機動戦士ガンダム第05MS小隊 (モービルス)
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第1話 穀潰し小隊

○登場人物紹介

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。ユウ・クロメ伍長の入隊時より本作は始まる。出撃命令が下りない第05MS小隊に疑問を感じている。搭乗機はRGM-79G通称陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。ウィルがボケ役であればロックはツッコミ役といったところ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。自身のことはあまり話さない謎多き人物。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。エアコンが苦手であり、外のテントにいることが多い。

エレドア・マシス伍長(22)・・・第08MS小隊ホバートラック搭乗員。シロー・アマダ少尉着任以前から08小隊メンバーであり、コジマ大隊の中では古株である。軽い性格の不良軍人であるが、ソナー手としては超一流と言える。

ジダン・ニッカード大尉(72)・・・機械化混成大隊補給中隊隊長。酒と賭け事を愛するスケベなじいさん。飄々とした実にくえない老人である。



 

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「暑い・・」

 

 輸送用のジープから降りた第一声はこの一言であった。

声の主の名はユウ・クロメ伍長。年齢は20代前半といったところか。

 クロメ伍長の前任は地球連邦軍総司令部「ジャブロー」で生産を開始したRGM-79ジムのテストパイロットであったが、本人の「現場で自分の力を試したい」との強い要望により、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」に転属したのであった。

 

 ジオン軍は、ブリティッシュ作戦の直後に大規模な降下作戦を三度にわたって実行し、またたく間に地球の半分を制圧してしまった。

 地球連邦軍は各地で撃破され、一方的な撤退を余儀なくされたが、ジオン軍の攻勢を辛くも止めたのが、東南アジア一帯に広がるジャングル地帯だったのだ。

 鬱蒼と広がるジャングルという地形を利用することで、連邦軍はなんとかジオン軍を止めた。

以来、極東方面軍の戦線はジャングルに沿って構築され、今もそこで一進一退を繰り返しているのである。

 

 まずはコジマ大隊長に辞令交付および挨拶に行く必要がある。

 しかし、基地に着いたはいいが、迎えが誰もいない。

 仕方がないので、近くの兵士にコジマ大隊長の居場所を聞いてみることにした。

「すみません、本日コジマ基地に着任した者ですが、コジマ大隊長はどこにおられますか?」

「ん?コジマのおやっさん?」

 クロメに声をかけられた兵士は軍服をだらしなく着込んでおり、いかにも軽そうな長身の若者だ。軍人というより、繁華街をぶらつく若者というかんじだ。コジマ大隊長をおやっさんというあたり、コジマ基地での生活は長いのだろう。

「お?あんた、まさかあの05小隊に着任する若造か?噂は聞いてるぜ。コジマ大隊長はこっちだ。案内してやるよ」

 同じ位の年齢の兵士に言うだけ言われたクロメ。しかしコジマ基地での経歴はあちらが長いので素直に着いて行った。

 気になるのは兵士が言った言葉である。「あの05小隊」、「噂」・・・。

 そうこうしているうちにコジマ大隊長がいるテントへ着いた。

「ありがとうございます。自分、ユウ・クロメ伍長といいます。本日より第05MS小隊に着任します」

「おう、俺は第08MS小隊のエレドア・マシス伍長だ。ま、これからよろしくな」

 軽く挨拶を交わしエレドアは去って行った。

 

 コジマ大隊長のテントへ入る。

「ユウ・クロメ伍長、ただいま着任しました」

 クロメが敬礼すると、何かの書類を眺めていたコジマは、あまり鋭くない眼でクロメを見上げた。

「ご苦労。私が大隊長のコジマ中佐だ」

 コジマはずり落ちかかっていたメガネを、人差し指で少しだけ持ち上げた。

 年齢は50歳前後だろうか。鼻の上にちょこんと乗ったメガネはおそらく老眼鏡だろう。口元にたくわえられたヒゲにも、微かに白いものが混じっている。およそ軍人には見えず、見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。

「現在、我が大隊は、ジャングルを挟んで対峙するジオン軍と一進一退の攻防を繰り広げておる。貴君が着任する第05MS小隊の任務は、この戦線を維持し、また機会あれば敵軍をジャングルの向こうへ押し戻すことだ。聞いているとは思うが、我が極東方面は激戦区の一つだ。ジャブローから来た貴君にとっては色々な意味で過酷な環境だと思う。だが、連邦軍の勝利のためにがんばってくれ」

コジマが機械的に説明する。何十回と同じフレーズを着任する兵士に話してきたのであろう。

「それとな、君が着任する05小隊についてだが・・・」

コジマは何か言おうとしたが、声を詰まらせた。

「あの、05小隊のことで何かあるんですか?」

「いや、まぁ良い。詳しいことは隊長に聞いてくれ。第05MS小隊の隊長はウィル・オールド曹長だ。部下の辞令交付にも顔を出さないどうしようもない奴だが、気は良い奴なんだ。聞けば何でも答えてくれるだろうから、慕ってやってくれ。05小隊の隊員たちはMS格納庫に行けば会えるだろう」

「了解しました」

 05小隊については相変わらず気になるが、クロメ伍長はコジマ中佐が部下についてしっかり把握していることに驚いていた。前々から極東方面は激戦区の一つと聞いていたが、このコジマ中佐が大隊を上手くまとめているからこそ、戦線を維持出来ているのかもしれない。

「それでは、失礼します」

「ああ、これからよろしく頼むよ」

 

 テントを出て、05小隊倉庫に向かうクロメ。その姿を遠くから眺める男が2人いた。

「エレドア、あれか、05小隊の新しい隊員ってのは?」

 話している兵士はジダン・ニッカード大尉。機械化混成大隊補給中隊隊長であり、70過ぎの老人である。額はほとんど頭頂部まで後退し、腰も半分曲がっている。しかし、その表情は妙にしたたかで、また子供っぽくもあり、老人らしくなかった。さらにジダンの顔は赤くなっており、かすかにアルコールの匂いがする。どうやら、真昼間から酒を呑んでいるらしい。

「あぁ、そうらしいね」

 話しかけられたエレドアはため口で答える。コジマ大隊は連邦軍の中でも規律が割といいかげんであり、愚連隊と呼ばれても差し支えないように思われる。

「05小隊か・・。コジマ大隊きっての穀潰し小隊じゃな・・。なんで05小隊なんかに配属されたんじゃ?あの若者、ジャブローではかなり優秀だったんじゃろ?」

「そうそう、現場で活躍したいからこの激戦区へ来た、いまどき珍しいやる気に溢れた若者ってやつだよ。どうだいじいさん、あの若造・・いつまでもつか賭けねぇか?」

 エレドアがジダンに賭けを促す。実はジダンは、ここコジマ基地で賭けの胴元もやっている。賭けるものは、金はもちろん、タバコ、酒、食糧、なんでもいい。軍では表向きには、こういった事は禁止されているのだが、実際にはほとんど黙認と言っていい。賭け事を見逃すくらいで戦場で疲弊した兵士の気分が高揚するのならば安いものだ――軍の上層部はそう考えているのだろう。

「こくんじゃねぇ!バカたれ!」

 ジダンが拒否する。しかし、ウイスキーを呷った後・・

「じゃが・・乗った!」

赤ら顔で親指を突き立て、あっさり承諾するジダンなのであった。

 

 第05MS小隊が所属するコジマ大隊に置かれたMS部隊は、2中隊、8小隊から成る。MS第1中隊が第01~04MS小隊から成り、MS第2中隊が第05~08MS小隊から成っている。装備機種も、RX-79[G]陸戦用先行量産試作型ガンダム(通称陸戦型ガンダム)、RGM-79[G]陸戦用先行量産試作型ジム(通称陸戦型ジム)の2種類が混在している。クロメが配属された第05MS小隊は陸戦型ジムが配備されているとの話だ。

 各小隊には3機ずつMSが配備されており、それぞれMS格納庫が設備されている。

 待機中の小隊は日中はMS格納庫にいることが多い。

 

「05・・05・・・おっ!ここだな」

 「05」と大きく描かれた格納庫が建てられている。間違いなくここが05小隊格納庫だ。格納庫のドアを開け、中に入る。格納庫内部はMSが入れるだけあり広く、3機の陸戦型ジムが整列している。陸戦型ジムの足元には索敵用のホバートラックも停車している。

 クロメがMSを見上げていると、格納庫の角から声が聞こえる。近くに行くと丸テーブルが置かれており、一団がトランプに興じていた。この一団こそが第05MS小隊の面々であった。

「なんだかなぁ、今日こそは出撃命令下りると思ったのに何もなしか、ヤレヤレだな、あ、俺パス」

 そうぼやいているのは、第05MS小隊隊長、ウィル・オールド曹長だ。年齢は30代前半といったところだろうか。どうやら部下の辞令交付など完全に忘れているようだ。

「ホント、毎日毎日トレーニングや射撃訓練ばっかりじゃないッスか・・これだから穀潰し小隊って陰口言われるんすよ・・全く・・自分もパスで」

 ウィルにこう返すのはロック・カーペント伍長だ。若々しく、元気があり余っているように見える。クロメと同じ位の年代に見える。

「そうだな、たまに出撃があっても基地周辺のパトロール位だもんな。索敵のやり方忘れちまうよ・・それっ、これでどうよ!」

 カードを出した隊員はパーク・マウント曹長だ。ホバートラック搭乗員であり、索敵を担当している。

「ゲーッ!マジかよ!!」とウィルとロック。

「これで上がりだ」とパーク。

 どうやら、トランプの大富豪をしているようだ。

「なんか俺たち、毎日トランプしてますね。戦争中なのに・・」

 もっともな事を言うのはダ・オカ軍曹である。パーク同様、ホバートラック搭乗員だ。

 

「あのー、ちょっとよろしいですか?」

 クロメが4人に声を掛けた。

 

「本日付けで第05MS小隊に配属されました、ユウ・クロメ伍長です!」

 クロメが敬礼とともに元気よく挨拶する。

 しかし、05小隊の面々はポカンとしている。

「ん?お、おー!君がクロメ伍長か!俺は05小隊隊長、ウィル・オールド曹長だ!よろしくな!!」

 ウィルが思い出したように挨拶を返す。

 他の隊員は何やらブツブツ話している。

「えっ、最後の隊員の着任今日だったんすか、聞いてないっすよ」とロック。

「コイツ・・完全に忘れてやがったな・・」これはパークだ。

「これはひどい・・」オカ軍曹まで呆れている。

「まっ、まぁいいじゃねーかぁ、過ぎたことはよ!簡単に05小隊隊員の説明をするぜ。一番若いのがロック・カーペント伍長だ。クロメと歳は同じ位だ。仲良くしてやってくれ」

 ロックがクロメに対して陸戦型ジムを親指で差しながら言う。

「俺とクロメ伍長、あとウィル隊長は陸戦型ジム担当だ。これから頑張ろうぜ」

「あとの2人は索敵用ホバートラック担当のパーク・マウント曹長とダ・オカ軍曹だ。俺と同い年のアフロがパーク、メガネがオカ軍曹だ」

 パーク、オカ軍曹がクロメと握手を交わす。

「第05小隊はほんの2週間前まで小隊壊滅状態だったんだが、こうして何とか隊員が集まり、再編することが出来た。これから戦争も激化し、厳しいこともあるかと思うが05小隊みんなで力を合わせて乗り切ろうぜ!」

 熱く語るウィル隊長を他の隊員は冷めた表情で見ていた。

 先ほどまでトランプをやり部下の着任を忘れていた男が何を言うのかという表情だ。

「はい、よろしくお願いします!!」

 対してクロメは元気よく返した。どのような小隊であろうと、とにかくやる気に溢れているのだ。

 かくして、クロメ伍長の第05MS小隊での新しい生活が始まったのであった。

 

 

 




初めて小説書きました。どうか生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。


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第2話 見えない明日

宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。しかし第05MS小隊の面々は隊長がクロメの着任を忘れていたり、呑気に昼間からトランプに興じていたりとまるでやる気が感じられない。こんなことで大丈夫なのだろうか。


○登場人物紹介

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。ユウ・クロメ伍長の入隊時より本作は始まる。出撃命令が下りない第05MS小隊に疑問を感じている。搭乗機はRGM-79G通称陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。ウィルがボケ役であれば、ロックはツッコミ役といったところ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。自身のことはあまり話さない謎多き人物。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。エアコンが苦手であり、外のテントにいることが多い。

カレン・ジョシュワ曹長(26)・・・第08MS小隊の隊員。シロー・アマダ少尉着任以前から08小隊メンバーであり、女性MSパイロットである。MS操縦にはかなりの自信を持っており、それに見合うだけの確かな腕の持ち主でもある。かなり近づきがたい雰囲気を持つ女性だが、人一倍仲間を想うあまりについ厳しさが出てしまうようである。なお、かなりの酒豪である。

ジダン・ニッカード大尉(72)・・・機械化混成大隊補給中隊隊長。酒と賭け事を愛するスケベなじいさん。飄々とした実にくえない老人である。

第07MS小隊・・・小隊のメンバーは、紅一点のサリー伍長が索敵担当、素肌にジャケットという出で立ちがトレードマークのマイクと、小隊指揮官のロブ少尉がMSパイロットを務める。他の小隊にことあるごとに絡んでくる困った連中である。ただし、小隊としての戦闘技量は確かなものがある。



 

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 ユウ・クロメ伍長が第05MS小隊に着任して早くも1週間が過ぎた。

 第05小隊の隊員と活動を共にし、さらに他部隊の隊員から05小隊の情報を聞き出し、色々と分かったことがある。

 第05MS小隊は問題のある人物が集められたいわゆる「左遷小隊」であり、滅多なことでは出撃許可が下りないということだ。そんなことだから、他の小隊から忌み嫌われている。

 社会に出れば分かることだが、大きい会社であればこのような部署は必ず1つは存在する。適当に部署をつくり、使えない、もしくは上から疎まれている人物を集めるのだ。大企業であれば、例えば「社史編纂室」とかいうように。

 会社も軍隊も1つの組織であるので似たようなものだ。むしろこのような左遷部署を1つ作ることにより、組織が上手く動くのかもしれない。

 話を05小隊の隊員に戻そう。

 まず、隊長のウィル・オールド曹長だ。実はウィルは以前の05小隊の生き残りであった。以前の05小隊隊長はガーハ・ロズカッヒ中尉であったが、ジオン軍拠点制圧作戦中に小隊がウィルを残して全滅。再編成後の05小隊はウィルがそのまま小隊長となった。なお、昇進は無しの方向で。小隊壊滅前の05小隊隊長のガーハ・ロズカッヒ中尉はコジマ大隊のエースであった。しかし生き残ったのは小隊内で最もMS操縦技量の低いウィルであった。「なんであいつが生き残ってガーハが死んだんだ」「あいつにあるのは悪運だけだ」などと他の小隊に暴言を吐かれている。

 次はロック・カーペント伍長。コジマ基地周辺のジャングルには、民間人の村が存在する。彼らは連邦軍でもジオン軍でもなく、現地の民間人が武装した組織、いわゆるゲリラである。軍人とゲリラは持ちつ持たれつの関係であり、ゲリラが連邦軍にジオンの情報を教える代わりに連邦軍はゲリラに物資を供給するといったことがよくある。ただし、ゲリラは連邦軍でもジオン軍でもない。逆にジオン軍に連邦軍の情報を教えることだってある。ロック・カーペント伍長は若さゆえ、ゲリラと親密になりすぎてしまった。頻繁にゲリラと密会していることが上層部に見つかってしまい、軽いスパイ容疑を掛けられてしまった。もともと素行が良くなく、他人とのトラブルが絶えない人物であり、前の小隊では疎まれていたため、05小隊に転属となった。

 パーク・マウント曹長は現在ホバートラック搭乗員だが、以前はMS乗りであった。さらに、極東方面軍のコジマ大隊以外の別の機械化混成大隊に所属していた。理由は不明だが、以前の大隊に嫌気が差し、MSを降りてコジマ大隊のホバートラック搭乗員に転属したとのことだ。優秀なMS乗りであったらしいが、現在はどこか上の空でやる気もあまり感じられない。よって05小隊の雰囲気には馴染んでいるようだ。

 ダ・オカ軍曹は謎が多い。どうやら最近軍に入ったらしい。また、連邦軍に父親がいると08小隊のエレドア伍長が話していたが定かではない。オカ軍曹は口数も少なく、あまり自身のことを話さないので謎は深まるばかりである。

 そんな問題隊員達とこの1週間、毎日何をしているかというと、大体がトレーニングである。

 毎日トレーニングを行い身体を鍛え、出撃命令に備える・・といっても、その出撃許可が下りない訳だが・・

 トレーニングの後は5人でトランプをやるというのがいつもの流れだ。

 パーク曹長やオカ軍曹は機械の整備担当でもあるので、MSやホバートラックの整備をたまに行っている。

 MS操縦担当のウィル隊長やロック伍長は、午後の昼下がりにはハンモックで寝ていたりする。

 この1週間でクロメが得たものといえば、見事に割れた自身の腹筋だけであった。

 最も、こんなに呑気でいられるのは世界的に地球連邦軍が優勢となっているためである。

 各地域で続々とMSが配備され、地球連邦軍が進軍しているとの情報が連日ラジオから聞こえてくる。

 このことはコジマ大隊からも伺える。例えば第08MS小隊は新隊長就任後、目覚ましい活躍を遂げている。ジオン軍拠点の制圧はもちろん、新型の敵MA(モビルアーマー)とも一線交えたというから驚きだ。他の小隊も08小隊に負けじと進撃している。07小隊隊長のロブ少尉は敵の新型MSスカート付き(MS-09ドム)を堕としたと豪語していた。

