新サクラ大戦 最強は果てに何を見る (らっくぅ)
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第一部 新生なる帝国華撃団
プロローグ〜来栖川智久〜


 特務艦摩利支天(まりしてん)、降魔ト遭遇セリ。至急、来援ヲ請フ。繰リ返ス。至急、来援ヲ請フ──

 

 

 

 

「応答、ありません」

「仕方ない。我々だけであの客船を救う。総員、第一級臨戦態勢‼︎」

「了解!」

 艦長である若き男──来栖川(くるすがわ)の号令に乗員は一糸の乱れもなく所定の配置につく。

「客船へ最大戦速。降魔を誘き寄せるぞ」

 客船へ近づくと、船の上空を飛ぶ降魔達がこちらに気づき、向かってきた。

「主砲は使うな。客船に流れるやも知れぬ。対空用意!」

 襲って来た降魔達を対空砲で撃ち落とそうとする。が、直撃を食らっても降魔は一向に速度を落とさずこちらへ突進してくる。

「降魔、突撃して来ます!」

「構うな!全てをこちらへ誘き寄せろ!」

 ガヅンッ‼︎と艦全体に衝撃が走る。何体かの降魔の突進が艦に直撃したのだ。

「ダメです!対空砲が効きません!」

「降魔に取りつかれました!」

「彼らが離脱するまで耐えるのだ!艦内の降魔には銃で応戦せよ!」

 

 

 無謀にも突進してきた艦に興味がいったのか、降魔達は客船を離れ摩利支天の方へ向かった。

「客船が港の方へ離脱していきます!」

 これで最悪の事態は免れた。しかし、問題はここから。この艦には通常兵器しかなく、降魔を撃破する事は不可能だ。帝都の防衛を担当している上海華撃団の到着まで降魔達を市街地へ寄せ付けず、この艦に引きつけておかねばならない。

「総員退艦せよ。上海華撃団が来るまで俺が囮となって降魔を引き付ける」

「艦長…!」

「無茶です!艦長1人で…!」

 来栖川の命令に、部下達は困惑の声をあげる。

「神山少尉、退艦の指揮はお前が取れ」

「来栖少佐!あなた1人置いていくわけには…!」

「案ずるな。俺を誰だと思っている」

「しかし…例えあなたでもこれほどの数の降魔を…」

「なに、倒す事は無理でも時間を稼ぐ事はできる」

「無茶ですよ!せめて数人くらいは…!」

「そうです!我々も残って時間を稼ぎます!」

 神山の提案に、他の部下達も声を上げる。

「俺はお前達を無駄死にさせたくはない。生きて家族や恋人と幸せに生きよ。これが最後の命令だ」

「なら…俺は今から少佐の指揮下から外れます。俺達は、自分の意志で行動します!」

「最期くらい格好良くさせて下さいよ、少佐」

「お前たち…。では勝手にしろ。だが、先の命令は訂正する。俺と共に戦うからには、必ず生き延びよ。違反する事は地獄の閻魔が許そうとこの俺が許さぬ」

「…っ了解!」

 そうして、摩利支天の乗員全てが降魔を食い止める為、艦に残った。

そして。

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 数刻が経ち、上海華撃団が摩利支天へ急行した時には、既に半数以上の乗員が死亡していた。摩利支天は動力機関を停止し、沈没しかかっているところだった。

「なんだよ…こりゃ…」

 上海華撃団隊長、ヤン・シャオロンは現場の惨状に思わず呻く。しかし、それでも乗員が全滅した訳ではなかった。

「ユイ!あいつらを…降魔どもを蹴散らすぞ‼︎」

 シャオロンは隊員を連れ、次々と降魔を撃破していく。

 

「上海華撃団だ…。救援が来たぞ‼︎」

 神山の声に、生き残った乗員達は歓声をあげる。

「お前達海へ飛び込め!沈没するぞ!」

 

 ただ1人、来栖川だけは。

「…………」

 ただ沈黙するしかなかった。

 部下を信じてしまったばかりに。

 強く命令しなかったばかりに。

 自分が弱かったばかりに。

 

 

 *

 

 

 摩利支天の撃沈から1週間後、提督から辞令交付がされた。

「卿は摩利支天を撃沈させたばかりか、部下の半数を犠牲にした。これは重大な過ちだ」

「返す言葉もございません」

「よって卿を我が指揮下から外す。再び辞令が出されるまで寮にて待機せよ…と本来ならば言うところだが、卿を招き入れたいという御人がいてな」

「…と言いますと?」

来栖川智久(くるすがわともひさ)。卿に辞令を出す。内容は…



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1話 新たなる風・壱

「もう陸に上がってくるとはな」

 海軍士官学校を卒業してから数年で摩利支天(まりしてん)の艦長となったが、それから2年も経たずにあの事件が起きた。当然、艦長は解任となり、さてどんな所へ左遷されるのやらと思っていたが、まさか陸上(おか)とは。

「ふむ、それも帝都の真ん中…銀座ときたか。ますます訳がわからぬな」

 俺は提督の辞令によって指定された場所に向かっているわけだが、市街地のど真ん中に軍の基地などあったか?

