるで違う。【死者蘇生】もまだ完璧じゃない。それに、お前は俺やティオに教鞭を振るうのが楽しいだろ?お前の顔、いつものにやけじゃなくて、…何というか心底楽しそうだ」

「…フフフ…。嬉しいことを言ってくれますね!今夜はスッポン…」

「息をするように下ネタをする。それに、この世界スッポンあったか?」

 

そこでスッポンとは何かユエさんが質問をしてハジメ君が真っ赤になったりしたりもしましたがそれはそれ。

 

「それに、今はミュウが一緒なのだ。下ネタは自重してくれ」

「杏子に言われたらしかたありません。自重しましょう。…ところで、シアさん止めなくていいんですか?」

「パパ!ミュウもあれやりたいの!」

「絶対ダメだ!!後で俺が一緒に乗るからそれで我慢してくれ」

「わかったの」

「そうなるとチャイルドシートも必要か…素材は…構造は…ブツブツ…」

「…南雲ってかなり親バカ?」

「ハジメ…紙とペンいるか?設計図を描きたいだろ?」

「頼む!」

「フフフ…では、授業は切り上げましょう」

 

ハジメ君の親バカにほっこりしつつ、私はホワイトボードを片付けます。

 

 

 

「八重樫たちの親御さんたちに、次は通信させてほしいって言われてるよな。ホルアドはまだしも城には近づけないよな。…特にミレディ」

「そうだね、シンちゃん達が王国にいたときには銀髪碧眼の女がいるって聞いてたからね」

 

そう、それがこの世界の歴史の転換期に要人に介入し、人間たちを弄び滅ぼしたエヒトの使途だそうです。

ミレディさんはエヒト一味に顔バレしてるので、外を歩くときは変装が必須です。

ミレディさんは悪戯好きですが、自重してるのはそういう理由もあるからでしょう。

まあ、進示に嫌われたくないというのもあるんでしょうね。フフフ。

え?進示がほかの女を作るのに嫉妬とかしないのかって?

私はそもそも龍ですし、一夫多妻の世界で育ちましたし、そもそも多彩な恋愛関係、同性愛も否定しませんよ?

 

…唯一許さないのは進示と杏子に害をなす存在です。

進示と杏子を悪意で苦しめる存在です。

そいつらの排除にはこの命に代えても…と昔は思いましたが、今私はデジシンクロで魂が繋がっているので、私が死んだら進示と杏子も道連れです。

 

「お前…意外と愛が重いな…。ミリアは俺に女が増えること自体は問題視してないが、俺と杏子を苦しめる存在はどんな手を使っても消そうと考えている」

「…え!?」

 

優花さんは自分からハーレム道に飛び込みましたが、やはり日本の倫理感かとかはまだ抜けきってないようですね。まあ、それが普通ですが。

しかし、優花さんはそれ以上に私の愛の重さに驚いています。

 

…普段からふざけている私に対して想いの重さに驚いているようですね。

 

「進示は女性を増やそうと思って増やしているわけではないですからね」

「ああ。進示が初対面の女性に自分から一緒にいてほしいと言ったのは後にも先にも樹だけだろう」

「そうなのか?」

「それ言っちゃう!?」

 

ああ、転生の時のこともバッチリ知ってるので、その時の心情も手に取るようにわかるのです!

 

「だが、その時の進示の心情は愛や恋ではなく、恐怖だったな」

「「「「恐怖?」」」」

「転生の時に樹様に名前を付けたときも、進示の心境は恐怖が大きかったですね。おそらく転生者ともなれば必ず厄介ごとに巻き込まれますから、命がけの戦いを怖がる進示には一層怖かったはずです。面倒ごとが嫌いなハジメ君ならわかるのではないですか?」

「…そうだな」

 

ハジメ君はこの手の知識は豊富ですので、転生するときの弊害も何となく察したようです。

 

「でも、やり直しはできない。ミリアから受け取ったこの世界の歴史の知識もあまり当てにできない。

ミリアの知識は、杏子の記憶が戻ってない、優花が奈落に落ちていない、ティオは…ハジメにケツの穴にパイルバンカーを食らって性癖開花。ハジメをそのままご主人様呼びにして強引に旅に加わり、ミレディが仲間になっていない、清水は死亡、ミリアも復活していない…トータスに召喚されたメンバーで俺以外にデジモンテイマーがいない。」

「……何かムズムズするのう。ハジメに尻に杭を突っ込まれるのは」

「あくまで別世界の俺だからな!?その時の俺は鱗がついていない部分を攻撃しただけだからな!?話を聞く限り!」

 

…ティオは何かもじもじしてますね。

…え?ドМの素質はあるんですか!?私みたいに!?…って今更でしたね!

 

「そういえばこの世界では召喚直前に通信端末を樹から渡されたんだよな。そのおかげで地球と通信できてるけど

ミリアが知ってる世界の俺は、トータスで通信していなかったよな」

 

…不自然なのはそこです。

もしかして樹様はトータス召喚を知ってた?

未来のご自身から知識を受け取ったのでしょうか。

それにしては…

 

(いずれにしても、天使は契約者の質問に虚偽の回答はできない。

…もし、樹がトータス召喚を知らなかった場合、誰かが樹に入れ知恵をしたという事)

 

…そうですね。

 

未来から過去への情報送信は樹様の管轄が情報管理警備…つまり情報を扱う管轄だからできたこと。

 

何度もしつこいようですが、進示は杏子と私とデジシンクロで魂が繋がっているのでお互いにリアルタイムで考えていることや見聞きしたことが伝わります。

 

私と杏子は直接繋がっていなくても進示を中継器にすればそれで伝わってしまいますね。

 

私たち3人は誰か一人でも死んだら残りの二人も道連れになってしまいます。

 

なので、以前のように死んでしまうことは避けないとですね。

 

「…」

 

進示がデジヴァイスをいじりながら私を通じて知ってしまったこの世界の【前回の歴史】に思いを馳せます。

 

この後はホルアドのギルドで遠藤君がクラスメイトの危機を救ってほしいと頼みに来るんですよね。

 

…ウルの時のバアルモンも本来は現れなかった存在なので、知識にない展開が起きる可能性もあります。

 

あ、記憶喪失状態の杏子って天之河君に苦手意識を抱いていましたね。

 

もしかしたらこの世界そのものも創作の大本の世界がある可能性がありますが、それは今考えても詮無きことですね。

 

「そら、デジヴァイスのメンテとアップデートが終わったぞ」

 

進示が全員分にデジヴァイスを渡しながら言います。清水君のデジヴァイスはバージョンが上のデジヴァイスに近づけば無線で自動アップデートするようにしたようですね。

 

それから、デジヴァイスで魔力を用いない通話ができるようになったこと。これなら魔法を用いた念話を傍受されないのだとか。

 

スマホやパソコンにも接続できるようになったり、必要な条件がそろていればワープ進化も出来るようになったり、一度でもジョグレス進化したら、いちいちジョグレスしなくてもなったことがある形態に進化できるとか。

 

「但し、ジョグレス進化は普通のデジモンの進化よりも精神的つながりを重視する。同じジョグレス形態でも、元のテイマーやデジモンが融合しているほうが強い」

 

つまり、オメガモンの場合はウォーグレイモンとメタルガルルモンの融合形態ですが、融合なしでオメガモンになると融合状態よりもやや弱体化してしまうのは避けられなかったそうです。

 

世界線によってはジョグレスした場合、素材のデジモンが消滅してしまう場合もあることを何とかしようとした結果だそうです。

 

「それにしても、あれから4か月か」

「お主たちはやり直したいと思ったことはないか?クラスメイト達も全員が全員お主たちを傷つけたわけでもあるまい?」

 

ティオがそのように聞いてきます。

 

「クラスメイトは守らないと帰ったとき家族…は通信してるからいいとして、何よりマスコミやその他の相手がめんどい。特に一番マスコミの被害を被るのは先生だろう…まあ、それを踏まえてもやり直そうとは思わないが」

「右に同じ」

「私もだ」

「同じく」

 

進示の言葉にハジメ君、杏子、優花さんの順で答えます。

 

 

まあ、進示や杏子の記憶の限りでは、嫉妬によるいじめや嫌がらせが多くて、二人にはクラスに特別いい印象はないでしょうね。

 

進示も授業中は寝ていることもありクラスメイトや先生からあまりいい印象はありませんので、『何で暮海さんが榊原に構うのか』という空気になってしまうのです。

 

まあ、進示と杏子は一つ屋根の下の上、二度に渡って異世界を共に旅した中(そのうち一度は私がお供しましたが)、さらに政府や公安の依頼で割と頻繁に怪異退治に駆り出されたり、よその国からちょっかいかけられたり、来たるべき時に備えて数々の兵器や宇宙空間、次元空間、虚数空間を越えられる戦艦を建造したり、さらには樹様や仲間内で戦闘訓練とかなりハードな生活をしています。学校で報告書なんて書けませんしね。

進示やお友達が望んでいるスローライフとは真逆の生活ですね。

 

私もスマ〇ラとかモン〇ンとか楽しみたいですね。

 

「樹にお前の分も抑えさせてやるよ」

 

ありがとうございます!

 

あ、向こうではハジメさんとユエさんが桃色空間を作ってシアさんが暗黒ウサギになってます。

 

シアさんはバイクなので車内の会話は聞こえないはずですが、雰囲気を感じ取ったのでしょうか?

 

ハジメ君。自覚はないでしょうがシアさんがホレるようなことをした以上受け入れてしまっては?

 

「今の人間社会の倫理観で育った日本人的感性ではハーレムにあこがれはあってもそれを受け入れるかはまた別問題だ。お前は龍だからそこまで気にしないようだが」

「龍は自然界でもほぼ最強種ですからね。倫理より繁栄を重視します。デジモンでも本来の私を超えるものはそうそういないですよ」

「ルーチェモンとかは?」

「…まあ、手加減してでは勝てないでしょうがそれでもまず負けません。…ですがデジモンになって大幅に弱体化している今の私では逃げるしかないでしょう」

 

などと雑談しながらホルアドに到着しました。

 

あ、余談ですがエテモンの姿が見えないと思ったら、なんと【モンキー号】なるバイクを自作してシアさんと一緒に爆走しましたね。二人ともハジメ君に見せつけるようにお尻をフリフリしてたので、途中から杏子と運転を変わったハジメ君がアクセル全開してましたね。

 

 

 

ギルドで荒くれ者たちににらまれたミュウちゃんが怖がってそれに怒ったハジメパパが威圧したり…うーん、この親バカ。いえ、バカにはしてませんよ?

 

これじゃどっちみち子離れはできませんね?

 

残念ながらミュウちゃんが5歳以上の状態は知らないのですが、大きくなったら「パパと結婚する」って言ってミュウちゃんに食べられる(意味深)のではないですか?

 

あ、遠藤君がやってきました。

 

進示と杏子は遠藤君に気づくことはできるんですが、遠藤君の側は髪の色が変わっているハジメ君と優花さんに気づかなかったようですね。

 

それにしても、遠藤君。赤外線が気付かないほど影が薄いって可哀そうですね?話を聞く限り逃走には役立ったようですが、進示でも何んとも出来なさそうですね?

 

「ミレディちゃんも少し意識をそらしたら見失っちゃいそうだよ…こんな子初めて見たよ…」

 

 

 

まあ、紆余曲折ありましたが、結局はクラスメイトの救出に向かうようです。

 

オルクス大迷宮に魔人族が現れ、八重樫さんたちが自分を逃がし、騎士団たちが自分の撤退の時間を稼いだことでメルドさんたちが死んでしまったと叫んでいますが、進示が難しい顔をしています。

 

ただ、遠藤君の口からアルフォースという女性騎士名前を聞いたとき、進示が「そんな騎士いたか…?」と呟き、杏子が何やら思案顔になりました。

 

…え?まさかあのデジモンがこの世界にいるんですか?

 

進示のスマホにいるガンクゥモンも「まさか…」と呟きました。

ガンクゥモンの声はギルド支部長や遠藤君の耳には入りませんでしたが。

 

ハジメ君はめんどくさそうにしていましたが、何だかんだで筋は通す子ですので、「白崎に義理を果たす」って言って立ち上がりました。

 

「ミレディ、お前は立場上迷宮に入れないから、ミュウのお守りはお前がしてくれ」

「合点だよ!」

 

留守番はミレディさんとミュウとエテモン、クロアグモンですね。

 

クロアグモンは好戦的な性格をしてますが、さすがにこのような幼子を無理に戦わせないほどには分別はあるようです。

 

そしてミレディさんは迷宮の管理者なので、違う迷宮であっても迷宮内では助力はしないようです。

 

それに、まだ変装の必要がありますからね。ライセンの名前を知られなければ問題ないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

進示視点。

 

俺達(ハジメ)がパイルバンカーで穴をあけ、90層までショートカット。

俺達が飛び降りてついた先には。

 

浅黒い肌をした女魔人族。

 

倒れているクラスメイトや騎士団長メルド。

 

そして…

 

 

「雫!?」

優花が叫ぶ。

 

 

 

血を流して息をせず倒れている八重樫雫の姿だった。

 

息をしていないという事は死んでしまったという事。

 

白崎が八重樫の体にしがみつきながら泣いている。

 

それを見た俺は、亜空間倉庫から龍の杖と魔導書を取り出す。

 

八重樫雫本人とはそれほど接点は深くなかったが、彼女の祖父とは警察庁で何度も顔を合わせている。

 

孫娘が死んだとなればいかに彼でも泣いてしまうだろう。

 

八重樫家の家族も…あまり考えたくはないがソウルシスターズも。

 

一瞬で決めた俺はハジメたちに指示を出す。

 

「ハジメ、ユエ。魔人族は任せる。シアはメルドたちを診て、必要なら神水を使え。

杏子、ティオ、はこいつらを守りながら必要に応じてサポート。優花は戦場を俯瞰しながら迎撃態勢。ミリアは俺のサポートをしろ。…俺は」

 

 

倒れている八重樫雫に向かい合い、魔導書を広げ、龍の杖を向ける。

 

「ぶっつけ本番だがやるしかない。八重樫の魂を呼び戻す。ミリア。魔法が使えなくなっても感覚はわかるはずだ。サポートしろ」

「はい!」

「…え?ハジメ君…?」

 

 

白崎香織はここにきてようやくハジメの存在に気づいたようだ。

八重樫雫の状態が状態なので、無理もないが。

 

 

 

 

 

 

 

第3視点

 

 

今、フードを被った少年と肌が白く、ポニーテールの髪も白く、灰色の瞳を持つ女性が向かい合っている。

 

女性は右手に黒く、ドラゴンのフォルムをした杖を掲げている。それはまるで進示の龍の杖の色違いのようだ。

 

「やれやれ、カトレアが遅いから様子を見に行こうとしたけど、こんな混ざりものがいるなんてね」

「混ざりもので結構。お前の存在は想定内ではあるが、今彼らの邪魔をさせるわけにはいかない」

 

女性は杖を少年に掲げ、言い放つ。

 

「君、今はパートナーデジモンはいないんでしょ?君の戦闘能力はせいぜい完全体レベル。その程度で僕に勝てるかなぁ?」

「お前は十の魂を持つ少年たちが倒した個体に非ず、相羽タクミが見落とした個体であるな?」

「そうさ。神である神霊ルシファーに引っ張られたのか、それともデジモンの僕がいるから神霊ルシファーが出てきたのか…。まあ、卵と鶏に近いね」

 

少年は面白そうに笑う。

 

「それはそれとしてだ…。この世界と地球にデジモンが生活出来る基盤、そして見込みがありそうな人間にパートナデジモンを与えたのは君だね?」

「ティオ・クラルスだけは違うが…概ねその通りだ。

園部優花の行動は正直予想外だったが、あれくらいの精神力があるならロイヤルナイツ級のデジモンを持たせても問題はなかろう」

「ふーん。君は個の強さというよりは絆を重んじるタイプなのかな?人間に迫害され続けたキミが?両親から引き離され、記憶を奪われ、いいように使われ、犯されて、人間の都合が悪くなれば殺されて、世界の都合が悪くなれば泣きつかれる。復讐しようとは思わなかったのかい?」

 

少年に言われた女性は目を細める。

 

「私とて迷いはしたし、人間を恨んでもいる。我が父もまだ甘さを残すが…いや、父はあれでいいのかもしれない」

「その迷いも父親譲りかい?」

「結果としてお前はどの世界でも迷いと葛藤を持つ人間に倒される。【この世界】に起きる未曽有の危機を前にしてはお前を通過点にできるほどに強くなってもらわねば生存率は0だろう」

「…言ってくれるじゃないか」

 

 

 

フードの下の顔を少年は歪ませ手をかざす

 

女性はまずいと思ったのか、全力で防御魔法を展開する。

 

10個の超熱光球を、惑星直列の様に十字の形で放つその名は

 

「グランドクロス」

 

 

 

 

 

 

 




間が空いて申し訳ありません。

そして予想外?(一応伏線はありましたが)のデジモンが登場。

次回は香織に何があったかを聞くので、香織の回想シーンからですね。

つまり、主人公たちが駆けつける前のカトレアとの第二ラウンドからです。


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第29話 抑えていた本音(前編)

長い事更新せずすみません。


今のミリアって杖を含めた装備を全部進示にあげちゃったし、一応格闘技の心得はあるけど、デジモンにならなきゃ武器がないし、人間体のままでは出せる身体能力はせいぜい成熟期クラス。

…閃いた!

進示「オスカーの隠れ家にあった【コレ】を改造してミリアの武器にしようか」
杏子「それはいいのだが、今の彼女はデジモンで魔力がないから、ハジメ君の武器のように魔力前提の装備では使えないぞ?」
ハジメ「何だ何だ?何造る気だ?」
進示「ミリアの武器。どうせだから変形機構もつけちゃおう」
ミレディ「うわぁ…ミーちゃんの武器にそれを素材に使うなんて皮肉が効きすぎてるねぇ。シンちゃんドS?」
進示「ミリアはああ見えて結構パワー型だから重量級の武器がいいかな。せっかくだし、俺の戦闘スタイルの元ネタの要素も入れてみようか。もう一つは…うん、ドラモンブレイカーをモデルにできるかな」
ハジメ「名前はどうするんだ?」

進示「…そうだな。変形機構も含めて二つの形態は【竜】、もしくは【龍】がモデルだから…うん。【龍王剣】にしよう」


なお、原作と同じシーンは大幅カットします。


ガラテア視点

 

ハイリヒ王国に不穏な風が流れる。

 

王国でメイドとして働きながら進示と杏子の帰還を待っている私だが、ホルアドの方から強大なエネルギーを感知した。

 

「これは…ゼロからもらった知識では…七大魔王…?それにしてはいささか弱い…?」

 

私の知識に間違いがあるのかそれとも…。

 

「いずれにせよ、あなたの出番は近そうね…フーディエモン」

 

私は胸元にいる自身のパートナー…デジヴァイスに語り掛ける。

 

失われた世界のバックアップに必要なピースの一つが私…正確には私の脳ね。それとこのフーディエモンなのだ。

 

「七大魔王…伝説には聞いたことはあるけど、人間界にもそういうものはあるわよねぇ~?この場合はデジモンかしらぁ?」

 

そう言いながらコツコツと歩いてきたのは岸部リエだった。

 

「岸部さん。ご存じで?」

「ここではメイドのベリキシエよぉ。アナグラムなんて単純だけど意外と便利よねー♡」

 

キャラづくりが激しいこの女性(デジモンだが)はしかし、とてつもない野心家でそうでありながら人間社会でCEOまで務めた人物だ。

 

「地球であなたが隠れ蓑にしていた会社はどうなっているのでしょうね?」

「…どうやってあなたがそれを知ったかは気になるけど、私がケアできなくなって一気に傾くでしょうね~。殆どの人間は楽をしたがるから」

 

それは否定できない。

 

ジールでもほとんどの権力者が他力本願だ。

 

ゼロが召喚された時代は被召喚者の記憶を奪い、召喚者の意のままにコントロールする術式があった。

 

ゼロの純潔もその時に奪われたのだろう。

 

これを実父である進示が、実母である杏子とミリアが知ったら…杏子は読めないが、ミリアの怒りはマズすぎる。

 

ミリアが全盛期であれば、地球規模の惑星など一瞬で木っ端みじんだろう。

 

進示と杏子が召喚された時代には失われていたが、あの二人に邪神を倒させて自分の手柄にしようとしたのだ。

 

用が終われば始末する腹積もりで。

 

進示は恐らくそのことに気づいていたが、後ろ盾がない状態では逃亡生活も困難だっただろう。

ミリアがいなければ逃亡生活もままならなかっただろう。

 

勿論私は【隠れて見ていた】のでその心労は察して余りある。

 

「まあ、あの会社は別にどうでもいいわ。その気になればどうとでも立ち回れるし。今の私にはぁ、恵理ちゃんの方が大事♡だけど、あの場は任せても大丈夫そうね」

「…心配ではないのですか?」

 

今の岸部と中村の関係を鑑みれば助けないという選択肢はないはずだ。

 

「あの場にはロイヤルナイツの中でもスピード自慢の子がいるし、アルファモンとそのテイマーがホルアドに近づいてる情報があったのよ。アレが成長期なら殺されはしないでしょう?さらにお仲間の園部優花ちゃんもロイヤルナイツ、デュークモンのテイマー。さらに究極体が2体、完全体が2体…うち1体はあの分じゃきっかけ一つですぐに進化できるわね。そしてもう1体の完全体は病み上がりとは言え、テイマーが解放者、つまり本物の戦場を知るもの」

「!」

 

そういう事ですか。

 

「…今は、待つしかないと」

「そういう事♡」

 

 

 

 

 

 

 

杏子視点。

 

君達は【対話】というものをどう考えているだろうか。

自信と相手を理解し合い、人生に彩をもたらすもの…まあ、一般的な認識はこの辺りか。

仕事を円滑に進めるためのコミュニケーションだったり、友情、色事、趣味の共有のためだったりとコミュニケーションの動機は様々のはずだ。

近代では【飲みにケーション】なるコミュニケーションが存在するようだが、お酒が飲めなかったり、人とかかわるのが苦手な人種には受け入れがたい方法だろう。

進示は人と関わることに苦痛を感じるタイプだが、理解者には寄りかかるタイプだ。

 

…しかし、誰しも【自分の主観】というものが入ってしまうのは致し方ない事だろう。

例えば、人生という物語の主人公は自分だと思っているような認識だ。

 

私はアウトローな生活を送っていたのに少々自画自賛をすることがあるという事は進示とミリアから言われていた。

流石に岸部(ロードナイトモン)程ではないと思いたい。

 

 

 

 

天之河光輝の剣を親指一本で止めている進示の姿があった。

 

「自分の主観でしか物事が見えないのは誰でもあることだし、殺す直前で日和ったのも21世紀の日本で育った以上仕方ない面もあるが…、他人に責任転嫁してるに飽き足らず、『決闘だ!』とほざきながら準備もなしに剣を振りかざし、あまつさえ杏子たちを賭けの対象にするか…。お前、自分がどれだけ我儘言ってるかわかってるのか?」

「黙れ!!みんなを開放してもらうぞ!」

「八重樫やハジメにケツ拭かせといて、顧みることもしないのか…才能があるだけに残念というほかはない」

 

 

フム、魂が繋がっている進示の考えは手に取るようにわかるが性格さえ治せば自分すら超える素質があると睨んでいるようだ。

進示の場合は経験と龍の因子で上回っているだけで、素の素質は認めているらしい。

 

そういうと進示は残った右腕で天之河君の鎧ごとボディブローをする。おいおい、鎧に罅が入っているぞ。

あ、泡拭いて気絶した。

 

「手加減はした。この映像はもう送信されているし、こいつの御両親や妹がこの醜態視たら何て言うかな…」

「…送信って、え!?どういうこと!?」

「そう言えば通信に必要な魔力量は既に溜まっているな。それに、地球への通信が確立したのは、大迷宮落下後だったしな。君たちが知らないのも無理はない」

 

オルクス大迷宮に救助に行ってからこの現象が起きるまでの間を語ろう。

語るのは私だけではないが。

 

「それにしても父さんの性格上、あまり修業はやってないと思いましたが、予想以上に腕を上げていますね。それに、身長に対して体重が軽すぎませんか?」

 

思わぬところで再会を果たした我らの師匠兼娘である女性、ゼロ。

 

もう正体を隠す必要は無くなったのだが、よそよそしい態度はこれまでの経歴故か…まあ、性格は父親に似たのだろう。

私たちの師匠をやってた頃は自分を押し殺していて、殺気がしょっちゅう出ていたのだが、今は穏やかな雰囲気だ。

穏やかな方こそ本来の彼女だろうが、天之河君に景品の対象にされてしまったので、やや剣呑なオーラがある。

 

「進示は178センチ58キロだ」

「…いくらなんでも軽すぎませんか?」

「心労もあるし、この数年休む暇がないほど働いている。公安や政府の依頼で退魔師のようなことをしているが、その裏でもいろいろ準備をしなければならないことが多い。それに、労働基準法を適用できない仕事だからな。かといって休めば関原君たちの負担も増える。ふざけているように見えて彼らも多忙だ」

「過労死して異世界転生しそうだな」

 

突如、私とゼロの会話に割り込んできたデジモン。

 

「ガンクゥモン…久しぶりですね…。ですが、先ほどまで父さんのスマホにいましたね?いつの間に杏子母さんのスマホに移動したのですか」

《勇者が進示に突っかかってきたあたりからだな。めんどくさくなりそうだし》

 

私のスマホから声を出すガンクゥモン。

 

「ぶっちゃけましたね」

「え、実際めんどくさくありません?ある意味さっきの【傲慢】より、かといって下半身で動いているわけでもありませんし」

「ミリア母さんの下ネタもいつも通り」

「わあ!お師匠様ってば結構突っ込んでくれるんですね!」

「…もう私を師匠と呼ぶ必要はありません」

「勇者君は色恋以前の問題ですが、坂上君のブツは結構大きかったですよ!」

 

ミリアに突然水を向けられた坂上君が「何で知ってるんだよ!?」と目を全開に見開いて叫んだ。

 

するとミリアは

 

「ホラ、召喚されてから初めてオルクス大迷宮に向かうまでの間スチュワー〇大佐ごっこしてましたよね!」

 

スチュ〇ート大佐ごっことは、ダイでハードな映画のワンシーンで、マッチョメンが全裸で太極拳の型を取るシーンの事である。

 

すると案の定坂上君は再度「何で知ってるんだ!?」と言いながらミリアの肩をがっくんがっくんと揺さぶった。

 

ミリアは肩を掴まれたぐらいでセクハラを訴える龍ではないため、そして坂上君を弄った侘び替わりなのか笑顔でされるがままになっている。

 

「なるほど…、あの事案は進示が目撃者だったな。ならば進示が話さなくても私とミリアが知らないというはずはないか」

 

つまり、魂が繋がっている私たちは当然ながら坂上君の股間の大きさを知っているという事だ。

事情を知らない者たちにデジシンクロの概要を説明する。

 

…先ほどからゼロは檜山君を警戒しているようだが…彼に何かあるのか?