 

「この小隊、ほんとに大丈夫なんですか。他の小隊は出撃して戦果を挙げてるのに・・」

 今日も相変わらずトレーニングだ。クロメがぼやく。

「そーですよ!ウィル隊長!俺たちもやってやりましょーよ!コジマ大隊長に俺から直訴しちゃいましょーか?筋トレだけじゃつまんないッスよ!」

 ロック伍長も騒ぐ。何というか、暴れたい気持ちを抑えられないようだ。ただし、問題児のロック伍長が直訴したところで何も変わらないだろう。そもそも、コジマ大隊長のところへ行くまでに他兵士に摘み出されるのが関の山だ。

「まーそうだわな。俺も一応軍人なんだし、任務があればこなしたいよ。けど、出撃許可が下りないんじゃ、どうしようもねーわな。あとロック、コジマ大隊長に直訴するのだけはマジでやめてくれ、流石に隊長である俺の責任問題になっちまう」

 いつも通りウィルはローテンションであった。ロックとじゃれ合っている。

「ただなぁ、そろそろのんびりばかりしていられんと思うぞ。ジオン軍が最近、秘密兵器の実験をしているって噂もあるしな」

 パークがどこから仕入れたのか、ジオンの情報を話す。

 戦争は現在、地球連邦軍が押しているが、兵器開発の点ではジオン軍に一日の長がある。明日何が起きるかは誰にも分からないのが現状である。

 

 さらに数日後・・

 

「それでは、クロメ伍長の着任および、05小隊の復活を祝してカンパーイ!!」

「「カンパーイ!!」」

 

 ここは、コジマ基地内にある酒保(PX)である。

 酒保にはバーテンダーもおり、出撃命令の出ていない兵士達はここで日々のストレスを発散させている。何故かピアノが置いてあり、その筋に趣向の深い兵士が弾いていることもある。この酒保は最近では夜になると酒盛りする兵士で溢れかえる。戦争なんてしているのかという錯覚に陥る。いや、末端兵士にとって、酒にでも溺れなければやっていけない環境なのかもしれない。

 今日はクロメの着任を祝して、ウィルが歓迎会を開催したのだ。

 05小隊は他の小隊から色々と叩かれているが、小隊の仲は良い方であり、今日も全員が顔を揃えている。隊長のウィルが面倒見の良いことの現れなのだろう。

 クロメは久々に大量に酒を呑み、大分酔いが回ってきた。ジャブローではこういうアットホーム(?)な職場ではなかったため、呑み会なんてほとんど無かった。思いのほか楽しんでしまい、いささか飲み過ぎてしまった。しかしコジマ大隊はほかの軍に比べて規律がゆるい。こんな風に基地での生活を意外と楽しんでいるあたり、自分もコジマ大隊に慣れてしまったということか。

 他の隊員もかなり酔っ払っている。ウィル隊長なんかウイスキーをラッパ飲みしている。大丈夫なのかこの人達。

 皆でワイワイしていると、他の小隊が声をかけてきた。

「おうおう、お荷物の05小隊じゃねーかぁ、なんだぁ~、やること無いからみんなでお遊戯会かぁ?出撃命令出ねぇから、気楽でいいなオイ」

 しまった・・07小隊隊長のロブ少尉だ。何かと他の小隊につっかかってくる人物であり、05小隊に穀潰し小隊などとあだ名をつけたのも07小隊という話だ。数日前には08小隊のテリー・サンダースJr軍曹とケンカ騒動を起こし、コジマ大隊長から厳重注意を受けている。

 ロブもかなり酒が入っているようだ。傍らには、07小隊のサリーとマイクもいる。

「よぉウィル、何もしなくても給料入ってきて、良い身分だよなぁー。05小隊はよ」

 ロブがウィルに詰め寄る。ロブに続いて、サリーとマイクも高笑いする。

「ハハハ・・ウチの小隊にはウチの事情があるんすよ、ロブ少尉」

 ウィルは笑ってはいるが、口元は震えているように見える。

「新任のやつは~クロメ伍長、お前か。全くテメェもついてないな、こんな左遷小隊に配属されるなんてよ。早いとこ転属願いを出した方が身のためだぞ。こんなとこでダラダラしてたらこいつみたいに・・」

 ドカッ!!

 ロブが急に倒れた。なんとウィルがロブを殴ったのだ。

 さぁ大変。

「テメェやりやがったな!」

 サリーとマイクも加わる。

「へへっ!ウィル隊長!そうこなくっちゃな!!」

 ロック伍長も加勢する。出撃出来ない苛立ちをこの場で解消する勢いだ。

 他の隊員はというと、パーク曹長とオカ軍曹はやれやれといった風にギャラリーへと逃げていった。

 クロメは呆気にとらわれている。

 05小隊 VS 07小隊、人数は2対3、05小隊が劣勢だ。

 ロックはマイクと戦い、ウィルはサリーに羽交い絞めにされ、ロブにボコボコに殴られている。

 いつの間にか、周りにはギャラリーが集まり皆観戦している。

 コジマ大隊では小隊同士の喧嘩は日常茶飯事であり、生活の一部のようなものだ。

 まるで競馬中継を見ているような雰囲気だ。

「ほらほら、どっちに賭けるんだ!早くしねぇと終わっちまうぞ!」

 どこかで聞いた声がするかと思えば、ジダン・ニッカード大尉であった。

 早くも05小隊と07小隊の喧嘩を賭け事にして仕切っている。

 この光景は小隊同士の喧嘩の際には、もはや風物詩と化していた。

 05小隊が見るからに劣勢であり、ギャラリーのほとんどは07小隊に賭けている。

 しかし、その時。

「2対3か、これはフェアじゃないねぇ、私も参加させてもらうよ!」

 群衆の中から屈強な女性が現れた。

 08小隊のカレン・ジョシュワ曹長である。

 カレンがウィルを羽交い絞めしていたサリーを殴る。

「おぉ!カレンが乱入かよ!面白くなってきたぜ!!」

「じいさん、やっぱり俺、05小隊に賭け直すよ!」

 カレンの乱入によりギャラリーも白熱している。オッズは五分五分といったとこか。

 3対3となり、いよいよ大乱闘となる!

 ジダン・ニッカード大尉を始めとしたギャラリーも固唾を飲んで見守っている。

 その矢先であった。

 

「やめんかぁ!!!」

 コジマ大隊長の登場であった。

 さすがに騒ぎを聞きつけたコジマが駆けつけたのである。

 全員、乱闘を止め、その場に起立する。

「何をじゃれ合っておるんだ、お前ら!」

 コジマ大隊長が全員をギロリと睨む。

 普段は優しそうな管理職といった雰囲気の人物だが、このような場では大隊長としての威厳を見せている。さすが不良大隊を仕切る長である。

「ハッ!レクリエーションであります!!」

 ウィルが平然とごまかす。

「小隊同士の親睦を深めておりましたァ!」

 ロブも続く。このあたりの切り替えはさすがである。

「ふん、親睦だと・・どの口がほざくのか・・もう23時を回っている。今日は全員解散だ!明日の任務に支障が出ないようにな!」

「「ハッ!!」」

 その場にいた全員が酒保から出ていく。

「ケッ、悔しかったら出撃して戦果を挙げろってんだ」

 07小隊が捨て台詞を吐いて立ち去る。

 05小隊やカレンも続いて立ち去る。

 ユウ・クロメ伍長はこの光景をただ茫然と立ち尽くして眺めているだけであった。

 

「らしくないじゃないか、ウィル曹長。小隊長いち穏やかな性格のあんたが乱闘騒ぎを起こすなんてさ」

 ひととおりの騒ぎの後、カレンがウィルに声を掛けた。

「カレン曹長、いや、スンマセンね。うちの小隊の騒ぎに加勢してもらって。アマダ少尉にわび入れないとな・・」

「いいんだよ。前から07小隊の連中は気に入らなかったんで良いストレス解消になったよ。しかし、なんであんなに怒ってたんだい?」

「俺なんかけなされてもどうでもいいんだが、小隊をあそこまでバカにされたからカチンときたんだよ。ましてや新人にあんなこと言われたもんでね・・」

「・・そうか、安心した。05小隊もまだまだ捨てたモンじゃないね。また出撃することがあったらヨロシク頼むよ!」

 カレンはそう言って立ち去った。

 08小隊新隊長のシロー・アマダ少尉が着任してから、毎日が大騒ぎだ。

 隊長がゲリラに捕らわれたり、ジオンの新型MAと交戦したり・・

 しかし、なんとか1人の戦死者も出さずにジオンと渡り合っている。最近、コジマ大隊全体の雰囲気も前より良くなっている気がする。08小隊のバカ隊長(良い意味で)のやる気が他の小隊に伝染しているのだろうか。今日の一件から、05小隊も何かが変わり始めているのかもしれない。

 カレンはそんなことを思い、自機の陸戦型ガンダムを見上げるのであった。

 

 一方、ウィルは兵士宿舎に向かいながら考えていた。

 酒に酔っていたとはいえ、今日の自分は幼すぎた。悔しさから人に手を出すなんて、30を超えた大人としてどうかしている。

 しかも、ロブ少尉の言うことも一理ある。というか、全ての小隊が感じていることを酒の席でロブが代弁しただけではないのか。

「また、やってしまったな・・いくつになっても、俺は本当変わらないな・・死んでいった小隊のみんなやガーハ隊長に合わせる顔がねぇよ」

 月夜を見上げ、涙が込み上げてきた。

 何も出来ていないのが、ただただ悔しかった。




カレンがなんか優しすぎる気がしますがそこは自分の好みの問題です。
ご勘弁ください(笑)


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第3話 それぞれの事情

宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。クロメが05小隊に着任して、数日経ったが05小隊が出撃する気配は無い。それどころか、小隊は問題児の集まりであることが発覚したり、隊長が酒保で07小隊とひと悶着やらかしたりと前途多難である。05小隊が日の目を見る日は来るのだろうか。


○登場人物紹介

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。ユウ・クロメ伍長の入隊時より本作は始まる。出撃命令が下りない第05MS小隊に疑問を感じている。搭乗機はRGM-79G通称陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。ウィルがボケ役であれば、ロックはツッコミ役といったところ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。自身のことはあまり話さない謎多き人物。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。エアコンが苦手であり、外のテントにいることが多い。



 

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「これ、サイド6に」

 パーク・マウント曹長は酒保で故郷の家族ヘ手紙を出していた。

 カウンターにいる係の兵士に手紙を渡す。

 酒保では定期的に郵便が出ているのだ。

 手紙に書いている内容は、コジマ基地での日常、出撃が無いので身体は元気であること等、これと言って当たり障り無いことだ。

 最も、戦場からの手紙は軍機に触れるような情報が流出しないように、全て検閲されることとなっている。手紙の内容は当たり障り無いものにならざるを得ない。

 パーク・マウント曹長は2児の父親であり、家族を故郷であるサイド6に残して来ている。週に1度の家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。

 サイド6へ手紙を出した後、家族からの手紙を受け取る。

 手紙には、2人の息子が元気に成長している様子が書かれており、写真も添えられていた。

 写真の中では2人の息子が元気よく笑っている。会わない間に子供がどんどん成長しているのが分かる。絶対にこの戦争を生き延びて、妻や息子が待っているサイド6に帰るつもりだ。

「しかし、昨日の騒ぎはさすがにマズかったよな・・ウィルも何であんなにアツくなってんだよ・・」

 パークは昨日の酒保での05小隊と07小隊の喧嘩を思い出していた。他の小隊からの05小隊に対する小言はいつものことであり、我慢してその場を耐えればよいだけのことだ。

 パークにとって、出撃の無い05小隊は悪くない部署であり、このまま終戦まで05小隊に居続ければ生きて故郷に帰ることが出来る。

 ただパークは、昨日の喧嘩の時のウィル、ロック、そしてカレンの姿を思い出していた。敵に向かっていく闘志。それは今の自分から抜け落ちているものであった。

 以前所属していた大隊ではパークはMSパイロットを勤めており、初出撃でザクを落とすといった戦果を挙げていた。何度か出撃し慣れてきたところで、ゲリラの村を制圧しているジオン軍を奇襲するという作戦の指令が下った。民間人であるゲリラに被害が出てしまうこの作戦に対して、パークは心の中では反対していた。しかし、上官に逆らうことは出来ず作戦に参加した。

 作戦は成功に終わったが、現場はパークにとって地獄であった。銃で容赦無く撃ち抜かれる村人、逃げまとう息子と同じ位の子供、燃え盛る家々、性的暴行を受ける女達・・戦争は国家ぐるみの犯罪であることを身をもって感じたのであった。

 作戦の後、パークはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患ってしまった。MSに乗ると、村人たちの顔がフラッシュバックし、操縦桿を握れなくなってしまった。悪夢まで見るようになり、眠れない日々が続いた。

 その後は逃げるように大隊を去り、コジマ大隊の05小隊に転属した。

 今は毎日熟睡出来るし、05小隊の隊員とも上手くやれている。

「俺はここでいいんだよ、今の05小隊でよ・・」

 自分に言い聞かせるようにして、酒保を後にした。

 

 真っ赤な夕日がコジマ基地を照らし、今日も1日が終わろうとしている。

 今日の05小隊は、久々に陸戦型GMを稼働させ、射撃訓練及び格闘訓練を行った。

 射撃訓練はペイント弾を装填した特殊な銃により、的を狙うといった内容だ。

 銃は3丁用意されていたが、ロック・カーペント伍長のトリガーハッピーな性格が露呈してしまい、ルールを無視して2丁の銃を使用してしまった。いわゆる2丁銃のスタイルで射撃を行ったが、的にはそれほど当たらなかった。撃つのは好きだが射撃が下手なのでたちが悪い。残り1つの銃でクロメは訓練を行うことが出来たが、ウィル隊長はまともに射撃訓練を行うことが出来なかった。無念。

 格闘訓練は実際にビームサーベルを使う訳にはいかないので、模擬刀(警棒のようなもの)を使って1対1での格闘を行う。クロメは前任のジャブローでテストパイロットを任されていただけのことはあり、瞬時にウィル、ロックの陸戦型GMを行動不能にしてしまった。一瞬で倒されたショックからか、ウィルとロックはMS格納庫の角でしばらくの間縮こまっていた。体育座りで。

 まぁ何にせよ、以前より05小隊のやる気が上がっているのは確かである。

 先日の07小隊との乱闘騒ぎが、05小隊にとって良い方向に作用したように思える。

 夕日を見ながらボーッとしていると、ダ・オカ軍曹が声を掛けてきた。

「クロメ伍長お疲れさまです。やはり元テストパイロットですね。MS操縦技術は頭ひとつ抜けてます。ウィル隊長の模擬刀がホバートラックまで吹っ飛んでくるのかとヒヤヒヤしてましたよ」

 口数の少ないオカ軍曹が話しかけてくるのは珍しい。今日の格闘訓練が相当強烈な印象だったらしい。そういえば他の小隊のギャラリーもクロメの腕前に驚いていた。

「格闘は実戦で使う機会はそんなにありませんけどね・・オカ軍曹、以前はどこの部隊に所属していたんですか?連邦軍に親御さんがいると噂で聞きましたが・・」

 オカ軍曹は自身のことをあまり話さないので、思い切って聞いてみた。

「そうですね・・最近軍に入ったので05小隊が初めての所属ですね。噂のとおり、父親は軍属で、地球連邦軍に勤めています。軍に入りたての自分にとっては、05小隊は丁度良い居場所ですよ」

 オカ軍曹はクロメの質問にのみ答えた。

 オカ軍曹はつい最近まで普通の会社員であったが、父親が軍属であり、召集令状が来たため、地球連邦軍へ入隊することとなった。

 そもそもオカ軍曹はもの静かな性格であり、軍隊に入るのは嫌だった。

 個人的にMSは格好良いので好きだが、それに乗って戦場で死ぬなんて考えられない。

 父親に頼み込んだところ、滅多に出撃の無いこの05小隊に配属となったのである。

 オカ軍曹はクロメにそこまでは話さなかった。

 総司令部ジャブローからわざわざ最前線に転属し自分の力を試したいと言う血気盛んな若者に対して、軟弱な自分の考えを言える訳がなかった。

 

 徐々に夕日が沈み、夜が訪れようとしている。

 そんな05小隊の面々をコジマ大隊長は遠くから眺めていた。

 

 その夜、ウィルは今日も酒保にいた。

 今日は06小隊のゴンザ・G・コバヤシ中尉、ザニー・ヘイロー少尉と飲んでいる。

 06小隊は陸戦型ガンダムが配備されている小隊であり、個々のパイロットの能力も高い。

 小隊長のゴンザ・G・コバヤシ中尉は近接戦闘を得意としており、彼の陸戦型ガンダムの装備には「ガンダムハンマー」が支給されている。ガンダムハンマーとは、モビルスーツ用の棘付き鎖鉄球であり、その威力はザクを一発で破壊する程に強力である。ホワイトベース隊のアムロ・レイ曹長がガンダムで同武器を使用し、一定の成果が得られたことから少量が生産され、その内1つが06小隊に配備されたとのことだ。

