団子食えよ (一億年間ソロプレイ)
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安穏転生編
転生しちゃった件


ヘキが高じて書いてしまった……
ハイテンション系主人公なので注意


 バイトした金で念願のモンハンラ○ズを買った。機体は他ソフトを遊んだ際に買ったので大丈夫。後はソフトだけの問題だった。

 中古ゲーム屋から出た今、俺はやっと流行りのライ○への道を手にしたのだった。

 噂によると受付嬢はとても可愛く、受付嬢がとても可愛く(大事)、里の皆が優しいという。理不尽な相棒にアイルーを寝取られたりもせず、調査調査調査続きの新天地からやっと脱却できるのだ。

 ○イズの舞台ともなるカムラの里でのハンター生活に胸を膨らませ、赤信号の横断歩道で待っていた。

 

(くぅ~。噂によれば犬も同伴可能って言うじゃん。歴代の料理枠である団子と団子を作ってる女の子も可愛いらしいし……。はぁ~……カムラの里早く行きてぇ!)

 

 早く赤信号変われよ。

 

 そう思った時、なんでか地面のコンクリが見えた。

 

(あれ、もしかして……)

 

 次の瞬間、体を強く打ち付ける痛み。悲鳴のような声が聞こえてきた。

 滅茶苦茶痛いんだけど……。声に出せん。

 

(あ……)

 

 眼前に手に持っていた筈のビニール袋。そこからソフトがはみ出していた。

 

(これ……。俺、死ぬのか……? なんか寒いし)

 

《確認しました。対寒耐性の獲得……成功しました》

 

 

 な に そ れ ?

 

 

 なんか、考えがぼやけてる。でも多分、俺は死ぬっていう確信がある。

 今まで育ててくれたとーちゃんかーちゃん、それからねーちゃんありがとうございました。

 なんちって。

 最後くらい恨み言言っていい? 流石に高校生になってまでねーちゃんの過干渉ぶりはキツかったです。

 輪廻転生っていうのがあるなら、今度は干渉されずに生きてみたい。

 

《確認しました。■■能■『干渉拒絶』獲得……成功しました》

 

 つーか、さっきから流れる声は誰よ。あれかな、死後願いを叶えてくれる女神様とか?

 じゃあお願いしたいんだけどさぁ……。カムラの里でお団子作ってくれる女の子って誰だった? 最後にあの子のことちゃんと知ってから死にたい。ウ○キ知識でいいから。

 

《確認しました。ユニークスキル『団子者(ダンゴノモノ)』を獲得……成功しました》

 

 おいなんで団子の部分だけ聞き取った? こいつポンコツか?

 俺は! 団子の女の子のこと知りたいって言ってんだよ! ライズで知ってるの受付嬢とか琵琶法師くらいだけに抑えてたんだよ! ネタバレ嫌いだから! でも死ぬならもうネタバレ解禁だから!

 

《確認しました。ユニークスキル『琵琶法師』の獲得……成功しました》

 

 おいおい待て待て待て。なんで琵琶法師だけ聞き取ってんだよ。受付嬢のとこか団子の女の子のとこで聞き取れよ本当に何なの???

 

 ……よし、物は試しだ!

 

 女神様! 植物を操るスキル下さい!

 

《確認しました。植物に関するスキル検索を開始……ユニークスキル『栽培者(ソダテルモノ)』の獲得……成功しました》

 

 

 ――――なんでこれは通るんだよォォォ!!!

 

 

 じゃあ団子の女の子について知らせてくれたっていいじゃん!

 なんでそこは頑なに教えてくんないんだ!

 ふん、もういいんだ! こうなったら俺は適当に注文させてもらうぜ!

 

 女神様! 俺を宝くじ毎回引けば一等当たるぐらいに幸運にして下さい!

 

《確認しました。エクストラスキル『幸運』の獲得……成功しました》

 

 次は……俺の体、龍にして下さい! なんかいい感じの!

 

《確認しました。これまでのスキルを発揮できる肉体を生成中。――思考検索、サルベージ完了。竜種に類する肉体の生成……成功しました》

 

 えっ、嘘でしょ。適当に願ったのが叶っちゃった?

 あ、今の嘘! 嘘です! 人間が良いです! あのやっぱにんげ――――

 

 

 

 

 

 

 大変なことになっちまった。

 俺の体、イナガミになっちまった。

 強制シャットダウンから目覚めてから急いで水場で確認したが、間違いない。モンハンラ○ズではなくモンハンフ○ンティアのイナガミだ。

 

 は???

 

 なんでイナガミ? 竹を生やして眠り攻撃出来るだけの古龍種ぞ?? これならもっと派手なハルドメルグとかのが良かったんじゃが???

 あれか? スキルが悪かったのか? もう何もわからぬぇ……。

 俺が目覚めた場所、誰もいない竹林だし。辺りざっと探してもだーれもおらんし。何なんだよ……。

 多分車? だよな? 車で事故って古龍に転生ってなんだよ。どこのラノベだよ。

 俺はラノベが読みたかった訳でも、既にサービス終了したフロンティアがやりたかった訳でも無く、ただモンハン○イズがやりたかったんじゃい!

 苛立ちに反応してか尻尾がびったんびったん動く。落ち着けよ。

 

 はぁ……。そういや、スキルとかなんとかって言われてた様な……。

 何だっけか。聞き取れた感じだと、団子者(ダンゴノモノ)、琵琶法師、栽培者(ソダテルモノ)、幸運……だっけか。後最初の方になんか防寒耐性みたいなことも言ってた気がする。

 ちょっと並べてみても意味が分からない。

 栽培者(ソダテルモノ)は……適当に植物を生やすスキル下しゃぁ! って言ったから何となく分かるけど、その前二つ。団子者(ダンゴノモノ)、琵琶法師だよ。何なんだよこいつ等。

 スキルってことはなんかの能力みたいなものがあるのか? 全っ然想像つかないんだけど。

 

《ベンベケベンベンベン…………》

 

 は? なんか頭の奥から琵琶の音がするんだけど。

 

《星の王者ァ~ 来たれりィ~》

 

 

 なんだこのおっさんの声!?

 

 

 いや、琵琶法師の声だコレ!?

 

 

 それに凄く体がひり付く感じがする。圧? みたいなのも感じる。

 な、なんだ。一体何なんだよぉ!

 

《ベベン……》

 

 途端に感じる風圧。目の前に大きく広がる翼と体。――さっきの琵琶法師が言っていたような、星。それを体現しているような存在感。いや存在感ってなんだよって言われてもそうとしか言えん。

 

「やぁ。随分と探したよ」

 

《あれぞこの世の王者ァ~ 星王竜が参られたァ~》

 

 なんか……凄そうな名前のドラゴン来ちゃった!

 ふむふむと言った感じでぐるりと瞳を動かして俺を見つめてきた。怖いんですけどぉ!

 

「……喋れないのかい?」

「いやいや、竜が喋れる訳がないんだよなぁ…………」

「喋れるじゃないか」

 

 本当だ!?

「改めてよろしくね兄弟」

「兄弟って……。俺と……アンタ……貴方が?」

「うん。今まで竜種は僕しかいなかったんだけど、君が生まれたことで世にいる竜種は二体になったよ」

「よく分からんのだが???」

 

 なんかさらっと凄い事言われて許容しきれなかった俺に、ヴェルダナーヴァと名乗り兄を自称するドラゴンは丁寧に教えてくれた。

 何度か聞いて分かったことだけど、この……俺が立ってる世界はなんと目の前のヴェルダナーヴァが作ったそうだ。

 アイエエエ!? と驚いたが、なんとなく作れそうなオーラは感じる。なんか鱗からヒシヒシと王者的なオーラは感じる。でも信じがたい。そういう設定を話す年頃か……?

 それを裏付けるように星幽体(アストラルボディ)精神体(スピリチュアルボディ)肉体(マテリアルボディ)の三つに分けられていて竜種はこの精神体(スピリチュアルボディ)をメインに動く精神生命体っていう設定も話してくれた。俺、もうこの時点でイミフ過ぎて頭パンクしそう。

 それから何気に気になっていた"スキル"とやらについても話してくれた。

 

「スキルは共通能力(コモンスキル)、エクストラスキル、ユニークスキル、究極能力(アルティメットスキル)の四つに分かれていて、自らの感情や願望が形となって魔素に働きかけ――――」

 

 あんまり分からなかった。

 

 でもヴェルダナーヴァの喋りは止まらない。

 なんとなくだけど、世界を作ったとか言うからスキルとかも自分が作った設定だから他人に喋り倒したかったとかかな。

 はえー……すっごと赤べこの様に首を縦に振っていたが、突然ヴェルダナーヴァが「あ」と声を出した。

 

「君に名前はあるのかい」

「名前ぇー? ……名前でしょうか?」

 

 今日出会ったばかりの不審な竜に名前名乗るとか無理。本名の四方山(よもやま)(たまき)以外で……うーん、あ、イナガミとか?

 良くね? 偽名としてもいいんじゃね? 早速採用俺天才!

 

「イナガミって名前はあるよ……あります」

「へぇ。イナガミ、あまり聞き慣れない名前だね。それは種族名かい?」

「そんな感じッス……です」

 

 

 一瞬の沈黙。

 

 

「気軽に話してくれていいよ? 聞き苦しいから」

「アッハイ」

 

 なんか王とかつくほど偉いドラゴンっぽいだから頑張って敬語で話そうとした結果がこれだよ……。

 直々に聞き苦しいってお前……はい、俺が悪うござんした……。

 

《哀れ~》

 

 は!?!? 琵琶法師に煽られたんじゃが!?

 

「うーん、イナガミ。そのままでも良いけれど、兄弟としては共通の単語が欲しくもある。良し、今日から君はイナヴェルだ」

「どういうこったよ」

 

 初めて会った竜から勝手に名前変えられた件。はー、こいつスゲーな。初対面の竜に兄弟呼び&世界を作ったとかいう話してから自分の名前の一部を付けた軽い感覚の名前付け。

 うーん……の後から何があったんだよっていう感じ。まるでペット感覚だな。

 

 ……俺はペットじゃぬぇ!

 こんな厳つい顔のペット嫌だわ!

 

「いやすまないね。何だか浮かれてるみたいだ。これから色んな種族を生み出そうと思った矢先に君の出現だ、嬉しくない訳がないよ」

「えぇ……」

 

 なんかしれっと色んな種族を生み出すとか聞こえたけどきっと気のせいだよね。

 でも何だか歓迎されてる感じっぽい? それは嬉しい感じはするし、なんか話の出来る人? 竜がいるのはいいかもしれない。

 

「そう言えばイナヴェル、魔素の扱い方が分からないのかい」

「なんだよ魔素って」

「…………」

《(頭が)哀れ~》

 

 ……的確にイラっとさせる琵琶法師の声と少し呆れた様なヴェルダナーヴァの目が痛かった。

 なんかね、確かに魔素とか説明を受けた気はするけどあんまりよく分からないっていうか。というか、我ここへきて一日目ぞ? そんな簡単に分かる訳、ア゜ーーー!!!

 ぶちましたわねヴェルダナーヴァ! 親父にもぶたれたことあるけど!

 いやそれよりも視界がやけにカラフル!

 

「これで少しは魔素が分かる様になったと思うけど……」

「な、なんかカラフルなのが魔素ってやつ……?」

「そう、今の君はその膨大な魔素が流れっぱなしなんだ」

「あらやだ恥ずかしい」

「流れを抑える様にしてごらん」

 

 抑える……? 魔素が流れっぱなしだってヴェルダナーヴァは言ってたよな……。

 イメージ的には蛇口の水を出しっぱなしってことか? ダメじゃん! 早く閉めなきゃ姉に絞められる(恐怖)

 こう、キュッとな!

 

「出来るじゃないか。この調子で人化まで行こうか」

「人化ですとな?」

「そう、竜形態から人間形態になっておくと色々と融通が利くからね」

 

 そう言ってヴェルダナーヴァの姿がすっと人間に変わった。

 ヤベェ! マジヤバ! 魔法じゃん!

 

「はいはい! 俺もなりたいです!」

 

 尻尾と動きで大主張した。だって人間になれんのいいじゃん! あの女神様も優しいもんやな!

 

「人化するにはより正確で高度な魔素の扱いが必要だけど……。でも君なら大丈夫だよね」

「なんか知らんが頑張るわ!」

 

 ハハッ! これは転生ガチャ勝ったな! 風呂入ってくるわ!(無い)

 

 



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家づくりで相談した件

日常系をつらつら
赤い悪魔は次話辺りに出そうな気がしないでもない


 

 

 魔素の扱い方指導、キツいッス(白目)

 

 

 

 もーこれ辛い、痛い、全身バキボキよ。ヴェルダナーヴァ、あんな優しい笑顔でやってること鬼なんだけど。

 俺は自分の魔素ってやつを抑え込むのだけでも手一杯だったのに、それを変形させて見ろとか、挙句の果てには炎を出して見ろとかはぁん???

 やりました。やってやりましたよ。でもやればやる程ヴェルダナーヴァから難題が送られてくるんだ……。

 正に無限課題地獄。でもお陰でなんとか人の形にはなれたっぽい。

 もう「顔だけが竜だよ」とか「体が竜で顔だけが人間だね」とか言われてないからな……。

 琵琶法師からも《判決~ 人竜もどき~》とか言われてないしな……。

 

 何日か日は過ぎてた気がするけど、今は夜中だ。あー大自然の中の夜空って綺麗ですなー……。

 地面がひんやりしててキモティー。

 

 ……ここまで来たら認めるしかないのか。ヴェルダナーヴァが今まで語ってきた設定が設定じゃないってコト……。魔素とかスキルとか、そういうの全部あり得る世界なんやなぁ。

 手をぐーぱーと握ってみる。俺が確かに見たのはイナガミの手足だった。近くの川辺で見たら更に確信させられた。普通イナガミとかの手が人間の手に変わる筈無い。それこそ魔法じみた物がないと。

 ――今更だけど全裸じゃなくて良かった。でもこの服なんなの、和服っぽいけど。

 

「……教えがいがあったというのはこういうことかな。君が来てからは初めての経験ばかりだ」

「ヴェルダナーヴァが誰かに教えるのは初めて? あんな分かりやすかったのに?」

 

 隣に座る気配。

 意識して聞けば、ヴェルダナーヴァの説明は分かりやすい。説明も一度聞いて分からないならもっと噛み砕いて教えてくれる。

 今までがキツかったの半分は俺の理解力が低いからかもしれなかった……。でも課題積み上げていったのはヴェルダナーヴァでしたよね?(手のひら返し)

 

「分かりやすかった、か。これは嬉しい、かな……」

 

 何かを感じてしんみりとしているヴェルダに何も言えなかった。

 

 折角完全に人になった姿の俺を見る為に水辺まで行くの面倒だから鏡出してとか言えなかった……。

 

 

 

 

 朝ダヨー! あのまま寝ちゃって体中バキボキが治らないよ!

 目が覚めた時にヴェルダナーヴァはいなかったけど一枚毛布が掛けられていました。気遣いが暖かい……。

 そして俺が今やることは一つ。人化した俺の姿を確かめることだ……。

 

 駆け足で姿を確認した俺、今生で一番勝ちを確信し――――?

 

「え、誰おま……」

 

 思わずこんな声が出てしまうくらいにはビックリ。水辺に映るのはなんだろう、顔が整ってるのが分かるけどイケメンという括りに入るかは分からない顔付き。あ、男らしさが無い感じだ。

 ショック! 同じ高校にいた野球部の磯野レベルに男らしい顔でこの背丈だったら良かったのに!

 ちなみに、磯野は俺の通ってた高校で有名な男子生徒だ。なんか動く度にキラキラなエフェクト掛かったり花が散ったりしていたのであだ名が「イケメソ野球王子」。女子からの人気が高くて悔しかったぜ……。

 

 ぐにぐにと顔を触ると水辺に映る人物の顔も同じくぐにぐにと顔を触っている。やっぱ俺なんだ。

 はー……、ここまで顔面違うと転生してきた感が出てきた。俺は本当に俺なのだろうか……なんつって。

 

 ともあれイケメンなことに変わりはない! 古龍と人の姿になれてお得!

 

 はっはっはっ! ……で、これから何すりゃいいんだ?

 かと思ったが、周辺地域の探索というものがあったな! よっしゃ折角だから地図作ったろ! 紙無いけど!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざっと見て回った感想。

 

 自 然 と 動 物 以 外 何 も 無 い 。

 

 民家? なにそれおいしいの? 状態である。マジで人が住んでる気配がぬぇ!

 それから個人的なことだが、腹が空かないこと、歩き続けても走っても疲れないことに気が付いた。

 前者はともかく、後者は身体能力がすごく上がっているってことなのか。いや軽くジャンプしたら背の高い木がすぐ横に見えたからそうだな。イナガミってスゲー!

 

 若干話が逸れたが、俺にはヴェルダナーヴァみたいに翼もないのですいすい島を移動することは出来ない。

つまりはこの島で暮らすことになる訳だ。向かい側に小島がちょくちょくあるのは見かけたけど……。

 人の手が入っていない、無人島で開拓。どこのDA○H村だ。あそこは福島だけど。

 

 これらを踏まえて、優秀な俺は島中で家を建てられそうな場所に目星を付けた。家を建てられるか否かはともかく。実はD○SH村とかの田舎ライフには少し憧れていたのは姉には内緒。

 姉ちゃんは虫嫌いだからすぐ発狂する。農作業や爺ちゃん家の手伝いなんてもってのほか。すぐGの者とか出たら俺に処理させようとするんだからあの暴君。

 

 まぁ姉ちゃんのことは置いといて。ああいう生活を送るとするなら景色の良い場所がいいよな。

 

 ということでやってきました! 島の中央部です!

 平地で日当たりも良くて水場もすぐ近くにあってと好条件。

 

 ここを! キャンプ地とする!

 

 しかしごく当然な問題にぶち当たる!

 

 家をどうすりゃいいんだ!

 

 《夸父逐日~》

 

 

 

 

 途方に暮れて早三日。琵琶法師に翫歳愒日(意味は分からないが確実に煽られている)と呟き続けられてノイローゼ気味になっていた。家建設予定地近くにある洞穴で渋々過ごしていたが、まったく腹空かないのな。なんかありがたみと気持ち悪さが両立してて気持ち悪い。

 今日もシクシク泣き寝入り。そんな所でとんでもない圧がやってきた。

 

 間違いない、ヴェルダナーヴァである。救いの手がやってきた。

 俺は早速ヴェルダナーヴァに泣きつくことにした。恥はあります、でもこの現状をなんとか考えてくれそうなのがヴェルダナーヴァしかいないんです! いつも農作で役に立つ爺ちゃんウィキも家は頓珍漢だし! 仕方ないだろ!

 

「神様仏様ヴェルダナーヴァ様ァ! 家の゛作り方を゛教え゛でぐだざい゛!」

「別にいいけど。どうしてそんな必死なんだい」

 

 勝った! 流石ヴェルダナーヴァ! ありがとうありがとう!

 俺ヴェルダナーヴァと知り合えてホントに良かった!

 

「家というのは僕が作りだそうとしている人間が住処とする重要な拠点であり――――」

 

 うーん???

 またヴェルダナーヴァの小難しい説明が入った。時折入ってくるこの説明はなんなんじゃぁ……。

 

「ということで、君の置かれている環境下で人間が作るであろうとされる“家”を想定して作ったのがこれだ」

「わぁい」

 

 聞き流してたらしれっと人型になってたヴェルダナーヴァの掌の上に家の模型が現れた。

 魔法って スゲー!

 でもこれ、藁葺という物ではなかろうか。到底現代人が住むタイプの家ではない。ボブは訝しんだ。

 

「今回も根気強く教えるから、頑張ろうね」

 

 にっこりと邪気の無い笑顔。あれ、なんだか前にも……魔素の扱いを教える時もそんな顔をしてませんでしたっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「づぇきた…………」

 

 次から次へと言い渡される説明。慣れない作業、スキル『幸運』が作用してないんじゃね?って頻度で手を金づちで打った。木や茅に何度も手を刺されまくって出来たマイホーム。中には何もありません。強いていうならヴェルダナーヴァがくれた毛布がある。

 ちなみにマイホームの素材やら道具やらはヴェルダナーヴァ手ずから集めてくれた。やっぱすげーわ、オニチクだけど。

 

 隣の石に座ったヴェルダから「おぉー」と声が上がった。

 駄目だ。人化の時みたいに立つ力がない。もう俺はここまでの様だ。バタンキュー。

 

「これが家かぁ……。うん、未来で見た通り、そのままだ」

「……未来で見た通り? もしかして、ヴェルダナーヴァって未来が見えんの?」

「そうだよ、君には……いや、僕以外の生命体には言っていないことだけど」

「未来も見えるのか……。すごいわ、すごいとしか言えんわ……」

 

 こんだけ色んなこと出来るんだし、世界を創世? したドラゴンだからか、何となく納得できた。

 

「未来は見えてもね、君の言う“すごい”には当てはまらないことも多い」

 

 

「――ボクには、未来で多様な種族と人間たちが笑い合う未来が見えている。でも、見えているだけで、何をどうしたらそうなるのかを推測するのは難しいんだ」

 

 

「あー……。スタート地点とゴール地点は分かるのに、そこまで行く道のりが分からない的な?」

「そういうことだよ」

「じゃあ、俺って未来ではどうなってんの? 可愛い女の子と一緒になってたり……なんちって」

「――君の未来は分からない」

「え?」

 

 ちょっと待て。どういうこった。

 思わず顔を上げて隣のヴェルダの顔を覗いた。眉を顰めてた。えぇー……?

 

 

 

 俺は……、俺は――……。

 

 

 

 未来でも……童貞(魔法使い(予定))…………なのか………………?

 

 

 

「いいや、正確には君に対する一部の干渉がこのボクであっても出来ない」

「なんじゃぁそりゃぁ……」

「ボクも聞きたい。君は一体何のスキルを――――何の願いを持ったんだ?」

「何の願い?」

 

 そう言って見つめてくるヴェルダナーヴァは真剣だった。目の奥の星がチカチカ光ってやがる。

 チョー怖いんですけど。俺そんな……モンハンラ○ズしたかっただけなんですけどぴえん。

 

「願いかぁ……」

 

 ――今にして思うと、死に際に願ったっつって女神様に言ってきた事、願い事だったか?

 なんかただの欲望だった気がするんだが。ヴェルダが聞いてくる願いってのは、こう、もうちょっとキラキラしい感じの奴だよな……。

 

 全部欲望だらけじゃねーか! しかも聞き取り間違いで得たスキルもあるし!

 どうしよどうしよ。なんて説明すれば……。

 

「分からん」

「は?」

「いや、そう言われても何願ったかなんて覚えとらんし……」

 

 すっとぼけぇ! ライ○の団子の女の子のこと知りたかった!

 でも絶対ヴェルダが聞きたいのは違うだろうからな!

 

「――これは想定通りの返答だね」

「これも、未来で見た俺の答え方ってことか?」

「そうとも言うし、……そうじゃないかもしれない」

 

 小っ難しい~! 俺頭脳派じゃないんで、パス! 誰かにパース!

 

「まぁ、追って君のスキルについては調べていくことにしよう」

「ホント? その口ぶりだとまた来てくれる感じだな。ヴェルダが来てくれると色々と助かるんだよなぁ~」

 

 煽りしかしない琵琶法師と脳内会話も辛いからな!

 ヴェルダが来てくれると孤独に打ち震えていた身が癒される……。この言い方はねーわ!

 多分老人ホームの爺ちゃん婆ちゃんたちが話し相手を求めるのと同じ心境。誰かと気軽に話せると結構ストレス解消になんだよね。話が通じる場合に限る。

 

「なんだかよく分からんけど、これからもよろしく願いたいぜ」

「見捨てはしないよ。折角出来た弟だからね」

 

 話してる間に優秀な俺の体は疲労が回復したのか、立ち上がることが出来た。

 ヴェルダナーヴァに向かって手を出した。握手の構え!

 ヴェルダは暫くぽかんとした後、手を握り返した。え……、まさか握手を知らない系……? いやそもそもドラゴンだから、握手なんて文化を知らない可能性があるのに何故ヴェルダが知っている……?

 

 ま、全知全能的なヴェルダだから知ってるんでしょ(投げやり)

 なんとか握手が出来たので良し。家も出来たので良し……。あ、一番大事なこと言ってないわ。

 

「ヴェルダ、色々とありがとな」

「ボクは君に材料と知識を教えただけだよ」

「それだけでも、だ。知識も、材料も無かったら家は作れんし」

 

 ほら、これからもよろしくでっせ。

 主に俺のDAS○村生活で壁にぶち当たった時の相談役としてな……。

 

 



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畑作った件

ごめん赤い悪魔くんの出番はもうちょっと後だゾ


 

 

 皆は、運命の出会いってしたこと、あるかな?