ハジメ君を突き落とした事による警戒ではないな。

 

「…は!?待って!?という事は…あれ?そう言えば杏子って私たちと一緒にお風呂入ったことはないわよね?」

 

という事は私とミリアが見たものも進示が知っているという事になるのだが、八重樫君が疑問に思ったことを口にする。

 

「あの当時はまだ見聞きしたこと全て読み取れるほど魂の繋がりは深くはなかったが、断片的には読み取れたのだろうな。だから私を他の女性と入浴させたり着替えさせたりすることを避けたわけだ」

 

私の言葉で女性陣は胸を撫で下ろしたようだ。

 

因みにトータスに来てからはガラテアが私と一緒に入浴していたが、『今後榊原進示と一緒にいる事になりますので視られることにも慣れておかないと…』と言っていた。

 

記憶をなくしてた時は意味が分からなかったが、今ならはっきりわかる。

 

ガラテア…デジシンクロの特性について知ってたな?

 

 

 

 

『それと、どうせ後で伝わるでしょうから言っておきますね。進示には姉さまを介錯したこと…私は感謝しています。進示にとっては【2回目】の殺人だったでしょうけど、そのおかげで姉さまは世界を喰らう化け物に変質することなく苦しみから解放されました。その感謝の言葉も言えないままこの世界に流れ着いて数年経ちますが、もう少しで礼が言えそうです。勿論直接言うつもりでいますが…私の心の整理もありますし…ね?』

 

 

その情報は当然ミリアにも伝わったが、そのことに対してはかなり複雑な感情らしい。

 

ミリアはホープに捕まった時に【進示は人を殺せない】と言っていたが…ミリアは見誤っていたのだ。

 

そのあたりに関してはいずれ進示の心の整理がついたら過去編で語ろう「メタいぞ」…むう、進示、私こそがメタ代表なのだが。

 

 

気絶した天之河君の傷を治療しつつ鎧も修復している進示は深い安堵のため息をついている。

 

ここで私の眼を使って女性の入浴を覗いていたことが知れたら集中砲火間違いなしだからな。

 

話がそれてしまったが、今度こそ何があったのかを語ろう。

 

ギルドへの報告と通信の準備をしながら…な。

 

「杏子~魔力のある優花とティオとミレディに亜空間倉庫の操作権預けたから、通信準備しといて…八重樫の蘇生と、白崎のオペレートで脳を酷使しすぎて限界…」

 

あ、天之河君の治療をしていた進示が倒れた。

 

「すごい熱じゃない!?」

 

優花君が進示を背負う。目測だが41度を超えているな。

 

ユエ君が氷を作っているな。

 

八重樫君も自分を救うためにそこまで無茶をした進示を心配そうに見ている。

 

「一先ず進示は宿に運ぼう。私は進示からのオーダーを果たす」

 

 

 

 

 

 

 

香織視点

 

魔人族の女の人との戦闘は私たちの敗走…殆ど潰走状態で終わった。

光輝君が「仲間をやられて引き下がれるか!」って言ってたけど、そこは雫ちゃんが一喝して光輝君を黙らせる。

 

こうして人目に付きにくい場所で負傷したメンバーの治療を私と辻さんでしているけど、他の皆は光輝君と言い合いになっている。

 

魔人族に降伏するか逃げるか。

 

檜山君を含む数人は降伏に傾いているみたい。

 

私はハジメ君を探すためにここまで来たのに降伏なんてできない。

 

結局魔人族に見つかって戦闘再開になったけど、重症のメルドさんを人質に取られたじょうたいで限界突破を使った光輝君が負けてしまった。

 

敗色濃厚ムードで魔人族の女の人から降伏勧告をされるけど、みんなが迷っている中メルドさんが私たちに「お前たちはお前たちの思う通りにしろ!最初からこれは私たちの戦いだったのだ!」と言いながら…多分自爆しようとしたんだと思う。それを魔力を吸収される形で防がれたうえ、腹部を貫かれたメルドさんに光輝君が激怒。

限界突破のようにも見えるけど、より強力な分さらに体にかかる負担も大きいはず。

 

光輝君が魔人族の人にとどめを刺そうとした瞬間、「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」というセリフに光輝君が手を止めてしまった。

 

…その時点で何かを察した雫ちゃんが疲労困憊にも関わらず動き出す。

 

正直来るべき時が来てしまったんだと思う。【人を殺す】という事に。

 

それを躊躇した時点で…

 

限界突破の協力版(後で覇潰と知った)が切れて動けなくなった光輝君をこっちにぶん投げて、魔人族の女の人に向き合う。

 

「アンタは殺し合いの自覚があるようだね」

 

魔人族の女の人いう通り、この中で殺し合いの自覚があるのは雫ちゃんだけかもしれない。

 

他の人もあったとしても覚悟は揺らいでいると思う。

 

私たちのパートナーデジモンも専用の端末なしではスマホから出れないので何もできない。

 

いや、仮にでれたとしても、魔物と勘違いされるリスクも考えると迂闊には出せない。

 

次の瞬間。

 

「っ!?」

 

し、雫ちゃん!?

 

魔物に貫かれた雫ちゃんが地面に倒れ伏し、動かなくなってしまった。

 

「雫ーーーっ!?」

 

光輝君が叫ぶが満身創痍で動けない。

 

他の皆も信じられないという顔をしている。

 

「おやおや、あの坊やに強化してもらったアハトドだけど、加減を間違えたかねぇ?でも、剣士のお嬢ちゃんの剣が折れてないとかどんだけ頑丈何だい?」

 

彼女が何か言っているが、私の耳には入ってこない。

 

私は雫ちゃんの亡骸にしがみつき、泣くことしかできない。

 

…ああ、ごめんね雫ちゃん。

ごめんね南雲君…約束、果たせなかった。

 

 

 

その時

 

「ハジメ、ユエ。魔人族は任せる。シアはメルドたちを診て、必要なら神水を使え。

 

杏子、ティオ、はこいつらを守りながら必要に応じてサポート。優花は戦場を俯瞰しながら迎撃態勢。ミリアは俺のサポートをしろ。…俺は」

 

 

え、

 

「ぶっつけ本番だがやるしかない。八重樫の魂を呼び戻す。ミリア。魔法が使えなくなっても感覚はわかるはずだ。サポートしろ」

 

「はい!」

 

南雲君…榊原君、優花ちゃん、杏子ちゃん…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

進示視点。

 

「進示、そこはもっと弱く!」

「…魔力の流れと魂の固定は何とかなりそうだが、八重樫の魂を呼び戻すには足りねぇな」

「そんな!」

 

ハジメたちが戦っている横で殺された八重樫雫の魂を呼び戻す術式を組んでいる。

 

これはジール発祥の魔法で元々ミリアから習っていたもの。

 

白崎が悲鳴を上げ、天之河が何か抗議をしているようだが、術式を組むのに集中して彼らの言葉は俺の耳には入ってこない。

 

「…進示。今更ながら謝罪があります」

「何だミリア、こんな時に」

「…元々私の異能である【死者蘇生】を会得するにはあと一つ足りないものがありましたが、進示はきっかけは掴んでいるのです…あの時わざと助けを遅らせましたから」

「…わかってはいたが、直接口にされると堪える…ってまさか!!」

 

ジールにいたとき、濡れ衣を着せられて俺が公開処刑でギロチンで首を刎ねられた時、俺の死体を回収したミリアが死者蘇生で俺を生き返らせて(首もくっつけて)いたが、わざわざ俺の処刑を待つまでもなく彼女には俺を助ける手段があったという事だ。

 

デジシンクロで魂が繋がった今、その当時のミリアの心境まで知り尽くしているが、…死者蘇生を感性かせるには術者が死ぬ必要があったのか…!死ぬ感覚の経験が必要だったのか。

 

「…私を軽蔑しますか?」

「いや、勘だが、それが最適解だ。まあ、そのせいで杏子を泣かせちまったけど」

「…」

「いや、ホント申し訳ありません」

 

俺の言葉に彼女は頷く。

しかし、杏子が半眼でミリアを睨む。

…必要だったとはいえ、俺を見殺しにしたミリアを睨むってことは杏子の中で俺の存在は大きいという事。

 

天之河が「暮海さんを泣かせただと!?」とか言っているが、それは杏子本人が「天之河君、黙っていてくれたまえ。それに関しては進示と私、ミリアの問題だし、既に折り合いはつけている」といって封殺した。

 

生と死の狭間の感覚…。

 

「…捉えた!」

 

俺自身の死の感覚を縁にして彼女の死の感覚を掴み、彼女の魂を補足した。

…あと20分遅ければ手遅れだっただろう。

…結構後で後で知ったことだがこの世界の魂魄魔法とやらでも生き返れる時間に限界があるようだ。

 

しかし、ここで予期せぬ事態が起きた。

 

 

「八重樫の首が繋がっているのは幸いだった。それと、体のどこも欠損がない事も幸いだ。今の俺では切断部位の接続までは出来ないからな…ん?」

「どうしたの?」

 

白崎が聞いてくる。

 

「…ちょっと予想外のことが起きた。生き返るのに必要なものは揃っているが、八重樫が目覚めを拒否している」

「「「えええっ!?」」」

「そんなわけあるか!適当なことを言ってるんじゃないだろうな!榊原!」

「ちょっとお前は黙れ」

 

天之河が八重樫の幼馴染だからか、俺の言葉に我慢ができなかったようだが、八重樫の魂の声を聴いてみると、八重樫のストレスの原因の一旦は天之河にもある。

 

断片的に聞こえる声は…

 

『本当は剣道じゃなくてもっと女の子らしいことをしたかった』

 

ふむふむ。

 

『《雫ちゃんも俺が守ってあげるよ》そんな光輝の言葉にどれだけ期待したか。彼なら自分を女の子にしてくれる。守ってくれる。甘えさせてくれる。そう思っていた』

 

天之河の奴そんなこと八重樫に言ってたのか。

 

俺は警察庁に来る鷲三さん達とは面識はあるが、八重樫雫とは高校に入ってから出会ったので、プライバシーに関わる部分には踏み込まなかった。

俺も俺で世界消滅に対抗する手段の構築や、樹や仲間たちとの殴り合いという名の修行(まあ、全く遊ばないわけでもなかったが)。街に現れる自衛隊の手にも負えない人害生物の処理(これに関しては警察や政府、自衛隊でも限られた人間しか知らない)で忙しかったので。

 

『光輝を好いてる女の子の1人に言われた言葉。“あんた女だったの?”…とてもショックだった』

 

…ここまでならよくある。女子社会は小学生の段階からエグイ面がある。全員が全員ではないが、その傾向は強い。

 

『光輝にとっては既にイジメは解決したという認識なのか、もう一度相談しても《話せばわかる》、《みんないい子たちだよ?》って言って私の言葉を信じてはくれなかった』

 

…なるほど。セリフのニュアンスから言ってこれは小学生時代の出来事だ。

小学生なら表面上しか見えなくても何ら不思議はないが…、きっとその女子たちは天之河の見てないところで隠れいじめをしていたのだろう。

天之河に見つからないように巧妙に。

イジメは俺も前世で受けていたからその気持ちはわかる。

 

…これ、現状死人の八重樫を救えるのが俺しかいないよな?まさかフラグ立たないよな!?

『多分勃ちますね♪進示の進示みたいに♪』

おい!楽しそうに言うんじゃねぇ!?ミリア!あと、【たつ】のニュアンスが違う!?

それにそうなったらもう半ばハーレム出来てるけど、お前にとってもライバルが増えるだろ!?

 

『前提から違います。進示も知ってるはずですよ?私は貴方と情を交わした相手を初めからライバルだなんて思ってません。ライバルでも恋敵でもなく、【同胞】なんです。私、ドラゴンですから!』

 

今はデジモンだが、ミリアの本質はドラゴンだ。

それも、本物の神にさえ比肩する。

デジモン化して大分弱体化してるが…それでもコイツは自分の存在意義を捨て、自分の力を俺に継承させるためにわざわざ日本語で何百年もかけて魔法論文を執筆し(現在百科事典400冊分の文量分読破、実践したが、まだまだ論文はある)、数々のマジックアイテムや龍の杖、亜空間倉庫を俺に遺し(結局生きてたけど)、魔法の全てを代償にしてまで俺の傍にいる事を選んだ。

 

…俺はそんなお前に縋りたくなるほど好きなのに…初対面の人間にすら遠慮なく下ネタかます以外は最高にいい女だ。

 

でも、それでも…。

 

『進示のやりたいようにしてください。問題が起きたら私も一緒に考えます』

『八重樫君は私から見ても死なすには惜しい人間だ。若さゆえの未熟さはあるが、それでもいい娘だ。だが、大事なのは八重樫君を見捨てたことで君が後悔しないかだ。…キミの思う通りにしたまえ』

 

デジシンクロで魂の会話をする俺達。

 

杏子とミリアが背中を押してくれた。

…済まないな。こんな迷いだらけの男で。

『迷うからこそ、葛藤するからこそ進示です。不器用に【進んで示す】だからこそ進示です!』

 

無意識で付けた偽名ではあるが…、そうか。

 

俺は優花とティオをチラ見する。

二人とも力強く頷いた。

ミュウの護衛と立場上迷宮に入れないから留守番させてるミレディも反対はしないだろう。

 

「杏子、八重樫の精神世界に入り込んでくれ。八重樫にアルファモンの姿を見せたことはないが、精神世界の中じゃ、魔法の類は一切使えないし、身体能力も一般人レベルになる。戦闘が想定されるが、デジモンであるお前が頼りだ。現実世界では俺と融合しないとアルファモンに戻れないけど、精神世界は【現実世界としては扱われない】。なんで、本来のお前に戻れる」

「了解した。…進示は死者蘇生の術式を維持しないといけないからこの場を動けない」

「俺も行くぞ!俺が雫を救うんだ!それに榊原!暮海さんをまたあんな化け物にする気か!」

 

…思い込みは激しい天之河だが、そこは覚えているのか。グレイドモンの事を言っているのだろうが、説明の時間は惜しい。

時間をかけすぎると八重樫を蘇生出来なくなる。

 

「話聞いてました?精神世界の中ではあなたの力は一切使えませんよ?それに、戦闘が想定される中でデジモンしか戦闘を見込めない以上、パートナーデジモンがいない人では戦力になりません」

 

ミリアが補足してくれる。早く杏子を送り込まなくてはと思ったが、予想外のところから待ったがかかる。

 

「わ、私!パートナーデジモンがいるよ!私だけじゃなくて雫ちゃん、遠藤君、永山君も!」

 

「「「っ!?」」」

「か、香織!?」

 

俺達や現在魔人足の女ともう戦闘が終わりそうなハジメですら驚愕の眼差しで白崎を見ている。

 

「デジモン…だって?あの坊やと同じ」

「テメェ…何を知ってやがる?」

 

ああ、クソッ!術式の維持だけで面倒なのに…!魔人族の女の対応はハジメに任せるしかない。

しかし、白崎のパートナーはリアライズができないのか。話を聞けば、今挙げたメンバーのスマホにデジモンがいるのだという。

 

「だったらコレを!」

 

俺は亜空間倉庫からニュートラルな状態のデジヴァイスを人数分取り出す。それぞれがデジヴァイスを受け取ると、パートナーがリアライズする。

 

白崎はプロットモン、遠藤はスティングモン、永山は…手のひらサイズのオメガモン…!?オメガモンNXか!あの状態では成熟期くらいの力しか出せないか。

 

しかし、

 

「雫ちゃんのパルスモン、出てこないね」

「ちょっと待て…。パルスモンらしきデジモンは八重樫の精神世界にいる。八重樫を護ろうとしているようだ」

「ええ!?」

「く!そんな奴に雫を任せておけない!俺が…!」

 

天之河…噛みついてくる理由は大体想像できるが、問答の時間はない。

山科誠の精神世界に入り込んだ相羽タクミと、それをサポートした神代悠子と同じ方法を使う。

 

「デジモンはまだしも、他人の精神世界の入る人間は一人にしてくれ。他人という異物を追い出されない正常な状態として処理し続けなくてはいけない。どこかの世界では存在証明とも呼ばれる、存在してはいけない世界に存在させるデータ処理がいるんだ。それを俺の脳みそでやらないといけないから、人数が増えた分だけ俺の脳の負担が増える」

 

杏子やプロットモンならデータ処理を自分で出来るからいいが、白崎は出来ないので、白崎の存在証明は俺がやる必要がある。

 

山科誠の精神世界に入り込んだ相羽タクミを神代悠子がナビゲートしていたが、彼はただでさえ半電脳体という体の状態でいつ存在が揺らぐかわからない状況だった。

最も、厳密な意味での【空想の存在を現実に馴染ませる】というには意味合いが違うが、現状他に適切な呼び名がないので、存在証明とする。

 

魂が繋がっているミリアもサポートしてくれるが、魔法能力を失っている今、いくらかの負担軽減にしかならないし、龍の杖も強力な演算装置の一面も持つが、基本的に処理するハードは俺の脳だ。

龍の因子がなければ間違いなく廃人になるデータ処理になるぞコレ…。

 

「白崎香織さん。八重樫さんの中にイーバモンらしき存在がいますが、杏子なら秒殺できます。…ですが、貴女は幼馴染の八重樫さんが貴方に今まで言いたくても言えなかったことと向き合わなくてはいけません。

…その覚悟はありますか?八重樫さんからどんな罵詈雑言を浴びせられても?」

 

ミリアが白崎に問う。

 

「うん!大丈夫!それに、雫ちゃんが言えなかったことも全部聞かなきゃ…光輝君はアレだし」

「あ、アレってなんだ!?香織!?」

 

言外に天之河に戦力外通告を出した白崎。

 

「じゃあ、時間がない!精神ダイブを始めるぞ!」

 

俺は3人を八重樫の精神世界に送り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

?視点

 

 

オルクス大迷宮、進示たちから離れた場所。

 

「へえ、よく防いだ」

 

色白で黒いドレスのようなローブを着た女性が少年の言葉に悪態をつく

 

しかし、グランドクロスを受けてノーダメージとはいかなかったようだ。

 

「その程度か?」

「…」

 

少年は挑発と分かっていても、少し苛立ったようで、

 

「そんなに死にたいなら」

 

もう一度グランドクロスを放つ

 

「お望み通り…ぐっ!?」

 

…その前に女性の拳が少年の腹を捉えた。

 

その衝撃に吹っ飛ばされる少年。

 

(今のスピードは!?いや、まるで時間を飛ばしたような動きだった…!?)

(コイツ…完全に不意打ちをしたのに、感か?とっさに後ろに飛び引いた…。アルファインフォースでもダメなのか…)

 

アルファインフォース。

本来は過ぎ去った戦闘時間を瞬間的に取り戻す究極の力だが、この女性はその能力を応用する。

 

エネルギー消費の少ない【時間操作】として利用したのだ。

勿論本来の使い方も可能。

 

(時間を稼がなくては…)

 

女性は歯を食いしばる。

 

5年前に一度デジタマになってしまったことで弱体化は避けられなかった。自分は盤面を整えて後方から策を練り、トラップを使う戦い方をするのが主流だが、直接的な格闘技も磨いてきた。

 

それでもこの始末。

 

現状では完全体程度の戦闘能力しかない。

 

歴史上仕方なかったとはいえ、父につらく当たってしまったことを謝りたかった。

 

ここで父の邪魔をしてしまえば申し訳が立たない。

 

この女性…ゼロの奮闘は続く。

 

「…失念していたよ。君の母親を考えれば使えて当然の力だね。だが、その技はエネルギー消費が激しい。いつまでもつかな?」

 




いずれ過去編で処刑されるところは書きたいけど…以前の歴史を知っているはずのメンバーも雫の死は予想外でした。



裏話

ミレディ=まだ本格戦闘は厳しいが、リハビリ開始。ミュウの護衛は務まるくらいには回復。フルスペックまでもう少し。

香織=テイマーデビュー。しかし、次回雫との壮大なケンカが…。

進示=死者蘇生の魔法を維持しながら、きちんとした設備がない状態で香織の存在証明という常人なら廃人間違いなしのデータ処理をすることに。

雫=死んだときの走馬灯で現在精神がぐちゃぐちゃ。家族にすら隠した本音でもうどうしていいかわからない。

杏子とプロットモン=デジモンなので存在証明は自力で可能。

アハトド=【傲慢】の細工で本来の物より少し強くなっている。その差が雫の生死を分けた。雫は原作でもギリギリ綱渡り状態だった。

雫の試作型刀=進示とハジメの合作で特殊な力はないが切れ味鋭い頑丈な刀。罅一つ入っていない。本格的な刀を作る前に進示たちが奈落行き。


スチュワー〇大佐ごっこ=小編集より。

岸部がティオの分を数えていない=変則的な融合状態のティオをデジモンに分類していいかわからないため。
清水の分をカウントしていない=ウルから動いていないのでノーカン。
ガンクゥモンはカウントしていない=進示のスマホにいる事は想定していない。




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第30話 抑えていた本音(後編)


長い事更新がなかったのも申し訳ありません。
エヒトの使途の扱いをどうするかもかなり悩みました。

そして何気に初めての18000字越え。





ノイント視点

 

 

私は、主であるエヒト様に造られて以後、任務以外で人と会話をしたことは皆無に近い。

主に命じられるがまま任務をこなし、時として間接的に種族の滅びに手を加えてきた。

 

勇者召喚がなされて数日後、一瞬だけ主と繋がっている感覚に違和感が生じたが、元に戻ったためすぐに気のせいだと思いなおした(後で聞かされた話から推察するに、この時には既に入れ替わっていたのでしょう【※第4話参照】)

 

その時、私に自主的に話しかけてきた一人の人間がいた。

名を…榊原進示と言いましたか。

彼は私を見ると驚きで目を見開いたようでした。

…私の何に驚いたのでしょうか。(これも、後で聞かされた話では私が造られた存在であることを看破したようです)

 

『ノイントと申します』

『榊原進示です。…進示がファーストネームですね』

『わかりました。それから敬語は不要です。…どのようなご用件で?』

『この世界の宗教体系がどうなってるか、イシュタル・ランゴバルド達以外の視点も聞きたくてね』

『かしこまりました』

 

彼は聞けば王族や貴族などに宗教のみならず、政治、経済、軍事など様々な情報を得ようとしているのだとか。

…私は表向きはシスターですが、シスターの目線も知りたいというので、私が真の神の使途であることはぼかしつつ、開示しても問題ない情報を話します。

 

…何気に魅了が効きませんね。

しかし、現在主からは【別名あるまで様子を見よ】という名を受けていますので、国の話、神の話、そしてとりとめのない雑談もします。

 

…こうして他愛もない話をするというのはいつ以来でしょうか。…いえ、初めてかもしれません。

 

『…もう訓練の時間だ。また来る』

『分かりました。良い成果を期待します』

『お前も働きすぎるなよー』

 

こうして彼は修道の間を去っていった。…何故でしょう。何気ない一言のはずなのに【想う】ところがあるとは。

 

考え事をしていたので、彼らが次のような会話をしていたことに気づきませんでした。

 

 

 

 

 

 

『どうだったの?進示』

『間違いなく人間ではないな。少なくとも…2000年以上は生きている。ミリアに魂視る力を鍛えられたおかげで、それくらいはすぐわかった。…それから下級の天使以下だが神格もある』

『じゃあ、ノイントって人が神様?』

『…いや、どちらかというと人造の使い魔に近い。多分アレが本当のエヒトの使途だ』

『…どうするの?』

『とりあえず様子見。手を出してくるなら倒すが、敵対しないのならわざわざ戦う必要もない。…天之河が戦争参加を表明しちまった以上、…いや、魔女狩りのリスクを考慮するとどっちみち参加は必要だったが…アイツ、進路に弁護士が視野に入ってるだろ?交渉とか覚えた方がいいだろどう見ても』

『ストーカーみたいな情報収集能力だね』

『杏子、記憶を失う前のお前の方がもっとえげつない方法で情報収集してたからな?信号機のハッキングとか普通にやるし』

『えへへ…』

『ともかく、俺と杏子以外誰も殺人をしたことがない。現代日本人の感性なら殺人を忌避するのは当たり前だし、俺達だって人殺しをしたことはあっても慣れない。それは慣れても慣れるなっていう矛盾したまま抱えて向き合わなきゃいけない』

『…うん』

『一番キツイのは先生だ。地球に帰ったら一般人の騒ぎを収めるためのスケープゴートにされかねん。あるいは、謂われのない誹謗中傷で心が病む可能性もある。…それ以前にこの性も含む暴力と戦争が当たり前の世界で精神が持つかどうかだな』

『…そうだね』

 

 

それから、初めての実践訓練まで何度か修道の間を訪れては、彼は探りを入れてきます。

 

彼も私が腹を探りに行っている事は承知の上で話しているようですね。

 

…ですが新鮮な出来事にいささか彼の訪れを楽しみにしている自分がいる…いえ、何でしょうかこの感情は。…感情?私にあるはずのないものなのに?

