横島!トリガー・オン!! (ローファイト)
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その1 横島参上!

というわけでワールドトリガー×横島忠夫のクロスです。


近界国家アフトクラトルによる大規模侵攻が始まり三門市は戦場と化した。

防衛組織ボーダー、トリオンという生命エネルギーを使用した特殊な技術を持つ彼らは、アフトクラトルの侵攻を阻止せんと住民を守りながら、戦い続ける。

アフトクラトルの侵攻の狙いは占領やボーダーの壊滅ではなかった。

トリオン量の多い人間の捕縛。

要するにボーダー隊員の捕縛誘拐が目的だったのだ。

ボーダー隊員になるにはトリオンを使用する戦闘スタイルから、ボーダー隊員はトリオン量が普通の人間に比べ多い。

トリオン量を多く保有する人間を集めているアフトクラトルはそこを狙ってきたのだ。

特に実戦経験の殆ど無い、捕縛しやすい訓練生のボーダーC級隊員を狙っていた。

 

ボーダー本部はその狙いを察知するのが遅れ、本部所属のC級隊員は散り散りとなり次々と襲われる。

三門市の外れのボーダー早沼支部が所在する地区近隣でも一部のC級隊員が逃れた所をトリオン兵団に襲われる。

ボーダー隊員を捕縛するために開発された3m程の二足歩行型新型トリオン兵ラービット3体を中心に、虫型の子犬程度の小さなモールモッドや車ぐらいの大きさのトカゲの様なバムスターと呼ばれる量産型トリオン兵を多数引き連れて、軍団で襲い掛かって来たのだ。

 

だがそんな中……、

「おわっ!?なんで追って来る……!?俺美味しくないっすよ!!」

ジーパン、ジージャンに額に赤のバンダナを巻いたひと昔前のオタク風スタイルの青年が、涙をちょちょ切らせながら、トリオン兵に追われていた。

その不格好に逃げ走る姿に、今にも捕まりそうな感じなのだが、何故かトリオン兵達はその青年に追いつく事が出来ない。

 

この青年が何故追われているのか?

辺り一帯の人間と比べ、トリオン量が群を抜いて多いからだ。

 

「ギャーーース!?こ、こんなに!?」

早沼地区に襲い掛かって来たトリオン兵の半数以上がこの青年を追っている状況だった。

 

だが、狙われているのは彼だけではない、逃げ惑うボーダーの訓練生C級の女性隊員数名が捕捉され、トリオン兵達に囲まれ、そのうちの一人の女性隊員がラービットに捕まる。

ラービットに捕まるとキューブに変えられ、体内に飲み込まれるのだ。

 

しかし……。

「ぜいやーーーーっ!!」

先ほど、不格好に逃げまくっていた青年が、トリオン兵達の囲みを突破して、光り輝く剣を振るいラービットを頭から真っ二つに切り裂き、捕まった彼女を救い出したのだ。

 

彼女らを背に、先ほど逃げまくっていた時とは一転、囲んでいたトリオン兵達を次々と屠りだしたのだ。

 

「世の中の女はすべて俺んのじゃーーーーーっ!!」

但し、最低な雄叫びを上げながら不格好に……。

 

 

この後、ボーダーは隊員の尽力により、アフトクラトルによる大規模侵攻を見事防ぎ、勝利したのだった。

 

 

 

半月後……

 

ボーダー、正式名「界境防衛機関」

近界(ネイバー・フッド)とよばれる異界の国々から侵攻してくるトリオン兵からトリガーを使用し戦うための防衛組織である。

 

そのボーダーきっての戦闘力を誇る迅悠一。

自らを実力派エリートと誰かれ憚らず、砕けた口調の軽いノリで名乗る変わり者でもある。

そんな迅ではあるが、先のアクトクラトルの大規模侵攻に対し最大級の貢献し、ボーダーにとって切り札とも呼べる存在だった。

彼のサイドエフェクト(特殊能力)『未来予知』は関りのある人物の未来を見通せるという代物だ。

その予知した未来をつなぎ合わせ、何れ起こり得るだろう未来をほぼ正確に把握することが出来る。

だが、未来は確定的ではない。現時点で見える未来には分岐点が多数あり、複数の未来が存在する。

その中でもベストな未来に少しでも近づけるため、迅は数々の策略を巡らせ、よりよい未来へと導いてきたのだ。

軽い外見と言動とは裏腹に、ボーダーの仲間やこの国の未来の為に、あらゆる手段を用い尽力してきた心優しく情熱的な人物でもあった。

 

半月前、ネイバー(近界民)アフトクラトルによる大規模侵攻を凌ぎ切ったが、迅の未来予知により事前に察知していたとはいえ、住民への被害及び隊員がアフトクラトルに連れ去れ、傷跡は大きかった。

 

そんな中、迅は珍しくボーダーの支部の一つである早沼支部へ足をのばしていた。

ボーダー支部は基本、ネイバー・フッドとの接続門(ゲート)である三門市の警戒区域との外延部に複数存在し、三門市の防衛と共にボーダーとの住民窓口伴っている。

玉狛支部や鈴鳴支部は例外として、主に仕事や学業優先でA級を目指さず、ランク戦に出ない隊員が所属している事が多い。

 

迅はそんな早沼支部のとある人物に会いに来ていた。

「横島ぼんち揚げ喰う?」

「迅の嘘つきーーーー!!お姉ちゃん達とくんずほずれつ出来るからってボーダーに入ったのに!この支部はマッチョメンのお兄さんやおネエさんしかいないのはなぜじゃーーーー!!」

ジージャン、ジーパンに赤のバンダナを額に巻く、ひと昔のおたくっぽい恰好のこの青年はいきなり涙をまき散らし、迅に迫っていた。

 

「はははははっ、自業自得だって、やっぱり最終的に沢村さんのおしりを触ったのがまずかったんじゃない?」

迅はぼんち揚げを食べながら軽い感じで笑う。

迅に横島と呼ばれたこの男、ボーダーに入ってすぐにセクハラを働いて、本部への出入り禁止となりこの男所帯のこの早沼支部に島送りにされたのだ。

 

「アレは冤罪じゃー!お前は、沢村さんだけじゃなくって、くまちゃんや国近ちゃんのおしり触ってたのに!!」

「俺は良いの、実力派エリートだし」

「くそ、顔か!!イケメンは何しても許されるのか!!不公平じゃーーー!!イケメン死すべしっ!!」

横島は血の涙を流しながら雄たけびを上げる。

迅は確かにイケメンだ。

たびたび、女性隊員や職員にセクハラまがいな事をやってはいたのだ。

女性を不快にさせないある一線を越えないため、ギリギリバランスを保っているからなんとか訴えられずにすんでいた。

だからといって制裁は受けているようだが……。

まあ、横島も警察のご厄介になってないところから、ある程度許してもらえてるのだろう。

いや、ボーダーの事だ。事実をもみ消している可能性もある。

 

横島は現在高校3年生、C級隊員である。

約半年前に迅や玉狛支部林藤支部長の推挙でボーダーに入りしたのだが、個人ランク戦なども行わずにセクハラで本部出入り禁止になったため、階級は上がっていない。

本部に居た期間は短いが、本部隊員達にはその強烈な個性とセクハラ行為で名は今も轟きまくっていた。

『痴漢・変態・セクハラの横島』と。

 

だが……、その実力は迅も認める程の戦闘力を秘めている事を、ボーダー内でも一部の人間しか知らなかった。

 

迅はここでようやく目的を果たすために横島にこう切り出した。

「ところで横島、遠征に行ってくれないか」

遠征とは、近界(ネイバーフッド)調査の為に、特殊な船艇で少数精鋭で出向く事である。

ボーダーの重要な任務の一つだが、危険を伴うため、実力者しか参加できない。

 

「めんどくさいからヤダ、そもそもC級隊員だし、本部出禁なんだけど俺」

横島は本当にめんどくさそうな言い草をする。

 

「本部出禁は解除となった。この前のアフトクラトルの大規模侵攻での横島の活躍が功を奏した」

迅が言う通り、横島が受け持っていた早沼支部周辺では住民への被害はゼロ、建物への被害もほぼゼロだった。確かにブラックトリガー持ち等の強力なネイバーは来なかったが、A級隊員でさえ手こずっていた新型トリオン兵ラービットも何体か現れたのだ。

しかし、有象無象のトリオン兵と共に横島は難なく撃破していたのだ。

少なくとも、A級上位の隊員、マスタークラス並みの実力者であるということになる。

普段の横島のスケベそうなニヤケ顔からはそんな凄腕隊員の気配は全く感じないが事実である。

しかも、トリガーを使用せずに……

 

横島は根っからのスケベで女性には目は無いが、人間であることは確かである。

ただ、この世界の人間ではない。

そうかといって、ネイバー(近界民)でもない。

この世界とよく似た平行世界、しかも、神や悪魔、妖怪などが存在した世界の霊能力者であった。

そして、彼はその世界ではデーモンバスター、魔神殺しの英雄の異名を持つ、知られざる英雄でもあった。

彼は魔界三大魔神の一角、魔神アスタロスを倒した後、しばらくして、人間である横島が魔神殺しの英雄である事に快く思わない何者かの奸計にかかり、次元の狭間に落とされ、偶然この世界に飛ばされてきたのだ。

 

そして8カ月前、この世界の日本に飛ばされ、右往左往している所を玉狛支部のミカエル・クローニンに拾われる事になる。

その後、玉狛支部に2カ月程滞在していた。

セクハラまがいな行動を毎度行い、玉狛支部所属の女性陣ににぼこぼこにされる毎日を過ごす。

しかし、迅とは妙に気が合っていた。主にセクハラ方面でだが。

その迅だが横島自身の未来だけは予知できなかった。

横島が平行世界の人間だからなのか、霊能者なのかは不明だが……。

だが、ボーダーの他のメンバーの未来予知では横島が大いに関った未来で見えていた。

その横島の鬼神の如き活躍を……。

 

迅はある時、まだ一般人扱いの横島をトリオン兵の襲撃防衛に付き合わせ、その事実を確かめようとしたのだ。

そして、迅は知った。

横島がトリガーを使わずともトリオン兵を屠る力を持っている事を……。

 

迅は林藤支部長と共に口車にのせ、ボーダーに横島を加入、現在に至る。

 

 

 

「普通に給料がもらえるようになる」

迅は横島の説得に掛かる。

 

「別にバイトする時間もあるし、高校は奨学金で通わせてもらってるし、支部で住まわせてもらってるし」

まあ、横島は元の世界では時給255円で働いていたのだから、今の方が待遇がずっといいぐらいなのだ。

 

「何よりも俺のサイドエフェクトがそうすべきだと言っている」

迅のサイドエフェクト未来予知では、次回の遠征はかなり厳しい状態に陥るが、横島が次回の遠征に参加することで、遠征組のメンバーが救われる未来が見えていた。

 

「また俺を丸め込もうとしてるな!!もう騙されないぞ!!」

 

「近界に行けるチャンスだ。次の遠征部隊に参加すると、お前の元の世界へ戻る手がかりが見つかる可能性が高い。それに近界は美女が多いらしいし」

尚も迅の説得が続く。

 

「び、美女!?ああっ、危ない所だった。また口車に乗る所だった」

 

「悪いようにはしないさ」

 

「はぁ、ここじゃ元の世界に戻る手がかりも無いしな~。でも、あれってA級隊員じゃないと行けないんじゃなかったっけ?俺まだC級隊員なんだけど」

 

「今回の防衛の活躍でB級に昇格という事になってる。C級が活躍したってのは本部のメンツにかかわるから、表沙汰にはなってないが、評価はちゃんとしてくれてる。それにB級隊員の中でも実力があれば遠征部隊に選ばれる。それに俺に策がある」

 

「ということは、どこかの隊に入れるってこと?という事で加古の姉ちゃんの隊でよろしく!!あのおっぱいはすばらしい!!」

 

「はぁ、お前という奴は、それは無理だ。そもそも加古さんが許してくれない。それにもうセクハラは勘弁してくれ、次は流石に擁護しきれない」

 

「ちょっと待て!俺はいっつも未遂で終わってるんだぞ!!お前と違ってな!!」

 

「そうだったっけ?まあ、気にするな。それよりも一番の問題はお前を隊に入れてくれるところがあるかという問題だ」

迅は横島の激しい突っ込みを軽くいなした後、深刻そうに語る。

確かに『痴漢・変態・セクハラの横島』の汚名を持つ横島は、まず、女性が入隊している隊への入隊は絶望的だ。

それだけじゃない、横島の実力は全く知られていないのだ。

快く受け入れてくれる隊などありようも無かった。

 

「……それって詰んでない?」

 

横島の遠征への道のりは初っ端から暗雲立ち込めていた。

 




横島くんはアシュタロス戦後、しばらく経っての横島くんです。
ワールドトリガーの知識が怪しいので、ご指摘お願いします。

投稿は不定期です。


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その2 トリガーって何?

連続投稿です。


横島は迅に説得と言う名の口車に乗せられ、次回の近界遠征に参加するためにランク戦に参加することを決める。

 

だが、それには問題が多数あった。

先ずは何よりも、横島を入れてくれる隊が無い。

そもそも、早沼支部には隊が無い。

さらには『痴漢・変態・セクハラの横島』のマイナスイメージで名が通ってる横島をわざわざ隊に入れてくれるところなどない。

次に、横島はトリガーを殆ど使った事が無い。

入隊試験の際にちょろっと使った程度だ。

入隊試験はトリオン量測定で高レベルであったためあっさり合格した。

しかし、これでも横島は偽装して抑えてはいたのだが……

どうやら、トリオンと横島が霊能で使用する人体オーラ霊気は同質のエネルギーだったらしく、しかも横島の霊気量は通常の人間の保有している霊気量を遥かに凌駕していた。

雨取千佳に匹敵、または凌駕するかもしれない量なのだ。計測不能になる可能性が高かった。

更に横島は霊気(トリオン)をトリガー無しに自由自在に操り、トリオン体とならずとも、人間離れした身体能力に攻撃能力を有している。

(身体能力については、ギャグ体質のデフォの部分が大いに占めている)

 

迅はそんな横島のデフォルト能力を隠し玉として取っておくために、横島に他のボーダー隊員同様、トリオン体を形成しトリガーを使用してランク戦を行わせる事にしたのだ。

そう言うわけで、横島は改めてトリガーの選定から行わなくてはならなかった。

 

 

入隊先については迅が動いてくれていたが、先日玉狛支部で結成されていた。玉狛第2三雲隊に加入させるつもりはなかった。

なぜならば、三雲修、空閑遊真、雨取千佳の3人の成長にマイナスとなり得るからだ。

横島の変態的なという意味ではない。横島の実力がかなり高い上で、まったくセオリーから外れた戦い方をするためであった。

今期のB級ランク戦は、既に第1戦は終了し、早くても横島のデビューは第3戦からとなるだろう。

三雲隊の今の状況で途中の戦力増強は混乱を招くだけになるという思いもある。

 

横島のトリガーの選定は、迅は林藤支部長の許可を貰い、玉狛支部で行う事になった。

 

玉狛支部に入って早々……

「久しぶり、元気だった栞ちゃん!相変わらず眼鏡が似合う!今から近くの喫茶店でデートを!!」

「横島さん、今度セクハラしたらフライパンの刑じゃ済ませないですよ」

横島は一学年下のオペレーターの眼鏡美女、宇佐美栞(17歳)にへたくそなナンパを行いだす。

 

横島がリビングを通ると。

「げっ、横島!!何で帰ってきた!!とりあえず一発殴らせろ」

「なんでやねん。まだ何もしてないのにーーー!!」

横島をみかけた玉狛支部A級隊員の快活そうな少女小南桐絵(17歳)がいきなり殴りかかって来た。

 

「これからするんでしょ!あんたは!」

「小南にはなんもしないし、栞ちゃんにはふともも触らせてもらおうかと」

「何で私は何もしないのよ!!」

「何?小南も触ってほしいとか?なんか筋肉だらけで色っぽくないし」

「そんなわけあるかーーー!私だって色気ぐらいあるわよ!!学校ではお淑やかで通ってるのよ!!」

 

「ぶべしっ!!」

案の定横島は小南桐絵に鉄拳制裁を顔面に喰らい床に倒れる。

小南桐絵はボーダーではこんな感じだが、お嬢様学校に通っており、学校では淑女然と猫を被っており、澄ましていればお淑やかな美少女そのものなのだ。

 

さらに横島は小南に殴られ床に倒れた所を……。

「さわらせないよ。ふともも」

宇佐美栞は笑顔で倒れた横島の頭にフライパンを振り下ろし、止めを刺す。

「ぶはっ!?」

 

横島は容赦なく撃沈される。

この二人にセクハラなんて物は実際には行えないだろう。

命がいくつあっても足りない。

まあ、横島は直ぐに復活するが……。

 

「横島よ、相変わらずだな。俺と雷神丸は歓迎するぞ。また遊んでやってもいい」

カピパラの雷神丸に跨った幼児林藤陽太郎は倒れ込む横島に声を掛けるが、聞こえていないだろう。

どうやら陽太郎だけは横島を歓迎しているようだ。

 

 

気を取り直して、玉狛支部のリビングでは、横島、宇佐美栞、小南桐絵、ついでに陽太郎がソファーに座り話し合いが始まる。

「迅さんから聞いてますよ横島さん。とりあえずランク戦用のノーマルトリガーの選定からっと」

「えー、あんたランク戦にでるの?聞いてないわよ。それに横島戦えんの?まあ、クローニンがスカウトしてきたくらいだから、トリオン量はそこそこあるのだろうけどさ」

栞は迅から横島にトリガーの選定をお願いされていたようだが、桐絵は何も聞いていなかったようだ。

そもそもこの二人は横島が平行世界から飛ばされて来た人間とは知らされていない上に、横島の実力も知らされていなかった。

知っているのは、ボーダー本部上層部と玉狛支部の迅と林藤支部長と林藤ゆり、クローニンと木崎レイジだけだ。

 

「俺だってやりたくないし。なんか迅に無理矢理出ろって言われて」

 

「もしかしてこんな奴を、修たちのチームに入れるつもり?」

「そうじゃないみたい」

「ならいいけど。ああっ、あんた千佳にセクハラしようとしたらただじゃ済ませないわよ!」

「え!?なに、新しい女の子!?どんな子!?」

横島は桐絵の形相など気にせずに、こんな事を嬉しそうに聞く。

 

「とってもかわいい子なの。13歳で小っちゃくて抱きしめたくなるの」

栞が頬を少々染め抱きしめる仕草しながら答えるが……

 

「…………」

横島は急に興味が無さそうにしらける。

この男にもポリシーの様なものがある。

高校生未満は基本的にはセクハラ対象外なのだ。

 

「なによ。千佳のトリオン量は凄いのよ。あんたなんか一瞬で蒸発よ!」

何故か横島のその反応に桐絵がプンスカしだす。

 

 

「話を戻そっか。横島さんはどうせ迅さんの口車に乗せられた口でしょ、迅さんが何を考えてるのか分からないのは何時もの事だし、とりあえずトリオンとトリオン体の説明からするね」

栞は話を進め横島にトリオン体の説明から行う。

トリオン体とはトリオンで作られた仮の肉体、戦闘体と呼ばれるもので、トリガー発動時に生成される。

ボーダー隊員は基本、このトリオン体で戦闘を行う。

トリオン体が傷ついたり、破壊されても生身の本体に影響がないため、戦闘行為による命の危険は無いと言っていいだろう。

さらにトリガーに対応した様々な武装が使えるようになるだけでなく、生身の身体で起きることや感触、体温などが忠実に再現され、生身の時よりも身体能力が強化されたりする。

身体能力の強化は、重火器や戦車の砲撃を防ぐ程である。

しかしトリガーによる武装攻撃に対してはダメージを受ける。

 

「へ~、やられても肉体は大丈夫なんだ。そんじゃ命の心配はないか……」

「そうだよ。まあ、トリガー切れで強制解除されれば、身体はボーダー本部にベイルアウト(強制脱出)される仕組みなってるから、ボーダー本部が襲われちゃったら意味がないんだけどね。この前の大規模侵攻で実際、ボーダー本部の職員さんが何人か犠牲になられたから」

「トリオンで元の身体を忠実に再現ってマジ?」

「そうだよ。生身の身体と感覚を同じように動かせるようにね、忠実に再現されてるの」

「ということは!!トリオンで裸の姉ちゃんを忠実に作れるってこと!!栞ちゃん!!是非、俺に沢村さんと加古の姉ちゃんと月見蓮さんのトリオン体を作ってくれーーー!!」

また、横島がろくでもない事を言いだした。

 

「はいはい、そういうのはいいから」

「ふざけるなーーー!!」

「ぐぼばっ!?」

栞のフライパンと桐絵の拳が横島の顔面に同時に突き刺さる。

この横島の扱い、手慣れたものだ。

 

 

「続き説明するね。次はトリガーとポジションについてなんだけど」

栞は何もなかったかのように、顔面血だらけの横島に説明を続ける。

こんな異常事態だが、玉狛支部に2カ月滞在していた際はこんな事が日常茶飯事だっため、この状況が横島が居る環境として通常運転であった。

 

トリガーとはトリオンを動力源とした近界の科学技術群である。

要するに魔力と魔法のような物だ。

武器だったり防具だったり、はたまた、建物や乗り物を形成したり、近界の国々では大規模の者となると太陽を形成したり国土そものを形成することが出来る代物だ。

 

ボーダー隊員として使用する戦闘用トリガーは、刀や剣や銃や盾に転用して使ったり、トリオンそのものをエネルギー弾として使用したりする。

ボーダー隊員はある程度、戦闘ポジションを決め、それに合ったトリガーを使用する。

アタッカーなら近接用の刀や剣、槍などのトリガーを使用し、シューターならマシンガンやエネルギー弾を、スナイパーなら狙撃銃といった感じだ。

これらを兼用して運用する隊員もいる。

その他に、トラップに特化した特殊工作兵(トラッパー)や観測手(スポッター)などというポジションはあるが、ランク戦では専門に行ってる隊員は極わずかのみ。扱いが難しくなり手がいないのだ。

 

 

「ふむ、流石栞ちゃんわかりやすい」

横島は栞の説明で十分理解したようだ。

 

「それじゃ、実際にトリガー使ってみよっか」

栞は横島にそう言って、訓練施設へと場所を移動しようとする。

 

「横島、あんたポジション決めたの?」

何故か小南もついて来て、横島に聞く。

 

「いや~、どれがいいんだか」

 

「ふ~ん、仕方がないから私が付き合ってあげるわ。覚悟なさい。ボコボコにしてあげるんだから」

桐絵は上から目線で横島に息まく。

桐絵はこう見えて、ボーダーの中でも最上位の実力者だ。

ボーダーの中で、一人で小隊扱いの隊員は4人しかいないが、その1人に数えられているほどだ。

 

「横島さんのポジションって決まってるのよ。迅さんがこれにしてくれって……」

栞は苦笑い気味にこう話して、桐絵の耳元で横島のポジションを口ずさむ。

 

「はぁ!?なによそれ!?迅の奴、何考えてるのよ!!」

桐絵は耳元で栞にそのポジションを告げられ、大いに驚いていた。

 




私は小南押しですが、ここではどうだか。


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その3、ラウンド開始しちゃう?

連続投稿


「ボーダーのみなさんこんばんは!海老名隊オペレーター武富桜子です!」

元気良い声と共に本日のB級ランク戦が始まろうとしていた。

 

桜子はまずは解説者の紹介から始める。

「本日の解説には、現役最年長にしてA級二位冬島隊、皆の兄貴、冬島慎次隊長にお越しいただきました」

 

「よろしく」

冬島慎次(29歳)、つなぎを足だけに通し、上半身Tシャツという何時も通りの姿のシブメンが渋い声で挨拶をする。

 

「もう一方は玉狛支部から、解説枠としては初めてですか、オペレーター枠から宇佐美栞先輩が来てくださいました」

 

「よろしくね」

笑顔で対応する栞。

 

「私も少々驚いております。なぜ、このお二人なのかと、私も上のからの指示としか言えません」

冬島の特殊なポジション(トラッパー)という立場もあり解説に来ること自体のあまり例がなかった。ましてやオペレーターの栞が、実況では無く解説者として参加することは例外中の例外だった。

だが、この二人がこの試合の解説に回るには意味があった。

 

「驚くのはそれだけではありません。本日B級ランク戦は異様な空気に包まれております。例外中の例外、ラウンド途中で結成された隊が今期のB級ランク戦に参加することになりました。それが!ボーダー創設以来の問題児、いえ、すべての女性の敵、あの『痴漢・変態・セクハラ』で名が通っている横島忠夫隊員が隊長となって、このボーダー本部に帰ってきました!!というかよく戻ってこれましたね。てっきり警察にご厄介になっているものとばかりと!」

ギャラリーの女性陣からブーイングのあらし、今期新人は横島の事は知られていないため、半年前から隊員となった女性陣からである。

そう、今日はB級ランク戦、横島のデビュー戦だったのだ。

 

「戦闘員は横島隊長一人という、漆間隊とおなじですね。これはどういう事ですかね宇佐美先輩。横島隊長がそれ程の実力者という事でしょうか?」

 

「そ、そうだね。何処の隊も入れてくれなかったし、隊員になってくれる人がいなかったからかな?」

栞は苦笑気味に事実を答えるしかなかった。

 

「言い難い事を言っていただきありがとうございました。私もそう思っておりました!さらにです。オペレーターはあの実力派エリートで名を通ってる迅さんです!!通常オペレーターは並列処理能力の加減で女性が圧倒的有利な立場でしたが、これも例外中の例外です!!どういう事でしょうか宇佐美先輩!!」

 

「そ、そうだね。誰もなってくれる人が居なかったし、特にオペレーターは……。迅さんは今はどこの隊にも入ってないし、迅さんが横島さんをボーダーに誘ったから責任感じて自分でオペレーターになった感じかな」

栞はまたしても苦笑気味に事実を答えるしかなかった。

 

「成る程、当然の結果という事ですね!!よーくわかりました!!しかし、横島隊長をボーダーに誘った迅さんは後程女性陣から攻められるのは必定ですね」

桜子は大いに納得していた。

 

 

「本日のB級ランク戦ラウンド4下位夜の部、地形は市街地Aとなっております。それではメンバーを紹介します。先ずは現在ランク17位早川隊、オールラウンダー早川悟隊長、ガンナーの船橋了吾隊員、同ガンナーの丸井星司隊員と近距離での戦闘を得意としております。次に現在ランク20位間宮隊、間宮柱三隊長、鯉沼三弥隊員、秦稔隊員と全員シューターという尖った編成、中距離戦が彼らの主戦場。早川隊は如何に間宮隊を近距離戦に引きずりこむか、一方間宮隊は如何にして中距離を保つ事ができるかがポイントでしょうか?そして、横島隊横島隊長は……情報がありません。横島隊設立に宇佐美先輩も関わっていたとお聞きしてますが、宇佐美先輩何かご存知ですか?」

 

「あははははっ、横島さんはトラッパーなんですよ」

栞は半笑いでそう答える。

 

「ええええっ!?トラッパー!?意外も意外です。それで冬島隊長がこの席に呼ばれたんですね。それは納得ですが、トラッパーは特殊工作兵というポジションで、所謂援護職ですよね。攻撃ポジションの隊員がいてこそのトラッパーではないのでしょうか?」

桜子が驚くのも無理もない。

トラッパー、特殊工作兵というポジションは前に出て戦闘を行うポジションではない。

味方の移動補助や戦術補助を行うポジションだ。罠を仕掛けたりと攻撃要素もあるが、それは飽くまでも戦術を一つにしか過ぎないからだ。

冬島がここに呼ばれた理由は、このポジションの第一人者でもあるからだ。

さらに、このトラッパー、かなり特殊なポジションでトリオン量の消費も激しく、さらに味方と息の合った連携や、緻密な戦術眼が無いと全く機能しない難度の高いポジションで、成り手も少なく、ランク戦参加者の中で冬島を含め3人しかいないのだ。

本来は近界遠征や基地防衛に能力が発揮されるポジションであり、小隊戦であるランク戦での扱いはかなり難しいのだ。

 

「迅さん曰く、攻撃的なトラッパーらしいのよ」

 

「なんですかそれは!?攻撃とは?そもそもとても器用に見えない横島隊長にトラッパーが務まるのでしょうか?さらに、単独でトラッパーというポジションでどのような戦い方をみせるのでしょうか?横島隊長。これはこれで注目です!」

 

 

 

 

その頃、ボーダー対戦会場の横島隊の控室では、迅と横島はもめていた。

「何でオペレーターが迅なんだよ!!年上の美人ねーちゃんはどこだ!?」

「仕方が無いし。誰もやってくれないんだから」

「ふぅ、なんか急にやる気なくなった。帰っていいか?」

「ダメだって。これはお前の為でもあるんだぞ」

「しかも、相手は全員男って……はぁ」

横島は試合開始前からテンションが駄々落ちだった。

 

「これで横島の有用性を示す事ができれば、勧誘が来るかもしれないし、入ってくれる隊員もいるかも知れないぞ」

「ほんとうか!?加古の姉ちゃんとかからも!?」

「お前次第だ」

「本当だな、嘘だったら泣くぞ!」

横島のテンションは上がって行く。

またもや迅に乗せられてしまう横島であった。

 

「横島、わかっていると思うが霊能力を使うな。トリガーにセットした物だけで戦ってくれ」

「わかってるって」

 

そして……

「それではB級ランク戦ラウンド4下位夜の部、開始です」

対戦がコールされる。

 




何故か迅と仲がいい横島くん。


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その4 はぁ?なんじゃそりゃ?

連続投稿


「それではB級ランク戦ラウンド4下位夜の部開始です!!」

実況者である武富桜子の掛け声と共にB級ランク戦が開始される。

 

 

市街地A、平地の住宅街を模したマップだ。

地形の相性による優劣が付きにくいマップでもある。

このマップに早川隊、間宮隊、そして横島の7名が一定の距離を保った場所にランダムに転送される。

 

「これは、あーーっと!横島隊長転送先がマップのど真ん中、いきなり不利な状況か?早川隊と間宮隊も入り混じっております!早川隊も間宮隊もおたがいけん制しつつ、合流する気配!横島隊長はその間に、この窮地を脱することが出来るのか?」

横島はマップのど真ん中に転送され、その周りを囲むように早川隊と間宮隊の6名が転送されていた。

だが、早川隊と間宮隊は、先ずはお互い本格的な戦闘をせずに隊員全員合流する動きを見せる。

横島はその隙は、逃げ隠れする猶予が出来たのだ。

 

 

だが……

「あれ?横島隊長、家の中に隠れてから動かない!!家の中の様子までは確認できませんが、横島隊長の反応は家の中のまんまだ!!しかも、トラッパーの要であるバックワームを起動していないようです。トリオン反応が駄々漏れで丸見えです!まさか、これで隠れているつもりなのか!?」

 

「いや、違うな」

 

「違うとはどういうことでしょうか冬島隊長?」

 

「ダミービーコンを起動させ、ここにいるように見せかけ、とっくにその場からバックワームで逃げているだろう。しかもご丁寧にトラッパー用トリガー、スイッチボックスに収納されているマイン系のトラップを仕掛けてな、俺ならそうする」

冬島の予想は、オプショントリガーの一つで、トリオン体反応を発っし続ける球状のビーコンであるダミービーコンを一つ放ち、相手のセンサー上に自分がそこにいる様に見せかけ、本人はセンサーに映らなくなるオプショントリガーバックワームで既に脱出し、さらにダミービーコン周囲には罠としてトラッパー専用のマイン、要するにトリオン爆弾を仕掛けておき、ダミービーコンに騙されてやって来た他の隊員を罠に駆け爆破するというものだ。

因みにトラッパー用トリガー、スイッチボックスとは特殊工作用の様々なトリオン兵装を使用できる。

マイン系のような時限爆弾や地雷、移動補助用のジップラインやカタパルトの設置、そして、建物を通り抜けするためにトリオン体で出来た構造物に穴を開けるホールなど、多種多様な兵装を収納できるアイテムボックスである。

様々な兵装が使用できるという強みがある一方、トリオン使用量は凄まじいため、他のトリガーとの併用はよっぽどトリオン量に余裕がないと出来ないのだ。

 

「なるほど、ですが、もしその場から移動しているのであれば、上空から映しだしている映像で横島隊長が移動する姿はバックワームを使用したとしても見えるはずですが?」

 

「方法は2つある。トラッパーのトリガー、スイッチボックスに収納されているホールを使い、トリオン体で形成されている建物に穴を開けて密接している家と家の間を通り抜けている可能性。もう一つはテレポーターで建物の窓から、視界に入る建物の中へ移動している可能性だ」

 

「それならば、可能ですね」

 

「あくまでも予想だが」

 

「ですが、同じB級下位でお互い何度も戦っている松代隊の箱田隊員もトラッパーです。両隊ともこのような経験があり、これが罠である可能性を疑うのでは?」

 

「横島はトラッパーだとバレていない。単独の彼奴がトラッパーだと誰も予想できないだろう。それすらも狙いの中にあるのであれば、相当手慣れた奴だ」

 

「おっと、ここで早川隊、間宮隊共に合流成功です。ん?どうやら、2隊とも横島隊長の反応を示している場所に遠巻きに様子を伺っております。どうやら2隊とも横島隊長狙いの様ですが、直ぐに動きません。罠を警戒というよりも、早川、間宮両隊どうしをけん制しあっているようです」

桜子の見立て通り、早川、間宮両隊の狙いは単独の横島だったが、お互い横島が隠れているだろう家を挟んで、動けないでいた。

 

 

 

その頃、横島とオペレーターの迅は……。

「横島、予想通り早川、間宮隊共にお前狙いだ」

「そりゃそうだ。俺だってそうするし、だから騙しやすい」

「まあ、なんていうか、早川隊、間宮隊はご愁傷様だな」

通信でこんな会話を交わしていた。

 

 

早川、間宮両陣営は横島がいる家を挟んで膠着状態だったが、間宮隊が先に動いた。

近距離主体の早川隊よりも、射程で有利な間宮隊は、中距離射程を活かし、横島が隠れているだろう家に、早川隊をけん制しつつ一斉射撃を行った。

この膠着状態を回避するために、ターゲットである家に隠れている横島をあぶり出す作戦だ。

横島が隠れていた家は間宮隊の一斉射撃で徐々にボロボロになって行く。

間宮隊だけでなく、早川隊も横島が家から逃げ飛び出すところを注視するが、横島は一向に家から出てこない。

更に、家の中で爆発が起こり、家は崩れ落ちて行く。

どうやら、冬島の予想通り横島はマイン系(トリオン爆弾)を仕掛けていて、それが間宮隊のメテオラ掃射に反応し、爆発したようだ。

それと同時にセンサーで横島の反応が消えた。

しかし、横島のベイルアウトのコールが無いため、横島が今の攻撃で倒れたわけでもない。

冬島の予想通り、ダミービーコンとトリオン爆弾を残して、既に家を脱していたようだ。

 

 

「おーっと、冬島隊長の予想通りマインを残し横島隊長は既に家から脱し、どこかに逃れたようだ!!」

桜子は興奮気味に実況する。

 

「結果的に間宮隊の判断は良かった。家に乗り込んでいたのならマインの餌食になっていただろう」

その横で冬島が冷静に解説を行う。

 

ここでようやく、早川、間宮両陣営はこの家の反応はダミービーコンだと気が付き、横島が既にこの場に居ない事を理解する。

こうなると、単独の横島の居場所を特定するのはほぼ不可能だった。

しかも、早川、間宮隊は既にお互いの位置を把握し、けん制とは言え、戦闘状態でもある。

もはや、両陣営の本格戦闘は避けられないだろう。

射程距離で優位に立ってるのは中距離主体の間宮隊だ。

 

間宮隊から、早川隊へ本格的な攻撃を開始。

間宮隊の隊長間宮柱三はどこにいるか分からない横島の奇襲を警戒しつつ攻撃を行っているが、現れる気配はなかった。

 

そのうち、早川隊が間宮隊と距離を詰めだし、乱戦模様となった時だ。

 

間宮隊の一人が地面に降り立った瞬間にその場から消えベイルアウトのコールが鳴り響いたのだ。

そこからは、まるで怪奇現象のように間宮隊、早川隊の隊員が次々と、その場から消えベイルアウトしていく。

 

「こ、これは、ど、どういう事だ!?隊員が消えて、次々とベイルアウト!!」

桜子はこの状況に困惑気味に実況する。

 

「やばいなー、あいつ。こんな事をさらっとやってのけるか?」

冬島は参ったと言わんっばかりにこんな声を隣で漏らしていた。

 

「え?これは横島隊長の攻撃なのでしょうか?」

 

「そうだ。だが、種明かしはやめておこう、精々自分達で考えてもらおう。俺もどういう仕組みなのかはまだ正確には把握しきれていないが、かなりやばい」

冬島は横島がやったことをある程度把握してはいたが、その仕組みの詳細を今も考えていた。

種明かしはこうだ。

横島は落とし穴を設置していたのだ。

本来トリオン体の建物に穴を開け通り道を作るためのホールという移動用トラップトリガーを落とし穴に応用したのだ。

しかも、仕組みは三重構造。

先ず、ホールで地面や構造物に人がすっぽり入る程の穴を穿ち、そこにマインを仕掛け、落とし穴に落ちた者は確実にマインの餌食となる。

ただ、この状態だと、落とし穴が何処にあるか直ぐにバレてしまう。

そこでホールのオプションとして、ホールドアという物がある。

特定の人物だけがホールを通り抜け出来るようにホールの入口にトリオンで蓋をするという物だ。

その蓋は周りの風景と同化するため、一見するとそこにホールがある事が分からない。

特定の人物がその蓋に触れると蓋は解除され、ホールを通り抜けられるという仕組みだ。

本来は遠征で、潜入調査等に使用するためのスイッチボックストリガーなのだが。

これを応用して、見かけ上ホールは見えず、ホールの蓋であるホールドアに触れた隊員は蓋が解除されホールの落とし穴に落ちて、マインの餌食になるという仕組みだったのだ。

地面にマインだけ仕掛けても有効ではないかと思われるかもしれないが、確実に仕留めるために蓋つきの落とし穴は必須だった。

マイン自体、半透明であるため非常に見づらいが、よくよく見ると見えない事もない。しかも、マインに攻撃が当たると爆発を起こしてしまう。

なまじマインに引っかかったとしても、ダメージだけで逃れられてしまう可能性もある。

確実に仕留めるには閉鎖空間で逃れられない状況で爆破を起こす必要があった。

しかも、この落とし穴、設置できるのは地面だけではない。家の屋根等に設置して、家の中をマインだらけにしてもよし、応用範囲は広い。

だが、リスクもある。

これを作成にするには、繊細な調整が必要なのと、それなりのトリオン量を消費するリスクがある。

しかし、横島にはそれを作成できる器用さと、複数作成できるトリオン量(霊気量)が十分にあった。

何よりも、誰にもバレずに設置してのけ、しかも設置する位置が絶妙だった。

この仕掛けを考える横島の柔軟な思考力と過去の経験値があってこそなのだ。

普通の人間では、こうもうまく人を落とし穴にはめる事は出来ないだろう。

 

こうして、さらに最後に残った早川隊、早川隊長も状況を把握しきれずに横島の落とし穴にはまり、ベイルアウトとなり、ランク戦終了のコールが鳴り響く。

 

「なななな、なんと横島隊の勝利です!!しかも、全員倒してポイント6点に生存点を合わせ8ポイント!!完全勝利です!!」

桜子も興奮気味に横島隊の勝利を宣言する。

会場の観戦者も驚きと困惑の声を上げていた。

 

横島は一回も姿を現さずに全員を倒したのだ。

 

その後、横島がフィールドに姿を現し……。

「うわはははははっ!平安京エイリアンの術!!イケメン共め!!全て駆逐してやったわ!!」

高々と笑い声を上げている姿が映し出される。

 

 

「意外な結末でした!横島隊長は一度も姿を現さず、まさしく攻撃的トラッパーの名に相応しい勝利です!!横島隊長が叫んでいた平安京エイリアンの術とは!?冬島隊長、横島隊長はどのように倒したかは教えてもらえないのでしょうか!?」

 

「ああ、ただ、横島は罠を仕掛け確実に仕留めたとだけ伝えておこう。初見で横島に当たった間宮隊と早川隊は不運だった。しかし、これでトラッパーの重要性が高まる。各隊もトラッパー対策を十分練る必要があるだろう」

冬島は横島に感心しつつ、各隊に注意を促していた。

 

「宇佐美先輩は何かご存知ですか?」

 

「あははははっ、冬島さんが答えないのに、私が答えるわけには行かないかな」

栞は愛想笑いで誤魔化すしかなかった。

栞は横島にこの落とし穴トラップについて聞いてはいたが、ランク戦でこうもうまく行くとは思いもしなかったのだ。

 

「ご存知なんですね!!気になるな~、次回の横島隊の次の試合まで答えはお預けという事で、それでは本日のB級ランク戦、これにて終了いたします」

こうして横島の圧倒的勝利で本日の夜の部のB級ランク戦が終了する。

 




トラッパーのトリガーが良くわからなかったので、オリジナル要素とか改変が入りまくりです。


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その5、勝利してもな

続きです。


翌日。

『痴漢・変態・セクハラ』の横島がB級ランク戦参戦、オペレーターをあの迅が行い、単独のトラッパーで、しかも完全勝利という話題がボーダー中に広まった。

 

ボーダー本部に訪れた迅は多方から声を掛けられる羽目になる。

 

「迅、お前いつからオペレーターなんて始めたんだ。俺との個人戦はどうするつもりだ」

A級一位太刀川隊隊長にして、ナンバーワンアタッカー太刀川慶が迅に声を掛ける。

 

「いや~、成り行き上仕方なくって感じで、別に専属でオペレーターになるつもりはないよ。新しいオペレーターが見つかるか、横島を引き取ってくれる隊が現れて来てくれるまでのつもりで」

 

「そう言う事か、ならうちで預かってやろうか?冬島さんが唸るほどのトラッパーなのだろう?唯我よりも役に立ちそうだ。そうと決まれば迅、すぐにまた俺と個人ランク戦やれるな」

太刀川は迅と個人戦をやりたいがためだけにこんな事を言ってしまう。

 

「本当ですか太刀川さん、いや~、助かります。横島の実力は折り紙付きなんで」

 

「太刀川さん流石に怒られるっすよ。俺は面白そうでいいんすけど、ただでさえ唯我がいるし、余計なものがこれ以上増えるとかって」

一緒にいた隊員の出水公平は後ろで、にこやかに腕でバッテンを作る同隊オペレーターの国近柚宇を指さす。

 

「そ、そうだな。横島の件は保留だ。それよりもお前の所の三雲隊に入れればいいだろ」

太刀川は国近の圧力のあるにこやかな笑顔を見て、横島の件を白紙に戻す。

 

「いや、横島は修たちの成長の妨げになるから入れられない」

 

「だったら、早く他のオペレーターを探すか、どこかに押し付けろ!」

太刀川はそう言って、立ち去って行く。

 

「そうしたいのは山々なんですよ。はぁ、ったく、誰か居ないのか?」

立ち去る太刀川にそう愚痴をこぼす迅。

 

 

迅はこの後も、冬島には横島を紹介しろだとか、緑川には横島と戦わせろなど、声をかけ続けられていた。

女性陣からは、横島ボーダー本部入り解禁について文句を言われる始末。

 

そんなこんなで、目的のボーダー本部、本部長であり作戦指揮官の忍田真史の本部長室に漸く到着する。

「すみません、遅くなりまして」

 

「迅、昨日のB級ランク戦は見させてもらったが、横島の戦いぶりは余りにも場慣れし過ぎている。先のアフトクラトルの大規模侵攻時の早沼地区防衛にしろ、君や天羽に匹敵するのではないか?」

忍田自身、一線を退いて久しいが、未だにノーマルトリガー最強と言われる程の強者だった。

横島の戦いぶりを一目見て、そう判断したのだった。

 

「どうですかね。彼奴まだ何か隠し持ってそうなんで」

忍田の予想を超える答えが迅から返って来る。

 

「風刃を持った君でもか?」

 

「横島は、優れた武器があろうがなかろうが関係ないですね。あいつと対峙して彼奴のペースに乗せられた時点で勝負は決まった様なもんですよ」

迅は横島の戦い巧者ぶりを評してそう言った。

ブラックトリガーである風刃があろうがなかろうが、横島と戦闘スタイルは武器の優劣が重要なファクターではないと言ったのだ。

 

「うむ」

 

「そこはあまり重要な事じゃない。横島が関わった未来は皆、笑顔なんですよ」

 

「君のサイドエフェクトか……」

 

「これで、横島の遠征行きを決定できますか?」

迅は横島を遠征に行かすために専門外なオペレーターまで務めて見せた。

今日は、忍田に昨日の試合を通して横島の実力をみてもらった上で、横島の遠征の是非を問いに来たのだった。

「私に異存はない。だが各所に根回しするにしても、少なくともB級上位、せめて7位までに上がってもらう必要がある」

 

「いや、そこを何とかB級中位10位に負けてもらえないでしょうかね。途中からのランク戦参加なんでね。厳しいんですよ」

横島隊の初戦は既に第4戦、本当は第3戦からの参加予定だったが、横島の所属先を探すのに奔走したが失敗、新たに隊を結成するためにオペレーター、隊員探しに奔走し更に失敗。結果、1戦分遅れたのだ。

まあ、その分横島自身のトリオン体でのトラッパーとしての訓練やトリガーの調整など行えたのだが……。

全8戦中、残り4戦だ。しかも新設の隊でB級ランク上位に入るにはほぼすべてのラウンドをパーフェクトでやり切らないと厳しい状況だった。

 

「それは分かっている。何とか掛け合ってはみる。それにしても迅、本当に彼はトリガー無しで早沼地区を防衛したのだな」

 

「だからそう言ってるでしょ、もしトリガーを発動したとしてもC級用ですよ。それでも考えられない事ですけどね。横島はトリガー無しでトリオンを自在に操れる。これは事実です。逆にトリガーを使う事で本来の力を抑えられてしまうぐらいですから」

 

「うむ、彼は人間、いや日本人である事は間違いないのだな」

 

「検査を受けさせましたが、人間じゃない所なんてどこにもありませんし、遺伝子的にバリバリの日本人ですよ、物凄くスケベなだけで。ただ、本人曰く平行世界の人間らしいですがね」

 

「そうか……」

 

 

こんな真面目な話を迅が本部で行っていた頃。

玉狛支部では横島隊結成と初勝利のプチ祝いを行っていた。

「ふはははははっ、勝利!!イケメンどもめ思い知ったか!!ふはははははっ!!」

「B級下位で勝ったぐらいで調子に乗るな!」

絶好調に天狗になってる横島に、早速桐絵は突っ込みを入れる。

 

「でも、一人で、しかもトラップだけで勝つなんてすごい事だと思うんですが、参考にしたいので後で詳しく教えてくれませんか」

玉狛第2 三雲隊の隊長 三雲修は横島の試合運びに感嘆な声を上げていた。

修はトリオンや戦闘技術に恵まれず、頭脳を使い戦って来たため、横島の正面から戦わずに勝つ戦いぶりに興味深々なのだ。

 

「横島先輩、横島先輩、俺と模擬戦しよ」

「遊真待ちなさい!私が先よ。こいつは私がコテンパンにのしてやるんだから」

「俺、トラッパーなんだけど」

玉狛支部三雲隊の空閑遊馬と桐絵に引っ張られる横島。

昨日の試合運びを見て、戦いたくなったのだとか。

この後、各所から個人戦を申し込まれることになるのだが……

モテたい横島だが、こんな意味でモテたくは無かった。

 

「その……横島さんはスケベなんですか?本部で噂になってたので……」

「千佳ちゃん?誰じゃ――!!そんな根も葉もない噂を立てる奴は!!違うんや。そんな目で見ないでーーーー!?」

雨取千佳の純粋な目でこんな質問をされ、横島はタジタジになる。

横島はどうも年下の女の子に弱い。

それは元の世界だろうがこの世界だろうが同じだ。

 

「横島さん、短期バイト紹介して頂いてありがとうございます」

「イケメン、あんなところで良かったのか?オカマバーのウエイターって、身の危険感じない?」

「バイト代が物凄くいいですし、お客さんからチップも貰えるし、大助かりです、人手が足りなかったら是非、行かせてください」

「……イケメン、お前苦労してるんだな、ううううっ、お前はいいイケメンだ」

どうやら横島は早沼支部の伝手で、家庭の事情で金銭的に余裕がない烏丸京介に少々怪しいバイト先を紹介したらしい。

 

「横島~、ちょっといいか」

横島は玉狛支部の面々に声を掛けられる中、林藤支部長に軽い感じで声をかけられ、支部長室に呼ばれる。

 

「早沼支部の支部長や本部との話し合いで、横島の処遇は今迄通り、早沼支部だ。お前、早沼支部の連中に慕われてるようだな。女性陣にはまったくうけないけど」

 

「やっと、あのマッチョメンとおネエの巣窟から抜け出せると思ったのに!」

横島は血の涙を流していた。そう早沼支部には女性が1人もいないのだ。

しかも、支部のメンバーはボディービル専用のジムなのかという程、皆マッチョな方々なのだ。

何故か横島はそこの方々にかなり可愛がられていたようだ。

本人の意志は別にして……。

 

「理由はシンプル、先の大規模遠征の結果、やはり各支部に手練れが必要だという結論になった。だからお前を早沼支部から離すわけには行かなくなった。まあ、ランク戦やら本部がらみについてはこっちでレンタル所属って事になってるから、大いに玉狛の施設は使ってくれ、ただ面倒ごとは起さないでくれよ。まあ、お前さん何だかんだと一線をわきまえてるし、女性陣もそれに気が付いてるしな。小南以外はな。あんまり小南をからかうなよ。本気にしちまうぞ」

 

「………」

横島は林藤の話を最後までちゃんと聞いていなかった。

早沼支部から抜け出せない事のショックがデカかったのだ。

それに横島は思う。

あの早沼支部のマッチョメンとおネエ共も、下級トリオン兵を筋肉で押しつぶし、撃退していたのにと……。

トリガーも身体強化というか防御強化というか筋肉に極振りした特別仕様なのだ。

俺、別にいらないんじゃないかと心の中で思うが口には出さなかった。

 




女の子にはモテない横島くん。


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その6、トラッパーって厳しくね?

早速の感想と誤字脱字報告ありがとうございます。


横島隊の次のB級ランク戦第5戦下位昼の部の相手は、常盤隊、吉里隊との対戦だったが、早々に常盤隊と吉里隊が遭遇し乱打戦となり、数の有利性が働き4人の常盤隊が3人の吉里隊を追い詰め2人落とし、撃破点2をあげた。

その後、常盤隊4人と吉里隊の生き残りの1人は、横島の落とし穴トラップに翻弄され敢え無く撃沈、横島撃破点5と生存点2で合計7ポイントを上げる。

 

ランク戦直後、迅は作戦室でぼやいていた。

「試合開始時の転送位置が最悪だった。横島の位置が一番端だったし、川を挟んだ地形も厳しかった。転送後直ぐに常盤隊と吉里隊が戦闘に入って、吉里隊が速攻で二人落ちたのも痛かったし。このB級下位の段階ではパーフェクトは取って置きたかったが、運が悪かったとしかいいようがないな」

 

「うーん。なんか女の子を落とし穴に落として地雷爆破ってのは、どうも気が引けるんだけど、どうせならくんずほぐれつして抱きしめたい!!」

迅の言葉など聞いていないかの様に横島は、思い出した様にこんな言動をする。

だが、もし女性隊員を抱きしめたとしても、ベイルアウトで逃れられるだろう。もっとも、スコーピオンやシューター用トリガ―を装備していれば抱き着いた瞬間に撃破されるのは横島の方だ。

 

「お前は呑気でいいな。お前が遠征に確実に行けるラインは現段階ではB級上位7位以内に入る必要がある。ランク戦は各ラウンドの獲得ポイントの合計で順位が決まる。下位との対戦では全てポイントを取らないと厳しい状況だ。せめて中級の10位ぐらいならまだ何とかなりそうだが……」

 

「遠征に参加するにはB級ランク上位に入らないと、いけないのか?」

 

「ああそうだ。そうなればほぼ確実だ。トラッパーというポジションは遠征にこそ真価を発揮するポジションだから、B級中位でもその必要性を重視してくれれば何とか行けるとは思うんだが、後は忍田さんが周りをどう説得してくれるかにかかってる」

 

「まあ、その辺はお前にまかせるわ」

 

「ふぅ、お前がナンパやセクハラしまくったせいで、何処の隊にも入れてくれないし、隊員も集まらないから、こんなに苦労してるんだろ?」

 

「ナンパの何が悪い!そこに女の子がいるのに!男として当然だ!」

横島は自身を持って自らの行いを正当化する。

 

「まあ、それには同意するが、お前のナンパ下手糞だし、心象も最悪だぞ。それは置いといてだ。そろそろ対戦相手が横島の落とし穴対策をとって来る頃だ。今日の夜の部のランク戦の結果しだいだが、中級14位にギリギリ滑り込む可能性もある。中級以上となると対策をきっちり練って来るだろう」

既に横島対策は練られているだろう。

それに、今日の試合では単独行動のトラッパーの弱点が露見されたに等しい。

トラッパーは罠を仕掛けてこそのトラッパーなのだ。

罠を仕掛ける時間を与えない、若しくは罠を仕掛けていないフィールドで戦うという基本行動をいかに行うかである。

 

「今更言うのもなんだが、トラッパーって単独でやるもんじゃなくないか?」

横島は本当に今更な事を迅に訪ねていた。

 

「ホント今更だな。あの段階で横島が遠征に参加させるにはやはりトラッパーが近道だった。さっきも言ったが、トラッパーは遠征には必要なポジションだ。ランク戦参加者では横島以外に3人しかいない。だから、多少ランクが低くとも選ばれる可能性が高くなるからな」

本来はB級2位までが遠征メンバーに選ばれるのだが、トラッパーという遠征には欠かせないポジションであれば、迅の言う通り多少ランクが低くとも選ばれる可能性が高い。

 

「そんじゃ、忍田さんに頑張って周りを説得してもらうしかないか」

 

「お前な~。まあ、横島は実際よくやってるよ。トラッパーなんて無茶振りだったのはわかっている。それにもまして、予想以上にあんな特殊なポジションを使いこなしてる。むしろ妙にしっくりくる感じだ」

 

「あ~、なんていうか、罠仕掛けたり騙したりするのが俺の本来の戦闘スタイルだから、トラッパーはピッタリだったりするんだけど」

 

「……横島、お前って本職はトラッパーだったのか?霊能者とか言ってなかったか?それにお前、アフトクラトルの大規模侵攻時、俺と行った防衛任務の時もトリオン兵を光る剣で倒していただろう?」

迅は、アフトクラトルの大規模侵攻時に横島が助けた女性C級隊員からも横島の戦いっぷりを聞いていたし、横島をワザと防衛任務に連れて行き、トリオン兵と戦わせたりしていた中で、横島がハンズオブグローリー(霊刀)で戦っていたのを知っていた。

 

「あん時は女の子達にかっこいいアピールしたかったし、敵も大したことなかったからな。元の世界で今迄戦った相手って、悪魔とか妖怪とか幽霊とか滅茶苦茶な連中ばっかりだったから、真面に戦っても勝てないなんてざらだし、自然とそんな感じに」

そう、横島が元居た世界では、格上相手と対峙することが普通だった。

それこそ、蟻と象程の力の差があるような相手とも何度も戦ってきたのだ。

そうなると、自然とまともじゃない戦い方が身についてくるという物だ。

まあ、師匠であり上司の美神令子の影響が多分にあるのだが……。

 

「……お前の居た平行世界の地球ってとんでもないな」

アフトクラトルの新型トリオン兵ラービットさえ、大した事が無いと言い切る横島のレベルで、真面に戦っても勝てない様な連中がわんさか存在する世界とか、迅には想像できなかった。

 

 

「とにかく、今後は相手も対策をとって来る。落とし穴戦法だけじゃ、じり貧だろうし、今回の様に転送位置が悪いと、点を取れずに勝ち逃げされる可能性も十分にある」

迅は話題を戻し、今後のランク戦の対策を横島に振る。

 

「そりゃそうだ。それなんだけどトラッパーのトリガー、スイッチボックスだっけ、あれに入ってるトラップしか使えないのか?」

トラッパーのトリガー、スイッチボックスには様々な兵装やトラップなど遠征に役立ちそうな物が収納されている。

但し、トリガーの消費は激しいというデメリットがある。

そのため、他の攻撃用トリガーをセットしないのがトラッパーのセオリーだった。

 

「基本的に、ランク戦ではトリガーは量産品しか使えない。ただトラッパーのトリガーは殆どが試作品段階か、検証中の物ばかりだ。冬島さんや依田さんに頼めば新たに追加は可能かもしれないが、今期のランク戦中には無理だろう」

迅はタブレットを片手に、トラッパーのトリガー、スイッチボックスに入ってるトラップやアイテム等のラインナップを眺めながら答える。

基本的にトラップボックスには直接攻撃するような兵装は入っていない。

他の攻撃隊員の補助や遠征や潜入に必要な兵装が主である。

 

「という事はこの中のもので戦うしかないか……トリオン修繕キットか意外とつかえるか、ん?共通のオプショントリガーにも結構使えそうなのがあるぞ。なんだ、グラスホッパーとかスパイダーとかって、もうトラップその物だろ?しかもその場で瞬時に設置できるって、そりゃ、こんなのが普通にあれば小隊戦じゃトラッパーの必要性は高くないよな。……おおっ?これ何て使えそう」

横島もタブレットを手に取り、トリガーの一覧を眺めていたが……。

 

「横島、予定よりちょっと早いが攻撃用トリガーも併用すべきか……」

迅は元々B級中位クラスに上がった際、攻撃用トリガーの併用を考えていた。

横島のトリオン量は雨取千佳に匹敵すると見られており、トリオン消費が激しいトラッパー専用トリガー スイッチボックス以外にも攻撃用トリガーを併用し運用することが十分可能だった。

逆に雨取千佳はスナイパーのライトニングでシューターのオプショントリガー、レッドバレットが使用できるように、スナイパーでありながら、トラッパー専用のスイッチボックスも使用できることになる。

 

「大丈夫だって、トラッパーとしてのアピールが必要なんだろ?まかせろって、くふふふふっ」

横島は悪そうな顔で含み笑いをし、迅にそう答える。

 

 

 

「次のランク戦の話はこの辺でおいて、今日の夜のネイバーが攻めてくる件だが」

迅は真剣な表情で横島にこう切り出す。

 

「ああ、サイドエフェクトで見えたって奴?本部狙いなんだろ?何となるんじゃない?」

対して横島は軽い感じ答える。

 

迅のサイドエフェクトとアフトクラトルのエネドラの残留記憶であるエネドラットからの情報を統合すると、今日の夕方から夜にかけて、ネイバーが攻めて来る事が判明していたのだ。

 

 





次回、ようやく横島らしい感じの展開が書けます。


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その7、見ただけで手に取るようにわかる!

