復活の大魔王、ただしレベルは・・・ (ニラ)
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序章

 早速だが問いかけよう。

 貴様らは自分が死んだ時のことを覚えているか?

 

 ……馬鹿な質問をしている自覚は重々に有る。

 常識的に考えれば、今を生きている者達が自分の死んだ過去を語るなどあり得ない話なのだ。

 死というものは過去ではなく、まだ見ぬ未来に有るのだからな。

 しかし、先にも述べているだろう? 馬鹿な質問をしているのは重々承知――と。

 何も考えずにこのような質問をしているわけではない。

 ちゃんと考えた上で尚のこと聞いているのだ。

 

 自分が死んだ時のことを覚えているか? ――と。

 

 まぁ、こんな質問を投げかけているのだから半ば当然なのだが……俺はソレをシッカリと覚えている。

 と、いうよりも思い出したのだ。自分が死んだ瞬間を。

 自分を殺した人間が誰なのかを。

 そして、自分が最後に何を言ったのかを、な。

 

 確か、俺が最後に口にした台詞はこうだったな。

 

『――よくぞ、ワシを倒した。しかし光ある限り闇もまたある。ワシには見えるのだ。再び闇から何者かが現れよう。だがその時はお前は年老いて生きてはいまい。わはははは……。グフっ』

 

 ……あぁ、うん。

 自分で言うのも何だが、即興にしては随分と気の利いた台詞を言えたと思うわ。

 言い終わった瞬間の奴等の表情。あれは何とも痛快だったからな。

 この俺を倒したことを単純に喜ぶでも何でもなく、押し黙るような――鎮痛の面持ちと言う奴か。

 まぁ、正直余り好みの表情だった訳ではないが、しかし敵の満面の笑みを魅せつけられてあの世に行くよりは遥かにマシだったとも言えるだろう。

 

 とは言え、だ。

 最後の台詞は言ってしまえば唯の嫌がらせ。その後のアレフガルドがどの様に変化していくのか――等、当時の俺には解るはずもない。

 新たな魔王が誕生するのか? それとも俺が異世界を手にしようとしたように別世界の魔王が現れるのか? それら全てが今となってはどうでも良い事だ。

 

 まぁ、確信めいた予感ならば有ったがな。

 

 しかし己の死んだ後の世界がどうなろうと、最早どうすることも出来ない。唯一悔やまれることがあるとすれば、それは自らの滅びを他人に委ねてしまったことくらいだろう。

 

 俺が封印をした筈の精霊ルビスの声に従って現れた、あの人間ども……。

 まさか、俺の『闇の衣』を取り除く術を用意してくるとは思いも依らなかった。

 

 今もそうだが、当時も特に死にたいと思ったりはしなかったのだが……まぁ、もし死を宣告されているのなら精々派手に演出したかったと後悔はしている。

 

 む? なんだ?

 よもや、俺が誰だか判らない訳ではあるまいな?

 

 俺は世界を統べし闇の王、大魔王ゾーマ!

 ……だった者だよ。 

 

 

 

 ※

 

 

 何が切っ掛けでそうなるのかは解らない。

 だが、自分が自分を理解したのは本当に偶然でしか無かった。

 

 俺が住んでいた村は酷く辺鄙な場所でな、山奥も奥の相当奥。

 数ヶ月に一度だけ、都から商人が訪ねてくると言うくらいに辺鄙な村であった。

 確か、ベンガーナ王国の国境付近だったかな?

 王都から離れ、流通も悪く、取り立てて産業の無い村であったからか、其処は随分と寂れていた。

 俺は、そんな村に住む農家の息子として生を受けたのだ。

 物心がつくようになった頃から毎日毎日土をいじり、両親の手伝いをしながら日々を過ごしていたのだが……ある時、転機が訪れたのだ。

 

 それは魔王ハドラーの台頭である。

 

 魔王を名乗る1人の魔族が現れ、世界を闇の波動が覆ったのだ。

 その闇の波動は現生している魔物達の理性を奪い、連中を凶暴化させていったのだ。

 そして、その闇の波動こそが切っ掛けであった。

 

 俺が、大魔王ゾーマが目覚めるためのな……。

 

 突如として理解する自身の本性、そして前世。

 

 5年程度しか生きていない人間としての自我や記憶などはアッという間に塗りつぶされ、俺は嘗ての自分を思い出したのだ。

 ……まぁ、副作用として若干の言語の乱れが見られるが、それでも復活を果たしたのである。

 

 俺がこのような小僧として復活してしまったのも、恐らくは精霊ルビスの奴が俺を完全に消し去ろうと画策したからであろう。

 

 死して魂だけの状態ではいづれ復活を果たすやも知れん。ルビスはそう考えたのだろう。そもそも俺は魔族の王とは言え、その本質は生命が持つ闇の波動の集合体だったモノだ。世界に生きる者達の負の感情が高まれば、確かに復活を果たすことは出来たやも知れぬ。

 

 それを危惧したルビスは俺の魂を人間に転生させ、何度も死と誕生を繰り返させることで浄化しようとでも考えたに違いない。

 

 周到なことに、俺の魂を別の世界に飛ばしてまでな。

 

 とは言え結果として奴の謀は潰えた。

 平和な世界に俺を送ったことで気が抜けたのか? それとも完全に計算ミスであったのかは判らんがな。

 

 だが、今更そんなことはどうでも良い。

 

 こうして復活を果たした以上、俺は再び大魔王ゾーマとして力を振るい、この世に破壊と混乱を与えてやろう。

 ソレこそが俺の存在意義なのだからな!

 

 フハ、フハハハハハ、ハーハハハハハハーーッ!!