 

 

その後、榊原進示を含むオルクス大迷宮の訃報を聞き、私は少し自分の心が相反する二つの感情を自覚しました。

一つ、彼が死んで喪失感があるというモノ。

二つ、彼の立ち振る舞いは他の召喚された使徒とは違い、歴戦…とは言い難くもあの年齢としては分不相応の修羅場を潜り抜けていると確信できるとわかるため。それと遺体を確認しているわけではないため、生存している可能性は高いと。

 

表向きの職務をこなしつつ、自信の感情の変化に驚きながらも彼らを監視し続けた。

 

 

 

 

それから数ケ月。定時連絡を取っているはずの主、エヒトからの返事がない事を怪訝に思った私は神域に赴いた。

 

 

 

そして神域に広がっていたのは…。

 

量産型とは言え私より後に製造された妹達の…死骸だった。

 

『…こ、これはどういう…!?』

 

まさか…主は既に…!?

 

『ベルフェゴールもさぁ、いくらめんどくさいからって、自分の権能他人に譲ってまで仕事したくないのかなぁ?…いや、遊ぶのも面倒なのかなぁ?』

『何奴!?』

 

そこには如何にも気怠そうに振舞う黒髪黒目の20歳前後の男性がいた。

 

『覚える必要はないよ?僕もゴミみたいに使われる転生者の成れの果て。まあ、神童みたいに真面目に仕事する気はないからね~。そんな僕だからこそ神の力は使えず、ケモノガミ…デジモンの力しか使えないんだろうけど、人間の姿のままでこの力を使えるならまあ、マシかな?…あの世界で序盤で死ぬとは思わなかったし、結末も知らないからどうでもいいけどね?主人公補正、転生者補正もあてにはできないかな?』

 

…言っていることの意味は半分も分からなかったものの1字一句間違いなく【記憶】しました。…今思えばこの私の記憶、検索能力もスカウトの決め手だったのでしょう。それに、監視はしていたので、デジタルモンスターの事もある程度は把握していますが…ケモノガミ?

 

 

『ギフト・オブ・ダークネス』

 

彼の手…正確には爪から発せられる深紅のオーラを視認した瞬間…

 

私の剣は砕け、私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

…私は何を…。

 

『お前は運がいい。アレと遭遇して生きていられるとは』

 

…何者ですか…

 

『我が名はゼロ。現在エヒトルジュエの使途はお前とエーアスト以外は死亡が確認された』

 

…!?

 

『エーアストは最近まで行方が知れなかったが、アンカジにいるようだ…凄まじく意外な人物と行動を共にしているようだが、エーアストがいなければ通訳もかなわないか。そして、お前の本来の主は既に消滅している、量産型も含めてだ…勇者召喚を行った数日後にな』

 

…エーアスト姉さん…以外の姉妹が…!?

…あれ?以前の私は…このような怒りを抱いたでしょうか…?

 

『ほう、自我が芽生えたか。エヒトがいなくなった後に父さんとコミュニケーションをとったが故か。なるほど、エヒトはお前たちに感情が出ないように制御していたのか…それとも作り物の人形に自我が芽生えぬと過信したか。どちらでも構わんか』

『父さん…?』

『榊原進示の事だ。…いいだろう、父さんの元に身を寄せるがいい。場はセッティングしよう…ただ、ミレディ・ライセンと、お前たちが間接的に滅びを促した種族の生き残りも父さんと同行している』

 

…ああ、ダメージで頭がはっきりしませんでしたが、少しずつ思考がクリアになってきました。…思い出しました。

異世界から召喚された使徒達の中で唯一私に話しかけた人間ですね。

…しかし、ミレディ・ライセン…?生きていたのですか…いえ、いくらか方法はありましたね。

竜人族の方も…。

…あの吸血鬼の姫も…。

 

…そして、主であるエヒルジュエが既にいなくなっている…あの時の違和感はこれでしたか。

…何でしょう。主との繋がりが完全に消えたことは理解できます。長年仕えてきた主がいなくなったというのに、…喪失感というものがない…。

 

『それはそうであろう。エヒトに仕えている間は自我がなかったのだから。だが、偶然か必然か、自我を持ったことが影響してるのか…いずれにしても姉妹を失った喪失感はあるようだな。…となれば貴様らの感情を抑え付けてた説の方が濃厚か?』

 

私の目の前にいる女性は私の考えを読んだのか、そう言ってくる。

 

『何をするにしてもまずは治療だ。私の亜空間倉庫に入れ。抵抗はするなよ?私は弱体化していても貴様よりは上だ』

『…何故私を助けるのですか』

『少しの憐れみと未来の戦力。本来の歴史…いや、【ウーア・アルトと繋がっている本来の世界】でも貴様の力が必要になる時が来る。…ノガリさんというネーミングはいかがなものか…。…オホン。それに、貴様の脳は作り物の生命体であるが故にデータ量が人間より膨大で精度も高い。トータスに万が一のことがあれば、貴様の脳からデータを引き出してバックアップが出来そうだ』

 

『貴様の力が必要になる時が来る』のセリフの後にボソッと呟いた言葉は聞こえませんでしたが、要はスカウトですか。

 

 

 

『今回の一連の件、一筋縄ではいかんだろうな。エヒトと同じ世界の出身者である到達者の亡霊がどうなるかわからないのだから。

そして、父さんは龍の因子を移植した影響で永遠を生きなければならなくなった。精神は人間の域を出ない父さんが壊れないために、お前のような不老不死の存在が助けになることもあるだろう。そのための利用…いや、私もなるべく一緒にいるつもりだが…、父さんの元ならば少しは人間らしい生活もできるだろうよ。

…そしてすまない…フェー。…私が長年過ごした世界のエルフの王女であり、ガラテアの姉なのだが、イーターに寄生されたフェーが地球とこの世界を観測した時点でそれぞれの世界にイーターが出現するのは必然だった。

フェーの千里眼はありとあらゆる世界、この世界の上位次元である観測世界も見渡せるのだが、それ故のデメリットもある。人体、あるいは世界に害を及ぼすモノに寄生された状態で世界を観測すると、観測された世界に寄生されたものと同種のものが出現してしまうという特性だ。これ故にトータスに災害を振りまいてしまった。もういない彼女に代わって謝罪する』

『…話を聞く限り能力の性質上災害の出現阻止はほぼ不可能でしょう。…謝罪は確かに聞きました…ですがこの世界の遊戯を幇助した私に言っても詮無きことですが』

 

話の内容は専門用語が多くて理解に少し時間がかかりましたが、仮にこの世界特有の病気にかかった状態でその能力持ちが世界を観測すると、観測された世界はその病気が出現してしまうという事ですか。

それとは別に…少し引っかかりますね。【元居た世界】ではなく【長年過ごした世界】ですか。

 

『故に彼女は父さんに介錯を懇願した。千里眼を封じることはできないので、無意識でも観測した世界を増やさないためには殺すしかない。当時は自殺も出来ないほど体の自由を奪われたからな。すでに観測されたトータスや地球は手遅れだが、他の世界はまだ大丈夫』

 

さあ、話は終わりだと言わんばかりに彼女は空間に穴を開けます。…この中で傷を癒せと。

 

『私はこれからホルアドで【傲慢】と接触する。彼らがあの未熟な勇者たちを救助するまでは足止めをしなくてはならんのでな』

 

そのセリフを最後に私の意識は停止しました。

 

…次に目覚めるのは…。

 

 

香織視点。

 

ここって…周りがゲームとかで視る電脳世界とかそういうものに近い見た目だなぁと思ったのが第1印象。

 

そして、

 

身長4メートル程の黒い騎士がこっちを見降ろしていて、ビックリしたけど、

「…まさか、杏子ちゃん!?」

「そうだ。これが本来の姿でな。アルファモンという。…呼び方は好きにしたまえ。

驚いているところ申し訳ないが、進示もキミの存在証明をいつまでも続けられない。きちんとした設備もない状態で、死人を蘇らせる魔法との同時行使状態だ。そんな状態では脳の負担が大きすぎる…20分がタイムリミットだ」

 

…短いけど、話のスケールからすると、20分持つだけでも凄いのか。

 

「ここへ来たのはデジモン以外では私だけだけど、南雲君は魔人族の人と戦ってるからこっちまで手が回らないとして、他の人は来れなかったの?」

 

ハジメ君の姿が変わっていることには驚いたし、強くなってることも他にも色々驚いたけど、瞳の光彩とか、指紋とかは間違いなく南雲君だった。それと…杏子ちゃん、喋り方違わない?

以前は私達と同じ…いや、ちょっと幼い感じの話し方だったのに、今はこう、ハードボイルド系の感じがする。

 

「ハッキングスキルを持っているものがいればよかったのだが、そうでないものは他人の精神世界で存在を維持できない。遠藤君や永山君、雫君はパートナーデジモンともコミュニケーションをとっていたようだが、たった今リアライズさせたばかりだからな。それに、存在証明の人数が増えればそれだけ証明する側の脳に負担がかかる。…雫君のパルスモンはこの雫君の精神世界にいる。そして、雫君がこの自分の心の殻を破らないと、生き返ることが出来ない。従って雫君の本音を君が受け止める必要がある」

「本音…」

 

うすうすそんな感じはしてたけど…ううん。私が目を背けて雫ちゃんに甘えていたんだ。

…そしてそれ以上に光輝君の方が雫ちゃんに甘えている。

 

『香織…その、南雲君が好きなのはわかったから、その…もうちょっと周りに気を使って…ね?』

『え?周りってどういうこと?』

『…貴女ねぇ…まあ仮にも学園の女神って言われてること自覚しなさい?』

『女神って呼ばれてるのは雫ちゃんもでしょ?それに、女の子にも慕われてるし』

『…それは言わないで…無下にも出来ないけど』

 

「多分、南雲君への嫌がらせとか、光輝君が南雲君への日頃からの言動って………私が原因だよね?」

「ようやく気付いたか。恋は盲目というが、このような状況でなければ春が青いキミ達の様子を見守っていたが、今はそんなことを言ってられないしな」

 

そうすると下半身が何本もの触手が生えた生き物…

「ああ、あれはデジモンだ。今地球にあるゲームで実装されているデジモンの中にベーダモンがいるが、その進化先でもあるイーバモンさ」

「ベーダモンの!?」

 

南雲君がプレイしてるゲームだから私も触ってるけど、そんなデジモンもいたなぁ。…てことは究極体だよね!?

 

「本来なら君の戦いの練習台にさせるところだが、今回は時間制限ありだ。よってイーバモンは私が倒す」

 

そういうと杏子ちゃんは何もないところから剣を取り出し、

 

「聖剣グレイダルファー!!」

 

すると、イーバモンに攻撃すらさせずに一瞬で真っ二つにした。

 

「ジ・エンドだ」

 

か、カッコイイ…。

 

「杏子ちゃん、こんなに強かったんだ…」

「この程度ではアルファインフォースも必要ないな。流石私」

《お前、普段は戦闘が不得手な探偵とか言ってる癖に、こういう時は自画自賛するのかよ》

「ハハハ、流石に最近は活躍の機会が少ないのでな。ホラ、人身売買の組織…フリートホーフの時はほぼチンピラ相手の無双ゲーだったし、ウルの時は私はほぼ出番なしだったし、ミリアの判断ミスで君が暴走したときはハジメ君と私が君の腹に剣を刺したしな」

《要するに、探偵のくせに目立ちたかったのね》

「こういうのも癖になるな。幼児化する前の名探偵の気持ちが分かる」

 

それってコ〇ン君だよね?

 

「…って、今更だけど、気になる情報が多すぎるんだけど、榊原君、こっちに声かけられるの!?」

《そりゃ、この存在証明してるのは俺だし、オペレートぐらいは出来るさ。しかし、こういう時杏子はほぼ後方だったのに、今は前線だもんな…ってそんな話は後でいい!そっちに八重樫らしき反応がある!…パートナーと融合進化…いきなり究極体になってやがる!?》

 

嘘!?確か、成長期→成熟期→完全体→究極体だったよね?

 

「パルスモンの性質と雫君の特性を踏まえると、進化先はカヅチモンの可能性はあるな。雫君は刀を使うし、カヅチモンも刀を使う」

 

刀使い…雫ちゃんらしいな。でも、雫ちゃんの趣味を知ってる私からすると、もっと可愛いデジモンの方がよかったのかなぁ?

 

「アステロイディス!!」

「ムッ!?」

 

どこかから飛来してきたデジモンの神速の蹴りが飛んできたが、杏子ちゃん…アルファモンが受け止める。

 

「…雫君か…今のは手が痺れたぞ」

『八重樫…だと?何故アキレウスモンに…?』

 

古代ギリシャを思わせる防具にクロヒョウのような外見。

 

そこにいたのは自分のパートナーデジモンと融合した雫ちゃんだった。(人間のパートナーと融合する進化があることは聞かされてたけど)

 

「…香織。この世界に来たってことは戦うって事でいいのね?」

「雫ちゃん!?」

「…アキレウスモンか。…そういえばギリシャ神話のアキレウスはヘクトールを殺害した後その遺体を戦車で引きずりまわすといったエピソ-ドがあったな」

『そういうことか…俺の記憶を垣間見たな?その中には俺が戦車で引きずり回されたものもあったはずだ』

「ええっ!?」

 

密会の時はそんな事言ってなかったよね!?

 

「流石にその話は平和な世界を生きてきた君達には刺激が強すぎると思ったからね。…さて、香織君。今の雫君は一度死んでしまったことで幼少から溜めていた様々な不満、ストレス、その他諸々が綯い交ぜになった状態だ。

香織君が進化するのを待っているのは、ギリギリの理性だろう。武術を学ぶ者の精神としてな」

 

杏子ちゃんがそう言って私に戦うかどうかを促してくる。

答えは…決まっている!

 

「…やるよ!手を出さないでね!杏子ちゃん!」

『…一人で戦う気か?』

「うん!それに一人じゃないよ」

 

私は足元にいるプロットモンを見る。

 

「ようやく一緒に戦えるね。これまでは一緒にお話しすることしかできなかったけど」

「私もあなたと一緒に戦えるのを楽しみにしていた。…ハジメ君とかいう人の話は長すぎてちょっと引いたけど」

「だってハジメ君の魅力を語ろうと思ったら百科事典100冊以上はいるよ!」

「そう言えば君は肉眼で指紋や虹彩までわかるのだったな」

「え?ハジメ君のなら分かって当然だよ」

 

…なに?周りから引かれているけど好きな人のなら普通分かって当然だよね?

『とにかく白崎、そのデジヴァイスを自分の胸に押し付けな。レベルはまだしもパートナーとの精神的つながりは十分なはずだ…ただ、地力は八重樫が上だという事は念頭に置け』

「…うん!」

 

榊原君の言葉を受けて言う通りにする。

 

そしてデジヴァイスが光だし

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

私はプロットモンと融合する。

 

『あれは…ユノモンか!?』

「…ある意味、香織君にピッタリのパートナーだな。恐らくはエンジェウーモン経由だろうが…、いや、デジモンの可能性を考えればあまり当てにはならないか」

 

…私にピッタリってどういう事かな?かな?

青いマントにちょっと露出の多い白の法衣に金の防具。

金色の杖のようなものもあるけど、武器だと思う。

 

理屈はわからないけど、今プロットモンと一つになっていることはわかる。

 

「…女神みたいじゃない…香織。私はこんな戦士のようなデジモンなのに…やっぱり私は男女かしら?」

「…雫ちゃん。それは違う…。雫ちゃんは立派な女の子だよ。でも、雫ちゃん本人はそう思ってないってことだよね?」

「…そうよッ!!!!

 

雫ちゃん…いや、アキレウスモンは回し蹴りを放ってくる。

私は咄嗟に杖で受け止めるけど、衝撃を殺しきれずにたたらを踏んでしまう。

 

『ギリシャ神話やデジモンのオリンポス12神の格はユノモン(ヘラ)の方が上だが…テイマーの差か』

「しかも、今はお互いに融合進化している身だ。長年武術をしてきた雫君ならばユノモンより下であっても、修練と経験の差でカバー出来てしまう」

 

榊原君と杏子ちゃんが解説を入れてくるけど実際その通りかな…。

 

私は自立志向を持った2本のランスで雫ちゃんを牽制する。

 

「グレイスランス!」

「私はねぇ!『あんた男だったの』って言われて虐めを受けてたことがあった!!!」

「!?」

 

…薄々はそうじゃないかと思っていたけど、雫ちゃんが話したくないなら無理に聞こうとは思わなかった…。けど、これは無理矢理でも聞き出すべきだったのかな?

 

「元々私は剣なんかよりもっと女の子らしいことしたかった!!」

 

オート追尾のランスもそれがどうしたと言わんばかりの槍捌きでいなしていく。

っていうか雫ちゃん、槍術も出来るの!?

 

「でも、お爺ちゃんもお父さんも!周りの皆も期待するから辞めるに辞められなかった!!みんなに褒めてもらおうのが嬉しかったのもあるけど、それが余計に沼に嵌る原因になった!!」

 

…雫ちゃん。

 

「ニードルハイブ!」

 

ユノモンの装備している小手(カタール)から出る針で攻撃する。

 

「喝ッ!!」

 

嘘!?気合で弾き飛ばした!?

 

「…おかしい。香織君も同じ究極体。確かに究極体にもピンキリまでいるが、アキレウスモンとユノモンには絶望的と言える差はないはずだ。…進示」

『悪い、パソコンはミリアが持ってる!』

『データを解析してますが、コレ、通常のアキレウスモンではありませんね!?明らかに神格が混じってます!?…これ、海の女神の気配ですね…?』

「…そうか!アキレウスの母テティスか!?」

『はい!ホンの僅かですが、アキレウスモンという媒体を通じてテティス神の神力が入ってます。八重樫さんの名前は【雫】ですが、拡大解釈すれば【海】とマッチしますし、トロイア戦争では息子…つまり【身内】のために献身した。身内に優しい雫さんの精神性ともピッタリ嵌ってます!!…そして』

 

まだ何かあるの!?

 

 

『今の雫さんのデジモン抜きでの生身のステータスをトータス基準で測ってますが、全ステータス10000越えですよ!』

 

嘘!?雫ちゃんって一番高くても敏捷の1000越えのはず!?

 

 

「私が男扱いされて!光輝に相談したわよ!!他の女子から『男女の癖に光輝の傍にいるのが気に食わない』みたいなニュアンスで罵詈雑言浴びせられた!!バケツの汚水を被せられることもあった!!」

 

そう言いながら雫ちゃんは持っている槍で神速の突きを繰り出してくる。

 

私は雫ちゃんみたいには上手くいなせず、何発かは当たってダメージを受けてしまう!

 

『香織!』

 

光輝君の声には構っていられない。…多分事態を悪化させたのは

 

「光輝に相談したら一旦は収まったけど、ほとぼりが冷めてからまた嫌がらせは始まった!!今度は光輝に気づかれないように光輝の見てないところでね!!!」

 

『…』

「進示も地球で虐めを受けていた事があるからな。共感しているのか」

 

そうだったんだ。でも、私を雫ちゃんの精神世界にいつまでもいさせるのは榊原君にとっては負担なんだよね。

 

…だったら早く決着をつけないと!

 

 

「それも光輝に相談したわよ!!でも『キチンと話し合えば、彼女達もわかってくれる』『みんないい子だよ?』って言って取り合ってくれなかった!!」

 

…光輝君。いじめの再発は防げないにしてももうちょっと何とかならなかったかなぁ?

 

『当時は小学生だったらしいから、そこまで知恵が回らないのは仕方ない…しかし、対応が八方美人な上に自分が言って聞かせたんだからこれ以上何も起きないという過信だな。

まあ、小学生であれば一度でも対応に当たっただけ立派と言えなくもないがね。学校に告発しても大体は握りつぶされるし、仮に動かぬ証拠を用意して告発しても虐めが出る学校として評判が悪くなるから、尻尾を切らされる教師も出る。この場合、無関係な教師が責任を取らされることもあるしな。まあ、色々難しいよな』

 

「アステロイディス!!」

 

またしても神速の蹴り咄嗟に後ろに飛び引いてダメージを減らすけど、かなり痛い。

 

私はデジモン固有の必殺技ではなく、進化・退化したデジモンに継承できる技を選択する。

 

「サンダーフォール!!」

「ハイドロウォーター!!」

 

私の出した雷もそれがどうしたと言わんばかりに雫ちゃんの水流が飲み込んでいく。

私は水流に思い切りたたきつけられた。

 

「…これ以上は無理だ。私も加勢する」

「…ダメ…【杏子ちゃんは手を出さないで】」

「…自慢に聞こえるだろうが私はこれでもロイヤルナイツ最強のデジモンだ。彼女が神の力を僅かとはいえ、獲得していても十全に使いこなせていない今、私ならほぼ完封できる」

「それでも…だよ」

 

これは親友である私が向き合わなきゃいけないんだ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫視点

 

ふわふわ

 

ふわふわ

 

ふわふわ

 

はじめはじぶんのこのじょうたいがわからなかった

 

でも、じかんがたつにつれてだんだん自分のじょうたいがわかってきた。

 

ああ…わたしは死んだんだ…

 

このままねむれば…らくになれるのかな…?

 

 

「いや、それはまだ早いな」

 

…どこかから女の人の声…

 

そこには

 

 

金色の長い髪をストレートに流し、

 

いかにも神様とか女神さまが纏うような法衣(若干露出高めのスマートなフォルムだが)に、背中には4枚の純白の翼。

 

そして若干キツ目で真っ赤な瞳の…とても綺麗な…存在だった。

 

「…私、死んだのね?…私を連れに来たのかしら?…あ、敬語…」

「いや、敬語は不要だ。お前とは長い付き合いになる可能性があるのでな。…お前には申し訳ないが楽になるのはまだ早い」

 

…香織が進めてきたラノベにこういう展開があるけど、まさか

 

「…転生でもするの?」

「それは転生者を管理する神の管轄だ。あいにく、私は()()()なのでな、戦争や破壊であればともかく、創造の類は出来ん」

 

…破壊神…破壊の神…?

 

「そうだ。星や世界を破壊する神…その認識で構わん。お前をよみがえらせるのは榊原進示だ。体感時間はともかく、お前が死んで…現実世界では数分もしないうちにオルクス大迷宮の底に落ちた4人がお前達の救援に来た…この世界の現地協力者とともに」

「…か、彼ら…優花や杏子も生きてたの!?」

「ああ。この世界にも魂に干渉できる魔法はあるがこの世界の魂魄魔法を誰も使えない以上、死者をよみがえらせる力を持つのは現状榊原進示のみ…いや、もう一人いるが、魔人族の女と一緒にいたデジモンの対応で精いっぱいだな。しかし、現状ではお前は蘇れない」

「な…どうして!?」

「お前、本心では楽になりたいと思っているだろう?」

 

…それは…否定できない…!

 

「さらに生き返っても…異世界召喚という経歴があるだけで、地球に帰っても波乱万丈の人生が待っている…SNSの類が普及し始めた地球では、謂れのない誹謗中傷を世界中から受けることもあるし、マスコミの追及もあろう。…む、榊原進示が死者蘇生を行使したようだ」

「…!せ、戦闘は!?」

「魔人族の女は南雲ハジメが対応している。今のお前や天之河光輝よりも遥かに強い。錬成の腕も上げて銃を作り、戦っている」

「…そ、そうなんだ…」

「…時間がないので簡潔に言う。私がこの死の境界にてお前に接触したのは、神卸しのきっかけを掴む手助けをしに来た」

「…神…エヒト?」

「いや、地球の神だ。デジモンという媒体を用いた情報信仰による神卸し。…お前のパートナーデジモンを考慮すると、適性があるのは武御雷、アキレウス、シヴァ辺りか。お前の適正であれば武御雷であろうが…、素戔嗚はまだ足りんものがある」

 

…どれもビッグネームじゃない!?…でもそれなら女神とかが良かったなぁ…。

 

「言い分はわかったが、贅沢を言える状況ではない。それに、小規模ではあるが、女神として信仰されているお前ならばある意味適性は高いのだが…あぁ、後は【義姉様】だったか」

「な゛っ!!??」

 

ちょっ!?好きで信仰されているわけじゃないわよ!?

 

「我らも似たようなものだが…ともかく榊原進示が死者蘇生を行使した以上、彼と多少の精神共感があるはずだ…そこで、お前は榊原進示の過去を垣間見るだろう」

「榊原君の…?」

「特に拷問を受けた記憶は【死の感覚】に近い。」

 

拷問…?

 

疑問に思っている間にとある一つの光景が浮かび上がる。

 

これは…拷問部屋かしら?

 

拷問椅子に拘束され座らされている小学校高学年くらいの男の子…え?これって榊原君?

…彼もかなりやせ型だけど、それでも、体には無数の打撲痕と裂傷、…そして、骨が浮き出るほど脂肪が少ない。

 

《あの龍の女とバケモノ娘の居場所を吐いてもらおうか》

《…ミリアと杏子か。ハハ…もう逸れてから結構時間経ってるからな。どこにいるかなど俺にもわからん》

《黙れ!》

《グッ!》

そうして鞭で叩かれる。傷は増え、出血も増える。

嘔吐感が出てくるが、何も吐き出される様子がない。

ここが精神世界だからか。

 

そうすると別の拷問官が何やら瓶のようなものを持ってきた。

 

それを榊原君の左腕…二の腕にその中に入っている液体をかけた。…嫌な予感がする。

 

 

するとそれはジュ~っと肉が焼けるような音とともに腕から煙が上がりだす。

 

《~$#&?+=>#!?ッ!!?》

 

そして…左腕がボトリと落ちた

 

「ッ!!?」

 

あれは酸!?