 ザニー・ヘイロー少尉はゴンザとは対照的に遠距離射撃による戦法を得意としている。180mmキャノンが主な武装であり、多くのザクを打ち落としている。また頭も切れるため、コジマ大隊の作戦会議にもよく呼ばれている。実際に彼の助言により功を奏した作戦は少なくない。

「・・で、何だ、相談ってのは?」

 ゴンザがウイスキーを飲みながら話す。年齢は40を過ぎた中年であり、頭は禿げ上がっているが、コジマ基地の古株であり基地の皆から慕われている。MSの操縦技術、特に格闘センスは抜群であるため、「密林の鬼神」という異名が付いているほどである。

「いや、だからさ、一緒に出撃させてくださいよ~お願いしますよ~ゴンザ中尉ィ~」

 ウィルが必死に懇願する。経験豊富な06小隊と一緒に出撃すれば05小隊の経験値が上がると考えているのだろう。

「何言ってるんだよ。そんなこと俺に言ってもどうにもならんよ、作戦なんてのは基地司令が決めることだろうがよ」

 ゴンザの言うとおりである。作戦とは基地司令が決めることであり、小隊長に頼んだところでどうにもならない。

「そうですよウィル曹長。失礼ですが、05小隊と06小隊では経験値が違いすぎます。一緒に出撃出来たとしても、06小隊と同じ現場に行くことで05小隊が全滅するといった事態も想定されます」

 ザニーが自慢の眼鏡をギラリと光らせながら考えを述べる。

「あーくそ、分かってんだよ、そんなことは!けどよ、このままじゃ終われねぇんだよ!」

 ウィルは今日も酒が進んでいた。飲んでストレスを発散させたいのである。

 ゴンザとザニーがやれやれといった表情で顔を見合わせる。

 上官である06小隊の2人だが、ウィルとは何故か仲が良い。コジマ基地での腐れ縁というべきか。

「飲み過ぎだぜウィル。この前みたいにまたコジマ大隊長に叱られるぞ」

 ゴンザがウィルの肩を担ぎ、酒保を出る。

「全くコイツは、昔から変わりませんね」

 ザニーは皮肉半分、友情半分といった感じだ。

「うるせぇんだよ、お前ら・・」

 口では悪態を吐いているが、表情は笑っている。

 結局のところ、ウィルは久々に3人で飲むことが出来て楽しかったのだ。

 

 場所は変わってここはコジマ基地の作戦立案室である。

 この部屋でコジマ大隊の作戦会議、各小隊長への指令通達等がなされる。

 部屋の中でコジマはモニター越しに上官と話をしていた。

「・・・ということで、近いうちにチベットにあると推測される敵基地の捜索および殲滅作戦を開始する。ヨーロッパ方面軍によるオデッサ作戦も近い。オデッサ作戦を指揮するレビルに鼻で笑われるようなことは何としても避けたい。作戦は極東方面の全部隊を出撃させる。良いな」

 モニター越しの上官は、極東方面軍司令官イーサン・ライヤー大佐である。

 出世街道の入り口であるジャブローへの異動を心待ちにしており、戦果を挙げるためには冷酷な手段も厭わない人物だ。また、レビル将軍に対抗意識を燃やしており、今回の作戦で極東方面のジオン軍を一掃する計画のようである。

「ハッ、了解しました」

 コジマが答える。

 モニターが消える。

 いよいよ、極東方面軍最大規模の作戦が開始されようとしている。

 コジマは今日の05小隊の訓練を思い出しながら小隊名簿を眺めていた。

「小隊が全滅して運良く生き残った悪運強い隊長、トリガーハッピーでスパイ容疑の問題児、MSを下り闘志を無くした兵士、コネ入隊の軟弱者、そしてジャブローから来たよそ者、か・・」

 よくもこれだけの濃いキャラが集まったものである。

 このような小隊なので今のところ出撃は見送っていたが、さすがに今回の作戦には参加させなければなるまい。

 さて、どのような布陣とするか・・

 コジマはしばらくの間、この作戦立案室に籠る日々が続くのであった。

 




格闘訓練は、機動警察パトレイバーでの訓練をイメージしてください・・といっても少々マニアックで分からないですかね・・


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第4話 出撃、第05MS小隊

宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。当初は他小隊から穀潰し小隊と非難され覇気の無かった05小隊であったが、ここ最近は訓練等をこなしやる気は上がっているように見える。コジマ基地での生活にも大分慣れてきたクロメであるが、極東方面軍の大規模作戦が刻一刻と迫っているのであった。

○登場人物紹介

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。ユウ・クロメ伍長の入隊時より本作は始まる。出撃命令が下りない第05MS小隊に疑問を感じている。搭乗機はRGM-79G通称陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。ウィルがボケ役であれば、ロックはツッコミ役といったところ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。自身のことはあまり話さない謎多き人物。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。エアコンが苦手であり、外のテントにいることが多い。

第06MS小隊・・・「密林の鬼神」の異名を持つゴンザ・G・コバヤシ中尉が隊長を務める小隊。陸戦型ガンダムが配備されており、個々のMSパイロットの能力も高い。

第07MS小隊・・・小隊のメンバーは、紅一点のサリー伍長が索敵担当、素肌にジャケットという出で立ちがトレードマークのマイクと、小隊指揮官のロブ少尉がMSパイロットを務める。他の小隊にことあるごとに絡んでくる困った連中である。ただし、小隊としての戦闘技量は確かなものがある。

第08MS小隊・・・小隊長であるシロー・アマダ少尉着任後、数々の戦果を挙げてきた小隊だが、アマダ少尉は連邦軍上層部よりスパイ容疑をかけられてしまう。銃殺は免れたものの、小隊ごと最前線送りとされることが決定する。


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 地球圏の情勢は、レビル将軍が指揮するヨーロッパ方面軍によるオデッサ作戦が開始され、3日間の激戦の末、ジオン軍配下の鉱山基地オデッサが陥落し地球連邦軍の勝利に終わった。この戦いにより、地球圏の勢力図は地球連邦軍側に大きく塗り替えられることとなった。

 各地での地球連邦軍の活躍を知らせるニュースが連日のようにラジオから聞こえてくる。勝戦ムード一色といった感じだ。しかしユウ・クロメ伍長はそんなニュースを聞いても焦りしか沸いてこない。総司令部ジャブローからわざわざ転属したにも関わらず、自分はなぜ何もしていないのか。

 

 相変わらず出撃できない日々を過ごす05小隊であったが、その間にコジマ基地では色々なことが起こっていた。

 ジオン軍の新型MA(モビルアーマー)のテスト場を発見した第08MS小隊は待ち伏せを行い、ついに敵MAが姿を現し交戦となった。しかし交戦の最中、シロー・アマダ少尉が敵MAとともに行方不明となってしまう。

 ヒマラヤ山中にて救出されたアマダ少尉だが、地球連邦軍情報部所属のアリス・ミラー少佐の調査によりジオン軍兵士との山中での行動が明らかとなり、連邦軍上層部にスパイ容疑をかけられてしまう。

 アマダ少尉は銃殺は免れたものの、小隊ごと生還率の極めて低い最前線送りとされることが決定してしまった。

 アマダ少尉救出時に回収した敵MAの残骸から、その恐るべき攻撃力を知った地球連邦軍は、コジマ大隊の総力を挙げたジオン軍秘密基地の撲滅戦を開始することとなった。

 とうとう、第05MS小隊に出撃命令が出されるのである・・・

 

 ここは、コジマ基地の作戦立案室だ。

 部屋の中では、コジマ中佐と各小隊長が勢揃いしている。

 コジマからチベットにあると推測される敵基地の捜索および殲滅作戦の説明が行われた。

 作戦は明日の夜中より開始される。

 各小隊の任務は以下のとおりだ。

 01~04、07、08小隊はミデア輸送機によりMS輸送後、チベット付近で敵基地の捜索を行う。ただし08小隊は敵が潜んでいると予測される最も危険なエリアにMS用パラシュートで降下する(この時全小隊長がアマダ少尉に対して哀れみの眼差しを送っていた)。05、06小隊は明日到着する極東方面軍司令官イーサン・ライヤー大佐の総司令部ビッグトレーの道中の護衛を行う。

 作戦の第一段階はMSで敵基地の捜索を行いながらビッグトレーを進軍させ、敵基地が特定され次第ビッグトレーとミデア輸送部隊が合流し、拠点を設置する。第二段階はMSにより敵基地への総攻撃を行うといったものだ。

「とうとう出撃出来るぜ・・」

 05小隊隊長のウィル・オールド曹長はつい本音が漏れていた。

 ついに出撃出来る。その目は爛々と輝いていた。

 そんなウィルを見てコジマは不安げな表情をしながら話す。

「それと05小隊は、06小隊の指揮下で行動するように。勝手な行動はくれぐれも慎むようにな」

 まるで子供に諭しているかのような物言いである。

「ケッ、とんだお荷物を背負い込んだな、06小隊も!いいんですかい?ゴンザ中尉!」

 07小隊のロブ少尉だ。こちらも相変わらずだ。

「自分は任務を全うするだけですよ、ロブ少尉。ただ05小隊と組むことになるのは予想外ですが」

 06小隊のゴンザ中尉はベテランというだけのことはあり、毅然とした態度をとる。

 しかしこのベテランを以ってしても、不安は拭い切れないようだ。

 そして不安要素はまだ他にもある。

 08小隊だ。

 コジマはスパイ容疑のあるシロー・アマダ少尉に対して、上層部の命令により生還率の低い最前線送りとしてしまったが、本当に良かったのだろうかと考えている。

 このような小隊だが、基本的には優秀である。この小隊を失うことは極東方面軍にとってかなりの痛手ではないのか・・

 連日作戦立案室に籠り頭を抱え考え抜いた布陣ではあるが、未だにこれで良いのかと思ってしまう。

 問題のシロー・アマダ少尉は、いつもの小隊同士の痴話喧嘩を笑って見ているのであった。

 

 作戦会議後、酒保にてコジマ基地のほとんどの小隊メンバーが集まって酒を飲み交わしていた。

 これから極東方面軍最大規模の作戦が始まる。生きてコジマ基地へ帰って来れる保証はどこにも無い。

 言わば、最後の晩餐である。

 ユウ・クロメ伍長も参加し、酒を飲んでいた。

「さぁさぁ、本日のメインイベント!02小隊のソフィア・ヨハンソン伍長によるライブじゃあ!演奏は08小隊のエレドア・マシス伍長(ギター)とテリー・サンダースJr軍曹(ピアノ)じゃ!皆、心して聴けィ!」

 顔を真っ赤にしてジダン・ニッカード大尉が司会をしている。右手にマイク、左手にスキットルを持ち、いつも以上に飲んでいるようである。

 このじいさんは出会った時から本当に変わらない。

 だが、ニッカード大尉のおかげで、戦争中だが明るい気持ちでいられたと最近思う。

 歌手のソフィア・ヨハンソン伍長はドレスを着ている。普段は軍服しか来ていないのでこの姿は貴重だ。さっそく写真を撮っている者までいる。ソフィア伍長はこの戦争が終わったら歌手を目指すらしい。彼女に幸多からんことを、と思う。

 演奏のエレドア・マシス伍長とテリー・サンダースJr軍曹はどこから持ち出してきたのかタキシードを着ている。最高に似合っている。エレドアがギターを手にし、サンダースがピアノの前に座る。

「それでは、エレドア伍長作詞・作曲の「未来の二人に」です!どうぞ!」

 

 

朝やけをみつめてるあなたを 私は見てた

Two of us 二人に 足りないものを数えたら

何だか可笑しくなって 声をあげて笑った

 

悩んだ日々の答えなんて

歩き出すことしかないよね

 

かさねあう寂しさは ぬくもりを教えてくれた

抱きあえば涙さえ 訳もなく いとしい

 

未来の二人に

今を笑われないように

ねぇ 夢を見ようよ

 

忙しく動き出す街より ゆっくり歩こう

Smile on me すべてを 叶わぬものとあきらめたら

心が風邪をひくから 元気なんか出ないよ

 

迷った夜の吐息さえも

いつの日か思い出になるよ

 

重ねあうくちびるの ぬくもりを信じていたい

抱きしめたせつなさが いつだって始まり

 

かさねあう寂しさは ぬくもりを教えてくれた

抱きあえば涙さえ 訳もなく いとしい

 

未来の二人に

今を笑われないように

ねぇ 夢を見ようよ

 

 

 演奏が終わる。

 酒保のギャラリーは拍手喝采である。

 アンコールを望み騒いでいる者もいれば、感極まって泣き出している者さえいる。

 共通しているのは皆笑顔だということだ。

 コジマ基地は兵士にとって居心地が良かったことの現れなのだろう。

 明日は日中は出撃準備を行い、夜にはいよいよ出撃である。

 クロメは、はやる気持ちを抑えきれないでいた。

 

 翌日、コジマ基地は全小隊が出撃準備をしており慌ただしい様子だ。

 当初はジャングルを挟んで一進一退の攻防を繰り広げていたジオン軍は、今やチベット付近へ後退している。よって現在コジマ基地で出撃している小隊はいない。ここ最近はゲリラの村を占拠していたオデッサ敗残兵との戦闘があった位である。

 パーク・マウント曹長とダ・オカ軍曹は酒保で家族に手紙を出していた。

「まぁ今回ばかりはしょうがねぇよな、今までで最大の大規模作戦だから俺たちも出撃しないとな。最後まで出撃無しってのはムシのいい話だよな、オカ軍曹」

 パークがオカに話しかける。彼は出来るなら最後まで出撃はしたくなかった。故郷の家族に生きて会うために。

「そうですね。今回はしょうがないですね。普段手紙なんて書かないですが、家族や軍属の親父に手紙を出さざるを得ないです」

 オカは軍属である父親に頼み込み、滅多に出撃の無いこの05小隊に配属となった。しかし今回ばかりは連邦軍上層部の指令による作戦でもあるため、父親の力でどうこう出来る話ではなかったようだ。

「これサイド6にお願いします」

 まだ20歳にも達していない風貌の青年が係の兵士に手紙を渡す。

 08小隊のミケル・ニノリッチ伍長である。

「お、ミケルじゃないか。故郷の彼女への手紙かい?しかし、08小隊は気の毒なことになったな」

 パークが親しげにミケルに話しかける。パークとミケルは出身が同じサイド6であり、2人ともよく酒保で手紙を出すため、お互い良く知った仲であった。

「あ、パーク曹長。自分は隊長がスパイだなんて考えていません。ここまでやってこれた08小隊だから、どこへ行こうと大丈夫だと信じています。手紙にも書いておきました、BB、必ず生きて帰るって」

 これから生還率の極めて低い最前線へ送り出されようとされているミケルであるが、その目は自信に満ち溢れている。最初会った時は年相応の少し頼りない青年という印象であったが、この短期間で大人の表情になったと感じられる。08小隊で色々な経験を積んだ証であろう。

「・・そうか、そうだよな」

 パークはそう返すことしか出来なかった。ミケルに比べて自分は何なのだろうか。故郷の息子たちに対して、戦場の隅で縮こまっている父親の姿を見せることが出来るだろうか。

「じゃあパークさん、お互い生きてサイド6に帰って、また食事にでも行きましょう!」

 ミケルは酒保から出て行った。

「なぁオカ軍曹、陸戦型GMの整備と動作確認を再度しておこう。それとホバートラックも動作確認しておこう」

 MSとホバートラックの整備は既にほぼ終わっていたが、念には念を入れて再度確認を行うことにした。せめて自分の仕事くらいは自信をもってこなしたかった。

「・・了解です」

 オカもパークの気持ちを察したのか再度の確認に賛同した。

 彼もまた、軟弱な自分の性格を今回の戦いで変えたいと思っていた。

 

 午後にはコジマ基地にビックトレー及びジェット・コア・ブースターの大部隊が到着した。

 ジェット・コア・ブースターはコア・ブースターを大気圏内用戦闘機にリファインした機体であり、機体底面にクラスター爆弾を搭載している。今回の作戦では、大編隊での爆撃により敵基地を殲滅する役目を果たす。コジマ基地で補給を受けた後、ミデア輸送部隊とともにチベットへ向かう計画である。

 ビッグトレーは地球連邦軍が地上で運用する陸戦艇で、「陸上戦艦」と呼ばれる。長方形の船体の前方に大型の艦橋を備え、四方に大口径の火砲を配置している。底部の熱核ジェット・エンジンによるホバークラフトによって陸上だけでなく水上でも運用可能である。モビルスーツ運用能力こそ無いものの、巨大な戦艦であるため甲板上にMS小隊を配置し進行することが可能である。極東方面軍司令官イーサン・ライヤー大佐が乗艦しており、大規模作戦の総司令部として機能する。

 夕方には05、06小隊の陸戦型GMと陸戦型ガンダムがビッグトレーの甲板上に配置され、ホバートラックはビッグトレーの内部に収納された。

 