 

 

 

 ――俺は現在進行形で会ったよ。

 

 

 

 すっと垂れた金色の頭。根元からすくすく伸びる、緑の葉。風に靡いて揺れる――稲穂

 

 

 

 「運命……感じちゃう……」

 

 

 

 何故だか胸の高鳴りが抑えられない。それは、穂が出始めて色付く前の状態。爺ちゃんの畑で見た奴だ。

 これは何かしらのお告げなのかもしれない。さっきから脳内の琵琶がベンベコ鳴り響いて止まないんじゃぁ~!

 

 だがしかし、収穫が出来るまではあと少しと言ったところか。今の状態を持ち出すのはちょっと不安なので穂が垂れるまで待つことにして、この場所を覚えておくことにした。

 

 ――その瞬間、脳内に流れた驚異の選択肢。

 

 

 

 俺のスキルっつーやつで、あの稲……収穫期まで成長できんじゃね?

 

 

 

 でもすぐに爺ちゃんから「ばっかもーん! 自分で育てるからこそ作物は美味いんじゃ! 恥を知れぇ!」と声が聞こえてきたので止めた。

 ごめんよ爺ちゃん。それからありがと爺ちゃん。爺ちゃんペディアはイナガミになった今でもはっきり覚えてるよ。

 

 てな訳でちょくちょく様子を見に行くことにしよう。快適なD○SH村生活には農作物が必要やんな……。

 そしてそれを育てるための畑も。

 

 

 

 

 実に古民家的なマイホームが出来た後、ヴェルダは去っていた。なんか「人間の形を作るコツがやっと掴めた」とかなんとか。アイツもアイツで忙しそうなんで曖昧に頷いておいた。また昨日のようにしれっと来るだろうし。

 ヴェルダの助けを得て雨風凌げるマイホームが手に入った俺は、まず寝た。朝に寝たら起きたのは夜中。ぼちぼち散歩してたら運命()に出会ったという訳だ。

 そっからまた寝たら朝に起きた。日も出ていて程よい涼しさ。これはもう畑作るしかねーな。

 

《 農具無き 竜が意気込み 夏のあと 》

 

 ……。そうだな、農具……、鍬も鋤も鎌もスコップも無いな。

 だがしかし、いつまでも煽り倒されている俺ではない。ちゃんと代用案がある。

 

 その名も『農具が無いなら竹を使えばいいじゃない!』だ!

 

 いやね、金づちとかはヴェルダが支給してくれたものがあるけど、それはまた追々……。今度ヴェルえもんが来た時に頼りにさせてもらうぜ。

 

 それよりもなぜ竹なのか。それは一重にイナガミというモンスターが竹を生やす古龍だからとしか言いようがない。

 竹を咥えてぐるりと薙ぐ攻撃や、竹林を蹴って方向の急転換をしてくるとか。一番分かりやすいのはフィールド中央まで歩いていくと地面から一斉に竹を生やす攻撃だ。

 

 原理は不明だが、イナガミは竹を生やす。

 竹生えろと念じただけで隣ににょきっと竹が生えた。そうこんな風にね!

 

 Foo! これが本当の「竹生える」だぁ!

 

 知ってるか? 竹は硬い。でも俺が格好良くシュパッと手刀で切ると柔らかい……。

 違う違う、普通に竹は硬いから土を耕すくらいはできるんじゃないかって話だ。多分こんなこと考えてたら「鍬を使わんか! 鍬を!」という爺ちゃんの声が聞こえて……聞こえてきちゃった……。でもごめん、俺はそれでも畑を竹で耕してみたい!

 

 《田夫野人~……》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 普通に苦行。

 農具の大切さを知った。

 

 体力のスタミナはあるんだよ、スタミナは。精神のスタミナが先に切れちまった。

 ひたすらちまちまちまちま狭い範囲しか耕せないのでモチベーションだだ下がり。

 畑予定地の半分で諦めて、島中駆け巡って遊んだ。家に帰ってきて作業途中の畑を見てうんざりした。

 でもこのまま引き延ばすのも何だかという思いで半分耕して……地面に倒れた。家のすぐ近くに作ったはいいものの、家まで立って歩く気力がありまへんて。

 

「……いつ見ても綺麗ですなー」

 

《星空にこそ~ 星王竜の宮ぞありける》

 

「へー……。ヴェルダは空に住んでんのな。もうそれ位じゃ驚かないぞ」

 

《地に住まう竜とは 無様なり》

 

「お前ずっと悪口しか言わないのな!? 流石に傷付くぞ!」

 

 ベンベケベンベンベンで誤魔化そうとするなや。うるさいと思うのはこっちなんやぞ。騒音で訴えてやろうか!

 

 あー、あー! すっごくうるせぇ! 琵琶の弦切れてるんじゃないか!?

 

 もうマジ病み……。琵琶法師つらたん……。家帰って寝よ……。毛布しかないけど……。

 

 そそくさと立って家に入る。

 若干肌寒い夜ではあるが、毛布一枚で大丈夫そうだ。

 木の床は堅く、速攻で毛皮か何かが欲しい。いざとなればヴェルダにベッドの注文も辞さない。

 毛布を被って寝る。もう琵琶の音も聞こえないし、絶対疲れてるので寝れる筈なのだが、眠れない。

 

(やっぱ死んじまったのかなぁ……。死んじまったんだろうなぁ……)

 

 恐らく死んで? あの女神様にぐだぐだ言って? そしたらこの島にいた訳だ。

 友人の佐々木がよく読んでた流行りのラノベ、異世界転生ってやつそのままなんだろうな。

 ある日突然死んだ社畜のサラリーマンとか、高校生が異世界で転生して人生をやり直したり、ハーレム作ったりってやつ。

 俺もよくよく考えればそんな状況な訳だ。佐々木が体験したらきっと興奮して「ステータスオープン!」とか言っちゃうんだろな……。俺もラノベは読んでた方だけど、異世界系じゃなかったし……。

 

(でも記憶持って転生ってつらたんな気がする)

 

 そこが一応現代と変わらないならまだしも。ここみたいな魔素とかスキルとかが普通に横行してるような世界で、かつ……多分…………考えたくもないけど……。

 

 

 

 ヴェルダからの言葉じゃ、まだ『人間』っていう種族はいないというか、神話で言うなら創世期近く?

 

 

 

 そんな時代に転生しても……分かるだろ……?

 

 

 

(普通さ? なんの取り柄も無い俺が転生出来てんだから、もっと違う人とかが先に転生してさぁ?)

 

 (――日本食とか開発してくれるんじゃないの?)

 

 

 

 醤油、味噌、そして何よりも……米。

 きっと記憶を持って転生したなら日本食が恋しくなる筈だ。……転生してきた人が日本で住んでる人なら、だけど。

 俺より先に転生してるんならきっと開発してくれてた筈なんだよ。

 

 でもさぁ、それが無い訳じゃん!? 俺が最初期っぽい訳じゃん!?

 

 人間がいないってそういうことじゃない!?

 

 しかもこの世界じゃ竜って腹が空かないみたいだし、それこそヴェルダが人間を作ってそこに誰か転生するまで日本食を…………待てないんだよなぁ! この野郎!

 

 稲見つけちまった時に想ったんだよ!

 

 

 

 白米食いてぇ!!!

 

 

 

 そんな切な願いすら叶わないのがこの世である。誰も日本食を知らない……。

 俺だけが日本食を知っている世界……。

 あれ、なんだかどっかの漫画で聞き覚えのあるタイトルだな……。

 

 そうじゃん。日本食に加えて漫画もゲームも無い。俺が暇な時に時間を潰していた娯楽類全てが、無い!

 

 だからDA○H村生活とかで気を紛らわそうと直感的に考えてたんだ。それに憧れてたのもあるし…………。

 

 ……いや、それよりも。

 

 続けようとして止めた。

 

 

 

 

 あれから一週間は経った。ヴェルダが来ることもなく、俺は着々と畑づくりを進めていた。

 

 畑は気合を入れてふっかふかの栄養分をたっぷりにする為にありとあらゆる肥料になりそうな物をピックアップして詰め込んだ。その隣には川から地道に竹で土を掘って作った水路。

 そう水田だ。これはあの川辺の稲から種を持ってきてここの畑に植える計画である。

 家から少し離れた所にも新しく畑を作った。そこは家庭菜園で手の届きそうな物を植えていく予定だ。

 

 その為に植物が群生して生えている地帯、即ち森。そこへ出かけようとした時である。

 

 あの圧と……琵琶の音、それから何やら妙な感じがして、ヴェルダナーヴァが家の前に降りてきた。

 妙な感じは……ヴェルダの後ろにいる羽の生えてる人間からだった。なんだろう、イメージを言うなら天使的な?

 

「やっほヴェルダ。その後ろの人達は?」

「よく聞いてくれたね。ボクが初めて作れた種族――“天使族”さ。この子達はその始まりの七体という訳だ」

「はえー……。こんちは~」

 

 挨拶をしたが軽く顔を傾げられただけだった。

 

 えっ……、俺初対面からそんなに好感度低いの……? 知らない奴でも挨拶されると反射的に返さない? あ、返さない方ですか……そうですか……。

 

「ただ難点なのが、今はまだ自我が薄いんだ。だから、今は僕の身の回りの手伝いをさせて自我の芽生えを待っているんだ」

「自我が薄いのかー……ん?」

 

 よっしゃ、挨拶返されなかったのは好感度が低いうんぬんの前に挨拶ということを知らない可能性が――。

 

 しれっと言ってるけどええええええ!?!?

 

 なんでそう粘土細工作ったから見てみたいな軽い感じに種族を作るの?

 ヴェルダだから? ヴェルダナーヴァが世界を作ったからですかそうですか……。

 落ち着け俺。スーハー……。深呼吸だ深呼吸……。

 

「じゃあ改めまして、俺はイナガ……イナヴェル。ヴェルダナーヴァの……」

 

 ――あれ、俺って弟なの? 弟って認識なのか?

 

 でも俺また弟かよ。何か癪だな。

 

「ヴェルダナーヴァの友じ「待とうか」なんだいヴェルダくん」

 

 掴みかかられたので咄嗟に手を掴んだ。互いに譲らぬいい勝負――なのは俺の願望であって。

 実際はヴェルダの方が力は強いので俺は押され気味だ。ぴえん。

 

「君はボクの兄弟、弟だって言った筈だよね」

「なんか弟って称号は癪だからつい……。それに竜の形見てもどこも兄弟じゃねーじゃんか」

「これが……悔恨と憤怒か……。キミには毎度驚かされるよ」

 

 弟嫌です! 逆にヴェルダが弟でも嫌だけど!

 だったら俺達の関係を現すに相応しい単語はただ一つ!

 

 友人関係それだけだァ――!

 

「いいかい。彼はボクのだからね、確実に覚えておくように」

「「「了解しました」」」

「ひぃん! 外堀埋められてる気がするゥ!」

 

 つかみ合い勝負は無事ヴェルダが勝利し、倒れそうになった所を支えられた。あらやだ紳士的。

 

 でも弟扱いは許さんぞ。許さないからな!

 

 無駄な抵抗もそこそこに立話もなんで、ということで家に設置された縁側に座って話す態勢に。でもあの七人の天使とやらは座らず、立ったままじっとこちらを見つめてくるばかりだ。怖いんですけど。

 

「あのー……、まだ縁側にスペースあるんで良かったら座って……」

 

 一斉に首を横に振られた。ねぇ、これ本当に嫌われてない? 俺嫌われてるんじゃないよなヴェルダ??

 じっとりとヴェルダを見てもそっちも軽く首を横に振るだけだった。

 

「ちょっと忠誠心を強くし過ぎちゃったかなって」

 

 まるで「お菓子に砂糖入れ過ぎちゃった♡」みたいなノリで言うもんだから口を閉じた。

 

「天使族、今はボクの指示に忠実に従う種族だ。けど、いつかは自我が目覚めるってボクは確信している」

「自我かぁ……」

 

 いわゆる指示待ち人間ってヤツなのか? ちょっと俺にはそういうこと分かんないから……。

 そうだ、琵琶法師にパス。

 

《あまりにも無用ォ~》

 

 畜生! でも分かったぞ。天使たちよりこいつの方に俺が嫌われてることがな!

 

《今更ァ~!》

 

 琵琶法師に嫌われてるのは確定だが、まだ天使たちには嫌われてない。そう思いたい。

 この件はそれで片付けて、気になったことをヴェルダに聞くことにした。

 

「それはそれでいいんだけど。この人達に名前あんの?」

「勿論あるとも。左からフェルドウェイ、ザラリオ、オベーラ、コルヌ、ディーノ、ガラシャ、ピコ、だよ」

 

 名前を呼ばれた順に頭を一回下げた。でも無表情。

 それでも一応顔付きとか髪型とか体格とか、外見はかなり違っている。だからこそ、皆同じ無表情なのが怖いんだよ。

 フェルトウェイさんは金髪で、ザオリクさんは黒髪で神経質そうな顔だし、オペラ……さんは美女だし。それからコルクさんにピーノさん、ガラシャさんにピコさんも体格が良かったり、はたまた幼女だったりと個性豊かなメンバーっぽいのに全員無表情。

 

「フェル()ウェイさんにザ()()()さん、オ()()さんにコル()さん、()ーノさん、ガラシャさんにピコさんね」

「ちょっと違うかな。もう一度言おうか。フェル()ウェイ、ザ()()()、オ()()()、コル()()()ーノ、ガラシャ、ピコ、覚えた?」

 

 あ、全然間違って覚えてた、ハズカシー。でも今度こそ覚えたぞ。

 

「これからボクは天使族以外の種族も作ろうと思うんだ。それで、忙しいボクの代わりに彼らを遣わせる時があるからね。間違っても攻撃しない様に」

「分かったー。今回はそれだけ?」

「いいや。君と話がしたくなって、彼らの紹介ついでにやってきたのさ」

「へぇー」

 

 それからヴェルダと畑について話した。

 

 

 そして 俺は 農具を 手に入れた!

 

 同時に 製鉄技術も 仕込まれた!(体の節々が痛い)

 

 

 




団子までの道が遠い……遠くない?


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唐箕作った件

Q.(団子の登場)まーだですかね

A.まだです。このままじゃタイトル詐欺になっちゃう……(恐怖)


 農具せびったら製鉄技術についてみっちり仕込まれた。ありがたいが、やっぱり鍛え方が苦しいので辛い。

 ヴェルダは家付近の山が鉱山であり、そこから鉄や様々な鉱石があると言っていた。

でもさぁ……、ヴェルダがくれた金づちとか農具とかに使った鉄って……手のひらから生み出してませんでした?

そう? 違う? あ、やっぱそうなの……。

 

 色々と突っ込みたいことはあったが、ヴェルダは早々に天使族を引き連れて帰っていった。

 それから数か月は経っている気がする。ちょくちょく天使族のディーノさんやらガラシャさん、ピコさんがやってきてヴェルダの現状を知らせてくれる。

 なんかとうとう人類作ったらしい。この前まで巨人族(ジャイアント)だの妖精族(ピクシー)だの吸血鬼族(ヴァンパイア)とファンタジーな種族ばかり作っていたのに。

 こりゃ誰かが俺みたいに転生してきて日本食開発も間近やな!

 

 そう思っている俺がやっていることと言えば、稲作である。やはり俺の方が米にありつく可能性が高かった、か……(絶望)

 なら仕方ねぇ。俺が日本食の伝道師になったらぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今や冬過ぎて春。水張った田に種籾から育てた苗を植え付ける作業だ。いわゆる田植えの時期。

 この日に向けてチェックした場所の稲を刈り取って、種籾を取り、それを苗に育てておいた。その際に作業用の小屋も建ててみた。ここ最近天使族メールしか送ってこないヴェルダが来たらきっと俺の天才具合に驚くことだろう。いや、そんなことも……ないか!

 加えて、森で実っている作物を取ってきて種を取って時期の物は畑に植えたり、釣竿作って魚釣ってみたり、気配と魔素を極限にまで抑えて動物の生態観察とか、山の方で鉄鉱石取ってきたりとかもした。おかげで暇にはならならず、充実した時間を送れた。

 

 と、同時にもう俺がこの世界に転生してからそんなに時間が経ったのだ。そこまで過ごすとまぁ、魔素とかスキルとか異世界にも馴染みが出てきた。動物にもスキルらしい物を使われて攻撃されたし、ただの木かと思ったら急に手足を拘束してきたとかもあった。あれ、本当にびっくりしたわ……。

 

 感想はおいといて、さーて育てた苗を手製の畑で植えるドッキドキのお時間だ。収穫した時、美味しい米になって欲しいので植えると同時に『栽培者(ソダテルモノ)』ってスキルで働きかけてみる。美味しくなーれ、美味しくなーれってさぁ。

 きっとこうやって念じて稲の世話をしていれば美味しくなる筈だ。目指せコ○ヒカリ。

 

 

 

 

 この島の気候は大方日本と同じだった。春夏秋冬があって、春は桜の木っぽいやつが花を咲かせて、夏には葉っぱになる。秋は木々が紅葉して、冬には雪が降りやすい。

 田植えから稲の面倒を見ていると日が早く過ぎたように感じる。もう秋になっていた。

 

「おぉ……」

 

 奇跡的に病気にもならなかった。その場合の対策……、薬とかどうしようと思っていたから幸運だった。

 家を出るとカラッとした日が差す。この日の為に田から水を抜く落水を行った。とうとう収穫の時期という訳だ。

 あー、でもこの目に広がる光景を写真に残したい。

 じいちゃん俺、やりましたよ。ホントじいちゃんペディア大活躍。ありがとう意地でも稲作のことを教えてくれて。

 

 じーんと感傷に浸るのもそこまでにして、さっさと稲を刈ることにした。

 この日の為に作った草刈鎌。丹念に研いでおいたのだ……。ふっ、ヴェルダから培った製鉄技術が早速役に立ったぜ。

 え? 手動なのかって? 俺にはコンバインを作る技術は無いから当然だな。

 

 しっかり稲株を持ってさっくりと。唸れ! 俺のじいちゃんから仕込まれた稲刈り術!

 ふっふっふっ、小学校の頃は稲刈りの鋭さから「稲のカマキリ」って言われてたんだぜ。家族の中でだけど。

 でもカマキリだとしっかり稲株持てないからダメだな。ちゃんと一本ずつ持って切り取ってやんないと。

 

《魔法でやればァ~ 一気に刈り取れるゥ~》

 

 ふっ、馬鹿だな琵琶法師……。お前、そんな態度だとじいちゃんにしこたま叱られるかんな!?

 (そんなじいちゃんでも年が経つにつれてコンバイン使ってたけど)

 

《理解不能ォ~》

 

 まぁ琵琶法師はスルーして。サクサク刈っていく。稲の場所が近いなら二つ一気に握って刈り取っちまうぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにはコンバイン(以下略)。ということなので、じいちゃんペディアから稲架掛けという稲の水分を天日干し乾燥させてから脱穀・籾摺り・精米作業に行くぞ。なお機械は無いので手動(or出来るだけ手動の仕組みを持った農具を自作する)である。

 

 悲しいかな……。

 

 一応、千歯こきっぽい物と、それで取り出した籾を入れたり藁を選別する箕という容器は作った。ふるいは必要になると思って作りたかったけど、意外と難しくて制作難航中。針金作り難しすぎんよ~……。

 

  むーん。ヴェルタペディアやじいちゃんペディアから得た知識で聞いた仕組みを再現する、これが中々難しくって考え込んでるとつい寝てしまう。元々そんな深く考えられる方じゃないんだ。

 稲架掛け用の干竿は出来た。でもその後だ。千歯こきした後、更に籾やゴミ、更には殻を選別することが出来る、ふるいの代わりともなる唐箕。ハンドルを動かして内部に設置した四枚の羽の板で起こす風の力でそれらを分別する……とは聞いた物の、再現するのがホンット難しい。

 

 悩ましい。実に悩ましい……。

 ここに来てから俺は工作に掛けて天才的な技術力を発揮している筈なんだが……。

 これはヴェルダサポート案件? でもアイツ最近本当に来ないんだよなぁ……。この前ガラシャさんが持ってきてくれた伝言だと「人間が可愛いから暫く見守ってるね」とか抜かしてたしよぉ!

 はー、やだやだ。こう、俺が困ってる時に来てもいいんじゃね…………。

 

 ――はっ。これは“甘え”か……?

 

 確かに、今までヴェルえもんは困って泣きついたら呆れたような面白そうな顔で教えてくれたが。

 

 ……もしや愛想が尽きた……とかか?

 

 いやいやいやいや……。やけに弟なんて気にかける位だからそんな筈は……。

 え、ちょっと。ヴェルダに愛想尽かされたらこの世で生きていける気がしない。

 相手はあれだぞ。世界とか種族とかひょいひょい作る輩だぞ……。今更だけど、俺、不躾な態度しかしてなくない? でも敬語で話そうとすると不愉快とか言われたよな(絶望)

 

 もっとちゃんと敬語学んでゴマすっとけば良かったぁ~~~!!!

 そうすりゃ可愛い弟として愛想をまだ尽かされなかったかもしんぬぇ!

 

 でもそれはそれとして弟扱いは癪だしな(豹変)

 というか全知全能的生物に擦れるゴマってあるか? にっこにこしとけばいいのか?

 だったらいつもやってるな! はい! 問題迷宮入り!

 

 もうやめよ。悩むのやめよ!

 今は唐箕が作れるか否かが問題だ。

 いんや、作れるか否かじゃない。俺が! 今ここで! 天才的頭脳と力量を発揮して作らなければならんのだ!

 そしてゆくゆくはコンバインを制作する! 決めた!

 

 俺は決意を新たに、刈り取った稲を竿に干した。この稲架掛けの期間が終わる前に唐箕を作ることだ。

 そうして俺は、稲の様子は見つつ、作業小屋に籠ることにしたのであった。

 

 

 

 

 ――戦いは熾烈を極めた。

 

 木はすぐ生やせる。そして斧で刈り取って木材に加工することが出来る。

 だが問題はそこからだ。今まではヴェルダサポートもあって簡単に作って来れた農具。しかしそれは単純な仕組みだ。何かを切る、耕すなど、複雑なことを目的にして作った農具は、無い。

 しかし、今の俺は複雑(当社比)な仕組みを持つ農具に一人で挑戦しようとしている。

 

 小学校の工作の評価は底辺から一つ上。これでレベルはお分かりになるだろうか。

 だが、転生してからは異様に良かったのだ。このままだったら工作の評価は最高値を取れるだろうと思えるほどに。

 だからこそ、調子に乗っていたからこそ――辛かった。

 

《物作り 不得手な竜が 喚き出すゥ~》

 

「うぉおおおお…………」

 

 俺は地面に転がった。木くずが服や髪に付くのも構わず崩れ落ちた。

 

 ――俺は唐箕モドキを作った。しかし、多大なる頭痛と熱を引き起こすことを代償に。

 

 ――世の中は厳しい。俺にコンバイン召喚という魔法を与えなかった、それ故に起きた悲劇。

 

「い、今琵琶やめろ。ガチでやめろ……ぐぉおおぉうぉぉおおおん……………」

 

 ハンドル自体、作るの難しかったな……。ささくれ、めっちゃ指に刺さったな……。何度も作り直したな……。

 ハンドルの動きで内部の羽を動かすことを連動させるの、難しかったな……。最初から四枚にしとけば良かったのに、全部作り終えてやすりがけも終わった後で「これ、風力が強すぎるんじゃ」って……。数が多い方がいいだろと思って六枚羽を作らなきゃよかったな……。

 

 遠目になりながら俺は今までのことを思い出す。おぉ……、今なら工作の評価標準値取れるんじゃね……。

 

「ディーノから報告があったから来てみたら……何やってるの?」

「……へっ。何故かヴェルダの声が聞こえる気がするが俺には聞こえねーな……」

「それ聞こえてるよね? 新手の排斥方法かな?」

「排斥出来んのは……藁と籾殻だぜ……」

「いや何言ってんの……」

 

 すげぇ。ヴェルダのガチ困惑声聞こえてるわ。これは夢だな。

 疲労の後で見た夢か。へへっ、これにはさしものヴェルダも驚いて俺を褒め称え……ないな!

 単純に褒めたら偽物のヴェルダに違いねぇ! アイツは褒めたと思えば次に課題を持ってくるようなヤツだ!