 俺は帝都中央駅行きの飛行船に乗りながら、そんなことを考える。まぁ何にせよ、与えられた任務は全力をもって遂行させてもらうがな。

 

 帝都中央駅に着き、俺は改札を抜ける。

「ほう…駅も随分と変わったものだな」

 前に行ったのは数年前。あの時にはまだ、10年前に起きた降魔大戦の傷痕が残っていたが、今ではその面影はどこにもない。

「さて…予定時刻より早く着きそうだな。新聞でも読むとするか」

 俺は時間を潰すため、売店で新聞を読むことにした。最近まで海の上で活動していたから今の情勢を少し知っておきたかったのだ。

『横須賀の降魔、上海華撃団が見事撃破』

 俺がとった新聞は、横須賀に現れた降魔を上海華撃団が撃破したという記事が紙面の大部分を占領していた。

 降魔、か。

 あの正体不明の怪物には、あらゆる攻撃が通用しない。艦砲でさえも無傷なほどだ。

 だが、人類にはたった一つの対抗策がある。それが「華撃団」だ。高い霊力を持つ者達を集めた対降魔部隊。霊力を宿した攻撃は、通常兵器の効かぬ降魔を倒すことが出来る。まさに、希望の光というやつだ。

 ただし、「例外」もいるが。

「あの時も、上海華撃団が駆けつけてくれたのだったな」

 俺はそんな事を考え、そしてすぐにこれ以上の思考を停止する。感傷に耽ったり、後悔する時はもう終わったのだ。今は与えられた任務を遂行するのみ。

 俺は売店から離れ、帝都を歩き回ろうかと思った矢先、

 

 バリィィィィン‼︎‼︎

 駅の天井ガラスが割れ、列車ほどもあろうかという巨体の奇怪な生物が駅に飛び込んできた。

「降魔か‼︎」

 しかし、数ヶ月も経たぬうちにまた降魔と相見える事になるとはな。つくづく縁のある事だ。

「皆、逃げろ!」

 とりあえず民衆を避難させねば。彼らがいては思うように戦えぬ。

「あ、あぁっ…‼︎」

「‼︎」

 大体の人が駅から離れたところで、俺は震えた声の方を向く。そこには、腰を抜かして震えている少女がいた。目の前には降魔。ヤツは少女を視界に捉え、襲い掛かろうとしていた。