 そして夜が訪れ、作戦が始まろうとしていた。

「・・では、始めてくれたまえ」

 イーサン・ライヤー大佐が重々しく指令を下す。

「はい、敵基地の捜索および殲滅、時計合わせ・・作戦開始!!」

 コジマ中佐が叫ぶ。

 指令と同時にジェット・コア・ブースターの大部隊が一斉に出撃した。

 MSを積み込んだミデア輸送部隊も一斉に飛び立つ。

 その後、総司令部ビッグトレーも進軍を開始した。

 

 現地点では付近に敵が確認されていないため、05、06小隊はビッグトレー内で待機していた。

「明日にはこのビッグトレーは連邦軍制圧圏外に進入する。ビッグトレーは24時間体制で進行し、距離や速度を考慮すると3日でチベットへ到着する予定だ。護衛体制についてだが、ビッグトレーは24時間体制で進行するので、05、06小隊が昼夜交代しながらビッグトレーの甲板上で護衛することとなる。ホバートラックは索敵を怠らないように」

 06小隊のゴンザ・G・コバヤシ中尉がビッグトレー護衛の内容を淡々と説明する。

 06小隊はベテランの集まりであるため、説明を聞くと各自に与えられた休息部屋へ戻って行った。

 休息は出来るだけ多く取っておいた方がもちろん良い。

 対して05小隊はまるで「遠足に行く前の小学生」といった様子だ。

「とうとうこの日がやってきたな。武者震いがするぜ、なぁロック」

「そうっスね、ウィル隊長。もう穀潰し小隊なんて言わせねぇ」

 ウィルとロックが楽しげに話している。

 この2人ほど浮かれている訳ではないが、初めての実戦ということになるのでクロメも気分が高揚しているのは確かであった。今までの訓練で磨いた腕を早く実戦で試したいという思いが強い。

 そんな3人を横目に、パークとオカはホバートラックの索敵準備を行っていた。

 現在、オデッサという一大拠点を奪還されたジオン軍は、戦場を宇宙へと移しており、地上からは続々と撤退している。

 ビッグトレーの進行ルートにはジオン軍拠点等が無いことは確認済みであり、今回の05、06小隊の護衛は何かあった時の言わば「保険」である。

 道中、何も起きなければ良いのだが、とパークは思う。

 ただ、何となく嫌な予感がしないでも無いのであった。

 




「未来の二人に」のシーンは是非この曲を流してもらえたらと思います。
米倉千尋は最高ですね。


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第5話 黒の小隊

宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。当初は覇気の無かった05小隊だが、敵基地を殲滅する極東方面軍最大の作戦が発動し、05小隊は06小隊とともに総司令部ビッグトレーを護衛する任務に就いた。何も起きなければ良いのだが果たして・・

○登場人物紹介

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。ユウ・クロメ伍長の入隊時より本作は始まる。出撃命令が下りない第05MS小隊に疑問を感じている。搭乗機はRGM-79G通称陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。ウィルがボケ役であれば、ロックはツッコミ役といったところ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。自身のことはあまり話さない謎多き人物。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。エアコンが苦手であり、外のテントにいることが多い。

第06MS小隊・・・「密林の鬼神」の異名を持つゴンザ・G・コバヤシ中尉が隊長を務める小隊。陸戦型ガンダムが配備されており、個々のMSパイロットの能力も高い。05小隊とともに総司令部ビッグトレー護衛の任務に就く。


 

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 大型の陸戦艇であるビッグトレーの進行は難航していた。

 全長約200m、全幅約130mのビッグトレーが進行する道など無く、開けた場所や水上を通って進行していた。時には木々を押し倒し、森の中を進行することもあった。

 当初3日でチベットに到達する予定であったが、この状況だと5日はかかってしまうとのことだ。

 現在、進行が始まって3日目である。

 

「ザニー少尉、こう何も起きないと身体に悪いっすね」

 06小隊のブルーオン・ターボック軍曹がコックピットの中で駄菓子を食べながらザニー・ヘイロー少尉に話しかける。

 ターボックは攻守バランスのとれたパイロットである。

 丸3日も何もないので気が狂いそうなのだ。

「そうだな、河を渡って木立を抜けて、戦場までは何マイル?ってとこか」

 ザニーが答える。

 さすがのザニーも少し気が緩んでいるようだ。

 そんな中、隊長のゴンザ・G・コバヤシ中尉は敵の出現に備えて、ただじっと周囲を警戒していた。自慢のガンダムハンマーを持ちながら。

 

 05小隊はビッグトレー内の休息部屋で待機していた。

 5人で相変わらず仲良くトランプに興じている。

「せっかく出撃したのに敵が出てこないとはな」

 ロック・カーペント伍長がぼやく。今日のトランプは彼が負け続けている。

「いや、別に出てこなければそれにこしたこと無いだろ」

 パーク・マウント曹長だ。彼は安全に事が済めばそれで良い考えだ。

「そうですよ、安全第一、ですよ」

 ダ・オカ軍曹もパークに同調する。

「しかしな、クロメだって実戦を経験したいだろ?」

 ロックがユウ・クロメ伍長に話しかける。

「そうですね、ただチベットに着いたら確実に戦いになりますから」

 クロメも早く実践を経験したいと思っているが、焦りは禁物である。

「まぁあれだ、あせらずいこうぜ」

 隊長のウィル・オールド曹長が適当に話をまとめる。

 今のところ敵の出現は確認されず、隊員たちは東南アジア2000マイルの旅を満喫していた。

 

 地球連邦軍がそんな感じでダラダラしている一方、ジオン軍秘密基地、通称「ラサ基地」では、地球連邦軍がチベットを目指して進軍しているとの情報を入手し、基地内が慌ただしくなっていた。

 ラサ基地はチベット自治区の中心都市ラサにあり、地球に降下したジオン軍によって制圧され、ギニアス・サハリン技術少将によって「アプサラス計画」が進められている秘密工場基地である。

 現在コジマ大隊が捜索している基地がこの秘密基地であり、08小隊が交戦した新型MAがアプサラス計画における「アプサラスⅠ」及び「アプサラスⅡ」であった。

 基地内ではアプサラス計画が最終段階に入っており、「アプサラスⅢ」の建造が急ピッチで進められていた。

 一方、ラサ基地にはオデッサから多くの敗残兵が逃げ込んでおり、宇宙への唯一の撤退手段であるザンジバル級の戦艦ケルゲレンの発射準備も進められていた。

 ラサ基地の指揮権はギニアス・サハリン技術少将にあるが、ギニアスはアプサラス計画に躍起となっており、基地の実質的な指揮はノリス・パッカード大佐が執っていた。

 ノリスは一人でも多くの兵を宇宙に帰すべく、撤退してくる友軍の援護、各部隊への指示、ジオン本国との通信等を行っていた。

「昨日の夜から、ラサ基地の50km範囲に多数の連邦軍MSが確認されている。情報によると連邦軍がこの基地の捜索・殲滅作戦を開始したようだ。いよいよ連邦軍の総攻撃が始まる可能性が大きい。全部隊は何としてもケルゲレン脱出まで時間を稼いで欲しい」

 ノリスが全部隊に基地防衛の指示を行う。

 悔しいことだが、オデッサが陥落し地球での戦いは決した。ジオン軍と地球連邦軍の地球での戦力差は今や十倍以上である。最大に善戦して、ラサ基地はもって一週間といったところであろう。

 しかし、ジオン軍のホームグラウンドである宇宙でなら、まだ互角以上の戦いができる。そのためには、戦いを知った兵士が必要である。MSはまた作ればいいが、戦場を経験してきた兵士には限りがある。

 忙しく指揮を執っているノリスに対し、1人の男が声を掛けた。

「ノリス・パッカード大佐、俺の小隊は単独で行動させてもらうぜ。悪いがやられっぱなしってのは性に合わないんだ。現地ゲリラの情報によると、連邦軍の大型陸戦艇がこちらへ向かっているらしい」

 ボトム・ラングレイ少佐だ。

 ボトム少佐は基地内ではノリスに次ぐMS操縦技術の腕前を持っており、黒いグフカスタム(MS-07B3)に搭乗している。小隊の全ての機体は黒で塗装されており、通称「黒の小隊」と呼ばれている。

「ボトム少佐、しかしだな・・」

 ノリスは言葉を詰まらせた。たしかにボトム少佐の腕前は誰もが認めているが、基地の守備に人手を回して欲しいのが現状である。

「基地周辺を探索しているMSに加えて、大型陸戦艇にでも来られてみろ。ケルゲレン発射前に基地が壊滅だ。俺の小隊が必ず陸戦艇を仕留めてやる。基地守備は大佐のグフカスタムに任せます」

 ボトムはノリスに敬礼した。

 ノリスはしばらくボトムを見つめ、やれやれといった表情で肩をすくめた。

「・・分かった。だが、帰って来いよ。また一緒に旨い酒を飲もう」

 そう言った後、ノリスもボトムに敬礼した。

 地球降下時から共に戦場で支え合ってきた、男と男の約束であった。

 

 基地司令官ギニアス・サハリン技術少将の秘密兵器「アプサラスⅢ」が戦況を覆す可能性もあるが、その可能性は低いとボトムは見ている。

 アプサラスⅢが完成すれば、迫りくる連邦軍を駆逐して一気にジャブローも落とせる――とギニアスは言うが、たった一機の兵器で戦局が変えられるほど戦争とは簡単なものではない。

 ボトムは小隊のMS格納庫に入った。

 そこには自身が搭乗するMS「グフカスタム」に加えて、ザクⅡ(MS-06JC)2機、ザクⅠ・スナイパータイプ(MS-05L)の計4機が配置されている。いずれの機体も黒に塗装されている。

 MSの足元にはそれぞれのMSに搭乗する隊員たちが待機していた。

 ザクⅡに搭乗するのは、シップ中尉とマック中尉である。いずれもベテランであり、ボトムとは地球降下時から共に戦ってきた。ボトムが近接戦闘を行い、シップとマックが中距離支援を行うといった戦法で数多くの戦果を上げている。

 ザクⅠ・スナイパータイプに搭乗するのは、ニーナ・パブリチェンコ少尉だ。年齢は20歳にも満たない少女であるが、軍人としての才があり、格闘術・射撃技術はもちろん、特に長距離射撃が得意である。ニーナは元々孤児であったが、ひょんなことからボトムに軍人としての才能を見出され、ジオン軍に入隊した。地球降下後はザクⅠ・スナイパータイプに搭乗し、数多のMSを屠ってきた。その功績が認められ、少尉にまで昇格した。ニーナは名前のとおりロシア系であり、どこか無表情で人形のようでもある。外見はギニアス・サハリン技術少将の実妹であるアイナ・サハリンに似てないこともない。

「少佐、出撃ですか?」

 ニーナ・パブリチェンコ少尉が柔らかな青い瞳でボトムを見つめる。

「あぁ、しかし今回はかなり大掛かりな作戦となる。こちらに向かっている連邦軍の大型陸戦艇に奇襲攻撃を仕掛け、これを叩く。残念ながら、既に地球の戦局は決した。しかし、宇宙でならまだ互角以上にジオンは戦える。ケルゲレン発射までに出来るだけ時間を稼ごうと思う」

 ボトムの発言を聞き、シップとマックがハッとする。

 生きて帰ることが出来るか分からない作戦だということが直感的に分かった。

 隊員の表情を見て、ボトムが話を続ける。

「今回の作戦は俺の独断によるものだ。参加したくない者は基地守備に回ってくれ。あちらも人手が欲しいみたいだからな」

 直後、ニーナがボトムに一歩近づいた。

「安心してください。どこであろうと、私は少佐についていきます」

 その表情には少しの迷いも無い。

 ニーナは孤児であり、肉親がいない。ボトムに拾われたその日から、ボトムとずっと一緒に過ごしており、ボトムが親代わりのようなものだ。軍に入った当初は表情が無く「ドール」というあだ名で他の兵士から罵られていたが、ボトムやシップ、マックと過ごすうちに次第に表情も豊かになっていった。どんな戦場であろうとニーナがボトムについていくことは自然なことなのだ。ボトムの覚悟にニーナは命を委ねるつもりなのだろう。

「ニーナちゃんにそんなこと言われちゃ俺らが断れる訳ないじゃないの。少佐、地獄までお供しますぜ、なぁ、マック」

 シップが答える。言葉使いは飄々としているが、その目は覚悟を決めた男の目だった。

「・・やれやれ、少佐の行動にはいつも振り回されてばかりですが、それで後悔したことは一度もありませんからね。やってやりましょう!少佐!」

 マックも作戦に賛同した。今回の作戦は相当に大変な、おそらく、自らの命に関わることは容易に想像出来るが、どこかワクワクしている自分もいた。

「お前ら、いつもすまんな・・」

 どんな時でも自分について来る部下を持てたことは、幸せであったと心から言える。

 ふいに目頭が熱くなった。

 ボトムは手で涙腺を抑えたが、不覚にも涙を流してしまった。

 しかし、涙をこぼした隊長を隊員たちは頼もしそうに見つめていた。自分たちのために涙を流せる隊長が誇りだったからだ。

 かくして、ボトム・ラングレイ少佐率いる「黒の小隊」がラサ基地から出撃した。

 

「そろそろ切り上げるか・・」

 第04MS小隊隊長のフレディ・ランス少尉は、本日の仕事を終えようとしていた。

 夕日がフレディ少尉の陸戦型ガンダムを照らし、日が暮れようとしている。

 ホバートラックのアンダー・グラウンド・ソナーに反応はなし。本日も敵秘密基地発見に至らず。

 フレディが日報を記入したその時であった。

 近くで大きな爆発音がした。

 なんと、部下のダニー軍曹の陸戦型ガンダムが爆発したのだ。しかも、コックピットが正確に撃ち抜かれている。

「な・・何が起きた!?ソナーに反応は無かった・・ハッ、スナイパーか!!」

 慌てて臨戦体制に入る。だが・・

 2回目の爆発音が響く。

 次はホバートラックが爆発した。この爆発では中の隊員は生きてはいないだろう。

「クソッ・・なんてこった!おいグレッグ、スナイパーだ!森に隠れろ!」

 フレディが近くにいたグレッグ曹長の陸戦型ガンダムに指示する。

 グレッグ曹長も森に身を隠す。

 あっという間に2機・・こいつは凄腕のスナイパーだ。

 そういえばコジマ基地で敵スナイパーによる被害が多く出ていたことを思い出した。

 敵もまだ切り札を残していたってことか・・

 他の小隊に救援要請を出したいところだが、現在コジマ大隊は各小隊が個別に敵基地捜索を行っており、付近に味方はいない状況だ。

 …何分経っただろうか。フレディの身体から汗が噴き出してくる。嫌な緊張感だ。

 いつの間にか日は落ち、辺りはすっかり暗闇である。

 目の前の森を凝視していると、ふいに森の木々が揺れた。

 森の中で動く巨大な影、敵MSだ。

「いたぞ、いたぞ――!!」

 フレディが100mmマシンガンを連射する。

 グレッグも180mmキャノンを撃ち応戦する。

 手ごたえはなし。次に出てきたら確実に打ち抜いてやる。

 しかしその時、フレディの横から何かが飛んできた。

 その「何か」は、フレディの機体に接触し、機体に高圧電流が走った。

 そして次の瞬間、モニターがブラックアウトし、フレディ機のコックピットは闇に包まれた。

 フレディの陸戦型ガンダムは完全に沈黙してしまった。

 ボトム・ラングレイ少佐のグフカスタムが姿を現す。

 フレディの陸戦型ガンダムを停止させたのはグフカスタムのヒートロッドである。グフの右腕に内蔵された固定武装であり、ワイヤー型の鞭を敵に接触させ、電撃を送り込むことによって電気系統をショートさせて行動不能にさせる効果がある。

「あ・・あ・・く、黒い・・グフ・・」

 1人になってしまったグレッグは完全に戦意を喪失していた。

 直後、グレッグの陸戦型ガンダムに向けて一斉射撃が加えられた。

 機体は大破し、爆散した。

 そしてとどめと言わんばかりに、グフカスタムのヒートサーベルにより、フレディの陸戦型ガンダムが一刀両断され、爆発した。

 長距離及び近距離からの奇襲攻撃、これが黒の小隊の戦法である。

「少佐、さすがですね」

 シップがボトムに声を掛け、シップとマックのザクⅡが姿を現す。

 グレッグの陸戦型ガンダムに一斉射撃を与えたのはこの2機である。

「2機の撃破を確認。撃ち損じはありませんでした」

 後方で狙撃を行ったニーナのザクⅠ・スナイパータイプも合流し、ボトムに戦果を報告する。

 ザクⅠ・スナイパータイプはその名のとおりザクⅠを狙撃仕様に改装した機体であり、長銃身の狙撃用ビーム・スナイパー・ライフルを装備している。さらにニーナ機には近接戦闘も考慮し、ヒートホークも装備されている。

 ニーナは5km後方から撃ち損じ無く2機を撃破した。間違いなくエースである。

「よし、みんなよくやってくれた。前哨戦は完璧だな。この調子で、明日も作戦を成功させるぞ」

 ボトムは皆を称えた。黒の小隊は連邦軍の一個小隊なぞ簡単に撃破することが出来る。相手があのガンダムであってもだ。この前哨戦は作戦前に自信をつける良い戦(いくさ)となった。