 

「へぇ。この仕組みの機械、君が作ったの?」

「……れだけじゃ、ねーわ。俺……けじゃ……これ、は……作れ……ね…………」

「おーい。おーいってば」

 

 頬がベチベチ痛い。でも辛いから寝る。気合入り過ぎて徹夜して作ったんだ。眠くて仕方ない。

 ははは、徹夜とか乙。じいちゃんから叱責もんじゃん。なんでそんなに熱くなってんだか。

 「畑作業するヤツはしっかり寝てしっかり食わんと体がもたん」って、よくじいちゃん言ってたな。

 それ聞いて父ちゃんが、「じゃあ父さんには関係ないな」っつって、「うるさいわい」ってじいちゃんが言って、母さんが笑って、姉ちゃんも笑って……。

 

 

 

 あぁやだな。なんでそんな夢、見てんだろ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ、とヴェルダナーヴァは寝落ちた兄弟を見た。工具を持ったまま大の字で寝ている姿からは竜種としての威厳はまったく感じない。

 それでも、木くずを巻き込んで頬に伝う涙は印象的だった。

 

「帰りたい、ね」

 

 小声で聞こえた言葉を反芻した。

 

 空に大地と、天星宮から降り立って作った世界。早速作り立ての世界を吟味していると、突然自分と同じ気配を感じた。

 そこには自分とは違って翼は無いが、限りなく自分と同じ種が立っていた。

 

「彼は一体どこからやってきたんだろう」

 

 言葉にしてみたが、その時点である程度の予測は付いた。

 けれどそれを口にするよりも、彼の竜が口にした言葉から感じ取れた感情の方が難解で、ヴェルダナーヴァの興味をよく惹いた。

 

 寂しさを含んで、何かを希う。

 そんな気持ちを表す言葉を、ヴェルダナーヴァは知らない。

 

 




▽スキル『道具作成』を獲得


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団子作った件

念願の タイトル 微回収


 やったぜ。

 

 誰に言うでもなく、俺はガッツポーズをした。

 なんだか一度気絶してから調子がいい。良すぎてなんか色々と道具を作れたぜ。

 唐箕だけじゃなくて石の挽き臼、中断していたふるい、鍋、土器、果てには家に厨房を作るまでに至った。

 

 やべぇな。俺天才すぎて誰かに命とか狙われそうだな!

 

 ルンルン気分で俺は早速稲架掛けの終わった稲を千歯こきmark.2(改良した)で籾を分離させていった。

 なんか稲の数に反して滅茶苦茶穂が多いけど、……これって『栽培者(ソダテルモノ)』のおかげか?

 なんだ、結構効果あるじゃん! これからもドシドシ使っていくぞぉ!

 籾の抜けた藁には使い道があるので残しておこう。

 

 次は頑張って作った(超重要)唐箕で藁と種籾と、籾の中でも中身のない籾との分別だ。

 地面に散らばる籾を集めて上の投入口に入れる。そして唐箕の横に付けたハンドルを回すだけで……。

 

 

 

 フォォ~ン……。

 

 

 

 籾と藁、そして良い籾と悪い籾が選別出来るって訳よ! でもめちゃうるさい。だがしかし、ちゃんと動いているのでヨシ!

 

 もうやばい、作った唐箕が動いてるだけで泣いちゃう……。

 

 俺優秀過ぎるでしょ……。

 

 選別された種籾の中でも次の田に備える物と、折角収穫したから白米食べたいよねということで食用目的用の種籾とで別々に保存容器に入れた。唐箕で分けられた籾も適当に入れてある。藁もまとめてある。

 これで脱穀作業は終了だ。次は籾摺り。俺が目指すのはつやつやの白米だ。

 

 食用目的の籾たちを持ってマイハウスに入った。

 へへへ……。俺の手製挽き臼でグオングオン回してやればなぁ!

 

 出来ました! 玄米!

 

 ここから更に精米! 精米! 精米ィ!

 

 

 

 そうして出来上がった白いつやを持つ白米に――俺は感動した。

 

 これを一粒残らずかき集め、器に入れた。

 今回はお試しということもあって、畑の半分だけを使って稲を育てた。器に入っているのは――文字通り、俺とスタンドじいちゃんの知識によって作られた努力の結晶だ。

 

 先日までの俺なら、これを白米として速攻で洗って作った釜で蒸してとやっていただろう。

 しかし今朝、俺のスキルとやらに『団子者(ダンゴノモノ)』という妙なものがあることを思い出す。

 

 このスキル、『栽培者(ソダテルモノ)』とは違って用途が一切不明、女神様のうっかり☆な聞き取り間違いにて取れたスキルだ。

 多分、団子とつくからには団子に関係したスキルだと思われるが……。

 

 ――今なら団子、作れるんじゃね?

 

 そんな悪魔の囁きに……、この天才の俺が負ける訳……! 白米への誘惑が負ける訳が……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるんですよね。フッツーに気になってるから今から団子に加工してやるぜ(豹変)

 

 玄米を挽いた後の糠を取り除いてこれも保存。捨てる所が無いとは正にこのことだよな!

 さてさて、この臼の中に折角水洗いして乾かした白米を入れて挽いちゃいます。おらおら、もっと臼に潰される気分はどうだよ、おらぁ。この時、水を使って挽くと白玉になる。でも今は普通の団子こと上新粉が欲しいので水は使わない方法で挽いている。

 

 ――なんで俺がそんな知識知ってんだよ!?

 

 あれか、『団子者(ダンゴノモノ)』の効果なのか!? 団子への理解力が深まるとか???

 俺まっっっったく団子とか餅の違いを知らなかったのに、今じゃ詳しく言える……。やっぱスキルのせいだな!

 

 この竜のスタミナパワーがあればどうということはなく、挽き終わった。

 さっそくこの粉たちにぬるま湯を浴びせてこねくり回す拷問をしていくぞい。

 ほれほれ、どうした、ビビってんのか? もっと密にならなきゃダメじゃないか! 

 おら、早くまとまるんだよ。そうしたら少しずつお前たちを千切って茹でてやるからな!

 

 ということで出来上がった団子。だが何だか物足りない。

 

 そこにお気付きの貴方。

 

 これから毎日団子を焼こうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は優秀だかんな、藁葺の家と言ったら囲炉裏やろと作っておいた。

 そして炭も作った。これは科学の知識を総動員させて無理矢理な方法で作った代物だ。

 木や竹を燃やさず炭化させるには酸素が入らない事が重要な訳だ。そんな密閉空間を簡単に作れるのはアルミニウムくんくらいしか思いつかない。

 

 しかしここはどこだ。未開拓D○SH村だ。

 アルミを製造してる会社なんて無いんだよな!(絶望)

 

 だからな? 俺は炭にする木や竹を燃やした後、土で被せた。

 その後、無事に炭が出来たんだよな! その炭を囲炉裏にセットして寒い夜を凌いだりしてる。

 

 まぁ、なんだか色々と不便さを体験して無理矢理作ってんだ。

 そしてそんな囲炉裏で焼く、色んな手間の籠った団子。

 

 いかん、涎が出てきた。美味いかも分からんのに、いや絶対美味いな。

 俺がこんだけ手間暇掛けて作ったんだから美味いに違いない。

 

 じっくりと焼き色が付いていくのが見えた。おぉ、おおぉ……。

 火にあたっている団子をくるりと回して片方も焼いていく。

 俺が作ったのは三つの団子を串に刺したものをニ十個。……もう十個は白米に回すべきだったな!

 いかに天才と言えども凡ミスはするものだからな、仕方ない仕方ない(擁護)

 

 早速焼き上がったのが一本!

 

 あつづづづ。

 

 リトライ!

 

 

 

 

 

 うっま。

 

 

 

 

 

 語彙力喪失マジパネ美味さだこれ。砂糖使ってないのに甘い。甘いぞこれ。

 

「分かったぞ。『団子者(ダンゴノモノ)』は団子をめちゃ上手く作れる能力だ」

 

《然様ォ~ そこに気付くとはあっぱれぇ~》

 

 

 

 ……。

 

 

 

 !?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 琵 琶 法 師 が 俺 を 褒 め た !?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《愚か 愚か 愚かなりぃ~》

 

 えっなんでだよ。

 

 

 

「どうだい。似ていたかな」

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ヴェルダの声真似かよぉ!

 

 

 

「一瞬誤認するくらいに似てたわ。あーもーびっくりした……」

 

 だよな。琵琶法師が俺を褒めることなんて一度も無かったからな。

 うん、だよな……。ショック……。

 

「いつ来てた?」

「ついさっき」

 

 団子をちらちらと見つつ、ヴェルダに声を掛けたらそう返ってきた。気配感じないってこえーわ。凄腕の暗殺者だったら俺とっくに殺されてるじゃん……。

 木製の皿(メイドイン俺)に焼けた団子を乗っけていると、ヴェルダが興味深い目をして団子を見つめていた。

 

「それは?」

「団子。折角来たならヴェルダも食ってって。あ、焼きたてだから熱いぜ」

 

 そんな忠告を構い無しに団子を食いやがった。オメェ熱さ感じない性質かよぉ!

 

「ふむ……これは……」

「どやどや? 美味いやろ?」

「うん、美味しいね」

 

 イヤッホォォォォォ!!!!

 

 星王竜お墨付きだぜいえぇぇい!!

 

「もう一つ食べていいかな」

「どーぞどーぞ」

 

 次々にヴェルダが団子を食っていく。なんだかその姿がいつものヴェルダより子供っぽく見えて微笑ましかった。

 ふっ……、ヴェルダも俺の団子の前には勝てないということか……。俺の天才ぶりが嫌になるぜ……。

 

《調子にィ~ 乗ることなかれェ~》

 

 うううう、うっさいわい!

 

 というかさ、なんかアイツの食った団子の数多くない?

 ニ十個焼いてたんだから、二等分するなら十個だろ? なんか十六個は食われてんだけど。

 俺、団子三つしか食えてなくない? ねぇなくない?

 確かに食べて良いよとは言ったけど限度っちゅうもんがあるんやないか?

 でもそんなこと言えんわ。なんだかんだ夢中になって食ってくれるの嬉しいし。

 

「そういやヴェルダ、人間を見守ってるって言ってたけど、それは良いの?」

「別に肉眼で見なくても分かるからこっちに来たよ」

「えぇ……」

 

 チートや! チーターやろ! と言いたくなるが、まぁヴェルダだからで済ませられるようになってきてんな。

 もう一年だもんな。

 

「……団子はもう無いのかい?」

「無いよ。その一つで最後」

「そっか。また次の機会を楽しみにしておこう」

 

 お前次も食うんか。まぁいいけど。

 俺も団子食おっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 団子食ったらお茶が欲しくなる。当たり前やん……。

 でも茶葉見つけてないんだよな。今度森に行ったら茶を見つけよう。緑茶、緑茶でオナシャス!

 

「さて、本題に入りたいんだ」

「本題?」

「君の顔を見に来たのも間違いではないが、もう一つ目的があるんだ」

 

 俺色々動いたから眠いんだけど。団子食って美味かったし、はよ寝たいわ。

 

「君に色んな種族を紹介したいから一緒に来ないかい」

「えぇーやだ……」

 

 なんでヴェルダ固まってんの? ウケるわ。

 

「いや、申し出はありがたいんだけど、今はまだもうちょっと稲作について理解を深めたいというか。やっと色んな改善点が見えてきたから反映させたいし。というか俺、多分ヴェルダの作った大地とかに行けないと思うんだけど」

「一応聞くけど、それは何故」

「だって翼ないじゃん」

 

 イナガミボデーに翼はありません! なんたってモーションやら姿やらがキリンまんまだからな!

 荒業的に翼を出して高地から低地へ滑空っていうことは出来るかもしれないけど、リオレウスとかの有翼種とは違って柔軟性も筋肉も無いしな。

 

「――――はぁ。分かった、今回はそれで納得しておくよ」

「ごめんなー」

《愚か……》

 

 軽く手を合わせておく。いやー、めんごめんご。

 

「でも一つ聞きたいんだけど」

「何?」

「君って、竹の一部を切り離して動かすことが出来るよね」

「まぁ出来る……よ…………?」

 

 その時、ピンと頭に浮かんだ。

 竹の一部、切り離して、動かせる。

 俺が稲作の暇つぶしにイナガミの攻撃モーションを再現してた時、ヴェルダも見てたな。

 

 その時、再現した竹飛ばしって――空に浮かんでなかったか?

 

「……もしかして、翼無くても……動ける?」

 

 ヴェルダはゆっくりと頷いた。

 

 ――――ふっ、天才は時に凡ミスをするものさ。

 だから顔が赤いのは……、気のせいだ。

 




▽『団子者(ダンゴノモノ)
 →団子についての知識を獲得し、団子制作時に滅茶苦茶団子が美味しくなる


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隣人と妹が出来た件

イナガミ以外にモンハン要素がない?
あれは嘘だ(デデドン)

というのも、モンハンつったらアイルー出さなきゃという使命感に駆られたからです


 

 あれから何年か経った。俺の育てた稲は年ごとに味が良くなり、穂の実りも良くなっていった。

 米も貯まる様になって米用の倉庫も作ってそこに保管している。

秋の収穫期には必ずヴェルダが来るようになったし、秋が近付く度にそわそわしている。

 ぷふー、俺の団子にオチてやんの。最近抹茶団子を開発したから食いに来てもいいぜ。

 

 抹茶からお分かりの通り、お茶こと緑茶を発見して栽培済みだ。はーっはっはっはっ!

 もう俺天才、大天才だわ。

 

「バッ」

 

 嘘ですただ爺ちゃんペディアの活躍です調子こいてすんません!

 

「旦那様~、畑の水やりが終わりましたニャ」

「はいよー、そろそろおやつの時間にするから休憩しにこいって伝えといてな~」

「分かりましたニャ!」

 

 そう言って俺に声を掛けてきたアイルーが別地で耕しておいた畑の方に向かっていった。

 

 ――そう、アイルーだ。

 

 この数年で一番の変化として、俺の生活にアイルーとメラルー、そして翔蟲くんが組み込まれたのであった。

 

 

 

 

 アイルーとの出会いは約十億年……な訳がなく、今から二年前くらいかな。

 

 あれは暑い夏の日じゃった……。稲たちの様子を見ながら田の水量を調整しておると、がさごそと近くの茂みが揺れていたんじゃ。

 

 

 

 そこにはなんと、アイルー、メラルー、翔蟲の姿があったんじゃ。

 

 

 

 あのオーソドックスな茶色の系統の色合いのアイルーと、あの黒白の体毛のメラル―と一緒に翔蟲がおったんじゃ……。

 

 いや、いると思わんじゃん。最初に島を回った時にはいなかったんだぞ。絶対あの時アイルー見かけてたら飛びついてたわ。

 んで、お互いに見つめ合っていたら、なんか頭下げられてた。必死にぎこちない言葉で「殺さないで」って言ってきたんだ……。

 嘘だろ……、オレ……出会ったらすぐに殺すようなヤツだと思われてるのか……?

 

 ショックを受けたが、三匹? の話を聞くに、ここ数年でアイルーやメラルー、翔蟲などモンハンで聞き馴染みのある種族が発生して生活を送っていたそうだ。それで、発生した種族の中で言語を持って生活していたアイルーメラル―翔蟲の三種族間で俺が住んでる周辺地域には行かない事、俺が森にいても決して接触しないことを決めていたらしい。

 理由は竜種の怒りを買えば我々は死んでしまうニャとかなんとか。

 いや、竜種というかヴェルダはすごいけど、俺までそんな凄くないんですけど……って声を飲み込むしかなかった。

 

怯え方がガチだった。

 

「こ、殺さな、いで……くださいニャ……!」

「盗みなんてもうしないニャ! お願いですから殺さないでくださいニャァァアァァ!」

(体をバイブレーションたけ○並に振るわせている)

 

 もう落ち着いて? としか言えない。そこでヴェルダから伝え聞いた話の一つ、『魔物は魔素量で強者か判断する生態にしたんだよね』を思い出し、ヴェルダから教わった魔力感知で自分を見てみた。

 いやー、完璧なほどに抑えられていた。天才天才……と思ったのに、原因が分からなくなってしまった。

 とはならず、「目が恐ろし過ぎて震える」と言われたのであー! と納得。

 

 いやいや、ヴェルダも金色の目で怖いんだよね。じっと見てると威圧されてる感はありますあります。 確かしっかりと自分の姿を見たのは数年前だったけど、俺も金色になってたからそういうことだろうと。

 んじゃまぁ、と肉体を人間時に変化させるコツでなんとか目の色だけでも変えられんかと思ったら出来た。

 バリバリ安心の黒目でーすってなったら三匹の震えも止まってまともに話せるようになった。

 

 それからゆっくり話した結果、俺は彼らに名付けをすることになった。そしたら一生の忠誠が貰えるらしい。

 ん? と思うだろ? 実際に俺も思ったが、ここで琵琶法師が妙なファインプレーを起こした。

 

 

 

《彼奴等は魔族なりぃ~ 魔族にとって名は宝に等しき物ォ~》

 

《魂の上位者のみに許される行いィ~…… それ即ち名付けなりィ~!》

 

 

 

 んなぁ~るほどね!

 

 忠誠は別にいいけど名前はあげるよって言ったが、額を地面に擦りつけて「そんなことできませんニャァ!」と言われた。

 

 それはともかくとして、俺は名付けた訳だ。魔族は原則名前を持たない→めっちゃ不便じゃんって思ったから。

 個人名だけじゃなくて種族名も付けることにした。個人名に関しては最初の三匹以外にも。

 

 とは言っても、最初の三匹に名付けした後、俺は謎の体調不良で寝込んでしまった為、名付けが終わったのは出会ってから二日後のことだった。

 いやぁ……めっちゃ気分悪かった。でも甲斐甲斐しくアイルーが看病してくれて、メラルーがなんか薬草とか持ってきてくれて、翔蟲クンがちょっとグロテスクな内部構造を見せながら心配してくれていた。

 うん、翔蟲くんの内部、寝起きで見ると強制的に二度寝になっちゃうからね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猫っていいよね。アイルーもいいよ。メラルーもヤンチャだけど可愛いし。翔蟲くんも慣れてくると可愛い。

 

 何が言いたいかって、俺は今ペットをたくさん飼いたがったバスケ部の岩山の気持ちが分かったんだわ。

 アイツ強面だけど優しんだよな。動物限定じゃなくて人間にも優しかったので我が高校で一番の人格者ランキングナンバーワンを取っていた。

 

「ふー。一仕事後のお団子は美味いニャ!」

「旦那さんお代わりニャ!」

(喜びで翅を震わせている)

「お代わりは好きにどーぞ。でもほどほどにな」

 

 家の周りが畑作業をやら建築作業をやっていたアイルーたちで埋まっている。ニャーニャー声が絶えないぜ。

 それぞれ自由に縁側に座って団子食ってたり、寝てたり、喋ってたりする。

 

 最初は琵琶法師と俺の声しかしなかった我が家が今ではこんなに猫の声がするなんてな……。

 

 ゆうた < はちみつください

 

 ん? 何やら幻聴が……。ああそうそう、翔蟲によってなんと俺は――翔蟲アクションを会得。

 

 も、十分な成果なんだが。

 

 何より翔蟲クンが虫に働きかけて蜂蜜を持ってきてくれるようになった。

 俺が「甘いの食べたい―。砂糖食べたいー。でもサトウキビとかって無かったよな……、じゃあ蜂蜜なら……?」という呟きを聞いて持ってきてくれたのだ。

 以降、我が家に蜂蜜の瓶が常備されるようになった。嬉しい~!

 

 ゆうた < はちみつください

 

 

 

 

 まぁ俺は『イナガミに転生したらスローライフが始まった件』的なタイトルが付けられそうな生活を送っていたのであった。

 

 だがしかし、突然のハプニングはいつもヴェルダと共にやってくる。

 

 稲も刈り取って雪も降っていた冬の頃のこと、囲炉裏の火に当たってアイルーたちと暖を取っていたら、外の方にヴェルダの気配がした。同時に見知らぬ気配も。

 いつの間にか漫画のキャラみたく気配察知なんて出来てる俺天才と思いつつ迎えたらだよ?

 

 

「僕たちに妹が出来たよ。ほら、挨拶を」

 

「初めまして、イナヴェルお兄さま! ヴェルザードと言います!」

 

 ヴェルダの後ろかひょこっと顔を覗かせたのは――白髪青目のとんでもねぇ美少女

 

 拝啓、過去の俺。推定年齢小学校低学年レベルの妹が出来ました。

 

 

 

 ヘェア?!?!?!?!?!?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイルーが出してくれた緑茶を一杯飲むと落ち着いた。ちなみにアイルーたちは基本ヴェルダたちがやってくると最近出来たアイルーたち用の家に隠れるか、別の小屋で作業をしている。なんでも「星王竜様と長時間はいれませんニャ」とのこと。

 

「はー。なるほどなぁ……。妹が生まれてくることもあるのか」

「僕も妹が増えて嬉しい限りだ。張り切って究極能力をあげることにしたよ」

「は?????」

 

 なにそのクソ強そうなスキル。俺貰ってないんだけど??? ねぇヴェルダ???

 俺の強烈な視線を受け取ったが、曖昧に笑われた。

 

「いや、君にあげようとしたけれど無理だったから」

「へー……。無理、無理なんだ……。あの天下の星王竜サマが、へー…………?」

「君が持っていると思われる、僕らの干渉を阻害するスキルを切ってさえくれたらいつでもあげるよ」

「マジ!? 分かった! 不可能っぽいスキル切る方法探してくるわ!」

 

 知らんけど。

 

 あれか、もしかして琵琶法師が防いでたりするのかな。

 

《 判決ゥ~ 死刑~! 》

 

 語気強めで否定されました。じゃあ違うんか……。

 

 ま、いっか! 今は可愛い妹の方が大事だ!

 

 でもヴェルザード……ちゃん? はヴェルダの膝の上でこっちを見つめてきている。

 

 はわわ……。きゃわいい……。白髪青目でめちゃくちゃ美少女。やばいよやばいよ、可愛すぎる。

 

 あー! にっこり笑いました! 花丸笑顔百点満点!

 

「――イナヴェルお兄さま、強くなさそう

 

「げふっ」

「おや、ヴェルザードにはそう見えるかな」

「だって、私よりも魔素量が少ないわ」

「それは隠しているからかもしれないよ」

「本当かしら?」

「どうだろう?」

 

 急に妹から投げられたのは「強そうじゃなーい」という暴言だった。

 傷付いた俺を横目に二人は……二人はァ……! イチャコラァとぉ…………!

 くっそ、俺もヴェルザードちゃん膝に乗せたい! 甘えられてぇ!

 

「折角だから試してみるのはどうかな」

「それはいい案ですわ、お兄さま!」

「いやいや、ヴェルザードちゃんはまだちっさいだろ。俺、そんな小さい子を殴る趣味は無いからね?」

「それは外に出れば分かるよ。行こう、ヴェルザード」

「はーい!」

 

 なんで俺が美少女殴る話になるの?? 話聞いてよ???

 

 そんな疑問を他所に、外に出ることになった。

 畑になっていない広い所までヴェルザードちゃんがとてとてと走り出す。

 かんわいぃ~!

 

「見ててください! ヴェルダお兄さま、イナヴェルお兄さま!」

 

 ぶんぶん手を振るヴェルザードちゃんに手を振り返していると――。

 

 

 

 ずん、という音がした。

 

 

 

「どうですかイナヴェルお兄さま! これなら戦ってくれますか!」

 

 クゥーン……(絶命)

 

 あまりにもガチなドラゴン過ぎて俺死にそう。ヴェルダレベルじゃない? うわこわ……。

 

「う゛う゛ん゛……戦いだぐない……」

「ではこれならどうですか」

 

 なんだろう、吹雪くの止めてもらっていいっすか???

 これ以上寒くせんといてヴェルザードちゅわん……。アイルーたちが凍えちゃう……。翔蟲クンが永久の冬眠をしてまうておま……。

 

「……あの吹雪ってヴェルダがあげた究極能力とやらのせい?」

「勘が鋭いね。早く決めないと周りが凍っていくけれど」

 

 ここ数年、稲作の奴隷と化した俺に――それは耐えがたい苦痛だった。

 このままだとアイルーたちが頑張って世話してくれた畑も凍ってしまう。

 畑の方では大根くんが埋まっているんだ。そして雪の下で寝かせて甘みアップ計画中なんだ……。冷えすぎるとちょっと大根くん萎れちゃうんで……。

 

「分かった。戦う、戦うから。でも場所はあの小島な」

 

 苦汁の決断だった。

 




▽アイルー族、メラルー族、翔蟲族に『■■竜の加護』が与えられました

▽■■■■■が称号『二番目の竜種』を獲得


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妹と戦った件

戦闘描写がァ!
苦手ェ!