 

《おい、これでも吐かねーぞ》

《仕方ない。戦車(チャリオット)を用意しろ。暇を持て余している貴族どもへのいい見物にもなる。入場料もそれなりに取れるだろうさ》

 

そんな人を人とも思わないような行いに寒気が止まらない。

 

 

…あれ?今一瞬榊原君の左腕を誰かが拾ったような…

 

《…腹減ったなぁ…》

 

 

その間にも場面は進み、

 

榊原君がギャラリーの見世物になりながら戦車で引きずり回されている場面がある。

しかも、聞えてくる声から察するに、いつまでもつか賭博の対象にもなっているようだ。

 

《ぎっ!?ががが!?うげっ!?》

 

地面に引きずられたり、バウンドしたりで、どんどん傷を増やしていく。

もう、拷問する側も杏子とミリアさん?協力者の女性の居場所を吐かせるための拷問のはずが、最初の趣旨を忘れて、ひたすら甚振ることが目的になっている。

 

あ、…戦争に負けたりしたらこういう事になるの…?それに、私は女だから…もしかしたら…。

 

 

「と、これ以上はお前の精神が持たんか」

 

破壊神と名乗った女性が映像を切ったようだ。

 

「心とは天秤のようなものだ。彼はこの後も地球に帰還するための逃走劇をすることになるが、それまでに彼のメンタルに追い打ちをかける出来事があと2回発生する。そして、現地協力者も全滅…いや、1名のみ生存していたな(ガラテアは接触していないのでノーカウント)。だが、辛いことがあって耐えられるうちはまだいいが、気を使いすぎて黙っててもそれはよくない。

そして、今からここにお前を救わんとお前の親友という女がここに来る」

「…香織」

「そうだ。奴本人にも不満がないわけではあるまい?お前の不安を受け止められるかは白崎香織次第だが、お前の心の受け皿になる奴も必要というわけだ。まあ、本来お前達の社会において、小学生の頃のいじめは本来親が対応すべきことだ。だが、お前は親にも気を使って黙ってた」

「…」

「その辺りは次に両親や祖父と話す時にでも言うんだな」

「…あなたは何故そこまで知っていて、そこまで助言してくれるんですか?」

 

初対面のはずの神様らしき人にここまでしてもらえるなんて…心当たりがない。

 

「我が名はシュクリス。階級は大天使。系列は破壊神。管轄は戦神。榊原と契約した【1人目の大天使】だ。…最も、ある事情故に、私と契約したときの記憶は封印させてもらっているし、まだ彼と接触したことは契約以来一度もない。トレード(双葉樹)の未熟さと、トレード、アパルの右目の件があって数回介入した事はあるが。人間、天使共に複数の契約は禁じられてはいないが故の裏技を使っている。…見守るだけというのも案外つらい仕事だが」

「…て、天使」

「私が自らに課した役割は、榊原進示達への慰謝料の支払いという名の奉仕と、彼らが戦う必要のないイレギュラーな戦闘の代行、進示やその仲間達にデジモンという媒体を通じた奥義、【神卸し】の体得の手助けにある。まあ、他にも仕事はあるが。後は…、トータスでもいくつかイレギュラーはあったがな」

「神卸し…?さっき言ってた?」

「そうだ。トータスのみならず、地球や様々な世界での災害を打ち払うための力だ。…さて、そろそろ来るぞ。私の自己紹介と今言った仕事の内容に関する記憶は封印させてもらうが、時期が来れば思い出せるようにしておく。あの創造神の大天使に聞かれたくない情報もいくらかあるのでな」

「あ、まだ聞きたいことが…!」

「今は目の前のことに集中しろ。友人と本音でぶつかり合う時だ」

 

そう言われて私の意識は一瞬途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

進示視点

 

「南雲…何故殺した…捕虜にすればよかったじゃないか…」

 

天之河が魔人族の女をハジメが殺したことに文句を言っている。

 

まあ、21世紀の日本人の感性なら殺しを受け入れがたい心情も理解はするが、戦争参加を最初に表明したのはお前だ、天之河。

 

「敵だからな…それに、敵の女と幼馴染の生きるか死ぬかの窮地。お前にとって気に掛ける優先度が高いのはどっちだ?」

「…ッ!!」

 

ハジメの指摘に天之河は慌てて八重樫の方に振り向く。

 

これは流石に反論できなかったか。

 

 

ミリアが俺のパソコンを開き、俺が視ている八重樫の精神世界の戦いを他の皆に見えるようにしている。

 

俺の頭にヘッドホンのようなものをつけられているが、そのコードはパソコンにつけられている。

 

なお、この状態で俺は死者蘇生と存在証明の同時行使をしているので、脳がヤバい。データ処理でキャパオーバー起こしそうだ。

 

そのせいで発汗が酷い。

 

因みにミリアは俺と杏子の記憶からパソコンの操作方法を知ってるため、動かすのは特に問題はないようだ。タイピングも妙に速いし。

 

ティオは「そんな薄い板でそんな事も出来るのか…」とぼやいているが。…まあ、俺のパソコンは特注品だが、市販のパソコンでもちょっと改造すれば行けると思う。

 

「うーん…このままじゃ白崎は押し負けるかな?白崎までいきなり究極体化したことは驚いたが、」

「な、何でだ!?…榊原!お前…雫や香織、暮海さんに何をした!?何故香りと雫が争わなければならないんだ!!」

 

天之河が自分の大切な幼馴染同士が戦っている事に耐えられないようだが、どこか怒りのポイントがズレていて会話にならない。

 

というか、俺達が白崎や八重樫たちを害する理由はない。…まあ、俺達を落とした檜山は別として。

だが、ハジメは檜山には特に復讐したいと思っているわけではない。

しかし、檜山がノーペナルティで行動で来てることを踏まえると、事故で処理されたか、発覚されたとしても天之河か、教会が許したと言ったところか。

仮に復讐心があったとしても、後者かつ、教会が檜山を許したとあっては、社会的にはまず教会に太刀打ちできないため、檜山に復讐するのはマズいという事になる。

俺達であれば最悪力業でどうとでも出来るが、その場合は虐殺者にならないといけないこともある。

なので、武力解決はあくまで最後の手段。

そう言えばノイントにも数ケ月会ってないな。

彼女が人間ではないことは初めて見たときからわかってたし、色々探りを入れていたが、おおよそ黒幕…エヒトに繋がっていると読んでいる。

だが、クラスメイトが自衛できるまでに成長するまでは核心に触れないように会話には最大限配慮した。

さりげない雑談の中に少しずつ宗教や社会の話をしたりとか。

ノイントもこっちが探りを入れてることは承知だったようだ。

 

…魅了を使ってくるとは思わなかったが、勿論弾いた。

 

…話がズレたが、天之河が場違いな怒りポイントを向けてくる理由は…嫉妬か。憶測の域は出ないが。

 

「八重樫がぶちまけている言葉を聞いてないのか?言葉から察するに幼少からずぅーーーーーーっと抑えてた本音だ。それに、白崎が八重樫に押し負けそうなのは、武術の練度の差だ…そして、杏子はアレが本来の姿。杏子はデジモンなんだよ」

 

杏子がデジモンであるという事に、事情を知らない面々は驚いている。

中村が妙な反応を見せたが…やはりか。

 

八重樫が剣術をかなりの練度で納めているのは知っている。

故に、パートナーと融合しても慣れるのにさほど時間がかからなかった。

本心をぶちまけて心が荒れているとはいえ、パートナーとコミュニケーションを円滑にとっていたのであれば、パルスモンが八重樫に合わせるのも難しくはないのだろう。いまはアキレウスモンだが。

 

一方、白崎はセンスはあるし、パートナーとのコミュニケーションも問題なかったが、彼女はもともと剣術や武道の類を収めているとは聞いたことない。

 

戦闘能力は、トータスに来てから身に付いたものだが、正直付け焼刃感がある。

つまり、同じ究極体でありながら、ここまで差をつけているのはテイマーの地力の差だ。

2~3年後は不明だが、今のままでは負けるのは100%白崎だ。

 

俺も二つの世界の経験や、樹から数年に渡って習った格闘技に、時々公安から依頼される怪異退治、悪友達とのギャグ交じりではあるが、数々の模擬線で身に着けたからこそわかる。

 

…それに、八重樫が使っているのは恐らく神卸し。その雛形と言ったところか?

 

しかし、八重樫って誰かから信仰を…受けてたな。学園の3大女神(杏子含む)の一人だし、八重樫は不本意だろうが【ソウルシスターズ】を地球でもトータスでも形成してしまったので、僅かながら神格受容体が出来たのか。

 

「加えて、テイマーの方に地力の差がある。杏子は律義に白崎から手を出すなって言われたの守るつもりだし、かと言って自力で存在証明できない人間を八重樫の精神世界に送り込むのは…いや、ユエ、行けるか?」

 

突然の俺の名指しにこの場の全員、特にハジメが驚いている。

 

「問題ない。私ならその計算式も理解できる…私の魔法の教え方、進示と杏子とミリア以外理解してなかったし」

「おめぇは教え方が両極端なんだよ。普通の人間が理解しずらい数字や数式を列挙したかと思ったら、【もきゅっとこねこね、しゅるんでそぉいっ!!】ってアレで理解できる方がおかしいぞ」

「ということは進示もおかしい。進示と杏子は前者の方法で理解してた。ミリアは両方」

 

やっぱ理論でも感覚でも天才だわ、ミリア。まあ、今のミリアはデジモンだから、魔法理論は理解は出来ても使えないのだが。

 

…俺はこの後そのもきゅっとこねこね、しゅるんでそぉいっ!!で理解できてしまう人材を目の当たりにしてしまう。

 

「じゃあ、ダイブさせるぞ!今のユエなら究極体になれる」

 

ユエは地球人じゃないから地球の神とは相性が悪いのかもしれないが、ルナモンはデジモンだ。

アルテミス(ディアナ)が源流とは言え、デジモンとしての力を使うだけなら、さほど時間はかからないと思ってる。

 

「ルナモン」

「ええ!」

 

ユエがデジヴァイスを掲げユエとルナモンは一つになる。

 

――MATRIX EVOLUTION――

 

オリンポス十二神族の1体で、水と氷を司り、絶対零度の状況下でも戦闘可能な神人型デジモン。月の表裏のように二面性をもった性格で、美しくも恐るべき力を秘めている。

ルナモンの正統進化系にして、アポロモンと対を成す究極体デジモン。

白き月のようなフォルムのそのデジモンは

 

「ディアナモン」

 

驚く皆をよそに俺はユエとルナモンの究極体、ディアナモンを八重樫の精神世界にダイブさせた。

 

…やはり自力でデータ処理は出来ているようで、俺がユエの存在を証明する必要はなく、俺の負担が増えない。

 

 

 

杏子(現在アルファモンの姿)視点

 

進示と魂が繋がっているので当然先のやり取りは当然伝わっているので、ユエ君とルナモンがディアナモンに進化してこちらにやってくるのはわかっている。

 

「アロー・オブ・アルテミス!!」

 

放たれた一条の矢がアキレウスモンの足に備えられている盾に当たる。

 

どうやら防具のないところは撃ち抜くつもりはなかったようで、アキレウスモンは少し怯んだだけだ。

 

 

「あ、あなたは…」

「私と融合しているデジモンはルナモンの究極体、ディアナモン。そして私はユエ。ハジメにこの名前を付けてもらった」

「は、ハジメ君に」

 

ユノモンの杖を握る手が震えたが、地雷だったか?

 

「ハジメや進示、優花からあなたのことは聞いている。白崎香織。ハジメは貴方の事は人格は嫌いじゃないけど、やってる事は迷惑だったって」

「……ッ!」

「わかってはいたけど、言われるのはやっぱり堪える?でも今回ばかりは向き合わないとダメ。貴女がハジメに声をかけること自体、勇者や周りの嫉妬を買い、虐めや嫌がらせを誘発させ、ヒヤマとやらがハジメを奈落の底に落とす凶行に走らせた」

 

ズバリ言われて震える香織君。

厳しいようだがもう起きてしまったことなので、向き合ってもらう必要がある。

 

「そう、香織もさぁ、南雲君に声をかけるなら時と場所を選んで欲しいって言ってんのに伝わらないんだもの。しまいには南雲君の家に非常識な時間帯に張り付くこともあったわよね、病み崎ストー香織」

「あ、渾名はいくら何でもヒドイよ!?雫ちゃん!?」

「それと、南雲君の趣味を知りたいからって、18禁のゲームコーナー突撃に付き合わされたこともあったわね…何がお父さんのお使いよ」

「ほう、そんな赤裸々なことがあったのか」

 

意外に行動力があるんだな、香織君は。

…しかし、この会話が記録されている事も知らない彼女たちはどんどん赤裸々なことを話すのだろう。

特に娘を可愛がっている白崎家と八重樫家の男親たちはどんな阿鼻叫喚の地獄絵図を見せてくれることか。

今から実に楽しみだ。

…勿論そんな私の思考は魂で繋がっている二人には筒抜けなので

 

《いくら何でもドS過ぎるだろ杏子》

《私は見てみたい気もしますが。特にエロゲコーナー突撃の件♪》

《…たく、まあ、地獄絵図が起きたら仲裁くらい手伝えよ。話拗れたら俺達の苦労が増えるんだから》

 

分かっている。キミ達に頼り切りにするつもりはない。

キミ達二人には返せない恩もあるしな。

 

「…香織、あと少しだけ私の我儘に付き合いなさい」

「何かな?」

「この姿で全力の一撃を放つわ。貴女も全力で対抗して。そっちの彼女と、…杏子よね?も一緒でいいわ」

「雫ちゃん」

「今までの問題が解決するわけじゃないし、まだまだ吐き出したりない事もいっぱいある。…でも同時に少し光輝たちとは距離を置きたいとも思ってたの。でも他に行く当てもないんだけど…」

「ならば、我々とともに来るか?」

「杏子?」

「我々は独自に地球に帰る方法を探し、7つの手がかりのうち2つを既に入手している。世界中を巡る旅になるから、気分転換にもなるだろう」

 

手がかりとは神代魔法の事だ。

私がそう言うと、雫君は考え込む仕草をし。

 

「いいわ、乗った」

「そうか。では、あと少し体を動かすとしよう」

 

そうして私達は構える。

 

アキレウスモンである雫君は自らの神槍を投擲する技

 

「ロンヒ・アディスタクト!!」

 

ユノモンである香織君は本来ユピテルモンの力を増強する技である力を直接攻撃に使う。

 

「ラブバスケット!!!」

 

彼女が召喚した雷を補強するため、私はそのエネルギーを収束させる。

 

「パワーエナジー!!!」

 

こちらは本来は攻撃技だが、ラブバスケットの補強には十分だ。

 

この雷撃で槍を都止められるかと思った、威力は弱まった。

 

「クレセントハーケン!!」

 

ディアナモンの鎌が刹那のタイミングで、アキレウスモンの神槍を打ち上げる。

 

槍は空中でくるくると回り、見せかけの地面に突き刺さる。

 

「…」

 

雫君は何も言わずに分離し、疲れたように膝をついた。

 

『よし!八重樫の精神的蘇生拒絶が無くなった!いい加減現実に引き戻すぞ!もう俺の脳がヤバい!』

 

きちんとした設備もなしに2つの高度な術方を行使し続ければ、進示の脳がマズいことになっているのはわかる。

発汗も酷いし、喀血もしたようだ。

 

「え!?私達、体が光っている!?」

 

突然自分の体が光りだせば驚くだろうが、これは現実に戻る現象だ。

 

「皆、これから現実世界に戻るから怯えなくていい。雫君が目覚める気になったのであれば、早く戻ろう。この状態を維持している進示が喀血している」

 

「「「えええっ!?」」」

『まあ、その通りだ。八重樫の体は汚してないから安心しろ。ティオ、水を取ってくれ』

『わかったのじゃ』

 

こうして私たちの視界は暗転し…

 

 

 

 

 

 

 

 

オルクス大迷宮90層に戻ってきた。

 

「ユエ!」

「ただいま、ハジメ」

 

私も暮海杏子の姿に戻り、ユエ君も香織君もパートナーと分離して、それぞれのパートナーを労う。

 

そして香織君が雫君を抱き起すと。

 

「……香織」

 

意識が戻った雫君が香織君返事をする。

 

「雫ちゃん…良かった…!」

「雫…」

 

天之河君は複雑な顔で成り行きを見ている。

 

いつの間にかシア君に治療されたメルド団長も安堵した表情で見守っている。

 

進示はティオに水を飲まされている。もう、自力で飲む力もないのか、彼女に少しずつ飲まされている。

 

進示は水を飲まされながら、私に向かってサムズアップをしてきた。

 

私もサムズアップで返す。

 

「…お疲れさまだ、進示」

 

今回一切戦闘行為はなかったものの、彼の力なくして雫君が蘇るのは不可能だっただろう。

後に魂魄魔法なるものを会得しても、今この場で彼女を蘇らせることが出来るのは進示しかいなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 

そんな爆発音とともに一人の露出が高めの黒いローブを羽織り、黒い龍の杖、黒龍杖を持った女性が吹っ飛ばされてきた。

 

 

「「師匠!?」」

「お師匠さまっ!?」

 

ふっとばされてきた女性、ゼロはこちらの姿を確認すると。

 

「ゼロ…」

 

いや、その前に進示が彼女の名を呼ぶ。

 

「…その様子ではもう正体を隠す必要はありませんね、父さん」

 

謎の女性から父さん呼ばわりされれば誰もが疑問に抱くのは当然で、全員の視線は進示に集中する。

 

「…戦闘準備を。ルーチェモンが来ます」

 

その一言にデジモンを知る面々の緊張が一気に増す。

 

 

 

 

そして

 

 

 

「そうか、カトレアは死んだか。僕にはどうでもいいけど、…それに、僕は後2回変身を残している」

 

この全身が総毛立つ感覚はなかなかない。

 

 

見た目は少年の天使のような姿。

 

それが徐々に姿が変わっていく。

 

「これほどの数のデジモンテイマーがいるとは驚いたなぁ。仕方ない。まだ馴染んでないけどこの姿で戦うしかないか」

 

姿は青年に。

 

背中は()()()()()()()()に、

 

「自己紹介が必要かな?僕はルーチェモン。このくだらない世界を滅ぼし、自分の世界を作り上げるモノ。しかし、この複数の世界においては競合相手も強すぎてね?キミ達には僕の経験値になってもらおうか」

 

我々の知るルーチェモンではない…!これは…むしろ私と同じ…!?

 

「よりによってX抗体…!」

 

やはりそうか…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡単に死ぬなよ?人間ども」

 

 

死へのマラソンが始まった。

 

 





補足

雫の究極進化。
元々デジヴァイスに複数進化ルートを保存する機能をつけていたため、本来の進化先は杏子が睨んだ通りです。


エーアストと一緒ににいる人物
日本人男性でデジモンテイマー。
トータス用スキルが一切なく、トータスの言語もわからないので、言語理解の技能を持つエーアストが通訳を行っている。

ゼロは神の使途の遺体をどうしたか。
ネームドの遺体はすべて回収した。量産型までは持ちきれないため、諦めた。


フェーの過去・現在・未来・観測世界すら視える千里眼のデメリット。
デジモンテイマーズで例えると、仮にデ・リーパーに触れられた状態でよその世界を観測すると、観測された世界は必ずデ・リーパーが出現する。
ジール編で描写するが、箱入り娘のような気性も描いていきたい。
なお、ジールに残ったフェーの魂はとある破壊神がジールごと破壊したため、魂は完全消滅。フェーの魂を復活させたいならジールごとサルベージするしかない。


【ありふれた職業で世界最強】という物語。
ゼロは知っている。しかし、どうしようもない状況になったっと機以外は開示しない。
進示や杏子、ミリアは知らない。樹は知っているが、【天使が】原作情報開示することは禁じられている。但し、すでに覆せない過去の情報はこの限りではない。これは虚偽の回答が出来ない決まりの数少ない例外。

イーターを滅ぼすことは可能か?
原作でもほぼ不可能に近い。イーターには【時間の概念が存在しない】ためである。
サイバースルゥース本編でも、イグドラシルですら機能不全になり、ほぼ無力化した程。
次元の壁に穴が開けばそこから漏れ出る可能性はある。
進示の完全上位互換であるゼロですら【隔離】以外の解決法を持たない。しかし、それも事故か何かで次元に穴が開けば漏れるので、時間稼ぎ以上の意味を持たない。
ロードナイトモン、ドゥフトモン曰く、イーターは【人間の原罪】。


ユノモン

オリンポス十二神族の一体にして、ユピテルモンのパートナー。
ユピテルモンの意思に背く反乱分子を予測・索敵して排除する。
慈愛に満ちた性格で、ユピテルモンを深く愛するためか、ユピテルモンの動向は全て把握している。ありふれキャラにこんなのがいる(すっとぼけ)。


ユノモン(香織)VSアキレウスモン(雫)
若干ユエへの補足。

雫が少しとは言え、神卸しを身につけたため、仮にユノモンの方が各上だったとしても、雫の武術の練度と神卸しの差で雫の方が強くなってしまった。
逆にユエは地球の神と若干相性が悪いため、究極体への到達も若干遅くなった。
ハジメとの絆は深いため、ジョグレス進化への条件の大部分は既にクリアしている。


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1周年記念番外編 とある未来の話

いくつかの短編を織り交ぜた未来の話。
アダルト版で少しネタバレがありましたが、現在進示のヒロインが確定しているメンバーとの話です。
ゼロは血の繋がった娘なので扱いが難しい部分がありますが。

もう1周年過ぎてますが、ここまで執筆できたのも、拙作を視てくださっている方々がいらっしゃるからです。
ありがとうございます。


 

 

とある転生者と破壊神

 

 

シュクリス視点。

 

地球の日本にある双葉・榊原家の進示の自室に呼び出された私は、彼が好んで愛飲するコーヒー(暮海杏子の作品ではない)と、チョコ菓子を持って部屋を訪問する。

天使と言えど前契約者、神童竜兵との別れには思うところはある。

だが、守護天使である以上仕事に私情は挟まない。

まあ、竜兵はどのみち人間界で活動することが困難なほど魂が疲弊していたし、病というハンデもあった(それでもデジモンの究極体…しかもロイヤルナイツと単騎で戦えるレベルはおかしい、激昂したドフゥトモンを抑え込んでいたし)。死んだ今は天界で積みゲーでも消化しながら療養しているだろう。

世話役の天使もいるし、天界での生活は心配ないだろう。

竜兵との契約当初から、いずれ進示と正式契約することになることも離していたのだが、あっさりOKが出たのも当時の私からすれば拍子抜けした程だ。

本人は完全消滅を望んでいたが、進示や竜兵のような人材は少なすぎるため、それは却下されてしまったが、少なくとも100年の休養が必要な程だ。

…今にして思えば竜兵は生きることに疲れたのだろう。

 

それに、私は進示でも竜兵でもない別の男との間にできた息子の行いによって誕生したのがゼロだ。

息子は惑星・ハイネッツがミサイルで粉微塵になる前に息を引き取ったが、私は進示と杏子を陰で逃走幇助するためのジャミングやらで息子の最期には立ち会えなかった。

 

息子は、天界や父親と縁を切り、普通の人間としての生活を望んでいた。

その行先の世界で選んだ道が化学者であったが…あのような結果になるとはな。

ハイネッツ脱出直前に誕生したばかりのゼロは、2000年以上前のジールに召喚魔法で拉致されてしまい、そのまま別れることになった。

 

進示と杏子からすれば3年、ミリアからすれば5年。そしてゼロにとっては2000年ぶりにようやく家族が一堂にそろったのだ。

 

進示と契約しているとはいえ、私が水を差してもいいものかと思ったが、榊原家は全員いてもいいと言っていた。

 

 

「契約者、入るぞ」

「おお、鍵は空いてる」

 

そこにはswit〇hでエイリアンを撃退するゲームをしている契約者がいた。

恐らく武器稼ぎだろう。

 

「いや、今度関原達から地球防衛するって。一年ぶりだし」

「彼らも割と好き勝手にやってるようだな」

 

進示の悪友、関原達の集まりは実に一年ぶりになるか。

勿論私は今でこそ守護天使との契約以外に進示の愛人となったが、愛人だからと言って、進示の行動を制限する事はしない。

契約者にあまりストレスを与えるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

世界の消滅が見込まれるときに備えたバックアッパー。

 

そして、魂を視て、感じる能力。

 

トータスの魂魄魔法でもこの領域には踏み込めない魂の観測。

 

世界の修復に必要な能力ではあるが、実はとてつもないリスクがある。

 

「調子はどうだ?」

「ああ…お前に抱かれて…普通性別逆なのにな。ともかく、一緒に寝てから嘘みたいに体が軽い」

 

私はトレイのコーヒーと菓子を置き、ゲームをするさまを見守る。

 

「そこ、武器があるぞ」

「あ、気づかなかった」

 

進示が動かすゲームのキャラが、アイテムを集めている。

 

「…実際のところ、いろいろ建前はあるけど、俺と契約した本来の目的ってコレだろ?」

「そうだ。ありとあらゆる星と人類の悪性情報。その呪詛、怨み、怨嗟。世界の理を壊すほどに膨れ上がるその呪詛をお前は自身の魂に封じ込め、抑えている。時折、情緒不安定になったり、何もしてないのに涙を流したりするのもそのためだ」

「…それを定期的に破壊するため…か。確かに維持神の樹じゃ出来ないことだ」

「トレードは大天使最年少記録を更新してはいても、まだ未熟だ。お前の呪いを処理しきれんだろう。現状処理が出来るのは私だけだ。…契約が遅くなって済まなかった」

「星のデータを記録したまま呪詛のみを処理する…いや、破壊するか。だから俺のサポートは破壊神のお前が直々に出張ったのか。天使のフリをしてまで」

「建前上守護天使だから、使える権能には限りがある。それに、竜兵とお前と2重契約を結んだのは、神の老害どもの目をお前に向けさせないためだ」

「神の老害…、話は聞いている。神童は陽動役だったんだな。しかも、彼は全て承知の上で陽動役を引き受けた」

 

私は事情があったとはいえ、進示との正式契約が遅くなったことを詫びた。

 

「しかも…その…破壊するために寝ないといけないんだよなぁ…」

「私ほど精度が高くないとはいえ、お前の呪詛を破壊できるものは…ゼロ、ガラテア…そしてノイントだな」

「ノイント!?」

 

ゼロとガラテアは予想してたようだが、エヒトの人形である彼女は予想外だったようだ。

だが、ゼロでは近親相姦となってしまう。

 