「させぬッ」

 俺は瞬時に少女の元へ駆け、少女を抱き寄せつつ降魔の一撃を刀で防御する。

「彼らのところまで走れるな?」

 俺は民衆が避難しているところを見やる。すると、少女はコクンと頷き、駅の端の方へ走っていく。

「さて…」

 俺は降魔の方へ向き直り、もう一振りの刀を抜く。守るべきもの達は遠くで一つに固まっている。そして敵は一体。屠る事は容易い。

「覚悟は出来ているのだろうな、降魔」

「ガァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎」

 対して降魔は剥き出しの殺意を咆哮として辺りへ撒き散らし、俺に向けて突進してくる。

 先も言ったが、降魔に通常の攻撃は効かない。なのに、何故俺はコイツを倒せると確信しているのか。

 それは、あの時の事件で発覚した自分の「力」にある。

 俺は脱力し、意識を研ぎ澄ませる。握っている刀に「力」を纏わせるように。意識を集中する。

 突進してきた降魔が間合いに入った瞬間、

「破ッッ‼︎」

 俺は瞬時に全身に力を込め、両の刀を交差させるように斬り上げる。その斬撃は衝撃波を生み出し、刃の当たった頭部だけでなく、降魔の全身を十字に切り裂いた。

「ふむ、こんなものか」

 降魔が消滅した事を確認すると、俺は臨戦態勢を解き、刀を納める。すると、

「おおおぉぉ‼︎兄ちゃんすげぇよ!」

「降魔をたった一撃で⁉︎」

「何だ何だ、上海華撃団の新入りか⁉︎」

 避難していた人達が、安全を確認したのか、俺の方へと寄ってきて歓声を上げる。

「なに、当然のことをしたまでです。皆さん、お怪我はありませんでしたか?」

「あなたのお陰で全員無事よ。この子もね。娘を守ってくれてありがとう」

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」

 先ほど助けた少女が俺の下へ駆け寄ってくる。

「怪我がなくて良かった。降魔と会って無事に生き延びたこと、誇りに思えよ」

 そう言い残し、俺は駅を去ることにした。このまま居続けても仕様がないし、何より今の騒動で時間を大いに食ってしまった。予定時刻ギリギリだ。

 

 

 

 

 

 

「指定された場所は…ここか」

 向かった先は銀座の街中。どう見ても、ここに俺が配属されるような施設は辺りにはない。という事は、ここで迎えが来るという事なのだろうな。

「ふむ、大帝国劇場か」

 大帝国劇場は銀座の、いや帝都の名所だ。目立つここを待ち合わせ場所にするのは自然な事だ。

 そう思いながら劇場の前で待っていると、

「あの…お掃除の邪魔なんですけど…」

 左の方から女性の声がした。そちらを向くと、箒を持った着物姿の少女がいた。

「む、失礼した。ここで人を待っていてな」

 俺はその場所を退こうとするが、ふと、その少女の顔を見る。

「君はもしや…さくら?天宮(あまみや)さくらか?」

「え?…あっ!もしかして、智兄さん!?」

 どこか見覚えのある顔だと思ったら、やはりそうか。

 さくらとは昔、家が近所でよく遊んでいた記憶がある。俺の方が引っ越し、さらに俺自身も士官学校へ行ってからは、文通もしなくなり疎遠になっていたが、まさかこんな所で再会できるとはな。

「全然気づかなかったよ〜。最後に会ってからもう10年くらい経つよね?」

「うむ。正確には7年と3ヶ月だな」

「よ、よく覚えてるね、智兄さん…」

「しかし…本当に久しいな、さくら。見ないうちに綺麗になった」

「えぇ⁉︎も、もう…いきなりそんな事言って…。恥ずかしいよぉ…」

 さくらは顔を赤らめ、もじもじしている。思ったことを言っただけなのだがな。この程度で照れるとは、かわいい奴め。しかし、俺にはこの年下の幼馴染をいじっている暇はない。

「それはそうと、ここで人を待つことになっているのだが、誰か見ていないか?」

「へ?えぇと、私は特に見てないけど…」

 すると、劇場の方から声がした。

「あら、もう来てましたのね」

「あっ、神崎(かんざき)支配人!」

 横を向くと、劇場の入り口から、紫色を貴重とした和服に身を包んだ気品高い女性がやって来た。

「あなたが来栖川智久ですね?」

「ええ、そうです。あなたは…」

「私は神崎すみれ。私があなたをここへ呼んだのよ」




来栖川の7年3ヶ月という年月は意味もなく決めた訳じゃなく、ちゃんとした()計算式で作ったものです。アナグラム?というやつです。バイト中暇すぎたので思いつきました


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新たなる風・弍

 俺はさくらと別れ、神崎すみれと共に支配人室へ向かう。

来栖川(くるすがわ)智久(ともひさ)少佐、23歳。海軍士官学校を主席で卒業。海軍に配属されて数年後には艦長を任されるなんて、よほど腕を買われているのね」

「恐縮です」

「そんなあなたをここへ呼んだのは、ある仕事を任せたいと思ったからよ。時に来栖川くん。あなたは…「帝国華撃団・花組」を知っているかしら?」

 帝国華撃団か。それなら知っている。ここ大帝国劇場を根拠地とし、降魔のような強大な敵と戦う部隊だ。かつては秘密組織として活動していたらしいが、現在ではWLOFの結成によりその存在は公に明かされている。

 俺はそのように答えると、

「よく知っているわね。けれど、帝国華撃団は戦うためだけのものではないわ。平時は「帝国歌劇団」として舞台に立ち、人々に夢と希望、そして愛を与える。それは花組の大切な役目でもあるのよ」

 なるほど。帝都を守る。ただそれだけではなく、人々の心を救う事をも使命とするのか。

「だけど、今の帝撃…特に花組にはかつての力はもう無いの」

 劇にあまり詳しくない俺でも、昔の帝国歌劇団の活躍は知っている。目の前の神崎すみれは、かつてトップスタァとして、ここ大帝国劇場を賑わせていたという。しかし、今の帝劇でそのような話は全くない。俺自身、華撃団は解体されたのかと思っていた程だ。