 黒の小隊はさらに進軍を続けた。

 コジマ大隊総司令部「ビッグトレー」に向かって。

 

 その夜、ビッグトレーのコジマ中佐に07小隊より連絡が入った。

「・・はい、08小隊が敵秘密基地をとうとう発見しました。各小隊はビッグトレーが到着するまで安全圏で一旦待機しています。しかし、悪い報告もあります。04小隊が敵にやられました。全滅です。そちらもくれぐれも用心してください」

 07小隊のロブ少尉が淡々と報告する。

「分かった。報告ご苦労であった。通信終わるぞ」

 ロブ少尉が映っていたモニターが消える。

 陸戦型ガンダムを有する04小隊がやられた。

 嫌な汗が、コジマの頬をつたって流れた・・

 




物語終盤でやっとジオン軍の登場です。


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第6話 ビッグトレー防衛戦

宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。05小隊は06小隊とともに総司令部ビッグトレーを護衛する任務に就き、チベットへ向けて進軍中である。対してジオン軍の秘密基地「ラサ基地」から、ボトム・ラングレイ少佐率いる黒の小隊がビッグトレー討伐のため出撃した。一向に敵が現れず油断している地球連邦軍だが、今まさに激戦が幕を開けようとしていた・・

○登場人物紹介

□地球連邦軍

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。なかなか出撃許可が下りない状況に不満を感じていたが、05小隊の作戦参加が叶ったので、はやる気持ちを抑えきれないでいる。格闘戦が得意のようだ。搭乗機は陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。以前の05小隊の生き残りであり、心の隅に亡くなった仲間達の無念を晴らしたい想いがある。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。勢い余って命令無視をすることが常々あり、軍人としては半人前もいいとこ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。以前はMS乗りであったが、戦場でのトラウマからMSを降りてしまった過去を持つ。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。父親が軍属であり召集令状が来たため、嫌々ながらも地球連邦軍に入隊し、父親のコネで05小隊に配属された経緯を持つ。しかしコジマ大隊で過ごすうちに軟弱な自分の性格を変えたいと思うようになる。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。総司令部ビッグトレーでは、副司令官の立場にあり、司令官イーサン・ライヤー大佐の補佐を行っている。

第06MS小隊・・・「密林の鬼神」の異名を持つゴンザ・G・コバヤシ中尉が隊長を務める小隊。陸戦型ガンダムが配備されており、個々のMSパイロットの能力も高い。05小隊とともに総司令部ビッグトレー護衛の任務に就く。
他の小隊メンバーは、ザニー・ヘイロー少尉とブルーオン・ターボック軍曹。

■ジオン軍

ボトム・ラングレイ少佐(35)・・・黒の小隊を率いる隊長。ラサ基地ではノリス・パッカード大佐に次ぐMS操縦技術の腕前を持ち主。機体を黒く塗装しており、連邦軍からは「黒い狩人」と呼ばれ恐れられている。情に厚く、涙もろい一面も持ち併せている。搭乗機はグフカスタム(MS-07B3)

ニーナ・パブリチェンコ少尉(19)・・・年齢は20歳にも満たない少女であるが、軍人としての才があり、格闘術・射撃技術はもちろん、特に長距離射撃が得意である。元々孤児であったが、ボトムに軍人としての才能を見出され、ジオン軍に入隊した。ボトムが親代わりのようなものであり、全てをボトムに委ねている。搭乗機はザクⅠ・スナイパータイプ(MS-05L)

シップ中尉(32)・・・ボトムとマック、ニーナとともに地球降下時から共に戦ってきたベテラン。普段はおちゃらけているが、いざとなると雰囲気が変わるタイプ。搭乗機はザクⅡ(MS-06JC)

マック中尉(30)・・・ボトムとシップ、ニーナとともに地球降下時から共に戦ってきたベテラン。普段は冷静沈着な性格だが、より過酷な状況ほどワクワクしてしまうタイプ。搭乗機はザクⅡ(MS-06JC)



 

【挿絵表示】

 

 

 ビッグトレーの進行が始まって4日目の朝を迎えた。

 06小隊のゴンザ・G・コバヤシ中尉を前に05、06小隊の隊員達が勢ぞろいしている。

 傍から見ると先生と生徒達のようだ。ゴンザ中尉は最年長であり、人一倍貫禄があるため、よりそのように見える。

 朝礼・・という訳ではないが、ゴンザ中尉より報告があるようだ。

「良い報告と悪い報告がある。まず良い報告の方だが、敵基地捜索中の08小隊により敵秘密基地がとうとう特定された。敵基地はチベットの中心都市ラサに位置しており、鉱山内部に建設されているらしい。次に悪い報告についてだが、同様に基地探索を行っていた04小隊がジオンの部隊にやられてしまったとのことだ」

「なんだって!04小隊といえば陸戦型ガンダムが配備されている小隊じゃないっすか!マジかよ・・」

 05小隊隊長のウィル・オールド曹長が驚きの声を出す。

「あぁ・・フレディが指揮する小隊だ。まさか奴がやられるとはな・・。ビッグトレーの移動は今日と明日を残すところではあるが、何が起こるか分からん。全員、気を引き締めていけよ!」

「了解!!」

 ゴンザ中尉の訓示に対して全員が元気良く反応する。

 今のところ威勢だけは良いのであった。威勢だけは。

 

 ジオン軍のボトム・ラングレイ少佐が率いる「黒の小隊」もビッグトレーに向かって山中を進軍中である。

「この一帯、ミノフスキー粒子の濃度が半端ないですね」

「あぁ、ミノフスキー粒子で溺れちまいそうだな」

 シップとマックが他愛も無い会話をしている。

 ミノフスキー粒子とは、ジオン公国の物理学者トレノフ・Y・ミノフスキーによって発見された、電波障害を起こして無線機やレーダー等の電子機器を無力化する粒子である。この粒子が大気中に存在するため、戦艦のレーダーによる長距離の索敵が不可能となり、小回りの利くMSによる戦いが主流となっていった。もしミノフスキー粒子が発見されていなければ、戦争は戦艦同士の遠距離からの誘導ミサイルの撃ち合いで終わっていただろう。この時代の地球はミノフスキー粒子の影響により長距離通信が困難な地域が多く、とりわけ密林地帯などの局地戦ではそれが特に顕著であった。

 レーダーが無力化しているため、黒の小隊のビッグトレーへの奇襲攻撃は有効な作戦と言える。

「少佐、敵の大型陸戦艇が見えました。護衛のMSは3機見えます」

 ザクⅠ・スナイパータイプに搭乗するニーナ・パブリチェンコ少尉はビーム・スナイパー・ライフルのスコープ越しに地球連邦軍総司令部ビッグトレーを確認した。

 およそ15km以上は離れていると推測されるが、凄腕のスナイパーは獲物を捉えたのだった。

「よし、ニーナはここから敵MSを狙撃してくれ。ニーナの狙撃と同時に俺たちは大型陸戦艇の真横から突っ込む。風はこちら側に吹いている。みんな、死に急ぐなよ」

 ボトムの言葉と同時にグフカスタムのモノアイが光る。作戦開始の合図だ。

「へへっ、了解!マック、ヘマして陸戦艇の砲撃にやられるなよ!」

「シップ、お前こそ無駄弾撃ちすぎるなよ!」

 シップとマックはいつもの調子だ。余裕さえ感じられる。

「皆さん、ご武運を!長距離支援は任せてください!」

 常に冷静に任務を遂行するニーナも今回は意気込んでいるようだ。

「あぁ、連邦軍を叩いて、みんなでラサ基地へ帰ろう。ジーク!ジオン!(ジオンに栄光を!)」

「「ジーク!ジオン!」」

 ボトム・ラングレイ少佐の掛け声と同時に黒の小隊は配置に着くのだった。

 

 現在06小隊がビッグトレーの護衛を行っているが、敵の接近には全く気が付いていない。

 ビッグトレー内の指令室でも4日間敵の影すら見えないため、ほとんど全員が暇を持て余していた。中には居眠りをしている者さえいる。

「しっかし、今日も敵は出て来ないんスかねぇ・・チベットに着いたら、キンキンに冷えたビールを飲みたいぜ」

 駄菓子をかじりながら、ブルーオン・ターボック軍曹がつぶやく。

「そうだな。俺は、早く故郷へ帰って、熱々のシャワーを浴びたいぜ」

 ザニー・ヘイロー少尉も同調する。

「ザニー、お前ん家なら熱々のシャワー以外に可愛い奥さん、そんで、来月には子供も生まれるんだろ?出産祝いは何が欲しい?」

 ゴンザ・G・コバヤシ中尉も会話に参加する。

「隊長、出産祝いは、ザニーさんの好きなポルノDVDなんてどうですか?」

「バカ言え、あんまり軽口叩いてると、お前の股関に180mmキャノンの照準を合わせるぞ」

「ハッハッハ、ザニーよ、ターボックの股間に照準合わせるのは、相当難しいんじゃないか?」

 隊員同士で冗談を言い合う。張り詰めた戦場ではこの位の冗談を言う時間が貴重だったりする。

「まぁまぁ、俺の股間の話はこれくらいにしましょうぜ。そうだ、無事にチベットに着いたら、任務完了の祝いに、可愛い女の子のいるバーにでも行きませんか?ザニーさんも、たまには羽でも伸ばし・・」

 ターボックの会話はそこで終わった。

 いや、これが彼の人生最後の会話となった。

 ターボックの陸戦型ガンダムが爆発した。

 コックピットが正確に貫かれている。

「ターボック!!」

 あまりの不意打ちにザニーが悲鳴を上げる。

 ・・と同時に、ゴンザとザニーは瞬時にビッグトレーの甲板裏に隠れる。

 不測の事態に咄嗟に対応出来るのは、さすが06小隊である。

「ザニー、あれはスナイパーだな、位置はわかるか?」

「はい、先ほどの攻撃でだいたい把握出来ました。ターボックの仇は取ります」

 さらにゴンザ中尉が何かに気づく。

「・・おい、あれを見ろ、MSの小隊がこちらに向かってきてやがる!オペレーター聞こえるか!05小隊に出撃要請を頼む!」

 ビッグトレーの真横の山中からボトム、シップ、マックの3機が駆け下りていた。

 06小隊が足止めされている今、05小隊がビッグトレー防衛の頼みの綱となっていた。

 

「05小隊、発進をお願いします!05小隊、早く発進を!!」

 ビッグトレーのオペレーターが悲鳴のような指示を出す。

 突然の敵の襲来により、ビッグトレー内は混乱していた。

 つい先ほどまで居眠りをしている者までいたような状況だったが、その空気は一変した。

「砲撃手は艦砲射撃の準備を!イーサン・ライヤー大佐は万が一に備えてドラゴン・フライに乗り込んでください!」

 混乱の中、コジマ中佐は的確に指示を行う。

 イーサン・ライヤー大佐は要人護送機ドラゴン・フライに乗り込む。司令官は何としてもチベットへたどり着く必要がある。

「05小隊!早くしろ!お前たちが頼りだ!」

 コジマ中佐が叫ぶ。

 まさか、05小隊に頼るなんて場面に出くわすとは。これだから人生とは分からないものだ。

 

「・・チッ、やはり来やがったか、何となく悪い予感がしてたんだ」

 パーク・マウント曹長がぼやく。悪い予感というものは往々として当たってしまう。

 05小隊の5人組はビッグトレー内をMSとホバートラックに向かって走っている。

 ホバートラックは万が一の場合にコジマ中佐等の要人を護送する役目がある。

「3機の敵MSがビッグトレーへ向かっているようです。06小隊は敵の長距離射撃による足止めを食らっています。さらに06小隊のブルーオン・ターボック軍曹がやられたようです。これは・・スナイパーってことか?」

 ダ・オカ軍曹がオペレーターからの報告を読み上げる。

 戦場ではこのような小さな情報が戦況を左右する。

「相手にとって不足はないな、・・よし、行くぞ、お前ら」

 自身が搭乗するMS「陸戦型GM」の足元で、ウィル・オールド曹長が05小隊隊員に声を掛ける。

「ウィル隊長、今回は一発くらい敵に命中させてくださいよ?」

「ロック、そう言うお前も独断で敵に突っ込んだりするなよ?つるむ仲間がいなくなったら寂しいからよ」

 ウィルとロックは出撃前だというのに冗談を言い合っている。

 この2人は最初から最後まで上官と部下という雰囲気ではなく、友人同士という関係に近い雰囲気であった。

「ビッグトレーに向かっている敵は3機、対してこちらは06小隊を合わせると5機。撃退は十分に可能です。ウィル隊長、ロック、落ち着いていきましょう」

 激戦を前に、ユウ・クロメ伍長は不思議なくらい落ち着いていた。

 ジャブローでの経験、コジマ基地での訓練を生かす機会がついに巡ってきた。

「あぁ・・頼りにしてるぜ、クロメ!」

 ウィル隊長がクロメに頼り切った発言をする。相変わらずの隊長だ。

「よっしゃ!やってやるぜ!ジオンめ!どっからでもかかって来い!」

 ロックの気合が伝わってくる。これが裏目に出なければよいが・・

 それぞれの思いを胸に秘め、05小隊は各自の愛機に乗り込んだ。

 

 ニーナ・パブリチェンコ少尉は苦戦を強いられていた。

 ザクⅠ・スナイパータイプは、ベース機のザクIのカメラアイをザク強行偵察型のものに変更し、背中に外付けの大型サブ・ジェネレータを背負うことにより、ザクIでありながらビーム兵器の使用を可能にしたMSである。主な武器はビーム・スナイパー・ライフルであり、この武器を稼働させる為にランドセルにはサブ・ジェネレーターを搭載している。ビーム・スナイパー・ライフルは一定の発射回数でバレルが赤熱化してしまうため、連続での狙撃は不可能という弱点がある。

 一回目の狙撃は成功し、敵MSを撃破したが、残りのMSが素早く隠れたため、二回目の狙撃は外れてしまった。

 さらにビッグトレーからニーナへの艦砲射撃も始まった。

 戦艦の砲撃はそうそう当たるものではないが、砲撃の衝撃により照準がずれてしまい、狙撃に悪影響を与えていた。

「少佐・・見ていてください・・」

 ニーナは身に付けているエメラルドグリーンのブローチを握りしめた。

 そのブローチは、ボトムから初めてプレゼントされたニーナの宝物だった。

 

 敵は凄腕のスナイパーだ。しかし俺も射撃の腕には自信がある。

 ザニー・ヘイロー少尉は敵スナイパーへの攻撃の機会をうかがっていた。

 ゴンザ中尉は接近する敵MSへの攻撃を行い、ビッグトレーへ出来る限り敵を近づけないようにしている。

 スナイパーの位置はほぼ特定した。勝負を決めるのは今しかない。

 ザニーは意を決し、隠れていた甲板裏から姿を現し、180mmキャノンを構えた。

「くらえ!!」

 180mmキャノンが火を噴き、山中に着弾する。しかし・・

 その直後、お返しと言わんばかりに敵のビーム兵器による攻撃が飛んできた。

 咄嗟に機体の重心をずらしたので、コックピットには当たらなかったが、メインカメラに直撃した。

「捉えた!そこだ!」

 二発目、三発目の180mmキャノンを発射する。

 ザニーは自ら敵の攻撃を受けたことにより、敵の位置を完璧に捉えたのだった。

 この力こそ「百発百中(ピンポイント)ザニー」と呼ばれる所以である。

 180mmキャノン発射後、敵からの攻撃は無くなった。

 どうやらキャノンの砲弾は敵に着弾したようだ。

「ターボック、仇は取ったぞ・・安心して基地へ帰ってくれ・・」

 戦死したターボック軍曹に対して、弔いの言葉をかけるザニー。

 しかし、メインカメラを失ったザニーの陸戦型ガンダムは行動不能となってしまった。

 スナイパーの脅威は去ったが、依然として厳しい状況は続いていた。

 




次回はいよいよ05小隊出撃です。


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第7話 05小隊VS黒の小隊(前編)

宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。05小隊は06小隊とともに総司令部ビッグトレーを護衛する任務に就く。しばらくは敵は現れず任務は順調に進んでいた、かのように思えた。しかしジオン軍のボトム・ラングレイ少佐率いる黒の小隊がビッグトレーを奇襲。総司令部ビッグトレーは大混乱に陥る。06小隊はブルーオン・ターボック軍曹を失い、敵のスナイパーを倒したものの、ザニー・ヘイロー少尉の陸戦型ガンダムも戦闘不能となってしまう。まさかの05小隊が、ビッグトレー防衛の頼みの綱となっていた。

○登場人物紹介

□地球連邦軍

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。なかなか出撃許可が下りない状況に不満を感じていたが、05小隊の作戦参加が叶ったので、はやる気持ちを抑えきれないでいる。格闘戦が得意のようだ。搭乗機は陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。以前の05小隊の生き残りであり、心の隅に亡くなった仲間達の無念を晴らしたい想いがある。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。勢い余って命令無視をすることが常々あり、軍人としては半人前もいいとこ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。以前はMS乗りであったが、戦場でのトラウマからMSを降りてしまった過去を持つ。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。父親が軍属であり召集令状が来たため、嫌々ながらも地球連邦軍に入隊し、父親のコネで05小隊に配属された経緯を持つ。しかしコジマ大隊で過ごすうちに軟弱な自分の性格を変えたいと思うようになる。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。総司令部ビッグトレーでは、副司令官の立場にあり、司令官イーサン・ライヤー大佐の補佐を行っている。