「ノイントは…分解か!?」

「それだけではないがそうだ。今は呪詛を破壊できるほどではないが、私が指導するのだ。お前の呪詛を破壊できるように仕上げるとも。…優花や雫、ティオ、ミレディ達にも教えるが…正直アライメントが秩序寄りで、破壊の適性がない。いや、ミレディは混沌か?」

 

破壊の力を使う適正ってアライメントの問題?と考える進示。

 

「シュクリスも秩序だよな?」

「そこは人間と神の差だ。…それに、お前は龍の因子を移植したことで、不老不死になった…お前と女の間に生まれた子供も…お前より先に死ぬ」

「…やっぱり…そうなんだな」

 

ゲームをする手は止めず、コーヒーをすすりながら、ため息をつく。

 

進示は私にコントローラーを渡してきた。

 

協力プレイをしろという事だろう。

 

コントローラーを受け取ると、私は広域殲滅が出来る兵科を選ぶ。

 

「…お前はその時にも寄り添ってくれるんだな。優花も雫も普通の人間より寿命は長くなったが、多分先に死ぬ」

 

優花は魔物の肉、雫は神の気を纏えるようになったことで、若さを長く保てるが、いつかは寿命が来る。

 

「お前が望むなら次の世界に旅立つときも一緒の世界に行かせてやろうか?お前の功績は大きいから、審査も簡単に通るしな。まあ、杏子とミリアはお前と魂が繋がっている故、魂は榊原進示という扱いだが」

「そこは本人の意思を尊重な」

「…このままこの関係が続けばそんな回りくどいことをする必要もないと思うが」

 

私は心を読めるので、当然彼女たちの心も読んでいるが、進示から離れる気はない。

今更だが、優花と雫はまだ高校生故に実家で生活しているが、卒業したら榊原家に来るつもりのようだ。

因みに八重樫家の一部の者も、たまにここに来る。

デジモンの波程度の究極体ならやり方次第では一人で倒せる進示私は徒手空拳だけで上回る。

故に、八重樫家の面々にも素手だけで相手をしているが、身体能力はともかく、技術は進示と比べ物にならない。

進示の戦技指導者で、パンクラチオンの使い手でもあるトレードは『進示様の格闘技の才能はそこまで高くありません。修練を積み重ねれば一流にはなれましょうが、そこどまりでしょう。少なくとも技術面においては』と言っていたらしい。

進示は足りない部分は洞察力や魔法、兵器、仲間でカバーするタイプだ。

 

私がゲームの中で敵を広域殲滅し、歩兵の進示が残った敵を駆逐する。

 

「やっぱ効率良いな」

「…進示。こうしてゲームをしながらでもスキンシップはしてよいぞ?ぬくもりがあればそれだけでストレスは軽減されるだろう」

「…今のご時世じゃセクハラだ何だと言われるが…、」

「雫やリリアーナはまだ気恥ずかしさはあるが、少なくとも、私やトレード相手に絶対に遠慮はするな。優花もミリアもティオもノイントもガラテアも無条件でお前を受け入れてくれるだろう。暮海杏子もミレディも何だかんだ拒みはすまい…ゼロは…近親相姦になってしまうが【父さんが望むなら】だそうだ」

「ブッ!?」

 

進示は飲んでたコーヒーを吹き出してしまったが、魔法で空気中の水分と一緒に固め、氷漬けにしてしまった。

そしてそれを台所の三角コーナーに転送。

 

「おかしな話ではあるまい?生まれてすぐ召喚魔法で引き離され、父や母より年上になり、2000年もの間お前の言葉だけを縁に生き続けた。

ゼロも過酷な人生を歩んだが、私の所感としてはお前を【男】としてみているぞ」

「…マジかよ…ゼロにとってはようやく得た心のよりどころだもんな…」

「万が一そういう関係になっても私もトレードも軽蔑などすまい。神の世界も近親相姦は割と例がある」

「えええええ…」

 

恐らく聞きたくなかった裏の事情だろうな。

 

 

「…進示…お前は神々を恨んでいるか?転生前の人生を摘み取った我々を」

「…恨んでいないと思うか?」

 

…まあ、心を読んでいるので、その答えが出るとは思っていた・

「…でも、俺は怒ることはあっても、根本的に恨むことが出来ない。昔からそうだった…傍から見たらクソみてぇな外道でも事情を知ったら【しょうがない】で済んじまう。…諸行無常なんだ」

「…それは」

 

それは…強くなっても精神的に人間の域を出ない凡人の進示が至っていい境地ではない。

…いや、我々神々のせいだな。

 

…弱いのに…強くなれる才能がないのに強くならざるを得なかった。

 

いや、それだけではない。

 

「いま一度言うが、お前の魂を視る力の本質は星の魂を観測し、破壊されてはならない世界が破壊された場合の修復に必要なもの。その副作用で、星に宿る様々な知的生命体の怨嗟、憎悪を受け続けることになる」

「ああ、声自体は遮断してるけど、呪い…呪詛は今も受け続けている」

「そうか…」

 

そう言われると、ゲームがリザルト画面に入ったのを見計らって口づけをする。

 

進示は突然のことに驚いているが、抵抗せず受け入れる。

 

「…キスでも多少は浄化されるようだ」

「そうか。他のお前の愛しい女たちにもお前の呪詛を取り除くくすべを教えておこう」

「…思ったんだけどさ、自分で除けないのか?」

 

まあ、当然の疑問だな。

 

「推奨は出来ない。それは星の記録を自分自身で拒むことになる。それではいざという時に世界のリカバリーが出来ないだろう?」

「めんどくせぇ…」

「浄化の適正は先も言った通りだが、デジモンは論外として、私を除けば、トレード、ゼロ、ノイント、ミレディが高適正。ガラテアも適正は高いが、やや思いつめやすいので普通。優花と雫は適性が低い。彼女たちも思いつめやすい性格だから、星に刻まれた人の業を、正面から受け止めて思い悩む。そういった意味ではティオとリリアーナもそうだが、王族は伊達ではないな。清濁併せ呑む事は出来るから、人類の業もそれなりには飲み干せる」

 

「そっか…」

 

進示は予想してたのか、驚きもせず頷く。

 

「ただ、杏子とミリアは他のメンバーにはないアドバンテージがあるな。デジシンクロで魂が繋がっているおかげで、進示の夢の中で寄り添う事が出来る。…一人で苦しむ事はない」

「…それでいいのかな?自立できなくなる気がする」

「お前の考える自立は、助け合いもない孤高の道だ。それは自立とは呼ばん。暮海杏子にも言われただろう?」

 

進示の考えは少々極端なところがあり、彼の考える自立は例え一人で無人島に放りこまれても一人でたくましく生きていける精神力の事を指している。

 

「…」

「…契約者。本来お前には神がしなければならないことを代行させているのだ。これくらいの支援は当然だ。気に病む必要なない」

 

そして、これから相まみえる神王の正体…知ったら驚くだろうな。

あの神の老害どもは叩かねばならん。寿命が来たなら大人しく生まれ変わればいいものを、そんなに死にたくないか。

 

デジモンというデータは神にとって【喰いやすい】手軽な補給手段だろう。

デジモンがリアライズできる世界を作り、捕食する。そこに予想外の事故が起こり、イーターどもが溢れ出した。

そしてそれはエヒトにも及んでしまい、やむを得ず私が消してしまった。

イーターに寄生されたエヒトがあのまま肥大化すれば、ネットワークの海に潜るようになって殲滅不可能になるか、あるいは、肉をも喰らうファングに変質し、トータスをただの食料にしかしなくなるか。

いずれにせよ、放置すれば大惨事であろう。

まあ、あの時エヒトを消したのは竜兵の命令なので責任は竜兵に行ってしまうのだが、特にお咎めはなかったようだ。

 

 

 

 

「…生きるがいい、契約者。お前の仕事もお遊びでも何にでも付き合ってやる。お前が強くなって風格が出てしまった以上、女に言い寄られることもあるだろう。

お前がバックアッパーの宿命を背負っている以上、お前の意思に関係なく危険なことが降りかかってくるが…それに耐えられない女は見放した方がいい。

恋愛で結ばれる関係は否定しないが、恋は盲目。凡百の女は修羅の世界という現実で生きられない。

幸い、お前の愛人は私も含めて、何があろうとお前についていく不屈の精神の持ち主達だ」

「…それ、どういう巡り会わせなんだ?」

「ほぼ奇跡だろうな」

 

私個人は進示が女を増やすのは構わないが、想いだけでやっていけるほど甘くはないし、安息の生活は送れない。

竜兵の時はそれが著者だった。

彼もハーレムは築いていたが、彼が歩む過酷な人生、本人の意思に関係なく降ってくる災害に誰もついていけなくなり、残ったのは私だけだった。

 

「戦闘能力は仕方ないにせよ、エイリアンから地球を守る精神くらい持ち合わせてくれなければな。お前の愛人になるなら」

「コレも割と人間卒業してますねぇ…地球防〇軍」

 

可能性の域は出ないが、今後そうなってしまうかもしれないのだ。

私は破壊神故に破壊された土壌、食物や建物の再生などはできないのだ。

 

「あ、そう言えば。俺って普通のデジモン育てられないのかな?」

「やめておけ。お前は常に星に刻まれた人類の業を受け続けているのだろう。ゼロレベルでもない限り、自力での呪詛浄化は出来ないだろう。無垢なデジモンでは七大魔王デジモンよりもおぞましいデジモンに変質する可能性がある。しかも、お前はデジシンクロでパートナーと魂が繋がってるから余計にだ」

「…だから杏子(アルファモン)が選ばれたんだな。人間に憑依し、人間社会の荒波にもまれて、清濁併せ持った思考が出来る彼女以外に、俺のパートナーは務まらない。ミリアは生まれが龍で、後天的にデジモンに作り替えた存在だが、精神面の問題は既にクリアしていたんだ。…あと可能性があるのは岸部…ロードナイトモンとアルフォース…アルフォースブイドラモンだが、2体とも既にパートナーがいるし、関係も良好だ」

「…」

「なんだ?」

 

ロードナイトモンとアルフォースブイドラモンについてコメントがない私をいぶかしんだ進示は、私に返事を促す。

 

「………は迷いがあるな…。パートナーと別れ、独立するか、パートナーとともに居続けるか」

「…」

 

私の言葉に対し、進示は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

とある転生者とエルフと使徒と解放者と竜人

 

ガラテア視点

 

「進示、どうぞ」

「シンちゃんだけじゃないよ!」

「私も一緒です。ガラテア」

「妾もおるぞ」

 

私の部屋に入室してきたのは、進示、ミレディ、ノイント、ティオだった。

私はある人物の革製の品物…グローブを磨きながら入室を歓迎する。

私はとある事情から化学物質に弱い体質なのだが、ゼロが私たちの世界から持ち込んだ植物をそだて、私の部屋に置いたのだ。

ベッドもジールのエルフの森の素材で進示とゼロの合作でもある。

このグローブに塗ってるオイルもその植物性の油でゼロ本人が特別に加工したグローブオイルだ。

今となっては転生者殺しの毒も気にする必要はないので、進示を害することもない。

転生者殺しの毒に関しては過去編で語りましょうか。

 

 

「何を磨いておるんじゃ?」

「…それ、キャッチャーミットだよな!?プロテクターにレガース、バットまである!?」

「はい、ゼロの物ですよ」

「…え!?」

 

まさか進示が自分の娘が野球道具を持ってるなんて考えてもいなかったのだろう。

 

「野球というスポーツの道具じゃったかのう?」

「こっちの世界の人って面白い事思いつくんだね~」

「私も見てみましたが、技術的にハイレベルなプロやメジャーもいいのですが、1敗も許されず、負けられないという精神性で戦う高校野球というものの方が惹かれます」

「ノイントは高校野球派か。ま、そこは感性の違いか」

「昔、スポーツで全てを決する世界の厄介ごとに巻き込まれたことがあるそうで、その時に事態解決のために動いていたらしいのですが、ゼロが選んだ種目は野球のようでした」

「だからか。キャッチャーミットって事は捕手なのか」

「そうですね。チームメイトの投手もゼロ相手には割と遠慮なく投げてるので、リードの仕方もうまいのでしょう。チーム事情でサードをやることもあったそうですが、肉体強化を封じられ、アスリートレベルに身体能力が下がっても、サードでうつ伏せのまま、ノーバウンドでファーストに投げられるくらいにはリストも強いんですよ」

「マジかよ…幽遊〇書みたいにスポーツを邪魔する力は使えない呪いでもあったのかね、その世界。てか、何でそんなこと知ってるんだよ?」

 

まあ、地球に来て間もない私がそんなことを知ってるのもおかしい話ですね。別の世界の未来からの大天使トレード様から知識を受け取ってるわけでもない私が。

 

「進示と杏子がジールに召喚される直前に、私はゼロに会っていたんです。その時に世界を修復するために必要な私の脳にゼロの知識を刻み込まれていたんです。(ジール編第1話参照)その時に雑多な知識もあったのですが、」

「なるほど、その時に色々知ったと。ガラテアの特別な脳ならそんな莫大な情報量でも脳が壊れる心配はない」

「その通りです」

 

進示達の疑問も晴れたところで、私はため息をつく。

 

私も崩壊が確定したジールでギリギリまで留まって姉さまの最期を見届けたが、イーターに寄生されていえ、本来イーターは精神データを取り込んで進化するだけの存在だったが、【寄生】という発想に至ったのは何故かという部分も未だに分かっていない。

 

そしてイーターに寄生された姉さまに観測された世界はイーターが出現してしまう。

 

姉さまの千里眼は過去・現在・未来はおろか、異世界、観測世界の観測すら可能という破格すぎる目だ。

しかし、それはジールという星に根付いた能力であり、ジールが消滅する以上姉さまの消滅も避けられなかったのだが、

 

姉さまに懇願されて姉さまを殺したのがこの進示だ。

私は事前に自分はどういう経緯をたどろうと死ぬことは聞かされていたし、私が進示の子供を身籠っている未来まで観測したことは聞かされていた。

 

…ジールを脱出し、トータスに流れ着いた私はハイリヒ王国でメイドとして働きながらも、姉さまの未来予知とゼロの情報にあった進示達がトータスに召喚される情報を元に彼らを待ち続けた。

 

「…改めて聞くが俺をトータスで最初に見たとき殺したいとは思わなかったのか?」

 

 

空気が凍る。

 

「…私があの場にいたことは知っていたのですね」

「正確には後から気づいた、だ。そして、ハジメ達に見せるための映像を編集している時に、お前、木の陰に隠れてチラッと移ってるぞ」

 

進示がノートパソコンを開いて問題のシーンを見せる。

 

左腕は動かないのかだらんと下げており(ミリアが再生させたばかりで、まだ神経が動かなかったのだろう)、馬乗りになって右手だけで姉さまの心臓にナイフで突き刺している彼の様子が見えた。

 

そして少し離れたところに木の影に私がいる。…顔も見えてしまってますね。

 

「…思わなかったと言えば嘘になります」

「そうか。この話を切り出したのは、不遇大典の天敵であるあるはずの…滅ぼした側のノイントと、滅ぼされた側の竜人族と解放者がいるからでもある」

「シンちゃん…それは…!」

「さっきある程度打ち合わせしたろ。それに、トータスから地球に帰ってくる前にもこの件はガラテアと話したんだ」

「ああ、だから【改めて】なんじゃな」

 

そういう事ですか。

トータスでは既にこの件について話し合ったとは言え、私の心境が変わっていない保証はないからなのだろう。

つまり、私の心境が変わってるかどうかの確認ですか。

 

(聞いた話でしかないが)現役の解放者時代からのウザさは多少鳴りを潜めているとはいえ、いい意味でも悪い意味でもムードメーカーのミレディが進示を咎めるような表情になる。

ノイントとティオも沈痛な表情になる。

 

「トータスに流れた後も暫くは泣いていました。ですが、この映像にも映っている通り、そして私が直接見たように進示、あの時泣いていたでしょう?

少なくとも殺したくないと涙を流すほどには情を持っていたはずです」

 

「恐らく、姉さまは進示と杏子がジールに召喚される前からイーターに寄生されてたんだと思います。…タイミングは杏子がデジタマになったあたりでしょうか」

「…そうか。あの時杏子は次元の壁を突破して並行世界の俺達の世界に流れ着いた。その時にイーターがどこからか漏れたのか。そして、その状態でトータスを観測したから、トータスにイーターが現れた。…でも、なんで物質界の物も喰ってしまうほどに変貌を遂げた?」

 

進示が最後に疑問を呟きますが、その横で、ティオが「では…トータスにイーターが現れるのは必然じゃったのか…」と呟いていますね。

 

「所感ではありますが、ジールにもかつてデジモンはいたという話はミリアから聞いていますね?、そのデジモンも元は転生者が持ち込んだもの。ネットワークが存在しないはずの世界に世界にデジモンんは出現できません。ゼロも転生者がデジモンを持ち込んだ時は現実世界にデジモンをリアライズさせる環境づくりはまだしていなかったはずです。ゼロの記憶が戻ったのは1000年ほど前で、デジモンが持ち込まれたのは2000年以上前の話です」

「だからミリアはあのポケベルサイズのデジモンのゲームまで持ってたのか。いや、ミリアと魂が繋がってる以上ミリアが見聞きしたことは全て承知だが、どこから手に入れたのかは分かるけど」

「その目を覗きに悪用しないで下さいと言いたいですが、もう魂の繋がりが深くなりすぎている以上、共有感覚を切ることはもう出来ないでしょう。魂の繋がりを切ったら死にますし」

「仮に、一時的に遮断できても、遮断も永遠には出来ないし、繋がったらまた記憶は同期されてしまうしな。まあ、ミリアはそれゆえに男子生徒の股間の大きさをネタにしてしまったわけだが…坂上に謝っておくか」

「そう言えばそんなことがあったのぉ…」

 

ティオは坂上龍太郎の下半身をネタにした時に現場にいたのでしたね。

 

「そもそも姉さまに寄生したイーター出現のおおよその原因も人間がネットワーク世界を開いたことです。その時デジタルワールドに入り込んだ白峰ノキアさん、神代勇吾さん、神代悠子さん、真田アラタさん、そして、杏子の助手である●●●●さんも…誰も悪くありません。アレはどうあがいても避けられない運命であり、姉さまを殺すことも本来は私がしなければいけなかったことであり、それを進示に肩代わりさせた事には逆に申し訳なく思っているのです。岸部リエであるロードナイトモンと、ドゥフトモン…武人肌で多少割り切っていますがデュナスモンは、デジタルワールド崩壊原因を作った人類に対しまだ根に持っているようですが、一先ず表立って人類と敵対はしない、特にロードナイトモンは中村恵理さん本人が関係を切りたいと思うまで、彼女の人生を最後まで見届ける気になっただけマシでしょう」

 

そう、どんなに間違っていなくても、悪行を犯さなくても、不条理が全てを奪い去ってしまう事もあるのが人の世の理なのだ。

人類の力ではどうあがいても乗り越えられない試練を吹っ掛けられてしまうこともある。

諦めなければどんな危機でも乗り越えられるというのは私から言わせてもらえば幻想だ。

恐らく、進示もそう思っているでしょう。

そして、神でも乗り越えられない試練というものもある。

ティオも、ミレディもこの場にはいませんがユエさんやシアさんも、越えられない壁に当たってしまい、家族や仲間を失った。

進示も、そんな幻想が現実になるのなら、ジールやハイネッツも存続させることが出来たはずだ」

 

「俺たちは今、その幻想を現実にしなければならない局面にぶち当たりそうなんだがな」

「…あ、声に出てましたか?」

「【おそらく進示もそう思っているでしょう】あたりからですね。トータスにいたときから思っていましたが、貴女は思考に没頭すると周りが見えなくなるようです」

 

ノイントに指摘されてしまう。そう言えばハイリヒ王国で監視をしていたのでしたね。

 

「ガラテアよ、確かに歴史は変わり、ゼロ達も本来知らない歴史を辿り、得たもの、失ったものもあるじゃろう。じゃが、そのようなプラス思考もマイナス思考も【今】が無ければできないことじゃ」

「【今】…ですか」

「そ。確かにあのクソヤローの使途…ノイちゃんと会ったときもミレディちゃんは言いようのない気持ちになったし、乱闘になりかけた。アンタたちさえいなければ皆も死ぬことはなかったって…でもね、どんな正しさよりも私たちって【心で動いちゃう】んだ。…私も戦争で殺し合うってことは理解してるけど、皆死なないで済むならそれに越したことはないもんね!だってノイちゃんって長生きしてる癖に心はまるで子供だもん。子どもが笑えない世界に価値は無いってね!それに、私たちが目の敵にしてたのは、あくまでヒトの自由を奪うあのクソ神だし♪」

「そして、心とはかつての私になかったものです。奇跡的なタイミングと巡り会わせですが、進示が私に心を吹き込んでくれた事は決して間違いではありません」

「…ほんとに偶然なんだけど、結構ハズイな…」

 

皆さん…強いのですね。

 

「ガラテア、今その心に黒いものが無ければ、みんなで仲良くなってもいいんじゃない?」

「フーディエモン…」

 

突如、私のデジヴァイスで休眠していたはずのフーディエモンがリアライズして、そう言ってきた。

 

「私だって、進化ルートによっては七大魔王のリリスモンになれちゃうのよ。でも、神か悪魔か魔王かなんて関係ないし、ハジメだって魔王呼ばわりされてるのに、身内には甘いし、何だかんだで筋は通す」

 

そう言えばハジメさんも複数進化ルートを開拓してましたね。

…ですが、そうですね。

 

「たまに姉さまを思い出して泣いてしまうことがあるかもしれません」

「構わねぇよ。俺だってフェーには殺したくないほどには情があった。当時は記憶のない杏子を護るだけで精いっぱいだったし…でも今なら強さも仲間も家族も…そして、我ながら節操無しだが、伴侶も誰もが文句のつけようがない…ま、問題児一歩手前の奴は何人かいるが、お前は大丈夫だと思うが、警察の厄介にはなってくれるなよ?…杏子も地球に帰ってきてからコーヒーで異臭騒ぎ起こしやがったし、コーヒー鑑識に回されたらどうすんだ…

「キョウちゃんやんちゃだね~」

「お前もオスカーの亡霊から聞いたがギャンブルですったことあるんだってな?」

「オーーーくーーーーんっ!?!?」

 

コーヒーの件に関しては優花にかなり怒られたらしい。

膝抱えすわりでいじけている珍しい姿が見られた。

 

いつの間にか始まった漫才に私は苦笑しながらその様子を見守る。

 

「ゼロ…貴女は私が生き残るのが必然と言ってたけど、生き残ってよかったと思えるように頑張ってみるわ。視ててね、姉さま」

 

 

もういないはずの姉さまが笑っているのを感じた気がした。

 

或る休日の一幕。

 

 

 

 

おまけ(メメタァ)

 

 

 

 

 

「それはそうと、裏の仕事(怪異退治や、世界が滅びないための準備)が忙しいのもわかりますが、学校もありますし、あまり無理はしないでくださいね?」

「まあ、分かるけど…、それなら事務仕事やってくれるか?そしたら負担は減るし、お前もある程度戦闘は出来るようだから、無理しない範囲で仕事回そうか?」

「そうですね、穀潰しでいる気はありません」

「無理してまで働く必要もないのはお前らもだからな?」

「「「「ええ(うん!)(ああ)」」」」

「それと、何故映像の編集を?」

「お前、ハジメの両親に『エルフ来たーー!!』って騒がれたけど、俺達の過去の話知りたいからって言ってな、ジール編第3話からそういう要素をちょくちょく取り入れようかなと…せっかく脳の情報読み取って映像化できるソフトもあるし…」

「最後の最後でメタですね!?」

 

 




大天使シュクリス
秩序・中庸(契約者がいるとき)
秩序・悪(契約者がいないとき)
系列:破壊神
階級:大天使
管轄:戦神
174cm58キロ(翼込みで60キロ)

胸はDカップ

好きなもの:人類
嫌いなもの:特になし

戦闘能力
能力に制限をかけた状態でも、マグナモン、クレニアムモン。スレイプモン、デュナスモン、ドゥフトモンを一騎で完封している。
本来の力は宇宙を壊せるほど。

また、武力のみならず、経済、サイバー戦争なども一流の辣腕を見せる。

神童竜兵の死後、とある経緯で本来神がするはずの仕事を進示に代行させるための補佐役を自ら買って出た。他に方法がなかったとはいえ、守護天使として進示に従うのは不当に殺害し、転生させた進示に対する贖罪でもある。
進示が樹に出会う前から既に仮契約を済ませている他(進示はその時の記憶は時期が来るまで思い出せないように封印された)、その時に樹や他の神や天使に気づかれないように加護を少しだけ与えたため、わずかだが、進示は呪詛に対する体制を得た。

神のルールに反しない範囲なら割と何でも契約者の指示を実行してしまう。
戦闘代行、訓練、ゲームのレベル上げなどくだらないことまでこなしてくれる。
セクハラ行為もラッキースケベも、平然と受け入れる。夜の営みは進示の呪詛破壊のため、彼をリラックスさせるために奉仕プレイを行うことが多い。
口腔粘膜接触(ディープキス)だけでも、進示の深層領域に入り、呪詛破壊は可能だが、進示は10人100人ではなく億人単位の呪いを受けているため、性的接触が効率がいいのだとか。

本人は「私に気遣い無用だ」と言っているが、天使である以上主の方針には意見できても滅多なことでは決定には逆らえないため、気遣いも受けている。
一応趣味や嗜好もあり、進示と契約前から蕎麦打ちが出来るし、契約後はゲームやチョコ菓子が好きになった模様。また、SASU〇Eも録画してでも見てるとか「程度の差はあれ、男達が限界に挑む姿はいいものだ」。
優花の影響で洋食も作るようになった。
数多くの男(女も)利用してきたが、進示は気にしていない。進示はそれくらい達観したものの味方が欲しかったという事もある。
シュクリスは数多くの人間を見送ってきたが、不老不死になった進示にとって、シュクリスは見送り、残されるものの大先輩でもあるため、シュクリスには割と本音をぶちまけることが多い(そもそもシュクリスは心を読めるため)

神の世界においては暴君というよりは圧政者である。
秩序属性ではあるが、守護天使の時は契約者の行動は原則制限せず、これまで仕えてきた契約者は、契約者が契約を切らない限りは、どれほど善人でもどれほど無能であっても、どれほど極悪人であっても見捨てなかった。
また、神の世界においては日本警察でいう公安のような役割をしていたこともあるとか。
口調こそクールビューティーだが、結構甘いため、男をダメにする天使かもしれない。
契約者の行動はあくまで本人の自主性に任せるスタンスのようだ。

神として自らを驕ったりはせず、神々の都合で前世の進示達の命を摘み取った責任を果たすべく、神から天使に自らの神格を下げてまで自ら下界に赴いた。
社畜のようにこき使われるか、石を投げられるか、慰み者として使われるか…。自ら望む罰ではなく、被害者が加害者の自分に与える罰を受けるために。
しかし、転生者たちは6人とも既に終わったことと話し、予想以上に待遇もいいため、少し困惑している。
過労死レベルで使われることも覚悟していただけに余計に。



ガラテアのセリフの伏字

ここはネタバレになるため、まだ描きません。ただ、伏字が4文字なのには意味があります。


作者のサイバースゥルースで最初に選んだデジモン。

パルモン、ハグルモン、テリアモンから選べますが私はテリアモンです(現在オファニモン)。




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番外編1 進示と杏子がいない地球1

長らく更新が無くてすみません。

進示君のいない日常。
言わば、裏話的な回ですね。

※不自然な箇所があったので修正しました。



榊原進示達が召喚されてトータスに召喚されて暫く、初めてトータスから通信が来る前。

 

樹は行方不明になった生徒の親族を呼び出していた。

家は流石に狭いため、南雲愁が社長を務めている会社の会議室を借りてではあるが。

 

愁としても、消えた息子が心配ではあるし、社員の樹は働き者で、息子のハジメとも交流している彼女の被扶養者である(不定期ではあるが、社員に顔を覚えられるくらいにはバイトにも来ている)進示と杏子も心配だった。

見慣れない高校生くらいの子も何人かいるが…彼らの傍らに控えている生物はどう見ても彼女が企画したゲームの生物、デジモンではなかろうか?

