プロジェクトセカイ 笑顔のプレイライト (フェニラン特製豆腐)
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プロローグ 孤独な脚本家

 ――子供の頃から、誰かの笑顔が好きだった。

 道端で公園で遊園地で路地裏で水族館で――色んな場所で、笑顔になっている誰かを見るのが好きだった。

 でも身近な友達の妹の笑顔はどうしても見れなくて、それが悲しくていつも笑わせようと頑張ったんだけど、小さい俺にはどうしていいのか分からなかった。

 そんな時だった。

 友人の家族にショーに連れて行ってもらったのは。

 

「わぁ……! すごいすごい! お兄ちゃん勇斗(ゆうと)君、あの人すっごくカッコいいね! キラキラしてる!」

「うん……! すごい、本当にすごいね!」

 

 そのショーで隣に座る兄妹が、凄く笑っていたのを覚えている。

 いつも暗い顔をしていたのにショーを見た途端に、心の底からの笑顔で楽しそうに笑っていたのだ。

 それだけじゃない、友達の家族だけじゃなくてショーの主役の人が何かする度に会場にいる全ての人がどんどん笑顔になって、見てるだけでこっちも笑顔になってしまう。

 だけど、楽しい時間はすぐに終わってしまうもので幕は閉じてしまった。

 

「……こんなに楽しいのに、終わっちゃうのは寂しいな。毎日ショーが見られたらいいのに」

「そうだね咲希ちゃん――毎日皆がショーを見れたら、笑顔がいっぱいなのに」

「咲希、勇斗――そうだ、それなら!」

 

 ――それを聞いて、僕は決めたんだ。

 友達と……司と一緒にショーを作って。

 彼がスターになって、俺が彼を輝かせるための話を作るって――。

 

「約束だよ司、一緒に頑張ろうね!」

 

 

 懐かしい夢の後、やけにうるさい笑い声が聞こえてきて僕は目を覚ました。

 多分だけど、昨日人生で初めて作った脚本を見つけて久しぶりに読んでみたからだろう。

 

「……あ、もうすぐ締め切りだ。今日も徹夜かな?」

 

 ぐぐーっと少し伸びをしてカレンダーを見てみれば、一週間後に脚本の締め切りが迫っている事を確認できた。

 パソコンに保存している執筆途中のファイルを開き、元にする御伽噺を読みながら僕は作業を再開する。

 

 今回僕が作る脚本は、日本の昔話を題材にしたもので別々の童話の主人公が出会い友達になりながらも異世界を冒険していくというものだ。

 割と滅茶苦茶な題材と思うかも知れないけど、それを料理するのが僕の腕の見せ所。少しでも面白く何より、皆に笑顔になって貰うため、本気で頑張ろう。

 

「――よし、一回息抜きしよう」

 

 かなり進んだ所でそう言って作業を終わらせて、僕は数時間ぶりに椅子から立ち上がった。やっぱりあれだ。ちょっと行き詰まった時は何処かに行くに限るし、最近笑顔を補充できてない僕にやる気が出るわけがない。

 

「こういう時はフェニランに限るよね! 笑顔一番さぁレッツゴー!」

 

 そんな事をいいながら、さっきまで作業用に聞いていたミクの曲を止めようとスマホの画面に目を落とし、電源を切ろうとした所で気付いた。

 見知らぬタイトルの曲がスマホの中に入っていたのだ。

 

「あれ、何これ? 『Untitled(アンタイトル)』? こんな曲ダウンロードしてたっけ?」

 

 確か意味は無題とかそんな感じだったよね?

 僕はダウンロードしたやつには絶対に名前を付けるようにしているし……間違えてダウンロードしたという事もない筈。

 誰かにスマホを貸すようなこともしないし、ダウンロードした覚えがないこの曲。

 

「どうしよう……気になる。すっごく気になる」

 

 一度気になってしまったらダメなのだ。確かめるまで僕は何も出来なくなってしまう。

 この曲を再生するか……しないか?

 そんなのするに決まっているだろう。

 

「という事で再生――うわっ眩し……!?」

 

 スマホが突然発光し、一面を埋める光に目をやられる。

 そして、それが止んだとき僕がいたのは―――。

 

「何、ここ? ショー……ステージ?」

 

 巨大な舞台、その周りには沢山の観客席。

 ショーに憧れた者ならば一度はここでやってみたいと、そう思わせるほどに豪勢で煌びやかなこの舞台。

 僕は自分の部屋にいた筈なのに、どうしてこんな夢のような場所にいるんだろう?