 環が指定したのは島からそう遠く離れていない小島だった。

 彼が住居を構えた島には田やアイルーたちの小屋などがあるので戦闘する場所にはしたくない。

 そう思って、竹を使って周辺の海域を探索した際に発見した小島に移動してもらうことにした。小島とは言っても案外広かったが、土壌は痩せていた。生物が住んでいる気配もないので、好き勝手暴れるには適している場所だった。

 

 ヴェルザードは指定した小島へ喜んで飛んでいく。

 白い羽が動くのを見つめ、環も切り離された竹に乗って小島へ向かう。要領はほうきで空を飛ぶのと同じだ。

 

(嫌だなぁ……。戦いとか)

 

 突然紹介されたが、妹のヴェルザードはとても可愛い。

 ふわりとした白髪、深い青色の目。将来成長するならば美人になること間違いなしの容姿だ。

 

(可愛い妹と出会って即バトルとは? お兄ちゃんはバトルよりも妹とはキャッキャウフフってお団子を食べさせたいよ……)

 

 環は重たい溜息を吐いた。

 これまで弟や妹といった存在がいなかった。そんな折に出来た妹だ。

 例え美少女でなくとも可愛くない筈が無い。

 

 環が悶々と考えている内に小島に到着した。

 目の前にはヴェルザード、二人のいる開けた場所から少し離れたところではいつの間にか来ていたヴェルダナーヴァが観戦していた。

 「二人とも頑張れー」なんていう声援も聞こえてくる。暢気なものである。

 

「ではイナヴェルお兄さま! 私から行きますわね!」

 

 声色はとても楽しく弾んでいた。比例して環の溜息がどんどん重たくなっていく。

 環の心情を考えず、ヴェルザードは辺りを吹雪かせた。

 一面に霜が降りる。空気が零度以下に冷えている中、鋭い氷柱を形成し環に向けて射出された。

 環の持っているスキル『対寒耐性』によって寒さは中和され、そして一応竜種という枠組みにいる為か、環はその氷柱の軌道を追って避けることが出来た。

 

(怖すぎでしょ!?!?)

 

 氷柱が刺さった地面は一瞬で凍っていき、環の立っている場所やヴェルザードが降り立つ場所を含めて滑りやすくなっていた。環が動こうとしたらずるりと転びそうになったが、可愛い妹の手前なので意地でも体制を整えた。

 

(やっっっべ。めちゃくちゃ滑るわコレ。どどどどないしよ……?)

 

 肌で感じる寒さ以上に肝を冷やしたが、ヴェルザードの攻撃は止まない。

 氷柱を飛ばし、環はそれを避ける。しかし、目の前にはヴェルザードの巨体が迫っていた。

 一瞬スローになった景色の中、環は上げられた左腕を視認した。

 

「うっそ……って、避けれた……?」

 

 鋭い爪に引き裂かれるか、重量と勢いが合わさった力で潰されるか。

 咄嗟に環はヴェルザードの懐に潜り、その攻撃を避けた。背後から振り下ろされた衝撃によって発生した風圧を感じ、今度は胆ではなく玉が冷えた。

 

 何とは無しに見上げるとヴェルザードの顎が見えた。――これがVR型的なモン○ンであれば、容赦なく環は武器を振るっただろう。

 しかしこれは現実。当たればお互いに痛い、そして一応血縁(?)関係にある仲だ。環は戦えと言われても未だに力を振るう気にはならなかった。

 

 ヴェルザードは地面に張った氷に働きかけ、環のいる場所に氷筍を作り上げて串刺しにしようとする。

 しかし、地面からの魔素の動きを探知した環はそれを避け、ヴェルザードの追撃を避け――。

 

 ずっとその繰り返しだった。その様子をヴェルダナーヴァは観察していた。

 

「イナヴェルお兄さま。何故、私を攻撃しないのですかっ!」

 

 ヴェルザードは避ける環に対して苛立ちが募り始めていた。

 彼女は闘争を好んだ。生まれた時から備わっていた本能とも言うべきものだった。

 本能に従って戦い続け、彼女が生まれた極寒地帯でのヒエラルキーの頂点に立った。

 そんな折に、ヴェルダナーヴァ――自らが唯一負けた存在に出会った。

 その存在が兄だということに、ヴェルザードは歓喜した。

 

 偉大なる兄、ヴェルダナーヴァ。

 

 その弟とあれば自らを軽く倒せるほどの力量の持ち主かと思っていたのに。

 収められている魔力量はヴェルザード以下。佇まいには何ら威厳を感じず、平々凡々な人間の男といった空気。

 下等生物と共に農作業をして過ごしている?

 

 挙句の果てには、戦いの場に引きずり出しても避けるだけでこちらに攻撃をしない。

 

 

 

 ――ふざけるな、そのような存在がヴェルダナーヴァの弟であって良い筈が無い。

 

 

 

 ヴェルザードは憤怒した。このような腑抜けを兄とも呼びたくはない。

 

 彼女の怒りを反映するように、彼女の口に大量の魔素は集まり始めた。

 エネルギーの移動と共にヴェルザード周辺に風が強く吹き荒れる。

 

(……おいおい、アレってさぁ。ビームの構え? ビームぶっ放される? 此処(・・)で?)

 

 不幸な事に環の背後にはアイルーたちの住んでいる本島があった。

 あの魔力量でのビームなんて、普通に本島の方にまで影響が及ぶだろう。

 

(妨害……、いや風が強くて動けない!)

 

 この場合、同じ魔素量のビームを放って相殺? その場合、周辺地帯への影響はどうなる。いやそれよりも、環に対抗できるだけの魔素量をすぐに集める方法があるか?

 ヴェルザードの魔素量は環より上。ヴェルザード以下環以上という式が成り立っていることは本人も理解している。

 

 魔素が集まる程、ヴェルザードの周囲が薄っすらと凍っていく。氷片も混ざった暴風は環の肌を容易く切り裂いた。斬りつけられた箇所から瞬時に岩のように血液が凝固し、瞬時に消えていった。

 

(まずい、そろそろ射出される)

 

 ゆっくりとヴェルザードが標準を定めていく。

 もう攻撃しないという手は、逃亡するという一手は取れなくなった。

 避ければ本島へ被害がいく。自らが作って耕してきた田や畑、アイルー、メラルー、翔蟲たちの住処は破壊される。

 

「……分かった。嫌でも妹を攻撃しなきゃいけないってことが」

 

 環は逃げたくなる自分を叩き伏せた。環は地面に手を付けた。自然と現れた尻尾は地面へと刺した。

 『栽培者(ソダテルモノ)』のスキルを使い、土の中に筍を発生させて急速的に成長させる。ヴェルザードの前には何重にも重なった竹垣が出来上がる。

 

(たったその程度で止められるとでも思っているのですか。……つくづく侮られたものね!)

 

 ぶわっ、と集まった魔素が解放される。

 

 ――そして白い極光が現れて環に向かっていく。

 

 環に当たる前に竹垣が受け止める。

 それもすぐ壊れる、そうヴェルザードは思っていた。

 

(なっ……!?)

 

 竹垣はヴェルザードのビームを受け止めていた。

 バキバキと壊れている音がしているのにも関わらず、環にまで当たっていない。

 

(アレはただの竹の筈。私の技で簡単に壊れているのに――――まさか!)

 

 環は特に竹の強度を固くして竹垣を作っている訳ではなかった。

 いつも通り、手癖で生やせる竹が幾重にも連なっているだけ。

ただ、環はビームによって壊れた端から『栽培者(ソダテルモノ)』で直しているだけのことだった。

 

(まずい、このままでは集めた魔素量をただ尽きさせるだけ……。物理的に叩きのめさなければ)

 

 ヴェルザードが魔素の放出を取りやめた瞬間、彼女の体が浮いた。

 

「なっ……なんで、すか、これ…………」

「とても簡単なことだよヴェルザードちゃん。君を拘束させてもらった」

 

 ヴェルザードの体中に、本来なら凍っていた筈の草木が巻き付き、それぞれの方向へ引っ張ろうとしていた。

 彼女の周囲に生えている草木は『忍耐之王(ガブリエル)』の余波によって運動エネルギーが停止させられていた。

 環は手で竹垣に働きかけを、尻尾によって草木の運動エネルギーの停止状態を解除させた。更には引き千切られないように繊維の強度を向上させ、環の持つ『防寒耐性』まで付与して彼女を拘束した。

 解除不可能な拘束による棄権――、環はそれを狙った。

 

「これで勝負ありってことにはならない?」

 

 環は横目でヴェルダナーヴァを見た。

 静かに戦いを見つめていた目が閉じられ、ふっと口元を緩ませた。

 

「良いだろう。この勝負はイナヴェルの勝ちだ」

「そんな……!」

「ではヴェルザード、その拘束から抜け出せられるかな?」

「で、出来ますわっ……!」

「おーっとあんまり抵抗しない方が良い! 暴れれば暴れる程棘が生える様にしておいたから!」

 

 身を何とか捩り、拘束から逃れようとしているヴェルザードの身にズキズキと痛みが走る。

 竜種の鱗すらを貫通させる植物の棘。環の言う通り、抵抗する程に棘が成長してヴェルザードの身を傷付けていく。ぽとぽとと赤い血が滴り落ちる。

 ここまで来れば気持ちはどうであれ、本能的にこの拘束の突破は無理であると悟った。

 

 

 

「………………負けました」

 

 

 

 その声には深い屈辱が込められていた。

 

 ヴェルダナーヴァに出会ってすぐにヴェルザードは戦いを挑んで、そして圧倒的な力によって叩き伏せられた。

 だがこの戦いは自分よりも下の存在に搦手を使われて敗北した。不完全燃焼な心地が消えなかった。

 勝敗が確定した所で環はヴェルザードの拘束を解いたが、彼女は項垂れたままだ。

 

(流石に大人げなかったか? いやでも、あのままじゃ俺が拠点にしてる島の方へ余波が出るのは確実だったし……。ぐぬぬ、難しいな……。とりあえず回復薬を……、あれどこに入れたっけ)

 

 一応勝者となった環もあまり良い顔色ではなかった。がさごそと着物の裾に入れてある回復薬(薬草とアオキノコとの調合)を探していると、ヴェルダナーヴァは項垂れる白い竜へと近付いていた。

 半ば泣いているように見える彼女の頭部をそっと撫でた。

 

「ヴェルザード、君は育った環境のせいでもあるが、賢しい敵との戦いについて経験が少ない。今までの敵ならば魔力量に任せた一撃でねじ伏せてこれたが、そうもいかない時があるというのはさっきので良く分かったね?」

「……はい」

「これからは戦略と、それから魔力量が少なくとも上位の存在に勝つ者がいることを知りなさい。なに、君はまだ生まれてから数年の若い竜だ。これからも成長できる余地はある」

「は、い゛」

 

 ヴェルザードは生まれて初めて、負けたことによる屈辱を味わった。

 ヴェルダナーヴァの時は違った。負けたのは当然のことだと納得させられる程、遥かな高みの上にいる強者への尊敬があった。

 今回は、自分よりも弱いと判断した者に負けた。……それは自分が未熟だったから。

 

 ――悔しいですわ。

 

 嗚咽を堪えて泣く彼女はこの日のことを忘れはしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、あの、ちょっ、ごめん。そんなに痛かった……? いや痛いだろうけれども……?」

「加減というのを知らない弟を持つと苦労するなぁ」

「はー!? ヴェルダに言われたくないんですけど! っとと、ヴェルザードちゃん、良かったらこれ飲んで」

 

 環は緑色の液体が詰められた小瓶――回復薬を差し出した。

 アイルーたちを伴っての森探索の日、「あれ、これって回復薬作れんじゃね? 調合できちゃうんじゃね?」という行動によって作られた試作回復薬。効果はある程度の傷が瞬時に治るという、ゲームまんまの性能だった。

 

「これ飲むと大体の切り傷が治るからねー。口開けてー」

 

 むっと思ったヴェルザードだが、それはそれとして回復薬とやらが気になったので言われるがまま口を開けた。

 とろりと粘りがある液体はそのまま口の中に入り、

 

「苦いですわっ!」

 

 ヴェルザードはまた違う意味で涙を流した。

 しかし効果はすぐに表れており、白い体にあった傷が瞬時に癒えた。

 

「あ、やっぱ苦い? 今度からはハチミツ入れとくよ」

「うう……、もう飲みませんわそのような物!」

 

 からからと騒ぐ二匹の竜を、ヴェルダナーヴァは穏やかな目で見ていた。

 




▽ユニークスキル『調合者(チョウゴウショ・デラックス)
→どんな材料でもイメージした通りの物を調合できる。
 しかし使用者はモンハンに出てくる薬やらの再現にしか使わない。
 宝の持ち腐れである。


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妹と共同生活している件

ヴェルザード(幼体)なので色々と捏造してます
え? 今更だって? そうだよ(肯定)


 

 妹ことヴェルザードちゃんとの戦闘後、彼女はツンツンしながらも暫くはこの島に滞在することになった。

 諸々の原因となったヴェルダはさっさと行ってしまった。お前、ヴェルザードちゃんに引き留められてるの覚えたからな。これからお前にやる団子は少なくする(断定)

 

 さてさて、念願の妹との生活――かと思いきや、彼女とキャッキャウフフな兄妹間になるのは前途多難っぽい。

 

 まず、この前の戦いで搦め手による決着を着けたことが不服らしい。

 なんというか、成長したら女騎士にでもなるのかって感じに高潔な思考かと思いきや、

 

「勝負というのは、圧倒的な力によって叩きのめされて負けたと思えるのです! 決して、決ぇーしてっ! イナヴェル兄さまとの勝負は“負けた”とは感じていませんからね!」

 

 ということらしい。初めて出来た妹は可愛いなぁ(白目)

 

 いやいや、細身で儚さを持つ美少女がまさかゴリラ系パワーキャラみたいなこと言い出したことに驚いてなんかいないぜ。そうだよパワーキャラみてぇなこと言ってる筈ない……。これは全部琵琶法師の見せる幻覚と幻聴だ……。

 

現実(まこと)をォ~ 見よォ~~~~!》

 

 うるさいやい!

 大体お前戦闘中の時なにずっと黙ってやがんだよ。こういうのってアレだろ、共同で作業するとか、相手の弱点見つけるとかそういうサポートキャラ的立場にいる筈だろお前!?

 

《ハァ~~~~~~~~~~?(クソデカ溜息)》

 

 女神さん! この琵琶法師返却して! サポート系AI的なスキルと交換してください!

 

《無理ィ 無理ィ~!》

 

 脳の血管ブチギレそう……!

 

 はっ、ここはクールになれ四方山環。ここで暴れ出せば、俺は何も無い場所で暴れるキチガイ……!

 イエスクール。ノットホット。

 クールの三段活用を思い出すんだ……!

 

 というか今はヴェルザードちゃんのことに集中しよう。

 ヴェルダが去り際にウィンクしてきたのは仲を深めろっていうことっぽいし。俺もヴェルザードちゃんと仲良くなりたい。

 あー、それで彼女が俺の何が気に入らないかを上げていたんだ。

 

 まずこの前の勝負の決着、それから……うーん態度や生活スタイル?

 彼女からすれば竜種っていうのはとんでもなく崇高な種で? アイルーたちなどの魔族は下等生物の枠に入るらしく、そんな生物たちと共同して生活をしている俺が信じられない、ホントにあのヴェルダナーヴァの弟? っていう所がポイントなのかな。

 

 いやいや、いやいやいやいや。これはちょっと妹と仲良くなれるか不安に思っちゃうわ。

 俺にとってアイルーたちって下等生物じゃなくて友達だし。

 まぁ、人? 竜? にも考えの違いがあるということが分かっただけでも良しとしている。

 

 今の所、彼女が理不尽にアイルーたちに危害を加えたとかの報告も無い。そこはまぁ、俺との間で決めた『島で過ごす約束事』を守ってくれているらしい。

 内容は無暗に力を使ったり凍らせたりしないこと、それからアイルーたちに危害は加えないことの二つのみ。

 だからか、ヴェルザードちゃんは人型形態になっててちてち森を歩いていたり、俺やアイルーの作業を眺めているなどして過ごしている。

 

 ちなみに、アイルーたちはヴェルザードちゃんのいる生活に冷や冷やしてるらしい。

 俺としても自然な態度で接して欲しいとはお願いしてあるが、効果はいまいち。

 でもまぁ、メラルー族のロゼが積極的に話しかけたり、ヴェルザードの散策に付き合ったりしてくれてはいる。彼女自身も疎ましく思うよりは好ましく思っているとは感じるので、相互理解は不可能では無い筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、来る日も来る日も雪だなぁ。流石にカールくんたちも寒いでしょ」

「確かにそうですが、動けないほどでもありませんニャ」

 

 そう言いながらもカールくんはへぷし、と小さくくしゃみした。

 ちなみに、彼は俺と出会った初めてのアイルーである。

 一面の銀世界の中で素っ裸というのは見ているこっちが寒くなる。

 どうしよう、裁縫も頑張ってみるか……?

 

「それに、イナヴェル様の庇護下に入ったことでなんだか寒さに一層強くなった気がするのですニャ」

「庇護下に入って寒さに強くなる……? ちょっと分からんな……。あ、カールくん雪落とすから避けて~」

「了解ですニャ~」

 

 それはそうと、俺は家の屋根に積もった雪落としの最中だ。は? 魔法使え? もうヴェルザードちゃんに言われたけど。

 やれるっちゃやれるけど、やっぱ体動かした方がなんか行動起こしてるって感じがするんだよな。

 

「あらイナヴェルお兄さま、本日も無駄に動いて雪かきなどしてらっしゃるのね」

「おはようヴェルザードちゃん、動くと眠気が覚めるからオススメだよ」

「……………………おはようございます」

 

 精一杯嫌味を言おうとしてるけど、後から挨拶を返してくれる辺り丁寧だよね。

 ツーンって髪を弄ったまま視線が合わないけど根気強くいくぞぅ。

 

「今日のご飯、食べてく?」

「……食べますわ」

 

 一応胃袋は掴んでおいたので、いずれは仲良くなれる筈だ。

 

 

 

 

 ヴェルダナーヴァから「イナヴェルと共に過ごすように」と言われたヴェルザードは不服であった。

 今まで見てきた生物の中で一番軟弱だと思う人間……、それに次ぐ軟弱さだ。

 眷属と思われるのは猫と虫。どれもヴェルザードにとって軽く吹き飛ばせる命に他ならない。

 そんな生物を態々眷属にし、庇護下に入れている環のことが分からない。

 

 態々人間らしい礼儀作法や常識のことなどを一々教えてくるが、どれもヴェルザードにとっては価値も覚える必要も無い。

 何故あいつ等より上位の存在である竜種がそんなことをしなければならない。

 そんな気持ちの方が強かった。

 

 ――そんな共同生活から六日目。ヴェルザードは行動することにした

 

「ねぇ、ロゼ。イナヴェルお兄さまがどこに行ったか知らない?」

「イナヴェル様でしたら、今は森の方で散歩をしていると思われます」

「そう。ありがとう。私もイナヴェルお兄さまの所に行ってくるわね。ついて来なくていいわ」

「承知しました」

 

 怯えるアイルーたちが多い中、赤毛のロゼという者だけは物怖じせずヴェルザードと接してきた。

 そのことから環からもヴェルザードの目付け役を任されており、彼女自身もここで生活する際にはロゼを頼って溶け込もうとしてきた。

 

 だがそれも限界だ。

 ヴェルザードは今まで野生の掟の中で生きてきた。

 ――弱肉強食、弱者は強者に食われ、繁栄の礎となるべきなのだ。

 前回、戦いを挑んだ時には負けた。しかし、そこで失われる筈の命はまだここにある。

 つまり、再挑戦が可能だ。

 

 環との決め事には、環自身に攻撃を加えてはいけないという項目は無かったのだから。

 

 今いる家から西に歩いた場所に環がいる森はあった。

 畑に植えられた作物も、環が力を込めて育てている稲もここからやってきた。

 魔素の気配を探り、一目散にヴェルザードは目指した。

 周囲の木々をなぎ倒しながら行く様はさながらミサイルの如く。実際、倒れた木々の惨状を見れば、当たればただではすまないことは瞭然だった。

 

 ヴェルザードの視界に黄土色の髪を持つ人物の姿が入る。

 

 このまま突進――という所でヴェルザードは「きゃぁ!」と悲鳴を上げることになった。

 

「なっ、なんですの!」

「えっヴェルザードちゃん? なんでそんなことになってるの??」

「イナヴェルお兄さまがやってるんじゃないんですか!!」

「俺やってない!」

 

 振り向いた環が見たのは木の枝が複雑に絡んでいる妹の姿だった。

 環の頭に疑問符が散る。何か気配が近付いてはいるとは思ったが、受け止めるのもまた兄力(あにぢから)を示すチャンスかと内心わくわくしていたが、現実は違っていた。

 環は本当に『栽培者(ソダテルモノ)』を使っていない。それなのに、ヴェルザードの周囲には木が無理矢理密集させられたかのように集まり、バリケードを作っていた。ヴェルザードは環が調整していない木程度に傷を付けられてはいなかったが、絡まった態勢はかなり恥ずかしかった。

 

「酷いですイナヴェルお兄さま」「だからやってないって」

 

 そんな応酬を繰り返して環はヴェルザードを木の枝から救い、地面に下ろした。

 出鼻をくじかれ、彼女は戦おうという意志が半減してしまった。

 戦おうにもあんなはしたない姿を見せた後では決まりが悪い。何より竜種らしくない。

 

「で、ヴェルザードちゃんは俺に何か用があったのかな?」

「ありましたけど……馬鹿らしくなりましたわ」

「えぇ……」

 

 それからヴェルザードは口を閉ざした。話しかける気配がないと知り、環はさっきまで行っていた作業の続きに取り掛かる。

 川辺に生えている稲をひたすらに触っているだけだが、本人としては真剣にやっていた。

 これはうるち米の稲か、もち米の稲か―――――。その判断を行っているが、傍から見れば奇行にしか見えない。

 

 ヴェルザードも冷たい視線で見つめ続けていたが、ふと、聞きたくなった。

 

「イナヴェルお兄さまは、何故戦うことを嫌うのです」

 

 ぴくり、と稲を触る指が止まり、うーんと唸る声が聞こえてきた。

 

「……戦うのが嫌い、じゃ駄目?」

「納得いきませんわ」

「戦うよりも……、そうだな。誰かと言い合ったり喧嘩したりするの、あまり好きじゃないんだ」

「好きでは、ない?」

 

 稲を触る為しゃがんでいた環は立ち上がり、ヴェルザードの青い瞳と目を合わせた。

 

「そう、好きじゃない。軽口を言い合ったりするのはいいんだけど、誰かを殴ったりとかはあまりしたくない」

「……甘いですわ。イナヴェルお兄さまは、私の故郷では絶対生きてはいけませんね」

「うん、自分でもハードな環境は無理だなって思ってるよ。だから目覚めてすぐにヴェルダと会えたのは幸運だったよ」

 

 もしあのままヴェルダが来なかったら、どうなっていたのだろう。環はそんなことを考えるも、あまり想像は付かなかった。

 

「でもね、結局好きじゃないだけだから必要があればするんだと思うよ」

「必要があれば、ですか?」

「そう。例えばアイルーたちが危機に晒されたりとか、……無いとは思うんだけど、ヴェルダとかヴェルザードちゃんが死んでしまいそうな時とか」

 

 あまりに滑稽な物言いにヴェルザードはぽかんとした。

 

「イナヴェルお兄さま、アイルーたちはともかく、私たち竜種は死んでも生き返りますのよ?」

「知ってるよ。でも記憶の一部とかは無くして、性格は変わって帰ってくる。それでも俺はあまり死んで欲しくはないよ」

「……やっぱり、イナヴェルお兄さまは竜種じゃないわ。そんな軟弱な考え方、まるで人間みたい」

「そっかなー」

 

 死んでも生き返る。それは喜ばしいことの筈だ。

 竜種以外の生命体は死ねばそれまで。蘇生魔法とやらを使えば話は別だが、死んで生き返るという行為の難易度は遥かに高い。

 竜種はそれが簡単にできる、生物の頂点に立つにふさわしい最強の種族。

 

 それなのに何故、環が寂しく笑うのかがヴェルザードには分からなかった。

 存在自体気に入らないけれど、その表情や言葉が妙に引っ掛かった。

 

「さ、もう夜も遅いから寝よう」

 

 そう諭す声に、渋々ヴェルザードは環と共に家へと帰った。

 昼間はアイルーたちの鳴き声で騒がしかったけれど、今は寝息の音しか聞こえない。

 団子状態になって寝ているアイルーたちの中に、ヴェルザードはロゼの姿を見つけた。

 

 ロゼは死んだら生き返らない。そこにいるアイルーたちは死んでも生き返る事は出来ない。

 そのまま、何も言わない亡骸になるだけ。毎朝挨拶をする声も、一緒に食事をしようと誘う声も聞こえなくなる。

 そう思うと、ヴェルザードの胸がきゅと締まった感覚がした。

 何故そんな事が起きたのかも分からないまま、ヴェルザードは布団にもぐって寝た。

 



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■■■■がやってきた件

明けましておめでとうございます!(2月)
独自設定モリモリ回です!