尽きない疑問はあるが、生徒の親族が集まるのを待って、樹が口を開いた。

 

 

「警察に押収されたら、少しまずいことになってましたが、警察が召喚の現場に来る前に回収できました」

「えっへん。褒めてくださいね?」

 

転生者である出口浩二と契約している守護天使、シュトースが進示が召喚される直前に投げた小さな物体、ビーコンを取り出す。

因みにシュトースは階級は中級天使、系列は創造神、管轄は自然エネルギーだ。

さらに加えて言うなら、現在は天使の姿を隠し、人間の女性として振舞っている。

 

樹がに皆に見せているビーコンは進示の手製。地球の技術で出来ていないため、解析するにしてもかなりの時間がいるだろう。

 

樹としてはまあ、公安に回収させても良かったが、あまり強権を何度も使わせるのはよくない上に公安に借りを作りすぎるのも良くないので、(基本、公安は真面目に仕事してくれるが、全員が全員ではない)今回は自分たちでビーコンを回収した。

 

「このビーコンを用いて先ほど確認した記録映像から、恐らくクラスの皆さんと畑山先生は異世界に召喚されたものと思います。この後すぐ皆さんにこの映像をお見せしますが。先ほどから地球中に生体反応のサーチを行っていますが、進示様と杏子ちゃん及び、クラスメイトの皆さんの反応がありません」

「…アンタは何故そんなに冷静なんだ?被扶養者が神隠しにあったってのに」

 

クラスメイトの一人の父親が樹にそんな質問をする。

 

「ここにいる関原さん、小山田さん、大和田さん、出口さん、岡本さんの5人、そして進示様と杏子ちゃん。全員が最低一度は異世界召喚されています。公安の方針もあって情報は隠蔽しているので、表向きはただの行方不明事件として扱われていますが、実際はそれぞれ全員が別々の異世界に飛ばされていたのです。進示様と杏子ちゃんは今回が3回目ですね」

「「「「「はああああっ!?」」」」」

 

ここにきてとんでもない爆弾を投下する樹。どうせ地球にいないことは捜査されれば分かることだ。

 

ただ、八重樫一家だけは「道理でな…」と得心が言ってた顔をしていた。

全員が何らかの武術は収めているか、実践で培った戦闘技術があるので、彼らからそういった達人にしかわからないオーラのようなものが出ていたのだろう。

 

「これまでの経験もあり、進示様が召喚される直前でこのビーコンを地球に残してくださったのでまだ繋がりが完全に途絶えたわけではありません。これは進示様たちが1回目に召喚されたファンタジーのような世界、ジール、2回目に召喚された地球よりはるかに科学技術が進んだ世界ハイネッツ。その二つの世界の技術を複合させたハイブリット型のビーコンです。まあ、二つの世界は既に消滅しています。特にハイネッツは惑星破壊ミサイルを撃たれたので粉微塵でしょう」

「い、樹さん…どういう経緯でそんなミサイルが撃たれたのかな?」

「デジタルハザード…バイオハザードのような生物災害が起きたのです…もっとも、以前の異世界の話は本題にそこまで影響はないので、今回は割愛します。今重要なのは召喚されてしまった彼らの現状です」

 

ここで、一部の保護者から、異世界召喚なんて信じられないとかの発言をする者もいるが無理もないだろう。

ここで千万の言葉を重ねるよりは、実際にビーコンの映像を見せた方が早い。

 

パソコンと映像プロジェクターに接続し、召喚された当時の召喚5分くらい前から再生する。

昼食を10秒チャージで済ませるハジメの様子を見て香織が一緒に弁当を食べようと言ってくるが、光輝が

 

『香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?』

 

という一見すれば正論しか言ってないように聞こえる光輝の言葉だが、このセリフに違和感を感じたのは、天之河の両親、八重樫一家、そして白崎一家だけだった。

しかし、今の時点で感じたのは違和感だけで、「まあ、いつものことか」と流している。…とはいっても、人には人の価値観や考え方があると説明してもしても光輝が改めるどころか聞くそぶりも見せない点には頭を抱えていた。

だが、今の映像を見ていると、光輝から嫉妬心がにじみ出ているという違和感を抱いたのは数人のみである。

最も、白崎智一だけは、「ま、マイエンジェル~!!学校でも何て可憐なんだ!…マイエンジェルに近づく虫もおおいみtガフ!?」と言いながら倒れてしまった。

どうやら生徒を虫呼ばわりした智一の発言を問題視した白崎薫子が首に手刀を当ててのしたようだ。

一般人のはずなのにその手際の良さに何人かが戦慄した。樹も含めて。

 

『え? なんで光輝くんの許しがいるの?』

 

その光景に何人かが噴出した。

香織としては純粋にそう思っているが故の返答だったのだ。

確かにクラスメイトは香織がハジメに構っていいるのが気に食わないという態度を出しているのだが、香織がハジメに好意を持っているのは明らかだ。

なお、智一が気絶しているので、香織のこのセリフは聞けなかったようだが。

 

その瞬間、天之河光輝の足元を中心に魔法陣が展開される。

 

「「「「!?」」」」

 

職業柄、こういったことにすぐ気づける南雲夫妻だが、他のほとんどの保護者達は天界についていけない。映像の中の進示は、亜空間倉庫から龍の杖、赤龍杖を取り出し、召喚陣の破壊を試みる。

 

『クソッ!!術式を破壊できねぇ!!解読も時間が足りねぇ!!』

 

当時の進示の目から見ても未知の術式で構成されていて、力業で破れないし(魔力爆発で死亡者が出る可能性もある)、そうなった以上紐をほどくように術式を解くしかないが、それでも術式の解読から始めないといけない。

あと数秒で召喚されてしまう以上そんな時間はない。

物理学が地球と変わらない世界であれば、解読は難しくないが、それでも結果は同じ。

 

畑山愛子が教室から出るよう呼び掛けているが、普通の人間がこの魔方陣から逃れるのは不可能だ。

 

召喚拒否は不可能と悟った進示はポケットからビーコンを取り出し、投げ捨てた。

 

このビーコンは映像・音声記録媒体でもあるが、これがあれば世界間をまたぐ通信のアンテナにもなるからだ。

 

ハイネッツで強引に頭に刻み込まれた知識から作ったものだが、この場面では役に立つ。

 

『頼むぞ…樹』

 

そう呟いた進示の声を最後にクラスの生徒(+教員1名)は教室から消失した。

 

 

だが、消える直前。

 

 

『…エ…カ…』

「…アレは…デジモン…!?」

 

ピンク色の妖獣のようなデジモンが一瞬だけ見えたような気がする。

あれは進示達も気づいていない。

 

 

 

 

 

「…異世界召喚」

 

そう呟いた愁は菫は飲み込み早く、悟ったように項垂れる。

 

進示達と交流がある八重樫一家も比較的呑み込みが早かった。

裏で何回か怪異退治も一緒にしたことがある故に。

それ以外の面々は開いた口がふさがらない様だ。最も、

 

「彼らが高校入学前、4か所に不審な魔力反応があったので、それぞれ反応があった高校に彼らを分けて入学させたのです。不審な反応がないかの監視と有事の際の対応のために。…進示様と杏子ちゃんが入学した高校が当たりを引いたようですね。各高校で公安も含めて話を通しましたが、コレを知ってるのは極限られた人だけですね」

「だろうな。余計な人間が知れば暴動や混乱の種になる」

 

鷲三がそう呟く。最も、向こうでハジメは話を聞いてすぐに悟ったあたり、こういう事態への適正は高い。

 

「そ、そうだ!そのビーコンというものがあれば通信が出来るんじゃないのか!?」

 

いつの間にか起き上がっていた白崎智一が樹に聞く。

 

「彼ら転移させられた世界がどこまでの文明レベルか分かりません。あるいは文明レベルに合わない通信技術を人目に付かない用に掻い潜る必要もあるでしょう。

そうなると向こうからの連絡を待つしかありません。世界をまたいで通信できるとなれば、それを知った現地人が彼らを拘束・利用する可能性も捨てきれませんから」

「それに、こちらから通信可能だったとしても、不自然な呼び出し音で警戒させてしまうこともある」

 

事実、凡そ2か月近く経ってから初めての通信が来た時に送られてきた記録映像によると、教会や国の重鎮と、不自然なシスター相手への会話は最大限の注意を払っていた。

特に、不用意に核心に踏み込まず、探り合う形になったが。

因みにこの探りあいに関しては進示が「2度とやりたくない」と下手るレベルであった。

しかし、プロの探偵であるはずの杏子は(探偵であれば探り合は慣れているだろうが)記憶喪失かつ精神年齢がかなり低いため、当時の杏子にさせるわけにもいかなかったため、進示の人生でも上位に入るほどかなり気を使ったようである。

迂闊なことを言って戦闘になったら、巻き込まれた生徒や愛子をかばいながら戦える自信はないからだ。

 

「少なくとも進示様と杏子ちゃんは生きています。私が現実世界にいられるのがその証左。裏を返せば進示様が死ねば私は人間界にいられなくなります。まあ、魂が消滅するまでのラグは猶予がありますが」

「樹さん、それはどういう意味かな?それに、普段は【進示君】って呼んでるのに彼を様付で呼んでいる。映像の進示君も貴女を呼び捨てにしていた」

「私も特に気にしてはいなかったが、時折彼は貴方を呼び捨てにしていますな」

 

このメンツで付き合いの長い愁が尋ねる。

鷲三も疑問には思っていたが、指摘しなかっただけで週に便乗する形で聞く。

普段表社会では進示は樹を【樹さん】と呼んでいるところしか目にしてない。

樹の方も進示を君付けしている。

 

「プライベートでは御二人は私の事は呼び捨て、進示様には…丁度いいですね。隠し通すのは難しいでしょうから、私の正体を明かしましょう。ですが、他言無用に願います…あなた方もマスコミには付きまとわれたくないでしょう?」

 

そうして脅しギリギリの忠告を入れた後、彼女は胸の前で祈るように手を組み、体を発光させる。

その事に驚く一同。

八重樫家もこれは知らなかったようで、驚愕に目を見開いている。

 

すると黒髪黒目だった目と髪はライトグリーンになり、背中から4枚の翼が現れ、女性用のビジネススーツはギリシャ神話のような法衣に変わる。

どうでもいい話だが、ビジネススーツや私服にパンツスタイルが多いのは進示の趣味である。スカートもあるが。

法衣はワンピースに近いので、実質パンツスタイルは不可だ。別の意味のパンツは猥褻に分類されてしまう。

さらにどうでもいい話だが、この法衣は戦闘でも扱う衣装で、パンクラチオンの使い手である樹はこの格好で戦う。組手の際は下着が見えてしまうことも多々あるが、戦闘でいちいち下着や肌が見えるのを気にしていたら戦えない。

上品な性格をしているトレードはしかし、自分の容姿や体が人間の男の(一部女も)性的関心を向けられることは承知しているので、何人か前かがみになっている男性諸君にも突っ込まない。男性の目線を戦術に使うこともあるからだ。

男性の妻からは冷たい目で見られるのだが、蔑みの目で夫を見る彼女たちにこっそり神術で軽い鎮静をかける。

騒がれたら話が進まないからだ。

人間の宗教感覚では天使は純潔をイメージする場合が多いがそれはあくまで人間のイメージでしかない。

 

「我が名はトレードであり、双葉樹でもあります。榊原進示と契約する守護天使。階級は大天使、系列は維持神、管轄は情報管理警備。以後、お見知りおきを」

 

改めて自己紹介をする樹。彼女はこの後南雲夫妻がどういう反応をするかを予想しているので翼を触られてもいいように少しだけキュッと翼に力を入れる。

 

翼は何気に性感帯でもあるのだ。少なくとも神経は通っている。

 

だが、今回は話を信じてもらうために止む無く触られる覚悟をする。

因みに1年後に進示が帰還した後「そこまで体を張る必要あったか…うううううむ…」

と、認識の違いの理解と、樹への独占欲の狭間で暫く葛藤していたが、進示も駄々をこねるほど子供ではないため、数分で納得した。

もし必要以上のセクハラを受けていたら、加害者を新薬の実験台にしてたかもしれない。

と言ったら樹は苦笑いしたが、同時に愛されるってこういう事かと再認識することになる。

 

 

 

「「リアル天使キターーーーーーーーーッ!!!!!!」」

 

 

 

 

 

その後予想通り何人かが翼を触りに来たが、一応神経は通っているので羽は毟らないで下さいと忠告し、天使の実在を納得する程度には触らせる。

翼が性感帯かは個人差はあるが、性感帯であることは伏せ、堪えていた。

何人かの女性陣は気づいたようだが。

 

 

 

「どこから紛れてきたのかしら?…あの大きさと色からいって成長期?」

「あのデジモンらしきものについては解析を進めよう。…デジモンに関しては批判する人もいるだろうけど、いずれ宇宙から侵略が来るから、デジモンを排斥できないしね」

 

そもそも関原達も彼らのパートナーデジモンも杏子はすっかり戦友であるため、排斥などしない。

1年後、記憶が回復した杏子はデジモン組のまとめ役になる。人間社会に当たり前に溶け込んでるデジモンは杏子といつの間にか行方不明になった岸部リエだけなのだ。

 

「デジモンの存在否定は暮海杏子の存在否定でもある」

「ちょっと待ってくれるかい?…杏子ちゃんがデジモンて言ってるように聞こえるんだが?」

「その通りです。彼女だけはある事情で人間の体を借りて行動していたデジモンであり、ロイヤルナイツと呼ばれるデジモンの騎士の一角であり、この世の全デジモンの中でも上から数えた方が早い強さを持つ騎士であり、探偵でもあります。最も、記憶喪失によって探偵業は現在休業中ですが」

 

アルファモンはロイヤルナイツでありながらロイヤルナイツの暴走を止める抑止力であり、最強ではないが、器用万能に近い戦闘能力を持つ(杏子は謙遜するが、パッシブスキルにロイヤルナイツ特攻があるので、オメガモンにもタイマンで勝てるし、並大抵の究極体ではアルファモンには勝てないだろう)。

杏子となっている個体は性格もあるのか、戦闘せずに解決できるのならそちらを選ぶことが多い。

 

…しかし、記憶回復後も現状のスタンスでは限界があると感じた杏子は修行のペースを上げることにしたのだが、それはまたの機会に。

修行のやりすぎでぶっ倒れるのも余談である。

 

「ロイヤルナイツ?」

「デジモンたちの世界、デジタルワールドのセキュリティの中でも最高峰の防壁である13体の聖騎士デジモンの事です。

デジモンという性質上、この世に1個体しかいないというわけではありませんが、杏子ちゃんはロイヤルナイツの中でも特別な位置づけにいます。

ただ、野生のロイヤルナイツも1枚岩ではなく、人間と共存する側、人間を破滅させる側、中立の派閥があります。

杏子ちゃんは共存派です」

「樹さん、野生のってどういう言い方?ポケ〇ンみたいに…」

 

今度は菫が質問している。

 

言い方が乱暴すぎたが、要は人間のパートナーがいないデジモンの事という。

 

因みに世界観によってはアルファモンへの進化は全能力高水準(特に知力)高く要求される。

進示の認識ではドルグレモン、グレイドモン、サイバードラモンから進化できる認識でいるが、ドルグレモンルートが一番ラクと言っている。

グレイドモン、サイバードラモンだと知力のみならず、防御力にもテコ入れがいるからだ。

スタンスは移ろうこともあるし、マグナモンのように迷うものもいる。

デュークモンは人間の善き面も悪しき面も見た結果中立になったりもした。

 

ここまで事の様子を黙って見守っていたデジモンたちが自己紹介をし、人間と変わらぬ知能、感情を見せて会話をするなど、保護者達には賛否両論あったものの何とか受け入れられることになる。

 

この日、結局連絡は来なかったため、暫く要点を話し合った結果お開きとなった。

 

 

 

 

 

余談ではあるがこの日を境に、異世界召喚を食らったことがある5人は、愁や菫から取材をさせてもらえないかという話を聞くこととなった。

進示は現在トータスにいるので話は聞けないが(通信時間と環境の都合もあり)、帰ってきたら聞くつもりでいるらしい。

取材料を払うからと言われて即首を縦に振った彼らも中々に現金である。

(まあ、進示様でも首を縦に振りはしたでしょうね)

その様子を微笑ましそうに見守る樹は、少し休憩するかとコーヒー(ダークマターではない)を買いに行った。

 

 

(あのピンク色のデジモンは…恐らく…あのデジモンね。…それも、杏子ちゃんというよりは岸部リエの方に間接的に接点があった個体のようね。何故この世界に?)

 

 

 

 

時間は飛んで進示達がウルで魔物の対応をしている頃。(豊穣の女神に愛子が祭り上げられている頃)

 

 

すっかり行方不明の保護者たちの拠点となった南雲家の会社の会議室。

 

イーターについてわかっていないことはあまりにも多い。

だが、デジタルウェイブの制御により、誘導は何とか可能であることはわかっているものの、それも絶対ではない。

 

そもそも人間には知覚できないはずの存在が、知覚できるようになり、下界に惨事を起こすのか。

イーターがいるからデジモンが現れたのか、デジモンがいるからイーターが出てきたのか。

そもそもイーターですらないだったものが、現実世界とデジタルワールドが繋がったことにより、イーターという形で視えるようになったのか。

 

人間破滅派のロイヤルナイツはイーターは人間の原罪と言っていたが、人間の性質に触れて精神捕食体に進化したのであれば、あながち否定できない存在である。

 

海生物のような形状からヒト型のイーターまで様々いるが、今回はヒト型ではない。

 

「関原さん、小山田さん」

 

樹が名前を呼んだ二人に街に現れたイーターに対し、対応を求める。

 

関原は既にフルフェイスの近未来的パワードスーツ(ホワイトシルバーを基調とし、黒いラインのアクセントがある。形状はメトロ〇ドを意識しているが)を着用し、傍にアルラウモンを控えさせている。

山田と呼ばれた男はどう考えても着ぐるみにしか見えない(本人は鎧と主張)虎のアーマーを着用し、傍にアルマジモンを呼ぶ。右手には刀身のない薙刀があるが、ビームサーベルのような刃を出せる仕様である。

過去に関原はなんとなくSF世界に飛ばされたのが分かるが、小山田の装備からは世界観の想像がしづらい。

 

「お二人と、そのパートナーには池袋に現れたイーターの対処をしてほしいのです。進示様と杏子ちゃんがいない現在、皆様の負担が大きいことは承知していますが」

「撤退は許可できない!戦闘を続行せよってか?まあ、いつもの事だけど」

「…まあ、地球防衛という意味では間違っていないのですが…」

「住民の避難は?」

「コーロスのおかげで退避は出来ています。情報規制は何とかなるでしょう。イーターに攻撃され、EDEN症候群にかかった患者も、治療は可能です。…御島エリカさんの功績は大きいですね。裏工作は我々天使にお任せを。まあ、公安の力も借りるのですが。大和田さん、出口さん、岡本さんは後詰です。まあ、お二人がいれば出番はないと思いますが、休めるときは休んでください」

「あいよー」

「特に大和田さんはトータスに送り込む増援の予定ですので、なるべく彼の出番がないようにお願いします」

「まあ、今回の規模ならデジモンだけで言っても、ブルムロードモンとムゲンドラモンで十分オーバーキルだし。ベルゼブモン、クーレスガルルモン、カオスデュークモンまで行ったら被害が増すんじゃねーか?」

「あ、しかし…」

 

しかし、と声を張り上げたのはインプモンを抱えた大和田友騎だった。

彼がトータスに派遣される予定の増援である。

「いずれ来る宇宙からの侵略に対する【アレ】の建造に遅延が出てるんだよなぁ、榊原がいないから」

「アレですか…地球より文明が進んだ世界に行ったことがあるメンバーは、部品作りの自動化にも成功していますが、手作業が必要な部分もありますからね」

 

大和田は依然行ったことがある世界は、中世レベルの世界だったが、彼も手先は器用で、兵器も含め機械では出来ない部分を担当している。

オートメーションは兵力の底上げには便利ではあるが究極の決め手には欠けるのだ。

因みに大和田だけなのは、ベルゼブモンのテイマーであるかどうかは分からないものの、送られてくる映像から、シア・ハウリアと、清水幸利が巻き込まれた空間の中にバアルモンがいるのだ。

ベルゼブブとバアル。どちらもカナンの神にして同一神の別側面。

だからだろうか。彼等だけ、トータスへの侵入難易度が緩いのだ。

…まるで誘われているようでもある。

 

 

 

 

彼らは今回と今後の打ち合わせを軽く行い、準備を進める。進示の悪友の彼らも何だかんだで表向きの学校生活もあるので、事件が起きたかららすぐ出撃というわけにもいかない。

学校への欠席連絡(公安の協力もあり、話はすんなり通る)もある。

一応、ホントに一応表向きは民間人なのだから。

また、樹も樹で表向きのゲーム会社に勤めている。それに公安との連携の対応、人知を超えた事態の対応と忙しいはずなのに、ゲーム会社の仕事もしっかりこなしている。

愁は彼女だって進示と杏子が心配でたまらないだろうに、おくびにも見せない様子に秘かに尊敬していた。

 

関原の守護天使、コーロスの能力で、空間移動をする。

現状では使える力の制限でトータスまで繋げることが出来ないし、地球とトータスでは光年レベルで離れているので、世界間を行き来出来るのは極めて限られた方法になる。

デジモンの究極体レベルの力で世界の壁を強引に突破する方法はあるが、現在テスト段階である。

しかし、そもそもそれ以前に【神に連なるもの】を通さない結界があるのだ。

進示や杏子を含めても今まで異世界に飛ばされたものが守護天使に救助された例は無い。

…結界の質、大きさから言っても貼っているのはかなり高位の破壊神であると予想される。

何故破壊神がそのようなことをするのかは謎だ。

世界をどうにもできない状態になったときにしか現れないはずの破壊神が何故。

…考えても仕方ないと割り切り、樹は今の現状の対処に思考を割く。

 

 

そう言えば、出口さんといい関係になっているガンマニアの彼女も究極体になっていると聞きましたねと、樹は思考する。

そうなればジョグレスも出来るのではないかと。

 

「申し訳ないが、その仕事、我々も同行させてもらっていいかな?」

 

と、声をあげたのは八重樫鷲三…雫の祖父だった。

 

「構いませんが、どうして?」

 

関原が理由を尋ねる。

 

樹は心の中で「アレを試すにはちょうどいいですか」と考えている。

 

「私もいいかな?」

さらに言ったのは雫の父、虎一だった。

困惑する関原達に霧乃が答える。

「娘、孫娘の雫やその友達…門下生の光輝君もいなくなって…何かしてないと落ち着かないと思うの」

と答えた。

 

関原達は八重樫一家の実力派知っているので、デジモンなしでも対応できる仕事を思いつく。すでに何回か手合わせをしているのだ。

「ああ、なるほど。イーターに混ざって変な妖怪とか異形とか出てくる場合もあるので、そっちの相手をお願いします。イーターは…どんなに強くてもデジモンなしでどうにかできる相手ではないので」

「わかった。」

「ああ、待ってください。進示様たちがオルクス大迷宮で通信したときのことを覚えていますか?その時のデータを参考にして作った装備があるのです」

 

そこで樹が取り出したのは腕輪だった。

 

「デジモンのデジタル理論から作り出した腕輪です。これを装着した状態でイーターを攻撃してみてください。デジタルワールドや電脳空間では人間は一般人並みに能力が低下する問題と、デジモンの攻撃しか通用しない相手への対策の一環として今までのデータと、進示様が送信してきたデータを基にして作った【デジタルリング】です。これを装着すれば、人間の攻撃もイータに通る筈です。…ただ、イーターを捕獲して操った例はあるのですが、今の我々では再現できません。なので十分なテストは出来ません…故に」