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

続きです。


「攻めてくるのは先の大規模侵攻のアフトクラトルの属国、ガロプラかロドクルーンと判明してる。大規模侵攻から三門市は傷が癒えていない。住民や住宅街に被害を出さずに抑えたいというのが本音だ。外部に悟られない様に夜の部のランク戦は通常通り行う予定だ。なんとか、通常のネイバー侵攻程度に見せかけたい」

迅は横島にネイバーが攻めてくる事は事前に説明していたが、本部作戦会議で決定した事項についてはまだ詳しくは話していなかった。

 

「それって、前みたいに大規模で攻めてきたらとてもじゃないけど無理だぞ」

 

「そこまでの戦力は無い様だ。少数精鋭で攻めてくる。とは言っても通常のネイバー侵攻に比べれば大規模だ。だが、相手の狙いも凡そ判明してる。ボーダー本部の心臓部、或いは遠征艇、もしくは彼女が狙いか。何れにしろボーダー本部になる。こちらもそれに備えA級をメインに防衛体制を整えてる」

「なんでまた、ボーダー本部のそんなもん狙うんだ?」

「ボーダー本部は要だからな、ボーダーに深い痛手を負わせれば、それだけ今後の侵略に有利になる」

「ボーダーの壊滅が目的じゃないのか……」

「まあ、相手国にも事情がある」

「もしかして、本気で喧嘩を売るつもりはないって事か?」

「そのとおりだな」

「はあ、アフトクラトルとかいう国のせいで、その相手国もここ(ボーダー)も巻き込まれたって感じか」

「そう言う事だ」

迅は横島の答えを苦笑気味に肯定する。

本部作戦会議で出した答えは、攻め込んで来るアフトクラトルの属国が本気で攻めてくるとは考えにくいと結論づけたのだ。

軍事大国アフトクラトルが精鋭部隊と大軍を送っても、撤退に追い込まれたのだ。

かつてアフトクラトルに敗れ属国となった両国の軍事力では、真面にやって勝てるとは考えにくいだろう。

アフトクラトルの命令で致し方が無く攻撃部隊を出したに過ぎないと踏んでいたのだ。

それならば目標を絞り、最低限の戦力で一点突破を狙い、アフトクラトルに対しても面目が立つ戦略となれば、狙われるとすればトリオンで形成されているボーダー本部の心臓部、若しくは遠征艇、そして迅が彼女と呼ぶ存在は忍田瑠花が狙われる可能性が在ると踏んでいたのだ。

 

迅は一息ついてから、横島に真面目な面持ちで頼む。

「横島は本部(ここ)で待機してくれ、忍田さんには横島の特性を活かすため単独遊撃、ようするにだ自由に動けるようにしてもらった。本部で誰かがピンチに陥った時に手助けをしてやって欲しい。俺もその立ち位置だが、未来の分岐によっては本部から離れなければならない可能性がある」

 

「うーん……。や、やばっ、やっぱ返却今日だった!まだ時間ある?エロDVD返しにいっていい?」

迅の話を聞きながら横島は何か考え事をしてる風だったが、迅の話を聞いていないかのようなこんな言動をする。

どうやら、エロDVDの返却期間は何時だったか思い出していたようだ。

 

「はぁ、いいよ。だが一時間以内に戻って来いよ」

こんな時でも緊張感がない横島に呆れ気味に返事をする迅。

 

 

 

夜7時を回った頃、予想通りボーダー本部に向かって、トリオン兵の集団が侵攻してきた事を迅のサイドエフェクト未来予知で察知し、ボーダー本部は直ぐにボーダー隊員を集め防御陣形を組む。

 

敵の構成は、集団戦闘用人型トリオン兵アイドラ、偵察、戦闘用犬型トリオン兵ドグの構成だ。その数ざっと200体程度が防御シールドを張りながら迫ってくる。

 

待ち構えていたボーダー隊員の防御陣形は、ボーダー本部屋上からスナイパーによる狙撃、ボーダー本部前方でスナイパーが漏らした敵をシューターとアタッカーが連携して各個撃破するとシンプルではあるが堅い防御陣形を取っていた。

 

開戦当初、敵の方が数で勝っていたが、地の利を活かしたこちらの防御陣形が有利に事を運び、相手の侵攻を阻止していた。

だが、敵側に人型ネイバー(近界民)が現れ、ボーダー屋上のスナイパー隊の上空にワープトリガーの様なものをばら撒き、次々とワープゲートが開き、ゲートから犬型トリオン兵ドグが次々と現れ、スナイパー達に襲い掛かる。

 

屋上のスナイパー隊はドグに何とか対応するが一時的に防御陣が崩れ、その隙にトリオン兵団が一気にボーダー本部に押し寄せ、3体のトリオン兵がボーダー本部壁にトラッパーのホールの様に、穴を開けボーダー本部内部に侵入したのだった。

 

 

ボーダー内部に侵入したトリオン兵は、ネイバー(近界民)が何らかのトリガーでトリオン兵に化けた姿だった。

彼ら3人はアフトクラトルの属国、ガロプラの精鋭兵士だった。

ガタイのいい中年の偉丈夫が、今回の遠征侵攻の隊長ガトリン。

黒髪の利発で真面目そうな青年が、遠征隊員のラタリコフ。

髪を短めのポニーテールで纏めた生真面目そうな如何にも軍人という風格の女性が、ウェン・ソー。

ボーダーのS級隊員天羽月彦の強さを色で識別できるサイドエフェクトで見るに全員がA級以上の実力者だという事が判明。

 

彼らは建物に穴を開けるトリガーを使用しながら、どこかへ一直線へ進む。

その様子はボーダー本部司令室からも確認され、進む方向から狙いは遠征艇だと判明し、それに対応する防御人員を配置。

 

「横島はまだ動くな、まだ大丈夫だろう。俺が様子見をして来る」

単独遊撃人員の迅は、横島に待機するように言い、自らは侵入者の侵攻を阻止するために動き出す。

 

迅はブラックトリガー風刃を手に持ち、侵入者を一瞬捕捉するが建物に穴を開けるトリガーで逃げられる。

「太刀川さんや小南たちが防御配置についた。他のメンバーも追ってる。忍田さんも天羽もいる。それに横島もいるし、こっちは何とかなりそうだ。それよりも外か」

だが、迅は侵入者を追いかけずに、今もトリオン兵と一進一退の攻防を行っているボーダーの外周部へと向かう。

 

先へと突き進む3人のガロプラのネイバー達を、後ろから2人の女性隊員が追い付き迫っていた。

弾道を設定できるトリオン弾バイパーを狭い通路の中、正確無比にガロプラの3人に後ろから襲い掛かかる。

 

その攻撃にたまらず、ウェン・ソーが追撃の足止めを行うため、広い場所で追手の二人の女性ボーダー隊員を向かい撃つ。

 

「来な、お嬢ちゃんたち」

ウェン・ソーはそう言って、犬型トリオン兵ドグをゲートから召喚させながら、自らは両手に円盤状の近接トリガーを展開し構える。

 

追手の二人は……

「侵入者の一人を捕捉」

儚系美形美少女、ボーダーB級中位那須隊隊長那須玲、17歳シューター。

本人は病弱で普段はベッドの上で過ごしている事が多いが、いざトリオン体での戦闘となると、豊富なトリオン量と、パイパーで正確無比な弾道を引き、マクロスのバルキリーのミサイル弾道を思い起こす様なド派手な攻撃を得意とする弾道美少女だ。

 

「戦闘開始」

もうひとりは、スタイル抜群男前美少女、同じくボーダーB級中位那須隊隊員熊谷友子、17歳アタッカー。

その豊満なバストが故、良く迅や横島にセクハラ被害に遭い、鉄拳制裁を行ってるのが彼女だ。

アタッカーだが隊員を守るために防御を得意としたりと、何かと男前な美少女だ。

この二人はお互いをくまちゃん、玲と呼び合う程仲がいい。

 

ウェン・ソーは犬型トリオン兵ドグ8体の内4体と連携を取りながら、前衛の熊谷友子に攻撃をしかけ、残りの犬型トリオン兵ドグは後衛の那須玲にけん制攻撃を行う。

ウェン・ソーとしては、熊谷を先に倒す作戦だ。

 

一方、那須隊は、前衛の熊谷友子で敵の攻撃を捌きつつ、後衛の那須玲によるバイパーによる多量のトリオン弾の一斉掃射でウェン・ソーを攻撃しつつ、犬型トリオン兵の数を減らしていく作戦だった。

 

玲の攻撃はウェン・ソーをけん制しつつ、犬型トリオン兵を一体づつ倒していくが、ウェン・ソー自身の力量が高いため、友子の負担が激しく、徐々に削られて行く。

また、犬型トリオン兵を追加で出現させることが出来るため、一体づつ倒した所でじり貧である。

 

だが、ウェン・ソーからすれば、粘る那須隊に少々焦りを覚える。

早々に倒して合流しなければなら無いからだ。

 

ウェン・ソーは一気にかたを付けるため、作戦を変更する。

何らかのトリガーなのか、辺り一帯に煙幕をはり、那須隊の視界を奪う。

那須隊の二人は視界を奪われ、ウェン・ソーと犬型トリオン兵の位置が分からなくなるが、犬型トリオン兵は煙幕の中でも友子の位置を把握し、確実にトリオン弾を当ててくる。

友子もシールドで防ぐもどうにもじり貧状態だ。

 

そんな中、後衛の玲はそんな友子の元へ合流しようと、視界の悪い煙幕の中移動を試み、友子を見つけ、近づいて行くのだが……。

「くまちゃん!まだいける?」

 

その時だ。

後方から声が飛ぶ。

「玲ちゃん!そいつはくまちゃんの偽物だ!」

 

その声と同時に、友子だった姿がウェン・ソーへと変わり、円盤状のトリガーで切りかかったのだ。

そう、これは倒す順番を友子から攻撃が厄介な玲に変更し、変装用トリガーで友子に変身し、玲を騙し打ちをしに来たのだ。

 

だがその瞬間、玲は何者かに抱きかかえられたまま、後方へ飛びのき、ウェン・ソーの攻撃は空を切る。

もし、何者かに抱きかかえられなければ、確実に玲は大ダメージを受けていただろう。

 

そして、煙幕が晴れる。

お姫様抱っこのように抱きかかえられた玲が顔を上に向けると、そこにはいつものニヤケ顔では無く、真剣なまなざしで前を見据える横島の顔があった。

「え?横島さん!?」

 

「横島!?」

友子も、煙幕が晴れた先に、ウェン・ソーと対峙する玲を抱きかかえた横島の姿が目に映る。

 

「ちっ!」

ウェン・ソーは仕切り直しと言わんばかりに後方に飛びのき、それと同時に犬型トリオン兵もウェン・ソーの元に集まる。

 

友子もその隙に、日本刀に模したアタッカー用トリガー弧月を構えたまま、横島の横に移動する。

「助けに来てくれたのはいいけど、何時まで玲を抱きかかえてるつもり?」

友子は横目で横島を睨む。

 

「あれ?あはははっ!」

横島は笑って誤魔化しながら、抱きかかえていた玲を、すっと立たせる。

 

玲は玲で若干顔が赤かった。

玲はボーダー隊員の女性には珍しく横島にそれ程悪印象を持っていなかった。

病弱な玲は、ボーダーの男子隊員からは優しく接してもらえるが、友子や他の女性隊員様に気軽というか、気が置けない感じでは接してもらえる事が今迄なかったのだ。

だが、横島だけは、他の女性隊員同様に玲にも接してきた、というよりもナンパを敢行してきたりしてきたのだ。それが玲にとって今迄なかった事で、皆と同じように接してくれる横島が、新鮮に映っていた。

 

「横島さんありがとう。でもくまちゃんの偽物ってよくわかりましたね。私でもわからなかったのに」

玲もトリオン弾を生成し構えながら、横島に質問する。

 

対するウェン・ソーもそれに疑問を持ったのか、じっとその答えを待つかのように、構えたままだった。

 

横島はその疑問に答えたのだが……

「当然!!わからいでか!!偽物のくまちゃん、いや、そこのかっこいいお姉さんと本物のくまちゃんのバストのサイズがまったく違っていたからだ!!」

こんな事を平然と熱く語りだしたのだ。

 

その答えに、ウェン・ソーも友子も玲も、一瞬気が抜け、構えが解ける。

 

更に横島は続ける。

「そこのお姉さんのバストは84!!くまちゃんのバストはななななんと91、この違いはあまりにも大きい!!」

こんなセクハラ言動を堂々と熱く語る横島。

そもそも、トリオン体でしかも煙幕が張り視界が悪い状態でそんな事を見抜けるものなのだろうか?

 

「なんで、あんたは私の胸のサイズを知ってる!!」

友子のこのつっこみは当然だ。

因みに友子が年上に敬語を使わないのは横島だけだ。

 

「この横島、服の上だろうがコートの上だろうが分からないものは無い。一目見ればバストサイズは手に取る様に分かる、人呼んで人間メジャー!因みに玲ちゃんはバスト83!」

横島は何故かかっこよさげにこんな変態発言を行う。

 

「このド変態!!」

「………」

友子は右手で弧月を構えたまま、空いた手で横島の右頬を拳で殴り、玲は恥ずかしそうに片手で胸を隠そうとする。

 

「ぐぼっ!!」

横島は友子に殴られ、クリーンヒットしその場に倒れる。

 

 

そんな漫才の様な展開にウェン・ソーは唖然とするが、気を取り直そうと首を振り、再び正面の玲達を見据えようとすると……。

何時の間にか殴り倒されていたハズの変態男が、目の前に立っていて、自分の手を取りこんな事を言ってきたのだ。

「バスト84のポニーテールが似合うかっこいいお姉さん!僕、横島!実は生まれた時から好きでした!!続きは近くの喫茶店で!!」

こんな状況で、こんなとんでもないナンパをし出したのだ。

 

「横島!時と場所を選べ!!」

友子から怒声を浴びせられる横島。

当然である。

 

ウェン・ソーは一瞬何が起こったか理解できなかったが、友子の怒声で我に返り、横島の手を振り切って、円盤状のトリガーで横島を切りかかる。

「この変人が!!」

 

「うわっち!!」

しかし、横島はその場に倒れながら、攻撃を除け、地面を這うゴキブリの如きカサカサと、玲と友子の元に戻る。

 

 

ここで仕切り直し……

ガロプラの戦闘員ウェン・ソーと那須隊那須玲と熊谷友子+横島の戦い、第2ラウンドが始まろうとする。

 




さてさて、どんな結末になるのやら。


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その8、そんなサイドエフェクトがあるか!

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。


ガロプラの女性軍人ウェン・ソーと那須隊那須玲、熊谷友子との戦いは、那須隊がピンチに陥るが、横島のセクハラ介入で事なきを得て、仕切り直しとなる。

 

ここで、那須隊那須玲、熊谷友子、横島忠夫の簡易チームが結成される。

 

(小夜ちゃん、横島さんとのリンクお願い)

玲は那須隊オペレーターの志岐小夜子に横島と、声を出さずに意思疎通が可能となるトリオン体内部通話リンクを頼む。

ランク戦時はオペレーターを通じてもしくは近距離同士の隊員が行っているが、別の隊との共同防衛任務の際は予め必要な隊員とリンクを行っておく。

 

(いいの?)

小夜子は聞きなおす。

当然の疑問だ。緊急事態とはいえ、ボーダー所属の女性全員の敵である横島とのリンクなのだから。

 

(物凄く嫌だけど緊急だし、仕方が無いわ!)

友子も嫌々だが了承する。

 

そして横島とトリオン体の内部通話リンクが可能となり……

(横島さん、くまちゃんが前衛、私が中衛です)

(横島、玲のバイパーによる攻撃が要よ。私が前衛で相手を引き付け、玲の攻撃で相手を倒す)

(おおっ、頭の中に玲ちゃんとくまちゃんの声が!?横島感激!!)

(そんな事はいいから!あんたは、相手の動きを鈍らせなさい。トラッパーなんでしょ?)

(横島さん、冬島さんが使用する戦闘中のワープ戦術は使った事が無い私達では扱いきれないわ。だからせめてトラップで犬のトリオン兵をお願いします)

(ふははははっ、玲ちゃんにくまちゃんまっかせなさい!!)

(……何でそんなに自信が満々なのよ。まあ、今だけは!頼りにしてるわ。今だけは!)

前衛に友子、中衛に玲、後方に横島という縦の陣形を取る。

 

 

一方、ウェン・ソーは……

(一人増えた。しかもあの変人動きがおかしい。いいえ、もうアレを使って終わらせて、隊長と合流しなければ)

ウェン・ソーは横島に違和感を感じながらも、手間取っている現状に焦りを感じ、一気に片を付ける算段をする。

 

 

ウェン・ソーから動き出す。

8体の犬型トリオン兵ドグの内、先ずは3体を友子に、続けて5体を玲に向かわせようとしたのだが……。

友子に向かわせた3体の犬型トリオン兵ドグが突如として消えたのだ。

いや、横島の落とし穴トラップに嵌ったのだ。

横島は、ウェン・ソーにナンパし怒られた後、玲と友子の元に床をゴキブリの様にカサカサ這いながら戻る際にこの空間の床に落とし穴トラップを多数設置していたのだ。

しかも、横島の落とし穴トラップはかなり高性能で、落とし穴には落ちる相手を選別できるのだ。(4話参照)

今回の場合、ボーダー隊員は落とし穴トラップの蓋に触れても透過しない設定をし、それ以外は蓋が透過する設定である。

 

「なっ!?」

その様子を見たウェン・ソーは玲に向かわせようとした5体を戻し、後退する。

ウェン・ソーは何らかのトリガーが仕掛けられてると瞬時に判断し、トリオン体のセンサー類でこの空間のトリオン反応等の情報を探査し、遠征艇にフィードバックさせ、その結果を確認する。

ガロプラの情報探査能力はボーダーよりも高い。

あっさりとボーダー本部内奥深くにある遠征艇の凡その位置まで把握してしまうぐらいの能力があった。

 

(いつの間に、こんなに仕掛けを?さっきまでは無かった。まさかあの変人が?)

ウェン・ソーは横島のトラップ位置を全て把握し、犬型トリオン兵に情報を送り行動パターンの変更を行いつつ、失った分の3体の犬型トリオン兵をゲートから呼び出し補充する。

 

(あの変人は動いていない、トラップの追加は無い。だったら)

再び、ウェン・ソーから攻撃を仕掛ける。

先ほど同様、犬型トリオン兵3体を友子に、5体を玲へ向かわす。

犬型トリオン兵はトラップの設置場所を避ける様に襲い掛かって来る。

 

しかし……

その前に横島はこんな指示を友子と玲にしていた。

(くまちゃん俺の合図で、その場にしゃがんで、玲ちゃんは変化するトリオン弾(バイパー)でくまちゃんがしゃがんだ瞬間、しゃがんだくまちゃん頭上40cmぐらいの高さに50発位のトリオン弾を一気に放って、丁度くまちゃんの位置で横方向に270度扇状に弾道を変化させて散らばせちゃって)

 

(今だ!)

犬型トリオン兵が襲いかかって来るタイミングで横島は二人に声をかける。

 

横島の指示通り、弧月を構えながらその場にしゃがみ、玲はそのタイミングで横島の指示通りの弾道を描きバイパーを放った。

 

すると、友子に向かった犬型トリオン兵は全て、バイパーに撃ち抜かれ、更に玲に向かった5体の内3体もバイパーによって消滅する。

横島は予め落とし穴トラップが察知された場合も考慮し、トラップを設置していたのだ。

もし、トラップが察知されトラップを避けながら攻めてくる場合の動きも考慮した置き方をしていたのだ。

要するにトラップ設置位置で、相手がトラップを避ける動きをもコントロールして見せたのだ。

その結果、横島が友子と玲に指示を出したタイミングで、犬型トリオン兵の動きが重なり合い、一回のバイパーでの攻撃で多数撃破出来たのだった。

 

これには流石にウェン・ソーだけでなく、友子と玲も驚きを隠せなかった。

(まずい。こちらの動きがコントロールされている!?まさかあの変人によるものか?)

(え?なに……?)

(凄いわ……)

 

横島は元の世界では一つ間違えば命を落としかねない様な戦いをずっと行ってきたのだ。

トラップを仕掛けるという行動一つとっても年季が違う。

まあ、横島の普段の行動からそんな途轍もなく高度な事をやってのけるなどとは思えないだろうが……。

 

(くっ、本格的にまずい……しかし、今がいいタイミング)

ウェン・ソーは更に後退し、反動をつけ友子目掛けて、突撃を行う。

だが、ウェン・ソーが友子に近づくにあたりドンドン分身していくのだ。

遂には36体のウェン・ソーが友子を囲みだす。

玲もその様子にウェン・ソーを何体か撃ち抜くが、ホログラムなのか手応えが無い。

だとすれば、本体があるはずだと……

(小夜ちゃん、本体はどれ!)

(隊長、全てトリオン反応があり、判別できません)

玲はオペレーターの小夜子にウェン・ソーの本体を探させるが、36体全てに同等のトリオン反応が現れていたのだ。

これはウェン・ソーの藁の兵(セルヴィトラ)という自分の分身体を作るトリガーの能力だった。

 

友子は囲まれながら、堅く防御態勢をとるが、薄く何度か攻撃をくらう。

(全部からの攻撃はない、多分攻撃できるのは一体だけ、でも……)

徐々に囲みが友子に迫る。

玲もバイパーでウェン・ソーを撃ってはいるが本体には当たらない。

焦る友子と玲。

 

だが……。

「かっこいいお姉さん!それはダメだ!今なら間に合う!!」

「なっ!?」

横島はいつの間にか友子の前に現れ、ウェン・ソーの両手を握りこんな事を熱く言葉を発する。

もしかすると、降伏か、撤退勧告かは分からないが、説得するつもりなのかもしれない。

他の35体も、横島に捕まれた状態の狼狽する姿となっていたことから、横島は36体の中の本物のウェン・ソーを正確に特定して、こんな事を仕出かしたのだ。

 

「お姉さん、自分を卑下してはいけない!!トリオン体詐欺なんて!?くっ!!何故そんな犯罪行為を!?」

横島は涙目でウェン・ソーに何やら語り掛けているが、雲行きが怪しい。

少なくとも降伏勧告とか撤退勧告とかの類ではなさそうだ。

 

「なにをっ!?」

ウェン・ソーは困惑しながらも横島から逃れようとするが、掴まれた腕を引き離せない。

 

「お姉さん!!トリオン体に盛ってるでしょ!!お姉さんのトリオン体はバスト84……でも本物のお姉さんは79、パット5枚分……、それじゃ!!小南と同じじゃないかーーーーー!!卑下しなくてもいいんだ!!僕はおっぱいの大小で女性を好きにはならない!!おっきいのは好きだけど!!お姉さんなら大丈夫!!好っきやでーーーーー!!」

横島はこんなとんでもない事をいいだした!現代日本だとセクハラで裁判沙汰になってもおかしくない最低な言動だ!!

因みに、小南にも同じことを言って、ボロボロにされた横島。

小南は学校や学校の友人達にはボーダーでオペレーターをやってる事になっており、そのため、戦闘隊員だとバレない様に戦闘体のトリオン体の姿を多少変えていたのだ。髪型も本人はストレートのロングヘアだが、トリオン体はショートカットに、鳥の羽の様なアホ毛が二本ついており、顔立ちも若干幼めな印象を受ける。

そしてバストを盛っていた。……かなり。

誰もが気が付いていただろうが、あえて誰もそこを指摘してなかったのに、横島はわざわざ堂々と指摘してしまったのだ。トリオン体詐欺呼ばわりで……。

 

そして、勢いのまま横島はガバっとウェン・ソーに抱き着こうとする!!

 

だが……。

「こんな時に何をしてるあんたは!!」

「ぐぼばっ!?」

飛びつこうとする横島につい友子は横島を拳骨で殴り飛ばす。

 

「あっ、クマちゃん!」

横島が折角ウェン・ソー拘束してるいのに、友子の行為は、相手を逃がすだけでなく反撃の機会まで与えてしまったのだ。

 

しかし、今迄、ポーカーフェイスを全く崩さなかったウェン・ソーは顔を真っ赤にして、涙目でぷるぷると震えて……

「な、何を根拠に!?あんた、私と会った事ないのに!!そんな事はない!!」

反論しだしたのだ。

 

横島はそれに答える様にスクっと立ち上がり、中二病チックに、自分の顔に手の平を当てがいポーズを決めながら……。

「俺のサイドエフェクトは、触れた女性のスリーサイズが正確に把握できる!それがトリオン体だとしてもだ!!だから、お姉さん本体もいつもパットで盛っていたとしても、私には全てが見える……」

こんな事をのたまう。

もちろんそんなわけが分からないサイドエフェクトなど存在しない。

勿論これは横島流のギャグなのだが、時と場合を考えろと言いたくなる。

だが、どうやら横島が言った事は事実だったようで、当人のウェン・ソーの動揺と精神的ダメージは相当なものだった。。

これも横島の煩悩パワーとギャグ体質がなせる業なのだろう。

彼女には同情せざるを得ない。

 

「あんたなんなの!!なんなのよ!!絶対許さない!覚えてなさい!!」

ウェン・ソーは煙幕をたき、ゲートを開き撤退していった。

ウェン・ソーは先に行かせた二人と合流は出来なかったが、足止めはできたため、役割として最低限はこなしたと言えるだろう。

但し、精神的ダメージはかなり受けたようだが……。

 

「あっ!しまった!」

友子はウェン・ソーを逃がした事を悔やむ。

 

「またね~、かっこいいお姉さん!!」

横島は見送りの言葉を軽い感じで送っていた。

 

 

玲はほっと一息ついて、横島と友子の元へ駆けつける。

「横島さん、助かりました」

 

「あははははっ、まあ、逃がしちゃったけど!」

 

「…………助かったのは事実だけど、横島、あんたのサイドエフェクト最低ね。私にもう触れないでくれる」

友子は汚物を見る目で横島を見る。

どうやら、横島のサイドエフェクトを真に受けているようだ。

それも仕方が無いだろう。

何せ、実際に友子のバストサイズを正確にいい当てているのだから。

 

「という事は、先ほどのことで、横島さんに私のスリーサイズを……その」

玲は先ほど横島に抱き上げられ助けられた際に、スリーサイズがバレてしまったのだと思い、胸を隠す仕草をしながら顔を赤らめていた。

 

「え?あれは冗談だって!まあ、見たら大体わかるし!」

サイドエフェクトがあろうがなかろうが変わらないという事実だけが残る。

何はともあれ、那須玲、熊谷友子+横島の簡易チームはガロプラの侵入者の一人を撃退することに成功したのだった。

 

 

しかし今後横島は、ボーダーの女性陣に更に警戒されることになる。

横島のサイドエフェクトは、トリオン体だろうが巧妙に偽装してようが、触れた女性のスリーサイズが正確にわかるという噂が一気に広がったのだ。

女性陣は戦々恐々とする、ランク戦中でも油断できないと、横島に触れるな近づくな見られるなと、ますます女性陣に嫌われる横島だった。

 





ガロプラ侵攻も終わりに近づいてます。
今回は、那須ちゃんとくまちゃんが横島と絡みましたが、今度は誰とからむのか……。


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その9、本能8割、理性2割って誰の事だよ!

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

前回のアンケート途中結果です。
横島との絡みを見て言見たい女性隊員。
1位木虎藍
2位黒江双葉
3位加古望
4位香取葉子
1位と2位はほぼ同票。
年下の中学生との絡み。
横島くんはどう反応するのだろうか?


ボーダー本部に侵入したネイバーフッドガロプラの女性軍人ウェン・ソーを那須玲、熊谷友子と横島の即席チームはほぼ無傷で見事撤退に追い込んだ。

 

その頃、ボーダー本部の遠征艇を破壊すべく一路、格納庫へ向かった、ガロプラの遠征侵攻部隊の隊長ガトリンと隊員ラタリコフは、待ち構えるボーダーの精鋭4人と対峙。

ボーダーの精鋭は個人総合1位でありナンバーワンアタッカーA級1位太刀川隊隊長太刀川慶、ランク戦こそ出場していないが、ボーダーで4人しかいない1人1部隊扱いをされるボーダーアタッカー最強格A級玉狛第一木崎隊隊員小南桐絵、個人総合3位アタッカー2位A級3位風間隊隊長風間蒼也、アタッカー4位B級鈴鳴第一来馬隊隊員村上鋼。

激闘の末、ボーダーの精鋭4人は、ガロプラの侵入者二人を見事倒し、ベイルアウトによる撤退をさせる。

 

さらに、ボーダー外周部でも激戦が繰り広げていたが、迅やA級隊員の活躍により、撤退させる事に成功し、ガロプラによるボーダー本部襲撃はボーダー側の勝利で終息に至った。

 

そして、玉狛支部で身柄を預かっていたアフトクラトルの捕虜、ヒュースがアフトクラトルの属国であるガロプラのネイバー レギンデッツに接触し、自分をアフトクラトルまで送る様に要求するが、拒否をされるどころか命を狙われる羽目に。

アフトクラトルにヒュースは見捨てられた事をレギンデッツの口から聞かされる。

アフトクラトルに帰り直接見捨てられた真相を知りたいヒュースは、迅にアフトクラトルに帰る手段としてボーダーに入り、遠征に参加するように説得される。

確かに遠征に参加することで、ネイバーフッドに行くことが可能になるし、アフトクラトルに直接行ける可能性もある。だが、問題はボーダー本部がすんなりとそれに応じるかだった。

後日、迅や三雲修等の尽力により、ボーダー本部を動かし、ヒュースは遠征の水先案内人としての役割を条件にボーダー入りを果たす。しかし、遠征に参加するためには正規の手続きを踏む必要があった。これも迅の策略の一部だったのだが、玉狛第二三雲隊に加入し、B級ランク2位を目指せと。

 

 

話を戻す。

街に被害をほとんど出さずにガロプラを撤退させる事に成功し、その日予定通りB級ランク戦夜の部が開催される。

そこで、三雲修はA級嵐山隊木虎藍に学んだスパイダーと横島の落とし穴トラップを参考にしたワイヤー戦術を繰り出し、三雲隊が見事勝利を収めるのだった。

 

 

 

その日の夜。

迅は一人、本部長の忍田真史にボーダー本部本部長室に呼ばれる。

応接室には忍田と本部長補佐の沢村響子が座っていた。

 

「迅、ガロプラの侵攻を撃退する事が出来たが、未来視ではどのぐらいの出来だったのだろうか?」

忍田は迅に、サイドエフェクト未来予知で見えた分岐した未来の中で、今回の撃退劇はどのくらいの出来だったのかを聞いたのだ。

 

「そうですね。かなりいいですね。1、2番ってところですか、まあ、それも今後の展開しだいでもあるんですがね」

どうやら、迅が見えた未来の中でも、今回の出来は1、2番を争う程の物だったようだ。

但し、迅の言う1、2番とはボーダーにとってというよりも玉狛支部にとってという意味合いだった。

 

「そうか、ところで迅、問題の横島なのだが」

 

「聞いてますよ。那須隊の二人とで、ガロプラのネイバーの一人を撤退に追い込んだんでしょ?」

 

「そうだ。戦闘ログを詳しく解析したのだが……評価に困る」

 

「困るって何がですか?」

 

「一見ふざけた行動のように見えるのだが、無傷で敵ネイバーを捕らえるための行動のように思える」

忍田は横島と那須玲、熊谷友子とウェン・ソーの戦いの映像記録を見ていたのだ。

幸い、本部内での戦いだったため、トリオン体の記録ログだけでなく、多方面の映像も入手できたのだ。

一緒に検討していた沢村からすれば、横島の行動はふざけているとしか言いようがなかったが、忍田は違う印象を受けていたのだ。

 

「さすが忍田さん」

 

忍田は映像をタブレットで広げながら、そう感じた理由を迅に語りだす。

「奴はネイバーとの会話一つとっても絶妙なタイミングで行っている。那須と熊谷を援護しつつ、会話をしながら相手の情報を探り、さらに相手の戦力を削るだけでなく、相手の行動をも封殺してみせている。那須を助けるタイミングにあのスピードは異常だ。トラッパーのワープかと那須と熊谷は勘違いしただろうが、あれは横島自身のスピードだ。その後の敵との接触と会話は情報収集とトラップを設置するための時間稼ぎ、そして、そのトラップは相手の戦力を落とすだけでなく行動も制限させ、相手の動きすらもコントロールしていた。相手の切り札だろう分身はどうやったのかは分からないが、正確に本体の位置を把握し拘束に至っている。しかも相手の戦意を喪失させながらだ。熊谷の邪魔が入らなければ確実に拘束していただろう」

横島の先の戦いは普通に見ればセクハラばかりしていて、まともに戦う気があるのか疑うレベルではあるが、忍田の分析では横島のその時々の行動の結果を詳しく追って行くと、有利に戦闘を進め、戦闘自体をコントロールしているかのように見えたのだ。

 

「俺も横島から詳しくは聞いてませんが、たぶんそんな感じなんでしょう。まあ、本能8割で理性2割って感じでしょうが、それに俺が横島のオペレーターをやってる理由の一つに、今のオペレーターでは横島を扱えない。もっというと横島の行動の理解が出来ずに邪魔になる可能性もある。あいつはああ見えて頭がかなり切れますよ」

 

「やはり、そうか」

 

「ただ、忍田さんの分析で一つ間違ってる事があります。きっと、くまちゃん…熊谷隊員の邪魔も横島のシナリオの一つかもしれませんよ。だから、彼女を余り責めないでやってください。あいつと連携できるなんて奴は普通いませんから、逆によくやってる方でしょう」

迅の言葉はもっともだった。

確かに横島と真面に連携が取れるのは元の世界の仲間の美神令子やキヌぐらいだろう。

 

「とんでもない奴だ。確かに横島を扱える人材はなかなかいないだろう」

忍田は迅の言葉に納得していた。

 

「…………」

沢村響子は、最初は忍田の考えすぎではないかと、心身とも疲れがたまっているせいではないかと心配していたのだが、忍田と迅の会話を聞いているうちに徐々に顔が青ざめていた。

あの横島のだらしないニヤケ顔の裏には何があるのかと……。

 

「横島は元々ここ(この世界)の人間ではない。ボーダーに牙を向くような事があるかもしれん。迅、それで横島の監視の意味も含めて、行動を共にしているのか?」

忍田が警戒するのも致し方が無い。

横島は平行世界の人間で、さらにこれ程の能力を隠し持っていたのだ。

怪しいにも程がある。

ボーダーの責任ある立場としては警戒して当然だろう。

 

「あははははっ、違いますよ忍田さん。前にも言いましたよね。横島が関わった未来は皆笑顔だと。まあ、ボーダー本部にはあまりいい印象を持っていないでしょうが、ボーダーの皆に手を上げるなんてことはあり得ない。それに俺はあいつを気に入ってるんですよ。つるんでて、素で居られるような奴何なんですよ」

迅は忍田にあり得ないと笑いながら一蹴する。

 

「その言葉、信じよう。横島の事は迅に任す。熊谷については考慮する」

 

「助かります」

 

「だが、城戸司令がどう見るかはわからん。風紀を著しく乱していると、横島を排除する可能性もある。やんちゃが過ぎない様に横島に言い含めてやってくれ」

 

「それが一番の難問かな」

迅は横島のセクハラ行為を制御するのは難しいだろうと思い苦笑するしかなかった。

 




ストック切れですね。
次の土日にまた、書き溜めしますね。
次回はたぶん、ボーダーに顔だし時の横島編かな?


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その10、どんな競技でも腰は重要だ!

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

続きです。


この日、三雲修と空閑遊真と雨取千佳はアフトクラトルの捕虜ヒュースの入隊許可を得るためにヒュース本人を連れ、ボーダー本部上層部に交渉に向かっていた。

 

その頃、横島は……

ランキング戦も無いのにボーダー本部に向かう。

しかも、鼻歌交じりのスキップを踏みながら。

 

今日の朝、横島の元にボーダー隊員専用の情報端末にあるメールが届いたのだ。

内容はこうだ。

(横島先輩へ、話したい事があるから一人でここに来てください。 細井真織)

 

デレデレの顔でボーダー本部の通路をスキップする横島。

時々立ち止まって雄叫びを上げる。

「ふふん、ふふん、真織ちゃんか~、どんな子なんだろう!きっと奥ゆかしい子なんだろう。わざわざ一人でって!や、やっぱり告白か!!つつつ遂に!人生初のモテ期到来か!?ふはははははっ!!長かった!!人類にとって小さな一歩だが、この横島の大いなる一歩となるだろう!!ほんと生きててよかったっ!!」

今の横島にモテ期なんてものはないだろう。

この瞬間も、横島を見かけたボーダー女性隊員は駆け足で逃げていく。

横島の歩く半径20m以内に女性の影すら見えない。

そう、横島が先日のガロプラのネイバーウェン・ソーとの戦いで、口から出まかせで語った触れた女性のスリーサイズが正確にわかるという最低なサイドエフェクトを所持しているという噂が、実しやかにボーダー中隅々まで広がっているのだ。

横島の女性好感度はただでさえ最底辺なのに、もはやマイナス値に振り切れていた。

 

そんな事もお構いなしに、メールの主が指定したボーダーのとある隊の作戦室に向かう。

部屋の前まで到着すると入口の自動扉が開かれる。

「真織ちゃーーん、横島が来たよーーー!!」

横島は勢いよく、作戦室の中に入る。

 

「生駒隊のオペレーター細井真織です。横島さん、来てくれてありがとう」

そこにはボーダーのオペレータ―服を着たツンツンしたショートヘアの元気良さそうな少女が待ち構えていて関西弁で自己紹介をする。

 

「真織ちゃん!!前世から好きでした!!」

横島は真織に詰め寄り、両手を差し出して握手をしようとするが……

 

「そんなんええから、さっそくやけどこっちの席に座ってくれへん?」

真織はそんな横島の行動をあっさりスルーして、隣のブースの椅子に座る様に促す。

細井真織(17歳)現在B級3位生駒隊のオペレーターにして兵庫県出身の関西弁女子。

関西人だけあって、横島のこの激しいノリも難なくかわす事が出来るようだ。

まあ、癖が強すぎる生駒隊を導くにはこれぐらい出来ないとやっていけないのだろう。

 

横島は真織に促され、隣のブースにある手前の椅子に座るが……

「あれ?……」

 

そこには4人の男共が大きなテーブルを挟んで座り、横島に注目する。

「よう来たな。生駒隊隊長の生駒達人や」

生駒隊隊長、生駒達人(19歳)京都出身のアタッカー、弧月のオプショントリガーで攻撃時に瞬間的に刀身を伸ばす『旋空』の使い手、旋空は通常15m程度伸ばし使用するが、彼は40mの射程を可能とし、その能力から生駒旋空とも呼ばれていた。

見た目は硬派な堅物のイメージだが、関西人のノリのマイペースな性格をしている。

「水上や、同じ関西人同士よろしく」

生駒隊隊員、水上敏志(18歳)大阪出身のシューター、マイペースの生駒に代わって司令塔の役割をし、さらに生駒のボケに対しての突っ込み役でもある。もさもさ頭の三白眼高校生。

「隠岐孝二です。よろしく」

生駒隊隊員、隠岐孝二(17歳)大阪出身のスナイパー、もっさり髪のイケメンスナイパー。

スナイパーで唯一のグラスホッパー使い。機動型狙撃手の名は伊達ではない。

「横島先輩、ちーっす」

生駒隊隊員、南沢海(16歳)生駒隊唯一の三門市出身のアタッカー、お調子者の金髪少年。

関西出身のアクの強いメンバーに負けず劣らずノリがいい。

南沢海だけは、横島と面識があるようだ。

 

「……どういうことでせう?」

横島はてっきり、今から真織とイチャコラできるものだと思っていたのだが、目の前には横島を待ち構えていた男共4人。

 

そこに真織が海の横の席に座り……

「ほな、始めよか」

 

「……ま、まさか美人局(つつもたせ)!?モテたのと思ったのに!!モテたと思ったのにーーーっ!!!!こんなこったと思ったぁ!!!!」

横島は血の涙をまき散らし喚き散らす。

美人局とは、男女が共謀して、女がターゲットの男を誘惑して、引き連れておきながら、男が待ち構えて「誰の女に手を出してんねん」と因縁をつけて、ターゲットの男から金品を巻き上げたりする事である。

この状況でこんな発想するのは、横島らしいと言えば横島らしい。

 

「おもろい奴やな」

「いこさん(生駒)と同類って奴やね」

「そうですね」

「でしょでしょ?」

生駒、水上、隠岐、南沢はそんな横島の様子を見て、呆れるどころか、好感をもった様だ。

 

「はぁ?美人局?何言ってんの?ありえへんし、そんな事よりも、横島さんに聞きたいことあるんよ」

真織は横島に冷静に突っ込んだ後、こう切り出した。

 

「シクシクシク……モテたと思ったのに!!」

今の横島に真織の声は届いていなかった。

 

「……はぁ、ありえへん。まあええわ。次の対戦相手三雲隊やから、知ってる事洗いざらい話してもらおうかと……まあ、敵に仲間売るなんてありえへんけど、いこさんが珍しく自分から敵の情報を知りたい言うから……」

どうやら玉狛支部に出入りしている横島から、三雲隊について情報を得ようという魂胆だったようだ。

 

「うん?俺、そんな事言うた?」

生駒は真顔で首を傾げる。

 

「はぁ?昨日言うてた!」

真織は呆れ気味に半ギレ。

確かに昨日、生駒は真織に横島から情報を聞きたいから呼び出してくれと頼んだのだが……

 

「そんな事よりも、横島お前のサイドエフェクト最高や。男のロマンが詰まってる!」

生駒は真織の抗議をスルーし、曇りない真剣な表情で横島の両肩をガシッと掴みこんな事を言い出した。

残りの男連中はその言葉にうんうんと頷いていた。

どうやら生駒は横島のサイドエフェクトに興味があって、真織に横島を呼び出すよう言ったようだ。生駒は何時も言葉足らずのため、真織は勝手に生駒の言葉を察し、次のランク戦で戦う三雲隊の情報を得るために横島を呼ぶと勘違いしたのだ。

 

因みに横島のサイドエフェクトとは勿論、触れた女性のスリーサイズが分かるという代物だ。

但し、横島はギャグのつもりだったのだが、今じゃそれが真実かのようにボーダー中に広がっていた。

 

(何言ってるん?こいつらアホちゃうか?)

真織は冷めた目で男連中を見据え、心の中で毒づいていた。

 

「はいはーい!横島先輩!俺、国近先輩のスリーサイズが知りたいです!」

「ストレートやな海、だがその選択悪くない」

南沢海は水上敏志が言う通りどストレートな質問を恥ずかしげもなく横島にする。

他の面々はそんな海の質問に大きく頷いていた。

 

今迄、ショックでモテたと思ったにと繰り返すだけの横島だったが、その話に耳が動く。

 

「じゃあ、いこさんは誰のが知りたい?」

南沢は調子よく今度は生駒に質問をする。

 

だが……生駒は

「疑問に思ったんやけど、スリーサイズってなんで胸腰尻なん?」

真面目顔でこんな疑問を口に出す。

 

「いこさん、何言ってんのか意味がわからんのやけど」

水上のいつもの突っ込みがはいる。

 

「女の子の好きな部分って普通、胸や尻やろ?腰が好きって奴いる?自分らは女の子の身体のどこが好きなん?」

「俺は断然尻派っすね」

「はい、はーい!やっぱりおっぱいがいいでーす!」

生駒は訳が分からない講釈を垂れだし、それに水上と南沢が答える。

 

「隠岐はどうないなん?」

「俺ですか?うーん、どうやろ、胸も尻もええですけど、太もももええですわ」

「やろ?腰は入ってへん、イケメンの隠岐が言うんや、間違いない。胸や尻は大きい方がええけど、腰は細い方がええとか仲間はずれやんかそれ。そやったら、太もももむっちり太い方がええから、スリーサイズは胸尻太ももでええやん」

生駒は隠岐に質問し、最終的にこんなとんでもない答えを導き出してきた。

 

「そう言われるとそんな気が……」

「うーん」

「確かに」

水上、南沢、隠岐の三人は生駒の結論に何故か納得しかけていた。

 

それを黙って聞いていた真織は心の中で……

(男ってどいつもこいつもアホやろ。それに女の私もここにおるのに、何の話をしとんねん。もしかして私を女扱いしてないんかい!)

こんな叫びをあげていた。

 

ここで

「ちがーーーーーう!何を言ってる貴様ら!確かに乳尻太ももは三種の神器に違いない!だがスリーサイズは乳腰尻でこそ意味がある!」

今迄、落ち込んでいた横島が復活し、雄叫びを上げだす。

 

「腰が真ん中にあるから乳と尻が引き立てられるのだ!引き締まった腰が無ければ乳も尻の良さも半減以下、いやほぼ無いと言っていいだろう!!もし、乳と尻がでかくても腰が乳と尻よりも大きい添(北添尋)の様にドラえもん体型だったらどうする!!」

横島はこんなくだらない事を目を充血させながら力説していた。

 

「さ、流石になえるな」

「……なるほど」

「えーー、添さんの様な女の子?」

水上、隠岐、南沢は横島の力説に押される。

 

だが生駒だけは……

「添が女の子に?うーん、かわいいやん」

こんな事を言い出す。

 

「いこさんは女の子だったら誰でもかわいい言うし」

水上は苦笑気味に突っ込みを入れる。

 

それを聞いていた真織は……

(私は言われた事ないんやけど)

と心の中で突っ込む。

 

「いこさん、まりお(真織のあだ名)が私はかわいい言われた事ないって顔してますよ」

何故か隠岐は、真織の心を読んだかのようにこんな事を言い出す。

 

「まりおちゃんもかわいいで!」

「まりおかわいいな」

「まりお先輩かわいいっす」

それを聞いた生駒、水上、南沢が真織にかわいいと連呼しだす。

 

「うわっ、きもっ!!きっっもっ!!」

真織は照れ隠しなのだろう顔を真っ赤にして皆にそう叫ぶ。

 

ここでさらに力説を解く横島!

「そう、真織ちゃんはかわいい!!それは当然の事!!バスト83のCカップ、ウエスト61、ヒップ80!!理想的な体をしているからだ!!それを引き立てているのは間違いなくウエスト61!!これが太いのは勿論、細すぎてもダメだ!!ウエストが程よく引き締まってるのが重要なのだ!!ラーメンで言う乳と尻は麺とチャーシュー、ウエストはスープだ!ドラゴンボールで言う乳と尻が悟空とベジータなら、ウエストはクリリン。クリリンのような引き立て役が居なければ、悟空とベジータがどれだけ強いのかもわからないだろう!!」

 

「なるほど、流石は俺が見込んだ男、横島や」

「わかってくれたか」

生駒は横島とがっしり握手を交わす。どうやらこの横島の変態理論に納得したようだ。

 

「さすがは横島、俺達では出来ない事をサラッと言ってのける!」

「凄いサイドエフェクトだ。なるほど、まりおは83・61・80と」

「横島先輩!いや、師匠って呼んでいいい!?」

水上、隠岐、南沢も横島を絶賛する始末。

 

「こらーーー!!横島―――――っ!!何、人のプライバシーさらしとんねん!!!」

顔を真っ赤にして横島にそこにあった座布団を投げつける。

まあ、勝手に女子のスリーサイズを本人の前で男子に語るのは思春期男女間ルール違反もいい所だ。

 

横島は、顔を真っ赤にし涙目の真織にそこら中の物を投げつけられながら、生駒隊の作戦室から追い出される。

当然の結果である。

 

 

横島はこの後も、太刀川隊の出水や三輪隊の米谷に捕まったりと、男連中に引っ張りだことなる。

勿論横島のでっち上げのとんでもサイドエフェクトの事である。

女性陣にはゴキブリの様に嫌われるが、男連中には人気者に。

横島としては全く嬉しくない事なのだが、これも元の世界でもこの平行世界でも同じであった。

 

 

その頃、三雲修達はボーダー上層部との交渉を終わらせ帰路に付いていた。

条件付きではあったが何とかヒュースを隊に入れる了承を取り付けたのだった。

 




えっと、次はランク戦は第6戦だったかな?
そういえば第三期が始まりますね。


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その11、お嬢様学校に行こう!前

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は本筋からちょっと離れた。
こんなお話になってます。



星輪女学院

三門市外れ、隣接2市と接し、昭和初期からこの地にある中高一貫のお嬢様学校だ。

凡そ全校生徒600人。

ボーダー提携の学校ではないが、ここにも数人のボーダー隊員が在学している。

2年A組小南桐絵、那須玲、実は桐絵と玲は同じクラスだった。

桐絵はボーダーや玉狛支部に居る時とは違い、学校では猫をかぶりお嬢様風に装っている。

さらに1年B組にはB級柿崎隊のオールラウンダー三つ編み真面目美少女照屋文香。

中等部3年にA級嵐山隊のオールラウンダーツンケン真面目美少女木虎藍。

4人在籍していたのだ。

実は桐絵はああ見えて勉強は出来るのだ。勉強は……頭の中はお花畑なだけで……。

 

 

そんな星輪女学院に突如として危険が迫る。

ネイバーが現れたのではない。テロリストに占拠されたのだ。

桐絵や玲、照屋文香に木虎藍はボーダーの中でもやり手の戦闘員だ。

トリガーも普段から携帯しているため、対処も可能に思われたがトリガーを使う間も無く拘束される。

テロリストの目的の一つはこの4人だった。

桐絵と玲は、桐絵は抵抗していたが、玲が人質に取られ拘束される。

照屋文香も木虎藍もトリガーを使う間もなく、拘束されたのだ。

トリガーが無ければ彼女らも普通の女子学生だ。

だが、テロリスト達は、目的の人物を、しかもトリガーを使う間も与えず素早く押さえる手際から、かなり訓練された兵士達だと分かる。

実際、テロリストに偽装した某大国の特殊部隊だった。

目的はトリガーとトリガーを扱う人間の拉致。

トリガーに関する技術は現在、ボーダーが独占し、日本国でもその詳細な実態を知らされていなかった。

トリガー技術は軍事力としても破格な能力である事に世界各国は注目している。

何せ、トリオン体には通常の銃弾は効果が無く、対戦車ライフルさえ無効化しえるのだ。

そして、あの攻撃力に人間離れした身体能力。

ボーダー隊員一人がトマホーク1機分並みの価値、A級上位となるとそれ以上ともいわれる。ボーダー全体の戦力は国の一個師団以上の力を持っているとされていた。

トリガー技術はどこの国も喉から手が出る程欲していたのだ。

 

今迄もこんな事が数度あったが、ここまで本格的なのは今回が初めてだ。

これまで抑えられていたのはボーダー幹部の外部・営業部長の唐沢克己の高い交渉能力のお陰でもあった。

 

 

今回のテロ、表向きはお嬢様学校の生徒の保護者から金を巻き上げるためと称しているが、明らかにボーダーに対しての何らかの要求を行うためのテロだと誰が見てもわかるだろう。

 

ボーダーは事件発覚後、即対策を練り始めるが、ここぞとばかりに国や自衛隊などが介入を画策してくるため、その対応にも追われる始末。

迅はそんな状況に先行偵察と称し、頼れる相棒を引き連れて現場である星輪女学院へと向かったのだった。

 

 

 

「桐絵ちゃん、ごめんなさい。私のせいで……」

「大丈夫よ玲、照屋も木虎ちゃんも、きっとボーダーの皆が助けに来てくれるわよ」

「そうです。きって来てくれます」

「………」

玲と桐絵、照屋文香、木虎藍は、校舎3階のコンピュータ室に囚われていた。

全員、後ろ手に手錠を嵌められ、部屋の中央に座らされている。

目の前にはテロリストを装った武装した精鋭兵士が二人、銃を構え4人を監視している。

窓はあるが、カーテンが閉められており、外の様子は分からない。

 

他の生徒や教職員凡そ600人は体育館と大講義室の2か所に押し込められ人質として囚われていた。

 

しばらくして……

『パラパラパー、パッパラパーーー!』

何故かトランペットの音色が学内に鳴り響く。

 

「女子高生の皆さん、私がボーダーきってのエース横島忠夫です!お困りの事があれば何でも僕に相談してください!!」

校舎の屋上に立ち、爽やかな笑顔を振りまき、高校の学ラン姿の横島がトランペット片手に拡声機を使ってこんなとんでもない時にナンパまがいな自己紹介を行ったのだ。

勿論、女子高生達にアピールするためにこんな事を仕出かしたのだ。

しかも、今現在絶賛お困り中の女子高生達に向かって、無神経にも程がある。

 

その声は、囚われの4人にも聞こえてくる。

「ったく、あいつは何をやってるのよ!!ボーダーの恥をさらすな!!」

「横島さん……」

「え?何?横島さんって、あのトラッパーの?」

「………」

桐絵はそんなアホな横島の言動に突っ込み、玲は横島が来てくれた事に何故かほっとし、文香は何が何だか分からないと言った風、木虎に関しては呆れて言葉も出ないようだ。

 

 

「あれ?女子高生の皆はどこ?うわっち!!なんで銃が!?あれ?おわーーーーーっ!!ギャーーーース!!?お助け―――――!!」

銃声と共に横島の雄たけびが拡声器越しに届いてくる

横島は今この星輪女学院で何が起こっているのか把握していないかのようだ。

 

「あ、あいつ大丈夫かしら?」

「横島さん……」

「え?……」

「………」

さすがの桐絵も横島の心配をし、玲も横島の安否が気になって仕方がないと言った風だ。

文香は横島が銃に撃たれて死んだんじゃないかと青ざめ、藍も何れ自分達もそうなる可能性がある事に気が沈む。

 

 

だが、しばらくして。

「何にも知らんかったんやーーー!!かんにんやーーー!!ちょっとした出来心やったんやーーー!!だからボーダー関係ないんやーーー!!」

こんな横島の泣き叫ぶ声が桐絵たちに廊下越しに聞こえてくる。

横島が無事である事に桐絵も玲もホッとする。

 

そして、

「おわっち!!」

横島は桐絵たちが囚われているコンピュータ室に、兵士に蹴り飛ばされ放り込まれるが……

 

「ななななにやってるの横島!あんた何でそんな恰好なのよ!!」

「きゃっ!?横島さん?」

「え?ええ?な何?」

「……きゃ!?」

桐絵は顔を真っ赤にし、玲はほのかに顔を赤らめ、文香は何が起こってるのかわからず混乱、藍も顔を赤くして珍しく可愛らしい声を上げていた。

横島は顔が変わる程ボコボコにされてはいたが、皆が驚いたのはそこじゃない。

パンツ一丁だったのだ!

 

まあ、怪しい奴な上に、ボーダーを名乗っていたため、トリガーや通信機等を持っていないか身ぐるみをはがされたというのが経緯なのだが……。

あの銃声の中、よく銃弾一つ浴びずに生きて居られたものだ。

 

「そいつをあっちの柱にでも括っておけ、トリガーも通信機も持っていなかった。奴ら(ボーダー)の使いか斥候かと思ったが唯のバカだった。ボーダーの隊員リストに載っていた奴だ、こいつも拘束しておく」

横島を連れて来た兵士が、桐絵たちを監視している兵士にそう命令し、部屋を後にする。

 

兵士の一人が横島を桐絵たちから5m程離れた柱に縄でぐるぐる巻きにして縛り付ける。

 

「あはははっ、あれ?皆も捕まっちゃった?」

青白の縦縞トランクス一丁で傷だらけの横島は、括られたまま皆にこんな感じの軽い挨拶をする。

 

「ななななな、なんで裸なのよ!助けに来たんじゃないの!!」

「よ、横島さん。大丈夫なんですか?」

「その、あの」

「………ん」

桐絵はどうやら横島が裸のまま助けに来たと思ったらしい、玲は恥ずかしそうにパンツ一丁の横島をチラッと見、気遣う。

文香はこの状況に混乱したまま、藍は半裸の横島を直視できずに目を瞑る。

 

「静かにしろ」

監視の兵士の一人が横島の眉間に銃口を当て、もう一人は4人に銃口を向ける。

 

 

しばらく、コンピュータ室に沈黙が訪れるが……。

横島は監視の目がこちらに向いていない時に、足をヨガか何かのようにくねらせ、体を括っているロープを足の指を使って器用に解こうとしていた。

監視の目が横島に向くと同時にその行動をピタと収め、まるでだるまさんが転んだかのような感じで行っていたのだ。

 

傍から見ればギャグにしか見えない。

桐絵は横島の真似をしようと足を上げてみるが、勿論無理だった。

玲は横島の行動がバレないかはらはらする。

文香も玲と同じくはらはらと見ていた。

藍は「ぷっ!?」

横島の行動が滑稽に映ったのか、つい笑いが漏れる。

 

その様子に兵の一人が訝し気に思い、横島に銃口を向け。

「お前、何かやっているのか?おかしな行動をとるなよ」

「いや~背中がかゆくて、このロープ緩めてくれないっすか?」

「ふん、我慢しろ!」

どうやら、横島がロープを解こうとしたことがバレずに済んだようだ。

 

 

また、しばらくすると……

「交代の時間だってさ」

ひと際図体がでかい兵士が現れ、監視の兵士二人にこう告げた。

 

「もう一人の奴はどうした?二人一組だといわれなかったか?」

監視の兵士の一人が訝し気にその図体のデカい兵士に少々キツメに問いかける。

 

「トイレだ。なんか漏れそうとか言ってな、けへへへへ、腹でも壊したんじゃねーの、待ってるのが面倒くさいから、俺は先に来ただけ。うんこが終われば直ぐに来るんじゃね?」

 

「ふ~、何故こんな繊細な作戦にこいつを呼んだんだ?言っておくが、サボるなよ。それと人質に手を出すな。わかったな」

 

「へいへい、わーってるよ。会議なんだろ?さっさと行った方がいいんじゃね」

この兵士、見るからに素行が悪そうだ。

仲間内からもそう言う認識の様だ。

 

「仕方がないか」

そう言って、先ほどまで監視していた兵士二人はコンピュータ室から出て行き、素行の悪そうな図体がでかい兵士はズカズカと部屋に悪態をつきながら入って来る。

「気取りやがって、今度、後ろから撃ってやろうか」

 

 

「ん?ガキだと聞いていたが、一人上玉がいるじゃねーか」

素行の悪い兵士は、そう言って人質となった4人に近づき、玲の前でしゃがみ、顔を覗き込む。

確かに4人とも美少女ではあるが、玲以外は子供っぽさが抜けていない。

玲は同じ世代の女子の中でも大人びた顔立ちをしていた。

 

「………」

「ちょ、あんた何!?」

玲はビクッと肩を震わせ、桐絵はその行為に文句を言おうとする。

 

「よー、姉ちゃん。暇だし遊ばねーか?勿論大人の遊びだけどな……げへへへへ」

そう言って、素行の悪い兵士は玲の顎に手をかけ、顔を上げさせ、下卑た笑みで玲の顔をなめるように見つめる。

 

「うっ……」

「玲に触るな!!」

玲は顔を顰め、桐絵は叫ぶ。

 

そして素行の悪い兵士の手は玲の肩に伸びようとしていた。

だが突然、素行の悪い兵士と玲の間に影が走る。

 

「おっさん、玲ちゃんに何をするつもりだ!?」

何時の間にか横島が現れ、素行の悪い兵士の鼻の穴に指二本突っ込み、そのまま持ち上げていたのだ。

横島の口調は軽いものの、その目は真剣そのものだった。

 

「え?なに?」

「よ、横島さん……」

桐絵は一瞬の事で理解が追い付かない。横島が急にその場に現れたかのように目に映ったのだ。玲も一瞬何が起きたかわからなかったが、目の前の背中が横島だという事だけは理解出来た。

他の二人もこの状況に驚きを隠せない。

 

「ふごごおご、おおお前いつの間に!?ほ、ほのーーーやろーーー!!」

当の素行の悪い兵士も何が起きたかわからなかったのだが、苦し気に銃を腰のホルスターから抜き、目の前の横島に撃とうとする。

 

だが、横島は兵士が銃を抜く前にすかさず頭突きをかました。

「ふん!」

 

「ぐぼっはっ!?」

横島の頭突きで素行の悪い兵士は鼻血を出しながら、白目を剥いてその巨体は崩れるように倒れた。

 

「ふっ、玲ちゃん大丈夫だった?」

横島は兵士の鼻に突っ込んでいた指をその兵士の服で拭いてから、兵士が装備していたコンバットナイフを奪い、玲の縄を切る。

 

「……横島さんありがとう……でも」

玲は涙目でお礼を言うが、顔を赤らめ視線を横に逸らす。

 

「えっと、修の友達の木虎ちゃんだっけ」

「友達じゃないです。……その助けてくれてありがとうございます」

横島は次に藍の縄を切り、気恥しそうに視線を逸らしながら礼を言う。

 

「三つ編みが似合う照屋文香ちゃん、僕!横島、よろしく!!こんな所じゃなかったら、喫茶店にお誘いしてました!!だから後日で!!」

「え?ええ?あの、その……ありがとうございます」

そして、文香にはナンパをしながら縄を切る。

文香は戸惑いながらも視線をずらし、礼を言う。

 

「あんた場所を弁えろ!!早く私の縄も切れ!!」

「小南、しーーーっ。大声出すなって、……ふう、外に漏れてないよな」

「ご、ごめん。でも助かったわ……」

最後に小南に突っ込みを入れられながら縄を切る横島。

 

「ふぅ、みんな無事でよかった」

横島はニカっとした笑顔を皆に向ける。

実は横島は迅と共に皆を助けるためにここに来た、囚われの4人の状況を探り、又は助けるために、ワザと目立ち捕まったのだ。

途中経過はさておき、横島はヒーローの様に美少女のピンチを華麗に救ってみせたのだ。

間違いなく男としてかっこいい場面である。

 

だが、小南はある一点を指摘する。

「ととところであんた何でパンツ一丁なのよ……なな何かの作戦なの?」

そう、横島はパンツ一丁なのだ。皆は横島の姿を直視できず、礼を言う時も視線を逸らしていたのだ。

 

「……あれ?」

かっこよく美少女たちを救っても、しまらない横島。

きっとギャグの神様は彼をシリアスのヒーローにしたくはないのだろう。

 

だが、ピンチはまだ続く。

 




星輪女学院編は前後編で終わらせたい。


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その12、お嬢様学校に行こう!中

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

続きです。


時間を遡る。

 

迅と横島は星輪女学院がテロリストに占拠された事を知り、忍田本部長の許可を得て、先行偵察として、星輪女学院に向かったのだった。

ボーダー本部はそれ以外にもスナイパー数人を現場に向かわせ待機させる。

ボーダー本部では対策を講じようとするが、ここぞとばかりに国や自衛隊、警察などが介入しようと、やれボーダーの責任問題やら合同作戦やら、管轄問題やらと圧力をかけ、それの対処にも追われる羽目になっていたのだ。

そこで、国などの要求に一応配慮する形で、先に偵察と地域住人の安全確保という名目で、迅、横島組とスナイパー隊を送り込んだのだ。

忍田としては、国などの介入する前に、迅にその戦力で何とか先に解決してほしいという願いも込めていた。

 

迅のサイドエフェクト未来予知も万能ではない。

迅のサイドエフェクトで見えた未来予知では、星輪女学院がテロリストに占拠される可能性は非常に低く、しかもここまで大規模となるなど、確率はゼロに近かったため、見逃していたのだ。

 

「横島、星輪女学院がテロリストに占拠された。ボーダー本部は国や他の組織の介入で動きが取りづらい。俺達で何とかしないといけない状況だ」

迅は横島を大型バイクの後ろに乗せ、移動しながらヘルメット通信越しに、横島に状況と経緯を話しだす。

 

「じょ、女!子!学!いーーーん!!きたーーーーっ!!」

横島に女子高は危険な気がする。

羊の檻に狼を送り込むに等しい行為だろう。

 