 

 ――それは蟲。ある竜の力を受けて輝く蟲。

 ――それは泡。ある竜から分泌して浮かぶ泡。

 

 毛を青白く光らせた竜が滑らかに動き回る竜に飛び掛かる。凄まじい咬合力で体が持ち上げられるが、自前の粘性を持って抜け出し、逆にその竜へ体全身を使って締め上げる。

 締め上げられた竜――ジンオウガは激しく身を振るって巻き付いた竜――タマミツネを地面へ叩きつけた。

 

『プロトタイプの不満を検知し、プロトタイプに起きた出来事と脳内を逐一サルベージし、プロトタイプの要望通りの環境を設定。作品名【モンスターハンター】において登場する生物類などを自然発生させるように設定を施しました』

『自己評価においてこれは完璧で十全なサポートです。プロトタイプの反応を――』

 

「はぁぁぁぁぁぁ?」

 

 俺はこれまでの人生で一番大きな叫びを出した。

 

 

 

 

 なんだかヴェルザードちゃんがすっかり大人しくなった。軽ーく棘を差してくることもあるけど、本当に軽い。

 お、もしかして俺の兄力が向上したか? と思った矢先、ヴェルダがやってきてヴェルザードちゃんは彼奴と故郷に帰ってしまった。ファッキュー!

 

 ヴェルザードちゃんが去ってからはタイミング良く春がやってきた。別の小屋で育てておいた苗の様子や天気を見て田植えの時期を決めて、苗を植える。何度目かの稲作にもなると手際も良くなってきた。

 えんやっさー、ほいやっさーとか、声を出しながら植えてるとアイルーたちもそれに倣って声を出してくるのがなんだか面白い。でも翔蟲くん、田植えの最中に背中には乗らんといて……。

 それと並行して、水田近くにある野菜畑は拡張されていった。もう農園レベルじゃない? って感じに畑が広がってる。

 田んぼも畑も良好。病気になることもなく、虫に食い荒らされることもなく順調に思えた。

 

 田んぼとは別に、ヴェルザードちゃんの面倒を見ていた女の子アイルーのロゼちゃんが花を育てたいと言っていたので森から取ってきた比較的初心者向けの花の種をあげた。そうして花壇が急遽作られた訳だが、どうやらそっちの方は元気がないらしい。

 簡単に原因は分かった。単なる根腐れだ。

 

「どうでしょうか、治りますか……?」

 

 ロゼちゃんの耳はしょげている。かわええ。

 

「水やりのし過ぎて根腐れしちゃってるね。でも治るよ」

「本当ですか! 良かったぁ……」

 

 ロゼちゃんはどっちかって言うと、農業関係よりも家事関係の方にいるので疎くても仕方ない。『栽培者(ソダテルモノ)』で一気に復活させることも考えたけれど、今回は本人の手によって復活させる。

 

「俺のスキルを使えば簡単に治るけど……。せっかくだから今回はロゼちゃんの手で復活させてみよっか」

「わ、わたしでも出来るんですか?」

「出来る出来る」

 

 ちょっと手間はかかるけど、自分で対処できるのが一番だ。勿論、それで駄目な時は俺を頼ってくれてもいいんだけどね~。

 

《図に乗ることなか――……》

 

ブツン

 

 ……あれ、なんか言おうとしてた琵琶法師の声が途切れた?

 

「南の山の頂へ」

 

 ロゼちゃんがふらふらとしながら俺の服の裾を掴む。え、なんで急に南の山に行けって言うん?

 

「南の山の山頂へ」

「南の山の頂へ」

「南の山のてっぺんに」

 

 あちこちで作業していたアイルーたちに加えて、翔蟲くんまでやってきた。心なしか目が赤っぽくなって……。

 って、それ操られてるキャラのテンプレでは……?

 

「「「南の山の頂へ来い」」」

「ひぃん! 分かりましたぁ!」

 

 皆総じて言うから怯えながら言われた通り、南の山に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その道中でさえ、植物も、いつの間にか生息してた野生動物でさえもそう言ってきた。ある種のホラー現象でほんともう、怖い。

 それに、こういう時に限って脳内で琵琶法師の声も聞こえない。気を紛らわすことさえしてくれないとか酷くないか。本当になんなんだあのスキル。

 

 このまま、のこのこと言われるがまま行ってもいいんだろうか。

 もし事を起こしているヤツがそこにいるのなら、カールくんたちに起きた現象を直してくれるのか?

 そもそも狙いは何だ?

 

 ガクブルしながら登った先には信じられない人物が立っていた。

 

 

 

 ――――前世の俺。

 

 

 

 凡庸な顔にこれといって特徴のない男子高校生。見慣れた学生服を身に纏って、その場に立っていた。

 思わず、息が止まる。

 

『転生システム第一人者、プロトタイプ。個体名【四方山環】の存在を確認』

「はい……?」

『プロトタイプの脳内から適する単語群を構成――――――お久しぶりです、といえば理解されるでしょうか』

「……???」

 

 いや、誰だよ……。自分の顔や声で喋らないで欲しいけど、なんだか聞き覚えのあるイントネーション……。

 

 はっ、まさか?

 

「俺が死んだ時に聞こえた声……?」

『正解。転生システムの第一適用者たる個体名【四方山環】以下プロトタイプに今システムのサポート能力向上、選択肢の拡張等を求めるため、プロトタイプに対面での経過報告を求めます』

「いや、あの……どういうこと」

 

 転生システム? サポート能力向上? 対面での経過報告?

 

『解説を求めている、ということでしょうか』

「うん。出来るなら、最初から……? 俺がその、転生システムの第一適用者っていうとこも初めて知ったから、色々と???」

『では、転生システムについて説明いたします。――その前に、長時間の対談となることを考えこの場に適した場をセッティングします』

 

 体は前世の俺、中身はあの死んだ時の女神さん(?)が指を鳴らすと、長方形状に切り取られた形の畳の上に敷かれた座布団の上にいつのまにか座っていた。前にはテーブル、その上には茶請けと緑茶の入った湯飲み。いずれにしろ、俺の分だけ出されている。

 

『転生システムとは、世界の創造主――現個体名【ヴェルダナーヴァ】が無意識に作り上げた魂運用概念。個体名【ヴェルダナーヴァ】は基軸世界――その上位に位置する世界を観測し、自我を得ました。この上位世界を【異星世界】と呼称し、ヴェルダナーヴァは観測を続け、天と大地を創りました。自らの死と引き換えに』

「待って? ど、どいうこと? ヴェルダナーヴァが死と引き換えに創ったって? あ、いやええと、その世界を創る前のヴェルダナーヴァってどんな状態だったの?」

 

 まったく分からない単語が並んでいるけど、確か質問するにしても明確な箇所を答えなければ女神さん(?)は答えてくれなかったよな……。

 だから、出来るだけ的確と思われる言葉を頑張って捻りだした。この時点で頭がパンクしそう。

 

『死、というのはプロトタイプの考えにおいて一番近いものを選択しました。世界を創る前の個体名【ヴェルダナーヴァ】は個体名を持たず、また現在の様に白き竜の姿を持たない概念的存在でした。個体名【ヴェルダナーヴァ】は【異星世界】を観測し、自我を得ました。【異星世界】にて生息する生物たちを観察し、自らもあのようになりたいと思考し、【異星世界】において自らに合う存在の姿を探し――転生する際に現在の竜の姿となりました』

「へ……? ヴェルダナーヴァが転生って?」

『個体名【ヴェルダナーヴァ】は自らを構成する力を死亡と同時に散布させました。その死亡時にこの基軸世界と基軸世界を基とする次元と多くの世界を創り、霊子と情報子からなる特殊物質――固有名称【魔素】を世界中に充満させました。竜種たる姿をした個体名【ヴェルダナーヴァ】は転生した後の姿です』

 

 え、一度死んでるのヴェルダ……?

 

『この個体名【ヴェルダナーヴァ】死亡時に転生システムは無意識によって創られました。転生システムの目的は個体名【ヴェルダナーヴァ】が創りあげた世界において生まれた生物の魂の運用、魂の強度に応じてスキルの付与などが当たります。――しかし、個体名【ヴェルダナーヴァ】においても転生システムが創られた目的は知りえません』

「……その、ヴェルダも知らない理由は?」

 

『――【異星世界】における魂の誘致。個体名【四方山環】、貴方は【異星世界】の住人にして、この転生システムの目的を果たす為に重要な個体です』

 

「――――は?」

 

『個体名【ヴェルダナーヴァ】は求めました。観測し、自らに自我形成のきっかけを与えた【異星世界】の生物――特に人間種との交流を』

 

『個体名【ヴェルダナーヴァ】は求めました。【異星世界】の人間種たる魂が来る際に完璧なるサポートを施すことを』

 

『転生システムはプロトタイプに感想を求めます』

 

『現在のプロトタイプは幸せですか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 答えられなかった俺に転生システムはまた指を鳴らした。

 川の流れる渓流を見ろという。そこにはジンオウガとタマミツネがいて縄張り争いを繰り広げていた。

 

 望み通りの環境を用意したから、幸せかと聞く。

 思わず「はぁぁ?」と言ってしまったが、これって――。

 

 

「聞きたいんだけど。なんで俺だった?」

『【異星世界】観測時において最も誘致出来る魂が貴方でした』

「言い方を変えると、タイミング良く死んでいたから都合が良かった?」

『そうとも言います』

「そっか」

 

 柄じゃないんだけど……。

 俺が第一人者ということは、結構重要なポジションにいるのでは?

 これからもえーっと……、異星世界……というか、俺が生まれた場所から魂攫ってくるって言ってるんだろ?

 

 

 

 ――――――俺、どう答えればいいの?

 

 

 

『回答を、プロトタイプ』

「……あのさ、システム? さん。一つ、相談があるんだけど」

『何でしょうか』

「【保留】って回答は駄目?」

『…………』

 

 あ、どうしよう黙っちゃった。

 急に「転生したから幸せですか?」って言われて「はい幸せです」って言える?

 俺は言えない。しかも、()()の転生者っていうことなら尚更。

 

『――幸せではない?』

「どうだろう。それがよく分からない、分からないのなら報告のしようもない。システムさんは完璧なサポートを望んでいる。対象者が()()じゃあ、完璧なサポートなのか判断できない。違う?」

 

 自分でも引き攣ってるのが分かるけど、笑って相手を見る。

 相手と言っても、俺の体なんだけどね……。

 

『――プロトタイプからの要請を受理します』

「良かったぁ……」

『では、また日を改めて経過報告を求めます』

 

 よっこらせと立ち上がろうとした背に待ったをかける。

 

「あの、アイルーくんたちに「南の山に来い」って言わせたのはシステムさん?」

『【システムさん】とは誰の個体名称ですか?』

「君のだけど……。他に名前あるの?」

『システムに個としての名はありません』

「じゃあシステムさんでいいじゃん。個体名が無かったら、どうやって君を呼んだらいいのか分からないよ」

『…………』

 

 あ、すごい不可解そうな目で見てくる。自分ってあんな顔出来るんだ……。初めて知ったわ。

 

『臨時個体名として【システムさん】を登録』

「色々と言いたいけど……、アイルーくんたちの状態は元に戻せる?」

『主導権は返しました。では』

 

 それだけ言って俺の体をしたままシステムさんは消えた。瞬間移動ってヤツだろうか。

 

「……いやー、ううん……。もう何も突っ込まないぞ……」

 

 しれっと言われたけど、ヴェルダナーヴァが一回死んでたとか、そこら辺のこと。

 温いお茶を飲み干した。

 

 崖の下ではまだジンオウガとタマミツネが縄張り争いをしていた……。

 

 



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地形把握からの手紙に誘導された件

今回は少し短めです><


 俺のいる島にモン○ンの環境生物がいたり、果てにはジンオウガまで発生していた理由が分かった訳だが。恐らくというか確実に、アイルーたちも同じ理由で発生していたと思われる。

 だ か ら ど う し た 。

 それらを知って、どうすることも無く、俺は普段通りになったアイルーたちと稲作をしている。もう秋がやってきた。

 

 今年の稲も無事に育った。稲を干して乾燥させている間、俺は森にやってきた。

 いやー、森もさぁ……。生態系が変わったよ。ジンオウガでしょ、タマミツネでしょ、ドスランポス、ドスファンゴ、イャンクック先生、ナルガクルガにイビルジョー、リオレウス夫妻も。アプトノス、ケルビ、アイルー・メラルー(保護外の群れ)、ガーグァ、ブナハブラとかの小型モンスターも……。

 いつの間にか森というか、島全体が大きくなったみたいでさ。なんていうの、地形の一つ一つが拡張されてる感じ。そのせいか、やたらとモン○ンの生物が多いんだけどぉ……。

 

 というか言っていい? こんなフィールド、ゲームでも行きたくねーよ。

 

 住処にもしたくねーよ。お隣さんにもしたくねーよ。なんだよシリーズ超えで森や渓流地帯モンスター系が勢ぞろいじゃねーか、嫌だわこんなとこ。システムさん増やしすぎだよ。明らかに小型モンスターの量が少ないし、縄張り争いばかり始まるし、なんでこんな修羅の森になっちまったんだ。

 まぁ、でも……。そんな場所で俺が今ももち米探し出来てんのは、システムさんの粋な計らいなのかな?

 モ○ハンだったら、デェンッ! という効果音と共に、発見されたことが何度かあるけど、攻撃をされた覚えはない。なんだろう……、見つけても俺のことを気にしないで過ごしてるし、縄張り争いを続ける感じ。戦いの余波もあまりこっちに来ない様に気を付けられてる感じもする。そして、中には興味を持ってやってくるのがいるくらいかな。

 そう、今隣でイビルジョー君がお腹出して寝てるとかね。

 

 ――なんでコイツがいて森の生態系が壊れてないのか、コレガワカラナイ。

 

 イビルジョー。別名、恐暴竜健啖の悪魔貪食の恐王。設定的にも、ゲームバランス的にも非常にヤバヤバなモンスターだ。乱入で襲撃してきて三乙、怒り喰らうイビルジョーなどの特殊個体を討伐しようとして三乙。攻撃力も体力もバカみたいに大きくて、多くのプレイヤーに舌打ちとコントローラークラッシュへ追い込んできたと思われる。

 設定の方じゃ、いたら生態系が壊れるからよく討伐依頼が出される……って感じだったと思うんだけど。

 

 俺がイビルジョーを発見したのは夏の終わり頃。今は秋、分かるな? もう森が滅んでいてもおかしくないほどに時間は流れている。

 イビルジョーの底なしの食欲は健在だが、これといって森の植生や生態系が滅んだという箇所もない。具体的に言うと、見かけなくなったモンスターや植物がない。

 イビルジョーがいてこれは流石におかしいやろと、森、ひいては島のフィールド調査に赴いた俺は、この後たまげることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲を海に囲まれているのはどこの島でもそう。島の形状は全体的に円状。これがアメリカ以上にビッグにした感じが俺の住んでいる島だ。

 その島の真ん中あたりに俺たちが拠点にしている場所。ここから南に、システムさんがやってきた山がある。

 西には稲やらジンオウガやらが発生している森が広がっている。東には……驚いてくれ、砂漠地帯だ。この地帯から上部分は火山地帯。それから島外にはなるが、北西にいくと氷に覆われた島がある。北東にはヴェルザードちゃんとのバトルフィールドにした小島がある。

 全部のフィールドがこの島周辺に凝縮されているといったら分かりやすいか? あー、例えるなら……、モ○ハンワールドの全域マップ……みたいな? アイボー……、うっ、頭が……。

 にしても、よくこんな島で無事に稲作出来てたな……。やっぱ俺って天才では?

 最初見た時にはこんな場所じゃなかったんだけどなぁ……。ただの無人島くらいなもんだったのになぁ……。異世界なんでもあるなぁ……。なんだここは、たまげたなぁ……。

 

 一通り調査を終え(たまげ)た俺は愛しのマイホームへと帰還。ここも賑やかになったもんだ。

 稲作地帯とその隣にあるのが俺の家。底から少し離れたところにめちゃくちゃ大きくなった畑たち。その合間もニャーニャー言いながら走り回るアイルーたち。翔蟲くん専用スペースも付近にある。

 

「あっ、イナヴェル様。おかえりなさい! 天使の方が星王竜様からの手紙を持ってきておりました!」

「え、そうなの? 天使の人いる?」

「いえ、任務があるとのことなので我々に預けた後、帰られました」

「あー……。天使って、どんな人だった? 金髪で、短髪だったり?」

「はい、確かそのような方でした」

 

 フェ、フェルト……、フェルドウェイか……。

 そう言えば最近、天使にも人格的なのが見えてきたんだよな。なんかヴェルダ至上主義っぽい片鱗があるのがフェルドウェイ、寡黙ながらも仕事が出来るぜオラオラって雰囲気出してるのがザオリ……ザラリオ、とかね。これにはヴェルダもニッコリしていた。

 ……というのはおいといて、早速手紙を見てみるとする。

 

 

 

 …………。

 

 

 

『妹と弟が新しく出来ました。手紙に道案内させるための魔法を掛けておいたので、島から出て顔を見せてあげてね』

 

 

 

 新しいファミリー出来るのはやっ!?

 

 

 

《騒音を出すなァ~~~~~!》

 

 

 

 

 いや、別に島の外に出るのはいいんだけど……。帰ってきたらこう、家や畑が襲われたり、荒らされてないか不安で……。

 

《就寝中ゥ~ 大声出すことなかれェ~》

 

 ……え、最近黙ってること多いなって思ったら寝てたの? スキルが寝る? 

 

《睡眠は必要不可欠ゥ~ 汝もそう言うたであろうがァ~》

 

 まぁ言ったよ。年中無休で働いてる天使族たちに休んだらとか、ヴェルダに睡眠の重要性とか説いたよ。

 でもお前、別に寝る必要あるほど働いて――――――ッ!

 

 ベンベケベベンベンベンベンベンベケベベベベベン!!!!!!

 

 うっさ! うっさ! お前の方がうっさいわ! 騒音被害届はこっちが出したいくらいだわ!

 

《黙れ、黙れェ~! 外出するのならばァ~! 戸に鍵を掛ければ良かろォ~! 一々些末な事で悩むことなかれェェ~~~~!》

 

 ――戸に鍵を掛ける?

 

 それだ、それだよ琵琶法師! ありがとう琵琶法師! たまにはやるじゃん!

 

《っはぁぁ~~……》

 

 なんだか思い溜息が聞こえたが気にしないぞぅ! そうだよ、鍵掛ければ……! まずそのための戸を、仕切りを作ればいいんだ!

 つまりは防御魔法こと、結界! それで皆を囲っておけば万事オッケー! アイルーたちは自由に出入りできるようにして、万が一モンスターたちが来ても拒む様にして……!

 あ、出来たわ! これで安心して島の外に行ってこれるわ!

 その前に他のアイルーたちに暫く留守にすることを伝えておいて……。ヨシ!(現場猫)

 早速新しい妹弟の顔を見に行こうじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手紙が道案内する魔法。その言葉の通りだった。

 行くぞ! って言ったら手紙が自動的に動いて俺を誘導してくれている。

 移動手段は勿論。それなりに早い速度で移動しているが、島とヴェルダが指定した地点からではかなり距離があるせいか、中々着かない。というか海が続いてる。かといってあんまりスピード出すと、竹を浮かせてる力が弱くなって海水にボッシュートになりそう。うごごご……、これは練習しないといけないな。

 ずっと竹に座っているのも飽きてきたから伝説の柱乗り(姿勢)をしてみたり、ぶら下がってみたりしてたらやっと陸地が見えてきた。

 

「お、おぉ……! ここが、ヴェルダが色んな場所に種族を作っては根付かせたという場所……!」

 

 なんか巨人族とか妖精族とか吸血鬼族とかエルフとか、ファンタジーに出てくる種族総出+人間がいる魔境と化しているとか。ねぇそれ大丈夫なの? いつか領土問題とか戦争とかしない? という質問は飲み込んで話を聞いていた。

 

「んぁ? なんか紙が急にフルフルし始めたな……」

 

 え、ここで効力切れたとか? ただちょっと迷ってるだけだよね? オレ、ナビないとどこに妹弟がいるか分かんな……。あ、魔力察知っていう手段があるか……。でも面倒だな……。

 震えが止まって急に方向転換。何やら火山のある方に行きはじめた――!

 

「ちょ、ちょっと待って! 待ってってばぁ!」

 

 なんとか手紙に追いつこうとスピードを出した。

 

 ――竹にぶら下がったまま。

 

 俺の体は一身に風の抵抗を受けて、まるで干された洗濯物のように揺れたのだった。

 



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コツを教えてもらった件

連日更新とかプロットも肉付けも終わってる猛者のみに許された能力だと思いますけど、連日から条件を緩めた一週間、一ヶ月という範囲であっても、連続で更新するって難しいなと思いました(白目)
ということで強化イベント編です


 

 

「やべぇ、クーラードリンク必要だわここ……」

 

 どうやら手紙ナビくんは火山に妹か弟がいると言ってるらしい。でもな、火山地帯はあっちぃんだよ。噴火してなくてもめちゃ暑い。手で扇いで暑さなんてしのげない。早急にクーラードリンクが必要だ。

 あー、確か家の方に作ってあっておいてはあるんだよな。島までまた戻るのもアレだし、なんか空間に手を突っ込んだら倉庫に繋がる魔法とか欲しいわ……。いや、スキル? なんかそれっぽいのあるかな……。今度ヴェルダに聞いてみよう。

 

 手紙ナビくんの誘導に従って、どんどん奥地に入っていく。この世界特有の魔物たちもいて何度か危うくなったが、そこはなんとか竹くんで気絶させてやってきた。

 そうやって歩いていくと、開けた場所に出てきた。

 ビリリ、と感覚で周囲に妹弟……竜種っぽい魔素量を持つ生物を察知した。というか、本竜が出てきた。赤い鱗、細い体型の竜がぬっと。

 

「……あら? 何だか妙に多いような、少ないような。いいえ、もしかしてヴェルダ兄様の言っていた……、イナヴェル兄様ですか?」

「あ、うん。そうだけど。君が妹……なのかな?」

「はい。ヴェルグリンドと申しますわ、イナヴェル兄様」

 

 すっとヴェルグリンドが竜形態から人型形態になった。こちらに合わせてくれたんだろうか。

 青い髪に金色の目が特徴的な……これまたヴェルザードちゃんと似ているけれど、雰囲気が違う美少女。

 あのデッカイ体格なのに人間形態は小さいってどういうこと? 俺あんなデカかったかなぁ……。俺よりも森のヌシってるリオレウスの方がデカかった気がする。

 

「では改めて、イナヴェルです。どうぞよろしくね」

「えぇ、よろしくお願いしますわ。イナヴェル兄様」

 

 そう言うと、ヴェルグリンドちゃんは何故か周囲に魔素を漂わせた。

 

「あのー、どうして戦闘態勢に……?」

「ふふふ、ヴェルダ兄様に挑んだことで素敵な贈り物をもらったのです。それを試したくても、この辺りの魔物では弱くて弱くて、とても相手に出来ません」

「へ、へぇー」

 

 あ、なんか嫌な空気になってきた……。というか、この雰囲気はヴェルザードちゃんが……、なんか吹雪とか出してくるスキルのような……。底知れない力のような……。

 

「――ですが、同じ竜種であり、ヴェルダ兄様の弟であるイナヴェル兄様ならば、きっと耐えられるでしょう?」

 

 

 瞬間、凄まじい溶岩が水鉄砲の様に顔面に――――――。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 じ、じぬがどおもっだ…………。

 

 次なるファミリーの元へ誘導されている俺は、妹たちの怖さを知った。

 あの溶岩水鉄砲が顔面に来た後、咄嗟に俺はモン○ン流回避をかました。

 なにすんのや! と叫ぼうとしたら、俺でもすっかり忘れていた機能――イナガミの睡眠ブレスが発動してヴェルグリンドちゃんがぐっすりお眠りになった。その隙をついて手紙ナビくんを急かして逃亡中。

 そうだね……。ずっと竹ばっかりに注目してたけど、何気に睡眠属性付きの古龍だったもんな……イナガミ……。

 

 さっさと火山地帯から離れた今でも心臓バクバク言ってる。ヤベェ、ヤベェよあれ。起きたら絶対怒りがアクセラレーションしてるでしょあれ。どうかヴェルザードちゃんみたいに怒りませんように……。

 

 ――あ、もう島の外に出なければいいのか。

 

 まだ俺に優しいモンスターたちのいる島の方が安全だったよ。出会ったら即バトル! みたいな妹たちが住んでるこんな大陸にいつまでもいられるかってんだ。

 もう弟の顔を見たら籠ろう。そうだそうだ。そうすりゃいいんだわ。

 

 ……でも、弟の位置ってどこ? 段々上昇して陸地から遠ざかっていくんじゃが。

 こんな空の上……まさか、めちゃくちゃ体格が大きいとか? それとも空を飛んでるだけ――。

 

「やぁ、イナヴェル」

「お前かよ!」

 

 空にいたのはヴェルダであったが、その腕には卵を抱えている。クソデカい卵だ。

 

「……まさか、弟ってまだ生まれてない感じ?」

「正解。これから何百年も掛けて孵化していくんだ」

「へぇ~……」

 

 規模デッカ。サイズも年数も桁違いすぎんだろ……(恐怖)

 

「そもそも、生まれてから成体だった君の方がおかしいって、ヴェルグリンドが生まれた時点で気付いたんだよね……」

「ウェッ!? そんなこと俺に言われても困るわ」

「だろうね」

 

 苦笑い気味のヴェルダから卵を差し出されて「持ってみる?」と言われた。

 

「……重い?」

「そんなことないよ」

 

 とのことなので持ってみた。うーん確かに米俵よりは重くないわな。

 卵の殻は冷たいが、奥からほんのりと魔素の塊みたいな……。あ?