「今回がそのテスト、というわけですね」

 

と、虎一は腕輪をはめながら聞く。

転生者たちも腕輪を嵌めながら準備をする。

 

「はい、ですが、危なくなったら無理をせず、帰還してください。EDEN症候群を治療できるとは言っても、簡単には治せないのですから。月単位のリハビリが必要になる可能性も高いので」

「ですが、警察や自衛隊も手に負えないのでしょう?市民が被害にあう可能性もあるのでは?」

「そのためのチーム分けでもあります」

 

出来れば後詰の出番がないのが理想だが、彼らであればそう心配はいらないだろう。

 

最初の内はパワードスーツや鎧の力で戦いつつも、マトリックスエボリューションの必要がない(厳密には完全体から感覚の共有が行われる)…融合の必要がない完全体までに進化させ、アルマジモンとメタルティラノモンが出現する。

因みに進示以外の転生者は龍の因子のようなドーピングはしていないため、装備無しで常識を超えた身体能力を持つも、全員普通の人間の肉体である。

防具もなしで戦闘に出たりは滅多にやらない。

 

「これは…何とも大きい」

 

初めてデジモンの進化を見た八重樫一家が、呟く。

モニター越しの南雲夫妻も興奮し、他の家族も驚きの反応である。

 

 

トラック台の大きさのイソギンチャクのようなイーターの群れが現れる。

 

「あれが…」

「まずは一閃」

 

八重樫鷲三が刀を一振り、常人では視認困難な剣戟でイーターを斬る。

 

化け物とは言ってもデジタル体のイーターに果たして効果はあるのか。

 

 

 

…見事に真っ二つになり、消滅した。

 

その横では、パワードスーツの射撃や、ビームサーベルのような薙刀を振るい、イーターを消滅させている関原と小山田がいた。

 

『デジタルリングの効果はあるようですね。輝明さんも攻撃を受けましたが、オルクス大迷宮の時の進示様と杏子ちゃんのように一撃でデータを分解されることはありませんね。…最も、関原さんのパワードスーツは一部しかクロンデジゾイドが使われていませんし、魂の繋がりがあるわけではないので、単純比較はできませんが。捕獲は考えなくて構いません。殲滅してください』

 

そもそも進示達が体を張って収集したデータだ。

 

進示は転生者にしてはあまり戦績がいいとは言えない。

ヒュドラ・イーターもサイバースゥルース世界のイーターや、6年前のイーターより分解能力が強く、ハジメ達に決着を託すしかなかった。

 

戦い始めてから数年経つとはいえ、経験不足からか初見殺しのギミックにも不覚を取ることが多いものの、生きてさえいればすぐに分析し、対応装備を作れてしまうのが進示の強みだ。

進示を敵に回し、彼を倒すならほぼほぼ初見がチャンスなのだ。

ただ、八重樫一家は戦闘記録や組手の記録を見て「進示君は確かに強いし、並大抵の相手では敵わないが、動きが合理的過ぎて、ある程度のレベルの使い手ならば逆に動きが読みやすい、悪く言えば遊びがない。身体能力が同等なら雫でも勝ち越しを狙える」と、結構厳しい評価を受けてしまった。

だが、機械工学やデジタル全般、人間(医師免許はないので、地球では出来ないが)や異種族、デジモンの医者も兼任しているので、多忙さを含めればこれ以上はない出来とも言われた。デジタルに関しては杏子が全盛期の力を取り戻しているため、負担は軽くなるだろう。

ただ、射撃に関しては天性のセンスであるためか、虎一がキラキラした目で見ていたが。

 

「ビル大の大きさが出てきました!」

「むう、流石にあれを一息では斬れないな」

 

順調にイーターを狩っていた一同は、大きい個体(イーターの性質上個体と言えるかは怪しいが)が出てきた。

 

関原と小山田はデジヴァイスをかざし、マトリックスエボリューションを行い、パートナーと融合する。

 

関原はブルムロードモン。小山田はムゲンドラモンを通り越してなんとカオスドラモンになった。

 

『おい!?オーバーキルだろう!?』

『上空に打ち上げよう。【牽制】にもなるし』

『それもそっか』

『…戦闘記録を視られるリスクはありますが、まだ切ってないカードもあるので、いいでしょう。ですが、街に被害を出さないようにしてください。コーロスの能力で空間の位相をズラしているとはいえ、現実空間に被害が出ないとも限りません』

 

 

小山田はおっけーおっけーと言うと、ブルムロードモンに上空に打ち上げてもらう

ビルほどの大きさはあるが、質量は大したことはない。

 

必殺技無しでもイーターを上空に投げ飛ばせる。

 

『ハイパームゲンキャノン』

 

小山田とカオスドラモンのややダウナー気味な声で放たれた技に上空で大爆発が起こる。

 

「ふー、今回は楽勝だったな」

「時間かかって怠いだけだけど」

「お疲れさまだ、関原君、小山田君」

 

と、それぞれ戦闘に出たメンバーを労っていた。

 

 

 

 

 

 

その様子を見ていた英国人が半分現実逃避をしていたのは気づかれていたがスルーされていた。

小山田が言っていた【牽制】とは彼のような人たちに対してである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、

 

 

行方不明になった被害者たちの親族もいつも集合していられるわけではない。彼らも社会人だからだ。

トータスにいる進示達の様子を映像は常にではないが、送られてくる。

世界を跨ぐ生命のやり取りは難しいが、通信は比較的通るようになった。

 

樹は表向きは南雲愁の会社に勤めながら、時折愁の許可を取っては、会議室でトータスにいる進示から送信されてくるモニターのチェックをしている。

愁もハジメ達の事が心配なので、樹への仕事の割り当てを減らし、ハジメ達の様子を視させている。

どうやら彼らが【奈落の底】と呼ぶ迷宮があるホルアドへと戻ってきたようだった。

ティオ・クラルスという仲間も増え、そして5年前に進示と杏子を護って死んだはずのミリアが自分の体をデジモンに改造するという離れ業をやってのけて復活した(但し、大幅な弱体化を余儀なくされたうえに、魔法能力の全てを失った、未来からの情報もあるから、初めから自分の力を進示に継承させるつもりだったのだろう)。実際はずっと進示の体の中にいたらしく、これまでの5年間、自分の体の改造と、進示の脳の保護、そして進示と魂が繋がっている杏子の記憶復活の調整など色々やっていながら進示を通じて外の世界の様子も見ていたらしく、事情に詳しいのも納得だが、並行世界の未来から情報を受信していたというのは流石に想定外であった。

送信主は樹とのことなので、恐らく自分は消滅していると考えている樹であった。

 

神が承認なしで歴史改竄を行っては、かなり重いペナルティが課されるからだ。最悪、消滅もありうる。

仮に改竄するにしても厳重な審査と手続きが必要だ。

 

そうなると以前の自分は神の世界にいる討伐対象がどうなったかを知りたかったが、通信先のミリア曰『「以前の歴史の情報は恐らくもう当てに出来ません。私の推理が正しければ【彼はもう別人に挿げ変わっています】』とのことだ。

ただ、確証はないらしく、憶測に憶測を重ねても混乱するだけというのが彼女の主張だ。

 

ただ、前回の歴史との差異は進示の女性関係や、誰彼の生存死亡など細かいところは多いが、これもミリア曰く最大の問題点は前の歴史では杏子の記憶が戻っていないとのことだった。

 

忘れがちではあるが、現在進示や樹たちがいる世界は、【消滅候補】の世界である。

一次創作が無ければ2次創作が存在しないのと同じで、何者かがデジモンの世界の1次創作を消去してしまったか、あるいは事故で消えたかという存在だ。

進示達は知らない情報だが、この世界もとある世界の元にあるオリジナルが存在する。

消滅したオリジナルのそのまま放置すれば派生世界であるこの世界もいずれ消える運命にある。

 

そうなる前に消えた世界を修復し、世界の存続を図る。

 

榊原進示はそういう世界のリカバリーのために派遣された転生者だ。

 

最も、進示は転生当初は知らなかったらしく、樹の方も進示の精神が落ち着くまで話さないつもりだったが、戸籍上10歳の時にジール召喚という想定外の事が起きてしまった。

故に、帰還時に詳細情報の開示をせざるを得なかった(並行世界の未来の存在である樹から情報をキャッチしたミリアからある程度聴かされていたためか、進示はすぐに受け入れた。【慰め】も効いたのだが)

そうであったからこそ、面倒くさがりの進示が自分から戦技指導を乞うたのだろう。

ジール召喚以前もこの街でイーター騒ぎがあったのだが、それはまた別の機会に。

 

 

「ままならないものね」

 

樹としては本来平和に暮らすはずだった人物に修羅の世界に身を投じさせることに申し訳なさを感じていたし、可能な限り彼の手を煩わせないつもりだったが、進示を戦わせないとタイムパラドックスも発生する上に、世界を消滅させないように戦う時は戦い、引く時は引くという調整もしなくてはならない。

 

だが、全ての出来事をそっくりそのままなぞるのは不可能だし、何もしなくても【この世界の】園部優花や、中村恵理のようなイレギュラーが発生することもあり得る。

 

宇宙の存続がかかっている以上、進示を含む一緒に転生した6人だけではこの仕事は不可能だ。

 

守護天使のサポートや現地協力者、デジモンのような高次生命体との協力、共存が不可欠だ。

 

それに、樹が進示の女性関係を増やすのに肯定的なのは、役目の都合上、普通の人間では永すぎる時間も過ごさねばならなくなったからだ。

 

人間の精神など、100年かそこらでも簡単に摩耗する。

 

肉体寿命の問題は龍の因子で解決したが、精神は別問題だ。

 

不老の生命でありながら摩耗を防ぐために人の温もりがいるからだ。

 

だが、人間の女性では平均寿命から言っても100年持たないし、寿命を延ばせたとしても人数が少なすぎては価値観のバランスが偏る可能性がある。

それに、進示の性格とある程度成熟した精神上可能性は低いが、身内が殺された場合、進示が憎しみで暴走しないための抑止力も進示と関係を深めた女性が勝手に担うことになるからだ。無論樹は自分も尽力するつもりではいるが、天使の自分では人間の進示と価値観をすり合わせられない可能性もある。

 

「ん?これは…!?」

 

樹はモニターを見て驚愕し、すぐさま八重樫家に連絡を入れる。

 

八重樫雫が遺体で映し出されたからだ。

 

進示がすぐに蘇生体勢に入るが、状況は芳しくない。

雫が自分の本心を抑えているからか、死んだ反動で現実への拒絶心が出てしまっているようだ。

その解決のために白崎香織を雫の精神世界に派遣するが、きちんとした設備もなしで、死者蘇生と香織の存在証明の同時行使など廃人確定レベルでの脳の酷使が必要だ。

いや、進示の脳の保護を行っているミリアがいるからできた決断か。

下ネタで進示を後押ししているが、彼女の目は進示の心が救えそうな人を救えなかった罪悪感で押しつぶされないように、進示のやることを死に物狂いで補佐する構えだ。

 

「精神性においては私や記憶回復後の杏子ちゃんよりも進示様のパートナーに相応しいかもしれませんね、ミリアさんは(公序良俗の問題は置いておく)。進示様に従順に見えますがああ見えてただのイエスマンではないですし、全てを見定めたうえで従っている。そして何より修羅の環境に共に身を置いた実績もある」

 

自分と違って…と、自嘲する樹。

 

「…記憶喪失状態の杏子ちゃん…は人格形成中だったから判断はまだできませんが…今でも杏子ちゃんの中から客観的に世界を視ていますね…■■■モンは」

 

樹も記憶喪失の杏子の正体に感づいているらしい。

 

そして映像の中の戦いは予想外の激戦となるが、予想外の形で戦闘終了となる。…予想外の人物との再会も含めて。

 

その後、迷宮から外に出て、白崎香織の南雲ハジメへの告白や、天之河光輝の…恐らくは嫉妬による暴走などの悶着もあったが、進示が熱で倒れ、杏子がこちらへの通信の準備も行い、送られてくる映像から解析、対応も考え、準備を行う。

 

神代魔法の取得は2/7。

あと5つ。




記憶喪失の杏子の正体。

作中から感づいた人もいるかと思いますが、これについては初めからこの設定でした。

ピンク色のデジモン=これが成長するとデジタルワールドの生態系を壊すと言われている。

八重樫家との交流。
進示達は雫との接点は学校以外ではほぼ皆無。鷲三達が雫に裏側を知られたくないので、進示達に口裏を合わせるようにお願いしていた。
但し、非常事態が起きた場合、八重樫の裏事情を開示して構わないとも告げている。



修行のやりすぎ=娘に遅れは取れないと張り切りすぎた結果。娘に看病されるが同時にジールで行った仕打ちを考えると怒るに怒れない。


英国人=アフター既読の人であれば凡そ察せるかもしれない。名も無きエージェント。


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幕間 破壊神の始動

長らく更新が無くて申し訳ありません。

そして開けましたおめでとうございます。

年末に心労で体調を崩してしまって…今は大分回復しているのですが、ちょこちょこ様子を見ながら執筆していきます。

本来予定にない更新ですが、重要人物であるとあるキャラの動くきっかけを短いながら書き出しました。


???視点

 

天界にある最高冠位の神殿。

 

私は休憩がてら通路を歩いていると、突然巨漢の男性神が背後から現れる。

 

「いよう!カタスト!今日もいいカラダをしているな!」

「私の体にしか興味がないのか」

 

これはいつもの挨拶替わりではあるが、私を後ろから抱きすくめて体を弄ろうとするこの男には呆れる外はない。

私はその気になれば性別を変える事も出来るが、女で通している。

 

私は巨漢の手を払いのけると、ツカツカと歩き出す。

まあ、この巨漢は仕事はしっかりしているし、手当たり次第に妾を増やす悪癖はあるものの、トータルでは善神だ。

この巨漢は創造神の最高冠位、クラフトだ。

 

「なあ、いい加減俺の妾にならんか?お前さんは仕事ばっかりで婚期を逃してしまうぞ?」

「普通の女であれば焦るかもしれんが、少なくともお前の妻になる気はない。それに、私が後継者に目を付けたタドミールも妾にしよって」

「う…そいつは悪かった…」

「悪いと思うなら、思い付きで行動する癖を直せ、特に女がらみで」

「ハッハッハッハ!そればかりはやめられんなぁ!」

 

仮にも破壊神の最高冠位である私に会ってそうそう体を弄る度胸があるのはこの男くらいだろう。

普通の神は私に会っただけで委縮する。

 

「まあ、それにしても、神様転生だったか?人間もユニークな物語を考えるなぁ!」

「失職した女神も転生者に付き従う契約をする守護天使システムで稼げるようになったのは、まあ、信仰エネルギー問題の大部分を解決することになったな」

 

神は人間の世界の存在を保証、整備するものではあるが、神も人間の祈りのエネルギーが無ければ滅んでしまう。

 

やり方は違えど相互関係ではあるのだ。

 

地球では21世紀辺りから考えられ、電子の世界で人気が出るコンテンツだが、なろ〇系の物語などは人間が【こうなりたい】という空想にあふれて、祈りのエネルギーがかなりの量を取れることが分かったのだ。

 

我々神はその文化に便乗し、仕事がない女神や天使に向けた新たな雇用システムを考えた。それが守護天使システムだ。

 

「まあ、人間に仕えるのが屈辱と考える神もいるようだが、不穏な動きもある。クラフト。特に女には注意しろよ?」

「ナッハッハ!頭の固い神はそう考えるなぁ!…まあ、心当たりがない事もないが…」

「?」

 

コイツ、こんな殊勝な顔する奴だったか?

 

「いや、俺も結構長いこと現役でいすぎた。…ここらが潮時かもしれんなぁ」

「…お前、何を考えている?」

「いや、人間に世代交代があるなら我々もそれに倣った方がいいかと思ってなぁ、まあ、引退したら別の仕事も考えちょる」

 

いつもは私にセクハラをしながら話すこの男の真意を読めず、目で話せと訴える。

 

「話してもいいがお前さんの乳を揉ませてくれるか?」

「…他に言うことはないのか?乳を揉みたいのであればお前の妻たちがいるだろう、もう何百柱娶った?」

「いや~男は杖に新しい刺激が欲しいのよ!」

「…本当に欲望に忠実だな」

 

するとクラフトは、私に何かを投げてきた。

 

「…記録媒体?」

「パスワードは教えられんが、まあ、お前さんなら分かるだろう。…妻の誰にも渡していない極秘のメディアだ。俺に何かあったときはそれを開いてほしい、カタスト」

「…!?」

 

待て!と叫ぶが既にクラフトは姿を消していた。

 

 

 

 

それからしばらくして

 

 

仕事でデスクワークをしている所に一本の通信が入った。

 

「私だ…タドミール!?」

『カタスト様!クラフト様が…死んでしまって…全力で蘇生を試みていますが、蘇らない!!』

「何だと!?」

 

私は仕事を中断し、クラフトの後宮に向かう。

 

そこには、医療や治癒などと言った神術の心得がある者たちが、ピクリとも動かないヤツの蘇生を試みていたが、妻たちの大半は涙を流している。

 

「…これは、もう駄目だな…、死んでからそこまで時間は経っていないな。それに、生き返らないように呪いがかけられている」

「カタスト様、状況を鑑みるにこれは暗殺、人間を守護することに反対の勢力の者かと思われます」

「クラフトは人間守護派…ありえなくはないが…クラフトの妾達の中に…いや、早計だな…タドミール、お前は私の後を継いで最高冠位の破壊神にならないか?」

「…わ、私が!?クラフト様の妻になる前はそう言ったお話を受けたこともありますが…貴方様は?」

「私はやることが出来た」

 

現場検証を終え、私は最高冠位の創造神、クラフトの死亡を発表した。暗殺ということは伏せて、事故で処理しようかとも考えたが、ここはあえて中途半端に隠蔽はせず、他殺という形で公表した。

 

当然私も含めて事情聴取を受けた神は何百柱もいるが、犯人は見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

それからまたしばらくして、

 

 

「タドミール、最高冠位の破壊神の就任おめでとう」

「カタスト様…」

「もう私はカタストではない。守護天使シュクリスだ」

 

私は最初に契約した人間との関係を終え、天界に戻ってきたが、そこには見違えるほど立派になったタドミールの姿があった。

流石に私が目を付けただけはある。思慮深く、慈愛に満ち、感情任せに破壊行為を行わない者を何人か候補にしていたが、タドミールで正解だったな。

髪の毛、瞳の色が銀色というのも個人的に好んでいる。髪の毛は踵にまで届きそうなので、足を引っかけないかは心配だが。

 

 

「クラフト様を殺した者は人間界に潜伏しているのですか?」

「…クラフトを直接殺ったのはただ雇われただけであろうよ。犯人を突き止めて現場に向かったが、既に自決していた…機密保持のためだろう」

「そんな…では、捜査は振り出しですね」

「我々神の者はよほどのことがない限りそのまま人間界には出れない。だが、暗殺の主犯は裏技を使って人間界にいる。私も裏技を使おうと思ったが、正攻法に守護天使システムを利用して人間界に出立した。まあ制限は多いが、それなりに楽しくもある」

「…人間の男性とも寝たのですか?」

「当然だ。ヒトは3代欲求がなくば生存・繁栄が出来ない。性欲は無くても何とかなるかもしれんが、我慢しすぎて凶行に及んだり、ストレスで壊れたりした人間を何人も見てきた」

 

 

一般的に醜い欲求であるとされる性欲も、子孫を残すためには欠かせないものだ。

本来雌雄の区別がない神も、人間の誕生によって…ヒトの祈りによって神が人間の体というアバターを得た。

 

クラフトは男性の体を取ったが、ある意味人間の祈りに染まりすぎたと言える。

 

「雌雄の区別がなく、人間の子供の祈りによって生まれた…デジタルモンスターと言ったか?アレはなかなか興味深い。雌雄の交わり、恋愛感情などにもとらわれない種族だからな」

「…ある意味旧時代の神と通づるところがありますね」

「だが、ヒトは男だけでは出来ないこと、女だけでは出来ないこと…それぞれの欠陥を補いあうことで、絆を育み、時には感情で絆を断つ…クラフトを殺した犯人の動機を知るにはヒトの欠陥と長所を知る必要がある」

「…成長するという概念ですか?」

「デジモンが人の精神と絆を持って進化するというのなら、心とは何かを知る必要がある。知識ではなく、実感としてな」

 

私は次の契約者を迎える準備に入る。次の転生者は…割とすぐ来るな。

 

「シュクリス様…」

「暫くは転生者にくっつきながら調査をしてみる。…動機は案外くだらない…他人から見ればバカバカしい理由かもしれんが、それこそが心を動かすのかもしれない」

 

 

私は核心(確信)にも近い何かを抱いてタドミールに別れを告げる。

 

神童竜兵や榊原進示と出会うのはこの数千年先の話である。

 

 

 

 




今回は気分転換の更新でもあるので短いですがここまでです。

ここまで情報を伏せていたハイネッツ編の執筆も始めました。
ハイネッツ編も彼女、シュクリスが裏方で進示と杏子を助けます。
本編の方も気になると思いますが気長にお待ちくださいませ。


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第31話 龍の負傷、竜の暴走、竜の誇り、竜の理性、園部優花とメギドラモン

前書き

地味に今回、トータスでデジモンが活動できる理由に触れます。

先日アダルトの方を更新しましたが本編再開です。

また、ジール編第4話とハイネッツ編第1話を執筆中です。


ゼロ視点

 

ルーチェモンに吹き飛ばされて倒れた状態ではあるが、数年ぶりに直接父さんを見た。

そして遺伝子学上の母、暮海杏子とミリア。

造られた命、遺伝子操作で生まれた身であるが、親を見れてほっとしている自分がいる。

父さんにはあれだけの仕打ちをしておいて、今更許されるとは思っていないが…父さんなら私を許してしまう気がする。

 

ゼロ。

 

それが父さんがつけてくれた私の名前。

 

母である暮海杏子=アルファモンの二つ名、【空白の騎士】の空白=0【ゼロ】という解釈からこの名前をくれた父。

 

そしてルーチェモンが成長期からX抗体に変化する姿を見て私は声を振り絞る。

 

このルーチェモンは本来あり得ない能力がある。

 

「アルファインフォース!!!!」

 

その言葉に咄嗟に反応した父さんが右足に魔力を限界まで込め、園部優花を守るように躍り出て、ルーチェモンが発した風の刃を蹴り落した。

 

ミリア母さんから譲り受けた武装を取り出す暇もなく、ハイネッツから得た科学技術による武器はルーチェモン相手には効果が薄い。龍の杖、赤龍杖(私の持つ杖は黒龍杖)は万が一にも破損はさせられないとわかっているのか、体術を選択したようだ。

ミリア母さんの武装は杖と魔導書が残っていれば最悪良いのだが。

 

因みに八重樫雫の蘇生と白崎香織の補助に使ったであろう魔導書はミリア母さんが何十年もかけて魔力を込めて手書きで(わざわざ日本語とジール標準語で)執筆した特注の書だ。

パソコンの印字では絶対に作製できない神秘が込められている。

 

刃は相殺されたが、父さんの右足が切り飛ばされてしまった。

 

「「「「え!?」」」」

 

他の連中からすれば何が起きたか理解できないだろう。

 

アルファインフォースは本来過ぎ去った戦闘時間を瞬間的に取り戻す究極の力。

 

アルファモンの攻撃は一瞬だが、実際には何回もの怒濤の如き攻撃を他者が見る事は出来ず、確認できるのは理論上敵が倒れる最後の一撃のみ。

つまりは時間操作の亜種ともいえる力だ。

 

それを応用し、ルーチェモンは、静止した時間の中で風の刃を飛ばし、園部優花の首を刎ね、ついでに射線上にいるティオ・クラルスや、メルド・ロギンスや天之河光輝やクラスメイト数名をついでに巻き込もうとしたのだろう。

 

アルファモンである杏子母さんと繋がりがある父さんとミリア母さんだけが反応していたが、その顔には驚愕の表情に染められている。

 

「進示いいいぃぃっ!?!?」

 

叫んだ園部優花の眼には、コマ送りでもない、いきなり進示の足がなくなったようにしか見えないだろう。

 

「おや?イレギュラーである園部優花の首を狙ったんだけど、…ああ、君はそこの人間の振りしたアルファモンのテイマーだったね。であれば反応出来てもおかしくはないか」

「馬鹿な…なぜテメェがその能力を使える!?」

 

父さんの疑問はデジモンを知るものであれば聞かずにはいられないモノだろう。

 

「一番心当たりがあるのは君と暮海杏子じゃないか?…3年前とか?」

「…!!」

「健康診断の血液…ピンハネしていたのか」

 

そう、3年前にハイネッツ宇宙域に拉致された父さんと杏子母さん。

当時はすでに父さんはミリア母さんの心臓を使っていたので、間接的にミリア母さんの進化できるデジモンの能力も獲得してしまっただろう。

と、いうことはドルゴラモンの力もあるはずだ。

 

…デクスモンの力は流石にないと思いたいが油断できない。

 

地球より文明が進んだ世界で、面倒な尋問をされることなく仮の住居を手に入れるためにアルフレッドの提案で手続きに必要だった過程の一つ、健康診断。

 

その時に採取された血液を奪われてしまった。

 

父さんはアルフレッドの魂を見て邪な気配は感じていなかっただろうから、アルフレッドの保護を受ける事はベターな選択と言えただろう。

そしてそれがなければ私は誕生しなかった。

 

やがてハイネッツでデジタルハザードが起き、脱出直前で私が2000年前のジールに召喚されてしまったが、それは別の機会に。

 

杏子母さんは急いで切り飛ばされた父さんの右足を持ってきて、切断面にくっつける。

 

勇者一団が、特に天之河光輝がルーチェモンに対して、剣を構え、敵意をむき出しにしているが、はっきり言って叶う相手ではない。いや、デジモンなしで太刀打ちできる相手ではない。

 

「どうだ?接続できるか?」

「3分は稼いでほしい。いや、八重樫の蘇生と白崎の保護で脳を酷使したから5分」

「わかりました!…優花さん?」

 

切られた足の接続はミリア母さんの龍の心臓がある父さんだからこそ出来る無茶だ。

再生魔法や変成魔法をまだ会得していない彼等ではそれしか治療の手段がない。

 

ん?園部優花が何か震えている?