 とりあえずこんな場所に来たのなら探索だ。

 見た限り、変わった大道具や小道具が沢山あるし見たことのない物まである……それになんでか感じる懐かしさから、どうしてもここを見て回りたくなって。

 

「これはきっと夢だな」

 

 最初の一歩を踏み出そうとした時、聞き慣れた声が僕の耳に届いた。

 その声に誘われるようにそっちを見てみれば、そこにいたのは久しく喋ってない金髪の幼馴染み。

 

「……司? なんでここに?」

「いや勇斗こそ、何故オレの夢に?」

「いやこれ夢じゃないよ感覚あるし、というか本当になんで司がいるの?」

「オレにも分からん!」

「やっほー☆ 司くん、勇斗くん!」

 

 久しぶりに見たいつも通りの司に笑いそうになった時、唐突に後ろから声をかけられ振り向けば、そこにはピエロっぽい格好の見慣れたキャラクターがいた。

 

「なっ誰だ!?」

「え、初音ミク!?」

「そうミクだよ~!」

 

 のほほんとした特徴的な口調。

 よく聞くミクの口調とは違うけど、その声から何故か初音ミクということが理解出来る。見た目を見るとよく似てるで割り切れそうだけど、僕の勘がこの子は本物だっていっている。

 

「僕もいるよ二人とも。セカイにようこそ」

 

 そして続けて登場したのは、座長のような衣装の青髪のバーチャルシンガーのカイト。これも僕の勘だけど本物で、実際のこの場に生きているように感じてしまう。

 

「ミクにカイト……それに勇斗まで……うむ、やはりこれは夢だな! だが、オレはいつのまに眠ってしまったんだ?」

「いや司、これ夢じゃないよ。さっきから僕腕抓ってるけど全然痛いし」

「いやいや、夢でなくてはおかしいだろう」

「夢じゃないー、ここはセカイだよ司くん!」

 

 セカイというのがよく分からなかったからカイトさんに聞いてみたんだけど、この場所は司の想いから生まれた場所らしい……うん、ますますよく分からない。 

 つまり……司は固有結界持ちだったってこと?

 いや、思考を止めるな僕……もうちょっと考えろ。

 

「訳が分からん、そもそも二人はここで何をしているんだ!?」

「ミクと僕はね、君たちに本当の想いを見つけて欲しくてここにいるんだ。司君が本当の想いを見つけられたらその想いから歌が生まれるからね」

「ふむふむ、成る程オレの想いから歌がね……勇斗お前は分かったか?」

「……僕に聞かれても、僕も分からないし」

「だなまったく分からん」

 

 本当の想いね、僕の想いだったら分かるけど司は……変わっちゃったからな。

 

「え~~っ!?!?」

「それに見つけろと言われても、オレの本当の想いは昔から決まっているぞ! そこにいる勇斗と共に世界一のスターになることだ!」

「……その約束は覚えてるんだ。まあそうだね」

「うーん、それはそうなんだけど……司くんはどうして勇斗くんと一緒にスターになろうと思ったか覚えてる?」

 

 ミクが踏み込んでそう聞いてきたけど、これ司答えられるのかな?

 心配なんだけど、僕には何かいう資格ないしなぁ。

 

「それはアレだ。才能あるこの俺と天才の勇斗がいれば世界一のショーが出来るんだぞ、そうしたらショーを見に来てくれた皆が……」

「皆がー?」

 

 これもしかしたら覚えてる?

 ちょっと沸いてくる希望に、耳を傾けてみれば出てきた言葉は、

 

「俺に注目し、勇斗の脚本を褒める事間違いなし! 俺がいる事で最高の脚本はより輝き、皆が泣いて喜ぶだろうな!」

 

 残念な物だった。

 あぁ、やっぱり忘れちゃってるんだ司は。

 ちょっと二人を見てみれば、カイトとミクは呆れているし……僕もきっと呆れたような目をしているだろう。

 

「何故勇斗までそんな哀れんだ目でオレを見るのだ!?」

「まあ分かってたけどさ、やっぱり忘れてるんだね司」

「忘れている? ……何を忘れているというのだ?」

「でも大丈夫。司君が本当の想いを見つけたいって思っていれば、すぐに皆と会えるから。じゃあ、またね司くん」

「それじゃあね司くん、また会おうねバイバーイ☆」

「さっきから疑問しかないんだが! っておい、また視界が!?」

 

 一人だけそうやって騒ぎこの場所から消えていく司。

 それを見て一人残された僕は呆然と立ち尽くすだけだった。

 

「あの……なんで僕は残されたんですか?」

「ちょっと聞きたい事があってね。ねえ勇斗君、君はどうして司君と一緒にいないんだい?」

「それは……なんででしょうね、僕にも分かりません」

 

 そういえばなんでだろうな、最近僕が司と距離を置いているのは。

 意識してなかったけど、会う回数が減っているのだ。仕事があるから仕方ないって思ってたけど、なんで僕は……。

 

「君の本当の想いも見つかるよ。だからまたセカイに来てね勇斗くん」

 



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