第06MS小隊・・・「密林の鬼神」の異名を持つゴンザ・G・コバヤシ中尉が隊長を務める小隊。陸戦型ガンダムが配備されており、個々のMSパイロットの能力も高い。05小隊とともに総司令部ビッグトレー護衛の任務に就く。
他の小隊メンバーは、ザニー・ヘイロー少尉とブルーオン・ターボック軍曹。

■ジオン軍

ボトム・ラングレイ少佐(35)・・・黒の小隊を率いる隊長。ラサ基地ではノリス・パッカード大佐に次ぐMS操縦技術の腕前を持ち主。機体を黒く塗装しており、連邦軍からは「黒い狩人」と呼ばれ恐れられている。情に厚く、涙もろい一面も持ち併せている。搭乗機はグフカスタム(MS-07B3)

ニーナ・パブリチェンコ少尉(19)・・・年齢は20歳にも満たない少女であるが、軍人としての才があり、格闘術・射撃技術はもちろん、特に長距離射撃が得意である。元々孤児であったが、ボトムに軍人としての才能を見出され、ジオン軍に入隊した。ボトムが親代わりのようなものであり、全てをボトムに委ねている。搭乗機はザクⅠ・スナイパータイプ(MS-05L)

シップ中尉(32)・・・ボトムとマック、ニーナとともに地球降下時から共に戦ってきたベテラン。普段はおちゃらけているが、いざとなると雰囲気が変わるタイプ。搭乗機はザクⅡ(MS-06JC)

マック中尉(30)・・・ボトムとシップ、ニーナとともに地球降下時から共に戦ってきたベテラン。普段は冷静沈着な性格だが、より過酷な状況ほどワクワクしてしまうタイプ。搭乗機はザクⅡ(MS-06JC)


 

【挿絵表示】

 

 

「ザニー、生きてるな!?」

「大丈夫です!しかし、メインカメラをやられました・・。しばらくは行動不能です・・」

 ザニーは辛くもスナイパーを倒したが、メインカメラを破壊され、戦闘不能となってしまった。

 ゴンザ・G・コバヤシ中尉はスコープでこちらに向かっている敵の小隊を確認する。

 敵の小隊は全てのMSが黒く塗装されている。

「!! あれは・・」

(なんてことだ・・あの隊長機と思われる黒いグフ、あれはコジマ大隊を苦しめていた通称「黒い狩人」に違いない・・。)

「ったく、05小隊は何をしている!早くしないと全滅だ!仕方ない・・」

 ゴンザはビッグトレーから地上へ降りた。

 せめて、隊長機だけでも自分の手で倒さなければならない。

 陸戦型ガンダムはガンダムハンマーを装備し、黒の小隊へ近づいていった。

 

「クソッ、アタシとしたことが!」

 陸戦型ガンダムの180mmキャノンが着弾したものの、ニーナは生きていた。

 ニーナのザクⅠ・スナイパータイプは戦闘不能と言っても過言ではない。

 主武装であるビーム・スナイパー・ライフルは大破し、ザクⅠの右腕も無くなった。

 かろうじて歩くことができるような状態である。

 ボトムからは万が一の場合は撤退しろと言われている。

 しかし昔から家族のように接している仲間を見捨てるような行動は、ニーナにはどうしても出来ないのだった。

 

 黒の小隊は全速力で突き進んでいた。

 その時、開けた場所に1機のMSが現れた。

 MSは連邦軍の角付き(陸戦型ガンダム)である。

 どっしりと仁王立ちしており、明らかに今まで戦ってきたものとは雰囲気が違う。

 ボトム・ラングレイ少佐には、そのMSから漲るオーラが見えた。

 武装も特殊であり、鎖付き鉄球?ハンマー?のような物を持っている。あんなものを食らっては、グフカスタムといえど一撃でダウンするだろう。

 相手は隊長機である自分しか見ていないように感じられる。

「シップ、マック!散開して陸戦艇に近づけ!このMSは俺が引き受ける!」

「「了解!」」

 シップとマックは左右に散開した。

 陸戦型ガンダムはシップとマックのザクⅡには目もくれず、ただボトムのグフカスタムを凝視している。

「フッ、連邦軍にもこんな"戦士"がいたとはなァ!面白い、受けて立とう!」

 ボトムのグフカスタムはヒートサーベルを鞘から抜いた。

 

 うまい具合に敵の隊長機をこちらに引きつけることが出来た。

 ザクⅡ2機くらいであれば05小隊でも対抗できるだろう。

 ゴンザの陸戦型ガンダムがガンダムハンマーを構える。

 相手もヒートサーベルを構えている。

 おそらく勝負は一瞬で決まる。

 先に動いたのはボトムのグフカスタムであった。

 瞬時にグフカスタムが前へ出る。

 ゴンザはその動きを見逃さず、グフカスタムにガンダムハンマーを投げた。

 かなりの速さで飛んできたガンダムハンマーに対して、ボトムは回避運動をとり、これを軽々と避けた。

 避けた瞬間、陸戦型ガンダムにヒートロッドを打ち込んだ。

 ゴンザは左腕のシールドでこれを防御した。

 左腕に電流が走るが、機体は無事だ。

 しかし、電気系統がショートしたらしく、左腕は使い物にならなくなってしまった。

「やれやれ、これはマズいな・・」

 ゴンザはガンダムハンマーを投げ捨て、右手にビームサーベルを構えた。

 再び両者が対峙する。

 今度は先にゴンザがビームサーベルでグフカスタムに切りかかった。

 ボトムは身をかがめてビームサーベルをかわし、下からヒートサーベルで陸戦型ガンダムの右腕を切り上げた。

 陸戦型ガンダムの右腕が吹っ飛ぶ。

 さらにゴンザがひるんだ隙にヒートロッドを打ち込んだ。

 ヒートロッドは陸戦型ガンダムの胸部に命中した。

 コックピット内のモニターがブラックアウトし、ゴンザの陸戦型ガンダムは機能停止した。

 一騎打ちはボトムに軍配が上がった。

「無念・・・」

 ゴンザは死を覚悟した。

 ・・が、その時は訪れなかった。

 ボトムは両腕を失い、機能停止した角付きは戦力でないと判断し、ビッグトレーへ向かった。

「全く、1から鍛え直しだな・・」

 命拾いしたゴンザが呟く。

 格闘戦で負けたのはいつ以来だったか・・

 また山に籠って、久々に修行でもするか。

「05小隊、あとは頼んだぞ。ビッグトレーは駄目かも分からんなぁ」

 真っ暗なコックピットの中で煙草をふかした。

 ゴンザ・G・コバヤシ中尉は割と投げやりな一面も持ち合わせているのだった。

 

 ボトムはシップとマックのザクⅡに合流し、ビッグトレーに近づいていた。

「少佐、やりましたね」

 マックがボトムに声を掛ける。

「あぁ、思い切りの良いパイロットだった。おそらく先ほどの角付きが隊長格だ。あとは陸戦艇を叩くだけだな」

 先ほどのようなレベルの高い格闘戦は久々であった。

 身体中からアドレナリンが放出されているように感じられる。

「おっ、敵の陸戦艇がようやく見えましたぜ!んっ?MSだ!連邦軍の奴ら、まだMSを隠してたのか!」

 シップが驚きの声を発した。

 ビッグトレーから新たに3機のMSが現れた。

 05小隊の陸戦型GMがとうとう出撃したのだった。

 

「もー、ウィル隊長!あんたが『ちょっとトイレ行きたい』って便所に行ったせいで出撃遅れちゃったでしょー!!」

「うるせーなロック。お前だって『あ、じゃあ俺も行きます』って便乗してたじゃねぇか!」

「なんか人が行くと俺も行きたくなる性分なんすよ!」

「・・・・・」

 05小隊のあまりの緊張感の無さにユウ・クロメ伍長は言葉を失っていた。

 05小隊がなかなか出て来なかった理由はウィルとロックがトイレに行ってたから。

 ただそれだけの理由だった。

「おい05小隊!頼んだぞ!ビッグトレーも艦砲射撃を行い援護する!」

 コジマ中佐が悲鳴に近い声で05小隊に指示する。

 06小隊がやられた今、ビッグトレー内では誰もが逃げ出したい気持ちを抑えられないでいた。

 まさか、05小隊に命を預けるなんて事態になるとは。

 司令官のイーサン・ライヤー大佐は早くもドラゴン・フライに乗り込み、発進の準備をしている。

「ウィル!ロック!真面目にやれよ?今回は本当にやばいぜ!」

 緊張感の足りない05小隊に対して、パーク・マウント曹長が喝を入れる。

 05小隊がうまく動けるか不安であるため、パーク・マウント曹長とダ・オカ軍曹はホバートラックを出動させた。

「敵は3機。グフ1機、ザクⅡ2機です!機体は全て黒く塗装されているとのことです!グフのヒートロッドに注意してください!電気系統がイカれます。それとゴンザ中尉も行動不能となりました!」

 ダ・オカ軍曹がビッグトレーからの情報を報告する。

「黒いMS!?それに3機!?まさか、"黒い三連星"じゃないだろうな!?」

 パークが情報を聞いて驚く。

 連邦と違って、ジオンの士官は機体を好みの色に塗り替えることが多いと聞く。「赤い彗星」「黒い三連星」「白狼」--著名なエースパイロットのMSは、全て通常とは異なるカラーリングだそうだ。

「黒い三連星はオデッサ作戦で戦死しています。ただ、油断は出来ませんね」

 クロメが冷静に分析する。

 その時、黒いMSと聞いてウィルの表情が変わった。

(黒いMS・・。思い出した、あの時の奴らだ。俺以外の以前の05小隊を全滅させた部隊・・。こんなところでかたき討ちのチャンスが巡ってくるとは。運命の女神様はいるもんだな。)

 ウィルは思った。自分が生き残ったのは、もしかしてこの時のためだったんじゃないかと。

 運命というものを、信じてもいいのかもしれない。

「ウィル隊長、聞いてますか?敵にビッグトレーに乗り込まれたら終わりです。下に降りて敵を撃退しましょう」

「あぁ・・分かった」

 クロメに続きウィル、ロックの陸戦型GMがビッグトレーから降りた。

 そしてパークとオカのホバートラックもこれに続いた。

 

 ボトム・ラングレイ少佐は近づいてくる陸戦型GMのそれぞれの動きを観察していた。

 明らかに動きの良い先頭のMSが1機、あとの2機は新米パイロットか何かだろう。

 ボトム・ラングレイ少佐は、相手の動きを見るだけでそのパイロットの技量が分かるほどのベテランだ。

「シップ、マック!俺は先頭の1機を相手にする。後ろの2機はお前らに任せた!」

「任せてください、少佐!」

「了解です、少佐!行くぜマック」

 黒の小隊は二手に分かれた。

 

 05小隊はクロメを先頭に進んでいた。

 いや、ウィルとロックがクロメに追いつけないでいた。

「おかしい、何でクロメに追いつけないんだ?」

 ウィルが言う。

「こんなところにも技量の差がでてるのかねぇ」

 この発言は、ウィルとロックのさらに後ろを走行しているホバートラックのパークだ。

 その時。

 クロメの正面の山から、かなりのスピードでグフカスタムが駆け降りてきた。

「クロメッ!!」

 ロックが叫ぶ。

 さらにロックとウィルの陸戦型GMにマシンガンの一斉射撃が加えられた。

 ロックとウィルは左腕のシールドでなんとかこれを防いだ。

 シップとマックのザクⅡが姿を現す。

 駆け降りてきたグフカスタムはクロメの陸戦型GMにヒートサーベルを振りかざした。

 クロメは咄嗟に右手に持っていたマシンガンを捨て、ビームサーベルを取り出した。

 間一髪、クロメはグフカスタムのヒートサーベルをビームサーベルでしのいだ。

 クロメの陸戦型GMはボトムのグフカスタムと対峙する。

 ウィルとロックの陸戦型GMもシップとマックのザクⅡと睨み合っている。

 05小隊もまた、二手に分かれたのだった。

 

「黒いMS、お前らエース部隊だな!このロック様が直々にブチのめしてやる!」

「オイ待てロック!!」

 ロックはウィルの制止を振り切り、ザクⅡ2機に対して単独で突っ込んだ。

 完全に頭に血が昇っている・・というか、初めての実戦で、しかもエース(かもしれない)が相手で、頭が真っ白になっているのだろう。

 威勢よく突っ込み、自慢のマシンガンを乱射したはよいが、敵にあっさり避けられた。

 2機のザクⅡに詰め寄られ、ヒートホークでマシンガンを持つ右手を切断された。

 もう1機のザクⅡが陸戦型GMのコックピットに拳を振り下ろした。

 ロックが乗っているコックピットは潰されてしまった。

 陸戦型GMが情けなく倒れ込む。

「ローーック!!ジオンめ、許さんぞ!!」

 ウィルが怒りをあらわにし、マシンガンを連射する。

「落ち着けウィル!このままじゃ敵の思う壺だ!まだロックは死んだと決まった訳じゃねぇ!俺たちが救出に向かう!」

 パーク達がロックの救出に向かう。

 ロックがやられ、1対2になってしまい非常にマズい状況となっていた。

 

「ロックがやられた!?」

 クロメの視界の隅でロックの陸戦型GMが倒れこんだ。

 クロメの陸戦型GMの動きが一瞬止まり、その隙をついてグフカスタムがヒートロッドを打ち込む。

 陸戦型GMは上半身をずらしこれを避けた。

 ヒートロッドと機体の距離は1mもない。ギリギリのところで回避した。

 即座にビームサーベルをグフカスタムに振りかざした。

 今度はグフカスタムがビームサーベルをヒートサーベルでしのぐ形となった。

 こちらは対照的に、非常にレベルの高い格闘戦が行われていた。

 

「ハハッ!楽しませてくれる!」

 まさかヒートロッドを避けた上にすぐさま反撃までしてくるとは。

 間違いない、このパイロットこそ真のエースだ。

 なぜ、こんな優秀なパイロットが残っているのか?

 連邦軍の司令官が自分たちを守らせるために、エースパイロットを手元に置いていたのだろうか。

 まぁそんなことはどうでもいい。

「ここまでの相手と戦えるとは。つい、作戦の目的を忘れてしまうな」

 目の前の敵、陸戦型GMと再び対峙する。

 ボトムの表情はいつにも増して輝いていた。

 




05小隊大ピンチ。長くなりそうなので前編と後編に分けます。


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第8話 05小隊VS黒の小隊(後編)

宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。05小隊は06小隊とともにジオン軍秘密基地「ラサ基地」へ向かう総司令部ビッグトレーを護衛する任務に就く。進軍開始から4日後、ジオン軍ボトム・ラングレイ少佐率いる黒の小隊がビッグトレーを奇襲し、大混乱となる。06小隊は戦闘不能となってしまい、05小隊がビッグトレー防衛の要となる。しかしいきなりロックがやられてしまい、大ピンチに陥るのだった。

○登場人物紹介

□地球連邦軍

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。なかなか出撃許可が下りない状況に不満を感じていたが、05小隊の作戦参加が叶ったので、はやる気持ちを抑えきれないでいる。格闘戦が得意のようだ。搭乗機は陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。以前の05小隊の生き残りであり、心の隅に亡くなった仲間達の無念を晴らしたい想いがある。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。勢い余って命令無視をすることが常々あり、軍人としては半人前もいいとこ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。以前はMS乗りであったが、戦場でのトラウマからMSを降りてしまった過去を持つ。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。父親が軍属であり召集令状が来たため、嫌々ながらも地球連邦軍に入隊し、父親のコネで05小隊に配属された経緯を持つ。しかしコジマ大隊で過ごすうちに軟弱な自分の性格を変えたいと思うようになる。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。総司令部ビッグトレーでは、副司令官の立場にあり、司令官イーサン・ライヤー大佐の補佐を行っている。

第06MS小隊・・・「密林の鬼神」の異名を持つゴンザ・G・コバヤシ中尉が隊長を務める小隊。陸戦型ガンダムが配備されており、個々のMSパイロットの能力も高い。05小隊とともに総司令部ビッグトレー護衛の任務に就く。
他の小隊メンバーは、ザニー・ヘイロー少尉とブルーオン・ターボック軍曹。

■ジオン軍

ボトム・ラングレイ少佐(35)・・・黒の小隊を率いる隊長。ラサ基地ではノリス・パッカード大佐に次ぐMS操縦技術の腕前を持ち主。機体を黒く塗装しており、連邦軍からは「黒い狩人」と呼ばれ恐れられている。情に厚く、涙もろい一面も持ち併せている。搭乗機はグフカスタム(MS-07B3)

ニーナ・パブリチェンコ少尉(19)・・・年齢は20歳にも満たない少女であるが、軍人としての才があり、格闘術・射撃技術はもちろん、特に長距離射撃が得意である。元々孤児であったが、ボトムに軍人としての才能を見出され、ジオン軍に入隊した。ボトムが親代わりのようなものであり、全てをボトムに委ねている。搭乗機はザクⅠ・スナイパータイプ(MS-05L)

シップ中尉(32)・・・ボトムとマック、ニーナとともに地球降下時から共に戦ってきたベテラン。普段はおちゃらけているが、いざとなると雰囲気が変わるタイプ。搭乗機はザクⅡ(MS-06JC)

マック中尉(30)・・・ボトムとシップ、ニーナとともに地球降下時から共に戦ってきたベテラン。普段は冷静沈着な性格だが、より過酷な状況ほどワクワクしてしまうタイプ。搭乗機はザクⅡ(MS-06JC)



 

【挿絵表示】

 

 

 ホバートラックが全速力でロック・カーペント伍長の陸戦型GMのところへ向かう。

 シップとマックのザクⅡはウィル・オールド曹長の陸戦型GMと交戦中であり、幸いホバートラックには気が付いていない。

「オイ、ロック!しっかりしろ!!」

 パーク・マウント曹長とダ・オカ軍曹は陸戦型GMの潰されたコックピットハッチをこじ開け、ロックを救出した。

 ロックは何とか一命を取りとめていた。

 しかし、両足と右手を複雑骨折しており、頭から血が出ている。応急処置が必要な状態だ。

 オカ軍曹がロックを担いでホバートラックに乗り込む。

 そんな中、パークは陸戦型GMのコックピットに入り、何やら動作確認を行っている。

(コイツはハッチがひしゃげただけでまだ動けるな・・よし!)