「……はぁ、お前は気楽でいいよな」

 

「迅、これってテロリストの立てこもり事件なんだろ?警察とかの仕事じゃないのか?ボーダー関係あんの?それは置いといて、女子高生の皆が待ってるから、絶対行くけど!」

 

「テロリストが占拠してる星輪女学院はボーダーと提携していない学校だが、小南、那須、照屋、木虎の4人が在籍している。奴らは星輪女学院の経営陣に対し、人質交換として金品を要求しているが、目的は、トリガーと4人の拉致だろう。トリガーについては安全装置が作動し、内部情報は遮断できる。トリガー自身の構造は既に外部に漏れているが、その内部の仕組みはまでは解明できていない。何せトリオン体の理論は現代科学とは全く異なるからな。予想ではそのうち、ボーダーに技術提供を要求して来るだろう。ボーダー4人と星輪女学院生徒全員と引き換えに、もしボーダーが要求をのまなければ、4人をそのまま拉致、女学院にも大きな被害が出るだろう。その事でボーダーは市民や国民からの非難を浴び、活動は大幅に制限され、最悪ボーダーは存続できなくなる。ボーダーの解体、それも狙いにあるかもしれない。それに今回のテロはテロリストを装った大国の特殊部隊の可能性が高いと忍田さんも言っていた。余りにも動きが速いと。何処の国もトリガーの軍事利用をと考えているだろうから当然と言えば当然だが……」

迅は一気に重要な事を横島に語る。

 

「はぁ、権力争いとか政治的意図とか軍事バランスとかで、そんな事に?どこの世界でも一緒なんだな。まあ、俺には関係ないけど」

横島がいた元の世界でも同じような事が起こっていた。

しかも、神や悪魔といった高次元の存在すらも似たようなものだった。

 

「小南達はもちろん、生徒達や教職員誰一人も怪我をさせずに、迅速にテロリストを排除しなくちゃならない」

 

「小南がいるのになんでそんな事に?いっちゃなんだが、玲ちゃんもかなりの使い手だぞ。そんなあっさり捕まるか?」

横島がそう言うのも無理もない。前述通りトリオン体となったボーダー隊員にテロリスト如きが対抗できるものではない。ましてやボーダートップクラスの実力者である桐絵もいたのだ。

 

「トリガーが無ければ小南も普通の女子高生だ。それに那須ちゃん本人は病弱だ。テロリストはトリガーを使わす前に捕らえたという事だ。相手はかなりの手練れた連中ってことだな。忍田さんが言う通りテロリストを装った大国の特殊部隊の可能性は非常に高い」

迅が言う通り、忍田の予想は当たっていた。

 

「そう言う事か」

 

「横島、正直俺はテロリスト相手、要するにトリオン体ではない人間相手の戦い方なんてものは経験が浅い。何かいい案はあるか?」

 

「そうだな。現地行ってから考えるか、とりあえず状況を知らないと何にも始められないし」

 

迅と横島はそうこうしている内に星輪女学院近辺に到着する。

 

 

横島と迅は先ずは星輪女学院近辺の雑居ビルの屋上から様子を見る事にした。

横島は手の平からビー玉サイズの水晶のような物を二個生成する。

「よっと、うーん、結構テロリストって居るよな」

小さな水晶には一個には『拡』の文字がもう一個には『探』の字が浮かび上がっていた。

これは横島の霊能の究極術儀『文珠』、神の権能に匹敵する能力を持つとされている。

この珠にイメージを文字一文字に念じる事で、さまざまな事象を起こす事が出来る破格の能力だ。

横島は修行の末、最大文殊一個につき二文字を念じ込め、さらに複数を一斉に発動できるようになっていた。

今回の『拡』の文字で、横島の霊能力の一部である霊視や霊感を拡張し、『探』の文字で星輪女学院を占拠するテロリストを探知したのだ。

 

「あーあ、納品業者っぽい奴に変装してる奴もいる。テロリストは28人ってとこか、結構いるな~。おっと、小南と玲ちゃん見っけ、このかわいい子は照屋ちゃんで、こっちの子は修の友達の子だ。しっかりと監視付きか、この4人を重視してるってことは、やっぱボーダー狙いだよな」

 

「トリガー無しにそんな事までわかるのか?凄まじい能力だな」

迅は平然とこんな高度な事をやってのける横島に、かなわないなと言わんばかりに首を振る。

 

「うーん、やっぱ相手は結構慣れてる連中だ。外からの狙撃に備えてるし、人質の位置もいい。下手に狙撃したら人質もろともって感じだ」

 

「配置とかわかるか?」

迅はタブレットPCを出し、星輪女学院の校内マップを映し出し、横島にテロリストと人質の位置を確認する。

 

迅と横島は状況確認を行っていき、横島は幾つかのプランを迅に提案し、一番良さそうな作戦を横島が勧める。

「というわけでこんな感じで俺が内部に潜入して、小南達を救出するのが先決かな」

「ボーダー本部には警察や自衛隊が動かない様に抑えてもらうが、それ程時間は稼げないだろう。ボーダーの人員もこちらに回せる人数も少ない。スナイパーの人数がもう少し欲しいところだが、俺の方でこれは何とかする」

「内部かく乱は任せろ、そういうの超得意」

「校舎の外の連中はスナイパーで一掃、体育館の人質解放は俺とスナイパー二人いれば何とかなりそうだ」

「じゃあ俺は、大会議室の方だな」

横島と迅は星輪女学院人質解放作戦を詰めていく。

 

「人質解放と狙撃のタイミングは合わせる必要があるが……」

「これ渡しておく、これで俺と迅はトリオン体通信と同じような念話がしばらく出来る」

「ほんと、万能だな」

横島は『念』と『話』の文字が浮かび上がった文珠を生成し、『念』の珠を飲み込み、『話』の珠を迅に渡す。

 

 

そして、作戦を実行し、横島はワザとテロリストに捕まり、小南と合流出来たのだ。

ただ、パンツ一丁なのは予想外だが……。

テロリストもまさかトリガーや装備品らしい装備など一切持っていない物凄く変な奴が切り札だとは思っていないだろう。

だが、流石は精鋭部隊、一応マニュアル通り、斥候や内部偵察の可能性を考慮し、身ぐるみを全部剥がし、確実に拘束するためにロープです巻きにまでして柱に括ったのだ。

普通であれば、何も出来ようがないのだが……。

この横島という男、ロープで縛られたり吊るされたり、括られたりする経験はマジシャンやSM男優よりも多いだろう。主に元上司(美神令子)のせいで……。

この程度の縄抜けなどこの男にとってどうという事はない。

靴紐の蝶々結びを解くのとあまり変わらないのだ。

 

 

 

横島は監視役の下衆兵士を頭突きで倒し、4人を開放した後、

「よっと、これでよし」

横島は倒した下衆兵士をテキパキとロープでぐるぐる巻きにして、兵士が持っていた銃をケツの穴に突っ込み、さらに兵士の額に変態ですとマジックでキュキュと書き、満足そうに頷く。

 

「………あんた、何でパンツのままなのよ。その兵士の服を奪っちゃえばいいじゃない」

そんな横島の様子を見て、桐絵は疑問の声を上げる。

 

「おっ?忘れてた。もう、縛っちゃったし」

どうやら、横島は自分が半裸である事を忘れていたようだ。

 

「あ、あんたの裸見たところで、ど、どうってことないんだから!」

桐絵は若干顔を赤らめながら、こんな事を言う。

いわゆるツンデレって奴だろう。

 

「横島さん、寒くないですか?これを……」

校舎は冷暖房が効いているとはいえ、今は2月中旬だ。まだ、外はかなり寒い。

玲は横島に制服のカーディガンを渡そうとする。

 

「ははははっ!大丈夫だって、それに玲ちゃんの方こそ、無理してるんじゃない」

玲はかなり病弱だ。体育の時間はほぼ休んでいるぐらいなのだ。

 

「これからどうするの?横島」

小南がそう横島に聞くと、玲は顔を赤らめながら、照屋文香、木虎藍は不安と恥ずかしさが入り混じったような表情で、半裸の横島の方を向く。

どうやら、皆もその事が聞きたかったようだ。

 

「迅が今動いてくれてる」

横島はこの一言で答える。

この一言だけで、小南や玲達は安堵の表情を浮かべる。

迅は小南にとってはもっとも頼れる仲間であり、玲達にとっては絶対的なエースだからだ。

迅だったら何とかしてくれるという思いが皆の心の中にはあるだろう。

 

「それじゃ、私達はあのむかつくテロリストを倒せばいいのね!」

何故か桐絵はこの話の流れでこう結論づけたのだ。

桐絵の中では、迅が裏で動いて、正面で戦うのは自分の役目だと、自然にそう思っていたためだ。

 

「桐絵ちゃん、私達、トリガー奪われたままだから……」

「先輩、トリガーありませんよ」

「小南先輩、それは流石に厳しいのでは」

玲は苦笑気味に、文香は真面目に、藍は呆れ気味に小南にそれぞれに突っ込まれる。

「うきーーーっ!そうだった!あいつらーーーー!!」

桐絵は両手で頭を抑え叫ぶ。

どうやらトリガーを奪われたままだった事を忘れていたようだ。

 

「小南、しーーーっ!」

横島は慌てて小南を黙らせる。

横島はこんな残念美少女である小南を他の女子とは異なる扱いをしている。

出会った当初こそセクハラを敢行していたが、小南のこの性格からかなりの年下扱いというか、元の世界の弟子であるシロ(精神年齢小学高学年)とほぼ同じ扱いであった。

 

玲も文香も慌てて小南の口を抑えに行き、藍もガムテープで小南の口を塞いでやろうかと本気で考えていた。

小南はどうやら、解放された安堵とトリガーを奪われた怒りで、テロリストに占拠されてる今の状況を忘れていたようだ。

 

すると、廊下から誰かが走って来る足音が近づいてくる。

恐らく、ここに変態と額に掛かれた下衆兵士の相方だろう。

「小南先輩が声を上げるから」

藍は桐絵に目を鋭くして注意する。

 

「ご、ごめんて。でも挽回するわよ」

桐絵は謝りながら、机を持ち上げ構え兵士がこの部屋に入ったら殴りつけるつもりだ。

相変わらずポジティブというかなんというか……

 

「ふぅ、静かに頭を伏せて……」

横島が玲達に小声で指示すると、机の物陰に皆は頭を下げ隠れる。

机を持ったまま前に出ようとするのを、藍と文香は桐絵の服の裾を引っ張り抑える。

 

 

ガラリと扉が開くと若そうな兵士が、謝りながら入って来る。どうやら小南の叫び声は聞こえていなかったようだ。

「フレッドさん、お待たせしました、いや~うんこが渋っちゃって……おわーーーーっ!!ぶっ!?」

だが、教室の扉を開き一歩踏み込んだところ、足に縄が絡まり、そのまま顔面から床に豪快に倒れる。

 

横島は入口付近の床に縄で足罠を仕掛けていたのだ。

若い兵士が片足を部屋に踏み込んだ瞬間、タイミングよく足罠の縄を引っ張り、転ばせたのだ。

「美神流緊縛術なんちって!小南~殴っていいぞ。机は死んじゃうかもしれないから、そこの箒でな!」

「OK、横島!」

「な、なんだ君たちは?何をする!?うわっ!やめっ!?」

横島は師匠であり上司である美神令子張りの縄捌きで倒れた兵士をあっという間にグルグル巻きに拘束し、小南がそこにあった箒で一撃を加えると、兵士はあっさり気絶する。

普通の女子高生ではこうもあっさり兵士を気絶させる事は出来ないだろう。

小南は頭の中はお花畑のようにふわふわだが、戦闘センスの塊のような少女だった。

 

「玲ちゃん達、もう大丈夫」

その横島の声で、机の影からこちらの様子を伺っていた玲と文香と藍は、ホッとした表情をし、横島と桐絵の元に歩む。

 

「トリガー無しで……。凄いわ横島さん」

「あっという間に……やはり凄いトラッパーなんですね」

横島のあっという間の捕縛劇に、玲は感心と尊敬の眼差しを、文香は驚きと感心の眼差しを横島に向ける。

 

但し、今も横島はパンツ一丁のままだ。

 

 

しかし……

「横島さん、あなたは何者?」

藍だけは、横島に疑いの目を向けていた。

 




なんか、上中下で終わらせたいけど、長くなりそうで怖い。
ランク戦の続きもやりたいな。


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その13、お嬢様学校に行こう!中2

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


「横島さん、あなたは何者?」

藍は横島に疑いの目を向けていた。

横島はテロリストに扮した某大国だろう特殊部隊の兵士二人を不意打ちや即席罠を使ってあっさり倒したのだ。

普通の高校生が武装した屈強?の兵士を相手に武器も使わずにあっさり捕縛できるはずがないのだ。

普段から冷静に物事を取らえてきた藍だからこそ、今日会ったばかりの横島の今迄の行動とその成果に違和感を感じ、この言葉を発したのだ。

 

「藍ちゃん……」

「………え?」

玲は藍の言わんとすることは理解出来たが、既に関わり合いを持ち横島に対する好感度が何故か高い玲にとって、横島が何者でも大した問題では無い。

文香に至っては、あまり横島に対して違和感を感じていないようだ。凄腕のトラッパーだからこれぐらい出来るかも知れない程度に思っていた。

 

「木虎ちゃん、何を言ってるの?横島は横島よ?」

桐絵は藍が言っている意図すること全く理解せず、そのままの意味にとらえ、何言ってんだこいつみたいな顔で、返事をしていた。

 

「横島星からやって来たヨコシマン!!なんちって、あは、あははははっ……ダメ?」

横島は笑って誤魔化そうとするが、藍の視線は厳しくなるばかり。

 

「ボーダーの隊員だとしても、高校生がトリガー無しにこんな事が出来るはずがない。相手はどう見てもプロなのに。しかも銃や武器を持ってる相手にこんなにあっさりと……何者ですか?……ボーダーを監視するための国か自衛隊のスパイそれともこのテロリストとは別の組織の人間……私達をどうするつもり?」

やはり誤魔化しきれなかったようだ。

だが、藍がこういうのも仕方がないだろう。

今の現状を一番客観視していたのは最年少の藍だった。

玲は横島に対してはどうしても補正が入ってしまいがちになり、文香は実は大金持ちのかなりのお嬢さまだ。少し世間に疎い所がある。

小南に関しては言うまでもない。

 

だが……

『β21定時連絡はどうした?問題でも発生したか?』

最初に横島にのされた下衆兵士の無線から定時連絡の催促の声が聞こえて来た。

玲や文香はどうしようかと慌て、藍も流石に焦り、どうしようか悩む。

 

「やばっ!?横島どうする?」

桐絵も何かいい方法を思いつかず慌てて横島に聞く。

 

その横島は白目向いて縄でぐるぐる巻きにされてる下衆兵士の腰に掛かってる無線機を手に取り、

「こちらβ21、わーってますよ。ちょっと遅れただけじゃねえっすか。問題無しっすよ。ガキの監視なんて、ったく」

横島は見事な声真似で下衆兵士になり切って応対する。

 

『β21、これは遊びじゃない。連絡を密にしろ、いいな』

どうやら、相手は違和感など全く感じていないようだ。

そこで通信が終わる。

 

「ふっ、危なかった~」

横島もほっとした表情をする。

まあ、この程度のピンチを乗り切れなければ、美神令子除霊事務所のバイトなど務まらないだろう。

 

「ナイス横島!」

「横島さん、そっくりですね」

「すごい」

 

「………やっぱり、あなたは何者なんですか?」

藍はますます横島を疑いの目を向ける。

 

「何者って言われてもな~、う~ん、アレ?」

横島は真剣に悩んでる様だ。

迅や林藤支部長や忍田本部長などのボーダー上層部からは、異世界の人間だという事は強く口止めされている以上、霊能者だという事も名乗れない。

なら、霊能者やゴーストスイーパーという肩書が無い自分は一体何者なんだと、本気で悩みだしたのだ。

 

「今はそんなもんなんだっていいわよ。次どうするのよ?横島」

桐絵は木虎にどうでもよさげにそう言って、悩みだす横島に軽く背中を叩く。

 

「………それは」

藍はそれに何か言おうとするが、今はそんな問答をする時間もない事を理解しているため、ぐっと気持ちを抑える。

 

「っと、そうだ。他の生徒達は大講義室と体育館に押し込められてて、迅とは示し合わせて解放する作戦なんだけど、とりあえずは小南達の安全確保が先で、脱出は難しいから近くの音楽室に隠れて貰っていい?」

横島は桐絵に背中を叩かれ、悩みの沼に嵌りそうだった所を脱し、次の作戦について話しだす。

 

「私は横島について行くわよ。あんな奴ら何ともないんだから!」

桐絵は両腕を組んで自信満々にそう言い切る。

 

「小南は玲ちゃん達を守ってやってくれ。小南だったら出来るだろ?」

 

「仕方が無いわね。まあいいわ。だったらちゃんと皆を助けなさいよね」

 

「まっかせなさい!この横島、女子高生を助け出す事に関しては世界一だ!!」

横島は自信満々にこう言い切る。

女子高生を助けるシチュエーションなんてものは滅多にないだろう。

何をもって世界一なのかが分からないが……

いや、助けた女子高生に罵られたり、無下に扱われたりすることに関しては世界一かもしれない。

 

 

この後、横島の先導の元、こっそりこのコンピュータ室を抜け出し、同じ階の奥側の音楽室へと進む。

途中、二か所にテロリスト達が監視カメラを配置していたが、横島はカメラに映らない様に、壁を背にカニ歩きや、しゃがみ歩きなどをしながら掻い潜る。

桐絵たちも横島の真似をしながら、何とかカメラに映らずに音楽室までたどり着く。

 

「横島、ちゃんと助けるのよ」

「横島さん気をつけて……」

「まっかせなさい!」

桐絵は相変わらずの上から目線で、玲は心配そうに横島に声をかける。

横島は桐絵達を楽器などが収納されてる音楽準備室に匿い、内側から鍵をかけさせる。

更に、外から文珠で結界を張った。

これでテロリスト達は音楽準備室に入る事も、銃器程度で攻撃したとしてもビクともしないだろう。

 

 

横島は迅と文珠による念話をしながら移動する。

(迅、小南達には音楽準備室に隠れて貰ってる。結界も張ってるから万が一テロリストにバレても小南達は安全だ)

(流石だな。こっちもレイジさんに来てもらってスナイパーの確保は出来た。体育館への狙撃準備ももうすぐで終わるだろう)

(俺はテロリストの司令室になってるだろう放送室の連中をノシてから、直ぐに大講義室へ向かう)

迅の方も女子生徒達の解放に向かって準備が整えつつあった。

 

 

 

横島が次の作戦に移ろうとしていた時、音楽準備室で桐絵達は……

「……先輩達気にならないんですか?横島先輩の事を」

藍が皆に横島の事を問いかけていた。

 

「木虎、あんた何にもわかってないわね。仲間を信じられないならボーダーやめちゃいなさい」

そんな藍を呼び捨てにし桐絵が厳しい視線と言葉を投げかける。

 

「小南先輩、お言葉ですがあの人を見てもですか?」

 

「だから、何にもわかってない甘ちゃんだって言ってるのよ。あの程度の事ならうちのボス(林藤支部長)やレイジさんだって出来るわよ。そりゃ声真似とか厳しいかもしれないけど、特殊部隊相手にだって素手で何とかするわ。あんた達は知らないだろうけど、今のボーダーの前はね。ベイルアウトもなきゃ、トリガーも今の様な高性能じゃなかったのよ。下手をすれば生身でトリオン兵を如何にかしないといけない事だってあった。それでも皆戦った。5年前の大規模侵攻の際は、皆街を守ろうと必死に戦って半数は亡くなったわ。それにボーダー設立した頃のメンバーは皆何かしら過去にあった人ばかりよ。だから横島にどんな過去があるのか見れば何となくわかるわ。普通じゃないって、でもいいじゃないそんな事。こうやって私たちのピンチに駆けつけてくれる仲間よ。それだけで十分なのよ。それにうちのボスや迅、レイジさんも信用してる。この私だって認めてる奴よ。なんか文句ある?」

桐絵は鋭い視線を向けながら、藍にこう語った。

桐絵は旧ボーダーの19人のメンバーの一人だった。

当時小学生だった桐絵はその頃から立派にボーダーの戦闘員を務めていたのだ。

その頃を知る桐絵にとって、今のボーダーの環境が如何に命の危険も少なく良好であるか、裏を返すと生ぬるい環境だという事を理解している。

桐絵は横島の過去を聞かされてはいなかったが、普段お茶らけた横島がたまに見せる雰囲気が、旧ボーダーのメンバーと重なって見えていたのだ。

 

「………それは」

藍は桐絵の話に返す言葉が見つからなかった。

 

「………」

「………」

玲や文香にも、桐絵の言葉が重くのしかかる。

 

 

音楽準備室では絶賛シリアスな展開中に……

 

「こんちは、ピザの宅配っす。あれ?扉を開けて、閉めて、開けて、閉めて、開けて閉めたら入れない!?」

新喜劇ギャグを入れながら、横島は放送室へと乗り込んでいた。

「だ、誰だ!?はっ?は、裸?」

「何でパンツ一丁なのだ!?うわーーーっ!!」

「なんだこの変態は、変態の癖に!!ぐぼっ!?」

「がはっ!?変態の癖に、強……い……」

放送室に居た4人のテロリストはあっという間に横島に縄でぐるぐる巻きのす巻きにされる。

 

 

……しかも、どうやら横島はまだパンツ一丁だったようだ。

 




もう一話でお嬢様学校編終わりです。


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その14、お嬢様学校に行こう!後

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
続きです。


(横島、ようやく準備が整った。そっちはどんな感じだ?)

(迅、放送室は抑えた。大講義室は何時でも制圧できるぞ)

(そんじゃ、仕上げと行きますか)

迅と横島は文珠による念話を通じて、体育館と大講義室に囚われている全校生徒教職員の解放作戦を開始する。

 

迅は、横島が人質となっていた小南達の救出とテロリストの指令室となっていた放送室の制圧を行っている際中、玉狛支部から木崎レイジと宇佐美栞を呼びつけ、ボーダー本部から派遣されたスナイパー4人に、ランク戦では見かける事が無いスナイパー用のサブトリガー『キャプチャー』を設定する。

『キャプチャー』とは文字通り、捕縛用のサブトリガーだ。

スナイパーの弾丸が対象者に命中すると、トリオンがキューブ状に展開し、対象者をキューブに閉じ込めるという代物だ。

要するにシールドを固定モード等で全身を囲むように使用する設定を、捕縛用に応用したものだった。

ランク戦では使用されない理由として、消費トリオンが高いのと、捕縛するぐらいなら撃破した方がいいからだ。

そんな理由で使用する機会などまずないことから、使った事がない隊員が殆どだった。

レイジと栞の救援とサブトリガーの再設定等の準備も相まって、そこそこの時間を擁していたのだ。

 

 

そして、作戦が実行される。

体育館外周や校舎屋上及び敷地内に巡回又は監視役のテロリスト達をスナイパーの『キャプチャー』狙撃により、次々と捕縛無効化。

体育館内で女子生徒達を人質に取り監視していたテロリスト6人を、迅とレイジで体育館を急襲し無効化したのだった。

あっさりとテロリスト達を制圧出来たのは、横島の文珠でブーストした霊能力で探知し続けていたお陰で、テロリストの正確な数と位置情報がリアルタイムで判明していたためであった。

 

横島は横島で大講義室では、文珠を使いテロリストを人質ごと眠らせ無効化、あっさりと制圧完了する。

テロリストをロープで拘束・捕縛したのちに、文珠『眠』を解除した。

次々と目を覚ます囚われていた女子学生たちに横島は爽やかな笑顔で……

「お嬢様方、もう大丈夫だ。悪者はボーダーナンバー1隊員のこの横島が倒した。さあ、皆でお茶でもしよう」

カッコつけながら、女子学生たちにナンパまがいのアピールをしたのだ。

 

したのだが……。

「きゃーーー!!へ……変態よ!!」

「は、裸の男!?きゃーーーー!!変質者よ!!誰かーーー!?」

「いやーーーっ!!裸の男よ――――!!?」

目を覚ました女子生徒達は横島を見て、皆金切り声を上げる。

 

「アレ?ちょ、ちょっと待って!?物を投げないで!ごばっ!?ばふーーーっ!?や、やめれーー!?げふっ!?なぜじゃーーーーーーー!?」

横島は何故か、物を投げられたり、箒で殴られたりとボコボコにされる。

 

それは当然の結果だろう。

何せ横島は今もパンツ一丁なのだから。

お嬢さま女学院のしかも皆が集まってる場で、目の前に急にパンツ一丁の男が、訳が分からない事を言いながら突然現れればこうもなるだろう。

 

 

 

 

 

横島がボコボコにされてる頃、音楽準備室で身を潜めていた桐絵達は……。

「そう言えば桐絵ちゃん。横島さんとは仲が良さそうだけど、ボーダーに入る前から知り合いなの?」

玲は前々から桐絵に聞きたくて仕方がなかった事を聞く。

 

「別に仲がいいわけじゃないわ。8カ月前、横島は元々うち(玉狛支部)のエンジニア(クローニン)とオペレーター(林藤ゆり)がスカウトしてきた奴よ。ボーダーの事も何にも知らなかったみたいだから、うち(玉狛支部)でしばらく様子を見るって感じで面倒みていたんだけど、ほんとスケベな奴で最初は困ったわよ。まあ、彼奴意外と掃除とか雑用とか得意だし器用な奴だったわ。まあ、なんだかんだと男連中とは気が合ってたし、特に迅とはね。しばらくして迅とうちのボスが説得してボーダーに入る事になったんだけど、彼奴入隊して直ぐにナンパしまくって、迅とつるんでセクハラするもんだから、早沼支部送りにされたのよ。だからボーダー本部での実績はほぼゼロだったってわけ」

横島が元々玉狛支部に居たという事実を知ってる本部の隊員はほぼ皆無だった。

ボーダーに入って早々、C級隊員のまま早沼支部に島流しにされたからだ。

今考えると、横島が早沼支部に送られたのもボーダー本部上層部が玉狛支部にこれ以上戦力を増強させないための処置だったのかもしれない。

 

「え?桐絵ちゃんは横島さんと一緒に生活していたの?」

玲は横島がボーダーに入隊した経緯よりも、こちらの方が気になるようだ。

 

「何か勘違いしてない玲?しばらく玉狛支部に彼奴が住んでたから、毎日顔を合わせてただけよ。今のあいつは早沼支部から玉狛支部に通ってるけど」

桐絵の言う通り、横島は早沼支部所属ではあるが、ランク戦では玉狛支部に出向という形をとっている。

 

「あの小南先輩、ボーダーの事も良く知らなかった横島先輩がなぜトラッパーを?」

文香の疑問はもっともだ。

トラッパーなどという特殊なポジションには余程の理由がない限り着かないだろう。

 

「それね。迅が決めたのよ。私も最初其れ聞いた時はびっくりしたわ」

 

「玉狛支部にはトラッパーの方はいらっしゃらないのに……」

文香がこう思うのも無理もない。

ボーダー隊員は、誰かに師事する事が多い。

玉狛第2三雲隊の修は烏丸京介、遊真は桐絵、千佳は木崎レイジが其々師匠としてついている。

特にトラッパーであれば、本部のA級2位冬島隊の冬島慎次に師事するのが妥当だろうが、玉狛支部に本職のトラッパーはいない。

 

「小南先輩は、横島さんがトリガー無しでこんな事が出来る人だと分かっていたのですか?」

藍も続いて桐絵に横島の事を質問する。

 

「いいえ、知らなかったわ。助けに来てくれたのが横島だったってのは最初は流石に驚いたわよ。普段の彼奴からしたら想像できないしね。でも、うちのスカウトが太鼓判押してわざわざうち(玉狛支部)に送り込んできた奴よ。トリオン量が凄いか、何か特殊な能力を持ってるだろうとは思ってはいたわ」

 

「そうなんですね」

 

「その……横島さんのサイドエフェクト……あの噂……本当なんですか?」

文香は急にもじもじしながら、言い難そうに質問する。

横島のサイドエフェクトとは勿論、触れた相手のスリーサイズが分かるという嘘の話だが、ボーダーの中で真実として広まっていた。

 

「本当よ……あいつに触れない方がいいわよ!私の秘密をばらして!!ちょっとトリオン体ぐらい盛ってもいいじゃない!!学校に行く時だってちょっとパットで盛っても良いじゃない!!」

桐絵は横島に乙女の秘密をばらされた事を思い出し、怒り心頭でこんな事を言って盛大に自爆する。

桐絵は過去にバストが大きくなるという触れ込みの偽物のサプリメントを多量に購入した事もあるぐらい、バストが小さい事をかなり気にしている様だ。

 

「………小南先輩?今もそうなんですね」

「………桐絵ちゃん」

「……こ、小南先輩?」

藍はちらっと小南の胸を見て、玲は既にその事を知っていて盛大に自爆する桐絵に残念な子を見るような目で、文香は自分の質問のせいで桐絵が自爆した事に慌てていた。

 

「でも、横島さんはそんなサイドエフェクトは無いと、敵ネイバーを油断させるための嘘だったみたいよ」

玲はスリーサイズがわかるサイドエフェクトなんてものは無い事を横島本人から聞いていた。

 

「え?嘘だったの!?あいつーーーーーーー!!ん?でも何で私のバストサイズを正確に知ってるのよ?」

 

「……横島さんこうも言っていたわ。サイドエフェクトが無くても、見たらわかると……」

 

「……あの那須先輩、それは、サイドエフェクト云々よりもその……特殊能力だと思いますが……という事は見ただけで……私も……」

文香は恥ずかしそうに体をもじもじとさせる。

文香はこの4人の中では一番バストが大きい。

藍と桐絵はどっこいどっこいに見えるが、パットが入ってる分、実際には桐絵の方が小さい。

 

文香が言うのも無理もない。噂のサイドエフェクトよりも横島の素の能力の方が最早上位互換と言ってもいいだろう。

触れるまでも無く見ればバストやスリーサイズが分かるとか、男なら誰でも羨ましがる能力だ。

もし、異世界転生特典の内、この見ただけでスリーサイズが分かるスキルが選択肢にあれば、聖剣や勇者スキルよりもまず間違いなくこのスキルを選ぶだろう。

実際にはこの能力は、横島の煩悩能力と高い霊能力による霊視がミックスされ、本人が意識せずにそのような事が分かってしまうようなのだ。

 

「はっ!まさか、その特殊能力があるから、スカウトされたの?横島は!女ネイバーを精神的に追い込むための秘密兵器!」

桐絵の頭の中はどうなっているのだろうか?ポジティブもいい所だ。

 

 

 

そうこうしてる内に音楽準備室に声がかかる。

「みんな、終わったからもう大丈夫」

横島だ。

無事に終わった事を告げに来たのだ。

 

玲は嬉しそうに音楽準備室の扉を開けるが……。

 

「あ、あは、あはははははっ」

そこには顔や体中を腫らし傷だらけのボロボロの横島が立っていた。

大丈夫だと言ってる本人がもう大丈夫な状態では無かった。

勿論、女学生達に痴漢や変態と勘違いされ、こうなったのだ。

 

「うわっ!?あんた何それ?ボロボロじゃない。早く病院行きなさいよね」

「横島さん、大丈夫ですか?……私達や皆を助けるためにこんな目に……」

桐絵は横島の状態に驚き、玲は心配そうにこう言うのだが……。

横島は皆を助けるためにこうなったのではない。

自らの不注意のせいで助け出したはずの女子学生にやられたのだ。

最後の最後に締まらないのも、横島のギャグ体質のなせる業なのかもしれない。

 

「あは、あはははは、だ、大丈夫、大丈夫……」

この男、この程度の事では死にはしない。

下手をすると3分程で傷が治っているだろう。

 

「ところで、あんた何でまだパンツ一丁なのよ」

桐絵は皆も思っててもなかなか言い出せない事を堂々と突っ込む。

最初の頃は横島の半裸に少々顔を赤らめていたが、もはや、慣れてしまったようだ。

 

「小南よ、これは玉狛支部で開発された潜入用特殊パンツ型トリガーだ。このパンツトリガー一丁になる事で、男の目には俺の姿が見えなくなる。女性だけにしか認識できなくなるのだ!潜入を成し遂げたのはこのパンツあってこそだと言っても過言ではなーーーい!!」

何故かこんな事を力説する横島。

もちろんでっち上げの嘘である。

 

「そうなの!?横島ごめん。そうだと知らずに怒鳴って悪かったわね。それにしても流石はうちのエンジニアね!」

案の定、鵜呑み系ヒロイン小南桐絵、あっさり横島の嘘を信じ切ってしまう。

 

「………小南先輩、何故それを信じられるんですか?」

藍は呆れ気味に言う。

 

「え?嘘なの?」

桐絵は玲や文香の方を振り向くと、玲は苦笑いを、文香は目を逸らす。

 

「だ、騙したわねーーーー!!横島!!」

桐絵は騙された事に気が付き、後ろから横島の首を腕で締め上げる。

 

「桐絵ちゃん……横島さん怪我をしてるから、そのぐらいに」

玲は慌てて桐絵を止めようとし、文香はこの状況にオロオロするばかり。

 

「……私の勘違いかもしれないわ。さっきもきっと偶然たまたまうまく行っただけなのかも……」

藍はこの様子を見て呆れ気味に一人ごちる。

さっきまで横島を警戒していた自分は何だったのだろうと、そんな事を考えていた自分が馬鹿らしくなっていた。

 

こうして、星輪女学院のテロ占拠事件は、横島や迅の活躍で犠牲者を誰一人出さず、さらには国や自衛隊や警察の介入無しに終息したのだった。

 




ランク戦前に藍と文香との絡みと、一応小南と横島の関係性を何となくお伝え出来たかなと……。

これでランク戦に戻れます。


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その15、美女にもてたいのに、なんでおっさんばっかり!?

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は、星輪女学院編の後日談というか結末を語る回です。


星輪女学院の人質テロ事件はボーダーの活躍により、人的被害ゼロでテロ勃発から短時間の内に解決に至った。

 

メディアからはボーダーのお手柄として、概ね好感触を得て報道される事になる。

テロリスト達の本来の目的はボーダーが持つトリオン技術ではあったが、表向きはお嬢様学校に対しての身代金要求であり、それを大々的に宣言していたからだ。

これが、テロリストがボーダーを狙ってる事を示唆する宣言をしていたのなら、180度態度は変わっていただろう事は考えに易い。

これも、テロリスト側にテロリストが所属する本来の立場や日本政府との立場が入り混じり、ボーダーを狙ったとはいえない事情があったためでもあったのだが……。

 

 

事件解決後からしばらくして、この件について改めて迅と横島にボーダー本部から出頭命令が下る。

事件解決直後には迅は直ぐに本部に出頭し、経緯と報告を既に済ましていたのだが……。

 

ボーダー本部上層部の面々の前で、横島は大目玉を喰らう事になる。

特にメディア対策室長の根付栄蔵にはかなりの叱責を喰らう羽目に。

確かに横島の活躍で人的被害ゼロのボーダー単独で短時間で事件解決に至った。

だが、その過程が悪い。

横島がボーダーナンバー1を名乗ったりしたのはまあいいだろう。

ずっとパンツ一丁だったからだ。

星輪女学院側からは感謝されつつも、ボーダーの隊員は著しく風紀を乱している人材を登用しているのかという疑いの目で見られたのだ。

女子学生による目撃も多数あり、これらを払拭するために、根付室長は寝る間も惜しんで情報操作や説得に当たり、テロリスト側のせいにし、テロリストの中にはとんでもない変態が混ざっていたという事で収まりがついたとか……。

迅の説得で何とか怒りを収めたのだが、横島本人はどこ吹く風かの如く、いつも通りギャグをかましてばかりだ。

 

横島は本来この事件解決の功績で、個人ポイントがかなり加算されて、遠征に行ける資格が手に入ったが、パンツ一丁行為で功績はプラスマイナスゼロとなってしまったのだ。

まあ、当然の結果と言えば当然の結果だろう。

わざわざ自分は変態ですと言い触れ回っていたような行為だ。

いくら、テロリストに最初にひん剥かれたとはいえ、何度も服を手に入れる機会はあったはずだからだ。

 

 

 

この後、ボーダーの外部交渉を一手に担い、今まで日本政府や海外各国の政府や組織を抑えて来た凄腕の外務官である外務・営業部長の唐沢克己に、横島は個人的に声を掛けられる。

 

ここは唐沢が交渉事などによく利用する市内にある高級レストランの個室。

「君は本当に高校生かい?」

唐沢はこんな言葉を横島にかける。

 

「いや~、唐沢さんのお陰で、ちゃんとこっちの世界の戸籍も貰って、高校も通わせてもらってますよ」

横島はボーダー本部上層部には自分の素性を語っており、唐沢の情報操作のお陰で、こちらの日本人としての戸籍を取得し、普通に高校に通わせてもらっていた。

 

「いや、君の元居た平行世界での話だよ」

 

「ちゃんと高校通ってましたよ。バイトでサボってばっかりだったけど、そのバイトで霊能者やってただけで」

 

「ふむ。それは聞いた。君の今回の手腕の話だよ」

 

「いや~、あははははっ、根付さんには大目玉くらっちゃいましたが」

 

唐沢は真剣な眼差しで横島を見据えゆっくりと語りだす。

「………テロリストの正体は北米の大国の特殊部隊だった。ボーダーの技術を奪取するために、裏では日本政府に対しての何らかの交渉カードを使い、こんな騒ぎを起こした。よっぽどボーダーの技術が欲しいのだろう。いや、当然と言えば当然だ。トリオン技術一つで世界の軍事バランスは一変する代物だ。本来私がこの件を抑えないといけなかったのだが、なかなか厳しい。君や迅君には改めて感謝するよ」

 

「はぁ、まあ、なりゆきで」

横島はそれに気の無い相づちを打つのみ。

 

「横島くん、君の目が何を見据えていたのかが気になってね、この場を設けさせて貰った。人的被害は無し、しかもスピード解決だ。確かに迅君と君のこの功績は素晴らしい。とんでもない方法とはいえトリガー無しで特殊部隊を制圧する手腕は流石に城戸さんや忍田君も驚きを隠せないでいた。一見、裸でテロリストを抑えるなどと喜劇にしか見えない。しかもその必要性は無く、自分を貶める行為にしか他ならない。………しかし、その行為は君が見据える先には必要だった。違うかい?」

唐沢の視線は自然と鋭くなる。

 

「いや~、さっきも説明しましたが、テロリスト相手に俺もギリギリでして、つい服を着るのを忘れるぐらい焦っちゃって、失敗しちゃっただけですよ。そのせいで根付さんには迷惑かけちゃって、俺も大目玉喰らっちゃいましたけどね。あはははははっ」

 

「ふう、見くびって貰っては困る。君の狙いは別にあった。だから道化を演じる必要があった。……私はこの程の件で北米の大国の上層部とも話し合いの場を設けてね。政府高官は「君らの所は変態を飼ってるのかね」と憮然としていたが、ペンタゴン(国防総省:軍のトップ)は全く違う印象をボーダー、いや、君に持っていた。ボーダーはとんでもない化け物を飼いならしていると。……ペンタゴンは今回の作戦に置いて、アジア系を中心とした日本語に堪能な兵士を集め部隊を結成し、テロリストに扮して星輪女学院に送り込んだ。飽くまでもテロリストを装うために……。日本政府を裏取引でボーダーを抑えさせ、ボーダー隊員とテロリストと直接対峙させないためにね。あの日本政府や自衛隊、警察の再三の介入はそう言う意図だった。そこまではペンタゴンの作戦通りだっただろう。忍田君はそれを理解し、一早く直接自分に命令が下る前に迅君を送り込んだのは流石としか言いようがない。ただ、それもある程度漏れることは、ペンタゴンも予想していただろう。だから、学生全員を人質に取り、トリガーでの攻撃をさせないための防備体制だった。しかし、ペンタゴンは予想もしていない事態に陥った」

唐沢はここまでの話を一気に横島に聞かせ、一息つく。

 

「それは君だ……」

唐沢の視線は更に鋭くなる。

 

「君はトリガーを使わずに次々と精鋭兵を無効化していった。道化を演じながらね。終始パンツ一枚の意味は、君はトリガーや武器も持っていないことを示すためだったのだろう?兵士には十分伝わったよ。だが君は兵士に自分が道化であるという事を示したわけじゃない。君は今後ボーダーに対しこのような事を起こしても無駄だぞとこの作戦の命令を下した国家上層部に知らしめ、君自身をアピールするために最後まで道化を演じきった。君という脅威を周囲には隠しながら、ボーダーを狙う軍事組織にのみに示したかったからだ」

 

「いや~、そんな大層な……」

 

「誤魔化さなくていい。ペンタゴンには十分伝わった。君を脅威とみなし、ペンタゴンは君の身辺を調べたはずだ。だが、何も出ない。当然だ。君は平行世界の人間で、身内だけでなく経歴すらこの世界には無い。私も君がボーダーに推挙された際調べさせてもらった。平行世界の人間と言われ、はいそうですかとは行かなかったからね。まったく痕跡がなかった。君はこの世界に突如現れたかのようにね。それで私は君を平行世界の人間であるとほぼ確信したのさ。君は自分にこの世界に身内が居ないという事すら利用し、外部の脅威の目を自分自身に向けさせた。ボーダーを、いやボーダーに集う若者たちを守るために、違うかい?」

 

「買い被り過ぎっすよ」

 

「………君の意図した通り、ペンタゴンはしばらくボーダーに手を出さないだろう。君がいる限りね。日本政府や北米の大国政府は君を唯の道化として見ているが、世界各国の軍部は何れペンタゴンと同じ見解に行きあたるだろう……そこで最初の質問だ。君は何者だい?ただの高校生にこんな事が出来るはずがない。私には分かる。私も裏社会を骨の髄まで見て来た人間だ。その若さでどれまでの修羅場をくぐって来たんだい?」

唐沢はじっと横島の目を見据える。

裏社会を渡って来た交渉人である唐沢だからこそ、横島の凄みを理解出来てしまうのだ。

唐沢の言う通り横島はボーダーという脅威の目を自分に向けさせたのだが、それは緻密な計画に基づいたものではない、過去の経験則からの行為だった。

自分が悪目立ちすることによって、周りが受ける影響はどのような物かと理解していたからだ。

時には相手にたいした事が無い奴だと油断を与えたり、時には実力以上の警戒心を煽ったり、と様々な効果を表す事を知っている。

さらに過去の人魔戦争時には意図せずして、人類の敵に仕立て上げられ、そのヘイトを一手に受けた事も有り、そんな経験の蓄積が今回の様な行動に現れたのだ。

 

「うーん。木虎ちゃんにも言われたけど、何者って言われてもな~」

横島は自分が何者なのかと藍の問いが未だに引っかかっていた。

 

唐沢は横島のとぼけた態度を気にすることなく、話を続ける。

「ボーダーは確かにネイバーの脅威に対して必要な組織ではある。一方トリオン技術が漏洩すれば、一気に世界の軍事バランスが崩れ世界大戦に発展しかねない危険もはらんでいる。トリオン技術にそれ程の脅威を私は感じている。幸いにも、城戸司令にトリオン技術を軍事技術に転用する意思はないのが救いだ。ボーダーのトリオン技術は漏洩してはならない。同族世界の争いに利用してはならない。これからもだ。私がここに所属している理由の一つだ」

 

「……それって、滅茶大変そうっすね」

 

「横島くん。君をボーダーの一隊員としておくにはもったいない。どうだい。私と手を組まないかい?今のままでは何れ私一人では限界が来る。君がいれば、ボーダーを同族世界の外敵脅威から守る事が出来る」

 

「俺は、いずれこの世界から消える人間っすよ。それと唐沢さんは買い被りっすよ。そこまで大層な事は考えてないっすよ。俺は、迅や玉狛の皆や、ボーダーの皆が笑ってられれば、それでいい……」

 

「……横島くん。わかった。今は引こう。だが、勧誘は諦めないからそのつもりでいてほしい。君の真の価値を分かる人間は私の様な裏の人間か、同じ修羅場を通って来た強敵だけだろう。とりあえずは君のプライベート番号とメール番号は既に登録済みだ。何かあったら連絡するからその時はよろしく頼む」

 

「ちょ、断り文句だったのに!」

 

「何を言う。私は君を大いに利用する気満々だ。その見返りは必ず報いる」

 

「はぁ、もうなんなんっすか?人の話きいてないし!俺の周りこんな人ばっかり!」

唐沢のこの強引な進め方に美神美智恵を思い起こす。

 

「もう一つ聞きたい事がある。普通にしていればモテるだろうに、君はなぜあんな下手なナンパをするんだい?」

 

「このおっさんはーーっ!!下手で悪かったな!!モテないんだよ俺は!?」

 

「ふむ?おかしいな、そんなはずはないだろう」

唐沢は本気で疑問に思っているようだ。

 

「くそっーー!バカにしてるのか、このおっさん!!」

 

 

今後横島は唐沢に付きまとわれる事になり、横島は唐沢をおっさん呼びとなり、なんだかんだと仲が良くはなるのだった。

 




何故かおっさんとか玄人とかにモテる横島くん。
唐沢さん深く考えちゃだめ。
横島くんとはそう言う奴だという程度に考えないと、思考が爆発しちゃいますよ。



次こそはランク戦w
早くやりたい。

構想はほぼ出来上がってます。
後は書くのみ!


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その16、セオリー?なにそれ?おいしいの?

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

やっとランク戦に復帰!
では……


 

「本日のランク戦第6戦中級夜の部を、実況は風間隊オペレーターの三上歌歩がお送りいたします。解説にはA級冬島隊、冬島隊長。同じくA級嵐山隊から嵐山隊長にお越しいただきました」

少々幼い顔立ちの小柄な美少女、三上歌歩は落ち着いた雰囲気で実況を開始する。

ステルス機動を行うA級風間隊を導く実力派高性能オペレーターでもある。

 

「よろしく」

「よろしくお願いします」

冬島慎次と嵐山准はそれぞれ挨拶をする。

 

「本日の対戦はB級10位諏訪隊、B級11位荒船隊、今回B級中位に上がって来ました14位横島隊となっております。注目はトラッパーでありながら一人という常識では考えられない編成で圧倒的な勝利で勝ち上がって来た横島隊、横島隊長ですが、果たして中位以上では通用するのでしょうか?」

 

「確かに意表を突いた作戦で今迄は勝ち進んできた。だが横島のトラッパーとしての能力、作戦、戦術、戦場での立ち回りを見てもかなり出来る奴だという事はわかる」

同じトラッパーである冬島の横島の評価はかなり高い。

 

「なるほど、B級中位でも十分通用すると、では嵐山隊長はどう思われますか?」

 

「B級中位からは実力者が揃ってます。横島隊長のトラップ対策も十分練ってきているハズです。諏訪隊と荒船隊がどのような対策を練ってきているのか、その状況で横島隊長がどう立ち回るのかを注目したいところです」

嵐山は相変わらず無難な回答をさわやかな笑顔を交えて答える。

だが、嵐山は横島が並みの隊員ではない事を感じていた。

先日の星輪女学院でのテロ事件で、隊員の木虎藍を救出したのが横島だった。

藍から話を聞こうとしたのだが、詳しい内容は聞けなかった。

ボーダー本部から政治的要素が強い案件なため、情報規制が掛っており、横島がトリガー無しで成し遂げた事も藍は詳しく話せないのだ。

ただ藍からは、「横島先輩は普通じゃない」と真剣な眼差しで語っていた事が印象深く残っている。

大概、横島が普通じゃないと聞けば、普段の『痴漢・変態・セクハラの横島』の印象で納得するが、嵐山は藍の様子に、藍が認めるぐらいのかなりの実力者であると感じていたのだ。

 

「マップ選択権を持っている横島隊が選んだマップは市街地Cです。これはB級中位第二戦、諏訪隊、荒船隊、玉狛第2三雲隊との対戦で三雲隊が選択した高低差のある丘陵斜面の市街地マップです。この戦いでは三雲隊の作戦が見事に決まり勝利いたしました。今回、諏訪隊、荒船隊は同じくして、玉狛支部の出向という形でランク戦に参加している横島隊と、シチュエーションは酷似しておりますね」

三上歌歩は選択されたマップを過去の対戦例を元に説明する。

 

「ふう、このマップをわざわざ選んで来るか?よっぽど横島隊に何かの作戦があるのだろう。スナイパーが斜度の上を取れば全体が見渡せる上に、傾斜の途中に横たわるように道が何本も挟み、上に進もうとすればスナイパーには丸見えとなる。遠距離攻撃で一方的にトラッパーに仕事をさせない事も出来るマップだ」

冬島は横島隊が選択したマップはスナイパーとの相性で圧倒的に不利なマップである事を説明する。

 

「成る程、全員スナイパーの荒船隊が圧倒的な有利なマップという事ですね。ですがその有利を逆手にとって、前回は三雲隊自らが囮になりつつ、諏訪隊と荒船隊を戦わせて漁夫の利を得る作戦勝ちをしております。それを踏まえて、ここは先に両隊とも横島隊長を先に排除する構えを見せるのでしょうか?」

 

三上歌歩の問いに嵐山、冬島が次々と答える。

「そうはならないでしょう。何せ横島隊は一人で、しかもトラッパーですので直接攻撃手段がないです。トラッパーにとってもスナイパーは天敵です。ガンナー2人、アタッカー1人の中近距離主体の諏訪隊もスナイパー編成の荒船隊に上を取られればなかなか手が出せないでしょう。横島隊長と諏訪隊4人を相手したとしても荒船隊の優位な状況は変わりません」

「俺も嵐山に同意だ。マップや相手の編成に至るまで荒船隊優位だ。諏訪隊や横島が如何に荒船隊にマップの上方に陣取らせないかがカギになる。だが、このマップは全体が広々と斜度となっている。4部隊の対戦であれば荒船隊に上を取らせないように出来るかもしれないが3部隊、しかも1部隊は1人だ。この人数では難しいだろう。諏訪隊は荒船隊よりも先に上方のどこかに陣取れればいいが、いずれにしろ我慢を相当強いられる戦いにはなる。開始直後の転送位置次第では荒船隊の一方的な展開になりうるだろうな」

 

「嵐山隊長、冬島隊長の両隊長とも同意見ですね。荒船隊が圧倒的に優位となると予想、しかし、それを選んだ横島隊長も不利な状況はわかっているはずです。果たして横島隊長にはどのような作戦があるのでしょうか?」

 

 

 

その頃、荒船隊の作戦室では……

「こちらが圧倒的な有利なマップだ。横島が何故このマップを選んだのかは不明だ。何らかの作戦があるのだろう。だが、奴は所詮トラッパーだ。射程は極端に短い上に待ちの戦法が基本だ。罠を張った間合い(テリトリー)に入らなければ問題ない。だが、奴は意外と動く、諏訪隊が乱戦を仕掛けに来た際に、距離を詰めてトラップを仕掛けて来るだろう」

荒船隊隊長荒船哲次(18歳)は他の隊員に現状を説明する。

 

「あの落とし穴トラップは厄介よ。構造はトラッパーのホール、ホールドア、マインの三つの組み合わせで出来たトラップよ。マイン(地雷)だけであれば見えない事もなかったのだけど、あのホールとホールドアの落とし穴はマインを隠すためのものなの、落とし穴自体は巧妙に景色に溶け込んでいるため設置位置はわからないわ。スポッターの尼倉さんにも聞いたのだけど、通常のレーダーにも映らない代物らしいわ」

オペレーターの加賀美倫(18歳)はトラッパー横島の代名詞となりつつある落とし穴について説明する。

 

「うわっ、それだるいっすね」

荒船隊唯一の年下である半崎義人(16歳)はめんどくさそうに言う。

 

「見え難いが、見えなくなった程度だ。それはあまり変わらない。ようは横島が罠を仕掛けているだろうテリトリーに踏み込まなければ問題ない。その辺は加賀美に横島の行動範囲を予想演算してもらう。半崎には加賀美の指示で横島の行動の監視だ。横島の対処は奴のテリトリーに踏み込まない事と、近づけさせない事だ。奴に遠・中距離どころか直接近接攻撃も無い、罠さえ気を付ければ、何をしてこようと問題ない」

荒船そう言って、加賀美と半崎に指示を出す。

 

「了解よ」

「ういっす」

 

「諏訪隊の対処は俺と荒船か」

穂刈篤(18歳)は大きく頷く。

 

「前対戦の三雲隊のように横島が囮となる事はない。トラッパーは基本自ら姿を現す事は無い。諏訪隊は単独でこちらに距離を詰めなくてはならない。冷静に対処すれば問題はない。今回は全ポイントを取りに行く」

荒船はそう説明し作戦会議を終える。

 

 

一方、諏訪隊の作戦室では……。

「かったりーな。くそったれ―!横島の奴、なんでこんなマップを選びやがった!」

火のついていない煙草をくわえながら、諏訪隊隊長諏訪洸太郎(21歳:ガンナー)は悪態をついていた。

作戦室では禁煙らしい。

 

「あーそれね。圧倒的に荒船隊が有利だよね~。どうしよっか?」

棒付き飴玉をくわえたままの美少女、オペレーターの小佐野瑠衣(17歳)は間延びした口調で年上の諏訪に対し、ため口で答える。

因みに、中学まではジュニアファッションモデルだった経歴がある。

こんな彼女だが、意外にもオペレーター能力は非常に高かった。

 

「横島の奴はああ見えて冬島さんがその実力を認めてるトラッパーだ。下手にこちらから近づくのはヤバい。奴の縄張りには入るのは危険だ。小佐野、奴の行動範囲とトラップ位置の予想を頼んだぞ」

 

「了~。任せて~」

 

「何れにしろ、荒船隊とは正面から戦う羽目になりますね。如何に荒船隊と距離を詰めるかが問題か、小佐野さん、ルート選択はお願いします。しかし横島がこのマップを選んだ意図がまったく分からないのが痛い」

菩薩の堤、そう呼ばれるほどの温厚な表情に丁寧な口調の堤大地(20歳:ガンナー)は横島をかなり警戒しているようだ。

 

「おっけー、つつみん」

小佐野瑠衣は先輩の堤に対してもため口で、しかもあだ名呼びで返事をする。

 

「では、作戦はいつも通りですか」

笹森日佐人(16歳:アタッカー)は皆に聞く。

 

「その通りだ日佐人。横島はとりあえず無視だ。荒船隊が警戒して奴を釘付けにするはずだ。横島の縄張りにさえ足を踏み込まなければいい、その辺は小佐野が上手くフォローしてくれる。とりあえずは上を取りに行くだろう荒船隊を合流しつつ追いかけ、近接で一気に肩を付ける」

諏訪は初動の動きを決め、作戦会議を閉める。

 

 

 

一方、横島隊の作戦室では……

「迅、何で揚げせんの箱が積んであるんだ?どんだけ好きなんだよお前?」

「いいじゃん、作戦室には二人しかいないし、別に狭くないだろ?お前だって、何でエロビデのレンタルDVDこんなに置いてあるんだ?寮で見ろよ」

「作戦室のテレビって滅茶デカいから大迫力だからだ!!」

「……お前、女の子のオペレーターや隊員を入れるつもりないだろ?」

「そうだった!片付けなくては、辞書の外箱に隠してと」

「さっさとレンタル店に返して来いよ。それにパソコンの配信とかであるんだろ、そう言うの」

「いや~、レンタル店でコソコソ借りるのってなんか楽しくない?」

作戦らしい作戦会議などせず、くだらない雑談ばかりしていた。

 

「それでお前、なんでわざわざ不利なマップ選んだんだ?」

迅は横島にようやくここで作戦について聞く。

 

「全然不利じゃないぞ。俺としては美味しいマップだ。それに相手は結構ベテランだし、警戒してくれるんだろ?」

横島にはどうやら、ボーダーのランク戦のセオリーが通じないようだ。

 

「お前って奴は」

迅は呆れるやら頼もしいやらとそんな感じの感情が渦巻いていた。

 

 

 

玉狛支部では、今日のB級ランク戦上位昼の部で勝利した三雲隊の面々とボーダー入りが決まり入隊日を明日に控えたヒュース、学校帰りの桐絵に陽太郎たちが、横島達のランク戦中継を見守る。

 





開始は次回……


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その17、近代兵器に勝るものはない!