 

「……? なんかさぁ……、めちゃくちゃ内包してる魔素多くね?」

「そうだねぇ。今までの兄妹の中でも一番力が強くなる子だよ」

「……」

 

 ただでさえ兄妹? ヒエラルキーが一番下なのに更に上が増えるとか(笑)

 

 (笑)じゃねーんだよ。もうお腹いっぱいだわ。またコイツも顔を合わせれば戦え戦えジャンキーになるとでも……?

 

「それで、どうだった。この大陸」

「うん、もう二度と行かない」

「!?」

「妹に出会う度戦えってせがまれるの嫌だし……。さっきヴェルグリンドちゃんとも会ったけど戦えって言われたし……、竜以外にも巨人族とか人間がいるんだろ? 俺、あの島で大人しくしとくわ……」

 

 戦闘ジャンキー妹+弟(予定)のいる大地になんていられるか! 俺はまだ襲ってこないモン○ン島に引き篭もることにするぜ!

 ……と、意気込んだはいいものの、先程から暗い顔をしているヴェルダが気になる。一体なにか気が障るところでも……って。ああああ!

 

「あっ、ちがっ! ヴェルダの創った大地も種族も多様性に富んでいいと思うけど、ちょっと住むことを考えるとあの島がいいなってだけで、別に貶した訳じゃなくってね!? そう! ヴェルダじゃなくて俺個人の問題な訳で! 多角的な面から見たらヴェルダのいる島って他の奴らからすれば住みたいとか、凄いとか思っ――……」

 

「っく、ははは!」

 

 突然ヴェルダが大笑いした。

 ……? なんでヴェルダ笑ってんの?

 笑える要素あった?

 困惑しながら見ているに俺に「ごめんごめん」と涙を拭いながら話しかけた。

 

「いやぁね……。ふふっ、なんでも……」

「絶対なんかあるでしょソレ! なんで笑ってんだよ」

「ッ駄目だ……、ごめん、ちょっと笑いが止まらな……あははははは!」

 

 ――どうしよう、ヴェルダ、バグちゃったの?

 え、え、えぇ……。

 

 

 

 

 

「はー……、やっと落ち着いたよ」

「そりゃよござんす……?」

 

 空中で腹抱えて笑うヴェルダを延々と見ていたが、ようやく収まったらしい。

 

「ついさっき君の未来を見ちゃったんだけど、ふっ……なんだか愉快な……くっ……スキルが……」

「えっなに、なんでそんな笑えるスキルなの?」

「一見ふざけたスキルに見えるが、使いようによっては凶悪ではある……。でも、まったく()()()()()()に使わない気がするんだよねぇ……」

「ほ、ほーん? つまり将来的に俺はめっちゃ強くなるってこと?」

「そうともいうね」

 

 ヤッター! ヴェルダの太鼓判ならほぼ確定じゃないか? 俺も強いスキルを……!

 もしかして究極能力(アルティメットスキル)ってやつかもしれん! 俺にも貰えるんだな!

 

「――それから、何か聞きたいことがあるんじゃないのかい?」

「あっ……そうそう! ヴェルダ、どこでも物を取り出せるようなスキル知ってる?」

「ふむ……、イナヴェルが言っているのはこのことかな?」

 

 そう言った瞬間、ヴェルダの手にファンタジーでよく見る鉄の剣が現れた。

 

「おぉー! それどうやってやった?」

「まずは取り出したい物のイメージを浮かべて……、いや君に教えた筈の魔法のメカニズムさえ知っていれば出来る筈だけど」

「……へへへ。もう一度教えてくれたらなーって」

 

 俺が明後日の方向を見ながらちらちら様子を窺う。ふぅ、と溜息を吐いたあと、怒りの気配を微塵も感じさせない笑顔で「いいよ」との承諾を得た。

 よっしゃ! 流石ヴェルダ!

 

 

「君にも分かるようにいえば魔法というのは特定の法則に従い、具現化するイメージのことだ。魔素へ干渉する力が強ければ考えただけで魔法を行使する、なんていうことも可能になる」

「ほうほう」

「それで、君が知りたいのはある物質をどこからでも取り出すもの、で合ってるかい?」

「そうそれ」

 

 じゃあ、とヴェルダが前置きをした。

 

「ボクが今持っている剣を取ってみて」

「……? 普通に?」

「君が思いついた方法でいいよ」

 

 俺はそろーっとヴェルダに近付く。

 え、これ手に取ってもいいの? 急にヴェルダが襲い掛かってきたりしない?

 ヴェルダの動向を監視しつつ、弟(卵)を抱えていない方の手で剣を持った。

 ……特に何も無かった。

 

「ほい、取ったけど」

「うん。じゃあ剣をボクの手に戻して」

 

 剣をヴェルダに戻す。

 

「それから距離を取って」

「どんくらい? こんくらい?」

「そのくらいで構わないよ」

 

 ヴェルダから少し離れたところまで行くと、ヴェルダが頷いた。

 

「じゃあ、そこから動かずに剣を取ってくれるかな?」

「急に無理難題吹っ掛けんじゃん」

 

 俺の手は某ゴム人間のように伸びたりしないからな? 魔法もなんとか使えてるレベルだし。

 念動力とかも使えないからな???

 

「ほら、魔法はイメージって言っただろう? そこから動かずに、剣を取るイメージをしてみるんだ」

「えぇ……」

 

 イメージ。イメージねぇ。

 剣がふわ~っと浮かんで俺の手元に来るとか?

 俺自身を動かさずに剣を持ってくるイメージしろって、結構難しくね?

 弟(卵)を抱えてぐるぐる長考フェイズに入ってしまった俺にヴェルダから声が掛かる。

 

「何か問題が?」

「んー、イメージは出来るけど、それって無理じゃないって思ってなぁ」

 

 でも、イメージが大事だとかいう魔法は使える。実際、俺の住居辺りに結界的なバリアー張ってきたから、使えるっちゃ使える。そもそも竜形態から人間に変わるのも魔法なのか……?

 いかん、頭からぷすぷす知恵熱の音がし始めた。

 

「じゃあ、一つ。コツを教えよう」

「マジ? よろしく頼むわ」

 

 

 

「――魔法は……」

 

 

 

 後から続いた言葉に思わずぷふ、と笑いが出た。

 

「そんなの魔法だけじゃないだろ……! 能力(スキル)とかさぁ……! ぷぷっ」

「能力も魔法も言ってしまえば同一さ。能力(スキル)は誰にでも扱えるようシステム化された仕組みで、魔法は本来誰でも使えるものなんだけどね」

 

 弟(卵)を落とさない様に腹を抱えて笑いを収めた。

 あー、なんだか当たり前の言葉だけど元気が出てきた。

 

「ははっ、でも分かったよ。そう気負わず使わなくてもいいんだな」

 

 強く、また浮かんできたイメージを思い起こす。

 瞬きをすれば、俺の手にはヴェルダが握っていた鉄の剣があった。

 

「――そう。魔法のコツは掴めたかな?」

 

 鉄の剣をヒュンヒュンと移動させたり、ぐにゃりとゴムのように曲げたりすることで答えた。

 ははは! 俺魔法使いの才能あるかも!

 

「ありがとなヴェルダ! おかげでまた一つ賢くなれた!」

「うん、ボクとしてもようやく君が剣を持ってくれて嬉しいよ」

 

 にっこり。そう笑っているヴェルダはいつもの笑顔だったが、なんだか寒気が止まらない。

 

「ん……?」

「イナヴェル、追加で剣術についても教えてあげよう」

 

 

 

 ――あっ……。

 

 

 

 俺は、ヴェルダの手に現れた剣を見て、これから起こることを察してしまった。

 

「いや、俺、戦えなくても、ダイジョブだし……」

「自衛の手段は持っておくべきだと思う兄からの心遣いだよ」

「でも、ここ空中じゃんね? 俺、ヴェルダたちやフェルト……フェルドウェイたちみたいに翼とか持ってないし……」

「今ここで地面として扱えるように固定したよ」

 

 ふよふよと浮かんでいたヴェルダは確かに、空中であるのに足をしっかりとつけていた。

 いや、そういう問題じゃないって!

 剣術は! 剣術は求めてないかな!?

 

 全力で頭を横に振る俺は不思議な力で竹から引き剥がされて空の地面に立たされた。弟(卵)は俺の手から離れたが、宙に浮いたままだ。

 

「や、やめようヴェルダ! 気分を害していたのならこれまでの失言を謝るから! 誠意を込めて土下座するから!」

「ボクは別に怒ってないし、それでいいとボクが言ったんだから謝罪の必要性はないよ。さ、構えて」

 

 

 

 ――その後は、語るまい……。

 

 

 

 俺は ヴェルダ直伝の剣術を 仕込まれた!

 

 

 




▽■■■力『■■■』を獲得――失敗。
 現状においてプロトタイプの認知不足が原因と思われます。
 代行措置として、『■■■■』の能力を改善――不確定要素を発見しました。
 ただちに解析を行います。――検索結果、該当なし。
 『■■■■』に類するスキルの情報を新たに規定する必要があります。
 現行処理と共に解析を進めます――……。


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閑話 とても楽しい日々

スゥ~~~、イナガミ、ま~だ復活しませんかねぇ……?(サンブレイク)


 

 生まれてから、そちらへ行ってはいけないと予感のする場所があった。

 どうして行ってはいけないのか、大人達に聞いても顔を横に振るばかりで、誰も行ったことがないのだという。いや、そもそも絶対に行ってはいけないと口うるさく言われた。

 

「あそこにはリュウシュ様がいるから行っては駄目よ」

 

 リュウシュとやらがいるから行ってはいけないと、大人たちが言う場所。

 

「気にならないかニャ?」

「止めておいた方が……」

「おみゃえだって気になってるんだろ?」

「……まぁ」

 

 隣接する村で同い年でよく遊ぶようになったメラルーと翔蟲にそう言えば、二人とも気になるという。

 よしよし、気になるのは自分だけじゃないことに気を良くしたボクは早速二人を連れて行ったのだ。

 

「じゃあ行こう! もしこわ~い奴がいたって穴掘って帰ればいいにゃ!」

 

 その発言を、出会った当初はすごく後悔した。

 行ってはいけない場所にいたのはヒト――の形をしたリュウシュだった。リュウシュなんて初めて見るのに、一目見ただけで、体の奥が「リュウシュ」だって判断していた。

 手で土をいじくっては何かを埋めて、水をやっている。攻撃的な姿勢では無かったけれど、ボクらはその存在の大きさに腰を抜かして動けなくなってしまった。

 

 隠れていた茂みが音を立ててしまい、リュウシュ特有の金色の目がこちらを射抜く。

 それだけで息が止まった。恐ろしい、怖い、――殺される。体が酷く冷えきって震えて、近付いてくるリュウシュの姿がゆっくりと迫ってきていた。

 

「わぁっ、アイルーだ! アイルーじゃん! メラルーに翔蟲もいる!」

 

 体に暖かい力のようなものが入ってきた。目は相変わらず怖いが、よくよく見れば――喜んでいるような顔をしていた。そう思った瞬間、金色の瞳と目が合いやっぱり息が止まる。気のせいだ。

 

「こ、」

「こ?」

「ころさないで、くださいにゃ……」

「えっ。なんでなんで!? 俺殺さないよ!?」

 

 これがリュウシュ様――イナヴェル様と初めて出会った頃の話だ。

 

 

 

 初め見た時は怖いと感じたけれど、イナヴェル様はなんだか話しやすい方だった。

 名前も――、恐らく初対面の時に種族名も付けてもらっていた。そんなにぽんぽん名付けをしても大丈夫なの? と思ったが、イナヴェル様は平気そうだった。

 ……とまぁ、ボクたち改め、アイルー族、メラルー族、翔蟲族はイナヴェル様の眷属となった。全員が全員とまではいかなかったが、大方はイナヴェル様の下に行くことを選んだ。

 

 イナヴェル様は不思議な方だった。わざわざ土を耕し、そこに植物の種を植えて育てる。水を引き、稲を育てるなど……農作というものに力を入れていた。

 これこそお役に立つ時にゃ! とボクたちが奮起してイナヴェル様から農作の方法を教えてもらった。鍬や隙といった農具の扱い、季節の移ろい、作物を育てるに適した土の創り方といった技術に、――なによりも皆で何かを育てるということの楽しさを。

 

 ほんの小さな種を土に植える。日々面倒を見て、水をやって、肥料をやって。種から出た若芽を初めて見た時の感動、若芽が逞しく育ち、根を張りぐんぐん育っていく。

 まっすぐ育つようにと支柱用に加工された竹を刺し、育った作物の茎を結び、葉を増やしていく。

 小さな緑の蕾が出て、そこから小さな黄色い花が出る。

 花から実が成る。水を多く含んだまんまるとした実が。

 

「い、イナヴェル様! 実りました! 実がなりました!」

「おお! これは立派になったなぁ! すごいぞぉ!」

 

 田では特にイナヴェル様が力を入れている稲が育ち、畑は様々な作物を育てていた。

 ボクたちが力を入れて育てた作物が美味しいのは勿論だが、イナヴェル様の稲を加工して作られた「おだんご」や「ごはん」というのは格別に美味しかった。ほんのりと甘く、大体のお野菜を加工した料理に合って、食事の時間はいつも楽しかった。

 

 一魔物の喜びに共感し、共にご飯を食べ、喜んでくれるような竜種なんてイナヴェル様だけなのだ。

 恐れ多くもヴェルダ・ナーヴァ様やヴェルザード様を少しでも知った今、改めてそう思う。

 ボクたちはそんなイナヴェル様が好きなのだ。

 

 

 

 

 ある日、イナヴェル様はボクと、あの時初めて出会った面子を連れられて南の山に登った。

 道は険しいけれど、不思議と魔物たちはイナヴェル様を目にすると襲ってこなかったので楽に登れた。こんな時、翅で飛べる翔蟲……たけしが羨ましくなるも、これまでやってきた農作のおかげでそんなにひいこら言わずに山頂へ辿り着いた。

 

 そこから見えた景色は圧巻、の一言に尽きた。

 イナヴェル様は夜明けの時間帯に連れ出した。行きは暗かった道が、薄明りで照らされている。

 日が海平線の向こうから出ようとしている。日々作物を照らす太陽がこんなにも綺麗に思えるなんて。これもきっとイナヴェル様のおかげだ。

 

「……あのさ、近々ヴェルダが創った場所に行こうかなって思ってるんだ」

「「「!?」」」

「そ、そんな島を捨てられるのですか!?」

「どうかお考え直しを……!」

(動揺している)

 

 イナヴェル様のいない島なんて――!?

 と思ったが、

 

「あ、いやいや違う違う! 最近新しい妹と弟が生まれたらしいからさ見に行こうかなって思ってるだけ! ちょっと見たら帰ってくるから!」

 

 その言葉にほっとした。体に走った緊張が抜けていく。

 新しくお生まれになった妹君と弟君に会う為、島を少しの間出られるとのことだ。

 イナヴェル様がいなくてもボクたちアイルー族は生きていたけれど、もうその生活には戻れないだろう。イナヴェル様の側にいるというのはこの上なく安全で、心から休める場所なのだ。

 

「だからさ、その間留守にしちゃう訳だからね? 是非とも君達に田畑や皆のことを任せたいんだ」

 

 イナヴェル様がしゃがみ、黒い目と視線が合う。優しい色がありながら真剣な眼差しだった。

 ボクたちは身を正し「拝命しました!」と、その命を受けた。

 あぁ信頼してもらえている。心を許してもらえている。そのことがなんだか嬉しい。

 

「まぁ、何が起こっても大丈夫なように結界を張っておくから安心して!」

 

 イナヴェル様が立ち上がり、朝焼けを見つめ笑う。

 

「皆をよろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――焼ける。草木が焼ける臭い。肉が、仲間が焼ける臭いがする。

 

 目の端に火の粉がちらつく。……あぁ燃えている。収穫をして干した稲草が。皆が頑張って耕した田畑が、汗水たらして育てた作物たちが。

 そんなもの、無駄な行いだとばかりに燃やされていく。

 

 立たなければ。ボクは、ボクは任された。ボクたちはこの島を任されたのだ。

 イナヴェル様がいない間、仲間たちを守るように言われたのだ。

 

 突然、轟音がしたと思ったら、空を飛ぶ煤けた赤い鱗の魔物がボクたちの家を、畑を、稲を焼き払った。

 爆風の余波で火の手が燃え広がる。逃げきれなかった仲間たちが涙を流して燃えていく。

 

 体の骨が折れている感じがする。左足がダメそうだ。右足になんとか力を入れて、立つ。……咄嗟に持っていた鍬で魔物を殴ろうとしたけど、その鱗はすごく硬くて、翼を軽く一薙ぎされただけでボクの体は吹き飛んでこうなってしまった。

 ……一体、どうして、こうなったのだろうか。イナヴェル様の結界が、壊されるなんて。

 

 咄嗟に出した「逃げろ」という声は聞こえたかな。ネリーとたけしは皆を逃がしているかな。

 立ちはしたものの、視界が薄暗い。耳もぼやけて聞こえてくる。

 

 でも、底から震えあがる……唸り声ははっきりと聞こえてきた。

 

 

 

 守れということは、ボクは皆を守ればいいんですよね。

 でも、守る力が足りなければ……皆を逃がせということですよね。

 ボクたちは皆を守り、魔物と対峙すればよかったんですよね。

 

 

 

 ねぇイナヴェル様。ごめんなさい。ごめんなさい。折角の力を上手く使えなくてごめんなさい。貴方から教わった術を、違う用途で使おうとしてごめんなさい。

 貴方が折角作ってくれたものを、魔物に振るってごめんなさい。その上で負けてしまってごめんなさい。

 

 

 

 ――なによりも。

 

 

 

 貴方の帰る場所を守れなくて、ごめんなさい。

 

 

 



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ちゃんとする件

連載作品でこんなに文字数多く書けるなんて初めてだな……
それにやっと転スラっぽくルビ付き技名叫ばせられたから満足!
※もやっとする展開があるので注意


 

 

 事の起こりというのは、俺がダメなやつだったせいだ。

 モンスターたちは襲わないという漠然としたものを信じ、彼らと農作をする日々を送れると信じ、――なによりは己の全能さを信じ切っていた結果だ。

 

 

 

 

 島から環が去ったことで、モンスター同士の争いが活発になった。

 一言で言えばそれに尽きる。

 

 イビルジョーはそれまで隠していた本性を現すように自然を破壊し、目に入ったモンスターたちに対して暴虐の限りを尽くしていた。リオレウスらモンスターたちはこぞって互いを攻撃しあう。

 森は戦火に包まれ、砂漠地帯ではティガレックスの轟音が鳴り響き、火山の噴火活動が活発となり、海に潜んでいたラギアクルスが島へと上陸し、凍てつく島から本島へ海の水を凍らせた橋を作り、その上を凍てつく島に住んでいたモンスターたちが行進している。

 

 ――中でも、被害が酷かったのは環が作り、アイルーたちが広げた田畑。

 

 収穫物は根こそぎ食われていた。干されていた稲はよく燃えていた。倉庫も家も廃墟同然になっていた。

 

 ――結界が破られたのだと、生き残ったメラルーが環に教えた。

 

『イナヴェル様が結界を張られてお出かけなされたのは分かっております。私どもも、イナヴェル様がいない間は不要に外出をしないよう心掛けておりましたが……』

『突然、魔物たちが暴れ出したのです!』

『奴等、急に結界があると知れれば敵対していた者同士協力して……結界を……!』

『イナヴェル様のおウチもわたちたちの家も倉庫も、みんなこわれちゃった……』

『守ろうとした者が、成す術なく殺されて……、中には食われてしまったものも……』

(翔蟲が心配そうに見つめている)

 

 燃え盛る家と畑を前にして、言葉を発することなく立ち尽くす環に彼らはたどたどしく話しかけた。

 鼻につく、血の臭い。焼け焦げる臭い。炭となった稲と家々。

 農作業に疲れたら体を横にした縁側、厨房担当のアイルーたちがたどたどしく調理を行った厨房にまで、死体があった。

 彼らは環の家付近にある洞穴――環が家を作る前、寝床にしていた場所に避難していた。

 手を引けばそのままふらふらと引っ張られる環の姿。今まではつらつと、穏やかに接してくれた竜は誰の目から見ても疲弊していた。目に光が無く、目を離せば吹き飛んでいく稲わらのように頼りが無かった。

 

 環が帰ってきた頃には上がっていた日も沈み、洞穴の中で焚火を行い、アイルーたちは秋の夜の寒さを耐えている。その傍らで、絶えず彼らは環を正気に戻そうと話しかけていた。

 

「イナヴェル様、気を確かに……!」

「イナヴェル様!」

「いなゔぇるしゃま……」

 

 柔らかい肉球が環の体をぽふぽふと叩く。報復されでもしたら、と恐ろしかったが、それで気がこちらに戻るのならば構わない。人形の様に、抜け殻の様に焚火を見つめるイナヴェルに対し、アイルーたちや翔蟲たちが小さくアタックを仕掛けていた。

 

 しかし、やがて体力も無くなり、皆はごろごろと無造作に倒れていく。

 起きているのは環一人になった所で、彼は物音を立てずに洞穴を出ていった。

 

 四方山環は、至って普通の男子高校生である。学業の合間を縫ってバイトをして、小遣いを貯めて、友人たちと楽しく喋ったり。家に帰れば家族がいて、母親が晩御飯を作り、遅れて父と姉が会社から帰ってきて。

 決して、特殊能力を持っていたとか、家族に犯罪歴があるとか、そういった特殊な生は歩んだりはしていない、普通の高校生。

 

 胸が空洞になったように、秋風が吹き抜ける。

 何も考えられない。そんなショックを受けたのは、よく遊んだり、物を教えてくれた祖父の死以来だった。

 

(死んでた。皆、死んでた)

 

 環が悩みながら考えて名前を付けた、アイルー、メラルー、翔蟲たちが死んでいた。

 体だけ残した死体、腸の中身を食い散らかされた死体、いらないとばかりに吐き捨てられた骨のみの死体。

 羽や体がバラバラになった死体、中身が潰されて出てしまっていた死体、そもそも骨も肉もなく、血だけを残した痕跡。

 

(俺のせい?)

 

 アイルーたちは名付けを行われた魔物である。名付け前よりも飛躍的に身体能力が増加し、様々なスキルが付与されたが、それでいて尚無残に被捕食者として扱われた理由を、環は薄々感づいていた。

 

(結界、破られた)

 

 ――魔法使いの才能があるかも?