「オカ軍曹、お前はロックを連れて一刻も早くビッグトレーへ戻れ!俺は・・陸戦型GMでウィルとクロメを支援する!」

「パークさん、大丈夫なんですか!?前の部隊のトラウマでMSは操縦出来ないって言ってたでしょう。操縦桿握れるんですか!?」

「やってみないと分からん…今は仲間のピンチなんだ、四の五の言ってられん!お前は早く行け、ロックがこのままじゃやばい!」

「・・了解です、ご武運を!」

 ホバートラックが走り去る。

 パークは陸戦型GMに乗り込み、機体を機動させた。

 前の部隊でも陸戦型GMに乗っていたため、ラクに動かせるはずだ。

 動作等は特に問題なし。

 操縦桿も問題なく握れる。

 戦場から逃げ続けていた男がついに立ち上がった。

 過去と決別し、失くした自信を取り戻すために。

 

「チクショウ・・2機相手は厳しすぎるぜ・・」

 ウィルは2機のザクⅡの攻撃をシールドでしのぎながら反撃の機会をうかがっていた・・というかただ逃げているだけであった。

 しかしウィルと敵との距離は次第に詰められていき、ザクマシンガンの連射でとうとうシールドが破壊されてしまった。

 追い詰められたウィル。

 ウィルは死が近づいている中、こんなことを考えていた。

 

 さてここで問題だ、この状況でどうやって2機のザクⅡの攻撃をかわすか?

 3択―ひとつだけ選びなさい。

  答え①ハンサムのウィルは突如反撃のアイデアをひらめく。

  答え②仲間がきて助けてくれる。

  答え③かわせない。現実は非情である。

 

 ウィルとしてはこの絶望的な状況の中、「答え②」に○を付けたかったが、クロメはグフカスタムと交戦中。助けに来てくれることは期待出来ない。

 やはり答えは…①しかないようだ。

 

 ウィルは100mmマシンガンを2機のザクⅡに撃ちこんだ。

 2機のザクⅡは当然ながらこれを予測しており、簡単に回避した。

 と同時に、陸戦型GMの100mmマシンガンの弾薬が尽きる。あっけないもんだ。万策尽きた。

 突きつけられた答えは③…現実は非情である。

 

「マック、コイツ素人だ!早くやっちまおう!」

「あぁシップ、言われなくともそのつもりだ」

 シップとマックのザクⅡがウィルの陸戦型GMにザクマシンガンを撃ちこむ。

 最後の悪あがきとも言うべきか、陸戦型GMは両手でコックピットをガードしていた。

 陸戦型GMは地球連邦軍の先行試作量産型モビルスーツであり、先行量産型ジムの陸戦仕様である。

 量産ラインは陸戦型ガンダムのものを流用しており、外見も似ている。装甲材はガンダムと同じルナ・チタニウム合金を採用し、地上用にチューンされた仕様も相まって東南アジア戦線やオデッサ作戦などに投入され、高い戦果を挙げている。

「コイツ!?しぶといぜ!!」

 シップが驚きの声を上げる。

 

 陸戦型GMはザクマシンガンに耐え、何とか倒れないでいた。

 装甲材はガンダムと同じルナ・チタニウム合金を採用していることも功を奏していると言える。

 しかし、当然機体はダメージを受けている。防御していた左腕が大破し、コックピットに銃弾が飛んできた。

 銃弾はコックピットに直撃し、ウィルの頭をかすめた。

 機体の破片がウィルの太ももに刺さり、流血する。

 頭からも血が滴っている。

 視界も霞んできた。

「はは・・俺の悪運もここまでかな・・」

 死ぬ間際には走馬燈が見えるというが、これは本当らしい。

 ウィルの目にはコジマ基地での他愛のない日々が映っていた。

 ロックとの悪ふざけ、いつも5人でやるトランプ、07小隊との喧嘩、06小隊との飲み会、コジマ中佐に叱られたり、08小隊のカレンに助けてもらったり・・

「・・ま、悪い人生ではなかったよな」

 

 

 

 

 

 

 その時、マックのザクⅡが爆発した。

 マックは後ろから攻撃を受け、その攻撃はザクⅡのランドセルに直撃し誘爆、上半身が吹き飛んだ。

 もうマックは生きてはいないだろう。

「誰だ、誰がやりやがった!?」

 シップは突然の状況を呑み込むことが出来ず、攻撃された方向を見る。

 その先には、100mmマシンガンを持つ陸戦型GMが立っていた。

 

「嘘だろ・・まさかロックか?」

 ウィルもまた、現在の状況を呑み込めないでいた。

「ウィル!!ボケッとしてんじゃねぇ!俺だよ、パークだよ!ザクⅡはまだ1機いる!気をつけろ!」

 本当の正解は「答え②」であった…。

 

「貴様らァ!よくもマックを!」

 長年の相棒であったマックを殺され、怒りが頂点に達したシップ。

 我を忘れたシップは、パークに襲い掛かってきた。

 100mmマシンガンで応戦するパーク。

 しかしシップは敵の攻撃を真っ向から受け、パークの方へ全速力で向かってきた。

 銃弾を受けながらも前進し、陸戦型GMにタックルをくらわした。

 その衝撃で倒れ込む陸戦型GM。

 次の獲物はウィルの陸戦型GMだ。

 シップがウィルの方を見ると、ウィルの陸戦型GMがこちらへ来いと手で合図をしている。

 明らかに挑発している。

「連邦め・・奴を倒さないとマックの魂は浮かばれん」

 先ほどのパークの攻撃により、ザクマシンガンは大破してしまった。

 シップはヒートホークを携え、ウィルを追いかける。

 

 ウィルは敵を挑発しながら言い放った。

「俺はコジマ大隊所属第05MS小隊のウィル・オールドだ!こっちへ来やがれ!」

 そしてビッグトレーの方へ向かう。

「カッコよく言い放ったはいいが、果たして上手くいくのかコレ・・『奴』とのタイミングが合えばよいが。これに失敗したら今度こそ死ぬな・・」

 ウィルには何やら策がありそうである。

 

 シップはすぐウィルに追いついた。

 ボロボロになったウィルの陸戦型GMに追いつくのは容易であった。

 陸戦型GMは観念したのか、ビームサーベルを構える。

「ようやく観念しやがったか・・」

 シップもヒートホークを構え、ウィルと対峙する。

 にらみ合う両者。

 どちらもなかなか動かない。

「来ないならこちらから行くぞ!」

 シップがヒートホークで襲い掛かったその時、陸戦型GMは左に回避運動をとった。

 陸戦型GMがいなくなったその先には、ビッグトレーの三連装大型砲が見えた。

 そして、この光景はシップが見た最後の光景となった。

 

 ビッグトレーの三連装大型砲が唸る。

 砲弾が直撃したシップのザクⅡは、両足を残し綺麗に消滅した。

 戦艦の砲撃はやはり凄まじい威力だ。

「ハァ・・ハァ・・うまくいったか・・」

 イチかバチかの作戦が上手くいった。

 ウィルは緊張で汗びっしょりになっていた。

 ビッグトレーに向かう途中で砲手に指示を行い、見事ザクⅡを倒すことに成功した。

「ウィル曹長・・生きてますか?」

 この声はビッグトレー砲手のフランキー・フォレスト軍曹だ。

「あぁ、今回ばかりは助かったぜ、フォレスト」

「いや・・正直なところ、『ウィル曹長、巻き添え食らったらゴメンナサイ』って思って引き金を引いたんすよ。結果オーライで良かったッス!」

「お前な・・・」

 フォレスト軍曹の適当さに呆れるウィル。

「ガーハ隊長、それにみんな・・俺はやりましたよ」

 ウィルは天国の元05小隊のメンバーに戦果を報告した。

 安堵すると同時に、全身に怪我を負っていることに気付く。

 出血もひどく、ウィルはコックピットの中で気を失ってしまった。

 

 ヒートサーベルとビームサーベルが交差し、火花が飛ぶ。

 ユウ・クロメ伍長の陸戦型GMとボトム・ラングレイ少佐のグフカスタムは一進一退の攻防を続けていた。

「シップとマックの反応が無くなった・・やられたのか・・」

 二手に分かれたシップとマックのMSの反応が無くなってしまった。

 同時に、同じく二手に分かれた敵の反応も無くなった。

 シップとマックは最後まで自分たちの仕事をやりきったということだ。

(最後まで俺のワガママに付き合わせてしまって、本当にすまなかった・・)

 死んでいった2人のためにも、奴を倒さなければならない。

 

 クロメもボトムと同じことを考えていた。

(ウィル隊長は敵と相打ちか・・?ウィル隊長、ロック・・仇は取ります)

 

(そろそろ仕掛けさせてもらうぞ)

 残っている敵は、目の前の陸戦型GM1機だけのようだ。

 ボトムはクロメと対峙しつつ、ビッグトレーへの距離をじわじわと詰めていく。

 できればヒートロッドで敵を戦闘不能とし、その後一気にビッグトレーを攻めたいところだ。

 

 クロメの陸戦型GMが一瞬の隙をつき、ビームサーベルでグフカスタムの右腕を切り落とした。

 これでグフカスタムはヒートロッドをもう使えない。

 勝負は決まったかのように見えた。

 両者は再び距離を保ち、睨みあう。

 先に動いたのはボトムの方だった。

 ヒートサーベルを構え、素早く前進する。

 クロメもビームサーベルを構え、これを迎え撃つ。

 クロメの目の前にグフカスタムが来た。

 ビームサーベルを、振りかぶる。

 クロメは勝った、と思ったが、その時グフカスタムは空中に浮き上がった。

「しまった!!」

 グフカスタムはランドセルのスラスターを最大出力で噴射し、陸戦型GMの頭上を越えた。

 ビームサーベルは空振りに終わった。

 さらに頭上のグフカスタムにクロメの陸戦型GMは踏み台にされてしまった。

 踏み台にされ、吹っ飛ばされる陸戦型GM。

 その隙にグフカスタムは、全速力でビッグトレーへ向かう。

 

(シップ、マック、ニーナ、ここまで来れたのはお前らの手柄だ)

 グフカスタムはスラスターの推進力で機体を上昇させる。

 狙いはビッグトレーの艦橋部。つまりコジマ中佐がいる指令室だ。

 グフカスタムはさらに上昇する。

 ビッグトレーは必死でグフカスタムを打ち落とそうとするが、艦砲射撃はむなしく空を切る。

 グフカスタムがとうとうビッグトレーの艦橋へ到達した。

 グフカスタムのモノアイが指令室を睨む。

 ビッグトレーの指令室では誰もが我先に逃げ出そうとしていた。

 コジマ中佐でさえ腰を抜かしている。

 グフカスタムは左手に装備されている3連装35mmガトリング砲を指令室に向かって構えた。

「これが我々の意地だ!!」

 ボトム・ラングレイ少佐が叫んだ。

 ビッグトレー内の誰もがもう終わりだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 コジマ中佐はゆっくりと目を開けた。

 どうやらここは天国ではない。ビッグトレーの指令室だ。

 ビッグトレーは無事だ。

 先ほどの敵は、姿を消していた。

「た、助かった・・」

 コジマ中佐は思わず安堵の声を漏らした。

 

 グフカスタムは空中で被弾し、下の方へ落ちていった。

 ビッグトレーの甲板には、1機の陸戦型GMが立っていた。

 ボトムのグフカスタムを攻撃したのは、パーク・マウント曹長の陸戦型GMであった。

 その手にはザニー・ヘイロー少尉の180mmキャノンが握られていた。

「どうにか、当たったみたいだな・・」

 パークはウィルがザクⅡを撃破した後、ビッグトレーに戻ったのだった。

 万が一、敵がビッグトレーへ『特攻』を仕掛けてきた時のために。

 パークは、自分の心から抜け落ちていた大切なものを取り戻したようだ。

 過去のトラウマは完全に払拭された。

 

 戦いは終わった。

 コジマ大隊で「左遷小隊」と非難されていた05小隊はボロボロになりながらも、ビッグトレーを最後まで守り切った。

 さらにこの戦いで過去の悲劇やトラウマを乗り越えた者もいた。

 それは勝利以上に大切なことだったのかもしれない。

 

 

 

 




次回で最終話です。


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最終話 帰らざる日々

宇宙世紀0079年、東南アジア前線極東方面軍の機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」所属の第05MS小隊に配属されたユウ・クロメ伍長。05小隊と黒の小隊との戦いは終わった。05小隊は何とか総司令部ビッグトレーを守り切った。しかし地球連邦軍の被害も小さくはなかった。06小隊はブルーオン・ターボック軍曹が戦死、陸戦型ガンダム1機が大破、残りの2機も中破。05小隊は陸戦型GM2機が中破した。全員が命を取り留めたものの、ウィル・オールド曹長とロック・カーペント伍長は大ケガを負ったため、チベット到着後、野戦病院へ搬送されることとなった。
黒の小隊については、撃墜されたグフカスタムの機体は確認されたが、パイロットは確認されなかった。また、狙撃を担当していた機体も確認されることはなかった。

○登場人物紹介

□地球連邦軍

ユウ・クロメ伍長(23)・・・本作の主人公。前部隊での活躍が認められ、第05MS小隊に転属した。なかなか出撃許可が下りない状況に不満を感じていたが、05小隊の作戦参加が叶ったので、はやる気持ちを抑えきれないでいる。格闘戦が得意のようだ。搭乗機は陸戦型GM

ウィル・オールド曹長(31)・・・やる気があるのかないのか分からない第05MS小隊隊長。部下からは割と慕われるタイプ。以前の05小隊の生き残りであり、心の隅に亡くなった仲間達の無念を晴らしたい想いがある。搭乗機は陸戦型GM

ロック・カーペント伍長(23)・・・勢いのある第05MS小隊のメンバー。勢い余って命令無視をすることが常々あり、軍人としては半人前もいいとこ。搭乗機は陸戦型GM

パーク・マウント曹長(31)・・・第05MS小隊ホバートラック搭乗員であり、MSの整備もこなす人物。2児の父親であり、家族からの手紙が彼にとって一番の楽しみである。以前はMS乗りであったが、戦場でのトラウマからMSを降りてしまった過去を持つ。

ダ・オカ軍曹(28)・・・パーク同様第05MS小隊ホバートラック搭乗員。父親が軍属であり召集令状が来たため、嫌々ながらも地球連邦軍に入隊し、父親のコネで05小隊に配属された経緯を持つ。しかしコジマ大隊で過ごすうちに軟弱な自分の性格を変えたいと思うようになる。

コジマ中佐・・・機械化混成大隊、通称「コジマ大隊」の指揮官。年齢は50歳前後。見た目は会社の経理部で課長でもやっていそうなタイプに見える。しかしひとりひとりの部下を思いやる指揮官であり、荒くれ者の多い大隊を上手くまとめている。総司令部ビッグトレーでは、副司令官の立場にあり、司令官イーサン・ライヤー大佐の補佐を行っている。

第06MS小隊・・・「密林の鬼神」の異名を持つゴンザ・G・コバヤシ中尉が隊長を務める小隊。陸戦型ガンダムが配備されており、個々のMSパイロットの能力も高い。05小隊とともに総司令部ビッグトレー護衛の任務に就く。
他の小隊メンバーは、ザニー・ヘイロー少尉とブルーオン・ターボック軍曹。



 

【挿絵表示】

 

 