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
それではランク戦の続きを……。


「各隊転送開始されました。それでは本日B級第6戦中級夜の部ランク戦開始です」

実況の三上歌歩が落ち着いた声色でそう宣言し、荒船隊、諏訪隊、横島隊によるランク戦が開始される。

 

 

荒船隊は荒船だけが傾斜のある市街地の中腹から下方に転送され、荒船はオペレーターの加賀美倫に状況を確認する。

「荒船君だけ離れてる。穂刈君と半崎君は上の方で比較的近い場所に転送されてるわ」

「了解だ。加賀美、穂刈と半崎には先に上を取り、作戦通り穂刈は諏訪隊、半崎には横島の動向監視するように伝えろ。横島と諏訪隊の転送状況は?」

「了解よ。諏訪隊、横島隊共に開始早々バッグワームを機動して、正確な位置は分からないわ。ただ、穂刈君と半崎君の転送位置から諏訪隊と横島隊長はかなり近い位置よ」

「そのまま、やり合えといいたいが、諏訪隊も上を取りに来るだろう」

「あっ、穂刈君が諏訪さんと笹森君を中腹で確認。射撃を開始。」

「わかった。位置を諏訪さんと笹森の位置を頼む。上に登りつつ穂刈と連携し、諏訪隊をその場に釘付けにする。堤さんがまだ見えないか……諏訪さん達を囮にして、堤さんは単独で穂刈を狙うつもりなのかもしれん。穂刈に警戒を促してくれ」

「了解よ。横島隊長はまだ目視で確認できていないけど、諏訪さんと笹森君が早期に合流出来たのだから、横島隊長の転送位置は中腹から下方だと予想が付くわ。予想転送位置から行動範囲をマッピングするわね」

「了解だ」

 

 

一方、諏訪隊は……

「上は取れなかったけど、皆意外と近いよ~」

「合流はすんなりいけそうだな。だが、この分だと荒船達の誰かは上の方に転送されてるだろうな。ちっ、めんどくせー!俺と笹森で合流し街中を突っ走って上に行く、堤は荒船達を警戒させるために見つからない様に外延から移動させろ」

「おっけー。つつみんにルートを送っておくね~」

諏訪隊は諏訪と笹森が傾斜の中腹で隣に転送され、堤はやや下方に転送されたが、お互い近い位置だった。

 

「よし、こっちは笹森と合流した、こっから一気に登るぞ。小佐野、横島の位置はどうだ?」

「うーん。下の方じゃないかな~、勘だけど」

「勘かよ!?」

「もしエロシマン(小佐野が勝手に横島に付けたあだ名)が上に転送されたとしたら、エロシマンと荒船の誰かがかち合うじゃん。そうなると、こっちは上に行きやすいけど。なんかそうはならないんじゃないかな~」

「なんだそりゃ?……っと、やべっ!上から狙撃かよ!?ということは小佐野の勘が当たったのか?荒船隊が上を陣取ったって思った方が良さそうだな……クッソめんどくせー!小佐野っ、今の狙撃で凡その位置は分かるか?」

「ちょっと待って~」

「笹森、ちょっと引き気味に登るぞ!」

諏訪と笹森は合流し、上へと街中の細い路地を登っていたが、荒船隊の穂刈に位置がバレ、狙撃を受けるも、ギリギリ回避し少々削られはしたが戦闘に支障がない程度だった。

 

 

 

 

実況席では、隊の状況が全て見えていた。

「荒船隊の転送位置は穂刈隊員と半崎隊員が上方の近い位置、荒船隊長は右端のやや下方ですね。一方、諏訪隊は全員ほぼ中腹付近、諏訪隊長と笹森隊員が直ぐに合流出来る位置ですね。横島隊長は最も下の位置です。全員バッグワームを起動しました」

 

「ふう、見事荒船優位の転送位置だな。横島は運が無かった。トラッパーのスイッチボックス本体を起動させたとしても、トラップ設置の範囲に全く届かない。上方で陣取る荒船隊とそれを追う諏訪隊に攻撃を仕掛けようにも、この斜度を登らなければ始まらない。バッグワームで移動したとしても途中に開けた道路を越えなければならない。上を取ったスナイパーには丸見えだ。さすがに圧倒的に不利だな」

冬島は横島の転送位置で不利を被っている事を指摘する。

トラッパーのトリガースイッチボックス本体はアタッシュケース状の分厚いノートパソコンのような形状をしている。

スイッチボックスは本来ノートパソコンのように開き画面を見ながら操作しトラップの設定や設置を行う。

しかも、マッピング記録をしてあれば、ある程度の射程範囲でトラップを設置することが可能なのだ。

しかし、その反面、その間は落ち着いて腰を下ろし画面を見ながら作業をしなくてはならないため、かなり無防備となる。前線や乱戦状態などではこのような作業は出来ようもない。

だが、スイッチボックスを開かなくとも、直接手で触れられる範囲の距離であれば、予め設定していたトラップは設置可能となっている。

横島は今迄、スイッチボックス本体を開く事なく直接トラップを仕掛けていた。

 

「諏訪隊も直ぐに合流出来る良い位置ですね。諏訪隊も荒船隊長が上方にたどり着く前に、上の一角を取るか、一気に距離を詰め数で押せば優位がとれます」

嵐山はこの転送位置は諏訪隊にもチャンスが大きいと解説する。

 

「荒船隊の穂刈隊員が合流し上を目指す諏訪隊長と笹森隊員を捕らえスナイピング。諏訪隊長は間一髪で避ける。多少被弾しましたが、戦闘に問題ないレベルですね」

 

歌歩は淡々と実況を進めていく。

「ここで荒船隊長も上方に到達、諏訪隊の諏訪隊長と笹森隊員は引き気味にスナイパーの射線を切りながら上を目指しております。諏訪隊の堤隊員は慎重に移動、まだ荒船隊に捕らえられていない模様。横島隊長は……転送位置の下方からあまり動いてませんね。家の中でしょうか?これはどういう事でしょうか?荒船隊と諏訪隊が交戦するのを待っているのでしょうか?」

 

「そうなのかもしれませんが、この位置ですと、両隊の戦闘に横やりを入れるには遠すぎます。それにしても今迄の横島隊長の戦いぶりを見るに今回はかなり消極的ですね」

嵐山は歌歩の実況に捕捉する。

 

「この転送位置の不利を見て、完全に待ちの戦法に変更したのかもしれない。荒船隊と諏訪隊との戦闘で勝った方とやり合うつもり……いや、上を取られている時点で、どちらかの隊と対峙したとしても横島の不利は変わらないがな」

冬島はさらに補足説明を付けたし、横島の行動を予測する。

 

「今回家の中での行動もモニタリング出来るようにさせていただきました。横島隊長は家でじっと、待っているのでしょうか?……??…横島隊長はスイッチボックスを起動させております。周囲にトラップの罠でも仕掛けるのでしょうか?」

横島は鼻歌交じりに、アタッシュケース風の分厚いノートパソコンのようなスイッチボックス本体を起動させ何やら操作しながら、ガラクタを弄っていた。

 

 

そんな中、ずっと慎重に行動していた諏訪隊の堤が、荒船隊の穂刈に距離を詰め奇襲の機会を伺っていたが、荒船に見つかり片腕を失う大ダメージを追う。

諏訪隊はその後3人合流、そのまま中距離まで迫るが、荒船がけん制射撃を行い、穂刈が引いて距離を置く。

さらに荒船隊のスナイパーによるクロスレンジ攻撃で諏訪隊は身動きがしずらく我慢を強いられていた。

 

この硬直状態が続くのかと思われたその時だ。

諏訪隊は身を隠すために家を盾にしていたのだが、隣の家が突如大爆発を起こす。

「はぁ!?なんだこりゃ?荒船の奴、しびれを切らしてメテオラを多量にぶっ放したか?あいつそんな大雑把な攻撃して来る奴だったか?小佐野っ!どうなってやがる!?」

諏訪は驚きつつ、オペレーターの小佐野瑠衣に状況を確認しようとする。

 

「荒船隊からじゃないよ~、多分その威力、トラッパーのトリオン爆弾だよ~」

 

「はぁ!?横島の奴にいつの間にか迫られたってのか?」

 

「でも、エロシマンは動いてないはずだよ~。荒船隊のザキハン(半崎)がエロシマンを監視しているはずだし~」

 

「じゃあ、どういうことだ!?おわーーーーっ!?」

今度は諏訪隊が背にしていた家が吹き飛び、それに巻き込まれ、堤がトリオン流出過多でベイルアウト。

そして、横島にポイントが入る。

 

「やっぱり、ヨコシマンが何かしたみたい~、そこから逃げないと危ないよ~」

 

「ったく、逃げろってよ!?ヤバすぎるだろ!?くそったれーー!!横島の奴!どこにいやがるんだ!?笹森、奴は近くにいるハズだ!!」

諏訪と笹森がたまらず、荒船隊の射線が通らない方へ下がるが、今度は諏訪と笹森の直ぐ近くで爆発が起こり、諏訪と笹森はあえなくベイルアウト。

諏訪隊は状況が全く把握できずに全員倒されたのだ。

 

一方、荒船隊も同じく状況が把握できていなかった。

「爆発!?諏訪隊が全員ベイルアウト?……なんだ?横島が諏訪隊の後ろを取ったのか?いつの間に?加賀美!半崎!横島はどうなった!?」

 

「……荒船さん横島先輩を見てないっすよ!」

「見逃した……!?そんなはずは!?」

半崎と加賀美倫も困惑気味だ。

 

「荒船、何かが飛んで行ったように見えたぞ。諏訪隊の方へ」

穂刈は諏訪隊の方向で爆発が起きる前に何かが飛んで行ったように見えたが、それが何かわからなかった。

ただ、銃弾でもなく、バイパーやメテオラの様なトリオン弾でもなかったため、見逃していたのだ。

 

「何かって何がだ?」

「わからん!」

荒船隊の方も状況が把握できずに困惑気味だ。

 

 

この状況を見ていた実況席では横島の行動が見えていた。

「あいつ、とんでもない奴だな!?」

「…………これは……!?」

冬島と嵐山は唖然としていた。

 

 

少し前から横島の様子をモニターで見ていた実況席では横島の行動を把握していた。

荒船隊と諏訪隊が上を取るために移動を行ってる最中に横島は、下方の家の中で家の中のガラクタの金属の筒を適度の大きさに切って、スイッチボックスの機能の一つであるトリオン修復キットを使い、トリオンを盛って金属の筒の耐久度上げる。

 

そして、上方から見えないその家の庭に、金属の筒を縦に置いて6本並べる。

この様相はまるで、打ち上げ花火を上げるようであった。

 

「迅、荒船隊と諏訪隊の大体の位置が分かるか?」

「バッグワームを起動させてるから荒船隊の正確な位置は分からないが、皆バラバラで上方で狙撃位置を確保しているはずだ。諏訪隊は今、荒船隊に居場所がバレ、狙撃を喰らってるから場所は分かる」

「そんじゃ、諏訪隊からだな。その前にっと」

横島はそこ意地悪い笑みを浮かべる。

 

横島は金属の筒のトリオン爆弾やマイン(地雷)をセットしていき、筒の尻にグラスホッパーを起動させ、次々とトリオン爆弾とマインを次々と射出していき、山成りに目標へと飛んで行く。

そう、横島はグラスホッパーの物を飛ばす反発力を使って大砲を作ったのだ。

「ふはははははっ!!物量こそが物を言う!火力こそが物をいう時代なのだ!!マシンガン!?ライフル!?第一次世界大戦かお前らは!?時代は違う!!時代は冷戦時代!この圧倒的火力!!うははははははははっ!!」

横島はバカ笑いをしながらも次々とトリオン爆弾とマイン(地雷)を四方八方に飛ばしていく。

 

その様子を見ていた実況席では……

「トラッパーがグラスホッパーをセットしてるのかよ。しかもグラスホッパーをそうやって使うか!?グレネードランチャーかよ!?」

冬島は笑いながら驚いていた。

 

「冬島さん、グラスホッパーではまったく届きませんよ。諏訪隊と荒船隊は相当離れている」

嵐山はグラスホッパー使いとの対戦でその性能は良く知っている。

 

「届く。あいつグラスホッパーを二枚使っていやがった。恐らくグラスホッパー2枚をVの字に斜めにし、トリオン爆弾を挟み込むようにして射出したのだろう。これで発射威力は相当上がる。そもそも飛ばすのは人じゃない、トリオン爆弾等のマイン系は軽いから相当飛ぶ。だが、ブレは凄いだろう。だからあの金属の筒だ。ブレを修正し正確に飛ばすためにな。しかも飛ばしたのは通常弾丸と違い威力範囲共に高いトリオン爆弾だ。榴弾、炸裂弾、いやまるでミサイルだな。当たらなくとも、爆発に巻き込まれればひとたまりもない。しかも着弾前に爆発するように設定、いや、様々なタイミングで爆発するように設定すれば、防御もままならないだろう。しかもだ、メテオラとかと違い、トリオン爆弾やマイン系は半透明だ。飛翔する半透明の物体はかなり見えにくい。初見だと砲撃だとは思わないだろう。アイビスの弾丸のように発射音がしない。しかし、所詮グラスホッパーだからライフルの様なスピードや距離は出ない。弾速は遅いし射線も山成りせざるを得ない。だが、そのかわり射線が山成りなぶん障害物を越える事ができ発射位置も特定しずらい。横島の位置が分からなければ、これは一気に形勢逆転する」

冬島は珍しく少々興奮気味に語りだす。

 

「横島隊長のトリオン爆弾による砲撃が遂に諏訪隊をとらえ……諏訪隊全滅です……」

冷静に解説をすることで定評のある三上歌歩だが、この光景には流石に唖然としていたようだ。

 

「……やはり横島くんは」

嵐山は木虎藍の言葉を思い出す。

(横島先輩は普通じゃない)と。

 




まあ、横島くんだから……


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その18 ネタかよ!?

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回のランク戦の終盤です。


 

「横島隊長、トラッパーのトリガー、スイッチボックスのトリオン修復セットを利用し、ガラクタから砲身を作成。グラスホッパー2枚による反発力を利用しトリオン爆弾を発射し、まさかの砲撃です。諏訪隊はあえなく全員を爆発に巻き込まれベイルアウト」

実況の三上歌歩は再度、諏訪隊が全員撃破された過程を簡単に説明する。

 

「やばいな横島の奴、そこらへんのガラクタとグラスホッパーとスイッチボックスで簡易砲台を作りやがった。どんな発想してやがるんだ?しかも発射位置が分かりにくい代物だ。荒船隊はまだ横島の位置を把握できていないだろう」

乾いた笑みを浮かべながらこう説明する冬島の目は真剣そのものだった。

 

「確かにそうですが、横島隊長も荒船隊の位置を正確には把握していないはずです」

嵐山は冬島の説明を捕捉する。

 

「そうだ。今はな、だが荒船隊は位置がばれるぞ。あいつ、諏訪隊に砲撃する前に、四方八方に砲撃していただろう。しかも爆発を起こしていない。俺の予想ではマイン(地雷)だ」

冬島は含みのある顔でそう言った。

 

 

 

オペレーターの迅は横島に砲撃の成果を報告する。

「横島、諏訪隊は全員ベイルアウトだ」

「二回の砲撃修正で当たったか、ラッキー。命中精度は流石に低いしな、もうちょっと改良が必要だな」

「ここまでは上出来だ。だが、荒船隊は全員バックワームを起動したままだ。しかも、今のお前の砲撃で大幅に移動をするだろう。相手の位置が掴みにくいな。何れにしろ相手はスナイパー編成だし接近戦は避けるだろうが、一応接近戦にも気をつけてくれ。荒船は元アタッカー上位で弧月の使い手だ」

「でも、さっきまで上の方陣取ってたんだろ?しかも諏訪っち先輩達を射撃してたし凡その位置はわかる。それにもう罠も仕掛けた」

迅と横島が通信で話していた所、上方で爆発音が四方八方で鳴り響く。

 

「くふふふふふっ、そんじゃ、狩りを始めるか!」

横島は相変わらず悪い顔で笑っていた。

 

 

荒船隊は現在の位置が横島にバレている可能性があるとして、移動を開始していたのだが……。

遠方から爆発音が鳴り響く。

「加賀美!今の爆発はなんだ!?」

「半崎君の近くで爆発が!この反応マイン系の地雷かトリオン爆弾よ。でも本人に直撃していないわ」

「なっ?横島がそっちに行ったのか?あり得ない、諏訪隊と位置は全くの正反対だぞ?また、爆発音か!?」

「今度は穂刈君の近くで爆発が!?今度も直撃じゃないわ。ノーダメージよ」

「どういうことだ?……ぐっ、俺の方でも直撃じゃない。10mは離れてる……どういうことだ?」

荒船隊は混乱していた。

諏訪隊がどのように全滅させられたかもわからない状況で、周りで次々と起こる爆発に爆発音が混乱に拍車がかかる。

 

 

この様子を見ていた実況席では、冬島が説明を始める。

「横島の奴は、マイン系の地雷を荒船隊が諏訪隊を射撃している間に、既に荒船隊の凡その位置を把握していたのだろう。諏訪隊を攻撃する前に周りに、先ほどのグラスホッパーを使った砲撃で地雷をまき散らしていた。しかも地雷の感度を最大限に設定して凡そ10m近づくだけでも反応するようにな。目的は殺傷じゃない。荒船隊の現在地を知るためだ。トラッパーは自身が設置したトラップが発動の有無を感知できる。爆発位置で荒船隊の位置を捉えるつもりだ。あいつは地雷をソナー替わりにしやがった。荒船隊の連中、こりゃ、捉えられるぞ」

 

「横島隊長のグラスホッパー砲が半崎隊員を捉えました。爆発に巻き込まれベイルアウト。やはり、地雷はソナーの代りだったようです」

冬島の説明が終わると同時に、荒船隊の半崎が横島のトリオン爆弾砲撃でベイルアウトした事を三上歌歩はコールする。

 

「それにしても、これだけのトリオン爆弾を生成できるとは、横島隊長のトリオン量も凄いですね。下手をすると出水隊員に匹敵するのではないでしょうか?」

嵐山はこの光景に自分の隊だったらどう対応するかを考えながらも、こんな質問を冬島にする。

 

「それは分からん。トリオン爆弾やマイン(地雷)はトリオンを圧縮させ、メテオラに比べトリオン量が少なく爆発威力が高くなっている。出水が一撃で50発のメテオラを発射させるよりも威力の高いトリオン爆弾をそれ以上の数を余裕で作れる。確かにトラッパーのスイッチボックスはその性質上トリオン量を多く持っていかれるが、その代わり一つ一つのトラップに割くトリオン量はかなり小さい。まあ、そもそもトラッパーは専用トリガースイッチボックスを使うためにトリオン量が多い人間ではないと務まらないがな。というか三上、グラスホッパー砲って名前センスあるな。それに付け加えて、グラスホッパー迫撃砲とでも呼ぶとするか」

冬島は嵐山の質問に答えながらも、三上が簡易的に横島の砲撃に付けた名前に乗っかり、正式に命名する。

 

「次に、穂刈隊員、グラスホッパー迫撃砲による絨毯爆撃の様な砲撃にあえなくベイルアウト、荒船隊長はその間に横島隊長のソナー地雷源を抜けたようです」

 

「荒船隊長は地雷原を抜けましたね。しかも横島隊長の位置に真っすぐ進んでいます。荒船隊長は元アタッカー上位、接近戦もこなせるスナイパーです。接近戦に移行するでしょうか?」

 

「まあ、こんだけ派手に砲撃すれば、位置もバレるだろう。だが、位置が判明するのが随分と遅れたのも、トリオン爆弾の半透明の特性と、山なりの砲撃、グラスホッパーによる射出で音が無いからだろうな。この状況では接近戦しかない。接近に成功したら荒船が一矢報いる事ができるだろうが、今までの横島の行動を見るに相当狡猾な奴だからな……何か仕掛けているだろう」

 

「なんでしょうか?横島隊長が陣取る家の庭に巨大な砲身が見えます。砲台でしょうか?」

荒船が迫る中、横島は先ほどまでの打ち上げ花火の様な筒を全て片付け、何やら巨大な砲身を家の中から取り出していた。

 

「こ、これは、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じぇねーか。完成度たけーな、おい」

横島が高笑いをしながら掲げる巨大な砲身を見ながら、目を見開き、その砲身の姿に感嘆の声を上げる冬島。

人間の二倍はあるだろうシンプルな作り砲身の根元には、これまた巨大な玉が左右に一つずつ付いていた。見る人が見れば、卑猥なオブジェにも見えるだろう。

 

「冬島隊長、それは何でしょうか?大砲の一種でしょうか?」

 

「ん、んん。失礼、いや、流石にあのサイズの物を簡易で作って動かせないだろう。しかもグラスホッパーを射出に使っている以上、あのサイズは意味がない。さらに言うと、あのデカい砲身のせいで自分の位置をばらす様なものだ。」

冬島は咳ばらいをしてから、こう説明する。

 

「荒船隊長、一直線に横島隊長が陣取る家へ向かい、家の屋根に飛び移る。横島隊長はまだ気が付いていない様子」

三上は荒船が迫る様を実況する。

だが、横島の口元はにやりと歪んでいた。

 

荒船は横島が陣取る隣の家の屋根に飛び移った瞬間に姿を消す。

そして、トリオン供給基幹損傷でベイルアウト。

横島はこの位置に落とし穴トラップを仕掛け、荒船が見事に落とし穴に嵌ったのだ。

「荒船隊長、ベイルアウト?横島隊長、ここにもトラップを仕掛けていました」

三上歌歩は荒船が横島に倒された事を実況する。

横島がネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を手に、勝利の高笑いをする様が映し出され、その姿に観客席ではざわめきが起こる。

 

「あの巨大な砲台は釣りか……。荒船に横島はまだ自分は砲撃の準備をして、荒船が接近している事に気が付いていないと思わせた。荒船は荒船でここしかチャンスが無いと思い、一気に迫ったのでしょう。トラップを設置しているかもしれないという頭も荒船にきっとあったはずだ。だが横島はあの巨大な砲台を見せる事で荒船の心理をうまく誘導した」

冬島は冷静に判断しこう結論づける。

 

「横島隊完勝。撃破6点、生存点2点の合計8ポイントで勝利です」

三上歌歩はここで横島の勝利を宣言する。

 

「横島のトラッパーの新戦法は凄まじい。トラッパーからも積極的に攻撃に参加できることが示された。他の隊もトラッパー対策を密に取る必要性が出て来た」

 

「冬島隊長もグラスホッパー迫撃砲を使いますか?」

 

「余裕があればだ。本来トラッパーの役割は隊員の補助と敵の妨害だ。それは今後も変わらないだろう。横島隊は1人だからこれを実行せざるを得なかったともいえる。それにこれには最大の欠点がある。素材集めからそれらを加工するためにスイッチボックスで作成という作業時間が必要だという事だ。横島は自分が不利な転送位置をうまく利用し、安全場所と十分な時間を捻出した。いや……元々この位置に移動し、この作戦を実行しようとしたのかもしれない。このマップで上から狙い撃ちされるのにわざわざ下方に行くような奴はいないからな。そのためのこのマップ選択だったのかもしれない」

冬島は唸る様に説明する。

 

「ですが、トラッパーを放置できないと示された事になりますね」

 

「ふう、そうだな。だが、真っ先に狙われるとか、勘弁してくれ」

冬島は自分自身に置き換えて率直な言葉をため息交じりに出す。

 

「嵐山隊長はこの試合について何かありますか?」

 

「横島隊長は強い。この一言に尽きます。新戦術に目が行きがちですが、作戦遂行能力から心理戦に至るまでセンスを感じます。A級でもここまで出来る人がいるかはわかりません。何れ戦うことになるので対策を練る必要がありますね」

嵐山は木虎藍の「横島先輩は普通じゃない」という言葉と横島の強さを画面越しではあるがその肌で十分感じ取っていた。

 

 

「これでB級中位ランク戦第6回夜の部が終了いたします。次回の対戦相手が出ました。勝利した横島隊は、B級中位那須隊、香取隊、柿崎隊との対戦となります。同じくB級中位荒船隊、諏訪隊は鈴鳴第一との対戦です」

こうして本日のランク戦が終了する。

 

 

 

 

「はぁ、圧勝かよ。後で諏訪さんに突っかかれそうだなこれは」

迅は作戦室で帰還した横島に呆れたように声を掛ける。

 

「というか、次の試合、那須隊と柿崎隊とって、玲ちゃんとくまちゃんと、そんであの真面目お嬢様かわいい照屋ちゃんと戦わないといけないってこと?女の子を爆破とか!?悪役もいい所だぞ!!次休んでいい!?」

横島は何故か次の試合について、迅に迫る。

 

「大丈夫だ。横島、これ以上お前の好感度が下がったとしても、―100が―101になるだけだ」

 

「俺ってそんな悪評が!?某国の陰謀じゃよ~~」

横島は周りの女子からの評価を分かっていなかったようだ。

なんか、酸っぱい顔をして迅に縋りつく。

 

「トリオン体が爆破されるだけで、本人はピンピンしてるから気にするような事じゃないだろ?」

 

「いやいやいや、それでも玲ちゃんとか照屋ちゃんを爆破とかできないぞ!!あっそうだ!チチ、シリ、フトももを揉んだらベイルアウトとかいうルールに変えない!?」

 

「横島、何言ってるんだ?お前が永遠にボーダーからベイルアウトされるだろ」

 

相変わらず緊張感が無い2人であった。

 





次はいよいよ、横島の本領発揮のランク戦かな?


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その19、対横島作戦会議前編

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ちょっと間が開いてしまいましてすみません。
実はこの話の前にもう閑話的な1話作っていたのですが、落ちが納得できず、結局うだうだ考えている内に時間が経過した上にボツに、概要は次話にちょろっと入れ込む予定です。





那須隊は那須玲(17歳高校2年生シューター)の自室では明後日のランク戦に向けてミーティングを行っていた。

病弱な玲はベッドの上で上半身を起こし、熊谷友子(17歳高校2年生アタッカー)と、人懐っこい笑顔の日浦茜(15歳中学3年生スナイパー)はオシャレな丸テーブルの前に座り、丸テーブルの上に置かれているノートパソコンからオペレーターの人見知りで引きこもり気質の志岐小夜子(16歳高校1年生)がアバター付きのボイスチャットで参加していた。

那須隊はオペレーターを含めこの4人の部隊だ。

病弱な玲に考慮した、いつもの那須隊の作戦ミーティング風景だ。

 

「明後日のランク戦、4チームとの対戦ね。香取隊と柿崎隊とは何度も戦って来たから対策を練りやすいけど……」

玲がベッドの上から今回の議題について話し始めるが、途中で言葉が途切れる。

 

「問題は横島ね」

友子は玲が言いたかった続きの言葉を出す。

次のランク戦は那須隊、柿崎隊、香取隊、そして横島隊の4部隊との対戦だった。

 

「うちの隊はトラッパーとの対戦経験が無いですから」

小夜子がボイスチャットで相づちを打ち、今回のミーティングの大きな議題であろう趣旨に触れる。

那須隊はトラッパーが所属する部隊との対戦がこれまで一度もなかった。

横島隊が結成される前まではトラッパーはA級2位冬島隊隊長冬島慎次とA級6位加古隊喜多川真衣、B級15位松代隊箱田正邦の3人だけだった。

B級中位で定着している那須隊が、A級と対戦する機会は当然ない。

B級下位の松代隊が中位に上がって来た際に対戦する機会は何度かあったが、那須隊と当たる事は無かったのだ。

 

「小夜先輩、そういえばそうですね」

茜も小夜子に同意する。

 

「それもそうなのだけど、横島さんはかなり出来る人よ」

玲はトラッパーとの対戦経験が無い事も懸念材料ではあるが、横島自身が凄腕であると認識していた。

 

「そうですね。どちらにしろ、相手を知ることから……先ずはA級冬島隊と加古隊、それに最近のB級松代隊の試合のダイジェストと、その後に横島隊の今迄3試合分の映像を流します」

小夜子はそう言ってノートパソコンに、予め用意していたトラッパーが所属しているA級冬島隊、加古隊の試合及びB級松代隊の最近の試合をダイジェスト編集したものと、横島隊のランク戦3試合分の映像を流した。

 

映像を見終えた後、第一声は友子が発する。

「トラッパーとの対戦は何時もより慎重を要するようね」

 

「それにしても、横島先輩と他のトラッパーの方の戦い方が余りにも違いませんか?」

茜は横島と他のトラッパーが所属する隊の試合風景を見て、率直な疑問を口にした。

 

「それは本来トラッパーは他の隊員のフォローや、相手の邪魔をするのが役目であって、横島隊のようにトラッパー1人で戦うなんて、本来のスタイルではないから」

小夜子は茜の疑問に自身の私見で答える。

 

「小夜ちゃん、横島さんのランク戦を見に行ったの。解説の冬島さんが話していたのだけど、横島さんのトラップの扱いは全て新戦法らしいわ。しかもトラップの設置の方法からタイミング、作戦の遂行まで、冬島さんが舌を巻くぐらい高度なものらしいの」

過去のランク戦の映像は、ボーダー隊員であれば自由に閲覧できるが、当日の実況解説は付いていない。実況解説を聞きたければ、ランク戦当日にボーダー本部に行って観戦しなくてはならなかった。

普段玲は病弱なため、個人ランク戦の参戦はおろか、他のランク戦の観戦等ほとんど顔を出していなかったが、横島の試合は全てボーダー本部まで見に行っていたのだ。

 

「那須先輩、なぜ横島隊の試合を?」

茜は横島の試合内容についてよりも、病弱な玲がわざわざ横島の試合をボーダー本部まで見に行っていたことに疑問を持つ。

 

「それは……そのちょっと気になって」

玲は茜の質問に、色白の肌に若干赤みがさして何故かしどろもどろに。

 

「ふぅ、それよりも、横島の奴は何をしでかすか分からないって事ね」

友子はそんな玲の様子に、ため息を吐きながら話を元に戻す。

 

 

 

 

その頃、同じく次の横島隊の対戦相手である柿崎隊も、ボーダー本部の作戦室で次のランク戦のミーティングを行っていた。

柿崎隊は隊長柿崎国治(19歳大学生オールラウンダー)、照屋文香(16歳高校1年生オールラウンダー)、巴虎太郎(14歳中学2年生ガンナー)の3人の戦闘員を擁する近中距離でフォーメーションを組んでの集団戦が得意な部隊だ。

 

「横島隊とは初対戦となるな」

柿崎国治はそう言ってミーティングを始める。

やはり議題は横島隊との初対戦についてのようだ。

 

「まずは参考に横島隊のこれまでの試合をチェックね」

普段から口元が緩いかんじで微笑を浮かべているオペレーターの宇井真登華(16歳高校1年生)はそう言って作戦室の大画面に横島のランク戦の映像を流す。

 

「トラッパーの1人部隊でよくもまあ、ここまでやるもんだ。三雲隊もそうだったが玉狛支部はまたとんでもない人材を拾ってくる」

映像を見終えた後に、柿崎は少々困ったような表情で話し始める。

 

「あの爆撃やばいですね。巻き込まれたらひとたまりもないなー。まるで雨取さんの砲撃並みにやばいかな」

ネコ目が特徴の小柄な少年巴虎太郎は横島の先日の試合風景を見て感想を漏らす。

 

「それは横島隊長が創作した新たな戦術で、グラスホッパー迫撃砲という名だそうよ。トリオン爆弾をグラスホッパーで射出しているの。射出の距離を伸ばし、安定させるためにトラッパーのツールを使ってその場で砲身を作ったのだとか」

真登華は予め仕入れて来た情報で巴虎太郎の感想を補填する。

 

「同じくトラッパーの箱田が所属する松代隊とは何度か戦ってきたが、横島は全く別もんだと思っていい。俺は冬島さんとも戦った事もあるが、それとも異なる。トラッパーは罠によって撃墜ポイントを上げる事もあるが、トラッパーの本来の役割は隊員のワープ等による機動フォローと、トリオン爆弾や地雷による罠を仕掛け、相手の動きを制限させる事だ。直接罠を仕掛けるにしろ待ちの戦術だ。だが横島は従来と異なり積極的に攻撃して来るトラッパーだ」

柿崎はトラッパー横島について一通り私見を述べる。

柿崎は柿崎隊を発足する前は嵐山隊に所属しており、その際冬島隊ともランク戦で戦った経験があった。

そう言う意味では、那須隊とは異なり、トラッパーとの対戦経験は豊富だと言っていいだろう。

 

「対策は、まずは横島隊の縄張りに迂闊に入らない事、落とし穴トラップは脅威だ。構成と性質は分かってはいるが、罠が仕掛けた場所が分からない精巧なものだ。現状では見破る方法がまだ見つかってない。三雲隊の三雲が使っていたスパイダーも厄介だったが、まだ見える分対処は可能だったな。次に時間を与えない事、このグラスホッパー迫撃砲を行うには砲身を作成する準備に時間が必要だという事が分かっている。グラスホッパー迫撃砲の砲撃は脅威だ。難しいがこの二つを両立させる作戦を考えて行く。先ずは虎太郎、何か意見はないか?」

 

「えっと、罠を設置や砲身を作る前に見つけて倒すのが早いと思います」

虎太郎は少し考えを巡らせてから、答える。

 

「確かにそうだが転送位置次第な上に、今回は四つ巴だ。かなり厳しいぞ」

 

「やっぱりだめですか?接近戦に持ち込めば行けると思うんですが」

 

「そうだな。接近戦に持ち込めばこっちのもんだ。所詮横島はトラッパーだ。だがグラスホッパーには気をつけたい。トラッパーなのにグラスホッパー持ってやがる。前は空閑にしてやられたからな」

 

「隊長、横島先輩はたぶんですが、接近戦もうまいハズです」

今迄聞き手に回っていたもう一人の隊員、三つ編みおさげの真面目そうな美少女照屋文香は柿崎と虎太郎のこの話を聞き、ここで口を挟む。

 

「どういうことだ、文香?」

 

「それは、その星輪女学院で……その」

 

「ああ、横島に助けられたあれか、規制が掛って詳しく話せないんだったな」

 

「はい、ですが横島先輩はきっと接近戦用の罠も用意してます。そう言う人です」

文香は星輪女学院で、横島に助けられた際の出来事や、後で木虎藍や小南桐絵の話を聞き、横島は現実でも接近で罠を仕掛けていた事や、不意打ちとはいえ素手で兵士を1人倒し拘束した手際に、そう判断したのだった。

 

「ふぅ、その情報があるのと無いとでは大違いだ。という事はだ。迂闊に近接も出来ないって事か、単独で攻めるのは危険か……、今まで通りうちの隊のやり方で集まってフォーメーションを組み人数と手数で押すのがいいか」

柿崎隊の基本戦術は、3人固まって攻めに守りにフォーメーションを取る戦術だ。

単純ではあるが安定している。

但し、守りに入るきらいがあり、攻めきれない事が多いのも事実でもあった。

 

「はい、私もそう思います」

文香も柿崎の意見に同意する。

 

「星輪のテロの時も那須も同じ現場にいたし、たしかガロプラの襲撃の際、那須隊の二人と横島が協力して、人型ネイバーを追い払ったと聞いた。那須隊も横島の近接戦については気が付いているだろう。知らないのは香取隊か……、あそこはほぼ香取の直感で動いて、後の二人がフォローしてるって感じだから関係ないと言えば関係ないか、マップ選択権はうちにある、それを生かせれば……」

柿崎は考えを巡らせながら話を進める。

 

 

 

 

そして、もう一つの対戦相手、香取隊の作戦室では……。

「次の対戦相手、那須隊と柿崎隊と玉狛支部横島隊ね」

オペレーターの落ち着いた雰囲気の眼鏡少女染井華(16歳高校1年生)はオペレーター席から静かに告げる。

 

「げっ、次の相手って玉狛支部?玉狛支部って何部隊あるのよ!」

目つきが鋭くわがままを地で行く性格だが、見た目の美少女ぷりからファンも多い香取隊隊長香取葉子(16歳高校1年生オールラウンダー、因みに染井華とは幼馴染)はイラつきを隠さずそのままぶつける。

少し前に玉狛第2三雲隊に作戦負けをし、かなり根に持っていた。

 

「ヨーコちゃん、一応横島隊の隊長の横島先輩は早沼支部だけど、オペレーターが迅さんで、早沼支部には隊が無いから、横島隊長は出向扱いなんだ」

人が良さそうなこの青年三浦雄太(17歳高校2年生アタッカー)はまあまあと葉子の癇癪を抑えてそう説明する。

 

「横島って!?もしかしてあの『痴漢・変態・セクハラの横島』!?」

 

「葉子でもさすがに横島先輩は知っていたようだが、当然ポジションは知っているのだろうな?」

インテリ眼鏡青年若村麓郎(17歳高校2年生ガンナー)は少々トゲがある風に聞く。

 

香取隊は戦闘員3人で柿崎隊と同じく近中距離を得意とした部隊だ。

だが、戦闘スタイルは集団陣形を重視する柿崎隊とは真逆で、隊長でエースの香取葉子が暴れて、後の二人がそれをフォローするという感じのかなり大雑把な戦闘スタイルだった。

しかも、香取葉子は天才型であまり練習もせず、戦略や作戦などは事前に立てず、場当たり的な感じで戦闘をこなし、しかも自由奔放でキツメな性格なため、他の隊員の苦労が絶えない。

それでもB級の中位から上位に常に位置しているのは、葉子の才能に他ならない。

 

「知らないわよそんなの。彼奴、セクハラでボーダー追い出されたんじゃないの?」

 

「ヨーコちゃん……」

「お前という奴は」

三浦雄太も若村麓郎もこの葉子の言動には流石に呆れていた。

横島は現在B級ランク戦に置いて、1人部隊トラッパーという異色な編成で快進撃を続け、三雲隊と同じく注目度が高い隊だ。

ネタという意味では三雲隊よりも話題度は上だろう。

ボーダーの隊員であれば誰でも知っているのだ。

 

「横島隊長はトラッパーよ」

染井華は静かに答えを言う。

 

「はぁ?1人でトラッパーって舐めてるの?」

 

「横島隊、横島忠夫隊長の一人部隊、オペレーターは元S級の迅さん、今期ランク戦第4ラウンドから新規参入して現在B級11位、全て圧勝で上がって来てるわ」

 

「なによそれ?どうやったらトラッパー1人で勝てるのよ」

 

「ヨーコちゃん、横島先輩って今迄のトラッパーの常識を覆す様な感じなんだよ。誰かが言ってたけど、特殊工作兵(トラッパー)じゃなくて特殊機械化兵じゃないかって」

「そう、ガロプラ襲撃の時は、那須隊の那須隊長と熊谷先輩と組んで、人型ネイバーを1人追い払ってるわ」

雄太と華はそれぞれ横島が高い能力を持っている事を説明する。

 

「私だって、やれば1人でも人型ネイバーぐらいを追い払ってやったわ」

 

「横島隊長はトラッパー能力も高いし、サイドエフェクトも持ってるわ」

 

「はぁ?サイドエフェクト?横島の癖にムカつくんだけど!」

 

「そのサイドエフェクトは葉子にとって天敵よ」

華は淡々と葉子に説明しつつこう言う。

この華の発言に、雄太と麓郎は視線を葉子から外し、だんまりを決め込む。

そう、この横島のサイドエフェクトは真に香取葉子にとって天敵だからだ。

 

「どういうことよ」

葉子は自然と目つきが鋭くなる。

 

「触れた相手の正確なスリーサイズが分かるの。しかも相手がトリオン体でも本人のスリーサイズが分かる代物よ」

 

「そ、そんなふざけたサイドエフェクト、あ……あるわけないじゃん」

葉子は先ほどまでとは異なり、珍しく思いっきり動揺していた。

 

「生駒隊の細井先輩は隊員の前でスリーサイズを暴露されて、熊谷先輩や那須先輩もその被害に、さらに小南先輩に至っては『本当の』サイズを暴露されたらしいわ」

横島が持っていると噂されているサイドエフェクトは女性のスリーサイズが正確にわかるという代物だ。

 

「………私、次の試合出ない」

葉子は血の気が引いたように顔色が悪い。

 

「それは無理よ」

華は静かにそう言う。

 

「もぎゃあああーーーーっ、嫌だ!絶対出ない!出ないったら出ない!」

葉子は子供が癇癪を起した様に、四肢を放り出しソファーの上でじたばたと暴れ出す。

葉子がなぜ、こんなにも出る事を拒否するか……。

それは横島のサイドエフェクトに起因している。

何故なら葉子はトリオン体詐欺を行っていたからだ。

要するに、トリオン体にバストを相当盛っていたのだ。

横島に試合中にでも触れられる羽目になると、それが白昼の元に暴露されてしまうのだ。

隊員の二人の男共はこの事を知って、華がこの話題を出した瞬間にだんまりを決め込んでいた。

そもそも、この話題を上げる事を華から元々聞いており、任せてほしいと言われていたのだ。

 

「でも、大丈夫。触れられる前に倒せばいいのよ。葉子だったら出来る」

華はそんな葉子を見て、こう言った。

 

「そうよ!あいつは所詮トラッパーよ。絶体に速攻でそのそっ首落としてやるわ!!」

葉子は華の言葉で、一転、打倒横島に燃えるのであった。

 

そう、これは華の誘導であった。

むらっけがあって、気分屋の葉子をいかに乗せるかというための……。

しかも、作戦は葉子が来る前にある程度、華と雄太、麓郎で決めていたのだ。

横島の排除が最優先だと……。他の隊も同じくだろうと。

横島は場を壊すジョーカー的な存在だと、放っておくと手痛いどころじゃないダメージを受ける。ならば、始めに潰してしまうのが妥当であると……。

 




次はこの後編です。


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その20、対横島作戦会議後編

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


前回のアンケート結果です。
【次のランク戦の対戦相手で横島くんの事を気になりだしそうな女子は?(玲ちゃん以外)】
一位、香取葉子
二位、熊谷友子
三位、日浦茜
四位、照屋文香
という結果に……。
香取ちゃんが二位(17%)に圧倒的な差をつけて一位(37%)。
二位から四位は超僅差。
最下位は宇井ちゃんでした。

香取ちゃんは本編でもしっかりバックボーンも書かれてかなり人気そうですね。

では続きを。


 

那須隊のミーティングはまだ続いていた。

「そういえば玲、横島や迅さんやレイジさん達にテロ事件のお礼に玉狛支部に昨日出かけていたわね。横島について他になにか情報はないの?」

友子は玲にこんな質問をする。

実は、前回のランク戦の翌日に、星輪女学院のテロに巻き込まれた玲と柿崎隊の照屋文香と嵐山隊の木虎藍とで玉狛支部へ改めてお礼を言いに行っていたのだ。

初めて玉狛支部を訪れる玲達は、ボーダーの基地とは思えない玉狛支部の家庭的で緩い感じの雰囲気に初めは驚く。

そんな中、玲は横島が何だかんだと玉狛支部の面々に慕われている姿に、何故だか自分の事のように嬉しい気分になっていた。

藍は慕っている烏丸京介に会える嬉しさを隠しながら玉狛支部に訪れていたが、京介が横島と仲がいい姿につい横島に嫉妬してしまう。

だが、藍は修の練習の相手をするのと引き換えにとはいえ、京介からいつでも玉狛支部に来ていいというお墨付きを貰い、横島への嫉妬心など吹っ飛び、心の中はゆるゆるだったのは仕方がない事だろう。

文香は次の対戦に向けて、対戦相手の横島の情報を少しでもと、色々と栞や桐絵に質問していたが、横島は桐絵だけでなく、三雲隊の面々とも練習をしたことがない事が判明、それどころか、普段訓練をしている風でもないということで、情報らしい情報は手に入れる事は出来なかったようだ。

 

「え?あっ、ごめんなさい。お礼の事で頭がいっぱいで、その事を意識していなかったわ」

玲は玉狛支部へ横島に会いに行ってお礼を言う事で頭がいっぱいで、当日は横島が次の対戦相手だという事も全く意識していなかったようだ。

 

「熊谷先輩、私、横島先輩って、セクハラで有名だから、千佳ちゃん…三雲隊の雨取さんに大丈夫なのか聞いてみたんですけど、雨…千佳ちゃんが言うには、面白くて、いい人だって言ってました」

茜は千佳とは、一つ年下で同じスナイパー仲間ということもあり本部での教練で同席することも多く、仲も良かった。

 

「はぁ?なによそれ……横島め、私にはセクハラまがいな事をするくせに……まあ、いいわ。茜、雨取さんは横島の戦闘スタイルとかどんな練習しているとか何か聞いてない?」

友子は千佳の横島評に納得がいかないが、話を進めるため、茜に横島について有益な情報がないか聞く。

 

「うーん。そう言えば、一緒に練習した事が無いそうです。空閑くんが何時もやりたがってるそうなんだけど、迅さんにやめておいた方がいいと断られるそうです」

 

「なにそれ?迅さんか……あの人も何考えてるかわかったもんじゃないわ。」

友子は迅のニヤケ顔を思い起こし、ウンザリした口調でそう言う。

 

「それだけ、情報規制をしっかりしているという事じゃないでしょうか。新たな戦法や戦術が漏れないようにと」

小夜子はその話を聞いてそう判断する。

 

「そういえば、先日玉狛支部にお礼に行った際、桐絵ちゃんも横島さんと練習をしたことがないって言ってたわ。練習している姿もあまり見たことがないって」

玲は先日の玉狛支部訪問時の事を思い浮かべながら話す。

 

「はぁ?なに横島の奴、練習しないであんなことが出来るの?彼奴は一体なんなの?」

友子は多少イラつきながらそう言い放つ。

 

「横島さんは防衛任務も迅さんとしか行かないようだったし、あっ、でもたまに木崎さんと迅さんと何かコソコソやってると桐絵ちゃんが言っていたわ」

玲は更に追加で桐絵達との会話を思い出しながら横島の事を話す。

 

「やはり、意図的に情報規制をかけてると思った方がいいですね。やはり迅さんはオペレーターとしても侮れないですね」

小夜子は同じオペレーターとして、仲間内にも徹底して情報を漏らさない態度に感嘆する。

迅が修達と横島を訓練させないのは、実際には情報規制ではなく、修達がまだ横島と訓練するには実力不足だという認識と、修達に変な癖が付いたら困るという理由だった。

桐絵に関してはただ単に横島がやりたがらないだけの話だ。

 

「ちょっとまって、トラッパーなのに防衛任務に向かってるってどういう事?立入禁止区域だからって、街中では落とし穴トラップは設置出来ないでしょうし、流石に家とかも巻き沿いになるようなトリオン爆弾なんて設置できないでしょ?」

友子は玲の話に少々驚く。

確かに街中では落とし穴トラップは設置出来ない。

落とし穴トラップを構成しているトラッパーのホールは飽くまでもトリオン体で出来た構造物に穴やトンネルを作るもので、通常の物質で構成されている三門市の街では穴を開ける事が出来ないのだ。

それだけでなく、トラッパーの主な攻撃方法であるトリオン爆弾などは、街に残る家を破壊してしまうため、トラッパーはあまり街の防衛任務には向いていない。

 

「迅さんのフォローを行っているのではないかしら、冬島さんも出られてる事があるから……。でも横島さん……きっと、落とし穴や先日のグラスホッパーの砲撃以外にも何か手を持ってると思うわ。接近戦で対処できるようなものを……」

 

「玲、どういう事?」

 

「星輪女学院で横島さんに助けられた際の事なの……規制があって詳しくは言えないけど、横島さんはどんな状況でもトラップを仕掛けられると思うわ」

玲は星輪女学院で横島に助けられた際の事を思い浮かべこう話す。

ボーダー本部から政治的要因が大きいためという理由で、助けられた際の状況を詳しく話す事を規制されていた。

特に横島がトリガー無しで助けに来た事は話せないのだ。

 

この玲の話に反応したのは友子ではなく、小夜子だった。

「……私の私見でいいですか?ガロプラの人型ネイバーと、先輩方と横島先輩が対峙した際に、横島先輩は那須先輩のバイパーの性能を熟知して、しかもあの状況で事前準備なんて出来ないのに、咄嗟にあんな作戦までたててました。後で独自に何度もあの戦闘状況をシミュレートをやってみましたが、あんなにも正確に敵に対処できるなんて、今の私にはあの指示は出来ないです。それに横島先輩は那須先輩だけでなくて、もしかしたらボーダー隊員全員の能力を把握しているのかもしれません。今迄のランク戦の試合運びにしろ横島先輩は普通じゃありませんよ、かなり研究されているのではないでしょうか?」

小夜子はあのガロプラのウェン・ソーとの戦いで、緊急とはいえ横島とリンクしオペレートを行っていたため、横島の戦闘状況を確認ですることが出来ていたのだ。

あの戦闘データを後日改めて検証すると、横島の状況判断の速さやトラップの設置タイミングの絶妙さなど次々と明らかになり、横島の凄みを感じざるをえなかったのだ。

 

「……確かにあいつ、即興であんな作戦を立ててたわ」

 

「それと先輩方、ガロプラの女ネイバーを捉えた横島先輩の動きが見えてましたか?」

小夜子は、あの戦いの最中で横島がガロプラのウェン・ソーを二度も一瞬で迫って手を握っていた状況の事を聞く。

 

「……全くわからなかったわ。トラッパーのワープじゃないの?」

友子は横島が何時迫ったのか全く見えていなかった。

前触れもなく、突然目の前に現れたように見えたのだ。

友子も玲も、横島がトラッパーのワープを発動させたと思っていた。

 

「横島先輩はトラッパーのワープを使ってません」

 

「どういうこと、小夜ちゃん?」

その言葉に玲は驚き、聞き返す。

 

「あの戦闘を何度も確認しましたが、横島先輩は走って女ネイバーの前まで行ってます」

 

「え?」

「なにそれ?」

玲も友子もその小夜子の言葉に驚く。

 

「トリオン体の行動ログのデータ解析から横島先輩は普通のスピードで走って、女ネイバーの手を握ってます。ここからは推測ですが、横島先輩は那須先輩や熊谷先輩だけでなく、女ネイバーの意識の外から迫ったと思われます。要するにタイミングです。皆さんが全く意識を向けていない方向から、さらに横島先輩に意識が向いていないタイミングで行動を起こしたとしか言いようがありません」

 

「それ、小夜の考え過ぎじゃないの?そんな事現実にできる?たまたまじゃない?あいつ、女ネイバーにナンパしていただけよ」

友子は横島のセクハラ未遂を数度受けているだけに、横島のあのニヤケ顔から、そんな高度な事を行っているようにはとても見えなかった。

 

「そうとしか思えません。横島先輩はトラッパーの新戦術や戦法に注目されがちですが、トリガーの能力よりも戦術や戦術眼が恐ろしく切れます。あの後、横島先輩の全試合のログを何度も何度も解析しましたが……やはり、そうとしか思えません」

小夜子は静かにそう断言する。

小夜子は、引きこもりで男性が苦手なのもあり、男性全員が苦手であり女性から嫌われ者の横島自身に対して、特別苦手意識を持っていなかったのだ。

そんな事も有り、ガロプラのウェン・ソーとの戦いの横島をほぼ正確に知っているだけに、横島に対しての評価はかなり高かった。

 

「小夜ちゃん……」

年上の男性が極端に苦手な小夜子が、対戦相手とはいえ年上の横島について調べ、口調はいつも通り物静かだが熱心に語る様子に、玲は少々驚いていた。

 

「そうだとしても、横島の普段のセクハラは、それを隠すためのカモフラージュ?うーん。どうも納得いかないわね」

友子は小夜子の私見は確かに筋が通っているように思えるが、横島にマイナスイメージしかない友子にとって、受け入れがたい事実の様だ。

 

「迅さんと同じ人種という事じゃないですか。迅さんと横島さんってかなり仲がいいみたいだし」

ここで茜がこんな意見を出す。

そう、迅はボーダーきっての凄腕戦闘員ではあるが、セクハラ常習犯でも有名であった。

 

「そう言われると釈然とはしないけど、納得はいくわ。横島の方が酷いけどね。戦闘中にナンパするような奴よ。流石に迅さんはそこまでは……、やりそうね。類は友を呼ぶとはよくいったものね」

友子はどうやら、茜の意見に一応納得がいったようだ。

 

「ふふっ、小夜先輩が他の隊の男の人をここまで調べるなんて珍しいですね」

茜は微笑みながら小夜子にこんな事を言う。

 

「オペレーターの仕事を何と思ってるの?他のチームのメンバーの動向を調べるのもオペレーターの仕事」

小夜子は多少意地悪っぽく、年下の茜に切り返す。

 

「だって~、小夜先輩って男の人が苦手じゃないですか、ボーダー本部にも男の人を避けながら入るのに、横島先輩をこんなに調べるなんて、小夜先輩もしかして横島先輩の事ちょっと気になるのかなって?」

茜は含み笑いをしながら更に言う。

 

「そ、そういうんじゃないから。何でもかんでもそっちに持って行かないでくれる、これだからリア充女子中学生は……」

小夜子はアバターを怒りの表情に変え、茜に少々早口で文句を言う。

 

「小夜ちゃん、横島さんに一緒に会ってみる?横島さんはやさしいし、他の男の人と比べ話しやすいわ」

玲は小夜子が男性の、しかも年上の男性が極端に苦手なのは前から気にしていた。

玲自身もあまり得意な方ではないが、横島だったら何故か普通に話せている。

ボーダーは何だかんだと男女比率は男の方が圧倒的に高い、今後の事を考えれば慣れておかないと色々と問題後々出て来るだろうと、こんな提案を微笑みながらする。

 

「玲、それはいきなり刺激が高すぎるんじゃないか?それだったら年下の三雲くんの方がいいだろう。彼、真面目そうだし、作戦を立てるのもうまいだろう。話が合うんじゃないか?」

友子も小夜子の男性が苦手な所を気にしていたのだが、流石に玲の意見は厳しいと見て、修の名前を出す。

確かに、ボーダー内で『痴漢・変態・セクハラの横島』の二つ名で通っている横島を引きこもりで男性苦手症の小夜子に引き合わすのは、刺激があまりにも強すぎるだろう。

 

「そ、そういうのはいいので……私の事よりも次の対戦の話です」

小夜子は先輩達には文句は言い出せず、元の話に戻そうとする。

 

「それはまた今度考えるとして、横島については迅さんクラスの使い手だと認識した方がいいという事か……」

友子もこの話題を今広げるつもりはなく、作戦会議を進めていく。

 

 

 

 

次の対戦相手が皆横島対策を練っている際中に当の本人はというと玉狛支部のリビングでマンガを読みながらゆるりと過ごしていた。

長期出張に出ていた玉狛支部のメンバー二人から帰って来ると連絡があった。

この二人はボーダー隊員の適正者をスカウトするため全国を巡っていたのだ。

修や遊真、千佳、ヒュースはまだ顔を会わせた事が無い人物である。

迅は本部に出かけたままで、京介は次のバイトへと出かけ不在だが、その他のメンバーは林藤支部長も含めリビングに集まり帰りを待っていた。

レイジは何故か、先ほどからうろうろと廊下とリビングを行ったり来たりと落ち着きがない様子だ。

落ち着いた筋肉の二つ名で呼ばれるこの男にしては珍しい状況だ。

 

 

しばらくして……。

 

「戻りました」

「ただいま」

中年の白人男性と、20代前半の落ち着いた雰囲気の美女が玉狛支部の玄関から上がり、皆が集まってるリビングに挨拶をしながら入って来る。

 

「おかえりなさーい」

「おかえり~~」

「おかえりなさい!」

栞と桐絵は嬉しそうに二人を迎え、レイジは落ち着きが無く美女の方へ進み挨拶を返す。

そんなアットホームな風景だったのだが……。

 

「ゆりさっはーーーーーーんっっ!横島寂しかった―――――っ!早速ただいまのキッスをっ!!」

横島が栞やレイジ達よりも先に美女の元へ駆け寄り、空中へとダイブし頭から突っ込みながら美女へキスをしようとする。

 

「あら、横島くん元気だった?」

その美女、林藤支部長の姪である林藤ゆり(24歳玉狛支部オペレーター)は、横島のダイブを軽い感じでひらりと避けながら、挨拶を返す。

勿論横島のキスは空振り、頭からリビングの床へと突っ込み玉砕する。

この横島への対応、手慣れたものだ。

実は、この林藤ゆりと中年の白人男性ミカエル・クローニン(32歳エンジニア)のボーダー隊員スカウトの旅の際、この世界に飛ばされた横島と出会い、ボーダーというよりも玉狛支部にスカウトし、送り込んだ張本人たちだった。

 

「ゆりさん、生まれる前から好きでした!!」

床に玉砕した横島はめげずにガバっと起き上がり、ゆりに迫ろうとする。

 

が……

「横島……どうやら、話し合いが必要なようだな」

木崎レイジは何時にない強張った表情で、後ろから横島の首に腕を回し、がっしりと締めつけながら、リビングの外に引きずって出て行く。

 

「な、なにをする~~この筋肉だるま!せっかくのゆりさんとの再会に熱い抱擁シーンをって、やめっ、ギャーーーーース!!筋肉が、ガッチガチの筋肉が!!いいいやーーーーーーっ!!男の筋肉は嫌やーーーーーつ!!」

リビングの外からは横島の悲鳴がしばらく続いたとか……。

そう木崎レイジ21歳は林藤ゆりに惚れていた。

しかも出会った当初の6年前から……。落ち着いた筋肉はゆりの前では、飼いならされた犬のような感じに。

 

そんな横島達を余所に、ゆりとクローニンと初顔合わせの修、遊真、千佳、ヒュースはそれぞれ挨拶を交わし、簡単な帰還祝いが催され、近状について皆意見交換をする。

クローニンは実はネイバーであり、ここではカナダ人設定となっていた。

そして、アフトクラトルのヒュースはクローニンの甥っ子という設定で、ヒュース・クローニンを名乗る事となっていた。

 

リビングでは2人の土産話や、次のランク戦について盛り上がる中、横島はというと、レイジによる筋肉説教がリビングの外で延々と続いていたのであった。

 





話を盛ろうとすると変な方向になっちゃって、ようやく修正出来て出せました。
次は確実にランク戦ですw

はぁ、やっとランク戦書けます。


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その21、くんずほぐれつできると思ったのに!

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

では続きを……


 

「ボーダーのみなさんこんばんは! 海老名隊オペレーター武富桜子です!お待たせしました!B級ランク戦ラウンド7!中位夜の部を開催いたします!」

桜子のこの一声でランク戦夜の部の開幕が宣言される。

 

「本日の解説にお越しくださったのは、A級冬島隊のナンバーワンスナイパー当真先輩です!よろしくお願いします!」

 

「よろしく、本当は冬島さんが来る予定だったんだが、本部開発部の大事な要件があって来れなくなって俺が代わりに来たってわけだ。冬島さんには横島の戦闘をちゃんと見て知らせろって言われてな、ランク戦のログがあるってのに」

ボーダーナンバーワンスナイパーのリーゼントが特徴の当真勇(18歳高校3年生)は、どうやら隊長の冬島の代りにここに来たようだ。

冬島隊はスナイパーの当真とトラッパーの冬島の戦闘員二人の隊だ。

トラッパーは普通前に出て戦う事はしないため、戦闘をこなすのは実質当真1人のかなり偏った編成の、ボーダーの中でもかなり特殊な隊だ。

だが、それでもA級2位に君臨するだけの実力を持つトップクラスの隊である。

A級2位という地位に隊を押し上げたのは当真や冬島が其々その道のトップ実力者というのもあるが、そんな年上の凄腕連中を有無も言わさず従わせるオペレーターの真木理佐(17歳)の存在が大きかった。

 

「冬島さんは横島隊長の試合には必ず解説に呼んでくれと私に言ってましたし、本日来る事ができなかった冬島さんの残念そうな顔が思い浮かべますね」

冬島は桜子に横島の試合には解説として呼ぶように頼んでいたようだ。

 

「そして、もうひと方はA級三輪隊の槍使い、米谷先輩にお越しいただきました!よろしくお願いします!」

桜子はもう一人の解説者を紹介する。

 

「よろしく。俺は別に暇だったし、横島先輩の試合も見てみたかったってのはある」

ボーダーきっての槍使いアタッカーの米谷陽介(17歳高校2年生)は軽い口調で挨拶をする。

米谷は横島とは女性のスリーサイズが分かるサイドエフェクトの件で知り合い、横島がボーダーに訪れると何故か出水と一緒に横島の前に必ず現れ、熱心に声を掛けていた。

勿論女性のスリーサイズの件についてだ。

 

「はい、皆さんお忙しそうな中、米谷先輩は暇そうだったので、声を掛けさせてもらいました!」

桜子ははっきりこう言った。

 

「ちょ、武富ちゃん、それひどくない?」

 

 

 

「本日のB級ランク戦中位は、B級9位那須隊、10位香取隊、11位横島隊、13位柿崎隊と4隊による対戦です。やはり注目は破竹の勢いのトラッパー1人部隊である横島隊でしょうか!?当真先輩、同じトラッパーとタッグを組み、トラッパーの相棒として経験が豊富ですよね。どう見ますか?」

 

「本来トラッパーは戦闘員だがサポート役だ。トラッパーは1人でランク戦するもんじゃねーな。だがその前提を覆して勝ち進んでるのが横島だ。冬島さんも言ってただろうがあいつは従来のトラッパーとは全く違うからな。俺のは参考にならねーよ」

当真の狙撃を最大限に生かすためのフォローを行うのが冬島のトラッパーとしての役割なため、当真は1人トラッパーである横島と冬島が比較対象にはならないと言ったのだ。

 

「そうなんですね。確かに冬島さんもそう仰ってました!」

 

「ははっ、俺も出水と前の横島隊の対戦を見ていたが、あれはヤバかったな。トリオン爆弾を降らすとか、考え方がぶっ飛んでる」

米谷は楽し気に笑いながらそう横島の対戦を評する。

 

「だが、今回の横島は初めから不利だ。4部隊との対戦という事はその分居場所がバレやすい。冬島さんも言っていたが、前に迫撃砲を見せただろ?時間を与えないために真っ先に狙われるだろう。しかも、那須隊以外はスナイパー無しの、近接から中距離がメインの隊だ。出だしから展開は早まるぜ。まあ、マップ次第だが、今の所編成有利なのは那須隊か?アタッカーの熊谷はいるが、どちらかというと中距離エースの那須のガードという立場だ。スナイパーの日浦が睨みを効かせしっかり役割を果たせば、全体を把握し戦場をコントロールすることも出来る。ふっ、まあ、もっとも横島が前みたいにとんでもない事を仕出かすかもしれないが、流石にそこまでは予想できねーな」

当真はスナイパー目線で語る事が多いが、その他の事も的を得た感覚を持っていた。

 

「この頃ちょっと調子悪そうだが、香取ちゃんが場を掻きまわせば、面白くなりそうだ。横島先輩、速攻狙われるだろうし、横島先輩が泣き叫びながら追いかけまわされる姿なんて、拝めるかもな」

やはり米谷は楽し気だ。

 

「今回マップ選択権があったのは柿崎隊ですが、ここで、ようやくマップが選ばれました。市街地Aです。意外とオーソドックスに来ましたね」

市街地Aは一般的な住宅街が広がるマップだ。所々マンションなどはあるが、視界が開けており、お互いの位置を把握しやすいマップでもあるため、純粋な力戦になりやすい。

 

「やはり横島を意識してるな。視界が開け、お互いを見つけやすいマップだ。しかも4部隊での対戦だ。接近戦主体の隊が多いし、横島がトラップをまき散らす前にどこかの隊が捉える事ができるだろう。だが、横島をもっと意識するなら荒野マップを選ぶのもありだ。あれなら隠れる場所は所々ある岩場と地面のデコボコとした高低差だけと、ほぼ障害物は無い上に見晴らしも最高ときたものだ。トラッパーが圧倒的な不利なマップだ。うまく岩場を取れればスナイパー有利ではあるが、居場所はバレるし、ほぼ正面からの撃ち合いになる。よっぽどでないと選ばれないマップだ。真正面からの戦闘が好きな太刀川さんとか出水とかが好きなマップだが、A級1位の太刀川隊はマップ選択権がほぼ無いからな」

当真は柿崎隊が横島対策として選んだマップだと推測する。

 

「当真さん、俺も荒野マップ好きっすよ、正面からやれていいじゃないっすか。だけどうちの隊長(三輪)は埃っぽいだとか言って絶対選択しねーっすけど」

バトルマニアの米谷は当真が言う荒野マップが好きなようだ。

 

「なるほど、オーソドックスに見えて、横島隊を意識したマップ選択の様です!」

 

 

 

対戦前の那須隊の作戦室では……

「マップは市街地Aね。玲や小夜が予想した通りね」

友子が選択されたマップを見てこういう。

 

「作戦通り先ずはクマちゃんと私が合流し、茜ちゃんはスナイプポイントからバッグワームを起動した隊の捜索、小夜ちゃんは相手の動きの予想お願いね。相手の位置が把握できるまで私とクマちゃんは動かない。横島さんがどこかの隊に見つかり戦闘を開始した場合は、私とクマちゃんで横やりを入れるわ。それではいきましょう」

那須隊は柿崎隊がこのマップを選択することを予想し、作戦を立てていたようだ。

 

「「了解」」

「了解よ」

玲の掛け声に隊員達は答える。

 

 

 

同じく、対戦前の柿崎隊の作戦室では……

「先ずは相手に位置を悟られないように合流し、那須隊のスナイパーに気を付けつつ、他の隊を捜索、横島と出会ったら、罠に気をつけつつ戦闘開始だ。やる事は何時もと同じで問題ない。ただ、優先順位は横島隊だ。行くぞ」

「「「了解」」」

柿崎隊も作戦の概要を確認し、号令をかけ、隊員もそれに答える。

 

 

 

そして、香取隊の作戦室では……。

「横島、ブッ倒す。真っ先にぶった切ってやるわ」

隊長の香取葉子は何時ものクールな感じは無く、少し興奮気味だ。

 

「ヨーコちゃん。ちょっとは落ち着いて」

「葉子、横島先輩を見つけても一人で突っ込むなよ」

三浦雄太と若村麓郎はそんな葉子を諫めようとする。

 

「そうはいかないわ!彼奴は見つけ次第ブッ倒す!あんた達こそ、横島を見つけたらすぐに知らせなさいよ!」

葉子の鋭い目は半分据わっていた。

やはり、よっぽど横島のサイドエフェクトでトリオン体に胸を盛っていた事を暴露されたくないのだろう。

 

「葉子はそれでいいわ。先輩方、作戦通り他の隊の動向を探りつつ葉子のフォローお願いします。では開始です」

オペレーターの染井華は静かな口調で対戦が始まる事を告げる。

 

「横島、覚悟しなさい」

「うん」

「了解だ」

それぞれ相づちを打ち、転送される。

 

 

 

一方、作戦室の横島はというと……

「あーーっ、やっぱ玲ちゃんと照屋ちゃんは爆破なんて出来ないって!」

「まだ言ってるのか?何度も言ってるだろ?戦闘体を傷つけたって本人はピンピンしてるって、それにお前、女子とくんずほぐれつしたいって言ってただろ?」

「これって銃撃や切り合いじゃねーか!なにがくんずほぐれつだ!あっ、今B級11位だよな。たしか10位取れれば、良いんじゃなかったっけ?あとちょっとじゃねーか。今回休んでもいいだろ?」

横島はまだ試合に出たくないとぐずって、迅と言い合いをしていた。

 

「7位をとらないと確実じゃない。はぁ、まあここで4点以上取れれば、次の試合でも何とかなるが……6点取れれば確実だな」

「4点とれればいいんだな。……ふはははははっ!男共は容赦なく爆破じゃーーー!」

「那須ちゃんと照屋ちゃんはいいとして、他の女子もちゃんと倒せよ」

「お前は鬼畜か!!中学生の女の子もいるんだろ!!しかもみんな年下の女の子じゃねーーか!!お前どSなの!?」

「これは対戦、練習試合のような物だ。いい加減に頭切り替えろって」

「いやじゃーーーー!これ以上女の子から好感度がさがったらどうすんじゃーーー!!」

「お前は元々好感度最底辺だから下がっても同じだ。気にするな。そんなに爆破が嫌だったら、爆破以外の方法で倒せよ、なんなら弧月使ってみるか?」

「あほかーーー!!いっしょやないか!!女の子ぶった切るとか!!どんだけ鬼畜なんや。ボーダーってところは!!」

「だから、そういうルールだから仕方がないだろ!?いい加減に慣れろよ。彼女らだってそれは承知の上だって。それにお前と戦って今倒されたとしても、いつかお前の様な敵に会った時にその経験は必ず生きるはずだ。お前が本気で戦わないせいで、彼女らが窮地に陥ったらどうする?」

「う……そ、それは……」

横島はそう言われてしまっては流石に返す言葉も無かった。

このランク戦はお互いの戦闘技術向上の場でもある。

 

「そろそろ開始だ。行ってこい」

迅がそう言って横島を送り出し、横島は対戦マップへと転送される。

 





次、試合開始ですw


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その22、横島全開!?