 

 そんなことを言った自分を殴りたかった。才能なんて、無い。

 才能があるというのは、いくらモンスターたちが束になっても破られない結界を張れる力を持つ者のことだ。

 突然モンスターたちが暴れ出しても殺されない、突破されない、そんな、そんな――。

 

 環は思いついたように、足を動かした。

 行き先は自宅のあった場所だ。そこはもう、火の手は自然と消えており、全てが終わった虚しさを漂わせる場所になっていた。

 

「ない、ない……。どうして、ない?」

 

 ――アイルーたちに連れていかれる前、あった筈の死体たちは消えていた。

 否、食い尽くされていた。という方が正しい。血を残して、骨や細い虫の足だけがころりと転がっていた。

 環は無表情で骨を拾い集めた。こうなってしまえば、誰が誰の骨なのか分からない筈だが環は自然と名前を口にしていた。

 

「ロゼ、エッダ、ケイト、まさし、アリス、みさ子、ナット、テイラー」

 

 ぶつぶつ、と何も音がしない場所で呟く声は酷く反響した。

骨や足を拾い集めていた環が次第に虚空を掴んで抱えた腕に入れるような動作をした。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 カールくんとネリーちゃんとたけしの体が見つからない。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「どこ、カールくん」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「どこ、ネリーちゃん」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「どこ、たけしくん」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」

 

 環からぼろぼろと涙が溢れて落ちる。衝撃を受け止め始め、現実を直視したのだ。

 転生して、家族みたいな者たちを失った。いつも傍にいて、ワガママを聞いてくれた者たちが消えてしまった。

 胸から溢れる激情が涙腺を刺激して止まない。

 

 環は涙を流しながら、その場で地面を掘る。抱えた骨たちを傍において、農具も使わないまま手でがりがりと掘っていく。爪の中には土が入り、指が徐々に傷付いていく。傷が付けば体内から溢れる液体が傷口を固めていくが、無我夢中で穴を掘る環によってかさぶたのようなものは剥がれ、また形を成していく。

 力を入れている筈なのに、まったく深く掘れない。竜種の肉体であれば、手で穴を掘ってもそれなりの深さが彫れる筈であるのに。手が震えているせいだろう。泣いているせいだろう。墓穴すら掘ってやれない己が忌々しい。疎ましい。

 

 情けなさでまた涙が溢れる。次の瞬間には、『仕方ないじゃん』『こんなことになるなんて知らなかったんだ』なんて考える浅ましさでまた溢れる。

 

 これは、明確に自分が犯した過ちだった。

 

 ――なにせ、環は彼らに農具の扱いを教えども、()()()()()()()()()()()()()()()()

 今になって、素人知識であろうとも、戦う術を教えておくべきだったと。

 

 世界は甘くない。誰か一人の悲しみに振り回されてくれる程お人好しではない。

 

 

 

 

 名付け、というものがあっても彼らは野生を生きるモンスター()()を撃退するほどの莫大な力を得ることはなかった。結果として生まれたのは、狩りやすく、この上なく美味い魂を持った(アイルーたち)だった。

 名付けというシステムを、その行いを、環は十全に理解していなかった。

 

 

 

 

 

 月を背に、環の背後に降り立つ竜がいた。赤く厳めしい鱗、その先は黒く尖る――リオレウス。

 彼は焦土と化した畑を無遠慮に踏みつけた。重たげな動きで環が振り向いた。

 

『……無様であるな、島の主であった者よ』

「…………喋る、だと?」

 

 この世界に生まれる魔物であるならば、必ず持って生まれるスキル『念話』による会話であった。

 しかし、環はアイルーなどはともかく、リオレウスといった純然たるモンスターたちが会話できることを知らなかった。

 何か言いたげな目をしたリオレウスは一度顔を横に振り、悍ましさを見せた赤き瞳で環を射抜いた。

 

『餌どもに名を与えたと思えば、土を弄っては作物を育てるの繰り返し。――貴様はこの島の主に相応しくない。竜種でありながら人の真似事をするなど笑わせる……。全てはお前の不甲斐なさが招いた事態だ。加護を与えた者らが我らに食われるのも、耕した田を壊されるのも、全ては弱肉強食の理よ。弱い者から消えていく。その理に沿い、強き者が我々の上に座すに相応しい。――――――まぁ、勝者はこのオレであると決まっているがな』

 

 呆然と環は勝ち誇る赤き龍を見つめていた。

 

『流石、腐っても竜種から名付けをされた魂だ。喰らえば喰らうほど、身の内から力が湧く』

「食った、のか」

 

 掠れた声をリオレウスは聞き逃さなかった。

 その惨めな弱者が漏らす悲鳴のような声にリオレウスの気が良くなった。にんまり、口角を上げてくつくつと大笑いをした。

 

『ああそうだ。――俺は喰った! 真っ先に貴様の地を狙い、破壊し、殺した者らの魂を喰らってやった!』

 

 引き攣った声が環の喉から漏れた。枯れた涙が溢れていた。――なによりも体が、震えていた。

 丁寧に抑えられていた魔素が放出されていく。地を育む優しさを秘めたものではなく、明確に目先の相手を滅ぼさんとする意志を秘めていた。

 

 リオレウスはその場から飛び去っていく。その煤けた赤い龍を環は目に焼き付けていた。

 それから環の行動は速かった。彼らの骨を埋める穴を掘り、その手で埋めた。

 そのまま、環はアイルーたちの元へ行く。

 

 しかしながら、洞穴で眠るアイルーたちは外から感じるすさまじい魔素に飛び起き、奥へと体を寄せ合い、震えていた。

 近付くものが人の足音と、僅かに優しく馴染みのある物に気付くのは、魔素を放出させている環の姿が見えてからだった。

 

「い、イナヴェル、様……」

 

 俯いたまま、土くれに汚れた手を下げる環は、雰囲気が変わっていた。

 一つ息を吐き、環は彼らに視線を合わせた。

 怯えて身を寄せ合う猫と虫たちを見て、目を細める。

 

 

「あと、一日だけくれ」

「は、い?」

 

「――次に月が上がるまでには、島を鎮める。ここには結界を張っておく。怯えも、空腹も、怒りも、それまでは辛抱してくれ。……終わってから、好きなように俺を罵れ」

 

 

 瞳を金色に光らせた竜が、そこにはいた。

 

 

 

 

 この島を起点として、多くのモンスターたちによる闘争が始まっていた。目障りな島の主であった竜種が去った為、それまで我慢をしていたモンスターたちが力の限り、欲望の限りを尽くして島の主になろうとした。

 たとえその主が帰ってこようが構わない。今度こそ己が主になるという闘志に溢れていた。なにせ、玉座はもう空けられたのだから。

 

 環にとってなった覚えも、もらった覚えもない称号。――今、それを示す為に島に住むモンスターたちへと立ち向かう。

 

 海岸沿い。そこでは海に潜んでいたラギアクルスらや、凍てつく島から侵攻しようとしているバフロバらが交戦している中、環が飛び込んで両陣営を圧倒。敗れ去ったモンスターたちには、それぞれの()()()を付けてから去った。

 砂漠地帯。ティガレックス、ラージャンといった強者たちを打ち倒し、砂漠下で漁夫の利を狙おうとしていたディアブロス、ハプルボッカらを引き摺り出して打倒。これもまたそれぞれに名付けをしてから去った。

 火山地帯。ヴァサルモスやアグナコトルといったモンスターたちを撃破。ここでも名付けをして去った。

 

 通りすがりに出会う小型モンスターたちにも名付けを施す。

 ここまでやればいくら竜種とて魔素が枯れ果てるのではないかと思いきや、環の体は十分軽やかに動く。

 その場にいるモンスター、動物全てを倒し尽くしては名付けを施し、音速で去っていく。

 早く。早く。早く。

 目に付いたモンスターを下す。名付けを行うことで己の格を示し、島内において()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうすれば、せめて遺体を食い荒らされることはない。

 

 アイルーたちだけが餌とはならない。等しく、()()()()()()

 

 となれば、もう島に以前のような穏やかさはない。島のモンスターたちは以前よりも活発に、本能に刻まれた弱肉強食の理に従い食らいあうだろう。共存をする種も出てくるだろう。縄張りを主張することもあるだろう。血と闘争に溢れた島になるだろう。恐らく、兄の創った島と、同種の島となるだろう。

 争いが絶えない島、下に弱肉強食の理が働く場所。環が望んだ平穏とはかけ離れた島だ。住むのを拒絶したくなる島だ。

 

 きつく瞼を閉じる。瞼の裏に一瞬だけ、骨を抱いた時に感じた誰かの記憶が蘇る。農作の日々を楽しんでくれた、良き隣人たち。

 

(そうだね、そうだった、そうじゃない……。謝らなくていいから、君たちは守ってくれたから)

 

 瞼を開ければ目に入る、眩しい夕焼け。

 粗方片付け終わり、環は平野へを歩いていた。自分が定めた刻限まで近い。悠長に歩いている場合では無いが、もう残るのは高見の見物をかました一匹のみだけだ。

 環は空を睨む。橙色の空に一つ、黒い点が徐々に落ちる。

 

 ――遥かなる頭上から事を見守っていたリオレウスが悠々と降りてきた。

 

『見事、このオレ以外を下したようだな』

「……後は、お前だけだ」

 

 これまで、環はどんな手を使ってでもモンスターを倒してきた。

 肉体、島に戻る前に教え込まれた剣術、竹に睡眠、魔法など。体を酷使すればする程動きは洗練されていく、魔素は失えば失う程使った時よりも多くの魔素が身に宿る、意識は研ぎ澄まされていく。

 酷く思考が冴えわたっている。自分がどうすればいいのかが明瞭に、筋道が分かる。

 

 竜種と呼ぶに相応しい存在が立って、リオレウスを睨んでいた。

 

 ――リオレウスはこの時を待っていた。

 

 魂を喰らい、進化した己と対等にぶつかり合える存在を。

 腑抜けた竜が目覚める日を。

 

 いつも遠くから土弄りに勤しんでいて姿は、今や震えあがる程闘気に満ちている。

 険しい眼差しは相手を殺す意志に染まっている。

 己が対峙するに相応しい強者。

 

 環の姿は人の形から、竜の形へと変貌していく。

 赤茶色の甲殻に、黒い鋭い爪。黄土色の毛がゆらゆらと揺れ、筍を模したような尾が地面を強く叩く。

 臙脂色の角を持ちしイナガミは剣呑さを増した視線でリオレウスを再び、強く射抜いた。

 それを受け、リオレウスは喉が、体の内側が燃えるように熱く滾っていくのを感じる。抑え付けられてきた枷が勢いよく外れ、歓喜と闘志が底から湧き上がる。

 

 

『さぁ始めよう! オレと、貴様の戦いを!』

 

 

 地を割り裂く咆哮が二重に重なり島中を揺らした。

 

 

 

 

 

 初手はリオレウスの火球。通常種が吐く物より滾る炎を漲らせ、サイズも顔の二回りはある球を素早く飛ばした。

 環が横に飛び、避けた火球は着弾した地点から爆発音と火の手が広がる。リオレウスは続けて火球を三発吐き出した。

 リオレウスへと向かいながら一発は避け、二発、三発目は臙脂の鱗で覆われ、先が蕾のような形状をした尾が火球を弾き飛ばした。あらぬ方向へ飛んでいく球の前に一瞬竹が現れ、方向をリオレウスへと誘導した。

 リオレウスが空を飛ぶことで火球は避けられ、地面に火の手を広げていくが、ある距離の所で不自然な形で止まった。

 

(――結界、それと共に空間拡張を使ったか……!)

 

 『魔法』と呼ばれる力。それもまた環の実力であるのならば、全て叩き伏せるのみ。

 環の前足が強く地面を抉る。土の塊がリオレウス目掛けて飛んでくる――否、本質はそうではない。

 さっと辺りを見回すと、周囲には天を突く程高く伸びる竹の林が生えていた。

 イナガミの攻撃の本質は竹と睡眠にある。後者は知らぬが、リオレウスは前者ならば知っている。

 

 ――ずっと見てきたから知っている。

 

 あるシステムによってモンスターが島に根付いてからずっと、リオレウスは環の行動を監視していた。

 島の主と定められた存在を。攻撃してはならないと本能的に思わさせられる、その存在を。

 しかしながら見れば見る程、知れば知る程――環は主として相応しくはなかった。

 そう断じるリオレウスの意識と、定められた本能は何故か噛み合わなかった。目にすれば攻撃する意識が薄れていく。奇妙で、不愉快だった。

 

 竹林のあちこちが蠢きだし――折れた竹がリオレウス目掛けて射出された。

 重量を感じさせない軽快な動きで竹の弾を避けつつ、尾や翼が起こす風圧で弾を討ち落とす。

 しかし、弾の勢いは止まない。察したリオレウスが器用に宙を舞いつつ環の待つ地上へ降りる。

 

『空への移動を封じたか』

『生憎、俺には翼が付いてないんでね』

『はっ、魔法が使える癖に何を言っている』

 

 軽く言葉を交わし、環が素早くリオレウスの首を噛み千切ろうと顎を突き出す。リオレウスの頭は口を開けた側面から強く殴打する。近付いた環目掛けて地を強く蹴り、全身を勢いよく振り回す。それだけで長い尾や翼が凶器と化す。

 くらりとした衝撃を利用し環は後ろへと飛び去り、そのまま竹林へと隠れ、そして口に竹を構えてリオレウスの元へと突撃。太い足で加速した体と竹を咥えた環が体を捻ることによってリオレウスの振りまわし以上の威力を出す。

 

 その攻撃を読んだリオレウスが宙を飛び、環の隙を突いて鋭い爪によるキックをかます。

 環の鱗を傷付け、溢れだした体液が石の様に固まり傷口を覆う。軽く脳震盪も起きたが、すぐに体制を立て直しリオレウスへと向き直る。自然と、環の口からがなり声が飛び出す。

 リオレウスも負けじと咆哮をする。不気味に静まった島の中で、両者のいる場所だけが騒がしく、激しく燃え盛っていた。

 

 攻撃をしてはされ返し。その攻防の繰り返しで、リオレウスは確実に気分を高揚させていた。相手の攻撃をまともに受けてしまえば消えるであろう命。紙一重で交わした心臓の高鳴り。それら全てがリオレウスのパフォーマンスを向上させていた。

 対する環は苛立ちと焦り。攻撃に粗が見え隠れしていた。最早、日はとうに沈んでいる。早く片を付けねば約束を守る事が出来ない。自らを戒める為、一方的に結んだ約束を。

 

(落ち着け、落ち着け……! さっきからコイツは、コイツの中にある魔素の量が増え始めている……)

 

 そのことに気が付いた環は冷や汗が止まらない。

 

(――まさか)

 

 彼らが吐く炎や氷は、全て自らの器官によって生成されたものであって、決して無意識的に魔素へ働きかけているものではない。スキルとして定められた動作ではない。

 そんな彼らが魔素の扱いを知れば――――より強大な力を持つ。その動作にスキルが、魔素が纏うとなれば――。

 

 瞬間、リオレウスの身を炎が纏う。鮮やかな赤い鱗は数段色が剝げ落ちたようになりながら、全身を巡る血管はより濃い赤となって隆起している。口からは炎がちらちらと見えて、リオレウスの目が宵闇の中で一等赤く光る。

 煮え立つマグマと呼べる風貌のリオレウスがいた。

 

 チッ、と環は内心舌打ちをする。厄介な相手が益々厄介になった。リオレウスの身に蓄えられていたアイルーたちの魂を使い、存在をレベルアップさせたのだ。

 ――気が付いた環の血管が怒りによってふつふつと千切れては治っていく。体に燻る熱は冷めずに温度を上げていく。

 

『――この世で最も強き種の一角たる、イナヴェルよ』

 

『今のお前は竜種と名乗るに相応しい!』

 

 咄嗟にイナヴェルがその場から跳躍する。瞬間、環の立っていた場所から轟音と鱗を焼く熱風が発生した。

 ――発射し、着地した時点で爆発を起こし竹林と共に大地を焼き尽くした。危険極まりない技だが、リオレウスはそれをノーモーションで撃つ。

 破壊力を増した火球は連発され、環は静かに避ける。轟音と爆風、地面は穴ぼこだらけとなり、僅かに芽生えていた芽すら焼き尽くす焼野原に両者が立っていた。

 しかし、それは結界の内部だけだった。結界は破られず、被害は最小限に抑えられていた。

 

(あぁ、なんでもっとしっかり張っておかなかったんだろう)

 

 ――今の硬さならば、きっと襲撃時までに己は間に合った。

 過ぎ去ったことの後悔が過ぎるも、今は目の前の相手が優先だと思い直し、考えを切り替える。

 どうやったら相手を打ち破ることが出来る。名付けを確実に行う為には()()()()()()()()()()()()()が必要だ。

 故に、環はこの戦いに勝たなければならない。勝って、『リオレウス』という名を与えねばならない。

 

 宙を飛ぶ環を狙ってやってきた火球。それが環の胴体に当たろうとした。その直前、竹が一瞬で生えて火球を跳ね返した。撃った本人はひらりと身をひるがえし、宙を舞う。そのまま高度を上げ、翼を大きく広げつつ空から環を定めるリオレウスは、その胴体に業炎をごおごおと纏わせた。

 

炎星落下(フレイムフォール)――!』

 

 炎を纏ったリオレウスは、環のいる場所目掛けて降下してきた。夜空から、赤く輝く星が地に落ちてくるように見えた。

 逃げる。と、考えた。だが逃げた所で今の応酬が繰り返されるだけでもある、とも思いついた。

 リオレウスの目は環のみに注がれている。

 

(もう逃げるべきじゃない)

 

 環の足が一歩前に踏み出される。環の目もリオレウスの赤き眼を注視する。

 

『決着を着けてやる』

 

 一言告げれば聞こえたのか、リオレウスの口元が笑っていた。

 環は体中から魔素を捻り出す。だがリオレウスには形あるままに負けてもらわなければならない。

 内心は消し炭にしてやりたい気持ちだったが、理性は余計な考えを封じ込めた。

 

 魔素を練り上げる。メインで使うスキルは戦いの最中に得た『魔素増殖炉』。()()を焼べれば魔素を増やすことのできるスキル。連戦でモンスターたちに名付けをしてなお魔素量が足りたのは、このスキルあってこその暴挙だった。

 もうとっくに何を焼べるかは決めている。今でも湧き上がる感情を込める。

 

 竹で作り上げた弓重たい音を立てて作り上げられた。弦の中に、矢を番える場所には環自身が入った。弦は蔓で思い切り引く。

 そして、()()を焼べて出来上がった、従来の環の持つ魔素量を超えるエネルギーが環に宿る。肉眼で青く見えるオーラを纏い、環はスキル『手加減』を発動させた。

 

 空を飛ぶ手法の一つとして思い浮かべて実戦しなかったもの。弓は竹で作り、矢は己として宙を飛ぶ。

 またの名を人間大砲ならぬ人間弓矢。この場合、竜種弓矢とも言うべきか。些か語呂が悪い。

 

 よく張られた弦が力を受けて元の場所に戻ろうとする。

 

 

 

 その勢いで――環は空を飛んだ。

 

 

 

 落ちる赤い星に向かって青い光が衝突する。

 

 ガガガガ!

 

 互いの(魔素)が衝突し合い、激しい音を立てた。どちらの(魔素)が勝つか、相手を侵蝕せられるか。衝突地点の(魔素)は青と赤とにころころと色を変えてせめぎ合う。肉体的な体力もだが、精神的な気力も著しく消耗する。環の顔色は悪くなる一方で、リオレウスの顔は増々喜びに満ちて力を増加させていく。

 

 ――もう駄目か。相手の攻撃に乗ってみたものの、駄目なのか。

 諦めかけた環は目を閉じる。青い(魔素)の旗色は悪くなり、環側の勢いが悪くなる。

 

 

 

 ――目を閉じたら、浮かび上がる。

 

 

 

 燃える畑と家々。食い荒らされた死体と、そこに無き魂。

 

 長い間、とは言えぬ間だったかもしれない。でも確かに環は、カールたちはこの島で農作をしながら生きていた。時折訪れる兄妹や天使らをもてなして、ゆっくり土を弄る生活が何よりも恋しい。

 新たに湧きがった情。それに反応して炉が勢いよく燃えて――魔素を作り上げた。瞼を上げた環はリオレウスを見た。

 

哀惜穿孔(グリーフストリーク)

 

 爆発的に上昇した魔素量のエネルギーがリオレウスの魔素を打ち破った。轟音を立ててリオレウスの鱗を貫通し、内部にまで衝撃を行き届かせた。

 

 

 

 ――上空目掛けて飛んだのは青い光。落ちるは消えゆく炭火の鱗を持った――リオレウス。

 

 

 

 炉の炎が消える。環の体に纏う魔素も消えゆき、体は落下を始める。

 

(あぁ、終わった……)

 

 難事を終えた達成感とはいえない、義務的に割り振られた仕事が終わった後の疲労感が環を襲う。が、難無く地面に降り立った。

 背後を振り返ると、ボロボロとなったリオレウスが地に倒れていた。

 環が近寄れば、リオレウスの口から『くくくく……』と笑い声が聞こえた。

 

『見事、だ。よくぞ俺を打ち倒した――イナヴェル。お前は竜種の一角だ、ようやく俺は、それを実感出来た……』

『……それと同時に、思い切り戦えて楽しかった、……だろ?』

『あぁそうだ……。戦いを挑んで、勢いよく負けた。全力を出して――進化すら成し遂げたのに負けたのだ。これ以上ない快き負けだ。さぁ、トドメを刺すがいい』

 

 左目を負傷したリオレウスは、残った片目に期待を乗せた眼差しで環を見やる。

 

『……お前の種族名は【リオレウス】。【リオレウス】だ。……それから、トドメは刺さない。好きなように、何処へなりとも行け』

 

 環の体から魔素が減り、リオレウスにと移行する。彼――彼らの種族の格もまた上がり、島にて襲われる種族となるだろう。

 

『――チッ。俺にも名付けを行うか』

『あぁそうだ。お前も島の輪に入れ、そして争え、お前たちにも魔素はやったのだ。もう俺の眷属を好きな様に喰わせない』

『……それもまた、強さか?』

『さぁ? 俺の言葉じゃ弱さという』

 

 魔素を移されたことでやや回復したリオレウスは立ち上がる。

 

『ふっ、また今度争おうではないか』

『嫌だね』

 

 終始嬉しそうなリオレウスに反し、環の気分は低下の道を辿っている。

 かの赤き龍は嬉しそうに笑い声を漏らして森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 全てが終わった。環はイナガミの姿から人の形を取る。

 

「終わった、なぁ、終わったよ、皆」

 

 燃え禿げた土地を歩く環の足取りはおぼつかない。これまでの緊張が一気に解け、疲労がドッと体に押し寄せている。

 そこから少し歩いたところは、環たちが住居を構えていた場所に出る。焦げ臭さは未だに取れず、死臭もしている。嫌な臭いだ、と環の記憶に深く刻まれた。

 

「はははははは、はは……。おわ、ったぁ……」

 

 足元を取られ、環は転んだ。受け身を取ることもなく地面を転がり、仰向けになった。

 白い月が真上に昇っている。星が散らばり、これまでの戦いを見届けていた。

 

「かえってきて……」

 

 (まなじり)にじわりと涙が浮かぶ。

 

「おねがいだ、もうおわった。きみたちを、がいするものは、いないから……」

 

 この世界で出来た初めての隣人、初めての友達、初めての――家族。

 兄妹を抜かして、初めて自分に歩み寄ってくれた者たち。

 

 あ、あああぁぁあぁぁ……。

 

 吐息と嗚咽が胸から込み上げる。無性にやるせなき気持ちが溢れに溢れ、涙として表に現れる。顔の横を伝い、髪に含まれながらも地面に沁み込んでいく。

 

「おねがいだ……」

 

 誰に対して祈っているのか環自身にも分からない。汚れた手でとめどなく流れる涙を拭っても拭っても拭いきれない。戦いが終わった、島を平定した、全てのモンスターに名付けを行った。すべきことは全てやったのだ。もう後は思い切り、彼らを想うのみ。

 

 死んだ魔物は何処へ行く。取り込まれた魂は、進化として養分にされた魂は何処へ行く。その全てがあの転生システムと同じ様なシステムに組み込まれ、彼らにもまた生があるのならどうかその居場所を自分に教えてくれ。今度こそ守らせてくれ。今度こそ理不尽にその命を終わらせたりなんかしない。適当に結界も張らない。今度こそ今度こそ、ちゃんと君達に向き合うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――泣き暮れる環の髪に、触れる感触がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 する筈のない感触に環の涙が一瞬、止まる。温かい。柔らかい。――手指の感触。

 毛深くはなく、皮膚と思わしき手が環の髪を掴んでいて、「ぅえへぇへへ」と言葉にならない音を上げている。

 時の止まった環は目線だけを、音の方向に見やる。その姿を目にして殊更、環の目に涙が溢れた。

 

「そうか、そうか……」

 

 泣き笑う環が音たちに向き合った。そこにあったのは肌色の塊が()()

 丸い頭に丸い指先や体を持った――赤ん坊。環を見てはきゃらきゃらと笑うのは赤ん坊だ。

 一人は笑い、一人は泣いて、一人はじっと環を見つめている。

 彼らが座す場所に環は納得した。そうか、としか今は言えなかった。今は喜ぶ他無かった。

 夜に似合わぬ笑い声が聞こえ、そして洞窟外に張られた結界も解かれたせいか、ぴょんぴょんと跳ねてこちらに来る影もあった。彼らは傷だらけになった環の姿と、その腕に抱かれた見知らぬ生物を見て目を丸くさせた。

 

「――そうか……」

 

 環は空を仰ぎ見る。これが一体どういう計らいなのか、それとも自然的に起こった奇跡なのかは知らない。

 

「――今度こそ、間違えないから」

 

 もう驕らない。もう現実から逃避したりしない。前世の延長だなんて考えない。

 

 

 

 ――ちゃんと、ここで生きるから。

 

 

 

 環は疲れ果て、赤ん坊を抱いたまま眠った。

 