「さて、ここからが本題よ。来栖川智久くん、あなたに帝国華撃団・花組の隊長になってもらいたいの」

「任務というのなら謹んでお受け致しますが…自分でよろしいのですか?」

 俺は懸念を口にする。

 なんであろうと任務は遂行する。その気でいたが、よもやそれが再び人の上に立つ事だとは。

「…あの事件のことは聞いているわ。けれどね、その上で、私はあなたが適任であると判断したのよ。それとも、あなたには荷が重いかしら?」

「…自信がないとは言いません。閣下が()()をご存知の上で自分を抜擢したと言うのなら、これ以上懸念すべきことはありません。全力を以って任務を遂行します」

「よろしい。期待しているわ、来栖川くん。これから、頼りにさせてもらうわね」

「はっ、こちらこそよろしくお願い致します、閣下」

「…その閣下というのはやめてくれるかしら?平時は「支配人」、作戦時は「司令」でお願いするわ」

「はっ、かしこまりました、支配人」

 現時刻をもって俺は帝国華撃団・花組の隊長となった。神崎支配人は、現在の華撃団は弱体化していると聞いたが、さてどれくらいのものか。

「そうそう、帝国華撃団の当面の目標は世界華撃団大戦に勝利することよ」

 ほう、これはまた大きく出たな。

 世界華撃団大戦といえば、2年に一度開催される平和の祭典だ。種目は大きく二つに分かれ、「演舞」では歌劇の実力を競い、「演武」では霊子戦闘機を操縦する技量を競う。各国の華撃団が出場し、競い合うこの祭典は世界的な賑わいを見せている。

「世界華撃団大戦ですか。それをこの帝国華撃団が?」

「ええ。だけど今は、心の隅に留めておく程度で構わないわ。まずは、花組の隊長としての職務を知ってもらわないとね」

 そう言うと、神崎支配人の隣にいた女性が俺の方に向かってくる。

「初めまして、来栖川さん。私はすみれ様の秘書、竜胆(りんどう)カオルです。よろしくお願いします」

「来栖川智久です。こちらこそ、よろしくお願いします」

「以後は私が案内します。と言いたいところですが、まずはあなたが指揮する花組の隊員と会うのがよろしいでしょう。劇場のどこかにいるはずですので、探してみてください」

 顔合わせは重要だ。まずは部下をよく知るところからだな。

「了解しました。では、失礼いたします」

 そう言い、俺は支配人室の扉を開け、部屋を出る…

「あたっ⁉︎」

「む?」

 扉を開けた先の廊下には、おでこに手を当てるさくらがいた。

「ほう、奇遇だな。こんな所で会うとは」

「あ、あはは…す、すごい偶然ですね…!」

「それで、何か聞き取れたか?」

「いや〜、ここの扉、分厚くって何も聞こえなかったんですよ……あっ」

 カマをかけると、さくらは簡単に引っかかった。面白い。

「やはり盗み聞きしていたのか」

「うっ…」

「まぁ構わん。どちらにせよ明かされる事だ」

「何のお話だったんです?」

「俺がこの帝国華撃団・花組の隊長に任命するという話だ」

 それを聞くと、さくらは嬉しそうに飛び跳ねた。

「わぁ〜!そうなんですか⁉︎私も、花組の一員なんですよ!だから、智兄さんは私の隊長さんですね!…あっ!ということは、これからは来栖川隊長って呼ばないとですね!」

 さくらは喜びが抑えきれないのかまくし立ててくる。なんとも可愛いやつだ。

「変にかしこまる必要はない。だが、そうだな…俺のことは来栖と呼ぶといい。海軍時代はそう呼ばれていた」

「はいっ、来栖隊長!」

「では、俺も天宮(あまみや)と呼んだ方がいいか?」

 俺がそう言うと、さくらは首を横にぶんぶん振って否定する。

「そ、そんなに堅苦しくなくていいですよ!今まで通り、さくらと呼んでください」

「そういうものか?」

「そういうものです!…そうだ!来栖隊長を他のみんなに紹介しなきゃ!それに、大帝国劇場についても知りたいですよね。私が案内します!」

 さくらが案内してくれるというならありがたい。慣れぬ施設を1人で歩き回るとなると、立ち入り禁止区域に入ってしまうやも知れぬからな。

「それは助かる。頼んだぞ、さくら」

「はいっ!」



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