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早速、ランク戦開始です。


「それでは、B級ランク戦ラウンド7中位夜の部、開始です!」

武富桜子のコールと共にランク戦が開始され、隊員達は次々と仮想フィールドへと転送されて行く。

 

 

「おーっと!これは!転送早々に香取隊長が、横島隊長を発見!早速戦闘態勢に!」

 

「やっぱりな、しかも香取に見つかるとは、横島の奴運が悪いな、こりゃ、速攻落とされるかもな」

当真はこの見晴らしの良い市街地Aのマップで4部隊が犇めく状態では、横島は直ぐに居場所がバレるだろうと予想していたところ、早々に香取葉子に見つかったようだ。

 

「他の隊だったら合流からのって感じになるだろうが、香取ちゃんだったら速攻攻めるだろうな。さーて横島先輩、早速ピンチっすよ」

米谷はこの様子を相変わらず楽し気に見ていた。

 

「転送位置が悪かったか!?横島隊長バッグワームを起動してましたが、早速香取隊長に見つかり、攻撃を仕掛けられてます。流石にトラッパーではこれを逃げ切るのは無理か!?これまで快進撃を続ける横島隊長に初の土を付けるのは香取隊長なのか!?」

桜子は興奮気味に今の様子を伝える。

 

 

 

 

「横島!見つけたわ!私に速攻倒されなさい!!」

香取葉子は何時もの冷静な雰囲気ではなく、狂気をはらんだような表情で横島をその目で捉えていた。

 

住宅の敷地内をこそこそと移動している横島をハンドガンタイプのガンナートリガーで射撃しつつ、グラスホッパーを中空で使いながら、横島との距離を詰めていく。

 

「うわっち!!げっ、見つかった!?……女の子!?可愛いのになんか怖い!!美神さんが金がらみで憤ってる感じの目なんだけど!!」

横島は葉子の射撃を蛙飛びのように飛び跳ねてさけつつ、振り返り相手の顔を見て、こんな感想を漏らす。

どうやら今の葉子の顔は横島の上司の美神令子が怒り狂った時のような凶悪な顔つきをしているようだ。相当ヤバそうだ。

 

「そっ首、刎ねてやる」

葉子はハンドガンでけん制しつつ、グラスホッパーで一気に距離を詰め、横島に大型ナイフのような形状にしたスコーピオンを振るう。

 

「ひょえ~~~!!」

横島は90度に綺麗にお辞儀したような恰好でそれを避け、スコーピオンは空を切る。

 

「ちっ」

葉子はそのままスコーピオンによる斬撃を次々と繰り出し息つく間もなく横島に攻撃を与え続ける。

 

「ひえ~~!?おわ~!?はひぃーーっ!?ちょっ!?待てーーっ!?」

横島はそれをギリギリに不格好にしゃがんだり、のけぞったり、びよーんとジャンプしたりして避け、地面をゴロゴロ転がり急に立ち上がって走って逃げだした。

 

「逃がさないわよ!」

葉子はさらに右手でハンドガンを撃ちながら、追いすがり、左手でスコーピオンを鎌の様な形状に変形させ斬撃を繰り返す。

 

「ぎゃーーー!!なんかめっちゃ怖い!!初めて会う子なのになんか恨み買う事を……うーん、あれか!ボーダー本部にシャワー室に下着の物色をしようと……いや、あれはクマちゃんにバレて未遂に終わったはず。階段下からパンツを覗いたのがバレた!?」

横島はそんな事を考えながら道路をジグザグに走り、葉子の攻撃を全て避ける。

どうやら、横島は痴漢未遂をボーダー本部で繰り返していたようだ。

 

「ちっ、当たらない!」

葉子は自分の攻撃が全く当たらない事にイラつきながらも追撃を繰り返す。

 

「ふはははははっ、昔の偉い人が言ってました!!逃げるが勝ちって!!」

横島は走りをトップギアに持っていき、不格好な走りのままドドドドドと轟音の様な足音を立て、土煙を巻き上げながら一気に葉子を突き放す。

十字路を90度に直角に曲がり、完全に葉子を巻いたのだった。

 

 

実況席でその様子の一部始終を見ていた桜子は……

「ええええええ!?な、なんなんでしょうか!?横島隊長、香取隊長の猛撃を……その、変な避け方で全部避けて……それで……とても変な走り方で逃げ出して……香取隊長の追撃も……全く追いつかずに……走って土煙が上がってその…… こほん。失礼しました。これは一体どいう事なのでしょうか!!横島隊長!!猛然と逃げ切りました!!」

葉子の猛追に対し、不格好に避けて逃げる横島の様子に桜子は目が点になり、語彙力が低下し、横島が逃げ切った所でようやく我に返りこう締めくくった。

 

「おいおい、うそだろう?香取の銃撃も斬撃もシールド使わずに全部避けてやがったぞ?あいつ、本当にトラッパーか?」

当真は横島が葉子の攻撃を不格好だが悉く避ける姿に驚きを隠せないでいた。

 

「くははははっ!すげー、すげー、なんだありゃ!滅茶苦茶なフォームなのにはえーーー!どうやったらあの走り方でグラスホッパー使って追いすがる相手をちぎれるんだ!?くくくくっ!流石、横島パイセン!!」

米谷は横島の攻撃を避ける姿や、不格好に走って逃げる様に爆笑していた。

 

 

「いや、逃げきれてません!横島隊長、角を曲がった先には柿崎隊がフォーメーションを組んで待ち構えていた!横島隊長!万事休すか!?」

桜子は興奮気味に、横島が葉子から逃げ切ったと思われた先に柿崎隊の3人がサブマシンガンを構えている姿を、実況する

柿崎隊は3人の隊員が一早く合流し、葉子が横島を捉えて攻撃を開始する姿を確認して、回り込んでいた。

横島、又は横島が葉子に撃破されたとしても、葉子が単独で動いている所を一気に叩く算段だ。

 

柿崎隊の3人による容赦ない銃撃が横島を襲う。

「横島が香取から逃げ切ったのか!?横島確認。行くぞ」

「「了解」」

 

「おわわわわわっ!?こっちにも!!もう、いやーーーーっ!?」

横島は慌てて急ブレーキをかけ、踵を返し、飛び交う銃弾を背に反対方向へ逃げる。

 

しかし、反対側には香取隊の若村麓郎と三浦雄太が迫って来ていた。

「横島先輩を確認、先には柿崎隊!」

「ろっくん(若村)、ヨーコちゃんには悪いけど、柿崎隊と挟撃で横島先輩を落とすチャンスだね」

 

 

「やばっ!?あわわわわわっ!!」

横島は慌てて、道沿いのマンションの壁をシャカシャカと登り逃げようとするが……。

 

「……逃がさない!」

上空から葉子がグラスホッパーを使い、横島目掛けてハンドガンを撃ちながら、スコーピオンで切りかかって来た。

 

「また来たーーーーっ!?ひぇ~~!?」

横島は慌ててマンションの壁からビヨーンと飛び跳ね回避し、道路へと落ちるがそこもまた死地、柿崎隊と香取隊の男共が挟撃の構えで銃弾を浴びせて来る。

 

「あがががががっ!しぇ~!!ほげ~~っ!!あい~ん!!」

横島は地面をゴロゴロ転がったり、その体勢でコメツキムシのように飛び跳ねたり、中空にダイブしたり、シェーとかアイーンの恰好をしたりして、涙をちょちょ切らせながら、無様な姿で銃弾を避け続ける。

 

「も、もうアカン!!」

弾丸の嵐の中、横島はグラスホッパーを使い、塀を飛び越え民家へとダイブして窓割って飛び込む。

 

柿崎隊は横島を追わず、香取隊とも対峙せずに、横島が逃げ込んだ民家から少し距離を置いて様子を見る。

柿崎隊は横島が民家に逃げ込んだ際はトラップ設置の可能性を考慮し、追撃を行わずに外から射撃しプレッシャーをかける作戦であった。

香取隊の男2人も横島が逃げ込んだ民家を挟んで、柿崎隊と反対側で様子を伺う。

しかし、葉子は横島を追撃するために、横島が逃げ込んだ民家へと飛び込もうとする。

その瞬間、何処からかメテオラの弾幕が、横島が逃げ込んだ民家へと雨霰と降り注ぐ。

葉子はシールドを張りつつメテオラの弾幕を回避しながら大きく飛びのき、隊の男共二人の元へ降り立つ。

 

このメテオラは、玲が放ったものだった。

那須隊は当初の予定通り、玲と友子が合流し、茜がマンションの高台を取り、先ほどまでの横島を追い込む香取隊と柿崎隊の攻防をじっと監視し、攻撃をするタイミングを見計らっていたのだ。

 

民家はメテオラの弾幕により民家は至る所で小さな爆発が起こり、そして大きな爆発が起き吹き飛ぶ。

 

 

実況席ではこれまでの攻防を見て……

「………なぜ、避けれるの?……あんな不格好なのに?あんな数の銃弾って普通避けれるの?…………、こほん、失礼しました。横島隊長の変態回避が炸裂!!ここまでノーダメージのもよう!!誰がこの展開を予想していたか!!ですがそれももう終幕でしょうか!!」

桜子は横島の変態回避を目の当たりにし、またしても茫然自失という様相であったが、横島が民家へダイブして飛び込むさまで、戦闘に一区切りが付き、我に返って実況を続ける。

 

「ぎゃはははははっ!!腹痛い!!横島パイセン最高かよ!!あれで良く避けれるな!!っていうか!!武富ちゃん、変態回避ってなんだよ!そのネーミンググッジョッブ!!シールド使えよ横島パイセン!!………まあ、こりゃあ一度勝負してもらいたいわ」

米谷は一通り爆笑した後に、鋭い目つきでこう呟く。

横島の変態回避がどうやらバトルマニア魂に火をつけたようだ。

 

横島が逃げ込んだ先にメテオラの弾幕が飛び込み爆発する様を見て……

「那須隊はこれを狙っていたな。いいタイミングだ。流石の横島もただではすまないだろう」

当真は、何故かホッとした表情でこう解説をする。

当真もあの横島の変態回避を目の当たりにし、驚きを通り越し少々茫然としていたようだ。

 

 

「どしぇーーーーーっ!!」

だが当の横島は民家の爆発による粉砕物に紛れ、再びバッグワームを装着しながらグラスホッパーで上空へ高く逃れていたのだ。

 

 

しかし……

「茜ちゃん、横島さんが上空に!今よ!」

玲は横島が民家から脱した事に気が付き、スナイパーの茜に指示を出す。

玲だけは横島があのメテオラで倒せるとは全く思っていなかった。

あの高威力のメテオラは横島を民家からあぶり出す目的で放ったものだった。

 

「了解」

茜も既にスナイパー用トリガーイーグレットのスコープ越しに上空に飛び出した横島を捉えていた。

那須隊の狙いはこれだった。

超長距離による狙撃。

 

茜は一呼吸おいて、照準を合わせ弾丸を発射。

タイミングもばっちりである。

横島に直撃コースだ。

 

だが、横島は中空でじたばたしながらも体をひょいとくねらせ、弾丸を回避したのだ。

 

「え?狙撃がバレてた?そんな……」

茜はその様子に驚き、ショックを受ける。

 

「ショックを受けてる暇は無いわ。次の狙撃ポイントに移動よ」

そんな茜にオペレーターの小夜子は冷静に次の指示をだす。

 

玲も冷静に狙撃が回避された事を確認し、更に中空の横島にバイパーの弾幕で追撃を掛ける。

そのバイパーの弾幕で、ようやく他の隊や実況席の面々は、横島が上空に逃れた事に気が付く。

 

「おわっ!玲ちゃんか!……やばっ!?」

横島は多量のバイパーのトリオン弾が迫る状況にグラスホッパーを使い地面へ向けて自分を慌てて射出。

 

「おわーーーーっ、まままままっーーーてーーーーこんなんばっかしーーーー!」

バイパーを避けきるためと致し方が無かったとはいえ、勢いよく地面へ自らを射出したため、勢い余ってマンションの集合ごみ置き場に頭から突っ込む。

 

 

実況席もようやく横島を追尾し、ごみ置き場が映し出され……

 

ゴミの山がもこもこと蠢き、その中から人影がガバっと起き上がる。

 

「あ~、し、死ぬかと思った」

ゴミだらけとなった横島はこんな一言を。

 

だが、横島のピンチはまだ続く。

 




ギャグ補正全開の変態回避に、ギャグ補正がプラスされた脅威の走力は、もはや横島の代名詞ですよね。

これをやりたかったw

次も横島らしさが出ればいいなとw


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その23、逆襲の横島!

感想ありがとうございます。
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では続きを……


「横島隊長は!?……ダメージはほとんど受けていない模様!!」

実況の武富桜子は横島がマンションの集合ゴミ置き場に豪快に頭から突っ込んで、平然と出て来た事に驚きながら実況する。

 

「皆さん申し訳ございません。一瞬横島隊長を見逃してしまい、肝心なところが映像でお送りできませんでした。どうやら民家の爆発以降、那須隊との攻防があった模様です!……おっと!映像でるようです!」

会場の映像は、民家の爆発以降、横島の追尾が出来ずに見逃していたが、戦闘が一旦仕切り直しの様そうの内に、先ほどの映像で追えなかった場面をリプレイする。

 

「横島隊長、香取隊と柿崎隊の挟撃による猛攻を変態回避で凌ぐも、耐え切れずにグラスホッパーで民家の中に退避し、その民家に那須隊長によるメテオラの弾幕が降り注ぎ、爆発!ここまでは確認できましたが……おっと、横島隊長は爆発で舞い上がる民家の屋根の破片に紛れて、グラスホッパーで上空に逃れていました!しかし、上空に逃れた横島隊長を狙いすました様に那須隊スナイパーの日浦隊員が狙撃!え?…そ、それを横島隊長は体をくねらせ回避!?さらに那須隊長がバイパーの弾幕で四方から横島隊長を追撃!!横島隊長は地面に向けグラスホッパーで飛び込み、回避するもゴミ置き場に突っ込んだ!!……しかも当人はダメージらしいダメージは受けてません!!なんて回避能力なのか!!」

 

「……まじかよ。日浦の狙撃はドンピシャだろ?あの距離の狙撃に横島は気が付いていたのか?気づけるものなのか?それとも狙撃を読んでいやがった?いや、それにしてもギリギリの回避だった。それとも野生の勘とかいうやつか……あれを回避されたらスナイパーはやってられねーな」

当真は茜の狙撃は文句なしの狙撃だったはずなのに、それを横島が難なく避けた事に少々投げやり気味に解説をする。

 

「横島パイセンの回避はまじでしゃれになんねーが、那須隊は横島パイセンの回避行動を完全に読んでた。香取隊、柿崎隊、いや俺も含めてここにいる連中は全員パイセンが上空に逃れた事に全く気が付いてなかった。だが那須隊は読んでやがった。だからあの狙いすました狙撃だ。しかも狙撃が避けられる可能性がある事も想定していたから、バイパーの追撃も直ぐに対応できた。那須隊は横島パイセンを相当研究したんじゃねーの。パイセンのバカな部分ばかり噂されているが、その実は恐ろしく能力が高いと、トラッパー以外の基礎能力に回避能力が異様に高いと知っていた。今の横島パイセンと戦ってA級でもあれだけの駆け引きは難しいんじゃない?」

米屋は珍しく、解説らしい解説を鋭い目つきで行い、那須隊の見事な対応を褒める。

 

 

「ああっ!しかし一息つく間もなく、横島隊長がゴミ置き場から脱した所で、またしても香取隊長に見つかった!!これも香取隊長の野生の勘なのか!?」

会場の映像では葉子が横島を発見した映像が映し出される。

 

 

 

「逃すか!」

「ひえ~~!!何で追いかけて来るんだ~~!まさか、女の子のストーカー!?……あっちこっちからも狙われてる!?なぜじゃーーーっ!」

横島は葉子の攻撃を不格好に躱し涙をちょちょ切らして逃れながら、あちらこちらで横島を狙う気配を感じていた。

横島は他のボーダー隊員とは根本的に異なる能力を持っていた。

変態的な回避能力ではない。

あの変態回避は横島のデフォルトの基礎能力(ギャグ補正付き)による単なる回避行動に過ぎない。他人から見れば特殊能力に見えるかもしれないが、そこではない。

横島は霊能者であり霊視が出来るという点だ。

霊視能力はフルに使うと、探査だけでなく危機察知やサイコメトリーまで可能な代物だ。

それはボーダーのランク戦だけでなく戦闘での大きなアドバンテージとなる。

ましてや、この世界のトリオンと横島の世界の霊気は同じカテゴリーの物。

霊視とまでとは行かなくとも、横島の世界では霊能者として霊気を感じとる能力は必須と言える能力だ。

ボーダー隊員の戦闘体はトリオンの塊のようなもの。

しかも、弾丸から武器までトリオンで構成されている。

霊能者である横島は霊視を行うまでも無く、トリオン(霊気)で構成された戦闘体、を近距離であれば無意識に把握できてしまうのだ。

さらに最高峰の霊能者である横島の場合、それだけでなく戦闘体の次の動きまで見えていた。

横島は茜や玲の位置までは察知していなかったが、無意識内で感じられる範囲内に到達した茜の狙撃や玲のメテオラやバイパーが迫っている事を把握し対処したのだった。

恐らく霊視を本格的に発動すれば、このマップはそこそこ広いがマップ上には9人しかいないため、全て把握しきる事が出来るだろうが、あえて行っていない。

 

 

 

「当たらないし!あんな避け方で!!イライラする!」

横島の無様としか言いようがない回避行動から、直ぐにでも撃破出来そうなハズなのに、自分の攻撃が全く当たらない事に葉子は相当イラつきを覚えていた。

 

「うぼべっ!?地雷女に付け回された事はあったが、可愛い女の子に武器を持って追い回されるなんて、……、やばい、他の連中も来てるし!!いやーーーーーっ!!こうなったらもうーーーー!!」

葉子の攻撃をさけ横島はスピードを上げ逃げる。

横島は葉子の後には香取隊の男共二人が追走し、柿崎隊が遠巻きに迫ってきている事を感じ取っていた。

このままだと、先ほどの同じ様な挟撃状況に陥る可能性が高いとみて、何やら走りながら準備をし出す。

 

住宅街に挟まれた小さな公園に横島は逃げ込み、葉子がそれに少々遅れて追いかけるが……。

 

「ふはははははっ!この横島!いつまでもやられっぱなしではないのだ!!」

横島は先ほどまでの逃げから一転、大きな樹の前で待ち構えていたのだ。

しかも、両手を前に突き出しニギニギと何かを揉むようなやらしい手つきで……。

 

「な、なに?まあいいわ、そっ首刎ねる!」

葉子はその怪しい手つきと横島の下素顔に一瞬怯んだが、一気に横島に詰め寄る。

 

横島が葉子のスコーピオンによる斬撃を一歩下がり避けると同時に葉子目掛けて何処からともなくロープが絡みつく。

「なっ!?」

 

横島はロープをはるサブトリガー、スパイダーを多数同時に発動させたのだ。

スパイダーのロープを利用し、美神令子ばりのロープ術で一瞬にして葉子をす巻きにし、地面に転がす。

「美神流緊縛術!なんちって!?」

 

丁度、横島と葉子を追走していた香取隊のアタッカー三浦雄太とガンナー若村麓郎が追い付いて来た。

「ヨーコちゃん!」

「……!?」

 

 

「こんなもの!」

葉子は腕に生やしたスコーピオンでロープを切って脱しながら飛び跳ねて起き上がる。

 

「本命はこっちだ!」

スパイダーのロープから脱した葉子の背後から横島が手錠のような物を両手首にかけたのだ。

 

「くっ」

葉子は背後の横島を足にスコーピオンを生やして足蹴りで斬ろうとする。

三浦雄太と若村麓郎も即座に葉子のカバーに入ろうと駆け寄ろうとするが……

 

「え?……発動しない?」

葉子の足蹴りは空を切るだけでスコーピオンは発動しなかった。

それどころか、葉子は上手く体を動かせなかったのだ。

葉子にはめられた手錠からロープが伸び、木に吊るされ、足下40cm程ではあるが宙づりにさせられる。

 

「お前らわかってるだろうな、近づいたらこのねーちゃんがどうなるか!」

横島は宙づりの葉子の背後から下衆な笑みを浮かべ、三浦雄太と若村麓郎にこんな事を言う。

 

「ヨーコちゃん!!」

「……人質だと!?何を!?」

 

そう横島は人質を取ったのだ!!

 

 

 

実況席では……

「横島隊長!香取隊長を拘束!?どういう事でしょうか!!」

桜子は横島のこの行動の意味が分からず困惑気味に実況する。

 

「この状況は、普通に考えたら人質をとったんだろうが……。ランク戦で人質取ったの初めて見た。何やってんだか横島パイセンは?それに香取ちゃんも大人しいな。あんなものスコーピオンで強引に脱出できるだろ?何やってんだ?」

米谷は呆れ気味にこう言った。

 

「いや……、あの手錠はスイッチボックスに入ってるトラッパーのツール、ロック(試作品)だ。冬島さんがアフトクラトルの戦いで必要と感じ開発し、ガロプラの襲撃の後に更に改良を加えたものだ。要するにあの手錠は人型ネイバーを大人しく捕縛させるためのトリガーだ。アレで拘束されるとトリオン伝達系を阻害する働きがあってトリガーを発動出来ない代物だ。さらにベイルアウトさせないために戦闘体を維持したままとなる。俺は冬島さんの実験に付き合ったから知ってたが、トラッパーじゃないと知らないわな。香取はトリガーが発動出来ない上に戦闘体も上手くコントロールできないだろう」

当真は横島が使った手錠の開発に携わっていたがために知っていたようだ。

トラッパーのトリガースイッチボックスに収納されてる最新ツールでその名もロック(試作品)、当真が言う通り、人型ネイバーを拘束するためのツールだった。

冬島はトラッパーとして戦闘員を務めてはいるが、本職はボーダーの技術者だ。

アフトクラトルの侵攻の後、敵人型ネイバーを拘束するためツールが必要だという事で開発された物だった。

ガロプラの襲撃の際には、敵人型ネイバーにベイルアウトで逃げられた事もあり、更に機能を追加し、今の様な高性能なものとなった。

ただし、このロック、直接人型ネイバーに手錠のように嵌めないといけないため、戦闘中での使用は本来困難極めるものだ。

敵人型ネイバーが弱り切った所で使用するような物だ。

 

「でも当真さん、ランク戦で人質なんて取って意味がある?」

「知らねーよ。それは横島に聞いてくれ」

米谷や当真もそうだが、桜子も人質を取る意味が分からないと言った感じだ。

それもそのはず、そもそもランク戦で人質を取る行為は意味がないからだ。

そもそも人質とは、金品や人質交換や時には逃走の確約等、この前の星輪女学院のテロ事件のように相手に何かを要求するために行う行為だ。

戦争でも一時休戦等の要求などのカードとして人質は効果的であり、戦術的にも有効手段である。

しかし、実戦を踏まえた訓練の場でもあるボーダーのランク戦ではあるが、対戦相手も倒してポイントを得るポイント制である。人質を取る位なら倒した方がいい。

さらに相手を全て排除する殲滅戦であり人質を取る事は初めから意味を持たないのだ。

 

会場に観戦に訪れたボーダー隊員もそれがわかっているため、横島の行為は人質などを取る卑怯者というよりも、意味が分からない行為に映っていた。

 

 

だが横島は……

「このねーちゃんのスリーサイズを公表しちゃうぞ!!本気だぞ~!!」

揉み揉みと怪しい手つきをし、葉子と香取隊の男共にこんな事を言う。

 

「さ、さわるな!!この変態!!」

葉子はそんな横島に涙目で叫ぶ。

葉子は訳が分からない内に拘束され、人型ネイバー拘束用トラッパー用ツール『ロック』でトリガーが発動できず、身体能力も落ちた状態だ。

さらに言うと、オペレーターとの通信も阻害された状態だった。

しかもだ。ここで横島に直接触れられると、横島のサイドエフェクト(だと噂されているだけ)でスリーサイズがバレる。

バレるだけでも相当な精神ダメージだが、葉子がトリオン体にバストを相当盛っていた事が白昼の元にバレてしまうのだ。

さすがの葉子でもそれは乙女的には絶対にノーだ。

 

「ヨーコちゃん!!」

葉子に惚れている三浦雄太にとってもその行為は許されるものではない。

 

「………雄太、葉子を強制的にベイルアウトさせるぞ」

若村麓郎は、葉子がどういうわけかトリガーが使えず通信もベイルアウトも自発的に行えない状態だとオペレーターの華から伝えられ、葉子を助けるには撃破して強制的にベイルアウトしかない事を聞き、サブマシンガンを葉子に標準を合わせながら雄太に伝える。

 

「わかった!ろっくん!」

雄太は返事をし、木に吊るされ人質となった葉子をサブマシンガンで撃つが、葉子の手前でシールドが張られ遮られる。

横島がシールドを張ったのだ。

 

「ふはははははっ、無駄無駄!!柿崎隊がもうすぐここに来る。貴様たちで柿崎隊を見事撃破したのなら!!このねーちゃんを開放してやろう!!さもなくば!!スリーサイズを調べちゃうぞ!!ふははははははっ!!ちょっと手がすべって触っちゃうかもしれない~!!先ずはバストサイズからっと!!ふははははははっ!!」

横島は怪しい手つきをしながら悪魔の様などす黒い笑みを浮かべ、高笑いをする。

もはや完全に悪役だ。

横島は誰もが全く想定などしていない、乙女心と羞恥心を人質に、柿崎隊を倒すように要求してきたのだ!

 

 

「くっ!ヨーコちゃん!!」

「こ、これは、なんて人だ!!」

雄太と麓郎は流石にこれには攻撃を止めざるを得なかった。

 

「もぎゃーーーーっ、もう殺せ殺せ!!」

木に吊るされ葉子は半狂乱に陥いりじたばたともがく。

 

 

実況席では……

「…………さ、最低です………こほん。し、失礼しました。横島隊長!ボーダーランク戦創設以来、初の暴挙です!!」

桜子はこの光景に目が点になりぼそっと呟き、しばらくして咳払いをしてから、実況に戻る。

 

「くははははっ!流石横島パイセン、ド汚ねーーっ!!」

「これ、いいのか?」

米谷は爆笑し、当真はこのまま続けていいものなのかと答えを出してくれる人を探すようにあたりを見渡していた。

 

 

会場の誰もが思った。

 

ド汚ねーーと!!

 




横島くんの口車に乗ってはダメだよね。
横島ワールドに引き込まれる香取隊。
次はどうなる事やら。


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その24、卑怯は誉め言葉

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


寝落ちで更新わすれてました。
切りのいい時間で更新設定しておきます。


横島はランク戦最中にあろうことか、香取隊隊長の香取葉子を人質に取る。

撃破殲滅目的のランク戦では葉子自身はポイント1でしかないため人質の価値としては非常に低い、そこで葉子のスリーサイズ暴露とか葉子に対しセクハラ行為の実行といったもので乙女心や羞恥心といった精神的な物を質札にしたのだ。

横島のそれに対して香取隊に出した要求は、直ぐにでも追って来るだろう柿崎隊と戦って勝利する事だ。

 

横島の乙女心や羞恥心を質札にした人質行為には、会場の皆も同じくド汚いと思うのは当然のことではある。

まあ、男性隊員の7割ほどは葉子のスリーサイズ暴露に興味深々なのだが……

ランク戦のポイント制度は置いといて、この横島の人質作戦は戦術的にはかなり有効な手段だった。

横島は先ほどまで、香取隊3人、柿崎隊3人、那須隊の3人の合計9人に狙われていた。

要するに味方無しの1対9の戦力であった。

それを、葉子を人質に香取隊の二人を引き入れる事により、1対9が3対6となり大幅に戦力比を盛り返す事ができるのだ。

 

香取隊はこの横島の要求に対し、トリオン体通信で緊急打ち合わせをしていた。

「葉子が人質に。……効率を考えれば葉子を切り捨てるべきね」

香取隊オペレーターで葉子の幼馴染の染井華は横島に葉子が人質に取られた状況に、冷静な判断を下す。

 

「でも華ちゃん。それだとヨーコちゃんの秘密が……」

「トリオン体を見栄張って胸を大きくした葉子が悪いわ」

アタッカーの三浦雄太は葉子に惚れているだけあって、葉子の秘密の暴露は避けたかったのだが、華は淡々とした口調でこう言い切る。

 

「横島先輩がヨーコちゃんに如何わしいこと本気でするかもしれないし、秘密とかスリーサイズが暴露されちゃったりしたらさ、流石に可哀そうだよ。それにそんな事になったらいつも以上に落ち込むと思うよ。その方が今後の隊の活動に支障がでるんじゃない?」

「それに華さん、葉子を切り捨てたとして、俺達2人で横島先輩と戦うのはきつい。いや、その後の無傷の柿崎隊と那須隊とはまともに戦う事も困難だ。今は横島先輩に従うふりをして柿崎隊と対峙し、隙を見て葉子を奪還した方がまだ勝率は高いんじゃないか?」

アタッカーの雄太は華に葉子の心情的な要素を語り説得を試み、ガンナーの若村麓郎はエースの葉子無しではこの戦いで勝利することは困難な事、さらに横島に従うふりして柿崎隊と戦って、隙を見て葉子を奪還した方がまだ勝率は高いと説いたのだ。

 

「私の方が冷静さにかけていたようです。すみません。先輩方が仰る通りです。葉子が落ち込むと長いし次のランク戦にまで引っ張って出られないかもしれない。若村先輩が言う様に、横島隊長に従うふりをして葉子を奪還した方が、まだ生き残れる可能性が高い。それに横島隊長に従って、もし柿崎隊の誰かを落としたとしても、ポイントはこちら(香取隊)に入るのだし、その方がいいですね。三浦先輩、若村先輩、葉子をお願いします」

どうやら華は、表面上は冷静の様であったが、何だかんだと親友の葉子が人質に取られ心中穏やかではなかったようだ。

 

「うん、わかった」

「世話の掛る隊長だ。了解だ」

雄太と麓郎は快諾する。

 

 

 

一方、横島は迅と通信で……

「横島、香取ちゃんを人質って面白いが、香取隊を取り込んだとしてもランク戦ではポイントは入らないぞ」

 

「迅!そんな事よりも!何で俺だけ皆に追い回されてるんだ!?しかもあの狂暴ねーちゃん(葉子)に俺なんかしたか?前になんかしたかもしれないけど!しかも、玲ちゃんのバイパーと玲ちゃんとこの狙撃が怖いんだけど!玲ちゃん達が何処に居るかわかんないし!」

 

「言った通りだろ?前回あれだけ派手な砲撃をやって、しかも手の内がバレてりゃ。当然真っ先に狙われるだろうな。那須隊の位置がわからない?霊視を意識して使わなくても無意識である程度わかるんだろ?」

迅はランク戦で横島に霊能力を使う事を禁止していた。

無意識で感知してしまうものは致し方が無いが、霊視を意識して使う事を禁止させていた。

星輪女学院で横島の霊視を実際に体験しているだけに、途轍もない能力だという事を理解しているからだ。

無意識の霊視だが、近距離と言っても30m~50m範囲はある。

それだけでもとんでもない能力だ。

これこそサイドエフェクトと言ってもいいだろう。

 

「だから、近くに居ないんだって!」

 

「那須隊は徹底しているな、中長距離からお前を狙うつもりか。それで香取ちゃん人質に香取隊を従わせて、これからどうするつもりだ?」

 

「まあ、見てろって!くふふふふっ!」

横島のそこ意地悪い笑いが通信越しの迅にも届いていた。

 

 

 

 

 

柿崎隊は香取隊を追尾し、横島の居場所を凡そ見当をつけていた。

「公園の中か……道を挟んだ住宅から様子見をするぞ」

隊長の柿崎国治は横島のトラップを警戒し、かなり慎重になっていた。

 

「……た、隊長、香取さんが木に吊るされてます」

「俺も確認した。どういう状況だ?何やら香取隊の連中と話しているようだぞ」

照屋文香は葉子が木に吊るされてる状況に驚き、隣の国治に報告し、国治もそれを確認しこの状況に疑問を持つ。

 

「人質じゃないですか?映画とかよくあるじゃないですか?」

隊の最年少巴虎太郎はこの状況を見て、素直にそう答える。

 

「ランク戦で人質?ありえねーな。何の意味がある?」

国治は虎太郎の答えを否定する。

ボーダーのランク戦の常識では人質など全く意味をなさないからだ。

 

「横島先輩なら何をするのか予想が尽きません。何らかの策かも知れません」

文香は星輪女学院の一件から横島をかなり警戒していた。

 

「香取隊とこうやって対峙しているからには、落とし穴トラップは無いという事か。香取隊と対峙している最中に横やりを入れるチャンスだが……、いいや、那須隊が大人し過ぎるのも気になる。ここは那須隊を警戒しつつ、少し様子を見る方がいいだろう。状況によってはここから掃射しつつ迫る」

「「了解」」

柿崎隊は横島たちが居る公園の道を挟んだ前の住宅の塀から公園の中の状況を確認し、ここで少々様子を見る事に決める。

 

 

 

一方那須隊では……

「公園で香取隊を確認!……香取隊長が木に吊るされてます」

「茜、香取がなんでそんな状態に?」

「わかりません」

「茜ちゃん、きっと横島さんね。横島さんは見える?」

「大きな木の陰に人影が見えます。たぶん横島先輩かと、どうやら香取隊の他の二人と対峙している様相です」

那須隊は友子と玲が他の隊と距離を取り、家の敷地に潜み、オペレーターを通じてマンションの狙撃ポイントで状況を確認している茜と通信をしていた。

 

「横島隊長が香取隊長を人質に取ったのではないでしょうか?」

そこでオペレーターの小夜子がこの状況にこう判断する。

 

「人質?意味があるの?」

「わからないわ。でも横島さんには何か考えがあるはずよ」

「横島はそもそもどうやって香取を拘束した?」

「横島さんなら出来るわ。私達が分からない方法で」

友子の疑問はもっともだが、玲は横島に何かの狙いがきっとあると確信しているようだ。

 

「茜ちゃん、横島さんを狙撃は可能?」

「いえ、木が邪魔で……香取隊長は狙撃可能です」

 

「横島隊長のこの位置、後ろにはマンションがあり上は大きな木の枝葉が覆いかぶさってます。右手には公園のトイレと狙撃が困難な位置取りをしています。狙うなら近中距離のこの位置です」

小夜子はそう言って今の位置の横島を狙う事が出来る位置をマッピングしマップデータを皆に送信する。

 

「茜ちゃん、マッピングデーターの位置に柿崎隊はいないかしら?」

「えーっと…………いました!虎太郎君が公園の道を挟んだ住宅の敷地です。周囲を警戒しているみたいです」

 

「玲、どうする?香取だけでも取っておくか?」

友子は今だったら障害も無く狙えそうな葉子を先に撃破した方がいいと進言する。

 

「………私達も距離を詰めるわ。それまでに柿崎隊が戦闘に入り、香取さんがフリーであれば狙撃お願い」

「了解」

玲は少し考えてからそう結論をだす。

横島が狙撃を考慮してこの位置に居るのなら、わざわざ葉子を人質にしておいて、狙える位置に放置しているのかが疑問であった。

何らかの対策をしているのではないかと、今の状態だと先ほどの狙撃同様に対処されてしまう可能性が高いと判断し、柿崎隊と乱戦もようとなれば、横島が多少なりとも葉子から

意識が外れ、狙撃の対処が出来ないのではないかと考えていたのだ。

玲と友子も中距離射撃ポイントへ移動開始する。

横島が柿崎隊と香取隊と乱戦になるまでに、出来るだけ近づきたかった。

 

 

 

 

そして……。

横島は柿崎隊が潜んでいる住宅地に向かってグラスホッパーをそのまま使ってトリオン爆弾を投げ込んだのだ。

目的は柿崎隊をあぶり出す事。

 

柿崎隊も横島がトリオン爆弾をグラスホッパーで投げ込んでくる姿を確認していたため、潜んでいた住宅から後方へ素早く脱出。

 

だが、そこを狙いすましたように香取隊の三浦雄太と若村麓郎が攻撃を仕掛けて来たのだ。

「な、香取隊が俺達を!?……くっ、相手は二人だ。迎撃するぞ」

「「了解」」

先ほどまで横島隊と対峙していたはずの香取隊に完全に不意を突かれ、被弾してしまうが何とか隊列を組み直し、迎撃態勢を整える柿崎隊。

正面での射撃戦となり、不利に陥るのは香取隊の二人だった。

柿崎隊の弾幕の圧に負け、道路を下がっていく香取隊。

 

 

 

だが……射撃戦で前に出る柿崎隊だったが、十字路に差し掛かったところで、先行して前に出るアタッカー巴虎太郎が何かに躓いた。

何とかその場に踏みとどまったが、一瞬意識が足元に。

道路すれすれに接地したスパイダーのロープに引っかかったのだ。

 

「え?」

踏みとどまった虎太郎は何故かそのまま上へと飛ばされる。

そう、横島のグラスホッパーだ。

 

虎太郎は上に飛ばされる途中で、直ぐに別のグラスホッパーが中空斜めに現れて跳ね飛ばされ、住宅敷地内の庭の地面に叩きつけられようとし、何故か地面に吸い込まれる。

横島の落とし穴トラップに嵌ったのだ。

そして、落とし穴の中で無慈悲にトリオン爆弾が爆発し、ベイルアウトがコールされる。

 

「横島か!?」

その様子に柿崎国治は大きく後ろにジャンプし後退するが、その途中で背にグラスホッパーが現れ、斜め上の住宅の敷地の上空に飛ばされ、直ぐグラスホッパーが上空下向きに現れ、跳ね飛ばされ地面に叩きつけられようとする。

そこで国治が見たものは住宅敷地内でそこ意地悪そうな笑みを浮かべる横島だった。

「二人目、いらっしゃい~!」

 

「くそっ!!」

国治は体をくねらせ逃れようとするが、地面に設置していた落とし穴トラップに吸い込まれるように落ちて行く。

虎太郎同様に、落とし穴トラップ内でトリオン爆弾の餌食になりベイルアウト。

横島はグラスホッパーを使って強制的に落とし穴に落としたのだ。

 

 

横島の人質作戦は飽くまでも時間稼ぎだった。

トラップを効率よく設置にするにはどうしても時間が必要だ。

特に、落とし穴トラップは三工程必要なため、逃走中や正面からの戦闘中には設置出来ない。

横島は香取隊の二人を人質で焚きつけて、柿崎隊と対峙している最中に、走り回って落とし穴トラップを設置したのだ。

しかも、香取隊には下がるルートを予め指示し、香取隊が下がるルートの途中に、バレない位置に落とし穴トラップを設置し、待ち構えていた。

 

「隊長っ!」

2人があっさり撃破される様子を見ていた文香は更に後退し、形勢不利と見て逃げの一手を取る。

 

 

横島は文香を追わずに、公園方面へ後退する香取隊の二人を追った。

 

 

その頃、香取隊の雄太と麓郎は柿崎隊の攻撃が収まったと見るや、公園へと全力疾走で向かっていた。

オペレーターの華が、横島が柿崎隊と交戦開始したと判断し、今なら葉子を奪還できると判断したのだ。

 

だが、二人が公園に着いた直後に、葉子はどこからか狙撃され撃破によるベイルアウトがコールされる。

そう、これは那須隊スナイパー日浦茜の狙撃だ。

「くっ、那須隊か!」

「……ヨーコちゃん」

麓郎は呻き、雄太は葉子の秘密がバレずに済んだことにホッとした表情をしていた。

 

だが、尚も茜の狙撃の弾丸が残った香取隊の二人にも降り注ぐ。

どうやら那須隊は乱戦に間に合わず、既に柿崎隊の二人が撃破されたと知って、ターゲットの優先順位を香取隊へとシフトしたようだ。

 

狙撃を回避するため公園のトイレの影に隠れる雄太と麓郎に、今度はバイパーが四方から軌道を変えながら襲いかかる。

2人はシールドを張り、何とか一射目は耐えたが、ここから脱するにも茜のスナイパーの狙撃、留まるも玲のバイパーが襲ってくる状況だ。

絶体絶命のピンチだろう。

 

 

だが、そこにバッグワームを着用した横島がカサカサとゴキブリのように這って現れ、玲のバイパーが襲い来る中、グラスホッパーで雄太と麓郎を上空へと打ち上げ、バイパーから逃したのだ。

「横島先輩?逃がしてくれたのか?」

「え?助かった?」

麓郎と雄太はそんな言葉を漏らすのだが……。

 

しかし、横島がグラスホッパーで飛ばしたのは雄太と麓郎だけじゃなかった。

トリオン爆弾も一緒に飛ばしていたのだ!!

「え?」

「へ?」

高く上空に飛ばされた麓郎と雄太は盛大に爆発したのだった!

 

 

地上の横島は……

「へっ!きたねえ花火だ。……あれ?なんで俺はこんな事を?」

何故か前ソリコミの釣り目のとある野菜星王子風にそんな事を言っていたが、本人はどうしてそんな事を口走ったのかは分からないようだ。

きっとなんらかのギャグ補正なのだろう。

 





いよいよこのラウンドも終わりが見えてきました。

「きなねえ花火」はやりたかっただけwww
だって、せっかくだし、横島くんだし!
と言い訳をw


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その25、たまにはシリアスも

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ラウンド7がようやく終わりに……


実況席では……

「よ、横島隊長、なんて狡猾なのでしょう!!まるでどこかの悪役ライバルキャラのように無慈悲に香取隊の二人を利用するだけ利用して撃破!!これで4点目です!」

実況の武富桜子は驚きながらも興奮しながら皆に向かって伝える。

 

「横島の奴、グラスホッパーの使い方が尋常じゃないぞ!?本当にトラッパーか?」

当真も驚きっぱなしだ。

 

「くはははははっ!なんだそりゃ!トラッパーなのに近接できるのかよ。横島パイセン!!こりゃ、後で対戦してもらわないとな!」

米谷はどうやら横島と戦いたくてうずうずしているようだ。

 

 

 

那須隊では……

「香取隊の三浦隊員、若村隊員、横島隊長により撃破です」

オペレーターの志岐小夜子は皆にこの事実を伝える。

 

「横島さんに先にやられたわ」

玲は横島に2人がやられる前に先に倒したかったが、そうはいかなかった。

 

「ごめん、横島を完全に見失っていたわ」

友子は横島の行動を目視で確認をしていたが、柿崎隊と香取隊が戦闘開始した直後から見失っていたのだ。

 

「仕方がないわ。横島さんだもの」

玲は思う。相手があの横島なのだと。

 

「横島さんの位置を探らないと……」

 

「柿崎隊の照屋隊員がバッグワームを起動、レーダー上から姿を消しました。……狙いは」

「文香ちゃんの狙いは恐らく茜ちゃん。先ほどの香取隊への狙撃で位置が特定されてるから」

1人逃れた柿崎隊の文香の狙いは、小夜子と玲は茜だと判断する。

文香は普段攻撃援護ポジションではあるが1人になれば意外と大胆に攻めてくるのだ。

 

「先輩、移動を開始しますね」

「わかったわ。くまちゃんは茜ちゃんのフォローに行ってあげて」

「それだと玲が横島一人と対峙することになる」

「グラスホッパー迫撃砲は無いわ。距離に注意すれば大丈夫よ」

「いや、横島の居場所が分からない。隠れながら距離を詰めてくるぞ。3人合流した方がいいんじゃないか?」

「それこそ文香ちゃんと私達3人が纏まると横島さんの思うつぼかもしれないわ。私が横島さんを引き付けてる間に、文香ちゃんの対応をお願い」

「了解よ」

玲は皆が集まる方が危険だと判断し、わざわざ周りに見えやすい3階建ての住宅の屋上に立ち、横島の意識を引き付けようとする。

 

 

 

だが、文香の行動は早かった。

横島から逃げ切った所で、茜にターゲットを移し移動を開始していたのだ。

オペレーターの宇井真登華のフォローもあり、茜を正確に追尾、友子と茜が丁度合流したのと同時に襲い掛かったのだ。

茜は不意を突かれトリオンが漏れだす大ダメージ。

友子と文香は一騎打ちとなる。

形勢は文香が有利に進める。

文香は友子の弧月と旋空を警戒し少々距離を置きつつ、目まぐるしく移動しながらサブマシンガンのガンナートリガー射撃で友子を前に出さないようにけん制しつつ削って行く。

友子はシールドを張りつつメテオラで対応するが、射撃戦では文香にはかなわない。

 

その頃、玲は目立つように建物の上に立っていたが、横島は一向に姿を現さないどころか、攻撃も仕掛けてこない。

友子たちが形勢不利を知り、救援に向かおうとするが、その前に決着がつく。

 

茜がトリオン流出過多でベイルアウト寸前に、近距離狙撃で文香の片足を吹き飛ばしたのだ。

チャンスと見た友子は弧月で旋空を放つが、文香は自ら倒れて旋空を避ける。

友子は倒れた文香にメテオラを飛ばしつつ距離を詰め、トドメを弧月で刺そうとする。

文香もメテオラを何とかシールドで防ぎ、ガンナートリガーの乱射で友子をけん制するが、友子に距離を詰められる。

 

友子が弧月を振り下ろし、文香も倒れたまま弧月に持ち替えカウンターを狙いで友子の腕を切り落とすが、友子の弧月は文香のトリオン中枢を確実に貫く。

文香はその場でベイルアウト、同時に茜もトリオン流出過多でベイルアウトする。

だが、文香を貫いた瞬間、友子にも四方からバイパーが降り注ぎ大ダメージを受ける。

先ほどの文香の乱射は友子を直接狙うのではなく、自分に向けて軌道変更を設定させたバイパーだったのだ。

自分にトドメを指すだろう友子に対する相討ち狙いだった。

 

「玲、ごめん」

友子も程なくしてトリオン流出過多でベイルアウト。

 

 

 

 

実況席では……

「おーっと!!撃破された照屋隊員のバイパーが熊谷隊員に突き刺さる!相討ちだ!!これで柿崎隊2点に那須隊は2点となります。そして、那須隊長と横島隊長の一騎打ちか!?」

桜子の実況は絶好調である。

 

「照屋ちゃんもやるな、何より思いっきりがいい、個人技もなかなか良い感じじゃないか」

米谷は文香の思いっきりの良さを褒める。

 

「日浦もあきらめずに最後までスナイパーの職務を全うしたな。それと照屋には元々素質はあった。ただ隊の方針でそれが表に出にくかっただけだ。柿崎隊は照屋をエースとした陣形があってもいいんじゃないか?結果論だが、那須隊は横島を放っておいて3人纏まって照屋の対処をした方がよかったのかもしれないな」

当真は茜を褒めつつ、文香を大きく評価した。

 

 

 

 

この状況に横島とオペレーターの迅は……

「お前がうだうだ考えるうちに、照屋ちゃんが相討ちで熊ちゃんと日浦ちゃんを撃破したぞ、いい加減に覚悟を決めろ!」

「いや、流石にあれだ。全員ロックで縛り上げようかなと考えていたぞ。それよりも照屋ちゃんがああも大胆だったなんて、星輪女学院で会った時はなんかすごくお嬢様ぽかったぞ」

どうやら、横島は身を潜めたまま行動を起こしていなかったようだ。

 

「……縛り上げるって横島、撃破するよりも絵面がシュールじゃないか?」

確かに迅の言う通りだ。

4人の美少女を縛り上げて高笑いする横島は、イメージは最悪だろう。

 

「はぁ、後は玲ちゃんか……」

「ちゃんと撃破してあげろ。それも先輩の務めだぞ横島!」

「いや~、ボーダー歴からすれば玲ちゃんの方が先輩だし」

「いちいち上げ足とるなよな。覚悟決めたんだろ?」

「ふ~、まあ、なんとかなるか」

迅が言う事はもっともだ。

だが、横島の心情としてはどうしても過去の悲劇が頭に巡ってしまう。

特に玲に対してはとある人物とダブって映る。

顔や雰囲気は似てはいないが、髪型や戦場に出る凛とした姿が彼女とどうしても被ってしまうのだ。

そう、かつての恋人にして横島を庇い死した彼女に……。

 

 

 

 

那須隊では……。

「那須先輩ここは撤退するべきです。横島先輩は危険すぎます。ポイントの事も考えても今が撤退のしどきです。」

小夜子が1人となった玲にそう進言する。

玲が1人で戦ったとしてもやられるだけだと暗に言っているようなものだが、それでも小夜子は効率優先でこう進言したのだ。

那須隊は今B級上位に行ける射程圏内にポイントを稼いでいた。

ここで横島に余計なポイントを与えるよりもここで撤退した方がいいからだ。

 

「わかってるわ小夜ちゃん。横島さんが私よりもずっと強い事も、……でも戦ってみたいの」

玲は我がままを承知でそれでも横島と戦う事を望んでいた。

 

「小夜、玲もこう言っているし、戦わせてあげて」

友子も玲の意志を尊重する。

 

「あなたもそれでいいの?」

小夜子は茜に問う。

 

「那須先輩がしたいようにさせてあげたい」

茜の答えでこの件について小夜はもう口を挟まない事を決める。

 

 

 

玲は横島を待ち構えるべく、先ほどの3階建ての家の屋上で堂々と姿をさらしていた。

そこに少し離れた道路に横島が無防備に現れる。

 

「横島さん、覚悟してください」

玲にしては大きな声で横島に宣言する。

そう言った瞬間、玲は多量のトリオン弾を展開し、横島に向かって発射する。

玲のバイパーだ。

 

「玲ちゃん……」

横島は四方から襲い掛かるバイパーを避けるが、そのバイパーが上空へと上がり、再び横島に襲い掛かる。

その間に玲はメテオラを横島の周囲にまき散らし、横島の回避を妨げようとする。

横島はバイパーとメテオラの攻撃を不格好に避けきるが、先ほどまでとは違い所々若干被弾していた。

明らかに動きが鈍い。

 

そして、横島のこの顔だ。

横島の玲を見上げる顔には、苦渋が満ちていたのだ。

しかも、手も震えているように見える。

 

 

玲はその横島の顔を見て、踵を返し大きく後退し……。

そして、自らベイルアウトし、撤退したのだ。

 

 

 

 

 

実況席では……

「おっと!!那須隊長!横島隊長と一騎打ちかと思われたが撤退!B級ランク戦ラウンド7中位夜の部、横島隊の勝利です!!横島隊は撃破点4、生存点2で6点!柿崎隊は照屋隊員の奮闘で撃破点2、那須隊は日浦隊員と熊谷隊員の撃破点1点づつで2点となります!尚、横島隊はB級上位の本日の試合結果次第では上位にランクインする可能性があります!」

 

「あの横島の戦いぶりを見れば、那須の撤退はいい判断だ」

当真は玲の撤退を肯定する。

 

「というか、横島パイセン強くないっすかね。トラッパーじゃなくて、弧月とか持ってもやれそうだな」

米谷は当真に横島がアタッカーも出来るのではないかと聞いたのだ。

 

「さーな」

当真はそう言ってあやふやな相づちを打つ。

当真としてはアタッカーの横島を容易に想像できたが、そちらの方が厄介かも知れないとも感じていたからだ。

 

「それにしても横島隊の新戦術がまたしても炸裂しましたが!人質戦術、これは有りなのでしょうか!?」

 

「いや、これは上の判断に任せるしかないな。それは置いといてだ。横島の動きは異常だ。あの効率の悪そうな回避でほぼ全ての攻撃を避けきっていた。影(影浦隊隊長)のような感知系の何らかのサイドエフェクトを持っているんじゃないか?」

当真は横島の変態回避が何らかのサイドエフェクトに関係しているのではないかと予想していた。

 

「当真さん、横島パイセンのサイドエフェクトってあれっすよ、アレ」

「ただの噂だろ?」

「アレは本物っすよ。たぶん香取ちゃんはそれをネタに人質になってたようだし」

「………どちらにしろ、横島のあの回避は厄介だ。風間さんや太刀川さんに通用するかは別にして、A級でも通用しそうだ」

米谷は女性のスリーサイズがわかる横島のサイドエフェクトは本物だと主張するが、当真はどうやら眉唾物だと判断しているようだ。

だから、横島は別に感知系のサイドエフェクトを持っているのではないかと勘ぐっていたのだ。

当真の予想は凡そ当たっていたのだが……、あの変態回避とは別物である。

 

 

こうして波乱のランク戦を終える。

 

 

 

しかし……

ランク戦を終え、玲が横島隊の作戦室に直ぐに訪れたのだ。

しかも、何か怒っているようなのだ。友子もそんな玲に慌ててついて来ていた。

 

「横島さん、何故私と本気で戦ってくれないんですか!私の体が病弱で弱いからですか!そんな事を気にしない方だと思っていたのに!!」

玲は息を切らせ、涙ぐみながら横島に怒鳴り込んできたのだ。

 

「玲ちゃん……」

横島はそんな玲の様相に面を喰らっていた。

 

「那須ちゃん、そうじゃなくって、此奴は女の子と戦いたくないだけで……」

迅がそんなフォローを入れようとするが、横島がそれを遮る。

 

「玲ちゃんごめん。そんなつもりじゃなかった……」

 

「では、何で戦ってくれないんですか!!」

 

横島は涙目の玲に対し意を決したかのように語り始める。

「……俺、玲ちゃん達を見ていてさ、どうしても思い出しちゃって……。1年ほど前……俺の事好きだって言ってくれた子がいてさ、その子は玲ちゃんみたいに凛としてて、かっこよくて、強くて……優しくて……俺みたいな奴に勿体ない子で……俺のせいで死んじゃったんだ……。俺は彼女を助ける事も出来たかもしれないのに……。どうしても彼女の事を思い出してしまって、手がとまっちゃった。言い訳にしかならないけど……玲ちゃんに不快な思いをさせてごめん」

横島はまたあの悲し気な顔をし、こう語ったのだ。

もちろんその彼女とは横島の命を助けるために自らを犠牲にしたルシオラの事だった。

 

そんな横島の姿に迅は衝撃を受ける。

その事実は迅も知らなかった事だった。

横島の世界のことだ。

妖怪妖魔や悪魔と戦って、その彼女は横島を庇って死したのだろうと容易に想像できた。

横島が練習試合とはいえ、女性を撃破することに躊躇する理由が分かった気がした。

 

「横島さん……………横島さんはズルい人です。そんな顔をされたら許さないわけにはいかないわ。……でも私はその女の人とは違います。だから次は本気で戦って下さい。これは模擬戦なんです。力を試す場なんです。そんな場所でも私と戦っていただけないんですか?」

玲も横島のこんな姿と過去の出来事に衝撃を受けていた。

いつもおチャラけて、楽しそうに笑っている姿しか想像できなかった。

それでも玲は横島と戦ってほしいと願う。

それは病弱な玲にとって、ランク戦は横島と対等で居られる場であると思っていたからだ。

 

「玲ちゃん……」

 

「横島、那須ちゃんの言う通りだ。何度も言っているだろ?これは模擬戦だと、まあ、気持ちを切り替えろってのは直ぐには難しいかもしれないが、今度はちゃんと戦って撃破してあげろよ」

迅は横島に軽い感じで諭す。

 

「迅さん、私達が撃破される前提なんですか?……今度はそう簡単にいかないわ。横島も覚悟はいいわよね」

友子も横島の過去に衝撃を受けていたが、迅の言動に不敵な笑みを浮かべる。

 

「…………わかったよ玲ちゃん、それと、本気で怒ってくれてありがとう」

横島ははにかんだ笑顔で玲にお礼を言う。

 

「あっ……その、私も事情知らずに怒鳴ってしまって、ご、ごめんなさい」

玲はそんな横島の笑顔に、顔を赤らめ慌てて謝罪する。

 

「というわけでだ。今日は横島のおごりで皆でどっかに食べに行かない?」

迅はそこでこんな提案をニヤケ顔でする。

 

「迅さん……また、ナンパですか?」

友子はジロリと迅を見据える。

 

「いやいやそうじゃなくって、この和やかな雰囲気のまま、那須隊と横島隊の親睦を深めようと」

 

「横島さんと食事……」

「まあ、いいわ。横島には色々と聞きたい事があったしね。香取をどうやって捕縛したとか、あの訳が分からない回避とかね」

玲は顔を赤らめたまま、友子は今度は横島をジロリと見据えてこう言った。

どうやら、迅提案の那須隊の親睦会は実現するようだ。

 

 

 

待ち合わせの場所と時間を約束し、玲と友子は一度自分たちの作戦室に戻る。

 

残った横島と迅は……

「横島……お前、それで模擬戦とはいえ女の子を傷つけたくなかったのか……」

「…………こんな俺を彼女が見たら怒るだろうけどな……いつもバカやって一生懸命な俺が好きだって……」

「その子の事を今も?」

「ああ」

「そうか……」

横島と迅はこの後、お互い黙ったままだったが……

迅は横島の心情が聞けたことに、横島は迅に自分の心情を語った事に、この沈黙の余韻は心地よくもあった。

 

 

 

 

だが……この沈黙を破る様に作戦室に来訪者、いや乱入者が現れる!

「もぎゃーーーっ!横島殺す!!殺して私も死ぬーーーー!!」

 




次回は葉子ちゃんが乱入!


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その26、殴り込みって今時ある?