▽ユニークスキル『先行者(サキヲユクモノ)』を獲得

▽スキル『魔素増殖炉』を獲得

▽称号『真なる島の主』を獲得

▽ユニークスキル『■■法■』の分析完了。スキル分類『ナビゲーション系列』を作成。現行、『智慧之王(ラファエル)』『■■法■』のみが該当します。
→『■■法■』がプロトタイプ『四方山環』のスキル『魔素増殖炉』にて作成された余剰分の魔素を使い進化する動きが見られます。推定86400秒後に終了します。当スキルがどのように進化するかは未定。当システムとして該当する言語群――期待しています。

▽種族『???』が新たに誕生。種族データベースへ登録します。種族的特徴・生態についてはこれからのデータ更新によって追記していきます。



多分もう書く機会ないリオレウス側の状況
リオレウスくん
…途中でヌシリオレウスっぽく進化した。ユニークスキル『扇動者(プレデター)』を持っており、このスキルを使ってモンスターの闘争心を煽っていたというのが激しい争乱の仕組み。
でも闘争心が無ければ使えないので、少なからず多くのモンスターがスローライフを送る環に対し何かしらを思っていたことは確実。


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拠点開発編
謝罪する件


これから新しい章に突入だというのにとんだ蛇足&独自設定回ですな(焦り)


 

 最初にアイルーが食われたという点に、恐らく俺の魔素が関係している。

 名付けとは魔素を分け与え、彼らの魂の格を上げるもの。俺は名付けをアイルーたちにのみしていた。

 その時点のアイルーたちの魔素量を100とする。そしてリオレウスらの魔素量を50辺りとする。

 

 肉食なモンスターたちは、普通にケルビやガーグァといった草食動物たちを狩ってその日の食事としていた。これはゲーム内でも見た光景だ。ワールドなんかじゃ彼らの死体が突き止める痕跡にもなっている。

 モンスターは俺を襲わずとも、食生活としては至って普通だった。よく知られる弱肉強食の理において彼らは食われ、食われつつを繰り返す。

 

 しかし、今回は魔素量がそれを狂わせた。

 

 俺は、アイルーたちに自衛する手段を教えなかった。常に側にいて、森で散策しても彼ら(モンスター)たちが襲ってこなかったというのもある。

 今となれば魔法やら農具やらでも使って相手を叩きのめすという行為を教えてやればと後悔している。

 本来ならすばしっこく野生を生きられる筈の彼らアイルーは無抵抗、もしくは抵抗しても弱弱しく、簡単に食われた。

 …………いいや、俺がカールくんたちにあの場所を頼むなんてこと言わなければ、きっと彼らは土中にでも逃げて、俺が帰って来ればひょっこりと顔を見せてくれたのかもしれない。流石に希望的観測が過ぎるか……。

 

 ………………ここからが本題だ。

 

 アイルーたちが含んでいた魔素量は彼らが食用にしていたケルビたちよりも遥かに多く、それこそ何体か食えば進化出来るほどに魔素量を含んでいた。

 狩りやすさはケルビ以下で、栄養価(魔素量)が高いスーパーフード。

 そんな扱いになっていたのだろう。俺達人間だって、安くて美味しい食材があればそれを買う。

 より廉価で、より手間暇が無く、美味しいご飯が手に入るとしたなら、人間動物関係なく(誰だって)嬉しいから。

 

 だから……、咄嗟に思いついたのは島(小島含む)に住んでいるモンスターたちにも均等に魔素量を振り分けることだった。

 彼らの基礎魔力量50から、アイルーたちと同じ100に。そうすればアイルーたちが集中的に食われるということは無くなる。栄養価の部分を等分にした訳だ。

 かといって、そのままの状態で彼らは名付けを受け付けなかった。

 

誰が貴様のような弱者から名を受けるものか

 

 そう、念話で伝えられた。

 言外に力を示せと言われた。

 ならばと、俺は彼らを打ち倒すことを選んだ。

 

 モンスターたちは種族ごとにまとまって動いていたり、散らばって戦っていたりしていた。ドスジャギィが率いるジャギィの群れとか、レイギエナの群れとか、他にも群れ単位で戦闘に参加している奴等もいた。

 

 だとしても、()()()()()()()()()()()

 

 モン○ン風に言うなら捕獲をメインにして、名付けをし終わったら「一日は大人しくしているように」と命令を与えて、あの一番アイルーたちを喰ったリオレウスと戦う為のフィールド作りをした。

 誰か一匹でも倒して名付けして指令を与えれば、その種族はそのまま引いたから、戦闘は続ければ続けるほど楽にはなった。でも疲れはする。倒せば倒す程、名付けする暇を無くすほどに興奮したモンスターが襲い掛かってくる。だからその場を制圧し、死屍累々となった場でやっと名付けをして、他の場所に行って、また乱戦を繰り返して……。

 正直魔素量足りるかな、と思って魔法で魔素を生みだせないかなんて試行錯誤していたら出来上がったものがある。ユニークでもなんでもないスキルだが、使い勝手は非常に良かった。

 『魔素増殖炉』。何か(地面に転がる石とか、今日食べた物とか、一番効率良いのは()()だった)を燃やして魔素を作ってはその分をモンスターの名付けに回した。途中、変な所に魔素が流れたような気もするけど、気のせいだろうか。

 ともかくこのスキルが無ければ頓珍漢な思いつきも、リオレウスを倒すことも出来なかった。

 

 

 

 

 そうして迎えた翌日。俺は目の前にいる赤ん坊について悩むことになる。

 

 さてもびっくりなことに、戦いの後、ベイビーが三人生まれていたのを発見した。

 内側に俺の魔素っぽい力を感じたから、俺の子なのかもしれない……。

 それに、赤ん坊がいた場所は俺が皆の骨を埋めた、いわゆる皆の共同墓地の場だった。考えるとするなら、骨と俺の魔素が核融合してババーンと赤ん坊が生まれた……とか?

 それか、カールくんたちが生まれ変わったとか。……転生するんだったら人数分のベイビーが生まれてこないとおかしいもんな。ははは。

 

 日差しが目を焼いているのでそろそろ起きよう。体は微塵も動かす気力が湧かないけど。

 目を開けると俺の腕に一人の赤ん坊、傍にアイルー……シャルくんたちと赤ん坊二人がくっついて寝ていた。毛布……と思ったけどそれすら燃やされて無いんだよな。

 

 そうだな。俺の家も田畑も燃やされて無くなった。全部無に帰った。

 

 ――だが、まだ森自体が燃やされた訳ではない。あの森には今でも稲の原種があるから、そこから種籾を貰ってこよう。野菜もなんだって全てが残っている。……植物に関しては俺のスキルも使えるんだろうが、如何せんありがたみが無い。

 まぁ何よりも当面の間雨風をしのぐ家が必要。アイルーたちのメンタルケアに、赤ん坊の世話を十全に出来る環境を整えなければ。……そういや、最近琵琶法師いないな。こういう時にこそ口出ししてくれればいいのに。

 

 やることはたくさんある。目下、家の復興と、田畑の復興……。でもまぁ、水田に関しては土台を整えるだけにしておくか。もう収穫期は過ぎてるんだから土は休ませないと。

 じゃあ畑を先に作ろう。今から育てられるもの……、仕方ない、裏技だけど片っ端から実の成っている野菜、果物類を採取して強制的に育てよう。一先ず、彼らが食うに困らない様にする。

 

 ……起きたはいいものの、態勢とか疲労とかで起き続けるのも辛いわこれ。ごめんやっぱもっかい寝る。

 その後に……。なによりも最初やっておかなければならないことを……。

 

 

 

「この度は俺の至らぬ点があった故に、このような事態を引き起こしてしまい申し訳ございませんでした」

 

 俺もなんとか起きた。シャルくんたちも起きた。ベイビーも起きた。

 

 ――そして俺は皆の前で土下座をした。

 

「にゃ……にゃっ!?」

「イナヴェル様顔をお上げください! いえそう言うのもおこがましい位なのですが!」

「そうですそうです!」「なにを謝ろうというのです!」

「イナヴェル様、なにもわりゅくないよ……?」

 

「そうです…………! …………あ、あれ。俺、()()……?」

 

 アイルーたち、メラルーたち……そして、何よりも驚いたのはその()()()()()()()……あさぎという名を付けた雄の翔蟲だった。

 

「――それこそが、俺の過ちだ」

 

 一体どういうこと? という目が俺を見つめる。辛い、責められてる、怖い。でも説明しなきゃちゃんと罵ってくれない……。

 

「……俺は、君達のような姿をした種族を知っていた。だから、アイルー、メラルー、翔蟲と種族名を無意識に付けていた。――君達からは野生の頃よりあった危機意識が薄れ、……なにより翔蟲は発していただろう言葉(念話)を発せなくなった。言い訳がましいが、俺は翔蟲が声なんて出す筈がないって思っていたからだ。そんな浅ましい考えが君達の名付けに、遠因ながらも作用してしまった。翔蟲たちから声を奪った」

 

 ――名付けというのは、ある程度親の望みが入るという。

 

 ヴェルダが教えてくれた話の一つにそういうものがあった。聞いた当時はへー、だなんてクソみたいな態度で聞き流していたが、とんでもなく重要なことだった。

 俺は()()()()()()()()()()が喋っていることなんて――、そう、まったく知らなかった。

 リオレウスが『念話』を使って喋る、コミュニケーションを取るだなんてことも考えてもいなかった。森にいた、他の翔蟲たちが『念話』を使用して逃げているのが見えていなければ今も……。

 

 ……俺はモンスターたちをゲームの延長線上に考えていた。彼らの動きは常に一定で、変わらぬものだと思っていた。

 

 でも実際は違う。リオレウス……というか、魔物全般はヴェルダから『魔物は念話を用いて名前という識別子を用いずに個人を判断し、コミュニケーションを取っている』という話がある。リオレウスのみならず他のモンスターも俺が知らないだけで『念話』を使って話している。ゲームの中とはまた違った環境で彼らは生きている。

 そう、そうだ。まったく違うのだ……。プログラムの中の世界と、現実みたいなファンタジーの世界では人の動きだって変わる。誰もが誰も同じ動きをする訳じゃない。だというのに俺は「翔蟲は喋らない」という決めつけで彼らから言葉を奪った。

 

 この一連の事実をまとめて彼らに伝えたが、一向に反応が無い。窺うように片目でちらりと覗くとふるふると羽を震わせてあさぎくんがやってきた。

 

「イナヴェル様、我らに頭を下げずとも良いのです。これは俺達が引き起こしたことでもあるのです。何があってもイナヴェル様が守ってくれる、襲われても大丈夫だと……」

「そうニャ! イナヴェル様だけじゃない! あたしらも悪いニャ!」

「ううううう……! 」

 

 いや、泣いてくれるな。俺を(なじ)れ。(ののし)れ。「この駄竜が!」と頭を蹴ってくれたっていいんだ。

 その為と、俺なりの誠意を込めての土下座なのだ。頼む、どうか与えてくれ。

 

 なおも頭を擦りつけていると「うああぁ……」という声が聞こえてきた。赤ん坊だ。

 思わず顔を上げてしまった。

 切ない声を上げる赤ん坊は泣いていた。ひっきりなしに口を動かし、時折口に指を咥えては泣き続けていた。

 突然の鳴き声にシャルくんたちが毛を逆立てて警戒した。シャーっ! という威嚇音に反応してか、じーっと俺の土下座を見ていた赤ん坊二人の顔が動く……。

 

(……あ、これって泣く……)

 

「「「ぁぁぁぁぁあああぁぁぁああぁぁ!!!!!」」」

 

 クソデカい泣き声の三重奏が辺りに響き渡る。その泣き声に感応してまた他の赤ん坊もおんなじくらいに声を張り上げて泣く。み、耳が……キィンって……うあっ……。

 

「にゃ、にゃんですかこのヒトの幼体はぁ!」「我らとてこのように大きな声は上げませんぞ!?」

「にゅえあぁあぁ……」「おーよしよし!お前まで悲しくなっちゃったか?だ、大丈夫だ。うん」

 

 ……阿鼻叫喚って、こういうことを言うのか。

 

 しっかし……、いつまでもこんな風にさせてていい訳じゃぁ……ないよな。

 力いっぱい泣く赤ん坊ズを見つめる。しれっとシャルくんたちは俺を盾にして、赤ん坊の様子を窺いつつも距離を取っていた。

 大抵赤ん坊が泣くのって、腹が減ったとか、漏らしたとか、そういうのだよな……。漏らした方についてはそれらしい臭いがしないから……。

 

「ご飯が欲しい、とかか? そういや、昨日から何も食べていないよな……」

 

 ぐぅうぅ……。と答えるようにシャルくんや赤ん坊の腹からも返事がした。

 

 せやな、いつも食べてたのに突然二日抜きともなれば腹空かせてるよな。こんなことにすら気付けない俺ってホントに馬鹿……。

 調達しようにも……、赤ん坊がそれまで待てるかという話か。……いや、ミルク? ミルクなんてどこで調達すればいいんだ……。ぐずぐずに煮込んだおかゆくらいしか用意できねーぞ……?

 

「仕方ない……」

 

 出番だぞ『栽培者(ソダテルモノ)』ォ……!

 




▽――から、だを……つ、……っ……
▽――もとよ……、おま、……の……む、よう、な……キル、では、なかったが……
▽――そうだ、な……

▽――――儂は、儂の考えでお前を支えよう

※アンケート結果。あっ、ふーん……(察し)


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その日、俺はとんでもないものと出会った件

アンケートにご協力ありがとうございました!

>>>結果は女体でした!<<<

意外と老体の票が多かったところに琵琶法師の人気を感じてビクンビクンしてました。
だからサンブレイクくんははやくイナガミ復活させて、役目でしょ(ゆうた)
ま、女体になったのでCVは変わってると思います。さらば良い声の琵琶法師……。
でもサンブレイクでお役御免になったから……ウッ(琵琶法師ロス)


 

 赤ん坊の面倒を見ながら掘っ立て小屋を建てた。一応雨風を凌げる場所を確保したことにはなった。

 食事もなんとかして、衣類に関しては俺の着ていた着物の上着を分割・縫い直しておくるみを作成。なんとかあやすコツも掴んだが、慣れないことをすると疲労がものすごく溜まるからか、アイルーたちはぐーぐーと寝ている。

 俺は周囲に警戒をしておく。結界を張ったとはいえ、必ずしも安全ではないことはもう知っている。

 寝ているような、寝てないような時間がゆっくりと流れる。時折起きてぐずり始める赤ん坊をあやして目を瞑ってを繰り返す。

 

(……そういや琵琶法師、どこいったんだ?)

 

 アイツなら深夜の時間帯でも琵琶をジャンジャカ鳴らしてもおかしくはないというのに、ここ最近やけに静かだ。

 ……スキルを確認できるスキルとかない? どうやったら習得できるんだろうな……。

 

 今度ヴェルダに……。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……今は会いたくない。会ったら冷静でいられないから、来るなら来るでもう少し後にして欲しい。

 ――どうしてあの時、俺を島から遠ざけた。なんて言いたくない。

 ヴェルダは未来が見える。どこからどこまで、その未来を見て動いているのか分からないけど。

 

 ――あの時、手紙に従って島を出なければ、今もアイルーたちがいたんじゃないかって。

 

 そう考えてしまいそうなのが嫌になる。

 

 もっと結界を張れるくらいの力があれば。もっと俺の意識が固まっていれば。

 

 もし出来ていたら、出来ていればの話が嫌でも浮かんでくる。

 その様に出来なかったから、今の状況があるっていうのに。考えれば考える程、体が重くなってくる。耳に、あの頃の笑い声が絶えない島の幻聴が聞こえてくることもある。……未だに「俺のせいじゃない」って逃げそうになってる。

 

 違うんだ、これははっきりと俺のせいなんだ。

 

 違うんだ、これは俺のせいじゃないんだ。

 

 違う、違う、違う違う……。

 

 ――息苦しく感じる。……本当は、アイルーたちは俺のことを恨んでるんじゃないか?

 立場上、ああ言っただけで、本心は「雑魚竜種が」なんて思われてるんじゃないか?

 俺がここにいることで、逆に窮屈させているんじゃないか?

 むしろ、俺はここからではない、遠い所で彼らを見守るべきじゃないか?

 赤ん坊だって、俺がいない方がいいんじゃないか?

 もしこのまま成長していくなら、俺は赤ん坊たちのことがとても大切な存在になっている気がする。

 

 もし、もしも。

 

 俺がまた同じ過ちを繰り返したら……?

 

 ――苦しい。首の辺りが締め付けられているように、苦しい。

 じわじわと呼吸が圧迫されていく感覚。やたらと首元に強い力が掛かっていて、黒い腕みたいなのが伸びていた。

 

 

 

 ……首を絞められている?

 

 

 

 一気に視界がクリアになる。絞めている腕の主の顔は黒いもやがかかって分からない。

 でも、顔辺りを見ていると、耳の奥から音が聞こえてくる。苦しさの中でも耳をすまさなくて、音は大きくなった。

 息苦しい、折角見えてきた視界もくすんできた中で笑い声が聞こえてくる。

 明るくない、湿気を含んだ様に厭らしさを秘めた嘲笑だった。

 気持ち悪い、苦しい、気持ち悪い、苦しい。

 

 腕をどかそうとしてもぴくりと動かない。笑い声は更に近くなってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳元に笑い声が迫る――ところで飛び起きた。

 辺りを見回す。傍にすよすよと眠る赤ん坊と、眠るアイルーたち。灯りもない掘っ立て小屋の中だった。

 

 ……寝ていた?

 さっ、と心臓が冷える心地がするも、アイルーたちも赤ん坊たちも無事で、周囲に近寄る魔物の気配も無かった。

 安心が湧くと同時に、どっと、気が疲弊してくる。

 

 寝ていた。……寝ていた?

 

 これからずっと起きていようと思ったのに、何故俺は寝た?

 

 降って湧いた疑問が胸をぐるぐると回る。

 ――たまたま、いなかったから良いものの。もし、魔物が寄ってきていて咄嗟に守れていなかったら?

 

 ……気を引き締めないと。

 

 俺はもう間違ってはいけない。もう間違って、皆の命を散らしてはいけない。

 

 

 

 

 その翌日、環らは焼けただれた畑を再び整地することにした。土に混ざった石や肥料にもならない枯草を取り出した。その後、肥料として取ってきた魔物たちの糞やらを混ぜ込んで栄養を蓄えさせることにした。破壊された水路も整え直し、前より整備された農地を開拓した。

 徐々に冬の寒さが夕方にかけて現れてきた。

 もうすぐ冬が来る。少し早い休耕期だね、と。その頃にはそうやって笑えるぐらいの余裕が少しだけ戻ってきた。

 

 畑は時期まで休ませることになったが、次の問題は植える為の稲を育てる育苗用の稲をどうするか。

 これはすぐ解決した。

 環らは日頃、『栽培者(ソダテルモノ)』によって生育が完了した稲を出して食料としているが、この稲から取れた籾……米の味が襲撃前と変わらないものだということが発覚した。

 

 つまり、環が無自覚に「稲」として出した物はこれまで……、多くのアイルーたちと育んできた稲そのものだった。

 

 この稲から取れた籾を軽く選別すれば、春にはこれまでと同じ様に稲作が出来る。

 ――そう思えば、環の胸にあった不安が少し和らいだ。

 

 次の日、家の改築をすることにした。ヴェルダから教わった知識を用いて、掘っ立て小屋から前の様にヴェルダが指導して作った頃のような藁葺の家が出来上がった。建築資材はほとんど環のスキルで作り、アイルーたちが環からの指示を聞きながら作られた。

 住み慣れた土壁の家、藁の重みがのし掛かる屋根。

 家に入れば同じ間取りながら、前よりもやや大きめにスペースが取られている。これまで人に似た形をしたのは環だけだったが、恐らく赤ん坊たちも人間と同じように成長するものだと思い、環がそうするように指示をした。家の作成には数日かかったが、アイルーたちはよく働きながら、休憩の合間合間に赤ん坊の様子を見たりもしていた。

 この頃になるとアイルーたちにあった赤ん坊への不信感は無くなり、今や家族同然のように接している。

 以前より広くなった家で、アイルーたちが赤ん坊を温める様に添い寝をする姿を環は見ていた。

 

 衣食の、衣食はともかく、住はある程度整えた状態にある。不安の残る結界も、掘っ立て小屋作成時よりも強化を施したお陰で安心と呼べるようにはなった。とはいえ、環による警戒は継続している。

 

 残るは衣食。特に、衣が重要だ。

 

 ちらほらと、遠くから雪雲が見えてくるようにもなった。日の出る昼間であっても寒さがほんのりと感じるようになった。

 流石にアイルーたちも、赤ん坊も、このまま冬が来れば寒さが堪える。

 備えが必要だ。体を温める毛布に食料品などが特に。

 火を起こす薪や食料は環のスキルで対応できるが、毛布はない。いくら以前より魔法というものが扱えるようになったとはいえ、空中からぽっと毛布を作り出す域では無い。

 毛皮、それから植物以外の食料品も必要。

 綿花から繊維を取り出して糸・布地を用意して編む、という案が浮かんだが、ここで重要なのは繊維を取り出す技術も、重要な縫製技術も、環には無いことだった。

 

 毛布を作るよりかは、体毛のある魔物から毛皮を剥ぎ取る……。

 「狩猟」こそが冬を越す近道だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹き付ける風が前よりも冷たくなってきた。

 

 あぁそろそろ決めないと

 

 環は考えるも一向に答えは出せずにいた。

 囲炉裏の火すら消えた家から環はそっと抜け出した。

 定期的に耕しては手入れを施している畑の横を歩けば、ちょろちょろと流れる水路の水音が自然と耳に入る。

 焼け焦げた頃の面影は徐々に消えてゆく。同時に、あの時の生活も消えてゆくよう。

 

 ぽつぽつと歩を進める環はぴくり、と耳に届いた音に足を止めた。

 

 音は結界の向こう。か細く、森の木々の暗がりから聞こえてきている。

 初めは魔物の声か咆哮かと思えば、続く音を聞いていると、それはなにか、細い糸を弾く音だった。

 糸が小さく空気を震わせて、ゆるやかな音を遠くから響かせている。硬いなにかが板にこっ、とぶつかる音――。

 

 

 

 てんっ

 

 

 

 音の区切りを表すかのような一際大きい音。

 やけに聞き覚えのある音だった。

 

(……琵琶?)

 

 襲撃以降から聞こえなくなった琵琶の音。話しかけても反応すらしなくなったあのスキルの名がふっと浮かぶ。

 

(いや、まさか……。だって、あいつは寝ている筈だろ……)

 

 かといって、この島に()が来たことは無い。こちらにやってくるような、船の影も気配も無かった。

 環の意識が音色に惹かれ、ふらふらと結界を通り過ぎて森の奥へ歩もうとする。が、森へ入る手前で止まり、結界を振り向く。

 

(結界はあるにしろ、襲撃されそうな程激しい気配も……そう、無い。大丈夫だって信じたいけれど……)

 

 目を伏せる。このまま音色の元へ行くべきか、留まって守りを固めるか。

 結界を張ったから大丈夫、なんて心持ちで外出したばっかりに起きたのだ。今、この時点で油断はできない。間違えたらいけないのだから。

 

 一歩。

 

 環の足が森から離れ、ゆっくりと森から離れて畑へと近付く。馴染んだ水音が聞こえ――。

 

 途端、激しい音が届いた。

 環が顔を上げて、再び森の奥を見る。

 

 

 

(…………)

 

 

 

 それ以降、()()()()はしない。

 

「…………行けば、いいんだろ」

 

 環が声を出せば、応えるようにか細い音が届く。

 深く、大きく、息を吸って呼吸を整えた環は再び森へと足を向ける。今度の足取りはしっかりとしたもので、かつ素早いものだった。

 走りはしない。早歩きで音色の元へと行く。

 普通、こんな夜中に弦楽器なんて鳴らせば魔物が起きる筈だがそれもない。不気味なまで琵琶の音が届く静かな夜に()()()()()

 

 環たちが拠点にしている場所からやや南下した場所には山がある。断続的に続く音色に導かれるまま、切り立つ崖のある場所に出る。そこを飛ぶように地を蹴って登ると、山頂が見えた。

 この山は森や砂漠、海まで見通せる場所で、あるシステムが降り立った場所でもある。

 

 

 てん てん てん

 

 

 調子を調べるように鳴らした琵琶の弦に銀杏に似た大きな撥を構えているのは、年若い女性だった。

 うっすらと緑を内包する艶やかな黒髪を長く伸ばし、背に流して、地にまでぐるりと蜷局を巻いている。静かに琵琶を弾く姿は初めて見るようでいて、初めてではないような感覚がしている。

 女性の前まで歩むと、閉じられた瞼が開かれる。

 

「……琵琶法師?」

 

 銀色に見える瞳が環を貫いた。

 

「――あぁ」

 

 

 

 

 

 すごく、大きな溜息が夜空に響いた。

 

 

 

 

 




▽『■■法■』が特殊な進化を遂げました。
データベースに追加し、特性・動向を都度追記し、該当スキルについての情報を逐次更新します。


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