 

「また、守られた…」

 

あ、これは…観察の限りでは彼女は責任感が強い性格だ。

杏子母さんと一緒に懇ろな仲になるとは想定していなかったが、あの様子を見る限りでは絆は深いようだ。

 

必要な時は的確な判断が出来るし、未熟な時代からも、最悪の選択肢はまず選ばないが、根が甘えん坊で、背負い込みやすい、コミュ障、世渡り下手な性格から自分を追い詰めて、園部優花の前で弱音を吐いてしまった。それを聞いた園部優花が、父さん達との仲を知りながら割って入った形か。迷宮では殆どが父さんと杏子母さんがまだ経験不足の南雲ハジメと園部優花を導く形で戦っていたはずだ。

過酷な迷宮生活で色々21世紀の倫理観が壊れて開き直ったか。

 

 

今後、父さんたちを待つ理不尽な運命と戦うなら、父さんと一緒にいる者は増えた方がいいかもしれないな。

それが友情であれ、愛人のような多妻のような関係であれ。

彼女も魔物の肉を喰ったのなら、寿命は低く見積もっても150年以上は生きるだろう。

 

 

彼女から父さんの匂いもする。

そして、父さんと肉体関係があるということは、彼女の中に僅かながら竜の因子が入っている。

彼女の心情ではまた父さんに負担を負わせたことと、奴の能力上仕方ないとはいえ、反応すらできなかった自信に対するふがいなさと、父さんを傷つけた奴への怒り。

 

そして彼女のパートナーはギルモン。

 

そこから連想できる答えは…。

 

 

「ん?」

「アンタを許さない!!」

 

「ちょ!?優花!?」

 

「園部!こんな狭い場所で進化したら!」

 

八重樫雫が驚き、南雲ハジメが何かを察したように園部優花に呼びかけるがもう遅い。

 

彼女は感情のままギルモンを巻き込み、紅き破壊竜、メギドラモンに進化する。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『GAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!』

 

 

紅き竜、吠える。

 

「そ、園部さん!?榊原!、お前!園部さんに何をした!?」

 

ドラゴンの姿になった天之河光輝の場違いな質問に「何言ってんだ?」といいたそうな顔で天之河を見る父さん。

 

…この様子ではガラテアの報告通り、座学が優秀なタイプで自分の価値観だけで物事を言っているようだ。

まあ、今回の場合は園部優花の進化ルートを開拓(意味深)したのはある意味父さんだが、天之河の言いたいことは違うだろう。

『榊原に酷い目にあわされた園部さんを俺が救う!』とでも思っているのだろう。

彼の魂の動きは自分自身しか見えていない。周りを観察していない。

 

才能はあるのに…、ヒトのままで神に匹敵するポテンシャルがあるのにもったいない。父さんが普通の人間のままだったら絶対に天之河に勝てないだろうに。

…夢を見るなとは言わないが、現実も見てほしいものである。そして、自分の物差しだけで測らない方がいいぞ、勇者よ。

 

私は地球で別人になって(変装だが)とある会社の社長をやりながら、父さん達の動きはずっと見守ってきた。

 

父さんたちは学生と公安が依頼してくる怪異退治に、いずれ来たる侵略者迎撃のための宇宙船建造と、自分たちの修行とやることが山積みすぎて学校で寝てしまう父さんにも落ち度はあるが、それでも相手の気持ちや事情を1パーセントも考えたことはないのだろう。

今は私の影武者が社長代行をしているが。

父さん達が地球に帰れば私が彼等の活動を援助するよう下地を作ってきた。

あと、事が終われば行く当てがなくなった岸辺(ロードナイトモン)も雇うか。

 

 

園部優花と融合したメギドラモンは、ルーチェモンに肉薄し、竜というよりは獣のような戦い方で奴を追い詰める。

 

ルーチェモンの方は防衛戦で手いっぱいのようだが、本人が言ってた通り()()()()()()()()()()()()のだろう。

一度にX抗体のみならず、様々な要素を入れすぎるからだ。

本来ならメギドラモン1体だけで対抗できるか怪しいほどなのに。

しかし、奴が父さん達の血を使いこなしてしまうと形勢は逆転する。

 

 

 

 

「ゆ、優花さん!?進示さんみたいにデジヴァイスを使わずに!?ですぅ!」

 

「俺たちも進化すべきなんだろうが、こんな場所じゃ崩落の危険がある!」

 

そう、南雲ハジメの指摘通り、ここはオルクス大迷宮、表の90階層。

 

究極体デジモンの技など崩落の危険がある。

 

マスティモンを出す選択肢もあるがそれはまだ避けたい。

 

ガンクゥモンは父さんのスマホにいる。

 

そして、ロイヤルナイツの亜種たる私のもう1体のパートナーは現在別行動中。

 

【9番目】もまだ出すべきではないし、ティオ・クラルスがいる以上、火種に爆弾を入れるようなものだ。いずれ機を見てミレディ・ライセン共々邂逅の場を設けるべきか。

 

だが、この大迷宮にアレーティアが封印される前より作って設置してきた【サーバー】が壊れれば、父さんのパートナー以外のデジモンがトータスで活動できなくなってしまう。最悪、データロストの危険がある。

父さんのパートナーは父さんと魂が繋がっている故に通信ネットワークがない世界でも活動できるし、半人間半デジモンの私はどんな環境でも活動できるが、一般のデジモンはそうはいかない。

 

八重樫雫、白崎香織は初めての究極体進化で疲労がある。

 

永山、遠藤はまだきっかけがない。それ以前に疲労困憊。

 

南雲ハジメ、ユエは進示やクラスメイト達を守るような立ち位置に、進化は先も言った通り、崩落の危険がある。

 

シア・ハウリアは動かない?…伏兵を警戒しているのか。それとも未来視で何かを見たか。

 

で、あれば私は魔力を振り絞り、迷宮の補強をを行う。

メギドラモンとルーチェモンが暴れてもしばらくは持つだろう。

 

巨大な紅き竜に変貌した優花を父さんのクラスメイトの大半が恐怖の眼差しで見ている。

「優花!止まれ!!俺は大丈夫だ!!」と、声をかけているが、頭に血が上っている優花に対しあまり効き目がない。

 

暴れてるメギドラモンが口を大きく開けて息を吸い込んだ。

 

「まずい!!みんな!耳をふさげ!!」

 

杏子母さんの言う通りに耳を塞ぐものが大半だが一部は間に合わなかったようで、空間をも揺るがす地獄の咆哮が放たれた。

 

【ヘル・ハウリング】だ

 

『                ッ!!!!!!』

 

もはや言葉では表現できない衝撃波が直接向けられていない者たちの耳を劈く。

 

「ぐうううう…!!人間の小娘が…!デジモンと一体化したところで…!ぞ、臓物がかき乱されるようだ!」

 

ルーチェモンが忌々しく叫ぶ。だが、ルーチェモンも今の自分では優花に理性が戻れば危ういことは理解しているだろう。奴はかなり見栄っ張りだが、余裕がなくなり、メギドラモンの攻撃を統べてさばききれないのか、体に無数の傷を作っている。

 

ただ、南雲ハジメ達も今迂闊に踏み込めば、メギドラモンの攻撃の巻き添えを食うとわかっているので、様子を見るしかない。

 

 

 

 

…私のパートナーは元々七体いた。

この1000年の間で内、既に4体が脱落したが、うち1体は死してなお私の力になり続けている。

 

であれば

私はティオ・クラルスに向き直る。

 

「ティオ・クラルス…」

「わ、妾を知っておるのか?」

「お師匠様…いえ、ゼロ」

「!?」

 

私たちの関係はある程度聞いていると思うが、改めて口に出されるとやはり驚くか。

 

「園部優花の肉体と、精神の負荷を考慮しても時間がない。ルーチェモンのX抗体はまだ馴染んでいない。お前が父さん…榊原進示と心を通わせれば、アルファモンをさらに高みへ登らせる。その原型とも言える竜を武器化したのがコレだ」

 

私は王竜剣を実体化させる。

 

それを見たアルファモンとオウリュウモンの関係を知る面々は驚く。

そしてリュウダモンは何かを感じいるように王竜剣を見つめる。

そして、榊原進示に対する父さん発言で回りがざわつくが構っていられない。

 

「お前、パートナーにオウリュウモンがいたのか!」

「死ぬ直前で剣にしましたが…、まあ、アルファモンの娘である私ならこの剣を使えない道理はありません」

 

その様子を見ていたティオは何かを決心したように頷く。

 

「榊原進示…いや、ご主人様。先の攻撃から優花のみならず、妾や他の者まで守ったその行動、その心。改めて惚れ直した。そして同時に妾の天職が守護者であるのに、守るどころか守られて…感謝と歓喜と不甲斐なさと怒りと悲しみと後悔が同時に押し寄せてきておる」

「…ティオ」

「改めて妾の伴侶はお主しかおらん。初めて妾の暴走を止めた時から感じ入ってはいたがな?ミリア先生…500年前に貴女の言ってたことは間違っておらなんだ」

 

話を振られたミリア母さんは。

 

「あはは、まだ確定した未来じゃなかったけど、私も進示のために進示が生まれる前からあれこれ準備していましたので。意図してなかったとはいえ、私が歴史を変えちゃったようなもんですね。でも、私はティオなら歓迎しますよ!」

 

「人生モテ期到来だな、進示。だがまあ、こうなる気はしてた。ハーレムの理想より人間関係のリスクを嫌っている進示だが、ティオならそう悪いことにはならんだろう。それに、ミリアだけでなく、他の人間も頼ることをさせたくてオウリュウモンの枠をティオに譲ったのだろう?ミリア。歓迎しますよ!じゃなくて決定事項じゃないか。お膳立てをしたんだな」

 

ミリア母さんは未来視はできないはずだが、こうなることを予想してたのだろう。

杏子母さんは元がデジモンだからか、それとも人間界とデジタルワールド双方で揉まれてるからか、ハーレムは特に気にしていないようだ。…もう一人の杏子母さんは未知数だが。

いまだに足がくっつききらない父さんはティオをまっすぐ見つめ、

 

「ティオ、これから先、俺たちと一緒に人生を共にするなら安穏とした人生を送れる可能性は低い。今の優花みたいに怒りや悲しみに飲まれる可能性もある。俺は安穏としたいけど」

 

「なら、妾がご主人様の…心のよりどころは先生がおるし…」

 

ティオは戦闘を続けている園部優花とルーチェモンを見る。

 

見ればメギドラモンを見ると、爪や牙、尻尾で襲い続け、距離を話すと【メギドフレイム】でルーチェモンを攻撃し続ける。

いまだ理性が戻る兆しはない。

そのおかげでバリアを張っていても、迷宮はすさまじい揺れを起こし続けている。

ルーチェモンもこちら側に優花の攻撃が当たるように同士討ちを仕向けようとしているようだが、それもできない様だ。こちらに攻撃は飛んでこない。

ただ、私のバリアが切れて崩落を起こしたらまずい。

 

地震というか揺れに慣れていないこの世界の住人は時折バランスを崩している。

 

「ええい!攻撃はワンパターンなのに勢いが強すぎる!今の僕では、攻勢に移れない!だが、このまま奴のエネルギー切れを待てば…それに、他の連中は崩落を恐れて進化をしない!自分達は平気でもそこの人間たちまでは助からないからな!」

 

「ふむ…あれではマズいのぉ。それに、勇者も恐怖に足が震えているようじゃし」

 

それは勇者だけではないのだが、根拠の無い自信にあふれていた天之河の足が震えていて動けないようだ。呼吸も荒い。

 

「は、はあ…、な、何故だ!なぜ足が動かない…!?」

 

先ほどまでの戦闘の疲労もあるだろうが、動けないほどではないはずだ。

 

だが、デジモンの究極体同士の戦闘を目の当たりにして【恐怖】を感じたようだ。

 

八重樫雫と白崎香織の戦闘はモニター越しでしかなかったしな。

 

そう言えば桧山大輔の股座が濡れているようだが、自分自身に対して話しかけているような…いや、あれは桧山大輔の中に何かいる!?

 

そして中村恵理は、デジヴァイス…【裏で密約を結んでいる相手】から彼女もテイマーだと報告は受けているが、ロードナイトモンを呼び出すつもりか。さすがに自分がテイマーだと隠しておくのも限界か。

 

そういえば5年前の父さんも魔王アルカディアにアルファモンや自分の力で全く歯が立たなかったのを感じてヒトやデジモンを超えた領域に踏み込もうと決意したのも【どうあがいても歯が立たない圧倒的な力】を目の当たりにしたからだったか。

 

まだ肉体をデジモンにしてないミリア母さんとアルカディアの戦闘は宇宙空間で行われ、その衝撃波は必殺技ではない普通の殴り合いで周辺惑星を揺らすほどだったからな。

ミリア母さんの弱体化ぶりがわかる。

 

アレに対抗するには人とデジモンがともに魂の絆を深めた先にある領域にたどり着く必要がある。

 

と、アルカディアのことはひとまず置いておこう。

 

 

「これは竜人族の誇りじゃが…竜人の種族ならずとも、どの種族も共通かもしれんの」

 

 

そういうと、ティオは、まっすぐ父さんを見つめ、荘厳な目で父さん(世界)を見やり、言葉を紡ぐ。

 

 

その風格は女の私ですら見ほれるほどだ。

実際、この状況なのに女子生徒の数人もティオに見惚れている。

 

そうしている間にも優花はメギドラモンの爪、牙、尻尾で、引き裂き、噛みつき、引き裂き、叩きつけようとするが、理性をなくして攻撃が読みやすいのか、

 

 

「我等、己の存する意味を知らず」

 

その言葉は、ティオにとって己の人生に対する命題だろう。

 

「この身は獣か、あるいは人か。世界の全てに意味あるものとするならば、その答えは何処に」

 

「ティオ…それは500年前にも」

 

ミリアが驚きに目を見開く。

 

「答えなく幾星霜。なればこそ、人か獣か、我等は決意もて魂を掲げる」

 

 

「竜の眼は一路の真実を見抜き、欺瞞と猜疑を打ち破る」

 

「竜の爪は鉄の城壁を切り裂き、巣食う悪意を打ち砕く」

 

「竜の牙は己の弱さを噛み砕き、憎悪と憤怒を押し流す」

 

「仁、失いし時、我等はただの獣なり」

 

父さんはここまで聞いて園部優花の方を見やった。

 

今の園部優花の戦い方は竜ではなく獣に近い。

 

 

「されど、理性の剣を振るい続ける限り――」

 

 

そこまで言ってティオは暴走しながらルーチェモンに攻撃し続けている優花ーメギドラモンに視線をやり、

 

 

 

 

「――我等は竜人であるッ!!!!!」

 

 

「「!?」」

 

 

「と、止まった…?」

 

ルーチェモンもメギドラモンもお互いダメージを受けてボロボロの状態だ。

 

メギドラモンとテイマー歴の浅い優花のレベルを考慮してもX抗体のルーチェモンにかなうとは考えづらかったが、やはりX抗体をはじめ、色々馴染んでいなかったのだろう。

 

ルーチェモンは本調子とは言いづらかった。

 

「優花、デジモンとは意志の強さに大きく影響を受けるようじゃが、それではただの獣じゃ。まあ、愛しい男が傷ついて怒る気持ちはわかるが、それでは破壊しか生まん」

「「ティオ…」」

「守るつもりがあるのなら、怒りのみならず、冷静に視野を広げよ。ご主人様は逆に冷静すぎるところがあるか、負の感情を表に出さなすぎる」

 

「ティオ…」

「ならば、守護者たる妾がお主たちの心も体も仲間も守って見せよう。前だけじゃなく後ろも見んか」

 

その言葉に目の色に理性の光が戻る優花。

 

南雲ハジメは「か、かっけぇ…」といい、ユエは頬を赤く染めている。ほかの面々も似たり寄ったりだ。

 

 

「だが、いいのか?お前は自分の正体を隠して調査に赴いたはずだ」

「遅かれ早かれバレるとは思うておった。だから罪悪感など持たんでよい」

 

父さんはティオの本来の目的について言及しますが、それでどうにかなるほどティオの器は小さくはないようだ。

 

 

 

「「ごめんなさい」」

「よいのじゃ。お主はちと真面目過ぎる。が、その背中は妾が守るから安心して力を抜くがよい」

「「ありがとう…今の言葉、竜人族でもない私の心にも響いたわ」」

 

優花たちはエネルギー切れなのか、パートナーと分離する。

もうメギドラモンになっても暴走する心配はないだろう。…父さんにもしものことがあればわからないが。

…私、いつの間にか園部優花を優花とだけ呼ぶようになったが、父さんがその気なら彼女も私の義母になってもらってもいいかもしれんな。彼女の指の指輪を見る限り【そういうこと】なのだろう。

 

 

「優花、暴走したとはいえよう頑張った。…妾もデジヴァイスを使わず融合できそうじゃ」

「ああ、私とティオなら可能だ!」

 

 

 

 

そういうとティオはリュウダモンと融合し、便宜上はソウルマトリクスと呼ぶ融合状態になり、オウリュウモンとなる。

 

本来の彼女とはかけ離れた黄金の鎧竜だが、不思議と違和感はない。

 

「うそ…ティオもデジヴァイスを使わずに…!?」

「「ふむ、これがデジモンとの融合か、コミュニケーションは取ってた故、融合自体はそう難しくなかったぞ」」

 

…簡単言うが、それは高等技術だぞ?

しかし、それが出来ているなら【その先】も視得ている筈。

優花はメギドラモンの精神制御からだ。

 

「人間とデジモンの魂をデジヴァイスを使わず直接融合だと!?…どうやらこの場は退散するしかなさそうだ」

 

ルーチェモン、逃げる気か?

まだ移植した力が馴染んでいないうえに優花とメギドラモンから受けたダメージが大きいのか、息切れしている。

 

それにこの場で逃がして力が馴染めばメギドラモンやアルファモン、他の究極体も何体かいるが、それらの戦力でルーチェモンを撃破することは難しくなる。

 

オウリュウモンも、ティオの竜の姿より若干小さめだが、狭い洞窟の中では行動が制限される。

 

…しかたない、体の大きさが人間と大差がないマスティモンで…

 

 

 

「あら、ずいぶん変わった融合方法なのね。お姉さん感心しちゃったぁ」

 

 

…この猫撫で声は。

緑色の髪に現在はメイド服ではなく、ビジネススーツを着こなした装い。

ハイリヒ王国ではいつの間にか紛れ込んでメイドになってたベリキシエこと岸部リエ。思い切りアナグラムだな。

 

 

「恵理ちゃん、危なくなったら私に気を使わないでもっと早く呼び出しなさい?」

「ぎりぎりまで正体隠す気だったんでしょ?」

「…え、エリリン…?」

「お友達は驚いているようだけどいいのかしら?」

「気に食わないけどある意味僕に一番向き合ったのが鈴なんだよね」

「そう」

 

そういうと岸部は正体を現す。

 

細身の体にピンク色の体、右腕のパイルバンカー。

 

全てのナイトモンを統べる王であり、ロイヤルナイツでも数少ないウイルス種。

 

神代悟を殺害した張本人であり、人類を滅ぼす計画に加担し、人間社会に人間として紛れ込んだ薔薇の騎士。

 

彼女はチラリと杏子母さんを見やる。

 

杏子母さんが探偵の目をしていることで、記憶が戻ったことを悟ったらしい。

 

 

 

「今の私は中村恵理のパートナー、人間に加担するなど業腹だが、人間どもの行く末を見定めるため、今一度戦おう。ロイヤルナイツの薔薇の騎士、このロードナイトモンがぁっ!!!!!

「次から次へと…!」

 

 

 

 

いつの間にか持っていた薔薇を投げ、戦闘態勢に入っていたオウリュウモンを置き去りにし、ルーチェモンに突っ込んでいった。

 

アルフォースブイドラモンやスレイプモンに劣るとはいえ、ロードナイトモンもなかなかに速いのだ。

 

オウリュウモンも一瞬だがロードナイトモンを見失ったようである。

 

 

しかし

 

 

 

「ところで、お仲間の兎人族は探さなくていいのかな?」

「…シアッ!?」

 

いつの間にか、シア・ハウリアとパタモンがいなくなっていた。

 

私はふと、自分の亜空間倉庫の中身の違和感を感じていた。

 

治療中の【9番目】がいなくなってる!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3視点

 

 

とある男がルーチェモンから遠ざかり、1人の兎人族、シアとパタモンを抱えて飛んでいる。

ルーチェモンが逃走する時間を稼ぐためだ。

ルーチェモンは7大魔王デジモンクラスの力を持つこの男にやる気がないのはわかっているため、時間稼ぎだけでいいとは言っていた。

 

バグウサギなどと呼ばれ始めるシアコンビを一撃で昏倒させ、他の連中に気づかれることなく運び去っている。

ロイヤルナイツに匹敵するオリジナルの自己進化をしたとはいえ、まだ経験の浅い奴をこうして拉致するのは男にとっては簡単だった。

 

だが、その男の前に立ちふさがる影が一つ

 

 

「…追手か?めんどくさいね。それとも姉妹の敵を討つのかな?人形の君が情を持つとは意外だ」

「…ノイントと申します。あなたをここで倒します」

「傷が癒え切ってないその体で?万全の状態でも僕に叶わないのに?」

「…私一人であなたを討つつもりでしたが、予想外の来客です」

「?」

 

ノイントの視線の先を見る男、

 

そこには

 

「そんなに急いでどこへ行くのですか?」

 

青い体に赤い翼、V字型のアーマーを装着するその姿は。

 

「アルフォースブイドラモン…言葉遣いに違和感はあるけど、憑依した人間の体の影響だな?」

「知っているとは光栄ですね。その兎人族とパタモンを置いていきなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ。

 

日本某所ではあちら側の通信がないとはいえ、進示が持ってる端末から音声はどうにか拾えていた。

 

映像は来ないが。

 

「雫…よかった」

「雫…すまなかった」

 

どうやら(孫)娘が死んでいたことや生き返ったこと、彼女の隠した本音に気づけなかった不甲斐なさなどがあるのだろう。

一件落着かと思った次の瞬間、ルーチェモンが現れたりと再び緊張が走る、親御さんたち。

 

 

スピーカーから聞こえるゼロの声に既視感を覚えたあるクラスメイトの父親は

 

「あれ?この女性の声…家の取引先の社長の声だと思うのですが…ゼロさんと呼ばれている方だと思いますが」

 

「「「「「「……え!?」」」」」」

 

 

榊原進示の娘のゼロ、日本に潜伏していた模様。




後書き

ゼロの優花から感じた匂い。あと、ひそかに思った(意味深)
間接的ではあるが、エッチ魔女のミリアの娘である。自重できるだけで、ゼロも結構えっちぃネタには敏感。

進示。
ルーチェモンの初見殺しを防いだが足を切断され戦闘不能。
人外であるために、接続可能。
くっつき回復までそんなにかからないが、ルーチェモンとは戦えない。
せめて自分の力無しで杏子がアルファモンに戻れる方法がないか模索する。

ミリア、今のところ進化できる究極体はドルゴラモンのみ。迷宮の狭さでは崩落の危険を考慮し、進化していない。
かといってグレイドモンではさすがにパワーが足りない。
ドルグレモンはサイズの問題で動きにくい。
進示にデジモンのサイズを変更する方法を提案しているがまだ形にならず。


シアが動いていない?
詳細は次回にて

ハジメとユエ、ひと先ず様子見。伏兵の可能性も考慮し、優花の戦いを見つつ周囲を警戒ってシアがいねぇ!?


>ゼロが進示達の動向を把握し過ぎている。
惑星の魂に直接アクセスし、情報を閲覧できる。未来の情報は見られない。
鍛えれば進示もできるようになるが、進示はまだそのレベルじゃない。
また、魔法能力を失う前のミリアも出来ていた。
あとは本編の通り、トータスでエヒトの目を掻い潜って、デジモンが活動できる基盤を作り上げた。


デジヴァイスを使わずパートナーと融合。
このSSではこれが出来るようになってようやくスタートライン。
究極体になれる程度では雑兵扱いになってしまう災害がいるため、非常に難易度が高い世界になってしまった。
この時点で原作魔王様を超える強さを持つ進示ですらまだ赤子扱い。現実は非情。


天之河が生まれて初めて恐怖を感じた。
ご都合主義は原作とほぼ変わらないが、目を背けられない恐怖を目の当たりにした。
これがどう響くか。


桧山の中に何かいる。
これが面倒な事態を引き起こす。

中村恵理とロードナイトモン。
自信を偽ったり、原作では目的のために人類を滅ぼそうとしたり、実は結構共通点が多い。
ロードナイトモンの中の人はサイバースルゥースで女性声優に変更されたが、中の人の熱演もあって見事なハマり役だった。



恵理がデジモンテイマーということも岸部がデジモンであることも知らなかった。
岸部とは面識がある。


常時スーパーティオさん。
惚れた男とその伴侶、仲間を全員護る宣言。
これで暴走が止まった優花も内心ティオを受け入れた。
これに男女問わず惚れる者多数。ハジメも「かっけぇ」と呟くこと。
進示はご主人様呼ばわりはよしてくれと言ったが、もうどうでもいいやと思っている。本人の覚悟が本物なんだから。
「前だけじゃなく後ろも視ろ」奇しくも原作ハジメと同じことを言ってる。

原作ハジメがコレを見たらなんて思うだろうか。

正体隠すことより、惚れた男の伴侶を守る行動をした。器が大きい。
また、ソウルマトリクスを一発成功。原作で精神力チートと言われるだけはある。



とあるクラスメイトの父親の社長。

小説版にてある女性生徒が社長令嬢ということが発覚した。
ゼロについては最初からこの設定だったが、クラスメイトに社長令嬢がいたため、急遽ぶっ込んだ。


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