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は香取隊との交流ですね。
交流?……交流?……うーーん。


B級ランク戦ラウンド7中位夜の部は横島隊の勝利で終えた。

その後、ボーダー本部横島隊の作戦室に那須隊の那須玲が横島にちゃんと戦ってくれなかったのかと涙ながらの抗議に訪れたのだが、横島が心情を語り、一応の解決を見た。

 

その後、作戦室にまたしても訪問者、いや乱入者が現れる。

「もぎゃーーーっ!横島殺す!!殺して私も死ぬーーーー!!」

巷ではクールアンドビューティーで通ってる美少女の香取葉子だが、横島のように涙をちょちょ切らせ、まるで子供が癇癪を起したように、美少女にあるまじき醜態をさらしながら乱入してきたのだ。

 

「ひぇーーっ!でた~!ランク戦の狂暴ねーちゃん!!こんなところまで~!!」

横島は何故かその姿に恐れおののくが、恐ろしいというよりも普段の葉子の姿を知っている連中からすると幼い感じの醜態に微笑ましいやらと笑ってしまうのだが……

まあ、こんな葉子の姿を知っているのは香取隊の隊員ぐらいだ。

 

「殺す!私の為に死んでーー!!」

葉子は子供の様に腕をぶんぶん振り回して横島に迫る。

もはや、錯乱しているとしか言いようがない状況だ。

 

「ヨーコちゃん!ダメだよ!」

「葉子、こんな所で醜態をさらすな!」

香取隊の三浦雄太と若村麓郎が葉子を慌てて追ってきて、葉子を後ろから二人で両腕と肩を掴み止める。

 

「離せーーー!!こいつを殺して、私も死ぬーーーー!!」

それでも葉子は掴まれたまま、じたばたと暴れ続ける。

 

「葉子、落ち着きなさい」

そこにオペレーターの染井華も息を切らせて追って来ていた。

 

 

「はっはっはっ!まいったね。とりあえず横島、香取ちゃんに謝っておけ」

この状況に迅は半笑いし、横島にこう言った。

 

「えーーーっ、俺、この狂暴ねーちゃんに何かした?俺、追いかけまわされてただけなんだけど、うーん。階段の下からパンツ見たとか?本部の女子更衣室は覗けなかったし……、ナンパした覚えもないし……うーーん」

横島は横島で葉子が半狂乱になって自分に迫って来る事に思い当たる節が無い様だ。

横島にとってさっきの人質の件など、美神令子という悪魔や神すら認める非常識と日常過ごしてきていたため、カウントに入っていなかったようだ。

 

「お前な~、とりあえずいいから謝っておけって」

迅はそんな横島に呆れつつ、横島の肩を後ろからポンと叩く。

 

「何かごめん」

横島は後頭部を掻きながら、軽く謝る。

 

「もぎゃーーーっ!許さない!絶対許さなーーーーい!!」

葉子は余計に暴れ出す。

どうやら火に油を注ぐ行為だったようだ。

 

「ほら、横島先輩も謝ってるし、ヨーコちゃん。それに横島先輩、一応、約束を守って葉子ちゃんのスリーサイズとか言わなかったでしょ」

「ああ、一応な。大体お前が1人で突っ込んで捕まるのが悪い」

雄太と麓郎は暴れる葉子を抑えながら、説得を試みる。

 

「横島先輩、横島先輩もです。葉子も乙女なんです。女性のスリーサイズと葉子の秘密を盾に人質に取るのはどうかと思います」

華は華で静かに横島に迫っていた。

やはり、葉子を人質に取った事を怒っているようだ。

 

「へ?秘密って何?……うーーーん!あっ!トリオン体詐欺か!?小南と一緒で盛ってたんだ!!」

横島は華に葉子の秘密と言われ、疑問顔を浮かべながら、醜態をさらす葉子をじっと見て、こんな事を言ってしまった!

 

「もぎゃーーーっ!もぎゃーーーっ!!もぎゃーーーっ!!」

それを聞いた葉子は涙をまき散らしながら益々暴れ出し、もはや日本語になってない何かを叫んでいた。

まあ、今の葉子を見れば、横島では無くてもわかる人には分かってしまうだろう。

戦闘体時にはちゃんと盛ってるし、普段のオシャレな恰好の時はちゃんとそれなりにパットを入れて対応しているが、今の葉子は普段着で、しかもかなりラフな格好だ。

それは、かなり明らかなものだった。

 

「え?……横島先輩は気が付いて葉子を人質にしたのでは?」

「触れた相手のサイドエフェクトで戦闘体でも本人のスリーサイズが分かるんじゃ?」

「………知らなかったんですか?」

華と雄太と麓郎は横島のこの言動に逆に驚き、皆聞きなおす。

横島が葉子をロック(試作品)で拘束した際に葉子に一瞬触れていたのは確かだ。

 

「今気が付いた」

 

「え?」

「へ?」

「なんと……」

横島のこの答えに華や雄太たちは目が点になる。

そう華の先程の言動は逆に横島に葉子がトリオン体を盛っている事を知らしめる結果になってしまったのだ。

 

「はははははっ、横島のサイドエフェクトってあれ、噂だから。そんなサイドエフェクトは存在しない」

迅はここですかさずフォローを入れる。

 

「あははははっ、そんなサイドエフェクトが無くたって見ればわかるし、戦闘体の時のえーっと、葉子ちゃんだっけ?スリーサイズは85・58・84のボン・キュ・ボンだけど。今の葉子ちゃんは77・58・80のスレンダーだから」

横島は半笑いしながら、迅の言動に捕捉するが……こんな事をクリティカルに言ってしまった!

 

「もぎゃーーーー!!もぎゃーーーー!!もぎゃーーーー!!」

もはや葉子は言葉にもならないぐらい涙を垂れ流し、暴れる。

 

「…………」

「…………」

「…………」

香取隊の3人もその横島の言動に沈黙というか唖然としていた。

 

 

「横島、お前な~」

迅は、自分のフォローを台無しにする横島の言動に、呆れ顔で横島を見据える。

 

「あれ?まずった?あははははっ、大丈夫。皆には言わないから!葉子ちゃんがトリオン体詐欺をやってて、小南よりもかなり盛ってるってことは!」

 

 

ポクポクポク、チーーーン

何故かそんな木魚とおりんの音が脳内に再生され……

 

「………………」

暴れていた葉子だったが、その場で涙を滝のように流しながら真っ白になり脱力する。

どうやら、横島の言動は葉子にトドメを刺したようだ。

 

 

 

 

この後……

横島隊の作戦室のあまり使われていない作戦会議室の椅子に香取隊の面々は座らせ、迅が大きな会議テーブルに、ほうじ茶とぼんち揚げを皆の目の前に出す。

因みに葉子は魂が抜けたように真っ白になり、口を開けたまま天井を向き、一向に動かない。

横島は反省と書いた段ボールで作ったプラカードを首から下げ、会議室の端で床に正座させられていた。

 

「ごめんな、こいつ空気読めなくて」

横島に代わり皆に謝る迅。

 

「こちらこそ醜態をさらしまして、すみません」

華が行儀よく頭を下げ、それにならって雄太と麓郎も頭を下げる。

 

「横島先輩のサイドエフェクトは存在しないんですね」

まずは雄太が迅に質問する。

「ただの噂さ」

 

「では、横島先輩は見ただけで女性のスリーサイズを服の上からでもわかるというのは?」

今度は華が質問する。

 

「それは事実だな」

 

「では、トリオン体に触れて、本人のスリーサイズがわかるというのは?」

最後に麓郎が質問する。

 

「それこそ、ただの噂だ」

迅はさらりとそう言うが、横島の煩悩力と霊視をフルに使えばトリオン体でも本人のスリーサイズがわかってしまうのだが、それをここで言うわけにはいかない。

 

「と言う事は、私のスリーサイズも既に横島先輩に知られていると理解した方がいいんですね」

華は静かに冷静にそう迅に聞いた。

 

「まあ、多分ね。本人が意識して見ないとわかんないようだけど、可愛い女の子はあいつは必ずじっと見てるし……」

 

「私がですか?」

華はあまり言われ慣れていない言葉に聞きなおす。

 

「そう!眼鏡が似合うクール可愛い君、華ちゃんだっけ!僕横島!よろしく!!」

さっきまで反省のプラカードをかけ、端っこで正座していたはずの横島がいきなり華の両手を掴みナンパを始める。

 

「改めまして、私は香取隊オペレーターの染井華です。葉子とは家が隣で幼馴染です」

だが、華はそんな横島のナンパなど意に介さないかのように、普通に挨拶を返していた。

 

「僕は、香取隊アタッカーの三浦雄太です。ヨーコちゃんと華ちゃんの一学年上の高校2年で、華ちゃんとは従姉弟です」

「同じく、香取隊ガンナーの若村麓郎。高校2年で、葉子の兄とは友人でその関係でこの隊に参加しています」

雄太と麓郎は華に習って改めて横島に自己紹介をする。

 

「早沼支部所属、玉狛支部出向の横島忠夫18歳!高校3年。一応隊長やってるけど、迅に無理矢理やらされてて、俺は本当は女の子がいる隊がいいんだけど!何故かオペレーターは迅だし!なぜなんだ―――――!!」

横島もつられて、自己紹介を行うが何故か現状の不満をぶちまける。

 

「お前のそう言う所だよ。女の子が来てくれるわけないだろ?」

迅が呆れ気味にそう言うと、雄太はくすっと笑い。麓郎は大きく頷いていた。

意外と和やかな雰囲気だ。

 

「それで、この子が幼馴染の隊長の香取葉子16歳、オールラウンダー。性格は我がままで自由奔放で、見栄っ張りでどうしようもない所もあるけど、良い子です」

華は真っ白になった葉子の代りに、葉子の紹介をする。

良い子の要素が少ない気がするが、華流の愛情表現なのだろう。

 

「俺の紹介はいい?実力派エリート迅悠一、よろしく」

迅は自己紹介などいらないだろう。ボーダーなら誰もが知っている実力者である。

ある意味横島も有名人だが、マイナスのイメージで。

 

 

「ところで横島先輩、なぜ葉子を人質にしようと?」

華は横島にここでこの質問をする。

 

「いや~、何故か凄い怖い顔で逃げても逃げても追ってくるし、何故かみんな俺を狙ってくるからさ、トラップも真面に設置出来ないし、時間稼ぎにね」

 

「成る程、私達の対策自体はそれほど間違ってなかったんですね」

華は結果的に地力で負けはしたが、対策の方針は間違っていなかったと納得する。

 

「時間稼ぎであんなことを……、葉子をどうやって拘束したんですか?」

麓郎はずっと気になっていた葉子の拘束方法を横島に聞く。

 

「あ~、スパイダーとロック(試作品)かな」

 

「初めて聞くトリガーだ。ロックとは?」

そのトリガーは麓郎にとって初耳であった。

「ロック(試作品)は冬島さんが開発した人型ネイバー捕縛用のトラッパー用のツールトリガーですね。私も葉子が捕縛された時に検索かけてようやく知りました。戦闘体を維持したまま捕縛しベイルアウトを阻止。トリオン体の中枢機関を阻害し、トリガーを使わせなくさせるだけでなく、トリオン体も上手く動かせなくなる高性能な捕縛装置です」

華が横島の代りと言わんばかりに説明をする。

 

「それよりもトラッパーの横島先輩は、オールラウンダーのヨーコちゃんをよく捕縛できましたね」

雄太も華の話題に乗り、横島に質問をする。

 

「あーー、葉子ちゃんって動きが速いけど単純で分かりやすって言うか、だから罠も仕掛けやすかったし、捕縛もしやすかったかな」

 

「なるほど、だから葉子を人質に」

「マスタークラスの葉子をそんな言葉であっさりと……」

華はその言葉にある意味納得し、麓郎はオールラウンダーマスタークラスの葉子を捕縛するのが簡単だったと言い切る横島に驚きを隠せないでいた。

 

「そうだな。香取ちゃんの動きは単純だ。早い判断力と即応力でトリッキーな動きに見えるが基本の型をなぞっている。戦術も攻勢一辺倒だから単純に映る。香取ちゃんは師匠が居ないって聞いてるし、師匠無しで元々の素質だけでここまで出来るのは凄い事だが、師匠に習う事で師匠の持つ経験も学べる。香取ちゃんが今伸び悩んでいるのは1人でやってるからだ。師匠について戦い方や練習方法を学べば香取ちゃんはもっと強くなる」

迅は先輩としてここでこんな指摘をしている。

まあ、本人は上の空だが、華はメモを取りながら大いに頷いていた。

そんな先輩らしい意見を言う迅に、雄太と麓郎は尊敬のまなざしを迅に向けていた。

 

「葉子は師匠を頑なに拒みますが、やはり迅さんの言う通り葉子にはちゃんとした師匠が必要ですね。では、葉子の師匠にはどなたが相応しいですか?」

 

「そうだな。香取ちゃんの戦闘スタイルからスコーピオンを使う歌川(風間隊歌川遼)とか、機動力と攻撃力が高い京介(烏丸京介)は良さそうだが、香取ちゃんはプライドが高いから同級生は厳しいか……、秀次(三輪秀次)は性格的に合わないだろうな、だったら草壁隊の佐伯なんか香取ちゃんもコントロールできるだろう」

迅は葉子の性格的な問題を考慮しながら候補者を並べて行く。

だが、真っ白だった葉子は、ある人物の名にピクっと反応していた。

 

「なるほど、佐伯先輩がよさそうですね」

華は迅の言葉に大きく頷くが……

 

「か…烏丸くんだったらいいかも」

葉子は京介の下りから意識を取り戻していたようで、ぼそっとそう言う。

結構ミーハーなところがある葉子はボーダーきってのイケメン烏丸京介に気があるのだ。

 

「よ、ヨーコちゃん!?」

葉子に惚れている雄太にとって、この事態は許されるわけがない。

 

「香取ちゃん、気が付いたか?京介か、なら横島に頼めば早い」

 

「よっ!横島!!!」

葉子は正面の席にいつの間にか座っているニヤケ顔の横島に気が付く。

 

「落ち着きなさい葉子、既に横島先輩からは謝罪を頂いたわ。こちらの誤解も大きくあったようだし」

華は立ち上がって襲い掛かる勢いの葉子の肩をすっと押さえつけ座らせる。

 

「よ……横島め……暴露したら許さない…横島め…横島め……」

葉子は涙目で恨み節をブツブツと横島に向かって唱え続ける。

 

「迅さん、烏丸くんに師事するのに何故横島先輩に頼めば早いんですか?」

 

「京介はメガネくん…三雲修の師匠もやってるし、プライベートも忙しい身だ。だが横島の言うことなら大概聞くだろう。横島とはバイト先も一緒だし、何かと一緒の事も多い。横島、お詫びも兼ねて京介を紹介したらどうだ?」

 

「え?烏丸くんは横島先輩の言う事だったら何でも聞くんですか?」

華は何か誤解しているようだ。

普段冷静な華もお年頃でそういう事にも多少の興味はあるようだ。

横島と京介のBL的なアレを……。

因みに華は嵐山准に憧れを抱いている。

さらに言うと、嵐山と元嵐山隊の柿崎国治が一緒にいると何故かキュンとくるとか……。

まだ、BLの沼にハマっていないライトな物だが、これは親友の葉子にも話してはいない。

 

「京介か~、うーん。あいつマジで忙しいしな。イケメンだし。普段は修の事で手一杯って感じだし。たまにだったらいいんじゃないか?木虎ちゃんも一緒だけど」

何方かと言うと京介の方が横島に懐いている感じだ。

家庭環境において同じ苦労人と言うところで共感するところがあるのだろう。

木虎藍の件は、藍が修の練習に付き合う事を条件に京介がたまに手ほどきをする話となっていた。

 

「木虎が!?……ふっ、ふふふっ、そう言う事、わかったわ。……よ、横島……横……横島せ…先輩。烏丸くんによろしく頼むわ……ふはっふははっ、絶対よ」

葉子のいろんな感情が入り混じった引きつった顔で横島に京介への師匠の件をお願いする。

横島には頭を下げたくはないが、京介と伝手を持ちたいのと、どちらかと言うと気に食わない木虎藍が既に京介に手を出そうとしていると知り……泣く泣く横島に頼まなくてはいけない状況にこんな感じになっていた。

 

「な、なんか怖いんだけど」

横島はそんな葉子の様子に引いていた。

 

 

こうして、なんとか香取葉子殴り込み事件は解決に至った。

この後、何かと香取隊の面々は横島や迅と交流を持つことになる。

三浦雄太や若村麓郎は他のボーダー隊員と交流はあるが、香取葉子や染井華は他のボーダー隊員や他の隊と交流が殆んど無かった事も有り、また、変わり者ではあるが横島が噂程酷い人物ではなく、年上だが偉ぶった所も無く話しやすい人物であったことに、特に華は横島や迅に作戦室へとアドバイスを貰いに来る姿がしばしば見られるようになる。

葉子だけはしばらくは横島を毛嫌いしてはいたが……。

 

 




次回はほのぼの回です。
きっと、ちゃんと那須隊と横島隊の交流も書く予定です。
そして、いよいよランク戦最終ですね。


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その27、たまには和やかなのもいいよな。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

というわけで、那須隊との食事会。


ランク戦ラウンド7の後、香取葉子の殴り込み事件はあったが、何とか解決に至る。

 

迅の提案で、横島のおごりで横島隊と那須隊との交流会と言う名の食事会がハンバーグステーキ専門店の個室で催される。

 

「那須隊スナイパーの日浦茜でーす!」

少々ゆったり目の可愛らしいトレーナーにパンツズボン姿、トレードマークのハンチング帽を取りながら茜が元気よく挨拶をする。

 

「ほら、小夜ちゃんも」

「……ひっ……そ、その、あの……オペレーターの志岐小夜子で……す」

玲の後ろに隠れ、ロングヘアで前髪が右目に掛かり少々猫背気味の少女、玲とお揃いの可愛らしい白のワンピース姿の小夜子は、玲に促され少々前にでて、怯えるように挨拶をする。

オペレーター時は堂々と自分の意見を言えるのだが、公衆の面前、しかも男性の前ではどうしてもこんな感じになってしまう。

小夜子は男性が大の苦手で特に年上の男性とは真面に話す事も出来ないぐらいで、普段の高校生活でも支障が出る状況であった。

しかしながら、ただでさえ引きこもり体質の小夜子が年上の男性と一緒の食事会に出るなど今迄なかった。

引きこもりで普段ボーダー本部にも滅多に現れない小夜子でも、ランク戦では作戦室でオペレートを行わないといけないためボーダー本部へと足を運ばなくてはならない。

玲と友子の勧めで、ランク戦終わった後と言う事もありボーダー本部の作戦室から半場強制的にここに連れてこられたようだ。

これは小夜子に、男性に少しでも慣れてもらおうという思惑があった。

しかも、普段着は高校ジャージ姿なのに、オシャレに玲の服を着させられ……

 

「実力派エリート迅悠一、志岐ちゃんとは初顔合わせかな、よろしく」

「僕、横島!女性のお着換えから、身体測定まで全てお任せを!!」

 

「あはははははっ!」

「ひっ……!?」

茜は横島の冗談に笑っていたが、小夜子は迅のさわやか笑顔と横島のニヤケ顔に何故か圧倒され怯える。

 

「はぁ横島、そういうのはいいから、小夜が怯えているでしょ?」

「小夜ちゃん怖くないわ。大丈夫よ」

友子は横島を睨みつけ注意し、玲は怯える小夜子を落ち着かせようとする。

 

「あはあはははっ、そんなつもりはなかったんだけどつい」

「なるほどね」

横島と迅は事前に小夜子が年上の男性が極度に苦手なのを玲と友子から聞いていたのだ。

 

席順は色々考慮した結果、6人掛けの席の片側に玲、横島、迅。玲の正面に小夜子、そこから友子、茜と続く。

 

皆思い思いに注文してから、改めて迅が音頭を取る様に皆に言う。

「皆、ランク戦お疲れ~」

 

「迅さん、結局、まんまとやられたわ」

友子が迅と横島を見据えてそう言う。

 

「俺は何もやってないよ。すべてこいつだ」

 

「途中まで作戦通りだったのに、横島があそこで香取を人質にとるとか予想外も良い所よ」

友子は少々憮然とこう言う。

 

「へぇ~、くまちゃん達は香取隊と柿崎隊の横島狙いと、さらに横島が逃げ切ると予想していたってところか……」

迅は素直に感心していた。

 

「横島さんなら、何らかの方法で対処できるとは思って……」

「そうね。香取のあの猛攻はさておき、横島があんなとんでもない回避を行うとは思ってもみなかったわ」

玲は横島なら香取隊と柿崎隊からの狙い撃ちにも対処可能だと予想し、友子は横島のあの変態回避には流石に面くらったようだ。

 

「いや~、やばかったけど、慣れと言うかなんていうか」

横島は軽い感じにでこんな事を言う。

まあ、横島は妖怪妖魔に毎回これに匹敵、それ以上の猛攻から逃げおおせていたのだ。

鬼上司美神令子に囮作戦をさせられたり、自業自得で自らピンチを招いたりと。

 

「慣れ?」

友子はそんな横島の言動に疑問を浮かべる。

 

「しかし、横島が民家に逃げ込んでからのメテオラの爆破による追い出し、横島が民家から逃れるのを狙いすましたかのような狙撃、そしてバイパーによる流れるような追撃は、流石にしびれたね」

迅はあの時の那須隊の流れる様な攻撃を褒めたたえる。

 

「迅さんに褒められるのは素直に嬉しいのだけど、あれを避ける?横島あんたどんな感覚をしてるのよ」

「狙いはばっちりだったのにーー!」

「横島さんなら避けられるかもとは思ってましたが……流石に……」

友子は迅に褒められた事には顔を綻ばせていたが、横島のあの回避が未だに信じられないと言った感じだ。

狙撃を行った茜はあの狙撃が避けられたことは相当悔しかったようだ。

玲も全て避けられるかもしれないとは思っていたが、多少なり悔しい思いをしたようだ。

 

「本当にやばかった。狙撃はマジで直前までわからなかったし、玲ちゃんのバイパーが厄介過ぎる。だから、グラスホッパーで地面に向かって突っ込んで逃げるしかなかったし」

 

「横島さんも驚いてくれたんですか?」

 

「ほんと、ヤバかったって、玲ちゃん達の居場所が全く分からないから、何処から何が来るかわからないし」

 

「そうですか横島さんでも」

玲はその横島の答えに嬉しそうだ。

 

「他の隊と横島との乱戦を予想して、中長距離からの徹底した攻撃の作戦は中々大胆だし、横島の事をかなり研究したようだ。横島じゃなきゃ、とっくに落ちてる。いや、A級の隊でもここまでの作戦は立てるのは困難だ。この作戦を考えたのは那須ちゃんかい?」

迅は今回の横島対策がかなり優れていた事に、誰が考案したかを聞いた。

 

「小夜だな」

「小夜先輩です」

「小夜ちゃんが根本的な作戦の流れを考案してくれて、それで私達で細かい所を練った感じです」

友子、茜、玲が一斉に、今迄一言もしゃべらず皆の話を聞きながらちびちびとストローでミネラルウォーターを飲んでいた小夜子の方を見る。

 

「ほう、それは凄いな。志岐ちゃんが……。かなり横島の事を研究したんじゃない?」

迅は小夜子を褒める。

 

「あ、あわわわっ、そ、その……あの」

急に迅に振られ、慌てふためく小夜子。

 

「小夜は、ガロプラの女ネイバーと私と玲、横島と対処した時のログを解析してから、どうやら横島のバカらしく見えるあの戦術的な駆け引きに興味が持ったらしく、それ以降作戦立案は小夜が積極的に関わってる」

友子は小夜子が横島の戦いが切っ掛けで、隊の作戦立案を積極的に行う様になった事を語る。

 

「成る程ね。近頃那須隊が勝ち続けてる理由はそれか」

迅は感心したように小夜子に頷いて見せる。

那須隊は現在勝ち進んでおり、現在今季ランク戦ポイントは28のB級9位。

横島隊がランク戦ポイント29の8位続いてである。

因みに7位の弓場隊は横島隊と同率のポイント29、6位の東隊も同率のポイント29で、5位の王子隊がポイント30と接戦だ。

次の今季ランク戦最終戦次第では、那須隊はB級上位入りも可能なのだ。

 

「そ……そのあの……」

小夜子は何か話したい様子だが、話し出す事が出来ないでいた。

 

丁度ここで、それぞれの料理がテーブルに運ばれて来る。

「うははははっ、今日は俺のおごりだし、いろいろ注文しちゃって!」

「いいんですか横島先輩!ここって高級そうですよ」

「横島にしてはいい所ね、あんたのバイト先かなにか?」

「横島さん、ありがとうございます」

「いいって、いいって、うはははははっ!」

因みにこのハンバーグ専門店は、横島が外部・営業部長の唐沢克己に無理矢理連れられ密会していた高級店だ。横島は唐沢にここの会計を付けておく気が満々だった。

 

食事の途中に皆の元にボーダー支給のスマホにメールが届く。

次のランク戦の組み合わせだ。

 

「あれ?なんで俺ってB級上位とやる事になってんの?俺って8位だよな」

「スケジュール上の都合と書いてあるな。俺達の隊は途中参加だし、ズレを起こしているのだろう。それに6位から8位までポイントは同じだから問題ないんじゃないか?」

届いたメールには、B級2位影浦隊と5位王子隊、6位東隊と8位横島隊が対戦する事となっていたのだ。

本来B級上位は7位からだ。

確かに6位から8位までポイントは同じであるが、ポイントが同じの場合はランク戦開始時の順位が優先される事になっており、この順位であった。

実はこれはボーダー本部の計らいと言うか、横島隊の実力をもう少し上で見て見たいというボーダー本部の思惑だったのだが……。

 

「私達は、香取隊、諏訪隊とね」

玲は次の対戦相手の組み合わせを口にする。

 

「香取か、私が何とかするしかないか……、そういえば横島、どうやって香取を拘束したの?」

友子は思い出した様に横島に葉子を拘束した方法を聞く。

 

「ああ、あれね。スパイダーとロック(試作品)を使ったんだ」

横島は軽い感じで答える。

 

「ロック?」

 

「熊谷先輩、ロックはトラッパー用トリガースイッチボックスのツールトリガー。今季から採用された冬島さんが作成した対人型ネイバー拘束用トリガーです。手錠の様な形状でこれを嵌められた人型ネイバーはトリオン伝達系を阻害され、トリガーが発動できなくなり、トリオン体も上手く動かせません。さらに戦闘体を維持したまま拘束でき、自発的なベイルアウトも出来ないものです。ですが、直接手首に嵌めないと発動できないため、戦闘中に嵌めるのはほぼ不可能です。人型ネイバーを随分と弱らせ、反撃がほぼ不可能な状態でないと拘束できません。それでも横島先輩が香取隊長を拘束したのは、相当技量差が無いと難しいはずです」

ここで小夜子が先ほどまでとは一転、饒舌に語りだしたのだ。

 

「おおっ、志岐ちゃん詳しいね」

迅は小夜子を頷きながら褒める。

 

「あっ!……その……あの」

小夜子は気が付いたように隣の席の友子の影に上半身を隠れようとする。

 

「葉子ちゃんは突っ込んできてくれるからやりやすかった。スパイダーで動きを止めて、ロックで拘束って感じかな」

 

「あんた、簡単に言ってるけど、あの香取を手玉に取るって相当よ?」

 

「うーん。なんて言うか。葉子ちゃんは隙が多いって言うか、油断があるというか。その点くまちゃんの方がやりにくいかな」

 

「ふーん。そう」

友子は横島にそう言われてまんざらでもないようだ。

 

「…………そ、その、横島先輩は……戦術をどうやって……その、考えるのですか?」

ここで小夜子がとぎれとぎれだが、おっかなびっくりと言う感じで横島に自らの言葉で質問そ投げかけたのだ。

 

「戦術?うーーーん。うーーーーーん。うーーーーーーーん」

戦術と聞かれて悩みだす横島。

横島の戦い方は生き残るすべだったため、明確に戦術と問われると困るようだ。

横島の過去の戦いは、相手の方が圧倒的な力を持っていた事が殆んどだ。

生き残るためには、何らかの策を講じないと即死につながる。

馬鹿らしい事から卑怯な事や、普通じゃあり得ないような事まで、生き残るためにどんな手でも使う。

それが横島の戦い方だった。

 

「ああ、横島のはあんまり参考にならないかな」

迅は横島が平行世界の人間だという事を悟られたくはないため、こんな事を言う。

迅は理解していた。横島が以前軽く語った平行世界での体験は、こちらの世界では考えられない程のもので、横島自身凄まじい経験を積んできた事を……。

 

「そうだ。自分がやられないため、みんながやられないための方法を考えることかな?」

横島ははにかんだ笑顔でこう語った。

 

「ん?そうなんだろうが……」

「そうなんですね」

「………?」

友子や玲、小夜子もこの言葉にいまいち理解が及ばない。

だが、迅だけはその重みが伝わっていた。

迅も生死を分ける戦いを前ボーダー隊員として行って来たからだ。

師匠最上の死を目の当たりにしたことも。

 

「まあ、あれだ。折角こうやって交流がもてた事だし、何か聞きたい事があったらこっちの作戦室に来るのもいいんじゃない?もちろんくだらない事でも遊びに来るだけでもいいさ。志岐ちゃんも横島に聞きたいことがあれば、スマホでもいいし、まあ、彼奴バイトも結構いれてるから繋がりにくいかもしれないけど、作戦室や玉狛支部に居る時は大丈夫」

迅はこの話は終わりだと言わんばかりにこう締めくくる。

 

「玲ちゃん達だったらいつでもいいし!なんなら玉狛に遊びに来てもOK!……早沼支部は……やめておいた方がいい……あそこは筋肉の地獄じゃーーーー!!なんでゴツイマッチョメンとゴツイおネエしかいないんやーーーー!!」

横島も歓迎と言わんばかりだったが、早沼支部の実情を思い出し叫び出す。

やはり早沼支部は地獄らしい。

しかしボーダーは何故、マッチョとおネエを早沼支部に集めたのか……謎だ。

 

 

食事の後のデザートの時には、小夜子は横島に対しては、まだまだおっかなびっくりではあるが、多少声を自ら掛けられるようになっていた。

 

そんな小夜子の姿に茜と友子は少々驚き、玲は微笑んでいた。

 




えっと、ランク戦の各隊のポイントは原作とはちょっと異なってます。(弓場隊と那須隊)

次の次からランク戦最終に突入かな。


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その28、そんな事もあるだろう。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

すみません。
随分と時間が空いてしまいました。
28話は元々の全く違う話を書いてたんですがを全部消して、書き直しましてようやく。
では続きを


 

「これはこれは、お好み焼きの上に焼きそばと目玉焼きとは結構な物を。かげうら先輩、呼んでもらってありがとう」

空閑遊真は、影浦隊隊長のアタッカーの影浦雅人や来馬隊の村上鋼らとボーダー本部で個人戦を行った後、影浦の実家であるお好み焼き屋に誘われ、夕飯を共にしていた。

この頃の遊真は、ライバルと認め合っている彼らと交流を深め、夕飯をこうして共にすることが増えていた。

今日のメンバーは影浦と同じ世代(18歳)の友人関係である村上鋼と荒船隊隊長の荒船哲次、さらに影浦隊のガンナー北添尋(18歳)、スナイパー絵馬ユズル(14歳)と言うメンバーだ。因みにオペレーターの仁礼光(17歳)は今日は来ていない。

 

「今日もおごってやる。但し空閑、横島の事を教えろ」

影浦はぶっきらぼうな言い方で遊真に横島の事を聞く。

 

「かげうら先輩が他の隊の事を聞くなんて珍しいですな」

 

「次の試合に当たんだよ。お前ら(玉狛第2三雲隊)に負けた試合の後によ、たまたま横島の試合を見たが、あいつは他の連中とは全くものが違う」

そう言った影浦は楽し気に笑っている様にも見える。

 

「ゾエさんも驚いちゃったよ。あの回避は何?本当にトラッパーなの?横島くんは?」

北添尋もどうやら、遊真に横島の事を聞く気満々だ。

影浦隊としても次の試合相手である横島の情報が欲しいのだろう。

影浦自身は好敵手となり得るだろう横島の事を知りたいという個人的な興味によるものだ。

 

「うーん。横島先輩には掃除やご飯で世話になってるし、同じ釜の飯を食う仲だし」

遊真はお好み焼きの上の半熟目玉焼きと格闘しながら、とぼけた風な感じで渋る。

 

「いいから教えろ。飯おごってやるって言ってんだ。ってかもう喰ってんだろ」

「空閑、横島はそもそも正式には早沼支部だ。それ程義理立てする必要もないだろう」

影浦は駆け引きもあったもんじゃない言い草をこうも堂々と言う。

この場に参加していた荒船も横島の話に興味があるのか影浦のフォローをする。

 

「横島先輩は正直分からない」

遊真はさっきとは打って変わって至極真面目な顔で答える。

 

「この期に及んで吹いてんじゃねーぞ空閑」

 

「嘘は言ってないよ。だって、横島先輩とは練習試合どころか訓練も一緒にしたことがないし、もっというと横島先輩が訓練してる所も見たことがない」

遊真の話は事実だ。

三雲隊の誰もが横島と練習試合どころか、横島の練習風景も見た事が無かった。

 

「はぁ?なんだそりゃ?」

 

「カゲさん、雨取さんも同じこと言ってたから、本当の事だよ」

ここで絵馬ユズルが話に入って来る。

ユズルはボーダー本部主催のスナイパー訓練で千佳と一緒に訓練や練習することが多い。

ユズルは何時も千佳が訓練する時間に合わせていた。

要するに、千佳に気があるのだ。

 

「何度か横島先輩に頼んだんだけど、迅さんに毎度止められるし、小南先輩も横島先輩と練習試合をやりたがってたけど、やらせてくれないみたい」

 

「……横島はトラッパーだから普通は個人対戦はしないだろうが、練習する姿を見た事が無いのはおかしな話だ」

村上鋼は真剣な面持ちでそう言う。

 

「うんうん、でもなんかわかる気はするな。横島くんと変に一緒に訓練をすると調子を崩しそうだしね」

北添尋は頷きながら迅に訓練を止められる理由を私見で答える。

 

「確かに横島の戦い方は常軌を逸している。いやボーダーの常識が通用しないというのが正解か」

今迄黙って、この話の行く末を聞いていた荒船がここで頷きながら会話に入って来る。

 

「そりゃそうだろ。ランク戦で人質を取るとか普通考えねーだろ!ありゃ、頭のネジが何本かぶっ飛んでやがるぜ」

影浦は何故か嬉しそうにこんな事を言う。

横島の常識が通じない戦い方が気に入り、戦いたくてうずうずしているようだ。

 

「横島先輩は俺がボーダーに入る前にスカウトされて玉狛支部で生活してたって聞いてたし、戦い慣れてるからスカウトされる前はどっかの戦士だったんじゃないかな」

 

「確かに戦い慣れてるっぽいけど、それは無いんじゃない?だって横島くん、ゾエさんやカゲと、ここにいるみんなと同じで18歳組だし、自衛隊は中卒後に専門の学校に入れるけど、自衛隊はあんな戦い方はしないんじゃないかな」

北添尋の意見はもっともだ。

だが、遊真の予想は日本の常識ではあり得ない話だが、戦場を幼い時から渡り歩いて来たネイバーの遊真にとって、横島の戦い方は明らかに実践慣れをしてる風に見えたのだ。

 

「そう言えば荒船君は戦ったことあるよね。横島くんと」

北添は以前横島とランク戦を行った事がある荒船に話を振る

 

「ああ、まったくいいところなしだった。攻撃すらせずにベイルアウトだ」

荒船は話を振られ、あっさり負けた事を淡々と語る。

 

「あのグラスホッパー迫撃砲には驚いたよね。あれを初見でかわすのはちょっと厳しいね」

北添は頷きながらあの試合光景を思い出し、しみじみと言う。

 

「本質はそこじゃない。奴は初めから戦場をコントロールしてやがった。俺は奴を接近戦で倒すために迫ったが、奴の姿を捉えたと思った瞬間にトラップの餌食だ」

荒船は横島のあのド派手な新戦術よりも、横島の試合運びにやられたと語る。

 

「くくくくっ、お前が簡単にやられたのか?そりゃ、ますます試合が楽しみだ」

その荒船の話にやはり影浦は嬉しそうだ。

 

 

 

 

 

一方、玉狛支部では……

林藤ゆりと迅、レイジとクローニンが作戦室のオペレーター席に集まり話し合いを行っていた。

 

「ゆりさん。横島のオペレーター出来ます?」

オペレーター席で複数の画像を同時に見ながら情報を精査しているゆりに、迅は軽い感じで聞く。

 

「迅君、本職の私に出来ないとでも?といいたいところだけど、……凄いわね彼。迅君よく今迄横島君のオペレーター務めていたわね」

ゆりは横島の今迄の試合データーとオペレート記録を見て、こんな感想を漏らす。

 

「いや~、別に大したことやってないですよ。横島の邪魔をしない様にとは意識してましたが、彼奴が欲しそうな情報を提示する程度で、後は彼奴自身がなんとかしちゃうんで」

 

「迅君と横島君の思考が似通ってるってことかしら?それだけじゃないでしょ?いずれにしろ、これではボーダーの今のオペレーターの子では横島君のオペレートは厳しいわね。それにしても昔のおじさん(林藤支部長)の戦い方にちょっと似てるわ。もちろん戦闘方法は全く似てないけど、相手をからめとるような試合運びとか……」

 

「確かにそうですね。歴戦の兵士のように戦い慣れてる」

レイジもゆりの意見に同意だった。

林藤も前ボーダーではトリオン戦闘体を纏い戦っていたのだ。

 

「迅君、この前の試合中のここなのだけど、一瞬横島君の戦闘体に対しトリオン体維持不可のアラームが出ているわ。うーん、これは予期せぬトリオン異常を示すエラーのようだけど、これは?」

ゆりは前の香取隊、柿崎隊、那須隊との試合中、那須隊のスナイパー日浦茜から狙撃を受け、回避した際のログを見て、迅に聞く。

 

「ああ、これですね。最初に説明しましたけど、横島はトリオン、彼奴の世界では霊気、霊力とかいう名称ですが、自由自在に操れるんですよ。ボーダー製の一般的なトリガーでは彼奴がトリオンを出力を上げてコントロールしようとすると、彼奴の能力についていけなくて戦闘体が崩壊しベイルアウトしちゃうんで、今の彼奴は能力をセーブして戦ってるんです」

横島はボーダーの一般的なトリガーによる戦闘体では、霊能力をフルに発揮できない状態だった。

ボーダー製のトリガーは、自力でトリオンをコンロトールできる人間用に出来ていない。

そもそもトリオンを自力で自由にコントロールできる人間がいるなどとは想定外であったのだ。

横島は現在のトリガーでは文珠やハンズオブグローリー(霊波刀)だけでなく、満足に霊力による攻撃が再現できないのだ。

 

「……と言う事は、横島君はトリオン体の時よりも生身の方が強いという事かしら?」

 

「はっきり言ってそうです。横島には俺と二人で防衛任務に行ってる時は、トリオン体無しでネイバーと戦ってます。星輪女学院の時の話は後でしますが、特に彼奴の文珠という霊能力はサイドエフェクトの様な能力を無数に発揮できると考えて貰っていいです」

 

「……規格外過ぎるわ。横島くんが居た平行世界の人間は彼の様な霊能力者は一般的ではないのでしょ?」

ゆりは一応、横島と出会った当初、ある程度横島の世界の話も聞いてはいたのだが、横島の実際の戦闘データや迅の話を聞き、平行世界の人間が全て横島の様な凄まじい能力をもった人間だったのならと想像が追い付かず、改めて聞いたのだ。

 

「そうですね。横島の話では霊能力者というカテゴリーの人間、特にゴーストスイーパーと呼ばれる国家資格を持った幽霊や妖怪、悪魔と行った化け物と戦うハンターは、極一部の人間だけだと。しかも霊気、トリオンをある程度保有し扱う能力は生まれつき(先天的)に決まっていて、ほぼ霊能力を持った家系で決まるらしいです。横島は後で能力を発揮しだした結構稀なケースらしいですよ」

 

「…………悪魔や妖怪、幽霊と戦うゴーストスイーパーか……まるでアニメやマンガの世界ね」

ゆりは改めて、この話を聞きこう思うのだった。

 

「それを言ったら、ボーダーだって数年前までは考えられないですよ。戦隊ヒーロー扱いもいいところでしょ?」

迅は半笑いで返す。

確かにネイバーにしろボーダーにしろ、怪獣と正義のヒーローを題材とした特写もののようだ。

 

「それもそうね」

ゆりは笑顔を見せる。

 

「話は戻しますが……横島のオペレーターの件、どうですかゆりさん。俺のサイドエフェクトでは俺は今度の遠征にはいかない方がいいんですよ」

迅は改めてゆりに横島のオペレーターを務める事を頼む。

 

「もちろん私は何とかして見せるわ。でも私以外にも横島君を理解して、フォローできる子は必要よ」

ゆりは承諾するが、自分意外にも横島のオペレーターが務まる人材が必要だと言う。

 

「宇佐美はどうですか?」

迅は元々いざという時には栞に頼むつもりでもあった。

 

「もちろん栞ちゃんには協力してもらうわ。それ以外の子にもね。それはそうと玉狛第二の子達には横島君の事を告げなくてもいいの?」

 

「遊真は横島のランク戦での戦いっぷりからネイバーのどこかの国の人間だと思ってたようで、直接本人に聞いてましたよ。横島が速攻で否定してましたが、まあ、遊真のサイドエフェクトで横島が嘘をついていないとわかって引き下がりましたがね。まさか平行世界の人間だとは思わないだろうし、それに小南達も含めてランク戦が終わった後に伝えるつもりにしてます。ボスもその方がいいだろうと」

迅の話しぶりから遊真は横島の戦いぶりが他のボーダーの戦い方と随分異なり、どちらかと言うと自分達ネイバー側の戦い方に似た雰囲気を感じていたようだ。

一応、横島が嘘を言ってはいない事は理解したが、横島が何者なのかは気にはなっているようだ。

 

「横島くん本人はどう言ってるの?」

ゆりは横島本人が皆に平行世界の人間であると話す事に躊躇や葛藤のような物は無いか聞いた。

 

「あんまり気にしてないですね。ああ云う奴なんで。今日のこの話し合いも俺に任せてくれました。むしろ小南やメガネ君、遊真たちの反応が気になるかな。そう大した事にはならないだろうと思いますが、驚く姿はちょっと楽しみですね」

迅はむしろ、横島が平行世界の人間だと知った小南や修達がどういった反応を示すか楽しみにしているようだ。

 

「修や千佳たちが横島が平行世界の人間だと知っても何も変わらない。むしろ霊能者というところで引っかかりそうだな」

ようやくここでレイジが言葉を挟む。

 

「レイジ君の言う通りかも、霊能者って胡散臭いものね」

ゆりは皆の驚く姿を想像し、微笑みながらレイジの意見に同意する。

 

「そ、そうですね」

同意し微笑むゆりを見て、思わず頬を赤らめるレイジ。

 

「横島君には霊能力とやらに耐えられる専用のトリガーが必要だろう。霊能力者の能力を知るために早速彼に協力してもらうとするか……」

トリガー技術者のクローニンはどこか楽し気だ。

横島の霊能力に興味深々なようだ。

 

「頼みますクローニンさん」

迅は軽くクローニンに頭を下げる。

 

 

主な話し合いを終え、一息ついてからゆりがこんな事を言い出す。

「そうそう、横島君には前々から聞きたかったのだけど、なかなか聞けないというか、聞く勇気がでなかったというか……」

ゆりは横島に聞きたかった事があるようだが、どうやら横島本人にはかなり聞きづらい内容の様だ。

 

「何ですか?」

 

「横島君って、実際に平行世界で幽霊や妖怪を相手にしていた霊能者なんでしょ?幽霊とか見えるって事よね……だから、こっちの世界でも幽霊とか居たり見えたりするのかなって……いたら、いたで怖いでしょ?でも気になって……迅君は横島君に何か聞いてない?」

ゆりは恐る恐ると言う感じに迅に聞く。

 

「ゆ、ゆりさん、大丈夫です。霊なんて…た、大した事はないです」

レイジはこう言っているが、顔色が悪い。

どうやらレイジも幽霊が苦手なようだ。

 

「ははははっ、なんだ。そんなことですか」

迅は少々大げさに笑い、一笑する。

 

「そ、そうよね。いないわよね」

ゆりは迅のその様子にホッとする。

 

「あははははっ、俺も聞いたことがないんですが、横島の奴たまに誰もいない方向に話しかけてたりしてたのを見た事がありますよ。今日帰ってきたら聞いてみますか?」

迅はニヤニヤしながら、こんな事を言い出した。

実際、迅はそんな様子の横島を見た事は無いが、わざとこんな言い回しをする。

どうやら、迅は面白がっているようだ。

 

「………」

「えっ?……そ、それって…やっぱりいいわ。横島君には聞かないで、知らない方が幸せって言葉もあるでしょ」

迅のその話にレイジは青ざめ、ゆりは少々怯えながら迅に横島に聞かない様にと釘を刺した。

 

 

 

 

その頃、注目の的の横島というと……

「しくしくしく、たまたま道に落ちてたのを拾っただけなんや~」

「女性ものパンツが道端にそうそう落ちているわけがない。何処で盗んできたんだ。いいから言いなさい」

「風で飛ばされて道に落ちてたのを、なんだろうなと拾っただけなんや~~本当なんや~~」

「だったら何故君は、嬉しそうにパンツを両手で掲げて叫んでいたんだ!」

バイトからの帰り道に警察官3人に囲まれ職務質問をされていた。

しかも若い女性もののパンツを盗んだと冤罪をかけられそうになっていたのだ。

まあ、たまたまパンツ拾ったにしろ、嬉しそうにパンツを両手で掲げて「若いねーちゃんのパンツと見た!こ、これはヒップ86!さらにウエストは58でバスト88のボッ・キュ・ボン!だぞ!!ラッキーーー!!」などと公衆の面前で雄たけびを上げれば、こうもなるだろう。

相変わらず横島は何処に居ても横島の様だ。

 

一緒にいた京介が警察官に状況説明と説得をし、捕まる事は無かったが、玉狛支部に戻るのに随分と遅くなったとか……。

 




次回からは書いてて楽しいランク戦!
実況を誰にしようか、解説を誰にしようかと結構楽しく書いてます。

影浦隊、王子隊、東隊とのランク戦!
男ばかりのランク戦!!
男には容赦がない横島君が見れるかも!!
いやいやいや、やっぱり横島流で!!
原作の技(卑怯技)を入れて見たいですね!!


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その29、ランク戦最終戦開始

長らくお待たせしました。
ようやく書けました。




 

「初めましてのみんなもいるかもしれませんね。玉狛支部木崎隊オペレーターの林藤ゆりです。実況は初めてなので、少々のミスは許してくださいね」

ゆりは笑顔を湛えて自己紹介をする。

その大人の女性の魅力が詰まったキュートな笑顔に、観客席の誰も彼もが頬を赤く染めていた。

ランク戦最終日とあって、昼の部の実況を行ってくれる人がなかなか見つからず、現在ランク戦に関わっていないゆりにお鉢が回ってきたのだった。

ゆりはその申し出を快く引き受け、こうして初めて実況席に座る。

因みにゆりは本部室直属のオペレーターを除く、現在最年長のチームオペレーターでもあり、しかも玉狛支部ということもあり、中々頼みずらい存在でもあった。

旧ボーダーからの唯一のオペレーター要員であり、あの城戸司令や忍田本部長でさえ、彼女には中々意見を言い難いらしい……。

 

「それではB級ランク戦上位最終戦ラウンド8昼の部を開催します。解説にはA級冬島隊隊長の冬島さんと、A級太刀川隊隊長の太刀川くんに来ていただきました。よろしくお願いします」

 

「よろしく……」

年上の冬島もゆり相手だと多少緊張する様だ。

 

「ゆりさん、よろしく」

一方年下ではある太刀川の方はどうやら緊張は無い様で、気軽に挨拶を返していた。

 

「続きまして隊の紹介を行います。現在B級2位影浦隊、変幻自在刃を自在に操るマンティス使いアタッカー影浦雅人隊長、気配りが出来る重量級ガンナー北添尋隊員、未来のナンバーワン天才スナイパー絵馬ユズル隊員、ちょっと口が悪いのは茶目っ気破天荒オペレーター仁礼光隊員。次にB級5位王子隊、さわやかイケメンの裏には策士の顔、アタッカー王子一彰隊長、冷静沈着生徒会長シューター蔵内和紀隊員、真面目一直線、こちらも中学で生徒会長のアタッカー樫尾由多嘉隊員、王子隊の頼れるお姉さんオペレーター橘高羽矢隊員、続いて、B級6位東隊、戦略眼は軍師の如く、みんなの先生スナイパー東春秋隊長、元気いっぱいアタッカー小荒井登隊員、落ち着き払った姿は隊長譲りアタッカー奥寺常幸隊員、彼らを影から支えるのがオペレーター人見摩子隊員。最後にB級8位横島隊、ボーダー創設以来の問題児にして異色の規格外トラッパー横島忠夫隊長、その相棒は実力派エリートが何故かオペレーターを?迅悠一隊員です。彼らがどのような戦いを繰り広げるのか楽しみですね」

ゆりは隊と隊員達を少々色を付けて紹介していく。

 

「今回も横島隊長がどんな戦闘を行うのか楽しみだ」

横島が、冬島自身が開発を行ったトラッパートリガースイッチボックスのツールトリガー群をどう活用するのかを毎回楽しみにしていた。

前回は横島のランク戦は、ボーダー内の仕事の予定と重なり、直に見る事が出来なかったのがよっぽど悔しかったのか、今回はボーダーの技術部や隊長としての仕事を一切入れずにこのランク戦の解説に臨んでいた。

 

「そうですね。横島隊長の今迄のランク戦を確認しましたが、新戦法や新戦術が満載でしたね。前回の人質戦術は流石に驚きました。人質戦術については賛否があった様ですが、規定違反ではありませんので、そのままランク戦は続行されましたが、今後の対応については現在検討中だそうです」

ゆりは冬島の話から、前回の横島の人質戦術についてボーダー上層部の現在の見解を述べる。

 

「なかなか楽しませてくれたが、今回はやすやすと横島の思惑通りに進まないだろう。策士の王子やあの東さんが対戦相手だからな、個人的には東さんがどんな横島対策を取るのか楽しみだ」

太刀川は王子隊や東隊では横島も苦戦は免れないだろうと語る。

 

「今回選択権がある横島隊がステージを決定しました。市街地D、昼間天候は晴れです。狭いステージですが、大型ビルが立ち並び、ステージの中央には大型商業施設があります。大型商業施設の外延は大通りで、シューターやスナイパーが有利となりますが、大型商業施設内での局地戦になりがちになり、スナイパー対策としても使用されるステージです。このマップを選択をした横島隊、東隊長の狙撃対策でしょうか?」

 

「それだけじゃない。大型施設内の複雑な空間地形はトラッパーとしても有利に働く。特に単独トラッパーの横島だと特にな」

冬島はかなりトラッパーに有利なステージだと説明する。

 

 

 

 

影浦隊の作戦室では……

「横島とようやく戦えるってのに、王子の野郎と東のおっさんが一緒だとはな、めんどくせーな」

影浦隊隊長の影浦雅人(18歳高校3年生アタッカー)の第一声はこれだった。

影浦は横島との対戦を楽しみにしていたが、王子や東という策を巡らすタイプの隊との戦闘となるため、厄介に感じていた。

 

「カゲじゃないけど、結構大変だよね。横島くんだけでも厄介なのに、王子隊と東隊もいるからね。絶対何か対策を準備してくるよ。横島くんの動きだけでもわかればいいんだけどね」

北添尋(18歳高校3年生ガンナー)も影浦と同じ意見の様だ。

 

「このマップだと横島先輩の動きを見張るのはまず無理だ。それに東さんを相手にしながらだと厳しい」

絵馬ユズル(14歳中学2年生スナイパー)も作戦室の画面の表示されているマップを見ながら、横島の動きを探るのは無理だと答える。

 

「おめーら、何うだうだ言ってんだ!どうせ頭悪ぃーんだから、考えたって仕方がねーだろ!?いつも通り暴れて派手に引っ掻き回せばいいじゃねーか!」

仁礼光(17歳高校2年生オペレーター)は相変わらずの口の悪さで、うだうだ考えてる3人に叱咤する。

 

「ふはっ、そりゃそうだ。光の言う通りだぜ」

「光ちゃん。頭悪いのにゾエさんも入ってる?ゾエさん成績真ん中位よ」

「……結局はいつも通りか……でもそれしかないよね」

影浦も北添尋もユズルも光の叱咤で吹っ切れたようだ。

 

 

 

 

同じくして王子隊では……

「東さんとカゲくん(影浦)だけでも厄介なのに、ヨコシマン(横島)も参戦とは、思い切って白旗上げようかと思うくらいだね」

王子隊隊長の王子一彰(18歳高校3年生アタッカー)はため息を吐きながら冗談交じりにこんな事を言う。

因みにこの爽やかなイケメンである王子は、同級生以下後輩には変なあだ名をつける癖がある。

 

「確かにな。厄介な相手ではあるが、勝てない相手ではない。そうだろ?」

蔵内和紀(18歳高校3年生シューター)はそんな王子に表情を崩さずにそう言った。

 

「そうだね。初めから負けるつもりならランク戦なんて出ないよ」

王子は爽やかな笑顔を見せそう言う。

 

「先ずはヨコシマンだよね。前の試合でカトリーヌ(香取)が実践したヨコシマンを真っ先に狙う作戦はいい方法だった。ヨコシマンにトラップを設置させる隙を与えない事が最大のヨコシマン封じ、ただ、ヨコシマンの機動力や身体能力が並みのアタッカー以上にあったし、まさか人質を本当に取るなんて誰も考えつかない。ヨコシマンの落とし穴トラップやグラスホッパー迫撃砲やあの身体能力も厄介だけど、やっぱり一番厄介なのは策士だということ、東さんに匹敵するもしかしたらそれ以上かもしれない。過去の試合を見たけど、試合を完全にコントロールしていた。ほぼチートだね」

王子はため息交じりに横島をそう評価を下す。

 

「……そこまでか、横島は」

 

「だから、今回はヨコシマンとは真面に戦わない事にするよ」

 

「どういうことですか王子先輩」

真面目一直線の樫尾由多嘉(15歳中学3年生アタッカー)は真剣な眼差しで王子に聞く。

 

「ヨコシマンの基本戦術は漁夫の利から始まる。もしくは相手が弱ってる所を叩く感じだね。だから、それをこちらがやってしまおうという事だね。前回那須隊がやっていたことに近いけどこれが一番効果的そうだ。一番いいのは東隊と影浦隊とヨコシマンが三つ巴の時に仕掛けるのがいいかな。まあ、それは東隊次第なんだけど、たぶんそうはならなさそう。とりあえずは動きがあるまで中央の大型商業施設に入らずに、周りのビルの中で隠れて様子を見よう」

 

「それはいいが、それだと横島が何処にトラップを仕掛けているか把握出来ない」

 

「ヨコシマンは中央の大型商業施設で罠を張るはず、それ以外だと効率が悪い上に、他のビルに移るにしても、大きな大通りを通らないといけないから、東さんやエマージン(絵馬ユズル)に見つかるよね。狭いマップだし。もし東さん自身が策を練ってきた場合は、僕らと同じ策を取るかもしれないけど、その時はまず東隊もヨコシマンを先に狙うはずだし、外れはないかな。ヨコシマンと当たる時は3人同時で攻撃する方がいいしね」

王子の策は横島が潜み罠を張るだろう大型商業施設に入らずに、周りのビルで様子を見ながら、外に出てきたところ、又は他の隊と戦闘をしている際中を狙うというかなり偏った消極的な策だった。

 

「なるほど、だが王子にしてはかなり慎重な策だな」

蔵内がこういうのも無理はない。

王子隊のアタッカー2人とシューター1人という近中距離の編成から、自ら動く策を擁する事が多かったのだが、今回は完全に待ちの作戦だった。

 

「それだけヨコシマンが脅威だという事だよ。二宮さん共々早くA級に行ってくれないかなと本気で思うよ」

王子は半笑いだったが、本気でそう思っていた。

 

 

 

そして、東隊の作戦室では……

「市街地Dか続くな。前回は三雲隊にはいろいろとやられたが……」

東隊隊長の東春秋(25歳大学院生スナイパー)は市街地Dを選択した事に少しホッとしていた。

もし、横島が荒野マップの砂嵐を設定したならば、勝つ見込みがほぼ無かったからだ。

砂嵐による視界不慮で前方3~5mほどしか確認できないため、スナイパーによる狙撃が封じられる。バッグワームを使われると相手の位置がお互い確認できなくなり、遭遇戦の乱戦にほぼなるという、かなり偏ったステージだった。

実際ここ2年荒野自体が選ばれる事がなく、しかも天候の砂嵐は過去1回しか選択された事が無い所謂『クソ』マップだった。

 

「小荒井、奥寺、作戦をどう立てる?」

東は小荒井登(16歳高校1年生アタッカー)と奥寺常幸(16歳高校1年生アタッカー)に今回の作戦をどうするか聞いた。

東はボーダー内で実力的にはトップクラスであり、本来A級の隊を率いる立場であるが、後進の育成のため、こうして年若い隊員とチームを組み、教育を施しているのだ。

こうして東に育てられた隊員はA級B級問わずに多数いる。

東の基本的な教育スタイルは自分達で考えさせ、実戦させる。

勝ち負けに限らず、何で成功し、何が失敗したかを都度検証し、じっくり教え込んでいくタイプだった。

 

「またこのマップか、影先輩だけでも厄介なのに、横島先輩もいるとか、どうすればいいんだこれ?トラッパーともまだ戦った事ないし……このマップは中央の商業施設で戦う事が殆んどで、相手の位置を早く見つけるかなんだけど、うーん。横島先輩はほったらかしにすると後でやばいし……、影先輩と遭遇したら一人じゃやばいし……」

小荒井はどんな作戦が有効なのかまだ考えがまとまっていないようだ。

 

「横島先輩は厄介ですね。中央の大型商業施設に横島先輩に隠れられたら、トラップを設置し放題ですね。今迄の傾向ですと、商業施設内での戦闘が殆んどですが、時間が経てば経つ程、横島先輩が有利になって行く。下手をすると商業施設内で戦闘を長引かせると横島先輩のトラップで全滅なんてこともありえます。スナイパーは絵馬1人ですし、外で相手の出方を待って戦った方がまだましなのかもしれません」

奥寺は、このマップの今迄の戦闘傾向から、中央の大型商業施設内での戦闘になる傾向が高いが、トラッパーの横島が居る状態では大型商業施設内での戦闘は危険すぎるため、建物の外は見晴らしがよくスナイパー有利ではあるが、敵対スナイパーは影浦隊の絵馬ユズル1人だけのため、商業施設で横島のトラップを警戒しながら戦うよりも、外で戦った方がいいと結論づける。

 

「そうだな。奥寺が言う様に外で戦うのも有効な選択肢の一つだ。横島のトラップは脅威だ。こちらが王子隊や影浦隊に気を取られてるうちに、全滅もあり得る」

東も屋外でじっくり戦う戦法も選択肢の一つとして考えていた。

複雑な構造の大型商業施設内に横島に隠れながらトラップを仕掛けられれば、他の隊も含め全滅もあり得ると考えていた。

 

「王子隊も同じこと考えてたりして」

小荒井は何気無しにそんな発言をする。

 

「小荒井のその意見ももっともだ。あり得る話だ。王子隊も対横島対策を考えているだろうが、中央の大型商業施設は圧倒的にトラッパー有利だからな」

東は小荒井の意見に大きく頷く。

 

「王子隊も同じ考えなら、こちらにはスナイパーの東さんが居る分有利に働く。それに王子隊も第一目標は横島先輩だろうし」

奥寺は王子隊が同じ行動を取ったとしても自分達が有利だと説く。

 

「はぁ、影先輩が真っ先に横島先輩を倒してくれたらやりやすいんだけどな」

小荒井はため息交じりにこんな事を言う。

 

「小荒井、そう言う風に仕向けるのも作戦の一つだぞ。大型商業施設の外での待ちの作戦は不確定的ではあるがその要素もある。うまく行けば影浦隊が横島がトラップを設置する前に遭遇戦と言う事もありえるからな。横島のグラスホッパー迫撃砲はこの狭いマップと高いビル群では使い難いだろう。撃ってきたとしても場所が直ぐに把握できる。よし、今回は全員で大型商業施設の外で待機し、待ちの作戦に出る」

東は二人の意見を取り入れ、大型商業施設の外で待ちの作戦に出る事を決定する。

だが、東自身が考えた作戦の中では最上の作戦ではなかった。

やはり、東は横島を真っ先に倒すべきだと考えていた。

横島は今までとは異なる戦法やトラップを使用して来る可能性があるためだ。

東にとっても横島は不確定要素が高すぎる存在だったのだ。

 

 

 

一方横島隊の作戦室では……

「今はB級8位だし、最終B級10位は堅いんだろ?別にテキトーで」

横島は鼻くそほじりながらマンガを読んでいた。

 

「ダメだ。7位には入っておきたい。お前はマイナスイメージがでかいからな、城戸さんが横やりを入れてくるかもしれないし」

迅はやる気が無さそうな横島を注意するのだが……

 

「なんか怖そうなおっさんとか、C級隊員をぶったぎった奴もいるんだろ?怖いおっさんとか不良とか苦手なんだけど」

 

「そう言えば、今回の実況はゆりさんがやるって言ってたな。いい所を見せなくてもいいのか?オペレーターを俺と代わってくれるかもしれないぞ」

迅は横島にこんな事を言う。

 

「なにーーーー!!ゆりさんが!!早くそれを言えーーーーー!!ふはははははっ!この横島の華麗なる活躍を眼に焼き付けてくださーーーい!!まっててねーーー!!ゆりさっはーーーーん!!」

横島はさっきまでのやる気なさが何処へと行ったのか、手の平を返したように今は興奮気味にやる気満々になる。

どうやら迅の横島対策は効果絶大だったようだ。

 





さてさて、横島がちゃんと戦うのだろうか?