 

 ――――と、そう考えたのだが……世の中とは早々上手くは行かないようである。

 

 残念なことにルビスの企みは上手く成っていたと言えるだろう。

 

 俺は確かに復活をした。

 しかし、哀しいかなこの肉体はひ弱な人間の物なのだ。

 しかも現在の年齢は数えで6つ。普通であれば未だ親元で養われているのが当然の年齢だ。

 

 解りやすく言ってしまえばレベル1だ。

 コレはない。本気で有り得ぬ。

 

 何者よりも素早く動くことが出来た肉体はなく、いかなる武器よりも強靭であった拳もない。

 最悪な事にブレス一つ吐くことも出来ない。

 何とも虚弱にして貧弱な肉体に成ってしまったのだ。

 

 自身をゾーマであると理解したことで魔力の一部を取り戻すことは出来たが、それでも全能感にも近い、無尽蔵とも呼べたあの頃とは程遠い。

 コレでは大魔王として君臨するなどトテモではないが出来そうにはない……。

 何せ、下手をすればスライムにも負けてしまうかもしれないからだ。

 

「スライムに負ける? この俺が?」

 

 言葉にしたことで再度自分の状況を理解してしまい、軽く落ち込んでしまう。

 フフ、落ち込むか……。 魔王だった時には無かったことだな。

 興味深い経験ではあるが、とはいえ決して楽しいことではない。

 

 俺の存在意義は破壊と混乱、そして完全なる滅び!

 そのためには自らの力を蓄えなければならぬ!

 

 レベルを上げるには何をすれば良いのか?

 決まっている。

 魔物(モンスター)を倒すのだ。

 嘗ての俺を倒した勇者どもも、地道に敵と戦い続けて自らの糧としていたのだからな。旅立って間もない頃の勇者が相手であれば、天地がひっくり返ろうとも負けはしなかった。

 

 ……ただの負け惜しみだ、軽く流せ。

 

 しかし、何ともひどい話だ。

 世界の闇を統べる魔族の王として誕生したこの俺が、まさかこのような屈辱に見舞われるとは。

 しかし、世界に混乱と破壊を齎すためには強い肉体が不可欠。

 そう思い至った俺は、非常に不愉快で納得は行かないのだが、自らの肉体を鍛えるために生まれ故郷を後にしたのであった。

 

 

 ※

 

 

 先ず最初の目的地はベンガーナの王都である。

 詳しい地理は理解してしないが、しかし村に来ていた商人から聞いた話では『大陸でも有数の大都市』とのことだ。最初の目的地としては十分であろう。

 

 問題が有るとすれば着の身着のままに出てきたため、路銀も無ければ食料も無いということだ。

 

 ……まぁ、いざと成れば魔物でも何でも食らってやる。

 中には毒を持った奴も居たと思うが……なに、俺は元とはいえ大魔王。そんな毒如きに負けることはあるまい。

 

 確かに気を抜けばスライムにも負けてしまうかもしれない我が身であるが、肉体的に弱くとも流石に魔法一つ使えない――などということはない。

 言ったであろう?

 魔力の一部を取り戻した、と。

 もっとも、今の俺に使えるのは精々が『ヒャド』くらいのモノだ。

 レベルが低いからだろうか? 身体がちゃんと馴染まないからかも知れないが、ヒャダルコやマヒャドといった上位の魔法が使えないのだ。

 

 こごえる吹雪でも吐ければ良かったのだが、残念なことにこの体は人間であるからな。

 

 しかし……元々の俺がそうであったとはいえ、氷結系の呪文しか使えないのは問題であるようだ。何故なら――

 

「うぐぅおおおおおおおおお……ッ!?」

 

 内部から蹂躙される破滅的な刺激が俺の腹部を強かに襲う。

 たかが生肉をそのまま食しただけで、まさかこのような目に合うとは!

 人間とは……なんとひ弱で脆弱な生き物なのだ!

 

 しかし、俺もその人間に成ってしまっているのかと思うと気が滅入る――グ、気が滅入るどころか致死性の毒でも受けたのではないかと言うほどにHPが削られている気がする。

 食べ合せが悪かったのか?

 水分補給にスライムを飲み込んだのが間違いだったか?

 それとも大ネズミの肉をそのまま食らったのが失敗であったのか?

 考えても、最早分からぬ。

 

 ……ゴロゴロゴロ――!

 

 ヌグ! ま、マズイ!?

 堤防が、俺の最後の砦が!?

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 人間とは不便なものである。

 腹が減れば飯を食い、疲れが溜まれば睡眠をとる。

 コレは並の魔族や魔物も同じであるが、それでもコレ程しょっちゅう何かを欲することは無かった。

 単純に人間という生き物の燃費が悪いと言えるのだろうが、しかし、だからこそ人間は『欲』が強いのかもしれない。

 

 かく言う俺も、今は人間らしい欲に支配されている。

 何とも情けない話だが、とは言え流石にこのままという訳にはいかないだろう。

 もっとも、それは食欲や睡眠欲といった生物が持つ欲求ではなく、もっと俗な感情―――物欲である。

 

「さ、寒い……」

 

 腹部からの刺激に砦を破壊されそうに成った俺であったが、一応は川に飛び込むという荒業を行うことで無理やりな処置を行った。

 結果的には色々とアウトであろうが、無理やり首の皮を一枚繋げたというところだろうか?

 とは言え、今度はその所為で体温を奪われ一気に死の危険に見舞われている。

 

 本当に、人間の体というのは……

 

 僅かに意識が遠くなるが、今の俺には休息が必要なのかも知れぬ。

 ユックリと落ちるまぶたに逆らうことはせず、俺は取り敢えずの眠りに付くのであった。

 

 

 

 序章―復活の大魔王―(完)

 



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