「しかしまぁ、こんな機体がよく動いてたもんじゃな」

 ジダン・ニッカード大尉がウィル・オールド曹長のボロボロになった陸戦型GMを見上げる。

 ここは、ラサ鉱山基地から20kmほど離れた地球連邦軍の拠点である。

 ビッグトレーはジオン軍「黒の小隊」の奇襲攻撃後、MSを回収し、全速力で進行しチベットに到達した。

 待機していた各小隊及びミデア輸送部隊と合流し、ラサ基地攻略戦に備えて拠点を設置した。

 ミデア輸送部隊には、補給中隊隊長であるジダン・ニッカード大尉もおり、ジダンはこれからウィル・オールド曹長とロック・カーペント伍長の両名を付近の野戦病院へ連れていく予定だ。

 

「ニッカード大尉、ご足労かけます」

 コジマ中佐がジダンに声を掛ける。

 コジマ中佐はジダンより階級は上だが、年齢は二回りほど離れているためジダンに敬語を使っている。

「なに、構わんですよ。しかし、05小隊は意外とやるもんですなァ」

「私も彼らに命を救われるとは思いませんでした…」

「実は05小隊再編成時に不良軍人達(主にエレドア)と"賭け"をしていましてな」

 ジダンは上官に対して賭け事のことを隠すつもりはもはや微塵も無いらしい。

「ハァ…賭けですか」

「賭けの内容はズバリ、"05小隊は最後まで穀潰し小隊のままか"というものでしてな」

 ウシャシャシャ、とジダンが笑う。

「全員の予想が"05小隊が変わることはありえない"で一致しましてな、賭けになりませんでしたわ。しかし、今回の戦いで05小隊はワシらの予想を見事に覆しました」

「私も同じです。コジマ大隊のお荷物だと思い込んでいました」

「コジマ大隊は模範的な軍人は少なかったですが、気持ちの良い部隊に育ちましたな。短い間でしたが、楽しかったですわ。これから最後の戦いですが、本当に全員生きて戻ってきてほしいもんです」

 そう言った後、ジダンはミデアに戻って行った。

 コジマも、ビッグトレーに戻った。

 これからジオン軍のラサ基地に対して、地球連邦軍の総攻撃が始まるのだった…

 

 05小隊はウィル・オールド曹長とロック・カーペント伍長が隊から外れたことにより小隊の維持が難しくなり、ユウ・クロメ伍長、パーク・マウント曹長、ダ・オカ軍曹の3人は06小隊に臨時編入されることとなった。

 05小隊のMSについては、クロメの機体はほぼ無傷だが、ウィルとロックの陸戦型GMはボロボロであり、再稼働は難しい状況であった。なので2機は解体され、各パーツは06小隊の陸戦型ガンダムに流用された。頭部を破壊されたザニー・ヘイロー少尉の陸戦型ガンダムにはウィルの陸戦型GMの頭部が流用され(これによりザニーの機体はカレンに次ぐ2機目の"GMヘッド"となった)、ゴンザ・G・コバヤシ中尉の陸戦型ガンダムにはロックの陸戦型GMの腕部パーツが流用された。

 

 

 

          ***

 

 

 

 ほどなくして、コジマ大隊及びジェットコアブースター大部隊、量産型ガンタンク砲撃部隊、GMスナイパー狙撃部隊によるラサ基地攻略戦が始まった。

 まずは、ジェットコアブースター大部隊のクラスター爆弾による基地を山ごと削りとる物量作戦が行われた。

 さらに、MSを鉱山入口から潜入させる強行策も取られた。

 しかし敵はこれに対して鉱山入口に爆弾を仕掛けており、07小隊が犠牲となってしまった。

 また、敵守備隊の殲滅作戦も敢行され、連邦軍はジオン軍を追い詰めていった。

 ジオン軍ケルゲレン出航前、1機の青いグフカスタムが08小隊の前に現れた。

 ジオン軍のエースパイロット、ノリス・パッカード大佐だ。

 たった1機のグフカスタムは08小隊を翻弄し、自らの命と引き換えに全ての量産型ガンタンクを撃破した。

 その後、ジオン軍の最終兵器「アプサラスⅢ」が上空に現れた。

 アプサラスⅢのパイロット、アイナ・サハリンはケルゲレン出航のための休戦協定を持ち掛けたが、ギニアス・サハリン技術少将の謀略によりアプサラスⅢがメガ粒子砲を発射。

 アプサラスⅢのメガ粒子砲はコジマ大隊の各小隊に直撃、01、02、03小隊は壊滅してしまう。

 06小隊は壊滅は免れたものの、ゴンザ・G・コバヤシ中尉とザニー・ヘイロー少尉の陸戦型ガンダムが大破してしまった。幸い、パイロットは無事であったが。ユウ・クロメ伍長及びパーク・マウント曹長、ダ・オカ軍曹も隊員救助のため、足止めされてしまう。

 連邦軍はこれに対し、GMスナイパーの狙撃によりケルゲレンを撃破、アプサラスⅢにも攻撃し一時行動不能にする。

 連邦軍は小隊として動けるのは08小隊を残すのみとなり、08小隊がアプサラスⅢの方へ向かった。

 しばらくして、アプサラスⅢが再起動し、ビッグトレーへ向けてメガ粒子砲の狙いを定める。

 その時、08小隊シロー・アマダ少尉の機体"Ez-8"がアプサラスⅢに対して特攻を行い、自機もろともアプサラスⅢを道ずれにし、これを撃破した。・・が、Ez-8も大破し、この交戦後、アマダ少尉とアイナ・サハリンの消息は不明となってしまう。

 アプサラスⅢの最後の攻撃はビッグトレーに直撃、司令官イーサン・ライヤー大佐も戦死してしまう。

 

 連邦軍はラサ基地のジオン軍を殲滅できたものの戦力の大半を失い、総司令部ビッグトレー及び司令官までも失ってしまった。

 これは果たして"勝利した"と言えるのだろうか。

 戦争というものは結局、多数の人間が犠牲となる愚かな行為である。

 しかし、今後も人類は、この愚かな行為を繰り返すこととなる…

 

 

 

          ***

 

 

 

「ヒマだな・・・」

 

「そっスね・・・あれから1カ月、ずっとベッドの上ッスもんね・・・」

 

 ここは東アジア戦線の野戦病院。

 大ケガを負ったウィル・オールド曹長とロック・カーペント伍長はこの野戦病院へ搬送され、2人仲良く隣同士のベッドで、約1カ月もの間過ごしていた。

 

 その間、地球連邦軍とジオン軍の戦いは宇宙へと移行し、地球連邦軍は「星一号作戦」を発動。攻撃目標を「ソロモン」に定め、ジャブローから大量の新造宇宙艦隊が打ち上げられた。

 地球連邦軍は「ソーラーシステム」を展開し、ソロモンを占拠。

 連邦軍の主力「レビル艦隊」は最終攻撃目標を「ア・バオア・クー」とし、艦隊を集結させたが、ジオン軍の「ソーラ・レイ」が艦隊に照射され、レビル大将は戦死してしまう。ソーラ・レイによって地球連邦軍連合艦隊の30%が消滅や航行不能に陥る。

 また、この動乱時にジオン軍グワジン級宇宙戦艦「グレートデギン」も付近に展開しておりこれも消滅 、ジオン軍総大将デギン公王までもが戦死する事態となった。

 連邦軍はホワイトベースを基点に残存艦隊を集結させ、ア・バオア・クーへの突入を決行する。

 この戦いを制することが出来れば戦争は終結すると予測されている。

 現在、地球に残った連邦軍兵士の誰もがこの戦いの行方を固唾を飲んで見守っているという状況だ。

 

 ラサ基地攻略戦の後、コジマ大隊は地球に残り、ラサ基地の防衛を任された。

 コジマ大隊の現状は、01~04、07小隊が壊滅し、イーサン・ライヤー極東方面軍司令官までもが戦死、しかも残っているMSは05、06、08小隊の一部という悲惨な状況であった。

 ラサ基地の司令官はコジマ中佐に決まり、05、06、08小隊は地上に残ったジオン軍の掃討を主な任務としていた。

 しかし、東南アジア一帯のジオン軍は最終的にラサ基地に集結していたため、残党兵はほとんど確認されず、05、06、08小隊の仕事のほとんどは事務作業であった。

 

 連日、ラジオやテレビからは地球連邦軍の宇宙での戦いの様子がひっきりなしに聞こえてくる。

 自分たちはベッドの上で毎日ダラダラしている今この時、宇宙に行った兵士たちは命がけで死闘を繰り広げている。ウィルとロックはこの落差が情けなくなり、最近はラジオを聞くのも嫌になっていた。

 

 その時、大勢の兵士たちがウィルとロックの病室に入ってきた。

 

「よぅ久しぶりだな!入るぞ!」

 この声は、パーク・マウント曹長だ。

 ユウ・クロメ伍長、ダ・オカ軍曹、それに06、08小隊、さらにコジマ中佐までもが来ている。

「お前ら!?仕事はいいのかよ?まぁ、来てくれて嬉しいけどよ…」

 ウィルが驚く。

「しかし今日は大勢でどうしたんですか?」

 ロックが尋ねる。

 

「そんなこと言ってる場合じゃねぇよ!まさか、まだ何にも知らねえのか!?」

 パークが興奮気味に話す。

 

「ちょっとTVを付けるぞ」

 08小隊のテリー・サンダースJr軍曹が病室のTVを付ける。

 TVには、ア・バオア・クー攻略戦の様子が映し出されていた。

 ジオン軍超大型空母「ドロワ」が大破し、キシリア・ザビ少将乗艦の機動巡洋艦「ザンジバル」が撃沈する光景がまじまじと映し出されている。

 

「予想以上に早い展開だな…」

「ですね…」

 06小隊のゴンザ・G・コバヤシ中尉とザニー・ヘイロー少尉がポツリと言う。

 

 その後、TVリポーターがいる場所に画面が切り変わる。

「…このように、ア・バオア・クー攻略戦は地球連邦軍の勝利に終わりました!この後15:00より、月面都市グラナダにて、地球連邦政府とジオン共和国政府の間で終戦協定が締結される予定です!」

 

「よっしゃぁ!これで自由の身だぜぇ!!」

 エレドア・マシス伍長が飛び上がるほど喜んでいる。ちゃっかりカレン・ジョシュア曹長に抱き着いている。

「こらやめろエレドア」と言うカレン。しかし嫌がりながらもその顔は笑顔だ。

 

「パークさん、やりましたね!これで故郷に帰れますね!」

 ミケル・ニノリッチ伍長がパークに話しかける。

「ああ…そうだな。やっとこさな…」

 パークも安堵した様子だ。その目には涙がにじみ出ている。

 

「何てこった…俺が寝てる間に戦争は終わるのか…」

 ウィルは突然の出来事に唖然としている。

「良かったじゃないですか、ウィル隊長。05小隊は1人の戦死者も出すこと無く、生き延びました。これ以上の勝利ってありますか?」

 これはクロメだ。

「そうッスよ!隊長!これでまたバカ騒ぎできますよ!とりあえず祝杯に酒でもどうです?」

 ロックはまぁ、相変わらずだ。

 

「みんなおるかぁ!!」

 皆で喜びを分かち合っていると、聞き覚えのある声が病室に響いた。

 補給中隊隊長のジダン・ニッカード大尉だ。

 両手には酒・つまみ・その他食糧が入った大きなビニール袋が握られている。

「今からコジマ大隊の終戦祝いじゃあ!!ちなみに呑み会代はコジマ中佐がもってくれるぞ!!」

「いらんこと言わんでください」とコジマ中佐が笑う。

 

 病室はさらに歓喜の渦に包まれ、瞬時に宴会場と化した。

 コジマ大隊は人は減ってしまったが、最後まで雰囲気は変わらないのだった。

 

 

 この日、地球連邦軍とジオン公国の間に、終戦協定が締結された。

 のちに「一年戦争」と呼ばれる、人類史において未曽有の被害をもたらした戦争が終結した記念すべき日である。

 

 宇宙世紀0080年、1月1日のことであった。

 

 

 

          ***

 

 

 

 そしてさらに1カ月後・・・

 

 ユウ・クロメ伍長はジャブロー行き飛行場までの輸送バスのバス乗り場にいた。

 見送りには、ウィル・オールド曹長、ロック・カーペント伍長、テリー・サンダースJr軍曹、ゴンザ・G・コバヤシ中尉、ザニー・ヘイロー少尉、コジマ中佐が来ている。

 これ以外の人物は1カ月の間に軍を去り、故郷へ帰った。

 パーク・マウント曹長は家族に再会し、ダ・オカ軍曹は以前勤めていた職場に復帰した。

 エレドア・マシス伍長はプロミュージシャン、ミケル・ニノリッチ伍長は教師、カレン・ジョシュア曹長は医者を目指し、それぞれの夢に向かって走り続けているとのことだ。

 

 ユウ・クロメ伍長は悩んだ末、以前勤めていたジャブローに戻ることに決めた。

 現場で得た経験を、今度は技術開発に生かしたいと考えたからだ。

 コジマ中佐の推薦等もあり、ジャブロー復帰はすんなりと決まった。

 

「全く、みんな出て行っちまいやがって。寂しくなるなぁ」

 そうぼやいているのはウィル・オールド曹長だ。

 彼は意外にも連邦軍に残ることとなった。

 他にできることもないし、MSを操縦することが単純に好きだからだと話していた。

 一緒に残るロックと共に、サンダース軍曹やゴンザ中尉、ザニー少尉に毎日鍛えられることだろう。

 

「クロメ、また、どこかで会えるといいな」

 ロックが涙を拭いながら言った。これまでの05小隊の思い出がフラッシュバックしているのだろう。

「同じ地球にいるんだから、またいつか会えるさ」

 クロメも感極まり出てしまった涙を拭う。

 

「コジマ中佐、本当に色々とありがとうございました。ジャブローに来られる機会がありましたら、声でも掛けてやって下さい」

「心配いらんよ。ワシはずっとこっちでのんびりする予定だからな。それに、ワシはエアコンというものが苦手でな」

 コジマ中佐がニヤリと笑う。

 

「それでは、皆さん、どうかお元気で」

 クロメがバスに乗り込み、バスが出発する。

 

 ラサ基地に残る面々は、バスが見えなくなるまで手を振っていた。

 

 バスの中でクロメは出撃前に写したコジマ大隊の集合写真を見て、コジマ大隊での日々を思い返していた。

 短い間であったが、たくさんの人との出会い、そして別れがあった。

 事あるごとに絡んできた07小隊だが、いなくなってしまうと寂しいものだ。

 彼らと喧嘩をした思い出さえ懐かしく思える。

 コジマ大隊での短いけれど濃密だった日々・・・

 今では、全て帰らざる日々の思い出なのであった。

 

 

 

          ***

 

 

 

 場所は変わってここは東南アジアのとある村である。

 この村では最近2名の"新人"が入ってきた。

 年齢の離れた少女と男性。

 ボロボロの状態で生き倒れているのを、この村のリーダー「キキ・ロジータ」が発見し保護した。

 そんな縁があり、2人はずっとこの村で生活を共にしている。

 男性は明朗快活、真面目でよく働き、少女は口数は少ないが男性と同様によく働いている。

 この村"バルク村"は、以前の戦争でゲリラ組織として機能していたが、戦争の被害は避けられず多数の村人が死んでしまった。村の新しいリーダーであるキキ・ロジータは村が以前から表向きに行っていた農業で村を再興しようとしている。そのためにはとにかく人手が必要なのだ。

 

 最近村で生活を始めた少女と男性。

 この2人こそ、ボトム・ラングレイ"元"少佐とニーナ・パブリチェンコ"元"少尉であった。

 ボトムが撃墜された後、ニーナはボトムを救出した。

 ボトムは命に別状はなかったが、墜落の衝撃で深手を負っていた。

 ニーナは自機のザクⅠ・スナイパータイプで何日も歩き続けた。

 そしてザクⅠ・スナイパータイプも機能停止し、森の中を歩き続け、倒れてしまったところでキキ・ロジータに保護されたという訳だ。

 

 ボトムはキキに自分が元ジオン兵だということを正直に話した。

 キキはボトムの話を真剣に聞いた後、こう言った。

 "自分はジオン軍に父を殺され、恨んでいないと言えば嘘になりますが、それはジオン軍に対してであり、あなた個人に対してではないのです。これから一緒にこの村で頑張りましょう"、と。

 

 バルク村を真っ赤な夕日が照らし、今日も1日が終わろうとしている。

 ボトムはまだ畑仕事に慣れておらず、手には豆がいくつも出来ている

 しかし自然の中での畑仕事は気持ちよく、何かを生産するという行為は満足感もある。

 案外パイロットよりも農業の方が自分には向いているのかもしれない。

 

「少佐!・・いや、ボトム、今日の夕飯はシチューなんてどうかな?」

 ニーナがボトムを呼びに来る。

「お!いいな!じゃあ一緒に作るか!」

 

 今日も夕日が綺麗だ。

 こんな夕日を毎日見れる穏やかで平和な日々が続いてほしいと願う。

 今の自分にはそれだけで十分なのであった。

 

<第05MS小隊 完 >

 

 




何とか書き上げました(汗)

今まで筆者の稚拙な文章に付き合ってくださりありがとうございました。

これからも逆境の中でもがくキャラや、「え、このキャラに焦点当てるの!?」みたいな物語を描ければな…と考えております。

遅筆な筆者ですが、どうか今後もよろしくお願いいたします。


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