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その30、最終ランク戦開始

お待たせしましてすみません。
ようやく整いました。
実は構想していた戦法が、なんか横島らしくないなーーって悩みに悩みまくって、半年以上、ここに来てようやく整った感じです。

再開です。


 

 

「それでは、B級ランク戦上位最終戦ラウンド8昼の部開始です」

実況の林藤ゆりのコールと共に、隊員達がマップへと転送される。

 

 

「各隊員は転送後にバッグワームを装着。マップ中央の大型商業施設へ、影浦隊影浦隊長と北添隊員、さらに横島隊長も転送位置から一直線に突入、しかし東隊と王子隊は大型商業施設へは突入せずに隊の合流を優先するようです」

ゆりは転送直後のそれぞれの隊員の動きを見ながら実況を行う。

 

「トラップを仕掛けるために横島が大型商業施設へと真っ先に突入することは分かっていたが、てっきり横島のトラップを設置させる暇を与えないために、何処の隊も一斉に商用施設へ突入すると思ったが、突入したのは影浦隊だけか」

「東さんも王子の隊も合流を優先して、じっくり大型商業施設を攻めるつもりか?」

冬島だけでなく太刀川もどうやら、何処の隊も真っ先に大型商業施設に突入するものだと思っていたようだ。

 

「東隊は一早く合流しましたが、周囲のビルの屋上で待機したままです。そしてここで王子隊も全員合流、大型商業施設には突入せず、周囲のビルの中へと入って行きます。両隊とも横島隊長がトラップを設置する前に排除するのではなく、合流を優先し慎重に事を進めるようです」

ゆりの実況通り、東隊と王子隊は大型商業施設での戦闘を避け、横島や他の隊が大型商業施設から飛び出してくるのを狙う、待ち伏せ型のかなり慎重な作戦を取る予定であった。

 

 

 

大型商業施設に突入早々上階で、影浦隊の影浦と北添尋が合流を果たしていた。

「……気にくわねー」

だが影浦は鋭い目を更に細め周囲を見渡し、こんな言葉をパートナーの尋に漏らす。

 

「何が?」

 

「何にも感じねえ、東のおっさんはともかく、他の連中も感じねえ」

影浦はサイドエフェクト、他人の意識を肌で感じ取る事が出来るサイドエフェクト【感情受信体質】で、他の隊員の意識を感じ取れないでいたのだ。

戦闘となると、相手を倒すために攻撃的な意識等大きな感情が動き、普段よりも肌に突き刺さるような意識を感じやすいのだが、今はほぼ感じる事が出来ないでいた。

東や遊真のように戦闘でも自らの意識すらもコントロールできる人間は別にして、敵が近くに居ない事を示していた。

 

「と言う事は、大型商業施設に他の隊も入って来てないって事かな?」

尋は影浦の言いたいことを正確に汲み取り、こう返事をする。

 

「ちっ、光!他の隊の様子はどうなってやがる」

影浦はオペレーターの仁礼光に状況を確認する。

 

『そこ(大型商業施設)に入って無いんじゃねーか?試合開始から全員バッグワーム使ってたから正確にはわかんねーけど、ばったり出くわしてけん制したり戦ったりした跡もねーし、カゲのサイドエフェクトでも感じられねーんだろ?ユズルは王子隊の連中がそこ(大型商業施設)から遠ざかるのを見たって言ってたぞ、東隊も同じじゃねーか?周囲で様子見ってか?慎重策って奴だな』

光は相変わらずの口の悪さが目立つが、オペレーターとして高い能力を有している。

その光でも現状を正確に把握できない状況であった。

 

「なるほどね。予想が外れた。てっきり、東隊も王子隊も商業施設に入って、真っ先に横島くんを狙うと思っていたのにね」

尋や影浦隊は全隊がこの大型商業施設に飛び込み、横島が罠を張る前に、戦闘開始するものだと予想していたからだ。

 

「光、横島はどうした?」

 

『それもわかんねー、だが、トラッパーの彼奴は大型商業施設に入った可能性が高いだろ?彼奴は他の隊が戦闘してる最中を狙ってくるからな』

光は何だかんだと横島の全試合を確認し、その戦いをぶりから予想する。

 

「うちの部隊だけで、商業施設内でトラッパーの横島くんと真正面で戦う展開は流石に避けたかったな」

尋は横島との直接対決となりそうな展開にウンザリとした感じだった。

 

「丁度いいじゃねーか、周りの連中を気にせずに横島をぶった切れるってもんだ」

逆に影浦はこの状況に楽し気である。

 

「でもさ、横島くんのトラップは厳しいよ、この最上階からあまり動かない方がいいんじゃない?」

 

「奴をのさばればのさばるほど、厄介だ。それがトラッパーって奴だ」

「そうなんだけどさー、横島くんの落とし穴トラップは仕掛けた場所がまったく見えないから迂闊に動けないんだよね」

「じゃあお前が、横島がトラップを仕掛けそうな場所をかたっぱしから破壊すればいい」

「かたっぱしからって、さすがのゾエさんもトリオンが持たないよ」

確かに横島がトラップを仕掛けたと思われる場所をかたっぱしから破壊すれば、落とし穴トラップは解除される可能性が高い。

落とし穴トラップの性質上、仕掛けた場所が破壊されれば、壁などに通路を作るためのトリガー『ホール』が解除され、中に仕掛けられたトリオン爆弾も爆破されるだろう。

なまじ、ホールが破壊されないまでも、ホールの蓋が破壊され、中のトリオン爆弾に着弾されれば同じである。

ただ、ホールの蓋は威力の低い弾丸系のトリガーでは破壊出来ないため、ある程度威力のある攻撃を加えないと破壊出来ない。

要するに壁や建物を破壊出来る程度の攻撃を加えないと落とし穴トラップは解除できないという事だ。

さらに、狙撃用ガンナーのアイビスで狙い撃てば解除可能だが、そもそも落とし穴トラップが何処に仕掛けられているのかピンポイントで判明出来ないため、現実的ではない。

この落とし穴トラップは厄介極まりないところだ。

しかしながら、落とし穴対策を既に前回のランク戦で那須玲が示していた。

玲の横島へのメテオラやバイパーによる徹底した中距離からの攻撃は、自らが横島のトラップ設置範囲に踏み込むことなしに攻撃が出来るだけでなく、横島が近隣に設置したトラップも広範囲のメテオラによる攻撃で解除されていた。

要するに、何処に設置されているか分からない落とし穴トラップに対し、広範囲に高威力の攻撃を行う事で解除が可能だと証明されたのだ。

但し、玲のようにトリオン量も多く高威力の範囲攻撃が出来る事が前提ではあるため、この落とし穴トラップ対策は誰でも出来るものではない。

そう言う意味では北添尋はボーダー隊員の中でもトリオン量も高く、さらには重量級ガンナートリガー擲弾銃でのメテオラによる高火力範囲攻撃が得意としているため、横島の落とし穴トラップ解除にはうって付けといえる。

尋本人も横島の落とし穴トラップ破壊は可能だろうと踏んでいた。

各隊もこれには気が付いているが、東隊や王子隊では現実的に実施出来ない対策である。

 

しかし、流石に影浦が言うような建物かたっぱしから破壊するのは効率が悪すぎる。

まず尋のトリオンが持たないだろう。

そんな無謀な方法が取れるとしたら、トリオン量の多い二宮隊隊長二宮匡貴か太刀川隊出水公平、三雲隊に新規加入したヒュース、それでも、全ては無理だろう。

だが、建物ごと破壊が出来てしまうトリオンモンスター雨取千佳ならば全てを破壊尽くす事が出来る。

ただ、本気で行うとトラップを破壊する行為というよりも、全てを無に帰すだけになってしまうが……。

 

 

「カゲさん、この建物の吹き抜けを上からずっと監視してたけど、横島先輩は見かけてない」

絵馬ユズルが二人の会話に通信越しに入って来る。

ユズルは仁礼光の指示で物陰から最上階から吹き抜け全体の監視をするよう指示を出され、今も監視中だった。

 

『へへん。光様の指示によるものだ。おめーら、各階の吹き抜け周囲はトラップは無い。そこからゾエが片っ端からぶっ放して横島の野郎をあぶり出せ!』

「フッ、だとよゾエ」

光のその作戦指示に、影浦は悪そうな笑みを尋に向ける。

 

「光ちゃん、それ、ゾエさんトリオン切れで干からびちゃうんだけど」

『ちょうどダイエットにいいじゃねーか。横島が出て来るか、ゾエが先に干からびるか、我慢勝負だ!』

「はぁ、横島くんがもしここ(大型商業施設)に居なかったら、ゾエさん無駄死になっちゃうよ」

『いいからやれ、屍は拾ってやる。頑張れよ!』

光の作戦はこうだ。

大型商業施設の吹き抜け周囲から、尋による擲弾銃メテオラによる高威力広範囲攻撃による掃射で隠れているだろう横島をあぶり出し、出てきたところをユズルの狙撃で攻撃又は、影浦による近接攻撃で仕留める作戦だ。

単純だが、効果は高そうではある。

ただ、横島をいつまでもあぶり出せないでいると、尋は干からびはしないが、間違いなくトリオン切れに陥るだろう。

 

こうして、大型商業施設では影浦隊による対横島作戦が行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

その頃、横島は……。

真顔で何やら考えを巡らせていた。

 

そんな横島に迅が通信越しに問いかける。

「横島、何をやってるんだ?」

 

「うーむ。大人っぽい青の刺繍レース柄なのか、フレッシュな感じでオーソドックスに白の柄無しがいいのか」

 

「……何の話をしてるんだ?」

 

「くまちゃんに似合うブラはどっちかなって……」

そう、横島はこの大型商業施設の女性用下着販売店で、真剣にブラジャーを食入る様に物色していたのだ。

 

「真面目にやれ!」

 

 

 





お待たせしてすみませんでした。


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その31 ブラより大事なものはない

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回はかなり繋ぎ回です。


 

「迅、くまちゃんに似合うブラってどっちだと思う?」

『真面目にやれ!』

横島はランク戦中、あろうことか下着の物色を行っていたのだ。

確かに、トリオンによる仮想空間とは言えすべてが現実を同じように精巧に作られている。

この大型商業施設の中のショッピングモールの細かな品々も例外ではない。

 

「俺は何時だって真剣だ。カッコいいくまちゃんのあの豊満でハリのあるEカップを包み込むブラがどんなものなのか、想像するだけで鼻血が!!」

『横島、それには俺も同意するけどさ、今はランク戦だぞ』

横島は迅に反論し力説し、迅は迅で横島の意見に同意していた。

迅も所詮横島と同類だが、一応場所は弁えているようだ。

 

「いや……まてよ。意外とスポーツブラとかいいんじゃないか?スポーツブラで押さえつけようがないあのはじけるようなおっぱいが、さらに強調されるんじゃ!?」

『ああ、くまちゃん。結構スポーツブラを付けてるぞ』

「なぬ!?何故迅がそれを!」

『学校帰りの夏の制服姿のくまちゃんだったら、スポーツブラは意外と主張が強いし、夏服越しにちょい透けて見えてた』

「なんだとーーーーーー!!迅ズルいぞ!何故今迄黙っていた!!くっ、そんなくまちゃんの姿を俺は見逃していたのか!!」

「だって、お前、去年の夏頃、ボーダー本部出禁だっただろ?」

「そんなーーーーー!!某国の陰謀じゃよーーー!!」

横島は友子のスポーツブラを付けた夏服姿が見れない事で、血の涙を流していた。

迅も横島の言葉に引っ張られ熊谷友子のブラについて語り出してしまっていた。

2人とも普通に最低である。

 

 

 

その頃解説席では……。

「横島隊長、大型商業施設に入り、身を潜むように移動していたのですが、何故か専門店街に入りじっとしてるようです。映像来ます。……………うーん。これはどういう状況でしょうか?」

映像に映ったものは、女性用のブラを手に持って物色する横島の姿だった。

さすがのゆりもこの横島の姿にどう解説すればいいのか困りかねて、つい、横の冬島に話しを振ってしまった。

 

「…………」

冬島は冬島で話を振られたが、対処出来ようも無く、無言で隣の太刀川に泳いだ目で視線を送る。

 

「プッ、普通にブラを物色して、鼻の下伸ばしてるだけじゃないですかね」

ゆりの困惑顔と横島の行動のギャップに思わず笑いが漏れる太刀川は、普通に横島の行動を解説する。

 

「あの子は何をやってるの……」

ゆりはマイクをオフにし、呆れ顔で文句を漏らす。

 

当然観客席では当然、女性陣から横島へ冷ややかな視線や罵りの言葉を画面越しに送っていた。

ただ、迅も友子のブラジャー透けの件で女性陣に糾弾されてもおかしくは無いが、横島と迅の通信越しの会話は会場に聞こえるわけも無く、好感度が下がったのは横島のみ。

発端は女性の下着コーナーを物色していた横島であり、それに迅が巻き込まれたようなものだから、妥当なのだろう。

 

 

 

対横島討伐作戦の行動に移した影浦隊だが、あぶり出すまでも無く横島を発見する。

「横島先輩を発見」

絵馬ユズルは身を潜めながら目視で各階を吹き抜けから見える範囲で捜索していたのだが、作戦開始早々にバッグワームを羽織った横島を発見したのだ。

 

『ユズル、でかした!横島の野郎は何をやってる?』

オペレーターの仁礼光は早々に横島を発見したユズルを褒め、横島の状況を聞く。

ユズルはわざわざ探した言うよりも、横島がただ単に隠れもせずに堂々と姿をさらしていたと言った方がいいだろう。

 

「その……女性用の下着コーナーで……下着を……その漁ってる様に見える」

初心なユズルは少々顔を赤らめ言い難そうに報告する。

ユズルが見たものは、だらしない顔を晒して、大きなサイズのブラジャーを物色する横島の姿だったのだ。

 

『ユズル……撃っていいぞ。変態のド頭を吹っ飛ばしてやれ!!』

それを聞いた光は横島が変態行動に及んでいる事を理解し、ユズルに怒鳴り声を上げる。

 

「ちょっと待って光ちゃん。ゾエさん達まだ配置についてないよ」

『そんなの良いんだよ!!いいからユズル、変態野郎をぶっ潰せ!!』

光の怒りの命令を聞いた尋は止めに入るが、尋の言葉など、もはや怒り心頭の光には届かない。

 

「カゲさんどうする?」

ユズルは横島に照準を合わせながら、影浦に通信越しに撃っていいかと尋ね、判断を委ねた。

 

「俺も直ぐにそっちに着く、狙えるなら撃て」

「了解」

ユズルは影浦の同意を得て、横島の後頭部に狙いを定めライトニングの引き金を引く。

 

スナイパー用トリガーは主に3つありそれぞれ性質が異なっている。

射程重視のイーグレット 射程◎ 威力〇 弾速〇 照準〇 取回し〇 速射△

弾速重視のライトニング 射程△ 威力△ 弾速◎ 照準◎ 取回し◎ 速射◎

威力重視のアイビス   射程〇 威力◎ 弾速△ 照準△ 取回し× 速射△

更に特徴としてイーグレットとアイビスは一般的な筒状の望遠スコープで照準を合わすが、ライトニングは銃身の横にあるパネル画面で照準を合わす。

其々一長一短あるがB級隊員以上のスナイパーの殆どが万能なイーグレットを選択している。イーグレットだけというスナイパーもいるぐらいだ。

ライトニングは威力や射程は無いがその扱いやすさから初心者や女性陣から人気である。

ユズルは状況に応じて3つのスナイパートリガーを使い分けて使用しいるが、ランク戦では普段ライトニングを余り使用していない。

ユズルは前回の横島が参加したランク戦で日浦茜の狙撃を横島が避ける映像を何度も見ていた。

日浦茜のイーグレットによる狙撃は、超遠距離ではあったがタイミングばっちりの狙撃だった。

それをあっさりと空中で避けられる様を見て、あのタイミングで避けられるのであれば、威力は低いがより弾速が速いライトニングで無ければ横島を捉える事が出来ないのではないかと考えたのだ。

 

ユズルが狙撃体勢をとっている位置から横島までの距離は30mもない。

横島は一心不乱にブラジャーを物色し、ユズルに気が付いていない。

ほぼ、必中距離だ。

ユズルはライトニングの引き金を引き、銃口からトリオン弾が発射される。

 

だが……

「へッークッション!!」

横島は盛大にくしゃみをし頭を下げたところに、イーグレットの弾は通過していく。

偶然なのか、ギャグ補正が働いたのか、はたまた横島は気が付いてそのような行為に出たのか不明だが、事実としてユズルの狙撃を避けたのだ。

「あれ?……何か通ったような……」

横島は狙撃に気が付いたのか、辺りを見渡す。

 

「な……!?」

ユズルはその光景に思わず驚きの声が漏れる。

当然だろう。スナイパーにとって30mは必中距離なのだ。

シールドで防がれるのはともかく、避けられるなど想定外も良い所だ。

だが、それも一瞬である。

ユズルは気持ちを切り替え、横島を追撃を行う。

ライトニングは一発づつの装填式ではないため、速射性に優れており、次弾発射までの間隔は他のスナイパートリガーに比べ圧倒的に短い。

 

「げっ!!おわっ!?ぬわっち!?」

それでも横島は下着コーナーの中を駆け巡りながら、トンでも変態回避でユズルのライトニングの弾をすべて回避して見せる。

 

だが、下着コーナー目掛けてメテオラによる範囲攻撃が飛んできた。

「ほげ~っ!!」

横島は慌てて下着コーナーから空中ダイブをして逃げ出す。

 

「ユズル、お待たせ」

尋の擲弾銃による攻撃だ。

 

「……すみません。避けられました」

「気にすんな」

「良いって良いって、ここからが本番、横島くんを見失わないようにしないとね」

影浦と尋がユズルと合流。

 

『おめーら、横島を追い込むぞ!ゾエ、今から指示出す場所にぶっ放せ!ユズルは横島をけん制だ!カゲはサイドエフェクトで、横島を追尾できるか!?』

光からの指示が飛ぶ。

 

「さっきから、何にも感じねー。彼奴の意識はこっちに向いてねーか、東のおっさんと空閑と同じで、感情を押し殺して戦えるって事かだ。どっちにしろ面白れ―奴だ」

影浦は自分のサイドエフェクトが封じられてるかもしれない状況なのだが、とこか楽し気だ。

 

「カゲのサイドエフェクトに引っかからないのは厄介だよね。って、もうあんなところに、横島くん足速すぎない?」

尋は横島の足の速さに舌を巻き、次々とメテオラを射出させる。

 

「ゾエ、あそこに撃て、あそこで先回りをしてやる」

「はいよっと」

影浦は横島の逃走ルートになりそうな場所に射撃するように要求する。

横島のトラップ回避のためだ。

メテオラによる射撃によって、安全確保し、そこで横島を待ち受けるつもりの様だ。

 

『気バレよゾエ、なんにしろ横島の奴はこの状況じゃ、中長距離の攻撃手段はねーんだ。ジャンジャン撃て!』

光はノリノリでゾエに指示をする。

ランク戦開始からそれ程時間が経っていない今の時間帯なら、横島のグラスホッパー迫撃砲による射撃は無いと踏んでの指示だ。

グラスホッパー迫撃砲は、材料を見つけ現地で作成しなくてはならないため、準備に時間がかかるからだ。

 

「そんじゃ、景気よく行こうかな」

尋は擲弾銃でメテオラをフロアのあちらこちらへと広範囲に放つ。

一見適当にメテオラを放ってように見えるが、横島がフロアの奥側や階段やエスカレーター方面に逃げないように考えながら放っている。

尋はその図体に似合わず細かい所まで気が付き、大雑把で攻撃的な影浦や天才肌のユズル、自由奔放なオペレーターの光と曲者たちを裏から支え、実質尋がこの隊をまとめていると言っても過言ではなかった。

 

 

「ぎょえーーーーっ!!ちょ、ちょっと待った――――!!」

涙をちょちょ切らせながら、尋のメテオラとユズルの狙撃を何とか避けていたが、このまま避け続けてもじり貧である。

 

 

 

 

 

少し前に戻り、解説席のゆりの実況では……。

「影浦隊スナイパーの絵馬ユズル隊員が横島隊長を捕捉した模様、その横島隊長は無警戒にほぼ棒立ち状態、気づいていない模様。これはいけません」

横島が下着コーナーでブラジャーを物色している後ろ姿を捕捉するユズルの姿が画面に映し出されていた。

 

「まずいな、横島はこの周囲にトラップをしかけていない、この距離では流石に……」

冬島だけではなく、ゆりや観客席の隊員達の誰もが、横島が風前の灯火であると感じていた。

 

「30m、必中距離だな。普通だったら絵馬の一撃で終わりだ。普通だったらな……」

太刀川もこの一撃で終わるだろうと予想するが、意味深い言葉を残す。

 

そして……。

横島は後ろから絵馬ユズルに近距離狙撃をされるが、大きなくしゃみをして、弾丸を避けたのだ。

「横島隊長、絵馬隊員の狙撃をくしゃみをして避けた?……こ、これは偶然なのでしょうか?更に絵馬隊員は追撃を行うが、狙撃に気が付いた横島隊長は奇妙な体捌きでそれらを全て避けきりました」

実況のゆりは横島がユズルの必中距離の狙撃をくしゃみをして避けた事に驚き、一瞬言葉を詰まらせるが、解説を続ける。

 

「くしゃみ?偶然か?いやそれにしても……」

 

「冬島さん、あれは偶然じゃない。横島の奴、絵馬が狙っていた事を完全に気が付いていた。撃つタイミングすらもそうだ。そうじゃないとあれは避けられない。カゲと同じような感知系のサイドエフェクトを持っていると見た方がいい」

太刀川は鋭い目つきで、映像上の横島の動きを追いながら、そう断言する。

太刀川が断言した通り、横島はユズルの動きが分かっていたのだ。

横島は霊能力を抑えた状態でも、近距離であれば周囲の動きを自然に感知してしまう。

必中距離だと思われたユズルの狙撃は横島の感知範囲内だったため、横島にバレてしまい避けられる結果となった。

これが100m以上離れていれば、結果は違っていたのかもしれない。

 

「太刀川、横島のサイドエフェクトは噂では女性のスリーサイズが分かるとかいう奴じゃないのか?」

 

「ブラフですよ。オペレーターにあの迅だ。ああいうふざけた噂を流し、実力を隠すとか、いかにも彼奴らしいやり口じゃないですか」

太刀川は迅が正攻法だけでなく、時にはブラフを使いながら戦うスタイルを見てきている。

この前太刀川と迅が戦った際も、迅はブラックトリガー風刃の性質や使用回数を太刀川に誤解させて勝利しているのだ。

だが、今回のスリーサイズが分かるサイドエフェクトの噂を流したのは迅ではない。

横島がガロプラのウェン・ソーを絡めとるために使ったブラフだったのだが、何時の間にかそのブラフが独り歩きし、ボーダー中に広まってしまったのだ。

普段の横島のスケベ行動が、そんなとんでもないサイドエフェクトでも、あの横島だったらあり得るのではないかと思わせてしまったのが要因だろう。

 

「確かにな」

冬島もこの太刀川の意見には同意のようだ。

 

「それだけじゃない。動きが普通じゃない。あの距離の狙撃を先読みしてシールドで防ぐのはまだわかる。狙撃が来るのが分かっていても『避ける』のは厳しい。しかも後ろからの狙撃はほぼ無理だろう。まあ、俺以外は」

太刀川は最後のこの言葉を言いたかったのだろうが、解説通り30mの距離の狙撃、しかも既に狙撃体勢に入ってるスナイパーから狙われて、最速のライトニングでの狙撃を体捌きだけで避けるのは不可能とされるものだった。

 

 

解説の間でも横島は飛んでも回避でユズルの狙撃と尋のメテオラを避け続けていた。

だが……、

無様に逃げ惑う横島の姿が突如として消えたのだった。

 

 

 





横島くんはどこに?


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その32 トリオン体の小物を作ってる奴って誰よ。

ご無沙汰しております。
なんとか完結に至りたいです。


 

影浦隊はショッピングモール4階衣服売り場の女性物の下着コーナーでブラを物色する横島を発見し、建物東側に位置する吹き抜けを囲む大通路から絵馬ユズルの狙撃と北添尋のメテオラの絨毯爆撃で、逃げの一手の横島を徐々に追い詰めていた。

 

だが、必死の形相で不格好に逃げ惑う横島が突如として影浦隊の視界から姿が消したのだ。

影浦隊だけでなく、この試合を見に来た観客席のボーダー隊員達もスクリーン越しではあるが横島の姿を見失っていた。

 

横島を見失ったと感じた次の瞬間、一方的に中距離からの攻勢をかけていたはずの影浦隊の後方で、断続的に爆発音が鳴り響きわたり、吹き抜け周りの大通路から狙撃を行っていた絵馬ユズルが複数の爆発に巻き込まれ吹き飛び、吹き抜けに落下していく。

ユズルは見るからにトリオン体の漏れが激しく、トリオン流出過多でベイルアウト寸前の致命傷だった。

 

「どうなってやがる!?」

「ユズル!?」

前方に出ていた影浦は爆発音に気が付くが状況が把握できず、丁度影浦とユズルとの中間ぐらいの位置でメテオラで絨毯爆撃を行っていた尋もすぐ後方からの爆発音に振り返ると、ユズルが先ほどまで居たはずの場所には、もうもうと煙が上がり、ユズルを確認できなかった。

 

『ユズルの奴は致命傷だ!もう持たない!!この爆発の威力、トリオン爆弾だ!!くそっ!!どこからだ!?横島の奴は今の今まで売り場で逃げ回ってたはずだ!!最初っから爆弾を設置してあったってことか!?そんなはずは!?』

オペレーターの仁礼光は早口で悪態をつきながら、現状とユズルの状況を影浦と尋に伝えるが、どこからの攻撃なのか全く把握できていない。

確かに横島は光が言った通り、前方の影浦からさらに離れた衣服売り場の中を降り注ぐメテオラとスナイパーの弾丸から逃げ惑っていたのだ。

横島とユズルの距離は少なくとも80~100mは離れていたはずだった。

となると最初からこの吹き抜け周りにトリオン爆弾を設置していたことになるが、ユズルがこの建物に侵入してからずっと、この吹き抜けの上下全体が見渡せる位置に身を潜め監視していたが、横島が吹き抜け周囲の各階の大通路にトラップを設置する姿を見ていなかった。

 

影浦と尋は光の通信越しの声に大通路に横島からの何らかの仕掛けか攻撃があると判断し、それぞれの位置から売り場側に飛びのくが、一呼吸置く間もなく、爆発音とともに飛びのいた先の天井が崩れ落ちてきたのだ。

 

「うわっ!?」

尋は吹き抜けの大通りの方へ、転がり込むように再び飛び込み。

 

「ちっ!!」

尋より売り場の内側へ回避した影浦は、スコーピオンを二つ繋ぎ鞭のような性質を持つマンティスを柱に突き刺し、フックショットのように使い、遠心力を利用し、ギリギリを滑り込むように、崩れ落ちる天井を避け、吹き抜けの大通りに飛び出す。

 

しかし、飛び出した先に複数のトリオン爆弾が何処からともなく二人の近辺に転がり込んでくる。

 

「くそが!」

影浦は再びマンティスをフックショットのように使い、空中機動で吹き抜けの上空へと逃れる。

 

「うわわっ?やばいよこれ!?」

尋はシールドをとっさに張るが、複数トリオン爆弾の爆発をすべて受け止めることができず、致命的な大ダメージを負う。

 

影浦は吹き抜け上空へと立体移動で逃れたが、そこに投網のようなネットが頭上から影浦めがけて降ってくる。

「次から次と!!」

フックショットのように使っていたマンティスを咄嗟に解除し、中空で迫りくるネットを切り裂く。

 

「くそったれ!!」

しかし、切り裂いた瞬間、ネットが連続的に爆発し、大轟音を奏でる。

影浦はシールドを張る間もなく爆発の直撃を受け、ベイルアウト。

 

影浦がベイルアウトするのと同時に、大ダメージを負っていたユズルと尋もトリオン流出過多でベイルアウト。

 

横島を追い込んでいたはずの影浦隊がいつの間にか窮地に陥り、あっという間に全滅したのだった。

 

この状況を見ていた観客席の大多数は、影浦隊に何が起こったのかわからず、呆然としていた。

観客席のスクリーン右上には横島隊にポイントが3点入ったことが表示され、さらにざわつく。

 

「影浦隊全員ベイルアウト、横島隊にポイントが入りました。横島隊長の攻撃によるものですが……」

実況席の林藤ゆりも横島がどうやって影浦隊を全滅させたのか、すべてを把握しきれていなかった。

 

その横で太刀川慶が冬島慎次に質問をしていた。

「冬島さん、最後のあの爆発するネットは何なんすか?」

「……あれか、あれは恐らく、多量のスパイダーを複数のトリオン爆弾で結合してネット状にしたものだろう。

 

「なるほど、スパイダーの先に爆弾くっつけてトラップにする奴を束ねてネットにしたってことか、そりゃ切ったらこうなるな」

 

「……それよりも、横島はどうやって絵馬に爆弾を?どこから北添と影浦に攻撃したんだ?」

冬島の疑問はもっともだ。

 

「それなのだけど、ちょっと見てもらえます」

そこにゆりが実況マイクをオフにし、実況席にある小型タブレット画面を冬島と太刀川に見せる。

 

そのタブレット画面には横島を起点とした映像が映し出されていた。

その映像を三人は食い入るように見て、それぞれ見解を述べる。

「………既に天井を崩落させる爆弾を設置していたということか」

「まさか、こんな方法で上下に移動していたのかよ。トラッパーじゃなきゃ、できない発想だな」

「どうやって、絵馬の位置を把握したんだ?」

「スナイプの射線ですよ冬島さん。絵馬の奴、一方的な展開ってなもんで、移動をおろそかにしていたし、まあ、建物の中であの展開だと、移動する暇がありゃ、撃たなきゃならないが」

「横島はすべて計算ずくだったってことか……」

「おそらく、横島君が女性の下着を物色していること自体が罠だったのよ」

 

 

 

影浦隊のランク戦用の作戦室では、次々とベイルアウトしてきた隊員達が、オペレーション席に座る光のもとに集まってくる。

「ごめん、カゲさん。どうやってやられたのかもわからなかった」

「いや~、ゾエさんも何がなんだか」

ユズルも尋も何が何だかわからないといった感じだ。

 

「横島の奴!何をやりやがった!!確かにおめーらは彼奴を追い詰めていたんだ!!」

光は横島の動きを途中から把握できなかったことにイラついているようだ。

 

「光、そういきり立つんじゃねー」

「でもよー、カゲ」

「負けたんだ。横島の奴の方が一枚上手だったってことだ。ちっ」

そう言う影浦も、わけもわからずに敗れ去ったことに、いら立っていた。

 

 

 

しばらくし、実況席のゆりがマイクをオンにし、観客席に向かって解説を始める。

「お待たせしました。横島隊長の影浦隊撃破ポイント獲得について検証いたしました』

観客席の壁一面のスクリーンに先ほどの横島隊と影浦隊との攻防が映し出される。

 

「横島隊長は4階の女性下着コーナーで物色をしているところを、絵馬隊員に狙撃され、北添隊員のメテオラによる絨毯爆撃と絵馬隊員の狙撃により、逃げ惑うことになります。影浦隊は吹き抜け周りの大通路を基点として、横島隊長を狙っておりました。これは横島隊長のトラップを警戒していたためです。絵馬隊員はショッピングモールに突入してからこの吹き抜けを監視していたため、影浦隊はこの大通路には横島隊長のトラップが無いと判断したからこそです。さらに、影浦隊長は横島隊長を追わずに、北添隊員の絨毯爆撃を行ったのは、横島隊長が4階の売り場にトラップを仕掛けている可能性が高いと踏み、横島隊長を追い詰めると同時に、メテオラの爆風でトラップを解除する目的があったと見受けられます。このあたりまでは影浦隊の作戦通りの展開でした」

ゆりのここまでの説明に、会場の観客も頷き納得している様子だ。

 

「ですが、横島隊長を順調に追い詰めていた影浦隊は横島隊長を見失ってしまいます。その直後、絵馬隊員はトリオン爆弾による攻撃で大ダメージを負います。さらに4階の天井が崩れ、それを避けるために吹き抜けの大通りに飛び出した影浦隊長と北添隊員の元にトリオン爆弾が絶妙のタイミングで落ちてきました。北添隊員はここで大ダメージ、影浦隊長はマンティスで吹き抜け上空に逃れましたが、トリオン爆弾付きスパイダーを投網状に形成したものが中空の影浦隊長に降り注ぎ、影浦隊長はこれを切りましたが爆発に巻き込まれベイルアウトいたしました」

ゆりは、ここまでの攻防をリプレイ映像にそって解説する。

 

 

「では、絵馬隊員を襲ったトリオン爆弾は何処からか?」

今度はスクリーンに、横島基点の映像が流れる。

 

「逃げ惑う横島隊長、しかし、逃げ惑いながらもトラッパー用トリガーを起動してました。トリオン構造物の壁などに穴をあけて通るための『ホール』を柱や衣料品売り場の棚の裏など、影浦隊から見えない位置に、床と天井に数か所空けていました。北添隊員のメテオラの爆風や衣料品などにより、より一層、横島隊長の行動は見えませんでした。横島隊長は逃げ惑いながらも4階から3階にあけた穴(ホール)にトリオン爆弾複数投下、投下した先にはグラスホッパーを展開し、トリオン爆弾をグラスホッパーで飛ばし、4階吹き抜け部で狙撃態勢をとっていた絵馬隊員付近に着弾爆発させ、大ダメージを負わせました。グラスホッパーによるトリオン爆弾射出の命中精度の低さをカバーするために複数のトリオン爆弾をグラスホッパーの角度を微妙に調整しつつ射出させ確殺率を高めさせていたようです。それにしてもグラスホッパーの展開角度は絶妙なものだといえます。さらに、横島隊長はトリオン爆弾を投下射出したと同時に、自らもグラスホッパーで、柱の裏の天井に『ホール』で開けた穴を利用し4階から一気に6階まで上がり次の行動に備えていました。これが横島隊長が突然消えたように見えたからくりです。

横島隊長が消えたと認識したと同時に、絵馬隊員が大ダメージを受けた一部始終です」

このゆりの説明で、会場からは呆然とも驚愕ともとれるような、ため息に似た声が漏れていた。

 

この間も、映像の右上に小さく別枠で東隊、王子隊、横島隊の動向がリアルタイムで映し出されているが、横島がどこかで移動を行っている以外は大きな動きはない。

 

次に冬島慎次がゆりから変わって説明する。

「次に、天井の崩落についてだが……、横島は下着を物色する前に、既に4階と5階の柱の天井付近に遠隔操作型のトリオン爆弾を設置していた。それも柱を残し天井をブロック事に落とせるような精密なものだ。影浦隊の二人が天井の下に逃げ込むだろうタイミングで天井を崩落させた。6階に上がった横島はこの時点では、吹き抜け部にはまだ到達していない。あのタイミングは読んでいたのか勘なのかはわからんがな。いずれにしろ横島は元々この4階、5階で決着をつけるつもりだったのだろう。あの横島の下着を物色する奇怪な行動は恐らく、隊をおびき寄せる釣りだ」

冬島の説明に、またしても観客席から、なんとも言えない唸り声のような声が漏れる。

恐らく、観客席の大半の隊員達は、驚いたらいいのか呆然とした方がいいのかと、まだこの攻防について理解に及んでいないのだろう。

 

しかし、冬島の説明には間違いがあった。

確かに横島は4階と5階に天井を崩落させる罠と、落とし穴トラップ等を仕掛けていたが、横島は、たまたま通りかかった女性用下着コーナーに引き寄せられ、真剣にブラを物色していたのだ。

横島のこの行動が結果的に釣り要素となっただけの話である。

横島の常日頃のこういった行動から、大した奴に見えないというのは、横島の恐ろしき性質だろう。

 

 

「天井を崩落させた横島はすぐさま、畳みかけるように、大通路に逃れてくる影浦と北添にトリオン爆弾を6階から投下、おそらくここに逃れてくることが読んでいたのだろう。影浦と北添の姿が見える前に既に爆弾を投下し始めていた」

冬島の解説とリンクして、スクリーンには横島が意地悪く高笑いしながら6階の吹き抜けから4階に向かって爆弾を投下する姿が映像で映し出されていた。

 

「さらに、こういう展開用に考案していただろうスパイダーとトリオン爆弾で作成した投網のようなネットを中空に逃れた影浦に絶妙なタイミングで投下し、仕留めた」

冬島の説明が終わると同時に、またしても観客席から唸るような声が上がる。

感嘆なのか驚愕なのか、はたまた、ゆりや冬島達の見解に理解しきれていないのか、そのすべてなのかは判別がつかない。

ただ、横島が確実に影浦隊を仕留めたという事実だけは理解できただろう。

 

また、横島と実際に対峙してきたB級ボーダー隊員達や、A級隊員やボーダー上層部は、横島に対しての警戒度をさらに上昇させるに十分な攻防戦であった。

 

 

 

その頃横島は……。

「ふう、危なかった。ってあー―――っ、ゾエの奴!!ブラ全部吹き飛ばしやがってー―――!!何てことしやがるんだー――――!!」

『……横島、あのブラも仮想空間の一部で、トリオンで形成されてるから、次の試合には元通りだ』

「おおお!マジで!!……ん?ということは、あのブラとか下着とか、トリオンってことは玉狛支部でも再現できるってことだよな!!今度、栞ちゃんに頼んで再現してもらおう!!ん!?……!?ビルとか建物と一緒で、あのブラとかパンティーとかをあんなに忠実にトリオンで再現してるってことは、ブラやパンティーをトリオンで設計してる奴がいるってことだよな!!」

栞は間違いなくブラとか女性用の下着など再現してくれないだろう。

そんなことを栞に直接頼めば、桐江にもばれて、二人に折檻されるのが目に見えている。

 

『そういうことだ。……先に行っておくが俺は作った人を知らないからな。たぶんボーダー本部の鬼怒田さんの班の人だろう』

迅は横島が迅にトリオンで下着などの小物を再現している人を紹介してくれと言う前に予防線を張る。

 

「げっ、あのタヌキおやじの部下か~。いや、ブラのデータがあるということは!!加古のねーちゃんのブラやパンティーもトリオンで再現できるってことだ!!何としてもお近づきにならなければ!!」

 

『お前、どんな時でもブレないよな』

迅はあきれ気味にこの馬鹿な会話を締めくくる。

 

「うはははははっ!!やってやるでー―――!!」

横島のテンションは上がりっぱなしだった。

 





次は王子隊と東隊


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その33、針のない糸では釣りはできない。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


このまま、一気に終わりまで続けていきたいです。


 

横島が影浦隊を撃破した頃、外周のビルで身を潜めていた東隊では……。

「ショッピングモールから次々とベイルアウト、その数3体です」

ビルの上層階の窓から身を潜めながら外の様子を覗っていた東隊アタッカーの奥寺常幸は、ショッピングモールから3体の光体が飛んでいくのを確認する。

 

「恐らく影浦隊だろう」

別の窓からショッピングセンターの様子をスナイパーのスコープで覗っていた東隊隊長東春秋は落ちついた声色で応える。

「ははっ、まじっすか、あの影浦隊を一人で全滅って、横島先輩やばいっすね」

外周のビルの警戒をしていた東隊アタッカー小荒井登は、もう笑うしかないといった表情だ。

 

「先ほどの轟音は恐らく横島のトリオン爆弾だろう。決着が予想以上に速い」

東はライフルを構えながらも、二人に話しかける。

北添尋のメテオラによる破壊音から始まり、途中からトリオン爆弾の爆破音と建物が崩れる音がし、それからすぐにこのベイルアウトだ。

音での判断だが、影浦隊と横島の戦闘時間は5分も経っていないと……。

 

「影浦隊は横島先輩の罠に嵌まって敗れたということですね」

奥寺は確認のために東に聞き直す。

 

「だろうな」

 

「アブねー、ショッピングモールに行ってたら、俺たちも爆弾でボンってところだった」

小荒井は汗をぬぐう仕草をし、ほっと息を吐く。

 

「王子隊は動かなかったか、おそらくこちらと同じく持久戦覚悟で攻撃のタイミングを計っていたのだろう。小荒井、奥寺、この後の展開はどうする?」

東は王子隊が影浦隊と横島の戦闘中に横やりを入れる可能性を考えていた。

その際は東隊も追従して動くのも効果的な選択肢の一つだった。

今の硬直状態では、東としては、横島をショッピングモールの外に出たところを、王子隊と挟撃したいが、これにはリスクがある。

横島がショッピングモールの外に出ずにショッピングモール内に立てこもることだ。

既に横島は撃破ポイント3で、このまま立てこもってやり過ごしたとしても、この後に開催される夜の部B級ランク戦中位の結果次第ではあるが、王子隊・東隊のポイントを抜きB級上位に残る可能性は高い。

しかも、東隊はここで少なくとも2ポイント以上は取らないとB級中位に落ちる可能性が非常に高い。

このギリギリの状況でも、東は小荒井と奥寺に今後の行動について選択を委ねる。

これも東の後進への育成方法である。

 

東のこの問いに小荒井と奥寺は……。

 

 

 

 

 

一方王子隊では……

「ベイルアウトを確認。3人です」

王子隊のアタッカー樫尾由多嘉が報告する。

 

その報告を聞き、王子隊隊長王子一彰は深く息を吐く。

「こっちでも確認したよ。ヨコシマンが倒れて、影浦隊の誰か一人が生き残ってくれていればいいんだけど、望み薄かな、一斉に倒れたとなると影浦隊がヨコシマンの罠に引っ掛かり、一気に全滅ってところかな。トリオン爆弾の爆音が鳴り響いていたし、どうせならヨコシマンを道連れにしてほしいよね、せめて、手足の一本ぐらい持っていっていてくれたらラッキーだね。さてどうするか」

 

王子隊シューター蔵内和紀は窓の外を確認しながら、王子に報告する。

「やはり東隊の動きはないな」

 

「東隊もこっちと同じ考えだろうね。先に動いた方が不利になる。まあ、普通は影浦隊とヨコシマンの戦いに横やりを入れるのはセオリーだけど、ヨコシマンはその横やりを入れる部隊でさえ手玉にとる。ヨコシマンをやつけようとするならば、只の横やりじゃだめだ。意識の外からの一撃必中の攻撃で倒さないといけない。前回のランク戦で那須隊がやったようにね。最良はヨコシマンと影浦隊が正面で戦い、横から東隊がヨコシマンを遠近から攻めたてている。そんな状況でこちらが、枠外からの一手を放つのが良かったんだけど……」

王子は少々困ったような物言いだ。

 

 

「そうはならなかった。東隊と俺たちの作戦が一致していたということか」

 

「予想はしていたけど、そういうこと、だからお互いを意識しすぎてお見合い状態で、出ることが出来なかった。結果的には双方の作戦ミスということになるだろうね。策士策に溺れるとはよく言ったものだ。救いはあの東さんと同じ考えであったことかな?」

王子は自嘲気味にそう語る。

 

「だが王子、東隊が横やりに先に出たとしても、横島が影浦隊を倒すのが早すぎた。いずれにしろ俺たちや東隊にしろ間に合わなかった可能性が高い」

蔵内はそんな王子を慰めているのだろう。

 

「とにかく作戦プランは変更だね。プランCで……羽矢さん、東隊の位置予想出ますか?」

王子は作戦プランの変更を伝え、オペレーターの橘高羽矢に東隊の場所を聞く。

プランCと聞き、蔵内は大きく頷き、樫尾は目を大きく見開く。

王子隊が用意した作戦プランは大きく分けて3つあった。

プランAは先ほどの最良の策である影浦隊と横島が戦い、横やりを入れる東隊の状況からの枠外の一手だった。

 

『東隊は恐らく、ショッピングモールを挟んだビルの2棟のうちのどちらかね。ルートは検索してあるわ』

隊員達の最年長、大学生オペレーター橘高羽矢は王子のその声にすぐに答え、さらに東の狙撃を回避できる作戦ルートの検索まで行っていた。

 

「さすが羽矢さん、助かります。それじゃ、行きますか」

王子の声と共に王子隊は動き始める。

 

 

 

 

 

東隊では……。

次の行動を東から委ねられ、小荒井と奥寺は決断を迫られていた。

「この場を動くのは危険ですね」

「このままだとポイントゼロだぜ、B級中位に落ちるだろ?思い切って王子隊と戦った方がいいんじゃないか」

慎重策の奥寺と積極策の小荒井で意見割れたようだ。

 

小荒井の意見を聞き奥寺は続けてこう説明する。

「尚更ここを動かない方がいい。B級中位に落ちる可能性があるのは王子隊も同じこと、王子隊はこっちに狙いを定めてくる。こちらから向かったとしても、雑居ビルの中の狭い空間での戦いになれば東さんの狙撃を活かせない。それに横島先輩にも気を配らなければ間違いなく横島先輩は仕掛けてくる。この建物は狙撃に適してるし、東さんに横島先輩を警戒しつつ、こちらの援護をして貰った方がまだポイントを獲得できるチャンスがある」

奥寺の作戦は消極的な慎重策では無く、王子隊と戦う事が前提の慎重策であった。

 

「うーん、成る程。流石奥寺」

小荒井は奥寺のこの説明に納得したようだ。

 

「横島を警戒しながら、王子隊に狙撃か、さすがにキツイな」

東は珍しく半笑いするが、2人の成長ぶりに頬を緩めるのを隠すためでもあった。

 

「東さん、よろしくお願いします」

「東さんの狙撃で横島先輩も一撃っすよ」

 

「わかった。奥寺の作戦で行こう。だが、もう一手必要だろう」

東は奥寺の作戦で行く事を決めたが、何かもう一つ策を打つようだ。

 

 

 

 

 

さらに横島隊では……

『横島、今の所東隊と王子隊に動きは無いようだな。影浦隊とやりあってる最中に横やりを入れてくると思ったんだが』

「ショッピングモールに潜んでるって感じじゃないよな」

横島は何かの作業をしながら、通信越しの迅に応える。

 

「もう、別にこのままでいいんじゃないか?ポイント取ったし、これでB級上位に残れるだろ?」

『可能性は高いが確実じゃない。今夜のB級中位の那須隊辺りが大きくポイントと獲得したら、追い抜かされる。さらに王子隊と東隊のどちらかが3ポイント取れば話が変わって来る。それは王子隊も東隊もわかってるだろう。横島狙いをあきらめて、しばらくすれば王子隊と東隊との戦闘が始まる。横島を倒したところで1ポイントしか入らないし、お前を倒しに行ったところでリスクの方が大きいだろう?』

 

「まあ、その方が俺もやりやすい。やりやってる連中を横からまんまと罠に嵌めて、ポイントだけかっさらうとか、俺好みだ!」

 

『お前、ほんといい性格してるよな。まあ、俺も横やり入れるの好きだけどな』

迅と横島はなんだかんだと似た者同士であった。

 

 

 

 

 

こうしている間も実況席ではゆりが各隊の動向を実況し続けていた。

「ここでようやく王子隊が動き出しました。外延部のビル群の中を進んでおります。狙いは東隊でしょうか?」

ゆりは王子隊が動き出したことを伝え、解説席の冬島に話をふる。

 

「そうだろう。王子隊と東隊は横島を攻撃する機会を逸した。狙うなら影浦隊と横島が戦っている間だっただろう。今から横島を狙うリスクが大きすぎる。こうしている間にもショッピングモールに横島がトラップを次々と設置してる」

冬島も王子隊のこの動きが東隊を狙う行動だと判断する。

 

「ポイント稼ぐならそれがベストだろう。横島隊と言っても倒したところで1ポイントしか入らない。さーて東さんはどう動くかだ」

太刀川も冬島やゆりと同じく、王子隊の動きは東隊を狙った行動だと考える。

それと、東隊がこの状況でどう動くか楽しみにしているようだ。

 

 

実況を続けるゆり。

「東隊にも動きがありました。さらに外側のビルに移動です」

 

「王子隊の動きに気が付いたか、迎撃態勢を整えるつもりだろう。あの外側のビルはショッピングモールから他のビルに比べ距離がある。横島のグラスホッパー迫撃砲をかなり意識しての事だろう。前の高いビルがグラスホッパー迫撃砲の攻撃をある程度防いでくれそうだ。なんともいい位置取りだな」

 

「東さんの事だ、王子隊が攻めてくることを予想していたんじゃないですかね。さすがは東さんだ。始めの位置取りも、横島のグラスホッパー迫撃砲の攻撃からすぐに隣のビルへと回避で出来るように考えてのことだろう」

太刀川はかなり東をリスペクトしているため、東目線になりがちなのは致し方がないだろう。

 

 

 

しばらくし、このマップの外側方面で騒音が響き渡る。

「東隊と王子隊が戦闘を開始しました。隣り合ったビルでの射撃戦を展開しております。解説の冬島隊長と太刀川隊長の予想的中ですね」

ゆりの実況と共に東隊と王子隊が隣り合ったビルの窓から、撃ちあっている映像が流れる。

 

「ほお、奥寺とコアラ(小荒井)は射撃用のトリガーを使ってるな、ようやく東さんから許しをもらったか、ということはそれだけあいつらが育ったということだろうな」

太刀川が少々感心したようにこう言った。

奥寺と小荒井は東の育成方針により、今までアタッカー用の近距離武装のトリガーしか装備していなかったが、奥寺と小荒井の成長が見て取れたため、射撃用トリガーの使用をようやく許可したのだ。

 

「東隊は奥寺と小荒井、王子隊は王子と樫尾だけか……、お互い何かを狙っているようだ」

現在隣り合ってるビルを挟んで戦っているのは2名ずつで、しかもお互いにけん制しあうように戦っていた。

そのことに解説の冬島は、この戦闘に参加していない東と蔵内が何かを狙っているのではないかと踏んだのだ。

 

そうこれは東がもう一手と付け加えた戦術と、王子隊が熟考の末準備していたプランCが関わっていた。

 

狙いは横島……。

この小競り合いの戦闘事態が横島を釣る罠だったのだ。

両隊が戦っている隙にと、攻撃を仕掛けてくるだろう横島を、逆に打ち倒すための……。

 

この作戦は両隊が話し合って行ったものではない。

そもそも、事前にそんなことをすればルールに抵触する。

 

東と王子がお互いの思考を読み取り実行に移されたものだった。

 

本来なら、ビルを挟んだこの射撃戦いは、実力的に王子隊が奥寺と小荒井がいるビルに乗り込んでとっくに制圧してもいいようなものだ。

それをしないことからも、東は王子隊の狙いは横島だと確信できたのだ。

王子も王子で東隊がこのビルで待ち構えていたこと、待ち構えて対峙しているのが奥寺と小荒井だけということ、東からの狙撃もないことから、この時点で東隊も横島狙いだと確信へと変わった。

 

そして、お互いの隊の目である東と蔵内が、横島が何処から現れるかを把握し、横島を挟撃するのみ。

 

これは共闘ではなく飽くまでもお互いを利用しあい、横島を撃つという、個々の戦術である。

横島をどちらの隊が撃とうが、その後は互いの隊がB級上位をキープするための威信をかけた戦いが待っている。

 

 

 

 

その頃横島は……

「そういえば、ネイバーフッドとかいうところに行くには、遠征艇っていう乗り物でいくんだよな」

横島は何かの作業をしながら迅にこんなことを聞く。

 

『なんだ?いまさら』

 

「前にガロプラが来た時に言ってたが、遠征艇って一機しかないんだよな」

 

『そうだな、あれを破壊されると遠征計画が随分と遅れてしまう』

 

「そんなに人数乗れないとか言ってなかったけ?」

 

『そうだな。遠征にはトリオン量が多量に消費する、遠征隊員のトリオン量にもよるが、トリオンを温存するためになるべく人数を制限し、遠征艇も小型化させることが主流だ』

 

「………遠征メンバーって、男女混合?」

 

『そうだな。複数の隊で選ばれることが多いからな』

 

「………加古のねーちゃんとか月見連さんとか一緒にか?」

 

『遠征メンバーに選ばれればそういうこともあるかもしれないな』

 

「なるほど、そうか……狭い艦内でお姉ちゃんたちと密室のくんずれつほぐれつ、うまくいけば混浴も!?」

横島はこんな妄言をのたまいだす。

……仮に遠征艇で女性隊員と一緒になっても混浴などありえないだろう。

下手をすると横島だけ隔離される可能性だって現実的にあり得る。

 

だが、横島のテンションは既にマックスだ。

「やってやるでー――――!!!!遠征メンバーは誰にも譲らーーーーーーーん!!!!何人たりとも邪魔はさせー―――ん!!!!」

雄叫びを上げながら屋上へと突っ走る横島。

 




いよいよ、頭脳+頭脳VS本能の戦いが……。


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その34、いや、普通だろう。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きをどうぞ。


 

東隊と王子隊はフィールドの端の方の雑居ビルで戦闘を開始した。

ビルを挟んで東隊の小荒井と奥寺、王子隊は王子と樫尾が射撃戦を繰り広げてお互い攻めあぐね、均衡が保たれているようにも見える。

だが、その戦闘の均衡は意図的に保たれていたのだ。

それは横島をおびき寄せるための罠。

 

そう、これは横島を罠に嵌めるための偽装戦闘と言っていいだろう。

この戦闘に横やりを入れるために現れた横島を、スナイパーの東とシューターの蔵内が仕留める、又は、戦闘を行っていた連中も踵を返し、横島を囲い込む作戦なのかもしれない。

 

東隊と王子隊は打ち合わせを行ったわけではない。

飽くまでも、各隊は独自で動いている。

東隊は王子隊を、王子隊は東隊の思考を読んで、お互いを利用し、横島を仕留める算段なのだ。

 

 

横島にはグラスホッパー迫撃砲と言う独自の遠中距離高火力攻撃手段を持っているが、東隊と王子隊が戦闘を行っているビルの位置は、ショッピングモールからでの砲撃ではダメージを与えにくい場所であった。横島が確実に両隊を仕留めるためには、ある程度近づく必要性がある。

横島がショッピングモールから、両隊のビル近辺に向かうには、ショッピングモールをぐるりと囲む大通りをグラスホッパーで飛び跳ねて行くにしろ、歩くにしろ渡らなければならない。

監視を行っている東や蔵内には容易に気づかれてしまうだろう。

東と王子はそこまで計算に入れ、今の位置での小競り合いを行っていた。

 

後は横島が現れるのを待つばかりだ。

 

 

 

当の横島はショッピングモールでとなにやら作業を行ってる最中に、両隊の戦闘に気が付き、戦闘場所を確認するためコソコソと屋上に上がり、状況を確認する。

「迅が言った通り、戦いが始まっちゃったか、しかもあの位置は砲撃が厳しいな」

『東さんと王子の事だ。お前の砲撃を考えて、戦っているだろう』

「東のおっさんとあのイケメンか~、おっさんは良いとして、イケメンは死すべし!」

『横島、両隊の勝負がつく前に、介入した方がいいんじゃないか?』

「別に両方潰さなくても、戦闘終わって勝った方と戦ってもいいんじゃね?結構実力は似た感じなんだろ?だったら、勝ったとしても結構なダメージを喰らってたら、やりやすいし」

『確かにそうだが、勝利した隊がそのままお前と戦わずに時間切れまで隠れてしまったら、最悪ポイント同点だ。そうなると総合ポイントが同じであろうと、新規参入の横島隊は順位が下になる。そうなるとB級上位に残れる可能性が低くなるぞ』

「はぁ、わかったって、折角これ作ったけど必要ないか、まあ、横やりは得意だし、行くしかないか」

横島はオペレーターの迅とこんなやり取りを行った後、何やら作っていた作業を途中にして、両隊が戦っている戦闘域へと向かったのだった。

 

 

 

 

東隊は、なかなか横島が現れない事に、東は訝し気に、隊員たちは焦り始める。

同じく、王子隊の監視役の蔵内も横島が現れない事に、もしかすると横島の接近を見落としたかもしれないと落ち着かない気分になるが、東隊の東が動いていない状況から、横島はまだ現れていないと判断し、幾分か落ち着きを取り戻す。

 

 

 

その頃会場では、横島の行動がスクリーンに大々的に映しだされていた

実況のゆりはその様子に言葉を少々詰まらせる。

「横島隊長は……その…東隊王子隊の戦闘域に接近しておりますが、両隊ともこれには気が付いていないでしょう。いや、気が付かなくて当然だと思います。私自身もランク戦マップにこのような場所があった事に、少々驚いております」

 

冬島も横島の様子に半笑いでこんなことを言う。

「俺も知らなかった。いや、仮想マップは実践さながらに訓練を行うために、町を忠実に模している。少し考えれば当然この場所が存在することはわかるが……」

冬島の言い回しから、横島は通常じゃ考えられない様な場所を現在移動していると。

 

太刀川も今までにない鋭い目つきで、スクリーンを注視していた。

「そう、いままでここを使った奴はいなかった。普通は考えないし、考えたとしても実行しないだろう。いくら仮想マップとトリオン体だからってな。だが、横島は平然とやりやがった。しかも何故か慣れてるのか、やたらと移動が速い」

太刀川の言い回しだと、今横島が移動している場所は、知っていても立ち入る事を躊躇するような場所の様だ。

 

「トラッパーにとっては絶好のシチュエーションだ。今からいいものが見れるかもしれない」

冬島は顎に手をやり、半笑い気味にこう言った。

 

「両隊には同情するしかないか……」

太刀川はそう言ってスクリーンに映し出されている横島を目を細め見据える。

 

 

 

 

囮を演出し戦闘を行っている王子はオペレーターの橘高羽矢に現状を確認する。

「羽矢さん、ヨコシマンはまだ現れてないですか?」

『蔵内君からは何も、東さんの方も動きは無いわ』

「もうそろそろ何らかの動きがあってもよさそうなものだけど、……このまま時間切れを待つつもりかな?それとも、何らかの策があるのか?何れにしろ同じ場所に居続けるのも危険かな……、羽矢さん、撤退ルートをお願いします」

『了解よ』

 

王子は近くでけん制攻撃を行っている樫尾に移動開始を指示しようとする。

「カシオ、東隊の射線が次に切れたら、一度下がって移動開……」

 

しかし、王子及び樫尾は予兆も無しにいきなり激しい爆発に巻き込まれ、ベイルアウト。

同時に隣のビルで対峙していた東隊の小荒井と奥寺も、ビル内部全体が大きく爆発を起こし、同じくベイルアウトする。

両隊が対峙していたビルと近隣の三棟のビルも、突然激しく内部爆発を起こしたのだ。

ビルの躯体を残し、窓は粉々に割れ、ビル内部は目茶苦茶に……

 

王子隊の蔵内は隣りのビルの屋上の物陰でショッピングモールを監視していたが、ビルの突然の内部爆発の爆風の余波で吹き飛ぶが、シールドを展開し、致命傷を何とか避ける。

 

東はマップ全体が見渡せる二つ隣りの高いビルの屋上で、ショッピングモールから現れるであろう横島と近接している王子隊の動向を探っていたため、ビルの爆発や爆風に巻き込まれる事は無かったが、流石に突然のビルの爆発に状況を把握しきれないでいた。

だが、ベイルアウトし飛んで行く4体の飛翔体を確認しながら、冷静にこの状況を確認する。

(ベイルアウトは4人、小荒井と奥寺と、王子隊は恐らく王子と樫尾だろう。見落しか?……ビルの突然の内部爆発……トリオン爆弾の設置か、と言う事は半径30m範囲に横島が潜んでいるという事か、しかも自らが爆発に巻き込まれない位置で……しかし、どうやって横島はこちらに近づいた?)

 

そう東が予想していた通り、横島は東隊と王子隊が戦闘していたビル周囲30m圏内に潜んでいたのだ。

東がこう予想していたのには理由がある。

トラッパーのトリガー スイッチボックスの性能が起因していた。

大型のノートパソコンのような形状をしているスイッチボックスを直接操作を行う事で、半径30m周囲にトリオン爆弾のトラップを任意の場所に遠隔設置出来るのだ。

横島が東隊と王子隊が偽装戦闘を行っている場所近隣に潜んでいると言ったのはこういった理由だからだ。

実際横島は、身を潜めてスイッチボックスを起動させ、直接操作を行い、戦闘を行っている両隊のビルに直接爆弾を一気に多量に設置し、爆発させたのだ。

 

一見、かなり有効で誰でも出来そうな簡便な作戦のように見えるが、既に戦闘が行われている領域ではリスクの方が高すぎて、普通は実行できない。

スイッチボックスを直接操作している間は、遠隔設置の設定は時間がかかり、本人はその間無防備となる。

しかも半径30mはシューターに見つかれば即撃ち抜かれ、アタッカーに見つかっても直ぐに距離を詰められて、落とされる距離だ。

自衛手段を殆ど持っていないトラッパーでは、リスクがあまりにも高いのだ。

普通は味方に守られつつ、戦闘が行われていない場所周囲や、味方支援の為に、じっくり戦術をたてながら行うものだ。

また、味方と敵が戦闘を行っている領域では、味方だけでなく自分も巻き込む可能性が高い。

敵や戦闘域に近づいて直接爆弾を設置するよう場合は、地形などがよっぽど有利な状況でないと普通は出来ない。

 

また、この半径30mという距離は、ランク戦のみの仕様だ。

本来なら、消費トリオン量に応じて、さらに遠くにも設置できる。

地形が予め決まっているランク戦では、地形データがあるため設置場所を確認しなくても細かく設定出来てしまうため、ランク戦では制限が掛けられていた。

その最たるものがワープだ。

ワープには更に目に見える場所という制限が掛けられれている。

本来のワープはかなりの遠距離でも実施可能だ。

ボーダー本部防衛時にワープでかなり遠くの場所まで多数の隊員を送り込んでいる。

そんな事が出来てしまえば、ランク戦で有利な位置に隊員を送り放題となってしまう。

実際にはトリオン量も距離に応じて消費してしまうため、そう何度も実行は出来ないのだが、それでもかなり有利となり得てしまう。

因みにボーダー防衛戦時はボーダー本部のトリオンを使用していたため、本人のトリオンを消費せずに、多人数を遠方に送り込む事が出来た。

この事からも、東達は横島がワープで横やりを入れてくることはほぼ不可能だと踏んでいた。

 

 

 

しかしながら、横島好きな皆さんには横島がどうやって実行したのかは何となくお分かりだろう。

東や蔵内の警戒の目を避け、誰にも気づかれずに戦闘域に潜む事が出来た理由を……。

そう、横島は地下……下水を通ったのだ。

ショッピングモールの地下マンホールから下水道へ進み、さらに人がやっと寝転んで入れるぐらい狭い地下排水管に潜り込み、匍匐前進で王子隊と東隊が対峙しているビルの真下まで移動し、地下2メートルの排水管の中でスイッチボックスを起動し、両隊の戦闘域にトリオン爆弾を遠隔設置でばら撒いたのだ。

 

ランク戦マップに下水道や排水管まで作り込まれていた事自身、ボーダー隊員達には余り知られていなかった。

さらに、普通、汚物などが流れている下水道や排水管に潜り込むなど、誰も考えない。

いくら、トリオン体で構成されているマップで、実際に汚物などが流れていないと頭で理解していても、普通は実行しないだろう。

 

だが、横島の常識は違っていた。

そもそも下水道を使う事は、横島や元の世界の横島の上司である美神令子にとって常套手段である。

何かあったら、下水道に潜り込んで逃げていた。

本人も、命が助かるならうんこでも食べると豪語する人間である。

この程度の事は、横島にとって何ともない事だった。

 

 

 

東は、難を逃れた蔵内を発見しスナイプし1ポイントを得たが、横島が何処に潜んでいるか見当もつかず敗北を認め、その場を離れて自らベイルアウト。

こうして、波乱のランク戦は横島隊の圧勝に終わる。

 

横島隊は撃破ポイント7と勝利ポイント2の合計9ポイント獲得し、B級最終ランクが7位以上が確実となった。

 

 

その頃横島は、爆破の余波で排水管の一部が詰まり、身動きできずにいた。

「前にも後ろにも進めない、じ、迅、た、助けてーーーーーっ!!」

涙をチョチョ切らせ、情けない姿をさらしていた。

最後の最後にしまらない横島。

 





終わりに近づいてます。
次は三雲隊との模擬戦かな?


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その35、女の子がいる隊に入れてくれ。

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三雲隊との模擬戦開始。


 

B級ランク戦最終日

ランク戦B級上位昼の部は林藤ゆりが横島隊の勝利を宣言し終了する。

「横島隊の勝利です。各隊の獲得ポイントは、横島隊撃破点7に勝利点2で9ポイント、東隊撃破点1の1ポイント、王子隊、影浦隊は0ポイントです。横島隊は圧勝でしたね」

 

最後にゆりに話しを振られた冬島と太刀川は……。

「横島はこの頃マンネリ化しつつあるランク戦に、新たな風を吹き込んだと言っていい。ただ、横島の戦術は誰もがマネできる物じゃない」

「単純に横島が強かった。ただそれだけだな」

 

 

 

 

今期のB級ランク戦結果は、ランク戦最終日B級上位夜の部で三雲隊が勝利し、目標としていた2位に浮上し、遠征の選考対象となった。

横島隊は夜の部の結果を待って、5位となり、横島個人の遠征はほぼ確実となった。

因みにB級中位夜の部で那須隊は勝利し、初のB級上位入りを果たした。

 

 

 

翌日、玉狛支部では昼食を兼ねた祝勝会が模様された。

もちろん、三雲隊と横島隊の目標達成のお祝いだ。

テーブルには林藤支部長の奢りで注文したピザやら寿司やらが並ぶ。

玉狛支部勢ぞろいで、おめでとうの掛け声から始まり、それぞれ飲み物を手に乾杯をし、食事に手を伸ばす。

 

横島はどさくさに紛れて、ゆりにアプローチを掛けるが、落ち着いた筋肉木崎レイジに遮られ、大人しくソファーに座らされていた。

 

そんな横島の横に桐絵が座りこんな事を聞く。

「ところで横島、あんた来期どうするの?また迅と2人だけ?」

「絶対ヤダ、何で男と組まないといかんのだ!そう、俺は加古のねーちゃんの所が良い!!」

「あんた知らないの?加古さん、女の子しか隊に入れないわよ」

「マジで!?……そんじゃ、玲ちゃんところで」

「あそこも同じで、女子だけの隊ってのが売りだから無理よ」

「ええ!?そんじゃ……、月見蓮さんの所で!」

「それこそ無理よ。(三輪)秀次の奴が玉狛を目の敵にしてるし」

「そんじゃ!!美人ねーちゃんが居る隊で!!」

横島は本心をぶっちゃける。

美人がいる隊であればどこでもいい様だ。

だが、現状で横島を受け入れてくれる隊は無いだろう。

横島がいくら実力者だと判明したとしても、女子からの好感度が低すぎる。

先日の戦いで下水管の中に躊躇なく入る姿は、流石に観覧隊員達も引いていた。

間違いなく、女子からの好感度は更にマイナスになっているだろう。

 

「……あんた、やる気あんの?まあいいわ。うちの隊に入れてあげてもいいわよ」

桐絵は自らこんな事を横島に言ったのだ。

桐絵の場合、横島との付き合いが長い上に、純粋に横島の実力を認めている、好感度も低くはない。

むしろ、桐絵の中では横島の好感度は高い方だ。

特に、星輪女学院のテロ事件以降、横島に対する信頼度かなり高まっている。

 

「筋肉とイケメンと小南か………」

「なに?不満でもあるわけ?」

「別に~、そういえば、小南の所ってオペレーター誰だ?」

「ゆりさんよ」

「マジで!!入る!!」

「あんたなんでゆりさんは良くて、私はダメなのよ!!」

「美人お姉さんだから?」

「私も美人扱いしなさいよ!!私だって学校では清楚なお嬢様で通ってるのよ!!」

小南は横島の態度に、遂にキレテ、横島の胸倉を掴み前後にゆすり始める。

 

そこに爽やかイケメン烏丸京介がフォローに入る。

「まあまあ小南先輩、横島先輩の照れ隠しですよ。小南先輩の色気が凄いから、直視できないんですよ」

 

「え?そうなの?今までのは全て照れ隠しだったの?横島?」

 

「あーーそうだなーーうん小南は色気あるなーー」

横島は土偶のような目をし、棒読みで言葉を返す。

 

「私にそんな色気が!?」

鵜呑み系美少女?小南桐絵は京介と横島の心のこもっていない言葉にまんまと騙される。

 

「ウソですよ。そんなもの小南先輩にあるわけないじゃないですか」

京介はしれっと嘘だと告白する。

 

「また騙したわねーーー!!」

桐絵は京介ではなく、横島の胸倉をつかんで締め上げながら前後に揺らす。

 

「く、苦しい、ぎ、ギブギブ!!小南!!ギブ!!」

首が絞まっていく横島の顔は徐々に青くなっていく。

 

 

そんな夫婦漫才をやっている横島と桐絵に、遊真が声を掛ける。

「横島先輩横島先輩、模擬戦やろう。もう、ランク戦終わったし、いいじゃん」

 

それに答えたのは横島じゃなく、何時の間にかその場に現れた迅だった。

「いいよ」

 

しかも、今まで頑なに横島との対戦を断っていた迅があっさりOKを出したのだ。

 

「迅!!なんでそんな面倒なことを、嫌だぞ!!」

 

「おお、迅さんのお墨付き、さあやろう横島先輩。今からでもいいよ」

「遊真!横島とやるのは私が先よ!!ギッタギタにしてやるんだから!!」

直ぐにでも模擬戦を行う勢いの遊真に桐絵が自分が先だと主張する。

 

「横島、もてていいな~」

迅はにやにやしながら横島にこんなことを言う。

こんなことでモテたくないだろう。

横島に寄って来る連中はバトルジャンキーのような連中ばかりだ。

 

「何言ってやがる!!」

 

「丁度いい、祝勝会のエキシビションマッチってことで。但し、チーム戦だ。横島隊と三雲隊のな、ほら、ボスのお墨付きだ」

迅がそう言うと、林藤支部長がニカっとした笑顔と共にグッドのサインを出して、模擬戦のOKを出す。

 

「おお~、修!千佳!ヒュース!今から横島先輩とチーム戦だぞ」

遊真はその場から三雲隊のメンバーに大声で声を掛ける。

 

「え?横島先輩と今から?どうする千佳?」

「修君がいいなら、いいよ」

「横島か、いいだろう」

修と千佳とヒュースは三者三葉の返事だが、どうやらやる気のようだ。

 

「ちょっと迅、私は!?」

「後でな」

小南は不満そうに迅に詰め寄るが、軽い感じであしらわれる。

 

「なんかやることになってるぞ?」

こうして横島の意思に関係なしに、祝勝会で横島隊と三雲隊の模擬戦を行うこととなった。

 

 

 

 

訓練室に集まる三雲隊の面々。

眼鏡女子オペレーター宇佐美栞はオペレーター席から皆を見渡し説明を始める。

「そういえば、みんなはトラッパーと戦うのは初めてだよね」

 

「はい、そうです」

皆が頷くなか、修が代表して答える。

ヒュースだけは澄ました顔をしているが……。

 

栞は続けてトラッパーの概要を説明する。

「トラッパーは基本的に、トリオン爆弾とか罠を仕掛けて、相手を倒したり足止めしたり、味方の移動補助を行って、味方を有利な状況に持っていくポジションなの。かなり有用なポジションだけに聞こえるけど、運用がかなり難しいからなり手がいない。全体を見渡せる視野が必要だし頭がよくないと出来ないし、オペレーターがその部分の一部は補助できるけどそれでも厳しいの。自衛手段がほとんどない。そもそも戦略戦術もだけど、まずトリオン量が多くないとなれないのよ」

 

「横島は、とても頭がいいようには見えないな」

ヒュースがこういうのも仕方がないだろう。

普段が普段だけに。

 

「いや、横島先輩はかなり頭が切れる。僕が見た中で断トツに凄い」

修は参考にするために横島のランク戦ログを何度も見直していたが、作戦能力が凄まじいことを理解していた。

 

「それはわかっている。見た目の問題だ。それよりも奴は他のボーダーの連中とは全く違う。何故だ?」

ヒュースも横島の実力は認めてはいたようだ。

それよりも、ヒュースは横島が他のボーダーとは全く異なる戦い方や雰囲気に違和感を持っていた。

 

「戦ってみたらわかるんじゃない?」

遊真はなぜか楽し気にそう言う。

遊真は遊真で横島の事をネイバー出身じゃないかと思っていた。

それはヒュースと同じ理由からだ。

 

「私はどうしたらいいのかな、トラッパーと戦ったことがないから……」

千佳は戦闘経験がないトラッパーとどう戦ったらいいのかわからないといったようだ。

トラッパーというよりも、横島との戦闘経験もないうえに、千佳自身実際、横島のランク戦を見たことがなかった。

 

「千佳ちゃん、これは訓練だから、迅さんも言ってたでしょ?横島さんと戦うのはいい経験だからって、だからいつも通りでいいんじゃない。といっても大まかな作戦は必要だよね。マップはランク戦の4分の1の広さの市街地で、転送位置はランダムだけど隊が纏まって転送されるから、条件としてはこっちの方が有利かな」

栞が千佳の不安を和らげるためにこう言いつつ、修に話をふる。

 

話をふられた修は少々間を置き、大まかな指針を告げる。

「作戦と言ってもいきなりですから、3マッチ、手探りで行くしかないですね。とりあえず、最初は千佳と僕が行動を共にし、横島先輩を高い場所から探そう、空閑とヒュースはコンビで横島先輩を地上から探してくれ……空閑とヒュースは2戦目まで抑え気味で様子見。行けそうだったら行ってくれ」

どうやら1戦目と2戦目は様子見をし、3戦目で本格的に戦うようだ。

 

「はいよ」

「無難だな」

修が出した指針に遊真とヒュースは了解する。

 

 

 

模擬戦を開始するが……

直ぐに勝負がつく。

1戦目は千佳がマンションの屋上に移動し、スコープを覗こうとする前に横島に背後を取られロックで無効化、マンションの階段にスパイダーで罠を張っていた修もトリオン爆弾を放り投げられ、狭い階段で逃げ道もなく爆破の直撃でベイルアウト。

千佳と修の異変に気が付いた遊真・ヒュース組が駆けつけるが、既にマンション周りに設置している落とし穴トラップやトリオン爆弾付きスパイダー等の2重3重の罠に嵌まりベイルアウト。

2戦目は1戦目と同じように千佳と修が高台を取りに行く。

今度は千佳と修が先に狙われるのを見越し、遊真とヒュースは千佳と修の周囲を警戒しつつ横島を捜索する作戦だ。

だが、遊真とヒュースの警戒網をいつの間にか突破され、1戦目同様千佳はロックで拘束、修は爆死。

遊真とヒュースもトラップをかなり警戒したが、向かうところ向かうところに横島の各種トラップが雪崩のような連続コンボで仕掛けられており、徐々にトリオンが削られていき、最後に落とし穴トラップに引っ掛かりベイルアウト。

 

3戦目の前に修たち三雲隊は……。

「ごめん、みんな」

千佳が真っ先に皆に謝る。

 

「いや、千佳が悪いわけじゃない。全く何もできなかった」

修は何やら考え込みながら、それにこたえる。

 

「……あの落とし穴トラップは厄介すぎる。こちらの行動が読まれているとしか言いようがない。奴に先手を打たせると厄介だ。たとえ千佳が捕らえられたとしても、奪還せずに行動した方がいいだろう」

ヒュースも横島のトラップに舌を巻く。

 

「修、1、2戦目を様子見と言ってたけど、俺とヒュースは横島先輩の姿すら見てない。様子見どころじゃない。横島先輩は相手の強さに関係なく強い、迅さんや俺やヒュースと別の強さだ」

遊真もヒュースと同じく横島の実力に舌を巻くが、こんなことを言いだした。

 

「どういう意味だ空閑?」

 

「なんだか戦ってる実感が沸かないというか、空気を相手してるような感じ?」

 

「そうだな。奴は相手が誰であろうと実力発揮する戦い方をしている。相手の強弱は関係ない。常に奴の掌の上で踊らされているような感じだ……。こんなことを感じたのはヴィザ翁以来だ」

ヒュースも遊真と同じような感覚のようだ。

 

「うーん、どうする?ここでやめる?」

この状況を見かねて栞は皆を見渡し聞いた。

 

「いや、燃えるね」

「やめるわけないだろう。あのニヤケ顔に一泡吹かす」

遊真とヒュースは俄然やる気のようだ。

 

千佳も静かにうなずき、あきらめる気はないようだ。

 

修は皆のやる気に、作戦を皆に伝える。

「わかった。ちょっと卑怯なのかもしれないが……」

 

こうして3戦目が開始される。

 




続く。


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その36、覗きの基本はパンチラ(下)かブラチラ(上)か。

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とりあえず続きです。


そして始まった三雲隊と横島の模擬戦3戦目。

転送直後に千佳がメテオラで、周囲を破壊しだしたのだ。

千佳の膨大なトリオン量によるメテオラは、マップ全体を破壊尽くす勢いだ。

残りの3人は千佳の周りを囲み、周囲を警戒する。

横島を街ごと吹き飛ばす作戦だ。

横島を倒さなくとも街を破壊尽くすことにより、トラップを設置させる隙と場所を奪い、横島の逃げ道すら与えずにあぶりだすことが出来る。

かなり力技ではあるが、有効的な作戦である。

この作戦、横島相手じゃなくて、他の隊に対してもかなり有効的な作戦でもある。

 

「千佳、すごいな。マップの半分がまっさらだ」

「だが、横島先輩はまだベイルアウトしていない。千佳続けてくれ」

「うん」

 

千佳は続けて頭上に巨大なキューブ状のメテオラのトリオン弾を形成し構えるが、なぜか千佳がスッと消え、巨大なメテオラのトリオン弾が暴発し、その場で大爆発を起こす。

メテオラの暴発でその場に巨大なクレーターが出来、爆心地にいた修、遊真とヒュースはあえなくベイルアウト。

 

 

横島はというと。

「ふう、下水路があってよかった。千佳ちゃんのあの攻撃ってなんなの?マジで?」

そう言って横島は千佳の手に手錠型の拘束トリガー、ロックを嵌める。

 

「あの、横島さん、どうやって?」

千佳は横島を驚いた表情で見上げる。

千佳は横島が目の前にいることや、自分がどうやってここまで来たのか、ここが何処なのかもわからない状態だ。

 

横島はその千佳の問いに真面目に答える。

「千佳ちゃんのあのとんでもない攻撃をよけるために、マンホールに突入して、そんで下水路を通って、千佳ちゃん達の真下付近まで到着。そんで、ホールで地上まで穴を空けて、千佳ちゃんだけをここに落とす。千佳ちゃんと入れ替わるようにホールからトリオン爆弾を射出して、あのどでかいメテオラを爆発させたって感じかな」

そう、修たちは周囲を警戒していたが真下や真上の警戒を怠っていた。

いや、普通は地面を警戒しないだろうから当然といえば当然なのだが、この男を相手どる場合は例外だ。

 

「……すごい」

千佳は素直に称賛する。

 

「いや~、それほどでも。一番怖いのは千佳ちゃんだからね。なんつったって、盤面をひっくり返しちゃうからやりようがないし。トラッパーのトリガーも地面や壁とかには設置できるけど空中や質量が小さすぎるものには取り付けられないからね。千佳ちゃんが土地を真っ平にしちゃうと、トラップを取り付ける場所が少なくなっちゃって、応用範囲が狭まるから面倒なんだよな~」

横島にとって、脅威は千佳だった。

土地を強引にまっさらにできる千佳はトラッパーにとって相性が悪すぎる。

さらに千佳は、横島の世界基準でも凄まじい力を持っている。

破壊能力だけなら、中級魔族かそれ以上の力だ。

 

「修君の作戦は間違ってなかったんですね」

千佳は嬉しそうにそういう。

 

そんな千佳をじっと見詰めながら、横島は語りだす。

「やっぱ、千佳ちゃんは真っ先に狙われるよな~。攻撃がど派手だし。相手も一番の脅威に映るだろうな。だから千佳ちゃんは自衛手段を持たないとかな。おすすめは何が何でも逃げる!そんだけトリオン(霊気)があれば、霊能力者だったらスピードも速くなるもんだけど……、ボーダーと霊能力者の違いをどう埋めようか……うーん」

横島は千佳がどんな状況でも狙われやすい事を懸念する。

あんなに破壊力のある攻撃手段を持つ千佳だが、現状では自衛手段があまりにも貧弱なことに横島は心配し、珍しく悩んでいた。

 

「霊能力者?」

千佳はその言葉に疑問顔を浮かべる。

 

 

 

ベイルアウトし待機室に戻ってくる三雲隊の面々。

「……どうなったんだ?」

「千佳のメテオラの暴発だろうが……」

「横島先輩の攻撃?近くに居なかったはずなのに」

 

「よっ、盛大にやられてるなメガネ君。遊真にヒュースはどうだ?何もわからずにやられる気分は?」

そこに迅が現れる。

 

「迅さん……」

「うーん、カゲ先輩の気持ちが少しわかった」

「ちっ、迅」

修と遊真とヒュースは三者三葉に答える。

 

そこに千佳が戻ってくる。

 

「宇佐美、今の戦闘を皆に見せてやってくれないか」

「はいはーい。それじゃ、みんながどうやってやられたのか」

栞は目の前の大きなディスプレーに三戦目の試合状況を映しだす。

 

横島視点での映像が始まり、横島が千佳のメテオラから逃れるために道路のマンホールに飛び込む姿が映る。

そして、人が移動するには十分な広さの下水道を進んで、修たちが居る場所の下付近に到着すると、千佳だけをホールで下水道に落とし、それと同時にトリオン爆弾をグラスホッパーで千佳と入れ替わるように地上に射出し、千佳が形成させたメテオラに直撃、暴発させるシーンが映った。

「あっ!?下水道??」

「地下にあんなのがあるのかー、栞ちゃん、教えてよ」

「迅、あんな場所があるなんて知らされていない」

どうやら、三雲隊の面々は先日の横島の試合をまだ見ていなかったようだ。

 

そんな三雲隊の面々に手を合わせて謝る栞。

「みんなごめんね。私も有ることは知ってたけど全然意識してなかったんだよね」

 

「先日、横島がこの下水道より狭い排水管を通って勝利したところだから、宇佐美やメガネ君たちが知らないのも仕方がないって」

迅がそういうのも仕方がない。

ランク戦始まって以来、初めて使われた場所だからだ。

汚物が集まる場所だ、普通は使わないだろう。

 

「本当に盲点ですね。勉強になります」

修は生真面目にメモを取る。

 

「いや、参考にならないな。トラッパーの奴にしかできない。……この方法だと誰が相手だろうと厳しいだろう。なんて方法を思いつく奴なんだ」

ヒュースは自分たちでは真似ができないだろうと考えていた。

 

「逃げ道としてはいいんじゃない?奇襲攻撃とかにも使えるし」

遊真は移動手段の選択の一つとして活用できそうだと考えていた。

 

「仮想マップだからいいけど、実際は汚い場所だよ」

千佳の言い分はもっともだ。

実際は汚物が流れ悪臭が漂い、相当汚い場所だ。

よっぽどの事ではない限り入ること自体躊躇するだろう。

 

「千佳、汚いってどういうこと?」

ネイバーの遊真は下水道がどういう場所なのか理解していなかった。

同じくヒュースも遊真の質問に頷いていた。

千佳は遊真とヒュースに丁寧にどういう場所なのか説明する。

それを聞いた二人は、遊真は選択肢の一つとして有りだと答え、ヒュースは絶対に使用しないと、意見が分かれる。

 

迅はそんな三雲隊の面々に今回の模擬戦について語りだす。

「罠を張らせないように建物全部吹き飛ばす作戦自体は良かったんだよな。まあ、一隊だけじゃ横島を見つけ出すのは厳しいだろうな、あいつ異様に隠れたり逃げたりするのがうまいし。それは置いといてだ。今まで敵に横島のような使い手とは出会わなかったが、今後現れるかもしれない。特に遠征に行く場合はこちらが侵攻した形になる。防衛戦と異なり、知らない土地で、情報のない敵と戦うなんてことは当然起こる。だから体験してもらった。その辺は遊真とヒュースはわかってるだろうけどな」

 

「ブラックトリガーが使ったら、もうちょっと何とかなったかもしれない」

「ああ、蝶の楯(ランビリス)が使えれば、負けはしなかった」

遊真とヒュースはブラックトリガーがあれば勝てたというが……。

 

「遊真とヒュースも自分で言ってただろう?横島の戦い方は相手の強さは関係ないんだって、横島と対峙するには戦闘力よりも対応力、即応力、探査能力、戦略戦術が大切な要素だ。那須隊がランク戦で示していただろ?その辺はメガネ君だったらわかるよな」

 

「はい、……ですが、今の僕ではまだ」

 

遊真とヒュースは迅の言葉にそれでも不満そうだ。

 

「因みにあれでも抑え気味だぞ。彼奴はトラッパーの虎の子ワープ使ってないし、あと隠し玉もまだまだあるしな」

 

「あれでもですか!?」

修は迅のその言葉に驚きを隠せなかった。

その横で千佳も口を押え驚いていた。

 

「そんじゃ、横島先輩と迅さんはどっちが強い?」

遊真は口を尖らせたまま迅にこんなことを聞く。

ヒュースもこの遊真の質問に興味があるのか、じっと聞きみみを立てていた。

 

「あ~、本気出したあいつと戦っては見たいが、風刃使ったとしても厳しいかな」

迅は率直な感想を漏らす。

本気の横島とはトリオン体ではなく、素の状態の横島と戦った事を想定して答えていた。

 

「迅さんでもか~」

「…………」

 

 

 

 

 

その頃、横島は……。

この模擬戦では横島のオペレーターをゆりがしていた。

「横島君、ちょっとやりすぎじゃないかな?三雲君達自信なくしたりしない?」

「いや~、そんなつもりじゃなかったんですが、迅とも話したんですが、理不尽な攻撃というものを体験してもらおうかなって」

「どういうこと?」

「俺の世界では、ビルを吹っ飛ばすような連中や一撃で島を吹っ飛ばしたり、関東一円に猛毒を降らしたりとか、とんでもない連中が結構いたんですよ。そんな理不尽な連中に対して、どうするかってことを考えなきゃ、生きていけない世界だったんで。どんな相手を前にしても今ある状況で切り抜ける力をつけてほしいというか……アレ?なんか柄にもないこといっちゃってるな」

「……横島君は優しいのね」

「まあ、なんか修を見てると、昔の俺っぽいっていうか、性格とかは真逆なんすけど、なんとかしたいって気持ちが強いじゃないっすか。まあ、俺の場合なんとか生き残らなきゃって感じっすけど、挫折というか困難というか壁は今の内に体験した方がいいというか……」

「横島君は挫折とか後悔したことが?」

「もちろんあるっすよ。取り返しのつかないもんが……」

「そう。私も……そのための訓練ですものね。三雲君達には後悔無いように導いていかないといけないわね」

「あはははははっ、そんなたいそうなもんじゃないっすけどね」

「やっぱり、その辺もおじさんや迅君に似てるわ」

「へ?林藤のおっさんと迅に?どこがっすか?」

「そういうとぼけたところも含めてよ」

 

 

模擬戦をリビングのテレビで見ていた他の玉狛支部の面々は……。

小南はカウンターでお茶を飲む支部長の林藤匠にこんなことを聞く。

「ねえ、ボスは知ってるんでしょ?横島がここに来る前に何をやってたのか?ネイバーじゃないっていうけど、戦い慣れし過ぎてるわ」

 

それに答えたのは林藤ではなく烏丸京介だった。

「小南先輩、横島先輩は実は、ヨコシマ星からやってきた。宇宙人です」

だが、その答えはとんでもないものだ。

相変わらず、小南をからかう気満々だ。

 

「ええええ!?横島って宇宙人だったの!!だから、あいつあんなにスケベなんだわ!!」

「……いや、さすがにこれを信じちゃダメでしょ小南先輩。さすがに引きます」

「トリマル!!また私に嘘をついたわねー―――!!」

流石鵜呑み系美少女、こんな嘘を信じる方がおかしいが……。

 

だが、林藤は軽い感じでこんな暴露をする。

「皆が集まってる時に言おうと思ってたんだけどさ、あいつ、霊能者らしいんだわ」

「もうだまされないわ!!ボスも私をだます気ね!!」

「いや~、それがほんとなんだってば、本人から聞いてみ」

「本当なの?……霊能者ってあれよね。除霊とか霊視とかできる人よね。でも、それって戦ったりとかトラッパーとかと関係ないんじゃない?」

さすがの小南も今回は警戒してか、かなり半信半疑だ。

 

「正確にはゴーストスイーパーってなものらしいぞ。なんか悪魔とか妖怪とか幽霊とかと戦ってきたんだと」

「林藤支部長、さすがに小南先輩も二番煎じじゃだましきれませんよ」

京介は林藤の冗談だと思っている。

 

「お前たち、それは事実だ。横島は並行世界の日本人で悪魔や妖怪退治を行うゴーストスイーパーという退治屋だ」

「……本当に?」

木崎レイジがそういうことで、真実味が出てくる。

京介はレイジがこういうことで嘘や冗談を言う男でないことを知っている。

 

「マジマジ、マジで大マジよ」

「ええええええ!!??」

林藤は相変わらず軽い感じで応えるが、桐絵は驚愕の雄たけびを上げていた。

 

「ちょっと待ってください、霊能者とかはまだいいです。今並行世界って聞こえましたけど!?しかも悪魔とか妖怪とかって!?」

「本人がそう言ってる」

京介は並行世界というあり得ない言葉を耳にし混乱気味だ。

 

「どうして私にも黙ってたのよ!!」

「あー、小南は顔に出やすいからな、他の隊員のためだ。京介にしろ修に千佳にしろ、平行世界の人間やらゴーストスイーパーですって言ってもすぐに受け入れられないだろ?だから横島がお前らと変わらない普通の男子高校生だってところを見てもらってからにしようと思ったんだ。因みに玉狛支部内ではいいが、他の隊員連中には内緒にな。これ知ってるの、ボーダーの上層部と俺と迅とレイジ、ゆりとクローニンだけだから」

小南が林藤に迫るが、林藤は軽い感じでそれに応える。

 

「横島が普通の高校生のわけあるかー――――!!どう見ても普通じゃないわよ!!」

「さすがに小南先輩の意見に同意します」

まあ、今までの横島の行動を見れば、普通じゃないのは当然だ。

 

「でもよ~、普通にいい奴だろ?」

林藤はニヤリとしながらそう言う。

 

「まあ、そうだけど!」

「確かに横島先輩はいい人です。俺も助かってます。それとああ見えて年下の面倒見もいいですし」

桐絵も京介も横島がいい奴だということは認めていた。

 

「そういえば、ゴーストスイーパーって何?妖怪と悪魔と戦っていたって!!横島が居た平行世界に悪魔とか妖怪がいるの!?」

「横島先輩って、遊真やヒューズと違って普通にこっちの世界になじんでましたけど、平行世界というからには、世界そのものの成り立ちはほぼ同じなんですかね」

桐絵と京介は林藤に迫り、質問攻めにしようとする。

 

「ちょっと待てお前ら、聞きたいことがありゃ、後は本人に聞けばいいさ」

林藤はそう言ってお茶を濁した。

 




次は修君達にゴーストスイーパーばれです。

それと、ボーダーから、今まで一度も出てこなかったあの人参上です。


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その37 ゴーストスイーパーって職業名

感想ありがとうございます。
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訓練控え室では、三雲隊が今の模擬戦の敗戦ミーティングを行っているところに横島とゆりが現れる。

 

「わははははっ!後輩諸君!!まだまだだな!!」

横島は高笑いをしながらわざとらしく偉そうにそう言った。

 

「ありがとうございます。勉強になりました」

「横島先輩、次は負けないよ」

「ふん、次は勝つ」

「全然気が付かなくって、びっくりしました」

それに修は軽く頭を下げ、遊真とヒュースは再戦を望み、千佳は小さく微笑む。

 

「そんじゃ、祝勝会の続きといこうか」

「みんな待ってるから、さあ行こう」

「そうね。桐絵ちゃん達が待ってるわ」

迅と栞とゆりは横島に質問攻めを行う勢いの皆を訓練室から追い出すようにリビングへと向かわす。

 

 

 

 

リビングに戻った一行だったが……。

「横島―――!!あんた霊能者で変態で別世界の人間だったの!?」

桐絵が横島にいきなり飛びつくように迫り、胸倉をつかんで前後に揺らす。

変態は合ってはいるが、今更驚く要素ではない。

どうやら並行世界の人間と言いたかったようだ。

 

「く、苦しい、小南!なんなんだ!?」

横島は無理やり桐絵の手を外す。

 

そんな小南の様子に遊真とヒュースはいつもの事だとスルー。

栞はまたかと苦笑ぎみにスルー。

千佳も栞と似たような反応だ。

だが、修だけは小南が口にした言葉に、ぎょっとする。

 

 

林藤は横島を手招きして、肩を後ろからつかみ、皆に改めて横島を紹介しだした。

「修、こいつめちゃくちゃ強かっただろ?お前らも疑問に思ってるだろ?横島がなんで強いのかって?そんなに戦いが上手いのかって?こいつの経験値は旧ボーダーの連中にも劣らないっていうか、それ以上なんだろう。それはこいつが、平行世界の人間で、霊能者として妖怪や悪魔と戦ってきたゴーストスイーパーという退治屋だからだ」

 

「え?何を言って……ゴーストスイーパー?妖怪?悪魔?並行世界?」

栞は目を丸くし、林藤と横島を交互に見る。

 

「ど、どういうことですか?林藤支部長!?」

修もその言葉に驚き、林藤に聞き返す。

 

「ん?どういうこと?」

遊真は林藤が言ってる言葉が理解出来ていないようだ。

 

「………別世界の戦士か、どうりでボーダーと戦い方が違い過ぎるわけだ」

ヒュースも、霊能者などの単語はわからないが、横島が別世界の人間であることだけは理解したようだ。

 

「え?修君……」

千佳は修の袖を引っ張り、驚きの顔を向ける。

 

「横島、ごーすとすいーぱーって、ヒーローなのか?」

陽太郎は雷神丸に乗ったまま、目をキラキラさせていた。

 

 

「えーっと、ああ、まあ、ちょっと失敗しちゃって、こっちの世界に飛ばされて、ゆりさんとクローニンに拾われたって感じか……。一応言っておくが、俺は歴とした地球人で日本人だぞ!!平行世界のだけどな!どうだ、驚いたか!!あー-はっはっはー――!!」

横島は、最初はバツが悪そうに説明しだすが、最後には偉そうに高笑いをしていた。

 

「……あの、近界(ネイバーフッド)とは別世界なんですか?」

修が恐る恐るといった様相で聞く。

 

それに答えたのは迅だった。

「そうだ。話を聞く限り近界とは別だ。正直、ほぼ俺たちが生きている世界と同じ歴史で同じ地理に同じ国、言語や文化もまるっきり同じだ。違いと言えば、こっちには近界があるが、横島の世界には近界の代わりに神や悪魔や妖怪に霊が実在するという点だ」

 

「横島先輩は別世界の戦士だったってこと?」

遊真はようやく理解が追いついたようで、横島に確認する。

 

「いや~、戦士じゃないぞ。高校生だ。バイトでゴーストスイーパーやってるだけで」

「ば、バイトだったんですか!?バイトで妖怪退治っておかしくないですか?向こうの世界の人はみんな妖怪退治ができるんですか?」

横島の言葉に反応したのは京介だった。

確かに横島の世界でバイトでゴーストスイーパーなんてものをやってる連中は極わずかだ。

 

「あー-、霊気、こっちでいうところのトリオンが無いと厳しいな、無くてもできないこともないが、さすがに悪魔とかは無理だろうな」

「因みに、ゴーストスイーパーもボーダーと同じで適正が必要だそうだ。だから横島の世界でも、ゴーストスイーパーという退治屋は少ないらしい」

京介の質問に横島と迅が応える。

 

「妖怪とか悪魔と、神様まで実在する世界……伝承のような力を振るう悪魔と妖怪と戦えるなら、強いはずだ」

修は考え込むように独り言を言っていた。

 

「横島!!妖怪がいるならピカチュウいたりするの!?」

桐絵は目をキラキラさせながら横島に質問をするが…やはりズレている。

ピカチュウは妖怪ではない。

 

そんな中、栞が元気よく手を挙げながら横島に近づいていく。

「はいはーい!!横島さん質問いい!?」

栞のテンションがおかしい。

かなりハイになっている。

 

「何?栞ちゃん」

「横島さん、霊能者なんでしょ?ってことは霊とか見えるってことですよね!?そうですよね!!」

「そうだけど?」

やたらテンションが高い栞に迫られ引き気味に応える横島。

 

そして、栞は興味津々にこんな質問を横島にしてしまった。

「だったら、こっちの世界でも霊が居たりするんですか!!ここに普通に居たりして!?」

栞の探求心は全方向に向けられる。

並行世界の、しかも霊能者である横島は栞の恰好の探求心の糧に……。

 

「栞ちゃん!!」

「宇佐美やめろ!!横島も答えなくていい!!」

ゆりは慌てて栞の口をふさぎ、レイジはレイジで横島の口を塞ぐために羽交い絞めに。

そう、知らないほうがいい事実というものがある。

ゆりとレイジはそれをしみじみ思っていたところでの、この栞の質問だ。

ゆりとレイジは必死に栞と横島を止める。

 

「もごもご!!」

「いいやー―――!!筋肉が!?筋肉が!!やめー-てー――!!どうせ止められるならゆりさんでー――――!?」

口を塞がれる栞に、レイジに羽交い絞めにされ、そのまま絞め落とされそうな横島。

 

実は栞の質問に興味深々だった千佳は止められる二人を見て、残念そうにしていた。

 

 

こんな一幕があったが、その後も横島は玉狛支部の面々に質問攻めにされ続け、一息ついたところで、遊真とヒュースはボーダー本部へ、個人ランク戦に向かった。

遊真は元々、影浦達と約束していたようだ。

ヒュースは遊真に誘われ、ついて行くことに。

どうやら横島との闘いが消化不良だったようだ。

千佳は用事があるらしく、レイジに家まで送ってもらう。

 

 

祝勝会の後片付けを行っていた残った面々に向かって迅は、こんなことを言い出す。

「ちょうどいいか、メガネ君も横島と一緒に遠征に行くから見て行った方がいいだろう」

 

「何よ迅」

 

「横島と小南、京介で模擬戦だ。小南、京介のオペレーターは宇佐美で、メガネ君は横島のオペレーターをやってみてくれ」

迅は横島と桐絵・京介組で模擬戦を行うようにと言い出した。

 

「二対一ってのは、なめられてるみたいでムカつくけど、ようやく横島とできるわね!」

「いいですね」

桐絵はニヤリとし横島を見据え、京介は目を細めていた。

桐絵と京介はやる気満々のようだ。

 

「あ~やるの~、まあ、前から言ってたしな。でも、なんでオペレーターが修なんだよ!!ゆりさんがいい!!」

「迅さん、僕はオペレーターなんてやったことが無いんですが」

「特にやることないよ。横島にすべて任せればいい。今回メガネ君はオペレーター席に座って横島の行動を見ているのが訓練だ」

「はい、それだったら勉強させてもらいます」

「俺の話聞いてる!?ゆりさんがいい!!」

 

 

早速訓練室に向かう面々。

「横島め、ゴーストスイーパーか何だか知らないけど、ぎったんぎったんにしてやるんだから」

「小南先輩そうはいっても、実際二人でも横島先輩を探すだけでも大変ですよ」

 

 

「え?迅さん、その設定で本当にいいの?……二人とも、マップは平坦な住宅街で、近接模擬戦用の狭いマップだよ」

栞は迅から言われた模擬戦条件を二人に伝えるが、トラッパーにかなり不利なかなり狭い半径100m程しかない平坦マップだ。

「はぁ?なめてるの!?」

「それなら、何とかなりそうですね」

 

「迅さんが、双月とガイストも使って良いって」

「なによそれ!完全になめてるわね!」

「……いや、横島先輩とは火力やスピードだけじゃ戦えないですよ。如何に相手のペースに乗せられないかが大事なんで……その辺のフォローは俺がやりますんで、小南先輩はいつも通りで」

迅から専用トリガーを使ってもいいという話に、桐絵はなめられてると思いかなりお怒りのようだ。

対して、京介は横島に対しては、火力やスピードなどの攻撃力はあまり意味をなさないと踏み、横島のトラップを警戒しつつ、相手のペースに乗らないことが大切だと言おうとしたのだが、今更桐絵に求められない事を悟り、フォローに徹することにした。

 

 

 

模擬戦が開始される。

仮想空間の市街地道路の上に転送される桐絵と京介、その30m先に横島が転送されるのが見える。

 

「トリマル!小細工無しで一気に行くわよ!」

「そうですね」

桐絵は手斧型のトリガー、双月を両手に構えながら、一直線に横島に迫る。

京介も横島を確認し、ガイストを発動し、桐絵の後を追う。

 

横島が慌てて後ろに下がろうとするが、桐絵は突進しつつ双月を繋げ、大斧へと変化させ、振りかぶり、横島目掛けて一気に振り下ろす。

 

「うわっち!!」

並みの隊員なら今の一撃でベイルアウトだろうが、横島は直前にグラスホッパーで斜め後ろへ飛び逃れる。

それだけではない。横島は後ろ斜めに飛び逃れると同時にトリオン爆弾を桐絵に向かって投下。

桐絵はそれを察知し、振りかぶった大斧をそのまま地面に突き刺し、その遠心力を使って、体を空中に投げ出し、シールドを張りつつ爆弾の爆風を回避

桐絵の後を追っていた京介がアステロイドで横島を追撃しつつ、空中の桐絵の腕を掴み、遠心力を使い横島に向かって桐絵を勢いよく投げつける。

桐絵は空中で体勢を整えながら、大斧を二丁の手斧に戻し両の手に持直し、横島に迫る。

京介も桐絵を追うように、横島に迫る。

 

横島がグラスホッパーでさらに上空へ逃れようするが、京介のアステロイドのけん制で、上空は抑えられ、中途半端に横に飛び跳ねる。そこを再び二丁の手斧を大斧へ変化させた桐絵の横なぎの攻撃が一閃、横島は空中で体を大きく反ってギリギリ回避。

「ちょ、まった!!うわっと!?」

 

だが、そこに京介が体勢を崩した横島の上から弧月で兜割りのように真上から振り下ろす。

京介の桐絵に合わせての連携攻撃だ。

横島は既に体勢を空中で二度崩した状態だ。これ以上の空中での回避は流石の難しいだろう。

京介の弧月が横島を捉えたと思った瞬間、弧月が弾かれる。

しかし、息を吐く間もなくほぼ同時に桐絵の大斧が横島の斜め下から襲いかかる。

だが、桐絵の大斧もいなされる。

 

京介は目を大きく見開き、桐絵も驚きながら、一旦、横島から距離を置くように後ろに飛びのく。

「……まさか!?スコーピオン!?」

「あんたの隠し玉!?そういうこと!!」

 

横島の左手の拳から剣状のスコーピオンが伸びていた。

スコーピオンで京介の弧月を弾き、桐絵の大斧を捌き、超速の近接連携攻撃を逃れたのだ。

「あっぶな~、さすがにあれは避けるの無理だった」

 

「付け焼き刃じゃないわね……あんた!!アタッカーもできるってわけ!!いや、あんた元々アタッカーが本業ってわけね!!」

桐絵は横島がスコーピオンを構える姿が妙に馴染んで見えていた。

 

「本業がアタッカーってなにその頭悪そうな職業?はぁ、ゴーストスイーパーだって言わなかったっけ?」

 

 

この攻防を詳細に見ていたオペレーター席の修と迅は……。

「え?スコーピオン?今横島先輩、スコーピオン使いませんでした?どういうことですか?」

「ほう、さすが小南と京介だ。横島にスコーピオンを使わせるとはな、今の攻防どうだ?参考になるかな?メガネ君」

「その…ですね、早すぎて何が何だか……」

「メガネ君、これでも小南は様子見ってところだろうな。フォローする京介もやるだろ?」

「様子見?これでですか?ただ、凄いってことだけはわかりますが……」

修はこの攻防に驚きっぱなしだ。

そんな修を見て、ニヤリとしながら感想を聞く迅。

 





次、まさかのあの人登場


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その38、ナンパは基本。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


 

横島と桐絵・京介との模擬戦は桐絵の先制攻撃から始まり、横島がスコーピオンで防いだところで、再び距離を取る。

桐絵は横島の反応を見て、笑みを浮かべていた。

まずは様子見が終わったといったところだろう。

 

「楽しくなってきたわね!!トリマル!けん制任せたわよ!」

桐絵は京介にそう言いつつ、桐絵は横島目掛けて、左右にステップを踏みながら突進していく。

京介は突撃銃を構えアステロイドを横島に向けて連射しながら、桐絵の後を追う。

 

横島は避けずに、スコーピオンでアステロイドの弾丸を避けながら、一部を切り落とし、余裕をもって迎撃態勢に入る。

「おっ、やっぱ使い勝手はハンズ・オブ・グローリーに似てるな~、耐久力は低そうだけど」

 

桐絵は突進しながら大斧を振りかぶっていたが、横島がシールドを張らずにアステロイドの連射を避けながら一部をスコーピオンの刃幅を大きくし盾のようにし弾く、それを見た桐絵は攻撃を止め、振りかぶった勢いを使い横島の右横へとジャンプしながら移動する。

「シールドごとぶった切ってやろうと思ったのに!!やるわね!!」

桐絵は京介のけん制で横島がシールドを張ったところを狙うつもりだったようだ。

けん制で相手にシールドを張らす意義は大きい、トリガーは片手につきトリガーホルダーに4つセットできる仕様で、両手で最大8つセット可能である。

但し、セットしたトリガーは片手につき1つずつしか展開できないため、両手を使って同時にトリガーを展開できるのは2つまでだ。

先ほどの横島の攻防では、スイッチボックス(トリオン爆弾)とグラスホッパーを使用して回避しているのだが、もしけん制でシールド使わせると、片方しか使えなくなる。

要するにシールドを使わせている間、手数を減らすことができる。

さらに両手でシールドを使わす事によって、反撃させないこともできるのだ。

今の、京介のアステロイドのけん制で横島がシールドを張った場合、グラスホッパーで逃れるか、トリオン爆弾もしくはスコーピオンで反撃するか、どちらか一方しか行動ができなくなる。

それだけで、桐絵の突進による攻撃が相当やりやすくなるだろう。

 

だが、横島はシールドを張らずに、回避しながらスコーピオンでアステロイドを弾くことにより、スコーピオンともう一つ、何かしらのトリガーを発動させることが出来るようになるため、それだけで、攻めにくくなる。

ましてや、横島は桐絵の先制攻撃をあっさり避けただけでなく、避けると同時に反撃してくるような相手だ。厄介極まりない。

 

よって桐絵は、横島にシールドを使わせられないと分かった時点で、真正面からの突撃は効果が薄いと判断し、突撃を止め回避行動に移った。

横島は、スコーピオンを上手く使うことで、桐絵の攻撃を未然に防いで見せたのだ。

 

「横島先輩、さすがですね」

京介はそう言いつつも、間合いを取りながら横島の左側へと滑り込むように回り込み、横島を桐絵と挟み込むような立ち位置に移動する。

 

「あんた、本当に戦い慣れてるわね」

桐絵は再び双月を二丁の手斧に変形させ両手で構える。

 

「いや~、慣れてるのは慣れてるかな?逃げるのとか超得意だし」

 

「ふん、とぼけちゃって」

 

こうした攻防戦がしばらく続く。

 

 

 

 

丁度その頃、玉狛支部に来客があった。

しかも相当珍しい人物だ。

 

「なんて常識はずれな……ふむ、悪くはない」

ボーダーの制服をピシッと着こなした女性は、居丈高ではあったが、出迎えた陽太郎の勧めで雷神丸のお腹をさすり、無表情ながらどこか満足気であった。

 

その後、支部長室で林藤が彼女の相手をする。

「あれ?君がこんなところに来るなんて珍しいね。まあ、そこらへんに適当に座って」

「今日訪問することは伝えてあったはずだ」

「うん?聞いてないぞ、たぶん小南あたりだろうか?それはすまない。で、君がわざわざこんなボーダーのはぐれ者支部に何の用かな?」

「ふう、まあいい。例の件、そちらにも通達があったはずだ」

「ああ、あの件ね」

「準備に時間がない。打ち合わせのため、こうして訪問したのだが」

「しまった~。そういえば、まだ横島には言ってなかったな~、まあ、当日でも大丈夫じゃない?」

「ふう、貴方は上に立つ者としての自覚が足りないようだな」

「ははっ、まあ、そういいなさんな」

ボーダー上層部の支部長に対してのこの言いようだが、彼女はボーダーの一隊員にすぎない。

端正な顔立に17歳の少女とは思えない威圧感を備える彼女はボーダーA級2位冬島隊のオペレーターである。

冬島隊の隊長はもちろん冬島ではあるが、実質この隊の指揮を執っているのは彼女だ。

彼女の名は真木理佐、数多いるボーダー隊員に恐れられる存在だった。

 

 

「これでは先が思いやられる」

「ははっ、打ち合わせか。ゆりとレイジの奴はちょっと出かけてるし、小南と京介と横島は今模擬戦中なんだよな。ちょっと待ってくれる?」

「時間がない。早々にと」

理佐は支部長室のソファーで足を組みなおし、林藤に鋭い視線を向ける。

 

「わかったわかったって。あ~、迅、来客があってさ、ちょっと急ぎなんだわ。そう例の件、小南と京介、横島、模擬戦中断して来てくんない?」

林藤は内線で訓練室に繋ぎ、迅に模擬戦中の桐絵と京介と横島を急ぎで支部長室に来させるようにと伝える。

 

 

 

しばらくすると……

「ちょっとボス!模擬戦中に急ぎって何よ!まだ、横島との勝負はついてないのよ!!」

桐絵が文句を言いながら支部長室に入ってくる。

その後に京介も続く。

 

「小南、お前、俺に報告することがあっただろ?」

林藤は乱暴に扉を開けて入ってくる桐絵に呆れながら聞く。

 

「何よ!って、あれ?真木ちゃん?なんでここに?」

桐絵は林藤に食って掛かろうとしたが、ここでソファに座っている理佐に気が付き、声をかける。

そんな桐絵に、理佐も無表情ながら呆れた物言いをする。

「小南、先日君に今日例の件で打ち合わせに玉狛支部へ行くと伝えてくれと言ったはずだが?」

 

「あああ!忘れてた!ご、ごめん」

「君に伝言を頼んだ私がバカだった」

「ごめんって真木ちゃん」

桐絵と理佐はどうやら、そこそこ親しい仲のようだ。

真木理佐はそのとっつきにくさから、自然と同年代の女子から孤立しがちであったが、誰に対しても手厳しい理佐に対しても、誰に対してもマイペースな桐絵は、理佐にとっても接しやすい人物だったのかもしれない。

 

「まあ、ソファーに座れや」

林藤はそう言って二人にソファーに座るように促す。

桐絵は理佐の隣に、京介は桐絵の前に座る。

 

「うい~っす」

そこに横島参上。

 

「おっ来たか横島、後はレイジとゆりだが、先に始めるか…」

林藤がそういって、支部長席を立とうとしたが……。

 

「あれ?こ、こんなところに美女が?…かっこいいお嬢さん!!僕横島!!近くの喫茶店で僕とお茶しませんか!?」

お約束通り、横島はソファーに座る理佐の前に片膝を付き、手を取りナンパをしだした。

 

「横島!!あんたまた!!」

そんな横島を見て桐絵はいつものごとくワンパンチを入れようと立ち上がる。

だが、理佐は目の前の横島を汚物を見るかのような蔑んだ目で睨みつけ、こんなことを言いのける。

「なんだお前、そんなに警察に厄介になりたいか?罪状は…そうだな。セクハラに恫喝、猥褻、婦女暴行というのはどうだ?」

 

「いっ!?……いや~、ただ、ナンパしただけなんだけど」

流石の横島も、握った理佐の手をさっと外したじたじとなる。

 

「まあいい、今回は不問に処す。次やったら、先ほどの罪状で警察に突き出すからそのつもりでいろ」

理佐は横島を睨みつけながらそう言って、視線を逸らす。

 

「ふははははははっ!警察が怖くて、ナンパやってられっかー-!!」

横島は堂々とこんなことを言ってのける。

 

「ふむ」

理佐はうなずきながらスマホを取り出し、110番を押そうとする。

 

「この、バカ者!!」

間髪入れず、桐絵の拳が横島の右頬に突き刺さる。

 

「ふごぱっ!!」

横島は椅子から吹き飛び、床に倒れる。

 

「あはははっ、真木、冗談だ。こいつの冗談だから、間にうけないでくれ」

林藤は笑いながら、この場を収めようとする。

 

「ふう、先が思いやられる。そこの獣の手綱をしっかり握ってほしいものだ」

理佐はそう言って、スマホをポシェットにしまう。

 

「横島、真木は冗談が通じないからな、気をつけろよ」

林藤は、床に転がってる横島に軽く注意をする程度に収める。

 

 

これが横島と真木理沙のファーストコンタクトだった。

 





本編に追いついちゃったので終わらせようとおもったのですが、ちょっとだけ続きます。


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その39、筋肉か脂肪か悩ましい。

ご無沙汰しております。
漸く書けました。


 

玉狛支部では、三雲隊と横島隊のランク戦目標達成の祝勝会が正午前から開かれ、大いに盛り上がっていた。

三雲隊のB級2位達成による遠征候補に入ったことの喜びだけではなかった。

かねてから、空閑遊真が熱望していた横島との模擬戦が三雲隊と横島隊とチームで模擬戦で実現したこと、この場で玉狛支部の面々に横島が平行世界の人間で霊能者であることが全員に知らされたことがこの盛り上がりの原因だった。

今は小南桐絵と烏丸京介二人と横島との模擬戦が繰り広げられていた。

 

そんな中、玉狛支部に珍しい客が訪れる。

冬島隊のオペレーター真木理佐だ。

彼女は、一つ年上のナンバー1スナイパー当真勇だけでなく、一回り年上の隊長である冬島慎次をも容赦なく顎で使う実質的な隊のリーダーであった。

 

理佐はあらかじめ桐絵にこの時間に玉狛支部に訪れる事を伝えていたが、桐絵が支部長の林藤匠やオペレーターの林藤ゆりに伝え忘れていたため、ゆりの不在に、理佐は一層不機嫌になっていた。

そんな真木に横島はいつものように下手糞なナンパするのだが、容赦なく警察へ変質者として通報されそうになる一幕があった。

今現在、支部長室には支部長の林藤匠、遅れて迅悠一と宇佐美栞が集まる。

横島と桐絵と京介も先程までこの場に居たが、今は席を外し、祝勝会の片づけを行っている。

 

支部長席から林藤匠は応接席に座る真木理佐に改めて尋ねる。

「で、真木は何しにこんな辺境の支部に来たんだ?」

 

「林藤先輩(ゆり)に直接話があります」

 

「ゆりに?ああ、ゆり主導で進めてるトラッパーの技術講習会や対策室を開く件ね。俺が答えらえる範囲でいいんだったら応えるぜ」

ゆりは、トラッパーの運用方法の確立と後進の育成、情報共有のために、このような事を行うことをボーダー本部上層部に上申し既に了承を得ており、先んじて、中核を担ってもらうために冬島隊の冬島と理佐に知らせていたのだ。

 

「では、近日に遠征選抜試験が行われる中、時間を割いてまでこのような事を行う意義はどこにあるか尋ねたい」

 

「意義ね~。トラッパーはなり手が少ないから、増やそうって言うのがまず一つだな。難しいポジションってのもあるが、地味な役回りだし、ランク戦じゃ別にトラッパーが居なくても困らないから、人気もない。だが、遠征や実戦となると話は別だ。必ず必要となるポジションだ。毎回遠征に冬島隊が呼ばれるのはそのためだ」

 

「それは私も理解しています。ならば、林藤先輩が主導で講義をすればいい話で、私は必要ないでしょう。トラッパー及びトラッパー擁する部隊のオペレーターのみの会議、さらにはB級以上のオペレーターのみの講習会そのものに意味がないと考えますが?」

 

「意味がないことはないぞ、一口にトラッパーと言ってもそれぞれ隊の役割は随分違う、お前さん所の冬島隊長はスナイパーのサポートから罠から侵攻阻害やらとオールラウンダーにこなすスタンダードとしたら、加古隊の喜多川真衣はスナイパーが居ない分をフォローするための役回りが主だ。松代隊の箱田は冬島の劣化版って感じだが、うちの横島は正面切って戦うトラッパーだ。情報共有は大事だと思うが?それに冬島の開発にも役に立つだろう?」

B級以上のトラッパーは横島を含め4人しかいない。

その中で横島とA級の冬島と喜多川真衣のトラッパーとしてのスタンスが全く異なっているのだ。

B級の箱田の場合、松代隊としてトラッパーの運用がまともに出来ていないのが現状だ。

 

「確かに、トラップの開発強化などには情報共有は必要なのは理解しています。それならばトラッパー同士で打ち合わせるだけでことが済む。冬島隊長主導で現状もやって来ています。それにオペレーターまで時間を割く必要性はないのでは?」

 

「なーに言ってんだ真木。トラッパーの運用はオペレーターあってのものだ。トラッパーの負担の半分はオペレーターが担っていると言ってもいいんじゃないか?まあ、その辺をそつなくこなしてしまう真木には実感はないのかもしれないがな。トラッパーをちゃんと運用するにはオペレーターの力量がかなり必要となるということだ」

匠がこういうのは間違いではない。

トラッパーの運用はオペレーターの負担がかなり大きい。

設置したトラップの位置情報共有や設置順や発動順の管理から、ワープなどの移動手段の位置情報など、多岐にわたる。

トラッパーの役割が多いほど、オペレーターの負担が増大していくことになる。

その最たる隊が冬島隊なのだが、理佐が優秀過ぎるため、その自覚がないようだ。

例外として、横島の場合はすべて自分で出来てしまうのだが、通常はそうはいかない。

 

「オペレーターが本業ではない迅さんがトラッパーのオペレートを行っていましたが?」

それにいまいち納得していない理佐は迅に話をふる。

 

迅が頭を軽く搔きながらそれに応える。

「いや~、真木ちゃんそれは違うな。横島だから行けたってのもあるが、横島一人の隊だから俺でもオペレートが出来たってだけで、そこに隊員が1人でも増えると無理だろうな」

迅がこういうのも無理もない。

そもそも迅はオペレーター適正が低い、横島の思考と似通い意思疎通が容易であった事と、トラッパーの横島一人だから運用出来たと言っていい。

そもそも、横島自身オペレート無しでも、戦闘可能だが……

それは置いておいて、トラッパーの能力をフルに活かすには運用管理が的確でなければ難しい。

人数が増えれば増えるほど、現状のオペレートシステムではオペレーターの負担が増え、能力を生かしきれなくなる。

冬島隊がスナイパーの当真勇とトラッパー冬島の二人編成なのは、理佐がトラッパーの冬島の能力を100%引き出すために、人数を絞り二人編成でなければ発揮できないと判断したからであって、理佐自身そのことを十分理解していた。

加古隊のトラッパー喜多川真衣はトラッパーの能力を部隊の長距離戦へのフォローに特化し、限定したことで運用を円滑に回すことができていた。

松代隊はそのあたりが不十分であり、運用がうまく機能していない例だ。

 

「確かに、そうだと」

 

理佐が納得したところで林藤匠は説得を続ける。

「そういうこと、トラッパー職はトリオンが多くないと出来ない上に、豊富な知識も必要になる。それと同様にオペレーター自身もそれに即した知識と運用能力が問われる。だからトラッパー運用は難しい。だから成り手も居ない。よっぽどの物好きじゃないとな。さらには隊としてトラッパーを扱う機会もない上に、トラッパーの運用方法も知らなければ、トラッパーを採用しようとも思わないだろ?」

 

「なるほど」

 

「だからさ、お互いのノウハウを出して、トラッパーの運用方法を改めて確立しようってことだ。それには冬島を普段からそつなく操る真木の力が必要だということが理解してくれた?」

 

「理解しました」

 

「だから、トラッパーのトリガーのノウハウを一番持っているのは冬島と真木だ。おたくら二人がメインと言って良い、まとめ役はうちのゆりがやるから、頼むわ」

 

「面倒な」

 

「そういうだろうと思って、ゆりからってことにしたのさ」

誰にでも厳しい姿勢を示す理佐でも、大先輩であるゆりに一目置いているため、ゆりからの通達ならば素直に言うことを聞いてくれると匠が判断しての事だった。

 

「ふう……ならば、早くお互いを理解するために、トラッパーを擁する部隊同士で模擬戦を行うのが妥当でしょう」

理佐はため息を吐きながらも了承し、早速こんな提案をする。

確かに、トラッパー部隊同士の模擬戦を行った方が、意見も出しやすいだろう。

 

「そうだな、その辺は後でゆりと連絡して打ち合わせしてくれ、ここの設備は自由に使って良いからな。まあ、才能あるやつは仕事が回って来るのは仕方がない事さ、真木もそう思うだろ?」

匠は軽い感じでこう言って、この話し合いを締めくくった。

 

「……了解」

理佐はため息を吐きながら、了承する。

匠の最後の言葉は半分皮肉のようなものだ。

かつて理佐は、才能があるのにボーダー内でブラブラし、隊にも所属せず当真に対し、働けと迫ったことがあった。

 

話し合いを終え、席を立とうとする理佐を迅が呼び止める。

「あー、その前に真木ちゃん、横島と冬島隊と先に模擬戦してみた方がいいんじゃないか?」

 

「何故わざわざ?他の隊との合同での模擬戦でいいのでは?」

 

「先に知ってほしくてね。横島とやってみればわかる。ボーダーの今の模擬戦の欠点がね」

 

「……考えておきます」

迅の意味深な言葉に顔をしかめながら真木理佐は玉狛支部を後にした。

 

 

 

 

その頃、祝勝会の片づけを終えた玉狛支部のリビングでは……。

「横島!さっきの続きやるわよ!」

桐絵が横島に迫っていた。

 

「まだやんの?迅も栞ちゃんも居ないし、今日はいいだろ?」

 

「オペレーターなんていらないわよ!普通にソロで模擬戦をやればいいじゃない!」

 

「クマちゃんとか!!加古のねえちゃんとかとソロでやりたい!!戦闘服エッチいし、おっぱいの揺れもすんばらしい!!」

 

「わ、私だって!胸ぐらいあるわよ!!」

 

「確かにトリオン体はかなり盛ってるけどな~、でも筋肉で出来てるし~、色気もないしな~」

 

「うきーーーー!!盛って無いし!!筋肉で出来てないわよ!!……筋肉で出来てないわよね。トリマル?」

小南は勢いよく反論するが、急に不安になったのか隣の京介にこんなことを聞く。

 

「残念ながら小南先輩。トリオン体で盛った分は筋肉です」

 

「え?ウソよね。盛った分は脂肪じゃないの?」

 

こんなバカ話を少々赤面しながら聞いていた修は心の中でこう思う。

トリオン体に何を盛ってもトリオン体でしかないのにと……。

 

 

 

相変わらずのノリの横島だが、その晩、迅とゆり、レイジ、匠にとある相談をする。

千佳の件である。

 



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